[鋼の錬金術師]エルリックの三男は「男主」 (春川遥)
しおりを挟む

始まり

あの幸せな日がもう一度やってこないかと、いつも思っていた。

 

母さんの優しい笑顔、声、しぐさ。それらひとつひとつを思い浮かべて泣きそうになる。

 

でも、そんな思いももうすぐ終わりだ。

 

顔を上げる。エド兄とアル兄と目が合った。

 

 

「大丈夫だ、絶対母さんにまた会える。」

 

 

そういうエド兄の目はとてもすんでいてまっすぐだ。だからぼくはエド兄を信じれる。

 

 

「うん、大丈夫。成功するよ」

 

 

自身に対して暗示をかけるように呟いた。兄たちはこくり、と力強くうなづいてくれた。

 

 

 

 

 

ぽた、ぽた、と術式の上に三人分の血をたらす。

 

再度兄さんたちと目を合わせる。ゴクリ、と誰かののどが鳴った。

 

 

「いくぞ...」

 

 

硬いエド兄の声にあわせ錬金術を発動させる。

 

 

 

 

 

カッとまばゆい光が地下室を覆いつくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

主人公

 

名前:「ハルフェス・エルリック」

 

愛称:「ハル」「音の」

 

性別:男

 

外見:髪はエドよりは短いものの、後ろで結んでいる。金髪。金の目。

目つきは柔らかい。感情豊かな方。

パーカー系を好んで着ている。

 

備考:エルリック兄弟三男。エドワード・エルリックのことをエド兄、アルフォンス・エルリックのことをアル兄と呼び慕っている。

身長はエドと大差ない。しいて言うならばハルの方が少し小さいくらい。だが本人は気にしていない。

好きな色は緑。エドがマントを羽織っているのがかっこよかったのかどっかから調達してきて着ている。センスはいいのでかっちょいい感じの服。もちろんパーカー。

家事などは積極的にする。家族思い

それと同時に本の虫で、エドやアルよりもたくさんの知識を持っている。勘もいい。

ただし恋愛系はからっきし(らしい)

基本寝ている。ただし眠りは浅いので大きい音を出せば起きる。眠っているハルを運ぶのはアルのお役目。ハル曰く「アル兄の体はひんやりしてて冬以外は快適」らしい。

 

 

能力:得意なのは「音」を操ること。得意というか得意にならざるを得なかった感じではある。

周囲の音の波を変更することで違う音にきこえさせたり、集めて爆音、分散させて聞こえなくするとか使い道は多数。

彼が会話をするときもこの能力を使っている。

普通にエドがするみたいに地面を動かしたりもできる。等価交換が成り立てばたいてい何でもできる(あたりまえ)

 

苦手:早起き、アームストロング兄弟

 

好き:本、睡眠、ハンバーグ

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一話「鋼の錬金術師とエルリック兄弟」

バゴッ!

 

何かが壊れる音がした。それと同時に

 

 

「あーーー!!!」

 

「あ」

 

 

という聞いたことないおじさんの叫び声と気の抜けたアル兄の声が聞こえた。

 

ごそり、と身じろぎすると、かしゃりとアル兄の鎧が音を立てた。

 

 

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

 

[気にしないで..大丈夫]

 

 

眠気と欠伸を噛み殺しながら返事をする。

 

ずるずるとアル兄から降りるとエド兄が水の入ったコップを差し出してくれた。

 

 

「わりぃわりぃ、すぐ直すから」

 

「直すからってそんな...」

 

 

会話を聞き流しながら手近にあった椅子に腰掛けてコクコクとそれを飲む。

 

 

「まあまあオヤジさん、見てなって」

 

 

露店のカウンターに肘掛ながらエド兄が軽い調子で言う。

 

その下でアル兄がカリカリと錬成陣を書いている。

 

ごく、と最後の一口を飲み終えるとほぼ同時に「よし!」という声。

 

 

「それじゃ、いきまーす」

 

 

それを合図に錬成陣が怪しく光る。

 

ボ!!という音とフラッシュのような光を放ち、残されたのはきっちりと直されたラジオが1つ。

 

 

(...おみごと)

 

 

ぱちぱちと小さく拍手をする。

 

聞こえていないと思ったがアル兄には聞こえていたようだ。

 

「えへへ」と笑いながら小さくピースを返してくれる。

 

 

「こりゃ驚いた...あんた『奇跡の業』が使えるのかい!?」

 

 

おじさんが驚いた顔でそう叫ぶ。

 

思わず[なんじゃそりゃ...]と呟いた。

 

 

「ボク達錬金術師ですよ」

 

「エルリック兄弟っていえば結構名が通ってるんだけどね」

 

 

その言葉を聞いてあたりがざわつく。

 

「エルリック兄弟..?」

 

「聞いたことがある、確か兄が国家錬金術師の...」

 

 

 

 

「"鋼の錬金術師"エドワード・エルリック!」

 

「yes!」

 

 

エド兄が自慢げな顔をする。

 

でもおれはなんとなく次の展開を予想していた。

 

これまでに何度となく繰り返してきた光景を。

 

次の瞬間みんなはわっと騒ぎながら囲いを作った

 

 

____アル兄の周りに。

 

 

「あの、ボクじゃなくて」

 

 

ちょいちょい、とアル兄がエド兄を指さす。

 

民衆の視線がエド兄に向く。

 

それと同時にざわついた。

 

 

「へ?」

 

「あっちのちっこいの?」

 

 

(あーあ、エド兄の地雷踏んだなあ)

 

 

予想通りアル兄の周りに来た人達に、ちっこい、という言葉に過剰反応して

 

 

「誰が豆粒ドちびかーーーーー!!!!」

 

 

とブチ切れながら辺りのものをひっくり返すエド兄。

 

もはや一連の流れと化したその光景を眺めながらカウンターにコップを置いてアル兄のそばに寄る。

 

 

「あはは...ボクは弟の、アルフォンス・エルリックでーす」

 

 

苦笑いアル兄の後にキレ気味のエド兄が続ける。

 

 

「オレが!"鋼の錬金術師"!!エドワード・エルリック!!!」

 

 

なんとなーく両手を合わせ、それに続くおれ。

 

 

[それでおれが末っ子のハルフェス・エルリックでーす]

 

 

幸い音は周りに溢れている。錬金し放題だ。

 

 

「「し、失礼しました...」」

 

 

ひっくり返りながらそういう人達がなんだか可笑しくて、おれはくつくつ、と喉を鳴らした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話「ロゼさんと錬金」

ととと、と軽やかな足音がする。

 

ひょいとそちらを仰ぎ見れば女性が1人露店に向かって来ていた。

 

 

「こんにちはおじさん。今日はなんだか賑やかね」

 

 

楽しそうな声が場を明るくする。

 

微笑みを湛えたその顔はその人の人柄を表しているのだろう。

 

おじさんがにいっ、と笑って

 

 

「おっ、いらっしゃいロゼ」

 

 

と話しかけた。

 

 

「今日も教会に?」

 

「ええ、お供え物を。いつものおねがい」

 

 

その横でエド兄がカウンターに直りたてのラジオを置く。

 

カタ、と音を立ててラジオは定位置に戻り調子良さげに放送を続けた。

 

 

「あら、見慣れない方が...」

 

「錬金術師さんだとよ。探し物探してるそうだ」

 

「ども」

 

 

商品を詰めながらおじさんがロゼさんに受け答えする。短くエド兄が挨拶をした。

 

程なく詰め終えた商品を手にロゼさんが店を離れる。

 

くるり、と振り返って一言

 

 

「探し物見つかるといいですね。レト神の御加護がありますように!」

 

 

と笑顔で言った。

 

柔らかそうな髪が風にふわりとなびいた。

 

 

ロゼさんがいなくなった後、ふわぁ、と抑えきれなかった欠伸をする。

 

立っているアル兄によじ登り、定位置でうつらうつらとする。

 

 

「ロゼもすっかり明るくなったなあ」

 

「ああ、これも_______」

 

 

すぐに睡魔が訪れて小さく「おやすみ」と言ってくれたアル兄の声を聞きながら意識を暗闇へと落として行った。

 

 

 

 

 

わあああああ!!!

 

「教主様!」

 

「奇跡の業を!」

 

 

そんな喧騒で目が覚める。

 

 

「おはようハル。ちょっとあの人見てみてよ」

 

 

かしゃ、と鎧が鳴る。

 

アル兄が指さした先にはでっぷりとした小太りの中年の男性が1人。

 

 

男性ははらはらと舞う小さな花を手に取ると手袋のはまった手で包み込んだ。

 

ぼ!!と聞きなれた音が小さく鳴ったあと、立派な向日葵の花が男の両手に生まれた。

 

 

「どう思う?」

 

 

エド兄がこちらを見ながら小さめの声で尋ねてきた。

 

どうもこうも、答えはひとつだ。

 

 

[錬金術だねぇどう見ても]

 

「やっぱり?あの変性反応だもんねえ」

 

「だよなあ...でもそれにしては法則が...」

 

 

そこまで話したところであら、と聞いた事のある声が聞こえた。

 

 

「御三方、来てらしたのですね!どうです!まさに奇跡の力でしょう。コーネロ様は太陽神の神子です!」

 

 

キラキラとした目でそう語るロゼさんににべもなくエド兄はいう。

 

 

「いや、ありゃーどう考えたって錬金術だよ。コーネロってのはペテン野郎だ」

 

 

じと、とした目でコーネロを見ながらエド兄が言うが、ロゼさんにとってその言葉がもたらす感情はムカつき以外ないだろう。

 

助け舟をだす、という訳では無いが気になっている事を音に出す。

 

 

[でも法則無視してるんだよね、あれ]

 

「うーーーーん...それだよなあ...」

 

「法則?」

 

 

きょとん、とした顔で聞き返すロゼさん。

 

何から話すべきか、と一瞬思案して言葉を紡ぐ。

 

 

[一般人が見たら錬金術っていうのは無制限になんでも出せる便利な術だと思われてるけど、実際はちゃんと法則があるんだ。大雑把にわかりやすく言うと質量保存の法則と自然摂理の法則かな。術士の中には四大元素や三原質を引き合いに出す人もいるけど____]

 

「ストップ、ハル。ロゼさんがついてこれてないよ」

 

 

精一杯わかりやすく噛み砕いて伝えたつもりだったんだが。

 

アル兄を少し睨むと呆れたようにちょいちょいと指さす。

 

その先でロゼさんが頭から煙をあげていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話「等価交換と悪い笑み」

ぷしゅうう...と今にも音を立てそうなロゼさんにアル兄が説明を始める。

 

 

「えーっとね、質量が1の物からは同じく1の物しか、水の性質の物からは同じく水属性の物しか錬成できないってこと」

 

自分より確かにわかりやすい。

 

だけど簡単に認めるのはおれのプライドが許さない。

 

ぷう、と頬を膨らませアル兄の背中によじ登り全体重をかける。

 

流石のアル兄でもこれは重いだろう、と内心ほくそ笑む。

 

 

「もう、ハルったらー」

 

 

しかし鎧の体はそんなものではビクともしなかったようだ。

 

ぐ、と両手を握られる。

 

あ、やばい。と思い離れようともがくが1度掴んだ手をアル兄が簡単に離すはずはなく。

 

キラン、と無いはずのアル兄の目が光った気がした。

 

次の瞬間おれは宙に浮いていた...と言うより遠心力によって固定されている手以外の体が浮き上がった、と言った方がわかりやすいだろう。

 

 

「ハルたのしいー?」

 

 

腑抜けた兄の声を聞きながら絶叫したいような気分にかられる。

 

しかしそれをしたくても両手を塞がれていてはできようがない。

 

 

[〜〜〜〜〜!!!!!!]

 

 

声にならない悲鳴を上げながらしばらくアル兄のなすがままにされる。

 

しばらくおれをぐるぐると回すと満足したのか下ろしてくれた。

 

 

[何すんだバカアル兄ぃぃぃ!!!!!]

 

 

即座に手を合わせ全力で叫ぶ。

 

ケラケラとアル兄が笑っている奥でエド兄も笑っているのをおれは見逃していないからなっ...!

 

 

「まあ話を戻すとw」

 

 

笑いすぎたのか目じりの涙を拭いながらエド兄がロゼさんに言う。

 

 

「錬金術の基本は「等価交換」!何かを手に入れようとするならそれと同様の代価が必要ってこった」

 

[でもねーそれを無視してやっちゃってるのさ、あのおじさん]

 

 

エド兄に続くとロゼさんのこめかみにぴき、と何かが走った音が聞こえた気がした。

 

 

「だからいい加減!奇跡の業を信じてはどうですか御三方!!」

 

 

むきー!!という感じでロゼさんが叫ぶ。

 

それに3人苦笑いで返しているとアル兄がコソッと話しかけてくる。

 

 

「兄さん、ハル、ひょっとしてあれは...」

 

[うん、ひょっとすると...]

 

「ビンゴだぜ」

 

 

ニヤリ、とエド兄が何か企んでるふうなわるーい笑みを浮かべる。

 

その笑みのままくるっとロゼさんに向き直り、

 

 

「おねぇさん、ボクこの宗教に興味持っちゃったなあ!ぜひ教主様とお話したいんだけど案内してくれる??」

 

 

と怪しさ満点で話しかけた。

 

ロゼさんのことをおねぇさんと言ったり一人称が変わっていたり色々とツッコミどころはあるはずなのだが、ロゼさんはそんなことは露ほども気にしていないようだった。

 

寧ろ信じてくれたことが嬉しかったのかぱあ、と顔を輝かせて

 

 

「まあ♡やっと信じてくれたのですね!」

 

 

と言った。

 

おれは思わず心の中でロゼさんに謝罪をした。

 

そのままロゼさんに連れられて教会へ向かう。

 

おれは定位置のアル兄の背中に乗っかってぽかぽかとしたお日様の光が心地いいなーなんて思っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話「神の赦しと知る勇気」

アル兄に「寝ないでね?」と定期的に揺さぶられながらロゼさんに連れられて教主様の元へ向かう。

 

 

「教主様は忙しい身でなかなか時間が取れないのですがあなた方は運がいい」

 

 

ロゼさんに代わって案内してくれている男性がそういう。

 

大広間のような場所へ足を踏み入れる。

 

 

「悪いね、なるべく長話しないようにするからさ」

 

 

微塵も悪いと思ってなさそうな顔でエド兄が言う。

 

ばたん、と扉が閉じられる音。

 

部屋を薄い暗闇が包む。

 

 

「ええ、すぐ終わらせてしまいましょう....」

 

 

男性がなんだか怪しげな雰囲気を纏う。

 

アル兄にこっそり「ヤバそうだから投げて」と伝える。

 

ぐるりと男性が振り返る。

 

ニヤリ、と歪められた口元に、チャキリとアル兄の目元へ向けられた銃口。

 

 

「このように!!!」

 

 

ガン!!と鈍い音がしてアル兄の首が吹き飛ぶ。

 

それと同時におれは上へとアル兄に飛ばしてもらう。

 

おれが地面に着地すると同時にアル兄の体がぐらりと傾ぐ。

 

ドオッ!!という大きな音を立てて背中から倒れ込むアル兄。

 

ゴガラン...!とアル兄の頭が転がった。

 

そちらに気を取られていると背後に気配が2つ。

 

逃げるまもなく棒が両肩に1本ずつ添えられる。

 

ガッと首の前でクロスした棒はおれの動きを封じようとしていることは明白だった。

 

 

この状況に声をあげたのはロゼさんだった。

 

 

「師兄!何をなさるのですか!!」

 

 

アル兄を撃った男性にそう食ってかかる。

 

男性は銃を構えたままロゼさんに言葉を返す。

 

 

「ロゼ、この者達は教主様を陥れようとする異教徒の悪なのだよ」

 

「そんな!だからといってこんなことを教主様がお許しになるはず...!!」

 

「教主様がお許しになられたのだ!」

 

 

男性が勝ち誇ったように言う。

 

 

「教主様のお言葉は我らが神のお言葉...これは神の意思だ!!!」

 

 

高らかにそう言いながらエド兄へと銃を向ける。

 

エド兄は男性をキッと睨みつけたまま動かない。

 

万事休す。きっと誰もがそう思っただろう。

 

 

_______2人を除いて。

 

 

「へー____ひどい神もいたもんだ」

 

 

そう言いながらぐっと銃を持った手を握る《空っぽの鎧》____アル兄。

 

 

「んなっ...!!!」

 

 

ありえない。そう言いたげな男性。

 

そこに出来た大きな隙をおれとエド兄は見逃さない。

 

おれは軽く身を引きながら驚いたままのおれを拘束していた男達を見比べる。

 

そして細そうな方の男の鳩尾目掛けて回し蹴りを決める。

 

 

「げはっ!!」

 

 

ドスン!盛大な音を立てて男がその場へ崩れ落ちる。

 

同時にエド兄、アル兄の元でも轟音が響いた。

 

あっちも上手くやっているようだ。

 

苦しげに腹を抑え、蹲る男の背中へかかと落としを決める。

 

 

「〜〜〜〜〜っ!!!!!」

 

 

声にならない悲鳴をあげてその場に伸びた男を見て、もう1人は声を上げながら逃げ出そうとする。

 

 

「ストライク!」

 

 

そのエド兄の声の後、ちょうどいい所にアル兄の頭が飛んできたのでおれも使わせて貰うことにする。

 

アル兄の髪の毛?の部分を持ってぐるぐると回し勢いを付けて狙いを定める。

 

ぱっと手を離すと目標の場所へまっすぐと飛んでいき、がぃん!と鈍い音を立てて男にぶつかる。

 

ぐっとガッツポーズを作る後ろでアル兄が

 

 

「ボクの頭!」

 

 

と怒っていたのは聞かなかったことにしよう。

 

 

「ど、どどど、どうなってっ...!!」

 

 

ロゼさんがアル兄を指さしながら混乱状態で言う。

 

 

「どうもこうも」

 

 

エド兄が腰に手を当てながら

 

 

「こういうことで」

 

 

アル兄が自身の体を指さしながら続けた。

 

おれはアル兄の体をカンカン、と叩いてみせる。

 

それを見たロゼさんは顔が真っ青になっていく。

 

 

「なっ...中身がない...空っぽ!?」

 

 

ほい、とアル兄に頭を渡す。

 

ありがとう、と受け取ったアル兄はそれをガチ、とつけながら

 

 

「これはね、人としておかしてはならない神の聖域とやらに踏み込んだ罪とか言うやつさ

 

ボクも、兄さんも、ハルもね」

 

「エドワードと、ハルフェス...も?」

 

 

ボリボリ、とエド兄が頭を掻く。

 

 

「ま、その話は置いといて」

 

 

無理矢理な話題転換。

 

だけどそれに敢えて俺は乗る。

 

 

[神様の正体見たり、だね]

 

「そんな!何かの間違いよ!!」

 

「あーもー!このねぇちゃんはここまでされてまだペテン教主を信じるかね!」

 

 

いらだちを隠そうともせずエド兄が言う。

 

ちらり、とロゼさんを一瞥してエド兄は歩き出した。

 

 

(素直じゃないなあ、全く...)

