意地っ張りで強いキミに (どおん!)
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慣れぬ地での人助け。

青い空に二つ、大きな雲が間延びして浮かんでいる。ぷかぷかぷかぷか、とても気持ち良さそうだ。ベッドに寝転んでいるのだが、そこからみえる窓枠から切り取られた晴天はさながら写真のようで、どこか現実味を帯びてはいないようにも感じる。だが、ミーンミンと恋に燃える蝉たちの大声を聞くと、窓越しにガツンと現実に殴られた気分になる。夏休み最後の日、26度に設定されたクーラーが風を運ぶ部屋は、下界と隔絶された快適な空間を用意してくれる。何もない無機質な時間はおだやか眠気を運んでくる。大きなあくびをして何かすることはないかと考えた。だが宿題も三日前に終わってしまい、友達なんてものはここには一人もいないものだから時間を持て余していて、それはそれは非常に困っているのが現状である。暇だ、その一言に尽きた。だが別段トクベツな何かを望んでいるわけでもない。だって外に出かけるのは面倒だ。何か変化があっても大抵ついていけなくて面倒臭くなってしまう自分の質を考えると、別段このままでいいのではないのだろうかとも思えてきた。クルクルと思考のネズミがホイールを回している。結局人間なんて劇的な変化を求めてなどいない、安定性を重視した生き物なのだ。ってこの前なにかのラノベに書いてたっけなぁ…

机の上にあるデジタル時計を見やると時刻は14時であった。流石に何かしなければ、せっかくの休みをほぼほぼ家で過ごしてしまってはこんな健康な体に産んでくれた両親に申し訳がつかなくなってしまう。なんのための頑丈な体なのか、今ここで動かなければいつ動くのだとーー、なんて実際はかけらも思っちゃいない。朝からずっとエアコンをつけているからこれ以上つけっぱなしだと怒られてしまうので泣く泣く出かけるのが本当のところだ。

部屋着のテキトーなゾウが描かれたTシャツから手近にハンガーにかけてあるワイシャツを着て、タンスから短パンを引っ張り出して颯爽と二階から駆け下りる。

「リュウ!ドタドタうるさい!!」

「ごめんお母さん!出かけてくる!」

「はーい!気をつけてね!あと階段は静かに降りなさい!!」

「はーい!」

リビングからの怒声を軽く流してサンダルを履いて玄関を飛び出た。外はうだるような暑さだ。気温は確か今日は28度、東京に比べればマシではあるがそれにしてもクソ暑い。

「ふぁっきんほっと……くそあちぃ……」

口から感想が漏れるくらいにあつい、心のダムを崩壊させる日本の夏は中々に油断ならない。

さて、引っ越してきてすぐなのでこの辺りにはまったくもって詳しくないのだが、一体どこに行こうか。少し悩んで、唯一自分の足で行ったことのある近くの公園に向かうことにした。

□ □ □ □

 

ぼーっと歩くこと7分くらいで、ついに目的地が見えてきた。ここまで歩くだけで汗はダラダラであるが、先程とは違いここに自分がいる事がしっかりと感じられて幾分か気持ちはスッキリとした。先程は面倒だと思っていたが、やっぱり自分から行動してみると想像とは違った答えが返ってくるなーと、額を首にかけていたタオルで拭っていると、なにやら怒鳴り声が聞こえてきた。なんだなんだ、と野次馬精神で声の聞こえた方、公園の奥に行ってみるとなにやら五人の男女が一人の眼帯をした女子を取り囲んでいた。身長からして自分と同じくらいの年齢だろうか。

「アタシのデビキャを返せッ!」

「ヤーだよーだ!眼帯女の呪われた気持ち悪いぬいぐるみだー!ほーら、たかしパース!」

「うわっ!やめろよ呪われるだろー!」

「ちょっとアンタ達やめたげなよー」

……どうやらいじめの現場に遭遇してしまったらしい。面倒臭い所を見てしまった。大方あの眼帯の子は眼帯のせいでいじめられているようだ。しかし、おそらく僕と同年代とすると、一つと下の学年だとしても小学四年生。もう立派な高学年だ。もう少し下の年齢にお手本になれるような行動をすべきなのではなかろうか…

