織斑一夏の恋物語 (夜光華)
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1話

思い付いたので書いてみました。


「はあ………」

 

放課後の帰り道、俺は1人で帰っている。

待ち合わせ場所にたどり着き周りに知っている顔がいないかを確認しいなかった事にホッと胸を撫で下ろした。

 

「さすがにこれで登下校してます何て言えないよな……」

 

俺の目の前には黒塗りのリムジンがおり、運転手さんが待機していた。

 

何故こんな事になっているかと言うと第二回モンド・グロッソにさかのぼる。

 

この日俺は大会連覇のかかった千冬姉の応援しにドイツまでやって来たが誘拐されてしまい大ピンチになってしまった。

 

そこへ決勝戦を辞退して助けに来た千冬姉のおかげで命拾いした訳だがこの事がきっかけで千冬姉は現役を退く事になってしまった。

 

俺はこの事について悔やんでいたが千冬姉が笑顔で俺をなぐさめてくれたのは救いだった。

 

しかし、日本に帰って来た時に千冬姉からある家へ行く事を言われた。

 

ある家とは更識家、対暗部用暗部で由緒ある家だそうだ。

 

と言ってもあまりピンとこないので詳しくは知らない………。

 

千冬姉がドイツに一年間教官として出向かなければならず家には俺1人しかいないのだ。

 

この事を心配した千冬姉は更識家に俺を預けてもらうように頼みこんだらしい。

 

更に詳しく聞くと千冬姉が決勝戦を辞退した事や引退した事に対する恨みつらみを災いとして俺にやってくるのを危惧しての事だ。実際に千冬姉と更識家に行ってみた感想は…………これ場違いじゃね?が第一印象だった。

 

かなり大きな家に私有地が幅広くお手伝いさんがたくさんいたので正直萎縮してしまった………。

 

大広間に通されて千冬姉が当主みたいな人達と話し込みトントン拍子に展開が進んでいき。

 

俺は更識家に居候させてもらう形になった。

 

まあ、正直大げさなような気持ちを感じたが千冬姉の心配を減らすにはちょうどいいのかもしれない。

 

まあ、ちょっと人恋しかったのは内緒だ。

 

そして俺は運命の出会いを果たす事になった。

 

――――――――――――

「だだいま」

 

リムジンに揺すられながら更識家に帰ってきてからのこの一言、千冬姉と2人しかいないから帰っても誰もいないのでほとんど無縁だった。

しかし今は

 

「おかえり〜いっち〜」

 

パタパタと長い袖を振り回しながら俺を出迎える少女。

 

「だだいま本音」

 

布仏本音、更識家のお着きのメイドさんだ。

 

同い年だし、彼女の性格もあってかすぐに仲良くなれた。

 

「おかえりなさい一夏さん」

 

続けてやって来たヘアバンドにメガネをかけた女性が出迎え来た。

 

布仏虚さん、同じく更識家のメイドさんで本音のお姉さんだ。

 

「ただいま虚さん、簪は帰ってますか?」

 

「ええ、帰ってますよ。今は部屋にいます」

 

「わかりました。それでは俺はこれで」

 

「私もいく〜」

 

虚さんに感謝して簪のいる部屋に向かう事にした、それにつられて本音も一緒に着いてくる。

 

扉を開けて部屋の中を見るといた。

 

「ただいま、簪」

 

「ひゃっ!」

 

俺が声を掛けるとビクッと反応しながら悲鳴を上げる少女。

 

「い、一夏?お、おかえりなさい」

 

慌て振り向いた水色の髪が内側に跳ねている少女。

 

更識簪、お世話になっている更識家の娘さんだ。

 

テレビに夢中になっていたのか俺が帰ってきたのに気付かなかったみたいだな

 

「ただいま簪。今日もヒーロー物を観てたのか?」

「う、うん…一緒に観る?」

 

「ああ、いいぜ」

 

簪のお誘いに俺は喜んで乗り、隣に座った。

 

おっ、今回は携帯電話をベルトに着けて変身して戦うやつか。

 

俺は目の前のテレビより隣にいる簪に意識を向ける。

 

普段、小動物チックな性格だがヒーロー物を観ている時は目をキラキラ輝かせて観ている。

 

俺はその顔に見惚れていた。最初に出会った時から俺は簪に恋してる。一目惚れってやつかな、ははっ。

 

ちなみに本音は俺の隣に座っている。

 

俺が簪に意識を向けていると―

 

「おかえりー!一夏君!」

 

「うわぁ!?」

 

突然背後から俺を抱き締めて来て驚いた。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「刀奈さん!?」

 

振り向くと簪と同じ水色の髪で外側に跳ねてうる女性がいた。

 

更識刀奈、更識家の娘さんで簪のお姉さんだ。

 

しかもスタイルがいいので背中に胸が当たる………。

 

や、柔らかい………い、イカン。俺に簪と言う想い人が……。

 

「刀奈さん離れてください!」

 

「あれ〜?顔が紅いけど意識しちゃった?」

 

「そ、そんな事…ないです……」

 

刀奈さんの意地の悪い指摘慌てて視線を反らすが後の祭り。

「一夏……」

 

簪のジト目での視線が俺に突き刺さる。

 

「ち、違うんだ簪!こ、これはだな……」

 

「……いいもん、私お姉ちゃんより胸ないし……一夏は大きい方が好きなんだよね……」

 

「違うって!話を聞いてくれ簪!!」

 

自分の胸をペタペタと触って落ち込んでしまう簪に慌ててフォローする俺の姿に爆笑する本音。

 

ってお前は簪のお着きのメイドさんだろうが!!

 

とまあ、こんな日常があり楽しく過ごしています。

 

とりあえずここに来れた事は俺にとって大きな収穫だ。

 

そして俺は簪に告白するんだ!!

 

 

いつするか決めてないけどな………。

 




続くかはまだ未定です


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2話

遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

とりあえず何話か書いてみて決めますね


「はあ………」

 

放課後の帰り道、ゆっくりと歩く俺は少し困っていた。

 

簪に告白しようとしていい雰囲気のままいこうと思ったらタイミング悪く邪魔が入るのだ。

 

例えば、刀奈さんが抱き着いて来たり、本音がやってきたり、用があるので虚さんが訪ねて来たりと本当に狙ってたかのように来るので正直、心のダメージがヒドイ…………。

 

ずるずる引き摺ってしまうからヘタレになりかけているのが現実問題だ。

 

この状況を相談出来る相手は…………居たっけ?

 

弾や数馬はダメだな、蘭はちょっと無理か………。

 

千冬姉は………何だろう………相談してはいけない空気になりそうだ。

 

 

身近に相談出来る相手いないんじゃ…………。

 

俺の交遊関係の少なさに落ち込んでしまった………。

 

こういう時に頼りになる人いないな………。

 

うーんと頭を悩ませているに更識家のお着きの運転手さんが待っている人がいる場所についてしまった。

 

「どうしました?何か悩み事がありそうな雰囲気ですが」

 

「あっ、いえ。その………」

 

運転手さんに聞かれて一瞬躊躇ったが何かきっかけを掴めるかもしれない。

 

そう思い、俺は相談してみる事にした。

 

「なるほど……そう言う事ですか」

 

「はい………どうすればいいか迷ってしまって……困ってるんです」

 

運転手さんに俺の悩み事を話した。とりあえず名前は伏せておいたお着きの運転手さんだけに話が伝わったら色々とマズイからだ。

 

「そうですね、私としては早くした方がオススメですね」

 

「やっぱりそうですか?」

 

「相手の方もあなたの告白を待っているんじゃないでしょうか?」

 

「そうですか?」

 

「あなたの想い人の性格からしたら告白するよりされる方がいいかもしれませんね」

 

「ですが俺は……」

 

「一端、恥を捨てて告白するくらいでないと前には進めませよ」

 

「そうですね。わかりましたありがとうございます」

 

運転手さんに話をして良かったと思い、俺は決心を固めた。

 

よし!今日こそ決着をつけるぞ!!

