落ちこぼれの魔導士は魔王と共に異世界で生きるようです (ウィングゼロ)
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プロローグ『異世界転移』
1話


…どうして俺は、こんなにも惨めだと思ってしまうのであろう。

そう思い始めたのは8年ほど前のことだ

異世界より飛来したオーパーツを当時、仲の良かった少女と異世界から来たフェレット擬き…基、少年と探し始めたのがきっかけだった。

俺と少女には特異な才能…魔法を使うことができた。

その力でオーパーツの封印活動をし始めたけど殆どしていたのは少女の方だった。

少女は俺よりその線の才能に恵まれていて…俺ができたことなんてたかが知れていた。

だからこそ俺は異世界から来た組織が介入してきた時点でこの事件から手を引くことになったが少女は理由もあったが組織と協力して事件を最後まで付き合った。

その半年後に起きた事件でもそう…

遠い親戚が起点となった事件…そこで俺は組織や少女達とは敵対することになった。

先の事件とは違い、相棒の存在も有り、除け者にされることは無かったが…結局、正念場やあの人が消滅するときも間に合わなかった。

 

結局、力を手に入れたというのに何も出来なかったことが多かった。

それからも周りは組織に入っていく中、立ち止まっている俺だけは……今もなお足踏みをして立ち止まっていた。

 

 

 

97管理外世界、地球

その星の極東部に位置する島国、日本に俺は住んでいる。

昨日も夜遅くまでユーノのところで司書のバイトをしていたために眠気がきつい。

くそ広い書庫でよくあそこまでまともに整理できたユーノは絶対天才だと思う。

そんなことを思いながら今日は週初めの月曜、教室の机に顔を埋め、意識を眠りにつこうとするとよく知ってる声が俺に向けて話しかけてきた。

「おはよう!正人くん!」

話しかけてきたのは白崎香織、俺とはこの教室内では1番の昔馴染みでスタイルやルックスはなのはやフェイト達にも勝るとも劣らない容姿、この学校の二大女神とも称されている彼女は俺に向けられている男ども殺気など気にもせず…本当に気付いていないのであろう。

「…おはよう…香織…」

そんな俺はというと欠伸もしながら眠たそうな顔つきで挨拶をする。すると周りからの殺気が一層強くなったが俺にとってはこの程度の殺気は馴れているために受け流していく。

「おはよう、八坂くん…またバイト?頑張るのは良いけどそれで寝不足していたら駄目じゃない」

「雫の言うとおりだ、八坂は少し生活習慣を直すべきじゃないか?いつまでも香織の優しさに甘えていたら駄目だろ?」

「全くだぜ、幾ら幼なじみだっていっても変える気が無い奴に何を言っても無駄だぜ」

香織がやってくるといつものことながらこの3人もやってくる。

一人目は八重樫雫、この学園の二大女神のもう一人にして八重樫家直伝の剣術の使い手、剣道では負けるなしで、メディアからは現代の美少女剣士と呼ばれて男女問わず、熱狂的なファンが多い。

二人目、天之河光輝、簡単に纏めると容姿端麗、完璧超人で唯一の欠点は自分の考えが間違っていないと自己中心的な思考していることだろう。

そして最後の1人は坂上龍太郎、高二だというのに190を越える巨漢、見た目通りで努力や根性といった熱血系で無気力な俺とは相対しているといっていい

この3人とも関係というなら小学校は違うが香織の連れ添いで顔見知りと言ったところだ。

といってもこんな堕落してしまった以前を知るのは此処にいる香織だけなのだが…

「八重樫に天之河、坂上か…おはよう…すまん、マジで眠いから寝させてくれ…」

この3人には香織を任せることにし、周りで騒ぐ中俺の意識は直ぐに眠りに落ちた。

 

香織SIDE

私の教室には光輝くんや雫ちゃん達とは別にもう一人幼なじみがいる。

学校は違っていたけど1番付き合いの長い。

八坂正人くん、昔は明るくて優しい男の子だった。

でも7年ほど前のクリスマス辺りをきっかけに変わってしまった。  

今の正人くんは無気力で折り合いも悪く…1人でいることが多い

正人くんの遠い親戚のはやてちゃんにも留学でイギリスに行く前に正人くんのことをお願いされている。

はやてちゃんは正人くんがこんなことになった原因を知ってるみたいだけど教えてくれなかった。何でも色々とあるらしい

だからこそ私にできることは正人くんをひとりぼっちにさせないこと…

目を離したら物凄く遠い場所に行ってしまいそうだから…今日もいつも通りに話しかけた。

だけどいつも言ってるのに光輝くんや龍太郎くんが口を挟んでくる。私はお話ししたいだけなのに 

今日も短い会話だったけど話すことができた。

いつか元の正人くんに戻ってくれるよね?

 

正人SIDE 

あれから目を覚まし直ぐに眠りに落ちるということが何度か続き、既にお昼時

購買組は買いに出て行き残っているのは弁当組や外で買ってきた生徒達、それと四時限目の社会の先生、畑山愛子先生とそれと話している女子ぐらいか

 

俺も昼飯は持参したので鞄からコンビニの袋を取り出し中からは手軽に買えるチョコバーが3本出てくる

昼は腹の継ぎ足しで夜にがっつり、本局のお店で食べることを考えているために昼を極力抑えたのだ。

だが此処で俺は失念していた。

何故直ぐに教室から出なかったのか

この教室には世話焼きな香織がいることを忘れていた。

「あっ!正人くん!一緒にお昼食べよう!南雲くんもそれでいいよね?」

「あははは、別に構わないよ」

俺のことをロックオンした香織は悪意など一変もない笑みでお昼を誘い、既に捕まっていたのか南雲ハジメもまた苦笑いで周りの空気を悪化させないように言葉を選ぶ。

だがここで

「香織、こっちで食べよう。南雲も八坂もまだ寝足りないらしい。折角の美味しい香織の手料理を寝ぼけたまま食べるなんて、俺が許さないよ」

 

天之河が登場、いやお前の許しがいるのも可笑しいからな。

「え?なんで光輝くんの許しがいるの?」

きょとんとした顔つきで首を傾げる香織、素で返したことに八重樫は口から吹き出してるしクラスの空気も色々と凍った気がする。ご都合思考万歳な天之河はあれやこれやと説得しているみたいだが天然には勝てない気がする。

そんなやり取りを眺めながら俺は思う。あの日から俺は必死に頑張ることをやめた、俺が頑張ったところで何も変えられなかったから…

「いつだってこんなことじゃなかったことばかりだ…か…」

本当に言い得て妙だ。

そんなことをぼやきながら香織の視線が天之河に集中しているうちに教室を出ようと席を立ち上がったその時、俺は足を止めて天之河の足元を凝視する。

そこには日常ではありえない陣が出現していて、俺にとっては見慣れたそれは直ぐに何なのかわかった。

「転移…術式?」

「え?」

俺が口ずさんだその言葉を誰かが聞いたのか、そんな声が聞こえてきたが今はそれどころでは無い。

あれは不味い、昔に非日常を経験したからこそわかる。

「皆!教室から逃げて!」

転移陣が一気に拡大し生徒達の悲鳴が聞こえる中、まだ教室に残っていた畑山先生が皆に逃げるように叫ぶが既に遅すぎる。

「っ!!香織!!」

間に合わないと踏みせめて転移先で何がおきるかわからないため幼なじみの直ぐ横へと走りだす。

そして眩い光が教室を包み込み、教室に残っていた俺達は転移に巻き込まれた。

 

 



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2話

 

教室全体が眩い光に包まれ転移の浮遊感を感じて数秒といったところだろうか、確りとした地面に足がつく感覚を感じ直ぐ横にいるへたり込んで唖然としている香織を庇うように辺りを見渡す。

地面は大理石でできていて、この部屋の空間も広い、燭台等も見受けられ此処は何処かの教会…いやこの大きさからかなり規模のでかい聖堂と見て間違いは無い

極めつけに、俺達を囲うようにいる中世の僧侶を放物とさせる神父が何十人もいて、深々祈りを捧げている。全員俺達が転移することをわかって…いや彼らが此処に召喚した可能性が高い。

だがこれらの様子を見ていきなり襲われて何かの儀式の生け贄…ということはなさそうだ。

しかし警戒は緩めない、これは明らかな拉致でわざわざ呼び寄せた俺達に何をさせようとするのか、それをまず見極めなければならない。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

この中で一際目立っていた老人…教皇イシュタルは微笑みを混乱する俺達に向けるのであった。

 

 

香織SIDE

これは一体どうなってるの?さっきまで教室にいて、光輝くんの足元に光り輝いていた紋様が教室中に広がったと思ったら見知らない場所で知らない人達に囲まれている。

みんな頭の処理が追いつかず唖然としている中、近くにいる正人くんが強ばった顔で姿勢を低くして周囲を見渡している。

教室でも私の名前を呼びながら私の元に駆けつけてきた。

今の正人くんは少し前の無気力で私を遠ざけようとする彼じゃない…昔の明るくて元気だった正人くんなんだとそう感じられた。

 

正人SIDE

 

イシュタルという老人に連れられやってきたのはこれまた広い広場。未だ混乱が収まらないが正気に戻った天之河のカリスマ性でクラスを纏め、何とか移動できるぐらいに落ち着いた。

余談だが同じく巻き込まれた畑山先生が教師なのにっと涙目になってた

そして俺達は用意された椅子に腰を掛け、隅々まで観察するとこれは一流の者達が施したとわかる長いテーブルや食器などの置物…作りから置き方まで全て一流だ。 

教皇イシュタルの言ったとおり、俺達は最大限の持てなしで迎えられているということだろう。

 

全員の着席を見計らうように美少女メイド達がカートで押しながら部屋には行ってくる。

少なからず落ち着きを取り戻していることからアニメやマンガなどに登場するようなメイドが現れたことにより多くの男子がそのメイド達を凝視する。

そんな男達を女子が冷たい視線で見ているようだ。

メイド達が俺達に飲み物を給仕してくれて男性なんかは美少女メイドが間近に来ることからやはり凝視する人が多い。

かくいう俺は給仕されてどうもと軽く会釈をしただけで終わらせている。

美少女メイドなど言ってしまえばすずかのところで見慣れている。別に凝視するほどのことでもない。

メイドが給仕しているときに何やら疑っている視線を感じ目を向けると上段近くの席に座る香織がこっちを疑い深く見ていたが俺が軽く流していたことになにやらほっとした表情で視線を正面に戻していた。

 

そして生徒全員に給仕が行き渡ると漸く、教皇イシュタルは詳しい事情を俺達に話してくれた。

簡潔的に要約すると…

この世界の種族は大きく別れて人間族、魔人族、亜人族の3つに分かれている。

そして人間族と魔人族は100年以上も前から戦い続けているらしい。

だがしかし近年魔人族は魔物を使役し拮抗していた戦力バランスが瓦解、人族が滅亡する危機に陥った。

そこで人間族の崇める神エヒトは魔人族の根絶やしにするために地球から俺達を召喚した…っと

こんな話を聞いて俺が思ったのはエヒトという神がどうしようもない身勝手な神だということ

勝手に召喚したのもそうだがそれならば戦える人間を召喚すればいいはずだ。

何故平和な時代、しかも無関係な世界の平和な国の日本の戦いのたも知らない高校生を戦場に立たせようとは明らかに馬鹿げている。

 

だからこそ当然反発する人も現れる、上段近くの先に座る畑山先生だ。

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

中学生?と思われるほどの小柄な体格で大人のように背伸びしている畑山先生は怒っているのはわかるがどうしても怒っているというより愛らしいという言葉が先に出てしまう気がした。

 

そんな畑山先生の反発の言葉だがイシュタルの次の言葉でこの場にいる召喚された者全員が凍りつくことになる。

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

残酷な真実を教えられ畑山先生も顔を青くして椅子に座り込み、帰れないという事実に生徒達もまた動揺の声を上げる。

そんな中で南雲は何処か冷静だった。ラノベとかの展開でありきたりなものだからいち早く想像できたのかも知れない。

かくいう俺も想定はした、少し外してしまったが概ね辺りだ。

俺はイシュタル達が呼び寄せたと考えたが呼び寄せた本人が神と謳われるエヒト

しかも帰れるのも神の気まぐれと来た、確証は無い。

これは管理局の力が必要かもしれない。

俺達の高校の範囲も魔力サーチャーが存在していた。

当然、転移による魔力をキャッチしているはずだ。

そのうえ休業中とはいえ優秀なオペレーターのエイミィさんがいるから転移先も割り出せているかもしれない。

だがそれでも、不自然なことが1つ。

常備している緊急用の端末から通信が来ないことだ。

管理局の特注品で電波などを必要としていないため通信はできるはず。

つまりそんな端末でもできない状況…何らかの妨害が起きているのかもしれない

 

そして事態は最悪の状況へと発展していく。

みんなが混乱する中それを止めるように机を叩き立ち上がったのは天之河だった

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

そう断言する天之河のカリスマ性を発揮し先程の混乱など嘘のようにクラスのほぼ全員が戦争に賛成する事態となる。

畑山先生はあたふたして止めようとしたけど流れを変えられない。

だが、天之河…全てを救う…それがどれほど難しいのかわからないのか?

何もかもハッピーエンドそんなのはアニメや小説などの話。現実はそう上手くいかない。俺が関わった2つの事件でもそうだったのだから

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

不味い、この流れを変えなければ…!

「天之河…俺は戦争に反対だ」

途轍もない嫌な予感それが俺の全身で感じて直ぐさま椅子から立ち上がる。

「なっ!?八坂…君はイシュタルさんからの事情を聞いて何も感じないっていうのか!?」

「彼らが悲痛なのはわかるが

、それを俺達に頼ること自体が間違っている。召喚するならもっと戦闘のプロを連れてくればいい一介の学生の俺達が介入していい事態じゃない!それに転移に関しても使えないと言っていたが、もしかしたら転移について書かれてる書物だって確率的には捨てきれない」

何としてでも戦争に参加を回避する。

そう意気込みで周りに戦争の反対を促したが殆どの生徒は俺の言葉を受け入れてくれなかった。

俺に向ける視線は殆ど好意的なものでは無い。よく考えてみればそうだ、無気力な俺とカリスマ性溢れ完璧超人の天之河、人望の差は明らかだ。

恐らく何を言っても無駄なのは明らかだと踏むと俺は自分の発言力のなさを悔いながら椅子に座る。

こうして俺の言葉も届かず、クラスは戦争に参加する方針に決まった。

 

 



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3話

 

異世界らトータスへ飛ばされた俺達は魔人族との戦争をすることに話が纏まり。

いきなり最前線というわけではなく、先ずは戦う術を身につけることになる。

そのため、聖教教会と親密なハイリヒ王国という国に向かうようだ。

因みに今いる聖教教会は神山という雲の上を突き抜けた山の上に立てられているため、生徒達の響めきは大きい。

その上、山の頂上…しかも雲の上というのに息苦しくない

恐らくだがこの聖教教会一帯には魔法を使った結界が張られていてそれらが此処で生活する環境を整えているのだろう。

生徒達は中々見ることができない絶景に見惚れながらもイシュタルに促されるまま、教会でみた大理石で出来た台座。

台座には魔法陣が描かれており、周囲は柵に覆われ、その先は雲海で下が見えない。

そのためみんな中央に固まる中、俺は外側で特に気にせず雲海を目にしていた。

「正人くん、怖くないの?」

っと恐る恐るだが香織が俺の元にやってくる。

そんな香織を見て度胸あるなっと的外れな感心をしているとイシュタルが詠唱し始める。

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

 

そういうと台座に描かれている魔法陣が燦々と輝きだし台座はロープウェイのように下へと降り立っていく。

「これって魔法なのかな?凄いね!正人くん」

初めて見る魔法に香織も含め生徒達は興奮している。

俺にとってはそんなことどうでも良いことだ。

魔法なんて四六時中見ているものだから、まあこんなものかと見られるし、どっちかっていうと俺的にはイシュタルが使った術式について興味がある。

 

ミッド式でもベルカ式でもない術式

はやてのような詠唱が魔法の起動キーとして発動するタイプのようだが、魔法のバリエーションは豊富なのだろう。

「…正人くん?物凄く笑みを浮かべてどうしたの?」

おっと、どうやら顔に出ていたらしい…なにぶん書庫で調べ物していたときやユーノに連れられて遺跡探索していたことで生まれた未知なる探求に刺激され笑みを浮かべていたようだ。

「いや、何でもない」

香織の返答に素っ気なく返し、こんな所でもいじめ常習犯の檜山の妬みの視線を感じ、それを無視しながら雲海が抜けると下には広い城下町と山肌に作られている立派な西洋の城が一望できた。

 

台座は先程見えた立派な西洋の城の高い塔に到着すると俺達はこの城の玉座へと招かれる。

その道中でもすれ違った中世の騎士やメイド達に事情は知っているようで誠心誠意の礼儀でもてなされながら廊下を歩いて行く。

不意に同じく最後尾にいる南雲は居心地が悪そうにしていた。

そして玉座の間に辿り着く、その前の扉を一部を除いて恐る恐る入って行く中

俺は少し目を疑った。

本来どっしりと玉座に座る王が立っていること…

これは即ち王国より聖教教会が上の立場にいるということだ。

それほどまでにエヒト神が酔狂されている。そんな現状を目の当たりにし、王族達の自己紹介が始まった。

 

 

その後、勇者とその同胞の降臨したことを祝し開かれた晩餐会。王族、主催ということであらゆる珍味等が取りそろえられていて、王国の人達や生徒達も全員がとても楽しそうな顔をしていた。そんな中俺はというとパーティーの会場の隅で中々上手い虹色の液体が入った容器を片手にその光景を観察していた。

「…みんな、あんなパニックが嘘のようだな…」

既に生徒達からは不安や恐怖といった怖じ気づくものはない。

寧ろ自分達はこの国の救世主なのだと自信に溢れているように見える。

「あれじゃあ、いつか痛い目を見る」

遠い未来のことを考えながら容器に入った虹色の液体を口にする。

「あっ!正人くんこんなところにいた!」

すると香織が俺を漸く見つけたのか、嬉しそうにこちらに近づいてくる。

「香織か…結構楽しんでるみたいだな」

「うん、正人くんは楽しくないの?」

顔つきがとても楽しんでいるとはほど遠い顔をしているのだろう。

「…楽しくない…といえば嘘になる…ふと思っただけだ。みんな…戦うことへの躊躇がない、本当の意味で戦いというものを知るのは恐らく…」

誰かを失ってからだろう。

最後の部分は口にはしなかった。言えば香織は多分、顔を青くするだろうし今は宴会の場だ。そういう言葉は慎むべきだ。

「…ふふ」

「香織?何で笑うんだよ?」

今のやり取りで笑うところなどなかったはずだ。

疑問に思う中。香織は懐かしげにその理由をくちにした。

「だって、正人くんが昔みたいにちゃんと話し合ってくれてるから」

とても単純なことだった。確かに俺はあの事件以降、親しい間柄にも素っ気なくしてきた。

近くにいると劣等感に見舞われそうだから…

「正人くん、難しいこと考えず、今日は楽しもう?ね?」

そういって持っていた料理を差し出す香織、俺は溜め息を付き空いている手で頭をかくと仕方ないとぼやきながら香織の差し出した料理を受け取る。

この宴会だけだ…終われば今晩から色々動く。

転移や連絡…試せるものは全て試そう。

だけど今だけだ…もてなされているこれらを堪能するのは

 



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4話

 

「くそ!これでも駄目か…!」

ハイリヒ王国の城内、勇者達に割り振られた部屋で俺は必死に解決策を模索していた。

取りあえず行ったことは主に転移と通信

前者の転移は魔法陣じたいは展開でき短距離しかやっていないが可能。だが次元転移となると何かに阻まれるように打ち消されている。

そして、後者の通信に関してもあまり明るい話はない

昨日考察していた同様、通信も駄目だった。

履歴は受信されている訳でもなく。こちらからかけても繋がる気配もない。

ただ単に遠すぎるのかそれとも外部に通信ができないように妨害されているのか

憶測を頭の中で並べながら部屋の窓から外を見る。

 

「朝日が昇り始めてる…」

気付かなかったがどうやら一徹したみたいだ、目に隈が出来てそうだな 。朝から訓練が始まると言っていたから、今からおちおち眠ることも出来ない。

何処かで区切って眠るべきだったとぼやきながら気休めで数分仮眠をしながら誰かが呼びに来るまで体を休めた。

 

 

そして集められた俺達は今から座学が始まろうとしている。他の面々はちゃんと寝ていたみたいで顔色は悪くない。

「おはよう!正人くん!」

「香織か…おはよう…」

「あれ?正人くん、顔色悪いけど大丈夫?もしかして寝てないの?」

「大丈夫だ、昨晩色々と考え事をしてたら朝になってたたけだ」

何をやっていたのかは詳細を省きながら、やってきた香織にまで心配され、一応大丈夫と言っておく。

気をつけてねっと心配の言葉を投げ掛けながらも何かを配っていたのか12センチ×7センチの銀色のプレートを俺に渡してくる。

銀色のプレートには昨晩俺が勝手に命名したトータス術式の魔法陣も描かれていて何らかの魔法的なものということは直ぐにわかり思わず口を滑らした。

古代遺物(ロストロギア)か?」

「え?」

「あっ、いや、なんでもない…寝てないのが響いてるみたいだな」

思わず口にしてしまった単語に香織が反応、直ぐさま誤魔化し寝ていないことが原因ということにした。

 

そしてこれが全員に配られたのを見計らい俺達を見てくれる教官、ハイリヒ王国の騎士団長メルド・ロギンスが話し始める。

この人、結構気楽な人で、俺達にも年上ぶったり特別扱いする人じゃなかった。でもまあ、教官として紹介されたとき、面倒な雑務は副長に押しつけたと豪快に笑っていたけど、俺的にはそれでいいのが騎士団長…っと内心で思う。

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。ステータスオープンと言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

アーティファクトという聞き覚えのない単語に俺を含む全員が首を傾げる中、代表で天之河がそれは何なのか質問する。

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

メルド団長の説明に俺も含め納得する生徒達、要するにアーティファクト=古代遺物(ロストロギア)という感じで良いだろう。

では早速と渡されていた針で指を傷つけ血を魔法陣に擦りつけると、ステータスプレートが表示される。さて俺のステータスは…

 

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八坂正人 16歳 男 レベル1

天職:弓使い

筋力:40

体力:70

耐性:25

敏捷:25

魔力:15000

魔耐:5

技能:魔力操作[+身体強化][+武装強化][+視覚強化]・ベルカ術式適性・双剣術・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密曲射][+精密速射][+視力補正]・気配感知・魔力感知・速読・高速思考・並行思考・言語理解

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………まあこんなところだろう

天職弓使いねえ、確かに闇の書事件でも弓形のデバイスを使っていたから言い得て妙だと思うけど…他のみんなはどうなのだろう。

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

レベル1ってなってるけど俺の場合7年も前に戦ってるわけだからレベル1っていうのも不思議に思う。

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

いや、他の全員がどんなステータスしてるんだろうか…俺、魔力だけ桁が違うんだけど

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

戦闘用の天職だけど弓使いのくせに双剣術っていうスキルが付いているのだけどこれ大丈夫か?

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

あのすいません数十倍どころか1500倍なんだけどこれって成長率えげつないってことじゃないの!?

「ねえ、正人くん、正人くんのステータスってどうだった?私は治癒師なんだって」

「えっと…弓使い…」

取りあえず天職だけ答える。メルド団長には見せる前に色々と言っておかなければならない。

まず天之河は天職が勇者…しかもステータスALL100らしく、その上技能もかなりあるらしい。

それから次々と生徒達のステータスを確認していき、俺も見せる前に釘を刺し、何とか公にはならずに済んだ。

「…南雲?」

後ろらへんにいた南雲の顔色が悪い。

何処かステータスが悪いのかとそう思っているとメルド団長もハジメのステータスを見て固まっていた。

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

南雲は生産職だったようだ。確かにここまで全員が戦闘職という偏りすぎなものがあったので南雲の顔の色もわかるが…たぶんそれだけじゃない。

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

南雲を弄る種だとばかりにいじめ常習犯の檜山やその取り巻きどもが見下してくる。

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

そしてハジメのステータスプレートを強引に奪うとステータスをみた檜山が爆笑しそのまま取り巻き達にステータスプレートを投げ渡すと全員が檜山と同じ反応をする。

「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

あいつら…!

晒し者にする行為に俺も頭にきて一言二言言ってやろうと近づこうとしたがその前に畑山先生がやってくる。

「こらー!何を笑っているんですか!仲間を笑うなんて先生許しませんよ!ええ、先生は絶対許しません!早くプレートを南雲君に返しなさい!」

ウガーっと私は怒ってますよと言いたいのであろう畑山先生は完全に興がさめたのか、檜山達から簡単にステータスプレートを取り戻すと南雲のフォローしようと南雲と同じ生産職で基本的に南雲と変わらないとステータスプレートを見せると南雲の目が更に死んだ目になった。

メルド団長の反応から生産職ではあるけど類を見ないほどのレア天職だったんだろう…フォローのつもりが思いっきりトドメを刺してしまったようだ。

 



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5話

高速投稿!今回は筆が凄く進む!


 

訓練が始まってもう2週間が経った。

俺は最小限の訓練をして後の時間はハイリヒ王国の王立図書館でこの世界の情報を集めている。

因みに今の俺のステータスはこんな感じだ。

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八坂正人 16歳 男 レベル4

天職:弓使い

筋力:52

体力:89

耐性:42

敏捷:34

魔力:15078

魔耐:8

技能:魔力操作[+身体強化][+武装強化][+視覚強化]・ベルカ術式適性・双剣術・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密曲射][+精密速射][+視力補正]・気配感知・魔力感知・速読・高速思考・並行思考・言語理解[+言語解読]

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幸いなことにステータスプレートの言語理解のお陰でこの世界の文字も手に取るようにわかり、その発生系の言語解読は言語理解の上位版で古文書もすらすらと解読できるのだ。

こんなスキル手に入れたと聞かれれば、ユーノの奴は目を輝かせて遺跡探索とかに連れ出しそうだな

そんなわけで俺は王立図書館の本を可能な限り読みまくった。この世界の仕組みに、地名や魔物の種類、魔法一覧やこの世界の偉人達の英雄譚…それこそバラエティ豊富に読み漁った。

だけれど俺が欲しい情報…次元跳躍魔法の手掛かりは何一つ掴めていない。

というより此処の書物には偏りがある。

それは全てにおいてエヒト神や聖教教会が絶対正義の観点でかかれたものしかなかったからだ。

1つぐらい別観点の書物もあってもいいんだがな

そんなことを頭の中で考えながら魔導士としてもはや必須スキル、並行思考でまた本を読み終えるとふと息を吐く。

メルド団長の話だと近々実戦を行うとか、みんな思った以上に訓練に打ち込んでるから不測の事態にならなければ問題は無いだろう…

そう思いながら視線を真っ直ぐ前に向けるとそこには南雲の姿がある。

呼んでいた本を投げ、重い音が図書館に鳴り響くと偶然通りかかりの司書に睨まれて竦んでいる。

「南雲、流石に本を投げるのはないと思うぞ」

「ご、ごめん…」

俺も司書のバイトしているために本は丁寧にする。王立図書館の司書ではないが別のところの司書としてやんわりと南雲を叱るとさらに落ち込んで謝ってくる。

 

南雲の気持ちはわからなくはない。彼とってはこの世界はあまりにも残酷だったのだ。

南雲が無能というレッテルを貼られ、2週間、彼は周りから完全に置いて行かれた状況に心苦しい気持ちでいっぱいだった。

天職はありきたりな錬成師、ステータスは平凡、魔法適性もなく、技能も錬成以外は言語理解と2つだけ…

実戦に出れば間違いなく足手まといと自他も認めていた。

だが俺は完全に南雲が無能だというのは少し待ったをかけたい気持ちがある。

「南雲は今の自分と他の錬成師、相手にはなくて自分にあるものって何か分かるか?」

「え?それってどういう………っ!知識」

「正解、地球から来た錬成師は南雲しかいない、能力は地味かもしれないけど、知識と発想の転換でそれは確実な武器となる」

覚えていて損はないぞっと優しく言葉をかけると南雲の表情は少し晴れたようだ。

頑張るのはこれから、後は南雲しだいだろう。

「あはは、ありがとう八坂くん…そういえばこういう風に話すのってはじめてだよね」

「ああ、そうだな…なにかと屋上で顔を合わせるが、言葉を交わしたのも精々短い応対ぐらいだったか」

南雲とは昼休みに屋上でなにかと会う機会がある。

人気を避けたいからか同じ場所で昼食を取り、だがあくまで顔見知りで話しかけない。そんな関係だった。

「……ねえ、八坂くん…そういえばここに来る前…」

南雲が何かを言おうとしたとき午後を迎える鐘、それは王都全体に鳴り響く。これは俺と南雲にとってはもうすぐ始まる訓練の合図といっても過言ではない。

「どうやら訓練の時間らしい、南雲行くぞ」

「うん…そうだね」

俺は読みかけていた本を閉じ、南雲の読んでいた本が何処にあったかも教えながら本を元にあった場所に返し俺達は訓練所へと向かった。

 

訓練所に辿り着いたときにはもう既に何人かやってきていて開始までまだ早いので自主練や談笑に花を咲かせる光景が見える。

「どうだ?南雲少し組み手でもしてみるか」

「え?それじゃあお願いしようかな」

これも何かの縁だと思い、少し組み手で訓練が始まるまで待つかと南雲を誘うと何処か腰が退いているようだがやってくれるようだ。

だけどそんな南雲が背後から押されて転倒、直ぐに鋭い目線を向けるとそこにいたのは南雲を虐める檜山と小悪党パーティだ。

 

「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が戦っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ!ヒヒヒ」

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

悪意100%の檜山達の提案は受け入れられない、そのために俺は倒れている南雲の前に立ち檜山達に対立する。

「おいおいなんだよ、八坂。訓練もろくにしないお前が何の真似だよ」

「何の真似って、あれじゃね?無能と不真面目で同族意識してんじゃね?ギャハハハ」

檜山達は俺を見下しながら、南雲を守るのは同族意識からだと指摘し、内心当たっていると思いながらも怯む気はない。

「悪いけど、南雲とは俺と組み手をするっていう先約があるんだ」

「ハー?なんだよそれ、無能と不真面目が組み手したって訓練になるわけねえだろ?」

「少なくとも檜山達がやろうとしてる一方的な稽古よりかは経験になるだろう」

「っ!八坂てめえ…!」

正論を通す俺に敵意を込めて睨む小悪党達、険悪になる空気に他の生徒達も離れていく中、拳を構えてファイティングポーズを取る。

檜山達も巫山戯た口を黙らせると言わんばかりに拳に力が入っているのがわかった。

「おらぁっ!!」

初めに動いたのは檜山だ。この世界から来てから身体能力が上がっているが降り出される拳は大振りで避けやすかったために檜山の拳を左腕で軌道を逸らしながら開いた胸元に右手の一撃を入れる。

「うぐっ!」

「檜山!?ヤロー!!」

檜山をやられたのを見て残りの取り巻き達も俺に襲いかかってくるが全て攻撃を逸らして肘打ち裏拳など多種多様の攻撃でダメージを確実に入れていく。

この戦い方はザフィーラから教えられたカウンターヒッターの戦法だ。武装を失ったときのための護身技と教えてくれたのだ。

確りとした技法を身につけている俺と荒削りの戦い方をする檜山達、結果は見るまでもなかった。

「く、くそ!訓練も真面目に受けないくせに!ここに焼撃を…」

「遅い!」

苛立つ檜山は魔法で攻撃しようと詠唱するが詠唱する前に懐に入れると踏んでいた俺は檜山へと踏み込む中、この戦いは第三者に止められることになる。

「あなた達!何やっているの!」

横槍を入れた声は八重樫だった俺は瞬時に距離を取ると戦闘態勢を解いた。

「八重樫…それに香織や天之河達まで」

「やべ…っ!」

勇者ご一行登場に檜山達は顔の色を悪くするが今の光景を見られると非は俺にあるように見える。

「八坂くん。これはどういうことかしら?」

「……檜山達が南雲に手を出してそれを俺が止めた…それだけだ」

至ってシンプルに本当のことを話すとそうっとわかっている表情で頷くと、檜山達に一睨みをきかせ檜山達はささっと何処かへ行ってしまった。

「南雲くん大丈夫!?」

「ありがとう白崎さん、突き飛ばされただけだから…」

起き上がった南雲を心配する香織。南雲は大丈夫と話した後、話がそれで終わらず天之河がくどくどと持論を喋り始め、それを見ていた、八重樫は顔に手を当て、俺も南雲にすまんと心の中で謝った。

その後天之河は俺にもくどくどと持論を述べてきた後訓練が始まり、その後の夕食で翌日から王都から南西にあるオルクス大迷宮への実地演習が行われるのをメルド団長から聞かされ、その後俺は明日の実地演習のために早めの就寝に入った。

 




取りあえず今のアンケートはオルクス大迷宮突入までとします


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6話

オルクス大迷宮

そこは百層からなるその建造物はこの世界の7つあると言われる大迷宮。

下に行くに連れて魔物が強くなっていく。今回は二十層まで行くらしく、南雲のフォローなどを考えると妥当な案だとメルド団長も言っていた。

当の南雲はかなり面目ないと落ち込んでいる。

オルクス大迷宮前の宿場町ホルアドで一日休息を取ることになり王国御用達の宿屋で俺と南雲は同じ部屋に割当たられた。これは多分メルド団長の計らいがあるのだろう。

南雲も部屋割りが俺と同じだったことでほっとしているようで現在ベッドにダイブして完全にばてている様子。

俺と俺でオルクス大迷宮についての生態系や鉱物などの本を昨日のうちに借りておき事前の知識として椅子に座りながら読みふける。

明日は実戦…生徒達からしたら初めての命をかけた戦い、俺からしたら7年ぶりの実戦、心構えは問題は無いが実戦や訓練を怠り、無限書庫の手伝いばかりで腕が鈍っている感覚はある。実際、檜山達とやり合った時にそう感じた体が思考に追いついていない感覚。それに内心痛感しながら本を読んでいると部屋の外からノックする音が聞こえてくる。

「ん?こんな夜中に一体誰だ?」

既に夜遅い、深夜の時間帯普通は来訪者など来るわけないのだが…

南雲も、うとうとしていたがノックで起きたようだ。

「正人くん、南雲くん、起きてる?私だけど…ちょっと、いいかな?」

「ん?香織か?」

この声は紛れもなく香織だ。一体何しに来たのだろう。そう思って扉を開けるとそこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織の姿だった。

「…なんでやねん」

「香織、流石に警戒しなさすぎだ」

「ふえ?」

明らかにアウトだよくもまあこんな姿で宿を徘徊して来れたものだ。もし、深夜でなければうちの一部を除く男子生徒どもは嫌らしい目で香織を見ていたに違いない。

「香織、それで夜分遅くに何しに来たんだ?連絡事項ならメルド団長辺りが来そうだが」

「その、少し2人と話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

「…少し長くなりそうだな、まあ入れよ、南雲もいいか?」

「…どうぞ」

ルームメイトの許可も下りたことで香織を部屋に入れ先程座っていた椅子に香織を座らせると紅茶擬きを3人分注ぎ椅子に座る香織と南雲に渡し、俺は立ちながら紅茶を持ち、香織の話に耳を傾ける。

「明日の迷宮だけど……2人には町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから!お願い!」

あまりにも唐突な内容だった。香織がここまで必死になるのは何か理由がありそうだが、横目で見てみると南雲はかなり引きつっている。

「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……それに八坂くんは別に足手まといでもないし…」

「違うの! 足手まといだとかそういうことじゃないの!」

どうやら言葉の綾のようだ。だが香織はそれほど気にしているものそれは一体何なのだろうかと考えているとごめんねと香織は誤解を生む言葉を使ったことを謝るも改めて話始める。

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……正人くんと南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

「…消えるってわけか」

「…うん」

つまり、悪夢に魘されて心配でやってきたとそういうことか

だけど、あくまで夢な訳だからそこまで気にすることもないだろう。

「単なる夢なんだろ?だったらそこまで気にすることも無いだろ?」

「それだけじゃない…前にもこんなことがあったから……7年前、クリスマスの1週間前ぐらいに…こんな悪夢を」

「7年前…っ!」

7年前…それは俺にとって色々と心当たりがあるキーワードだった。

その上クリスマスとなればもはや疑う余地はないその辺りだと闇の書事件の真っ只中、シグナム達共にはやてを救うために動いていた時期だ。

「覚えてるよね?そのぐらいの時期に正人くん、意識不明の大けがを負って入院してたの」

「…その前日にも悪夢を見たっていうのか」

俺の問にうんっと頷く香織、香織や家族にはあの時暴力団に絡まれてボコボコに鳴りながらも命辛々逃げ出したと表向きの理由を言った。だが本当は当時夜天の…闇の書の主であるはやて勢力に加担するのを看過でいない本局の提督ギリアムさんの使い魔、リーゼロッテとリーゼアリアの襲撃により受けたダメージ。本人達からは事件後謝罪されたが俺をこれ以上関わらせないために闇の書事件の舞台から下ろそうとした。

だけど、クリスマスイブの日、闇の書の覚醒で結界に飲まれた俺も痛む身体を引きづって出てきたものの、飛行魔法を習得していなかった俺は結界を維持する武装隊とともにフォローすることしかできなく、事件の終息を遠からず見ることしかできなかった。そしてその後のあの結末も…

「…八坂くん?」

どうやら周りの声に気付かないぐらい考え込んだのだろう深刻な顔をする俺を南雲が心配して声を掛けたことで気がつき、ああ、すまんっと謝る。

「安心しろ、香織、あんなこともう二度とない、それに夢は所詮夢、あの時は絶妙に重なっただけで偶然の産物だったんだ。それにみんなに置いてかられるほど俺は落ちぶれてない」

化け物スペックでハイスピード出世していくはやて達に自身の劣等感を感じている俺だが、ついこの前まで一般人だったクラスメート達に後れを取るほど弱くはなかった。

「そんなに心配なら俺がそんな不安を吹き飛ばしてやる。約束する。もう二度と不安になってさせない」

「正人くん、うん、そうだね!」

「あはは、それじゃあ僕は二人に守って貰おうかな、白崎さんは治癒師だし、僕が大けが負っても直してくれるよね?それに八坂くんは弓使い、僕が危険なときに離れていても助けてくれそうだし、それなら僕も大丈夫だよ」

自分の弱さを前面に出しながら顔を赤くしている俺はともかく女である香織に守って欲しいと懇願するのはやはり羞恥心がかなりあるのだろう。

「別に構わない、ついでに南雲守ってやるよ」

「つ、ついでって…」

「冗談だ…気にするな」

少し冗句も交えながら俺と南雲は話していると自然笑みを零す。

そういえばこうやって他人と確りと話したのはいつ依頼だろうか…この世界に来て少しは意義があったのかもしれない。

その後、香織が南雲と初めてあったのは高校からではなく中学の頃で土下座していたと暴露して俺は紅茶擬きを吹きかけたり…

その光景を見て香織が南雲が優しくて強い人と言ったとき南雲が全力で香織にへんな性癖でもあるのかとマジな目で見てきたときに俺が全力で否定したり…

それは他人を守ろうとした行動だと香織が述べて俺は香織が特殊性癖の持ち主なのではと疑ったのが晴れてほっとしたりと、月下に照らす中、俺達は笑みを浮かべながら話を交わした。

 

その後香織は自分の部屋に帰っていき俺達も決意したことを胸にベッドで横になり眠りに落ちた。

だがこの時俺達の部屋から香織が出ていくのを他人に見られていて、そいつが俺達に憎悪の感情を更に高めているなどこの時の俺達は知るはずもなかった。

 




オルクス大迷宮突入前です。アンケート終了は今日の午後3時にさせていただきます


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7話

ホルアドの宿でおきた月下の語り合いから一夜が過ぎ、俺達はオルクス大迷宮の前までやって来た。

入り口前には博物館のような入場ゲートで此処で確りとした点呼を取っているようだ。

集合場所の広間も装備や役に立つ傷薬など大迷宮を挑むために必要なものを売買していて、売れ行きもかなり向上のようだ。

そして今メルド団長が行った手続きを終わらせたのか俺達はオルクス大迷宮に入っていく。

 

迷宮の中に入ると、外とは隔離された別の空気が満たしている。

道は多少広く、光る鉱石が道を照らしていて松明などは要らないようだ。

そんな通路をしばらく歩くと大きめなドーム状の広間に出てきてそこで俺はいち早くこの近くに潜む魔物の気配を感じる。

「南雲、気をつけろ魔物がいる」

「え!?」

既に俺は弓のアーティファクトに後ろ腰に付けている矢筒から矢を取り出し弓に携えている。

臨戦態勢に入ったのをメルド団長も感心してみていると壁の隙間から灰色の毛玉が出てくる。

此処で俺は南雲に話を振るのであった

「南雲、あれはわかるか?」

「えっと確か、ラットマン、すばしっこいけど、大したことない魔物だったはず」

「中々、魔物のことを調べているじゃないか、よし!光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!」

メルド団長は南雲の知識に確りと評価してくれて、その後天之河達勇者パーティーが前に出て俺達は後ろに下がる。

天之河率いる勇者パーティー。勇者天之河を筆頭に剣士である八重樫と拳士である坂上の前衛と後衛は治癒師の香織、そして香織の仲の良い降霊術師のメガネっ娘の中村恵理と元気が取り柄のちびっ子、結界師の谷口鈴といったパーティーだ。

既に習っているフォーメーションをとり前衛さんが後衛を守るように魔物を捌き、後衛の香織達が詠唱で一気に魔物を一掃する。

まさにセオリーともいえる戦術だろう。

といってもちょっとやり過ぎかな?

