MCUに磁界王として転生してしまったんだけど? (くろむす)
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そんな俺のプロローグ

作者は映画版しかそれぞれの設定、話を知らないため、コミック版とは切り離して見て頂けると~と思います。

ここまでがプロローグになります。
主人公の一人称もここまで(予定)


 

 

 

……俺がまだ生きていた頃、好きだった映画にX-MENシリーズというものがあった。

旧三部作と呼ばれる2000年台を舞台にした物語の後、その中に出てきたX-MENと敵対組織ブラザーフッド。それぞれの組織のトップ、プロフェッサーXとマグニートーの若かりし頃をメインとした、新三部作が始まり派生作も入れればかなり長く続いたシリーズである。

特にファスジェネという4作品目でどっぷりエリック・レーンシャーという男にハマった俺はその後もシリーズの新作が出るたびに劇場に足を運び新しい物語を堪能したものだ。

 

磁界王…エリック・レーンシャーについてだが、彼は実に数奇な運命を持った男と言える。

類まれなミュータントとしての能力についてもそうだが、愛する人が次々と失われるにもかかわらず彼は人を愛さずにはいられないし、同時に一定の人々に愛され、崇拝されるある種カリスマを備えた人物だ。

 

と、言えばあたかも薄幸のヒーロー、あるいは影のあるスーパーマンのように聞こえるが、実際はメンタルクソ弱な上にその場の勢いとノリで生きている新幹線のような男であると俺はそう思う。

だが、しかし特に飾らず生きているだけで、ブラザーフッドなどの仲間たち…ミュータントを惹きつけ、妻と子供を得るように、本人に幸せになろうという気持ちさえあったなら、きっと幸せに生きることが出来た男なのだろう。

エリック・レーンシャーが辛い幼少期を過ごし、迫害された過去さえなければ、幸せになる未来だけを考えて生きていけたはずなのだ。

幸せになれる能力も、容姿も、力もあったはずなのにそうはならなかった。

辛い過去が、彼から消えない憎しみが彼をいつも戦いに駆り立て、結果彼から幸せはいつも最悪の形でこぼれ落ちていく。

きっと完璧な男だったなら俺はそこまで彼にハマらなかったし、興味も持たなかっただろう。

だが、たぶん……

完璧じゃない男だったから俺は追いかけてしまったのだ。

そんな男が最後に幸せになる様を見たくて。

 

これは、そんなある種の推しキャラとしてマーベル・シネマティック・ユニバースに転生してしまった、平凡な男が幸せになる為に精一杯戦う物語であ…る…

…いや、なんでMCU?X-MENの世界じゃねぇの?

 

俺、X-MEN派だったからMCUなんてスパイダーマン(昔の)しかしらねぇんだけど!?

 

 

 

 

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そもそも、どうしてこうなったのか…順を追って説明すると、特にまぁ皆さん興味もない平凡な大学生の日常のアレソレから延々と聞かなくてはいけなくなるので、そこは割愛したい。

平凡な家庭に生まれ、両親から愛され、兄弟と喧嘩して一人っ子だったらなぁと思いながら、幸せに暮らしていた大学4年生の男が、就活中に突然姿を消した。

きっと元の世界ではそんなことになっているのだろうと思う…めちゃくちゃ両親に申し訳ないし、きっと兄や妹だって泣いているに違いない。

兄貴とは仲が悪かったが、きっとお互い嫌ってはいなかったし、妹なんて最近大学受験やらなにやらで、大学のOBになるであろう俺によく電話をよこしていたのだ。

 

俺も普通に就職して、これから彼女も出来て、両親のように平凡だが幸せな家庭を築いていくんだろうと信じて疑っていなかった。

両親もそうだろう。俺はけして何も言わず失踪するような子供ではなかったし、事件か何かだと思って心配しているに違い。犯人(居ないのだが)のことや俺が何をされたのかなど考えて眠れない夜を過ごしているのかもしれない。

 

しかし現在、俺に何ができるかというと何も出来ないし本当に俺の前に生きていた世界があったのかもわからない。

今の俺…エリック・レーンシャーが見ていた夢なのかもしれない。

両親に愛され、兄弟と平和な時代に生きる、ただの平凡な青年。

エリックの理想がつまった、そうだったらよかったのに…という夢の世界の話だ。

 

現在の俺はというと、肉体労働に励んでいたりする。

日雇いの仕事をしながら、俺を捨てた嫁ともう生まれたであろう顔も見たことがない我が子達を探して世界を放浪する、ちょっとばかり強いミュータントのイケメンパパ(仮)だ。

マイナス方面の属性盛り過ぎというのはわかる。

わかるが、実際今の俺はそんなちょっと大変なパパ希望の独身男性だったりする。

 

 

 

 

 

X-MENの世界と違ってMCUに転生したエリック…俺は時代が違ったせいか、特にショウのようなおっかないおっさんに実験動物にされてもいなければ、母親がホロコーストで殺されたこともない。

第二次世界大戦後の世界に生まれ、父親は病気で早逝したが母親に愛されて育った。

ただしその母親も俺が少年から青年になる前に、やはり病気で亡くなった。

女手一つで俺を育てていた母は過労もあって、流行病にかかり坂道を転がるように状態は悪化。

体調が悪いのか?と俺が気づいた翌々日には息を引き取っていた。

母親が大好きで、ママっ子だった俺はその時、ミュータントの能力を開花させ、前の世界の記憶を思い出したのだ。

本物のエリックのような映画かドラマのような過去がなくて申し訳ないが、それでも平凡と幸せしかしらなかった日本人青年の記憶が甦った俺は大いに自分の境遇に絶望した。

住む家にも困り、母も苦労をかけて恩も返せないまま死なせてしまい、行くあても、働くあてもない。

そんなまだ青年になりきれていない十代の子供が生きていくのは大変なことだった。

だが…前の世界の両親、今の世界の母、X-MENのエリック・レーンシャーの過去…未来…全てひっくるめてどう考えても俺は幸せにならなければいけない。

 

そう…義務だ、俺は幸せにならなければならない。

強くそう思い込んだ俺は、全力でミュータントの力を制御しつつ、生きて、幸せになるためにイケメンミュータント・エリックとして歩きだした…!

 

 

それからの俺はミュータントとしての力を「俺は最強のミュータント」「俺は磁界王」と自己暗示にも似たイメトレ、あとは甦った記憶にあったファスジェネのチャールズが言った通りに練習した結果うまーい具合に制御できるようになったので、いい感じに隠しつつ、日々地道に生きてきた。

学校にも日本で言う中学生か…?それくらいの年齢以降は教育も受けていないので、肉体労働が基本だ。

まぁ金属、言ってしまえば磁気を操れるので金属のある現場であればちょいちょいと能力で楽できるので、そこまで大変じゃなかったりする。

金も貯めて、家も手に入れ(賃貸だが)、恋人も出来てあらら子供出来ました!ありがとう彼女!いや嫁!

と、幸せカウントダウンが始まっていたのだが、MCUの世界を理解できていなかった俺は、ミュータントという自分がどういう存在なのかに気づいていなかった…

 

 

俺がミュータント…異能を持っていると知った彼女が、腹に子供がいる状態で失踪したのだ…

うそだろ…?え、どうして?俺なにかした…?

というのも、この世界ミュータントという存在が居ないのだ。

俺も俺以外にあったことはなかったが、それは探してないだけできっと世界のどこかには仲間がいるのだろうと思っていた。

しかしそもそもミュータントが存在せず、ミュータントという概念がない世界で、俺がどういう受け入れ方をされるのか…まぁ化物ですよね。

ミュータントという概念がある世界ですらミュータントは受け入れがたい存在だった。

なにかの漫画でも言っていたが、隣人がいつでも自分たちを殺せるなんて恐怖でしかない。

彼女もそうだったのだろう。

愛する彼氏…もうすぐ夫だったわけだが、が、自分も子供も手を触れずに一瞬で肉塊に変えることができる力を持っているなんて、特に子供を孕んだ女性には恐怖でしかなかったのかもしれない。

だから彼女は俺の元を去っていった。

 

 

そう妻と子に去られた、というか捨てられた男が俺だ…

追わない方がいい、彼女を追い詰めるだけだと思って一度は身を引いた。

抜け殻のようになりながらも、数年してなんとか立ち直り、新しい生活をするためにヨーロッパからアメリカへと渡った。

…だが、そこで俺は思い出したのだ…彼女が妊娠していたのが双子で、その男の子にはピーターという名を付けようと話していたのだと。

ピーター…分かる人はココらへんでああ~と思ったこどだろう。

そう、ピーター。ちなみに彼女の性はマキシモフだ。

わかる人、手をあげてー。そうピーター・マキシモフ。生まれる子はクイックシルバーだよねー知ってたー!

