Fate/Half of Queen【FGO】 (8bit侍)
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第1話「出会い」

ケイドの口調は難しいですね!


 ヒトとしての価値が何かなんて、答えられるほど俺は上等なヤツじゃなかった。ただ少しだけ他人より生きていくコツを知っていただけの……あーそう、上品な生き方なんて知らなかった野良犬っていうやつだ。生き汚いとも言うかもしれないが、まあその辺の細々としたことは正直どうでもいい。とにかく、お世辞にも「英雄」なんて呼ばれるような奴ではなかったのは確かだろう。むしろこっちからそんなもの願い下げだ。考えるだけで電子回路までむずがゆくて仕方がない。

 

 

 あー結局何の話だったか……おお、そうだそうだ! 俺の身の上についてだったな。まあ、結論を言ってしまえば俺は「サイコーに(・ ・ ・ ・ ・)イカした(・ ・ ・ ・)ドブネズミ(・ ・ ・ ・ ・)」だったってことだ。

 

 

 英雄って呼ばれるような奴らからすれば見るに値しないだろうが、せめて俺と同じ境遇の奴らのなかではカッコイイやつであろうとしたのは確かだ。え? そいつらからすれば俺は「英雄」だったんだろう?

 

 

 まあ、そう言えなくもない……ってオイオイ。話の腰を折るんじゃない。でも、本当にスゲー奴ってのは俺の身内にもいたさ。ソイツは物静かでシャイな野郎だったが、俺と同じぐらいユーモアにあふれた奴でもあった……なんでそこで悲しい目でこっちを見るんだよ。そ・れ・に! ソイツの実力と言ったら俺が半分全力……いや7,8割本気じゃないと勝てないぐらい凄い奴だった。いろんな奴に慕われて、色んな所に首を突っ込んでたもんだ。そうそう、ちょうどお前みたいな……あれ?よくよく考えたらお前そっくりだな。ま、どうでもいいか。

 

 

 

 とにかく言いたいことは俺は「英雄」らしいことをしたことは一切ない。ヒーローみたいな人格や行動には縁遠いさ。ただまあ……ひとつぐらい期待してもいいコトを挙げるなら――。

 

 

 

 

 

「――こと生存に関しては、6回しか失敗したことが無いぞ? マスター」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 藤丸立香は唖然としていた。

 所長であるオルガマリー・アニムスフィアと自身の部屋に入り浸っていた医療スタッフ、ロマニ・アーキマンの提案で、霊脈のターミナルを作り、召喚サークルの設営を行った。そして、自身の身を守るために英霊(サーヴァント)を召喚した……のだが。

 

 

「サーヴァント、あー、霊基クラスは……フォーリナーっていうらしい。お前さんがマスターでいいんだな?」

 

 

 自身の前に現れたのは、なんというか……ありていに言ってしまえば――。

 

 

「……ロボット?」

 

 

 金属の光沢を放つ肌。光源を持つ眼球。声を発する度に発光する口内。どう見ても人間とは呼べる代物ではない。フリーズする脳内を他所に声帯は勝手にそう発音させていた。

 

 

「ふむ、ちょっとセンスに欠ける響きだな。言葉選びに捻りが足りない。人生何事も遊びが重要だぞマスターと思わしき人物君」

 

「うぇ? あ、あの――」

 

 

 回らない頭で言葉を紡ごうとするが意味をなさない。困惑のまましどろもどろとなる立香を他所にある意味はっきりとものをいう人物がいた。

 

 

「フォーリナーなんてクラス聞いたことないわよ!? あなた一体何処の英雄!?」

 

「さてな。説明して伝わるとは思えん。よって黙秘権を行使する」

 

「な、なんですってぇ!?」

 

 

 その場にいるほとんどの者が抱いていた疑問をぶつけたのは特異点にレイシフトしてから常時精神が不安定なオルガマリーだった。だがその直情的な物言いをさも、何もなかったかのように眼前の英霊(ソレ)は首をすくめるだけだ。そもそも黙秘権を行使するということは被告側に立っている自覚を暴露しているようなものなのだが。

 

 

『所長の意見は最もだ。あまりにもデータが少なすぎる。クラスとスキルしか開示されていないし、真名と宝具に至っては何も書かれていないぞぅ!? 本人にだんまりされるとこっちはお手上げだ!』

 

 

 加えて通信によって驚愕するロマニ声が割って入る。

 

 

「自分語りってのはそう簡単にするもんじゃない。ただ、そうだな。恐らく座に登録された英霊のなかでは最新の部類とだけ言っておく。そして、話は変わるが……あー、そこにいるガーディアン?」

 

「え、あ、はい! 私のことでしょうか?」

 

 

