カードと星と、それから魔女と (change)
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0.5.伝承文献:凶星の落とし物

Twitterのアンケート結果からファンタジー系の作品を投稿。


昔、一つの星の欠片が、流星雨となり、広大な大地に向かい降り注いだ。

 

日の当たらぬ『影の村』に住まう者達は、子供も大人も男女関係なく、自分達の村を襲った美しくも忌々しき星の欠片を、これでもかと言う程粉々に砕いた。

大柄な男が持っていた鉄のピッケルで欠片を叩いた時、遂に欠片に罅が入る。罅の隙間からは、欠片の表面から発せられていた虹色の輝き。その何倍もの白い光が漏れでていた。

最初に白。その後に赤、青、緑と、この4色が代わり代わりに欠片の中から光となって村人達を照らす。

その美しさに見惚れた者達は、欠片へ抱いていた憎悪や憎しみを綺麗に忘れ、代わりにもっと輝かせたいという欲から、付近の欠片を次々と叩き割って行く。

 

時を同じくして、ある都市では青く輝く美しい星の欠片が発見された。都市に堕ちたその星の欠片は、欠片の落下により甚大な被害を受けた都市の機能をその輝きを持って一瞬にして全て元通りの状態に戻した。

この奇跡に、都市に住む者達はこの星の欠片を神からの授かり物と崇め、同時に利用出来ないかと研究を続けた。この出来事が原因となり、青い星の欠片を持ったこの都市は、海岸付近にあることから、海の神の名を取り『ポセイディア』という大都市となる。

 

それから暫くして、『ポセイディア』に住む者達により未開の地であった『名も無きジャングル』から、緑に輝く一際巨大な星の欠片が発見される。『ポセイディア』に住む者達はこの緑の星の欠片を半分に砕き、片方を『ポセイディア』へと運び、もう片方を現地調査隊に任せる事にした。こうして『ポセイディア』は半分となった緑の星の欠片をも手に入れる。

しかし、そこで『ポセイディア』の調査隊は星の欠片の輝きに魅せられ、半分となった星の欠片を全て粉々に砕き逃亡してしまう。

 

逃亡した『ポセイディア』の調査隊が向かったのは火山地帯として危険なことで有名な『ロック銅山』。ロック銅と言われる非常に使い勝手の良い銅が採れるその場所には、それを高額で買う商人が居ることも良く知られていた。

『ポセイディア』の調査隊はその商人に自分達が持って来た緑の星の欠片を売りつける。商人は目を輝かせ、ロック銅の何百倍もの値段でその欠片を手に入れる。それを見ていたロック銅を採る採掘師達はロック銅を採るのを辞め、皆一斉に輝く星の欠片を探し始めた。

赤く輝く星の欠片が見つかったのは、『ポセイディア』の調査隊が『影の村』に行った後だった。

 

赤く輝く星の欠片の美しさから半分だけを採掘師から売って貰った商人は、赤と緑の星の欠片を持ち、自分のコレクションとして誰にも渡すことなく世界を彷徨い続けた。嘗ては『ポセイディア』に住んでいた彼は、《パーロック》と呼ばれることとなる。

 

こうして赤、青、緑の星の欠片が発見された。それから少し時が過ぎ、『ポセイディア』に未曽有の危機が迫ることになる。

それまでは星の欠片を便りに都市を回していたのだが、その星の欠片、青と緑の星の欠片が突如として色と力を失ったのだ。当然、『ポセイディア』の都市としての機能は低下、それまでの煌びやかな都市の姿は、見る影も無くなってしまった。

 

この事件から『ポセイディア』は代わりとなる星の欠片を探そうと戦争を始める。既に彼らは星の欠片が魅せる力に呑まれ、普通では無くなってしまっていたのだ。

『ポセイディア』が仕掛けた戦争により、『名も無きジャングル』は燃え、遂には『ロック銅山』が噴火を始める始末。『ポセイディア』と戦っていた白銀の空中都市、『フォークツリー』は、友好関係を結んでいた『ポセイディア』からの攻撃に驚き、同時に酷く激怒していた。

 

『フォークツリー』に住む者達は、未だに星の欠片を手に入れていなかった。それは未知の物体を有り難く使うことを恐れていたからである。友好関係を築いていた『ポセイディア』は神からの授かり物だと言っていたが、『フォークツリー』は悪魔からの誘惑に見えていたのだ。

 

『ポセイディア』と『フォークツリー』の戦争は荒れに荒れ、とうとう『影の村』にまでその火が到達するかと思われた時、『フォークツリー』で白く輝く星の欠片が発見される。

戦争の状況は『ポセイディア』が優勢であった。非情に成りきれなかった『フォークツリー』の王とは違い、『ポセイディア』の王は常に悪逆の限りを尽くし、周りを大きく巻き込んでまで戦っていたからだ。

 

戦争で散って行く数多の民の命を目にした王は、遂にそれまで恐れていた星の欠片の力を頼ることにした。

白い星の欠片が強く輝くと同時に、『フォークツリー』を攻撃する『ポセイディア』の軍勢は、全て時が止まったかのように進軍を止め、停止する。

 

白い星の欠片の力を全て使い切り戦争に勝った『フォークツリー』は、自分の国と『ポセイディア』の所持する星の欠片を全て破壊することにした。これにより、青、半分となった緑、白の星の欠片が淡い光となり、この世界、『ジェネシス』から消滅した。

 

その後、世界は戦争の爪痕が残りつつあるものの、平穏な時代を作りつつあった。

しかし、『ロック銅山』の採掘師《オニボリー》と、航海に出て世界を旅する《パーロック》は未だに星の欠片を持っていた。未だにロック銅を採り続けることに精を出す《オニボリー》と、商売に精を出す《パーロック》の持つ星の欠片は、色褪せることなく強く輝き続けていた。

そんな《オニボリー》と《パーロック》の持つ星の欠片にある変化が訪れる。星の欠片から、その欠片の色とは異なる虹色の光が、物凄い勢いで『フォークツリー』へと放たれたのだ。

 

放たれた光は虹となり、天に美しい橋を作り上げた。《オニボリー》と《パーロック》はこれに驚き、すぐさま橋を渡る。

《オニボリー》と《パーロック》が出会ったのは、戦争前の『ロック銅山』でのみだった。しかし、お互いにその顔を良く覚えていた。

《オニボリー》は、欠片を手に入れる切欠となった人物として。《パーロック》は、自分の大切なコレクションの一つを貰った者として。

二人は橋を登り続け、遂に橋の行く先へと辿り着いた後に、姿を消した。

これは後に幾つもの可能性を持った物語として、後の世に永く語られることとなる。彼らは神により選ばれたのか、身を隠したのか、などと、確証のない推論は、星の数程飛び交った。

 

《パーロック》と《オニボリー》が消えた後、星の欠片が再び出現するという謎の現象が各地で発生した。

赤、青、緑、白。4色の星の欠片が再び現れたことに『フォークツリー』は危険を感じ、すぐさま各地に出現した欠片を破壊しようと動いた。

しかし、そこで『影の村』の者達が、異形の姿となって邪魔をする。胸に黒く輝く星の欠片を埋め込まれた彼らは、圧倒的な力で、やがては『フォークツリー』を壊滅させた。これが今も尚、伝説として伝えられている大戦争、『神々の人形劇』、その発端である。

 

『フォークツリー』が壊滅したという情報は瞬く間に伝わって行き、自分達を倒した『フォークツリー』を圧倒的な力で倒した『影の村』の民に恐怖を覚えた『ポセイディア』は、『名も無きジャングル』にて、進行してくる『影の村』の民を全て迎え撃つ計画を企てる。

この時、『ロック銅山』にて働いていた採掘師達や、『名も無きジャングル』に住む獣達も戦いに参加していたという。

 

知略に長けていた『ポセイディア』は、見事『名も無きジャングル』にて、『ロック銅山』の採掘師達と『名も無きジャングル』の獣達と協力し、遂に『影の村』の異形の民を倒すことに成功する。

しかし、倒した筈の彼らは胸の黒い星の欠片により、更なる変化を遂げ立ち上がった。

この時、『ポセイディア』は気付いた。どうして『影の村』などという小規模の民族が、あの『フォークツリー』を壊滅させられたのか。

何度倒れても蘇り、強い化け物となり再び襲いかかる。そう、不死の力ではなく、化け物を作ることこそが、あの黒い星の欠片が持つ能力なのだということを。

 

そこで『ポセイディア』は蘇らず地に付している異形を観察した。その全てが胸に埋め込まれた欠片を粉々に粉砕されていたのを確認し、王は胸の欠片を壊すことで倒すことが出来ると確信した。

しかし、『ポセイディア』の兵と『ロック銅山』の採掘師達の犠牲も多く、何より『名も無きジャングル』の獣達が全滅したことで、このまま戦った所で勝てないと踏んだ『ポセイディア』の王は、この戦いでは一度退き、『ロック銅山』の採掘師達を引き連れ、次で決着を付けることにする。

 

数ヶ月後、遂に『影の村』の異形の者共が、『ポセイディア』の都市へと攻撃を仕掛ける。地下水路からの奇襲を受けたものの、『ポセイディア』の兵は怯まず勇敢に戦う。「海神の加護ぞあり」。そう言って何人もの兵が異形の民を倒し、死んで行った。

 

最初は接戦であったが、自分達の土地である優位性から、徐々に『ポセイディア』が優勢となって行く。このまま押し切れるかと思った矢先、この戦争で一番の悲劇が訪れる。

敵の軍勢の中で、一際目立つ異形の者が居た。骨が突き出て、羽のようなものが生えているようにも思える背中。腐った肉体に付いている、乾いて黒くなった血の痕。そして何より、王冠を付けたその異形の背後に続く異形の民共。

 

見間違える筈がない。あれは間違いなく『フォークツリー』の王、その成れの果てだ。『ポセイディア』の王は信じられないと動揺するも、他の者を圧倒する力で暴れ回るその異形の姿を見て、本当に化け物として蘇ったのだと遂に認識する。

 

こうして、『ポセイディア』と『フォークツリー』の王はまたも戦争をすることとなる。しかし、その状況は前とは逆。『フォークツリー』が星の欠片の力で暴れ、『ポセイディア』はそれに対して欠片の力なしで戦わなければならなかった。

 

奮闘する『ポセイディア』だったが、奇跡は起こらず。都市は壊滅し、敗北してしまう。

しかし、このままでは『ジェネシス』に未来は無いと判断した『ポセイディア』の王は、最後の可能性を信じ、未来に存在する一人の青年へと、たった一つの希望を託していた。

 

嘗て、『ポセイディア』では青い星の欠片の力を研究していた。そしてその力は、時の流れを変え、事象を書き換えるという強力な力だった。しかしそれは、前の戦争で『フォークツリー』の扱った白い星の欠片の不変と拘束の力により敗れ、この世から消え去った。そういう話であった。

 

しかし、ただ一つだけ所持することを許されたものがあった。王妃との婚約指輪である。

王は指輪の宝石にと、青い星の欠片を使っていたのだ。『フォークツリー』の王はそれを破壊することは私には出来ないと所持を許し、代わりに自分が使うことを禁止するという誓いを契ったのだ。

そして今、王はその契りを破る。この世界の――『ジェネシス』の命運を託さんとして。

 

――もし、もしも我が契りを破ることで、この世界を救えるのならば、我は破ろう。誓いを破った王と言われようとも、茨の王冠を被ることになろうとも。王から退くことになろうとも。我は、この世界に、民に、全ての者に、戦争を起こした罪として、この身を呈し、贖罪しなければならない義務があるのだ。

 

王はそうして、指輪に祈りを込め、遠い天へと全力で投げる。指輪は今までの星の欠片の中で一番の強い輝きを放ち、跡形もなく消え去った。

 

そして、『ジェネシス』は今や『影の村』の民により死の世界と成り果てた。

 

未だ、この世界を救う者は現れず。




主な用語解説集
『ジェネシス』:伝承の舞台となっている世界

『影の村』:『ジェネシス』に存在する村。光が当たらない為、作物は育て憎く、肌の白いアルビノの人達や動物が非常に多い。

『ポセイディア』:『ジェネシス』に存在する大都市。海岸付近にあり、海神ポセイドンからその名を付けた。港を使っての交易など、流通が盛ん。

『名も無きジャングル』:『ジェネシス』に存在する密林。非常にデカいジャングル。動物が多く住んでいるが、彼ら自体に危害を加えなければ無害。『ポセイディア』の付近にある為、『ポセイディア』では、そこで採れる異常発達した『団栗の木』が特産品の一つとして扱われている。

『ロック銅山』:『ジェネシス』に存在する火山。ここでは『ロック銅』と言われる銅が掘られている。採掘師達はここで手に入れた『ロック銅』を売り、生活をしている。

『フォークツリー』:『ジェネシス』に存在する天空要塞。巨大な一本の樹木に見えることからその名が付いた。


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1.出会いと別れのデスティニーポイント

流石にデュエル描写は投稿する。
というか、自分の考えたコンボがかなりTwitterで反応して貰えたから書きたかっただけである。


深夜2時。とある民家の自室にて。

カードゲーム、デュエル・マスターズのデッキを開発して、PCを介してブログに書き込んでいた所、とある写真がメールBOXに送信される。

相手の名前は不明。件名は【触れ合い体験】。内容は【秘密の守れる強い人は私に連絡を下さい】とのこと。

 

「アダルト系の迷惑メールか?ハイハイウレシイナー、っと」

 

送信された写真もチェックすると、銀髪に鈍い金の瞳をした20歳くらいの真顔の色白な女性の顔が写っていた。メイクしたように見えない割に、日本人らしいアジア系の顔だ。染めているようにも見えない。

 

――へぇ、最近のメイクって凄いな。加工だとしてもここまでナチュラルに出来るのか・・・・・・。

 

「綺麗な人の写真使ってんだなぁ・・・・・・ん、ふぁぁ・・・・・・」

 

そう関心していると徐々に眠気が襲って来た。もう夜更けだ。そろそろ寝た方が良いだろう。

 

PCを消して、部屋の電気を消す。明るかった部屋は一瞬にして暗くなり、俺は自分のベッドで横になる。

 

「今日から夏休みだし、カドショで遊ぶか」

 

窓から月光が差し、机の上のデッキにスポットライトが当たったように見えた。明日はそのデッキでも使うか。

 

こうして、俺の夏休みが始まった。ただそれは、俺の愛する平穏との別れでもあった。

GOODBYE平穏無事な俺の夏休み、HELLO波乱万丈な俺の夏休み。それがわかるのは、もう少し先の話。

 

朝になり、ベッドから出てカードショップへと自転車で向かう。夏休みだから遅くにベッドから出た訳だが、家を出るスピードはさながら短距離走の選手の如く。

今日はデュエマのショップ大会がある。調整がてら少し早めに家を出た俺は、GPという大規模なデュエマの大会で配られた特性バックに入れたデッキのことを考えていた。

 

