水色の双璧 (藤堂桐戸)
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不幸の再来

バンドリに興味を持って書いた物ですが、本当に気分で書いた物です

続けるかも解りませんし、続けられるかも解りません


「ふざけてるのか?」

 

「私はふざけていません。本心で言っているんです」

 

時は夕暮れ、中学校生活最後日である卒業式があったその日、学校の屋上で一つの壁にぶち当たった。壁と言っても、目の前の少女の対応をどうするかだが……

 

『氷川紗夜』

 

俺が通っていた中学校の生徒会に所属してした優秀生。腰まで伸ばした水色のロングヘアーと綺麗な翡翠色をした目を持つ美人だ。頭脳明晰で一度やると決めた事は最後までやり通す生真面目な人だと噂で聞いた事がある

 

そんな彼女がわざわざ手紙を使って呼び出して来たので、何事かと思い軽い気持ちで屋上にやって来た。

しかし、開口一番に言われた事に俺は驚きを隠せない。

 

俺は言われた事を振り返りながら彼女に答えを返す

 

「『私と一生を共にしませんか?』か。普通ならお前みたいな美人にこんな告白をされた奴は喜ぶ所だろうなんだが……何故俺なんだ?俺とお前は殆ど関わりが無い筈だが?」

 

「貴方はそうでも、私はずっと見ていました。貴方の生き方、考え方、立ちはだかる壁に立ち向かう姿。全てを見ていたつもりです」

 

こいつもか?どいつもこいつも見下した目で俺の事を見やがる。穢れた過去を持つだけで、人間は簡単に切り捨てられる。俺だってこんな人生を送る為に生まれたわけじゃない。少し突き放せばこいつも引くだろ

 

「俺の事を……ね。それはどういう気持ちで見てたんだ?『穢れた息子』『人殺しの息子』それとも『税金泥棒』としてでも見ていたのか?」

 

俺は彼女を睨みつけながら周りの人間に言われている汚名を並べながら吐き捨てる様に声に出した。しかし、一切臆することも無く、こちらを見ながら真っ直ぐと据わった目をしながら彼女は口を開いた

 

「いいえ、そんな感情で貴方を見ていた訳ではありません。ただ……」

 

「ただ?」

 

「私も貴方みたいになりたいと思ったんです」

 

「…………は?」

 

彼女も自分の意思を貫き通す、そんな強い感情を感じさせる目をしながら言葉を投げ掛けてくる。

 

だが分からない。俺の過去についてはこの学校の誰しもが知っている。お世辞にもまともな人生とは言えない

 

6年前、俺が小学生だった頃に父親が殺人事件起こし逮捕されて刑務所に収監された。それからは母親が一人で俺を育ててくれたが、時が流れると共に家計が苦しくなり、まともな食生活も送れなくなっていくと、母親の精神状態が不安定になり、日々に発狂したり錯乱状態になった。日頃から暴力を振るい、気に入らない事があるとすぐさま酒に溺れた

 

 

そんな狂った家庭から俺は逃げた。 

 

家から逃げ出した所を警察に保護され、母親は精神病院送りとなり、俺は児童養護施設に入ることになった

 

そこからは普通の生活が送れると思って期待を寄せていた。俺と同じく、親が子育てが出来ないと判断され保護された子供や事件や事故で親を失った子供達が過ごしていた。

施設での生活は一言で言うなら快適だ。食事は三食栄養を考えられた食事が出るし、暇つぶしにとおもちゃやゲーム等もある。部屋も広く、一人一人に一部屋あるぐらいだ。前とは比べ物にならないぐらい良い生活だ。

 

しかし、中学校に上がると、快適で気楽だった生活が一変した。運の悪い事に、父親が殺した人の子供が同じ学校、同じクラスに居たのだ。そこからは最悪の日々。『穢れた息子』『人殺しの息子』等と蔑まれ、3年に虐めを受けた。殴られ蹴られの肉体的苦痛や蔑みや陰口の精神的苦痛。初めは辛いと思っていたが、次第に陰口を言われても気が触れる事も無くなり、肉体的にも殴られたり蹴られても痛みを感じなくなってきた

 

そんな事があってもう三年。ようやくあの忌まわしい学校生活が終わると思っていた矢先にこれだ。はっきり言って意味が分からない。輝かしい未来が待つ彼女が暗く、忌まわしい過去を持つ俺になりたいなんて……

 

久々に、イライラしてきたな。

 

なぜ俺を目指す?  自分も同じ経験をした?

 

いいや無い。俺みたいな奴が居たら真っ先に集団から浮いてくる。今まで何もないはずが無い

 

ならなぜ?  分からない。

 

なら、問い詰める他ないな……他に方法があるか?

 

徹底的に………確実に聞き出す……!!

