ガンダムビルドファイターズセルリアン (ジャッジ)
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オキタ・アカリの誤算

FGOのが完結してないにもかかわらずまた新作です。
言い訳に聞こえるかもですが、FGOの2次創作って考えること多すぎて大変ですよね?



千葉県のなかで一番有名な場所といえば新浦安にあるディズニーランドだろう。あれがなんで東京のものだと言われているのか、それが納得いかない。どうして頭に千葉の名前を付けなかったんだろう。そうすれば、我が千葉県はパッとしない印象を払拭できたかもしれないのに。

そもそも──いや、これ以上いうとキリがない。ともかく、新浦安の外れにある住宅街の一帯は青華町と呼ばれている。私の通う高校はそんな青華町の一角にある。正式名称を「私立青華学園高等学校」という。創立してまだ5年目のまだまだ新しい学校で、生徒数もまだそんなに多くはない。

さて、我が母校の紹介を済ませたところで、私自身の紹介もしておこう。私の名前はオキタ・アカリ。現在、2年生になった私は青華学園の「ガンプラ部」に所属している。

ガンプラ部というのは何か。決してガンダムのプラモデルを作って、部員同士で自慢しあったりするありきたりな同好会ではない。最高のガンプラを作り、特殊な粒子を使ってガンプラを動かして戦わせる「ガンプラバトル」を行うことを趣旨とした部活だ。もちろん全国大会もあって、各都道府県にいる強豪たちと戦うことが私たちの目標だ。部員は私を含めて4人。去年の先輩方が8人も一気に卒業してしまったので、経営はかなり厳しいところだ。

そんな小さな部活で、私は副部長という大役を仰せつかっている。まだ新入部員はいないが、他の先輩方には内緒で新しいチーム名も考えてみた。

青華学園高等学校ガンプラ部副部長。

我ながらなんと素晴らしい響きだろう。

後は新入部員と、地区大会の季節を待つだけだ。

 

「新入部員の勧誘って、こんなに大変でしたっけ?」

始業式の日、新入生の勧誘を終えた私は、部室に帰ってきてすぐ中央にある長机に突っ伏した。その理由はただ一つ、新入部員を集めることの難しさを体感したからだ。

部員勧誘と言っても、特に難しいことをするわけじゃない。学園の広場に部活のスペースを設け、道行く入学生に声をかける。たったこれだけの簡単なお仕事だ。加えて、ガンプラバトルは最近のトレンドだから、呼び込まなくてもある程度は入ってきてくれるだろうとは思っていた。

だけど、それはちょっと。いや、かなり現実とは違っていたようだ。

「まさか、こんなに勧誘してたった一人の新入部員も獲得できないとは」

「あったりまえや。そんな簡単に獲得できるんやったら、廃部の危機にはならんて」

パイプ椅子の背もたれに体を預けているのは、一つ上の先輩で我がガンプラ部の部長ことツルハ・シンジ。生まれも育ちも千葉のはずなのになぜか関西弁で喋るよくわからない人だ。

「それにや。去年だって先輩方とめっちゃ頑張って勧誘したのに、お前しか入ってこーへんかったやんけ。もう忘れたんか?」

「あー、やめてください部長。現実を見たくないです」

私は耳を塞ぐ仕草をして、部長の話を遮った。

でも実際、部長の言う通りだ。私も最近になって知ったことだけど、去年の部員勧誘も全くもって上手くいかなかったらしい。結局、入部したのは最初からガンプラ部への入部を決めていた私一人だけだった。そんな前歴があるにもかかわらず、何の改善もせずに部員だけ増やそうというのは、流石に甘い考えだったんだろうか。

「流石に今年の新入部員はゼロ。というわけは無いやろうけど……。せめて3人、欲を言えば5人は欲しいところやな。このままじゃ、廃部どころの騒ぎちゃうで」

部長はそう言って、腕を組んでウンウンと唸っている。確かに、新入生が入らなかったからと言ってすぐ廃部になるわけじゃない。学校の規定では「部員の数は3人以上いなければならない」と決められている。ただ、部長が言っている通り問題はそこじゃない。本当に深刻なのは、メインの活動であるガンプラバトル選手権への出場資格のほうだ。

「うちの部。4人のうち、ファイターは2人しかいませんもんね。私はビルダー専門でバトル苦手ですし」

「もう1人はファイターでもビルダーでもないマネージャーだ。ファイターが3人いないと3on3はできない。つまり、全国大会どころか地区大会に出ることすらできないってことだ。これは本当に深刻だぞ」

ガンプラバトルは主に2種類の人間がいる。ガンプラを作るビルダーとガンプラを使って戦うファイターだ。私は作る方が得意で操縦する方が苦手だから、自分のことはビルダーだと思っている。操縦できるのはできるけど、バトルで勝てるかどうかまた別だ。

そして実績がなければ部を存続させることができない。でもファイターがいなければ大会に出ることもできない。これじゃあ八方塞がりだ。

「アカリさ。やっぱ今すぐ練習して、ファイターに転向したら?」

「できることならもうやってます。でも、なかなか上達しなくって。それにバトルの練習するよりもガンプラ作る方に触手が動いちゃって……」

そう言って私は、腰のポシェットからモノクロームカラーのガンプラを取り出して、机の上に立たせる。今回、私が作ったのは『機動戦士ガンダムUC』に登場するシナンジュという機体だ。

部長はだらしない姿勢から勢いよくガバッと起き上がると、私のシナンジュを手にとった。時折、可動域を確かめているのか手足を動かしている。

「ほう、シナンジュかいな。スミ入れに塗装、ディティールアップもしっかりできとる。かなり丁寧に作ってあんな」

「シナンジュって特に弄らなくても十分強い機体だと思ったんで、大きな改造とかはせずに完成度を高める改造をしました」

「確かにそうやな。けど問題は、お前がこれを使いこなせるかやねんけど。いけるか?」

部長はニヤリと皮肉混じりの笑みを浮かべながらシナンジュを机に置いた。

私にはそれがいつもの冗談だとわかっていたが、何と返事すればわからなかった。自慢じゃないけど、私自身このガンプラの完成度の高さはかなりのものだと思う。ガンプラの出来栄えを競うアーティスティックガンプラコンテストに出せば上位入賞も夢じゃないだろう。けれど私は、このガンプラをバトルで活躍させるために作った。できることなら、私が操縦したい。

