オラリオにおいてトップクラスの力を有するロキファミリア。その団長を務めるのは小人族でありながら、数多くいる冒険者でもごくわずかしかたどり着けないLv.6まで上り詰めた〈勇者〉フィン・ディムナ。整った顔立ちと優しく頼りがいのある性格故に、羨望の眼差しを向けられることも多い。
そんな彼には、皆には隠している秘密があった。
「今日もティオネの胸は最高だったな。どさくさに紛れて揉んでやろうかな。流石に怒られるだろうか・・・」
実はむっつりでヘタレだった。
フィンが冒険者となって数々の困難を乗り越え偉業を成し遂げてきたのも、落ち着いた行動や冷静な判断を心掛け頼れる団長を演じてきたのも、女の子とイチャイチャしたい、もっと言えば✕✕✕したいという野望のためであった。
皆には小人族の再興が望みだとか言っているが嘘である。その方がかっこいいんじゃないかと思ったから言っただけだ。そんなダメ団長だが一度自室の扉から出たら、今日も本性をひたすら隠し尊敬される勇者となる。
▽ ▽ ▽
「おはようございます!団長!」
フィンが朝自室から出ると高確率で迎えてくれティオネ、ティオネは褐色肌でスタイルが良いアマゾネスの美少女だ。ティオネは自他ともに認める程フィンにぞっこんであるため、こうしたアプローチに余念がない。当然、これだけアピールされて気づかないはずがなく、フィンもティオネの好意には気付いている。
「あぁ、おはようティオネ」
柔らかな笑みを浮かべて挨拶を返すフィン。そんなフィンの内心はというと、
『朝から最高の体だな!今日も一日頑張れそうだ!』
変態である。そんな彼が好意を向けてくれるティオネに対してなにもアクションを起こさないのは、
『あんまり見すぎるとばれるだろうか・・・でも目の前に天国があるのに見ないのは勇者としてどうなんだ!でも
ばれたら団長としての立場が、、』
ヘタレである。それはもういつも積極的にアピールしているティオネが不憫なレベルで。こうした朝のやり取りがあり、その後はそれぞれ朝食を取りにいくのだが今日はいつもと違った。
「あの、、団長、朝食一緒に食べませんか?」
ティオネからのお誘い。打ち上げのような席であれば遠慮なくフィンの横をとるティオネだが、朝食に関しては意外にも一緒にいることは少ない。打ち上げのようにお酒が入る場合はガツガツいけるのだが、朝からあんまり攻めすぎると嫌われてしまうのではという思いから控えるようにしていたのだ。
そんな、純粋な乙女心など知るはずもなく、
『朝から至近距離でティオネの体を見れるなんて、今日は最高についてるぞ!ティオネをおかずにご飯三杯はいけるな!』
そんなクズ団長はもちろん、
「そうだね、今日は一緒に食べようか」
内心を一切悟らせず、爽やかな笑みを浮かべて了承した。
▽ ▽ ▽
まだ朝早いこともあり広い食堂内に人は少ない。そこでフィンとティオネは向かい合う形で朝食をとっていた。
「団長、今日は何か予定があるんですか?」
「今日は午前中は書類関係の仕事、午後からは椿に整備に出した武器の受け取りに行くよ」
団長であるフィンは当然仕事も多く、皆からの信頼を得るために変態とは言え、やることはしっかりとやるのだ。
「そうなんですね、、あの、今度一緒に街へ出かけませんか?色々と買いたいものがあるので、出来れば2人で!」
「僕の時間が空いている時であれば喜んで。団長として皆との交流の時間を出来る限り取りたいからね」
「ありがとうございます!!楽しみにしておきますね!!!」
ヘタレとはいえ女性との触れ合いが大好きなフィンは断る理由はない。ガレスからの誘いなら断る。
断られるかもという不安があっただけにフィンからの返答に大喜びし、満面の笑みで朝食をとるティオネ。自分の食事をとりながら、その様子を盗み見ているフィンはと言うと、
『今食べたパンの栄養は全部胸にいくのだろうか?きっとそうだな!もっともっと成長してほしいものだな!』
安定の変態である。
「それじゃあ今日も仕事頑張って下さい。なにかありましたら呼んでいただけたらすぐに駆け付けますので!」
朝食を終えた二人。上機嫌でフィンに告げてから、ティオネは小走りで自室に向かっていった。去っていくティオネのお尻を穴が開くほどにガン見し、フィンも自室へと歩き出した。
▽ ▽ ▽