 

 

「きゃあ!?」

 

気づけば俺は彼女を腕を掴んで引っ張り、勢い良く体勢を崩して彼女を床に押し倒す。誰だって強姦されかければ嫌でも話したくなる。話そうとする筈だ。

 

「答えろ、何故俺に近づく?」

 

彼女の身体に乗り、馬乗りの状態で問い詰める。その際に彼女の首筋を触り、腰まで撫でるように触れながら胸まで手を運び、程よく成長したその胸を揉みしだく

 

「っ!?………これが貴方のやり方ですか?」

 

「お前だって初めてを失いたくないだろ?なら質問に答えろ。そうすれば解放してやる」

 

自分でもこれは犯罪だと分かっている。だが、彼女の言葉の真意を知りたい。命綱無しの綱渡りだが、どうせろくな人生を送ってはいない。今更刑務所に入ろうが死のうが恐怖すら感じない。

 

ただ知りたい。彼女が何を思って俺に近づいたのかを

 

そしてその答えを待っていると、彼女から衝撃の回答が帰って来た

 

「……………ですよ」

 

「!?……おい、もう一度言え!!」

 

小声だったが、微かに聞こえた彼女からの回答に驚きを隠せない。何かの間違いだろと俺は声を荒げながら問いただす

 

「しても良いですよ、貴方となら。それに貴方以外にこんな事、受け入れたくありませんしね」

 

「お前、自分が何を言って「取り敢えずは」っ!!」

 

首筋に突然強く刺されたかのような感覚に襲われる。その原因を確かめようとするが、身体が思う様に動かなくなっていた。まるで電気に痺れたかのような鋭い感覚に身体が耐え切れず、俺は床に伏してしまった

 

「いきなり求めてきた事には驚きましたが、いずれはしようとしていた事ですからね」

 

拘束から解放された彼女は一切逃げ出そうとはせずに、俺の事を見下してくる。まだこんな事されるのかと内心諦め始めた所で彼女の顔を見てみると、そこにはさっきまでとは別の姿が見えた気がした

 

「すみません、本当はこんな事したくは無かったのです……いいえ、元々予定していた事ではあったのですが」

 

右手に黒い物体を握り締め、微笑みながら自分を見下してくる。しかし、重要なのはそこじゃない。

 

何度も、何人も見てきた瞳、いつ見ても誰しもが異常だと思う目を彼女はしていた

 

児童養護施設に入る子供は何かしらのトラウマを持って来る子も多い。過去のトラウマが原因で精神が病んでしまう子も何人も居る。一目見たら恐怖し、謎の寒気を呼ぶ光の無い暗い瞳。彼女はまさに病んだ子供と同じ瞳をしていたのだ

 

「貴方を逃がすつもりはありません。貴方のような人は世の中にそうは居ませんからね。『遠坂響』さん?」

 

「っ………」

 

逃げ出そうとはしたが身体が動かない事によって逃げられない事を嫌でも実感する。彼女によって身体が持ち上げられるが抵抗する事さえ叶わずに彼女に身を任せるのであった。

 



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彼女の目的は?

仕事中続きどうするかな〜?とすぐ物語の続きを考えてしまっている自分が居る……

という訳で2話目です。今回は紗夜視点。だが紗夜になっているか自分でも分からない……



初めはクラスメイトである彼に対して無関心だった。

 

日本人特有の黒髪に黒い目、酷く細く痩せ細ったとも言える身体からはひ弱な雰囲気を出していた。

 

私がこの中学校に入学してから僅か一月で平穏だったクラスの雰囲気がガラリと変わった。彼がクラスに入って来るだけで賑やかだったクラスは一瞬で静寂の空間へと変化し彼の事を敵視する目を向けながら彼を見ていた

 

「まだ来るのかよ」

 

「あれだけやってまだ分からないのかな?」

 

「早く死ねば良いのにね」

 

 

「…………」

 

中には陰口を囁く人や持っていた物を投げつける人も居た。でも、彼はそんな事を気にする様子も無く教室の端まで移動した

彼はいつも教室の端へと移動して授業が始まるまで寝ている。彼に教材や机等が無い。あったとしてもクラスの皆に撤去され、ボロボロに捨てられてしまう。この状況だけでも異常だ、陰湿な虐めだと思ったが誰も彼を助ける事も無く一年が経ってしまった

 

でも彼は助けを求める事は無かった。そして助けようとする人も居なかった。他クラスの生徒達も、学校の教師でさえ見て見ぬふりをしながら授業を進めている

 

彼が何かをした訳でも無いのに。自分の親二人が残した過去が彼を苦しめていたのだ

 

助けよう!彼の事を!!

 

そう思って彼が一人になった時を狙って話しかけようと、助け出そうとしたのだが、追いかけている最中に彼が放った独り言を聞いてその気持ちが何処かへと飛んでいってしまった

 

『もう助けは請わない。耐えれば何かが変わる気がするから』

 

もう助けは請わない。この一言で知ってはいけない事を知ってしまった気がしてならなかった。何かの違和感を感じる。

もうという事は一度は助けを求めたと言う事。でも彼の人生、生き方は変わっていない?

 

助けを、救いを差し出しても何も変わらないかもしれない?

 

そう思ってしまってしょうがない。でもここで何もしなかったら、この決意は無駄に捨てられてしまう。 

 

それは駄目!!何も変わらなくても、私は決めたの!彼を助ける、何かを変えるきっかけになれば!!

