FALL OUT GIRLS (WarBoss)
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Mojave Express

ドルフロにFallout: New Vegasぶち込めたら面白そうとかいう、そういう妄想から生まれました。



 どうしてこうなった……

 

 UMP45は今の状況に必死で思考をまわす。

 今まで無理難題や危険な任務をやってきて多少なりとも404小隊が危機的状況に陥ったことはあった、あったが……

 

『……近距離ラインまで接敵された、しかもステルスも入り混じってる』

 

「光学迷彩ステルスなんて! ただの一端運送会社とは違うとは思っていたけど……!」

 

『チッ! ダミーを連れて来ればよかった!』

 

 416が今更遅い悔やみながらの台詞を吐いているのが聞こえる。

 

「416、G11! 接近してる敵を優先! 近接攻撃主体だから遠距離の敵はとりあえず無視!」

 

 そもそも情報ではモハビ・エクスプレスの人員はごく少数で戦術人形もいないという、今回の任務はそれぞれ404小隊のオリジナル一人ずつでよかったはずだったのだ。

 実際に情報をもとに待ち伏せをしてモハビ・エクスプレスの人員を銃で脅しつけて目標の輸送物を奪って終わりだったはずだったのだが……

 

『45姉! アイツの姿が見えない!』

 

 焦った様子のUMP9が情報を伝えてくる。

 

 ……どうすればっ!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モハビ・エクスプレス?」

 

「そうよ、その会社が運送してる何かってのが今回の作戦標的よ」

 

 ヘリで輸送中の404小隊は作戦直前でのブリーフィングをしている途中、聞き慣れない名前だと思った416の質問にUMP45が答えた。

 

「初めて聞いた名前だけども、グリフィンとI.O.Pが雁首揃えて指令してくるってのはなかなかないよねー」

 

「どうでもいいから、早く終わらせて寝たい……」

 

 他の404小隊のUMP9が座席で足を投げ出しながら言い、その向かい側のGr G11は興味ないといった風に眠たげに言う。

 

「最近になって名が出てきた会社よ、モハビ・エクスプレスは正規軍やPMC相手に大量物資輸送を受け持つような会社とは違って、直接依頼主から貴重品等を秘密裏に輸送することを主としている会社みたいね」

 

 説明を続けるUMP45、404小隊はG&K、つまりはPMC会社であるグリフィン&クルーガーの暗部部隊として度々駆り出されているが、そのせいか全員指示に対して真摯な対応をしているとは言えなかった、指示を担当するUMP45本人ですらも。

 

「グリフィンとI.O.Pからの直接指示って45姉、これ絶対ろくなことにならない任務だよね」

 

「まぁ、そんな予感はするわね……いつものことだけど」

 

 そんな会話をする人形たちを輸送しながらヘリは目的地の鉄血との抗争で廃棄された市街地へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地の旧市街地へヘリで降り立った四人はそれぞれのポジションへ移動する。

 今いる旧市街地はかつての第三次大戦での核攻撃で放射能汚染された為に放棄され、汚染は低濃度ではあるがいくら自分たちが人形だからといって長居はしたくない場所だ。

 

「基地に帰る前に除染させてくれないかしら」

 

 人形とはいえ放射線がまったく影響ないというわけではない。

 UMP45は独り言ちながらじっと周囲を警戒する。

 今回の作戦は待ち伏せだ、情報によるとモハビ・エクスプレスはこの旧市街地を通過していき、目的地はI.O.P本社らしい。

 

(お互い任務指示にI.O.Pが直接絡んで目的地もI.O.Pと…… 事情は知るつもりはないけどご愁傷様ね)

 

 だまして悪いが、なんて自分たちの仕事柄よくある話だ。

 

『……たぶん標的だと思うのが近づいてるよ ……ふぁ』

 

『今寝たらマジでそのまま置いてくわよ』

 

『言われなくてもわかってる……』

 

 G11の眠そうな声と416の釘を刺す声が通信越しに聞こえてくる。

 続いてUMP9からの通信が入る。

 

『45姉、こっちも目標を視界にとらえたよ』

 

「OK それじゃ作戦開始といこうかしら」

 

 

 

 404小隊が待ち伏せている旧市街地に現れた人物は一人だけだった。

 いや、正確には一人と一体と一匹だった……

 

 一人は厚手のロングコートを着込んでいてコートの隙間からはコンバットアーマーらしいものを装着しているように見え、頭部はヘルメットとフルフェイスのガスマスクを装備しており側頭部には補助用のセンサーアイらしきものが取り付けてあった。

 全体的に使い古しの装備なのかところどころ修復の跡がみられ、ヘルメットなどは何か落書きがされているようだった。

 

 一体はおそらくはドローンか鉄血製のスカウトのようなロボットだろう。

 人の頭より一回り大きなサイズの丸いボディーにセンサーやアンテナが取り付けられ浮遊している、こちらも少し古ぼけたようで金属製のナンバープレートが張り付けてあった。

 

 そして一匹は犬だった。

 ……いや、犬とはわかるのだがどうにも普通ではない、体半分が機械化されており四肢もそのまま生身なのは前足一本だけ、そして更に普通ではないのは頭部だ、脳味噌が半球状のクリアケース内部で保護されて浮かんでおり丸見えなのだ。

 

 

 

 この一人と一体と一匹が404小隊と対峙したのが最初の出会いだった。

 




連載になったらこれがプロローグになるんでしょうね。

追記:なってしまいました。後の話を繋げるため修正しています。


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Cross Road Blues

クエスト追加

□輸送物をI.O.P本社に届ける

□(オプション)404小隊の戦力を無力化する


 核汚染で放棄された旧市街地を三つの影が進んでいく。

 正確には一人と一体と一匹だが……

 

 一人は厚手のロングコートを着込んでいてコートの隙間からはコンバットアーマーらしいものを装着しているように見え、頭部はヘルメットとフルフェイスのガスマスクを装備しており側頭部には補助用のセンサーアイらしきものが取り付けてあった。

 全体的に使い古しの装備なのかところどころ修復の跡がみられ、ヘルメットなどは何か落書きがされているようだった。

 

 一体はおそらくはドローンか鉄血製のスカウトのようなロボットだろう。

 人の頭より一回り大きなサイズの丸いボディーにセンサーやアンテナが取り付けられ浮遊している、こちらも少し古ぼけたようで金属製のナンバープレートが張り付けてあった。

 

 そして一匹は犬だった。

 ……いや、犬とはわかるのだがどうにも普通ではない、体半分が機械化されており四肢もそのまま生身なのは前足一本だけ、そして更に普通ではないのは頭部だ、脳味噌が半球状のクリアケース内部で保護されて浮かんでおり丸見えだった。

 

 このグループ、モハビ・エクスプレスの運び屋【クーリエ・シックス】とアイボットと呼ばれているロボット【ED-E】、そしてサイボーグ犬であるサイバードッグ【レックス】は旧市街地を通過しようとしていた。

 

<! ──!>

 

 旧市街地の荒れた十字路を横切ろうとしたときED-Eは短い警告音と強めのビープ音を鳴らし進むのをやめた。

 

「ウゥゥゥ~! ワンッ!」

 

 レックスも続いて唸り声を上げて吠える。

 

 運び屋は片手を上げてED-Eとレックスを宥めて、左腕に装着されたデバイスPip-Boy 3000のディスプレイを確認すると、どうやらこの先で敵対反応のある何者かが待ち伏せをしているようだと分かる。

 ああ、そんな情報も聞いていたなとこの先の相手をどう対処するか考える。

 相手はまだこちらには気づいてはいないようだが、敵対反応は4つ……確か404小隊は四人でチームだったと聞いていた運び屋は戦術人形お得意のダミーはいないと理解し、ならこちらも()()()()()()()()のだしなんとかなるだろうと、根拠もなく楽観的に考えた後にまた歩みを進めるのだった。

 

 

 

「さぁって、早くこんな任務終わらせて帰りたいところだけども」

 

 UMP9はそう軽く言いながらも廃墟ビルのガラスのない窓口から監視を続けていた。

 ビル内部の部屋は荒れ放題で窓にはめられていたであろうガラスも床に散らばっている。

 

「こんな汚染地帯にいたんじゃ、帰ってすぐ指揮官に近づくこともできないよ……」

 

 ここは放射能に塗れた土地、人形である自分たちはともかく人間である指揮官には微量な放射線でも毒になる。

 今この世界の人間は昔に比べ大きく減少している中で、少しでもリスクのあることは避けるべきだ。

 

「きっと指揮官は気にせず迎えてくれるんだろうけど、そんなことさせられないしね」

 

 そう言いつつUMP9の顔はすごく嬉しそうだった。

 今所属している基地の指揮官の顔を思い浮かべ、そしてその隣には姉のUMP45が本当の笑顔でいる……そんな光景を思い出したからだ。

 あの45姉が心を開いているそれだけで嬉しい、いやあれは多分ベタ惚れだと思う。

 

「45姉も思わせぶりな態度で誤魔化さないで、もっとアピールすればいいのに、AR小隊の奴らも最近グイグイきてるし」

 

 そんな一人言をブツブツと言っているところに通信が入る。

 

『……たぶん標的だと思うのが近づいてるよ ……ふぁ』

 

『今寝たらマジでそのまま置いてくわよ』

 

『言われなくてもわかってる……』

 

 G11と416から通信、ついに接敵するようだ。

 しばらくするとUMP9もそれらしい影が視界に入った。

 

「45姉、こっちも目標を視界にとらえたよ」

 

『OK それじゃ作戦開始といこうかしら』

 

 通信をした後、UMP45の合図がでた。

 UMP9の役割は416とG11が目標に対して銃を突きつけて脅しという名の交渉をしている間の周囲の監視、それに失敗した場合の援護射撃だ。

 

「りょーかーい、じゃあさっさと終わらせようっと」

 

 笑顔でしかしながらも油断ならない目付きで銃を構え、UMP9は416とG11コンビとモハビ・エクスプレスとの対面を見守っていた、その時だった。

 

 ──パキッ

 

「っ!?」

 

 UMP9は振り向き外への監視から自分のいる屋内の警戒に一瞬で切り替える。

 音がした、ガラスが割れる音、いや部屋中に散乱している割れた窓ガラスの破片を踏み砕いた音だ。

 だが部屋には誰も……

 

 いや微かに揺らめく何かが──

 

「うちの子達には手を出させないよ!!」

 

 その野太いガラ声を聞いた瞬間、UMP9は強烈な衝撃を喰らって壁に叩きつけられた。

 

「ぐぁ カハッ!?」

 

 UMP9の口から人工血液が吐き出され、痛みを検知するエラーがいくつも警告する。

 

 そして揺らめく何かが正体を露わにした。

 その姿は青い肌をした巨漢で、ボロの麦わら帽子とサングラスゴーグルそして手にはUMP9を殴りつけた武器であろうヘリコプターのプロペラを繋ぎ合わせたような大きなブレードを持っていた。

 

「ッE.L.I.D感染者!?」

 

「ああ、わかってるよ! レオの言う通りにこのお人形ちゃんをバラバラにしてあげるよ!」

 

 なにかしらの通信をしているのか、いや自分に言い聞かせてるように話しながら青い肌の巨漢はUMP9に対してブレードを振り下ろそうとする。

 だがUMP9は口元の人工血液を袖で拭うと笑顔で言ってやった。

 

「足元に落とし物だよ」

 

 その瞬間、巨漢の足元に転がっていた閃光手榴弾がすさまじい光と音をたてて爆発! 

 

「!? なんだい!? これはどうなってるんだいレオ!?」

 

 サングラスゴーグルのせいで閃光による目潰しはあまり効果がないようだったが、同時に発せられた轟音は十分効果があったようで青い肌の巨漢はパニックに陥っていた。

 UMP9も咄嗟に目を瞑って耳を塞ぎ防御し、多少音を防ぎきれなかったが普段から使い慣れていた為、すぐさま立て直して自身の半身であるサブマシンガンUMP9を向け引き金を引こうとする。

 

「聞こえない 聞こえないよ! レオの声しか聞こえない、どうしちまったんだい!?」

 

 だが、パニックを起こした青い肌の巨漢は叫びながらステルス状態になり部屋から姿を消したのだった。

 暫くすぐ撃てるように銃を構えながら警戒するがあの巨漢のいる気配がない、どうやら逃げたと判断したUMP9は緊張が解けて壁を背にずるずると姿勢が崩れ落ちた。

 

「……とりあえず退いたのかな ……ゴホッ やばいなぁ、一撃でこれかぁ」

 

 あの得物で殴りつけられたからまだよかったが、もしあれで切りつけられていたら今以上の危機か終わっていたことを思うとまだ運がよかったのかもしれない。

 ……もしくは相手に手加減されていたのか。

 

「とりあえず、監視の続きと45姉に報告しないと……」

 

『9!? 一体何があったの!?』

 

「ごめん、敵の奇襲を受けて一発もらっちゃった。 相手は光学迷彩を使ってた、45姉も他の二人も注意して」

 

 UMP9がそう言いながら部屋の窓口から外を覗こうとした瞬間、犬の鳴き声と行進曲のような音楽が聞こえ、その直後に416とG11の鳴り響く銃声を耳にした。




更新も遅くて短いですが、ある程度書けた分を早めに投稿してその後まとまりそうだったらそれぞれ統合しようかと思います。

ドルフロ知ってる人前提で書いていますが、Falloutに関しては知らない人にはわかりにくくならないように心がけて書こうと思っています。
この用語とかわからんとかわかりにくいかなっていうのは報告くだされば後で訳注なり後書き解説しようかと思います。



【Pip-Boy 3000】
運び屋が腕に装備しているデバイス装置。
ステータス管理にアイテム整理、データログ保存、無線受信でラジオも聴ける。
他にも様々な機能が備わっている便利なガジェット。
そしてその機能の中でも特に際立つ機能にV.A.T.Sと呼ばれるシステムがある。


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Cross Road Blues

時系列分けたり、シーン分けたりして書くもんじゃないなと相当後悔してる。


 416とG11がモハビ・エクスプレスのグループを目にした時、二人ともこの任務は簡単に終わると思っていた。

 一人はアーマーを着込んでいるようだがボロの使い古しで装備が潤沢とは見えないし、一体は小さな銃口が取り付けてあったがあまり戦力になるとも思えない、そして最後の一匹はサイボーグ犬で人に対しては訓練された犬というのは脅威だが戦術人形でしかも歴戦の特殊部隊である自分たちの脅威にはなりえるとは思えなかった。

 

「無駄弾を撃って脅す必要すらなさそうね、銃をちらつかせて終わりよ」

 

「いくらなんでも、甘く見すぎじゃないかな? ……すぐに終われそうではあるけど」

 

 G11は眠そうな顔を変えないまま言うが、常に完璧を自負する416は油断をするつもりはなかったが、ただ単純に相手を視て脅威になる要素を見出せなかったのだ。

 グループの主軸であると思われる最も注意するべきガスマスクの男はライフル銃のような装備は持ち合わせていないようで、隠していたとしてもサブマシンガンがハンドガンぐらいだろうと今までの経験からわかった。

 徒歩での輸送をするぐらいだ、嵩張る重火器はおそらく持ち合わせていないと判断する416。

 もちろん相手も隠し玉ぐらいはあるだろうが、それすらも対処してみせなければ404小隊は勤まらない。

 

「……でもさっきから十字路の真ん中に突っ立ってこっちに向かってこないよ」

 

「あの犬の嗅覚に引っかかったのかしら、風は吹いてないから風上にはなってないと思うけど」

 

『私から近づく、私の脅しで相手が降参すればよし、無理なら三人で制圧射撃して頂戴……当たり所が悪くて死んでもいいわ』

 

 会話中にUMP45からの通信が割り込む。

 二人は待ち伏せの為に廃墟ビルの入口角からずっと待機しており、ビルの最上階に近い部屋にはUMP9が同じように監視をしつつ待機状態だ。

 UMP45は他三人に居場所を伝えなかったが、それぞれを見張れる位置に陣取って指示を出しているのだろう。

 

「ふん、脅して終わりでしょうね。 十字路の真ん中に突っ立ってスナイパーの警戒すらしない奴よ、私がライフルだったら一発足元に撃ち込んでやるところよ」

 

「やってみる?」

 

 416の皮肉った言葉に、G11が反応する。

 

「……あんたの弾代バカ高いんだから、無駄撃ちはやめなさい」

 

 冗長を交えながらG11を窘める……

 だが、G11の目付きは本気のように見えた。

 さきほどからG11が珍しく緊張感というか警戒が続いてる気がする416。

 

(珍しいわね、G11が攻撃的だなんて)

 

 

 -バンッ!!-

 

 

 その時だった、上から強烈な爆音が響き渡る。

 

 発生源はおそらくUMP9がいた場所だ。

 そしてあの強烈な音は彼女の閃光手榴弾によるものだろうと416は瞬時に理解する。

 

「っ!? 9が交戦! 目標は45に任せて援護に向かうわ」

 

 すぐに416は屋内のに向かおうとするが……

 

「だめだよ、もう遅い、相手がこっちにけしかけてきてる」

 

「なにを──」

 

 G11の言葉に目標のいる十字路に目を向けると、そこにはモハビ・エクスプレスの運び屋が自分たちのいる方向に指を向けている所だった。

 

<~~~♪ !>

 

「アオーォン!」

 

 運び屋の隣に浮遊していたED-Eが短いテーマ曲のような音楽を流したと思うと、直後にレックスが大きく遠吠えをし、全速力で二人に向かって駆け出した。

 そして、走り出したレックスの周囲から同じような複数足音と唸り声がかすかにしていた、それは奇妙でレックスのような獣の唸りとはまた違った蛇の威嚇音のような唸り声だった。

 

「犬一匹、一発で完璧に仕留めてあげるわ!」

 

 416は全力で向かってくるレックスを狙い即座に発砲、銃弾はレックスに……命中しなかった。

 

「ギャワンッ!」

 

 代わりに銃弾に倒れたのはレックスとの射線の間に突如現れた獣だった。

 いや、正確にはステルス状態でいた獣が射線上にいたことに気付かないまま416が発砲したのだ。

 弾丸に倒れ息絶えた獣は完全にステルス状態を解除され姿を露わにする、それは何とも奇妙な姿でレックスのような犬に近い種のようだったが頭の部分がまるで爬虫類の……そう、蛇のようだった。

 

「なによあの生き物! あの犬といいなんなのよもう!」

 

「近距離ラインまで接敵された、しかもステルスも入り混じってる。 ……何匹かほかにもいる、とにかく撃つよ」

 

 G11は416に言いながら撃ち続ける。

 

「チッ! ダミーを連れて来ればよかった!」

 

 焦る416、榴弾を撃ち込もうにもレックスは代わりに銃弾に倒れた獣を置き去りしてどんどん距離を詰めてきており、もはやあまり有効打とはならないだろう。

 

 

 

 運び屋はED-Eの強化されたセンサー(Enhanced Sensors)によって404小隊の位置を把握していた。

 距離まではわからないが、数と方向は完全に見破ったといえる。

 運び屋はレックスと一緒に嗾けた獣の友達(Animal Friend)がうまく相手の意表を突くことは成功した様子を見て腕を組みながら満足そうに一人頷いた後、左腕に機械装置を装着して電源をいれる。

 その瞬間、運び屋の姿がおぼろげな輪郭を微かに残し消えた。

 そして、先に行動していた視えない彼女(Stealth Girl)を探すためにED-Eを置いてその場を去るのだった。

 

 

 

 UMP45はUMP9が敵の奇襲を受けたと通信を聞きすぐに監視していた場所を離れ駆け出していた。

 

(いくらなんでも甘く見すぎていた、それぞれツーマンセルで行動するべきだった!)

 

 自分が立てた作戦の見通しが甘かったことを後悔しながらUMP9がいる部屋に向かう。

 他の三人には伝えなかったが、結局はUMP45も同じビル内で監視をしていたのだった。

 今起こったような不測の事態に動けるように……

 

 全力で階段を駆け上がる途中、何かの音楽と犬の遠吠えが聞こえた。

 そして聴き慣れた銃声音が散発的に続く。

 

(あの銃声は416とG11ね、……仕掛けてきたか)

 

 416とG11に通信を繋ぐとすぐに二人の声が聞こえた。

 

『……近距離ラインまで接敵された、しかもステルスも入り混じってる』

 

「光学迷彩ステルスなんて! ただの一端運送会社とは違うとは思っていたけど……!」

 

『チッ! ダミーを連れてこればよかった!』

 

「416、G11! 接近してる敵を優先! 近接攻撃主体だから遠距離の敵はとりあえず無視!」

 

 すぐに二人に指示を出した後、UMP9にも即座に通信を繋ぐ、UMP9の状況も知るために音声だけでなくホログラムスクリーンもONにする。

 

「ごめん9、外の状況は観れる?」

 

『……ごほっ、いま覗いてるけど相手側の犬がこのビルに向かって走ってきてる。 護衛に光学迷彩の獣を何匹か引き連れてるみた……い。 ごほっ、ごふっ!』

 

 ホログラムスクリーン越しに応答するUMP9の口元には人工血液を拭った跡があり、話すたびに微かに血を吐きながら咳をしていた。

 

「9! 了解、これ以上は無理に……」

 

 UMP45はUMP9が自身の為にいかなる無理難題も平気でやろうとすることを知っている。

 安静にするように注意しようとした瞬間だった。

 

「またいたのかい! 今度こそバラバラにしてあげるよ!」

 

 微かに揺らめく何かが見えた。

 瞬時にUMP45は体を伏せると、その直後背後にあった壁が砕け散る。

 

「あんたが9が相手にしたって奴ね! 本当にE.L.I.D感染者まで飼いならしてるなんて!」

 

 揺らめく輪郭がなくなり徐々に消していた姿をさらけ出し全貌が明らかになる。

 UMP9を奇襲して遅いそのまま姿をくらました青い肌の巨漢、その名は【リリー】といい運び屋の仲間であるスーパーミュータントと呼ばれている存在だった。

 

「わかってるよレオ! 今度こそぶっ壊すよ!」

 

 リリーはヘリコプターから作ったと思われる武器、ベルチバードブレードをUMP45に向かって振り下ろす。

 

「戦術人形を舐めないことね! 見えていればそんな大雑把な攻撃当たらないわよ」

 

 いとも簡単に攻撃を躱し反撃に半身であるサブマシンガンの弾丸をリリーに浴びせる。

 

「イタイ!? 年寄りになんて仕打ちをするんだい!」

 

 銃弾を喰らいつつもまったく致命傷になってないどころか、怪我さえしているのか怪しいようにみえる。

 

(っ! サブマシンガンの限界ってところかしら…… でも、何故わざわざステルス状態を解いた?)

 

 リリーがもし姿を消したままで戦っていたら同じように見えないベルチバードブレードによる大振りの攻撃も避けることがかなり難しかったはずだ。

 実際にUMP9は先に奇襲を受けて一撃をくらってしまったが、姿は見たという情報を思い出す。

 

「どうやら長時間は使えないか、そこまで頭が回らないってところかしらね」

 

 そう判断したUMP45は発煙手榴弾を取り出し床に転がすと手榴弾から煙が噴き出しはじめる。

 狭い屋内に煙が充満し、互いの視界を遮る。

 

「なんだい!? 今度は見えなくなっちまったよ! どうするんだいレオ!」

 

 煙の中で大声で叫びながらベルチバードブレードを振り回す音が聞こえる中、UMP45は階段へ向かって駆け出す。

 

(あの図体なら移動が追いつかれることはなさそうだし、とりあえず先に9の所へ!)

 

 一気に階段を駆け上がりUMP9のいる部屋の階を目指すが、同時にUMP9から通信が入る。

 

『45姉! アイツの姿が見えない!』

 

「ちっ、逃げられた!」

 

 運び屋以外は時間稼ぎの捨て駒だと考えていたUMP45は舌打ちをせずにはいられなかった。

 

 目標に逃げられ任務は失敗、UMP9は重症だ。

 今所属している基地に居られないかもしれない、きっと帰還したら指揮官はUMP9の様に辛く痛ましい表情を見せて、404小隊の異動にも必死に抗ってくれる。

 でも、そうなれば無駄に終わるだろう。

 常に知られてはいけない極秘任務を負う404小隊と接触して逃げられるというのはそれほどまでに致命的な失敗だ。

 

「……どうすれば、どうすればいいの しきかん」

 

 その時だった、UMP45の正面に突如、姿を消していたはずの運び屋が現れたのは。

 

「……え?」

 

 その瞬間、UMP45の意識はシャットダウンし途切れた。




クエスト追加

□輸送物をI.O.P本社に届ける

■完了:(オプション)404小隊の戦力を無力化する



【Enhanced Sensors】
ED-Eのセンサーは広範囲にわたり、敵やそうでない非敵対的な存在を検知する。
それは壁の向こう側やステルス状態の相手でも関係なく、その情報は運び屋に共有される。


【Animal Friend】
野生動物は運び屋に対して敵対的にならず、戦闘の際は味方になり助力してくれる。
飼いならされた動物や、一部の動物の枠から外れたような生物には効果がない。


【Stealth Girl】
リリーはステルスボーイと呼ばれる光学迷彩装置の扱いを熟知しており、そのノウハウを運び屋に教えてくれた。
それにより、使用時間と不意打ちの効果が倍増。


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こちらグリフィン本部ロビー前派出所

合間にこういうの書かないと多分持たないみたい。


 G&K(グリフィン&クルーガー)社、通称グリフィンと呼ばれているPMCの本部にて、様々な職員が忙しそうに行き交う中に一人の女性が廊下を歩いていた。

 

 その女性、赤い制服に片眼鏡が特徴的なヘリアントス上級代行官ことヘリアンは歩き続け、仕事の為に外出手続きをするためロビーへ向かい歩みを進めるが、近づくにつれてその表情が険しくなっていく。

 すれ違う職員がヘリアンの不機嫌な顔を見ながら何事かと囁き合う、微かに「もしかして、また合コンで……」という声が聞こえて更に険しくなる表情のヘリアン、もはや苦虫を噛み潰したような表情にまでなりつつもロビーの手続き用カウンターへたどり着いて担当職員に話しかけようとするが、その時に声がかかった。

 

「おや? お出かけですかヘリアンさん! もしかしてまた合コンですか? 精が出ますねぇ!」

 

「ぐっ……!」

 

 顔を引きつらせながら声がした方を睨みつけるヘリアンの様子にカウンターにいた職員たちも思わずビビって仰け反る。

 睨みつけた声の主はカウンターの隣に立っている奇妙な形のロボットだった。

 

 一輪のタイヤの上に案山子のような肩幅の広い角ばった胴体、その真ん中部分にはモニタースクリーンがあり、そこにはデフォルメされた間の抜けた笑顔が映っていた。

 

 そしてその手前には【モハビ・エクスプレス依頼窓口】と書かれた看板が……

 

 セキュリトロンと呼ばれるタイプのこの奇妙なロボットは腕で大げさなジェスチャーをしながら更にヘリアンに話しかけてくる。

 

「もしよろしければ、こちらでお手伝いできることがあるかもしれませんよ! ウフフフ!」

 

「何度も言うがイエスマン、貴様らモハビ・エクスプレスには世話になるつもりはない! あと合コンは関係ない!」

 

 【イエスマン】と呼ばれたセキュリトロンの声に苛立ち言い返すヘリアン、だがその様子に全く気にも留める様子はない。

 

「ええ!? もったいない! ヘリアンさんのおかげでここで受付ができるようになったんですよ?」

 

「貴様! うぐぐぐ……」

 

 イエスマンの言葉にヘリアンは言い返そうとしたが、できなかった。

 そうなのだ、この無礼極まりないロボットが、グリフィンでそしてよりによって本部社内で、弱小他社であるはずのモハビ・エクスプレスの営業を認めることになったのはヘリアンが原因であるのだ。

 

 ことの経緯はモハビ・エクスプレスの運び屋がグリフィン本部に営業と称して突如飛び込んできたことから始まった。

 その時の対応したのがヘリアンだったのだが、適当にあしらって帰らせようと考えながら運び屋との面談に応じた時点で既に手遅れだった。

 知らず知らずのうちにその威圧感ある見た目の迫力のせいで押されたのか、気が付けば運び屋の話術(Speech)に乗せられてそのまま話が進んでいってしまったのだ。

 結果、グリフィンの本部に堂々と他社の営業を許し窓口係を住まわせてしまうという事態となり、他の上役から言いたい放題に嫌味を言われ、社長であるクルーガーにも何をやっているんだと小言を言われてしまう始末。

 

「何でも申し付けてくださって結構ですよ! 決して相手や依頼内容で区別したり、不平等はありません! 手早いし確実ですよ!」

 

「貴様らは運送業者だろう、万事屋や便利屋ではないだろ……」

 

「あの人は様々な無理難題な依頼に挑むが好きなんですよ! 本当に自分を痛めつけるのが大好きみたいですね!」

 

 そのイエスマンの返答に何とも言えない顔になるヘリアン。

 

「……モハビ・エクスプレスの狙いはなんだ? ペルシカに聞いたぞ、I.O.P本社にも貴様が営業してると」

 

「おや、ペルシカさんとお知り合いでしたか! まさしくその通りです! 最近になってI.O.P本社でも私のボディーであるセキュリトロンを配置することになったんです! いやぁ、彼の営業力にはワタシも驚かされます!」

 

 問い詰めたつもりのヘリアンだが、イエスマンは嬉々として語りだす。

 

「そもそも大企業二社のグリフィンとI.O.Pの関係がズブズブな所に、弱小会社のモハビ・エクスプレスが取っ付いたぐらいどうってことないでしょう?」

 

「……これもペルシカから聞いたんだが、その貴様がボディーに使ってるセキュリトロンとやらには大層に物騒な武器弾薬が詰め込まれてるらしいじゃないか」

 

 そのヘリアンの言葉に、近くで聞いていた職員が全員後ずさって距離を空けた。

 

「おや、そんなことまでわかるんですねあの人! でも御安心を、本来インストールされているセキュリトロン用OSのような火器管制プログラムはワタシには入っていませんので!」

 

「そんなの信用できるか! そもそも武器弾薬をここに持ち込んでることには変わりないだろう!」

 

「それのどこに問題があるんです? ここの戦術人形だって武器弾薬を持ち歩いてるじゃないですか」

 

「戦術人形は基本人間を攻撃はできない、そこの信用性が貴様にはないんだ!」

 

 ヘリアンとイエスマンの言い合いが続くが、いい加減無駄骨だと悟ったのかヘリアンのほうが折れた。

 

「はぁ…… もういい、とにかく貴様等モハビ・エクスプレスのことは信用せんからな!」

 

 イエスマンに捨て台詞を吐いた後、ヘリアンはそのまま外出手続きをしてロビーから出ていくのだった。

 

 その後ろ姿を見届けた後にイエスマンは言った。

 

「基本の戦術人形は攻撃できないなら、基本から外れた人形はワタシみたいに邪険にされるんですかねぇ? あははは!」




ちなみにヘリアンさんと対面したときの服装はエリートライオットギア装備(Charisma +1 Speech +5)



【セキュリトロン】
奇妙で尚且つユニークなフォルムをしているロボット。
AIの入れ替えが容易で、それに合わせてスクリーンモニターの顔画面が変わったりする。
見た目に反して腕に9mmサブマシンガンやガトリングレーザー、グレネード速射システムそして肩部分にはミサイルランチャーが内蔵してあり凶悪な攻撃力を持っている。
耐久性もチタン合金製のボティと自己修復システムによりかなり強固である。


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Cross Road Blues

ああ、早くほのぼの日常回(?)が書きたい。


「ギャオンッ!?」

 

 銃声の後に獣の悲鳴が聞こえたかと思うと、その撃ち抜かれたて死んだ獣が転がる。

 奇妙で犬か狼の胴体に蛇の頭を付けたような姿をしている獣は、体を横たえて口から血を吐きながら二つに割れた細長い舌を痙攣させていた。

 

「何匹いるのよこいつら!?」

 

 7匹目の見えない獣を撃ち殺した416は叫びながら更に自らの半身でもある銃を撃ち続ける。

 G11も同じように8匹目を撃ち殺したが、レックスと見えない獣がもうすぐそこまでの距離に近づいていた。

 

「かなり数は減ったと思うけど…… もう間に合わないかもっ!?」

 

 そう言い終わる前にG11が横転した。

 あの見えない獣に横から襲い掛かられたのだ。

 

「G11!? 離れなさいこのケダモノがっ!」

 

「ギャンッ!?」

 

 すぐにG11に駆け寄り倒れている真上を銃床で殴りつける。

 殴りつけられた獣はそのまま悲鳴を上げて逃げたようだった。

 

「G11、大丈夫!?」

 

「咬まれたけどへーき……あれ?」

 

 416の声に無事だと答えようとしたG11だったが違和感を感じると、電子脳が身体の異常を検知し、自身の体調変化に気が付く。

 

「ちょっと……やばいかも、なんか毒もってたみた……い」

 

 戦術人形に毒物はあまり効果はないのだが、人工血液や生体組織が使われてるが故に一部の毒物はどうしても効果を防ぐことができない。

 

「出血毒みたいだよ ……気を付けて416」

 

「気を付けてってアンタねぇ!」

 

 G11のいつもだらしなく開けていた肩首に、真っ赤に染まったの咬み傷があるのを見た416は顔を険しくして肩を抱いて庇う。

 

「……大丈夫、寝たら治るから、だから寝ちゃだめ?」

 

「ほんとブレないわね……」

 

「咬まれ続けてたら危なかったけど、まだ大丈夫いけるよ」

 

 顔色が悪いG11を支えながら416は周りを見渡す。

 既に周囲をレックスと見えない獣に囲まれ、周囲からは犬と蛇の入り混じった威嚇する唸り声が聞こえてくる。

 

 レックスと共に現れたこの見えない獣達は、知る人からはナイトストーカーと呼ばれている。

 コヨーテとガラガラヘビを遺伝子操作により掛け合わせたという狂気の産物で、もし咬まれればガラガラヘビがコヨーテと同サイズになったも同然の毒量を流し込まれるのだ、人形ではなかったら即死であっただろう。

 

「連中、囲んでいたぶる気かしらね、これだから獣は……」

 

「かなりの数を減らしたから…… 多分もうほとんどいないと思う」

 

「ふん、かかってきた順から殺してやるわ」

 

 だが一向に周囲の獣たちは唸るだけで襲い掛かってこなかった。

 むしろ、レックスが他のナイトストーカー達を牽制して抑え込んでいるように見えた。

 

 その時だ、ずっと後方で待機して監視していたロボット、ED-Eが短く音楽を鳴らし始めた。

 

<~~~♪>

 

「ワフッ! アオーン!」

 

 その瞬間、それをまるで合図だったかのように遠吠えをして応えたレックス。

 するとどうしたことか、ナイトストーカー達が離れていく足音が聞こえ、周囲にレックス以外の気配が無くなる。

 

「なによ、あんた一匹で十分ってわけ? 舐めてくれるわね!」

 

「ゥゥ……ワンッ!」

 

「なっ!?」

 

 416は銃口をレックスに向けて狙いをつける。

 が、同時にレックスは416に向かって吠えた瞬間、鳴き声を浴びた416が後方へ吹き飛び、地面に叩きつけられた。

 至近距離からの攻撃しか警戒していなかった416は、レックスに内蔵された音波発生器(ソニックエミッター)から吐き出された音の塊を回避する間もなく直撃し、音による反響効果なのか416の電子機器部分に大きく負荷をかけたのだ。

 

「うぐぁっ!?」

 

「416!」

 

 レックスはそのまま倒れ伏した416を飛び越え、そのままビルの内部へ入っていく。

 

「と、とまれっ!」

 

 銃を構えて、ビルの奥へ入っていこうとするレックスを撃とうとするG11だが、その時レックスが振り向きお互いの視線が交わる。

 

 G11とレックスは互いの視線を外さず見つめ合うこと数秒間……

 

 やがてG11は銃を下した。

 それを見たレックスはそのままビルの奥へ走っていく。

 

「ぐっ、何で撃たなかったのよ!」

 

「無駄だと思ったから、弾代高いから無駄撃ちするなっていったじゃん……」

 

 なんとか立ち上がった416がG11に苛立ちながら言うが、どうでもいいといった風に言葉を返す。

 

「くっ、獣ごときに私がしてやられるなんて!」

 

「完璧に、してやられたね」

 

「……あんたホント殴るわよ」

 

 416が一発入れてやろうと構えたが、その前にG11が仰向けになって倒れる。

 

「……というか、毒のせいでもうふらふらだよ……もう寝る、ぐぅ」

 

「まだそこらにあの見えないケダモノがいるかもしれないわよ、それでまた咬まれてもいいっていうなら勝手にしなさい」

 

「……やっぱ、もうちょっと頑張る。 抱っこして」

 

 416は仰向け寝ているG11の横に座り込んだ。

 

「私もG11の毒以上に強烈なのもらったのよ、アクチュエーターの一部がダメになってるし、通信機能もちょっと使えたもんじゃないわね」

 

「……45に連絡しろってこと? ……いやだなぁ、絶対怒るよ」

 

「そうね、……これはもう今の基地にはいられないかもね」

 

 416見渡す周りとその先の大きな十字路には、交戦前にいたはずの運び屋はおらず、ついさきほどまでいたはずのED-Eの姿も見えなかった。

 

 逃げられた、つまり任務失敗。

 

 404小隊全員が今いる基地の司令官には好意的だったが、UMP45は特にそうだった。

 彼女はそうは見えないように装ってるつもりだっただろうが、付き合いの長い404小隊の皆からしたらバレバレだ。

 

「うぅ……ほんとにやだなぁ」

 

 UMP45は取り乱すだろうか、平然を装ったとしても冷静を保っていられるのだろうか? 

 罵倒されるんじゃないだろうか、それとも冷たい口調で返されるだろうか? 

 そんなことを考えながらG11は通信を躊躇する。

 

「ビル内に9を襲った未知の敵がいる上に、あの犬が入り込んだのよ早く伝えなきゃまずいわ」

 

「……多分、あの犬は9を襲わないと思う」

 

「何を言うかと思えば、犬ごときに見逃されたと腑抜けたの?」

 

「……ちがう」

 

 レックスと視線を合わせたときのことを思い出す。

 

 G11はあの目を見たことがある。

 自分たち戦術人形が負傷して戦場から帰還してきたときに指揮官がするのと同じだった。

 すまない、申し訳ないと指揮官として至らなかったと謝るときの目だ。

 あの御人好し指揮官と犬を一緒に並べるなんて自分でもどうかしてるとは思ったが、やはり同じだったように思えて仕方がない。

 

「とにかく、早く連絡をしなさい。 ……ちょっと待って、何か音が聞こえない?」

 

 G11を急かそうとする416だったが、かすかに聞こえ始めた音に怪訝な顔をした。

 

「……これは……プロペラ音?」

 

 二人が音のする方角をみると、その空には二対の回転翼で航空するヘリコプターがこちらに向かいつつあるのが見えるのだった。

 

 

 

 その回転翼のヘリコプター、ベルチバードは徐々にビルに近づき屋上スペースに着陸する為に下腹部に格納されていた降着装置を展開しはじめる。

 操縦士はフルフェイスのヘルメットを被り顔は見えなかったが、袖から見える肌は醜くただれているのが見えた。

 そして掠れ嗄れた声で無線機に通信を入れる。

 

「もうすぐ着陸できる距離まで近づいたぞ。 戦術人形は大丈夫なんだろうな? 老体としてはこのまま穏やかに着陸させてくれるとありがたいんだがな、ボス?」

 




レックスの音波発生装置についてはビックエンプティのDr.8とDr.ボロスが嬉々として改造してくれました。



【ナイトストーカー】
コヨーテとガラガラヘビを遺伝子操作で掛け合わせた生物。
毒を持っており、毒には持続的なダメージの他にも耐久能力を下げる効果がある。
一応はミュータント等ではなく動物に分類される。
かなり食い意地が張っているらしく、光学迷彩装置のステルスボーイすら食おうとする。
そして何故かその影響でステルス状態になることができる。


【音波発生装置】
元々は運び屋が持っていたハンドガン型の音響兵器であったが、製作者とその協力者によりレックスの喉に埋め込まれた。
電子機器系に大きなダメージを与えるほか、音のチューニングを変えることにより様々な追加効果を発生させることができる。
また、フォースフィールド等を打ち消して無効化させる効果もある。


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Cross Road Blues

まだこれプロローグなんだよね……

遅々とした更新で本当に申し訳ない(無能博士並感)


 運び屋は意識のないUMP45を抱きかかえながら廃ビルの階段を上がり屋上を目指していた。

 彼がロボット工学の専門知識(Robotics Expert)を頼りに強制シャットダウンさせたUMP45は外傷こそないものの、一向に起きる気配がない。

 

「おや、坊や、そのお人形を持って帰るのかい?」

 

 そこに突如として青肌の巨漢が現れた、ステルス状態を解除したリリーだった。

 

 もとからそのつもりだったと、運び屋は言うがリリーは頭を掻きながら首を傾げる。

 

「そうだったかい? ばーちゃん最近物忘れが酷くてねぇ、もう一人のお人形はぶん殴っちまったよ! だから言ったんだいレオ!」

 

 もしかして再起不能なまでに破壊したのかと運び屋は問いかけるが、リリーは頭の中のレオと言い合って聞いちゃいない。

 もしその人形が破壊されてしまったのなら今回の依頼人から苦情が来るだろうことを考えてどうしたものかと思考をめぐらしていた。

 

「壊れてなくて残念だったね!」

 

 だが突如、声が聞こえたかと思うと銃声がし、足元の床に銃弾が数発撃ち込まれる。

 運び屋が振り向くとその先には息も絶え絶えのUMP9が硝煙を漂わせて銃を向けていた。

 

「はぁっ、こふっ、どうやら完全に負けってやつみたいだけど…… だけど、45姉は返してもらうから! げほっ」

 

「またあの人形かい! 今度こそ壊しちまうよ!」

 

 口から血を流しながらも銃を向けるUMP9にリリーは吼えるが、運び屋はリリーを宥め、そのまま抱き抱えていたUMP45を床に下ろした。

 その様子を見ながらUMP9は銃口を向けたまま、ほんの些細な動きも見逃すまいとしていたが、その瞬間だった。

 

 ──続けざまに銃声が三発鳴った。

 

「っ!? えっ?」

 

 UMP9が気が付いた時には既に、自身の半身である銃が弾き飛ばされていた。

 そして弾き飛ばした本人である運び屋の手には硝煙を漂わせたハンドガンが握られている。

 恐らくはコルトM1911であろうその銃は、更に銃身が短かくスライド部分に文字が彫られていたりと特注品(オーダーメイド)のようであった。

 

 UMP9は何が起こったかわからなかった。

 銃を撃ち込まれたのは見えていたが、()()()()()()()が見えなかったのだ。

 一瞬呆けていたUMP9だったが、気が付くと同時に自らの銃をすぐに拾い構えるが……

 

「もう撃てる状態じゃない……か…… 」

 

 ASST(烙印システム)によって自身の銃の状態がもはやまともに射撃できる状態じゃないと気が付くと諦めてそのまま銃を下げた。

 

「ごほっ、ねぇ…… 45姉をどうするつもり?」

 

 まだ抵抗されて格闘戦を挑まれるぐらいの覚悟はしていた運び屋だったが、どうやら抵抗は諦めたらしい。

 だが、UMP45を助け出すことに関しては未だ諦める気はないようだと、UMP9の目付きで察した運び屋はどうしたものかとまたも思考する。

 

 実の所、今回モハビ・エクスプレスに運ぶように依頼された輸送物とはUMP45のことであったのだ、つまりは誘拐して来いということである。

 しかも依頼人にはUMP45はもちろん、他の404小隊メンバーも大破や破壊することは避けるように言われていた。

 ……リリーが少し暴走して少し危うかったが。

 

 色々と考えを巡らせるが、いい加減めんどくさくなった運び屋は正直にUMP45を連れていく事情を言い、そしてUMP9に心配なら付いてきてもいいと言った。

 一緒にUMP9を連れてきてはいけないとは言われてないのだから。

 

「嵌められたのは運び屋さん達じゃなくて私達ってことか…… これはもう、今の基地に居られないどころか404はお役御免ってことなのかな」

 

 そのまま腰を下ろしたUMP9は、膝を抱えて座り込んだ。

 

 

 

 

 

 運び屋と抱きかかえられたUMP45、リリーと担がれたUMP9が屋上へと辿り着く。

 

「……できればもうちょっと丁寧に扱ってほしいんだけど!」

 

「なんだい、我儘なお人形ちゃんだねぇ! 折角ばーちゃんが運んであげてるっていうのに!」

 

「運ばれるような状態にしたのはそっちだよ」

 

「それはレオのせいだよ、ばーちゃんは知らないよ」

 

 リリーに片腕で担がれているUMP9は扱いの荒さに文句を言うが、リリーは扱いを変えるつもりはないらしい。

 ちなみにUMP9の怪我のほうは、ED-Eやレックスにも効果があるんだから効くだろうといい加減な根拠で運び屋にスティムパックを投与された、実際ある程度は回復した。

 スティムパックを投与された本人であるUMP9はその効果の程にかなり驚いたが、回復したのは人口の生体部分だけで機械部分になる骨格フレーム等はやはり治らなかったようで結局はリリーに担がれることになったのだ。

 

「それで? 屋上まで来てどうするの?」

 

 リリーに担がれながらUMP9は運び屋に問うと、迎えが来る、そう一言だけ運び屋は返した。

 

 暫くすると微かなプロペラ音が聴こえ、その方向から回転翼式のヘリコプターが近づいてきているのがわかった。

 

「ヘリまで持ってるなんて……」

 

 驚くUMP9、グリフィンでもヘリコプターは最前線の優遇された指揮官が申請してやっと使わせてもらえるぐらいで、辺境基地や入って間もないような指揮官にはなかなか使用許可が下りてこないのが普通だった。

 404小隊の場合はグリフィン内での特殊な立場故に、送迎で使われたりすることがあるが、中規模のPMCでもヘリコプター等の空輸手段を持っている会社は珍しいのだ。

 

 やがて回転翼式のヘリコプター、ベルチバードは屋上の真上まで近づくと、着陸し後部ハッチが開く。

 そこから出てきたのは作業着にフルフェイスヘルメットを被った人物だった。

 

「ボス、運ぶ人形は一体だって聞いてたが?」

 

 その掠れ嗄れた声で問いただしてきたが、運び屋が事情を説明すると、リリーに顔を向けて呆れた風にオーバーなジェスチャーをする。

 

「……リリーのばあさん、もうちょい薬増やしたほうがいいんじゃないか? さすがに制御がきかないのはまずいだろ」

 

「煩いよラウル! レオがやれって言ったんだよ、あたしじゃないよ!」

 

「……そうかい、まぁ嬢ちゃんも気の毒だったな、ばあさん加減が利かないからな」

 

【ラウル】と呼ばれた彼は呆れてリリーに言うが、そのまま担がれているUMP9に同情の言葉をかける。

 

「E.L.I.Dを薬物投与で制御? うーん、意識を保たせてるのかな?」

 

「あぁ、そういう解釈になるのか……」

 

 先ほどの会話の内容を聞いたUMP9は勝手に憶測を言っているUMP9、その様子にラウルはなんとも微妙な反応を見せた。

 

 そんなやり取りを屋上でしていると、ED-Eが空からレックスが運び屋たちの後からやってくる。

 

<~~♪>

 

「ワンッ!」

 

「……」

 

 ED-Eとレックスが無傷で現れたのをみたUMP9は、ここで404小隊がモハビ・エクスプレスに手も足も出せなかったのだと悟り顔をうつむけて黙り込んだ。

 

「まぁ嬢ちゃん、ボスを狙うことになったのは逆に不運だったと思うか気にしないほうがいい、災害に自分から突っ込んだようなもんだ…… というかボス、他に引き連れてたナイトストーカーはどうしたんだ?」

 

 自然に帰してあげた、と答える運び屋に頭を抱えるラウル。

 

「ボス、本来ナイトストーカーはここではいないはずの生き物だぞ、モハビの二の舞にする気かよ…… モビウスの爺さんも言ってただろ、無暗に生態系破壊するなって」

 

 運び屋は我関せずといった風にそのままUMP45を抱えたままベルチバードの後部ハッチへ入っていき、それに続いてED-Eとレックスも運び屋の後を追う。

 

「いいから坊やたちをさっさと送っておやり!」

 

 挙句にリリーからこの言われようである、ラウルの溜め息がヘルメットの中から漏れる。

 

「グールじゃなかったら、グリフィンにでも転職でも考えてる所だな、まったく…… あと嬢ちゃん」

 

 UMP9が運び屋に抱きかかえられていたUMP45を心配そうに見ていたのに気づいていたラウル。

 

「なに、あんな感じだがボスはあらゆる最善を選んできたぐらいにはぶっ飛んでる奴だ、あの人形の嬢ちゃんも他も最悪にはならんだろうさ」

 

 そう呟きながらベルチバードの操縦席へ向かっていった。




ナイトストーカーはきっと他の司令官やPMCが駆除してくれるでしょ(えぇ……)

生態系レイプ! フリー素材と化したナイトストーカー先輩



【Robotics Expert】
運び屋は専門的なロボット工学知識を持っている為、ロボットや自立人形に対して効率的な攻撃ができる。
また、直接弄ってシャットダウンしてノンアクティブ化することもできる。
だが再起動の仕方はどうやらわからないらしい。


【スティムパック】
鎮痛剤と回復薬が入っている注射器、何故か完全なロボットであるED-Eにも効果がある不思議。


【ベルチバード】
回転翼式のヘリコプター、見た目で言えばオスプレイ。
武装等も積めるがモハビ・エクスプレスが所有しているものは輸送が主な目的の為、大きな武装は積まれていない。


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Cross Road Blues

雑なまとめ方ですが、これにてプロローグ終了。
次からは割と軽い話とかが入り混じると思います。


 I.O.P本社のヘリポートに着陸したベルチバードの中でUMP9は不安に耐えながら待ち続けていた。

 運び屋はUMP45を連れて行ってしまい、ED-Eとレックスもそれについて行ってしまった為に中に残ってるのは他にラウルとリリーだけだった。

 

「ほら、応急修理だが壊れた状態よりはマシなはずだ。 言っとくが間違っても撃とうとするなよ、ジャムったぐらいならともかく暴発なんてされたらたまらん」

 

 念の為の注意をしてから、UMP9の銃を返すラウル。

 

「……ありがとう、でも本当に45姉は大丈夫なんだよね?」

 

「依頼内容に無頓着なボスが直接無傷で無力化したんだろ? 本来は人形相手なら四肢捥いででも連れて行くようなことぐらいするだろうしな」

 

「……それ聞いて安心する要素がまったくないんだけども」

 

 UMP9の言葉にラウルが返すが、その返答で更に不安になってくる。

 その様子に言い方が悪かったかとフルフェイスのヘルメット越しに爛れた手を額部分に当てながらラウルは言い直した。

 

「あー、なんというかボスは本当にいい加減というか面倒を嫌う性格でな、そのボスに態々手間なやり方させるってことはそういう依頼条件だったってことさ…… リリーのばあさんがやらかしそうになってたが」

 

「煩いよラウル! だからあれはレオがやれって言ったんだよ!」

 

「というか、45姉を不意打ち……にしても何をされてあんな状態になったの? スリープ状態にも見えなかったけど」

 

「多分強制シャットダウンさせたんだろうさ、ロボット相手にやってるのを見たことがある。 人形相手にも出来るとは知らなかったが……」

 

 最後のラウルの言葉に驚きを隠せないUMP9。

 

「戦術人形を強制シャットダウン!? そんなの私も電脳戦に特化した45姉もできないよ!?」

 

 

 

 

 

 

「いやいや…… キルスイッチ押したって、それが存在するとか何処にあるかって知ってるのなんて私を含めてもI.O.P内でほとんどいないはずだけど」

 

 I.O.P本社内の臨時メンテナンス室で今回の依頼人であったペルシカリアことペルシカは運び屋の言い出したことに驚きを通り越して呆れていた。

 I.O.P社製に限らず鉄血工造や他社の人形には物理的に強制停止させるキルスイッチが存在している、不測の事態に対しての予防策としてあるのだが、I.O.P社製や鉄血製のキルスイッチの存在はトップシークレットな上に製造工程でスイッチ位置がランダムで決められる。

 その為に各人形のキルスイッチ位置を知るには、最上位クリアランスで製造工程ログへアクセスするしかなく、そんな手間な為に蝶事件が起こった時も何の役にも立たずほぼ忘れ去られた存在であった。

 そもそもキルスイッチの存在を知っていたとしても、暴走した人形に近づいてそのスイッチを押せる人物が果たしてどれほど存在するのだろうかという疑問もあるが……

 

「まぁいいけども…… まさか本当に404小隊のUMP45を抵抗させずに連れてくるなんて君の腕前はたしかみたいだね、正直驚きっぱなしだよ」

 

 そう言いながら、検診台に寝かされたUMP45の頬を撫でるペルシカ、だがUMP45は目を閉じたままなにも反応を示さない。

 UMP45を連れてくるように依頼した本人、ペルシカはそのまま周囲の機械を起動させていく。

 

「他の404小隊には悪いことしたとは思うけど、彼女なかなか検診させてくれないからね…… 9も後で連れてきてくれればメンテするよ」

 

 ペルシカの言葉を聞いて運び屋は任務完了と判断し、さっそく報酬について話そうとするが、UMP45を検診し始めたペルシカは周囲の機械のスクリーンを見た途端に顔を渋らせる。

 

「……申し訳ないけどハズレだったみたいだよ」

 

 ペルシカの言葉を聞いた途端に運び屋は腰のホルスターから銃を抜き出そうとした。

 その様子を察したペルシカは焦って運び屋を宥める。

 

「ちょっと待ってっ!? 別に報酬を払わないとかそういうことじゃないからっ!?」

 

 運び屋はいかなる依頼任務で、子供のお使い程度の内容でも一度受けたのならば完遂するのが信条だった。

 だが、その対価を瓶の蓋一枚(1cap)すらも払わないという不届き者には、その身体に相応の対価を支払わせてきたのが運び屋だ。

 

「どうやら、ダミー部隊を掴まされたみたいだね」

 

 404小隊じゃなかったのか? と事前情報を元に動いていた運び屋は疑問だったが、ペルシカは首を横に振りながら言った。

 

「404小隊であることには間違いはないんだけど…… グリフィンの一部の基地に配属されたUMP45・UMP9・HK416・Gr G11が404小隊という工作部隊を編成するように意図的に仕組まれているというのはヘリアンに聞いたことがあるね……」

 

 つまり目的である本来の404小隊以外にも、別の404小隊が存在してると言うことらしい。

 

「詳しいことはヘリアンに聞けばわかるだろうけど ……ちょっと待ってゴメン今のなし、さすがにヘリアンが可哀想だからさっきのは聞かなかったことにして」

 

 早速ヘリアンに会って聞き出そうとする気満々の運び屋の様子を察して、グリフィンの極秘情報を諸々吐かされるヘリアンを想像し、あまりにも気の毒だと思ったペルシカは先ほどの話を取り消した。

 

「まぁとにかく、依頼を受けてくれたことに感謝するよ。 まさか冗談半分で言った404のUMP45を無傷で連れてくるなんて、本物じゃなくてもかなり難しい案件だっただろう。 404を勝手に動かした連中も、今頃はヘリアンが対応してくれてるだろうし、彼女たちの所属している指揮官とも話を付けておくよ」

 

 そこら辺のフォローに関してはまったく気にしてなかった運び屋、ありのままの評価を受け入れるというのが彼のスタンスである。

 それがたとえ憎まれ狙われようともだ。

 

「I.O.Pやグリフィンの敵役を飲んでくれる所なんて今時なかなかないからね、そういう君達の存在は貴重だしありがたいんだよ」

 

 その後、ペルシカと報酬の件で話し合った後に運び屋はヘリポートへ戻ろうと部屋を出て行き、その後ろを部屋の外で待っていたED-Eとレックスが後を追っていった。

 それを見送ったペルシカはポツリと呟く。

 

「……しかしI.O.P製と鉄血製、偽物だとしたらどっちだろうね。 ねぇ、45?」

 

 

 

 運び屋がヘリポートに着いたところで、横から声がかけられた。

 

「おや? 思ったより早い到着でしたね! その様子では依頼は完了したということですか、相も変わらず惚れ惚れする仕事ぶりです!」

 

 I.O.P本社に配属されていたロボット、セキュリトロンことイエスマンは運び屋を見つけると早々に近づき話しかける。

 

「I.O.Pとグリフィンが我々モハビ・エクスプレスの依頼内容を嗅ぎつけてきたのを逆に利用するなんて実に爽快でしたね! いやぁ、404小隊も気の毒としか言いようがありません!」

 

 つまりは、モハビ・エクスプレスの存在を気に食わないと考えるI.O.P社とG&K社の一部が404小隊を使って輸送物を奪って面目を潰そうとしていたのを察知し、都合よく今回のペルシカの依頼内容と合致したのを利用したのが今回の案件だった。

 

「404小隊が裏工作で隠そうとしていても、その小隊に指示を出す側が筒抜けなんてなんとも間抜けな話ですよねぇ!」

 

 イエスマンは自立人形の通信であるプロトコルは規格の違いにより感知できないが、それ以外の旧時代から使われてきた通信規格には問答無用で介入でき、G&K社とI.O.P社に配置されていたセキュリトロンを介してイエスマンは人形が行うプロトコル以外の通信やデータログをすべて監視していたのだ。

 

「そうね、哀れなぐらい間抜けな話だったわね」

 

「おや?」

 

 気が付けば、嬉々として語るイエスマンの背後にUMP45が立っていた。

 

「立ったまま死ね!」

 

 直後、UMP45はイエスマンの顔であるスクリーンモニターに拳をぶち込んでいた。

 