 

 

そんなひねくれた兄のフォローをすべく両手を合わせる。

 

 

[ロゼさん。

 

真実を見る勇気はある?]



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話「教主の野望とどーでもいい」

大きな観音開きの扉。

 

おれ、エド兄、アル兄の3人でその扉の前に立つ。

 

 

「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはここか?さて...」

 

 

エド兄がそこまで言った所でぎい...と軋んだ音を立てて扉が開く。

 

...どうやらおれたちを誘っているようだ。

 

 

[「いらっしゃい」だってさ]

 

 

3人揃って部屋へ足を踏み入れる。

 

まあ予想通りバタンと扉が閉じられる。

 

 

「神聖なる我が教会へようこそ...教義を受けにきたのかね?ん?」

 

 

禿頭の杖を突いた男が階段の上から声をかけてくる。

 

その顔には嘘くさい笑みが貼り付けられていた。

 

 

「ああ、是非とも教えて欲しいもんだ...せこい錬金術で信者を騙す方法とかね!」

 

「.....さて、なんのことやら」

 

 

とぼける神父にエド兄が畳み掛ける。

 

 

「"賢者の石"使ってんだろ?例えば、その指輪がそうだったりして」

 

 

ぴく、とわかりやすく反応した神父は、しかし余裕の笑みを崩さない。

 

 

「流石は国家錬金術師、すべてお見通しというわけか

 

ご名答!!

 

伝説の中だけの代物と言われる幻の術式増幅器...我々錬金術師がこれを使えばわずかな代価で莫大な錬成を行える!」

 

「..........さがしたぜェ!!!」

 

「ふん、なんだその物欲しそうな目は!」

 

 

ずっと探してきたその石が目の前にある。

 

けど平静を取り繕う。

 

チャンスを決して取り逃さないようにしっかりと気を張る。

 

神父は語る。

 

従順な信者達を使い、死も恐れぬ最強の軍団を作るのだ、と。

 

でも正直

 

 

[そんなことはどーでもいい]

 

「どうっ...!!?」

 

 

横はいりしてきたおれに切れたのかその発言に切れたのか。

 

おそらく後者であろう。

 

おれの言葉にうんうん、と頷いていたエド兄に食ってかかる。

 

 

「我が野望を「どーでもいい」の一言で片付けるなぁ!!貴様無表情でそんなことを言うでないぞ!エドワード・エルリック!貴様...国側の...軍の人間だろが!何頷いてる!!」

 

「いやーぶっちゃけていうとさ、軍とか国とか知ったこっちゃないんだよねーオレ。

 

単刀直入に言う!賢者の石を寄越しな!

そうすりゃ街の人間にはあんたのペテンは黙っといてやるよ」

 

 

エド兄が交渉を持ちかける。

 

しかし神父はそれをすぐさま跳ね除けた。

 

そしてきさまのようなよそ者が騒ぎ立てても信じるものか、馬鹿信者共は私に騙され切っているのだから!!と叫ぶ。

 

わははは、と勝利を確信した笑いを部屋いっぱいに響かせる。

 

そこにエド兄が拍手をしながら言葉を放った。

 

 

「いやー_____流石教主様!いい話聞かせてもらったわ!

確かに信者はオレの言葉にゃ耳も貸さないだろう。

けど!」

 

 

そこまで言った所でおれはアル兄の鎧の留め具を外し、パーツを取り外す。

 

 

「彼女の言葉にはどうだろうね」

 

 

くい、とエド兄が親指でアル兄を指す。

 

その仕草につられアル兄を見るとその鎧の中には

 

_______怯えた顔をしたロゼさんがいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話「合成獣と咎人」

教主は一瞬にして焦った顔になる。

 

額にはじわりと汗が滲んでいるようだ。

 

 

「ロ、ロゼ!?一体何がどうゆう....」

 

「教主様!今仰ったことは本当ですか!!!」

 

 

涙声でロゼさんが叫ぶ。

 

 

「私たちを騙していらっしゃたのですか!

 

......あの人を蘇らせてはくれないのですかっ...!!」

 

 

ロゼさんが宗教にのめり込んだ「あの人」。

 

おれたちがもう一度会いたいと焦がれたように、きっと彼女もそうだったのだろう。

 

ありえないかもしれない。けれどわずかでも可能性があるならと縋り続けた結果がこれだ。

 

あまりにも...残酷だ。

 

 

「確かに神の代理人というのは嘘だ...しかしな?この石があればお前の恋人を蘇らせることも可能かもしれんぞ!」

 

「ロゼ聞いちゃダメだ!!」

 

 

甘い言葉。

 

アル兄がロゼさんに声をかけるがロゼさんは教主の言葉に酷く惹かれている。

 

 

[行ったら、戻れなくなるよっ....]

 

 

意味の無い言葉だとわかっても言うしかない。

 

ロゼさんがこちらを選んでくれることを願いながら声をかけ続ける。

 

 

「さぁどうした?お前の願いを叶えられるのは私だけだ。そうだろう?

いい子だからこちらにおいで?

 

さあ!!!!」

 

 

こつり....

 

ロゼさんが教主の方へ足を踏み出す。

 

 

「3人とも、ごめんなさい」

 

 

振り返ったロゼさんの顔はどこか狂気じみていた。

 

 

「それでも私にはこれしか...これに縋るしかないのよ」

 

「いい子だ...本当に...」

 

 

不気味な笑みを浮かべる教主の元へとロゼさんが歩いていく。

 

彼女にとって恋人をなくした穴を埋めてくれていたのがこの宗教なのだろう。

 

だからこそ離れられない。

 

たとえそれが悪であるとわかっても、恋人が帰ってくるかもしれないから。

 

 

「さて、では我が教団の将来を脅かす異教徒は速やかに粛清するとしよう」

 

 

そう言いながら壁に取り付けられたレバーをガコンと下ろす教主。

 

ギギギ...ガシャンという音のあと、ばしん、と何かを打ち付ける音。

 

次いで唸り声が聞こえてきた。

 

 

「賢者の石と言うのは素晴らしいものでね...こんなものでも作れるのだよ。合成獣(キメラ)を見るのは初めてかね?ん?」

 

 

ようやく見えたソイツの体は、とても普通とは言いがたかった。

 

上半身はライオン。そして下半身は蛇のような尻尾。そして後ろ足は鳥の様な足。

 

異形、という言葉がまさしく当てはまる様な存在だ。

 

 

「ひゅー」

 

「こりゃあ丸腰でじゃれあうにはちとキツそうだな...と」

 

 

合わせた両の手を地面にペタリとつけるエド兄。

 

バシィッという錬成反応の後、一振の槍が地面から現れる。

 

 

「錬成陣もなしに錬成するとは...国家錬金術師の名は伊達ではないということか!!

だが甘い!!」

 

 

ガルルゥ!!と合成獣がエド兄へ突っ込んでいく。

 

その鋭い前足の爪で槍ごとエド兄の足を切り裂く。

 

 

[エド兄っ!!]

 

 

パシンと両手を合わせる。

 

狙うは猫避けの音。

 

空気を思い切り振動させて爆音の高音を生み出す。

 

キイイイイイインッという耳が痛くなりそうな音にギャウッと情けない声を上げる合成獣。

 

 

「たかが音遊びだ!それくらいで合成獣が倒せると思うな!...それに国家錬金術師の方は足をもがれたろう??」

 

「ん?なんのこと?」

 

 

バキン!と合成獣の爪が割れる。

 

何事もなかったかのように左足を振ってみせるエド兄に教主の顔が青ざめていく。

 

合成獣が怯んでいる隙にエド兄の強烈な蹴りが炸裂する。

 

 

「あいにくと特別製でね」

 

 

合成獣はドゴッという音を立てて吹き飛ぶ。

 

その様子にますます焦った様子の教主が指示を飛ばす。

 

 

「どうした!?爪が立たぬなら噛み殺せっ!!!」

 

「グルオオオオオッ」

 

 

合成獣がエド兄の右腕へと噛み付く。

 

そしてその異常さに気づくだろう。

 

自身の自慢の牙を持ってしても噛みちぎれない人間の腕に。

 

 

「どうしたネコ野郎?しっかり味わえよ」

 

 

何度噛み付いても痛みすら感じていないような男の前にもはや合成獣はなす術はない。

 

エド兄が蹴りあげた左足がその顎に見事に決まった。

 

破けた赤色のマントを破り捨てながらエド兄が言う。

 

 

「ロゼ。よく見ておけ

 

これが人体錬成を....神様とやらの領域を侵した咎人の姿だ!!!!」

 

 

マントがなくなり顕になったエド兄の右腕には本来あるはずの肌色の手はなく。

 

鋼の義肢______機械鎧(オートメイル)がはまっていた。




アル「ボク全然出番ない...」
原作でも出番なかったしねじ込んだら変な風になりそうだったから,,,ごめん☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話「犯したものと覚悟」

だらだらと汗を流しながら教主が叫んだ。

 

 

「鋼の義肢"機械鎧(オートメイル)"...ああそうか...

鋼の錬金術師!!!!!」

 

 

その言葉にゆっくりと顔を上げ、その鋼の右手で教主を煽るエド兄。

 

 

「降りてこいよド三流。格の違いってやつを見せてやる!!」

 

 

だがしかし、教主もそんな見え見えの挑発には乗らない。

 

ただ、何かを理解したようにニヤリと笑った。

 

 

「何故こんなガキが"鋼"なんぞという厳つい称号を掲げているのか不思議でならなかったが...

そういう訳か...

 

ロゼ、この者たちはな、錬金術師の間では暗黙のうちに禁じられている「人体錬成」を...

 

最大の禁忌を犯しおったのよ!!」

 

 

教主の言葉を聞いたロゼさんの顔が大きく歪んだ。

 

そして多分おれたちは同じ記憶を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「アル!ハル!アルフォンス!ハルフェス!」

 

 

エド兄がぼくとアル兄の元へかけてくる。

 

足元に置いていた資料をぶちまけながら走ってくるもんだから、思わずぼくはエド兄に文句を言った。

 

 

「あー!エド兄散らかさないでよね!片付けるの誰だと思ってるの!」

 

 

そんなぼくにまあまあ、と笑ってアル兄もエド兄に問う。

 

 

「それで?そんなに急いでどうしたのさ兄さん」

 

 

それを聞かれるとエド兄は待ってましたとばかりにニイッっと笑った。

 

 

「これだ!この理論なら完璧だよ!」

 

 

抱えていた羊皮紙を手近な机に広げて興奮した様子でエド兄は言う。

 

それをなにそれ、という程ぼくもアル兄も馬鹿ではない。

 

 

「「これってまさか...」」

 

「そうだ!母さんを生き返らせることが出来る!」

 

 

 

 

 

 

アル兄がロゼさんに向かって言う。

 

 

「生命を創り出すことになんの疑いもなかった。やさしい...本当に優しい母さんだった。ボク達はただもう一度母さんの笑顔が見たかっただけなんだ。たとえそれが錬金術の禁忌に触れていたとしても、それだけのためにボク達は錬金術を鍛えて来たんだから...

 

錬成は、失敗だった。

 

錬成の過程で兄さんは左足を

ハルは表情を

ボクは身体を全部"持っていかれた"。

 

次に目を開けた時に見たものはこの鎧の身体と血の海の中の兄さんと、そばで蹲っているハルだった。」

 

 

 

 

 

 

何か、声を掛けたかった。

 

痛みに喘ぐエド兄に、大丈夫?と声を掛けたかった。

 

鎧になってしまったアル兄にごめんなさいと言いたかった。

 

でもぼくにできたのは口をその形にしてはくはくと空気を食むことだけだった。

 

 

「へへ...ごめんな、右手1本じゃお前の魂しか錬成できなかったよ...ああ、違うや、ハルも一緒に錬成したんだ...ごめんな、アル。オレたちじゃお前の身体を取り戻せなかった...」

 

「なんて無茶を...!!」

 

 

声が、出なかった。

 

比喩でも何でもなく、空気を震わせて兄弟に話しかけることができなかった。

 

そのことが苦しくて顔を歪めたくても、表情は1ミリとも動いてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

アル兄が続ける。

「兄さんは左足を失ったままの重症で、ハルは何を失ったかわかってないままに今度は僕の魂を兄さんの右腕とハルの声と引替えに錬成してこの鎧に定着させたんだ。後にハルが最初に失ったのは表情だって気づいたんだ」

 

「へっ...3人がかりで1人の人間を甦らせようとしてこのザマだ...」

 

[ロゼさん、人を蘇らせるってことはこういうことなんだよ..]

 

 

真実を語ったアル兄の後で茶化すように言うエド兄。

 

おれはロゼさんにこんな思いはして欲しくないから言葉を続けた。

 

 

「その覚悟があんのかアンタには!!」

 

 

エド兄が、叫んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八話「カン違いと出口」

ロゼさんがビクリと身体を震わせる。

 

教主はそれに気づいていないようだ。

 

しかしエルリック兄弟の弱点得たり、といった感じで大きな口の端を持ち上げた。

 

 

「くくく...エドワード・エルリック!!貴様それで国家錬金術師とは!!これが笑わずにいられるか!?」

 

「うっせーんだよ石が無きゃ何も出来ねぇどサンピンが!!」

 

[どサンピンってなかなか聞かないなあ...]

 

「うっせー」

 

 

堪えられなかったように教主はくっくっくと笑った。

 

そして全て悟ったかのように話しかけてくる。

 

 

「なるほどなるほど、それで賢者の石を欲するか。そうだなあ...これを使えば人体錬成も成功するかもしれんなあ?」

 

 

それがかなーりカン違いだったからおれは笑ってやろうと思って両手を合わせる。

 

 

[カン違いしないで欲しいんだけど〜...石が欲しいのは元の身体に戻るためだよ?]

 

 

最大限バカにしたような声が出せたので満足である。

 

それを聞いたエド兄が「カン違いすんなよハゲ!!」と言っていたから思いっきり噴き出したくて仕方がなかった。

 

 

「...もっとも、元に戻れるかもだけどな...!」

 

「教主さん、もう一度言う。痛い目見ないうちに石をボク達に渡して欲しい」

 

 

アル兄の言葉を聞いた教主は賢者の石をはめた手と反対に持っていた杖に触れながら言う。

 

 

「くく...神に近づきすぎ、地に堕とされた愚か者どもめ...」

 

 

ただの杖が6つの銃口を持つガトリングへと姿を変える。

 

等価交換を無視した錬金にやっぱり賢者の石ってすげーなーなんて呑気に思う。

 

 

「ならばこの私が今度こそしっかりと...」

 

 

ガシャ、と教主が銃口をおれたちに向ける。

 

ぱん、とエド兄と同時に手を鳴らした。

 

 

「神のもとへ送り届けてやろう!!」

 

 

直後。

 

ドガガガガガガッと耳が壊れそうな爆音を立てて大量の弾がおれたちに襲いかかる。

 

 

「ははははははは!!!」

 

 

教主の哄笑とガトリング音が部屋を満たす。

 

ふと教主が何かに気づいたように笑いと発砲を止めた。

 

 

「いや、オレ達って神様に嫌われてるだろうからさ」

 

[行っても追い返されちゃうと思うなあ!]

 

 

本来なら穴あきになっているはずの兄弟の前に大きな土壁がそびえ立っていた。

 

それが全ての銃弾を受け止めていたことくらい、誰が見ても明白だろう。

 

おれたちが無傷なのを察した教主は大きく舌打ちをした。

 

 

その隙にアル兄がロゼさんを抱えて教主から離れる。

 

それに気づいた教主がアル兄をガトリングで打つがアル兄にそれは通用しない。

 

 

「きゃーーーーー!!!!」

 

「あだだだだ」

 

 

悲鳴を上げるロゼさんに対してアル兄は軽い調子で背中に弾を受けていた。

 

その間におれは手を合わせてエド兄に目配せしながら壁へと駆け寄る。

 

 

「アル!一旦出るぞ!」

 

「馬鹿め!出口はこっちで操作せねば開かぬようになっておる!」

 

「ああそうかい!ハルっ!!」

 

 

エド兄の言葉を合図に手を壁にくっつける。

 

バシィッという錬成反応の後純白の小洒落た想像通りの扉が壁に現れる。

 

 

「んなぁーーー!!!!」

 

 

顎が抜けそうな程に驚いている教主を一瞥し、四人でバンと扉を開ける。

 

 

[出口がなけりゃ、作ればいい!!]

 

 

外には数人の教徒がいたが、突然のおれたちの登場に頭が回っていないようで間をすり抜けて廊下をかける。

 

途中で何回か教徒に遭遇したが、エド兄が腕を刃に錬成したり、アル兄が蹴っ飛ばしたり、おれが音で牽制したりしながら協会を逃げ回った。

 

ふとエド兄が「お?」と言って立ち止まる。

 

 

「この部屋は...?」

 

「放送室よ教主様がラジオで教義をする...」

 

 

エド兄の疑問にロゼさんが答える。

 

それを聞いたエド兄の口元がニヤリと吊り上がる。

 

多分おれの表情が動くなら同じ表情をしていたんだろうなーと思いながらそれを見ていた。




どうも作者です(唐突)
未だに一巻の途中です・・・終わるまでにどれくらいかかることやらw
なるべく原作沿いに違和感ないようやっていってるつもりですが難しい!
セリフをこっちの主人公が奪っちゃっていいものかめっちゃ悩みながら書いてます・・・
ゆるっとがんばって一日一話は更新していくつもりです
もし気が向いたらお気に入りとかしおりとか感想とか評価とかしてくださったら布団の上で悶えるんでモチベも上がるんで(多分)暇で暇で仕方なかったらしてくれると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九話「知られた野望と神の鉄槌」

[エド兄違うって!それはこっち!!〜ああもう!貸して!]

 

 

エド兄が提案してきたのは放送をジャックして教主との会話を教徒達に知らせよう、というものだった。

 

教主が来るまでにその下準備を終わらせなければならないのだが...エド兄が手伝おうとして配線をぐしゃぐしゃにする。

 

 

[エド兄はこれもってそこ座ってて!]