「(けど、私って操縦下手だしなぁ)」

そう思って私はシナンジュを手に取って眺める。頭のなかではいつも、原作のように通常の3倍のスピードで戦場を駆け抜けながら華麗に敵機を撃墜するイメージを思い浮かべている。もっとも、それが現実になるのは遠い未来だろうけど。

「お、おーいアカリちゃんや。ごめんな、さっきのは冗談やってん。気を悪くしたんなら謝るわ」

おっといけない。物思いにふけっている間に機嫌を悪くしたと思われたらしく、部長が手を合わせて申し訳なさそうな顔をしている。その様子はちょっと面白かったけど、流石に罪悪感が芽生えてきた。そろそろ止めた方がいいかな──

と思った瞬間、ガラガラと引き戸を開ける音が聞こえた。誰か来たのかと思って振り返った。

「よぉミサキちゃん。お疲れさん」

入ってきたのは部長と同じ学年で我が部のマネージャーをしているヒュウガ・ミサキ先輩だった。先輩は手にした書類を机に放り投げると、メガネの位置を直した。

「お疲れ様です。それ、今日の部活会議の資料と来週までの提出書類。ちゃんと目を通しておいてね」

「りょーかい。今回の資料もまた分厚いなぁ、もうちょい薄くならんのかぁ?」

「資料は基本的に去年の使い回しみたいだから、文句なら去年の生徒会に言って」

部長は渋々といった表情で資料に手を伸ばした。もしかしなくても、来年は私が見なきゃいけないのか。そう思うと気が重くなってくる。

「それと、入部希望の子がさっきからずっと廊下に立っていたけど?」

な、なんだって!?

私はパイプ椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、大急ぎで廊下に飛び出した。するとそこには真新しい制服を着た新入生らしき女の子が1人、廊下に立っていた。

「わ、わぁっ?!」

急に出てきた私に驚いたのか、女の子は足をすっとんきょうな声をあげた。同時にバランスを崩して尻もちをついた。なんというか、ずいぶんとビビリな子だ。私は「大丈夫?」と声をかけて手を差し伸べる。

「あ、ありがとうございます。すみません」

女の子もおずおずと私の手を取った。

 

「ようこそ、我らがガンプラ部に! わいは部長のツルハ・シンジや。よろしゅうな!」

「わ、私はモモヤマ・アキと言います。よろ、よろしくお願いします」

元気のいい部長の挨拶に対して、アキちゃんは気弱そうな声で返した。ところどころ舌を噛んでいるし、もしかしたら緊張しているのかもしれない。私はアキちゃんのとなりにパイプ椅子を置いて座った。

「私はオキタ・アカリ。もしかしてだけど緊張してる? 大丈夫だよ。リラックスして」

「は、はいぃ。だ、大丈夫……です」

ああ、これは全然大丈夫じゃない。めちゃくちゃ緊張してる。無理もない、始めての学校で年上の先輩たちに囲まれたら誰だって緊張する。こういう時、どうしたらいいだろう。

「せや、アキちゃんはどのガンダムが好きなん? わいは1年戦争のが好きやねん。特に08小隊とかブルーデスティニーとかがお気に入りかな」

部長のファインプレーに私は心の中でガッツポーズした。好きなこと話しなら緊張なく話せるかもしれない。部長にしてはなんと気の利いた話題なんだろう。

「す、すみません。私、ガンダムのアニメは見たことなくって……」

「あっ。そ、そうなんや……」

前言撤回、やっぱり部長に気の利いた話題を提供するのは無理みたいだ。

それよりも、ガンプラ部に入部希望なのにガンダムを見たことがないとは珍しい。なんでウチの部に入ろうと思ったんだろう。

「えっと、アキちゃんはガンプラを作ったことってあるん?」

「あ、ありません。友達のをたまに手伝うくらいで……」

「そうなんや。じゃあ、ビルダー希望?」

「い、いえ。一応ファイター志望です。ガンプラは持ってませんけど……」

「おおっ! ついに待望のファイターの新入部員がきたで!」

部長は1人で馬鹿みたいに騒ぎまくってるけれど、私は余計に混乱してきた。ガンプラ好きの友達と一緒にビルダーとして入部するならわかる。なんでファイターなんだろう、全く理由が思いつかない。

「よっしゃ、そんじゃあ新米ファイターのためにおススメのガンプラ探しに行こか! アキちゃん、この後は予定あるか?」

「い、いえ特にありません。お供します……」

「いい返事や! ミサキちゃんはどうする?」

「そうね。特に予定もないし、私も行ってみようかしら」

うわぁ、なんだかどんどん話が進んでいく。もしかして気にし過ぎてるのかな。そんなに考えなくてもいい事なのか。

「あっ、私も、私も行きます!」

「よぉし、アカリちゃんも行くと決めたし、全員で行こか!」

そういうと部長はテキパキと荷物をまとめて部室を飛び出した。ああ、なんだかどんどん流されている気がする。私も遅れないように荷物を持って部室を出る。それにしても、アキちゃんはどうしてウチに入ろうと思ったんだろう。やっぱり、どうしても気になってしまう。

 




読んでいただきありがとうございます。
はい、またガンダムです。自分でも思いますが、よくもまあ飽きないことですよね。ただ、それだけ好きってことで勘弁してください。

最後に、
人々はビルドファイターズ「セルリアン」と呼んだ。(呼んでない)

いや、やっておくのが礼儀かと思ったので。


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シナンジュ初陣

1

「ラビアンローズ」という名前を聞いて何を思い浮かべるかと問われたら、多くのガンダムファンはアナハイム社所有の研究施設兼自走ドック艦だと答えるだろう。それは当然の反応だ。Zガンダムを始め、宇宙世紀にまつわる作品ではよく登場する施設としてとても有名だ。ただ、青華町に住むガンプラ好きは別の答えを言うに違いない。

話は少し逸れるが、青華町の外れにある昔ながらの風景が広がる商店街、その中心部にあるのが我ら青華学園ガンプラ部の行きつけの模型店がある。その名も「ラビアンローズ」という。きっと店主は相当な宇宙世紀ファンに違いないと思われるかもしれない。しかしここの初代店長がTWO-MIXの大ファンだったということは知る人ぞ知る情報だ。

「今日定休日じゃなくってホンマ良かったわ」

そう言って部長はホッと一息ついて言った。いやいや、まさかそれも確認せずに言い出したのか。一年間付き合って知ってはいるが、なんと行き当たりばったりなんだろう。これで定休日だったらどうするつもりだったんだろう。

いや、やめておこう。今それを問うのは野暮というものだ。現にアキちゃんは今、窓から見える積み上げられたガンプラに目を輝かせている。それなのに水を差すわけにはいかない。