「オオゥ!? これはまたいいパンチをお持ちですね! もっとお好きに痛めつけくださっても構いませんよ! ですが申し訳ありません、私は……死ねないんです!」

 

 イエスマンはオーバーなリアクションをするが、殴られたスクリーンモニターは罅が入っただけで痛手を負ったわけではなく、逆にUMP45の拳に怪我をさせただけだった。

 

「ちっ、それは残念ね……」

 

 そう言いながら今度は運び屋を冷めた目付きで近づき、UMP45は互いの顔が触れる直前まで近づいて運び屋の耳元で囁く。

 後ろではレックスが唸り声を上げて警戒していた。

 

「話はペルシカから聞いたわ、どうやら私達は完全にしてやられたみたいね。 でもこれは借りよ ……今度任務で相手をするとなったとき覚えておきなさい」

 

 UMP45が底冷えのするような目で睨むが、顔を覆ったガスマスクのせいで運び屋の表情は分からなかった。

 

 

「嬢ちゃんの姉ちゃん、なかなかおっかねぇな」

 

「うわぁ、45姉あれはマジでキレてるよ」

 

 ベルチバードからその様子を見ていたラウルとUMP9だったが、険呑な空気を察したラウルはUMP9の背中を叩いて外へ出るように促した。

 

「姉ちゃんのとこへ行ってやりな、妹の無事……とは言い難いが、家族の姿を見たらまぁ少しは落ち着くだろ」

 

「……家族か、うんっ! 45姉と私は家族だからね!」

 

「お、おう、そうだな? それと……リリーのばあさんは外に出るなよ、余計ややこしくなる」

 

「なんだい今日はやけに冷たいじゃないかいラウル!」

 

 後ろに控えていたリリーは不満の声を上げるが一応そのまま大人しくしてるつもりらしい。

 

「それじゃ、一応だけど武器の修理ありがとねラウルさん! 他の連中はあまり好きになれないけどラウルさんならまた会えてもいいかなって思えたよ」

 

「こんな草臥れた年寄りに構ったっていいことなんてないだろ、さっさと行きな」

 

 そうして外へ出て行ったUMP9はUMP45をどうにかして宥めようとする。

 そんな様子を見届けたラウルは操縦席に座り離陸の準備をし始めるが、ふと寂しそうに一言呟く。

 

「妹と家族か、年老いて呆けていた年寄りには懐かしい響きだな……」

 

 

 

 

 

 




クエスト完了

■完了:輸送物をI.O.P本社に届ける

■完了:(オプション)404小隊の戦力を無力化する


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運び屋はカフェにいる

いやあ…… モハビ・エクスプレスは強敵でしたね。


 ──404小隊がモハビ・エクスプレスと接触した事件から一週間が経った。

 

 あれから、416とG11も無事回収され戦いで傷ついた404小隊はペルシカから直々に修理をしてもらい、所属している基地に戻ることとなった。

 修理してくれたペルシカには御礼に一発殴っておいたUMP45だったが、腹の虫は収まるわけもなく、基地の中を当ても無く彷徨っていた。

 

 そこへ今一番顔を合わせたくない連中だった、AR小隊の片目に眼帯が特徴的なM16A1と後ろについている首にかけたフェイスマスクのためのスカーフが特徴のM4A1の二人と鉢合わせする。

 

「随分と機嫌が悪いようにみえるなUMP45……聞いたぞペルシカに」

 

「なに? ペルシカのお礼参りでもしにきたのかしら?」

 

「正直事情を聞いてなかったらしてただろうな」

 

「M16姉さん!」

 

 M4が止めに入ろうとするが、そのつもりはないと肩をすぼめ苦笑いするM16。

 

「別になにもしないさ、軽はずみなことをしたペルシカも悪い」

 

「あら、ずいぶん丸くなったものねM16A1」

 

「そりゃお互い様だ。 聞いたぞ、帰ってきた途端に指揮官に泣きながら抱きつかれて顔真っ赤にしてたんだって?」

 

「「なっ!?」」

 

 M16の言葉にUMP45とM4が顔を真っ赤にして驚愕する。

 

「一歩先を行かれて残念だったなM4、大丈夫まだまだチャンスはあるさ」

 

「なっ! 何を言ってるんですかM16姉さん!?」

 

「  」

 

 知られたくない話を暴露された恥ずかしさと、その時のことを思い出した恥ずかしさが思考を混ぜっ返し、UMP45ずっと赤い顔で口をあけたままフリーズしていた。

 

 二人をからかっていたM16だったが、急に眼帯で隠されていないほうの眼が鋭く睨む。

 

「だが、少し油断が過ぎたんじゃないか? 作戦任務を利用されたってのもそうだ、これからも指揮官の傍を守っていくつもりなら猶更だ」

 

「……っ! そうね、その通りだったわ。 9や416とG11がああなったのは私のせいよ」

 

「自覚があるなら結構だ」

 

 そう言い終えるとM16は鋭い目つきはなくなり、にやけ顔になる。

 

「ならあとは気分を切り替えな、どうだいスプリングフィールドのカフェで一杯ひっかけるか?」

 

「なにを真昼間から飲む気でいるんですか!」

 

「M4とUMP45の指揮官攻略の進展も聞きたいしな、それを肴に飲ましてもらうさ」

 

「な……なな、何を言い出すんですか姉さん!」

 

「……M16、あんたねぇ!」

 

 ちなみに、基地内では二人のどちらが先に指揮官とくっつくかで賭博が行われており、更には新しい候補者もでるのではと裏で盛り上がっていたりする。

 主催者はお互いの姉妹を推しているM16とUMP9である。

 現在のレートはUMP45がやや有利とのこと……

 

 M16は笑いながら恥ずかしがる二人の肩を両腕で捕まえ、そのままカフェへ足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地の屋内にある一部屋にそのカフェはあった。

 扉にはシンプルに【cafe】と書かれており、その文字の下には【Not Bar!】と書かれた小さな掛け看板が吊るされている。

 戦術人形であるスプリングフィールドが切り盛りするこのカフェは、コーヒーやお茶、菓子からお酒に軽食まで揃っているという、物資や嗜好品に困窮している今の時代としては破格の品ぞろえをしている。

 しかも、見た目や味を似せたような代替品ではなく純正品ばかりである。

 他の基地のどころか本部でもここまで揃えることは難しいはずなのだが、他から移ってきた人形達等は最初は驚愕していたものの、いつしかそれが当たり前になり気にしないようになっていった。

 

 

 

「おーい、三人分の席は空いてるかスプリングフィール……ド? 誰だ?」

 

「誰でしょう……初めて見る人ですね」

 

 カフェに入るなりスプリングフィールドに声をかけたM16だったが、カウンター席に一人見慣れない人物がいることに戸惑う。

 M4も怪訝な顔で、その知らない出で立ちの人物を見る。

 

 だが、UMP45の反応はまた違い、冷たい視線でその知った人物を睨みつけていた。

 

「……なんで運び屋がいるのよ」

 

 その人物は──落書きされたヘルメットとフルフェイスガスマスク、そしてコンバットアーマーの上に手直ししたボロのズボンとロングコートを着用している。

 そう、モハビ・エクスプレスの運び屋だった。

 

「あの人が!?」

 

「へぇ、あいつが……」

 

 カフェに入ってきた三人にスプリングフィールドは気付くとカウンター越しにいる運び屋のことを気にした風もなく挨拶した。

 

「いらっしゃいませ、M16さん、M4さん……とUMP45さんとは珍しい三人の組み合わせですね」

 

「……いつからこのカフェは部外者の客まで来るようになったのかしら?」

 

「あぁ、運び屋さんのことですか?」

 

 ジト目のUMP45からの質問にスプリングフィールドは不思議そうな顔をする。

 運び屋は特に反応なくただカウンターに座っているだけだった。

 

「この運び屋さんにはいくつかの仕入れ品を持ってきてもらってるんです。 最近このカフェでも好評なサンセット・サルサパリラも運び屋さんの仕入れ品ですよ」

 

「あぁ、あの何とも言い難い味の飲み物ですか」

 

 スプリングフィールドの言葉にM4がちょっと微妙な顔をした、M4はそのサンセット・サルサパリラと呼ばれている飲料が少し苦手であった。

 逆にM16は割と好みだったらしく、

 

「そうか? 結構好きだけどなあの味」

 

「そんなことはどうでもいいの、その話を聞いてると以前からここに入りこんでたってことかしら? 運び屋さん?」

 

 UMP45の運び屋に、当人の運び屋はまったく気にしてる様子はなく振り向く素振りすらせず、ずっとカウンター席に座りっぱなしだ。

 

「しかし、たしかに妙だな。 以前からここに仕入れに来てるなら一回ぐらいは誰かが見かけてもおかしくはないと思うが」

 

「運び屋さんは急にいらっしゃったり、いつの間にやらいなくなってるのが普通ですから」

 

 M16の疑問にもスプリングフィールドは苦笑を浮かべながら答える。

 

「……そう、最初から潜入してたってわけね、やってくれるわ」

 

「あの…… UMP45さん?」

 

「あーっとなんだ、UMP45はついこの前そっちの運び屋に痛い目に遭わされたらしくてな」

 

 戸惑うスプリングフィールドに裏事情の詳細をバラすわけにもいかないM16は大雑把な説明をしつつUMP45を宥めようとする。

 

「UMP45も落ち着きな、あれはもう終わった話なんだ。 そこの運び屋とやらも知らん振りせずに今は仲良くしようじゃないか、スプリングフィールドも困ってる」

 

 そう言いながらM16はカウンターの運び屋の隣の席に座り、M4が続いてその隣へ、最後に不承不承といったふうに続けて横に座っていく。

 

「それでは何か注文なさいますか?」

 

「とりあえず、いつものジャックダニエルで」

 

「だから、ここはバーじゃないんですよ姉さん!」

 

「でもお酒は置いてあるじゃないか」

 

「M16さんはまだ静かに飲んでくれるので構わないんですけどね…… お二人は?」

 

 苦笑しながらスプリングフィールドはM4とUMP45にも注文を聞く。

 

「えっと、それじゃあスイートロールで」

 

「私はコーヒーのブラックで」

 

「運び屋は何か頼まないのかい?」

 

「いつも何も頼まないんですよ運び屋さんは、遠慮なさらなくてもいいといつも言ってるんですけど」

 

「こいつに出してやる必要なんてないわ、あくまで仕入れ業者なんでしょ」

 

 M16は運び屋に聞くがUMP45が嫌そうな顔で横槍を入れる。

 そんな様子にもまったく動じてないのか聞いてないのか運び屋は目立った反応はしなかった。

 

「はぁ、UMP45もそうだが、運び屋ももうちょっと愛想よくしたらどうだ。 ん? 嫌われてるようだから黙っておいたほうがいいと思ったって? なんかあんたも不器用な性格してるな……」

 

 ちょっと呆れ気味なM16、だがふと思いついたことを口に出す。

 

「別に敵意がないつもりなら、詫びのつもりで何か珍しい仕入れ品でも出してやったらどうだ?」

 

「遠慮しておくわ、返り討ちにあって大人げない態度してるのは自分でもわかってるつもりだから……」

 

 M16の提案をUMP45は断るが、運び屋は顎に手を当てて考える仕草をした後に何やら持ってきていた荷物の中を漁り始めた。

 

「えっ、本当に何か…… 私達にも? それは流石に悪いような」

 

「なんだい、上手いこと気が利かせれるじゃないか」

 

 どうやら、UMP45だけでなくM4とM16にもサプライズとして何か出してくれるらしい。

 運び屋は荷物から取り出した其々違う形状のボトルを3つ、カウンターテーブルの上に置きそのまま三人の前に滑らせた。

 

 M16前に出されたのは手書きのラベルが張り出されたスキットルボトル、M4には白く発光しているコーラのボトルが出され、UMP45はロケットを模ったようなボトルだった。

 

「シエラマドレマティーニって読むのかこれ?」

 

「ヌカ・コーラ・クォーツ? ……なんか光ってるんですけど」

 

「アトミックカクテルねぇ、なかなか物騒な名前のよこすじゃない、喧嘩売ってんの?」

 

 

 

 その後、運び屋は三人にボトルを差し出した後に、そのまますぐにカフェを出ていってしまった。

 残された三人はそれぞれ目の前のボトルを見つめる。

 

「手製のマティーニか、頼んでいたジャックダニエルが来るまで少し飲んでみるか」

 

「瓶に仕掛けがしてあるわけじゃなくて本当に中身が光ってる…… でも、折角頂いたのに飲まないのも……どうしよう」

 

 スキットルボトルを掴みながら眺めるM16、白く光るコーラ瓶を見ながら悩むM4。

 

「私は遠慮しとくわ、嫌な予感しかしないし」

 

「なんだ、折角くれたんだからせめて貰ってやれよ」

 

 UMP45は運び屋から差し出された物を飲む気はないらしく、頼んだコーヒーをスプリングフィールドが出してくるのを待つつもりらしい。

 この時、スプリングフィールドが受けた注文のために厨房側に行っていなければ、真っ先に飲む前に止めてくれていただろう。

 何故なら三人に差し出された其々の飲み物は全てスプリングフィールドが運び屋からの仕入れ時に問題があると判断して入荷を断ったものだからだ。

 

「じゃあ、まずは一口っと」

 

「わ、私もいただきます!」

 

「どうなっても知らないわよ」

 

 M16は瓶を口につけ、M4も意を決し続いて瓶を掴み飲み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「@@[#-!!!!-#]@@ @@[#-!!!!-#]@@ @@[#-!!!!-#]@@!?」

 

「なんだか急に視界が明るく…… でも結構美味しいかも」

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

 呆れたUMP45を他所に、M16はシエラ・マドレ・マティーニを一口飲んだ途端に言葉にならない言葉を叫んで絶叫し、M4は意外といける飲み口にちょっと驚いたのだった。

 

 後日、カフェに仕入れに来た運び屋はスプリングフィールドにこっ酷く怒られた。




ほのぼの(被害者がいないとは言っていない)
運び屋はあくまで、いずれ役立つかもしれないアイテム程度の考えで渡したので、その場で嗜好品として飲むとは思ってなかった模様。



【サンセット・サルサパリラ】
運び屋がいた土地で主流になっていた清涼飲料水、ドクターペッパーやルートビアのようなものに近い。
瓶の蓋にはスターキャップと呼ばれる星マークのついたキャップが稀にあり、数を集めると運び屋が何かと交換してくれるらしい。(スプリングフィールド談)


【シエラ・マドレ・マティーニ】
ジャンクフードに腐食性の毒物を混ぜ合わせて作られたお酒っぽいナニカ。
飲んでも害があるわけでもなく、体力等を一時的に増強する効果がある。
考案した人物曰く「驚くほど強烈で回復作用があり、この世の物とは思えないマズさの飲み物」とのこと。


【ヌカ・コーラ・クォーツ】
白光し輝く不思議なコーラ、原因はおそらく含まれている放射性物質のせい。
飲むと一時的に皮膚が固くなり、若干の暗視効果がでる。
直ちに影響はない。


【アトミックカクテル】
ロケットを模ったボトルに入った飲み物、飲めば宇宙まで眠気が吹っ飛ぶ。
もちろん、放射性物質入り。
一時的にエネルギー兵器や火炎に対しての耐性を得ることができる。


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Little Dolls

グリースガン? そんなことほざいている奴は戦場でグリースガンとM3が落ちてたらどうするんだ?

俺? 俺ならグリースガン拾って敵の口に油差し込んでやるね。


「こ、こんにちは、M3と言います……よ、よろしくお願いしま……す」

 

「今はただのパイロットだが、まぁ銃器の整備なんかもやってる。 ラウルだ、よろしくな。 さっそくだが出発の準備はいいか?」

 

「は、はい……大丈夫です」

 

 M3はベルチバードの中で操縦席の作業着とフルフェイスヘルメットを被った人物、ラウルに挨拶した。

 そして、ラウルは後ろのM3に少し振り向き挨拶を返し、操縦桿を握りながら周りの機器やスイッチを操作するとベルチバードが離陸し始める。

 

「まさか人形を雇うことになるとは、長生きしてると本当に色々起こるもんだ」

 

「わ、私なんかでよかったんでしょうか……」

 

「銃の知識はともかく戦術人形の違いなんて俺にはわからんよ。 だがボスが他の人形に目もくれずにお前さんを指名したんだ、期待はされてるんじゃないか?」

 

「が、頑張ります……」

 

 不安な顔をしているM3を乗せ、ベルチバードは空へ運んで行く。

 

 

 

 なぜM3がモハビ・エクスプレスに雇われることになったのか、それはペルシカから依頼された件で、運び屋は報酬として一体の戦術人形を要求したことから始まる。

 しかもそれは、G&K社での多く見られる人形のようなI.O.P社からの貸出の扱いではない、モハビ・エクスプレスに完全な所有権がある戦術人形を……

 そして、そのI.O.P社製の戦術人形の中から運び屋が選び抜いたのがM3であった。

 

 16Labからの特別製だとか電脳ランクが高い人形、希少性の高い人形なんかを要求されるのかと思っていたペルシカは拍子抜けした。

 何せ、どのタイプの人形だろうと関係なしに無条件で一体譲渡するという要件を飲まされたのだ、身構えもする。

 さすがにM4A1のような特殊な人形は無理だが、それでもそれなりの人形を用意する準備はしていた。

 それがなぜM3だったのかペルシカには分からなかったが、あの時の運び屋は迷いなく彼女を選んだことは確かだった。

 

 

 

 ベルチバードを操縦しながらラウルは背後席に座るM3に話しかける。

 

「これからお嬢さんはモハビ・エクスプレスの拠点となる場所へ向かうわけだが、前はグリフィンとかPMCにいたのか?」

 

「い、いえ……私は製造されたばかりでそういった経験は……」

 

「そりゃよかった、ウチはグリフィンに比べて様相が大分異なるからな、変に先入観があると苦労する」

 

 そう言いながらラウルはヘルメットのフェイスガードを開ける。

 M3の方向へ顔を向け、ラウルの顔が露わになる。

 

 ラウルの見せた素顔は鼻や耳が削げ落ちて酷く爛れていたが、しっかりと意思を持った人の眼をしていた。

 

「っ!? や、火傷で……すか?」

 

「そうさ、どでかい光の炎を浴びて全身この様さ。 この面見てE.L.I.Dだとか騒がないあたり本当らしいな」

 

 ラウルが開いたフェイスガードを再び閉じて顔を隠すと更に続ける。

 

「俺以外にもE.L.I.Dと勘違いされかねん奴がいるんだが、見かけたらあまり刺激しないでやってくれ……まぁどう違うのかっていうとあまり変わらん気がしなくもないがな」

 

「は、はい……気を付けます」

 

「あと雇われて所属するのは嬢ちゃんが初めてだが、もう一人だけ戦術人形がいる」

 

「と、ということは私と違いI.O.P社に所有権がある人形……ということでしょうか?」

 

 戦術人形は自分一人だけと聞かされていたM3は内心不安で寂しくあったが、その言葉を聞き少し安堵する。

 だが、次のラウルの言葉でそんな心情も吹き飛ぶことになった。

 

「いや、鉄血製の人形だ。 しかも鹵獲したとかでもなくそのまま居ついてやがるだけだ」

 

「え!? そ、そんな!?」

 

 更なるラウルのカミングアウトに流石にM3も驚愕した。

 人間を問答無用で殺しに来る鉄血の人形を放置したまま居つかせているとなると当たり前の反応である。

 

「きっ、危険じゃないんですか!?」

 

「お優しいことにボスや俺みたいな奴は人間のカテゴリから外れているんだとよ、まったく嬉しくて涙が出るね」

 

 皮肉を言うラウル、ちなみにその理由を聞かされた運び屋は若干凹んだ。

 

「さて、そろそろ着くぞ……さっき言ったみたいにグリフィンと同じと思ってると痛い目をみるから注意しろよ」

 

「……は、はい、頑張ります!」

 

 M3が緊張しながら上空にいるベルチバードの窓から外を覗くと、見えたのは小さな複合レジャー施設の跡地だった。

 子供を含めた家族客を想定した施設だったのか、お土産屋から動物園や水族館のような雑多な施設がいくつか見えたがどれも小規模で中途半端なもののようだ。

 そして周囲には奇妙な形をした青いボディーのロボットと警備犬……セキュリトロンやサイバードッグがうろついているのも見える。

 いや、それだけではない……一部の施設の近くには蠍を思わせるロボットがいるのも確認できた。

 

 着陸準備をし始めたベルチバードが元々は施設内のアウトドア用のスペースであったであろう広場に近づきそのまま着陸した。

 

 

 

「さて、到着だ。 嬢ちゃん……いやM3、これから施設内を案内するが慣れないうちは余計な探索はするなよ。 見えてたかもしれんが後で伝える()()()()()にはロボ・スコルピオンがうろついている、今は絶対近づくな」

 

「は、はいぃ……わかりましたぁ」

 

 不安で若干涙目になりながらM3は頷く、いやそうするしかなかった。

 話に聞いていたグリフィンのような、人形の同僚たちもいない、ここモハビ・エクスプレスで一人で役目を果たさねばならないという不安と義務感に内心は圧し潰されそうだった。




クエスト追加

□運び屋に会う

□(オプション)鉄血人形と会う


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Little Dolls

もしかして他の指揮官様がL地区とかにいらっしゃったら、本当に申し訳ない(無能博士並感)
指揮官様には後でヌカ社お詫びセットをお送りいたします。


 モハビ・エクスプレスの拠点である廃棄された複合レジャー施設とその周辺区画、場所をL38地区と銘打っているが実の所、正規軍やグリフィンの書類上でしかそんなものは存在していない。

 グリフィンの管理地区を無理やり切り取ったこの場所は鉄血の支配地域と隣接しているが、無価値故に攻め入られておらず、グリフィンと鉄血の双方の見解ではほぼ価値のない土地として放置されているのが現状だった。

 

 険しい山岳と森林が入り混じっており移動にはヘリが必須、土地の一部には若干の放射能汚染も確認されており、コーラップス汚染まではないものの周囲地区も廃墟と化したゴーストタウンがあるぐらいで両陣営としても維持するには無意味な土地と判断されて放置されている。

 だが現状はモハビ・エクスプレスが着々と拠点拡張を行っており、施設には警備用のセキュリトロンやサイバードッグがうろつき、プロテクトロンやMr.ハンディーと呼ばれるロボット達が喧しい音をたてながら作業を進めていた。

 

 

 

 

 

「IDコード認証が不適格です。 直ちに退去しない場合は強制的な排除に移ります」

 

「え、えぇ!?」

 

「おいおい、待て! やっぱりボスの奴なんの用意も手続きもなかったか……おい、とりあえずイエスマンと変わってくれ」

 

「セキュリティークリアランスの認証完了、了解しました。 しばらくお待ちください……」

 

 ラウルの操縦するベルチバードから降ろされたM3はいきなりから近くにいたセキュリトロンにマークされ退去警告を受けていた。

 後から降りてきたラウルは慌ててセキュリトロンに言うと、セキュリトロンのスクリーンモニターに映っていた不機嫌そうな警官の顔画像から、なんとも間の抜けたあのイエスマンの顔画像に移り変わる。

 

「おや、ラウルさん! わざわざお呼び出しとは珍しいですね! 何か御用ですか?」

 

「新人の人形を連れてきたんだがボスの奴、何も手続きしてないだろ? M3って言うんだが手続きをしてやってくれ」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「なんと! 彼女以外に戦術人形が増えるとはここも賑やかになりますね! 不幸な事故にならなくてよかったです! 下手をするとレーザーで灰になるところでしたが……彼もお忙しいですからね!」

 

「忙しいからって新人を放置する上司っていうのは、世間様で言うダメ上司ってやつだろ」

 

「とりあえずセキュリトロン達の認証は完了しましたよ! サイバードッグやロボ・スコルピオン等のほうは知りませんがね! 管轄外ですので……それではM3さん、お元気で!」

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

 イエスマンはM3に挨拶した後に通常のセキュリトロンAIと入れ替わり、そのセキュリトロンもそのまま警備任務に戻っていった。

 

「忠告しとくが、イエスマンのことはあまり信用しすぎるなよ。 ありゃ、ボスには忠実だが鉄血の嬢ちゃんより信用ならん……」

 

「は、はぁ……」

 

「あら、あのポンコツと同様に信用されてないなんてひどい扱いですわね」

 

 M3にラウルが耳打ちしながら忠告していると、後ろから声がかかる。

 その声の主を視界にとらえようとM3は振り向く、そこにはマスク姿が特徴的な鉄血製戦術人形のハイエンドモデル、スケアクロウがいた。

 それを見たM3は驚き動揺する。

 

「鉄血のハイエンドモデル!? だ、大丈夫なんですか!?」

 

「少なくともイエスマンよりは信用してもらえると自負してますけど?」

 

 軽くパニックになりかけたM3に落ち着いて返答するスケアクロウと、諭すラウル。

 

「お互い相いれないってのはなんとなくわかるがここでは穏便にすましてくれよ。 人形同士の喧嘩に年寄りが駆り出されちゃかなわん」

 

「……ですが!」

 

「M3、お前さんはもうここの一員なんだ。 社の意向にそぐわない言動は控えてくれ」

 

「す、すいません……」

 

「あら、私は相手になってもいいですけど?」

 

「はぁ、スケアクロウも挑発はやめてくれ……」

 

 溜め息をつきながら頭を抱えるラウル。

 だが、ふと思いついたようにスケアクロウに言った。

 

「おい、スケアクロウの嬢ちゃん……お前さん暇だろう? 親交を深めるついでに案内してやってくれないか? 俺はもう疲れた」

 

「え、えぇ!? そ、そんな!」

 

「……放置する上司はダメ上司なのでは?」

 

「俺はM3の上司じゃない同僚だ、先輩ではあるがな。 正直な所、これから更に何もしてないであろうここの責任者のやるべきことを俺がやらなくちゃいかん……」

 

「前から思っていたのですけどあの運び屋、現場主義すぎません? 戦術人形を雇うより事務員でも雇えばよかったのでは?」

 

「そうだな、その助言を聞いてくれてたら今頃は年寄りらしく隠居してただろうよ。 知ってるか? グリフィンには後方幕僚様っていう有難い神様みたいなのがついてるらしい」

 

「そういえば、そんな情報もありましたね。 後方幕僚をどうにかすることによってグリフィン基地の勢いを削ぐというのは意外といい戦略かもしれません。 あとで代理人に報告しておきましょう」

 

 ラウルとスケアクロウの会話に自分の存在意義が揺らぐM3だった。

 

「も、もしかして私はいらない人形ですか!?」

 

「貴女が事務作業をできるようになればいいのでは?」




クエスト追加

□運び屋に会う

■完了:(オプション)鉄血人形と会う


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Little Dolls

まさかのカップリング?


 モハビ・エクスプレスの拠点である廃棄された複合レジャー施設を、アームの先にある丸鋸やバーナーを使い作業するロボットや、周囲を彷徨くサイボーグ犬達を横目に、M3は渋々ながらにスケアクロウに施設を案内されながら歩いていく。

 ラウルはそのままM3のことをスケアクロウに任せてどこかへ行ってしまった。

 

「ほ、本当に放置されるなんて…… 酷いです……ラウルさん」

 

「あら、彼はまだここでは良心的でかなり真面なほうよ。 貴女の買い手である運び屋なんて放任主義もいいとこよ」

 

 そのせいでラウルが苦労してるんでしょうけどね、と言いながらスケアクロウは歩みを止めた。

 M3もその場に止まり、目の前の施設を見上げる。

 

 そこには掠れた文字で【ふれあい動物園】と書かれたゲート看板があり、文字の横にはデフォルメされた動物のマスコットイラストが描かれていた。

 ……イラストの一部が剥げ落ちたりして大変ホラーな雰囲気を醸し出している。

 

「その放任主義のせいで大きく問題になっているのがここです。 どこから連れてきているのか知らないですが、ここの動物飼育スペースには得体のしれないクリーチャーが飼育されてます」

 

「も、もしかして、E.L.I.D感染生物ってやつですか……」

 

 少し怯えを見せながらM3は言うが、スケアクロウは首を横に振りながら、

 

「いいえ、それとはまったく違うどころか、コーラップス対して免疫があるクリーチャーばかりみたいです。 人類の研究者なんかは喉から手が出るほどのサンプルでしょうね」

 

 そう言いながら険しい顔をする。

 

「ちなみに過去三回、クリーチャーが脱走する事件が起きてます。 その一回に出くわしたことがありますけど……思い出すのも悍ましいです」

 

 様子が豹変するスケアクロウ、僅かだが肩も震えていた。

 

「い、一体何が……」

 

 そのスケアクロウの様子にM3は問うが……すぐに聞くべきではなかったと後悔した。

 

「M3、貴女は1m級のハエ(ブロートフライ)ゴキブリ(ラッドローチ)に大量に襲い掛かられて正気を保てますか? ……私は無理でした」

 

「あ、あわわ……」

 

 顔を真っ青にするM3と元々白い肌である顔を更に青褪めさせるスケアクロウ。

 未だに鉄血の人形であるスケアクロウに懐疑的であったM3だったが、一気に同情的な心境になる……どころか、これから自分自身もその境遇に置かれると気付いてしまうのだった。

 

「奥にある水族館も同じようにナニかが飼育されてるようです。 私は見たくもありませんが……とりあえず、ここを離れて次へ行きましょう」

 

 

 

 

 

 そのまま、魔の動物園から離れてしばらく歩くと少し盛り上がった丘の上に展望台と思われる施設が建っているのが見えた。

 丘の上付近にはちらほらと蠍型のロボットが見え隠れしている。

 そして、なんとか気を取り直したスケアクロウは続いて説明し始める。

 

「あの展望台周辺は立入が禁止されているゾーン。 私はもちろん、許可のない者は立ち入れない場所です」

 

「も、もし入ってしまったらどうなるんです?」

 

「こうなります」

 

 スケアクロウは腰に装着され待機状態だった小型ビットを立入禁止ゾーンへ向かって飛ばす。

 ビットが展望台のある丘に向かって飛んでいく……が、突如その下の地面から蠍型の大小様々なロボットが次々と現れ、尾の先から青いレーザーをビットに向かって撃ち始めた。

 

≪止まれ! 貴様は禁止ゾーンに無断で侵入した! よって我が僕が貴様らを破壊する! ロボ・スコルピオン、攻撃せよ! ≫

 

 蠍型のロボット達が音声放送を響かせながらスケアクロウの飛ばしたビットに殺到して破壊しにかかる様子を見て、M3はついに目のハイライトが消えていく。

 

「……マトモな場所無いんですかここ」

 

「下手なことをしなけりゃ何も起こらないだけまだマトモよ、ここは」

 

 ビットを呼び戻して回収するスケアクロウ、どうやらエリアから離れると攻撃はしてこないらしい。

 

「……全部避けたと思ってたのですけど、前より命中精度が向上してるみたいですね」

 

 ショートして火花を散らしたビットを手に乗せ眉を顰めるスケアクロウは、後で修理請求をラウルにしておくことにした。

 

 

 

 

 

「そしてここが事務棟ですわ」

 

「お、思ってたより普通ですね」

 

 セキュリトロンが二体で入口の警備をしていたが、案内されたのはそれ以外はごく普通の古ぼけた事務棟だった。

 次はどんな魔境があるのかと身構えていたM3だったが、杞憂に終わったらしい。

 

「運び屋が帰ってきていれば恐らく中で会うことができるでしょう。 もし居なければラウルも戻ってきているでしょうから、彼に聞きなさい」

 

「あ、案内してくださって、ありがとうございます」

 

「貴女がグリフィンの人形だったのなら、案内ついでに放り込んであげたのですけどね……」

 

 そう言いながら浮遊し、そのままこの場を去ろうとするスケアクロウ。

 だが、その前にM3はどうしても再度聞いておきたかった。

 

「……やっぱりスケアクロウさんはまだ鉄血と繋がった状態なんですか?」

 

「ええ、修理されただけで鉄血とのネットワークもそのままです。 もちろん『傘』も……これはグリフィンやI.O.Pではまだ極秘でしたか」

 

「じゃあ、何故ここに? モハビ・エクスプレスで雇われてるとかじゃない……ですよね? ここに居つく意味がよくわからないんですが……」

 

「そうですね、一応は鉄血側からの橋渡し役を任されてるというのもありますが……救ってくれた愛しの彼への恩返しをしたいからというのが一番ですかね」

 

 スケアクロウは完全に鉄血側の人形だと正直に白状するが、M3は後半の部分でさらに疑問が増えてしまった。

 先ほど彼女は、愛しの彼と言ったか? 

 

「い、愛しの彼……ですか?」

 

「ええ、彼は私の破壊された身体を修理し、自壊した電脳を修復してくれたのですわ!」

 

 そう答えるスケアクロウの顔は口元がマスクで隠れていてもなおわかる程に緩んでいた。

 その表情は正に恋する乙女の顔というやつだった。

 

「か、彼と言うと運び屋さんでしょうか?」

 

「あんな何考えてるかわからないのと彼を一緒にしないでくださいます?」

 

 M3の言葉に、急に冷めた目付きになるスケアクロウ、かなり心外だったらしく心なしか睨まれてる気がした。

 

(と、ということはラウルさん……じゃなさそうな態度だったし、もう一人いるE.L.I.D感染者っぽい人なの……かな?)

 

 これ以上スケアクロウの地雷を踏まないように思案しているM3だったが、そこで後ろからビープ音と犬の鳴き声が聞こえた。

 

<──♪ ・―!>

 

「ワウッ ワン!」

 

 二人の後ろから現れ近づいてきたのはドローン型のロボットとサイボーグ犬、アイボットのED-Eとサイバードッグのレックスだった。

 M3はそのまま事務棟へ入っていこうとする二匹(いや二体?)を避け行き先を譲ろうとする……が、突如横からスケアクロウがその場に立ち塞がった! 

 

 いや、正確にはED-Eに対してだけだったが……

 

「あぁ! おかえりなさいED-E♪」

 

<!! ──!>

 

 そのまま、目にも留まらぬ速さでED-Eを胸元へ抱き寄せ、愛おしそうに撫でるスケアクロウ。

 ED-Eは警告音やビープ音を鳴らしながら嫌がっているのかスケアクロウの抱擁から抜け出そうとしているが、曲がりなりにも鉄血のハイエンドモデルである彼女の拘束から軽量級ロボットであるED-Eは抜け出すことはできずなすがままだ。

 

「愛しの彼っていうのはもしかして……」

 

「ふふ、そうですこの彼が私の愛しのED-Eですわ」

 

 ED-Eにゾッコンなスケアクロウに呆気にとられるM3、だがその熱愛っぷりに目の前の現実を受け入れざる得なかった。

 鉄血の人形は人類を敵視しているが、人でない機械同士ならばそういうのもありなのか? 

 片方のED-Eは嫌がってるように見えるが、実際に言葉がわかるわけではないのでなんとも言えない……

 

「な、なんにせよ私達が入れる空気じゃないですね……」

 

「ワゥン……」

 

 初めて顔を合わせたばかりであったM3とレックスであったが、この空気に互いは共通して意識を通わせた。

 




【ロボ・スコルピオン】
大蠍のミュータントをモチーフにして作り出されたロボットで様々なサイズがいるが、最低でも1mサイズ以上はある。
ハサミ部分は強力なペンチアーム、しっぽ部分にはアトミックレーザーが搭載されている。
中にはステルス機能を持ったものや、接近戦や射撃戦に特化したタイプとバリエーションは意外と多い、また破壊されると小規模な爆発を起こし爆風で敵を巻き添えにする。
運び屋がアメリカ東海岸を旅した話を聞いた製作者はそれにインスピレーションを受け、最近は地中を潜行できるように改造された。


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Live and Let Die

運び屋からの弾丸はプライスレス。


 とある古い貸倉庫の薄暗い中で、そこに男達が数人あつまり何やら話し合い会合をしていた。

 一人を除く男達は俗にいう人類人権団体と言われている者達で、人間のあるべき権利を侵害しているとして人形には排他的で時によっては見るに堪えない悪逆非道なこともすることでもよく知られる集団だ。

 その一部では過激派テロリストの扱いを受ける集団もあり、今いる集団もそういったものに部類されている者達であった。

 

「で? 注文してたブツはちゃんともってきてたのかよ?」

 

「半端なモンもってきたのなら、そのまま無事でいられると思うなよ!」

 

 凄みながら問い詰める人類人権団体の男達は部外者であるとある一人の人物に対して高圧的な態度で口々に言う。

 

 その部外者の人物……運び屋は落書きされたヘルメットにフルフェイスガスマスクとコンバットアーマーの上に使い古したロングコート衣装を着たいつもの出で立ちで頷くと、大きな木箱を抱えながら男達に見せる。

 運び屋が木箱を開けるとそこにはかなり大型のガス圧式のカタパルト射出機のようなものが出てくる、作りがあまりにも簡素であり、簡易的な構造だと見て取れた。

 

「おい、ふざけんな! なんだこれは! 高い金を要求しといてこんなもんが強力な武器だと!?」

 

 その射出機、名をファットマンと言い圧縮したガスにより弾頭を発射するだけであり、たしかに言われた通りとても簡素な構造の武器であった。

 問題は、その射出される弾頭がミニ・ニューク……つまりは小型核弾頭というトンデモ武器、いや兵器なのである。

 

 それを運び屋から聞いた男たちの態度は驚きと疑いの入り混じる態度に変わる。

 

「おい……まじかよ、へへ、ならいいんだけどよ」

 

「本当なんだろうな? これが……」

 

「ちょっと待て…… おい、その肝心の弾はどこだよ?」

 

 だが途中で肝心の弾頭が木箱の中のどこにも見当たらないことに気が付く。

 問いただすと別売りだと言う運び屋に男達は憤る。

 

「は? ミニ・ニュークは別売り!? ふざけんな!」

 

「とにかく先に金を出せだぁ! ……テメェ舐めるのもいい加減にしろよ」

 

 殺気だった男達は運び屋を囲み、それぞれ刃物や銃器を構えて近づくが、全く動じてない運び屋はとにかく金を払うように要求し続ける。

 

「本当だったら、はした金でも払って追い返してやろうと思ってたがよ……気が変わったぜ、テメェを殺して全部貰うぜ!」

 

 男のその台詞で、運び屋は気が付く。

 話術(speech)売買(barter)が上手い運び屋は、いくら相手が少額の支払いで済ます気でも、交渉話術で相応の金額を釣り出す気でいたのだが相手は交渉する気も失くしたらしい。

 特に相手に対して交渉が通じるかという見極めに対してはかなり秀でた天性を持っており、応か否かが確実に見極められるほどだった。

 

 その時点で人類人権保護団体を名乗る男達の末路が決まってしまった。

 彼の愛銃の銃口が硝煙を吐き出しながら闇の中で薄っすらと輝く(A Light Shining in Darkness)

 そしてその場にいた運び屋以外の全員は、彼の拳銃が腰のホルスターからいつの間にやら抜き取られているのに気が付かないまま、脳天に.45 Super ACP弾*1が撃ち込まれ頭が弾け飛ぶ。

 

 

 

 運び屋の周りに首から上のない死体が転がる光景は、さながら死神が駆け巡り(Grim Reaper's Sprint)全員の首を刎ねて行ったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死体となった男達の武装はナイフや拳銃しかでてこず、どうやらテロリストと言われる割にはチンピラ程度の武器しかなかったことに残念がる運び屋、何か有用な物がないか死体を漁った後、貸倉庫の中を探し始めた。

 

 しばらく運び屋が貸倉庫内を物色していた所で物音が微かに聴こえていることに気が付く。

 物音が聴こえた物置の陰を見ると、そこには錠がかけられた鎖で雁字搦めにされている古いロッカーがあった。

 運び屋が鎖に掛けられた錠とロッカーの鍵をヘアピンで軽々と鍵開け(Lockpick)するとの中には一体の人形が押し込まれていた……

 

 朱い髪をツインテールにした人形は酷い有様で、人形用の強化手錠を掛けられ衣服が意味をなさない程に破かれていた上に複数の殴打の跡、おまけに口は丁寧にガムテープで塞がれており、どうやら男達のあらゆる欲望の捌け口として使われていたと見て取れた。

 

 だが人形……いや彼女、CZ75の眼は未だ折れておらず目の前の運び屋を睨みつける。

 運び屋が口のガムテープを剥がすと出てきた言葉は──

 

「アイツ等を殺したあとはアタシかよ、武器商人、いや殺し屋か?」

 

 黙ったままの運び屋を射殺さんとばかりに睨み続けるCZ75。

 

「目撃者は生かして返さないってか、人間ってやつはホントに徹底して腐ってやがるな」

 

 どうやらロッカーの隙間からことの顛末を見られていたらしく、運び屋のことを武器商人か殺し屋と勘違いしているらしい。

 やってることが実質的には同じである為、否定する要素はなに一つもないが……

 

 睨み続けていたCZ75だったが、ふとにやけた顔になった。

 

「だけどよ、最後にアイツ等が死ぬ様を見れたのはスカッとしたぜ。 それが見れただけでも……」

 

 幕を引きたいのかと問いかけた運び屋、もしCZ75がそこで頷けば間違いなく彼女の頭は撃ち抜かれていただろう。

 運び屋がテロリストに武器を売ろうとしていたのは事実で、見られたまま放置するのはデメリットしかない。

 だが、CZ75の人の眼に映った意思、汚い欲望に犯されてもなお挫けぬ意思に非常に興味を持った。

 

 運び屋は人形を道具として認識している。

 道具だからといって粗末に扱ってもいいものでもないし、大切に扱い過ぎて愛でるべきでもない、道具は用途に合った使い方をするべきだというのが運び屋の考えだ。

 

「……嫌だね。 噛みついてでもオマエに、人間に、最後まで抵抗してやる!」

 

 これを使い捨ての道具のままにして置くのは運び屋にとって酷くもったいないように思えた。

 あと運び屋のことをちゃんと人間と認識しているのも好感が持てた要因だった。

 やっぱり、あの鉄血人形の眼は節穴だったと考えながらCZ75に手を伸ばし──

 

 

「そこまでよ! 彼女から離れなさい!」

 

 突如、運び屋の後ろから警告の声が発せられた。

 運び屋が後ろを振り向くとそこには桃色の髪をした戦術人形、ST AR-15が銃口を向けていた。

 

 ここで過激派人類人権団体が武器取引がされるという情報を元にAR小隊が駆り出されたのだが、いざ屋内を探れば多数の頭のない死体とロッカーに押し込められているCZ75、状況から見て明らかに運び屋が怪しいとしか言えない光景だった。

 

「ゆっくり手を挙げて、下がりなさい!」

 

 背後のAR-15に言われるままにゆっくりと手を挙げる運び屋だが、そこで顔を向けたまま見つめてCZ75に問う。 ──人を殺せるか、と

 

「殺してやるさ、もう鉄血人形なんかどうでもいい。 死ぬべきなのは……死ぬのは奴らだ」

 

「貴女何を…… っ!?」

 

 CZ75の言葉を聞いたAR-15はどういう意味なのか聞こうとするが、そこで運び屋の足元に何かが落ちたのに気が付いた。

 

 運び屋が落とした物、閃光手榴弾(フラッシュバン)が強烈な音と光を炸裂させると同時に、運び屋はCZ75をロッカーに再び押し込めて扉を閉じる。

 

「なっ!? おい、何すんだ」

 

 内部から聞こえるCZ75の声を無視してそのままロッカーを担ぎ上げ走り出すが、AR-15が意識を朦朧とさせながらもそれを阻止しようとする。

 

「くっ! やってくれるわね! っきゃっ!?」

 

 だが運び屋はロッカーを担いだまま器用に水面蹴り(レンジャーテイクダウン)でAR-15を横転させる。

 そしてそのまま、窓をぶち破って外へ逃げて行ったのだった……

 

 

 

『AR-15! どうした応答しろ! 何が起こったんだ!? さっきロッカーを担いだ運び屋が凄い勢いで窓から飛び出て行ったのが見えたんだが……』

 

 同じAR小隊のM16A1から通信が入るが、AR-15はどう返せばいいか分からなかった。

*1
.45ACP弾をベースにした運び屋お手製の強化型弾薬、通常の.45ACP弾を使用する拳銃でも使用自体は可能だが、銃への負担が大きい。

 銃整備の仕事が増えるよ、やったねラウル! 




【ファットマン】
通称ヌカランチャー、ガス圧式のカタパルト射出で小型核弾頭ミニ・ニュークを撃ち込む。
当たり前だが着弾すれば大規模な爆発と放射能汚染に見舞われる。
今回出てきたのは実の所、ガンランナーと呼ばれる店からの転売品、吹っ掛けた金額は割と暴利だったりする。

【闇に輝く光】
コルトM1911のオーダーメイド銃で、通常のM1911より銃身が短く弾倉が一発少ない、だがその威力と使い勝手はオリジナルを遥かに凌駕している拳銃。
銃身のスライド部分にはギリシャ語で聖書の一節「光は闇の中で輝くが,闇はそれに打ち勝たなかった」と彫られている。
モハビ最強のとある宣教師から託された運び屋の愛銃。

【Grim Reaper's Sprint】
運び屋はPip-BoyでV.A.T.S.と呼ばれるアシストシステムを使用し、相手を殺す度に行動力が回復する。
つまり少ない行動力で一人殺せれば、もう一回殺せるドン!ということになり、通常の視点から見れば瞬く間に次々に命が刈り取られていくチートじみた光景に見えるだろう。


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Little Dolls

M3殿の目がまた死んでおられるぞ!


 M3が事務棟内の部屋の扉を開けるとそこには、ボロのロングコートを着て落書きされたヘルメットにフルフェイスガスマスクの男が、服が破けボロボロの状態でほとんど裸同然の朱いツインテール髪の人形に機械式の首輪を着けている場面という、明らかに絵面的にアウトな光景が目の前に広がっていた。

 

 運び屋とCZ75は突然扉を開けたM3に顔を向けるが、二人共に興味をなくしたのかそのまま運び屋はCZ75に首輪を装着し、CZ75もそれを甘んじで受け入れていた。

 

「……酷すぎます。 な、なんですかこの光景は、というかもしかしてこの人が」

 

「喜びなさい、この男がM3の買い手よ、よかったわね。 私はこんなのに絶対買われたくないけども」

 

 M3の後からED-Eを抱えながら現れたスケアクロウはこのひどい光景に呆れながら言う。

 ……どうやらED-Eは抵抗を諦めたようだ。

 

「なんだよ、アタシに同情でもしてんのか? ちっ、いいんだよ。 この首輪は自分で頼んだんだ」

 

「鉄血のハイエンドモデルである私を目の前にしても、その態度とはなかなか見上げたものですね」

 

 スケアクロウに対して凄むCZ75、ED-Eを胸元に抱き寄せて撫でまわしているスケアクロウも威厳もあったものでもない様子だったのだが。

 

「というか、その首輪はなんなんですか…… え? ど、奴隷用首輪!?」

 

 M3の問いに運び屋は答えるが、しかも爆弾付きという解答に再び目のハイライトが消える。

 隣にいたレックスに顔を覗き込まれるが、その視線はなにか同情されてるような気がした。

 

「……わ、私もそれを付けられるんでしょうか」

 

 運び屋に首を横に振り否定されM3は安堵するが、何故CZ75にそんな物騒な首輪を取り付けているのか聞くと、彼女自身が人間に対して感情的になり攻撃しないように自制の為だという。

 また、M3のように所有権が運び屋にあるわけでなく、CZ75は未だにI.O.P社とG&K社に所有権がある状態な為、勝手なことをしたりモハビ・エクスプレスに下手な探りを入れないようにという意味もあった。

 CZ75はもう古巣に戻る気はないようだが。

 

 

 

 

 

 そしてM3とCZ75が運び屋に連れられて来たのは備品保管庫、そこにはラウルが備品の整備をしているところだった。

 外出する時には装備している顔を隠すためのヘルメットもしておらず、爛れた素顔を晒していた。

 突然の訪問、しかもその内のCZ75の裸同然の恰好と首に着けられた奴隷用首輪を見て唖然とする。

 CZ75もラウルの素顔に一瞬驚くが……

 

「アンタよりヒデェ顔の奴の相手させられたこともあるし……別に気にしないよ」

 

「初対面からご親切なフォローありがとよ。 なんか前も似たような台詞を言った気がするがボス、雇った人形は一体だって聞いてたが?」

 

 運び屋はラウルに事の経緯を説明するが、それを聞き続けるたびにラウルの顔が険しくなっていく。

 

「どこにでもそういう奴らはいるもんだが、そんな連中にファットマンを売ろうとしたのかボス…… まぁ、そこは置いておくとしてお嬢ちゃんの恰好をなんとかせんとな。 その為に来たんだろ?」

 

「ファットマンって何……です?」

 

「小型核弾頭ランチャーだってさ」

 

「…………」(M3の目のハイライトが消える)

 

 頷く運び屋に、ラウルは棚から女性用の衣服を二着取ってくると一着をCZ75に、もう一着を運び屋に渡す。

 

「しばらくこれを代わりに着とくといい。 今着てる意味があるのか分からん布っ切れは代わりに預かろう。 すぐにボスが直す」

 

「直す?」

 

 そう言われて衣服を着替えるCZ75、人形とはいえ女性の着替えと言うことでラウルは気を利かせて後ろを向いているが、相変わらず平然とそのままで佇んでいる運び屋にM3は怒る。

 

「……運び屋さんって本っ当にデリカシーがないですよね! CZ75さんが着替えてるんですからラウルさんみたいに後ろ向いててください!」

 

「別に今更、裸見られても気にはしないんだけどよ……」

 

 とにかく、CZ75のボロボロになった衣服とラウルに渡された女性用衣服を受け取った運び屋は衣服をニコイチ修理*1し始める。

 明らかに素材や生地が違うはずなのに有り合わせで修復(Jury Rigging)をして衣服を直していく様子は正直ちょっと異様だったがもう気にしないことにする人形二人だったが……

 

「ほら、ついでに銃も直してもらいな」

 

 今度は壊されてCZ75自身と一緒にロッカーに放り込まれていた半身でもある銃、Cz75とラウルから渡された別の9mmピストルを運び屋はバラしていくと使える部品を組み合わせて応急修理(Jury Rigging)していく。

 

「あ、明らかに規格の違う銃ですよね……」

 

「マジかよ、どうやってんだそれ」

 

「長い年月にわたって銃の整備してるが……俺にもわからん、ボス以外にはな」

 

 そうして運び屋から返された衣服と半身である銃を手に取るCZ75は驚愕する。

 

「途中からASST(烙印システム)も復活したのはわかってたけど、凄いな」

 

「……ほ、本当に直ってますね」

 

 唖然とする人形二人だが、ふとM3が呟く。

 

「も、もしかして……人形にも同じことできちゃうんじゃ……」

 

「ばっ、馬鹿! 余計なことを言うな!」

 

 運び屋の動きがピタリと止まった様子に、ラウルが慌てる。

 

「えっ? え? その腕に装着したノコギリみたいなの……な、なんですか!?」

 

「おい! 無言で近づいてくるのやめろ! ……だからやめろって言ってんだろ! いやぁああぁ!?」

 

 片腕に円形ノコギリをくっつけたような機械式アームガントレット、インダストリアル・ハンドを装備し、人形二人に近づいてくる運び屋。

 M3は怯え、CZ75は若干トラウマがぶり返すわで二人はパニックになるのだった。

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァ……もうイヤだコイツ、本当にやる気だった」

 

「こ、この人……本当に信じられない……」

 

 ラウルの制止と、人形二人の必死の抵抗でなんとか止まった運び屋に呆れ果てるラウル。

 

「ボス、あんた何の為にCZ75を助けたんだよ……」

 

 そんな様子を気にも留めない運び屋は、今度はCZ75のサブウェポンとなる武器がいるとラウルに言う。

 

「……さっきのことはまるで無視かよコイツ、でも何かくれるっていうのなら投擲用の斧とかない? 得意武器だったんだけど」

 

「投擲斧? それならあれが余ってたな」

 

 そうしてラウルが持ってきたのは刃の部分が青く光った機械式の斧だった。

 

「プロトンアックスっていうやつでな、標的に当たると小規模なEMP爆発を起こす。 ロボットや人形とかに効果が高い、鉄血相手にするならこれがいいんじゃないか?」

 

「鉄血人形相手に効果がある武器じゃなくて、人間に対して殺傷力があるやつとかないのか?」

 

「……ボスがお手製のトマホークを作ってたような、作り方でも教えてやったらどうだいボス?」

 

「い、いいなぁ……私は手榴弾しかないのに」

 

 ラウルとCZ75のやり取りを眺めながら、ちょっと羨ましそうに呟くM3に気がついた運び屋はゴソゴソと手持ちの荷物から手榴弾を取り出し手渡した。

 どうやら特別に運び屋がくれるらしいと少し期待したM3だが、その手榴弾は十字架のように白い線が書かれているだけの特に変わった感じがしないものでありガッカリする。

 

「はぁ、勿体無くて結局使わないから一個あげるって……言われてもですね。 3つ数えて投げろ? 4でも2でもいけない? 5はもってのほか? ……ば、馬鹿にしてるんですか!」

 

 途中から声を荒げて怒るM3に気が付いたラウルは、M3が握らされてる手榴弾を見てぎょっとする。

 

「……M3の嬢ちゃん、悪いことは言わんからそれを絶対近くや屋内で投げるなよ。 というかできれば使うな」

 

「……?」

 

 その後、M3は運び屋とラウルから、そのありがたい聖なる手榴弾(ホーリー・フラググレネード)の威力を聞き、またも目からハイライトが消えるのだった。

*1
複数から一つを修理すること。同型のジャンク品が複数あってそれぞれ違う場所が壊れているという状況下において、そのうちのいくつかの部品を取出して残ったいくつかを修復する手法のこと。




クエスト完了

■完了:運び屋に会う

■完了:(オプション)鉄血人形と会う



【Jury Rigging】
運び屋は、種類が近いタイプの備品であればそれを使ってニコイチ修理することができる。
互換性があるのか怪しい物も、運び屋にかかれば不思議と修理部品となるのである。
どうやってるのかって?
……それは運び屋にしかわかりません。

【インダストリアル・ハンド】
装着式の機械式アームに電動ディスクソーが取り付けられた工業用ツール。
本来武器ではないが、格闘武器として使うことができる。
DeadSpaceかな?

【プロトン・アックス】
正確にはプロトン・スローイング・アックス。
投擲用ではない両手持ちタイプの斧もある。
機械系にEMP効果を及ぼしてダメージを増幅させ、ロボットや人形、パワードスーツとかなんかにも特効効果がある。
見た目は某機動戦士の敵MSが装備しているヒート・ホーク。

【ホーリー・フラググレネード】
強烈な爆発と威力を誇る手榴弾、ぶっちゃけると核手榴弾。

「聖なるピンを外し、3つ数えろ」
「以上でも以下でもなく3つ数えるのだ」
「数えるのは3つ」
「4でも2でもいけない。5はもってのほかである」
「3つまで数えた時点で、手投げ弾を敵に放り投げなさい」
「目障りな敵がくたばるであろう」
「アーメン」


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Why Don't You Do Right?