 

 

エド兄にスイッチを持たせ机を指さす。

 

 

「あ、ああ...すまん」

 

 

明らかにしょんぼり、という顔をしたエド兄を横目に配線をきっちりと隠しつつ完成させる。

 

あとはエド兄に任せるのだが...こんなしょんぼりした状態じゃだめか...しょうがない。

 

 

[エド兄、ここからはエド兄にかかってるんだよ!おれもアル兄もロゼさんもエド兄に期待してるからね!エド兄にしかできないんだから!]

 

 

そう言ってサムズアップ。

 

しょげていたエド兄のかおが、だんだんと上がってきて「そうかそうか...オレにしかできないか...」とニヤニヤしだす。

 

 

「よぉぉっしゃあ!兄ちゃんに任せとけ!ハル!」

 

 

それを聞いて内心ニヤリとしながらエド兄に手を振ってアル兄とロゼさんの元へ向かう。

 

ちょうどアル兄が錬成陣を書き終えていたところだった。

 

 

「あ、ハル〜兄さん大丈夫だった?」

 

[うん、なんとかしてきたw]

 

 

スピーカー代わりの鐘からじじ...とノイズが聞こえる。

 

とんとん、と足踏みの音が2回。

 

放送開始の合図だ。

 

おれは両手を合わせてそこらじゅうの音をかき集めてそれを全て鐘へと注ぎ込む。

 

隣でアル兄がロゼさんの耳を押さえてるのが見えた。

 

おれ?おれはもう耳栓詰めてるから大丈夫。

 

耳栓をしてても微かにエド兄と教主の会話が聞こえてくる。

 

程よく挑発しながら情報を教徒達にばらまけているようだ。いい調子b

 

だが次第に会話の雰囲気が怪しくなる。

 

そして教主はエド兄に襲いかかったようだ。

 

放送がぷつ、と切れる。

 

 

「あとは兄さんが上手くやってくれるはずだよ!」

 

 

アル兄がそう言ってエド兄のいるであろう方を見つめる。

 

その次の瞬間。教会が揺れ、天井からパラパラと砂埃が落ちてくる。

 

おれは慌てて3人を覆うくらいの土の箱を錬成して、2人を守ろうとした。

 

けど周りの土が全部持っていかれる。

 

多分エド兄が錬成しているんだろうと察したおれは周りにある土で最小限の壁を作った。

 

するとエド兄がいるであろう部屋のあたりから大きな神の石像が現れた。

 

石像はそのままぐらりと傾いて教会へその大きな拳を打ち付けた。

 

 

「神の鉄槌、くらっとけ!!!」

 

 

エド兄の言葉がはっきりと聞こえた。

 

爆風。瓦礫がかなりの勢いをもってあたりに散る。

 

 

(まったく、しょうがないなあ!)

 

 

自分で創り出した壁によじ登りぱん!と大きく手を合わせる。

 

そして石の飛んでくる勢いと周りの空気を錬成。

 

教会を囲う風のシェルターを創り出した。

 

飛んできた瓦礫は風に乗って上へと舞い上がり、教会中央へと落下する。

 

ゴドゴドゴドッ!!!という音と砂埃をあげながら瓦礫が1箇所へ集まったのを確認してシェルターを解く。

 

ふう、と額の汗を拭う仕草をする(実際は汗をかいてもないのだが)と瓦礫の中からエド兄が飛び出してきた。

 

 

「こんの馬鹿ハルがあああああ!!!!危うく死んじまうところじゃねえか!」

 

[いや、エド兄ならあれくらい大丈夫でしょ!]

 

「大丈夫!?兄さん!ハル!」

 

 

ぺたぺたとアル兄に身体を触られながら無事を確認され、「兄さんは勝手に行動し過ぎで街の被害をうんたらかんたら、ハルは街を守ったのはいいけど自分の身をうんたらかんたら...」と長い説教をうけ、エド兄と2人その場にしゃがみこむ。

 

 

[エド兄、結局賢者の石は...]

 

「ん?...ああ、ありゃぁハンパ物だったよ...」

 

「ハンパ物?」

 

「ああ。とんだムダ足だ。やっとお前の身体とハルの声や表情を取り戻せると思ったんだけどな...」

 

 

はー、と大きなため息を漏らすエド兄。

 

 

[アル兄はもちろんだけどおれよりエド兄の方が先でしょ...機械鎧っていろいろ大変なんだから]

 

「いやいや、ボクより兄さんとハルの方が先だろ...機械鎧は大変だし、声が出ないのも不便だろ」

 

 

3人顔を見合わせる。

 

大きなため息が3つ、廃墟となった教会で響いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話「縋るものとユースウェル炭鉱」

よっこらせ、とエド兄が立ち上がる。

 

 

「そんな...」

 

 

呆然、といった感じのロゼさんの声。

 

ロゼさんはぺたりと地面にへたりこんでいた。

 

 

「うそよ...だって...生き返るって言ったもの...」

 

 

絶望の色が伺える声に顔を顰める。

 

半身をロゼさんに向けてエド兄がいう。

 

 

「諦めなロゼ、元から_____」

 

「...なんてことしてくれたのよ...」

 

 

エド兄の言葉を遮るロゼさん。

 

ポロポロと頬を伝う涙。

 

下がり切った眉。

 

....笑っている口元。

 

 

「これからあたしは!何に縋って生きていけばいいのよ!!....教えてよ!!」

 

 

人間縋っていたものが無くなった時が一番脆い。

 

それが生きるための原動力となっていたロゼさんの喪失はさぞかし大きなものだろう。

 

だからこそ彼女はおれたちにそれを言うことで解決することはないとわかっていたとしても、おれたちを責めることしかできないのだろう。

 

おれはなにか、ロゼさんを励ます言葉がないかと模索していた。

 

そんな思考もエド兄の凛と張ったいつもの声がかき消した。

 

 

「そんな事、自分で考えろ」

 

 

こつ、こつ、とエド兄は歩いていく。

 

 

「立って歩け」

 

 

エド兄の左脚の機械鎧がロゼさんの横の土を踏みしめる。

 

 

「前へ進め」

 

 

ギシ、ザク、という音を立ててロゼさんの横を通りエド兄が歩いていく。

 

その後をアル兄と顔を見合わせ、お互い肩をすくませてから小走りでついて行く。

 

 

「あんたには立派な足がついてるじゃないか」

 

 

きっとおれとアル兄の考えは今一致していると思う。

 

 

(素直じゃないなあ兄さんは)

 

 

赤い、紅い夕日に照らされて、3人分の影が長く伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"東の終わりの街"ユースウェル炭鉱。

 

そこへ向かうための電車に乗って、席について数秒で眠りについたおれは、目覚めたら...周りが火の海だった。

 

 

(ちょぉぉぉぉっと待ったァ!?何があった!?)

 

 

取り敢えず鎮火、と両手を合わせる。

 

火が発生するには何がいるか。

 

答えは簡単。燃えるものと酸素と温度だ。

 

このうちのひとつでも無くせば火は発生しない。

 

ということで今は酸素を無くそうと思う。

 

ここは炭鉱のはずだ。だから炭素はそこらじゅうにあるはず!

 

 

(あたりの炭素と、ここら辺の酸素を錬成して二酸化炭素を発生させる!)

 

 

そしてその空気が逃げないようにレト教の街でやったみたいに風シェルターを張る。

 

そうやって錬成し続けること数分。何とか鎮火したみたいなので錬成を止める。

 

辺りを見回すとおれがいた部屋の周りは無事な部分が多く見られるが、数部屋離れた部屋は燃えてしまったようだ。

 

そしてようやくおれはここが宿屋のようなところだったことに気づいた。

 

 

「ハル!!大丈夫!?」

 

 

ガシャリガシャリと鎧を鳴らしながらアル兄がこちらへ駆けてくる。

 

 

[なんとか大丈夫。何があったのこれ?]

 

 

アル兄がこれまでの経緯をざっくり説明してくれる。

 

炭鉱の人達の様子、国家錬金術師の嫌われ様、その理由はヨキという炭鉱経営者であること、そしてエド兄が今ヨキの元に居て、この宿屋兼酒場はヨキに焼かれたのだろうということ。

 

 

[よし、そいつも同じように焼いてしまおうか]

 

 

そう言いながらパチン、と指パッチンをするとセントラルの誰かさんが思い浮かぶ。

 

 

「そういうと思ったよ...」

 

 

呆れ半分、アル兄も俺の仕草で誰かさんを思い出したのか笑い半分で返される。

 

 

「てめえそれでも錬金術師か!!!」

 

 

燃えた家の反対側で子供の声がした。

 

焼け残った壁からひょっこりと顔を覗かせてみると見覚えのある赤のコート、結われた金髪、低身長の少年__エド兄が短髪のほっぺに湿布を貼った半袖の男の子につかみ掛かられているのが見えた。

 

エド兄が何かを言って少年の父親がそれに応じた。

 

エド兄は背中を向けて炭鉱の方へと歩いていった。

 

 

[アル兄、行こう]

 

「うん」

 

 

おれたちはエド兄を追いかけた。

 

 

「兄さん!待ってよ!」

 

[エド兄、あの人たちほっとくの?]

 

「アル、ハル」

 

 

ざく、と音を立ててエド兄が立ち止まる。

 

 

「このボタ山どれくらいあると思う?」

 

 

列車には大量の悪石。

 

おれは直ぐにエド兄の意図を察する。

 

 

「?1トンか...2トンくらいあるんじゃない?」

 

「よーし今からちょいと法に触れることするけどお前ら見て見ぬふりしろ」

 

 

そう言いながらよいしょーと列車によじ登るエド兄。

 

「へ!?」と素っ頓狂な声をあげるアル兄を横目におれも列車へよじ登る。

 

 

「え!?ちょ、ハル?」

 

[どうせ共犯者になるならおれも錬成したい]

 

「ダメか?アル」

 

 

はぁ...とくぐもった大きなため息が聞こえた。

 

 

「ダメって言ったってやるんでしょ?」

 

 

アル兄のその言葉におれとエド兄は顔を見合わせる。

 

エド兄がにいっと笑ってボタ山に手をついた。

 

 

「なぁに、バレなきゃいいんだよバレなきゃ」

 

[そうそう、どっかで聞いたよ?バレなきゃ犯罪じゃないんですよって]

 

 

2人で大量の金塊を生産していく。

 

その後ろでアル兄がため息混じりに

 

 

「やれやれ、悪い兄弟を持つと苦労する...」

 

 

と言った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話「権利書とお祭り騒ぎ」

「.........あの....」

 

 

ほとんど禿げかかった頭にちょび髭。

 

ヨキという男を見て思ったのはなんかせせこましそうなひとだなあってことだった。

 

 

「炭鉱の経営権を丸ごと売って欲しいって言ってるんだけど」

 

 

エド兄が腕を組んでヨキに言う。

 

おれらの後ろには先程錬成した金の延べ棒が大量に積み上がっている。

 

ヨキの部下がそれをしげしげと眺めながら「すげ...」「全部本物...?」と声を漏らしていた。

 

 

「足りませんかねぇ?」

 

「めめめ滅相もない!!」

 

 

金に目が眩んだ様子のヨキがエド兄の言葉に瞬時に反応する。

 

手を組んでこれからの生活に心を踊らせたのかうひひ...と笑っている。

 

 

「それから...」

 

 

ちらり、とヨキがこちらを見る。

 

それに気づいたエド兄は

 

 

「ああ、中尉のことは上の方の知人にきちんと話を通しておいて上げましょう」

 

 

きらん、という効果音がつきそうないい笑顔でそういった。

 

 

「錬金術師殿!!」

 

 

だーっと涙を流しながらエド兄の手をガシッと握るヨキ。

 

はははと笑っているエド兄の隣からすっと書類をヨキに差し出す。

 

 

[金の錬成は違法なんで...バレないように「経営権は無償で穏便に譲渡した」って念書を書いていただきたいのですが...]

 

「おお!構いませんとも!では早速手続きを...

しかし、錬金術師殿もなかなかの悪ですのう」

 

 

おれから書類を受け取り小躍りしそうなヨキがほほほと笑う。

 

 

「いやいや中尉殿程では」

 

 

エド兄も何故か真似してふふふと笑っている。

 

後ろでアル兄がそれを見ながら

 

 

「たのしそうだネ...」

 

 

と小さく言っていたのをおれは聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい皆さんシケた顔ならべてごきげんうるわしゅう♡」

 

 

開いた扉の先にはユースウェル炭鉱の人々。

 

中でもエド兄に組み付いていた子は声を聞いて物凄く顔を顰めていた。

 

 

「...何しに来たんだよ」

 

 

威嚇しながら言う少年に人差し指を頬にあて巫山戯るように答えるエド兄。

 

 

「あらら、ここの経営者に向かってその言い草はないんじゃない?」

 

「てめ、何言っ...」

 

 

少年の隣にいた大人が食いついてくる。

 

その面前におれはばっと書類を見せつける。

 

 

「...これは...」

 

[ここの採掘・運営・販売その他全商用ルートの権利書ですね]

 

「なんでおめーらがこんな物もって...」

 

 

書類を睨みながら不審気に男性は言う。

 

そしてとある文字を読んだ瞬間、目を大きくかっぴらいて「あーーー!!!」と叫んだ。

 

 

「名義がエドワード・エルリックって!?」

 

「なにぃ!!?」

 

 

大きな声で告げられた衝撃の内容に周りでみまもっていた男達も思わず声をあげた。

 

その成り行きを見ていたエド兄は大きく手を広げながら宣言する。

 

 

「そう!すなわち今現在!この炭鉱はオレの物って事だ!!」

 

「「うそーーーん!!!」」

 

 

建物内にいたおれたち以外の声が重なった。

 

 

「...とは言ったものの」

 

 

ひょい、と肩を竦めてエド兄が続ける。

 

 

「オレたちゃ旅から旅への根無し草」

 

 

人差し指を額に当てながらうーん、と悩むような仕草をしたアル兄がその後を継いだ。

 

 

「権利書(こんなもの)なんてジャマになるだけで...」

 

「...俺達に売りつけようってのか?いくらで?」

 

 

リーダーのような男性__少年の父親が問う。

 

エド兄がニヤリ、と笑った。

 

 

[いやーこれは相当お高いですよ?]

 

「まあ、何かを得ようとするならそれなりの代価を払って貰わないとね?」

 

[なんてったって高級羊皮紙に金の箔押し。保管箱は翡翠を細かく砕いたものでさりげなく、かつ豪華にデザインされてる。これはかなりの職人技だねぇ...それに鍵は純金製ときたもんだ]

 

「ま、素人目の見積もりだけどこれ全部ひっくるめて...」

 

 

ごくり、と誰かの喉がなる。

 

ぴん、と人差し指を立ててエド兄が口を開いた。

 

 

「親方んトコで1泊2食3人分の料金___ってのが妥当かな?」

 

「あ...等価交換...」

 

 

少年がぽつ、とつぶやく。

 

それを聞いて少年の父親は笑った。

 

 

「はは....ははは確かに高ぇな!!!

 

よっしゃ!!買った!!」

 

「売った!!」

 

 

ばん!!

 

樽に炭鉱で鍛えられた男の腕と高級そうな羊皮紙が叩きつけられた。

 

同時にドアの開くバンという音も重なる。

 

そこには顔面蒼白の何かを持ったヨキの姿があった。

 

 

「錬金術師殿これはいったいどういう事か!!」

 

「これはこれは中尉殿。ちょうど今権利書をここの親方に売ったところで」

 

「なんですとー!!!」

 

 

コントのようにテンポのいい会話を繰り広げるヨキとエド兄。

 

 

「いやそれよりも!!」

 

 

そう言いながらヨキは手を広げる。

 

その手には石が大量に乗っていた。

 

 

「あなたがたに頂いた金塊が全部石くれになっておりましたぞ!どういう事か説明してください!」

 

 

必死の形相でエド兄に詰め寄るヨキ。

 

 

「...いつ元に戻したの」

 

「さっき出がけにハルに頼んだ」

 

 

ちら、とこちらを見てくるアル兄にピースサインを返す。

 

やれやれ、といった調子でアル兄が首を振る。

 

 

「金塊なんて知りませーん♪」

 

「とぼけないで頂きたい!金の山と権利書を引き換えたではありませんか!これはサギだ!!」

 

[いやいや...権利書は無償で譲り受けましたよ?ほら念書もありますし]

 

「はうっ!!?」

 

 

作戦にまんまとハマったヨキに対してバカだろこいつ...と内心思う。

 

 

「ぬぐぐ...この取引は無効だ!お前達、権利書をとりかえ...せ!?」

 

 

ぬう、という感じで炭鉱の方々がヨキの前に立つ。

 

あ、これはヨキ終わったなーと思いながら遠い目でおれはその光景を眺めていた。

 

そこへ

 

 

「あ、そうだ中尉。中尉の無能っぷりは上の方にきちんと話を通しときますんで。そこんとこよろしく♡」

 

 

と、エド兄が追い打ちをかける。

 

完全に意気消沈と言った様子のヨキに改めて合掌。

 

 

「よっしゃあああああ!!!酒もってこい酒!!!」

 

 

たちまち炭鉱はお祭り騒ぎの雰囲気で溢れた。

 

エド兄を中心に笑顔が広がっていく。

 

きっとユースウェル炭鉱はこれからも続いていくだろう。

 

明るい未来を見据えながら。

 

 

「親父...エドは魂まで売っちゃいなかったよ」

 

「ああ、そうだな」

 

 

おれはそんな会話を聞きながらそこら辺にあったコップの中身をぐい、と飲みほした。

 

___その後のことは覚えていない。

 

起きた時にエド兄とアル兄からもう酒は飲むなと懇願された。

 

おれは何をやらかしたんだろうか....




ようやく一巻の終わりが見えてきた!!
次話くらいから二巻突入できるかな~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十二話「ハイジャックと錬金術師」

ごとん、ごとんと列車に揺られながらがーっといびきをかきながら寝ているエド兄。

 

おれは兄のマヌケ顔を見ながら、そのほっぺをぷにぷにしていた。

 

なんもしてないのにエド兄のほっぺはもちもちだ。

 

 

「...この状況でよく寝てられるなガキ

隣のガキも余裕だな?おい」

 

 

座席に肘を掛けながらそう言う男。

 

その手には銃を持っている。

 

おれはエド兄から手を離して両手をあげ逆らう気がないことをアピール。

 

はぁ、と大きくため息をついた男は銃でエド兄をつつく。

 

 

「おい!起きろゴラ!

....この...ちっとは人質らしくしねぇかこの...