「そんじゃあ、行こっか!」

部長の掛け声に従い、私たちは店の中に入った。商店街の構造上なのか、横の広さはともかく奥行きはかなりある。入ってすぐ右にはレジがあり、商品棚にはガンプラやそれにまつわる品が所狭しと並んでいる。平日の昼間ということでお客さんも少なかったが、どういうわけか店員の姿が見当たらない。

「結構広いわね。ていうか、店員がいないってどういう事?」

「おかしいですね。いつもなら店長か店員の人がレジにいる筈なんですけれど」

キョロキョロと見回してみたが、どこにも店員らしき人の姿は見えなかった。

声をかけてみようとした時、お店の奥から大きな声が聞こえてきた。

「どないしたんやろ?」

「何かあったのかも。とりあえず行ってみましょう」

「あっ、ちょっとミサキさん!」

1人でさっさと奥に進むミサキ先輩を私、部長、アキちゃんの順に追いかける。

商品棚を超えた先、物で溢れかえっていた店先とは違い広々とした空間が広がっている。むかって右側には長机と椅子が数個置いてある。

奥には六角形の形をした機械があり、そこから青白い光が発せられていた。左側にはモニターが設置されていて、数人の子供が集まっていた。中には制服を着た近所の中学生らしき姿もある。

「これって、ガンプラバトルの?」

「そう。このお店はガンプラバトルのシステムが置いてあるんや。珍しいやろ」

アキちゃんの質問に部長は胸を張って答えた。確かに、学校の近辺でバトルシステムを置いてある場所といえばこのお店くらいしかない。ガンプラバトルを愛する者としては近所にバトルシステムがあるのは本当に有難い。

「さっきの笑い声って、今プレイしている人たちから?」

「そうだよ。でも、今はあんまり近づかない方がいいかも」

横から急に声をかけられ、私たちは全員ビクッとなって驚いた。アキちゃんに至ってはまたも「うわぁ!」と声を出していた。

横にいたのはピンク色の薄いエプロンを来た若い男性だった。年は20歳前後といったところで、体格の線は細く顔には無精髭を生やしていてど、大変言い難いのだがどこか頼りない雰囲気を醸し出していた。

「あっ、あなたは確かバイトの人」

「ああ。君たちは青華学園の生徒たちだね」

「そうですが、なぜ近づかない方がいいのですか?」

「今どこかの高校生が占有していて、子供達が使いたいって言ってるのに退いてくれないんだ。『退いて欲しけりゃ俺たちに勝ってみろ』って言ってね。今ちょうど、中学生の何人かが挑んでいるところ」

よく聞いてみると、子供たちが口にしていたのは占有している人たちの悪口と戦っている中学生たちへの声援だった。言っている間に、一機のガンプラがビームに貫かれて爆発した。それと同時にあざ笑うかのような笑い声が響き渡った。もしかしたら、さっきの笑い声も彼らが出したのかもしれない。

高校生たちのガンプラは、全て改造したりオリジナルのカラーで塗装されていて完成度はかなり高い。かたや中学生のガンプラは塗装に色ムラがあったりパーツのはめ込みが甘かったりして、ところどころ作りが荒いのがわかる。ガンプラバトルではガンプラの出来が性能に反映される。作り込まれたガンプラほど性能が高いわけだ。この時点で、中学生たちのガンプラはもうパワー負けしているわけだ。

「なんちゅうヤツらや! なんとかならんのですか?」

「注意したんだけれど、逆にボロクソに言われちゃって……」

店員さんはそう言って悲しそうに肩を落とした。もしかしたら、その時のことを思い出してしまったのかもしれない。

その時、バトルシステムから『battle ended』という音声が聞こえて青白い光が収束していく。どうやらバトルが終わったようだ。結果は、中学生チームの負けだった。またも耳障りなあざ笑う声が聞こえてくる。それと同時に、子供たちの落胆する声も。

敗北した中学生たちは悔しそうに手をギュッと握りしめてた。その様子を見て、高校生たちはまた煽っているようだ。もう、なんだか見ているのも辛くなってきた。

「部長、今日は帰りません?」

「確かに、こりゃあタイミングが悪かったなぁ。今日は仕切り直そか、ってあれ。アキちゃんは?」

「えっ、さっきまでそこに……」

さっきまでアキちゃんがいたところを振り返ってみたが、どこにも彼女の姿がなかった。あたりを見回しても、彼女の影すら見つからない。一体どこに言ってしまったんだろう。あの高校生たちが怖くなって、どこかに隠れてしまったんだろうか。

「お疲れ様です。よく頑張りましたね、皆さんとてもいい動きをされていましたよ」

バトルシステムの方から聞き覚えのある声がした。なんだか嫌な予感がして振り返ると、負けた中学生たち一人一人に声をかけていた。一人ずつ手を握ったりガンプラえお手渡したりして、なんて手厚い慰めなんだろう。いやいや、注目すべきはそこじゃない。こんな状況で前にいったら、絶対に高校生たちから難癖を作られるに決まっている。

「おいおい惨めだなぁ。ボッコボコにされて女の子から慰めてもらってさぁ、だっせぇの!」

予想通り、高校せたちの煽りはさらに過激になっていく。いい加減、聞いているこっちも腹が立ってきた。でも、下手に首を突っ込んで暴力沙汰になったら大変だ。それこそ廃部の危機に陥ってしまう。なんとしても止めないと。

引き止めようとアキちゃんの元に行こうとして──

「お黙りなさい」

彼女の声に、その場の全員が動きを止めた。言葉が発せられた瞬間、周囲の温度が5度くらい下がったような錯覚に陥った。寒気がして悪寒が背中をかける。それが本当にアキちゃんから発せられたものだと認識できなかった。部室前で見せたあの弱々しい姿からは想像できないほど、強いオーラみたいなものをまとっている。ような気がした。

目つきも部室で見せた弱々しいものではなく、冷たくて鋭いまるでナイフのような目だ。睨みつけられた高校生たちは少したじろいでいるように見えた。

「な、なんだよ。やるってのかよ。いいぜ、今度はお前がバトルしろよ。そんな目で見てたんだから、逃げるなんてことはないよなぁ?」

「ええ、もちろんです。逃げも隠れもしません。3人同時にお相手します。それでよろしいですね?」

高校生たちの煽りに対し、アキちゃんは余裕の表情で挑発している。側から見てたらカッコいいと思うかもしれない。現にさっきまで悪口を言っていた子供たちは全員、アキちゃんをキラキラと輝いた目で見つめているからだ。でも身内からすればとても見ていられない、めちゃくちゃ心配だ。あんだけ啖呵切っているけれど、彼女はまだガンプラの1つも作ったことのない初心者なのに。