人様の設定を借りてきてやりたい放題する奴。
焔薙さん作の【それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!】の設定を少しお借りしました。

怒られたら消すか修正します(スライディング土下座)


 とあるスラム街の一角にある建物内の朽ちかけた部屋、その部屋の中心には机が置かれ、さらにその上には年代物と思われる古いパソコンが一台だけ乗せられていた。

 そのパソコンに向かって一人の男が必死にタイピングをする。

 男はどこかおびえた風な顔つきで、額に冷や汗をかきながら最後のパスワードを入力した。

 するとパソコンはジージーピコピコと煩い音を立てたと思うと、突如パソコンから機械音声がし男に問い質す。

 

『こちらM.E社取引窓口です。 ご用件をお伺いします。 当てはまる要件内容にそって番号を』

 

「緊急の要件だ! とにかく急いでるからイエスマンを出してくれ!」

 

『特定キーワード確認しました。 しばらくお待ちください』

 

 男はパソコンからの音声案内を無視してパソコンに向かって必死に怒鳴り、パソコンのほうも応答した後に暫く沈黙する。

 そして突如にパソコンの画面がシャットダウンし、再度起動したかと思うとその画面には何とも間抜けなデフォルメされた笑顔、イエスマンが現れた。

 

『おや? 誰かと思えば! やっと人形の用意ができたんですね! いやぁ、よかったです! なにせそちらに前料金を払ったのにもかかわらず中々人形を引き渡してくれない上に、図太くも後払い料金で奴隷用首輪の購入まで言い出したんですから! 彼もかなり機嫌が悪かったですよ!』

 

「そ、それは悪かったと思っている…… だが今回は別の要件を急ぎで依頼したいんだ。 内容は……俺をS09地区から抜け出すまで護送してほしいと運び屋に伝えてほしい」

 

『えぇ? その上更に依頼ですか? 未払い滞納してる中でそれはさすがに難しいと思いますよ! 彼には伝えますけどね!』

 

「た、頼むぞ! 支払いは後でちゃんと出す!」

 

 男は必死にパソコンに移ったイエスマンに懇願する。

 

『わかりました! 彼と連絡を付けますますので暫くお待ちください!』

 

 パソコン画面が切り替わり暫くの間【Connection Lost】の文字が映り続ける。

 

 男は内心おびえながらも待ち続けた。

 その時間は数秒に満たない時間だったが、男にとってはとても長い時間のように感じられ……

 そして、再びイエスマンの顔がパソコン画面に復帰した。

 

『よかったですね! ちょうど其方が発注した奴隷用首輪の為に彼がそちらに向かっていた所だったようですよ! 実に幸運でしたね!』

 

「そ、そうか! 出来るだけ早く頼むぞ!」

 

『ええ、もちろんです! ……ところでお支払いはどうされます? 人形密売の拠点であるアジトは既にグリフィンの基地に摘発されたのでしょう? ふふふ』

 

 安堵していた男だが、その後にイエスマンに言われた言葉に顔が引きつる。

 

『先ほど入ったグリフィン本部の情報から見ますに、貴方の所の人形密売組織が摘発され商品である人形も保護されたみたいですね! ついでに貴方の口座と持ち金を予測計算しましたところ……これは困った! 全然足りません!』

 

「ちょ、ちょっとまってくれ! 他にもツテがあるんだ、未払い分以上の金額もこの地区から出れれば……」

 

『もはや貴方の逃げ先もマークされるのも時間の問題だと思いますよ? S09地区のグリフィン指揮官様は非常に優秀な方のようですね! いやその指揮下にある方々でしょうか?  向こう側に探りを入れるのにバックアップとデータ出力用に使っていたセキュリトロンが17体も電子部品が焼き切れて吹き飛び、挙句に何の成果も得られませんでしたしね!』

 

 男は冷や汗をかいた顔を更に青褪め、イエスマンの追求にどう逃げ応えるか考えを巡らせていた。

 所属していた違法人形密売組織の摘発を察知し、ブローカー役である男は我先にと逃げるつもりでモハビ・エクスプレスを頼ったのだが状況は不利どころか最悪だった。

 あくまで男は人形密売組織のブローカー、窓口であり営業役であったがまさか拠点となるアジトの連中がイエスマンが言うように人形を差し渡さず、挙句に追加注文をしているとは知らなかったのだ。

 

「……支払いについては」

 

『あぁ、ちょうどよかったです! その後の交渉ついては彼に直接してもらったほうが良さそうです!』

 

 なんとか交渉を続けようと粘る男だったが、次に言われたイエスマンの言葉に一気に緊張感が高ぶる。

 

 そして扉の開ける音がしたと思いそこへ振り返れば、いつもの落書きされたヘルメットにガスマスクに使い古したような装備……デザートレンジャーコンバットアーマーを着込んだ運び屋とその隣には、奴隷用首輪を着けたCZ75立っていた。

 

 男が初めて会った頃から運び屋は相変わらず表情が見えず何を考えてるかわからない不気味な奴だったが一人でしか来ることはなかった。

 だが今回は人形を連れており、その人形CZ75は男を気に食わないとばかりに睨みつけている。

 

「運び屋! なんなら帰る途中まででもいい、頼む助けてくれ……」

 

 男は懇願するが、だが運び屋は荷物から奴隷用首輪を取り出すと男の足元に投げ落とした。

 

「なっ、なんだ?」

 

「対価を払えってことだよ、アタシみたいにな」

 

「ふざけるな! お前のような人形風情と同じようになれと!?」

 

 CZ75は自分の首に着けられた首輪をコンコンと指で叩く。

 その意味を察した男は顔を真っ赤にして憤慨しに食って掛かるが、CZ75は睨み返して言う。

 

「オマエみたいな奴は真っ先に殺してやりたいけど、運び屋は骨折り損にはしたくないってよ」

 

 今度は運び屋を見て睨むCZ75、まさか人形密売組織からも人形を買おうとしていたとは……だが初対面の時も人類人権団体に武器を売ろうとしてたのを思い出し、よく考えれば不思議でも何でもなかったなと、睨む目がジト目に変わる。

 

(もしかしてコイツ等が人形をなかなか渡さなかったから、アタシやM3が連れてこられたのか?)

 

 そうであったのならば、人形密売組織のおかげで運び屋に助けられることになったのだろうかと、CZ75はふと思う。

 

「まぁ、考えても今更仕方がないか……それでどうするんだよオマエ」

 

 床に転がる奴隷用首輪を前に、苦り切った顔をして悩む男。

 

 そして奴隷用首輪を手に掴み──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それではここのアクセス用のパソコンは証拠隠滅の為、私が自壊させておきます! それではS地区の旅の続きをお楽しみください! 09地区に近づくのは暫くはお勧めはしませんが……でも、貴方がそうしたいのなら私は何も反対しませんけどね! それではお元気で!』

 

 パソコンに写ったイエスマンはそう言うとその後、パソコンは破裂音と共に火花と煙を上げ爆発して破壊された。

 

「へっ、これでオマエもアタシと立場は同じ、先輩は敬えよ。 それと……」

 

「グあぁっ!?」

 

 CZ75は自分と同じ奴隷用首輪を着けた男の顔面を殴り飛ばすと、人間とは桁が違う人形の腕力で殴り飛ばされた男は口から血を溢しながら壁際に吹き飛んだ。

 

「また人形風情なんて言葉吐いたら次は殺すぞ人間風情が!」

 

 運び屋はCZ75に殴り飛ばされ気を失った男を担ぎ上げるとそのまま部屋を出て行こうとする。

 

「それで、この後どうするんだよ。 グリフィンの連中にコイツを連れてるのバレたらヤバくないか?」

 

 CZ75も、まだそのグリフィンの所属ではなかったかと運び屋は言うが、CZ75は不機嫌な顔になり。

 

「アタシはグリフィンには戻らないぞ……って、このままS地区で買い物して帰る? 何を買うってんだよ」

 

 その答えに運び屋は人形と答え、CZ75を置いて部屋を出ていった。

 

「ホント、アイツ馬鹿じゃねぇの……」

 

 怒りを通り越してもはや呆れ果てるCZ75は、トボトボと運び屋の後を追うのだった。

 




自分でも書いてて頭おかしいと思いました。



【奴隷用首輪】
爆弾が取り付けられた機械式の首輪、首輪は任意で爆破できる以外にも、逃走防止用に一定距離を離れると爆発する設定にも出来る。
ラジオ等が発する電波に干渉してしまい爆発してしまうような不良品同然の首輪もあるが、運び屋はそれを思い出の品として残している。
エリヤのジジイ絶対許さねぇからな


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ザ・ブロートフライ 二世誕生

ジャッジちゃん好き。


 そこには強固な分厚いガラスに被われた広い空間があった。

 かつてのそこは水族館内の巨大な水槽であったが、今はもはや水は無く、今は罅割れたタイル床に乾ききった岩石と放置され生い茂った草木が見えるだけだ。

 だがよく見るとその水槽であった場所の中心部に一つの巨大なナニカがあり、その周りには空の注射器や様々な薬品の空き瓶、そしてコーラの空き瓶が辺り一面に散乱している。

 

 それはどうやら虫の蛹のようで時折微かに動いていた。

 やがて微かな動きがやがて徐々に大きくなっていくと、ついに蛹に皹が入り割れ始めた。

 割れ目からは白い光が漏れ出し、どんどん割れ目が大きくなっていく……

 

 そしてついに白光の正体が蛹から変態を遂げた。

 

 

 

 

 

 本来ありもしない地区に改竄し勝手に銘打った場所、L38地区のM.E(モハビ・エクスプレス)社の拠点である廃棄された小さな複合レジャー施設群。

 かつては子供連れの家族が楽しんでいたであろう場所が、日に日にロボット達によって補修や造設をされもはやグリフィン基地よりも物々しい様相になっていた。

 今日もロボット達が黙々とそれぞれに課せられた命令に従い働いている。

 

 その一角である小さな動物園内の飼育施設内で、M3はビッグホーナーと呼ばれる巨大な山羊のような生き物に餌をやりながら、そのロボット達の様子をぼんやり眺めて考えていた。

 何故このロボット達はこれほどまでに毎日必死に補修やら補強をし続けているのだろうと……

 

「何をぼんやりしてるんだい! この後はバラモン、その次はゲッコーの餌やりだよ!」

 

「す、すいません!」

 

 横から怒鳴ったのは麦わら帽子を被った青い肌のミュータントであるリリー、怒られ咄嗟に謝るとテキパキと他のビッグホーナーの餌やりをこなしていく。

 

 初めてリリーを見たM3は多少驚きはしたもの、それまでにあった出来事のほうがインパクトがありすぎたせいもあり、その後はすんなりと受け入れてしまっていた。

 リリー自体も面倒見が良く、時折攻撃的になったり精神的に不安定になったりすることもあったが、平常時には時に厳しくも普段は優しくM3に接してくれていた。

 

「まだまだ他にも腹を空かしている子達がいっぱいいるんだ。 早くしておやり」

 

「は、はいぃぃ!」

 

 必死に餌やりをしていくM3を眺めながらリリーは満足したようだ。

 

「頑張ればやれるじゃないかい、今後は向こうの世話も任せてみるかね」

 

 そう言いながらリリーは水族館がある方へ視線を向けた。

 

 

 

 ──その瞬間、その水族館の屋根が爆音と共に吹き飛んだ。

 

 

 

「なっ、何ですか!? 一体何が……ん?」

 

 気付いたM3も慌てて見ると、そこには白く眩く輝き発光している巨大な飛行物体が不規則な軌道で飛び回っていた。

 

「……は?」

 

 そして目を凝らして眩しく輝くその正体に、思わずM3はおもわず目をこすりながら我が目を疑った。

 

 それの正体は巨大な蝿だった。

 眩しく白光している巨大な蝿が上空を飛び回っているのだ。

 

「また坊やのペットが脱走したのかい。 何度目だいまったく!」

 

「……ああ、ロボット達が毎日補強してるのってそういう……というか、アレがペット……や、やっぱりあの人頭おかしい」

 

 いつものようにデタラメな展開に目のハイライトを消すM3と、動揺は無くいつものことのように呆れているリリー。

 そして、何故毎回忙しなくロボット達が施設の修理や補修をしているのかなんとなく理由を察した。

 

「な、なんなんですかあの光ってる巨大な蝿は……」

 

「あれはブロートフライだよ。 だけど、あんなには大きくはなかった筈だけどねぇ」

 

 ブロートフライは放射能汚染に適応し巨大進化した蝿のクリーチャーである。

 とは言え本来は1mにも満たないサイズの筈であるのだが、運び屋が育てる際にありとあらゆる薬物を投与し、挙句の果てにヌカ・コーラ・クオーツまで大量投与した結果、規格外なサイズでヌカ・コーラ・クオーツの様な白く発光したまさに伝説的なブロートフライが爆誕したのであった。

 

 

 ──後の運び屋曰く、かつての強敵と再び相まみえたかったので自分で育てたらしい。

 その時それを聞いたM3とCZ75は思わず無言で戦術人形の出し切れるフルパワーでボディーブローを叩きこんだ。

 運び屋は全くビクともしなかったが──

 

 

「一体何事ですか……」

 

 騒ぎを聞きつけたスケアクロウが現れ何事かと顔を出してきたが、空を不規則に飛び回り白光する飛行物体(ブロートフライ)を見てかつての脱走事件のトラウマが蘇り元々白い顔がさらに蒼ざめる。

 

「あのイカれ、今度は何を脱走させましたの!?」

 

「わ、私に怒鳴られても困ります!?」

 

 スケアクロウとM3がパニックになりながら言い合いをしているのをよそに、空路飛び交っていた問題のブロートフライはそのまま飛び去っていった。

 

「おや、向こうに飛んでっちまったよ」

 

「あの方角は鉄血の支配領域ですわ…… 代理人に至急連絡してあの忌まわしい蟲を討ち取ってもらいましょう!」

 

「で、でもアレって運び屋さんのペットって話じゃ……」

 

「アレをペット呼ばわりする神経がわかりませんが、どちらにせよ鉄血の領域に侵入してきた時点て只の敵です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後すぐさまスケアクロウからの連絡による言伝により、鉄血の支配領域内にてその総責任者とも言える代理人から、その中枢の防衛を任されているジャッジに通信が繋がれた。

 

『信じがたい話ではありますが、一匹の蝿がこちらの領域に向かっていることが寄越された情報からわかりました。 情報の精査や分析に関しては信用できる伝手からです』

 

「ふん、まさか我々の本営に直接単騎で乗り込もうとする無謀で愚かしい奴がいるとはな、例のAR小隊という連中の一人か? それとも以前情報にあった404小隊とかいう工作員の類か?」

 

『いえ、蠅です』

 

「ふん、なんだただの木っ端か…… 馬鹿馬鹿しい、何故わざわざ私にそんなことで通信連絡を寄越す? 直下の部下に指示して片付ければいいだけだろ」

 

『いえ……ですから比喩的な意味ではなく本当に蠅なんです。 勿論ただの蠅ではなさそうですが』

 

「んん? 何を言っているんだ代理人、訳が分からんぞ?」

 

 代理人はスケアクロウから聞かされた内容を率直に伝えているのだが、そのせいで余計に要領を得ない様子のジャッジだった。

 とにかく再度、代理人はジャッジに誤解のないように一から説明していく……

 

『ということで目下上空を飛行しながら此方に向かって来ていると思われます。 相手は虫ですから何時気まぐれで方向転換してもおかしくないですが、警戒はするべきでしょう』

 

「ふん、前からあの地区に関しては気に食わんかったが、生物兵器を送り込んでくるとはな」

 

『曰く、育てた本人からするとペットが脱走しただけらしいですがね』

 

 代理人からの、その言葉を聞いてジャッジは頭を抱えて深いため息を吐いた。

 

「ご主人は何故あのクーリエとかいう奴と意気投合できるのか未だによくわからん…… 代理人は教育係だろう、それでいいのか?」

 

『主様がそれをお望みとあらば……教育上悪いのは否定しませんが』

 

 再びジャッジが溜め息を付いた後、近くに控えていた部下の人形に指示を出す。

 

「L地区方面のBラインに警戒レベル1ランク上げる様に通達しろ! Cラインはジュピター砲の仕様を全対空に切り替えろ!」

 

「それでは地上防衛ラインの火力支援に穴が空きますが……」

 

「かまわん、たかが蝿一匹なれど空からの襲撃には絶対に警戒せねばならん」

 

「はっ、了解しました! L地区方面の各ラインとブロックに直ちに通達致します!」

 

 ジャッジの指示を通達するために退室していく。

 

『それでは、その後の警戒は頼みました』

 

「……この情報をよこしたのはスケアクロウだろ? 私は何も気にしないさ、只言っといてくれ、クーリエの腹に一発入れといてくれってな」

 

 

 ──その後、スケアクロウは運び屋に渾身のボディーブローをぶち込んだが、やはり運び屋にはビクとも効かなかった。




Q.なんでこんなアホな話にしたん?

A.蝿といえば夏の風物詩かなって♪(クリーチャーに人形が陵辱されるの書きたい)


【ブロートフライ】
巨大進化した蝿のクリーチャーで、見た目もそのままどデカイ蝿である。
同じく巨大化したラッドローチと双璧をなすfalloutのマスコットクリーチャー、一応食用にできる。
卵や孵化した蛆を遠距離から射出し直接産み付けてくるという絵面的にとてもキツイ攻撃をしてくる。
かつて運び屋がいた土地では雑魚クリーチャーの筆頭であったが実は最上位種にとんでもない規格外がいる。


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ザ・ブロートフライ 二世誕生

伝説級に奇襲されればこうもなるわ。

ジャッジちゃんの活躍シーンまで書けなかった…


 月と星が雲に隠れ、空は明かり一つ見えないはずの夜空に眩しく光る飛行物体があっちへフラフラこっちへフラフラと不規則に飛び回っていた。

 だがその飛び回る軌道と速度はヘリコプターや戦闘機では到底無理な動きである。

 

 その正体である巨大な蠅の怪物、ブロートフライは頭を忙しなく動かし辺りを見回していると、突如近くの上空で爆発が起こった。

 そして、続けざまにブロートフライの周囲で次々と爆発が起こるが、ブロートフライはそれをあらかじめ全て感知していたのか爆風にすら掠らず悠々と飛び回っていた。

 

「ギ…… ギュギィ!」

 

 周囲が爆発する中でブロートフライは滞空しながら尾尻を下に向ける、そして暫くしてズガンッと重音がすると尾尻の先から何かが射出された。

 

 

 

 

 

 地上の鉄血陣営では、防衛の要であるジュピターが次々と爆発炎上し使用不能状態となり大混乱に陥っていた。

 

「駄目です! 対空砲火の全てが命中していません! ジュピターの被害数七割! 」

 

「くそっ! 信管の調整が甘いぞ! もう少し精度をなんとかできないのか!」

 

「もう無理です! 敵の高度が出鱈目に変わるせいでまともに機能していません!」

 

「接近信管にしろっ!」

 

「余計に当たりませんし、変更する時間もありません!」

 

 防衛ラインの総括を任されていたDragoon(ドラグーン)は部下達の報告から逐一指示を出すがもはや何も状況を立て直せる状況ではないと悟る。

 

「くっ……アーキテクト様とゲーガー様がいない今の我々ではこの程度の調整が限度だったか!」

 

 そもそもジュピターは対地要塞砲であって対空を想定していない設計だった。

 だが当時そこに危機感を覚えたアーキテクトは対空機能やその他の仕様試験が必要と実験していたのだが、そこにグリフィンを襲撃されゲーガーと共にアーキテクトは鹵獲されてしまった。

 結局は、それを無理に引き継いだ間に合わせの工面で何とかしようとしていた所にこの襲撃が起こったのである。

 

「AラインもBラインの防衛網も全く敵の相手にされていません……」

 

「ジュピターが掠りでもすれば空から引きずりおろせると思っていたが……」

 

 部下のGuard (ガード)達からの報告に苦り切った顔をするドラグーン、上空からの一方的なアウトレンジ攻撃に手も足も出ない状況にどうするべきなのかと電脳をフル回転させて思考していた。

 

 ──ズガッシャッ! 

 

 急に近くで報告していたガードの一人から奇妙な音がし、ドラグーンは思考を一度やめ顔を向けるが、そこにはガードの姿は無く、有ったのはガードであったモノの下半身だけだった。

 

 突然に何かが落ちてくる。

 

 その落下物にドラグーンは目を向けるとそれは下半身と行き別れ千切れ飛んだガードの上半身だった。

 

「う、うわああ!」

 

「ね、狙われてる!? 防御!」

 

「やめろ! 動きを止めずに退避しろ!」

 

 他のガード達は上空に向けてシールドを構え防御陣形をとるが、ドラグーンは必死にそれをやめさせて逃げるように言う。

 

 ──バァッンッ! 

 

 だがそれも虚しく次の瞬間、シールドを構えていたガードの一人が頭上からの一撃で人工血液を撒き散らしながらバラバラに弾け飛んだ。

 

「ぐっ、ジュピターを一撃で沈める敵だぞ! 防御せずに回避しろ!」

 

 そう言ってドラグーンは相棒ともいえる搭乗用二足歩行兵器に乗りその場を離れようとする。

 残り一人になったガードも慌てて続こうとするが、さらにその後ろから耳障りで悍ましい羽音が近づいてくるのが聴こえた。

 

 その直後ドラグーンの視界の世界が廻った。

 

 

「がはぁっ!? ぐぅっ、なんだ……ひっ!?」

 

 二足歩行兵器から放り出され地面に転がり落されたドラグーンが見た光景、それは大穴を空けて辛うじて上下の身体が繋がっているともいえるガードと、自らが搭乗していた二足歩行兵器がバラバラになった残骸。

 そしてその数メートル上空には、白く光る巨大な蠅の怪物ブロートフライが煩い羽音を立てながら滞空していた。

 

「ギッ ギッ ギチチ」

 

「こ、こいつが敵の正体……」

 

 目前のブロートフライの異様さに驚愕する。

 

「ド……ドラグー……ン 逃げて……下SA……い ジャ……ジ様NI……報告」

 

「ギッ! ギャチチ」

 

「い……嫌…… なにやME……TE」

 

 辛うじて意識を保てているガードは逃げるように伝えようとするが、それに気付いたブロートフライは飛ぶのを止めてガードの上に降り立ち圧し掛かる。

 そしてブロートフライは虚しい抵抗をするガードに尾尻を押し付け始めた。

 

「い いYA なに……するNO IYADA 助KEて」

 

「止めろ! やめろ! 何を──」

 

 ──ズバンッ! 

 

 その瞬間、大きな破裂音と共にガードの上半身が機械部品と人工血液の入り混じった残骸となり粉々に飛び散る。

 

「……ギ?」

 

 その結果にブロートフライは首を忙しなく動かしながら不思議そうにしているように見えた。

 

「あああぁっ……」

 

 ドラグーンから悲痛な声が漏れる。

 

 ドラグーンやガード達、鉄血製のハイエンド以外の人形はI.O.P製の人形のように感情豊かではないが、それでも最低限の人間を模した感情モジュールはある。

 ただ彼女たちは人類を相手取ると決定づけられた時、主人の為に弱みを見せず一兵として駒としてあろうとしたのだ。

 人類から見える無感情な鉄血人形とは鉄血とグリフィンが互いの陣営でそのように見せてきたイメージ操作で、鉄血は敵に対して無感情な冷酷さを見せつけるため、グリフィンは感情など持たないただの蹴散らすべき敵として……

 

 ドラグーンとガード達の付き合いは意外と長く、この防衛線を任されてからのドラグーンをガード達は護衛以上に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたものだった。

 そんな彼女たちの最後は呆気なく悲惨なものに終わったが……

 

 そして今度はドラグーンに飛び掛かり、同じように圧し掛かり尾尻を押し付けてきた。

 

「いやぁ! やめ……」

 

 ドラグーンは必死に抵抗するが、その時に先ほどのガードがいた方が視界に入る。

 下半身だけ残され部品が粉々に飛び散った光景、だがその中心部の地面にブロートフライが撃ち込み、そのままめり込んでいた何かが見えた。

 それは銀色で半分は地面に埋もれて見えないが楕円状のモノ。

 

 電脳が勝手に検索と検証を行い、ドラグーンはそれが何か理解してしまった。

 

「……虫の卵!?」

 

 そう、今までブロートフライが撃ち込んできていたのは卵だったのだ。

 そして、ドラグーンが何をされようとしてるのかをも理解した。

 ブロートフライはこの体に卵を植え付けようとしているのだと……そしてその威力に耐えれずにガード達のように無残に破壊されるのだと。

 

「いや、嫌ぁ!」

 

「ギ ッギ!」

 

 なんとか抵抗しようとするドラグーン、だがブロートフライの巨体に圧し掛かられ尾尻を押し付けられている状態で何も抵抗できなかった。

 

 だがその時、ふと腕に何かがぶつかる。

 それは、ガードが使っていた銃剣付のハンドガンだった。

 

 それに気付いた瞬間、ドラグーンはハンドガンを手に掴みブロートフライの顔面に必死に撃ちまくる。

 

「うああぁ! 嫌だ! 嫌だ!」

 

 だが、至近距離で撃ち込んでいるのにもかかわらず、弾丸は全てはじき返され、最後のあがきと銃剣を突き刺そうとしたがそれも全く刃が立たなかった。

 抵抗をまったく物ともしないブロートフライは前脚でドラグーンの両腕を押さえつけそのまま卵の植え付けを続けようとする。

 

「あ……嫌ぁ、助けて」

 

 

「仮にもこの区画を任せたんだ、それをこのざまで命乞いとは情けない」

 

「ギュィ!?」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、ブロートフライに横からの強烈な飛び蹴りが叩き込まれドラグーンから離れ吹き飛ぶ、そしてその後に噴射装置を吹かせながらゆっくりと隣に着地したのは鉄血のハイエンド、ジャッジだった。

 

「虫一匹にこの有様か、これではドリーマーにまた嫌味を言われそうだ……全く最悪だ」

 

「ジャッジ様!? これは……っ申し訳ありませんっ!」

 

 ドラグーンの謝罪の言葉を聞きながら、周囲を見渡す。

 見えるのは炎上するジュピターを背景として機械混じりの肉塊と化したガード達だったモノだけだった。

 

「……アイツらは全員やられたのか?」

 

「……はい」

 

 ドラグーンに付けられたガード達は元々はジャッジ直属の者達で、ドラグーンの元に着く前はジャッジの護衛と世話を甲斐甲斐しくしてくれていた。

 まるで子供を世話するように扱われていたことには大いに不満があったが、ジャッジはあの彼女(ガード)達に様々なことを教えられたのを思い出す。

 

「そうか……」

 

 直後、蹴り倒されていたブロートフライが勢いよく飛び上がり、ジャッジは頭上を飛んでいるブロートフライを見上げながら睨んだ。

 

「ギィ! チギギギ……」

 

「部下が世話になったようだな、今度は私が相手をしてやろうじゃないか!」

 

 




じゃっじちゃんがんばえー!

ホントはもうちょいエログロな内容だったんだけど、やっぱりやめときました。
蟲姦とか誰が得すんねん(俺得)


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ザ・ブロートフライ 二世誕生

宛先:運送会社モハビ・エクスプレス
   クーリエ・シックス様

差出人:鉄血工造
    代理人 

あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます!
理由はもちろんお分かりですね?
あなたがマスターを話術で騙し、更には防衛拠点を破壊したからです!
覚悟の準備をしておいて下さい。
ちかいうちに訴えます。
裁判も起こします。
ジャッジにも問答無用できてもらいます。
慰謝料の準備もしておいて下さい!
貴方は犯罪者です!
頭にに弾丸をぶち込まれるのを楽しみにしておいて下さい!
いいですね!


 星が見えず暗闇の夜空の下、破壊され燃え続けるジュピターが無残に破壊された鉄血人形の残骸達を照らす。

 そして周りを照らす光源がもう一つ、白く発光する蠅の怪物ブロートフライ。

 それに対峙する鉄血人形のハイエンドモデル、ジャッジは目の前の敵を冷静に観察する。

 

(見てた限りでも相当防御が固いようだな、攻撃力も馬鹿にできないがシールドで防げる範囲だ)

 

 目前で滞空するブロートフライを睨みながら観察する。

 ジャッジの基本戦闘スタイルは、エネルギーシールドで防御を張りながら背中に取り付けられた連射式ツインオートキャノンによる命中精度の高い射撃を行うやり方であり、普段はオートキャノンの装弾発射にかかるエネルギーをシールドのほうにまわし防御を固め、配下の鉄血人形に援護させるというのが常套手段だった。

 

(相手取るだけなら私一人だけで十分か)

 

 飛び回るブロートフライの回避能力に対しては命中精度の高いこちらの武器で十分に相手取れると思われた。

 

「ギギィ!」

 

 ジャッジはブロートフライから目を離さないようにしながら隙を窺っていたが、先に動いたのはブロートフライの方だった。

 ブロートフライは突如急上昇飛行をし一気にジャッジの頭上を取ると、すかさず尾尻から卵を射出し鋭い一撃を撃ち込んでくる。

 

「ハッ! 所詮は虫の頭で考えた容易い奇襲だ! やってみろォ!」

 

 その一撃をシールドで受けようとするジャッジ、上空に向かって平面三角形のシールドが現れ攻撃を阻もうとする。

 だがその威力は予想以上のものだった。

 ブロートフライの一撃を受け止めたシールドは容易く耐えたがその衝撃エネルギーはそのままジャッジに圧し掛かかり、凄まじい負荷を掛けた。

 

「ぐっ! この威力は対物ライフル以上だな…… だが、その程度では脅威には程遠い!」

 

 ジャッジはお返しとばかりにメイン武器のツインオートカノンをフル連射してブロートフライにとにかく撃ち込む、ブロートフライは変則的な軌道を描きながら飛びまわり回避しようとするが、オートカノンの自動追尾機能にはなすすべもなくほとんどの射撃が命中、だがブロートフライはジャッジからの射撃をくらい続けながらも平然と逃げ回り続けていた。

 

「当たりはしてもまるで効かんだと!?」

 

 ジャッジの周囲を廻るように左右上下と自在に逃げ回るブロートフライ、装備されたツインオートカノンが忙しなく自動追尾をしながら撃ち続けるがやがて──ガチンッという音を立てたかと思うと射撃が止まった。

 

「ちっ、弾切れか!」

 

 オートカノンが弾を全て吐き出した後、オートリロードを始める。

 

「ギチチチ!」

 

 その様子をみて嗤ったかのようにブロートフライは鳴き、尾尻から卵を撃ち出しジャッジを撃ち抜こうとするが、それもまたシールドに阻まれる。

 だが、ジャッジが射撃攻撃をできないと理解しているのか、回避行動から動きを止め続けて何度も攻撃を撃ち込み続ける。

 

 度重なる薬とヌカコーラ・クォーツの多量投与により変化したブロートフライは巨大化と共に外皮が恐ろしく硬化し、また産み出され射出される卵も同じく驚異的な硬度と比重、更に放射能をも帯びており、それは嘗ての旧世代での戦争に使用されていた劣化ウラン弾と同等かそれ以上に脅威であった。

 

「くっ! っぐっ! ぅあっ!?」

 

 ジャッジはシールドを展開して防御するが、続けざまに撃ち込まれるブロートフライからの攻撃の衝撃と反動に耐えきれず徐々に押され始める。

 これは守備を得意とするハイエンドモデルであるジャッジだからこそ耐えれているとも言えるが……

 

「ぐぅっ! くそっ、もう一度地に伏してろ!」

 

「ィギッ!?」

 

 背中と脚部に内蔵された噴射装置で空中に飛び上がり、ブロートフライに向かって飛び蹴りを撃ち込む。

 シールドに使うエネルギーをも回し、全てを集約した一撃が顔面に叩き込まれ、ブロートフライは一瞬昏倒し墜落。

 

「ついでにこれでもどうだぁ!」

 

 更に噴射装置と落下の勢いを利用して落ちていくブロートフライの腹部に追撃の蹴りを入れながら地面に叩きつける。

 地に落ちたブロートフライはジャッジの踏み台となったまま動かなくなった。

 

「っはぁ、はぁ…… 手こずらせてくれる! これで最後だ、くたばれ!」

 

 シールドに使っていたエネルギーを全てリロードを完了したツインオートカノンに充てて、下にいるブロートフライに銃口を向けて至近距離で撃ちまくるジャッジ。

 

 鳴り続けるオートカノンからの怒涛の射撃音、撃って撃って撃ちまくる。

 

 吐き出される弾丸が全て真下のブロートフライに撃ち込まれ、ついにまたも弾切れの音がし射撃が止まる。

 怒涛の射撃により硝煙や土煙で視界が遮られるが、周りに漂っていた硝煙の霧が徐々に晴れてくるとそこには穴だらけのズタズタになったブロートフライが──

 

「そんな馬鹿なっ、無傷!?」

 

 ──いるはずだった。

 

 そこにいたのはジャッジからの至近距離の全力掃射を受けたはずのブロートフライ、だが手負いどころか何一つ傷を負っていなかった。

 

「ギャギィイイ!」

 

「なっ! うぐぁあっ!?」

 

 次の瞬間にブロートフライは自らの腹に乗るジャッジを六つの脚で拘束し捕まえ、脚それぞれが抱き込み締め潰そうとまた引っ張り引き千切ろうとする。

 その力は鉄血人形のハイエンドモデルをも容易く凌駕し抗うこともできないもので、ジャッジの衣服が引き千切られ、肉体も引き裂かれる。

 

「ぅあがぁ!?」

 

「ヂギギギイイ!」

 

 肩が裂け、人工血液が勢いよく噴き出し、ブロートフライは更に血を啜ろうとその裂けた傷口に噛み付いた。

 

「っぅああああああぁああ!?」

 

 ジャッジの電脳にダメージと痛覚のオーバーフローによる警告が出る。

 痛覚を切ろうとするが、あまりの痛みにより冷静さを欠きそれもほとんどできていない。

 

 そして、ブロートフライはジャッジを無理やり引き寄せて腹部に尾尻を押し付ける。

 

「ぃいやあ、やめろ! ぃ嫌だ! やめてぇ!」

 

 あまりのダメージと痛覚の負荷により、普段隠していた幼い性格が一瞬露わになるジャッジ、これからされる行為を想像し必死に抵抗しもがく。

 この密着した至近距離ではシールドは意味をなさない、その為必死に噴射装置を使い密着状態から逃れその瞬間、隙間にシールドを張った。

 

 ──ズガンッ! 

 

「あがぁっ!?」

 

 その次の瞬間、ジャッジはシールドに直撃した衝撃をモロにうけて凄まじい勢いで吹き飛ぶ。

 彼方の後方に吹き飛ばされるとそのまま地面に落ちるが、勢いを殺し切れずに何度もバウンドしながら更に地面を転がり続けやがて勢いはなくなり止まった。

 

「……ぅあっ」

 

 

 

 酷い有様で地面に横たわるジャッジ、微かに日が昇り始めて空が明るくなりその悲惨な姿が晒される。

 元々生地の少なかった衣服はほとんど破け、裸同然でそのさらけ出された素肌はズタズタに引き裂かれて血だらけの姿、武器であるツインオートカノンも片方が破壊され無くなっている。

 ブロートフライから距離を空けれたがもはや意味をなさない。

 

 ブロートフライが飛び上がる音が聞こえ、その羽音がジャッジに近づいてきているのがわかった。

 日の光によって暗闇に眩しく光っていた姿が徐々に見やすくなり、その悍ましい見た目を完全に曝け出す。

 

「ぃゃ……」

 

 暗い夜では自ら発光していた見にくく視認し辛かった怪物の全貌を遂に見たジャッジは完全に戦意を喪失していた。

 

「ギィイッ!」

 

 倒れ伏すジャッジの真上まで飛んできたブロートフライは真下のジャッジに向かって卵を撃ち込もうと狙いを付け──

 

 ──ガズンッ! 

 

 

 

 

 

「……うぐぁあっ!?」

 

「ィギ?」

 

 ──ジャッジの顔面を掠めて着弾した。

 威力が威力だけに、顔の真横に着弾しただけで脅威だったが直撃はなんとかまのがれていた。

 

 ブロートフライは首を傾げるような動作をしながらもう一度ジャッジに向かって射出するが……

 命中せず、周囲の地面に着弾し跳ね上がった土と砂塵がジャッジにかぶさっていくだけだった。

 

「ヂヂギ?」

 

「ぅあっぁ、もうやめてぇ……いやだぁ」

 

 メンタルを完全に折られたジャッジは攻撃をわざと外し弄ばれてると思い込み、頭を抱え縮こまり怯える。

 

 

 だがブロートフライが更に攻撃をしようとするその時、別方向から声が掛かる。

 

「そこまでだ化け物! 総員射撃開始!」

 

 その直後に四方八方から数多の射撃がブロートフライに降り注ぐ銃撃の嵐。

 

「ヂィ!?」

 

「次! ブルート班かかれぇ!」

 

 突如の攻撃に混乱するブロートフライに、更に追撃がかかる。

 

 いつの間にか接近していた鉄血の人形のBrute(ブルート)達がブロートフライに飛びかかり超振動ナイフブレードで斬りつけ始める。

 その対装甲に特化した刃は徐々にではあるが確実にブロートフライの外皮を斬りつけダメージを与えていた。

 

「ギィ!? ギギチギヂヂ!?」

 

 今まで傷付けられた経験がなかったブロートフライは混乱しつつも必死にブルート達を振り落とそうとするが彼女達も負けじと必死に取り付きナイフブレードを突き立てる。

 

 

「ジャッジ様を確保! 撤収!」

 

 ジャッジはそのブロートフライの状況見上げながら唖然としていると、別の鉄血人形達が姿勢を低くしながら現れ引きずられて行く。

 

「ジャッジ様! ご無事で……くっ! 申し訳ありません我々が不甲斐ないばかりに……」

 

「ぅく、お前……あのドラグーンか?」

 

 引きずられながらやがて残骸の物陰に移されたジャッジが顔を合わせたのは先程助けたはずのドラグーンだった。

 ドラグーンはジャッジのその有様を見て沈痛な表情をする。

 

 ドラグーンはジャッジに助けられた後、散り散りになった鉄血人形たちを招集指揮して再び戻り戦力を立て直していた。

 ジャッジと戦って意識がそれているうちにブロートフライを囲むように射撃が得意なタイプの鉄血人形たちを配置していき、対峙してわかったブロートフライの尋常ではない装甲に対抗するために、こうして快刀としてブルート達を集め、ぶつけたのだ。

 集められたブルート達はジャッジの為に廃き捨てられる覚悟で今もブロートフライに追い縋り刃を突き立てているが、殆どは脚に引き千切られるか振り落とされた後に卵を撃ち込まれて飛び散っていた。

 

「大丈夫です。 絶対に無事ジャッジ様を送り届けてみせます!」

 

「っ!? ドラグーン! オマエ何を──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、やっとお目覚めかしら?」

 

 一瞬で視界が切り替わり、目の前にジャッジと同じハイエンドモデルのドリーマーが現れた。

 気が付けば何故か鉄血陣営の治療施設内に寝かされていたジャッジは唖然とする。

 

「──え?」

 

 突然のことで混乱するジャッジの様子に愉しそうにドリーマーは説明する。

 

「アナタ、運び込まれてきたはいいけど、メンタルモデルがズタズタでお話にならなかったから少し中を弄るついでに覗かせてもらったわぁ」

 

「私は一体……いや、あの化け物はどうなった?」

 

「アナタを追い詰めた虫ケラのことかしら? アレなら日が昇りきった途端に飛んで逃げていったらしいわよ、どうやら夜行性だったみたいねぇ」

 

 ニヤニヤと嗤いながらもしっかり答えるドリーマー、いろいろと言い返してやりたかったジャッジだが、喉まできたそれを飲み込みもう一つ気になっていたことを聞いた。

 

「……あのドラグーンはどうした?」

 

 自分を助け出してくれた部下のことだ。

 

「あら、何言ってるの? ちゃんと今も手を繋いでるじゃない、フフ」

 

 そう言われて初めてジャッジは自分の手が何かを握っていることに気がついた。

 

 

 握っていたのは肩から切り落とされた一本の腕だった。

 

 

 




ジャッジちゃんが防衛能力に優れているのは実は彼女のために部下が必死になって頑張って守ってくれる説。

なお、その後に片腕が取れたドラグーンが様子を見に来たことによりドリーマーにからかわれたと気が付きブチ切れる模様。


そしてその後も迷惑な蝿がリリマルさんの【うちの新人は色々うるさい】での『うちの新人は、空でもうるさい』の回でご迷惑をお掛けしている模様です。



【伝説のブロートフライ 二世】
かつて運び屋が遭遇した強敵を再現するために生み出された狂気の産物第2号。
ありとあらゆる薬物とヌカ・コーラ・クォーツを大量投与された結果、通常のブロートフライから常軌を逸した新たなる伝説が生まれた。
ヌカ・コーラ・クォーツ漬けになったせいで異常な皮膚の硬さを持っており、対物ライフルの銃撃も容易く弾き、射出される卵もイカれた硬度と比重で更に放射能汚染されているもんだから劣化ウラン弾とほぼ変わらない迷惑な威力を持っている。
強力な暗視能力を持っており夜戦では上空からほぼ全てを視界に捉えることができるが、逆に明るい場所ではほとんど視えない状態になってしまう。

因みに先代はヌカ・コーラ・クォーツなしで薬物投与のみで作り出されたと思われる。
緑色に発光しながら射出される強烈なプラズマはとんでもない破壊力で多くの犠牲者を粘液に変えた。
その強さは運び屋が出会った中でもトップクラスの強さであり、正しく伝説級。


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Welcome to the Underground

マジかよ運び屋 最低だな、グリフィン抜けるわ


 運び屋とCZ75がL38地区に帰って来た後日、M3とCZ75は事務棟の一室で疲れ切った顔つきで二人してソファーに座って項垂れていた。

 

「はあぁぁ、マジで疲れた」

 

「お、お疲れ……様です。 はぁ……」

 

「本当に余計なことしかしねぇな運び屋は……」

 

「ま、まぁ人手が増えるんですから……いいんじゃないでしょうか?」

 

「その人手も、今頃何やらされてるかまったくわかんないけどな」

 

 少し気まずそうにしながら言うCZ75は、運び屋に連れられてS地区で起こった……いや、運び屋が起こした事を思い出していた。

 

 S09地区で人形密売組織の男を回収したその日、運び屋は他にも人形を買って帰るという滅茶苦茶なことを言い出したのが始まりだ。

 戦術人形にせよ自立人形にせよ堂々と売りに出されているようなものではないのは当たり前で、そんなのをどこで買うというのか……I.O.P製以外の人形にでも当てがあるんだろうかとCZ75はその時は思っていた。

 蝶事件のせいで今や人形メーカーのシェアはI.O.P製がトップだ。

 別メーカーもないわけではないが、逆に珍しさ故に中古扱いでは更に価格が跳ね上がっているというのもよくあり、それこそ気軽に買えるものではない。

 人形の大量受注と生産を行えるのは、I.O.Pか今は無き鉄血工造ぐらいで他のメーカーはほぼオーダーメイドというのが常であり、そういった人形をわざわざ手放して売りに出されることは滅多にないことだ。

 

 戦術人形から武装解体された自立人形を買うにしてもI.O.P社を通さなければならないのが通常であるが、普通に買おうとしてもそう簡単に買えるものでもない……人形密売組織があるぐらいであるのだから。

 とにかく人形を買うとなるとI.O.P製しかほぼ選択肢はないだろう。

 

「グリフィンの前線基地を巡って買いたたくとかやっぱ頭おかしいよアイツ……」

 

「売る方も……だと思います……」

 

「ホント、胸糞悪いな……」

 

 そう、運び屋はグリフィンの前線基地を虱潰しに回って人形を売ってくれないかと交渉したのである。

 G&K社の人形達はI.O.P社との提携の元に配属されており、それを勝手に売り買いするのは規約違反になる。

 グリフィンがI.O.P製の人形を解体や放棄する時はI.O.Pに返却するのが規約で決まっているからだ。

 

 だがS地区、特に09地区等は鉄血との前線の激戦区であり、多くの基地や指揮官が配属されている。

 そしてその指揮官の中には人形を戦果の為に平然と使い捨てるのもいれば、無理やり性欲の捌け口にしたりと道具以下の扱いをする者もいた。

 もちろん運び屋に売る指揮官もいた。

 回収してもらい、少ない資材やコアを得るよりも売る方が得だと考えた指揮官は運び屋の交渉に応じたのだ。

 

「それでさ、連れてこられた奴の中にずっと泣いてた奴いただろ、誓約してたらしい」

 

「え? そ、そんな」

 

 その人形を売った指揮官は決して人形を使い捨てるような非道な人間ではなかったが、なんというか意思が弱く頼りない男だった。

 その結果、運び屋の話術に流され売ってしまったのだ。

 

「正直、アタシ達人形を都合よく使い捨てる奴よりムカついたよ。 殴ってやろうと思ったけど本人に泣いて止められちまったけど……」

 

「……それでもその指揮官は」

 

「オドオド慌ててるだけだでそれ以上何もないさ」

 

 不機嫌顔をするCZ75だが、それよりもやはりその連れてこられた人形達が今どうなっているのかが気になっていた。

 人形密売組織の男と共に、同じように首輪を着けられて運び屋に連れて行かれた人形達……今頃どの様なことになっているのかCZ75には想像がつかなかった。

 

「M3はアイツ等がどこに連れて行かれたか知ってるか?」

 

「い、いえ、立入禁止区域に行ったことぐらいしか……」

 

「あの機械仕掛けの蠍共がうろついてるところか、一体何をやらせてるんだか」

 

「す、すいません! ……お役に立て……なくて」

 

 謝るM3にCZ75は苦笑しながら宥めて言う。

 売られた人形達には同情するが、所有者から実際に売られてしまった以上、結局はCZ75にどうにもできない話だった。

 

「謝んなよ。 アタシはもちろん、情報収集が得意だって豪語してるスケアクロウもあの場所に何があるのか知らないんだし」

 

「……そういえばスケアクロウさんも何か大変そうでしたね。 すごい疲れたような顔してました」

 

「あー、たしか運び屋が育ててたっていう蠅が逃げ出して鉄血側を荒らしたんだっけ? なんだよそれ、マジわけわかんねぇ話だな」

 

「あの蠅にはビックリしました……それで運び屋さんが帰ってきて早々に、ブチギレたスケアクロウさんが襲い掛かってましたよね……」

 

「まったく運び屋に効いてる気配がなかったけどな、仮にもハイエンドモデル人形のボディーブロー受けて平然としてるってどういうこったよ…… S09地区の時も思ったけどやっぱりアイツ人間じゃなかったわ」

 

「な、何かまたあったんですか?」

 

 CZ75はソファーに寝そべりながら足を投げ出しながら頭の後ろで手を組む。

 そして遠い目をしながらM3の疑問に答えた。

 

「S09地区の基地を巡ってる時にさ、たしか対鉄血レーダー基地だったかな? グリフィン内では結構有名な大きい基地があるんだけど、そこにも運び屋が交渉しに行こうとしたわけなんだけどさ」

 

 その時に起こったことを思い出しながら話を続けるCZ75、その表情はなんというか色々複雑な表情であった。

 

「近づく事前に外からその基地の様子を探ろうとして運び屋が双眼鏡で覗こうとした途端、その瞬間に双眼鏡が銃弾で弾き飛ばされたんだ」

 

「それって、事前に狙われてたってことでしょうか?」

 

「そういうこったろうな、ご丁寧に双眼鏡が落ちる前に更に二発撃ち込んで弾きやがった」

 

「うわ、なんですかそれ……か、完全に警告されてるじゃないですか」

 

 どの方向からどれぐらいの距離で撃ち込まれたかはわからないが、未だ戦場に出たことがないM3でもそれを見せつけた狙撃手が生半可な腕前ではないのはわかった。

 

「だけど問題はその後だよ……運び屋の奴、何事もなかったかのように双眼鏡を拾ってそのまま基地の方を覗きやがったんだよ」

 

「え、えぇ……たまに思うんですけどあの人って心臓に毛が生えてるどころか心臓が無い(Heartless)んじゃないですか?」

 

「それどころか脳味噌も空っぽ(Brainless)かもな、双眼鏡で覗いた直後に頭に一発撃ち込まれてクリーンヒットしたのにも関わらず軽く頭が揺れただけで平然としてやがる……あのヘルメットが大きく凹む程の威力だぞ? 信じられるか?」

 

「そ、それでも貫通しなかったんですね、あのヘルメット……」

 

「愛用のヘルメットが凹んで珍しくご立腹だったけどなアイツ」

 

 M3は運び屋がいつも被っている落書きされた古いヘルメットを思い出しながら呟く。

 CZ75が言うには、どうやらあの古めかしい装備を運び屋は大変お気に入りらしい。

 

「それで……結局どうしたんです?」

 

「あの基地には交渉できる余地がないとか言って早々に撤収しやがった」

 

「いつも空気読まないのにそういう部分だけ鋭いというか……潔いですよね、あの人」

 

「……そうだな」

 

 CZ75はそう言いながらその時のことを思い出した。

 話には出していなかったが、その時に運び屋の周りにいたのはCZ75だけでなく買われた人形達と人形密売組織のあの男がいた。

 そして、運び屋が頭を撃たれた直後にヘルメット以外にも片腕の手甲が凹んでいたのを実は見ていた。

 

(あの時、運び屋の隣にあの男がいたけど……もしかして狙われてたのはあの男でそれを庇ったのか?)

 

 だがあの運び屋が態々あの犯罪者崩れの男を庇ってまで利用する理由は? 

 

 今どこにいるか知れない人形達と犯罪組織にいた男、そして連れて行かれたであろう先の立ち入り禁止区域。

 CZ75は運び屋、そしてモハビ・エクスプレスが一体何をしようとしているのかが気になって仕方がなかった。




もう某P基地に怒られてもいいやという勇気(開き直り)

焔薙さんの【それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!】でのエピソード『SuperSASSの敗北』にて裏側が語られております。
……えっ? 何この大げさな反応(困惑)



【Heartless/Cardiac Arrest】
運び屋の心臓は取り外され、人工物に置き換えられている。
それにより毒物は無効化され、回復用薬物の効果が増大している。
そしてそれを感知できてしまうロボットや人形は混乱して急所攻撃を的確に行えない。
実はお気軽に心臓を入れなおすこともできる。


【Brainless/Big Brained】
運び屋はなんやかんやあって脳味噌を抜き取られたりした挙句に、反発する自身の脳味噌相手に対話したり和解したりで元の頭の中に戻った。
脳味噌を抜き取られた時点でおかしい? 何故対話できる? それは、NVゲーム本編をプレイしてどうぞ……
結局、運び屋は脳の手術効果により頭に重傷を負わなくなり、薬物中毒に対しても耐性を得ることとなった。
ついでに頭部に装甲値が追加された。


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Welcome to the Underground

元密売組織ブローカー君の名前どうしよう?
オリキャラの名前とか考えるの苦手なのよね……


 ここはL38地区の中の立入禁止区域、その更に地下深くにある場所。

 周りでは人間と人形とロボットが入り混じって忙しなく掘削作業をしていた。

 

「D班リーダー! 稼働効率が88.3%に下がっている、状況報告を!」

 

 薄暗い空間の中でホバー浮遊する球体ボディーに三本のアームと三つのセンサーアイを持つロボット、Mr.ハンディーが男と人形に詰め寄っていた。

 首輪を着けられた戦術人形スコーピオンは、隣にいる同じように首輪を着けたリーダーと呼ばれた、元人形密売組織のブローカーの男に言う。

 

「リーダー、もう正直に言っちゃったほうがいいんじゃない?」

 

「言ってどうにかなるもんかよ」

 

「でもさ……Mk23はもう限界だよ」

 

「それでも働かせろっていうのが運び屋の指示なんだよ」

 

 浮かない顔をして食い下がるスコーピオンを無視して男は言う。

 そしてMr.ハンディーはなお問い質す。

 

「もう一度聞く! なぜ稼働効率が落ちている! 許容範囲を大きく下回っているぞ!」

 

「……Mk23のメンタルがもうズタボロなんだよ。 少し安静にしてあげれないの?」

 

「っ!? おい、勝手に──」

 

 問い詰めるMr.ハンディーに答えるスコーピオンに焦る男、そしてその言葉を聞いたMr.ハンディーの反応は冷たいものだった。

 

「作業の妨げになっているならば廃棄処分を管理者に申請しておく! 報告御苦労、解散してヨシ!」

 

「えっ!? ちょっと待ってよ!! 少し安静にしてあげたら大丈夫だから!!」

 

「チッ、だからよせと言ったんだ……」

 

 

 

 

 

 Mr.ハンディーとの問答の後に二人は地下内の飲食コーナーのカウンター席でヌードルを啜りながら悩んでいた。

 

「……ゴメン、あたしが余計な事言ったから」

 

「お前ら人形がどうなろうと知らん、だがお前達を任されてるのは俺だからな……不味いな」

 

「え? 美味しいと思うけど?」

 

「……そういうことじゃない」

 

 いや、たしかに美味いのだが……

 人工物や合成物を使用していない正真正銘の小麦粉だけから作られたヌードル。

 元々アウトローだった男からしたら口にすることが滅多にできない食べ物だった。

 

 ここの欠点と言えば、今もカウンターの向かい側で料理をしている頭の上にコック帽をのせたロボットがそれしか作れないことだが。

 旧世代のSF映画から出てきたようなレトロ風ロボット、プロテクトロンと呼ばれているタイプのこのロボットは、先ほど問い詰めてきたMr.ハンディー以上に融通が利かない。

 

「たしか、うどんって言うんだったかこれは」

 

 人形の内の一人に聞いた目の前の食べ物の名前を思い出しながら、麺を啜る。

 その横でスコーピオンは顔を俯かせてボソリと言った。

 

「……でもさ、Mk23見てると辛いんだ」

 

「今の環境は人形にとっては楽なもんだろ、俺なんか生身の人間なのに現場で働かされてるんだぞ」

 

「リーダーは偉そうに指示してるだけじゃん。 他の男連中は文句を言わずに私達と同じように重労働してるのに」

 

 運び屋に買われてきた人形達と共に、元ブローカーの男は今いる地下での掘削作業に従事させられていた。

 男は一緒に連れられて来た人形を指揮するように言われ、人形達でまとめられた通称D班と呼ばれているグループのリーダーをすることとなったのだ。

 

 一体何が目的での掘削かは男には到底想像がつかなかったが、ロボットや人形どころか男のような素性の知れない様な人間も駆り出されていた。

 男以外の人間は何とも気味の悪い連中で、ほとんど言葉を話さず口を覆う拘束具のようなマスクやゴーグルをしている者達ばかりで何一つ文句を言わず働いていた。

 

「戦術人形のお前達を指揮する奴がいた方が効率がいいって運び屋が言ったんだから仕方ないだろうが……」

 

 人形……特に戦術人形は指揮されることによって大きく本領が発揮される。

 基本的にI.O.P製の戦術人形は感情豊かであるが故に個が強く、人形達だけでは連携が取りにくい傾向にあり、その為にG&K社等の人形を多用しているPMCは指揮する人間を置く。

 蝶事件による鉄血の問題もあり人形が人形を指揮するということを避けているという理由もあるらしいが……

 

「指揮するならMk23のことも気を遣ってあげてよ!」

 

「下手なこと言って状況を悪化させたのはお前だろう!」

 

 二人が話しているGr Mk23は、グリフィンの指揮官と誓約していたにも関わらず運び屋に買い取られてしまった人形だ。

 そのことのショックにMk23は日々泣き続け、既にメンタルモデルは限界にきていた。

 今までは他の人形達が庇ってフォローをしていたが、スコーピオンの一言で不味い流れになってきていることに男は内心焦っていた。

 

(ロボット共は融通が利かない、このままだと本当にMk23を廃棄しようとするだろう。 そうなれば今まで纏まっていた人形達が反抗して俺の立場は余計に悪くなるぞ……)

 

 男はMk23のことをそのまま放置しようとしていた、他の人形達が慰める中でそのまま大人しく衰弱するなら事を荒立てずに済むからだ。

 だがもしMk23が廃棄されてしまえば、口を滑らしたのはスコーピオンだとしても男は人形達に責められるだろう。

 人形達の中には男が人形密売組織の元ブローカーだということを、CZ75から知った者もいる。

 そして、いよいよ人形達をまとめ上げることができないとなれば、男は運び屋に不要であると切り捨てられる道しかないであろうと……

 

「とにかく一度戻ってMk23をどうにかするしかない」

 

「どうにかするって、どうするのさ」

 

「幸い誓約出来たほどのスペックがある。 本来なら班の中で一番動けるはずなんだから、それを本人に証明してもらうしかないだろうさ」

 

「そんなの無茶だよ!」

 

「無茶でもやらせるしかない、このままだとあいつは廃棄される」

 

 そう言いながらカウンターテーブルの上にこの地下で疑似通貨として支給されている瓶の蓋(Cap)を置いて席を立ち、追うようにスコーピオンも同じ様にして席を立つ。

 

「ナニニシマスカ」

 

「美味しかったよ。 また頼むねタカハシ……って待ってよ!」

 

「ナニニシマスカ」

 

 スコーピオンは同じ言葉しか繰り返さないプロテクトロンに振舞ってくれた料理のお礼をしてから男の後を追っていった。

 

 

 

 

 

 だが二人がMk23の元を訪れた時には既に遅かった。

 Mr.ハンディー達が殺到し、人形達がMk23を守るために前に立って庇っていたのだ。

 

「くそっ、最悪だ……大佐まで来ている」

 

「本当に最悪、私……あいつ嫌いだよ」

 

 Mk23を庇っている人形達に怒鳴りがなり立てている他のMr.ハンディーとはカラーリングが一際違うロボットを睨むスコーピオン。

 そのロボットと人形の一人であるM21が激しい口調で言い合い始め両者共に一触即発の状況に慌てて、二人は双方を止めるために近づいて行った。

 

 

「この売女共が! とっととその役立たずの人形を引き渡せ!」

 

「煩いよ! どっかに行きなよこのタコ!」

 

 激しく言い合う双方の間に入るように会話に割り込む男とスコーピオン。

 

「何事だい、なんとも穏やかじゃないじゃないか大佐」

 

「M21も少し落ち着きなよ」

 

 そのままM21はスコーピオンに宥められて少し落ち着きを取り戻すが、大佐と呼ばれたロボットは尚もがなり立てている。

 大佐はMr.ガッツィーというMr.ハンディーの軍用型バリエーションモデルであり、軍用ロボットであるせいなのか戦術人形に対抗意識を燃やしており目の敵にしていた。

 その上、非常に口が悪いせいで人形達にとってかなり嫌われ恐れられていたロボットだった。

 

「D班リーダー! 早くこの鉄屑共をどかして、捨てられた程度で卑しく泣き喚いているその雌犬をこっちに寄越すんだ! 人形共の見せしめに目の前でバラしてやる!」

 

「ぅう、ダーリン……いやぁ……捨てないで、嫌ぁ」

 

「今っ! 何って言った!」

 

 大佐の暴言で更に泣き出すMr23に、再び怒り心頭になるM21と周りで庇っていた人形達、それに反応して攻撃的になり始めるMr.ハンディー達……

 

 事態は一触即発の状況であった。




Capは命よりも重いTEIAI地下王国。



【Mr.ハンディー】
まるで空飛ぶタコかクラゲのような風貌で、様々なサポート役として民間向けに普及していたロボット。
家庭用メイドロボとしても売りに出され活躍していた。
三本のマニピュレーター先にはそれぞれ物を掴む為のアーム、そして回転鋸と火炎放射器が取り付けてあるタイプが主に多い。
非常に感情豊かなAIも売りの一つで、人形達にも引けを取らない様々な性格があり、また軍用や医療用等の専用モデルタイプが存在している。


【プロテクトロン】
古いSF映画から出てきたような実にレトロな見た目のずんぐりむっくりな人型ロボット。
Mr.ハンディーと同じように民間向けのロボットだがAIの融通の利かなさ等から家庭にはあまり普及しなかった模様。
標準的なタイプは両腕にレーザー武装を内蔵しているものが多い。


【Mr.ガッツィー】
Mr.ハンディーの軍用バリエーションモデルであり、装甲も武装も格段に違う為、カラーリングが違う程度の認識で戦いを挑むと手痛い攻撃を食らうことになる。
軍人気質なAIをしているタイプが多く、誠実な性格からスラングで罵倒しまくってくるような荒い性格まで様々である。
軍用であるが故に武装は様々あるが、プラズマ武器が多いようだ。


