書物の勇者?何だそれ (名無しし)
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プロローグ

俺は星守刹那、20歳の大学生だ。

一応、俺はオタクという自覚はある。アニメや漫画をはじめ、様々なジャンルに金をつぎ込んで毎日のように遊んで過ごしている。だからといって留年なんてしたくないからちゃんと勉強もしているし、金もバイトで稼いでいるぞ。

そして、俺がハマっているのは異世界モノだ。

 

事故で死んで異世界に転生、または召喚されて転移してチート使って俺TUEEE!キャー主人公万歳!ハーレム築いて何人もの女の子と毎晩のようにベッドを軋ませたりするなんて夢みたいじゃないか。

だが、現実は無情である。こないだもせっかく勇気を出してネットで可愛い女の子と会う約束して実際に会ったら男だったし……

 

女の子とリアルで会話することなど、せいぜいサークルやバイトで事務的な会話くらいしかない。

ああ、彼女が欲しい。そして童貞を卒業したい、いっそ本当に異世界にでも行きたいものだ。

 

まあそんな暗い話は置いておいて今日も俺は一人、部屋で異世界モノのラノベを読み漁る。最近俺がハマっている作品は『盾の勇者の成り上がり』だ。

 

主人公の岩谷尚文が、異世界に四聖勇者の一人である盾の勇者として召喚されるが早々に冤罪をかけられ、どん底から這い上がって成り上がっていく話だ、序盤がなかなかキツいから好き嫌いの分かれる作品だが俺は好きだ。

アニメ化してこの間まで放送もしていたし、知名度の高い人気作品だ。

 

web版ではもう完結していて、外伝である『真・槍の勇者のやり直し』が今も連載中で、そっちも読み込んでいる。本編と違って序盤からぶっ飛んだ展開で、槍の勇者が尚文をお義父さんと呼んだり、邪魔する者は躊躇なく殺していくしで本編を読んでない人にとって訳の分からない展開が進んでいく。

 

「ん、ふわーあ」

 

気がつけばもう日付が変わっていた。また徹夜してしまったか、腹も減ったしコンビニで何か買ってくるか。

おもむろにラノベを棚に戻すと俺は支度をして家を出た。

 

「そういえば新刊の情報ってもう出てんのかな?」

 

俺はスマホを取り出し、歩きながらラノベの新刊情報を見漁る。

 

「ああこの作品も来月に出るのか、予約しておこう。あーでも、これ以上は今月厳しいな……来月バイトのシフト増やすか……?」

 

ブツブツと独り言を言いながら歩きスマホをしていると、いつのまにか車道に出ていることに気がつかなかった。

その時ププーっという音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

クラクションに気がついた時には目の前にトラックが迫ってきており、そこで意識が途絶えた。

 



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書物の勇者?

「おお…」

 

感極まった声で目を覚ました。

声がした方を見るとローブを着た奴らがこちらを見ていた。

 

アレ?これって何か見覚えがあるぞ……

 

「な、なんだ……」

 

隣で声がしたのでそちらを見ると、俺は驚愕した。

 

「お、お前!」

 

「うわ!な、何!?」

 

「あ、いやすまない。知り合いに似てたもので…」

 

そこには盾を持った男、このあと冤罪をかけられてやさぐれてしまう盾の勇者、『岩谷尚文』がいた。そしてその隣を見ると見覚えのある三人が武器を持って座っていた。

 

アレ?そういえば彼らが四聖勇者なら一人多いよな?俺は一体……手元を見ると辞書並みの分厚さのある本があった。

 

「ここは?」

 

「勇者様方!どうかこの世界をお救いください!」

 

「「「「「はい?」」」」」

 

五人が異口同音に返事をする。

この流れ、間違いない。

 

 

 

『盾の勇者の成り上がり』の世界だ!

 

 

 

 

「ほう、こやつ等が古の勇者か。にしても一人多くないか?まあよいワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者達よ、顔を上げい」

 

 

下げてないんだがな、内心そうツッコミつつ俺はオルトクレイ改めクズの話を聞く。

あのあと剣弓槍の三勇者がぶつくさ文句を言いながら謁見の間に案内された。

 

クズの話は原作と全く同じだ。世界を脅かす波から守ってくれと、当然ながら俺と尚文以外の三人はクズに対してまた文句を言っていた。

 

ここも変わらないんだな、そんなことを考えていると自己紹介の流れになった。

 

 

「では、勇者達のそれぞれの名を聞こう」

 

 

「俺の名は天木錬。年齢は16歳、高校生だ」

 

キ○トかなーやっぱ。

 

「じゃあ次は俺だな。俺の名は北村元康、年齢は21歳、大学生だ」

 

ですぞ口調じゃないな、『槍の勇者のやり直し』の世界ではないことは明らかになったな。

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹、年齢は17歳、高校生です」

 

いよっパーフェクト=ハイド=ジャスティス!

内心で少し小馬鹿にする。序盤とか割とウザいんだよな、正義感が強いのはいいけど。

 

「次は俺だな。俺の名前は岩谷尚文、年齢は20歳、大学生だ」

 

待ってました主人公、リアルで見ると本当に普通の奴だよな、これが冤罪をかけられて歪むなんて。よしそうだ、せっかくだし尚文の味方として行動しよう。

 

これからどうするか、尚文をどう助けるか考えていると横から小突かれる。

 

「ん、何だ?」

 

「いや、自己紹介……」

 

おっとそうだったな、俺も一応召喚された身なんだし。

 

「俺は星守刹那、年齢は20歳、大学生だ」

 

「ふむ。レンにモトヤスにイツキ、そしてセツナか」

 

「王様、俺を忘れてる」

 

「おおすまんな、ナオフミ殿」

 

やっぱり飛ばすのか、よくよく注意して見渡せばどいつも尚文を蔑んでるような視線してるな。

 

 

「では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい」

 

あーはいはい、視界の端にあるコレね。

 

「何だお前らーー」

 

錬の言葉を聞き流しながら俺は自分のステータスを確認する。

 

 

ーーーーーーーーー

 

星守刹那

 

職業 書物の勇者 Lv10

装備 初級魔術の書

異世界の服

スキル なし

魔法 ファスト系統は全部使えます。ツヴァイト以上は頑張って。

 

ーーーーーーーーー

 

 

レベルがやや高めだな、俺はイレギュラーみたいなものだからか?

てか書物の勇者ってなんだよ、そんなの無かった……いや本の勇者なら確か書籍の方に出てきた気がするけど、装備からして魔法に特化した勇者ってことなのか?

というか魔法の欄、なんだこのふざけた感じは。

 

色々な疑問が浮かぶ中、ステータスアイコンの横にもう一つアイコンがあるのに気がついた。

 

なんだこれ、メールっぽいアイコンだな。

 

それに意識を向けるとピコーンと音と共にメッセージが表示された。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

from 女神ちゃん

 

はろー☆

これを読んでるってことは君、無事転生できたみたいだねっ、めんご!(T ^ T)

いやー、ついうっかり君の命の蝋燭を倒しちゃって火が消えちゃったんだっ(・ω<)

それで君は死んじゃったってわけ、おーけー?

それでね!お詫びとして君が大好きな作品の世界に転生させたんだ!能力は他の勇者より多少は強くしておいたからこれでハーレム築いたり、世界を救っちゃいなYO!

じゃーねーっ!バイバーイ!(^。^)/

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

ふ、ふ、ふ……

 

「ふざけんなぁぁぁあああ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

「セ、セツナ殿。どうなされたのですかな?」

 

「あ、いや失礼。少しボーっとしていた」

 

 

何が女神"ちゃん"だ!ふざけやがって、本当に申し訳ないと思っているのかクソ女神!

 

俺が女神に対して怒りを抱いていると説明が進み、今夜は来客部屋で休むことになった。




※女神ちゃんは原作に出てくる波の黒幕とは一切関係ありません。


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弱くなんかない

来客用の部屋に案内された俺たち五人は各々ステータスや武器を確認しながらニヤけたりしてこれからの日々にワクワクしていた。

 

「なあ、これってゲームみたいだな」

 

尚文が口を開き、周りに問いかける。確か尚文の世界には似たようなゲームがないんだったな、まあ俺もだけど。

 

「っていうかゲームじゃね?俺はこんな感じのゲームを知ってるぞ」

 

元康が自慢げにそう答え、錬も似たようなことを言う。

それぞれ別々の日本から召喚されているからな、知らないのも無理はない。

VRのゲームはあるっちゃあるけどネットにダイブするようなものは流石にない。

 

「なあお前は何か知ってるか?」

 

尚文が俺にそう問いかける。

俺も知らない、と答えてもいいがこの後の展開を考えると嘘を言っておいた方がいいか。

 

「ああ、スマホゲームだろ?」

 

不幸にもあまりオンラインゲームには触れていないものでね、やったことのあるものと言ったらせいぜいこの辺だ。

 

「あの……皆さん、この世界はそれぞれなんて名前のゲームだと思っているのですか?」

 

樹が軽く手を上げて尋ねる。

さて、何と答えようか。

 

「ブレイブスターオンライン」

 

「エメラルドオンライン」

 

「…カタストロフストーリー」

 

「知らないな、ていうかゲームの世界?」

 

「あ、ちなみに僕はディメンションウェーブというコンシューマーゲームの世界だと思ってます」

 

俺と尚文を除く三人がそれぞれ自分が思っているゲームの名前を告げた。危ない危ない、こんな短い時間でタイトルを考えて言わなきゃならないなんてな。

まあぶっちゃけゲームタイトルとか皆気にはしないだろう。

 

「待て、一回情報を整理しよう」

 

元康は額に手を当てて一同を宥め、錬にVRMMOの確認を取り、そのあと首相の名前を一斉に言った。もちろん、俺は存在しない名前を言って合わせた。

 

「どうやら僕たちは、別々の世界から召喚されたみたいですね」

 

「間違っても同じ日本ではないな」

 

「ということは異世界の地球も存在するわけか」

 

VRMMOの存在する世界、異能力のある世界、ギャルゲと思われる世界、そして料理漫画とか言われる世界からそれぞれ来ているわけだしな。ということは俺はこの世界が小説として存在する世界、または本の外の世界とでもいうべきか、そこから来ているわけかな。

 

「このパターンだと、みんな別々の理由で転移した気がするのだがな」

 

錬を始めとして各々がこの世界に来る直前の話をする。

 

「じゃあ刹那は?どんな理由で来たんだ?」

 

流れ的にここは本当のことを言ってもいいだろう。

 

「俺はコンビニに行こうとして歩きながらスマホ弄ってたら、いつのまにか車道に出てて迫ってくるトラックに気がつかなくてな……目が覚めたらここにいた」

 

痛みなんて感じる暇もなかったし即死というのは実際こんな感じなんだろう。

そして皆の視線が尚文へ向いた。

 

「なぁ、この世界に来た時の話って絶対話さなきゃダメか?」

 

「そりゃ、皆話してるし」

 

「そうだよな、悪い。俺は図書館で不意に見覚えの無い本を読んでて気付いたらって感じだ」

 

元康、樹、錬は尚文に冷たい視線を向けた。

この中じゃ一番理由が弱いし、何より一人だけ死んでないなど不公平な感じがするだろうな。

よし、尚文の味方をするという意味も込めて、やり直しで元康が言っていたことを代弁しよう。

 

「別に不幸自慢してるわけでもないし、人それぞれじゃねえか?」

 

「いや、けどよ」

 

「ええ、理由が少し弱い気がしますよ」

 

「転移するのにそこまで理由が必要か?ただ理由を話しただけだろ?」

 

「ま、まあそうなんですけど、少し納得が……」

 

確かに樹の言う通り、尚文だけ死んで転移してきたわけじゃないし、不幸そうじゃなくて羨ましいというのもあるだろう。

 

「仮に全員死んでいたとすると、尚文がいた図書館に何かあったんじゃないか?」

 

「なるほどテロや災害などですね。それなら気付く前に死んだというのも考えられますね」

 

「うわ…みんなの話を聞いてるとあり得るから恐いな…」

 

まあ、そんなことはないけどな。実際、無事に帰還してたわけだし。

 

「じゃあみんな、この世界のルールというかシステムは割と熟知してるのか?」

 

「ああ」

 

「やりこんでたな」

 

「それなりにですけど」

 

「まあな」

 

尚文が微妙な表情で笑ってるな、一番この中で知識に疎いしこのことについて明日クズから突っ込まれるだろうしな。

というか今の会話は全部聞かれているだろう、どこからだ?ドアの前にでもいるのか?

 

不意にキョロキョロと辺りを見渡しドアを見るとその行動に不審に思ったのか尚文が声をかけた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、別に」

 

特に害があるわけじゃないし、どうでもいいか。

 

「なあ、これからこの世界で戦うために色々教えてくれないか?俺の世界には似たゲームは無かったんだよ」

 

ここで元康が手をあげ盾は弱職と嘲笑う前に、俺が尚文に説明をしよう。

 

「それじゃ、俺が説明しよう」

 

「う、うん」

 

「俺の知るゲームでは、盾職は僧侶にあたる中々優秀な職業で仲間の回復や援護、もちろん防御に関しては最強の一角だ」

 

ゲーム知識ではないが、嘘は言っていない。実際原作じゃ尚文は防御や援護に関しては右に出る者はいなかった。

俺がそう言うと元康ら三人は疑問を顔に浮かべた。

 

「そうなのか?俺の知るブレイブスターオンラインでは死に職だが…」

 

「ああ、エメラルドオンラインでも高Lvは全然いない負け組の職業だったぞ」

 

「ゲーム毎の違いでは無いですか?僕の知るディメンションウェーブだと弱職でしたけど、盾自体が役に立たない訳ではないです」

 

「どっちなんだろうな?」

 

「できれば防御だけでも最強の一角の方でお願いしたい!」

 

尚文が祈るように盾に手を当てている。

嘘ではないから安心しろ、攻撃力はないけど。

 

「地形とかどうよ?」

 

「名前こそ違うが殆ど変わらない。これなら効率の良い魔物の分布も同じである可能性が高いな」

 

「武器ごとの狩場が多少異なるので、同じ場所には行かないようにしましょう」

 

「そうだな、尚文もそう思うだろう?」

 

「う、うん」

 

流れがやり直しみたいになってきているけど現時点でコイツらを説得したところで無駄だろう。冤罪をかけられた時に暴露したら兵士らが皆殺しにしようとしてくるから返り討ちにしようにもレベルがない。

 

それに錬と樹はまだしも、この時点の元康が信じるとは思えない。アレコレ理由をつけてヴィッチの味方をする可能性が高い。

 

「勇者様、お食事の用意が出来ました」

 

タイミングがいいのか悪いのか、尚文に有益な情報を渡すまいという策略なのか城の連中が遮ってきたな。

そういえば夜食買いに外出したんだったな、腹ペッコペコだ。




一気に3話投稿しました。


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大事な人

 

食事を終えた俺達、俺は部屋に戻る前に尚文に声をかける。

 

「尚文、少しいいか?」

 

「何だ?眠いから明日じゃダメか?」

 

確かに尚文に言われた通り俺も食事を終えてから途端に眠くなった。

食事に睡眠薬でも盛られてたか?

 

「そんなに時間はとらないさ、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「ああわかった」

 

俺はそれとなく尚文を食堂近くにあったバルコニーへと連れ出した。

そこからは満天の星空が広がっており思わず興奮した。

 

「おお、キレーな星空だな」

 

見たことない星座や星々に改めて本当に異世界に来たのだと実感する。

 

「それで、用件は何?」

 

やや不機嫌そうに尚文が言う、眠いのだろう。

 

「ちょっとな、大学生同士で話がしたくてね」

 

「それなら元康もじゃないのか?呼ばなくていいのか?」

 

「アイツはダメだ、あんなリア充を同じ大学生としてカウントしたくない」

 

一応本音ではあるがそれじゃない、それとなく尚文の味方でいることを伝えるためだ。

 

「確かにそうだな。二股して刺されるなんて、本当にそんなことがあるなんてな」

 

「全くだな」

 

俺と尚文は二人して元康の不幸を笑った。

 

「っと、そういえば用件を言ってなかったな」

 

「ああそうだったな」

 

さて、ここで安易に強姦魔の濡れ衣を着せられると言っても信じないだろうし、だからと言って味方でいると直で伝えても怪しまれる。

なので嘘を交えて味方でいることを言うことにしよう。

 

「…俺さ、元の世界に親友がいたんだよ。小さい頃から毎日バカやったり、困った時は助け合ったりした兄弟同然みたいな奴がさ」

 

「うん」

 

もちろん嘘、小中高とボッチを貫いてきた俺にそんな奴がいるわけがない。

 

「高校卒業してからは別々になっちまったけど今日、召喚されて隣にいたお前を見てビックリしたんだよ」

 

「その人って俺そっくりだとか?」

 

「ああ、今こうして見ても見た目が瓜二つで違うなんて信じられないくらいだ」

 

「へー、その人って今何してるんだ?」

 

きた、そう聞かれるのを待っていた。

 

「……高校を卒業して、すぐに事故に遭って…」

 

俺は目に涙を浮かべながらそう答える。

実際にそんなことがあったわけじゃないから別の悲しいことを思い出して涙を流す。

 

「あ、すまない……」

 

「いいさ、だからさ尚文。俺はアイツにはたくさん助けてもらった。その恩を、代わりと言ってはなんだがお前で返させてくれ」

 

「えっ、で、でも……」

 

「頼むよ、お前を信じさせてくれ。お前の、味方でいさせてほしい」

 

「っ、わ、わかったよ…俺が、その人の代わりになれるとは思えないけどそこまで言うなら…」

 

「ありがとう尚文、何があっても俺はお前の味方だ」

 

俺は尚文に手を差し出した。

 

「えっと、なんていうかとりあえずよろしく…」

 

尚文が俺の手を取り俺達は握手を交わした。

 

 

 

「勇者様のご来場」

 

翌朝、朝食を終えてクズからの呼び出しで俺たちは謁見の間に集まった。

 

さて、ここからが問題だ。原作じゃ盾の勇者である尚文にだけ露骨に差別されて仲間が集まらないなんてことになったが、今回は俺というイレギュラーな存在がいる。俺も0人で差別を受けるということもあり得ない話ではない。

 

謁見の間の扉が開くとそこには冒険者と思しき姿が多々あった。魔法使いや剣士を始め、武闘家や騎士がいた。

 

数を数えると全部で十四人、原作より二人多いな。

 

「十四人?五人で分けるにしても一人少なくないか?」

 

錬の意見に俺以外の三人が頷く、俺がいるから急遽数合わせで募ろうとしたが一人間に合わなかったというところか?

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者がいるようじゃ」

 

それは盾以外の勇者のことか?そう言いたかったがそんなことしたら何か知っていると思われて俺の身も危険だ。

 

「さあ未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

どう考えても普通はこっちが選ぶものだろうと思うのだが、尚文たちも疑問を抱いているように見える。

そんなこんなで募ったという連中(笑)はそれぞれこんな風に並んだ。

 

錬、5人

樹、3人

元康、4人

尚文、0人

俺、2人

 

ふむ、誰もいない尚文を除いて仲間は一番少ないが俺にも仕えたいという奴がいるとはな。

 

俺の後ろに並んだ冒険者は片方が剣士の男、もう一人は魔法使いの格好した女だ。

 

少なくとも原作で見たことはないな、数合わせで募った連中だろうか。

 

そんなことを考えていると尚文がクズに異議を唱えた。

 

「ちょっと王様!」

 

「う、うむ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

 

「人望がありませんな」

 

くだらねー茶番だな。内心で鼻ほじりながら呆れたように俺はクズと大臣の話を聞く。

 

するとローブを着た男がクズの前に現れて内緒話をする。

 

はいはい盾の勇者はこの世界の理に疎い、だろ?

 

案の定クズはそう言って尚文は錬に対して仲間が多いことを指摘した。

 

「俺は連むのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」

 

むしろお前は置いていくだろう、このコミュ障ボッチの中二病!

 

「刹那、どう思うよ!これって酷くないか」

 

「そうだな……理に疎いってのならアンタらが教えればいい話じゃないのか?」

 

「けどよ、実際に尚文は似たゲームをやったことがないんだぜ?ゲーム初心者について行こうなんて思う奴いないと思うけどな」

 

元康が小馬鹿にしたような口調でそう言う。

女ばかりはべらせやがって、いい気になってんじゃねえぞリア充!

 

「均等に分けようにも…無理矢理では士気に関わりそうですしね」

 

「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」

 

「あ、勇者様。私は盾の勇者様の下へ行ってもいいですよ」

 

はい来ましたヴィッチ。

元康の仲間になりたがっていた赤髪の女、ヴィッチが手をあげた。

 

「良いのか?」

 

「はい」

 

やり直しの元康の気持ちがすげーわかる。正体知ってると殺したくなるな、けどそんなことしたら面倒くさいことになる。

明日、冤罪にかけられた時に助けてやるから今は我慢してくれ尚文。

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらぬか?」

 

当然ながら誰も手をあげない。

クズが嘆くように溜息をついて言った。

 

「仕方あるまい、ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ。月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

 

「は、はい!」

 

俺たちの前に五つの金袋が配られた。

 

「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整えて旅立つがよい」

 

「「「「「は!」」」」」

 

それぞれ敬礼をして謁見を終えた。

 



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駆け出しの冒険者

「尚文尚文」

 

「なんだ?刹那」

 

俺は謁見の間を出ようとする尚文に声をかけた。

 

「良かったな。お互い仲間に女がいるわけだし、ついに俺らにも春がきたな、そういう関係になれると良いな」

 

「ちょっ!た、確かにそれは嬉しいけど……」

 

赤面しながら声が小さくなっていく、この時点では童貞だしな。俺もだけど。

 

 

「勇者様ー!早く行きましょー!」

 

「あ、マインさんが呼んでるしもう行くね!」

 

「ああ、お互い頑張ろうぜ!」

 

俺は尚文に手を振り別れると自称仲間の下へと行く。

 

「そんじゃ、俺たちも行こうか」

 

「「はい!」」

 

元気よく二人は返事をする。

どうせお前らも明日には俺の仲間でなくなるんだろ?尚文の味方をしたら離れるんだろ?

そう決めつけ俺はさっさと謁見の間を退出する。

 

さて、まずは武器屋の親父のところへ行って防具を買ってウェポンコピーをして行こう。

……なんか泥棒して行こうと言い換えられるからなんとも言えない気持ちになるな、というか俺は書物だし本屋とか魔法屋で本を触るべきか?

 

「いらっしゃい」

 

店に入ると筋骨隆々の絵に書いたような武器屋の店主の親父に元気よく話しかけられる。確かエルハルトだったか?