絶対に大丈夫じゃない。私はそう思って、高校生たちが黙々と自身のガンプラをセッティングしている隙にアキちゃんの元へ駆け寄った。

「待って、待ってよアキちゃん。変に関わっちゃダメだって、後々めんどうなことになるから! 第一、あなたガンプラ持ってないじゃない!」

「ええ、持ってません。なのでそこの中学生からお借りして……」

「そういう問題じゃないって! ガンプラ作ったことないんでしょ? 初心者なんでしょ?! そんなので勝てるわけないじゃない。しかも3対1とか無理無理、勝率ゼロパーセントだよ。なんでそういう所だけ思い切りがいいのよ!」

対するアキちゃんは、きょとんとした目で私を見つめていた。少しだけ、ほんの少しだけ熱くなってしまったけれども、もしかして、何か変なことを言ったかな。

アキちゃんは私の顔を見てガッツポーズをすると、やる気に満ちた顔で答えた。

「ご忠告ありがとうございます。ですが、すみません。一生懸命にバトルをした人をバカにする人を、私は許しておけません。それにこれ以上、ここを占有させるわけにもいきません」

アキちゃんは礼儀正しく、それでいて丁寧かつ律儀に返事してくれた。この時点で私は彼女を説得することを諦めた。今の彼女に何を言っても無駄なんだろう。頑として自分の意志を曲げないタイプなんだろう。こういう時はどうすればいいか。だいたい相場は決まっている。こちらが折れるしかない。

「オッケー、わかった。わかりました。そこまで言うなら止めないわ。私がセコンドに入るわ。ガンプラも私のを貸してあげる」

「本当ですか?」

「その代わり、絶対に勝つわよ。いいわね!」

「もちろんです」

ポシェットからシナンジュを取り出して、私もアキちゃんの隣に立つ。目の前にいる高校生たちは3人とも怪訝そうな顔をしている。

もし負けたら。と思うと足がすくむ。きっと中学生たちみたいにバカにされるに違いない。それは怖いことだ。でも、初心者の後輩をそんな場に立たせるわけにいかない。しかも1人なら尚更のこと。だったら私も、ここは覚悟を決めよう。一緒に前に出るんだ。

『Gunpla battle combat mode, started up. Mode damage levels set to B. Please set your GP base.』

バトルシステムが稼働を始め、青白く輝き出す。今回は私のGPベースを使うため、アキちゃんの前にGPベースを置いた。

『Beginning palvsky particle this person. field 5 mountain.』

4人のベースが置かれたことを確認すると、システムはプラフスキー粒子を散布してガンプラたちの戦場を作り出した。フィールドは山岳地帯、斜面一帯の木々が切り取られ、あちこちに坑道が見えるここは「08MS小隊」に出てきた秘密基地をモチーフにしたステージなんだろう。

『Please set your Gunpla』

「あっ、ちょっと待ってください」

アキちゃんは私を引き止めた。今さらなんだろうと思っていると、カバンの中から小さな箱を取り出した。

その中に入っていたのは、ガンプラとほぼ同じ大きさの戦闘機だった。アキちゃんはそれを私に差し出した。

「これって使えませんか?」

「なにこれ、戦闘機?」

パーツを動かしてギミックを確認してみる。ミサイルランチャーとビームキャノンが2つずつ、それからソードストライクガンダムの対艦刀「シュべルトゲベール」を装備している。戦闘機にしてはずいぶんと豪華な武装だ。144/1サイズなのにも関わらず、キャノピーやスラスターなどの細かい部分まできっちり作り込まれている。

なんとなく機首部が動くような気がしたので折りたたんでみると、なんとそこからガンプラへの接続ピンが姿を表した。試しにシナンジュのバックパックを外して取り付けてみると、カチリと音を立てて固定された。

「うっそ、なにこれ。ストライカーパック? それともシルエットシステム?」

「私の友達がくれたんです。確か名前は、フラグメンツストライカー」

「へえ。その友達のことについても、また後で教えてね」

私は軽口を叩きながら、フラグメンツストライカーを装備したシナンジュをGPベースにセットする。ガンプラのプラスチックに粒子が反応してモノアイが怪しい音を立てて光る。そうそう、この音が堪らなくカッコいいんだ。これだからジオン系ガンプラはやめられない。

それはともかく、これでシナンジュを自由に操縦できるようになった。私の目の前にはガンプラの状態を表示するモニターが現れた。アキちゃんの方にはコックピットが展開されている事だろう。

「アキちゃん、目の前に黄色い玉があるでしょ? それを使えば操縦できるから」

『わかりました』

通信用モニター越しに顔を見てみると、以外にも緊張している様子はなかった。高校生たちを前にあれだけ言ってのけるんだから、それくらいの度胸はあるんだろう。ふと、どうして入部届けを出す時に使えなかったんだろうと不思議に思った。

『battle start !』

「よし。準備ができたら黄色い玉を押し出してシナンジュを出撃させて!」

『わかりました。シナンジュ、行きます!』

掛け声と同時にシナンジュはカタパルトから射出され、モノクロームのガンプラが勢いよく青空に飛び出した。バトルシステムのステージ再現度はとても高く、空だと流れる雲も本物のようにリアルに表現されている。

「しまった。景色に見とれている場合じゃなかった」

私はすっかり忘れていた自分のやるべきことを思い出した。

セコンドにはやるべきことはたくさんある。索敵や自身の機体の状況をチェックなど多岐にわたる。早速、私はシナンジュの機体データを確認した。バックパックを外してストライカーパックを付けてしまったので、機体のバランスが崩れてはいないかな。

「うっそ。なにこれ……」

機体の性能を示すバロメーターを確認して私は確然とした。おととい完成した時に確認した時よりもステータスの方が高くなっていた。特に機動性の部分は飛び抜けていて、基の機体にはなかった空中で浮遊する能力まで追加されていた。

「バックパックを付け替えただけでこれだけって。あの戦闘機、どんだけハイスペックなのよ」

この戦闘機兼バックパックを作ったというアキちゃんの友達は高い技術を持っているに違いない。

すると、甲高い警告音がコックピットゾーンに鳴り響いた。ついで山頂付近から幾条のビームが襲いかかってくる。私が避けるように支持を出す前に、アキちゃんはシナンジュを動かして全てのビームを回避した。すぐにメインカメラが撃ってきた敵の姿を映し出した。