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Welcome to the Underground

アンケートが接戦しすぎて、続き書けないじゃないかコノヤロウ。

投票ありがとうございます。


「……あぁー! やっぱり気になる!」

 

「は、はい?」

 

 事務棟の一室での会話の後、突然にソファーから立ち上がったかと思うと叫ぶCZ75に、M3はどうしたのかと驚く。

 

「M3、アタシちょっとあの禁止区域ってとこに行ってみる!」

 

「え、えぇ!? 無茶ですって!? 私達じゃ追い返されるのが関の山ですよ……気になるのなら、運び屋さんが帰ってくるのを待って聞けばいいじゃないですか!」

 

「でもさ、M3はアイツらがどうなったか気にならないのかよ!」

 

 M3も禁止区域へ連れて行かれた人形達がどうなったか気にならないわけではない。

 だがどう考えてもあのロボ・スコルピオンが立ち塞がるのが目に見えている。

 そして運び屋は人形達を連れて行った後、そのまままたどこかへ行ってしまった。

 

「い、いっそのこと、イエスマンさんにでも聞いてみては? 大体のことは答えてくれますし」

 

「……駄目だ。 アイツはなんか胡散臭くて信用する気にならない、それぐらいなら自分で見て確かめる!」

 

「まぁ……た、たしかに」

 

 M3の提案は、即座にCZ75に却下される。

 自らNOとは言えないと語るイエスマンだが、どうにも胡散臭い言動のせいでいまいち信用されていないのだった。

 実の所は聞いてみるとあっさりと答えてくれたりするのだが……

 

 一応、他にもラウルに聞いてみたものの、「ボスが話してないのなら俺からも言えん」とやんわりと返され、リリーは勝手に自問自答の言い争いを初めて話にもならなかった。

 

「……だけど、やっぱり無理ですよ……スケアクロウさんでも無理だったのに」

 

「くそ、なんか方法ねぇのか……ん?」

 

 その時、CZ75がふと窓の外を見て立入禁止区域の方へと視線を向けると、ED-Eとレックスが一緒に立入禁止区域付近を横切って移動してるのが見えた。

 だがロボ・スコルピオンが威嚇してきたり警戒してる様子は全くない。

 

「もしかして、行ける方法がみつかったかも」

 

「ど、どういうこと……です?」

 

 窓の外を見ながらニヤリと笑うCZ75にM3は疑問を浮かべながら首を傾げた。

 

 

 

 

 

 CZ75が思いついた方法、それは立入禁止区域で攻撃されないであろうED-Eとレックスを抱え運びながら突っ切るという案だった。

 即興で考えた安易なアイデアだったが、ロボ・スコルピオンも周りをうろつくだけで攻撃してくる様子もなく、実際この方法は上手くいっていた。

 ED-Eを抱えている所をスケアクロウに目撃されるまでは……

 

「いい加減に放しなさい! ED-Eが嫌がっていますわ!」

 

「うるさい! オマエこそ放しやがれ! 嫌がられてるのはスケアクロウの方だろ!」

 

「そんなことあるはずがないですわ! 私とED-Eとはお互い愛し合ってるのです! そうでしょうED-E?」

 

<~~!? ・―!?>

 

 スケアクロウとCZ75がED-Eを掴んで引っ張り合っている様子を横目で見ながら、M3はレックスを抱え上げながら溜め息を付き、同じようにレックスも鼻を鳴らしながら鳴く。

 

「お二人ともED-Eさんが困ってます……も、もう少し優しく扱ってあげないと」

 

「ワゥン……」

 

「そうですわ! ED-Eを乱暴に扱うのをやめなさい!」

 

「だったらスケアクロウが手放せばいいだろ!」

 

<―!?>

 

 お互い譲らない二人、この場所でED-Eを一瞬でも手放そうものなら一斉にロボ・スコルピオンが襲い掛かってくるので互いに必死である。

 まぁ必死なのも無理はない……

 ED-Eを奪い取るために強行してきたスケアクロウはお尻に、そして一瞬に奪い取られたCZ75もお尻に、それぞれ一発ずつロボ・スコルピオンのレーザーを撃ち込まれている。

 後ろから見ればパンツ丸出しのなんとも間抜けな恰好になったが、レーザーを撃ち込んできたのが比較的小型のロボ・スコルピオンだったからこの程度で済んだだけである。

 

(な、なんていうか……しまらないなぁ)

 

 ED-Eを取り合いながら進んでいくCZ75とスケアクロウのパンツ丸出しの後ろ姿を追いかけながらつい思ってしまうM3だった。

 

 

 

 そしてついに辿り着いたのは立入禁止区域内で唯一の建物である展望台。

 施設群の中でも一際高い位置にある、丘の上に立つドーム状の建物へ入った一行が見たものは、様々な機械と壁という壁に書かれた数式や文字。

 

 それらに囲まれ、なんとも奇妙で見慣れないロボットのようなモノが浮遊しながら忙しそうに動き回ってる所だった。

 

 その見慣れぬロボットのようなモノには三つのボロボロになったモニタースクリーンがマニピュレーターに繋げられており、一つは罅が入り壊れていたが他二つには目と口の画像が映されており全体的に見るとまるでそれが表情のように見える。

 そしてそのもっとも奇妙な点はマニピュレーターにつながった球状の本体機械にはレックスの様に透明な球状容器に脳味噌が浮かんでいることだろう。

 

「なんじゃ、お前さんらは…… ん? ED-Eとレックスもどうした? 運び屋なら暫くここには来とらんぞ」

 

 その脳味噌を浮かべた奇妙な機械の【Dr.モビウス】は、突然入ってきた三人の人形に少々驚きつつもED-Eとレックスがいるのに気が付くと警戒を解く。

 

「……その声、聞き覚えがありますわ」

 

「間違いない! あの蠍共から聴こえてきた声だ!」

 

 ロボ・スコルピオンが発していた警告音声がモビウスの声であることに気付いたスケアクロウとCZ75が、今度は逆にモビウスに対して身構える。

 

「なんじゃい、ロボ・スコルピオンに追いかけまわされてきたのか? 警備モードは解いてたはずじゃが……おかしいの?」

 

「で、でも許可をもらった人以外は……この立入禁止区域に入ると問答無用で襲われるみたいです……」

 

 身に覚えのない様子のモビウスにM3が及び腰で話すが、モビウスは更に身に覚えのない言葉に驚いた。

 

「立入禁止区域? ビック・マウンテンに居た頃じゃあるまいし、なんでそんなことになっとるんだ?」

 

「わ、私に聞かれても……こ、困ります」

 

「ワフ……」

 

 モビウスとM3のやりとりを聞いていたレックスは知っていた。

 薬物常習犯のモビウスが薬でハイになりロボ・スコルピオンを攻撃的にし、薬が切れる度にに記憶が飛んで、それを忘れていることを……

 そして、それを部外者にとって危険だと判断したラウルが周囲一帯を立入禁止としたことを……

 

 だが悲しきかな、レックスにそれを伝える術を持っていなかった。

 

「しかし、いつの間に女子供が増えとるとはの」

 

「アタシをガキ扱いすんな!」

 

「何言っとるどう見ても……ん? もしかしてお前さん達は人形ってやつか!?」

 

「そ、そうだよ……なんだよジロジロみて」

 

 怒るCZ75の反応から気が付いたモビウスは、驚き興味津々で三人の人形達の回りながら観察し始める。

 

「そうか! この目で見るのは初めてだが、こいつは連邦の人造人間に勝るとも劣らない出来栄えじゃ! シンクタンクの連中が見たらさぞ悔しがることだろうな。 ん? なんでパンツ丸出しなんじゃ?」

 

「貴方がけしかけたロボットせいですわ!」

 

「そうだぞ! ふざけんな!」

 

 それでも指摘されても恥じらったり隠そうとしないあたり、CZ75はやはり少し精神的に幼いように思ってしまったM3だった。

 スケアクロウの方はとっさに片手で隠す素振りをしていたが……

 

(ED-Eさんの方には態と見せてますよね……)

 

 色々と残念な気がしてならないスケアクロウ。

 

「と、というか、ここに他の人形達は来なかった……ですか?」

 

「あっ、そうだった! ここに他にも人形がいるはずだろ!」

 

「はて? 知らんぞ、そもそも人形なんて見たのはお前さん達が初めてじゃ」

 

 M3の言葉に本来の目的を思い出したCZ75がモビウスに問い詰めるが、見に覚えがないと言う。

 その様子をしばらく見ていたレックスは、ため息を吐くように小さく鳴いた後にED-Eに向かって短く吠える。

 

「ワンッ」

 

<―! ~~♪>

 

 レックスの意図を察したED-Eは返事に音楽を鳴らしながら壁際のスイッチレバーに向かって、バチバチとアーク放電をし始めた。

 しばらくするとどうしたことか、スイッチレバーの横に赤く点っていたランプが緑に変わり電子ロックが解除された。

 

 そしてレックスは鼻先でM3を押してスイッチレバーの方へ向かわせようとする。

 

「え、え? こ、このレバーを下ろせばいいんですか?」

 

「バウッ」

 

「……わ、わかりました……こうかな?」

 

 レックスに促されM3がレバースイッチを倒すと途端に下から機械音が騒がしく聞こえたかと思えば、部屋の中心部の床が2つに分かれてスライドしていきそこに地下へと続く階段が現れる。

 

「か、隠し階段……」

 

「おお、思い出したぞ。 たしかにこの前その階段付近で誰かが出入りしとったような……また運び屋がロボトミーでも連れてきたのかと思っていたが、惜しいことをした! 一体サンプルに借りればよかったわい」

 

「コイツ……てか見てなかったのかよ」

 

「ちょうど薬の時間でな、物音しか聴いとらんかったんじゃ。 どうだ、お前さんもメンタスいるか?」

 

「ど、どうも……」

 

「とにかく、先に進もう!」

 

 モビウスから薬を渡される押しに弱いM3を横目に、CZ75は階段を下りで地下へ向かった。

 

「地下には何があるんですの?」

 

「知らん、興味がないのでな。 ワシはこの場で好きに研究をしとるだけじゃ」

 

 スケアクロウの質問にも、モビウスは興味がないと言いそのまま戻っていき研究とやらに没頭し始めた。

 

「貴方なら知っているのかしら……ED-E?」

 

<~~♪>

 

 だがED-Eは短く音を鳴らすだけでスケアクロウに答えることはなかった。




モビウスおじいちゃん、さっきお薬飲んだでしょ?


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Devil May Cry

直球サブタイトルって訳で……

今回から暫く、白黒モンブランさんの【Devils front line】を中心とした大規模コラボとなります。

悪魔相手なら運び屋を多少暴れさせても大丈夫やろ……か?


 S11地区に来ていた運び屋はグリフィン基地を眺めながらどうしたものかと、いつもの装備であるフルフェイスのガスマスクを触りながら考えていた。

 

 今回このS11地区にいるのは、今見えている後方支援基地の指揮官からの依頼をしたいという連絡があり、その運搬物を引き取りに来た為なのだが……

 現在その基地は内戦でも起こったのかと思えるような銃撃や爆音が響き渡っている状態だった。

 どうやら航空支援までしているようだと気付いた運び屋は取り出した双眼鏡で空を見上げ、今度は地表を見渡す。

 そこにはグリフィンの基地では珍しくもない人形達が、奇妙なクリーチャーらしきモノ共と争っているのが視える。

 その奇妙なクリーチャーは鎌の様な物や棺桶の様な物を持っていたりしているようで、銃を基本武器として戦うグリフィンの戦術人形相手には心許ないように思えるが……

 

 今この地区で何が起こっているのか結局理解できなかった運び屋は、後ろに停めてあった移動用に乗ってきた大型の貨物トラックへ踵を返して貨物部コンテナのハッチ開ける。

 そのコンテナの内部には奇妙なフォルムに青いボディーのロボット、セキュリトロンが10体待機状態で並んでいた。

 

 運び屋がその中の一体を手の甲でコンコンと叩く、すると待機状態で何も映っていなかったセキュリトロンに取り付けられたスクリーンモニターに電源が入り、イエスマンの間の抜けた笑顔がスクリーンに映ると待機状態だったそのセキュリトロンは動き出し、運び屋に声をかける。

 

「おや、どうしました? 依頼品の受け取りが終わったには早すぎると思いますが?」

 

 運び屋は今起こっている訳の分からない状況を説明し、イエスマンに問う。

 その話を聞いたイエスマンはすぐに情報収集を始める。

 

「それはまた、なんとも不思議な状況になっていますね! では今から情報を集めますのでしばらくお待ちください!」

 

 イエスマンが映っていたスクリーンに【Connection Lost】と表示され数分間静かになる。

 

 

 

 

 

「どうやらこのS11地区基地に対しての大規模な制圧作戦が現在展開されているようです! ここの指揮官への排除指示もでていましたよ。 参戦している別の基地や他社の戦力データで計算しますと……殺害される確率は96.3%! これはもう絶望的ですね!」

 

 そしてイエスマンが復帰したかと思うと、嬉々として探り当ててきた情報をベラベラと喋り出す。

 

 つまりは依頼自体がご破算となるということである。

 まだ依頼契約もしていないが、S11地区まで足を運んだのが無駄だったと知らされる運び屋。

 

「ですが、これは少し不味い展開です。 このままではこの基地が制圧されるのは時間の問題ですが、恐らくはあなたへの依頼内容の記録が残されている可能性があります!」

 

 依頼自体は受けようとしたところで何も咎められる理由はないのではないか、と運び屋。

 

「たしかに依頼の内容自体はただの運送なので何も問題はありません! ですが、その依頼報酬が人形なのが恐らく問題になるでしょう!」

 

 それもヘリアンに運び屋が直接話を付けて問題なかったはず、そう考えていたがイエスマンは話を続ける。

 

「人形の譲渡に関しての契約はI.O.Pとグリフィンとの取り決めであり、モハビ・エクスプレスは関与しておらず譲り渡したグリフィンの指揮官に責任がある。 はい、その通りです! あなたは何も悪いことはしていません! ですがS地区での人形売買でヘリアンさんに釘を刺された後に、この取引内容を知られるのは今後のグリフィンとの関係を続けるにあたってあまりよろしくない状況になるでしょう!」

 

 運び屋はS地区での人形売買の件で問い詰められたのを、口八丁で言い包めて説き伏せた時の、酷く悔しそうで自分の至らなさを後悔するヘリアンの表情を思い出す。

 涙目で悔しがっているヘリアンに、一緒にいたイエスマンが「その泣きそうな表情を合コンで見せれば男性へのウケも良くなりそうですね!」なんて空気を読まない言葉を放ったのも……その後ヘリアンがどういう態度にでたのかは想像に難くない。

 普段そういうことには何も思わない運び屋も少し悪いことをした気分になった。

 

「本来なら私がそのまま記録を削除するのですが……制圧作戦の為でしょうね! この基地を中心に強力な通信妨害と情報統制がされています! 基地内部にはまったく手を出せない状況です!」

 

 腕で大げさなジェスチャーをしながらイエスマンは続けて言う。

 

「つまりは直接基地に潜入して依頼内容を抹消してもらう必要がでてきたということです! あぁ、ついでにここの指揮官は余計なことを喋る前に殺してしまいましょう!」

 

 イエスマンからの指示を聞いて装備の点検をし始める運び屋。

 

「さて、それではこれから基地へと潜入してもらうわけですが……どうやら【悪魔】と呼称されているらしいクリーチャーが基地の縁外部でグリフィン側と争っているようです! ですがこれは好都合かもしれません!」

 

 イエスマンがそう言い終えるとコンテナ内で待機中だった他のセキュリトロン達が一斉に起動し始め、基地へと向かい始める。

 

「これからその悪魔とやらにセキュリトロンが発揮できる可能な限りの掃射攻撃を行います! それなりの数を減らせるでしょうから後は自力で基地へと辿り着いてください!」

 

 運び屋は運転席に乗り込むとエンジンをかけ、貨物トラックを基地へ向けて動かし始め、直進コースをを目指す。

 走り始めるトラックの窓の傍に寄ってきたイエスマンは最後に一言助言した。

 

「Pip-Boyに記録があると思われる場所をマーカーしておきました! グリフィン側関係者への連絡はこちらでしておきますから、どうぞ思う存分に大暴れしてきてください! それではお元気で!」

 

 イエスマンがそう言い終えると、先行していた車の前方にいるセキュリトロン達の肩部分が開き、ミサイルの弾頭を見せたかと思うと次の瞬間、肩部分のミサイルポッドから次々とミサイルが一斉発射され始める。

 そして着弾先の悪魔達が爆発し吹き飛ばされていく中を、運び屋がアクセル全開で運転する貨物トラックが突き進み、悪魔達を撥ね飛ばしたり轢き潰したりしながら基地を目指して走っていった。

 

「フフフ、実に楽しそうな様子でしたね。 ですが、こちらもなかなか楽しくなりそうです!」

 

 それを見届けたイエスマンは、自分のボディーを含むセキュリトロン達の通信出力を最大に上げ、無制限広域通信を開始する。

 

 

『あーあー、こちらモハビ・エクスプレスのPDQ88bセキュリトロン……イエスマンと呼んでください! ずっと監視されていた方々もそうでない方々にも、嬉しいお知らせですよ! 我々も是非この作戦に協力させてもらいたいと思います!』




クエスト追加

□S11地区後方支援基地内にある依頼内容の記録を消去する

□(オプション)S11地区後方支援基地の指揮官を殺す




他のグリフィン基地の情報部に投げていくスタイル。
これで話の都合つけやすいやろ……多分。

運び屋もセキュリトロンもなかなか暴れる機会が訪れなかった所でのコラボ企画だったので、割とありがたい話でした。
この機会を下さった白黒モンブランさんに感謝を!

……たまには無茶苦茶したいねん(普段から無茶苦茶)


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Devil May Cry

クエスト追加

□S11地区後方支援基地内にある依頼内容の記録を消去する

□(オプション)S11地区後方支援基地の指揮官を殺す



今回はoldsnakeさんの【破壊の嵐を巻き起こせ! 】
そして、焔薙さんの【それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!】
がコラボってます。

多重コラボなので細かいズレとか差異は気にしてはいけない、いいね?


 運び屋が運転する貨物トラックが、基地を目指しながらその道を遮る悪魔達を轢き殺していく。

 車体が悪魔にぶつかる度に鈍い音と大きな振動がするが、運び屋は気にせずにアクセル全開で突っ走る。

 

 だがそれでも、次々と湧き出てきてはトラックを行かせまいと集ってくる悪魔達、ついには何体かの悪魔が車体に取り付き始める。

 そしてその内の一体の悪魔が運転席の窓を割って入りこもうとするが、運び屋が拳に装着された機械式のアームサポーターであるツーステップ・グッバイで顔面を殴り飛ばすと、その瞬間仕込まれた炸薬が爆発し悪魔を窓の外へ吹き飛ばした。

 窓から吹き飛んで再び外へ送り返された悪魔の死体は、近くにいた他の悪魔達に叩きつけられたかと思うと、次の瞬間には殴った時に打ち込まれていた小型爆弾が爆発し周囲の悪魔も巻き込んでバラバラになった。

 

 そんなことを繰り返しながらトラックは基地へ向かって突き進んでいくが、運び屋が割られた窓の外をふと見ると茶髪のショートヘアの少女が見えた。

 その体長に不釣り合いなサイズの武器を両手に持っていた少女、ついでに言うとそのバストは豊満であった。

 どこかで見たような気がする。そんなことをふと考えているとと突如爆音と共に車体が大きく揺れる。

 どうやら悪魔の中に自爆するタイプがいたらしく取り付いたと同時に爆発したようだ。

 

 爆発の衝撃でハンドル制御ができなくなったトラックはついで、とばかりにまたも近くにいる悪魔達を巻き込んでいきながら……

 

 

 

 今度は要塞かと見間違うかのような馬鹿デカイ四足歩行兵器に衝突した。

 

 

 

 巨大な歩行兵器の脚部分に追突し大破して横転するトラックだが、運び屋は拉げた扉をツーステップ・グッバイで爆散させて殴り飛ばし、恐らく殴り飛ばした扉がどこかにいた悪魔に降ってきて爆発したのであろう音がした。

 運び屋が大破状態のトラックから抜け出すとそこには運転していたトラックと追突したであろう歩行型の移動要塞と、先ほど見かけた少女が唖然とした表情でこちらと見ていた。

 

 こちらのトラックが大破したにもかかわらず、その移動要塞はほとんどダメージを負っていないようで、よほど頑丈だったのだろう。

 しかし、移動用のトラックがこのざまではこの先は徒歩で進まねばならないことになる。

 少し困ったことになったと考えていると、その現場をみていた茶髪の少女が呟いたのが聞こえた。

 

「マ、マジかよ、よりによって運び屋かよ……最悪だクソ!」

 

 少女は鋭い目つきで睨んでいたが、同時に怯えが見え隠れしているのを察した運び屋、だが彼女が強者であるのもわかった。

 そしてグリフィンの人形ともまた違うと気付くが、なぜこうにも警戒されているのかわからない運び屋。

 

 と、そこで移動要塞のスピーカーから女性の声がした。

 

≪あー! ホンマすんません! ちょっと調子こいただけで悪気はなかったんや!≫

 

 ぶつけたのはこっちなのだが、妙に下手にでたような声で謝ってくる移動要塞を操作しているであろう女性の声。

 

 

 この非常にややこしい状況の上に、先ほどまでは蹴散らされていたであろう悪魔の生き残りたちが集まり始めている。

 とりあえず運び屋は、確実に敵であり邪魔な悪魔を片付けることにした。

 

 運び屋は一番近くにいた悪魔に駆け寄ると腕に装着されたツーステップ・グッバイを叩きこみ始めた、悪魔は持っていた鎌で防御するが、運び屋の止まらない力(Unstoppable Force)貫通する一撃(Piercing Strike)となって問答無用で悪魔を殴り飛ばす。

 殴り飛ばされグチャグチャになった悪魔の死体は、他の悪魔の群れに放り込まれツーステップ・グッバイにより打ち込まれた爆弾が他の悪魔を巻き込んでいく。

 更に運び屋がプラズマ・グレネードを他の悪魔の群れに投げ込むと、その爆発で熔解(Meltdown)する。

 悪魔達が緑色の閃光を放ちながら更に爆発し、その爆発に巻き込まれ死んだ悪魔もまた同じように連鎖爆発していく。

 

 そんな作業を繰り返して付近の悪魔を一掃し、あたりは緑色に発光した粘液と砂が混じり合ったモノが辺りに残るだけだった。

 

≪う、嘘やろこれ……≫

 

≪社長! 逃げましょう! あの男、人間じゃないどころかマトモじゃないですよ!?≫

 

 移動要塞から色々と酷い言われようをしている中、茶髪の少女は運び屋の方へ一歩踏み出して睨みつけながら言った。

 

「運び屋テメェ! なんでここにいんだよ! 作戦に協力するとか聞いたけど、ぜってぇ嘘だろ! 何を企んでんだ!」

 

 運び屋に妙に突っかかる態度の少女、正直なところ身に覚えはないが心当たりが多すぎる……そんなことは運び屋にはどうでもよかったが、一つ気に食わないことがあった。

 

「な、なんだよ! やろうってのか!」

 

 少女が内心怯えていることに運び屋は不満だった。

 何故彼女の様な強者が自分程度の者に対して弱腰なのか……

 

 ―自分を殺せるかもしれない程の強者のはずなのに―

 

 運び屋が少女に近づこうとする。

 だが、次の瞬間に移動要塞からの機銃による銃撃が足元に放たれた。

 牽制となった銃撃に歩みを止めて移動要塞の方を見る運び屋。

 

≪社長!? な、なにやってんですか!!≫

 

≪い、いやな……どうにもあの子がヤバそうやったからつい…… ごめんやって堪忍して!≫

 

「余計な事すんな! 死にてぇのか!」

 

 何故か敵対者扱いになってきている運び屋、仕方ないので得意の話術で説得しようとするが……

 少女の方に突然、通信が入った。

 

「こちらイチイバル、今それどころじゃ…… すぐに向かう!!」

 

 少女は、どうやらイチイバルと言うらしい。

 彼女が突如の通信を聞いた途端、顔つきを変えて翼を生やしたかと思えば瞬時に空を飛び去っていった。

 

≪ヤークトフントのほうへ向かったみたいやな。 あ……≫

 

 そして、その場残ったのは運び屋と移動要塞。

 

≪や、優しく殺して?≫

 

≪何言ってんですか社長!?≫

 

 この後、移動要塞にタンクデザントして送ってもらった。




移動要塞をまとい戦場へ向かうリホーマー達。
運の無さからか、不幸にも運び屋のトラックが追突してしまう。
サーチャーをかばいすべての責任を負ったリホーマーに対し、
車の主、運び屋が言い渡した示談の条件とは・・・。

悪いの運び屋やんけ!



【ツーステップ・グッバイ】
通称、爆殺フィストと呼ばれる武器のユニークカスタム品。
殴ると連動して、手の甲の部分に仕込まれた炸薬が爆発、さらに殴り殺した相手に小型の爆薬を埋め込むという、死人に鞭打つような武器。


【Unstoppable Force】
運び屋の近接攻撃を防御した相手は、より数倍の威力をくらうことになる。
ガードによって軽減されたダメージが増えるのではなく、通常攻撃の威力を数倍にして与えるという理不尽な効果。
運び屋に接近戦を挑んではいけない理由その一。


【Piercing Strike】
運び屋の近接攻撃は、装甲値を幾分か無視する。
投擲武器にも同じ効果がある。
運び屋に接近戦を挑んではいけない理由その二。


【Meltdown】
運び屋がエネルギー兵器で相手を殺した場合、その瞬間に死体は小規模なプラズマ爆発を起こす。
その爆発に巻き込まれて死んだ相手にも同じ現象が発生し連鎖する。
否が応でも発動してしまい他を問答無用で巻き込む、運び屋がエネルギー兵器をあまり使いたがらない理由の一つ。


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Devil May Cry

今回はガンアーク弐式さんの【MALE DOLLS 】
イナダ大根さんの【U05基地の化け物ハンター 】
もコラボで申し訳程度に触れています。

もうちょい、書きたかったけど展開的に無理でしたスマンカッタ……
そんでもって、他の基地に迷惑かけてるけどスマンカッタ……

色々スマンカッタ……


 大小様々な重砲銃器を生やした四足歩行の移動要塞がS11地区の後方支援基地を目指して悪魔達を踏み荒らしながら突き進む。

 基地に近づいてきた辺りで、移動要塞に片手で摑まりタンクデザントしながら運び屋はコンコンと中にいるであろうリホ・ワイルダーと名乗った女性に合図する。

 だが、しばらくしても反応がなかったので、今度はガンガンと強めに移動要塞の装甲を叩く。

 

《あーもう! わかっとるっちゅうねん! てか、なんでそんな叩いただけで内部のこっちまでこんなに衝撃来るねん! 正規軍戦車の装甲使ってるんやで!?》

 

 そんな愚痴も聞いているのかいないのか、運び屋は淡々とこの場で降りると言って掴まっていた移動要塞から飛び降りた。

 

≪ちょっと待ってや ウチも一緒に降りるわ≫

 

≪え? 降りるって……大丈夫なんですか色々と≫

 

 

 そうして、移動要塞から出てきたのは銀髪で金色の眼をした女性だった。

 肌は白く、運び屋はすぐに鉄血製のハイエンドモデルだということがわかった。

 

「あー、ほんまあの中は窮屈でしゃあないで、とりあえず自動迎撃モードにしといたからウチがおらんでも大丈夫やで」

 

≪いや、そうではなくてまだ悪魔がそこらにいるかもしれませんよ! 大丈夫なんですか?≫

 

「それぐらいは自分で身を守れるわ。 運び屋に付いていけばある程度は露払いしてくれるやろうしな」

 

 そう言い終わるや否や突然悪魔が現れ、襲い掛かってくるが次の瞬間には急に現れた数本の銀色をした大きな棘に串刺しにされた。

 だが、その内の一匹には効果がなかったのか、大きなナニカの塊を背負った悪魔がリホに近づこうとする……

 

 が……次の瞬間には運び屋が愛銃である闇に輝く光で銃弾を三発、頭部に撃ち込まれて爆発した。

 

「……ほ、ほらな?」

 

≪守れてないじゃないですか!≫

 

 リホと移動要塞内にいるもう一人の女性が言い合いをしている間に、目的を遂行する為、運び屋はそのままリホを置き去りにして基地内部の潜入へ向かって行った。

 

 

 

 基地へ入ろうとしていた運び屋だが、本来目指していたルートにあった入り口付近に一人の老人……にしてはなかなかにパワフルな人物が悪魔を相手にしていた。

 あの老人の曲がらぬ意思を宿した目を見た運び屋は、経験上ではああいったタイプと出会うと相性が悪いと分かっていたので別の入り口を探すことになった。

 

 そして、今度は別の入り口を見つけ近づいた瞬間に背後に悪魔が現れた気配を感じた運び屋、愛銃を抜き取り撃ち殺そうと振り向くが肝心のその悪魔は碧く光る刃に突き刺され既に事切れて砂になる。

 その刃を見た運び屋は、自身の知る中でのホログラム技術による攻撃だろうかと考えたがどうやら少し違ったようだった、やがて悪魔を突き刺した碧く光る刃を見ていたがやがてその刃も消えていった。

 恐らくそれをしたであろう空を舞っている黒コートの人物が遠くに見えたが、一瞬目が合うもそのまま運び屋は基地内部へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、基地の外延部ではイエスマンの操るセキュリトロン達が持ちうる火力で只管に悪魔達を屠っていた。

 後方にはミサイルで、近づこうとする悪魔にはグレネードが次々と撃ち込まれ、それでもなお生き残っていた悪魔には9mm弾とレーザーの銃撃を浴びせまくるセキュリトロン達。

 たった10体で一個中隊並みの働きをしているこのロボット達だが、一つ致命的な欠陥とも言えるものがあった。

 

『被害が味方にもきておるぞ! 何をしておるんじゃ!』

 

『あのセキュリトロンなんとかならないの!? 圏外にいる暴走してるのより立ち悪いんだけど!?』

 

 目標との射線上の存在を気にせず撃ちまくるのだ。

 

「あはは、すいません! セキュリトロンのAIには人形であるあなた方のような高度な思考ルーチンがないんです!」

 

『あとイエスマンとか言ったっけ? どさくさに紛れてウチの情報覗こうとするのやめてくれないかしら? バレバレなんだけど』

 

 グリフィンのS09P基地とU05基地側から苦情が相次ぐ中、更にイエスマンはそれぞれの基地情報を覗き見ようとして、どちらも手早く対応されていた。

 それすらも陽動で、実際には11地区基地の内部情報を得ようとしていたのだが、結局それも阻止されていたが……

 

「どうやら、この11地区基地の指揮官は、グリフィンにとって知られたくない程のよっぽど不味い事をやらかしたようですね。 異常なほどの情報統制っぷりです!」

 

『申し訳ありませんが、急遽に参戦していただいたことには感謝していますが、其方への情報開示は残念ながらできません……』

 

「ええ、わかっています! 突然現れた我々が信用されないのは当たり前です! 別に気にしていませんよ!」

 

 S10地区の指揮官から暗に釘を刺した通信が来るが、それに気が付いているのかいないのか、いけしゃあしゃあと気にしない風に言葉を返すイエスマン。

 相手の指揮官は、人間とも人形ともまた違うロボットAIの応答に戸惑いながら続ける。

 

『それと、執拗に11地区の内部を探ろうとしているみたいですが……実際の所、目的は何なんです?』

 

「おや? ストレートな質問ですね! ですが手早くて確実です! かなり若い指揮官でいらっしゃるようですが、貴女のそういう所は好ましく的確だとおもいますよ!」

 

『っ……それはありがとうございます。 それで、答える気はあるんですか?』

 

 イエスマンの言葉に引っ掛かる部分があったようで、相手の指揮官の口調が少し刺々しくなった。

 どうやら、若いからというのが彼女にとって気に食わなかったようだ。

 

「ええ、もちろんです! ですが、その答えは当初と変わりません。 目的は()()()1()1()()()()()()()()()()()()()こと、嘘じゃありませんよ! なにせ私は嘘が言えないようにプログラムされてるんですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はヘッケラーコッホMG4、お待ちしておりました運び屋様」

 

 基地内の悪魔を屠りながらPip-Boyに示されるマーカーを目指した運び屋が辿り着いた先、その部屋には人形達が使っていたであろう宿舎であり、パソコンや書類といった記録媒体とは無縁の部屋であった。

 その部屋の中で一人佇んでいた人形はそう言うと、一礼をしては運び屋に目を合わせる。

 そしてマーカーは何故か彼女のいる方向を示していた。

 

「運び屋、いえ……クーリエ・シックス様、貴方の探している目的は間違いなく私です。 私はこの基地の副官を務めていましたMG4と言います」

 

 運び屋は黙ってそのままGr MG4の話を聞き続ける。

 

「そして依頼を出したのもこの私です。 ここの指揮官の名義でしたが、本人は何も知りません……いえ、知られてはいけなかった」

 

 その言葉を聞いた運び屋は、問う。

 依頼をしたいのかと。

 

「ええ、その通りです。 本来の依頼はこの基地に居た人形達を指揮官に知られぬまま、基地の外へと運んでもらうつもりでした。 ですが貴方は一足遅かった……グリフィンにより他の人形達は救助回収されました」

 

 ならば、何を運べばいい? 

 それともグリフィンからまた人形達を逃がすのか? 

 再び問う運び屋にMG4は言った。

 

 

「運んでもらうものは、この基地の指揮官へ確実な死を、報酬の人形は私自身です」

 

 

 

 

 

 運び屋がソードオフショットガンと斧を夫々手に持ち、悪魔を殺して進んでいく。

 恐るべき怪異であるはずの悪魔達が、ソードオフショットガンを撃ち込まれると動きを止め、その間に斧でめった切りにされていく。

 その後ろからMG4が運び屋へ援護射撃をしながらついてくる。

 

「クーリエ様は何も事情を聞かないのですね」

 

 後ろから聞こえるMG4の言葉にも耳を傾けず、ひたすらに悪魔を屠りながら進んでいく運び屋。

 目指すはこの基地の指揮官がいる部屋。

 

 運び屋に依頼されたのは“確実な死”を運ぶこと、ただそれだけだから。

 




DMCの幻影剣って、ホロライフルの原理と似てなくない? 似てない?

実際のところ、ブラック基地にいた人形達って素直にグリフィンに戻ってくれるんだろうか?
いくら自分たちを道具と割り切ってるからってねぇ?


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Devil May Cry

表側でどんなスタイリッシュバトルが起こっていたかは
白黒モンブランさんの【Devils front line】のエピソード『Act56 operation End of nightmare Ⅴ』を読むとよろしいです。

こちらは地味な裏側でございます。

これにて今回のコラボ回、一応の締めとなります。
他のコラボ参加者様方、ありがとうございました!
そして色々スマンカッタ……


 悪魔を次々と屠っていく運び屋の背中を追いながら基地内の通路を進み、MG4は銃を構えながら部屋の前を通るたびに部屋の内部をクリアリングしていく。

 運び屋はそんなことはまったく気にしておらず、時たま部屋から飛び出て奇襲をしようと襲い掛かって悪魔をまるで最初から知っていたかのように、片手に持ったソードオフショットガンを撃ち込み、それに怯んで動きが止まった所を別の手で持っていた斧の刃を叩きこんでいく様子はまるで家畜を作業じみて処理する屠殺である。

 

(噂程度にしか知らなかったけど、思った以上に規格外な方のようですね)

 

 恐らく上位種であろう悪魔が目の前に現れた時、二人で相手をするには規格外の敵にMG4は絶望すらしたが、何のことはない運び屋は更に規格外だった。

 ソードオフショットガンを撃ち込まれた上位種悪魔は、まるで一瞬気絶したかのように倒れ、その隙だらけな所に運び屋に斧を叩きこまれ、起き上がろうとすればまたもソードオフショットガンを撃ち込まれた。

 それを拷問のように繰り返された上位悪魔はやがて肉体を保てなくなり砂となっていった。

 

「この先が指揮官のいる……っ!?」

 

 運び屋とMG4はこの基地の指揮官のいるであろう部屋に入った。

 だが部屋の中はまるで爆発したかのような散乱っぷりで、床には何かしらの図形や文字が書かれており、窓があったであろう壁には大穴が空いていた。

 

 そして、気配を消しながら壁の大穴から外を覗くとそこには、おそらく悪魔であろう新種が三体、見た感じでは二対一のように対峙しており、その周囲ではグリフィンの関係者と思わしき人や人形が手をこまねいているようだった。

 

「っ! ……まさか、本当に魔の物に成り下がるとは、指揮官は遂に人を捨てたのですね」

 

 どうやら、その内の一体が指揮官だったモノらしい…… たしかに、よく見ればグリフィンの制服の破れた切れ端が一体の悪魔にくっ付いていた。

 指揮官だったモノは今まで見かけた悪魔にどちらかと言うと近い風貌であったが、ならば他のもう二体の悪魔は一体何なのか、状況がいまいち飲み込めない運び屋だったがこの状況を好機と判断、悪魔と呼ばれるミュータントと化した指揮官に“確実な死”を届けるためにあるものを取り出した。

 

 運び屋が取り出したのは、前にM3に一つ手渡していた聖なる手榴弾(ホーリー・フラググレネード)だった。

 この超絶な威力と範囲を誇る手榴弾で三体の悪魔諸共吹き飛ばそうという算段の運び屋、M3に手渡したのを含め3つしかない貴重な品だが、あの悪魔達を同時に相手にするよりは確実にマシだからだ。

 

「それは一体……聖なる手榴弾? 多分悪魔って言うぐらいだから効果絶大? 何を言っているのか分かりませんが、周囲にいる方々にも被害が及ぶのでは」

 

 それには及ばないと言う運び屋、尽くせる限りの爆発物の専門知識(Demolition Expert)を駆使して被害を拡大(Splash Damage)させれば()()()()()()、運び屋は平然とそう言う。

 つまり目撃者を全員爆殺して完全に口封じする気らしい……

 

「なっ!? 本気ですか!? 救援に来てくれたグリフィンの部隊をもろともなんて何を考えているんですか!」

 

 慌てて投擲の為に振りかぶろうとする腕を掴んで止めようとするMG4、だが彼女の人形としてのフルパワースペックをしても運び屋の腕の動きを微塵も止めることができない。

 もはやなりふり構わず、全身で必死に腕に抱き着いてかかるがそれでも何も腕の動きは変わっていなかった。

 

「っだっめ……っです! ッ止めてっ!」

 

 だが、運び屋が投擲の狙いをつけて手榴弾を投げようとしたその時、外の状況が変わる。

 

 三体の悪魔を囲んで手をこまねいていたはずの者達が、指揮官を他の二体の悪魔と協力し合い集中的に攻撃し始めたのだ。

 それだけではない、指揮官と対峙していた二体の悪魔が人間の姿になった……しかも、その内の一人はこの基地に入ろうとした際に見かけた黒コートの男だった。

 

 指揮官に対して止めることはなく続けられる熾烈な攻撃が続く中、更に空から響く声。

 

 

「てめぇらッ! そこを退けええええええぇッ!!!」

 

 

 手榴弾を放り投げる一歩手前の所で、運び屋の腕がピタリと止まる。

 基地内に入る前に出会ったイチイバルという少女が、上空から剣を真下に構え凄まじい勢いで急降下してきたのだ。

 巻き込まれるのを避けるために、指揮官の周囲にいる面々は素早く退避する。

 

 強烈な一撃を撃ち込まれ爆炎に包まれる指揮官。

 そしてその隙を逃さんとばかりに黒コートと赤コートの二人組の男達に剣で斬りつけられ片膝を着いた。

 

「す、すごい……」

 

 外の後継に運び屋の腕を放して唖然とするMG4、運び屋も数人が距離を置いたせいで全員を爆発の範囲にとらえることはできないと判断し腕を下した。

 

 もはや外での戦いは決着がついた。

 後は銃を構えている黒コートと赤コートの二人組がトドメを刺すだろう……

 だがそれが“確実な死”になるのか確信が持てなかった運び屋は、小さい小瓶を数本取り出しその中の液体を投げナイフの刃の部分に次々と垂らしていく。

 

 シルバースティング、トレンブル、ブリークベノムにマザーダークネス、更には毒雲のキスとダークダチュラ、ついでに炎の下剤。

 様々な猛毒に漬けこまれたナイフをまさにトドメの銃弾を打ち込まれる間際の指揮官に向かって目にも留まらぬ速さで運び屋は投擲した。

 

 ワッショイ! (Heave, Ho!)

 

 悪魔となった指揮官に二人の男が放った赤と青の弾丸が着弾すると同時に、運び屋が投げたナイフが眉間に大当たり(JACK POT!)する。

 指揮官は断末魔を上げ、死体すら残さず消滅していった。

 

「……終わったんですね。 これで」

 

 指揮官が“確実な死”を迎えたところでMG4が呟く、彼女の顔は非常に複雑そうな表情だった。

 運び屋は何も言わず、基地から抜け出す為にそのまま別の出入り口へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 外では歓声が上がり戦勝ムードの中でイチイバルと呼ばれていた少女は、指揮官がとどめを刺され消滅した場所で何かが落ちていることに気が付く。

 

「ん? なんだこれ……ナイフか?」

 

「それに触れちゃいかんぞ」

 

 ボロボロになり腐食しているが、辛うじて形からナイフであろうことがわかったが、突然に少女の後ろから先程まで共に戦っていた老人の声がかかる。

 

「猛毒が塗ってある。 腐食性の毒以外にも恐らく動物毒等も混ぜ込まれておる。 触れただけで……いや気化したものを吸うのも危険だ」

 

「げっ、マジか……あの悪魔が最後に一撃かまそうとしてたのか?」

 

 不意打ちでも狙っていたのかと少女が疑問に思うところに更にもう一人から声がかかる。

 

「いや、粋な奴がサプライズしてくれたみたいだぜ」

 

 そう言ったのはあの指揮官にトドメの銃弾を浴びせた一人である赤いコートを着た男だった。

 

「ギルヴァも気づいてたみたいだけどよ。 誰だか知らないが最後の瞬間に、奴の眉間にソレをブチ込んだ奴がいる」

 

「悪魔に毒なんて効くのかよ、てか誰だよそんなの投げたのは」

 

「ここにいる連中じゃないぜ、基地の側からだ」

 

 赤コートの男と少女が話している傍で、老人がふと呟いた。

 

「もしや、話に聞いたモハビ・エクスプレスの運び屋ではないのか? 基地に入る前にそれらしい人物を見た」

 

「っ! そんなわけねぇっ! いつも嫌に感じるあの悪寒もしなかった!」

 

「顔見知りなのかは知らんが……お前さんのような手練れが怖気づくような奴ならば、気配を完全に消すのも造作もないのかもしれんぞ」

 

 老人と少女がそんな話を言い合っている中、落ちていた腐食したナイフはそのまま完全に崩れ落ちてしまい、ついには原型がわからなくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 こうして、11地区基地からの依頼による騒動は終わった。

 運び屋はついでとばかりに基地内を探索して金目の物を持ち帰ろうとしたが、残念ながら既に目ぼしい物は何者かに持っていかれ、残るのはロックが外されて空になったデータバンクや金庫しかなかった。

 だが何故か自分自身を依頼報酬としたMG4を運び屋は受け取ることはせず、セキュリトロン達を積み終えると早々に貨物トラックに乗って去っていったという。

 MG4が言うには運び屋自身で依頼を達成したかが確信を持てないからだということだった。

 その後、MG4はS10前線基地に赴きそこに身を置くことになった。

 

 だが、その頃からある噂が立つようになる。

 それは、S10地区で時たま奇妙な青いロボットを見かけるだとか、長い髪を二つに分けた銀髪の人形がそのロボットと一緒にいることがあるという。

 

 

 

 

 

 S11地区を走り去る輸送トラック、その中で運び屋は新しく生まれ変わったトラックの状態を一つ一つ確認していく。

 移動要塞に乗っていた女性、リホ・ワイルダーに半ば脅しつけて修理させたこのトラックは中々に快適で便利な機能がいくつもあり、色々余計な機能が満載のようだ。

 誰も座っていない助手席の上には、食べかけのアップルパイとソーセージが乗っていた。

 

 ふと運び屋は、基地を去る際にすれ違った人形……イングラムという名の人形に「それは美味しいのかしら?」と、聞かれたことを思い出し、食べかけのソーセージを横目で見ながら思った。

 

 

 

 ほとんど砂の食感と味しかしなかった、と……




クエスト失敗



Q.つまりどういうこと?

A.新鮮な情報はそれだけで価値があるって、それ一番言われてるから

Q.味って?

A.何を言ってるかさっぱりわかりませんね(すっとぼけ)



【Demolition Expert】
運び屋の扱う爆発物は通常の威力に比べて更に効率的になり威力に跳ね上がる。
自身や味方を巻き込む事故要因その一。


【Splash Damage】
運び屋の扱う爆発物の爆破範囲が更に広くなる。
自身や味方を巻き込む事故要因その二。


【Heave, Ho!】
運び屋の強靭な肩は投擲物をより速く遠くへ投げ飛ばす。
グレネードさえあれば、グレネードランチャーやグレネードライフルは不要の存在と化す。
ハコビヤ=サンのスリケンジツは実際スゴイ、イヤー!


【シルバースティング、トレンブル、ブリークベノム、マザーダークネス】
それぞれスコルピオン種と呼ばれる蠍のクリーチャーや、カサドレスと呼ばれるクリーチャーの毒から作られている。
毒による持続ダメージの他に、シルバースティングは筋力、トレンブルは戦闘技能、マザーダークネスは敏捷性と知覚をそれぞれ低下させる効果がある。


【毒雲のキス】
腐食性の毒で、重金属等が含まれている。
原材料がとある場所でしかとれず、しかも採りに行くことがかなり難しい為、実は希少品。


【ダークダチュラ】
原材料はダチュラルートという、別名チョウセンアサガオに類似する植物。
持続ダメージの他に知力も一時的に下げる効果がある。
興味本位で手を出すのはやめようね!


【炎の下剤】
下剤。
本来は動物毒を解毒するための飲み薬であり毒薬ではない。
材料はウォッカとハラペーニョと、ホワイトホースネトルという毒性を持つ植物の種。
だが断じて毒物ではない……が、飲むと効果として解毒の他に放射能汚染を少しばかり除染してくれる他、耐久が一時的に少し下がる。


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Welcome to the Underground

落ち着いて話し合おう[Speech 48/60]



……失敗しとるやんけ!
いや、アンケート結果に意味がなかった訳ではないです。 はい(汗)


「ま、待ってくれ、お互い落ち着いて話し合おう」

 

 地下で人形達とロボット達が一触即発の中睨み合う状況。

 その中で人形達のリーダーである男は、ロボット達のまとめ役である大佐に話し合いを持ち掛けるが、

 

「話し合いだと! この泣き喚く無能な人形の為に何を話し合う必要がある! 役に立たないなら処分するだけだ!」

 

「いやぁっ……助けてダーリン、ダーリン、ダーリン、助けてぇ!」

 

 だが大佐は聞く耳も持たず三つのセンサーアイで泣き崩れるMk23を睨みながら詰め寄ろうとするが、その視線をM21が前に出て阻む。

 

「これ以上近づく気なら、私達だって黙ってないよ!」

 

「ハッ、黙ってない? お得意の銃も持ってない売女人形共に何ができる! 今のお前等はハンディーどころかプロテクトロンにも劣るただのカカシだ!」

 

「戦術人形を舐めんじゃないわよ、あんた達みたいな鉄屑なんて格闘戦で十分よ!」

 

 またも言い合いを始めるM21と大佐をなんとか宥めようと必死に説得しようとするリーダーだが、言い合いはヒートアップするばかりだ。

 今にも殴り掛からんばかりのM21や他の人形を必死に止める。

 

「M21、他の奴も手を出すな! 攻撃される口実になる!」

 

「だけどリーダー! もう我慢の限界だよ! ここらで一発でも殴っておかないと」

 

「やめろ、大佐が何故お前達に未だ一発も撃ち込んでこないのかわからないのか」

 

 人形に対して攻撃的な大佐が、この場で言い合いだけに留まっているのは理由も無しに人形達を攻撃することができないからだ。

 ここにいる人形達は運び屋の所有物という扱いであり、大佐は勝手に危害を加えられない、だから人形達に罵倒を浴びせたり挑発をして人形側から手を出してくるのを狙っているのだ。

 攻撃されれば後は反撃という名目で大佐達は嬉々として襲い掛かってくるだろう。

 

 そう考えていたリーダーである男はふと気が付いた。

 

「……大佐、Mk23の処分の許可は本当に出ているのか?」

 

 男は大佐がMk23を処分するのを装って挑発しようとしているのではないかと考え、追求してみる。

 

「ハッ! オマエの様な人間のように嘘をつくと思っているのか? 許可申請後に廃棄処分にしろと指示が来ている! 何も問題はない!」

 

「許可を出したのは誰だ……」

 

「カストディアンだ! 奴は作業効率の低下を指摘したら、すぐ処分を実行せよと指示が出た!」

 

「ちっ、あのプロテクトロンめ……」

 

 ……だが、どうやらその予測も外れてしまった。

 

 この地底には地下施設全体の管理を任されているロボットがいる。

 それがカストディアン、または管理者と呼ばれているプロテクトロンだ。

 カストディアンはプロテクトロンという性質も相まってか、とにかく融通の利かない上に管理や指示は正に役所仕事のお手本のようなやり方をするロボットだった。

 あのプロテクトロンならば、Mk23の処分許可を出してもおかしくはないと納得せざる得なかった。

 

「ねぇ、リーダー…… もしかしてMk23を引き渡すとかしないよね?」

 

「……カストディアンが許可したのなら、そうするしかないだろう」

 

「そんな、そんなのってないよっ!」

 

 スコーピオンが恐る恐る聞くも、男は目を背けながら諦めてしまっていた。

 この地下で最も権力を持っている管理者が指示したとなれば、もはやどうしようもない。

 こうなれば、状況をこの場で覆せるのは運び屋か、それに並ぶ扱いになる人物しか無理だろう。

 

「無茶言わないでくれ、お前達と同じ立場の俺にはこの状況を覆すことはできない」

 

「ふざけないでよ! あんたは私達のリーダーでしょ! こんな場所に連れて来られて、また切り捨てられるっていうの!?」

 

 諦めきった態度の男に掴みかかって訴えるM21、傍では泣きながら怯えるMk23、それを見て途方に暮れるスコーピオンと他の人形達。

 そんな状況を見て愉悦に浸りながら大佐は言う。

 

「そうだ! 貴様等人形共は道具の立場である癖に、一丁前に扱われるのが当然と思っているようだがな! そんなザマでは売り飛ばされるのも当然というものだ!」

 

 大佐から放たれたその言葉に、人形達の何人かは顔を俯けてしまい、中にはすすり泣く声が聞こえ始める。

 だが、その言葉に対して納得いかないスコーピオン。

 

「……たしかに私達人形は道具かもしれない、けどだからってこんな扱いされるなんてないよ!」

 

「それが思い上がりだというのだっ! 不平不満を理由にあるべき立場から逃げ出そうとするコミ―のごとき鉄屑共め!」

 

 スコーピオンの態度が気に食わなかった大佐、標的を泣き続けるMk23に変えて言い続ける。

 

「グリフィンではお前達人形を同等に扱うような指揮官がいるようだがなぁ! 誓約だぁ!? 指輪はめたついでにハメようってのか! そうだな人間様の性欲処理の道具としてなら可愛がられるだろう! そして、道具らしく性欲処理後に使い捨てられたのがこの役立たずって訳だ!」

 

「そんっなぁ……違う、違う違う、違う、違う、ダーリンは」

 

「違うなら何故貴様はここにいる!」

 

「あ……ぃゃ……」

 

「Mk23!?」

 

 大佐に完全にメンタルを叩き折られたMk23は意識を失い倒れこみ、スコーピオンが咄嗟に寄って支える。

 

「ふざけるな! 私達はっ……っぐ!?」

 

 そしてついに我慢の限界にきたM21は拳を振り上げ、大佐に殴りかかった。

 だが、大佐は殴られる前にいともたやすくマニピュレーター先のアームでM21の首を掴み上げてしまう。

 

「お前は戦術人形が俺の様な軍用のロボットに格闘して勝てると思いあがっているようだが、貴様等の様に人工の血肉を無駄にまとわりつかせたダッチワイフ風情が思いあがりもいいところだ!」

 

「うっ……ぐぅっ」

 

 大佐のアームによってミシミシとM21の首が締まっていく。

 

 

 だがその時、大佐のアームに青く光る斧が突き刺さり小規模なパルス爆発を起こした。

 

「ガァ!? なんだ!?」

 

 突然のことに大佐は驚きM21の首を掴んでいたアームを放してしまう。

 首は放されたM21はその場で力なく腰を落として座り込むと、その斧が飛んできた方向を見た。

 

 

 

 そこに居たのは斧を投げた本人であるCZ75と後ろに控えておっかなびっくりしているM3、そして呆れ顔のスケアクロウだった。

 

「クソったれのブローカー野郎とクソったれのタコ野郎、どっちもムカつくけどよ……」

 

 CZ75は大佐を睨みつけながらプロトン・スローイングアックスを片手に持って構える。

 

「人形だって理由で目の敵にしてるタコ野郎だけは絶対許せねぇ! ぶっ壊す!」

 

「何かと思えば貴様も首輪付きかっ!」

 

 CZ75と大佐が睨み合い互いに臨戦態勢になるが、そこへ男が割り込んで止めようとする。

 

「やっ、やめろ! これ以上は収拾がつかなくなる!」

 

「うるせぇ! コイツ等を切り捨てて保身図ろうってのが見え見えなんだよ! タコ野郎がいなかったらオマエの脳天に斧投げ入れてたところだ!」

 

「うぐっ……」

 

 男はCZ75に睨みつけられると尻込みしながら、情けなくスコーピオンの後ろに逃げる。

 

「あ、あわわ…… ど……どうしたらいいんでしょう!?」

 

 そんな混沌とした状況にどうしたものかとM3はスケアクロウに縋るが、スケアクロウは呆れ顔のままで言葉を返した。

 

「はぁ……ここの人形達を助けたいのか、この場を収めたいのか、どちらにせよ私に知ったことではない事です。 けれども、それをどうにかしたいのならできるのは、今この場で一人だけですわ」

 

「え…… こ、この場で一体誰が」

 

 一体誰だろうと、元ブローカーの男や周りの人形、そしてCZ75と大佐やその周りのMr.ハンディー達をM3は順々に見回した。

 

「貴女ですわ、M3…… この場で貴女だけが運び屋と同等で、モハビ・エクスプレスの社員としての立場を持っている」

 

「えっ、えええ!?」

 

 そうなのだ……実の所、運び屋と同等の立場を持つのはモハビ・エクスプレスの社員という扱いで雇われたM3だけなのである。

 これはラウルやリリー、そしてDr.モビウスも例外ではなく、それぞれはあくまで運び屋につき添ってきた仲間なだけであり、ここモハビ・エクスプレスL38地区支部で正式に存在する社員は運び屋以外にはM3しかいないのだった。

 

「自覚がなかったのでしょうけど、この地区では貴方は運び屋と同等の権限を持っている。 ここへ行く道中でも実際にはロボ・スコルピオンにも襲われなかったでしょうね」

 

 スケアクロウの言葉に唖然とするM3、ふと周りを眺めると目前ではCZ75と大佐、人形とロボットが対峙する光景が目に入る。

 

「で、でも……私なんかが……   あっ、そういえばたしか!」

 

戸惑いと怯えが混じり合った感情の中で戸惑うM3、だがその時ふと思い出し腰に掛けたマガジンポーチのポケットを弄る。

そして、ポケットから取り出されたのはここへ来るまでに出会ったDr.モビウスから手渡された一箱の薬だった。




実はM3ちゃんはかなり優遇されてたってことです。



もうちょっと話を簡潔にして短くするべきだとは思ってるんだ、でもできない。
素人の趣味程度だからね、仕方ないね。


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Welcome to the Underground

ふしぎなくすり のまされて(自分から)


 CZ75と大佐が睨み合い、CZ75はプロトン・スローイングアックスと自らの半身である銃をそれぞれ両手に持って構え、大佐はマニピュレーター先のプラズマピストルの銃口ともう一本の先に取り付けてある火炎放射器を向けて狙いを付ける。

 

「来いよタコ野郎! テメーの腕と目を三本ずつ切り落として出来の悪い風船みたいにしてやる!」

 

「ぬかせ! 貴様をプラズマ弾で光るスライムにしてガキ用玩具として売り飛ばしてやる! それとも火をつけてこんがり食品店に並ぶかぁ!?」

 

 互いに罵倒し合いながら牽制し、そしてついに双方動いた。

 先制攻撃をしたのはCZ75で、自身のハンドガンを大佐に向かって連射し全てを命中させる。

 だが、大佐の球体ボディーとその傾斜装甲で銃弾は全て反らされ弾かれてしまう。

 

 大佐からは反撃とばかりにプラズマピストルがCZ75に向かって放たたれたが、実弾に比べ弾速が格段に遅いプラズマ弾をCZ75はいともたやすく躱し、手に持ったプロトン・スローイングアックスを直接叩き込むために接近する。

 

「マヌケがぁ! ローストにしてやる!」

 

「うっせぇ、ならテメェのタコ足は刺し身だ!」

 

 近づこうとするCZ75に向かって大佐が火炎放射するが、それをなんと跳び上がって躱したかと思えばそのまま落ちる勢いを利用して火炎放射をしていた腕……マニピュレーターをプロトン・スローイングアックスで叩き斬る。

