猫でいる生活 (syumasyuma)
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学園艦に乗りました

ガルパンの世界観についてかなり奇怪な想像をしているのでご注意ください。


気がつくと俺は猫になっていた。

 

全身が白く短い毛に覆われ、顔と耳と足先と尻尾が黒い猫だ。

シャム・・・ではなくタイという品種な筈だ。

 

タイ猫になった俺はしばし呆然としていたが、黄色い帽子とランドセルを装備した小学生っぽい巨人の無邪気な突っつき攻撃の前に、

これは夢ではないことをまざまざと思い知らされてしまった。

 

「うにゃうーにゃうーにゃにゃ」『人間というものは猫から見るとこうも大きいものなのか』

 

巨人に驚いた俺は一目散に逃げ出し、家の垣根おそらくイヌツゲの中に潜りこみ、

あたりの様子を窺う。

どうやら小学生は付いてきていないようだ。

 

「にゃあ」『はあ』

 

口から漏れるこれは全て”にゃー”だの”なー”だのと、

言葉にならずため息をついてしまう。

 

猫になる前の俺は大柄で筋肉質かつ骨太という頑丈な肉体に、

毛深い体毛、大酒のみということからでかいドワーフと呼ばれていたのにどうしてこうなったのか?

 

人に見下ろされるなんて経験があまり無かったのでなんだか、

新鮮というか変な感じだ。

 

自分の傍を横切る人間や自動車は記憶にあるものよりも5倍大きくなり、

まるで巨人の国に来たかのようだ。

 

 

「うにゃにゃうにゃーな」『さしずめ俺はガリバーといったところか』

 

自分で言った冗談に、にゃっにゃっにゃっと笑っていると明らかにおかしいものが見えた。

 

船だ。

 

いや海の見える港町なんだから船くらいあってもいいんだが、

尋常じゃないほどの大きさだ。

 

この町のどんな建物よりも高く、そして大きい、船はまるで山か島が動いているかのようで、

その圧倒的なスケールを前に唖然としてしまった。

 

やっぱり巨人の国かもしれない。

 

そう思ってしまったのも無理は無いだろう。

後で知ったことだが長さ7.6km、幅1km、高さ690mの超ド級どころじゃないほどのとてつもない大きさの船だったのだ。

 

垣根を這い出た俺は近くにあった電柱を確認する。

電柱にかかれた住所には大洗と書かれている。

 

大洗どこかで聞いたことがあるが一体何処だっただろうか?

まあ聞き覚えがあるなら日本の何処かなのだろう。

ということはここは俺の知る日本ではないらしい。

 

 

そう思うとなんだか気が楽になってきた。

夢じゃないけど、夢な気がしてきたのだ。

 

人間だった頃の家族や友人、仕事先には心苦しいが、全く戻れる気がしないのだ。

これは仕方の無いことなのだ。

 

やはり猫になってごろごろしていたいなどと嘯いていたのが聞いたのだろうか?

仮病で休んだ日のように軽やかな気持ちになった俺は、

これからどうするか考えることとする。

 

食と住をなんとかしたいところではあるが、眼前にそびえ立つあの船が気になってしょうがない。

まずあれがなんであるか調べよう。

 

春の陽気か、はたまた猫になった現実逃避か、それとも両方か分からんが俺の行動は大胆になる。

塀によじ登り、そのまま塀の上を危なげなく歩いていく。

 

塀の上の猫、実に猫味に溢れる行動といえよう。

 

塀を歩いていると道端で喋っている人間を見つける。

どうやら井戸端会議をしているマダムのようだ。

丁度あれについて話しているみたいだ。

 

「うちの子も来年から学園艦に乗船するんだけど大丈夫かねー?」

 

「大丈夫ですよー全寮制みたいなものだし。行くのは大洗なんでしょ?」

 

「ええ、船舶科に入るーって、張り切ってだけど・・・。まだ中学生だし・・・料理が下手でねー、

 いっつも焦がしてばっかりで、ちゃんと食べていけるかね。」

 

「そうなの?でも学園内に食堂もあるし、なんとかなるんじゃないかしら?

 河嶋さんちの桃ちゃんだって料理できるようになったらしいし」

 

「そうかしら?でも桃ちゃんができるなら大丈夫かしら?」

 

「大丈夫よ!でも心配なら一緒に学園艦に見学に行けばいいのよ。乗り方は~」

 

 

マダム達の井戸端会議を盗み聞きし、船の情報を集める。大半は役に立たないものが多かったが、

積荷の搬入場所や人間の乗船口のヒントとなる話しがあったり、

学園艦のパンフレットが港に置いてあることが口にしている人がいた。

 

どうやら学園艦なるものの甲板が非常に高い位置にあるため、めちゃくちゃでかい車道橋があるそうだ。

物資の積み込みなどはローロー船のように、トレーラーや自動車を自走させて直接積み込んでいるようで、

学園艦に乗り込む車に潜り込めば乗船できそうだ。

 

そう考えた俺は早速学園艦に乗り込むべく、埠頭へ向かった。

 

 

『一向に近くならん』

 

歩いても歩いても一向に学園艦に近づいた気がしない。

でか過ぎて勘違いしていたが、俺は学園艦から遠い場所にいたんだと認識する。

 

途中から焦れてしまい走って埠頭へ向かったものの、

猫の身体能力に感心するだけでかなりの時間が掛かってしまった。

 

ようやく町が切れ、学園艦の全貌が見える。

 

『なんだこれは・・・』

 

巨大な学園艦が停泊できるように整備された港は、

そのスケールの大きさに驚いてしまった。

 

東京のゴミゴミとした町並みに慣れていた俺は十数キロに渡って開けた土地を見て、大きな衝撃を受けた。

特に長さ10km、幅1kmはある長大な埠頭には変な汗が流れてくる。

 

なんとなく及び腰になった俺は直接学園艦には向かわず、周辺を確認することにした。

すると一般乗用車の集まるショッピングモールを発見した。

 

ここで忍び込む車を決めよう。

 

ガラス張りのタワーを横目に、人で溢れるモールに紛れ込んだ。

 

 

人間にもみくちゃにされること数十分、「そろそろ学園艦に行くか」なんて呟いていたナイスミドルを発見し、

後をつけてみるとそこには幌タイプの軽トラがあり、ナイスミドルがその軽トラに乗り込むではないか!

 

千載一遇のチャンスを逃さんと軽トラの荷台に忍び込んだ。

もう少し吟味したかったところだがこれを逃したら次に機会があるか分からん。

学園艦に乗り込めばこっちのものだと、自分に言い聞かせつつ身を潜める。

 

荷台に積み込まれた酒樽を見るに、男は酒屋のようだ。

酒樽は白い布と縄で包装されており、一品や副将軍、月の井と書かれている。

 

日本酒だろうか?

 

車がガタンとゆれた。どうやら傾斜のある地面を走っているようだ。

幌の隙間から外を窺うと、車は学園艦へ続く車道橋を登っているのがわかる。

荷台にからでは後部しか見えないが、なかなか面白い。

 

いったいどれだけの高さまで登るのだろうか?

これほどの高さはあまり記憶にない、かつて登った東京タワーのトップデッキよりも高いのではないだろうか?

 

先ほどまで見ていた大洗の町並みが一望できる。

 

ぼんやりと眺めていると車がガタンと揺れた。

密集していた車を載せた地面が上昇していく、どうやら右舷外縁エレベータだったようだ。

あんぐりと口を開け地平線を眺めていると、車が影に入った。

 

学園艦に入ったようだ。

 

大洗学園空母右舷艦橋第一トンネルと書かれたその道は三車線に別れており、

道路照明によりオレンジ色に彩られていた。

 

トンネルを抜けると道は五車線に分かれており、左から三車線が甲板行きで、右に車線が艦内行きとなっている。

コンテナを積んだトラックなどは艦内行きの方に流れて行き、俺の乗っていた車は甲板に行くようだ。

 

倉庫にでも付いたら途中で乗り換えるか徒歩で甲板に上がろうと思っていたから、これは非常に幸運だった。

 

車は艦橋前から中央大通りを右折し、そして直ぐに左折し、酒屋吉田左舷本町店と書かれた店の前に止まる。

急いで荷台から飛び出て店の陰に入り、ちらりと様子を窺う・・・どうやらばれていない様だ。

 

ほっと息を吐いて、近場の塀や屋根に上りあたりを見回す。

 

『船の上に町がある・・・。』

 

 

確かにこれだけ広ければ町が一つそのまま入りそうだが、

よく見れば山がいくつかあり、木々が生い茂っている。

 

なんとも言いがたい感情に襲われるが、頭を振って直ぐに気にしないことにする。

気を取り直して俺は散策に出たが、直ぐに眠気に襲われた。

 

フラフラとした足取りで付近をうろつくといい感じの縁側を発見した。

日が当たって暖かく、木のぬくもりが心地いい。

気がついたら俺は縁側に丸くなっていた。

 

なるほど猫は縁側に惹かれるものなのだな。

 

 

 

「うな?」『なんだ?』

 

 

突然何者かに頭を撫でられ、目が覚める。

日は既に落ちようとしていた。こころなしか寒さを感じる。

 

「なんだとは何だ」

 

「うにゃな」『家主か』

 

黒い髪を靡かせたジト眼の少女が俺の頭を突っつく。

未だに眠い俺はぼんやりと彼女を見つめる。

 

「勝手に私の縁側を占拠するな」

 

「なうなうにゃうな」『いい縁側だな』

 

「自慢の縁側だ」

 

彼女は俺の隣に座り、持っていた鞄を縁側に置いてそう言った。

部屋を借りる時に選んだ理由の一つだと、彼女は付け足した。

 

眠り足りないが家主が帰ってきたし、起きるとしよう。

さて何処に行こうか?