 指さす先にいるのは黒いインナースーツのようなものを着た少女。名をマシュ・キリエライト。今回のレイシフトをきっかけに英霊と人間の融合体であるデミ・サーヴァントとなった少女である。本来ならばAチームに所属し、レイシフト訓練を他のAチームメンバーと行うはずであったが、カルデアで引き起こされた原因不明の爆発事故によって、瀕死の状態となってしまう。そこに居合わせた48人中最後のマスターである藤丸立香をカルデアのレイシフトシステムがマスターとして承認。中断されるはずのレイシフトが続行され、2人はこの冬木の地へと飛ばされることとなった。

 

 

「さっきから俺ばかり質問攻めなんだが、お前さんはどう思う?」

 

「どう思う、とは……えと、私の主観になりますが、よろしいでしょうか?」

 

「おお、いいぞ」

 

 

 腕を組んで頷くロボ。この奇妙な光景はもう少し続くらしい。

 

 

「その、先輩や所長、ドクターも含め皆さん少し落ち着いた方がいいかと……せっかく座から赴いていただいた英霊の方です。これから助けていただくかもしれませんので」

 

「そう! その謙虚さはいいぞ! あー、俺の仲間にもお前さんみたいな奴がいたらなぁ……ハァ」

 

 

 何故かフォローを受け一瞬喜ぶも、謎の帰結に勝手に落ち込むロボ。そして、自身を先輩と敬う後輩に諭され、真っ先に脳を再起動させたのは立香だった。

 

 

「……ハッ!? その、すみません! あの、突然で申し訳ないんですけど、私たちに力を貸してくれませんか?」

 

「思いきりがいいな。いいぞ」

 

「いきなりこんなことお願いして無理なのは分かってま……え? いいの!?」

 

 

 まさかの快諾に盛大にズッコケる立香。おどける様に肩をすくめるロボは愉快そうにその光る双眸を細めた。一般的な感性で見れば周囲をからかっているように見える彼の挙動に果たして意味はあるのか。

 次から次へと予想外の行動を生み出す彼へ何も言えなくなる一同。が、果敢にも理解を示そうとする猛者が1人彼の前へと躍り出る。

 

 

「あの、ご協力感謝します。私はマシュ。マシュ・キリエライトと申します。通常の英霊とは違いデミ・サーヴァントですが、戦闘ではご迷惑をかけないよう尽力しまひゅ……します」

 

 

 あ、噛んだ。

 この場の全員が確実に抱いたであろう所感。頭を下げるマシュの顔色は見えないが、確実に赤いのは間違いない。だがその口から紡がれたものは簡潔ではあるものの、飾らない誠意の伝わる言葉だった。

 

 

「……オーケー、俺もお前さんと戦う。異論はないさ。おいそっちのお嬢さん(フロイライン)

 

 解答に少々間があったのは彼女の根気に面食らったことによるものか、はたまた噛んだことに意識がそれたのか。どちらにしても当人にしか分からないことだが、そんな彼は次はお前と言わんばかりに指を指す。

 

 

「え……はい、なんでしょうか?」

 

 

 指さす方向にいるのはオルガマリー。唐突な事にその表情には動揺が浮かぶものの、直ぐにそれは険しいものへと変化する。彼女の彼に対する第一声を思い返しても見れば当然のこと。それでも、指名されたのだからとバツが悪そうに口を引く。

 

 

「あー、言われたことは別に気にしてないぞ。無言になられるよりは遥かにマシだからな。お前さんが他の2人を率いる司令官と見たが……あー、状況報告頼めるか?」

 

「は、はぁ……その、失礼しました。正体が分からないとはいえ、あなたは英霊です。協力していただけるのであれば私たちとしても助かります。私はオルガマリー・アニムスフィア。人理保障継続機関『フィニス・カルデア』にて所長を務めている者です」

 

 

本人からのフォローという予想外の事に毒気を抜かれ、冷静さを取り戻すオルガマリー。未だその表情は硬いが、先ほどとは打って変わって引き締まっている。至って真面目に、そして真摯にこれまでに起きた経緯を説明の後、目の前のロボの反応を待った。

 

 

「本拠地が謎の爆破事故に加え突然バラバラにレイシフト……なるほどな」

 

 

 何故か遠い目をしていた。まあ、ロボなのだから表情とかまるで読み取れないので、実際にそんな表情をしていたかは不確かである。数巡の後に、マスターと他の面々を見やる。そして、被っているフードをかぶり直し何も言うことなく歩き出した。

 

 

「ちょ、ちょっと!? 何処に行くのよ!」

 

 

 所長としての威厳も束の間、焦るように引き止める。だが、それは言葉だけであり、実力行使といった行動に移すようなことはしない。相手が英霊なのだから無理もない話だ。

 

 

「ん、正直面倒なことにはあまり手を出したくないんだが、マスターと既に契約しちまってるみたいだしな」

 

「は……? 何を言って――」

 

「要はなんも分かってないって事だろ?原因を探ってるとは言え、手掛かりはゼロ。違うか?」

 

「うっ……」

 

 