 

「ここが武器屋……」

 

現実で見るとこんな感じなんだと感動を覚えながら俺は店内を見渡す。

 

うん、本なんて売ってるわけないか。

 

「おや?その格好、もしかしてアンタも勇者か?」

 

「ああそうだ。なんか、書物の勇者というらしい」

 

「書物の勇者ぁ?そんなもんあったか?」

 

やはり四聖勇者で五人目がいるなんて話はないよな、唯一考えられるなら七星の勇者だがこの世界の方に本や書物の眷属器はなかったはずだ。

 

「俺もわからん、だがステータスにそう書かれているし現に異世界から召喚された身だ」

 

俺は近くに置いてある鉄の剣に手を伸ばして柄に手を触れる。

 

バチッ

 

「っ!」

 

すると手に強い電撃のようなものが走り武器から手が弾かれ、視界に『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』と浮かび上がる。

これが伝説武器の制約のというやつか。

 

「ふむ、その様子からしてアンタが勇者であるのは間違いないみたいだな」

 

この様子を見ていた武器屋の親父は俺が勇者だということを信じたようだ。恐らく尚文が先に来て同じようなことがあったのだろう。順番的に俺が最後に訪れたことになるかな?まあそんなのことはどうでもいい。

 

「紹介が遅れたな、俺は星守刹那だ。今後も厄介になるかもしれん、よろしく」

 

「セツナねぇ。まぁお得意様になってくれるなら良い話だ。よろしく!」

 

「とりあえず魔法使い向けの防具をくれ」

 

「予算はどのくらいだ?」

 

尚文と違って銀貨600枚だからな、確か尚文はここで銀貨120枚でくさりかたびら買ったんだよな。

 

「銀貨…150枚の範囲だな」

 

「フルプレートは動きが鈍くなるから冒険者向きじゃあない。精々くさりかたびらが入門者向けだろ」

 

そう言って親父は原作の尚文のものと全く同じくさりかたびらを指差す。

 

取って見ると視界に『くさりかたびら 防御力アップ 斬撃耐性(小)』と浮かんだ。

 

まあ最初はこんなもんだろ、というかこれだけ着たら今の尚文と格好が被るな。

 

「そうだ、あと魔法使い向けのケープのついた衣装は置いてないか?」

 

「あいよ、ちょっと待ってろ」

 

少しして店の奥から紫がかった黒いローブのようなものを持ってきた。それにはケープ、マントが付けられており如何にも魔法使いって感じの衣装だ。

 

「おお、これは…」

 

普通に格好いい、これを着て『ハァッ!』とかやって敵を殲滅するのか。中二心が躍る。

 

「気に入った、それもくれ」

 

「まいど!ついでに中着もおまけしとくぜ」

 

俺は銀貨130枚を支払った。

 

「そういえばこの辺に本屋か魔法書を売ってる店はないか?」

 

「そうだな、表通りの大きな店がある。そこが魔法書を売ってる魔法屋だ」

 

「ありがとう、また来る」

 

そう言って俺達は武器屋を出て魔法屋へと向かった。

 

「セツナ様、今日は他の勇者様のように狩りはなされないのですか?」

 

「確かにそうしてもいいが、俺はこの世界に来て間もないし情報を集めたい」

 

「それでしたら魔法屋に行く前に、あちらのカフェでお話をしませんか?」

 

魔法使いの女が通りの先にあるオシャレなカフェを指差す。

へえ、あんなのがあるとはな。せっかくだしお茶して行くか、別に急ぎの用でもないからな。

 

俺は魔法使いの提案を受け入れ魔法屋へと向かう足を止めカフェへと向かった。

 

「う、読めん…」

 

カフェに入り適当に席に着いて注文しようとしたら、文字が読めなかった。

 

「……悪いが代わりに注文してくれないか?あの客が食べてるトーストみたいなやつ」

 

俺は近くの席で食べている客のハニートーストみたいなものを指差した。

 

「わかりました」

 

剣士の男がそう言うと店員を呼びそれぞれ注文をした。

 

注文を待つ間、何も喋らないで気まずい雰囲気を過ごすのも嫌なので何かしら会話をすることにした。

 

「そういや、お前らの名前を聞いてなかったな」

 

「あ、これは失礼しました!自分、駆け出し冒険者のクルトと申します!」

 

丁寧な口調でクルトと名乗った剣士は、最近冒険者になったばかりの新人らしい。

茶色の短髪に革の鎧、あとは鉄の剣を装備していて如何にも初心者って感じの装備だ。

 

「えと、わたっ、わたひはっ!」

 

魔法使いの格好をした女は緊張しているのかセリフを噛みまくっていた。

 

「落ち着いて、ゆっくりで大丈夫だから」

 

「うぅっ、すみません!」

 

深呼吸をして改めて彼女は自己紹介をする。

 

「わ、私はローゼといいますっ!私も、最近冒険者になったばかりでレベルが全然ないです!すみません!」

 

……なんか似たようなキャラがいたよな、まあいいや。

あたふたとローゼと名乗った魔法使いもクルト同様に初心者って感じの装備をしている。白いロングヘアーに黒の三角コーンみたいな帽子をした、物語によく出てくる魔法使いといった格好だ。

 

「クルトにローゼか、二人は何で俺についてこようと思ったんだ?」

 

「王が四聖勇者に同行する仲間を募っていると聞きまして参加させていただいたのはいいのですが、自分とローゼ以外手練の冒険者ばかりでして……『お前らみたいな駆け出しは足を引っ張らないように書物のところへ行け』と、言われまして…」

 

「尚文ーー盾の勇者の所へ行こうとは思わなかったのか?さっきも1人もいなかったんだし行こうと思えば行けたんじゃないのか?」

 

そう言うと二人はあからさまに動揺して目をそらした。

なるほど、コイツらも何か言われているな。『盾のところへ行け』とも言われてない以上、グルだと思っていいだろう。

 

さて、ここであまり深く突っ込むと王や三勇教に何て伝わるかわかったもんじゃない、話題をそらそう。

 

「すまん、何か言いにくいことみたいだな」

 

「あ、いえ!その…」

 

「ローゼも同じような理由か?」

 

「は、はい!そんな、ところです!」

 

 

その時ちょうど店員が注文したものを持ってきたので会話はここで中断した。

 

 

「さて、次はどうするかな」

 

なかなか美味かった。ハニートーストもどきかな思ったが味はまんまそれだった。

 

「結局、お話できませんでしたね…」

 

「あ」

 

そういえばこの世界について色々と教えてもらおうとしてたんだった、これじゃあカフェでただ食事しただけだな。

 

「あー、まあいいや。とりあえず魔法屋に向かおう」

 

どのみちある程度なら原作知識があるしな。まあ、頼りすぎて痛い目に遭うなんて三馬鹿勇者じゃないんだし、差異があると思っておこう。

あくまで参考にする程度にしておくのがベストだろうな。




リアル事情により次回の更新は8月になります


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ウェポン?コピー

やーっとテストが終わって自分にも夏休み到来しましたよ。


「初めてのお客さんねえ」

 

店内に入ると奥に小太りの魔女みたいな格好をした女性が座っていた。

 

「どうも初めまして、書物の勇者の星守刹那だ」

 

そう言うと魔法屋の婆さんは少し困惑したような表情をした。

どこでも似たような反応をされるよな、突然ちゃ当然だろう。

 

「まあ、そういうことだ。魔法の適性と魔法書が欲しくてな」

 

「じゃあ書物の勇者様、水晶玉を覗いてみてくれるかしら」

 

俺は魔法屋の手元にある水晶玉を覗き込んだ。

さて、俺は何魔法の適性があるのかな?

 

「あら?これは…」

 

「どうしたんだ?」

 

「うーん、赤色が見えたり青色が見えたり、チラチラと色が変わるわねぇ、もしかすると全属性に適正があるのかもしれないわねぇ」

 

ふむ、やはりステータスといい魔法に特化した勇者という感じで召喚されたのか、けど尚文も似たような感じだよな?

まあ援護と回復なら魔法使いというより僧侶って感じだが。

 

「魔法書ならそこの本棚、初級は一番上の棚にあるわ」

 

「少し、取ってみてもいいか?」

 

「ええ、構わないわよ」

 

そう言われ魔法屋の指差した本棚から一冊本を取って開いてみる。

 

「……」

 

うん、わかってたけど全く読めない。とりあえずウェポンコピーができるか試してみよう。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

初級の魔法書 0/10 C

能力未開放……装備ボーナス スキル「ファスト・アップ」

熟練度 0

 

ーーーーーーーーー

 

 

なるほどな、ファスト・アップというのが何かわからんがファスト系統の能力が強化されるとかそういうところか?

 

「その本は回復と援護について書かれたものよ」

 

「そうなのか」

 

それなら予想は当たってるかな?とりあえずコピーはできたし次々コピーしていこう。

バレたら絶対に面倒なことになるからな、発言にも気をつけて絶対に変化させないようにしよう。

 

「中級や上級の魔法書はこの棚か?」

 

「ええ、上から初級、中級、上級の順番で置いてあるわ」

 

「とりあえず見せてくれ。クルト、ローゼ、俺は文字が読めないからどんな本なのか教えてくれると助かる」

 

「は、はい!」

 

「わかりました」

 

クルト達にそう言うと、俺は片っ端から本を取ってコピーを済ませる。

 

「こちらは、上級の攻撃系統の魔法書ですね」

 

「なるほど」

 

「それで、どれを買うつもりなのかしら?」

 

む、そうか。魔法書が欲しいと言って入ってきたのだし何も買わずに出るというのも気が引けるな。

とりあえず今後のことを考えると……

 

「最初に見た、この回復と援護の魔法書をくれ」

 

「はいはい」

 

尚文には魔法の玉は支給されない、そして回復と援護の適正のあることを考えるとこれが一番いいだろう。

 

「そんじゃ、次にーー」

 

次に行こうとした所でふと思った。

 

「そういやあっちの棚には何の本があるんだ?」

 

魔法書のあった棚とは別の棚を指差す。

 

「ああそっちは物語とか子供向けの絵本が置いているわ」

 

へー、一応本屋みたいな外観してるしな。

 

「少し見てもいいか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

これらは武器じゃないけど(そもそも本も武器なのかは不明だが)コピーとかできるのか……できた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

ウェポンコピーが発動しました。

 

四聖物語の条件が解放されました。

四聖勇者の伝説の条件が解放されました。

ゆうしゃのおはなしの条件が解放されました。

四人の英雄の条件が解放されました。

メルロマルクの歴史の条件が解放されました。

モンスターブックの条件が解放されました。

四聖武器書の条件が解放されました。

四聖英雄譚の条件が解放されました。

ワールドマップの条件が解放されました。

etc…

 

 

ーーーーーーーーー

 

四聖勇者に関する話が多いな、というかこれらを装備してどう戦えと。

とりあえず効果は……本のタイトル通りモンスターの種類、過去の勇者について、国の歴史がわかるなど特に戦闘に役立つ効果のあるものはなかった。

暇つぶしなどの娯楽にはなるだろうな。文字は読めないけど。

 

「さて、とりあえず次に行こうか。邪魔したな」

 

俺は立ち上がってクルト達に声をかけ、魔法屋を後にする。

 

「いつでも来てねぇ」

 

 

「装備もある程度整えたし、今日は狩りをしないと思ってたが少し行ってみようと思うがどうだ?」

 

「自分はいいと思います」

 

「そ、そうですねっ」

 

とりあえず、自分の実力を、ファスト系統は全部使えるみたいだし試してみたい。

そう思っていたらふと思い出した。

そういえば奴隷のことを忘れていた。明日には尚文が冤罪被さって、二週間は一人で戦うことになる。

 

俺が味方をするとコイツらもいなくなるし、狩りをするにしても勇者が近くにいると経験値が入らなくなる。

 

なら今のうちに奴隷商の所へ行ってラフタリアを取り寄せてもらおうか、今ならリファナだって生きているだろうし。

 

そうと決まればさっそく奴隷商のいるサーカステントを探そう。場所はどこだろう?裏路地にあったはずだから適当に探すか。

 

「と思ったが一つ寄らなきゃいけない場所があった」

 

「それはどこです?」

 

「この辺りで、魔物を斡旋してくれる店はないか?」

 

二人に尋ねると揃って首をかしげた。

 

「えっと、自分はわからないです……すみません」

 

「ご、ごめんなさいっ。私もわかりません」

 

裏の店みたいだし知らなくても仕方ないか。

原作でも行き方は裏路地を歩いたくらいしか載ってなかったしな。

 

あ、ウェポンコピーした時にワールドマップがあったな、それに載ってたりしないか?

試しに書物を地図に変え、メルロマルクの地図を見てみる。

 

「これか?」

 

文字は読めないが、メルロマルクと思しき地図を見るとある裏路地の真ん中にポツンと建物ようなものが載っていた。

場所はここからそんなに離れてないし、他に裏路地にそんなものは載ってないからここであっているだろう。

 

「この場所だと思う、とりあえず行ってみる」

 

「え、あのセツナ様……その本は……」

 

「さっき、買っていませんでしたよね?」

 

「ん?ああこれは勇者の武器の特性でウェポンコピーというやつだ。同じ系統の武器を手に取るだけでコピーできる。俺の場合は書物だから本や地図と言ったものなら何でもコピーして使える」

 

コイツらは駆け出しだし何より一般人が勇者の武器について知っているわけがないだろう。

俺がウェポンコピーについて説明すると二人は微妙な顔をした。

 

「それって……」

 

わかってる。俺もできるだけ意識しないようにしていた、いい人のところから盗むような真似をするのは流石に良心が痛む。

 

「気にするな、俺だって心苦しいんだ。とりあえず行くぞ」

 

そう言って二人を引き連れて奴隷商と思わしき場所へと向かった。



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レベリング

だいぶ間が空いてしまった…


 

「ここか……」

 

しばらく裏路地を歩くとサーカステントのような小屋を見つけた。

 

「あの、セツナ様……」

 

「ん?どうした」

 

「自分は、少し外にいてもよろしいでしょうか?」

 

「私も…できれば外で待って、いたいです」

 

ただならぬ雰囲気を感じたのか二人はテントを見るなり嫌な顔をして後ろに下がった。

 

まあ確かに怪しい雰囲気がするしな。

 

「わかった。じゃ、表の通りで待ち合わせよう」

 

そう言って俺は一人でサーカステントの中へと入った。

 

「これはこれは、新たなお客様ですかな?ハイ」

 

シルクハットに似た帽子、燕尾服を着た怪しい格好をした原作で読んだ通りの奴隷商がいた。

 

「えっと……」

 

そういえばワイルド尚文といい優しい尚文といい、ここでやりとりしてたが同じことをしたところで俺にもできるとは思えん、それにコミュ障だし。

 

「フィーロたん」

 

「ハイ?」

 

手をワキワキとさせてハアハアしながらそう言った。下手なこと言ってぼったくられたらたまったもんじゃない。

原作尚文みたいに駆け引きなんてできないし、それなら元康のように変な客と思わせて引かせた方がいいと判断した。

 

「おっと間違えましたぞ。奴隷を売って欲しいのですぞ」

 

なんとなく口調も真似てみる。案の定、奴隷商は引いている。

 

「は、はぁ。ではこちらです。ハイ」

 

 

 

 

「やーやー、待たせたな」

 

「いえ、大丈夫です」

 

なんとかラフタリアとリファナを取り寄せてもらう話にこぎつけた俺は裏路地から出てクルト達と合流する。

 

「セツナ様、それは……?」

 

ローゼが俺の手に持っている孵化器を指差す。

ついでにフィロリアルも買ったのだ。卵と孵化器で銀貨130枚もしたが後悔はない、立派な幼女になるんだぞ。

 

「魔物商からフィロリアルの卵と孵化器を買ったのですぞ」

 

「ですぞ?」

 

おっと、ついですぞ口調になってしまった。奴隷商とやり取りする時、演技が見破られないかドキドキした。

まあ向こうはあまり関わりたがらないような感じだったし、何も問題はないだろう。

 

「いや、なんでない。宿を取ってから狩りに向かおう」

 

思えば宿取らずにウロウロしてたからな。危うく今夜は野宿とかになるところだった。

 

 

 

狩りをして自分の実力を確かめようと思い、俺たちは適当に城門を抜け草原へと出た。

 

確か今の時間だとまだ尚文がバルーンとやらを殴り続ける作業をしているはずだ。

 

「あ、おーい。尚文ー」

 

そしたら尚文がバルーンを一心不乱に殴り続けている姿を見つけた。その後ろに第一王女もといヴィッチが心にもない応援をしている。

 

「あ、刹那」

 

「偶然だな」

 

左腕にオレンジバルーンを噛みついたまま、尚文は振り返って返事をした。

 

「大丈夫なのか?それ」

 

「うん全然痛くもないし、むしろ噛みつかれてても気がつかないくらいだよ」

 

「流石は盾の勇者ってところだな」

 

バルーンが尚文の腕を噛み切ろうとガジガジしているのに、全く気にも留めずそう言った。

あ、また別のバルーンが尚文の頭に噛み付いた。

 

「勇者様、頭にバルーンが……」

 

「ん?あ、本当だ」

 

ヴィッチに指摘され尚文が頭に噛み付いたバルーンに気がつく。

これが盾の勇者の防御力か、直で見ても信じられないくらいだな。

 

「そんじゃ、俺たちは森ん中入って狩りをしてくる」

 

「頑張ってね」

 

「ああ、お互いにな」

 

俺たちは尚文と別れて森の奥へと進んで行く。

 

「あの、セツナ様……」

 

「そ、そろそろいいんじゃないですか……?」

 

「そうだな、この辺までくれば聖武器の反発現象は起こらないだろう」

 

ある程度まで進むとクルト達が不安な声を出した。

 

「さて、魔物はどこかな?」

 

「き、来ましたっ!」

 

すると茂みの中から丸いウサギみたいな魔物が飛び出してきた。ウサピルだったかな?

血が出るからとラフタリアが拒否していた場面を思い出す。

 

「そんじゃ、試しに一発撃ってみますか」

 

ファスト系統が全部使えるなら、魔法玉や魔法書を読んでいなくても大丈夫なはずだ。

 

『力の根源たる我が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を燃やせ』

「ファスト・ファイア」

 

「ギィ!?」

 

ウサピルが一瞬にして炎に包まれ、黒焦げになった。

目の前にEXP3という数字が現れ経験値が入ったのを確認する。

 

「ふむ、この辺の魔物ならこの程度なのか。そんじゃ、次はお前らの実力を測らせてくれ」

 

「「は、はいっ」」

 

するとまた茂みから新たなウサピルが二匹も現れた。

 

「はぁぁああ!」

 

ズバァ!

クルトが片方に向けて剣を振り下ろし、ウサピルを一刀両断した。

 

「ファスト・アクアショット!」

 

ドドォ

ローゼが水の弾丸を打ち出しウサピルを貫く。

 

あ、同行者設定してなかったか。

二人が魔物を倒したのに俺にも経験値が入らなかったので気づいたが、どうせ明日にはコイツらは仲間じゃなくなるんだ。別にどうでもいいか。

 

「この調子なら、もう少し奥に行っても大丈夫だな」

 

「「えっ」」

 

外伝を読んで、一度やりたかったことがある。

 

「ファスト・ファイア!ファスト・アクアショット!ファスト・アイス!ファスト・ウインド!」

 

ハハハハ!弱い!弱すぎる!

つってもまだ森の入り口付近だし、弱いのは当然だ。

 

そのまま森の中を駆け抜けて夕方になるまでその作業を続けた。

 

「こんなもんかな」

 

日が暮れて来たので作業をやめ、ステータスを見るとレベルは10から18に上がっていた。

一日でこのペースは早いのだろうか?ま、とりあえず宿に戻るとするか。

 

振り返るとクルトとローゼが疲労困憊で倒れていた。

 

「うぅ」

 

「うーん」

 

「……なんか、すまん」

 

 

 

 

 



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未然防止

盾の勇者の成り上がり、二期ならず三期まで製作決定おめでとうございます!!


 

回復魔法をかけて、どうにか二人を連れて宿に戻ると辺りはすっかり暗くなっていた。

 

「そんじゃ、飯でも食べながら親睦会というか色々と話そうぜ」

 

「そ、そうですね」

 

「……」

 

疲れた顔で返事をしたり無言で頷く二人。パワーレベリングって実際にやるとこんなことになるのか。

 

そんなことを考えながら酒場に降りていくと、他の冒険者らが飲んでいたり騒いだりしていた。

そんな中とある姿が目に入った。

 

「我らが勇者、イツキ様にカンパーイ!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

とあるテーブルで弓の勇者である樹とその仲間達が結成パーティーを開いているのが目に入った。

ここは樹が泊まってる宿だったのか、すると通りの向こう側にあるのが元康で近くに尚文もいるだろう。

 

「樹ー」

 

「おや、刹那さん。どうもこんばんは」

 

「偶然だな、お前もこの宿に泊まってるのか」

 

「ええそうです。ちょうど今から皆で結成パーティーをやるところなんです」

 

「へえ、そうか。そんじゃ俺らは邪魔にならないように飲んでるよ」

 

俺は樹達のいる席から離れ、カウンター近くのテーブルに座った。

 

「そんじゃ色々と頼んで、飲もうか」

 

俺は文字が読めないので、クルトに代弁して酒や料理を注文してもらい、出てくる料理を次々と口の中へと放り込んだ。

 

しばらく食事をしながら談笑を交わしていると、なんとなく気になったことがあった。

 

 

「そういえば二人って何で冒険者になったんだ?」

 

ーー後になって思うが、この時にそれを聞いておいて本当に良かった。

 

「……自分には母親がいるのですが……母は……病に冒されておりまして、その薬代を稼ぐために……」

 

母親のためか、なんて献身的なんだろうか。

 

「わ、私はっ!そのっ!」

 

「落ち着け」

 

「は、はい!私は妹がいるのですが、まだ幼くて、両親は……つい最近、依頼で失敗して……生活費を稼ぐために冒険者になりました」

 

随分と重い話だな、よくある冒険者の最期って、実際に聞くとかなり心にくる。

 

けど二人とも家族のために冒険者になったということかぁ。

 

「セ、セツナ様?」

 

「うぅぅうう!苦労してるんだなぁぁぁ!お前らぁぁぁ!」

 

両目から滝のように涙を流し、俺は二人の肩を叩く。

 

「ひゃあっ!セツナ様!?」

 

「クルトも!ローゼも!家族想いなんだなぁぁ!」

 

俺は家族ものの話に弱い、映画とかでそういうジャンルを観ると必ずと言っていいほど泣く。

酒も入っているせいか少々テンションが上がっているのもあるだろう。

 

「苦労しているんだなぁ、二人とも」

 

「い、いえ、そんなことは……」

 

「それに比べて俺なんかさ、元の世界じゃーー」

 

ここでふと思い出した。そうだ、尚文の宿も近くにあるのならヴィッチに装備や財産を盗られる前に俺が預かることもできるんじゃないか?

 

だが、実際に枕荒らしをするようなものだし、それで俺に疑いをかけられたら助けるどころの話じゃない。うーむ、どうするか…

 

「セツナ様?どうなされました?」

 

「あ、すまん。少し考え事をしていた」

 

とりあえず尚文のところへ行って、その時に考えよう。

 

「少し飲みすぎた、風に当たってくる」

 

俺はそう言って外に出た。

 

 

「ふんふ〜ん、ふふっふー」

 

気分良く鼻歌を歌いながら尚文の宿を探していると、元康の泊まっている宿の前に来た。

中からは元康と仲間の女の子の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 

「チッ、リア充爆発しろ」

 

ガンッと壁を蹴ってそのまま俺は通りを歩く。

 

「ここかな?」

 

時間帯的にまだ備え付けの酒場で2人で飲んでいる頃かな。一応姿を隠して……姿を消す魔法はまだ使えないし、ローブもないな。武器屋で買っておけばよかった。しょうがない。

 

 

 

 

「ああ、俺はあんまり酒が好きじゃなくてな」

 

「そうなんですか、でも一杯くらいなら」

 

ちょうど尚文がヴィッチにワインを勧められ、それを断っている会話だった。それを俺は近くのテーブルの影に隠れながら聞いていた。

 

「今日は早めに休むから」

 

尚文はそう言って席を立ち、自室へと戻っていった。

俺は尚文の後をこっそりストーキングして、尚文の部屋を確認すると酒場の入り口まで戻り再び入店する。

 

「おや、そこにいるのは尚文の仲間の……」

 

「っ、あらセツナ様ではありませんか。どうなされたのですか?」

 

ヴィッチは繕ったような笑顔でそう答える。

最初「なぜここに?」みたいな驚きが見えたのを俺は見逃さなかった。

 

「いやぁ、ちょっと飲みすぎて夜風に当たってたら尚文の姿が見えてね。アイツはもう寝ちまったのか?」

 

「ええ、盾の勇者様は早めに休むとおっしゃられてました。私ももう休もうかと」

 

これから尚文の部屋に行って装備と金を盗むんだろ?そうはさせないからな。

 

「そうか、尚文とも話がしたかったが寝たのなら仕方ないな。俺も戻って休むとしよう」

 

「はい、おやすみなさいセツナ様」

 

俺は尚文の宿を出てすぐに裏口から中へと入り尚文の部屋へと向かった。

 

 

「ここだな」

 

尚文がいると思われる部屋のドアの前で俺は立ち止まる。

 

「尚文は……もう寝ているようだな」

 

「zzz」

 

ドアの隙間から尚文が寝ているのを確認して、俺はこっそりと中へと入った。

ヴィッチが来る前に、ちゃちゃっとすませますか。

 

「全く、尚文も不用心だな」

 

机の上に銀貨の入った袋とくさりかたびらが無造作に置かれていた。

 

「とりあえず……すまん、絶対に、絶対に返すから、一時的に預かるだけだから……」

 

小声で尚文に謝りながら俺は銀貨の入った袋を自分の懐へと入れた。

 

くさりかたびらはーー

 

そう思っていると廊下を歩く音が聞こえてきた。ヴィッチの奴もう来たのか、仕方がない、装備は諦めるしかない。

 

俺は尚文のベッドの下に潜り込み、ヴィッチが入ってくるの待った。

 

 

少ししてガチャリとドアが開く音が聞こえると誰かが中に入ってくる。隙間から目を凝らして見るとヴィッチだった。

 

「…あら?」

 

机の前まで歩いてくると少し困惑したような様子になった。銀貨の入った袋が見当たらないのだろう、残念だがお前には一銭たりとも渡さん。

 

「んんぅ」

 

すると真上から尚文の寝言が聞こえてきた。

 

「っ!」

 

ヴィッチはそれに少しだけ動揺すると仕方なしにくさりかたびらと尚文の服を取って呟いた。

 

「フフフ……馬鹿な男、騙されちゃって……明日が楽しみだわ」

 

そう言ってヴィッチは出て行き、足音が遠くなるのを待った。

確かヴィッチの部屋は尚文の隣だったはず、左右からドアの開閉音が聞こえなかったということはこれから元康のところへ行くのだろう。

 

俺は音を立てないようにゆっくりとベッドの下から這い出て、尚文の宿を後にした。

 

さて、とりあえずこれで金銭の確保はできた。明日、俺にも冤罪が被さらないように自分の宿に戻ってアリバイ工作だ。

 



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救出

今後の展開を考えた結果、『原作キャラ死亡』タグを追加しました。


自分の宿に戻るとまだ樹の仲間は騒いでおり、樹は端の方で一人で飲んでいた。

 

「おーい、樹」

 

「刹那さん、どこか行っていたんです?」

 

「夜風に当たっててな、てかお前は何で一人で飲んでいるんだ?」

 

「皆さん、すっかり酔ってしまったようで…テンションについていけないというか……」

 

そういえば樹はまだ高校生だったよな、酔っ払いのノリとか慣れていないんだろうな。

 

「あーわかる、俺も最初は酒の席はそんな感じだったよ。徐々に慣れていくさ」

 

「刹那さんはよくこういう所に来るんですか?」

 

「いや?サークルの打ち上げでしか行ったことはないが、いつも大体こんな感じだ」

 

ぶっちゃけサークルでもぼっちだけど楽しく飲みたいからな。

それにしても酔っ払いのテンションとやらはどの世界でも変わらないものだな。

 

樹の仲間のマルドだったか、アイツはガハハと笑いながら樹の凄さを語っている。今日初めて会ったのにそこまで語れることあるのかよ。

 

他の連中も似たり寄ったりで泣き上戸の奴、絡み酒の奴、様々だ。

 

「サークルですか、刹那さんはどこに所属していたのですか?」

 

「俺はイラスト系のサークルに入っていた。皆で絵を描いたり、同人即売会でイラスト本を出してたな。樹は部活とかやってるのか?」

 

「僕はーー」

 

この後、色々と楽しく雑談して親睦を深めた。

できれば味方に引き入れたいところだが、やり直しみたいにヴィッチが盗むところを見せて未来の話をするのにも色々ともう遅い。

 

それに未来の話といっても、俺はループしているわけでもないし、転移スキルを持ってないから錬を連れてくることもできないし、そもそも元康を信じさせるのは困難だ。

 

 

「おや、まだ残ってたのか」

 

大分夜も更けて、樹や仲間も各々の部屋に戻って行く頃、俺は自分の仲間の元へと戻った。

 

「ええ、セツナ様を残して寝るだなんてそんなことできませんよ」

 

クルトは真面目だなぁ、ローゼはというと疲れたのか酔ったのか知らないが机に突っ伏してスヤスヤと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っていた。

 

「待たせてしまって悪いな、もう部屋に戻ろうか」

 

「そうですね、ローゼは自分が連れて行きます」

 

「そう、じゃおやすみ」

 

そう言って俺は自分の部屋へと戻った。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「ふわ〜あ、何だこんな朝早くに……」

 

俺は兵士に呼び出され城へ向かっていた。

まあ何があるのかは分かっているが、もう少し寝ていたかった。

 

謁見の間に着くと、そこにはくさりかたびらを着た元康と、泣いているヴィッチ、そして錬と樹がいた。

ふむ、とりあえず俺が冤罪にかけられることはないようだな。

「刹那も来たか、一体何があったんだ?」

 

練が元康とヴィッチに向かってそう聞く。

 

「ひぐ…実は……」

 

「マイン、俺が代わりに説明しよう」

 

元康はヴィッチを宥め、代わりに何があったかを説明した。酒に酔った尚文がヴィッチに無理やり迫って強姦しようとしたと。

 

「なんだと!本当に仲間にそんな事をしたのか?」

 

「酷い話ですね…無理やり仲間に手を出そうとするなんて…しかも逆らえない様にとは…」

 

「…マッタクダナー」

 

全く、本当にくだらないな。

俺は内心呆れながら、それを表に出さないように尚文が連れて来られるのを待った。

 

やがてインナー姿の尚文が兵士に連行されてきた。

 

「マイン!」

 

尚文がヴィッチに向かって叫ぶ。

ヴィッチは怖がるかのように元康の後ろへと隠れた。

それを俺は見ていたがヴィッチはほくそ笑んでいた。

 

「な、なんだよ。その態度…」

 

「本当に身に覚えがないのか?」

 

「身に覚えってなに…って、あー!」

 

尚文が元康の装備を見て叫ぶ。

 

「お前が枕荒らしだったのか!」

 

「誰が枕荒らしだ!こんな外道な奴だったとは思いもしなかったぞ!」

 

「外道?何のことだ?」

 

尚文が首を傾げる。

冤罪なのだから知らなくて当然だろう。そろそろタイミング的に助けるために準備をしよう。

 

俺はこっそりと周りにバレないように魔法を構築する。初級魔法しか使えないし、兵士を吹き飛ばせはしないだろうがダメージは与えられるだろう。

てかこの厚さの書物ならぶん投げたり殴りつければ割と効くんじゃ?