団長として行わなければならないことはかなり多い。ロキファミリアは規模が大きいこともあり、ファミリア内の資金運用や他のファミリアとの交流等のも活発である。その分書類なども多くなり、それらの処理は当然団長のもとに回ってくるのだ。大変な仕事量ではあるが、何とかこなしていけているのには2つの理由があった。
一つはフィンのスペックが高いこと。これについては団長と言う立場まで上り詰めていることからもわかるが、フィンは基本的にスペックが高く冒険者としての実力に加えて、指揮や作戦立案と言った知力も優れていた。
変態なのに。
もう一つは、
「フィン、こちら側の書類の確認は終わった。そちらの手伝いを行おう」
神すら嫉妬する程の美貌を持ち、知的で落ち着いた雰囲気のハイエルフ〈リヴェリア・リヨス・アールヴ〉彼女の存在である。副団長の立場である彼女はフィンのサポートを行うことも多く、豊富な知識と経験を持つリヴェリアにはいつも助けられていた。
「相変わらず仕事が早いね。それじゃあこの書類もお願いするよ」
そう言って紙の束を渡す。二人の付き合いは長く、昔は色々とあったが現在は互いに気の許せる間柄となっている。毎日いうわけではないが、フィンとリヴェリアは一緒にいることが多い。絶世の美女であるリヴェリア、当然フィンは、
『今日もリヴェリアは美しい。こんな美人をいつも傍におけるとは、団長になった甲斐があったな。白いうなじ最高!あっ、今良い匂いした』
興奮しっぱなしである。しかし、ハイスペックなフィンは洞察力に優れるリヴェリア相手にも悟られることなく、誰もが羨む美女との二人きりというシチュエーションを満喫している。
ガレス?そんなおっさんは必要ない
エルフの王族であるリヴェリアは、ティオネのようなアマゾネスとは正反対に肌を殆ど見せない。ティオネの体にはいつも大興奮なフィンからすると不満かと思われるが、
『偶に見える首筋えろいなぁ。あの服の下がどうなってるのか、、首と一緒で白く美しいんだろなぁ。想像するだけで興奮するなぁ。おっと、よだれが出るとこだった』
変態にとってはなんの問題もなかった。
「ようやくひと段落着いたな。フィンも疲れがたまるだろう」
「いや、リヴェリアが手伝ってくれたおかげでスムーズに進んだよ。いつもすまないね」
そうして午前の間、リヴェリアを堪能しながら仕事を終わらせたフィン。仕事は大変だが、リヴェリアとなら大して苦にならない。何なら二人きりの時間が終わることに名残惜しささえ感じていると、椅子に座っているフィンの後ろにリヴェリアが移動した。そして、
「ほら、やっぱり凝っているじゃないか。偶には私がほぐしてやろう」
そう言うとフィンの肩をもみだした。いつからか、フィンにとって嬉しい限りなのだがリヴェリアから触れてくることが増えた。潔癖で特に男女間の触れ合いには厳しいリヴェリアだが、フィンに対しては違った。周りに人がいない場所であれば、今回のように簡単なマッサージを行ってくれることも度々あるのだ。
「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えてお願いしようかな」
当然、フィンにとってはご褒美以外の何ものでもなく、今回もリヴェリアの細い指に癒されながら後ろからの香りを味わっていた。
「リヴェリアにマッサージしてもらうとすぐにほぐれるよ。王族とは思えないテクニックだね」
「王族は関係ないだろう。ここにいるのは一介の冒険者にすぎん」
たわいもない話をしながらマッサージしてもらっている中、フィンはヘタレ精神を抑え込んで提案をした。
「お返しにリヴェリアにもマッサージしてあげるよ。いつもしてもらってばかりでは僕としても心苦しいからね」
それはつまりフィンからリヴェリアに触るということ。エルフには他人に触れられることを嫌う者も多く、リヴェリアに至っては王族である。今までもフィンからリヴェリアに触れた事など数えるほどしかない。マッサージをするなど見方によってはやらしいことをするといっているようなものだ(偏見)。
もしもリヴェリアが皆に「フィンからマッサージしてやると言われた。気持ち悪い」等と言おうものなら、フィンに対する周りの評価はがた落ちだろう。リヴェリアを崇拝するエルフから罵られる未来も確実。それはそれで興奮するという変態的思考が頭をよぎるが、まだ大してイチャイチャできていない身としては困るのだ。1人葛藤を続けるフィン。