――コンボが決まるかどうかだなぁ・・・・・・そこが心配だ。

 

そんな心配をしていると、あっと言う間に店に着いてしまった。

某おもちゃ駅のレジ前でエントリーシートを貰い、名前を書いてデッキシートと参加費を渡す。これで受け付けは終了。後はのんびりと参加しそうな人のデッキでも見て回るか・・・・・・。そう思っていると、一人のプレイヤーに目が行った。

 

目が死んでいて、どこか暗い雰囲気を醸し出している。周囲の人が明るい表情なのに対して、その人が真顔なのが、俺には少し変に見えた。

 

――何か、人形みたいだな・・・・・・あんまり関わりたくないかも。

 

不気味に思えた俺はすぐにその人から目を離し、様々なデッキの存在を確認し、その人と使っているデッキを把握する。

 

――赤白ミッツァイル、黒緑バラギアラ、ネクラマゲにモルネク、それから零緑GRジョーカーズに青魔導具か・・・・・・青魔導具と零緑GRジョーカーズがキツいなぁ・・・・・・。

 

どっちも途中で潰れて下さい。そう願いながら動きを見ていると、ふと、一人の女性が遠目から対戦テーブルを眺めていることに気付いた。

 

見た目は少しオシャレな大人な女性、と言った所だろうか。年は20行ってるか行ってないか位に見える。大会には男の子も居るし、姉弟で遊びに来たとかだろうか。

 

俺が気付いた時には、何人かのプレイヤーもチラチラとその人を何度か見ていた。大方、綺麗で若い女性が気になって仕方ないのだろう。そのままプレイで集中出来ずに負けてくれても良いのだが。

 

「はい、お待たせしました――」

 

大会開始の時刻となった。俺はその女性から目を離し、店員の注意事項や説明を聞きながら、プレイマットとデッキをバックから取り出す。

 

「2番テーブル、■■さん」

「あ、はーい」

 

店員に呼ばれ、返事をしながら人混みの中を進み、指定された席に座る。対戦相手は・・・・・・げ、あの暗い人か・・・・・・。

 

「宜しくお願いします」

「―――」

 

返事が無い。最早放心状態のようにも見えて来た。

取り敢えず、先行後攻を決め、お互いのデッキをカット&シャッフルすることは出来たものの相手はそれ以外ピクリとも動かず喋らない。ただ一点をジーッと見続けている。

 

――怖っ

 

「それでは、デュエマースタート!」

 

店員の掛け声で、一斉に周囲でデュエマが始まる。

ドロー。マナをチャージ。召喚。様々なワードが飛び交っているのが伝わって来る。

対してこっちはかなり静かだ。必要最低限のことを話し、後は黙々とプレイするだけの相手。

正直、少し物足りない。

 

「チャージ、エンド」(マナ1)

 

先行の相手がマナに置いたのは《ΔΔΣシグマティス》。緑オーラか黒緑t青のドラガンザーク、そのどちらかだろうと判断する。

 

「ドローします。マナをチャージして、ターンエンド」(マナ1)

 

最初にまずトリーヴァカラーの《サイゾウミスト》をマナに置く。このデッキは以外と自然が少ない為、ここで多色である《サイゾウミスト》が手札にあったのは良いスタートと言える。

 

「ドロー、チャージ、《ダーク・ライフ》で1マナチャージして1枚墓地に。エンド」(マナ3)

「・・・・・・ドローします」

 

マナに置かれた《デジルムカデ》と《ダーク・ライフ》に、墓地に置かれた《kβバライフ》。

 

――これは・・・・・・黒緑t青のドラガンザークでほぼ確定だな。まぁ、自然オーラはまだそこまで流行っている訳でもないから、薄々こっちだとは思っていたが。

 

だが、このデッキはハンデスにも弱くなければ、中速から低速なデッキには強く出られるという強味がある。問題があるとすれば、相手が何枚墓地に《ケルベロック》を貯められるか。

 

「マナをチャージして、ターンエンド」(マナ2)

「ドロー、チャージ、2でステップル召喚、効果でチャージ。3で《エダマ・フーマ》を出してGR召喚。《丁ー四式》に付けてエンド」(マナ5)

 

――《ステップル》か、上手いな。序盤のブーストとして働きながら、破壊されればマナに置かれたオーラを墓地に送れる。これで相手は、今マナに置かれた《ケルベロック》を墓地に送る手段を得ることに成功した訳だ。

 

思わず相手の構築に感心してしまう。《ステップル》はクリーチャーである為、《ドラガンザーク》の軽減に合わないと思っていたが、案外そうでも無いらしい。これは一つ良いことを知った気がする。

 

――おっと、感心してる場合じゃなかったな。

 

「ドローします。マナをチャージして、3マナで《神秘の宝箱》を唱えます。効果でデッキの中確認します」

 

自分の手札とデッキの中身から、重要なパーツが盾落ちしていないことを確認する。安心した。まぁ、一番心配なカードは手札に来ていた為、そこまで盾落ちしていると思っていた訳ではない。

 

――この一枚をマナに置いて、下準備は全て終了する。

 

「《サイクリカ》をマナに置いてターンエンド」(マナ4)

「ドロー、《デジルムカデ》を出してGR召喚。《ダラク》を出して付ける。《ダラク》で1枚見て墓地に。エンド」

 

《ダラク》は登場時にデッキトップから1枚を見て墓地に落とすかの選択が出来る闇のGRクリーチャー。これで相手の墓地にはオーラが2枚。マナは5。次のターン辺りに墓地肥やしが出来れば、相手は《ドラガンザーク》をその次の自分のターン辺りで出して来るだろう。

 

「ドローします。マナをチャージして、4マナで《クリスタル・メモリー》を唱えます。効果でデッキからカードを1枚手札に加え、ターンエンド」(マナ5)

 

非ツインパクトである《クリスタル・メモリー》により、1枚のカードを手札に加える。オーラには今のところピーピングハンデスは無かった筈。ランダムハンデスであれば、そこまで注意する必要は無い。

 

そもそも、もしハンデスされたとしても、そこまでの驚異にはならない。

 

「ドロー、《ダイパ殺デー》を出してGR召喚。《ザーク卍ウィンガー》に付けて――」

「・・・・・・手札から1枚を墓地へ」

「《エダマ》の付いた《丁ー四式》を破壊し、2枚を墓地に。エンド」

 

落ちたのは《ギャン》と《ケルベロック》。マズくなってきた。せめて後1ターンあれば間に合うのだが。

 

――賭けだな。相手がケルベロックを何枚か墓地に肥やしてから《ドラガンザーク》で攻めて来るか。それとも攻撃して来るか。

 

「ドローします。マナをチャージして6マナで《チェンジザ》を召喚。効果で2ドローして《フェアリー・シャワー》を捨て、唱えます。1枚手札に加え、1枚をマナに。ターンエンド」(マナ7)

 

今思ったが、《フェアリー・シャワー》は《ドンドン水撒くナウ》に変えて良いかもしれない。《神秘の宝箱》などで奇数進行を意識するとなるとそっちの方が有用からも知れない。後で改造しよう。

 

――まぁ、それは良いとして、これで相手は《チェンジザ》を意識してしまう。《ドラガンザーク》によるプレイヤーへの連続攻撃よりも、《チェンジザ》の除去を優先する筈。次のターンに繋いででも、確実に逆転の目を潰そうと・・・・・・きっとそうしてくる。

 

「ドロー、5で《ドラガンザーク》を《ザーク卍ウィンガー》の付ける。墓地から《エダマ・フーマ》と《ギャン》を付け、2枚を墓地に」

 

《ギャン》の効果で墓地が減らない。それどころか増えている。安心したといえば《ケルベロック》がもう1枚落ちなかったことだろう。もししていたら、プレイヤーへ攻撃してくる可能性は少し上がっていた。

 

「《ザーク卍ウィンガー》で《チェンジザ》に攻撃。墓地から《ケルベロック》と《ダイパ殺デー》を付け、アンタップ」

「手札から《ジャスミン》を捨てる」

 

そのまま《チェンジザ》への攻撃が通り、《チェンジザ》が破壊される。

 

問題はここで攻撃してくるかどうか。

 

「《ステップル》を破壊。《ケルベロック》を墓地に。エンド」(マナ4)

 

――計画通り

 

「ドロー、マナをチャージして8マナで《ドンジャングル》を召喚。効果でマナゾーンから《サイクリカ》をバトルゾーンに」(マナ7)

 

コンボスタートだ。

 

「《サイクリカ》の効果で墓地の《フォース・アゲイン》を唱え、《ドンジャングル》を破壊しもう一度バトルゾーンに。そして《フォース・アゲイン》を手札に戻し、《ドンジャングル》の効果でマナゾーンから《チェンジザ》をバトルゾーンに」(マナ6)

 

殿堂カードである《フォース・アゲイン》により、《ドンジャングル》の効果を使いまくるのがこのコンボの狙いであり、必殺への道でもある。

 

ただ、今回はその必殺に必要な1枚が盾落ちしている為、そこまで必殺ではない。それでも十分強い訳だが。

 

「《チェンジザ》の効果で2ドローし、手札に加えた《フォース・アゲイン》を捨て、唱えます。ドンジャングルを破壊し、バトルゾーンに。《ドンジャングル》の効果でマナゾーンから《クイーン・アマテラス》をバトルゾーンに。《クイーン・アマテラス》の効果でデッキから《失われし禁術》を手札に加え、唱えます

」(マナ5)

 

コンボも大詰めだ。例え相手が《デジルムカデ》を出していようと関係ない。

 

「《失われし禁術》の効果で墓地の《フォース・アゲイン》を唱え、《ドンジャングル》を破壊し、バトルゾーンに。《フォース・アゲイン》をデッキ下に置きます。そして《ドンジャングル》の効果でマナーゾーンから《クイーン・アマテラス》をバトルゾーンに」(マナ4)

 

――よしっ。後はこれで・・・・・・

 

「《クイーン・アマテラス》の効果でデッキから《ファイナル・ストップ》を手札に加え、唱えます。効果で1ドロー」

 

これで相手は次の相手のターンの終わりまで呪文を唱えられない。まぁ、そう呪文を入れているようには見えないが。

 

――まぁ、《悪魔の契約》なんかは強力なシナジーを持っているし、入っている可能性も無い訳では無いか。

 

一連の動きが終わった所で、俺は手札から1枚のカードを相手に見せる。それは、そのカードの持っている条件を満たしたという合図。

 

「このターン、《フォース・アゲイン》を3回、《失われし禁術》を1回、《ファイナル・ストップ》を1回。計5回呪文を唱えている為、手札から《スコーラー》を『Gー0』で召喚。効果で追加ターンを得ます。ターンエンド」

 

――そして

 

「EXターン入ります。ドローします。マナをチャージして2マナで《ジャスミン》を召喚し、効果で破壊してマナをチャージ。3マナで《神秘の宝箱》を唱え、デッキから《チェンジザ》をマナに」(マナ7)

 

これで消費したマナも回復した。後は攻めるのみ。

 

「《ドンジャングル》でプレイヤーへ攻撃」

「受けます」(盾3)

「《チェンジザ》でプレイヤーを攻撃、効果で2ドローし、《失われし禁術》を捨て、唱えます。効果で墓地の《~土を割る逆瀧~》を唱え、デッキ下に」

 

これで相手は次の俺のターンまで攻撃、ブロックは各ターン一度しか出来なくなる。

 

「《ザーク卍ウィンガー》でブロック」

「《スコーラー》でプレイヤーを攻撃」

「受けます」(盾1)

 

《チェンジザ》が破壊されたことなど些事に過ぎない。まだ此方にはアタッカーが3体居る。

 

「《サイクリカ》でプレイヤーを攻撃」

「受けます」(盾0)

 

――ノートリだったのか。運に見放されていたか・・・・・・。

 

「《クイーン・アマテラス》でプレイヤーを攻撃」

「通ります」

 

盾5での勝利。宣言していた訳ではないが、完全決闘のようになってしまった。あちらは宣言した段階から削られなければ良いというもので、一度も削られなければ良いという縛りでは無いが。

 

「ありがとうございました。良いデュエルでした」

「・・・・・・」

 

握手を求めるも華麗に無視。相手は自分のデッキとプレイマットをバックにしまい込むと徐に立ち上がり、シートに敗北の証である×を書き込み、対戦者名の欄に俺の名前書いて席を離れる。俺はチラッとシートに書かれた相手の名前を確認し、自分のシートに書き加える。

 

――それにしても・・・・・・

 

「握手くらい、別にしてくれたって良いだろ・・・・・・」




アダルトサイトの迷惑メールから始まっている話とは()
まずは主人公のデッキのコンボを紹介。
《ドンジャングル》×1
《フォース・アゲイン》×1
《失われし禁術》×1
《クイーン・アマテラス》×1
《サイクリカ》×1
《チェンジザ》×1
《スコーラー》×1
で完成。
マナに《チェンジザ》、《サイクリカ》、《クイーン・アマテラス》があり、デッキに《失われし禁術》が1枚と、デッキ、手札、墓地に《フォース・アゲイン》が1枚あれば可能。《クイーン・アマテラス》が手札に加えて唱える効果である為、《キクチ》や《カレイコ》に引っかからないという強味があったりする。ただし《ヒビキ》やランデスは天敵。

最低でもこのコンボで《ドンジャングル》、《チェンジザ》、《サイクリカ》、《クイーン・アマテラス》、《スコーラー》が並ぶ為、W・ブレイカーが5体並ぶことになる。今回の話では出なかったが、《ミラダンテXII》も絡めれば1打点増えつつ相手に召喚制限を掛けられる。《ファイナル・ストップ》もあればほぼ勝ち。


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2.危急存亡のデスティニーポイント

ファンタジー難しいなぁ・・・・・・話の中で設定を説明させるの結構慣れないかも。

主人公君は今後とも名前なしの予定。


「優勝は■■さんです、おめでとうございまーす」

「あぁ、ありがとうございます」

 

午後6時半。すっかり夜になってしまったが、俺は店舗大会に優勝することが出来た。商品に貰ったプロモカードをバックにしまい、貰った5000円分の券を使い、ショーケースから《ドンドン水撒くナウ》を3枚買う。それでも少し余裕がある為、勿体ないからと適当に使う頻度の多いカードを買って外に出る。

 

――もう少し余韻に浸りたい所だけど、暗くなって来たし疲れたからな・・・・・・早く家に帰ろ。

 

「キミ、強かったねぇー」

「ん?」

 

突如声を掛けられ、後ろを振り向く。電光掲示板の光が逆光となって、目の前の女性の姿がくっきりと映る。

 