『専用武器』での攻撃なら禁則事項にも触れないはずだ。

 

「そうだ!王様!俺、枕荒らし、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうか犯人を捕まえてください」

 

すまん、財産は俺が持っている。あとで返すから。

 

「黙れ外道!」

 

うるせーなクズ、お前が黙れよ。

それでも英知の賢王、杖の勇者なのか?あ?

 

すると尚文は助けを求めるような視線で俺の方を見る。

一昨日の夜、味方でいると言ったし助けてくれると思ったのだろう。

昨日、俺は尚文を助けるために色々と動いたんだ。当然助けるさ。

尚文に対して俺はフッと同情的な視線を送るも、その前にクズが怒鳴りそれを遮った。

 

「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」

 

「だから誤解だって言ってるじゃないですか!俺はやってない!」

 

ここで俺は尚文へと近づいて行き、兵士に少しでもダメージが与えられるようにする。

 

「お前!まさか支度金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!」

 

尚文は俺になんか目もくれずヴィッチの方に向かって叫ぶ。俺が近づいたからか、兵士は顔でも踏ませるつもりなのか尚文をさらに押さえつけた。

 

「ふざけんじゃねえ!どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ。仲間の装備を行き渡らせる為に打ち合わせしたんだ!」

 

「異世界に来て、仲間にそんな事をするなんてクズだな」

 

「そうですね。僕も同情の余地は無いと思います」

 

ここだ!

やり直しの元康みたいに、俺はこのタイミングを狙って兵士共に向けて魔法を一斉照射する。

 

「ファスト・サンダー!」

 

「ぐはぁぁああ!」

 

尚文を取り囲んでいた兵士共は痺れて、全員その場に倒れた。

 

「え……?え?」

 

「セツナ殿!?」

 

クズは唖然とした表情で俺を見る。尚文も困惑しているようだ。

 

「…くだらねえ茶番してんじゃねえよ、クズ」

 

「クズ!?」

 

「お前らも、よく考えてみろよ。本当に強姦未遂をした奴がこんな姿で連れて来られるのか?」

 

俺が三勇者に対してそう言うと、今まで唖然としていた元康が俺を糾弾した。

 

「な、何であろうとマインが泣いているんだぞ!お前はそれを庇うと言うのか!?」

 

ヴィッチの涙ごときに騙されやがって、そのまま道化を演じてろ。

 

「ホシモリ殿、一体どうしたと言うのじゃ。そこの盾が仲間を強姦しようとしたのに擁護しようと言うのですかな?幾ら心の知れた異世界人同士と言えど庇って良い事では無いのじゃ」

 

「刹那さん、貴方がそんなことをする人だなんて…見損ないましたよ」

 

そうだな、確かに昨夜あれだけ話をした仲というのに。

錬は、ただ俺たちを睨んでいるだけだな。何か言ったらどうなんだ?

 

「行くぞ、尚文」

 

「待て!」

 

俺が尚文を連れて謁見の間を出ようとすると、元康が大声で俺たちを止めようとする。

 

「何だ、まだ何かあるのか?お前も痺れさせるぞ?」

 

ギロッと殺意を込めた目で元康を睨み付けるとたじろいだ。

 



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この世界は

 

 

「…すまない、刹那。助かった」

 

城を出て広場に着くと、尚文は感謝の言葉を言った。

その表情を見て俺は疑問を浮かべた。

 

おかしいな、やり直しと同じタイミングで助けたと思ったのだが、目つきがナオフミオルタ化してるぞ。

 

「あ、ああ。一昨日言ったろ?何があっても味方でいると」

 

まあ、俺のことは信用しているみたいだし問題はないということで。

 

「とりあえず武器屋に行って、防具を買いに行こう」

 

「ああ、そうだな。でも金も奴らに盗られちまったし…」

 

いけね、尚文の金は俺が盗…預かってたんだ。早く返さないと。

 

「…すまん尚文、お前の金はここにある」

 

俺は懐から銀貨の入った袋を尚文に手渡した。

 

「これって、俺の…」

 

「本当にすまん、あの女に盗られないように俺があらかじめ……預かってたんだ」

 

「どういうことだ?」

 

尚文は俺を鋭く睨んだ。違うんだ、俺はお前を助けるために『預かってただけ』なんだ。

 

さてどう説明しよう。『ヴィッチが金と装備を盗むから』と言っても、何故知っているのかとなるし、それで『この世界は俺にとってラノベの世界だから』と伝えても訳がわからないだろう。

 

「…実はな、あの女は最初に見た時から少し怪しかったんだよ。なんていうか、何か隠してるような、そんな雰囲気を感じたんだ」

 

「隠してる?」

 

「ああ、なんて言い表せばいいかわからないが、騙そうとしてるというか、とにかく悪巧みをしてるように見えたんだ。だからお前が寝静まった後、こっそりお前の部屋に入って金を持って行ったんだ。くさりかたびらは、ヴィ——アイツがすぐに来ちまったから守れなかった、すまない」

 

そう言うと尚文は目を細めた。

やり直しで天井からこっそり覗いていたのを話したら引いてたしな。

よく考えなくても寝ているところにこっそりとなんて、気持ち悪いことだ。

 

「ま、まあ結果的にあそこで俺を庇ってくれたわけだしな……ありがとう」

 

「そんじゃ、改めてお前の防具を買いに行こう」

 

そうして俺たちは武器屋へと向かった。

 

 

 

 

「アンちゃん達、これから大変だろうな」

 

「ああ、そうだな。全くこの国の連中は……!」

 

途中、エルハルトが尚文を殴ろうとするイベントもあったがそこはやり直しみたいな感じで通過した。

 

「俺は盾以外の武器は持てない、攻撃力もない、だから仲間がいなけりゃロクに戦えもしない、けどこうも噂になってりゃ仲間になりたい奴などいないだろうな!」

 

尚文はそう吐き捨てた。

ああそうだ、昨日注文した奴隷の二人は届いているかな?キールは翌日には届いていたし、ラフタリア達は今の居場所も分かっているからすぐに届いていてもおかしくはないだろう。

 

ん?奴隷商ーー

 

「あ!」

 

「どうした刹那?」

 

「宿に忘れ物してきた。ちょっと取ってくる」

 

俺は武器屋を出て昨晩泊まった宿へと急ぐ。

大事なものを忘れていた、昨日買ったフィロリアルの卵を!

 

立派な幼女に育て上げるんだ!なぜ俺は忘れてしまったのか。

 

「元康もこんな気持ちになってたのかなあ」

 

愛しのフィーロたーーん!ですぞーー!

フィロリアルの成長した姿を想像して、俺は妄想が止まらずニヤニヤしながら宿へと走っていた。

 

すると背後から俺を呼び止める声が聞こえた。

 

「書物の勇者!」

 

「ん?誰ーー」

 

振り返るとそこにはクルトとローゼが怒りの表情で俺を睨みつけていた。

 

「何だお前らか」

 

様子からして城での出来事は伝わっているのだろう。俺が強姦魔(冤罪だが)を援護した、ということが。

 

そんなことを考えているとクルトが口を開いた。

 

「見損ないました。貴方は、いやお前は犯罪者である盾を援護するとは!」

 

「……サイテー」

 

ローゼに関してはゴミを見るような目つきで俺を見ている。女性の立場からしたら俺は最低男に見えるだろうな。

 

「お前なんかに仕えようとした我々がバカだった!今後一切近づくな!」

 

まあコイツらは国の息がかかったクソみたいな連中だ、そんな奴らにどうこう言われようと痛くもかゆくもない。

 

てかコイツらって原作で見たことないしな、他の三馬鹿勇者の仲間と違って急遽集められたみたいだし、あまり詳しいことは聞かされてないかも。上手いことこちらに引き込んで利用できないだろうか。

 

何か引き込む手段はないかと考えていると、ふと思い出した。

 

「ふーん、つまり俺と敵対すると?」

 

「当たり前だ!」

 

「…まあ、別にそれで構わないけど俺は、いや俺たちは今後色々と動くがくれぐれも邪魔をするなよ?俺は、この世界の人間のことなんか心底どうでもいいんだからな」

 

俺は二人に対してハッタリをかます。

 

「生きようが死のうが、俺にはどうだっていいんだ。けど勇者として召喚された以上、世界を守るという使命は果たすがその過程で『敵対』するというのなら、一切容赦はしないからな?」

 

敵対という単語を強調し、わざとらしくニヤリと笑ってみせる。

 

「それこそ、病気の老婆だろう(・・・・・・・・)幼い子供だろう(・・・・・・・・)とな!」

 

ビシッとクルト達に向けて指をさしてそう宣言し、俺は再び宿に向けて足を運ぶ。

 

一瞬、振り返る時に奴らの顔を見ると二人とも表情が青くなっているのが見えた。

 

『俺たちの味方をしなければ家族がどうなっても知らないぞ』と奴らには聞こえただろう。

ぶっちゃけ住んでいるところも知らなければ顔すら知らない奴らの家族なんぞ、正直どうだっていい。

これで奴らが俺ら側につけば今後としてはやりやすくなるからいいんだがな。

 

「さて、そんなことよりフィロリアル〜」

 

陽気な足取りで俺は宿へと向かった。

 

 

 




今後の展開としてフィーロを登場させようと思っているため、尚文にはやさぐれてもらいました。
尚文は刹那に対して初日に味方でいると言われて、その通りに冤罪で助けてもらったので信頼のできる相手として認識しています。



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奴隷の二人

「おまたせ〜」

 

陽気な足取りで俺は武器屋の入り口に立っていた尚文に声をかける。

 

「ああ、って何だそれは」

 

尚文は俺の抱えているフィロリアルの卵を指差す。

 

「これはフィロリアルの卵ですぞ」

 

「ですぞ?」

 

おっと、また口調が。

なんだろう、フィロリアルのことを話そうとすると、うっかりですぞ口調になる。

 

「なんでもない、尚文も見たんじゃないか?街中で馬車を引いている鳥のような魔物を、これはそれの卵だ」

 

「……ああ」

 

尚文が納得したように頷く。

思ったがこの状態の尚文だと、最初の波が終わった後に買うフィロリアルはフィーロになるのだろうか。

 

まあ、今はそれを気にしなくてもいいか。

 

「それで、仲間について提案があるんだが尚文」

 

「何だ?」

 

「この世界には奴隷というものがあるらしくてな、それを使えば裏切られる心配もないと思うぞ」

 

普通ならたった一日で注文した品が届くとは思えないが、やり直しでキールがこのタイミングで届いていたはずだから、あの二人も届いているだろう。場所も名前もわかっているのなら尚更だ。

 

「奴隷、ね。確かにそれが良いかもな。で、斡旋してくれる心当たりはあるのか?」

 

「昨日、この卵を買ったところで奴隷も販売してると聞いている」

 

俺は尚文と共に奴隷商の元へと向かった。

 

 

 

 

「これはこれは書物の勇者様と」

 

「フィーロたん」

 

「ハイ?」

 

「は?」

 

やべ、条件反射でやっちまった。まあいい、奴隷商にはこのキャラで通すつもりだし今更変えるのもアレだ。

 

「尚文、色々と事情があってコイツにはこんなキャラで演じなきゃいけないんだ。察してくれ」

 

俺は小声で尚文にそう説明する。

 

「……まあいい、どんな事情かは知りたくもないがお前がそう言うなら聞かないでやる」

 

尚文がそう答える。

心なしか、尚文が距離を置いたように見える。色々と誤解を招くな、このキャラ。

 

「ハ、ハァ。それで、どのようなご用件で?」

 

「ここで奴隷を斡旋してくれると聞いてな」

 

「フフフ、勇者様が奴隷を欲しがるとーー」

 

尚文が一歩前に踏み出し、奴隷商と何やら取り引きを始めたようだ。

ここからは尚文の手腕の見せ所だな。

 

何度か尚文が奴隷商とやり取りしていると、奥の檻へと案内され檻の中には原作で読んだように、リザードマンとウサギの奴隷がいた。

 

そして真ん中にはラフタリアとリファナがお互い寄り添うようにして震えていた。

 

どうやらリファナも無事、とは言い難いが生きていたようだ。

 

「おい刹那」

 

「何ですかな?」

 

この後のことを色々と考えていると、尚文から話しかけられる。

 

いつの間にかラフタリアとリファナが檻から出されており奴隷登録の儀式を始めようとしているところだった。

 

ふむ、無事この二人を斡旋することに成功したか。

 

俺がですぞ口調で返事をすると尚文は苦虫を噛み潰したような表情して続けた。

 

「………お前はどうするんだ?」

 

「どう、とは?」

 

「俺は正直、予算に余裕があるとはいえ二人も面倒は見きれん。この奴隷商は執拗に二人を勧めてくるんだが、お前が片方を引き取らないか?」

 

むむむ、そうなるか。この頃の尚文はラフタリア達の事情を知るわけがないしな。

 

けど片方を俺が引き取るとなると、ラフタリアはまず論外。原作基準で考えるなら尚文の剣であり意中の相手でもあるからな、そこは幸せになってほしいとは思うし、引き取るなんて考えられない。

 

だがリファナにしても厳しい、何故ならリファナもまた盾の勇者に対して崇拝というか憧れているみたいだしなぁ。

 

「うーむ、それならーーー」

 

 

 

 

 

「では、またのご来店をお楽しみにしております」

 

「ああ」

 

俺と尚文は奴隷の二人を連れてサーカステントを後にする。

 

あ、もちろんインクを武器に吸わせて尚文には奴隷使いの盾、俺は奴隷使いの本という武器を解放させたぞ。

 

「さて、お前達の名前を聞いておこうか」

 

「……コホコホ」

 

「コホ……」

 

尚文が名前を言うように命令すると、二人はお互いの手を繋いだまま顔を背け、返答を拒否した。

 

だが、先ほどの奴隷登録の儀式により命令を拒否したら奴隷紋が発動する設定になっているためすぐに二人は苦しそうに胸を押さえた。

 

「ぐ、ぐうう……」

 

「ぐうう……」

 

「ほら名前を言え、でないともっと苦しくなるぞ?」

 

「ラ、ラフタリア……コホ、コホ!」

 

「リ、リファナ……コホ!」

 

「そうか。ラフタリアか、行くぞ」

 

「リファナ、行くぞ」

 

名前を言って楽になったのか、二人は呼吸を整えた。俺たちはそれぞれ自分の登録した方の奴隷の手を掴み、路地を進んだ。

 

悩んだ挙句、俺はリファナを奴隷として登録した。ラフタリアには尚文がお似合いだ。

 

そう考えるとリファナには非常に申し訳ない感じがする。



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双子のフィロリアル

な、なんかUA数やお気に入り登録がめちゃ伸びてて少しビビってます。読んでいただきありがとうございます!!


「アンちゃんたち……」

 

俺たちは今、武器屋に戻ってきていた。

もちろん、リファナたちに武器を買い与えるためだ。

 

「コイツが使えそうで、銀貨6枚の範囲の武器を寄越せ」

 

「同じく」

 

「……はぁ」

 

武器屋の親父は深い溜息を吐いた。

 

「国が悪いのか、それともアンちゃんたちが汚れちまったのか……まあいいや、銀貨6枚だな」

 

どう考えても国が、三勇教が悪い。尚文は……汚れたというよりやさぐれたって感じだな。助けたのに何でって疑問はあるけどな。

 

「後は在庫処分の服とマント、二人分はまだ残ってるか?」

 

「……良いよ。オマケしてやる」

 

武器屋の親父が嘆かわしいと呟きながら、ナイフを数本持ってくる。

 

「銀貨6枚だとコレが範囲だな」

 

俺と尚文は適当にナイフを選び、リファナたちに何度も持ち比べさせて一番持ちやすそうなナイフを選んだ。

 

ナイフを持たされて顔面蒼白の二人は俺と尚文、親父に視線を送る。

 

「ホラ、オマケの服とマント」

 

親父はぶっきらぼうに俺たちにオマケの品を渡し、更衣室へと案内させる。

 

ナイフを二人から没収して、オマケの品を持たせて行くように指示をすると、二人はよろよろと咳をしながら更衣室へと入り着替える。

 

「まだ小汚いな……後で行水でもさせるか」

 

尚文がポツリとそう呟く。

見てわかる通り、二人は奴隷で酷い扱いを受けていたからな。

 

さて、この後の展開ではマントの下、体に噛みつかせているバルーンをラフタリアに割らせるわけだが、それはあくまで二週間後の話であり、今の尚文がバルーンを持ち合わせてはいないだろう。

 

「行くぞ、ラフタリア。じゃあな親父。それと刹那、色々と助かった。改めて礼を言う」

 

「あ、ああ」

 

そう言って尚文はラフタリアを連れて武器屋を出て行った。

 

そうなるのか。多分、草原に行って店でやらせる予定だったバルーンを割らせるやつをやるのだろう。

 

「それじゃ、俺たちもーー」

 

尚文に続いて武器屋を出ようとしたときだった。

 

「ん?」

 

持っていた卵にピキピキと亀裂が入り、そしてパリンと音を立てて中からフィロリアルの雛が顔を出した。

 

「「ピイ!」」

 

「な、双子!?」

 

双子の、フィロリアルだと!?

鶏の卵とかでたまに黄身が二つ出てくるのがあるが、まさかフィロリアルでそれも双子として生まれてくるとは。

 

色は……藍色と琥珀色かな?

 

こ、これは……可愛い!可愛いのですぞー!

 

手を伸ばすと雛は二匹とも俺の手に乗ってきて、また元気に鳴いた。

 

「「ピイ!」」

 

「ははは、可愛いなぁ」

 

「アンちゃん、アンタ親だと思われてるみたいだぜ」

 

俗に言う刷り込みってやつですな。無論、俺はそれで構わないのですぞ!全ての幼い女の子たちを守る保護者に、俺はなるのですぞー!

 

と思ったがそもそもコイツらは雌なのか……?まあ、可愛いから雄でもいいや!ショタロリ万歳!幼い子供に囲まれるハーレムパーティ!これが異世界ってやつかぁ、女神ちゃんありがとう!

 

ぐへへへへ、これからどうしてやろうか。まずこの子が大きくなって、雄だったら雌が出るまで買ってー、つがい用に一匹買ってー、そしてー

 

「かわいい……」

 

変態的な妄想に浸っていると、リファナが俺の手に乗っているフィロリアルに向けてそう呟く。

表情も可愛いものを見つめるようなものになっていて、さっきまでの怯えた様子とは全然違う。

 

「リファナも撫でてみるか?」

 

俺はリファナの方に手を向け、撫でやすいようにリファナの背に合わせる。

 

「わぁ……」

 

「「ピイ!」」

 

リファナの小さな手がフィロリアルの頭を撫でる。すると気持ちが良いのか元気に鳴いた。

 

「コホ、えへへ……」

 

「可愛いなぁ……」

 

「「ピイ!」」

 

っと、可愛がるのもいいが名前をつけてあげないとな。

 

そうだな、藍色と琥珀のフィロリアルだから……

 

「よし、お前たちの名前は『アイラ』と『コハク』にしよう!」

 

「「ピイ!」」

 

アイラとコハクは名前を呼ばれたからか返事をするように、元気に鳴いた。

 

「それじゃあ改めて、俺たちも行こうか。それじゃあね親父さん」

 

「まあ頑張れよ、アンちゃん」

 

 

 

 

書物に卵の殻を吸わせて魔物使いの本を解放して城下町を歩きながら俺は考え事をする。

 

さて、これからどうするかね。レベルを上げようにも今草原の方に行くと尚文らがいるだろうし、そうなると反発現象で経験値が手に入らないだろう。

 

確か原作だと、バルーンを割らせた(予定)あとは……

 

 

「いらっしゃい……ませ!」

 

手ごろな定食屋を見つけて中に入ると、店員が嫌な顔をして、俺らを出迎える。そして嫌な顔をしたまま座る場所へと案内する。

 

「この店で一番安いランチとお子様ランチ、あと豆を煮溶かした柔らかい食べ物をくれ」

 

「!?」

 

びっくりした様子で俺を見つめるリファナを横目で見ながら、俺はアイラとコハクの餌も注文する。

 

「かしこまりました。銅貨10枚です」

 

「ほい」

 

銀貨を渡してお釣りを貰う。店員は嫌な顔をしながら渋々といった様子で店の奥へと戻って行った。

 

周囲の人間もこちらを見てヒソヒソと内緒話をしている。

相変わらず、噂が広まるのは早いねぇ。原作でも読んで思ったが、この速さはなんなのだろうか。

 

あとそうだな、時期的にお子様ランチを食べている子供は流石にいないか。

 

ぼんやりとそんなことを考えながらメニューが運ばれてくるのを待つ。

 

「なん、で」

 

「ん?」

 

「なん、で、食べさせてくれるの?」

 

リファナが不思議そうな顔で俺を見つめながらそう言う。

 

なんで、ね。確かラフタリアは食べたいって顔してるからとかで店に入ったわけだし、今回の場合は単純に原作に合わせただけで、リファナのお腹が鳴ったわけでもないしな。

 

「…まずは栄養をつけないと、この先死ぬぞ?お前は、これから一緒に戦って行くんだからな」

 

俺は戦えないわけじゃないが、剣や槍など物理攻撃ができないからな。近接となると不利になる、結果的にリファナを引き取ったのは正解だったかもしれない。

 

「お待たせしました」

 

しばらくして注文したメニューが運ばれてきた。俺はリファナの前にお子様ランチを置き、アイラたちの方へ煮豆の餌、そして自分の飯、例の安いランチに手を伸ばす。

 

ふむふむ、一番安いとはいえ不味くはない(不味い飯とか店が出すわけないが)。味はベーコンみたいなハムみたいな味がする。

 

「……食べないのか?」

 

しばらく自分の飯を頬張っているとリファナが自分の目の前に置かれたお子様ランチに、一切手をつけてないのに気がつく。

 

あーあれか、前の飼い主と照らし合わせて手を出したら取り上げられるとか思ってるんだろう。

 

「……いいの?」

 

「別に取り上げようとか、はたき落とそうとか思ってないぞ?食べろ、一応命令だ」

 

命令と言うとリファナは恐る恐るといった感じでお子様ランチを素手でかぶりつく。

 

「ほら、お前たちも食えー」

 

「「ピイ!」」

 

アイラとコハクも煮豆を嘴で突きながら食べ始めた。



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レベル上げ

 

食事を終えて、俺たちは草原へと向かった。

多分、尚文とラフタリアがいるかもしれないから森の奥へと進んでレベルを上げようか。

 

「ほら、怯えなくていい。魔物からは守ってやる、絶対に」

 

首を傾げるリファナをマントの下へと入れ、足早に森の奥へと向かった。

 

「尚文は、どこかですれ違ったのかな?」

 

草原から森へ、奥へと進む途中で尚文やラフタリアの姿を見なかった。

 

てことはラフタリアのお腹が鳴って定食屋でも探しにでも戻ったかな?