チビ!!!」

 

 

呑気に寝ているエド兄にしびれを切らして男が叫ぶ。

 

そうなのだ。じつはこの列車はハイジャックされている。

 

車内には男達が銃を持ちながら闊歩しており、軍人は両手をあげて隅っこにいる。

 

おれたち乗客は人質と言うわけだ。

 

そんな中で悠々と寝ている奴がいたらおれでもキレると思う。

 

けど男はエド兄の地雷を綺麗に踏み抜いた。

 

おれは憐れみの目を男に向けた。

 

くわ!!と目をかっぴらきドゴン!と足を鳴らすエド兄。

 

その周りにはゴゴゴゴゴと真っ黒なオーラが漂っていた。

 

 

「なんだ文句あんのかおう!」

 

 

そう言いながらエド兄の額に銃を突きつける男。

 

エド兄はギンッと銃口を睨みつけ手袋をはめた手でパン!と銃を挟みながら錬成をした。

 

バシっという錬成反応。

 

 

「うお!?」

 

 

錬成された銃口はくるりと一回転して銃口はラッパのようになっていた。

 

銃としてもう機能しなくなったそれを見て

 

 

「なんじゃこりゃあ!!」

 

 

と声を荒らげる男。

 

そこへエド兄が素早くキックを繰り出す。

 

ゴ!と音を立てて蹴られた衝撃で男の首はぐぎっと嫌な音を立てた。

 

そのままどちゃっと崩れ落ちた男。

 

その光景にああ...とアル兄が頭を抱えた。

 

 

「やりやがったな小僧」

 

ガチャ、と銃を突きつけてくる男その2。

 

 

「逆らうものがいれば容赦するなと言われている。こんなおチビさんを撃つのは気が引けるが...」

 

「まあまあ二人とも落ち着いて」

 

 

ぱし、とアル兄が男2の腕をあげる。

 

抵抗されたことに対してか鎧の身体に対してか男はビクリと身体を震わせた。

 

 

「なんだ貴様も抵抗する気...」

 

 

めしょっ

 

皆まで言わせずエド兄の膝げりが男の顔面に綺麗に決まる。

 

倒れ込んだ男2に拳を振り上げ

 

 

「だぁれぇがぁミジンコどチビかーーーーーッ!!!」

 

「そこまで言ってねェーーーっ!!!」

 

 

ボゴベゴドガっ!!!とちょっとなっては行けない音を立てながら殴りつけた。

 

 

「兄さん兄さんそれ以上やったら死んじゃうって」

 

[そうだよ情報聞き出さなきゃ]

 

 

そう言うおれたちの言葉に殴るのを止めたエド兄。

 

ぼーっとしながら胸ぐらを掴んだ男を指さす。

 

 

「て言うかこいつら誰?」

 

 

がくーっとおれとアル兄の動きがシンクロする。

 

 

 

((チビっていう単語に無意識に反応しただけか...))

 

 

ぎゅ、とキツく男達を縛り付ける。

 

 

[で?君達の構成はどうなってんの?]

 

「俺達の他に機関室に2人一等車には将軍を人質に4人。一般客者の人質は数箇所に集めて4人で見張ってる。」

 

「あとは?」

 

 

意外にも素直に吐いた男にエド兄がいい笑顔で拳を握りながら聞く。

 

...聞くというよりこれはきっと脅迫と言った方がいいだろう。

 

 

「本当にこれだけだって!本当だ!!」

 

 

まだ10人も残っていることで客室がざわめく。

 

やれやれ、とアル兄が肩を竦める。

 

 

「誰かさんが大人しくしてれば穏便に済んだかもしれないのにねぇ」

 

「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ弟よ!」

 

 

ダラダラと冷や汗を流しながらエド兄はそっぽを向いた。

 

 

[しゃーないね...エド兄上行ける?おれとアル兄は下からで]

 

「おっけー」

 

「はいはい」

 

 

がた、と車窓を開けて足をかけるエド兄。

 

 

「き....君たちは一体何者なんだ?」

 

 

乗客が恐る恐ると言った様子で尋ねてくる。

 

にぃ、と笑ったエド兄は凛と答える。

 

 

「錬金術師だ!!」

 

 

かっこつけたエド兄はそのまま足を踏み出して風圧で流される。

 

 

「うおおおお!!!風圧!!風圧!!」

 

[かっこわるー...]

 

 

慌てたエド兄を見ながらぽそりと呟いた。




今回全然進めてないな・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十三話「通信機器と焔の錬金術師」

おれは男に所持品を全部出させる。

 

そこには通信用の電話機があった。

 

着信を知らせるランプがチカチカとついているのを見て、おれは心の中でにやりとした。

 

 

「おい、定時連絡しっかりしろっつっただろ!何忘れてんだよ」

 

[すまんすまん!ところでちょっとめんどくさいことになってよー...1人応援来てくんね?]

 

「おう、了解。じゃあ俺が行くわ」

 

[すまん!サンキューな]

 

 

先程聞いた男の声を再現しながら通話を終える。

 

そしてアル兄に扉の方を指さした。

 

 

[1人来るっぽいからアル兄お願い。おれはここが襲われないように壁作っとく]

 

「おっけー」

 

 

ぱん、とあたりの鉄から壁を錬成。

 

 

「おいどうした?」

 

 

電話越しに聞こえた声だ。

 

声の元へアル兄がぬっと顔を出す。

 

 

「うっ....わあああああ!!!!!」

 

 

鎧がいきなり覗いてきたことにびびったのか大声を上げながら銃を乱射する。

 

 

「ちょっと待って...」

 

 

アル兄の言葉虚しく銃弾はギンギンギンとアル兄へ当たって跳弾する。

 

 

「跳弾して危ないよ...って遅いか」

 

「いいいでェ〜〜〜〜!!!」

 

 

弾は男の腿に跳弾し、男は呆気なく地面へ崩れ落ちる。

 

その声に反応し、奥からドタドタと足音がこちらへ向かってきた。

 

 

「おいどうし...でっ...うわあああああ!!!!」

 

 

やってきた男もアル兄に驚き銃をぶっぱなす。

 

当然跳弾し、見事に男に当たる。

 

 

[おっさんたち...バカだろ...]

 

 

ちなみに客やおれは錬成した壁の中にいたので無事だった。

 

 

[あ、そうだった]

 

 

やろうとしてたことを忘れていた。

 

ぱし、と手を合わせて列車の壁に触れる。

 

天井の方の鉄をを音が響かないような構造に組み替える。

 

これでエド兄がやりやすくなったんじゃないかと思う。

 

そして跳弾おじさん達にも通話機器を出させて

 

 

[こちら後部車両。異常なし]

 

 

と伝えた。

 

 

「了か...どうしたバルド」

 

「てめぇ...誰だ」

 

 

!?...バレたか。おれの声を再現する錬成は完璧じゃない。

 

慣れ親しんだ奴からしたら違和感があるのは当然だ。

 

完璧に再現できる声はアル兄、エド兄、ウィンリイ、ばっちゃんくらいだ。

 

 

[...なんのことだ?おれはおれだぜ?]

 

「ちっ...」

 

 

キレたのか舌打ちをし、ズガガガガっと銃を打った音がした。

 

 

「いっでェ!!」

 

 

....聞き覚えのある声がしたのはきっと気の所為だ、うん。

 

 

「上にもネズミがいやがる。見てこい。おい、電話のテメエ、そこを動くんじゃねえぞ」

 

 

わー...やらかした。存在がバレた上にエド兄のことまでバレてしまった。

 

アル兄を見やる。いつものようにやれやれと首を振ったあと

 

 

「やるしかないよね」

 

 

と指を鳴らした。実に心強い兄だ。

 

ドタドタドタっ!!二人分の足音。

 

こういうのはあんまり好まないんだけど...仕方ない。

 

 

[やめてくれ!それ以上来るなぁ!!]

 

「!?大丈夫か!」

 

 

予想以上に仲間思いのいい奴らだったみたいだ。声を真似すると銃を構え扉をぶち壊した。

 

 

「!?...だれも...いない?」

 

[ここだよ、ばーか]

 

 

被っていたマント(錬成で周りの風景と同化済み)を剥ぎ、男達の足元に袋に入れてた土をぶちまける。錬成。

 

 

「!?なんだこれ!」

 

「くそっ!!」

 

「おじさん達覚悟はできてる?」

 

 

固められた土に足を取られ、目の前にはでかい鎧。ゲームオーバーを悟った男達は顔を真っ青にさせていた。

 

 

 

 

アル兄が取り敢えずタコ殴りにした人たちを縛る。

 

 

「もう、ハルはいっつも勝手にやり始めちゃうんだから」

 

[...ごめん(´・ω・`)]

 

 

今回は完璧におれに非があるので何も言い返せない。しょんぼりとしながらアル兄の叱咤を受けていると

 

 

「ボクじゃ........かな」

 

 

ぽつ、とアル兄が呟く。

 

 

[...アル兄?]

 

「!?...なんでもない!それより兄さんは大丈夫かな!」

 

 

とても驚いた様子のアル兄を不審に思いつつエド兄が居るであろう先頭車両の方を眺める。

 

そのとき

 

 

「あーーあーー犯行グループの皆さん。機関室及び後部車両は我々が奪還致しました。残るはこの車両のみとなっております。大人しく人質を解放し投降するならよし、さもなくば強制排除させていただきますが...」

 

 

エド兄の声がアナウンスのように聞こえる。アル兄と顔を見合わせ、扉付近で構える。

 

 

「〜〜〜〜〜!!」

 

 

何か犯行グループの主格が叫んだ。それに呼応してエド兄の声が再び響く。

 

 

「あらら、抵抗する気満々?残念交渉決裂」

 

 

その言葉が聞こえた瞬間おれは扉を開けて車両を移動する。

 

 

「ちょっハル!」

 

 

怒ったようなアル兄の声に心の中で「ごめん!」と謝りながら走る。

 

ぎょっとした様子の強面の男___リーダーだろう__とバンダナをまいた男。そしてその奥に見えた錬成された水道管。

 

 

「人質の皆さんは物陰に伏せてくださいねー」

 

 

その声を聞いておれは車両で唯一あいていた客席へと飛び込む。錬成。即座に壁を作り出した。

 

ドバババババと壁の向こうで水が流れる音がする。ギリギリ間に合ったことに安堵しながら人質となっていた人たちを振り返る。

 

 

[大丈夫ですか?怪我とかしてません?]

 

「あ、ああ...妻や子供たちは無事だ...」

 

[あ、旦那さんは怪我してますねちょっと見せてください。応急処置位はできますから]

 

 

おれが旦那さんにきゅ、と包帯を巻いたと同時に壁の向こうでドガン!!と轟音が響いた。

 

 

 

 

「や、鋼の」

 

 

久々に聞く声に振り向くといい笑顔のロイさんが居た。

 

 

「あれ、大佐!こんにちは」

 

[ども、ロイさん]

 

 

おれとアル兄に「や」と片手をあげ、変な顔をしているエド兄を見てにや、とするロイさん。

 

 

「なんだねその嫌そうな顔は」

 

「くぁ〜〜〜〜〜大佐の管轄ならほっときゃよかった!!」

 

 

エド兄のロイさん嫌いは相変わらずのようだ。

 

2人の戯れを聴きながらおれとアル兄は後ろで控えていたホークアイさんに挨拶をする。

 

 

「ホークアイ中佐もこんにちは」

 

[お久しぶりですホークアイさん]

 

「アルフォンス君、ハルフェス君、こんにちは。久しぶりね」

 

 

ホークアイさんはかなりの美人さんだと思う。きりっとした目に結い上げた金髪。端正な顔立ちに男性なら魅入ってしまうだろう。

 

 

[最近どうですか?東方は]

 

「いろいろなことがおこってるわよ?あなた達が興味を持ちそうなことといえば...」

 

 

世間話に花を咲かせようとしたその時。

 

 

「うわぁ!!」「貴様...ぐぁっ!」

 

 

ただ事では無い声がする。

 

声を見やると先程捕まえられた男が仕込みナイフを手に軍の方を切り付けたところだった。

 

ちゃき、とホークアイさんが銃を構える。

 

 

「大佐。お下がりくだ...」

 

 

それをロイさんは手で制する。

 

 

「これでいい」

 

「おおおおおお!!!!」

 

 

刀を構え突進してくる男。

 

その男に向けてロイさんはぐっと指元に力を入れ、

 

パチン、と指を鳴らした。

 

発生した火花はヂッと空気を伝い、男の眼前でボッと大きな火球へ変わる。

 

ゴオッと凄まじい熱が男の傍で弾ける。

 

あれを受けたくはないなあ...

 

 

「手加減しておいた。まだ逆らうと言うなら次は消し炭にするが?」

 

「ド畜生め..てめえ何者だ!!」

 

「ロイ・マスタング。地位は大佐だ。そしてもうひとつ。

「焔の錬金術師」だ。覚えておきたまえ」

 

 

ロイさんのドヤ顔がやけに輝いていた。




ようやく一巻が終わった!!!!!!!
次回から二巻の内容に入っていきます!展開がカメさんですね、語彙力、表現力が欲しい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十四話「喋る合成獣とおおきなわんちゃん」

「今回の件で1つ貸しができたね大佐」

 

 

にやりーん☆という雰囲気でエド兄がいう。

 

ここは軍の施設の中。ロイさんの部屋でおれたちは革張りの椅子に腰掛けている。

 

窓の外を見ていたロイさんはきい、と椅子を軋ませこちらを見やる。

 

 

「...君に借りを作るのは気色が悪い」

 

 

手を組みながらそういうと大きくため息をついた。

 

 

「いいだろう何が望みだね?」

 

「さっすが♪話が早いね!...この近辺で生体錬成に詳しい図書館か錬金術師を紹介してくれないかな」

 

「今すぐかい?せっかちだな全く」

 

[ロイさんはおれたちとゆっくりしたいの?]

 

 

純粋に疑問だったので首を傾げながら問う。

 

くくく、と苦笑したあと言う。

 

 

「まぁお茶の1杯くらい付き合ってくれてもいいじゃないか」

 

 

...お茶するのは別にいやじゃないんだけどね。

 

 

「オレ達は1日も早く元に戻りたいの!!」

 

「ええと..たしか...ああこれだ」

 

 

エド兄を無視して資料を漁るロイさん。

 

そして1枚のプロフィール資料をおれ達の前に差し出した。

 

 

「合成獣(キメラ)錬成の研究者が市内に住んでいる。「綴命の錬金術師」ショウ・タッカー。2年前に人語を使う合成獣の錬成に成功して国家錬金術師の資格を取った人物だ。」

 

「人語を使うって...人の言葉を喋るの!?合成獣が?」

 

 

タッカーさんの紹介で気になったところをエド兄が聞いてくれた。

 

いくら合成獣とはいえ、そんなに高い知能を有する合成獣がいるのかとその話をもっと聞いてみたくなった。

 

もとより動物は好きな方だ。合成獣というものの作られ方的にあまり好みはしないが人語を理解するなら喋ってはみたいし、実物を見てみたい。

 

そんな好奇心からロイさんの話に耳を傾けていると衝撃の事実を知った。

 

 

「そのようだね。私は実物を見てはいないのだが、人の言うことを理解し、そして喋ったそうだよ

ただ一言...「死にたい」と」

 

 

ひゅ、と息を吸う。なぜ、その合成獣はそう思ってしまったのだろうか。

 

人語を理解できるから好奇の目に晒されることが嫌だったのか。それとも...

 

 

「その後エサも食べずに死んだそうだ。...まあとにかくどんな人物か会ってみることだね」

 

 

 

 

カランカラン、とロイさんが呼び鈴を鳴らす。

 

タッカーさんのお家は想像以上に大きく、おれはあんぐりと口を開けて屋敷を見ていた。

 

ガサッ

 

ふと茂みから音が聞こえた。振り返ると目の前に壁があった。...壁?

 

違和感を感じるがそれを脳が処理する前にその壁が迫ってくる。

 

 

「ふんぎゃああああああ!!!!」

 

 

隣にいたエド兄も巻き込んでその壁はおれたちを下敷きにした。

 

へっへっへっへという呼吸音。人より少し高めの温もり。

 

...おれが壁だと思ったそれは、大きなわんちゃんだった。

 

 

「こら、ダメだよアレキサンダー」

 

「わぁ!お客さまいっぱいだねお父さん!」

 

 

優しげな大人の男性の声と幼げな女の子の声。

 

壁..もといわんちゃん...もといアレキサンダーから抜け出したおれは2人にぺこりと頭を下げた。

 

 

「いや申し訳ない。妻に逃げられてから家の中もこの有様で...」

 

そう言いながらタッカーさんがお茶を出してくれる。

 

その言葉通り家の中は瓶や資料が散乱し、埃を被っていた。端の方では蜘蛛の巣が張っている様子まである。

 

 

「改めて、初めましてエドワード君。綴命の錬金術師、ショウ・タッカーです」

 

 

手を組みながら優しげな表情で話しかけてくれるタッカーさん。

 

ロイさんがタッカーさんに生体錬成の資料を見せて欲しいと頼んでくれる。

 

ええ、構いませんよ、と笑ったあと表情を変える。

 

 

「でも人の手の内を見たいと言うなら君の手のうちも明かしてもらわないとね。それが錬金術師と言うものだろう。

...なぜ生体の錬成に興味を?」

 

「あ、いや...彼は」

 

弁護しようとしてくれたロイさんを手で制すエド兄。

 

 

「タッカーさんの言うことももっともだ」

 

 

そう言いながら真紅のマントを脱ぐ。

 

エド兄の鋼の義肢が露わになる。

 

ぎょっとした顔のタッカーさんにエド兄はあの日のことを淡々と語る。

 

 

「そうか母親を..辛かったね」

 

 

他言無用で、というロイさんに頷き、タッカーさんはおれたちを研究室へと案内してくれた。

 

薄暗いそこには大量の合成獣達がいた。

 

そのどれもが、異形の姿をとっている。ガシャンガシャンと檻を揺らす姿は、見ていて気持ちの良いものではなかった。

 

 

「いやお恥ずかしい。巷では合成獣の権威なんて言われているけど実際のところそんなにうまく入っていないんだ」

 

 

 

ぽりぽりと頭をかきながらタッカーさんが語る。その向こうの扉を開けながらこちらを振り返る。

 

 

「こっちが資料室」

 

「おー!」

 

 

ぎいい、と開けられた扉の先にはまるで図書館のような大量の本棚と散乱した資料たち。

 

 

[すげぇ...]