欠伸からの伸びをした後、耳の後ろを掻いてから地面に降りる。

あー今すっごい猫っぽいことしたな

 

「なうなにゃおん」『邪魔したな』

 

「待て縁側代を払っていけ」

 

「なううにゃい」『金なら無い』

 

「撫でさせろ」

 

「・・・なうにゃにお」『・・・好きにしろ』

 

彼女が俺の毛皮を求めてきたので、少し考え今後の関係のためにもここは受けるべきだと感じた。

俺は縁側に戻るとまた丸くなった。

 

彼女は俺を抱え上げ自分の膝の上に乗せて、

俺の背中を撫で繰り回してくる。

 

くすぐったいし止めて欲しいんだがなーと彼女を見ても、彼女は此方の意を汲んでくれない。

 

ふとここで気づく。

 

言葉が通じてるー!

 

全身の毛が逆立ち、彼女を見る。

 

「にゃにわなうにゃううにゃにゃうななうなう!」『君は俺の言ってることが分かるのか!』

 

「分かるぞ。読唇術とアクセントでな。むしろ猫が人間の言葉を完全に理解しているほうがおかしいぞ」

 

「なっなうなな」『そっそうかな』

 

 

俺がおかしいのか、彼女がおかしいのか、世界がおかしいのか、

混乱して硬直し、結論のでない考えを堂々巡りにしていると。

 

俺は彼女の家に持ち帰りされ、お湯の張ったタライの中で彼女に丸洗いにされていた。

お湯の温かさで正気に戻ったが、なぜ俺は洗われているのだろうか。

 

「なう」『なあ』

 

「なんだ」

 

「なう、にゃっにううな」『なぜ、洗ってるんだ?』

 

「汚れているからだ」

 

「なうな・・・」『そうか・・・』

 

 

なんというか非常にマイペースな子なのは理解した。

 

その後の俺は彼女のなすがままに流されることにした。

 

バスタオルに巻かれ、出されたちくわを食べ、思いっきり撫でられた後、

彼女は電気を消して、そして寝た。

 

彼女の寝入りの速さはワールドクラスで、某アニメの眼鏡くんにも引けを取らないであろう。

今日はいろいろあって疲れていたので、俺も彼女の布団の端に乗り眠ることとした。

 

 

 

翌朝、俺は大量の目覚ましの音で叩き起こされる。

 

「なうにゃ!」『なんさ!』

 

爆音を鳴らす目覚ましを沈めると後ろの山を見上げる。

うつ伏せで布団を巻き込んで完全な防御体勢を取っている彼女を見る。

護身完成といわんばかりソレに声を掛ける。

 

「うにゃなうなうーにゃにゃ?」『起きなくていいのか?』

「・・・」

 

彼女は何も言わない。

山になったのも条件反射なのだろうか?

 

目覚ましもなったし、彼女の起床時間だろうから起こしてみることにする。

 

上に乗ってみるが反応なし。

上でジャンプ・・・ダメ。

山に向かってタックル・・・動かねえ。

布団に入る隙間はないか・・・。

 

俺は初めて爪を伸ばすと昨日の縁側に続くガラス戸に近づくと、

立てた爪でガラスを引っかいてみる。

 

「ふぎゃー!」『うぎゃー!』

 

「ぎゃー!」

 

効果があるらしいので、このガラスから鳴る不快な音を鳴らし続ける。

俺もこの音は苦手なので早く起きてほしい。

 

「わかった!起きるからー起きるってー!」

 

「うにゃなお」『あさだよ』

 

立ち上がって睨みつけてくる彼女にテーブルの上の目覚ましを見せる。

すると彼女のしかめっ面が和らぎ目覚ましを手に取ると、

彼女は歓声をあげて喜んだ。

 

「おー1回目の目覚ましで起きてる」

 

「なににゃおいう」『まじかこいつ』

 

「明日も頼んだ!えーと・・・」

 

俺のことをなんて呼ぶか悩む彼女。

そういえばロクに自己紹介もしなかったな。

 

「におにゃーないににゃなっなうな」『自己紹介してなかったな』

 

「私は冷泉麻子!」

 

「なうにゃうにゃ」『好きに呼べ』

 

ちょっと悩んだ彼女は俺を指差す。

一体どんな名前になるのやら・・・。

 

「じゃあ・・・モコ!冷泉モコだ、おまえは!」

 

「なんうにゃうな」『センスねえな』

 

「よろしくな!モコ!」

 

俺のクレームを気にしないで久しぶりに朝食を食べるといった彼女は、

そもそも朝食用の食材を用意していなかったらしく、ちくわを齧っていた。

 

どうやら俺は冷泉さんちの目覚ましになったようだ。




にゃーにゃー書くの疲れたので
次の話からはなくなります。
また今後本編関係ない設定語り回が入ると思いますが
興味ない方は飛ばしてください。

追記8/14
絵コンテの中に三話NO102「学園空母ブリッジ、後部デッキがエレベータから下に降りてきたイメージ」と書かれているので、車道橋-右舷艦橋第一トンネル間にエレベータの描写追加


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日本史を確認しました

世界観説明回
興味ない方は飛ばしてください


「私はこれから学校だが、モコはどうする?」

 

『どうするとは?』

 

そう問いかけてくる麻子は昨日であったときの服装、つまり制服に鞄を持った状態になっていた。

小柄な彼女は高校生というよりも中学生に見えた。

まあそんなことを言ったらあのジト眼を更に細くして、

俺の肉球を十六連打してくるのは目に見えていたため、特にコメントしない。

 

「水とちくわは置いておくが、ずっと家にいるつもりなのか?」

 

『この家にはちくわしかないのか。・・・そうだな、本棚にある本。見ていいか?』

 

「字も読めるのか、何なんだお前は。まあいいや、汚したり傷つけるなよ。」

 

カラーボックスに詰められた本を指して尋ねると許可がもらえた。

入っている本は小説や歴史本が多く、漫画などは一切無かった。

 

しかし俺が字を読めることすら流すんだな。

 

『いってらっしゃい』

「・・・行ってきます。」

 

念のためトイレのドアと窓を開けてから、玄関に向かう彼女に声を掛ける。

彼女は振り向かずにこちらに応えると鍵を締めて学校へ向かっていった。

 

玄関から居間に戻り、窓から彼女の様子を窺う。

その足取りはやや鈍く、軽くフラついていたが、学校へ向かうという意志だけは伝わってきた。

 

 

その後背後から目覚ましの爆音が鳴って、驚きのあまり腰を抜かしてしまった。

 

こんな醜態を彼女に見られなくて良かった。

 

『さて本でも読むか』

 

カラーボックスから本を取り出す・・・取りっダス・・・取り出して見る。

俺が着目したのは歴史本の中に混じっていた日本史の本である。

 

しかしくっそ重くてかなわんな。人間で言うと自分の腰ほどの大きさがあり、重さは10kg近くあるようなものだ。

つくづく猫の体というものは、人間の真似事するには不便なんだなと実感する。

 

ページをめくるのすら手間取る始末だ。

 

ぺらぺらと本を眺めてみると、縄文弥生飛鳥室町江戸明治大正とざっと見てもさほど俺のいた日本と変わりないな。

ところどころで知らん名前が出てくるが、織田信長が天下統一したりなんかは無かった。

 

流し読みしていると俺の手が止まる。

 

どうも見過ごせない文字が目に入った。

 

『分割統治だと?』

 

世界大戦付近の文字を見てみると衝撃的な歴史が描かれていることが分かった。

 

 