 

「遠坂さん、ちょっと良いですか?」

 

その一心で私は彼に話し掛けた。でも彼が振り向いた瞬間、彼を顔を見て私の身体に震えが走った

 

彼が私に振り向いた時、濃い黒色や夜のような暗い光の無い死んだ目をしていたのだ。思わず逃げたくなってしまう程恐怖してしまう目を、彼はしていた。しかし、彼はすぐに顔を伏せて少ししたら顔を上げて私を見て来た

 

「えっと、何の用?」

 

さっき私に向けてきた目とは違い、光のある生きた目をして微笑みながら私に話し掛けた。でも、最初の暗い目を見た後だと、その目と笑顔は全て作りだされた物だと思ってしまう。でも怖気づいてはいけない。その事を胸に納めて私は話しだした

 

「遠坂さん、貴方、クラス皆さんから……その、虐められているように見えるのですが……」

 

「…………それがどうかした?」 

 

「え?」

 

「当たり前の事を言わない。俺が忌み嫌われているのは知ってるだろ?」

 

正直、彼と話しているだけなのに胸が締め付けられる感覚が襲って来る。彼にとってこの日常はもう変えられない、変える事の出来ない現実だと思い込んでいると、ある言葉が頭を過ぎった。躊躇う事をせずに私はこの包み隠さずに彼に言い放った

 

「そうやって、逃げ続けるのですか?」

 

「……………ふぅん?」

 

流し目で私をジロリと見る彼に、私は少し狼狽えてしまった。見た目は明らかにひ弱な筈なのに目に込められた力だけは違うとこの場で理解した。どう考えてもいつもの彼じゃない。虐めを受けているひ弱な彼と、今目の前に居る強気の彼と比べても、今私に敵意を見せて来る彼が違う存在だと思ってしまった

 

「で、わざわざ呼び止めた目的は何?金なら生憎アイツ等に取られたばかりだから無一文だぞ?」

 

「え?」

 

「何奇怪な物を見る目をしてるんだ。ああ、口調の事か?それなら単に猫被ってるだけだ。アイツらに強気な所を見せたら面倒なんだよ。まあ、今の生活も面倒臭い事には変わらないんだが」

 

これではっきりした。虐めを受けている彼と今この場に居る彼は違うと。

二重人格を思わせる程彼は豹変した。学校に居る時は弱者を演じ、その他の場所では今の様な強気な雰囲気に変わる。

 

だが、逆に何故虐めに対して抵抗しないのかという疑問も浮かんできた。今の彼の状況は明らかに度が過ぎている。下手したら命を落とす様な被害もあっているという噂も立っている。

 

なのに何故猫を被る理由があるの?何故虐めを受け入れるのか、その疑問で頭がいっぱいになっていった。

 

「何故、抵抗しないんですか?」

 

「抵抗?何の事だ?」

 

「とぼけないでください!貴方に対する虐めは度が過ぎています。何故助けを求めないのですか?命を落とす様な事だってあったと聞いています。何故そこまでして「はいそこまで!」……え?」

 

「なんか丁寧に正義感出しながら言ってるけどさ、お前何様?自分の事正義の味方とか、救いのヒーロー的な存在だと思ってるの?」

 

「な、何を言って……」

 

「俺の事助けようとしても無駄、どうせ過去は変えられない。俺は一生忌み子という存在でしか生き続けないからな。第一、俺を助けて一体どうする気?俺とお前は赤の他人だろ?何故この事に関わろうとする?」

 

「それは…………」

 

彼に言われた事で迷いが生じてしまった。彼の言う通り、彼を助けてどうするか、その事に関しては何も考えていなかった。ただ今の環境に耐え切れずに、目の前の人が居なくなってしまったらという心配感で私は動いていた。何故私は彼を助けようと考え、行動し始めたのか、その事を自問自答する事も出来なくなっていた

 

「ね?即答出来ない時点でお前の正義感、考えは俺に対して無駄なの。分かったらもう俺に関わらない方が良いぞ?お前も虐めの対象になるかもしれないからな」

 

「っ!………待って!!」

 

彼は私の声に答える事は無く、私の前から消えてしまった。私は何がしたかったのか、残された私はその事しか頭に無かった。

 

「何故なの?何故あの苦しみを受け続けようとするの?」

 

疑問を口にするが誰も答えてくれない。この事が頭から離れなくてしょうがない。きっとこの疑問は忘れようにも忘れられない物になってしまったのかもしれない。

 

この疑問を晴らすには、彼の事を知る必要がある。

 

その為に、まずは私と彼との関係を強くする事から始めないと。タイミングは早くてもこの学校の卒業式の時。その時なら周りに邪魔される事無く彼に近づき、関係を築けるだろう。

 

彼についていけば、私も変われる。今私が抱えている問題も、彼なら解決してくれるかもしれない!

 

今思えばそんなのはただの錯覚だと思われるかもしれない。でも私には彼が必要だと思った。今の私を、未来の私築くのは彼!

 

錯覚?幻?そんなのは理想に過ぎない?

 

そんな事は関係無い!!

 

もう妹に超えられたくない、私がしてきた事をあっさり超えて来て、私が手に入れてきた物を全て奪う妹、常に物差しの様な扱いを受けるのはもう嫌なの!!