その女性は大会を見に来ていた女性と同じ人だった。もしや決勝辺りで見ていたのだろうか?集中し過ぎて気付かなかったのだろう。

 

「ねぇねぇ、ちょっとデッキ見せてくれない?」

「えっ!?あ、はい。どうぞ・・・・・・」

 

急に体を寄せて要求されてしまい、反射的にYESと答えてしまった。う、良い匂い・・・・・・。柑橘系の香りだ。

 

――綺麗な人だなぁ・・・・・・

 

「・・・・・・へぇ~、良く出来てるね。はい、ありがと」

「あ、はい。ありがとう、ございます」

 

完全にテンパっている。正直に言おう。ここまで綺麗な人に距離を詰められたのは初めてだ。今日の大会の決勝の何倍も緊張してる。

 

「ふふ、何か可愛いねキミ」

「えっ!?いや、そんなことは・・・・・・」

「あ、照れてる。ははは」

 

もう止めて。今の俺顔も耳も真っ赤だよ。カードオタクにこの距離感はいけない。下手したら恥ずか死ぬ。

 

「その、スミマセン、早く駅まで行きたいんでちょっと・・・・・・」

「ん?丁度良いや。私も今から駅に行く所」

 

OH・・・・・・。マジかよブッダ、寝ているのですか?いや、寧ろ起きてる?起きててこんな仕打ちしてる?滅びろブッダ。

 

――というか、誰かに似てる?どっかで見たような・・・・・・。

 

「何か、こういうの初めてだなー」

「えっ?こういうのって・・・・・・?」

「男の人と駅まで話をしながら歩くの」

 

マジか。この人ならそういう経験凄い多そうな気がしたんだけど。もしかして男性全員が声を掛けられなかったとか・・・・・・?いや流石にそれはねぇーよ。

 

「キミはどうしてデュエマを始めたの?」

「あー、一番最初に出来た友達がデュエマをやってたんです。まぁ、その影響ですかね・・・・・・」

「成る程ね。その友達は?今もやってるの?」

 

――・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・いえ、やってませんよ。何か疲れちゃったみたいで」

「ふーん?じゃあ他の友達に誰かやってる人は居ないの?」

「そうですねぇ?大会で良く知り合う人達と一緒にデュエマしたりしてるくらいで。友達と言えるような関係は・・・・・・居ないですかね?」

「ふーん?良くモチベーション保つねー?」

 

私なら絶対無理だなーと言い放ち、彼女は俺の前に立ちふさがり、深く息を吸って伺うように此方の顔を覗き込む。処遇、上目遣いというやつだ。

 

「じゃあさ、私とチーム組まない?デュエマのチーム」

「え、チーム・・・・・・ですか?」

 

デュエマのチームというのは、きっと団体戦の大会などで試合をするチームのことを指しているのだろう。

 

――女性の、それもこの人と、チーム?無理無理無理無理。

 

冷静なプレイが出来ない自信がある。もし大会で至近距離で話しかけられたり笑顔を見せられてみろ?俺の心臓がファルコン・ボンバーして死の宣告を受けてしまいかねない。

 

とても惜しいが断ろうと意を決したと同時に、彼女が実は・・・・・・と深刻そうな暗い雰囲気の顔で話し始める。

 

「私、チームがどうしても組みたいの・・・・・・。私と同い年の友人にデュエマが大好きな人が居て、その人がチームで試合をして腕を磨いているって聞いて・・・・・・」

「えっと、それなら別に他の人でも――」

「駄目っ」

「!?!!?」

 

近い近い近い!何なんだこの人、何で見ず知らずの男の人にここまでべったりくっ付くことが出来るんだよ!

当たってるから!ホント!勘弁して!

 

――うぉぉぉぉぉ精神がががががが

 

「アナタのプレイを見て思ったの。私はこの人じゃないと駄目なんだ、強くなれないんだっ、て。・・・・・・その、アナタのプレイに見惚れちゃったんだ・・・・・・なぁんて・・・・・・」

「えぇっ、あ、えと、あの――」

 

頭が回らない。デュエマの大会で消耗している時にこれ程の精神的負担が掛かると、全く上手い言葉が出て来なくなってしまう。

 

――見惚れた!?俺のプレイに!?というか最後、何で顔朱くしてるの・・・・・・!?

 

言ったのはそっちだろ、と思いながら、益々自分の顔が朱くなっているのを感じる。顔が熱い。近距離で火が点いているんじゃないかと疑ってしまう程に。

 

そして彼女は畳み掛けるようにしてトドメの一撃を放つ。チェリーボーイのハートを射抜く所か粉々にしてしまう程に巨大な弓矢を。

 

「駄目・・・・・・かな?」

「!・・・・・・まぁ、少しだけ・・・・・・なら」

「えっ良いの!?ありがとうっ!」

 

満面の笑みで喜ぶ仕草を見せる彼女に、思わず此方も笑顔になってしまう。

 

――もう、別にどうなっても良いんじゃないかなぁ・・・・・・

 

「じゃあこれ!私のメール先。お誘いとかはそっちでするから」

「あ、はい」

 

メモを受け取ると、じゃあね!と言って駅の中へと彼女は消えて行く。俺は駅前に置いた自転車を取って自宅への道を進む。

彼女と別れる瞬間、少し寂しく感じた。それと同時に、胸の苦しさも。

これは、恋、なのだろうか?

 

――いやいやいや、待て待て待て。

 

冷静になれ馬鹿。今はあの人が近くに居ない。だからその湯だった頭をどうにかしろ!

 

――あれは恋じゃない。ただ少し場の空気に流されただけだ。俺はそんなロマンチストじゃないだろう。

 

ネガティブになれ、俺。俺なんか描写さえされないようなモブ以下の存在なんだ。変な期待なんかするな。

 

「ただのチームを組もうというお誘いに驚いていただけ。そうだ、うん」

 

自転車に乗ったまま考えごとをしていたその時だった。

 

大地が大きく揺れた。

 

「っ!?」

 

思わず自転車を漕ぐのを止め、立ち止まる。

一瞬ではあったが、信じられない大きさの揺れだった。まるで地面に巨大な何かが叩きつけられたかのように思えた。

 

――震度5強くらいか?かなり揺れたな・・・・・・

 

周囲を歩いていた人も、いきなりの地震に驚いている。へたり込む人も居れば、壁際に手を添えて心配そうにしている人も居る。

余震かもしれない。少し急いで帰ることにしよう。そう思い再び自転車で帰路を走行する。

 

駅前から20分して家に着く。夏は本当に暗くなるのが早い。もう外には星と月がクッキリと見えている。

父も母も夏休みの間は家に居ない為、帰って来た俺はカップ麺にお湯を入れ、一人テレビの前に座り込む。

地震に関するニュースが無いかと探したが、20分前となると少し遅かったようで、地震に関する速報などを今から報道する気配は感じられなかった。

 

仕方なく自分のスマホで調べることにした。どうやら丁度あの場所付近が震源地だったらしい。震度は5強。予想は的中していた。

 

そうしている内にタイマーが鳴る。3分経った合図であるそれを止め、カップ麺の蓋を開ける。

 

「戴きます・・・・・・」

 

テレビを付けながらスマホを開きカップ麺を食べる。その姿は正にニートのそれだ。部屋の電気は点いてはいるものの、全灯ではない為少し暗い。

 

「あ、そういえばこっちのメアド送らないと、あの人から連絡取れないじゃん」

 

スマホを見ていたことでそのことに気付く。

ここで自分からメールを送らなければ、あの人とは会わなくなり、チームを組むこともなく関係を終わらせられていたかもしれない。

だが、そういった別れ方は――

 

 

――何も言わずに別れるのは、好きじゃない。

 

「・・・・・・仕方ない」

 

今日駅前で話をしていた者です。メアドは此方になります。そう打ち込んで、メモに書かれていたメアド先にメールを送る。今時メールでのやりとりなんて珍しくも思う。

 

「ふぅ・・・・・・送信完りょ・・・・・・うん?」

 

送信したのとほぼタッチの差で新たにメールが一件届く。返信にしては早過ぎると感じ、迷惑メールかと思い確認だけする。

 

『ありがとう!それじゃあ明日この場所に来れる?』

「え?返信早くないか?送って1秒も経ってないぞ・・・・・・?」

 

不思議に思いつつも、今は精神的な疲れが酷い為、そこまで深く考えることはしなかった。

メールで指示された場所の確認をすると、今日訪れた店舗から離れた場所にあるマンションだった。

 

――そこに住んでる・・・・・・とか?

 

『了解です』

 

メールを送信してから風呂に入る。色々な原因から出た脇汗を洗い流し、心身の疲れを取る。

 

「ふぅ・・・・・・明日はしっかりとした服着て行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと・・・・・・」

 

駅に入り、周囲に『ターゲット』が居ないことを確認した私は、ベンチに座って深く息を吐いてリラックスする。

 

――何とかデュエマが出来る人を一人は釣れたけれど、それでもまだ不安要素が残っている。何より、まだ『ターゲット』に憑いている『シャドウ』を消せていない。タイムリミットは明日の18時。それを切ってしまえば――

 

私は間違いなく、ソイツに殺される。

 

それだけは避けたい。どうやってこの世界に来たのかは謎だが、幸い、指輪を追って来た奴らは、私の居るこの町の付近に集まっている筈だ。

 

人から人へと移り住み、やがては一人の脳に寄生し、成長して器となった者を食い破る。それが『シャドウ』。嘗ては『ジェネシス』に住む人だった者。

 

――今はまだ成長途中。住処は分かっている。明日には『ターゲット』を抹消するか、『シャドウ』を消滅させなければならない。

 

出来れば成長途中の段階で『シャドウ』を倒したい。『ターゲット』ごと抹消するのにはかなりのマナが必要になる。

 

――私に残されたマナは少ない。十分に補給することも期待出来ないのなら、節約していくしかない。

 

マナとは神秘、嘗ての(・・・)『ジェネシス』にはありふれた存在であった魔力の源。だが、この『地球』にはマナがとても少ない。だからこそマナに集る習性を持つ『シャドウ』は、マナを持つ『ジェネシス』の住人と、星の欠片を使用した指輪の近くに集まる。

『シャドウ』を生み出したものが何であるのかは未だに分かってはいない。黒い星の欠片が関わっているのは間違いないのだろうけれど、その力を使った奴が居る筈なのだ。

 

「私の使命は、『ポセイディア』の王の指輪を守り、伝承にある勇者となる者を探し出すこと」

 

『ジェネシス』へのゲートは、指輪の力で開くことが出来る。しかし、開けるのは1日に1度、1時間辺りが限界。細かくなった星の欠片では、起こせる奇跡もその程度だ。

 

何よりも、指輪は既にこの世界に来ることにかなりの力を使ってしまっている。あまり無駄に使用することは出来ない。

 

――この星ではボードゲームになっていたけれど、マナを扱い勝敗を決するゲーム、デュエル・マスターズを使って『ジェネシス』の地で勝てれば、私はマナの使用を最小限に抑え、危険の無い状態で『シャドウ』を倒せる。やっぱりこれが一番か。

 

デュエル・マスターズは、『ジェネシス』では賭け事をするのに使う魔道具だった。その力でデュエマに負けた『シャドウ』を消す。賭け事である以上向こうの承認が必要ではあるが、『シャドウ』に知恵や理性は無い。本能で動く者なのだから、何も提示しなくとも成立してしまうことも有り得る。

 

彼には悪いが、これも使命を果たす為だ。騙される方が悪い。『シャドウ』を『ジェネシス』にゲートで送り、『シャドウ』が“ターゲット”から離れ実体化したところを魔道具という性質を持ったデュエマで倒してしまえば、マナを宿す『シャドウ』から、多少は私のマナも回復するだろう。

 

深く考え込んでいた所で電車が来る。計画は明日決行だ。問題があるとすれば彼が遅刻してくることだが・・・・・・

 

「まぁ、あの子なら寧ろ早めに着いているかもしれないくらいか」

 

顔を真っ赤にしながら受け答えする彼の姿を思い出し、思わず笑ってしまったその時、電車に乗ろうとした所で、大地が大きく揺れた。

 

――何?今の・・・・・・ただの地震?

 

この星の地震はここまで大きいものなのか、そう私は驚きながらも電車に乗って自宅へと帰って行った。

 

まぁ、生き残れるか殺されるかが掛かっている結構大変な状況な訳だけど、

 

「彼なら大丈夫だと思いたいなぁ・・・・・・」

 

それよりも、折角見つけて釣ったのが、使える駒であることを信じたい。




用語解説集
・シャドウ:黒い星の欠片の力で化け物になった者。マナの少ない地球では人に寄生し成長する化け物になりマナや指輪を持つ者を襲う。

次はデュエマを挟みたいかな。それもファンタジーな感じのを1個。


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3.自然淘汰のベッティングシステム

お待たせしました。デュエマ描写後半ありです。


「う・・・・・・うぅ・・・・・・ぁぁあ」

 

マンションの一室で低い唸り声をあげる男。尋常ではない量の汗を流し、苦しそうに胸元を右手で押さえつけている。

端から見れば病気か熱中症か何かで苦しんでいるように見えるが、その症状のどれもがこの男には当てはまらない。

 

「うう゛ぉ」

 

男に強烈な吐き気が襲ってくる。口から出て来たのは唾液と胃液の混ざり合った純黒の液体。

 

「ぁ・・・あ・・・・・・ウァアアアアアアアア!?」

 

男の姿が変わり果てるまで、2時間を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか・・・・・・」

 

俺は指示されたマンションに辿り着き、彼女の姿がないか周囲を探す。流石に30分も前に来て、自分より先に居る筈は無いか。

 

「メールで着いたとは伝えたけど、反応が無いしな・・・・・・やっぱり騙されたか?」

「なーにが騙されたのかな?」

「うわぁっ、ビックリし・・・・・・た・・・・・・え?」

 

背後から掛けられた聞き覚えのある声に驚き、すぐさま後ろを振り向くと、そこに立っていたのは以前に合った彼女ではなく、銀髪金目の現実に存在するのが有り得ないような美女だった。

 

「え?え?」

「どうかした?」

 

見覚えがある筈だ。俺は今になって気付いた。彼女の容姿は髪色と目の色を除けば、2日前の夜に送られて来た出会い系の迷惑メールに写っていた女性とそっくり、いや、その人なのだから。

 

――マズい。流石にこれは、金を取られる気しかしない・・・・・・!