まずい…非常にまずい。子供がミュータントの力を持っているのは確実だよこれ。

しかもミュータントって確かX-MENの設定がこの世界にも適用されるのなら、父親の遺伝子が重要なので、きっと力の強いミュータントが生まれることだろう。

彼女のためにもなんとか探し出さなくては…大変なことが起こる…

子供たちも心配だが、生まれた子供がミュータントだと知った彼女も心配なのだ。

双子のもうひとりは確か彼女がワンダと名付けようとしていたように記憶しているので、ピーターとワンダという名前を手がかりに、俺の家族を探す旅が始まった。

 

その後また数年してなんとか彼女と子供たちがソコヴィアという街にいる…という情報を掴んだものの、俺がたどりついた時には街は爆撃され、瓦礫の山と破壊された街並みに難民となった人々が避難所にあふれる状況だった。

子供たちは無事なのか?彼女はどうなったのか…?

結局その街で俺の家族の足跡は途切れ、また俺は独りで世界に取り残された。

 

エリック・レーンシャーの呪いなのかこれは、母の時もそうだが、言っていいだろうか。

幸運があまりにも低い…!

どういうことだ!?家族に捨てられ数年、ようやく会えると思ったら内戦!?

子供たちの安否はわからず、彼女の姿も見当たらない。

死んだと思いたくないが、死んでいたとしても不思議ではない状況だ。

彼女と子供たちの死を確信していない理由は、ひとえに子供たちのミュータントである可能性にすがっているからにすぎない。

子供のうち一人は確実にクイックシルバーであるピーターだ。

X-MENのピーターも子供の頃より能力に目覚めていたらしいし、こちらのピーターも無事生まれていたなら10歳。ミュータントの能力を使えるようになっていても不思議ではない。

 

だから俺は探し続ける。

彼女と子供たち…俺の家族の無事を信じて。

ここまでが今の俺、MCUに存在するエリック・レーンシャーである。

そんな幸運Eの俺が、久々にアメリカの地を踏んだのが、数時間前。

そのままニューヨークに立ち寄った俺だが、空を見上げて思わず顎を落とした。

 

 

空に穴がぽっかりあいて、なにかでっかい機械がわんさか出てきているんだが…?

 

 

 

 

 

 

 




主人公はX-MENしか映画を見たことがないので、アベンジャーズを始めとしたMCUの方は知りません。
昔のスパイダーマンを見たことがある程度です。
次回からアベンジャーズ1はじまりたーーい

X-MENのダークフェニックス最高でした。
マイティ・ソーのラグナロクも好きすぎて何度もDVDをみては、家族からまた見てるの?って言われます。


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アベンジャーズ編1 ニューヨーク観光に宇宙人がくる時代

感想ありがとうございました~
小説書くの初めてなのでおかしいとこあったら(優しく)指摘ください。

このエリックは果たして一般人が転生して成り代わったor憑依しているのか、またはエリック本人にどこかの世界の一般人の記憶が流れ込んだ末にこうなったのか?
今はまだ読んだ人の想像にお任せしたいと思います。

自分、コミック版は調べた範囲のにわか知識しかないので、映画の設定だけで行くって決めてるんだ…
なのでエリックも基本スペックは新三部作の方のエリックだし、見た目はファスペンダー。
きっとこのアベンジャーズの世界もエリックの参戦で別の時間軸のひとつになったんでしょう(基本設定はアース199999)


虚空に空いた黒い穴より飛来する無数の機械………いや、謎の怪物たちにニューヨークは今まさに蹂躙されていた。

怪物たち、サノス配下の宇宙人から逃げ惑い、押し合い圧し合いの末に命を奪われていく人間たち。

瓦礫に埋もれつつある大都市が、人々の悲鳴と襲い来る宇宙人たちの兵器によってもたらされる破壊音にまみれていた。

 

ロキがキューブで空に開けたワームホールから、チタウリの艦隊がニューヨークに飛来したまさにその時、現在地球最強のミュータントもまたニューヨークを訪れていた。

逃げ惑う人の群れに破壊されたビルの破片、鉄骨が降り注ぐ中。その男の周りには偶然か必然か…歩みを阻むものは何も落ちてくる気配はなかった。

その男の周りだけではない。

男の横を走り抜けた男女の頭上に焼き切られた看板が落下してくるが、爆風に煽られたのか、急に方向を変えて明後日の方向に飛んで行くと飛空するバイクのようなマシン…飛行馬車に跨ったチタウリの頭部を切り飛ばした。

また、逃げる親子の手前に落下しかけたビルの破片も、一瞬宙に浮いたかと思うとまたも方向を変えて親子を避けるように飛び去っていく。

 

「…これは、一体どうなっている?」

 

困惑したような、警戒したような険しい表情の男…エリック・レーンシャーは遠くに巻き起こる爆風に煽られた黒いコートの裾を軽く払い、頭上に飛来したチタウリを飛行馬車ごと近くの金属片を利用して包み込むとそのまま圧死させる。

金属、磁気を操る男にとって、市街地戦であれば自分の庭も同然。

視界に入る範囲ではあるが、人々を襲う落下物を払い、襲ってくるチタウリを近くの鉄くずを利用して始末していく。

そうしていくうちにチタウリも自分達の敵が、アベンジャーズのメンバーだけでないことに気づいたようだ。

派手なモーションこそ見られないものの、悠々とこの戦争の真っ只中を歩いてくる男の周りが異様に静かなことに。

破壊された街の破片が男を避けて落下していき、男に向かった同胞たちは皆物言わぬ姿であたりに屍を晒している。

 

「何だ?ニューヨークに宇宙人がいるとは聞いていなかったな…お前たちに言葉が通じるとは思わないが、俺に関わるな。道を開けて大人しくしていろ、そしてそのまま巣に戻るといい。どうだ言葉がわかるか?」

 

男の言葉は理解できなかったが、敵であると認識したチタウリが、手にした武器から攻撃を放つ。

しかし、男も近くにあった車のドアで一瞬にして盾を作りその攻撃を防ぐと、そのまま手を軽く払う。

次の瞬間には途中からねじ切られた標識がその支柱ごと数体のチタウリをなぎ払い、最終的にスタッフから光弾を放ったチタウリを串刺しにして地面につき刺さった。

 

「どうにも事情はわからんが、お前たちが無差別に暴れまわっているのは、見ればわかる。俺も昔のようにミュータントにだけ肩入れするというのなら見てみぬフリも出来ただろうが、今はそうも言っていられない。事情があってな」

 

そう言い終わる頃には、近くにいた地上のチタウリは車に押しつぶされ、マンホールの蓋に、ドアのかけらに、ホイールの断片に貫かれ、切り落とされ、すでに息のある…生態はわからないが、動ける個体は存在していなかった。

 

エリックが周りに敵が居ないことを確認し、視線を上げると空に開いたワームホールと恐らくそれを生み出している光の柱が見てとれる。

あのタワーに行けばなにかわかるだろうが、こんな空にもビルのいたるところにチタウリがへばりついている状況で飛んでいくことはかなり労力がいるだろう。

ビルごと破壊するのも考えうる方法ではあるが、発生源がなくなった光の柱が消えるのか、それとも制御を失って暴走するのかわからないうちはどうにも危険な予感しかしない。

 

仕方なくエリックはこのヒーローとヴィランの一大戦争の事情をしっている人物を探して、また街の中を歩きだした。

 

「ここに彼女たちが居なければいいが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホークアイが放った矢がチタウリの額を貫き、制御を失った乗り物が仲間のチタウリを巻き込んで地上に落下していく。

そのまま爆発炎上する頃には、ホークアイは次の矢をまた別のチタウリの額にぶち当てていた。

それを繰り返すこともう半刻は過ぎただろうか?