どうやらメルド団長も同じこと考えていたみたいで香織達を軽めに叱っている。

そんなこんなで順調に下へと進んでいき既に演習の目的地、20階層まで到達していた。

昔は65階層まで到達していたという…だからこそ罠などのトラップを回避していたために俺達も安全にここまで降りれてきたわけだ。

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合入れろ!」

メルド団長の号令で気合いを入れる俺達、といっても俺と南雲のあぶられパーティーといえば騎士団の取りこぼしの処理とショボい戦果しかない。

といっても戦果がないわけではない。メルド団長を始め騎士達は南雲の戦法に関心を抱いているのだから。まず錬成で敵を封じ込めると動けなくなった敵を串刺しで倒す。まさに錬成師ならではな倒しかたに無能と思っていた南雲を改めることができた。

そして俺はそんな南雲のフォロー、これはメルド団長に提案していたものだ。

なんでも俺が持つ技能には色々と不可解なものがあるらしく、あまり表だってださない方が良いと釘を刺されている。

普通は聖教教会やら王国に伝えるべきなのだが、勇者のつれならば不可解なことの1つや2つ合っても可笑しくないかっと、豪快に笑っていて、その時本当にこの人気さくでいい人と思った。

そんなこんなであまり目立たない立ち位置、南雲のフォローが今の俺の仕事なのだ。

そして小休憩にはいり、各々喉などを潤わせるなど体を休めている。俺も持ってきていた容器の水を含み。一息をつく。

といっても全然疲れていないし今もなお周囲は警戒中だ。

「八坂くん、色々フォローしてくれてありがとう」

「別に気にするな、こっちも予備の矢筒持ってもらってるからお互い様だ」

そう言いながら後ろ腰の携えている矢筒を確認する。

矢は消耗品だから矢の残りは気に配らないといけない。だから予備の矢筒も南雲にお願いをして持ってもらっている。

「…はぁ…デバイスがあれば矢の残数なんて気にしないのに」

「え?八坂くん何か言った」

「いやなにも」

つい、本音を零してしまった。俺の愛機は残念ながらトータスにはない。

召喚される当日は家に置いてきているのだ。流石にアクセサリーに見える愛機を指摘されても困るので 、だからこそ俺が使える魔法も数少ない。

南雲を上手く誤魔化すとまた殺気に満ちる視線を感じる。南雲も感じてるのか辺りを見渡して殺気を出してる本人を探しているが既に殺気は退いている。

「また殺気…僕らが活躍してるからいい気になるな的な感じかな」

「……そうだといいんだが」

少し嫌な予感がする一応殺気を放つ本人をマークしておこう。

そんなこんなで小休憩も終わり行軍を再開する俺達。

道中メルド団長が足を止め、俺も魔物気配に臨戦態勢を取ると周囲に目を配る。

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

メルド団長の忠告が飛ぶと壁に擬態していたカメレオンのような擬態特製を持つゴリラ…ロックマウントだったかそいつが姿を現した。

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

メルド団長の忠告で正面を坂上が天之河と八重樫がロックマウントを囲もうとするが足が悪いのか思うように動けていない。

ロックマウントもバカではないのか、少し後退するとロックマウントの固有魔法、威圧の咆哮で前衛3人が動けなくなる。

そのすきに後衛攻めとロックマウントが岩石を香織達に投げ、その上香織達に接近そのままどこぞの泥棒三世のタイブするように襲いかかってきてそのキモさから香織達は怯え詠唱が破棄されている。

「不味い…!メルド団長!岩石の方を頼みます!」

岩石とロックマウントの二重の波状攻撃、流石に矢で岩石を破壊するのは通常では無理なため、ロックマウントを狙うこと高速で思考し既に動いていたメルド団長に上告し矢筒から矢を3本取り出して素早く速射、3本ともロックマウントのほぼ同じ場所を射貫きそのまま転倒。岩石もメルド団長が切り伏せたようだ。

「こらこら、戦闘中に何やってる!八坂!良い援護と判断だ!」

たじろいていた、香織達を叱り、即座判断で的確に行動した俺を誉めるメルド団長。これなら立て直した前衛が難なく倒すだろうと思っていると天之河の絶対正義思考を失念していた。

「貴様……よくも香織達を……許さない!万翔羽ばたき、天へと至れ――天翔閃」

「あっ、こら、馬鹿者!」

メルド団長の言葉を無視して天之河が大技をぶっぱする。こんな狭い迷宮でなくても明らかなオーバーキル、これは後でメルド団長に怒られるな。

天之河の一撃は迷宮の壁などに亀裂を趨らせ破片も落ちている。だが天之河はこれで大丈夫と自分の失態に気付かずに香織達に大丈夫かと声を掛けようとする前にメルド団長の拳骨が天之河の頭に降り注いだ。

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!」

全くその通りと俺も内心思っていると天之河に駆け寄る香織があるものを発見する。

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

香織が指さす方に目を移すとそこには青く光る鉱石、その輝きはかなり神秘的なもので女性陣はうっとりしている。

確かあの鉱石は…俺は頭の中であの鉱石を書物で見たことを思い出しメルド団長も珍しいものをみたという顔であの鉱石が何なのかを説明する。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

グランツ鉱石は指輪やペンダントなどにも使われる高級な物、それで作られたものでよく求婚する人もいるという。

 

「…綺麗…」

うっとりする香織、そして何故か俺に視線を向けてきたがまさかあれを取れと?流石にそれは軽率なような…

「だったら俺らで回収しようぜ!」

っとその軽率な行動を取るものがいた。檜山だ。

檜山は香織の言葉を聞いて崩れた壁の瓦礫をよじ登りグランツ鉱石に近づいていく。

そんな身勝手な行動をメルド団長が注意するが檜山は聞こえないふりで注意を無視、そして騎士団員から衝撃な言葉がメルド団長に伝わる。

「団長!トラップです!」

「ッ!?」

「っ!くそ!」

トラップが設置されているそれだけで檜山がいまやろうとしていることが俺達を危険に晒すことだと充分に理解できた、俺は直ぐさま矢筒から矢を取り出し全員が危険にさらされるぐらいならと檜山の腕に照準を合わせる。

しかし、俺が照準を合わせると同時に檜山の手はグランツ鉱石に届いていた。

 

仕掛けられたトラップが作動し、2週間前に見覚えのある魔法陣が足元に出現し部屋全体を囲う、そしてそれは直ぐさまなんなのかわかった。

「転移魔法!?また飛ばされるぞ!!」

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

俺とメルド団長の必死な叫びも虚しく俺達は転移に巻き込まれ、別の場所に飛ばされた。

俺は上手く着地し警戒態勢を取る。同じく前衛職やメルド団長達騎士団員も上手く着地していて周囲を警戒しているようだ。だが南雲や香織、後衛組とおまけに原因を引き起こした檜山は尻餅を撃ち未だに態勢を崩している。

転移した先はどうやら橋の上のような場所でその橋の外はそこが見えない深淵が広がっていて落ちたらひとたまりもないと頷けた。

そして俺達はそんな橋の中間にいる。転移だけで終わるとは到底思えない恐らく挟撃してくるはず!

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

メルド団長も急いで指示を出し逃がそうとするも目指そうとする場所に大量の魔法陣が展開、更に反対側には一際大きい魔法陣が展開されている。

そしてその魔法陣から魔物達がそして一際大きかった魔物から大型の魔物が出現する。

その時メルド団長が呻くように呟いた。

「…まさか……ベヒモス…なのか…」



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8話

檜山の奴のせいで転移させられた俺達。

飛ばされた場所で完全に囲まれ、かなりやばい状況だった。

階段の方には百にも近い骸骨戦士、トラウムソルジャーにその反対側には大型の魔物メルド団長はベヒモスと呼んでいた。明らかにあの中で実力が逸脱していると俺は直ぐに理解する

そしてベヒモスが雄叫びを上げると我に返ったメルド団長が直ぐに指示を出す。

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

矢継ぎ早で指示を出すメルド団長だがこんなときも天之河の思考はぶれることはなかった。

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も……」

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物。かつて、最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

メルド団長の鬼の血相に天之河も一瞬怯むかそれでも正義感強い天之河は見捨てるという行動を渋っていた。

そんなことしているとベヒモスは咆哮を上げてこちらに突撃、橋の上ということで横に避けるスペースもない、このままだと轢き殺されるのが妥当だ。

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――聖絶!!」」」

2メートルの正方形の紙に書かれている魔法陣により何節も省略した聖絶は突進してくるベヒモスの攻撃を防ぎきる。

だが聖絶も1分というタイムリミットがあり完璧ではない。だが衝突の余波までは防ぎきることはできず。ベヒモスの足元の粉砕し、橋全体がその衝撃に揺れる。

恐らくいつ破られるのもそれほど時間は長くない。

生徒達はパニック状態、必死に騎士団員も鎮静させようとしているが全く意味がない。態勢を立て直し此処を脱出する。

それに必要な人材は…!

「きゃっ!」

「っ!ちぃっ!」

向こうで後ろを押されて転倒するクラスメイトの少女、しかも目の前にはトラウムソルジャーが剣を振り落とし命を刈り取ろうとしていたのを俺は見過ごさなかった。

直ぐさま身体強化で一気に加速、そして持っていない方の右手に魔力を集めトラウムソルジャーの脇腹目掛けて振り出し魔力衝撃波でトラウムソルジャーを振り飛ばし、二、三体巻き沿いにしながら橋の外の奈落に落ちていく。

「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!冷静に対処すれば後れを取ることはない!」

「あ、ありがとう!」

女子生徒はお礼を言うと冷静さを取り戻したのか武器である投擲用のナイフを取り出してトラウムソルジャーに応戦し始める。

「もう隠してるわけにはいかないか」

身体強化は別にステータスが強いからと言えるが先程の衝撃波とかは弓使いが使うものではない。確実に追求は免れないだろう。

そんなことを予想しながら周囲の敵を警戒しながら辺りの戦況を見る

「八坂くん!」

「南雲か!無事だったんだな、この混乱を抑えるには天之河のカリスマがいる。お前は…」

「僕も行く!僕なら足止めできるかもしれない」

「…わかった!行くぞ!」

 

乱戦の中、南雲と合流し今の戦況を打開できるカリスマ性をもつ天之河の元…ベヒモスの近くへと走りだした。

遠目で見える限りではメルド団長と天之河が言い争っている。

大方メルド団長は自らを犠牲に天之河達を逃がそうとしているがあの天之河がそれを良しとはしない。それであんな平行線になっているのだろう

周りには香織や天之河のいつものメンツが揃ってる。

「天之河!」

「っ!八坂に南雲!?」

「正人くん!南雲くん!」

無事に辿り着いた俺と南雲、俺は天之河の名前を呼び気付いた周囲は俺が来た以上に南雲がここに来たことを驚いていた。

「天之河やみんなは直ぐに退路を確保しろ!あのままじゃ死者が出るぞ!」

俺はそんなことを他所に直ぐさま天之河に現実を直視させる。八重樫や坂上は直ぐに気付いてくれた。だが彼にとってはそれ以上に南雲がここに来たことにしか目が映っていなかった。

「八坂、何故南雲を連れて来たんだ、彼はこんな所にいていいわけがない!こいつは俺達に任せて…」

「そんなこと言っている場合かっ!」

状況が見えない天之河に反論したのは意外にも南雲だった。穏健でいつも余所余所しい南雲がこれでもかと言わんばかりに必死になって天之河に詰めより現状を話す。

「あれが見えないの!?みんなパニックになってる!リーダーがいないからだ!」

「南雲…よく言った…天之河…率いる者に必要なのは力じゃない…人を魅了するカリスマだ、それに関しては俺も南雲も他の生徒にしたって持ち合わせていない。だから今やるべきことをしてほしい」

「っ!ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ…」

「さがれぇ!!」

漸く、天之河の説得に成功した俺達、これで退路は安心と思った矢先、遂に騎士団員達が張っていた。聖絶が破られる。

荒れ狂う暴風が迫る中南雲が錬成で作った岩の壁で防ごうとするがそれでは簡単に砕け散ってしまう。しかし俺達にその暴風が襲うことはなかった。

ベヒモスと俺達の間にいくつも展開されている紺色のベルカ式のシールド、それが俺達を暴風から守ったのだから

「これって…」

「間…一髪」

「正人くん?足元のそれって…」

驚く南雲、俺は何とか張ることができたシールドにほっと一息し、香織は俺の足元に展開している紺色ベルカ式の魔法陣でそのシールドは俺が作ったものと悟った。

「メルド団長!ここは俺がベヒモスを抑えます!その間に天之河と一緒に退路を!」

「…っ!しかし」

「俺は大丈夫です!それ以上にあっちの方を!」

「……だが無茶はするなよ」

渋々だがメルド団長は天之河達や騎士団員達を連れて乱戦になっている階段方面へと走って行く。だがただ一人南雲だけが俺の隣にいた。

「南雲、流石にシールドも持たない、お前もメルド団長と一緒に…」

「僕もこいつを足止めするよ、たぶんそれがみんなが助かる確率が高いはずだから」

そう南雲は腹を括った表情で俺を見ている。多分、俺がいなかったら南雲がこいつを1人で足止めしていたのかもしれない。

「…もう後戻りはできないぞ」

下手をすればそれは自分が死ぬという意味、その覚悟があるのかと俺は南雲に問い掛けた。

「うん…僕もみんなのために戦いたいから…!」

南雲の瞳には確りとした決意が見て取れるそれに…そんな南雲を見て俺はふと昔のことを思い返してしまった。

 

7年前…あれは、はやての病気が闇の書の負荷が原因だと知り、シグナム達ははやての思いを踏みにじりながらもはやてに生きて欲しいと願い闇の書の蒐集を始めたとき、俺もまたはやてを失いたくないと思い蒐集活動に参加した始まりの夜のこと…

「八坂、無理は言わん、今ならまだ引き返せるぞ」

「……覚悟はしてきた。多分、悲しい戦いもあると思う…だけど今も苦しんでいるはやてを見殺しなんてできるわけがない!」

「そうか、ならば…行くぞ!」

シグナムと俺が交わした言葉、これはまるで今行った俺と南雲の語り合った内容と疑似している気がして、自然に笑みを零した。

「八坂くん?」

「いや、つい似てると思っただけだ。初陣の時に決意した、俺のようだなって」

「…なにそれ…」

笑みを零したことに疑問に思う南雲、それに答えるように俺は昔の俺のようだと話し、訳がわからない顔で俺を見ていた。

そんな言葉を交わしてる中でもベヒモスは突進を繰り返し、シールドには罅が入り始めているのがわかる。

そろそろ次の手を打とうかと思ったとき、ふと思い浮かんだことき不適に笑みを浮かべた。

「なあ、南雲…俺は確かにベヒモスを足止めするって言ったよな」

「え?確かにそう言ったけど」

それがどうかしたの?っと何を言い出すかわからないのかそれでも南雲は嫌な予感がするのか頰引きつっている。

「足止めするって言ったけど…別に…倒してしまっても構わないよな?」

 



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9話

ありふれた職業アニメ3話視聴しました!
一言、ハジメ、マジで躊躇いねえー


 

香織SIDE

後ろにいるベヒモスを正人くんに任せて、私達は階段へと急いでいる。

目の前は正人くんが指摘しているように乱戦そのものだ。光輝くんがいないときっと突破できない。そう思い正人くんは光輝くんの元にやってきたんだ。南雲くんきっとそう。これじゃあどっちが守ってるのかわからないな…

そう思いながら私は後ろを向いて正人くんを確認したときに足を止めてしまった。

正人くんがいるのはまだ良い…でも南雲くんもどうして残ってるの?

正人くんが張っているシールドはまだ破られていないため、遠くから見える限りだと頷いたりして何か話しているみたいで、正人くんが南雲くんを下がらせようとする素振りは見えない。

もしかして一緒に足止めをしようとしているのだろうか。

そう思うと私は何をしているのだろうか。昨晩の誓いを思い浮かべる。私は正人くんと南雲くんを守るといった。けど今私は正人くんと南雲くんに守られている。……こんなんじゃ駄目だよね。

「――天翔閃!」

後の方から光輝くんの声と大きな音が聞こえる。メルド団長達が到着したのだろう。多分、光輝くん達がいれば階段の方は大丈夫、だから少しぐらいわがまま言ってもいいよね? 

そう思ったより前に私は正人くん達の方に走っていた。後ろから雫ちゃんの声が聞こえたけど、追いかけてくる様子はない。道中に阻むものも無かったために私は直ぐに正人くん達の元へ戻ってきた。

「正人くん!南雲くん!」

「白崎さん!?」

「私も足止め手伝うよ!足手まといにはならないから!」

「えっと…その…」

南雲くんが何故か言葉が詰まっている。そんな南雲くんを他所に正人くんは少し笑みを浮かべながら私に話しかけた。

「まあ、来てしまったのは仕方ない。香織手伝って貰うぞ…俺達で…ベヒモスを倒す」

「ふえ?」

足止めじゃなくて倒すの?

そんなことを思っていると正人くんがシールドが破れるっと叫び遂に守っていた魔法陣が砕け散った。

 

正人SIDE

防ぎきっていたシールドは遂に砕け散り。ベヒモスは攻撃を防いでいた俺に怒り心頭なのか雄叫びを上げてベヒモスの被る兜がマグマのように燃えたぎる。

それを叩きつけるように地面に落下しようとしているのを見て直ぐに次の手を打った。

「っ!ドラグルバインド!」

突き出した手の先から魔法陣が展開されそこから紺色の鎖が複数飛び出しベヒモスの前足と頭などに絡みついて動きを封じる。封じたが暴れ回り直ぐに1本が砕け散っている。恐らく展開するときの魔力消費を抑えすぎたのだ

やはりデバイスがないために調整がままならない。そんなことを思い浮かべながら。

俺は身体強化で上がった身体能力で跳躍、その間にベヒモスは俺のドラグルバインドの鎖を全て引きちぎられている。そして空中で前回転しながら兜に目掛けて踵落としを炸裂。だがマグマのように燃えたぎっている兜を蹴っているのでこっちにも被害が無いわけではない。履いているブーツが焦げ、踵の皮膚がじりじりと焦げていくのがわかる。

ずーんっと重い音が鳴り響く中ベヒモスの四股の足元は掛かった重さでひび割れている。

「うぐっ!南雲!」

「錬成!!!」

炎症で痛む足に耐えながら南雲に指示。南雲は打ち合わせていた通り、ベヒモスの右前足の前で錬成を発動し右前足の足元の岩を落とし穴に変える。

そうすると確りと支えていたベヒモスの体は右前にのめり込む。そして俺も攻撃を仕掛けるために熱している兜にもう片方の足も付けて跳躍、ベヒモスの真上を舞いながら弓を構え矢を引き照準を落とし穴で態勢を崩している方のベヒモスの後ろ足に合わせ、矢を放つ音には思えない轟音共に矢が放たれ狙い通りベヒモスの後ろ足を貫通して射貫いた。勿論この攻撃の種は弓と矢を出来うる限り魔力で強化したそれだけのこと。しかしこの攻撃には魔力消費以上に不味いことがある。それは弓が攻撃の反動に耐えきれるかどうか、1発撃っただけで弓からはみしみしっと軋む音が響いているから後数発同じ要領で撃てば弓がへし折れてしまう。

右側の前後ろ足に踏ん張る力を無くさせると態勢は完全に右が支えられなくなり体は右に傾いていく

「錬成!!!!!」

その転倒する予測地点には南雲が錬成で作り上げた石の尖った柱。角度も確りと計算に入れているためにベヒモスの横腹を石の尖った柱が突き刺さる。取りあえずダメージを与えられて俺は一旦距離を取ると直ぐに香織が俺の元にやってきた。

「正人くん!無茶しないで!天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――天恵」

香織は直ぐに詠唱を始め天恵を発動すると炎症で痛む足や消費している魔力までも回復していく。

「といっても純粋なアタッカーが俺しかいないから…多少は無茶…香織危ない!」

無茶は承知してくれと苦笑いで香織に訪ねる中横転し横腹を南雲の錬成で出来た石の尖った柱で悶えていると思ったがそんな痛みも俺達と言わんばかりに残っている左前足を振り上げて俺と香織目掛けて振り落としてくる。咄嗟に気付いた俺は香織を抱え回避し、油断禁物だったと反省しつつ、矢を2本取りだし1本目を弓で引く。

「目を狙う!」

視力を失えば暴れ回るだけで何も出来ないようになる。そう思いまず第一射でベヒモスの左目を潰す。めきめきっと嫌な音がする中、次は右目を潰そうと2本目を弓にセットし弦を引き放った瞬間弓はバキッという音と共に折れてしまう。

仕方ないと俺は折れた弓と邪魔な矢筒を捨てると右手を魔力を集中させ確実に倒すことが出来るまで魔力を貯め、術式を組み込む。

「八坂くん!もうもたない!」

南雲の悲痛な声が響くと突き刺さっていた岩の柱が砕け散り、残っている3本の足で態勢を立て直そうとしていたがそれより速く、右手の魔力が貯まりきった。 

「これで終わりだ」

すかさずベヒモスの顔面に飛び上がり近づき右手でおいっきりベヒモスの顔面を殴ると貯まっていた魔力は直射型の射撃魔法と同じように顔面から直進して尻の方まで貫通。立て直そうとしていたベヒモスはまたゆっくりと倒れ込み今度は立ち上がることは出来なくなっていた。完全な勝利、俺達は経った3人でベヒモスを撃破したということだ。

「やったの僕たち…本当にベヒモスを」

「ああ、完全勝利だ」

未だに信じられない南雲はベヒモスの亡骸を見ながら俺に訪ねるとトドメを刺した俺は間違いないと答えると南雲も勝ったのだとそう実感する。

「やったね!正人くん!南雲くん!2人とも凄いよ!私なんて何も出来なかったのに」

「香織もお疲れ、いや、あの時回復してくれなかったらもう少し掛かってた気がする。ナイスサポートだ」

2人が死地で戦っているのを心配で涙目になっていた香織は本当に自分のことのように喜び、俺と南雲の賞賛を労い。俺もまた天恵で回復してくれたことをお礼を言う。

取りあえずはこれで危機は脱した。階段側ももう既に制圧が終わったようで、俺達がベヒモスを倒したことに唖然として動いていないようだ。

「それじゃあメルド団長達の元に行こう。」

内心、足止めだけといっておいてベヒモスを倒すとは何事だ!っと怒鳴られそうだなっと思いつつ、メルド団長の元へと一歩降り出そうとした。

「まさか、ベヒモスを倒してしまうとは…どうやら貴様達の実力を見誤っていたようだ」

その時だった、近くにいる香織とは違う第三者の女性の声、何処か聞き覚えのあるその声に俺も近くにいた南雲や香織も歩くことを止めて直ぐに声がした背後に体を向ける。そしてその人物を視界に捉えたとき俺の思考は完全に固まった。

ベヒモスの陰から現れたのは長い銀髪に赤い瞳の俺達より年上を感じさせる女性。美しいといえる美貌を持っていて、ローブなどで体型はいまいちわからないがきっとスタイルも良いのだろう。

だが、今の俺にはそんなことどうでも良かった。

「どういう…ことだよ…」

「八坂くん?」

聞き覚えのある声だと思った…だってこの人物は俺は知っているから

「どうしてこんな所に…いるんだよ…!」

「正人…くん?」

あの日、俺は…いや俺達はクリスマスの日あいつの消えるその瞬間を目撃したはずだ。

忘れるはずが無い…あの記憶が嘘なわけがない。

俺に力があれば変われたかもと自身の劣等感を大きく感じ努力しても何も変わらないと決めつけ無気力になった。起因でもある

いや、今はそんなこと考えるのはどうでも良いことだ。今目の前にいるのは間違いなくあの日失ったものなのだから

俺は一歩、また一歩と彼女に近づく。後の二人の声が何かを言っているようだがなにをいっているのかわからない。

「生きていてくれたんだな…!俺達がどれだけお前のことを…!俺達と一緒に行こう!お前が生きているって知ればみんな喜ぶ」

今の俺の顔は一体どんな風になっているのだろう。きっと涙目で顔も赤くなっているのだろう。

「一緒に帰ろう…!リィンフォー」

彼女の名前を呼ぼうとしたときガチャリという重い音と俺のお腹の辺りに当たる何かを感じる。

そして彼女は俺のことなど興味を示していないように口を開け…呟いた。

「撃ち貫け」

その言葉と共に俺の体を黒い閃光が…走った。

 



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10話

 

正人の体を黒い閃光が走った。正人はその衝撃で後ろに吹き飛ばされハジメと香織がいる近くで仰向けになって倒れる。それは香織にとって信じがたい光景だった。突如現れた女性を知っていた正人がその女性が放った攻撃で致命傷を負わされた。それは一瞬だったというのに香織にとってはスローモーションでゆっくりと感じられた。

ベヒモスとの戦いで無双した幼なじみ、それが呆気も無く倒れたことで放心してしまう香織、だが正人の貫かれたお腹から血が溢れ出し始めたときに香織は悲鳴を上げた。

「いや…いやぁぁぁっ!!正人くん!正人くん!!!

錯乱する香織。頭の中はぐちゃぐちゃで冷静な判断ができない。

「ぐはぁ…はぁ…はぁ」

「驚いたな即死だと思ったが本能的に急所を避けたのか…しかし…」

正人の口から吐血し呼吸が荒いがまだ息が有り。彼女は致命傷を避けたかとそう言いながら追撃するように左腕に装着しているパイルバンカーの矛先を正人と香織に向ける。

「香織!!」

「よせ!もう間に合わん!」

階段の方からは雫が助けに行こうと今にも飛び出そうとしていたがそれをメルドが静止する。あれでは間に合わない。そう理解できるからこそ、メルドは己の不甲斐さを悔いながらもこれ以上の犠牲を出さないため非情に徹した。

「穿て…」

「錬成!!!」

パイルバンカーから放たれた閃光が真っ直ぐ放たれたが重傷の正人や香織には当たることは無かった。放たれる着前、ハジメが錬成で正人と香織のいる足元の岩を凹ませ、それにより奇跡的に二人は助かった。

「南雲くん!?」

「白崎さん!速く八坂くんに治療を!白崎さんならまだ間に合う!」

ハジメは先程以上の恐怖にかりたたれながらも香織の治癒なら正人の体から出血している血を止められると希望的な憶測も交えながら叫ぶと、正人の瀕死に錯乱していた香織も正気に戻り、直ぐに詠唱を始めた。

「天の息吹、満ち満ちて――天恵」

この死地での火事場のくそ力なのか、本来香織が天恵を発動を三節まで省略できたが。たった二節で天恵を発動させ正人の回復を始める。

「小賢しい真似を」

香織が正人の回復を見て次こそ決めるっと女性はパイルバンカーの照準を香織にあわる。だがそれを見過ごさないのは錬成師である南雲である。

「錬成!!」

「くっ!」

直ぐさま錬成を発動し今度はハジメ達の周囲の岩を盛り上げ、女性の視界からハジメ達は見えなくなる。

「白崎さん!八坂くんの容体は!?」

「止血はできたよけど、意識が」

完全に視界を遮ったのを見計らってハジメは香織に正人の状態を確認する。短時間ではあるが女性により貫かれた傷は塞がり血管も回復したが意識だけが未だに回復しきっていなかった。

(此処に長居するわけには…)

此処にいれば直ぐに女性の標的として狙われるとハジメは思い、止血もできているのであればとハジメは香織と倒れている正人の元へ駆け寄り、動けない正人を担いだ。

「上手くメルド団長のところまで逃げよう!」

ハジメの言葉に香織は頷くと錬成で盛り上がっている岩を隠れ蓑に階段の方へ向かおうとしたとき、盛り上がっていた岩は風圧と共に全て砕け散り。女性の目からハジメと香織を確りと捉えられる。

「見つかった…!」

少しは時間稼ぎになると残っていた魔力で錬成したというのに、それがあっさりと砕け散った。そんな事態に血の気も引いてくるハジメは先程から香織や正人が狙われたパイルバンカーの矛先を自身に向けられ、自身の死期を悟る。黒き閃光が再び放たれようとしたとき、女性目掛けていくつもの魔法攻撃が降り注げられる。

それらが降り注いできているのはハジメ達が逃げようとしている階段がある場所、先に退路を確保したメルド団長達が魔法陣を展開して女性目掛けて放ったのだ。

「南雲くん!香織!」

「坊主!香織!八坂を連れて速くこっちまで来い!」

心配の声を上げる雫に、メルド団長が大声でハジメ達に聞こえるようにこっちに来るように伝えながらも次射の魔法の準備も怠らない。当初はハジメ達を見捨てるしかないと悔しながらも決断しようとしたが、ハジメの諦めていない光景を見て、長居しては危険だと重々承知しながらも、彼らが助けるために踏みとどまったのだ。

「南雲くん!急ごう!」

「うん!白崎さんは先に行って!」

生きる確率が出てきたと二人は顔色も良くなり持てる全てを出し切ってメルド達の元へと走りだす。香織が先行しその後ろを正人を担ぐハジメが急ぐ。女性は何とも涼しげな顔で次々と放たれる魔法がくらう手前でプロテクションというバリアで受けきり。何発も当たっているのにプロテクションは罅1つ付いていない。

(これなら僕たちは助かる!)

メルド達の支援攻撃で女性は足止め、このまま逃げ切れると希望を見いだしたハジメだが…

遂に悪意は牙を向けた。

(っ!どうして、あの魔法だけ僕の方に!?)

「うわぁっ!?」

女性目掛けて放たれていた魔法の1発がことあろうことか軌道を変えハジメに目掛けて飛んでいき突然のことで対処できないハジメは魔法の直撃をくらい。吹き飛ばされて正人共に地面に倒れる。

「正人くん!南雲くん!」

先行して走っていた香織が魔法の誤操作で直撃し倒れ込む2人を見て立ち止まり、2人の元へと引き返してしまう。

「っ!香織!駄目だ!そっちに行ってはいけない!」

光輝も引き返していく香織を見て必死に声を掛け呼び戻そうとするが香織にはそんな声聞こえていなかった。

「正人くん!」

「うっ…ぐっ…ぁ…!」

香織が正人の元へ辿り着き、安否を確認すると正人も無事なのは確認できたが、先程の攻撃で至るところ怪我をしていた。

「大丈夫、また、治療して「白崎さん!」…え?」

天恵を発動させようと詠唱を始めようとしたときにハジメに呼び止められる。ハジメの方を見ると彼の視線は女性の方に向いており、直ぐに確認を取ると香織も目を疑った。

「黒い…球体?」

女性の天に突き出した手の平には黒い球体。それは稲妻がスパークし徐々に大きくなっていくのが見たところからわかる。この時正人が正気であればその魔法が空間攻撃だと気付き、メルド達にも避難と物凄い血相で喋っていただろう。

「不味い…!」

ハジメもまたあれはとんでもなく不味いものと何となくだが理解することができた。しかし、起き上がるまで待ってくれるとは到底思えず。逃げられないと顔が恐怖で歪められる中。女性はぽつりと呟いた

「闇に…」

「リィンフォース!!!」

そのまま言い切れば空間攻撃が発動していた。だがその途中で正人は辛くも言葉を絞って大声で叫ぶことで発動を遮った。だがそれは一時的な物であり、正人もまた本能的に口走ったに過ぎずまだ意識がハッキリしていない。再び言い切れば空間攻撃は発動する。しかし、黒い球体は飛散し女性は両手を頭に押さえ苦しみ始める。

「祝福…の風……ナ、ハト…!我が…あるじぃ!!!」

「あの人…苦しんでる」

うわ声で呟き始める女性に、香織は何かと葛藤して苦しんでいると理解する。そして未だ意識がハッキリしない正人に顔を向けて正人とあの女性、この2人の間には並々ならぬ因縁かあるのだと、他人である香織にも理解することができた。

だが、そんな状況も長くは続かなかった。

「うわあぁぁぁぁぁっ!!!」

苦しみながらも左腕のパイルバンカーの先端を地面に叩きつけ黒い閃光が地面へと走るとそこを起点に石の橋はひび割れていき、遂に崩落した。

「正人くん!」

崩壊する直前、無防備な正人に抱きつき、身を挺して守ろうとする。

そして橋が崩落し、ハジメ、香織、そして正人は奈落へと落ちていく。

橋の方では青ざめる生徒達は悲鳴を上げ、メルド達騎士団もまた悔しそうな顔をする。香織の親友の雫に至っては身を乗り出して飛び降りようとしているのを龍太郎が必死に止めている。

落ちていく最中、香織は女性の方を見るとその表情に眉をひそめた。

表情は無表情ながらも瞳からは涙が流れ落ちていく香織達を悲しんでいるように見えた。

「――――」

女性は何かを呟いた。しかしそれは誰も聞こえること無く。香織も何かを言ったとしかわからずに正人と共に奈落の闇へと消えていった。

 



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幕間『観察者と守護者』

 

オルクス大迷宮65階層。嘗ての冒険者の最高到達点と謳われたその階層のボス、ベヒモスはたった3人の異界から召喚された若者に倒された。それは歴史的な大挙であったが、その3人に待ち受けていたのは更なる絶望であった。突如として現れた銀髪の魔人族の攻撃により3人は奈落の闇へと消えていってしまった。

 

「うそ…香織…嘘でしょ?」

落ちていく親友を目にして決して見せることは無かった弱々しい姿を見せる雫、幼なじみの光輝もまた今助けに行くと香織を助けようと躍起になるが周囲にいた龍太郎や数人の生徒達によって組み付かれ、飛び降りを阻止していた。

「嘘だ…こんなの嘘に決まってる!!」

更に檜山までも何かを否定するように頭を抱え蹲る中、メルドは確りと敵を見据えていた。

「馬鹿者!まだ気を抜くな!!!」

怒鳴り上げるように声を荒げるメルドその目線の先には銀髪の魔人族(推測)が背中に三対六羽の黒翼で浮いているのか空中で静止していた。

未だに敵は健在、最悪は刺し違えてもっと考えるメルドだがそれは杞憂に終わることになる

「………」

突如として魔人族の足元に展開するベルカ魔法陣、そして魔人族が転移っと口走ると魔人族はメルド達に興味を示すこと無く何処かへと消えてしまった。

「…九死に一生を得たか…」

張り詰めた空気が無くなったが状況は最悪といっていい。

今回の演習で3人もの優秀な若者を失い。勇者である光輝も香織が奈落へと落ちたことで錯乱している。生徒達の心を占めているのは死の恐怖という負の感情で、まともに戦うことなど難しいだろう。

だがこれ以上犠牲は出させる訳にはいかないとこの場に止まるのを止めて生徒達を立ち直らせながらも騎士団達や何とか戦える龍太郎などの少数の生徒達と共にオルクス大迷宮を脱し、オルクス大迷宮の受付にて帰らぬ人となった正人達の死亡を報告するのであった。

 

 

そして65階層での出来事を遠くから観察していたものがいた。

観察者は紫の球体を通してオルクス大迷宮の外の人目が無いところからモニタリングしていた。

「まさか、こんなことになるなんてね…ベヒモスを3人で倒したことに関しては少し誉めておくけど、ふふ、面白いものが見られたわ」

そういって自分の前に展開しているウィンドウを操作して新たに開かれた画面には正人の魔法を使う姿が移し出されていた。

「あの術式…ベルカ術式ね、聖教教会が異邦人を召喚したっていう話は聞いていたけど、その中に同業者がいるなんて熟々、面白いわ」

「どこから来たかはわからないけど、恐らく、彼らもやってきて、手をこまねいているはず」

観察者が思い浮かべるのはこの世界だけではない様々な世界を守る組織。観察者もまたその組織と戦い。その末に二度と這い上がれない空間に大切なものと飲み込まれ気付けばこの世界来ていたのだから

「あの子達が落ちた先はオルクス真大迷宮…あの子達は生き残れるかしらね」

そういって観察者の妙齢な女性は人気を避けながら、ホルアドの街を後にした。

 

そして正人達が奈落へと落ちていった同時期まで遡り、トータスの惑星軌道上…そこに一隻の宙に浮く船が停止していた。その船のブリッジでは今オペレーター達が忙しくパネルを操作している。

「ハラオウン提督!先程の魔力波長パターンを解析したところ、民間協力者、八坂正人の魔力波長パターンと一致しました!」

「そうか、漸くこれで場所を絞り込めそうだ。ここまで2週間ほど、この世界に覆われている結界らしきものの性で静観しかできなかったが…これで少しは支援できる」

この船次元航空艦アースラの艦長を務めるクロノ・ハラオウン提督は艦長席に座りながらも先ずは一息と息を吹く。

何故彼らがこの星にやってきたのか。それは地球で起きた転移誘拐事件がきっかけだった。突如として某所の学校の一クラスにいた生徒及び先生が転移させられ忽然と消えたのが全てもの始まりだった。

当時、正人の読み通り、その転移反応は管理局が設置していたサーチャーに反応しそれは海鳴市のハラオウン宅の設備にリアルタイムで転送された。それをクロノの嫁であるエイミィ・ハラオウンが転移の反応を追跡し惑星トータスに転移させられたことを突き止め、今回の件で転移に巻き込まれた中に正人が含まれていたことも含め、本局に伝えられた。

そして付近をパトロールしていたアースラ、クロノにトータスに向かうように指示が出され、トータスには辿り着いたものの、結界によって、人などを長距離転移することが困難だと判断され今現在も立ち往生を状態が続いている。

そして正人の魔力反応をキャッチできたことで、クロノは少しでも進展するようにクルー達に指示を出す。

「あやふやだが大凡の場所が分かれば、そこに送受信を絞り込めば通信もできるはずだ。」

「了解!」

「…正人…無事だと良いんだが…どうしても嫌な予感がする。……彼と通信ができて正確な居場所も特定できれば、彼のデバイスを転送できるのだが」

クロノは艦長席の近くのパネルを操作し艦内の一室の映像が映る。

そこには今まさに整備が終えた正人の相棒の姿があった。

 



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1章『オルクス真大迷宮/奈落の化け物』
11話


 

香織SIDE

……

「うっ…ここ…は」

何かが大量に落ちる音、その音で私は意識を取り戻す。辺りを見渡すけど薄暗くて光源はオルクス大迷宮の通路にとあった光る鉱石が辺りを照らしてくれている。

「どうして、私、此処に……」

これまでの経緯を思い出す。確かオルクス大迷宮に演習でやってきて、トラップで65階層に転移させられて…そこで3人でベヒモスと戦って勝って、それから…

 

「そうだ…!正人くん!南雲くん!!」

思い出した。あの後何者かわからない女性が現れて正人くんが大けがを負って…その後、苦しみだした女性に奈落に落とされたんだ。

 

此処までの経緯を思い出した私は早速辺りを見渡した。

辺りは岩場で上の方から水が滝のように流れ、その下は湖になっている。

服もかなり濡れているから私はあの滝から落ちてきたのだろうと考えると正人くん達も何処かに打ち上げられているはず。そう思い岩場と湖の境界を確りと見ると誰かは判別できないが誰かの腕が見えた。

私は直ぐにその場に行くと、そこに倒れていたのは私と一緒にいた正人くんだった。

「正人くん!」

私は直ぐに正人くんの元に駆け寄り安否を確認する。

脈はある…まだ生きている。正人くんの生存にほっとしたけど、今度は南雲くんを見つけないと

「南雲くん!南雲くーん!」

私はこの辺りにいるのではと大声で南雲くんを呼ぶけど反応は無い。

まさか南雲くんだけはぐれた?今思えば正人くんとは抱きついて落ちたから近くにいたのかもしれないけど、南雲くんとは離れていたから別の場所に落ちたのかもしれない。

「どうしよう…」

探しに行きたいけどここには気絶している正人くんがいるし、なにより私の天職は治癒師だ。 

====================================

白崎香織 16歳 女 レベル:8

 

天職:治癒師

筋力:40

体力:55

耐性:45

敏捷:60

魔力:450

魔耐:200

技能:回復魔法[+回復効果上昇]・光属性適性[+発動速度上昇]・高速魔力回復・言語理解

====================================

とても前衛で戦える天職じゃない。護身用の短剣は所持しているけど、達者に振るえるわけもなく。

となると、正人くんが目を覚ますまで待つしか無い。

「正人くん、きっと目覚めるよね?」

私は眠っている正人くんを見てそう思わずにはいられなかった。

 

 

NOSIDE

一方、無事にオルクス大迷宮を脱した天之河、勇者一行とメルド団長達は無事、ハイリヒ王国へと帰還した。

初めての演習、そして初めて見ることになった人の死に生徒達の召喚されたときの気概など何処にもなく、正人が懸念していた通り、生徒達は過酷な現実を知らすことになった。

ハイリヒ王国の玉座の間で教皇イシュタルとハイリヒ王にことの顛末を全て報告し死んでしまった香織のことを聞き、ランデル王子は香織に一目惚れで好意を抱いていたために香織の死にその場で失神し倒れ、リリアーナもまた短い間で王女と勇者の仲間という身分など関係ないほどに親しい関係になっていたために顔色を青くし口元を手で抑えると瞳からは涙が流れ、悲しんでいるのがわかった。

だがそんな2人はともかく他の王やイシュタルに関しては深く悲しんでいたのは香織だけだった。

ハジメに関しては彼らは無能だからとほっとしていたようでご都合思考の天之河の怒りに触れられ、そこまで陰口ももらさなかったが、問題は正人の方だった。

正人もまた初めは悲しんでいたがそれはメルド団長の打ち上けたことに表情を一変させることになる。

正人のステータスにあった魔力操作と不可解なスキル、そして桁外れな魔力についてだ。

これは正人がメルド団長に掛け合って秘密にしていた部分であり、魔力操作はとある例外を除いて魔物しか使えない。悲しんでいたハイリヒ王とイシュタルが一変して異端者が紛れ込んでいたや異端の魔女の仲間だと激怒しわめき散らした。

その光景は天之河を初め泣いていたリリアーナも唖然とする表情で呆然としてメルドもまたこうなるのを予期していたのか唇を噛み、正人にすまんっと心中で謝った。

その後、メルド団長も同罪だと処刑しようとしたが天之河は必死の抗議で処刑は取りやめられたものの数日の謹慎処分と1年間の減給という罰を与えられ、玉座の間を後にした。

 

「あの、メルド団長…少しお聞きしたいことが…八坂くんが異端者ってどういうことですか?」

生徒達の部屋へと帰る最中、天之河達と別れ、先程のイシュタルとハイリヒ王の言葉が気になり雫はメルドに訪ねた。

メルドもうむっとどうすべきかと立ち止まって考えた後、これは他言無用だと付け加えてから神山でおきたある事件を話した。

「7年ほど前になる。突如として神山に現れた女性が暴れ、聖教教会が壊滅寸前まで陥った事件があってな…その時使っていた女性もまた、見たこともない魔法陣と詠唱なしの雷属性の魔法で蹂躙していったという。それ以来、そのものは異端の魔女と呼ばれ、神敵として行方を捜しているのだ」

っと7年前に異端の魔女が起こした事件の顛末を話し付けくわれるように八坂の魔法もそれに似ていたと話すと雫はあの時の光景を思い浮かべる。

「それじゃあ、八坂くんもそれだけで異端者と呼ばれたってことですか!?でもそれは」

あまりにも酷すぎるっと八坂の死を愚弄する周りの空気に無意識に拳に力が入る。

「私も八坂の人柄は知っている。例え異端者と同じ力だとしても、我々に牙を向けるような真似はしないっとそう思った。」

「…………八坂くん…」

心の内に秘めていたメルドに対する正人の感想を打ち明け、雫もこれまでの正人の行動を振り返る。 

地球では無気力で香織の積極的な話しかけも適当にあしらう。だがトータスに来てからの正人はそんな印象を覆すほどの印象があった。

オルクス大迷宮でもベヒモスをハジメのフォローもあったが実質1人で倒した実力を持ち、魔力操作などの異能を手足のように使い、洗礼されていた戦い方に雫も興味を示していた。

あれが一日二日でできる技法ではないことは地球でも剣を振るっている雫には簡単に分かった。

その上、トータスに召喚されて天之河が世界を救おうと立ち上がり雫達も賛成する一方、彼だけが反対の意を唱えていた。

あの時は正人の言葉に誰も耳を傾けずにいたがもしも、正人に人望などがあればクラスは二分して正人もまたその意志を押し通そうとしていたのだろう。

改めて振り返った雫は正人の必死な考えと自分達の浅はかな行動に深く後悔し、また正人のことを考え、ポツリと言葉を洩らした。

「八坂くん…あなたは一体何者なの?」

一般人とは思えない正人に雫はそう言葉を言う他になかった。

 

 



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12話

文字数が…!