眼帯の女の子は少し背の高い男子達にぬいぐるみを奪われ必死に取り返そうとしているが身長多勢に無勢で今にも泣き出しそうである。さて、ここで逃げては男が廃る、それにじいちゃんにぶっ殺されそうなので、どうにか助けてあげるとしよう。さすれば善は急げだ。すうっと大きく息を吸い込むと、

「お巡りさーーん!!!女の子がいじめられてまーーーす!!!こっちでーーーす!!!」

「んな!?どこに!?」

「こっちでーーす!!こっちこっち!!」

「おいやばいよたかし!」

「早く行こ!そんなぬいぐるみほっといてさ!」

「お、おう!行くぞ!」

いじめっ子達は蜘蛛の子を散らすように速やかに公園から退散していった。その際に投げられたぬいぐるみが僕の方にポーンと飛んできたのでこれをキャッチ。もちろんお巡りさんなど実際にはいないのだが、いじめっ子達は特に確認もせずに慌ててどこかにいってしまった。大成功である、やったぜ。そしてこの公園に残されたのは自分と眼帯の少女の二人だけである。眼帯の女の子は事態をまだ飲み込めていないらしく潤んだ大きな瞳をパチクリさせている。では、自分もさっさと要件を済まして家に帰るとしよう。そう思い少女に歩み寄った。

「これ、返すよ」

そういってぬいぐるみを少女にて渡そうとすると、途端に敵意目線に乗せて向けられた気がした。なんで?あとちょっと怖いな。

「別にウチは、助けてなんて頼んでないッ!」

と、さっき怒鳴ってたよりも大きな声で叫ばれた。耳がキーンとする。

「うーん、けど自分がこうしてなかったら、今君の手元にそのぬいぐるみは無かったと思うけど」

「そ、そんなことないッ!あとちょっとで取り返せてたモンッ!」

なるほど、この少女はあくまで自分でなんとかできたのに、自分が余計なことをしたせいで計画が狂ったと、そういっているのか。少しむっとなったが、こういう時こそ冷静に。びー、くーるだ、古田龍一。

「……そうか、それは悪いことをした。すまない、じゃあ次からは関わらないようにしよう」

「あッ…」

それだけ言い残すと自分は足早と公園を出た。何か最後に聞こえた気がするが知ったことじゃない。そもそもこれ以上いたらさらに怒鳴られてしまうかもしれないし、君子危うきに近寄らず、である。しかしいじめというのは初めて見たが、なかなかいけ好かないものだった。そんないじめ潰せたのだ、本人には怒られてしまったがこれはかなりのじいちゃんポイント高めな行動ではないだろうか。そう考えるとさっきのちょっとした苛立ちも忘れて再び外に出た時のスッキリとした気分になれた。帰ったら報告だ!と意気揚々とスキップで自宅に戻るのであった。ちなみにこの後家に帰ると、家を出てから帰るまでなんと30分しか経っておらず、お母さんになにしに外にでてったの?と言われ、そんなに元気ならと買い物を任される羽目になるのであった。

 

□ □ □ □

 

 

 



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登校って……なんなんだろうね。

八月も末なので初投稿です。


はてさて、登校とは、また登校という言葉を聞くとなぜこんなに憂鬱な気分になるのだろうか、そしてそれが見知らぬ地へと赴くものとなれば、落ち込むどころか気が気でなくなるのがもはや必然じゃなかろうか。人間、未知に対しては抵抗が少なからず存在するだろう。自分はそれが人一倍大きいタイプなのだ。だからこそ登校日の朝、少し早目に設定した目覚ましによって中途半端に覚醒した意識を、この意味不明な思考回路とともに放り投げてしまいたい、そうおもってしまってもしかたないのではあるまいか。

「こら!!目覚まし鳴ってるでしょ!!早く起きなさい!!」

「ふぁい!!」

だがそれは我が母が許さない。分かってはいたのだ、規則正しくがモットーのお母さんのことだから、一度目覚ましが鳴ったら最後だということを、そしてそれが自分にとっての死を告げる宣告になるというとも。だがそれでも諦めきれなかったのだ。一瞬の微睡みこそが至高なのだ。男として、そう男に生まれたならばこそ、その頂き、そのロマンを追い求めて生きたかった。さらば自分の惰眠よ、うつつとえそらの真ん中に自分は確かに、そう確かに存在出来たのだ。