自分にはこの戦い方しかないとわかっているが、敵の数が多すぎていい加減焦れてくるのも事実。

 

「何体いるんだかなぁ」

 

そうひとりごちてため息とともに指から放たれた矢がチタウリの頭部を刺し貫く、…一瞬前にチタウリの頭が金属のヘルメットごと潰された。

強い力で握り潰されたように頭部を失ったチタウリの体と飛行馬車が落下するのを見て眉を跳ね上げたホークアイだが、自身の放った矢が方向を変えて後続のチタウリの額を1つ、2つと連続で貫く様をみて、反射的に周囲を警戒し矢をつがえる。

 

「敵対するつもりはない、忙しいところ悪いが、話を聞かせてもらえないかと思ってな。矢は俺に効かない、好きにするといい…が俺も気が長いほうじゃない。口は動かしてくれ」

 

ホークアイが後ろに向き直れば宙に浮いた男が一人。

年の頃は30代半ばか後半くらいだろう。ラフな格好をしたドイツ系の男だ。

 

「アンタ一体何者だ?宇宙人には見えないが、ただの一般人じゃないよな?」

「一般人さ、信じられないかもしれないがただの旅行者だ。俺自身はニューヨークの人間がどうなろうとあまり興味がないのは確かだが。しかし俺の家族が巻き込まれる可能性があるのなら見逃せない。だから話を聞きにきた」

「正直な野郎は嫌いじゃないが、アンタの話を鵜呑みにするには最近被った被害が被害だったもんでね。まぁ簡単に言えば、兄弟喧嘩の末に宇宙人が大挙して地球観光にきた結果こうなってる」

 

ほぅと微かに納得したのか小さく頷いたエリックに、ホークアイは顎をしゃくる。

見ろと示唆された方に目を向ければ、そこにはニューヨークの街を泳ぐ大きな機械の魚が居た。

 

 




次回でアベンジャーズ1は終わる予定です。

エリックがサノスに勝てる見込みがあるとすると、タイムストーンを手に入れる前のタイミングじゃないと無理だと思うので、アイアンマン達とタイタンで戦うしかないんだけど、そのためにはスタークと同じチームまたは近い位置にいないと宇宙行くタイミングで一緒に行動しているのは無理だし、でもそのためにはシビルウォーでスターク側にエリックが居なきゃいけないってお前、娘がキャップ側にいる限り無理ゲーですねん。ってとこで頑張ってくれピーター(ピエトロ)

エリックの年齢ですが、アベンジャーズの時点では大体フューチャーアンドパスト(過去編)あたりの年齢設定です。
ピーターが十代後半くらいに見えたので、マキシモフ兄妹もウルトロンではそれくらいかなという予想からの逆算です。


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アベンジャーズ編2 俺の名前はマグニートー

※7/17
ざっくり仕様を修正しました。
クソ眠いときに気持ちの赴くまま書きなぐった結果があれです(白目)
たまにそんな時もあると思うけどその後ちょこちょこっと修正していると思います。


アベンジャーズ1は途中参戦ということで、最後の顔合わせが本番です。
まだアベンジャーズじゃないエリックは、いきなりニューヨーク決戦に巻き込まれてちょこっと火の粉を払うついでに手を貸す程度の位置取り。




チタウリ達の兵器、リヴァイアサンの姿を見て唖然とした様子のエリックに対し、ホークアイ…バートンは振り向きもしないまま放った矢で接近していたチタウリを射落とす。

造作もないただの作業である。気負いもない自然体ではなった矢は吸い込まれるように次々とチタウリの脳天に吸い込まれていった。

エリックもまた、険しい表情のまま近くのチタウリを飛行馬車ごと、瓦礫の中の金属を丸めて作った鉄球を操り薙ぎ払う。

いちいち近くの武器(きんぞく)を動かすのが面倒くさくなったがゆえ適当に作ってきた鉄の塊だったが、案外使い勝手は悪くない。

エリックを軸に、軌道を回る惑星のごとく時間差で自在に動き回る鉄球に、不用意に近づいたチタウリの肉体は破壊され、あるいは跳ね飛ばされていく。

エリックは手振り一つで自分の元に戻ったこぶし大の鉄球三つを、体の周囲に遊ばせたままバートンに向き直った。

 

「あのデカブツをどうにかした方がいいんだろうな?」

「ああ、できるものならお願いしたいね。話はそれからでどうだ?」

 

可能ならラッキー、出来なくても別にアベンジャーズの損害にはならない。バートンのそれは気軽な返答だ。

エリックもそれは承知しているのだろう。微かに笑って頷くと、金属を操る男はリヴァイアサンの泳ぐ方向へと身を翻し飛び去っていく。

その姿を見送ってバートンもまた周囲のチタウリを迎撃する為、次の矢をつがえた。

数日のうちに身に起こったことや、アスガルドからの神を監視していた時のことを考えれば、今新しいヒーローが突然登場したところで驚くようなことはない。

チタウリの飛行馬車達をぞろぞろ引き連れて接近してきたアイアンマンを援護する方が今は優先事項なのだ。

これしきでピンチになるような軟な男ではないが、それでも追いかけられるアイアンマンに手を貸すのが事態収拾への近道だろう。

 

「スターク、ケツにぞろぞろついて来てるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーと、弓矢の男には言ったものの…あの魚は機械じゃないのか?

エリックが自身の能力で完全にリヴァイアサンをとめるのは難しいことに気づきチタウリの数を減らしながら、どうしたものかと頭を悩ませる。

外殻の金属は使えるが、それで押しつぶそうにも本体の質量がありすぎてすんなりプチっと潰れてくれそうにない。

それもそのはず、リヴァイアサンは宇宙生物であり、その体を装甲で覆っているものの巨体の大半は生物(きんぞくではない)に該当する。

バートン相手に大きなことを言ったはいいが「機械の魚だったらすぐ潰して終わりだな」と楽観視していたエリックは、思ったより手がかかりそうな敵にどうしたものかと、うなっていた。

 

(いや、そうか。やりようはあるな。周りを見渡せばたくさんあるじゃないか。俺の力になってくれそうなモノが)

 

閃いたとばかりに顔を輝かせたエリックが、周りを飛び回るチタウリを乗っている飛行馬車ごと適当に衝突させたり落としたり、ビルにぶつけたりと掃除しながら目当てのリヴァイアサンの方に近づいていく。

相手も動いている上にエリックの磁力を利用した飛行速度はそこまで速くないため、なかなか距離が縮まらないが、それでも最短距離を移動することで詰めていく。

 

(もう少し近くで魚が地面に近づいた時を見計らって……)

「!?」

 

リヴァイアサンがふいに進行方向を変えた。変えたというか変えさせられたといったほうが正しいのだろうか。

エリックが目を凝らすと緑色の巨人がリヴァイサンの口付近にへばりついているのが見える。恐らくアレがリヴァイアサンを攻撃しているのだろう。

ビルの窓をかすりながら地面に向けて少しずつリヴァイアサンの巨体が下がっている。

 

「今だな…」

 

となれば、今がエリックとって絶好の好機。一番簡単な方法で仕留めるため、エリックは力の矛先を目当ての金属たちに合わせて軽く手招きする。

ニューヨークの摩天楼。その天辺からさらに天へ伸びる数多の避雷針がエリックの呼ぶ声に応えるように震え、次々とも持ち上がっていく。

今のエリックの能力レベルでいえば、ファースト・ジェネレーションのラスト…チャールズとの特訓を終えて能力を自在に使えるようになってきたエリックと同レベル程度だ。

まだスタジアムをまるごと運んでいた、フューチャーアンドパストの時代の彼には劣るものの、潜水艦程度なら持ち上げる事ができるし、飛んでくるミサイルだって意のままに操ることができる。