 

――――――――――――

 

俺は更識家に帰り、ひとまず荷物を置いて簪を探した。

 

あたりを探しているといた。

 

水色の髪の後ろ姿だ。よし!絶対大丈夫。絶対大丈夫。

 

「あ、あのちょっといいですか!」

 

「は、はい!」

 

俺の声にビクッと反応するが構うもんか!

 

「俺!貴女の事が好きなんです!!」

 

「えっ?えっ?」

 

「俺の恋人になってくれませんか?」

 

俺の告白に戸惑っているが気にせずに手を握って相手の目を見詰める。

 

「ほ、本当に私でいいの?」

 

「はい。俺は貴女が好きです」

 

頼む上手くいってくれ!

 

「………わかったわ。私で良ければよろしくお願いします」

 

やった――――!!

 

俺の中では歓喜にわいていた。

 

がしかし―

 

「一夏君の気持ち凄く伝わったわありがとう」

 

「へっ?」

 

俺の呼び方に思わず時が止まった。

 

あれ?おかしいな簪は俺の事を“一夏”と言うはず“一夏君”ってまさか………。

 

よくよく見ると外見が違う事を気付いた。水色の髪が外側に跳ねているし胸もある……。

 

 

ま、まさか……これって……

 

「刀奈さん!!」

 

「どうしたの?急に名前を叫んだりして」

 

しまった………間違えた………簪と思って告白したのが刀奈さんだった。

 

しかも頬を紅く染めて嬉しそうにしているので今更間違いでしたなんて言える訳がない………。

 

最悪の展開に頭が真っ白になっていると――

 

ガシャン!!

 

何かを落とす音が聞こえた。

 

い、嫌な予感が………

 

「う、嘘……一夏が……お姉ちゃんに……」

 

振り向くと顔を青ざめさせて泣きそうな顔をしている簪がいた。

 

 

ギャアァァァァ!予感的中!!

 

「ち、違う…違うんだ!これは」

 

「っ!!」

 

簪は目の前の光景に耐えきれずそのまま踵を返して逃げたした。

 

「ま、待ってくれ簪!!」

 

ダッと走りだした簪を慌てて追いかける俺。

 

「あっ……」

 

刀奈さんを置き去りにしてしまうが今は簪だ。

 

――――――――――――

 

「待ってくれ!簪!」

 

「来ないで!あっちいって!!」

 

逃げる簪に制止の声を出すが返ってきたのは拒絶の言葉だった。

 

しかも最悪な事に簪は足が速い、気を抜けば見えなくなってしまう。

早く掴まえなければかなりマズイ!!

 

どこかでチャンスがあるはずだ、俺は簪から離されないようにスピードを上げる。

 

ちょうど角に差し掛かったところで簪の走る速さが遅くなった。

 

今だ!俺は一気に近付き簪の腕を掴んだ。

 

「つ、捕まえた……」

 

「やっ!いやっ!!」

 

簪の腕を掴み、俺の方に引き寄せたが本人に逃れようと暴れている。

 

「落ち着いてくれ簪!俺の話を聞いてくれ!!」

 

「っ!聞きたくない!何で私に構うの!?お姉ちゃんのところにいけばいいじゃない!!」

 

ダメだ……完全に聞く耳を持ってくれない。

それどころか振りほどく力が増している。

 

俺としてはヤバい展開だ、ただでさえ簪を追いかけるのに体力を使っている上に腕を掴む手の力も弱くなっている。

 

ええい、男は度胸!!

 

そのまま簪を引き寄せて抱き締める。

 

「俺が好きなのは簪なんだ。落ち着いてくれ」

 

「嘘つかないで!こんな事しても信じない!!」

 

これでも無理か………仕方ない……覚悟を決めるか………。

 

涙目の簪のアゴに手を当てて上に向かせてそのまま唇にキスをした。

 

「えっ……一夏……」

 

キスしたのがわからなかったの口に手を当てて戸惑っている簪。

 

 

「これで信じてくれたか?」

 

「本当?本当に本当?」

 

「ああ、俺は本当に簪の事が好きだ。愛してる」

 

「………ひっく……嬉しい」

 

そう言って簪は俺の胸に飛び込み泣き出してしまった。

 

俺は簪を抱き締めながら泣き止むまで頭を撫でていた。

 

「落ち着いたか?」

 

「う、うん……ありがとう一夏」

 

簪は嬉しそうに笑み浮かべてはいたが今は重大な問題が残っていた。

 

「刀奈さんの事どうしようか………」

 

あんな熱烈な告白をしてしまっただけに俺として罪悪感が沸き上がる。

「そう言えば何でお姉ちゃんに告白したの?」

 

「いや、その、だな……笑わないで聞いてくれ」

 

「うん」

 

「初めて告白するから後ろ姿で判断してしまってそのまま勢いのまま告白したら刀奈さんだったって訳だ………」

 

「ぷっ……」

 

「笑わないでくれよ。今更ながら恥ずかしさに悶えてるんだからな」

 

「……ごめんなさい。一緒にお姉ちゃんのところにいこう」

 

「ああ」

 

俺は簪の後を追うようにして刀奈さんの部屋に向かった。

 

――――――――――――

 

「そっか……やっぱり簪ちゃんが好きなんだよね……」

ポツンと1人部屋に残された刀奈はそう呟いた。

 

「簪ちゃん可愛いし、守ってあげたいもんね……」

 

刀奈は一夏が好きだったが一夏は妹である簪に恋い焦がれていた事に気付いていた。

 

しかし自分から告白する事が出来ず、意識をして貰おうとして大胆なスキンシップをしていたが結局は水の泡に変わる。

 

「フラれちゃった………」

 

せっかく一夏から告白して貰い喜んでいたが簪ではないとわかると彼の表情が戸惑っていたのがわかった。

 

「あれ?あれ?」

 

ツーッと流れる涙が頬を伝う。

 

「―――っ!」

 

刀奈は声を押し殺して泣いた。

失恋の痛みにただ泣くだけだった。

 

とそこへ―

 

「お姉ちゃん。ちょっといい?」

 

ノックする音と簪の声に泣くの止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って今開けるから」

 

刀奈は慌てて涙を拭い、ドアを開けた。

 

「簪ちゃん……一夏君……」

 

簪と今は顔を合わせたくない一夏の姿がいた。

 

「大事な話があるから入ってもいい?」

 

「いいわよ。どうぞ」

 

刀奈は部屋に簪と一夏を入れた。

 

「それで大事な話って何?」

 

「うん。私と一夏付き合う事になったの」

 

「そう、良かったわね」

 

簪の言葉に刀奈は胸が痛んだ。

 

しかし刀奈は微笑んで妹の幸せを祝福する事にした。

 

「それでねお姉ちゃんにお願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「うん。お姉ちゃんにとっては嬉しいお願いかな、あのね……」

 

――――――――――――

 

簪のお願いに俺は口をあんぐりと開け、刀奈さんは顔を真っ赤にしている。

 

「い、いいの?簪ちゃんはそれでいいの?」

 

いち早く我に帰った刀奈さんは簪に問いかけた。

 

 

「うん。お姉ちゃんも私と一緒に一夏の恋人になって欲しい」

 

 

せっかく簪と両想いになれたのに刀奈さんを加えて二股かけろと言っているので俺としては正直混乱している。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ簪。いきなりの事で刀奈さんは困ってるぞ」

 

「困ってないよ。だってお姉ちゃん一夏の事好きだから」

 

「えっ、ええ――――っ!?」

 

刀奈さんが俺の事が好きだって!?