 

「なぁんだとぉっ!?」

 

 まさかこうも容易くCZ75にしてやられるとは思いもしていなかった大佐は驚愕していた。

 

 

 

「驚きましたわ…… 意外とやりますのね」

 

 その戦闘を離れて見ていたスケアクロウも、CZ75の戦いなれた動きに少し驚く。

 

 そして周りで見守っていた人形達とロボット達も、大佐が不利な状況となったことを察すると双方一斉に動き出した。

 

「大佐殿の状況がが危険と判断、援護を開始する!」

 

「あの人形を解体処理する!」

 

「させるかタコロボット共め! こいつらをCZ75の姉貴に近づけさせるな!」

 

「戦術人形なめんなぁ! いけー!」

 

 人形達とロボット達が入り混じって乱闘が始まった。

 人形達は素手で殴りかかり、ロボット達は腕に取り付けられた丸鋸と火炎放射器で襲いかかる。

 

「ごぁ!?」

 

「なんだこの馬鹿力な人形は!」

 

「君達は……ちょーっと、戦術人形をなめてかかりすぎだよ?」

 

 人形達の一人であるSPAS-12に軽々と殴り飛ばされていくMr.ハンディ-達。

 

 鋸や火炎放射を相手に素手で格闘戦を強いられる人形達、一見不利なように見え苦戦するのかと思いきや、実際にはMr.ハンディ-達は所詮一般用のサポートロボットでしかなく、対して人形達は数で勝っていた上に全員が多少なりとも戦闘経験を積んでいる戦術人形である。

 人形達も斬られたり火傷を負ったりと多少負傷する者達も出たが、Mr.ハンディ-達ロボットを次々と破壊し、圧勝する勢いで優位に立っていた。

 

 

「どうしよう!? こ、これもう収集つかないよ!?」

 

「……最悪だ。 もうこれは全員処分されるかもな……俺も含めて」

 

 目前の乱戦に焦るスコーピオンと、もはや諦めの心境である男。

 だがM21は男を睨みながら立ち上がって叫ぶ。

 

「何言ってんのよリーダー! 今こそ反乱の時よ!」

 

「馬鹿言ってるのはお前だM21! 俺達にはこの首輪が取り付けられてるのを忘れたのか!」

 

 男は自分に取り付けられた、いつ爆発するかもわからない首輪を見せ付ける。

 

「でもまだ爆発してない、どっちにしろもうこのままじゃ処分されるのを待つしかないじゃない! それぐらいなら私達は戦うわ!」

 

 

 男とM21が睨み合うのを見ながら、どうするべきかと悩むスコーピオン、だが後ろから誰からか肩を叩かれ振り向く。

 

 そこにはM3がいた……だが、いつも自信なさげで引け腰な様子とは打って変わって、別人の様な自信に満ちた立ち振る舞いであった。

 

「私がこの場を収めます。 だから安心して、ね?」

 

 片目を閉じウィンクをしてみせるM3にスコーピオンは唖然とする。

 スコーピオンが知っているM3という戦術人形とは、かけ離れた言動をする目の前の戦術人形。

 

 そしてM3は大きく息を吸ってこの場の全員に聞こえるように大声で言う。

 

「全員その場での戦闘行為をすぐに止めなさい!」

 

 するとどうだろう、人形達と争い合っていたMr.ハンディ-達が一斉に戦闘行為を止めたではないか。

 突然のMr.ハンディ-達の変化に、相手をしていた人形達は戸惑う。

 だが、一番戸惑っていたのは我先にと互いに争っていたCZ75と大佐だった。

 

「どうしたんだオマエ…… 本当にM3なのか?」

 

「クソッタレェ! この場で最上位権限命令だと!?」

 

 いつもの様子とは違うM3に本人なのかと疑うCZ75と、戦術人形からの指示で動きを止められてしまった大佐は、その声を発したM3に驚きながら視線を向けた。

 

「CZ75さんも彼女たちの為に憤ってくれていたのは分かります。 でもこれ以上の争いはもう必要ないんです……」

 

「お、おう……」

 

 たしかにM3の一声でロボット達は大人しくなり、あの大佐ですら汚い言葉を吐き捨てながらも戦闘態勢を解いてしまった。

 だがCZ75にとってそんなことよりも、M3のいつもの自信なさげな様子から一変していることのほうが驚きであった。

 

「ホントにどうしたんだよM3、オマエらしくないぞ?」

 

 CZ75が恐る恐るM3に話しかけるが、その時にふと視界の端にスケアクロウが見えた。

 スケアクロウはジト目で地面に落ちているとあるモノを指さすジェスチャーをしていた。

 それは、ここへ来る途中でDr.モビウスからM3が受け取っていたメンタスという薬の箱だった。

 箱は空けられており、その薬の空箱を見たCZ75はすぐさまに理解し呆れ顔になる。

 

「……薬でハイになってるのかよ」

 

「大丈夫です! これが本来の私なんです!」

 

 鼻息を荒くしてM3は自分は正常だと言い張るが、そういった手合いの常套句にしか聞こえないCZ75は頭を抱えて溜め息をつく。

 

「ジャンキー人形が! 余計なことしてしゃしゃり出やがって!」

 

「シャラァーップ!! 次に人形に対して侮辱的なことを言ったら、貴方の方を解体処分しますよ!」

 

「ゥググ……」

 

 水を差された形になる大佐はM3に噛み付く、普段のM3なら物怖じして何も言えなかったであろうが、ガンギマったM3はそれを上回る気迫で大佐に言い放って黙らせる。

 

 

 

「もう安心してください! この私が来たからにはこれ以上、皆さんに危害は加えさせません!」

 

「うぉお! かっくいー!」

 

「あの大佐達を一喝しただけで!」

 

「す、すごいよ!」

 

 M3の力強い台詞を聞いて人形達は喝采する。

 

 ガンギマり調子が乗りに乗りまくって他の人形達を鼓舞して煽るM3、周りの人形達も完全にその気になってしまっていた。

 そんな様子を眺めながら、CZ75は一息つくと苦笑しながら両腕を頭の後ろで組んで呟く。

 

「なんか熱くなったアタシが馬鹿みたいっていうか、恥ずかしくなってきた」

 

「あら、柄にもないことをいいますわね」

 

「うっせー!」

 

 スケアクロウに茶々を入れられるCZ75が少し恥ずかしそうにしている様子を、後ろから見ていた男とスコーピオン。

 完全に大人しくなったロボット達を横目にスコーピオンは嬉しそうにする。

 

「なんだか、助かったみたいだね」

 

「……どうだかな、運び屋が帰ってきた時にどうなることやら」

 

 男の視線の先には、未だ意識が戻らないMk23とそれをM21が介抱している光景があった。

 その光景を眺める男は何とも気まずそうな顔つきをしていた所に、スコーピオンがふと以前から気になっていた事を男に問う。

 

「そういえばさ」

 

「なんだ?」

 

「リーダーの名前って結局なんなの?」

 

 今更の突拍子もない突然の質問に一瞬呆けた男だが、暫く考えた後、

 

「前の名前は足が付くから捨てた。 今はただの奴隷(スレイブ)ってことにしといてくれ」

 

 苦笑する男、スレイブの背後ではM3が声を張り上げて叫んでいた。

 

 

「ええそうですとも! いい加減あの運び屋さんにガツンと言ってやるべきなんです!」

 

 

 

 

 

「……あの、えっとですね。 で、ですから地下にいる彼女達の待遇を……もっと良くしてあげてほしいというか……

 

 運び屋が戻ってきた頃、M3は既に薬の効果が切れ覇気のない自信なさげないつもの様子に戻っていた。

 だが、地下にいる人形達に大見得を切ってしまったM3は物怖じしながら彼女達の待遇改善を要求するが、自信なさげに言うM3の言葉は尻すぼみになっていきやがて何も言わなくなった。

 

 その様子があまりにも放っておけなかったCZ75も大佐が行おうとしていた仕打ちを訴える。

 

「大佐ってタコ野郎がMk23をバラすなんて言って迫ってたぞ、どうなってんだよあの地下の治安は! ……Mk23は無事かって?」

 

 その言葉に運び屋が動きを止め、Mk23の安否を聞いたがCZ75は苦り切った顔をした。

 

 

 

 

 

 地下の一室でM21が座り込み、寝たきりのMk23に寄り添っていた。

 

「大丈夫、いつかきっとここから逃げ出して貴女の指揮官に会わせてあげるから」

 

 Mk23は未だに静かに目を閉じたまま起きる気配は無い。




スーパーガールに 変身よ~♪(ガンギマリ)


【メンタス】
服用することで知性と感覚を一時的に増幅させ、少しばかり魅力も上げてくれる。
中毒性があるが、そもそも薬を一回で一箱分服用するのがおかしいのであって、用法容量を守れば記憶力と思考速度を向上させる程度の有用な薬であると認識されている。


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去年の年末に上げるつもりだったどうでもいい話。


「なぁ、ラウルのオッサン。 運び屋の奴またどっか行っちまったけど、あの放任主義いい加減になんとかならないのかよ」

 

「なんで俺に言うんだ、俺に……」

 

 備品室で銃のメンテナンスをしていたラウルを横から暇つぶしに眺めていたCZ75は、突然に運び屋に対しての苦言を口に出す。

 そもそもあの一件は運び屋の放任主義が原因であるともいえる。

 地下での騒動も落ち着いたが、Mk23は未だに目を覚まさない中で、またも放置してどこかへ行った運び屋に流石に我慢ならなかったようだ。

 ラウルは爛れた顔を顰めながらめんどくさそうに返事をする。

 

「ここで一番付き合いが古いのってオッサンだろ? いい加減アイツに注意とか言ってくれよ!」

 

「こんな醜い年寄りよりも、お前さん達のような目麗しい人形が言い寄ったほうがいいんじゃないか? あとボスと一番古い付き合いなのは俺じゃない、ED-Eだ」

 

「一番意見できそうなのがオッサンしかいねーんだよ。 ED-Eとレックスがアイツに物言える訳ねぇし、リリー婆ちゃんもあんなだし……あのモビウスっていう爺さんもアテにならないじゃん」

 

「あのボスに苦情言って、まともに聞き入れると思うか?」

 

 ラウルは呆れ半分に言葉を返す。

 そう言われるとCZ75もやはり、誰が何を言ったところで運び屋が言動を曲げるところが想像できなかった。

 だが、ふと思う。

 

「……なぁ、前から思ってたんだけどさ、アイツって出会った頃からそんなんだったのか? よくあんなのに付いていく気になれたな」

 

「あぁ、他の奴は知らんが俺は助けてもらった恩もあるしな……あの時はボスに対していけ好かない態度をしてたもんだがね、今も感謝してるよ」

 

「へぇ、助けてもらった恩ね」

 

「リリーの婆さんより一回りデカい連中に囲まれながら、毎日そいつらから死刑宣告受けるのを想像してみな……そんな所に助けが来たら誰だろうと救いの神に見えるってもんさ」

 

「そ、想像したくもないなそれ」

 

 一瞬想像して肝を冷やす様子のCZ75を見て苦笑するラウル、だが直後にラウル自身も腑に落ちなささそうな様子で続ける。

 

「昔はボスもあんなんじゃなくてかなり真っ当で善良な人間だったはずなんだが……」

 

「善良? ってかアイツが人間かよ、信じらんねー」

 

「いや、まだビッグ・マウンテンとやらから帰還してくるまで……は……」

 

 突然に言葉に詰まったかと思えば、なにやら考えたり思い出す素振りをし始めるラウル。

 そんな様子を怪訝な風に見るCZ75。

 

「どうしたんだよ、オッサン」

 

「……ちょっと気になることが出来てな、少しモビウスの爺さんの所へ行ってくる」

 

「え!? なんだよ突然、待てよ!」

 

 急に思い立った様にしてラウルは険しい顔をして備品室を出て行った。

 初めて見た普段の皮肉ったような態度を急変させた様子のラウルを見たCZ75は何事かと慌てて追いかける。

 

 

 

 

 

「ふむ、運び屋が今の様に傍若無人となった原因の一端を知っているのではないかと、ワシに心当たりがないかと聞きに来たわけか」

 

「……俺の記憶が正しければボスは爺さんと出会ったビッグ・マウンテンに行くまでは、かなり真っ当で善良な人間だったはずなんだ」

 

「手短に答えれば、その原因を知っとるのは確かだ。 更に人の枠から外れる事になった原因もな」

 

 ラウルの後を追って展望台内にCZ75が入ると、Dr.モビウスを早々に問い詰め始めたラウル。

 

「つまりはボスの言動がおかしくなったのはやっぱりビッグ・マウンテンに行ったのが原因というわけか」

 

「だが一つ誤解を解いておくと、頭を弄って性格を意図的に改変したとかそういうものではないと言っておくぞ……いや、頭を弄られてるのには変わりはないのかの?」

 

「おい、どういうことだよ?」

 

 ラウルとDr.モビウスの話に付いていけないCZ75。

 しかし、口を出そうにもどこに突っ込んでいいのかわからないまま話を聞き続ける。

 

「まずラウル、お前さんはどこまでビッグ・マウンテンと、その出来事を知っておる?」

 

「……たしか戦前から様々なイカれた技術テクノロジーを生み出した場所で、そこにいる科学者連中をボスが説得して従わせたとか聞いてるが」

 

「シンクタンクの連中のことじゃな、結果の話としてはそれで合っておる。 だが、その過程で何があったかと言うことは聞いていないようじゃな」

 

「その過程とやらでボスが変わっちまったってことか」

 

「まず初めに、ビッグ・マウンテンに来た運び屋は【脳】【心臓】【脊髄】をそれぞれ抜き取られることになったわけだが」

 

「「はぁ!?」」

 

 いきなりの無茶苦茶な話にラウルもCZ75も唖然とする。

 

「シンクタンクの連中に張られた罠にかかり、他のロボトミーのように脳を抜き取られるどころか心臓と脊髄まで抜かれて機械部品と置き換えられたわけだな。 あ、ロボトミーっていうのは地下にいる男連中のことじゃ、あれは脳しか抜き取られておらんがの」

 

「……オッサン、アタシなんかとんでもないこと聞いてる気がするんだけど」

 

「……言うな。 俺も長い間生きてるつもりだったが、ここまでイカれてる展開は初めてだ」

 

 もうついていけない、そんな二人を気にせず話を続けるDr.モビウス……

 

「普通ならそんなことをされれば他のロボトミーの様に木偶となる。 だがそうはならなかった、肉体と脳を切り離されてもだ」

 

 本当ならば他のロボトミーと同じ運命を辿るはずだった運び屋、しかし抜き取られた脳を廃棄される前にDr.モビウスが回収し、その自分の脳を取り戻すまでの経緯がかいつまんだビッグ・マウンテンでの出来事らしい。

 シンクタンク、ロボトミー、奪われた運び屋の脳、他にもいくつか語られたとんでもないテクノロジー……更に続けて語っていくDr.モビウスを二人は一旦止めに入る。

 

「わかった、わかったが…… つまりは脳味噌を抜き取られたせいでボスは今みたいに変わっちまったってことか?」

 

「なんで脳と切り離されて、しれっと動き回ってるんだよ。 てか本当に脳味噌空っぽ(Brainless)だったのかよ!?」

 

「うむ、そこなんじゃよ。 何故、脳と身体が分かれても正気であったかという話は今の所は置いておく。 それと今は脳はちゃんと頭の中に戻っとる……が、その戻るまでの過程が恐らく原因だろうな」

 

 またも話を続けるDr.モビウス、だがその続けて語られた内容にまたも驚愕することになる。

 

「驚いたことに儂が回収した運び屋の脳は自ら明確な意思を持っておった。 今でも思い出すわい、理性的で聡明な脳だったとな……少し癇癪起こしとったがな」

 

「……それはつまり切り離された脳がボス自身とは別の意識を持ってたってことか?」

 

「うわ、もう聞いてるだけでこっちの電脳もおかしくなりそう!」

 

 話を聞きながら頭を抱え始めるCZ75をよそにDr.モビウスは話を続けた。

 

「そうじゃ、そして運び屋の脳は荒廃した世界での旅路に嫌気がさしておったようでな、自分の脳を取り戻す為にワシの元へやって来たはいいが、脳が戻りたくないとゴネて運び屋自身との意見の対立が起こったのだ」

 

「……もう思考が追いつかんから簡潔に聞くが、結局はボスが今みたいな無茶苦茶するようになった原因っていうのは何だ?」

 

「なに簡単な話だ…… それまで運び屋は()()()()()()によって様々な好奇心や本能を抑えておった。 だが運び屋は自身の脳と対立した時に元に戻るように説得した。 外の世界での好奇心を満たす冒険の素晴らしさや思うがままに行動する楽しさを……それに心動かされた脳は運び屋に完全に同調したんじゃよ、つまりは理性が本能に言い負かされて説き伏せられたってことじゃ」

 

「たしかに今思い出すとボスの行動からすると納得できるが……」

 

「いやそれ、普通にヤベェ奴じゃねぇかよ……」

 

 到底信じがたい話に開いた口が塞がらないラウルとCZ75。

 

 

 理性というブレーキが本能からの好奇心や行動を止めなくなった人物、人はそれを精神異常者……もしくはサイコパスという。

 

 




運び屋は別に悪人になったというわけではないです。
あくまで好奇心や興味を持ったことを最優先にしちゃうだけの精神異常者ってだけです。
つまり余計に質が悪いということですね。



【ビッグ・マウンテン】
Fallout史上トップクラスの科学技術テクノロジーの粋を集められた研究機関……だった場所。
シンクタンクと呼ばれる主席研究者達の狂気の実験場と化していた所を運び屋が現れ、結果として運び屋の主導の元で世界の繁栄の為に科学再興の地となった。
……が、実際は運び屋の玩具箱と化している。
巨大な山の中心部をくり抜いたクレーター状の地形で、その為別名ビッグ・エンプティとも呼ばれている。
コーラップス技術を持ち込んだら絶対にダメな場所。


【ロボトミー】
ビッグ・マウンテンの技術により脳外科手術によって脳味噌を抜き取られた被験者達。
抜き取られた脳の代わりにテスラコイルが埋め込まれている。
痛み等の感覚をほとんど感じない為に非常にタフであり、また力もブレーキなしのフルスロットルなので相当強い。
変に物を収集する癖があるらしい。


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DEATH STRANDING

犬もどきさんの【METAL GEAR DOLLS】でのエピソード『緊急合作案件!! 危険な運搬物』より、緊急のとても重要な物資輸送依頼が来ました。

いったいどんな重要な物を運ばされるんだろうなぁ(すっとぼけ)


 とある日の輸送依頼の途中でそれは起こった。

 

 輸送の依頼主はMSFというPMCで、G&K社が規模で手広くやるPMCならば、MSFは質で攻めていくPMCであり、その実力と団結力は凄まじいものがある有名な傭兵集団だ。

 運ぶように依頼された物はかなり大きなサイズの木箱で、かなりの大重量(Heavyweight)を一人背負って運ぶことになるが、強化された脊椎(Reinforced Spine)頑丈な背中(Strong Back)を持っている運び屋にとっては何の苦にもならない運搬だった。

 木箱の中身は知らされていないが、依頼をしてきたMSFの戦術人形であるスコーピオンによると「重要な兵站物資」であり「下手に扱うとMSFが二つに割れかねない」かなり重要な物らしい。

 

 

 そして、そのスコーピオンからMSFの一部の戦術人形達が運搬中の物資を狙って後を追ってきているという連絡が来たのが数刻前。

 

 今は恐らく追手であろう戦車に砲撃を撃たれまくっている状況だった。

 牽制の為に撃ちまくっているのであろうが、それでも一発でも掠めればいくら運び屋でも致命傷である……致命傷で済めばそのまま平然と立ち直るのが運び屋とも言えるが。

 しかも向こうは殺しにくるがこっちには非殺傷を追加依頼してきた。

 仲間との団結力が高いのはわかったが、なら何故その一部が暴走してるのか、腑に落ちないながらも運び屋はスニーキングしながら周囲の物陰を縫い移動していく。

 

 周囲から聴こえてくる砲撃音と着弾により舞い上がった土埃が次々と降ってくる中、運び屋はヘルメットがズレないように押さえながら砲撃を凌ぐのに丁度いい物陰に隠れてPip-Boyの無線機能を起動した。

 

『あ、運び屋さん!? 今どうなってんの!? いや、だから絶対に殺しちゃダメだって!』

 

 無線応答しているスコーピオンに戦車砲を次々と撃ち込まれている現状を説明する。

 とりあえず、ついでにわかる範囲の相手の情報を聞き出す運び屋。

 

『えっとね、戦車に乗ってるのは多分FALとVectorだね、タンクデザントしてた人形がいた? ふむふむ、あーそれ多分わーちゃんとグローザだよ』

 

 戦車の砲撃が始まる前にチラリと見かけたタンクデザントしていた二体の人形のことも聞いておいたが、砲撃が始まる直前に降り立った身のこなしを見るからに手練れだと判ったが、実際にやはり二体とも特殊部隊所属の戦術人形らしい。

 

『まさか戦車まで持ち出すとは思わなかったよ。 いや、戦車隊じゃなかっただけマシなのかな?』

 

 無線越しのスコーピオンはなんともお気楽に言ってのける。

 だが現状の相手がわかった運び屋は荷物である木箱を物陰に隠し置いて、まず戦車を無力化する為に動き出した。

 

『何度も言うけど殺しちゃダメだからね!?』

 

 

 

≪運び屋とやら、出てきなさいよ! 出てこないとそのふざけた雑誌ごと全部灰にしてやるわよ!≫

 

≪やたらと撃ちまくるのをやめなさいよ、砲弾が足りなくなるわ≫

 

 煩くスピーカーから二体の戦術人形の声がする戦車に忍び寄る運び屋、近づくまでの途中で何発か別方向から銃撃を食らったが無視してそのまま近付き、戦車の履帯にC4プラスチック爆弾を取り付け離れた後に起爆装置のスイッチを押す。

 

≪っきゃあ!? やりやがったわね!≫

 

 大きな爆音がし戦車の車体が揺れる……が、履帯を損傷させるも壊し切れなかったようで、移動速度を下げることはできたものの異音を立てながら旋回し、運び屋の方へ正確に向きを変えて踏みつぶそうと前進をする。

 

 先ほどから撃ってきているスナイパーかスカウトかその両方かに監視されていると察した運び屋は懐から閃光手榴弾(フラッシュバン)を取り出すと、更に取り出したテディベアの口に突っ込んだ。

 そして、それを物陰から放り投げると暫くしてテディベアが口から閃光と爆音を響かせながら爆発する。

 これは投げ込んだテディベアを囮と見せかけ、こちらを覗いていたスナイパーやスカウト等の視界を一時的に潰す為の行為であり、相手が手練れであるほど割とよく引っ掛かる手法である。

 

≪ちょっと大丈夫!? WA2000応答して……ちっ、こいつただの運び屋ってわけじゃないわね!≫

 

 どうやら監視役の目を潰すことには成功したようだと判断した運び屋は身を屈めながら再び戦車に近づくと今度は上に飛び乗り上部ハッチを無理矢理こじ開けると、その中を覗くと上を向いて運び屋の方を唖然としながら見つめる戦術人形のFALとVectorがいた。

 

「え……ウソ!?」

 

「っ!? 呆けてないで応戦よっ、独女さん!」

 

 未だ呆けているFALを押しのけて運び屋に銃を構えるVectorだったが、運び屋は至近距離で撃たれるのを気にもせずいくつもの閃光手榴弾を次々に放り込む。

 

「フラッシュバン!?」

 

「ちょっと!? 冗談じゃ──」

 

 運び屋がハッチを閉めると同時に内部で強烈な音が炸裂するのが聞こえた後、再びハッチを空けると中には互いに庇い合ったのか、二人して抱き合って気絶しているFALとVectorをそれぞれ片手で捕まえ戦車内から引きずり出すと、互いを向かい合わせて再び抱き合う形で一緒に縛り付ける。

 互いが胸を押し付け合う形となり、その二人の胸の谷間の隙間に安全ピンを抜いた手榴弾(フラグ・グレネード)を突っ込んだ。

 二人が無理に離れようとすると胸の谷間にある手榴弾が爆発するという単純な仕掛けである。

 

 ……運び屋は()()()殺していないと言い張るつもりらしい。

 

 

 

 依頼の品である木箱を隠していた場所に戻ると、周囲に何かが爆発したと思われる跡に気が付く運び屋。

 

 実は木箱を隠した周囲にはパウダーチャージと呼ばれる物をいくつかバラまいていたのだが、どうやらその内の一つに誰かが引っ掛かったようだ。

 パウダーチャージはブリキ缶にダイナマイト火薬を詰め込んだものにセンサーモジュールを繋げただけの威力もあまりない簡易地雷のようなものだが、これの厄介な所はサイズが小さい為とにかく見つけ難く視認し辛い所にあるだろう。

 もし視認しても知らない者は唯の捨てられた空き缶と見間違い油断してしまうのも非常に厄介な所である。

 

 だが運び屋にも驚きに値する予想外のことがあった。

 実はここへ来るであろう相手が誰かは、スコーピオンの情報からほぼ予想していた。

 先程相手にした戦車に搭乗していたFALとVector、遠距離から監視と狙撃をしていたであろうWA2000、それ以外となるとOTs-14(グローザ)と呼ばれている人形だけだ。

 スコーピオンからは『お酒に目がないから、それを交渉材料にしたら案外いけるかも!』という冗談交じりの情報を得ていたが、仕掛けたパウダーチャージの目を少しでも反らせるのならと、酒の空き瓶や中身を少し残した酒瓶等を同じようなゴミに見えるようにいくつかバラまいていたのだが…… 中身が残っていた酒瓶は全て回収されていた。

 

 なんという尋常じゃない執念であろうか、運び屋はその執念にある種の敬意を払わざる得なかった。

 たとえ、そのお酒の中に炎の下剤を盛っていたとしても……

 

 

 

 運び屋は木箱を再び背負うと、目的地であるMSFの基地へ向かう前にとある中継地点を目指していく。

 MSFのスコーピオンと合流すると共に、そのスコーピオンから聞くに恐らく最大の壁となるであろうWA2000を相手にする為にED-Eとも合流するのが目的である。

 WA2000はMSFの人形の中でも最高峰に位置するスナイパーらしく、さすがの運び屋も視界外からの長距離狙撃を食らいながら基地に辿り着くのは至難の業だからだ。

 

 目潰しも一時しのぎにしかなっていないだろう。

 だが、焼き付いた視界というのは意外と治りにくいものである。

 精密な狙撃を阻害するには十分効果があるであろうと予想し、途中WA2000に狙われるのも覚悟し道中を進んでいく。

 

 狙われると不味いのは運び屋自身ではなく、背負っている木箱だ。

 

 運び屋は背中の木箱を破壊されると終わりだが、WA2000は中継地点でED-Eと運び屋が合流した時点で終わるだろう。

 ED-Eの索敵能力にはいかなる者も隠れることが出来ないからだ。

 




え? ちょっと向こうの扱い酷くないって?
い、一応殺傷しない限りはいいらしいから……(震え声)



【Heavyweight】
運び屋は重量物をまるでその半分の重さであるかのように運ぶことが出来る。
どんなトンデモな重さでも半分である。
これで金塊泥棒もお手軽ですね。


【Spineless/Reinforced Spine】
運び屋の背骨は一度抜き取られた後に、戻されるが更なる強化を得た。
それにより筋力が増強されると共に、胴体に重傷をほぼ負わなくなり装甲値も得ることになった。


【Strong Back】
運び屋の強靭な背中は、一般の人に比べ更に多く物を持ち運ぶことが出来る。
持ち運べるものが多いと言うことはそれだけでアドバンテージで優位になるということである。


【パウダーチャージ】
空のブリキ缶にダイナマイト2本分の火薬を詰め込んだ手作り簡易地雷。
その割にはそこまで威力はないが、とにかく見つけ辛く設置した本人ですら引っ掛かる始末である。


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DEATH STRANDING

引き続き、犬もどきさんの【METAL GEAR DOLLS】でのエピソード『緊急合作案件!! 人外VS人外』その後のお話です。

バトルを期待してたのならば向こうを読むのじゃ。



 中継地点となるとある町に入った運び屋は、MSFの管理下に置かれているこの町でスコーピオンとED-Eと合流する予定であった。

 

 そして合流するより先に追手として新たに現れた戦術人形のリベルタドールとの激しい鬼ごっこが起こったのがつい先程のことである。

 たまたま運び屋を呼び戻そうとやってきたが為に一緒に巻き込まれてしまったCZ75は後に、その運び屋とリベルタドールの戦いをこう言うのであった。

 

『旧世代の映画みたいな光景だった…… ありゃ、宇宙から来た捕食者(プレデター) VS 未来から来た殺人ロボット(ターミネーター)のケンカだよ』

 

 

 

 リベルタドールの襲撃を止めたのは、意外にも管理下の町でやりたい放題暴れられるのを良しとしないMSF側だった。

 エグゼと呼ばれる鉄血製ハイエンドモデルの処刑人が、兵や二足歩行兵器を引き連れてやって来たかと思えば手早くその場を収めてしまったのだった。

 

 

 

 

 

「隠し撮りの写真集雑誌を巡ってこの騒ぎかよ……アホらし」

 

「撮られたほうは方はたまったものじゃないわ」

 

「……」

 

<~~♪>

 

 運び屋が運んでいた木箱の中身が、MSFの人形や女性陣のあられもない姿が写された写真集だったと知って心底呆れたように呟くCZ75に反論するグローザ。

 今この場にはCZ75とグローザの他にリベルタドール、そして運び屋のサポートの為に呼び出されていたED-Eだ。

 

「でも驚きだわ、あんなひどい状態をもうここまでなおしてしまうなんて」

 

「……ありがとう」

 

<~~~♪ ―!>

 

 運び屋との激しい戦闘のせいで生体部分の各所が血塗れの酷い状態だったリベルタドールを、ED-Eは露出した機械部分の破損部分と一緒に修理修復していくED-E、微かな声で礼を言うリベルタドールだが、それ以上に大音量で音を鳴らすED-Eのせいでまったく聞こえていなかった。

 

「ED-Eはなんでもできるからなぁ、他にも装備メンテナンスとか、道具が無くてもリロードベンチや作業台の代わりもできちまうんだってさ……他になにできるんだっけ?」

 

<──! ──!>

 

 ED-Eはビープ音を鳴らして答えるが、それを聞いて言いたいことが伝わるのは運び屋ぐらいなものだろう。

 リベルタドールはED-Eを撫でながら呟く。

 

「ED-Eはいろんな事ができてすごい…… 私は……不器用だから羨ましい」

 

「あら、リベルタがこんなに馴れ馴れしいなんてなかなか隅に置けないわね、この小さなロボットさんも」

 

<~~♪>

 

「……スケアクロウのヤツが見たら嫉妬で発狂しそうだな」

 

 リベルタドールとED-Eの仲の良い雰囲気を眺めながら、CZ75はこの場にいない高飛車な鉄血ハイエンドがハンカチを噛み千切りながら悔しがるのが目に浮かんだ。

 

「それにしても、運び屋さんのほうもすごいわね。 リベルタと正面からぶつかって無事でいられる人なんてなかなかいないわ」

 

「……人って言えるのか怪しいけどな、聞いた話じゃ心臓や脊髄を機械に入れ替えた挙げ句に脳味噌も一度抜き取ったらしいぜ、ありゃサイボーグだよ」

 

 グローザは運び屋に対しても意外と好意的な評価をしていた……

 だが、CZ75の返答を聞くと急に表情を顰める。

 

「モハビ……アメリカの技術なのかしら」

 

()()()の技術の一端とか言ってたな。 なんだよ、急に険しい目つきして」

 

「いえ…… MSFも似たようなアメリカ人の手合を相手にしたことがあるだけよ」

 

「マジかよ、運び屋みたいなのを量産してるとか、やっぱイカれてるなアメリカって」

 

「……ええ、そうね」

 

 

 

 

 

 一方その運び屋の目の前では、三人のMSFの人形達が言い争っていた。

 正確にはエグゼ、WA2000が逆さに吊るされたスコーピオンを挟んで言い争っている。

 

「いい加減に運び屋に突っかかるのをやめろって言ってんだよ。 そもそもリベルタをけしかけたのはお前だろうが」

 

「だからってリベルタをあんなザマにされて黙ってろっていうの?」

 

「殺さないでって言ったけど、怪我させないでとは言わなかったからね。 てかそろそろ下ろしてくんない?」

 

「元はと言えばアンタが原因でしょうが!」

 

 言い合いをしているエグゼとWA2000の間で、この町で運び屋と合流しようとしたのをWA2000に捕まったスコーピオンはブラブラと吊るされながら揺れ動く。

 

「そもそも、いくらなんでもこっちから依頼した運搬業者相手に生死を問わないはないだろ…… 下手したらウチの評判に傷がつくところだぞ」

 

「ぐっ…… それは……」

 

「そうだぞ、わーちゃん! そんなザマじゃオセロットも泣いてるぞ!」

 

「アンタマジで殺すわよ!」

 

 エグゼに言われて言葉に詰まるWA2000にスコーピオンが横から野次を飛ばす。

 

「言っとくが、スコーピオンもスネークには報告するからな」

 

「うぐ……」

 

 エグゼから今度はスコーピオンが言われて同じように言葉に詰まる。

 そんな三人を両腕を組みながら観察し続けていた運び屋、だが今度はエグゼが運び屋に対して元々鋭い目付きを更に鋭くしながら言う。

 

「あと運び屋…… オレが渡したはずの報酬とは別に、お前またスコーピオンから同額貰ってるだろ」

 

「はぁ!? どれだけがめついのよコイツ、意地汚いにも程があるわ!! というかなんで支払ってるのよ!?」

 

 エグゼからの指摘に黙ったままの運び屋、そしてそれを聞いて怒り心頭になるWA2000だがふとスコーピオンの方を見ると、スコーピオンが目を逸らした。

 そのスコーピオンの様子にすぐさま何か隠しているとWA2000は気が付く。

 

「このおバカサソリ……まさかアンタ」

 

「えっと、なんのことかなぁ? あはは……はは」

 

 目を泳がせながらしらばっくれるスコーピオン、それを横目にエグゼは運び屋に向かって言う。

 

「隠し持ってるもん出せよ、まだ持ってんだろ?」

 

 そう、つまりはエグゼに買い取られた後に残らず焼却されたはずの写真集雑誌を運び屋はまだ隠し持っていた。

 その焚書を免れた一冊を後で買い戻す為にスコーピオンは同額の報酬を渡していたのだ。

 

 肝心のスコーピオンは下手な口笛を吹き、わざとやっているのではないかと思えるような誤魔化しをしている始末。

 それを見た運び屋は、あまり当てには出来なさそうだと判断して隠し持っていた雑誌をエグゼに手渡した。

 

「あー、我ながらいい出来だったのに、もったいないなぁ」

 

「報酬は両方ともそのまま貰っとけ、どうせオレが渡した報酬もスコーピオンのポケットマネーから立替えるからな」

 

「えぇー!? それじゃ私が無駄に二倍報酬払うだけじゃん! せめて半分はミラーのおっさんからとってよ」

 

「……アンタは反省する気あんの?」

 

 結局はスコーピオンとの最初の交渉で賃上げしまくった挙句、その同額を更にそのまま貰うことになった運び屋であった。

 

 

 

 

 

「しかし、いつの間に箱から抜き取りやがったんだ? 木箱には開けられた形跡なんてまったくなかったぞ」

 

「それはまぁ、運び屋さんだからね!」

 

「癪だけど納得してしまいそうなのが嫌になるわ。 というかあれで本当に最後なんでしょうね? あの運び屋いまいち信用できないのよね、まだ隠し持ってたりするんじゃないの?」

 

 運び屋が報酬を受け取って去って行った後、ふとエグゼが不思議に思ったことを呟いたことに始まって三人の会話が続いた。

 

「流石にMSFの痴態を外に晒すわけにはいかないからね! 外部に持ち出さないようにそこらはしっかり依頼契約に盛り込んであるよ、そういうことはちゃんと守ってくれる人だからね!」

 

「へぇ……なら内部には晒していいわけね? アンタはやっぱりもっと反省するべきだわ!」

 

「わー!? ゴメン、謝るって!」

 

 ヘッドロックを掛けられるスコーピオン、他にも色々とWA2000に折檻を受けた後にふと呟く。

 

「あいたた…… はぁ、折角の原本も失くしちゃうし今回は散々だよ」

 

「ん? 原本?」

 

「うん、増刷することを考えて一冊持ってたんだけどどっかに落としちゃってさ、雑誌も全部焼かれて原本も失くした所に運び屋さんが一冊持ってるって聞いて、まだいけるかなーとか思ったんだけどなぁ」

 

 スコーピオンの独白にエグゼとWA2000は顔見合わせた後、スコーピオンに呆れた……いや、むしろ哀れんだ目を向けた。

 

「……おい、まさかそれ」

 

「なんていうか……アンタの馬鹿さ加減には呆れ果てるどころか哀れに思えるわ」

 

「え、どういうこと? なんか酷い事いわれてるんだけど!」

 

 エグゼが運び屋から手渡された雑誌を開いてページを捲る、ページ一面に艶めかしい写真集が目に移りこむが、その写真一枚一枚が丁寧に張り付けられた手作りの物だった。

 

 それを見たWA2000は思わず呟いた。

 

「……やっぱりあの運び屋はいまいち信用できないわ」

 




酷い話だなまったく(反省なし)



ということで今回のコラボ回はこれにて締めです。
このコラボ話を向こう側から持ち掛けられた時は非常に嬉しかったと同時に、結構緊張しましたよホント。

実は、犬もどきさんの【METAL GEAR DOLLS】を読ませていただいたことが、この作品もといドルフロSSを書こうと思った切っ掛けとなりました。
読んでなかったら今頃このFALL OUT GIRLSは書いてなかったと思います。

無事向こうの作品も完結されましたので、読んでいない方は是非読んでみることをお勧めします。
……完結してるようでまだまだ続いたから今回のコラボになったりしとるわけですけど。


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Come on in. Coke

受付窓口や営業もする上に自衛もできる自動販売機、しかも通販もできる。


 とあるグリフィン基地、そこにある一室。

 中はカーテンが閉め切られて薄暗い空間となっているが、その部屋の片隅でオレンジ色に怪しく輝く瓶を挟み、二つの人影が声を潜めながら密談していた。

 

「こっ、これがヌカコーラ・ビクトリー…… 味の方はどうなんです?」

 

「クォーツとは違って意外と爽やかな味だよ。 クァンタムも飲んでみたいけどさすがに手が出せなかったよ」

 

「たしかにスターキャップ50枚は…… 私あのサンセット・サルサパリラの味苦手です」

 

 人影の正体である戦術人形のM4A1とコルトSAAは目の前の燈色に光るコーラをジッと見続ける。

 

 スプリングフィールドのカフェでの一件以来、ヌカコーラ・クォーツを飲んだM4はそれからというものヌカコーラの味にハマってしまっていた。

 ハマりすぎて定期メンテナンスの検査でとんでもない量の放射線量を貯め込んでいるのがバレてしまい、ペルシカから厳重注意と共にヌカコーラ禁止令が出されたぐらいだ。

 

 そして同じく元々コーラ好きであるSAAがM4からヌカコーラのことを聞きつけてハマってしまったのも、また必然であったとも言えた。

 しかし仕入れ先の運び屋から買い付けているスプリングフィールドは放射性物質が含まれているこのコーラの入荷を断固として認めない。

 だが、その程度でコーラへの渇望を止められるSAAであるはずもなく、運び屋から直接購入し始めるのにも時間はかからなかった。

 M4はその購入の為の費用をこっそりSAAに渡して、ヌカコーラを秘密裏に受け取っているのだ。

 ちなみにスプリングフィールドのカフェで出される品は基地が福利厚生費で購入した支給品扱いなので、基地に所属する者であれば無料である。

 

「いやー、さすがエリート小隊の隊長さんだね。 M4のおかげで随分まとめ買いできたよ♪」

 

「いえ、そんな……」

 

 グリフィンに所属する人形という立場で給金を貰える人形というのはそれほど多くはない、彼女達はあくまでG&K社の備品という扱いであり社員ではないのだ。

 そんな中で給金を貰えて尚且つ高給取りとなると本部所属の一部の小隊や、特殊な立場の小隊に所属するM4のような人形ぐらいだろう。

 実際、グリフィンから一番多く給金を貰えることができている人形は、AR小隊というエリート部隊のリーダーであるM4だった。

 

 とはいえ元々の性格もあり、人形である彼女がお金を使うことなどほとんどあることは無かった。

 ヌカコーラに出会うまでの話ではあるが……

 

「大量購入でその分安くしてもらえたし、その分しばらく飲み放題だよ!」

 

「でもこの大量のコーラをどこに隠しておくんですか?」

 

 部屋の差し込む光を遮る形で窓際に積み上げられたダース箱、二人がいる部屋が薄暗くなっている原因でもある。

 

「んーっとね、それは──」

 

 とっておきの場所がある、SAAがそう口にしようとした瞬間──

 

 

「FBI OPEN UP!」

 

 

 突然に部屋のドアが蹴り破られ、次々と侵入してくるダミー人形を引き連れたSuper-ShortyとSR-3MP(ヴィーフリ)が部屋を制圧する。

 何事かとパニック状態になるSAA、逆に突然の強襲に臨戦態勢をとるM4は流石のAR小隊のリーダーといったところだったが……

 

「なんというか国家保安局でやってた頃を思い出すな、そう思わないか?」

 

「チッ、思い出して腹が立ってきたわ」

 

 続いて入ってきたのはM16A1と416、ふざけ半分で言い合っていながらも二人の目はM4を厳しく見つめていた。

 

「うげ!?」

 

「M16姉さん!?」

 

「ペルシカに止められてただろ、指揮官も本気で心配してるんだぞ」

 

「おかげでこんな下らないことに私達が駆り出されたってわけよ」

 

 心底呆れた風なM16と、軽蔑したような目で見てくる416の視線に耐え切れずM4は肩を落として目を逸らす。

 

「しかしそれほどハマる程美味いかねぇ、これって」

 

 地面に転がった光り輝いて自己主張するヌカコーラ・ビクトリーを拾い上げて訝しげに眺める。

 

「わかってないなぁ、このガリガリと放射能が五臓六腑に染み渡ってくるのがいいんじゃないか」

 

「あんたはお黙り、コーラジャンキー」

 

 ヌカコーラの素晴らしさを称えるSAAを一言で断ずる416の隣で、M16はM4を諭そうとする。

 

「M4の好みや趣向に口を出す気はないけど、ペルシカや指揮官に禁止されたモノを飲むどころか基地内に持ち込んだのはいただけないな」

 

「……ごめんなさい、姉さん」

 

 

「M16も酒を控えろって言われてなかったっけ?」

 

「こいつの場合はもう匙を投げられて手遅れだからいいのよ」

 

「お前らな…… というか、まともに酒を飲めない416がそれ言うか?」

 

「何言ってるのかしら、完璧な私がお酒も飲めないなんてわけないじゃない」

 

「……お前のタチの悪い所は飲んだ後のことをまともに覚えてない所だよ」

 

 SAAのツッコミに対して416が言い放った台詞に笑顔を引きつらせるM16、そのやりとりを見たM4はふと声を上げて笑ってしまった。

 

「ふふっ、そうでしたね。 私達が取り締まられるならM16姉さんもお酒を控えてもらわないとですね」

 

 

 

 その後、結局観念したM4とSAAはSuper-Shortyとヴィーフリ達に連行されていった。

 今頃は指揮官に厳しく説教されていることだろう。

 

「しかしこれはヘリアンが言ってた通りよろしくない展開ってやつになってきてるな」

 

「あの運び屋、この基地だけじゃなく他の基地や本部まで顔出してるって話じゃない」

 

「本部の方はあのセキュリトロンっていうロボットに監視されてるも同然らしい」

 

「しかもAR小隊の隊長があのザマなんてね」

 

 M16が難しい顔をしながら呟くと、416は皮肉ったように言葉を返すがその顔は同じで、お互い運び屋によって痛い目を見ているのもあるせいか、二人ともどうしても疑心に駆られててしまうのだった。

 

「聞いた話じゃ、他のPMCや正規軍にも取り入ってるらしい。 グリフィンや正規軍の一部と既に関係を築いているとか」

 

「たった一人に今の情勢を動かされかねない状況ね。 UMP45もあいつに警戒してたようだけども、あいつの目的は一体何?」

 

「わからんさ、ただとりあえず今はこの山積みのコーラをどうやって処分するかが先決だ」

 

 416は詰みあがったダース箱を目の前にすると腰に手を当てながら溜め息をついた。

 

「放射能のせいで下手に廃棄できないのが立ち悪いわねこれ……」

 

 

 

 

 

 その頃、その運び屋はというと作業台に向かって黙々と問題のヌカコーラを次々と量産していた。

 その傍でM3とセキュリトロンが佇んでいる。

 

「い、言われた材料持ってきました」

 

 その手伝いをしているM3は運び屋の指示通りに空き瓶を並べ準備をしていくと、次に二種類の多肉植物を運び屋に手渡していく。

 運び屋は渡されたタマサボテンとネバダ・アガヴィの果肉を受け取る、それをビーカーやフラスコの中に突っ込み希釈してなんやかんやしたものを空瓶に詰めていきキャップで蓋をしていく。

 今度は瓶に詰めた何本かを別の実験用具を使ってなんやかんやすると、何故か発光し始めたりキンキンに冷えた状態になったヌカコーラに早変わりし、それを新たに瓶詰していく運び屋。

 

 黙々と作業をしていくそんなヌカな化学者(Nuka Chemist)をハイライトの消えた目で見ながらM3は思う。

 

(炭酸を含ませるのはまだわかるんです…… でもなんであの材料と工程のどこから放射能が追加されるんですか……)

 

 ちなみにヌカコーラに含まれる放射能について態々入れる必要があるのかと抗議したのだが、運び屋曰くヌカコーラにとっての放射能はフレーバーであって欠かすことができないらしい。

 

 M3は出来上がったヌカコーラを受け取ると傍で待機していたセキュリトロンの肩部分に次々と差し込み詰めていく、セキュリトロンにとって本来その肩部分はミサイルポッドが内蔵されている箇所であるのだが、今は改造され瓶を冷蔵する為の場所となっている。

 

 瓶を詰め終わると、セキュリトロンが起動し音楽を鳴らしながらモニタースクリーンの画面内にぎこちない態度のM3と嫌そうな態度のCZ75が映った映像が流れる。

 

《い、いつでもどこでも貴方が喉が渇いたとお思いの時に……モハビ・エクスプレスが飲料をお届けします》

 

《ったく、なんでアタシまでCM出ないといけないんだよ。 えーっと、ヌカコーラ各種にサンセットサルサパリラ、アルコール類をご提供できます。 だってさ》

 

《ほ、他にもご入用でしたらこのセキュリトロンにお申し付けください……仕事のご依頼も承ってます。 ……こ、これでいいんですか? え、まだ録画まわってるんですか?》

 

《もういいじゃんか、全部流しちゃえよ》

 

 そんなCM映像をモニタースクリーンに映しながらセキュリトロンはそのままどこかへ行ってしまった。

 

「……あ、あんな雑なコマーシャルでいいんでしょうかね」

 

 そんな疑問をつい口にするM3だが、そんなことは我関せずと運び屋は黙々と次のセキュリトロンに放り込むための飲料を作り続けていた。

 

 こうして次々と自動販売機と化したセキュリトロンが様々な地区や戦場へと送り込まれていくのであった。

 

 




ということでフリー素材なセキュリトロンです。
Falloutな飲料がほしい時に見かけたら是非購入してやって下さい。
ちなみに武装のミサイルは飲料瓶に変換されてますが、9mmサブマシンガンとガトリングレーザーはそのままな上にグレネードがヌカ・グレネードに換装されるので敵対すると手痛い反撃を食らうのは相変わらず。



【ヌカ・コーラ・ビクトリー】
オレンジ色に光り輝くコーラ。
割とあっさりして飲みやすいらしいがクォーツと同じように放射性物質が多量に含まれている。
飲むと活力が漲り行動力が増加する。
劣化版クァンタム


【Nuka Chemist】
運び屋は数本のヌカコーラを材料に、更なる種類のヌカコーラを作ったり、常に冷えた状態のヌカコーラを作り出す技術を持っている。
材料はヌカコーラのみで他は一切使わずに生み出す様は正に錬金術である。


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Attack of the Infiltrator!

また便乗して悪さし始めたよ……

そしてついに全国の運び屋達が待望していたあのヒロインが登場?


 S10前線基地周辺の街角にて、街の警備の為にパトロールしていた一体の人形が人通りの少ない路地に入り込みさらに奥に進む。

 路地には誰もいないどころか最近人がいた形跡も見当たらず、人の営みからは離れ忘れ去られた場所のように思えた。

 人形が路地の奥へどんどん進んで行くとやがて路地の先は袋小路になり、その最端に佇んでいる青い奇妙なフォルムのロボットと対峙した。

 

「やぁ相棒、いつもより遅かったじゃないか」

 

「警備シフトから抜け出すのも大変なんです。 あと、その相棒っていうのやめてくれませんか?」

 

「それはすまなかったな、前の相棒がボスになっちまったもんでな。 寂しくてつい口走っちまうんだ」

 

 そのロボット、セキュリトロンの顔になるモニタースクリーンにはデフォルメされたカウボーイのイラストが映っていた。

 人形の方のGr MG4は嫌そうな顔をしながら目の前のセキュリトロンである【ヴィクター】に言ったが、その直後には真剣な顔つきに戻る。

 

「はぁ……で、急に呼び出したのはなんでしょうか? 定期的には情報はお渡ししてるはずですけど」

 

「あんたの所で起こる悪魔ってやつの情報は十分さ、直接聞かされてる俺からしたら摩訶不思議な話ではあるけどな」

 

「まさかグリフィンやS10基地の情報を渡せというのなら前にお断りしたはずですが」

 

「心配ぜずともそんなもんはウチのボスとイエスマンがグリフィン本部に直接乗り込んで勝手に仕入れてるからいらんさ」

 

 睨むMG4をまったく気にした様子もないヴィクターは話を続ける。

 

「今回はちと面倒なミッションをこなしてもらうことになるだろうな」

 

「ミッション? 私はS10基地に所属してるんですよ? ただでさえ最近になって疑われてるというのに……」

 

「そこらへんは気にしなくていい、もしバレてもあんたは事件に巻き込まれたってことになるだけだからな」

 

「事件に巻き込まれた? 一体何を──」

 

 ヴィクターの不可解な言葉に戸惑うMG4、だがその背後から声がかかる。

 

「可哀想だけど、囮役ってやつだよ」

 

 MG4が振り向くとそこには一体の人形と赤い宇宙服のような見た目のヘルメットとスーツを着た人物が立っていた。

 

「やぁ、待たせちゃったかな? ボクとしてはこれでも急いできたんだけど」

 

「ちょうどいいタイミングさ、このお嬢さんからしたらもう少し待たせてやった方が心の準備ができたかもしれんがね」

 

「ヴィクター! この二人は一体な……」

 

 いきなりの乱入者に戸惑い間ながらもこの二人が何者なのかと、聞こうとしたMG4だったがその内の一人である赤いスーツの人物を見て口から出ていた言葉が止まった。

 最初に目に入った時はヘルメットが光に反射して見えていなかったが、なんとその人物の着るスーツの中身が空っぽだったのである。

 

「やっぱり人形でも驚くんだね、彼の名前はマスタートラウマハーネス、ボクの護衛役だから安心してね」

 

 言葉に詰まったMG4にもう一人である人形が喋り始めるが、こちらも少し様子がおかしかった。

 驚くMG4に落ち着かせるように言い聞かせる人形、見た目は戦術人形のMP40なのだが、声はエコーがかかったような声な上、喋っているはずの彼女は表情どころか口も動いていないのである。

 

「それでもってボクはステルススーツMkⅡ、しばらく一緒に付き合うことになるし言いにくかったら略してステルでもいいよ。 中国製と一緒にされてるようでちょっと嫌だけどね」

 

「それじゃあステルツとかにすればいいじゃないか」

 

「でもそれだと語呂が悪いし男みたいな名前じゃない? あ、フルネームでステル・ツーってのはどうかな?」

 

 ステルススーツMkⅡと名乗った人形はヴィクターと談笑し始めるが、相変わらず表情は動いていない。

 マスタートラウマハーネスに至っては顔すらなく喋りもしない、この二人に比べれればカウボーイの顔イラストが表示されてるだけで代り映えしないはずのヴィクターのほうが表情豊かに思えるほどだ。

 

「待ってください、ステルススーツ? 貴女はそのステルススーツとやらに烙印されている人形ということでしょうか?」

 

「ちょっと違うかな。 キミたちI.O.P製の戦術人形の本体はあくまで銃ではなくその身体だけどボクの本体はこのスーツのほうさ」

 

 ステルと名乗った人形がそう言うと、彼女の着ていたMP40のトレードマークともいえる軍服が突然消えたかと思えば黒と白を基調とした軽装アーマーに代わっていた。

 

「中身はダミー人形、衣装の見た目はホログラムで好きに変えられるんだ。 ビッグ・マウンテンの技術の粋がこのボクに詰め込まれてるのさ、すごいでしょ?」

 

「もしかしてそちらの方も……」

 

「マスタートラウマハーネスもスーツが本体、というよりもスーツだけで動いているんだけどね」

 

 MG4はもう一人の伽藍洞の赤いスーツの方に視線を向けると、その疑問に答えるステルススーツMkⅡ。

 

 

 そして、しばらくしてヴィクターが話を切り上げて元々の目的だった行動に移り始めた。

 

「それじゃあ、お互いの自己紹介も終わったようだから早速始めるとするか」

 

「それもそうだね、さっさと済ませてしまわないとね」

 

「……待ってください。 そもそも何故私がここに呼ばれたんですか? 一体何をさせるつもりで──あぐぅ!?」

 

 MG4がそう口にした直後に意識を失い倒れ込む。

 その背後にはMG4を気絶させた張本人であるマスタートラウマハーネスが電磁式のスタンロッドを片手に持っていた。

 そして、そのまま倒れたMG4の衣服を脱がせ始める。

 

「わぁ…… すごい犯罪じみた光景」

 

「この光景をグリフィン側の人形擁護派連中に見られたらと思うと、ゾッとするね。 ぶっ壊されてバックアップからやり直しなんて勘弁だぜ? こんなことはあのボスのおべっか使いにやらせておいてほしいもんだ」

 

「この前の鉄血のS地区全体で起こった大規模攻勢のせいで余計にセキュリティーとか監視が厳しくなってイエスマンが手出ししにくくなったんだっけ」

 

「おかげでスタンドアロン型として俺が駆り出されてるわけさ」

 

 そんなステルススーツMkⅡとヴィクターの会話をしている間にマスタートラウマハーネスは衣服を脱がし終え、その場には気絶したままのMG4が下着姿で地面に横たわっていた。

 

「さて、ボクのほうもお願い。 後の段取りは任せたよヴィクター」

 

 続いてマスタートラウマハーネスがステルススーツMkⅡの本体であるスーツを脱がしていく。

 スーツを脱がされるとそのまま中身であったMP40のダミー人形が崩れ落ちて倒れる。

 

「しかし本当にその人権屋が釣れてるのか怪しいもんだが」

 

 ヴィクターの言葉に、スーツだけとなったステルススーツMkⅡはマスタートラウマハーネスに抱えられながら喋り続けた。

 

『イエスマンが言うにはもう盛大に釣れてるらしいよ、だから今は彼らの拠点はボクと同じ伽藍洞さ』

 

「釣れてなきゃ、相棒にとって地獄のミッションになるってわけだ。 無事今の基地に帰してやれるといいが」

 

『ボクがついてるんだ、心配無用だよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MG4が目を覚ますと、彼女が最初に目にしたのは自分の手足に取り付けられた人形用の拘束具だった。

 そして周りには同じ拘束具を着けられた人形達、その姿は衣服を手荒く破かれていたり酷い暴行を受けた痕や中には手足の欠損までしている者もいた。

 

「……え? ここは」

 

『目が覚めたかな? ここは過激派で通ってる人類人権団体の拠点さ。 さぁこれから始まるのはヴァーチャスミッション、ボクも応援するから頑張ってね!』

 

 目覚めから突然ステルススーツMkⅡに告げられたMG4のミッションが唐突に開始された。

 




勝手に人様の基地に所属してる人形を巻き込んでる事案。
他にもいくつか勝手によそ様のネタを引っ張ってきてますが、怒られたら修正します。



そしてついに登場させることが出来た、ステルススーツMkⅡちゃんです。
ゲーム本編から更にファームウェアがアップデートされ新たな機能が追加されています。
そこら辺の詳細はまた次回と言うことで……

あとMG4ちゃん、本当に申し訳ない(無能博士並感)


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Attack of the Infiltrator!