 彼女が語ったのはあくまでも、カルデアがこの事態を終息させるための必要性および意義。特異点Fに関する情報は、ほとんど提示できていない。

 2016年の2月、日本の冬木市、聖杯戦争の真っ最中、冬木市全体で謎の火災とエネミーが発生しているという、素人でも理解できる事実だけだ。

 

 

「だから足で稼ぐしかないだろ? ちょっくら、散歩に行くだけさ。安心しろ、今回の俺は単独行動のクラススキルを保持しているらしいからな」

 

「え、あ、待ちなさ――」

 

 

 刹那、体が青い粒子へと変換される。いわゆる霊体化だろうか。唐突な戦力ロストに全員が面食らったまま動かない。数秒後、その場に絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

「な、なんなのよアイツーーーーーーッッ!!!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 方針や流れを何もかもをぶった切って消えたサーヴァント。その存在はただでさえキャパオーバーになっているオルガマリーの精神に甚大なダメージを与えたようだ。幼児退行したように「いやぁ……もうお家帰る……助けてよ、レフぅ……」とうわ言のように呟いている。体育座りで。

 

 

「先輩……どうしましょう。オルガマリー所長が動かなくなってしまいました。こういうときは励ました方がよろしいのでしょうか?」

 

「ロマニって医者でしょ? 仕事ですよ。メンタルケア。はりーあっぷ」

 

『うぇ!? ここで僕に振るのかい!? そ、そうだなぁ……』

 

 

 白羽の矢を立てられ唸るロマニ。どうやら、割りと真面目に悩んでいるらしい。彼が病んだ精神を癒すために選ぶ手段とは――。

 

 

『……それより立香ちゃん! まだ聖晶石は残っていたよね? どうせなら後何回か召喚しちゃった方がいいんじゃないかな!』

 

「あ、投げた」

 

 

 まさかの職務放棄だった。『時間が解決することもあるんだよ……』なんて続けているが、小声で言われても説得力の欠片も無いと立香は思う。

 だが、実際に召喚したはずのサーバント第一号はどこかをほっつき歩いてこの場にはいない。それはゆるぎない事実ではある。行動を起こそうにも、召喚前と同じ戦力では心許ない。手元にある聖晶石は7つ。最大でも2回しか行えないが、状況的に四の五の言ってる場合ではないのも確かだ。立香は所長のケアをうやむやにしたロマニの口車に乗っかり、手持ちの石を消費して召喚サークルを起動した。

 

 

「なにこれ?」

 

 

 英霊は召喚されず、代わりによく分からないものが2つほど置いてあった。ロマニはそれが概念礼装という存在であると説明する。人や物といった物質、歴史や物語といった積み重ねられてきた事象、魔法や魂といった神秘とされるもの。その“概念”を摘出し、能力として身につけられるようにしたものが、概念礼装である。しかし――

 

 

「麻婆に含まれる概念とは一体……」

 

『えーっと……ちょっと解析してみないことにはなんとも言えないかなぁ』

 

 

 人間には装備できない代物のため、単体では使い物にならないらしい。結局、事態は好転していないことに立香は頭を抱える。

 

 

「い、一応私はサーヴァントですので、装備できますよ先輩!」

 

「うちの可愛い後輩にこんな劇物食わせられるかァ! 却下だ却下!!」

 

「えぇ!? 可愛っ……その、あ、ありがとうございます?」

 

 

 何故そこでいちゃつくのか。いよいよ本当に八方塞がりな状況になってしまったのだ。やけくそになるのも無理はないが、もっと他になかったのだろうか。

 

 

「……元々3人だけでここまで来れたんだし、大丈夫じゃないの? 骨とか出てきてもマシュの盾で余裕だったじゃん」

 

『いや、それは難しいよ立香ちゃん。確かに確認されている敵性個体が相手なら問題ないかもしれない。けれど特異点では多くの場合――!?』

 

 

 立香が素朴に思ったことを口に出したことに対し、それにロマニが答える。そして、理由を話す過程で突然通信越しに警報時のアラートが鳴り響いた。

 

 

『まずい! 立香ちゃん、今すぐそこから離れるんだ! 敵性反応がそちらに向かってる……エネミーじゃない!これは――』

 

 

 風が舞い、黒い外套を纏ったナニカが目の前に降ってきた。人型であることは辛うじて分かるが、素肌の一切が外套と仮面に隠されていることから、それ以上のことは識別できない。そんな存在にロマニが情報を加えるべく、紡ぎかけの言葉を完成させる。

 

 

『――サーヴァントだ!』

 

「ククク……コンナトコロニマダ3人モ生キ残リガイタトハナ」

 

 

 声を聞いただけでも分かる。明らかに正気ではない。素人が聞いても悟ることだろう。重厚な死の気配が3人を包んだ。

 

 

「先輩! 早く私の後ろへ!!」

 

 

 戦闘態勢に移行し、立香を守るべく黒い影を前に立ち塞がるマシュ。相手の戦闘力が未知数なために、勝敗の行方は見当もつかない。だが、ここで背中を見せるような愚行をすれば狩られる。それだけは違いなかった。