 

香織SIDE

一体どれだけ時間が経ったんだろう…一面変わらない風景に時間感覚は完全に崩されている。

近くにあった洞穴に簡易拠点として籠もり始め。当初はきっと雫ちゃん達が助けに来てくれるっと信じていたけど、幾ら待っても現れない人影に諦めていた。 

そして、餓死しないように、正人くんのポーチを調べていた時に見つけた携帯食料、干し肉のようなものを良く噛み、水は湖から手に入れられるのでそれほど問題は無かった。

食料面も危ないけど1番危険なのは戦闘だ。

どうやら被っていた法衣の帽子もだけど魔導杖のアーティファクトも何処かに落としてしまったようなのだ。

アーティファクトなしだと色々と不味いために動き出そうにも動けなくなってしまった。

「正人くん……」

ふと、私の膝の上で寝かせている正人くんの名前を呟く。やっぱり、岩場ということで頭を置くには些か硬すぎるために、極力私の膝の上で寝かせている。

あれ以来目覚めることは無かった正人くん。きっと目覚めると信じて……

「……少し……眠くなってきた……」

襲いかかってくる睡魔に負け、私は眠りに落ちるのであった。

 

正人SIDE

 

「……うっ…ここ…は」

目を覚まし目の前に映るのは規則的な寝息をしている香織の姿だった。

「香織?」

一体どういう状況だと困惑する中、辺りが薄暗くオルクス大迷宮でみた光る鉱石があることから此処は迷宮内なのかと考えられた。

「何で香織に膝枕してもらってるんだ?確か俺は…」

どうも色々と思い出さなければならないと思い俺はオルクス大迷宮に入った後のことを思い出す。

確か途中までは順調だったけど、檜山の奴がトラップに引っかかって、ベヒモスと戦うことになって、それでベヒモスを倒した後は…っ!

「リィンフォース!ぐっ!」

「ひゃい!?」

覚えている記憶を全て思いだした俺はあの時にいたあいつのことを思いだし、勢い良く起き上がると腹の辺りが激痛に見舞われた。

大声を上げた後ぐらいに香織の可愛い声が聞こえてきたが今はあの時、起きたことを重要視していた。

あの時、あの場にいたのは初代リィンフォースだった。あんなことがあったのだ他人の空似と言われても間違えるわけがない。

 

しかし、そんなリィンフォースに腹を貫通性の魔法で貫かれた。あの時、興奮して気付かなかったが明らかにあの時のリィンフォースは正気じゃなかった。まさか?ナハトヴァール?いや、ナハトが生きていたら、暴走してこの世界そのものが消滅している可能性が高いはず。それがないということは別の要因で正気を失っているということになる。

「正人くーん!…グスン」

「って、あっ!香織!おはよう…」

起き上がって直ぐに思考の海に飛び込んでいたために気絶していた俺を看病していた香織のことを忘れていた。…俺は率直に涙目の香織に謝り、香織は俺が目覚めたことで大胆にも抱きついてきた。

「良かった…正人くんが目覚めなかったら…私…!」

涙声な香織を見て、俺は心底駄目な男だと改めて自覚する。

あれほど不安にさせないと約束しながら、俺の身勝手が香織達に迷惑をかけている。

 

「ははは、本当…何も変わってない…」

「…正人くん?」

「俺は七年前から何一つ前に進んでない。…自分が嫌になるくらいに…」

 

いい加減、管理局も来てくれよ…突破する方法も見つけて救助してくれたら、リィンフォースのことも頼めばいい…俺が出しゃばる時間はもう終わったんだ。

どんどん暗くなっていく顔、それを見かねた香織が意を決して訪ねた。

「正人くん、直接聞くつもりも無かったけど…正人くんは七年前に…一体何があったの?」

そうだよな……もう香織には隠し通せるわけがないよな 

「……ああ、話すよ、七年前地球で起きた2つの事件とそれに居合わせた。落ちこぼれの少年の物語を」

 

さあ、話そう……俺達の軌跡を

 

 

香織SIDE

正人くんが打ち明けた内容はどれも信じがたい内容ばかりだった。

七年前に起きた不可解な事件、それの根元に正人くんは関わっていたという話。

トータスとは違う魔法や次元世界に時空管理局。

トータスに召喚なんてされてなかったら多分、苦笑いの笑みを浮かべて信じてなかった気がする。

「まあ、こんな所だ……恐らく、管理局の次元航空艦が来てるはずなんだ。後のことは専門家に任せて俺達は救助を待てば良い…それで万事解決だ。」

あと少しの辛抱だっと優しく語りかけてくるけど。その言葉には何処か無気力な感じを感じた。

そして漸く、理解することができた。

正人くんがどうして無気力な感じになってしまったのか。

2つの事件で正人くんは自分の力不足を実感したのはその1つかもしれない。

けどそれ以上に正人くんの重圧になっていたこと。それは頑張り抜いた末の望まぬ結果…それが怖いんだ。

 



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13話

 

正人くんから告げられた正人くんが歩んだ過去。

そしてその過去の中には明るかった正人くんを変えた要因もあって、長年の疑問が漸く晴れた。

正人くんが抱える…ううん、恐れていることはとても私なんかが軽く返して良いものじゃない。

かといってはやてちゃんが正人くんを言ったところではやてちゃん自体が起因の1つだからあまり効果もないのだろう。だからこそ、はやてちゃんも長年、手をこまねいていたのだ。

そして、私に正人くんを頼んだのも、はやてちゃんは私なら正人くんの抱えるこんでいる物を取り除けるかもしれないと賭けているのだろう。

……此処で引いたら、手の届かないところまで正人くんは行ってしまう。

そう、前に感じていたものは今はハッキリと分かる。だから、此処は前に踏み込むんだ!

 

「正人くんは……本当にそれでいいの?」

「……何を言っているんだ?それでいいって?何をだよ」

私の反論に戸惑いの声を震わせる正人くん、私はそんな正人くんを逃がさないように追求する。

「あの人のこと、正人くんの話だとクリスマスの日に命を絶ったって言ってたよね?けどこの世界であの人は生きてる。だからこそ、突然現れたあの人に詰め寄って言ったんだよね?」

「それは……そうだが…」

「あの言葉も正人くんの本心からの言葉だって私わかるよ。けど一度失敗しただけで、他人に押しつけるの?」

「っ!!リィンフォースは俺なんかより遥かに強い!もし俺も実力を全力で発揮できたとしても、リィンフォースはそれを上回る実力を持っているんだ!これは長年の状況判断からの最善な選択だ!」

正人くんの言葉荒くなってる。私が正人くんが内に秘めていることを次々と言い当てているから余裕を失いかけている。

「わかっていたとしても始めから諦めるなんてそんなの正人くんらしくないよ!正人くんはそんなに強いのに!」

「っ!お前に俺の何がわかるっていうんだ!!」

今まで感じたこともない覇気に私は身を竦ませた。正人くんの逆鱗を確実に触れたのだ。

「俺はなのはのように砲撃魔法が得意なわけでもないし、フェイトのように高機動戦闘ができるわけでもない。はやてのように広域殲滅ができるわけでもなく。シグナムのように剣の才があるわけでもない。」

それは自身のどれだけ劣等に見回れているのかの話。

「ヴィータのように突破力が優れているわけでも、シャマルのように回復魔法が使えるわけでもザフィーラのように鉄壁な守りができるわけでもないんだ!」

自身の抱える闇の部分をこれでもかと吐き出す正人くん、私は一歩も引くことなくその吐き出されたものを受け止める。

「………」

正人くんの言い様は太陽が照らされ、その光で濃く映り出される影のように…この場合は太陽がはやてちゃんで影は正人くん。

はやてちゃん達が強くなって行くに連れて、正人くんの劣等感でそれから思い出す、あの日の正人くんの何も出来なかった記憶が正人くんを締め付けているのだ。

「大体、どうして香織は俺にそこまで関わるんだ!俺が突き放してるのはわかってるんだろ!?だったら…」

一度爆発した感情は止まらない…正人くんの言葉という刃物が私に襲いかかってくる。けど私は挫けない

「そんなの決まってるよ…」

突き放してくる正人くんに対して私は漸く気付いた自分の胸の内に秘めている思いを口にする。

《漸く、繋がった…!》

「私は正人くんのことが好きだから!」

「……え?」

正真正銘な私の思い。これだけは誰にも譲れない。

「もう正人くんを一人になんてさせないよ。私が一生、正人くんを支えるから」

「香織……俺は…」

戸惑う正人くんは私から顔をそらす。

「正人くんを支えるために私も強くなるよ、だからもう一人で抱え込まないで……これからは私も一緒だから……!」 

「かおっ!?」

きっとそれを正人くんの親しい知り合いが全員望んでいる。そのためなら今の私は何だってできる気がする

私は正人くんの逸らした顔を手で真っ直ぐ向け、私は正人くんの唇を口で塞いだ。

ファーストキス…こんな所でしちゃった。

正人くんの口から唇を離すと、正人くんは頭の処理が追いつかずに完全に放心状態、私もきっと今の顔は幸せな顔をしているのだろう。そんな正人くんの胸に私は顔を埋め、子供をあやすように優しい手つきで頭を撫でた。

「大丈夫…大丈夫だから」

 

「………香織…俺は…」

正人くんの声からは怒りや不安といったものが感じられない。

  

《……こほん、すまない色々とお取り込み中だが…いい加減、こっちに気付いてもらいたい》

「「っ!?」」

突然第三者の声、それに驚き私は正人くんから離れると正人くんは心当たりがあるのかポーチから長方形の端末を取り出して、操作すると空中に浮かぶウィンドウに映像に男の人が映し出される。

「ク、ククク、クロノ!?」

正人くんは完全に拍子抜けな声を上げて、映像に映る人を凝視している。

もしかしたら正人くんが言っていた管理局の人達?

《君の魔力反応を感知して既に五日……どうやら君の今の状態は好ましいものでは無いようだな》

「……五日ってそんなにたってたのか……非常用の緊急回線まで開いて……ちょっと待て」

何日も日は経ってるって思ってたけどもう五日も経ってたんだ。変わり映えもないオルクス大迷宮で長い時間を過ごしていたから正確な経過日時を聞いて少し驚いたけど、正人くんは私の方をチラチラと見て別の何かを気にしていた。

《……すまないと思っている、回線が繋がったと思ったらまさかあんな状況とは思わなかったからな》

本当にすまないっと顔に出ているクロノさん。正人くんも顔に手を当てて頭を痛くしている用に見える。

「…それじゃあ、聞いてたんだな…さっきの俺達のやり取り…」

「私達の…やりとり…!!」

正人くんが顔を引きつりながら告げた言葉に漸く理解できた。

つまりクロノさんが回線が繋がったのは私達に声を掛けた時じゃなくて少し前、わ、私が正人くんに告白や、キ、キスしたところも聞かれていた感じだろう。

「あー、香織落ち着け、クロノの奴には後でエイミィさんに絞って貰うとして…」

「わ、わたし、お水くんでくるね!」

もう羞恥心でこの場にいるのが恥ずかしい、正人くんの静止を無視して私は五日前に私達が打ち上げられていた湖へと向かった。

 

 



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14話

 

正人SIDE

「ま、待て!」

俺の呼び声を無視して洞穴から出ていく香織。直ぐにでも追いかけて宥めたいところだが先ずはクロノを話を聞くことにしよう。

《いや、本当にすまない。こちらも悪気があってしたわけではない。だから正人、その冷ややかな目を向けるのは止めてくれないか?》

申し訳なさそうにいや、実際、申し訳ないのだが、言葉を詰まらせるクロノに俺は気付かなかった俺も同罪かっと溜め息を付き、クロノと映像腰で向き合う。

《色々と言いたいことがあるが先ずは、無事でよかった》

「身だけはな…状況が状況で素直には喜べないけど」

《そうか…なら手短にいこう、正人の状況を教えてくれないか?》

「…回線もいつまで持つかわからないからな、わかったまず…」

これまで一度も繋がらなかった通信だ。今は良好でも途端に悪くなるかもしれない。

だから、お互いに持っている情報を手短に交換するとかなり整理することができた。

「なるほど、つまり管理局が介入できるのは極めて低いってことか」

《この通信も結界の穴から通してできたもので、長距離転移でトータスに人を送り込むことは不可能だ。それより気になるのは君がみた初代リィンフォースについて……見間違いというわけではないんだな?》

「リィンフォースを見間違えるわけないだろ?それに香織の話だとディアボリック・エミッションをぶちかまそうとしたらしいし…」

香織からことの経緯は聞いている。だからリィンフォースが放とうとした黒い球体、俺が知る限りではディアボリック・エミッション以外ありえないし、その上それを使える魔導士となればリィンフォースか後ははやてだけ。

《そうだな、そういうことなら、はやて達が感じた気配のことも納得がいく》

「はやて達が?」

《ああ、君の魔力反応を感知した同じ頃にはやて達がリィンフォースの気配を感じたといっていた。》

はやて達にそんなことが……夜天の主であるはやてとその騎士であるシグナム達、そしてあの日失ったと思っていたリィンフォース。

これらは夜天の書という魔導書で繋がっている。リィンフォースのことも感づいても可笑しくない。

《理由はどうあれ、その世界で起きているものと君達が転移させられた事態は僕たち管理局も見過ごすことができない事実だ。しかしそのための手段がない。強硬するといらないしこりを生むだろう。その上リィンフォースのこともある。正人には……》

クロノ達はこの事件を改めて重い事件と判断する。

地球で起きた神隠し事件に消えた生徒達は教会により戦争を強要されそれに賛成している。その上、七年前に消えた初代リィンフォースとなると頭痛の種のオンパレードといっても過言ではない。

しかし俺の脳裏には香織の言葉が浮かび上がる。

(正人くんは……本当にそれでいいの?)

……良いわけないだろう?此処は一線退き、管理局の手助けをするのが得策。 

しかし、俺の心は戦いたいと前に進むことを望んでいる。望まぬ結果で挫け折れた心がまた灯がともり始めている。

「クロノ、俺にやらせてくれ」

「っ!駄目だ、君では危険すぎる、仮にもリィンフォースとまた戦うことになるその時君に勝算があるのか?」

その言葉にクロノは驚く。そして提督としてのクロノの言葉は現実を突きつけるものだった。

「……わかってるよ、だけどクロノ、あの時だって勝算なんてなかったんだろ?」

闇の書の事件のときもそうだった。突然の出来事だったし、なのはたちも勝てる見込みもなかった。

それでも諦めず、全てを出した結果、リィンフォース以外のみんなを助けることができた。これがもしも闇の書の暴走を止められなかったら?はやてを救うことが出来なかったらしい、俺はきっと、世界と共に死んでいるか、完全に精神崩壊を起こし廃人になっていただろう。

それでも俺はあの結末に納得がいっているわけではない。

だけどいま、その結末を覆せる状況にあるのも事実だ。あの日届かなかったものが届く範囲までやってきている…

「クロノ頼む、俺に前に進むことを許してくれ」

切実な頼み、会話に無言の空気の間が続く中考えが纏まったクロノが溜め息を溢した。

「全く君は…僕が何を言っても止まる気はなさそうだな…それなら腕ずくでっと言いたいが君を止められる人間がそこにいない…」

「クロノ…」

本当に恩に着るっと心の中で感謝すると気を取り直したクロノが俺に話し始める。

「正人、時間も無い、全力で魔力を放出してくれ、その魔力反応で君の正確な場所を特定する。その後は君のデバイスを転送する」

「できるのか!?」

「結界の合間を潜って転送させる。やるのはユーノとアルフだ。実力は言わずもわかるな? 」

確かにあの二人ならやってのけるだろう。

ならその賭けに賭けるしかないよな!

「ああ、やってやる!」

その掛け声共に俺は魔力を放出する。俺の体からは紺色の魔力が漏れ出していて衛生軌道上なわけだから届かせるにはかなり強く放出しないといけなかった。

 

NOSIDE

「提督!正人くんの魔力反応、キャッチしました!場所の特定…完了です!」

軌道上のアースラのオペレーター達は正人が放出した魔力を直ぐさまキャッチ、直ぐに正確の位置を特定する。

「よし!ユーノ!アルフ!」

クロノは意を決して繋げていた艦内通信でデバイスの整備室に待機している二人に声を掛ける。

「よっしゃ、任せときな!」

「いくよ!長距離転送!」

「さあ、あんたのご主人様のところにいきな!」

ユーノとアルフはそれぞれ色違いのミッド式の魔法陣を展開し台座に置かれている頑丈な紐で繋がれた弓の装飾の上下に小型な魔法陣が展開する。

「「転送!!」」

その掛け声共に先程まであったデバイスはその場から消え、トータスへ…マスターである正人の元へと向かっていく。

「デバイスの転送完了、結界…無事に突破しました」

「そうか…今は正人に任せるしかないか…だが必ず助けに向かう。」

「はい!」

一同、転移した行方不明者を助け出すという意気込み頷くとクロノはアースラのモニターに映るトータスの惑星を眺めるのであった。

 

 



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15話

香織SIDE

「あうぅ…」

洞穴から飛び出し私は湖の近くで三角座りで羞恥心に必死に戦っていた。

色々と抑えきれなかったこともあるけど勢い任せで告白してしまった。

でもそれのお陰なのか正人くんが立ち直ったみたいだから結果オーライ…なのかな?

「いけないいけない、此処に長居してたら駄目だよね」

此処は迷宮区の中なのだ。この五日はあの洞穴に身を潜めていたけど魔物が出てきても可笑しくない。

どういう言い訳すれば良いのかな…

そんなことを思いながら私は立ち上がり洞穴に向かおうとしたが直ぐに足を止めた。

私の周りには大型犬ぐらいの大きさの二尾の白い狼が六体。それが私を囲いながら一定の距離を保っている。

「囲まれてる…!」

悪いことに私には気配感知という技能はない。だからこそもっと周囲に気を配らないといけなかったのに

そんな後悔をしても状況は変わらない。今の私はアーティファクトがないのだ

戦う力なんて微々たるもの、術者の私が攻撃する暇などもうない。

打つ手なしの状況に恐怖が立ちこめるが脳裏に正人くんの姿が浮かぶ。

駄目だ此処で私が死んだらきっと正人くんが壊れてしまう。

「諦めない。きっと助かる方法が…!」

こんなことで挫けちゃ駄目だと私自身に鼓舞をすると二体がこちらに飛びかかってくる。

何としてでも避けないとっと体を動かそうとしたそのとき

「香織に手を出すな!」

その声と共に飛びかかる二体に紺色の光の矢が貫き貫通した穴と狼の口から血飛沫が舞う。

一瞬呆然としていたが直ぐに放たれた方向を見ると先程とは違う質素な服装に見たこともない弓を持つ正人くんの姿があった。

 

「正人くん!」

「っ!戦闘中によそ見するな!」

私は嬉しくて正人くんを見つめているが今は戦闘の最中、隙を見せた私に一体が研ぎ澄まされている牙で喰らおうと大きく口を上げて突撃してくるのを正人くんは見過ごす訳がなかった。

ある程度離れていた距離など関係ないようにすかさず私と魔物の合間に割って入り、ベヒモスの突撃を防いだシールドを張り飛びかかりを受け流し態勢を崩した狼に正人くんは弓の中心を両手で持ち弓の弦が消えると中心で分離し弓から2本の曲刀に早変わりし仰け反った狼を切り裂く。

僅かな時間で既に半分の狼を倒しあっちにも動揺があるのだろう。正人くんを自分達を上回る強者と認識し残った三匹は逃走を計る。

けどそれで攻めの手を緩める正人くんではない。双剣を連結し弓に戻すと正人くんの周囲に紺色の球体が6つ出現する。

『アストロスフィア、シュート!』

正人くんの号令と共に発射される球体、6つの球体は一匹2つの球体が高速で追尾していき、逃げた三匹を確実に捉えた。

呆気ない幕引きだと思うが中には1発を避けた個体もいた。だけどその避けた先にもう1発の球体が狼の体を貫いた。

「……敵はもう近くにはいないみたいだな。オリオン、周囲警戒を怠らないでくれ」

[了解しました]

気配感知で敵がいないのを感じたのかそれでも気を緩められないと正人くんが持つ弓に語ると弓から機械音声が聞こえてくる。あれってそう言うのもできるんだっと感心しているとじと目で見つめる正人くんの姿。

そういう反応をされても致し方ないと思う。

「全く急いで駆けつけてみれば、この状況…はぁ、クロノの奴マジで覚えてろよ」

っと先程話し合っていた人物を軽く怨む正人くんは、私に手を差し伸べた。

「戻るぞ、血に飢えた魔物が寄ってくるかもしれない」

「…うん」

私は正人くんの手を取りまた洞穴へと戻った。

 

正人SIDE

俺達の洞穴に戻ると取りあえず、座るのに問題ない岩に座る。色々と話さないといけない。だが先ずは…

「…香織、ありがとう」

「え?」

「ありがとうって言ったんだもし香織があのまま俺のことを見放していたら、きっと俺は今までと変わらなかった。香織の言葉があったからおれはまた前へ進めることができるんだ」

香織がこの場にいなければ俺はきっと諦めていた。

だからこそ、俺をまた進ませてくれた香織には感謝しかない。

「ううん、私は正人くんが戻ってくれただけでそれだけでいいの」

本当に良かったっと涙ぐんで笑みを浮かべる香織に本当に心配されていたと改めて俺は思う。

まずお礼を言った後俺はこれからの方針を香織に伝える。

「香織、これからのことなんだが、まず管理局の救援が来るのは難しい。この星全体に覆われた結界をどうかしないと駄目らしい。それについてはクロノ達に任せるしかない。まず俺達は南雲を探してこの場から脱出する。始めの方針はこんな感じで良いんだけど」

「正人くん?」

「脱出した後、俺は天之河達のところには戻らずにこの世界を旅する。リィンフォースや脱出の方法を模索するために…多分危険な旅になるから、香織や南雲は…」

「待って、私も付いていくよ」

香織と南雲はメルド団長に預け俺だけでと考えていたがそれにストップを入れたのは香織だ。香織も覚悟の上であれはテコでも動かない。

「正人くんを見てないと本当に危ない橋を渡りそうだし」

私心配だよ?っと優しく語りかけてくるが何処か抗えない威圧感も感じられた。

しかも何も言えないから、香織の同行は確定といってもいい。

「ま、まあ、取りあえず休んでから早速…と言いたいところだが新調されてるオリオンの馴らしや完全に調子が戻るまでは動かないでおこう。食料の方は二人で二ヶ月分くらい、その他諸々役に立ちそうな物もあるし…問題ないだろう」

っとオリオンと同じく転送してくれた大型のバックを見せ、食糧問題は解決したというと、香織は笑みを浮かべうんっと頷いた。

 

だがこの時、早めに動いていればと俺は思うようになる。

「殺してやる」

 

この奈落の別のところで錬成の魔王が誕生していたなんて…



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幕間『学級分裂』

正人が目を覚ました同時期、ハイリヒ王国の訓練所では八重樫雫が剣を振るっていた。

しかしその剣にはいつものような洗礼さはなく。何処か心が淀んでいるのか雫の表情も心身に打ち込めていないのがわかる。

それもそのはず、オルクス大迷宮で親友である香織を失い、自らの浅はかさが招いてしまった結果だと考えれば剣の太刀筋も鈍るのもしかたがないことだった。

「香織、私はどうすれば良いの?」

この場にいない親友の名前を呟いて、今の現状に頭を悩ませる。

今雫達、勇者メンバーは2つの勢力に別れていた。何故そうなったかそれは昨日のことである。

 

 

「本当にすまなかった!」

王国の訓練所にて残っている生徒達が何とか集まると檜山が土下座して謝り始める。

何に対しての謝りなのかは全員が直ぐに理解することになる。

オルクス大迷宮での転移トラップ。それを軽率にも発動させたのは紛れもなく檜山だった。

自分の軽率で起きてしまった危機、それは結果として3人の同級生を失うという悲痛な思いをすることになってしまった。

だからこそ、檜山は全員の前で謝罪する必要があったのだ。

「…ひとつ…聞きたいことがある。南雲に降り掛かった魔法なんだが…あれについて何か知らないか?」

「し、知らない!?あれだけ入り乱れていたんだ。誰のかなんてわかるはずないだろ?」

そんな檜山に天之河は訪ねる。それは南雲に向かっていった魔法攻撃について、天之河の頭はあれもまた2人を死なせてしまった要因の1つだと考えていた。勿論檜山はそれを否認、天之河はその後、深く考えた後、強ばった顔で脳裏に思い浮かんだのはあろうことか正人の姿だった。

「やっぱり、犯人は八坂なのか…」

「は?」

突拍子もない発言に檜山は勿論生徒達全員が凍ったように固まる。

天之河から出てきた人物は今はこの場にいない正人で、周りは正気か?っと疑い始める中、雫が慌てて天之河に問い詰める。

「光輝!?あんたいきなり何言ってるのよ!?」

「雫だって聞いていただろ!?八坂は俺達にステータスを隠し、魔力操作なんてものを使えたことを!」

雫が問い詰めたが天之河は止まらない。彼は八坂の隠していた技能やステータスのことをこの場にいる全員に洗いざらい話すと当然、生徒達の反応は驚きだった。

「なんだよ…それ」

「魔物と同じ力が使えるなんて可笑しくない?」

「というか、なんで俺達にも隠してたんだよ、仲間じゃないのかよ」

八坂のことで不穏な空気になる一方、天之河は更にありもしない憶測を述べ始めた。

「それはきっと、八坂は魔人族と手を結んでいたからじゃないのか?」

「光輝!?そんなことあるはず…」

「雫…君が八坂を庇いたいのはわかる、だが、これは事実なんだ、思い出してくれ八坂が警戒することなく魔人族に寄っていくのを俺達は目にしたはずだ。きっと事前に話が付いていたんだ!」

並べられる憶測と見ていた一部始終に檜山やその取り巻きは確かにっとあり得ることだと此処にいない正人のことを怨み始め、他も檜山ほどではないが確かにあり得ると半信半疑であるが天之河の言葉ならっと正人の裏切り説の信憑性を信じ込ませ始める。

その天之河もイシュタルやハイリヒ王のありもしない正人の批判と魔人族に何かしらあったような正人の言葉、そしてその性で香織を失ったことへの怒りが交差しいつものご都合主義が全回で導き出した結果であり確実性は薄い。

イシュタル達としてはそれで仲間を失った恨みが魔人族に向けられるのが本当の目的だったりする。

そしてイシュタル達の目論見通り、正人は魔人族の仲間になり、そのせいでハジメと香織は失ったんだと生徒たちの大半は信じ込みそうになったとき、正人のこれまでのちょっとした行動が報われることになる

 

「そんなはずない!」

そう声を上げたのはオルクス大迷宮で正人に命を助けられた少女、園部優花だった。

「園部君がクラスメイトを庇いたいのはわかる。だけどこれが現実なんだ!現実から目を背けても…」

「じゃあなんで!八坂は私を助けたの!?本当にそうなら、私を見殺しにするのが正しいはずよ!」

優花はあの時、間違いなく死んでいた。自分の死期を悟り、恐怖で体が動かなかった優花を助けたのは紛れもない正人であった。

その光景はパニックになっていながらも何人か見ていたために天之河の言葉に惑わされていた生徒達も確かにと頷く。

「だがそれは俺達を騙す…」

「そんな確証も無いことを言わないで!こんなことなら八坂の言うとおり戦争に参加しなければ良かった!」

優花のその発言に呼応して何人もの生徒がそうだと、同じように声を上げ始める。元々殆どの生徒は天之河がいれば大丈夫と過信したのがきっかけで彼らは戦争などあまり理解できておらず、強い力を宿しているという優越感に浸っていた。

しかし蓋を開けてみれば軽率な行動で窮地に陥り、混乱する始末、果てには自分達は助かったが3人も死人が出てきてしまった。

これが天之河の言うとおりに付き従った結果で自分達はなんて軽率だったんだろうと実感するものがあった。

その後も天之河と優花お互いに一歩も退かない討論になりそれに助長するように周りの生徒もヒートアップ、一触即発になりかけたがまとめ役の雫や騒ぎに駆けつけた愛子の二人が仲裁して大事にはならなかった。

 

だが一丸となっていたクラスは確実にひび割れて、魔人族との戦争に賛成する天之河や坂上何故かやけにやる気になっている檜山達小悪党パーティーを始めとした参戦派、先の戦いを機に戦争をすることに心が折れ亡き正人の意志を継ごうとする優花や同じく戦争に反対の意志を持つ生徒達(後の愛ちゃん親衛隊)が集う。否定派

そのどちらにも傾かず何とか2つの派閥の衝突を防ごうとする中立派の3つに別れていた。

 

因みに中立派のリーダーは雫だ。他にも鈴や恵理、柔道部に入っていた永山という男が率いるパーティーで地味に中立が一番多かったりする。

 

恐らく今日もまたいざこざは起こりうると頭を悩ませる雫、しかしふと思い出す。

「そういえば、園部さん…どうしてあそこまで八坂を庇ったんだろう」

あの時の優花の表情は誰の目から見ても必死であるとわかっていた。しかしただ命を助けられただけで自らの立場を危うくするリスクを冒すまで正人の名誉を守ろうとした。

それだけの何かが優花にはあったのだろうか、雫はそう思って仕方がなかった。

 

そしてその優花は先日の口論もあり寝付けてはおらず。ただ割り振られた自室で昨日の出来事について考えていた。 

「これでいい、良かったのよ」

何処かまだ迷いがあるように呟く優花。

体を起こし、もう何度目になるのか、彼女は備え付けられている机の引き出しに手をかける。

引き出しを開けるとそこにあるのは彼女から見慣れているが着ることはない男性の制服とその上に置かれている手紙と何かしらの端末。

そして手紙は元々折りたたんでいたのか開いた手紙にはこう書かれていた。

 

 

,,この手紙を見ているのが南雲…もしくは香織であることを願う。これを見ているということは俺は帰らぬ人になったということだろう。王宮に戻ったら直ぐに俺の部屋の備え付けられている本棚の二段目の本の裏を調べてくれ、そこに俺が知る限りの情報を託す ,,

 

それは正人が書いたと思われる手紙で優花はそれを見てこれで良かったと唇を噛み締めそう自分に言い聞かせた。

 

 



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16話

 

あれから十日が経過した。

オルクス大迷宮はいつも通り、緑色の発光する鉱石が明かりなのでそんな経過時間なんてわからないのが普通だがオリオンや端末などがあるために内蔵のデジタル時計で経過した時間は直ぐにわかる。

この十日間俺達はこの深淵の大迷宮(俺命名)を攻略するために十全に準備していた。

当初の新調されたオリオンの馴らしは2日で済んでいたのだが、こうも動けなかったのは俺ではなく香織が主な原因だ。

ベヒモス基、リィンフォースの強襲後奈落に落ちる中でアーティファクトも失った香織はとてもじゃないが十全に能力を発揮することができない。

といっても替えのやつなどそんな物、こんな所で手に入るはずもなく。

なので最低限、この深淵の魔物に対抗できるだけのスキルを習得してもらうべく、香織の強化がこの十日間のメインだったと言える。

それで今の俺達のステータスはこんな感じで

 

―――――――――――――――

八坂正人 16歳 男 レベル25

 

天職:弓使い

 

筋力:72

 

体力:129

 

耐性:78

 

敏捷:98

 

魔力:16943

 

魔耐:54

 

技能:魔力操作[+身体強化][+武装強化][+視覚強化][+防御魔法][+束縛魔法]・ベルカ術式適性[+詠唱破棄Ⅰ][+射撃魔法][+砲撃魔法][+広域殲滅魔法]・双剣術[+魔力付与]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密曲射][+精密速射][+視力補正]・気配感知・魔力感知・速読・高速思考・並行思考・言語理解[+言語解読]

 

 

 

白崎香織 16歳 女 レベル:23

 

 

 

天職:治癒師

 

筋力:110

 

体力:197

 

耐性:105

 

敏捷:160

 

魔力:860

 

魔耐:460

 

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇]・高速魔力回復・言語理解

 

 

 

こんな感じで十分動ける用意はできた。明日には動き始めることになっており。今は拠点としている洞穴で管理局が支給してくれた食料で腹を満たしている。

食料といっても日持ちするカロリーメイトとかそういった健康食品が主で、時々は俺が携帯していた干し肉(水に浸って干し肉とは呼べない気もするが)なんかをたまに食べているぐらい。だから殆ど味気ない日々が続いていた。

 

「ねえ、正人くん…南雲くん大丈夫かな?」

ふと香織が暗い顔で南雲のことについて俺に語る。

「…わからない、もしかしたらこの場所に落ちていない可能性もあるけど、死体も見つかってない。南雲は頭が切れるからその場を乗り越えてそうだと思うけどな」

南雲に関しては俺も思うことがある。

だが南雲は力ではなく知識で戦う人間であるのは間違いないため、上手く切り抜けていると暗い顔をする香織を励ますとそうだねっと香織は軽く微笑んだ。

香織の元気を少し戻すことはできたが俺の脳裏には少し嫌な予感がしていた。

既に半月が経ち、こんな所には食糧もないため例え切り抜けていても餓死している可能性が高い。

それにこの奈落の魔物は上層より格段と手強いためまともに南雲がやり合えるはずもないし南雲は今一人、孤独と戦っているのかも知れない。

…南雲に何事もなければ良いんだが…

 

そんな不安を抱えながら俺達は周囲を警戒することなく一夜を寝て過ごし、疲れも取れたことで俺達はいよいよ、奈落の探索を始める。

「香織、準備は良いな?」

「うん、けど正人くん、その荷物持ちながら戦うの?」

重くない?っと訪ねてくる香織だが、とても香織に背負わせる訳にもいかないから。俺は大丈夫と言い切り、香織もわかったと納得した表情を見せる。

こうして洞穴から出た俺達はオリオンの馴らしや香織の特訓で移動した範囲より外を探索する。

初めて来る場所も此処と同じように光る鉱石が辺りを照らしゴツゴツした岩が地面に敷き詰められ歩く安いとは言えない道を通っていく。

道中魔物とも出くわして、俺が倒した二尾狼や中型犬クラスの脚力がえげつない兎等もいたが馴らしきった俺とオリオンの前には無力で容易に討伐された。

そんな感じで危なげなく進んでいると香織があるものを見つける。

「正人くん!あれ!」

「…横穴だな」

不自然なくらいに空いている穴。大きさ的に人一人分は入れるその穴は何処か誰かが作ったようなものがある。

「まさか…南雲くんが!?」

「待て、香織魔物が掘ったって可能性も捨てきれない。」

急いで穴に突入しようとする香織を止めて、気配感知で穴を調べるが気配はない。

ただの横穴か?っと思ったがそれは横穴の入り口の地面に染みついているものをみて血の気が引いた。

岩には大量の赤い血…明らかに大量出血したそれは俺の頭で最悪の予想を打ち立てる。

魔物の血は赤くないために岩に染みついてもこんなことは無いだろう。だが人間の血なら話は別だ。

もしもこの出血の原因で南雲が死んでいたら…

「……少し調べる香織は少し待っていてくれ」

「?うん。わかった」

香織は穴のことでいっぱいで下に付着している血には気付いていない。気付いていたら私と行く!っと言っていただろう。

俺は魔力スフィアを光源変わりに横穴へと入っていく。

通路はやはり狭く中腰になりながら通っていかなければならない。

地面には未だに血が付着している。

南雲がこの場にいた可能性は高い。

そして通路を向けるとそこは思った以上の広い空間が広がっていた。

「……広いな……南雲は…いない」

少しみただけでも生活していた痕跡がちらほらある。

こんな奈落で俺達以外に人がいるとも思えないしこれは南雲が?

少なからず南雲の生存の確率が上がり、背負っているバックを降ろし外にいる香織を連れてくる。

「…これ、南雲くんが?」

「多分な…こんな所には人なんて早々いるはずないし魔物でも此処までの芸当ができそうにない」

そう言いながら落ちている岩でできたコップらしきものをみる。

ここまで器用なことが出来るのは俺の頭の中では南雲以外ありえない。この中に南雲の死体があるかもと思った俺はほっと息を吐いた。

「これ……水かな?」

香織が気になったのは青く光る鉱石、そしてそれから少量ずつだが水が湧き出ているようだ。しかも周囲は岩で盛り上がり小規模な貯水池になっている

「水……ではないだろう。こいつからはかなりの魔力を感じる。」

どことなく神秘さを感じさせるそれは水ではないと俺は断言する。得体のしれない何かなのは間違いないが。

他に手掛かりがないかそれを探っていると空間の隅に転がるあるものを発見する。

「これは……骨か?」

何の骨だ?見た感じ人間の骨ではない。このオルクス大迷宮ということを考えればこれは魔物の骨だというのが妥当な線だ。

他にも上手く剥ぎ取ったようなあの二尾狼の毛皮もあっちこっち散乱している。

「まさか…魔物の肉を食べた?」

いやありえない。南雲はこっちの知識のことを幾分に熟知している。

だからこそ魔物の肉を食べれば人は死ぬという定義を知っているはずだ。

だが、飢餓の食への欲求がそのタブーに手を出させる状況になったらどうだ?