 

 

手近にあった資料を手に取る。そこに書いてある未知の世界へ、おれは直ぐに誘われて行った。




思ったんですけどハガレンってもう完成されており主入れるのってめちゃくちゃ難しくないですか・・・?やべえ何でやろうと思ったんだろう・・
・・・頑張って続けます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十五話「ニーナちゃんと無表情」

ばう!!

 

アレキサンダーの声が間近でして、おれははっと顔をあげる。

 

覆いかぶさってくるアレキサンダーを撫でながら時計を見るともう随分と時間がたってしまっていた様だった。

 

集中すると周りが見えなくなるくせをどうにかしなきゃ行けないな...と思いながらエド兄とアル兄の姿を探す。

 

しかしその姿は見つからない。

 

 

(あれ...?どこいったんだ兄さん達)

 

 

ぽりぽりと頭をかくとアレキサンダーが後ろから小突いてきた。

 

 

[おまえ、兄さん達がどこへ行ったか知ってるかい?]

 

ばう!!

 

 

ひと鳴きして駆け出すアレキサンダー。

 

ずっと資料を読んでいて体が凝っているしちょうどいい、アレキサンダーと遊ぼうと思いそのあとを追いかけた。

 

アレキサンダーは中庭へと走っていってる様だった。途中でおれがついてきてるかを確認するように立ち止まり、ついてきてることが分かるとばう!と吠えてまた駆け出す。

 

賢いこのわんちゃんとのかけっこが楽しくなってきたところで目的地に到着したようだ。

 

中庭ではタッカーさんの娘さん___ニーナちゃんとアル兄、エド兄がきょろきょろと何かを探している様子だった。

 

 

「あー!!」

 

 

大きな声をあげ、こちらを指さすニーナちゃん。

 

その顔には満面の笑みが称えられていた。

 

 

「アレキサンダーみーつけた!!」

 

 

どうやら3人と一匹はかくれんぼをしていたようだ。ニーナちゃんはこちらへかけてきてアレキサンダーへ抱きついた。

 

 

「お兄ちゃんも一緒に遊ぶ?」

 

 

キラキラとしたかわいい笑顔を向けられたら断る訳には行かない。指でOKサインを出すとニーナちゃんはおれの手を引っ張ってエド兄とアル兄の元へ引っ張っていく。

 

 

「お兄ちゃんも一緒に遊ぶって!」

 

[エド兄もアル兄も研究資料はいいの?]

 

 

ニーナちゃんの言葉に続けて言うと二人ともスっと目を逸らし口笛を吹き始める。...全くこのふたりは...

 

ばう!!

 

そんなおれにアレキサンダーがのしかかってくる。わしゃわしゃと撫でてやるともっと撫でろとばかりに頭を擦り付けてきた。

 

しばらく撫でてやると満足したのかぱっと駆け出した。どこへ行くのかと見守っていると地を蹴り跳躍。そのままエド兄へと覆いかぶさった。

 

 

「あはははは!!」

 

 

アレキサンダー下でぺちゃんこになったエド兄を見てニーナちゃんは楽しそうに笑う。

 

 

「こんの犬畜生めーー!!!」

 

 

キレたエド兄がアレキサンダーを追いかける。

 

呆れながらそれを見ているとくい、と袖を引っ張られた。ニッコリと笑うニーナちゃん。

 

 

「お兄ちゃんも一緒に追いかけよ!」

 

 

そう言っておれの手を引く。抵抗する気も起きないのでそのまま引っ張られていくとエド兄とアル兄がアレキサンダーに翻弄されていた。

 

思いっきり笑ってやりたかったけど片手を掴まれてるのでできない。残念。

 

 

「ねえ、お兄ちゃんはなんで笑わないの?」

 

 

きょとん、とした顔のニーナちゃんが視界いっぱいに広がる。顔の近さに後ずさるとすかさず距離を詰めてくる。ぎゅ、といっそう強く袖口を握りしめてくるものだから声を発せれないし、エド兄とアル兄はアレキサンダーと遊んでいる。

 

...どうしよう

 

 

「お兄ちゃん楽しくない?」

 

 

その問いにブンブンと頭を横に振る。ふわ、と安心したように笑うニーナちゃん。

 

その間に近くにあった木の棒を手繰り寄せて、おれは地面に文字を書く。

 

ニーナちゃんはそれをじー...と見つめている。

 

 

[ニーナちゃんはおれたちと遊ぶのたのしい?]

 

「うん!最近アレキサンダーとばかり遊んでたからお兄ちゃんたちが一緒に遊んでくれるの新しくて楽しい!」

 

[おれが笑わないの気になった?]

 

「うん...楽しくないのかと思っちゃった...」

 

[おれはね、ニーナちゃん]

 

 

そこまで書いてふと手を止める。心配そうに覗き込んできたニーナちゃんにこれをこの子に言ってもしょうがないな、と思い地面を均す。

 

 

[おれは表情に出すのが苦手なんだ。それに声が出ないから間違われやすいけど、ニーナちゃんと居れてすごく楽しいよ]

 

「...そうなの...ねえ、お兄ちゃんたちってまだお家くる?」

 

[多分今日中には終わんないだろうから明日も来ると思うよ]

 

「そしたら...またあそんでくれる?」

 

不安げにこちらを見るニーナちゃん。その頭を撫で、

 

 

[もちろん]

 

 

と書く。ニーナちゃんはぱあ、と華が咲いたような笑顔を見せてくれた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十六話「人の命と雨の日」

「よぉ大将、迎えに来たぞ」

 

[あ、ハボックさん、こんにちは]

 

 

タッカーさんに連れられてタバコをふかした軍服の男性がこちらへやってくる。ロイさんの部下のハボックさんだ。人の良さそうな笑顔を浮かべ、「よっ」と手をあげて答えてくれる。

 

 

「...大将はなにやってんだ?」

 

 

ハボックさんの視線がアレキサンダーとニーナちゃんにぺちゃんこにされているエド兄に向けられる。「ああああうう」とエド兄が唸っている。

 

がばっと顔をあげたエド兄が焦った顔で

 

 

「いや、これは資料検索の合間の息抜きというかなんと言うか!」

 

 

と弁明を始める。

 

 

「で、いい資料は見つかったかい?」

 

 

タッカーさんの言葉に顔を青くして冷や汗を垂らすエド兄。ばう、とアレキサンダーの手がエド兄の頭に乗せられた。うらやましい。

 

 

「....またあした、来るといいよ」

 

 

タッカーさんの言葉にエド兄はこくこくとうなづいた。

 

 

[すみません、お世話になります]

 

「お兄ちゃんたちまた来てくれるんだよね?」

 

「うん、また明日遊ぼうね」

 

 

タッカーさんに頭を下げている後ろで微笑ましい会話が繰り広げられている。アル兄は小さい子や動物と接している時はなんだかほわほわしたオーラを纏う気がする。

 

ニーナちゃんとアレキサンダーにばいばい、と手を振り帰路につく。

 

 

[ニーナちゃんもアレキサンダーもいい子だね]

 

「ニーナはともかくあの犬畜生は...次こそ見つけてやるっ...」

 

「ボクらに妹がいたらあんな感じなのかなー」

 

「アル...実はずっと言わなきゃと思ってたんだがな...お前の頭は妹の魂が定着してるんだ...」

 

[オニイチャーン(高音)]

 

「タチの悪い冗談やめて!?ハルも悪ノリしないの!!」

 

 

3人茶番を繰り広げながら茜色の道を歩く。アル兄にもー!!と怒られ、エド兄と顔を見合わせ駆け出す。ガシャガシャと鎧がなる音とエド兄の笑い声、ハボックさんの慌てた声と4人分の足音が茜の街に響いた。

 

 

 

 

ペラリ....ぺらり...

 

次の日。タッカーさんのお屋敷にお邪魔しまた研究資料を見せてもらっていた。

 

昨日と違うのは書庫にニーナちゃんとアレキサンダーがいることか。

 

ペラリ...ペラリ...

 

(にしてもこの資料数は本当にすごい。これだけの知識が全て頭に入っているなら人語を理解する合成獣を作ることも可能なのだろうか。まずそれだけの脳は、神経回路などはどこから持ってきているのだろう。チンパンジーやゴリラなどが人間に似てるとは言われているが...)

 

 

「ばう!!」

 

 

ハッと顔をあげる。アレキサンダーとニーナちゃんがこちらを覗き込んでいた。

 

 

「お兄ちゃん、一緒に遊んでくれる?」

 

 

入口付近には腕を組んでドアにもたれかかっているエド兄と今しがたドアノブに手をかけるアル兄が見える。

 

ちら、とエド兄を見ると

 

 

「オラ、犬行くぞ!」

 

 

と言ってアレキサンダーを呼び寄せる。

 

アレキサンダーはばう!とひと鳴きしてエド兄の方へかけて行った。

 

 

[ニーナちゃん、おれたちもいこう]

 

 

そうニーナちゃんに声をかけるとにぱっと笑って「うん!」とうなずいてくれた。

 

 

 

 

ゴロロロロ...

 

遠くで雷鳴がする。すん、と鼻を鳴らすと独特の雨の匂いがどこからか漂って来ていた。

 

 

「今日は降るなこりゃ」

 

 

カランカラン...

 

アル兄がタッカー邸の呼び鈴を鳴らす。

 

それからぎぃ、と扉を開けた。

 

 

「こんにちはー、タッカーさん今日もよろしくお願いします...あれ?」

 

 

いつもならアレキサンダーが真っ先に飛び出してきて、その後にニーナちゃんやタッカーさんが来てくれている。何も返事のない館に、言い表し用のない不安感が募る。

 

 

「誰もいないのかな」

 

「タッカーさん?」

 

 

不信感を抱きながらもスタスタと入っていく。2日間ですっかり見慣れた館を、住人の名を呼びながら歩く。

 

 

「タッカーさーん」

 

「ニーナ?」

 

[アレキサンダー?]

 

 

歩き回っていると半開きの扉があった。ちらりと見えた室内にはタッカーさんの姿があった。

 

 

「なんだ、いるじゃないか」

 

「ああ、君たちか」

 

 

エド兄が声をかけるとゆったりとした仕草でこちらを振り返るタッカーさん。

 

その足元でナニカが動いているのが見えた。

 

 

「見てくれ、完成品だ」

 

 

そう言いながらタッカーさんはその足元のナニカをこちらにはっきりと見せてくれる。

 

タッカーさんの背丈の半分ほどの犬のようなシルエット。普通の犬より長い毛はまるで髪の毛のようだった。

 

 

「人語を理解する合成獣だよ」

 

 

ぱた、とその長い毛のしっぽをソレは揺らした。

 

 

「見ててごらん、いいかい?この人はエドワード」

 

 

合成獣に向き直りタッカーさんが語りかける。

 

きょとん、と言う感じで小首を傾げた合成獣は

 

 

「えど、わーど?」

 

 

とタッカーさんの言葉を復唱した。

 

 

[すごい...本当に理解して喋ってる...]

 

 

よしよし、と合成獣の頭を撫でるタッカーさん。ふう、と安心したようにため息をつく。

 

 

「あー...査定に間に合って良かった。これで首が繋がった。また当分研究費用の心配はしなくていいよ」

 

 

ごきごきと首を鳴らし、タッカーさんはそう言った。

 

エド兄と2人合成獣の元へ近づく。

 

 

「えど、わーど....えど、わーど」

 

 

合成獣は先程の言葉を繰り返していた。

 

(本当にすごいな...これはきっとあれだけの知識を持ったタッカーさんだからこそできたんだろう。でも...何と等価交換したんだろう...)

 

何かヒントを得られないものか、と合成獣を見る。相変わらず合成獣は言葉を繰り返している。

 

 

「えど、わーど...えど、わーど...お、にぃ、ちゃ」

 

 

...は?

 

今、なんて言った?

 

 

エド兄のことを、お兄ちゃんと呼ぶのは、

 

この家に、今居ないのは、

 

瞬間。おれは全て理解した。理解して、顔をくしゃりと歪めたかったのに表情はピクリとも動かない。

 

同時に力が抜ける。がく、と膝から崩れ落ちると、目の前に合成獣____ニーナちゃんとアレキサンダーがいた。

 

ぎゅ、と1人と一匹を強く抱きしめる。とくとく、と近くで鳴る心臓の音が、肌で感じる体温が、これが夢でないと嫌なくらいハッキリと伝えてくる。

 

 

「タッカーさん」

 

 

隣にいるエド兄が酷く冷たい声でタッカーさんを呼んだ。

 

(きっとエド兄も気づいてしまった)

 

おれは彼らを抱く力をいっそう強くする。

 

 

「人語を理解する合成獣の研究が認められて資格とったのっていつだっけ」

 

「ええと...2年前だね」

 

「...奥さんがいなくなったのは?」

 

「......2年前だね」

 

「もひとつ、質問いいかな」

 

 

ギロリ、とエド兄がタッカーさんを睨みつける。

 

 

「ニーナとアレキサンダー、どこに行った?」

 

 

それは今までに聞いたことがないくらい冷たい、怒りの声。

 

かしゃ、と鎧の音がする。アル兄にも伝わったようだった。

 

タッカーさんはこちらを振り返る。窪んだ目元、不機嫌そうな口元、メガネの奥に見える狂気の目。

 

 

「.....君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 

ガッ!!!ゴン!!!

 

そう言い放ったタッカーさんの襟元を掴んだエド兄はそのまま壁へと体を投げる。

 

 

「かはっ」

 

「兄さん!!」

 

「ああ、そういう事だ!!!この野郎...やりやがったなこの野郎!!2年前はてめぇの妻を!!そして今度は娘と犬を使って合成獣を錬成しやがった!」

 

 

ずっと感じていた違和感。これほどの知性が、どこからか生まれて来ているのだろうと。答えは本当に簡単で、単純で、....残酷なものだった。

 

 

「そうだよな、動物実験にも限界があるからな!!人間を使えば楽だよなあ!!ああ!?」

 

 

ぎりぎりとタッカーさんの襟元をつかみ壁に押し付けるエド兄。おれがしたいことを、エド兄はいつもしてくれる。おれはいま、そんな表情でその親父を同じようにとっちめてやりたい。何もできない悔しさが、抱きしめる力を自然と強くしてしまう。

 

 

「は...何を怒ることがある?医学に代表される用に人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう?君も科学者なら...」

 

「ふざけんな!!こんなことが許されると思ってるのか!?こんな...人の命を弄ぶようなことが!!」

 

「人の命!?はは!!そう、人の命ね!鋼の錬金術師!君のその手足と弟達!それも君が言う"命を弄んだ"結果だろう!?」

 

 

ゴッ!!

 

鈍い音。かしゃん、とメガネが飛んで床に落ちる。エド兄に殴られたタッカーさんは、しかし笑みを浮かべて言う。

 

 

「ははは...同じだよ、君も、私も!!」

 

「ちがう!!」

 

「違わないさ、目の前に可能性があったから試した」

 

「ちがう!!」

 

「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!」

 

 

ゴッ!!

 

再びエド兄が殴る。

 

 

「ちがう!!」

 

 

悲痛な声を上げ、鋼の右腕でタッカーさんを殴り続ける。

 

 

「オレたち錬金術師は....こんなこと....オレは...オレは...!!!」

 

「兄さん、それ以上やったらしんでしまう」

 

 

ガシ、とアル兄がその拳を掴む。

 

肩で息をするエド兄は、その言葉に我を取り戻したようだった。

 

ぎり、と歯を鳴らしタッカーさんを離す。

 

ずる、と壁をずり落ちたタッカーさんは口の端をあげた。

 

 

「はは...きれいごとだけでやっていけるかよ」

 

 

ぱん!!

 

おれは両の手を合わせる。タッカーさんの周りの空気を薄くすると途端にタッカーさんの顔が青くなる。

 

 

「タッカーさん」

 

 

同時に、アル兄が声をかける。

 

 

「それ以上喋ったら、今度はボク達がブチ切れる」

 

 

錬成を止める。タッカーさんはぜえはぁ、と苦しげに息を吐いた。

 

 

「ニーナ」

 

[アレキサンダー]

 

「ごめんねボク達の今の技術では君達を元に戻してあげられない」

 

[ごめんな...]

 

「ごめんね...」

 

 

ぎゅ、ともう一度抱きしめる。

 

 

「あそ、ぼう...あそぼうよ、あそぼうよ...」

 

 

ざああああああああ、という雨の音が、やけに大きく聞こえた。

 

 

 

 

ざぁざぁと雨は降り続く。とどまるところを知らないその雨に晒した体は濡れ、冷たくなっていく。

 

体育座りで階段に座っているおれたちは、何も話さずただ雨に打たれていた。

 

(おれは、何故あの時気づけなかったんだろう。確かな疑問があったなら、いつものように探求すればよかった。なんで...なんでおれは...)

 

カッカッという足音が上からする。

 

 

「そうだろう、鋼の。いつまでそうやってへこんでいる気だね」

 

 

足音の持ち主のロイさんは、そう声をかけた。

 

 

「....うるさいよ」

 

 

普段は絶対に賛成しないけど、今だけはその意見に賛成だ。すこし、放っておいて欲しい。

 

 

「軍の狗よ悪魔よとののしられてもその特権をフルに使って元に戻ると決めたのは君自身だ。これしきのことで立ち止まっているヒマがあるのか?」

 

「「これしき」....かよ」

 

 

ぎり、と歯噛みが聞こえる。

 

 

「...ああそうだ狗だ悪魔だとののしられてもアルとハルと3人元の体に戻ってやるさ。だけどな、オレ達は悪魔でもましてや神でもない...」

 

 

エド兄が立ち上がる。ぱしゃり、と足元の水たまりが音を立てた。

 

 

「人間なんだよたった1人の女の子さえ、たった一匹の犬でさえ助けてやれない...ちっぽけな人間だ...!!!」

 

「...カゼをひく、帰って休みなさい」

 

 

そういってロイさんは去っていった。

 

 

[...帰ろう、エド兄、アル兄。もうあんなことが起きないように、おれらはもっと変わらなきゃいけない]

 

「...おう」

 

「...うん」

 

 

雨の日が、嫌いになりそうだった。




ん~。。。難しい,,,今回かなり長いですね、通常の二話分です。二時間分です疲れた。
本編で少し違和感だったアレキサンダーが忘れ去られてるのを追加しちゃいました。ニーナもかわいそうだけど同じくらいアレキサンダーもかわいそうだと思うんです。
変なとこが出てきちゃってるかもですが、もし何か違和感あったら教えてください。
前に言ったようにハガレンにおり主はマジでむずいので...