 

思い出されるのはメールの内容。触れ合い体験という意味深な話。

いくらメールの差出人が偽物ではなく本人だったとしても、見知らぬ人に場所を指定されて呼び出されたことに違いはない。

逃げるチャンスを窺わないと・・・・・・

 

「あ、あの、俺はまだ17なんでそういうのは駄目というか・・・・・・なので今から帰らs」

「んー?大丈夫だよ。私は何歳でも問題ないよ?」

 

ヒェッ、と内心で恐怖する。まさかそういう趣味があるのか?と一瞬疑うが、これはただ鴨を逃がさないように言っているだけだろうと判断した。

内心ではきっと、20歳未満だと知った上であれこれ惚けたようなことを言って、最終的には金を騙し取る気なんだろう。

 

「いや、駄目ですよ。その、法律的に」

「固いことは言わないで、ホラホラ行った行った」

 

OKOK。これはあれだ、BAD ENDってやつだ。所持金が半分になって目が真っ暗になるどころか、下手したら所持金0で取り残される可能性もあるな。

 

マズい、非常にマズい。何冷静にふざけてんだ俺。

 

だが、そうやって逃げる方法を模索したりこの後のことを考えている内に、マンションのエレベーターに乗せられてしまう。

 

――終わった・・・・・・俺の人生はここでゲームオーバーか

 

エレベーターにまで乗せられてしまったことで、遂に諦めるという選択肢を選んでしまう。例えエレベーターから出て逃げ出したとしても、向こうが先回りして出口を塞いでしまう。そうなれば逃げ場はない。ドナドナされる未来しか残されてはいない。

 

6階です。とアナウンスが流れ、彼女の目的地である部屋の前に辿り着く。

 

「あ、デッキは持って来てる?」

「え?あ、はい・・・・・・」

「よし、じゃあちょっとそこに居てね?・・・・・・逃げないでね?」

「アッハイ」

 

今の質疑応答に何の意味があったのかは定かではないが、取り敢えず逃げられないことは改めて理解した。底冷えするような金の瞳で睨まれては、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。

 

彼女はマンションの一室の扉の前で鍵を開けるでもチャイムを鳴らす訳でもなく、ただ手を翳しているようだった。

すると、彼女が翳していた手を下ろしたと同時にも扉の鍵がアンロックされる音が確かにした。指紋認証だったのだろうか・・・・・・?

 

――何か、魔法を使ってるみたいだなぁ・・・・・・なんて

 

「よし、開いた・・・・・・。時間はまだ余裕がある。どうにかなりそうね。・・・・・・何してるの?ほら入るわよ」

「え、あ、はい」

 

恐る恐る部屋に入ると、男の唸り声のようなものが聞こえた気がした。・・・・・・やっぱり、そういうことをしているのだろうか・・・・・・。

 

「あの、これから何をするんですか・・・・・・?」

 

怖いもの見たさで聞いてみる。彼女はどこかキョロキョロしながらしっかりと質問に答えた。

 

「え?それは・・・・・・デュエマと・・・・・・ふふ、ドキドキ触れ合い体験・・・・・・とか?」

 

妖艶に笑う彼女に一瞬見惚れてしまうが、ドキドキ触れ合い体験というワードはいけない。大変いけない。R18タグが付いてしまう。

 

「ホラ、男の人の声が聞こえたでしょ?その人とキミと私で・・・・・・」

「え」

「ま、見れば早いか・・・・・・それに君に拒否権はないしね。もし逃げたら・・・・・・ね?」

 

ハイソウデスネ。オレゼッタイニゲナイ。

恐怖という感情の圧倒的な力は、俺の本能に働きかける。あぁ、遂に男がこっちに来て・・・・・・

 

「・・・・・・רעבים」

「予想より成長が早い・・・・・・?」

「・・・・・・え?」

 

彼女は不思議そうに何か喋っているようだが、今はそれよりも目の前の男だ。

 

その男の姿は、あまりにも異質過ぎた。

全身を覆う灰色の肌。所々から漏れ出ている黒いドロッとした液体。吐き気を催す腐臭。

まるでそう、ゾンビだ。ゾンビのような化け物のようなのだ。

これは作り物ではない。そういった雰囲気がする。目の前に映っている存在は、間違いなく一つのリアリティを持った存在なのだという認めたくない事実。

 

「あ、は、はははは・・・・・・は・・・・・・?」

「さて、それじゃあ始めましょうか。キミ、デッキを出して」

 

後退りする俺の腕を掴み、絶対に此処から逃さんとする彼女は、俺にデュエマのデッキを出せと指示をする。

 

「・・・・・・何を、言ってるんですか?」

「デッキ、出して?キミはその人とデュエマするの」

「嫌だ!」

「?キミに拒否権はないって、言ったでしょ?」

「っ!?」

 

彼女は懐から出したナイフを、俺の首もとに笑顔で押し付ける。肌に感じる冷たさと、仄かに反射する光が、本物であることを証明している。

デュエマをしなければ殺す。これは明確な脅しだ。最初はパニックで混乱していた頭も、命の危機を感じ一周回って気持ち悪い程冴えている。

 

デュエマをしなければ、俺はここで死ぬ。

じゃあ、俺は何をしてこの窮地を脱すれば良い?

答えは出ている。

 

「わ、分かった。デュエマを、する」

「うんうん、良い子だね~」

 

頭を撫でられるが、全く嬉しくない。悍ましさと恐怖感が襲って来る程には、俺は彼女が目の前の人と同じ化け物に見えていた。

 

どうやら俺は、とんでもない人物に目を付けられてしまったらしい。震えた手でバッグからデッキを取り出す。

 

「ほ、ほら、デッキ出したぞっ」

「じゃあそこで立ってて、準備するから」

 

そう言うと彼女は自分と化け物から距離を取り、玄関の入り口で止まる。一瞬、自分を化け物の居る空間に一人置いて逃げるのかと不安になったが、いつまで経っても彼女は扉を開ける仕草を見せない。

 

「בשם הנס והמסתורין」

 

何を喋っているのだろうか?小さな声で此方からは聞き取れない。

だが、真面目な顔付きでいる彼女が、意味もなくそのような行動をしているようには思えなかった。

 

「פתח הדלת הדלת」

 

彼女の足元から漏れ出た青い輝きが、魔法陣のようなものを作り出し、部屋の中を青く照らす。

 

「うぉっ」

「קבל את זה!」

 

化け物が大きな声で吠えたのが聞こえた。俺はあまりの眩しさに目を閉じてしまうが、すぐに足元の感覚が土のようなものに変わった気がして思わず目を開けると、そこに広がっていたのはマンションの一室ではなく――

 

「どこだ・・・・・・ここ・・・・・・」

『惑星ジェネシス。その化け物が来た場所よ』

「っ!?どこから話して・・・・・・?」

『私はマンションに居るわよ。惑星ジェネシスの大地の一部を此処に接続してるだけだから、この結界の外はさっきまでと同じマンションの中』

 

説明されても今は良く分からないが、青い結界の外はマンションではなく、酷い風景が広がっていた。

腐敗した土地、崩壊した都市の建物、朽ち果てた枯れ木の数々。どれもが世紀末的な雰囲気を放っている。

 

――こんな場所に、あの化け物は生きていたのか・・・・・・

 

死んだ土地という言葉が一番適しているように思える。それ程までに酷い環境下で、あの化け物は一体どうやって生活していたと言うのだろうか。

 

『化け物はどうしてる?』

「そうだっ、化け物――」

『רעביםרעביםרעביםרעביםרעביםרעבים』

 

何を言っているのか相変わらず分からないが、同じことを繰り返し言っているように思える。

血走った眼、腐臭を放つ灰色の肉体、そして、うなじ付近から生え始めた謎の突起物。更に化け物らしさが強くなっている。

 

「気持ち悪い・・・・・・何なんだよコイツ・・・・・・」

『その説明は後。今はデュエマをして。デッキを出した時点で、ゲームは開始しているわ。先行はキミから。・・・・・・因みに、負けたらソイツに殺されるかもしれないから、本気で頑張ってね?』

「――っ」

 

もう、流石に驚き過ぎて疲れてしまった。

自分の理解が追い付かないような出来事をこう何度も目の前で繰り広げられては、脳が思考することを放棄し、手足が震えてしまうのも仕方がない。

 

チラッと右を向くと、大きな砂時計が時を刻んでいるのが分かる。直感であれが制限時間だと気付き、震える手を無理矢理動かし、ゆっくりとテーブルに伏せられたままの5枚の手札を確認する。

 

――《フェアリー・ライフ》、《ドンジャングルS7》、《失われし禁術の復元》、《失われし禁術の復元》、《龍素記号Sr スペルサイクリカ》・・・・・・。《禁術》が2枚も・・・・・・!

 

非常にマズい。このデッキに入っている《禁術》は全部で3枚。内2枚が手札にあっては、《クイーン・アマテラス》の『無限フォースアゲイン』が出来ない可能性が高まってしまう。もし1枚が盾落ちしていた場合、山札に《フォースアゲイン》が入っていても、コンボを成立させることは出来ない。

 

――《禁術》で《禁術》を使って、無理矢理戻すしかないか・・・・・・!

 

「《サイクリカ》をマナに、ターンエンド」(マナ1)

 

まずは一枚、コンボパーツをマナに置く。マナに必要な後2枚は山札にあるはず。こういう時、《神秘の宝箱》があれば・・・・・・。

 

そう思っていると、目の前の化け物の体がいきなりグチャグチャと音を立てて変容していく。

 

――・・・・・・顔だ、あれは間違いなく、人の顔だ。

 

『ドロー、《ブラッディ・タイフーン》をマナへ、ターンエンド』(マナ1)

 

化け物の顔はそれまで人の顔ではなく、朽ち果てた獣らしさをどこか持っていたのだが、それも今では完全に人の顔をしている。首から上が入れ替わったかのようだった。

 

吐き気がする光景であったが、何とか吐かずに耐える。ここで恐怖に負け、一度でも吐き出してしまえば、ドミノ倒しのように恐怖が心を、体を、何もかもを、貪り尽くしてしまいかねない。

 

「ド、ドロー・・・・・・ゲホッゲホッ・・・・・・ハァハァ・・・・・・《ドンジャングルS7》をマナへ、2マナで《フェアリー・ライフ》。1マナブースト・・・・・・ターン、エンド」(マナ3)

 

足場が淡い緑色に輝き、山札の上から自動的にカードが1枚、空中に浮いている透明な板の上、俺の盤上のマナゾーンに置かれる。

緊張が、恐怖が、嗚咽となって出てくる。

この精神状態だと・・・・・・長くはもたない。

 

『ドロー、《クロック》をマナへ、2マナで《エマージェンシー・タイフーン》』(マナ2)

 

青い竜巻による強風が、化け物の山札の上から2枚を使用者の手札に加える。そして竜巻が消えると同時に、化け物は手札から1枚を墓地へと捨てた。

 

「2枚ドロー、《世紀末へヴィ・デス・メタル》を墓地に。ターンエンド」

「墓地退化かっ」

 

墓地退化、デュエマのデッキタイプの一つだ。

低コストで墓地を肥すカードを使い、高コストのフィニッシャーなどを墓地に準備するのが最初の動き。そして、墓地進化という墓地に存在するクリーチャーを進化元に使い進化するクリーチャーを出し、最後に進化したクリーチャーのカード1枚だけを取り除けるカード指定除去タイプのカードを使い、場に進化元となったクリーチャーを残すというのが主な戦い方だ。

 

この方法を用いれば、今墓地に送られた《へヴィ・デス・メタル》も13という重いコストを支払わずに早い段階で場に出すことが出来る。オマケに《へヴィ・デス・メタル》はパワーも高く、スピードアタッカー。そして何よりもワールド・ブレイカーを持っているのだ。

 

正に破滅を齎す神だ。次のターン、《死神術士デスマーチ》が《へヴィ・デス・メタル》を進化元に出るのは分かっている。順調に行けば《デスマーチ》から《落城の計》で今から2ターン後にはワールド・ブレイクされてしまう。それまでに準備を完了出来なければ俺の負けだ。

 

そう、負けだ。殺される。俺はあの化け物に殺されてしまう。

 

――嫌だ、それだけは嫌だっ

 

「ドロー!・・・・・・っ!」

 

力強く、震えた声を押し殺してカードを引く。引いたカードはコンボパーツの一つ。一番重要な役割を持つ女王のカード。

 

「《クイーン・アマテラス》をマナへ、4マナで《禁術》を唱え、その効果で墓地の《フェアリー・ライフ》を唱えるっ」(マナ4)

 

《禁術》を唱えると、再び俺の足元が淡い緑色に輝き、山札の上からカードが1枚マナゾーンに送られる。その直後、墓地にあった《フェアリー・ライフ》は独りでに山札の下へと移動していった。

 

「《禁術》の効果で唱えた呪文は山札の下へ。ターンエンド」(マナ5)

『ドロー、《スパイナー》をマナへ、2マナで《エマージェンシー・タイフーン》。2枚ドローして《デスシュテロン》を手札から墓地に。そして1マナで墓地進化、《死神術士デスマーチ》』

 

墓地に存在する《へヴィ・デス・メタル》を進化元に、予想道理《デスマーチ》が現れる。そのピエロのような姿から発せられる悍ましさは、負ければ死が待っているということを、これでもかと言うほどに感じられた。

そして、何よりも――

 

「――あれが、俺の敵・・・・・・!? 」

 

ピエロの操る糸の先、本来人形が付いているべき場所には、神々しくも荒々しき姿をした、紅の神の姿があった。




最初の敵が神とかいうハードルの高さよ


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4.大逆無道のストラグル

魔女→主人公→俯瞰の順番で視点が変わります。御注意下さい。


「あーらら、怯えてる。やっぱり少し話し過ぎたかしら?」

 

目の前に存在する巨大な結界の中に映る彼の顔色は明らかに悪く、敵対する存在の扱うクリーチャーに怯えているようにも見えた。

 

それにしても、言語取得の段階にまで進化したとは・・・・・・この星に来てから薄々感じてはいたけど、この星に住む人間はコイツらが成長し易い苗床なのかもしれない。

 

――人間の脳が発達し過ぎた結果かしら?そういうものでは無いのかもしれないけれど・・・・・・

 

未だに良く分かってはいない『シャドウ』の性質だが、私からすれば命と指輪を狙って来る敵であるというだけでも十分だ。この星の人間がどうなろうと、そこまでの興味はない。

 

「兎に角、相手が操られた神であったとしても、キミは勝たなくてはならない。そうでないと――」

 

「死ぬんだから、キミ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あれが、俺の敵・・・・・・!? 」

『ターンエンド』(マナ3)

 

まだ、動いてはいない。まるでスイッチの入っていない機械のように、力なく糸に吊されている状態ではあるが、それでもゴッドと称されるべき存在は、確かに俺の精神に負担を掛けていた。

 

――もしも、もしもあの糸がほどけた時、あの神が起動した時、その標的は誰だ?その攻撃を受ける存在は・・・・・・

 

俺だ。俺だけだ。《エマージェンシー・タイフーン》が実際に現象として発生したのであれば、あの神の攻撃も勿論現実となって俺に襲い掛かるだろう。

 

そして容易に想像出来てしまう。神の一撃で跡形もなく消えて行く自分自身を。

 

精神が、更に揺らいだのを感じた。

 

「ド、ロー・・・・・・」

 

引いたカードはコンボのトリガーとなるカードではある。が、喜ぶことなんてまるで出来ない。例え今それを引いたとしても、神の一撃を、阻止することは出来ない。

 

「《メメント》をマナへ、・・・・・・ターン、エンドッ」(マナ6)

 

あぁ、せめて、光があれば、次のターンは凌げた筈なのだ。

 

光があれば、次のターンに神の攻撃を受けることも、無かった筈なのに。

 

このデッキは、光が少ない。

そしてそれは、自分自身がそうしたのだ。

 

大いなるものが、目の前に存在する神の意思というものが、果たして自分にこの運命を辿らせる為にそうさせたのかと思ってしまう程には、俺はもう、耐えられなかった。

 

――どうしてっ、どうしてだよぉ・・・・・・!俺が何をしたって言うんだよっ!