 

だから日菜には手に入れられない何かを手に入れる。そしてそれを離さずに片隅に置いておく必要がある

 

だから彼を手に入れる。彼を変えて、私も変わる。その未来を夢見て私は行動を始めるのだった

 

「待っていて下さい。2年後、私は貴方を救いますから。例え、私の全てをかけてでも!」

 

私は決意した。

 

『彼と私の救いを求めて』

 

私はこの日から彼を手に入れる為に変わるのだと、心の中で固く決意したのだった。

 



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分かれ道

今回は響視点
しばらくは響で書いて行こうかなと思います。

いや〜気づけばもう年末まで二週間。これの事もすっかり忘れてましたね。これからは気が向けばちょくちょく書いていこうかなって思ってます!


今日は本当に不幸だ。

突然呼び出されたかと思えば告白され、拒絶したら拉致られた。しかもよく拉致等に使われるとの噂のスタンガンまで持っている。

 

スタンガンの電撃にやられて俺の身体は自由に動かない。逃げ出そうにも逃げ出せない状況下だ。僅かに痺れが取れ、身体を揺さぶって逃げ出そうにも……

 

「っ!!……っ!!!」

 

「もう切れましたか、そんなに暴れないで下さい!」

 

「ぁ……っ!」

 

再びスタンガンを当てられ、逃げられない状況に戻される。学校を出て道路の端っこを歩いている彼女におんぶされながら拉致られているなんて、情けない状況だ。なんでこんな事になっているんだ?

 

俺は彼女に何かしたか?

 

いいや、そもそも俺と彼女の関わりは殆ど無い筈だ。中ニの始め位に彼女が話しかけてきた事はあったがその時は鬱陶しいから突き放しただけ。特に何もしていない

 

突き放した事によって恨みを買った?

 

買ったら買ったで何故今なのか?彼女が恨みを持ったなら、アイツらに混ざって俺の事はどうとでも出来た筈だ。態々二年もの長い時を待つ必要は無い。

 

 

彼女の目的が分からない!!

 

氷川紗夜の話からは分かった事は俺を逃さない事。いや、自分の物にしようとしているようにも思える。普通に考えて、彼女は恋人になろうとし、俺が拒絶した事によって拉致という結果になっている。だが問題は手に入れようとした人間だ。

 

殆ど関わりが無く、親は殺人犯と精神障害者という汚点とも言える存在から生まれた穢れた子供だ。俺自身容姿は酷いもので幾ら栄養がある物を食べていると言っても運動は全くしていないせいか、身体は自他ともに認める貧弱っぷりだ。

学力も言うならば中の下。何かと言えば馬鹿の部類に入るレベルの学力だ。とてもじゃないが彼女とは比べ物にならない。そんな彼女が俺を欲する理由が分からない。

 

取り敢えずは当面の目的は彼女から逃げる事だ。このままじゃ何処に連れて行かれ何をされるか分かったもんじゃない。自分の身を守る為に逃げ出さなければ!!

 

「もうすぐ着きますよ。そのまま大人しくしていて下さい」

 

しかし、現実は非情だ。何故ならその一言と共に彼女が歩みを遅くし始めたのだ。つまりは目的地が近いという事、今更逃げ出せるとは思えない。そして数十秒歩くと一軒家に到着すると、俺を背負ったまま器用に鍵を開けてリビングへと連れて行かれソファ寝かされた。

 

彼女はテーブルの上にスタンガンを置くと俺を放置して何処かへと言ってしまった。

 

『逃げ出すなら今』

 

頭の中でその事すぐさま思い浮かんだが、行動には移そうとは思わなかった。身体の痺れは取れてきたし、何なら手位なら動かす事位は出来る様になっていた。もう少しすれば歩く事が出来る筈だ。でも俺は逃げない。何故かって?

 

簡単な話、逃げられるとは思っていないからだ

 

スタンガンの痺れによって現状俺は縛られているが、それは時間と共に回復していく。つまりは時間が経てば逃げられるのだ

逃さない他の方法として縄などで四肢を縛れば行動は出来なくなるがそれは傍から見たら明らかに不自然だ。しかもその状態で外に出たらなおさら。誰かしらが疑問持って話しかけるなりする事は目に見える

 

まあ、歳の変わらない少女が痩せ細った男をおんぶして街中を歩いている光景自体、不格好で不自然極まりない光景なのだが……

 

 

「おや、逃げなかったんですか?」

 

どうやら、逃げるか逃げないかを考えている内に誘拐犯が帰って来てしまったみたいだ。しかも今度は手に銃を持ってときたか。こいつ、本当に何が目的だ??