そのエリックであればニューヨーク中の避雷針をかき集めるくらいはお手の物だ。

準備は万全、あとはリヴァイアサンを仕留めるのみ。

エリックはリヴァイアサンの頭部、体…虫にピンを打つように、照準を定めるとその矛を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーがワームホールより出現したリヴァイアサンを雷で破壊(ころ)しているが、やはり討ちもらしたものも何体かでてくる。

そのうちの一匹がビルに突っ込もうとしたところにハルクが組付き、どうにかビルに衝突する軌道からそらすことができたが、組み付くので精一杯だった。

リヴァイアサンの方向を変えたもののハルクだけで、リヴァイアサンを殺すのは簡単なことではない。増援が来るか、一人で殺し切るか、どちらにしても時間はかかるに違いなかった。

リヴァイアサンの上に陣取ったハルクが、襲いかかるチタウリを返り討ちにする。しかしそのせいでリヴァイアサン本体には手が回っていない。

ソーがその様を見て自分も至近距離から雷を叩き込むべく、リヴァイアサンに飛び乗ろうとした時。リヴァイアサンの頭に空から飛来した槍が突き刺さった。

 

「何だアレは!」

 

いや、槍ではない。アベンジャーズでも地球人のメンバーが見ればわかるだろうが、ビルに設置されている避雷針がものすごい勢いでリヴァイアサンの頭を穿ったのだ。

それだけで終わらない。次々とリヴァイアサンの体を空から落ちてくる避雷針が突き刺していく。

 

「どこから…」

 

しかしチャンスには違いない。ソーは勢いよく飛び上がりリヴァイアサンの背中に着地すると、とどめとばかりに雷を叩き込む。

それが決定打になったのかリヴァイアサンはゆっくりと降下し、駅に突っ込んだところで機能を停止させた。

土煙が立ち込める中、リヴァイアサンから降りたハルクとソーが後ろを振り返れば、宙に浮かんでいる男が一人。

 

「お前は誰だ?先程の槍はお前の仕業か…?」

「槍…?槍か、あの魚を突いた避雷針の事ならそうだな。援護射撃程度には役立ったか?」

「ヒライシンというのか。槍の援護は助かったが…いや今はそれどころではない」

 

敵を倒さねば。そう言い戦場に戻ろうとするソーがハルクの胸を叩いて促すと、容赦なくハルクにぶっ飛ばされた。調子に乗るなということだろうか。

これは自分も危ないと、エリックが横にズレたとたんハルクが勢い良く跳躍する。風のようにエリックの隣を突っ切ると、敵のど真ん中に飛び込んでいった。

残されたのは微妙な空気になったソーとエリックの二人のみ。

 

「……手をかそうか?」

「頼む…」

 

ソーの上に落ちた壁の破片をエリックが瓦礫を浮かせどかしてやると、何事もなかったかのようにソーも立ち上がる。

アスガルド人だけに耐久力は人間を遥かに超えている。ほぼダメージもないまま、ハンマーを呼び寄せると、そこで初めてまじまじとエリックの顔を見やった。

 

「お前はS.H.I.E.L.D.か?見たことがないな」

「S.H.I.E.L.D.?それは知らないが、家族を探しにニューヨークに訪れたものだ。事情を聞きたかったが、あの化物どもが人類にとって敵なのはわかった。手を貸そう」

 

旅人か。手を貸すというのならあの魚を刺し貫いた槍といいこの男は役に立つだろう。何かあったとしても自分の雷がその身を焼くことになる。

ソーは「いいだろう」と軽い仕草で頷くと、ハンマーを振って壁の穴から飛び去っていった。

以心伝心にはまだ早いらしい。出会って5分だこんなものだろう。

ソーに置いていかれる形になったエリックははたして自由行動なのか?ついてこいということなのか?

わからないままエリックは壁の外に視線をやったまましばし固まっていた。

 

「……外の敵を倒していればいいのか?」

 

答える相手は既に居ない。

ソーに声をかけたことを後悔しつつ、何度か迷う仕草をした後エリックもまたコートの裾を翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ニューヨークを焼こうとした核を持ってワームホールからチタウリの母艦を叩いたアイアンマンが、力尽き宇宙から地球めがけて落ちてくるという事態になった。

アベンジャーズのメンバーがなんとか仲間(ヒーロー)を助けようと、その中の一人ハルクが飛び上がり彼を受け止めるより一瞬早く、ソーと共に近く居たエリックがその力を使い落下するアイアンマンを受け止めたのだ。

息をしているのかと騒然となる仲間に囲まれたアイアンマンがハルクの雄叫びで意識を取り戻したのかハッと起き上がり、ようやく戦いに勝利したアベンジャーズが一息つく。

笑顔を見せる仲間達を見上げて、マスクを脱いだアイアンマンもまたどれくらいぶりであろう笑顔を返す。

仲間たちがしばし笑いあい、そうしてようやくその場に作戦開始の際には居なかった男の姿を見つけ、メンバーがその男の方に向き直った。

 

「あー…ええと君は誰だ?初めて会う顔のようだが」

「ああ、さきほど知り合ってな。手を貸してもらった。槍の男だ」

 

ソーがエリックの肩をバンバン叩きながら紹介する。

バートンだけが先程見た顔の男が、その能力でスタークの窮地を救ってくれたことに気づき「スターク、恩人だぞ」と短く付け加える。

 

「槍の男ね、はじめまして、僕はトニー・スターク…助けてもらった?それはありがたいけどどうやって?君がスーパーマンには見えないけど…」

「槍の男…槍じゃないな、俺の能力は…」

 

スタークの言葉への返答代わりにエリックが脱ぎ捨てられたアイアンマンのマスクを浮かせると、スタークの手に戻してやる。

それを見て、スタークも合点がいったのかなるほど、と頷きエリックに改めて握手を求めた。

 

「超能力か?なるほど、君がどうやって助けてくれたのかわかった。改めて、命を救ってくれて感謝するよ」

「金属の扱いがうまいだけだ、エリック・レーンシャーだ。はじめましてアイアンマン」

 

握手を返しながらスタークのボディを能力を使い起こしてやる。重力に逆らって浮く体に一瞬おお!っと軽い驚きをこぼすスタークに、ソーやバートンは笑ってみせた。

しかしその穏やかな空気もここまでだ、まだ片付いて居ない問題がある。

スタークタワーを見上げてキャプテン・アメリカが真剣な眼差しで作戦を告げる。

 

「まだ終わっていないぞ、ロキを確保する」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■エピローグ エリックside

 

 

スタークのシャワルマを食べに行こうの一言で、運良く壊れていない店に腰を落ち着けることが出来たアベンジャーズと俺であったが、その食事の場でようやく事情を聞くことが出来た。

なんでも神様の兄弟喧嘩っていうのは本当だったようで、弟がヤンチャをやらかしちまった結果ニューヨークがあわや壊滅の危機になったらしい。やめて。

 

シャワルマの店で統一感のないメンバーでテーブルを囲みながら、途中参加の俺も呼んでもらい事情説明と相成ったのだ。

アイアンマンことスタークとロマノフは警戒した様子だったが、キャプテン・アメリカは最初から友好的に迎え入れてくれた。

 

「で、だ…僕たちの事情はわかったと思うが、次は君の事情も聞かせてくれるかな?ええと家族を探して放浪を続けるお父さんだっけ?」

 

「そうだ、ニューヨークがこんな有様では時間がかかるだろうから、しばらく滞在する予定だが…しかし驚いたな。世界有数の金持ちトニー・スタークに会えるとは」

 

「まぁ僕は有名だろうけど、驚くべきヒーローは他にいるんじゃないか?ほら、そこのキャプテンとか?サーファーくんは神様だし」

 

話を振られたキャプテン・アメリカが眉を寄せてスタークを嗜めている。多分半分は照れているんじゃないだろうか。神様の方は小さく「サーファー?」と言っているので恐らくわかっていない。別の世界の神様だもんな。