…よし、無駄な思考終わり。さっさと起きて下に行かないとまたカミナリを食らってしまうだろうから、急いで下に降りなければ。

向こうの学校とは違いこちらでは私服登校が基本らしいのでまたテキトーにワイシャツと短パンを引っ張り出してくる。そして足早に下に降りると忙しなく朝食を用意する母の姿があった。

「おはよ、リュウ」

「うん、おはよ、お母さん」

今朝の朝食はご飯味噌汁納豆にオムレツ…なかなか美味そうだ。お母さんの料理は絶品で、並みの料理店では太刀打ちできないと自分の中で有名である。

「ほら、ササっと食べちゃいなさい。あ、けどちゃんとしっかり噛むこと!」

「おっけー、そういえば父さんは?」

「パパならさっき出ていったわよ。まだ引っ越してきてすぐだからなんだか忙しいんだって」

「そっか、最近会ってなかったから会えると思ってたけど残念だな。それじゃあいただきます」

「はーい、どーぞ食べよし」

でたな食べよし。説明しよう、食べよしとは我が母君が開発した謎言語であり、意味は食べなさい、とかガツガツ食え!とかである。お母さんはいい人で優しく贔屓目に見なくてもおそらく美人なのだが、少しだけ他の人と変わっている。主にこういう謎言語関係なのだが、まあとても優しく芯がある人で怒る時は怒ってくれる、いい母親の典型例みたいな人である。こんな人の元に生まれてこれて自分は恵まれているなぁ、ということをしみじみと思いながら味噌汁を飲み込んだ、うん、だしの味がよく出ていて美味しい!

そうして朝食を食べ終えた後は二階に戻って学校の用意が入ったリュックサックを背負っていざ行かん死地へと、本当に気分は敵に特攻する日本兵みたいな感じだ。ちなみに現在は7時30分、8時25分までに門をくぐれば良いのだから、あまりにも早い出発である。もう少し遅い出発でも良いのだが、昨晩自分の中でこの時間に出ると決めていたのである。男古田龍一、やると決めたからにはやり遂げる、行くと決めたからには行くのである。さあ、いつも履いてるスニーカーを履いて、ドアの鍵を開け、思いっきり息を吸い込んでお母さんに向かい力一杯叫んだ。

「行ってきます!!!!」

すると負けじといった勢いで声が返ってきた。

「うるさい!ご近所迷惑だからもっと静かに行ってきなさい!!!」

「……はい」

「あっ、そういえば…」

思いっきり怒られた。大は小を兼ねる、という言葉は確かに存在するが、思い切りが良すぎるのも問題である。なんにせよ怒られた事とご近所様に迷惑をかけた事、この二つが心にずしっとのしかかった。さっき母さんが何か言おうとしてたがそんなことどうでもよくなるくらいには凹んでいるのだ。人様の迷惑になってはいけない、なってしまってはじいちゃんに………よし、これ以上難しいことは考えない、目指せ友達100人だ、もちろん本気ではないけれど。登校は起きた時と同じく、憂鬱な時間となった。

 

□ □ □ □

 

登校は道がわからなくなるなどのトラブルは一切なく、しっかりと小学校までたどり着くことができた。さて、自分のクラスは確か5-2だ。昨夜母さんから聞いたものだから間違いはないだろう。思ったよりも綺麗な校舎の三階へ上がり、廊下を歩くと間も無く目的の教室が目に入った。しかし最初は引っ越し先が宮城なんて言うからよっぽど田舎なんだろうなぁと思っていたけれど、引っ越した先が仙台市内であったので前に住んでいたところとまったくもって変わりはないように感じた。むしろ校舎はこっちの方が綺麗である。つまり、自分で見聞きし感じたこと以外はあまり信用するな、といっても過言ではなかろう。そんなことを考えながら教室の扉を開ける。比較的新品に近いドアを開けると、まだ誰もいないようであった。ここが新しい学びの場所か、とかなんとか考えていると重大なことに気がついた。しまった、席がわからない。当然である、初めての登校なのだ、事前にクラスは通知されていても席まではわからないだろう。とりあえず手持ち無沙汰であったので近い席に座らせてもらい、本を読むことにした。ただいま自分が読んでいるのはガガ◯文庫から出版されている「やはり俺の青春◯ブコメはまちがっている。」である。主人公のひねくれた視点から繰り出される言動が最高に面白い一作だ。栞を挟んでおいたところから読み始めて5分くらい、物語りが面白い展開になってきたところで廊下からスタスタと足音が聞こえてきた。こんな時間に登校とは、なんと勤勉な生徒なのだろうか。などどと考えていると、足音はどんどん近くなり今いる教室の前で止まると同時に扉が勢いよく開いた。なんと扉を開いたのは昨日見た眼帯女子だったのである。いやいや偶然が出来すぎている、ライトノベルかよ。いわゆる、いやそうはならんやろというやつだ。まあなっとるんだが。

