どうも、錬金術師で女の子の友達が多い転生者です (シュリンプ1012)
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第一章 転生したけど、まぁ何とかなるでしょ編
転生しちゃった!?


どうも、シュリンプ1012です!
読み専門だったのですが、書きたくなっちゃったので
書いちゃいました。

処女作ですので、温かい目で見てくださると嬉しいです。
駄文にならないといいなぁ(小並感)


––––気がつくと、俺は真っ白な空間にいた。

周囲を見渡しても、先にあるのは代わり映えのしない、

真っ白な空間だった。

 

「おや、気がついたようだね」

 

すると、若い男の声が聞こえてきた。全く知らない男の声だ。

声の聞こえた方に目を向ける。

 

目を向けた先には、さっきまで居なかった筈の所に

男が立っていた。男の服装は神話に出てくる神様が着る物に似ている。……まぁ、神話についてはあまり知らないが。

 

「お、なんか私の服装が神話に出てくる神様が着る物に

似ている!みたいな顔してるねぇ」

 

なんだこいつ、初対面のくせに随分と生意気な奴だな。

あとサラッと思ってる事バレたんだが。なんなんだ、一体?

 

「うんうん、最初は困惑するよねぇ。分かるよその気持ち。

私も最初は困ったもんだよ。この仕事に就いてまだ数年ぐらいなんだけど、それがもう大変のなんのって。それで……」

 

話が長すぎるので割愛させていただくが要約するとどうやら、

この人は神話に出てくるような神様らしい。ご本人でした。うん。

 

それでいて俺はどうやら不慮の事故で死んでしまったらしい。

まさかとは思ったがもう死んでしまっていたとは、いやはや、

なんとも不幸な。因みに事故の詳細を聞こうと思ったけど、

質問する前に話が進んでいってしまった為できなかった。

 

あとは神様の上司が嫌だとか、仕事の量が多いとか、ただの愚痴話だつた。これが社会の闇というヤツか……。

 

「いやぁごめんね?愚痴話聞かせちゃって。もう最近溜まりに溜まっちゃってさー。アハハ」

 

神様は頭を掻きながらそう話す。

いやアハハじゃないよ。話聞かされた身にもなってくれ。悲しくなってきたわ。誰かこの人に酒もってこーい。

 

「…あ、そういえば全然本題に入ってなかったね。ごめんごめん」

 

本題?一体何のことだろうか。死んでしまったから天国か地獄の

どちらかに行け、みたいな話だろうか。……これ閻魔大王の仕事か。

いるのか知らんが。

 

「君に提案があるんだ。君は不慮の事故によって人としての生涯を

終えてしまった。現に君、人ではないからね」

 

そう言いながら神は俺の方を指差す。

 

人ではない?それは一体どういうことだろうか。

 

「……あれ?」

 

自分の身体をよく見ようと腕を動かしてみる。が、腕を動かした感覚がまるで無い。同様に、足を動かしてみても足が動いた感覚が無い。

隅々まで見ようと、自分の首を動かそうとする。だが、先程と同様、

と言うよりも首があるという感覚が無いのだ。

 

「あ、ごめんね。それだとよく見れないか」

 

ほい、と軽く言いながら神は指を鳴らす。すると、俺の目の前に少し大きめの鏡が現れた。流石神様、そういうことが出来るとは。

 

だが、鏡に映った物を見て、俺は思わず息を呑んだ。

 

「……ウワォ」

 

鏡に映ったのは煌々と蒼く光る、目の付いた灯火だった。

鏡に目を離さず左、右と捻ってみる。鏡に映った灯火も同じ様に動いた。

これは間違いない。これは–––

 

「–––俺、なのか」

 

目をパチクリとさせる。これは間違いない。これは俺だ。

こんな姿になったなんて……死んでしまったのだなと感じさせてくれる。

 

「どうだい?見ての通り、君はもう死んでしまった。だからこのままだと天国か地獄か決める為に私の上司の下に行くんだよ」

 

神様は苦笑いを浮かべる。余程上司が嫌なのか。てか、上司って

絶対閻魔大王だろ。何だこの天界上下関係。

 

「そこでだ。先程提案があると言っただろう?その提案というのが––」

 

そこで神様は一区切りし、一歩前に前進する。

その顔はどこか嬉しそうだった。

 

「君を……君を転生させることなんだ!!」

 

どーん!!と効果音が聞こえそうな程の覇気ある声で

神様はそう言った。

 

転生……か

 

「ふーん」

「いやなんか塩対応!?」

 

落雷が落ちたかの様に神様は驚きの表情を浮かべた。

あれ?そんな塩対応だったか。これでも驚いているのだが。もう少し驚嘆の声をあげるべきだったのか。

 

よし、やり直してみよう。

 

「な、なんだって〜!?」

 

どうだろうか。こうすれば他の人が見ても、陰キャみたいな奴が

実は陽キャだった!並に驚いている様に見えるだろう。なる筈だ。

 

「わざわざやり直さなくてもいいよ……」

「あ、さいですか」

 

神様にやり直さなくていいと言われてしまった。

本人がそう言うなら仕方ない。本人がそう言うのならば……。だが神様よ、一つだけ言わせてくれ。

 

 

 

それ最初に言えや!

 

 

コホン、と神様が注意を引く。

 

「話を戻すけど、君は天国に、はたまた地獄に行くのではなく、

前世の知識をそのまま持って一から人生をやり直す、

謂わば『転生をする』という選択肢があるんだ」

 

ほう、選択肢……とな?つまり…

 

「つまり、転生しなくてもいいんだ」

 

「うん、そうそう転生しなくても……って、うええええ!?」

 

神様の驚嘆の叫びに思わず耳を塞ぐ。

耳キーンってなったわ。あ、やべぇ目回りそう。

 

「何考えてるの!?転生しないっていう事は私の上司の所に行くんだよ!?あの人の所行くって事は、なっっっっっっがい話を聞かされる

って事なんだよ!?あの人の話ほんっっっっっとに長いからね!?

どれくらい長いかっていうと、それはもうアマゾン川よりも……」

 

「だああ!!分かった!分かりましたから!

熱弁モードに入らないで!」

 

ゼェゼェ、とお互いに息を切らす。

てか、人生終わってるのに息切らすなんてことあるのか。初めてしったわ。そんでもって閻魔大王(上司)がもの凄く嫌いなんだな、

この神様。

 

「分かりましたよ。転生してやっちゃいますよ、やったく」

 

「そうか!そうだよねぇ、転生するよねぇ!良かったぁ…」

 

そっと胸を撫で下ろす神様。

え、何?この業界転生させることがノルマなの?え、怖。

 

「さて、転生させるにあたって、一つだけ特典を授ける事に

なってるんだ」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

「そ。それで特典を決める方法なんだけど…」

 

ほほい、とまた軽快な声とともに指を鳴らす。すると神様の手元に

束になったカードが現れた。

 

「この中から、一枚選ぶ。それでそのカードに書いてあった物が

転生特典になるんだ」

 

ふふんふふーん♪と鼻歌を歌いながら、カードをシャッフルする。

なんだよこれ、めっちゃ運ゲーじゃねぇか。

 

「……ほい。それじゃ、一番上のカードを引いて?」

 

そう言いながら神様はシャッフルした山札を差し出してきた。

ま、そこはもう運ゲーだ。なる様になれと言う感覚で行こう。

 

一番上のカードを引く。そこに書かれていたのは……

 

 

「『鋼の錬金術師』……?」

「おお!凄いじゃないか!」

 

神様が喜びの声をあげる。

いや、なんであんたが喜んでんだよ。普通俺がする所だろ。

 

「いやぁ、鋼の錬金術師といえば、超が付くほどの大作じゃないか!

その作中に出てくる錬金術が使えるなんて!うーん!なんて君は

ラッキーボーイなんだ!」

 

神様が喜びの舞を披露する。

ただ、ここで一つ問題が発生してしまった。

 

「神様神様」

 

「ん?なんだい?」

 

 

 

「俺、鋼の錬金術師あんま知らないんですけど」

 

「……え?」

 

笑顔のまま硬直してしまった神様。

いや、 名前ぐらいは知っているのだが、なんか凄い難しそうなストーリーだったから読んでいないのだ。俺、ここで痛感のミス。やばいね。

 

「……そ、そっか。知らないか。アハハ……はぁ」

 

神様が落胆の気持ちを露わにする。

やべぇ、めっちゃ罪悪感が芽生えてくるんだが。なんか、ごめんなさい。

 

「……まあ気を取り直していこう!知らないのなら、これから知っていけばいいんだ!ハッハッハ!!」

 

先程の暗い雰囲気を打開するように、神様が大声で笑う。

なるほど、これが営業スマイルというやつなのか。……そうなのか?

 

「よし!これから君の新しい物語が始まる!

だから私から激励の言葉を送らせてくれ!……コホン。

 

祝え!前世の知識を受け継ぎ、錬金術を習得した、

物語を紡いでいく転生者の誕生である!」

 

神様が祝辞を述べ終わると、足下に大きな扉が現れた。

え、まさかこの扉が開いてLet'sスカイダイビング!みたいな感じするの?やだよ俺。

 

「それじゃ、頑張ってね。あと、ありがとう。私の愚痴を聞いて

くれて」

 

足下の扉が開く。扉の先は黒一色。そこから無数の手が現れ、

俺の灯火(身体)を包む。そのまま扉の奥へと引きずり込んで行った。

あ、これ スカイダイビングよりも過酷なやつだったわ。(精神的に)

 

「あいええええええ!!?」

 

俺の発した断末魔を最後に、大きな扉は閉じていった。

俺は扉が閉じるよりも早く気を失ったのであった–––。

 

 

 

 




嘘だろ…!?原作キャラが一人も出てないじゃないか…!
と思ったそこの貴方!次回!ちゃんと出します!
ふへへなあの人を……ね?


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『ふへへ』なあの子がこの世で初めての友達(らしい)

あ、やべぇタグに『不定期』って入れるの忘れてた……
後で入れとかないと。

そんなこんなで、二話ですぞ!


「……んぅ」

 

 

 

暗闇から脱却したかのように、俺は意識を覚醒させる。

 

……何だろう、ものすごい夢を見ていた気がする。確か、

死んじゃったから神様の下に行って、その神様の愚痴を聞いてからなんやかんやで君転生するよ。……みたいな夢だった気がする。

 

 

 

今でも鮮明に覚えている。夢なのに。でも、夢の中の俺は確か手足の無い、人魂みたいな見た目だったはずだ。

 

 

 

よっこいしょ、と寝起きの身体を起こす。どうやら俺は樹木を背に寝ていたようだ。どんな所で寝てんだよ、俺。

 

足があることを確認し、重い身体を起こして立ち上がる。

 

ふと、二つの違和感が俺を襲う。

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

まず一つ。明らかに背が低いのだ。寝ぼけていて中腰の姿勢でいればまだ良いのだが、今の俺は中腰ではなく、

後ろにある立派な樹木のように背筋をピーンとさせている。

なのにだ。背筋ピーンとさせているのに本来の身長よりも確実に背が低いのだ。

 

そして二つ。周りの景色が明らかにおかしい事だ。

キャッキャウフフと追いかけっこをしている女の子。

仮面ラ○ダーだ!と決め台詞を言って参上する男の子。

そして終いには俺から見て左側にある建物だ。そこに書かれていたのは……

 

「花咲川……幼稚園?」

 

そう。その建物にはデカデカと『花咲川幼稚園』と建物の上層部に書かれていたのだ。

 

……幼稚園?

 

俺は思わず自分の服装を確認する。

 

–––上半身は袖や首にゴムの入った水色のスモック。下半身は薄茶色の半ズボン。スモックには名札であろう物が安全ピンで留めてあった。

 

安全ピンを外し、名札に書いてある文字を読む。

 

「『こうの れんじ』……?」

 

 

 

その名札には、『つぼみぐみ こうの れんじ』と全く知らない名前が平仮名で書かれていたのだ。

 

……嗚呼、さっきの夢じゃないのか……。

 

 

 

 

 

 

〜〜思考中〜〜

 

 

 

 

 

 

 

……どうやら、本当に転生してしまったらしい。

先程自分の頰を抓ってみたが、何も変わらず後に残ったのは抓った痛みと、これは夢ではないという確信だけだった。

あと自分の頬っぺたプニプニしてて気持ちよかった。やったね。

 

……って、そんな事考えてる場合じゃない。

よし、まずは今の現状を整理しよう。

 

まず、俺はこの世界ではどういった存在なのか。

分かっているのは、俺の名前が『こうの れんじ』と

いう名前で、所属している組が『つぼみぐみ』である

事だ。

 

……え、これだけ?

もう一度脳を回転させ、自分の知っている情報を

確認する。……あ、これだけだ、こん畜生。

 

つまるところ俺は、年齢不詳、親の顔知らずの幼い少年、という事になってしまう。まさか親の顔だけでなく、自分の年齢も分からないとは……。

 

……気を取り直して次だ。次は周囲の状況について

考えよう。

 

まずは、周囲を確認してみよう。どれどれ……?

 

……確認した結果、ここを中心としてみると、

東西南北の四方向(どっちが東でどっちが西なのか

知らないが)全ての壁が均等に離れている。ふむ、

つまりここはこの庭の中心部なのか。承知した。

 

「……ん?まてよ…」

 

ここである疑問が生じた。それは()()()()()()()()()()()。普通、幼稚園児というのは、一人で

いるなんて事はまずない。必ず二人以上で行動する筈だ。

 

対して俺はどうだろう。俺は()()で樹木を背に寝ていた、という先程の前提から外れた事をしている。

この事から立てられる仮説は……

 

『俺、実はぼっちだった』という説だ。

……うわぁ、幼稚園の頃からぼっちとか、ないわぁ。

 

「……やめだ、やめ。考えるのが嫌になってくるわ」

 

一旦思考を止めて散策してみよう。生憎、太陽が

真上に来ているため、今はお昼時だ。そして空腹も

満たされているから、もうお昼は食ってある事が分かる。

ので、食後の運動という意味も込めて

歩くとしよう、そうしよう。

 

 

 

〜〜俺、お散歩中〜〜

 

 

 

……散策中、誰にも声を掛けられなかったんだが。

誰か一人ぐらい話しかけてくれるかなぁ、なんて思ってたけど、現実ってそんなに甘くなかった。

 

「おい、そこどけよ!」

 

不意に男の子の怒号に似た声が後ろから聞こえた。

周囲の目線がそちらに集まる。……が、またすぐに、各々がやっていた事を再開し始めた。

 

周囲から、「またやってる〜」「せんせいこないの?」などの声が聞こえる。

 

またやってる?まさか、これが殆ど毎日起きているのだろうか。オイオイ、先生仕事してんのか?……これはちょっと言いすぎか。まあいいや。

 

俺は男の子の声のした方に恐る恐る近づく。場所は

砂場。そこには男の子が三人が、女の子一人を囲んでいるような形をしていた。

 

「ここはおれたちがつかうんだ!!『やまと』は

おとなしくあのきのしたでねてろ!あとでつかわせてやるから!」

「あ、えっと、その……」

 

男の子の気迫に、女の子が口ごもってしまう。

おいおい、男子が女子に向かって脅迫まがいなことしてんじゃないよ、まったく。……仕方ない、社会の常識ってやつを教えてやるか。

 

「おい、もうそこら辺にしとけって」

 

俺は男の子の肩に手を乗せる。だが、それが気に食わなかったのか、凄い形相でこちらを向いてきた。

 

「あぁ!?だれだおまえ!」

 

男の子がまたも怒鳴る。

やめろ、耳元で騒ぐな。頭キーンってなるだろうが。

 

すると、男の子は俺の容姿を隅々まで見てきた。

なんだ、この歳でもうそんな趣味持ってんのかこの子。なんて育て方してんだ親は。

 

「おい!おまえ『つぼみぐみ』じゃねーか!!おれたちは『さくらぐみ』だぞ!!けいごつかえや!!」

 

男の子は自分の名札を指差す。そこには『さくらぐみ

きさらぎ ゆうや」と書かれていた。

成る程、年上だったのか。これは失礼なことをした。

だけど、年上には敬語使うのは知ってるくせして、

女の子に脅迫まがいな事をしてはいけない、という事は知らないのか……(困惑)

 

「こらー!何そこで騒いでるのー!?」

 

すると、向こうから先生らしき人が走ってきた。

きっと先程の怒号が聞こえてきたのだろう。

……そうだ、ちょっと意地悪してみよう。

 

「せんせぇー、きさらぎくんがやまとさんを怒鳴り散らしてましたー」

 

はぁ!?と、きさらぎくんが驚きの声を上げる。

ふっ、してやったぜ。

 

「……きさらぎくん?またそんな事してたの?」

「え!?あ、いやべ、べつに」

「問答無用、ちょっとこっち来なさい!!」

「せんせいまって!まっ…ちくしょー!おぼえとけよー!!」

 

最後に捨て台詞を吐き捨てながら、先生に首根っこを

掴まれて園内へと、きさらぎくんは消えていった。

終始無言だった他二人の男子は、「つれてかれちゃった」

「あっちで遊んでよーぜ」と、滑り台の方に行ってしまった。残されたのは俺と『やまと』ちゃん一人だけ。

……めっちゃ気まずい……。

 

「あ、あの、れんくん!」

 

そんな気まずい雰囲気をぶち壊したのは『やまと』

ちゃんだった。

 

……ん?今()()()()って言わなかったか?

 

「すみません、すぐにいけなくて……。その、ここであそんでたら、ついついじかんが分からなくなって

しまって……」

 

申し訳なさそうな顔をしながら待ち合わせ場所に来れなかった理由を説明してくれた。

いや、ま、待ってくれ。そんな約束してたのか。

知らないぞそんなの。

 

「そ、そんな約束してたっけ……?」

「え!?わすれちゃったんですか!?」

 

『やまと』ちゃんが驚いた表情を浮かべる。

うーむ、この反応は嘘を話しているわけでは無さそうだ。元より疑ってはいないが。

 

そして、ここで確実に分かった事がある。

俺と『やまと』ちゃんはこんな約束をする仲であった事が今分かった。この事から、俺と『やまと』ちゃんは()()()()()ことが分かった。

 

……良かったぁ。幼稚園早々ボッチなのかと思ったぜぇ……。

 

「ど、どうしたんですか?なんでそんなおちついた

かおをして…?」

「え!?あ、いや別に……」

 

ふと、『やまと』ちゃんの胸元に付けてある名札に

目が向いた。そこに書かれていたのは、『さくらぐみ やまと まや』と書かれていた。

さくらぐみ……という事は先程のきさらぎくんと

同じく年上なのか。なるへそ。

 

すると突然、やまとちゃんが俺の手を掴んできた。

 

「それじゃ、あのきのしたにいきましょう!」

 

えっ、またあそこまで戻らないといけないのか。

まあ、別にいいけど。でも、あそこで何するんだろうか?

 

「ねぇやまとちゃん。あの樹の下でなにやるのさ?」

「え、なにって、いつもどおりですよ?」

「いつも通り?」

 

やまとちゃんが首を傾げる。

いや、いつも通りってなんだい。いつも何やってるの二人で?

 

「なんだか、きょうのれんくんおかしいですよ?

いつものって、()()()()()()?」

「……え」

 

–––拝啓、天界にいる神様へ。

俺は転生して数分後、やまとちゃん(小さい女の子)と一緒にお昼寝するという、高難易度に挑戦するようです。

 

 

理性保てるか不安なんだが。

 

 

 

 

 




やっと原作キャラ出せた……。
あと、オリキャラも出すことにしました。
タグは追加されるもの、はっきりわかんだね。


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寝言『フヘヘ」の破壊力と、君、意外に几帳面だったんだ事件

あとちょっとで夏休みだぁ。
これでいっぱいかけるぞ〜٩( ᐛ )و


「おーい こうのくん、やまとちゃん?そろそろ起きてー!」

 

「…ぬぁ?」

 

誰かに起こされて、俺は意識を覚醒させる。

あの後俺とやまとちゃんは、あの樹木の下でお昼寝をしていた。最初寝れるのか心配したが、身体が幼いからか、すぐに寝る事が出来た。それはもうグッスリと。

 

あ、あと誰が起こしてくれたんだろう。まあ大方、先生だと思うが。

 

「お昼寝もいいけど、もう夕方だよ?グッスリ寝むるのもいいけど風邪引かないように、ね?」

 

屈んで起こしてくれた人は、予想通り先生だった。

……予想通りではあったけど、めっちゃめちゃ美人の女の先生だった。髪は後ろで纏められており、先生から仄かに香るバラの匂いが俺の鼻腔をくすぐる。

 

……あれ、この人さっき見たような……

 

「…あ!さっきき……」

「き…?」

 

あれ?さっき連れてかれた子の名前なんだっけか。

ええっと確かき……金次郎だっけか。ん?いや違うな。こんな小学校に建てられてる銅像の名前じゃなかった気がする。じゃなんだっけ……?

 

ま、どーでもいいか。

 

「……やっぱ何でもないです」

「あらそう?……あ、そうだ。やまとちゃんを起こしてあげて?私が起こしても起きてくれないから」

 

やまとちゃんの方に指を差す先生。

いや、先生が起こしても起きなかったのに、なんで俺にやらせるんだよ。おかしいやろそんなん。

 

ま、女の子(やまとちゃん)の寝顔見たいから起こすけどね。

 

「はーい。ほら、やまとちゃんそろそろ起き……」

 

俺はやまとちゃんが居る方向に顔を向ける。

 

 

 

–––そこには涎を垂らした眠り姫(やまとちゃん)がいた。

 

「グホォァ!?」

「えぇ!?どうしたのこうのくん!?」

 

なんだよ今の!?可愛すぎるぅ!?!?可愛すぎて

死ぬうぅぅ!?!?寝言で「ふへへ」って言ってるウゥゥウゥゥアアアア!?!!? くそ、気を保て俺!!

こんな事でロリコンになどになったりは……

 

「……ん?」

 

何だろうか。俺の腕が何かに包まれている感じがする。

気になった俺は包まれている感じがする左腕を見やる。そこには……。

 

「……あ」

 

…… 何故気付かなかったのだろう。何故横を向いた時に気付かなかったのだろう。

俺の腕はなんと、やまとちゃんの腕に抱かれていたのだ。

 

「……フへへ」

「……ガハッ」

「こうのくん!?ちょっと、こうのくーん!?」

 

やまとちゃんに腕を抱かれていた衝撃に、俺は

だんだん暗闇へと沈んでいった。

 

 

寝言で「フヘヘ」は駄目、ゼッタイ。

 

 

 

 

…………………………

………………

…………

……

 

 

 

 

 

「……は!?」

 

目が醒めると、俺はベットの上にいた。

あれ、俺なんでこんな所にいるんだ?俺は確か外にある樹の下で寝てたはず……?

 

「……あぁ、起きたのかい?」

 

どうしてこんな所に?と考えていると、横から女の人の声が聞こえた。誰だろうと横を見ると、そこには

眼鏡を掛けたお婆さんが椅子に座っていた。

 

「起きたならほれ、さっさと行った」

「え、あ、はい…?」

 

誰かも分からないお婆さんに促され、俺はベットから降りる。……あ、ベットが意外に高かった。

 

ベットから降りた俺は、部屋の出口へと向かう。

……あれ?出口に向かったはいいものの、何処に行けばいいんだ?

 

「……うん?なんだい、どこ行けばいいのか分かんないのかい?いつものとこだよ。そこにみんないるから。丁寧に教えてあげたんだから、感謝しな!」

 

俺がどこ行けばいいのオーラを出していると、お婆さんは懇切丁寧(?)に教えてくれた。

……いや、全然丁寧に教えてないわ。場所分かんないし。何処なの?

 

「……まさか、場所が分からないとか抜かすんじゃないわよね。全く、寝ぼけてんのかい!?……ほら、着いてきな」

 

よっこいしょと椅子から立ち上がる。そしてそのまま出口を抜け、何処かに行ってしまった。

 

あ、待ってー、置いてかないでぇ!!

 

俺はお婆さんを見失わないように、お婆さんに着いて行くのであった。

 

 

 

〜〜俺、移動中〜〜

 

 

 

「ほら、ここだよ」

 

連れてこられたのは、『遊戯室』と書かれた扉の前だった。お婆さんが扉を開ける。

 

「おいやまと!あいつはどこだよ!?おれはあいつにようがあるんだよ!!」

「そ、そんなこといわれても……」

 

扉が開かれると、やまとちゃんと……名前が本当に

分からない彼が何やら口喧嘩をしていた。あの二人以外は誰もいなかった。あと、彼の発言からして、口喧嘩の原因は俺にあるらしい。

 

「こら!ゆうや!何やってんだい!!女の子と喧嘩なんて、男が廃るよ!!」

「え!?ば、ばっちゃん!?いや、これはその…」

「あ、えんちょうせんせい!こんにちは!」

 

『 えんちょうせんせい』……と言われたお婆さんは

やまとちゃんたちの口喧嘩を止めに入った。

……ん?『えんちょうせんせい』……?

 

–––– 園長先生!?なんだ、この人園長先生だったんだ。へぇ、何でここにいたのか納得だわ。

 

「……あ!おまえ、どこいってたんだよ!?さがしたんだぞこのやろー!?」

 

すると、彼が俺を見つけるとズケズケとこちらに歩いてきた。やっぱり俺に何か用があるのか。何なんだいまったく。

 

「おまえ、よくもこのおれさまをこけにしてくれたな!!おれをこけにしていいのは、おれよりつよいやつだけだ!!」

 

幼い声でそう言うと、手に持っていたバックを漁り出した。

その歳で『コケにした』なんて言葉知ってるのか。

たまげたなぁ。

 

「……だから、これでしょうぶだ!!」

 

バックの中から勢いよく『ある物』を取り出した。

その『ある物』というのは……

 

「……折り紙?」

 

そう、折り紙だった。これは意外。……意外だけど、これでどうやって勝負するんだ。

 

「これをつかって、どっちがさきに『おりづる』を10まい折れるかしょうぶだ!!」

 

びしっ!!と効果音が聴こえそうな程の力強さで

指を指す彼。成る程、そういう勝負の仕方があるのか。中々やるやん。

 

「あ、ずるいですよ!じぶんがおるのとくいだからって!」

「うるせぇ!!かてればいいんだよ!」

 

ほう、そんな性格していて、鶴を折るのが得意なのか。中々器用なヤツだと見た。あと、対戦相手を前にして、自分の得意分野に持ち込んだこと言うとは、

中々のバカとも見た。

 

「良いぞ。その勝負引き受けた」

「え!うけるんですか!?」

 

俺が勝負を承諾すると、やまとちゃんが驚きを隠せないでいた。まぁ、多分暇しそうだし、面白そうだったから…ね。

 

「それじゃあ、勝負と行こうか……きじま!」

「だれだ、きじまって!!おれはきさらぎだっ!!」

 

あ、あいつの名前きさらぎだったのか。間違えちゃった、てへっ☆

 

「はぁ、勝手にやってなよ。まったく……」

「あ!えんちょうせんせいもみていきましょうよ!」

「えぇ?……しょうがないねぇ」

 

 

 

 

 

…………………………

……………

………

……

 

 

 

 

「ま、まけた……」

「ま、ドンマイ」

 

結果から言おう。10ー5で俺の勝ちだった。

最初は様子見でゆっくり折ってたら、きさらぎくんが

まあまあ速く折ってたもんだから、俺も本気出しちゃったよ。

 

「……っと、やまとちゃんはどこ行ったんだ?」

 

勝負に夢中で忘れてた。やまとちゃんと園長先生は何やってんだろうか。えーっとどこだぁ……?

 

「……それでここはこうやって折って」

「えっと、ここをこうして……」

 

どこにいるか探す必要は無かった。何故なら、すぐ後ろで俺達とは別で折り紙を折っていたからだ。

 

「……ん?あぁ、終わったかい?」

「え?あ、はい終わりました」

「それじゃあ後片付けを……」

 

園長先生が説明している途中、入り口の扉が開いた。

開けたのは、お昼にきさらぎくんを園内に連れていった、若い女の先生だった。

 

「あっ、園長先生こんな所にいたんですか!……って、こうのくん!よかったぁ元気そうで」

「え?あぁ、はい元気ですけど?」

 

よかったぁ、と胸を撫で下ろす先生。

ん?なんか俺にあったのか?俺はこの通り元気百倍

状態だけど。

 

ふと、やまとちゃんの方が気になった。何故だろう、

急に気になった。なんか脳がそっち向いたら面白い事が起きるみたいな信号を発令している。

 

気になったので、俺はやまとちゃんの方を見る。

すると、目が合った途端、やまとちゃんが180度回転して俺に背を向けた。一瞬見えた顔は少し紅くなって

いるように見えた。

 

「……え?」

「あら、覚えてないの?やまとちゃん、涎垂らしながらこうのくんの腕を「わああ!?やめて下さい!」……フフッ、そうね♪」

 

慌てて止めるやまとちゃん。ん?なんか俺されたのか?……まあ、あんま気にしてはないから良いけど。

 

「それで?何の用だい?菜々子先生?」

「あ!忘れてました。こうのくんのお母さんが

お迎えにあがりました」

「あら、もうそんな時間なのかい。それじゃあ、行くよ」

 

園長先生は立ち上がって、そのまま菜々子先生の横を通り過ぎていった。……って!また置いてこうしないでぇ!?

 

 

あ、今思ったけど、俺、両親の顔見てないや。

どうなんだろうなぁ、俺のあ母さんって美人なのかなぁ。

 

そんな事を思いながら、先に部屋を出ていった園長先生をおっていくのであった––––––。

 

 




ふう、何とか3枚目を出す事ができた。
前書きでもいった通り、夏休みまであとちょっとしかないので
いっぱい投稿できるぞぉ٩( ᐛ )و


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新たな家族と神様の手紙


後半からめっちゃ説明的になってるぅ……。
うーんこん畜生。(汚い)



「……あら、そうなんですか?それならうちのれんじも……って、れんじ!」

 

園長先生を追いかけて着いたのは、園内の玄関口だった。そこには三人の女の人が。

恐らく、俺の名前を呼んだ人が俺のお母さんだろう。

……めっちゃ美人で草生えた。てか、この世界美人多すぎん?もう三人程美人(やまとちゃん、先生、お母さん」に会ってるのだが。嬉しいを通り越してもう怖いのだが。

 

「園長先生、こんな時間までありがとうございます」

「ふふっ、大丈夫ですよ。こちらも仕事なのでね」

 

お母さんがお礼を申し上げると、園長先生が笑って答える。

おいおい園長先生、そんな答え方でいいのだろうか。

 

「あの……園長先生。その…まやは……」

「ああ、やまとさんね、すぐに呼ぶよ。……あ、後

ゆうやもね」

「ごめんねぇお母さん!……もしかして、ゆうや今日も何かしちゃった?」

「あぁしてたよ。この子にね」

 

園長先生がそう言うと、俺の頭を軽く二回叩いた。

もしかしてこの二人、親子関係なのだろうか。もし

そうなら、さっききさらぎくんが園長先生に向かって『ばっちゃん』と言っていたのも頷ける。

 

園長先生の発言にきさらぎくんのお母さんがプルプルと震え出す。そして…

 

「わあああん!!ごめんなさぁぁぁい!うちの……

うちのゆうやが……うぁぁぁん!!」

「うわぁ!?」

 

なんとこちらに飛びつき、抱きしめてきたのだ。

くっ、何という抱擁力……!これが母親の力という

やつか……!そして胸が…当たるぅ!!

 

「本当にごめんなさい!うちのゆうやがぁぁ……」

 

泣きながら俺のお母さんに土下座した。

こんなに謝らなくてもいいんだけど……。

 

「だ、大丈夫ですよ!れんじもこの通り元気ですので!」

「全くもってその通りです」

「え"……ホント、でずが…?」

 

泣きすぎて鼻声になってしまった、きさらぎ母。

そこまで泣く程なのか……(困惑)

 

「あ!おかあさん!」

「あ、かあちゃん」

 

すると、奥の方からやまとちゃんときさらぎくんが

ヒョコッと出てきた。

あ、きさらぎくん今出てきたらヤバイ、と俺の脳が

警告している。きさらぎくんニゲテェ。

 

「ん?かあちゃんどうした?」

「……」

 

きさらぎくんの問いに黙りこんでしまったお母さん。

あ、きさらぎくん……○んだわ。

 

「……ゆうやぁぁぁぁぁ!!

「えぇぇ!?」

 

怒りに身を任せ、きさらぎくんの肩を鷲掴み、グラグラと揺らすお母さん。

うわぁ、大変そうだなぁ(他人事)

 

「あんたはいっつもいつも!れんじくんに謝りなさい!!」

「はぁ!?何で歳下なんかn「四の五の言うな!」痛って!?」

 

きさらぎくんの頭に綺麗な拳骨が入る。ゴツンッて

言ったぞ今。めっちゃ痛そう(小並感)

 

「ほらっ!謝って!」

「……」

「…っ!……くっ、この…!」

 

 

俺は無言できさらぎくんを見つめる。

こうすれば、相手は「あれ、これマジで怒ってる?」と思わせる事ができるのだ。……まあ、今考えたから信憑性0だけど。

 

「……えっと、その」

「うん」

「……ごめんなさい」

 

きさらぎくんが頭を下げる。

 

「別にいいよ」

「え"?」

 

俺の今の発言を聞いて、勢いよく頭を上げる。その表情は「何で許すの?」みたいな疑問を抱いているような表情だった。

 

別にこちらは気にしてはいない。寧ろ、小さい子は

これぐらいの元気があった方が良いと思うぐらいだ。

 

それに何より……

 

「今日は退屈しなかったから。寧ろ楽しかった」

「っ!?」

 

そう、楽しかったのだ。多分だが、きさらぎくんがいなかったら、ずっと外で寝ていただろう。やまとちゃんと友達だった事にも気付かなかったし。それが、こんな楽しい思いをするなんて……。

 

「あんがと、俺と遊んでくれて」

「っ!!?!?!!」

 

俺の感謝の言葉を聞いて、顔を熟したトマトの様に

赤くするきさらぎくん。

あれ、そんな恥づかしかったのかな。

 

「……きーやん

「ん?」

 

今なんて言った?聞き取れなかった。

 

「……あしたから『きーやん』ってよべ!やまと!お前もだ!」

「じ、じぶんもっすか!?」

 

俺とやまとちゃんにそう言い残すと、お母さんよりも

先に外へと飛び出してしまった。お母さんがその後を

追う。やまとちゃん、とばっちりじゃないか。

 

「あ、待って!ゆうやぁ!」

 

「……行っちゃった」

「……ですね。……じぶんたちもかえりましょうか」

「そだね」

 

あの後、俺のお母さんとやまとちゃん、そしてやまとちゃんのお母さんとで帰りましたとさ。

ちゃんちゃん。

 

 

 

 

〜〜俺達、帰宅中〜〜

 

 

 

 

「おお……」

 

終わると思った?残念、まだ続くよ。

そんなこんなで、俺は今、自分の新しい家に着いた所だった。

家はまあまあ大きい方だと思われる。

 

「どうしたの、れんじ?早く入ろ?」

「あ、はーい」

 

お母さんに呼ばれたので、俺は家に入っていった。

……ふと、家の表札が気になった。

なんで気になったか?それは、『こうの』という読み方は分かるが、その『こうの』と読める漢字が分からなかったからだ。

『KOUNO』だったら泣くよ……?

 

「どんな漢字かなぁ……っと」

 

俺は表札を見る。そこに書かれていたのは……

 

「『光野』……」

 

『光野』。表札にはそう書かれていた。

 

 

 

 

 

………………………

……………

………

……

 

 

 

「はーい、れんじくんのお部屋ですよ〜」

「おぉ……」

 

俺は思わず感嘆の声をあげる。

家に入って手を洗い、お母さんに抱えられて俺は

二階の俺の部屋に連れていかれた。まあ、俺の身体はまだ幼児だからね、(お母さんに抱えられるのは) 仕方ないね。……ラッキースケベ?そんなの知らないなぁ。

 

「お着替えはここに置いておきますよ〜」

「あ、はーい」

 

俺を下ろし、着替えを置いてお母さんは下へと向かう。着替えは何処から出した、なんて野暮な事は聞くまい。大人の事情で片付けられそうだし……ね?

 

「にしても広いなぁ…自分の部屋ってこんなに大きいのか?」

 

自分の部屋をぐるっと見渡す。

見渡した感じ、この部屋は六畳ぐらいと見た。……

幼児の部屋にしては大きくないか?まぁ多分、先を見据えての事なのだろうが。

 

「……ん?」

 

ふと、部屋にあった幼児用の机が目に入った。その机の上に、何やら封筒らしきものがあった。俺はその封筒を手に取る。

 

「差出人は……神様?」

 

裏を見ると、そこにはデカデカと『神様から!ちゃんと読んで!!』と。念を押すかのように強調された

字が書いてあった。神様、そんな強調しなくても読むから。心配しなくて良いから。

 

「取り敢えず、開けてみるか。ぺりぺりぺり〜っと」

 

接着剤で塗られていた所を綺麗に剥がし、封筒に入っていたものを取り出す。封筒から出てきたのは、

一通の手紙と、魔法陣?みたいなものが描かれていた

紙が一枚だった。

 

「何だこれ?神様の落書き?……にしても綺麗に

描いてあるなぁ」

 

魔法陣?の描かれていた紙を取り敢えず一蹴し、

もう一枚あった手紙を読む事にする。

 

その内容は次のようなものだった。

 

「拝啓 光野様

 

転生先は如何お過ごしでしょうか。私は相変わらず、

上司の言いなりとなっております。

……まあ、こんな愚痴は置いといて、本題に入っていきましょう。というのも、君に送った特典について

です。君は『鋼の錬金術師』をあまり知らない、

と言っていましたよね?ですので、私なりに『錬金術』についてまとめてみました。……あまり、まとめるのは得意ではないので、そこは大目にみて下さいね」

 

一枚はここで終わっていた。最初の方マジの愚痴だったんだが。神様も大変だなぁ。

後、『錬金術』についてもまとめて下さるとは、

仕事大変なのに、有り難い事だなあ。

 

さて、二枚目いってみよう。

 

「それでは、錬金術について説明していきます。

 

まず、世間一般で言われている『錬金術』と、

あの世界での『錬金術』の違いを説明していこう。

 

世間一般の『錬金術』は簡単に言えば、アルミニウムや亜鉛などの卑金属という種類を、金や銀などといった貴金属に変えようとする手段の事なんだけど、

あっち(ハガレン)の世界ではそんな事はなくて、

『等価交換の法則』と呼ばれる法則によって成り立っているんだ。

例えば、石で出来た歩道があるとしよう。そこで

錬金術を使う。ここで錬金術を使えば、質量の許す限り、石壁や石でできた武器を錬成できるんだ。

 

ここで必要なのが『錬成陣』と呼ばれる魔法陣のような物がいるんだ。これは数式で言う『=』のような物でもあり(厳密には違うけど)、数式そのものでもあるんだ。

 

一緒にあった紙も錬成陣の一つだから試しに使ってみて?さっき例で挙げた『石』を錬成する時に使う錬成陣だからね。後は自分で調べて、錬成陣を作ってみて。(投げやり)

 

ここで最後に一つだけ!錬成する時は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが一番大事だと思うよ。

 

物凄く長くなったけど、君の転生ライフが良いものになる様、願っているよ!

 

愚痴の多い神様より」

 

 

文章はここで終わっていた。

……物凄く長かったなぁ。まあでも、錬金術?についてよく分かった様な気がする。

 

「……そういえば、お腹空いたわ」

 

お腹空いたし、下に行くか。……あ、そういえば、

転生してまだ何も食ってないや。そりゃお腹も空くわなぁ。

 

そうと決まれば、お母さんの所にレッツラゴー!

 

 

 




錬金術に関しては自分の解釈のもと、書いてあります。
ですので、「違ウダルオォ!?」みたいに思ったらご指摘を下さい。
何卒、宜しくお願いしますm(_ _)m

あ、あと、きさらぎくんのあだ名については後々分かってきます。
べ、別に谷川さんと被ってるなんて、思ってないんだからね!!


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一番重要な事を伝え忘れると後々大変な事が起こる

ヤベェ、話をちょっと急展開にしすぎたかもしれない……。
まぁでも、何とかなるよ、多分(投げやり感)

あと、今回は神様視点から始まります。


 

「……あぁ、仕事多すぎる〜」

 

机の上にある書類の山の前でげんなりしてしまう僕。

もう仕事多すぎるンゴ〜。上司(あの人)僕に仕事任せすぎだよぉ……泣きそう。

 

「そろそろ休んだ方がいいんじゃないんですか、先輩?もう三日は寝てないじゃないですか」

「あはは、そうしたいのは山々なんだけどねぇ…」

 

僕のぐんなり具合を見て心配してくれる後輩。

後輩君がいるだけで癒されていくなんて、どんだけ

仕事してんだろうなぁ僕()。

 

「……あ、そういえばあの子に渡しておきましたよ。

お手紙」

「あ、ありがとー!いやぁごめんねぇ、わざわざ下界にまで行かせちゃって」

 

後輩があの子–––光野君に手紙を渡してくれたことを報告してくれた。渡しておかないと上司に怒られちゃうから良かったぁ。

 

「でもあの手紙、ちょっと文章長すぎやしませんか?

説明もちょっとオタクぽかったし」

「え、見たの!?僕の書いた手紙!!」

「え?えぇ、封筒に入れる時にチョロっと」

「……あぁ」

 

そうだった、封筒に入れるの後輩に任せたんだった。

くっ!僕が忙しくなければ……!

 

「それでなんですけど、()()()()、教えなくていいんですか?」

「?あのことって?」

 

後輩が訳の分からないことを質問してきた。

あのことってどんなことだっけ?

 

「ほら、アレですよ。えっとぉ……あそうだ、()()についてですよ」

「特典?……あれ?僕書いてなかったっけ?」

 

確かに僕は彼に授けた特典–––『錬金術』についても

まとめたし、あと、『あのこと』も……

 

ん?『あのこと』?

 

 

「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!!!?!」

「うわ、びっくりした」

 

しまった……!『あのこと』について説明するの

忘れてた……!一番重要な事忘れてたぁ…!

 

「やっちゃった、やっちゃった、やっちゃったぁ…!」

「せ、先輩?机に頭叩きつけるのやめた方がいいですよ!」

 

後輩が僕の行為を制止してくる。

後輩よ、止めないでくれ……!これは僕への罰なんだ……!『あのこと』を伝え忘れた僕への……!

 

「懺悔してるのは分かりますよ!?けど、此処ではやめた方が……!!」

「……え?」

 

後輩の発言に行動をピタッと止める僕。

え、何?此処ではやめてほしい?一体、どうゆう事?

 

 

ふと、机の上にあった書類の山が目に入った。その書類は何故かユラユラと揺れている。

 

「あ…(察し)」

 

この後の展開が分かってしまった。……ハハッ、

僕って神様なのになんでこんなにも不幸なんだろう。

 

「……イヤァァァァァァァ!!?!」

 

僕の叫びに気にもしない様に、書類の山は雪崩の如く崩れていった。

せっかく……内容ごとに纏めてたのにぃ……。

 

「あちゃあ、やっちゃいましたね、先輩」

「……」

「……纏めましょうか」

「……うん」

 

後輩の提案に同意するしかなかった僕は椅子から立ち上がり、床に散らばった書類を手に取る。こんなとこ、他の同僚(神様)に見られたら恥ずかしいよぉ……。

 

「嗚呼……お酒の味が恋しいなぁ……」

「なら、ちゃっちゃと仕事終わらせましょう?」

「……そうだねぇ」

 

僕の愚痴に、ごもっともな答えを返してきた後輩。

……はあ、何回も言うけどお酒の味が恋しいよぉ…。

 

–––書類を纏めていく中、ある書類が僕の目に止まった。が、先程見た物だったので、すぐに書類の山に

乗せる。

 

この書類にはこう書いてあった。

 

「転生者 光野殿に授けられた特典には、色々と語弊がある事が確認された。特典は『錬金術』だけでなく、もう一つ––––

 

 

 

––––『憤怒』の固有能力がある事が確認された。

直ちに転生者に報告せよ」

 

 

 

 

 

…………………………

……………

………

……

 

 

 

 

「ぶえっくしょい!!」

「あら、大丈夫?風邪でも引いてしまったかしら…」

「あ、いや大丈夫だよお母さん、多分」

 

太陽の光が燦々と降り注ぎ、その光が舞い降りる桜に当たる。その光景はまるで、俺を迎え入れている様だ。

 

–––俺が転生してから約二年の月日が経った。

最初はどうなるのかと不安だったが、大和ちゃんや、きーやんこと如月のお陰で楽しく過ごすことが出来た。……先に二人は幼稚園を卒園してしまったので、あとの一年はまあまあ退屈ではあったが。

 

「……でも、本当に大丈夫?だって如月君や大和ちゃんはいないのよ?」

「大丈夫だよ。何回も言ってるけど、此処の方が家から近いんだし」

 

そう、実は今から通う事になる小学校–––『花咲川小学校』には、きーやんや大和ちゃんはいないのだ。

二人は『羽丘小学校』という別の小学校に通っている。

二人にこの事を話したら、二人とも「そんなぁ」と

嘆いていた。きーやんに関してはそれだけでなく、

普通に殴ってきたので、俺は大人の対応をしてあげた。ま、精神年齢的には俺の方が上だからね。

 

「でも、あの時は大変だったわぁ。貴方が如月君を背負い投げしたものだから……」

 

……もう一度言っておこう。俺は大人の対応をしたまでだ。別にパンチしてきたから咄嗟に背負い投げしちゃったとか、本当にそういうものではないから(汗)

 

「……あら、話していたらもう着いちゃった」

「あ、本当だ」

 

気がつくと、俺達はもう小学校に着いていた。

 

「それじゃ、行ってらっしゃい!」

「りょーかい、お母さん」

 

お母さんに促され、俺は小学校の門をくぐる。

 

–––そうだ。一つ言っておくことがある。

俺の胸には幼稚園にいた時と同じく、名札が付いている。だか、幼稚園の時とは違う点が一つだけある。

それは名前が()()()()である事だ。

 

 

––––俺の名前は『光野 蓮司』。

俺は今、小学校の入学式に向かっているところだ。

 

 

第一章 完




と、言うことで第一章 完!
……ちょっと早過ぎたかもしれないなぁ。
これは全て私の責任だ。だが私は謝らない。(何処ぞの所長風)

第二章は小学校編となりますので、多分長くなるかも……?


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自己紹介と次章予告という名の尺稼ぎ『第一章編』

はい、タイトルの通り、尺稼ぎですぅ。
やばいですぅ、次の章に誰出そうか迷ってるんですぅぅ。





 

光野 蓮司

 

今作の主人公。神様によって転生してもらった転生者。転生した際に授かった特典『鋼の錬金術師』については、あまり原作を知らないため、まず原作を観ることから始めているらしい。因みに、この時点で友達は大和と如月しかいない。幼稚園児で友達が二人しかいないとは、これいかに()

 

 

大和 麻弥

 

蓮司の初めての友達。この時点ではまだ眼鏡をしていないが、少し引きこもり気味なところがこの時から見られる。蓮司と同じく、友達が二人しかいない。あとドラムについては、まだドラムのドの字もない。

 

 

如月 ゆうや

(本編でまだ漢字表記で無い為、平仮名表記の仕様)

 

オリキャラ。少し粗暴な所があるものの、本当は

めっちゃ優しく接したいと思っているらしい。

現に大和が砂場で遊んでいる時に横取りしようとキツイ言葉を浴びせたが、その中で「後で使わせてやるから」と、一応気を遣わせてはいたりしていた。

二人とは違い、友達はそこそこいる。

 

 

園長先生

 

ゆうやのお婆ちゃん。本名は如月 小夜子。別に仮面○イダーのザヨゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!ではないのであしからず。

ゆうやのお婆ちゃんで、花咲川幼稚園の園長を務めている。更に近くの商店街の会長も務めているとか。

噂では、大ガールズバンド時代を築いた人ともお知り合いとか……?

 

 

光野 桜

 

蓮司のお母さん。介護施設で働いている為、家に帰る時間が遅くなっている。その為、蓮司に寂しい思いをさせているのではないかと心配していたが、当の本人が大丈夫そうなので、一応安心はしている。

余談だが、若い時はバンドを組んでいて、その時に

蓮司のお父さんと会ったとか。青春だなぁ。

 

 

光野 ???

 

蓮司のお父さん。まだ本編で登場していないため、

詳細は不明。蓮司のお母さんの話によると、

「お父さんは有名な科学者で、今は遠い国でお仕事をしているの」と、満面の笑みで話していたそうだ。

 

 

神様

 

蓮司を転生させた神様。上司の閻魔大王にめちゃくちゃ仕事を任せられている為、いつも死んだ顔をしているそうだ(後輩情報)。

まぁまぁなオタクでもあり、仕事が忙しくなかった時は、下界に降りてきてヲタ芸を披露していた。

 

 

後輩

 

神様の後輩。一応天界では女性として扱われている。

本人曰く、

「先輩の飛び火が来そうで怖いなぁ」との事。後輩さん強く生きて。

 

 

 

人物紹介 THE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次章予告!

 

 

晴れて小学生に進学した蓮司!彼に待ち受けているのは幸福か不幸か!一体どうなる第二章!

 

てか、タイトル通りに女の子増やせよ作者!!読書は女の子が見たいんだヨォ!!(偏見)

パン屋のあの子とか、幼馴染の五人衆とか、人気子役のあの子とかぁ!!色々いるダルォォ!?

 

あと錬金術使えヨォ!!みんな使うの待っているんだヨォ!!

 

 

第二章!!

 

『小学校、小さい女の子いっぱいいるぞ。ロリコン達よ、歓喜せよ編』

 

めっちゃ喧嘩腰!それでもいい人達は

次章も宜しくぅ!!

 

 

 

 

 

 




うーん、次章予告がちょっと勢いで書きすぎタァ……。
ま、いっか(適当)

あ、あと次回はちょっと遅くなるかもしれないです……
気長に待っててぇ。


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第二章 小学校、小さい女の子いっぱいいるぞ、ロリコン達よ歓喜せよ編
自己紹介って考える時間を与えないで突然やらされる事が多い


くっ……!夏休みなのにリアルが忙しい!!

まぁそれは良いとして、第二章、始まるぞい。





 

 

「……ですので、新入生の皆さんもより良い学校生活を送って貰いたいと思っておりまして、そしてですね、えぇ……」

 

話長いなぁ、と心の中で呟く。

 

何でこんなに校長の話って長いのだろうか。朝会で校長の話が長くなるのは分かる(分かりたくないけど)。……でも、何で入学式でこんな長く話しちゃうかなぁ。もうちょい短く話してほしい。

 

「……という事なので、新入生の皆さん、これから

宜しくお願いしますねぇ。以上、校長でした」

 

校長の話が終わると、後ろの保護者席から拍手が送られてきた。それに釣られて新入生達も拍手を送る。

やっと終わった。は〜、話ずっと聴いてるのってマジで飽きる。中坊とかだったら誰か寝るね、確実に。

 

「校長先生、ありがとうございました。それでは最後に新入生の皆様で集合写真を撮りますので、皆様は前の方に来て下さい」

 

やっと終わったと思った矢先、司会の人が朗らかな顔で言った。その心が本当に晴れ晴れとしているのかは俺には分からないが。

てか、まだ何かやるのか。もう校長の話が長かったから帰りたいのですが。帰らせて(願望)。帰らせろ(命令)。

 

「えーっと、そこに座っている君?早く集合して下さいね」

 

俺が頑なに椅子に座っていると司会の人に注意された。周りがクスクスと笑い出す。

 

やめろ!プライバシーの侵害だ!何故写真なんぞ撮られなきゃいけないんだ! くそっ、俺は写真なんかに映りたくないんだよぉぉぉぉ!!

 

 

 

…………………

…………

……

 

 

 

そんなこんなで入学式は終わり、新入生達は各教室へと連れて行かれた。

俺の教室は1ー2。個人的にだけど、なんか偶数の教室って良いよね。(独断と偏見)

 

「はい!という事でね!今日から君達の担任になった、岡崎先生だ!みんな!よろしく!」

『はーい!!』

 

ジャージ姿の先生の自己紹介に元気よく応える新入生達。

ジャージ姿で入学式とは、これいかに()

てか、小説とかでよく担任の先生が筋肉質な感じなやつだ。その熱さでクラスを引っ張っていこうとする感じのやつだ。熱血系教師、万歳()

 

「因みにだが、俺は算数が得意だぞ!」

 

いや体育教師じゃないんかーい。アンタ、その体格で理系なんかーい。ルネッs(以下略

 

「早速だが、みんなには自己紹介をしてもらう!それじゃあ廊下側の君達から順番にしてって貰おうかな!」

 

筋肉先生……もとい、岡崎先生が笑顔で言った。

廊下側……?廊下側となると、出席番号が一番初めの人達という事になる。俺の苗字は光野、つまりはカ行なので、必然的に廊下側になる。そして列は女子男子で分かれているので、俺の自己紹介の順番が早く回ってくる事になる。

 

おっと、となるとちょっと急ぎ目に考えておかないと。えっとそうだなぁ、まずは……

 

「それじゃあ次!光野君!宜しく頼むよ!」

 

俺がああだこうだと考えていると、いつの間にやら

順番が回ってきていた。

え、早ァ!?そんな順番早く回るの!?前の奴らもうちょい長く話してくれよ。えっ、ちょっま、まだ考えてる途中……もういいや!アレでいこう!!