 

「この辺りでいいかな」

 

俺は昨日来たところより、さらに奥へと進んだ。

 

「さて、リファナ。今日はお前に戦い方を教えるのとレベル上げを行うぞ」

 

武器屋で買ったナイフをリファナに渡す。

 

「ひ、ひぃ……」

 

改めて顔面蒼白になるリファナ。

何だろうな、尚文がラフタリアにやっていることを、ただなぞっているだけな気がしてきた。

 

とりあえず、手頃な魔物を倒させたいが……お、何か良さそうなスキルを見つけたぞ。

 

ウェポンコピーした書物の一つに内蔵されていたスキル、ヘイトリアクションというものを見つけた。確か尚文の盾にもあったやつだな、これを使って魔物を呼び寄せよう。

 

「ヘイトリアクション!」

 

すると無数の魔物が一斉に茂みから飛び出して俺らを取り囲み、襲いかかってきた。

 

「うお!?数が多い!」

 

「きゃあああ!」

 

「くっ!ファスト・ファイア!ファスト・アクアショット!ファスト・サンダー!」

 

俺は魔法を唱え続け魔物を殲滅していった。

 

 

 

 

「ぜい、ぜい……」

 

MPが枯渇寸前まで魔法を打ち続け、何とかその場を凌ぎきった。

 

リファナの戦闘訓練を行うはずが、とんだことになった。ヘイトリアクションを使用した際、偶々この周辺に魔物が集中していたのだろう。

 

「まぁでも何とか、バルーンを二匹ほど捕まえられたからいいか」

 

現在、俺の両足にはレッドバルーンが二匹噛み付いている。尚文と違って防御力は高くないので割と痛い、けれど魔物を倒しまくったおかげかレベルもそこそこ上がり、防御力も多少は上がっていた。

 

俺の現在のレベルは24、同行者設定しているリファナは11、アイラとコハクは10にまで上がっていた。

 

結構上がったな。とりあえず、このバルーンを原作通りに割らせるとしようか。

 

「改めてリファナ。このバルーンをそのナイフで刺して割ってみろ」

 

「ひぃ!?や……い……いや」

 

「……命令だ。逆らうとお前が苦しくなるだけだぞ?」

 

そう言うとリファナは胸を押さえて苦しみ出す。奴隷紋が発動したのだ。

 

「ぐ、ううう……」

 

うーーーむ、これマトモな精神状態だと、ものすごい良心が痛む。罪悪感がパネェな。

 

「ぐうう……!」

 

リファナは震える手に力を込めてナイフを持ち、バルーンに向かってナイフを突き刺した。

 

バアン!バアン!

レベルが上がっていたおかげか、一突きでバルーンが割れた。

 

「よしよし、よくやった」

 

原作に則りリファナの頭を撫でる。

リファナは不思議そうな顔を俺に向ける。

 

えーっと、もっと探索というかレベリングをさせたいところだけどMPが枯渇してるからなぁ。これ以上強い魔物が現れたら守れないし、今日は一旦これで戻るか。

 

「それじゃあ今日はーー」

 

「コホコホッ」

 

そろそろ戻ろうと提案しようとした時、リファナが咳をして気がついた。

 

いけないいけない、忘れていた。風邪だっけな?それに効く薬を飲ませてやらないとな。

 

書物を魔法屋でコピーした時に手に入れた薬草の本に変化させ開いてみるも、字が読めないので何がどういう効果があるのかさっぱりだった。

 

いや、装備ボーナスの欄に簡易調合レシピがある。それを元に自分で調合するか。その前に薬草を探さないとな。

 

……思ったが金もあるし市販の薬を買って飲ませた方が早かったのでは?まぁ、今さら気がついたところで今から戻ろうにも日が暮れるだろうし、明日でも大丈夫だろ。

 

「ご主人様は……何者なんですか?」

 

リファナが目を丸くさせて書物を見ていた。

ああ、目の前で変化させたからな。それに不思議がっているのか。

 

「俺は……勇者だよ、書物の」

 

「???」

 

リファナは不思議そうに首を傾げ、訳がわからないという顔をした。

当然の反応だ。尚文なら盾の勇者だと名乗れば、あの伝説の!となるけど四聖でも七星でもない俺が勇者を名乗っても訳がわからないとなる。

 

もう慣れたが、俺も訳がわからない。何なんだろうか書物の勇者って。

 

「まぁ、そういうことだ。少し周辺を探索するぞ」

 

 

 

尚文視点ーーー

 

 

このクソみたいな世界に召喚されて三日目、俺は仲間を強姦したというやってもいない罪を被せられ、挙句その仲間だったクソ女に装備や財産を盗まれ無一文で放り出された。そう思っていた。

 

唯一、俺を信じてくれた刹那が前日にあのクソ女が怪しいと睨み財産だけは守ってくれていた。人の寝ているところにこっそりとなんて気持ち悪いとも思ったが、アイツが信じてくれたおかげで俺はこうして奴隷というものを買えて、人手不足にならずに活動することができている。

 

「ほら、これを飲め」

 

「……ぐっ、に、苦……」

 

どうもラフタリアの病状が風邪っぽいので、盾のスキルにあったレシピを呼び出して薬を調合する。その中に風邪薬があったのでそれを飲ませようとした。

 

「良薬口に苦しだ。飲め」

 

震えながらラフタリアは俺が渡した薬を思いっきり飲み込んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「よしよし、良く飲んだな」

 

頭を撫でてやると、ラフタリアは不思議な表情で俺をぼんやりと見つめる。

「ほら、晩御飯ーー」

 

俺が焼きあがった魚をラフタリアに渡そうとした瞬間だった。

 

ガサガサガサ!

突然、目の前の茂みが激しく揺れ何かの気配を感じた。

魔物か!?

 

「ラフタリア!下がれ!」

 

俺はとっさにラフタリアを後ろへと下がらせて、飛び出してきたものを迎え撃とうした。

 

「うおおおおお!」

 

「きゃああああ!」

 

「なっ!?」

 

飛び出してきたのは、全身をバルーンやルーマッシュに噛みつかれた刹那とリファナだった。それだけじゃない、奴らの背後からも無数の魔物が飛び出してきた。トレイン状態と言わんばかりに魔物を引き連れている。

 

「な、尚文か!助けてくれ!」

 

「一体何をしたらそうなるんだよ!ラフタリア!」

 

「は、はい!」

 

「片っ端から魔物を倒せ!」

 

ラフタリアに刹那たちに群がる魔物を倒すように命じ、俺は背後から飛び出してくる魔物からラフタリアを守る。

 



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物理攻撃

 

「ーーで、薬草を探していたのはいいが、その際に魔物に遭遇してしまって倒していたら、その騒ぎで他の魔物も呼び寄せてしまいああなったと」

 

「そうそう、いやー全く参ったよ」

 

俺は現在、尚文たちと一緒に焚き火を囲んでさっきまでの出来事について説明していた。

 

アイラとコハクはお互いに寄り添うように眠っており、リファナはラフタリアに看病されていた。

 

「リファナちゃん……」

 

「うーん……コホコホ」

 

武器の反応具合を見て素材を入れたり、集めたりしていたのはいいものの魚群ならぬ魔物群に遭遇するなんてな。

 

「……まぁ、質は悪いが俺の作った薬でよければいくつか余ってはいるが、それでもいいか?」

 

「お、いいのか?」

 

「何だかんだでお前には助けられてばかりだからな」

 

そう言って尚文が葉っぱのコップに入っている薬を俺に手渡してきた。

 

「おお、ありがとう尚文」

 

「礼を言うのはこっちの方だ。色々とありがとな」

 

何だかんだで尚文の優しさはやさぐれても変わらないんだな。ここも原作と変わらないのか。

 

俺は尚文から薬を受け取るとリファナの方へと向き、薬を飲ませる。

 

「リファナ、薬だ。飲め」

 

「ん、ぐっ……」

 

「苦いだろうけど我慢して飲め、じゃないと治らないぞ」

 

薬が苦くて吐き出そうとするリファナの口を押さえ、強引に飲み込ませる。

 

……良心が痛む、こんな幼い子供に対して俺は何をしているのだろう。

 

「よしよし、よく飲んだな」

 

頭をポンと撫でてやると不思議そうな表情でこちらを見つめる。

 

ん?なんだこの既視感は?まあいいか。

 

「それでーー」

 

尚文に話しかけようとした途端、俺とリファナは盛大に腹の音がグゥーとなった。

 

「うぅ……腹が減った……」

 

よく考えたら魔物を倒したり薬草を探すのに夢中になって、食料を全く探していなかった。すっかり日も暮れてるし、城門も閉まってるだろうから飯屋に行くこともできない。

 

「食うか?」

 

尚文が焼き上がった魚を俺たちに手渡してきた。

 

「え、いいのか?でもそれ、数が……」

 

「別にまた釣ればいい話だ。お前には助けてもらってばかりだからな、困った時はお互い様だ」

 

「何か、悪いな」

 

俺は尚文から焼き魚を受け取り、リファナと自分の手元へ持ってきて食べる。

 

う、美味い!ただ焼いただけなのに何だこの美味さは!?これが、飯の勇者の料理……!

 

焼き魚の味に感動していると尚文は調合作業を始めており、いつのまにかラフタリアも眠り始めていた。

 

さて、明日は何をしようか。どのみち金銭を稼がなきゃいけないし、三勇者みたいにギルドの仕事をしようにも斡旋してくれるわけがないだろうし尚文みたいに行商とかするべきなのかなぁ?

 

これからの生活についてどうするか思考していると、突如、耳をつんざくような悲鳴が辺りに響いた。

 

「いやぁああああああああああああああ!」

 

見るとラフタリアがうなされているのが目に入った。

 

忘れていた。この頃は目の前で両親が殺されたトラウマで夜泣きをするんだった。というかヤバイ、この悲鳴につられてバルーンとかが寄ってくる!

 

尚文は急いでラフタリアの元へ行き口を塞いだが、それでも漏れる声が大きかった。

 

「んーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

「落ち着け、落ち着くんだ」

 

「ラフタリアちゃん、落ち着いて」

 

尚文とリファナが夜泣きするラフタリアをあやす。

 

「ガァ!」

 

すると声を聞きつけたバルーンが現れた。

 

「く、ここは俺が食い止める!」

 

俺はバルーンに向かって走った。

もうMPは残ってない、となれば物理攻撃しか倒す方法はない。魔法を連発して狩りをしていたから試してもないが、とりあえず殴るしかない。

 

「オラオラオラオラ!」

 

一心不乱になりながらバルーンを殴り続け、5分くらいしてようやくパァンと音を立ててバルーンが割れた。

 

クソ、尚文同様に物理攻撃が絶望的にないぞ。

 

「痛ててて!こんにゃろ、噛むな!」

 

殴り続けている間に新たなバルーンが何体も現れ俺の体に噛み付いていた。

 

「この、風船もどきが!」

 

 

 

 

 

 

 

「ゼイ……ゼイ……」

 

どうにか一通りバルーンを割り終えて、尚文たちの所へと戻り、俺は倒れ込んだ。

 

いくら物理攻撃が通るといっても殴り続けて疲労困憊だ。元々はタダのオタクで引きこもってたし、体力なんてない。

 

「つ、疲れた……」

 

「大丈夫か?」

 

「なんとかな」

 

尚文がラフタリアを抱き抱えたままそう言う。リファナはいつのまにか眠っていた。

 

その寝顔を見ているとこちらも段々と眠くなってきて、いつのまにか俺も意識が落ちた。

 



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世話焼きフィロリアル

夏休みが終わってしまった……


 

バァン!バァン!

 

次の日、何だか妙な騒がしさで俺は目がさめる。

なんかバルーンが何体も割れる音がする。

 

「ん……」

 

「起きたか?」

 

「……おう、尚文か…」

 

見ると尚文が疲れた様子で立っていた。

足元にはバルーンの残骸が無数に散らばっている。

 

「戦ってたのか?」

 

「ああ、ラフタリアが少しでも離れると大声で泣いてな、その度にバルーンが沸いてきた。それでロクに眠ることができずに、ずっと戦ってた」

 

「そうなのか、後は俺がーー」

 

起きて見張りをしようと言いかけた時、ラフタリアが目を覚ました。

 

「ひぃ!?」

 

尚文に抱きかかえられているのに驚いてラフタリアは大きく目を見開く。

 

「後は俺が魔物が来ないか見張ってるから、尚文は少し寝たらどうだ?」

 

「……そうだな、そうさせてもらう」

 

そう言って尚文は横になって目を瞑る。かなり疲れていたのか、すぐに眠りについたようだ。

 

「体の調子はどうだ?」

 

「コホ……」

 

ラフタリアは咳をするだけで何も返事はしなかった。

 

見た感じ、昨日よりかは顔色も良いみたいだし体調も良くなってはいるだろう。

 

「お前、運がいいな。この人、伝説の盾の勇者様なんだぜ?」

 

「知ってる……コホ」

 

その辺の話はもうしてあるか、なら俺も一応名乗っておくか。

 

「リファナにはもう話してあるが、俺も一応勇者なんだ。書物のな」

 

「???」

 

案の定、リファナと全く同じ反応である。ほんと何なんだろうか、書物の勇者って。

 

可能性があるとすればキョウの武器が俺に宿ったとかだろうけど……霊亀の復活はまだかなり先にはなるが、もしかしたら原作じゃ語られていない設定があるのかもしれない。

 

ここで考えていたところで答えが出るわけじゃない。そんなことより、これからどうするかを考えるべきだ。

 

「まぁそういうことだ。ところで尚文のことはどう思う?」

 

「コホ……ナオフミ?」

 

あ、しまったな。確かどっかの廃坑だったか、そこでのイベントを少し先出ししてしまった感がある。この辺りはまぁ、あまり影響はないだろ。

 

「盾の勇者の本名だ。あとでまた聞くといい」

 

「えっと、ご主人、様は……ちょっと怖いけど、何か……コホ、優しい……?」

 

「そうだ。コイツはな、この世界に召喚されて、色々あってこうなっちまったけど、本来は優しい奴なんだよ。だからな、そう怯える必要はないよ」

 

「コホ……そう、なの?」

 

「ん……」

 

ラフタリアと話をしていると、その途中でリファナが目を覚ました。

 

「体調はどうだ?」

 

「ひぃ!?」

 

ラフタリアと全く同じ反応である。流石は親友といったところか。いや、奴隷にされて酷い目に遭っていたのだから当然の反応だろうか。

 

「「ピヨ!」」

 

ちょうどリファナの隣で寄り添うように眠っていたアイラとコハクも、リファナの声で目を覚ましたようだ。

 

おや?昨日よりも体が大きくなってる、そういえばフィーロもこんな感じだったな。となるとこのままレベルを上げていけば今日中には成鳥になるだろう。

 

「おお、起きたか二人とも〜」

 

「「ピヨ〜」」

 

手を伸ばして頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じて鳴いた。

 

ていうかフィロリアルの数え方ってなんだ?人型にもなるし鳥にもなるしで、俺は今"二人"と言ったがこの形態だと、二羽と言った方が正しいのだろうか。

 

……まあどのみち可愛い天使になってくれるならどうでもいいけどな!

 

 

そんなこんなで陽が昇り尚文が起きるまでの間、ラフタリアたちと雑談していた。

 

尚文は眼が覚めると、城下町の方へ行くと言ってラフタリアを連れて俺たちと別れた。その際に、調合した薬をいくつかくれた。リファナの風邪もまだ完治してないだろうし、これは助かる。

 

さて、今日もレベリングをしようとは思うが、自分で金を稼がないと、もう所持銀貨は200枚もない。

 

となればまずはバルーンに噛まれても痛くないくらいまで強化しないと、それで懐に忍ばせて尚文みたいにバルーンでの脅しをするためにな。

 

どのみち、資質向上するにもレベルは必要だし最初の波までに俺以外を上限である40まで上げておきたい。それも、資質向上を含めてだ。

 

よし、なら早速やることは決まりだ。

 

さっそく俺はリファナを抱き上げる。

 

「ひゃあ!」

 

「よし、さっそく魔物狩りだ!」

 

「「ピヨ!」」

 

アイラとコハクは元気に鳴き声をあげると、すぐに俺は森の奥へと走り出した。

 

「うぉおおおおお!」

 

魔力が続く限り、体力の持つ限り、アイラとコハクが付いて来られるような速さで俺は森の中を駆け抜ける。

 

もちろん、武器が反応したらその度に止まって武器に吸わせて解放することを忘れない。

 

「リファナ!」

 

「は、はい!」

 

「ギィ!?」

 

途中でリファナを下ろして戦いに参加させる。レベルを上げるだけじゃ経験は積めないからな。

 

バルーン、キノコ、タマゴ、ウサギ、最初の森で出現する魔物を次々に倒し続けた結果、レベルが俺は30、リファナは21、アイラとコハクは18まで上がった。

 

日が暮れるまで魔物と戦い続けて、俺たちは一度城下町へと戻る。素材を売るためだ。

 

さて、足元を見られないように脅し用のバルーンを……

 

 

「痛ててて!」

 

尚文みたいに自分の体にバルーンを噛みつかせて、マントの下に忍ばせようとしたが、盾の勇者じゃないので防御力が高くなく、ダメージをくらいまくる。

 

「く、そ。これじゃロクに……!」

 

そこで俺はとある考えを思いついた。

 

そうだよ、別にバルーンの刑にこだわる必要はないじゃないか。俺は魔法が使えるんだ。

 

「我ながらいいことを思いついたもんだ」

 

ニヤリと笑いながら俺はバルーンを投げ捨てると、買い取り商人の所へと足を運んだ。

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアア!」

 

「このままお前を草原まで引きずって、買い取って貰おうか?」

 

 

リファナたちを宿に預けて俺は外に出ると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。そちらの方へ行くと、ちょうど尚文が買い取り商人に対してバルーンの刑に処している場面に遭遇した。

 

尚文がいるなら隣にいてもらえば特にやる必要はないか?

いや、どうせ犯罪者を庇ったとして俺も悪名が広がってるだろうし、女王さえ帰ってくりゃ後は何とでもなる。尚文の味方をするのならば、俺も同じように外道に成り下がろうか。

 

 

「はいはい。まったく、とんだ客だよコンチクショウ!」

 

そう吐き捨てる商人から尚文が立ち去るのを待って、俺はそいつに近づく。

 

「買い取りを頼む」

 

「いらっしゃいま…せ!」

 

そう言って素材を置くと、商人は怒りの表情からすぐに営業スマイルを浮かべてこちらへと向く。

 

俺の顔を見て、すぐにへらへらした様子になった。

 

「バルーン風船ですねぇ。10個で銅貨1枚ではどうでしょうか?」

 

案の定、足元を見てきやがった。

ま、尚文と違って前の客のやり取りは聞いていたが恫喝している場面だったしな。

 

「俺が相場を知らないと思ってんの?」

 

「何分、うちも商売でしてねぇ…」

 

まして共犯者に相場とか、小声でそう言ったの聞こえてないとでも思ってんのかね。

 

「さっき生きたバルーンに噛み付かれて、鼻が赤くなってるよねぇ。もう一度やったら取れちゃうかなぁ?」

 

そう言いながら俺は風魔法を使ってマントを揺らし、バルーンがそこにいるかのように演出し商人にハッタリをかます。

 

「ヒィ!?わ、分かりました……」

 

商人は顔を青くさせて、渋々といった様子で素材を買い取った。ふむふむ、結構な稼ぎになったじゃないか。やはり攻撃力があるのとないのでは大違いだな。

 

「俺の噂も広めておけよー。バルーンの刑を処す、盾と書物の勇者の噂をなぁ!」

 

そう悪ぶって俺は商人のもとを立ち去る。

 

さてさて、市販の薬を買ってリファナに飲ませたり体に塗ってあげないとな。もちろん尚文からもらった薬でもいいが、質のいいものを与えないと治りは良くないだろう。

 

「あぁ、腹減ったな」

 

「「グアグア!」」

 

薬屋に寄って薬を買って腹を空かせながら宿に戻ると、俺は最初に馬小屋へ向かった。するとアイラたちはダチョウみたいな形態になっていて俺を出迎えてくれた。

 

「おー、随分と大きくなったなぁ」

 

「グア〜」

 

アイラがじゃれついてくる。こいつは甘えん坊だなぁ。

俺はアイラの喉を撫でてやる。すると気持ちよさそうな声をあげた。その様子を羨ましそうに見ていたコハクも近寄ってきて撫でてと言わんばかりの様子で俺の方をつっついた。

 

「グアグア」

 

「コハクも可愛いなぁ」

 

「グア〜」

 

アイラとコハク、まとめて喉や頭を撫でながら俺は癒される。

体を触ると肉が蠢いていたりバキバキと成長音がしていた。

 

リアルでこれを聞く日がくるとは、聞いていて痛くないのか心配になるぞ。

 

「よーしよし、今ご飯をやるからな」

 

俺は昼間のレベリングで狩った魔物の肉を出して二羽の前に置いた。するとアイラがそれに向かって首を下ろして一つを嘴で掴んだ。

 

何だ?食べるんじゃないのか? そう思っているとアイラはそれらを俺の前に置いて、コハクは俺の背後に回り食べてと言わんばかりの様子でグイグイと押してきた。

 

「いや、これお前たちのご飯……」

 

「「グア?」」

 

首を傾げられても困るんだが、つーか加熱もしてない生肉を食って腹を壊したらどうするんだ……

 

しかも地面に直置きしてるし衛生面的に良くない。

 

「グアー」

 

「グア!」

 

「わ、わかったわかった」

 

コハクは俺に食べることを強要するかのように背後からグイッと推してくるし、アイラは鳴くしで俺は渋々ウサピルの肉を少しだけ口に運んだ。

 

「……ヴヴッ!」

 

臭い!不味い!気持ち悪い!

何で俺が魔物用の餌を食べなきゃいかんのだ。

 

「「グア!」」

 

俺が食べたことに満足したのか、二羽ともやっと餌を貪り始めた。

 

「クソ、腹減った……」

 

「グアグア」

 

「な、なんだよ!」

 

アイラが俺の服をつまんで、また魔物肉を食べさせようとする仕草をした。今度はコハクが肉をつまみあげて俺に押し付けてきた。

 

もしかしてコイツら、俺が腹減ったと言ったから食べさせようとしてくれてるのか?

 

だけどこれは生肉だし、俺は人間なんだが…

 

「グア!」

 

また俺がいつまでも食べないとアイラが怒ったような声をあげ、コハクがグイグイと肉を押し付けてくる。

 

「わかったから!」

 

渋々肉を少しかじって飲み込む。

ウエェ、マジで血の匂いが臭えし気持ち悪い。

 

コイツら、世話を焼くのが好きなのか?だとしてもこれに関しては余計なお世話だ。

 

「あ、ありがとう。美味しいよ」

 

「「グア!!」」

 

引きつった笑顔で二羽にそう言うと、満足そうにポーズを決めながら鳴いた。

 

これ以上余計なことを言って食わされる前にさっさと部屋に戻ろう。

 

「それじゃあ、また明日な!」

 

「「グア!!」

 

アイラたちは敬礼するようなポーズを取り、頭を下げて俺を見送る。

 

ああ早くまともな飯が食いたい、酒でも飲んで胃を洗浄しよう。



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ロリコン紳士

 

 

「うーん、頭が痛え……」

 

昨日、魔物の肉を生で食わされて気持ちが悪くなり、それを誤魔化すために酒場で酒を飲んだんだが調子に乗って何杯も飲んで二日酔いになっていた。

 

「リ、リファナ……水を、持ってきてくれ……」

 

「は、はい!」

 

リファナはコップを持って外に出て行った。

 

「ク、ソ……飲みすぎた……」

 

しばらくして廊下をドタドタと走る音が聞こえてきた。

 

「くぅ、頭に響く……」

 

ドアがバァンと開かれると、そこから見覚えのある二羽が顔を出した。

 

「「グア!」」

 

「うお!?」

 

「ご、ご主人様〜」

 

リファナが二羽に挟まれるように手だけを出してこちらに向けていた。

 

「だ、大丈夫か?」

 

俺はリファナと思しき腕を引っ張り救出する。

 

「何があったんだ?」

 

「井戸から水を汲もうとしたら、急にこの子たちが走ってきて、私を挟んだままここまで走ってきたんです」

 

アイラとコハクは昨日よりも大きくなっており、扉が狭くて部屋には入れないようだった。

 

「グアー!」

 

「わかったわかった」

 

「グア!」

 

「うおっ!?」

 

「ひゃあ!?」

 

こっちへ来てというような様子だったので、渋々頭をは抑えながら行くと、アイラが俺を、コハクがリファナを背に乗せるとそのまま宿の外へと飛び出して行った。

 

「おい待て、まさかこのまま走るのか!?俺は二日酔いなんだぞ!?」

 

そんなことを魔物に言っても無駄である。無情にも二羽はそのまま森に向けて走り出した。

 

チラリと見たが宿の入り口が壊れておりコイツらが無理やり入ってきたのが一目瞭然だった。

 

ああクソ、弁償しないといけないなぁ。そんなことをボンヤリと考えながらただ引きずられるように連れていかれた。

 

 

「うぷっ」

 

三十分ほど強引に乗せられて走った結果、俺たちは昨日の森の入り口まで連れて来られた。

 

これが、フィロリアルの乗り心地か……クソ悪すぎるぞ。二日酔いも相まってより一層気持ち悪い。

 

よく尚文は平気だよな、酔い無効の異能持ちなのかほんと。

 

「よ、酔い止めの薬は……無かったか」

 

「うーん」

 

リファナの方を見ると俺と同じようにーーいや、俺以上にぐったりとしているようだった。

 

「リファナ、とりあえず今朝の分の薬だ。あと背中とかの傷を治す薬を塗るから脱げーーと言ってもその状態じゃ無理そうだな」

 

しょうがない、ここはーー

 

「うぷっ」

 

気持ち悪そうにぐったりとしているリファナは意識が朦朧としているのか。俺が服を脱がしているのに全く気がついていないようだ。

 

平常心、平常心だぞ刹那。俺はロリコンだけど紳士だ。紳士なら無理やり手を出すなんてことはしない、落ち着け落ち着け。

 

よし、塗り終えたぞ。おお、傷口がみるみる消えていくぞ、流石は異世界だな。って、んなことに感心してる場合じゃない、早く服を着せないとな。

 

あとは回復魔法でもかけておこう。

 

「ファスト・ヒール」

 

理性を保ちながら服を着せ終わり、俺はリファナが眼を覚ますまで待つ。

 

うぷ、気が抜けた途端に気持ちが悪くなった。

少し仮眠を取ろう。そう思って横になると二羽が俺を突き始めた。

 

「グアグア!」

 

「な、なんだよ。少し寝かせてくれよ」

 

グウゥー

「「グア!」」

 

二羽はお腹が空いたと言わんばかりに俺を突っついていた。

 

「あーもう、魔物の肉は昨夜の分で無くなったよ!そんなに食いたきゃ自分で狩ってこいよ」

 

「「グア!」」

 

そう指示すると、二羽はすぐさま森の奥へと駆け出して行った。この感じだと、すぐに戻ってきそうだ。うう、頭が痛い……

 

案の定、数分で戻ってきてドサドサとその場に昨日のようにウサピルなどの魔物の死骸が置かれた。

 

「「クエ!」」

 

しかもクイーン形態になっていやがる……成長が早えなオイ。

 

……にしてもこのペースなら夜には天使になるだろう。ぐへへ、楽しみだなぁ。

 

「リファナ、起きろ」

 

「うぅ…」

 

「魔物の解体を手伝ってくれ、終わればいくらでも休んで構わない」

 

「はい……」

 

俺はリファナを起こし、二人で魔物を解体することにした。

 

 

「……あの、ご主人様」

 

「何だ?」

 

「私、何だか体が軽いのですが、何かされたのですか?」

 

「……えーっと、それは多分伝説の武器の影響だろうな。加護ってやつだろう」

 

まあそれだけじゃなくて、薬を塗ったりしたからだろうな。

寝ている女の子の服を脱がして、薬を塗っただなんてどんな変態プレイだ。絶対にバレてはならない。

 

それにしても昨日までと比べてリファナの態度も変わってきてるな、俺に対してあまり怯えなくなってる感じがする。それに身長も伸びてきている。

 

グー

ちょうどそのとき俺もリファナも、お腹から音が鳴った。起きてすぐに連れ回されて、何も食べていないのだから当然だろう。

 

「「クエ!」」

 

すると昨日みたいに二羽が俺たちに肉をつまんで食べるように押し付けてきた。

 

「ひゃっ!な、何!?」

 

「だから俺は食えないっての!」

 

「「クエ!」」

 

クエ!じゃねえんだよ!今のお前らの鳴き声は完全に食え!にしか聞こえねえぞ!どんだけ食わせたいんだよコイツらは!