ぼんやりと思考をしていると、ふと少女が口を開いた。

「……そこ、ウチの席だ」

まるで虫でも見るような目で、心底嫌そうに発せられた言葉は自分のハートにダイレクトアタックだ。まって、や、やばい泣きそう。いやしかし、男児たるもの女子の前では決して涙は見せない、見せてはいけないのだ。そんな決意ののち、目の前の少女に不快な思いをさせてしまった事に気がつき、スッと席から立ち上がり少女の前に立った。そして姿勢を正し、勢いよく上半身と下半身が90°になるようにガバッと半身を下げる。そう、これは最敬礼である。

「すまなかった。今日からこの学校に転校してきたんだが、クラスは聞いても席までは聞いていなくてな、嫌な思いをさせてしまい本当に申し訳ない」

誠意を見せるならば言葉だけではダメだ。、しっかりと体でも誠意を表せ。これも、我が爺ちゃんの教えだ。

「あ、いや、そこまで謝らなくても…」

「いいや、それでは自分の気が済まない」

「いや、だからいいって…」

「そうだ、なんなら自分の頬を思いっきり引っ叩いてくれても」

「だから!もういいって言ってるだろーッ!」

少女の大声と共にハッと我にかえった、同時に少し顔を下げる。…また自分は暴走していたみたいだな…先ほどとは別の申し訳なさがまた自分を襲う。このような暴走癖は小さい頃からなのである。しかしこれで黙っていては仕方がないので、もう一度謝罪をしようと顔を上げる

「す、すまない。自分は、かなり思い込みが激しいというか、一度こうだと決めると止まらないところがあるんだ…」

「そ、そうなのか…」

「……」

「…………」

早朝の校舎に相応しい、どこか清々しい沈黙が、今はうるさいくらいに自分を責め立てるような感覚に襲われる。気まずい、あまりに気まずすぎる。そんな空気を壊すために、慌てて無理くりに口を動かした。

「じ、自分の名前は古田龍一!好きなものは読書にゲームにスポーツなど様々だ!嫌いなものは卑怯なものとウソつき!君の名前は!?」

「えッ、あ、えっと、ウチは早坂美玲。好きなものはお気に入りのブランドの服とか、可愛いもの、とか。…嫌いなのは…って!急になんなんだよッ!」

「あ、いや、そういえば名乗っていなかったと思ってな。自己紹介は基本だろう?」

そうアイサツはキホン、なんかよくわからない本にもそう書いてあったのだ。

「いや、けど急にするのは変じゃないか?それに、今日転校してきてこのクラスに来るんなら、あとで自己紹介はするんじゃないのか?」

「ハッ!確かに!」

言われてみればそうである、なんだかもっと恥ずかしくなってきた。自分がやかんで、水が入っていたならば、きっとそれは白い煙となって目から噴き出しているだろうくらいには恥ずかしい。恥ずかしさからワタワタしていると、急に笑い声が聞こえてきた。声の主はもちろん目の前にいる少女からだ。

「あははッ、オマエ、変なヤツだな!」

「へ、ヘンではない!たまたま、そうたまたま!焦ったりしてしまっただけだ!」

「いーや、絶ッ対オマエはヘンなヤツだ。急に自己紹介とか、ぷっ」

「た、頼むからそれは言わないで、それいじょういわないでくれーー!!」

こうして自分の初登校は彼女との、早坂美玲との賑やかな一幕から幕を開けるのであった。

 

 

□ □ □ □



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