 

 

 

 

–––––– 俺は勢いよく立ち上がり、左腕を後ろに回す。そして、右手でグーの手を作り自分の心臓部分に置く。

その姿はまるで、自分の心臓を捧げる様だ。

 

 

 

言ってやる……!思ってる事全部……!

 

 

花咲川幼稚園出身、光野 蓮司です!好きな食べ物は肉!朝食はパン派でぇす!!

 

 

 

俺はハキハキと、みんなに分かるように自己紹介をする。

自己紹介をする時は好きな食べ物と、朝食はパンと米のどっち派か言った方が良いぞ☆ と、お母さんが言っていた。

 

フッ、どうだ俺の自己紹介。カッコイイだろう…!

 

 

『……』

「……あれ?」

 

だが、俺の思いとは裏腹に、教室は静寂に包まれてしまった。

なん、だと…!?やっぱり小学生に進撃の○人ネタは通用しないのか…!あと、お母さんの助言も通用しないのか……!

 

 

 

『…オォ…!!』

 

と、思っていたら、周りから突然拍手が起こった。

あれ?意外に好評な感じだった?

 

「良い自己紹介だ!光野!みんな!光野を見習えよー!!」

『はーい!!』

 

先生の呼びかけにまたも元気良く応える生徒達。

あれ?あれあれ?もしかして、もしかすると、まあまあ滑り出しは上々だったりしちゃう?お母さんの助言、まさかの大活躍?

 

 

……や っ た ぜ 。

 

 

……………………

…………

……

 

 

 

 

俺の自己紹介の後、クラスのみんなは士気が上がったのか、自己紹介は何故か盛り上がっていた。主に男子達だが。

自己紹介の後は、今後の説明を軽くして解散した。

クラスの殆どは、幼稚園で一緒だった子達と帰っていく。俺は、まあ幼稚園では友達が二人しか居なかったし、その二人は別の学校な為、一人で帰るしかないのだ。

 

はぁ、こんな事なら友達作っておけば良かった……。

 

 

「ねぇねぇ」

 

ふと、誰かに肩を叩かれた。声色的に女子の声である。

はて?大和ちゃん以外に女子の知り合いは居なかった筈だが。一体誰だろう。

振り返ってみると、そこにはポニーテールで髪を纏めている女子がいた。

 

「君ってパンが好きなの?」

「えっ?あ、まあ好きっちゃ好きだけど?」

 

彼女は突然、俺にパン好きかを尋ねてきた。

なんだこの子。急に話し掛けてきたと思ったら、

パン好きか?なんて。まさか、朝に食べるパンは何パン?なんて聞いてくるのだろうか。

俺、朝は食パンしか食わないんだけどなぁ。

 

「やっぱり!私のお家ね、パン屋さんなの!だから

パンが好きなら、私のお家知ってるかなぁって」

「へぇ、パン屋さんなんだ。えっと…」

 

 

やべぇ、この子の名前分かんねえ。名札確認しようにも、さっき先生に回収されちゃったからできないし。むぅ、こんな事なら自己紹介ちゃんと聞けばよかったかも…。

 

「……名前なんだっけ?」

「え!?もう忘れちゃったの?さっき言ってたのに〜」

 

ごめんよ。自分の自己紹介でもう疲れちゃってウトウトしてたから。もう寝そうになってたから。テヘッ☆

 

「私の名前は『やまぶき さあや』っていうの!ほら!」

 

そう言うと、やまぶきさんはランドセルをこちらに見せてきた。ランドセルの横には、何かヒラヒラした物が付いている。

……あ、これ名札だ。そっか、ランドセルにも付いてたんだった。どれどれ……?

 

「『山吹 沙綾』……」

「そう!可愛いでしょ?」

 

可愛いかは兎も角として。

山吹……なんか商店街でこんな名前のお店あったような……。なんだっけか。

 

「……あ!もうこんな時間!急がなきゃ!」

「え?あ……」

 

山吹さんが時計を見ると、何か急用を思い出したのか、すぐさま走って行ってしまった。

 

……まだお店の名前、聞いてないんですが。

 

まぁ、時計も三時を指していたので何か習い事でも

しているのだろうと心の中で思い、俺は自分の家へと帰って行くのであった……。

 

……一人で。寂しいなぁ……。

 

 

 




うーん、沙綾が沙綾してないような……ま、いっか(良くない)
あとですが、多分また投稿遅れるかもしれないです…。
ユルチテ


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朝はパン♪昼もパン♪夜もパン♪……は胃がもたれるからなるべく避けたい


気がついたら、お気に入りが百人超えていた……!
ぬふおおおおおおおおおおおお!?!!!?



ふう……




 

––––––貴様は、何になりたい?

 

 

ふと、誰かが俺に語りかける。老人のような声だ。だが何故だろう、その老人の声には、威厳のある人だ、と想像する事が出来た。そう思ってしまう程に、この声には()()の感情が感じられた。

 

 

––––––貴様は、新たな命を持って何をしたい?

 

 

老人の声が俺に問いかける。

何をしたいか?それは……何を…したいか……

 

 

–––––目的も無く力を振るえば、いずれは貴様自身が

壊れていく–––––

 

 

眼前に何かが現れた。だが、現れた()()

説明するには少し難しい。ただ、一言で表すのならば…

 

 

 

––––例えるならば…

 

 

それは、何処からか出てきたのか、腕のような所からサーベルを出して、それを掴む。

 

 

––––このように、な

 

 

サーベルを持つ手がピクッと動いた気がした。

だが、そんな考えをも切り刻むように、俺の視界が

パラパラと崩れていく。

 

 

 

 

–––––()()を一言で表すなら、それは–––

 

 

 

 

––––()()––––その物だった。

 

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

 

 

「……んぁ?」

 

気がつくと、俺は夢から抜け出していた。

……何だろう、さっきの夢は何か大切な事を言われていたような気がする……。

俺は眠気眼のままベットから降りる。そのまま壁に

設置された時計を見る。時計は九時ちょうどを指していた。

 

……あ、やべぇ学校遅刻じゃね?

 

 

「……って、今日土曜だった」

 

 

時計の下にあったカレンダーを見て思い出す。

そう、今日は土曜日。金曜日に入学式あるのってうちだけな気がする。……え?普通だぞって?いやいやそんなまさか……。

 

 

「とりま、着替えて下降りるかぁ」

 

 

取り敢えず、こんな所でグダグダしていても仕方ないので、俺は私服に着替えて、茶の間に行く事にしたのだった。

 

 

 

〜〜俺、移動中〜〜

 

 

 

 

下に降りて茶の間に着くと、テーブルにラップの掛かったパン二個と、置き手紙があった。手紙には、

 

「お母さん、仕事いってくるね〜!

お昼は棚にあるお金使って何か買って食べて!

 

あと、早起きはちゃんとするんだぞ〜!」

 

と書かれていた。

お母さん、余計なお世話じゃ。こっちだって睡眠時間は多く取っておきたいんじゃ。

 

 

「……っと、お金お金〜っと」

 

 

棚の中を拝見する。棚の中はごちゃついているように見えて、実は綺麗に整理されている。だから、財布を見つけるのも楽ちんだ。……あ、財布発見。

 

「中身はどれくらいかなぁ……」

 

財布の中身を確認する。

財布の中にお金入ってなかったら、お昼抜きになっちゃうんでね。今のうちに確認しておいて損はないだろう。

 

「……ふむ、五百円か」

 

財布の中身には、五百円玉が一枚。

これぐらいなら、パンの一個二個は買えるだろう。丁度、山吹さんの店にも行って見たかったし。

 

「確か、山吹さんのパン屋って商店街にあるとか言ってたなぁ……」

 

俺は昨日の事を思い返す。

山吹さんは商店街にお家があると言っていた。

……だが、この世界に生まれてこの方、商店街に行った事が一、二回程しかない。しかも、それはお母さんが俺と幼稚園から一緒に帰る時だったため、あまり覚えていないのだ。もしかしたら、その時にパン屋に行っているかもしれない。

 

「……そんじゃ、今日の予定は商店街の探索でもするかな」

 

なんか小学生が考えそうな事だと思いつつも、今俺って小学生じゃん、と自分で自己解決していた。

 

……ん?これ自己解決してなくないか?

 

 

 

…………………

…………

………

……

 

 

 

 

朝食を食べ終えた俺は、ショルダーバッグを背負い、一人商店街に向かっていた。春とは言えまだ少し肌寒いだろうと思って長袖長ズボンで出たものの、外は雲一つ無い快晴だったので、気温はそこまでではなかった。

 

幼稚園では親がいないと外出許可は下りなかったが、昨日から晴れて小学生になったため、一人で出歩く事が出来るようになっている。商店街までの道のりは、そこら辺を歩いている老人さん達に聞いて行く事にした。

正直、人に話しかけるの嫌なのだが。まぁ、そこは何とか耐えた。偉いなぁ、俺()

 

「あ、着いた」

 

気がつくと、目的地に着いた。と言ってもパン屋に

着いた訳では無いので、今度は商店街を散策する事になる。

うーん、足が痛くなりそう(小並感)

 

 

 

 

〜〜散策中〜〜

 

 

 

 

散策して十分程経過。パン屋を発見した。俺はお店の看板を見る。

 

「山吹ベーカリー……ここか」

 

名前に『山吹』と書かれているので間違い無いのだろう。

よし、入るか。

そう思った俺は少し高い位置にあるお店のドアノブに手を掛ける。

はー、ホンット小学生の身体って不便……

 

 

 

––––その時だった。

 

 

「お母さん!?しっかりして、お母さん!!」

 

店内から、何やら悲鳴が聞こえた。この声は先日聞いた声。つまりは……

 

「……山吹さん!?」

 

俺は勢いよく扉を開ける。店内には女の人が倒れており、側には山吹さんが倒れた人を揺すっていた。

 

「お母さん!お母さん!!」

「山吹さん!どうしたの!?」

 

俺の呼びかけに山吹さんがはっと気づく。どうやら、

俺が店内に入って来た事に気付いていなかったようだ。

「お母さんが……急に倒れちゃったの……!」

 

山吹さんが涙ながらに話す。

お母さん……あれ、山吹さんのお父さんは何処にいるのだろうか。

 

「山吹さん、お父さんは?」

「お父さんは……さっき小麦粉を買いに行ってくるって言って……出て行っちゃった」

「……むぅ」

 

俺は思わず唸った。

うーむ、お父さんは今買い出し中か……。

 

「お父さんが出て行った時間って分かる?」

「えっと、確かあの時計が十五分って所を指してた……」

 

山吹さんが時計を指さして教えてくれた。

今の時間はちょうど十時。そろそろ帰って来てもいいはず。なら、俺のすべき事はいくつかある。まずは…

 

「山吹さん」

「グスッ……何?」

 

俺の呼びかけに山吹さんがこちらに顔を向ける。

その顔は涙で濡れていた。

 

「取り敢えず、山吹さんは落ち着いて?そうしないと

お母さんが起きた時にびっくりしちゃうよ?」

「……!うん!」

 

山吹さんが涙を拭う。まず一つ目は山吹さんを落ち着かせる事だ。あのままでいれば正常な判断が出来ない。なので山吹さんを落ち着かせるようにしたのだ。

俺のびっくりしちゃうという発言で泣き止んでくれた辺り、どうやら山吹さんはお母さんの事が本当に大事なようだ。

 

よし、次。

 

俺は山吹さんのお母さんに目を向ける。お母さんは目を瞑り、ハァハァ、と苦しそうに息をしていた。額には汗を流しているのが分かる。

 

「ハァハァ……さあ……や…?」

「!お母さん!!」

 

すると、お母さんが目を覚ました。お母さんが目を覚ました事により山吹さんが駆け寄る。

 

「沙綾……?ダメじゃない、そんなに泣いていちゃ。

せっかくの可愛いお顔が台無しよ……?」

「お母さん……!!」

「それと……そこの…君……?」

「あ、はい?」

 

お母さんが突然俺を呼びかけた。その顔色はまだ悪そうだ。

 

「ごめんない……お客さんよね?すぐに…ゲホッ!」

「!!ちょっと!」

 

無理に立ち上がろうとしたお母さんだったが、体勢が崩れ、倒れそうになる。それを俺が何とか阻止しようと、お母さんの身体を支える。

 

あ、意外に軽い。

 

「……ってそうじゃない、そうじゃない。山吹さんのお母さん?あんまり無茶しない方が……」

「私は……大丈夫…よ?……ゲホッゲホッ!」

「ほら、言わんこっちゃないですよ!」

 

俺と山吹さんを安心させようとするが、直ぐに咳き込むお母さん。

取り敢えず休ませないと……お店の奥で休ませた方が良いか?

 

「山吹さん」

「な、何?」

「お母さんを取り敢えずお店の奥に運ぶけど、大丈夫かな?」

「う、うん!…あ、なら私も」

「ごめん、助かるよ」

 

流石にお母さんが軽いとは言えど、相手は大人だ。

こんなひ弱な身体では奥まで運びきれない。なので

俺は山吹さんの申し出を受け入れた。

……男なら一人で運べよとか思った奴、あとで表出ろ。俺のゴットブロー(ダメージ10)を食らわせてやるぞ?

 

 

 

 

〜〜お母さんお運び中〜〜

 

 

 

 

お母さんの足を引きずりながらも、何とか運び終えた二人。運び終えた後はお店の中にあった椅子に腰掛けていた。

 

「お母さん……」

 

山吹さんはまだ少しだけだが泣いていた。

……確か、バッグにハンカチが入っているはず……あ、あった。

 

「はい、山吹さん。これで涙拭いて」

「あっ…ありがとう」

 

ハンカチを受け取ると、山吹さんは頰に薄っすらと浮かぶ涙を拭う……と思ったら、なんと鼻をかみ始めた。

 

「グスッ……ありがとう…」

「えっ……」

 

そして、かんだハンカチをこちらに差し出してきた。

……うん、確かに変態な人達にとってはご褒美以外何物でもないんだろうけども。俺変態じゃないから、これはちょっと……。

 

「いや、良いよ。それあげる…」

「え、良いの?」

「ウン、ベツニイイヨ」

「え、でも「ただいまー!」あっ」

 

店内にチャリンッと鳴り響いた。どうやら山吹さんの

お父さんが帰ってきたようだ。

 

「いや〜、すまないすまない。小麦粉を選ぶのに時間が掛かってしまった!……あれ?沙綾、お母さんは?」

「お父さん!!お母さんなら「私ならここにいますよ」お母さん!!」

 

おうおう、色々な事が起こり過ぎてワケワカメだよ。

お父さんが帰ってきたと思ったら?お母さんが奥から登場……ってお母さん回復早ァ!?

 

 

 

…………………

…………

……

 

 

 

事情を山吹さんのお父さんに話した所、お礼に!というわけで、メロンパンを一つ貰った。

うん、美味しい。あ、後山吹さんってここでお手伝いをしているそうな。昨日直ぐに帰ったのはその為だったんだなぁ。

あ、それと山吹さんのお母さんが、

 

「今度お手伝いを頼むかもしれないわ!」

 

みたいな事を、山吹さんの頭を撫でながら言っていたから、またお世話になるかもしれない。

ヤッタァ٩( ᐛ )وマタメロンパンモラエル〜。

 

……撫でられてる山吹さんの顔めっちゃ紅かったけど、大丈夫だったのか…?

 





ぬーん……更新遅くなるとか言っておきながら、まあまあ早いとは……は!?これはまさか、更新遅い遅い詐欺!?
……なんて思われそうなので、取り敢えずそういう事は言わないでおく事にします。
いつ更新されるか分からなくてドキドキするでしょう?(全く要らない要素)


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お腹空きすぎると、逆にお腹が空かなくなる時があるよね


大変長らく(?)お待たせしましたァ!!
学校の行事がありまして、少し遅れた&文章量が少なめになって
しまいましタァ!!
それでもいい方は見てってくだせぇ!!


 

 

 

「……んー、どうすっかなー。ハムッ」

 

 

パン屋での騒動の後、俺は商店街をブラブラと歩いていた。

メロンパン美味しい。

 

「五百円使ってないし……なんなら使いたいんだよなぁ。ハムッ」

 

メロンパンを片手に、俺は今後の予定を考えていた。

メロンパン美味しい。

商店街の道に設置された時計を見る。時計は十時半を指していた。つまり、まだあの騒動から三十分程しか経って……

 

 

あれ?

 

 

「まだお昼じゃない……?」

 

時刻は十時半。まだお昼の十二時まで、後一時間半も

あるのだ。俺は右手に持ったメロンパンを見る。メロンパンはあと半分程しか残っていなかった。

 

「……あ」

 

俺は自分が何をしているのか理解した。いや、理解してしまった。俺はメロンパンを半分まで食べてしまった。それによって俺の腹は満腹になっている。

 

一般的に見れば別にどうでもいいではないかとは思うだろう。だが俺は違う。こういった食事の時間に関しては俺は気にしてしまう体質なのだ。

お昼を抜かすなんて言語道断だ。そんなの許せない。

 

「……仕方ない、運動でもするか」

 

ここで出した答えは運動。運動をして、お腹を空かせる作戦だ。

ま、適度の運動は健康にもいいと聞くし丁度いいだろう。そうと決まれば何処でやるか決めなくては…。

 

「うーん……あ、そうだ、あそこが良いな」

 

思考を巡らすと、ある場所が思いついた。

と言っても、商店街に来るまでに見つけた場所なのだが。確か、俺が見かけた時はあまり人が居なかった筈。ますます丁度いい。()()()使()()()

 

俺はメロンパンを紙包みに包み込み、バッグに入れる。

 

そうと決まれば、いざ、出陣〜。

 

 

 

 

 

〜〜移動中〜〜

 

 

 

 

 

「……人は、流石にいるか」

 

俺は一人こっそりと呟く。

俺が向かったのは場所というのは公園。少なくとも商店街に近くて、運動が出来る場所と言われたらここしか思い付かなかった。……運動するんだったら、ランニングでもいいじゃないか!とか思った人。身体はまだ小学一年なんだ、体力持たないから。

 

……少し脱線してしまった。公園には、四、五人程の

女の子がブランコで遊んでいた。まあ、俺には関係無いが。

 

ところで、公園にはどんな遊具があるだろうか。

 

滑り台、ブランコ、下がバネのような形をしてユラユラゆれるスプリング遊具等……色々な遊具があるだろう。その中で一、二位を争う遊具……いや、()()()()()。其処が俺の第二の目的でもある。

 

「えーっと……お、あった」

 

()()()()は奥の方にあった。俺はその場所へ小走りで向かう。

()()()()は黒い柵で囲われていた。俺はその柵に取り付けられた扉を開け、中へと入っていく。

 

 

 

「……お、サラサラだ」

 

 

俺は中に敷き詰められた砂を触る。

そう、この場所は砂場。公園にはこの場所がないと

可笑しいと思える程に有名だ。……有名だよね?

 

 

閑話休題(それはそれとして)

 

 

俺が何故こんな所に来たのか。もちろん八割程運動するという目的があるが、残りの二割には別の目的があるのだ。

 

「他の人達が気づかないうちに……っと、あった」

 

俺はバッグの中にあった手帳を取り出す。

何故バッグの中に手帳があるのかは突っ込まないでほしい。……突っ込まn(以下略)

 

「えーっと、確かここら辺に描いて……あった」

 

手帳をペラペラとめくっていくと、そこには魔法陣–––もとい、『錬成陣』が描かれていた。

実は、もう既に幼稚園の年長さんの頃には原作の方は読み終わっており、マスタング大佐の使っている錬成陣は勿論、オリジナルの錬成陣も描いてあったのだ。

だが、実践してみるのは今回が初めてだから、心の中ではメチャクチャ緊張している。

 

俺はそこに描いてある錬成陣を砂場に描いていく。

……上手くいくかな?

 

「……よっ!」

 

どんな物を錬成したいかをイメージし、俺は錬成陣に触れる。すると、錬成陣の周りから青白い閃光が迸った。これが錬成開始の合図だ。

……って、めっちゃ眩し!?

 

「……うぇ、めっちゃ眩し……っておお!?」

 

あまりの眩しさに目を閉じてしまったが、その目を見開くと、そこにはそれはそれは美しく出来た砂の

お城が出来ていたではないか。

 

つまるところ……?

 

「よっしゃ!せいk「ねぇねぇ」う……?」

 

俺の感嘆の声を遮って、誰かが話しかけてきた。

 

……ん?()()()()()()()()

 

「ねぇってばぁ」

 

おっとりした声で話しかけられながら、肩を叩かれた。

……待て待て、まさか。まさかとは思うが。()()()()()()()()

俺は錆びついたロボットのように首をグギギッと動かす。そこには、先程別の場所で遊んでいた女の子五人組がいた。

 

俺に話しかけてきたのは、髪が白髪の少女。その後ろには、目を輝かせるピンク頭の女の子と、オドオドしている茶髪女子。後ろでポニーテールを作っている

スカーレット色の髪を持つ女子(?)、更にはその後ろに隠れている黒髪で目がルビー色の女子がいた。

 

……あ、これ完全に見られてたパターンですわ。

 

 

光野 蓮司、人生終了のお知らせ☆

 





ふう……と、いう訳で、申し訳ございません。
今回はちょいと少なめになってしまいました。今回は
あの幼馴染五人組が出てるのにィ!!ホンット作者って最低!!
……あ、俺やん。


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何か大切な事をするんだったらちゃんと場所を考えようと思った今日この頃

最近、五等分の花嫁でも小説を投稿しました。
ですので、投稿頻度は少し遅くなるかも……?
すみません!!


前回までのあらすじィ!!

 

晴れて小学生となった光野 蓮司!!入学式の翌日に

お昼を買いに商店街のパン屋に行ってみたらなんと、誰かが倒れたいタァ!!

その後に何やかんやあってメロンパンを貰った彼は

運動と錬金術の練習の為、公園へと赴いたァ!!

そしてなんとそこで……え、もうそんな時間?待って後輩君!!最後まで言わせて!!僕に書類を見せないでェェェェェ!!?!?!!!

 

 

 

 

あらすじ シューリョー

 

 

 

 

…………………

…………

……

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ」

「………」

 

白髪女子がまたも俺の肩を揺すってきた。

 

大変だ。もしかしたらこの子達に錬金術を使った所を見られたかもしれない……。まさか錬金術を発動する際に光を放つなんて思わなかったぞ?……あ、いやでも原作でエドが第五研究所に潜入する時に、

『錬金術の光でバレる』みたいな事を言っていたような……。くっ!!これを思い出せていたらこの場所ではやらなかったのに……!

 

「ねぇってばぁ」

「……」

 

白髪女子がグワングワンと揺らしてくる。

取り敢えず、何とか誤魔化すしかないか……!

 

「おいモカ、その辺にしとけって」

「えー?だってこの子動かないんだよー?」

「それでも揺らし過ぎるのもどうかと思う……」

「えー、ともちんだけじゃなくて蘭もー?」

 

『ともちん』と『蘭』と呼ばれた二人が白髪女子……

もとい、『モカ』?という子を静止してくる。だが、そんな事を言われても未だに揺らしてきた。

待って、目が回る。ヤバイ酔いそう。脳みそが洗濯機並に回ってる〜。

 

「待って本当に待って。揺らし過ぎだ!」

「あ、動いた」

 

俺が声をかけると、『モカ』?が揺らすのをやめてくれた。

てかこの子、俺を石像か何かと勘違いしてた説あるぞ。……って、いかんいかん。今はこの状況をどうやって打開するか考えないと……。

 

「な、何か用かな?」

 

取り敢えずだが、俺は何もわからないよ風に問いかける。さっきから見られていたという仮定で話していたが、もしかすると見られていないかもしれない。

なのでこうやって話していれば……

 

「さっきの光ってな〜に〜?」

「……」

 

前言撤回、見られていました。

クソ、どうすればいいんだ……!

 

「な、何のことかなぁ?そ、そんな光、俺は見てないぜぇ?」

 

俺は取り敢えず嘘をついておく。

自分的に嘘はつきたくないのだが、状況が状況だ。

嘘をついて誤魔化すしかない。

 

「ほらー、やっぱり言ったろ?変な光なんて無かったんだよ」

「えぇ?でもでも〜」

 

『ともちん』と『モカ』がああだこうだ言い合っている。

ナイスともちん。上手く騙せたぜぇ……(ゲス顔)

 

「待った!」

「ん?どうした、『ひまり』?」

 

すると、さっきから目をキラキラさせていた少女が

話に割り込んできた。

なんだろう、めっちゃ嫌な予感が……

 

「私もさっき見た!光がブワァッ!って光ってた!」

 

『ひまり』と呼ばれた子の発言に対して、「お前もか……」みたいな顔をする『ともちん』と『蘭』。

 

ブルータス、お前もか。

 

「いやいや、いくら何でも……」

「私見たもん!光がブワァッ!ってなって、それが

出来てたの!!」

 

そう言うと、俺が錬成して作った砂の城を指差した。

はい全て見られてますね、ハイ。オワタ\(^o^)/

 

「だからこの人は!!」

 

俺が絶望の波に呑まれていると、今度は俺を指差してきた。

 

嗚呼、今度は何なんだい……?もう疲れたよ、パトラッ……

 

「魔法使いだ!」

「……ん?」

『えぇ!?』

 

他四人が素っ頓狂な声を上げる。が、それとは裏腹に俺は、見当違いな発言に少しがっかりしていた。

 

……そこは錬金術師ダロォ!?!?

なんて事を言っても多分通用しないから言わないけど。

 

「すごい!アンタ魔法使いなのか!?」

「本当に……魔法使いなの…?」

「ちょっと見てみたいかも……?」

 

『ともちん』と『蘭』だけでなく、茶髪の子までもが信じ切ってしまっていた。

うん、なんで信じちゃう?

 

「待って待って?なんで君も信じちゃう?君さっきまでおとなしかったやん。え、なんで?」

「え!?え、えっとぉ……」

 

俺の質問に口ごもってしまう茶髪の子。

……しまった、少し焦り過ぎた。

 

「あ〜。魔法使いさんが『つぐ』をいじめてる〜」

「は?」

「あ!?魔法使いなのになんて事してんだ!」

「あ?」

「『つぐ』をいじめる悪い魔法使いさんだー!」

「はぁ!?」

「……最低」

「あぁ!?」

 

コイツら……初対面のヤツにこんなに馴れ馴れしく接するとか……ヤベェな(小並感)

 

ちょっと教育が必要だな……?

 

 

 

 

「オイ……お前ら…」

「な…ひっ!?」

 

–––周りから見れば、今の俺の顔はどう見えているのだろうか。まぁ、そんな事どうでもいいが。何故なら、この場には俺とこの五人しかいないのだから。

 

 

「一つだけ教えてやるよ…?」

『あ、あぁ…!!』

 

俺は指をゴキゴキッと鳴らして、四人にジリジリと迫っていく。

 

「初対面の人に向かって、魔法使いだとか変質者だ

とか言うの、やめようなぁ!?」

『イヤァァァァァァァ!?!!?(いやー)』

 

「…変質者なんて言ってなかったような……」

 

–––『モカ』以外の三人は絶叫した。彼の笑っているようで笑っていない表情を見て、これから起こる大惨事を想像して。……蚊帳の外にいた茶髪女子が彼の発言に対しツッコミを入れていたが、彼の耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜蓮司、説教中〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「……腹減った」

 

俺は彼女達にお仕置き(礼儀)を教えた後、先程まで満腹だったはずのお腹をさすっていた。

ちなみにだが、礼儀というものを教えられた四人中三人は後ろで「うへぇ…」と言いながら倒れていた。

「あの…」

「……あ、茶髪ちゃん」

 

これからどうしようかなと考えていると、茶髪ちゃんが俺に話しかけてきた。

 

「あの、すみません…さっきは私がいけなかったのに」

「え、あ、いや別に君がいけなかったわけじゃない……ん?」

 

待てよ?よくよく考えると、俺の方が悪いことしてなかったか?

 

「……あ!」

「?どうしたの?」

 

俺があれこれ考えていると、茶髪ちゃんが何かを思い出したかのように、はっ!とした。

 

「私達、まだ名前を言ってませんでした!」

「……あぁ、確かに」

 

そういえばそうだったと思い出す。

先程説教を施した四人の名前も、目の前にいるこの子の名前もまだ俺は知らない。それに俺が彼女達の名前が分からないように彼女達も俺の名前を知らない筈だ。

……お互い名前も知らずに話してたのか。

 

「私の名前は『羽沢つぐみ』って言います!」

「羽沢…」

 

彼女の名前を聞いて、何処かでそんな名前のお店が

あったような、と思い返す。

……確か…。

 

「ねぇ、もしかして商店街にある珈琲屋さんの?」

「あ、はい!もしかして行った事が?」

 

なんと、もしかしたらと思っていたら本当にあっていた。世界は狭いような狭くないような……。

 

「俺はまだ行った事は無いかな。まだ小一だし」

「え、そうだったんですか!?実は私達も……」

「……マジか」

 

ここで新たに驚きのニュースが。なんと彼女達は俺と

同学年だった事が発覚。

……同い年なのに後ろにいる奴らと目の前にいる羽沢さんとでこんなにも違うとは……。雲泥の差だな、これは。

 

「あ、そうだ。後ろの奴らの名前は?」

「えっとですね……。右にからだと、『上原 ひまり』ちゃん。次に『美竹 蘭』ちゃん。最後に

『宇田川 巴』ちゃんって言います」

 

俺の質問に丁寧に答えくれる羽沢さん。

丁寧過ぎて涙がでちゃうよ……全く……ってあれ?

 

「待って、後一人は?」

「え?後ろには三人しかいませんよ?」

「は!?」

 

俺は後ろを振り返る。そこにはグッタリと倒れている()()()

待て待て、後一人どこ行った!?

 

「モ、モカちゃんがいない…」

「はーい、アタシはここでーす」

「あ!?なんだよ、そこにいt……あああ!?」

 

俺は思わず絶叫してしまった。何故なら……

 

「何俺のメロンパン食ったんだよ!?」

「…そこにパンがあったから?」

「それ食いかけェ!!!」

「あはは…」

 

俺の叫びに乾いた笑いしか起きない羽沢さん。

コイツ……!さっきみっちりと礼儀とは何かを教え込んだ筈だよなぁ……?礼儀の『れ』の字もないんだが?

 

「えっと、あの子が『青葉 モカ』ちゃんです。ちょっと食いしん坊ですけど…」

「うん、身を以て知ったよ今……」

 

……まぁ、丁度お腹空いてきたから別にいいんだけどさ…。

 

「……さて、そろそろ行こっかな」

「あれ?何処か行っちゃうんですか?」

 

俺がバックを持ち上げると、羽沢さんが質問してきた。

 

「ちょっとお昼を買いに商店街に行こうかなって」

「へぇ……ってあの!」

「?どうしたの?」

 

俺が商店街に向かおうとすると、羽沢さんが呼び止めてきた。

……まだ何か用があっただろうか?

 

「あの、…あなたの名前をまだ…」

「……あー、そういやまだ言ってなかったか」

 

すっかりと頭からすっぽ抜けていた。まだ俺の名前いってなかったわ。老人か俺は…。

 

 

 

「光野 蓮司。それが俺の名前」

「蓮司……君」

「そ、そこの三人にも言っといてねぇ」

 

そこまで言うと、俺は足早にその場から立ち去る。

後ろからモカが「じゃあねぇ」と気の抜けた声がきこえてきた。……今度アイツに会った時はみっちりと礼儀ってモノを教えてやるぜ……(ゲス顔)

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮司君……か…フフッ」

 

羽沢 つぐみは静かに彼の名前を呟き、小さく笑った。

メロンパンを食べるモカには、この時、何故彼女が

笑ったのか分からなかった––––。

 

 

 

 

 




今回で五人組は終了だな、って思った人。
次回も彼女達やで(^ω^)
あと、もしかしたら次回は戦闘シーンがあるかも……?
……まだ決まってないけど。

あ、あと前書きでも書きましたが、五等分の花嫁の二次小説も
書きましたので、よかったら見てって下さいね(露骨な宣伝)


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助けを呼ぶ声

……あ、UA10.000いってる。
……あ、脳内でバジリスクタイム流れてる。
……水のようにー!!(デスボ)


「もー!信じられない!!」

 

お昼。私達は今、巴ちゃんのお家に向かっています。

今日はせっかくの土曜日。私達は朝からずっと遊んでいたのでお腹がぺこぺこでした。

 

「まあまあひまり、さっきのはアタシ達が悪かったし……」

「…いや、アタシ達は悪くない。悪いのはアイツ…」

 

前でひまりちゃん、巴ちゃん、蘭ちゃんがさっきの出来事について話してました。

さっきの出来事……というのも、私達が公園で遊んでいた時の事です。私達が遊んでいた時、一人の男の子が公園に来たのです。その子は一人で砂場のある所に歩いて行きました。

 

私は、その時はなんとも思っていなかったので、蘭ちゃん達とのおままごとを続けようとしました。

だけど、モカちゃんが砂場の方を見て、

 

[今なんか光った〜]

 

なんて言ってきたのです。だけど私と巴ちゃんはそんな光に気づきもしませんでした。なので、私達は見間違いじゃない?と言ったら、

 

[だったら確かめてみようよ!]

 

ひまりちゃんが確かめようと言って、モカちゃんとひまりちゃんがそっちの方に行ってしまいました。

私も何かあったのかな?と思ったので、そちらの方に行ってみる事にしました。

 

 

 

そこには、さっきの男の子と、その横に

綺麗な砂のお城があったのです。

 

 

そこからはモカちゃんの質問ラッシュが続いていきました。途中途中巴ちゃんの突っ込みが入ったりもしましたが、最終的にひまりちゃんの『魔法使い』という結論に辿り着きました。

 

魔法使い……私は初めて見たので、一度だけ魔法を使っている所を見たいなぁと思ったのですが、そんな思いが言葉に出てきてしまい、彼に突っ込みを入れられてしまいました。

 

口に出そうとは思っていなかったので、どうしようと考えていると、みんなが彼から匿ってくれました。

……私が悪いのに…。

 

でも、彼はそんな態度が嫌だったのか、彼は反撃に

出ました。結果、蘭ちゃん達はぐったりと彼の後ろで

倒れ込んでいました。

 

……そんな事をした彼を、少しだけ、怖いと思いました。

 

……あ、でも!その後に彼とお話しして、少しだけ印象は変わりました!お話していてわかった事は、あの子は全然怖くなんかない……ううん、全く逆。優しい子だって分かったんだ。

 

そんなあの子と話していると、楽しくなれて、それで

心が……安らぐ?っていうのかな……

そんな気持ちに……

 

「……っきゃ!?」

 

不意に誰かにぶつかってしまいました。

……痛てて…尻餅ついちゃった……。とりあえず、ぶつかった人に謝らないと……。

 

「す、すいませ……っ!」

「……」

 

ぶつかった人は大きな男の人でした。その人は私を

見ると、

 

 

「……ニィ♪」

 

 

–––怖く、笑いました。

 

 

 

 

 

…………………

……………

………

……

 

 

 

 

 

「ウエップ……食い過ぎた……」

 

 

なんだよあの量。あんな量食えるかっての……。

何があったかというと、俺が商店街をブラブラしていた時の事だ。

公園の出来事で少しお腹空いたので、何処かで昼食を

食べれる所を探していた。

別に山吹さんの所でも良かったのだが、せっかく来たのだから別の所でも食べてみたいという欲求があったので、やめておいた。

 

そこで見つけたのが『北沢精肉店』だ。ここのコロッケがまあまあ安い値段で売られていたので、ここにしたのだ。うん、ここでやめておけば良かったって後悔してるよ今。

 

だって三つでいいって言ったのに、「サービスサービス♪」なんて言いながらドンドン追加するんだもん。

無理だよ。食えないよ。食ったけど。

 

素直に山吹さんの所に行っておけば良かったと思った今日この頃。

 

 

「……さて、目的も果たしたし、帰ろうか「きゃー!!」!?」

 

突然、悲鳴が聞こえた。

……待て待て、この声って…

 

「……羽沢か!?」

 

俺は声の聞こえた方向に走り出す。食べ過ぎて少し腹が痛いが、そんな事は気にしてはいられない。

 

走っていくと、そこには人集りが出来ていた。その中心には、羽沢以外の四人が泣き崩れていた。

 

「おい!どうした!!羽沢は!?羽沢は何処にいった!?」

うぇぇぇん!!つぐぅ!つぐ〜〜!!

 

 

駄目だ、気が動転して話を聞いてくれない…!

 

こうなったら……!

 

 

おい!お前ら!しっかりしろ!!

「ひぎゃっ!?」

 

俺は思いっきり上原の頰を叩く。

 

「お前らが落ち着いてくれねぇとこっちだって分かんねえんだよ!!羽沢がどっか行っちまうぞ!?」

「!!……それは、いや…!」

 

半分脅迫じみてしまったが、この際気にしないでほしい。こうでもしないと話してくれないと思ったのだ。

理解して欲しい。

 

「……取り敢えず深呼吸して……そうだ、落ち着いたか?」

『……うん』

 

全員が深呼吸して落ち着いた所で羽沢は一体どうしたのか聞いてみる事にした。

 

「羽沢はどこにいったんだ?」

「……連れてかれちゃった」

 

俺の問いに、青葉がか細い声でそう答える。

 

……連れてかれた?

 

 

「だ、誰に?」

「分かんない……!でも、つぐがその人にぶつかって、つぐが謝ろうとしたら、その人が……」

「連れてったってか……」

 

今度の問いには美竹が答えた。

……普通ならこれは警察沙汰だ。だが、警察に通報しようにも俺達には携帯電話等が無かった為、()()()()()()()()()()()それに、もし通報したとしても警察が到着するのは数分後。その間に犯人に逃げられてしまう。

 

 

……なら、今すべき事は一つ。

 

「……おい宇田川。犯人はどっちに逃げた?」

「え?えっと確かあっちに……っておい!」

 

 

……無茶かもしれない。でもやるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が見つけだす……!

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん!?んんんんん!!」

「ハァハァ……なんとか撒いてやったぜ。へへっ、可愛いなぁ……♪」

 

 

路地裏。まだ太陽は真上にあるはずなのに、其処だけにはあまり光が差し込んでいなかった。

そんな場所に逃げ込んだのは、蓮司が今探している犯人その人。そして、口元を手で抑えられているのは、

羽沢だった。

 

「さて、このマンホールを開けましてぇ?そこからピョーンっと……っておいおいジタバタするんじゃねぇよ!」

「んんん!んんんんんんん!!」

 

なんとか逃げたそうと身体を動かす羽沢。だが、相手は男。か弱い女の子の力では抜け出せるなんて事は出来なかった。

 

(そんな……もう駄目……なの?)

 

羽沢は心の中で呟く。このまま男が逃げ切ったら私はどうなってしまうのだろう。もしかしたらこのまま死んでしまうのだろうか……と、殆ど諦め掛けていた。

 

−−−つぐ〜?

 

−−−おーいつぐー!!

 

−−−あ、つぐだ!やっほー!!

 

−−−つぐみ。

 

ふと、彼女の脳裏に幼馴染の声が流れた。いつも聴き慣れている声だ。そして……

 

−−−光野 蓮司。それが俺の名前。

 

 

彼の後ろ姿が脳裏に浮かんだ。一度しか会っていないのに。それなのに彼の姿が思い浮かんでいた。

 

(……嫌だ!まだみんなと一緒にいたい!!……蓮司君とおしゃべりしたい!!!)

 

––––彼女の消えかかった心の灯火に、再び火がつく。

 

 

「ったくよぉ…ちっとは静かに「ガブっ!!」痛ってエェェェェェェェェ!!?」

 

彼女は口元に抑えられていた手を思いっきり噛んだ。

犯人はあまりの痛みに手を離す。それを好機と見た羽沢は、息を思いっきり吸い込む。

 

「誰か……!」

 

 

 

 

 

なるべく遠く。そしてみんなに聞こえるように。

 

 

 

 

 

 

 

「誰か!助けてーーーー!!!」

 

 

彼女は叫んだ。

 

 

 

「……っ手前ェ!!?」

 

犯人は慌てて彼女を地面に押さえつける。犯人の顔には汗がタラタラと垂れているのが分かった。

 

 

「糞が!!クソがクソがクソがクソがァァァァァ!?

なんて事しやがった!このガキィ!ここでぇ!殺してヤルゥゥ!!!?!」

「っ!!」

 

犯人の焦る声に、羽沢は怖がりながらも決して屈することはなかった。

 

私は助かりたいからした、と。みんなと会いたいが為にやった事だ、と。幼いながらも、彼女自身に出来る事を冷静に判断してやったのだ。

 

 

「このガキがァァァァァ!!!」

 

 

犯人が拳を振り上げる。羽沢は思わず歯をくいしばる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

後方で幼い声がした。犯人はその声にはっと振り返る。そこには……

 

 

 

 

「……蓮司…君……!」

 

「……羽沢、大声で叫んでくれてありがとうな。

おかげで分かったよ。……もう安心してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が、来た…!」

 

 

 

––––ヒーロー(蓮司)がいた。




前回戦闘シーン入れるといったな。
あれは嘘だ。
……はい、やらかしました。すいませェェェェェん!!
次回ちゃんとやりますんで、何卒!何卒ォ!!


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俺がヒーロー



評価バーを確認!ま、あんま変わってないんだろうなぁ。
チラッ

……あれ?なんか赤いな。評価バー赤いなぁ。見間違いかなぁ?
……現実だ、これ。
ウヒョーーー!?!?


 

「蓮司……君……!」

 

 

俺は今にも泣きそうになっている羽沢を見つける。

場所は路地裏。……なるほど、確かにここなら人目がつかないし、逃走経路はマンホールがあるから、人を連れて逃げるなら最適な場所だ。

 

なら、何故こんな場所にいると分かったのか。それは、()()()()()()()()()()()()()

 

「……羽沢。大声で叫んでくれてありがとうな。

おかげで分かったよ」

 

彼女は悲痛な叫びを上げてしまう程、恐怖に駆られていたのだろう。なら、彼女にしてあげられる事は

一つ。それは、()()()()()()()()()

 

なら一体どんな言葉を掛ければいいのだろう。うーん、一体どうすれば……。

 

 

––––––その時、ある男の台詞を思い出した。その男は実在する人物ではなく、漫画に出てくるキャラクターだ。

彼はその世界では『平和の象徴』と称えられていた。

そんな男がある台詞を聞けば、人々はたちまち安堵に包まれる。

 

「……もう安心してくれ」

 

……俺は彼ほど強くはない。それに、俺の能力は彼の能力とは真逆。彼は拳を使って敵を倒す筋骨隆々なパワー型であり、俺は知能を使って物の形を変える戦略型だ。

 

そんな俺と彼だが、一つ共通している事がある。それは彼が掲げている()()と、俺が今()()()()だ。

 

それは、人々(彼女)を安心させる事。だから、俺はこの台詞を吐くのだ。

 

 

「……俺がきた……!」

 

ってね。

 

 

 

 

 

「……なんなんだお前?」

 

羽沢を押さえつけていた男が立ち上がる。彼の顔には

遠くにいる俺でもわかる程に血管が浮かび上がっていた。

 

「せっかくコイツを嬲り殺してやろうと思ったのにヨォ…?どうしてくれんだよおい…?ヒーローごっこならぁ……」

 

そこまで言うと、男が地面を蹴った。

 

「他所でやれヤァ!!!」

「……っ!」

 

そしてそのまま、こちらに走りだしてきた。

来た……!俺の予想通りこっちに来やがったぜ…!

俺はポケットから手帳を取り出す。先程、砂場で使っていた手帳だ。その手帳を開き、挟んであった一枚の

紙を取り出す。その紙には錬成陣が描かれていた。

俺はその紙を地面に落とす。

 

「死ねーーーー!!!」

「ここだ!」

 

…… 錬金術に必要なのは、どんな物に作り変えたいか、という()()()()()だと俺は思っている。

故に俺は念じる。地面から飛び出るコンクリートの柱を。

 

そんな念に応じるように、錬成陣の周りが青白く光りだす。今度の光は砂場の時よりかは眩しくなかったが、走っていた男は突然の光に目を見開いて驚いた。

 

だが、そんな男の表情は別の形に変わる。

 

 

「グボァ!?」

 

男の表情は痛みに満ちた形に変わった。それもその筈。彼の腹部に、地面から勢いよく飛び出たコンクリートの柱がめり込んだのだから。

 

「がっ!?」

 

男は勢いよく出た柱に押され、後方へと吹っ飛んでいき、壁にぶち当たった。

 

「きゃっ!?」

 

すぐ横で男が吹っ飛んできたのに驚く羽沢。

……いかん、落ち着かせたばっかなのに驚かせてしまった。ん?まず落ち着いてくれていたのか?

 

「て、テメェ……ゼッテェぶち殺してヤラァ!?」

 

男が痛みに耐え、またもこちらに向かってくる。

いや、学習しろよこの犯罪者。突っ込んできたらまた同じ目にあうぞこの野郎。

 

「ハァ……呆れた」

「死ねやァァァァァ!!」

 

男が拳を振り上げ俺に襲い掛かる。が、そんなのお構いなしに、俺は地面に置いてある錬成陣に触れる。

 

「フガァ!?」

 

青白い閃光と共に、先端に拳を固く握りしめたような

形をした柱を錬成する。それが男の顎に直撃し、男は空に飛んで行く。

 

「飛んでくだけじゃ終わらないんだよなあ、これが」

 

俺は地面に置いた紙を拾い上げ、先程錬成した柱に

紙をつける。そしてそのまま俺は念じる。

 

飛んだ男が勢いよく落ちるように、と。

 

それに応えるように青白い閃光が錬成陣から発せられる。だが、見たところ変わった様子はない。

 

()()()()()()()()()()()()()の話だが。

 

俺は上を見上げる。男は3m程のところで落下している最中。

そこで追い討ちだ。

俺が今錬成したのは先程錬成した、長さ10m程の柱だ。その柱がだんだんと縮んでいき、柱の中間あたりからまた柱が現れた。その柱が男の腹部目掛けて伸びていく。

 

「ゴォアハァ!!??」

 

柱は腹部に命中。そしてそのまま地面へと持っていき、地面と衝突した。

 

「ってうお!?」

 

その衝撃により、強風が吹く。その風により錬成陣が

どこかに飛んでいってしまった。

「……か、は……」

 

男は白目をむき、柱に抑えつけられたまま泡を吹いて気絶していた。

流石にやり過ぎてしまったか…?いや、女の子を連れ去ろうとしたのだ。これぐらいしておかないとダメであろう。うん、駄目だ。

 

「……あ、そうだ、羽沢」

 

普通に忘れていたが、当初の目的は羽沢の救出。そんな目的を忘れて、めっちゃ男を嬲ってしまっていた。

まぁ、嬲り殺してやるとか言ってたからね、頭にきちゃうもんね。

 

「羽沢、だいじょ…っ!?」

「……」

 

俺が声をかけようと彼女の方に振り向こうとすると、

後ろから羽沢が抱きついてきた。

 

「……怖かった」

「……」

 

彼女の発言に俺はつい黙ってしまう。

 

「……怖かったよぉ…!」

「……そっか」

 

彼女の抱き締める力が強くなっていくのが分かる。

彼女は俺が来るまでの間、一人でアイツと戦っていたのだ。誰かが来るまでずっと。だけど、それには相応の覚悟が必要だ。

 

それは、『恐怖』に立ち向かう覚悟。彼女はアイツ以外にも、恐怖そのものとも戦っていたのだ。

 

「……俺言ったろ?安心していいって」

「……うん…!」

 

そんな強大な二つの戦いに彼女は勝利したのだ。だから、せめてそこまでに溜めていた物を吐き出させてあげよう。

 

「……だからさ」

 

 

 

–––––だから–––––

 

「もう、泣いてもいいんだよ」

「!!……うん……!」

 

その言葉を聞いた彼女は、何もかもを吐き出すように泣いて、泣いて、泣きまくったのだった。

 

 

 

 

…………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

その後、警察が到着し、男は逮捕された。

男はこの町とは別の所で『幼女誘拐事件』引き起こしており、指名手配されていたそうだ。なのでそこから逃げ出し、この町で再度犯罪に手を染めようとしていたのだ。

羽沢はというと、俺に抱きついて泣きに泣きまくった後、俺の服の袖をちょこんと掴んで離れないでいた。

なので、警察が羽沢から事情聴取しようとしても俺から一向に離れてくれなかったので、俺も一緒に事情聴取を受ける事になった。

俺は保護者か。こん畜生。

 

因みにだが、俺が路地裏で錬成した柱はまだ元の形に直していない。なんでかって?錬成する為に必要な紙がどっか飛んでっちゃったからしようにも出来なかったんだもん。仕方ないね。直接錬成陣描こうとも思ったけど、描くために必要なチョークとか無かったし……ま、何とかなるでしょ(超適当)

 

 

 

翌日、事件の内容を聞きつけた大和ちゃんときーやんが家に押しかけてきました。いや何でやねん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

………

…………

……………

………………

 

 

 

 

–––––何だろう、この気持ち……。

きっかけは多分、彼が私を助けてくれた時だったと思います。あの時の私はただみんなと……幼馴染のみんな一緒にいたいと、ただそう思って助けを呼んでいました。

 

そして助けに来てくれたのが彼、蓮司君でした。

そして、彼が私にかけた言葉……

 

「俺が来た」

 

この言葉が忘れらないでいました。あの言葉で私は、

助かったと思ってしまいました。……まだ助かっていなかったのに。……何でだろ?

でも、そこからの彼は凄かったです。紙を取り出した

かと思えば地面から柱が現れて、男の人をやっつけてくれて。……本当に魔法使いみたいでした。

 

彼が男の人を倒した後、私は思わず彼を抱きついてしまいました。だって、何でかは分からないけど彼の近くに居たかったから……たったそれだけの理由でした。

でも、抱きついた私を突き飛ばすわけでもなく、彼はそっと私の手の上にそっと手を置いてくれました。

そして、彼が泣いていいよって言ってくれた時には、もう泣いていました。それはもういっぱいに。

 

彼が近くにいると、なんだか安心できて、心が満たされたような気分になれました。だから、彼との別れ際にある事を聞いてみました。

 

「また、会えるかな……」

 

って。そしたら、彼は笑顔でこう答えました。

 

「会えるよ。なんなら会いにいってあげようか?」

 

その言葉を聞いた私は心がドキッとしました。

彼がまた会いに来てくれる……そう思えただけで物凄く嬉しく思えました。

 

 

これって……恋してるの……かな?

 

 






評価バーが赤くなってて狂喜乱舞してる私。
親に見られて冷たい目線を贈られた私。
……泣きたい(二重の意味で)


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お父さんマジ最高かよなんて思っちまったぜ、フヘヘ(デスボ)



ここで一つ謝罪をば。
コメント欄で「この世界には鋼錬の原作があるのか」という
質問に対して、ありますと答えてしまったのですが
今回それを少し……いやめっちゃ変更させてもらいました。

本当に、申し訳ございませんでしたァァァァァ!!!


 

 

「お母さん、おはよー」

「あら、蓮司。おはよ♪」

 

あの事件から二年と半年が経った。俺は三年生になり、今夏休み期間に入っていた。

あの事件後、俺はあの五人組と遊ぶようになった。主に羽沢とだが。でも、あの五人組は俺と同じ花咲川小学校ではなく、大和ちゃんやきーやんの通う羽丘小学校なので、月に一度、羽沢の家……『羽沢珈琲店』に集まって、遊ぶ日を決める事になっていた。

 

別に電話で話し合って決めても良かったのだが、

羽沢が「う、家で集まろうよ!お菓子出すから!」と、慌てながら言ってきたのでこうなった。……チーズケーキって、お菓子に入るのかな()

 

……あ、羽沢といえば、あの時に錬成した柱。実はあれ、今でもそのまま残っているのだ。訳を説明すると、事件の翌日に元に戻そうと事件現場に向かったら、なんか路地裏に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

何故に看板?と思って、看板に書かれていた文字を

見ると、

 

『ただいま工事中 弦巻財閥』

 

と書かれていた。

いや誰だよ弦巻財閥って。んなところ聞いたことないわ。

という訳で俺のコミュ力を全開にして、商店街の皆様(おじ様おば様)にこれはどういう事なのか聞いてみた。すると、

 

『いやー、()()()()()()()()()()()()()

 

『あらあら、()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()

 

みたいな回答が次々と出てきた。

いや()()()って誰だよ。何?弦巻財閥の関係者さんか何かですか?え?何なんですか?ん?何なんですか?

 

とまぁこんな感じで、色々と謎が謎を呼んでいたが、

結果的には何も分かっていないのだ。

 

閑話休題(それはそれとして)

 

今日の朝、俺はいつも通りに8時に起きてきてお母さんと挨拶を交わしたわけだが。どうも今日のお母さんは機嫌が良い。

何かいい事でもあったのだろうか。今日はまだ始まって間もないのに……?