敵は3機。両手にバズーカを装備し、ベースジャマーに乗っているのは「逆襲のシャア」で始めて登場したジェガン。右にいるのは「ガンダムSEED ASTRAY」のアストレイレッドフレーム。バックパックはフライトユニットではなくエールストライカーに換装してある。そして左に控え、ビームライフルを構えているのは「ガンダムビルドダイバーズブレイク」のシャイニングガンダムブレイク。さっきのビームはこのブレイクから放たれたに違いない。

『さっきはよくもボロクソに言ってくれたよなぁ。だから、ラクには終わらせねえぞ!』

シャイニングブレイクのファイターから脅しにも似た罵声が送られてきた。それと同時に、ビームライフルを乱射しながら迫ってくる。それの後を追うようにアストレイ、ジェガンと続く。

「今の声で萎縮してないかな」

気の弱いアキちゃんのことが心配になり、モニターを接続してみる。しかし顔は冷静そのもので、しっかりと相手の動きを見ているようだった。どうやら心配する必要はなさそうだ。もしかしたら、彼女はバトルの時になると気が強くなるのかもしれない。

いや、そもそも。基本的な動かし方やバトルの説明をするためにセコンドについたのに、なんの説明も無くとも十分にガンプラを動かしていることの方が驚きだ。

「あれ、ちゃんと動かせてる?」

『はい。このシナンジュ、とっても使いやすいです! 私の思うように動いてくれます!』

そう言いながら、アキちゃんは巧みにシナンジュを動かしてビームの雨を避けている。後ろからジェガンとアストレイの援護射撃もあったが、それも含め軽やかな動きで避け続けている。

『ちきしょう、ちょこまかとぉぉぉぉぉ!』

シャイニングブレイクはビームライフルを投げ捨ててビームサーベルを抜き放つ。投げたライフルは後ろにいたレッドフレームがキャッチし、2丁流の形で打ち始めた。

言動こそ乱暴だけど、動きもいいし連携もしっかり取れている。中学生たちに完封勝利するだけの実力はあるようだ。

アキちゃんはシナンジュの盾に付いているビームアックスを展開すると、あろうことかバーニアを全開にして、自分から援護射撃のビームの中へと突撃し始めた。

メインカメラを覆うようにビームが降り注ぐ。実際にはガンプラ目掛けて撃っているのはわかっているが、反射的に声が出てしまった。

「うわあああああ! ダメダメダメ!」

その間にも、シナンジュはどんどんスピードを上げていく。しかも、驚くべきことに1回も被弾していない。それどころか、あのキラ・ヤマトのようにライフルのビームをアックスで斬り払いながら進んでいく。

「(こ、こんな神がかった回避の仕方、とてもじゃないけど初心者ができることじゃない。もしかして……)」

何も言わずとも楽々シナンジュを動かして見せたり、今のようにビームを斬り払ったり。こんなことが出来る初心者がいてたまるか。ふと、頭の中に1つの可能性が浮かんできた。確かに、これはひょっとしなくても、ひょっとしないかもしれない。

「(ガンプラ作ったことないって言ってたけど、この子は間違いなくガンプラバトルをしたことがある。そうじゃなきゃ、いろいろと説明が付かない)」

斬り払いながら進んでくるのを見て、シャイニングブレイクの動きに一瞬だけ隙が出来た。サーベルを振りかぶった状態でこちらに向かってくる。これはバトルに不慣れな私が見ても、明らかな狼狽えだとわかった。

『これで、まずは1機!』

アキちゃんはそれを見逃すはずもなくさらに加速。サーベルが振り下ろされるよりも前に、剣道でいう胴の形で、シャイニングブレイクの胴体を両断した。しかもそのままビームライフルとバックパックのビームキャノンを斉射し、レッドフレームの持つ2つのビームライフル、それから右足を破壊した。

『う、嘘だぁぁぁ!?』

『これで2つ!』

そういうとミサイルランチャーから小型ミサイルを発射する。バランスを失ったレッドフレームに、容赦なくミサイルが襲いかかり、赤いガンプラを木っ端微塵に破壊した。もともとアストレイシリーズは装甲が薄いことで有名な機体、当たりどころが悪ければミサイルの数発で落とせてしまう。アキちゃんはガンダムの知識は無いと言っていたけど、そのことも知ってたのだろうか。

瞬く間に僚機を落とされ、ジェガンのファイターが「あっという間に2機!?」と叫んだような気がした。その雰囲気を感じ取ったのか、アキちゃんはさらに言葉を続ける。

『驚くのは、まだ早い!』

ジェガンに向けてビームライフルを撃たせると、再びミサイルを発射する。放たれたミサイルは白煙を吐きながらロックオンされた獲物を目掛けてどこまでも追いかけていく。結果、ジェガンはバズーカ1丁と左手を犠牲にすることで生きながらえた。これで反撃ができると思っているだろうが、残念ながらその命もすぐに尽きる。逃げた先には、シュベルトゲベールを担いだモノクロームのガンプラが、モノアイを煌々と光らせて待ち構えていた。

ジェガンがミサイルに追われている間、アキちゃんは逃走先にシナンジュを先行させていたのだ。すでに右手には、最後の獲物を倒すための剣が握られている。

『たあぁぁぁぁ!』

叫び声とともにシュゲルトゲベールを振り下ろした。一振りで戦艦をも切り裂く長刀は、ベースジャマーごとジェガンを真っ二つに切り裂いた。2つに別れた残骸は弧を描きながら墜落し、山に2つの赤い花を咲かせた。

爆炎をバックに、シナンジュは持っていたシュベルトゲベールを収納して、緑色のモノアイを輝かせた。これで3機撃墜。それはまるで、雷の訪れを知らせる稲光のような一瞬のバトルだった。

 

 

「こ、これでいい気になるんじゃねーぞ。ぜってぇ仕返しするから、絶対に覚えてろよ!」

私たちがバトルシステムから出てくる前に、高校生たちは捨て台詞を吐いて姿を消していた。なんて見事なまでの小悪党っぷりだろう。逆に関心するよ。

「な、なんとか勝てましたぁ。よかったです……」

私の後からのんびりと出てきたアキちゃんは、額の汗をぬぐいながら安堵の表情を浮かべる。いやいや、何が「なんとか勝てた」だ。ただの一度も被弾せずに3機撃墜、これを余裕の完封勝利と言わずに何というのか。