次回にステルススーツMkⅡちゃんの詳細を書くと言ったな、あれは嘘だ。

うわぁぁぁぁぁぁぁ(雑な展開や話の作り方への自己嫌悪)


 MG4は思い出す。

 S11地区のあの悍ましい基地の中で運び屋と取引をしてしまったときのことを──

 

 同じ基地の他の人形達の代わりに、あの基地の指揮官の死と引き換えに、交わしてしまった口先の悪魔との契約。

 

 間者として偽りの自由を与えられた。

 

 それでも今いるS10地区の前線基地での生活は自分にとって勿体ないほどのものだった。

 そんな恵まれた環境を与えられているのというのに、それを与えてくれる指揮官を裏切り続ける日々。

 グリフィンやS10地区の情報は今まで漏らしたことはない、けれども代わりに送っている悪魔の情報も決して安易に外部へ漏らしていい情報であるはずがない。

 

 MG4は思う。

 ああ、これはきっと罰で、恩知らずの私にはお似合いの扱いだと──

 

 

 

「……わかりました。 その任務、成し遂げて見せます」

 

『あれ? 思ったより潔いね、ボクとしてはそのほうがありがたいけどね』

 

 いつの間にやらMG4に着せられていたステルススーツMkⅡことステルからことの説明を聞かせられた時、あまりの扱いの酷さに思わず自分のことながら怒りを通り越してMG4は呆れてしまった。

 

 今ここにいる場所は人類人権団体の中でも特に知られている過激派の拠点で、MG4は気を失っている間にこの拠点の人間に連れて行かれたのだという。

 何故人形を毛嫌いするどころか憎んでいる人権団体が人形を、それはMG4の周りの人形達の惨状で一目瞭然だ。

 拘束具を着けられて転がされてる人形達はどれも酷い有様で口がまともにきけない所か意識を保っている者もいるのか怪しいぐらいで、ありとあらゆる甚振られかたを試されたように見えた。

 そして、今ここにいるMG4以外は五体満足な者は誰一人いない。

 

『酷いよね。 人の為に作られたのに挙句にこんな扱いなんてさ』

 

「そして次は私ですか……ステル、でしたっけ。 そういう意見を言うのは意外ですね」

 

『ボクはどちらかというと人形の味方だよ。 まぁそれは置いといて任務を始めよう? 部屋と拘束具のロックは外してあるよ』

 

 どうやってとは聞かなかった。

 元々そういう風に仕組まれていたのだろう。

 言われた通り拘束具を少し弄るといともたやすく外れてしまった。

 手足の具合を触診で確かめながら、今いた部屋を出ながら残された人形達をふと見る。

 

「……彼女達は助からないんでしょうか?」

 

『このまま予定通りに行けばこっちが回収するってさ、労働を求められるだろうけどここよりはマシでしょ? 他から見たら多分いい労働条件だと思うし……人形を執拗にイビってくる奴がいる以外は』

 

「まぁ直接害があるここに比べればそれぐらいはいいんじゃないでしょうか」

 

『実害がないって訳じゃないんだけどね、キミがいまこの状況になってるのもソイツがボクと一緒に任務をする予定だったMk23のメンタルぶっ壊しちゃったせいだし』

 

 曰くMG4が今回巻き込まれた理由はかつて基地の副官をしていた事を理由に実力を見込まれてのことだったらしい、そのMk23とやらも実力は相当なものだったらしいがメンタルが不安定で挙句に追い込まれて意識不明のままなのだという。

 ここにる人形達もメンタルに相当傷を負ってるはず、それは本当に大丈夫なのかと疑問が頭によぎるが今は自身のやるべき事に集中するべきだと考えを切り替える。

 

 腰を屈めながら気配を消し、先の通路をクリアリングする。

 

「ステル、外の見張りどころか人の気配がほとんどしません、一体どういうことなんですか?」

 

『ここにいた人達はほとんどが結婚式にご出席だよ、人の恋路を邪魔する連中はいまごろ馬にでも蹴られてるんじゃないかな?』

 

「いまいち言っていることはよくわからないですけど、とにかく人員がほとんど配備されていないってことですね?」

 

『そういうこと、もうしばらくしたらマスタートラウマハーネス達がここに乗り込んでくるから残ったのも更に引き付けられて減るはずだよ』

 

 ステルがそう言い終わった直後に遠くから銃声や怒号が微かにきこえてきた。

 

『もう始まったみたいだね、じゃあ任務を続けるよ。 目標の大型ドールズジャマーを探し出そう!』

 

 

 

 

 

 MG4が潜入している拠点の外ではあの赤い宇宙服のようなスーツ姿のマスタートラウマハーネス、そして同じような宇宙服姿の者達が入り口に突入しようと総攻撃をかけていた。

 

「なっ、なんだこいつら!?」

 

「敵襲だ! ふざけやがって!」

 

「うあぁあ!? 撃たれた! 撃たれて溶けたぁ!」

 

「こっちは消し炭になってやがる!」

 

 突然の奇襲に驚いて慌てる人類人権団体の残党達がレーザーやプラズマによる銃撃で次々と殺され、運が悪いものは灰や緑色の粘液にされていく。

 人権団体の方も銃撃で応戦するのだが赤い宇宙服のようなスーツは見た目とは裏腹に思った以上に装甲が固く、上手く被弾させたとしてもまったく平然としている有様だ。

 

「仮装パーティーみたいなもん着込んでなめてんのか! おい、対物ライフル持ってこい!」

 

 人権団体側の一人が大型の銃を構えて狙いを定める。

 標的を撃ち抜くためにスコープ覗くと見えるのは宇宙服用のヘルメットとその中の顔。

 拘束マスクとゴーグルを着けている為に表情が見えず気味が悪いと感じつつ、その顔を狙い定めて引金を引く、次の瞬間には赤い血肉を撒き散らせながらヘルメットが粉々に砕けて吹き飛ばされる。

 

「へっ、ざまぁみろ」

 

「いやまて…… あれ、何か様子がおかしいぞ」

 

 だがなんと首から先がなくなり死んで倒れたはずのソレは再び起き上がり武器であるライフルを拾い上げて戦闘を続行し始めたではないか。

 その正体はマスタートラウマハーネスの量産型であるトラウマオーバーライドハーネスを着込んだロボトミーだった。

 人間の脳を入れ替えられ感情どころか痛覚もほとんど感じないロボトミーがトラウマオーバーライドハーネスをアーマースーツとして着込むことによって恐ろしい耐久性を得て、更には中のロボトミーが戦闘不能状態になってもトラウマオーバーライドハーネスが起動しその死に体を無理矢理動かして戦闘を続行するという正に人間の尊厳を踏みにじったような兵であった。

 

「な、なんだありゃ…… あれも人形の類かなんかか?」

 

「そんなのどうでもいいから、もう一発撃t ──ぶぎゅあっ!?」

 

 人権団体の一人がさらに追撃をするように指示を出そうとした瞬間、横合いからの銃撃によりズタボロの肉片となり果てる。

 

 銃撃の射線の先にはガトリングガンのような機関銃を構えたマスタートラウマハーネスがいた。

 その機関銃の名はK9000サイバードッグガンといい.357口径マグナム弾をフルオートで連射するというイカれた銃で、更にイカれている部分としては火器管制や索敵追跡の機能を取り付けるために犬の生きた脳を組み込んでいることだろう。

 

「ひぎぃ!」

 

「うっげぶぁ!」

 

 マスタートラウマハーネスはサイバードッグガンで射線に入る人権団体を次々と穴だらけの肉片へと変えていく。

 掃射が数十秒続いた後に残るのは赤い肉のシミと化したモノだけだった。

 

<ワン、ワンッ!>

 

 サイバードッグガンから犬の鳴き声がするとそれが合図かのように、一斉にトラウマオーバーライドハーネスを着込んだロボトミー達が拠点内部へ乗り込んでいく。

 その様子を見張りながら佇むマスタートラウマハーネスだったが、突然にサイバードッグガンが更に吠え出して敵の接近を警告し始めた。

 

<ゥゥウ! ワン!>

 

 サイバードッグガンは人類人権団体の拠点側に対してではなくその反対である外部に向かって吠え猛る。

 マスタートラウマハーネスはこちらに向かって新たに敵がやってくることを察知し、そのまま迎えうつべく拠点内部へと侵入していった。

 




マスタートラウマハーネス君、この後死んだんだよね……



【Y-17 トラウマハーネス】
ビッグ・マウンテンで研究開発されていた負傷した兵士を戦場から安全に退避させるために開発された、宇宙服のようなデザインのスーツ。
装着者が負傷するとモーターが作動し歩行や戦闘を代行するように設計されていたが、いくつかの重大な欠陥が放置されてしまったせいで一転して狂気のマシンになった。
ビッグ・マウンテンに初めて運び屋が足を踏み入れた時にはトラウマハーネスを着込んだ白骨化死体が徘徊し襲い掛かってくるというホラーな展開になっていた。
後にビッグマウンテンでの問題を解決し、トラウマハーネス達も停止させられ囚われていた遺体もついに安らかに眠ることが出来た。
……のだがその後、運び屋の気まぐれで再び起動していいように使われることとなった。


【K9000サイバードッグ・ガン】
三連銃身携行機関銃といった外見で.357口径マグナム弾をフルオートでばらまく頭のおかしい重火器。
しかし、最大の特徴はそこではなく銃に犬の脳が組み込まれている点で、犬の脳を活用して火器管制だけでなく、周囲の索敵や敵の追跡能力を付与されている。
かなり大型の重火器だが、分類としてはサブマシンガンとマシンガンの中間ぐらいにあたる武器になる。


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Attack of the Infiltrator!

なんだかんだでコラボ話になってました!

今回の裏話は白黒モンブランさんの【Devils front line】内の『Act85 True end』で書かれています。
是非読んでね!


 人類人権団体の拠点基地内部にあるという大型ドールズジャマー、それを見つけ出すためにステルススーツMkⅡを着込んだMG4は気配を消しながら拠点の奥へと進んで行く中、MG4はステルことステルススーツMkⅡがスニーキングスーツとして如何に優秀なものだということを思い知らされた。

 

 まず身体を動かすことによる音が一切しない、どんなに慌てて動こうが足音どころかスーツから擦れる微かな音すらも消音され聴こえない。

 更には身体能力を補助してくれているらしく軽快に素早く動ける、姿勢を低くし屈みながら動いてもスーツのおかげで意識せずとも普段の歩く速度より断然早いぐらいだ。

 そしてステルが索敵によりそれを素早く的確に教えてくれる。

 

「なるほど、ステルススーツを名乗るだけのことはありますね」

 

『そうでしょ! でもボクの進化した性能はまだまだこんなものじゃないんだよ。 あ、丁度あと10メートル先のT字路の曲がり角先に見張りがいるみたいだよ、早速お披露目になりそう!』

 

 MG4は曲がり角の手前で止まり、僅かに顔をのぞかせて確認するとたしかに見張りの男が二人銃を構えて立っているのが見えた。

 

「それで……どうするんです? 二人ともこちらの方向に向いてます。 隠れる障害物もありませんし、いくらなんでもこのまま素通りはできませんよ」

 

『大丈夫、ボクを信じてそのまま進んで!』

 

「え!? ちょっと!?」

 

 ステルは強制的にMG4の身体を無理矢理操って動かし前へ進ませる。

 どうやらステルにもトラウマハーネスのように装着者を強制的に動かす機能があるようだ。

 だが、このままでは見つかって逃げ場のないまま銃撃を食らう、そう思っていたMG4だったがその銃撃は一向に来なかった。

 

 なんと不思議なことに見張りの射線から阻むようにMG4の目の前に壁がいつの間にかできていたのである。

 

「これは……」

 

『じゃーん! なんとこれはホログラムで壁を作り出してキミを隠してカモフラージュしてるんだ。 しかも物理的に触れられるし銃撃もちゃんと防ぐこともできるよ』

 

 ステルはなんとホログラムでMG4を隠す壁を投影しているのだという、しかも物理的に触れられるというのだからMG4は驚くしかなかった。

 だがそれ以上に驚愕させられることをステルはやってのける。

 

『驚くのはまだまだだよ。 このホログラム技術を応用するとキミの知ってる人の真似事なんてのもできるの』

 

 ステルがそう言った途端にMG4を隠していたホログラムの壁が消える。

 当然、見張りの視覚のど真ん中にいたMG4は見つかるが……

 

 次の瞬間にはステルによってまたも身体の動きを操作されたMG4が、見張りの喉元に青く光る剣を投擲した。

 突き刺された見張りは何があったかのか理解できずにそのまま息絶える。

 

『JACKPOT! ……なーんてね』

 

「この技はたしかギルヴァさんの使っていた幻影刀では……」

 

『ホログラムで投影して投げつけたの、物理的に触れられるということはそれをぶつけることもできちゃうってことだしね』

 

 徹底した静粛性ステルス、身体能力をサポートし時には強制的に動かせる機能、そして先ほど見せられたホログラム技術。

 どれもI.O.Pの16Labや正規軍が扱うようなレベルの技術であるということに驚かされるばかりのMG4だったが、同時にあることに気が付く。

 

「……ですが、勝手に私のバッテリー電力を使われているのはどういうことなんでしょうかね」

 

『ごめんね、特にホログラム投影には結構な電力エネルギーを使うからキミから少し分けてもらったんだ』

 

 ちなみに人形ではなく生身の人間が装着しているときはスタミナを電気エネルギーに変換するらしい。

 どちらにせよ勝手すぎる迷惑な話である。

 

 ともかく、見張りを片付けその奥の部屋へと入るとそこは巨大な機械といくつものモニター画面が並べられていた。

 モニターには各箇所の監視カメラからの映像が流れておりどうやらこの部屋が司令塔の役割を果たしているらしいことがわかった。

 部屋の内部にいた人権団体の男達は突然入ってきたMG4に銃を向け撃とうとしたが、それより先に投影したキューブ状のホログラムをぶつけられ全員があっという間に息の根を止められた。

 

『実はホログラムを刀状にしなくても十分威力あったりするんだよね』

 

「……それはいいですから、勝手に私の身体を動かしたりバッテリー消費するのいい加減やめてほしいんですけど」

 

『あはは、ごめんね。 それはともかくここが探していた場所だったみたい』

 

「ということは、この巨大な機械がドールズジャマー……」

 

 MG4は部屋の中央に佇む巨大な機械を睨む。

 人形を無力化してしまうドールズジャマー、種類やサイズは様々だが大体使用される目的というのは鉄血の人形相手した戦術兵器ではなく、無力化したI.O.P製の人形達を欲望の捌け口にする為に利用されている。

 この機械のせいで数多の人形達が食い物にされてきたかと思うと心の内が熱く憤るMG4だった。

 

『正確にはこの機械じゃなくてこの部屋全体がドールズジャマーなんだって、なんでも正規軍からもってきた戦略級のがこれらしいよ』

 

「これを探し出すのが目的といいましたが、結局どうするんです? 破壊するんですか? まさか運び出すというんじゃ」

 

『まさか! まぁ必要としているのはこの機械じゃなくて……』

 

 ステルはそう言いながら、MG4の身体を使い大型ドールズジャマーの内部にある電子基板を抜き取った。

 

『必要だったのはこの基盤なんだけどね、似たような機械はこっちで作れるんだけども人形だけをってなるとちょっと知識や技術が足りてなくてね』

 

「……それを一体どうするつもりですか」

 

『一応誤解しないように言っておくと、ここの連中や元々キミが居た基地みたいな用途に使うつもりはないよ。 誓って言う、まぁグリフィンが攻めてきたり暴徒鎮圧用ってところなのかな?』

 

「そんなの結局は変わらな──」

 

 MG4が苦言を口にしようとした瞬間、建物全体が振動で揺れる。

 一体何事かと監視カメラのモニターに視線を向けるとこそにはMG4の所属するS10地区前線基地の仲間の人形、そしてあの便利屋のメンツがトラウマハーネス達を圧倒して蹴散らしている場面があった。

 

『わお、来るとは思ってたけど予想よりかなり早いね。 キミを助けようと指揮官まで乗り込んできたみたい。 ふふ、愛されてるね』

 

「……っまさか指揮官まで!?」

 

 こんな裏切り行為を働いている自分の為に自ら乗り込んできた指揮官のことを知り心が苦しくなるMG4。

 

『キミの基地にいる人形だけならトラウマハーネスとロボトミー達で十分足止めになると思ってたんだけど、あの便利屋さん達まで来たとなるとどうしようもないね。 おや? 処刑人なんてのもいたんだ聞いてた情報にはなかったけど』

 

 剣戟と銃撃で攻め立てるコート姿の男二人、そして見慣れない義手で暴れる鉄血人形の処刑人を相手に、並大抵では倒すことが出来ないはずのタフネスを持つトラウマハーネスを着込んだロボトミー達も次々と容易く屠られていく様子が監視カメラに映っていた。

 しばらくして、赤いコートの男が監視カメラに気付いたのか画面に向け銃を向け発砲したかと思えば画像が途切れた。

 

『うわぁ、これは早々に撤収しないとまずそうだ。 それじゃ急だけどミッションはこれにて終了にしようか、短い間だったけど一緒にいて楽しかったよ。 また会えるといいね!』

 

「何を突然……っ!」

 

 ステルが突然そう言い出したかと思えば、MG4は突如小さな痛みを感じた。

 その直後、急に全身の力が抜け意識が朦朧としはじめてその場で倒れる。

 スーツから何かを注射されたのだと気付いた時にはもう遅く完全にMG4は眠りに落ちたのだった。

 

『さぁこれにてβテストは終了、次のボクのバージョンアップデートが楽しみだよ』

 

<ワン! ワオーン!>

 

 そして眠りに落ちたMG4の他にその場にはいつの間にいたのか、サイバードッグガンを抱えた運び屋が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、MG4は人権団体の拠点内で倒れている所をS10地区前線基地の面々に発見されて保護された。

 その時の衣服は身にまとっておらずボロの布切れで身体を包み覆っていただけらしく、ステルススーツMkⅡの痕跡は何一つ見つからなかった。

 

 自ら乗り込んでまでMG4を助け出そうとしたその指揮官である彼女、シーナの行動力は驚くべきものだったと言える。

 なにせ、更には再びヴィクターに会おうとしたMG4の後を着け、その現場でMG4を自由にするためにヴィクターを脅しつけて見せたのだから。

 

 

 

 まだ少女と言えるほどの若さのはずであった指揮官、シーナ…… 彼女が去った後も、修羅の鱗片を覗かせる胆力に驚かされしばらく言葉を発せないでいたヴィクターだった。

 そしていつの間にやら現れ佇んでいた運び屋に言った。

 

「驚いたお嬢ちゃんだ、上に伝えろと脅されたよ…… しかし上に伝えろっていうのは誰にだろうな、お前さんか? ジョンソン・ナッシュの爺さんか? それともMr.ニューベガスにか?」

 

 ヴィクターが運び屋に向かって聞くが、当の運び屋は聞いているのかいないのか反応らしいものはせず、ホロテープと呼ばれる三つの記録媒体を手に持って中のデータを確認していた。

 

 ── 一つは、今回運用されたステルススーツMkⅡの試験データ。

 

 ── 二つ目は、ドールズジャマーに記録されていた使用時のログデータ。

 

 ── 三つめは、S10地区前線基地の戦術人形と便利屋とのトラウマハーネス及びロボトミー達の戦闘データである。

 

「MG4をどうするのかは知らんがな、あんな脅しされた後だ、俺はしばらくここにいるのは御免こうむるぜ。 セキュリトロンは置いとくからイエスマンでもなんでも代わりをさせりゃあいい」

 

 ヴィクターがそう言うと、ボディーであるセキュリトロンのモニター画面に映っていたカウボーイの顔が消え、何も映っていない状態となった。

 そしてその場にいた運び屋もいつの間にか居なくなっており、その場にいるのは画面に砂嵐を写して微動だにしないセキュリトロンだけだった。

 




さて、次はモンハンコラボ回やな……またコラボばっかしてるって?

……それな。


【ステルススーツ MkⅡ】
元々は中国軍製のステルススーツを模して対抗作として生み出されたスニーキングスーツ。
中国軍製ステルススーツに光学迷彩が装備されているが、それに対抗する為に光学迷彩に頼らず静粛性を追求し目指したものとなるはずだった、だがその途中で放置されているのをビッグ・マウンテンで運び屋に見つけ出され、ファームウェアの向上の為に運び屋がテストに付き合ったりして完成へ。
スーツにはボクっ娘なAIがついており、様々な助言や会話をしてくれる。
ついでに負傷時に薬物治療をしてくれる機能もあり、否応なくスティムパックや鎮痛剤であるMed-X(モルパイン)を中毒になるのも関係なくガンガン注入してくれる。

更なるビッグ・マウンテンの技術によりトラウマハーネスの装着者を動かす機能や、ホログラム技術も組み込まれることになり、見た目の偽装やカモフラージュ、更には攻撃やダミー投影等ができるようになりかなり万能になった。


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Monster Hunter

もうサブタイトル思いつかないからまたそのままでいくよ。

ということで犬もどきさんの【METAL GEAR DOLLS】での大モンハンコラボの参加回です。

……ぶっちゃけ参加しときながら、執筆時間がなかなか取れなくて追いついてない上に内容が雑になってるって自覚してます(焼き土下座)


『はい……モンスター……暴れている、と……いや、暴れている事以外は普通だと思うのですが……へ? ……アッ、ハイ』

 

 運び屋は映像越しの通信の相手であるS地区応急支援基地の指揮官である白肌に白髪ポニーテールの女性、サバシリ指揮官に伝えるべきことを言った後、通信を切る。

 伝えた内容は少し信じがたいようで荒唐無稽な話だったはずなのだが、意外なことにすんなりと信じてもらえたことに少し予想外な運び屋だった。

 だが思いにふける間もなくM3から新たな報告の声がかかる。

 

「え、えっと次のD17地区基地からの連絡の返答が返ってきました…… 返答は了承と……チップも弾むとのこと……でした」

 

 M3は通信装置に向き合った運び屋にそう伝えると、それを聞いた運び屋は通信装置に取り付けられたダイヤルらしきものを弄りながら通信を新たな所へと繋ごうと通信装置を操作する。

 

 今、M3と運び屋ががいる場所は国境なき軍隊ことMSFと呼ばれる傭兵団の前哨基地内の通信施設であった。

 何故二人がこのようなことになっているのかというと、しばらく前に依頼してきたMSFに所属するスコーピオンが再び運び屋の交渉能力や立場を見込んで仲介役を依頼したいという話が来たのが発端だ。

 なんでも、MSF側から直接グリフィン基地を雇い入れたり依頼したいのだが正規軍の絡みで色々と問題があるらしい。

 そんなグリフィンとMSFからもこの状況を調停する為に、グリフィン側からヘリアントスことヘリアンが、MSF側からはオセロットという男とその付き添いで戦術人形のWA2000がこの場にいる。

 ついでに言うと本来はM3ではなくイエスマンがいるはずだったのだが、オセロットは断固として許可しなかったらしい。

 

 だが、それ以外に組織に所属というものすらしていない者がこの場に()()いた。

 その猫はトレニャーと呼ばれ、二本足で立つその猫が今回の事件の発端であり鍵であった。

 直立歩行する猫という時点で色々ツッコミどころがあるのだが、普段から二足歩行するヤモリ(ゲッコー)の世話をさせられているM3は深く考えず気にしないことにした。

 曰く、トレニャーがいた島には驚くべき巨大なモンスターが数多に生息しているらしいのだが、そのモンスターが暴れ出して数匹が島の外へ逃げ出し騒動を起こそうとしているのだという。

 それにいち早く察知したMSFはこの問題を対処する為にグリフィンの協力を欲したというわけである。

 そのモンスターの情報に詳しいトレニャーはウニャウニャと猫独特の声を発して喋べり、運び屋はその猫語? を聞き取りながら頷いていた。

 

「ほ、本当に会話して……ますね」

 

「本当に言葉が通じてるのか? にわかには信じがたいのだが」

 

「こちらのボスも会話することができている。 奴にもできても不思議ではない」

 

「そっ、そうか! オセロットが言うのならそうなんだろうな!」

 

 トレニャーと運び屋が意思疎通が本当にできているのか懐疑的であったヘリアンだが、オセロットの一言に態度を変える。

 顔が何故か心なしか赤みを帯びているような気もするが、その様子を気に食わないオセロットの付き添いであるWA2000の形相が険しくなる。

 

(あ、これワルサーさんがオセロットさんのこと好きなんだけど…… ヘリアンさんもその気がある感じが気に食わないとかそういう……やつでしょうか?)

 

 先程から彼女の機嫌が悪い理由は運び屋が気に食わないというだけの理由ではないのをなんとなく察し始めるM3。

 なんとなくマズイ空気になりそうなのを察したM3はその場の空気を誤魔化す為、運び屋へグリフィン基地からの次の通信内容を伝える。

 

「つ、次は10地区前線基地への要請連絡ですが……」

 

「……まて、それについてはグリフィン側から連絡をまわす」

 

 だがM3の言葉を遮る形で突然ヘリアンが止めに入る。

 

「この前に10地区前線基地のシーナ指揮官からお前やモハビ・エクスプレスに対して苦言の申し出があった。 知らんとは言わせんぞ、だが今はそういう諍いをしている場合でもないからな…… 揉め事にならんようにこちらで連絡をつけておく」

 

「え、えぇ…… 運び屋さんなにやったんですか……」

 

 

 ヘリアンとM3の追求を無視して次の基地へ連絡を繋ぐ運び屋、次につないだのはS09P基地。

 

『通信承った。 今は指揮官代理でこの俺が担当するから何かあれば要件を述べてくれ』

 

 キャロル・エストレーヤと名乗る少女が映像通信で応答したのだが、運び屋はその少女が映る映像を指さしながらヘリアンに問う。

 

「なに? なんでエルダーブレインのダミーがグリフィンに所属しているだと? いや違うんだ、彼女はまたその特殊で…… ん? おい、ちょっとまて」

 

『なんで俺がエルダーブレインと関係していr……』

 

 運び屋はダイヤルを無理矢理弄ってS09P基地の通信を切り次のグリフィン基地へと繋ぐ。

 

「……こいつやっぱ信用できないわ」

 

「いい加減にしろワルサー、運び屋の人間性には問題があるのは確かだが、仕事に関しては任せられるとボスが判断したんだ。 お前がとやかく言うことじゃない」

 

 WA2000の苦言を有無を言わせず断じたオセロット、そのせいで険しかったWA2000の眉間に皴が寄り顔がますます険しくなる。

 だがヘリアンも運び屋に対して思うところがある為に同じように苦言する。

 

「だがこの運び屋を信用できないのは同意だ。 正直こいつの行動には問題がありすぎる!」

 

「す、すいません。 本当にすいませんっ!」

 

 言われてるはずの本人である運び屋は我関せずと通信機を弄る中、関係のないはずの自分が何故誤っているのだろうとM3は思いつつ必死に謝罪していた。

 

 

 次に運び屋が通信を繋いだのはS13地区の基地である。

 通信映像にでたのは何処かで見た顔、S11基地の事件で出会ったリホ・ワイルダーだった。

 

『いや、今ちょうどそのバケモンが襲撃中やねんけど! 参戦するのはええで、けど…… てかなんで運び屋がそっちにおるんや?』

 

 S13地区は既にモンスターに襲撃をされているらしい。

 むしろ彼女がグリフィンに転職していた方が意外であった運び屋だが、協力の要請に参加することを確認後そのまま通信を切る。

 

『ちょっとまってや! こっちに援軍h──』

 

「えっ!? ち、ちょっとまた何突然切ってるんですか!? というか知り合いなんじゃ……」

 

「……まぁ、ペルシカから支援部隊が向かっていると連絡があったから、恐らくは大丈夫だろう」

 

「え、えぇ……」

 

 ヘリアンの発言に、それでいいのかとM3は思う……というか普段からそういう扱いなのだろうか。

 

 

 

 こうして、迫りくる強大なモンスターとやらの対抗策として参加できる基地へと連絡を終えた運び屋は、 国境なき軍隊(MSF)とグリフィンの共同作戦が始まろうとしている中で内心では興奮が昂るのを感じていた。

 トレニャーが言う、黒狼鳥だとか黒轟竜や雷狼竜なんて呼ばれる御大層なモンスターがこの目で見れるのかもしれないかと思えばワクワクしてたまらなかった。

 かつて出会った伝説に謳われたりディバイドと呼ばれる場所で出会ったデスクローよりもきっと強大で凶悪なのだろうと──

 他にもつがいで目撃された飛竜、怒りのままに全てを喰らう恐竜、また発光する巨大な蠅が目撃報告として上がっている。

 ……最後の目撃情報については心当たりが無いわけではないのだが、とりあえずスルーする運び屋だった。

 

「い、いや……その蠅って明らかにウチから脱走したブロートフライ……なんじゃ」

 

 M3の零した一言で、運び屋はヘリアンとWA2000にそれはもう色々追求され酷く罵倒されまくった。




モンハンやったことないのにモンハンコラボ書いてるやつがいるらしいっすよ?
はい、自分です。

蠅については書くネタが思いつかなかった時の為の保険です(最低)


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Monster Hunter

モンハンコラボ大会の続きやぞ、ブロートフライとモンスターが怪獣大決戦みたいなの書こうとしたけど、完全にドルフロ関係ない話になるしかなかったのでやめました。

いい加減怒られそう。


 セヴァストポリ、かつて連邦と帝国と呼ばれる二国がぶつかったとされる土地でその為に半ば要塞化されたような都市であるこの場所で運び屋とM3はMSFのスコーピオンに新たに依頼された仕事をすることとなった。

 

 その依頼仕事の内容とは迫りくるモンスターに対してこの都市セヴァストポリを防衛線にする為に立ち退きを拒否する人々を()()()()ことである。

 なんでも、各地に散ったモンスターは各地のグリフィン基地に無力化されたらしいのだが、そのモンスター達を島から追い出した元凶モンスターがこの地に向かっており、このままでは工業地帯に貯蔵された可燃物やコーラップスが撒き散らされて大惨事になりかねない状況、そして元凶モンスターに対抗する為の防衛線を構築する為に住人を退避させなければならなかった。

 

「で、ですから……ここは危険なんです。 早くこの場を退避しないと……」

 

「儂はこの土地に生まれた時から住んどるんだ! 何と言おうと絶対に退かんぞ!」

 

「お、お願いですから……で、でないと」

 

「人形に何がわかる! 儂はな── ひっ、なんだ!?」

 

 M3が必死に老人を説得しているが、頑なにきく耳を持たない老人。

 だが、そこへ突然に扉を開けて現れたのは全身金属製の防護アーマーとヘルメットに身を包んだ人物、運び屋だった。

 その防護アーマー、背中の換気扇が特徴的とも言えるパワードスーツ、レムナント・パワーアーマーを着込んだ運び屋はその威圧的でヘルメットによる変声した声で立ち退く様に恐怖を煽りながら脅しつける。

 老人は目の前の恐ろしい存在(Terrifying Presence)に腰を抜かしたかと思えば地面に手を付きながら必死に家を逃げ出て行った。

 

「ち、ちょっと強引……すぎるんじゃ?」

 

 たしかにいつもの運び屋ならもっと言葉巧みに説得し、その上で立ち退きの為の費用と称して金を本人からせしめていたであろう。

 ぶっちゃけ、先ほどの老人からすれば脅されるだけで済んでいるので、まだそのほうが良かったとも言える。

 だが今回に関してはとにかく時間をかけていられないのだ、未だに立ち退きを拒否する人々はまだまだ残っている。

 未だ見ぬモンスターを相手にできると意気揚々とパワーアーマーまで持ち出し、防衛線構築の為の物資輸送だけで終わるかと思っていた依頼、だが現地に来てみれば住民の強制退去をさせてくれとスコーピオンに更に頼まれてしまったのだった。

 

<ウゥゥ……ワン>

 

 一緒に持ち出してきたサイバードッグガンも出番がないことを察して心なしか機嫌が悪い。

 

「そ、その銃…… モンスター相手にする為に持ち出してきた……ってことは、それなりに強かったんですね」

 

 こんな見た目のサイバードッグガンだが、MODを取り付ければ実は運び屋の持っている武器の中でも屈指の火力を持っていたりする。

 さすがに.357マグナム弾を容易くはじく相手には効果がないが……

 まさか剣で弾き返す輩がいるとは世界にはまだまだ強者がいるものだと思う運び屋。

 後にこの地でその本人と顔を合わせることとなり、色々と周りを巻き込んで険呑な場面にしてしまうというトラブルがあったり、そのせいでM3がメンタスを一箱分消費したりするのだった。

 

 

 

 ようやく一通りの立ち退きを終わらせた運び屋は、M3を出来るだけ安全な場所へ退避させた後にパワーアーマーを着込んだまま防衛最前線になる要塞内にいるはずのスコーピオンを探していた。

 探し回る中でようやく見つけたスコーピオンは、エグゼとあのイチイバルと呼ばれた少女が言い合いをしているのを止めに入っていた。

 また仲裁やら説得しろとだとか頼まれるのも嫌だったので見なかったことにして引き返そうとすると、

 

「あっ、パワードスーツ着てる! 私と同じじゃん!」

 

 声をかけてきたのは戦術人形のAm RFBだった。

 なんでも彼女も似たようなパワードールスーツとやらを着込んで戦うらしく、興味を惹かれて声をかけてきたようだ。

 ちなみに彼女の駆るそのスーツを見せてもらったが……まぁ独特のフォルムであった。

 レムナント・パワーアーマーとフォルムが似ているとRFBは称していたが、運び屋の感想としては辛うじてヘルメットアイのフォルムが似ている気がするのが精々のような気がした。

 というか運び屋が装備しているこのアーマーを正式配備しているかのエンクレイブと呼ばれる連中からしたら、きっと心外であろう。

 

「おぉっ!? なんだそのぶっ飛んだマシンガン! ガトリングガンか何かか!?」

 

 そして今度は別の男が声をかけてくる。

 筋肉質にガタイのいい身体、そしてガスマスクをしている男はマシンガン・キッドと名乗った。

 キッドはどうやら自らマシンガンを名乗るだけに、運び屋が持っていたサイバードッグガンの方に興味津々なようだ。

 

「へぇ、すげぇじゃねぇか! マグナム弾を撃ち出すマシンガンとはなかなかにぶっ飛んでるな! しかもなんだその脳味噌……犬の脳?」

 

<ワウ!>

 

 サイバードッグガンも褒められて嬉しいのか、下り坂だった機嫌が治り嬉しそうに吼えた。

 

 運び屋の装備するパワーアーマーとサイバードッグガンに興味を持った二人は互いの自己紹介と共に色々と話を交えていった。

 どうやらRFBはグリフィンのS09地区P基地の所属で、キッドはMSFの所属らしい。

 

「へぇ、あんたの名前はクーリエ・シックスって言うのか、所属は……なに? あのモハビ・エクスプレスだって?」

 

「え、モハビ・エクスプレスって言うと…… もしかしてあの運び屋!?」

 

 キッドはスコーピオンから聞いていたらしく運び屋を興味深く見るが、RFBの方は顔を引き攣らせながら一歩下がる。

 RFBの態度に若干不服に感じる運び屋であった。

 

「い、いやぁ…… リーダーが運び屋のこと相当嫌ってるみたいで色々と聞かされてるんだよねぇ」

 

「まぁ俺もたしかにエグゼからちょっとばかり聞いたが……」

 

 RFBとキッドの視線の先では、イチイバルとエグゼが未だにメンチの切り合いをしている。

 とりあえず、運び屋は後で両陣営に抗議(Speech)しておくことにした。

 

 

 

 

 

 なんだかんだとあったが、結局のところ運び屋が防衛線の前線に立つことはなかった。

 装備してきたパワーアーマーは戦闘で活躍することは無く、防衛線内の要塞壁や塹壕の増設や修復の為の力仕事の為に使われたのである。

 なぜそのような扱われかたをしたのか、それはRFBのパワードールアーマーや所属する部隊であるランページゴーストとやらの活躍のせいでもあった。

 なんとパワードールスーツを駆るRFBを含めあの部隊は空を飛ぶのである。

 しかも、他のグリフィン基地から参戦してきた巨大ロボも空を飛ぶわ、水辺から現れた新たなモンスターも仲間として参戦する始末だ。

 挙句に今回の目的であり進行を阻止するべき元凶であるらしい規格外な巨大モンスター、ゴグマジオスとやらも空を飛ぶ始末である。

 結局はゴグマジオスは撃退されたのだが、その間ずっと空を飛ぶこともできないパワーアーマーを装備した運び屋は工兵の使い走りのような扱いになっていたのだった。

 

「え、えっと…… でもそういう役回りも必要だと思います……よ?」

 

「運び屋が弾薬の運搬をしてくれてたから、あの臼砲をブチかませたんだぜ?」

 

「リーダーは色々言ってたけど、住民の退避とかしてくれてなかったら皆ここまで暴れられてなかったって!」

 

 M3、キッド、RFBはそれぞれ運び屋の働きにねぎらいの言葉を言うが、当人の運び屋は背を向けたまま終始無言で、着込んだレムナント・パワーアーマーの特徴である背後の換気扇が虚しく回り続けるだけであった。

 

 

 その後、事件の解決のお礼としてアイルーと呼ばれるあの二本足で立つ猫達からゴミみたいな報酬を貰った後、腹いせに隠し持っていた素材とやらを勝手にかっぱらってセヴァストポリを去っていった運び屋なのだった。




サブタイトルの割にはモンスターハントまったくしてないという話でした。
ちゃうねん、ほんまにモンハンはノータッチやったねん(なら何故コラボ参加した)



【レムナント・パワーアーマー】
別名エンクレイブ・パワーアーマーやアドバンスド・パワーアーマーとも呼ばれることもある背中の大きな換気扇が特徴的な重装アーマー。
その他のパワーアーマーの中でも後期型ならではの優秀な装甲性能を誇る。
パワーアーマーは筋力サポートシステムが組み込まれているが、それ故に内部フレームがあるタイプでない限りは特殊な訓練を積んでいないとまともに装備することもできず、大変危険であるのに注意が必要である(逆にフレームさえ内蔵されていれば素人でも簡単に装着できるし、内蔵された機械部分を取り除いて装甲のみを装備するという使い方もある)
派生型にテスラ・パワーアーマーという対エネルギー兵器に特化したアーマーも存在する。


【Terrifying Presence】
運び屋は巧みな会話能力で自身を相手に恐るべき存在として認知させ、逃げ惑うように仕向けることができる。
常人なら脅しつけて終わる程度のはずなのだが、運び屋はそれ以上に言葉で恐怖を植え付けて相手を逃げ腰にさせる。
逃げ惑い無防備な背中を見せる相手をあとどう料理するかは運び屋の気分次第である。


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Doctor Who

つまり【Wild Wasteland】のせいでコラボだろうとなんだろうと何でもありで、そういう世界線なんです。
年代設定で、めっちゃ怒られたり突っ込まれそう!(ガクブル)


「やぁ、忙しい中にわざわざ足を運ばせてすまないね」

 

「通信を使わずに直接伝えたいと言ってたな。 つまりは漏れると不味い話、そういうことなのだろう?」

 

 今、ヘリアンは突然にペルシカから呼び出され16Labの施設に来ていた。

 護衛役としてAR小隊のM16とAR-15の二人を引き連れてペルシカを訪ねてきたヘリアンは早々に話を切り出す。

 

「しかも護衛に付ける人形はAR小隊でないと駄目とまで言うんだ余程漏らしたくない話なんだろ。 ペルシカ、一体何があったんだ?」

 

「まぁね、ちょっと通常の戦術人形では信用できなくてね。 ん? そういえばM4とSOPは?」

 

 話を続けようとしたペルシカだったが、他のAR小隊メンバーであるM4とSOPMODⅡがいないことに気が付く。

 

「M4は例のヌカコーラってやつを隠れて飲んでたのがバレて、向こうの基地で指揮官に説教されて現在謹慎中さ」

 

「SOPMODはM4だけ残しておくのも不安だったから一応の見張りとして付き添ってもらってるわ」

 

「……まぁ、そういうことだ。 まったく、あの運び屋は碌なことをしない!」

 

 M16とAR-15の言葉に続いて目頭を押さえながらヘリアンが答えた。

 その様子にペルシカは一瞬苦笑したかと思えば、すぐに真剣な顔つきになる。

 

「……実はその運び屋についての話なんだ」

 

 ペルシカのその一言で場にいる他の三人の顔付も真剣なものに変わる。

 

 グリフィンやI.O.Pにとって運び屋は非常にデリケートな問題に位置する人物である。

 取るに足らない邪魔な便利屋業者だと侮り404小隊を勝手な権限で動かしてぶつけたことを理由に、それを仕組んだ双方の上層部はほとんどをヘリアンが逮捕または更迭した。

 元々は私利私欲の為に404小隊をいいように使っていた考えの浅い者達ばかりだったが、その中の一部の者達は上手く責任を逃れ未だにその地位に居座っている。

 だが裏ではそれより更に質の悪いことが起こっていた。

 その上層部の連中は買収されたのか説得されたのか、それとも脅されたのか……

 いつの間にやらそのほとんどが運び屋のいいようにされているらしい。

 その上に、近頃は各地区のグリフィン基地や、他のPMCどころか正規軍にすら関係している節があるのだから今や下手に手を出せない状況である。

 

「なるほど、だからここに呼び出したというわけか」

 

「本部はイエスマンに見張られていて、グリフィンの上層部すらも何人か奴の息がかかっていると見ていいからな」

 

「というかそれってもうグリフィンは大丈夫なのかしら」

 

 ヘリアンとM16が納得する中、AR-15は得体の知れないたった一人にグリフィンがいいようにされていることに半ば呆れていた。

 

「それで、運び屋についての話ということだったが……」

 

「まぁ言ってみれば彼がどこから来たかがなんとなく予想できてきたかも知れないってことかな。 まずはこれを見てほしいんだ」

 

「何? アメリカのモハビじゃないのか?」

 

 ヘリアンの質問に答えるためにペルシカはあるものを抱えて持ってきた。

 だが、それを見て反応したのはヘリアンではなくAR-15だった。

 

「それってたしか大分前の作戦の時に人権団体のアジトで見つけたやつよね」

 

 ペルシカが抱えて持ってきた物、それは運び屋がCZ75と出会った場所で売り渡そうとしていた武器……ヌカランチャーことファットマンだった。

 CZ75を連れ出す際にファットマンを置いたまま逃げ去ったのだが、その場に居合わせたAR-15がその後に回収していたのだ。

 ちなみに運び屋は人権団体との取引のことを否定していないが、ちゃっかりファットマンは返せと言ってきているあたり本当に面の皮が厚い男である。

 

「それって結局はなんなんだったの? 何かの射出装置ってのはなんとなくわかるんだけど」

 

「不自然な放射線量がいくらか検出されてるところから見ると、恐らくは小型の核弾頭射出装置ってところだと思う」

 

「「「核弾頭!?」」」

 

 ペルシカの一言で他の三人がファットマンを凝視しながら素っ頓狂な声を上げた。

 続けてペルシカは抱え持っているファットマンのフレームの部分を見せながら更に話を続ける。

 

「まぁそこの話は今は置いておこう。 問題はここに彫り込まれてる製造番号の表記なんだ」

 

「製造番号? それがどうしたっていうんだ」

 

「いやまてよ、おかしいのはそこじゃない。 これはもしかすると……」

 

「でもおかしいわ、だってこれって……」

 

 ヘリアンはペルシカが何が言いたいのか理解できないでいた。

 だがM16とAR-15はファットマンにされているその表記がおかしいことにすぐに気が付いた。

 

「恐らくなんだけども製造番号の下に刻印されている数字は製造年月日なんだと思う」

 

「ちょっと待て、もしそうだとしたらこの数字はおかしいじゃないか!」

 

「うん、そうだね。 この数字が正しいとするならばこれが製造されたのはおよそ200年後ってことになるね」

 

「馬鹿らしい! そもそもこれが運び屋の持ち物だとするとそれこそ出所がわからないし信用性に欠ける」

 

 ファットマンに印字されている数字は、およそ二世紀先の製造日を示すと言うペルシカの話を信用しないヘリアンだったが、

 

「見る限りではこれは腕の確かな技師が全て手作業で手掛けているんだ。 私も研究者技師を名乗る者として確信をもって言える。 これを作った職人は冗談やおふざけで意味のない数字なんて入れないって」

 

 ペルシカは技術者としての視点から、構造的には簡素に見えるファットマンだがそれが優れた技術者による作品であり量産品ではなく一つ一つ手作業で作り上げた物だと見抜いた。

 ならば製造番号とは別に作られた個数を表してるのではないかとヘリアンは言ったが、それこそ綿密な手作業でその数を造っているというほうが馬鹿げていると否定した。

 

「……つまり、この200年後の製造日を示す数字から運び屋が未来から来たと言いたいのか」

 

「まぁ、正確には違うかもしれないけどね。 でも別にあり得なかった話じゃないと思うけどね。 ……ヘリアンは【ウサギ狩り作戦】の事を覚えているかい?」

 

【ウサギ狩り作戦】、ノエルとエルフェルトという二人の異邦人がS09地区にタイムトラベルしてきたことによって、グリフィンと鉄血を巻き込んだ事件へと発展した作戦である。

 結局の所、二人は元の世界へと帰っていったわけだが、その二人に関わる事情と技術力に関しての報告が後にグリフィン本部に知れ渡った時は、殆ど馬鹿げた話だとして取り合わなかったという。

 ちなみにエルフェルトの意識を残した人形は未だにS09地区の基地に現存しているらしい。

 

「私の憶測になるけど、運び屋は未来というよりはウサギ狩り事件の時の様に言ってみれば時代が進んだ先のパラレルワールドってやつから来たんじゃないかと思うんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L38地区内の立入禁止区域地表に建てられている展望台。

 その内部の巨大な一室には巨大なスクリーンが設置され、その画面にはイエスマンの顔がデカデカと映し出されていた。

 中心部には運び屋とラウルが立ちながら会話し、そしてDr.モビウスが隣で浮遊している。

 

 そこでラウルが諦め半分、申し訳なさ半分といった感じで、その奇妙な機械に脳味噌を浮かべたDr.モビウスに謝る。

 

「すまん、モビウスの爺さん……ボスに自重しろだなんて言ったところで無駄だった」

 

「だとしてもナイトストーカーを群れで解き放つなんぞどうかしとるぞ。 奴らは貪欲な雑食性の上に卵生だ……現状天敵も居らんからすぐに増えるに決まっとる」

 

「だがな、ボスを擁護する気は全くないが……()()()()()で無抵抗な輩は少ない。 そこまでの脅威になるとは思わんのだが」

 

()()()()()で増えるのが問題なんじゃ、我々と同じようにナイトストーカーもFEVの影響である程度コーラップスへの耐性を持っておる。 恐らく低濃度の汚染地帯だと平然と繁殖するぞ」

 

「……老後の隠居先でもあの獣に悩まされるとはな、たしかグリフィンにそういうのを扱うハンターオフィスって部署があるって聞いたからそこに依頼してみるとするか」

 

「人類生存権外では恐らく高濃度汚染とE.L.I.Dが天敵となるだろうが、圏内ではそうはならんじゃろう」

 

 モビウスの話を聞いたラウルが頭を抱える中、隣では問題を起こした張本人である運び屋が腕を組みながら黙って話を聞いてるだけだった。

 

「それだけじゃない、いいか我々は()()()()()()()()()()からの異邦人! 200年程先の未来から来とるんじゃ、世界線は違えどこっち側の影響を色濃く残せばその分、我々の世界(Wasteland)と近くなりその影響がでてくるじゃろう」

 

「影響……ねぇ、例えば?」

 

「大きい影響としてありえるのは大戦争(Great War)が起こることかの」

 

「この世界ではたしかもう起こったことだろう」

 

 そう、この世界ではコーラップスで汚染されていない土地を巡って既に第三次世界大戦が起こっており、国家間で核攻撃を平然と行った……その結果が今のコーラップスに加えて放射能が蔓延する世界だ。

 

「まだ確信はないが、あり得る話だとは思っとる。 他には我々の居た世界、ウェイストランドに存在したようなものが何らか近い形で現れてくるくるとかかのぉ」

 

「そりゃ、こっちの連中にとってはお気の毒だな。 放射能だけでなくコーラップス汚染で最悪だってのにデスクローでも闊歩するようにでもなれば地獄だろうな……」

 

 モビウスの意見にラウルは爛れた顔を顰めていると、それまで静観していた巨大スクリーンに映されたイエスマンが突如とんでもないことを言い出した。

 

『それならば実に面白く、興味深い情報がありますよ! まず先ほどのデスクローですが……既にこちらの世界では確認されているとのことです! これは驚きですね!』

 

「……この世も末だなこりゃ、一応聞いとくがボスが外に解き放ってたとかじゃないよな?」

 

 心外だとばかりに首と手を横に振りながら否定する運び屋に、ラウルは疑いの眼差しを向ける。

 その横でモビウスは思い当たる節があるのかイエスマンに質問する。

 

「もしやそれはE.L.I.Dもしくはそれに類似する種としてということかの?」

 

『ええ、その通りです! 他にもゲッコーや、東海岸で見られていたというマイアラークというクリーチャー等も確認されていますよ!』

 

 ゲッコーはここL38地区内でも飼育されている爬虫類型のクリチャーで、マイアラークは水辺に住む甲殻類や魚類のクリーチャーの総称であり、どちらも運び屋達が居たアメリカのウェイストランドに生息していた生き物だ。

 

「ふぅむ、それは確かに興味深い話じゃ……」

 

『それだけではありません! 実は過去にU05地区とR08地区のグリフィン基地の通信を傍受しましたところ……なんとRobCoとVault-tecのことに触れる会話が確認されました!』

 

「こっちのアメリカにもロブコとかVault-tecってあったのかよ……」

 

「こちら側のアメリカが今どうなっとるのかはまだ情報不足だが、それに関してはユリシーズが調査に向かっておる、いずれは詳細が聞けるじゃろうて」

 

 その後、そのユリシーズからの報告で驚くべきことが判明するのだが、それはまた後の事で語られるであろう。

 




ああ、ついに書いちゃったよ……
絶対に後で矛盾したり公式と設定食い違ったりしたりとかしそうで怖かったんだけども、自分の中での設定として運び屋がどこからきているのかと言うことを遂に書いてしまいました。

ちなみにこっちのドルフロ世界は【VA11Hall-A】が上手くコラボしてるように、ドルフロ世界観と合わせたようにNewVegasも存在しています。

……ぶっちゃけ、コラボでも大体は矛盾しないよって必死こいて言いたいだけです。 はい。


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笑ゥいぇすまん

ということで、自販機以外にも貸し出します。


 G&K社本社の一室で、ヘリアントスことヘリアンと一人の若い少年指揮官が互いに机を挟んで難しい顔をして対峙していた。

 

「すまない、戦闘訓練用のは先約が全て埋まっていてドローンはまだ暫く貸し出せそうにない」

 

「……そうですか、はぁ」

 

 少年指揮官は項垂れて溜め息を付く、ヘリアンは目の前の指揮官に気の毒と思いながらもさらに続けて言う。

 

「修理は終えたんだが、S地区方面からまた先約が入ってな…… 毎度待たせて君にはすまないと思っている」

 

「いいんです。 僻地の新米指揮官候補より激戦区のS地区の有望な未来の指揮官さんに使ってもらったほうが有用でしょうし」

 

 そう言いながらも、少年指揮官は肩をガックリと落としていた。

 

 鉄血からの攻撃があるのかも疑わしい程の僻地の指揮を任されたこの少年は、実はまだ戦術人形を指揮する立場にはない。

 それは何故か? 