 

「ねぇお母さん」

「何かしら、蓮司♪」

 

気になったので、お母さんに聞いてみた。

うん、言いたくはないけど凄いハイテンションでチョット引k……何でもありません。

 

「何で今日ハイテンションなの?」

「え?もう、蓮司ったら!昨日言ったじゃない!」

「へ?」

 

お母さんがプクッと頰を膨らませる。

はて?昨日何か言っていただろうか。全く覚えていないのだが。学校から出された宿題をやっていたのは確かだが。

 

「全くもう!蓮司ったらおっちょこちょいなんだから!」

「えぇ……?(困惑)」

 

貴方が言うな。貴方だって塩と砂糖間違えそうになった事あったじゃないか。……いや、よくよく考えたらこっちの方がおっちょこちょいじゃないか。大惨事なる所だったやん、これ。……なんて言える筈もない蓮司。

 

すると、今まで膨らんでいた頰が萎み、お母さんの

顔が笑顔になった。

 

 

 

「今日はね〜?()()()()()()()()()()()()

「……ふえっ?」( ゚д゚)

 

多分だが、今の俺の顔は上の通りだと思う。それくらいに、俺は心の底から驚いていた。

 

 

 

 

 

…………………………

…………………

……………

………

……

 

 

 

 

少し、俺のお父さんの話をしよう。

といっても、俺は俺のお父さんの姿を見たことは無い。家に写真の一つでもあるだろうと思って、隈無く探したのだが、何一つ出てこなかった。

 

……ならばと。少し抵抗はあったが、お父さんの部屋に忍び込む事にした。悪い事だとは思うが。

 

 

そこで俺はある物を見つけた。

 

 

『あれ、これって……!』

 

 

ある物––––それは、『鋼の錬金術師』の完全版が全巻揃っていたのだ。これを見つけたのが幼稚園時代。

そう、この時に『鋼の錬金術師』を読むようになったのだ。

 

 

しかし、それだけではなかった。なんと一巻一巻に

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

いやはや、これには驚いた。だってめっちゃ詳しく描かれてんだもん。この錬成陣は〜〜だ、とかこの錬成陣の性質は〜〜だ、とか。……まぁ、これのおかげで錬金術をうまく発動できてたんだけどね。

 

お父さんマジ感謝。

 

 

あと一つ、重要な事がある。それは俺が挟まれていた紙をウヒョーと見ていた時の事だ。

 

『ウヒョー!ヤベェ、お父さんマジ感s……ん?』

 

一枚、ひらりと紙が落ちたのだ。

いけないいけない、と思った俺はその紙を拾い上げた。だが、それは紙ではなかった。

 

 

『……え、これって』

 

 

––––それは、原作の主人公、[エドワード・エルリック]とその弟、[アルフォンス・エルリック]の二人の幼き姿、そして、その二人を抱きかかえる彼らの両親、[ヴァン・ホーエンハイム]と、[トリシャ・エルリック]の集まった写真だった。

 

そう、この写真は原作でホーエンハイムが、ピナコの家から持っていった写真だ。

何かの特典で付いてきたのだろうか。だとしたら、お父さん相当のやり手だなぁ。なんて思ったので、翌日にお母さんに許可をもらい、パソコンで調べる事にしたのだ。転生して初めてパソコン触ったわ。

 

が、ここで意外な事が判明した。

 

『あれ?検索ヒットしない……?』

 

なんと、ネットで調べても()()()()()()というワードが出てこなかったのだ。

おい、これどゆことだ。なんで出てこないんじゃ。

おかしいやろ、なんでお父さんの部屋に完全版あるのに、ネットでは売ってないねん。なんでwik○で出てこないねん。wik○は偉大ではなかったのか!!

 

なんて事がありました……うん、ただそれだけ。

 

ここで分かった事は二つ。

 

・お父さんは『鋼錬』の大ファン。

・なのにネット検索しても『鋼錬』に関する情報が出てこない。

 

こんな感じである。

 

 

 

 

………………………

…………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

「まさか、大和が家に誘うなんてなぁ」

「フヘヘ、いやぁお二人に見せたい物がありまして……」

 

 

まぁ、そんなこんなで現在。俺は、大和ちゃんときーやんと一緒に大和家にお邪魔していた。

なんか俺が朝ごはんを食ってたら、きーやんが家に押しかけてきて、「今日大和ん家行くぞ!」とか言ってきた。なんでも、大和ちゃんが何か見せたい物があるそうな。何だろう、見せたい物って。

 

「ねぇ大和ちゃん。見せたい物って何?」

「フヘヘ、こっちの部屋です!!」

 

はい、フヘヘもらいました。可愛いですねぇ。

そんな頭お花畑みたいな事を考えると、俺ときーやんを見せたい物のある部屋に案内してきた。

 

……どうやら、その部屋は大和ちゃんの部屋ではないようだ。部屋区別しなくちゃいけない程に大きいのだろうか。うーん、なんなんだろう。

 

「それじゃ、入ってください!」

 

大和ちゃんがその部屋のドアを開ける。

 

その部屋にあったのは––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






……なんだろう、ジョジョ5部の処刑用BGMを流しながら、
貴方を詐欺罪で訴えます!とか言われそう……。


……本当にすいませんでしたァァァァァ!!!!!!


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俺のお父さんがガチもんでヤバい人だった……な話



うーむ、更新が遅れてしまった……

課題多スギィ!!(言い訳)


–––––昼下がりの商店街。昼を過ぎた時間帯というのは、飯を食ったりした子供達が元気に走り回ったりする時間帯でもある。

 

だが、大人達だって例外ではない。

 

「おい!そこの木ィ持ってこい!」

『ヘイ親方!』

 

「そういえばあそこのスーパー、今日の夕方からセールが始まるらしいわよ?」

「あらそうなの!?早く準備しなくっちゃ!」

 

 

ハチマキを巻いた親方に、その下で働く子分達。何気ない会話をする奥様方。大人達も子供達に負けない程、活気に溢れていた。

それがこの商店街の良いところでもある、と商店街の会長殿が言っているとか、いないとか。まぁ兎に角、活気に満ちているのは確かだ。

 

 

そこに、一人の男が通り過ぎていく。

 

 

「ただいま、奥様方?」

「「はい、お帰りなさい……あら?」」

 

 

「……よっしゃ、そんじゃ次は……」

「ただいま、親方」

「おうお帰り……あ?」

 

 

男は商店街の人々に挨拶を交わしていく。人々も()()()()()()()返していく。まるで昔から行っていたように。

 

「だ、旦那!?アンタ、いつ帰ってきたんだい!?」

 

建築作業中の親方が男に声をかけた。声をかけられた男は親方の方に振り返る。

 

「いつって……今さっきなのだが?」

「な、何ィ!?」

 

男の返答に驚く親方。男は、そんな親方を見て首を傾げる。

 

「じゃ、じゃあよ!?アンタニ、三年ぐらい前に帰ってきたかい!?」

「何だ唐突に……いや、帰ってきてないが?」

「はぇ!?」

 

親方は堪らず素っ頓狂な声を上げる。男は、そんな親方を見て、ますます首を傾げる。

 

「か、帰ってきてないって……じゃああれはお前さんがやったんじゃないのかい!?」

「あれ?」

「あれだよあれ!ほら、あそこの!」

 

親方はそう言うと、規制線の張られた路地裏を指差す。男は何のことやら分からずじまいだったので、その路地裏の所に近づいてみることにした。

 

男は持っていた鞄を下ろし、規制線の先を見る。そこには、()()()()()

 

「……いや、俺の仕業じゃない」

「な……じゃあ何だい!?あんな柱、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

 

男は自分の顎に手を添え、深く考え出した。……が、すぐにそんな動作をやめ、下ろしていた鞄を持ち上げる。

 

「ちょっ、おい!?」

「すまないな、妻が待ってるのでね」

 

男はそう言うと、先程まで進んでいた道に戻り、親方に手を振りながら、そのまま先に進んでいった。

 

 

その際、太陽の光が男の金色の髪に当たって、男の髪が美しく輝いていた……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「まさか、大和ちゃんの見せたい物が『ドラム』だったなんてなぁ……」

「フヘヘ、驚きました?」

「そりゃあ驚くよ……あの大和ちゃんが……」

 

 

所変わって大和家リビング。お昼過ぎなのに飯を食っていない俺達は、ここで大和母特製、ハヤシカレーを食していた。うん、うまい。

 

先程まで俺達は、大和ちゃんが見せたい物……そう、ドラムを見せてもらっていたのだ。しかもそれだけではない。なんと、大和ちゃんがそのドラムで演奏してもらったのだ。いやはや、音楽知識ゼロに等しい俺でも分かるくらい上手かったぞ、ドラムテク。うん、凄かった(語彙力皆無)。

 

演奏してもらった曲は『カゲロウデイズ』。なんかこれは、俺達に聞いてもらいたくて猛練習したらしい。うん、凄いね!……凄いけど、ドラムだけだとなんの曲か分からんかったよ……上手かったけど!

 

「フヘヘ、驚いてもらえて何よりです!」

 

大和ちゃんが俺の感想を聞いて、嬉しそうに笑う。

はい可愛い(脳死)。こんな笑顔を見たら頭どうにかなりそうだ……あ、もうなってるわ()

 

「……ふっふっふっ」

「?どした?きーやん」

 

突然、きーやんが怪しく笑い出した。

え、何?急に怖いで……?

 

「実はな……」

「お、おう……」

 

 

 

 

 

「俺、ギター弾けるんだぜ!!」

 

「……ふーん」

「いや反応薄っ!?」

 

 

いや急にギター弾けるなんて言われても…ねぇ?どう反応すればいいか分からんし……。

 

「実はさっきの曲、きーやんと一緒に練習してたんですよ?」

「あ、そうだったの?」

「フンッ!!」

 

ほうほう、成る程?つまりさっきの大和ちゃんのドラムテクについていける程、きーやんはギターが上手なのか……。凄いやん(謎の上から目線)

 

「……そ、それでよぉ……」

「おう?」

 

俺がきーやんのギターテクを脳内で評価していると、当の本人がモジモジしながら俺に話しかけてきた。

 

「お、俺らの演奏と一緒に歌ってくんねぇかなぁ……って…」

「グホォッ!?」

「!?お、おい蓮司!?」

 

い、いかん…あのきーやんが素直にお願いしてきた……。いつもは素直になれないあのきーやんがお願いを……グフッ……。

 

あっぱれなり……。

 

「おい蓮司!?」

「あ、だいじょぶだよきーやん……。ちょっときーやんが素直になってビックリしただけだから」

「はっ!?て、テメェ……!!」

 

俺の発言に鬼の形相と化してしまうきーやん。

ここで手を出さないあたり、優しいやつなんだなぁ。

 

閑話休題(それはそれとして)

 

「……んで、話戻すけど……大和ちゃんも同じ感じなの?」

 

俺は大和ちゃんに、きーやんと同じ意見なのかを問いかける。もしきーやんが急に言い始めた事だったら、大和ちゃんがかわいそうだからね。

 

「はい!蓮くんとも一緒に演奏してみたかったので!」

「え、でも俺ギターとか全然弾けないよ?」

「おい!俺がギター担当だ!あと蓮司は歌を歌えばいいんだよ!」

「え、そんな感じでええの……?」

 

バンドとかって確か、ベース?とかキーボードとかが必要なんじゃなかったけか?……ま、いいか。きーやんがそう言ってるんだし。

 

「……もしかして、嫌でしたか?」

「いやいや全然!むしろオッケーだよ」

「そんじゃあ、いつ合わせる?なるべく夏休み中にやってみたいよな」

「そうですねぇ……あ!じゃあこの曲にちなんで、

八月十五日にやってみては!?」

「あ、いいねそれ」

「そんじゃあその日で……なぁもう一曲やってみないか?」

「良いですね!」「いいねそれ」

 

 

 

 

そんなこんなで、八月十五日、大和家のドラム部屋でミニ演奏会をする事に。やる曲は『カゲロウデイズ』と『夕景イエスタデイ』。……中々見ない組み合わせだな、こうして見ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

……………

………

……

 

 

 

 

 

日時を決めた後は大和家で、スマブ○をやったりして満喫した。ふっ、俺の圧勝だったがな(ドヤ顔)

 

今の時刻は午後5時ぐらい。大和家から俺の家はあまり離れてはいなかったので夕焼けチャイムが鳴るまでゲームしてました。めっちゃ疲れたで…。

 

「ただいま〜」

「お帰りなさ〜い♪」「お帰り」

「ふい〜、疲れ……」

 

 

待て、今俺とお母さん以外に誰かいたぞ?しかもこの声何処かで……。

 

すると、階段から人が降りてくる音がした。今お母さんの声はリビングから聞こえてきた……という事は!謎の声の主が二階から降りてくるって事だ!一体誰なん……

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

「……?どうした蓮司。そんな所で固まって」

 

 

 

––––降りてきた男を見て俺は固まってしまう。

男の容姿は、髪、目の色ともに黄金色。男はワイシャツを着ており、その逞しい身体が俺にも分かるぐらいに、ワイシャツはパツパツになっていた。

 

 

 

「……ああそうか。蓮司にとっては初対面だったか」

 

 

男は俺の頭に手を乗せる。

 

 

「初めまして、俺がお父さんだぞ〜?」

「なっ…あっ……」

 

 

 

そんな……この人がお父さん……!?

 

()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()

 

この人は紛れもない、『鋼の錬金術師』で出てきた人物–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––()()()()()()()()()()()、本人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







この人を……この人を出したかったんじゃ……!
前々から出そうと思ってたんじゃあ!!ウエエエエエエイ!!!(情緒不安定)


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本物の錬金術師はここに居た(らしい)

はい、投稿が遅れましたね〜。そんでもって遅れたくせして、バンドリキャラが出てこないのよねぇ。

ホンット作者無能ッ!!(自虐ネタ)



–––––ありえない、なんてありえない

 

この台詞は、ある強欲なる者が口癖としていた言葉だ。これはぱっと見矛盾した言い回しに見えるが、実はこれ、どんな事も起こり得る事なんだ、という意味なのだ。(確証は無い)

 

そもそも何故こんな事を話しているのか。それは……

 

 

「おーい、どうした?何豆鉄砲を食らったみたいな顔して」

「…………」

 

 

 

–––––ありえない、と思っていた人が目の前にいたからだ。

 

 

 

 

 

 

…………………………

…………………

……………

………

……

 

 

 

 

「それでそれで!?今回はどうだったのよ♪」

「いやぁ、今回は日本の裏側まで行ってきたからなぁ……それはもう大変だったよ」

「……」

 

……嘘だろ?俺の父親がホーエンハイム?なんだそれ。原作キャラが父親とか、二次創作とかでも聞いたこと無いぞ?

 

「そこでの研究費もバカ高くてなぁ……いやぁ無茶したもんだ」

「あらぁ、やっぱり大変だったのねぇ。……あ、それよりも、私の作った肉じゃが。美味しい?」

「おいおい、そんなの聞くまでもないだろ?……美味しいに決まってる」

「ズッキュンッ!!」

 

近くで誰かが倒れた音がしたが、今は気にしない。いや、気にしてられない。

まず相手の外見だ。漫画よりも少し若々しく見えるが本人だと分かるぐらいにしか違いはない。しかも声だって、この家で一人の時に見ていたアニメの鋼錬(お父さんの部屋からコッソリ抜き取った)の声と同じだ。

 

「ハァハァ……んもう!急に褒めないでよ!照れちゃうわ!!」

「ハハハ、ゴメンよ。……そうだ蓮司。この肉じゃがお前はどう……おもっ……て……?」

 

イヤイヤ、でも流石に無いだろう。ただただ似ているだけなのかも知れないし、少し声が若々しく感じたしなぁ……。

 

 

「おい、蓮司?」

「どうどう!?」

「……なんだその声。お前馬か何かなのか?」

 

突然、俺の肩に手が置かれる。俺がそれに驚き声を上げると、彼は頭に?マークを浮かべ、俺の息子は馬なのか……みたいな顔をした。

いや、どうどうってどちらかと言うと馬を落ち着かせる為に行う行為なのであって、別に馬の鳴き声では無いんだよなぁ。まあどうでも良いけど。

 

「まあいいや。それで、どうだ?桜の肉じゃがは」

「え?あ、あぁ…はむっ」

 

肉じゃがという単語が出てきて、とっさにそれを口に運ぶ。

 

「……うん、いつも通りに美味しいや」

「ズッキュゥゥゥンッ!!!」

「あ、また倒れた」

 

俺の感想を聞いて、お母さんが心臓を射抜かれたかのように胸を抑え、椅子から転げ落ちた。そんな彼女を見て、父親(?)が呆けた顔をする。

あ、さっきの音お母さんか。なんやねん。

 

その後も、お母さんが作った別の料理を食べて感想を言うたびに、彼女は目にハートマークを浮かべて倒れていった。

お母さんどんだけ耐性ないんだよ。強く生きて()

 

「……あぁそうだ、蓮司」

「ん?どしたの?」

 

突然、動かしていた箸を置き、彼が俺に話しかけてきた。

 

「後で俺の部屋に来てくれないか?少し話したい事があるんだが……」

「話……?」

 

話……もしかして、自分の正体について話してくれたりするのだろうか。もしそうなら今すぐにでも聞きたいぐらいだ。

「別にいいよ」と俺が了承すると、彼は「そうか」と一言だけ言って、止めていた箸をまた動かし始めた。

 

夕飯の最後にはお母さんが再起不能になってしまった為、俺が皿洗いをする羽目になってしまった。

お母さん……本当に強く生きて(切実)

 

 

 

 

……………………

……………

………

……

 

 

 

 

 

皿洗いを終えた俺は、彼の部屋に向かっていた。

そういえば、最後にあの部屋に入ったのはいつだったか?確か初めて入ったのは幼稚園の頃で、それから帰ってきたら毎回侵入して……。

 

あぁそうだ。小一の時が最後だ。俺があの部屋に侵入しようとしてたらお母さんにバレて「今度入ったら夕飯抜き!」って言われたんだ。そうだ、それっきり入らなくなったんだ……。

 

「……っと、着いた」

 

そんな事を考えていると、もう目的地に着いていた。

 

「失礼しまーす」

 

俺はコンコンっと扉を叩き、部屋へと入る。扉を開くと、彼が椅子に座って俺が来るのを待っていた。

 

「すまないな、蓮司。わざわざ来てもらって」

「いや、別にいいよ。それで?話って何?」

「いやなんだ……少し二人っきりで話がしたくてな…ほら、そこの椅子に座りなさい」

 

彼は顎で別の椅子を指し示した。俺はどんな話だろうかと疑問に思いつつ、彼の示した椅子に座る。

 

 

 

その時だった。

 

 

「……ふぁ!?」

 

座り込んだ瞬間、周囲に青白い閃光が迸ったと思ったら、瞬時に椅子が段々と形を変えていき、物を取り巻く樹木のように俺を拘束した。

……って、これは……

 

「やっぱりか」

「……それはこっちの台詞なんだけど?」

 

男は椅子から立ち上がって、懐に隠していた眼鏡を手に取る。

––––先程までの疑問は無くなった。そして、それは確信に変わる瞬間でもあった。

 

「……今のはどうみても()()()だ。そんでもってその姿……。つまり、アンタの正体は……」

「そうだ」

 

男はそう言うと、手に持っていた眼鏡を掛けて、ポケットに手を突っ込む。

 

「お前の予想通りだよ。俺の名前……いや、()()()()()、って言った方がいいか?」

「前世……?」

 

俺の疑問の言葉に、男は頷く。

 

「俺の前世の名前は、()()()()()()()()()()()だ」

「……っ」

 

男……いや、ホーエンハイムは無表情のまま正体を明かした。その堂々とした姿に俺は何も言えなくなってしまう。

 

「さて、俺が正体を明かしたんだ。お前も言ってもらうぞ?何故なら…」

「等価交換、でしょ?」

「……よく分かってるじゃないか」

 

俺の発言に、ホーエンハイムは気さくに笑った。

流石にこの状態(拘束)では抜け出す気になんてなれない。……でも、このまま話進めるのもいやなんだけど……文句も言ってられないか……。

 

 

 

 

 

〜〜蓮司、説明中〜〜

 

 

 

 

「……ふむふむ、成る程?女の子を助ける為にあの柱で撃退したと……お前も隅に置かないなぁ」

「おいそれどうゆう意味だ」

「そのまんまの意味だが?」

 

あれから数分。俺はただ彼の質問に答えていた。正体を明かすと言っても、別に俺から明かしていくわけではなかったようだ。

余談だが、質疑応答中に拘束状態を解いてくれと彼に頼んだら、「お前の疑惑が晴れるまで駄目だ」って言われた。酷いやっちゃ。

 

「……よし、これで以上だ」

 

彼は質問の内容と、それに対する答えを書く手を止める。

おっと、やっと解放されるのか。

 

「んじゃ、これ解放してよ」

「おいおい、さっきから言ってるだろ?()()()()()()()()()()()って」

「は?じゃあまだなんかあんの?」

 

おいおい、まだ続くのかよ。もうそろそろ腰痛くなりそうなんだけど。

 

「てか、俺ずっと疑問に思ってたんだけどさ。これ、どうやって発動させたの?」

「?どれだ?」

「どれって……これ」

 

俺は顎で拘束具(樹木)を指す。

そう、さっきから疑問に思っていたのだ。俺が椅子に座った瞬間に錬金術が発動したのに、その時の彼はずっと別の椅子に寄りかかっていたのだ。それで俺は不思議に思ったのだ。

 

「あーそれか。それはなぁ……お前の中にある()()()()に反応したんだよ」

「…俺の中にある……?」

 

俺の中にある真理の扉って、……マジでどうゆう事だ?

 

「……まぁ、そんな話は別として」

「えぇ……?(困惑)」

 

なんだい、教えてくれるんやないんかい。めっちゃ気になるんだが……。

 

「……分かったよ。じゃあ最後に一つだけいいか?」

「……答えたら解放してくれんの?」

「そりゃあ、もちろん。答えてくれたら対価として解放してやる」

 

彼の台詞に、俺は少し安心した。

もしかしたら、俺はずっとこのままかもしれなかったからな。……いや、流石にお母さんにバレるからそんな事しないか。

 

「……んで?内容としては何なの?」

「そうだな、それじゃあ聞こう」

 

彼はそこまで言うと軽く咳払いをし、先程までとは違う、鋭い目付きでこちらを見始める。

 

 

「お前には、()()()()()()()()()()()()()()

「……?」

 

俺は質問の内容に?マークを浮かべる。

なんだその質問。記憶じゃなくて、思い出?何故に思い出なのだろうか。言葉の綾だったとしても、俺だったら記憶は残っているか?って聞くのだが……。

 

「どうした、早く答えてくれ?」

「え?あぁ、うん」

 

……まぁ、どっちでもいいんだけどね。確か転生する時に、神さまが知識はそのままにしておくねって言ってたし……。

 

 

 

ん?待てよ?

 

 

確か神さまは()()()()()()()()()()的な事を言っていた。知識ってのは勉強で蓄えた『力』みたいな物だ。つまり神さまは、その『力』を残していった、という事になる。なら、ホーエンハイムが言っていた思い出ってのは……っ!!

 

 

 

「……!」

「……やっぱりか」

 

 

 

……そんな、どういう事だ……?こんな事って……。

 

 

 

「前世の……思い出が……分からない……?」

 

 

今の今まで、前世の思い出ってどんな感じだったけ、なんて思った事が無かった。だから、改めて考えてみて分かった。俺のこの脳内には()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……まぁ、大体想像はできていたよ」

「…え?」

 

彼は俺の下まで来ると、手を合わせて合掌し、俺の身体を制限している樹木に触れる。そして青白い閃光を迸らせると、樹木は先程まであった椅子に変形した。

 

「はい、これで終わり。ほら、さっさと自分の部屋に戻れよ?」

「え、えぇ……?(二度目の困惑)」

 

彼は拘束を解くと、もう用はないから出ていけ、みたいな感じでしっしっと俺を追い払う。俺はそれに対して少し反発しようとしたが、渋々と自分の部屋にもどったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分、これからまた忙しくなると思うので、気長に待っていて下さいね……。本当に申し訳ございません!!


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暑くて暑くて死にそうなのに、君はなんて事を言っているんだ?な回



試験的にというか、興味本位というか。アンケートを実施したら皆様からの投票が思いの外沢山集まってて、今めっちゃ歓喜に満ちてます。

ありがとうございます皆様ァ!!!


 

 

 

 

「おーい、蓮司?」

「ぬーん……」

 

何だろう……誰かに呼ばれている気がする……。

 

「おい蓮司?起きなさい」

「うぇ〜い……」

 

う〜ん……誰かに身体を揺さぶられているぅ……。けどこの揺さぶりが俺を安眠の地に追いやるのだぁ……。

 

「ハァ……これでも起きないのか……」

「……ぬぁ…?」

 

突然として、揺さぶりが終わった。

「仕方ない、桜には蓮司の朝飯は抜きって言っとk……」

待って!?待ってください!?起きました!!俺起きました!!だから朝飯抜きはやめてェェェェェ!!?!!」

 

俺は即座に立ち上がり、目が覚めた事を証明した。

危ねぇ……危うく餓死する所だった……!

 

「何だ……起きてたのか」

「ゼェゼェ……って、今何時だ……?」

 

俺はベットの横の机に置いてある時計に目を向ける。時計の針が刺していた時刻は……

 

 

 

「……って、まだ七時じゃねぇかおい!?」

 

そう、まだ朝の七時だったのだ。

いや、なんて時間に起こしたんだよ!?いつもならあと二時間寝てるんだけどぉ!?寝不足は身体に悪いだよ、知ってるぅ!?……寝過ぎも悪いんだけだね?

 

 

「まぁいいじゃないか、早起きしたって。ほらほら、早く着替えて公園に行くぞ?」

「は?謎して?」

「謎してって……知らないのか?これだよ、これ」

 

そう言うと、彼は懐から一枚のチラシのような物を取り出した。俺はその紙を凝視する。

 

「……ラジオ体操…?」

「ああ。朝の七時半から始まるらしくてな。お前と一緒に行こうと思って」

 

フム……ラジオ体操か。確かに小学生の夏休みと言ったら、宿題の次にこれを思い浮かべるなぁ、ってクラスの奴らが言っていたような、無いような。俺も去年お母さんと一緒に行ってたけど、今年はめんどくさくて行かないって決めてたんだよなぁ。

 

……あとね?

 

 

「ラジオ体操、良いとは思うよ」

「だろ?だから一緒n「でもさぁ」ん?」

 

 

 

 

 

 

「これ、昨日で終わってるよ?」

「……何?」

 

俺の台詞に、彼は間抜けな顔をする。そしてそのまま、チラシに書かれていた文章を読み上げていった。

 

「『元気第一 ラジオ体操』……朝の七時半からみんなでラジオ体操をしよう。朝から運動すればその日は眠気スッキリ。さぁ、みんなも一緒にラジオ体操……場所は花咲川公園、日にちは『七月二十三日』から『八月六日』…………」

 

 

文章を読み終えると、彼は黙りこくってしまった。そのせいで俺の部屋は、森の中にいるように静かになる。

 

「なぁ蓮司」

「何?」

「今日は何日だっけか?」

「……八月七日」

 

「……………」

「……………」

 

またも静寂の世界が訪れた。

 

すると、彼はクルリと後ろに振り向き、そしてそのままドアノブに手を掛けて……

 

「おい待てい。何俺の睡眠邪魔しておいて、逃げようとしてんだい」

 

俺は逃げようとする彼の肩を力強く掴んだ。そのおかげで、彼はドアノブに手を掛けたまま静止する。

 

……これは夢だよ

「……ん?」

 

彼がポツリと何かを呟いた。

 

「これは夢だ。そう、夢なんだ。お前は今夢を見ているんだ」

 

……ん?何を言い出しているんだ、この人?

 

「ほら蓮司。ベットに戻りなさい。ベットに入って目を瞑れば夢は覚めるぞぉ?ほら、早く」

「は?え、ちょっ待っ」

 

彼は俺の背中をトントンッと押して、ベットの方に誘導していった。

いや、この人……無かった事にしようとしてるな、これ。

 

「いやさせねぇよ?アンタ夢にしようとしても無駄だよ?もうアンタが俺を起こした事は、脳内にはしっかりと刻まれたからな?」

「そんなの寝ればすぐ消えるさ。ほら、トットと寝なさい」

「おい、寝れば消えるってなんだよ!もうそれ起きてるじゃねーか!!」

「つべこべ言わずに瞳を閉じるんだ。ほら、段々と眠くなーる、眠くなーる……」

「そんな催眠術かけても意味ねーから!!第一、催眠術ってのは……」

 

 

アナタ達?朝っぱらからな〜にしてるのぉ?

 

「「!!」」

 

 

ふと、俺らとは別の、女性の声が耳に入った。ただ、その声の正体を俺と彼は知っている。こんな時間に女性なんて一人しか居ない。

 

俺たちは、バチバチと火花を散らしていた視線を、声のした方に向ける。向けた先には……

 

 

「アハッ☆」

 

「「あっ……」」

 

 

フライパンとおたまを持ったお母さんが。その表情は裏表がないと言える程に綺麗な笑顔。それ故にその笑顔とは全く違う、『鬼の化身』とも言えるモノが見えた。

 

あ、ヤバイ。これ、俺ら4んだな……

 

そんな彼女の笑顔を見て、二人は覚悟を決めたのだった。

 

 

 

 

……………………

………………

…………

……

 

 

 

 

 

 

あれから三時間が経ち、今の時刻は午前十時程。太陽も黄道を辿り、天辺に着こうとしている時間だ。そんな時間に俺は何をしているかというと……

 

 

「あっつい〜〜……」

 

 

太陽が照り付けている外を歩いていた。何故こんな暑い日に外に出る羽目になったのか。

まぁ、理由は単純だ。朝に騒ぎ過ぎた罰として、お母さんからお使いを頼まれたのだ。だがこの騒ぎを起こしたホーエンハイム––––『光野 錬也』は一緒には居ない。本当ならこのお使いはあの人がやる筈なのに、

 

[お父さんはお仕事の疲れがあるから、休ませてあげて]

 

と、お母さんが謎の提案が上がった為に、俺が代わりに行く事になったのだ。野郎、帰ったらボッコボコにしてやる……返り討ちに遭うだろうけど。

 

あと言っておくが、今向かっているのはいつもの商店街ではなく、そことは正反対の方向にある『大型ショッピングモール』だ。何でも晩御飯で食べるカレーのルーが、商店街のお店には無いのだそうな。

 

「……にしても遠いなぁ…ショッピングモールまでどんだけ道あんだよぉ」

 

そんなショッピングモールだが、実は歩いて十分の商店街とは違って、あそこは道中の信号機が多いせいか、二十分も時間がかかるのだ。そのせいで、俺は太陽に照らされて汗だくになっているのだ。ホンットクソ暑い。

 

「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑いィィィ……」

「ふぇぇ…」

 

だ、駄目だ……俺もう暑さで脳がイカレちまった……。脳内回路がショートしちまった…。そのせいで幻聴まで聞こえちまってルゥゥ……。

 

「俺はここでゲームオーバーなのかッ…!」

「ふぇぇ…」

「クソッ、あの人(お父さん)に一泡吹かせてやりたかっt「ふぇぇ…」……?」

 

待て、今さっきまで幻聴だと思ってた声……。これ段々と後ろから近づいてきてる気がするんだが……?

 

「……」

「ふぇぇ…」

 

やっぱりだ。さっきより近い所で声が聞こえる。なんか怖いんだけど……これあれだよね。ホラゲーでよく振り返ったら怪物がいるパターンだよね……

 

 

 

 

まぁ、振り返るんだけど。ほい、クルッと半回転。

 

「!!ふぇぇ…!」

「……えぇ?」

 

振り返ったその先には、電柱の後ろでカタカタと震えている薄水色の髪の少女がいた。よく見ると、俺を見て震えているのが分かる。

 

……え、俺何かしちゃった?もしかして、暑さで無意識にナニかしちゃったの?え、マジ?普通に怖いんだけど。え、え、え、え、えぇぇぇ!?

 

「あ、あの!」

「うぉっ!?はい!?」

 

突然として柱から出てきて、彼女は俺の前に立った。

何!?もしかして告白ってヤツか!!昔から貴方の事が好きだったけど、中々言えなかったの的なやつかい!?

 

……まぁ、この娘誰なのか知らないんだけどね。

 

「あ、あの…えっと……その……」

「……うーん?」

 

そんな脳内お花畑な事を考えている俺だったが、目の前の娘が何やらモジモジし始めているのを見て、つい首を傾げてしまう。

てか、こんな感じで平然と待ってはいるけど、別に太陽が雲に隠れている訳じゃないから、今でもめっちゃ暑いんだよなぁ。早くしてくれないかなぁ。

 

「……その…」

「はい」

 

暑い。

 

「私と……!」

「へぇ」

 

めっちゃ暑い。

 

 

 

「……付き合って下さい!!

 

「は……ん?!???!?」

 

太陽がアスファルトを照り付ける外。そんな暑い所で、何故か俺は見知らぬ女子から告白されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや何でだよ!?






投票結果を見て見ると、やっぱりそのままがいい感じですねぇ。やっぱり色々と入れ過ぎると混乱しちゃいますもんなぁ。


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え?俺の近くにいた筈なのに迷子? なんでぇ?


……めっちゃ期間空いちまった。
やっちゃったZE☆


 

 

前回までのあらすじ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜかこの世界で俺の父親として生きているホーエンハイム!!この世では『光野 錬夜』として生きている彼と、朝っぱらから仲良く喧嘩していたら、めっちゃ笑顔の母、光野 桜がそれを阻止し、俺にお使いを頼んできた!!そしてお使いの道中に、謎の海色女子と遭遇!そして!!

 

 

 

「……付き合ってください!」

 

 

 

なぜか告られた!!!

 

 

以上!!

 

 

 

 

 

…………………………

…………………

……………

………

……

 

 

 

 

 

 

いやなんでだよ!?

「ふぇぇ!?」

 

 

マジでなんでだよ!?おかしいだろ!?見ず知らずの女の子に告白されるとか!!え?なにこの子いじめられてるの?いじめっ子に「おい、あのダラダラしてる奴に告ってこい」とか言われてそれに従ってるだけなの?今時の子供って怖っ!?うちのクラスでもそんなのねぇぞ!?……無いよな?

 

「あの……駄目でしたか?」

「え?」

 

俺が脳内でクラスの奴らはいじめとかしてないよなぁ、と考えていると、女の子がオドオドした様子で尋ねてきた。

 

「いや、別に駄目では無いんだけど、大丈夫というわけでも無いというか……」

「……ですよね」

 

俺の曖昧な答えを聞いて、彼女は小さく溜め息をつく。

え?もしかしてこれ、俺の考えてた事が起きてる感じ?嘘、俺嫌だよ?そんな面倒事はごめn「ショッピングモール……」……ん?

 

「さっきショッピングモールまで行くなんて〜、みたいな事を言ってたから」

「まぁ確かに言ったけど……」

 

言ったから何だと言うんだ……?もしかして、「ショッピングモール行こうとしてる奴を狙え」とか言われたの!?いじめっ子ハードル高すぎんか?それ一般人でも難しいぞ?……あ、別に目の前の子が一般人じゃないとか言ってるわけじゃないからね?

 

まぁでも、知らない人に付き合ってくださいなんて言うこの子もアレなんだけど。

 

「それで私、物凄く迷子になりやすいから一緒に行きたいなぁと思って……」

「ふーん、迷子になりやすい……ん?」

 

待って?今この子、()()()()()()()()()()()()()()()()()って言ったのか?それってつまり、いじめっ子にとやかく言われている訳じゃなくて、何か目的があるからそこに向かおうとしているって事だよな?

 

んんんんん????

 

「待って?じゃあさっきの『付き合ってください』ってのは……」

「付き合って……『私とショッピングモールまで付き合ってください』の事ですか?」

「……………」

「……………?」

 

 

彼女の発言に、真夏日のくせしてこの場が凍りついたような感覚に陥った。

じゃあつまるところ、()()()()()()()()()()()って事か?え?え?こんな事ってあるん普通?しかも彼女、私とショッピングモールまでって言ってるんじゃん。俺ってば話聞いてなさすぎるだろ……。

 

「……いいよ」

「え?」

「別に付いてきてもいいよ?なんか俺の早とちりみたいだったから」

「ほ、本当に?」

「うん」

 

これに関しては俺の理解力の無さと、暑さにやられて脳がショートしてたからだな。そうだ、そうであってくれ。

 

 

 

……いやでもこれ、彼女も文章的におかしくなかったか?……まあいいか。

 

 

 

 

 

………………………

………………

…………

……

 

 

 

 

 

「う〜ん、暇だ」

 

所変わって光野宅。ソファに腰掛けながらテレビを見るホーエンハイム–––錬夜は一人呟いた。

先程まで本を読んでいたものの、すぐに読み終わってしまった為こうしてテレビを見ていた。がしかし、生憎午前10時程だったので見たいテレビが無かったのだ。

そもそもだ。この男、本当ならこの時間帯に買い物に出掛けている予定だったのだが、妻である桜に長旅の疲れを癒して言われたのと、今朝の罰として買い物は蓮司に行かせる、という二つの理由があった為に食材調達に行くことが出来なかったのだ。

 

まぁ食材調達ってのは建前で、本当は錬金術の研究に必要な材料を買いに行きたかっただけだったのだが。

 

「はぁ、本当に暇だ」

 

疲れを癒してと言った桜に関しては「ちょっと友達に会ってくるわ☆」とか言って抜け出し、蓮司に関しては先程も述べた通り買い物に出掛けている。

 

何が言いたいかっていうと、家に俺しか居ないんだよなぁ。なんか今日桜がama○onで買った物が届くって言ってたからてっきり家にいるものだと思ってたのに。俺が受け取らなきゃいけないのこれ?

 

『ピンポーンッ』

「……噂をすれば」

 

俺はグダリきっていた身体に鞭を打ち、ソファから腰を上げる。

三十後半だからってまだ老人じゃないぞ。今回はちょっと疲れてただけだから。……誰に言ってんだ俺?

 

「はいはーい、今開けますよーっと」

 

玄関に置いてあるボールペンを手に取って、我が家の扉を開く。

 

「あっ……えっと」

「……?」

 

そこには蓮司と同い年ぐらいだろう少年がソワソワしながら突っ立っていた。額には少しばかりの汗が垂れている。

 

「……ハロウィンはあと2ヶ月ちょいだぞボク?それとも待ちきれないで家に来ちゃったのかい?」

「ち、違うわい!!蓮司に……えっとその…」

 

俺の渾身のジョークに対して、勢いのあるツッコミをする少年。だがその後に何か言いたそうにするが、話づらいのか顔を少し赤く染めて口ごもってしまう。

 

「蓮司に何か用なのか?すまないが今留守にしてるんだ」

「なっ!?ど、何処に行ったんだ……行ったんですかっ?」

 

ほう、目上の人に対して敬語を使うとは。良い子だ。うちの蓮司も見習ってほしいものだよ全く。……っと、いかんいかん。話が逸れそうになってしまった。危ない危ない、俺の悪い癖が出る所だった。

 

「今蓮司はショッピングモールに行ってるよ。ほら、新しく出来たらしい所の」

「……あっあそこか!!ありがとうございます!!じゃこれで!!」

「まぁまぁ、ちょっと待ちなさい」

「?はい?」

 

彼が走り出そうになるのを、俺が肩を抑えて止める。

 

「さっきハロウィンはまだって言ったが、ウチにはお菓子が沢山ある。どうだ?俺も暇してたし、一緒にアイツの帰りを待ってみるのも……」

「えっ嫌です」

 

彼はそう言うと俺の手を振りほどき、そのまま走り去って行ってしまった。

 

えぇ?なんで行っちゃうの?一緒にお茶でも飲もうよ。全然怪しくないから、ねぇ。一人は寂しいからさ。……行っちゃった。

 

「……まぁ、いいか」

 

彼の背中が段々と小さくなっていき、最終的に見えなくなってしまった。小さな子供というのは本当に元気なのだと感じさせる。

 

「さてと、そろそろ家に「すいませーん」はい?」

 

外の暑さに飽き飽きしてきた所で家に入ろうとすると、誰かに声をかけられた。聞き慣れない声だと脳内で考え後ろを振り向く。振り向いた先には20代ぐらいの青年が長細い箱を抱えて立っていた。

 

「どうも、黒豚ヤマトの宅急便ですぅ」

 

あぁ忘れてた、宅配便か。……にしてもデカイ箱だな?桜のやつ、一体何を頼んだんだ?

 

「ありがとうね、こんな暑い日差しの中なのに」

「いえいえ、これも仕事ですので!それじゃあこの紙に印鑑かサインをお願いします」

「はいはい、サインね……」

 

サイン、と言われてふと思い出した。

 

 

さっきの子の名前、聞くの忘れてた。

まぁ、蓮司の知り合いっぽいし大丈夫か。

 

 

 

 

…………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

「ヘブシィッ!?」

「ふえぇ!?」

「あ、ごめん」

 

何故だ、今なんか寒気がしたぞ?誰か俺のこと噂してるのか?それとも本格的に風邪ひいたのか?俺の身体って暑さにやられると風邪ひく感じなのか?変な身体してんなぁおい。

 

 

閑話休題(それはそれとして)

 

俺たちはあの後一緒にショッピングモールに向かうことになり、無事に到着する事が出来た。……道中、松原が俺の袖を掴んで移動してたら周りの人たちの目線が微笑ましかったような気がしたが、あれは気の所為だったのか?

そもそも袖掴んだ理由として、[迷子になるぅ…]はおかしいだろ。普通に俺の後ろついて来ればいいやん。なんでわざわざ袖掴む必要あるの?いらんくない?いらんよな?

 

「それで?松原は何処のお店に行きた……いん…だ?」

 

ここでの目的を再度聞こうと、後ろを振り向く。だがそこに松原はいなかった。…いや、正確には後方にいたのだが……?

 

「ふぇ、ふえぇぇぇぇ!??!?」

「え"っ」

 

なんと人の波に飲まれて、推定10メートルくらいの所で慌てている顔をヒョコッと俺に見えるように出していた。

いやなんでそんな所にいるのぉ!?俺がくしゃみしてからまだ数秒しか経ってないよ!?この数秒で何があったし!?……ええい、こうなったらこうだぁ!!

 

「おりゃあ!!」

 

俺は松原を助けるべく、人の波に突っ込む。ただ、突っ込むと言っても波はそれ程急ではない。むしろ緩やかだ。

この波に飲まれていった松原って一体何者だ…?(困惑)いやでもあっちは女子だから仕方ないか(自己解決)

 

「ふえぇ!!!?!?!」

 

だが自分の中で解決しても意味はない。俺と松原の距離は確かに縮まってはいるがその距離は決して近い訳ではない。

正直辛い。この距離は縮まってるはずなのに縮まってない感。この感覚が俺を一層慌てさせる。だから辛い(2回目)

てか、この流れ何処まで続いてんだ?人掻き分けて突っ込んでるから時間かかるけど、流石にこの長さは……

 

「……ふぇ?」

「……!!」

 

先程の慌てた様子とは打って変わって、気の抜けた声が俺の鼓膜に小さく響いた。それと同時に、俺の目には松原が誰かに押されて、人の波から抜けだしているのが見えた。

良かった、取り敢えずは波から抜け出せ……

 

 

 

俺の安堵した瞬間、何故かは分からない。だが自分の目線が、松原の後ろの方に向かった。そこには大きな噴水。ただそれだけ、それだけなら良い。そう、()()()()()()

 

「わっ、わわっ」

 

松原の体勢が、押された事により後ろに倒れそうになっていたのだ。しかもこのまま倒れたら、噴水を囲っている石に頭をぶつけてしまう形に。

 

「ッ!」

 

頭の中で最悪の状況を作り出した瞬間、安心して止まりかけていた足が一瞬にして再起動し、人の波を先程よりも早く駆け抜けていく。

 

最悪の状況というのは、彼女の頭から大量の血が流れる事だ。

だがそんな事、起こさせない。否、()()()()()()()()()()

 

段々と人を掻き分けて、とうとうその波を抜け出した。その時間、体感として0.5秒程。それ程までに俺は早く駆け出していたのだ。

俺は勢いに身を任せ、松原の出された手を右手で掴む。そしてそのまま、自分の方に引き寄せた。

 

「……ふぇ?」

「ハァ…ハァ…」

 

俺の胸の中で、何か起きたのか理解できていない松原。

 

「おい、だいじょぶか?」

「ふぇ……ふぇぇぇぇ!!?!?」

 

だが俺が声をかけると、この状況を理解し、顔を紅く染めて俺から一瞬にして離れた。

あれ?もしかして嫌われた?抱きつきやがってこの野郎、ぶっこ○すぞ的な感じ?え、俺助けたのに?反射的に助けたのに?……えぇ?

 

「……えっと」

「ん?」

 

俺が(いじけてはないが)頭を掻いていると、顔を隠しながら松原が声をかけてきた。

 

「あり、がとう…」

 

そしてそのまま、顔を隠していた両手を頰につけて俺に感謝の言葉をかけてくれた。その顔はまだ少し紅く見える。

……なんか、これはこれで俺も恥ずい…。

 

「……どーもっ」

 

そんな事を彼女に悟られないように、俺は感謝の礼に対して素っ気なく返した。

 

その後は松原が目的としていた、ぬいぐるみ屋さんに向かった。その際に松原からお礼として、クラゲのキーホルダーを買ってくれた。……意外にも可愛いなぁ、クラゲ。

 

 

 

 

 

 

 




なんか今月はちょっと忙しくてですねぇ。後一、二回ぐらいしか投稿できないかも。まぁ気長に待っててクレィィ。


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迷子の迷子の花音さん。貴女はどんな事を思ってる?

す、すまねぇみんな……!先月中に出したかったんだけどよぉ!!

間に合わんかった……。


 

 

 

「ふえぇ……ここ何処ぉ?」

 

お日様がサンサンと輝いているお昼頃。私、松原 花音は水筒とお財布の入ったカバンを下げて、外に出ていました。

朝にお母さんから少し遅れて今月お小遣いをもらったので、前から欲しかったぬいぐるみを買うために、最近できたショッピングモールに行くことに。……でも。

 

「ふえぇ……」

 

この通り迷子に。

なんで一人で出かけちゃったんだろう…。お母さんに一緒に行こうかって言われたのに……なんであんな所で見栄張っちゃったの私……。ふえぇ。

そもそも私、極度の方向音痴なのに……。お母さんと一緒に買い物に行っても偶にどっかに行っちゃうぐらいに音痴なのに。もう方向音痴直ってるかなって思っていた朝の私を叩きたいよぉ……。

 

「あづいィィ……」

 

「……ふぇ?」

 

私が朝の出来事について後悔していると、前の方で今にも死にそうな声が聞こえた。下げていた目線をそのまま前に向けると、私と同い年くらいの男の子が汗を拭いながら歩いていた。彼の周りに大人が居ないのを見るに、一人だ。

凄いなぁ。私と同い年くらいなのにスタスタと歩いて行ってる。それに比べて私は、見栄張って外に出て迷子……ふえぇ。考えるのも嫌になるよぉ。

 

 

「……にしても遠いなぁ…ショッピングモールまでどんだけ道あんだよぉ」

「…ふぇ?」

 

私が頭の中で嘆いていると、前の男の子から予想外の台詞が出てきて、思わず声を出してしまった。そして何故か私は近くにあった電柱に隠れた。

あれ?なんで隠れたの私?反射的にこうしちゃったけどなんで?あれなんで?……ってそんな事は後に考えるとして……。

彼は今、『ショッピングモールまで』と言っていた。つまり彼の目的は、ショッピングモールに行くのが目的って事なのかな?

 

……という事は、彼の後ろをついて行けばいいって事?

 

「……ふえぇ」

 

それは流石にダメ。先生が『相手に許可なくついて行ったらだめですよ』って行ってたもん。お母さんも『貴方は極度の方向音痴だからって、知らない人について行ったらダメよ?』って言ってた。だからそんな事しちゃいけない!

 

 

……でも、相手に許可なくついて行ったらダメなら、()()()()()()()()()()()って事にならない?

 

 

「……ふえぇ」

 

でもどうしよう、あの子が予想以上に怖かったら。あんな暑さで弱ってますみたいなフリして襲ってきたら…。多分そんな事は無いと思うけど。

でもでも、万一って事もあるから……ふえぇ、どうしようどうしy……。

 

「あっ」

「!!ふぇぇ…!」

「……えぇ?」

 

いつの間にか下がっていた目線を再度前に向けると、丁度彼も後ろに向いており、同じタイミングで目が合った。無意識のうちに身体がカタカタと震える。

ど、どうしよ!?今思い出したけど、最近全然男子と喋ってない!!どうしよう、接し方が分からないよぉ!!

 

「あ、あの!!」

「うぉっ!?はい!?」

 

私は思い切って話し掛けると、彼は驚いたのか声を裏返しながら応答した。

 

「あ、あの…えっと……その……」

「……うーん?」

 

ど、どうしよう!?話し掛けたのはいいけど、全然心の準備ができてなかったよぉ〜!!段々と彼の目が変な人を見る目に変わっていく気がするよぉ〜!!

 

 

「……その…」

「はい」

 

 

–––額から汗が垂れる。それは暑さでか、それとも緊張しているからなのか。それは私には分からない。

 

 

「私と……!」

「へぇ」

 

 

でも……緊張していたとしても、相手にちゃんと言わないと分からないから。

 

私は大きく息を吸う。夏特有の熱い風が身体全体に染み渡る感覚に陥る。

 

 

––––ちゃんと言おう!!

 

 

「………付き合ってください!!

 

私の大声が辺り一帯を響かせた。次に聞こえてきたのはセミさん達の大合唱だった。

やった……!私言い切った!!やったよお母さん!!私、男の子相手に会話出来たよ!!(会話はしてない)

 

「は……ん?!???!?」

 

私が達成感に浸っていたら、目の前の彼が、真っ赤なトマトのように顔を紅く染め、その顔を両手で隠して後ろに振り返る。そしてそのまま膝を曲げてしゃがんだ。

 

私と彼の間に、謎の緊張感が迸る。セミさん達はそれをそんなの知らないと言いたげに大合唱を開始する。

 

 

いや何でだよ!?

「ふえぇぇぇぇ!??!?」

 

ふえぇ!?急にビックリしたよぉ!?

 

 

 

 

 

………………………

…………………

……………

………

……

 

 

 

 

 

 

あれから数分後。なんやかんやあったけど彼–––蓮司くんと一緒にショッピングモールに行くことになりました。

 

えっとその……彼に謝罪したいです……。

さっき私がショッピングモールまで付き合ってください、って言ったと思ってたんだけど……私、ショッピングモールまでが抜けて『付き合ってください』って言ったらしいんです。

それで彼が違う意味で捉えちゃって……。そこで私が謝れば良かったのに気がついてなくて、ちゃんと言いましたよ?って言っちゃって……。

 

本当に謝りたいです……。

 

 

閑話休題(それはそれとして)

 

 

 

道中私が迷ったりしたけど、ちゃんとショッピングモールに着く事が出来ました。はぁ、疲れた……。

モールに入ると、外の熱気とは違って涼しい風が私達を包み込みました。はぁ、涼しいぃ…。

 

あ、そうだ。蓮司くんにお礼言わないと。

 

「れ、蓮司くん。ここまで連れて来てくれて–––」

 

 

ありがとう、と言い終わる前に大変な事が起きました。

 

「ふぇ?ふぇぇぇ!?」

 

 

何故か急に人集りが現れて、その中に私が紛れ混んでしまったのです。そのせいで、彼との距離が段々と離れていきました。

私もなんとか前に前にと進もうとしましたが、身長のせいもあってか大人達にそれを阻まれてしまいました。

 

「ふえ、ふぇぇぇ!?」

「え"っ」

 

どうやら、私が人の波に呑まれてる事に気付いた蓮司くん。その顔は驚愕の表情に満ちていました。

 

ご、ごめんね?こんな体質でぇ……。

 

そんなお気楽な考えしてんじゃねぇぞと言いたげに、波は勢いを増していきました。

 

「……あっ」

 

この状況いつまで続くんだろうなぁと思っていたら、ゴミがポイッと捨てられたように、私は人の波から抜け出せました。けど姿勢が不安定だったので、一歩二歩と後ろに後退していきます。

 

「わ、わわっ……!」

 

最終的には足が縺れて後ろに倒れてしまいそうに。

 

ふえぇ、私ってなんでこんなにも不幸なんだろう……?

 

–––でも、私が倒れる事はありませんでした。

 

「…ッ!」

「ふぇ?」

 

私が瞬きをした瞬間、距離が離れていた筈の彼が目の前にいました。よく見ると彼の目が……。

 

……あれ?左目になんか()()()()()()なのが浮かんでる……?

 

私が不思議に思っていると、彼は私の右手を掴んで、そのまま彼は自分の胸元に私を引き寄せました。

……ふぇ?何これ、なんだか漫画みたい–––

 

 

 

『…次からは気をつけなさい』

「……ふぇ?」

 

 

胸元に寄せられた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()。でも彼の方を見ても、彼は何故か息を切らしていて、さっきの余裕そうな声を発せるとは思えない。

 

……あれ?何だか周りの目が微笑ましく思える…?

 

 

「……ふぇぇぇ!?」

「おおう!?」

 

彼から一旦距離を置く。

 

ふえぇ!?ど、どうしよう!?今ので私達こ、恋人同士だと思われちゃった!?どうしよう!?別にそれは良いけど良くないんだけど…!あ〜〜!頭がこんがらがっていく〜〜!!

 

「……あれ?」

 

目を隠していた両手を退けると、目の前の大きな噴水が目に入った。ここで私はある考えが思いついた。

 

……もしかして、頭をぶつけない為に私を助けてくれたの…?確かにそう考えれば自分の方に引き寄せたのも頷けるし……。

 

……あれ?何だか胸がざわついてきた…?

 

「あ、あの…」

「ん?」

 

私が呼びかけると、彼は頭を掻くのやめて、こちらを向いた。

……よくよく考えれば、今日初めて会ったのにこんなに助けられちゃった。……だから、一言だけ彼に言っておかないと。

 

「あり、がとう……」

「……どーもっ」

 

私が照れ臭く感謝の言葉を言うと、彼も照れてかは分からないけど短く返した。そんな彼の言葉が何故か、私の胸の中で響いた。

 

言葉だけじゃ、足りないよね……!