 

「これですか?安心してください、本物じゃありませんよ。そこのスタンガンと同じ効果はありますが」

 

スタンガンと同じ。つまりはそこにあるものとは形は違うが人を痺れさせる事が出来る道具と言う訳か。いよいよ逃げ道が無くなってきたな。一体どうしたら……

 

「まだ逃げる事を考えているんですか?諦めてください。貴方に逃げる事は出来ません」

 

彼女が俺に寄り添って来て耳元で囁いてきた。はっきり言って恐怖でしかない。彼女の顔を見て寒気が全身を駆け巡って行く。まだあの暗い目をしているのだ。まるでこれから自分が料理でもされるのかと思わされる恐怖。まな板の鯉の気分だ。

 

 

「やっと落ち着いて会話が出来る状態が出来ましたね。長かったです。とっても……長かったです」

 

 

顔を手でガッチリ固定させてこちらを覗き込んでくる。正直怖い。いや、恐怖以外何も感じない。今すぐに逃げ出したい。これなら学校生活の方が楽だ、彼女と居るとあの時とは別の恐怖心が襲ってくる。この束縛感。とてつもなく息苦しい……

 

「どうしたんですか?そんな小刻みに震えて。いつもの貴方じゃないですよ?そこまで気温は寒くは無いと思いますが……確かに外は肌寒かったですが今は私が居るのでむしろ暖かいと思いますよ?何故震えているのか私には分かりません何故震えているんですか?私にも教えて下さい早く教えて下さい私には隠し事は無しですよ?将来は私と共に生きていくのですからお互いに壁を作ってはいけませんねそれに例え貴方が私との間に壁作ったとしても私はそれをすぐに壊しますから意味ないですよ?それに……」 

 

急に彼女が早口に話し始めて俺はついていけなくなった。おまけにまだ話し続けている。もはや何を言っているのかすら分からない。だがこれを聞いてもう諦めがついた。俺はもう逃げられない。逃げられない状況が出来上がってしまった。それならもう……

 

 

 

 

彼女に身を任せた方が楽だ。

 

簡単な話だ。いつも通り感情を殺してただの人形になれば良い。その場に適応すれば反抗するよりも気は楽だ。終わった後は身体も精神もかなり疲れ果てるがそれでも反抗の意識を持つより素直に受け入れた方が自分へのダメージは少ない。受け入れよう……そう思って僅かに痛む身体の力を抜きながら未だに話し続けている彼女に言う

 

「もういい……好きにして…」

 

そう言い放った瞬間頬に強い痛みが走る。今まで経験してきた痛み。星の数程受けていた殴る蹴る等の痛みでは無く、手のひらで叩かれた痛みだ。彼女を見てみると何故かあの長々とした話が突然終わりを遂げていた

でも分からない。なぜ俺今叩かれ彼女のあの長話が終わっているのか??

 

俺としては彼女の行為を受け入れようと今の言葉を彼女に発したにも関わらず、彼女の顔を見てみると怒りと不満を抱えているような表情をしている。光の消えた黒い目で睨みつけられがら彼女は口を開いた

 

「ふざけないでください」

 

「………ふざけていると思う?」

 

「今すぐ元に戻って下さい!私が求めているのは貴方じゃありません、早く元に戻って下さい!!」

 

彼女が鬼の形相で俺に詰め寄ってくる。意味が分からない。彼女の行為を抵抗し、受け入れなければ受け入れろと言い、受けれ入れれば何故か元に戻れと言われた。

元に戻れとはどういう事なのか??俺は何も変わってないしもちろん彼女も何も変わってはいない。双方に変化があったとは思えない。なら元に戻れとは一体どういう事なのだろうか?不思議な事ばかりでもはや何がなんだか分からない

 

 

「…………貴方はそうやっていつも逃げ続けてきたんですね」

 

「逃げる?………虐めとかからの事か」

 

「そうです。反抗を捨て、全てを受けるその姿勢。何故そこまで苦痛を受け入れられるのですか?」

 

「反抗するだけ無駄と分かるからな。人が壊れる様は何度も見てきた。苦痛から逃れようと抗う姿を。でもそれが意味を成さないと知ったのは、僅かな時間だったけどな」

 

「私が求めるのは無抵抗の貴方じゃありません。もう一つの、あの時の貴方に戻って下さい!」

 

「……意味がわからない。お前が求める俺とはなんなんだ?」

 

「それは「たっだいま〜!!」なっ!?」

 

 

静寂な空間で二人っきりの環境での突然の声に、俺達はびっくりしてしまった。氷川に至っては慌てて机にあるスタンガンと手に持っていたものを隠して玄関へ向かって行ってしまった。声からして俺達とはそう違わない年齢の女の声だったが……

 

 

「日菜!?どうしてこんなに早く帰ってきたの!?学校の卒業会は?」

 

「面白く無かったから帰ってきちゃった!それより、お姉ちゃんどうしたの?そんなに慌てて」

 

「貴方には関係無いわ!いいから、早く自分の部屋にでも戻って!!」

 

 

壁越しでの会話からどうやら氷川の妹が帰ってきたようだ。それなら好都合。今この状況で助けを求めれば少なくともこの状況から抜け出せる!!身体の痺れも無くなってきたし、抜け出すから今だ…けど………

 

 

「変なお姉ちゃん。もしかして誰か居るの??」

 

「ちょっと!?日菜!!」

 

「ドーン!!」

 

 

口から大きな擬音を発しながら勢い良くドアを開けて入ってくる妹らしき人。瞬時にその人を見たせいか思いっきり目が合った。でも目が合った瞬間彼女からは戸惑いが見て取れた。明らかに動揺している。後から入ってきた氷川も同じく動揺している。まあ、氷川からしたら驚かない方がおかしい。何故なら……