 

いつまでも食べないとまた口元に押し付けられそうだ。これは覚悟を決めた方がいいかもな。

 

「…リファナ、コイツらは俺たちにこれを食わせようとしてるんだ」

 

「ええ!?生肉ですよ!?」

 

「覚悟を決めろ。でないと無理にでもコイツらに食わされるぞ」

 

俺とリファナはゴクリと固唾を飲み込むと、覚悟を決めて魔物肉を一口かじった。

 

「……ヴヴェ!」

 

「うっ!おえぇ…」

 

そして同時に吐き出した。コイツらのせいで乗り物酔いで気持ち悪くなったうえに、生肉を食わされたのだ。当然だろう。

さらに俺はそこに二日酔いも加わっている。

 

「クエ!」

 

「痛い痛い!わ、わかったって!」

 

俺が吐き出したのを見て怒ったようにアイラは俺を嘴で突く。

 

「ううぅ、気持ち悪い……」

 

「クエ」

 

コハクがリファナを介抱するように横に寝かせて、毛布を嘴を使って器用にかけた。

おい、なぜ俺には怒っておいてリファナには優しくしてるんだ。

 

「クエ!」

 

「食えじゃねーー!」

 

最悪の朝で今日という日を幕開けた。

 

 

「クエクエ!」

 

「ったくコイツらは……」

 

チラリとリファナを見ると口元を押さえて今にも吐きそうになっていた。このままだとまた食わされる羽目になるな。

 

「リファナ!口を絶対に開くなよ!」

 

「うっ!」

 

俺はリファナを担いで近くの川へと走り出した。アイラたちは食事に夢中でこっちには気づいてない。

 

 

 

「リファナ、よく耐えたな。もう吐き出して大丈夫だぞ」

 

「うぅ、おえぇ」

 

「大丈夫か?」

 

俺はリファナの背をさすってやる。正直俺も吐きたいが、それでアイラたちの前でお腹が鳴ったら無限ループだ。

 

「うぅ…」

 

「ほら、干し肉だ。口直しに食べろ」

 

リファナはそれを受け取るとガジガジと味を噛みしめるように食べていた。

 

うーむ、髪もボサボサしてるしこの際、尚文みたいに髪を切ってやろうか。あ、ハサミ持ってない。宿に戻った時にでもやるか。

宿……壊しちまったなぁ……、いくらかかるんだろ。

 

そんなことを考えながら俺はリファナが食べ終わるのを待っていた。

 

「あとは常備薬を忘れるなよ」

 

「うぅ、はい…」

 

最初に比べて慣れたのか嫌そうな顔をしつつもしっかりと飲めたので俺は頭を撫でてやる。

 

「よしよし、よく飲めたな」

 

「……あの、ご主人様」

 

「ん?なんだ」

 

「何で、優しくしてくれるのですか?」

 

「前にも言ったが、これから一緒に戦うんだからな。それで一緒に戦う仲間に優しくしないでどうする?」

 

リファナは不思議そうな顔をする。

 

「……あと三週間ほどで世界を脅かす波が訪れる」

 

「え!?」

 

「俺は、魔法での攻撃はできるが物理攻撃はできないんだ。だから近接戦闘では圧倒的に不利になる」

 

「あの……災害と戦うのですか?」

 

「そうだ、それが俺たち勇者の役目なんだ。やりたくてやってるわけじゃないが、そういう意味ではお前と俺は似てるのかもしれん。強制させてる俺が言える立場じゃないけどな。だから、できるなら俺に力を貸して欲しいんだ」

 

「……わかり、ました。私、戦います」

 

「ああ、改めてよろしく頼むぞ」

 

「「クエ!」」

 

ちょうどその時、アイラたちが俺らを追ってやってきた。

 

「だからそれは食わねーー!」

 

魔物肉を、ぶら下げながら。

 

 

 

 

 

「ううぅ、やっとまともな飯が食える…」

 

「うぷ、うぅ」

 

俺とリファナは例の定食屋に来ていた。

 

「ご注文は?」

 

「一番安いランチとお子様ランチ……あと水をたくさん持ってきてくれ」

 

アイラたちは自分たちのご飯を満足そうに平らげるとすぐに俺たちを乗せて宿の馬小屋に戻って行った。あいつらの壊した宿の入り口やら廊下やらは分割で払うことになった。

 




次回「天使降臨」


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天使降臨

 

 

俺とリファナは少し遅めの朝食を終えると、草原に来ていた。今日もレベル上げと戦闘経験を積ませようと思っていたが、宿に戻ってすぐアイラたちがどこからか拾ってきた木の枝を押し付けて遊びたそうにしていたので仕方なく遊んでやることにした。

 

「じゃあ、投げるぞ?」

 

「「クエ!」」

 

「そらっ!取ってこい!」

 

「「クエーー!」」

 

俺は木の枝を投擲して、それをアイラたちは地面に落ちる前にキャッチして戻ってくる遊びをする。

 

木の枝は一本だけ、どちらが先に取るか二羽は競っているみたいな感じだ。

 

「クエ!」

 

「よしよし、よく取ってきたな。アイラ」

 

「クエー♪」

 

ふむふむ、さっきから何度か投げているが先に取ってくるのはほとんどアイラだ。コハクはアイラが取り損ねたものを偶然、ということが多かった。

 

やっぱ双子でも運動能力の違いが出るもんだなぁ。可愛い天使になってくれれば俺は満足だけど。

 

「クエェ…」

 

コハクが何やら落ち込んでるような鳴き声をあげる。アイラばっか撫でられてズルい!みたいな感じだろうか。

 

「コハクも頑張ってるよ、よしよし」

 

「クエ♪」

 

撫でてやると途端に機嫌がよくなる。ふふふ、可愛い奴だ。これが天使になったらもっと可愛くなるのだろうか。

 

「クエ!」

 

「はいはい、そらっ!」

 

「「クエー!」」

 

「動物は癒されるなぁ」

 

天使になったらどれだけ可愛くなるのだろうか。

というか、さっきから天使になったときのことしか考えてないな俺。

 

「ご主人様」

 

リファナが何やらソワソワした様子で俺に話しかけてくる。

 

「あの、私もそれを……やって、みても…」

 

「ああいいぞ」

 

「クエ!」

 

アイラがとってきた木の枝を、俺はリファナに手渡した。

 

「えいっ!」

 

「クエ!」

 

「………」

 

リファナの投擲した木の枝は、真っ直ぐにアイラの顔へと向かっていき、アイラは寸前でそれをキャッチした。

 

「ううう、ごめんなさい……」

 

「謝ることはないぞ、投げるときのコツはな……」

 

俺たちは昼過ぎまで、腹が減るのを忘れるくらい遊んでいた。

 

「楽しかったですね。お腹空……モゴ!」

 

「そ、そうだな!お前たちも疲れたろう?あとで飯を狩ってくるから先に小屋に戻ってなさい」

 

「「クエ!」」

 

お腹が空いたといいかけたリファナの口を慌てて塞ぎ、俺は二羽に先に戻ってるように指示をする。

 

二羽の背中が見えなくなるのを待って、俺はリファナに言った。

 

「……あそこでお腹が空いたとか言ったら、また今朝みたいに魔物肉を食わされるぞ?」

 

「!は、はい…」

 

 

 

 

アイラたちの飯のために一時間ほど森で狩りをしたあと、俺らは魔法屋へと来ていた。

 

もちろん、今日変身するであろう天使のお姿のため、魔力を糸にする機材を使わせてもらいにですぞ!

 

「あらあら書物の勇者様、今日は一体何の用かしら」

 

「フィーロたん」

 

「はい?」

 

「はい?」

 

違う。なんで第一声がこれになる。

魔法屋とリファナが全く同じ反応を取る。

 

「間違えましたぞ。少し頼みたいことがあってな」

 

俺は魔力を糸にする機材を使わせてもらいに来たことを伝える。

 

「いいわよ。それで、いつ頃にその子たちは来るのかしら?」

 

「多分、夕方から夜にかけてになると思うが、大丈夫か?」

 

「ええ構わないわ」

 

よっし、あとは洋裁屋のオタクっぽいメガネ店員にでも声をかけて行くか。

 

 

 

「ほほう、そんな可愛い子達が来るのですか?」

 

「ああ、時間的に夜になると思うから、明日また改めて来るが一応予約というか……」

 

「いえいえ、是非!今夜連れてきてください!明日までに、最っ高にキュートなお洋服を仕立ててみせます!」

 

メガネを輝かせて息を鳴らしながら、オタクっぽい洋裁屋は言った。

 

とりあえず服に関してはこれで問題はない。

 

あとは金だ、所持金はさっき狩りをして売却した分を含めて合計250枚だ。原作ではフィーロで400枚くらいかかっていた、卵代を引いても270枚はかかる計算になる。

 

俺は二羽もいるからその倍はかかる、ツケにでもしてもらわなきゃ払えないな。

クソ、こうなりゃ盗賊(資源)でも探すか?

 

……場合によっては高位魔物紋を刻まないという選択肢もある。尚文も初期以外で発動してる場面は見かけなかったしな。

 

たしか高位魔物紋はサービスで200枚だったから、その分を引いて70枚、二羽だから140枚くらいか?まあ、それなら払えるし問題も多分ないだろう。

 

フフフフフ、天使だ。今夜ついに天使がご降臨されるのだ!それまで狩りをして金を稼ぐぞ!

 

 

 

 

あれから数時間が経ち、日も暮れてきた。俺とリファナはアイラたちに乗ってパワーレベリングと狩りをして時間を潰していた。そのおかげで所持金も増え、レベルも上がり、大分強くなれたと思う。

 

俺たちは今、宿に戻って馬小屋にいた。

 

「はぁはぁはぁはぁ……」

 

手をわきわきとさせて俺は興奮が抑えられなかった。

 

「せ、せつな様?」

 

リファナも大分背が伸びており、その際にせっかくなので呼び方も名前呼びにしてくれと俺が頼んだ。

 

「フィロリアル様方、そろそろ天使の姿になられるかと思います。どうか……そのお姿を見せてくださいですぞ!」

 

俺はアイラたちの目の前に跪き、お祈りするようなポーズをして言った。

 

そしてアイラとコハクは顔を見合わせて、背伸びをしてから変身を始めたのですぞ。

 

「お、おお……おおおお」

 

淡い光と共にアイラたちの姿が天使へと変わっていく。

 

「ご主人様ー!」

 

「ご主人……」

 

俺の目の前に、二体の天使様がご降臨された…

 

 



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眼福ですぞ!

俺の目の前には、はだかんぼの幼女が二人こちらを見つめて立っていた。

 

「ご主人様?」

 

「ご主人?」

 

アイラは肩くらいまでの藍色の髪と翼に、くりっとした丸い瞳をしていて、コハクもまたフィロリアル形態と同色のショートヘアに翼、そしてジト目?って感じの瞳をしていた。

 

「あの、せつな様?」

 

「……尊死」

 

俺は目の前の光景に思わず鼻血を吹き出してぶっ倒れた。

 

「せつな様!?」

 

「「ご主人(様)!?」」

 

尊い……ああ尊い……!これが、フィロリアル……天使なのかぁあああ!!

 

我が生涯に一片の悔いなし!親指を立てながら鼻血を垂れ流して俺は意識を失った。

 

 

………

 

………………

 

………………………………

 

 

 

「………………うーん」

 

「あ、ご主人様!」

 

「ご主人、大丈夫?」

 

目を開けるとそこには裸の幼女が二人、顔を覗かせていた。起きて早々眼福ですぞ。素晴らしい目覚めですな!

 

「お、おお心配かけてすまないな。アイラ、コハク」

 

俺は起き上がってすぐに二人を抱きしめる。

ほほう、これが幼女のかほり。くんかくんか。

 

「心配したのですー!」

 

「心配……」

 

アイラは頰をぷくーっと膨らませてぷんぷんと怒ってるような様子で心配してくれた、可愛い。コハクは……表情が変わらなくてわからないが、心配してくれてるみたいだ、可愛い。

 

「HAHAHA、ほんとすまないな。ありがとうな!二人とも!」

 

匂いと感触を堪能したあと、二人を放して頭を撫でまくる。あぁ可愛い。

 

「うぅ〜ん、ご主人様の撫で撫で気持ちいいのです♪」

 

「ん……」

 

二人とも可愛いなぁ!お、コハクも若干表情が緩んでるように見える、気持ちよさそうにしてるのがわかるぞ!

 

 

 

あぁ……可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い

 

 

 

「ご主人様?」

 

「おお、なんだ?」

 

口元をぬぐいながら俺はアイラに返事する。

 

「さっきからどうしたのです?」

 

「嬉しそう……」

 

「そうだなぁ、俺は今人生で一番幸せかもしれん。お前たちとこうしてお話ができるのだからな」

 

やっと会えたマイエンジェル!これぞ異世界!最高ですぞ!

 

「アイラたちもずっとお話したかったのです!嬉しいのです!」

 

「ん、嬉しい……」

 

無言でまた頭を撫でる。あぁ可愛い、可愛い、可愛い可愛い可愛い。

っと、恍惚に浸るのもいいがずっと裸でいるのはよろしくない。

 

「ささ、このローブを羽織るのですぞ。二人に服を用意しなければなりませんからな!」

 

「服……?」

 

「そうですぞ。服を着ることで皆さまの魅力が増すのですぞ」

 

「わかったのです!」

 

「ん、わかった」

 

二人にローブを羽織らせて、さあ出発しようと後ろを振り返るとそこにはリファナが呆れた様子で立っていた。

 

「リファナ、いたのか」

 

「最初からいましたよ」

 

そんなリファナも連れて、俺たち魔法屋に向かったのですぞ。

 

 

「あらまぁ、こんな可愛い子たちなんてねぇ」

 

「そうですぞ!天使ですからな!」

 

「せつな様……」

 

何やらさっきからずっと呆れた様子のリファナをよそに、必死に糸巻き機を回す二人を眺めているのですぞ。可愛いですぞ。

 

「ん、何か力が抜ける……」

 

「魔力を糸に変えているからね。疲れるはずよ。だけどもうちょっと頑張って、服を作るにはまだ足りないわ」

 

「あとで美味しいご飯をご馳走しますからな。頑張るのですぞ」

 

「ん、わかった。ご主人」

 

さてと、アイラは先に糸化を終えて随分と疲れているみたいだな。こういう時は労ってあげるのが紳士というものですぞ。

 

「お疲れ、アイラ」

 

「ご主人様。アイラ、眠くなってきたのです…」

 

「もうちょっとだからな、ほら」

 

俺はアイラをお姫様抱っこする。

 

「ひゃう!ご主人様!?」

 

「どうしたアイラ?」

 

恥ずかしがって顔を赤くするアイラ、可愛いなぁ。あ、なんか縮こまってる。それもまた可愛い!

 

「むー」

 

「どうした?コハク、手が止まってるぞ」

 

不満そうな様子でこちらを見つめるコハク。多分、羨ましいのだろうな。それもまた可愛い!

 

「あとでお前にもしてやるから、今はそっちに集中するのですぞ」

 

「ん、わかった」

 

そう言うとギュルギュルと必死になって糸巻き機を回し始める。頑張る姿も、また可愛い。




愛の狩人化が止まらない主人公(笑)


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幼女メイド

実験、課題、レポート……やることが多すぎる!しばらく落ち着くまでの間、更新は亀の歩みになります。


 

魔力の糸化を終えて、俺はコハクをお姫様抱っこしながら歩いていた。

 

「ん……」

 

「どうしたコハク?」

 

コハクがぎゅっと俺の服を掴んできた。

 

「ご主人、暖かい……」

 

「HAHAHA!そうか、コハクは可愛いなぁ!」

 

「むー……」

 

アイラが不満そうな顔をして俺の服の裾を掴みながら歩いている。

 

「アイラはさっき抱っこしたから、今はコハクの番なのですぞ」

 

「コハクの方が長いのです……」

 

嫉妬するように俺とコハクを見つめるアイラ。嫉妬してるのもまた可愛いなぁ。

 

「まぁまぁ、あとでアイラも抱っこしてやるから」

 

「アイラちゃーん?こっち空いてるよー?」

 

「嫌なのです」

 

「ガーン!」

 

口で効果音を言うな。

リファナがこっちに来てと言わればかりに両腕を広げるも、アイラにはっきり断られてショックを受けたようだ。

 

「せつな様ぁ……」

 

「……よしよし」

 

「もう子供じゃありません!」

 

そんなやりとりをしながら洋裁屋へと向かって行った。

 

 

 

「わぁ……凄くかわいい子たちですね!」

 

「そうだろう!この子たちは天使ですからな!」

 

洋裁屋に着いて早々にメガネの店員は二人に詰め寄ってきた。

 

「これが素材ですぞ。デザインは……」

 

お任せしようと思ったが、アイラたちに希望とかはあるのだろうか。

 

「アイラ、コハク。何か希望はありますかな?」

 

「「んー?」」

 

全く同じタイミングで首をかしげる二人。流石は双子、行動が一致していますな!

 

「んー、あ!アレ可愛いのです!」

 

アイラが指差した方を見ると、そこにはメイド服がかかっていた。

 

なぜこんなところに、そんなことを考えているとコハクも物欲しそうな目でメイド服を見つめていた。

 

「こちらはですね!従者専用の服で、貴族の方に流行ってるんですよ」

 

まあ貴族ともなれば従者を何人も従えているのだから、こういうのもあっていいか。

 

「まさにご主人様のための服なんですよ〜」

 

「「ご主人(様)のための服!?」」

 

アイラとコハクが同じ反応をする。

 

「お、アレがいいのか?」

 

「はいなのです!アレを着てご主人様のお世話をしたいのです!」

 

「コハクも、ご主人の、お世話、したい」

 

幼女メイドさんかぁ、想像しただけで興奮してくる。

 

「それじゃあ、服のデザインはアレで頼む」

 

「わっかりましたー!明日までに仕立て上げます!!」

 

「よーし、みんな宿に戻るぞー」

 

「「「はーい」」」

 

随分と騒がしいパーティになったな。俺は満足なのですぞ。

 

 

 

「ふわーあ」

 

随分と遅くなってしまったな。

宿に戻って二人分の料金を追加で払った俺はベッドに倒れこんだ。

 

朝から色々とあった、最悪の目覚めから始まり遊びだの狩りだの、本当に疲れた。けどそれだけ苦労した分、先ほど最高の場面に立ち会えた。

 

「ご主人様ー」

 

「ご主人……」

 

「おぉ二人とも」

 

アイラとコハクが俺のベッドに入り込んできた。

 

「もうおやすみするのです?」

 

「お疲れ?」

 

「ああ、今日はもう疲れたからな……」

 

両脇に二人を抱えながら俺はそう答える。

ああ幼女の温もり……これは暖かい、いいぞ。

 

「寝る前に一つ、約束を決めておくぞ」

 

「「約束?」」

 

尚文の悩みの一つだったことについて対策しておこう。

 

「寝ている間、絶対に元の姿に戻らないこと。これを破ったら二度と一緒に寝ない」

 

「嫌なのですー!」

 

「それは、嫌……!」

 

「約束できるか?」

 

「「はい(なのです)!」」

 

「よしよし」

 

随分と素直でいい子だなぁ、これなら高位魔物紋を刻む必要はなさそうかな?二人分で銀貨400枚だっけか、出費しないで済んだ。

 

「それじゃ、おやすみ!」

 

「「おやすみなさーい」」

 

明かりを消して、俺は眠りについた。

そういえばリファナが静かだったような……まぁいっか!

 




刹那が愛の狩人化したら元康と被らないように愛のハンターと名乗るでしょうねw


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天使のメイド服

だいぶ間が空いてしまった……


 

左右から気持ちのいい揺れと天使の声がして、俺は目覚めたのですぞ。

 

「ご主人様ー」

 

「朝……」

 

「んんぅ……」

 

アイラとコハクが俺を揺れ起こそうとしてるのがわかりますぞ。俺はあえて寝ているふりをして、その感触を楽しむことにしたのですぞ。

 

「ご主人様、朝なのです」

 

「起きて、ご主人……」

 

「スー」

 

ああ気持ちがいい、左右から耳元で天使の声がするのですぞぉ。目を開けたら目の前に顔があるのだろうなぁ。

 

「むー、起きないのです」

 

「それじゃあ、こうする……」

 

ごそごそと俺の上に乗ってくる感触がする。声からしてコハクだろう。

 

「あー!コハクずるいのです!」

 

「早い者勝ち……」

 

「アイラもご主人様の上に乗るのですー!」

 

「ダメ、ここはコハクの場所…」

 

グイグイとコハクを押しのけようとするアイラ、負けじと押し返してその場を死守しようとするコハクの感触を堪能していたが、喧嘩にならないうちに起きておくか。

 

「こらこら二人とも、朝から喧嘩はダーメ」

 

二人の頭をポンと撫でながら俺はゆっくりと起き上がろうとしたが、二人がお腹に乗ってるので上体が起こせない。

 

「あ、おはようなのです!ご主人様!」

 

「ご主人、おはよう……」

 

「おはよう、起き上がれないから降りてほしいのですぞ」

 

そう言うとパッと二人は俺の上から降りる。素直でいい子だなぁ。

うん、これなら高位魔物紋を刻む必要はないな。というか、この子たちに痛い思いなんてさせるわけにはいかないのですぞ!

 

「ありがとう、二人ともいい子だな」

 

「アイラはご主人様に仕える『めいどさん』なのです!だから言うことを聞くのは当然なのです!」

 

「コハクも、『めいどさん』だから、ご主人の、言うこと、聞く……」

 

まだ服は仮の寝巻きを着せているだけだから実質、裸みたいなものだけどな。

 

色々と騒いでたせいか服がズレてきている。というか隙間から見えるぞ……あとちょっとで、ピンクの突起物が……

 

「せつな様……」

 

「うおっ!?リファナ!」

 

ゴゴゴという雰囲気を醸し出しながら腕組みをしながら、リファナは隣のベッドから俺を睨みつけていた。

 

それに俺は思わずたじろぎ、我に返った。

 

危ねえ危ねえ、思わずいたいけな幼女に良からぬことをしでかすところだった。

 

「いくらこの子たちが魔物とはいえ、やっていいことと悪いことがありますよ?」

 

顔は笑っているのに、雰囲気が全然違う!これめちゃくちゃ怒ってるな。

 

こういう時、愛の狩人(元康)はどうするのですかな?考えろ……

 

「……リファナ、恥ずかしがらずに君も脱いでいいのですぞ!」

 

バチーンと、乾いた音が部屋に響いた。

 

 

 

 

「痛ててて、あんなに怒ることはないだろうに」

 

「冗談もほどほどにしませんと、首と胴体がさよならしちゃいますよ?」

 

「ひゃい」

 

冷静になって考えてみればあんなこと言ったら怒るのは当たり前だ。なぜ俺は愛の狩人の思考で言ってしまったのか……

 

チラリと繋いでいる手を見る。

 

「どうしたのです?」

 

「ん……ご主人?」

 

「なんでもないのですぞ」

 

この子らが可愛いからな、思わず愛の狩人になってしまうのも仕方ないですな。

 

 

「おーっす、服はできてるか?」

 

「はいはーい。服は出来てますよー。久々に徹夜しちゃった」

 

その割には元気そうだな。どの世界でもオタクというものは変わらんな、俺も新刊をまとめ買いした日にゃ徹夜で読んだものだなぁ。

 

そんなことを考えていると店の奥からアイラたちの服を持ってきた。

 

ワンピースに純白のエプロン、シックにまとめたエプロンドレスで、漫画とかでよく見るようなザ・メイドって感じだな。

 

ワンピースの色はアイラとコハクに合わせて藍色と琥珀色だ。

 

「わぁ……」

 

「可愛い……」

 

「それじゃあ更衣室に案内するわね」

 

「「はーい」」

 

アイラたちを店の奥へと案内してもらい、着替えてくるのを待った。

 

「じゃあ魔物の姿にも変わってね」

 

ボフンと変身する音が聞こえてる音がし、そして。

 

「うん。やっぱり似合うわぁ……」

 

なんともうっとりするような声が聞こえた。

店の奥から店員とアイラたちが出てくる。

そしてアイラとコハクへと目を向ける。

 

ほほう、これは………おっと危ない。

俺は鼻を抑え、吹き出そうになった血を無理やりせき止める。

 

危ない危ない、またぶっ倒れて気絶するところだった。

 

服を着ることによって、より一層魅力が増しましたな。天使のメイドとは目が幸せすぎますぞ。

 

「ご主人様ー!」

 

「どう……?」

 

「二人とも、とても似合っていますぞ!可愛いですぞ!!」

 

片手でガッツポーズをしながら俺は答えましたぞ。もちろん、お世辞ではなく本音ですぞ!