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十七話「どうにもならないことと褐色の男性」

ポツポツと雨が体に当たる感触。うっすらと目を開ける。見慣れた鉄の身体が目の前にあった。

 

 

[....アル兄]

 

「ハル」

 

 

ゆっくりと手を合わせる。帰ってきたのは硬い声だった。

 

 

[...どしたの?]

 

 

おれの言葉に微かに俯くアル兄。背中から降り、アル兄とエド兄を見る。昨日よりも悲愴の色が見えるエド兄の表情に、何かがあったと確信する。

 

 

[なにが、あったの?]

 

 

エド兄が口を開く。だが直ぐに閉じ、唇を噛み締めた。カシャ、とアル兄が顔をあげる。

 

 

「...タッカーさんとニーナとアレキサンダーが...殺されたって....」

 

[....っ!!]

 

 

語られた事実。彼らが、死んだ?しかも...殺された?

 

 

[誰に!!]

 

 

生きていて欲しかった。もしかしたら直せる方法があるかもしれなかった。もう一度彼女と彼に会えるのだったらおれは寝る間も惜しんで研究をしていただろう。

 

そんな可能性すら、神は与えてくれなかったらしい。信仰している神などいないが、創造した神様はいるはずだ。酷い仕打ちをしてくれる。

 

 

「わからない」

 

 

そう首を振ったアル兄は時計台の下に座り込んだ。その横に、エド兄も座る。

 

悔しくて、悔しくてたまらない。今すぐ暴れ回りたいくらいだが、それをしたって意味が無い。

 

おれは大人しくアル兄の横に腰を下ろした。

 

 

「兄さん」

 

 

アル兄がエド兄に声をかける。今まで一言も発さなかった兄は、俯いたまま反応した。

 

 

「ん?ああ...なんだかもういっぱいいっぱいでさ、何から考えていいかわかんねーや」

 

 

エド兄にしては珍しい、弱気な発言。微かに見えた横顔には、自嘲気味な笑みが浮かんでいた。

 

 

「...昨日の夜からオレ達の信じる錬金術ってなんだろう...ってずっと考えてた」

 

「...『錬金術とは、物質の内に存在する法則と流れを知り分解し、再構築すること』」

 

[『この法則にしたがって流れ循環している。人が死ぬのも、その流れのうち』]

 

「『流れを受け入れろ』....師匠(せんせい)にくどいくらい言われたっけな...わかっているつもりだった」

 

 

エド兄がぎゅ、と拳を握る。

 

 

「でもわかってなかったからあの時...母さんを...」

 

[...今も、おれはどうにかならないことをどうにかできないかと考えちゃってるよ...]

 

「オレもだ」

 

 

ぐるぐると頭の中で繰り広げられる人体錬成の術式。おれはすぐにそれが出てくる自分が恨めしくて仕方がなかった。

 

エド兄は膝を抱え、縮こまる。

 

 

「オレはバカだ。あの時から少しも成長しちゃいない」

 

 

はぁ...と大きくため息をついてどんよりとした空を見上げるエド兄。

 

 

「外に出れば雨と一緒に心の中のモヤモヤした物も少しは流れるかなと思ったけど、顔に当たる1粒さえも今はうっとうしいや」

 

「でも...肉体がないボクには雨が肌を打つ感覚もない。それはやっぱりさびしいし、つらい」

 

 

アル兄の話を聴きながらふととある夜のことを思い出す。廊下でしゃがんでいたアル兄に眠れないのかと声をかけると寂しげに笑って言った「寝れないんだ」という言葉。アル兄は、あれから何度独りの夜を過ごしたのだろうか。

 

カシャリ、と鎧の手を握りしめるアル兄。

 

 

「兄さん、ハル、ボクはやっぱり元の身体に...人間に戻りたい。たとえそれが夜の流れに逆らうどうにもならないことだとしても」

 

[...アル兄も、エド兄も、きっと元に戻してみせる。おれは確かに戻れたら嬉しいけど戻れなくてもこうして会話もできるし、声を変えれば感情だって表現出来る。アル兄やエド兄のそれは、どうにかして戻してみせる]

 

「ハル...」

 

「...それじゃ、だ...」

 

「あ!!いたいた!エドワードさん!」

 

 

何かを言いかけたエド兄を遮って軍服の青年が声をあげ、こちらへかけてくる。

 

 

「ああ、無事でよかった!捜しましたよ」

 

「なに?オレに用事?」

 

「至急本部に戻るようにとの事です。実は連続殺人犯がこの...」

 

 

かつ、と青年の後ろに褐色の男性が立つ。誰だろう、と見上げる。

 

 

「エドワード・エルリック...鋼の錬金術師!!」

 

 

殺気。全身にぶわっと鳥肌が立つ。こいつは、ヤバいやつだ、と脳が警鐘を鳴らす。

 

 

「!!額に傷の...」

 

 

青年は腰の銃を構えようとする。だが、それは男性にとって悪手であろうと言うことは想像できた。

 

 

「よせっ!!」

 

 

エド兄が叫ぶ。咄嗟におれは地面に手をつき、青年の足元を盛り上げさせる。

 

凄まじいスピードで近づいた褐色の男性は青年の頭めがけて手を伸ばす。その手が頭に触れる間一髪。地面が盛り上がりバランスを崩した青年の腕を男性が捉えた。

 

ごばっと言う音。青年の腕が吹き飛び、あたりに血肉が飛び散る。

 

 

「う、う、うわああああああ!!!!!」

 

 

絶叫。腕を抱えうずくまる青年に目もくれず、男性はこちらを見据えてくる。

 

 

(こいつは、絶対やばいやつだ!!すぐ、すぐに逃げなきゃいけない!!エド兄もアル兄も無事で、こいつから逃げる...

 

ダメだ、思いつかない...)

 

 

万事休す、諦めかけたその時。ゴーン!!と時計台の鐘が鳴る。

 

 

「...っアルッハルッ逃げろ!!!」

 

 

エド兄の声でばっとその場を蹴る。3人無事でこいつから逃げる方法を、必死に頭の中で考えるが堂々巡りで答えは出ない。

 

 

(...っていうかなんでエド兄を狙ってるんだ!?さっきのお兄さんにやったのってあれは...あの反応は...)

 

「なんだってんだ!!人に恨み買うようなことは...いっぱいしてるけど...命狙われる筋合いはねーぞ!!」

 

 

考える隣でエド兄が叫びながら走る。アル兄はさすがの身体能力で一足早く走っており、不意に路地へ曲がった。

 

 

「二人ともこっち!!」

 

 

アル兄の言葉に路地へ飛び込む。焦ったようにエド兄がアル兄に声をかける。

 

 

「こんな路地に入ってどうすんだよ!!」

 

「いいから!!」

 

 

そういうアル兄の足元には錬成陣。カッと仕上げを書き上げ、発動した錬金は地面を盛り上げ路地の入口を隠すほどの土壁となった。

 

 

「これなら追ってこれないだろ」

 

 

満足気なアル兄に、遠慮気味に声をかける。

 

 

[アル兄...多分それ無意味..]

 

 

言い終える前に壁にズ...と窪みが現れる。

 

一瞬のうちに大きくなった窪みは次の瞬間にはゴン!!と壁を破壊した。

 

 

[やっぱりぃ!!]

 

「でえええええ!!」

 

 

叫びながら路地の反対方向へと走る。しかしそんなことを許してくれる男性ではないだろうということはわかっていた。

 

真横の壁がビキビキと音を立てながらひび割れていく。そうなった家は当然...

 

ドオオオオオン!!

 

土埃と瓦礫を撒き散らしながら倒壊した建物に道を塞がれる。

 

ザッという足音に振り返ると、男性はすぐ近くまで迫ってきていた。

 

 

「あんた何者だ...なんでオレたちをねらう?」

 

「貴様ら「創る者」がいれば「壊す者」もいると言うことだ」

 

[やっぱり...お前...錬金術師だろ...]

 

「「!?」」

 

 

男は黙っている。否定もしなければ肯定しない。静まりかえった場に、エド兄の手を合わせる音が鳴り響く。

 

 

「やるしかねえ...ってか」

 

 

ガッと近くのパイプを掴むエド兄。錬成して一振のナイフを作り出し、構える。

 

それに呼応してアル兄はすっと体術の構えをする。

 

おれは両手を合わせ、いつでも錬成ができるように構えていた。

 

その様子を見た男はにいっと笑う。

 

 

「いい度胸だ...」

 

「行くぞっ!!」

 

 

エド兄とアル兄が駆け出す。同時におれは錬成をし、男の周りの空気を薄くする。

 

微かに顔色を変えた男性にアル兄が殴り掛かる。しかしその拳を躱した男性にさらにエド兄のナイフが襲いかかる。それも軽々躱した男性は「だが、遅い」と言ってアル兄へと手を伸ばす。

 

おれの空気を薄くするのはほんの一部しかできない。それ以上やるとエド兄にまで被害が行く。かと言って動きに合わせて錬成をするのはとても難しいので今のおれには無理だ。

 

咄嗟にもう一度手を鳴らし、ガラスを引っ掻いたような音を大音量で出す。

 

顔を歪めた男性は、しかしその手を伸ばすことをやめない。

 

男性の手がアル兄に触れた瞬間。

 

アル兄の身体が弾け飛んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十八話「人体破壊と兄弟」

昨日投稿しなくてすみません!寝落ちてました...


「アルッ!」

 

[アル兄ィッ!!]

 

 

身体の半分を失い、バランスを崩したアル兄はそのまま地面へ倒れ込んで。咄嗟にアル兄の元へ駆け寄り、その身体を支える。

 

 

[アル兄!大丈夫!?]

 

「....野郎オオオオオオ!」

 

 

激昂したエド兄がナイフを構え男性へと駆けていく。最大限の怒りを込めたひと振りはしかし、あっさりと受け止められてしまう。

 

 

「遅いと言っている!」

 

 

そしてエド兄のうでをつかんだままぐっと力を籠める男性。

 

(まずい!錬金術を!!)

 

 

[エド兄逃げてっ!!]

 

 

エド兄に警告を飛ばすが一度とらえた腕を簡単に離してくれるような相手ではない。なすすべなく錬金術が発動する。

 

バチィッ!!

 

大きな錬成音とまぶしい光。

 

衝撃でナイフを取り落としたエド兄はそのまま雨に打たれた地面へと吹き飛ばされた。

 

 

[エド兄ッ!!]

 

[大丈夫だ!」

 

 

そういって泥にまみれた赤いコートと手袋を脱ぎ捨てる。

 

 

「...くそっ!」

 

忌々しげに吐き捨てたエド兄を一瞥して男性が冷静に分析する。

 

「機械鎧(オートメイル)...なるほど、”人体破壊”では壊せぬわけだ。あっちはあっちで鎧をはがしてから中身を破壊してやろうと思ったが肝心の中身がない。そしてもう一人は我の人体破壊のカラクリに気づいたうえ一定の距離を保ち攻撃をさせない...変わったやつらよ...おかげで余計な時間を食ってしまったではないか」

 

 

男性が長々と解析している間におれはアル兄の周りに土をできる限り固くした格子を作る。作りながら、頭をフルで回転させる。

 

(あいつは手合わせ錬成をしていない...ということはアレは見ていないはずだ。だが、あいつの手や周りに錬成陣は見られない...いったいどうやって...それに人体破壊...アイツはカラクリに気づいてるっていうけど実際は錬金術ってこと以外わかんねーんだよな...)

 

 

「てめえの予定に付き合ってやるほどお人よしじゃないんだよ!」

 

 

エド兄の声に顔を上げる。エド兄は機械鎧の一部をブレードに変化させ、男性に向かって叫んでいた。

 

(今はこれを考えたって結論が出ない。それよりも...この状況をどう打破するか、だ)

 

 

「兄さん!ハル!ダメだ、逃げた方が...」

 

「馬鹿野郎!お前置いて逃げられっか!」

 

[それに正直...おれはコイツから無事に三人逃げる方法が思いつかないよ...だからこの場でなんとかするしかない!]

 

 

じぃ、とおれたちを眺めていた男性はまた分析を始める。

 

 

「ふむ、両の手を合わせることで輪を作り、循環させた力を持って錬成するわけか。ならば...」

 

「らああああああああ!!」

 

 

エド兄が男性へと殴り掛かる。それと同時に男性の耳元で爆音を鳴らす。

 

バン!!

 

空気が破裂する音。男性はかすかに顔をゆがめる。あれは確実に鼓膜行ってるだろ!と思いながら第二派を用意する。

 

しかし、その用意は無駄だった。

 

耳から血を流しながらそれを厭いもせずエド兄の腕を男性がつかんだのだ。

 

つう、とブレードによって男性の頬が傷つけられるが、それだけだ。

 

ガッとエド兄の腕を掴んだのとは反対の手で機械鎧へ手を伸ばす。

 

 

「まずはこのうっとおしい右腕を」

 

 

そのあと起こる展開をすべて理解してしまったおれは、どうしようもないとわかりながらも叫ぶことしかできなかった。

 

 

[エド兄イイイイイ!!!]

 

「破壊させてもらおう」

 

 

ピシ、とかすかにひびの入った音。

 

瞬間的にひびは機械鎧全体へ広がっていく。

 

 

[やめろおおおおおおおおお!!]

 

 

ボッ!!

 

何かが破裂する音。次いでばらばらとパーツが落ちる音が人気のない路地で響く。

 

体重をかけていた腕が消失したエド兄はその場へ崩れ落ちる。

 

 

「兄さん!!!」

 

[エド兄!!!]

 

 

男性はまだ動き続ける。動くことのできないおれたちの目の前で左足の機械鎧さえも破壊して見せた。

 

完全に動けなくなったエド兄を見下ろし

 

 

「さて...あとはそこのお前だけか」

 

 

とアル兄のそばで立ちすくんでいるおれへ殺気を飛ばしてくる。

 

ひゅ、と悲鳴にもならない空気の音がした。

 

咄嗟に合わせた両手を地面につく。巨大な土壁を錬成。

 

 

(とにかく、時間を稼がなくちゃいけない!ここからできるだけ離れた場所で!)

 

 

一瞬できた時間で今何をすべきかを考える。もう一度地面に触れ地面を泥沼化させる。

 

目の前の土壁がパリパリと錬成反応を立てながら崩れていく。かすかに見えた向こう側にはサングラスで見ることはできない男性の目元。しかしみることはできなくとも発せられる大量の殺気で足がすくむ。判断が鈍る。

 

回らない脳を、反応の鈍い体を必死に動かしもう一度錬成。

 

ズオオオオオオ!

 

自分の足元を盛り上げさせる。もし落ちても大丈夫なように泥沼化させたが...

 

随分と高くまで伸びた土柱の下を覗く。

 

(これ、無事でいられるかな...)

 

不安ではあるがもうやるしかない。撤退は許されない。

 

土柱を動かし近くの家の屋根へ飛び移る。途中破壊されかけたが伸ばしまくったおかげで何とか耐えたようだ。

 

焦りながら男性をおびき寄せるために声を出す。

 

 

[oおぃ!おまeえnエものハこつちだぞォ!!]

 

 

声の錬成はかなり集中力がいる。最近こそすらすらできるようになったがやはり焦ると発音が甘くなってしまう。

 

しかし、声を出したことでどこにいるかはわかったようだ。すぐ隣の家が轟音を立てて崩れていく。

 

(ひいいいいいいい!!)

 

必死に走り回る。踏み切った瞬間に崩れていく住宅。進もうとした方向に発生するがれきの雪崩。

 

(くっそ!こんなとこでやられるわけにはいかないんだって!!)

 

次の家へ足を踏み出す。

 

しかし、その足が踏みしめるものは何もなく。

 

バランスを崩したおれの体はまっさかさまにがれきの中へと落ちていく。

 

 

「「ハル!!」」

 

 

聞こえたのは遠ざけたはずの兄たちの声。

 

(は、はは...まんまと踊らされていたわけだ...)

 

手で顔を覆う。こうしないと悔しくてこみあげてくる何かを見られてしまいそうで嫌だった。

 

ザク、とそばに誰かが立った音がする。

 

おそらく足が一本折れている。前衛で戦うことがすくないおれは痛みに慣れていない。ともすれば叫びだしたくなるような痛みと目からあふれてくる何かを抑えることに必死で、もう戦える気はしなかった。

 

 

「神に祈る間をやろう」

 

 

おれらを追い込んだヤツの声がする。いったいどんな表情でおれを見下ろしているのか、もはや知る気力すら起きなかった。

 

だが質問に答えないのはしゃくなので、重たい両腕をぱし、と合わせる。

 

 

[...あいにくダケド、いのりたいカミサマがいナいからさ...]

 

 

ああ、でも。守りたい人たちはいるんだ。

 

 

[ねえ、あなタがねらってルのはエド兄なんでしょ...おれノいのちでサ、かんべんしてくれない...?]

 

「我が狙うのは国家錬金術師のみ...お前の命ではだめだ」

 

 

冷たい返事。ふは、と息を吐く。ゆるりと開けた視界に泣きそうな顔のエド兄と格子を必死に壊そうとするアル兄が映る。

 

 

[しょうじキエド兄よりおれの方がきけんダトおもうよ...?エド兄よりあたま回る自信あるモン...エド兄コロシタっておれがこっかれんきんジュツシになるかもよ?]

 

「ふむ...では、貴様もここで排除しておくか」

 

「好き勝手いいやがってっ....!ハルッ!死ぬなんて許さねえからな!!」

 

「早く、早く逃げてハルっ!」

 

 

兄たちの声がする。ぼやけてきた意識の中で、黒い手が眼前に迫ってくるのが見えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十九話「救援とケインさん」

ドン!!

 

銃声。重い瞼をこじ開けそちらを見やる。

 

 

「そこまでだ」

 

 

そこには銃を掲げたロイさんが軍の方々を引き連れ立っていた。男性を睨んでいた目をふとこちらにやると微かに笑った。

 

 

「危ないところだったな、音の。鋼の」

 

「大佐っ!こいつは...」

 

 

動けないおれに代わってエド兄が尋ねる。ロイさんは隙なく男性を警戒しながら答えてくれる。

 

 

「その男は一連の国家錬金術師殺しの容疑者...だったが、この状況から見て確実になったな。タッカー邸の殺害事件も貴様の反抗だな?」

 

 

朦朧としてきた意識の中でタッカー邸という言葉を聞き取る。

 

(...そうか、こいつがニーナちゃんを...アレキサンダーを...)