’硫黄島陥落以後領空を制圧された我が国は度重なる空襲に遭う、またドイツ・イタリアの降伏を重く見た政府は

 1945年7月26日に米英中の首脳の名において宣言された、日本に降伏を求めるポツダム宣言を受け入れた。

 また我が国に先立って中華民国に降伏していた中華民国南京政府はそのまま吸収された。

 南京政府が所有していた膨大な戦力はその後の二次国共内戦で活用されることとなる。

 戦争後共通の敵がいなくなったことで、再び勃発した中華民国と中国共産党による内戦のため

 我が国の軍事施設は接収された。

 連合の支援を受ける中華民国とソ連の支援を受ける中国共産党の内戦は一進一退の攻防を見せ、

 戦況は膠着化した。

 極東軍事裁判では昭和天皇陛下への訴追がなされ、廃位の上、皇居に軟禁の憂き目にあった。

 また昭和天皇陛下訴追に際し、陸軍の暴走の可能性があったが、裁判終了以後、

 定期的に玉音放送があったためか、国内は不気味なほどの静けさを保っていた。

 太平洋戦争に敗戦した我が国はサンフランシスコ条約により、

 アメリカ、イギリス、ソ連、中華民国の4カ国による分割統治されることになった。

 北海道及び東北をソ連に、関東・中部・関西・沖縄をアメリカに、

 中国地方・九州をイギリスに、四国を中華民国に、東京などの重要拠点は各国が分割統治した。

 戦争終了後ルーズベルトに代わり大統領となったトルーマンは米ソ対立を深化し、

 それが欧州冷戦へと続いていった。

 その余波がアジアに伝わると国共内戦の激化や朝鮮戦争を誘発することとなった。

 我が国にも冷戦の影響があり、中華民国や英国の説得もあり、最終的には連合国に所属した。

 その後連合国側は我が国の主権を回復し、ソ連も同様の処置をすべしと迫ったが、

 ソ連はこれを拒否したため、我が国は不当占拠するソ連を排除するべく独立戦争を布告した。 

 当時は兵士不足であったため、志願兵を募った際に女性も参戦するという事態が発生した。

 非力な女性仕官が戦うために大量の戦車が導入され、日本の山岳地帯を走破し、

 多くの戦果を上げることとなった。

 またこのとき若年仕官による船舶運用が成功し、戦況に貢献した。

 北海道や東北内部の武装蜂起も起こり、ソ連は樺太まで撤退し、日本は列強からの支配から脱却する。

 また同時多発的に起こっていた朝鮮戦争では連合国側は大敗し、朝鮮の臨時政府が中華民国内に設置された。

 日本の独立戦争中、物資が少なくなり押されていた中華民国も共産党を押し返し、

 両国が講和にたどり着いた。

 中国北部を中国共産党が、中国中部から以南を中華民国が、長らく支配することとなる。

 主権を回復した我が国は昭和天皇陛下の名誉を回復したが、

 陛下の希望により、君主制ではなく民主制の国として生まれ変わることとなる。

 朝鮮戦争は、日本と中国での戦線が終結したため、西側と東側の代理戦争となり、

 日本は掃海を担当し、中華民国は義勇兵として朝鮮戦争に介入し、

 戦線を38度線まで引き上げ、戦争は休戦となる。

 ’

 

『なんか大分歴史変わってるな』

 

その後も戦後の歴史を読んでいると日本地図に違和感を感じる。

年が経つにつれ地図に描かれた日本の形が歪になっているのだ。

そしてその答えも歴史の中に納まっていた。

 

『地球温暖化による海面上昇ね』

 

海面の上昇は大戦以前からも指摘されていたが、

東西の軍拡競争や二つの中国による工業化競争により、

急激に温暖化が進み、各国の海岸線の形が変貌している。

 

既に南極の凍土のほとんどが溶けてしまっており、

現在では海面が50mほど上昇しているらしい。

 

そのため冷戦期の各国は海上に領土を獲得すべく、

競ってメガフロート計画や超大型空母の開発に勤しんだ結果、

この学園艦の誕生と相成ったらしい。

 

先ほど見た大洗は学園艦が寄港できるように海中の土砂を掘り返して、

水深300メートルもある埠頭が整備されているそうだ。

掘り返された大量の土砂は、平地に盛られ海面上昇に対しての

平地の海抜を引き上げるという強引な政策をとっているらしい。

 

アホみたいな海中での採掘技術の上昇により、

海底資源の入手に成功し、日本は資源国家になってかなり裕福らしい。

 

海底鉱床やメタンハイドレードといった資源は学園艦の製作や運用に欠かせない要になっているようだ。

 

しかし全部の港や都市を守れるはずも無く、

地図の中には水没した地域も多くある関東や関西は頑張っているが、

北海道は石狩平野が完全に水没し、東西に完全に分かれている。

 

また海面の上昇により戦争の主流が空母打撃群となり、

主流から外れてしまった戦車は兵器としての側面が失われていき、

戦車道の競技用の車両として存続していくこととなったらしい。

 

『戦車道ってなんだよ』

 

俺は近代の猛烈な展開に疲れてしまい、

ぐったりと横になるとそのまま寝入ることにする。

 

とりあえず俺の知る日本ではないことは理解した。



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友達が来ました

俺が日本史やら世界史やら地理やらを確認していると、

玄関口からガチャガチャと鍵を開ける音がしてきた。

 

どうやら麻子が帰ってきたようだ。

 

読んでいた本をそのままに、トテトテと居間を出て玄関に向かう。

丁度麻子が引き戸を開けて入ってきたので、出迎えてやった。

 

『おかえり』

 

「・・・ただいま」

 

一瞬の沈黙の後、そう応えた麻子はパンパンに詰め込まれたビニール袋を玄関に置くと、

振り向いて後ろにいた人に話しかけた。

 

「沙織、これが私の新しい目覚ましのモコだ」

 

「へっ?この猫ちゃんが目覚ましなのー?」

 

背中まである明るい茶色のロングヘアーの女の子は、

私を少し見た後直ぐに麻子に向き直ると困惑した表情をしていた。

 

一体この少女は誰なのだろうか?かなり親しげにしているから友達ではあるだろうが・・・。

 

 

『麻子、この子が誰か紹介してくれないか?』

 

「これは私の幼馴染の武部沙織だ。私が新しい目覚ましを手に入れたといったら、何故かうちまで来た変な奴だ。」

 

「だって目覚まし時計が変わっただけで起きられるなんて不思議だったんだもん!って誰と話しているの?」

 

ころころと表情が変わり、感情豊かで愛嬌のあるこの子は麻子の幼馴染の沙織というらしい。

麻子とは対照的な子だな。

 

「モコ、いいものを買ってきたぞ」

 

『ほう、いいものとはなんだい?』

 

「首輪だ。こっちにこい。」

 

 

麻子が袋から取り出したのは鈴のついた赤い首輪だった。

ふむ、麻子も分かっているな猫といったら赤い首輪だろう。

 

麻子が私に首輪をつけてくれたので、もう少し緩めに調整して貰ってから、その辺を歩いてみる。

私が歩くたびにリンリンと小気味いい音がするが・・・。

 

「似合ってるぞ、モコ」

 

『麻子、鈴が煩いので取ってくれ』

 

「えー・・・分かった」

 

渋々といった感じで首輪から鈴を取り払った麻子は鈴をポケットにしまうと、

後ろで目を見開いている沙織に声を掛けた。

 

「どうした沙織」

 

「麻子が猫と喋ってる・・・頭大丈夫?」

 

『ああやっぱり麻子がおかしいのだな』

 

「二人とも失礼だぞ」

 

 

フンと鼻を鳴らして玄関から去っていった麻子に追従して居間に戻ると、

開いていた本を閉じて四苦八苦しながら本棚に戻す。

 

麻子が袋から猫砂や爪とぎ、猫の餌や猫についての本を出しているのを見て、

ペットショップに行っていたのだなと思っていると、

沙織が復活したのか麻子に食って掛かる。

 

なんで猫の言葉が分かるのかだの、猫と話せるのがずるいだのと、

問い詰められた麻子は辟易したのか、こっちに救いを求める。

 

さてどうしたものかと思い少し考えると、一つ閃いた。

 

 

『麻子、五十音順の書かれた紙を用意してくれ。それで筆談しよう。』

 

「おお、分かった用意する。沙織ちょっと離せ。」

 

 

麻子がA3くらいの紙に五十音順をひらがなで記すと、私は更にそれにはい、いいえ、わからないを付け足すように指示し、

成り行きを見守っていた沙織とこの紙を使って会話を試みる。

 

【わたしはもこ】

 