 

俺は今までの事が無かったかのように平然とソファに座っているのだから

 

「えっと、こんばんわ?氷川さんの……妹さん?」

 

「うん!名前は氷川日菜、日菜でいいよ。あなたは?」

 

「遠坂響です、よろしくお願いします。日菜さん」

 

「えぇ〜?そんなに固くならな〜い!ねね、もしかして響くんてお姉ちゃんの彼氏??」

 

嫌にテンション高いな……正直やりづらい……この手のタイプに合わせるのは疲れる。ここは早めに切り上げるのが一番だな…

 

「まさか。ただの顔見知りですよ?そこまで深い関係じゃないです」

 

「ふぅ〜ん?まぁいいや。それで今日はどうしてうちに来たの?はっ!まさかお姉ちゃんとあんなことこんなことを………」

 

「いや、顔見知りとそんな事します?ただ遊びに来ただけですよ。氷川さんがどうしてもと言うので」

 

「えっ!お姉ちゃんが!?ほんとに!?」

 

「そ、それは………」

 

頭をグルンと反転させる氷川妹。どうやら男が家に居る事よりも驚愕したらしい。顔を合わせて露骨に嫌がる姉を他所に言い寄るこの光景はなんとも言えない気まずさである。

さてと、そんな姉妹事情は俺からしたら知った事では無いし、早く帰りたいしそろそろお暇させていただくとするかな

 

 

「もう大分日も暮れてきましたね。そろそろ帰らないと……」

 

「えぇ〜〜!?もうちょっと居ていいよ?お姉ちゃんとの関係も知りたいし!」

 

「そういう訳には。また会う時もあるでしょうし、その時にゆっくり話しましょう」

 

俺はゆっくりと立ち上がってこの家から出る為に歩みを進めた。スタンガンの痺れも無くなり、歩く事はもう大丈夫みたいだ。このまま立ち去っても良いが、念の為氷川には釘を刺して置くことを決め、俺は氷川とすれ違いざまに小声で囁いた

 

 

「ここは穏便に済ませてやる。だが二度と俺に関わるな」

 

「っ!!」

 

「では、さようなら。日菜さん、また何処かで」

 

「うん!またね〜!!」

 

 

笑顔で軽く挨拶を交わし俺は家から出る。正直疲れた……あの姉妹とは二度と関わりたくないものだ……精神的にあの姉妹は俺を蝕んできそうだな…。と言っても学校は卒業したし、俺はもうすぐこの地域からは居なくなる身だ。もうあいつらと関わる事も無いだろうな

そして俺は彼女から、氷川紗夜から逃げるように早足で自分の住む家へと帰って行った

 

 



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お引越し

明けましておめでとうございます!

気づけばもう年越し。時間が経つのは早いな〜と思いつつちまちま書いていこうかなと思ってます
それと今回は自分でもん?って思う物になっちゃいました。これからどうしようか〜と続きを考えて自分で納得出来無ければこれを削除して別の道での話を再投稿するかもです


「お〜い、そろそろ荷造りを始めろ」

 

「面倒くさいです。近藤さん」

 

「そうか。ならしなくてもいいぞ?俺が纏めて処分しておくからな」

 

「冗談ですよ……仕方ない、始めるか……」

 

近藤さん。今俺がお世話になっている施設で数少ない会話をする職員だ。氷川から逃走して四日目、施設内はお引越しで大忙しだ。というのも、俺と数名の入居者が別の住居へ引っ越しをするということで職員達はバタバタしていた

 

引っ越しといっても根本的に別の施設に移動する訳ではなく、俺が今居る施設が管理している住居へ移動するというものだ。俺が知っているだけでも児童養護施設は二つに分けられる

 

一つ。一つの大きな住居を施設化し、一箇所で入居者を管理する施設

これは広い敷地に施設を建てて入居者を自由に生活させるというものだ。外観としては大きめの幼稚園みたいなものだな。居住区と自由に遊べる敷地と別れていてそこ一箇所だけで生活をさせる施設だ

 

二つ目は地域密着型の施設だ。

どちらかといえば俺はこっち側の施設に属しているといえる。これは簡単に言えば一箇所の本園を筆頭に各地域にある一軒家等を使って住まわせる感じだ。

分かりにくいだって?なら警察署と交番を思い浮かべろ。大きめの施設と小さい施設と置き換えれば分かりやすいだろ?施設統括である本園と小さめの施設の分園。

と言っても分園の方は何もここが施設だとは明記していない。外観は普通の一軒家だ。子供達を守る上でも、大事な事だな

 

それと、この方式は児童相談所も使用している。知っての通り児童相談所は施設とは違って児童虐待等の子供を助ける為の相談所だ。ここで虐待じゃないのか?と地域の住人から通報を受けた職員がその場へ向かい、話を聞き必要なら保護を行うというのが主な仕事だ

と言っても、児童相談所で保護された子供がすぐさま施設へ入れられる訳ではない。児童相談所は予め、児童保護用のシェルターを持っている。保護された子供は一時的にここへ入れられ、一定期間すると親元や親戚へ引き渡されるか児童養護施設へ入れられる。