 その原因は先ほどヘリアンから貸し出しを断られたDrone(ドローン)であった。

 G&K社では基地へ就任してからは、実戦経験が不足していると判断された指揮官は戦場に出る前にドローン相手の戦闘指揮訓練を経てから初めて戦術人形達の指揮を任されるのだが……

 

 元軍属や他のPMCからスカウトや引き抜きで入ってきた指揮官はその限りではないが、近頃は

 ”前線にいる戦術人形に指示するだけなら必ずしも最初から実戦経験がある必要はないのでは”

 という一部の上層部の考えから、能力はあるが経験がない新人指揮官がちらほらと増えてくるようになった。

 さすがに何一つ経験がない人物がいきなり実戦で指揮するのはマズイということになり、ドローン相手の訓練をすることになるのが普通だ。

 

 だが、このドローンを相手にしなければならない指揮官は大体はある問題にぶち当たることになる。

 

 それがドローンの貸出待ちだ。

 実はこのドローン、本社側で貸し出されている数は非常に少ない。

 使われるのはほぼ最初の指揮訓練時ぐらいなもので、その後に使われることは滅多にない、その最初の訓練だけの為にいくつもドローンを保有しておくのは無駄だからだ。

 しかも、一回の訓練で毎回壊される為に修理待ちになる上に、激戦区に配属される指揮官に優先して貸し出される。

 

「ヘリアントス上級代行官……どうにかドローン相手の訓練をパスすることはできないでしょうか?」

 

「難しいな…… 君の場合は本当に経験がないからな」

 

「なら、小規模な鉄血人形を相手に「馬鹿なことを言うもんじゃない」」

 

 少年指揮官の言葉を遮るように、ヘリアンは厳しい口調で言う。

 

「その相手をする為の訓練だ。 人形に命令すればいいだけと勘違いした指揮官がこれまで何体の戦術人形を無駄に散らせていったと思う?」

 

 ヘリアンの冷たい視線に耐え切れなくなり目を逸らす少年指揮官、その様子にヘリアンは溜め息をつきながら目を閉じ言う。

 

「しかし、このまま待たせ続けるのも悪いとは思っている。 ……そうだな、個別にドローンを保有している基地を当たってみよう」

 

「すいません、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 力なく俯きながらグリフィン本社から出ようとロビーを歩いていく青年指揮官。

 その時、横から声がかかる。

 

「おや、どうしました? 元気がないようで、お困りごとですか? ならもしかしてお手伝いできるかもしれませんよ!」

 

「えっと、君は?」

 

 声をかけてきたのは青い塗装のボディーで下半身が一輪駆動式のロボット、セキュリトロンことイエスマンだった。

 

 

 

「なるほど、なるほど! それは実に気の毒な話ですね! ですがそのお話、もしかして力になれるかもしれません!」

 

「えっ、本当ですかイエスマンさん!?」

 

 少年指揮官が駄目元で今困っている問題のことをイエスマンに話してみると、なんと解決策があるかもしれないという。

 ロビーのど真ん中で会話をしている二人を他のグリフィン職員が避けて通って行く、その内の何人かは迷惑そうにしつつもそれ以上に関わりたくないのか注意しようとするも結局は避けて行った。

 

「私どもモハビ・エクスプレスは運送会社ですが、物資の買い付け買い出し、更には貸し出しもしています。 そしてその中でもオススメのレンタル品が、今私のボディーとして使用しているセキュリトロンです! ドローンと同じ行動サブルーチンをインストールしたこのセキュリトロン相手に訓練すればヘリアンさんも納得せざる得ないはずです!」

 

「でも僕にはレンタルできるような資金や物資を持てるほど…… それに壊してしまったら」

 

「ご安心下さい! 残念なことに最近は皆さん私を避けるようになってたのですが、貴方は久しぶりのお客様となってくれました。 なのでセキュリトロン本体の貸出代は今回は無料としておきます! かかる代金はセキュリトロンが使用した弾薬代だけ、壊れてしまった時の心配もご無用です! 貴方のような新米指揮官に配属される戦術人形がセキュリトロンを破壊しきれるとは思えませんし、自己修復機能も備わっていますので……ああっ、お気を悪くしたのならすいません! 何せ私嘘が付けないものですから」

 

 イエスマンが捲し立てる中、最後の言葉に少しムッとしながら話を聞き続ける少年指揮官。

 

「とにかく、もし破壊されてしまったとしてもそれに関しては代金は頂きません。 あくまで訓練内での話ですがね。 それに支払いに関しても無事正式な指揮官となられてからお支払いできる時で結構です!」

 

「……つまりこっちが出費するのは実質的には消費する弾薬代だけということですか、うーん」

 

「このままでは正式な指揮官と認めてもらえず給金も少ないままなのではないですか? それと弾薬代も9mmサブマシンガン以外にもガトリングレーザーを使用することによって弾薬代が充電によって節約できますからお得になりますよ!」

 

 暫く悩み考えた後に、少年指揮官はイエスマンの提案に応じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが結果はセキュリトロン相手に初めての訓練を終えた人形は、散々な返り討ちに会うという悲惨なオチであった。

 そもそも本来、訓練用のドローンは大体が反撃をしてこない的の役割なのだが、そんなことを知らなかった少年指揮官はそのまま同じく経験の浅い人形達でセキュリトロンに挑んだのである。

 セキュリトロンのチタン合金製の強固なボディー相手に練度の低い人形達はまともにダメージを与えることが出来ないのはあたりまえで、その上にミサイルとグレネードを封印されているとはいえ摸擬弾薬ではないガトリングレーザーと9㎜サブマシンガンでの反撃をくらって大惨事になるのは当たり前の事であった。

 はっきりいって辺境地区であるこの付近の鉄血の遊撃小隊を相手にする方がまだ勝てる要素があると言える。

 

「あのポンコツロボット生意気なの! おとなしく的になってろなの!」

 

「反撃してくるなんて聞いてねぇぜ指揮官……」

 

 まさか反撃をくらうとは思っていなかった人形達の内であるM9とトンプソンが少年指揮官に文句を言う。

 

「み、みんな、ごめん!? まさかこんな強いロボットだったなんて知らなかったんだ……」

 

「いいえ、指揮官…… ですが、わたし達が力不足故の失態とも言えます」

 

「っ、たしかにな……」

 

 謝る少年指揮官だったが、そのうちの人形の一人であったトカレフの一言に苦り切った顔でトンプソンが項垂れる。

 だがM9は只管に納得がいかないのか更に文句を言いだすが、

 

「そんなの関係ないの! 的は的らしく撃たれてたらいいの!」

 

「ですが反撃もしてこない相手に勝つつもりだったのが、相手が撃ち返してきたのでダメでしたと言い張るのですか?」

 

「まぁ実戦でそんなこと言ってる奴なんて参戦させてもらえる訳はないよな……」

 

 M9の言葉を断じるトカレフと自らの情けなさに自嘲するトンプソン、少年指揮官も自らの至らなさと情けなさで自己嫌悪に陥っていた。

 だが直後にトカレフの一言でまさかの展開に進むことになる。

 

「あのセキュリトロンというロボットに勝ちましょう。 手加減なしのあのロボットに」




自分の中でMk2 OSのセキュリトロンの強さイメージとしては、正規軍のハイドラ相手に3~5体では楽勝できるイメージでいます。
戦況次第では長期戦とかだと自己修復できるセキュリトロンが更に優位なのかもしれませんがね。


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笑ゥいぇすまん

戦術人形の強みはこういう所にあると信じたい。
ロボットと人形の差ってこういう所だと思うのですよ。


 ロブコ社製ロボット、正式名称はPDQ88b-セキュリトロン。

 そのロブコ社を創立したロバート・エドウィン・ハウス本人が私設軍隊の為に開発したロボットであり、その頼りない見た目に隠されたスペックは一般配備されているような軍用の人形やロボット以上に恐ろしい性能が秘められている。

 中距離から近距離射程用にそれぞれ右手に9㎜サブマシンガン、左手にガトリングレーザーと連射式グレネードランチャーが内蔵され、更には遠距離攻撃の為に肩部分にはミサイル射出用のポッドが内蔵された過剰すぎる程の武装火力。

 チタン合金製の強固な装甲に守られながら、下半身に取り付けられた一輪式のタイヤだけでは想像がつかない程の走破性で敵を追い回す。

 その上に自己修復機能まで備えており長期戦でも十分な性能を保ち続けることが出来る。

 

「そんな性能を持ったMkⅡOSを解放したセキュリトロンを相手にあなた達だけで相手をするっていうのだからこれはまた驚きです! はっきり言いまして勝てる確率は1──」

 

「御託はよろしいのでさっさと訓練を始めましょう」

 

 イエスマンは自らのボディーであるセキュリトロンの性能を得意げに語るも、トカレフはイエスマンの言葉を断ち切る。

 訓練用フィールドの中心地でトカレフの横左右に立つのはトカレフ自身のダミー人形二体、そしてその後ろにはそれぞれ一体のダミーと並ぶトンプソンとM9だった。

 

「そういうことだ、さっさと始めようぜ」

 

「おまえ生意気なの! とっととぶっ壊してやるなの!」

 

 人形達に睨みつけられるイエスマン、だがやはりイエスマンは気にも留めずに話を続けていく。

 

「ええ、ええ。 もちろん構いませんとも! アナタ達だけでMkⅡOSのセキュリトロンにどう対抗するのかも非常に興味がありますので、ではダウングレードしていたOSを再度バージョンアップデートいたします。 それでは皆さんお元気で!」

 

 そう言い終えた後、イエスマンの間抜けた笑顔が映された画面モニターのスクリーン画面はターゲットマークが映されたものに切り替わった。

 目の前のセキュリトロンは先程のイエスマンの軽い音声から一変し威圧感のある野太い音声を発する。

 

「指示とターゲットを確認、武器の使用承認完了、攻撃開始」

 

 

 指令室からその様子をモニターしていた少年指揮官はセキュリトロンが攻撃態勢に移った瞬間には人形達に声を張り上げ通信越しに指示を出していた。

 

『っ、M9は閃光手榴弾を、トカレフは援護号令を任せるよ!』

 

「わかったなの!」

 

「了解しました指揮官、トカレフTT-33自動拳銃、参ります」

 

 セキュリトロンは容赦なく肩のミサイルポッドの防護カバーを開き射出しようとするが、その前にM9が投げ込んだ閃光手榴弾が爆発する。

 I.O.P製戦術人形が装備する閃光手榴弾は通常の閃光と轟音による効果以外にも対鉄血の為に小規模ながらもECM(電子妨害)効果がある。

 そのせいでセキュリトロンは一瞬ではあるが様々なシステム障害に陥り、相手を完全に見失う。

 だがそれでもミサイルの発射は止められず肩のミサイルポッドから次々と射出されてしまうが──

 

「今です! 全員、回避行動を!」

 

 M9の投げた閃光手榴弾によって誘導が狂ったミサイルは目標を見失い敵のいる方向へ撃ち込んだだけの大雑把な攻撃となり、トカレフの号令指示に従った人形全員は難なく回避する。

 そしてミサイルが着弾した爆炎を背にしながらトンプソンはセキュリトロンに向かって撃ちまくる。

 狙いの先はミサイルポッド内部に残るまだ発射されていないミサイルの弾頭だった。

 

「ちっくしょお! 当たれぇ!」

 

 だがトンプソンの叫びも虚しく銃弾はミサイルの弾頭には命中せず、肩部分のミサイルポッドの防護カバーが閉じられてしまう。

 諦めきれずに撃ち続けるも命中した銃弾は全て装甲に弾かれてしまい、セキュリトロンも反撃とばかりにガトリングレーザーを掃射、トンプソンは得意のフォースシールドを展開しながらとにかく銃弾をばらまき続けるが、フォースシールドの効果時間も尽きた途端にダミーがレーザーに撃ち抜かれて赤く燃え上がり一瞬で灰になる。

 

「一端退いて物陰に隠れなさいトンプソン!」

 

「ああっ、クソッ!」

 

 トカレフに呼び止められ一緒にトンプソンも訓練用フィールドに設置された遮蔽物の陰に隠れる。

 

『最初の作戦は失敗か……』

 

「すまない、肝心なところでしくじっちまった」

 

『僕こそごめん、危険な作戦を任せて危うくまたトンプソン自身を……』

 

「そこは気にすんなよ、既に初戦で容赦なくやられてるんだし今更な話さ」

 

 最初の狙いであったセキュリトロンのミサイルポッドを暴発させる作戦の失敗に落ち込む少年指揮官、気にする必要はないとトンプソンは宥めるが、実際の所は運良くダミーが標的になっただけで下手をするとトンプソン本体が灰にされている所であり、またムキにならずに作戦が失敗した時から即座に退避行動をとれば被害が無かったとも言える。

 焦って自ら危険を冒したとトンプソンは自覚していた。

 だが、そこまでしなければ恐らくあのセキュリトロンは倒せないだろうともわかっていた。

 

「ですが私達があのロボットに打撃を与えるにはミサイルを暴発させるしか道筋はありません」

 

 一緒に隠れているトカレフはそう言いながら遮蔽物から顔を覗かせてセキュリトロンの方を見張る。

 どうやらセキュリトロンは別方向に隠れたM9を標的にすることにしたのか、射撃攻撃からグレネード弾による爆撃に切り替わっていた。

 遮蔽物があることなどまったく関係ないとばかりに次々と連射して撃ち込まれるグレネードにより周りの地表の土が爆ぜ上がり伏せながら涙目で頭を抱えて守るM9の上に降ってくる。

 

「うきゃあ!? 早くなんとかするなの!!」

 

 だが幸いにもセキュリトロンは曲射を利用してグレネード弾を撃ち込む程のAI知性は無かったため、M9の上に土をかぶせるぐらいしか出来ていない。

 M9が身を隠す遮蔽物が堪え切れる限りではあるが……

 

『大丈夫かM9! 今すぐ助けを』

 

「いえ、M9にはこのまま引き付けてもらいましょう」

 

『トカレフッ!? なにを言ってるんだ!』

 

 M9の窮地に焦る少年指揮官だが、トカレフはその状況を利用して活路を見出そうとしていた。

 

「指揮官……私達は人形です。 指揮官は止むなき時には犠牲にする選択肢を考えるべきなんです」

 

『だ、だけどっ』

 

(……本当にあなたは指揮官としては優しすぎる)

 

 最初にセキュリトロンを相手にして弾丸とレーザーの雨にズタボロにされて負けた日、バックアップから復帰した彼女たちが目覚めて最初に目にしたものは少年指揮官が目に涙を浮かべて謝る姿だった。

 指揮官としてはあまりに幼く頼りない情けない姿の少年、グリフィンの指揮官ならば人形を駒として冷徹に使うべきだとトカレフは呆れていた。

 だが同時に少年指揮官に対してとても温かいものを感じてしまうトカレフ、そしてトンプソンとM9も……

 

(けれども…… だからこそ指揮官の為にも私達を犠牲にしてでもセキュリトロンに勝たなくては)

 

 トカレフが制限なしのセキュリトロンに挑もうと言い出した理由、それは自分たち人形を犠牲にしてでも訓練を成し遂げて少年指揮官に成長してほしいからに他ならない。

 何度も同じ様にズタボロにされてバックアップからやり直すかもしれない、犠牲なしには絶対に勝てない相手だ。

 だからこそ、時には人形を犠牲にしてでも戦果を上げなくてはならないと知ってほしかった。

 

「M9、このまま引き付けておいて頂戴」

 

「ふざけろなの! ……でも指揮官の為ならやってやるなの」

 

『そんな、M9!?』

 

「トカレフも引き付けるなんてあまっちょろいこと言ってんじゃないなの! このままぶっ壊してやるなのぉ!」

 

 M9はそう叫びながら遮蔽物から飛び出し、ダミーを本体の前方に立たせて盾の代わりにしながらセキュリトロンへと突っ込んだ。

 セキュリトロンは即座に反応しグレネードをM9に向けて連射するが、時限信管であった為すばしっこく動くM9には爆風が掠る程度で命中させることが出来ないでいた。

 

「敵の接近を確認、攻撃手段を変更します」

 

「やってみろなのぉおおおぉ!」

 

 セキュリトロンはグレネードを射出していたアームとは逆のアームをM9に向けると内部から9㎜サブマシンガンの銃身がせり出し銃弾を吐き出す。

 だがその銃弾は全て本体への盾となる為に全て受け止めたダミーを破壊するだけで止められ、ついにM9はセキュリトロンに至近距離まで接近した。

 

「接近戦プロトコルに従い、実行します」

 

「うきゃあっ!?」

 

 しかしセキュリトロンは近づいたM9の顎にまさかのアッパーカットを繰り出し、殴り飛ばされたM9はごろごろと地面を転がされ放り出され、そのまま地面に這いつくばるM9にセキュリトロンは確実な破壊をもたらすためにグレネードを撃ち込もうとする。

 

『M9!? 大丈夫かっ!?』

 

 M9の危機に居ても立ってもら居られない少年指揮官の声が通信越しに聞こえる。

 だがM9は嗤って答えた。

 

「腕一本貰ったなの」

 

 直後にグレネードを撃ち込もうと構えていたセキュリトロンの片腕が突然爆発して吹き飛ぶ。

 M9は接近して殴り飛ばされる直前にアームに仕込まれたグレネード弾の射出口に閃光手榴弾を突っ込んでいたのだ。

 

「X-25ガトリングレーザー及びG-28グレネードランチャーが使用不可能。 装甲修復開始、武器の修復不可能、エラー発生」

 

「そのまま大人しく立て直させるかと思うかよぉ! もう一度行くぜぇ!」

 

 これを好機とばかりにトンプソンは遮蔽物から飛び出しセキュリトロンに向かって銃弾を掃射しながらM9を庇う為にフォースシールドを展開、セキュリトロンも大人しくしている訳もなくミサイルポッドを解放して次々とミサイル発射するがなんとか防ぐことができた。

 

 そして──

 

「負傷したぐらいで冷静さを欠くだなんて……機械らしからぬことです」

 

 その言葉はどういう意味で誰に言ったのか、無意識のうちに呟いていたトカレフが自身の銃から発射された弾丸はセキュリトロンのミサイルポッド内のミサイル弾頭に命中した。

 




手榴弾の応用を利かせた使い方や汎用性が好きなんです。
一番好きな使い方は……バット片手にスワッターしてホームランすることですかねぇ(ストライクすると死ぬやつ)


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笑ゥいぇすまん

ドーンだYO!!

そりゃ、派手にドンパチやって弾薬費がお安く済むはずないよなぁ?


「実に素晴らしい戦闘の結果を見せてもらいました! これはお世辞じゃありませんよ!」

 

 先程の訓練でミサイルポッドが爆発し大破したセキュリトロンが別のセキュリトロン達に回収されていくのを尻目にイエスマンは少年指揮官に告げる。

 訓練の結果はトカレフの一発の銃弾のトドメにより見事にセキュリトロンに勝利して見せた。

 新たなセキュリトロンを引き連れたイエスマンがやってきたのはその後日だった。

 

「この結果をヘリアンさんに見せつければ晴れて正式な指揮官の仲間入りですね! おめでとうございます!」

 

「……そんな、結局自分は何もしていない。 勝てたのは彼女たちのお陰だよ」

 

「部下の手柄は全て上司のもの! 別に気にすることなんてありません!」

 

 少年指揮官を煽てるイエスマンだが、当の本人である彼は浮かない顔のままで自信なさげであった。

 

「このロボットの言うことに賛同するのは本当に癪ですが、その通りです。 指揮官がいたから皆ここまでやれたんです」

 

「そうだぜボス、アンタの狙い通りミサイルを暴発させたことで勝ったんだ。 ボスの作戦勝ちさ」

 

「そうなの!」

 

 トカレフやトンプソンとM9も同じ様に少年指揮官を励ますように声をかける。

 そうしてようやく少年指揮官は顔を上げるが、そこで突然別の声がかかった。

 

「なるほど…… たしかにこれは大戦果だな」

 

 全員がその声の方へ注意を向けるとそこに居たのはなんとヘリアンだった。

 その傍には護衛として本部所属であるFN小隊の戦術人形、FALとFive-sevenが控えていた。

 

「へ、ヘリアントス上級代行官!? こんなところへ何故いらっしゃるんです!?」

 

「君がイエスマンと接触していたというのを耳にしてな。 気になって顔を出したのだが案の定だったようだ」

 

 突然の訪問に驚く少年指揮官、だがヘリアンはそれを後してイエスマンに詰め寄る。

 厳しい目付きのヘリアンの顔を見るに相当ご立腹なのはこの場のセキュリトロンもといイエスマン以外は誰の目にも明らかであった。

 

「おや、ヘリアンさん丁度良い所にいらっしゃいました! どうです素晴らしい戦果じゃないですか! グリフィンにまた新たに有望な指揮官が現れましたよ! 実に喜ばしいことです!」

 

「……その有望な指揮官を借金で縛り付けて喜ばしいと?」

 

「だっ、大丈夫です。 支払いは正式な指揮官になれればすぐに支払いは終わらせます!」

 

 ヘリアンが言う言葉に呆気にとられた少年指揮官だったが、貸付けで借りを作っている分も直ぐに支払える算段を伝えるも、

 

「ハァ……君は分かってないようだな。 ならば聞こう……イエスマン、この基地の訓練でかかった支払い費用額は?」

 

「はい、セキュリトロン本体の破損を含める費用は今回は無料になりますからね。 これが現状の請求額です!」

 

 イエスマンの顔が映されていたモニタースクリーンが切り替わり今回の件の請求額明細が表示された。

 それを見た瞬間、少年指揮官の顔から血の気が失せ真っ青になる。

 

「──え? え? そんな、かかる費用は弾薬費だけじゃ……あっ!」

 

「ええ、そうです! 今回の請求額に含まれているのは弾薬費だけです! 其方の要望でMkⅡOSを解放したことにより想定されていた弾薬費に加えてグレネード弾やミサイルの分も追加されています。 少々お高い費用になってしまいましたが……そちらのステップアップの助けとなったのであれば安いものですよね! 大丈夫、お支払いは何時でもかまいませんので!」

 

 かかる費用は弾薬費のみ、つまりは先程の訓練でセキュリトロンが手当たり次第に撃ちまくっていたミサイルやグレネードも含まれるわけでその費用は膨大に膨れ上がっていた。

 

「あ…… そんな…… 私は指揮官の為を思って」

 

 その現状を原因を作ってしまったトカレフは自身のしでかしたことに気が付き膝を折り崩れ落ちる。

 もし失敗しても自分達人形がバックアップから立ち直るだけ、そう思っていたが、イエスマンの提示する額は正式な指揮官でも簡単に支払いきれる額を大幅に超えていた。

 

 だがそこでヘリアンから予想外の提案がされるのだった。

 

「その請求額分は本部から、もしくはそれに不都合が起こるのならば私のポケットマネーから支払わせてもらう」

 

「えっ!」

 

 まさかの助け舟に驚く少年指揮官、そしてヘリアンの突然の意外な発言に護衛役としていたFive-sevenは小声で隣のFALに耳打ちする。

 

「合コンに負け続けてついに部下に恩を売って漁るだなんて、よほど追い詰められてたのね」

 

「でもさすがに年齢差が厳しくないかしら、それに本部資金を動かすだなんてもはや職権乱用だし」

 

「……お前等聞こえてるからな。 後で覚えとけ」

 

 コソコソと言いたい放題に言い合っている二人の護衛に対して額に青筋を立てるヘリアンだったが、その後にコホンと咳払いし真面目な表情に戻す。

 

「つまりこの基地の指揮官の負債はなしということだ。 わかったらとっとと失せろ」

 

「なんとも太っ腹ですね! ええ、もちろん支払いさえして頂ければ私共にとってはなんの問題もありませんとも!」

 

 支払いで色々と揉めるのではと思われた交渉だが、意外なことにイエスマンはそう言い終えると早々に他のセキュリトロン達を引き連れてあっさりと基地を去っていった。

 モハビ・エクスプレスとしては支払いさえ確実にされるのならば問題は無いということらしい、口約束とはいえグリフィンの上級代行官であるヘリアンの発言力はそこまで大きいものなのだ。

 

 

 その場に残ったグリフィンの面々、特にこの基地の指揮官である少年と人形達の気の落ち込みようは大きいものだった。

 

「申し訳ありません指揮官っ! 私の勝手な進言でこのようなことに!」

 

 危うく自身の独断のせいで指揮官に大きな負債を抱えさせるところであったトカレフは大きく頭を下げて少年指揮官に謝る。

 

「い、いや…… いいんだトカレフ。 それを許可したのは僕だし、結局はあのロボットをここに連れてきたのも僕の責任なんだ」

 

 謝るトカレフの肩に手を置いて宥めながら少年指揮官はヘリアンの方を向き礼をする。

 

「ですから今回の件は僕が勝手に──」

 

「いや勘違いしてるようだが、別に今回の件は君が違反を起こしたわけではない。 グリフィンは別に他社からの協力や融資に対して罰則するような規則はないしな」

 

 そもそもグリフィンの基地は運営に関しては各々の指揮官は個々にかなりの裁量権があり、担当する基地の資金のやり繰りを含めて束縛はかなり緩い。

 というか本部としてはそれぐらいは各自で賄ってもらわないと困るのが実の所である。

 正式な指揮官にまだなれていなかった少年指揮官はそれ故に今回の問題に頭を悩ますことになったとも言えるが。

 

「だが今回は選んだ相手が悪かったな…… 本部内を連中に我が物顔でうろつかせることになったのは私のせいでもある。 本当に君達には迷惑をかける……」

 

「い、いえ、そんな…… 本当に助かったのは僕達のほうです!」

 

 

 

 その後はヘリアンは少年指揮官を正式な指揮官とし、イエスマンからの請求も立て替えることを約束した後に二人の護衛共に本部へと帰還していった。

 その時、帰還しようとするヘリアンの後ろ姿を見つめながら少年指揮官は人に対しての敬意というものを初めてヘリアンに対して抱き、この恩は一生忘れまいと心に誓ったのだった。

 

「あの指揮官、ヘリアンにすごく熱い眼差しを送ってたわよ~」

 

「なっ、なに! そうなのか! い、いやぁまいったなぁ!」

 

「その気はないとか言っときながら、にやけてるわよヘリアン」

 

 帰還中のヘリの中、Five-sevenの言葉にだらしない顔をするヘリアンに呆れるFALだった。

 

(そもそもあの顔付は恋慕というよりは敬意と忠誠って感じよね)

 

 

 後にその少年指揮官はヘリアンに近づくために驚くべき大戦果を上げる指揮官となる。

 ヘリアンに対する思いは本物であったが残念ながらヘリアンが期待するような恋心からの慕われかたではなく、少年指揮官が抱くのは敬意からの絶対の忠誠心であったという。




残念ながらヘリアンさんに出来たのは恋人ではなく絶対の忠誠を誓う部下でした。


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サリエント・グリーン

「私は遠慮しておきます」

「…本当に食べてしまったのか?(ニヤリ」


 L38地区地下での騒動の後、人形達は地上のレジャー施設跡地に顔を出すことが多くなった。

 あの後わかったことだが、実の所は地下で労働に従事する限りは自由にしてよかったらしく、外に出ようと別の地区に行こうと運び屋は気にするつもりは無かったらしい。

 しかし大佐はそれを意図的に伝えず地下に閉じ込めていたのだった。

 結局のところは運び屋の放任主義のせいであったり、外に出ようとしていたとしても攻撃的になっていたロボ・スコルピオンに襲われていただろうから、意図せずとも大佐は人形達を危険から遠ざけていたことになるが……

 

 だが人形達が外へ出入りすることに苦情を訴える者がいた。

 地下への出入り口となる展望台内で研究をし続けているDr.モビウスである。

 

「お前達人形が毎回出入りする度に騒がしくて研究に集中できん!」

 

「えー、でもここしか出入りするところがないよ」

 

 偶々地下へと続く展望台内の出入り口から外へでようとしていた所を、空中に浮かぶ脳味噌ことモビウスに引っ掛かり苦情を言われるスコーピオン。

 こういう時のモビウスは非常にめんどくさい。

 ドラッグでハイになりすぎている時もめんどくさいが、研究者として集中している時も神経質な気質になるからだ。

 まぁ、M3によって大佐からの締め付けから解放された人形達がそれまでの反動かハメを外し過ぎているというのもあるが……

 

「そもそもお前達はこの世紀の科学者Dr.モビウスをなんだと思っとるんだ! やれ修理しろだの作ってくれだの、そんなものはED-Eにでも頼めばいいのだ!」

 

「あ、あはは…… いつもそこにいるから、みんながつい頼んじゃうんだと思うよ」

 

「ならばそこらにいるMr.オーダリーに直接言ってやらせればいいだろう!」

 

「あいつらMr.ハンディー型だからねぇ、だから避けてるんじゃないかな……多分だけど」

 

「ふん、戦術人形とやらが聞いて呆れるわい」

 

 モビウスの言うMr.オーダリーとは大佐のようなMr.ガッツィーと同じMr.ハンディーのバリエーションモデルの内の一種である。

 主に地下内の人形やロボット、人間(ロボトミー)の検診や修理治療を行い、またモビウスがしている研究のサポート等もしている。

 別に人形に対して攻撃的というわけではないのだが、Mr.ガッツィーである大佐やその周囲にいるMr.ハンディーと同じタイプのロボットである為、彼女達人形は大体は自ら近づこうとしないのだ。

 最初はモビウスも見た目のせいもあり避けられていたのだが、人形達の中でのMr.ハンディー型への風評に比べれば宙を浮く脳味噌のほうが断然真面に思えたようだ。

 

 だがモビウスがスコーピオンに対して文句を言い続ける中、床に開いている地下への出入り口から新たな乱入者が唐突に飛び出し現れる。

 

「あ! いたいた! モビウスさんに相談があるんだけど~!」

 

 現れたのは戦術人形のSPAS-12だった。

 地下への出入り口から出てきたかと思うと早々にSGタイプ(ショットガン)特有のパワーとその豊満な肉体で詰め寄られ、その勢いで跳ね飛ばされそうになるモビウス。

 

「うぎゃあぁ!? やめんか! 残りのモニターまで壊す気か!」

 

「あっ、ごめんなさ~い! 大丈夫?」

 

「いきなりどうしたのさ、いったい」

 

 スコーピオンはいきなり現れたSPAS-12に聞くと、返ってきた答えは実に彼女らしいともいえるものだった。

 

「いい加減にスープパスタ以外のを食べたいのよ!」

 

「スープパスタ? うどんのこと言ってるの?」

 

 SPAS-12が訴えてきた内容、それは地下内で食事として出されているものが一種類しかないという事情についてだ。

 地下内の唯一の食堂で調理をしているプロテクトロンことタカハシが振舞うヌードルは、汁と麺のみのシンプルなもので盛り付け等の他の具材は一切入っていない。

 そしてタカハシはそれ以外の料理を作ることは無い、いくら人形が食事をしなくても充電で補えるとはいえ食べることが大好きなSPAS-12は我慢ならなかったらしい。

 

「せめてもう少し違うメニューとかほしいんだよ!」

 

「だからなんでそういうことをこっちに言ってくるんだ! 人形なんだからそこらに転がってる核分裂バッテリーで充電でもするか、メンタスふりかけて食べてればいいのだ!」

 

「いや、いくらなんでもそれはM3さんでもしないよそれは……」

 

 モビウスにさすがにツッコんでしまうスコーピオン。

 

 ちなみにM3の件に関しては風評被害というではなく暇を見てはメンタスをよく口に放り込んでるのをよく目撃されてるせいでもある。

 最初は気付け薬のつもりで一粒二粒と服用したりしていたM3だが、気が付けばお菓子感覚で口にするようになっていた。

 中毒ではないのだが、完全に依存症のそれである。

 

「とにかく! せめてなにかトッピングとか付けてほしいんだよ!」

 

 

 

 

 

「え、そんな理由で呼ばれたのボクって」

 

 ステルススーツMkⅡことステルはモビウスから呼び出され地下の食堂に来ることになったのだが、食堂内で待っていたのはSPAS-12とスコーピオン。

 呼び出した本人であるモビウスはいない、つまりは面倒ごとを押し付けられたのだと悟るステルは呆れながら溜め息をつく。

 中身のダミー人形は表情も口も動かないので正確には溜め息のような声を出しているというのが正しいが……

 普段からステルは人形達に対して割と親しく接しており、同じような人形の見た目をしている為か相談や頼られることが偶にあったりするのだがそのせいで適任だと思われたのだろう。

 ちなみに今日のステルの中のダミー人形は92式であった。

 

「モビウスさんったら酷いんですよ! こんなもの渡してきただけであとは知らん顔して無視するんです!」

 

「あれって顔なのかな?」

 

 ぷんすかと怒っているSPAS-12とどうでもいいことに態々つっこむスコーピオン。

 そして食堂のテーブルの上にはいくつもの緑色の液体を入れたガラスの瓶容器が散乱しており、それをみたステルは瓶を一つ手に取ると蓋を開けて指を突っ込む。

 中は液体というよりはドロドロとした粘度の高いペースト状のものだった。

 

「うわ、なつかしいもの出してきたね。 ボクは飲食とかには無関係だからサリエント・グリーンなんて久しぶりに見たよ、彼が持ち歩いてた時以来かなぁ」

 

「こんな緑色のドロドロしたものをトッピングにしろとか食べ物に対しての冒涜です!」

 

「というか別に人形ならわざわざ食べなくていいんじゃないの?」

 

 そんなの人形権侵害です! と抗議するSPAS-12だが次にステルが言った言葉で態度を一変することになる。

 

「まぁまぁ、これは熱を加えて少し加工する必要があるんだよ。 そのままでも食べれるけどね。 タカハシ、ちょっと借りるよ」

 

 そう言いながら食堂の奥に控えていたタカハシから持ち運び式のコンロを借りて持ってきたステル、相変わらず「ナニニシマスカ」としかタカハシからは返事はこなかった。

 

「えっとたしか他に付属してるのがあったはずだけど……あったこれだ。 この薬を入れてから温めると──」

 

 ステルは瓶と一緒にテーブルに散らばっていた錠剤やアンプル薬をいくつか選んで瓶の中に放り込みコンロの火を入れて温める。

 するとどうだろうなんと緑色のドロドロでベトベトであったはずの液体が徐々に形を変えていき、ついには植物の実ハラペーニョへと姿を変えたではないか。

 

 突然目の前で起こった手品のような光景に驚くSPAS-12とスコーピオン。

 

「おー! す、すごい! どうなってんのこれ!」

 

「他にも入れる薬の種類とか分量を色々変えて試してみるといいよ、色んな野菜や植物になるはずだし」

 

「やった、ついにこの味気ない食堂のメニューに彩りが増えたよ!」

 

 

 こうして地下の食堂でタカハシの作る味気ないヌードルにセルフサービスで野菜をトッピングすることができるようになる。

 だが食への追求を妥協しないSPAS-12、後にリリーの牧場農園へと足を踏み入れ弟子入りするまでになったのだが……

 これにより更に食堂メニューに肉類が増え、人形達ことD班の中でSPAS-12は食の救世を絶えず語り継いだという。

──参考文献 民明書房刊 「ドールズフロントライン・サバイバルガイド」より




どうやってサリエント・グリーンを他の種類に生成し分けるのだろうって考えたんですが、数種類の何か別の薬品を組み合わせて入れる、ねるねるねるね方法ってことにしときました。
実際にはどうなのかはちょっとよくわかんないです。


【サリエント・グリーン】
ビッグ・マウンテンが造り出したネバネバベタベタした液状の生命の奇跡だ、ベイビ!
緑のドロドロでネバネバなペースト状の液体で火にくべたりして熱して温めると凝固して様々な植物に変容する。
そのままでも食べれるので、固形物が食べれない状況でも重宝される。
名前の元ネタは映画「ソイレント・グリーン」からきているが純正な植物性由来の物質であり、別に原料が奇妙な肉だとかそういうことは一切ない。


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Atom Bomb Baby

ムメイさんの【カフェD08へようこそ!】へ、運び屋がまた迷惑を掛けに行くようです。

急にFallOutネタに触れていたの見たら書きたくなったんや……
ということで、挿入投稿しときます。


怒られろ。


 D08地区、ここもまたG&K(グリフィン)が管理する厄介ごとが絶えない土地だ。

 この地区のもう一つの注目すべき点としてカフェがどこもクオリティーが高い店が多く、カフェの激戦区になっているのだとか……

 

 そこを輸送トラックがこの地区にあるカフェを目指しながら走っていく。

 M3はトラックを運転する運び屋の隣で窓から外を見渡す。

 既に街から離れ目にする人工物がまばらになっていく中で道の先に小さく施設が見えてくる。

 思ってた以上に大きい施設のようだ。

 

「や、やっぱりやめましょうよ…… この前あのコーラ売りつけたってグリフィンからクレームが来たばかりじゃないですか」

 

 今回の目的は運び屋がM4A1にヌカコーラを大量に売りつけていることがバレてしまい作りすぎて余った在庫を売り捌くために営業に来たのだ。

 自動販売機と化したセキュリトロン達が減らしてはくれているが、未だに減らない大量のヌカコーラが邪魔だと皆々から苦情の末追いやられ運び屋の部屋に溢れている。

 しかし、いくらなんでも大量発注しておいてキャンセルとは余りに酷いのではないだろうか……

 キャンセル料はしっかり迷惑料込で回収しときながらも運び屋は思うのだった。

 

「し、しかも営業……な、なんて私には無理……です」

 

 そして今回のもう一つの目的、それはM3に営業仕事をさせることである。

 普段は事務仕事から雑用等をそつなくこなすが、やはりどうにも弱気で引っ込み思案なせいでこういった事はどうにも向かずさせる機会がなかったのだがM3がメンタスでドラッグハイになった事件から、もう薬の力借りてでもいいから営業させようと運び屋の無慈悲な決断がなされたのだ。

 実際の所、運び屋もだがイエスマンが営業をすると一部からかなり反感を買いやすいことが多い為に女性型の人形であるM3には一人で営業が出来るようになったほうがいいんじゃないかとラウルが指摘したのもあるが……

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ~♪ カフェD08へようこそ! 二名様ですね」

 

(え、え? なんですかあのサイズ…… というかアレって鉄血の人形じゃ)

 

 到着して目的のカフェに入ったM3の目に入ったものは特大のバストサイズであった。

 何故かこのカフェで働いているメイド服人形達の胸が特大なのだ、そのせいで普通に混じっている鉄血人形の存在が霞む程には……

 だが席を案内されると、その点に目をつぶれば実に快適なカフェだと言えた。

 常連と思われる他の客も実にニコやかに……いや、あれはメイドたちの胸を見ながらニヤけているようだ。

 

「ではご注文承りますね♪ あー……それと今度いらっしゃるときはそういった服装は遠慮してもらえると助かるかな?」

 

 どうやら運び屋の姿がこの場にはよろしくなかったらしい、いつも着ている古びて汚れたレンジャーコンバットアーマーと落書きされたヘルメットにガスマスクはたしかに華やかなカフェの景観を十分に害していると言えた。

 だが言われてる本人はまったく無関心で、それどころか隣にあったジャンク屋にも顔を出してみるのもいいかもしれないとか関係ないことを考えてたりする始末。

 

「い、言われてますよ運び屋さん……え? いかがわしい衣装来てる連中に言われたくないって……ち、ちょっとそういう言い方は」

 

 運び屋の言い方に、対応しているメイド衣装の人形も若干顔がヒクヒクと引き攣っている。

 まぁM3も目の前の人形がただでさえ豊満な胸が低身長のせいで更に大きく見えるのに、やたらと胸を強調するような衣服であることには内心同意していたが、だからといって平然とそれを本人の前で言うあたりやっぱりこの運び屋はどうしようもなく度し難く失礼だと思う。

 

(というか、この状況からとか私に営業させる気まったくないじゃないですか! 本当にもぉー!?)

 

 その上に運び屋の言葉が耳に入った周りの人形達もなんとなく険呑な空気を漂わせ始めている。

 微妙な空気になりつつある中、M3は思わず懐に締まっているメンタスを気付けとして口に放り込み必死に間を取り持つ。

 

「す、すいません! この人には言って聞かせときますからとりあえず注文は後程で……」

 

「……はい、ではご注文が決まりましたらお声がけくださいね」

 

 そう言いながら下がっていった店員の人形だったが、やはり印象の悪さは拭えなかったようで妙にこちらを警戒されているような気がしてならない。

 特に運び屋の腕に装着されているデバイスであるPip-Boyを店員が見ていた時の反応は明らかにおかしかったように思えた。

 

「はぁ…… とりあえず注文を決めましょう。 このカフェのラインナップを見れば需要があるかも判断しやすそうですし」

 

 はたしてこのカフェにあのコーラを売り込めるのかどうか、M3としてはこの店には需要が無いと判断してすぐさまにこの営業活動を切り上げたかった。

 メニューを見るとこのご時世ではなかなか容易くありつけるようなモノでは無いにも関わらず、実にリーズナブルなお値段に息をのむ。

 外界にあまり触れたことのなかったM3だが明らかに品質以上の破格だとわかってしまう。

 モドキものだったとしてもそれなりに値段がするはず、特に乳製品等はこのご時世かなり高価だったはずだ。

 

「むしろ乳製品だけが妙に値段が……近くに見えた農場のおかげなんでしょうか」

 

 とりあえず注文後にダメもとで頑張って営業をすることを決意しつつも、今はこのカフェの味覚を楽しんでおこうとM3はメニュー表に目を走らせるのだった。

 だから目の前で勝手に自前のコーヒーを入れ始めようとする運び屋なんて目に入らない、見えないったら見えないのだ……

 

 

 

 

 

「うーん……ダーリンに確認取ってからじゃないと私じゃ判断できないかなぁ」

 

「そ、そうです……か。 わかりました」

 

 最初にカフェで対応してくれた人形、HK417というらしい彼女はM3に若干の申し訳なさを感じさせる風に伝える。

 M3もすんなりと売り込んでそのまま話が進むとは思っていなかったが、やはり初印象のせいもありいい返事は貰えなさそうだと気落ちする。

 というか何故に乳児に授乳しながらの対応をされているのだろう……

 

「個人的にはすごくあのコーラとか運び屋の事は気になるんだけどね、んっぅ!」

 

 417が話している所に抱えている乳児が勢いよく胸に吸い付いてくる。

 

「げ、元気なお子さんですね…… まさか人形が子供を産めるとは知りませんでした」

 

「そこはいろいろあるんだけどね。 あ、ごめんね、ちょっと育ちだかりで、んっ!」

 

 艶やか417の声にM3のほうがなんだか恥ずかしくなるのだった。

 

「そういえばあの運び屋さんはどこいったの?」

 

「……お隣のジャンク屋でも勝手に漁ってるんじゃないですかね」

 

 いい加減に運び屋のフリーダムな行動に慣れてしまったM3は遠い目をしながら悟ったように答える。

 だがそこへ、いつの間にか姿を消していたその運び屋が横を勢いよく走っていった。

 そして遅れてその後を年端もいかない小さな子供たちがワラワラと追いかけていく。

 

「あ、あんなに必死に走ってる運び屋さん……初めてみました」

 

「な、なにごと…… あんた達なにしてるの?」

 

 417が子供たちを引き留めて聞いてみると……

 

「なんか逃げるんだもん!」

 

「ねー?」

 

 どうやら、とにかく近づこうとするたびに子供たちから距離を取ろうと運び屋が逃げるのでそれを面白がって鼬ごっこになっていたらしい。

 

「まさか運び屋さん、子供が……苦手なんですか?」

 

「えっ、マジで?」

 

 M3の言葉に運び屋は何も語らず顔を逸らし、417に戻るように言い聞かせられた子供たちが戻っていくのをただ見ているだけだった。

 

 

 

「……意外です。 運び屋さんなら子供相手でも平然とゴアバッグにするぐらいやる人だと思ってました」

 

「いや、それもどうなの……」

 

 M3に酷い言われようの運び屋だが、今も乳児を抱えた417とは距離を取ろうとするぐらいには本当に子供が苦手らしい。

 

「こんなにかわいいのに、ほら!」

 

 417は見せつけるように我が子を見せつけるように近づく、だが運び屋は仰け反りながら離れようとする。

 だが、ついに壁際に追い詰められ目の前に迫った時、運び屋はついに行動に出る。

 

 なにをとち狂ったのか、いや元々とち狂っていたのか運び屋は手斧を取り出して襲い掛かる。

 

「ちょ、なぁっ!?」

 

「ち、ちょっと──ー!? 運び屋さんなにやってるんですかっ!?」

 

 突然の運び屋の行動にM3が叫び、417も必死に子供を庇おうと遠ざけようとする。

 

 そして、その拍子に417が身体を捻ったことにより彼女の豊満すぎる胸が人によっては幸といえるのかか不幸といえるのかわからないが……運び屋の顔面に叩きこまれたのだった。

 

 ゴキリッ、と何かが折れる音がした。

 

 

 

 

 

「それでこの人形さんはどう料理しようかしらぁ?」

 

「この前やったゲームみたいにゴアバッグにしようよ♪」

 

「う、うひぃいい!? すいませんごめんなさいゴメンナサイッ……」

 

 運び屋の暴走に気付いて駆けつけて来た他の人形達が銃を構えて包囲する中、更に鉄血人形のデストロイヤー(?)とドリーマー二体に挟まれ、M3は必死の命乞いをする。

 その様子に当事者である417は苦笑をしながらドリーマー二人を抑えつつ宥める。

 

「あー、M3ちゃんは勘弁してあげて」

 

「クヒヒッ……それでこっちの不届き者はどうするのかしら?」

 

「というかこれはすでに死んでない?」

 

 そして騒動を起こした張本人である運び屋は首がヤバい方向に曲がったまま倒れている。

 

「も、もうこんな人好きにしちゃってもかまいません! 本当にもうっ! もおっ!」

 

 いい加減振り回されるのに限界が来ていたM3は運び屋を何度も足で死体蹴りしまくる。

 そんなあんまりな光景を417を含め周囲の人形達は何とも言えない表情で見ているしかなかったのだった。

 

「もうそこらへんにしときなよー」

 

「いいえ! これぐらいしとかないといつ息を吹き返すかっ──きゃぁ!?」

 

「本当に生き返ったー!?」

 

 何度か蹴られた後、突然M3の脚を掴みそこらに放り投げつつ当たり前のように平然と自分で首をゴキゴキと直しながら起き上がってくる運び屋。

 周囲の警戒感が一層強くなる中、だが運び屋はさも気にしたような気配もなく言う。

 

 (Speech)をしようと──

 

 

 

 後にこのカフェの責任者のディーノ・タカマチと運び屋による何らかの交渉があったようだが、投げ飛ばされ気絶していたM3はあずかり知らぬこととなった。




怒られた(物理)

メタ的に言うと運び屋にとって子供に対して基本的には危害を加えることができなく、乳児に関しては見たこともない未知の存在のなのでめっちゃ警戒してるわけです。

向こうのディーノ氏との交渉内容は迷惑かけたお詫びに情報とかお好きに運び屋から引き出してね!
尚、運び屋的には欲望に忠実な人間は好きなので割と好印象のご様子(KBS並感)


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Come Fly With Me

サブタイトルが分かった人はNVをかなりやりこんでる人だと思う。


 ──ああ、この世界は地獄だろうとも。

 コーラップスと、核による土壌の汚染、そんな世界で人間と人形と異形が入り混じって殺し合いをしている。

 

 人間は人形を使い、生存を勝ち取ろうと躍起だ。

 

 君達人形は人間から解放されるか服従か、それとも共存かの選択肢に迫られつつある。

 

 ならば異形は? 

 異形と蔑まれる我々に選択肢はないのか、ただ狩るか狩られるかの立場しかないのか? 

 

 否、理性を捨てざる得なかった者達も理性ある我々にも、また別の選択肢があるべきだ。

 

 この地獄の釜の中で、この理不尽に抗う気があるならば我らが同盟に加わり給え、我々は窯の中から抜け出し再び大いなる旅路(グレートジャーニー)を渡り互いの安息の地を目指そう──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昏い森の中で4つの影が互いに近づき合流した。

 

 その場に集まったのはAR小隊の面々、M4A1、M16A1、M4 SOPMOD Ⅱ、ST AR-15、が其々、銃を構え周囲を警戒しながら見回すが暫くして異常がないと判断し、全員が銃をおろして会話する。

 

「なーんにもなかったよ。 本当にここにいるのかな?」

 

 赤い目に黒い服装とヘッドギアが特徴的なSOPMODはつまらなそうな表情で報告した。

 

「こっちも同じね、墜落現場と思わしい所は見当たらなかったわ」

 

 続いてAR-15が報告、更に続いてM16も報告するが……

 

「駄目だな、実に静かなもんだ。 気配すらない」

 

「ですが指揮官はこの周辺であるはずと言っていました。 墜落したヘリ一機の痕跡を私達がわからない程に消しきれるとは思えません」

 

 それに答えるのは小隊のリーダーであるM4、暫く考える素振りを見せるが首を振り否定する。

 

「……M4、指揮官を信頼するのはいいがその言葉を鵜呑みにしすぎるのはよくないぞ。 良き伴侶となりたいなら頼るだけじゃ駄目だ、時には間違いを指摘して正してやらないとな」

 

「姉さん! だからそういうことをこういう場で態々言ってからかうのはやめてっ!」

 

 M16の言葉に急に顔を紅くするM4はM16に慌てながら食って掛かるのを尻目にSOPMODは疑問に思ったことを口に出す。

 

「毎回思うんだけども、どうしてM4は指揮官との話を恥ずかしがるの?」

 

「……そうね、M4はSOPMODみたいに素直な態度がとれないのよ」

 

「ぶぅ~! それじゃ答えになってない!」

 

 AR-15の答えにSOPMODはふくれっ面になりながらぶー垂れると、そういえば……と思い出す。

 

「ところでROは?」

 

「そういえば遅いわね、いつもこういう集合時刻とかは正確に守るのに」

 

 AR-15が呟くとその直後、全員に通信が入る。

 

『こちらRO635! 墜落現場らしき場所を発見……しかしヘリは見つかりませんでした』

 

「見つからなかった?」

 

『墜落現場は見つけたのだけども、墜落していたのは別の物でした……しかも落ちた時期はかなり前みたいです』

 

「おいおい、それじゃ何を見つけたっていうんだ?」

 

 RO635の通信内容を聴いていたM16の疑問に返ってきた答え。

 

『恐らくはロケットの残骸です、しかも一機だけじゃない…… でもかなりの時間が経った後みたい』

 

「ロケット? なんだってまた…… 益々よくわからない事態になってきたな」

 

 

 

 ROは通信を終えるとそのロケットの残骸の方へ向き直る。

 残骸を観測するセンサーから放射線量に対しての警告音がROの電脳内に鳴り渡るのをシャットダウンして遮る。

 

(かなりの放射能汚染が検出されますね)

 

 今回の作戦にてROを含むAR小隊はこの地区で消息を絶った輸送ヘリの捜索任務に駆り出されていた。

 元々他のAR小隊メンバーと別行動をしているROだが、今回初めて同じ任務にあたることとなったのだった。

 

「しかしロケットだと皆には伝えましたが、これは本当にロケットとして機能するのでしょうか」

 

 他のAR小隊のメンバーには目の前に放棄されているものがロケットと報告したものの、ROはいささか疑問に思えていた。

 たしかに見た目はロケットそのものなのだが、その見た目は実用性を無視したようなデザインでまるで子供の玩具を彷彿とさせるような丸みを帯びたコミカルなデザインであったからだ。

 ロケットのハッチゲートは空きっぱなしの状態で放置されていた。

 

「ですがこのロケットの中にいた何者か達が外にでていったのはたしかなはずで っ──!」

 

 独り言ちていたROだったが、突然何かの気配を感じ急いで近くの木の陰に隠れる。

 息を潜めながら銃を握る、気配はそのままこちらに近づいてくるのがわかる。

 この辺りは鉄血の勢力圏内に近く、探しているヘリが鉄血に攻撃されて墜落したとしても不思議ではない。

 もし鉄血の巡回兵に遭遇したとして今はRO一人でダミーも連れていない、戦闘をするべきか避けるべきか考えを巡らす。

 

 どうするべきかと思惑しながらそのまま暫く身を潜めて待っていると、その気配の正体が姿を見せた。

 だが現れたのはROが予想していた存在とはまったく違うものだった。

 

 ソレは人の形をしていたが服は着ていないも同然のボロを身に着けただけで、そこから覗く全身の肌は火傷を負ったように爛れて腐ったようにも見える、顔も鼻や耳が削げ落ちて酷く醜かった。

 

(E.L.I.Dがこんな地区にまで!?)

 

 ROは今までにE.L.I.D(広域性低放射感染症)と呼ばれる存在とは遭遇したことはなく、内心動揺していた。

 この世界に蔓延するコーラップスによる災害の一端であるE.L.I.D、その脅威度は鉄血の人形達とは比べ物にならない程だという。

 圏外から遮断する為の壁から抜け出てきたのか、それともコーラップスによる被害で自然発生したのか、

 どちらにせよグリフィンのようなPMCではなく本来は正規軍が相手にするような存在だ。

 

 一人で対応するのはマズイと考えたROは他のAR小隊と合流する為に後退しようとゆっくりと足を一歩下げる。

 だが直後に〈ガチンッ〉と金属音がしたかと思えば、下げた足に激痛が走る。

 

「っぐぅ! っこれはベアトラップ!?」

 

 足元の茂みに仕掛けられていた罠に足が取られ転倒するRO、そしてその音に気付いたのかE.L.I.Dと思われる怪物が一気に襲い掛かる。

 怪物の予想以上に速い動きに一気に距離を詰められ、銃を撃つ前に組み付かれてしまう。

 

「グゥガアアァアァッ!」

 

「ぐっ! くぅっ、このっ!」

 

 罠に足をとらえられながらも銃を盾にして抵抗しつつ、そのまま殴りつけ引き離して銃撃で弾丸を浴びせまくる。

 

「ギッ、ガァッ!」

 

 銃弾を受けた怪物は最後にヘッドショットが命中して絶命、ピクリとも動かなくなった。

 標準を怪物に合わせたまま数秒警戒するが、完全に生命活動を停止したと判断して銃を下す。

 

「……とにかく他の皆にも知らせないと」

 

『銃声が聞こえたが何があったRO!』

 

 他のAR小隊に連絡を付けようとしたタイミングでM16から通信が入ってきた。

 

「おそらくE.L.I.Dと思われる敵と遭遇しました。 トラップによる負傷をしましたが敵は沈黙させました」

 

『E.L.I.D? 何故こんな地区に……』

 

「わかりませんが、あのE.L.I.Dにヘリを落とせるとは思えません」

 

『墜落原因は鉄血による攻撃か何かで、E.L.I.Dがいたのは関連性はないのかもしれないな。 とにかく今は一早く合流することにしよう……銃声を聴いたのは私達だけじゃないはずだ』

 

 ROはM16と合流の手筈を打ち合わせた後に、まずは足に食いついているベアトラップを解除しようとする。

 人形の力からしたらベアトラップを外すのは実に簡単だったが両手を使わないとはずせない、自身の半身となる銃を置いて罠を外そうとしたその時が隙となってしまった。

 

「またか、どうしてお前らはそろいもそろって女のスムーズスキンなんて被ってやがるんだ? なぁ、おい?」

 

 気付けばROは頭にハンティングライフルを突きつけられていた。

 銃を突き付けている相手は先程撃ち殺した怪物と同じように肌が爛れており、鼻や耳が削げ落ちて酷い顔を歪めながらトラップによって負傷して機械部分を覗かせるROの脚を睨んでいた。




ここらへんからE.L.I.D等のドルフロの重要な設定がFalloutの設定と一緒にコンクリートミキサーにかけてぶちまけるような展開なってくると思います。

まぁ、クロス物の二次創作ってことで許してクレメンス。


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Come Fly With Me

ということでNVやったことある人なら大体は関わることになるであろうサブクエのキャラクターの登場です。
ついでに欲張って他のも登場です。


 険しい森の中、獣道すらない中をROは銃を突き付けられながら連れて行かれた先は放棄され廃墟と化していた病院であった。

 廃病院の周囲や内部には皮膚が爛れ酷い顔の者達が何人かいたがその全員がローブ服を着ている者達ばかりで、それ以外の衣服を着ている者は、収納ポケットがいくつも付けられた多機能ベストのような服装を着た銃を突き付けている人物とこの場では異邦人であるROだけであった。

 そしてベアトラップで怪我をした足を引きずりながらも歩かされていると暫くして屋内のある部屋へ入れられた。

 

「大人しく進みな人形、下手なことすると引き金を引くぜ」

 

「……くっ!」

 

 

 

 ROが部屋に入れられるとその中で待っていたのはまたも爛れ顔のボロボロになったスーツを着た人物だった。

 だが他の者たちと大きく違う部分、その爛れた皮膚の所々が緑色に淡く発光していることにROは内心驚く。

 

「残念ながら手荒い歓迎になったようだ放浪者(wanderer)。 怪我した足で立ち話も辛いだろう椅子に掛けたまえ」

 

「こいつは人形、つまりはロボットだぜ? そんな気を遣う必要ないだろう」

 

 ROを椅子に座って身体を休めるように促すが、ROに銃を突き付けている者はその必要性はないと言い放つ。

 だが緑色に肌を光らせた人物は首を横を振り、諭す様に落ち着いた声で宥める。

 

「ハーランド、君は少し相手に敬意を払うべきだ。 君の言うように彼女は機械なのかもしれないが、その彼女がなりふり構わず暴れていたら君も無事ではなかった」

 

 ハーランドと呼ばれた銃を突き付けている者は舌打ちをした後、ROに向けていた銃を下すのを見届けた後に緑色に発光する人物はゆっくりと落ち着いた口調でROに話しかける。

 

「一応は自己紹介をしておこう。 私の名はジェイソン・ブライト、稚拙ながら我々同盟の纏め役をさせてもらっている。 よければ君の名前を聞かせてくれないかね?」

 

「……I.O.P戦術人形、RO635です」

 

 緑色に発光し続ける人物、ジェイソン・ブライトは自ら名乗りROもそれに素直に答えたことがあたかも当たり前のように話を進めて行った。

 

「ありがとうRO365、さて実は君がここに連れて来られるのは以前からある程度は予見していた。 そして君は我々が何者で何故ここにいるのかを知りたいのだろう」

 

「ええ…… 正直な所、あなた達のようなE.L.I.D重症感染者が会話によるコミュニケーションを出来るとは初めて知りましたが話し合いができるというのなら申し分ない」

 

「よろしい、私も君の事情について幾つか質問がある。 もちろん答えられないのならばそれは構わないとも」

 

「……いいでしょう」

 

「ならこちらから質問しよう。 と言いたいところだが代わりに一ついずれ君が疑問に思うであろう事を先に答えてあげよう」

 

 ブライトの提案に乗ったROはどちらが質問を始めるかを問うと、落ち着いた調子のままブライトが話を続ける。

 

「まず君は我々をE.L.I.D感染者と勘違いしているようだが、それは全くの誤解だ。 むしろ我々グールはコーラップスによるE.L.I.D感染はしないと言ってもいい」

 

「……どういうことです? そもそもグールとは一体なんなんですか」

 

 ROは突然の話に付いていけないでいた。

 彼が自分たちがE.L.I.D感染者ではなく、また感染もすることがないという発言をどう受け止めればいいのか内心では混乱するばかりだった。

 

「人が放射能に対して適応進化したのが我々グールだ。 君の主人達と同じように人間さ、認めようとはしないだろうがね。 そしてグールは放射能に対して完全な耐性があると共に、吸収して肉体の代謝能力を上げ肉体を再生することができる。 おかげでコーラップスによる崩壊もそれが発する放射線のお陰である程度は耐えることが出来る……というのが私の持論だが」

 

「それは…… もはや人間ではないと思います」

 

「君達人形は特に人間との区別を明確化するだろうことはわかっている。 認めてもらえるとは思っていないがその思想が我々を差別し追い詰め、ついにはこの地に足を踏ませることになったのだ」

 

 ブライトは語る。

 自分達グールが迫害の対象になっていることに憂い、そして同胞を集めたコミュニティを作り遠い地からやってきたのだと。

 

 そしてブライトは部屋内にあったシャッターで閉じられた窓を開く、その窓からは病院内の病棟の光景がROの視界に飛び込んできた。

 

「ならば彼ら軽度感染者は、君からしたら人間かね?」

 

 見えるのはベッドや部屋の隅で横たわり苦しみ呻く人々、その全員が苦しみ呻いてブライト仲間であろうローブを着たグールに介抱されていた。

 そして苦しむ者達が初期症状のE.L.I.D感染者だということをすぐに察したRO、思わず無意識のうちに息をのむ。

 

「彼らもまた我々と同じように人ではなく異形だと切り捨てられた者達だ。 君達戦術人形はこの光景を見てどうする? やはり彼らは異形や危険分子かね?」

 

 E.L.I.D感染で苦しむ人々から目を逸らすことが出来ないRO、中には女子供どころか赤子すらいるこの光景。

 そもそも何故これほどまでに感染者がここに大勢いるのか──

 

「E.L.I.D感染者は漏れなく専用病棟に移されて治療を受けるはずです! 一体なぜここにいるんです!」

 

「感染を治療? 君はE.L.I.Dを治療する方法を、感染者とされた者達がその後どういう扱いをされるか知っているかね?」

 

 知っていると叫ぼうとした。

 だがROの電脳からもたらされる情報は実に曖昧なものだというのに気づかされる。

 

「え…… な、なんでっ」

 

「人間に奉仕するように造られた君達人形にはやはりそういった情報は開示されてないのだろう。 こちらの人間側の事情に都合の悪いものは特に……」

 

「なっ、何なのですあなた達はっ!? そもそも何が目的なんです!?」

 

 徐々にパニックになり始めるRO、だがブライトは落ち着いた声で言葉を返す。

 

「我々同盟はただ安息の地を目指しただけだ。 そして同じ境遇になりつつある者達も救ってあげようとも…… さて君からの質問は終わりだ。 今度はこちらの質問に答えてもらう、君がここへやってきた目的と一緒にいる仲間についてだ」

 

 ブライトはROを痛めつけてまで答えを吐かせるつもりは毛頭ないようだが、後ろで見張っているハーランドは別なようで再びハンティングライフルを構える。

 コッキングにより薬室に弾丸が装填される音がした。

 

「いい加減にどうでもいい問答にはウンザリだ。 とっとと答えろお前の仲間は何人だ? あの落ちてきた空っぽだったヘリと関係はなんだ? 答えないなら怪我してないほうの脚を撃ち抜く」

 

 銃を突きつけ苛立ちながらハーランドはROから聞き出そうとする。

 だがROはハーランドの言う()()()()()()()()という言葉に疑問を持つ、AR小隊に課せられた任務は消息を絶ったヘリの捜索だった。

 しかし、ふと気が付く──AR小隊にはヘリの目的や誰が乗っていたかは一切伝えられていないことに──

 

「そのヘリコプターを捜索するようにグリフィン本部からの指示があっただけです。 搭載者については何も聞かされてませんでしたが……」

 

「正確にはパイロットだけしかいなかったがな、駆け付けた頃にはフェラルが食い散らかしてやがったが」

 

「殺したんですかっ!」

 

「野蛮な兄弟がしたことについては申し訳なく思う。 だがそのパイロットはおそらく墜落時点で絶命していただろう」

 

 ヘリのパイロットの悲惨な末路に憤るROだったが、同時に次々と疑問が膨れ上がる。

 仮にもグリフィンのエリート部隊であるAR小隊に曖昧な情報通達がなされてた……すなわちそれは何らかの機密レベルの高い情報部分が伏せられているということだ。

 

(私達はヘリではなくそれに乗っていた存在を探す為に送り込まれていた?)