 

ほとんど開いていない視界の隅にいる男性をギリ、と睨みつける。憎くて憎くてたまらないが、本当に認めたくないが今のおれではこいつには敵わない。その事が本当に悔しくてたまらなかった。

 

 

「錬金術師とは....」

 

 

チカチカと視界が明滅する。ぐにゃりと視界が歪み、おれはそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

_____おかあさん!

(おれはあまり外で遊ぶような子供ではなかった)

 

_____あら、ハルどうしたの?

(母さんの優しい笑顔が大好きで、そばで見ていたかった)

 

_____おてつだいする!!

(母さんが少しでも楽になれば、なんて子供心だった)

 

_____あら、ありがとう!

(もう一度、その笑顔が見たかった)

 

 

 

 

 

 

 

_____なん、で....

(錬成は失敗した。母さんは異形となって帰ってきた)

 

______エド兄!!アル兄を!

(エド兄は左足を、アル兄は身体を、おれは表情を持っていかれた)

 

_______(声がっ....でない)

(起き上がって、ウィンリィを呼ぼうとした時に気づいたことだった)

 

 

 

 

 

《お前はずっとそうやって何かを失って生きていくのか?》

 

 

うるさい

 

 

《自分では何も出来ないからと口先で喚くだけか》

 

 

うるさいっ

 

 

《じゃあお前は1度でも....何かを救えたことはあるのか?》

 

 

 

 

 

(....うるさいっ!!!!!!)

 

「うわっ!!」

 

ガシャン!

 

ガバッっと起き上がる。酷く息が乱れ、汗が全身から吹き出していた。それでも表情はきっと真顔なのだろう。

 

どうやらおれはベッドで寝ていたようだった。落ち着いて見回して見ると清潔感のある真っ白な部屋に1台のベッド。おれの服はいつの間にか着脱が楽そうな服に変えられており、腕からは点滴が伸びている。...ここは病院のようだ。

 

そこまで理解したところでベッド脇で椅子ごとひっくり返っている眼鏡をかけた人の良さそうな人に声をかける。

 

 

[あのー...大丈夫ですか?]

 

 

上体を起こしたその人はかちゃ、と眼鏡をかけ直し「びっくりしたぁ...」という。

 

その横に本が1冊落ちていることから読書をしていたのだろうと言うことが伺える。本を読んでいたら目の前のやつがいきなり起き上がるんだ、そりゃビビる。

 

 

「だ、大丈夫だよ!きみ...ハルフェスくんの方が大丈夫かい?痛いとことか...」

 

 

そう言われてはっと褐色の男性のことを思い出す。焦って両手を合わせる。

 

 

[あいつは...褐色の人は!?どうなったんです!?]

 

 

するとその人は渋い顔をする。

 

 

「とり逃してしまった...でも君たち以外に被害も出ていない。エドワード君もアルフォンス君も無事だから安心して!」

 

 

ほ、と息を吐く。そこで初めて眼鏡の人がロイさんの部隊にいた事を思い出した。

 

 

[貴方はロイさんの...]

 

「あ、うん!ケイン・フュリーって言います!よろしくね」

 

 

人懐こそうに笑って手を差し伸べてくる。その手を握り返し一礼する。

 

 

[ハルフェス・エルリックです。よろしくお願いしますケインさん]

 

 

手を離してから改めて自己紹介をする。

 

 

[あのう...エド兄やアル兄ってどこに行ったかわかりますか?]

 

「あー...それがね...」

 

 

ケインさんは言いにくそうに頬をかいた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十話「東方司令部とイシュヴァール」

[リゼンブールに?]

 

「うん、機械鎧の修理をって」

 

[そうですか...]

 

 

ケインさんによるとおれがいつ目を覚ますかわからない状況でエド兄の機械鎧の修理を一刻でも早く終わらせなければいけない、という結論に至ったようだ。エド兄とアル兄の護衛としてアームストロングという方がついているらしい。

 

 

「そうだ、先日エドワード君から連絡があってね。ハルフェスくんがよくなったら中央(セントラル)に行くようにって」

 

[わかりました。おれの病状ってどんな感じなんです?]

 

「右足の骨折だね。全治一か月って感じらしいよ」

 

[一週間で治します]

 

 

ぱし。手を合わせ体に当てる。細胞の動きを活性化させ治療が早くなるよう働きかける。本を読み漁ったおかげでおれは様々な知識を手に入れていた。役立つものからくだらないものまで、その種類は多岐にわたる。

 

 

「えっ...大丈夫?」

 

 

ケインさんが心配そうにこちらを見る。こくりとうなずいたところを、何かでパカーン!!と殴られた。

 

 

「何をしているんだ...音の」

 

 

はたかれた頭を押さえながらそちらを見やる。いつの間に入ってきたのかそこには青筋を浮かべたロイさんがいた。

 

 

「鋼のに音のを頼むといわれたから見に来てみれば...」

 

 

はあ、とため息をついて頭を抱えるロイさん。とにかく、といいそばにあった車いすを寄せてくる。

 

 

「錬成ができるほど元気であれば書類仕事くらいできるだろう。あいにくだが私たちは忙しいからな。毎回見舞いに来るわけにもいかん。」

 

[だから東方司令部で働かせながら療養させよう、と]

 

「よくわかっているじゃないか」

 

 

ニヤリと悪い笑みを浮かべるロイさん。

 

 

[じゃあ、しばらく...といっても一週間ほどになると思いますが。お世話になります、ロイさん...いや、大佐]

 

「君から大佐と呼ばれるのは何だか変な感じがするな...とりあえず、ここで話していても仕事がはかどるわけではない。東方司令部へ向かうとしようか」

 

[大佐ってそんな仕事大好きでしたっけ?]

 

「...怒らせると怖い部下が常に見張っているからな。口先だけでもしっかりしておかんといかん」

 

 

くだらないやりとりを交わしながら車いすに移動する。ケインさんが車いすを押してくれる。ありがとうございます、と頭を下げるといいよいいよ!と笑い返してくれた。

 

 

 

 

 

 

「早速だけどハルフェス君。これとこれをおねがいね」

 

 

司令部について早々、リザさんがどさっと書類の山を渡してくれる。

 

 

[了解です]

 

 

別に手伝うことは苦ではなかったし、逆にあのまま病院にいても暇しそうだったのでちょうどよかった。

 

書類に目を通しながらリザさんと会話をする。

 

 

[リザさん少しいいですか?]

 

「ええ、大丈夫よ」

 

[おれが気絶した後のことって聞けたりします?]

 

「ああ...そうよね、わかったわ」

 

 

そういってリザさんはすさまじいスピードで書類の山を減らしながら語ってくれた。

 

 

「まず...あの後大佐が前に出ようとしたんだけど、ほら、あの日って雨が降っていたじゃない。だから大佐は火花が出せないから下がらせたの。その代わりに救援の...いまエドワード君たちの護衛をしてくれている剛腕の錬金術師、アームストロング少佐が戦ったの。あの男...私たちは傷の男(スカー)と呼んでいるのだけれど、その錬金のカラクリを暴いて見せたのは驚いたわ」

 

[そのカラクリってなんだったんです?]

 

「錬金術の錬成過程、理解、分解、再構築の分解で止めることであたりのものを破壊していたみたい」

 

[なるほど...]

 

「少佐とやりあっている間に私が撃ったのだけれど...スカーは速くて、サングラスを外させることしかできなかったわ。サングラスの下の目は赤色の...イシュヴァールの民だったのよ」

 

[イシュヴァール...十三年ほど前の...]

 

「ええ。そこで国家錬金術師が投入されたのは知っているでしょう?国家錬金術師たちはその実力を遺憾なく発揮し...戦況を大きく動かしたのは言うまでもないわね」

 

「だからあの男の復讐には正当性があるんだよ」

 

 

話を聞いていたのか、机の上から目を離すことなく大佐がリザさんの後を継いだ。

 

 

[なるほど...ありがとうございます]

 

 

二人に礼を言う。それからはひたすら書類の処理を行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十一話「セントラルとドクターマルコー」

[お世話になりました]

 

 

ぺこり、と頭を下げる。宣言通り怪我を一週間で治したおれは東方司令部を出て中央(セントラル)に向かおうとしていた。

 

 

「もう少し居てくれてもよかったんだがな」

 

「大佐より仕事してくれましたもんね、彼」

 

「...ホークアイ中尉?」

 

 

ふい、と目をそらしてリザさんはおれを見る。

 

 

「一週間お疲れ様。とても助かったわ。道中気を付けて」

 

[ありがとうございます。皆さんお元気で]

 

 

もう一度深く礼をし、荷物を持って駅に向かう。後ろからハボックさんやブレダさん、ファルマンさん、ケインさんがまたねー!と言っている声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「長旅お疲れ様です。ハルフェス・エルリックさんですよね...?」

 

 

セントラルの駅に降り立ったおれにおずおずといった感じで話しかけてきたのは短い髪はしっかりとセットされていて、目元にほくろのある軍服を着た女性だった。

 

 

[ええ、おれはハルフェスですが...失礼ながらお名前をうかがってもよろしいでしょうか?]

 

 

荷物を床に置き応対する。おそらく兄さんたちが寄こしてくれたのだろうが一応名前を聞く。

 

 

「これは失礼しました。マリア・ロスと申します。地位は少尉です。鋼の錬金術師殿に頼まれてお迎えに上がりました!」

 

[丁寧に、ありがとうございます]

 

 

ぺこ、と頭を下げる。表に車を用意してますので、と案内される。

 

 

[あ、おれに敬語使わなくていいですよ、年下ですし]

 

「え、あら、そう?ありがとう」

 

 

やはり年下に敬語を使うのは大変だったのだろう。一瞬ためらったもののすぐに敬語を解いてくれた。堅苦しいのはあまり好きじゃないのでそっちの方が接しやすい。

 

兄さんたちが泊まっているという宿につく。少尉に案内してもらった部屋の扉をこんこん、と叩く。

 

 

「はーいどちらさま...ってハル!!」

 

[アル兄、なんか久しぶり]

 

 

ガチャリと扉を開けてくれたのはアル兄だった。驚いたジェスチャーのあと入って入って、と中に案内される。

 

 

「おお、ハル。早かったな。もう少しかかると思ってた」

 

[急いだからね。リゼンブールに行ったんだろ?ウィンリィやばっちゃんどうだった?]

 

 

エド兄は読んでいた本からかすかに顔を上げてこっちを見た。どさり、と荷物を下ろしてエド兄の向かいに腰を下ろす。

 

 

「お前...錬金したのか?」

 

[...うん]

 

「はぁ...あれは身体に負担かかるからあんますんなって言ってるだろ」

 

 

頭を抱えたエド兄。気まずくて俯くおれ。見かねたアル兄が助け舟を出してくれた。

 

 

「ハル、反省したらこれからはできるだけしないこと。いいね?」

 

[うん...ごめん]

 

「いっつも無理するんだから」

 

 

ぷんぷん、とアル兄が言う。口でそういうもんだから、おれとエド兄はそろって吹き出した。

 

 

「ウィンリィもばっちゃんも元気そうだったよ」

 

[そっか、よかった。...ところでなんで行き先をセントラルにしたの?]

 

 

ひとしきり笑いが収まったのを見計らってリゼンブールの様子を教えてくれたアル兄。元気そう、という答えに満足したおれは、純粋に疑問に思っていたことを聞く。

 

 

「そうだよ、聞けよハルフェス!!!」

 

 

興奮した様子でエド兄はリゼンブールにつく前にあった医者の話を...ドクターマルコーの話をしてくれた。

 

 

[賢者の石の資料がセントラルに...]

 

「ああ、けどな...」

 

 

そこまで話すとエド兄はげっそりとした顔をし、アル兄と顔を見合わせる。

 

 

「その資料が置いてあった図書館で火災が発生したらしくて...」

 

[資料が燃えちゃった、と]

 

「今は内容覚えてるって人がいたからその人待ちの時間ってわけ」

 

[内容覚えてるって半端ないね...]

 

「ま、ゆっくりしてけよ。多分もうしばらくかかるぜ」

 

 

そういってエド兄は再びページをめくり始める。アル兄は頭をとって布で拭き始める。おれは荷物の中からスケッチブックを取り出してソファの上で体育座りをしながら鉛筆を走らせた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十二話「料理研究書と密かな誓い」

「いやぁすみません、かなりの量だったもので写すのに五日もかかってしまいました」

 

 

そういってどさっと紙の束を机の上に置く短髪の眼鏡の女性、シェスカさん。

 

おれたちの泊まっている宿に複写が完成したと連絡があっておれたち兄弟と護衛をしてくれてるロスさんとブロッシュさんの五人で図書館へ向かうと、シェスカさんと大量の紙の山がおれたちを出迎えてくれたのだ。

 

 

「ティム・マルコー氏の研究書の複写です」

 

 

シェスカさんはにこやかにそういう。しかしおれたちはその光景を唖然と見ていた。

 

(本にしたらこれはいったい何冊あるんだ...それをすべて頭に入れてるシェスカさんっていったい...というかその能力おれも欲しい)

 

「...本当にやった...」

 

「世の中にはすげー人がいるもんだなぁ、アル、ハル...」

 

 

エド兄の言葉に激しく頷き資料の山を見つめる。

 

(これが、賢者の石の...)

 

これがあれば、エド兄もアル兄も元に戻せる。あふれてきた生唾をごくりと飲み込んだ。

 

 

「うわぁ...そうか、こんなに量があったんじゃこれ持って逃亡は無理だったんだねマルコーさん」

 

「これ本当にマルコーさんの?」

 

「はい、間違いなく!」

 

 

エド兄の問いに笑顔で答えたシェスカさんはその笑顔のまま驚くことを言った。

 

 

「ティム・マルコー著の料理研究書、「今日の献立1000種」です!」

 

 

(((は??)))

 

 

シェスカさんから資料を受け取ったロスさんがぱらぱらとページをめくる。

 

 

「「砂糖大匙1に水少々を加え....」本当に今日の献立1000種だわ...」

 

「君!これのどこが重要書類なんだね!」

 

「重...!?そんな!私は読んだまま、覚えたまま写しただけですよ!」

 

「ということは同姓同名の人が書いた全く別のもの!?お三方、これは無駄足だったのでは?」

 

 

たはー!というかんじでブロッシュさんがこちらを見る。でも、これは無駄足なんかではないことはおれたちにはすぐにわかった。

 

 

「これ本当にマルコーさんの書いたもの一字一句間違いないんだな?」

 

「はいっ!まちがいありません!」

 

「あんたスゲーよ、ありがとな」

 

 

ニッと資料を読んだエド兄が笑う。

 

 

「よし!アル、ハル、これ持って中央図書館に戻ろう」

 

「うん、あそこなら辞書がそろってるしね」

 

[シェスカさん、今度いろんな本について話しましょう?ついでにどうやって覚えてるのかも教えてくれたらうれしいんですけど...]

 

「おいハル...っと、お礼お礼」

 

 

呆れた顔でエド兄に諭される。割とガチ目に教えてほしいんだけど、今はこっち優先だ、しょうがない。

 

 

「ロス少尉!これオレの登録コードと署名と身分証明の銀時計!大統領府の国家錬金術師機関に行ってオレの年間研究費からそこに書いてある金額引き出してシェスカに渡してあげて!」

 

「はぁ...」

 

「シェスカ本当にありがとな!じゃ!」

 

 

がちゃ、と扉を開けたエド兄の後ろでぺこ、と頭を下げて持てるだけの資料を手に部屋から出る。

 

...出た後にロスさんの絶叫が聞こえたのは気のせいだ、きっと。

 

 

 

ぺらり。

 

<今日の夕飯はこれで決まり!!大人も子供も喜ぶカレーライス!>

 

ぺらり。

 

<人参一本ジャガイモ二個>

 

 

[...]

 

 

中央図書館につき、机の上に持ってきた書類を広げたおれたちは、その難解な言葉とにらめっこをしていた。

 

錬金術師は高度な技術を一人一人が磨き、もっている。そんな技術の結晶をホイホイとそこら辺に置いておくわけにはいかない。そこで行われるのが錬金研究書の暗号化である。たとえ他人がこれを読んでもわからないほどの比喩表現や様々な寓意で書き綴られているということだ。

 

 

「書いた本人にしかわからないって...そんなのどうやって解読するんですか?」

 

 

エド兄がそう説明するとブロッシュさんがそう尋ねてくる。おれは資料から顔を上げずに答える。

 

 

[知識とひらめきと...あとは根気ですね]

 

「うわぁ...気が遠くなりそうですよ」

 

 

そうこぼすブロッシュさんにアル兄が補足を入れる。

 

 

「でも料理研究書に似せてる分まだ解読しやすいと思いますよ。錬金術ってのは台所から発生したものだっていう人もいるくらいですからね。兄さんの研究手帳なんて旅行記風に書いて有るし、ハルなんて物語風に書いてあるもんだからボクが読んでもさっぱりで」

 

[エド兄のは全然わかんない真面目に]

 

「そうかぁ?オレからしたらハルのやつの方がわかんねえよ...普通に物語として読んじゃうし」

 

「そういえばなんでハルは研究手帳つけてるの?」

 

[ん~..暇つぶしに?]

 

「なんだそりゃ」

 

 

くつくつ、とエド兄が笑う。

 

(本当は記憶がなくなってもいいように、なんて言えないもんなあ)

 

さあ、解読するぞと意気込む兄たちを見てそう思う。

 

 

(もし、賢者の石が見つからなかったり作り出せないのだとしたら)

 

 

___おれの記憶を対価に、二人の身体を戻そうと小さなころから決めていたから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十三話「集中と材料」

解読を始めてから一週間が経過した。

 

必死で解読をしているのだが...

 

 

「なんなんだこのくそ難解な暗号は...」

 

「兄さん...これマルコーさんに直接聞いた方が早いんじゃない?」

 

 

様々な知識を総動員して解読を進めているのだが、全く手掛かりが見えない。がりがりがりっと解読した文をコピー用紙に書きなぐる。全く意味を持たない羅列となった解読文にあたまをかかえる。

 

 

「いや!これは「これしきの事が解けない者に賢者の石の真実を知る資格なし」というマルコーさんからの挑戦と見た!なんとしても自力で解く!!」

 

 

エド兄の言うようにマルコーさんの挑戦状なのかはわからないが、答えを教えてもらう、というのは性に合わない。とことん調べつくして、可能性をしらみつぶしにつぶして、伝手をフルで稼働させて、それでもわからなかったら答えを聞く。まだ調べている段階だ。

 

パチン、と軽く頬を叩く。集中、と自分に言い聞かせ料理研究書のページをめくった。

 

途中でシェスカさんやヒューズさんが来たらしいが集中していたせいで全く気付かなかった。

 

なんでもシェスカさんの記憶力を生かしてヒューズさんのもとで働けることになったらしい。よかったねシェスカさん。

 

あの記憶力があればかなりの部署で役に立つと実際おれなんかは思うのだが...現実はそうでもなかったらしい。

 

 

 

そうして解読を始めてから丸9日が経った。

 

 

[...これは...]