 

マジかよ………。

 

よく見ると刀奈さんの顔が更に真っ赤になっている。

 

「き、気付いていたの?」

 

「うん。だってあんなに過激なスキンシップしてあからさまなアピールしてるんだもんわかっちゃった。それに一夏に告白されて嬉しそうな顔してたから確信に変わったよ」

 

「や、やっぱり気付いちゃったのね……」

 

「刀奈さん………」

 

「そうよ。私は一夏君の事が好きなの、初めて会った時からずっと好きだったの……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「でも一夏君は簪ちゃんの方に向いていたから、ちょっとでも私の方を見て欲しいなって思って色々してみたけどダメだったわね……」

 

そうだったのか………よくよく考えてみれば、あれだけのスキンシップしてれば好意があると伝わって欲しかったんだ………。

 

そう思うと刀奈にいとおしさがわいて来た。

 

「刀奈さん……」

 

気が付けば俺は刀奈さんをそっと抱き締めていた。

 

「一夏君……」

 

「すいません。刀奈さんの気持ちに気付けなくて……」

 

「いいのよ。それで簪ちゃんのお願い受け入れていいの?」

 

「もちろんですよ。それでいいんだな簪?」

 

「うん。私はそれでいいよ」

 

そう言い簪は俺の後ろから抱き締める。

 

「3人で一緒に幸せになろう」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

2人のぬくもりに幸せを噛みしめながら、俺は刀奈さんと簪と恋人になった。

 

でも、大丈夫かな?

 

まあ、3人なら何とかなるか、うん。

 




どうでしたか?

ちょっと難しかったです。

でも、タイトル決まってない………どうしようか……



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3話

正月休みで書くペースが早いですね。

少し短めですが第三話です。

どうぞ


刀奈さんと簪と恋人になり俺の生活は大きく変わった。

 

例えば、3人でご飯を食べたり一緒に部屋で過ごしたりして仲良くやってる。

 

一緒に寝たりもしているがまだ一線を越えていない健全なお付き合いをしている。

 

それからデートも何回も重ねていった。

 

簪だけの時や刀奈さんの時もあれば2人と一緒にデートする事もある。

 

簪は手を繋いで刀奈さんは腕を組んでくれるので俺にとって凄く嬉しい事だ。

 

だって美少女姉妹と歩いているだけで周囲の視線を集まるから俺としては鼻が高い。

 

どうだ。うらやましいだろう………ゲフンゲフン。

 

あんまり調子に乗ってはいけないな、うん。

 

とまあ、いい感じで過ごしているな。

 

変わった事と言えば俺達は進級して、刀奈さんはIS学園に進学した。

 

それから刀奈さんは当主の名を引き継ぎ“刀奈”から“楯無”に変わった。

 

俺はその事に少し戸惑っていたが2人きりの時や簪と一緒で3人の時は刀奈さんと呼んでいる。

 

ちなみにだが俺達が付き合っている事は更識家の人達は知っている。

 

反対するかな?と思っていたら祝福してくれた。

 

認めてくれたんだなって思った時はホッとした。

 

がしかし―

 

まだ、千冬姉にはこの事は教えていない………。

 

俺としては千冬姉に迷惑をかけているから、先に幸せになるのはどうなのかな?と思っている。

 

しかし、いずれ千冬姉の耳に入る事は間違いないし後から問い詰められるのはちょっと遠慮したい。

 

ならば俺から言うべきなのだろうがいまいち踏ん切りがつかない。

 

とりあえず、俺は簪と刀奈さんにこの事を話したら笑顔で快諾してくれたので次の休みに帰ってくる千冬姉に2人の事を話そうと決めた。

 

――――――――――――

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい千冬姉」

 

千冬姉が帰って来たのを出迎える俺。

 

「おかえりなさい千冬さん」

 

「お、お邪魔してます」

 

と一緒に千冬姉を出迎えてくれる簪と刀奈さん。

 

「ん?何でお前達がいるんだ?」

 

「ああ、家の掃除が大変だから手伝ってもらったんだよ」

 

「そうか」

 

2人がいる事に訝しげな表情に変わるが俺の説明に納得してくれたようだ。

 

千冬姉が帰って来たな。さあ、勝負の時だ!!

 

「あのさ、千冬姉」

 

夕食の時にある程度箸が進んだところで俺は話を切り出した。

 

ちなみに千冬姉と向かい合うようにして俺達は座っている

 

「何だ?急に改まってどうした?」

 

「大事な話があるんだけどいいかな?」

 

「かまわないぞ」

 

「俺、彼女が出来たんだ」

 

「そうか良かったな、それで相手は誰なんだ?」

 

「その……千冬姉の目の前にいるんだ」

 

「そうか、姉の方か?妹の方か?」

 

「いや、その……実は両方なんだ」

 

「はい?」

 

俺の言葉に千冬姉の表情が思わず驚きに満ちていた。

 

「俺は楯無さんと簪と恋人同士でお付き合いしてるんだ千冬姉」

 

とりあえず言い切った。後は千冬姉がどういう反応をするかだが、さっきまでとは違い無表情に変わっていた。

 

だ、ダメなのか………?

 

「そうか2人を恋人にしたのか良かったな」

 

「あ、あれ?いいのか千冬姉?」

 

「いいも何もお前が選んだ事だろう。私は何も言わない祝福するだけだ」

 

「良かった」

 

千冬姉が認めてくれた事にホッと胸を撫で下ろした。

 

「私のせいで一夏には大変な思いやつらい事や迷惑をかけているからな、更識家に預けたのは正解だった」

 

「そんな俺は……」

 

「一夏の幸せの為には更識家に養子にする事も考えていたが私の予想をいい意味で裏切ってくれたよ」

 

「そこまで考えていたんだ………」

確かに俺達には両親がいないから必然的に姉弟力合わせてやって来たからな千冬姉にも幸せになって貰いたいならその考えも引き受けてたかもな更識家の生活は楽しいからな。

 

「ああ、そうだ。更識姉妹」

 

「「は、はい!」」

 

千冬姉は刀奈さんと簪を呼びながら視線を向けた。

さっきまでの穏やかさとは違い真剣な眼差しだ。

 

「もし、一夏を裏切ったり見捨てたら………地獄の果てまで追いかけて引導を渡してやる……覚悟しておけ……クククッ」

 

と2人にしか伝わらない殺気をビシビシとぶつける千冬姉。

 

「「っ!?」」

 

千冬姉の殺気に当てられて恐怖を感じた2人は顔を青ざめさせて俺に抱き着いて震えだした。

 

 

簪に至っては今にも泣きそうだ………。

 

「なあ、千冬姉。それって俺が言われるセリフじゃないのか?」

 

俺は刀奈さんと簪をなだめつつ何で2人にそんな事を言った意味が解らず千冬姉に聞いてみた。

普通なら2人を泣かせたら承知しないぞとか言われそうなんだけどな……。

 

「何を言っている。更識家は政略結婚とか見合いとか平気であるのだぞ。今はよくても家の為なら簡単に引き離される。私の大事な家族であり弟の為に釘を刺して置かないとな」

 

「いやいや釘どころかぶっとい杭を刺してるから」

 

千冬姉の言葉にツッコミをいれるが険しい表情は変わっていなかった。

 

これじゃ、ある意味脅してるから…………はあ……。

 

まあ、これで安心して3人仲良くなれるな〜。

 

俺はこれからの未来に光が差して来たような気がした。

 




お試し版は解除しましたがタイトルどうしよう。

何かないかな?