 

『ドロー』

「っ」

 

無慈悲にも、ターンは経過する。幾ら悔いた所で、時は戻らない。それが真に神であるのならば、その怒りは誰にも止められない。

 

一人が幾ら足掻いた所で、神に勝てる筈がない。

 

『《スパイナー》をマナへ、4マナで《堕呪 エアヴォ》を唱える』(マナ4)

 

コスト7以下のカードを指定し、手札に戻す水の呪文魔導具。当然それは、バトルゾーンに存在する道化に対して発動されたものだ。

 

『自分のバトルゾーンの《死神術士デスマーチ》のみを手札に戻し、進化元となった神を再構築する』

 

バトルゾーンに現れた《デスマーチ》は、魔導具より発生した黒き水流に飲まれ、姿を消す。しかし、その手で操っていた――糸に吊していたモノを残して。

 

道化の支配から放たれ、今こそ自由を掴み、空へと羽ばたく紅く黒き神の姿は、人間への強い怒りを表しているように見えた。

 

しかし、その神を扱っているモノに抗うことは出来ない。カードゲームの中でしか存在し得ない神では、例えそれがどんなものであったとしても、プレイヤーの手から逃れることは出来ない。

ルールという束縛を、無視することは出来ない。

 

『《世紀末ヘヴィ・デス・メタル》でプレイヤーに攻撃』

 

それが偽りの自由であると気付けぬまま、神の怒りは俺のシールド全てを吹き飛ばし、結界そのものを破壊しようとしているのではないかと感じられる程の強大な一撃が、全身を襲う。

 

痛い。苦しい。そんな感情すら湧かない。空白、空白だ。何もかもが喪われて行く。紙が火に燃え、緩やかに消えていくように、意識がゆっくりと消えて行く。

 

――ここで、終われるのなら・・・・・・それも―――

 

良い。と、本気でそう思ってしまう。

ここで死ねれば、苦しまずに消えることが出来る。

頭では、それが良いと思っているのだ。

だが、理性でどれだけ判断しようと、本能もそれに従うという訳ではない。

 

――駄目だ駄目だ駄目だ。怖い、怖い、怖い、死にたくなんか・・・・・・

 

 

ないっ!

 

 

「S・トリガァァァァァァ!」(盾0)

 

ハッキリと、焼き尽くされないよう、待ったを掛けるように、焦りながらも叫ぶように宣言する。

 

「《ドンドン水撒くナウ》!効果で2マナブーストッ!マナから《次元の嵐 スコーラー》を手札に加える!」(マナ7)

 

何故神の攻撃を受けて気も失わずに生きているのか。

とても不思議に思える現象だが、これで7マナ。次のターンには8マナだ。パーツは揃った。後は殺られる前に・・・・・・!

 

『ターンエンド』

「ドロー、《チェンジザ》をマナへ、8マナで、《ドンジャングル》を召喚!効果で《クイーン・アマテラス》をバトルゾーンに!」

 

瀕死の状態にありながらも、構築のコンセプトとして想定されていたコンボが開始される。神の大きさと比べれば、今の《ドンジャングル》は小さな巨人と言った所だろうか。

 

《フォース・アゲイン》を唱え、クリーチャーを破壊し、蘇らす。それを何度も繰り返し続け、最終的には《ドンジャングル》と《クイーン・アマテラス》、《サイクリカ》に《チェンジザ》が並び立つ。

 

「《チェンジザ》の効果で《フォースアゲイン》を唱え、《クイーン・アマテラス》を破壊。そして場に出す。効果で山札から《禁術》を唱え、墓地の《禁術》と《フォースアゲイン》で無限ループする」(マナ5)

 

これにより、呪文をこのターン1万回でも1億回でも何回でも唱えたことになる。《クイーン・アマテラス》の持つ銃口が青く強い輝きをしているのは、呪文のストックによる影響だろうか。

 

「そして《禁術》でもう一枚の《禁術》と《フォースアゲイン》を山札の下に戻し、最後に《クイーン・アマテラス》の効果で《クリスタル・メモリー》を唱える」

 

早口で、淡々と、目の前の存在を見ずに作業をする。

それが俺の精神を少しでも保たせる為の、精一杯の行動だった。

 

――恐怖を知覚するな、現実から目を逸らせ、全力で、殺されないようにっ!

 

綺麗な水晶が砕かれ、その欠片一つ一つに山札に入っているカードが映し出される。とても幻想的ではあるが、今はそれを堪能する余裕はない。

 

「山札から1枚を手札に加える。そしてGー0で《スコーラー》を召喚。EXターンに入る」

 

これでW・ブレイカーが5体。その内2体はドラゴン。

これだけでも十分に思えそうだが、足りない。これではまだ足りない。

 

「ドロー、《スコーラー》をマナへ、3マナで《神秘の宝箱》、効果で山札から《サイクリカ》をマナへ、更に4マナで《禁術》を唱える。墓地の《クリスタル・メモリー》を唱え、山札からカードを1枚手札に加え、山札の下に」(マナ7)

 

手札に加えたカードは《サイゾウミスト》。決め切れなかった可能性を考慮しての結果だ。

 

「《サイクリカ》でプレイヤーを攻撃する時、革命チェンジ」

 

化け物という邪悪を祓うかのように、水と光の革命を起こす龍の法皇が、神の妨害を回避しながら、空中を馬の蹄のような脚で駆ける。

 

「《ミラダンテXII》をバトルゾーンに。ファイナル革命を発動し、更に効果で手札から《ファイナル・ストップ》を唱える」

 

これにより次のターン、あの化け物は墓地進化を可能とする計量進化クリーチャーは出せなくなり、墓地を肥やしたり退化や除去を可能とする厄介な呪文も唱えられなくなった。

 

そして当然このターンも、それらを使うことは出来ない。

 

「T・ブレイクッ!」

『קטן』(盾2)

 

白き龍の体表から放たれた光の束による攻撃は、盾だけに収まらず化け物の皮膚を焼く。しかし、抜群に効いているようには見えない。あまり苦しんでいる様には見えないのだ。

 

「更に《チェンジザ》でプレイヤーに攻撃!効果で2ドローし、《禁術》を唱える。効果で墓地の《禁術》、《神秘の宝箱》を唱え、山札から《チェンジザ》をマナへ!《禁術》と《神秘の宝箱》は山札の下に、W・ブレイクッ!」(マナ8)

『נכשל』(盾0)

 

化け物が少しずつ人の顔から獣のような雰囲気をした最初の姿に戻り始める。グチャグチャと粘着質な音を立てつつ、湿っぽい不気味な声で何か話し始める。

 

『אני רוצה את המוח שלך』

「喋るなぁぁぁぁぁぁ!ドンジャングルでダイレクトアタック!」

 

その聞く者を不安にさせるこの世のものとは思えない曇った声を掻き消すように、恐怖に怯えた目で直接攻撃の宣言をする。《ドンジャングル》の拳が容赦なく化け物の体へと叩きつけられる。と、思いきや、直前で《ドンジャングル》は消滅し、結界が崩壊を始める。

 

――待ってくれ!今ここでコイツを殺さないと、俺はっ!俺は殺されるっ!!

 

「嫌だ。死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・!」

 

最初は出て来なかった涙が、焦点の合わない目からボロボロと流れ始める。ここに来て遂にグラグラであった精神は音を立てて崩れ始める。戻ったら、あのマンションに戻ったら、俺はコイツに抵抗することなんか出来ない。殺されるのを待つだけだ。

 

「あ゛ぁ゛、い゛や゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛・・・・・・!」

『そんなに泣かなくても大丈夫よ?勝負に勝ったんだから、キミは死なない』

「煩いっ!お前がっ・・・・・・!お前が俺を此処に連れて来なければっ・・・・・・!」

『酷いなぁ?私は触れ合い体験だってちゃんと言ったよ?ほら、キミは確かに未知の存在と触れ合えた。それにデュエマをするって先に言ってたし、実際キミはデュエマしたでしょ?』

 

勝手に騙されたキミが悪い。そう彼女は言い放つと、俺は大声を出したせいか、それまでの精神的負担などから意識を失い、俺の視界が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、煩いのも静かになったみたいだし、手早く処理してしまいましょう」

『מי אתה』

「私?私は魔女よ。化け物を退治する優しい魔女」

 

笑顔を浮かべ、彼女はナイフを化け物の項へと振り下ろす。賭けに負け、多くの魔力を失い疲弊した化け物は避けることが出来ず、野太い咆哮を上げ、初めて苦しんでいるようにも見えた。

 

『אוי אוי! !』

「静かにして欲しいなぁ」

 

ナイフが深く首に刺さる。抉るような動作で何かを探っているようだった。しかし、彼女は化け物の声が煩いと判断したのか、途中でナイフを動かすのを止め、思いっきり、骨が折れるんじゃないかという勢いで化け物の頭を壁に向かって右足で蹴る。

 

化け物の顔の半分が、潰れたトマトのように破裂する。白かった壁一面に、黒く粘着質なゲル状の液体がぶちまけられる。

 

「うわっ、きったな・・・・・・。帰ったら足念入りに洗わないと・・・・・・。さて、項をザクザクッと・・・・・・」

 

顔が半分潰れても、この化け物は生きている。静かになった化け物の項にナイフを差し込み、グリ、グリッと彼女は何かを摘出する。

 

「まぁ、完全に黒い血液になっていた時点でそうだろうなとは思ってたけど・・・・・・それだけこの星では『シャドウ』の成長速度は早いってことかな」

 

取り出されたのは赤黒く染まったの人間の頭蓋骨。そして、黒く染まった星の欠片。大きさは1cmあるか無いか程度。

 

「でも、器を食い尽くす速度が早い割には、前よりも凶暴じゃないのね?襲い掛かっては来なかったし」

 

てっきり過去に遭遇した『シャドウ』のように、知性が無い分、獣のように視界に入った瞬間に襲い掛かってくるかと思っていたのだが、今回の『シャドウ』は襲い掛かってくる前に、ある程度の会話をすることが出来ていた。

 

――知識を付けて来ている?いや、人間の脳に長く寄生することで、その人の知識を多く吸収しているのかしら?

 

彼女にもまだ分からないことがある。『シャドウ』という化け物は、確かに『ジェネシス』から来たモノではあるが、その『シャドウ』を作る星の欠片は、宙の彼方から飛来してきた物だ。詳しくは分からないのも頷ける。

 

「ま、今は取り敢えず撤収しましょうか」

 

彼女は『シャドウ』の亡骸を掴み、部屋の奥のカーテンを開ける。今はまだ日が出ている時間帯だ。日差しを遮るビルなども無い為、彼女に掴まれている『シャドウ』にも、陽の光が十分に当たる。

 

するとどうしたことか。彼女の手が握っていた『シャドウ』は、全身から蒸発するかのような音を立て、アッという間に跡形も無く消えてしまった。

 

「あ、彼を置いていくのはマズいか。ひとまずは私の家にでも送るとしよう・・・・・・ぃよいしょっ、と・・・・・・」

 

そう独り呟きながら、廊下で気絶したままの彼を背負う。魔力を無駄に出来ない為、使うことを避けているからこうなったのだろうと予測出来る。

彼女は最後に部屋の状態を魔法で整え、自分達の指紋やゲル状の液体、染み付いた『シャドウ』の異臭を取り除く。

 

「お邪魔しましたー」

 

そう言って彼女と彼がマンションを出てから2日後、警察には一人の男性の捜索願が届いていた。内容は、カードゲームの店舗大会に参加したことを確認したのが最期で、ここ数日は連絡が取れていないとのことだった。住んでいたマンションを警察は調べたが、失踪という形で処理され、何も原因は解明されなかったという。




今回出て来た神の一撃に耐えられた理由と、XIIの光の束の攻撃で『シャドウ』が消えなかった理由は同じ。至って簡単な理由だったりする。

魔女もビックリ『シャドウ』の成長速度。予想より早い成長のおかげで『ターゲット』は死んでしまっていたが、それでも『シャドウ』は凶暴となり暴れる訳でもなく、言語による会話を先にして来たという点。
というか、人が死んじまったよ。初っ端から。サクシャノヒトデナシー


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5.契約完了のコックスアイ

何か滅茶苦茶偶然に偶然が重なって奇跡が起きたので主人公に名前を授けることにしました。まぁ真名ではありませんが。
魔女も名前を公開。まぁ真名ではありませんが。


目を覚ましたら知らない家に居たときの恐怖感を知っている者は、一体社会にどれだけ居ることだろうか。

それも、恐ろしい魔女の家。倫理観が普通の人間とはかけ離れた、最早違う生物にしか見えない化け物の住む家に。

 

ベッドで起きた僕のすぐ横で、猫背になって椅子に座ったまま寝ている魔女の姿を確認した時は、あのマンションでの情景を思い出してしまい冷や汗がドッと体から出てきた。

そしてそんな僕は今、魔女の姿に怯え、折角の逃亡チャンスを不意にしている。

 

――仕方がないじゃないか・・・・・・。もし逃げ出したとしても、この化け物ならその内僕の居場所を特定しかねない。そんな気がする。

 

警察に通報するのも考えたが、逆に警察くらいどうにかしてしまいそうな危ない気配があるのは、僕自身が味わった悍ましさで証明されている。普通の人間がどうしたところで、この化け物を止めることは出来ない。

 

――話し掛ける勇気も無いし・・・・・・コイツが起きるまでどうにかして精神を落ち着かせよう・・・・・・今はまだ、頭が上手く回っていない。

 

寝起きだからではなく、思考が未だにパニックを起こしているのだ。デュエマをしていたあの時は一周回って勢いで行動していた部分もあったから、理性が保身の為に狂気を理解することを拒んでいた為、暫くの間は精神の崩壊をせずに保つことが出来ていた。だが冷静になった今はもう少し、狂気に対して耐性が無い分、落ち着くのには時間が掛かる。

 

――恐らく、今この化け物に話し掛けられたとしても、受け答えをまともに出来るとは思えない。どうにか生きて、コイツから逃がしてもらえるようにする為にも、最低限理性での対話の準備はしなければ・・・・・・

 

そうして俺は起きたまま、ベッドの中で横で寝たまま化け物の事を考えていた。

コイツは、俺が夢を見ていたということさえ無ければ、非現実的なことを平然とやってのけていたり、“外見”はより化け物らしい化け物と何やら関係があるようだった。

 

――コイツもあの化け物も、どっちも変な言葉を喋っていたし、コイツはあの化け物のことを知っていたみたいだし・・・・・・同じ生物だったりするのか?