 

 

おれはマルコーさんの研究書の解読に成功した。否、成功してしまったという方が正しいだろう。

 

恐るべき真実。これを兄さんたちに伝えるべきかと一瞬思案するほど。

 

(これを知ってしまったら兄さんたちは絶対に賢者の石を使おうとはしないだろう。それは元に戻る時間が遅くなることをさす。...でも、知らないで使って兄さんたちが喜ぶはずはない。これは、__伝えなくちゃいけないことだ。)

 

手近な紙に読み解いた真実を書き連ねていく。

 

こんこん、と机をたたき二人の意識をこちらに集める。

 

 

「どしたの?ハル」

 

「まさか...解読できたとか?」

 

 

その言葉にこくりとうなずく。兄さんたちは顔を見合わせてごくりと唾をのんだ。

 

すっと紙を二人の前に差し出す。

 

 

 

 

「......ふっ...ざけんな!!!」

 

 

 

ガタン!と大きな音を立ててエド兄が座っていた椅子が後ろに倒れる。危ういバランスを保っていた積まれた資料たちが衝撃でばさりと崩れ落ちる。

 

ちょうどそこへ閉館時間をしらせにきたロスさんとブロッシュさんが来てしまった。

 

 

「なっ...なにごとですか!兄弟げんかですか?まずは落ち着いて...」

 

 

焦った様子のブロッシュさんがこちらへかけてくる。

 

 

[違いますよ]

 

 

とりあえず兄弟げんかでも何でもないのでそれは否定して置く。小首をかしげたロスさんが尋ねる。

 

 

「では暗号が解けなくてイラついてでも...」

 

「解けたんですよ」

 

 

その問いもアル兄が否定する。暗い声で続ける。

 

 

「暗号、解いてしまったんです」

 

 

その言葉だけ聞けば喜ばしいことだ。ずっと悩んでいた暗号が解けたのだから。そう思ったのかブロッシュさんは言う。

 

 

「本当ですか!?よかったじゃないですか!!」

 

「いいことあるか畜生!!!」

 

 

呑気なその言葉にいら立ちを隠さずエド兄が叫ぶ。このままだと感情に任せて二人を巻き込んでしまいそうなエド兄に注意をしようと手を合わせる。

 

 

「「悪魔の研究」とはよく言ったもんだ...恨むぜマルコーさんよぉ!!」

 

「...いったい何が?」

 

「賢者の石の材料は...」

 

[エド兄...それ以上は!]

 

 

二人を巻き込むことになる、というおれの言葉が全て紡ぎ終わらないうちにエド兄が続きを話してしまう。

 

 

「生きた人間だ!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十四話「重なる絶望と再びのケツイ」

<<それは苦難に歓喜を。戦いに勝利を。暗黒に光を。死者に生を約束する血のごとき紅き石。人はそれを敬意をもって呼ぶ。「賢者の石」と>>

 

 

 

そんな前置きから始まる研究書はおれたちにとって絶望が書き連ねてある書だった。

 

 

「確かにこれは知らないほうが幸せだったかもしれないな...」

 

 

俯き加減であごに手を当ててエド兄は言う。その声からは怒りと悔しさが感じ取れる。

 

 

「この資料が正しければ賢者の石の材料は生きた人間...」

 

 

おれはそのあとを続ける。そのあとに解読できた恐るべき文章をみんなに知らせるために。

 

ロスさんとブロッシュさんにはわるいが、一度知ってしまった以上はしっかり知っておいた方がいい。

 

 

[その続きも解読できた...石を一個精製するのに複数の犠牲が必要だ....って]

 

 

その言葉に驚くアル兄とさらに俯くエド兄。ロスさんとブロッシュさんはこらえきれなかった怒りを口に出した。

 

 

「そんな非人道的なことが軍の機関で行われているなんて...」

 

「許されることじゃないでしょう!」

 

 

「...ロス少尉、ブロッシュ軍曹」

 

 

俯いたまま、暗い声で二人に声をかけるエド兄。

 

 

「このことは誰にも言わないでおいてくれないか」

 

 

その言葉にブロッシュさんは目を見開く。

 

 

「しかし...!」

 

「頼む。...頼むから、聞かなかったことにしといてくれよ,,,」

 

 

反論は、力ないエド兄の言葉に紡ぎきることができなかったようだった。

 

 

 

先に部屋に戻る、とふらりと立ち上がったエド兄。それをささえるアル兄とブロッシュさん。

 

 

「ハルはどうする?」

 

[おれは...もう少し街をふらついてから戻るよ。ロスさん、わるいけど付き合ってくれますか]

 

「ええ、かまわないわ」

 

「じゃあ、またあとでね」

 

 

パタン、とドアが閉じられる。ぷはー、と息を吐く音が聞こえた。

 

 

「はぁー...」

 

[お疲れですか]

 

 

二人しかいない部屋で犯人を捜すまでもない。軽く顔を押さえているロスさんに書類をまとめながら話しかける。

 

 

[色々...巻き込みまくってすみません。止めようとしたんですけど止められなかった]

 

「気にしないで。知れてよかったとは思っているの。ただ少し受け入れるのに時間が欲しいけれど...」

 

 

 

手伝うわ、とロスさんが書類を持つ。ばらばらな書類をとんとん、と均す。

 

 

[エド兄はああいってますけど...おれ的には知ってしまったならとことん知った方が安全だと思うんですよ]

 

 

逆に?と聞いてくるので頷きながら逆に、と返す。

 

ある程度まとまった書類を抱えるとロスさんが扉を開けてくれる。軽く会釈をして部屋を出る。

 

 

「ハルフェスくんは二人とは少し違う考えなのね」

 

 

アル兄はどう思ってるのかわからないですけど、と思いながらも両手がふさがっているので話すことができない。しょうがないのでどうでしょう、みたいな感じで首をかしげる。

 

 

「あ、危ないわよ」

 

 

くい、とロスさんが誘導してくれる。正直全く前が見えていない。助かる。

 

ありがとうございますの意で頭を下げるとにっこりと笑い返してくれた。

 

 

「これからどうするの?」

 

 

おれを見ながら尋ねてくる。...こういうことがあるとやっぱり声が出ないって不便だなーと思う。

 

ぱくぱく、と口を動かしてからフルフルと首を振る。

 

ロスさんの方を向くととても驚いた顔をしていた。

 

 

「ハルフェスくん...まさか声...」

 

 

こく、とうなずく。目を見開いた彼女は、しかし首をかしげる。

 

 

「じゃあなんでさっき話せてたのかしら?」

 

 

丁度手近にあったベンチに資料をどさりとおく。ふー、と息を吐いてぱし、と手を合わせる。

 

 

[周りの音を錬成して、話してるんですよ]

 

「そんなことまでできるのね...」

 

[慣れないうちはほんとにできないんですけどね...練習すればできるようになりますよ]

 

 

よいしょ、と資料を持ち直す。

 

 

(賢者の石は使えないことが分かったし...もっと他に代わりになるようなものも今んとこないしなー...こりゃほんとに記憶を代償にするしかないかもなあ...)

 

 

ずっと決めてきたはずの覚悟が揺らがないよう、自分に言い聞かせた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十五話「沈黙と自己嫌悪」

部屋を占めているのは沈黙だ。

 

むすっとした顔のエド兄はソファに寝転んで何かを考えている様子だ。アル兄はソファの背もたれの裏側にもたれかかっている。その向かいのベッドに腰かけたおれは資料を一枚めくった。

 

 

「二人とも、ご飯食べに行っといでよ」

 

「いらん」

 

[...まだ大丈夫]

 

 

アル兄がおれたちに声をかける。エド兄は即答で、おれは一文読み終えてから答える。

 

再び訪れた静寂。今度それを打ち破ったのはエド兄だった。

 

 

「...しんどいな」

 

「...うん」

 

 

ぽつ、と呟いた言葉はおれたちの気持ちがあらわされたもののような気がする。ぱふ、とベッドに寝転ぶ。資料がふわりと宙を舞った。

 

 

[ずっと追いかけてきて、届かなかったものがようやく手に届くと思ったのに、手に届いたそれにどん底まで落とされるなんて、誰も思わないよな]

 

 

三人で元に戻れる方法を、そう言って見つけた賢者の石の情報。ずっと追いかけてきたのにレト教の村ではパチモンをつかまされるし、今度は追いついて、捕まえた真実に絶望して。

 

 

[神様は禁忌を犯した人間をとことん嫌うんだね]

 

 

ふは、と吐き出した息は嘲笑にも似たような音を立てて虚空へ消える。

 

 

「オレ達、一生このままかな」

 

 

エド兄の言葉にがばっと上体を起こす。体に乗っかっていた資料がバサバサッと床に落ちる。音に驚いたのかアル兄がこちらを見た。

 

 

[...兄さんたちは、絶対元に戻すから]

 

 

唇をかんで、それだけ言う。そのまま立ち上がって部屋を出た。ドアを閉める直前アル兄の声が聞こえたが振り返らずバタン、と閉め切った。

 

廊下の椅子に腰かけて大きくため息をつく。部屋から誰も出てくる気配がないことに安心して背もたれにだらりともたれかかった。

 

 

(こんなこと言って、まるで止めてほしいみたいじゃないか)

 

 

あふれてくるのは自己嫌悪の言葉。この決意は二人に知られてはいけない。知ったらきっと二人は優しいから止めてくれるだろう。それはおれの望むところでもあり、二人の望むところでもある。

 

 

(でも。それじゃだめなんだ)

 

 

賢者の石に代わる何かが見つからなかったら二人はあのままだ。せめて、アル兄だけでも戻すことができたなら、と思う。ともに食事をして、惰眠をむさぼって、感覚を共有することができたなら。

 

 

(今のアル兄にはそんな当たり前のようなことすらできないんだ)

 

 

ぐっとこぶしを握る。頭で錬成陣を考える。さすがに手合わせ錬成をするのは怖いのでしっかりと錬成陣を書かなきゃいけない。幼いころの記憶と、そこから蓄えてきた記憶を合わせ何度も。脳内で錬成陣を描く。

 

 

「___くん、ハルフェス君!!!」

 

 

至近距離で大きな声。思わず体をびくりとさせる。思考から抜け出して前を見るとロスさんがおれの顔を覗き込んでいた。

 

 

「大丈夫?ぼーっとしてたみたいだけど」

 

[あ、はい。大丈夫です。...二人なら、部屋にいますよ]

 

「...それが...」

 

 

ロスさんは気まずそうに眼をそらした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十六話「元研究所といい人」

[アームストロングさん?]

 

 

ロスさんの口から出てきた名前は聞き覚えのあるものだった。確か、兄さんたちがリゼンブールに行くときに護衛してくれた軍人さんだったはず。その人がここへきて、詰め寄られて賢者の石の秘密を話してしまったという。

 

 

「本当にごめんなさい...」

 

 

後ろに「反省」という文字が見えそうなほどしょんぼりとしているロスさん。

 

 

[まあ、話しちゃったならしょうがないですよ!あんまり気負わないでください。そもそもはおれたちのせいですし]

 

 

へたくそなフォローしか入れれない自分の語彙力が憎い。手をぶんぶんと振り、気にしていないことをアピールする。そんなおれが滑稽だったのかロスさんはクスリと笑ってくれた。

 

 

「おーい!ハル!」

 

 

先ほど飛び出してきた扉から金髪がのぞく。次に鎧と、筋肉の塊がひょっこりと顔を出した。

 

 

「ちょっと来てくれ!まだ...まだなにかあるんだ」

 

 

エド兄にちょいちょいと手招きされて部屋に向かう。狭い部屋に六人も入ったことで少し部屋の温度は高かった。

 

 

「そなたがハルフェス・エルリックであるか!吾輩は中央所属!アレックス・ルイ・アームストロングと申す!よろしく頼むぞ!!」

 

 

入ってすぐ筋肉の塊さんにがっしりと両手をつかまれ握手される。いい人なのだろうと思うが握手した手をそのままぶんぶんするのはやめてほしい。やめてほしい。やめっ...

 

 

ブンッ!

 

 

[やめろっつってるでしょ!]

 

 

下に振り下ろされたときにそのまま勢いをつけて手から逃れる。全力で手をたたきむきー!と不満をぶつける。ガチで起こっているわけではないがそれやられるとほんとにコミュニケーションとれなくなるので、やめていただきたい。

 

 

「おお!すまないな!吾輩少し興奮してしまった!」

 

 

ぱっと両手を広げ豪快に笑うアームストロングさん。そのあとなぜかむっきんと力こぶを作っていた。こっそりおれも作ってみる。...むなしくなるだけだ、やめよう。なぜ毎日トレーニングしてるのに筋肉がつかないのか。解せぬ。

 

 

 

「地図持ってきました!」

 

「ありがと!そこの机にお願い」

 

 

おれたちがそんなことをしている間にエド兄がブロッシュさんに地図を持ってくるよう頼んでいたようだ。バサリと広げられた地図をのぞき込む。

 

 

「マルコーさんは「真実の奥のさらなる真実」があるっていってたんだ...」

 

 

地図をじっと睨みながらエド兄が教えてくれる。

 

 

「なあ、少佐。この辺の錬金術研究所はどこにあるんだ?軍の管理下のやつ」

 

「それであれば中央には現在四か所。ドクター・マルコーが所属していたのは第三研究所。ここが一番怪しいな」

 

「うーん..市内の研究所はオレが国家資格とってすぐに全部回ってみたけどここはそんない大した研究はしてなかったような...」

 

 

アームストロングさんが第三研究所の場所を指で示してくれる。エド兄の言葉を聞き流しながらその周辺をじっと見る。

 

 

[...?この建物って]

 

 

とん、と指さす。何も書かれていないけど施設は存在するところ。ぱらぱらとロスさんがページをめくる。おそらく住所録だろう。

 

 

「以前は第五研究所と呼ばれていた建物ですが現在は使用されていないただの廃屋です。崩壊の危険性があるので立ち入り禁止になっていたはずですが」

 

「これだ」

 

 

確信めいた声色でエド兄が言う。流石と差し出されたこぶしにこつんとこぶしをぶつける。

 

 

「え?何の確証があって?」

 

 

ほんとにわからない、といった様子のブロッシュさん。敬語も抜けている。おれはもと第五研究所の隣を指さす。

 

 

[隣に刑務所があるじゃないですか]

 

「えっと...」

 

「賢者の石を作るために生きた人間が材料として必要ってことは材料調達の場がいるってことだ」

 

[たしか死刑囚は処刑後も遺族に遺体は返されなかったはずです。表向きは刑務所内の絞首台で死んだことにしておいて生きたままこっそり研究所に移動させ、そこで賢者の石の実験に使われる...そうすると刑務所に一番近い場所が怪しいって考えられるはずです]

 

 

一息に説明した後顔を上げる。大半の人の顔が引きつっていた。

 

 

「...囚人が...材料...」

 

[嫌な顔しないでくださいよ...説明してる側だっていやなんですから]

 

 

げっそりした顔でぼやくロスさんに頭をぼりぼりとかきながら思わずそう返す。ロスさんに引きつった笑みを向けられた。なぜだ。

 

 

「刑務所がらみってことはやはり政府も一枚かんでるってことですかね」

 

「一枚かんでるのが刑務所の所長レベルか政府レベルかはわからないけどね」

 

 

半笑いでエド兄がブロッシュさんに返す。顔面蒼白のロスさんとブロッシュさん。

 

 

「なんだかとんでもないことに首を突っ込んでしまった気がするんですが..」

 

「だから聞かなかったことにしろって言ったでしょう」

 

 

ため息交じりにアル兄が言う。まあ多分知ったくらいで消されはしない...と思う。知った時のリスクは知っておくべきだが引き際も考えなくちゃいけない。

 

 

[これ以上聞くとほんとに後戻りできなくなると思うんですが...お三方]

 

 

一応警告はする。ここで引くかひかないかはもうその人が決めることだと思う。

 

 

「うむ。しかし現時点ではあくまでも推測で語っているにすぎん。国は関係なく、この研究機関が単独でやっていたことかもしれんしな」

 

[この研究機関の責任者は誰なんです?]

 

「名目上は”鉄血の錬金術師”バスク・グラン准将ということになっていたぞ」

 

 

名目上という言葉にかすかに違和感を覚える。

 

 

[そのグランさんにカマかけてみるとか...]

 

「無駄だ。」

 

 

食い気味に否定されてしまった。アームストロングさんの顔を見る。真剣な顔だった。

 

 

「先日スカーに殺害されている」

 

 

スカー。傷の男。アレキサンダーとニーナを殺した人。動かないはずの表情筋がピクリと痙攣した気がした。

 

 

「スカーには軍上層部に所属する国家錬金術師を何人か殺された。その殺された中に真実を知る者がいたかもしれん」

 

 

そういいながら席を立ち、地図をくるくるとまとめだす。

 

 

「しかし本当にこの研究にグラン准将以上の軍上層部がかかわっているとなるとややこしいことになるのは必然。そちらは吾輩が探りを入れて後で報告をしよう」

 

 

丸めた地図を小脇に抱え指示を出し始めるアームストロングさん。

 

 

「それまで少尉と軍曹はこのことは他言無用!エルリック兄弟はおとなしくしているのだぞ!!」

 

 

「「[ええ!?」」]

 

 

思わずその指示に反応してしまうおれたち。場が一瞬気まずい沈黙に包まれる。

 

 

「むう!さてはお前たち!!この建物に忍び込んで中を調べようとか思っておったな!」

 

 

地図を広げたアームストロングさんがすごい剣幕でこちらに迫ってくる。当然図星なのでおれの心臓はドキリと音を立てた。決してビビったとかそういうのじゃない。決して。

 

 

「ならんぞ!元の身体に戻る方法がそこにあるかもしれんとはいえ子供がそのような危険な真似をしてはならん!!」

 

 

...やっぱり、この人はいい人なんだと思う。エド兄は国家錬金術師だしアル兄は鎧。おれは大人よりも知識はあると思ってる。そんなおれたちを普通の人だったら利用しようとするだろう。今だって、それができたのにしなかった。熱血な感じで一対一ではあんまり話しづらそうだけど。

 

 

「わかったわかった!!そんな危ないことしないよ」

 

「ボク達少佐の報告をおとなしく待ちます」

 

[痛いのは嫌なのでそんなことしませんよ]

 

 

...うそついて、ごめんなさい



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。