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4話

今日で正月休みが終わりなので更新が遅くなります。

そこのはご理解ください。では四話目です、どうぞ


千冬姉に2人の仲を認めてもらってから少しの月日がたった。

 

その間、俺は更識家の皆さんから完全に家族の一員としてお世話になっていた。

 

当然、簪と刀奈さんとの愛は育んでいるし、毎日が楽しい日々だ。

 

夏休みに入った時は受験生ともあり、勉強漬けだったが息抜きにプールに行ったり、花火大会に行ったりした。

 

プールの時は2人の水着姿にドキドキしながら楽しく遊んだり、ちょっとしたパプニングもあったりしたがいい思い出だ。

 

花火大会には浴衣姿にまた違った魅力的な姿にみとれいたし、花火で彩る2人の横顔に思わず、綺麗だと呟いて2人を頬を紅く染めたりして有意義な時間を過ごした。

 

そんなこんなであっという間に夏休みが終わり、秋も深まった頃、俺はある問題に悩まされる事になった。

 

――――――――――――

 

「虚さん、本音ちょっといいですか?」

 

「何でしょうか?」

 

「な〜に〜?」

 

「相談したい事があるんです。いいですか?」

 

「ええ、いいですよ」

 

「いいよ〜」

 

ちょうどIS学園から帰宅していた虚さんと本音を捕まえて俺の悩みを聞いて貰う事にした。

 

「実は楯無さんと簪と付き合ってから一年が経つので何か記念にプレゼントをと思ったのですがなかなかいい案がなくて………何かありませんか?」

 

そう俺の悩みとは2人と恋人になって一年目の記念に何かプレゼントをしようと意気込んだがいざ買おうと思っても何をプレゼントしようか迷ってしまいに今にいたる訳だ。

 

「なるほど、そういう事ですか……」

 

「ええ、何かないですか?」

 

「はい、は〜い〜。いっちーがお嬢様とかんちゃんに手料理を振る舞えばいいと思うよ。いっちーの料理美味しいし〜」

 

「いや、それじゃダメだろ………」

 

「確かに喜ぶかもしれないけど形には残らないわよ………それで大喜びなのは本音みたいな食い気の子だけよ……」

 

本音の的外れな意見に俺と虚さんは脱力感に襲われた…………。

 

そのせいかわからないが結局、この相談は解決出来ずに終わってしまった。

 

「す、すみません。たいした力になれなくて……」

 

「い、いえ、いいんですよ。俺も話して楽になれましたからありがたいです」

 

申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる虚さんに萎縮してしまい慌ててフォローした。

 

「でも本当に一夏さんには感謝しているんですよ。お嬢様と簪様との仲を修復してくれたのですから」

 

「そうだったんですか?」

 

「ええ、実は―」

 

虚さんから俺が更識家に来るまでの2人の様子を話してくれた。

 

更識家は特殊な家系の為、どうしても比べられてしまう。

 

それも次の“楯無”を引き継ぐ為には何でもこなすスペシャリストにならなければならず当然刀奈さんは優秀だがそれに少し劣る簪には刀奈さんのおまけ程度しか周りは思っておらず。

 

そのせいで簪は嫌な気持ちになっていた。

 

その事に心を痛めた刀奈さんは簪に慰めの言葉を掛けようにも周囲の目があり中々上手くいかず、姉妹の仲は次第に悪くなる一方だったとの事。

 

それを俺が更識家にやって来たの機にすっかり冷えきった仲の姉妹は俺の事をきっかけにして話し合って元に戻ったらしい。

 

虚さんから見れば俺は2人の仲を元に戻してくれた救世主みたいな感じだと言ってくれたがちょっと照れくさかったな。

 

とりあえず、虚さんと本音に感謝しつつ俺は悩みに悩んだ末にお揃いのペンダントを買う事にした。

 

リングは流石に早いし、ブレスレットも悪くないなと思っていたがたまたま店を回っているとちょうど水色のペンダントが目に着いたので予算と相談の上に購入した。

 

そのプレゼントは2人と一緒のデートの時に渡したら喜んで受け取ってくれたので良かったが嬉しさのあまり感極まって人目を気にせずにキスしてきてちょっと恥ずかしかったのは内緒だ。

 

――――――――――――

 

12月になり受験生である俺は図書館で受験勉強を終らせた帰りだ。

 

今日はクリスマスイヴ街は賑わいカップルが目立つが俺は構わずに家を目指す。

 

いつもと違い今日は1人で過ごす。しかも間が悪い事に簪と刀奈さんは家の用事があるから無理との事だ………。

 

今日は1人か………さ、寂しくないぞ!………やっぱり無理でした………はあ……人恋しいな……。

 

ちょっと傷心気味で家に着き鍵を開けて扉を開けると。

 

「「メリークリスマス!!」」

 

パン!パ―ン!!

 

クラッカーの鳴ると共に現れたのは―

 

「簪!?刀奈さん!?」

 

 

ミニスカサンタの格好をした俺の恋人達がいました。

 

「えっ?えっ?今日は来れないって言ってなかっけ?」

 

「今日は大丈夫よ。一夏君を驚かそうとしてちょっと騙しちゃった」

 

と茶目っ気たっぷりに言う刀奈さん。

 

「ご、ごめんね一夏。私も喜んで貰いたくてお姉ちゃんと一緒にやったの」

 

と申し訳なさそうにして俺に謝る簪。

 

「そ、そうでしたか………でも料理とか用意してないですよ」

 

「それも大丈夫よ。一夏君の家に来る前に買い物してるし、今日は泊まるって言ったからゆっくり過ごせるわよ」

 

「は、はあ……」

 

2人に連れられるまま家に入ってみると刀奈さんが言った通りに2人分のバックが置いてありました。

 

「さっ、今日は楽しみましょう」

 

「うん。一夏も楽しもうね」

 

「ああ、もちろんだ」

 

俺達はクリスマスパーティーを開き大いに楽しみ、そして就寝となる訳だが俺は2人の為に客間を使う用に言ったが俺の部屋で寝たいとの希望でベッドでは狭いので床に布団を敷いて寝る事にした訳だが………。

 

どうにも眠れない………。

 

いつもなら2人のぬくもりを感じて安眠出来るが今日は違っていた。

 

胸がドキドキして目が冴えてしまっていた……。

 

「一夏……起きてる?」

 

どうしようかなと思っていると右隣に寝ていた簪から声がかかった。

 

「起きてるよ……どうかしたか?」

 

「あのね、一夏にクリスマスプレゼント渡してなかったから今渡そうと思うのいい?」

 

「へっ?なら電気を」

 

「それはダメ。このままでおねがい」

 

簪のクリスマスプレゼントに電気を着けようと体を起こそうとしたが刀奈さんに止められた。

 

「えっ?電気をつけないとわからないじゃないですか?」

 

「電気を着けちゃうと恥ずかしいの……」

 

「恥ずかしいって……クリスマスプレゼントって一体なんだ?」

 

「そのね……クリスマスプレゼントは……」

 

「私達よ一夏君」

 

「はい?」

 

刀奈さんの言葉に思考が止まった。

 

「えっ?それって……まさか……」

 

「そうよ。私達の初めてをあげるの」

 

「えっ、でも……」

 

刀奈さんの言葉に思わず戸惑いを隠せなかった………。

 