「わわっ!この子言葉が分かるの!?」

 

【はい】

 

「へ~、可愛くて賢いなんてすごい子!」

 

【さおりもかわいい】

 

「へへへ、もうやだーナンパー?」

 

 

ちょろい

 

猫から褒められて照れている沙織はソレをごまかすように、俺を撫で回してくる。

ちらりと麻子のほうを見ると沙織を呆れたように見ていた。

 

そしてそのまま俺たちを放置して、風呂場に向かっていった。

 

沙織はそんな麻子に気づかないまま俺に色々話しかけてくる。

途中から俺は沙織の膝の上に抱き上げられてしまい、

紙を使っての筆談ではなくなってしまったが、

まあ彼女は幸せそうだった。

 

 

「まだやってるのか」

 

『麻子、助けろ』

 

麻子が風呂から上がってきての第一声がこれだ。

つまり30分以上も沙織はこの調子で可愛がってきたわけだ。

今度は俺が麻子に助けを求める。

 

「沙織、モコが離してほしいって言ってるぞ」

 

「あっ、ごめんねモコちゃん」

 

【だいじょうぶ】

 

沙織の謝罪を受け入れにゃんと鳴いて、彼女に擦り寄り今後は過度に抱きしめないことを

約束して貰うと俺はほっと息をはいて安心した。

 

猫に謝ってくれた沙織は良く出来た人間だと思うが、

流石にああも引っ付いてこられると疲れてしまうので勘弁願いたい。

 

二人は立ち上がると台所に向かい夕食の支度を始めた。

 

二人は中々の手際で和食中心の献立を作り、

俺にも焼き魚とカリカリを出してくれた。

 

 

『二人は料理が上手だな』

 

「まあ一人暮らしだからな」

 

「ありがとー口にあった?」

 

『美味しいぞ、将来の旦那さんが羨ましいな』

 

「もうやだー!何もでないよ!」

 

 

食事中は紙を使えないので麻子に通訳して貰いながら会話をする。

沙織は褒めると直ぐにでっれでれになるのが面白い。

 

 

「今日はソド子の驚いた顔が見れて良かった」

 

「皆も驚いてたよ。教室に入ったら麻子がいるんだもん!」

 

『あまり人に迷惑かけないようにな』

 

 

食事中の話は麻子の遅刻の話が多く、

彼女が中々の問題だというのが発覚したが、

賑やかな食卓であった。

 

「じゃあまた明日ねー!モコちゃんもバイバイ!」

 

「おー」

 

『気をつけてな』

 

食事が終わると沙織は簡単に片付けた後、帰っていった。

皿洗いの手際も良く、いい嫁さんになるだろうと思う。

 

麻子には勿体無い友達だなというと、麻子は言葉少なく肯定すると、

袋をまた漁って今度はブラシを取り出した。

 

「こっちに来い」

 

『なんだ毛づくろいしてくれるのか?』

 

「いいから」

 

麻子の誘導に従い、彼女の前に座る。

 

『麻子』

 

「・・・なんだ」

 

『ありがとう』

 

「・・・」

 

心地よい沈黙の中、麻子は黙って俺の毛にブラシを通す。

 

10分かそこらの時間だったが、中々いいものであった。

 

麻子は俺をブラッシングをしていると眠くなったのか、

早々に布団を敷き始めて寝る準備を整えると、

俺にお休みというと寝に入ってしまった。

 

俺も麻子の布団の上に乗り、眠りに付く。

この体になってからの利点の一つが良く寝られるという点だと思っている。

 

特に夢を見ず、目覚ましの音で起きると麻子の枕元に向かい起きてるか確認する。

 

 

『今日は仰向けなのだな』

 

 

よく寝ている麻子を尻目に窓へ向かうと、

ガラスに爪をつき立て、そのまま轢き下ろす。

 

甲高い不快な音に体を震わせながら、同じように苦しむ同居人を確認する。

麻子が起きたのに合わせて、音を鳴らすを止め、しかめっ面の彼女の元にいく。

 

『おはよう』

 

「・・・おはよう」

 

『今日もいい天気だ』

 

 

今日も学園艦での一日が始まる。




沙織殿の肉じゃが食べてえな


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おばあさんに会いに行きました

ここから時間がどんどん飛んで行きます。


林の中で蠢く影に狙いを定め・・・素早く近寄り一撃を加える。

黒くて平べったくテカテカした虫を退治した俺はその場を後にすると、

最近知り合った友人たちの下へ戻る。

 

 

友人たちは色とりどりの毛皮をくねらせて、俺を迎えてくれる。

三毛やキジトラ、茶トラ、サバトラ、黒猫、白猫と様々な見た目の猫たちがいる。

 

彼らは何処かの家の猫だったり、野良でも地域猫として左舷にある町に住み着いている猫たちだ。

俺の住む冷泉家も左舷にあるため、家から出るとばったり良く逢うやつらで、

最初は警戒されていたが、人間たちに餌付けされているせいか、

闘争心が少なく、多少トラブルはあったものの友好的な関係を気づいている。

 

 

「「「にゃーんにゃーにゃ」」」

「「「にゃんにゃにゃんにゃ」」」

 

『そう褒めるな褒めるな』

 

この学園艦にはいたるところに小さな広場があり、

子供や猫たちの想いの場となっている。

 

猫になってから分かったのだが、猫たちは好奇心旺盛でゴシップが好きなおばちゃんのような

性格をした個体が多く、人間たちを良く見ている。

 

どんな人間がどこでどのように暮らしているのか、

人間同士の関係や騒ぎなど、かなり情報をもっている。

 

俺が冷泉家に住み着いたことも直ぐに知れ渡っており、

また人間と話していることも聞かれていた。

 

広場毎に集まってくる猫は大体決まっているが、

複数の広場を渡り歩く猫が多くて、大体2~4箇所を順繰りと回って暇を潰しているようだ。

 

そうするとその地域毎にネットワークの輪が出来、その輪は徐々に広がりを見せ、

最終的には学園艦全体に猫のネットワークというものが構築されていることが分かった。

 

俺の情報も2週間ぐらいで艦内に知れ渡っており、

行く先々で声を掛けられ本当に人間の言葉が分かるのかとよく聞かれたものだ。

 

 

猫は人間の言葉の内、簡単な単語くらいは理解している。

それは自分の名前や、餌のこと、猫用品のことだ。

 

しかし大部分の言葉を理解していない。

 

そこで人間の言葉が分かる俺は重宝されることになり、

人間との友好関係の維持や、トラブルなどを相談されることがある。

 

どうやったら餌が貰えるのかや、家猫になるにはどうすればいいのか、

魚が食べたいなど様々だ。

 

とりあえず今は猫の印象向上のため、

害虫やネズミの退治に力を入れるように猫たちに伝え、

害虫駆除のやり方を実践して教えて回っている。

 

 

『そろそろ俺は戻るぞ』

 

「「「「「にゃいにゃーい」」」」」

 

日が傾き始め、そろそろ麻子が帰ってくる頃だと思った俺は、

猫たちに別れを告げて家に向かった。

 

 

《・・・レー大会の優勝者は五十鈴華さんでした。おめでとうございます。次は寄港地についてのニュースです。》

《学園艦はこのまま北上し、洋上施設にて補給を行った後、2週間後に大洗に付く予定となっております。》

《また乗降時間は午前5時から午後7時となっております。次は戦車道のニュースです。》

 

いつものように麻子を出迎え、カリカリと魚をほうばっている俺はラジオから流れるニュースを、

聞きながらハバネロカレーを間食した女性に慄いていると麻子が立ち上がった。

 

「大洗に寄港したらおばあに会いに行くぞ」

 

『おばあ?麻子の祖母か?』

 

「そう」

 

俺にそう告げると麻子は風呂場に向かっていった。

麻子のおばあさんか・・・やはりもの静かで和やかな人なんだろうな。

 

そう勝手に思っていた。

 

 

2週間後、ケージに詰め込まれて大洗に到着すると、

麻子は一直線に祖母の下へ向かった。

 

麻子が古びた一軒家の引き戸を開く。

 

「おばあ帰ったぞー・・・くたばったか・・・」

 

「なんだい!このクソガキが!まだ死にゃしないよ!」

 

「おー・・・まだ二三日は大丈夫そうだ」

 

「はんっ!今にも死にそうな声でなーにっ言ってんだい!」

 

 

目の前で繰り広げられた毒舌の応酬に呆気に取られてしまった。

麻子は靴を脱ぎながら小さくただいまというと、ずかずかと居間に入っていく。

 

おばあさんも小さくおかえりというと、台所に向かっていく。

戻ってきたおばあさんの手にはよく冷えた麦茶の入ったピッチャーとグラスが二つ。

 