 

「キャプテン・アメリカが活躍した時代に俺は生まれてないからな」

 

X-MENの世界のエリック・レーンシャーならキャプテンの活躍した時代ともろかぶりなので、ヒドラ相手に戦っていたキャプテンとナチ狩りをしていたエリックなら…話は合わなかったな。

 

「ニューヨークに滞在するなら、僕のところで雇用しようか?ボディガードなんてどうだ?」

 

冗談めかしてそういうスタークに俺も苦笑する。雇ってくれるのは嬉しいが、ビッグネーム過ぎて俺には務まらないだろう。

 

「あいにく学もなければ礼儀もしらなくてな。トニー・スタークのボディガードは荷が重い」

 

「まぁまぁそう言うなよ、慣れさ!バナー博士も僕のラボに立ち寄る事になっているんだ」

 

そう言われてスタークの隣を見れば、無言でシャワルマを食べていたバナー博士が社交辞令程度に笑ってみせた。

 

「S.H.I.E.L.D.としてはあなたが連絡のとれるところに居てくれるのは助かるけど、スタークの世話は大変でしょうね」

 

同じくシャワルマをつまんでいるロマノフがそう言うが、まぁスタークもロマノフも腹の中はこういうことだろう。野放しよりはいくらか安心できるということだ。この世界、いつ敵に回るとも限らない根無し草は不安の種でしかないだろうからな。

ひとまず綱を付けておこうという魂胆だろうが、スタークの方は面白半分というか俺の能力に興味もあるみたいだ。

 

「よし、そうと決まったら早速雇用契約書を作るとしよう。ええと今更だけど君の名前は?

本名はさっき教えてもらったけど、なんていうのかなぁ。コードネーム?ヒーロー名?なんでもいいけど本名以外に教えておいてもらえると呼ぶのに困らないんだが」

 

アイアンマンみたいなものか?ホークアイだったり皆コードネームみたいなの持っているもんな。そうか、うん。俺の…エリック・レーンシャーのコードネームならこれしかない。

俺を顕す名前はーーー

 

「…マグニートー。俺の名前はマグニートーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




感想ありがとうございます!
知らない情報とか、はっと気付かされることとか頂けて助かってます。

次回はアイアンマン3かな。
アスガルドに関わるのは難しいので、ダーク・ワールドは好きな映画ではあるんですが、スルーかなと思ってます。
アイアンマン3→ウィンター・ソルジャー→ウルトロンの予定。

X-MEN2で、プラスチック製の牢獄から脱獄するときに看守から(ミスティークナイスアシスト)鉄球作るとこすっげー好きです。


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日常編1

感想や評価ありがとうございます。
7/24 日常編2と合体しました。しおり挟んでくれた方すみません。。。

エリックの故郷の味については、ドイツ国籍らしいですが出身がポーランドになっていたのでポーランド料理にしています。

記憶が混線すると、自分が誰かっていうのはすごく曖昧になるんじゃないかなぁと。
すべてを肯定してくる誰か(家族)を彼は求めているのかもしれないですね。


■エリック・レーンシャーあるいは、とあるボディガードの日常

 

 

 

「やぁ、今日も早朝から出勤ご苦労さま」

「そうか?あなた程ではないが、スタークさん」

 

スターク邸に朝の8時から上がり込んだ俺--ーエリック・レーンシャー改め仕事の時はマグニートーと名乗っている--ーは、目の下に隈をこさえた雇用主を前に軽く挨拶をすると、警備部長というホーガンが予め俺の携帯端末まで送ってくれている本日の予定に目を通す。

ホーガンはスターク個人の警備担当ではない。あくまでスターク・インダストリーズの警備担当のため、現在は会社とは関係の無いかつての上司…この場合スタークだが。その予定をまとめて送ってくれるだけで非常に感謝している。

というのも、最近のスタークは親しい間柄にあるペッパー・ポッツという女性に自社を全て任せて、外出の予定がない時はこの海辺の邸宅にこもり一日中アーマーを作っている状況だ。

俺もこの邸宅にいある間は予定という予定は特になく、一日スタークの邸宅でその作業をたまに見学させてもらいつつ、テレビを見たり、買い出しに行ったり、暇すぎて数少ないレパートリーから料理をたまに作ったりとそんな日常を送っている。

 

「それで、今日の予定は…自宅で作業…これだけか?」

「そう、それだけ!僕の予定は昨日も、一昨日も、そして今日も変わらず、思う存分趣味のアーマー制作に打ち込むこと。以上!要望は受け付けないが、質問は受け付ける」

「質問も要望も特にはないが、そろそろ食料の買い出しが必要だな。俺は10時になったら出るとしよう」

「わかった、君の料理にケチをつけるつもりはないが…あー…たまには昼食がデリでもいいんじゃないか?」

 

俺がいつも作るのは、母が作っていた素朴な家庭料理だ。まぁあまり食べる機会のないポーランド料理といってもハードなローテーションだったので飽きがくるのもわからなくはない。

ピゴス(肉とキャベツを蒸した料理)とグヤーシュ(シチューのようなもの)の二種類を交互だったので、スタークの言うことも一理ある。

 

「ふむ、そうだな…スタークさんの言うこともわからなくはない。体に良いとはいってもあまり頻繁に食べると飽きもくるだろう」

「そう!そうなんだよ!特にピ・・ゴスだっけ?あっちはしばらく食べなくても味が染み付いたというか…最近は()にでてくるくらいでね」

 

ならば仕方がない、暇だったので料理くらいしかすることがなかったのだが、今日はデリで済ませて明後日はグヤーシュを作るとしよう。

俺は近くのマリブに一時的な住まいを与えられているので、夜はそこへ帰るからスタークが何を食べているのかしらないが、昼だけで飽きるとはそんなに作っていただろうか?

グヤーシュは母の料理の中でも俺が一番好きだった料理で、俺自身は毎日食べても飽きないので、こればかりは個人の味覚の問題かもしれない。

 

「では買い出しは無しにして、正午前にデリを注文するのでそれまでに食べたいものを言っておいてくれ」

「わかった、それまで僕は2,3時間ラボに籠もるからここで好きにしててくれ。なんだったら出かけていても構わない」

「いや、家族の捜索にはS.H.I.E.L.D.も手を貸してくれているし、俺も休みを当てている。気を使わなくていい」

 

何を隠そう、スタークのボディガードだが、週休3日なのだ。高待遇すぎだろう?しかも本来契約上は10時出勤の19時終わりだ。

俺が8時に出勤しているのは自主的なものなのだが、しっかり残業手当も出してくれている。貰って良いものか迷ったが、あって困らないのが金のいいところだ。

俺の出勤についてだが、何もなければ一日置きにスターク邸での警護。それとは別にスタークが長時間外出する際はボディガードとしてついていくのが仕事になる。

S.H.I.E.L.D.に行ったり、他にもいろいろ遠出することもあるが、大抵は短期だ。

 

「OK、じゃあそういうことで、まかせるよボディーガードくん。僕はラボにいる」

 

そういって地下のラボに降りていくスタークだが、やはり()()()()()()()()()のか足元はふらついて心もとない。

俺がここしばらく出勤時間を早めているのはこれが理由だったりする。

夢にピゴスが出てきてくれるくらい眠れていたら、あんな様にはなっていないだろうに。

 

 

 

ニューヨークの決戦後、スタークの様子がおかしいことに気づいたのはいつだっただろうか?