 

「ついてきて!」

「え?っとぉぉ!?」

 

私は有無を言わさずに、彼を手を掴んである場所めがけて走り出す。

 

 

 

〜〜イドーチューだお〜〜

 

 

 

「着いた!!」

「……ここって?」

 

私と彼がきたのは、二階にあるキーホルダー屋さん。ここで、彼に渡したいものがある。

私はまた彼の手を握り、店内を見回す。

 

「一体どうしたんだい…?」

「……あった!!」

 

歩き続けて数分。私の求めていたものが見つかった。私はそれを手に取って彼に見せる。

 

「……クラゲ?」

「うん!!」

 

クラゲ……私が大好きな動物。そんな動物のキーホルダーを彼の手に渡した。

 

「えっ、これ俺にくれんの?」

「……うん、さっきのお礼」

 

すると彼は、顎に手を乗せて何か考え始めた。……と思ったら、別の商品棚を見始めた。

 

「じゃあ……俺はこれあげるよ」

「えっ…?」

 

そんな彼から渡されたのは、イルカのキーホルダーだった。

 

「で、でも……」

「別に気にしなくて良いよ。ほら、そのえっと…」

 

彼はそこまで言うと、口篭ってしまった。私は思わず?マークを浮かべてしまう。

 

けど、彼の次の台詞で?マークはどこかに飛んで行ってしまった。

 

 

 

()()()()()……さ?」

「……ふぇ?//」

 

 

さらっと吐かれた台詞。友達、彼はそう言ったのだ。

私自身、女子の友達はいるが男子の友達はいない。だから、彼が異性として初めてできた友達という事になる。

みんなから見ると、だから何?って思われるかもしれないけど、私からしたら何だか心が温まるようになれて、……嬉しかった。

 

 

会計を終えた私達は店から出ると、彼が、あっ!と何かを思い出したように身体をビクンッとさせた。

 

「なぁ松原?これから食材買いに行くんだけどさ……お前も一緒にどう?」

 

頭を掻いて彼は私に聞いてきた。

 

「うん、いいよ!!」

 

私はYESと答える。本当なら私も欲しい物を買いに行きたい。けど–––

 

 

 

–––それ以上に、今は彼と一緒にいたい、という気持ちの方が高かったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 





もうすぐ考査が始まるんです。
はい、更新遅れるんですよねぇ。……はぁ(めっちゃ書きたい欲ありまくりの様子)

あ、後今回のイベでの沙綾の『えいっ!』で心持ってかれました。ハロウィン衣装マジサイコー。


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こんな真っ昼間に唄声を披露してはいけない。わかるね?



 う、嘘だろ!?リサに弟がいたのか!?

 ビックリもしたけど、その……えぇ?ともなったよ(語彙力皆無)


 

 

 

 

「ただま〜」

「おう、お帰り」

 

 松原と一緒に買い物して、彼女をお家まで送った俺は、夕飯の材料を両手に家に帰ってきた。時刻は大体12時頃。

はぁ、やっぱ太陽が真上に来るだけあって暑い。ホント暑い。俺死かけたお(^ω^)、マジ。

まぁでも、玄関の扉を開けて家の涼しさを感じる事ができるのもこの夏だけだから。得した気分になる……いや、全然得してなくないかこれ?

 

「はい、これ買ってきた物」

 

 俺は手に持っていた買い物袋を机の上にドサッと置く。

 

「おぉ、すまないな。こんな大荷物持たせちまって」

「いや、別にダイジョブだいじょぶ。こんぐらいヘッチャラだって」

 

 机に置かれた荷物を見て父親が心配するが、俺は両手を軽く上げて手を横にブラブラと振った。

 いや、実を言うとめっちゃ重かったです、ハイ。何だよあの重さ。あんなんキツすぎるわ。道中筋トレしてんのか俺?って錯覚したわ。……まぁそれよりも驚きなのはこれを毎日、母さんが運んでるって事ね。それにお母さん見た目的にまだ若いから、めっちゃ筋肉ついてそうなんだよなぁ。はぁ怖い。はぁ感謝。めっちゃ感謝。

 

「さて、喉渇いたしジュースでも飲むか」

 

 暑い外にずっといたせいで喉がカラカラだった俺は、潤すべく冷蔵庫に向かう。

 今思えば俺、外で一、二回ぐらいしか水分補給してなかったわ。あん時は松原がくれた水筒で何とかなったけど……あ、口はつけてないからね?間接キスだヤッホイ!とかしてないから。……誰に弁解してんだ俺?

 まぁそれはそれとして。確か冷蔵庫に麦茶とアレがあった筈……。

 

「あり?」

 

 無い……無いぞ?俺が買って置いたアレが……。冷蔵庫から()()()()()()()()()()()()()()()ウッソだろオイ!?アレ無いともう生きていけねぇんだけど!?マジでそんぐらい大切なのが入って無いんだけど!?

 

「どうかしたのか?」

「いやさぁ、ここにあった俺の……」

 

 俺が慌ただしい事に気づいたのか、ソファに腰かけていた彼がこちらに近づいてきた。俺は彼にアレの所在を知っているかを確認する為、彼の方に振り向く。

 

 

 だが、俺は彼を見た瞬間、身体が凍りついたように動かなくなった。何故なら……

 

「あ……まさか……それって」

「?……あぁこれか」

 

 俺は彼の手に持っていた物を指差した。すると彼は、俺が差しているのに気付いて、ソレに目を向ける。

 

「少し小腹が空いてな、冷蔵庫漁ったら見つけちまってな?いやぁ久し振りに食うと、ハムッ……おいひくかふひりゅ(美味しく感じる)

「……」

 

 話しながら彼は、ソレを一口食べ始めた。そんな彼を、俺は唖然とした表情で見つめる。では何故俺が唖然としているのか。

 

 

 

「……やっぱ甘いな、()()()()()()()

「……」

 

 俺が求めていた、そして俺の好物であるアレ(シュークリーム)だったからだ。

 

 

 

 ……マジ災難。

 

 

 

 

 

 

…………………………

…………………

…………

……

 

 

 

 

 

 

「ハァ、そんでまた外に出んのかよ……」

 

 あれから数分後、俺はまたまた外におりました。

 え、何故って?そりゃ勿論シュークリーム買うために決まってるやん。……にしてもあの人、勝手に俺の食いやがって。許さん(確固たる決意)。少し許したけど。

 あの後シュークリームが俺のだって気づいたらあの人、あっまたやっちまった、みたいな顔してたんだけど。あの人まさか母さんの物とか食った事あるんか?それとも前世……って言っていいのか分からんけど、鋼の錬金術師(あの世界)でも同じ事やったのかな?だとしたらあの人相当のマヌk……これはちょっと言い過ぎか。

 

「にしてもあづい……やっぱあの人に行かせれば良かった…」

 

 垂れてきた汗を拭いながら、俺は過ぎた事を愚痴る。

 本当ならあの人に行かせても良かったのだ。むしろあの人が行くべきなのだ。なら何故行かせなかったか。それは単純に母さんがコワイから。

 あの人に買い出し行かせた事がバレたら、多分だけどボコボコにされるだろう。いやされる、絶対される。だって母さん、あの人にゾッコンだもん。度が過ぎるよまったく。

 まぁお金は貰ってったけど。流石にこれぐらいは許される……はず。

 

 

「〜〜♪〜」

「……んあ?」

 

 俺が暑さでだら〜んと腕を下げて歩いていると、何処からか綺麗な唄声が聴こえてきた。声色的に女性……いや女子か。

 ……いや上手すぎん?めっちゃ透き通った声してるんだけど。やっぱ大人か?大人なのか?分からんなぁ。

 

「〜〜♪…」

「……あ、終わった」

 

 どうやら終了してしまったらしい。かと思ったら次はパチパチと拍手が聴こえてきた。

 ……って、気づいたらずっと立ち聞きしちまってたわ。いやはや素晴らしい唄声でしたわ。俺も拍手したいくらい。……てかホントに誰が歌ってたのこれ?

 

「やっぱ凄いねぇ友希那は!」

「うん……凄いよ友希姉……!」

「……ありがとう。リサ、トウマ」

 

 今度は話し声が。どうやらさっきの人とソレを聴いていた人達が話し合っているのだろう。そんな和気藹々とした声を頼りに俺は音の元を探す。

 ……おっと、めっちゃ近い所にいたわ。普通に近くの公園で話し合ってたわ。

 

「……っ!」

「!!」

 

 めっちゃ仲良しだなぁと思いながら見ていると、多分銀色っぽい髪色をした少女と目が合った。合ったのですぐに視線を別の所に移す。

 いやだって気まずくない?全然知らない子と目が合ったら視線逸らすでしょ?猫が猫に向かって威嚇しているようなもんだよこれ。……そ、そうだ。俺の目的はシュークリームを買いに行く事。目的を忘れてはいけんな。よし、そうと決まれば目的地にレッツラg「ちょっと良いかしら?」うおおいビックリした!?

 

「は、はい?何でしょう?」

「貴方さっきまで私の歌を聴いていたわよね?」

「え?あぁはい」

 

 な、何だこの子?急に話しかけてきたぞ?あれか?これってまさか逆ナンパってやつか?おっふ、俺ってそんなモテモテ?……すいません調子乗りました。反省してます……。

 

「……どうだったかしら、私の歌?」

「……はい?」

 

 口説かれるのかと思っていたら、まったく別の事を聞かれた。

 ん?いや、ん?まさかの感想言えって?見ず知らずの小学生に?何それ、行動力ありすぎんかそれ。ビックリだよ?

 

「答えてもらえるかしら?」

「え!?えっえぇっと……」

 

 彼女は目を細めて再度俺に聞いてきた。

 これ正直に話さないといけない系なの?え、ちょっと恥ずかしいんだけど。……まぁいいか、他に子供いないし。

 

「感想としてだけど……素晴らしかったよ。遠くからだったからあんまし聴こえなかったけど、そんなの帳消しにする位綺麗な声だった」

「例えるなら?」

「ん?」

「綺麗な声というのはどういった感じなのかしら」

 

 俺が感想を述べていると、彼女は首を傾げ、それに割り込んで質問してきた。

 うーむ。中々に凄い質問してきたねぇ。例えるなら……?うーん、声がめっちゃ透き通ってたから、例えるとしたら……。

 

「…()()()

「……青空?」

 

「なんていうか……君の声ってなんか透き通ってる感じがしてさ、なんてゆーか雲一つない青空を想像したからさ。……ほら、上見てご覧よ」

 

 俺の言葉に促され、彼女は空を見上げた。俺もそれに釣られるように空を見上げる。

 

「……!」

「ま、こんな感じよ」

 

 空を見て彼女は小さく声を漏らす。そんな様子を見て俺はニヒッと笑う。

 空は雲一つなく、太陽が燦々と照り輝いている。そのおかげか、青空も今まで以上に澄み切っていて、手を伸ばせば空に吸い込まれていきそうな程に。

 いや〜、午前中には雲あったんだけどね。また外出てみたらこんな感じよ。にしても俺って詩人家になれそうだぜ。無理だけど。

 

 いやー、にしてもこんな澄んだ青空、俺でも見た事が……

 

 

 

 

 

 

 

 

『な……でだよ……!

 

 

 

 ……何だ今の?今一瞬()()()()()()()()()()満天の青空、じゃなくて()()()()()になってたような……

 

 

 

 

 

「友希那〜、どうしたの〜?」

「!……リサ」

「およ?」

 

 公園の方から突然、陽気な声がした。空を見上げていた彼女と俺は声をかけられた事に少し驚いたが、彼女は声をかけたのが知人だったからかすぐに表情を直す。

 ……さっきのは何だったんだ?めっちゃ気になるけど……まぁいいか。

 

「ごめんなさい、少し彼に感想を聞いていて」

「彼?」

 

 『友希那』と呼ばれた彼女が俺の方に顔を向けると、それに釣られて『リサ』と呼ばれた子もこちら向いてきた。

 

「……え、まさか友希那のボーイふr「違うからな?」……なーんだ」

 

 何だコイツ、初っ端からぶっ飛んだ質問しやがって。俺ら初対面だよな?ん?脳内回路に異常がおきてんじゃねぇか?俺が叩いて直してあげようか?お?

 

「友希那が男子と喋ってるなんてあんまり見た事ないからさ?てっきりそうゆう関係なのかなって」

「そんな訳ないじゃない。私だって男子と喋るわ。現にトウマとも話してたじゃない」

「いや、トウマは例外!」

 

 なにやら、女子同士の会話が始まったようだ。

 ……てか、俺もうこの場からおさらばして良い?もう暑さで死にそうなんだけど。早くシュークリーム食べたいんだけど?良いよねもう行って。もう良いや、行こう。この場から離れ……ん?誰かに服掴まれたぞ?

 

「待って……」

「…お、おう?」

 

 後ろを振り返ると、俺より身長の小さい男子が服を掴んでいた。雰囲気はそこで話しているパリピ女子に似ている。だが、似てはいるがどこかよそよそしい感じだ。

 

「あ、貴方は……その」

「うん?」

 

 服を掴んでいた手を離し、何やらモジモジし始めた。

 な、何だこの子?……あ、もしかして二人の会話にあった『トウマ』君かな?いや、名前なんてどうでもいい。重要なのはこの子が俺を引き止めた理由だ。俺は早くシュークリーム食べたいのだ。早く行かせてくれ。

 

「ゆ、友希姉の事が好き……なの?」

「……は?」

 

 彼から予想外の質問を受けて、俺は素っ頓狂な声をあげた。

 な、なんなんだ?この三人組、初対面の人に向かって変な事聞き過ぎじゃないか?いやまぁ、最初の銀髪少女は分かるよ?自分の唄声どう思われてるか聞くのはまだ分かる。行動力ハンパないけど。

 でも後のこの二人は違う。聞き方は違うけど、質問の内容は殆ど同じだ。どっか似ているなぁとは思ってたけど、この二人絶対『姉弟』だろ。俺確固たる自信あるぞ?

 

「いや、そんな訳ないでしょ?俺ら初対面だし」

「そ、そうだよね……!…良かった〜……」

 

 引き止めた理由に少しガッカリしつつ、俺が当たり前の回答をすると、彼はなぜか胸を撫で下ろした。

 おっと?今ちょっと小声で良かった〜って聞こえたぞ?ん?ん?まさかまさか?もしかしてもしかしなくても、これがアオハルってやつですかあ?……コラそこ、お前も人の事言えないとか言うんじゃない。

 

 

ドドドドドドド……

 

 

「……ぬ?」

 

 何だろう、後ろの方から馬鹿でかい足音が聞こえるのだが。あれ?どうしたトウマ君?めっちゃ青ざめた顔してるけど。

 

 

……レンジィィィイイイ!!!

 

 

 ……おっとぉ何だろうな?俺を呼ぶ声が聞こえたぞ〜?めっちゃ聞き覚えのある声が後ろから聞こえるぞ〜?

 

 恐る恐る後ろを振り返る。するとそこには……

 

「見ったぞ蓮司ィィィィィィ!!」

「き、きーやん!?」

 

 ズザザァッ!と音を立てながら現れたのは、俺の幼馴染みであるきーやんだった。

 おっと、なんか後ろでトウマ君が泡吹いてる気がするぞ?白目ひん剥いてる気がするぞ?

 

「おい蓮司ィィィ!!」

「はい蓮司ィィィ!?」

 

 急に肩を掴まれた。

 おうおうめっちゃ痛ぇぞ、肩掴む力強いぞ?何々、何用?走ってきて何用だい?

 

 

 

「……すまねぇ!!」

「……おう?」

 

 何かと思えば、初手に謝罪をしてきた。

 あり?俺何かしちゃった?

 

「今度一緒に演奏会しようぜって、言ってただろ?」

「………………あーうん、言ってたね?」

「……お前絶対忘れてただろ」

「いや、全然覚えてたよ?」

 

 お、覚えてるに決まってるじゃん?き、昨日した約束でしょ?……ごめん、実をいうと言われるまで忘れてた。この事はきーやんには内緒だぞ()

 

「それで?その約束と謝罪が何か関係g「出来なくなった」ん?」

 

「その……ほんっと申し訳ねぇけど……出来なくなっちったんだよ」

 

 

 

 

 俺の肩を掴みながら、悲しそうな表情をして俺に重要な事を伝えてきた。

 

 ……おっと、マジですかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 みんなも薄々気づいてると思うけど、オリキャラとして前々からリサの弟作ろうとしてたんよ……。前書きでも書いたけど今回のイベントで弟いるって分かった時マジビックリしたぜ……!


 あ、あと活動報告にちょっとした報告があります。
 この作品とはあまり関係はありませんが一応書いておきます。


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用事が重なった?まぁそんな事になっても何とかなる

 あらすじで文字数稼ぎしてるわ今回。
 な、なんて酷いことを!!


 

 

 

 

 

 前回までの、ジョジョの奇妙なb「ていっ」あ痛っ!?ちょっ、やめてよ後輩君!!後ろからハリセンで叩かないで……ってそれフライパンじゃん!?なんてもんで叩いてんの!?

 

「興奮してたので」

 

 いやしてないよ!?ただ私の出番が全然なくて、嬉しくなってただけだから!興奮とか全然してないから!!

 

「それ明らかにしてるでしょ」

 

 してない!明らかにしてない!!断じてしてない!!もう言い切れるからk「とうっ」ごぶぁ!?(吐血)

 

「うるさいんでちょっと黙っててもらえますか?ほら、読者さん達も痺れを切らして待ってるんですから。こんな低俗な漫才なんか見たくないって言って……あ、気失ってる。流石にたたきすぎたかな?まあいいや。

 

 て事で代わりに前回までのあらすじ。前世の思い出を持たない転生者、光野蓮司。彼の父親はなんと、鋼の錬金術師の世界で偉業の中の偉業を成し遂げた、エドの父親でもあるホーエンハイムだった。

 そんなビックな方を父に持つ彼は、ショッピングモールでなんやかんやあって花音という少女と出会い、そんな彼女とイチャイ……交流を深めた後、またなんやかんやあってショップモールへと向かう。その道中、彼は三人組の男女に出会い、さらに彼の幼馴染みである如月こときーやんとも出会う。ここまでが前回までのお話です」

 

 な、ナイスだよ後輩君……。このまま俺の仕事も頼「とうっ」ほぶぅぇ!?

 

「なに勝手に仕事押し付けてんですか?それにさっき、別作品の名前出そうとしてましたよね?やめて下さいよそうゆーの。出すんだったら、作者がいま書いてる新作の名前出して下さいよ」

 

 まっ、待って後輩君!!足!足やめて!!足で踏んづけないで!!!何かに、何かに目覚め……あっ(絶命)

 

「あ、死んだ。……まぁ元から生きてないけど。

 

 コホン。では長くなりましたが、本編の続き、どうぞ!」

 

 ど、どうぞ〜……ゴフッ(再度吐血&気絶)

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

………………………

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 午後一時程度。俺ときーやんは公園の木の下にあるベンチに腰掛けていた。そんな中、俺は先程のきーやんの台詞に、少し動揺していた。何故約束を果たせなくなったのか。理由として一つ。それは単純に彼に別の、それも、()()()()()()()が出来てしまったのだ。

 

 というのも、約束の日である八月十五日は、丁度お盆の日と重なっている。そしてそのお盆の期間はずっと遠い親戚の家にいるそうな。しかもきーやんの親戚はお盆の日に沢山来るらしくて、そんな方々の為に前々から準備をしなければならないらしく、お盆の期間前でも遊べなくなるとの事。準備ってなにするんだろ。

 

「本当にすまねぇ…」

「いやいや、別に大丈夫よ。気にしてないから」

「で、でもよ……」

 

 俺が声をかけるも、申し訳なさそうに顔を伏せるきーやん。よく見れば少し泣きそうになっている。

 うーん、ここで泣かれると俺が泣かしたみたいで少し迷惑になってしまうなぁ。

 

「……あ、そういや大和ちゃんには言ってあるの?この事」

 

 俺は話題を変えるべく大和ちゃんに話したのか聞いてみる。

 

「大和には先に言っといた。……めっちゃ寂しそうな顔してたよ」

「おっとぉ…」

 

 だがしかし、きーやんはその時の事を思い出し、先程よりも悲しそうになる。結局は益々深刻に。

 おいおい、まず最初に聞いた内容が不味かったわこれ。……これは全て私の責任だ。だが私は謝らない……ってふざけてる場合じゃねぇよ、何やってんだ。

 

「俺、とんでもない事しちまったッ……!」

「え?ま、待て待てそんな深刻にならなくても…」

「俺が……後先考えずに決めちまったから、みんなに迷惑かけちまったんだッ……!」

 

 おうおうおう、とうとう泣き出しちまったよ。どうすんのこれ?どう対処すれば良いのこれ?……ん?待てよ?

 

「なぁきーやん」

「な、なんだよ……?」

 

「これって()()()()()()()()()

「………は?」

 

 俺の台詞が意外だったのか、なきながらも素っ頓狂な声を上げるきーやん。

 

「な、そんなってお前…!?」

「だってそうだろ?まぁ確かに約束を果たす事は出来なくなったよ。けど、()()()()()()()()()()()()()()()()

「なっ……」

 

 こんなの常識だ。出来なくなった事はまた別の日にやる。例えるなら、夏休みの宿題を忘れて、別の日に出すみたいに。……一応言っておくけど宿題はちゃんとやってあるからな。もう殆ど終わらせてあるからな?

 

「てめぇ……!」

「え?ちょっ」

 

 すると突然、きーやんが俺の胸ぐらを掴んでベンチから引き離した。

 え、なんで?

 

「お前のその言い草だとよぉ、まるで()()()()()()()()()()()()()()じゃねぇか!!」

「は!?」

 

 おいおい待て待て。それは普通におかしいだろ。どんな解釈してんだ?流石に子供だからってそんな解釈はしないだろ!?……え?しないよね?ん?まさかしちゃうの?俺約束の事ちょっと忘れてたけど、どうでもいいなんて思ってないからね?

 

「待て待てきーやん、一旦落ち着けって。俺そんな事思ってないから。ちょっと忘れてはいたけど、どうでもいいなんて思ってないから」

「……忘れてたのかよ」

 

 俺が肩を叩きながら言うが、俺が口を滑らせてなのか、未だ胸ぐらを掴みながらも少し拗ねた表情をするきーやん。

 

「……でも、そうだよな。また別の日に約束すりゃあ良いんだよな……」

「そゆことだぞい」

 

 掴んでいた両手をゆっくりと離して、きーやんは考え込んだ。

 ふう、やっと理解してくれたか。良かった良かった。一時はどうなる事かと思ったわい。

 

「そんじゃ、後で大和ちゃんにも言っとかないとな?」

「……あぁ」

 

 俺の提案に、きーやんは瞳に少しばかり涙を残してつつも頷く。もうすっかり泣き止んだようだ。

 ……今思ったけど、きーやんの泣き顔ってレアだったなぁ。写真で撮っておきたかった()

 

「……っておい!なに俺の顔見て笑ってんだ!!」

「あり?俺笑ってた?」

 

 いつの間にやら俺は笑っていたようで、それを見たきーやんが二度目の、怒声を俺に浴びせてきた。

 なんとまぁ、自然と笑っていたとは!HAHAHA!!やっちまったぜ!!

 

「……ケッ」

「まぁまぁそんな拗ねんなよ?……あっ」

「あぁ?」

 

 ま、待てよ?俺こんな所で何してんだ。俺ってそもそもおやつ買いに外に出たんだよな。……こんな所でグダグダ喋ってる場合じゃないやん。大変だ、シュークリーム売り切れる〜!

 

「すまんきーやん!俺用事思い出した!!」

「は?……っておい!?」

 

 腰掛けていたベンチから立ち上がり、俺は超ダッシュでその場を後にした。後ろの方で何やらきーやんがガヤガヤ言っていたような気がしたが気にしてられん。

 何故なら俺には、大好物(おやつ)が待っているのだから……(キメ顔)

 

 

 その後はなんとかしておやつを買い付けて家に帰った。…のは良いけど……。

 

「ねぇねぇ蓮司!あなた昨日「大和ちゃん達とバンド作った』って言ってたわよね!!だから……私のお古だけど!!」

 

 笑顔で母さんがそう言いながら、後ろにあった長細い箱から何かを取り出した。

 

「ベース!!始めてみない!?」

 

 ジャーン!!と擬音が聞こえそうなほどに母さんはそれ–––ベースを見せびらかしてきた。

 

 

 

 

 え?ベース?ギターとかじゃなくて?

 

 

 

 

 

……

………

……………

…………………

……………………

………………………

 

 

 

 

 

「おいクソ蓮司ィ!!大和ん家行くんじゃねぇのかよぉ!!……あいつ足早すぎだろ」

 

 午後一時頃。俺と蓮司はすぐそこのベンチである事を話していたんだが……。あいつホント足早すぎだろ。陸上選手でも目指してんのかアイツ?

 

「はぁ……また俺一人で行くのかよ…」

「そうなるわね」

 

 まぁ取り敢えずは大和ん家行く前になにかお菓子でも買って行くとして……あーいや、そうなると一旦家帰んねぇと。はぁ、疲れるぞこれ。

 

「蓮司探してたせいで足パンパンだぞこっちは……」

「大丈夫なの?」

「いや、なんとか大丈夫だ……」

 

 ったくよぉ、ホント疲れたぞ。大和を家行くの明日でも……いや駄目だ。今日行っとかないと母ちゃんに怒られ……。

 

 

 

 

 

 ん?まてよ。今さっき誰が声かけた?

 

「少しぐらい休んだらどうかしら?」

「アタシもそう思うなぁ」

「……っ!?テメェらいつからそこにいた!?」

 

 後ろに何か気配を感じたので振り返ってみると、見知った顔がベンチの後ろから顔を覗かせていた。

 

「あら、気付いていなかったの?」

「アタシ達に気付かないなんて、ユーヤも鈍感だな〜☆」

「湊は影薄いから良いけど、今井気付けなかったのはなんかウゼェ」

 

 今井がアハハと笑うのと対照に、湊はいつもように目を鋭くして俺を睨みつけた。

 

 一応説明しとくと、こいつらは俺と同じ学校の同級生で、今井とは同じクラス。湊とは隣のクラスだ。

 そもそも、俺らが初めて会ったのが小一の時からで、それからずっとおんなじクラスだった。要は蓮司と大和とは違う幼馴染みって訳だ。

 

 それはそれとして。

 

「……で、お前らさっきの話聞いてたんか?」

「えぇ、貴方の怒鳴り声が聞こえたから」

 

 湊は出てくると、そのままベンチに座り始めた。それを見た今井も釣られて座る。

 にしても俺の声そんな大きかったのかよ……。周りの人達に迷惑かけちまったか……?

 

「あの子も貴方の友達なのかしら?」

「あぁ、お前らよりもずっと前からな。……って言っても一.二年ぐらいしか変わんねぇけどよ」

 

 俺が応えると、何やら満足したのか、湊は「そう」と一言呟き、蓮司が走って行った方向を向く。

 

「彼、私の歌を聞いて良かったと言ってくれたの。しかもどんな物なのか具体的にね」

「……お前また歌ってたのかよ。喉痛くねぇの?」

 

 俺はコイツが年柄年中歌っているのを再認識して、少し呆れる。

 まぁ、コイツの歌は二.三回しか聞いてねぇけど。確か俺の誕生日にコイツが歌ってくれたんだよなぁ。めっちゃ上手くて唖然としたけどよ。……あ、そうだ。誕生日といえば。

 

「なぁ今井よぉ。確か誕生日近かったよな?何欲しい?」

「え、急に!?うーん欲しい物……?」

 

 自分から言うのもあれだが、友達の誕生日には必ずプレゼントを送っている。大和にもドラムスティックを上げたし、湊にも猫じゃらしを上げた。

 もちろん蓮司にもプレゼントは上げている。でもアイツ『別に大丈夫だよ』って毎年言うから決めるのに困るんだよ。……まぁプレゼント選びも楽しいんだけどよ。

 

 ……って、自分で自分を照れさしてどうすんだ。

 

「うーん、今年はあんまり欲しいのないなぁ」

「今年もかこの野郎」

「だって去年のが凄く良かったんだもん!」

「……え、あれが?」

 

 今井の発言に俺は耳を疑った。

 というのも、コイツは去年も何でも良いって言っていたもんだから、親父からもらった()()()()をあげた。

 親父は海外に出張したりして色んなお土産を持って来るんだが、その中で特に目立ったのがその紅い宝石だった。親父が言うに『何でも叶えてくれる石』らしい。んなもん嘘だと思うけど。

 

「あれ綺麗だったし、アタシの部屋に飾ってるんだー☆」

「ほーん、じゃあ勝手に決めちゃっても良いんだな?」

「うん、良いよー!」

 

 ……さて、聞きたいことも聞き終わったしそろそろ家に戻るか。

 

「んじゃ、そろそろ行くわ」

「そう、それじゃあまた」

「じゃーね、ユーヤ!」

 

 俺は一言二人に告げて、その足で自分の家に向かった。その後に大和ん家に行って事情を話したりして1日は終わった。

 

 ハァ、走り回ったりしたから疲れた……。

 

 

 

 

 

 

「じゃあアタシ達も帰ろっか☆」

「そうね」

「トウマー!帰るよー!」

「……んあ?あれ、もう帰るの?」

「もう!寝ぼけてないでいくよ?」

「わわっ!待って姉ちゃん!!あと友希姉もーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 文字数稼ぎする必要あったのかこれ?
 とまぁ色々ありましたが、取り敢えず第二章はこれで終わりです。

 終わりです(二回目)
 いや自分でもちょっと締まらないなぁとは思います(悲しみ)

 あと第三章は少しルートを蓮司編とゆうや編で分岐させます。何故この二人が?と思った貴方!!読んでいけば分かります。
 あともう一つ。第三章はシリアスぶち込みます。そこの所ヨロシク。


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自己紹介と次回予告という名の尺稼ぎ(第二章編)

 

 第一章でもやったんだから、一応やっておかなくては(使命感)


 

 

光野 蓮司

 

 今作の主人公。小一の時につぐみを助けた後、錬金術をさらに研究する様になった。そのおかげか、原作で使われた錬金術を使えるようになったり、更にはオリジナルの錬金術を発明したとか。しかしながらあまり使う機会がない為、本人はどうしたもんかと悩んでいるとか。

 

 

光野 錬夜

 

 蓮司の父親。その正体は原作のハガレン主人公の父、ヴァン・ホーエンハイムである。何故彼がこの世界で生活しているのか?それは第三章で明かされるとかされないとか。

 

 

 

光野 桜

 

 蓮司の母親。蓮司がバンド始めたと聞いた際、昔のバンド仲間に預けていたお古のベースを彼にあげた。蓮司は彼女のベースを上手く扱う事が出来るのか?『出来るわよ、きっと!』と彼女は言うが果たして?

 

 

大和 麻弥

 

蓮司の幼馴染。彼ともう一人の幼馴染と一緒に演奏できるとウキウキしていたが、その約束を果たす事が出来なくなるのを知ると、めちゃくちゃしょんぼりしていた模様。第二章ではあまり出て来なかったが、第三章には沢山出る模様なので、皆様もそれに期待して欲しい。

 

 

如月 ゆうや

 

 蓮司と麻弥の幼馴染。友達の誕生日には必ずプレゼントを贈る程に友達思いな所がある。だがしかし、それを悟られたくないのか、普段はツンツンとした行動をとる。こらそこ、ツンデレ男子は需要ないとか言うな。ナット投げるぞ。

 第三章ではゆうやルートがあるみたいだが……?

 

 

山吹 沙綾

 

 蓮司の小一の時のクラスメイト。といっても、小二以降も同じクラスで、今では仲の良い友達と思っているらしい。しかも蓮司も時たま、彼女の家で経営しているパン屋の手伝いに行っているので、商店街の大人達は『小さいながらに付き合ってるのでは?』と噂になっているとか。

 

 

羽沢 つぐみ

 

 蓮司が小一に助けた少女。その時から彼に好意を寄せている。その為、彼女の家で経営している珈琲店に彼が来ると、手伝いを一旦止めて彼と話し合うとか。パン屋の娘と付き合っているという噂を小耳に挟み、本人に直接聞いたとか何とか。

 

 

松原 花音

 

 蓮司がショッピングモールで出会った少女。道中色々な事があり、『彼の側にいつもいたい』と思うようになった。だがしかし、これが恋心なのかどうなのかは、本人にも分かっていない。

 

 

湊 友希那 & 今井 リサ

 

 蓮司が公園で会った少女達。この二人は蓮司とはあまり関わりは無いが、彼の幼馴染であるゆうやとは小一からの友達だとか。

 

 

今井 とうま(本編で漢字表記で出ていない為)

 

 リサの二歳違いの弟。姉とは違い、大人しい性格で、学校でもあまり友達はいないとか。そのせいか、姉の友である友希那の歌をいつも聞きに行っている。

 

 

 

 

 

以上!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次章予告!!

 

 

 母が若い頃(今も若いけど☆)に使っていたベースを手に入れた蓮司!だがしかし彼には音楽知識が全然無い!!ベースの道は長く、険しいと聞く。どうする蓮司!!弾けるのか蓮司!!

 

 そう思っていた矢先、錬夜から突然、『俺についてこい』と言われる。仕方なくついて行った先は……弦巻財閥だった!?

 

《第三章 ルート蓮司

 お金持ちのお嬢様ってめっちゃ気品のある人だと思ってたんだけど、えぇ? 編》

 

 

 

 予定よりも親戚の家に早く行くことになったゆうや。親戚には有名な人達がいるらしい。その中には今大人気子やくの姿も……?

 

 っておいおい!?なんか怪しい奴らもいるぞ!?しかもそいつら、ゆうやを狙っている!?それに手に持っている『紅い石』は……!?一体どうなるんだいゆうや君!?

 

《第三章 ルートゆうや

 親戚の集い 『ソレ』に成る為の資格 編》

 

 

 

 

 次章からもよろぴ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 はい、予告でした。
 そんでもって前回も書きましたが、第三章では二人について書いていきます。大体蓮司が8話、ゆうやが4話ぐらいにしていきたいと思うので。……高校生篇待ってる方はもう少しだけ!!もう少しだけ待っていて下され!!


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《第三章 ルート蓮司  お金持ちのお嬢様ってめっちゃ気品のある人だと思ってたんだけど、えぇ? 編》
金持ちのご令嬢が元気過ぎて困ってます。助けて()パート1


 
 ブルーバードがカバーされて舞い上がっております。シュリンプです。このままagainとかホログラムとかもカバーしやがれ下さい。


 

 

 

 

「ぅぁぁぁぁああああああああ!!!??!?」

 

 

––––絶叫。その小さな身体で出るとは思えない程の音量が、澄んだ空に響いて消えていく。

 

 

「あはは!楽しいわね、蓮司!!」

 

 

––––笑顔。俺が叫んでいるのとは裏腹に、隣ではこれでもかと思える程の笑みを浮かべている。

 

 

「……アイツ最近笑ってないらしいからな。これで楽しんでもらえるだろうよ」

 

 

–––––微笑。遠目から見ている父親は、俺が楽しんでいるように見えたのだろう。彼の口角は少し上がって見えた。だがしかし、俺は楽しんでなどいない。むしろ早く帰りたい、早くこの娘とバイバイイエスタデイしたい気分だ。

 

 澄み切った空から差し込む太陽が燦々と照りつけるのとは裏腹に、俺の心はどんよりとした曇り空が作り上げられており、そんな心で俺は、何故こんな事になったのかを模索していた。

 そして一つ、分かった事がある。

 

 

 

 俺って、ジェットコースターとかの絶叫系、嫌いなんだな……と。

 

 

 

 

 

 

……

………

…………

……………

…………………

………………………

 

 

 

 

「うーむ……」

 

 時間を遡る事、4時間前の朝8時。俺はベットの上で胡座をかきながら、目の前に鎮座している楽器に頭を悩ませていた。

 あの日から3、4日程経った今日この頃。何故俺がこんなにも頭を悩ませているのか気になるだろう。……といっても、些細な悩みだ。

 

 

 ––––目の前にあるベースが全然弾けない。

 あの日の夜に貰った次の日に、母さんと練習をしていたのだが……全くもって弾けないのだ。

 運指?って言うんだっけか?これが本当に難しい。途中で指がどこ押さえていいのかこんがらがって……辛い(切実)あとギターとベースの二つ比べると、ベースの方が弦硬いのよね。だから弾く時も一苦労なんだよなぁ。あ、因みにツーフィンガー奏法?とピッキング奏法?があるらしいけど、俺はピッキング奏法ね。

 

 ……コホン、とまあこんな風にどうすれば上手くなるのか悩んでいるのだ。母さんに聞いてみれば?と思う人もいるだろう。だから実際に聞いてみたのだ。したら……

 

 

『慣れれば簡単よ♪』

 

 

 と、返ってきた。おい初心者の事舐めてんのか。

 

「おーい蓮司、いるかー?」

 

 そんなこんなで俺が悪態をついていると、扉の向こうから父親の声が聞こえてきた。

 

「いるけどー?」

「そんじゃ、失礼するよ」

 

 特に追い払う理由も無かった為、俺は彼を部屋に入れる事に。俺の返事を聞いた彼は、扉を開けてよっこいしょ、と頭をぶつけないように気をつけて入って来た。

 ……いいなぁ身長あって。俺も欲しい、まだ小五だが。そういえば、原作のハガレンでは主人公は身長低いって設定だったけど……俺、将来デカくなれるよね?あっちは弟の為になんやかんやで身長伸びなかったって書いてあったから大丈夫……だよね?

 

閑話休題(どうでもいいやん)

 

「それで何か用?」

「いや、ちょっと聞きたい事があってな。今日暇か?」

「今日?」

 

 今日は確か母さんとベースを弾く事以外、何も無い筈。その事を伝えると、彼は納得した表情を作る。

 

「そうか……じゃあ大丈夫か」

「ん?」

 

 ……何だろう。物凄く嫌な予感がする。俺の第六感がこの人の事見て危険信号を発してる。早く逃げなきゃいけない気がする。静まれ、俺の第六感。

 

「それじゃあ黒服さん達、お願いします」

「は?」

 

 俺が誰の事なのか疑問に思っていた矢先、扉の向こうからぞろぞろと黒い塊が……。

 

 

 ……ん?違う、よく見たら人だ。速すぎて全然分かったらなかったけど、バリバリ人だったわ。良かった、Gじゃなくて。……全然良くないけど。

 

「では、失礼します蓮司様」

「え?あ、は –––– え?」

 

 ……あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 突然黒服さん達が周りに集まったと思ったら、いつの間にか担がれて部屋を出ていた!!な、何を言っているのか分からないと思うが、俺も何をされたのか全く分からなかった。

 スピードとかパワーだとか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ……。

 

「あら、黒服さん達!行ってらっしゃーい!」

「おはようございます、桜様。それでは」

「え?え?え?」

 

 階段を降りてすぐのキッチンで、母さんが朝食の準備をしているのが見えた。……だがしかし、それはたったの一人分だ。

 いやいや、何故母さんは俺を助けない?何故そんなに仲良いの貴方達。てか、朝食の準備一人分って……俺が連れ去られるの知ってるなあの人。共犯かよ。

 

 ……ん?待てよ。この人達、よく見たら女の人?俺、女の人に担がれてるの?

 

 

……いやぁん。恥ずかしい。

 

 

「失礼します蓮司様」

「あ、はい…」

 

 そそくさと俺を高級車に乗せる黒服さん達。俺の部屋からこの車までにかかった時間、体感的に数秒程度だった気がする。おいおい、この人達怪物か何かなのか?

 

「おう蓮司、どうだった?」

「いや、どうって言われて……ん"ん"!?」

 

 俺が前を向くと、そこには俺の部屋に居た筈の父親が、優雅に座席に座っていた。

 いやなんでだよ。アンタ二階からどうやってここ来たし。

 

「ん?その顔はどうやって来たって顔だな?」

「そりゃあ誰でもそう思うでしょ」

「そうか?まぁいいか」

「いや良くねぇよ?どうやってここ来たのマジで?」

 

 何優雅に紅茶飲もうとしてんだよ。誤魔化せるとでも思ったかこの野郎。

 

「普通に窓から」

「普通に窓からかよ。ったく最初っからそう言……え?」

「いやだから、普通に窓から飛び降りて来た」

 

 そう言うと、彼は家の二階にある俺の部屋の窓を指した。確かに部屋の窓は全開で開けられている。

 

 ……さっきの人達よりこの人の方が怪物だったわ。(再確認)

 

 

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 車に強制的に入れられて数分後、車はちゃんと速度制限を守りながら車道を走っていた。俺の事強制的に連れ込んで、道路交通法は守るのか。

 

 そんな事を思う俺はもうこの状況に慣れてしまい、退屈そうに外の風景を眺めていた。ここで何処に向かっているのだこの野郎と思う人もいるだろう。実際、俺も気になったので車に連れ込まれた後に、目の前にいる父親に何処に行くのかと尋ねてみたのだが、『秘密だ』の一点張りだ。しかも優雅に紅茶飲みながら。

 

 はっ倒すぞこのデカ男。できないけど。

 

 

「む?」

 

 ふと、ある建物が目に入った。その建物はまるで中世の時代に作られた立派な城のようだ。しかもこの車内から見ても、庭の面積が物凄く大きく見える。学校の校庭ぐらいあるのではないだろうか。

 

「ん?あぁ、もう着いてたのか」

「え、アレが目的地なの?」

「そうだが?」

 

 そうだが?って……俺は何も知らされてないんだよ?家でベース弾こうか悩んでたところを、誘拐紛いな事されて来てるんやぞ?ホント叩いてやろうか?ん?

 

「おいおい、そんな顔するなって。悪かったよ、言わなくて」

 

 どうやら、俺の不満が顔に出ていたらしい。このポーカーフェイスの達人と呼ばれたこの俺としたことが……不覚。(言われてないけど)

 

「あ、多分なんだがな?」

「ん?」

 

「もう数分ぐらい前から敷地に入ってたかもしれないわ」

「……うぇ?」

 

 敷地入ってるって……いや広すぎん!?あの建物まで後数分かかりそうな距離ですけど!?東京ドーム一個分ぐらいあるんじゃないのこの広さ?……え、なんかもう引き返したくなったんですけど……。

 

 

 

 

 

 色々あり過ぎて、もうこの時からオデノカラダハボドホドダ!

 ……だがしかし、この後に待ち受ける笑顔を具現化したような天災によって、これ以上にオデノカラダハボドホドになる事を、俺はまだ知る余地も無かった。……はっきりいってこの時に引き返せば良かったと後悔してるよ、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 はい、という訳であの笑顔キラッキラな少女は次回出てきます。こらそこの君。期間空いたくせしてバンドリキャラ出してないとか言うんじゃあない。黒服さん達が出たではないか。それでよしとしよう、ね?

 


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遊園地って久しぶりに行くとはしゃぎたくなる



 お久しぶり&今回めっちゃ長くし過ぎた。めっちゃ反省。


「お待ちしておりました、錬夜様、蓮司様」

「出迎え、すまないね」

「……なんだよこの数」

 

 

 あれから数分後。俺達は黒服さんに促され、屋敷の中に案内された。

 ……道中思った事があるんだが、黒服さん達多過ぎやしないか?ざっと数えて五十……いや八十はいたんじゃないか?いやもっといるかも。

 しかもよく見るとみんな同じ顔に見えたんですけど。貴女達全員姉妹か何かですか。俺の目が腐ってるとか、そんなんじゃないよね?ね?

 

「タマコはいるのか?」

「いえ、今は我らが所有する遊園地に出向いております」

「……遊園地?なんでアイツがそんな処に」

「実は……」

 

 俺がそんな疑問を持っているとは露知らず、いつの間にやら黒服さんとホーエンハイムがコソコソと話し始めていた。そして何故かは分からないが、時折あの人の顔が強張った表情をする。どうやら真剣な話のようなので、俺は屋敷内を見渡す事にした。

 

 目の前には二階へと続く大きな階段。床には様々な模様が描かれた絨毯。そんでもって天井には大きなシャンデリアが……しかも壁に絵画が飾られてるし……うーん、絵に描いたような豪華な屋敷だね。

 

 

「……ん?」

 

 

 俺が見渡していると、何かが動いたように見えた。動いた場所を目を凝らしてみると、俺と身長が同じぐらいの子供が映った。といっても、その子供は二階からヒョコッと顔を出しているだけなので、身長が同じかはあまり詳しくは分からない。何となく身長が同じくらいだと思ったのだ。

 その子の特徴は瞳と髪の色が、あの人–––ホーエンハイムみたいに黄金色であった。そんな子供が俺のことをじーっと見ている。

 

「……あ、引っ込めた」

 

 と思ったら顔を引っ込め、そのまま階段を降りてこの一階まで走ってきた。遠目からでは分からなかったが、髪が後ろで纏められて、服装も白のワンピースを着ている事から、女の子である事が分かる。

 女子かぁ……なんか俺、女子の知り合い多い気がするんだけど気の所為かな?

 

「あなた、レンヤのお知り合いなのかしら!」

「……はい?」

 

 突然、彼女は笑顔で俺に聞いてきた。

 出たよ、最初に挨拶しない子。なんか最近挨拶しない子供が多い気がするなぁ。出会ったら最初は挨拶、これ重要だからね、覚えておこうね。

 

「知り合いっていうか……息子なんですけど」

「あら、あなたとレンヤは家族だったの!全然似てなかったからわからなかったわ!!」

「似てないって……まぁ否定はしないけど」

 

 そう、否定はしない。というのも、ここ数日間あの人と一緒の生活をしているうちに、あの人と俺には大きく分けて二つ、違いがある事が分かったのだ。

 一つは髪の色。あの人の髪色は言わずもがな、純粋なる金色だ。対する俺は、炬燵に入りながら食べると美味い蜜柑の色……つまりは()()だったのだ。この二つの色は似ているようで全然似ていない。そもそも色が似ているというのは『暖色』か『寒色』かに分類される所から始まるので、金属の色を示す金色はその分類には当てはまらなくなるので……おっと、長く語りそうになってしまった。

 二つ目は髪型。あの人は長髪のストレートなのに対し、俺は短髪のボサボサヘアーなのだ。これに関しては俺も長髪ストレートにしたい。てかさせて下さい。

 

 ……ちょっと話逸れるんだけど、一つ言っていいかな?今こうやって髪型について語ってたけどさ。

 

 

 

 この世界、髪の色に特徴あり過ぎやしないか?

 

 ここで一つ、よく遊んでいる幼馴染み5人組を例としよう。羽沢や美竹みたいに茶髪とか黒髪なら分かる、まだ常識圏内。けどさ、薄桃色とか銀色とか赤色とか、もう常識外れもいいとこだぜ。凄いね、幼馴染み5人中3人が髪染めてんの。ただの不良集団じゃないか、羽沢と美竹が可哀想だよ。まぁ彼女たち全然不良じゃないけど。全然健全なんだけど。

 

 

 

 ごめん、めっちゃ話逸れた。

 

 

「おお、こころか。久しぶりだなぁ、元気にしてたのか?」

「レンヤ!えぇ、毎日が楽しくて仕方がないわ!!」

「そうか、それは何よりだよ」

 

 

 どうやら話は終わったようで、ホーエンハイムがこちらに歩いて来た。そしてそのまま、俺の隣にいる女子に話しかける。どうやら、先程の彼女の台詞でも察せるように、この二人は知り合いのようだ。

 

「蓮司とはもう話したのかい?」

「ええ!でも、彼とあなたは全然似てないわ。どうしてなの?」

「おいおいこころ、親子だからって似ているとは限らないんだぞ?それにこれから成長していったらもっと違いがあらわれるかもしれない」

「あら、そうなの?」

「そうだとも。そうだなぁ……例えば、俺の身長は高いだろう?」

 

 何やら、ホーエンハイム先生による親子についての授業が始まったようだ。少女もどんな話が始まるのか、目をキラキラ輝かせて楽しそうに聴いている。

 

 ……ん?身長?

 

「だけど蓮司を見てみろ。全然小さいだろう?」

「そうね、私と同じぐらいね!!」

「グフっ!?」

 

 二人の『身長小さい』に類する言葉を聞いて、何故か俺は心に大きな傷がついたような感覚に陥った。

 

「このまま大人になっていくと、それに比例して身長も大きくなるが……多分アイツは160ぐらいで止まるな、うん」

「はぁ!?」

 

 待て待て、なんでそんな事平然と言えるんだよ。おかしいだろ。しかも160位って、あの人よりも低い可能性あるぞ!?いやだ、あれ以上のミジンコドチビにはなりたくない……!

 

「おい蓮司。お前それ以上考えていたらアイツに殺されるぞ?」

「!?!?」

 

 な、何だと…?こ、この人、錬金術だけじゃなくて人の心を読む力もあるのか?しかも殺されるって……まさかあの人もこの世界にいるのか…?

 

「……冗談だよ、アイツはこの世界にはいない。寧ろ、いたら会いたい位だ」

「な、なんだ。冗談か……」

 

 彼の言葉に俺は溜息をついてしまう。

 ……ちょっとだけ、あの人いるのかと期待してしまった。本当にいるのなら俺だって会いたい。寧ろアリンコサイズって貶して殴られてみたい。……あ、俺はMじゃないです。

 

「……あぁそうだ、忘れる所だった。二人とも、今から遊園地に行かないか?」

「「遊園地?」」

 

 彼からの突然の提案。そんな提案に俺と彼女は首を傾げる。

 

「なんで急に?」

「いやな?そこでちょっと()()()()()がいるんだよ。だからついでにお前達も連れて行こうかなと…」

「会いたい人……?」

 

 なんだなんだ、不倫か?かのホーエンハイムが二股掛けるというのか?……いやだとしたら俺を連れては行かないか。むしろ子供なんぞ邪魔になるだけだし……。

 

「いいわね遊園地!!私行ってみたいわ!!」

「おぉそうか、こころ行きたいのか。じゃあ蓮司はどうする?」

 

 どうやら彼女は行く気満々らしい。まぁそれもそうか。会ってまだ数分ではあるけど、この子の性格は多少読み取れた。この子は外で遊ぶのが楽しいとか思っているアウトドア系だろう。だってめっちゃはしゃぐもん。そうに決まってるよ。

 

「……一応俺も行くわ」

「一応ってなんだよ。……まぁいいか」

 

 俺の適当じみた台詞に、彼は苦笑するしながら俺の頭を掻き回してきた。やめてくれ、ボサボサの髪が益々大変な事に……。

 

 

 

 –––この時、俺は錬夜……もといホーエンハイムの言っていた()()()()()という台詞が気になり、ついて行くことを決めた。ここで俺が行かないと宣言すれば、この後に起こる悲劇に遭わなかっただろう。

 

 そう、真に注目すべきは(ホーエンハイム)では無かった。注目すべきなのは、

 

 

 

 

–––隣にいる彼女の、恐ろしい程の傍若無人である事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

…………………

……………

………

……

 

 

 

 

 

「おrrrrrrrr……」

「さあ、次は何処に行こうかしら!」

 

 

 

 とまぁこんな感じで振り返ってはみたが……引き返せる場面何個かあったよなぁとつくづく思うね。

 

「蓮司!今度はここに行きましょう?」

「はぇ?次って何処……って此処さっき行った所じゃねぇか!?」

 

 意気揚々と彼女がガイドマップに指差す所を見ると、そこは遊園地によくあるコーヒーカップの回転系アトラクションであった。

 

 ここに着いてから何時間か経過しているのだが、その間ずっと俺はここにいるお嬢様と一緒にアトラクション系に乗っていた。だがしかし、アトラクションに乗ろうと言い出したのは、隣にいる彼女だ。

 

 俺も最初は楽しんではいた。難易度低めのジェットコースターから始まって、一回目のコーヒーカップに乗ろうと彼女が言い出した時は、俺はまだまだ元気だった。けど……

 

 

 

『楽しいわー!!蓮司ーー!!!』

『ブラァァァァ!?!?止め、止めてお願…おrrrrrrrr』

 

 

このコーヒーカップで彼女が暴走した。そう、回しに回しまくったのだ。そのせいで俺の脳味噌はフル回転(物理)と化し、泡を吹きながら気絶しかけていた。気絶してないだけまだマシだと思って()

 そんでもって次は今乗っていたジェットコースター。もう無理死にそう。誰か助けて、この子に……弦巻こころさんに殺されるー!

 

 ……あ、言っておくけどこの間、ホーエンハイムはずっと遠くで微笑んでいただけだからね。助け舟をよこさないでずっと傍観者でした。畜生。

 

「確かにさっきも行ったわ!でも、さっきよりも楽しいかもしれないじゃない!!」

「それは意味不だよ……」

 

 彼女、時々こうやってトンデモ理論を打ちかまして来るから怖い。しかも笑顔で言うから尚更怖い。……あれ?おかしいな、何だか彼女が鬼に見えて……。

 

 

キャーーーー!!!

「……!?」

 

 

 突然、園内に悲鳴が迸った。そのお陰でか、園内にいた来園客達も悲鳴を聞いて立ち止まる。声色的に女の子の声……しかもこの声は……。

 

「どうしたのかしら蓮司?」

「どうしたって、今悲鳴が……」

「あら?でも貴方もさっきまで()()()()()じゃない!」

「えっ?」

 

 叫んでいた……ってもしかしてアトラクションに乗っていた時の事なのか?……まさか…!