卓袱台にそれらを置くとおばあさんはグラスにお茶を注いで、

一つを麻子の近くに置き、もう一つを勢い良くあおり飲み干した。

 

俺はケージの中で事態の推移を見守っている。

 

「通信簿だしな」

 

「・・・」

 

おばあさんの要求に応え、嫌そうに通信簿を渡す麻子。

 

おばあさんは通信簿をしっかりと嘗め回すように眺める。

途中で視線が止まると、麻子のほうをじっと見つめる。

 

「まあこれくらいはやって貰わないとね」

 

「ほっ」

 

「でもね。ここの通信欄に書いてある遅刻欠席が多いってのはなんだい?」

 

おばあさんの目が釣りあがっていくのが分かる。

麻子の眉はどんどん下がっていくもの分かる。

 

「えーっと」

 

「昔っから!アンタは!遅刻ばっかりして!直ぐに治さないと碌な大人になれないよ!」

 

そこから小一時間ほどおばあさんの説教が始まり、

麻子もちょくちょく口答えしていたが直ぐに言い負かされ沈黙した。

 

説教が終わる頃には麻子がぐったりとしており、

卓袱台に突っ伏してしまった。

 

「ところでその鞄はなんだい?」

 

「んー・・・おー忘れてた。モコー出てこーい」

 

麻子は今頃思い出したのか、俺の入っていたケージのロックを外した。

 

おずおずとケージから出ると件のおばあさんと目が合った。

 

「その猫どうしたんだい」

 

「こいつは私の飼い猫のモコ、学園艦で一緒に暮らしてる」

 

「アンタに生き物が飼えるのかい?」

 

おばあさんの懐疑的な視線に胸を張る麻子。

張っても出っ張らないのが悲しいな。

 

「モコは賢いから平気、モコお手」

 

『お、おう』

 

「ねっ猫又かい?」

 

言われるがままにお手をすると、おばあさんは目を丸くして驚いた。

・・・妖怪呼ばわりされてしまったな。

 

その後は麻子とおばあさんが学園艦や俺のことを話題にしながらも

時折口喧嘩していたがこれが彼女らの日常なのだろう。

 

つもる話は尚も続き、午後五時を知らせるチャイムがなるまで話は途切れなかった。

 

「おばあ・・・死んだら電話しろよ」

 

「死んだら電話できないだろ!ったく口の減らないクソガキだよ・・・」

 

「じゃあ行ってきます」

 

「ちゃんと勉強すんだよ・・・突っ立ってないでさっさ行きな」

 

 

最後の最後まで口喧嘩を止めない二人に辟易する。

 

やりとりに満足したのか、麻子は何時になく機嫌良さげに学園艦に向かうバスに乗り込んだ。

ケージから覗くと麻子が笑っているのが分かった。

 

『麻子のおばあさんは元気だな』

 

「うん元気」

 

そう答えた麻子は窓辺に頬杖を着くと寝入ってしまう。

 

既に日が傾き、学園艦が夕日に染まっている。

俺たちの乗るバスは学園艦に吸い込まれていった。




今更ですが今日最終章2話見てきました
爆音上映っていいものですね
内容的にはコアラの言ってること分かる人間がいて驚きました
なんか麻子以外にも猫の言葉が分かる奴がいてもいい気がしてきました
あと押田と安藤の嫌味合戦もいい感じでした


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干し芋を貰いました

《降りしきる雨の中、崖沿いの道をゆっくりと前進する黒森峰フラッグ車。解説の松木さんどう思われますか?》

《いやねえ、これはまずいですよ。完全にプラウダの術中ですね。》

《といいますと?》

《今車両数では黒森峰が優勢ですが、フラッグ車を追う前衛が前に出すぎてますね。》

《気が逸ってしまったのでしょう伏兵に気づかずに通り過ぎてしまいました。》

《見てくださいやり過ごした車両が《おおっ~と!黒森峰のフラッグ車を前を走る車両が落ちていく!》》

《ああこれは危険ですね。川は雨で増水してますからね至急回収しなければ・・・えぇ?》

《これは!フラッグ車から人が!川に飛び込みました!》

《・・・っ!》

《停止したフラッグ車をプラウダ見逃しません!黒森峰のフラッグ車戦闘不能です!・・・松木さん?》

《・・・飛び出した選手は無事のようですね。いやあ判断力と勇気のある子ですね。》

《でも無謀ですね。戦車の水密性は確保されているわけですから~~》

 

 

今日も麻子を見送った後、ぼんやりとラジオ聞いていた。

どうやら陸は大雨が降っているようだ。

 

『今日もいい天気だ』

 

ラジオを止めて台所の小さな窓を開き、転落防止用の柵をすり抜け家の外に出ると、

いつもの集会所に顔を出していく。

 

『こんにちわ』

「「「にゃ~~」」」

 

挨拶と細々とした情報交換を終えるとまた別の集会所に顔を出し、同じように挨拶と情報交換をする。

 

それを左舷⇒艦首⇒右舷と周り、学園の正門の大型引戸門扉をすり抜け校内へ入る。

メインストリートを堂々と通り、左側にある高等部普通科の校舎に入る。

 

廊下には月間のイベント日程や学食の日替わりメニュー、寄港予定などが張り出された掲示板があり、

意外に情報が転がっている。

 

特に新聞部が書いたであろう新聞は直近で起こったイベントを良くまとめていて見ごたえがある。

ふんふんと呼んでいるとチャイムが鳴り、生徒たちの騒がしい音が聞こえてきた。

 

その音を聞いて速やかに校舎を飛び出し、物陰に隠れて見つからないようにする。

前に見つかったときは休み時間が終わるまでこねくり回されて酷い目にあったからな。

 

このまま物陰沿いに進みながら学園の奥へ向かう、体育館からぞろぞろ出て行く生徒や被服科の校舎に戻る生徒、

チャイムが鳴ったのにテニスコートで打ち合い続ける生徒。

 

それらを尻目にグラウンド横にある駐車場に顔見知りの人間の姿があった。

赤いスポーツカーを洗車しているおじさんに近寄り挨拶する。

 

 

「おやモコくんじゃないか?お散歩かい。」

 

『ちょっと部活棟までな』

 

「足元に気をつけるんだよ」

 

 

このおじさん、猫を飼っているせいか若干言葉が通じるので重宝している。

まあ麻子ほどではないがな。

 

昼休みになると大体車を洗車しているので、すっかり顔なじみになってしまった。

しっかしいい車に乗っているな、羨ましい。

 

 

おじさんポイントを通過し、さらにグラウンドを通過しようとすると、グラウンドに置かれた大きな倉庫の側面の扉が開いていた。近くには自転車が置かれている。籠の中には食べ物の袋が入っているようだ。

しかし2ヶ月ほど倉庫の傍を通っていたが、扉が開いているのは初めて見る。

 

開いた扉から中を覗くと中には背の低い女の子が立っていた。

赤毛のツインテールを靡かせた少女は壊れた何かをしげしげと眺めている。

 

 

「次のイベント何しよっかな~?これ使いたいな~でも予算がな~」

 

『ここで何してるんだ?』

 

「ん~迷い猫か~ガラス落ちてるから危ないぞっと・・・おっフカフカだね。」

 

少女に持ち上げられて、彼女が見ていたものが何か分かる。

これは戦車か?なんともボロボロだ。

 

「猫さんは次のイベント何がいい?」

 

『ちゅ~る食べ放題がいいぞ』

 

「そっか~じゃあバスーカで水ぶっかけ祭にしようか~夏だしね~」

 

彼女に抱えられて倉庫から連れ出され、外に下ろされた。

彼女は倉庫の鍵を締めると、籠の中にあった袋をあさると干し芋を一枚取り出した。

 

「はい干し芋あげる」

 

『はて猫は干し芋食べても大丈夫なのだろうか・・・うまい!』

 

「おお!いい食べっぷりだね!・・・モコちゃんっていうのか。よろしくねぇ。」

 

 

やたら美味い干し芋を食べていると首輪についていた名前のタグを確認された。

名前のタグにはモコという名前と麻子の名前と電話番号が書かれている。

 

しかしバズーカは戦車の砲塔から思いついたのだろうか?

 

 

「じゃあバイバーイ」

 

『また芋くれよー』

 

颯爽と自転車にまたがって去っていた彼女はグラウンドを横断して校舎に向かっていった。

彼女を見送ると干し芋で膨れた腹を揺らしながら、倉庫の裏手にある山林地区に入っていく。

 

山林地区の傍には古びた部室棟があり、使われていない部室に猫が住み着いている。

また部室棟の猫は学園内に詳しい固体が多く、中々に興味深い話が聞ける。

 

にゃーにゃーと話を聞いていると、どうやらマスクド・カイチョーがジャガー河嶋を激闘の末、

スリーカウントで倒したらしい・・・何の話だ?