「正人くん!これ!」

ぞっとする憶測が頭の中では思いつくと後ろの方から香織の声、何が見つけたようだ。

「これは…銃弾と設計図か」

香織が見つけたのは何発かある銃弾と石で削って描かれた設計図。設計図には荒削りだがリボルバータイプのハンドガンが描写されていて色々と手の込み用がわかる。この世界に銃は存在しないつまりこれを描いたのは…

「…南雲か」

「そうだよね!南雲くんが生きてる…本当によかった」

香織は心底南雲の生存を喜んでいるが俺はそうも行かない。

これを描いたのは南雲だが魔物の肉を食ったのはいつだ?これを描いた後なら死んでいるということも確率的にはありうる。

そんな憶測を考えていると遠くから音が響いた。

「な、なに!?」

この迷宮内で響き渡るそれは雷が落ちたように大きく響く。香織は動揺するが俺は別の意味で動揺した。

「まさか…銃声!?っ!」

先程の設計図と銃弾が発砲音がするところに南雲がいると決めつけ、おれは走りだしていた。

後ろからは香織が俺のことを呼んでいたが今は気に止めることが出来ない。

最悪なケースがある以上あって見極めなければならない。

俺が辿り着いた結論は

南雲がもう人間ではないかもしれないという答えだったから

 



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17話

 

薄暗い迷宮を正人は駆けた。

神経を尖らせ音と気配を取りこぼさないように集中し地面を勢い良く蹴って最短で駆ける。

勿論正人が向かっているのは銃声が鳴り響く方向。

何度も銃声が鳴り響いているために正人は迷わず。速度を緩めることなく進んでいく。

気配は敏感に捉えるようにしている正人だが此処ら一帯の魔物は完全に鳴りを潜めていた。

まるで魔物達が何かに怯えているように感じた正人は更に嫌な予感を強める。

「銃声はこの先だ…!」

オリオンを強く握りしめ通路を出た正人、そしてその先に目にした先には彼が予想していた以上の光景が待ち受けていた。

「俺の糧となれ」

それと共に放たれた銃声、正人が到着した直後、白髪の男は手に持つ大型のリボルバータイプのハンドガンを銃口の先にいる大型の熊の額に銃弾がめり込み。倒す瞬間だった。

白髪の男も屠られた熊も両者睨み合ったままだったが、地面を削りながら止まった正人は白髪の男に対して叫んだ。

「南雲!!!」

「っ!」

南雲と叫ぶ正人、それに反応してか白髪の男も信じられない顔つきで正人を見ていた。

正人の中のハジメは黒髪で白髪の男より体格も小柄だった。

正人も確実な確証は無く、どちらかと言えば反射的にあれはハジメであると思い叫んだのだ。

お互い突然の邂逅で動かなかったが、しばらくするとハジメと思われる男性が乾いた笑い声を上げる。

「そうか…本当に質が悪いな…おい」

「……南雲?」

唐突の笑い声に動揺する正人だが前回(リィンフォース)のこともあるために警戒は緩めない。既に何時でも迎撃できるように覗っていた。

「随分警戒してるじゃねえか、死んだ八坂の姿をしていれば俺を騙し討ちできるって思ったか?」

ハジメも正人を見て少しだけ動揺したが今いる正人を魔物が化けているだけと決めつけとても話し合う空気ではなかった。

「少し前までの俺ならひっかかってたかもな!」

「っ!」

ハジメの言葉と共に銃口は正人へと向けられ躊躇なくトリガーを引き銃口から弾丸が放たれる。

臨戦態勢を取っていた正人はそれを紙一重で回避、放たれた銃弾をしっかり見て銃の威力を確認する。

正人は南雲の根城で見つけたあの設計図に描かれていた銃器であることは戦闘になる前にわかっていた。だが実物は正人の予想を遥かに上回る性能であることを感じ取り冷や汗をかく。

(予想していたより、かなり完成度が良いあの銃、現代兵器以上の性能を誇ってやがる。多分直撃すればただじゃ済まない)

「ちぃ、避けられたか。スペックはあの爪熊より上らしいな。能力も特殊そうだし、殺して食って、俺の糧にしてやる!」

ハジメの銃器……正人は知らないがドンナーは正人の知る知識地球の銃器の性能を上回り。騎士甲冑を身に纏っている正人もあれを食らえば甲冑は貫通するだろうと予想し強面な顔でハジメを見る。ハジメもまた避けられたことに舌打ち、そして正人の性能は先程殺した仇敵である。爪熊以上と判断すると不適に笑みを浮かべ。ドンナーの銃弾をリロードしてまた構え直し正人目掛けて雷が帯びた弾丸が襲いかかる。

(さっきのリロードでリボルバーから捨てられた銃弾は6発……つまり6発撃たせた後のリロードを肉薄して攻める。)

そう考えながらも正人は三発目の銃弾を回避。四発目と五発目の牽制と先読みの銃弾で牽制の弾丸はまず当たるはずもなく、それで動きを制限され正人の移動先を狙い撃つように撃たれたがそれは武装強化したオリオンで切り落とされる。

(後1発!)

ドンナーの装弾されている弾は残り1発と確信する正人はその1発が撃ち終われば間合いを詰めて近接戦闘で無力化するため何時でも踏み込めるように準備し、ハジメに至っては焦りを見せていた。

(何なんだ、こいつは…!俺の銃弾を此処まで避けるしその上、切り落としやがった。ドンナーの弾も後1発、確実に仕留めるには……!)

焦るハジメの顔は直ぐに良いことを思いついたと笑みを浮かべ始める。それは正人が来た通路から現れた少女を見て

「正人くん!!」

香織だった。

彼女は飛び出していった正人を一生懸命追いかけ、銃声が鳴り響いていたために迷うことなくついに追いついたのである。

香織が大声で叫んだために戦闘に集中していた正人も気付く。そして嫌な予感が過ぎった正人は直ぐさまやってきた香織に向かって叫んだ。

「逃げろ!香織!!」

途轍もない焦りを滲ませる正人の言葉は香織を動揺させ、ハジメは正人に向けていた銃口を香織へと向け、最後の1発を放った。

そして正人の行動も早かった。

いきなり現れた香織に動揺したがそれを隙と見て最後の1発を香織に向けるのは今のハジメなら平気で行うと確信していたため香織の前にシールドを展開し銃弾を受け止める。

だが銃弾はハジメの技能纏雷によりレールガンと化した銃弾。容易に弾くことができずにシールドと拮抗…否、銃弾の方がシールドより勝りシールドに亀裂が走っている。

防いでいる間に香織は逃げる余裕はあったが、いきなりハジメに銃口を向けられ躊躇いも無く発砲されたことに腰を抜かして動けなかった。

そしてシールドの亀裂は更に大きくなっていき、ついにシールドは砕け散った。

それでもなお銃弾は香織へと向かっていくがそれは香織に当たることはなかった。

銃弾は防いでいる間に香織の前へ辿り着いた正人によって切り落とされたからである。

「ま、正人くん」

おぼつかない声で正人に話す香織、そしてその正人はというと完全に怒りが滲み出ている顔でハジメを見つめていた。

「…此処まで、変わるもんなんだな…人ってのは」

半月前のハジメはとても戦いが嫌いな男だった。しかし今の彼は好戦的で邪魔するものは排除するという明らかに反対の思考をしているがまさかリロードの時間を稼ぐために香織を狙ったことに正人は完全に怒っていた。

「…香織、聖絶は発動できるか…時間を稼いで欲しい」

「…え?出来るけど…」

「一二発防げばそれでいいよ。チャージはそれまでに完了するから」

そういいながら正人はオリオンを弓にすると矛先をリロードしているハジメに向ける。香織も正人がハジメを殺す気はないとわかると頷いて詠唱を始めた。

「ここは聖域なりて神敵を通さず聖絶!!」

香織が素早く詠唱を完了すると正人と香織の周辺に障壁が張られ、間一髪1発目の銃弾を防ぐが香織は次の攻撃で聖絶が持たなくなると直ぐに理解する。

「正人くん!次で持たなくなる!」

「ロードカートリッジ」

香織が意図を短く伝えるが正人は焦ることなくオリオンの排出口からカートリッジが1発排出され足元に魔法陣、弓の先にスフィアが生成、そのスフィアを弓を引くように伸ばし狙いを定める。

「さあこいつで終わりだ。二人纏めて食ってやる!」

そういって正人達目掛けて銃弾か2発少しの間を置いて放たれる。

1発目は聖絶を破る銃弾で後に発射した2発目で正人と香織共々貫通させて殺すと言った戦法だ。

そして正人は魔法のチャージで動けず。香織に至っては聖絶の発動で動けない。

これはとったと微笑みを浮かべるハジメ、そして聖絶が破られた瞬間正人が動いた。

「少し眠ってろ」

[ベガバスター]

正人は摑んでいた弦を離し直径二メートルはある紺色の砲撃がハジメに向かって放たれる。

「なっ!?縮…」

砲撃は二射目の銃弾を飲み込み進み。ハジメも攻撃が飲み込まれたことで動揺したが直ぐに回避をするため縮地を発動しようとしたが既に砲撃は目の前にやってきており、為す術もなく砲撃に飲まれた。

それが10秒ほど放たれ続け撃ち終えるとオリオンから蒸気が排出、砲撃により舞っている土煙が晴れるとそこには倒れるハジメの姿で気を失っていた。

 



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18話

 

正人SIDE

「全く、世話をかけさせる」

おもいっきり魔力を消費したためか肩から息をするように倒れている南雲を見つめる。

「正人くん…あの人ってまさか…」

途中でやってきた香織はあの白髪の男が南雲であるとは思っておらず。しかしこんな奈落の底に人の姿をした人間がいれば薄々だが気付くものもあった。

「ああ、南雲だ。ちゃんと俺のことも認識してたからな」

まあ偽物と思ってるみたいだけどとは口には言わなかった。流石にショックだろうし

「そっか…」

香織は南雲が生きていたことには嬉しいがあまりにも変わりすぎていることに動揺が大きく。どう顔に出せばいいのかわからない様子だった。

「…にしてもバスター使っちまったな…天之河のこと言えないな」

そんな香織を横目に俺は辺りの洞窟の状態を観察する。香織が狙われてついかっとなって砲撃をしたがこの場所では悪手と言っても良かった。

まず戦っている場所はダンジョンの中しかも周囲は岩で囲まれている。

だからこそ砲撃なんていう馬鹿でかい大技は返って落石や崩落なんかを引き起こす要因になるのだが…運が良かった。問題はないらしい。

「香織、南雲をあの拠点まで運ぶぞ。こんな所で放置するのはあれだし起きたら色々聞かないと駄目だからな」

「正人くん…うん!」

此処に長居する気もなく。南雲を連れてあの見つけた拠点に戻ろうと香織に提案すると香織はいいの?っと不安そうな顔をして訪ね、俺は頷くと微笑みを浮かべて南雲の元へ近づいていく。

やはり色々変わってしまったが南雲であるということには変わりない。そう香織は結論づけたのだろう。

 

そうして俺が南雲を担ぎながら拠点に戻り、南雲が目を覚ますまではこの拠点に居座ることになった。

香織もそれを了承し気絶している南雲に回復なども施したがあまり左腕の惨状以外の外傷がないことで不思議に思い首を傾げるといった一面もありながら

俺は南雲のステータスプレートを確認していた。

===================================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17

天職:錬成師

筋力:300

体力:400

耐性:300

敏捷:450

魔力:400

魔耐:400

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

 

===================================

結論から言ってかなり化けてる。

既に俺の基本スペックや天之河以上の力を持ち。恐らく喰らった魔物の技能も使え、持ち前の錬成で作った銃器があるために既にこの世界では最強の一角と言っても良いだろう。

というか、魔力が異様に高い。少し調べたところ南雲がリンカーコアが覚醒していた。

俺達魔導士の要となる魔力を貯めることが出来る器官、その器官を使えるのは基本的先天的な物なのだが、後天的にリンカーコアを覚醒させる例がある。

南雲の場合、後天的…魔物の肉を喰らったことでリンカーコアを刺激し覚醒したのかもしれない。

リンカーコアは現代でも解明できていないことが多いためハッキリした答えはない。

「取りあえず、バインドで縛ったのは正解だったか」

そういって南雲をちらっと見ると四股は鎖型のバインドで固定しかも南雲用にと5分ほど時間を費やして作ったのだ。これが力ずくで破壊されれば俺少しはプライドが傷つきそう。

そしてしばらくすると南雲から小さい声が上がりゆっくりと見下ろすの南雲が目を覚ましたのがわかる。

「目が覚めたか」

「っ!!なん!?」

俺は軽くそう言葉を交わすと南雲はこれまでのことを思い出したのか、食い殺さんとする目で立ち上がろうとしたがバインドにより身動きは取れない。

「南雲が暴れるのは予想済み、悪いと思ったけどバインドで縛らせて貰ったぞ」

「エグいことしてくれるじゃねえか、だがなこんな鎖ぐらい…!」

強引に引きちぎろうとしているが一向に砕くことは出来ず。南雲も自身の身に起きている異変に気付く。

「そのバインドには対象の魔力無効化、つまり魔力で上がっているステータスも平凡クラスまで落とすことが出来る」

元々大型な生物の捕獲用の魔法なのだがそれを人サイズで縛りなおかつ魔法を使えないように術式を組み立てるのはかなり複雑で時間もかかった。

「さて、これで話し合いに持ち込めるわけだが…色々聞きたいことがあるけど先ずは…」

南雲に正直に話してくれるとは限らないが訪ねようとしたとき、香織が俺を静止して南雲の前にでる。

「…香織?」

「………」

何処か悲しそうな顔をしている香織、銃口を突きつけられたことへの恨みではないようだが何か思い詰めているのは確かだった。

「白崎の…偽物か、俺に何のようだ」

南雲に関しては未だに俺達を偽物と誤解してる。彼の考える言い分も強ち否定できないものもあるために強く言わなかった。

「ごめんなさい」

香織が放った言葉は謝罪だった。

一体何にたいして、そう俺も南雲も目を丸くして香織に視線を向けると香織は話を続けた。

「守るっていったのに守れなくて…どんな怪我でも治すって期待されて…治せなくて…」

ごめんなさい、痛かったよねっとまた謝る香織、視線は今はもう無い左腕に向けられていた。

そんな香織にギスギスしていた空気も晴れて南雲は溜め息を吐く。

「……南雲、もう俺達が偽物じゃないのはわかってるだろ?出来れば聞く耳を持って欲しいんだが」

「ったく、やってられねえな…八坂、答える代わりにそっちも色々話せ、こっちに来る前に言った転移術式っていう言葉もな」

此処でその言葉がでてくるか…あの時聞かれていたのは南雲だったわけだ。

別に隠す必要もないために包み隠さず話すと南雲は頭を抱えていた。

「……なるほどな、時空管理局に次元世界……それに魔導士にリィンフォース…ねえ…漸く八坂が取り乱したのが理解できた。」

そりゃあ死んでたと思ったらそうなるわなっと共感する南雲。

俺達ことも本物とわかってくれたことで多少だが話しやすくなった。

「現状帰還する方法は不明、管理局が血眼になって探してる。だがこっちを呼び出したことが出来たのなら戻ることも可能なはずだ。俺も此処を出れば自力で探すさ…南雲はどうする?香織は俺に付いてくるってことになってるんだが…」

「…目的は同じだが、馴れ合うつもりはない俺は俺なりに帰る方法を探す。」

行き着く先はどっちも同じ、地球に帰る。俺達の大方針は決まり、取りあえずこの奈落から脱出するまでは共闘という形に落ち着くのであった。

 



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19話

南雲との戦いと話し合いから2日、俺達は南雲の拠点を利用しこの階層の探索を開始しこの層の隅々まで探索を完了した。

「上に上がる階段はねえし、これは下に降りていくしかないな」

南雲が言ったとおり、脱出口となる上れる階段はなかった。その代わりで下に降りる階段は見つけたがだ。

つまりはもう俺達は下に降りていくしかないということだ。

恐らく下に下りて行くに連れて、敵は厄介になるだろう。だが今の俺達なら問題は無いそう思えた。

「そうだね…ところで南雲くん…魔物の肉って美味しいの?」

 

管理局に支給されていた食糧を食べる香織は南雲ががっついている爪熊の肉を食べているのを見て、気になって訪ねた。

あの後、二人がかりで爪熊の死体を拠点に持って帰り、毛皮なんかを掻っ捌くと体から放つ電気…纏雷で肉を焼いて食べている。

普通は南雲は魔物の毒にやられて死ぬはずなのだが、南雲はこれまでの不幸が幸運として二倍返しで帰ってきた如くの強運を発揮したのだ。

先日調べていたときに見つけたバスケットボールクラスの青い鉱石、それから湧き出る水は魔物の毒は愚か、どんな怪我や病でも治るエリクサー的な代物だったのだ。

魔物の肉を初めて食い全身が毒に蝕まれながらもその水を飲んだことでなんとか生きながらえた南雲の姿が今の姿だと説明し以後魔物の肉を食べても胃酸強化のお陰で何ともなくなったという。

ステータスも魔物の肉を食べて上がるという裏技的な物で…それを聞いたとき香織も食べれば強くなれるかなってぼやいたときは俺と南雲も全力で止めさせた。

 

「いいや、何も食わねえよりかはマシだし、ステータスも上がる…それにおめえらの食料も腹の足しにしてるだけで殆ど同じだろ?」

そう、南雲は指摘しているが恐らく真意は、南雲までこっちの食料に手を出せばその分食料が減っていくのを見越してだろう。

 

「まあそれはそうだが…今日中に動くんだろ?確り食べとけよ…ただし食べ過ぎて動けないとか話だからな」

「その言葉、そっくり返してやるよ」

これ以上この階層にいても仕方ない。そのため俺達は下の階層へと足を踏み入れることになった。

だから皮肉混じりの冗談で場を和ませようと南雲に語りかけるとそっちこそと同じく返される。

まだ少し距離はあるけど…またあの時みたいな関係に戻れればいいな

そう俺は心の中で思うのであった。

 

「さてと、此処が二階層目ではあるんだが…」

「暗くてよく見えないね」

食事をとった後下りる支度をした俺達は見つけた階段で二階層へと辿り着いた。

だが辺りにはこれまであった緑光石の明かりはなく。洞窟全体は暗闇で覆われていた。

「全く見えねえ、おい八坂あの光る弾で辺り照らしたらどうだ?」

「一応あれ、魔力使うんだぞ…それなら南雲がもってる緑光石のランタンで…まあいいか」

そういって左手の手の平から軽く魔力スフィアを生成、それの照らす光で暗闇を照らすと不意に地面を何かが見えた。

「っ!全員物陰に隠れて!」

俺は嫌な予感がしたために即座に指示、南雲も嫌な予感がしたために素早く物陰に隠れ、俺も香織を連れてすかさず隠れると一瞬なにかが光ったと思ったら辺りを照らしていた魔力スフィアが石化して崩れ去り再び暗闇へと踊ってしまう。

「ちぃっ!バジリスクかなんかか!」

「南雲!閃光手榴弾を投げて!相手はこの暗闇でも見えてるんだったら…」

「逆に眩しい光には弱いってことか!ほら!!」

相手は石化持ちでこの暗闇で平然に動ける魔物の南雲は石化能力を見てバジリスクと例え、俺はこのフロアの性質でバジリスク(仮)の弱点になりそうなものを見抜き、すかさず南雲が持つ緑光石を利用して制作した閃光手榴弾を使うように指示すると、俺の考えた意図を気付いたのか不敵に笑って閃光手榴弾を投げる。

投げられて数秒後、この辺りが一気に光に包まれバジリスク(仮)の悲鳴にも似た声が聞こえた瞬間、俺は岩陰から出て魔力でできた紺色の矢…ソニックアロー*1ですかさずバジリスク(仮)を射抜いた。

「こりゃあ迂闊なことは出来ないな」

この先のことを思いやりながら俺達は先に進む。

因みにバジリスクは美味しく南雲が食べ暗いところでもよく見える夜目や石化耐性などを習得したという…凄いな魔物肉。

 

それから俺達は休み休みではあるが順調に階層を下りていった。

下りる先もフロア全体が火器厳禁で南雲のドンナーが封印せざる終えなくなり、気配探知に引っかからないサメ?が襲ってきたり。毒霧で充満したフロアで俺が作った中和するバリアで進みながら毒を吐く虹色カエルや何処かモスラに似ている蛾と戦ったり…密林みたいなフロアでは巨大ムカデが出てきて俺はまだ見慣れていたが南雲や香織は発狂し香織は顔を青くして気絶し南雲はドンナーや爪熊のスキル風爪でそのムカデや俺達でも食べられる果物を実らせているトレント擬きを狂瀾怒涛の如く撲滅したり…そんな感じの勝るにも劣らないレベルの凶悪なフロアばかりだった。

そして10日以上…このオルクスの深淵に来てから一ヶ月が経ちそうなとき、俺達は50階層で異様な扉の前に居た。

高さは大凡三メートル、扉の両脇には侵入者防止のための1つ目の巨人が二体いる。

大方不用意に開けてしまえばこの2体が目を覚ますと言ったお約束な事態になるのだろう。

しかしこれを無視するほど今の俺達には出来なかった。なんせ50階層も下りてきてここまで進展なし。そして滅茶苦茶気になる扉があるのだから調べたくなるのも致し方がなかった。

 

「さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな希望が入っているんだろうな?」

「そうだね…きっと帰れる方法が見つかるかも」

ドンナーを片手に不敵に笑う南雲に呼応して香織も頷く。

「南雲、香織も気をつけろ扉に不用意に触ったりこじ開けたりしたら間違いなく両脇のサイクロプスが動く。こんな仕掛け、遺跡でのベタな仕掛けだ…といっても聞き分けてはくれねえよな…取りあえず俺は左な」

「じゃあ俺は右だ」

取りあえず打ち合わせをして南雲が強引に錬成でこじ開けようとすると拒まれるように南雲の手が扉から弾き飛ばされると案の状の事態になった。

両脇のサイクロプスが目覚め壁から抜き出て俺達を葬り去ろうとしていたが本当に相手が悪かった。

[デネブストライク*2

オリオンから自然に貯めていた魔力矢が放たれそれは左のサイクロプスの1つ目を貫通し後の壁を破壊すると何も出来ずに南雲が処理したもう一体のサイクロプス共々地面に倒れ込み絶命した。

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

「同じく、こんなわかりきった展開を受けるほどお人好しではないから」

「なんか…魔物の方が可哀想…かも」

…香織にすら同情されるなんて…サイクロプス…哀れ

 

その後扉を調べ考察した末、サイクロプスの魔石が鍵ではないのかと推測した俺達はサイクロプスの魔石を扉にはめ込むと扉が開いた。

「さて、こいつらが何を守ってたのか見物だな」

そう言いながら何時でも臨戦態勢な南雲を見て苦笑いしつつ俺達は開かれた扉の奥へと進む。

奥は真っ黒で何も見えない。これは南雲の夜目頼りかと思っていると俺はこの中にいる気配を感じた。

「……だれ?」

部屋の中から弱々しい女の声が奥から響いてきた。

外の光でわかってきたが内装は聖教教会の大理石のように艶やかな石造りで柱も規則正しく立てられている。何よりこの部屋の中央に何やら大きな菱形の石と何かが生えているように見える。

「まさか…人…か?」

先程の声からしてそこにいたのは生きている金髪の女の子だった。

 

*1
ソニックアロー 射撃魔法

正人がよく使う射撃魔法 矢状の魔力弾を飛ばし相手を射抜く。

生成する時間は早く連射が可能なために正人は通常弾として頻繁に使っている

*2
デネブストライク

正人の使う射撃魔法の1つ、ソニックアローのバリエーションでソニックアローより溜めに時間が掛かるも強さと強度と貫通性はソニックアローを上回る



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20話

「人…なのか?」

50階層の異質な扉の向こうの部屋に生えている金髪の少女。立方体の石に上半身と顔だけが出ていて身動きが取れていないようだ。

 

「南雲どうす…」

「すいません。間違えました」

南雲に訪ねようとしたとき即決で南雲は180度回転し来た道を戻っていく。

俺は苦笑いしながら香織の手を引きながら南雲に付いていく…まあ何となく察したし

「ま、待って!……お願い!……助けて……」

「ね、ねえ!助けてって呼んでるよ。助けた方が…」

「嫌です」

必死に金髪の少女が俺達に掠れた声で助けを求め、香織も助けてあげたそうな顔でこっちを見ているがそれを南雲がきっぱりと言い切った。

「ど、どうして……なんでもする……だから……」

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう?絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……脱出には役立ちそうもない。という訳で……」

「えっと、ごめんな…俺も南雲みたいにきっぱりという訳ではないんだけど、この手のトラップって一番危険なものなんだよね。ミイラとかならまだ良かったけど…生きてるとなると…」

本当にごめんっと俺は謝りながら門の外へと去って行き、南雲は徐々に門を閉めていく。

南雲は感覚で俺は遺跡探索とかで培った経験からの結論だった。良心に響くが生き残るため、心を鬼にする。

「ちがう!ケホッ……私、悪くない!……罠じゃない!……待って!私……」

それでも懇願する少女、香織も助けてあげよっと声には出さないが明らかに顔に出ており。その顔を見て俺も助けてリスクを背負うか見捨ててこのまま進むかの葛藤に迷う。

南雲はそんな悲痛な声にも耳を貸さず扉を閉めていき、あとわずかで閉じる時に彼女の声が響いた。

「裏切られただけ!」

その言葉は人の心を捨てていた南雲にも響いた。

俺は気絶していて香織に聞いたがどうも逃げる途中に味方の魔法が南雲目掛けて降ってきたという。いきなり軌道が変更されるなどありえないために明確な殺意の元行われた犯行だった。

その犯人には目星は付いてるんだが……香織には伝えない。伝えたら多分香織の怒りが爆発するだろうし

少女も誰かに裏切られたのだろう……同族意識といったものかそれが南雲の心を完全に揺さぶった。

しばらく固まっていた南雲は苦い顔をしながら扉をまた開け、中へと入っていく。

「八坂……何かあったら」

「わかった何時でも射撃できるようにする」

有事の際のことを気にした南雲は何時でも射殺できるように声を掛けると俺もあまり殺生はしたくないが背に変えられないとアストロスフィア*1を6発待機させたうえにソニックアローをオリオンに携え何時でも射撃できるように準備しながら少女に近づいていった。

だが俺も南雲の行動に少しほっとしていた。俺の闇の書事件後砕け散った石の欠けらが残っていてそれを香織のお陰で再び灯火が付いたように、まだ南雲にはあの時の良心の欠けらが残っていたことに微笑みを浮かべた。

「裏切られたと言ったな?だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

気になることを質問する南雲、諦めかけていた少女は唖然として言葉を出せず。それが気に召したのか言わないなら帰ると来た道を戻ろうとしたときに慌てて少女は話し始めた。

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

「…吸血鬼…ねえ確かトータスの吸血鬼は300年前に滅んだはずだが…」

「??この…世界?」

少女は吸血鬼の王族で用済みとして封印されたと説明し俺は頭の片隅で覚えていたトータスの歴史からこの世界の吸血鬼は滅んでいると言うのを口に出し、少女は何処か引っかかる言葉に首を傾げた。

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

「……ん」

「殺せないってなんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「それもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

この子は吸血鬼の王族で凄まじい再生能力を持ちなおかつ魔力操作と詠唱破棄も使えるってことか。

 

魔力操作を使える時点で多分この少女もリンカーコア覚醒…いや保持者だろう。

魔力量はともかく、下手したらはやてみたいなやばい魔法をばかすか詠唱なしでぶちかませるわけだ。

「お願い……助けて……」

全て説明した女の子は再び助けを求める。明らかに悪意はない……助けても良いんじゃないかと思う反面、解き放ったら何かありそうという嫌な予感もしていた。扉の前に居たサイクロプス同様何か出てきそうで怖いのだ。

そんなこと考えていると横から涙ぐんだ声が聞こえてくる。

「そんな…酷いよ…グスッこの子何にも悪いことしてないのにぃ……あんまりだよぉ~……」

香織だ、嫌な予感で完全に見捨てようとした俺達とは違い香織に関しては助けたい一心だった。

その上、少女のこれまでの経緯を聞いたことで抑えていたものが完全に決壊、完全に同情して涙目で俺達に助けるように語りかけてくる。

恐らく此処で助けないという選択肢はないのだろう。

俺は溜め息を吐き左手に持つソニックアローを消すと南雲と香織に下がるように促すと左手に魔力を溜め込み最大まで溜め込んだ全左ストレートパンチを繰り出し閉じ込められている岩を破壊しようとしたが異変が起きる。

「いったぁ!!」

少女が埋めている石に接触した瞬間左手の魔力が打ち消され、素の全力パンチか石に叩きつけられたことにより悲鳴を上げたのは俺の左手だった。

「ま、正人くん!?」

「いっ、くそ!この石、魔力を吸い取ってやがる。」

よく考えればそうだ、この少女も魔力があればどうということはないはずなのに出られないのは魔力が吸い取られているからだと何故気付かなかった。

未だにヒリヒリする左手に香織は天恵で俺を癒し始め。選手交代と言わんばかりに南雲が前を見る。

「この石は魔力吸い取るみたいだが…鉱石なら俺の錬成で!!」

そういって右手を石…魔法を封じるということで魔封石でいいか、それに当てて錬成を発動する。

当然魔封石も抗ってくるが徐々に魔封石を浸食しているのがわかる。

「ぐっ、抵抗が強い!……だが、今の俺なら!」

南雲は更に魔力を高めてトータスなら八節ぐらいに込める魔力量を錬成に継ぎ足すと漸く魔封石に南雲の錬成が効き始めた。

「まだまだぁ!」

更に南雲は魔力を高め持てる全ての魔力を注ぎ込んでいるのだろう。

これを見ているほど俺達は薄情ではない。

俺はすかさず左手で南雲の肩に手を当てると錬成の足にするために魔力を受け渡し香織も自分に出来ることをするために詠唱を始める。

「南雲!俺の魔力を渡すそれも使え!」

「南雲くん!私のも受け取って!天恵よ 神秘をここに 譲天!!」

香織が放つ譲天は他者の魔力を回復する魔法。しかし香織はその応用で錬成の注ぎ込んでいる魔力を増大させたのだ。

「ありがてえ…これなら!!」

俺達の魔力で凄まじい魔力を使った錬成はついに少女を捕らえる立方体を融解していき。少女は長きにわたる封印から解き放たれその場に座り込む。

動けるまでは少し掛かると言ったところ。まあ俺達もかなり魔力を消耗した。

香織と南雲は全力、俺もその後の戦闘のためにセーブしたとはいえ6割ほど注ぎ込んだ。

南雲は神水で回復しようとしたが少女の震える手がその手を掴む。

顔は無表情ながら紅眼の瞳には彼女の気持ちが溢れ出てわかる。

「……ありがとう」

その一言だけでも俺達はやったかいがあったとそう思えた。

 

 

*1
アストロスフィア

正人の使う射撃魔法、ソニックアローより弾速も威力も劣るがロックした対象を追いかける追尾性に優れる。



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21話

 

封印部屋で金髪の少女を助けた俺達、かなり魔力を持っていかれたことでその場に座り込んでいると解放された少女が南雲の手を握りしめて訪ねた。

「……名前、なに?」

そういえばお互いに名前を言ってなかったかそう思い俺達は名前を名乗る。

「俺は八坂正人、こっちは白崎香織、それで君が握っている男は…」

「ハジメだ。南雲ハジメ。お前は?」

自己紹介ぐらい自分ですると言いたげな視線を俺に向け南雲は少女の名前を聞く。

その少女もハジメ…ハジメっと絶対に忘れないように連呼していたあと。南雲に向かって予想外な言葉を振りかける。

「……名前、付けて」

「は?付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

これはまた責任重大なのを訪ねられたものだ。

そういえばはやても良くリィンフォースなんて名前を思いついたものだと今更ながら思い出していると南雲も名前がふと思いついたのか少女に思いついた名前を口にする。

「ユエなんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

「ユエ?……ユエ……ユエ……」

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で月を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

厳密に言えばユエという言葉は日本ではなく中国での言葉なんだが…まあそんな些細なことは置いておこう。

どうやらユエの名前は気に入ったのか無表情だけど瞳は嬉しそうな感じがした。

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

「おう、取り敢えずだ……」

「?」

少女…ユエの呼び名も決まり一段落したのだがその前にやっておくべきものがあった。それはその…ユエは先程まで封印されていたのだ。しかも何も身につけず。

「これ着とけ。いつまでも素っ裸じゃあなぁ」

「……」

爪熊の毛皮でできた外套を渡すとユエも今の状態を改めて確りと意識したことで顔を真っ赤にして外套で体を隠す。

「ハジメのエッチ」

「……」

 

「ま、正人くん!?」

「安心しろ見てないから…」

正直に目をそらしていて良かった。後で香織が怖いし

そんな少し和むような掛け合いがあった後。俺は直ぐさま気配感知で直上に敵が現れたことを察する。

「和むのはそれぐらいにして…どうやら邪魔者の登場らしい!」

来るぞっと叫ぶと俺は香織を同じく気配感知で気付いた南雲がユエを抱えて、不意打ちの攻撃を回避すると襲撃者は地面へと降り立った。

体長はおよそ五メートル4本の長い腕に巨大なハサミ。そして8本の足をわしゃわしゃと動かし、2本のある尻尾の先には鋭い針が付いている。

「見たところ蠍と蟹が融合した生物だな」

「さっきまでは気配も感じられなかった。つまりこいつはユエを逃がさないための守護者みたいなものか」

やっぱりサイクロプスみたいな魔物がいたわけで警戒していて正解だったと正直に思う。

「っ!来るぞ!」

仕掛けてくるとわかり全員に聞こえるように叫ぶと2本の尻尾から針が射出し俺達がいた場所に突き刺さる。

「これでもくらえ!」

回避に成功した後、直ぐさまにソニックアローで迎撃するが放った紺色の魔力矢はいとも簡単に弾かれる。

「弾かれた!?なら…!南雲!一点集中攻撃するぞ!」

「ああ!こいつを殺して食ってやる!」

生半可な攻撃では通用しないとわかったために南雲のドンナーから放たれるレールガンと俺の貫通性能に長けたデネブストライクが蠍もどきの1箇所に集中攻撃。これなら貫けると信じていたが現実はそうならなかった。

「なっ!?」

「弾かれた!?」

一点集中攻撃でも蠍もどきの殻を破れず。流石に動揺を隠せないが蠍もどきの攻撃がくるので止まることは出来なかった。

 

接近すれば4本のハサミを距離を取ったら尻尾の針が飛んでくるためかなり厄介だった。

しかも俺達の最大火力も通じない装甲持ちとなれば打つ手がない。

打つ手はないかと焦りを滲ませながらも俺に目掛けてくる鋏を飛び越えて回避し蠍もどきの横腹に双剣モードで一撃を入れるとミシッと砕ける音が響く。

「っ!?」

砕ける音が聞こえるとは思っていなかったために完全に音がした方向に気が行き蠍もどきの動きを警戒するのを怠った。

「正人くん!前!」

そんな香織の声で怠っていた警戒を戻し前を向くと尻尾から放たれた溶解液が迫っていた。

咄嗟に回避するが避けきれず。右肩に溶解液が掛かり物凄い酸で騎士甲冑を溶かし皮膚を溶かし始めていた。

「ぐっ!ジャケットパージ!」

このままでは肩を溶け落とされると判断し羽織っている騎士甲冑のコートを溶解液と共に弾き飛ばし、ダメージを最小限にとどめるとバックステップで南雲達の元へ着地する。

着地の揺れで右肩に激痛が走るが今は気にしてはいられないため我慢すると、痛々しい俺を見て香織が直ぐさまに天恵をかける。

 

香織のお陰で痛みが和らいでいき、俺は南雲にあることを教える。

「南雲、1つだけ弱点を見つけた。俺が物理攻撃で攻撃した場所を見ろ。あいつの装甲に罅が入っているだろ?」

「っ!どうなってやがる。俺とお前の最大火力でも傷1つ付かなかったはずだ」 

「あくまで俺の見立てなんだが…あいつの殻、魔法攻撃に強いだけで物理攻撃ならまだ手立てがあるのかもしれない。それに…」

今更ながら気付いた点としてそれを南雲達に教える。

「あの殻…鉱石で出来てるのかもしれない」

「…なるほど、つまりはそういうことか…だがどうやってあいつの足止めする?」

「それはもちろん俺が注意を…「正人くんは安静にしてないと駄目だよ!」…」

「白崎の言うとおりだ、これまでもお前がいて助かる場面が多かったが、今は回復に専念しろ。」

2人に妙にきつく威圧されると俺は押し黙ることしか出来ず頷くと南雲はドンナーを確りと持ち、1人で立ち向かおうとしたがそれを止めたのはユエだった。

「ハジメ、待って」

短く、ハジメを呼び止めたユエはてくてくと歩いてハジメの首元に口を当ててかぷりと噛み付いた。

「ちょ、ちょっと!?」

「香織、早く聖絶を敵を抑える人間がいないから」

「ふぇ?あっ!ここは聖域なりて神敵を通さず。聖絶!!」

噛み付いて…いや吸血行為に驚く香織、しかしそれを他所に蠍もどきはこちらに鋏を振り落とそうとしていたために、大慌てで聖絶を貼り一撃目を防ぐ。

だけど後二撃ぐらいしか持たなそう…

それまでに吸血が終われば…

「…ごちそうさま」

二回目の攻撃が振り落とされ聖絶のバリアが防ぎきった直後、ユエの吸血も完了したがどことなくうっとりしているような…まあ仕方ないか久しぶりの吸血なんだから。

そんなことを思っているとユエは片手を上げ、直後高まる魔力と溢れ出る黄金色の魔力光。

そしてユエは一言呟いた。

「蒼天」

その直後直径六メートル以上はある青い炎の塊が形成されユエが手を振り落とす共にそれは蠍もどきの頭上へと落下し、蠍もどきはその魔力ではなく炎属性の炎熱によって苦しんでいるようだ。

「…凄い…」

「これだけの威力を無詠唱で…これは中々だな」

蒼天が振り落とされた光景に驚きを隠せない香織に同感して俺も感想を述べる。

 

だけどお膳立て位はやるべきか…そう思い俺は蒼天が消えた後、軽くでバインドで奴の鋏を封じ込めると駆け出していた南雲が蒼天のダメージで動くのもままならない蠍もどきの頭上を取った。

 

「よお、随分手こずらせてくれたな…先ずはお礼するために下拵えしないとな!」

ドンナーを口でくわえ錬成で殻に穴を開けようとしたがそれを邪魔するように尻尾から針が飛んでくる。

「ちぃっ!邪魔するじゃねえ!」

 

技能の空力を使った蹴りで針を吹き飛ばすと着地した同時に錬成を発動。俺の見立て通り、あれは鉱石で殻に穴を開けることに成功する。

「はっ!漸くこじ開けられたな。じゃあ、遠慮なく受け取れ」

もう南雲を妨げるものは無い。ドンナーの銃口を蠍もどきに向け躊躇いも無く雷撃を帯びた銃弾を2発撃ち込むと魔物の血飛沫が飛び交いと断末魔が響き。倒すことに成功した。

南雲はぴくりともに動かなくなった蠍もどきの殻の上から下りて、こっちに戻ってくる。

その表情はもちろん達成感に満ちている。

「…お疲れ」

「ああ、八坂もナイスアドバイスだ。あれが鉱石だって見抜けなかったらもう少し苦戦してたろうしな…白崎も時間稼ぎありがとよ。ユエもお疲れ、へたり込んでるが大丈夫か?」

「んっ、最上級魔法は疲れる」

やっぱりあれほどの魔法を放つのだから殆ど魔力を消費してしまったのだろう。南雲の言うとおりへたり込んでる。

「それに、ハジメは私のこと、信じてくれた。」

そうユエは赤らめて嬉しそうな眼差しで南雲を見る。

そんなユエの眼差しに微笑みを浮かべる南雲、この奈落で再会したあと見たこともない笑みだ。

どうやら香織が俺を呼び起こしたように、ユエが南雲の心を少し取り戻してくれたようだ。

そんな、光景を見て俺達も微笑みを浮かべる中、ちょっと茶化したくなったので、仲睦まじい2人に一言言った。

デキてる(どぅぇきてるぅー)

「おい、何故此処でそのネタを引っ張ってくる」

「…んっ!」

呆れた目で南雲がツッコミを入れ、ネタはわからないが何となくそんな気がしたのかユエも南雲と同感と短い返答とともに頷いた。

 

取りあえず、何とかなった訳だからこれで一休憩…っ!?