「そ、それではお願いしよう。今日は忙しいだろうし今度時間があるときに頼む」
少し声が裏返ったような気もするが、リヴェリアから了承を得た。フィンは冒険に勝利した。何ならLv.7に上がれそうだった。
『よっしゃーーー!これで遠慮なくリヴェリアに触れる口実が出来たぜ!今すぐにもみほぐしてあげたいがそれは危険か?今は耐えねば!!』
「分かったよ。また時間があるときにでも」
内心は大喜びだが表面上には一切出さずクールに返すフィン。抑えきれず口角が上がっているが後ろに立つリヴェリアには見えていないだろう。
「す、少しはほぐれたか?今日は時間もないしこの位にしておこう。先程の話楽しみにしておくからな」
マッサージを終えるとリヴェリアは落ち着かない様子で、一言告げると部屋から出て行った。バタンッと扉が閉まるとフィンはガッツポーズをし、1人小躍りしていた。
親しい間柄とはいえリヴェリアがここまで他人に触れることも、ましてやマッサージを頼むことなどないのだ。変態的な思考が邪魔をし、変態勇者には見えていなかった。フィンを見ているときのリヴェリアの乙女の表情を。それに気づくのはいつになるのだろうか。
▽ ▽ ▽
午後になると、フィンはヘファイストスファミリアを訪れていた。武器の整備をお願いしている椿のもとで武器の受け取りを行うためだ。何度も来ているフィンは慣れた足取りで一つの工房を目指す。そうして一つの扉の前で足を止めると、ノックをして中へと入った。
「失礼するよ。武器の受け取りに来たんだけど、整備の方は終わっているかい?」
「おお!フィンではないか!もちろん終わっておるぞ。そんなことよりも人肌の温もりが恋しいのだ。抱きしめさせてくれ!」
そこにいたのは袴にさらしと言う露出度の高い服装をした美しい肢体を持つ美女。ヘファイストスファミリアの団長で鍛冶の腕はオラリオトップである。フィンが椿のもとに武器の整備を依頼しているのは、その腕を見込んでのこともあるが、何より
「ああ、やっぱり人肌は良いな。フィンを抱きしめていると母性があふれてくるようだ」
ガバッとフィンに抱き着きそう話す椿。毎度人肌が恋しいという理由で抱き着いてくる椿が最高だからであった。熱い工房で作業をしていたために汗もかいており、そんな状態で抱きしめられるのは嫌がるものだろう。しかし、変態フィンにとっては当然ご褒美である。避けることもせずに受け入れ椿のなすがままにされている。
『待ってましたー!!このすべすべした肌と丁度顔を包み込んでくれる二つの山!一時間ぐらいこのままでいてくれないだろうか』
あまりの極楽に昇天しかけるフィンだが、だらけきった顔で気を失うのは色々と不味い。
「ああ、ずっと抱きしめていたくなるな。どうだフィン、ここに一晩泊まってみ、ひゃっ!!」
欲望をどうにか抑え込んだフィンは、椿の脇に手を差し込んだ。椿は思わず可愛らしい声を上げて飛びのいた。顔を赤く染め、脇を隠しながら恨めしそうな表情でフィンをにらんでいる。
「危うく窒息しそうだったからね。そんな顔をしないで、人肌は十分だろう」
「だからと言って脇は、、手前でも恥ずかしいこともあるのだぞ!」
「まあまあ、ところで武器はどうなったのかな?」
「あ、ああそういえばまだ見せておらんかったな」
フィンは話を逸らすのが上手く、先ほどの女性の脇を触るという変態行為をサラッと流す。何十回と行われたやり取り故に、へたれフィンも段々と大胆になっており今度は思いっきり胸を揉んでやろうかなどと考えていた。犯罪者である。
武器を取りに行く椿、その後ろについていきながら脇を触った手を見てにやけるフィン。椿はヒューマンとドワーフの間のハーフドワーフだが、美人になってほんとに良かったと思う。ガレスみたいにならなくて良かった。
椿から受け取った自身の愛槍。満足のいく出来に喜ぶと同時に、また使い込んで整備に来ようと心に決める。
「手前はいつでも待っておるからな!何か不備があったらいつでも来い」
「ありがとう椿。また来るよ」
お礼を告げて工房の外に出たフィンは、扉が閉まった後に再度自分の手を見てにやけた。
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