 

 

「柘榴ト散レェ!!」

 

 

 そこからは一方的だった。いままでの敵とは比較するべくもない敏捷性。そこから繰り出される猛攻。高速移動を利用した全方位からの攻撃。無論、近接ばかりではなく、暗器のようなものも四方八方から飛来してくる。立香が背中で隠れている以上は防衛に徹する他なかった。

 

 

「ぐうぅぅッッ……!!」

 

「マシュ!」

 

「フム、存外粘ルデハナイカ。デハ――」

 

 

 仮面越しのため表情は一切伝わってこない。だが、その雰囲気は立香をその仮面が、見るのもおぞましいような表情で自分達を嗤ったように錯覚させた。背筋が凍るような悪寒を受けながらも、マシュの背中越しに黒いサーヴァントの動きを覗き見る。そこには突貫するようにこちらへと突っ込んでくる黒い影があった。

 

 

「――苦悶ヲ示セ」

 

 

 独り言のような、されど意思の籠った言の葉が紡がれた。死が身近に迫っている影響だろうか。五感が研ぎ澄まされ、常人なら聞こえないほどの声が耳に残る。同時に、外套から生えるように現れたソレ(・ ・)を立香は見た。その存在の正体は判らない。だが、明らかにヤバイ。自身の直感に身を任せ、シールドを構え直すマシュに密着した。

 

 

「――ぇ」

 

 

 その行動はあまりに悪手だった。黒い影による突貫はマシュの踏ん張りでなんとか受け止められた。だが、後ろにいた立香は浮遊感を得る体に困惑を示すこととなった。

 

 『ニュートンのゆりかご』を知っているだろうか。同一の大きさのいくつかの金属球が、静止した状態では互いに接するように枠に紐で吊るされ、それらが同じ長さの2本の紐でVの字を書くように吊られている装置である。

 

 この装置の右端の金属球を一定の位置まで持ち上げ、そこから金属球を離し、並んでいる金属球に対して平行にぶつけたとする。その場合、ぶつけられた金属球はどのような動きを見せるだろうか。

 

 解答は、既に立香の動きによって証明されている。

 

 

「っ……先輩!?」

 

 

 マシュが受けた衝突時の運動エネルギーはそのまま、立香へと移される。故に、マシュはその場に止まり、立香だけが衝撃により空中に浮いた形となった。

 

 マシュは咄嗟にシールドにかかる重みを目一杯の力で押し返し、吹き飛ぶ立香へと手を伸ばす。だが、間に合うはずもなく、虚しくも空を切るだけに終わった。空中に放り出された立香に、自身の態勢を整える術はない。自身の背中に衝撃を感じるのは自明の理であった。

 

 

「かはっ……!」

 

 

 叩きつけられれば、肺の空気はすべて押し出される。当然、しばらくは呼吸がままならない。不全を引き起こした気管は無理にでも空気を取り入れようとするが、呼吸ではなく咳という事象へと変換された。

 

 

「先輩! ご無事ですか!?」

 

「げっほ、うぇっほ……! だ、大丈夫。ちょっと背中打っただけ――」

 

 

 心配させまいと、笑いかけようとしたときだった。立香の体に異変を生じる。唐突に胸が苦しくなった。肺や気管のような呼吸器ではない。それらを候補から除外した時、残されるものはひとつしかない。

 

 

「あ、ぐぅっ……!?」

 

「せ、先輩!? ドクター! ドクター!! 先輩が!!」

 

『マシュ、落ち着くんだ! これは……心臓の動悸がおかしいのか……? でも一体……何故?』

 

 

 苦しむ立香に、誰もが困惑した。唐突な心肺の異常。原因は見当もつかない。

 

 

「――魂ナゾ飴細工ヨ」

 

 

 解答は、その悪魔(サーヴァント)が握りしめていた。振り返った先には、黒い影が佇んでいた。その風貌に当人を除いた全員が目を見開く。

 

 立香が視認したように、外套からはナニカが生えていた。形状を鑑みる限り、それが腕であると理解できる。だが、それは腕と呼ぶにはあまりにも異形だった。赤黒く、鈍く発光し、歪なほどに長い。そして視線は肩から肘、手首へと及び――。

 

 そこまで来て、マシュは息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

「そ、れは――」

 

 

 

 

 言葉が続かなかった。影の手には、脈動する何かが握れていた。少し力を込めるように手を添えると、立香の表情が苦悶に歪む。

 

 

「コレガ何カ分カルカ? クク、直グニ教エテヤロウ」

 

 

 ダメ、止めて、それは先輩の――。そう言葉を紡ぐ前に駆け出していた。距離にして数メートル。デミ・サーバントの身となったマシュの身体能力であれば1秒と掛からない距離。だが、それでも足りなかった。体内時間が引き伸ばされ、影に届くまでの時間が永遠にさえ感じる。