児童相談所のシェルターは相談所から離れた位置に置かれている。勿論外観は普通の一軒家だ。子供を保護する上でも、このシェルターについての情報は流してはならないと絶対厳守される。職員は勿論、入居者にもこれは適応される。先に出ていった入居者がシェルターの事を話してしまうと後の入居者にも影響が出てしまうからだ

 

施設児になるとこういった情報秘匿の責任を背負う事になる。どんな小さい子でおいてもだ

 

まあ、自分の事はそうそう話す事でも無いし、大体はこれらの情報は守られている。今回は本園に住んでいる俺が分園へ移動する事となった。他の子もな。

俺はもうこの地域で安全に生活出来ないと判断され、晴れて俺はこのくそみたいな街からおさらば出来ると言うわけだ。本当ならもっと早く移動したかったのだが……

 

今更グチグチ言ってもしょうが無いし、俺は少ない荷物をダンボールへ詰めるが……何ということでしょうか。普通のダンボール二個で俺の部屋はスッカラカンだ。これに関しては驚きだな。今ちまたで言われているミニマリストってのに近いかもな。こんな少ない荷物で生活出来ていたとは……

 

とにかく、俺はほっそい身体で頑張ってダンボールを引っ張る。持っていくんじゃないのかって?

 

悪いな。体重46キロの俺には物を詰めたダンボールは重すぎるんだ。だから端っこを持って頑張って引きずり、たま〜に押したりして運んでいた

 

「お〜い、何ダンボール引きずってるんだ。しっかり持ちあげろ」

 

「重いから嫌です。クソっ…流石に二個同時に運ぼうとしたのは欲張り過ぎたか……」

 

「それは置いておけ、後で運んどいてやるから。それよりも、お客さんだぞ」

 

「………はい?」

 

「何ポカ〜ンとしてるんだ。お前にお客さんだ、まさかお前にあんな可愛い友達が居るとは思わなかったぞ?」

 

「………まさか髪が水色だったり、氷川紗夜だとか名乗った俺と同い年くらいの女の子じゃないですよね?」

 

「そうだが?友達ならさっさと迎えに行ってやれ。今外で待ってるぞ?」

 

「はあぁぁぁ………」

 

まさかとは思ったが本当に氷川とは……ため息しか出ないな……

どうやってここに居ると調べたんだ?施設暮らしとは言って無いし、クラスの奴らから付けられないように何キロも迂回して日々後ろを気にして登下校してたのに……

いや、あいつの執着心ならもしかしたらゲームみたいに何か特殊なスキルでも使ってバレずにストーカーしたんだろうな。おのれ氷川紗夜め……

 

潔く俺は施設の玄関前に向かってみると、居たよ居たよ。この寒空の下微動だにせずに門で待ってるよ……

 

「この寒い中よく来たな?」

 

「もっと早くから伺う事は出来たのですが……何かと障害が生じてしまって……」

 

「「……………」」

 

おいなぜ無言になる。外で長話なんてしたくないぞ。これならしっかりと防寒してくれば良かった。部屋着で外に出るもんじゃないな………仕方ない。さっさと要件聞いて追い返すか…

 

「で?何の用だ。氷川」

 

「紗夜と呼んでください。親しい間柄に名字で呼び合うのはおかしいと思いませんか?響さん」

 

「いつ親しくなった、いつに。下らない要件ならとっとと帰れ。俺だって暇じゃ「今日引っ越すみたいですね?」……なぜその事を知ってる」

 

「盗聴させてもらいました。貴方の服に紛れさせて、日々の会話等をしっかりと。最近は欲求不満みたいですね?夜になるとしてる声が聞こえてきますよ?」

 

俺はその場で崩れざる負えなかった。だって考えてもみろ。今あいつが懐から取り出した無線機みたいなので全て聞かれてたんだぞ?あの事やらあの恥ずかしい事も聞かれてたかと思うと……うぅ…何故だろう、目から水が……

 

「性欲なら私が満たしますよ?なんなら、今からでも……」

 

ガチャン

 

不吉な音と共に右手首に妙な違和感が。見てみると灰色の妙な腕輪が俺の右手首に付いていた。というか、地味に重い……って!!

 

「なんだこれ!?」

 

「腕輪ですよ?貴方を逃さない為の特注品です。貴方が何処へ移動するかは分かりませんでしたから、今まで貯めていた貯金で作ってもらいました。少々値は張りましたけど」

 

「わざわざそんな事までするのか!?んっ!おまけに外れない!!」

 

「外すには専用の鍵が必要ですよ。それと、今の私の身ぐるみを剥いでも無駄です。鍵は置いてきましたから」

 

「なら、壊すだけだ!!」

 

ガンッ!!