「なっ!」

「っ!!!?」

「正人くん!?2人もどうしたの!?」

突然だった。かなり上の方ではあるがここまでハッキリと届くぐらいのバカ魔力が放たれたのを俺は感知した。

いや、俺だけではなく魔力感知の技能を手に入れていた南雲やユエもまたこの魔力を感じたのか先程の和みはなく。完全に取り乱していて唯一、それがわからない香織は豹変した顔つきに取り乱していた。

「なんだこの、馬鹿馬鹿しい感じは」

「凄い魔力、上から感じた。これは一体…」

「多分、奈落じゃなくてもっと上の上層からだった。…あっちで何かあったのか?」

 

三者三様の意見を述べる俺達、しかしその中で俺はどことなく別のものも感じていた。

この魔力…何処かで感じたことがあると…それも闇の書事件より前に

そこまで考えつくと脳裏に浮かんだのは、かつて俺が魔法に関わった事件を引き起こした首謀者の女性の姿。

しかしあり得るのかと否定したかったが、前例があるためにそれを完全に決めつけることは出来なかった。

ただわかることは

上で何かがおきた。それだけだった



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幕間『悪夢再び』

 

時間は正人達がユエと出会う前に遡る。

オルクス大迷宮の上層では天之河率いる勇者パーティが以前より更に力を付け順調に階層を下りていた。

因みにメンバーは参戦派を筆頭に中立派の戦えるメンバーが主で否定派の優花達は王国に残り、正人と同じように帰還の方法を模索していた。

勇者パーティが二分したことに王国も教会もいい顔をせず。あの手この手と使って駆り立たせようとしたが優花達、否定派の結束は凄まじく。その上愛子の説得もあって無理強いはさせないという結論で事なきを得た。

因みにこの一件でも天之河と優花は言い争いをして雫の苦労で頭を抱えたのは言うまでもない。

 

そしてオルクス大迷宮の探索に入って六日目、ついに彼らは60階層まで辿り着いていた。

しかしそこから彼らの足取りは重くなっており。理由は1ヶ月程前になる。あの現場65階層がもうすぐそこまで来ていたからだ。

 

「…香織…」

そう奈落を見て呟くのは雫だ。彼女の脳裏には嘗ての苦い記憶が再生されている。自分には退路を切り開くことしか出来ず。離れていた香織達が落ちていくのを見ることしか出来なかった。

あの時何も出来なかった自分がそこが見えない奈落をみているとどうしてもそう思えてしまった。

「シズシズ、元気出して!鈴達はあの時の鈴達じゃないんだし!」

「そうだよ、雫ちゃん。きっと香織ちゃん達なら大丈夫だよ」

そんな落ち込む雫に声を掛けるのは雫の親しい友達である。鈴と恵里、2人とも同じく親友の香織の心配や相次ぐ参戦派と否定派のいざこざで頭を悩ませる雫を気遣うように励まし、それを見て雫は少し晴れたのか微笑みを零した。

「鈴も恵里もありがとう。私が確りしてないと駄目なのに」

「そうだよ!シズシズはそうでなきゃ、流石オカン!」

「鈴?誰がオカンですって?」

「鈴、流石に雫ちゃんに失礼だよ」

そんな仲睦まじい、光景に周りのメンバーも和んで、周りの空気を支配していたあの時の苦い記憶が和らぐと意を決して天之河がみんなに向かって話しかけた。

「みんな!俺達は遂に此処までやってきた。この1ヶ月俺達は必死に努力してきた結果だ。今ならあの悪夢やあいつにだって越えられる!」

俺達であの敵の過去を越えよう!っと生徒を鼓舞するがそれで頷けるのは檜山達一部の生徒とメルド団長を除く騎士団の騎士達しか通用しなかった。

過去を恐れているからではない。天之河が出したあいつという言葉。それは誰を示していたのかは明白に理解できるからだ。

中立であってもいい顔をできないのはしかたがないことで内心で雫は此処に優花達がいなくて本当に良かったと溜め息を溢しながらそう思った。

 

天之河と優花、いまや水と油のように相容れない関係になってしまったその2つに当然、先程の言葉を耳にしていれば優花は黙っていない。

その反論にまた独自論を述べる天之河、それは間違いだと反論する優花にそれに呼応してヒートアップする周囲の生徒達、そして胃を痛めるのは当然として雫なのだ。

どこか先が思いやられる光景に頭を悩ましながら、ふと檜山達の方に雫は顔を向けた。

いまや、天之河の傘下となった檜山達小悪党パーティは天之河の勇者パーティや中立派同様に力を付けてきた。

だが雫は知っていた。彼こそがあの時の惨劇を引き起こした起因の人物であることを。しかしそれはあの鉱石に不用意に手を伸ばし転移させられたという意味合いではなく。あの誤爆に見せかけた歴とした殺人の方のことであった。

あの時の一部始終は全員膠着して息をのんでいたが、ただ一人檜山のしてやったりという不適な顔を見たものがいた。

永山パーティの斥候役。暗殺者の遠藤浩介だ。

遠藤は偶然にもその光景を目撃し相当迷ったのか雫に打ち明けたのは分裂してから10日は経った日のことだった。

そんな遠藤から仕入れた真実にあれがなければ香織達は逃げ切れたかもしれないっと檜山を敵視し今にも仇討ちと切って捨てたい気分に何度も手に持つ剣に怒りで力が入ったか、雫はそんなことを思いながらもその感情を胸の内に押し殺していた。

クールビューティに見え内心ではかなり乙女チックである雫。そういった感情を押し殺すことになれていた雫の胸の内は誰にも悟られず。個の感情で事態を一変させるわけには行かないと本心より他の全員のことを考えて行動していた。

そして階層は進んでいき対に65階層まで到達する。

あの場所まであと少し、あれだけ鼓舞したが生徒達にも緊張は走っている。

「気を引き締めろ!ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

いまや率いるのではなく付き添いと化してしまったメルドは持ち前の貫禄で天之河達に檄を飛ばすとより気を引き締めた一行は対にあの苦い思い出のあるあの場所へと辿り着くのであった。

「此処は…」

一ヶ月前、3人の同級生が奈落に落ち、何も出来なかった屈辱を感じさせた65階層の広間。

橋が治っているのを不思議がり。まるであの時の再現と言わんばかりに見慣れた魔法陣が展開した。

「ま、まさか……アイツなのか!?」

「マジかよ、アイツは香織達が倒したんじゃなかったのかよ!」

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

まるであの日の焼き回しの如く、見慣れた光景に今から出てくる魔物が容易に想像できた天之河は驚愕し、龍太郎も奴は香織達によって倒されたと驚く中、迷宮がそういう仕組みであることを知っていたメルドは的確に指示を飛ばし今回は挟撃されずなおかつ直ぐに撤退できるように騎士達を動かすが撤退という二文字がない天之河は不服な顔を浮かべていた。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

 

そして魔法陣から遂に嘗て正人達が倒したベヒモスが雄叫びを上げて現れる。

全員が気を引き締め臨戦態勢を整える中、雫は持っている剣先をベヒモスに向け呟いた。

「香織…私に力を貸して」

それを聞いたものは誰もいない。そして遂に天之河達はベヒモスとの戦いの火蓋を切っておとされた。

「面白いことになったわね。さあ、この1ヶ月あまりでどれだけ成長したか拝見させて貰おうかしら」

この時、観察者がその場の近くに潜み天之河達を観察していたことを彼らはまだ知らない。

 



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幕間『異端の魔女』

先に行っておきます。ベヒモス戦はめちゃくちゃダイジェストです。
そして何故が5000文字突破したという…


 

「万翔羽ばたき 天へと至れ!天翔閃!」

初めに動いたのは天之河だ。曲線状の斬撃が轟音とともにベヒモスに迫り直撃、ベヒモスは悲鳴を上げて当たったところからは血も吹き出していてダメージを与えられていることを確認する。

「いける!俺達は確実に強くなってる!永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級を頼む!」

天之河は矢継ぎ早に指示を出す。リーダーとしての素質を育てるためにメルド団長による直々の講習で培った賜物だった。

「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな? 総員、光輝の指揮で行くぞ!」

迷いのない指揮にメルドは感心し指示通り騎士団を連れてベヒモスの右側面に回り込み、そして他のメンバーも己の課された指示通り散らばっていく。

それから天之河達はベヒモスに善戦していく。

永山と龍太郎が身体強化魔法でベヒモスの攻撃を受け止め、止まった隙に雫とメルドがベヒモスの角を切り落とし。天之河が走りながら詠唱した光縛で先の傷つけた切り口を爆発で抉りダメージを負わせる。

その後も危うい場面もあったが後衛組4人による上級魔法、炎天によりベヒモスは断末魔をあげ炎天の攻撃が晴れた後、そこにあったのは黒焦げで倒れ伏せるベヒモスだけだった。

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

全員、未だに信じられないのかベヒモスを討ち破ったことを半信半疑で黒焦げのベヒモスの亡骸を見ていると天之河は持っている聖剣を掲げ、叫んだ。

「そうだ!俺達の勝ちだ!」

天之河の勝利の勝ち鬨で全員勝ったことを自覚したのか歓声を湧き出す。雫もまた遂に此処まで来たと微笑みを零しながら剣を納刀する。

「私達やったのね…遂に此処まで…」

かつての冒険者も勝つことができなったベヒモスを倒したことに自分達は漸くここまで辿り着ける強さを得たことに漸く実感する雫、そんな雫の元に、天之河や龍太郎などの勇者パーティが集まる。

「やったな!雫」

「ええ、私達、遂にベヒモスを倒したわ」

「ああ、これで…香織達も少しは報われる。それに八坂が俺達の前に立ち塞がっても今の俺達なら…!」

天之河が今の勝利を喜び、強くなった自分達を見て、死んだと思い込んでいる香織とハジメも少しは報われると言って、終いにはベヒモスをほぼ単独撃破した。八坂にも対抗できる自身も付いたのか妙に力説に述べるが、雫は少し八坂を敵視している天之河に言いたげな顔で見詰めていた。

既に天之河の中では正人は魔人族に加担した裏切り者で香織とハジメを殺した原因となった人物として捉えていた。

これに関しては誰が反論しようと天之河の考えは変わらず。八坂は悪であったと決め付けている。

その天之河を見て龍太郎や鈴も何か言いたげな顔をして、恵里はあたふたとこの微妙な空気に慌てる。

天之河はそんなことに気付かず。気を引き締めて次の階層へっと全員に伝えようと口を動かそうとしたときこの空間全体に女性の声が響いた。

「なるほど、少しはできるようになったみたいね」

「っ!全員!周辺を警戒しろ!」響き渡った女性の声に一番に反応したのはメルドであった。かつての最高到達点である65階層に天之河達以外の人間が早々にやってこられないために、この女性はただ者ではないと瞬時に理解し敵か味方かもわからないため全員に周囲に気を配るように促す。

騎士団達はそういったことに馴れているために勝利に余韻など見せないように直ぐに警戒を強めたが天之河達は勝利の余韻から切り替えることが上手くできず慌てて周囲を警戒しだす。

円陣を徐々に縮めながら全周囲を警戒する天之河達だが空間に妙に響く足音は66階層に続く通路から響き渡ってきて全員の視線はそちらに向き、徐々に大きくなる足元に全員が緊張を高め固唾をのんで武器を構えていると足音の人物は姿を現す。

紫の髪をし、地球でも童話などで良く聞くような魔女の服を着た年を取っている妙齢の女性が片手に魔導杖を持ちながらあまり警戒していない足取りで天之河達に近づき、凡そ20メートルほどの位置で立ち止まった。

「あら?別にやり合いに来たわけじゃないのだけど」

臨戦態勢すらしない女性だがそれは警戒していないのではなく、する必要がないほど取るに足りない相手だということであり。当の天之河達はそんなことには気付かず。メルドは相対する女性が何者なのかわかると今度こそ相打ちしてでもと決心を固めつつ。女性に軽く確認を取る。

「貴様、まさか異端の魔女か?」

「っ!!異端の…魔女!?」

異端の魔女、メルドから呟かれたその名を聞いて雫は驚きの声を上げる。

異端の魔女といえば7年ほど前に起きた神山での事件で大暴れした末。神敵と定められた異端者。

しかも正人も同じ力を持つということだけで異端者と見られあらぬ疑いなどで泥まで塗られた。

つまりは雫にとってはクラスメイトの侮辱された根元とも呼べる女性なのだ。

「異端の魔女、失礼しちゃうわね。私はプレシア・テスタロッサという名前があるのだけど、別に好きに呼べばいいわ」

いつまでも二つ名呼びで呼ばれるのもあれなのか少し顔を不服そうに自身の名前を明かしどちらでもと好きな方で呼ぶように天之河達に伝えた後、天之河…転移者達に向けて問い掛けた。

「初めまして、トータスにやってきた地球から来た。転移者さん。」

「なっ!?どうしてそれを」

天之河、召喚組は一般的に神エヒトが異世界から使わした神の使徒というのが一般的な情報で、出身世界などは出回っていない情報だった。

なら何故それを知っているのか気になってしかたがない天之河達にプレシアは答えるように口を開ける。

「少し地球という星には関わったことがあってね。あなた達の調べた名前が妙にあの島国の住民の名前に似ていたから推測で答えただけよ。さて、1つ私から聞きたいことあるのよ。聞き覚えのある言葉なら正直に言って欲しいわ。管理局、ジュエルシード、ミッドチルダこの中で聞き覚えのある子はいるかしら?」

聞き慣れない3つの言葉に手を上げる者はおらず。それを見てそうっとこの中に次元世界の認知しているものはいないと悟ると天之河達に皮肉にあることを教える。

「だったら、あなた達はとんでもなくついてないわね。唯一帰還する手掛かりを持っていた少年を失うなんて」

プレシアが言った言葉は何を意味するのか天之河達にはわからなかったしかし、雫だけはプレシアの言葉から憶測で組み立てて1つの人物が思い当たる。

「まさか…八坂くん?」

「そういう名前なのね。ええそうよ、察しが良いわね。彼ならもしかすればあなた達を返すことも可能だった人材よ」

恐る恐る答えた雫に正解であることを述べるプレシア、八坂が地球に帰れる一番有力な可能性であると示唆されると勿論天之河達の動揺は更に酷くなる。

「なっ!?どうして…なんで八坂が…」

「まあ、知らなくて当たり前ね。前回の戦闘も拝見したけど彼が使う術式には少し見覚えもあったから直ぐに同業者ということは理解できたわ。流石に局との関わりまではわからないけど、可能性としては彼が一番、高かったわ」

それに優秀だったのでしょうね。惜しいわねっと前回のベヒモス戦を思い浮かべているのか正人の才能を惜しむ声を上げるプレシア。しかし天之河達にとってはそれはあまりにも衝撃すぎることで殆ど頭に入っていなかった。

「あら?それほど意外だったかしら?まあ、色々と言えない事情は把握できるから彼を責めるのは門違いだと思うわよ」

「門違い?ならなんで魔人族なんかと手を結んで…」

っと次元世界のルールを知るプレシアは容易に教えられない立場にいた正人を少し擁護し、それに反発するように天之河が魔人族とのあらぬ関係を持ちだすが、プレシアは見下す目つきで天之河を見る。

「それは本人に聞いて貰えるかしら?まあその当の本人はいないわけだから。どうしようもないのだけれど」

「ぐっ!っ!そうだ!あなたは八坂と同業者といいましたよね!?それじゃあ地球に帰れる方法も…」

身内のいざこざは身内でやれと外部者のプレシアは正人の疑いを何も擁護せずにそのまま返すと、図星と言わんばかりに顔を歪ませた天之河は直ぐに八坂が帰る方法を知っていたのなら同業者のプレシアも知っているのではっと帰れる方法を訪ねたがプレシアの天之河を見る目は更に見下すことになった。

「そんな甘えが通用すると思っているのかしら?大体、私とあなた達とは利害も一致しないし、寧ろ彼らの介入は私の目的の妨げになる可能性もあるの。そんなリスクしかない行動に私にメリットがあるのかしら?」

「ど、どうして!?」

「いいかしら?私は私の目的のために動いているの、興味本位であなた達に接触しただけで、別にあなた達がどうなろうと知ったことじゃないわ」

完全に天之河達がどうなろうと知らないと一蹴りするプレシアにどうしてと呆然とする天之河、他の全員も帰れる手掛かりとなる人物が目の前にいて協力してくれないことに動揺が走る中。メルド達騎士団は別の意味で抜いている剣先をプレシアに向けていた。

「異端の魔女、プレシア・テスタロッサ。此処でお前には捕まって貰う。罪状は言わずも知れているだろうが…光輝達のためにもお前は此処で捕まえる」

「メルドさん…っ!プレシアさん!俺達に力を貸してくれ、貸してくれないのなら…!」

メルドは職務の他に光輝達のためにもとプレシアを捕らえようと気合いを入れ、それを見た天之河と数的有利と強くなったという自身から呆然としていたことから立ち直り、少し手荒だが俺達ならと呟き聖剣を構える。

他の生徒達も同様、帰れる方法が目の前にあって手を拱いている訳もなく各々の武器を構え捕まえる意思を見せる。

「…そう、それがあなた達の答えなのね」

溜め息を溢し、天之河達の自信に満ちあふれている目を見て哀れと見下ろしているプレシアは未だに臨戦態勢すら取らず無防備のまま突っ立っている。

「行くぞ!」

天之河の号令の元仕掛けようとしたときだった。

天之河達は知るよしもなかった。プレシア・テスタロッサ、彼女は正人などよりも遥か高見にいるSSランクの大魔導士であることを

そしてそれは一瞬だった。

 

「っ!?かはぁっ…!?」

プレシアは持っている杖の柄を地面に軽く叩きつけた瞬間、天之河達の上空から紫の落雷が降り注ぎ、落雷を浴びた天之河達は声も上げられずに全員その場に力尽きた。

「な、何…が」

メルドもまたプレシアと相対するのは初めてで警戒はしていたにも関わらず。明らかに最上級とも捉えられる魔法を軽い素振りだけで放たれたことに動揺を隠せず。プレシアを見る目は既に人間としては捉えていなかった。

「本当に哀れね…殺しはしないわ。その感電も直に解けるから安心しなさい。それじゃあ、私はもう一つの目的も達成したから失礼させて貰うわ」

殺す価値もないと見なしたプレシアは倒れ伏せる天之河達を放ってこの場から離れようとしたとき、1人足取りもおぼつかないが立ち上がろうとする人物を捉えた。

「……」

「し、ずく…」

八重樫雫だ。彼女の体も先程の攻撃で感電しているのにも関わらず持っている剣を杖変わりに何とか立ち上がると意識を保つのにも必死な顔でプレシアを睨む。

「威勢が良い子ね。そういうのは嫌いじゃないわ」

「…っ!ああああっ!!!」

中々威勢が良いと天之河達の中にも雫のような人物がいて少し誉めると、足取りも掴めず。左右にふらついて動き叫びながらプレシアの元へと走り、剣の間合いに入ると横に一閃でプレシア目掛けて振るったがそれた片手で持つ杖に簡単に防がれる。

「この状況で私に刃を振るうなんて…あなたは他の誰よりもいい線がいっているわ。あなたは何のために戦うのかしら?」

「みんなで帰るため…香織もきっとそれを望んでるから…だから私は…!」

「死んだお友達のためってわけね。そのためなら血を浴びることも厭わない。たいした覚悟だわ。その覚悟に評して、良いことを教えてあげる」

雫の覚悟に面白いと笑みを浮かべ、プレシアは雫の耳元で呟いた。

「奈落に落ちた3人はまだ生きている…それをどう捉えるかはあなた次第ね」

「っ!!それは…っ!?」

プレシアから与えられた情報、それは雫がもっとも知りたいことであった。それにより力を入れていた剣にも弱まり動揺を隠せないでいたが、プレシアは雫の剣を杖で弾き、仰け反らせると杖の先端を雫の体にむけ1発の魔力弾を放ち吹き飛ばした。

「し、雫!!!!」

二メートルほど吹き飛ばされた雫は完全に気を失い、感電して何も出来ない。天之河の叫びが広間に響く。

そんな叫びなど一切気にしないプレシアは気を失った雫を見ながら不敵に笑みを浮かべて足元に紫色のミッド式の術式を展開する。

「これを励みに力を付けることね。フフ。あなたの成長楽しみにしているわ」

そう言い残すとプレシアは光に包まれて何処かへと消える。

残された天之河達は先程の勝利の余韻など一欠片も残っておらず。あったのは圧倒的な実力を見せつけられた敗北の味…それだけだった。

 



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22話

 

香織SIDE

サソリもどきを倒した私達は南雲くんの強化のためにサソリの肉と素材を手に入れた後封印部屋の外で休憩をすることになった。

南雲くんは封印部屋で休息を取ろうとしていたけど、ユエちゃんがそれを、断固拒否。

確かに何百年も封印されていた部屋にもう止まりたくはないのもわかるから私達も強くは言わなかった。

外にあるサイクロプスの肉と素材も無事に確保して焚き火も付けて、漸く一息…私は横目で正人くんを見る。

先程のサソリもどきとの戦いで右肩に溶解液を浴びて今は包帯を巻いて上半身を裸で必死に通信機と操作している。

何でも私以外が感じた大きい魔力が気になるからクロノさんと連絡を取りたいとのこと。

でも通信状況が今も悪いのか、悪戦苦闘している。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「……マナー違反」

そんな正人くんを見ていると横で南雲くんがユエちゃんに女の子の禁句を口にしてユエちゃんがジト目で南雲くんを見つめる。

私もさすがにそれはないよっとユエちゃんと同じでジト目で見つめている。

「南雲くん?」

「白崎まで、嫌、悪かったって…八坂も何か…ってまだやってるのかよ」

私とユエちゃんに見つめられたじろぐ南雲くん。流石に戦闘が強くなっても、こっちの対応できない南雲くんは正人くんに助けてもらおうとしたけど。今の正人くんは通信機と格闘中で手が離せない。

それを見て、くそ味方がいないっと呟き、どうにか話を逸らそうと慌てて別の話題をふる。

「きゅ、吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「話逸らされた……別に良いけど……私が特別。再生で歳もとらない……」

ユエちゃんの話だと普通の吸血鬼が長くて200才らしい。それでも私達からしたら二倍も長生きしていると思えて仕方なかった。

それとユエちゃんが此処に連れてこられた経緯も聞きたかったけど、ユエちゃんも覚えていないらしい。

行き方がわかれば出られる道もあるはずだと期待する南雲くんだけどユエちゃんは全く覚えていないようで気を沈ませたのは仕方がないと思う。

「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「……わからない。でも……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

[その話、ぜひ聞きたい話だな]

突然の第三者の声、南雲くんはドンナーを構えてユエちゃんもあたふたと警戒しだしたがそれは徒労に終わる。

「繋がった。」

正人くんのその一声が拠点に響く。

それを聞いた南雲くんは早く言えよっと言いたげな顔で見つめている。

そんな南雲くんを他所に正人くんは端末を操作して空中投影のウィンドウを表示して以前と同じ人。クロノさんが映っていた。

[正人以外は自己紹介がまだだったな。時空管理局 本局所属艦アースラの提督をしている。クロノ・ハラオウンだ。白崎さんは正人の話でわかっているが、君達は…]

「…南雲ハジメだ」

「……ユエ」

「南雲くんにユエさん…か…ユエさんはこの世界の住民のようだが…」

南雲くんとユエちゃんの名前を把握してユエちゃんは直ぐにトータスの世界の住民だと理解したけど、南雲くんに関しては何処か疑っている目線を向けている。

「俺がどうかしたのか?」

「いや、すまない…行方不明者のリストは全て把握しているつもりなのだが…どうしてもファイルで見た南雲くんと今の君とは似つかないものでな」

「そういえば、そうだよな一見じゃあ、わからないと思う。」

そういえば、南雲くんは魔物の肉を食べて姿が激変してるんだった。

クロノさんの言葉に正人くんも同意して、南雲くんはどう説明しようかと考えた矢先、ユエはなにをいっているのかわからないのか首を傾げる。

「ハジメは…ハジメ」

「まあ、あれから色々あったんだよ。こっちでも」

そう乾いた笑い声を上げながら、正人くんは追求を剃らせようとするがクロノさんはなにやら察した。

[どうやら、まともな方法ではないようだな…]

完全にろくでもないと見抜かれていることに肩を落とす正人くん。

だけど、正人くんの聞きたいことはそれじゃないはずだし、確りと持ち直して貰わないと。

「正人くん、クロノさんに連絡入れた本題を言わないの?」

「あ、ああ、忘れるところだった。クロノ、一二時間前に感じた膨大な魔力反応。あれについてそっちは…」

[皆まで言わなくても良い、やはりその件についてか…こちらでもキャッチしている。魔力パターンと過去の識別データと照らし合わせて、誰なのかもわかっている。正人も大体はわかっているようだな]

「………正直半信半疑だった。まさかあの人が…」

「おい、何2人だけで会話を成立させてやがる。その人物っていうのが誰なのか俺達にも教えろ」

正人くんとクロノさんだけわかる会話に南雲くんが私達にもわかるように説明することを命令口調で正人くん達に話しかけるとクロノさんはわかっていたのかその質問に答える。

[色々と詳細は守秘義務で語れないが大まかな内容なら答えよう。もう7年ほど前になる。正人が巻き込まれた事件のことは聞いているな?]

「ああ、確かそのうちの1つがあのクロハネが関わっていた事件だったな」

そう私達に魔法のことを打ち明けてくれた時に少なからず正人くんが関わった出来事を簡単に教えてくれた。だけどあくまで概要だけでどういったものなのかとかは一切触れていない。

「南雲がいう。リィンフォース…いや、はやてやシグナムっていう騎士達が関わった闇の書事件とは違う。それより前のもう一つの事件、ジュエルシード事件…今回感じた魔力はその首謀者に似ているんだ」

「闇の書事件…ジュエルシード事件…」

これが正人くんが関わった事件の総称…この2つの事件を経て正人くんは…

「それでその事件の首謀者っていうのはどんな奴なんだ」

「…そうだな、直接会ったことはないけど。途轍もない魔導士であることは確かだ。かつて大魔導士と言わしめた程にその人の名前は…」

[ううん、そこからは私が話すよ]

正人くんがその人のことを語ろうとしたとき通信機からクロノさんとは違う女の声が聞こえてきて、クロノさんが映るウインドウとは別にもう一つ、ウインドウが開いて、映っていたのは金髪で赤い瞳、何処かユエちゃんが成長したような姿をした女の人だった。

「フェイト…」

[残念なことにフェイトちゃんだけやないんやで?]

「っ!!」

金髪の女の子の名前を呼んだ後、また別の…私も聞き覚えのある声が聞こえてきて、また1つウインドウが追加されると映し出された映像に私の友達である人物が映っていた。

[正人くんも香織ちゃんも久しぶりや]

「…はやて…」

ほんわかとした口調で私達に声を掛けたのは八神はやて、正人くんの遠い親戚で私にとっても雫ちゃんと並ぶ大事な親友の姿がそこにいた。

 

 



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23話

 

正人SIDE

まさかクロノだけじゃなくフェイトやはやてまでアースラに乗っているとは…

他にも居たりしないよな?っと目線でクロノに問い掛けるが小さく横に首を振っているため、2人だけのようだ。

「本当…久しぶりだな…はやて…」

こうやって話し合ったのはいつぶりだろうか…多分、あのクリスマスでのリィンフォースを看取ったあの時からだろう。

正直、心の整理ができてなかった。あれだけ突き放しておいて…今更よりを戻せる訳もなく…

微妙な空気がこの拠点やアースラのブリッジでも立ちこめ、ウィンドウに映るクロノは溜め息を吐き、フェイトに関してはこの険悪ムードにオロオロと取り乱し…ユエはあまりわかっていないのか首を傾げていて、南雲に関しては俺達の事情など知らんと言わんばかりに苛ついている。

[…ああー!湿っぽいのはなしや!正人くんも私らのことは深く考えんとき!昔みたいに話しかけてくれればええから!]

「はやて…」

「正人くんが悩んでるんは知っとるけど、今はそれどころやないやろ。また会ったそんときに色々、話も聞くさかい」

やっぱり、はやてには敵わないな…

俺は心の中ではやての優しさに救われたことに感謝してはやて達に対する負い目を隅にやって昔みたいに話そうと意気込む。

 

[さて、はやてと正人の話し合いも終わったことだから、先ずはユエくんの話の方から先にしていこう。]

俺とはやての険悪ムードも一段落したことでクロノが話を進めるため、ユエが言った反逆者ということについてから情報を共有することになり、ユエは短い返事をして頷くと反逆者について説明する。

「反逆者……神代に神に挑んだ8人の神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

「っ!神様に挑んだ奴らがいたのか」

「ん、でも目論見外れて、全員散り散りに逃げて、その世界の果て、辿り着いて築き上げたのが七大迷宮」

「ちょっと待ってくれ」

反逆者や七大迷宮の成り立ちを聞いていたが直ぐにとある矛盾に気付く。8人の反逆者に7つの大迷宮……それなら8つ目の大迷宮があっても可笑しくないはずだと

「8人いるのに大迷宮は7つなのか?」

「1人は忽然と姿を消したらしい。……だから厳密には7人が世界の果てに逃げて作った大迷宮」

「そんな話、王国の書物には書いてなかったがな……となると処分されているか厳重に保管されてたんだな」

「それにどうして神様に逆らったんだろうね……正人くん?」

「…………」

神への反逆…8人の反逆者…

どうしてだ?初めて聞いたはずなのに、何処かつっかえる。

俺はこの話を知ってる?

いや、何処かでそれに似た何かを読んだ? 

「正人くん!」

「っ!ああ、すまん香織」

「大丈夫?何か考えていたみたいだけど」

[ほんまな、なんや気になることでもあったんか?]

香織とはやてに心配されながらも俺は気にしていたことを口にする。此処は全員に共有して貰った方が良いだろうし

「いや、ユエが言った内容……それに疑似した書記を読んだ気がして」

「ど、何処で!?」

顔を近づけ俺に迫ってくる香織、俺は落ち着けと宥めてから何処で見たのかを思い出す。

「無限書庫でだ。香織達には何処かわからないだろうけど、無限書庫の……確か未整理区画の探索の時だったと思うし、古代ベルカ語だったから端的にしかわからなかったけど」

「無限書庫?」

「管理局が保有する数多の世界のあらゆる書物が置かれている書庫。確認されただけでももっとも古い書物は大凡6500年も前の書物が確認されている」

「俺達からすると紀元前前からかよ。とんでもねえ書庫だな……だがよ、トータスの歴史についての書物があるのは可笑しくないか?」

俺もそれが気がかりで仕方がなかった。

あそこには管理局創設される前からある場所らしいけど……トータスは聞いたことも無い世界。そんな世界に関する歴史書があるということも不思議で他ならない。

[無限書庫は失われた世界の記された書物もある。未確認の世界に誰か渡航者がやってきていても可笑しくはない。そういえば正人ははやて達と鉢合わせしないために良く未整理区画に逃げ込んでいたな]

「うぐっ!その時は大変ご迷惑をおかけしましたよ。本当に」

何処か皮肉混じりに過去の俺が未整理区画に逃げ込んだことを指摘され、図星なので何も言えない俺は反論する余地もなかった。

[それで、どこら辺にあったか覚えとるか?]

「……確かベルカ戦役より前……ベルカの大陸でまだ小競り合いを起こしていた時期……初代夜天の王が誕生したって推測されている年代だよ」

俺は結局あの事件のことを引きずって……どうして夜天の書を作り上げたのかそれが知りたくて無限書庫にいたのも1つの理由だ。

そんなこと誰にも話したことはなかったからクロノ達も意外な顔で見ていた。

[初代夜天の王か……わかった。そのことはユーノに連絡はしておこう。]

 

さてとこれでユエの話は終わりかな?次はプレシアについてか。

「ユエの話もこれぐらいでいいだろう。次はそっちの話だ」

[うん、そうだね……今回、関わっていると思われる。人物の名前はプレシア・テスタロッサ、かつて魔導工学研究者として有名だった魔導士……そして私の母親…]

「フェイトさんの……お母さんが!?」

「事件も終わりに差し掛かった時にプレシアは地球に散らばっていたジュエルシードとプレシアが拠点と使っていた時の庭園という要塞の動力源を使ってある場所を目指した」

「ある場所って何処だよ」

端的にプレシアの話をする俺とフェイト、香織は首謀者がフェイトの母親だということに驚き、南雲は俺の話を聞いてプレシアが辿り着こうとした場所を訪ねると俺は直ぐに言葉を返した。

「アルハザード……全ての英知があるとされる幻の世界」

[それが大昔に存在したとされているだけで実際に見たものはいない……しかしプレシアはそんな憶測で動く人間ではない。何かしらの確証はあったと見ている。]

「……そんな人が一体どんな目的で……」

プレシアは確かに凄まじい力を持っている。だけどそれでも手にしたかったもの…それは彼女でさえも自らの手では届くことはできない代物だったのだから。

だがそれを答えるのは気が引ける。

なぜならそれはフェイトの過去に負った傷を抉るようなものなのだから。

横目でウインドウを覗うとクロノ達も同じ気持ちであまり話したくない様子だ。

どうにかして誤魔化さないと…

しかし、意を決したのかフェイトが俺より先に口を開ける。

[母さんは取り戻したかっただけなんだ…失った過去を…]

「………」

「……どうやら、相当に深いわけがありそうだな……」

フェイトから告げられた重苦しい言葉、それに香織は黙ることしかできず。南雲もそれがどれだけ重い話なのか理解でき、それ以上詮索はしなかった。

「そんなプレシアの企みもクロノやなのは……プレシアを止めたかったフェイト達によって阻止。時の庭園が崩落する際にプレシアは虚数空間に落ちていったんだ」

「虚数空間?」

[虚数空間とは世界と世界の狭間…次元空間に存在する歪みのようなものだ。その中ではあらゆる魔法はキャンセルされる。落ちれば命はないと言われている。]

「大魔導士と謳われたプレシアでも虚数空間に落ちれば同じだ。その後プレシアは行方不明と処理されたが…どういう因果かトータスに流れ着いたのかもしれない。しかも目的も不明…七年前と同じなら…何か手掛かりを見つけたのかも知れないけど」

プレシア…あんたにとってこの世界に失われた過去を取り戻す答えがあるっていうのか?

そんなところで模索しても真実はわからない。

だが今わかることは…

プレシア・テスタロッサ、リィンフォース…俺が関わった2つの事件の結末がこのトータスという舞台で途轍もない何かが起きそうな予感だけはハッキリとわかった。

 



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24話

 

[取りあえず、8人の反逆者とプレシア・テスタロッサについての情報共有は無事に終えた。他に何か聞きたいことがあれば出来る限り話そう]

といっても本当に機密のことは言えないから何でもというわけではない。

香織も既に頭いっぱいなのか、遠慮した表情で苦笑いを浮かべ、南雲に関しては自分が知りたいことは知れたので錬成で作り上げている武装を組み立てていた。

これで終わりかな?っと思っていると意外な人物から質問の声が上がった。

「聞きたいこと…ある。ハジメ達はどうして此処にいるの?」

ユエだ。しかも質問というのもこのオルクスの奈落にいるのかという俺達に対する質問。香織はそういえば何も話してなかったと思い浮かべ、南雲も作業している手を止めていた。

しかもユエの質問は1つではなかった。なぜ、魔力を直接操れるのか。なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ、ハジメは魔物の肉を食って平気なのか。ハジメの左腕はどうしたのか。そもそもハジメは人間なのか。ハジメと俺が使っている武器は一体なんなのか。

主に南雲のことを聞いていて、所々気になる言葉も飛び交っていたためにクロノやフェイトは執務官の顔をしている。

内心、これは詰んだなっと思い南雲に言葉を投げ掛けた。

「南雲…諦めろ。正直に話したほうがいい…お前のお姫様がお待ちだぞ」

「おい!八坂、所々お前も含まれてるからな!…仕方ねえな先ずは…」

それからトータスに転移してからの俺達の事情をユエに話した。

ユエに対して刺々しい言葉遣いはない。多分南雲にとってユエは本人も気付かないうちに心の支えにしていたのだろう。

だからこそ南雲はきっとユエがいれば完全に道を踏み外すことはないと確信ができた。

淡々と南雲の経験談を語り、それを一語一語確りと聞くユエ、俺達も聞いてる中、残っているクラスメイト達を思い浮かべる。

今頃どうしているのか…もしかしたら奈落に落ちた日に全滅した可能性もある。

相手はリィンフォースだ。操られている上、彼女に遠慮などありはしない。

此処でクラスメイト達のことを話さないのは香織のためだ。きっとこんな話すれば香織はまず始めに八重樫のことを気にする。

あの2人は大親友と言える間柄だ。どちらか欠ければきっと壊れるだろう。

そうすると一番危ういのは香織ではなく八重樫かもしれない。

俺達から見たらあっちの方が生存率が高く。別に死んでいるところを見ているわけでもない。

だが残されたクラスメイト達は俺達が奈落に落ちて死んだと思い込んでいるだろう。

落ち込んで意気消沈していてくれれば良いが…あの天之河が立ち止まるとはとても思えなかった。

そんなことを考えているとなにやら鼻を啜る音が聞こえる。ふと目を聞こえてきた方向を見るとユエが悲しそうに泣いていた。

「いきなりどうした?」

「……ぐす……ハジメ……つらい……正人も香織も……つらい……私もつらい……」

きっと俺達の話を聞いてユエは同じように見捨てられたと思ったのだ。

そして同じ苦しみを味わった俺達のために泣いているユエに南雲は苦笑いをして優しく右手で撫でる。

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

今の南雲の行動理念は故郷に帰ること。そのためなら彼はきっと邪魔なものを全て排除するだろう。それはきっとクラスメイトであってもだ。

だが俺はそんなことさせない。知り合いと戦う悲しみを知っているから。

殺す方法はとらず捕らえるという行動でクラスメイトという障害を排除する。甘い考えだが同郷のよしみだ。

南雲の危うさはクロノ達も感じ取ったのか視線だけで確り見張っておけと視線を送り。俺は意図を読み取って頷いた。

南雲に撫でられていて心地よく目を細めていたユエが南雲の帰るという言葉に反応する。

「……帰るの?」

「うん?元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

「……そう」

明らかに落ち込んだ表情を見せるユエ。その心情はこの場にいる全員が察した。

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

「……」

300年以上封印されていたこともあるがユエは南雲の傍が彼女の居場所だと見定めたのだ。それがいきなり元の世界に帰ると言えばユエの心情が痛いほど理解できた。

「南雲くん…ユエちゃんは…」

香織も悲しそうな顔で南雲に訪ねる。南雲もユエと香織の表情を見てユエの頭を撫でていた手で自分の頭をカリカリとかく。ふと俺と視線が合い。俺は自分で決めろと意味を込めて頷くと呆れた表情でまたユエの頭を撫でた。

「あ~、なんならユエも来るか?」

「え?」

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

南雲の提案はユエにとっては天の助けだった。ユエは驚いた顔でいいの?っと訪ねて南雲は頷いた。

そうすると先程の無表情など嘘かのように微笑んだ。それに南雲は見惚れているようで、俺はニヤニヤと笑みを浮かべて南雲達に助言した。

「そうと決まれば俺も手を貸してやる。なーに、此処に地球移住した事例が1名いるからな。戸籍なりはクロノに任せれば簡単に揃えられる。そこんところは安心して貰っていい」

「おい、事実だがどことなく悪意を感じたのは僕だけか?」

っとクロノが引きつりながら俺を見ていてフェイトは落ち着いてと宥めている。

「それに別段ユエが地球に来ても問題ないだろう。一応地球にも吸血鬼いるわけだし」

「いやちょっとまて、その話まじなのか!?」

南雲の物凄く驚いた声に、いるよっと軽く頷き、フェイト達もああ、すずかのことと小声で頷いていた。

「吸血鬼どころか、何千年も生きてる妖狐とか良く俺の家にご飯とか食べに来るし問題ないだろう」

その妖狐…久遠も家…というか八坂神社の近くの山中に普通に住み着いてるし…海鳴が特殊すぎるけど別段300年の吸血鬼が来ても…うん問題ない。

南雲は頭を抱え、あれ?地球ってそんなにファンタジーだっけ?っと呟き、香織も妖狐?…もしかして久遠ちゃん?っと当の本人は会ったこともあるために妖狐が誰なのかを苦笑いを浮かべ、そしてユエに関しては同じ吸血鬼が生きているということに少し不安の色も見せているが目を輝かせていた。

取りあえず、ユエの件も解決かな?後は俺が聞きたい管理局の動向を聞くことにする。

 

「クロノ…今後の管理局の方針なんだけど…」

[そのことについては、まだ決まっていないが個人の意見として言わせてもらう。転移事件に加えてリィンフォース、そしてプレシア・テスタロッサという脅威まで現れた。これは最早静観といえる状態ではない。僕は今回の件を上層部に報告してトータスへの派遣を上申するつもりだ。]

「…転移なしでトータスに降りれるのか?」

「管理局を舐めて貰っては困る。帰還する方法はないが転移以外でのトータスに降りるぐらいは可能だ」

「…行きしだけの片道切符というわけか…」

管理局…というよりクロノの考えはわかった。流石に個人で対応するのは身が重いのはよくわかる。そして今回クロノ達に知り得た情報で上層部も重い腰を上げることだろう。

[管理局としての方針も伝えたことだし、後は僕個人としてやっておきたかったことをしよう。正人、南雲くん…]

「なんだ?まだ話があるのか?」

……クロノの眉がピクピクと動いている。これは…来るか、クロノお得意の…あれが。

[君達の内容から南雲くんと正人が色々と危険なことをしていたことへ色々と言いたいことがある。存分に聞いて欲しい]

「お、おい、八坂…こいつは」

「…諦めろ南雲…もう、クロノは止められない」

こういう時のクロノは何を反論しようものなら直ぐに論破される。

俺達は抗うこともできずただクロノのスーパークロノタイムという名の説教を受けるしかなかった。

 

 

香織SIDE

 

[あ~クロノくん完全にスイッチ入ってもーたな…]

そう離れた場所で正人くん達が説教を受けているのを私とウインドウ越しにはやてちゃんは眺めていると苦笑いの笑みしか浮かばない。

[香織ちゃん……正人くんのことこれからもよろしくな。香織ちゃんやったら正人くんのこと全部任せられるさかい。]

「はやてちゃん…」

正人くんのことを頼むのはわかるけど…どこかはやてちゃんの言い方に違和感を覚える。それじゃあまるで、はやてちゃんにはもう私と正人くんの間に入り込む隙がないと言っているような。

「…はやてちゃんもだよ」

[へ?何がや?]