 

 

「――妄想心音(ザバーニーヤ)

 

 

 届かない。消える。優しく自分の手を包んでくれた、あの暖かい手が。もう二度と――。

 

 

 

「駄目えぇぇええぇぇぇーーーーーーーーッッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギィアアアァアアァァァーーーーーッッッッ!!!?」

 

 

 燃え広がる炎、止む様子のない雨、崩れる瓦礫。それら以外が音を発することのない炎上汚染都市に、人間の絶叫が響きわたる。

 

 

「えっ……?」

 

 

 マシュは困惑した。目の前で起きている事態の処理が追い付かない。自分は何を見ていたのか。腕だ、大切な先輩の心臓を握り潰さんと力を込める腕。一刻も早く黒い影の動きを止めなければならなかった。だが、そうなれば払拭できない疑問が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 ――腕は、何処に消えた(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 

 

 

「ほら見ろ、当たったじゃないか。最初から決めつけるのはよくないぞ?」

 

「ほんっっと信じられない! もしマシュや立香に当たってたらどうするつもりだったのよ!?」

 

 

 怒声が聞こえた。黒い影の後方からだ。そこにいた人物にマシュは思わず目を見開く。

 

 

「オルガマリー所長!? それに貴方は――」

 

 

 見紛うはずもない。特徴しかないその風貌を早々に忘れることなんてできない。間違いなく彼は立香の――。

 

 

 

 

 

「よぉ、ガーディアン。怪我はないか?」

 

 

 

 

 ――彼女の英霊(サーヴァント)だった。




 Destinyのストーリーに関してはそこそこにわかです。なんか違うとか思っても多少はスルーしてください!


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第2話「真名」

 感想来てた。

 クッソみたいな地の文しか書けなくて申し訳ない。
 後、まだ感想返してなくて申し訳ない。



 オルガマリー・アニムスフィアは、怯えていた。特異点に飛ばされた不安に。デミ・サーヴァントであるマシュの視線に。人理継続保証機関カルデアを請け負った責任に。そして何よりも、たった今行われている戦闘の行方に。

 

 

「本物のサーヴァントに防御特化のマシュが太刀打ちできるはずがないじゃない……!」

 

 

 眼に映るのは、堪え忍ぶことに必死になっているマシュ。そして、その後ろでマシュに寄り添う立香の姿だった。二人の表情は険しく、先程の穏和な雰囲気は一切ない。命のやり取りをしているのだから、当然のことである。だが、そんな状況に陥っている二人の姿に、オルガマリーにはどうしても腑に落ちない疑問があった。

 

 

「なんでよ……魔術の基礎も知らない癖に……補欠枠の一般人だった貴女に……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、そんな顔(・ ・ ・ ・)が出来るのよ……!」

 

 

 オルガマリーの家系、アニムスフィア家は名門だ。遥かな昔から天体運動を研究し司る魔術師の一門。当主である彼女の時計塔における立ち位置は言わずもがなロードであり、魔術の腕も他の一流のロード達に引けをとらない。3年前に死去した父、マリスビリー・アニムスフィアの跡を継いだ彼女は、人理継続保証機関「フィニス・カルデア」の運用を任される。魔術回路も家柄も素養も十二分の彼女には順風満帆な魔術師生活が保証されるはずであった。

 

 だが、現実は想像を絶するほど過酷であった。それはオルガマリーがカルデアに着手してまもなくの頃に発覚する。

 

 

 

 

 ――彼女にはレイシフト適正がなかった。

 

 

 

 人理を見守る担い手のトップが、レイシフトできない。外部にこの情報が漏れればスキャンダルもいいところだ。様々な魔術機関から横やりが入ることはほぼ確実だろう。下手をすれば、カルデアの所長という役職の剥奪だって有り得る。彼女は司令塔として職務を全うすることで、この事実を秘匿した。そしてカルデアをなんとか誤魔化しつつも運用し、自らの研究を推し進めようとカルデアに関するデータを纏めようとしたときであった。

 

 

 

 

 ――前当主、マリスビリー・アニムスフィアが非人道的な研究を行っていたことが判明する。

 

 

 

 

 それは根源を目指す魔術師としては間違ってはいない。だが、良識を持ちつつも、魔術師として大成を成した父親を尊敬していた彼女にとって、その事実は何よりもショックだった。自分、そして親すらも信じられなくなった彼女は1ヶ月に及ぶ拒食症を引き起こし、誰も信じられなくなってしまう。良識的な父親という虚像を追い続けた道すがら、彼女の人格は魔術師にしては比較的人間らしいものへ成長していた。それが裏目に出たのだろう。いつしか、人の視線や評価を過剰に気にする小心者へと彼女は変貌してしまった。そして最後に、追い討ちをかけるような事態が起こる。

 

 

 

 

 ――カルデアスに異常が発生し、2016年の人類滅亡が証明され100年先の未来の保障がなくなった。

 