一息つきたいところだったけど、休む間も無くバトルを見ていた子供たちがアキちゃんの元に詰めかける。やれ「どうやったらあれだけ強くなれるの?」とか「どこかでガンプラバトルやってた?」「ぜんっぜん初心者ちゃうやんけ、最高やわ!」と質問攻めに会い、瞬く間に人の波に埋もれて消えていった。しかも最後の質問者は部長だ。子供に混じって何やってんだか。

「お疲れ様。なんとかなって良かったわね」

「あっ、ミサキ先輩。ありがとうございます」

先輩は腕を組んで微笑んでいた。その手にはタオルとペットボトルが握られてる。それを見つめてるのがわかったのか、先輩はハニカミながら答えてくれた。

「備えあればなんとやら、だったんだけど。あの子も疲れてるだろうに、質問なら後日改めてすればいいのに」

「全くですね。少しはあの子のことも考えて欲しいです」

ぎゅうぎゅう詰めになっていることだろう。そろそろ助けに行かなきゃ、と思った瞬間。

「そこまでにしたまえ。彼女の存在にに心奪われたのはわかるが、しつこくて諦めが悪いとなると、私のように人に嫌われる存在となる」

聡明な声がラビアンローズの店内に響いた。声がした方向に目を向けると、そこにいたのは金髪の外国人だった。一見、海外のタレントかと見間違える端正な顔をしている。アキちゃんと取り囲んでいた子供たちは、見ず知らずの青年の登場に驚いているだろうが、私は別の意味で驚いていた。

「ちょっと、なんでハム先生がいるんですか!?」

「これも備えあれって思って。ほら、負けちゃった時のために……」

私たちとあの人は教師と生徒の関係だ。彼はグラハム先生、我が青華学園英語科の教師にして、ガンプラ部の監督を務めている人だ。新任教諭ながらわかりやすさとそのルックスで、女子生徒を中心に大人気の先生だけど、本人の言う通りしつこくて諦めが悪いところが嫌われている。私も少し苦手なタイプの人だ。

「君が、我が部への入部を希望している子だね」

「あっ、はい。そうです」

「ならば歓迎しよう。ようこそ、ガンプラファイター!」

そういうとハム先生はピシッと背筋を正して敬礼した。それに合わせて、アキちゃんも同じように敬礼で返した。いやいや、何も便乗しなくてもいいのに。

「いや、それとも『翡翠の雷光』と呼んだ方がいいかな?」

そう告げられると、アキちゃんは恥ずかしそうに顔を背けた。いやいや、今のどこに恥ずかしがる要素があるんだろうか。名前の響きは確かに中二病っぽくて少し恥ずかしいけれど。部長とミサキ先輩にも視線を送ってみたが、2人とも首を傾げるだけで何も知らないようだった。全く意味がわからない。ハム先生が言った『翡翠の雷光』って、一体なんのことだろうか。




1週間ぶりですね。2話が完成して本当によかったです(小並感)
はやくも相手のガンプラのネタが切れそうなんですけど、どうしましょうか。ちなみに本作では「ビルドダイバーズ」シリーズは劇中劇として取り扱っています。ご了承ください。


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モモヤマ・アキの正体

はーい二週も遅れました。いやダメダメですねー、これからもちゃんと書きます。


例え完璧な計画を立てていたとしても、様々な要因が重なり合って計画が台無しになるのはよくあることだ。今回の場合だと新入部員の勧誘がそれに当たる。待望の新学期が始まり、頑張って勧誘活動をした。にも関わらず我がガンプラ部への入部希望者は全く増えなかった。現段階で新入部員は一名。その唯一たるアキちゃんもおとといから新入生オリエンテーション合宿に参加していて不在、確か日程は3泊4日のはずだから、次に来るのは明日以降になるだろう。

個人的にはあんな合宿になんか参加せず部室に来て欲しかった。朝早くから集合して学校に関するお話によくわからない説法、宿舎はボロいしご飯も美味しくない。その上、朝早くから班ごとに山登りまである。マジでガチであれはただの時間の無駄だと思う。だけれどあれは基本的に全員参加だから仕方がない。

だから今日も、ガンプラ部の部室には私と部長、それからミサキ先輩の3人としかいない。いわゆるいつものメンバーってことだ。

「アキちゃんには色々と聞きたいことがあったんやけどなぁ……」

部長はパーツにヤスリをかけながらボソリと呟いた。もうすぐ選手権の予選が近いということがあって、そろそろバトル用のガンプラを仕上げておく必要がある。私も前回のバトルで使用したシナンジュをチェックしている。ダメージレベルが低いバトルだったからといっても、バトルをすればどこか消耗するパーツもあるから、一通りのチェックは必要だ。バックパックには例のフラグメンツストライカーが接続されたままだ。

「部長の聞きたいことって、彼氏の有無と中学時代の話でしょう? そういうのはまた別の機会にしてくださいよ」

「いやいや、それは重要なことやで。これからアキちゃんと一緒に戦っていくんやから、そういう昔のことも話せるような親密な関係を築いとかなアカンやん。わかるやろ?」

ヤスリを片手に持ち前のエセ関西弁で語りかけてくる部長。私は2度、首を横に振って答えた。

「一緒に戦っていく。ってところには共感しますけど、それ以外は全く意味がわかりませんね」

「割って入るのもどうかと思ったけど、私もアカリに同感ね。最初に聞くことはそれじゃないでしょう?」

ミサキ先輩の援護射撃もあって、部長の意見は見事に打ち砕かれた。男子としては気になることかもしれないけれど、私にとってそれはどうでもいいことだ。ごめんなさい。私としては優先して聞くべきことが他にあるんだ。

「結局、ハム先生が言ってた『翡翠の雷光』ってなんだったんですかね?」

私は一番気になっていたことを口にした。

ラビアンローズで一悶着あった後、ハム先生の一声でガンプラ部の部員は解散することになり、あの異名のことについて詳しいことが聞けなかった。こういう時に本人が居ればよかったんだけど。

「そんなんネットで調べや」

「調べましたけど、ゲームの攻略サイトが出てくるばかりで特にそれらしい情報は出てきませんでした」

「マジか。ネットにも載ってへんのかいな。ミサキちゃんは知っとるか?」

「ええ。この雑誌に載っていたわよ」

ミサキ先輩はそう言うと、読んでいた雑誌を私たちにも見えるよう机の真ん中においた。それは『hobby hobby』という全国的にも有名な模型雑誌だった。ここでは世界で活躍するプロのビルダーや有名なファイターらが様々な作例を出していることで人気を博している。