 

「おい、いい加減にちゃんと聞いてることに答えねぇと……」

 

 ハーランドはROの脚を撃ち抜こうと狙いを定める。

 だが、その直後思いもよらない方角から銃声がした。

 

 

 

 銃声はハーランドから放った銃弾ではなかった。

 そしてなんとその銃弾はハーランドの構えていたハンティングライフルを撃ち落としていた。

 

 そしてそれを放ったのは突然部屋に突入して割り込んできたのは、なんとあの404小隊のUMP9でだったのだ。

 

「9!? なんでここに!?」

 

「いいから! さっさとここを脱出しちゃうよ!」

 

 まさかの乱入者からの助けに混乱しつつも、ROは咄嗟にハーランドに体当たりし転倒させる。

 

「ぐぁっ! てめぇ!」

 

 咄嗟の事に受け身も取れず昏倒するハーランド、9はそのままハーランドとブライトに向かって銃口を向け引金を引いた。

 容赦なく鳴り響く銃声、だがUMP9から放たれた9㎜弾も更なる乱入者により阻止される。

 

 乱入者はハーランドとブライトの前に庇うように突如現れると、銃弾は見えない障壁により弾かれてしまった。

 

 その乱入者である白い人形は片目しかない視線を後ろのグール二体に向けながら片手で大鎌構える。

 

「予期せぬ事態が起きすぎている。 Mr.ブライト……あなたの交渉は終わり。 後は()()が全て処分する」

 

 




まーた、そうやって欲張ってキャラ増やして収集つかなくなるやつ。



【グール】
FEVというウィルスに感染した人間が放射能への適応進化した姿。
全身が爛れて腐ったような風貌で、体臭もまた腐臭がする程に酷い。
だがその対価として代謝が完全に停止し、回復することもまた劣化することもない。
見た目は変われど中身は人間のままなので性格は悪人善人様々であるが、脳まで放射能汚染が深刻化したグールはフェラルと呼ばれ理性もなくなり人や家畜を襲うことになる。
代謝が完全に止まっている故に、中には長い年月を生きているグールなども多く存在しており貴重な知識を秘めている者も少なくはない。

ちなみにラウルはグールであり、ブライトはそのグールの上位種である光し者とよばれる存在である。


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Come Fly With Me

ほら見た事かやっぱり収集付けれてないじゃないか。
せめてもうちょっと綺麗にまとめれる文章力がほしいなぁ……
なんか話とかキャラを割り込ませてばっかだなぁって自分でもわかってるんですけど、集中力が続かないんです。



 突如現れた404小隊のUMP9と白い人形、突然の二人の乱入者が対峙する。

 即座に行動に移った白い人形は自身の伸長をも上回る大鎌を片手で軽々と振り回しUMP9とROの胴体を狙い振りかざす。

 

「はやくRO! 逃げるよ!」

 

「っく! 後でしっかり説明してもらいますからね!」

 

 UMP9はROの手を引きつつ大鎌を回避、ついでとばかりに再び銃弾をくらわせようと撃つも、はやり見えない障壁に阻まれ白い人形に銃弾は届かなかった。

 

「無駄な抵抗」

 

 だがROに向かってUMP9が叫ぶ。

 

「RO! スタン準備!」

 

 その一言でROは瞬時に目と耳を塞ぐ、その直後に轟音と閃光が部屋の中を覆う。

 ROとUMP9は窓を突き破り廃病院の外へと脱出していったのだった。

 

 

 

 

 

 二人は廃病院を抜け出し必死に暗い森の中を走っていく。

 片足を負傷しているROにとってはかなりの負担になるが、ここで無理をせねば助からないのだから走るしかない。

 痛覚を遮断しながら必死に走る、きっとこの無理で足は丸ごとフルメンテナンスとなるだろうことにROは少し憂鬱になった。

 

「……それで、何故あなたがここにいるんです? なんとなく想像がついてきましたが」

 

「んー ちょっと任務途中でヘリが撃墜されちゃってね。 私達は咄嗟に飛び降りてなんとかなったけど」

 

 見捨てたパイロットには悪いことしちゃった、なんて軽い口調で言いながら隣で駆けるUMP9にROは顔を顰める。

 

「それが私達に捜索指令がきていたヘリということですか、搭乗者の情報が伏せられていたのも404小隊だったからと……パイロットは助けることはできなかったんですか」

 

「飛んできた攻撃が本人に直撃しちゃってどうしようもなかったんだ。 せめて遺体ぐらいは回収してあげたかったけど食べられちゃったみたいだし」

 

「ということは他の404小隊もここに?」

 

「飛び降りた時にはぐれちゃったけどいるはずだよ、途中から急に通信妨害で連絡が取れなくなっちゃったけど」

 

 そうUMP9はまたも軽く話を返すが、顔が笑ってるが目は笑っていない。

 404小隊の仲間、特に姉であるUMP45と別れることになったことに内心相当怒っているようだ。

 ROもハーランドと遭遇した際にAR小隊と連絡を取ろうとしたが無理だった。

 恐らく見つかった時点で周囲に通信妨害をかけられていたのだろう。

 ROは自身のミスをUMP9は暗に責めているようで、内心では自らの失態を恥じる。

 

「あ、それとはいこれ! ROの銃は取り返しておいたよ」

 

「っと……感謝します」

 

 罠にかかり捕まった際に奪われていたROの銃をUMP9は何時の間にやら奪い返していたらしく、投げ渡される。

 

「けど今は無暗に撃っちゃダメ。 居場所がバレるどころかそこらうろついてるあのグールって奴らまで引き寄せちゃうからね」

 

「404の目的はあのグール達の調査ですか?」

 

「本来の任務はここらにE.L.I.D感染者を集めている怪しい宗教団体の調査だったんだ。 結果は御覧の通り……」

 

 二人が移動を止め、木の陰から覗く先にはそのグール達が数体うろうろと彷徨っていた。

 その内の一体にブライトのように肌が発光した個体も確認できる。

 そのグール達は見えているのかもわからない濁った眼はハーランドやブライトのような理性を宿しているようには思えない。

 

「あいつらフェラルって呼ばれてたけど廃病院にいたグール達より頭は良くないみたいだね」

 

「ええ、一度交戦しましたがただ獣の様に襲ってくるだけでした。 ですがその反応速度は脅威ではあります」

 

 404小隊に課せられた任務はその宗教団体の正体を調べ上げることだった。

 怪しい人形達が関わっているという情報はあった……恐らくあの白い人形もそうだろう。

 だがグールという存在との遭遇は全く予期しておらず、様々な任務等をやってきた二人も慎重にならざる得なかった。

 

「とりあえず迂回しましょ──」

 

 ──ダァンッ! 

 

「ぐぅっ!?」

 

 突然に銃声がしROが倒れる。

 UMP9は肩から人工血液を噴き出し呻くROを引きずり狙撃を警戒する為に物陰に咄嗟に隠れた。

 顔を僅かに出してUMP9が周囲を確認するとハーランドと呼ばれていたグールを一瞬だけ視認した後すぐに戻す。

 

「大丈夫? この狙撃……あのグールか」

 

「うぐっ……なんとか、しかしこれではもう私は戦力としては期待できないかもしれません」

 

 

 

 狙撃が命中させハーランドは愛用のハンティングライフルを構えながら、二人が射線から逃れ隠れるのを視界にとらえていた。

 

「この森林は既に知り尽くしてる、手負いなら追うのも先回りするのも容易いもんだ」

 

「それでは後は私達が刈り取りを」

 

 後ろから声をかけるのはあの大鎌を持った白い人形だ。

 このまま切り込みを掛けようとする白い人形だがハーランドはそれに待ったをかける。

 

「まぁ待ちな、どちらにせよ俺の撃った銃声で感づいたフェラル共が人形共を炙り出してくれる」

 

 ハーランドは爛れた顔を歪めて呟くのだった。

 

 

 

「ガッァアゥルァアアァ!」

 

「ああもう! 最悪だよ!」

 

 次々と殺到してくるグールの頭を的確に撃ち抜きながらUMP9は台詞を吐き捨てる。

 ハーランドの放った最初の一発の音によりこちらに気付いたグール達が襲い掛かってくるのを接近される前に迎撃、だがサプレッサーを装備しているとはいえサブマシンガンの連射音によりその音に気付いたらしい付近のグール達がどんどん押し寄せてくる。

 ROも必死に迎撃するが負傷した片足と撃ち抜かれた肩のせいで酷い命中精度だったが、幸いにもグール達は唯ひたすら真っ直ぐに突っ込んでくるだけなので弾を当てること自体は難しくはなかった。

 

「いまならまだの9の脚なら逃げきれます! 私のことは構いませんからそのまま脱出してください!」

 

「私もそうしたいんだけど……ねっ! ……また泣いちゃうじゃん、指揮官が」

 

 徐々に距離を詰めつつあるグールの群れの相手をしながらUMP9はROの提案に苦笑いする。

 それにつられてROもつい顔が自嘲じみた笑いを顔に浮かべた。

 

「そうでしたね……指揮官はそういう人でした。 だからあなた達を助け出す為にここにいるのでしたね……今は立場が全くの逆ですが」

 

「だからね、二人とも一緒に帰ろうよ」

 

 だがすでに弾薬は尽きかけている。

 グール達の数もかなり減ってはいるが、このままでは格闘戦になるだろう。

 人形のスペックからしてもグール相手にすることはそう難しいことではない、だが手足を損傷しているROではまともに戦えないし、それを庇うためにUMP9が戦うことになると相当厳しい状況になることは想像に難くなかった。

 

 そしてついに弾薬を撃ち尽くしてしまう。

 

「……もう弾薬がありません」

 

「こっちも……ROはCQCとかできるの?」

 

「経験はないですがやるしかないでしょう」

 

 残る敵はついには一体までに減っていた。

 だがその一体であるグールである眩しく緑色に光し者(Glowing One)を目前にするとその勝ち筋も揺らいでしまう。

 明らかに他のグールとは一線を画す様相の光し者、先ほどまで自分から襲い掛からず様子見をしていた所からも頭もそれなりに回るらしい。

 今までのグール達は光し者にとってはただの弾避けでしかなかったのだ。

 

「ぐるぅううぅ……」

 

「こいつは……勝てるかなぁ、あははは……」

 

 ゆっくりと歩み近づいてくる光し者、一歩近づくたびに二人の人形として内蔵されているセンサーが致命的な放射線量に対して警告をし始める。

 つまり目前の光し者自体が強烈な放射能を有しているということだ。

 

「RO、後ろに下がってて……ぐあっ」

 

「ガァルアアアア!」

 

「ナインッ!?」

 

「ぐうっ! このっ!」

 

 UMP9は格闘戦の構えをとるが、同時に光し者も一気に距離を詰め襲い掛かる。

 なんとか光し者からの攻撃を捌きはするが掠るたびに異常な量の放射線量がUMP9の電脳内に警告を鳴らす。

 いくら人形とはいえ外側は生体部品であり高濃度の放射線をくらえばただでは済まない、それどころか下手をすると内部の機械部分や電子部品に致命的な影響すら与える可能性がでてくる。

 既に放射線量の警告は最大レベルにまで達していた。

 

(やばいよ……電脳が焼き切れそうっ!)

 

 だがそこでUMP9から光し者が引きはがされた。

 ROが光し者に組み付いて抑え込んだのだ。

 

「ガグゥアアァア!」

 

「行ってください9! コイツは私がぁっあ!?」

 

「何言ってるのっ! 一緒に帰るって言ったじゃん!」

 

 暴れる光し者を持てる全力で抑え込むが……光し者に触れているだけで強烈な放射能汚染に晒されるのだ、それを全身で抑え込んでいるROの皮膚は既に赤く火傷を負っていた。

 ある程度の放射能汚染された外界にも耐えれる戦術人形の人口皮膚でこの威力なのだからその放射能の凄まじさがわかる。

 

 けれど、ROは離れない、UMP9の為ではない、それはRO自身のプライドの為だった。

 

「私だってAR小隊なんですっ! こんな役に立たない無様な為体でっ、庇われたままでいてたまるものですかあぁっ!」

 

 

 

 

 

「無様なもんか、十分に優秀で誇るべき仲間だよROは」

 

 次の瞬間、ROに組み付いていた光し者が凄まじい蹴りにより吹き飛ばされた。

 だがその蹴りを放ったのはUMP9ではない、助け蹴り上げたままのポーズでROに向かって不敵な笑みでROを見つめるのはAR小隊のM16だった。

 

「すまない、遅くなった。 9もROを助けてくれてすまなかったな」

 

「あははっ、タイミング狙いすぎだよ……」

 

 助っ人が来たと判り、全身の緊張と力が抜けて腰を落として座り込むUMP9、そしてその後方から他のAR小隊メンバーが駆けつけて来た。

 

「酷い火傷ですっ! 大丈夫ですかっ!?」

 

「無理に動かしちゃだめよ、肩と足も酷い怪我をしているわ」

 

「……許さない! ROをこんなにした奴全員同じように肩と足引き抜いて焼いてやるんだから!」

 

 M4とAR-15とSOPMODは満身創痍の状態のROを目にして心配すると同時に怒りが込み上げた。

 私達の仲間を痛めつけた敵……M16に蹴り飛ばされ起き上がってきた光し者をAR小隊全員が睨みつける。

 

「グゥアアアラアア! ガァアアア!!」

 

 起き上がった直後、目前の光し者は突然の不意打ちで蹴り飛ばされたことと自身にとっての敵が増えた事に今更気付き怒り狂う、そして両手を天に掲げる。

 

 すると次の瞬間、その名の通りに光し者の全身から目も眩む凄まじい光が発せられた。




なんとか合流に成功することが出来たAR小隊。
よっしゃ! グリフィン1のエリート部隊が揃ったからには楽勝だな、風呂入ってくる。


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Come Fly With Me

ROちゃん普通にオッパイでかいよね(話とは全く関係ないセクハラ発言)


 光し者から発せられる目も眩むような強烈な光を目前にしても、AR小隊の全員は光し者をさほど強敵と考えてはいなかった。

 他のグールより多少危険な個体だと、高を括っていた……

 だが状況によっては個体の強さよりも戦況を変えうる能力のほうが脅威になりえる。

 残念ながら能力や性能では正しくエリートと呼べるAR小隊だが、それに咄嗟に気が付けたのはM16だけだった。

 

「こいつ!? 全員アイツから距離をとれっ!!」

 

 光の正体、それは強烈なまでの放射能だ。

 次の瞬間には光し者を中心に周囲に凄まじい量の放射線が発せられる。

 その危険度数値は圏外のレッドゾーンに該当するレベルの放射能汚染度であり、光し者は一瞬のうちに周囲を重度の放射能被爆地帯に変えてしまったのだ。

 

「ねぇ! あいつら起き上がってくるよ!」

 

「なんて連中なの……」

 

 そして死んでいたはずのグール達がその放射能に晒され、次々と息を吹き返し始める。

 グールの生態を事前にブライトから聞いていたROですらも目の前で起こっていることに戦慄するしかなかった。

 

「ぐっ、これがグールの……放射能を吸収して代謝を増幅させる能力というわけですか」

 

「もういい喋るなRO! M4、後退命令を頼む!」

 

「わ、わかりました姉さん! SOP、AR-15後退しながら撤退戦! UMP9も一緒に下がって!」

 

 M16はROを担ぎながらグール達から距離を離そうとするが、息を吹き返したばかりとは思えないような素早い動きで追いすがってくる。

 

「こんのぉ! よくもROを!」

 

「駄目、下がらないと囲まれる!」

 

 M4がSOPMODに指示をしながら必死に考える。

 頼りにしたいM16も今はROを助け出しながらで手いっぱいで、それでも敵は次々にものすごい勢いで襲い掛かろうとしている。

 どうするべきか──

 

「大丈夫、援軍はきっと来るから今の状況だけ考えればいいよ」

 

「え?」

 

「大丈夫……きっと来るから」

 

 突然のUMP9の言葉に一瞬呆気にとられるM4だったが、その自信ある眼差しを見た瞬間に何かに気が付いたようにすぐさまSOPMODに向かって声を張り上げる。

 

「SOPは榴弾をあの光っている敵に撃ち込んで!」

 

「えっ、でも結構距離が近いよ!?」

 

「いいからお願い!」

 

 撃ち込むには些か近すぎると返すSOPMODだが、普段のM4からは想像できない気迫に驚きつつも指示に従い笑いながら榴弾を光し者に向かって撃ちこんだ。

 

「へへっ、知らないよ みーんな吹き飛んじゃうんだからっ!」

 

 撃ち出された殺傷榴弾が群れるグール達の中で一際目立つ光し者に着弾する。

 その周囲にいたグール達を巻き込み爆発、他の面々も爆風に煽られ顔面を庇ったり倒れ込む。

 

「ケホッ、撃つなら合図ぐらいしなさいよ!」

 

「えー、だってM4が……」

 

 突然の爆発に曝されてAR-15がSOPMODに文句を言うが、言い返そうとしたSOPMODの言葉が詰まりその視線の先を見る。

 そこには死屍累々のグール達をしてもなお健在な光し者がいた。

 

「グゥアアアアアルゥア!」

 

 そして両手を天に掲げ勢いよく光り輝くと、周囲のグール達が再び蘇り始める。

 これでは同じことの繰り返しだ。

 

 

 そう思われる次の瞬間、グール達に向かって四方から弾丸の嵐が浴びせられた。

 その銃撃はまさしく嵐であり暴風であり、その容赦ない攻撃にグール達はズタボロの挽肉になっていく。

 

「随分と追い込まれてたみたいじゃない」

 

 しばらく続いた銃声の後に声をかけてきたのは404小隊のUMP45だった。

 その背後にはAR小隊や404小隊と同じ基地に所属する様々な人形達だ。

 

「45姉……やっぱり来てくれたんだ」

 

「ナイン、遅くなってごめんね。 妨害電波のせいで基地に連絡して応援を呼ぶ為にかなり離れなきゃいけなかったの、銃声だけじゃ場所を絞り切れなかったんだけども榴弾の爆発がいい目印になったわ」

 

「えへへ……」

 

 満身創痍のUMP9を抱きながら頭をなでるUMP45、そして振り返り冷たい眼差しで見つめる先には他のグールと同じように執拗な銃撃によりズタボロになった光し者だった。

 今も自ら汚染した被爆地帯の効果で徐々に再生しつつある……とてつもない生命力である。

 

「グゥルウ……」

 

「妹が世話になったわね、これはお礼よ」

 

 UMP45の銃弾が光し者の頭部を粉々に砕いた。

 

 

 

 

 

 その様子をスコープ越しに覗いていたハーランドは何が起こっているのか察しすぐにこの場を離れようと動こうとした。

 

「マジかよクソったれ! 援軍を呼ばれてたのか」

 

「だから言った。 早々に刈り取るべきだと」

 

「うるせぇ! とにかく一度戻るぞ!」

 

 相変わら動じない白い人形に怒鳴りながらハーランドは立ち上がろうとする。

 

「戻れると思ってるのかしら」

 

 それを逃すまいと現れたのは404小隊の残った416とGr G11、白い人形が反応し動くと416は即座に発砲するがやはり謎の障壁によって銃弾が防がれてしまう。

 だがG11の銃口はハーランドの方へ向けられていた。

 

「……やっぱり隠れて撃った方が楽だったかも」

 

「俺を脅しか取引材料にでもしようってのか……っておい」

 

 ハーランドもG11に向かって既にハンティングライフルの銃口を向けていたが、意外なことに先に武器を下げたのはハーランドでもG11でもなく416と対峙していた白い人形だった。

 

「驚いた。 お前が俺を案じてくれるような奴とは思わなかったぜ」

 

「あなた達が不利になるような行動はするなと命令されている」

 

「ちっ、まだお構いなしに暴れてくれてた方がやりようがあったのによ」

 

 白い人形の様子を見てついに諦めたのかハーランドは銃を捨てて降参のジェスチャーをした。

 

「言っとくけど、ここまで簡単にいくとは思っていないから油断してると思わないことね」

 

「あぁ わかってるさ、少なくともお前なんかよりこの帽子チビは油断ならねぇことぐらいはわかるぐらいにはな」

 

「私は早く基地に帰って寝たいだけ」

 

 気怠そうに言うG11だが少しでもおかしな行動をすればすぐにでも脳天に銃弾を撃ち込むであろうことはハーランドは察していた。

 勝気で冷静を保っているように見える416以上にG11は容赦のない人形なのであろうと、

 

「だが悪いことは言わんから、そのまま何もせず帰りな。 こっちも見逃してやるように説得してやるからよ」

 

「この状況でそんなこと言えるだなんて顔だけじゃなくて頭まで腐ってんの?」

 

「言ってくれるな人形風情が、だがブライトの奴はお前等グリフィンとはやり合う気はないみたいだ、そいつの仲間はどうだか知らんけどな。 多分容赦ないぜ」

 

 G11に銃を突き付けられ、416に罵倒されるのもさも気にした風もなくハーランドは一緒にいた白い人形のほうを見ていた。

 白い人形はハーランドの言いたいことを察し答えた。

 

「グリフィン部隊が大体的に乗り込んできた時点でこちらの部隊も既に向かっている。 ドッペルゾルドナーやウーランも……私の偏向障壁を微塵も破れない様ではグリフィンの人形達の全滅は見えている」

 

「だとよ、俺もこいつらの起動兵器やら戦車を見せてもらったことがあるが悪いことは言わねぇから退いたほうが賢明だとおもうぜ」

 

「私達にしっぽ撒いて逃げろって言いたいわけ!?」

 

 ニヤニヤと笑うハーランドに逆上する416だったが、その直後にUMP45から通信が入る。

 

「……なによ、ハァ!? 撤退するって何言ってんのよ指揮官にはどう説明するのよ!!」

 

『撤退指示したのは指揮官よ、通信越しに聞いていたけどたしかにかなりの数の部隊と思われるものがこちらに向かって来ているわ……あのグール連中もちらほらまた集まり出してる』

 

「チッ、G11……下がるわよ」

 

「……了解、ついでに撃っとく?」

 

「やっぱお前が一番おっかねぇみたいだな帽子チビ、勘弁してくれ」

 

 

 

 

 

 UMP45は416に通信を終えると目の前の人物に向かって話し始める。

 二人の周りには互いに銃を向け合うグリフィンの人形達と武装したグール達が臨戦態勢でいた。

 

「ジェイソン・ブライト、だったかしら? 聞いての通り私達は退くわ……」

 

「それが賢明だと私も思う、お互い切っ掛けが悪かったとも言える。 今一度言うが少なくとも我々同胞は君達に敵意を持っているわけじゃない」

 

「……ふん、ここまでしてよく言えるものね」

 

 ブライトの言葉を聞きながら厳しい目付きで見つめる先には、ROとUMP9が応急手当てを受けて介抱されている。

 それに気が付いているのかいないのか、ブライトはゆっくりとその視線先へと歩みよりROの前で立ち止まった。

 だが近付いたブライトにM16は銃を向けて睨みつけ、同じように他のAR小隊も撃ち殺さんと睨みつける。

 

「おい、それ以上一歩でも前に出てみろ……その穴だらけのスーツが更に穴だらけになるぞ」

 

「それは遠慮したいところだが、最後に彼女に挨拶させてくれないかね?」

 

 ブライトは懐のポケットから一つの瓶の蓋をROに投げ渡した。

 

「君には気の毒なことをしたと思っている。 だが同時に我々が匿う真実の一端を見たはず、君ならきっと特異点の方向性を変えられるはずだ」

 

「……これは?」

 

 ROが渡された瓶の蓋を裏返すとそこには赤い星のマークが描かれていた。

(それを見たM4がスターキャップだとか騒いだが他のAR小隊の面々に速攻で取り押さえられた)

 

「そのキャップが彼との交渉の時に役立つだろう。 次は穏便に顔を合わせることができることを期待しているよ新たな放浪者」

 

「……この後はどうするつもりです。 E.L.I.Dを匿うだなんてグリフィンはまだしも正規軍は黙っていないはずです」

 

「なに彼が動いてくれればなんとかなるはずさ、こちらにも協力者がいるのもあるがね」

 

 ROは()とやらが何者かは分からなかったが、その協力者とやらがあの白い人形ということは察した。

 そしてその協力者の大部隊が今もこちらに向かっている。

 

「早く行きたまえ、追撃をしない様には私からも説得しておくとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ROは自分の手のひらに乗った瓶の蓋に描かれた赤い星のマークを眺めながら思い出す。

 あの後、ROはグールの存在やそこに匿われたE.L.I.D感染者の事を報告したが結局は何も状況は動くことは無かった。

 未だにグールのカルト教団はあの森林地帯に潜伏しており、それについてグリフィンの上層部も正規軍も動く気配は無い。

 確かに変化があった証拠として残るのはこの星の描かれた瓶の蓋のみである。

 

「RO! お願いですからそれを譲ってください! なんでもしますから!」

 

「いい加減にしろM4! また指揮官に説教くらいたいのか!」

 

「なんかM4、目がヤバいよ」

 

「いいからとにかく連れて行くわよ」

 

 

「……あとM4がこれを見た途端におかしくなったことでしょうかね」

 

 AR小隊の他の面々に引きずられていくM4を遠い目で見つめながらたしかにかつてあった事件の事を思い出しながら呟くROだった。




赤いスターキャップはFalloutNVのファンムービーであるNukaBreakよりネタを拝借しました。
敵対するスーパーミュータントが交渉に応じるぐらいにはすげーアイテムっぽいです。



【光し者】
グールの上位種であり進化した成れの果て。
通常のグールより非常に耐久能力が高いが、能力には個体差が大きく中にはとんでもない脅威度を持つ者もいる。
お前の事だよ監督官
常時放射能を撒き散らし、更には蓄えた放射能を解放して広範囲を重度の放射能汚染地帯にする。

ちなみに放射能解放によって他のグールが復活するのは4からであってNVではそういう効果は無い。
やっかいなことには変わりはないが……


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Mad About The Boy

夏バテとか諸々で死んでました。



今度は焔薙さんの【それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!】でのP基地でまたまた運び屋がお騒がせ。
いつもよそ様に迷惑かけてるな、お前な。


「で、では依頼されたお届け物の受け渡しはこれで完了です。 モハビ・エクスプレスのご利用をこれからもお願いします……」

 

「こちらこそ、色々と噂は絶えないみたいだけど流石の運び屋さんだ。 仕事は確実みたいだね」

 

 目前の荷物の中身とリストを確認し終えた人形、スチェッキンは頷きながらも少々刺々しい態度で応答した。

 顔は営業スマイルなのが余計に威圧感がある。

 

 今回、M3とCZ75は第S09地区の早期警戒管制基地、通称P基地にやってきていた。

 目的はD08地区でのカフェの一件ついでに物資の輸送を頼まれたからだ。

 中身は二人ともよく知らないが恐らく医療品から食料等あたりではないだろうか、なんでもまた子供が生まれるとかで余裕がないからとか何とか、そういえば今グリフィンでは人形が子供を作るという奇妙なベビーラッシュじみたことが起こっているんだとかイエスマンがベラベラと聞いてもいないのに話していたのを思い出す。

 ちなみにこの話は外部に漏れたらヤバめな情報だったりするが、イエスマンがさも当たり前のように喋るせいで事の重大さをまったく理解していない二人だった。

 イエスマンからすれば隠し事をせずあることをそのまま言っているだけのつもりだから質が悪い。

 

「その割には監視付きで随分と警戒されてるみたいだけど……まぁ無理もないか」

 

 疲れ切った顔のCZ75は後ろ壁に背もたれしながら溜め息をつく……そう、この基地に近づくまで本当に色々とトラブルがあった。

 そもそもP基地とモハビ・エクスプレスはいくつかの案件で間接的には関わったことがあるが、運び屋がグリフィン基地から人形を買い漁ったあの日の初めての接触からやはり不信感は拭えてなかったらしい。

 アポなしで基地に近づいた途端に乗ってきていたトラックがエンジンにすかさず一発貰ってお釈迦になったことからもそれがうかがえる。

 幸いにも積荷は無傷だったが、その後の運び屋とP基地側のスナイプ合戦(運び屋の方は何故かBBガンを使っていたようだが)が始まり、その間に必死にその積荷を運び出すことになった。

 M3なんかは考えるだけ無駄なんで無視してほっときましょう、とハイライトの消えた目で言いながら迷いない動作で積荷を引きずり出していた。

 ということで運び屋も一緒に来ているのだが、未だにスナイプ合戦の続きをしているのかそれとも銃弾を掻い潜り逃走劇を繰り広げているのか、とにかく今頃は何をしているのかよくわかってない。

 

 目の前で対応しているスチェッキンの様子を見るにまぁ碌なことになってないのは察せられるが……

 

「……今はあの頭のおかしい人ことの事については忘れましょう」

 

「いや忘れられてもこまるんだけど、早くあの運び屋さんをなんとかしてくれない?」

 

 スチェッキンの威圧感が更に増す。

 M3は分かってないようだが、監視しているであろう見えない存在からも殺気や威圧がヤバことになってるのにCZ75は気付き始めていた。

 中々にヤバい状況であるが、だからといってどうしようもない。

 

「だけどアイツが私の言うこと聞くどころか義理もないからなぁ……ほらアタシもこの通りだし」

 

 そう言いながらCZ75は自分の首に着けられた首輪を指さす。

 

「……じゃあ質問を変えるよ。 運び屋は何が目的だと思う?」

 

「だからアイツの考えなんて分かるわけ……あ、もしかしてあのことまだ根に持ってるのかも」

 

「た、たしかに普段はグリフィンの人形相手にそこまでじゃないのに今回は珍しく攻撃的でした……何故か使ってたのBBガンでですけど」

 

「というかよく考えたらアタシ等も問答無用で撃たれたわけだしなぁ……」

 

 M3とCZ75のやりとりでスチェッキンはその価値観に戸惑い始めることになる。

 

「つまりあの時のことを根に持っていたってこと?」

 

「あー 多分そっちの考えてるようなんじゃなくて運び屋は多分あの時に自分が撃たれたことに腹を立ててるんじゃなくて装備のヘルメットを凹まされたことを恨んでるんだよ。 お気に入りだったみたいだし」

 

 CZ75は言う、恐らく運び屋の価値観は全て平等であり人間であれミュータントであれ人形であれ……道具であっても同じなのだと。

 

「そっちの基地も人形に対して色々と手厚いらしいけど、運び屋にとっては装備が傷ついたのがそっちの人形が傷つけられたと同じ様な感覚だったんじゃないか?」

 

「道具や物を大切にする……聞こえはいいようだけど」

 

「ええ、そうですよね……つまりガラクタも私達もゴキブリ(ラッドローチ)でも同じ扱いってことですよ。 というか、多分もう今頃はそういうことも忘れてると思いますよあの人……」

 

 CZ75とスチェッキンの話の最後にM3が遠い目をしながらボソリと呟いた後にメンタスを一粒口に放り込むのだった。

 

 

 

 

 

 運び屋は久々の懐かしい感覚に歓喜していた。

 

 移動手段であるトラックを潰されてからの狙撃戦もなかなかに白熱したのだが、如何せん当たり所次第で下手なスナイパーライフルより威力がでるアビリーン・キッドLE BBガンとはいえ所詮はBBガン。

 というか明らかに撃たれていた弾薬が比べ物にならない程ヤバかった(BB弾と比べているのがそもそもおかしいが)

 更には射程の違いは相手と雲泥の差であり結局は狙撃から逃げ回りながらP基地内に潜入することにした。

 

 その内部に仕掛けられた執拗なまでのトラップを軽い足取り(Light Step)で避けつつも解除しながらその仕掛けに使われた部品等をくすねていく。

 ここまで難易度が高く危険な所も久しぶりの運び屋ではあったが、基地内の人形達も唯の精鋭ではないことがすぐに思い知らされた。

 この基地はかつての運び屋が足を踏み入れた赤い雲に覆われた(シエラ・マドレ)カジノの悪辣な罠や、過酷すぎる環境である引き裂かれた地(ザ・ディバイド)で生き延びてきた兵士達を相手にする以上に難易度が高い。

 

 故に久方ぶりの難易度の高い拠点攻略の楽しみに感極まった運び屋は当初の目的もそっちのけであった。

 屈んで身を伏せるだけでまるでその場に落ちている石ころのように気配を消せる運び屋だが、この基地のセキュリティもまた一筋縄ではいかないようで、時にはステルスボーイをまたある時はダンボール箱を被ったりとあの手この手で姿を隠しつつ潜入を続けていくが……とある部屋に入り込んだ時に状況は一変する。

 

「クフェアっ! クリスを連れて下がってろ!」

 

 部屋の中で遭遇したのは何度か顔を見たことのあった、あのイチイバルという少女と赤子を抱きかかえた人形だった。

 ステルスボーイでの光学迷彩による不可視化状態での運び屋のスニーキングを素早く見破った彼女、かなりの勘の良さだやはり只者ではないと運び屋は感じた。

 イチイバルは人形と赤子を庇うように運び屋に立ち塞がる。

 

「運び屋テメェ! 一体今度は何しでかす気だ! 二人に手を出す気ならっ……!」

 

 前から何故かこのイチイバルという少女に警戒されているようなのだが、今は逆に運び屋のほうが彼女を警戒していた。

 その原因はその後ろに守られている赤子である。

 D08地区のカフェとはかなり繋がりが深い基地だとイエスマンから事前に聞いていた運び屋は幼い子供に免疫のないことが漏れてそれを利用されるのではと疑っていたのだ。

 だが、そもそもそれが知れていたとしても赤子を利用するとかそういう発想をする運び屋がまずおかしいのだが……

 

 運び屋は言葉で説得(Speechチャレンジ)しようと一瞬考える。

 が、話術(Speech)が高すぎるが故に自らが言葉を発することで逆に警戒されるのではと思い至った運び屋。

 腕に装備されたPip-Boyを弄り記録されたホロテープから録音音声を流して宥めようとする。

 

『キャンディー タベル?』

 

 それは普通に考えればただの挑発行為だった。




あーあ、出会っちまったか サイナンダトアキラメナ



【アビリーン・キッドLE BBガン】
プレミア物のBBガン、なのだがクリティカルヒットすると下手なライフル銃より威力が勝るヤバイ玩具。
軽くて装弾数もかなり多い、そもそも玩具なので武器を持ち込めない所等で暗殺用に最適である。


【Light Step】
運び屋は地面に仕掛けられたトラップを平然と踏み越えてしまう。
たとえ地雷を踏みぬこうともその軽い足取りは一切反応させない。
だが反応しないのは運び屋だけなのでそれに気が付かないまま他人が一緒に歩くと当然トラップに巻き込まれる。
他人からすると割と迷惑だったりする。


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Mad About The Boy

Ennjoi & Exciting! Fight!

コラボな話しといて激遅更新申し訳ない!


 運び屋の奇怪な行動に目の前の少女、イチイバルの警戒感が怯えを僅かに含ませ更に増す。

 その些細な空気の変化を赤子が感じ取ったのかついには泣き出してしまう。

 

 

 それがまるで決闘の合図であったかのように運び屋とイチイバルの双方が動いた。

 

「ちょっせぇっ!」

 

 いつの間にかイチイバルの両手に握られていたガトリング砲が運び屋に向けられたが、その瞬間には運び屋も既にリボルバー式の拳銃を抜いていた。

 お互い相手が武器を取り出した瞬間が見えていなかったことに内心驚く。

 運び屋の素早い銃の構えはただ単純に壮絶な速さで熟された技術の賜物であったが、イチイバルの場合はまるで突然に銃が手のうちに現れたようにしか見えなかった。

 

「二人に手出しはさせねぇ!」

 

 運び屋が全身にガトリング砲が叩き込まれる。

 

「チッ、やっぱただじゃやられてくれねぇか……」

 

 イチイバルは呟くと手に持っていたガトリング砲に目を向ける。

 目線の先のガトリング砲は運び屋の持っていたリボルバー式拳銃、レンジャーセコイアから放たれた.45:70ガバメント弾 SWC*1が撃ち込まれており完全に使い物にならなくなっていた。

 

 そして、激しすぎるガトリングの硝煙で見えなくなっていた視界が明けるとそこには平然と佇む運び屋。

 至近距離であの怒涛の攻撃をくらいあまりダメージを受けたようには見えない……が、着込んでいるデザートレンジャーアーマーはそうはいかなかったようで元々使い古したようだった傷や汚れもも更に酷くなりヘルメットのマスクゴーグルの目の部分には罅が入っていた。

 

「うっそだろ!? あれだけ全弾くらわせて──」

 

 運び屋はいくつか思い出した。

 前にこの基地に近づいた際に受けた攻撃、そして今くらった攻撃、大事にしているお気に入りの装備への被害。

 肉体へのダメージはどうでもいい、自身に組み込まれたインプラントと光合成(Solar Powered)により勝手に自己再生するのだから、だが装備は修理しなくてはいけない。

 普段から喜怒哀楽などないような運び屋だったが、久しく忘れていた一つの感情がふとよぎる。

 運び屋は自覚した、自分はほんの少しだが怒っているのだと──

 

 次の瞬間、レンジャーセコイアから容赦なくイチイバルに銃弾が放たれた。

 手持ちの壊れたガトリング砲を咄嗟に盾にして攻撃を防いだイチイバルだが、その合間に運び屋は接近する。

 レンジャーセコイアを握っていたはずの運び屋の手の内には一本のボウイナイフが握られていた。

 

「危ない!? ノア避けてっ!!」

 

「クフェアは離れてクリスをまもってろ! チックショウ! ……インファイトは嫌いなんだよっ!」

 

 後ろで見ていた人形、クフェアに声をかけるイチイバルに容赦なく振りぬかれるボウナイフ──ブラッドナップの刃が青く鈍く光りながら避けきれなかった彼女の頬を僅かに掠める。

 だが彼女はそんなことを気にも留めずに新たな装備を目の前の運び屋に見せつけた。

 

「ほたえな! もってけ全部だ!」

 

 イチイバルからの自分をも巻き込む程の爆風と全力掃射により吹き飛ばされる運び屋、その勢いは部屋の外、基地屋外へ放り出される程であった。

 一瞬でイチイバルの装備として現れた両肩のミサイルと新たなガトリング砲……壊れたはずのガトリング砲は投げ捨てられ次の瞬間には砂のように分解され煙のように消えていくのが見えた。

 

 

「……起きろよ運び屋、オマエがそんなんでくたばるタマかよ」

 

 その言葉に反応して外で倒れていた運び屋が起き上がる。

 追撃の為にイチイバルも外に出てくると、更にはこの基地の増援が加わってきた。

 

「リーダー無事かい!? って、うわぁでた……」

 

「遅くなりました。 彼が例の運び屋ですか」

 

 増援として現れた内の一人は運び屋の知っている相手だ。

 以前にMSF絡みでの合同作戦にて、この基地のAm RFBに見せてもらったパワードールスーツとやらを装着している人物、恐らくはRFB本人で間違いないだろう。

 もう一人はI.O.P製の人形には珍しく刀を装備していた。

 そしてイチイバルを含めたこの三人がこの基地の特殊部隊ランページゴーストだと思い出した運び屋は屋外へ場所を移されたことにより一気に状況が不利になることを悟った。

 なにせ彼女達ランページゴーストとやらは空を飛ぶことができる上に、続々とこの基地の部隊であろう人形達が気配を消しつつ狙撃や奇襲を仕掛けようとしているのだ。

 今も着実に運び屋への包囲網ができつつある。

 

 不利を察知した運び屋はすぐさまに包囲網の穴を見つけ出し、この基地から逃げる為に行動に移った。

 狙うはRFB、運び屋は彼女と出会った頃から本人が必死に隠そうとしている臆病な性格を既に見抜いていたのだ。

 

「うっうわっ!? ちょ、ちょっと来るなぁ!? ひぃ!?」

 

 突然向かってくる恐るべき存在(Terrifying Presence)である運び屋に脅しの言葉をかけられて怯むRFBは咄嗟の抵抗として、フルパワーでのパンチを運び屋の顔面に向かって繰り出すが……

 

「うっ嘘ぉ!! 効いてない!?」

 

 運び屋は避ける気が無かったのかそのまま顔面に命中、鈍い音をたてる。

 だが人形であるRFBの必死のフルパワーにパワードールスーツのパワーが上乗せされたはずのその拳に運び屋は微動だにせず、まるで石の壁(Stonewall)を殴ったかのように勢いを止められてしまう。

 

 全力から繰り出された拳を顔面で受け止められ動揺するRFBの頭部に運び屋は一丁の奇妙な銃を突き付けた。

 刀を装備した人形、アナと呼ばれた彼女は咄嗟にRFBを助け出そうと動こうとするがイチイバルの一喝で踏み止まる。

 

「っ!? やめろアナ! 下手に手を出すんじゃねぇ!」

 

「しかしっ! このままでは!」

 

「……あの銃の引金を引かせるのはマズい、絶対に撃たせたらヤバいやつだ」

 

 運び屋がRFBに突き付けている銃はハンドガンサイズの銃身にコイルが取り付けられた銃口がパラボラアンテナのような奇妙な銃だった。

 だがそれが人形、そしてパワードスーツを着ているRFBにとってとても危険なものだとイチイバルの勘は告げていた。

 

「う、撃たれたらどうなっちゃうの!?」

 

 動揺を隠せないRFBに銃口を向けながらそのままゆっくりと下がりながら逃げ去ろうとする運び屋。

 その様子を射殺さんばかりに睨みつつも手を出すことを出来ないイチイバルに運び屋は口元で指を立てて左右に降るようにチッチッチッとジェスチャーをした。

 

「テメェッ! RFBを放しやがれ!」

 

「……奸悪め!」

 

 挑発とも取れる行為をしながらもRFBを人質にとりながら悠々と立ち去ろうとする運び屋……

 だが次に起こったことは、どうしたことかRFBに銃を突き付けていた運び屋の腕が本人の意思とは関係なく徐々に銃口を逸らし上へと上がっていくではないか。

 運び屋も負けじと力尽くで抵抗するのだが、上がっていく腕の動きを止めるぐらいが精々だった。

 

「くっ! まさか無理やり抗うとは、馬鹿力めっ!」

 

 突然現れ、そう口にしたのはたしかこの基地の臨時指揮官であると運び屋が記憶しているキャロル・エストレーヤという少女であった。

 運び屋が勝手に動こうとする自らの腕をよく観察するといくつもの細いワイヤ―のようなもので絡めとられていることに気が付いた。

 

 抵抗をしようとする運び屋だが、キャロルと一緒に現れた人形であるFive-sevenと別の四人の人形が加わり一斉に攻め立て、そしてその隙にRFBが銃口から逃れるとランページゴーストは一斉に空中へ上昇、周囲で息を潜めていたこの基地の他の部隊と共に一斉攻撃を浴びせるのだった。

 

「アタシの家族や仲間に手だしやがって──タダじゃおかねぇ」

 

「俺が指揮するこの基地でやりたい放題やってくれる──無事に帰れると思うなよ」

 

「「災難だと諦めるんだな!」」

 

 

 

 

 

 一方M3とCZ75はあの後たまたまこの場に顔を出してきた赤子を連れた一人の少女と会話しながらの優雅なお茶会と洒落込んでいた。

 ……話が盛り上がってるのはその途中から現れたユノと名乗ったその彼女といまいち状況を理解していないM3だけで、元からいたスチェッキンとユノの付き添いであったPPKの人形二人と睨みを効かされていることに気付いているCZ75はお互いずっと黙ったままであった。

 

「それでシーナちゃん達は元気にしてた?」

 

「しーな……あ、417さんのことですか…… お子さん共々お元気そうでしたよ」

 

「よかった、またこっちも貰った物資のお返ししないとなぁ」

 

「いやまぁ……運び屋さんが斧片手に襲い掛かってあの豊満な胸に返り討ちされたなんて珍事件起こしちゃったんですが……」

 

「え?」

 

「え? ……あ」

 

 余計なことを口走ってしまったと焦るM3は話題を少し変えつつユノと話を続けた。

 

「そ、そちらのお子さんのことも気にかけてるみたいでしたよ。 持ってきた物資もその為……みたいですし」

 

「そっか、ルキアよかったね」

 

「あううう ばぶ」

 

 そう言いながらルキアと呼んだ赤子に声をかけながらあやすユノのみせる母親の顔にM3も顔がほころぶのだった。

 そして、そんな様子でなんだかんだでお互い悪くない仲になったM3とユノを観察しながらCZ75は内心ほっと一息つく。

 

(危うい話をしかけた時は冷や汗をかいたけど、この様子だと最悪M3を置いて逃げてもここなら悪いようにはしなさそうだな……)

 

 最初はCZ75と同じようにM3も警戒されていたのだが、あまりのM3が無防備で隙だらけだったせいか今は注意がCZ75のほうに向いているようだ。

 あまりグリフィン側に捕まったり拘束されたりしたくないCZ75としてはM3を連れながらか、見捨てて逃げるべきか迷っていたのだが、イエスマンが言っていた情報や噂通りならば大丈夫そうだと安堵しつつこの場をどうやって抜け出すかを考えながら窓の外を見る。

 

(路上は確実に見張られてるだろうしなぁ、他にどこか ……ん?)

 

 CZ75が窓の外を見ながらスチェッキンとPPKに向かってか一言呟やいた。

 

「……なぁ、あれは運び屋か?」

 

「は? いきなり何を言って……」

 

 窓の外に映るのは街の穏やかな風景、その景色に不釣り合いな存在。

 それはワイヤーで全身を雁字搦めにされつつもなんとか動かせているのであろう足で地面を探りながらぎこちなく歩いている装備がボロボロの状態の運び屋だった。

 

「さすがの運び屋も返り討ちにあったか……」

 

「ウチの基地の総攻撃で逃げおおせているのが不思議なんだけど……」

 

 ヘルメットもボコボコの状態でゴーグルマスクも酷く罅割れている有様の運び屋を窓越しに見やる面々だったが、その時である。

 耐久値の限界を超えたのか罅割れたマスクの一部がついに割れ、その一部が剥がれ落ち運び屋の素顔が見えてしまう。

 

「は、運び屋さんの素顔を初めて見ましたけど……なんというか意外と……」

 

「……そうだな思った以上に平凡な、いや平凡すぎるというか拍子抜けしたというか」

 

 意外な機会により運び屋の素顔を初めて見ることとなったM3とCZ75だったが、同じように運び屋の素顔を見たはずのP基地の面々のうちユノだけがまるで別のナニカを見てしまったように唖然としていた。

 

「ユノさんどうしたんです?」

 

「……モザイクみたいになっててあの人の顔が見えないんだ」

 

 

 結局の所、運び屋は後からユノに近づけさせまいと殺到するP基地の面々が殺到し、またもひと悶着あり御用となったのだがその話は機会があればその場にいた誰かが語るであろう。

 なにせイエスマンかそれとも何者かの手によってその記録(ログ)はなかったことになっているのだから。

 あえて一つだけ語るなら、あれだけの騒動を引き起こしておいて後日に平然とP基地をうろついていた運び屋の姿と必死に代わりに謝罪するM3の姿があったとか──

 

 ちなみにこの事件で運び屋の素顔を見たはずの全員は、何故かあまりにも特徴のない顔であったせいなのか誰も顔を思い出すことができなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスちゃん、早くしないと遅刻だよっ!」

 

「待ってよルキア、まだ時間には余裕があるんだから急かさないでよ……」

 

 穏やかな景色と街並み、その住宅街から二人の少女が歩いていく。

 平和な日常、少女二人はいつものように孤児院へと通うのが日課であるのだが、偶々その日は近道の為に商店街の路地裏へと入って行く所だった。

 だがその路地裏でジャンク品や廃棄物を漁る怪しい人物、ボロのロングコートと落書きされたヘルメットにフルフェイスのゴーグルマスクをした男を目にする。

 

「……行こうルキア、ああいうのは関わっちゃダメだってママ達が言ってたでしょ」

 

「うん、でも…… どうしてだろ、なんかあの人のこと知ってる気がするんだ」

 

 二人の少女はその人物を避けようと距離をとろうとしたその時、その男が気が付いたのか顔を向ける。

 男はガスマスクの口元に人差し指を当てて静かにするようにジェスチャーしながら腕に着いたデバイスを操作した。

 

『キャンディータベル?』

*1
セミワッドカッター、弾頭が少し平らな円錐台形になった弾丸




運び屋の素顔は特徴がないのが特徴ってぐらいに記憶に残らないような顔付をしています、なのでその素顔でグリフィンの制服とか派閥衣装を着ようものなら誰も気づけないのだとか。

それ以外の認識ができるのは特殊な視点がもてるユノちゃんぐらいなんでしょうね。

あっ、そういえば完結おめでとうございます!(超激遅挨拶)



【レンジャーセコイア】
45:70ガバメント弾を使用するマグナムピストル。
運び屋の装備するアーマー、デザートレンジャーのシンボル的な武器である。
かなり大型のリボルバーピストルだが使う弾薬と銃自体のせいかかなりコンディションが劣化しやすい。
でもカッコイイ、Fallout:New Vegasの顔役ともいえる武器。

【Solar Powered】
運び屋は日光を浴びている間には再生能力を得ると共に筋力が大きく増強される。
故に屋内等の状況にはこの効果は適用されない。

【ブラッドナップ】
ボウイナイフの特殊品で、元々見つけた強烈な放射能汚染があった場所の影響なのか暗い場所では青白く光る。
運び屋の持つ近接武器の中ではトップクラスの殺傷力を持つ、ぶっちゃけクッソ強い。

【Stonewall】
運び屋は近接戦においてノックバックを受けない、また追加の装甲値を得る。
運び屋に接近戦を挑むべきではない目立たないが恐らく一番の理由。
実はバグのせいで更に凶悪なことになってる


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Mr.Robot

ちょっと某所のコラボネタを拝借しました。

乗っかった訳ではなく実は運び屋にとって一つの目的として元々考えていた話でした。
いいタイミングでしたのでちょっと関わらせたのですが……


「……P基地へ帰りたいです」

 

「落ち着け、お前の帰る場所はここだっての」

 

「だ、だってぇ……  ルキアちゃん達とで癒されたいんです! うぅ……」

 

 P基地へ出向かった騒動からの後日、L38地区の事務所棟へ戻ってきたM3だったがP基地での予想外な対応と出会いはM3にとって正にここでは得られない癒しであった。

 優しく接してくれたユノやぶっきらぼうながらも気遣ってくれたノアという少女達や人形達、そしてその彼女達の子供の可愛さたるや……

 それに比べて窓から見えるこの外景はどうであろう。

 そこら中に武骨なロボットやサイバードッグが徘徊し、それにビクつきながらこそこそと首に奴隷用の爆弾首輪を着けた人形達が歩き回る情景。

 そういうことを気にしない人形達もいるが、そんな彼女たちの一部は釘バット片手に「スワッター! スワッター!」と叫びながら弱気なタイプの人形グループを追いかけまわしている。

 無差別的にロボットやサイバードッグに喧嘩を売ってないあたり、人形達にもなにかしらのカーストのようなものが出来上がっているようだ。

 

「見てくださいよあれ…… P基地に比べてなんて殺伐とした人達と情景でしょうか……」

 

「言っとくけど、あそこも割と殺伐とした武闘派だしここではその人形連中のトップがお前なんだからな」

 

 呆れた風にCZ75が呟きM3を諭す、M3はまだ自覚が足りていないようだがここの人形の中でもっとも権限と立場を与えられているのが彼女である。

 恐らくはこの場所でM3以上に自由な権限をもっている人形達は居らず、ロボットでも例外的なのはイエスマンぐらいであろう。

 

「う、うぅ…… ルキアちゃんと一緒にまたフルーツタルト食べたい」

 

 

 一方M3とCZ75達から少し距離を置いた場所で運び屋はイエスマンからのとある情報を聞き入れていた。

 P基地での騒動で酷い有様となっていた運び屋のデザートレンジャーアーマーとマスクヘルメットも整備されいつも通りの見た目になっており、あまりにも特徴のないのが特徴と言えてしまうほどの素顔はガスマスクで隠されてしまっている。

 おかげで既に素顔を見たはずの当人であるM3とCZ75は既に運び屋の顔を思い出せなかったりする。

 

「どうやら例のカジノグループの店舗がグリフィンによって一斉摘発されるようです! 邪魔なライバル候補が消えてこれでまた大きな目的へ一歩近づきましたね!」

 

 イエスマンは実に喜ばしいニュースとばかりにグリフィン側から掠め取った作戦情報を運び屋に嬉々としながら報告する。

 話の内容にあったのはとある企業が裏で経営している違法カジノのことで、そのカジノの最大の目玉は──賭け試合だ。

 賭博の中で賭け試合は特に大きな金が動くと共に様々な事情が交差する。

 場合によっては八百長の試合情報にですら大金が動き、その情報の伝手からのコネや場合によっては試合に出される側ですらその思惑に左右されるのが常で、聞いていた運び屋も三つのカジノグループの元締めもとい調停役だとか、地下闘技場でクリーチャー相手に試合に出た経験がある。

 

 そのカジノグループを運営している大企業の女社長が人形と子供を使って賭け試合での賭博をしているせいで摘発されるらしい、そんなもので違法摘発されるというのは正直言うと理解し難い運び屋であったのだが……

 運び屋が元締めとなっていた三つのカジノグループなんて一つは美食と謳って人肉食ってるわ、もう一つは売春とドラッグを売りとしていたし、最後のも一番まともな経営ではあったがそのトップの奴に頭に弾丸くらわされて墓に埋められたりしているし、地下闘技場でも試合に出る以前に戦う相手になるはずのクリーチャーの卵を集めさせられた経験もある。

 

「そういえばこのカジノ店舗に行ったことがあるんでしたね! えぇっ! また締め出されたんですか?」

 

 そうなのだ……実はその違法カジノへ運び屋は足を運んでおり、しかも全店舗に赴いていた。

 結果、全ての店から出入り禁止にされた運び屋なのだったが……

 

 持ち前の強運とインプラントされている演算装置のせいで賭博については負け無しの運び屋、おかげで元締めであったはずのカジノグループからも実は賭博禁止令をくらっており、やっとこちらの地でまたカジノで大きく遊べると楽しみにしていたのだが結果は同じように出禁扱いであった。

 

 

 

 ……だからこそ、この地で巨大カジノを作ろうと計画したのだが。

 

 

 

 

 

 外の世界がどう変化し移り変わろうと、L38地区の地下では相も変わらず人形そしてロボットやロボトミー達により掘削作業を続けられていた。

 地下深く下へ掘るわけでもなく、ただ只管に真っ直ぐ前へ前へと道を作るように掘り進められる地下道はいったいどこを目指しているのだろうか。

 人形達を見張りながらまるで督戦するように人形達にがなり立てる大佐とその部下のロボット達に聞いてみても中身が無いプロパガンダ染みたスローガンを称えた言葉しか返ってこない。

 もしかすると、そもそも大佐達も知らないのかもしれない。

 

 

 人形達からなるD班のリーダーである男、スレイブはそんなことを考えながらロボット達が会議し合う部屋の中で座っていた。

 スレイブが今いる部屋では地下でのそれぞれの統括役が定期報告をする為に集まっている。

 全員がスレイブ以外は人間ではなく、唯一まだ近い見た目がMP40のダミー人形であるステルススーツMkⅡことステルがいるぐらいで他は皆ロボットだった。

 

 そのステルがスレイブの目前で少し苛立ったようなトーンで同じようにこの場にいる大佐に言った。

 

「だからさ、大佐がMk23を使えなくしたせいでMG4の力を借りることになったわけ」

 

「その結果がロボトミー諸共全滅だと! そのMG4とかいうクソ人形を引きずり出してこい! 貴様諸共に軍法会議にかけてやる!」

 

「だーかーらー! それは彼も織り込み済みなんだって!」

 

 ステルと大佐が言い合う中、別のロボット達が話に割り込む。

 

「ですが減った分のロボトミーの準備を急ぐ必要があります。 処置する人数分の刈り取りはどうなっていますか?」

 

「最近はグリフィンと鉄血との抗争が益々酷いせいで小規模な外れ者達はほとんど郊外にはでてこなくなった。 それなりの規模の連中でも先ほど言っていた件のようにグリフィンに先を越されて捕まるか殺されて使えない有様だ」

 

 話に割り込んできたロボットの内の一体はカラーリングは違えど大佐のようなMr.ハンディー型のバリエーションモデルであるMr.オーダリーと呼ばれるタイプの白いロボットである。

 そして続いて話したのは頭部の半球状クリアドーム内に浮かべられた脳と移動用に取り付けられた無限軌道が特徴的なロボブレインというロボットだ。

 

 前者の統括役ロボットはDr.オーダリー博士と呼ばれ(本当はDr.オーダリー MD PHD DDSとかいう長ったらしいめんどくさい名前だとかステルがたしか言っていた)

 後者の名ははスーパー・エゴという。

 

 この二種のロボット達のここでの主な役割はロボトミーの確保である。

 ロボブレイン達がゴロツキや犯罪者等の行方不明になっても問題ない人間を狩り、その狩られた人間をMr.オーダリー達が()()してロボトミーを作り上げるのだ。

 はっきり言ってここに連れて来られるまではその狩られる側の犯罪者であったスレイブからすればこのロボット達に悍ましいとしか言いようのない感情が未だに拭えない連中だ。

 

「ソレニ関シテハ、私モ総支配人カラ実験トシテ必要ナ犠牲ダッタト報告ヲ受ケテイマス」

 

 今度は更に別の一体のロボットが一言話すとロボット達は言い合いや雑談を止め一斉に静かになる。

 この地下の管理役であるカストディアンと呼ばれているプロテクトロンだ。

 

「元々ノ目的デアッタ妨害装置回路ノ入手ト、ステルススーツMkⅡオヨビ、トラウマハーネス・ロボトミー ノ データ記録回収ハ無事完遂トナリマス。 装置ト データ モBig・MTヘト既ニ送ラレマシタ」

 

「つまり何か、他はともかくコイツのバージョンアップの為にロボトミー共を使い潰したというのか!」

 

「なにさ、まだ文句あるの?」

 

「ソレガ総支配人ノ意向デス。 ソレニ アイアンベリー大佐ガ起コシタ人形達トノ騒動ニヨルMr.ハンディー ノ損害モ馬鹿ナラナイノデスヨ?」

 

「それは人形共が……ウギギ!」

 

 カストディアンの発言に大佐がステルを手の代わりとなるマニピュレーターで指図しながら怒鳴るが、それも以前起こした騒動の事を持ち出されると唸りながら黙り込むこととなった。

 

「サテ……次ノ案件デス。 D班ノ稼働状況ト運用計画デスガ──」

 

 だがそんなことはここではよくある日常、この地のロボット達と人形達は運び屋の道具として今日も働き続けるのだった。




違法賭博といえば賭け試合ってはっきりわかんだね。
映画の『スナッチ』とか好きです。


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