自分の邸宅に籠りがちになり、アーマーを次から次へ作っていく姿に違和感はなかった。

技術者ならこんなものなのだろうと思っていたが、ホーガン…スタークが呼ぶのはハッピーという名だったが。そのハッピーも気にしてそれとなく警備に力を入れ、気を使っている様子だ。

そのハッピーの徐々に変化する様子に、恐らく今の状況がスターク本来の生活スタイルではないのではないかと考えるようになった。

そしてその予想はあたっていたらしく、夜を徹して制作されるアーマーと、比例するように濃くなっていく目の下の隈。

これは眠れていないのだと気づいた。

それ以上にスタークの状況は悪いのだと確信する出来事を、ある日偶然にも俺は目にすることになるのだが。

ニュースで取り上げられたニューヨークの様子。チタウリの残骸の映像にリヴァイアサンの乗っかったままのビル映像。

過去のそれらが今もたまにニュースで取り上げられることがある。

俺はとくに気にしたこともなかったが、スタークはそれを見るなりよたよたとソファーに座り込み、青ざめた顔で這いつくばるようにラボへ消えていった。

ニューヨークの一件がスタークに与えた影響は色濃く。俺はそれを見て警戒を深めることにした。

アーマーは山のようにあるとしても、それを扱うのは人間だ。今のスタークを狙われたら彼は生き残れるのか?

いや、もしかしたらスタークこそが暴走してアーマーをまとい破壊をもたらすことだって考えられる。

そういったこともあり、俺は朝も早くからスターク邸を訪れ、暇な日常を過ごしているのだ。

ーーーいや、話し相手ならいた。

 

「やぁ、君にも挨拶が必要だった。失礼したなJ.A.R.V.I.S.」

『おはようございます、レーンシャー様。本日もご出勤ご苦労様です』

 

人間のように流暢な言葉を返してくれるのは人工知能のJ.A.R.V.I.S.だ。俺の数少ない話し相手である。

 

「さて、俺は今日も馴染んだソファーで優雅なティータイムだが、なにかやることはないか?」

『先日、タイヤの空気も入れていただきましたし、特にないかと』

「そうか…ではひとまずテレビで情報収集をするとしよう」

 

やはりテレビ以外にない。出かけるのはやめようと言ったばかりだが、時間があまって仕方がないので午後はやはり買い出しだ。

スタークにグヤーシュでも作り置いてやろう。

俺は今日の予定にそう付け加えると、ひとまずリモコンを呼び寄せテレビのチャンネルをニュース番組に合わせた。

 

 

 

--------------

 

 

 

ーーー妻子を探すようになったころからだろうか。前の世界の俺について記憶が曖昧になっていくのとは逆に、どんどん鮮明になってきた記憶がある。

エリックが年を重ねる中でどんどん埋没していった別の誰かの記憶。大学に通い、家族が皆存命で、退屈で平和な毎日が訪れる誰かの記憶。

今では時たま水面に顔を出すクジラやイルカのように、ふとした瞬間断片が浮上しては消えていくようになったが。

そんな俺の記憶以外に今のエリックが、本来持たない筈の別の記憶がある。年を重ねるごとに鮮明になるその記憶とは、ピーター、マグダ、ニーナ…そして母エディ。

他にはチャールズやレイブン、ハンク、ハボックなど初代X-MENのメンバー、ブラザーフッドのことだ。これはすべて映画で見たエリック・レーンシャーの家族、仲間たち、関わった人々に関するものばかりだった。

最初こそ映画で見たからだろうと思っていた。エリックのことも映画で見たこと以外の情報は記憶になく、好きな映画の好きなキャラクターだったから覚えているのだろうと。

だが、徐々にではあるが、何か違和感を感じるようになった。これは本当に映画を見たからなのか?

映画館で、または自宅のテレビで、X-MENの映画を見ている。視点はそれに間違いない。しかし、これは映画の記憶なのか?

もしかして別の世界のエリック(・・・・・・・・・)のことをまるで映画を、ドラマを見るように俺が見ているのではないか?

今の俺には判別できないが、すんなりエリックの持つミュータント能力を使いこなせたのも、俺の自己暗示と映画をなぞっただけの努力とは関係なく。何か別に理由があるのではないかと今では考えるようになった。

俺という人格がエリック・レーンシャーに宿ったのか、それともエリック・レーンシャーが俺という誰かの記憶を覗き見ただけなのか。

それにまだ答えは出ていないが、今はまだ会えないでいる俺の家族に会えたなら、その時は本当の俺になれる気がするのだ。

 

 

 

 

午後になってスターク邸を出た俺が向かったのは比較的近くにあるマリブの町だ。セレブが住むだけあって物価も高く、俺としてはとても買い物がし難いところである。

スタークが俺に払っている給料は俺が人生で貰った給料の中でも桁が一つ、出張手当が入れば二つ違うのだが、今後のためにあまり使わないようにと考えると、どうにも財布のひもも固くなるという所だ。

さらに車で遠出してサンタモニカまで足を伸ばせばもう少しリーズナブルだが、ボディガードが買い物と往復で何時間もかけていられない。

中心部のマーケットで食材を買い込み、スタークから借りている車に放り込むと、スターク邸に戻るべく運転席に乗り込む。

スタークはきっとラボでアーマーを作っているのだろう。今度はどんな機能を追加するのか少し楽しみでもある。男はみんなああいったロボットに憧れるものだ。

 

「たまには何か差し入れもいいか…」

 

ふいに思い付いたのは午後の一番暑い時間帯だけあって俺自身喉が渇いていたせいか、スタークの冴えない顔を見飽きてきたからなのか。少しだけ、働いてばかりいた母に何もできなかった子供を思い出したのは内緒である。

しかしそんなただの思い付きの行動が運命を変えることもある。そしてその運命の岐路というのは、何気なく訪れるのかもしれない。

 

(スタークはコーヒーか?ブラック?頭を使うなら甘いものがいいのか…?)

 

なんとなくではあるが、ブラックのイメージがあるものの、そういえばコーヒーは俺が入れたことはなかったのを思い出す。ボディガードであって家政婦ではないのだから、料理を作っているのだって暇つぶしなのだ。

そんな俺が帰り道にある町中のカフェによって、あれこれ考えつつメニューを眺めていた時だった。

 

「ありがとうございました」

 

若い女の声だった。このエリックには本来覚えのない筈の…しかし違う世界のエリックには覚えがあったのか、電気が走ったかのように一瞬硬直したあと、勢いよく声の方に向き直った。突然体ごと後ろを向いた俺に驚いたのか、少し後ろで客を見送っていた店員が驚きトレーを取り落とす。

反射的に能力を使ったのは、頭が真っ白だったからだ、けして使おうと思ったわけではない。それなりの店らしく、装飾をあしらったトレーが床につく直前で停止し、慌てて手を伸ばした女の店員の手に収まる。

しゃがみこんだ位置だったので、俺と女の店員しか見ていないだろうが、彼女の目が見開かれたのがわかった。驚いた彼女が顔を上げる前に、俺は慌てて店を飛び出すと近くのパーキングにとめていた車に飛び乗り急いでその場を後にする。

店から飛び出したのか、あたりを見回す店員の横をすり抜け、スターク邸へ逃げかえるように車を走らせる。

西海岸の海に反射した日差しが眩しいが、今はそれどころではなかった。

つい、能力を使ってしまった。そんなこと今までなかったことだしあってはならないことだ。

しかし使ってしまった。衝動的に、考え無しに行使した力に驚いた彼女の顔が離れない。記憶にこびりついた顔だった。

 

『おかえりなさいませ、……レーンシャー様?何かございましたか?』

 

スターク邸に転がり込む俺にJ.A.R.V.I.S.が声をかけてくれるが、荷物すら車においたままの俺には当然その声に答える余裕はない。

朝も座ったソファーに座り込むと同時に目の前が歪んでいることに気づいた。

ああ、俺が泣いているのかエリックが泣いているのか…両手で顔を覆って気遣いの言葉を投げかけてくるJ.A.R.V.I.S.から顔を隠す。

恥ずかしいことこの上ない…しかし止まらない。

 

「…ああ、…マグダ…」

 

そうか、この世界には彼女がいるのか。X-MENの世界の彼女はヨーロッパにいたが、まさかアメリカで会うなんて思わないだろう。

その日、俺は間違いなく使い物にならないボディガードだったに違いない。そのままスタークがラボから戻るまでマグダとニーナのことを思い出していた。

 

 

 




アポカリプスでマグダとニーナの件がショックすぎて、お前ら幸せになれよぉって思った次第です。
マグダとどうなるかはわからないけど、ちゃんと彼女もこの世界では生きてるんだぜという話でした。


ピーター&ピエトロのアンケートについてもありがとうございました!
参考に今後ウルトロンで登場させたいと思います。


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アイアンマン3編 前編

めちゃくちゃ遅くなりました…そしてめちゃくちゃ家で寝るだけの生活続けていました。終電逃して同僚宅に泊まるのもうアカン。。。

エクストリミスって高温を発生させるんなら金属とかしちゃいそうだけど、アーマーはすぐに溶かせなかったのである程度厚さがあれば行けそうかな??