 

地面のコンクリートに向かって思いっきり叩いたが、この腕輪はびくともしなかった。むしろぶつけた衝撃が直に響き渡ってきてすごく痛い……

 

「貴方が私の物になってくれるのでしたらこんなことをする必要は無かったんですが……仕方がないですね」

 

「お前の物になれって?奴隷か?下僕にでもなれと?」

 

「まさか。あなたとは対等でいたいものですよ。でも、私から離れて他の人に染まるのは我慢ならなかったので。私から離れないで、私と共に生きていくと約束出来るのなら、その腕輪を外してあげます」

 

「っ……またその目か」

 

話をしている間にも氷川の目は暗くなりつつあった。後ろでは引っ越しの準備をしている職員達が横行してるし、なんなら他の入居者も集まってきててかなり気まずい。この数分で俺の氷川の評価は確定した。

 

母親と同じ、精神異常者だとな。もっとも、異常と言っても根本的に何かが違う気はするが……

 

「腕輪が嫌でしたら首輪等もありますけど、どうしますか?と言っても作りは同じですから付ける場所が変わるだけですけども」

 

「そこまでして俺を拘束したいのか。この異常者が……」

 

「貴方に何と言われようと、私の意思は変わらないです。目的の為にも、私は立ち止まる時間も惜しいのです」

 

「目的だって?こんな事をしてまでなし得たいお前の目的って何なんだよ」

 

「………私と貴方が救われる未来を作る事ですよ」

 

「…………」

 

こいつ、今なんて言った?

 

救われるだって?あれか、俺が普通の人間になって平穏な生活を送れる事を言うのか?それとも二度と苦痛を受けない安らかな人生を作るとでも?

 

下らない………実に下らない!!!

 

氷川紗夜、お前は実の両親が犯した汚名を着せられ、過去という鎖に囚われ続けて、日常的にもその鎖が引き上げられ晒される身分か?

 

いいや違う!!こいつは自分の主観と価値観から全てを決めて押し付けているに過ぎない!相手の苦痛を知ろうともせず、相手の辛さを知らず、ただ自分の思いだけで人を動かそうとする………俺は何も知らない人間が、ただの好奇心や探究心で過去の事を掘り返してくる人間が一番嫌いなんだ!!!

 

ガシッ

 

「!!」

 

「おい、今すぐこの腕輪を外せ」

 

「っ……ぁ……!」

 

気がつけば俺は氷川の首を掴んで自分が出せるだけの腕の力を出していた。他人の目など気にせず、ただ一人の人間に全てを集中させて。ジタバタと抵抗してるが俺は一切力を緩める事はせずただ氷川の首を締めていた

 

バチッ

 

「っ!!」

 

「っはぁ!!……はぁ…はぁ……」

 

この感覚!またスタンガンか!?

 

身体が痺れて動けず、その場で倒れ込んでしまった。迂闊だった。こいつが武器を持っている事を想定していなかった……いや待て………

 

なぜ俺は氷川の首を締めたんだ??

 

頭に血が登っていたとはいえ、すぐさま手をあげた事は今まで無かった。なのに、何故氷川に対してだけ、殺してしまう可能性がある事をしてしまったんだ??

 

頭がスッと冷えるように一気に冷めた俺は今自分がした事を後悔していた。人の目を気にして頑張って後ろを振り返ってみるとなぜか人っ子一人居なかった。いや、それはむしろ好都合なのだが……

 

「はぁ……流石に驚きましたが、念の為持ってきて置いて良かったですね。それにしても貴方がこんな強硬手段に出るとは思っていませんでした。これからは気をつけないとですね」

 

「っ……!」

 

「睨んでも無駄ですよ。これの効力は貴方だってよくわかりますよね?動けないのは分かっています。それにしても、何が気に食わなかったんですか?突然首を締めてくるなんて、ただ事ではないですよね?」

 

「………」

 

「無言ですか。少し電力が強いかもしれないですね。次からはもう少し弱めのを使う事にしますね。それと、貴方が私と来れざるおえない状況を作っておいた方が、良さそうですね」

 

「??」

 

「お母様が脱走して、貴方のことを探しているみたいですよ?」

 

「!!?」

 

「詳しく知りたいのでしたら、私の物になってください。施設職員はこれを隠していたみたいですが。そうするのでしたら、貴方を匿い、貴方の存在を黙秘してあげます。響さんはもう世に出る身分。施設以外にも隠れられる場所が必要ではないですか?友人も知り合いも居ないみたいですからね」

 

「っ………」

 

「何でも知っていますよ、貴方の事は。過去の事は勿論、貴方の家柄、身分、これからのどう生活していくのか等。ですが引っ越し先の事だけはどうしても分からなかったので致したかなく腕輪を付ける事になってしまいましたが。もう知らない事は貴方の身体くらいですが、それは後に。今は施設に戻りましょうか。ここだと冷えますからね」

 

そう言うと氷川はこの前と同じように俺を背負うと施設の中へ入っていった。しかし、本当に全てを盗聴して知っているとすれば氷川はこれから先かなりの障害になりうるだろう。この調子であれば何時まででも何処へでも追いかけて来るのは目に見えるし、逃げ続けるのは困難にも思える。

それに、あの母親が逃げ出したという事も気になる……施設職員や児相職員にしか俺の両親の事は知らない。母方の祖父母は他界しており、親戚達とは関わりが無いと聞いているしな。病院生活は一部の人間にしか知らない事実だ。

 

これから先、氷川と母親に付き纏われる事を考えると、どちらかと一方に加担する必要がありそうだ。まだまだ、俺の生活は波乱を巻き起こす事となりそうだ……

 



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