 俺は周囲の人達の様子を見る。すると俺の予想通り、人々は何も無かったかのように各々の行きたい場所に移動し始めた。

 

 俺の予想。それはさっきの悲鳴が()()()()()()()()()()()()()()()()だと思われている事だ。先程、こころが言っていたようにここの遊園地には絶叫が絶えない。それ故に遠くにいた人達には、例え大声で叫んでも、アトラクションに乗って悲鳴を上げているんだなぁと思う位なのだ。

 

「……っ!」

「あら、駆けっこかしら!負けないわ!!」

 

 だけど今のは違う。今のはアトラクションによる悲鳴では無い。かと言って何によって悲鳴が起きたのかは知らない。俺だって()()()()()()()()()()()()いても、直ぐには向かわない。

 

 では何故向かうか。答えは単純だ。俺が()()()()()()()()()()()

 

 

「……山吹」

 

「……れ、蓮司…?」

 

 

 俺が息を切らして向かうと、そこには目に涙を浮かべて崩れている山吹がいた。しかもそれだけでは無い。彼女の横には胸を抑えて苦しそうにする山吹のお母さんと、そのまた横で泣いている小さな女の子がいた。

 

「一体何があったんだよ、山吹」

「……純が…」

 

 純–––山吹の弟だ。確かにさっき見たときには妹である紗南とお母さんの千紘さんしか見かけておらず、純の姿はどこにも見当たらなかった。

 

 

「おいおい、なんかあったのか?」

「急に女の人が倒れたぞ?救急車呼んだ方が良くね?」

「やだぁ、怖ーい……」

 

 

「……周りに人が集まり始めたか…」

 

 俺は心の中で舌打ちをする。何故なら、こうやって人だかりが出来てしまうと、山吹が益々混乱して何があったのか上手く話せなくなってしまう恐れがあるからだ。こうなってくると俺にはどうしようも……。

 

 

 

「はーい皆さんすいませーん、通りますよーっと」

 

 

 俺が何か案を絞り出そうとしていると、突然後ろから気の抜けた声が聞こえてきた。最近耳にする声だったので、俺は後ろに振り返ってみる。

 

 

「ホーエ……錬夜…」

「おいおい。アイツじゃ無いんだから、父さんって呼んでくれても良いじゃないか?」

 

 

 振り返ってみると、そこには大量の黒服さん達を引き連れたホーエンハイムがいた。彼が黒服さん達に何かの指示をすると、彼女達は直ぐに散らばって行動を開始した。どうやら周囲の人達を追い払っているようだ。

 

「これで邪魔する奴らはいなくなったな……さて、お嬢さん」

 

 彼は山吹の目の前まで歩くと、そのままお互い同じ目線になるように片膝をついた。

 

「は、はい…」

「落ち着いて…自分のペースでいいから、何が起こったのか話してくれるかい?」

 

 彼はそのガタイの良さとは裏腹に、優しく、相手を落ち着かせるような声で彼女に話しかける。表情も優しい笑顔だ。

 

「……純が」

 

 彼女は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「純が、拐われたんです……!」

 

 

 

 

 

…………………

……………

………

 

 

 

 

 

 

山吹は泣きそうになりながらも、全てを話してくれた。

 

 山吹達はお父さん以外の四人でこの遊園地に遊びに来ていたようで、みんな楽しくここで遊んでいたそうだ。

 だがしかし、こうして遊んでいる時に、突然何者かが後ろから紗南を拐おうとしたのだ。それにいち早く気付いた純は、紗南を庇うために彼女を無理やり押し退け、連れ去られたのだ。

 後を追いかけようとした千紘さんも、持病が悪化したのか胸を抑えて倒れてしまい、押し退けられた紗南もその反動で怪我をしてしまい、痛みで泣いてしまう始末。もうどうすればいいのか分からなくなってしまった山吹が泣き崩れそうになった所を、俺が見つけた……という訳だ。

 

 

「……警察に通報した方が良いですよね…?」

 

 山吹が弱々しく尋ねる。

 確かに誘拐ならば警察を呼ぶのが妥当だ。俺もそう思う。前回に似たような事があり、その時俺は感情的になり過ぎて俺が捕まえる事になったが……今回ばかりはホーエンハイムもいる。警察も出動しつつ、いざとなったら彼が動けば何とか……。

 

「いや、()()()()()()()

 

 ……は?

 

「な、なんでだよ!?警察呼んだ方が…」

「すまないが、警察を呼んでしまったら()()()()()()()()()()()

「は、はぁ!?」

 

 なんだそれ。こっちが大変って……えぇ?

 

「すまないな、こっちにも事情があるんだ。……という事で蓮司、お前行ってこい」

「は!?俺!?なんで!?」

 

 待て待て待て。なんで俺を指名するの?そこは自分が行くんじゃないの?

 

「……犯人がわからない以上、純って子の顔を頼りに探すしかないんだよ。そこで、その子の顔を知っていて助け出せる奴は一人しかいないだろう?」

「え、えぇ?」

 

 助け出すって言っても、俺今日メモ帳(錬成陣)持ってきて無いんだけど……。

 

「……蓮司」

「ん?」

 

 突然、山吹が手を握ってきた。

 

「私ね?純が連れて行かれた時に、頭の中で何にも考えられなかったの。それでお母さんも倒れて、紗南も泣いて……」

 

 彼女は声を震わせて、俺の手を段々と強く握っていく。

 

「それでね?連れてかれちゃった純はどうしてるのかなって思ったの。……もしかしたら泣いてるのかもしれないって。助けてって思ってるかもしれない……って」

 

 

 ––––だから––!

 

 

「あの子を助けて上げて……!本当は私が行くべきなのに……!ごめん……!」

 

 

 そう言い終わると、彼女は身体を震わせながらまたも泣き崩れてしまった。

 

 

 –––何考えてんだ、俺。

 

 

「大丈夫だよ、()()

「……っ!」

 

 自然と、俺の口からは山吹という苗字ではなく、沙綾、と名前で呼んでいた。

 

「あの子は俺が絶対見つけ出す。だから泣くな。あの子が戻ってくる時に姉が泣いてたらやだろ?」

「!!……うんっ…!」

「よし、笑って待ってろよ?」

 

 俺は沙綾の頭に手を乗せて立ち上がる。

 

「蓮司、これを」

「おっと……これって」

 

 立ち上がった俺に、ホーエンハイムは何かを投げてきた。俺は何とかそれを受け取る。

 一つは()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう一つは()()()()()()()()()()だ。

 

「お前の部屋から持ってきたものだ」

「いや、知ってるしそんな事。てかなんで……」

 

 俺の完成品を持ち出しているんだ……と言いそうになるのを堪える。

 今問いただしても仕方がない。今すべきなのは……。

 

「……なんでもない。行ってくる」

「あぁ、気をつけて行ってこいよ」

 

 

 

 

 

 

 ––ー純の救出、ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 てな訳で次回戦闘入ります。あ、一応いっておきますけど指パッチンはしませんよ?


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俺の錬金術



 やっとこさ、戦闘シーンがきた。


 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 ある者が園内を走っていた。走る速さは遅めではあるものの、その表情は必死の形相である。その足を止めたら何もかもが終わる……と、その者の顔を見ればそう思えてしまうぐらいに。

 

 

「はぁ……ふうっ…はぁ……!」

 

 

 走る度に息が荒くなっていく。

 

 しかし、その者の顔を見るものは誰一人いない。何故なら、その者はキャップ付きの帽子を深く被って走っていたからだ。服装も、身丈に合う服装である為、その者を注意深く見る者もいない。

 

 

 では、()()()()()()()()()()()()。服装もしっかりとしていれば、例え帽子を深く被ったとしても怪しまれたりなど早々無い筈なのだ。

 

「くっ……くそっ……!」

 

 では何故走り回るのか。それは、今その者が背負っている少年に訳がある。

 

 その者は、後ろに背負う子供を見る。少年は静かに目を瞑って奴の背中に身体を預けている。無論、小さくではあるが呼吸はしている。

 奴自身、当初の予定ではこの少年を拐うつもりなど毛頭無かった。狙っていたのはその少年の隣にいた小さな少女。少年と同じくらいの身長の子だ。

 

 

「……やっぱりあんなの受けなきゃよかったっ……!!」

 

 奴は数日前に起きた出来事を振り返る。奴はその日、あるモノと交渉をした。交渉内容としては、《小さな子供を連れてくれば、大金を注ぎ込む》というものだった。前々から金に飢えていた奴は、直ぐ様その依頼を引き受けようとした。だがしかし、すぐに決断する事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『これはアナタが()()()()()こうして交渉しているのよ?今、こうして路上に倒れているアナタを……ね?』

 

 

 自分の依頼主の声が脳に反響する。

 奴がすぐに引き受けなかった理由。それは依頼主が()()()()()()()()()()()()()()

 依頼主は小さな石だった。曇りの日だろうと雨の日だろうと、いつ如何なる時でも妖しく輝く紅い石。そんな石がその者に語りかけてきたのだ。金に飢えた奴でも警戒するのも無理はないだろう。寧ろ奴はその依頼を断ろうとしていたのだ。

 

 

『別に断ってもいいけれど……その時は…』

 

 

 拾い上げた石がそこまで言い放った瞬間、その者の背後から殺気が迫った。振り返ろうと奴は身体を捻る。そこには小太りの––––

 

 

 

 

 –––しかしながら、そこからの記憶は奴には殆ど無い。あるのは自分が依頼を引き受けた事。ただそれだけだった。

 

 

 

「はぁ……あ、あれ?なんだ?人気(ひとけ)が急に……」

 

 

 気がつくと、奴は何処かの小道に入っていた。

 実はこの者、目標を取り違えた事で気が動転しており、園内のどの辺りに自分がいるのか分からなくなっていたのだ。しかもこの遊園地、作りが少々複雑になっており、パンフレットのような案内地図が無いと迷う可能性があるのだ。

 この小道も迷う理由の一つである。こうした小道もいたるところにあり、何処に繋がっているのか分からないのだ。

 

 奴は辺りを見回して何もいない事を確認すると、背負っていた子供を下ろす。

 

「……でもそれはそれで都合がいい。取り敢えずここら辺で……っ!?」

 

休憩、と言いそうになった口を慌てて止める。何故なら奴の背後で一瞬、足音が聴こえたのだ。

 

 コツ、コツ……と段々と音が大きくなっていく。大きくなるに連れて少しずつだがその者も後ろにジリジリと後退していく。音の正体を探ろうと、奴は音のする方に目線を向けるが、生憎建物の日陰であまり良く見えていない。

 

 

 

 コツ、と音が止まった瞬間、音を出していた者が日陰から出てくる。

 

 

 

「ありゃあ、こりゃあ道に迷っちまったなぁ。どうしよ」

 

 

 

 正体を知った瞬間、奴の顔が少し緩んだ。

 音の正体は、小道に迷い込んできた少年だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の少年だ。

 

 

「……あ、丁度いいや。すいませーん、ちょっと聞きたい事があるんですけどー」

「あ、あぁ。何だい坊や?」

 

 小走りで向かってくる少年に、なるべく今作れるとびっきりの笑顔で奴は彼を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……待てよ?)

 

 

 瞬間、奴の頭の中である疑問が浮かんだ。

 

 

(なんでコイツ、()()()()()()()()()()()()()()()()()……!?)

 

 奴の背筋に冷や汗が垂れる。

 奴の考えはこうだ。大抵の子供は親がすぐ側にいるはず。現に、誘拐したとはいえど、こうして少年と、大人である自分は一緒にいるのだから。

 何処かで親と逸れたとは考え難い。もしそうなら、こんな悠長に人に道を尋ねたりしない筈だ。

 

 ここで奴の脳内で最大級の警報が鳴り響いた。このガキは何かヤバイ。このガキに対しては油断してはならないと。

 

 

 –––だがしかし遅かった。奴と少年の間合いは、既に手を伸ばせば当たる範囲まで迫っていたのだ。

 

 

「ふんっ!!」

「うわっぶ!?」

 

 

 突然、少年が持っていたパンフレットを宙に投げた。そしてそのまま、自分の右手を大きく広げて誘拐犯の顔面を掴むように襲いかかったのだ。奴は彼を警戒していたので既の所で避けれる事ができたが、何も考えずに対面していたら、そこで終わっていただろう。

 

 

「……っち、避けられた」

 

 

 少年は舌打ちをしながらも、自分の手に填めていた手袋をきっちりと付け直す。

 

 

「……っ!!クソが!!」

 

 

 誘拐犯は堪らず叫んだ。ここまで、誘拐犯は散々な目に遭ってきた。それにより、とうとう怒りのボルテージが頂点に達したのだろう。奴は懐に隠し持っていた小型ナイフを取り出し、そのまま平然と立つ少年に突きつける。

 

 

「……おいおい、ナイフ隠し持ってたのかよ」

「ど、どうだ!怖いだろう!?お前みたいなガキなんて相手じゃないんだ!!だからさっさと……」

 

 

 

 

 

 

 –––コツン、と靴が地面についた音が鳴り響く。

 

 

「なっ……!?」

 

「おいおいどうした?俺みたいなガキは相手じゃないんだろう?……だったらそのビビリ腰をシャキっとしろよ、このクソ野郎」

 

 

少年が一歩、奴の下に向かう為に踏み出した。そしてそのまま少年はゆっくりと、そして着実に奴を追い詰めていく。

 奴は恐怖した。ナイフを持って威圧しても全く動じず、寧ろそれをトリガーとして段々と近づいてくる彼に、奴は怯えたのだ。

 

「……な、何なんだよお前……お前何者なんだよ!?」

 

 奴はまたも堪らず叫んだ。突然現れたと思ったら、こちらの顔を鷲掴みにしようとして。そしてナイフで脅しても全く動じず、挙げ句の果てには脅してきた相手を恐怖させた彼の正体を探る為に。

 

 

「俺?そうだなぁ俺は……」

 

 

 彼は目線を逸らし、考える素振りをする。

 

 

「っ!!」

 

 

 その瞬間、奴は下ろしていた子供を拾い上げて直ぐ様少年のいる方向の逆の道に走り出した。

 所詮相手はガキだ。こちらの体力も少しは取り戻してはいる。だから相手が油断した隙に逃げ出そう……と、奴は思っていたのだろう。

 

 

 だがその考えは浅はかだった。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 突然、()()()()()()()()()()()()。奴は直ぐ様凍りついた地面に踏み込まぬように身体を捻ろうとする。しかし後数秒足らず。奴はそのまま凍りついた地面に足を踏み出してしまう。その地面に踏み入れたせいで足を滑らせてしまい、前方向に倒れてしまった。

 

「いっつ……あ、あれ!?」

 

 奴は滑り倒れた拍子に打ち付けた頭を抑えるが、今まで背負っていた男の子がいなくなっている事に奴は気づいた。別に依頼主からは傷をつけるなとは言われていないが、万が一という事もある。だからこうして奴は男の子の心配をしているのだ。

 

「おいおい、勝手に逃げ出そうとするなよ……っと。ナイスキャッチ、俺」

 

 しかしながら、その心配ひ無用のようだった。どうやら奴がこけた拍子に男の子は宙を舞っていたようで、それを少年が自画自賛しながらキャッチしたのだから。

 

「……さて?さっきの続きをしようか」

 

 少年はまたも、奴に向かって歩き出した。

 

「俺って色々と独学で学んできたから、他人に異名とか名付けられた事ないけど……そうだな、今日あえて言うなら……」

 

 

 奴はもう殆どの戦意を失っていた。それ故に口から空気が「はう、はう……」と声を鳴らしながら漏れる。それでもなお、少年は奴の前に立ち、こう言い放った。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()……ってところかな」

 

 

 

 

……………………

………………

…………

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

よし、言えた!!

 

 

 

 いやぁ、実際こうやって堂々と言うと結構恥ずかしいもんだねこれ。なんでラノベの主人公とかってあんなカッコいい台詞サラッと吐けるのかな?ボクワカラナイ。

 

 

「……ん?ちょっと待てよ?アンタ……」

 

 

 この人、帽子被ってて分からなかったけど……。

 

 

「まさかの女の人?」

「アッ……ァァァァァアアアアアアア!!!

「えっちょっ!?」

 

 

 俺の発言がトリガーだったのか、誘拐犯である女の人は落としたナイフを拾い上げてこちらに走ってきた。足場が凍っていて不安定なはずなのにそれをもろともせず、そのまま俺の身体をズタズタにする為にナイフを突き出した。

 

「あっぶね!?」

「クッ!ウラァぁぁぁ!!!」

 

 難なく俺は躱したものの、相手はまたも突きに行こうと身体を捻り、そのまま再度突いてきた。

 

「ふっ!」

「ガッ!?」

 

 しかし俺はその勢いを利用する。ナイフを躱し、そしてそのまま差し出された腕を両手で掴む。

 

「とぉりゃあぁ!!!」

「!!グボァ!?」

 

 そんでもって勢いよく壁に向かって投げた。いわゆる背負い投げである。あれ、一本背負いだっけ?まぁどっちでも良いや。取り敢えず投げた。

 

「グフっ……ウウ……っ!」

「おっと、ナイフはもう掴ませないぞ」

 

 投げつけられた衝撃で落としたナイフを拾うのを、俺は見逃さなかった。その行為を妨害すべく、俺は地面に両手をつける。

 

 

 

 

 

 さて、ここで諸君に質問だ。水を作りだすには何が必要だと思う?……ちょっと今、最高にハイってやつなのでテンポよくいこうと思う。

 

 水ってのは、大まかに言えば水素原子二個と、酸素原子一個でできている。そんでもって大気中にはその二つ原子がわんさかとあるのだが……まぁ何が言いたいかっていうと、錬金術で水は作り出せるって事を言いたい。これで水不足は解決だね。ヤッタァ。

 

 

 それじゃああともう一つ質問。()()()()()()()()()()()()()()()?ハッキリ言ってこっちが本命。

 

 

 まず氷ってのは、水がマイナス0°以下にならないと作り出せない。冬に雪が降る時に気温が0°以下なのはそーゆー事。

 それでは周囲の気温を0°以下にするにはどうすればいいのか。そう、ここで錬金術の出番だ。

 人間の感じる[暑さ]や[寒さ]は、全て熱の吸収及び発熱で感じる事が出来る。つまるところ、()()()()が重要なのだ。……勘の良い人はここでお気づきだろう。

 そう、その熱の移動を錬金術で行い、氷を錬成するのだ。考えた俺ってすごいね。

 

 手順としてはこうだ。まず左手の手袋に描かれた連載陣で水を錬成する。そしてその水の周囲の気温を右手の手袋に描かれた錬成陣で熱の移動を行い、氷を錬成するのだ。先程の地面が凍ったのはこうゆう原理。俺って凄い(二回目)

 

 

 とまぁ長くなったけど、これからする事。それは!

 

 

「!!」

「あっぶねー、ギリギリだった」

 

 

 地面に落ちたナイフを氷で覆わせることだ。これでもう、数分の間はナイフは使えない。時期が冬だったらもうちょい長く凍らせられたのに、残念。

 

 

「クソがっ……!?」

「はい、暴れないでねー」

 

 

 ナイフを使えなくなったせいで、そのまま拳で抵抗しようとしたが、俺はそれを難なく阻止し、そのまま壁に頭を優しく打ち付けた。

 

 

「やめっ、離せっ!」

「無理に決まってるでしょそんなの?」

「なっ……あぁっ!?」

 

 

 左腕に異常を感じたのか、そちらに目を向ける女性。それもその筈。その腕はなんと()()()()()()()()()()

 

「くそっ何だこれ!?離れないっ!?」

「あんま無理剥がそうとすると皮膚剥がれるからなぁ……っと」

「あああ!?」

 

 左腕を壁から剥がそうとしているところに警告を話しておきつつ、俺は彼女の両足を凍らせる。多少は寒気はするが……まぁ誘拐犯だもんね、それぐらいは我慢しておかないと。

 

「あぁ、ああぁ……」

「さて、純は大丈夫か?」

 

 取り敢えずは拘束が完了したので、俺は純の元に向かう。純は未だに目を閉じていた。

 

「おーい純、生きてっかー?」

「……ん、んん?……あれ、蓮司兄?なんでこんな所に……ってあれ、ここ何処?」

 

 

 俺の呼びかけに純は目を覚まして辺りを見渡した。そんな彼を見て俺は心の中で安堵した。このまま覚めなかったら俺が終わってたぜ……。

 

 

 

 

 

「……!れ、蓮兄!!後ろ!!」

「へっ?後ろ?」

 

 

 突然、純が切羽詰まった声で俺に後ろを向けと促してきた。後ろには拘束した筈の奴が……。

 

 

 

 ……待てよ?確か俺、左腕と両足は凍らせたけど、()()()()()()()()()()()()

 

 

 –––瞬間、俺の脳内で早く後ろを向けと警告が鳴り響いた。それに従い、俺は勢いよく後ろに振り向く。そこには–––

 

 

 

「ガキが……舐めるなよ……私…を……」

「!!」

 

 

 

 右手に、()()()()()()()()()()誘拐犯が–––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 ––ー辺り一帯に一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 如何だったでしょうか。今回出た錬金術、蓮司くんは俺が作ったわーい俺てんさーいみたいな事言ってましたけど……似てるような事してる人いたの、原作にいたの知ってましたか?

 アイザックもそうだけど、自分は映画のミロスの聖なる星に出てくる錬金術から発想をいただいた感じですね(語彙力損失)


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彼女の思いと憤怒の力



 ヤッベェ、今回長すぎた。7000越えって……えぇ?


「……蓮司」

 

 彼女は自分の頭の上に手を置いて、今ここにいない彼の名前をひっそりと呟いた。

 つい先程、彼女の頭の上には蓮司の暖かな手が添えられていた。その時の温もりを感じ取るように、置いた手でゆっくりと頭を摩る。

 

 

 

 

 

 –––大丈夫だよ、沙綾

 

 

 

 あの時に、蓮司が彼女を心配させまいと、優しい声で言い放った台詞。その台詞を、彼女は頭の中で再生させた。そうする度に何故か彼女の心も温もりを感じ取るようになった。

 

 実は彼女、山吹家の面々と商店街の大人達以外には名前で呼ばれた事はなかった。彼女は弟と妹が産まれて世話をするようになり、子供の扱いが上手くなっていった。学校でもその長所を活かして、クラスの先頭に立ち、みんなを引っ張ってきたのだ。

 それ故だろう。クラスメイトは彼女を目上のような存在だと勝手に認識して、[山吹さん]や[山吹]と呼んでいる。例え女子だろうと、男子であろうともだ。気さくに[沙綾]とは呼ばない。

 彼女自身、そんな事は気にしていなかった。むしろ誰だってそうだろう。仲のいい友達と普通に過ごせるのならそれで良いと、大半の人はそう思うものだ。自分から名前で呼んで欲しいとは思わない。

 

 

 しかし、ある日を境に彼女は初めて家族達以外で名前で呼ばれたいと思った。それが彼、蓮司だった。

 

 

 

 

 

 

『ふぃ〜、疲れた〜……』

『もう……無理して来なくてもいいんだよ?』

 

 

 ある日の昼下がり。蓮司は沙綾の実家である山吹ベーカリーで、今ではもう恒例となっている手伝いをしていた。因みにだが、二人が出会ってから2年、つまり小学3年の時のことである。

 

『いや、千紘さんにまた頼まれたからさ。無理してでも来る価値はある』

『……もう、お母さんもだけど蓮司も蓮司だよ』

 

 彼女は別に来なくてもいいと態度で示してはいるが、実際の所はかなり助かっていた。彼が店の手伝いに来た事を近隣の方々が知り、その人達が別の人に伝えていき、その人もまた別の人に……と段々と伝播していった。そのおかげで店の売り上げがうなぎ上り……とまではいかないが、今までよりも上がっているのは確かだった。

 

『あ!蓮司兄ちゃんだ!!』

『蓮司兄ちゃん遊ぼ!!』

 

『お、純に紗南か』

 

 店の奥から声が聞こえてきたと思うと、純と紗南が二人の下に走ってきた。そんな走ってきた二人を見て、蓮司は先程までの疲れた表情を消し飛ばして笑顔を作り、二人を受け止める。

 

『こら、ダメだよ純、紗南。お手伝いの邪魔しちゃ』

『いいじゃんちょっとくらい!!お姉ちゃんはずっといたんだろ!今度は俺たちが遊ぶの!!』

『ダーメ!!蓮司はまだ仕事終わって無いんだから!』

『……あれ?俺に休む権利は?』

『『無い!/ある!』』

『……どっちやねん』

 

 彼女と純が言い争いをする中で、蓮司は不意に彼女らに質問するも返ってきた答えに肩をがくっと落とす。彼は先程、沙綾に向かって強気な姿勢を見せていたものの、内心ではもの凄くと言えば大袈裟ではあるが、そこそこ疲労が溜まっていた。

 

『二人とも、そこまでにしなさい?』

『あ、ママ!!』

『お、お母さん!休んでてって言ったじゃん!』

 

 もういっその事こいつらの喧嘩見ながら休憩しようかなと蓮司が考えていると、店の奥から山吹家の母、千紘が顔を出した。

 

『蓮司くんはお手伝いで来ているのよ?あまり無茶はさせたくないわ』

『いえいえお気になさらず。まだまだ頑張れますので』

 

 蓮司の身体を心配する千紘であったが、当の本人は全くもって異常無しと断言した。しかし……

 

 

『……嘘。さっき私に「俺に休む権利は?」なんて聞いてきたじゃん』

『なっ……!』

 

 彼女の発言によって異常ありと断言された。この時蓮司の考えは、コイツ……最初は俺の事心配して、次に仕事を押し付けようとして、最終的には休ませようとか……コロコロ思考変えるんじゃねぇ!と、怨念を脳内で撒き散らしていた。

 

『もう、そうならそうって言っていいのよ?それに、お昼が終わるから買いにくるお客さんも少なくなるのよ?だからほら、奥で休んでなさい?』

『……それじゃあお言葉に甘えて』

 

 そう言うと、蓮司はエプロンを脱いで畳み、千紘の横を通り過ぎる際に小声で「ありがとうございます」と一言伝えると、店の奥に消えていった。その事を確認した千紘は、今度は沙綾の方に向き合う。

 

『ほら、沙綾も休んでなさい?』

『えぇ?でもお母さんだけじゃ……』

『もう、沙綾ったら心配性ね。……大丈夫よ、さっきまで休んでたから。それに……』

 

 そこまで言うと、千紘は沙綾の耳元まで近づいた。

 

 

『もっと蓮司くんとお話、してたいでしょ?()()()()()()()

『…なぁ!?』

 

 実の母親の発言に、耳まで顔を真っ赤にする沙綾。クラスではお母さん的立場にいるとはいえど、彼女だって乙女。異性と二人っきりで話すなど、そんなの……!と考えてしまうものだ。

 

『お母さん、からかわないで!!別にそんなんじゃないから!!蓮司の事はそんな風に思ってないから!!』

『あらそう?でも良いと思うんだけどなぁ。蓮司くん礼儀正しいし、いざって時は頼りになるし……沙綾にぴったりだと思うんだけどなぁ』

『……!も、もう!お母さんのバカ!!』

 

 彼女はそう言い放つと、エプロンを着けたまま奥の方に小走りで向かい、そして消えていった。その際も彼女の顔はほんの少し紅く染まっていた。

 そして千紘の方はといえば、罵声を浴びられたにも関わらず、にこやかな表情であった。

 

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

『もう、お母さんったら……。本当に違うのに……』

 

 店の奥に消えた後、すぐ様しゃがんで頰に手を添えた。その手には紅くなった頰の熱が伝わっていく。

 

 彼女の心の中では、今茶の間にいるであろう蓮司の事について考えていた。確かに母である千紘の言う通り、彼は礼儀正しい所もあるし、頼りになる。クラスでは、彼の事を好きだと思う女子が数人いるとの噂も出始めている。

 

 しかしそんな彼に対し、彼女には一つ気になる点があった。それは彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だ。

 先に話した通り、彼女は学校などでは名前で呼ばれない。それも彼女は気にしていない事も話しただろう。しかし、一人だけ例外がいた。それが彼だ。

 

 

 

 沙綾はある時、テレビでこんな事を聞いた。

 

『異性の人に名前で呼ばれた時、あなたの心がときめいたと感じたら、あなたはその人に恋心を抱いている』

 

 それは、俗に言うお悩み相談的な番組。内容としては、昔から仲が良い男の子を見るとなんだか不思議な気持ちになる、という試聴者からの質問に答えるものだった。

 この時の沙綾にはあまり質問の内容は理解できていなかったが、《昔から仲が良い男の子》と聞いて思いついたのが蓮司だった。

 

 

 きっかけはこんな些細な事。しかしながらこんな小さな出来事で彼女の蓮司に対する見方が変わったのだ。

 

 《仲の良い二人》から《名前で呼び合う仲》へ。言葉で表すとあまり変化は感じないだろう。しかし、二つの言葉の意味を理解すると、大きな変化であることが感じ取れるのだ。

 

 

 

 

……

………

…………

……………

………………

 

 

 

 

「……っ」

 

 沙綾は胸元で握っていた両手の力を強める。蓮司には無事で帰ってきて欲しい。それでいて、また名前で私の事を呼んで欲しい。この二つの事を考えていた沙綾は、ふとある事に気付く。

 

 

(……あれ?なんだろうこの気持ち。蓮司に呼ばれた時の事思い浮かべていたら、心がなんか変な……!)

 

 

 そして気付いたのだ。この気持ちの正体を。モヤモヤする感覚を彼女は理解したのだ。

 

 

 

(私……やっぱり蓮司の事……)

 

 

 再度、あの番組の台詞がフラッシュバックする。あの時理解できなかった事が、まさに今、理解する事が出来たのだ。

 

 

「……好きなんだなぁ」

 

 

 自然と口から零れた言葉。それが、モヤモヤの正体。彼女は彼に恋患っていた。それも多分、昔から。それでも彼女は今、こうして理解する事が出来たのだ。

 

 自然と彼女に笑顔が戻る。今気づけた喜びを抑えられずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 しかしながらも、現実はそう甘くはない。

 

 

 

 

「……!?」

 

 突如として、何かが破裂したような乾いた音が鳴り響いた。彼女を含めた人々が一斉に行動を止めて、音のした方向を向く。

 

 

「え、何々?パレードの開始時間?」

「まだ時間じゃなくない?」

「どっかの係員が間違えて打ったんじゃね?」

 

 しかし殆どの人は気にもせず歩き始めた。実は、先程この場所で女性が倒れたと彼らに情報が流れ込んできたのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であったと、係員である黒服達に教え込まれたのだ。最初は怪しむ人々もいたが、イベントの一部なら……と彼らも納得したため、大事にはならなかった。

 

 そう、今回もまたそのような類いだろうと気にもせずに、彼らは歩き始めた……という訳なのだ。

 

 

「……嘘…!」

 

 

 しかし、彼女は違った。他の者たちのように和気藹々とした表情を見せず、逆に()()()()()()()()()()()()()()()

 それもその筈。乾いた音がした方向は、今彼女が心配する彼…蓮司が向かった方向なのだ。

 

 破裂した音。その音は彼女もテレビなどでよく耳にしているもの……そう、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「心配しなさんな、お嬢さん」

「!!」

 

 すると、後ろから大きな手が彼女の頭に乗せられた。彼女が後ろを振り向くと、そこにはそこそこ筋肉質な男性がいた。

 

「あなたは、さっきの…」

 

 沙綾はすぐに彼が誰なのかを理解した。彼は先程、沙綾のお母さんである千紘を迅速に手当て、及び看病をしていた者だ。

 

「蓮司は生きてるよ。なんてったってアイツは俺の息子だからなぁ」

「……むす、こ…?」

 

 「まぁ出会って数日だけどな」と彼は付け足したが、彼女の耳には届いておらず、彼女の脳内では《息子》という言葉が反復していた。

 

「……まぁでも、ちょっとばかし雲行きが怪しいからな……」

 

 男は彼女の頭に乗せていた手を戻し、ポケットに突っ込んだ。そして少し考え込んだ後、沙綾にこう言った。

 

 

「蓮司の下に、行くとするか……」

 

 

 

 その表情は、険しいモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……?」

「なっ……くそっ!」

 

 

 今の……なんだ?

 

 

「もう一発……!!」

 

 

 ……何故だか頰が痛い。

 

 

「蓮司兄ちゃん!危ない!!」

 

 

 俺は右頰に手を当てる。その手には何やら赤い液体が付着していた。

 

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 

 引き金が引かれた音。その後に発砲音が耳にやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、まただ。また同じ感覚だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。着実に俺に近づいてくる。

 さっきは純に気を取られて手出しが遅れたが、今度はそうはいかない。

 

 ゆっくりと、顔を右に傾ける。すると銃弾はそのままゆっくり速度を保ったまま、俺の顔の横を通り過ぎていった。

 

「なっ…!?」

 

 後ろで弾が壁にめり込む音が聞こえた。壁にめり込んだ衝撃なのか、風圧が一気にこちら側に吹き、俺の短い髪が少しだけ靡く。

 

 

 

「……っ!?

 

 

 瞬間、俺の胸に鋭い痛みが襲った。その痛みで俺は声を上げて、その場に倒れ込んでしまう。その隙に銃弾を放っていた誘拐犯は、夏の暑さによって溶け始めた氷から何とか力技で抜け出して、そのまま走り去ろうとした。

 

 

「ま、待てよ……!」

 

 

 痛みに堪えて何とか犯人を追いかけようとするが、逆に痛みが増していき追いかける事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 ––––どうした?そこでそのまま這いつくばっているつもりか?

 

 

 

 

 突然、頭に誰かの声が聞こえた。その声と同時に、今度は頭にも鋭い痛みがやってくる。

 

 

 

 

 –––––そのまま這いつくばっていて、貴様は何も感じないのか?

 

 

 

 

「ああああああぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 ……何も感じない、だと?……ンなもん感じてるに決まってるだろうがっ……!舐めてんのか!?

 

 

 

 ––––ほう、では何を()()()()()()()()

 

 

 謎の声はまたも聞いてくる。

 

 ……そんなの、決まってるだろうが。

 

 

 

()()……だよ……!!」

 

 

 自然と、俺の口からその言葉が出た。

 

 

「純を攫って……!俺に傷をつけた犯人(アイツ)に……!!俺は……俺は……っ!!」

 

 

 普段の俺ならこんなに感情を表に出す事はないと自分は思っている。それなのに、俺の口からは糸もたやすくその言葉を発していた。

 

 

「……グっ!?アァッ!!!」

 

 

 すると俺の言葉に反応してなのか、耐えていた痛みが益々強まった。痛む部分に更に衝撃を加えたぐらいに。

 

 

 

「こ……ろし……て……」

 

 

 

 さっきまで絶好調だったのに

 

 

 

 

「ころし……て……!」

 

 

 

 なんだ、このどんでん返しは

 

 

 

「や……ルゥ……!!」

 

 

 

 俺が思い上がったからか?

 

 

 

「こ…ロシ……アアアァァ!?!?」

 

 

 

 ……そんなの、()()()()()()

 

 

 

「ハァ……ハァ……!?」

 

 

 

 そうだ、こんなの理不尽だ。俺が地に伏せるのはおかしい。

 

 

 

 

「コロ、ス……!!」

 

 

 

 

 這いつくばるのは

 

 

 

 

コロシテヤル……!!」

 

 

 

 

 誘拐犯、お前の筈なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ––––まだまだ、だな。青二才め。

 

 

 

 

「グガァ!?アァッ…!!」

 

 

 すると、また謎の声が聞こえてきた。しかも痛みをまたも増して。とうとう痛みに耐え切れず、俺は目を見開いてそこで暴れ出してしまった。

 

 

「ウゥ……!?」

 

 

 暴れた衝撃で、懐から黒い球体が転がって出てきた。その球体には()()()が描かれている。

 

 

 

 

 ––––さぁ武器を取るのだ、小僧よ

 

 

 

 その声に反応してか、俺は呻き声を上げながらその球体に–––錬成陣に触れる。

 俺が陣に触れると、球は閃光を発しながら形を変えていく。

 

 

「……ッ!!」

 

 

 俺はソレを掴む。

 

 ソレは()だった。刀身は日に当たり、黒光を発している。

 

 

 

 ––––交代の時だ

 

 

 

 声が聞こえたかと思うと、今まで襲っていた痛みがだんだんと和らいでいった。痛みが消えると、それと同時に意識が朦朧となっていく。

 

 

 

 そして、俺は張っていた糸が途切れるように、俺の意識は闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……!逃げなきゃ……!」

 

 

 彼女は小道をひたすらに走った。

 

 

「クッソ……!!」

 

 

 未だに両足に残る冷えに耐えながら走っていく。

 

 彼女は心の中では幸運だと思っていた。いきなり子供が現れたかと思ったら、魔法みたいなので両足と片手を凍らされ、もう片方の手で懐に隠し持っていた拳銃を持って2発打っても難なく躱されて。もうそこで終わりなのだと諦めた時だ。

 子供が苦しみながら倒れたのだ。しかもそれだけではない。凍らされていた箇所も、太陽の熱によって溶け始めていた。これを機に彼女は氷を力技で抜け出した。

 

 ここで反撃しようとも思ったが、彼女はそうしなかった。何故なら()()()()()()()()だ。ここでこちらが仕掛けた所で仕返しをされるかもしれないと思ったのだ。例え相手が這いつくばっていたとしてもだ。

 それに彼女は無闇な殺傷はしたくないとも思っていた。だからその場から逃げたのだ。闘わなくとも、逃げ切れば彼女は勝ちなのだ。故にその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、相手はそんなの許す筈も無かった。

 

 

 

「……ここくればだいじょ」

 

 

 

 安堵し切って止まったその時だった。突然横から風が吹いたのだ。だがこれだけなら、風が吹き始めたのかとただ思うだけで終わる。

 

 しかしそれだけではなかった。

 

 

「…あ、あれ?」

 

 

 彼女は違和感を覚えた。今まで左手で拳銃を握っていた筈なのに、その握る感触が……

 

 

 いや、そんな程度ではなかった。そもそも左腕があるという感覚が()()()()()()()()()()

 

 

 そしてもう一つの違和感が彼女を襲う。

 

 

「……え?」

 

 

 視界の上から()()()()()()()()()()()()()()。それはもう綺麗な紅だ。まるで間違えて包丁で指を切ってしまった際に流れる……

 

 

 

 

 

 そこで彼女は目を疑った。目線の先に()()()()()。ソイツは何やら長細いモノを持っていた。その長細いモノの先から、ポタ、ポタ、と何かが垂れている。

 

 

 

 しかし、彼女は唐突に理解してしまった。今自分に何が起きているのかを。目の前の人物が誰なのかを。

 

 

 降り注ぐ紅い液体の次に降ってきたモノによって……彼女は嫌でも理解してしまったのだ。

 

 

 

「あっ…」

 

 理解して出てきた言葉がそれだった。あまりにも情報量が多すぎて、彼女はそういうしか無かった。

 

 

 

 

 –––腕だ。空から降ってきたのは左腕。切り口から鮮血を吐き出しながら降ってきたモノはそれだった。

 

 

 

 

 

「……ゥゥゥアアアアアアアアア!!?

 

 

 今は無き左腕の方から同じく鮮血が溢れ出してくる。その止まること知らない出血により、今までに味わった事がないであろう痛みが彼女を襲った。

 

 

「アア、アアア!!?クッ、アアア……」

 

 

「煩わしいぞ、愚民が」

 

 

 彼女が傷口を抑えこみながら地面に倒れると、前方から人の声が聞こえてきた。彼女はゆっくりと声のした方に目を向けていく。そして、その人物を見た瞬間に、信じられないという目でその人物を見つめる。

 

 

 

「なん……で……アン…タ…が」

 

 ……その人物は小柄な体型にも関わらず、その手には黒く光る刀を携えていた。髪は橙色の短髪で、目は金色という目立つ顔立ちだ。

 

 

「……」

 

 

 彼は一歩一歩着実に彼女の下に近づいていく。そして彼女の下に着くと、そのまま彼女を見下した。

 その見下す目を見た瞬間、彼女の恐怖心に拍車がかかった。先程彼と対峙した時には感じれなかった殺気が彼女を襲ったのだ。

 

「や、やめて……!こっちに来ない、で……!!」

 

 彼女は彼から逃れるために後ろへとゆっくりとではあるが後退していく。しかし、彼は彼女を逃すとは考えてもいない。

 

「ッ!?アアアァァ!!?」

 

 ザクッと肉を刺す音がする。彼は逃げ出そうとする彼女の足に刀を突き刺して固定したのだ。

 

「逃すと思ったのかね?ん?」

「……ァガ……ァ……」

 

 あまりの痛さにとうとう彼女は声を上げる事が出来なくなっていた。

 

「……さて、私にもあまり()()()()()のでね……ここで終わりにしてもらおうか」

 

 彼はそう言うと、突き刺した刀を思いっ切り抜く。抜いた衝撃で彼女の身体が少し痙攣した仕草を見せる。

 

 

 

 彼女の目に映るのは、先程自分を氷で拘束していた少年。その少年の片目には、()()()()()()()が映し出されていた。その目から発せられる冷酷さに、彼女は意気消沈させられていた。そして一つ、彼女はまたも理解した事があった。それは……

 

 

「それではな、名も知らぬ女性よ」

 

 

 

 

 死が迫っている事、ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 うーん、色々詰め込み過ぎちゃったわ……今後はこんな事ないようにします……。


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え?あの後どうなったんですか?教えて下さいよ!……え?

 遅れてすみませんむ。今年最後の定期テストに苦しんでましたお。

 定期考査なんか大っ嫌い(突然の愚痴)


 

 

 

 

「……んあ?」

 

 

 ……いつの間にか眠っていたのだろうか。俺は深く瞑っていた瞼をゆっくりと開いていく。

 

 窓の外から差し込む太陽の光。天井に付けられた優しく光る蛍光灯。そして横たわる俺の身体を優しく包み込む布団。少なくとも、どれもこれも家では感じるモノでは一つも無かった。

 ……ここどこ?病院か何かか?

 

 

「……うん?」

 

 重りでも付けられたのかと思えるぐらいに動かない身体を無理やり起こし、俺はここは何処なのか探ろうとする。しかし、下半身に謎の重みを感じて俺は顔をしかめと。なので俺は違和感のする方に顔を向けた。

 

 

 するとそこには……

 

 

「すぅー……すぅー……」

「……笑顔…に……♪」

 

「えぇ…なぁにこれぇ……?」

 

 

 なんと右に沙綾、左にはこころがスヤスヤと眠っているではありませんか。しかもこころに関してはヨダレまで垂らして……。

 はて……なんで二人がこんなところで寝てるのか。そもそもなんでこの二人が?二人は面識があるのだろうか。いやしかし、あるのだとしても二人一緒にここで寝るなんて……まるで看病しに来て……む?

 

 俺はここで自分の服装を確認する。長時間寝ていたのなら、普段ならパジャマを着ているはずだ。……ここで言うのもなんだが、そのパジャマめっちゃ子供向けすぎて、誰かに見られるのめっちゃ恥ずかしい。故に、そこで眠る二人にその服装を見られていたのなら……嗚呼、想像しただけで恥ずかしい……。

 

 

「……ふむ、違うのか」

 

 

 しかし、そんな心配は杞憂に終わった。俺の今の服装は家で着るパジャマではなく、入院中に着る患者衣だった。まぁ着心地的に分かってたけど。

 ……うーむ、でもそうなってくると益々分からなくなる。なんで入院なんてしてんだ、俺?

 

 

『失礼するぞー?』

「ぬ?」

 

 俺がこの状況を疑問に思っていると、俺から見て右手の方にある扉からトントンと叩く音が。そしてその扉がゆっくりと横にスライドして開いた。

 

「おぉ蓮司。起きt……」

 

 入ってきたのは俺の父親、ホーエンハイムだった。だが彼は俺に笑顔を見せたと思った矢先、直ぐに笑顔を消していつも通りの真顔を見せる。

 

「……なに、どうしたの?」

 

 俺はその場で固まった彼に何をしているのか問いただした。

 いやマジでそこでジロジロ見ないでもらえます?なんか恥ずかしいんだけど……ぬ?今度は眉間にシワを寄せて俺の事ジッと睨んできたんだけど。俺なんか悪い事でも……

 

「蓮司、お前……」

「はい?」

 

 

 

 

「……ハーレム、ってやつ作る気なのか?」

「は?」

 

 

 は?

 

 

「いやまぁなんだ……あんな事が起きた後だし気が動転してるのは分かるが……」

 

 

 待て待て待て、急な発言に頭が追いつかぬ。え、はーれむ?Harlem?はーれぇむ?……ハーレム?は!!?

 

 

「あまりやんちゃな事はしない方が良いと思うぞ……あ、いやだが可愛い子を好きになるのは良い事だが…まぁ……うん……」

「待て待て待て、さりげなく出て行こうとするな。真顔のままゆっくりと扉閉めるな、シュールなんだよ、アンタがやると絵がシュールすぎるからぁぁ!!……っ!?」

 

 

 俺がジタバタと暴れて彼が去るのを止めようとすると、突然両脚に痺れるような痛みが迸った。その痛みに俺は思わず脚を抑えてしまう。

 

 

「……っつ〜〜、いってぇ……」

「おいおい、あんま無茶するな」

 

 どうやら去る気はさらさら無かったようで、彼は近くにあった椅子に持っていた荷物を置いた。そしてその荷物から果物の入ったビニール袋を取り出す。

 

「ハァ……ハァ……」

「あんま動こうとすると身体が保たないんだ、しっかり休んど……ん?」

 

 

 ふぅ……段々痛みが引いてきた。しかしなんで急に痛みが襲ってきたんだ?それに何だか腕の方も痛くなってきたし……本当に何してたの俺?

 

 

 

「……蓮…司……?」

 

「ん?」

 

 

 不意に、幼げで優しさのある声が俺の耳を叩いた。その声に俺は下げていた顔を上げる。

 

 

「蓮司……なの?」

 

 

 上げた先には、目に溢れそうなぐらいの涙を溜め込んでいる沙綾がいた。どうやら、先程の俺の動きで起きてしまったのだろう。……いやでも、視界の隅でこころ寝てるなぁ。

 

 

「いえす。俺、蓮司」

 

「!!蓮司ぃ!!」

 

 

 蓮司なのか聞かれたのでちょいとふざけめに応えると、沙綾は貯めていた涙を流して俺の身体に抱きついてきた。……瞬間に、俺の頭の中で何故かウィンウィンと警告音が流れた。

 

 

 

 

 

 何故なら。

 

 

 

 

 

「がぁ!?」

 

 

 

 

 

 抱きしめられた瞬間。

 

 

 

 

 

「もう!」

「ぐぅ!?」

 

 

 

 

 

 彼女の締め付けが強かったのか。

 

 

 

 

 

「蓮司の…」

「おおぅ!?」

 

 

 

 

 

 それとも俺の身体が柔かったのか。

 

 

 

 

 

「ばか!!」

「どぅ!!?」

 

 

 電気が迸ったのかと思うぐらいに身体中が悲鳴をあげたのだから。

 

 

「あんな無茶して!!」

「お、おごごご…!!?」

 

 

 側から見たら、それはもう感動の再会的シチュエーションに見えているのだろう。しかし!俺からしたらもう拷問だ、今まさに刑が執行されている真っ最中なのだよ、ええ。「おごごご」なんて言ってるけどもっと悲鳴あげたいくらいなんですよ。

 

 

「もう…ばか……!」

 

「お、お前はばかしか言えないの…がぁ…!」

 

 

 もうダメ助けて。痛みで意識飛んじゃう。最悪死んじゃう。帰らぬ人になりゅううう!!?……ハッ!そうだ、目線でホーエンハイムに助けを求めよう。あの人なら助けてくれるはず。助けて!ホーエンハイム……

 

 

「蓮司、なんだかんだ言って嬉しそうじゃないか」

 

「」

 

 

 ダメだ。あの人もうこの光景をイチャイチャしてる風にしか見えてない。感動の再会だなぁグスンみたいな目でしか見てないよ。ハーレム作るなとか言ってただろ!?嬉しそうとか言ってんなよ!?引き離せよおおおおお!?

 

 

「……あら?蓮司、起きたのね?」

「やあこころ、おはよう」

「あら、錬夜もきていたのね?」

「ハハ、そう言う君はまだ眠そうだね?」

 

「蓮司ぃ……!」

「が、がぁ……」

 

 

 あぁ、こころも起きたのね。……いやこころでも誰でもいいから、早く助け………チーン

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「ハァ……死ぬかと思った…」

 

 

 あれから数分後、何とかして沙綾をひきはがし、なんで二人はこんなところで寝ていたのか。そもそも二人はどこで知り合ったのかを聞いてみた。そしたら沙綾がこう答えた。

 

『なんでって……それは蓮司が心配で…蓮司、ここ数日目覚さなかったんだよ?』

 

 

 なんとここで新事実。俺はどうやら数日間寝ていたらしいのだ。ううむ、病院で寝ていた事にも驚いていたのに、それに加えて数日間もとは……。本当、頭がパニックだ。

 

 そいでもって次、二人はどこで知り合ったのかだ。その質疑応答はこころが元気に答えてくれた。

 

 

『私達、遊園地で知り合ったのよ?あなたも一緒にいたじゃない!』

 

 

 との事。……遊園地?はて、()()()()()()()()()()()()()()全然記憶に無いのだが……。

 いやでもこころとは一緒に行ったな。確か初めて会った日にホーエンハイムの誘いで遊園地に行った……気がする。あれ?どうなんだったっけ?わかんねぇや。

 

 

 

 

 とまぁこんな風にプチ質問会を開いていたが、千紘さんが迎えに来た事で質問会は終了。3人はお昼の時間という事もあったのでそのまま帰ってしまった。その際千紘さんが俺に、

 

 

『この前は本当にありがとう。おかげで純も五体満足で帰ってきてくれたわ。退院したらちゃんとお礼するから……』

 

 と、悲しそうな表情でそう言い残し、そのまま帰ってしまった。子供二人が帰ってしまい、病室には俺とホーエンハイムしか残っておらず、その空間は静寂が支配してしまった。この空間の中、俺は先程千紘さんが言い残した台詞に疑問を持っていた。

 

 あの時彼女は『お礼をする』と言っていたが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 山吹ベーカリーの話かと思ったが、純が五体満足で帰ってきたとか言っていたし……そもそも純に何があった?死んでしまうような事でもあったのか?それを俺が錬金術で助けた?……錬金術…?

 

 

 

「おい蓮司、何ボーッとしてんだ?」

「え?……あ、えっーと特に何でも、ない…よ?」

 

 

 俺が考え込んでいると、椅子に座って本を読んでいたホーエンハイムが声をかけてきた。

 うーん、バットタイミングだなぁ。今、錬金術って単語思い出して何か思い出せそうだったのに……。

 

 

 俺の歯切れの悪い答えを聞いた彼は、そうか……と少し首を傾げてまた本の方に視線を戻した。

 またも静寂が訪れる。特にする事がない俺は横にある机の上にあったリンゴを一つとって一口齧りつく。

 シャキシャキしていて美味しいリンゴだなぁ。確かこれホーエンハイムが持ってきた果物だよな。どこで売ってんだろ?まぁどうでもいいけど。

 

 

 

「なぁ蓮司」

「ん?なに?」

 

 

 再度、彼が俺に声をかけてきた。彼の顔は本に目線がいっているためあまり分からないが、声色的に真剣な話なのだろうと俺は察知する。

 

 

「さっきあの二人と話してるところ見てて思ったんだが……」

 

「?」

 

 

 

「お前、()()()()()()()()()()()()

 

「……はい?」

 

 

 彼の意味深な発言に俺は何言ってんだと思わせるような表情をしつつ首を傾げた。

 あの時?あの時とはいつの事だろうか?それに、この人と初めて会ってからまだそんな日は経ってないはず。そんな日の浅い期間で何か起きたのか?

 

 

「本当に覚えていないのか?……ほら、こころと初めて会った時だよ」

 

「こ、こころと?」

 

 

 それはまぁ、確かに覚えている。さっきも思い返していたし。……あの日は黒服さん達に無理やり連れ去られて、それでこころと会って……。

 ここで少し蛇足だが、俺は初対面の人は苗字で呼んでいる。だってなんか馴れ馴れしいし。……だけどこころに関しては違った。いや最初は弦巻って話しかけようとしたんだが、彼女が「名前で呼んで欲しいわ!!」とか言ってくるもんだから……ね?

 まぁとにかく、こころとのエンカウントは印象的だったから憶えている。

 

 

「……うん、憶えてる。その後に遊園地に行ったし」

 

「そこ、そこの後だ」

 

 

 俺がその旨を伝えてると、彼はこちらに指さしながら椅子から立ち上がった。

 

 

「その後の……正確に言えば()()()()()()()()()()()

 

「……?」

 

 

 なる程、益々分からなくなってきたぞ?何故にピンポイントでその日の午後の事を聞くんだ?そんなの時間が来るまで遊んでたに決まってるじゃないか。……そうだよ、その日に俺はジェットコースター嫌い〜ってなったんだ。だからその日一日中こころに振り回され……て…?