「正人くんのこと、はやてちゃん、正人くんのこと好きなんだよね。それを簡単に諦められるわけないもん。」

はやてちゃんの正人くんに対する好意は理解している。正人くんははやてちゃんを命懸けで守ろうとしていたのだ。当然そういった感情が芽生えていても不思議じゃない。

それにはやてちゃん、正人くんと同じで色々と抱え込んじゃうし、心の内に正人くんの好意を内に秘めて私と正人くんのために退くだろう。

でもどうしてかそれじゃあ私は納得ができなかった。

[えっと…それはその…]

私の指摘にたじろぐはやてちゃん。顔は赤く感情が高ぶっているのがわかる。

「独占欲はあるよ。けどそれだけじゃ駄目な気がするんだ」

きっと一段落すれば私は自制もできずに正人くんに身を全て捧げるだろう。正人くんがかっこいいのはわかるし何人も正人くんのことが好きになるのも妬けるけど頷ける。それに一番が良いという欲望はある。だけど、1人を選んで他のみんなのことを気にしないなんてあれだけの闇を抱えていた正人くんが抱えないはずがない。

世間的には間違ってるんだろうな…っと思うけど…正人くんが一番納得のいく方法を私は選びたかった。

[えっと…その…あの……っ!!あ、あかん通信状況が!!]

あたふたするはやてちゃん、そして悩んだ末にあるはずもない通信障害を理由に通信を切る。

勿論だけどフェイトさんとクロノさんの通信は未だに続いている。

後でフェイトさんにはやてちゃんに言伝頼もうかな?

そう思いながら私は説教をうける正人くんのことを見守ることにした。

 



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25話

 

あの日からまた数日経ち、ユエも加わった。俺達は今日も半分に差し掛かっていた階層を下り始めた。

ユエも加わって更に快調に進めるようになった。今日も俺達は順調……順調に…

 

 

「だあぁぁっ!!何なんだよあいつらは!!」

隣で密林を並走する南雲が叫ぶ。

その背中にはバックパックとその上にユエが乗っかりファイトと必死に走る南雲に声援をかけている。

かくいう俺も香織を背負って疾走中…

速度は緩めない…というか緩めたら危ない状況…

ふと後ろを見る。

後ろには200頭以上いるティラノサウルスのような魔物に追いかけられているからだ。

何故か頭に花が咲いているのがシュールではあるが。

元々はこんな追われていたわけじゃない。

始めは普通に探索できていた。だけど頭に花が咲いている同個体が一体だけいたのだ。

そいつはユエが瞬殺したのだが…その後何故かあの大軍がやってきて何度か迎撃はしてるものの…減るどころか増えているしまつだ。

「ユエ、できれば此処は数を減らすために魔法を放つべきじゃないかな!?」

そう言いながら俺の背中におんぶされている香織がユエに対して大声を上げる。

香織もユエのことを呼び捨てにしているのはこの数日で物凄く仲良くなったから、香織は種族を越えようが打ち解けるのはいつも通りらしい。

この場にいる俺達の中で多数を相手取れるのは俺かユエだけ…俺は香織を背負って、オリオンで迎撃出来る状況ではなくこの場合ユエしかいないのだ。

「ん、凍獄」

そういうと追撃してくるティラノサウルスの殆どがユエの放った凍獄により氷漬けになりその氷の中で命を落とす。

といっても数が数だ。

数は減ったといってもまだまだ追いかける魔物は多く。味方など気にするものかと俺達を追いかける。魔物に流石に不思議に思えた。

「なあ、いくら何でもここまで来てまだ特攻ってのは可笑しくないか?」

「それは俺も思った。あれじゃあまるで捨て駒だ…」

「ねえ、今思いだしたけど、追いかける前に南雲くんが撃った花を踏みつけてた魔物覚えてる?」 

南雲もこの不自然さに勘づき、俺は奴らの動きがまるで捨て身の行動だと指摘すると香織が追いかけられる前に倒した魔物の奇妙な行動を思い出すと俺の頭の中で1つの可能性が浮かぶ。

「寄生か」

「ん。多分そう」

「じゃあ大元を叩かないと俺達はこの階層の魔物全部と相手しなくちゃならねえわけか」

寄生ならあの花が本体の指示や出来事を送受信するアンテナと言ったところか。

もしこの追撃を逃れたいなら追ってきてる魔物を全て撃破した後、気付かれることなくこの場から去る。それしかないがとても現実的に難しすぎるためにその方法はとらない。

「それじゃあその本体が居そうな場所に行こうか!」

「八坂、わかるのか?」

「ああ、この階層に来るときにエリアサーチを飛ばした。それで本体が居そうな場所はかなり絞れた。此処から西に少し離れてる洞窟に居ると思う。」

「じゃあ行くとするか!」

走りながら目的地を決めた俺達は走るスピード早め、魔物達との距離を離そうとするも魔物達も意地を見せている…ようだが実際は使い捨てで使い潰れるのも視野に入れているのであろう

中々離せない距離に舌打ちして咄嗟に生成した4つ魔力スフィアをその場で固定して俺達が過ぎ去って言った後、魔物達がその場に辿り着いた瞬間スフィアは破裂するように爆発する。

いま放ったスフィアは空中設置型の地雷だ。識別外のものが過ぎると自動で爆発する仕組みだが威力はあまり望めない。

しかし足止めすることには役に立つ。

現に爆発して前列の魔物は怯むと後続の魔物に衝突し玉突き事故のように大量の魔物は魔物同士で衝突を繰り返す。

「使うのは惜しいが…くれてやる!」

南雲も懐から自作したトータス性の手榴弾を取り出し口でピンを外し後ろの群れ目掛けて投擲、直ぐに凄まじい爆発音と共に何十体以上の魔物が爆発と共に吹き飛んだ。

あの手榴弾も南雲特製で威力は地球の手榴弾とは桁違いに強い。そこは異世界産だからだろう。

そう思いながら前方の傾斜を滑りながら下りていき、目星を付けた洞窟を視認する。

「あそこだ!」

南雲達にわかるように声を上げ、全員があそこが目星のところとわかると滑りきると直ぐさまに駆け出す。

後続も傾斜で何体か転げ落ちて大惨事なことに鳴りながらもやはり後先考えず俺達に特攻…いや何故か先程より特攻が苛烈になっている。

俺達にこれ以上先に行かせたくないのだろう。

つまりはこの先に待つのは俺の推測通りということだろう。

「八坂、あいつらの動きが更に必死になってるぞ。つまりは」

「この先はビンゴってことだろう」

この逃走劇にも終止符が打てるとニヤリと笑みを浮かべ南雲の後に続き洞窟へと入る。

洞窟はとてもティラノサウルスのような魔物が入れる入口ではないために入口で魔物達が衝突、しかしそれに紛れで中型…某狩りゲーの青いトサカを持つ竜に似た魔物が一匹ずつだが侵入してくる。

それを見て俺は舌打ちし走っていた足を止めて体をUターン、オリオンを前方に構える。その際背負っている香織にも軽く可愛い悲鳴を上げるが反動で落ちないようにしがみつき、それを気にせずに俺は砲撃をチャージする。

「ここまで追ってきた報酬だ。遠慮なく受け取れ!」

そういってベガバスターを放ち砲撃は通路ギリギリの幅で避けることなど不可能。よって魔物達は砲撃に飲み込まれ、外につっかえているティラノサウルスの魔物をボーリングのピンのように吹き飛ばす。

今回は通路に被害を出さないように威力も幅も調節している。崩落する可能性はないだろう。

当分は追いかけてこないと思い南雲が先に進んだ方向へと走り通路を抜けると直ぐさま南雲が錬成で通路を塞ぐ。これであいつらは侵入することは不可能だろう。取りあえず香織を下ろしてオリオンを構えながら中央へと進む。

「さて、此処に本体が居るはずだが…八坂、気をつけろよ」

「そっちこそ、あれだけの数を操れるんだ。相当の手練れだろう」

俺と南雲お互いの相棒を手を持ち何時でも放てるように構えながら周囲に気を配る。

すると広間の中央辺りに辿り着くと全方位に緑の球体が100を超える数で現れる。直ぐさま南雲はユエと俺は香織と背中合わせで周囲を気を配り、プロテクションで全方位にバリアを張り球体を寄せ付けさせない

 

「本体の攻撃だな、香織気をつけろ」

「ま、さと…くん」

「香織?どうした…っ!?」

香織の様子が可笑しい。そう思い後ろを振り返ると護身用の短剣を俺に突き刺そうと悲痛な顔をする香織の姿だ。

「香織!?」

予想外なことに驚く中、香織の手首を咄嗟に摑み。短剣が刺さることはなかったが明らかに様子がおかしい香織の異変に気付く。

何かというと頭のてっぺんにこの階層に来てから見慣れてしまった。花…それがそびえ立つことで大体の原因はわかった。

「ごめんね、正人くん…」

「くそ!さっきの胞子か!南雲!気を「八坂!避けろ!」っ!!」

あの緑の球体が元凶の寄生させている攻撃だとわかると南雲にそのことを伝えて気をつけさせようと口を開けたが言い切る前に南雲の警告と迫ってきている風の刃に咄嗟に香織を押し倒し俺も地面を蹴って回避する。

今の攻撃でユエもまた寄生してしまったのだろう。ユエの方を見ると香織と同じく頭に赤い薔薇が生えている。

取りあえず香織も操られているとはいえ無事なため距離をとり南雲の元へやってくる。

「よお、南雲これは迂闊だったな…」

「ああ、ところで何で八坂は無事なんだ?俺みたいに耐性があるわけじゃないはずだ。」

「それに関しては騎士甲冑のおかげだ。これは身に纏う防御魔法だから、胞子を弾いてくれているんだろう」

「何でもありだな。お前の魔法は」

そんな万能ではないと言葉を返し俺はオリオンを香織の頭上の花に構える。

あれの解放の仕方は既に知っている。だが本体も確りとわかっているのか上下飛び跳ねて正確な狙い撃ちをさせてはくれない。

「厄介な…南雲、ユエは任せるぞ。俺はなんとか香織を助ける。」

「ああ、そっちも上手くやれよ」

お互い、止める相手を決めて香織と一定の距離を保ちながら相対する。

射撃は上下運動で危険だし、接近すれば持っている短剣で香織は喉元を掻き切ろうとするだろう。

接近も駄目、遠距離も難しい。高速移動で接近するのもリスクが高すぎる。

なんとも攻めにくい相手にどうすればと考えているとあっちではユエの近くに元凶であるだろう植物人間の魔物が現れている。

「何とかあいつを…」

仕留められるかと横目で元凶を見るも正面に居る香織が短剣を首元近くに構えられていて恐らく、元凶に危害が加われば喉元を切るつもりだ。

「ごめんね…正人くん…」

操られている香織が涙を浮かべて己の不甲斐なさに謝る。意識があるために本当に質が悪い。

「ハジメ…私はいいから…!撃って!」

ユエの傍には元凶がいる。南雲もドンナーを向けているがユエが人質で撃つことができない。

そしてユエは覚悟を決めたのは自分に構わず撃てと南雲に叫ぶ。

俺もどうにかして隙を突ければと焦りを滲ませていると状況が動く。他でもない南雲によって。

「いいのか?助かるわ」

「は?」

それはまさに一瞬だった。

ユエの悲痛の願いを南雲は聞き入れた。まさにキャッチボールのボールを直ぐさま投げ返すように引き金を引く指はまるで躊躇いも無いように軽く。

放たれた銃弾はユエの頭部ギリギリを通過、てっぺんの花が散る中。後ろの元凶に直撃、後退る元凶、だが間を詰めた南雲がいて、思うことがあるのか非難の目で南雲を見ていた。

「いや、お前がそんな目をするなよ」

そのツッコミとともに二発目が発射、元凶は断末魔の悲鳴を上げて絶命した。

その間俺達は何も動かなかった。いや寧ろ唖然として動けなかった。

もう少し躊躇うだろうと思っていたのにまさかあそこまであっさりトリガーを引くか普通!?

「ユエ、無事か?違和感とかないか?」

そして何事もなかったかのようにユエの心配をする南雲だがユエは恐る恐る南雲に呟いた

「……撃った」

「そりゃあ撃っていいって言うから」

「……ためらわなかった……」

「そりゃあ、最終的には撃つ気だったし。狙い撃つ自信はあったんだけどな、流石に問答無用で撃ったらユエがヘソ曲げそうだし、今後のためにならんだろうと配慮したんだぞ?」

「……ちょっと頭皮、削れた……かも……」

「まぁ、それくらいすぐ再生するだろ? 問題なし」

「うぅ~……」

嫌そういう問題じゃないから!俺はそう心の中で叫ぶ。南雲は人として色々と失っているのは知っている。だけどここまで…ユエに対する配慮すら遠慮することなくドンナーをぶっ放すのは流石に不味いだろ。

「ま、正人くん…」

そう話すのは元凶が死んだことで、解放された香織だ。確りと南雲の行いを見ていたために彼女らしからぬ眉をピクピクと動かしながら怒ってますと言わんばかりの表情に俺は溜め息を溢す。

安心しろ。俺もだ。

となればやることは1つだった。

俺はユエによってポカポカと殴られている南雲へと笑顔を崩さず。そして空いている右手にこれでもかと魔力を溜めていく。

「ユエ、南雲から離れておけ」

「ユエ、こっちにおいで、後は正人くんがしてくれるから」

「正人か…1つ聞きたいことがあるんだが…その溢れんばかりの魔力を帯びた右手はなんだ?」

取りあえず、ポカポカと殴っていたユエに離れるように促し、ユエは涙目でこくりと頷き、こっちに来るように香織がユエを呼ぶと駆け足で香織の元へ、そして香織~と相当乙女心を傷つけられたのか香織の胸に顔を埋めて、香織はそんなユエをあやすように頭を撫でて三者からはまるで親子のように見える。

そして南雲も顔を引きつりながら俺の右手を凝視、薄々これから何が起きるのかはわかったようだ。

「まあ、うだうだと長話をするつもりはないから…俺達3人分…遠慮なく受け取れ」

そうニッコリと笑みを浮かべるが南雲からはそれが恐怖にしか感じなかった。

言葉を一区切りして深呼吸そして意を決して3人の総意を南雲に向けて叫んだ。

「少しはユエの心気遣え、このバカァッ!!!!」

 

その掛け声と共に俺の溢れんばかりの魔力パンチが南雲の腹に吸い込まれ、南雲はうめきを上げながら吹き飛ばされるのであった。

 



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26話

「いっつ…っ!八坂、少しは加減しろ」

「今の南雲に生半可な攻撃じゃ通らないからな…というか自業自得だ。」

 

腹を押さえながらストックしている魔物の肉を焼き南雲は俺にあの時のツッコミに文句を言ってくるが、俺は南雲の自業自得だと返し、南雲も分が悪いのか苦い顔をして俺を見ている。

取りあえず、ユエがへそ曲げたのを南雲は何とかしてそのまま拠点として休憩をしている。

ここなら襲われることにないだろうし万が一でも支給されたサーチャーが俺達以外の動体反応をキャッチしてオリオンにリアルタイムで伝達される仕組みだ。

というわけで快適な安眠ができるわけで少しほっとしている中。俺達は飯の支度を完了した。

今日はレトルトカレー…米は店でも売ってる暖めてれば食べれるパックに入った奴だ。

一応3人分…俺と香織、そしてユエの分。

この前の連絡でまた、ある程度の食料を転送してくれたために少し奮発できた

南雲も食べるかと進めたがステータス重視している南雲は魔物の肉を食べるのを一貫して退かなかった。

 

「……不思議…ハジメの国の料理、お湯だけでこんな美味しいものが作れる。」

 

不思議がるユエ、レトルトなんていうものはこの世界には存在しないし、作り方も土鍋にお湯入れてルーを暖め、お湯から出る湯気で上につるしたご飯のパックを暖めた。

俺達としてはいまいちと感じてしまうかもしれないがこっちの感性としてはまともなご飯なのだろう。

 

「そういえば、ユエは300年何も食べてなかったわけだが飢餓感とかは感じなかったのか?」

 

南雲の質問は俺も気になるところだった。

今は俺達と同じ支給された食事で腹を満たしているが300年封印されていたときは何も口にしていなかったはずだ。

それでも死ねないというのも頭が可笑しくなりそうだが、ユエは感じるけど、平気といいながら南雲特製、石の器に盛られた。カレーライスをこれまた南雲特製、鉱石製のスプーンで掬い食べる。

 

「でも、血の方が効率的…ジュルリ

「何故舌舐めずりをする?」

 

やっぱり吸血鬼だからか、うっとりとした表情で南雲を見つめながら舌舐めずりをするユエを見て少し顔を引きつりながら訪ねる南雲。

 

「ハジメは…美味」

「……」

「熟成の……味、だから後で……ね?」

 

可愛く首を傾げて吸血することをお強請りするユエ。

それに対して、どうにかしてくれと俺に目線で語りかけてくる南雲だが、確かにこのまま放っておけばそのまま吸血するかもしれない。

流石に刺激が強そうなので1つフォローをすることにした。

 

「ユエ、悪いが止めてくれ…」

「正人…」

 

ユエのお強請りを止めさせると、一目でわかるぐらいにシュンっと落ち込むユエ、南雲も危機が去ってほっとしているが、残念ながら俺は南雲の味方ではなかった。 

 

「ユエ、俺達の星にはTPOを弁えろという言葉がある」

「TPO?」

「時・場所・場合、この3つを確りと意識しろっていう意味だ。つまり吸血するときも弁えてくれということ…」

「んっ!わかった…!」

 

先程の沈んだ表情は嘘かのようにキラキラとした表情で俺を見て、横目では南雲が完全に引きつっている。

その後夕食を食べ終え、密かにユエは陰で南雲に対してお楽しみをした後、ユエと香織は寄り添って眠り、俺と南雲は明日のために相棒の整備をしていた。

 

「…………」

「……………」

 

無言の中、作業する手は緩めず。進めていく中香織も眠っていることなので南雲に聞いた。

 

「……南雲少しいいか?」

「なんだ?俺も弾が作り終えたら寝るつもりなんだが……」

「いや、続けながらで良い……奈落に落ちる前に……南雲を狙った奴について……狙ったのは檜山か?」

「なんで今更そんな話するんだ?別にどうでも良いことだろ?」

 

一瞬動きは止まったが、それは直ぐに作業を再開する。

 

「確認しただけだ。まあ大方俺への嫉妬だろうが……あの場は檜山にとって絶好の機会だった……だが」

「白崎が引き返しちまってあいつの考えは瓦解したわけだ。あいつの考えなんてどうでも良い、俺達の邪魔さえしなければな」

 

そう不敵な笑みを浮かべる南雲、そんな南雲にほどほどになっと溜め息を溢しながら忠告するが聞いてくれるかどうか……

だが檜山だけじゃなく天之河達全員に言えることだが何も覚悟もないのに力だけ与えられている彼らを野放しにはできない。そこのところはクロノ達とも相談すべき話だろう。

そんなことを考えながらオリオンの手入れも終わり直ぐさまに眠りについた。

それから更に俺達は階層を下りていき…数日後……

 

「遂に100階層…それにこの先が…」

「ああ恐らくこの先に反逆者の住処…つまり俺達が地上に帰れる手立てがあるかもされねえわけだ」

 

このオルクスの奈落の100階層…そこで見つけた十メートルはある異様な両開きの門。奥からはひしひしと待ち構えている何かを予感するものを感じた。

 

「この先に何か途轍もないものが待ち構えている気がする」

「んっ、香織の言うとおり…次が正念場」

 

気配感知を持たない香織ですら嫌な予感が過ぎり、それにユエは同意し決意を固める。

 

「ユエ、八坂、白崎…準備は良いな?」

「当然、この先に待ってる敵を倒して、リィンフォースを探しに行かないと行けないんだ。こんな所で立ち止まれない」

「んっ!私達は負けない。勝ってハジメと一緒に行く」 

「私もこんな所で挫けてるわけにはいかないから!」

 

全員、決意は固まっているようだ。

俺と南雲は背負っているバックを門前に下ろして戦闘準備を整えた後、門に手を添える。

 

「行くぞ…南雲」

「ああ、俺達は何としてでも故郷に帰る!邪魔する奴は全てぶっ潰す!」

 

南雲の言葉の後俺達は門を開け中へと侵入した。

 



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27話

 

NOSIDE

100階層の異様の門の中へと入った正人達は近くにあった階段を下りるとそこは光源となっている柱が等間隔に立てられかなりの広さがある空間が正人達を待ち受けてた。

 

「かなり広いし天井も高い…これで待ち受けているものがないっていうのは…流石に高望みかな?」

「正人、大丈夫……お約束は守られる。」

「今回ばかりは守らなくていいんだがな」

 

警戒しながらも辺りを一通り見渡し、如何にも出てきそうな雰囲気を醸し出すこの場に正人は顔を引きつり。

ユエはそんな正人の言葉に定番の決まりは守られると言い、ハジメはそんなユエの言葉にめんどくさいと言わんばかりに何も出ないことを祈る。

 

正人達が空間の中央辺りに差し掛かった辺り突如としてベヒモスの時よりも遥かにでかい魔法陣が展開され、それを見た正人達は臨戦体制を取る。

 

「如何にもラスボスが出てきそうとは思ったが…」

 

冷や汗をかくハジメ、目の前の魔法陣から出てきたのは体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。それを見て正人が例えるならと呟いた。

 

「ヒュドラだな…」

「本当にラスボスじゃねえか…ッ!来るぞ!」

 

色違いの6つの首長龍…ヒュドラ…赤い紋様がある赤頭が口を開けるのを見てハジメは叫ぶと直後、赤い紋様の首から燃えさかる炎を正人達に向けて吐き出してくる。

 

「任せて!聖絶!!」

 

香織は自身満々の顔で正人達の前に出て、詠唱なしで聖絶を張ると一面が炎に包まれる中、香織が張った聖絶は罅一つついておらず。香織も余裕の表情でヒュドラを見据えていた。

香織は自身のできることを考え、自分の長所を伸ばすことを考えた。

治癒士としての香織は光魔法と回復魔法に長けている。

回復魔法は魔法のエキスパートである。ユエは不得意な分野でこの中では一番の使い手、先ずはそれを極めることにしたのだ。

結果、回復魔法とそれと頻繁に使う聖絶や光魔法などを無詠唱で従来レベルに発動することができるようになった。

 

「ユエ!」

「んっ!緋槍!」

 

香織の合図で日頃の練習の成果で可能になった。少しだけ聖絶に隙間を空けるとその穴からユエが緋槍を放ち赤頭を吹き飛ばす。

 

先ずは1つ、と喜ぶのも束の間、後方に陣取る白頭が叫ぶと赤頭があった首が白い光に包まれ、赤頭が再生されていく。

 

「ちぃっ!赤頭は炎、白頭は回復か!正人!白頭を、狙えるか!?」

「言われなくても!」

 

赤頭が回復していくのを見て舌打ちをするハジメ、後方に居る白頭を最優先で叩くことが最優先と判断したハジメは正人に狙えるかどうかを訪ねると、訪ねられる前に正人はデネブ・ストライクを発動させて掛け声とともにその矢は白頭に向かって放たれる。

正人の放った矢はぶれることなく白頭に直進、確実に射止められると四人とも確信したがその途上に黄頭が割り込んできてデネブ・ストライクを受け止める。

 

「黄色は盾か!だが…!アストロバレット*1!ファイアー!」

 

惜しいっと悔しがる顔をなくせない正人は再度白頭に攻撃を仕掛けようと6発のスフィアを形成しスフィアから放たれる紺色の光線が白頭目掛けて飛んでいく。

しかし同じことと言わんばかりに盾役や黄頭が立ち塞がる。

 

「おい!あれじゃあまた防がれるぞ!」

「問題ない……今!」

 

あれでは先程の二の舞だと叫ぶハジメに問題ないと言い切る正人はバレットが黄頭に当たる直前……自分の意思で光線を屈折させ黄頭に当たるのを回避させるとまた光線を屈折させて白頭に直進させると意表を付かれたヒュドラは白頭に全弾が命中する。

 

「これで回復は使えない!ユエ…」

「いやぁああああ!!!」

回復役を潰したことにより一気に決められると判断したハジメはユエに最上級魔法を使うように指示を出そうとするがどこからともなくユエの悲鳴が聞こえてくる。

咄嗟に正人とハジメは振り返ると6つの中1つである黒頭が放心状態のユエの目の前にいて2人にも黒頭がユエに何かしたことは直ぐに理解できた。

 

「ユエ!!」

「まさか、幻術の類!?南雲はユエの元へ行け!俺が敵を引きつける!」

 

ユエの身が危険だとハジメはユエの名前を叫び。今の状態からユエは幻覚か何かを見せられているのではと正人は予測しソニックアローでヒュドラの気を引くと赤、青、緑色の頭から火、氷、風のブレスが正人に目掛けて襲いかかり、正人は攻撃はせず回避に専念するも掠る。火の粉や氷、風などで騎士甲冑は至るところが破け、少なからずの出血も出ていた。

 

「ぐっ!」

 

正人は痛みで顔を歪ませる中、動きを止めずに回避していたが、ヒュドラに上手く回りこまれ赤、青、緑の頭に囲まれ三方からの3属性のブレスが降り掛かる。

正人も避けきれないと判断すると防御魔法を展開しようとする最中、香織が正人の元へやってくる。

 

「正人くん!聖絶!!」

 

ブレスが正人に襲いかかる前に聖絶のバリアが正人と香織を包みバリアが耐える轟音が正人達の周りで響く。

先程は炎のブレスだけで、防ぎきれたが今回はそれ以上の攻撃でバリアが軋む嫌な音が全方向から響く中、香織は絶対に諦めないと決意した顔つきで聖絶の制御に全力を使う。

 

「うっ!!負けない!絶対にぃ!!!」

「んっ!大丈夫、直ぐに終わらせる」 

「ユエか!?」

 

香織が防御に全力を注ぐ中そんな正人達の危機的状況にやってきたのは先程、何らかの精神攻撃で行動不能になっていたユエが正常で正気を取り戻している。

 

「緋槍!砲皇!凍雨!」

 

矢継ぎ早に発動する魔法、炎の槍に氷の雨、そして真空刃を伴った竜巻が3つの頭を襲う。

正人も香織の聖絶に重ね重ねるようにバリアとシールドの防御魔法を展開し耐久力を高めてユエの攻撃の巻き添えを防ぐ。

 

「そ、そういえば南雲くんは?ユエが治ったのなら……」

 

聖絶を発動している香織が咄嗟にハジメは今どこにと隣に居る正人に訪ねると。正人はくすりと笑いハジメが何をしているのか予想できたのか嬉しそうに語った。

 

「南雲なら今頃、残り2つの頭を何とかしてるんじゃないか?」

「まとめて砕けろ」

 

正人が残る黄色と黒の頭の対処をしているのだろうと言いきった直後、ハジメの言葉とともに閃光が走った。

極大の砲撃……ハジメがサソリもどきから手に入れた魔力により硬度を増すシュタル鉱石で作られた。対物ライフル…シュラーゲンによる一撃が放たれ、その威力は正人のベガ・バスターを上回り。砲撃は2つの頭を飲み込み、盾役の黄色と黒の頭を消し炭にする。

 

その光景に思わず正人は冷や汗をかきとんでもないものを作りやがってと内心思いながら、同じく唖然としている残る3頭を他所に香織を抱えて包囲を離脱する。

 

「今だ!やれ、ユエ!」

 

「天灼」

 

正人達が離脱したことで、全力で残りの3頭を倒せると判断したユエは短い名を呟くと三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 

*1
アストロバレット

正人の扱うアストロスフィアから放たれる光線

スフィアより威力は劣るが連射や光線を任意で屈折させて曲げることが可能



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28話

 

ヒュドラの6つの首が全て無くなり、胴体だけが残っている中、最上級魔法を使ったユエは魔力切れでその場に座り込む中、近くにいた正人達もユエに近づいていく。

香織はユエが心配で少しでも魔力を分け与えようと小走りでユエの元へと走っていくが正人はどうも腑に落ちない顔つきで辺りを見渡している。

 

(いくら何でも呆気なさ過ぎる)

 

正人の考えはどうしても腑に落ちなかった。

恐らく最後の階層で明らかにラスボスと言わんばかりのヒュドラを倒したがこれで終わりというのは些か正人には到底思えることではなかった。

正人以外は勝ったと浮かれているが培ってきた経験から何かあるかわからないと未だに緊張は解けない正人はハジメが向かってくる方向を見ると目を細め眉をひそめた。

 

(……今、動かなかったか?)

 

ハジメの後ろに居る胴体だけとなったヒュドラの亡骸、それが今ピクリと微かに動いた気がした正人は疑い深い目で胴体を見つめ、まさかなっと疑いながらオリオンを構え、ソニックアローを胴体に向けて放つ。

放つ音を聞いてユエと香織は首を傾げるがハジメも矢が自身の横を通り過ぎ、自然と後ろを振り返り矢の後を目線で追うと矢は胴体に刺さる。

突き刺さってから数秒ほど、遠目でもわかるほどに胴体がうねりを上げると気が抜けていた3人も直ぐに気を戻し臨戦体制を整える。

すると胴体部分からせり上がってきた七つ目の首が死んだぶりを見破った正人を恨めしく睨みつけて予備動作もなく極光と呼べるほどのブレスを放つ。

 

「っ!!」

 

不味いと正人の勘が囁き、即座にシールドを三重に並べ、ブレスはシールドに直撃

勢いを削がそうするも威力はハジメのシュラーゲンとほぼ同等の威力のあるブレスは即座に展開できる防御魔法では到底耐えきれるものでは無かった。

1つまた1つと砕け散るシールドに焦りを滲ませる正人。

最後の1枚を何としても砕けさせないと正人はオリオンの内蔵されているカートリッジ全弾…3発で更に硬度を補強してブレスを受け止める。

シールドとブレスが拮抗するが徐々に押され始めている正人、突き出している右手がじりじりと熱に焼かれて皮膚が捲れ始め、シールドの端がひび割れ始めると正人の後ろに居る香織達を見て正人は意を決して口を開けた。

 

「南雲、ユエ、香織も直ぐに離れろ…時機にシールドが破られる。南雲とユエと攻撃が撃ち終わった後に直ぐに攻撃できるように準備して」

「……お前はどうするんだ?」

「大丈夫……上手く避けるから」

 

シールドが破られることは直ぐに理解できた正人は後ろにいるハジメ達に指示を出して攻撃直後を狙うように促すと当然、防御で動けない正人はどうするのかとハジメは訪ねると少し間が空いたが大雑把な説明だけする。

正人自身避けきれるとは思っておらず。駄目元で足掻こうと考え、そんな作戦を伝えることはできないとハジメ達には濁して答える。

だが正人の真意を読み取れないほどハジメ達はバカではなかった。

 

「嫌だよ……正人くんだけ犠牲になるなんて…そんなの絶対に認めない」

 

正人の指示に真っ向から反対した香織は決意を決めた顔で正人の隣に立ち両手を前に突き出して目を閉じて意識を集中すると遂に正人のシールドが破れ、正人達の守りがなくなった直後、香織が叫んだ。

 

「聖絶!!」

 

今までより、気迫が満ちた声で展開した聖絶にブレスがぶつかり、ミシミシという嫌な音を響かせ、直ぐに破られると予感をさせながらそれでも香織は諦めなかった。

香織のここまで強固な意志を持つことができたのは正人と共にいるため…

何も出来ない自分が不甲斐ないから、何処か遠くで傷つく正人を見たくないから…これがこの奈落でかつての正人を取り戻した香織の決意…その決意はぶれることなく香織の心の内に刻まれていた。

だからこそ、正人が窮地の今、自分が奮い立たなければどうする!っと恐怖で体が竦みそうな光景でも香織は一歩も退かず。正人達を守ろうとする。

 

「負けない…絶対に…みんなで元の世界に帰るために!!!」

気迫に満ちた願い、そして香織の体にも異変が現れる。

香織の体から湧き出ている白寄りの水色の靄…香織自身は防御に集中しすぎていて異変にも気付いていないがそれは他の3人には直ぐにわかった。

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

 

発した掛け声とともにミシミシと壊れそうだった聖絶のバリアがどんどん膨張していきヒュドラのブレスを押し切る形でバリアが弾け飛ぶとバリアとブレスの拮抗部分が近かったヒュドラはその弾け飛んだ衝撃波で体を吹き飛ばされる。

 

「はぁ……はぁ……」

荒く息づかいでかなり疲弊している香織…先程の靄は消え、限界を達したのか意識を失いその場に倒れ伏せた。

 

「香織!?……まさか限界まで力を使ったのか」

「白崎、あの攻撃を押し返しやがった。火事場のくそ力っていうのはこういうことなんだろうな」

 

倒れ込んだ香織の容態を確認する正人……香織の顔色から使い果たしての気絶しているため少しほっとするが、状況は以前と変わらない。

倒さなければならないヒュドラは健在、もうすぐ立て直して再びブレスを吐くだろう。

そんな予想をしながらも正人はこの機会を無駄にしないと香織に小声でありがとうと囁いた後決意した目で目先のヒュドラを見る。

時機に体制を立て直し、襲いかかってくるのは明白、だがそんなことをさせないと正人の隣にハジメとユエも並び立つ。

 

「白崎が頑張ったんだ…後のことは俺達で何とかするしかねえよな。」

「ん、香織のお陰で救われた……香織の分も……倍返しで倒す」

 

やることはいつもと変わらないと平然と……香織の頑張りに鼓舞されてやる気のハジメとユエ、そんな2人を見て自分もと正人も何かを決めた目でヒュドラを見据える。

 

「南雲……ユエ……少しだけ時間を稼いでくれ」

「……なんか策があるのか?」

「俺の最大火力でヒュドラを倒す」

「八坂の最大火力か……今まで見せたこともない技か……見物だな………溜めるのに時間が掛かるのか」

「カートリッジフルロードで大体30秒……溜めに時間が掛かる分は期待して貰って構わない。」

 

端的な言葉で意思疎通を図る正人とハジメ。

仲良くなったのも一ヶ月以上前だというのにお互いに信頼し合っているその姿は長年パートナーで組んでいるようなものを放物とさせる。

 

「死ぬなよ…南雲、いやハジメ」

「…っ!へっ!そっちこそしくじるなよ。正人」

 

その直後、体制の立て直したヒュドラの怒りの雄叫びが上がる。そしてハジメとユエが前に出て、その場に残った正人はオリオンに使い切ったカートリッジの替えを装填するといつもより巨大な魔法陣を展開し術に集中する。

 

そんな無防備な正人を守るためにハジメはクイックリローダーで弾丸を片手装填を完了させておいた。ドンナーを纏雷で加速させながら間隔を開けずに弾丸を放つ。だが今のヒュドラにはドンナーの火力では力不足であまりダメージを与えられず思わず舌打ち、そのまま同じくヒュドラの陽動をしているユエに視線を向けるハジメは上手く回避しつつ緋槍などの中級魔法を連射して決定打にかけるがヒュドラの気を引きつけるがユエの死角にあるヒュドラの尻尾がユエに迫っていることに気付かない。

 

「ユエ!後ろだ!」

「はっ!うっ!」

 

ユエを見ていたハジメがユエの後ろから迫る尻尾のことを警告して叫ぶが一足遅かったユエは尻尾に背中を強打されて前のめりに倒れ込み立ち上がろうと腕に力を入れたときヒュドラの顔がこちらに向いていてユエはブレスが放たれるのだと悟り、顔を青くする。

いくら再生能力を持つユエだといえ破格なブレスをその身に浴びれば死に至るだろうと理解できたからだ。

体が動くよりブレスが放たれる。心の中でハジメや正人達に先に行くことへの謝罪をして自身の最後を待とうとしたとき…一陣の風が吹いた。

 

「えっ?」

 

唖然とするユエ。いつの間にか彼女は抱き抱えられ、放たれたブレスも無事に避けていた。

 

「こんな所で死ぬなんて許さない。ユエ、おまえは俺のもんだ」

「ハジメ!」

 

ユエは感極まったようにハジメに抱きつく。本来なら咄嗟の判断でユエを助けることは困難を極めた。

しかし、ハジメは何かの限界を越えたかのようにユエを助けることができた。

天歩の最終派生技能 瞬光 知覚機能を拡大し、合わせて天歩の各技能を格段に上昇させる。この土壇場でハジメは限界を超えたのだ。

 

怒り狂うヒュドラは光弾を雨霰のようにハジメに向けて振り落とすが瞬光で知覚機能が引き上がっている。ハジメにはスローモーションで見えて簡単に避けられた。

正人がそのことを知れば、高町家の神速に近いなと呟き、ハジメは唖然としユエは地球…人外魔境? っと勘違いしたのは余談である。

 

「おい、俺に構ってて良いのか?お前が一番怒ってた奴が野放しだぞ?」

 

瞬光で避けながら、不適な笑みを浮かべてそんなことを言うハジメ。

ハジメとユエはあくまで時間稼ぎ。そしてその時間は充分というぐらいに稼いだ。

 

ヒュドラはそういえばと直ぐに正人のいる方向を向くと…

そこには7つの輝きがあった。

 

「待たせたな…ハジメ…もう良いぞ」

 

6つの巨大な紺色の魔力の軛が正人の周囲で発動者の指示を待つように切っ先をヒュドラに向け待機し正人の目の前には周囲の軛を越える3メートルを越えの巨大な魔力スフィアが生成されていてオリオンの弦を弾き砲撃準備整っていた。

 

「すげえじゃねえか…本当によ」

「ん、こんな凄い力、初めて」 

 

ハジメはそれを見てこれが正人の全力なんだと確信しながらついでてしまった歓喜に笑みを浮かべ、静かながらハジメに抱き寄せられているユエも同じことで頷く。

そんな2人は巻き添えを食らわないためにヒュドラから後退。ヒュドラも正人の危険性を改めて再認識してブレスを放とうとするが準備が出来ている正人が先手を取る。

 

「集え!七星(しちせい)!7つの星に裁かれよ!!」

 

詠唱を唱える正人、その直後周囲の軛が放たれたヒュドラに襲いかかり、ヒュドラの動きを封じる。

突き刺さる軛に悲鳴を上げるヒュドラ。しかし、まだ正人の真打ちである砲撃が残っている。

正人は意を決して放たれる技名を叫んだ。

 

「グランシャリオ!!!!」*1

 

右手の指で摑んでいた弦を離すと溜め込んでいた魔力スフィアが解き放たれ、ヒュドラに向けて砲撃がは放たれる。

それをなすがままにその身に受けるヒュドラは悲鳴の断末魔も掻き消える魔力の砲撃に飲まれ、室内処か上層にも届きそうな振動と吹き飛ばされそうな爆風に離れていたハジメとユエは地面にしがみつき吹き飛ばされないように踏ん張る。

 

爆風も振動も治まり。息を荒くしてヒュドラが居た方向に目を向ける正人。煙が晴れてそこにあったのは正人の砲撃によりえぐれた地面と壁…木っ端微塵は免れたが完全に息絶えたヒュドラの肉片しか残されていなかった。

 

 

*1
グランシャリオ

正人の保有する最強砲撃魔法、北斗七星をモデルにし6つの星を軛、最後の1つを砲撃として放つ。

正人の切り札として正人自身が闇の書事件当時に考案し、ものにしていたが…なのはの切り札と同等に掛かるチャージと闇の書事件当時は中々使う機会なかったためにお蔵入り状態。ヒュドラ戦で初発動した。



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29話

 

正人SIDE

 

「はぁ…はぁ…」

 

眼前のヒュドラを完全に倒して息を荒くしながら終わったことに安堵して肩の力を抜く。

周囲にヒュドラ以外に敵はいない。

漸く一息付けると後ろに倒れている香織が無事だったことに少し頬緩めて笑みを浮かべる。

 

「ハジメ!?」

「っ!?」

 

香織の容体を安堵していたのも束の間、ユエの悲鳴を聞いてハジメ達の方向を向くと倒れ伏せるハジメにそれに駆け寄り涙ぐんで叫ぶユエ。

何事かと急いで駆け寄るとハジメの意識がまだあることに気付く。

 

「もう…無理」

 

そういってハジメは気を失い、力を絞って出したハジメの言葉に俺は少し張り詰めた気を緩めた。つまりは体を今まで以上に酷使していた反動が今に来て緊張が解けたことにより一気に来たということか。

そういった経験は俺にもあるから限界まで戦った人間が避けては通れない道だろうっと苦笑いの笑みを浮かべる。

隣のユエも疲れからうとうととしているし…休ませたいのも山々だが流石に3人担いで、なおかつ俺とハジメの荷物も持っていくとなると安全圏まで移動するのは困難すぎる。だから、ユエにはあと少しだけ頑張って貰いたい。

 

「ユエ…頼むからお前まで倒れないでくれ、流石に全部担ぐのは無理だから…」

「……ん、頑張る」

 

少し弱々しいけど、頑張ってくれるユエにハジメの持つ神水を渡し少し休んでいてくれと言った後、門前に置いてきた荷物を2つとも背負い。ユエ達がいる場所に戻ると魔力が戻ったユエがハジメを担ぎ、俺は香織を抱き抱えると奥の扉へと向かった。

 

奥の扉を恐る恐る開けその先に待っていた物に俺とユエは驚愕する。

 

「なんだよ……これ」

「此処が……反逆者の住処?」

 

ヒュドラの待ち構える大理石の大広間の先は緑の草原生い茂り、川や木々があってなおかつ奥の方に見える。大きい屋敷が佇んでいる。

此処がユエのいっていた反逆者の住処……当のユエもこんな所だとは想像していなかったことから唖然としている。

何より俺を現実離れだと思いたい1つはこのじりじりとくる暖かい日の暑さだ。

上を見上げればそこには太陽がある。

普通ならそんなの当然だと言えるが此処は奈落の底であることを前提にすればありえないと言える。

 

「こんな奈落の底に太陽があるなんて……あれはまさか人工太陽?」

 

そんなことを口走るがそんなものミッドチルダでも作ることができない芸当だ。

反逆者……俺の想像を遥かに越える者達だったのかもしれない。

そんなことを思いながら移動を再開した俺達は途中で見つけた庭園に設置されたベッドでハジメを抱えるユエと別れ、少し離れた屋敷の近くで見つけたベンチに座り膝の上に香織の頭を置く。

少し手荒に運んできたというのに香織は目を覚ます兆候が見られない。

 

「よく……寝てるな」

 

思わずそんなことを呟きながら香織の前髪を撫でるとヒュドラのブレスを防ぎきったときのことを思い浮かべる。

香織は俺が無理だと判断していた攻撃を見事防ぎきり、俺達の反撃のチャンスを見事に繋げた。

奈落に落ちて間もないときもそう。何もかも諦め無気力になった俺を奮い立たせもう一度立ち上がる勇気貰った。

一途で……頑固で……自分の信念を曲げない。はやて達にも似た信念を持つ香織に俺はとても微笑ましく思えた。

 

「今は確り眠れ」

 

そういいながら気持ちの良い風に俺も眠気を誘われ直ぐに眠りに落ちた。

 

 

香織SIDE

 

……私……何しているんだろう。

意識を取り戻したけど体が動かない。というより体が浮いている感覚がある。

それに周囲は真っ黒で何も見えない……

私……もしかして死んじゃったのかな?