確かにそういう雰囲気になる事は多々あったがまだ俺達は子供だし、一人前にもなってないのにどうかなと思ったり、がっついて嫌われたりしたらどうしようとの葛藤があったりしたが大抵キスで満足してたからな。

 

「うん。わかってる一夏が私達の事を大事にしてくれるのは嬉しいよ。でもね……」

 

「時々不安になるのよ。だっていつもハグやキス止まりでしょ。私達に魅力がないのかなって思ったり、もしかしたら他に好きな人が出来たのかなって………ね」

 

「そんな……俺は……」

 

「だからね、今日こそ私達の初めてを一夏君にあげようって決めたのだからね……」

 

「……私達の身も心も一夏の物にして……」

 

そうして潤んだ瞳で俺を見詰める簪と刀奈さん。

 

その光景を見て“もう逃げられないな”と“恥をかかせないようにしないとな”との気持ちが俺に覚悟を決めさせる。

 

「わかった………じゃあクリスマスプレゼント頂きます」

 

俺は体を起こして2人を見詰め手を握りながら言った。

 

簪と刀奈さんは小さく頷いたの確認してからゆっくりと2人を抱きしめて情事に展開し、こうして俺達は深い仲になった。

 

――――――――――――

 

一夏の試験当日

 

「う〜」

 

IS学園の生徒会室にて楯無は椅子に座ったままそわそわして落ち着かなかった。

 

「お嬢様、落ち着いてください」

 

「だって〜、心配なんだもん〜」

 

虚の注意に耳を傾けるも落ち着けない様子の楯無。

 

(一夏さんが試験とはいえお嬢様が心配しても変わらないのですが………仕方ないですね………)

 

楯無の様子を見てこっそりため息を吐く虚。

 

想い人の事でここまで変わるのだから、正直迷惑でもあったが羨ましくもあった。

 

「あら?何かしら?」

 

携帯からメロディーが流れ

 

「はい。更識です……はい…、はい…、えっ?どういう事ですか?」

 

「お嬢様?」

 

話の内容に訝しげな表情に変わる楯無に虚は思わず首を傾げた。

 

「は、はい……わかりました……それでは失礼します」

 

話の内容に動揺しつつも会話を終わらせた。

 

「ど、どうしよう虚ちゃん……」

 

携帯を切った途端、楯無はオロオロとしだした。

 

「ど、どうしましたお嬢様?」

 

「い、一夏君が…、一夏君が…」

 

「い、一夏さんがどうしました?」

 

顔面蒼白で慌てる楯無をみて虚は顔を強張られせた。

 

まさか一夏の身に何かあったのかと思い、もしかしたらと最悪の事態を覚悟したがしかし―

 

「一夏君がISを動かしたって………」

 

「はい?えっと…」

 

予想していた事よりも全く違っていた展開に唖然とした声を出し考えだす虚。

 

ISは確か女性にしか動かせないはず………それを一夏が動かした。

 

一夏は男、つまり世界初の男性操縦者になる訳だから。

 

「ええ――――――っ!?」

 

虚は事態をようやく理解し、思わず声を上げた。

 

こうして一夏を含めた更識勢はIS学園に舞台が移るのであった。




タイトルの件はある程度のメドがたちましたの次の話の時に書きます。

感想欄に書いて頂きありがとうございます。

次回はIS学園編に突入です


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5話

ここから、IS学園編になります。

どうぞ


「全員揃ってますね―。それじゃあSHRはじめますよ―」

 

黒板の前でにっこりと微笑むのはこのクラスの副担任である山田真耶先生である。

 

パッと見『無理して大人の格好をしている』みたいな感じだ。

 

まあ身長が低めで他の生徒とほとんど変わらないせいかもしれない……。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いいたします」

 

けれど教室の中は変な緊張感に包まれていて、誰からも反応がない。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

ちょっとうろたえる副担任がかわいそうなので俺だけでも反応しようと思うのだがいかんせん余裕がない………。

 

それはなぜか。簡単だ

俺以外のクラスメイトが全員女子だからだ

 

なんでここにいるんだろうなあ………。

 

俺はこの状況にもう泣きたい気分だ………。

 

今頃は俺が受験しようとしていた藍越学園に入学してたのにな………。

 

あの時に試験会場を間違えてISを動かさなけれ良かったなあ………と思う。

 

まるで誰かの企みに乗せられた感じだもんな………はあ。

 

何だろう………ウサ耳を着けたあの人が思い付いた………。

 

「……くん、織斑一夏くんっ」

 

「は、はいっ!?」

 

いきなりの呼ばれたので思わず声が裏返ってしまった。

 

しまった。やっちまったな………。

 

クスクスと笑い声が聞こえて落ち着かなくなってしまった………。

 

とりあえず気を取り直して山田先生に耳を傾けると自己紹介の出番が自分に回って来たようだ。

 

あたふたする山田先生を落ち着かせつつも自己紹介に気合いを入れて後ろを振り返るも………ダメだこりゃ………。

 

一斉に集まるクラスメイトの視線が俺のメンタルをガリガリと削っていく………。

 

(本音助けてくれ!)

 

幸いにも同じクラスで近くにいた本音にヘルプを求めた。

 

するとちょんちょんと指をさしているので見ると“趣味や特技なんかを入れるといいよ〜”と書いてあるメモがあった。

 

そ、そうかその手があったな。

 

「えっと、織斑一夏です。特技は家事全般、趣味は読書です。唯一無二の男性操縦者となってますが気がねなく話してください。よろしくお願いいたします」

 

と無難にこなしてみせた。

 

ど、どうだ……?

 

するとパチパチと拍手をする音が聞こえた。どうやら上手く済んだみたいだな。とりあえずホッと胸を撫で下ろしていると

 

「どうやら自己紹介はちゃんと出来たみたいだな」

 

「へっ?」

 

背後から聞き慣れた声がするので振り返ると

 

「ち…織斑先生!?」

 

黒のスーツにタイトスカートを履いた。うちの姉の千冬姉の姿があった。

 

あぶないあぶない、思わず千冬姉と言ってしまいそうなのをなんとか飲み込んだ。

 

千冬姉は俺に気にせずに教室を見回してから教壇に移動した。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

とまあ暴力宣言に俺自身は唖然となるがうちのクラスメイトはきゃいきゃいとはしゃいでいる。

 

相変わらず人気は衰えないよな………。

 

虚さんや刀奈さんから聞いていた通り千冬姉はIS学園の教師になっていた。

 

国家代表を辞めて、ドイツ軍の教官から教師か千冬姉出世したなあ………と感心していたら、手厳しい出席簿が俺の頭上に振り下ろされた…………痛い……。

 

――――――――――――

 

一時間目が終わり、俺は参考書とノートを取り出して復習する。

 

試験日にISを動かしてから非常に焦った、家にマスコミやら研究者やら押し掛けて来てプライベート?何それおいしいの?状態に陥り対応に困ってしまいやむ無く更識家に避難した。

 

避難した俺から理由を聞いて同情してくれて声をかけてくれたのはすごくありがたかったがもう1つの問題があった。

 

なんせISに関して全く知識がないので当然1から勉強するしかなく、しかも参考書を渡されても一通り読んでみてもなんのこっちゃ?てなってしまい、非常に困ったがそこは頼りになる恋人達と布仏姉妹、右も左もわからない俺に親切丁寧に教えてくれたので助かった。

 

まあ、刀奈さんはロシア代表、簪は日本代表候補生だし当たり前な事でも俺としては全く知らないもんな………。

 

「お―。やってるね〜」

 