―――昔、ある著名人が言った”人は自ら悪魔を創る”と。

著名人が言ったから私も言ってみた。これで二人の著名人が言った言葉になる…

私は…最初から話そう。物語の初めから。

 

 

 

 

1999年のスイス ベルンの夜。インセン、ウー博士。のちにスタークに関わる人々との一瞬の邂逅。そしてマヤ・ハンセンとキリアン。果たされなかったキリアンとの約束と、ハンセンの研究。仕組まれた運命のように一夜にして絡まってしまった3人の因縁は、13年後アイアンマンとなったスタークに新たな戦いを呼び込むこととなる。

カリフォルニア州マリブのスターク邸で、スタークがマーク42のテストを終えてテレビをつけている頃。

マリブに用意された仮の住まいで、カフェで買ってきたコーヒーを飲みながらテレビを見ていたエリック・レーンシャーもまた、突然の電波ジャックを目撃した一人になっていた。

 

「マンダリン?」

 

テロのニュースが飛び交う中、エリックはテーブルに置いてあった連絡用に渡されている端末を手に取る。スタークやその関係者からの連絡がないことを確認して連絡先からスタークのアドレスをタップする。目を離した間にテレビではアイアンパトリオットの映像が流れているようだが、今は雇用主への確認が先だ。

エリックが端末からスタークの連絡先を呼び出すより早く、操作していた端末が鳴る。

 

「やぁ、ホーガン。今スターク氏に連絡しようと思っていたところだ」

「レーンシャーさん、トニーには私から連絡するので、話を聞いてほしい」

「うん…?」

 

あくまで雇用主はトニー・スタークなのだが、ホーガン…ハッピーにも常日頃世話になっている自覚のあるエリックは迷った。今この時間ならスタークはペッパー・ポッツと一緒だろうか?自分の勤務時間でもなし、急いで連絡する必要はあるのか?

マンダリンの問題はアメリカの問題であり、ヒーローとして正体を公表しているスタークは関わらざるを得ないだろうが、しかし今すぐにマンダリンの棲家に突撃する訳でもなし。

出した結論は、ハッピーの話を聞くことだった。

 

「わかった、それでなんの相談だ?」

「先ほどのニュースを見ていたなら、予想はできると思うがトニーは必ず関わろうとするだろう。だがあなたもわかっていると思うが最近の…ニューヨーク以来トニーの様子がおかしい。ボディガードにあなたを雇ってはいるが、いざというときにあなたがそばいない可能性だって無いわけではない」

「そうだな、ホーガン。君の言う通りだ、が、スターク氏だってアイアンマンとして今まで戦ってきたヒーローなんだろう?俺がいないときに、例えばミサイルを撃ち込まれたとしても、スターク氏が簡単にやられるとも思えないが」

「ああ、そうだ。あの人は今やヒーローだ。だが無敵でもなければ不死身でもない。私が今護衛しているのはペッパーさんでトニーの護衛はあなただ。嫌な予感がする…心配性だと思うかもしれないが…あぁうまく言えないがヤバイ気がするんだ」

「いや、そうだな。わかるよ、人間の直感は侮れないものだ。俺も今のニュースで嫌なものを感じた。ただのテロリストというのは簡単だが、今のスターク氏の様子を鑑みるに用心に越したことはない」

 

そう同意すれば、少し弾んだ声が返ってくる。正直な話、エリックからすればマンダリンは良くいる自己顕示欲の強いただのテロリストという印象でしかない。しかしハッピーの言うようにスタークの様子が気がかりだった。

未だかつてない絶不調の今、なるべくトラブルは避けるべきだろう。

 

「何かあれば連絡する。スターク氏の方は任せてもらっていい」

 

 

 

 

 

 

「なに?出勤?いやその必要はない」

 

次の日エリックがスタークに、休みの予定だったが出勤するかどうか伺いの連絡を取ったところ返ってきたのは実にあっけらかんとしたNOの返事だった。

 

「今日は先約があってね。アイアンパトリオットの彼と会ってくる。夜はペッパーも来るし、君の出勤は予定通り明日で構わない」

「なるほど、そういうことなら明日行ったときに話そう」

「マンダリン?」

 

エリックがyesと答えればスタークは軽く笑って、すぐにマンダリンなんて名前聞かなくなると答えた。

スタークも気にはなっても、所詮人間のテロリスト程度の認識なのだろう。宇宙人やらを相手にしていたのだし、今更感があるのかもしれない。

そうエリックは考え無理に行くことはないと思い直す。

 

「じゃあ出かける支度がある、また明日会おう」

「ああ、何かあれば連絡を」

 

スタークとの通話が切れるといよいよエリックも手持無沙汰になった。今日はもう出勤するつもりでいたので、予定など何も考えていなかったのだ。

マリブの街に出るか考えたが休みなのだし今の仮住まいでゆっくりするのもいいだろうと結論を出し、能力を使いキッチンに置きっぱなしにしていたコーヒーを手元に移動させる。

そして、手近にあった読みかけの雑誌を開く。スポーツの雑誌だったようで、特に興味のわかない内容が綴られているが、暇つぶしくらいには役に立つ。

ベースボール選手のインタビューを読みながら、エリックはそういえばと、たまに想像する家族のことを考え始めていた。

息子は今何をしているのか。もしかしたらベースボールが好きかもしれない。そこそこ自分もできるだろうが、若いころから鉄の球を投げる方が得意だったと考え思わず苦笑いを浮かべる。

何事もなくテレビを見て、簡単な料理を作り昼を終え、たまに端末を確認しても連絡がないので、さてこのまま一日は何事もなく終わるだろうと、エリックが思い始めたのは日が落ちてきた頃だった。

夜は外に出て何か食べるか、買うかするかと思考を巡らせていたエリックの端末が音を立てる。

一瞬にして手元に引き寄せた端末の通話ボタンを押せば、昨夜話したばかりのハッピーの固い声が聞こえてきた。

 

「レーンシャーさん、頼みがある。今夜は私の護衛についてきてくれないだろうか」

 

逡巡するのはほんの一時の間で、エリックはその頼みを引き受けると、いつものコートを片手に部屋を出る。

指定された街までは時間がかかるが、おそらくマリブからでもハッピーと待ち合わせた時間に間に合う範囲のはずだ。

 

「急ぐがひとつ条件がある。ベルトでもなんでもいいが金属を多く身に着けていてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

トニーのボディガードである、エリック・レーンシャーに連絡を取ったものの、ハッピーに待つ時間はなかった。キリアンの部下を調べ、後をつけていたら何やら様子がおかしい。

手に持ったケースに誰かを待っているかのような素振り。おそらく取引か何かだろうとあたりをつけたハッピーが人の波に交じり、様子を窺う。

エリックに連絡を取ったのは、ハッピー曰く、嫌な予感がしたからだ。エリックがいるのはマリブだし、間に合わない可能性の方が高い。トニーが専属で雇う彼が何やらすごいパワーを持っているのは知らされていたが、それがどういったパワーなのかわからないハッピーからしてみれば、何かあった時の保険だった。

トニーの近くから彼を引き離すのは少し不安があったが、これで何か掴むことができればポッツやトニーにとってもプラスになるだろう。

いよいよキリアンの部下が動いたのは、エリックに連絡を取ってから一時間程度だろうか、過ぎた時だった。

精悍だが、どこか覇気のない男性とキリアンの部下は簡単なやり取りをして、そのまま男性にスーツケースを渡し離れていく。

 

(今だ…!)