ただ、広げているのは有名所の作例紹介のページではなく、去年のガンプラバトル選手権決勝トーナメントの大会レポートだった。トーナメント表や三代目メイジンカワグチの好評など、大会関係の記事は全てカラーページで紹介されている。

「これの名バトル紹介のところ、よく見て」

先輩は『本大会の名勝負紹介』と銘打たれたコーナーを指差した。そこには大会で行われた全バトルの中から、編集部の投票で選ばれたバトルを名勝負と名付けて紹介するコーナーだった。ミサキ先輩の指は第3位にランクインした勝負に向かって伸びている。

それは全国大会の準決勝第1試合の写真だった。対戦カードは西東京代表の聖鳳学園「トライ・ファイターズ」と京都代表の叢雲学園「ラ・スパーダ」で、赤いガンプラと緑のガンプラが剣を交えているところを捉えていた。

「叢雲学園? そんな学校聞いたことないで」

「5年くらい前は強かったところよ。最近はあまり全国大会に出てなかったみたいだけれど、去年から急に強くなったみたいね」

私は改めて、この写真に目を落とす。赤いガンプラの方には見覚えがある。真っ赤なボディに太陽のような炎のエフェクト、腰には刀を提げて肩には「神」の文字が入っているこのガンプラは聖鳳学園のエース、カミキ・セカイのガンプラ「カミキバーニングガンダム」だ。けれど、もう片方のガンプラには見覚えはない。緑色の装甲を身にまとい両手に大剣を携えている。特徴的な背中のXスラスターと胸のドクロマークから「クロスボーンガンダム」の改造機じゃないかと思う。

「これはクロスボーンガンダムD(ドライブ)っていうガンプラよ。叢雲学園側のエースが使っていたらしいわ」

やっぱり、これはクロスボーンの改造機だったか。身にまとった装甲はガンダムOOに登場するガンダムエクシアのバリエーション機、ガンダムアヴァランチエクシアダッシュの「アヴァランチダッシュユニット」だろう。これを使えば、ただでさえ速いクロスボーンガンダムはもっと速くなるだろう。それに両手にはX3のムラマサブラスターに似た大剣を装備している。間違いなく機動力を活かした近接戦闘が得意な機体のはずだ。

「緑色のクロスボーンガンダム。確かに翡翠のようにも見えるなぁ。けど、そこれとアキちゃんとはなんか関係あるんか?」

「大有りよ。そこから3ページめくって。クロスボーンD(ドライブ)のファイターがインタビューに答えてるから」

言われた通りにページをめくると、そこには確かに叢雲学園へのインタビュー記事が掲載されていた。そして、その一番下の欄に小さく書き込みが入れてあった。

「これって、アキちゃん?」

私は小さく呟く。インタビューに答えていたのは私たちがよく知る少女、アキちゃんだった。正直なところ、彼女は経験者だと思っていた。バトルシステムの操作は手馴れていたし、ガンプラの操縦も素人みたいな無茶苦茶な動かし方ではなかった。まあ、色んな意味で無茶苦茶ではあったけれど。それがまさか全国レベルのチームで、しかもエースファイターとして活躍していただなんて全く知らなかった。どうせなら言ってくれればよかったのに。

「中学3年生でこれだけの成績を残せるなんて凄いですよ」

「アカリの言う通りや、これならたった1人で3体も倒せるのも納得やな」

シンジ先輩も目を丸くしてインタビュー記事を見つめている。無理もないだろう。だって、入部の時、あんなにオドオドしていた子がこんな有名人だったなんて。普通はそう思わないよね。

その時、部室のドアを開ける音がして、背後からドスの効いた声が響いた。

「誰が、たった1人で3体落としたって?」

振り向くと、そこには学ランを着たガラの悪そうな男がいた。見た目の通り、我が校随一の不良であり我がガンプラ部で唯一の武闘派であるカイタニ・ヒロ先輩だった。そういえば、新学期が始まってからヒロ先輩は一回も部活に来ていなかった。だからアキちゃんのことを知らないんだ。血の気の多い先輩の目に留まったとなればきっとバトルを挑もうとするに違いない。残念ながら、当の本人は不在なんだけどね。

「よぉヒロ。ひっさしぶりやな、春休みは元気にしとったか?」

「よく言うぜ、休みの間中ずっとメールしてきたくせに」

「なはは、そういえばそうやったなぁ」

「あんた達、ずっとメールしてるとか、本当に仲いいのね」

「こっちはいい迷惑だよ。ったく」

ブツブツと文句を言いながら、ヒロ先輩は私の隣に腰掛けた。

これは以前、ミサキ先輩から聞いたことだけど、どうやらあの2人は同じ中学出身で、同じ模型部に所属していたらしい。それだけ長い期間を一緒に過ごしてきたんなら、これだけ仲がいいのも頷ける。

「それで、さっき言ってた3人落としたヤツってのはどいつだ?」

ヒロ先輩はアキちゃんの顔写真を見ると、少しだけ不機嫌そうな顔になった。

「ああ。この子ですよ。インタビュー記事の一番最後に載っている子です」

「こいつがかぁ? ずいぶんとナヨナヨしたヤツじゃねぇか」

「それでも腕は確かですよ。聖鳳学園のカミキ・セカイとちゃんとしたバトルができるくらいには」

カミキ・セカイは間違いなく、現役学生ファイターの中で最強と言える男だ。2年前の大会では初出場ながらも数々の強豪校を打ち破り、無敵といわれたガンプラ学園からも勝利をもぎ取った。それに去年の大会でも輝かしい戦績を挙げている。地区大会を合わせて被弾したのはほんの数回、決勝では清炎学園「炎トライ」のエース、フリーダムガンダムトライフェーダーと炎のエフェクトがぶつかり合う熱いバトルを繰り広げたらしい。私は実際に見ていないからよく知らないけれど、見に行ってた人は口を揃えて言っていた。曰く「カミキ・セカイは化け物だ」と。

そんな化け物とまともな勝負ができるのだから、本気の彼女はかなり強いはずだ。だけどヒロ先輩はまだ納得していないようだ。これらの情報では足りないらしい。

「そいつは分かる。インタビュー記事や写真を見ればすぐにな。けど、俺は実際にこの目で見ていない。憶測や推測だけで判断しねぇ主義なんだよ」

確かにそれは殊勝な考えだけど、確かめられる対象からすればたまったものじゃないよね。ある意味、いきなり喧嘩を売られるようなものだ。もしかして先輩が不良扱いされるのはそこに問題があるんじゃないかな。