 

 

 

 それを受け、協会やスポンサーからの非難の声が山の様に届いたのは、想像に難くない。それからはもう必死だった。カルデアの総力をかけて、ラプラスとトリスメギストスを用い、過去2000年までの情報を洗い出した。その結果、2015年までの歴史には存在しなかった“観測できない領域”である過去の特異点事象を発見。それを破壊することで人理を正しいものへと修正する、謂わば人理修復とも呼べる作戦を始動したのだ。

 

 そして、初の作戦を敢行すべく、指揮を執った時だった。

 

 

 

 

「なんなのよ……本当に……」

 

 

 

 

 謎の爆発事故により、マスター候補生の大半が意識不明の重体。自身はレイシフト適正のない身にも関わらず、特異点F冬木に飛ばされる。そこにはデミ・サーヴァントとして戦うマシュと一般人にも関わらずマスターとして指揮を執る立香の姿。

 

 

「なんで、私が……私ばっかりこんな目に会わなくちゃいけないのよ!!?」

 

 

 限界だった。一体自分が何をしたというのか。前に進んでも、進んでも、待ち受けるのは無理難題ばかり。報われたことなんて一度もない。誰かに吐き出したい。誰かに投げ出したい。けれど、誰にも知られるわけにはいかない。彼女の慟哭は、彼女だけのものにしか成り得なかった。

 

 

 

 

「なるほどな、そりゃ御苦労さん」

 

 

 

 

 不意に声をかけられた。条件反射で振り向き、指先を突き付けた。魔術回路を駆動させ、最短で魔術を構築する。目標を視認したときには、既に魔術を放った後だった。

 

 

「うぉい!? いきなり撃つな! クロークが焦げたじゃないか!」

 

「あ、貴方!?」

 

 

 見覚えのある顔だった。というか、忘れるはずもない。フードの下から覗く機械的な顔が、オルガマリーの瞳に映し出される。相変わらず機械の癖に表情が豊かであることが、今の彼女には無性に腹正しかった。いちいち癇に触る反応を見せる英霊にオルガマリーの堪忍袋はついに限界を迎える。

 

 

「一体何処行っていたの!? マスターである彼女を放り出して……早く彼女達を助けなさいよ!」

 

 

 怒りをぶつけるも、その英霊は肩を竦める。助ける素振りも見せない。いよいよ意味が分からなかった。召喚時に、協力すると言ったのは偽りだったのか。そもそも本当に英霊なのか。糾弾を意味する言葉が次々と紡がれていく。

 

 

「なんなのよ……こんなに頑張っているのに……! どうして誰も……!!」

 

 

 それは、目の前の英霊に向けた言葉か、はたまた、この場にはいない不特定多数の人間に対してか。彼女が最後に綴ったのは、怒りでも憤りでもなかった。

 

 

「お願い……助けてよ……!」

 

 

 救済を求める懇願が、彼女の頬を伝う。

 

 それ以上は、何も出なかった。否、そもそもそれ以外になかったはずだった。自分以外を信用できない。そんな状況が、彼女の本心を押し潰した。強がりの裏側に弱さを隠すことしか赦されなかった。

 

 

「――なんだ、ちゃんと言えるんじゃないか」

 

 

 だがたった今、そんな強がりは全て引き剥がされた。何故なら、この場に居るのは自分とは関係のない、名も知らないただの英霊(たにん)。そんな奴に自分の心を吐露したところで、肯定も非難もない。ただ、客観的に事実を受け止め、気ままに判断されるだけだ。だからこそ、巣食った虚栄の全てを吐き出せた。だって、関係がないのだから。だが、最後だけは違う。それは人間らしいオルガマリーだからこそ持ち続けられた――。

 

 

「オーケー、助けよう。それがお前の望みならな」

 

 

 ――唯一の(ほんね)なのだから。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

「てなわけで、気持ち悪い曲芸をするソイツの腕を吹っ飛ばした次第だ。お分かり頂けたかマスター?」

 

「ちょ、ちょっと!? なに勝手に話してるのよ!?」

 

 

 いけしゃあしゃあと、今まで誰も打ち明けてこなかった内心を暴露され、赤面するオルガマリー。これに関しては、小心者とか関係なく誰でも焦る。それを聞いた立香とマシュは少し考えるものの、二人で彼女を宥めることにする。ロマニに至っては『うぅ……あのマリーがちゃんと本音を話すなんて……!』と我が子を見守る親のようなことを口に出していた。それだけならよかったのだが、『愛されてるじゃないか、弄られる程度には』と英霊(ヤツ)が茶化すものだから、再度オルガマリーにガンドをぶっ放されていた。

 

 察しているとは思うが、戦闘は既に終了している。黒い影が『何奴――』と振り向いた瞬間、ロボが眉間に銃弾を撃ち込み終了。なんとも呆気ない終幕だった。先程まで命の危機に晒されていた立香には勝利したという現実味が薄く、微妙な表情しかできなかった。