 

俺は横目で椅子に座っている化け物女を一目見る。見た目だけなら美しい女性なのだが、中身は化け物の大差無い。だからこそ、あの化け物と同じ生物なのかどうか、どちらにも判断することが出来ない。

それに、あの化け物は対戦途中で人間に近い顔に変容した。しかも言葉も、俺の知っている日本語を話していた。もしかしたらあのまま更に時間が経っていれば・・・・・・

 

「・・・・・・」

 

化け物女を真っ直ぐ見る。徐々に大きくなっていく心臓の鼓動が、自分が今、目の前の存在に恐怖していることを指し示していた。

 

「ん・・・・・・ぁ、寝ちゃってたふぁぁあぁ・・・・・・んー・・・・・・」

「っ」

 

ジッと見ていると、化け物女は大きく欠伸をして、腕と体を椅子に座ったまま真上へと伸ばし始めた。俺は化け物女が起きたことに少し驚きつつも、察されないように静かに深呼吸をする。

 

「・・・・・・状況を、説明して欲しいんですけど」

「あ、起きてた?ごめんね?私も少し疲れちゃって・・・・・・ここ、私の家」

「そ、それはまぁ、分かってます。どうして自分が此処に居るのか。という質問です」

 

そう聞くと、目の前の化け物は質問の意味を理解したのか、納得したような顔で淡々と理由を説明した。

 

どうやら、俺はデュエマの後に気絶したらしい。緊張の糸が切れたからだろう。そこで化け物は俺をおいて行かずに、自分に必要だから連れて来たという。

 

「必要って、一体、何に・・・・・・?」

「うーん、キミに分かり易く言うなら、化け物退治・・・・・・かな?」

「・・・・・・勘弁して下さい。僕なんかよりもっと強い人が居た筈ですっ」

「別に、誰でも良かったんだよ?ただ、一人は必要で、偶然キミは私の見ていた大会で優勝した。どうせなら強い方が長持ちするし、また沢山探さなくても済むでしょう?」

「――っ」

 

化け物の瞳が妖しく光る。やはり、化け物に人らしさというものは無いのだろう。外見だけの、中身は別の生物だ。コイツは、俺を道具として、それもスペアのある使い切りとして使おうとしている。

 

交渉など、出来る筈が無い。あまりにも過ぎた希望的観測だった。強者の無理難題な要求を、弱者がどうこうして拒否することなど出来やしない。

 

「・・・・・・いつでも、私はキミを殺せるよ?」

「・・・・・・分かっ、た」

 

契約成立。そう言って化け物は満面の笑みを浮かべていた。俺の負の感情をグチャグチャに混ぜたような顔とは対照的だ。

 

「キミ、名前は?」

「・・・・・・―――」

「成る程ね、んー・・・・・・」

 

名前を言うと、化け物は顔をしかめて考えている素振りを見せた。先程の化け物の恐ろしい面を確認してしまった俺には、それが白々しく見えて仕方がなかった。

 

「じゃあ・・・・・・今日からキミは“コックスアイ”・・・・・・あぁ、“黒彩(コクサイ)”と呼ぼうかな。黒い彩りで、黒彩」

「何で名前を・・・・・・?」

「キミは私の道具だから。私のモノって記しを付けないと、こわーい化け物に体を良いようにちゃうからね」

「!?、体を・・・・・・」

 

それは一番考えたくもない。自分が怪物になるなど、普通に死ぬよりも痛く辛い思いをすることになる気がする。

 

「黒彩、って名付けられただけで効果があるのか・・・・・・?」

「道具の名前と外見を私が記憶していれば、その道具が何かしらに奪われたり壊されそうになったりした時に、私自身に流れるマナが、道具に宿るほんの僅かなマナと共鳴して、数十分くらいは道具は外敵から身を守ることが出来る」

 

俺の保身の為であり、コイツは道具を無くさないように、という訳か。

 

「それなら本名でも――」

「魔女の記しが刻まれていないと、持ち主の私のマナと共鳴出来ないの。だからキミの本名は使えない。それに・・・・・・もし化け物に知能が付いて来ていたら、どんなものでも情報はあまり公開したくはないもの」

 

化け物に知性・・・・・・やはり、あの時のデュエマ中の化け物が日本語を話していたように、化け物は成長すれば人と大差が無くなる知性を得るということなのだろうか?

 

「あ、一応その力は私のマナとキミのマナを消費することになるから、使うことが無いようにすること」

「・・・・・・あ、そうだ、そのマナって何なんだ?もしかして、デュエマと何か関係してるのか?」

「命の力。命の力には神秘が宿っていて、余剰に生み出された命の力を使って、私や化け物は特殊な力を行使しているの」

 

ん?さらっと問題発言があった気がする。

 

「それ、俺の命を使うのか?」

「余剰、つまりは使い道の無い余分なエネルギーを使うってこと。極僅かだけど、キミも、勿論他の人間にもあるわよ」

「は、はぁ・・・・・・?」

 

ふんわりとだが、不思議パワーの源は命の余分なエネルギーであるということは分かった。それが自分や他の人間にも僅かにあることも。

 

――それが沢山あれば、俺も目の前のこの化け物みたいな力を振るうことが出来るのだろうか?

 

「・・・・・・あと、デュエマとの関係ね。デュエマは私の故郷にもあって、そこでは賭事によく使われていたわ」

「賭事?」

「そう。ゲームを挑んだ者が物を賭け、受けた側はそれに見当たった物を賭けることになる。勝った方が敗者から物を奪い取り、敗者はただ失う」

 

まぁ、博打としては良いのでは無いだろうか。ただ――

 

「あの化け物がそれを受ける保障が無い。それに、この前のはお互いに何を賭けたんだ」

「受けるわよ、キミの言う化け物――シャドウはね」

「どういうことだ?」

 

化け物女は指に嵌めていた青く美しい造形をした指輪を俺の目の前に差し出した。青い宝石を覆う銀には文字のようなモノが彫られている。

俺はすかさずこの指輪について質問した。

 

「これは?」

「シャドウの欲する私の故郷の大切なお宝。これを私は守らなくてはいけないの」

「それでその、シャドウとかいう化け物はその指輪を引き合いに出されたら勝負に乗って来る訳か」

 

納得はした。だが、あの様な化け物に殺されるかもしれないというのに、それでも守らなくてはいけない程、この指輪は大切な物だとは思えなかった。

 

「そんなに、命を危険に晒す程大切な物なのか?それは」

「私の故郷を救う為にも、保身の為にも必要なの。これが無いと、私は本当に少ないマナでこの星で生きなければならなくなるの。それに、シャドウは指輪自体ではなく、それに宿るマナが目的だから、私の残り少ないとはいえ力の行使が出来る程にはあるマナでも、恐らくは襲われるわね」

 

・・・・・・そう聞くと確かに持っていた方が絶対に良い気がする。というか、シャドウに賭けで負ければ死ぬと言うのはそういうことか。指輪が奪われれば非力な獲物。恐らくは指輪回収後に殺されるだろう。

 

――力が無ければ化け物も死ぬ、か。

 

「弱肉強食なのは、どこでも一緒か・・・・・・」

「その言葉が正しいものであるのは、私の星でもこの星でも一緒なのね・・・・・・」

「・・・・・・」

 

珍しくしょんぼりとした、感情のある顔をしている目前の化け物に少し驚いた。それは化け物にも負の感情があるのかという驚きと、今までずっと恐ろしい笑みを浮かべていることばかりだった為、初めて見る表情への驚きだった。

 

「そういえば、お前はあの賭けで何を貰ったんだ?」

「化け物に宿るマナよ。さっきまでは潤ってたんだけど、たった今黒彩という道具としてキミと契約するのに使っちゃった」

「・・・・・・あ、まさか、大会で優勝した俺に契約したのは、マナの回収の効率を高める為でもあるのか?」

「あら、当たり。割と賢いのね。契約でちょっとマナを消費するから、なるべく長く持つ道具が欲しかったのよね。契約に使うマナはどんなものでも変わらないし」

 

木製の斧と鉄の斧、同じ値段であるのなら木製の斧で木を切るよりも、鉄の斧の方が早いし壊れ難い為そちらを選ぶ。つまりはそういうことだろう。質の良い品が手に入ってさぞかし満足なのだろう、目の前のこの化け物は。少し心からの笑顔を浮かべているようなのが憎たらしい。

 

「随分と面倒なのに捕まったのか俺は・・・・・・。化け物には迷惑なのしか居ないのか?」

「化け物呼ばわりは傷付くなー。私は魔女よ。化け物じゃない」

「はいはい、魔女ね。分かりました・・・・・・」

 

本当に傷付いてるならもうちょい感情の籠もった声してるだろ。棒読みなんだよ。

 

「にしても魔女か。魔女、ウィッチ、魔法使い・・・・・・ファンタジーの代名詞じゃないか」

「ふぁんたじー・・・・・・あぁ、夢物語だったわね、確か。同じことを言われたことがあるわ」

「へぇ、前契約者か?・・・・・・あれ、でも今俺と契約してるってことは・・・・・・」

 

そんな疑問抱くも、魔女は何も答えようとはしなかった。ただ、フフ、と笑う彼女の顔は、少し前に浮かべていた恐ろしく薄い笑顔だった。

 

俺は何とか話題を変えようと、咄嗟に別の質問を魔女へとぶつけた。

 

「あ、あの空間、あの空間について教えてくれないかっ」

「あぁ、デュエルスペースね。あそこはデュエマの勝ち負けで賭けを完了させる為の場所、それ以上でも、それ以下でも無いわ」

「もっと何か無いのか?例えばっ、クリーチャーが出てたりしただろ?それとか・・・・・・」

「んー、クリーチャーが出てくるのは演出ね。実際に派手な方が楽しいからって理由で付与されただけ」

 

予想外だ。あれだけ実際に神と戦ったのに、その神が実体化した原因は娯楽性の追求だなんて・・・・・・。

 

「神に殺されるかと思ってたのに・・・・・・娯楽の追求が原因だなんてふざけるなよ・・・・・・っ」

「・・・・・・ぁ、一つあった。細かい情報」

 

魔女が思い出したと言う風に目を少し見開き、服の上からでも分かる整った美しい胸の前で手を合わせる。俺は一瞬で怒気を霧散させ、その情報とやらを聞こうと内容を聞く。

 

「何?どんなの」

「あの空間では絶対にプレイヤーは意識と肉体を失わない。致命傷になるような怪我もしないの」

「本当か!?」

 

ベッドから上半身を起こし、思わず魔女の露出された艶めかしい両肩を両手で掴む。もしそうであるのなら、俺はデュエマ中に死ぬことは無いということだろうか。だとすれば、負ければ死ぬとしても、かなり精神的に楽にはなる。

 

「本当よ。こんなので嘘吐いてどうするのよ。黒彩がデュエマで死ぬことは無いし、意識を失うことは無いわ。腕や足が飛んだり、骨折することも、気絶することもね」

「良かった・・・・・・本当に良かった・・・・・・っ!」

 

涙が思わず出てしまう。それは度重なる非情な出来事の中で、唯一安心出来るものであったからだ。

 

「でも、精神的負担は気絶しないだけで無くなる訳じゃない。溜まるものよ。だから黒彩はあの後気絶した。相当精神に負担が掛かっていたからね」

「・・・・・・当たり前だ。神となんか二度と戦いたくない」

「ふーん、神、ねぇ・・・・・・」

 

涙を拭い、俺はベッドから出て立ち上がる。そのまま俺は、椅子に座ったままの魔女に言った。

 

「俺はまだ、お前の名前を聞いてない」

「魔女で良いわ」

「それだと他にお前みたいな他の星から来た魔女を名乗る奴が居た場合に面倒だ。良いから名前を教えてくれ」

「んー、予想してたよりグイグイ来るのね?嫌いじゃないわよ?・・・・・・でーも」

 

魔女が椅子から立ち上がり、俺の耳元で艶やかな声で囁いた。

 

「魔女は名前を明かさないの。道具に付けた私の記しが他者にバレたら大変だから。だから、私のことは・・・・・・そうね、“ウルディナ”とでも呼べば良いわ」

 

ウルディナ、それがこの魔女を名乗る化け物の仮の名前。俺がこれから大変な目に何度も顔を合わせることになるだろう元凶。

 

「ウルディナ、分かった。絶対に忘れない」

「あら、嬉しいわ。道具に名前を忘れないで覚えて貰えるなんて」

 

――あぁ、覚えたとも。もう絶対に、忘れない。

 

何が何でも、こんなことに巻き込んだ奴の名前は絶対に。




デュエマを書く。絶対に書く。次こそ必ず書く。書いてみせる。
因みに今回伝承に記された内容に黒彩が触れなかったのは必要がなかったからですね。指輪奪われたら殺される可能性大ってだけで十分な理由だったので。


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6.灯下誤見のアマルガム

出来上がった最新話は、どうやら凄まじく明るい話のようですね・・・・・・。


「はぁ・・・・・・」

 

夏休みはまだ続く。親が帰って来ない日々に一喜一憂していたものだが、今では親以上に意識せざるを得ない人物が出来てしまった。

昼間の夏の暑さに汗を流し、飛んで来た黒い蝶々を鬱陶しく思い手で払う。

 

「デッキはこれで良いとしても、プレイング技術は磨いていかないといけないな・・・・・・」

 

そう、楽しみであった筈の趣味が、いつの間にやら生死を賭けたゲームに早変わりしたのだ。全くもって嫌になる。

 

そんな俺がこうして自転車を漕ぎながら、懸命に坂を登っているのはショップへ行く為である。

 

ウルディナとの話し合いがあった後、俺は黒彩としてあの化け物女の道具らしく戦わなければいけなくなったのだ。

負ければ死ぬと聞いて、そうジッとしていられる程俺は肝は据わっていない。こうして次の“殺試合”が始まるまでに、腕を磨かなければと思ったのだ。

 

「もうそろそろで大会の準備が始まるな・・・・・・急ぐか」

 