 

この後も山林や船尾の集会所を巡り、話を聞いていたがそれは割愛する。

さて日も暮れてきたし家に帰らねば、麻子の機嫌が悪くなる。

 




お久しぶりです。

会長の顔見せ回です。あと問題の62回決勝戦の一幕です。

ガルパンの資料集を漁って見ましたが
大洗学園艦の詳細な地図を見つけられなかったので
アニメの背景から適当に想像してます。

あとTV版5~8話を劇場で見ましたがSEがはっきり聞こえるので
かなり違う印象を受けました。
17ポンド砲すげえってなりました。



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病院船に行きました

学園艦の朝は早い。

 

洋上を巡航しているため太陽を遮るものが少なく、スッと日が入り学園艦を照らす。

艦上で高いものといえば150M以上ある艦橋に、100Mをやや超える山だけで、

他はそれほど高くないので学園艦のどこにいても日光を浴びることができるのは猫的にポイントが高い。

 

西へ行ったり東へ行ったりうろうろしている学園艦は、当然日の向きがよく変わる。

そのため南向きの窓が大きくとかそういうのはなく、民家の採光用の全方位に満遍なく窓は多い、商業施設などは天窓が設置されている。

 

そんな窓のカーテンの隙間から日の光が射し込み、部屋の中を僅かに照らす。

その光に反応して俺の意識が覚醒する。

 

 

『朝か・・・。』

 

 

大きく欠伸をしながら、前足を前に突き出し上半身だけを下げて体を伸ばす。

猫が良くやっているあのポーズを自然と行いつつ、横でぐっすりと眠っている麻子を見る。

 

今日は仰向けか。

 

規則正しく上下する布団の上に乗り、熟睡する麻子の顔を前足で叩く。

ぺちぺちと頬を叩くとだんだんと麻子の顔が緩み、僅かに目蓋が開いた。

 

おっ、今日は直ぐ起きるか?

 

『おはよう』

 

「んあ」

 

 

目を合わせてから、一呼吸間をおいて目蓋が閉じた。

 

この娘性懲りもなく寝ようというのか。

そんなことは俺が許さん。

 

ここで今日のおはよう作戦は第二段階に入る。

顔を叩くのではなく、顔の上に乗る。

 

フハハ苦しかろう。

 

『起きろ』

 

「フガフガフガ!」

 

ずっしりと身の詰まった肉体で顔を覆うことで、息が苦しくなって目が覚めるという寸法よ。

 

なおこのおはよう作戦は第三段階まであり、最終的には窓を使った音響攻撃を行う。

音響攻撃は諸刃の剣ゆえあまり使いたくない。

 

それに近頃の麻子は朝起きるのに慣れてきたのか第二段階で起きてくれることが多くなった。

 

なお第一段階で起きてくれたことは無いのだがっと、今日は第二段階で起きたようだ。

 

麻子に脇腹を鷲づかみにされ、顔から退かされ、ぺいっと放り投げられる。

軽々と着地した俺は四足歩行の生物特有のお座りをして麻子を見る。

 

そんな俺を非難がましい目で麻子が見てくるがスルー。

 

「はぁはぁ」

 

『おはよう』

 

「・・・おはよう」

 

 

ノロノロと起きはじめた麻子を身ながら今日はどうしたものかと考える。

現在、学園艦の艦首や右舷左舷、船尾といった飛行甲板全ての猫と顔を合わせたが、

学園艦内部にはまだ一回も足を踏み入れたことがない。

 

一度入ってみようかと思ったんだが、艦内の地図を見て諦めた。

飛行甲板と同じような面積が何十層と重なったそれはまさしくダンジョンであり、

舐めて掛かるとたちまち遭難してしまうだろう。

 

というか毎年遭難する生徒が多発しているらしく、

4月や5月など新入生が入ってくる時期は毎日のように艦内放送で迷子の捜索情報が流れている。

いやはや恐ろしいものだ。

 

それに猫だと艦内のドアが開けられないのがネックだ。

猫用のドアを作ってくれたらいいのにな。

 

麻子から朝食のカリカリを食べていると麻子が妄言を吐いてくる。

 

「もう夏休み入ったから起こさなくていいのに・・・。」

 

『昼夜逆転した生活を送ると休み明けが辛いぞ』

 

「それはそうだけど・・・、あっそうだった。」

 

 

ぶーたれる麻子を正論で殴っていると、彼女は壁に貼られたカレンダーを見て何かに気づく。

カレンダーには病院と掛かれているが、病院に行く用事でもあるのだろうか?

 

しかし今日は大洗に寄港する日でもないから病院には行けない筈だ。

 

もしかしてばばあが入院したのか?それで学園の連絡線を借りて大洗に行こうとでも言うのだろうか?

 

 

「モコ、病院に行くぞ。」

 

『なんだ麻子病気なのか?それにどうやって病院に行くんだ?』

 

「病院でお前の予防接種をしてもらう。今海上補給地に病院船が泊まっているからそこに行くぞ。」

 

ばばあではなく、俺の予防接種らしい。しかし病院船とはなんだろうか?

前の日本にはなかった船だな。

 

『病院船?』

 

「知らないのか?じゃあ説明してやる。」

 

病院船というのは、文字通り病院機能を装備した船舶のことで、災害時に海上からの大規模な医療支援を目的とした船である。

被災地に留まり継続的な診療と生活支援を行うことができ、海に囲まれた島国日本で非常に有用な船舶といえる。

 

病院船は洋上医科大学や洋上看護学校の医療練習船に所属しており、

平時には離島や海上補給地、学園艦を巡航して医療を行っている。

 

学園艦の船舶科医療係の生徒の大部分の卒業後の進路は大体病院船だといって過言ではないくらい重要なものらしい。

 

と熱心に麻子が説明してくれた。

 

 

「ちなみに今海上補給地に泊まっているのは四国の動物病院船だ。」

 

『動物用の病院船もあるのだな』

 

「当たり前だ。学園艦では動物を飼っている家庭も多いし、家畜を飼っている学校も多いからな。」

 

当然といった顔をした麻子に首根っこ掴まれて、猫用のキャリーに詰め込まれた。

ドナドナを歌いながら麻子に運ばれること小一時間、

学園艦から海上補給地、海上補給地から病院船に乗り移る。

 

まあ別に麻子が歩いて持って行ったのではなく、病院船まで専用のバスが出ていたんだがな。

 

 

純白の船体に大きく赤十字が描かれており、ああ病院っぽいなと直ぐに理解できた。

バスで甲板に乗り入れて、甲板上のヘリポートがバスの停留所らしくそこで降りる。

 

人の波の乗って艦内で予防接種の受付を済ませる。

犬や馬、亀や猫といった他のペットを眺めていると直ぐに自分の順番になり、大人しく注射を受ける。

 

傷だらけの医者に大人しい子だとべた褒めされ、麻子が誇らしげにするということもあったが、まああまり気にすることはない。

例えその後に入ってきた動物たちが大人しく首筋に注射を打たれても自分は関係ないのだ。

麻子がトイレに行っている間に見知らぬ七三のおじさんの人生相談に乗ったのも些細なことなのだ。

 

 

「聞いてくれよ猫君。また上司の尻拭いをしないといけないんだよ・・・。」

 

『俺はモコだ。』

 

ペットの砂ネズミをケースに入れたおじさんが話しかけてくる。

砂ネズミに話しかけろよ。

 

「猫君はいいなぁ。自由で気ままで、仕事も無くてのんべんだらり・・・。」

 

『毎日麻子の目覚ましと学園艦のパトロールしてるぞ。』

 

こう見えて忙しい俺になんて失礼なことを言ってくるおじさんだ。

こんな失礼なやつはおっさんで十分だ。

 

 

「はあ・・・もう学園艦1隻分の予算を仕分けされたんだって・・・また何処か廃艦にしないと・・・。」

 

『そうかおっさんも大変だな』

 

こんなところでそんなこと言っていいのか?

まあなんか白髪まみれでクマが出来ているし、かなりお疲れのようだ。

 

「ああどっかに後腐れなく廃艦できそうなのないかなー」

 

「763番の辻さーん!」

 

「あっ僕の番だから行かないと、じゃあね猫君!」

 

『じゃあな、おっさん』

 

おっさんはフラフラとした足取りで病室に入っていった。

砂ネズミより自分が病院行ったほうがいいじゃないか?