 

 一通りのやり取りを終え、とりあえず解消されていない疑問を立香はぶつける。

 

 

「……ていうか、いままで何処行ってたの?」

 

「ちょっとした探検だ。というか、敬語やめたのかマスター」

 

「ご不満?まあ、不満だったとしても変えないけど」

 

「……あれ? もしかして……いや、もしかしなくても怒ってる?」

 

 

 

 

 

「別に? ただ、勝手に動かれるなら私も勝手に動こうと思っただけですけど?」

 

「「「…………」」」

 

 

 

 

 

 

 え、なんか割とマジで怒ってる。

 

 全員がそう思った。まるでツーンという擬音が聞こえてきそうな程度には口を尖らせる立香。会話こそしているが、常にそっぽを向いて発言するあからさまな態度。今まで、特異点に飛ばされようが、所長に嫌味を言われようが、文句ひとつ吐かなかった、あの立香が怒りを顕にしている。これには全員が目を剥く。様子こそ稚拙であるものの、弁明など赦さない凄みがそこにはあった。

 

 だがまあ、サーヴァントととしてのマスターの護衛を疎かにする所か勝手に許可もとらずに出歩かれたのだ。そして 未然に防げたはずの命の危険にさらされた。しかも、反省している様子はない。それが不運が重なった結果だったとしても、オルガマリーやマシュに負担をかけたとなれば、流石の立香もキレざるを得なかった。

 

 

 

「あー、まぁ……その、機嫌直してくれ?」

 

「……(ムスー」

 

 

 

 

 

「えー、あー……ほら! 探検で分かったこともあるぞ! 聞きたいんじゃないか?」

 

「……(プイッ」

 

 

 

 

 

「…………だぁぁもぉぉーー!! 悪かった!俺が悪かったよ! 謝るから機嫌直してくれ!」

 

 

 割と直ぐに折れた。言葉選びだけで見れば、赤点もいいところな謝罪。だがまあ、今までの態度からすれば十分なのではないだろうか。立香自身もそう思えたのか、初めてロボの方へと向き直った。

 

 

「……ちゃんとこれからは相談する?」

 

「するする! なんなら賭けてもいい!」

 

「賭けはどうかと思うけど……はぁ、まあいっか。よし許す!」

 

 

 次の瞬間には、不満げな表情をした立香の姿は消え、いつも通りの立香が帰ってきていた。それをみてロボを胸を撫で下ろしたような表情をしていた。何度も言うようだが、ロボなのでそれの通りの意味合いを表しているかは不明である。

 

 

「あ、そうだ。許すついでに少しお願いがあるんだけど」

 

「もちろん聞くさ。言うだけなら何だってタダだからな」

 

「そっか。じゃあ言うね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――貴方の真名(なまえ)を教えて?」

 

 

 少し小首を傾げて、要望をだす立香の姿を、マシュは蠱惑的だったと後に表現する。

 

 だが、実際真名(そのこと)についてはこの場にいる全員の疑問であった。立香たちは、目の前に立つサーヴァントの情報をまったくと言っていいほど持ち合わせていない。故に、情報の開示を要求することは至極普通なことである。

 

 だが、このことにロマニとオルガマリーは息を飲んでいた。正直、真名さえ掴んでしまえば、出典から素性やスキル、宝具だって割り出せてしまう。英霊にとってはトップシークレット言っても過言ではない。それを立香はストレートに、何も(ぼか)すことなく聞いた。それは知ってのことか、はたまた偶然かは本人のみぞ知ることだ。

 

 だが、彼は召喚時に黙秘をすると公言している。英霊にとっての最も重要なことを、易々と口にするわけがない。交渉するにも立香が怒っていたという手札(カード)だけでは些か役不足だ。彼女の強かさには驚いたオルガマリーだったが、改めて置かれた状況を冷静に分析した結果、流石に強引すぎると判断を下し、溜め息をついた。

 

 

「そんなことか。いいぞ、別に」

 

(いいの!?)

 

 

 内心盛大にずっこけるものの、真名を聞く好機を逃すわけにもいかない。内情を悟られないよう、内心に押し止めるオルガマリー。どこから見ても完璧なポーカーフェイスを貫いた。口元がヒクついてる気もするが、きっと気のせいだろう。

 

 

「じゃ、改めて自己紹介だな。ちゃんと耳の中の掃除はしたか? 1回しか言わないから、よーく聞いてるんだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の名は◼️◼️◼️◼️。ハンターヴァンガードの司令官だった男だ」

 

「……え?」

 

 

 立香は声を漏らす。

 

 聞き取れなかった。いや、聞き取れなかったのは一部だけだ。問題は、ソコが最も重要な部分だった事。だが、違和感がぬぐえない。いや、何となく理解できていた。私は聞き取れていたことを確信している。ただ、認識ができなかったのだ。その言葉は、正しい我々が普段連ねている言語であり、自身でも理解できるもののはずだった。だが……陳腐な物言いになるが、立香にはその言葉が分からなかった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)のだ。