「でも先輩、1年生は3泊4日の合宿中ですよ。明日まで帰ってきません」

「何言ってんだ。ウチのオリエンテーション合宿は2泊3日だ。帰ってくるのは今日だって、職員室のホワイトボードに書いてたぞ」

「ええっ!?」

あの合宿ってそんなに短かったっけか。なにぶん嫌な思い出しかなくって記憶の中から抹消しかかっていた事だから、細かい日程なんかよく覚えていない。

「ってことは夕方になりゃ会えるってわけだな。よし、待つぞ」

「え〜、待つんですか。明日じゃダメなんですか?」

「今日やれることはなるべく今日中にやる。これも俺の流儀だ」

そういうとヒロ先輩は、カバンからガンプラの箱と自前の工具類を取り出した。完全にここで作業する気満々だ。こうなってはもうダメだ。この人が待つと言ったのなら滅多なことがない限り自分の行動を変えようとしない。良いように言えば意志が強いと言えるけど、悪く言えばわがままだってことだ。私は後者だと思う。

私としても別に待つのは構わない。けれど今はまだ3時になったところだ。いつ帰ってくるかわからない1年生を待つのは少しだけ、少しだけめんどくさく感じる。あーあ、早く帰ってこないかな。

 

結局、1年生の解散を待つこと約2時間。帰ってきて少し疲れた顔をしているアキちゃんを拉致するような形で模型屋「ラビアンローズ」へと引っ張ってきた。一応、彼女のガンプラを預かっているという名目で着いてきた。その道中、半泣きになりながら引きずられていくアキちゃんを見ているとギュッと心を締め付けられた。私は全く関係ないのに悪いことをしている気になる。

その罪悪感は私と一緒にきた部長とミサキ先輩にも伝染しているようだった。

「まさか読んで字のごとく、首根っこ掴んで引っ張ってくるとは思わんかったわ。ありゃ人間を運ぶというよりも、キャリーケースか何かを引っ張ってる絵面やで」

「警察の人に合わなかったのが不幸中の幸いね。本当、彼女には悪いことをしたわ」

2人とも後悔の言葉を口にしている。私も勇気を持って止めればよかったんだけど、あの時のヒロ先輩はどこか禍々しい殺気のようなものを出していて、とても近づける雰囲気じゃなかった。

当事者であるアキちゃんは今、バトルシステムに寄りかかって座り込んでいた。こちらも話しかけづらい状態ではある。いやいや、ここは先輩としてちゃんとフォローしておかないと。

「ごめんねアキちゃん。事情も説明しないで拉致っちゃって」

「ホント、勘弁して……ください。心臓に……悪いです」

アキちゃんは肩で息をしていた。顔は恐怖で強張っていて目尻には涙が溜まっている。見知らぬ強面の先輩に、いきなり拉致されるのがどれだけ怖かったか。その恐怖は彼女のひどい表情が物語っている。

先輩も流石にやり過ぎたと感じているのか、申し訳なさそうに顔をぽりぽりと掻いている。

「あー、その、なんていうか。ここまで怖がらせるつもりじゃなかったんだ。悪りぃ」

「ふ、ふつうに……ガンプラバトルしたいって、言ってください。次……からは」

「お、おお。次からは絶対にだ。約束する」

「それなら、大丈夫です。それじゃ、始めましょうか」

アキちゃんの息が整ってきたところで、2人はガンプラバトルの準備を始めた。今回の観客は部長とミサキ先輩の2人だけと少々寂しいけど、このバトルは見世物じゃない。どちらかと言えば隠さなきゃいけない情報だから、観客がいないのは逆に都合がいい。

青い粒子が放出されて、コンソールとフィールドを形成していく。今回の舞台は宇宙、無数の資源衛星が立ち並ぶ火星と木星の間にあるアステロイドベルトだ。

アキちゃんはガンプラを筐体にセットした。今回使用するのも私のシナンジュにフラグメンツストライカーを装着した機体だ。今回はちゃんと、こいつの名前も考えてきてある。やはりちゃんとした名前がないと呼びにくいし、テンションも上がらないからね。

「フラグメンツストライカーを装着したシナンジュだから。シナンジュFカスタムってところかな」

『何ですかそれ?』

「そのガンプラの呼び名よ。こういうのはちゃんとしとかないと愛着わかないし」

『そういうのはよくわからないんで、先輩に任せます』

「じゃあ、これで決定ね」

私はタイピングキーを呼び出して機体名称を「シナンジュFカスタム」へと変更する。

こちらの準備は整った。ヒロ先輩もガンプラの準備が終わったらしく、バトルスタートのアナウンスが鳴った。

「それじゃ、今回もしっかり勝っていこうね。相手は先輩だけど遠慮しなくていいよ」

モニター越しに頷いたアキちゃんを見て、私も心をバトルモードに切り換える。ヒロ先輩はビルダーとしても、ファイターとしても腕の立つタイプだから決して油断できない。それだけに気をつけていきたい所だ。

去年の先輩を知っているだけに、私がしっかりとアキちゃんのサポート役を全うしなければならない。それは胸に刻んでおこう。

「それじゃあ行くよ。オキタ・アカリ」

『モモヤマ・アキ。シナンジュFカスタム、行きます!』

カタパルトから射出されたシナンジュは真っ暗な宇宙空間に飛び出した。そのまま速度を上げて資源衛星の隙間を縫うように移動していく。相変わらず、ガンダムのエースパイロットがやるようなことを平然とやってのけるなぁ。

彼女のテクニックに感心しているとシナンジュのカメラが相手のガンプラを捉えた。望遠カメラで拡大してみると、そこに映っていたのはずんぐりむっくりな2頭身のガンプラだった。ヒロ先輩が使うのは魔弾王フラウロス。SDガンダムのガンダムフラウロスを改造した、マントとコートを着用している珍しいガンプラだ。

『先手必勝。挨拶がわりに喰らいやがれ!』

フラウロスの右手に装備しているミサイルランチャーから、何発ものミサイルがこちらに向けて迫ってくる。それをバルカン砲で迎撃すると、お返しとばかりにビームライフルが3回火を吹いた。けれど撃墜のシグナルは出てこない。この程度じゃ流石に倒せないよね。

戦いの火蓋は切られた。今の私には彼女のサポートくらいしかできないけれど、それも立派なビルダーの仕事だ。私たち2人とシナンジュで、このバトルを勝ちに行くんだ。




あとがきって何書いたらいいですかね?リクエストとか募集してみようかな?


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