 

お、麻子がダッシュで戻ってきた。

 

聞いてくれよ麻子、さっきくたびれたおっさんがさー。

 

俺の声を無視してキャリーを掴んだ麻子は今まさに発車しようとしているバスを追いかけ、

何とか乗車に成功する。

 

大きく息を荒げた麻子は椅子にどっかりと座り、膝の上に俺のキャリーを乗せる。

 

 

「はあーはあーおっさんが何だって?」

 

『なんでもねえわ、休んどけ。』

 

 

そうかと言って即座に寝入る麻子に、次来るのが30分後だからといって走らなくてもいいじゃないかと思わなくも無かった。

 

そんな夏休みのある日だった。




船で調べていたら病院船なるものを知り、だしたいと思ったのがこの話。
日本の土地柄上ベストマッチする上にガルパン世界での親和性がヤバイ。
むしろなんで無いんだろうと思ってしまう。
そして次は誰を出そうか三週間くらい悩んで出てきたのが辻です。
最初は他の学園艦の子をだそうかと思ったけど、
近場の学園艦は千葉のチハタンで、チハタンってお嬢様学校だっけ?
お嬢様学校だと艦内に病院ありそうだと思ったので辻です。


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夏がおわりました

夏休みのある日。

 

いつものように麻子を叩き起こした俺は、これまたいつものように学園艦を巡回しパトロールしていた。

4ヶ月欠かさず巡回していると学園艦にいる猫全てと顔見知りになり、

以前にもまして様々な相談事を受けるようになる。

 

そうすると巡回するにも時間が掛かってしまい、

一日で回りきれないようになってしまった。

 

これではまずいと猫たちも思ったのか其の地区ごとの顔役というものが出来て、

相談事やトラブルを代わってくれるようになり、巡回ルートも顔役のいる公園を

中心としたものになってかなり効率的に回れるようになった。

 

 

朝に出発して夕方に帰宅していた生活が、日が照っている時間に帰宅する生活になり、

俺は完全に暇を持て余していた。

 

そこで暇人となった俺は新たに勢力圏を広げることにした。

 

今までは学園艦の最上部に位置し一般の人々が暮らしている飛行甲板を中心に活動していたが、

一つ下の階層・・・最上甲板に足を運ぶ。

 

学園艦の外縁にある階段から降りることの出来る丸い公園には、

休みを思い思いに過ごす生徒たちの憩いの場になっており、そこから海を一望できる。

 

だが今日はそちらには用はない。

 

今日は階段の裏、飛行甲板の陰になっている最上甲板外縁通路を回ってみようと思う。

 

外縁通路には艦内に入れる扉が無数に配置されており、扉をくぐると艦内につづく通路があり、

船舶科の生徒たちが休憩するためのスペース、ごみ処理施設、下水処理施設、研究設備、

やたら多い倉庫や駐車場が無数に存在する迷宮になっている。

 

そのため毎年迷子になる生徒がいるそうだ。

 

基本的に一般の人々や船舶科以外の生徒の生活は飛行甲板上で完結しており、

最上甲板やその下の施設へは足を踏み入れることはほぼない。

 

というのは本当だったようで通路を歩いても時折船舶科の生徒を見かけるだけで人影はまばらである。

 

人が何人も並んで歩けるほど広い通路も猫一匹しか歩いてないと寒々しいものである。

 

 

慣れない場所を警戒しながら慎重に歩いていたが、次第にその歩調は早まり走り始めていた。

上のように人や車がおらず、山のように起伏が激しくないこの通路は実に走りやすく快適である。

 

途中すれ違った生徒が触りたがっていたが許して欲しい。

そういう気分ではないのだ。

 

そのまま3キロほど走り抜けると終わり・・・艦尾が見えてきた。

 

飛行甲板艦尾の真下にはかなり広い空間が確保されており、

大きな艦載艇や艦載機、救命筏、船や飛行機を取り入れるクレーン、見張り所、信号燈、

飛行甲板への昇降機と非常階段、船外に出るための舷梯などが見える。

 

ただどれも手入れはされているが老朽化しているのが分かる。

かなり昔からあるもののようだ。

 

 

もの珍しく歩いていると、隅に人間の少女が二人と数匹の猫がいた。

 

一人は座って猫たちを可愛がっているが、もう一人はどうやら釣りをしているようだ。

俺が近づいていくと猫たちがにゃーとあいさつしたので、こちらも挨拶を返す。

 

『どうもどうもモコさんじゃないですか』

『おっす何をしているんだ?』

『へっへっへ、釣りをしている人間がいたんで釣果を頂けないかと待っていたんですが・・・』

『まったくウンともスンとも魚が寄って来てないの』

『へっへっへ、アッシたちはもう引き上げますんで、モコさんも長居しても無駄でさ』

『じゃあねモコさん。じゃあね人間さん。』

 

そういって猫たちは構っていた少女に別れを告げて去っていった。

それを見て名残惜しげにしていた少女は釣りをしている人間に声を掛ける。

 

「あーあ猫行っちゃった。・・・ねえムラカミ猫行っちゃったねえ?」

「・・・。」

「ああでも新しい猫が来たから期待に答えないとね。ねえムラカミ?」

「・・・・・・。」

 

座っている人間は底意地悪そうに笑っている。

釣りをしている人間はむっつりと顔をしかめている。

 

「よーしこっちおいでー。猫ちゃんもムラカミが大物釣るの楽しみだもんなー?」

「・・・。」

「最新の釣り糸はどんな大物でも千切れない!って言ってブフッ!ったから釣れブッフー!」

「・・・・・・。」

「ブッハッハッハッハ!あんなに自信満々だったのにー!」

 

なにかつぼに入ったのか爆笑する少女は長い銀髪を乱しながら床に倒れこむ、

それに対して釣りをしている少女ムラカミは黒い髪を掻き揚げため息を吐いた後、床に転がる少女に軽く蹴りを入れる。

 

「汚れるぞフリント。」

「フッヒッヒヒフー・・・まあアンタが釣れないのは今に始まったことじゃないけどね♪」

「はあ文句垂れるならどっか行ってろよ」

 

銀髪の少女フリントは倒れた際に落ちた水兵帽を被りなおし、再度床に座りなおした。

そして黙って事態の推移を窺っていた俺を膝の上に抱えて顎を撫でてくる。

思わずごろごろと喉を鳴らしてしまうが、猫の生理的反応だから気持ちいいとかではない。

断じて違うと言っておこう。

 

「んーほっといたら授業さぼる奴がいるからなー、猫ちゃんはどうしたら言いと思う?」

『猫に聞くな』

「ほら猫ちゃんも心配だって言ってるよ」

「ほんとかよ」

「ほんとほんと」

 

フリントがどこからか取り出した金のマイクで俺に問いかけてくるも、

猫語が理解できないので的外れなことを言っている。

 

しかしムラカミは少しだけ笑っていた。

何が面白かったのだろうか?

 

「・・・」

「・・・」

『・・・』

 

しばしの沈黙の中フリントにされるがままに撫でられていると、

ふと隣に立つムラカミの釣竿に気になる点を見つけた。

 

彼女の持っている大きな釣竿に使われている釣り糸があまり見たことのないもののように見える。

はてどんな素材の釣り糸なのだろうか、PEには見えないが・・・。

 

「あれー猫ちゃん釣り糸が気になるの?」

「猫の癖にお目が高いな、これは特殊カーボンの釣り糸でめちゃくちゃいい奴だ」

『特殊カーボン?』

 

ムラカミは釣竿を片手に持ってからしゃがみこんで近くにあった鞄から新品の釣り糸を取り出す。

それは釣竿に使われているのと同じもののようで表面には《スーパーカーボンスパイダーワイヤー》なる

安直な名前が書かれていた。

・・・値段の書かれてるシールには数万と書かれているが釣り糸ってこんなに高いのだろうか?

 

 

「特殊カーボンってあれだろ?学園艦の色々なところに使われてる奴。」

「カーボンナノチューブと人工蜘蛛の糸を合わせたヤバイ繊維の奴だ。」

「あーあと今造られてる軌道エレベータにも使われるんだっけ」

 

・・・久々に衝撃的な話を聞いてしまった。

特殊カーボンが既に存在していて、更に軌道エレベータが造られてるんだって?