ハンドルをしっかり握りしめ、足に力を入れて立ち漕ぎの姿勢を取る。風を全身に浴びながら、俺はショップへ急ぎ向かった。

 

 

 

 

 

 

大会で試合が始まり、命の危険がないデュエマが始まる。冷房の効いた店内は涼しく、丁度良い心地よさが感じられた。

 

大会の参加者はかなり多いようだった。50人以上ともなれば1回戦を2回に分けるなどが必要になってくるだろう。

 

「はい!今から対戦票読みますのでー!」

 

俺がそう予想していると、奥から対戦票の集計を終えた店員がやって来た。プレイヤー同士の会話が騒がしい中、大声でどうにか説明をしようとしている姿には若干の申し訳なさを感じる。

 

――カードゲーマーの悪い癖だな・・・・・・

 

とはいえ、ここで大声を出して他の人達に注意を促せる程、俺に勇気がある訳でもない。無言でその場を立ち去り、店員の声が聞こえる近い位置に置いてあるショーケース、その中に配置されている商品のカードを眺める。

 

――今日は・・・・・・そうだな、《アポカリプス・デイ》と《ベルリン》、《パラスラプト》でも買うか・・・・・・。あ、《BAGOOON・パンツァー》が安売り・・・・・・これも買っておくか。

 

「呼ばれなかった人はこの後となりますのでー!」

 

思考中にも店員が参加プレイヤー名前を呼んでいるのは聞こえていたが、どうやら俺は後半になるらしい。暇になってしまったか・・・・・・。

 

「卓が埋まっている以上、フリーも出来ないしなぁ」

 

知り合いが来ている訳でもない。此処は適当にTwitterでも開いて暇潰しでもするか。

 

夏の暑さのせいか、妙に熱を持ったスマホでニュースが

無いか調べる。

 

そんな事をしていた時、一つのニュースが目に入った。

 

『マンションで神隠しか。30歳男性行方不明に。部屋に男の指紋一つも無し』

 

――これ、もしかして・・・・・・いや、まさかな・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

そう思いたい。が、一応はあの憎き魔女、ウルディナに聞いておくべきか。

 

「スミマセン、フリーの対戦って今出来ますかー?」

「えっ、あ、良いけど・・・・・・テーブル空いてる?」

「ありますよー!」

 

いきなり声を掛けられたかと思えば、自分より40cm程背の小さい男の子がデュエマのデッキを片手に持って立っていた。

フリーの対戦の申し出は此方としても嬉しい限りだが、生憎と対戦に必要なテーブルは埋まっている筈。そう思っていたのだが、目の前の少年は、まだこの店に対戦に使えるテーブルがあると言う。

 

「こっちです!こっち!」

「え、あぁ、うん!?」

 

小さな子供に引っ張られて行く高校生など、端から見れば微笑ましいものなのかもしれない。だがまぁ、いきなり袖を掴まれてひっぱられて行くのは正直驚いた。今の子供は俺が子供の頃よりも元気で快活なんだなぁ・・・・・・。

そう思っていると、少年はおもちゃコーナー前のフリースペース、要するに自由に使える机がある場所に辿り着いたようだった。ふと、俺はスマホで時間を確認する。

 

――13:10か・・・・・・2回戦は半からだし、とんでもなく動きの無いゲームにでもならなければ1試合くらいなら出来るか。

 

「じゃあ、シャッフルお願いします!」

「うん、良いよ。じゃあこっちもお願いね」

 

お互いのデッキをカット&シャッフル。程良く出来たら後はジャンケン。先行は俺から。早速手札を確認し、マナに送るカード選ぶ。

 

「《Qアマ》をマナに。ターンエンド」(マナ1)

「ドロー、《ヴィルヘルム》をマナに、ターンエンド!」(マナ1)

「え、《ヴィル》?」

 

困ったな・・・・・・相手の力を見誤ったぞ・・・・・・。

黄金の縁に彩られた3色の竜は、間違いなくお高い《偽りの王 ヴィルヘルム》だ。

 

「良く手に入ったね。そんなカード」

「うん!これ要らないから上げるって、女の子に言われて貰ったんだぁ~!」

 

《ヴィルヘルム》が要らないとかその女の子絶対富豪の娘だろ。俺なら間違いなく媚び売ってもっと手に入らないか策を練るね。

・・・・・・いや、女の子に媚びるのはマズくないか・・・・・・?

 

「女の子からのプレゼントって訳だ。羨ましいなぁ・・・・・・、良かったね」

「うん!大事にする!」

 

うんうん、そうすると良い。そんな良いものも女の子も、早々手に入るものでも、出逢えるものでもない。

 

だが俺も負けてないぞ少年。俺はとんでもない女が名前をプレゼントしてきたからな。希少性ならこっちも高い。化け物と戦えとか言ってくるオプション付きだからな。

 

・・・・・・悲しくなってきた。止めよう。

 

「ドロー、《Qアマ》をマナへ、ターンエンド」(マナ2)

「ドロー、《ニコル・ボーラス》をマナへ、ターンエンド!」(マナ2)

「まーじか」

「お父さんが買ってくれたんだよ!格好良いよね!ね!?」

「そうだな・・・・・・良いお父さんを持ってて、お兄さん羨ましいなぁ~」

 

少年のお父さんはデュエマに理解のある人なのかな?普通にビックリなんだけど。

うちの父さんは《ボーラス》と聞けばmtgが思い浮かぶのかな・・・・・・。あ、もしかしたらmtgが好きな世代の人だったのかもしれない。だから《ボーラス》を買ったとか・・・・・・。

金縁の《ボーラス》を眺めている内に、そんなことが想像できてしまった。

 

「ドロー、《ドンジャングル》をマナに。2マナで《フェアリー・ライフ》。1マナ加速してターンエンド」(マナ4)

「ドロー、《ナトゥーラ・トプス》をマナに。3マナで《お清めシャラップ》!1マナ加速してターンエンド!」(マナ4)

 

――《キューブ》がマナに落ちたか・・・・・・成る程、《ミスキュー》を使ってドラゴンを踏み倒すデッキか・・・・・・。厄介極まりないな。もし《デルフィン》や《ドラゴ大王》、《VAN》なんかが出てきたら、完全に戦意喪失ものだ。

 

「ドロー、《ファイナル・ストップ》をマナに、ターンエンド」(マナ5)

「ドロー、《サイクリカ》をマナに。5マナで《ミステリー・キューブ》!」(マナ5)

「げっ」

 

少年と俺は、《キューブ》のガチャの為に少年のデッキをカット&シャッフルする。

 

――白さえ、マナに白さえあれば《ファイナル・ストップ》が使えていたんだけどなぁ・・・・・・。

 

「えい!」

「あ、オワタ」

 

捲れたカードは《王・龍覇 グレンモルト「刃」》。超次元ゾーンには最悪のカードが確認出来る。

地獄が訪れるのを薄々感じてしまう辺り、《キューブ》はやはり強いと改めて確信する。

 

「《モルト「刃」》の効果で超次元ゾーンから《バトガイ刃斗》を装備!《モルト「刃」》で攻撃、する時に――」

 

“捲る”作業時の俺達の顔はまぁ凄いことになっていた。

少年は顔中キラキラさせて、もう心の底から楽しんでいる様子なのだが、俺は正直、物凄く驚いている。どんだけ金持ちなんだろうな、と。故に今の俺には引きつった笑いしか出来ないのだ。

 

少年がデッキの一番上のカードを捲る。

 

「あー、《キューブ》はドラゴンじゃないから出ない・・・・・・」

「残念だったな・・・・・・」

 

危なかった。もしドラゴンだったら俺は即負けていただろう。

 

「《キューブ》をデッキの一番下に置いてW・ブレイク」

「S・チェック・・・・・・。W・トリガーだな。運が良い」(盾3)

 

S・トリガーの発動を宣言する。しかし、残念ながらこれでは《バトガイ刃斗》を除去することは出来ない。時間稼ぎが精一杯だ。

 

「《メメント》、《フェアリー・ライフ》。1マナ加速」(マナ6)

「あ、良いなー。ターンエンド」

 

そんな羨ましそうに《フェアリー・ライフ》を見られても打たせないからなぁ~?

普通にこのままだと負けるかもしれない。どうなる?

 

「ドロー、《チェンジザ》をマナに。6マナで《チェンジザ》を召喚、効果で2ドロー、《フォース・アゲイン》を捨て、効果で《チェンジザ》を対象に唱える。《チェンジザ》の再登場により2ドロー1捨て。ターンエンド」(マナ7)

 

《フォース・アゲイン》を使用することで強引に2枚のカードを手に入れたが、それでも《チェンジザ》と《フォース・アゲイン》の分を考えると±0だ。だが、《チェンジザ》が存在することで、《ニコル・ボーラス》によるハンデスは悩ましいものになった筈。

 

――まぁ、一応《メメント》は使うか。SAで死ぬ可能性は十分あるしな。

 

「ドロー、」

「メメント効果で全タップ」

 

これで《モルト「刃」》は攻撃出来ない。打点は減ったが・・・・・・どう出る?

 

「んー、《ナトゥーラ・トプス》マナにおいて、6マナで《チェンジザ》召喚」(マナ6)

 

――入っていると考えてはいたが、まさか本当に《チェンジザ》まで入っているとは・・・・・・。

 

「《チェンジザ》の効果で2ドロー、《お清めシャラップ》を捨てて唱える。1マナ加速してターンエンド!」(マナ7)

「いやー、強いな・・・・・・。どうしようか」

「僕強いですか!?」

「うん、強い。かなり強いよ」

 

笑顔で喜んでいる様は本当に可愛らしいのだが、生憎と此方は笑顔を浮かべられる程余裕が無い状態だ。

 

――次のターンで相手のマナは8になる。置かれるのが多色でなければ《ボーラス》が出て来れる状態だ。

 

攻撃を止めることを優先しなければならない以上・・・・・・全ハンデスは覚悟しておいた方が良さそうだ。

 

「ドロー、《フェアリー・ライフ》をマナに。4マナで《メメント》を再展開。ターンエンド」(マナ8)

「ドロー、」

「《メメント》効果で全タップ」

 

《メメント》でどうにか《バトガイ刃斗》や《チェンジザ》の攻撃時に発動するトリガー効果を封じなければならない。そうしなければ普通に押し負ける。

 

「《モーツァルト》をマナに。5マナで《ミステリー・キューブ》」(マナ8)

「何が出るかな・・・・・・ドラゴンは確定だろうけど」

「あ、《サイクリカ》だ!」

「あ、まっず」

 

捲れたカードに嫌な予感がした。サイクリカ、墓地に《キューブ》。何も起きない筈もなく・・・・・・。

 

「《サイクリカ》でもう一回《ミステリー・キューブ》を唱える!《龍の極限ドギラゴールデン》をバトルゾーンに!」

 

――マズいな、ドラゴンが1ターン中に2体場に出たということは・・・・・・。

 

「唱えた《ミステリー・キューブ》を手札に戻して、《ドギラゴールデン》の効果で《チェンジザ》をマナに!」

「了解。まさか《チェンジザ》を《ミステリー・キューブ》で1ターン処理してくるとはなぁ・・・・・・」(マナ9)

「じゃあ、《モルト「刃」》に装備されている《バトガイ刃斗》を《バトガイ銀河》に龍解するね!」

「これ負けたのでは?」

 

俺の手札に肝心のコンボスタートとなるカードが無い以上、どれだけコンボの条件が揃っていても仕方がない。相変わらず痒い所に手の届かない引き運だ。

 

「《バトガイ銀河》で攻撃する時、効果で1ドローして手札から《ボーラス》をバトルゾーンに出すね!」

「この手札ハンデスされるのやっぱ痛いな・・・・・・」

 

墓地に送られる手札3枚。《ミラダンテXII》、《スコーラー》、《チェンジザ》は、こもデッキにおいて必要な存在であり、《ミラダンテXII》に関しては殿堂の為1枚しか入っていないフィニッシャーだ。

 

――とは言え、この子のデッキ的にコスト7以下のトリガー獣は少なそうだし、刺さらない可能性は十分あったが。

 

「T・ブレイク!」

「S・チェック・・・・・・。ノートリか」(盾0)

 

ノートリではあったが・・・・・・やっと来たようだ。切り札ってやつが。

 

「ターンエンド!」

「さて、ファイナルターンの宣言でもしようかな?」

「え!ここから勝つの!?凄い!・・・・・・でも、《バトガイ銀河》が居るから、ドラゴン以外の攻撃は出たターンには出来ないよ?」

 

子供って純粋で本当に良いよね・・・・・・。こうやって遊んであげたら、ちゃんと反応くれるんだよ?天使かな?