「ああ、せっかく教えて貰ったのをムダには出来ないからな」

 

俺が復習しているところに本音がやってきた。

 

「私に教えて欲しい事があったら言ってね〜」

 

「ああ、ここなんだが……」

 

「ここはね〜」

 

と本音先生?によるISに関しての勉強を開始した。まあ、教室内外からくる視線は気になるが今は目の前に集中だ。

 

「………ちょっといいか」

 

「え?」

 

「ふえ?」

 

突然、話し掛けられて俺と本音は思わず反応した。

 

「………篠ノ之さん?」

 

「…………」

 

目の前にいたのは、6年ぶりの再会になる幼なじみだった。

 

篠ノ之 箒。俺が昔通っていた剣術道場の子で髪型は今も昔も変わらずポニーテールにしている。

 

よく見ると不機嫌そうな顔をしているのがわかる。

 

「屋上でいいか?」

 

話しにくい事なんだろうか?正直俺としてはISについての勉強をしたいがヘタに断ると何をしてくるのかわからない………。

 

「早くしろ」

 

「あ、ああ……」

 

スタスタと行ってしまう箒にしぶしぶ俺は後ろを着いていく事にした。

 

俺としては正直気が重い………。

 

実を言うと箒の事が苦手だ………嫌いではないがあんまりお近づきになりたくはない。

 

何故かというと小学生の頃、箒がいじめられていたところを俺が助けた。

 

とここまでは良かったんだがそれがきっかけで箒は俺に付きまとうようになり、何をするにしても一緒に行動しないと気に入らなくなってしまった。

 

朝早く家に来て起こされて剣道に付き合わされされ、放課後になれば強引に引っ張られて剣道に付き合わされと俺にとっては正直苦痛の日々を過ごしていた。

 

剣道ばかりじゃ嫌なので友達と遊びに出掛けようとしたら箒が現れて友達を睨み付けたまま、俺を強引に連れて行ってしまい、そのせいで友達を減らしてしまうという悲しい展開になってしまった。

 

当然、あまりに箒の態度や行動が酷かった為、俺がいい加減にして欲しくて箒に抗議したら返ってきたのは竹刀の暴力でした………。

 

この事からわかるように箒は俺に依存してしまい一緒にいるのが当たり前なのが彼女の常識となってしまい転校するまでこの日常が続いた。

 

そのせいもあって剣道に関して完全に嫌気がさして箒が転校と同時にスッパリと辞めた。

 

そうこうしている内に屋上に着いてしまった………。

 

「……………」

 

箒は俺に背中を向けたまま沈黙している。

 

とりあえず逃げる出口確認よし!竹刀の届かない距離まで開いて逃げ出せる準備が出来たぞ。

 

「ひ、久しぶりだな………一夏」

 

「あ、ああ………久しぶりだな篠ノ之さん」

 

箒から話をきりだしたがぎこちない感じがしたが俺は警戒心を怠らない。

 

よくみると心なしか頬を紅く染めているのがわかる。

 

「なんでそんな他人行儀なのだ?昔みたいに箒と呼んでくれ」

 

「い、いやさ……6年ぶりだろ?ほら親しき仲にも礼儀ありって言うじゃないかいきなり名前で呼ぶ訳にはいかないだろ」

 

と、遠回しな理由を言ってみるが本音はもう距離を取りたいのですよ。

 

ああ、イカン………あの時のトラウマが走馬灯のように思い出す…………。

 

キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン。

 

おおっ!救いのチャイムだ!!

 

俺は学校のチャイムに助けられる事に凄く感謝した。

 

「先に教室に戻ってるからな遅れるなよ」

 

とパタパタと走りながらそう箒に言って屋上を後にした何か言いたそうな感じだったが気にせずに教室に向かう事にした。

 

同じクラスか…………はあ………。

 

とりあえず箒に関してどうするかも重大な悩み事になりそうだ…………。

 

そんな事とは裏腹に更にトラブルに巻き込まれる事になるとはこの時に思わなかった。




タイトル提供竜羽さんありがとうございました。

それから感想欄に書いて頂いた鍜冶さんと蒼魚さんありがとうございます。


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6話

今回はセシリアイベントの回です。

どうぞ


「ちょっとよろしくて?」

 

「ん?」

 

「ふえ?」

 

二時間目の休み時間、俺は再び参考書とノートを取り出して、本音を呼びISの勉強をしていたところを声をかけられて思わずすっとんきょうな声を出してしまった。

 

話し掛けて来た相手は、地毛の金髪が鮮やかな女子だった。白人特有の透き通ったブル―の瞳が、ややつり上がった状態で俺達を見ている。

 

「訊いてます?お返事は?」

 

「あ、ああ。訊いてるけど………どういう用件ですか?見ての通り俺達はISについての勉強中なんだ手短に頼む」

 

と俺はもっともな理由で回避しようと答えたが目の前の女子はわざとらしく声をあげた。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「「…………」」

 

目の前の女子の態度に思わず俺と本音は顔を見合せた。

正直、この手合いは苦手だというより嫌気がさす。

 

ISを使える。それが国家の軍事力になる。だからIS操縦者は偉い。そしてIS操縦者は原則女しかいない。

 

それをいい事に威張りちらしたり、相手に不愉快な思いや理不尽などをする連中がいるのは少なくない。

 

面倒な事になったな………。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 

実際に知らない。自己紹介で色々言っていた気がするが、正直覚えていないし、IS関係の勉強しか頭になかったからクラスメイトの事を覚えるのは後でいいだろうと思っていたが目の前の女子にとってはかなり気に入らないものだったみたいだ。つり目を細めて、いかにも男を見下した口調で続ける。

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

ああ、名前はセシリアなのか………ふーん。

 

代表候補生くらいで威張られてもな………俺の姉は元日本代表でブリュンヒルデだし刀奈さんはロシア代表だからそんなに珍しくないよな。

 

目の前にいるセシリアにちょっとしたイタズラ心が芽生えた。

 

「あ、質問いいか?」

 

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生って、織斑先生よりスゴいのか?」

 

「そ、それは……」

 

俺の質問にセシリアの表情は困惑に変わる。

 

「自慢をするつもりはないが俺の姉は元日本代表にして第一回モンド・グロッソにて優勝しブリュンヒルデの異名を取ったんだ。そんなに自慢した態度を取るって事は織斑先生よりスゴいんだよな?」

 

「う……で、ですから……」

 

ククッ、困ってる困ってる俺の質問に悩んでるなセシリアは、ちなみに隣にいる本音は目の前のセシリアの様子を見て笑いを我慢している。

 

「確かに言われてみればそうよね……」

 

「オルコットさん、言い過ぎじゃないかしら?」

 

「千冬様の弟の織斑くんなら代表が当たり前よね……」

 

などなどクラスメイトがひそひそと話をしていたがセシリアの耳に届いていないようだ。

 

まあ、そんな余裕ないよな………俺の質問に答えられないのが屈辱なのかわからないがブツブツと呟いていた。

 

キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン

 

三時間目開始のチャイムがなり、この質問は終了となった。

 

「っ………!また後で来ますわ!逃げないことね!よくって!?」

 

え―――っ!?

 

まだ相手しないとダメなのかよ………トホホ………。

 

若干怒り気味で自分の席に戻るセシリアを眺めながらため息をはいた。

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備について説明する」

 

一、二時間目とは違って、山田先生ではなく千冬姉が教壇に立っている。

 

「ああ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

と、ふと思い出したように千冬姉が言う。クラス対抗戦?代表者?