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 ……思い出せない。

 

 

「お、おかしいな……なんで」

 

 

 思い出そうとしても……モヤがかかったみたいに。それでいてノイズが混じっていて。

 

 

「は……?なんだこれ……?」

 

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺の本能が全力で止めに入っているような感覚に陥る。

 

 

 

––– ()()()()()()……ってところかな

 

 

 

「!!」

 

 

 

 だけど一瞬だけ。モヤもノイズも邪魔するモノが一瞬晴れた気がした。その晴れた先で聞こえてきた声。この声は紛れもない、()()()()。その声がきっかけで、俺は少しずつ……けど途切れ途切れで思い出していく。

 

 

「……無理に思い出さなくていい。後から桜も来るから俺は「待って」……?」

 

 

 バックを持って帰ろうとする彼を、俺は袖を掴む事で阻止した。

 

 

「……ちょっとだけ、思い出せた」

 

「……本当か?」

 

 

 冷や汗が止まらない。無理に思い出そうとしたからだろうか。まぁでも、そのおかげで断片的にだが思い出せた。けど……

 

 

「だけど、やっぱり途中で終わってる……誰かを助けに……多分純を助けに行った後……その後の記憶が無い……」

 

「……そうか」

 

 

 ……さっきも言ったが、思い出したのは断片的にだ。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。けど幸いな事に、さっき千紘さんが「純を…」とか言ってたから推測は一応出来た。

 

 

「……お前は」

 

 

 不意に、彼が語りかけてきた。下げていた視線を彼の方に向けると、少し悲しげな表情でこちらを見ていたのが分かる。

 

 

「お前はその後の記憶を()()()()()()()()

 

「……そりゃもちろん」

 

 

 逆に思い出したく無いとでも言うと思っていたのか?そんなもん知りたいに決まってる。不自然に先が切れているんだから。

 

 

「……じゃあ話そう」

 

 

 彼はそう言うと、座っていた椅子にまた座り直してバックを漁り始めた。

 

 

「……ほれ」

 

「うん?……おおう!?」

 

 

 バックから取り出したものを彼はこちらに放り投げた。俺は少し焦りつつも何とかそれをキャッチした。

 

 

「……これって」

 

 

 投げてきたのは黒い円柱状の硬い物だった。側から見たら何なのか分からないだろう。けど、俺にはそれが何なのか分かった。

 

 これ、俺が錬金術で作った武器だ。形が球体から円柱になってるからアレだけど、触った感触でわかる。

 

 

「お前、球体よりも円柱形にした方が持ち運びに便利だぞ?」

 

「いやまぁそりゃ分かったけど、なんでアンタが持ってんの?しかもこれ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「そりゃもちろん。理解してなきゃ錬金術は使えない。そもそも錬金術の基礎は……」

 

「理解、分解、再構築。でしょ?分かってるよそんな事」

 

 

 それもそうかと彼は小さく笑って頭を掻く。

 いやそれ分かってなきゃ俺も錬金術使えないし。……コホン、それでコイツの正体なのだが……実はこれ、学生ならば毎日使っている物が材料となっている。

 消しゴム、のり、ハサミ……色々と学生は使うが、今回の材料は勉強に必要不可欠なモノだ。……そう、鉛筆やシャー芯に使われる炭……()()()

 

 炭素という物は炭素同士での結合具合によってその硬さを変える。それはもうシャー芯の強度から何が来ようとも壊れないダイヤモンド以上の硬さまでだ。

 

 炭素を起用した理由は単に強度があって、尚且つ切れ物になるという点だ。だが素直にめっちゃ硬くて斬れ味のいい武器を作ろうとしたら数年はかかってしまう。

 

 

 はい、ここで錬金術。

 

 

 錬金術を使えば、硬さを限界まで上げて、尚且つ斬れ味のいい武器を錬成する事ができる……構築式描くの大変だったぞ意外に。

 

 あ、ちなみにだけど材料は鉛筆とかシャー芯を砕いて集めた物だぞ。めっちゃ集めるの大変だった()

 

 

「……それで?なんでこれが関わってくるのさ」

 

「……お前本当に思い出したのか?それ、あの時に使ってたんだぞ?」

 

「……は?嘘だろ?」

 

 

 これは流石に嘘としか思えない。だってあの時は氷を錬成する手袋しか使って無かったはず。断片的にだからわからないけど。それにコレはめっちゃ斬れ味良すぎて人に使おうものなら簡単に手足の一本は切断できる。……え?なんでそんなの作ったかって?ノリだよノリ。その場の勢いってやつ。

 

 

「……まぁいいか。それよりも話の方が重要だ……それに」

 

「……それに?」

 

 

 そこまで言うと、彼は厳つい目線をより一層険しくする。

 

 

「あの時の事を話すついでに……()()()()()()()()()()と思ってな」

 

 

 先程のほんわかした空気から一転、彼の一言で場は張り詰めた空気に変わった。

 

 ……確かに、俺はなんとなくこの人とこうして親しく話し合っているが、相手はハガレンの世界でもう一人の主人公とも言われている存在だ。……そもそも。

 

 何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 転生したから?確かに原作では最後にトリシャの墓の前で死んでいった。それに最後に「まだ生きていたい」みたいな事を言っていた。……けどそれは()()()()()()生きたい事のはず。少なくともこの世界に転生したいとは思っていないのだ。

 それに生前(?)ではトリシャとの()()があった。……うーん分からなくなってきた。

 

 

「……おい蓮司。そろそろ本題に入ってもいいか?」

 

「……あ、ごめん」

 

 

 どうやら俺が深く考え込んでしまったから話が途切れてしまったようだ。反省反省……。

 

 

「それじゃあ話していこうか……」

 

 

 彼が口を開く。

 

 

 

 

 こうして、俺の身に何が起こったのか。そして、彼がこの世界での目的が何なのかが語られるのであった–––ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 6000文字こしちゃった……物語が簡潔にまとめられねぇ!?

 あ、あとまた投稿遅れるかも。気長に待って……ね?


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代償と衝撃



 年末に投稿間に合ったぜ……!
 それでいてめっちゃ長くなったぜ……!!


 

 

『錬夜様、被害にあった男の子を発見しました』

 

「分かった、直ぐに行く」

 

 

  

 老若男女問わずに人々が賑わっている中、彼–––ホーエンハイムは純を見つけたと黒服さんからの連絡を受けて走り出した。

 蓮司が誘拐犯を探しに行ってから数十分後。流石に時間がかかり過ぎだと思った彼は黒服さんを数人連れて現場へと駆けつけようとしていた。

 

 

「……」

 

 

 彼は顔に皺を寄せながらも息を切らさず走る。その姿を後ろから見ていた黒服さん達は、息子は大丈夫だと確信を得ているのだろうと思っていた。だがしかし彼はその逆。『信頼』ではなく『心配』していた。

 

 確かに現場に向かわせたのは誰でもない、ホーエンハイムただ一人だ。この時には彼は蓮司ならば大丈夫だと『信頼』の念を抱いていた。事件が起きた、といっても相手は所詮子供一人を攫って直ぐ退散した小物。大した力も持ち合わせていない筈だ。それに、彼は事前に誘拐犯が()()()()()()()()()()()()()()()

 

 さらに言えば、彼は蓮司の錬成テクの事も一応は認めている。というのも、朝に蓮司を起こす為に部屋に入った時から始まる。

 

 

 

…………………

…………

………

……

 

 

 

 

 彼の目にまず入ってきたのは、壁にびっしりと貼り付けられていた錬金術の構築式だった。錬金術師たる者、日々錬金術の研究に勤しむのは必要最低限の事だ。故に彼はこの光景に何の疑問も浮かんでいなかった。

 そして話は進んで蓮司が黒服さん達に半ば無理やりに連れて行かれて、彼もその跡を追う為に扉に手を掛けた時の事だ。

 

 彼の視界の隅にある二つのモノ–––彼が誘拐犯を蓮司に追わせる際に渡した錬金物が彼は気になった。なので彼は机の上に置いてあるそれを手に取った。すると何やら()()()()がヒラヒラと氷の錬成に使う手袋から落ちてきた。彼はそれを拾い上げると、紙に何やら文章が書かれ、下の方に錬成陣が描かれていた。その紙の最初の一文にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒロ○カ読んでたら、轟○凍の真似をしたくなったのでやってみようと思う。イェーイ』

 

 その一文に彼は微笑する。ヒロ○カ……とは何なのかは知らない彼だったが、アニメの作品か何かだろうと納得する。それと同時にそういった作品から着想を得られるのは現代の転生者の特権だなぁとも納得していた。

 下の方にも文は続いておりその先が気になった彼は、その紙と二つの錬成物を懐にしまって、急いで窓から飛び降りて車へと乗車したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、窓から飛び降りるのは危険だから真似すんなよ?」

「誰に言ってんのアンタ?早く話続けてよ」

「あぁっとすまんすまん……コホン」

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して、場所は車内。彼は本を読んでいるフリをしつつ、先程手に入れた紙を読み進めた。

 

 

『個性「○冷○熱」内容としては、右から氷結を繰り出し、左からは熱を放出する→左の炎はマスタング大佐の錬金術で再現→氷はどうすればよいか→自分で作ればいいじゃない!』

 

 

 そこから下は氷の錬成を行う為の構築式が描かれていた。水の結合、氷塊のできる温度、そして熱の移動……氷を作る際の知識がそこには書かれていたのだ。色々と試行錯誤したのだろう、濃く書きずきた文字を消した跡が多々残っている。

 ふと、その中の一つの消し跡の横に小さく文字が書かれていた。彼は目を細めて見てみると、『シャーペンって実質炭素の塊だよな?」と書かれていた。恐らく炭素の錬成はここから派生したのだろう。

 そういった細かく書かれた式の最後には、完成品として描かれた《水》と《氷》の錬成陣があった。

 

 彼は窓の向こう側の景色に目を向ける。外にはどこまでも続く青空が見えた。

 もしかしたら、コイツ(蓮司)は化けるかもな–––とずっとこちらを睨み続ける蓮司に目線だけを向けながら彼はそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

………

……

 

 

 

 

「どうやら、ここのようだな……」

 

 

 走り出して数分後、彼らは指示された場所へと着いた。その現場には、少量の粉状の何かが太陽の光に照らされてキラキラ光っていたのと、その現場の片隅にカタカタと小刻みに震えている少年が体育座りで座っていた。

 

 

「君、大丈夫か?」

 

 

 彼はすぐ様少年の側に駆け寄る。彼が駆け寄ると少年はゆっくりと彼の方に顔を向ける。その顔は今にも泣きそうで、何かに怯えた表情であった。

 

「れ、蓮……蓮にぃが……」

「蓮にぃ……?」

 

 少年はカタカタと怯えながらも、彼に向けて薄暗い道の先を指さした。

 

 

「……黒服さん、この子を頼む」

「分かりました」

 

 

 彼は少年の頭にそっと手を添えると、すぐに立ち上がって指し示された道へと駆け出した。

 

 走る最中、彼は思った。道のど真ん中で光っていた粉は何なのか、と。

 

(あれは多分、蓮司が錬成した()の筈。あの子が座っていた反対の壁に少量の氷が張っていたから間違いない)

 

 

 あれが氷だと確信すると、道の先の一点に太陽の差し込めた場所を見つけた。その場所に彼は()()()()()を目の当たりする。一人は小柄な身体をしつつも何やら細長いモノを天へと掲げていた。もう一つの影は床に倒れ伏しながら何か片腕を抑えて––––

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 状況を理解した瞬間、彼は両手をパンっと音を立てながら合わせて、そのまま地面に両手を叩く。

 叩いたその時に周りに光が迸ったと思うと、地面や壁から無数と言える程の柱が二つの影へと伸びていく。

 

 

「!!」

 

 

 悠々と立っていた一つの影は、迫りくる柱に気づき床を蹴って後ろへと後退する。後退した瞬間、影が立っていた場に柱が直撃した。その直撃の衝撃により、もう一つの伏せていた影が何か液を垂らしながら吹き飛ばされる。

 

 

「う、うぅ……!」

「……こいつは」

 

 

 吹き飛ばされてきた影を間近で見た彼は、驚嘆の声を上げてしまう。

 顔は苦悶の表情を浮かべて、右腕で力強く左腕を抑えており、その抑えられた左腕は途中でプツンと途切れていた。

 

 紛れもない、純を攫った誘拐犯だ。

 

 

 それでは、その向こうにいる人物は一体誰なのだろうか。

 彼は悶え苦しむ彼女を一瞥すると、すぐに視線を謎の人物の方に向ける。視線の先には土埃が立ち込めており、視認する事は困難な状態であったが、次第にその土埃も風によって段々と晴れていく。

 

 

 そして、完全に晴れた時に彼が目にしたのは。

 

 

「……!?」

 

 

 

 全貌が露わになった瞬間、彼は全身のが逆立ったのを感じた。その感覚は、彼が元いた世界で幾度となく感じたモノだ。

 

 

 ()()……その感覚を言葉として表すのなら、これが最適な言葉だった。

 

 

「蓮司……じゃないな、お前」

「ほう、流石に分かるようだな。ホーエンハイム……お父様の片割れよ」

 

 彼は目線は変えずにすぐ様戦闘態勢に移る。それを見た蓮司(?)はあいも変わらず悠々と立ち尽くしていた。

 

「その左目……てことはお前、人造人間(ホムンクルス)か」

「如何にも」

 

 そう発言した蓮司の身体をした人造人間(ホムンクルス)は、持っていた得物を杖代わりとする様に自分の手前の地面に突き刺す。

彼の示した左目……そこには竜の紋章–––ウロボロスの紋章が刻まれていたのだ。

 

 

「我が名は《ラース》。憤怒の名を冠する人造人間(ホムンクルス)

「ラース、ねぇ……?」

 

 

 彼は思わず頭を掻いた。そして訪れたのは–––

 

 

 

 –––たった一つの静寂。今この場には弱々しい風が吹いているだけ。遊園地特有の人の賑わう声も、ましてや二人の交わす会話も無い。

 

 

「……」

「……」

 

 

 彼ら二人の距離は、倒れ伏した誘拐犯を中心に綺麗に保たれていた。もし二人が一斉に駆け出し衝突したら、誘拐犯はひとたまりもないだろう。

 

 

 

 

 しかし、そのような出来事は起こる事はなかった。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 二人の距離を保つ彼女の近くに、何やら小さな黒い丸が出来ていた事に、彼は気づいた。その黒い丸は時間が経つにつれて、どんどんとその面積を拡げていた。

 

 

 この時、ホーエンハイムの脳内である一つの仮説が立った。

 

 

 

「……まさか!?」

 

 

 

 彼は思わず上を見上げる。その瞬間だった。

 

 彼が見上げるよりも早く、何かが空から降り落ちてそのまま誘拐犯の側に着弾。着弾の瞬間に地面が振動し土埃が舞う。それにより、距離が保たれていた二人の視界が遮られてしまった。

 

「なんだ急に!?」

 

 あまりの出来事に彼は思わず声に出して驚いた。そして、土埃が口の中に入ってしまったのか、彼は咳をしながら膝を着いてしまう。

 

 

 

 

「オンナの、肉ぅ……♪」

 

「い、いや……来ないで…!もうやめて!……イヤァァァァァァァ!!!」

 

「!?」

 

 

 微かに聞こえた誰かの声。どこかで聞き覚えのある声だと思った彼は目を見開く。そしてその次に聞こえた悲鳴により、彼は立ち上がってすぐ様土埃の中心に向かう。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 しかし時既に遅く、その中心にはもう誰もいなかった。あったのは大量にぶち撒けられた血液だけだった。

 

 

「クソッ!!」

 

 彼は悔しさのあまり、近くの壁を思いきり叩いた。

 

 あまりに唐突な出来事に頭がついていけて無かった。だが無理もない。空から何かが降ってきたと思えば、その何かが捕まえてようとしていた誘拐犯を攫うという前代未聞の出来事が起きたのだから。

 

 

「グフォ……!」

「!!なんだ!?」

 

 

 何処に行ったのか周囲を探っていると、近くで謎の呻き声が聴こえてきた。声のした方に彼は身体を向けると、そこには武器を支えにしながらも、膝を着いて蹲る蓮司の姿が。よく見てみると地面には小さな血溜まりが作られている。

 

「ぐ、ぐうぅ……」

「おい、大丈夫か!?」

 

 彼はすぐに蓮司の側に駆け寄る。蓮司からはもう先程の殺気は感じられなかった。

 

 

「もう…時間、か……」

「あぁ?」

 

 

 か細い声で蓮司は何かを発した。

 

 

 

「やはり『貸借』ではこれが限界か……やはり『代価』を支払わなければ……ぐっ!」

「た、貸借?何の事だ……?」

 

 

 彼が疑問に思っていると、蓮司の片腕が彼の胸ぐらを掴んだ。掴んだ蓮司の顔は所々に汗をかき、吐息も途切れ途切れである。

 

 

「いいな……?この身体は貴様が守り抜け……お父様の片割れ、ホーエンハイムよ……さもなくばこの街が…()()()()()……」

「……お、おい!?」

 

 

 蓮司は謎の一言を残すと、胸ぐらを掴んでいた腕は地面へと落ち、その身体も地面に音を立てて倒れてしまった。

 

 その時、ホーエンハイムはある事に気付いた。

 蓮司が倒れる寸前、彼の左目にあったウロボロスの紋章が消えていた事に。

 

 

 

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 

「……ってのが、事の顛末だ」

「……な、何だそれ……」

 

 

 つまり話を纏めると……俺は犯人の腕ぶった斬ったけど、その犯人は別の誰かに拐われて行方不明。そんですぐに俺は意味深な事を言って気を失った……いやいや、全然信じらんねぇ。

 

 

「てか、アンタの狙いがそもそも分からん。犯人がどんな奴なのか分かってた風だったし……」

「あぁ、それか」

 

 

 彼はよっこいせ…と小言を呟きながら立ち上がると、机の上に置いてあった鞄から再度漁り始める。俺が何を取り出すのか目を細めていると、彼は一つのファイルを取り出した。

 

 

「数日前、弦巻財閥の設置した監視カメラにあの誘拐犯が映ったんだ」

 

 

 そう言いながら彼はファイルの中から一枚の写真を取り出した。その写真には深く帽子を被った人物が。

 間違い無い。コイツは純を攫った誘拐犯だ。

 

「コイツの名前は『黄夕実(きゆみ)』。……すまん、苗字は忘れた」

「は?」

 

 そこ大事な所だろうが、何忘れとんねん。眼鏡かち割るぞ?

 

「まぁそんな顔しないでくれよ。…話を続けるぞ?……年齢は21歳で、高校時代からアイドルグループで活動をしていたらしい」

「あ、アイドル?」

「あぁ、アイドルだ。……だがつい半年前、所属していた事務所から突然脱退。そのまま急に行方不明になったらしい」

 

 ほう、突然の脱退……仲間とトラブルが起きてなのか、それともアイドルとしてしてはならない事をしてしまったのか……そこら辺から今回の事件と関係している可能性が微レ存……?

 

 だが妙だ。アイドル云々を取り除いて一つだけ妙な所がある。

 

「……映ってるのは犯人だけど……映ってるからってコイツをマークしてた、ってのは可笑しくない?行方不明になった人が映ってたから?」

 

 

 いくら相手が元アイドルで、しかも半年間行方不明の人物だからといって、今回の事件起こす犯人だと事前に察するのはかなり無理がある。……だけどこの人(ホーエンハイム)はコイツが起こすと予め分かっていた。……何故?

 

「まぁ確かにそれもあるが……ここ、コイツの右手を見てくれ」

 

 すると、彼は俺の疑問に答えるように写真の一点を指差した。俺はその指された一点に視線を寄せる。

 見てくれったって、ただ右手を握ってるだけ……じゃ……?

 

 

「……何だ?」

 

 

 俺はその握り締めていた右手から少しだけ飛び出していたソレを凝視する。

 握り締められていたソレは、写真越しからでも異様さが分かるくらいに妖しく光っていた。……それはもう()()()()()()()()()

 

 

「……これって、まさか」

 

「あぁ、紛れも無い……()()()()だ」

 

 

 ……おいおい嘘だろ?何でこの世界に賢者の石があんだよ?だってこの石の材料って……うぇ、想像しただけで吐き気を催すわ……。

 

「驚きだろう?……でもそれだけじゃない」

 

 えぇっと……あぁこれこれ、と彼が再度ファイルを漁って何かを取り出した。取り出されたのは先程とは別の写真。その写真は何処かの路地裏だろうか、とても薄暗い場所だ。その中に一人の人影が。

 その人影の特徴としては、頭髪がスキンヘッドで、全体的に丸っこい何処ぞの暴食のホムン……

 

 

「ってこれグラトニー!?」

「あぁ。よく分かったな?」

 

 

 よく分かったなって……こんなの分からない方がおかしいだろ。めっちゃ丸いし。スキンヘッドだし。それで丸いし。人差し指咥えながら立ってるし。あと丸いし。とにかく丸いし。

 

 

「この写真はあの遊園地で撮られた写真だ。……これで分かっただろう?人造人間(ホムンクルス)である奴が遊園地で発見され、しかもソイツに関連する賢者の石を持っていた黄夕実という行方不明者。……マークしない訳無いだろ?」

 

「……ふーむ」

 

 ……取り敢えずは誘拐犯が黄夕実だって分かっていたのは理解した。けど……。

 

「納得はしたけど、これ俺の質問に答えてなくない?」

「えっ?」

「いやだからさ、アンタの狙い。アンタはこの世界で何してんのって話」

「……あー」

 

 いやあー、じゃないよ。まさか質問の内容よく解ってなかった感じなの?酷いわぁ……え?俺にも語弊があった?知らん知らんそんなの。

 

「すまんな、勘違いしてた。……で、俺の目的ってヤツを知りたいってのか?」

「イエス」

 

 それ最初から言ってます。早く答えて下さいよ(ハイバーせっかち)

 

「……こうして面と向かって話すのはちょっとあれだが、まぁいいか」

 

 彼はそう言いながら、取り出した二枚の写真をファイルにしまい、そのファイルを丁寧に鞄へと戻した。

 

「さっきも話した通り、この街に人造人間(ホムンクルス)が蔓延っているだろう?……そいつらを捕まえて()()()()()()()()。それが俺の目的だ」

「……ある事ってどんな事よ?」

「それは教えん」

「えぇ?」

 

 そこは普通話すでしょぉ?気になるじゃ〜ん、教えて欲しいよ〜。教えて教えて〜(過去最高のかまってちゃん)

 

「そんな顔されても教えないからな?」

「……チッ」

「おい今舌打ちしただろ?」

 

 ……はて、何の事だろうか?別に俺は、凄い勿体振らせておいて返ってきたのがよく分からん答えだったから舌打ち、なんて事はしてないぞ?するもしたらとんでもないクズだな、HAHAHA。

 

 

「……っと、もうこんな時間か」

「あれ、もう帰るの?」

 

 ふと気になったのか、右腕に付けていた腕時計を確認した彼は、慌てるまでとはいかないが早々と帰る支度を進め始めた。

 

「少し寄るところがあってな。……ちなみにお前はあと数日は入院だからな?」

「ハァ!?ウッソだ……っつう……」

 

 ヤッベェ、暴れそうになると身体に激痛走るの忘れてた。いってぇ。

 てか俺まだ入院してんのかよ。夏休み終わりそうな勢いな気がするぞ?

 

「おっとぉ、その状態じゃまともにテレビもつけられないか。……ほい」

 

 俺の激痛に悶え苦しむ様を見兼ねてか、机に置いてあったリモコンを手に取りテレビの電源ボタンを押してくれた。

 

「じゃあ安静にな」

「ういー……あ、ちょっま」

 

 俺がある事に気づき彼を呼び止めようとしたが、時既にお寿司。……じゃなくて遅し。彼はとっくに扉を閉めてこの部屋から居なくなってしまった。

 

 

 

 

 ……せめてニュース番組じゃなくてアニメ見せてよ。……あ、でもお昼時だからアニメなんもやってないのか。しゃあねぇ、ヒルナン○ス観るか。……ハァ。

 

 

 

…………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 

 正直に言おう。テレビ見飽きた。

 あれから2時間ぐらい経ってもう番組がヒルナン○スからミヤ○屋になっているのだが……。いかんせん面白くねぇ。最近の事故とかもうどうでもいいよ。

 

 

『それでは次のニュースです』

 

「はぁ、またニュースかい」

 

 

 そろそろ夏の特番!みたいなのにしてくんねぇかな?何度も言ってやるよ。ニュースは見飽きた!

 

 

『今日未明、山沿いの道路で車が謎の事故を起こしました。車は綺麗に三等分に切られており……』

「……?」

 

 と思っていたら、何やら面白そうなニュースが。

 なになに?車が三等分?ほうほう、それは奇妙なり。どれ、拝見してみようかい?

 

 

『……死者は車の運転手である女性一人。女性はお盆による帰省により実家へと戻っており、その実家から帰宅中に事故遭われた模様』

「ほえー、お盆で実家に……か」

 

 確かきーやんがお盆で親戚の集まりがあるとか言ってたっけ。ふぇ〜、世の中は怖いねぇ。

 

『実家に住まわれている女性のお母さんによると、子供を連れてこちらに来ていたと証言しており、警察は子供の行方を追っています』

 

 あらら、子供も連れてたのか。でも何処に消えたんだ?その子供。謎だなぁ。

 

 

『ちょいちょいミヤタさん。被害者の名前とか出てないの?』

『あっ、すんません今言いますね』

 

 すると番組内で誰かが名前が出ていない事に気づいて、司会のミヤタにその事を伝えていた。

 あ、確かに。普通被害者の名前とか出すもんなぁ。……あれ?これ情報番組として駄目じゃね?ネットで荒れそうな予感()

 

 

『えっと、被害者の名前は––––』

 

 

 

 

 

 –––俺は、この次に司会が発した名前を聴いた途端、先程までの余裕が一瞬にして無と化すこととなる–––

 

 

 

 

 

 

 

 

『如月 智子さん、42歳。そしてお子さんの方が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()() ()()()()、12歳ですね』

 

 

「……え?」

 

 

 この時の俺は酷く動揺していた。

 

 

 

 出された名前が、何とも不思議な事に親友の名前だったから。

 

 

「……うそだ」

 

 

 

 それでも俺は、全く別の……名前が一緒なだけの赤の他人だと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 だってそうしないと、俺が壊れてしまいそうだから。

 

 

 

「違う、だってアイツは……」

 

 

 

 けど、現実は甘くは無かった。

 

 

 

「あんな元気してたじゃ……!?」

 

 

 

 次の瞬間、画面に写し出されたのが–––

 

 

 

「……ぁ」

 

 

 

 

 親友の……きーやんだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おいおい、大晦日に7000字以上の文章書くヤツがいるらしいぜ←

 あ、あと報告です。最近Twitter始めました。ユーザー情報欄のとこにTwitterアカウント貼っとくと思うんでフォロー宜しくお願いしやす!!

 それでは、良いお年を。


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仲良し組だった俺たち


 遅くなって申し訳ない!!明けましておめでとうございます!!
 年が始まって早々、今回で第3章は終了となるぞ!!


 ––––最初に感じたのは、ただ一つの束縛感だった。

 俺を縛り上げる何かは、足の爪先から手指の先端まで……更には頭の天辺までに到達して、背中全体には壁といった物体に触れて感じるような冷気が伝わっていた。

 無論、実際に自分が縛り上がった姿を見た訳ではない。だって目を開いていないから。視界を広げなくては確認する事も出来ない。

 なら目を開いて確認すればいい話なのだろうが……如何せんこの目を瞑っているこの時間が堪らなく心地いいのだ。この、何かに触れていられるこのひと時が堪らなく愛おしく感じる。……言っておくがそういった趣味が無いことを予め伝えておこうか。

 

 しかしながら、ここは何処なのだろう。それに加えて俺はどんな状態なのだろう。心地いいとか抜かしてはいるがそこだけちょっぴり不安だ。

 

 

 

 ––––おい!蓮司!!

 

 

 不意に何処からか声が聞こえてきた。

 ……何だろう、この声の主を俺は知っている気がする。ひょっとして俺の知人だろうか。まぁでも、今はこのゆったりとした時間の方が大事だ、なるへ邪魔をしないで欲しい。

 

 

 ––––蓮司起きろ!!そんな所で……寝んじゃ、ねぇ……!

 

 

 はぁ…邪魔をしないでと言ったばかりだろうに。……ん?実際には言ってないか。だからこんなに俺の事呼んでるのか?頼むよ、フィーリングってやつで察してくれよ全く。……仕方ない、邪魔しないでと伝えるとするか。感謝しろよ?

 

 

–––––……–––…––……?」

 

 

 ……あれ、おかしいなぁ。口が思ったように動かない。てか口あるのかこれ?あんまり動かしてる感ないんだけど。もしかして縛られてるのと何か関係してる系なのか?心地いいのと関係してる感じなのか?

 

 

 ––––おい、クソ蓮司!!さっさと起きやがれ!!

 

 

 うるっせぇな、こちとら変な感じがして気が気じゃないんだよ。……ていうかこの声ホントに誰だ?誰が俺に話しかけてきてる?

 

 –––っクソ!離し…やがれぇ……!

 

 

 なんだ……?声の主は誰かと戦ってるのか?その割には戦闘音らしきものは聞こえない。……段々心地良さよりもそっちの方が気になってきたぞ?

 

 

「……?」

 

 

 てな訳で目をゆっくりと開いてみた。ゆっくりと開いたせいか、視界全体がボヤけてしまう。

 

 

 

 ……のはいいんだ。視界がボヤけるのは別に大した事じゃない。よく朝起きる時にあるから。ただ問題はそこじゃない。

 

 何故だか、()()()()()()()()()()

 

 いや正確には開いてる筈なんだが、右眼の視界だけ真っ暗なのだ。もう黒で塗りつぶされてる感じだ。おかしい。これは正に摩訶不思議と言っても過言ではないだろう。

 

 とまぁそんなこんなで考えていると、左眼で見る視界が段々と晴れてきた。

 

 

 その一瞬、視界に映ったモノに俺は目を疑った。

 

 

 –––ぐぬぁぁ……!?蓮、司ィィィ…!!

 

 

 俺の眼に映ったのは、怨念や憎悪などをこれでもかといえる程に具現化した何かと、その何かから取り押さえられた一つの影だった。多分、その影が俺の名前をしつこく呼んでいた奴だろ…う……?

 

 

 ……待て、なんか妙だ。何だか足が……足、が……?

 

 

 

この瞬間、俺は自分の身に起きた事を少しだけ理解することが出来た。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 すぐ様視線を足下に向ける。だがもう遅かった。

 

 

 俺の足はもう、何処にも無かったのだ。

 

「!?」

 

 その事に気付いた瞬間、無くなっている筈の足に鋭い痛みが走った。その痛みはどんどんと上へ上へと登るように這い上がってきた。

 

 「……!!!……!?……!!!」

 

 激痛が俺の身体を蝕んでいく。だが悲鳴をあげようにも、先程述べたように口が動かせない。ただただ悶え苦しむしか無かった。

 

 ここで俺は理解した。俺を愛おしくさせていた先程のアレ。アレが俺の身体を奪っていたのだ。

 

 

 ––––蓮司……くそっ!!

 

 

 もう左半分は眼を残して根こそぎ奪われた時、影が再度俺の名前を読んできた。痛みで閉じていた左眼を開くと、影が俺の方に何とかして右腕を伸ばしていた。

 

 俺もそれに呼応するように左腕を伸ばす。

 

 

 互いに互いを助け合うように。

 

 

「–––!!……!!」

 

 ––––ふぬぅうあぁあああ!!!

 

 

 距離が近かったからだろう、互いの手はもう後数センチの所まで差し掛かっていた。最後のラストスパート、俺は必死になって腕を伸ばした。……目を瞑ってしまう程に。

 

 

 だが、俺と影の助け合う祈り届く事は無かった。

 

 

 

「…!」

 

 

 もう届く、と思った俺は閉じていた眼を見開いた。

 

 だが、そこにいたのは助けを求めようとした影はなく……

 

 

「……!?」

 

 

 代わりに

 

 

「な、なんでなんだよ……!」

 

 

 

 

 無い右腕と左眼を抑えて

 

 

 

 

 まるで化け物みたかのような表情をした

 

 

 

 

 俺自身だった

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

 気が付いた時には、俺は横になっていた身体を勢いよく起き上がらせる。顔や身体には少量の冷や汗が伝っているのが体感で理解できた。

 何故か息が上がっている……?また変な夢見てたのか……俺。これで何回目だよ……クソ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 まぁどんな夢かは分からないが、こんな事になった原因は嫌でも分かってる。……あの事件をテレビで見た時からずっとだ。

 あの事件–––きーやんときーやんのお母さんが事故に遭った事件の事だ。きーやんのお母さんは縦方向に三等分で斬り分けられた車に乗車しており、その身体も横方面から縦に斬られて真っ二つになっていたそうだ。

 そしてきーやん。アイツは行方不明となっていたが、事件の翌日に警察が現場周辺を隈なく探し回ったところ、不自然な場所に人間の左腕が血溜まりの中心に落ちていたそうだ。鑑識の結果、その腕はきーやんのモノと断定。血溜まりの出血量……そしてその近辺には熊といった肉食動物が生息していた事から……死亡と断定された。

 

 それをテレビで見た時、俺本当に吐きそうになった。人間が……それも幼馴染が車の事故に遭って、それで熊に襲われたかもって……。

 しかもそれがあの時(遊園地の事件)の後だったから変なことを余計に想像して……そのせいで病院の食事も喉を通らなくて。今は何とか食えているが、心の方がもうポッキリと折れていた。

 

 

「蓮司くーん?朝食を持ってきたよー」

「……ありがとう、ございます」

 

 

 看護師さんが朝食を目の前で広げている中、俺は一つだけ思い付いた。

 

 

 

 俺の力を行使すれば、アイツは戻って来るのでは?……と。

 

 だが俺は心の中で首を振った。

 無論そんな事をやったってアイツは戻ってこない。やってくるのはただの厄災。寧ろ、やってくるではなく持って行かれるのが正しい。

 ……でも、もしかしたら。

 

 

 この世界では、そんな事なくて

 

 

 やって見せたら、もしかしたらアイツは生き返るのでは?

 

 

 ……それは分からない。確かにやったら何かしらの代償を払う確率は多いにそちらが上だ。

 だけどそれは鋼の錬金術師の世界でのお話。もしかしたらこの世界ではそんな事は無くて、割とすんなりと出来るかも知れない。転生者補正なり何なりで成功出来るかも……と、そんな考えを俺の脳内で循環させていた。

 

 

「おーい蓮司くーん?」

「え?あ、はい」

「もう朝ご飯できたよー?あとね、君にお客さん」

「お客……さん?」

 

 

 甘ったるい考えか、と一蹴してふと我に還ると、どうやら朝食は準備を終わっていたようで、更には俺にお客さんも来ている事が分かった。

 まぁどうせあの人(ホーエンハイム)だろう。あの日以来来てないからもうそろ来るだろうとは思っていた。

 

「そうそう。君ぐらいの女の子」

「……うん?女の子?」

 

 

 しかし的は大外れだった模様で。

 俺ぐらいの女の子……誰だろう。ふーむ、思い当たる節があり過ぎて分からん。

 

 

「ほら、来なさいよ」

 

 

 看護師さんが扉のほうに手を小さく振る。すると少しだけ顔がヒョコッと現れた。

 

 

「あっ……」

 

「え、えっと……どうもっす……」

 

 

 顔を出していたのは意外な……いや全く意外では無いな。この場合。

 

 そう、その人物は俺のもう一人の古くからの幼馴染–––大和ちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

「元気にしてましたか、蓮司くん」

「……まぁ、ぼちぼち」

 

 

 俺がパサパサしたパンを一口サイズにちぎって口の中に放り込んでいると、対面に座っていた大和ちゃんが話しかけてきた。

 

 

「いやぁ、それにしても今日はいい天気ですね!」

「ん?……まぁ、そうだね」

 

 

 確かに、窓を見てみると空は一旦の曇りのない快晴で、外に出て寝っ転がれば物凄くいい夢が観れそうだ。

 ……いい夢、で思い出してしまった。もしかして今さっき感じた不快感も、ずっとこの病室内にいるからだろうか。ならいっそ外に出て寝たい。

 

 

「その朝ご飯、美味しそうですね!」

「……食べてみる?」

「あ……いえ別に大丈夫ですよ?ジブン食べてきたので……」

 

 

 ……そんな事言って、本当はこんなの食べたくないでしょ。さっきも述べたけど、今食べてるこのパンめっちゃパサパサしてて、口の中の水分持ってかれるし。口内潤すためにスープ飲もうとしたらそのスープもちょっと不味いし。

 まぁでも病院の飯が不味いのを体験出来ただけでもよしとしよう。……ハァ、こうやってプラスに考えでもしないと気分が上がらねぇよ。……てか…

 

 

「そういえば来る道中に「大和ちゃん」は、はい?」

「一つ聞いていい?」

 

 

 めっちゃ気になる事が一つだけあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでさ、今日来たの?」

 

「……え」

 

 

 俺の疑問による発言が意外だったのか、大和ちゃんは面食らった顔になってしまった。

 

 

「な、なんでってそれは……」

「俺の見舞い……もあるんだろうけど本当は違うでしょ」

「!!えっと……」

 

 

 ……どうやら図星だったようだ。

 

 

「あのねぇ……何年幼馴染やってると思ってるの?さっきから積極的に話しかけて来るかと思えば、他愛のない話ばっか。……普段の大和ちゃんならもう少し落ち着いて話すと思うんだけど?」

「……」

 

 どうやら俺の推測が正しかったようで、大和ちゃんが俯いてしまった。よく見てみると、両拳が小刻みに震えている。

 

 

「……実は」

「実は?」

 

 

「自分……怖くなっちゃって……」

「……」

 

 怖かった……その一言で、俺は大和ちゃんが何が言いたいのか少しだけ理解した。

 

「……実はジブン、前々から蓮司くんのお見舞いに来てたんです。でも、何回来ても蓮司くんはずっと眠ったままで……もしかして蓮司くんはもう起きないんじゃないかって思ってしまって……!」

 

 大和ちゃんは震える声をなんとかして絞り出し、俺に今の心境を話してくれた。そんな姿を見て、俺は心が苦しくなるのを感じてしまう。

 

 

「それにジブン、なんで蓮司くんが入院してるのか全然分からなくて……それで看護師さんに聞いても何も話してくれなくて……!」

「……」

 

 ……看護師さんが話せないのは無理もない。だって俺が入院したのは誘拐犯と戦ったり人造人間(ホムンクルス)と戦ったりしたからだ。

 当然、あの人(ホーエンハイム)や弦巻財閥の方々も口外されるのも困る筈。だから担当医の人達に口止めしているのだ。

 

 でも俺は、それ以上に……もっと悲惨で、恐ろしく残酷な事が原因なのだ、と、本人でも無いのに確信していた。だってそれは、()()()()()()()()()()()()()

 

「……でもそれぐらいに大変な事があって……」

 

 

「きーやんの事、だろ?」

「……はい」

 

 

 予想は的中。……まぁでもこんなの予想するまでも無い事だ。

 俺が入院したという予想外な事に加えて、幼馴染の突然の死……幼い大和ちゃんにとっては信じろと言われても信じるなんて事は出来なかった筈だ。

 

「……あのニュースを見て思ったんです。みんながみんな、ジブンの手の届かない場所に行っちゃうんだなって……そう思った途端、何もかもが怖くなって……ずっと部屋で怯えて……!」

 

 そこまで聴いていると、不意に大和ちゃんの手元に一滴の雫が落ちるのが見えた。そこからまた一滴、一滴と大和ちゃんの手元を雫が濡らしていく。

 

 その様子を、俺は黙って見つめるしかない。

 

「……でもそんな時に、蓮司くんが目を覚ました、ってお母さんから聞いて……いてもたってもいられませんでした」

 

 すると、大和ちゃんは目元を擦ってゆっくりと立ち上がった。

 

「今こうして蓮司くんと話せているだけで、ジブン何だか嬉しいんです。いなくなったと思ってた人と話せて……でも、その分……」

 

 立ち上がった大和ちゃんは、ゆっくりとこちらに近づいて来ると、そのまま俺の袖を掴んだ。その際、俺はずっと隠れていた彼女の顔を見る事が出来た。

 

 

 その顔は涙で濡れて–––

 

 

「仲の良かったきーやんが居なくなったのが…余計に思い出されて……!」

 

 

 目元は真っ赤に腫れて–––

 

 

「だから……だから……!」

 

 

 –––もう、いいよ。

 

 

「蓮司くんも……いつか本当に居なくなっちゃうんじゃないか、って……!!」

 

 

 –––それ以上言わなくても、分かってる。

 

 

「……え?」

 

 

 –––無意識だった。大和ちゃんの泣き顔を見ていたら、いつの間にか俺は彼女の頭の上に手を添えていた。

 

 

「大丈夫だよ、()()()()()

「……!!」

 

 

 これもまた無意識。今まで苗字で呼んでいたのに、俺は何故か名前で呼んでしまった。

 ……前にもこんな事があった。確か、沙綾を落ち着かせる為に名前呼びになったのだっけ。どうやら今回も似たようなケースだから名前で呼んでしまったようだ。

 

「俺も……きーやんが居なくなったって分かった時、心の中が真っ黒になってさ。余計な事考えちゃったんだ」

「余計な事…ですか?」

 

 俺の言葉に疑問の念を抱いたのか、麻弥ちゃんが目にうっすらと涙を浮かべながらも、首を傾げた。

 

「そ。……もしきーやんを生き返らせる事が出来たら、とか。その為ならどんな事になっても構わないなぁ、とか」

 

 

 そう、謂わば自己犠牲というモノ。自分がどうなろうと、自分がやりたかった事が成せればそれでいいと思う事。……今さっきの俺はそんな感じだった。

 

 けど、今は違う。

 

 

「でも、そうやって自分を犠牲にしたら、その後の皆はどう思うのかな、って考えたら……絶対に悲しむんだろうなって思えて」

 

 

 無論、俺一人ではそんな事考える事は出来なかっただろう。人体錬成をしたらそこでお終い……自分の身に何が起ころうと……ましてや他人の事なんて考えてもみなかった。

 

 だけど、さっきの麻弥ちゃんの涙ながらに話してくれた思いに……俺は改心させられた。

 

 今、目の前にあるのは、一人の友人を失った幼馴染。

 

 その幼馴染から、今度はもう一人の友人(俺という存在)が消えたらどうなるだろう。……今、こうして俺を頼ってくるこの子はどうなるだろう。

 

 それだけではない。いつも公園で遊ぶ幼馴染五人組、パン屋の娘の沙綾、そして俺の親である母さん……色々な人が俺と関わってくれた。そんな人達を悲しませるのはどう考えても良くないモノだ。

 

 ……何だかこれだけ聞くと自意識過剰マンみたいに思われるかもしれないなぁ。でもそれだけの…頼り甲斐のある人間だと、俺は自負している。

 

 

 だから、そう思うからこそ言わなければならない。

 

 

「だからそうならない為にも、俺はずっと()()()()()

 

 

 その為にも、笑っていなくては–––

 

 

「もう––––離れないから」

 

 

 ニッコリと、な。

 

 

「……」

「……あれ?」

 

 

 急に麻弥ちゃんが俯いてしまったのだが。……ん?よく考えたら俺の台詞、何だか胡散臭いような…。何故だか羞恥の心が芽生えて……。

 

 

「……とうですか?」

「?」

 

 

 いかん、全然聞こえなかった。

 

 

「本当、なんですか…!」

「え?あ、いやまぁたしかに本当っちゃホント……ぬふぉ!?」

 

 

 え、待って!?急に抱きついて来たんですけど!?この子そんなにアクティブな子だったっけ!?

 

 

「……絶対に離れないで下さい」

「え?」

 

「絶対、悲しい思いをさせないで下さい……!」

 

 

 ギュッと、抱きつく力が強まった。

 これはちゃんとした答え出さないと離れてくれなそうだなぁ。

 

 

「……うん、分かった」

「…!!」

「えっ、ちょっえ!?」

 

 

 ちょっと!?この子今度は顔埋めて来たんですけど!?

 

 

 

 

 まぁ可愛いから許すけど。

 

 あ、いやでもこんな状況誰かに見られたら誤解しそうなんだ「あらあら、青春?」が……?

 

 まて、誰だこの声。扉の方から聴こえて……。

 

「いいわねぇ青春。私も若いころは旦那と……」

「待て待て待てぃ!?アンタ誰!?」

 

 扉の方を向いてみると、そこに佇んでいたのは金眼、金髪のタバコみたいのを咥えた女性だった。

 

「私?私はここの医院長の、弦巻 珠子だよ」

「弦巻……ってこころの?」

「あら何だい、こころにもう会ってたの?あの子、私の自慢の娘なのよ」

 

 衝撃事実。こころのお母さんは、なんと病院の医院長だった。……いやあんな元気っ子のお母さんが医院長だなんて思わないわ普通。

 

 あと、普通に忘れそうになってるんだけど麻弥ちゃんね?まだ抱きついたままなんだよ。さっきから何も応答はないけど……あれ?

 

「すぅ……すぅ……」

 

「寝、寝てる……」

「相当疲れてたんでしょう。この子走って来てたし。病院では走らないってのをこの子に教えてあげといてよね」

 

 だったら貴方もこころにジェットコースターは連続してならない、ってのを教えといて欲しかったなぁ。あの時の事は忘れない(確固たる決意)

 

「……あ、そうだ。君に渡すモノあって来たんだった。はいこれ」

「えっ何これ……手紙?」

 

 珠子さんがポケットから取り出して渡してきたのは、一通の手紙。何故か綺麗に封筒に入っている。あともう一つあるのが……。

 

「……あとこれ」

「ココアシガレット」

「え?」

「いやだから、ココアシガレット」

 

 手紙の上にチョコんと一本付いてきた。どうやらこれはココアシガレットらしい。

 

「甘いの摂取しといた方が良いと思うよ君は。……じゃ、私はこれで」

「えっちょっ……行っちゃった……」

 

 俺、ココアじゃなくてコーラ派なのに、って言おうとしたらどっか行っちゃったよ。マジで何だったんだ?……っといけないいけない。そんな事より手紙の方が大事だ。

 

「手紙の内容は……っと?」

 

 俺は中身が気になったので、封筒から一枚の紙を取り出した。表面に差し出し名が書いてあったのはホーエンハイム(光野 錬夜)だった。

 ……何故に手紙?直接言いにくればいいのに。取り敢えず読むとするか。

 

「何々……?」

 

 俺は黙々と手紙に記された文字を読み進めていく。手紙の内容を纏めると以下の通りだ。

 

 一つ目。ちょいと急ぎの仕事が入ったから少しの間は会えなくなる事。

 二つ目。帰ってきたら俺に新しい錬金術を教える事。

 三つ目。桜–––母さんが心配しているから早く退院しろとの事。

 

 纏めてみるとこんな内容だった。

 ふむ……急ぎの仕事って何なのだろう。まぁ何年の間海外でバリバリ活躍してたらしいから、こういう事は日常茶飯事なんだろうなぁ。それに母さんも心配してるらしいから早く退院しなきゃなぁ。……ここの飯不味いし。

 

 まぁそんな事よりも、だ。

 

 新しい錬金術……って何のことだろうか。あのホーエンハイムが教える錬金術だから……国土錬成陣の事とか?いやそれはないか。

 

 

「む……にゅぅ……フヘヘ…」

「……あ、忘れてた」

 

 麻弥ちゃんがずっと抱きついて寝てたの忘れてた。ハァ、ほんっとやめて欲しいわ。こうやって抱きつくの……

 

 

 

 

 か"わ"い"い"な"あ"!!も"う"!!

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 男は、ある場所に立っていた。周りにはその男を囲うように沢山の木々が生い茂っていた。その木々は風に煽られており、まるで男をこの場から追い払うようかのに揺れている。

 

「……ふむ」

 

 男は周囲を一瞥するとポケットに手を突っ込み、森の中を歩き始めた。気が付けば、空は鉛色へと変貌していて、今からでも雨が降りそうな気配だ。

 

「……おっと、ここは」

 

 歩み続けていると、男は森の中にしては開けている場所に着いた。

 その開けた場所の中心に、男は目を光らせる。

 

「やはりな、ここに奴らがいたか」

 

 そこで誰かが暴れたのか、地面が少し抉れていた。さらにその抉れた所の周りには点々と血の跡が残っている。その跡を見た男は直ぐに勘付いた。

 

 この跡は、数日前に付いたモノだ、と。

 

 

「……ここであの暴食の餌にされたか…それとも、もっと別の何かをされたか……」

 

 男は––––ヴァン・ホーエンハイムはこの場で起きた事を想像すると、顔の眉間を抑えて何かを考え始めた。

 

 

()() ()()()()……もしかして人造人間(ホムンクルス)の……」

 

 

 他に誰もいない……言い換えれば自分一人しかいないその場所で、彼は小さく呟いた。

 

 

 

 

 禁忌を犯すその日まで……彼の息子が真理を見るまで、残り約一年である––––

 





 取り敢えず、第3章はここでお終いです!
 次回からは第4章に入りますが、まぁ多分2、3話でその章は終わっちゃうと思いますがね。あ、あとルート裕也なんですが、番外編として書く事にします。……まぁ簡単に言えば彼の死の真相ってヤツですかね?

 伏線貼りに貼っているようですが、これからも宜しくお願いします!


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自己紹介と次回予告という名の尺稼ぎ『第3章編』

 長らく待たせたくせに尺稼ぎすんな、……だって?

 安心しな、この後にちゃんと投稿するぜ(謎のドヤ顔)


 

 

 

 光野 蓮司

 

 何度も言わせてもらうがこの作品の主人公。なんかもう最近シリアス展開ばっかで、実のところ萎えているらしい。何やら新たな技を取得するらしいが……?

 

 

 

 光野 錬夜(ヴァン・ホーエンハイム)

 

 こちらも何度も言わせてもらおう。こちらは蓮司の父であり、鋼の錬金術師での最重要ポジに座するキーパーソン。彼はこの世界で何をするのか。それはまだ謎に包まれている。

 

 

 

 

 弦巻 こころ

 

 後に『花咲川の亜空間』の異名を手に入れる少女。そんな彼女だが、高校生になるまで出番ないと思われる。悲しきかな、あんなにも可愛らしいのに(謎の上から)

 

 

 

 

 山吹 沙綾

 

 後に『商店街の聖母』の異名を手に入れる少女。(勝手につけた)初めての遊園地で弟を拐われて嘆いていたところを蓮司に助けられた。この時に恋の芽が現れ始めた。そのせいでなのか、近くの珈琲店の娘に益々目をつけられる始末に。まぁでもそんな本気に目をつけた訳でもないから、そこは安心。はー、青春してるなぁ。

 

 

 

 

 山吹 純

 

 今回の一番の被害者。謎の誘拐犯に捕まって、謎の戦闘を間近で見ることとなった少年。何気に、蓮司の錬金術を間近で見た人No.2である。(No.1はつぐみ)余談だが、あの事件の数日後、部屋でカッコよく棒を振り回していたら、大事なおもちゃを壊してしまったとか何とか(証言者は上の姉)

 

 

 

 

 

 氷川 黄夕実

 

 純を攫った誘拐犯。氷川……どこかで聞いた事のある苗字だなぁ……双子の姉妹がいる気がするぜ、HA☆HA☆HA()

 連れ去られた後はどうなってしまったのか。噂では、事件の数日後で遠くの街で見かけたとの事も……?

 

 

 

 

 

 如月 裕也

 

 蓮司が死闘(?)を繰り広げていた中、何故か死んだことにされた幼馴染。何故こんなことになったのか、多分それは、番外編で明らかになる。

 

 

 

 

 

 弦巻 珠子

 

 こころのお母様で、蓮司が運ばれた病院の院長を務めている。どうやら蓮司が学ぶ新しい技にも彼女が関わっているらしい。

 

 

 

 

 

 

 大和 麻弥

 

 蓮司の幼馴染で、裕也の死で心に深い傷を負った少女。だけどその後、蓮司に優しい言葉を掛けてもらいその傷を直した。蓮司に対する恋愛感情?フッ、彼ら二人は友情という絆で結ばれているだけさ……嗚呼、儚い。

 

 

 

 

 

 『暴食』のグラトニー

 

 何故か『憤怒』に身体を乗っ取られた蓮司と、それに対峙していたホーエンハイム達の邪魔をした人造人間(ホムンクルス)。その際に黄夕実を攫っていったが、イヤに離さんと持つ紅い石と何か関係があるのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次章予告!!

 

 

 

 

 –––彼は、一人で何人の命を救えるのか

 

 

 

 

 

 –––彼は、一人で何人の死を目の当たりにするのか

 

 

 

 

 

 –––彼は、何を対価とするのか

 

 

 

 

 

 –––そして彼は、一体何を望むのか

 

 

 

 

 

『次回 第4章

 

 進み始めた時の中で 編』

 

 

 

 

 人の真理–––それは、誰も入ることの出来ない不可侵な領域である




 はい、改めて第3章はこれにて終幕であります。

 次章の第4章は何やら雲行きが物凄く悪い感じがしますが、そこは何とかする(全くの信頼度0)

 前書きにも書きましたが、この後に続きを投稿しますので、そこのところ宜しくお願い致しやす。


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???編(まぁ特別編みたいに思っといてくれい)
誕生日だ!!大和麻弥の誕生日だ!!ワッショイ!!!


 誕生日という事を忘れて、急遽作ったものの……これ大丈夫かな?