結局私……正人くんの足手まといだったのかな……

そんなことを思い浮かべていると暗闇の中に何かが光った気がした。

何だろうと手を必死に伸ばすと光は一気に輝きだし眩しくて私は目を瞑る。

目を瞑って数秒程でまた目を開けると……

 

「ここは……」

 

何処か見覚えのある山……私はこの場所知っている。

 

「海鳴……市?」

 

私の生まれた場所…海鳴…山と海があってとても居心地のいい土地

それに此処は正人くんの家が所有している山でこの山に八坂神社が佇んでいる。

 

どうしてこんな所に…まさか帰ってきてしまったの!?私だけ……

 

「戻らなくちゃ!」

 

何としてでも戻らないと海鳴に帰るときはみんな一緒じゃないと駄目だ。

 

先ずはクロノさん達に連絡しないと。そう私は駆け出しそうになったけど直ぐに足を止めた……

私の直ぐ近くに木の近くに蹲る。女の子……それはとても私には見知った子だったから。

 

「……お父さん……お母さん……」

「わ、私?」

目の前にいるのは私だ。厳密に言えば幼い頃の……この頃は小学校にもまだ入学していない頃の私。

昔の私を見て思い出した。

これは過去の思い出だ。

実際今おきているわけでも無く。昔に起きたこと

もう十年も前の……正人くんとの始めて出会った時の記憶。

こんな昔のことこんな形で見ることになるなんて……

確か、お父さんとお母さんの知り合い……正人くんの両親に会いに八坂神社まで来て、私はお父さん達が話し合っている中、興味本位で山の中に……それで帰れなくなってこうやって泣いていたっけ

そんな泣いている私に声を掛けたのは……

 

「ねえ、大丈夫?」

「ふえ?」

 

そう優しく昔の私に手を差し伸べたのは小さい私と同じぐらいの年齢の男の子…正人くんだ。

その後ろについている小さい狐…久遠ちゃんもいる。

 

これが私と正人くんの2人の初めて出会った瞬間だった。

 

「こんな所で何してるの?」

「………お母さんとお父さん、お友達に会いに来て……それで」

「……それって……お父さんも友達が来るって言ってた……一緒に行こう。多分大丈夫だから」

 

そう無邪気に微笑む小さい正人くん。そんな正人くんに私は疑うことなく差し伸べていた手を掴んだ。

 

「あ、名前……ボクはやさかまさと…君は?」

「しらさきかおり!」

 

お互いに名前を教えてはぐれないようにそのまま手を繋ぎながら久遠ちゃんを先導で山道を歩いて行く2人。

その光景を黙ってみていた私の見える光景が歪む。

 

「……そっか、これは夢なんだね」

 

夢だから目を覚ます……これはもうすぐ目を覚ます兆候何だろう。

だったら怯えることもない……私は目を閉じて現実へと意識を覚醒していくのだった。

 

 



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30話

目を覚ます私の目にしたのはぐっすり眠っている正人くんの顔だった。

寝心地良さそうに早々に起きない寝顔に自然とくすりと微笑みを浮かべ、体を起こして正人くんの隣に座る。

というより、さっきまで正人くんの膝の上で寝ていたんだ……ふふ

 

「この場所に来たときの初めを思い出すな…」

 

あの時は私が気絶していた正人くんを膝枕していたけど、それの逆だからとても新鮮で懐かしくも思える。

正人くんが今此処で眠っているということはヒュドラは無事に倒して、安全な場所まで辿り着いたということだ。

目が眩しい太陽?の光で目を細め辺りを見渡すと…ここって本当に奈落の底なのか疑いたくなった。

流石に外まで移動したということはないと思うけど…

 

「ん…んん…」

 

そんなことを考えていると正人くんから小さい寝言が聞こえてきてうっすらと目も開き始めている。

 

「おはよう…正人くん」

「香織?そうか此処で眠ったのか俺も……懐かしい夢を見たな……」

「懐かしい夢って?」

「……子供の頃…香織と初めて出会った頃の夢」

「っ!!」

 

正人くんも私と同じ夢を!?こんな偶然があっていいの?そんなこと思いながら私は正人くんの話す言葉に耳を傾ける。

 

「あの時、智一さんや薫子さんに連れられて香織も神社やってきたんだよな」

「うん、お父さん達と正人くんのお父さん達が同じ学校の同級生でかなりなかも良かったって話だよね」

「そうそう、だから邪魔にならないように外で遊んでいてくれって言われて俺はいつも通り山の中を散歩してて……それで」

「山の中で迷って泣いていた。私を見つけてくれたんだよね」

 

偶然だったのかもしれないけど……きっと私と正人くんが出会うのは必然だったのかもしれない。

改めて思い出してみるとそう思えた私はきょとんとした正人くんの顔を見ながら微笑む。

 

「妙に…覚えてるな…もう十年も前の出来事だぞ?」

「正人くんの初めて会ったときのことは確り覚えてるよ。それに私もついさっき、同じ夢を見ちゃったから……」

 

奇遇だよねっと笑みを浮かべると正人くんは神妙な顔つきで考え頭をかくとため息をもらした。多分考えたんだろうけど……面倒だから頭の中で簡潔に完結したんだろうな。

 

「どうしてそんな現象が起きたのか……それは追々考えるとして……そうだったな…あの時、山中で香織を見つけたときは本当に驚いたんだぞ?あそこって関係者立ち入りは禁止されてるし」

「そうだね、戻ってからお父さん達正人くんのおじいちゃんに頭下げてたもんね。あの時、久遠ちゃんが帰り道を先導してくれたんだよね」

「あの時は久遠が妖狐なんて知らなかったけどな……久遠とは普通に意思疎通ができたし…山の中は久遠の庭だから久遠が居るだけで父さん達も俺が山の中で遊んでいても問題ないみたいな判断だし…」

 

まあそのお陰で、香織と一緒に山道を迷わずに済んだんだけど。っと言うのが恥ずかしいのが顔を赤くして呟く正人くんを見て、私も顔を赤くする。

 

「それからだよね。正人くんと一緒に遊ぶようになったのも」

「色々遊んだもんな…人見知りの久遠とも直ぐに打ち解けたし……」

 

昔話でここまで花を咲かせる私達、そして正人くんは少し真剣な感じに私を見てくる。

「香織少し、こう手で丸いのを包むようにして魔法を放つ要領で集中してくれないか?」

「え?別に構わないけど…」

 

どうしてそんなことを?っと疑問に思いながら正人くんの言うとおりに魔法を使う要領で力を入れる。

でも魔法は陣とそれに見合った詠唱が必要で正人くんみたいに自在に使えるわけじゃない。だけど正人くんの言われたとおりにすると次第に手で包んでいる空間に水色より白みの掛かった光が集まり出し小さい球体が出来上がりそれは集中すれば徐々に大きくなっているのがわかる。

 

「やっぱり……ヒュドラの戦いでリンカーコアが覚醒してたか……」

 

そう出来上がった球体を見てやっぱりと気付いていた正人くんは納得するが私は少し戸惑う。

これが正人くんと同じ力……あの時、我武者羅に力を出していたと思う。けど今も少し張ってるっていうか……内側から溢れている何かを感じ取った。

 

「ただまあ、制御ができてないな…魔力が溢れ出てる。使い方は後で教えるよ」

「う、うん」

 

取りあえず。魔力を溜めるのは良いぞっと正人くんに言われ、私は手を戻し、出来上がった球体はシャボン玉のように弾け消えると少し遠くから赤い雷が轟音と共に鳴り響く。

 

「あれ?あっちは確かハジメ達がいる場所なんだが……」

 

目を細めて、放電していた場所の方角は南雲くん達がいるという。正人くん、見に行くかっと私に訪ねると私は2つ返事で頷くとベンチから立ち上がって南雲くんがいる…雷が見えた方向へ移動する。

 

 

正人SIDE

 

 

寝て起きて早々、何の騒ぎだと思いながら俺達はユエと離れたあのベッドへと戻ってきたのだが、遠目でもハジメが目を覚ましたのがわかった。

服もあの屋敷からユエが持ってきたのか新調されている。何故かユエがYシャツ一枚着ているだけというのはあえて突っ込まない。

 

「よう、ハジメ目覚めたみたいだな」

「正人か…そっちもな…2人も服がボロボロだろ?ユエが持ってきてくれたもんだ。着替えたらどうだ?」

 

そういってベッドの上には男物も女物の服が散乱していて、俺も一ヶ月以上服を変えていなかったこともあってそうだなっと服を物色しはじめ、服も新しくすると屋敷の前に立った。

 

「ユエが先に軽く調べてくれたみたいなんだが……正人お前も気絶してなかったからある程度見てたんだろ?」

「正人、ベンチで香織と一緒に爆睡していた。起こすのも忍びなかったから、私一人」

「そうだったのか…それじゃあ気合い入れて行くか」

 

ハジメの一声に俺達は頷くと屋敷の中へと入っていった。

 



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31話

 

 

屋敷内に入った俺達は周囲の警戒をしながらも地上へ出る手掛かりを求めて捜索を始める。

1階は台所やトイレ日常に支障が無い部屋が並んでいて、外の環境も合わせればこの場所での自活ができるだろう。

 

「1階はこんなもんか…ユエ達は何か不審な点とかあったか?」

「……特に怪しいものもなかった至って普通……」

「……少し私は気になることがあったかな?ほら廊下とか部屋もだけど隅々まで行き届いてる」

 

1階を見回ってそれぞれの感想を聞くハジメに香織が手を上げて1階全てに行き届いている清潔感を指摘するとまだ少しピンとこないのか首を傾げている。

 

「ハジメ、此処は反逆者のアジトで……それも大昔な話だ。ふつうなら建物や外の庭園だって手入れなしだと老朽化して使い物にならないはず。だけど今もなおこの清潔感が行き届いているのは何か訳があるのかもしれない。」

「なるほど、確かに白崎の言うとおりか……しかしそいつもあの太陽と同じで神代の失われた技術の恩恵かもしれないな……後で調べねえとな……よし探索を続けるぞ」

 

未だに此処の謎は多いが探索を再開した俺達は2階へと階段を上る。

2階の探索が始まり、しかしかなりの短い時間で探索は終わった。

理由は殆どの部屋が入口に結界術で固く閉ざされていてハジメが錬成で強引に開けようとするも、封魔石を上回り溶解させた錬成を見事に弾いた。

結界の先に何があるのか非常に気になるものはあるが、解除はゆっくりと後でやろう。

 

「2階は殆ど、入れない部屋ばかりだな。後は3階だけか……」

「3階に期待……」

「そうだな」

 

そんなハジメとユエのやり取りをして最後の3階に期待を膨らませながら3階に上がると3階はたった一室だけでこの部屋だけ他とは何処か違うと感覚で見抜く。

 

「此処だけ気配が違う……ハジメ警戒して入るぞ。ユエと香織は扉前で待機していてくれ」

 

俺はハジメと二人で部屋に入り何かあれば直ぐに援護できるように指示を出すとみんな頷きハジメはドンナーを構えて部屋の扉を開けた。

中は直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれている。

そして俺達のいる扉と相対する壁際には豪奢な椅子に座る白骨化した骸骨、それはまるで何かを待っているかのように思える。

 

「行くぞ」

 

ハジメが軽く呟くと俺は頷いて部屋の中へと入る。

お互いに背中を合わせ徐々に前に進み魔法陣の前までやってくる。

 

「どう思う?」

「罠……って可能性もあるが……踏んでみないと確認のしようが無い」

「じゃあ踏むってことだな」

 

罠であるかもしれないという警戒もしつつ魔法陣の中に入ると案の定魔法陣が起動した。

魔法陣から放たれる純白の光は部屋全体を覆い、それで身を閉じた俺の頭の中何かが流れ込んでくる。

 

「ハジメ……無事か?」

隣に居るハジメの安否が気になり声を掛けると短い返事で俺の言葉を返し安否を確認すると光も収まったので目を開けると黒衣の青年の姿があった。

 

「っ!」

「待て!ハジメ!」

 

目の前に謎の青年、それだけで警戒していたハジメはドンナーを向けるが、俺は直ぐさま静止させる。

 

「これ……ホログラムだ……多分、魔法陣と連動して流れるように細工されていたんだろう」

 

黒衣の青年が透き通っているのとドンナーを向けられて眉1つ動かさなかったことからこれは後世に伝えるための措置だったのだと伝えるとハジメもドンナーを下ろした。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

「オスカー・オルクス……」

 

メッセンジャーがこの大迷宮の創設者だとは思っておらず驚く俺達にホログラムでしかないオスカーは俺達の反応など無視して語り始める。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

「反逆者であって…反逆者ではない?」

 

なにやら訳ありだということは話の内容から理解できる。

そしてオスカーの語る内容は俺達の想像を遥かに超える代物だった。

 

かつて…神代の時代から幾分か過ぎ…トータスは争いの絶えない世界だった。

その理由も神託という神の指し示す道を歩むものだった。

それの終止符を打とうとしたのが八人の反逆者…いや、解放者と呼ばれる存在。

解放者のリーダーはこの戦いの中に潜む、神々の存在による遊戯盤であることを神を倒そうと八人の解放者の元仲間を集った。

神々の居場所も突き止め、いざ最終決戦とはいかずユエの言うとおり目論見は破綻した。

動きを知っていた神は解放者達を神敵と認定し人々から世界の敵の烙印を押されたのだ。

神に踊らされる人々は解放者達を攻めたてた。

1人また1人と集った仲間は殺され、解放者達は神との決戦を迎える前にバラバラに逃げたという。

逃げた先で大迷宮を作り、いつか現れるかもしれない。後を継ぐものを長い時を待っていたのだろう。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

微笑みながらホログラムは消えると頭の中に何かが入り込んでくる。

頭を抑え蹲り、頭の痛みも終わるとハジメと顔を合わせ何も言わずに同じ経験をしたことから頷くだけで意思を疎通できた。

 

「どえらいことになってきたな…」

「ハジメ、正人…大丈夫?」

「俺もハジメもな…神の遊戯盤…か俺達はそんな下らない理由で呼び寄せられたってことだな」

腸が煮えくりそうな内容…まさかリィンフォースもそいつらに…考えただけでも怒りが湧き出てきそうだ。

 

「正人、落ち着け、怒りで力が溢れ出てきてるぞ。それに元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……ユエは気になるのか?」

 

あの話を聞いてもハジメの考えは地球へ帰ること…一昔のハジメなら躍起になっていただろうな…

 

「私の居場所はここ……他は知らない」

 

ユエもハジメが居れば他は何もいらないようでハジメの考えに同調、そんな中、香織もあまり見られない怒りを見せていた。

 

「私も雫ちゃんも…みんな、平和に過ごしたいだけなのに…それを遊びで壊すなんて許せない……!」

「落ち着け、香織……ことはもうかなり大きくなっているが俺達は地球に帰ることを専念する……残念だが管理局もこの件では神の件では動かない」

 

怒り震える香織を同じように静め、管理局の動向を考えて口にする。

あくまで管理局は誘拐事件の被害者の救助……トータスの命運には手を貸すことはないだろう。

 

それを聞いて落ち込む香織、理解はできるがどうしても納得がいかないという状況に顔は優れなかった。

 

 



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32話

 

 

「これが解放者、オスカー・オルクスの残した遺言だ。」

《そうか…情報感謝する。まさか敵は神そのものか…身勝手な神も居たものだな》

 

 その日の夜、俺は2階の個室にベッドに腰を座らせて、アースラに連絡を入れた。

これまでの経緯と今日明らかになった解放者達の事実、それに伴う俺達召喚者の状況も改めて話し合う必要があるだろう。

 

《解放者の情報は地上に降り立ったフェイト達にも伝える。》

「フェイト達がトータスに来たのか、またどういった方法で……」

《簡単な話だ。近日配備されたばかりの高高度戦闘用装備を装備して結界に穴を開けた後、直接降りた》

「さらっといってるがそれって人の身で大気圏突入させたってことだよな……装備に関しては噂は聞いていたけど…良く装備が回ってきたな。もう少し……時間がかると思ったが……何かあったのか?」

 

 万年人員不足の管理局にしてはあまりにも早い決断、俺は大気圏突入プランはもっと慎重に事を進めると思っていた。

だがその俺の予想は外れここまで尚早に事が動いたのは不信で仕方がなく。クロノに尋ねる。

するとクロノは溜め息を吐き、何かあったのかを話し始めた。

《……全く、顔には出していないのに妙に鋭いな…1週間ほど前、こちらでも今回の事件と類似する現象がミッドチルダで起きた。行方不明者の親族から管理局に圧力をかけられ…上層部は腰を上げる他なかったようだ》

 

 こちらとしては都合の良いことだがなっとまた溜め息を溢すクロノ。

クロノの悩みの種はわかったが新しい疑問が生まれる。

管理局に圧力をかけられる存在など指で数える程しかいないはず。

一体何処の誰なのだろうと疑問に思っていると直ぐにクロノが口にすることで疑問は解消される。

 

《場所はベルカ特別区域にある都市テーベの王城の一室、その日は五帝会談が執り行われていた。その一室には四帝の子息子女がいた》

「っ五帝!?五帝連盟に被害がでたのか……なるほど、それは上層部も無視することはできなかったわけだ」

 

 五帝連盟……遙か昔ベルカ戦乱の世の中から今もなお継続されている5つの貴族家系からなる五帝達が主となっているベルカ貴族達の組織。

炎帝 アリアドネ公爵家

雷帝 ダールグリュン子爵家

地帝 ロックヴァレー公爵家

風帝 アウスレーゼ伯爵家

そしてそれをまとめる盟主、天帝……

嘗ては氷帝セリュウス伯爵家も加えた六帝連盟だったがセリュウスの反乱により氷帝の直系は一族郎党粛正され、今は5つからなる五家が今のベルカの地の治安を守っている。

その勢力は聖王教会と並び管理局も無視できない力を保有している。

確かにそれならば管理局を動かすことも可能だろう。

 

「また厄介な事になったな……」

《ああ、こちらもその転移反応はキャッチし大体な場所は割りだして入るが発見まではいっていない》

「なんか問題でもあったのか?」

《反応があったのは大陸の南…つまりは》

「…魔人族の領地か…まさかエヒトは天之河達と四帝の子息達ぶつける気か?」

 

 そんなことするのなら結果が見えている…魔人族の圧勝だ。

四帝となれば英才教育も施されているはず。年齢の差があるとしても戦い方をついこの前学んだ天之河達とでは天と地の差だ。

《子息達に何かあれば五帝が黙っていない。君のクラスメイト同様、最優先に事を当たらなければならない。》

「そうだ、クラスメイト!天之河達は安否は確認できたか?」

《それは報告を受けている。君達を除いたクラスメイトは確認できたとのことだ。》

「そうか…」

 

 良かったと心からほっとする。全員ということは八重樫も生きているということ…香織の不安も少しは晴れるだろう。

 

《この地に降りているのはフェイトにはやて、それとシグナム…その他50名程の局員が大陸に散らばっている…もし会うことがあれば情報を共有するといい》

「フェイトやはやて、シグナムまで…」

 

 かなりの人員を動員していることを知った俺だが少し気になることもクロノに聞いてみる。

 

「なのはは…来てないよな?」

《来てない…というか今回のことはなのはには伝えていない。伝えたら飛び出してきそうだからな》

「その方が良いだろう…体のこともあるわけだし」

 

 今回はなのはは抜き…これはフェイトとはやてもなのはの容体を気にして伝えなかったのだろう。俺もそのことには賛成だ。後でふて腐れてそうだか…それの埋め合わせは後でユーノにでも押しつけよう。

そんなことを心の中で考えた後、少し談話した後通信を切る。

通信していて疲れた俺はベッドに横になり、この後のことを考える。

俺達は全員で出した提案でしばらくの間この地に残ることになった。

これからの旅はかつてないほど過酷なものになる。

今回、オスカー・オルクスが託した魔法、神代魔法…生成魔法は鉱石などに魔法を付与するというハジメにとってまさに鬼に金棒になる魔法だった。

その鉱石を加工すればアーティファクトの出来上がり、今世唯一のアーティファクト作成できる錬成師の誕生である。

因みにあの魔法陣に乗り、試練に乗り越えたと判断されれば手に入れられる。

だから俺や香織達も生成魔法を習得、適性もあるために香織とユエはあまり使えないようだが…俺は少し工夫しようと考えていた。

 

「さっさと風呂入って寝るか」

 

 今日はもう遅いし寝ることにしていた俺はベッドから立ち上がり、扉に手をかけようとしたとき扉の先に気配を感じた。

気配感知でいまなら誰なのかもわかるために扉越しでその人物に声を掛ける。

 

「香織?扉の前で何してるんだ?」

「ま、正人くん!?えっと…その…は、入って…いいかな?」

「?別に構わないぞ」

 

 そういって扉を開けて香織の姿を確認すると思考が止まった。

目の前には赤らめる香織の姿、それだけでは何故赤らめているのかは不明だが服装にその答えがあった。

純白のネグリジェ…かのホルアドの月下の語り合いでの服装の再来である。

 

「ま、正人くん…そのまじまじ見ないで…は、恥ずかしいから」

「あ、ああ」

 

 香織の声で正気に戻り、部屋に招き入れた後部屋の中は沈黙が流れる。

この後どう切り出せばいいのかマジで迷って居るからだ。

取りあえず何とかしなければと香織が気にしそうな話を切り出す。

 

「そうだ、香織クロノから連絡だが天之河達無事みたいだ…全員あの時脱出できたらしい」

「本当!?雫ちゃん……無事だったんだ……良かった」

 

 本当にほっとした顔で八重樫の生存を喜ぶ香織にこっちも微笑む中、何かを決心した色っぽく赤らめる香織はベッドに腰掛けていた体を起こし俺の目の前に立った。

 

「ね、ねえ……正人くん……」

 

そういってネグリジェに手をかけて……そして……

 

……

 

 

 

 

 

「あ~いい湯だな」

 

 屋敷にあった風呂に入ってとても心地よい温度に体が和ぐ中俺は此処から見える外の光景に現を抜かす。

やはり疲れた体には風呂が一番だ。

 

……え?あの後どうなったかって?そりゃあ……まあ……あれだ……

 

「本当にいい湯だね。正人くん」

 

 ……察せ

俺の横には一緒に入っている香織の姿…既にハジメもユエも眠り、俺達はこっそりと風呂につかりに来たのだ。

 

「その……香織、本当に俺で良かったのか?」

 

 過ぎたことだが改めて香織に確認を取る。するとむくれた顔で俺を見て寄り添う。肌は完全に接触して少し鼓動が早くなる中、香織は当然のように話し始める。

 

「もう…あんなこと好きじゃない人になんかしないよ。私は正人くんのことが大好きです…」

「香織……」

「これからは一緒だから……頑張ろ」

 

 そう手をグーにしてファイトっ!と可愛く勇気づける香織に微笑みながら俺は返事をする。これから何があるのはそれは俺にもわからない……だけど……今度こそ俺は大切な者を守っていこうと思う。

 

「こんな俺で良ければ…よろしくお願いします」

 

その日…俺と香織は…恋人同士になった。

 

 

 

 

 

NOSIDE

 

 ほぼ同時刻…

地球でもトータスでもない無人世界…

そこは万年暖かい気温で緑の生い茂る豊かな世界。

その世界の丘に誰かの手で作られた小さいお墓があった。

立派とは到底呼べないそれの前にフードを被った小柄な人物はその前で持っていた両刃槍を横に置き、持ってきた花を墓前に添えるとその場に跪く。

 

「…………」

 

 そして両手の手の平を合わせ死者への手向けとして静かに黙祷を捧げる人物に同じようにフードローブを羽織る銀髪隻眼の少女がやってくる。

 

「……その花はどうした?」

「………この世界の花です。ここに来る途中に花畑から少し摘んできました。」

 

墓前の前で跪く人物は跪くことをやめず、顔も向けずに淡々と後ろいる少女に話しかける。少女もそうかっと冷たくあしらわれるが少女は話を切り替える。

 

「今回は私とツーマンセルだ。あの男と一緒ではないことはわかっているな」

(せんせい)とは別行動は初めてですが、外せないようがあるでは仕方ありません。それにここに来たのは……長い時間此処には戻って来れなさそうなので来ただけです」

「そういう風に見えたか?」

 

 なにやらあるものの命令で動こうとしている2人は淡々と話す中墓前の人物は合わせていた手を離すと右手でフードで見えない顔…目に近い場所を手で当てる。

だが直ぐに顔を当てていた手を離すと横に置いた槍を手にし少女へと振り返る

 

「行きましょう……トータスへ」

「ああ、行くとしよう」

そういってフードの人物は槍を一振りすると足元にサファイアブルーのベルカ術式を展開し魔法陣内の2人は次元転移で別の世界へと転移した。

 

1章『オルクス真大迷宮/奈落の化け物』END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次章予告(あくまで予定)

これは落ちこぼれと自称していた魔道士と錬成の魔王の物語ではない

「これより、勇者様一行による。集団戦闘の模擬戦を執り行う!」

「みんな!私の指揮に従って行動して!」

「あっちはボロボロね……狙うならあっちか!」

 

それは少年少女達の一時の出来事

「私は八重樫雫って言うの…あなたは?」

「フェイト……フェイト・ハラオウンだよ」

出会うはずもなかった…出会い

 

「良いわ、雫には教える…八坂が残していた…ものについて」

 

物語は刻々と進んでいく。

 

「魔人族の大部隊がこちらに押し寄せてきます!!」

「慌てるな!急いで迎撃の態勢を取るぞ!」

 

速すぎる開戦

 

「みんな!俺達なら勝てる!」

「ああ、行くぜ!」

 

動き出す帝王の子らとイレギュラー

 

 

「フウ?フウは…風…全てを切り裂く突風……」

「へっ!熱くなってきたぜ!!」

「申し訳ありません。あなたがたには何も恨みはありませんが…私達にも譲れないものがあるのです」

「ご、ごめんなさーい!!!」

「これもお前の予測通りか?」

「ええ、この戦いは人間族の負けです」

 

 

様々な思惑がある中、少年少女達は戦果の渦に巻き込まれていく。

 

次章…第2章『アリアンロッド城塞/五帝乱舞』

 

「っ!管理局の金色の…閃光」

 

「友達だ」

 

それは空白の物語




あくまで予定ですこうなるとは限りません。

それと幕間を2つほど挟みますしばらくかかると思います


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幕間『八坂先生の魔法講習!!』

 

 

 遂にオスカー・オルクスの大迷宮を攻略した俺達、ハジメの提案でしばらくの間残ることになりその期間の間俺達も強くなることを決め修業に入ろうとしていた。

屋敷の一室…その教卓の前に俺は居た。管理局の支給された日本の私服を着て、懐のポケットからはみ出ていた眼鏡をかけて知的ポーズを決めた後、俺は柔やかに香織達の方へと向ける。柔やかさはどこか歪だが

 

「さて、今日から香織の特訓を始める。香織には俺達の魔法ミッドかベルカの魔法を覚えて貰うわけだが」

 

 香織の特訓のため用意した場、香織も意気込んではいっと何処にあったのか学校で見かける椅子に座りながら彼女の前にはこれまた学校で見かける机が置かれている。

そこまではまだ良い…問題はこの先にある。香織の隣の席…少し大きい椅子に座るハジメとユエの姿。

ご丁寧なことにユエはハジメの膝に乗っかり俺達を蚊帳の外にいちゃついている。

 

「おい、お二人さん、いちゃつくんなら他所でやってくれないか?色々目も当てられないから」

「そんなこというなよ、正直正人の魔法にも興味はあったんだからよ」

「気にしないで、正人はそのまま授業を進めて、さあさあ」

「いちゃつくと気が散るんだよ!」

 

 思いっきりツッコミを入れるがハジメ達は直すことはないだろうから思わず溜め息をついた後、時間も有限だからとハジメ達は無視して説明に入る。

 

「まずミッド式とベルカ式の区別について教えておこう。まずミッド式は中距離、遠距離主体の魔法が主で近接戦闘は不向き、魔力弾主体だから殺傷もあまり低い、そしてベルカ式については近接戦闘や広範囲殲滅魔法が主体…その代わり射撃なんかは余りない」

「ミッドは射撃…ベルカは近接…」

 

 そう呟きながらどこから持ってきたノートに目もしていく香織…支給品に入っていたのか? 

そんな疑問思っていると横の席のユエが手を上げた。

 

「質問……正人の魔法は確かベルカ式って言ってた……けど正人は射撃メイン……さっきの言葉には矛盾が存在する」

 

 確りと聞いていたのか的確なところをついてくる。

 

「ユエの質問ももっともな話だ。確かに俺の使う術式はベルカ式だが近年新しくなった近代ベルカ式…それには射撃魔法も組み込まれている。例えるなら今メインで使われているトータスの魔法と遙か昔に存在した神代魔法……そんな感じだ」

「……なるほど…日々術式も変わっていく……そういうこと?」

 

 ユエの言葉にその通りと頷くとわかったと短く返事をする。

 

「さて、香織には少し実際に試してもらおうか……香織この前みたいに魔力スフィアを生成してくれるか?」

「あ、うん」

 

 香織は席を立ち俺の教卓の前にやってくると両手突き出し親指と人差し指を触れると目を閉じ意識を集中する。

白みの掛かった水色の光が香織の手を間で収束10秒ほどで俺の扱うスフィアの大きさに生成された。

 

「まあまあだな、それじゃあ次はそのまま維持して射撃魔法を使おうか」

「う、うん…………あれ?」

 

 俺に言われるまま、俺みたいに魔力スフィアからの射撃を放とうとしたが放つ前に魔力スフィアが飛散する。

 

「まあこうなるな……香織の魔力スフィアが飛散したのは単に魔力スフィアを維持する頭のリソースを射撃に集中しすぎたせいだ。射撃魔法でも魔力スフィアの維持と射撃二つの工程が必要になる。こんな風に」

 

 待機状態のオリオンを教卓におくとなれた動きで右手を突き出し魔力スフィアを生成し射撃する。この間に掛かった時間は3秒

因みに放った光線は壁に当たる前に飛散させた。当てると後が怖いから

 

「この通り、熟練の魔導士ならデバイスなしでもこれだけ速い…中にはデバイスなしで魔法を使うものもいる。用は魔導士として必要なのは頭の処理の速さと並列思考だな」

「正人の魔法、トータスの魔法より…難しそう」

「だな、俺には不向きそうだ。白崎は大丈夫か?」

「…大丈夫、絶対に正人くんの魔法を習得して見せるもん!」

 各々個人的な感想を述べた後、ハジメが何か思いついたのかニヤリと俺に向けてくる。

 

「そういえば、魔力操作をマスターすればどういった魔法を使えるんだ?正人、少し実戦してくれよ」

「ほう……良いよ、ただしその魔法に直に受けてもらうけど構わないよね?」

「OKOK、生半可な攻撃なんて効きやしないし、問題ない。さあ見せてくれよ」

 

 明らかな挑発的な態度に俺はニヤリと笑みを浮かべ左手で右手首を摑み。魔力を右手に集める。

右手の手の平に収まる球体が作り出されるしかし魔力スフィアとは違い乱回転している。

 

「マスターすればこんなこともできるってことだ」

「凄い、ただの球体じゃない球体の中で流れが乱回転してるしそれを上手く球体で纏めてる」

「魔力操作を極めればこんなことができるんだね……でもその技、何処かで……」

 

 見せた魔法にユエと香織はそれぞれ感想を述べるが俺を受ける発言をしたハジメは俺が作り出したこれを見て小刻みに震えながら声を上げた。

 

「ま、正人…お前…それ!」

「こういう分野のことを一番知ってるハジメならわかるよな。まああれだ……オリオンもまだ作りかけだった頃、はやてと魔法使えばアニメマンガキャラの必殺技も使えるんじゃね?という議論に三日三晩討論した結果、完成させた魔法だ。威力は……申し分ないから……さあ……味わえ」

 

 既に戦闘態勢を取った俺はいつでもハジメに飛び込みこれを当てる気でいる。

少しの静かな空気が部屋に流れる中、無言のハジメは…

 

「…………………………縮地!」

「逃がすかぁ!!!!」

 

乗せていたユエをおいて逃走突如として開いた扉を見て俺もすかさず魔力全開でハジメを追跡する。

絶対に逃がさない……!!

 

 

NOSIDE

 

 逃走したハジメ、それを追撃する正人。その二人がいなくなったことで部屋は香織とユエだけになった。

突然のことでポカンとなる二人……どうすればいいのかわからないだ。

 

「えっと……ユエ……どうしよう」

「……ん、ハジメも正人もいない。正人なら事前にプランを考えてそう………やるとすれば一日も早く魔力操作を完璧にするべき、そして正人にご褒美もらう」

「そうだよね、わかった私頑張ってみる!」

 

ファイトっ!と力強く奮起する香織を見てユエはくすりと微笑みをこぼす。

 

「○旋丸!!!」

「ああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

その直後、屋敷の外からハジメの悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか……

 



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幕間『正人の使い魔 前編』

長くなるので前編後編に分けます


 

 

「くたばれ!!!」

 

 そういいながらソニックアローを速射で魔物を掃討すると残った敵は居ないか周囲を見渡し気配を感知する。

こちらに敵意を向けてくるものはいないのを確認すると俺は先を急ごうと走りだした。

何故既に踏破したオルクスの大迷宮のダンジョンを疾走しているのか

実に理由は単純でハジメのためだ。

アーティファクトを作りに当たって鉱石は必須ともいえる素材、屋敷にもストックはあるがそこが尽きればアーティファクトは作れなくなる。

そこで自身の修業兼とある理由で俺は単独でオルクスの深淵を上っている。

既に十日ほど経って、20階層まで戻ってきた。

此処までハイスピードかつ正確に戻って来れたのは攻略際にオリオンに搭載されたマッピングの恩恵が大きいだろう。

行きしは中々時間が掛かったが何処にどのようなものがあるのか把握できている以上階層を上がるスピードも段違いである。

そうこうしていると19階層、周囲に湧く敵を一掃した後、18階層の階段へと最短距離で疾走する。

 

「……ん?」

 

 しかし此処で少し速度を緩める。後ろから気配を感じたからだ

 

「気配は一つ?」

 

 何故か俺の後を一定の間隔で付けてきている気配があるしかも全速力ともスピードに付いてこれている時点で普通じゃない。

しかし19階層にそんな魔物がいただろうか…

頭の中で思い出すがいた覚えがない。元々いて遭遇していなかったという線もなくはない。

それ以上に奇妙なのはその気配は何故かこっちに敵意を向けていないということ…

この大迷宮有効的な…というより魔物自体、敵がいたらサーチアンドデストロイみたいに戦闘になるから、一般の生物が迷い込むにしては些かありえないこの場所

ということはイレギュラーか?っと視線気配のする方向に目を向けると……

 

「……は?」

 

壁から白いうさ耳が生えていた。

 

 

 

香織SIDE

屋敷の外の特訓に適した場所、私とユエはそこで相対して立っている。

今日はユエとの模擬戦、ここに来て一ヶ月ほど経つから正人くんやハジメくん同様私も強くなった。

 

「ユエ、いつでも良いよ!」

「ん、わかった……緋槍!」

 

 いつもの掛け合いの後、ユエは直ぐに緋槍を放つ。

燃えさかる魔力の槍が私に向かって迫ってくる中。私は手を突き出して白みのかかる水色の魔法陣を展開する。

ラウンドシールド……正人くん達が使う魔法のシールド

それによって私に迫る緋槍は受け流し何処かへと飛んでいく。

 

「次!凍雨!」

 

 簡単に防がれてちょっとむっとしているユエは次の手と空中に飛ぶと氷の雨が飛来、広範囲なので避けることもラウンドシールドでずらすこともかなり難しい。

 

「こういうときは!」

 

だけど焦らない。焦ると判断が鈍くなると正人くんが口を酸っぱくしながら言ってくれた。

こういうときの対処もできるように教えてくれている。

「聖絶!!」

 

私の周囲に聖絶のバリアを張りと凍雨を防ぐ。

毎日正人くんに学んだ成果、正確に攻撃を判断しされに見合う防御魔法を展開する。

私は防御と回復に更に磨きをかけ、前に出る正人くんやハジメくんの支援をするそれが私にとっての最良であると思ったからだ。

だからこそ私は防御や支援といった魔法を習得し今もユエの攻撃を防ぎきっている。

 

「加減する。蒼天!!」

 

 遂に最上級魔法を使ったユエ、力は死なないように加減してるがそれでもかなりの力を帯びた青い炎の塊は私の頭上から振り落とされる。

だけれど打つ手のない昔の私じゃない。

 

「清浄なる輝き!セイクリッドシールド*1!」

 両手を蒼天に向けて突き出し短い詠唱を唱えると先程のラウンドシールドと同じ丸い魔法陣の展開、だけどそれだけじゃない。その魔法陣の四方にそれより小さい同じ丸い魔法陣が展開し蒼天を受け止める。

蒼天と激突したシールドは全く罅が入らず。力もまだ余力がある。蒼天が爆発するけど聖絶と組み合わさっているから火の粉1つ私には通さずに終えると空中にいたユエがむすっとした顔で地面に着地する。

 

「むう、加減したけど流石にここまで防がれると少し堪える」

「私だって強くなってるんだもん」

 

 着実に強くなっているそういった実感を意識できるぐらいに感じられ嬉しい気分になる。

少しお風呂につかろうかなっと思った矢先、私の頭の中に声が響いた。

 

(香織)

(あれ?正人くん?どうしたの?)