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

とざわざわと教室が色めき立つがまあ、クラス長を決めるらしいからたぶん面倒な仕事が多いんだろうな……。

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います―」

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

 

「織斑先生、これって拒否できますか?」

 

「ダメだ。推薦した者を無下にするつもりか?」

 

「ですよね……」

 

仕方ないか………まあ、大抵の理由は物珍しいからかな………正直やりたくないな〜。

 

半ば諦め気味になっていたところに突然甲高い声が上がった。

 

「待ってください!納得がいきますんわ!」

 

バンと机を叩いて立ち上がったのは、セシリアだ

 

「このような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

言いたい放題だな……まあ、今の社会に染まっている人達にすれば当然か。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

ひどい理由だな、だったら立候補すればいいのに……しかも俺、猿扱いかよ。

 

まあ、先祖は猿なんだから当たり前だがここまで酷評とはな………。

 

すでに怒りは通り越して呆れているのは事実である。それに千冬姉が若干怒り気味になっていたのを見ていたのですでに頭は冷めていた。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

興奮冷めやらぬ――というか、完全に自分がクラス代表だと言わんばかりに熱弁してるな………まっ、俺には興味ないな。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

 

もしも―し!とんでもない発言してますよ――!!ああ、もうダメか………。

 

「どうして何も言い返さないのですの!?」

 

教壇から怒りのオーラが出ているにも関わらず、無関心な俺に矛先を変えて来たセシリア。

 

「いや〜ずいぶんと勇気あるな〜と思ってさ……」

 

「何を言ってますの?これだから男は嫌なのですわ」

 

俺が言っている事に気付いてないのかセシリアは悪態つき出した。

 

「はあ……そろそろ教壇の方を見たらどうだ……?警告はしたからな……」

 

「はあ?どういうこ……ヒイイィィィィィィッ!?」

 

俺の警告に呆れ気味に教壇を見た途端に恐怖に悲鳴をあげて後ずさるセシリア。

 

それもそうだ、千冬姉が怒り心頭になって威圧感を放っているからな………ちなみに近くにいたクラスメイトは気絶している。

 

「オルコット」

 

「は、はははい!?」

 

「その発言は私に対して挑戦状を叩き付けていると受けていいのだな?」

 

「ち、ちちちち違います!こ、これは……」

 

千冬姉の言葉に顔を青ざめさせて必死に弁解するセシリア。

 

「まあ、現役を引退したからな……勝てると思われたか………ずいぶんとナメられた物だな………ふふふ」

 

「で、ですから私は……」

 

セシリアはなんとかしようとするものの千冬姉の威圧感に呑まれてしまい完全に萎縮している。

 

表情から『やってしまいましたわ――――!!』言わんばかりだ。

 

「いいだろう。この私が直々に相手してやる、“遺書”の準備は出来たか?」

 

あらら、ぶちギレモードの千冬姉が降臨か哀れだな………。

 

「あ、ああ………」

 

「まあ、本来ならこのままアリーナに連行していくところだがあいにく手一杯でな命拾いしたなオルコット」

 

そう言ってニタリと笑みをこぼす千冬姉に対してセシリアは今にも気絶しそうなくらいに顔色が悪い………。

 

セシリアもさっさと気絶していれば楽なんだけど千冬姉がそうならないよう上手く調整しているから一種の拷問だな。

「さて、クラス代表の件は織斑とオルコットの2人のどちらかにしようと思う。そこで1週間後の月曜の放課後、第三アリーナで勝負を行い勝者がクラス代表になる。それぞれ準備しておくように。それからオルコットは放課後、職員室に来るようにな」

 

クラス代表をかけての勝負が決まり、千冬姉はセシリアを名指しした。

 

「私達は教師だ。生徒を正しい道に導くのも仕事の1つだ。山田先生も協力してもらい代表候補生としての振る舞いについてたっぷりと補習をしてやる嬉しいだろ?ああ来なければ迎えにいくからそのつもりでな、逃げても隠れてもムダだぞ………覚悟しておけ、ふふふ」

 

言いたい事を言いきったい切った千冬姉はスゴいいい笑顔だ。

 

 

セシリア……御愁傷様……。

 

俺は心の中で合掌しておいた。

 

「それでは授業を始める」

 

パンと手を打って千冬姉は話を締めた。

 

そして三時間目の授業が遅れ気味にスタートしたのだった。

 

ふと視線を感じたので見ると半泣き状態で俺を睨んでいるセシリアがいた。

 

恨みがましい気持ちがあるようだが俺はこの言葉を送りたい。

 

『自業自得』だと――

 

こうして、セシリアはしばらくの間千冬姉と山田先生による補習を受ける事になり精神的ダメージを喰らう事となり、色んな意味で有名なった。

 




次回は寮に入ります


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7話

お待たせしました。寮の部屋イベントの回です。

どうぞ


「ふう………」

 

放課後、今日の授業の内容を纏めたノートを見直して一息ついた。

 

「しっかし、ISってこんなに難しいんだな………」

 

そう、普段ISに関わる事のない俺にとってはここまで大変だとは思わなかった。

 

予想していたのよりも専門用語のオンパレードで正直全く勉強してなければ大惨事を招き兼ねないくらいにヤバかった。

 

ああ、俺の恋人達と虚さんと本音が救いの女神に見える………。

 

簪と刀奈さんは俺の女神だけどな………ハハッ、なんちゃって………すいません、調子に乗りました………。

 

にしても―

 

(放課後までも押し掛けてくるのかよ……はあ……)

 

教室の外に上級生や他クラスの女子達のきゃいきゃいとはしゃいでいる姿を見て初日とはいえ、うんざりな気分になる。

 

昼休みに本音から簪が四組にいる事を聞いて一緒に昼食に行こうと思ったら女子達が着いてくるので迷惑をかけられないと思い。泣く泣く断念した。

 

ここまで物珍しく思われても正直対応に困るのがオチだがな…………。

 

「ああ、織斑くん。まだ教室にいたんですね。良かったです」

 

「山田先生?どうかしたんですか?」

 

呼ばれたので顔をあげると副担任の山田先生が書類を片手に立っていた。

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

そう言って部屋番号の書かれたキーを渡された。

 

はい?寮の部屋?

 

「俺の部屋がまだ決まってなくて1週間は自宅から通学するって聞いてましたけど……」

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです……」

 

はあ……やっぱりか……まさかここまでしてもらう事になるとはね………。

 

虚さんの言ってた通りになったな………。

 

まあ、自宅通学も1人じゃ危ないから更識から護衛を出すって言ってたし、もし変なのに捕まったら最後、モルモットにされるかあの世逝きのどちらかだろうって聞いた時は正直ゾッとした事は覚えている。

 

「わかりました。とりあえず荷物を取りに行きたいので一回家に帰っていいですか?」

 

「あっ、いえ荷物なら――」

 

「私が手配しておいた。ありがたく思え」

 

「どうもありがとうございます」

 

「ずいぶんと手際のいい荷物の纏め方をしていたな。誰の入れ知恵だ?更識か?布仏か?」

 

最後の方は俺に聞こえるくらいの小声で聞いてきた。

 

「虚さんです」

 

「そうか、いい先輩に恵まれたな。困った時は聞いておけ、もちろん私達にもな」

 

そう言って千冬姉はポンポンと俺の肩を軽く叩いて笑顔を魅せた。

 

千冬姉の気遣いが身に染みるな、少なからず俺の境遇には同情してくれているようだ。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間がありますけど……えっと、その、織斑くんは今のところ使えません」

 

「仕方ないですね。使えるようになったら教えてください」

 

「わかりました」

 

「あ―……それからなんですが寮の部屋は1人部屋ですか?それとも相部屋ですか?」

 

そう。これは俺にとっては大事な問題だ。1人部屋なら気が楽だし気軽に簪や刀奈さん、本音や虚さんを呼んで相談出来るのが強みだが相部屋は相手によるからな………ハニートラップを仕掛けて来る相手や男と一緒の部屋は嫌とかで拒否されると本当に困る。

 

「すいません……相部屋なんですよ……」

 

「そう……です……か……」

 

なん……だと……?マジか!?