 

「さぁ?それはどうだろうね。まぁ、見てればその内クリーチャーは増えてくだろうね。理解は・・・・・・まぁしなくても大丈夫だと思う。ドロー」

 

このコンボは理解するの難しいかもしれないからね。

 

「《サイクリカ》をマナへ。3マナで《神秘の宝箱》。効果でデッキから《Qアマ》をマナに」(マナ11)

「うわー、マナゾーンに《Qアマテラス》が3枚もあるー」

「さて、下準備はこれで完了。8マナで《ドンジャングル》を召喚。効果でマナゾーンから《サイクリカ》をバトルゾーンに」(マナ10)

「《Qアマテラス》じゃないの?折角マナに置いたのに?」

「まぁ見てて。《サイクリカ》の効果で墓地から《フォース・アゲイン》を唱える。《ドンジャングル》を再登場させ、唱えた《フォース・アゲイン》を手札に。《ドンジャングル》の効果で、マナから《チェンジザ》をバトルゾーンに」(マナ9)

 

間接的ではあるものの、ドラゴンの効果で登場したドラゴンの存在に、目の前の少年は目を輝かせている。ドラゴンが連載しているように見える光景は、幼い彼には格好良く見えたのだろう。

 

――俺にも、こういう時期があったな・・・・・・

 

「《チェンジザ》の効果で2ドローして《フォース・アゲイン》を捨て、唱える。効果で《ドンジャングル》の効果を再度使う。マナから《Qアマ》をバトルゾーンに」(マナ8)

「あ、出てきた!《Qアマテラス》だ!」

「そうだね、やっと出てきたな。《Qアマ》の効果でデッキから《禁術》を手札に加え、そのまま唱える。復元対象は《フォース・アゲイン》。《フォース・アゲイン》の効果で《ドンジャングル》の効果を再使用。マナゾーンから2体目の《Qアマ》をバトルゾーンに。《フォース・アゲイン》はデッキ下に」(マナ7)

 

まだ、舞える。

 

「2体目の《Qアマ》の効果でデッキから《フォース・アゲイン》を手札に加え、そのまま唱える。効果で《ドンジャングル》効果を再使用。マナゾーンから3体目の《Qアマ》をバトルゾーンに」(マナ6)

「全部出たー!」

「驚くのは、まだ早い。3体目の《Qアマ》の効果でデッキから《禁術》を手札に加え、そのまま唱える。復元対象は《禁術》。その復元対象は《フォース・アゲイン》。《フォース・アゲイン》の効果で3体目の《Qアマ》の効果を再使用する。その前に、《フォース・アゲイン》と《禁術》をデッキ下に」

「凄い続くね!」

「え?あー、ごめんな・・・・・・」

「全然気にしないで!楽しいから!」

 

長いだろうが待ってて欲しい。もう終わるからな。そう言おうと思ったが、少年はこのコンボの長さを気にしているようには見えなかった。

寧ろ、良く分からないが凄いことが起きている。その事実に興奮しているようだ。

 

「《Qアマ》の効果でデッキから《クリメモ》を手札に加え、そのまま唱える。デッキからカードを1枚手札に加え、シャッフル。そのまま手札から《スコーラー》をGー0で召喚」

「コスト11!?凄い凄い!」

「それだけじゃないよー?《スコーラー》の効果で、俺は追加ターンを得る」

「追加ターン!?」

 

パァーッと顔を輝かせる少年に、此方も自然と笑顔になる。此処までこのコンボで明るい反応をしてくれたのは果たしていつ振りだっただろうか。

いや、もしかしたら初めてかもしれない。そう思うと、彼にはもっと楽しんでもらいたいと思ってしまう。

 

「追加ターン、ドロー。6マナで《達閃》を召喚。そのまま《チェンジザ》で攻撃。効果で2ドローし、《ファイナル・ストップ》捨てる。効果で唱え、1ドロー。W・ブレイク」

「うーん、トリガー無し!」(盾3)

「《ドンジャングル》で攻撃」

「トリガー無し!」(盾1)

「《スコーラー》で攻撃」

「最後も無かったかー!悔しいー!」(盾0)

「楽しかった。君とのデュエマ。《Qアマ》でトドメ」

「何も無いです!」

 

淡々とした作業ではあったが、一人の子供を笑顔に出来た。今日の一番の収穫は、楽しいデュエマが出来た事だろう。

 

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました。またいつか、デュエマしようね」

「うん!お兄さんのデュエマ凄い格好良かった!またいつかしよう!」

 

走り去って行く少年の姿は、とても幸せそうであった。




次辺りは多分デュエマ挟めないかも。話のテンポ的にも一旦魔女と会話とか挟みたいし。


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7.脅威遠来のトレスクラーデ

何とこっちも投稿。短いけど区切る必用があった。


「暑くない?」

「知らん」

 

背景、読者の皆さん。私、黒彩は、少年とのフリー対戦の後、大会にて初戦負けした挙げ句、何と今まで化け物女にストーカーされていたことが判明しました。現在、店の外にある自販機前に立つ俺の前で、見せ付けるかの如くミルク味のアイスキャンディーを舐めている糞女がその人です。

 

「お前、何しに来たの?」

「んー?あぁ、何か変な気配を感じて外に出てみたって所」

「変な気配?・・・・・・もしかしてシャドウ・・・・・・か?」

「違うわね。シャドウならもっと弱い。今回感じた気配は強かった。・・・・・・もしかしたら『三災(トレスクラーデ)』かもしれないわね」

「三災?何だそれ?シャドウの親玉みたいな感じか?」

 

三災・・・・・・3つの災害?どうにも良いものには思えないが、一体何なんだ?

 

「三災っていうのは、私達が住む惑星、ジェネシスで暴れていたシャドウの統率種。四天王みたいなものかしら?3人だけど」

「そんな奴らが来てるのか・・・・・・?」

「確証は無いけど、来る理由ならあるわね」

 

そう言ってウルディナは胸ポケットの中を軽く叩く。ポケットの中に入るサイズで、シャドウのボスが狙う物・・・・・・。

あ、そうか。

 

「指輪か」

「当たり。後もう一つあるけど、どちらにせよ来ていたとしたら面倒なことこの上無いわね。アイツらは例外的に、人に寄生せずとも行動出来る程の莫大なマナを持ったシャドウだし」

 

莫大なマナを持つシャドウ、三災か・・・・・・。

 

「・・・・・・先に忠告しておくわ。三災の一、緑の災『ベルデ』は間違いなくアナタには手が負えない。相性が凄まじく悪いの、私とね」

「お前と?いやいや、平気で一般人に化け物と殺し合いさせるような畜生化け物女に適う敵なんて居るとは思えないんだけど」

「黙りなさいお猿さん。はぁ、猿は名前も覚えられないのかしら・・・・・・」

 

イラっと来た。が、ここで反応すれば余計に猿だ猿だと馬鹿にされる為黙っておく。

 

――このド腐れBBA

 

「・・・・・・まぁ、それは良いとして、私にも天敵くらい居るわよ。もし無敵だったら今頃ジェネシスは平和だし」

「確かにな。お前が無敵だったら独裁者ムーヴで世界平和でも作ってるか・・・・・・。どんな風に相性が悪いんだ?」

「・・・・・・マナには属性がある。自然属性のマナを多量に抱え込んでいるのがベルデ。私はマナが少ない上に、その多くは自然に弱い水の属性のマナなのよ」

「もしかして、それもそっちのデュエマと関係あるのか?」

 

デュエマには基本となる五色の文明、火、水、自然、光、闇が存在する。シャドウと戦うのにデュエマを使用した理由はマナを使うゲームだったからだ。デュエマのマナと、何か関係があるのかもしれない。

 

「まぁ、あると言えばあるわ。水は火に強く、火は自然に強く、自然は水に強い。光と闇はどちらも相反する力。マナというエネルギーの衝突は無い」

「もしかして・・・・・・そのマナの5属性を文明という形でゲームに落とし込んだのがそっちのデュエマなのか?」

「正確にはそれに加えて私達の世界の5つの地域もモチーフになっているけれど、まぁ正解よ。勘の良い道具で嬉しいわ!」

 

そう言ってウルディナは笑顔で俺の頭を撫でて来る。不思議なものだ、全く嬉しくない。寧ろ頭をこのまま引っこ抜かれないか心配で仕方がないくらいだ。

俺は自分の頭を撫でるウルディナの手を払い、『ジェネシス』におけるデュエマへの一応の理解を示した。

 

「・・・・・・大体分かった。会うことは無いとは思うけど、ベルデには注意する」

「そうして。契約している君の命が消えれば、私も困るから」

 

とは言ったものの、そもそもベルデの姿がどういったものかわからない。言動や行動に違和感のある人間やシャドウを見つけた場合には、ウルディナに確認の為にも一度会う必要があるかもしれない。

 

俺がそうこう考えている内に、ウルディナはアイスを食べ終えたようだった。持ち手となっていた木の棒は、ウルディナの手で店の前の可燃ゴミのゴミ箱へと捨てられる。

 

「さて、どうするのかしら?私はこれからシャドウ探しに歩き回るけど、君はまだカードショップでデュエマをしてるの?」

「そうだな・・・・・・。買いたいカードは手に入ったし、もう家に帰るとする。・・・・・・あ、そうだ。最後に一つ質問して良いか?」

 

俺は大会前に見ていたスマホのニュースを表示し、ウルディナに見せる。この神隠しと言われる事件に、俺達は関係していたのかどうか。

 

「・・・・・・いいえ、その事件に関しては、私達の仕業じゃないわね」

「違う・・・・・・のか?」

 

意外だった。てっきり、シャドウと初めて出会ったあのマンションだったし、俺達が関係しているかと思っていたのだが・・・・・・。

 

「それ、私達が訪れた所と部屋番号が違うもの。それはただの行方不明事件よ」

「そうだったか・・・・・・」

 

あの時は慌てていたから、どの番号の部屋を訪れていたのか知らなかった。何にせよ、関係ないのなら安心だ。

 

「・・・・・・でも、可笑しいわね」

「?可笑しい?何か変な所でもあったのか?」

「指紋も住んでいた形跡も無いなんて、早々そこらの人間が出来ることじゃない。というか、不可能に近いわ」

 

言われてみればそうだが・・・・・・。もしかして、シャドウの線を疑っているのか?だとしたらあのマンションにはシャドウが2体発生していたことになるんだが・・・・・・。

 

「シャドウでもそういった痕跡は消せない。しかも基本、そういった事はしないし。なら考えられるのは、それが出来る知恵と力のある此方の者・・・・・・」

 

ウルディナは思考状態に入ったようだ。自販機の側面に寄りかかって、暫く無言で考え込んでいる。

 

――三災だったりしないだろうな・・・・・・。あ、いや、三災は人に寄生しなくてはならない程マナに困っては無いのか。

 

「本物の『魔女』なら可能かしら・・・・・・?いや、それは有り得ないわね。魔女はジェネシスで確かに――やっぱり考えられるとしたら・・・・・・」

「考えられるとしたら?」

「三災か、もしくは進化したシャドウだと思う」

 

それはどっちもマズいんじゃないか?三災は強いし、進化したシャドウなら殺されかねない程の危険性がある。

 

「もう一度、あのマンションに行くわよ。実際に見に行く必要がある」

「あー、それは良いけど・・・・・・本当に俺はお前の加護で守られてるんだよな?」

「なるべく道具は長持ちさせたいから、してるわよ。嘘吐く必要ある?」

 

・・・・・・それもそうだな。

 

「・・・・・・シャドウと出会ってリアルファイトの殺し合い、というのは避けたいなぁ・・・・・・」

「私も避けたいわね・・・・・・でも、恐らく放置してたら更に厄介になって襲って来るだろうし。仕方ないわ」

 

ウルディナはそう言って勝手にマンションの方角へと歩き始める。ここからそう距離が離れている訳でもない。数分歩けば着くだろう。

 

「ちょ、置いて行くなよっ・・・・・・」

 

俺は急いで自転車を取りに行く。ウルディナが丁度店の壁で見えなくなった所で自転車のロックを外し、ウルディナの所まで走って持ち出す。

 

「あ、あれって・・・・・・」

「お父さん、明日何するのー?」

「ん?あぁ、明日はお父さん仕事があってな。ごめんな、遊んでやれないんだ」

 

確かに、大会の試合前に僕が対戦した少年が見知らぬ男の人と帰ろうとしている所だった。そういえば少年の父親は《ボーラス》を少年に渡してくれたとか話していたっけ・・・・・・。

 

「また仕事ー?」

「ちょっと最近忙しくてな。でもな?その分、お父さんも今日の休日の過ごし方は楽しかったぞー!」

「そうなの?」

「あぁ、進次(しんじ)が楽しそうにしている姿が見れて、お父さんはもう最高に嬉しかったんだよ」

 

そう言って、少年の父親は彼の頭を優しく撫でる。そうか、少年の名前は進次というのか。

 

進次君のお父さんは、話を聞く限り仕事で忙しい毎日を送っているのだろう。息子である進次君とも、そんなに遊んでやれない。だからこそ、あの《ボーラス》をプレゼントしたのかもしれない。進次君に笑顔になって欲しかった。喜んで欲しかったから。

 

――親子・・・・・・か・・・・・・。

 

別に、そこまで羨ましい訳ではない。俺にも両親は居るし、そこまで家を離れることは・・・・・・まぁ、今もそうだし、偶にあるけど。それでも会いたいと思うことは極稀だ。だが、ここまで仲の良さそうな家族の交流を見ると、俺も家族と――親しい人と談笑したい、と少しだけ思ってしまう。

 

――・・・・・・懐かしいな。

 

空が豪奢で深い憂愁を秘めた色と光に満ちる。引き絞られた弓が、遥かな宇宙の縁から、巨大な黄金の矢を放つかの如く、雲の間から一筋の光が注がれる。

脳裏に浮かぶのは、夕日に照らされた幼き頃の親友の横顔。

そんな彼が居た記憶の中の景色は、此処とは違う、もっと古臭くて、澄んだ空気をしていた。

 

『ねぇ、アナタは、自分を信じることが出来る?』

 

彼女からの質問に、俺はまだ答えられない。もう何年も経ったが、それでもこの質問に対する答えが、自信を持って言えるものが無い。

 

掌から零れ出すほどの過去を一筋一筋と摘み上げては、歩いて来た道を憶い出す。

 

『アナタは、闇の中に光があると思う?』

 

『アナタは、人との絆があると信じることが出来る?』

 

『アナタは、心に従える?』

 

俺は思い出した問いの一つ一つに、当時どのような思いを抱いていたのだろうか。

彼女も、何を思ってこのようなことを言ったのだろうか。

 

「・・・・・・分かる訳、無いか」

「・・・・・・何が、分かる訳、無いか、よ。遅いから見に来ちゃったじゃない」

「悪い。・・・・・・いや、こんな奴に謝る必要ないか」

「言うようになったわねお猿さん?」

「黙れ阿婆擦れ女。・・・・・・というか、またこのやりとりを繰り返す気か?」

 

無駄だから止めだ止め、と言い、ウルディナと共に今度こそマンションへ向かう。

気付けば親子はもう居ない。きっと家へと帰ったのだろう。

 

「そうだ、先に言っておくけど、シャドウはアナタが思っている程恐ろしいモノじゃないわよ」

「え?いやそれは嘘だろ」

「動物型の寄生虫みたいなもんよ。この星を見て回れば、何か似たようなものの一つくらいあるんじゃない?」

「いやいや、だとしても脅威だろ。普通に恐ろしいって」

 

そう?と少し意外そうにしているウルディナを見て、何を言ってるんだかと不思議に思う。

 

「私からすれば、シャドウは確かに恐ろしいけど、人間の方がよっぽど恐ろしく見えるわよ?」

「え」

「流石のシャドウでも、同族を興味本位で殺したりはしないわよ。シャドウに興味というものがあるかどうかは別として」

 

そう言われると、何も言い返せない。確かに人間の方が恐ろしく思えてしまう。だが――

 

「いや、それでもだ。シャドウは人を食う。人の体を乗っ取ってしまう。そこに、人の魂の自由ってものは無い。生きながらの地獄を味わわされるんだ」

「へぇ、生きながらの地獄・・・・・・か」

 

一瞬、ウルディナの顔が曇ったように見えたが、きっと気のせいだろう。

 

「さて、じゃあ戦略でも話し合いながら行こうかしら」

「だな。偶には共感出来ることも言うもんだな」

「良い加減、私のことを主人と敬って欲しなぁ」

 

コラ、背後から胸を頭に当てるな。こんなの見られたら恥ずかしくなって死ねる。良いのか?道具がもう駄目になるぞ?

 

「その駄肉を当てるの止めてくれない?」

「もう少し敬ってくれるまでは止めないわね」

 

夕日が、そんな魔女の憎たらしい笑顔を照らしていた。




次はチェンジザワールドの投稿かな?分からん。


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