 

 

「おい蓮司」

「なんだいきーやん?」

 

 

 秋の風が吹き始めた十一月三日。ハロウィンといった大型イベントも終わり、TVではクリスマスのCMが流れ始める季節だ。

 そんな肌寒くなり始めた日に俺達野郎二人は、外の公園で今日という日の主役を待っていた。

 

「いいか?アイツには感づかれねーようにしろよ!」

「分かってるって、それ何回も聞いてるから」

 

 隣でガミガミと聴こえてくる声が届かないように、俺は耳を塞ぐ。その行動を見たきーやんは益々怒ったようで、先程よりも主張が激しくなってきた。……その訴えは残念ながら俺の耳には届く事はないが。

 

「おーい、みなさーん!」

「お、来た来た」

「あ、っておい!」

 

 モコモコのフードを上下に揺らしながらこちらに向かって来る主役が目に見えたので、俺は滑り台からスルスルと滑ってその場を後にする。後から彼女の事に気付いたきーやんは、俺の跡を追い掛けるように滑り台から降りてこちらに向かって来た。

 

「すみません、遅れました……!」

「いやいや、全然。なんてったって今日は大和t「とおりゃあ!!」ゴフッ!?」

「えぇ!?」

 

 俺が挨拶を交わそうとした瞬間、後ろからきーやんが飛び蹴りをかましてきた。

 痛い、物凄く痛い。

 

「テメェ、分かったって言ったよなぁ…?」

 

「アハハ、今日もきーやんは絶好調のようだね」

 

「当ったり前だ!今日の昼飯はラーメンだったからな!!」

 

「そっか、だからこんなに口臭「うるっせぇぇ!!」」

 

 まぁそんな臭くはないけど。一種のジョークってやつですよ、うん。

 

「ふ、二人とも!?喧嘩はやめて下さいよ!?」

「大丈夫だよ大和ちゃん。俺達はいつまでも仲良しだから」

「あ、あぁ!?そ、そんな事はね、ねぇぞぉ!?」

 

 俺の仲良し発言に、きーやんの胸ぐらを掴む力が弱まったのが分かる。奴の顔を見れば、少し照れた表情をしていた。

 

 はい、きーやんのデレ頂きました。今日のノルマ達成だね、ヤッタァ。

 

「……えっと二人とも?その、言いづらいんですけど……今日は…」

「「!!」」

 

 おっと、今度は大和ちゃんがモジモジし始めた。モジモジする姿も可愛い(ど直球)。けど、その先のセリフを言わせるわけにはいかないぞ。

 

「自分の「おい蓮司ィ!なんか腹減ったよなぁ!!」…え?」

 

 大和ちゃんの会話を遮り、きーやんは腹が減ったと俺に申し出てきた。そんな彼の姿に、彼女はキョトンとした表情をする。だがしかし、遮った理由がさっきの発言と矛盾しているような気がする。……気にしない方面でいこう。

 

「そうだなぁ。じゃあ俺の家でお菓子食おーぜー」

「よっしゃ!そうと決まりゃあ蓮司の家に行くぞお前ら!!」

「えっ、えっ?」

 

 行くぞ、と言った瞬間にきーやんは俺の家に向かって走り出した。

 こうと決めたらすぐに行動を開始するきーやん、流石です。だけど俺達を忘れて行かないで欲しかった。見てよ、大和ちゃんがどうすれば良いのか慌ててるじゃな……慌てる姿も可愛いやん、サイコー。

 

「……じゃあお先に、大和ちゃん」

「えっ、ちょっ!?」

 

 だがしかし、そうも言ってられない。大和ちゃんには悪いが先に行かせてもらおう。何せ、この行動も全て(きーやん)の完璧(自分で言っていた)作戦であり、彼女(大和ちゃん)を喜ばせる為なのだから。心の中で予め謝っておこう。ごめんね、大和ちゃん。

 

 

 

 まぁなんたって今日は––––大和ちゃんの誕生日だからね。

 

 

 

 

 

〜〜蓮司御一行、移動中〜〜

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……俺の方が早かったな…」

「つ、疲れました〜……」

 

 

 膝に手を置きながらも何とか腕を上げてサムズアップするきーやん。その後ろでは俺に支えられながら荒く呼吸する大和ちゃんが。

 早く着いたは良いけど……流石に早過ぎるわ。見ろや、大和ちゃんがこんなにも息が上がっているではないか。知ってるかい?女子よりも先に走っていくとモテなくなるって事を……。

 

「……うし、入るぞっ!!」

 

 息を整えたきーやんは家の扉を開けて、入って行ってしまった。

 知ってたかい?女子より(ry

 

「……あの蓮司k「よーし、俺達も入るかー」あっ……」

 

 何か大和ちゃんが言いそうになってた所を今度は俺が遮ってすぐそこの家に向かう。無論、その後に続く言葉も分かっている。

 けどごめんね、これも作戦だから。もう一回謝っておこう。ごめんちゃい。

 

「そう…ですね……」

 

 後ろでそう聞こえたと思ったら、すでに俺を追い越して家に入ろうとしていた。……その時に見えた彼女の表情は……

 

「……」

 

 少し、悲しそうであった。

 

 

 

 

 

……………………

………………

…………

………

……

 

 

 

「……あれ、もうこんな時間かよ」

「……そうですね」

 

 ふと、きーやんが時計見ると針は午後4時ぐらいを指していた。あれから数時間。何とかして彼女の口から『私の誕生日』という単語を出さない為に色々と誤魔化そう……としていたのだが、家に入って以降、誕生日に関する話題が出る事はなく、いつも通りお菓子を食べて、ゲームをしたりして。そうしていたらあっという間に時間は過ぎていった。

 

「……じゃあ、自分はこれで…」

 

 何か用事があるのか……否、もうこの場には居たくないのだろう、彼女はスッと立ち上がり帰りの支度を準備しようとし始めた。

 

 まぁ、させないけど。

 

「ちょい待ち大和ちゃん」

「……へ?」

 

 俺は彼女の肩を掴み、こちらを振り向かせる。そうやって振り向かせた瞬間に……

 

「とうっ」

「きゃ!?」

 

 相手の目を覆うように、懐に隠し持っていた目隠しを素早く付ける。そしてそのまま大和ちゃんを優しく背中に背負う。それにより背中で困惑した声が聞こえてきた。はい可愛い。

 

「それじゃ、レッツラゴー!」

「えっえっえっ!?」

 

 駆け足でリビングを後にし、そのまま階段を駆け上がって二階に。先に着いていたきーやんに、俺の部屋の扉を開けさせて、そのまま部屋へと入る。

 

「よっこいしょ」

「あわっあわわ…?」

 

 そっと彼女を椅子に座らせて、目隠しを外す準備を始める。先程よりも大和ちゃんは落ち着いてはいるものの、未だ何が起こっているのか分かっていない様子だ。

 分かるよその気持ち。俺だって急にやられたら慌てるもん。慌てなかったらどうしようって思うよ。

 

 まぁ、驚くのはこれからだけど。

 

「度肝抜かさないでね、大和ちゃん」

 

 スルスルと、目隠しが取れていく。

 

「ど、度肝って……えっ…!」

 

 彼女の目が、俺の部屋の変わりように見開くのが俺には見てとれた。

 

「こ、これって……!」

「ふふ〜ん」

「どうだよ、大和」

 

 そしてそのまま、驚きを隠すように彼女は口元に手を添える。しかし、手では隠しきれていない目元には、うっすらと涙が浮かべられていた。

 

 俺の部屋には、彩みどりの装飾が施されており、俺達三人の先には、手作りだと分かるぐらい形が又々で、それでいて今日のMVPである彼女に伝わるように大きい……

 

「コホン、では俺が改めて言いましょう」

 

 

 

 –––友達に『ありがとう』と伝わるように–––

 

 

 

「大和ちゃん、誕生日おめでとう」

「–––!!」

 

 

「んじゃあ俺からも」

 

 

 

 –––そして、彼女がいる事を祝うように–––

 

 

 

「大和、誕生日おめでとうよ」

「……あ、あぁ…!!」

 

 

 –––祝おう、彼女を––––

 

 

 

「ありがとう……ございます……!!」

 

 

 涙ながらに出てきたのは、感謝の言葉。

 

 

 

 俺達の目の前には

 

 

 歪ながらもでっかく

 

 

 そして色鮮やかに……

 

 

『大和麻弥ちゃん 誕生日おめでとう』と描かれた文字が飾られていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

……懐かしい夢を見た。親友と一緒に彼女を祝って上げた時の事を。あれからもう何年経ったか。確かあの時は俺が小四の時だった気がする。あの後に、俺と親友で買った緑色の宝石が入ったペンダントをあげたんだっけ。それで、母さんに買ってきてもらったケーキ食べて、そのまま三人で一緒に寝て……今思えば、男二人と女一人で寝るとか考えられない。……でも、思い返しただけでも楽しくなる。

 

 

 

 

 

 ……だけれど、もうそんな楽しい日々は戻らないかもしれない。だって、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの時、俺が()()()()()()()()()()()

 いや、あれはどうにも出来ない事だったんだ。誰にも妨げることの出来ない事。あれは、この『憤怒』の力を覚醒させる為……この世界に転生した時から決まっていた事なんだ。だから、今更悔やんでも意味がない。

 

『……大丈夫か?』

 

 ふと、俺の中に居座る『憤怒』が語りかけてくる。

 この人の事だ。俺の心配ではなくこの肉体の心配をしているのだろう。

 

「大丈夫だよ……うん、大丈夫」

『……そうか』

 

 

 –––そうか、今日は十一月の三日か。だからあの夢を見たのか。

 確か、彼女は今高1だったっけ。ちゃんと友達作れてるかな。ドラムばっかに気を取られてないかな。……まぁ心配しても無駄か。

 

 

 でもせめて、これだけは言わせて。

 

 

 

 

 

 

 

 十六歳の誕生日おめでとう。そして––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––ごめんね、麻弥ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最後なんか意味深な事になってますけど安心して下さい。本編が続けば分かります、ウホホイ。


改めて、大和麻弥さん誕生日おめでとうございます。フヘヘは正義。良いね?


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第4章 進み始めた時の中で 編
別れの時はいつも唐突に来るもんですよ、えぇ


 
 第四章、始まるよー!


『–––14時20分発、ドイツベルリン行きが間も無く発着致します。お乗りのお客様は、2番ゲートよりお急ぎ、ご搭乗下さい』

 

「おっと、もうこんな時間か」

 

 鳴り響くアナウンスを聞き入れて、彼は左腕に着けた腕時計を視認した。

 

「……本当に行くんだなぁ」

「お仕事、頑張ってね。アナタ」

「あぁ……蓮司の事、頼んだぞ。桜」

 

 すると、母さんと彼はしばらく見つめ合うと互いに顔を近づけて、軽い口付けを交わした。

 なんだこの熱々カップル?しかも二人とも満足そうにしちゃって……一応息子の前だという事を忘れないでほしいのだが。

 

 

「フフ!!帰ってきたら、またご馳走しなきゃ!!」

「まぁでも、どうせ肉じゃがでしょ」

「「夢のない事言うな(夢のない事言わないの!)」」

「あでっ」

 

 お熱いお二人さんからチョップ食らった。まぁまぁ痛ぇ。特にこの金髪男。少し強めにチョップしたな?母さん軽めだったのに対して強めに入れたな?帰ってきた時覚えてろよ?

 

「お前なぁ、肉じゃがは桜の十八番なんだぞ?」

「や、やめてよアナタ//恥ずかしい//」

「……はぁ」

 

 なんだこの熱々カップル?(二回目)あれ?この二人何歳?もう30超えてるよね?あれおかしいなぁ、二人とも若々しいような……まさか俺の記憶改竄されちゃってる?……まぁどうでもいいけど。

 

「……蓮司」

「ん?」

 

「元気にしてろよ?」

「……それはこっちの台詞」

 

 まぁでもいい台詞ではあるな。感動的でもある……だが無意味だ。だって頭ポンポンして子供扱いしてるもん、無に帰しちゃったよ。

 

「じゃあ…な」

 

 彼は名残り惜しそうに微笑むと、そこそこ大きめの鞄を軽々と持ち上げ、そのまま2番ゲートに歩み始めた。

 

「いってらっしゃい!」

「……いってら」

 

 その後ろ姿を見ていた俺と母さんは、別れの言葉を告げる。もう人混みへと紛れ込んだ彼だったが、俺たちの言葉が耳に入ったのだろう、振り向かずに只、手を振ったのだった。

 

 

 

 

…………………

……………

…………

………

……

 

 

 

  あの日から……きーやんの死後から約一年程が経った。

 あの日から約一年、色々な事があったよ。退院した後にホーエンハイムから稽古的なモノをつけてもらって、凄い錬金術……いや、錬金術とは言わないかな?まぁ取り敢えず凄い技を教えてもらって……

 あ、あと驚いた事があったんだけど、ショッピングモールで会った松原がいた事を覚えているだろうか。実はあの子、同じ学校の花咲小に通っていたことが発覚したんだよ。

 いやもう廊下でぼけーっとしてたら後ろから声掛けられて、振り返ったら松原が居たんよ。ホントビックリしたわぁ。あっちも半信半疑だったらしくて声掛けるの躊躇ってたんだと。

 あぁそれとベース。ホーエンハイムの稽古と同時進行で練習してたんだけど……一通り弾けるようになったわ。いやぁ母さんも「この一年でこれほど……なんて恐ろしい子ッ!!」ってやりながら凄い嬉しがってた。いやぁ、なんか親孝行してる感あって俺も嬉しかったわ、うん。

 

「蓮司、なんで嬉しそうにしてるの?」

「え?……あー、いや別に」

 

 危ねぇ危ねぇ、思わず顔に出てたよ。

 

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 

 今さっきまで何をしていたかというと……まぁ簡単に言えばあの人(ホーエンハイム)の見送りをしてた。

 なんでも仕事の方で急な呼び出しがあったらしく、そっちに飛んで行かなきゃいけないんだと。原作(あっち)じゃあ旅をしてたけど、この世界じゃちゃんと仕事してるんだなぁ、とか思ったよ。えぇ。

 しかも聞いた話によると、3年ぐらいは帰って来れないんだと。3年後って俺高校生になってるかなってないか位だよね。ワーイハナノコウコウセイダー(棒)

 

「……あっこら!車の中で寝っ転がっちゃいけません!」

「うぇーい」

 

 まぁそう言いつつちゃんと座んないんだけどね。あと母さん、運転中は後ろ向いちゃ駄目でしょ。見るならバックミラー越しにして、事故るよ?……え?ちゃんとシートベルト締めろって?ハハハ、何を言ってる、ちゃんとしているよ。

 

「……いやでも暇だなぁ」

 

 移り変わっていく建物の景色を、興味無さげに眺めつつ俺は小さく呟いた。

 寝っ転がりながら外の景色眺めるのもそろそろ飽きてきた。ゲームなんて持ってきてないし……持ってる物って言ったら、いつも常備してる錬成陣とかそんぐらいだし……

 

 

「……?どしたの急に止まって?」

「う〜ん、渋滞に捕まっちゃったわ……」

「ありゃりゃ……」

 

 

 本当だ、めっちゃ渋滞起きてるよ。まぁ確かに、ここら辺って空港からそこそこ近いから、起きやすいっちゃ起きやすいか。うーん、どうしようか……

 

 

「ごめんね蓮司。家に着くまで寝てても良いわよ?」

「んじゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 起きててもあんま意味ないからね、仕方ないね。着いたら多分、母さんが起こしてくれるから寝よっと。……いやしかし、起きてもまだ渋滞の中だったらどうしよ。……まぁそん時はそん時ってことで。おやすみなさ––––……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あ?

 

 

「っ!!」

「きゃっ!?ど、どうしたの蓮司?」

 

 突如として俺の肌に微かな電流紛いなモノが奔った。その反動で俺は、運転席の方に身を乗り出す。

 このピリピリとした感覚……

 

 

「……」

「れ、蓮司……?」

 

 

 遠くで蠢く()()()……ってコイツ…!?

 

 

「ちょっと!?急に飛び出して危ないわよ!?」

「いいから母さん、早く車から出てきて!!」

 

 

 ドンドン近づいて来てる–––!?

 

 

「もうっ蓮司!早く戻っ「こっち!!」きゃあっ!?」

 

 

 車から出てきた母さんの手を俺は掴み、そのまま後方へと走り出す。

 ヤバい、非常にヤバい。早くこの場から母さんを離れさせないと……!なんか分からん()が近づいてくる!!

 

「え、何々?」

「何走ってんだあの親子?」

 

 俺たち二人が車と車の間を駆け抜けていくのを不思議に思ったのだろう、殆どの車から人々が顔を覗かせた。

 

 

「おい!アンタらも早く車から–––」

 

 

 出ろ、っと言おうとした刹那。

 

 

 

 

 

 ザクッ、と音が鳴り響いた。

 

 

「!?」

 

 

 突然、地面から無数の()()()()が幾つもの車台を貫いていったのだ。

 俺たちのことを疑問に思っていた人々は、車と共に何が起こったのか分からないと伝えるような表情をしながら、縦状に身体を裂かれていった。

 

「はっ……?」

 

 切り裂かれた身体から噴き出される血飛沫が、俺の頬に付着する。

 それでも尚、俺はその状況をただ、唖然と見るしかなかった。

 

 

「……うわぁっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 

 血飛沫の次は爆風。車を貫く際にモーターやら何やらも一緒に破壊したのだろう、その爆風で俺と母さんは後方に吹き飛ばされてしまった。幸い、渋滞だったとはいえ後方に走っていたので、吹き飛ばされてすぐ車に衝突……なんて事にはならなかった。

 

 

「うっ!?」

 

 

 しかしながら、吹き飛ばされたのは事実。俺は地面に背中から着地し、飛ばされた勢いを残したまま転がり続け、最終的にはガードレールへと衝突してしまった。

 

 

「くぅっ…」

 

 

 全身に激痛が巡る。まるで、身体が炎で焼かれているみたいだ。特に背中。地面に思いっきり打ち付けたからだろうか、ジンジンと痛む。はっきり言って、今の俺は立てるかどうかも怪しいラインだ。

 

「っつぅ…クソ、何がどうなったんだ……?」

 

 少し息を整えて痛みを和らげた所で、ガードレールを支えに俺はゆっくりと立ち上がる。

 ほんっとに、何が起こった?急な出来事に理解が追いついてねぇよ……取り敢えず周囲のかく…に……ん……!?

 

 

「なんだ何だ!?爆発か!?」

 

 

「うぇぇぇん!!お母さぁぁぁん!!!」

 

 

「誰か、助けてくれ……助けてよぉ……!」

 

 

 

 

「……マジで、どうなってんだ…?」

 

 

 俺の視界に映ったのは、地獄そのものだった。

 

 横転してしまった多くの車台。不自然に盛り上がったコンクリートで舗装されている筈の道路。その道路から吹き飛んだと思われる瓦礫の数々。細々となったそこにあったのであろう建物達。車に関しては数台が炎に焼き尽くされていた。

 さらには、その瓦礫などの下敷きになった血だらけの人々や、燃え盛る車台の中に鎮座する人間だったモノ。所々から聴こえる怨嗟の声……辺りからは血生臭いモノが漂っていた。

 

「……はっ!?そうだ母さん、だいじょ…」

 

 見た事も無い光景に呆気にとられていた俺だったが、数秒のうちに我に返った。そしてすぐ側にいる筈の母さんに俺は声を掛けた–––のだが。

 

 

 

 

「……うぅ」

「……あ、あれ?」

 

 そこには母さんではなく、下半身が瓦礫に埋れてグッタリと倒れている女の子が。見たところまだ意識はありそうである。

 

「だ、大丈夫か!?」

「……痛い、よ…おねえ…ちゃん……」

 

 俺の声に反応して彼女は閉じていた瞼をゆっくり開き、アメジストの瞳を顕現させた。だが、反応した彼女の瞳はあまりにも虚で、正確に俺のことを見れていない。

 ……とすると大変だ。あまりにも痛いのか幻覚を見てる。取り敢えず傷を()()()()()()。その為にまずこの瓦礫をどうにかしなくては。

 

 俺は腰に巻いてあるウエストバックを漁る。バックの中には、折れてはいるがちゃんと書けるであろう白チョーク数本。そして柄の先に紐の束が巻かれた、鋼鉄製の()()()が十本程。その中でまず俺は、一本のチョークを取り出す。

 

「ちょっとじっとしてろよ?」

 

 俺は瓦礫の山に一つの錬成陣を描き、そのまま陣へと触れた。

 すると、瓦礫の山は周囲に雷光を走らせたかと思うと粉々に分解された。それにより、少女の下半身にが露わになる。

 

「……おっとこれは」

 

 露わになった少女の脚を見てみると、左太腿に小さな鉄柱が突き刺さっていた。その傷口を中心に血溜まりがどんどんと広がっている。

 巻き込まれた建物の鉄骨が砕けて刺さったのか?貫通はしてないが、このままじゃ大量出血で死に至る……それに、適した治療をしても完治に相当の時間が掛かるだろう。

 

 

 でも、あの技なら……()()()()()()()直ぐに助ける事が出来る。

 

 

 

「うぅ……」

 

 痛みに耐えているのだろう、彼女は喉の奥から血反吐を吐きながらか細い声を上げる。

 

 考えるよりもまずは行動を起こせ、だ。

 

 俺は先程確認したバックから、クナイを5本取り出す。そして手に持っていたチョークで綺麗な正円を描き、クナイ達をクナイ同士の幅が均等になるように……尚且つ円の上で正五角形を描くように地面へと刺していく。

 次に俺は、彼女の脚に刺さる鉄柱を抜く為、ゆっくりとソレを握る。

 

「……ふぅ、落ち着いていけよ俺」

 

 背筋に冷ややかな雫がゆっくりとなぞり落ちる。

 ……実はこの技、あの人に教わったばかりで実戦形式で試したのは数回–––ましてや医療関係で使った事なんて一、二回だ。……本当は医療で役立つ技なのに。

 

「いくぞ……!」

 

 ゆっくりと、深く刺さる鉄柱を上へと抜く。すると、彼女の傷口から鉄柱と共に血が跳ね出した。

 

「イィ!?」

「うっ……!?」

 

 だが、今まで感じたことのない感覚だったのだろう。俺が鉄柱を引っこ抜こうとすると彼女は身体を痙攣させ、鉄柱から俺の手を引き離してしまった。

 ……ダメだ、やっぱり不安だ。もし失敗したら絶対にリバウンドが返ってくる。それは別に自分の方に来るのならまだいい。

 だけれど、少女の方にソレが起きたりしたらどうすれば良いのか。もしそうなったらこの子はこれ以上に酷く……下手したら死……

 

 

 

 

 ––––蓮司!!

 

 

「!!」

 

 

 突然、俺の頭の中で一人の男の子の声が鳴り響いた。

 とても聴き慣れた声。それでいて、もう聞く事は絶対に無いであろう悲しい声。

 

 ……そうだよ。何寝ぼけた事考えてんだ俺は。俺はあの日決意したんだろ?

 

 

 

 きーやんの死を聞いて

 

 

 

 麻弥ちゃんの涙に濡れる顔を見て

 

 

 

 

 俺は決心したんだろう?

 

 

 

 

 俺は、錬金術という特別な力を神様から授かった。

 

 それで俺は浮かれたのだ。誰でもなんでも、いつ如何なる時でも助ける事が出来るって。

 

 でもそれは違った。そんな戯言を垂れていたのに、遠く離れた場所で消えた幼馴染を助ける事が出来なかったから。

 

 だから俺は考え直して、そして決めたんだ。

  

 

 幾万もの人々を助けられないなら

 

 遠くで泣き叫ぶ悲痛な人々を救えないのなら

 

 ただ一つ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「我慢してくれ…!ふんっ!!」

「アァ!?イィィァァッ…!!」

 

 

 俺は再度鉄柱を握り、筋肉で締め付けられるソレを力強く上へと引き抜いていく。彼女も再び訪れた激痛に逃れようと、またも身体を揺らした。

 痛いだろう、そうだろう……!俺だってこんな事したくない……けどここは俺も心を鬼にしなければならない。

 

 我慢だ。

 

 俺も。この子も。

 

 どちらも、助かる為に。

 

「アァァァアアアッ!?」

「ふぅらァァァァッ!!」

 

 

 ズシャ、と傷口から抜けた音がした。

 

「よしっ抜けた!あとはこのまま」

 

 出血で塗り潰される前に陣に触れ…て……?

 

 

 

 待てよ?引っこ抜く時にも大量に血だしてたよな?……あっ!

 

 

「まさか…!?」

 

 

 鉄柱を引き抜いた反動で後ろへと体勢が崩れる中、俺は彼女の下に設置してある筈の陣へと目を向けた。

 

 ……良かった、奇跡的に汚れてない。もし一滴でも血が混じると術が発動できなくなるからな。

 けど、不味い。このまま俺が尻餅ついてタイムロスになったら、傷口から血が大量に噴き出すことに……そうなりゃ陣も使い物にならなくなるし、何より本当に彼女があの世行きだよ。……クソ、何も考えずにそのまま陣に触れていればよかった……!

 

 

「…まだぁ!」

 

 

 しかしながら、こんなところで終われまいと叫ぶ俺の心が俺の右脚を一歩引かせ、倒れ込みそうな姿勢からの脱却を試みた。

 

「……いっ!?」

 

 だがここで連続して不幸な事が起きた。なんと右脚が地面に接触した際、その右脚から激しい痛みが生じたのだ。

 クッソ痛ぇけど、チャンスだ。ここから踏ん張りつつ……!

 

「……ウラァァァ!!」

 

 俺の身体が突然、前のめりになる。それも当然、俺は()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

 俺の眼前には、今まさに溢れんとする大量の血液が傷口から滲み出ていた。その前に、血が溢れる前に……と願いながら俺は前傾姿勢のまま手を伸ばす。

 

 目指すは、彼女の下の錬成陣。

 

 

「あああああああっ!!」

「ぬぅぅおーーっ!!」

 

 

 悲鳴と雄叫びが交差する。

 

 

 

 

 

 その中で俺は、遂に指先で陣へと触れる事ができた。

 

 

 

 

 

 そして、俺は心の中で感じ取る。

 

 

 

 

 

 彼女の中で流れる()()()()を。そして俺は–––

 

 

 

 

 

 –––錬丹術を発動させた。

 

 

 

 

 




 正直迷ったよ?主人公に錬丹術を使わせるの。
 別に原作みたいにマルコーさんみたいな医療系錬金術師がいるんだから、錬丹術いらんくね?とは思ったよ。

 けどそこは浪漫で押し切った(語彙力)


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人が何かを説明してくる時に割り込むのはなるべく避けろ、てかするな



 一ヶ月も投稿できなくて本当に申し訳ありませんでしたぁぁ!!!

 そして多分また投稿期間が空いちゃうゥゥゥイヤァァォァ!!?


 

 

 

 

 –––それは肌を刺激する風が吹く、ある冬の出来事である。

 

「い、いい子ですよ〜……?」

「頑張ってー」

「ゆっくりだぞ……ゆっくりだかんな!」

 

 ある公園場にて、3人の子供が集まっていた。一人はゆっくりと両手を小動物へ近づけ、他二人は彼女の勇姿を近間で眺めながら応援していた。

 

「うぅ、緊張しますぅ……」

「そんなガチガチになってると猫も逃げるよー?」

「自分は無害だって猫に示すんだよ!」

 

 あまりにも彼女が緊張で固まってしまったので、一人の男子は苦笑し、もう一人は呆れながらもアドバイスを一つ彼女に送った。すると彼女は『無害』という単語だけに反応したので、

 

 

「猫ちゃ〜ん、じ、ジブンは無害ですよ〜?無害無害無害無害……」

 

 

 と、自分に自己暗示する様にその単語を連呼する始末に。

 

「……え、何アレ怖い。あんな事させる為に無害だよって教えたの?」

「んなわけあるか!!」

 

 その様を見ていた一人の少年は教え込んだもう一人の少年に対して若干引き気味となり、その対象となった少年は反論をするように憤怒した。

 そんな騒音となる会話には目も暮れずに、少女は黙々と丸くなりながら見つめる動物に詰め寄っていた……しかし。

 

 

「ニャ!!」

「きゃっ!」

「お?」

「なっ!?」

 

 

 後数センチまで寄っていた所で、小動物は反旗を翻すように少女へと襲い掛かった。あまりに唐突な出来事だった為に彼女は尻餅をつくも、攻撃か、身を守るようにして咄嗟に両手を上げた。

 

「ニャーー!!」

「い、痛っ!?や、やめて下さいぃ!!」

 

「はい、ストップねー猫ちゃん」

「ニャ!?」

 

 怒涛の乱撃に少女は耐え続けていると、その攻撃が突然と止んだ。何事かと少女は恐る恐る顔を上げると、そこには小動物を軽々と両手で持ち上げる少年が。その背後には狂気の具現化したようなオーラを発するもう一人の少年も立っていた。

 

「こんにゃろ……この猫、どう調理してやろうかァ……?」

「動物愛護の気持ち、ワスレチャダメヨ。……っと、ほい」

「はっ?えっちょっ!?」

 

 何かに気づいたのか、少年は拾い上げた動物を不穏な事を述べたもう一人の少年へと渡して、少女の前へと屈んだ。かと思ったら、今度は少女の手を取ってまじまじと見つめ始めるように。

 

「えっ、ちょっ……どうしたんで「いやいや」…?」

「……どうしたもこうしたもないよ……」

 

 少女のあっけらかんとした表情に、少年はやれやれと呆れながらもポケットからある物を取り出した。

 

「ほら、さっきので肌が切られて流血してる」

「……あ…」

 

 彼の言う通り、彼女の手の甲は先程の猛攻により幾分と傷ついており、所々から血が流れていた。その血を彼はポケットから取り出したハンカチで綺麗に拭き取っていく。

 

「うーん、こりゃちゃんと消毒してから絆創膏貼らんと雑菌が入り込むなぁ……ったく、だから俺は反対してたんだぞ?野良猫触るの」

「いや、意外にノリノリじゃありませんでした…?」

 

 彼女は今さっきまでの少年の行動を思い返して聞いてみるも、少年は何のことだか?みたいな表情をして立ち上がった。

 

「とにかく、そこの水道で傷を洗ってから家帰って手当てするから。それまでちょいと我慢な?」

 

 ほれ、と彼女が立ち上がる為に彼はそっと手を差し伸べる。

 よく見てみると、彼の親指に微かな血痕が付いていた。恐らく、少女の血を拭く際に付いてしまったのだろう。その事に気付いた彼女は少しだけ微笑した。

 

「……ど、どうしたん?急に笑っちゃって」

「あ、いえいえ……何でも無いですよ?」

「……?」

 

 何がなんだか分からない、といった表情で彼女を見つめる少年。その姿にまたも笑いそうになった彼女だが、そこはなんとか堪え、彼から差し伸べられた右腕を傷ついた腕でギュッと握る。

 

 

「……意外に暖かいな」

「そ、そうですか?」

 

「……おいお前ら、何俺のいない所で笑いあってんだ!?」

「ニャ!!」

「いや別に、猫ちゃんと抱きつき合ってるからてっきり温まってるのかなぁ、って」

「んなわけあるか!!こちとら猫と一緒に寒さに耐えてたわクソがぁ!!!」

 

 

 各々が別々の感情を互いに見せ合う。

 

 

 一人は、からかうように笑い

 

 

 一人は、それに怒りながらも笑い

 

 

 一人は、変わらない光景だなぁと笑う。

 

 

 そして皆、いつも通りの日常だな、と心の中で安心して。

 

 

 そこに、『温もり』がある事を再確認していた。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 汗が額を伝っていくのを感じる。息も呼吸するのが精一杯な程に苦しい。

 

 

「う、うぅん……?」

 

 

 目の前で誰かが目覚めたようだ。最も、苦しくて目を開けられないから本当に目覚めたのか確認出来ない。それでも……苦しくても前を見据えなくては。

 

 

「私……どうなって……」

 

「……良かった、傷が治ってる」

 

 

 無理をして目を開けると、そこには状況を全く飲み込めずに困惑する少女が頭を抑えて座り込んでいた。

 どうやら術は発動したらしい……まぁしかしながら、陣自体は彼女の血液で乱れてはいるが。

 ここで少し解説しておこう。俺が先程使用した術の名前は『錬丹術』。これは医学方面に特化した術で、錬金術とさほど違いはない。とは言いつつも、ちゃんとした違いはある。それは……

 

 

「……そ、そうだ!お姉ちゃん!!」

「あぇ、お姉ちゃん……?」

 

 

 なんか解説してたら目の前の少女が割り込んできたのですが。はー、せっかく解説をしてあげてた(誰にかは分からん)のになー、かなしぃなー。

 

 とまぁそんな冗談は置いといて。

 

 

「さっきまで側にいた筈なのに…!!」

「……ふーむ」

 

 

 なる程。つまりはこの子、そのお姉ちゃんと逸れたって訳なのか。まぁでも無理もない。こんなあたり一帯をめちゃくちゃにするような惨劇が突然起こったんだ。現に今、俺も母さんと逸れてるし。

 

 

「どうしようどうしよう……っ!」

「おっとっと、待ちなさいよ」

 

 

 キョロキョロと不安げに見渡してこの場から立ち去ろうとする彼女を、俺は肩を掴んで止める。

 

 

「ちょ、ちょっと!止めないで下さい!!早くしないとお姉ちゃんが……!!」

「そのお姉ちゃんだけど、何処にいるのか君も分からないでしょ?」

「っ!……で、でも」

「でもも、だももないよ。せっかく助けてあげたのに、また死にに行くつもりなの?」

「そ、それは……」

 

 

 そこまで言って彼女は口を噤んで下を向いてしまった。

 自分で言うのもアレだが、俺が言っている事は正論に近い。周りを見渡せば瓦礫の山に立ち昇る黒煙……そしてまだ視認することは出来ないが幾つもの人間が横たわっているだろう。それも、息をしていない状態で。もっと言えば人の形をしていないかもしれない。

 それに母さんと離れ離れになった際に見た黒い影……アレが何なのかは……まぁ大体予想はついてはいるが、現状ではまたどこから襲ってくるか分からない。

 故に、単独で……しかも目的が定まらない内に行動するのは、客観的に見ても好ましくない。

 

 

「だから、俺もついて行くよ」

「……え?」

 

 

 彼女が苦悩に満ちた表情が一転、可笑しな物でも見るように口をポカァンと開けた。

 先程も述べた通り、単独での行動は好ましくない。さらに何の力も持たないひ弱な少女なら尚更だ。

 だから一緒に探索に出かける。先程の謎の黒い影出現の際、事前に……といえばアレだが気を察知することが出来た。その時と同様に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思えたのだ。

 

 

「それじゃあ、れっつら……」

「ちょ、ちょっと待って!!」

「……なに?」

 

 

 どうやらこの子は俺の台詞を妨害したいらしい。まったくもう、妨害厨なのか君は。まぁでも無理矢理割り込んできたんだ、何かしら疑問でも抱いたのだろう。

 

 

「……その、なんでそこまでしてくれるんですか?」

「……は?」

「え?」

 

 

 彼女が緊迫した表情で問いた質問に、俺は首を傾げる。

 なんでそこまで……いやそんなの…

 

 

「なんでって……そんなの当たり前のことだから、に決まってるでしょ」

「あ、当たり前?」

 

「……いやまぁ、俺がそう思ってるだけなんだけどさ?……今こうして助けを求めてる人がいるのに、助けてあげないなんて相手(きみ)からしたら嫌なことだろ?」

「……そう、ですね」

「でしょ?だから俺は、自分の持ってる力を出し切って困ってる人を助ける……って事を当たり前に思いながら生活してる」

 

 

 といっても、こんな決意をしたのは一年前だからつい最近のことなんだよね。……って、いつ決めたなんてどうでもいいことか。

 

 

「他に質問は?」

「……いえ、特に」

「そう、なら……あ、そうだ」

 

 

 出発するか……と言おうと思った俺だったが、ここに来てある事に気付いた。

 

 これ以上進んでいって、本物の死体を彼女が見てしまったらどうなるか……ということに。

 今でこそ行方不明の家族を探す為に息を巻いて奮闘しようとしているが、その最中に見てはいけないモノを見てしまったら……きっと彼女は恐怖に慄いて立っていられなくなるだろう。実際、目を覚まして周りを見渡した彼女の目は恐怖の色一色だった。

 ならば、彼女にこれ以上の惨劇を見せないようにするにはどうしたら良いか……と深く考えこみ、俺は素早く一つの案を何とか絞り出した。

 

 

「ほい」

「……え、えっと…?」

 

 

 俺は彼女にそっと片手を差し伸べた。が、俺の意図を汲み取れなかったのか、またも一転して困惑してしまった。

 

 

「……あ、えっと、この先多分危ない場面があると思うから、離れ離れにならないように」

「あ、そうゆう事ですか……」

 

 

 俺の説明に納得がいったのか、それとも説明を後回しにされたことに呆れたのかは分からないが、小さく苦笑して俺の差し伸べた手を取った。

 

 

「あ、あと目瞑って」

「目も……ですか?」

「うん、一応」

「一応ってなんですか……」

 

 

 難癖をつけようとしたものの、彼女は俺の言う通り目を瞑ってくれた。

 こうしないと周りの景色が見えちゃうもんね、仕方ないね。でも、ストレートに『死体見えるから目瞑って』、なんて言えないもん……でも、もっと良い言い回しなかったのか、俺?

 

 

「……っと、そうだ早く行かんと」

 

 

 深く考え込みそうになったが、そんな雑念を振り払って俺は周りの状況に意識を集中させる。

 

 ……あ、そうだ。彼女がもう割り込まないと思うから、先程の錬金術と錬丹術の違いについて今の内に紹介しておこう……ってこれ誰に向かって説明してんのかな?まぁいいか。

 説明するといってもちょいと時間がないので簡単に言わせてもらうが、この二つは利用するエネルギーの源が違うのだ。

 錬金術は地震といった地殻変動を起こすエネルギーを利用して発動する。それに対して錬丹術は動物や植物が発するエネルギー……龍脈の流れを感じ取りその流れに沿って錬成しているのだ。

 

 なので、錬丹術を習得する際の副作用と言えばいいのだろうか、こうして意識を集中すれば()()()()()()()()()ようになったのだ。

 ……え?さっきの黒いアレは集中しなくても感じ取れたじゃないかって?……アレは例外だ。集中しなくても感じ取れる程、膨大な量の気だったから気づけた。

 

 

「……あちゃー…」

 

 

 そうこうしてる内に、俺は周囲の人の気を感じ取る事が出来た。のだが……俺はあるミスを犯していたことに気付いた。

 

 人と人との気が()()()()()()

 そりゃそうだ、だってこれ習得してまだ半年とかそこらだもん。人の区別なんて……ましてや特定の人物の気だけ感じ取るなんて無理やもん。はー萎えた。

 

 

「……しゃあない。虱潰しで探してくか」

 

 

 もしかしたら探してく内に、また怪我してる人が見つかるかもしれない。それに自分で決めた流儀もある。その流儀に反するのは自分でも許せん。

 

 

「さて、行こっか……あー」

「?どうしたんですか?」

 

 

 そういえばこの子の名前聞いてなかった。

 

 

「……いまさらなんだけどさ、名前教えてくれね?」

「……本当に今更ですね」

 

 

 うん、本当に今更だよ。なんで今まで名前知らないで会話出来たんだよ俺たち。振り返ってみたら不思議にしか思えん。

 

 

「戸山 明日香って言います。あなたは?」

「俺は光野 蓮司。ありがと、教えてくれて」

「……どうも」

 

 

 さてと、それじゃあ名前も教えてもらったことだし、出発するとしますか。えいえいおー……うーん、友達がこれやってたけど……恥ずかしいな、心の中でやっても。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

「うえ〜ん、あっちゃんどこ〜?」

 

 

 煙立ち込める中、少女が一人泣きべそをかきながら歩いていた。

 

 

「あっちゃ〜ん……」

 

 

 少女は妹の名前を何度も何度も、声が枯れるまで叫んだ。

 

 

「あっちゃ…きゃっ!」

 

 

 足下が不安定な場所で歩いていたからだろう、大きめの石に少女は躓いてその場に倒れ込んだ。

 躓いたのなら立ち上がる。それが人間が起こす次のアクションだ。しかし、少女はそんなこと知らないと言うように、そのまま身体を震わせて蹲ってしまった。

 

 

「うっ……うぅ…!もう、やだよ……っ!」

 

 

 少女は今までの事を脳内で振り返り、そして嘆くように一人呟く。

 本当ならば、彼女は妹と楽しく二人で買い物をしている筈だった。母に内緒で出かけて、その母にプレゼントを贈ろうと色々な品物を見て、妹とああだこうだと言いながらプレゼントを決める……そうなる筈だった。

 

 なのに現実は非情だ。

 

 彼女の周りに拡がるのは、瓦礫の山々と昇りに昇る黒煙……そして、血を流してピクリとも動かない人だったモノだけだった。妹もいなければ、母が喜びそうな品物もない。あるのは悲劇、それだけだ。

 

 母に内緒で出かけてしまったからなのか?それとも妹を無理矢理連れて来てしまったからか?一人となった彼女はこうなってしまった要因を無理に探し出そうとする。

 

 

「キラキラ……ドキドキ……したいよ……っ!」

 

 

 探し出す中で、彼女はある夜の出来事を思い出す。

 

 あの時に感じた鼓動。あの鼓動をまた聴きたいと彼女は切なく願っていた。それは、こんな惨状の中にいても消える事のない願いだった。

 

 

「!!」

 

 

 不意に、彼女の耳に何かが崩れ落ちる音が聞こえた。音の源は左横から。もしかしたら妹がそこにいるのかもしれない。そう思った彼女は涙を止めてそちらへと振り向く。

 

 

「あっちゃ……!?」

 

 

 

 

 

 

 しかし、そこにいたのは妹では無かった。

 

 

 

 

「グルルゥゥ……」

 

「えっ…?」

 

 

 

 

 ましてや、()()()()()()()()

 

 

「ひっ……!」

 

 

 彼女は堪らず尻を引きずりながら後ろへと後退する。

 彼女の前に現れたのは

 

 

 

 

 高々と伸びる二本の頭角

 

 

 

 

 赤い何かが付着した鋭利な牙

 

 

 

 

 獲物を捉えたかのような鋭い眼光

 

 

 

 

 胴体から伸びる大きな翼

 

 

 

 

 

 

 この世の生物とは思えない面妖な獣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 






 いやホント、リアルが忙しすぎる。終わったと思ったら次は定期テストとかホント萎える。こっちは小説投稿したいんだよぉぉぉぉ!!
 てな訳ですみません。また期間が空くかもしれないだす。なるべく早く出します。勉強時間減らしてでも……は無理だ。俺バカだから勉強しないとヤバイ。


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星と怪物と覚悟



 は〜〜、学校休みになってめっちゃ書けると思ってたのに……なかなか執筆が捗らない。チクショウ!!


 あ、あとガルパ3周年おめでとうございまする!


 

 

 

 かち割れた道をテクテク歩いて一時間半程度が過ぎた。俺と明日香は道中被害に遭っていた一般人を手助けしつつ、彼女の姉と俺の母さんを未だに探していた。

 ……筈だったのだが、道中負傷者が多すぎて実際の所、あまり前に進めていない。

 ……いや確かに?手の届く範囲でだったら助けるって言ったね?言ったけどさ、これは流石に多すぎるよ。もうかれこれ20人くらい助けたんじゃないかな?もうさ、褒めてほしい(切実)

 

 

「うぅ……」

 

「……はぁ。明日香、ちょっとここで待ってて」

「うん」

 

 

 負傷者第21人目発見。仕方ないので俺は周囲の気を探った後に彼女と握っていた手を離し、負傷者の下に駆け寄る。

 もうね、20人も看てると手慣れたもんですよ。どんな感じに手慣れたかっていうと、相手がどこをどんな感じに傷めているのかが一目見ただけで分かるぐらい。

 だって揃いも揃って似たような症状なんだもん、分かるようにもなってしまう。……ん?頭良いって?ハハ、よく言われる(言われない)まぁでも実際、頭良くないと錬金術使えないし。これがデフォルトでしょ(適当)

 

 

「さてっと、ちゃっちゃかやりますか」

 

 

 負傷者に覆いかぶさっていた瓦礫をどかして一言だけ小さく呟く。

 ふむ……ぱっと見の服装からしてサラリーマンといった所か。きちっと整えられていたであろう服が所々破けてたり血が染み付いてたりして台無しだなぁ。あれ、触って見た感じそこそこ筋肉あるなこの人。ジムとか通ってるのか?見た目二十代そこらだと思ったんだけど……って、

 

 

 

 な ん の 話 を し て ん だ 俺。

 

 

 

 アレだな、俺もう完全に疲れてるわ。流石に20人も相手するのはちょいと大変だったか。もう思考回路がオワタムーブかましてるよ。オワタムーブってなんだ(機能停止)

 

 気を取り直して、相手の外傷を看ていこう。……と言っても、さっきも述べたように今まで診断した人達と然程変わりはしない。一つ違うとすれば、今まで看た中で比較的に軽傷だった点だろうか。まぁその方が治療しやすくていいんだけどね。

 

 

「はーい、動かないでね」

「うぅ……う?」

 

 

 手慣れた動作で傷の周囲の地面にクナイを差し込み、そのまま陣を発動させる。すると傷は徐々に修復されていき、最終的には綺麗さっぱりと跡を残さずに治療された。

 

 

「えっ、えっと君…」

「傷はもう治ったのでこれで。……あっ、今起きた事はナイショでお願いします」

「え!?ちょっ……」

 

 

 地面に刺さったクナイをポケットに仕舞い込み、そそくさと俺はその場を後にする。救助した男性は何か言いたげにしていたが、俺が段々と離れていくのを見たか、諦めて何処かへと歩いていった。

 本当ならもっと安全な場所まで送っていきたい所だが、俺達にもやる事があるのだ。そこまではしてやれない。ここまで助けた人達もそうしてきたし。

 

 

「そんじゃ、行くか」

 

 

 律儀に目を瞑ったままの明日香の手を握り、そのままひび割れた道を歩み出す。

 

 

 ……ふと、思うことがある。

 

 俺達はこうして身内の人間を、寄り道(人助け)しながらではあるが探している。かかっている時間は約一時間半。そして、こんな惨劇を作り出したこの場所は空港と首都圏の中間地点に位置している筈だ。首都圏に近くてこんな大事件がおきているのなら、救助隊の一つや二つ来ていても可笑しくはない。それなのに……

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 普通、通報なりなんなりが入ったら、出動してから約30分程度で現場に着くものだ。もし通報がなかったとしても騒ぎに感づいたメディアが真っ先に食いつく。しかしながら、聴こえてくるのは猛々しく燃える炎の音と、湿気を多く含んだ風の音。機械的な音は一向に聴こえてこない。一体何故なのだろうか。

 

 

 ……少し馬鹿げた予想を脳裏によぎった。自分で考えたにも関わらず、その案を自分自身で否定する程の予想を。

 

 

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないか……と。

 

 本当に馬鹿げていると自分でも思う。もし近づけさせないようにするのなら、辺り一帯を封鎖なりなんなりしなければならない。そんな事できるのは、そこそこの権力を持つ者……言い換えるなら、警察並みの勢力を扱える人間だ。でもそんな事が出来る人なんて見たことない。

 

 うーむ、実に困った…と、俺が頭を抱え込みそうになった、その時だった。

 

 

 

キャー!!

 

「!!」

 

 

 突然前方で女の子の悲鳴が聞こえてきた。あまりに急な事すぎて、動いていた足がピタリと止まる。

 

 

「今のって……まさか!!」

「えっ…あちょっ!おい!!」

 

 

 後ろの明日香が小さく何か呟いたのでそちらの方に振り返ると、それと同時に彼女は俺の手を離して声のした方向に駆け走ってしまった。俺は悪態をつきそうになりつつもそれを我慢して彼女の後を追いかける。

 

 

「おい!急に走り出すなよ!!」

「……!」

 

 

 俺が声をかけても、彼女は足を止める素振りを見せず、更にはそのまま速度を加速させていった。

 待って、あの子足速すぎる!可笑しいな、俺ってどちらかというと足速い方に位置する筈なのに、追いつけそうにないんだけど?

 

 

「……!!お姉ちゃん…!?」

「お姉ちゃん…?」

 

 

 どうやらさっきの悲鳴はこの子のお姉ちゃんだったらしい。良かった、なんとか第一の目標は達成……

 

 

 

 待てよ?それじゃあその姉は何故悲鳴を上げた?

 

 

お姉ちゃん!!逃げて!!

「!!」

 

 

 やっとの思いで追いついた俺だったが、彼女の叫びと目の前の少し開けた場所で起きた『出来事』を目の当たりにして、今までのおちゃらけた思考を消し去る。

 

 

「明日香離れてろっ!」

 

 

 俺は明日香にそう促した後、すぐさまバックから5本のクナイと一本のチョークを取り出した。

 

 

 

 間に合えよ……!!

 

 

 

 そう念じながら俺はクナイ5本を同時に正面––––明日香が姉と慕う少女と、対面する凶暴であろう化け物に向けて投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 

 少女は––––戸山 香澄は怯えていた。

 

 

「やめて……っ!来ないで…!」

「……」

 

 

 やめてほしいと潤んだ声で呼びかけても、来ないでほしいと手を差し出して静止させようとしても。

 化け物は、止まる事なく迫り来ていた。

 

 

「やだっ……!来ないでよぉ……!」

 

 

 下がるだけでは無駄だと気付いた彼女は、咄嗟に辺りの石やガラス片を投げつけた。

 しかし、以前として状況は変わらない。

 

 

 

 その時、背筋にひんやりとした感覚が襲った。

 

 

「……えっ?」

 

 

 彼女は振り返ると、地面に突き刺さった瓦礫がこれ以上は行かせまいと彼女の道を塞いでいた。

 

 この時、まだ発達しきれていないであろう彼女の脳は、すぐさまある考えを浮かべさせた。

 

 

 

 もう、逃げる事は出来ない。

 

 

 その瞬間に、彼女の身体はスゥ……と力が抜けていくいのを感じた。

 もう逃げる事は出来ない。それなら、これ以上身体なんて動かさなくていいんだ。もう、目の前の正体不明の恐怖にただ抗う事なく食べられるしかないんだ。そうやって身体が無意識に判断してしまったのだ。

 

 

「……」

 

 

 ズシリ、ズシリ……一歩一歩着実に近づいてくる。それでも、彼女はもう何も感じる事は無かった。着々と増大していた恐怖も、妹と再会しようとする僅かな希望も、流れ星がすぐに輝きを失うように全て消え去っていた。

 

 

(ごめんね、お父さん、お母さん……)

 

 

 脳裏に浮かんできたのは、今まで大切に育ててくれた両親。自分がいなくなったら二人ともどう思うのか……悲しんでしまうだろうか。

 

 

 

 だが、その感情を一番に伝えたい人物は他にいる。両親の他に一人。それは……

 

 

(ごめんね、あっちゃん……!)