 

鏡ごしにそのやりとりを確認したハッピーが男性に近づき、偶然を装いぶつかると体格の大きなハッピーとぶつかった男性は派手によろけてスーツケースを取り落とす。

 

「おっと失礼」

 

地面に落下したスーツケースが衝撃で開き、中から何か金属のようなものが散らばった。ハッピーは男性が気づかないようその中の一つをくすねその場を立ち去ろうとする。

だが、今度はそんなハッピーに誰かがぶつかった。ハッとしたハッピーが衝撃のまま振り向けばそこには、その場を去ったはずのキリアンの部下の姿があった。

 

「よぉ!あんたか、こんな夜に一人何をしている?これからデートでも?」

「ああ、パーティはおしまいって映画を見に行くんだ。主役はお前たち、これがチケット」

 

ハッピーが掲げた金属の何かを見た、キリアンの部下の顔色が変わる。「それはお前のじゃない」短く吐き捨ててハッピーの手から奪おうと手を伸ばすが、ハッピーがかわす方が早い。

一瞬のにらみ合いののち、動いたのはハッピーだった。切れのあるジャブが男の顔を狙うが一発目は軽く避けられる。フェイントを入れ二発目を頬に叩き込んだが、ハッピーの予想に反して男がダメージを受けた気配はない。

 

「⁉」

 

数歩よろけただけで、すぐに体勢を立て直した…いや、よろけたのも演技だったのか、ハッピーの方に顔を上げた男の頬は赤く光りを帯びていた。軽く笑った男の頬の光が収まると、そこにあるはずのハッピーが殴った痕は完全に消えている。

何事もなかったかのように、立っている男に殴ったハッピーが困惑に引きつった表情のまま硬直する。しかし足元から駆け上がってくる得体のしれない不気味な寒気に今度は大振りに拳を突き出す。男をとらえるはずだったハッピーの拳が、悠々と避けた男の横を通り過ぎる。

そしてその勢いのままハッピーの腕を掴むと、男は力任せに腕をねじり上げ大柄なハッピーを軽々と投げ飛ばす。

声もでないまま宙を舞うハッピーだったが、ガラスを突き破る直前に重力に逆らって体が宙に再び引き上げられた。

 

「ぐっ⁉」

 

頭を大きく揺さぶられたが、落下の衝撃がないことに恐る恐る目をあければ、宙に浮いた自分とそれを悲鳴交じりに見上げる一般人の群れ。

離れたところで目を見開いていたキリアンの部下が正気に戻り、ハッピーの方へ走りこんでくる。仰向けのまま宙に浮いたため、頭がガクンとのけぞり、天地が逆さになった状態でそれを視界に収めたハッピーが焦りに身をよじった。

 

「間に合ったな、先にパーティを始めているとは…いや予想通りか」

 

かなり飛ばしてきたが、途中捕まらなかったのは運がよかった。そう言って笑うエリックの姿が足元にあったのに気づいたハッピーが「レーンシャーさん⁉」とひっくりかえった声を上げる。

宙に浮いたハッピーの横に並んだエリックが手を向ければ、眼前に迫っていた男の体が急に後ろに吹っ飛んだ。人のいなかった出店に突っ込んだ男に驚いたハッピーが、エリックと吹っ飛んで姿の見えなくなったキリアンの部下を見比べるように顔をきょろきょろさせていた。

そんなハッピーをゆっくり地面に下ろしながらエリックが声をかける。

 

「それで、あれがあなたの敵か?」

「わからないが、おそらくトニーの敵だ、…キリアンの側近で名前は確かサヴィン」

 

なるほど。とつぶやいたエリックが再び手をかざす。近くの車や出店に使われていた鉄材が次々と宙に浮く様を見て周りの人々が悲鳴を上げて広場から逃げ去っていく。

 

「レーンシャーさん!」

「逃げてくれると助かるな、派手にできる」

 

混乱しながら逃げる市民を見て思わず非難の声を上げるハッピーに薄い笑みを敷いたまま答えると、エリックはそれをキリアンの側近…サヴィンに向けていつでも落とせるよう待機させる。

広場にはエリックとハッピー、出店に埋もれたサヴィンのみ…いや、もう一人の姿が現れる。人が逃げ去ったあと、座り込んでサヴィンから受け取った金属の吸入器のようなものから何かを吸い上げる男性が一人。

 

「あれは…!」

 

ハッピーが気づき身構えると同時に男性の体が赤く光りだした。いや違う、先ほどもなにか頬が光っていたような気もする。

 

「助けて…!助けてく、れ…‼」

 

体中から赤い光を放ち始めた男性が助けてくれと懇願の声を上げる。エリックも意識を一瞬そちらに持っていかれた。しかし注意をそらした一瞬で、サヴィンの埋もれていたはずの崩れた出店が赤く光り覆いかぶさっていた木片がはじけ飛んだ。

 

「!」

 

再びサヴィンの方へ視線を向け、一気に空中に待機させていた車を叩き落す。その間にも助けてくれと懇願する男の声が聞こえていたが、それよりサヴィンの方だ。もう一方の手をかざし、サヴィンを引っ張り出そうとするが手ごたえがないことに気づく。

先ほどは反応したサヴィンの身に着けていた金属が反応しない。仕方なく宙に浮かせたままだった鉄材を追加でくれてやろうとエリックが身構えたその時。

 

「レーンシャーさん!何か…!!!」

 

おかしい。そういうつもりだったのかハッピーが焦りも濃くエリックに向き直った。

しかしハッピーの言葉よりはやく、助けを求めていた男性の体がさらに強く光りだした。あたかも弾ける前の恒星のように。

エリックができたことはまだ近くに止めてあった車をハッピーと自分の前に引き寄せることだけだった。

間に合ったかどうか確認できないまま、強い衝撃と熱を感じた瞬間車ごと吹き飛ばされ、エリックの意識はぶつんと途切れた。

広場全体を吹き飛ばすほど大きな爆発は、人間が起こしたものだった。その爆発を起こした張本人は、爆発と一緒に吹き飛んだが。

広場から逃げた人々が今度は大きな爆発に新たな悲鳴をあげ、付近にいた人々も逃げまどい、運悪く被害を受けた建物も一部は吹き飛び、崩れひどい様相を呈していた。

 

「………ッ⁉」

 

車と共に吹き飛ばされたエリックが意識を取り戻した頃、あたり一面は炎と煙、瓦礫にまみれ、まるで戦場の…いつかのニューヨークのようだった。意識を飛ばしていたのは数分のようだったが、すでに周りに人の姿も、何店舗かあった出店の形も残っていない。

幸い大きなケガがないだけ幸運だったのだろう。上体をなんとか起こしながらあたりを見回せば、近くで倒れているハッピーの姿がある。薄く目を開け周囲を見回しているので命は助かったようだ。

安堵の息をついたエリックだったが、遠いところの瓦礫が崩れ、寄りかかるように身を起こした男の姿に愕然と目を見開いた。

赤く光る足で広場の外に向かってよたよた歩く男は、徐々にその姿勢を正していく。修復されている。肉体が…!

その様を見たハッピーもまた驚愕に顔を引きつらせて息を荒くしている。

 

「…ミュータント…」

 

吐き出すように零れ落ちたエリックの言葉はハッピーの耳には届いていなかったようだ。

近づいてくる消防と救急車の音を聞きながら、エリックとハッピーは去っていくサヴィンの姿を見送るしかなかった。

 

 

 




サヴァンの名前はエリックっていうそうで。因縁は作るもの…!

トニーはマンダリンがアイアンマン1のテロ組織のボスって知ってるんだろうけど、エリックはその因縁も知らないので、ただのテロ組織っていう印象しかなかったんです。
人間爆弾で吹っ飛ばされるまでは。

映画のマグニートーなら二人同時に処理(相手は死ぬ)くらいどうとでもできるだろうけど、このエリックはナチ狩りもしてなければ、今まで戦闘らしい戦闘なんてニューヨークまでしたことないので、実際の経験値はすごく少ないんじゃないかなということで、こうなりました。

ひとまず書けるとこまで書いたので後から直したり、追加したりしたいと思います(スヤァ


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