 

「えへへ、ありがとうなのです!」

 

「…………ん」

 

アイラは嬉しそうにその場でくるくると回っておりますが、コハクは顔を赤らめてモジモジとしてますな、コハクは恥ずかしがり屋な一面があるようですな。それもまた、可愛いのですぞ。

 

「コハク、恥ずかしがることはないのですぞ。本当に似合っていますぞ」

 

俺はコハクを抱き上げますぞ。

 

「はう!?はうあう……」

 

ぷしゅーと音が聞こえてきそうなくらい赤くなっていますな。あぁ〜可愛い、可愛すぎますぞぉ!

 

「あー!コハクばかりずるいのです!アイラもアイラも!」

 

アイラが両手を伸ばしながらぴょんぴょんと跳ねてきます。必死な感じがまた可愛いのですぞ。

 

「はいはい、わかっておりますぞ。ほら」

 

左でコハクを支えながら、右腕でアイラを持ち上げますぞ。HAHAHA!両手に花とはまさにこのことですな!

 

「リファナ、俺の腰につける金袋から銀貨を出して支払いをお願いするのですぞ」

 

「はい」

 

呆れるリファナをよそに俺は両手に抱えるメイド天使を堪能しながら、悦に浸っているのですぞ。

 

幸せだぁ、これが天国というものですかな。何せ天使がいるのですからな!



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文字の勉強

 

「うぐぐぐぐ」

 

「むむむむむ」

 

「んんんんん」

 

「唸っても答えは出てきませんよ、真面目に取り組みましょう」

 

「異世界文字理解なんて技能のある武器、ないかなぁ」

 

俺たちは今、魔法書を片手に唸っていた。あらかた俺のやりたいことは済んだので、すべきことに目を向けた。

 

レベルや戦いに関しては、最初の波を乗り越えるにはもう十分すぎるだろう。武器も新調してリファナには剣、アイラたちにはナイフを二本ずつ買い与えた。人型での戦いにも慣れて貰う必要はあるが、レベルと資質のゴリ押しで序盤のうちは何とかなるだろう。

 

「楽をしようとしないでください。地道に頑張りましょう」

 

「ぐぅ」

 

くそぉおおおお!まあ原作でもそんな武器は見つかっていないし、多分ないのだろう。

 

「ご主人様、アイラも頑張るのです」

 

「ん……コハクも、頑張る」

 

「そうだなぁ、一緒に頑張ろうな!」

 

「なんで二人の言うことは聞くんですか!」

 

「天使だからですぞ」

 

何を言っているんだリファナは?天使なのだから言うことを聞くのは当然のことですぞ。

 

「はぁ……もういいです」

 

リファナは呆れたようにため息をついた。

まぁいっか、今は集中しよう。ドライファクラスの魔法を一つでも覚えてしまえば、刺客が来ても簡単に返り討ちにできるだろう。

 

「んーそうだな。まずは魔法書より子供向けの本とか、読みやすくて簡単な書物で勉強するべきか?」

 

いきなり魔法書を開いたがそもそも文字が読めなきゃ内容も理解できないし、まして魔法なんかが使えるわけがない。まずは簡単なところから始めるべきだった。

 

「そうですね、まずはそれから始めましょう」

 

俺はすぐさま『ゆうしゃのおはなし』という絵本に書物を変化させる。

 

「あ、その本!」

 

「知ってるのか?」

 

「ええ、私の家にあったのでよくお父さんやお母さんから、読み聞かせてもらいました」

 

「そうなのか。それなら読んでもらってもいいか?」

 

「いいですよ」

 

そう言うリファナに俺は書物を渡した。今思ったが盾とかと違って、手から離れられるんだなこれ。

 

 

 

 

そんなリファナの指導の甲斐もあって、簡単な文章なら詰まりながらではあるが、読めるようにはなってきた。

 

「くそぅ、何で異世界に来てまで勉強せにゃならんのだ」

 

俺は今、一度勉強を中断して気晴らしに城下町を散歩していた。

 

勉強は嫌いだ。この世界に来る前でもそうだったし成績も良いわけでもなかった。特に英語や日本語以外の外国語の講義は苦痛でしかない、何故日本人なのに外国語を学ばなきゃいけないのか。

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながら歩いていると、いつの間にか武器屋の前まで来ていた。

気分転換と言っても、特にやることもないし親父んところへ顔でも出すかな。

 

俺は武器屋へと入る。

 

「いらっしゃい。お、書物のアンちゃんも来たか」

 

も?どういうことだ?

 

「む、刹那か」

 

「おーー尚文、とラフタリアか?」

 

声がした方を見ると、そこには尚文と見た目が17歳くらいにまで成長したラフタリアがいた。

 

「はい、お久しぶりです」

 

「ほー、随分と別嬪さんに育ったもんだな」

 

アニメで動いている画を見たが、それなんかより実物の方がもっと綺麗だな。

 

「はぁ……お前もか。いや、オタクなら当然なのか?」

 

「なんのことだ?」

 

「いや、いい。ところでお前は何しにきたんだ?」

 

何しにか、特に目的もなくブラブラしてたからな。

 

「んー、何となくだ。ちょっと色々とやっててな。尚文は?」

 

「ナオフミ様の防具を買いに来てます」

 

尚文が口を開く前に、先にラフタリアがそう答えた。尚文の防具……ああ、てことは蛮族の鎧のあたりかな。

 

「聞いてくださいよ。ナオフミ様ったらーー」

 

ラフタリアが尚文に対する防御に関しての不満をぶちまける。まあ今の尚文は村人と変わらん装備だし。

それに盾の勇者といえど草原で怪我をしたり、洞窟で犬みたいな魔物に噛みつかれて流血してたからなぁ。

 

「そうだな。尚文も防具を買うべきだと思うぞ」

 

「お前たちなぁ」

 

っと、そうだ。前に尚文に渡すために買ったやつがあったのをすっかり忘れていたぞ。

 

「ああそうだ、尚文。お前に会ったら渡しておこうと思ったものがあった」

 

「何だ?」

 

俺は懐から魔法書を取り出して尚文に手渡す。

 

「これは魔法書といって、魔法が覚えられる書物だ。回復と援護がメインのやつだし、適性のある尚文にはぴったりだろう」

 

「それはありがたいが、なぜ俺の適性を知っている?」

 

尚文が怪訝な表情で俺を見る。

おっと、これはしまったな。確か魔法適性を見てもらうのはリユート村の波が終わった後だったな。先出ししすぎたか。

 

「えーっとな。前にも話したが、俺のやってたゲームだと盾職は攻撃力が無い分、回復と援護に特化した僧侶みたいな職業だったんだ。だから同じかと思ってつい、な」

 

「……ああ、たしかに言っていたな。それにしても攻撃力ね、相変わらずクソな役職だな」

 

尚文は納得したようにそう呟くと、すぐに盾に悪態をつく。

誤魔化せたか?あまり原作知識を活用しすぎるのも考えものだな。

 

「とりあえずこれはありがたく受け取ろう。それじゃ、俺たちはこれでーー」

 

「ナオフミ様?まだ貴方の防具を買ってませんよ?」

 

「チッ」

 

店から出ようとした尚文の肩を、ラフタリアがガシッと掴んだと思うとゴゴゴと効果音が出ていそうな笑顔で引き留めた。

 

「じゃ、じゃあ俺はこれで失礼する。じゃあな」

 

「ああ」

 

「ナオフミ様!貴方の装備はーー」

 

そんな声を背に俺は武器屋を後にした。とりあえず、しばらくは書物を読むというより文字の勉強になるだろうが早めに尚文の手に渡って良かったかな。

 

「……はぁ」

 

俺はため息を吐きながら来た道を引き返す。そろそ戻って俺も文字の勉強を再開せねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーツヴァイト・ファイアースコール!」

 

火の雨が俺たちの目の前に降り注ぎ辺りを焼き焦がした。

 

「ご主人様すごいのです!」

 

「燃え尽きた……」

 

「すごいですね、せつな様!」

 

アレから数日が過ぎ、簡単な文章なら読めるようになったので火の魔法書で一つ魔法を覚えてみた。

 

「まぁ、うん」

 

「どうしたのです?」

 

「いや、なんでもない……」

 

俺は歯切れの悪い返事をした。

だってさ、この魔法って確かヴィッチが使ってたやつじゃん。なんか気が引けるというか、使いにくい。

 

まぁでも、多少は書物を読めるようにはなったから良しとするか。

 

「そういえばアイラたちの魔法の適性を見てもらってなかったな」

 

確かリファナは火の幻覚だったかな?やり直しでそんなことが書かれてたような気がする。

 

「そうですね、明日改めて行ってみましょうか」



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書物の強化方法

最初の波まであと一週間を切ったある日のこと。

 

「ご主人様ー」

 

「ご主人……」

 

俺はアイラを抱っこしてコハクの小さな手をとりながら、優雅に散歩していたのですぞ。

リファナには回復薬やその他戦闘で必要になりそうなものを買い出しに行ってもらっています。

 

「次……コハクの番……」

 

「はいはい、それではアイラはここまでですな」

 

「早いのです。もっとしてほしいのですー!」

 

「ワガママ言わないの、コハクだって待ってるんだから」

 

俺はアイラに言い聞かせながら降ろして、コハクを抱き上げようとしたのですぞ。

 

「ん?」

 

「ご主人?」

 

少し先に見覚えのある姿が目に入ったのですぞ。

アレは確か、タルトだったかモーゼだったかの二人でしたかな。

 

「……ふむ」

 

「ご主人、コハクも、抱っこ……」

 

そうだな、いい機会だ。波でリユート村の避難をする人手も必要だし、ここで一つ仕込みをしておこうか。

 

「二人とも、ちょっといいか?」

 

「なのです?」

 

「むー……」

 

何やらコハクが不満な様子ですが、今それを気にしているとあの二人を見失うのですぞ。

 

「あそこにいる二人の後をつけて、住んでいる場所を探してきてほしいんだけど、できるか?」

 

「わかったのです!」

 

「……わかった」

 

元気よくアイラが返事をしたのに対しコハクは不満そうに返事をした。抱っこしてやれなくてすまない。

 

「よし、それじゃあアイラはあっちの女の人でコハクはもう一人の男の人を頼むぞ。くれぐれも見つかるんじゃないぞ?」

 

「はーい」

 

「……」

 

コハクは無言で頷く。そんなに抱っこして欲しかったのか、しょうがないな。

 

「あとでたくさん可愛がってあげるから、今は我慢してくれ、な?」

 

俺はコハクの頭を撫でる。これで機嫌が直ってくれればいいが……

 

「ん、わかった。ご主人」

 

機嫌が良くなってくれたようで良かった良かった。

 

「ご主人様ー!アイラも撫でてほしいのです!」

 

「アイラはさっき抱っこしたろ?コハクは今抱っこしてやれない分撫でてあげてるから我慢して欲しいのですぞ」

 

「むー」

 

「……ふふん」

 

するとコハクは撫でられながらドヤッとした表情でアイラを見ていた。

 

「コハクー!」

 

「こーら、コハク煽らないの。それよりもほら、早くしないと二人を見失っちゃうぞ」

 

「むー、わかったのです……」

 

「ん、わかった」

 

「日が暮れる前には宿に戻ってくるのですぞ」

 

そう言って二人を送り出した。アイラは何やら不満そうな様子だったがジャーキーをあげたらすぐに機嫌が良くなったのですぞ。もちろんコハクにもあげましたぞ。

 

 

 

 

「さて、そうだな。俺は何をしていようか」

 

思えば一人になるなんて久々だな、召喚前は学校に行く以外ではゲームしてるかラノベを読み漁ってるぐらいだったしな。

 

「んー」

 

俺はおもむろにステータス画面を開いた。

現在のレベルは42、リファナを含めアイラたちも初期限界である40だ。資質向上を含めるともっと上だろう。

 

もちろん資質向上以外の四聖や七星の強化方法も、素材があるものは実践している。それだけでなくーー

 

この書物独自の強化方法も存在しているみたいだしな、ヘルプを読んでわかったことだ。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

『読書Lv』

書物を読むことで強化。勇者が読み聞かせることで勇者以外の仲間にも強化可能。

 

 

ーーーーーーーーー

 

なんとも書物の武器らしい強化方法だ。確か似た強化方法があったよな、食えば食うほど強化されるやつが風山絆の異世界の方にあったはず。

 

あれから文字の勉強を続けてツヴァイトクラスの魔法は多少は習得できた。そのおかげかこの強化方法も実践できているという現状だ。

 

ドライファクラスの魔法を一つは覚えたかったが、上級魔法となると文章も難しくて簡単に読めない。

 

「ま、ここまでやりゃ三勇教も敵じゃないか」

 

今やろうと思えば教会に乗り込んで教皇含めて目撃した信者を全員殺れる自信はある。だが今後の展開を考えると奴はまだ生かしておいた方がいい。

 

尚文にだって迷惑がかかるし女王が帰還するあたりまでは表立って問題を起こすのは避けるべきだ。

 

ま、原作読んで殺したくなるレベルの輩は他にもいるし、タイミングを合わせてさりげなく消せば何も問題はない。

 

刺客に関しても返り討ちにしてしまえばいい、正当防衛だ正当防衛。

 

 

そんなことを考えながら裏路地を歩いているとガラの悪そうなやつらにに絡まれた。

 

「アンタ、噂の書物の勇者だろー?」

 

「仲間にしてくださいよー」

 

上から目線で偉そうに話しかけてくる。

コイツらもしかしてアレか?

尚文に絡んでバルーンやられたやつらか?

 

「いいだろぉ?一人でこんなところ歩いてるってことは仲間がいないんだろ?」

 

「盾の悪魔には酷い目にあった俺らを助けると思ってさー」

 

うん、間違いなさそうだ。こんなやつらにかける慈悲なんてないな。

 

 

 

 

 

 

「ヒィイイイ!」

 

「い、命だけは……!」

 

「んー、中々の臨時収入だな」

 

俺に絡んできたやつらは全員捕縛して、文字通り身ぐるみを剥がしてやった。

 

ちょっと挑発しただけで刃物を出して襲ってきたし、防ぎもせずに受けたらカンって音が鳴ってそれを見て驚いたところをちょいちょいっとね。

 

「殺さないでも何も、先に手を出してきたのそっちだろう?ま、次は本当に命も奪うからな」

 

そう言い残して奴らを裸で放り出したまま俺は裏路地を後にした。ちょうど依頼を達成した後だったらしく、報酬含め装備も全て奪った。なかなか良い値で売れた。

 

「そういえば口止めすんの忘れてたな。まぁいいや、どうせ俺の悪名が広がるだけだしな」

 

盗賊は資源ですぞ。奴らはただのガラが悪い冒険者だが、そんなのは関係ない。悪人から奪って何が悪いんだって話だ。

 

そんなことを考えながら宿へと戻ると、入り口にリファナが立っていた。

 

「あ、せつな様。お帰りなさい」

 

「ああただいま」

 

まだ陽が暮れるのに時間はある、気長に待とうか。

 



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迷子騒動

 

 

アレから二時間くらいが経過した。段々と陽が傾いてきたのに未だにアイラたちの姿は見えなかった。

 

「……少し心配になってきたぞ」

 

「そうですね、迷子になってなければいいのですが……」

 

そんなことを考えているとアイラが戻ってきた。

 

「ただいまなのです!ご主人様!」

 

「おぉ、お帰りアイラ。様子はどうだったか?」

 

駆け寄るアイラを抱き上げて頭を撫でながら、俺はそう尋ねた。

 

「えぇと……その、ご主人様……」

 

「ん?どうした」

 

「実はーー」

 

申し訳なさそうな様子で語り出したアイラの話によると、どうやら住んでいる場所までは見つけられたようだが、その妹らしき女の子と遊んでいるうちに見つかってしまったらしい。

 

「『これからも仲良くしてね』と言われたのです。思わずアイラははいと返事してしまったのです……」

 

「そうか……」

 

まあアイラも子供だしな、子供同士遊びたくなるのも仕方のないことだ。それにアイツらだって三勇教じゃない限り悪いやつではないだろう。もしそうなら早急に消すが。

 

「ごめんなさいなのです。ご主人様……」

 

しょんぼりした様子で俯くアイラ、落ち込んでる姿も可愛い……。いや、今はそれを堪能するわけにはいかん。

 

「別に気にすることないぞ。その子と遊べて楽しかったか?」

 

俺はアイラの頭を撫でる。

 

「すごく楽しかったのです!また一緒に遊びたいのです!」

 

「そうかそうか。それなら数日後の波が片付けば、また遊んできていいぞ」

 

「わーい」

 

きゃっきゃと喜ぶアイラ。

俺は無言で頭を撫で続けるのですぞ。

 

「んんぅ」

 

気持ちよさそうにするアイラ、その様子を見て俺も思わず頬が緩んでしまうのですぞ。

 

「アイラ、コハクのことは見かけなかったか?」

 

「見ていないのです」

 

「そうか……」

 

日もだいぶ暮れてきたし、本格的に迷子になってると考えた方がいいかもしれない。

 

「あの、せつな様。探しに行った方がいいのでは?」

 

「そうだな、万が一戻ってきてすれ違った時のために宿屋の人に伝言を頼んで行こう」

 

俺は宿の人間にコハクの特徴を伝えて、もしも戻ってきたら俺らが探しに行ったことを伝言してもらうように言ってから、二手に分かれてコハクを探しに出た。

 

 

 

 

「コハクを……この子と同じくらいの背丈の女の子を見なかったか?」

 

俺はアイラをは指差しながら武器屋の親父に尋ねる。

 

「いやぁ、あいにく見てねえな。というかその子は何なんだ、アンちゃん?」

 

「詳しく説明してる暇はないが、この間ここで孵ったフィロリアルだ」

 

「何?」

 

「邪魔したな」

 

武器屋のところにも来ていないか、雛の時の記憶があるのならここに来てるだろうと思っていたんだが……

 

幸い姿を知ってる魔法屋と洋裁屋は捜索に協力してくれているが、どちらにも来ていないとするとどこへ行ってしまったんだ……!

 

嫌だ、天使が俺からいなくなるだなんて考えたくないですぞ!

 

「……アイラ、コハクの匂いとか辿れたりはしないか?」

 

「そういうことは、できないのです……」

 

犬とかじゃあるまいし、流石に無理があるか。

 

「コハク、どこに行ってしまったんだ……!」

 

「もう、会えないのですか……?」

 

アイラが涙目で俺を見つめる。

 

「そんなことはない!絶対に、見つけるんだ!」

 

コハクの視点からして、帰り道が分からなくなってしまったらどうするか考えろ。

 

俺だってそこまでメルロマルクに詳しいわけではない、マップはあるけど文字が読めなければ意味がなくなる。文字の勉強をしてるとはいえ読めるようになってるわけではない。

 

「一か八か、よく俺らが遊びに行っていた森に行ってみるぞ」

 

コハクの向かった方向にはちょうどその森もある。知らない場所に行って不安になり、知ってる場所が近くにあるのならそこへ行くだろう。

 

俺も小さい頃、外で迷子になったとき両親によく連れてきてもらった公園に行ったらそこで会えた。俺だって昔から引きこもりだったわけじゃないぞ!

 

「アイラ」

 

「はいなのです」

 

アイラにクイーン形態になってもらい、その上に乗って森へと向かった。

 

 

 

「おーい、コハクー!」

 

「どこなのですー!」

 

大声で呼びかけるも返ってくるのは魔物や動物の声だった。

 

「……ええい!視界の数字が邪魔だ!」

 

強化されたアイラに乗って、森を縦横無尽に駆け抜けていたので魔物を次々と跳ね飛ばして、それによって経験値が流れるように入ってきた。

 

「フィロリアルの言葉で、野生のフィロリアルに協力してくれないか呼びかけてみてくれないか?」

 

「わかったのです。クェエエエエ!!」

 

森中に響き渡るような鳴き声がアイラから発せられた。同種族のフィロリアルにも捜索に協力してもらえれば心強い。

 

少しして周囲からグアグアと聞こえてきた。野生のフィロリアルが返事をしているのだろうか。

 

「ご主人様、わかったと皆言ってるのです」

 

「そうか……」

 

コハクは一体、どこに行ってしまわれたのですかな!?

嫌ですぞ!嫌ですぞ!俺の前から居なくならないでほしいのですぞー!!

 

「グアグア」

 

「わかったのです。ご協力感謝なのです」

 

「なんだって?」

 

「『東側は僕たちが探すから』って言ってるのです」

 

「そうか……」

 

そうして俺たちは西の方へ向けて走り出したのですぞ。

 

 

しばらく無我夢中に森を駆け抜けていると遠くで煙が上がっているのが見えたのですぞ。

 

誰かが焚き火をしている。誰でもいいですぞ。コハクのことを聞いてみるのですぞ!

 

「アイラ、あっちに向かって欲しいのですぞ!」

 

「はいなのです!」

 

ドタドタとまた魔物を跳ね飛ばしながら煙の上がっている方へ走り出したのですぞ。

 

 

「誰だ!」

 

あっという間に煙の上がってる場所の近くまでたどり着くと、そこでは見覚えのある人物が魚を焼いていたのですぞ。

 

俺たちに気づき、こちらへ振り向いて盾を構えるあのお方はーー

 

「お義父さん!」

 

「お、お義父さん?何のことだ?というか刹那だったのか、一体何しにきた?」

 

おっとつい間違えてしまいましたぞ。

 

「あ、いやすまない。実はーー」

 

 

おとーー尚文にこれまでの事情を話すと、尚文は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

 

「はぁ、それでその人化したフィロリアルとやらを探していると?」

 

「そうなのですぞ!コハクが!俺の天使がどこかに行ってしまわれたのですぞぉ!!!」

 

「わかったから少し落ち着け!お前、大丈夫か?色々と」

 

そう言いながら頭を指差し尚文は心配そうに俺を見た。

やさぐれていても、お義父さんはお優しいのですぞ!

 

「う、うぅすまない、少し取り乱してしまった……ですぞ」

 

「喋り方……いやそれはいい、生憎と俺は見ていないがな」

 

「そう、か……」

 

コハク……本当にどこへ行ってしまわれたのですかな?俺は、俺はーー!

 

「コハク、もう会えないのです……?」

 

「う、く、うぅ……!」

 

すっかり辺りも暗くなり、これ以上の捜索は困難だ。もうダメだと思った時だった。

 

「ナオフミ様?」

 

「む、ラフタリアか。戻ってきたのか……そいつは?」

 

声がした方を見るとラフタリアがいた。腕には何か抱きかかえているようたが暗くてよく見えない。

 

「えっと、帰る途中で見つけたのですが事情を聞くに、迷子になっていたようでして……」

 

そう言って近づいてくるラフタリアが腕に抱きかかえていたのは、寝息をたててスヤスヤと眠るコハクだった。

 

「コハク!」

 

俺は一目散にラフタリアへと駆け寄り、呼びかける。

 

「ん、んぅ……」

 

ゴシゴシと眠い目を擦りながらコハクは目を覚ました。

 

「コハク……!よかった、無事で……!」

 

「ん……?」

 

 

ボーッとした目で俺を見つめるコハク。段々と状況が理解できたのか、コハクの両目から涙が流れる。

 

「あ、うっ……ご主、人……!」

 

「コハク……!」

 

俺はラフタリアからコハクを受け取るとそのまま抱きしめた。コハクもぎゅううと俺の服を握りしめ胸に顔を埋めて泣いた。

 

「ごめん、なさい……!コハ、コハクはっ、帰り、道がわからなく、なってぇ……!」

 

「いいんだ、いいんだコハク。お前が無事ならそれでいい、俺こそお前たちに無茶な命令をして悪かった!」

 

「ゴハグ〜!よがっだのでず〜!」

 

アイラも子供のように声を上げて泣いてこちらへと駆け寄る。俺は二人をそのまま抱きしめる。

 

二人はそのまま泣き続け、いつしかコハクは疲れもあったのか再び眠ってしまった。 

 

 

「ほんっとうに助かった!何とお礼をしたらいいか……!」

 

「い、いえ私は当然のことをしたまでで……」

 

俺はコハクを抱きかかえたまま、何度もラフタリアに頭を下げた。もしラフタリアに見つけてもらえていなければ本当に会えなくなっていただろう。

 

「ありがとうなのです」

 

アイラも俺に倣って頭をぺこりと下げた。

 

「それじゃあ俺たちは失礼する。今日は本当に助かった」

 

「ああ」

 

「バイバイなのです」

 

俺はコハクを抱きかかえ、アイラに乗ってその場を後にし宿へと戻る。城門は閉まってたが、穴開けて中へと入った。見張りの兵士?んなの吹っ飛ばしたわ。

 

しばらく右腕でコハクを抱え、左手でアイラの手を繋いでいると後方から誰かが息を切らしながらかけてきた。

 

「リファナか」

 

「せつな様!よかった、見つかったのですね」

 

「ああ、ラフタリアが見つけてくれたらしい。流石、お前の親友だな」

 

「ラフタリアちゃんがですか?」

 

「ああそうだ。本当に助かったよ」

 

流石はフィーロの姉、面倒見のいいお姉さんだ。

 

「そうだリファナ、アイラも疲れてるだろうし抱っこして宿まで連れて行ってくれないか?」

 

「え?あ、はい!アイラちゃーん」

 

そう言って笑みを浮かべながら腕を広げるリファナ、アイラは一瞬俺の方を見たがすぐにリファナの方へと行った。

 

「フフー、アイラちゃんっていい匂いがするね」

 

「んぅ、くすぐったいのです」

 

リファナは元気そうだな、この前拒否されたから余計に嬉しいのだろう。にしてもアイラも今回は素直に従ったな。

 

「リファナ」

 

「なんですか?」

 

俺は空いた左手でリファナの右手を掴む。

 

「ひゃ!せつな様?」

 

「アイラに夢中になってお前まで迷子になられたら面倒だ。宿に着くまで繋いでいろ」

 

「は、はいぃ」

 

なんか声が小さいが、暗くて顔がよく見えん。

 

「それじゃ、行くぞ」

 

俺たちはそれぞれコハク達を抱っこしながら、手を繋いで宿まで戻った。

 

 

 

「ふぅ、今日は疲れたな」

 

「そうですね、早く休みましょうか」

 

俺はベッドに腰を下ろし、抱き抱えているコハクも下ろそうとしたがーー

 

「……ん」

 

コハクは俺の服をぎゅっと掴んだまま、離れなかった。眠っていてもわかるのだろうか、本当に怖かったんだな。俺も迷子になった時は二度と会えないかもと思って親と会った途端に泣いた記憶がある。

 

「んー、そうだな。俺はこのままコハクと寝るよ。リファナ、今日はアイラと一緒に寝てくれないか?」

 

怖い思いをしたんだ、一緒に寝て安心させないとですぞ。

 

「わかりました!アイラちゃーん」

 

「ご主人様……」

 

「アイラ、今日は我慢してくれ。コハクも怖かったんだからな」

 

アイラが寂しそうな目で俺を見ているのですぞ。俺だって辛い、だけど今日はもっと辛い思いをしたコハクのためにも仕方のないことなのですぞ!