 

 

「所長、今のは……」

 

「……Dr.ロマニ、聞こえましたか?」

 

 

 レイシフトしている自分たちだけに干渉する認識阻害系の魔術の影響を示唆したオルガマリーが、ロマニに問いかけた。

 

 

『観測はできたよ……けど、ログを再生しても意味がない。何故なら、僕たちが認識できていない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 当てが外れたことに舌打ちながらも、直ぐ様別の可能性を考察する。そんな状況に着いていけない立香は、何かやらかしてしまったのだろうかと、首を傾げていた。そんな最中――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? なんだ? オイオイオイ、まるで俺がスベったみたいな空気じゃないか。言いたいことがあるならハッキリ言ってくれ」

 

 

 一気に全員が沈黙する中で、空気を読めないヤツが一人だけいた。名乗った張本人である。どうやら自分が原因だと本気で分かっていないらしい。これには、オルガマリーも思考中であった脳を、他人を罵倒する表現を引き出す辞書へと切り替えた。そしてありったけの苛立ちを言葉に乗せるべく、口を開いた。

 

 

「あの……スベったかどうかはわかりません。ですが、この状況を作り出した原因はほぼ間違いなく貴方にあるのではないかと、私は推測します」

 

 

 だが、最も早く口を出したのはオルガマリーではなく、彼の主である立香でもない。最も温厚そうなマシュだった。

 

 マシュは比較的大人しい性格であるものの、生真面目な側面が多い。だが、そこにあるのは前向きな善意だ。自身以外の人間は全員が先輩と公言しているだけはある。相手を立てることを忘れず、それでいて愚直なまでに真っ直ぐな言葉をロボに浴びせた。

 

 

「お、おぅ。以外と歯に衣着せないんだなガーディアン……」

 

 

 実際、純粋な視線や言葉が大人にとって致命の一撃に至るのはよくあることである。現に、饒舌だったロボは面食らい、ダメージを負っている。「慣れるまで時間がかかりそうだ……」とぶつぶつと呟いていた。

 

 

「最新の英霊……知名度のない所属(ハンターヴァンガード)……聞き取れない真名……もしかして貴方――」

 

 

 オルガマリーがハッとした表情で顔を上げた。流石にこれだけ情報が提示され、根源を目指す魔術師、延いては時計塔のロードたる人間が事実のひとつも見出だせない理由はない。純然たる可能性の一筋にその思考は至った。

 

 

「――未来の英霊なの?」

 

 

 英霊が英霊として世界意思によって登録される場所は「英霊の座」と呼ばれ、その場所は根源と通じていると推測されている。その場所に時間という概念は無い。それはどの軸に対しても同様と言える。故に、有りうるのだ。今現在から遠い未来の英雄が、英霊として迎えられ、現代に降り立つという奇跡が――。

 

 

『……! そうか、確かにそれならある程度辻褄が合うけど……でも、別の問題が浮上してくるんだよなぁ。未来の英霊ってだけで、真名が隠蔽されるような事態が起こるとも思えないし……いや、待てよ。むしろ彼が来たこと自体が……ブツブツ』

 

 

 それらの事実に納得、そして疑念を抱くロマニ。無理もない。導きだされた答えはひとつだけ。しかも未だ、仮定の域を出ない。立証するための根拠がないのだ。無論、それらすべての解を持っているのは本人だけ。結局のところ、あれこれ推測したところで本人が黙秘、もしくは「NO」と言われてしまったらほとんど振り出しに戻ってしまう。

 

 ただ、問答に確かな意味はある。少なくとも、まだ彼はこちら(カルデア)側であることは違いない。マスターを脅威から救ったことは紛れもない事実だ。彼らにとって正しく、至って善良な行為。それ故に、未だブラックボックスである彼の行動原理が恐ろしく映る。傍目から見ればただの、剽軽(ひょうきん)な英霊。但し、全貌どころか真理の片鱗すら見えない。その対比が彼らにとって、どうしようもなく恐ろしかった。

 

 

「……なによ。急に黙って……な、何か言いなさいよ」

 

 

 押し黙るロボにたいして口撃加えるオルガマリー。それは真意を問いただしたいという想いと刹那的な畏怖が強い口調へと転化したものだ。威嚇や侮蔑などではない。あくまで、真摯に目の前のロボに向き合おうと努める彼女なりの精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――聞いておきたいことがある」

 

 

 

 

 

 

 静かだった。

 

 その様子を、立香はそう感じた。その声は慈しむ様で、それでいて残酷で、そして何より――

 

 

「それを知ってどうする。俺を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、止めるのか――?」

 

 

 

 

 どこか悲しそうだと、そう感じた。

 

 

 




 戦闘シーンカット。アサシンが姿晒して戦った時点で負けだと思います。黒化してるからヒャッハー状態ってことでここはひとつ。




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