 

 正人くんからだ。

正人くんが教えてくれた念話で連絡を取ってきた正人くんは何処か落ち着いていないようで少し首を傾げるとかなり早口で正人くんの声が響く。

 

(悪いがこっちに来てくれ!瞬身の短剣は近くに刺してあるから直ぐに来れるはずだ)

(う、うん、わかった)

 

 何やら不穏な気配、正人くんの身に何があったのっと不安に駆られる中横にいたユエが私の顔を覗いてくる。

 

「正人に何かあった?」

「うん、直ぐに来て欲しいって…私行って来るね」

「一人じゃ不安だから私も行く」

 

 ユエもついてくることが決まり、私達は屋敷の一室へと向かう。

そこは元保管庫で正人くん達が整理して空き部屋になっている部屋の中央には変わった刀身の短剣が地面に突き刺さっている。

 

この短剣こそ正人くんが念話で出てきた瞬身の短剣、ハジメくんと正人くんの合作したアーティファクトだ。

空気中の魔力素を取り込む鉱石に生成魔法で魔力感知を付与。更に正人くんが転移の術式を生成魔法で付与することで限定的に転移することができる代物なのだ。

仕組みは簡単、鉱石の特製である魔力素を蓄えるこの鉱石の魔力を魔力感知で探知し、組み込まれた転移術式でその場所に飛ぶといったもの。

ただし連続では使えない上、距離もそこまで遠くには転移できない。

それでもこの100階層のオルクスの奈落に5階層区切りで正人くんが設置しているから色々と移動の手間が省けるからこれからの素材の採取にまさに打って付けのアーティファクトなのだ。

因みにデザインはハジメくんが考案、実物が完成して正人くんがもろに四代目のあれじゃんかっとハジメくんにツッコミを入れていた。

 

「行くよ、ユエ」

「ん、行こう」

 

 私は短剣に手を当てて、付き添うユエも私の袖を持つ。

同行者がいる場合は発動者に接触していないと駄目みたいでハジメくん曰くロマンらしい。

 

上にある同素体の短剣の蓄積された魔力を感知して上へ上へと転移を繰り返しものの3分ぐらいで正人くんがいる上層の階層に到達した。

 

 到着すると私もユエも驚いた。

辺りはワーム型の魔物の死体が十体ほど転がり、生きているのは正人くんしかいない。

正人くんは特に怪我を負っているようには見えないが小さい魔物を介抱しているように見えた。

 

「ま、正人くん!?これってどういう…」

「来たか!突然混乱してると思うがこの兎の毒を取り除いてくれ!」

「魔物を…助けるの?」

 

 正人くんの突然の言葉に取り乱す私、ユエも信じられない言葉に正人に聞き返した。

 

「正直頭が狂ってるのかって言われそうだが…この蹴り兎、妙に人懐っこいし友好的だった。その気の緩みを突かれてこの階層の魔物に奇襲されてこいつとは共闘して倒したが毒に犯されたみたいで痙攣してやがる。」

「……わかった。直せば良いんだね」

「香織、そんなことして大丈夫?」

「うん、正人くんがそう信じてるなら私も信じたいから」

 

そういって正人くんの意見に同調しユエもそれならと納得すると私は蹴り兎に近づいて解毒の魔法をかける。

 

「万天」

 

魔法名を呟いただけで蹴り兎からは毒素がみるみると無くなっていく。

しかし治すのが遅かったのかぴくりとも動かない。

 

「毒は無くなったけど…」

「遅すぎた…かも」

 

 助けたいと正人くんが嘆いた蹴り兎はもう手遅れ、その事実に顔を俯かせたが正人くんには何か手があるのか苦虫をかみつぶしたような顔つきで考え吹っ切れたのかあーもうっと声を出した後、下がっててと私達に促した後ベルカ式の魔法陣を展開、意を決した正人くんはあろうことかオリオンで自分の手首を肉薄して蹴り兎に切り口から流れる自身の血を流す。

 

「ま、正人くん!?何を!?」

 

直ぐに回復しようとしたが正人くんに止められる。痛そうな顔を浮かべる正人くんは詠唱を行った。

 

「我は求める…汝は我が敵を倒す矛、汝は我が守る盾、血の盟約の元、汝と我の従者の契約を結ぶ!」

 

そう詠唱を終えると魔法陣が光り輝き、光が収まるとそこには先程と変わらない蹴り兎の姿。

だけど先程の痙攣している様子はない安定している様子が見られる。

 

「………成功か」

 

切り口を抑えながらほっとする正人くん。私はすかさず治療に入ると正人くんの切り口は治っていく。

 

「もう!正人くん、いきなりすぎるよ!」

 

 流石にいきなり自分を切りつけるなんて見過ごせないために正人くんに怒る。

その正人くんも申し訳なさそうに私に顔を向ける。

「悪かったって、一刻を争うもんだから……ついな…それより俺が何をしたか気になるんだろ?一度拠点に戻って落ち着いて説明するから」

 

 そう宥められて私は頷き、短剣の魔力が戻ってから私達は屋敷へと戻っていった。

 

*1
セイクリッドシールド

香織が考案して編み出した。ミッドとトータスの複合魔法ラウンドシールドと聖絶を組み合わせ、あらゆる攻撃を弾き防ぐ



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幕間『正人の使い魔 後編』

 

 

「っで…大体のことは聞いたが…」

 

カリカリカリカリカリ

 

「ここからは正人くんじゃないとわからないし、そろそろ説明してくれないかな~」

 

モキュモキュモキュモキュ

 

「そうだな…まず俺が何をしたかそれを話すとする…焦らなくてもまだあるから落ち着いて食べろよ」

「キュッ!カリカリカリカリカリ」

「おい、正人なに普通に蹴り兎に人参スティック与えてんだよ!」

 

屋敷に戻ってきた私達、ハジメくんも集めて広い一室の椅子に座ってるんだけど、目線は蹴り兎に向いてしまう。

通常の蹴り兎と違って脈打つ血管も見えないし瞳の色も紅眼、1階層にいる他の蹴り兎にはない愛らしさもこの子にはあった。

そんな蹴り兎が人参スティックを前足で摑みカリカリカリと口の中に頬張っていき頰が膨れていてまるでハムスターみたい。

 

「なんか可愛い」

 

ハジメの膝の上に乗るユエが長いテーブルに肘をおいて前のめりな体勢で蹴り兎をじっと見つめ愛らしさに笑みを浮かべている。

そのユエの感想には私も同意と思う中、正人くんが話し始める。

 

「まあ、単刀直入とこの蹴り兎を俺の使い魔にした。」

「使い魔?」

 

 正人くんの言葉にハジメくんが首を傾げその意味を訪ねる。

使い魔、つまり蹴り兎は正人くんの従者になったってことかな?

今思い返せばそういった言葉も詠唱内に含ませていたし、あれが使い魔の使役する魔法なのだろう。

 

「あのまま死なせるのも惜しかったし何より友好的だったというのも使役しようとする理由の1つ」

「…普通、魔物は友好的じゃない」

 

 友好的な魔物にユエは見知りと否定するが正人くんはこれ見てそれ言うか?とジェスチャーで人参スティックを頬張る蹴り兎を見てくっ!とユエは認めるしかない現実に苦悩している。

 

「それで契約する方法があんな見てハラハラする方法しかなかったの?」

 

あんな血を垂れ流す方法しかなかったのか私は気になって仕方が無かった。それを聞いた正人は嫌な顔をして少し悩んだ後、ここで拗らせるのは得策ではないと踏むと重そうな口を開けた。

 

「いや…他にも方法はあったよ」

「ふーんそうなんだ…」

「ひっ!?」

 

あれ?なんでそんなに怯えるのかな…かな?

 

「いや…その何と言いますか…その…なにあれ?香織の背後にいるあの般若…疲れて変なの見えてるのか?

「そんなあやふやでどうしたんだよ。やべえ、あれはスタンドかなんかだ。今の香織を刺激するのは絶対得策じゃねえな

「正人はハッキリ言うべきステータスには確認していないスキル、隠しスキルの類いかもしれない

 

よくよく見てみればハジメくんもユエも顔を引きつっている。

そんな中、未だ恐怖で顔を引きつる正人くんが話し始めた。

 

「あれは本当に緊急で使い魔の使役する方法の中で1番手っ取り早いのがあれだっただけ……あんな方法そんな使う人が皆無だし」

 

……そっか……もう本当に心配したんだよ?」

 

 確かに大急ぎで確実性の欠ける方法は使えないのだから仕方が無いといえば仕方ないかな?

そんなことを考えている私を他所に正人くんは何かの危機を乗り越えほっとしていて私は何故そんなほっとしているのか首を傾げた。

 

「それで、話の内容は戻るがなんで蹴り兎が19階層なんかにいたんだ?話を聞く限り、普通の魔物でもないだろう」

「ああそれな……一応本人から直接聞くべきなんだが……」

 

 話が脱線したのを戻し本来階層を下りない魔物が階層を下りたイレギュラーな正人くんの蹴り兎。そこまで生き残っているのも充分イレギュラーなのだが、正人は難しい顔をして視線を蹴り兎に向けた。

 

「モキュッ?」

「おい、正人こいつ喋れねえから何言ってるかわかんねえ、何とかしろ」

 

 可愛い鳴き声に私は癒されるけど何を意図しているのか不明で頭を抱えているハジメくんは正人くんに丸投げで正人くんはそれじゃあと蹴り兎と見つめ合った。

見つめ合うことしばらく、なるほどなっと、何処か蹴り兎の苦労を労っているように見え、今の間に何があったんだとハジメくんは無言の問いかけを目線だけで正人くんに向けていた。

 

「そんな顔するな……えっとな、念話で聞いた限り原因は俺達だということがわかった。」

 

 それから語られたのは蹴り兎の冒険譚……

まずこの蹴り兎がいたのは私達が落ちて辿り着いた1階層の蹴り兎で間違いはなかった。

その頃は他の蹴り兎とも変わらず。行動していたがある日を境に蹴り兎の行動は変わった。

その日とは私達とハジメくんが再会した日…

この子は正人くんが1階層のボス、爪熊をハジメくんが倒したところをそして、ハジメくんを正人くんが倒したところをしっかりと見ていたようだ。

その後こっそりと後を付けてハジメくんの仮の拠点であった洞穴を突き止めて、私達を恐れていた…みたいだけど数日後、私達がその洞穴から出た後、いなくなった洞穴に住み着き、そこであるものを口にした。

 

残っていた微かな神水…それがこの子の思考を格段に上げ、他の魔物達とは一線を越えることになった。

そのことで浮かれていて、また生まれた別個体の爪熊に見つかってしまったとのこと。

既に逃走不可能な状況、決死の覚悟で爪熊と挑み。戦いの末、爪熊を倒したという。

そしてその時蹴り兎は悟ったのだ。誰でもやれば強くなれると

それから知性が逸脱した蹴り兎はその機会を恵んでくれた私達を追いかけるために成長した自分を見てもらうために階層を下りてきたという。

そして追いかけている途上で偶然、短剣の配置で階層上がっていた正人くんを見つけて追いかけていた……ということ。

話を一通り全部聞いて正人くんの初めに行っていた私達が原因という理由も納得することができてそっかと蹴り兎に大変だったんだねっと心から労う。

 

「それじゃあ、名前付けてあげないと!正人くんが付けてあげてね。」

「…まあ仕方ないよな…そうだな…」

 

 名前がないのは不便だと私は正人くんに名前を付けるように呼びかけ正人くんは頭の中で考えると直ぐに名前が思い浮かんだのか、名前を口ずさむ。

 

「ミッ○ー」

「うん、色々と駄目だと思う。別の名前にしてね」

「そ、それじゃあ…ティ○ー」

「…ぴょんぴょんするんじゃ-?」

「なんかこれも違う気がする…うーん…あっ!戦う兎だからセ○ト!」

「上手いこと言ってるけどベストマッチはしないからな」

「…………」

完全に尽きたといわんばかりに机に突っぱねる正人くん。

流石に色々と駄目な気がする名前ばかりで私達は反対したけど……名前付けるのって結構難しいのかも

 

「○ントは良いと思ったんだけど……もう率直にイナバでいいか」

「かなりシンプルにいったな…別に良いんじゃねえか?」

 

どこかやけくそに見えるそれに私はもう一ひねりいるんじゃないのかと思ったけど蹴り兎がその名前気に入ったのかテーブルの上で喜びの舞を舞っている。

これは確定かな

 

「正人、どうやらイナバで決定らしい」

「…みたいだな、それじゃあこれからよろしくな。イナバ」

「キュッキュウ!」

 

正人くんの言葉に力強く返事をするイナバちゃん。

こうして私達に新しい仲間蹴り兎のイナバちゃんが加わったのだ。

 

 



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1章キャラ紹介

 

魔王パーティー

 

八坂正人 17歳 男 レベル???

 

 

 

天職:弓使い

 

 

 

筋力:142(通常)→19458(強化)

 

 

 

体力:258(通常)→22694(強化)

 

 

耐性:154(通常)→17642(強化)

 

 

 

敏捷:196(通常)→21942()

 

 

 

魔力:20012

 

 

 

魔耐:154(通常)→24997(強化)

 

 

 

技能:魔力操作[+身体強化Ⅱ][+武装強化Ⅱ][+視覚強化Ⅱ][+防御魔法][+束縛魔法]・ベルカ術式適性[+詠唱破棄Ⅱ][+射撃魔法][+砲撃魔法][+広域殲滅魔法]・双剣術[+魔力付与]・弓術[+精密射撃][+精密狙撃][+精密曲射][+精密速射][+視力補正][+夜目]・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知][+感知範囲増大]・複合魔法・錬成・速読・高速思考・並行思考・言語理解[+言語解読]

 

本作の主人公

海鳴市の八坂神社を営む家系に生まれた長男

明るく活発な少年であったが八年前にジュエルシード事件をきっかけに魔法と出会い闇の書事件を経て自身の力不足と失う恐怖に取り付かれ無気力な自分を作り出し一部を除く嘗ての親しかった友人達から距離を置いた。

トータス転移後は自分しか魔法関係者が居ない現状で自分を奮い立たせたがオルクス大迷宮でリィンフォースとの再会といきなりの強襲に重傷を負い、再びトラウマが再発する。

奈落で全て投げやりになった正人を香織が自身の思いを全てさらけ出して告白しその熱意から嘗ての自分自身を呼び起こしリィンフォースを取り戻すため前に進む決意をする。

オルクス真大迷宮で豹変したハジメや封印されていたユエ共に最奥に待ち構えていたヒュドラを倒しオルクス大迷宮を攻略、残されていたオスカー・オルクスの遺言で今回の黒幕が神であることを知るもあくまでリィンフォースを取り戻し元の世界に帰ることを第一に行動する。

ハジメの提案でオルクス大迷宮に止まり、香織とも恋仲へと発展、これからやってくる戦いに備え闇の書事件での全盛期…それ以上の力を付けるために特訓に取り組む。

 

白崎香織 17歳 女 レベル:???

 

 

 

 

 

 

 

天職:治癒師

 

 

 

筋力:107(通常)→16345(強化)

 

 

 

体力:163(通常)→17234(強化)

 

 

 

耐性:105(通常)→15422(強化)

 

 

 

敏捷:142(通常)→14378(強化)

 

 

 

魔力:18623

 

 

 

魔耐:219(通常)→22074(強化)

 

 

 

技能:魔力操作・回復魔法[+回復効果上昇Ⅱ][+回復速度上昇Ⅱ][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇Ⅱ][+遠隔回復効果上昇Ⅱ][+状態異常回復効果上昇Ⅱ][+消費魔力減少][+魔力効率上昇Ⅱ][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動][+詠唱破棄Ⅱ]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][詠唱破棄Ⅱ]・ミッド式適性[+防御魔法][+束縛魔法][+射撃魔法][+連続発動][+複数同時発動][+詠唱破棄Ⅱ]・高速魔力回復[+瞑想]・言語理解・複合魔法

 

本作のヒロインの1人

正人の幼馴染み、幼い頃両親の知人である正人の両親に会いに言ったとき八坂神社の山の中に迷い込み、迷子になっていたところを正人が見つけ、それ以来自覚は無いが正人に引かれていた。

闇の書事件後の正人の豹変に戸惑いながらも事情を知らずに1人にさせてはいけないと奮闘する。

オルクス真大迷宮にて正人の胸の内に秘めた闇を受け止め、自分が正人のことを好きであることを自覚すると正人を支えると言って。正人に再び前に進む力を奮い立たせた。

その後ヒュドラ戦でリンカーコアに覚醒、その後自分の思いを正人に打ち明け正人と恋仲になる。

 

 

南雲ハジメ

 

原作の主人公

地球ではオタクと一部を除くクラスメイトから蔑まれており、トータス転移直後もありふれた職業の錬成師という天職だったために周りから無能という烙印を押された。

王立図書館にてハジメにシンパシーを感じていた正人と仲良くなり、オルクス大迷宮でも正人ともにパーティー組んだ。

ベヒモスを撃破した後現れたリィンフォースに怖じ気づくも機転を利かせた力の使い方で正人と香織をリィンフォースの攻撃から救い、あと一歩のところでクラスメイトの裏切りにあい、正人と香織と共に奈落へと落ちた。

その後、正人と香織とははぐれ、左腕を失い極限の状態の中豹変、邪魔をするものは全て敵という思考の元、手に入れていた神水と魔物の肉を喰らい強靱な肉体を手に入れる。

一度は偽物と判断していた正人達に攻撃を仕掛けたあと香織の心からの心配と謝罪により正人達を暫定的に信用しオルクス真大迷宮攻略を共にする。

攻略途上に吸血鬼の姫、ユエと出会い、同じ共通点からお互いに引かれあい、ユエを地球に連れて行くことを決める。

オルクス大迷宮攻略後、アーティファクトや自身の強化のためしばらく止まることを正人達に提案しアーティファクトの生産及び技能に磨きをかける。

 

ユエ

 

原作のヒロイン

 

既に滅んだ吸血鬼のお姫様

吸血鬼の国の王位に即位していたが叔父のクーデターに王位を簒奪、再生能力から300年の間オルクス真大迷宮の中で封印し続けていた。

オルクス大迷宮攻略中の正人達と出会い封印を解除され正人達と行動を共にする。

オルクス大迷宮攻略後、ハジメと恋仲に

…詳しくは原作をチェック

香織との仲はすこぶる良好

 

イナバ

オルクス真大迷宮の1階層にいる蹴り兎 

元々は普通の蹴り兎だったのだが、正人達との邂逅よりと残っていた神水により思考が発達した。

爪熊を撃破したことで誰にでも強くなることができると理解し、それを教えてくれた正人達にお礼を言うために階層を下りていき19階層で階層を上がっていた正人を発見し再会を果たした。しかしその後魔物達の奇襲にあい一度、命を落とすが正人の血の盟約により正人の使い魔として復活した。

 

時空管理局

 

クロノ・ハラオウン

時空管理局、次元航空艦アースラの艦長を務めている提督

正人の関わった2つの事件でも執務官として戦い。無気力になっていた正人のことを心配し気にかけていた。

正人達が転移したことを妻であるエイミィから教えられると直ぐさまトータスの衛生軌道上までやってきたが結界のせいで立ち往生する。

その後、正人と連絡を取り合い、五帝会談でも同様の転移が見られたことによりトータス連続召喚事件の最高責任者としてアースラから正人達の支援と転移者の救助のために動き出す。

 

フェイト・T・ハラオウン

 

時空管理局所属の若手執務官

正人達と同年代で嘗て正人の関わったジュエルシード事件と闇の書事件にも関わった。

その2つの事件を経て管理局に入局、執務官として頑張っている。

トータス連続召喚事件でトータスに実の母、プレシア・テスタロッサが生きていることを知るとトータスへの降下を自ら志願しトータスへと降り立った。

 

八神はやて

本作のヒロインの1人

時空管理局所属の特別捜査官。

正人の遠い親戚で幼い頃から両親を失っていたことから家族ぐるみで正人達とは付き合いがある。

闇の書事件後、リィンフォースの消滅と自分の力不足がきっかけに正人は無気力な人間になったことを負い目と感じ、自分ではどうしようもないことを悟ると友人である香織に正人のことを託す。

トータス連続召喚事件ではリィンフォースの一件を聞きフェイト達と共にトータス降下に志願しリィンフォースの捜索に乗り出す。

 

 

 

 



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2章『アリアンロッド城塞/五帝乱舞』
33話


活動報告にてこの作品に関するアンケートがありますのでチェックしていただければ嬉しいです


 

 

 

 

ヒュドラ戦…数日前……

 

惑星トータス衛生軌道上、駐留アースラにて…

 

「これより、惑星トータスへの強硬降下の最終確認を行う」

 

 アースラのブリーフィングルームで艦長のクロノの声が室内に響く。

そこに座る局員達はこれから始まる作戦に緊張から顔を強ばらせる。

 

「ここに集まっている50名の君達には今から結界の一部を破壊しその穴から惑星トータスに降下することになる。地上のことは今回のトータス連続召喚事件に巻き込まれた民間協力者の口頭から得られた情報を端末に整理してある。降下前に今一度、確認するように」

 

 クロノの言葉にこの場いる全員がはいっと声を上げ、それを確認したクロノは再び話し始める。

 

「最高責任者の責任者の私はアースラに残るため通信状況が悪い、トータス内ではあまり指示を出すことはできない。何かあった場合は現場責任者のハラオウン執務官と八神特別捜査官の2人に指示を仰ぐこと、それが叶わない場合は各自の判断に任せる。以上だ1時間後、降下作戦を開始する。それまでに各自準備を整えてくれ」

 

 解散っという一斉に室内にいる局員達はぞろぞろとブリーフィングルームから立ち去っていき、その中には現場責任者として抜擢されたはやてとフェイトの姿もあった。

 

「いよいよ、私らもトータスに降りたつんやな」

「うん、やっぱり情報があまりなくて、捜査も結構すんなりとは行かないだろうね。けど私もはやてもそれにシグナムだっている。地上には正人だっているんだ私達なら絶対出来るよ」

 

 問題なしっと力拳で大丈夫と言い切るフェイト、不安でいっぱいなはやての胸の内を少し晴らしてくれて、ありがとうなっとフェイトにお礼を言う。

 

「フェイトさん!リィンのこと忘れてるですよ!」

「あっ!リィン!」

 

 突然幼い声が響き、はやての服の胸ポケットからひょっこりと顔を出し飛び出てきた空色の髪の1メートルにも満たない小さな妖精?

その妖精はプンプンと自分のことを忘れられていたことに全身を使って現し、フェイトもそのことに気がつき失念してことに謝った。

小さな妖精…基、リィンフォースⅡ、リィンはその後はやての肩に乗るとそれでいいんですぅっとまだ不機嫌な顔隠せずに足をパタパタと動かす。

 

「リィンも先代にあってみたいですから少し楽しみなんですよね」

「そうやな…ふふ、必ずリィンフォースを取り戻さないとな」

 

 はやての言葉にフェイトも自分のできることを出し切らないとと改めて覚悟を決め、もう一つ気になっていたことをはやてに向かって聞いた。

 

「そういえば、はやて、白崎さんが行ってたけど…正人に会ったら…どうするの?」

「ふぇ!?」

 

 ユエと仲間にした日、少しだけだが正人達とは連絡がつき、久々に正人と話し合った日。

最後に香織と話していた。

完全に元に戻った正人を託せるのはもう香織しかいないと考え託したのだが、香織にあっさりと返され赤らめて取り乱していた。

 

「あれはその…」

「正人のこと好きなんだよね?」

「そうやけど…」

 

あたふたとはやてにしては珍しい取り乱しをニマニマと微笑みながら見るフェイト、はやては見られていることを自覚して更に顔を赤くして俯く。

 

(ああ~どうすればいいんやこの状況)

 

 まさに絶体絶命、この場を乗り切る方法を模索するが頭の回転が速い、はやてでも直ぐに打開策を見つけることは出来なかった。

そしてしばらくそのことで弄られた後、最終確認のため各自の点検のために散らばりクロノが言っていた1時間後、宙域でも活動可能とする高高度ユニットを装備したはやて達を含む50人がアースラの外へと出られる搬入口に集まっていた。

そして室内の放送からブリッジにいるクロノの声が響き渡る。

 

《これよりトータスへの降下を開始する。私が最後に言う言葉は一言だけだ。必ず生きて帰ってこい》

 

クロノの切実な願いに了解っと返事をするはやて達搬入口が開き魔法で空気が漏れることなかったがはやて達の目の前には宇宙が広がっている。

 

「さあ、ほないくで!」

 

はやての一声と共に搬入口から飛び出していく局員達。

目指す場所はトータス、事件の中心にある惑星へ……

 

 

 

 同時刻………

 

 

 トータスの大陸南に位置する城の一室、そこに集められた少年、少女達は何処か落ち着いた様子で飲み物を飲んでいた。

 

「……っ」

「どうかしましたか?」

 

 椅子に座りテーブルに俯せになりうとうととしている黄緑色の髪を肩の辺りまで伸びた少女は体をビクッとして何かを感じ

その隣で紅茶もどきを飲む大人びた金髪の女性は黄緑色の少女に問い掛けた。

 

「風が教えてくれた。外から何か来たって」

「外、つまりはこの世界の外ということですか。つまりは局が動いたということでしょうね」

 

ほわほわとした様子の黄緑色の少女は感じたものを口にすると金髪の女性は直ぐにそれが局員達であることを理解する。

そのやり取りは此処にいる他の者達にも聞こえているために全員が二人の方へ顔を向けた。

 

「ほ、本当なんですか!?ということは私達は助かるってことですか!?」

「ああ、良かったって本来なら喜べるが……」

 

 この中で1番幼い橙色の少女は救援が来たことに大いに喜び。赤髪の少年は喜んでいる反面、素直には喜べなかった。

少年が口にした後黄緑色の少女の顔が暗く俯く。

それを見て金髪の女性は黄緑色の少女の頭を優しく撫でた。

 

「心配するのも無理はありません。今は管理局に保護されるわけにもいきませんから……」

「……うん」

 

こくっと短い言葉の後、少女は頷く。

 

そしてそんな、重い空気が立ちこめる中彼女達の一時が過ぎていった。

 

 



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34話

 

 

 ヒュドラとの激闘を制し正人達がオルクス真大迷宮のオスカーの隠れ家へと辿り着いたその日、天之河勇者パーティー一行はオルクス大迷宮の攻略を一時中断し王都への帰路の馬車に乗っていた。

嘗て誰も倒せなかったベヒモスを倒し遂に未踏の階層へと挑む天之河達も先に何があるかわからないことから慎重にならざる終えず攻略のスピードは一気に低下した。

その上何度も迷宮に潜り疲労もかなり貯まっていることからメルドはこれを気に一時王都に戻り療養することを決め、力を付けることに焦る天之河達を宥めて王都へと戻らせた。

ただ帰還する目的はメルドの提案だけではなく。近日帝国からの使者がやってくることから顔合わせのためということが多い。

そんな王都に戻る馬車の1台……天之河主力メンバーとメルドが乗るその馬車はピリピリとした空気に満ちあふれていた。

 

「………………」

 

 本来なら談笑などの話に花を咲かせるのだが、不服ですっと言わんばかりの顔つきをする雫がそんな空気を見事にぶち壊していた。

雫はプレシアとの戦いの後、今までにも増して攻略や訓練などに精を出していた。

休憩もホルアドでなら充分取れるし王都まで戻る必要はない。

そんなことを思う雫だが休養日でも今の雫がやることと言えば近隣の魔物相手に一人訓練とやっていることは迷宮内とほぼ変わらない。

 

「雫、そう苛立っても何も変わらないだろう?あの人に勝てなくて悔しかったのはわかる。俺も悔しいさ……だからもっと強くなって必ず倒そう。俺達ならきっと出来る!」

 

 そんなイライラする雫に話しかけたのは天之河だ。雫の苛立ちがプレシアの敗戦から来ているものだと考え自分の意見を述べ強くなろうと言い切るが、実際のところ雫の苛立っている本当の理由はそれではない。

 

プレシアから雫だけに与えられた。香織達の生存の情報、それが香織の手掛かりを見つけるという憶測から香織達の元へ行くという確信に変わり。今まで以上に攻略に躍起になっていた。

そんな絶対攻略ウーマンになった雫に突如として王都に帰る指示が出ればどうなるか……それは見ての通りと言えるだろう。

 

「雫、焦る気持ちも判るが体調管理を怠るといざという時、危険にさらされるのは自分だけではないかもしれん。休むときは休めいいな」

「……はい……」

 

天之河とは違い、メルドは今の雫には明確な目的があるのだろうと理解しそれが何かとは聞かずに仲間のことをいうと顔色を沈めながら短く言葉を返した。

 

少し馬車内の空気が軽くなった後、しばらくして王都へと辿り着き馬車から出た一行、王城内へと入っていき、謁見の間で帰還の報告を述べた後、一度自室に戻ろうとした雫は一人廊下を歩いていると後ろから声を掛けられる。

 

「雫、お久しぶりですわ」

「リリィ……」

 

 この国の王女リリアーナは迷宮から帰ってきた雫を心の底から微笑み雫の元へ駆け寄る。

リリアーナ、雫や香織はリリィと愛称で呼んでいるがこの3人の仲はとても良好で短い間の香織の凶報にも心の底から悲しんでいた。

 

そんなリリィは先程の微笑みを隠し、少し暗く俯いて雫に語りかける。

 

「雫……その…異端の魔女の件は私も聞きました。光輝さん達含め何も出来ずに負けてしまったと……ですが誰も死なずに帰ってきてくれたこと私は本当に良かったと思っています」

「リリィ…ありがとう心配してくれて」

 

 この世界で出来た親友に張り詰めていた気持ちが和らいだ雫は笑みを浮かべ、その気持ちにお礼を言うが、だけどと真剣な表情を浮かべて言葉を続けその表情の変化にリリィは首を傾げた。

 

「誰も死なずにっていうのは不適切よ、全員生かされて帰ってきたって言う方がしっくりくるわ」

 

あの現場にいた一部を除く誰もが当初のことを思い浮かべ思うことだった。

自分達はプレシア・テスタロッサの気まぐれで生かされた。そう思わずにはいられず。負けた当初は全員の顔は暗かった。

しかし直ぐに雫は明確な目的を得たために剣の腕に研きをかけるために特訓を再開、それを見て天之河も「雫を見ろ、あれだけ何も出来なかったのに今も強くなろうとプレシアさんに勝とうと努力している。こんな所で挫けてちゃ駄目だ」っと持ち前のご都合主義とカリスマを全力にして落ち込んでいるメンバーを奮い立たせた。

それを後々聞かされた雫はため息をもらしたのは言うまでもない。

 

「そうですか…私達の世界の問題だというのに本当にごめんなさい。」

「もう、リリィが謝らなくて良いわよ。それに私達にとっても帰れる兆しがあるってわかったことだけでも救いだったから……それじゃあリリィ、一度部屋に戻るから。時間が空いたらまた一緒にお茶でもしましょう」

「はい!」

 

元々、天之河達を無理矢理召喚されたことに深い負い目を感じていたリリィ、自分達の世界のことは自分達でと心の底からそう思う彼女だが雫はやんわりと受け答えをしてまた笑って談笑しようと約束すると笑みを浮かべてリリィは言葉を返した。

 

リリィと別れ部屋に戻った雫は久しぶりの親友との再会に心に少し余裕が生まれて備え付けられていた椅子に座り。一息つくとこれからのことを考える。

 

「さて、何しようかしら……疲れたから寝る……って言うのも少し違う気がするし……訓練所で素振りでもしてこようかしら?」

 

悩んだ末……結局は鍛錬という結論。幼少の頃から剣の道を押しつけられてきていた雫にとって暇なときは剣を振るおうという女の子らしくない発想が1番に浮かんでしまったのだ。

早速訓練所へ、そう思い扉に手をかけたときに扉の向こうから怒鳴る女の声が響く。

それは雫の耳にも聞こえてきて、雫はまさかっと嫌な予感を思わせながら溜め息をつき短い安らぎの時間は終わり騒ぎの場所へと向かっていく。

 

雫がその場所に行くと案の定、クラスメイトが揉めていた。

集団と集団が対立しあいどちらも仲悪いようにギクシャクした雰囲気を出している。

その二つの集団の先頭で言い争っていた人物を見て、雫はまたかと溜め息を零していつまの仲裁に入る。

 

「檜山くん、優花も落ち着きなさい」

 

先頭で言い争っていた二人とは檜山と優花、もう見慣れてしまった参戦派と反対派のいざこざだった。

 

「八重樫か…何しにきたんだよ!?」

「何しにって大声が聞こえれば誰だって来るわよ。それでどうしてこんな事になってるのかしら?」

 

イライラしている檜山の言葉に冷静に事実を述べる雫。その言葉には当たり前のことしかいっておらず。檜山は何も反論することはできない。

そして事の発端を聞こうとする雫は檜山に訪ねるがそれを答えたのは優花だった。

 

「私達が訓練所に行く途中に雫達が帰ってきたって聞いたから、流石に会いに行こうと思ってね。会いに来たんだけど…檜山の奴が居残り組が訓練なんてしても何も意味がないだろうなんてほざいたのよ!」

「…ぐっ、そ、そりゃあそうだろう!?おまえら戦争には反対なんだろ!?だったら強くなっても意味なんてねえじゃねえか!」

 

 二人の言い分はこうだ。

幾ら戦争は反対とは言えこの世界は日本のように平和というわけではない。いつまた自分のみに危険が降り掛かるかもしれない。そのため自衛出来るように鍛えておくという優花

対して、戦争にも参加せず。帰還の方法を模索する優花達が強くなっても無意味と視聴する檜山

その二つの言い分で完全に対立している檜山達と優花達……そんな二つの言い分に雫は頭を抱えていつものように仲裁しようとするが火がついてしまった優花はそれより先に言葉が出た。

 

「それに聞いたけど異端の魔女に何も出来ずに惨敗したんでしょ!?そんなんで戦争に勝てるわけ無いじゃない!?命が大事なら戦争なんて止めて帰れる道を探す方が良いに決まってる!」

「なん…だとこの女が…!」

「止めなさい!優花も…言い過ぎよ」 

「だってそうじゃない…八坂だって、自分でそんな経験があったから…」

「優花っち?」

 

 優花の追撃に怒りを募らせ手を出そうとする檜山を雫は直ぐさま抑え、言い過ぎている優花に注意すると優花も少し言いすぎたっと俯く中小声で傍いて何か呟き微かに何か言ったのを聞こえた宮崎奈々が首を傾げて訪ねたが気付いてないのか優花の返事はない。

 

「二つの言い分は分かったわ。檜山くん、この世界は日本とは違うわ。いつここが戦場になるか分からないの、弱かったら何も出来ずに淘汰されることだってあり得る。だから今回は優花の言い分が正しいわ」

 

 二つの言い分を纏め、そして考えた結果優花の言い分こそ正論であることを導き出し檜山にいうと檜山は納得できないのか奥歯をくいしばり、格上の雫の前にしてはこれ以上何も言えなかった。

これで一件落着…っと心の中でほっとする雫だが大声で呼び寄せられたのは雫だけではないということを失念していた。

 

「みんな不安なのはわかる。だけどもう大丈夫だ!俺達は元の世界に帰れる手掛かりを見つけたんだ」

 

 勇者(愚者)…降臨

その言葉につきた。天之河の自室の方からずかずかとお馴染みのハンサムフェイスでいざこざを起こしている檜山達と優花達の間に割って入ってくる。

後から他の龍太郎達もやってきたが中立派の全員心の中は一つに纏まっていた。

 

(何やってるの、バカ光輝!!!!)

 

 今にも消えそうな火にどこから持ってきた油を問答無用にぶちまけたが如く。これにより潜めた参戦派の檜山達は黙っているわけがない。

 

「そ、そうだぜ!俺達はなお前が必死に書物と睨めっこしてる間に帰れる手立てを見つけたんだ!」

「それって俺ら有能じゃね?ギャハハッ!!」

 

 再び反論の炎が燃え上がった檜山達、帰還の方法が見つかったことに反対派は呆然とするが一瞬だけ呆気に取られた優花が冷静に反論した。

 

「……その方法ってどんなの?」 

「異端の魔女は別の星から来たんだってよ!だったら世界を飛び越える方法だって知ってるっわけだ」

「……なるほどね…ねえそれって現実味があるの?」

「そ、それは……」

 

 ついこの前異端の魔女に惨敗した勇者パーティー……その帰還の方法はプレシアの協力を得られなければ到底実現できない方法であり。それを冷静に指摘された檜山は図星のために口を詰まらせる。

だがそんな時に代わりに話したのは天之河だ。

 

「心配するな、あの時は負けたが今度こそ強くなって勝つ!みんなと力を合わせれば必ず出来る!」

 

 迷いなどないハッキリとした天之河の一声に参戦派の生徒が頷いたがそれでも優花は納得することは出来なかった。

 

「そう……天之河…これだけは覚えておいて……どれだけ努力しても自分達では敵わない相手もいるかもしれないってことを」

 

そう言って、行こっと奈々達に言い訓練所へと向かっていく優花達。

そんな言葉を天之河はあまり間に受け止めず。俺達なら大丈夫!っとお馴染みの言葉で不安を掻き消していたのは言うまでもなかった。

 

 

 



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35話

 

 

「はぁ…昨日は疲れた…」

 

 そう王都の城下町を歩く雫はふらふらと歩く。

すれ違う住民達は雫のことを神の使徒として知れ渡っていて、通りかかる人々に丁寧にお辞儀をされるのも馴れはしていた。

だがいつもそんな感じで讃えられるのは恥ずかしい感じがした雫は顔を少し赤らめながら町中を歩く。

町中は至るところ平穏を成就する冒険者は町の人達の姿。

これを見るだけで平穏だなっとマジマジと思う雫はふとあるお店に目に映る。

特に一般的なアクセサリーなどを取り扱っているお店、しかし雫にはこのお店にはとても印象に残っていた。

 

 

「此処…香織と一緒に来た…」

 

雫達がこの世界に来て間もない頃、初めての休息日で立ち寄ったアクセサリー屋、その時は香織もまた雫と一緒にここを訪れていた。

何処かこの世界に来て不安だった雫を香織は率先して気分転換に城下町を見て回った。

 

「……香織…」

 

 ふと香織のことを思い暗く俯く雫、生存の兆しは見えたと言えども姿を見たわけではない。

周りにはあまり見せない弱いところを見せる雫はそのアクセサリー屋を通り過ぎていくとふと耳にある声が聞こえてくる。

 

「あ、あの少し困ります」

 

そんな女の声だった。

何かしらっと雫は俯いていた顔を聞こえてきた方向に向け、近くの裏路地から聞こえたのだと察すると裏路地に近づき裏路地を覗き込む。

すると、長い金髪の何処かの令嬢に見え、それに見合った服装を着た雫と同年代の少女が柄の悪い2人組の男に絡まれている現場を目撃した。

 

 

フェイト・T・ハラオウン…

時空管理局に所属し、次元世界の股にかけ次元犯罪を解決する若手執務官。

凄腕の魔導士ということから金色の閃光という異名さえも付けられた彼女。仕事面では世話焼きで確りとしているのが印象付けられるがその反面、私生活ではおっとりとした優しい一面をみせ海鳴の小学、中学校では五大女神と称されかなり一際人気を博していた。

そしてそんなフェイトをよく知る人物はそれに加えてもう一つ付け加える。

 

たまに天然なところがあると……

 

 

(どうしようこの状況……)

 

現在フェイトは困っていた。

トータスに降りたって数日、初めは手頃な村などで情報を収集しこの世界の環境を調査しつつどういった文明なのかを細かく分析していた。

そして、勇者達が王都に戻ったという情報を入手し彼らの安否を確認するために遂にハイリヒ王国の王都へと足を運んだ。

しかし王都は広く調査をしているうちに一緒に行動していたシグナムとはぐれ、1人、王都を散策していたが柄の悪い2人組に絡まれ何とか振り切ろうとしていた。

 

「本当に困りますから」

「遠慮するなってちょっとだけ何だからよ」

(どうしよう…その気になれば簡単に振り解けるけど…後々のことを考えると…)

 

シグナムがいればっとはぐれたもう一人のことを思うがこの時普通に念話などで呼び出せば普通に合流できるということを失念していた。

 

「すべこべいわずにこいって」

 

痺れを切らした男の一人が無理矢理連れて行こうとフェイトの腕を摑もうとしてフェイトは流石にこのままではと考え多少力を使おうと考えたその時裏路地に声が響いた。

 

「貴方達、何をやっているの!」

 

咄嗟の声にフェイトや男達は声の方向に振り向くと帯刀する剣の鞘に手を掛けて3人に近づく雫の姿。

 

(え!?確かあの子って…)

 

雫の登場にフェイトは目を丸くして頭の中に記憶している召喚されたクラスメイトの中に雫のことを思い出す。

そして男達2人も雫と姿を見て顔色を一変させ体を震わせながら後退る。

雫は神の使徒の中でも有名だ。非公式のファンクラブが短時間で誕生するぐらいにそのために一般のよく知られているためにこんな場所で雫の機嫌を害すれば王都は勿論、周辺の村にも立ち寄れなくなるだろう。

 

「や、やべえ…使徒様だ…に、逃げろ!」

 

そして男達の取った行動は一目散に逃走、素早い逃げっぷりに絡まれていたフェイトは苦笑いを隠せず逃げていった方向を眺める中、鞘から手を離し、雫はフェイトに声を掛けた。

 

「大丈夫ですか?何かあの2人にされましたか?」

「え、えっと…大丈夫だよ。何もされてないし」

 

雫がフェイトの身を案じて訪ねるとフェイトも危害は加えられていないことを雫に答える。

その内心では勇者の現状を探るどころかその一人と接触してしまったことに慌てていた。

 

(ど、どうしよう…八重樫さん…だったけこの人。これは顔覚えられたかも)

「(すまん、テスタロッサ…)」

「っ!(シグナム!)」

 

顔を覚えられると後々に支障をきたすかもしれない。そんなことを思うフェイトにはぐれていたシグナムからの念話が届く。

勿論、雫に念話を聞き取れるスキルなどありはしないわけで雫は首を傾げて踵を返した。

 

「それじゃあ、私はこれで、こんな裏路地に入ったら危ないですから気をつけてくださいね」

「(少しこの世界の武具に目移りしすぎた。直ぐに合流する今どこにいる?)」

「ま、待って!(シグナム、合流はまた後でいいかな?)」

 

心配の気遣いの言葉を残しこの場から去ろうとする雫を見てフェイトはこの機会を無駄にするわけにはいかないと雫に待ったをかけそれに並行してシグナムに念話で今合流するのを拒む。

 

「えっと…どうされましたか?」

「(何かあったのか?)」

「その、私この街に来たの初めてで出来れば道案内をして欲しいんですが(今、目の前に要救助者の1人がいるの出来れば町の案内にこじつけて色々情報を手に入れようと思う)」

「道案内ですか?それなら冒険者に依頼された方が…」

「(そうか、テスタロッサがそういうなら無理に止めない。だがテスタロッサの母親の件もある十分に気をつけろ)」

「実はあまりお金を持っていなくて……ギルドに道案内をしてもらうほどの報酬も持ち合わせていないんです。それに親切な人に巡り会えるかも分かりませんし…お願いします!(うん、分かってる。ちゃんと注意を払うから)」

 

必死にお願いをするフェイトに雫は後ずさりどうすべきか悩む雫。そんな中、並行してシグナムと念話をして話を付ける。

 

雫もフェイトの熱意にやられ、その上別に予定もなく町を散策していただけのためにフェイトのお願いを断れなかった。

 

「分かりました。そのお願い引き受けます。」

「ありがとう、私、フェイト・ハラオウン…あなたは?」

「八重樫雫です」

何とかこぎ着けたフェイトは微笑みながらテスタロッサの姓を伏せて名前を名乗り、雫の名前を聞くと雫も名前を名乗った。

 

 



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