 

「……………………………………わかったのです」

 

かなり長い間が空いたのちにアイラは渋々といった様子で返事をした。本当にすまないのですぞ。明日は二人ともしっかりと可愛がってあげるのですぞ。

 

「それじゃあ、おやすみ」

 

「はい、おやすみなさい。せつな様」

 

俺はコハクを抱きしめたまま布団に入る。

人肌が暖かい、本当に魔物かと思えないくらいに暖かいのですぞ。

 

そういえばフィロリアルクイーン状態だと羽毛の中はとても暖かいらしいな。メルティもその中で寝てたし、今度試してみようか。

そんなことを考えるよりも、今はーー

 

「……ん、ご主人……」

 

コハクが寝言を言いながら、幸せそうな寝顔に俺は大満足なのですぞ。

ゆっくりとおやすみ、コハク。



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波の前日

 

俺たちは今、尚文とともに武器屋で波に関しての打ち合わせをしていた。

 

「ほー、随分とカッコいい鎧だな。尚文」

 

「そうですよね!似合っていてカッコいいですよね!ナオフミ様!」

 

「お前らな……はぁ、ありがとう」

 

渋々といった様子で礼を言う尚文。

うーむ、やっぱり尚文にはその格好が似合ってるな。別に尚文が悪人というわけじゃないぞ。

 

「で、アンちゃんたちは何で俺の店に集まってんだ?」

 

「まあまあ、どうせ行くあてもないし、ここは落ち着くし何せ信頼できる職人がいるからなー」

 

今のところ仲間以外で信用できる奴と言ったら武器屋の親父くらいだからな。

 

「まあ、アンちゃんたちにそう言われるのは光栄だが……」

 

「で、波って何処で、何時起こるんだ?」

 

「ん?アンちゃん教わってないのか?」

 

「何をだ?」

 

尚文は龍刻の砂時計についてはまだ知らなかったはずだからな。

 

親父が尚文に砂時計についての説明をする。尚文は説明を聞き終えると、あからさまに不快な表情をする。

 

「ああそういや忘れてたな、せっかくだし俺らも行くか」

 

「そう、だな」

 

こうして俺たちは龍刻の砂時計へと向かった。

 

時期的に考えて波が明日起こるのなら、例の三馬鹿とその御一行に遭遇する可能性が高いだろうな。

 

 

 

 

教会に着くと受付らしきシスター服の女性が、俺たちを見るなり怪訝な目をした。顔を知っているのだろう。

 

「盾と書物の勇者様ですね」

 

「ああ、そろそろ期限だろうと様子を見に来た」

 

「ではこちらへ」

 

尚文がシスターに案内されて中へと入っていった。俺はその前にアイラたちへと向き直る。

 

「アイラ、コハク」

 

「なのです?」

 

「ん……?」

 

「この後な、槍を持った奴が来るからーー」

 

俺は二人にボソボソと話しかけますぞ。

 

「わかったのです」

 

「ん、わかった」

 

「よしよし、いい子だ」

 

二人の頭を撫でてさしあげますぞ。

 

「せつな様?早く中に入りましょう」

 

「ああそうだな」

 

「こちらになります」

 

そう言って案内されたのは教会の真ん中に安置された大きな砂時計だった。

 

デカイなー、これが実物か。確かこれの砂を武器に入れると転移スキルが手に入るんだったよな。

 

「大きいのです」

 

「キラキラしてる……」

 

砂もそろそろ落ち切りそうだし、波までおそらく24時間もないだろうな。

 

そんなことを考えているとピーンと書物の方から音が聞こえ、一本の光が砂時計の真ん中にある宝石へと届いた。

 

すると俺の視界の隅に時計が現れる。

 

20:09

 

しばらくして9の目盛りが8に減る。

なるほどなるほど、これはわかりやすいな。

思えば何で今までここに来なかったんだろう?尚文に合わせて行動すりゃ先に来ていてもよかったような?

 

「ん?そこにいるのは尚文と刹那じゃねえか?」

 

っと、そろそろ来る頃だと思ってたぜ。三馬鹿筆頭の女好きの道化勇者サマがよ。

 

ふと尚文の方へ視線を向けると殺意に満ちた表情していた。

 

「お前らも波に備えて来たのか?」

 

元康(バカ)は蔑むような視線で俺たちを上から下まで一瞥する。

 

「なんだお前、まだその程度の装備で戦っているのか?」

 

俺にではなく尚文に向かって元康(ヤリチン)はそう言った。

尚文は相変わらず不快な表情をしながら黙っていた。すると何も言わない俺たちに対して元康(ピエロ)の後ろにいたヴィッチが叫ぶ。

 

「ちょっと!モトヤス様が話しかけているのよ、聞きなさいよ!」

 

「ナオフミ様?こちらの方は……?」

 

ラフタリアが首を傾げながら奴らを指差してそう言う。

 

「せつな様?」

 

リファナも同じように首を傾げながら俺に尋ねた。

 

「チッ」

 

「あ、元康さんと…………尚文さん、刹那さん」

 

樹は舌打ちをした尚文を見るなり不快な者を見る目をし、やがて平静を装って声を掛ける。

その後ろから錬がクール気取りで無言でこちらに歩いてくる。

 

「……」

 

それぞれがゾロゾロと仲間を連れて、時計台の中の人口比率はものすごい増えたな。

 

「ん?」

 

俺はふと錬の仲間に見覚えのある姿を見つけた。

確かクルクルパーとローストビーフでしたかな、本名なんて全く覚えてないですぞ。

 

アイツら、錬の仲間になってたのか。

 

「誰だその子たち。すっごく可愛いな」

 

元康がラフタリアを始め、リファナやアイラたちを指差してほざく。

今のお前にフィロリアル様を語る資格などないですぞ。

 

「始めましてお嬢さん方。俺は異世界から召喚されし四人の勇者の一人、北村元康と言います。以後お見知りおきを」

 

鼻にかかった態度でラフタリアに近づき、キザったらしく自己紹介する。

 

「は、はぁ……勇者様だったのですか」

 

「あなたのお名前はなんでしょう?」

 

「えっと……」

 

 

困ったようにラフタリアは尚文に視線を向け、そして元康の方に視線を移す。

 

「ら、ラフタリアです。よろしくお願いします」

 

「そちらのお嬢さんは?」

 

リファナがこちらに困ったような視線を向ける。

 

「別に、名乗ってもいいぞ?」

 

そう言うとリファナは元康の方へ視線を戻した。

 

「リファナといいます」

 

「…………」

 

「…………」

 

リファナは元康に名前を名乗ったが、アイラとコハクは俺の背後に隠れたまま何も喋らない。

 

「刹那、お前の後ろにいる……おぉ」

 

元康が二人を見て静かに興奮する。

コイツの性癖は確か天使萌えだったな、それに気がついたのだろう。

 

「お嬢さん方!お名前は!?こんな、可愛い子は始めて見た!」

 

「ああそう」

 

「俺、天使萌えなんだ……」

 

アイラとコハクの前に元康は跪く。体勢的に俺に跪いてるように見えてなんか嫌だ。

 

「……気安く話しかけるなのです。この腐れ×××」

 

「腐れ×××」

 

「ブフッ!」

 

二人は汚いようなものを見る目で元康に向かってそう言う。

 

俺は事前に、槍を持った奴にはそうするように命令していたが、あまりにも淡々と言うもんだからつい吹き出してしまった。

 

「ちょっと!モトヤス様に向かってなんていう……」

 

「待て」

 

ヴィッチがヒステリックに叫ぶのを元康は制し、何やらプルプルと震えている。なんだ?女性にそう言われてショックだったのか?

 

「……て、天使に、天使に罵られるなんて…………なんか、いい……」

 

元康は悶えるように体を震わせ、そう言った。その表情は満更でもないような、むしろ悦んでいるように見える。

 

うわぁ…………元康(コイツ)、マジか。

その場にいた誰もがドン引きしている。あのヴィッチでさえ、うっわコイツ……てな感じで引いているのが表情で分かる。

 

そういえば元康(マゾ)は、フィーロに蹴飛ばされて喜ぶような奴だったな。

もともと素質があったんだろう。

 

「……えっと、それじゃあ行くぞ」

 

俺はアイラたちの手を取り、錬と樹の方にある出入り口へ歩き出す。

二人とその仲間は道を開ける。

 

そして、錬とすれ違うあたりまで来たときアイラが口を開いた。

 

「あ、ローゼお姉ちゃんなのです」

 

アイラは錬の背後に並ぶ、一番後ろに立っていたローストビーフ改めローゼを指差してそう言ったのですぞ。

ああ、確かそんな名前でしたな。

 

「!」

 

ローゼと目が合うと、向こうは明らかに動揺して表情を青くした。

確かこないだ付けさせたとき、アイラはコイツに見つかってその妹と遊んだんだったな。

 

「知り合いか?」

 

「はいなのです。この間遊んだアンナちゃんはこの人の妹さんなのです」

 

「へぇ……そうなのか……」

 

そう言ってローゼに目を向けると彼女は顔を青くしながら俯いている。よしよし、作戦自体は半分成功したな。

 

「まあいいや、今度また遊びに行くときによろしく言っておいてくれよ」

 

「わかったのです!」

 

そんな会話をしながら俺らは出入り口に向かって歩く。

 

「明日は、武器屋の親父のとこにでも行って飛ばされるのを待つか」

 

ローゼとすれ違うとき、ボソッと彼女にだけ聞こえるように呟いて俺たちは教会を後にした。

 



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盾より最低な勇者

00:25

 

あと25分で次元の波が訪れる。

城下町では騎士隊や冒険者が準備を整え、出撃に備えていて、民間人は家に立てこもっている。

 

勇者である俺たちは時間になれば砂時計が波の発生地点へ飛ばしてくれる。

 

パーティーメンバーにもそれは適応されており、リファナやアイラ、コハクも一緒に飛ばされるだろう。

 

「あと少しで波だな」

 

「そうですね、せつな様」

 

「たくさん倒すのです!」

 

「魔物、美味しい?」

 

各々の感想を言ってうなずく。コハク、気が早いぞ。

 

「終わったら料理してやる」

 

「わーい」

 

この日のために俺たちは頑張ってきた。最初の波だし、強化分を含めりゃ余裕だろう。

 

「で、波の発生地点はリユート村付近で間違いないのか?」

 

「俺のゲーム知識が正しければの話だな、名前も似ているし可能性は高い」

 

俺たちは武器屋で波に飛ばされるまで待機しながら、打ち合わせをしていた。

 

「毎回、悪いですね。エルハルトさん」

 

「大丈夫だ。アンちゃんたちは勇者なんだからな、ちゃんと頑張って貰わねえと困るからな。こんくらいどうってことねえよ」

 

波に関してどういうものか、ある程度はゲーム知識という形で尚文に伝えた。

 

「にしても『ユウトの村』ってネーミングセンスを疑うな」

 

「有名実況者が最初に開拓した村だし、通称がそれで定着したからな」

 

召喚されて最初の波はリユート村で起こるだろうが、この世界に俺が乱入したことにより変わってしまった可能性も否定できない。

 

そうなると他の三勇者同様に知識が役に立たなくなるし、尚文からの信頼も無くなる。

 

なら最初から知識がズレていることを示唆しておけばいい。三勇者みたいに自分の知識こそ絶対みたいにしなければいい。

 

「ユウトの村に、リユート村ねぇ。字面的には似てなくもないが……」

 

「まあ別の場所に飛ばされたら、まずは村とか周囲に民家がないか確認して避難してからだな」

 

三馬鹿勇者は波のボスのことしか考えてないだろうし、メルロマルクの騎士団は信用ならん。俺たちが住民の避難をさせなきゃならないからな、人手がもっと欲しいところだ。

 

と、そんなことを考えていると入り口のドアが開く音が聞こえた。

 

「…………」

 

入り口の方を見ると、そこには見覚えのある魔法使いの女が俯きながら立っていた。

 

「あ、ローゼお姉ちゃんなのです!」

 

アイラが指差して女の名前を言う。

俺の"元"仲間にして現在は錬の仲間をしていたあのローゼだ。

 

「書も……っ、セ、セツナ、様……」

 

「……何だ?今更、俺に何の用だ?」

 

俺は目つきを鋭くしてローゼを見据える。

 

「……もう一度、私を仲間にしていただけませんか……?」

 

ローゼは声を震わせながらそう言った。

 

「仲間ねぇ、俺も犯罪者と糾弾して錬に取り入った裏切り者が、どのツラ下げて来てんだ?」

 

声にドスを聞かせながら、ゆっくりとローゼに近寄る。ローゼは俺と目を合わせようとせず俯いて震える。

 

「それはっ……そのっ……!申し訳……だから、妹には、手を……出さないで……」

 

ローゼは泣きそうになりながら謝罪の言葉を口にする。

 

「ふぅん」

 

よしよし、この様子なら以前の仕込みは上手くいったようだな。

 

『家族を人質に俺らに協力させる』

 

アイラがローゼとも顔見知りになってたのも幸いだ。そのおかげで事も早く進んだ。

 

クルクルパーの方はコハクが道に迷ってしまったから居場所を探れなかったがな。

 

だがローゼをこちら側に引き込んだ以上、手段なんていくらでもある。いくらでもな(・・・・・・)

 

「俺に絶対服従を誓うというのなら、考えてやらんこともないぞ?」

 

「っわかり、ました……」

 

「なら、その証明として、今から奴隷紋を刻みに行くぞ」

 

「えっ!?」

 

ローゼが驚きの声をあげる。

ま、当然の反応だろうな。

 

「奴隷紋さえ刻んでしまえば話は早い。何だ?絶対服従を誓うのだろう?何もおかしな話じゃないだろう」

 

そう言うとローゼは俯きながら沈黙する。

まあ、この様子なら必要なさそうだが念のためにな。それに奴隷にした方が色々と都合が良い。

 

「あの、せつな様。そこまでしなくてもいいのでは?」

 

「何故だ?コイツはお前を引き取る前に俺と共に行動していたが、裏切って俺を犯罪者と糾弾した奴だぞ。そんな奴に拘束無しで信用できると思うのか?」

 

「え、犯罪者……?」

 

リファナは目を丸くする。

そういえば話したことがなかったな。

別に話す必要がなかったし、気になるなら後で話すとでもするか。

 

「で、どうするんだ?別に嫌なら今からでも剣の勇者のところにでも戻ってもいいぞ?それがどういう(・・・・)結果を招くか(・・・・・・)は知らないけどな」

 

後半を少し強調して言うと、ローゼは俯いたままゆっくりと答える。

 

「……わ、わかり、ました……」

 

「じゃ、今から奴隷商のところに行って手っ取り早く刻むぞ」

 

「おい刹那、波までもう15分もないんだぞ。今から行って間に合うのか?」

 

黙って俺らのやり取りを見ていた尚文が口を開く。

ステータスに目をやるとカウントダウンは15分を切っていた。

確かに時間はギリギリだな、けど今ここで刻んでおかないとまた裏切られたらたまったもんじゃない。

 

「まー、なんとかなるっしょ。アイラ」

 

「はいなのです」

 

「今からコイツ連れて全速力で向かってもらいたい所があるんだ」

 

「お任せなのです」

 

そう言うとアイラはクイーン形態へと変身する。

俺はアイラの背中に乗り、ローゼに向けてスキルを発動させる。

 

「バインドロープ」

 

「きゃっ!」

 

書物からロープが飛び出し、ローゼを拘束する。

 

「逃げられたら困るからな。その状態で来てもらうぞ」

 

そのままロープを引っ張りアイラの背中へと引き上げた。

 

「リファナ、コハク。時間になったら波で同じ場所に飛ばされるはずだ。また後で合流しよう」

 

「はい、せつな様」

 

「ん、ご主人」

 

俺は前を向いてアイラに指示を出す。

 

「アイラ!全速力で!」

 

「はいなのです!」

 

「きゃあああああああああ!」

 

ローゼはアイラの背中から宙ぶらりんの状態で引っ張られていった。

 

 

 

 

「アイラ、お前は外で待ってろ」

 

「わかったのです」

 

アイラをテントの外で待機させ、俺はローゼを引っ張りながら中へと入った。

ローゼは吐きそうなくらい気持ちが悪くなっているようだった。

 

 

「奴隷商!」

 

「これはこれは書物の勇者様、一体何の……」

 

俺は奴隷商の言葉に被せるように言う。

 

「コイツに奴隷紋を掛けろ」

 

「おや、人間を奴隷にするのですかな?」

 

「そうだ。というかできるのか?」

 

今思ったがメルロマルクって人間至上主義だったよな。そんな国で人間の奴隷を連れるのは御法度じゃないか?

 

「いえ、可能といえば可能ですが、何分この国は人間至上主義でして人間を奴隷として取引する事は難しいです。ハイ」

 

やはりそうか、やり直しでもそんなこと言ってたからな。まあ可能ならばやってもらう以外に選択肢はない。

 

「可能ならすぐに掛けろ」

 

「フフフ、わかりました。ですが理由が理由故に、金額はかかりますがよろしいですかな?」

 

「構わない。波までの時間がないんでな、早くしろ」

 

波までのカウントダウンは残り10分になっていた。儀式自体は単純だけど奴隷商はグダグダと話をするからな、多少金がかかろうと仕方ない。

 

何、無くなれば奪えばいい話だ。この世界には殺すべき、殺しても問題のない連中が無数にいる。特に現時点では三勇教の過激派あたりが狙いどころだな。

 

それに今日の波で、ドサクサに紛れて消す予定の奴がいるからな。くっくっく。

 

 

「あぐっ!ぎ、う、うぅ……」

 

そんなことを考えていると儀式は終了しており、ローゼが苦しそうに胸を抑えていた。

 

「さて、代金はこれで足りるか?」 

 

俺は銀貨を130枚ほど取り出して奴隷商に渡す。

 

さて、奴隷の相場はよくわからんがラフタリアとかはサービスで30枚だった。それに100枚くらい足しとけば大丈夫だろうか。

 

「フフフ、ありがとうございます。それでは、本日の波でのご活躍を楽しみにしておりますぞ」

 

「ああそう」

 

とりあえずローゼの奴隷化はできた。

まずは、そうだな……

 

「ぐ、うぅぅ……!」

 

「ふむ、ちゃんと作動するようだな」

 

試しに奴隷紋を発動させてみる。するとローゼは胸を抑えて苦しみだす。

禁則事項はどうしようか、まあ命令とか咄嗟のときに発動したら困るし『嘘をつけない』程度にしておくか。

 

「っと、そろそろ時間のようだ。じゃあな奴隷商」

 

「フフフ、またのお越しをお待ちしております」

 

 

バキン!

視界の数字が0になると、耳元でガラスが割れるような大きな音が鳴り響き、俺たちは波へと飛ばされた。



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厄災の波

波へと飛ばされた俺たち一行は、まず周囲を確認する。

ふむ、アニメで観たことのある光景だな。てことはあっちの方向にリユート村があるだろう。

 

空は大きな亀裂が生まれたかのようにヒビが入り、不気味なワインレッドで染まっている。

 

「せつな様!」

 

「ご主人……」

 

「おう、二人とも」

 

俺はリファナたちと合流し、その近くに尚文たちもいた。

 

「ここは……」

 

尚文が何処に飛ばされたのか辺りを確認しているとダッと飛び出す影が3つ。そしてそれを追う13人の影が見えた。

 

三馬鹿と愉快な仲間たちですな。真っ直ぐに波の根源である亀裂へと向かって行く。

 

「リユート村付近です!」

 

ラフタリアが焦るようにそう叫ぶ。うむ、やはりそうだったか。

 

「アイツらに構っている余裕はない!さっさと村の防衛に行くぞ!」

 

俺はいの一番に村の方向へと駆け出し、尚文たちもそれに続く。

 

 

 

 

 

「ツヴァイト・ファイアースコールV!ツヴァイト・アクアショットV!」

 

村に着くと波から溢れ出した魔物が、まさに暴れだす瞬間だった。駐在していた騎士や冒険者が辛うじて戦っているのを見て、俺は魔物らに向けて攻撃を叩き込む。

 

「ラフタリアは村民の避難誘導をしろ」

 

「え、ナオフミ様は……?」

 

「俺は敵を惹きつける!」

 

尚文はそう言って防衛線へ駆け出し、イナゴの群のような魔物は尚文へと群がっていく。

 

「リファナ、ローゼ、アイラ。お前たちも避難誘導及び魔物を片っ端から倒せ。コハクは俺と来い!」

 

「はい!」

 

「は、はい!」

 

「わかったのですー!」

 

「ん、ご主人」

 

コハクはボフンとフィロリアル形態へ変身し、俺はそれに飛び乗って尚文同様に防衛線へと駆け出した。

 

ふむ、やはり余裕だな。強化スキル、魔法を使うまでもなくレベル差と資質向上で強化されているおかげか、コハクがただ突っ走るだけで魔物たちは一撃で粉砕されていく。

 

「ゆ、勇者様?」

 

「ああ、お前ら、俺と尚ふーー盾の勇者が惹きつけている間に体制を立て直せ!」

 

リユート村には来たことはないが、アニメで描写されていた連中に多少の見覚えはある。

 

「は、はい!」

 

これ幸いにと深手を負ってない奴まで下がり、防衛線は俺とコハク、尚文だけとなった。

 

全くここらも変わんねーな。ま、そんなこと気にしてる暇はないしどうでもいいか。

 

「エアストシールド!」

 

そんなことを考えていると尚文が魔物に襲われそうになっていた村人を守る盾を出した。

 

ほう、あれがエアストシールドか。

 

「早く逃げろ!」

 

「……あ、ありがとう」

 

腰が抜けていた村人は尚文に礼を言うと、家族と共にその場を去った。

 

「刹那!何ボサッとしてるんだ!お前も戦え!」

 

「言われなくとも!ツヴァイト・サンダーボルト!」

 

「グギャアアア!」

 

無数の雷が周囲にいた魔物を一掃する。強化して魔法を放つ必要はなさそうだな、あまり強い技を放って三勇教とかに目をつけられたくないし。

 

「シールドプリズン!」

 

後方で尚文が逃げ遅れた女性へ向けて盾の檻を出現させる。アニメとコミックで描写が違ってたが、この世界だとアニメよりのシールドプリズンだな。

 

尚文へとターゲットを変えた魔物はこちらへと群をなしてやってくる。すかさず俺はシールドプリズンの効果が切れる前に魔法を放った。

 

「ツヴァイト・ウイングカッター!」

 

風の刃が魔物たちを切り裂き、それにより魔物は全部死に絶えた。

 

「ここらに人はもういない、俺たちはあっちへ行くぞコハク!」

 

「ん、わかった」

 

「尚文も気を付けろよ!」

 

「ああ!」

 

俺たちは一旦その場から離脱してまだ魔物が群がっているところへ駆け出す。

すると防衛線へと向かう騎士団の姿が見え、途中ですれちがう。

 

さて、そろそろ時間だ。

 

「コハク、俺は一度向こうに戻るが、一人で大丈夫か?」

 

「え……ご主人……コハク、一人……?」

 

「大丈夫だ。この近くにはアイラたちもいるし、すぐに戻ってくる」

 

建物の向こうからアイラやリファナの戦闘音や、避難誘導する声が聞こえている。

 

「……ん、わかった。ご主人、気をつけてね」

 

「ああ、コハクもな!」

 

俺はスキルを使って姿を隠し、騎士団の向かった方へと駆け出した。

 

 

 

尚文視点

 

「はぁ、はぁ!」

 

刹那と別れたあと、俺は村の防衛線にまで戻り魔物を惹きつけていた。

 

「ラフタリア!」

 

「はい!」

 

俺が魔物を惹きつけて、その隙にラフタリアが魔物を倒す。これまでやってきたことと何も変わらない。

 