つくづくこの世界の技術水準の高さには驚かされる。

 

「うわなんだいこの釣り糸こんな値段するのかい!」

「いいもんは高いんだよ」

「宝の持ち腐れじゃない?」

「ふん!バーにカラオケセット置いてるアホに言われたくねえな」

「はあぁー?」

「やんのかコラ?」

『あっ引いてる』

 

互いにメンチをきりあっていたが、竿が引いていることに気づくと直ぐに止めた。

やたら攻撃的な笑みを浮かべたムラカミは両手で竿を引っつかむと獲物とのファイトを始める。

 

「来たか!」

「逃がすんじゃないよ!ムラカミ!」

「任しとけ!」

 

獲物の猛攻を凌ぎ巻き上げるムラカミと罵声のような激励の声を上げるフリント。

死ねとかやっちまえとかは女の子の言うことではないと思う。

 

重心を下げて体を前後に揺らして巻き上げるムラカミは一端の釣り人に見える。

対してフリントはテレビで野球をみてるおっさんのようだ。

 

数十分もすると獲物が根負けしたのかムラカミが糸を巻き上げて釣り上げたようだ。

 

釣り上げられた魚はびったんびったんと生きがいいのか床の上で暴れ周り、

ムラカミが苦戦しながら活け締めを行う。

 

「ひゅー結構でっかいね。この鰹1メートルくらいあるんじゃない?」

「えーと72cmだな。」

「へぇーやるじゃないか!」

『でかいな』

 

鰹から流れる血をホースから水を流して洗い流しているフリント。

クーラーボックスを見て何か考えているムラカミ。

 

彼女たちを尻目に、フンフンと遥かに大きい鰹の匂いを嗅いでいると、

ムラカミが鰹の尻尾を切り落とした。

 

鰹の本体がクーラーボックスに入れるために邪魔な部分を切り取ったようだ。

あまった尻尾を俺の前に置いて頭を撫でてくる。

 

「やるよ。」

「結構身が残ってるじゃないか、太っ腹だねえ。」

「釣れたのは多分こいつのお陰だよ。だから腹を触るな!」

『偶然だと思うが?』

 

「たくっ、じゃあな招き猫」

「招き猫にしてはいかついけどね。バイバイ猫ちゃん」

「まあな」

『失礼な娘っ子どもだ』

 

大きな釣果を得て上機嫌な二人は俺に別れを告げて帰ろうとする。

彼女たちに答えるように片足を上げてやると、彼女たちは嬉しそうに笑って去っていった。

 

残された身のついた大きな尻尾を齧りながら夕暮れの空を眺める。

どうやら夏も終わりが近づいてきたようだ。




特殊カーボンの話をちょっと入れたくて出来た回
戦車道の無い環境で特殊カーボンってどう利用されているんだろう?
と考えた結果釣り糸に使えそうだと考え、
釣りといえばサメさんチームだと思い至り、
なんとなくキャラ的に薄い且つジーパン&スカジャンの似合いそうなムラカミを抜擢。
フリントはなんか生えてきた。
ムラカミとの悪友感が表現できてたらいいな。
場所が艦尾なのは釣りがし易そうだなという甘い考え、
そして空母の艦尾を想像するのにめっちゃ時間が掛かってしまった。
次は秋か冬の話です。


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ターニングポイントを見つけました。

2話以来の世界観説明回です。
興味の無い方は飛ばしてください。


10月も終わりに近づき、窓から見える学園の裏山がすっかり紅葉しており、

その秋真っ只中といった景観を楽しむことができる。

 

今日の学園艦は大洗港に停泊しており、生徒会が毎度の如くイベントを開催しているようで、

非常に騒がしい日だ。

 

特に学園の近くは仮装した人間たちで埋め尽くされていて、

あまりの魑魅魍魎さに気後れした俺は日課のパトロールをサボって本を読むことにした。

 

仮装のあまりのクオリティに腰が引けているわけではない。

読書の秋ということにしておいてくれ。

 

 

そういうわけで日課をサボって読書をしていたのだが、パトロールを来なかった俺を心配したのか、

猫たちが見舞いにワラワラとやってきて家の庭先が猫で埋め尽くされてしまった。

 

家の庭先は集会所じゃないというのにだ。

 

集まった猫どもはにゃーにゃーにゃーにゃーと鳴き声を上げ、

口々に病気になったのかだの、

普段から休んだほうがいいだの、

頭の病気が治ったんだじゃないかと

言いたい放題言いやがる。

 

猫を追い返した後、冬毛になりつつある体毛が落ちないように気をつけつつ、

麻子の日本史の教科書を読んでいると気になる記述を見つけた。

 

 

’1877年4月9日アメリカの財務省より売却の打診を受け、これを承認し480億円でアラスカを購入した’

 

 

なんと日本がアラスカを購入したと小さく書かれていたのだ。

この一文は一切強調されておらず、むしろ他よりも小さく目立たないように書かれていた。

 

気になった俺は他の書籍を確認すると次のようなことが書かれていた。

 

 

’1899年に金鉱が発見されて以降、アメリカによる日本への圧力が強まり太平洋戦争の遠因となった’

’1901年にアメリカ及びイギリスの工作員による独立運動扇動が行われアラスカ各地で独立の機運が盛り上がる’

’1903年にロシアの南下政策に対し米英の支援を受けるべくアラスカの独立を認める’

 

 

他にもいろいろ書かれているがあまり日本に絡んでこないので割愛するが、

なんとなくあまり触れたくない事柄なのだろうというのが分かる。

一応アラスカも太平洋戦争で対日参戦しているが基本的には前線にはでないで後方支援を担当したという記述があったり、

大戦後の中国で起こった第二次国共内戦、朝鮮半島で起こった朝鮮戦争、日本で起こった日本独立戦争の後に

アラスカ内戦が発生し、革命政府軍を倒したアラスカ政府がアラスカ国を建国したと書かれている。

 

 

まあ革命軍が東側諸国の支援を受けていたことや内戦があっさり終結したこと、

朝鮮半島がいまロシア領になっていることやから米露でなにかしらの密約があったんだろうとは思う。

しかし朝鮮半島とアラスカでは資源の釣り合いが取れておらず、米露の関係は現在もかなり悪いようだ。

 

 

それにしても前の日本の状況を知る俺からするとアラスカを一時的に所有していただけでこんなにも違うものかと唸ってしまう。

 

ロシアが朝鮮半島を獲ったため西側の緩衝地帯は日本と中民になって米英からの優遇が絶えることなく、

アラスカ国のインフラを整えるために時間と資金を費やしたために、

後から併合した朝鮮のインフラの敷設がうまくいかず、

ロシア領になった後もあまり発展しなかったりと影響は様々だ。

 

 

ちなみにアラスカ国とは交流が盛んで毎年戦車道の試合会場の一つとして使われているそうだ。

ビザなし渡航もできるらしく、夏の大会で雪上の会場は100%アラスカだそうだ。

 

戦車道で思い出したがロシアと日本はそこまで中は悪くない。

何せ青森にロシア風の学園艦があるくらいだ。

たしかプラウダ高校だったかな?今年の戦車道の優勝高だ。

 

この前テレビでプラウダの隊長の子を見たがかなり幼い見た目の少女だった。

その子は流暢に日本語を話していたがグレーの髪に青い目といかにも外国人的な見た目で、

おそらくはスラブ系の血が入っていると思うが、これが中々威勢のいい子だった。

 

自分が勝って当然!あんなのが無くても勝ってた!と言っていたのを覚えている。

 

 

まあでも無数ある学園艦でもビッグ4の一つのプラウダ高校を

まとめるにはあのくらいの胆力が必要なんだろう。

 

ビッグ4の学園艦となれば戦車道の受講者が非常に多く、

それをまとめるとなると強いリーダーシップがあるはずだ。

 

きっとあの肩車もその表れなのだろうな。

 

 

ビッグ4といえば黒森峰とサンダースの二校がある九州と近くの四国は

地理的要因とその二校のネームバリューのせいで

二校以外から戦車道の科目が無くなったという逸話も残っている。

 

地理的要因というのは対馬海峡周辺の海底が浅いために、学園艦の航行ができず、

日本海側と太平洋側の学園艦で、交流が断絶されており、

良くも悪くも日本海側に九州勢の影響が少ないということだ。

 

 

そんな雑学的なことを麻子の本から得ているとすっかり日が暮れ、

そろそろ麻子の帰宅時間になっていた。

 

読んでいた本をしまい、たまには出迎えてやろうと玄関に赴くと、丁度麻子が帰ってきたようで

外から話し声が聞こえる。

 

話しているのは沙織と・・・もう一人声が聞こえるが誰だろうか?

 

戸をあけて入ってくるのは麻子と沙織と・・・。

 

 

「モコこんなところで寝てると風邪引くぞ」

 

「まあ、この子がモコちゃんなんですね。」

 

「・・・モコ気絶してない?」

 

 

顔が腐り落ちて目が零れ落ち、首筋に大きな噛み傷、皮膚が青黒く変色し、

血だらけの制服を着たゾンビだった。

 



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