 

 

 一緒に暮らしてきた、たった一人の妹に。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

「……え?」

 

 

 目の前に、何処からか5本のクナイが風を乱して飛来してきた。そのクナイが描いていたのは綺麗な五角形。彼女は急な出来事に戸惑ってしまう。

 

 しかしながら、その『戸惑い』は『希望』へと変化する事になる。

 

 

「!!」

 

 

 瞬間、彼女は青白い閃光が身体を包んだ感覚がした。

 とても綺麗で暖かな光。

 

 そして彼女はとても懐かしい物を感じた。

 忘れもしない、あの『鼓動』を。

 

 

 その光の正体はすぐに分かった。

 

 

 

「わぁ…!」

 

 

 光の正体はなんとクナイが発していた。正確に言えば5本のクナイが作り出した正円だ。実際にクナイとクナイが弧を描いて連結して光を発しているように見える。

 

 これに驚く彼女だったが、次の出来事に益々驚く事になる。

 

 

「きゃっ!?」

 

 なんと円の周りから、無数の拳が地面から物凄い速さで迫り上がってきたのだ。

 

 

「ガルゥア!?」

 

 

 しかもその拳は怪物の顔面にクリーンヒット。怪物は顔を歪ませて後方に吹き飛んで壁に衝突した。

 

 

「今のって……」

「お姉ちゃん!!」

 

 

 何が起きたのかさっぱり分からずに途方に暮れていた彼女だったが、後方から聞き覚えのある声が聞こえてきたので振り返る。

 

「!!うそっ……!」

 

 

 なんとそこには、愛すべき妹である明日香がいたのだ。

 

 

「あっちゃ…て、うわぁっ!?」

 

 

 明日香の名前を呼ぼうとした彼女だったが、その前に明日香が彼女の胸元にダイブしてきたので転倒してしまった。

 

 

「お姉ちゃん……!良かった……生きててくれて……!」

「あっちゃん……」

 

 

 自分の胸元で泣く妹。その姿を見て彼女は、自分の両手を妹の背中へと回し、ギュッと、もう離さないと言わんばかりに包み込んだ。

 

 彼女自身、もう今にでも泣きたいと思っていた。今は瓦礫に埋れて目視出来ないが、彼女は自分の体長よりも数倍大きな怪物に襲われ、恐怖をも超える絶望を味わったのだ。泣きたくもなる。

 

 

「もう、大丈夫だよ……!」

「!!」

 

 

 だが彼女は我慢した。今ここで泣いてしまえば、自分の腕の中で泣きじゃくる妹はどうなるのか。姉の生死を危惧してくれた妹は何を思うのか。益々不安がらせてしまうのではないか。そんな姉としての思いやりが抑止力となったのだ。

 

 

 

 

 

「あー、水を指すようだけど失礼」

 

 

 すると突然、横から声を掛けられた。

 彼女と同い年程の、幼い少年の声だ。彼女は咄嗟に声のした方に顔を向ける。向けた先には、彼女と同じくらいの歳の少年が怪物のいる方向に目線を向けて突っ立っていた。

 

 

「明日香のお姉さん……だよね?」

「うん……って、なんであっちゃんの名前を!?」

「そりゃ、さっきまで一緒に行動してたから」

 

 彼女は思わず問い掛けると、さも当然のような口振りで答えて地面に刺さるクナイ5本を拾い上げた。

 

 

「それよりも、早く二人でここから離れて。ちょいと危ないから」

 

 

 少年はそう忠告すると、近くにあった大きめの瓦礫に、これまた大きな円を描き出した。

 

 

「……ちょ、ちょっと待って?二人でって……君はどうするの!?」

 

 

 彼女の2度目の問い掛け。その問いに対して、彼もまた先程と同じように怪物の方に目を向けている。

 

 

「俺?」

 

 

 だが、怪物に目線を向けている彼ではあるが、先程とは違う点として、円の中に様々な絵柄を描いている。

 

 

「俺は時間稼ぎに徹するよ」

 

 

 描き終えたのだろう。彼は持っていたチョークをバックの中に仕舞い込みながら彼女の問い掛けにしっかりと応じた。

 

 

 ニヒリ、と小さく笑って。

 

 

「君たちが逃げ終えるまで、さ」

 

 

 描いた円陣に、彼が触れる。

 すると円陣は眩い光を走らせた。

 

 

「っ!!」

 

 

 彼女はその光景に息を呑んだ。その光景が、あまりにも摩訶不思議だったために。

 なんと円が描かれた瓦礫が段々と形を変え、何かしらの武器の持ち手へと変形したのだ。その変化は持ち手だけに留まらない。

 

 

「……明日香」

 

 

 変化した持ち手を手に取った彼は、未だに泣きじゃくる明日香に声をかける。それでも彼女は姉の腕の中から顔を出そうとしない。

 

 

「いい加減泣くのはやめとけよ?お姉さんが困ってるじゃないか」

「……」

 

「……怖いのはわかるよ。さっきまで一緒に行動していて、終着点の分からない道を歩いて。嫌になってるは分かってる」

「……」

 

 

「でもそこで……そんな所で()()()()()()()()()()()のも分かってるだろう?」

 

「……!」

 

 

 明日香はゆっくりと、未だ泣きじゃくる幼い顔を上げた。彼女自身、何故このタイミングで顔を上げたのか自分で理解できていない。

 

 

「そこでずっと蹲ってたら、今まで苦労してやってきたことはどうなる?そこで立ち上がらなかったら、傷だらけになってまで探し求めた姉はどうなる?」

 

 

 以前として変わらない少年の口調。その筈なのに、少年の台詞が彼女の耳振動させた途端、彼女の身体は今ここで彼の姿を視認しなくてはならない、と本能で動かしていた。

 

 

「答えは簡単。全て水の泡だ。死に物狂いで頑張ってきた事全てだ。そんな怖い事、明日香だってちゃんと理解してるんだろ?」

 

 

 

 少年の台詞が明日香の耳を何度も刺激する。

 彼の言う通り、明日香には分かっていた。此処で諦めてしまえば、何もかも終わってしまうと。突然と起きた惨劇に戸惑いながら姉とちゃんと再会出来た事も無かったことになると。

 

 だからこそ彼女は答えた。今、彼に何を伝えるべき言葉–––

 

 

 

「うん…!分かってる……!」

 

 

 –––たった一言の、肯定の言葉を。

 

 

「……だったら」

 

 

 

 瞬間、空全体を覆う鉛空に、一筋の光が降り注いだ。

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 その光は、目の前に立つ、たった一人の少年に向けて降り注いで。

 

 

 

()()()()

 

 

 

 自身の身長と同等の大槍を携える彼を輝かせるために。

 

 

 

 

「お前には、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 偉大な背中を輝かせる為に。

 

 

 

 覚悟は決まった。

 

 

「ッ!!」

 

「!!あ、あっちゃん!?」

 

 

 

 明日香は姉の手を取り、そのまま進むべき道を走り出した。

 

 

「……ちゃんと!!」

 

 

 走る最中、明日香は叫ぶ。

 

 

「ちゃんと後で会えるんだよね!?」

 

 

 悠々と立ち尽くす、彼に向けて。

 

 彼女はチラリと後方を確認した。

 彼女の目線の先には、以前と変わらず前を向く彼の姿。

 ただ一つ、違うとするならば。それは、空いた右腕でサムズアップをしている事だけ。

 

 彼女にとって、その行為は十分過ぎる程の回答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さーてと」

 

 

 

 少年の数メートル先の瓦礫が崩れ落ち、その中から怪物が現れた。

 捻れていた頭角は片方が途中で粉々に砕かれ、右の眼光から血が吹き出している怪物。どこをどう見てもソレは重傷だった。

 しかし、イカれた状態となった今も、他を圧倒しようとする気迫は変わらない。

 

 

「ぱぱっとやって、俺も人を捜すとするか……!」

 

 

 そんな圧をもろともせずに立つ少年–––蓮司。

 

 その顔は、覚悟を決めて笑った表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 次に投稿されるのはいつなのか。それは俺にもわからない。


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明確なる殺意


 Twitterの方でも叫んだけどこちらでも騒がせて頂こう。


 メリッサがカバー!おっしゃぁぁぁぁぁあああ!!


 

 

 

 ある災禍の地にて、二つの影があった。

 

 

 一つは巨大で獰猛なる獣の影。赤い鮮血で鋭い牙を染め、足下に幾多もある瓦礫を踏み崩し、この世のものとは思えない程に低く、そして地面を震えさせるような唸りを上げた。頭角を一本折られ、片目を失った姿となり果てても、その畏怖感は消える事はない。

 

 相対するは小さい背中とその立ち姿に見合う大槍を手に持った少年。しかし獣とは違って、鋭い牙も瓦礫を踏み潰す腕力も、ましてや低い唸り声も持ち合わせていない。

 

 側から見てしまえば、異形の怪物が勝利を収めると確信するだろう。獣がその腕で肉を裂いて骨を断ち、その鋭牙で息の根を止めると想像するだろう。少年が無残な死を遂げると皆は悲しみ出すだろう。

 

 

 だが当の本人は–––哀れみの視線を送られるであろう少年は、そんな事など思っていない。

 如何なる悲しみも、これと言った憎悪も、何一つ持ち合わせていない。そして、自分が死ぬなどと考えてはいない。

 では何を思っているのだろうか。自分とはまるっきり形が違う、より巨大な獣を前にして何を思うのか。転生を果たした少年は、ある程度の力を手に入れ、個性に長けた友人を持つ少年は、何を考えているのか。その笑みの下には何があるというのか。

 

 

 ……否、少年は何も想像していなかった。少年の頭に残っていたのは、『覚悟を決めた』という結果だけ。それ以外は何もなかった。

 故に、少年は模索していたのだ。目の前に聳える巨大な壁をどうすれば良いのだろうか、と考えていた。

 

 

 

ガラァァァァアアア!!

 

 

 

 痺れを切らしたのか、獣は低い唸り声と豪腕で地を鳴らしながら殺気を立てて駆け走った。

 それでも少年は笑みを消さない。少年は未だに目標を達成するにほどうすればいいかを模索していた。

 

 

 距離20。まだだ。まだ分からない。

 

 

 距離15。駄目だ。やっぱり分からない。

 

 

 距離10。ここまで来てもさっぱりだ。

 

 

 距離5。

 獣の豪腕が頂点に達した、その時だった。

 

 彼の脳内にある文が形成されてしまった。それは

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()。その一文だった。

 

 その発想が現れた途端、少年の顔から笑顔が徐々に消え去っていく。そしてその代わりに–––

 

 

「……殺す、か」

 

 

 –––今までに聞いたことのない、とても殺気の篭る声と、冷酷で鋭い、危険な眼差しが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 二つの影が衝突する少し前のことである。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 積まれた瓦礫の上で静かに佇む者がいた。

 

 

 

「……」

 

 

 

 惨劇の中でそよぐ風を一身に受けて尚、その身体は動くことは無い。その様は如何なる事があっても動じる事がない石像のようだ。

 

 

 

「……!」

 

 

 

 しかしながらその者は石で出来てはいない。手足を動かし、息をする歴然とした生物だ。当然、何かがあれば反応する。

 

 

 

「……()()()()()か」

 

 

 

 その者は一人、無感情でいながらも一言呟いた。

 その者は今、一人の人間の心臓を貫く()()()()()()()()()。全く無害な、一個の魂を。

 だが、その者は手足などは動かしてはいなかった。先程同様に、息を吸い、風を受けて、平然と佇んでいただけだった。それに、人を殺した筈なのに感情を表に出す事もしていない。

 

 

 

「……」

 

 

 

 その者の足下で何かが蠢いた。

 

 

 

「……」

 

 

 

 その者の目の前に突如黒い何かが現れた。

 

 それは『影』だった。遮蔽物と光によって作り出される『黒い光』。平坦に出来る筈のその『光』は、おかしな事に高さを得て、その者の前に出現した。

 おかしな点はそれだけでは無い。なんと『影』はその者を中心に四方八方に伸び散らばっていたのだ。更に『影』は上手いことに瓦礫の下を潜っており、他者から見ても一見何も通っていないように見える。

 

 

 

「……残念だが、私の血肉とさせてもらうよ」

 

 

 

 『影』は器用に先端に付着していた鮮血を振り払い、また元の位置に戻るようにスルスルと音を立てて伸びていった。

 

 

 

「……」

 

 

 

 襲いかかる静寂。その者もまた、石像のようにピタリと動作を止めてしまった。

 先程からこれの繰り返しである。感触があれば『影』を戻し、血を振り払ったら元に戻す。その単純作業のローテーションだった。

 

 

 

「……」

 

 

 

 異様な静けさになった今でも、その者はじっと只々我慢していた。何かが起きるのを待つように。()()()()()()()()()()()()()()()()()。その時をじっと待ち望んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、一つの風が吹いた。

 

 

「!!」

 

 

 その瞬間、その者は目を見開いた。それと同時に、『影』もまた、獰猛な紅い眼を開眼させた。

 綺麗で、それでいて面妖な紅い眼玉。そんな獲物を見つけたと言わんばかりの眼を持った『影』は、役目を果たしたかのようにその者の下へと戻っていく。

 

 

 

「とうとう来たか……!」

 

 

 

 その者はそう呟くと、瓦礫の山から跳躍して地面に降り立った。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 歩き出そうとしたが、その者の進行方向から二つの小さな影が走ってきた。

 

 

 

 戸山 明日香。そしてその姉、戸山 香澄である。

 

 

 

「お姉ちゃん早く!」

「ま、待ってあっちゃ〜ん。急に動いたから足があんまり……」

 

 

 

 動かし辛い、と言いかけた彼女は傍らに何かこの場には不似合いなものを見つけた。

 

 

「あっ、猫ちゃんだ!」

「ね、猫!?」

 

 

 

 なんと道の傍らに小さな猫がいたのだ。輝く黄金色の毛並みを持った美しいと思わせる猫。そんな猫が瓦礫の横で座りながら彼女達を見つめていた。

 

 

 

「……って、そんなの構って無くていいから!!」

「えぇ!?猫ちゃん可哀想だよ〜〜!!」

 

 

 

 明日香達は必死な表情で走り去ってしまった。路上で見つけた可愛らしい猫をも置いてけぼりにして。

 

 

 

 

「……はてさて」

 

 

 

 

 そんな可愛らしい猫が突如、()()()()()()。そして紅い閃光を迸らせて段々と姿を変えていく。

 

 

 

「まさか、こんな所で見かけるとは……世界は狭いものだな」

 

 

 

 綺麗な毛並みを持っていた猫が一変、顔の整った美しき青年へと姿を変えた。

 

 

 

「フフッ、今からでも接触したかったが、それは後回しだ。先に……」

 

 

 

 

  しかしながら、その美しき顔を持った男は今から起こす世紀の大実験を想像する。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()…な」

 

 

 

 その顔を、酷く醜い、妖しい表情へと変えて。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 少年は––––蓮司は、疑問に思う事があった。

 

 

 

「グルルゥア!!」

「ふっ…!」

 

「ガラァァ!!」

「ほっ…!」

 

 

 

 何故こんなにも、自分が冷静でいられているのか。

 

 

「ほらよっ……!」

「ゴゥッ!?」

 

 

 

 何故こんなにも適切な判断を下せているのか。

 

 

 

「グッ…ウウゥ……!」

「……」

 

 

 

 槍に付着した血液を振り払いながら、蓮司はそんな事を考えていた。

 

 

 

「……ガルゥア!!」

 

 

 怪物が一気に距離を詰め、そのまま豪腕を振り上げる。そしてそのまま隕石の如く勢いをつけて振り上げた。

 

 

「よっ」

 

 

 しかし蓮司は一歩後退して着弾点をズラす。それにより豪腕は地面へと衝突。

 

 

 

「カァァッ!!」

 

 

 

 隙を見せぬように怪物は別の腕で追撃を行う。だがまたも蓮司は後退して衝突を避けた。

 

 

 怪物の顔が段々と歪む。

 

 

 

「!!」

 

 

 

 腕による攻撃が効かないと悟ったのか、今度は身体を回転させて下半身から伸びる巨大な尾で地面を巻き込んでなぎ払う。

 

 

「はっ…!」

 

 

 

 この攻撃は当たるかに見えたが、蓮司はこれを見据えていたかのように、槍を支柱に空中へと身を乗り出して回避した。

 

 

「グッオォ……!」

 

 

 回転に勢い余ったのか、怪物の身体が一瞬だけよろめいてしまう。

 

 その油断を、彼は見逃さなかった。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

 

 空中からの着地を決めた瞬間、蓮司は怪物との距離を一気に詰めて懐へと回り込む。そして怪物の腹部に一閃、横へとなぎ払った。

 

 

「グルゥゥ……!?」

 

 

 傷口から流れ出る鮮血を身体に浴びながら、蓮司は怪物の身体に一蹴り入れて距離を離した。

 

 

「どうした?かかってこいよ。俺はまだまだピンピンしてるぜ?」

 

 

 怪物に挑発をかました蓮司ではあるが、自分の内では何か、自分が変である事を感じていた。

 先程、己が殺すと決心した、その瞬間からだった。突然身体が軽く感じて、相手の何処を見るべきなのかを判断出来たのは。

 

 相手の連撃を、その軽くなった身体で上手く躱し、相手はどうなっているのか観察した。

 

 そして気付いた時には相手の動きは読み取れ、更に相手の弱点をも暴いていた。

 相手の攻撃は単純。ただ腕を振り回して、当たらないと思った時に角、又は先程のように尻尾による攻撃を加えた。

 弱点は顔面と腹部。それ以外は硬い甲殻で覆われていて、最悪槍が折れてしまう。

 

 

 そんな情報を彼は物の数分で暴き出した。暴き出した上で、彼は一つの作戦を考案し、そしてその作戦を既に()()()()()()()

 

 

 

「……ゥゥゥルウアアアア!!」

 

 

 

 挑発を受けてなのか、怪物は翼を展開させ一気に距離を詰めようとする。その姿は今まで以上に殺意が篭っていた。

 

 

「……っても、もう終わりだがな」

 

 

 だがしかし、その強大なる殺意は今の蓮司にとっては子犬が可愛らしく威嚇しているとしか思っていない。

 

 

「ふっ!!」

 

 

 鋭い眼差しを標的に向けながら、蓮司は持っていた大槍を勢いをつけて前方に投擲する。槍の進行方向には当然、迫り来ていた怪物が。

 

 

「!グゥ!!」

 

 

 だが勢いをつけていた割に速度はさほど高くなかった為、怪物は右に急旋回してその攻撃を回避した。そして着地した怪物はすぐに蓮司へと駆け出そうとする。

 

 

 その時、怪物は背筋を震わせた。

 

 

 

「阿呆だな、今のは陽動に決まっているだろう」

 

 

 

 とても低く、そして冷たい『整音』。

 

 視認されただけで刺し貫かれた感覚に陥る程の『眼光』。

 

 そして何より異質なのは

 

 彼から発せられた恐ろしく凶暴な『殺気』。

 

 

 

「本命は、()()()()

 

 

 その一言を呟くと、彼は地面に設置した陣に足を踏み入れる。

 

 

 

 次の瞬間、怪物の周囲が青く光り輝いた。

 

 

「!?」

 

 

 これが彼の考えた作戦。戦闘の最中、相手からの攻撃を躱しつつ陣を作成する為のクナイを要所要所に設置していた。

 そして設置が完了した所で彼は怪物との距離を離すと同時に、自分は陣の範囲内から離脱、怪物を陣の中に残したのだ。最後の槍投げは怪物を円の中心に誘い込む為、謂わば最終調整の為であった。

 

 

「グッ……ゥォォオオ!!」

 

 

 この時に怪物は悟った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と悟ったのだ。

 

 ならば奴の取る行動はたった一つ。それは逃亡であった。目の前にいる敵が何かをする前に上空へと逃げて仕舞えばいい。

 

 翼を展開させて空へと羽ばたいた怪物は『これで生き残る』と本能的に感じ取った。

 

 

 

 

「最後まで俺の()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 怪物はまたも背筋を凍らす。

 それはあり得ない事だった。上空に飛び去ったのならもう聞こえない筈の声。その声が聞こえた気がしたのだ。

 

 

 

 不穏な風が、怪物の身体を撫でる。

 その風は明らかに妙だった。何故ならそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()それがまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 怪物は一度静止して、下を見下ろす。何もない事を確かめる為に。迫りくる『絶望』はない事を証明するために。

 

 

 だが、その行動が致命的となった。

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 その光景に、怪物は『絶望』した。

 

 

 目の前に現れたのは、怪物以上の巨大な()()()()であった。その竜が、鋭い牙を立てて此方に迫っていたのだ。

 

 

「ガァ!?」

 

 

 回避しようとするも時既に遅く、竜の牙は怪物の腹部へと減り込んでそのまま空へと駆け抜けていく。

 

 予想だにしない程の速度と、それによって生じる圧が怪物を襲う。

 

 怪物はもう、唸り声を上げる事はなかった。

 

 

「……」

 

 

 突然として竜の進行は収まった。だが、怪物に掛かった速度は止まる事はなく、そのまま放り投げられる形で宙を舞う。その間、身体はピクリとも動かない。

 

 

「……」

 

 

 落下途中、怪物は奇遇にも蓮司の姿を目に映った。

 

 

 その殺意は未だに消える事なく、寧ろその殺意は益々膨れ上がっていた。

 

 

 

 今の姿を例えるなら、正に『悪鬼』そのもの。

 

 

 

 

 その殺意に刈り取られるように、怪物は意識を失い、そして地面へと衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 気分がフルスロットルすぎて文が大変な事になってるかも。
 でもそれ以上にメリッサがカバーされるのが嬉しみなんだよぉ!


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お前の真理


 残り、二話だぞ


 

 

 

 

「––––!–––!」

 

 

 ある部屋に、重低音と金属音が響く。

 

 

「––!–––!」

 

 

 ある一定の音を叩きだす彼女––大和麻弥は、ただひたすらに目の前の楽器を叩く。

 

 

 ただ無心に。何も感じることなく。一心不乱に叩く。

 

 

「–––!」

 

 

 彼女の額から一粒の汗が垂れた所で、音はピタリと止んだ。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 溜息をこぼす彼女の顔は見るからに疲労気味であった。

 それもその筈。彼女は小一時間ずっと、休憩などはせずにドラムを叩いていたのだから。

 

 

「……痛い」

 

 

 酷使した腕を摩りながら彼女は一言呟く。

 一曲叩いたら別の曲を叩き、終わったらまた別の曲……それを休むことなく続けていた為に、彼女の手の平は見るからに荒れていた。

 そんな手をゆっくりと握り、近くに置いてあったタオルと飲料水を手に取った。

 

 

「……」

 

 

 汗を拭い、水分補給をする彼女はある一点を見つめる。その視線の先には一つの机があった。

 彼女はタオルと水を元の位置に置き、ずっと固定していた腰を上げる。腕と同様に両足も酷使していたので多少の痛みが走ったのでゆっくりと立ち、そして机へと向かった。

 

 そして、彼女は引き出しからある物を取り出す。

 

 

「……って、何でコレ取り出したんでしょう」

 

 

 彼女が手にしているのは三つのファイルで、中にはそれぞれ作詞・作曲のされた楽譜が収納されていた。……といっても、完成しているのは一つだけで、他二つは何故か作曲の方だけが途中で途切れている。

 

 彼女自身、何故このタイミングでこの三つを取り出したのかは分かっていない。ただ見てみたいとしか考えていなかった。

 

 

「……やってみますか」

 

 

 彼女は完成している楽譜を取り出して他二つを机の中に仕舞い込んだ。どうやら、次に演奏するのはこの楽譜のようだ。

 

 

「よいしょっと」

 

 

 椅子に座りファイルから楽譜を取り出して譜面台に置く。それから、スネアの上に置かれたスティックを手に取る。

 

 

「……でも、あの蓮司君が作詞してみたいなんて言うなんて」

 

 

 彼女は一年前に起きた事を思い返す。

 実はこの楽譜、彼女が作った物ではない。確かに作業には彼女も携わってはいたが、主に取り組んでいたのは幼馴染である蓮司だった。

 一年前の夏休み。彼が退院して数日後に突如、彼女の家に突撃して来た。その際、内心ではちょいと嬉しく思いながらも、突然の訪問に驚いた彼女。だがその様を何とも思わないかのように、彼は一言。

 

 

『作りたい歌があるから手伝ってくれない?』

 

 

 と、数枚の紙をぶら下げて発言してきたのだ。

 当初はあまりの急展開に混乱していた彼女であったが、すぐに理解し快く承諾した。

 だが、その時の彼女は内心で苦笑いをしていた。彼女も作詞等したことはあったが、所詮子供の作る曲。一日置いてみてみれば「何だこれ……」と困惑するものが殆どだった。今回の蓮司もそのようなものだ、と少々諦めていた。

 

 

 だけれど、彼が見せた物は違った。

 

 彼の見せてきた詩はどれも感情のこもっていて、そして情景を思い浮かべやすい詩ばかり。どれもこれも、小学生程度で作れる物では無かった。

 彼女は驚いて思わず声を上げてしまい、彼を驚かせてしまった。だがそうなる程に、彼の詩は素晴らしい物だった。

 

 

 だが、彼女には疑問があった。

 作詞・作曲が完成し、タイトルをつけた際のことである。そのタイトル付けも彼が行ったのだが、そのつけた名前が、彼女にはどうも疑問に思うものだった。

その時はあまり深く追求しなかったが、それでも疑問に思う。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……しかしながら、彼女が今そんなことを考えていてもしょうがない。思ったとしても、作った本人が今この場にいないのだから。

 

 

「すぅ……ふぅ」

 

 

 呼吸を整え、スティックを回す。準備は万端。体力も回復していた。

 イヤホンを耳に刺し、いよいよドラムを叩きだす。

 

 

 彼女の演奏する曲。それは–––

 

 

 

 

 –––『嘘』

 

 

 

 

 

♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭♭

 

 

 

 

 

「……終わったか」

 

 

 立ち込める煙を手で振り払いながら、俺は横に高く聳える柱を眺める。

 地上からは捻れて見えるこの柱は、俺が錬丹術で錬成した物だ。……少し高く錬成してしまったので、窪みが深くなって危うく俺まで巻き込まれそうになったが。

 

 ちょいと愚痴を含んだ思考をそのままに、俺はある場所へも歩いていく。その先にいるのは……

 

 

「流石に死んだか?」

 

 

 クレーターの中心に、白目をひん剥いて横たわる怪物、もとい『合成獣(キメラ)』だった。

 そこそこの高さから無抵抗で落ちてきたのだ。無事でいられるはずがない。……まぁ、だからといってそのままにして立ち去るわけにもいかない。この死体をそのままにして誰かに見られたら面倒な事が起きそうだからだ。はてさて、どうしたものか。

 

 

「……取り敢えず埋めるか」

 

 

 そこいらの瓦礫を持ってきて積んでやれば隠す事は出来る。更に錬金術で整えてしまえば、どこから見ても死体があるなんて分からなくなる。そうと決まればちゃっちゃかと–––

 

 

 

 

 ……ガタリ

 

 

 

「……んだよ、まだ生きてんのか」

 

 

 瓦礫が落ちる音が聞こえてきたのでそちらに振り向くと、死体となった筈の合成獣(キメラ)さんが身体を震わせていた。

 なんだ、生命力高いなコイツ。ゴキブリでも混ぜられてんのか?まぁでも、コイツももう虫の息だ。一刺しすれば絶命するだろう。

 

 

「取り敢えず脳天にブッ刺すか」

 

 

 そこいらに落ちていた鉄骨を拾い上げて、俺は横たわる怪物の前に立つ。

 ……嗚呼、そうだ。コイツが物凄い高さまで飛んだせいで、俺にも危害が加わりそうになったんだ。……ムシャクシャしてきた。

 

 

「じゃあな、怪物さん」

 

 

 俺は鉄骨を高々と振り上げて、一番柔らかい相手の顔を向けて振り下げ–––

 

 

 

 

 

 

……ジ…?

 

「……あ?」

 

 

 なんだコイツ?なんか言ってる……

 

 

 

レン……ジ…?

 

「……は?」

 

 

 カタン、と持っていた鉄骨が音を立てて落ちた。

 

 今、コイツ確かに()()()()()……!?

 

 

「!!チガウ…!!コイ……ツハ、レンジジャァァ……!!」

 

 

 何なんだコイツ……!?急に頭押さえ込み出して……待て、なんでコイツ()()()()()()()()()()

 通常の合成獣(キメラ)は人の言葉なんて発する事は出来ない。それなのにコイツは……目の前の化け物は俺の名前を呼んだ…!

 

 

チガァウ!コイツハァァ、レン、ジ!ィィィィィィ……!!

 

「な……!?」

 

 

 何かが気に食わないのか、合成獣(キメラ)は地面を叩き、そしてのたうち回る。

 俺にはもう、何がなんなのか理解出来ない。そもそも何故コイツが俺の名前を連呼して違うなんて叫んでいるんだ。少なくともこんな奴、俺は知らない。こんな化け物、俺の記憶の中には……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「お遊びは楽しかったかい?」

 

「!!」

 

 

 一瞬にして全身の毛が逆立った。

 この圧……この『気』……!これは、あの『黒い』……!?早く武器を……!!

 

 

「遅い」

 

「!?くっ!!」

 

 

 拾い上げようとした瞬間、黒い何かが俺の武器を跳ね飛ばし、次に俺の右足へと絡みついた。

 

 

「先の戦いで疲労困憊となったかね?」

「うわっ!?」

 

 

 纏わり付く物に驚いてしまった俺は、迫りきていた別の黒い影に気づかなかった。それにより、影が左足、右腕、左腕と巻きつき、そして俺をそのまま空中へと固定した。

 

 

「何、しやがる……!」

「……ふむ、思ったより疲れてはなさそうだな」

 

 

 突然現れた青年が納得したかのような表情をした。

 いや何納得したんだコイツ。……ってそんなのどうでもいい。そんなことよりコイツの正体を探ることが重要……

 

 

「では、早速取り掛かろう」

「ごっ!?」

 

 

 探ろうとした瞬間、地面に思いっきり叩きつけられた。視界がチカチカと点滅する。

 

 

「……チガァウゥゥ…!オマ、エハ……ソンナナマエデハ……!!」

「?……なんだ、まだそこにいたのか」

 

 

 謎の男が溜息をつく。そして次の瞬間。

 

 

 

 

「邪魔だ()()()。私の前から消えろ」

 

 

 

 無数の針が身体全体を刺す感覚に陥る。

 無表情だった男の顔が、一変してまるで汚物を見るかのような表情と化したのだ。そしてそれと同時に襲う圧が俺と怪物二つの存在に襲い掛かった。

 

 ここで俺は初めて自分の間違いに気付いた。

 今奴の正体を探ってはいけない。先に行うのはこの場から()()()()()()()()と。

 

 

「ゥゥゥ……!アアアアァァァ!!!」

 

 

 怪物の方も理解したようで、呻くことをやめ翼を展開させて空へとユラユラと揺れながら消えていった。

 

 

「……さて、次は」

「!!」

 

 

 男は次に、地面に大の字で固定された俺を視界に入れた。次の標的はお前だと言いたげに。

 俺は目一杯両腕両足に力を込めたが、影はその力以上に抑えつけてくる。……もう逃げるのは絶望的だ。

 

 

「……お前は」

「?」

 

「お前は何がしたいんだ!?」

 

 

 苦し紛れの叫び。だがもう、俺にすることはこれぐらいしかなかった。

 

 

「……はぁ、全く。先程までの余裕はどこに行ってしまったんだ」

「……何が言いたいんだ」

「いや別に。ただ、今のはカッコ悪いと思っただけだよ」

 

 

 「さて」と、男が手を叩きながら言うと同時に、その男の影が蠢き出す。

 

 

「……!?こ、これって」

「君も薄々気付いてたのではないかね?」

 

 

 影は俺を中心に円を描き、そして細かな絵文字、記号を映し出していた。その記号等を見た俺は血の気が引いてしまう。

 間違い、これは……!

 

 

()()()()……!?」

 

 

 待て待て待て。何故急に人体錬成を!?そもそも、こんな得体の知れない奴の『扉』を開くなんて、コイツどうかしてる……!

 そもそもコイツへのメリットはなんだ!?俺なんかの『扉』なんぞ開いてどうする。……強制的にやるって事はコイツにも相当の負荷がかかる筈。なのに何故……!

 

 

「何故俺なんかの『扉』を開くのか……なんて考えているのではないかね?」

「!?」

 

 

 男の台詞は完全なる図星であった。

 

 

「それはね……()()()()()()()()()()()に必要な事だからだよ。……分かってくれるよね?」

「……なに言って」

 

 

 

 ザクリ、と肉を貫く音がした。

 

 

 

「分かってくれるよ、ね?」

 

 

 いつのまにか男の顔を間近に迫っていた。その顔は相変わらずの無表情。だがそれよりも、俺は一つある違和感があった。

 男の右手が何やら俺の喉の方に伸びていて、何故か指先が真っ赤に……!?

 

 

「カッ……!?」

 

 

 俺の口からちへとが飛び出し、そして俺の顔に散らばった。

 先の行為で分かった。俺の身に何が起きたのか。……()()()()()()()()。何も言えなくするように、謂わば口封じのために潰したのだ。

 

 

「さて、始めようか」

 

 

 喋ろうとすると喉の痛みが増す。更には声の代わりに肺から漏れる息の音が流れてくる。

 

 

「なに、心配する事はないさ。あとで喉ぐらいは治してやる。それに『材料』だってちゃんとある」

 

 

 周囲が真っ赤に光り始めた。キラキラと、星が瞬くように。

 

 

「……()()()()()()()()()()?」

 

 

だがその反面、俺の意識は段々と弱々しく薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ?俺なにしてたんだっけ?

 

 

 いつのまにか、俺は真っ白な空間に一人突っ立っていた。

 どこまでも続く、真っ白な世界。生き物の声が聴こえないし、小さな風の音さえも聴こえない。

 

 

 ……本当になにしてたんだっけ。

 

 

 

 

「よう、気がついたか?」

 

 

 辺りを見回していると、唯一見ていなかった後方で誰かに声をかけられた。どこかで聞いた事のある声だ。兎に角俺は後ろを振り返った。

 

 

 ……え!?

 

 振り返った瞬間、俺は自分の目を疑った。

 そこにいたのは、黒いモヤのような物を周囲に張り巡らせ、そのモヤによって形成された人型の何かだった。

 

 

 ……お前は、誰なんだ…?

 

 

「おっ!その言葉を待ってました!」

 

 

 白い何かがニヒリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「オレは、お前たちが”世界”と呼ぶ存在 

 

 あるいは”宇宙”        あるいは”神” 

 

 

あるいは”心理”
       

 

 

あるいは”全”           あるいは”一”

 

 

そして」

 

 

 白い何かは、ゆっくりとこちらの方に指を指す。

 

 

 

「オレは”おまえ”だ」

 

 

 

 ……まさか!?

 

 

この時に俺は理解した。此処がどんな場所で、目の前のアイツがどんな存在なのかを。

 だから俺は気付いた。背後から襲う、壮大な圧に。俺はすぐに、何もなかったはずの後方に顔を向ける。

 

 

 そんな……!これは……!?

 

 

 自分の身長の数倍にも及ぶ巨大な石壁。そしてその壁に描かれた、洗礼された円と、その周りに並ぶ文字列は独特な雰囲気を醸し出す。

 

 

 紛れもない。これは、()()()()()()()

 

 

 ……!?

 

 

 

 そんな扉が音を立て、重々しく開いていく。

 

 

 ……逃げなければ…!!

 

 

 完全に開かれた扉から垣間見えるは、巨大なる『眼』。そして

 

 

 やめろ……!

 

 

 そこから這い出る触手のように呻る無数の『手』。

 

 

 

 嫌だ……!!

 

 

 

 俺は無意識に逃げ出そうとしていた。逃げれる訳が無いのに。一度目をつけられたら逃走なんて出来る筈がないのに。

 

 

 ……なっ!?

 

 

 だがそんな無意識の思考に意味はない。例え頭で何かを考えても、身体が言う事を聞かなければ今がないのだから。

 

 

 ……嫌だ!嫌だ……!

 

 

 

「オイオイ、お前も()()()()()()()()()()()()()()ちゃんと受け入れろよ」

 

 

 

 ……は?望んでただと?ふざけんな、俺はこんなの望んでない!!俺がこんな所好き好んでくる訳ないだろ!?

 

 

 

「その先にある物を見てこいよ。身の程知らずのバカ野郎」

 

 

 

 嫌だ……!こんなの望んでない!!

 

 

 俺は……俺はァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

「ああああああああ!!??!?」

 

 

 俺は流れに背いて連れてこられた。無数に飛び交う、幾多の情報の波に背いて。

 

 

「ああ……あたまが、ァァ……!!?」

 

 

 頭がかち割れるかと思える程の痛み。だがそんな事つゆ知らず、幾多の情報は俺を殺しにくるかのように頭の中へと侵入してくる。

 

 

「いや……やめ、やめろよ…!壊れるう……!?」

 

 

 身体が分解されていく。もっと深く、もっと多く、その身を砕いてでも手に入れるように。

 

 

「無理だ……もう、それ以上……っ!?」

 

 

 不意に流れが止まった。

 

 

 

「凄い……天才だ!

 

 

 そして突然、誰かの声が響いた。聞いた事もない、若い男の声。今まで生きてきた中で、こんな声は聞いた事がない。

 

 だけれど

 

 

 

 

「もっと勉強するんだぞ!–––!」

 

 

 

 何故か、懐かしく感じる。

 

 

 

「!!」

 

 

 そしてまた、波の流れが始まる。

 先程までよりも、もっと激しい、激流の波。

 

 

 

「あ、ァァァァァあああ!???!??!!」

 

 

 

 

「また百点か、素晴らしいじゃないか!」「お前、その年でこんな数式を?信じられない!!」「お前は兄よりも立派だ!あんななり損ないの屑よりもな!」「そうだ、みんなに教えよう!!」「この子は天才なんだ!素晴らしい才能を持っているんだぞ!?」「……何故誰も信じてくれないんだ!?おかしいだろ!?」

 

 

 流れ込む激しい情報。それもさっきと違って、これは何故か……

 

 

 

 吐き気がする。

 

 

 

 

 

「……何?九十二だと?」「巫山戯るな!お前は完璧なのだ!!完璧なお前が……!」「そうか、あんなゴミみたいな奴らがクラスメイトだからか!!安心しろ、直ぐにあんな奴ら……」

 

 

 

 

「やめろ……」

 

 

 

「さぁ、お前を邪魔する輩はもういない!その才能を存分に伸ばしていけ!!」「……なんだ、お前まで邪魔するのか?」「この出来損ないが!!弟の方が優れているのをみて恥ずかしくないのか!?」「……なんだお前まで…!何?この子がかわいそうだと?何を言っている!?これはこの子為なのだ!!何も知らないお前が言うなよ!?」

 

 

 

 来るな……!

 

 

 

 

「……自分が無能だと分かったら自殺か。何とも馬鹿らしい。さ、お前は勉強だ」「……何?離婚?あぁ、したければすれば良い。ただし、コイツは俺のモノだ。お前には渡さんからな?」

 

 

 

 違う……!

 

 

 

母さんに会いたいだと?何を巫山戯た事を抜かしている!?」「お前は知識を深めていれば良い!!今度母さんに会いたいなどと言ってみろ!!容赦しないからな!?」

 

 

 

 違う…!!

 

 

 

「……おいお前。なんだこの点数は?」「何回も言ったよなぁ?変な点数取ったら今度は容赦しないってな?なぁ!?なぁ!!」「……お前は天才なんだよ。友達なんて作るな。母に会おうとするな。兄に会いたいと戯言を言うな。お前はただ、俺の為に動いてれば良いんだよ」

 

 

 

 ……俺はただ、

 

 

 

 

 

 

 

 普通に暮らしたかっただけなんだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「……よう、どうだったよ?」

 

 

 

 チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ

 

 

 

「……ありゃりゃ、脳みそやっちゃたなこれ」

 

 

 

 

 オレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハ

 

 

 

「まぁでも、『真理』を見たんだ。対価は支払ってもらうぞ?」

 

 

「待て」

 

 

「……おっ?」

 

 

 

 イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ

 

 

 

「無様な者だな。『真理』を手に入れた途端にこれか」

 

 

 

 

 ムリダムリダムリダムリダムリダムリ……!?

 

 

 

「だが、それは必要な力だ。失う訳にはいくまい」

 

 

 

 ガァァァァァァァァァぁぁぁぁあああ!?

 

 

 

「その為に、不要な『記憶』は捨てていけ」

 

 

 

 な、なんだ……!?急に頭が……!?

 

 

 

「前にも言った筈だ。『貸借』の関係は終わりだと」

 

 

 

 ……駄目だ…!これは……!!

 

 

 

「今の貴様に」

 

 

 

 これは……この記憶だけは……!!

 

 

 

「これは」

 

 

 

 みんなの記憶は……!!?

 

 

 

「不要だ」

 

 

 

 !!

 

 

 

「……さて、俺にも『通行料』払ってもらおうか?……錬金術師?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ」

 

 

 微睡の中から、意識が覚醒していく。

 

 ひんやりとした液状の何かが、俺の半身を浸らせる。

 

 

「……」

 

 

 起き上がらせようとしても、身体が言う事を聞いてくれない。足を動かそうとしてもピクリともしない。両手を支えにしようとしても、その腕も動いて……。

 

 

「……ぅ」

 

 

 そこで分かった。俺の半身を濡らす液体の正体。そして俺の身体が動かない理由。

 それは赤い鮮血だ。大量に流れ出てくる真っ赤な血。それでいて、その血は元々俺の物だった事。

 血が俺から流れるということは、俺の身体の何処かで血が噴き出している事。

 

 

「……」

 

 

 その噴き出す地点が何処なのか理解するのとおまけに、ある事も分かった。

 

 

 

 それは

 

 

 

 

 右腕が無くなっている事に。

 

 

 

 

––––気分はどうかね?

 

 

 

 頭の中で誰かの声が響いた。

 『怒り』の籠もる、それでいて威厳のありそうな老人の声。そんな声が俺に語りかけてきた。

 

 

 

  ポツポツと、俺の頬に何かの雫が垂れてきた。なんとかして目線を空に向けると、段々と雫が群れを成して降り注いできた。

 

 

 

 気分か……そんなの決まっているよ。

 

 

 

……最悪だよ

 

 

 意識が薄れゆく最中、俺はポツリと、そんな事を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 さて、残り一話となって来たか。あと一話も今日中に出そうと思っておりますので。

 では。


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それぞれの末路


 これで、ラスト。


 

 

「弦巻先生!」

「分かってるよ!……ったく、なんで急にこんな…!」

 

 

 午後4時頃のある病院にて。白衣を纏う女性が汗を流して走っていた。

 

 

「ふざけんじゃないよ…!こっちは娘と久々に遊べると思ったのに!!」

「先生!愚痴愚痴言わないで下さいよ!」

「あぁもう!分かってる!!」

 

 

 彼女がこうして怒りを露わにしているのにも訳があった。それは時を遡る事一時間前の事だ。

 

 彼女は久方ぶりに、家で愛する娘と笑い合いながら過ごしていた。

 仕事では味わえない開放感。娘の笑顔を見るだけこんなにも満足できるとは……と、荒んだ心を潤している時だった。

 

 

『お母様!お電話よ?」

『あらこころ。ありがと♡』

 

 

 娘が家の電話を指差して教えた。気分が高揚していた彼女は娘を一度抱きしめて、電話の受話器を受け取った。

 

 

『もしもーし♡』

『先生!?先生ですか!?』

『……はぁ、なんだアンタか何用?今日私休みの筈だけど?』

 

 

 電話相手は病院で共に仕事をする仲間であり、彼女の部下であった。それ故に、内容が確実に仕事に関係すると見越して気分がダダ下がってしまう。

 

 

『貴女テレビ見てないんですか!?』

『……テレビ?』

 

 

 ふと言われて気がついた。確かに今日一日テレビを付けていない事に。まぁ、それ程までに娘との遊びにずっと付き合っていたのだ。無理もない(彼女から遊ぼうと話しかけたが)

 

 

『テレビ、テレビ……あ、こころ!テレビつけてくれない?』

『はーい!』

 

 

 丁度娘であるこころの近くにリモコンが置いてあったので、彼女は娘にテレビを付けるように促す。

 

 

『え!?ちょっ、先生!?娘さんそこにいるんですか!?』

『あん?別に良いだろいたって舐めてんのか』

『いやそういうことじゃなくて––––』

 

『お母様!つけたわよ?」

『あら、ありが––』

 

 

『…あ!たった今別の救助者が運ばれてきました!』

『……なっ!?』

 

 

 

 

 

「本当に、うちのこころが泣くところだっただろうが!」

「いや、あれは先生がいけませんって!」

 

 

 テレビの内容は、あまりにも残酷な物だった。

 首都圏で起きた突然の()()。テレビでは現時点で死者数十名、行方不明者数名を生んだと報道されていた。

 テレビをつけたこころは、瞬時に現れた黒服達にその報道を見ることがなかったので、珠子は心の内で良くやったと黒服を称えると同時に、部下がこのタイミングで電話をしてきた理由を理解したのだ。

 

 

「しっかし、負傷者連れ込むのはいいけど、流石に多すぎるぞ……」

「そ、そうですね……この量は流石に…」

 

 

 目の前に広がる惨劇にどうしたもんかと悩む珠子。すると……

 

 

「先生!!また負傷者です!」

「ぬっ!またか……!」

 

 

 別の部下がまた別の負傷者を搬送してきたのだ。

 

 

「ったく…別の病院に連れていけなかったのか…!!」

「そ、それが…あまりにも重症で……現場に近かったこの病院に……!」

「重症…?」

 

 

 ここにいる奴らもそこそこの重症なのだが……と心で突っ込むも、そんな事言ったら医者の免許剥奪されるなぁと思い留めた珠子。

 そして、運ばれてきた重症の子供の素顔を見ようと、自分の顔を覗かせる。

 

 

 珠子はギョッと、目をひん剥いた。

 

 

「嘘……」

 

 

 乱れた呼吸によって白く濁る呼吸器。包帯で止血された右肩。

 

 

「蓮司……?腕が……!」

 

 

 早く助けなければ。

 

 

 

「早くコイツを手術室に!!」

「えっ!?ですが先に……」

 

「大至急だ!!コイツだけは絶対に……!」

 

 

 

 ––––珠子、アイツの事、頼んだぞ。

 

 

 

「コイツだけは絶対に死なせては駄目だ!!」

 

 

 この時初めて、彼女は焦りを露わにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 時は進んで、ある冬の日の事。

 寒さに負けない程の活気に溢れた商店街。その一角に営む『山吹ベーカリー』にて、少女が一つ溜息をついた。

 

 

「お姉ちゃーん?」

「……ん?どうしたの?紗南」

 

 

 客のいない店内で一人頬杖をついていた彼女に、妹である紗南が声をかける。その顔は心配そうに見つめていて。

 

 

「最近のお姉ちゃん、なんだか寂しそうだよ?」

「……うーん」

 

 

 妹にそう言われて考える素振りを見せながら、彼女は目線を外に向ける。外では曇り空にも関わらず、弟が友達と仲良く遊んでいた。

 

 

「別に、なんともないよ」

「でも……「紗南」」

 

「だいじょーぶ」

 

 

 心配する妹の頭を撫でる彼女。だが、大丈夫と言った彼女の表情はとても寂しい物だった。

 姉の顔を見て益々心配になった紗南だったが、その姉に半ば無理矢理に店の奥へと運ばれてしまい、渋々と母の下へと駆け寄りに行った。

 

 店内に、また静寂が支配する。

 

 

「……あ、雪」

 

 

 再度外を眺めると、空から綺麗な白玉が降ってくるのを確認した。

 とても綺麗で透き通った雪。窓越しでも分かるその良さは、彼女にも理解出来た。

 

 その上で、彼女はある人物と一緒に見たいと感じてしまった。

 

 

 

「……蓮司、何処行っちゃったの?」

 

 

 

 突然と消えた、初恋の相手を。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

「モカー!待ってー!!」

「わー、ひーちゃんが追いかけてくるー」

「ひまりー、こけるなよー?」

 

 

 ある公園にて。幼馴染5人が仲良く遊んでいた。

 しかし、そのうちの二人はベンチに腰掛けて3人の遊ぶ様を見ている。

 

 

「モカちゃん達、楽しそう…」

「なら、つぐみも一緒に遊ぼうよ」

 

 

 つぐみはそう言われたが、首を縦には振らずに下に顔を向けてしまった。

 

 

「私、今そんな気分じゃなくて……」

「……やっぱり、アイツの事まだ気にしてるの?」

 

 

 アイツと言われて、今度は縦に首を振った。それを見た蘭は、眉間にシワを寄せる。

 

 

「もう、あんな奴の事忘れた方がいいって。……なにも言わずにどっか行った奴のことなんて」

「そんな事言わないであげてよ……蓮司くんが可哀想」

「つぐみ……」

 

 

 つぐみは、半年前まで遊んでいた男子を思い出す。

彼女はいつも、彼のそばにずっといた。他の幼馴染と一緒にいる時も。パン屋の娘と一緒に遊ぶ時もずっと。帰る時が来るまでずっとそばにいた。

 

 

 けれど、そんな彼はもう、そこにはいない。

 

 

「……蘭ちゃん。やっぱり遊ぼ?」

「えっ……?」

 

 

「……なんだか、動きたくなっちゃった」

 

 

 

 そう言って、彼女は微笑む。

 

 

 

「あ!皆雪が降ってきたよ!!」

 

 

 

 哀しむ顔を、皆に見せない為に。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 

「ふぇぇ…ここどこぉ……?」

 

 

 

 ある歩道にて。道に迷う女の子がいた。

 

 

 

「ど、どうしよう……他の人に聞かなきゃ…」

 

 

 一人歩きながら呟いた彼女は、道を通る一般人に声をかけようとする。だが……

 

 

「……やっぱりむりぃ…」

 

 

 肩を叩く直前に一歩引いてしまい、一般人はそのまま歩き去ってしまった。ガクリとその場で崩れる少女。

 

 

「……はぁ、やっぱり蓮司くんがいないと…」

 

 

 そして今度は、有りもしない事を口に出した。

 ずっと前まで一緒に行動を共にした一つ年下の男子。後輩ではあったものの、その勇ましさは凄まじく、彼女はいつも彼に頼っていた事が殆どだった。

 

 

「……ふぇぇ…」

 

 

 だけれど、頼りなる彼は今はいない。

 雪が降り積もる中、彼女は唯々、涙を流しそうになるのを堪えるしかなかった。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

「……暇だなぁ」

 

 

 ある家のリビングにて。ソファにくつろぎながらテレビを見るしょがいた。片手にはお菓子を抱えて。

 

 

『……あの災害から半年。私達は数十人もの犠牲を出してしまいました』

 

「……そっか、あれから半年かぁ」

 

 

 テレビのアナウンスを聞いて、明日香はお菓子をポリポリとかじりつきながら呟く。テレビで話された災害にて、彼女もまた、被害者の一人だった。

 

 

「結局会えなかったなぁ」

 

 

 そんな災害の中、彼女は一緒に行動を共にした男の子を思い出す。

 

 

「今なにしてるんだろ……」

 

 

 あの時、自分を救ってくれたヒーロー。それでいて、姉の窮地を救ってくれた恩人でもある彼の事を想う。

 怪物と対面した彼に言った言葉。それだけは彼女は今も覚えている。

 

 

「蓮司……そういえば名前しか聞いてないや」

 

 

 その心を感謝の気持ちで埋め尽くしながら、雪で遊ぼうとじわじわと近寄ってくる姉に気づかないまま、彼女は目蓋を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「––!––––!!」

 

 

 ある家のある部屋にて。ドラムを一心不乱に叩き続ける少女がいた。

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

 

 息を上げてもなお、その腕を止めようとはしない。

 

 

「クッ……!」

 

 

 止めてしまえば、嫌でも考えてしまうから。

 

 

「うぅっ……!!」

 

 

 ずっと近くいると約束してくれた、彼のことを。

 

 

「!痛っ!!」

 

 

 遂に限界に達したのか、その手からスティックがこぼれ落ちてしまった。

 

 

「……あぁ」

 

 

 麻弥は、こぼれ落ちた物を拾おうとはせず、ただ、じっと、椅子に腰掛けて息を整えている。

 

 

「……」

 

 

 不意に、視線がある机の方に向く。

 それは蓮司と一緒に作成した詩がしまってある机だ。

 

 

「……果たせなかった」

 

 

 彼女の口から歌詞の一部が再生された。

 

 

「約束を抱いて…」

 

 

 それは、たった一つ完成していた曲の歌詞。

 

 

「二人、歩き出す……」

 

 

 彼女の目元から、一つの滴が溢れる。

 

 

「うっ、うぅ……!!」

 

 

 それがトリガーとなったのか、次第に溢れる滴の量は膨れ上がり、遂には涙となった。

 

 

「なんで……!二人とも……!!」

 

 

 自分の下から消えた、幼馴染二人を想いながら。

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「遂に、この日が来たか」

 

 

 ある街のある病院にて。青年は男の子の肩を叩いて話しかける。

 

 

「ここまで長かった。いやしかし、医学の進歩にも改めて驚かされるなぁ、うん」

 

 

 自分の顎に指を乗せて、ここまでの半年間の苦行を思い返す。

 

 

「まぁと言っても、辛かったのは君だろう?()()

 

 

 蓮司と呼ばれた少年はクスリと微笑みを青年に返す。

 

 

「そうですね。やっぱ半年は早すぎだし、辛かったですよ。でも……」

「でも?」

 

「……早く自由に動く()()()()()()()()()

 

「それは錬金術のためかい?」

 

 

 少年の決意の台詞に、彼はあえて当たり前の質問をした。

 

 

「えぇ。早く()()()()()()()()()()()()

「おやおや、これは熱心なお子さんだ。まだまだ小さいのに」

「……先生?あとで覚えといてくださいね?義手付け終わったらすぐに殴りにこかりますから」

「おお怖い怖い。短気なのはストレス発散が出来てない証拠だぞ?」

「そりゃあずっと手術してましたもん」

「……それもそうか」

 

 

 すると青年は「さて」と一言残して、部屋の奥に消えてしまった。部屋に取り残された少年は一人、窓の向こうを眺める。

 

 

「……ったく、うざったい位に輝いてんなぁ」

「確か、あっちでは今冬だったか?」

「おぉ?それが例のブツですかい?」

 

 

 奥へと消えていた青年がある箱を持って再度部屋に戻ってきた。その箱を少年は嬉々として見つめる。

 

 

「はしゃぐな、子供でもあるま……あっそっか、子供か」

「あ?殴るぞ?」

 

 

 危険発言と投下した少年だったが、コホンと一つ咳払いをして気を取り直した。そして、筋肉質な左腕だけでその箱の蓋を外した。

 

 

「おぉ……!」

 

 

 中にある物を目にした瞬間、彼はますます目を輝かせた。

 

 

「早速、準備に取り掛かろう。蓮司、いいね?」

「勿論…!」

 

 

 「では少し待っていてくれ」とまた一言残して、箱を置いて今度は階段を使って下へと下っていた。

 

 

「さて、いよいよだ」

 

 

 またも一人となった少年は、息を吸って吐いての深呼吸を繰り返す。そして……

 

 

「俺は……この『眼』に見合う男になる…!」

 

 

 ひだりの眼を押さえて、箱の中に収められた

 義手–––––機械鎧(オートメイル)を視界に収め、決意の表しを見せた。

 

 

 

 

 





 さて、なんか前書きでラストとか何とか書いてありますが……


 当然!まだ続きます!!
 というのも、このまま高校生篇を始めてしまうと、自分の予想的に百話超える可能性があるんです。
 そんなのどうでもいいと思う人がいるかと思いますが……自分が百話超えた作品を作るのは嫌だなぁと思いまして……。
 なので区切りとしてこの作品を完結とさせまして、また別のタイトル作品で始めようと思っています。
 自分勝手で申し訳ないと思います。最近お気に入り登録してくれた方々も本当に申し訳ございません!

 長々と話してしまいましたが、次回の作品にも丹精込めて(?)より良い作品にして行こうと思いますので、これからも宜しくお願いします!


 あ、この作品のお気に入り登録は切らないで!!完結にはしますけど要所要所にストーリーを組み込んで更新しますので!!

では!!


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