「グギ!」

 

「はぁああああ!」

 

ラフタリアがグールのような魔物を切り裂く。

だが魔物は一向に数が減る様子はなく、無数に俺たちへと向かってくる。

 

すると魔物の群れの中から外を見ると騎士団が到着するのが見え、魔法が使える連中が火の雨をこちらに向けて放つのが見えた。

 

「ラフタリア!こっちへ来い!」

 

「は、はい!」

 

俺はラフタリアを抱き寄せマントの中へと隠し、騎士団の放った火の雨から守る。

 

あっという間に引火して燃え盛る魔物たち。

どうやら俺は物理だけでなく、魔法の防御力も高い様だな。

 

「おい!こっちには味方もいるんだぞ!」

 

「ふん、盾の勇者か。頑丈な奴だな」

 

騎士団の隊長らしき奴が俺を見るなり吐き捨てた。

真紅に燃え盛る防衛線の中、明らかに俺たちがいると知りながら魔法を放ったことに腹が立ちながら、俺は騎士団を睨みつけながら近づき、マントをなびかせて炎を散らす。

 

そこに飛び出すように剣を振りかぶる影。

ガキンと音を立てて吐き捨てた奴は剣を抜いて鍔迫り合いになる。

 

「ナオフミ様に何をなさるのですか!返答次第では許しませんよ!」

 

殺意を込めて、ラフタリアが言い放つ。

 

「盾の勇者の仲間か?」

 

「ええ、私はナオフミ様の剣!無礼は許しません!」

 

「亜人風情が騎士団に逆らうとでも言うつもりか?」

 

「守るべき民を蔑ろにして、味方であるはずのナオフミ様もろとも魔法で焼き払うような輩は、騎士であろうと許しません!」

 

「五体満足なのだから良いじゃなーー」

 

隊長らしき奴がそう言いかけたとき、騎士団どもに向かって先ほどのような火の雨が降り注ぐのが見えた。

 

「ラフタリア!」

 

「はい!」

 

ラフタリアもそれに気が付きすぐさま剣を収めて俺の方へと駆け戻る。

 

「「「ぐはぁあああああ!!」」」

 

騎士団どもに火の雨が降り注ぎ、隊長もろとも無様な悲鳴をあげた。

 

「お?わりーわりー、うっかり当たっちまったよ」

 

悪びれもない謝罪をしながら現れたのは刹那だった。

 

 

 

刹那視点

 

 

「貴様!何をする!?」

 

騎士団の一人が俺に向かって激昂したように叫ぶ。

 

「何って、勇者に向かって攻撃をしてたから波の魔物かと思って攻撃したんだよ。なぁに、五体満足なのだからいいじゃないか!」

 

騎士団長が先ほど言いかけたことを、小馬鹿にするように俺は騎士団に向かって言う。

わざとに決まってんだろバーカ。ざまあみやがれってんだ。

 

「ふざけるな!犯罪者の分際でーー」

 

「敵は波から這いずる化け物だろう。履き違えるな!」

 

原作での尚文の言葉を代弁して俺は騎士団どもへ叱責する。

 

「犯罪者の勇者共が何をほざく!」

 

「なら、残りはお前達だけで相手をするか?尚文、俺たちはさっさとあっちへ行こうぜー」

 

「そうだな、お前らが魔物のエサになるのを見てるのも悪くはないな」

 

尚文がそう言うと騎士団の背後から2メートルほどのゾンビのようなのが斧を振り下ろすのが見えた。

 

「うわぁああああ!」

 

「ファスト・ウインドブロウV!」

 

俺はすぐさま魔物を魔法で吹き飛ばした。

 

「これ以上無駄な問答を続けるようなら、本当にお前らをエサにして置いていくからな?」

 

「ぐ、くそ!犯罪者の勇者風情が!」

 

騎士団は渋々といった様子で、ようやく魔物へ向けて剣を振り下ろす。ここはもういいだろう。

 

俺は再び姿を消してその場を去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数分後、俺はまた尚文たちの方へともどってきていた。リファナたちに任せたところはほとんど避難も完了し、リファナたちも強化済みなので魔物を余裕で殲滅させていた。

ローゼは資質向上などはしていないが、錬のところでレベリングはしていたようで善戦していた。

 

 

 

「……犯罪者の勇者どもめぇ」

 

ブツクサと文句を垂れ流しながら魔物と戦う騎士団長。

全く態度が変わらんなコイツ。ま、そのおかげで躊躇する必要がなくて助かる。

 

俺は今、姿を消した状態で騎士団長が戦っている場所の10メートルほど後方にいる。

 

なぜ俺がこんなところにいるのかというと、それはあの騎士団長を暗殺するためである。

 

あんなクズはいない方が世のためだ。そういえば騎士団長は原作でシルトヴェルトに殺されたとかあったような気がする。まあ、時計の針を進めてやるだけだ。何も問題はない。

 

「はぁ、はぁ……」

 

騎士団長が剣を地面に刺し、息切れする。

チャンスだ。兵士が他に数名いるが気にしない。全員殺してやるのDEATH ZO

 

下手に弱い魔法を放って助けを呼ばれたら大変だから、一撃で殺す。

 

俺が今使える魔法の中で一番強く、ポイントを最大にまで振る。よし、いくぞ。

 

「ツヴァイト・ヘルファイアX!」

 

「なっーー」

 

巨大な炎が騎士団長らを目掛けて飛んでいく。奴らはいきなり現れた炎を見て呆気にとられたまま、悲鳴を上げることなく消炭となる。

 

「ミッションコンプーーお?」

 

「う……ぐ、誰だぁ……」

 

なんと今の一撃を喰らって生きているとは、声からして騎士団長だな。楽に死ねなかったとはなんとも運の悪い奴だ。

 

「さっさと死ね。ツヴァイト・ヘルファイアX!」

 

俺はもう一発、死に損ないに向けて炎を飛ばす。

そして今度こそ、悲鳴を上げることなく騎士団長だったものは消炭となった。

 

さて、今度こそミッションコンプリートだな。あとは俺が殺したことがバレないようとっととこの場からおさらばするか。

 

俺は全力でその場から離脱してリファナたちのところへ駆け戻った。

 

「わっ、せつな様!?」

 

「どうした?」

 

「今、どこからきたのですか?」

 

「気にするな。それより魔物を掃討を終わらせるぞ」

 

「は、はい!」

 

俺はそのまましらばっくれて、波が終わるのを戦いながら待った。

 

数時間後、空が元に戻り亀裂も収まって最初の波が終わった。

 



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宴の最中

 

「いやあ!さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 

俺たちは城へと戻ると、夜になって開かれた大規模な宴に参加していた。

 

「ご馳走ですね!」

 

「わぁ……」

 

「ご主人様、食べてきてもいいのです?」

 

アイラたちは目を爛々とさせて盛られた食べ物の山を見ている。

 

「ああ構わないぞ。だがその前にアイラ、コハク」

 

「なのです?」

 

「ん?」

 

俺はアイラとコハクに耳打ちする。まだまだ問題は残っているからな。

 

「ーーできるか?」

 

「わかったのです」

 

「ん、わかった」

 

「よし、みんな食べてきていいぞ」

 

「「わー!」」

 

俺がそう言うとアイラとコハクははしゃぎながらご馳走に向かって駆け出す。

大丈夫だよな?今言ったこと忘れてないよな?

 

俺が二人に言ったのは『この後兵士たちがリファナとラフタリアを拘束するかもしれないからそうなったら兵士たちを跳ね飛ばしてくれ』というものだ。どのみち避けては通れぬ運命、ならばとことん暴れてやる。

 

「食いたければ食っていいぞ」

 

「はい!」

 

「ラフタリアちゃん、行こう!」

 

尚文たちの方を見ると尚文は何やら盾をいじっているようで、ラフタリアはリファナと一緒に食べ物を取りに行った。

 

ちなみにローゼはというと、城に着くなりクル……クルーズと一緒になって食事を取っていた。別行動することを禁止にしてるわけでもないし、どうでもいい。

 

俺も俺で適当に飯を取りながら、ある方向へと視線を向けながら食べる。うむ美味い。日本じゃ食べれないようなモノばかりで最高だな。

 

すると俺が注意を向けていた方向から、尚文の方に向かって行く元康の姿を見つける。

 

来たか。さて、俺も移動するか。その前にこの肉を食っちまおう。もったいないし、今後食える機会はずいぶん後になるからな。

 

 

 

「おい!尚文!」

 

「……なんだよ」 

 

「決闘だ!」

 

キザったらしく手袋を片手だけ外して尚文に投げつけ、元康が決闘を宣言する。

 

「いきなり何言ってんだ、お前?」

 

「聞いたぞ!お前と一緒に居るラフタリアちゃんやリファナちゃん、そしてあの子たちは奴隷なんだってな!」

 

元康は尚文を指差しながら糾弾する。

ああ、そういえば元康にアイラやコハクの名前は伝えていなかったな。

 

「だからなんだ?」

 

「『だからなんだ?』……だと?お前、本気で言ってんのか!」

 

「ああ」

 

この国で奴隷制度なんて禁止してないだろう。

そもそもお前らの陰謀のせいで尚文に仲間ができないからだろう。

 

「人は……人を隷属させるもんじゃない!まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

 

「何を今更、俺達の世界でも奴隷は居るだろうが。許されない?お前の中ではそうなんだろうよ。お前の中ではな!」

 

「き……さま!」

 

元康は尚文に向けて矛を構える。

 

「勝負だ!俺が勝ったらラフタリアちゃんたちを解放させろ!」

 

「なんで勝負なんてしなきゃいけないんだ。つーかラフタリアはともかくリファナやちっこいメイド二人は刹那の奴隷だぞ?」

 

奴隷ではなくフィロリアル様ですぞ!

 

そんなやりとりを食いながら見ていたが、そろそろ猿轡されるだろうからアイラたちに対応してもらいたい。

 

俺は周囲を見渡す。すると二人の姿を見つけて俺は頭を抱えた。

 

 

「美味しいのですー!」

 

「ハムハム。ん、美味しい」

 

二人は食事に夢中でこっちで起きていることになんて全く気がついていない様子だった。

 

仕方ない、ここは俺が魔法で吹き飛ばすか。

 

そんなことを考えていると、クズが人混みをかき分け尚文らの前に現れた。

 

「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

 

はいはい、そういうのいいから。女房の尻に敷かれてる婿入りの代理王のくせに威張ってんじゃねーよ。

 

俺はそんな感情をクズに抱きながら人混みをかき分けて、ある程度距離をとってそのやりとりを静観する。

 

 

 

「この国でワシの言う事は絶対!従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」

 

「……チッ!」

 

「勝負なんてする必要ありません!私は――ふむぅ!」

 

「ラフタリアちゃーーふむぅ!」

 

その時ラフタリアとリファナが騒がないように口に布を巻かれて黙らされる。

 

「ツヴァイト・サンダーボルト」

 

「「「ぐはぁあああああ!」」」

 

リファナたちを取り巻く兵士に向けて魔法を放つ。その場にいた兵士は全員痺れその場に倒れた。

 

「オイオイオーイ、何勝手な事してくれちゃってんのー?」

 

「ぬ!何をする!?」

 

俺は人混みをかき分けてクズと尚文たちの前に出る。するとクズが俺に向かってそう叫ぶ。

 

「何って、お前らが俺の所有物に勝手に手を出そうとしたからだろ?」

 

「所有物って……リファナちゃんたちは物じゃないんだぞ!」

 

元康が俺の言い分に対して激昂する。

別に間違ったことは言ってないだろ。

 

「んなことより、決闘だって?」

 

俺は尚文の方を向いてそう言う。

 

「あ、ああ。このバカがふっかけてきやがった」

 

尚文が元康を指差しながらそう言う。

騒ぎは全部聞いていたからな。何があったか、つーか何が起こるか知ってるわけだが。

 

「ふーん、なら俺が尚文の代わりに決闘を受けてやるよ」

 

俺は元康らに向けてそう宣言する。

 

「なぜ書物が盾とモトヤス殿の決闘に混じるのじゃ?許可など出せるはずも無い!」

 

「そうだ!これは俺と尚文の決闘だ!勝手に混ざるな!」

 

やり直しで聞いたことあるセリフだな。立ち位置的に俺が元康で元康が樹の周回だったかな。

 

まぁそんなことはどうでもいい。ここは何としても俺が元康と決闘するように持っていかないとな。

 

「んー、俺は別にそれで構わないけどさぁ、お前が尚文に勝ったところで解放されるのはラフタリアだけだぞ?尚文も言ってたがリファナたちは俺の所有物であって、尚文に解放させる権利はないぞ?」

 

そう言うと元康があからさまに不快な表情をする。また所有物発言に反応したのか?それとも解放されないことに腹を立てているのか?

 

「だから、俺が代わりに決闘してやるって言ってんだよ。それでお前が勝ちゃリファナたちだけでなくラフタリアも解放してやるぜ?」

 

「おい刹那!何勝手なことを言ってるんだ!」

 

尚文が俺に向かって叫ぶ。大丈夫だ、俺はこんなやつに負けるわけない。

 

「どーすんだ?別に俺はいいんだぜ?ラフタリアだけを奴隷から解放して、他は可哀想な(・・・・)奴隷のままにしておいてもよぉ」

 

「きゃっ!せ、せつな様?」

 

俺は出来る限り悪人面をして、リファナの首に腕を回して近くへと抱き寄せる。

 

「おーい、アイラ、コハクー!」

 

いまだにこちらの騒動に気がついてない二人を呼ぶと、二人はあっと思い出したかのような反応をすると急いでこちらへとやってきた。

 

「ご主人様、ごめんなさいなのです!」

 

「ご主人……ごめん、なさい」

 

俺の元へと駆けつけてきた二人はあからさまに落ち込んだ様子で謝罪をする。落ち込んでるのも可愛ないなぁ、このまま抱き上げて撫で回したい。

 

けど今はそれどころじゃないですぞ。

 

「気にするな。それよりも周囲を警戒しろ。ラフタリアとリファナのことを全力で守れ」

 

「「はい(なのです)」」

 

二人はすぐさまリファナとラフタリアの前に立ち、周囲を警戒する。ほほう、これもこれで可愛いですな。

 

「それとさぁ、俺が所有してる奴隷はコイツらだけじゃないぜ?」

 

「何?」

 

俺は二イィと悪人ヅラで笑いながらステータス画面を呼び出して操作する。

 

すると遠くの方で皿が割れる音と悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「うぐ!ぐ、うぅぅ!イタイイタイ!」

 

「ロ、ローゼ!?」

 

悲鳴がした方を見るとローゼが胸を押さえて苦しんでいる。その側にはクルーズがどうしたのかと心配している。

 

尚文たちも含め、観衆の注目はそちらへと向き何が起こったのかわからないといった表情をしている。

 

何が起こったか、そんなの簡単だ。元康の怒りを刺激するためにローゼの奴隷紋を発動させたのだ。

 

「元康よぉ、俺が所有してるのは亜人だけじゃなく、人間の奴隷も連れているんだぜ?それもあーんな可愛い女の子を無理やりに従わせてるんだぜ?」

 

そう元康を挑発するように言うと、勢いよく俺の方を向き激昂した。

 

「き、きさま!この人でなしが!」

 

「もしお前が尚文に勝ったとしても、解放されるのはラフタリアだけで、リファナやあそこにいる可愛い人間の(・・・)女の子は俺の所有物のままだけどなぁ!」

 

大声でそう言い放つとクルーズは俺に気が付き、何か言いたげな様子で俺を睨みつける。

 

「早く決めろよ。どーするんだ、ヤリチン勇者サマよぉ」

 

「誰がヤリチンだ!お前に勝てばリファナちゃんたちを解放するんだな!?」

 

「だからそうだと言っているだろう?」

 

「わかった!お前と決闘してやるよ!刹那、今言ったことを忘れるな!」

 

元康が俺を指差して大声で叫ぶ。

 

「ああ、わかってるさ。ここにいる全員が証人なんだ、嘘のつきようがないだろう?」

 

「ぐぬ、モトヤス殿がそう言うのなら仕方あるまい。城の庭で書物とモトヤス殿の決闘を開催する!」

 

クズはそう宣言して、周囲は各々移動をし始める。兵士はというと俺たちを逃さないように取り囲んでいるが、押さえつけられないことを察したのかそれ以上近寄っては来なかった。

 

「せつな様、大丈夫なのですか?」

 

「全く問題ない」

 

「問題しかないだろ!刹那、勝手なことを言いやがって、もし負けたらどうするつもりだ」

 

尚文が俺に対して怒り口調でそう言う。尚文からしたら勝手に自分のものをかけられたようなものだからな。

 

「心配するな、負けるつもりはない。お前がやるより俺が勝負したほうがいいだろう?」

 

「それは……そうだが」

 

「それにお前だけじゃなく、俺も個人的にアイツに恨みがあるからな」

 

俺の手塩にかけて育てた娘たちに対して色目を使ってきたのだからな!愛の狩人でない貴様には報いを与えねばなりませんな!

 

「……わかった。お前がそう言うのなら今回は信じよう。負けたら二度とお前を信用しないからな」

 

「ああ。リファナたちのことを頼んだぞ」

 

「ご主人様……」

 

「ご主人、頑張って」

 

二人が心配そうに俺を応援してくれるのですぞ。おかげで俺は負ける気がしませんな!

 

「ありがとうな二人とも、では行ってくるのですぞ!」

 

俺は二人を撫でたあと尚文らと別れ、すぐに城の庭へと移動を開始した。

 




次回、刹那のチートスキルが発露します


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四聖武器書

 

ふむ、ここはアニメで見た決闘場の入場口だな。

尚文が武器に触って弾かれたものも置いてあるし、間違いなさそうだ。

 

あと数分で元康との決闘が始まる。尚文と違って攻撃手段のある俺なら余裕で片付くだろう。

 

瞬殺するのも一興だが、そんなことで奴が納得なんてするわけがない。それに俺自身も楽しみたいという気持ちもある。

 

「んー」

 

俺はなんとなくステータス画面を開いて、様々な武器やスキルを眺める。

 

なーにか面白そうなものはないかなー?

 

「……おや?」

 

ふと、あるスキルに目が止まる。

これは……、ほほう。なかなか面白そうなスキルじゃあないか。これなら元康(アイツ)に一泡吹かせられるな!

 

ガラガラガラ

 

そんなことを考えていると目の前の門が上がり、俺は舞台へと足を運んだ。

 

辺りには松明が焚かれ、宴を楽しんでいた者達が皆、勇者の戦いを楽しみにしている。

 

当然ながら元康には期待の視線、俺には蔑むような視線で注目している。

 

「では、これより槍の勇者と書物の勇者の決闘を開始する!勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること」

 

俺はコキコキと首を鳴らしながら元康を見る。

 

「ハッ!女にいいようにされる道化勇者サマよぉ、自信の方は如何かな!」

 

「誰が道化だ!バカにするのもいい加減にしろ!」

 

「いやいやお前なんかバカにしてねーよ。お前の仲間がお前をいいように操ってんのが滑稽なだけだ」

 

「仲間は関係ないだろ!貴様、絶対に許さないぞ!」

 

元康が殺気立って俺に槍を向ける。

おーおー威勢だけは良いこった。いつまでその虚勢が張れるかな?

 

「ではーー勝負!」

 

「でりゃあああああああああああ!」

 

元康が槍を構えながら走って俺に一突きしようとしてくる。

俺はその場に突っ立って何もせずそれを静観する。

 

「乱れ突き!」

 

元康の槍が一瞬にして何個も別れて飛んでくる。

この程度、避けるまでもないがおちょくる意味も込めて一応動くか。

 

「動きは悪くないな。だがーー」

 

強化を十分にしてる俺にとって、全部軌道が見えるから余裕で避けられる。

 

ガシィ!

 

「んな!?」

 

「この程度の力量で俺に勝とうとは、愚かにもほどがあるぞ?」

 

俺は最後の一突きをあえて避けず、片手で槍を掴んで攻撃を防いだ。

 

「くそ、離せ!」

 

「いいよ、離してやるよ。離せるもんならなぁ!」

 

俺は槍を両手で掴み、その場で回転し始める。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

「うわああああああああああ!?」

 

たかがこの程度で悲鳴を上げるとは情けない。

ブンブンと元康ごと槍を振り回すも元康は一向に槍から手を離そうとしなかった。

 

否、離そうとしても離れないと言ったほうが正しいか。元康は既に手をパーにしているが槍はまるで強力な接着剤でもついているかのように手から離れなかった。

 

伝説の武器は体から離れないという性質があったのが不幸だったなぁ!

 

「そら、ご希望通り離してやるよ!オラァ!」

 

「うわあああああああ!」

 

俺はハンマー投げの要領で槍を、元康をぶん投げる。元康は無様な悲鳴を上げながら飛んでいく。

 

俺は尚文同様に物理攻撃が効かない、このまま壁とかに激突してもダメージは入らないだろう。魔法で追撃をする。

 

戦闘不能にならないように、かといって弱すぎない程度にいくぞ。

 

「ツヴァイト・アイスバレット!」

 

無数の氷の弾丸が元康に向かって放たれる。

 

「ぐはあああああ!」

 

ドォン!

 

空中だから避ける暇もなく元康に全弾命中し、その勢いで反対側の壁に激突して仰向けに倒れた。

 

観客席がざわつく。

当然だ、応援している勇者が劣勢で目の敵にしている奴が押しているのだからな。

 

「どうした元康ぅ!この程度でやられたなんて俺は思ってないぞ!」

 

俺が大声でそう言い放つと元康は槍を杖代わりにしてフラフラと立ち上がる。

 

結構効いているみたいだな。中級魔法でなく初級魔法にしておけば良かったかな?

 

「ぐ、くそぉおおおお!」

 

「おー、流石は勇者だ。この程度でやられるわけないと信じてたよ」

 

「俺は、負けるわけには……いかないんだぁああああ!」

 

威勢よく元康は立ち上がって俺に槍を向けるも、立つのがやっとみたいな様子だった。

 

側から見れば最後まであきらめず勇ましい、まさに勇者って感じだな。

 

「エアストジャベリン!」

 

元康がスキル名を叫ぶ。確かこれは光で出来た槍を投擲するスキルだったかな?

 

すると思った通り、光の槍が俺に向けて投擲される。

 

「ふむふむ、中々いい攻撃だな」

 

俺はあえて何もせず、そのまま攻撃をくらってみる。槍は俺の胸にガン!と当たるも、音を立てただけでかすり傷一つ負わなかった。

 

「この程度か、これで勇者とは呆れるな」

 

俺は元康を挑発する。

さてと、そろそろ俺も仕掛けさせてもらいますかね!

 

「ぐ、くそ!」

 

「いいか?攻撃ってのは……こうやるんだよ!」

 

俺は書物を『四聖武器書』へと変化させ、スキルを発動する。

 

「槍ノ章、乱突!」

 

俺がそうスキル名を叫ぶと、書物のページが槍となって、先ほど元康が放った乱れ突きと同じスキルが元康へと飛んでいく。

 

「んなっ!?これは……ぐはぁああああ!」

 

元康は驚愕し、そのまま避ける暇もなく攻撃をくらう。

 

「まだまだ!槍ノ章、投擲槍!」

 

書物のページが元康のエアストジャベリン同様、光の槍となって飛んでいく。

 

「うぐ……うりゃあああああ!」

 

ガキィン!

 

ほう、今のを弾くか。さほど強くないスキルなのかな?

元康が乱突を受けた直後、なんとか立ち上がると自身の槍で光の槍を弾いた。

 

「ゼイ、ゼイ……な、なぜ……俺のスキルを……」

 

肩で息をし、槍を杖代わりにしながら立っている元康がそう口を開く。

 

まだ立ち上がれるだけの力が残ってるとは、意外と根性あるな。まあ女が絡んでるし奴は諦めんだろ。

 

「簡単なことだ。俺はスキルを一度見たら、何でもコピーして使えるんだよ!」

 

俺が発動したスキル、それは以前魔法屋でウェポンコピーした四聖武器書のスキルだ。まさかこれが置いてあった上に、こんなチートなスキルが付属されているなんて思いもしなかったぜ!

 

ーーーーーーーーー

 

四聖武器書 0/300 LR

能力解放済み……装備ボーナス、能力『スキルコピー』

専用効果 十二位一体

 

ーーーーーーーーー

 

専用効果がよくわからんが、おそらく四聖と七星ーー眷属器の勇者も含めた何かだと思われる。

 

「な、なんだよそれ!チートじゃねえか!」

 

「チートもクソもない!そろそろ、仕舞いにしてやるよ!」

 

そう宣言し四聖武器書を開いた瞬間、背中からバスッと何かが当たるような感じがした。

 

これは、振り返るまでもないな。どうせヴィッチの野郎がウイングブロウを放ってきたのだろう。

 

案の定、審判は効果がないことに対してうろたえているように見えた。

 

「ツヴァイト・ヘルファイアV!」

 

巨大な炎の塊が元康目掛けて飛んでいく。いくら勇者とはいえ、この魔法で騎士団長らを殺したから万が一のことがないように弱めに放った。

 

「ぐ、くそっ!」

 

元康が攻撃から逃れようと、その場から逃げ出そうとする。

 

「逃さん!盾ノ章、一ノ盾!」

 

「ぐはっ!ギ、ギャアアアアアア!!」

 

俺はそれを逃すまいと、エアストシールドを元康の逃げ出そうとした方へと出現させ、元康はそれにぶつかると同時に炎の塊が命中する。

 

「ぐ、は……」

 

元康がその場に崩れ落ちて意識を失う。

はい俺の勝ち。

 

「……おい審判、槍の勇者が気絶したぞ。俺の勝ちだろう。それともまだ勝負はついていないのか?それなら追撃するまでだが」

 

「あ、く、書物の勇者の……勝利とする」

 

俺は手に魔法を生成しながらそう言うと、審判は慌てながら俺の勝利を宣言した。

 



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