 

予想していただけにショックはショックだな………って―。

 

「それでルームメートは誰なんですか?もし相手が篠ノ之さんでしたら俺は速攻で荷物を片付けて、自宅か更識家に帰らせていただきます」

 

と俺は息をつかずに言い切った。

箒と一緒だったら1週間も持たずに倒れる自信があるぞ……。

 

「安心しろ、お前が篠ノ之の事が苦手な事はわかっているから一緒にしてはいない」

 

「そうですか」

 

千冬姉の言葉を聞いてホッと一息ついた、よっしゃ―――!!最悪な未来は回避出来たぞ―――!!

 

「まあ、政府の連中は篠ノ之と一緒にしろと言っていたが私が強引に引き離した。アイツらの態度には正直イラついているからな………」

 

そう言って怒りを隠さない千冬姉を見ながらも気を使ってくれた事が嬉しかった。

 

まあ、俺が誘拐された時も政府はその事を隠して千冬姉を決勝戦に送り込もうとしてたから、頭に来る。

人の命より名誉が大事かよ!?って叫びたかった。この事を教えてくれたドイツ軍には感謝しているが正直話が上手く行き過ぎてるような気がするな………。

 

この件はいくら考えても確証がとれないけどな………。

 

「ルームメートはお前と私が信頼出来る者と一緒にした……まあ、後は自分で確かめるといい」

 

誰だ?信頼出来る者って?うーん………。

 

「えっと、それじゃあ私達は会議があるので、これで。ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」

 

と山田先生はそう言うが正直自信がないな………だって後ろからぞろぞろと女子達が着いてくるんだぞ、軽くホラーだって………。

 

「それからオルコットの補習の準備もしておかないとな」

 

「はい、頑張りましょう」

 

千冬姉の言葉に山田先生は返事をするが多分2人の考えている内容は絶対に違うよな………。

と考えながら2人の後ろ姿を眺めつつ、俺は寮に向かう事にした。

 

――――――――――――

 

「えーと、ここか。1001室だな」

 

俺は部屋番号を確認して、ドアに鍵を差し込んで開けた。

 

ガチャ。

 

「おかえりなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

パタン

 

目の前の光景を見て、思わずドアを閉めてしまった。

 

部屋の中から何か声が聞こえるが気にしない………。

 

今の刀奈さんだったよな……しかも裸エプロン姿だし俺の見間違いだよな、ハハッ。

 

そうだそうだ。俺の恋人はこんなエロい格好なんてしないよな〜と自己完結してもう一度ドアを開けた。

 

ガチャ。

 

「お、おかえりなさい…。ご飯にします?お風呂にします?そ、それともわ、わ・た・し?」

 

今度は簪が裸エプロン姿が俺を出迎えてました………。

 

しかも隣には刀奈さんがいる。

 

とりあえず、うん。

 

俺はドアを閉めて、鍵を掛けて2人を抱きしめた。

 

「きゃっ!」

 

「ひゃっ!」

 

2人が小さい悲鳴をあげるが俺は構わずに抱きしめながら自分の心を落ち着かせる。

 

「簪、刀奈さん」

 

「「何?」」

 

「その格好で出迎えてくれるのは嬉しいのですが……初日からは勘弁してください」

 

「「え〜っ」」

 

脱力感に襲われながらもそう言うと2人は不満の声をあげた。

 

――――――――――――

 

「それで俺のルームメートは2人だったんですか」

 

「そうよ」

 

「うん」

 

俺の質問に2人は返事を返した。あれから簪と刀奈さんには着替えてもらい今は制服姿になっている。

 

正直、あのままの格好でいたら俺の理性が保てる自信がない。2人は俺の為にやってくれているのであまり強くは言えないがもう少し慎みもってくれ………。

 

「本当は篠ノ之箒さんが一夏君と一緒になる予定だったから、生徒会特権を使って部屋を一緒にするつもりだったんだけど千冬さんが私達と一緒の部屋にしてくれるように計らってくれたのよ」

 

「そうでしたか………」

 

ギャア―――――!?マジかよ!!箒と一緒にされたら俺の未来はもう真っ暗だ!もう一度言うぞ、真っ暗だよ!!

 

千冬姉、マジで感謝するわ本当にもう、今度美味い物作って差し入れしよう。

 

とそう心に誓い、今の幸せを噛み締めた。

 

「それと本音から聞いたけどイギリスの代表候補生にケンカ売られたんだって?」

 

「ああ、まあな……」

 

簪から聞かれて、返事をした。

 

確かに嫌な感じはしたけどまあ、今となってはどうでもいいよな………。

 

だって千冬姉の怒りを買ったし、俺の出番ないしな。

 

「話を聞いたら、随分と面白い事を言ってたみたいじゃない。一夏君の事を極東の猿扱いなんて許せないわ」

 

そう言って笑み浮かべているが正直怖い……。

 

「私達の彼氏に暴言や侮辱した罪でちょ―っとO☆HA☆NA☆SHIして来なきゃね」

 

「ちょ、ちょっと刀奈さん!」

 

と立ち上がり、部屋を出ようとする刀奈さんを慌てて止めようと声をあげる。

 

「待ってお姉ちゃん」

 

「何?簪ちゃん」

 

「それはダメ、そんな事したら許せない」

 

「簪……」

 

簪の言葉を聞いて、俺は思わずジーンと来たが―

 

「やるなら私も一緒に混ぜて」

 

「わかったわ」

 

だああああっ!?

 

俺は思わずズッコケた、止める気はないんだ………。

 

どうやら俺の恋人達はかなりご立腹のようです。

 

「2人共待ってくれ!俺の為にそんな事はしないでくれよ!」

 

「でも……」

 

「私達までバカにされてなんか悔しいじゃない……」

 

「それに千冬姉がきっちり処分してくれるから大丈夫だって」

 

「そう……」

 

「なら安心ね」

 

と、千冬姉の名前を出したら納得して俺の両隣に座ったの確認してため息をはいた。

 

俺がらみで血をみる事は正直勘弁してほしいです。

 

つまらない事でのもめ事は嫌なだもんな、静かに過ごしたいのは本当だもんな。

 

その後、2人と一緒にゆっくりと過ごし、そして就寝となり、ようやく初日を終える事になったがこの学園で三年間無事に過ごせるかどうかはわからないが2人の恋人達と一緒なら、大丈夫だろうと思い眠りについた。

 

さあ、明日も大変だぞ………。




おまけ

その頃のオルコットさんは補習室にて―

「…………」

「どうしたオルコット?まだ補習は終わってないぞ」

「そうですよ。まだ半分も終わってませんよ」

机に突っ伏してぐったりしてセシリアに声をかける千冬と真耶。

それもそのはず

(何でこんなに分厚いんですの―――――っ!?)

渡された補習用の教科書を見て、冷や汗だらだらになった。

電話帳二冊を合わせた厚さの内容は代表候補生の振る舞いやそれに対する事例を纏めた物だった。

「全く毎年毎年、こういう調子に乗ったガキどもは減らないな」

「そうですね。代表候補生に上り詰めたからと言って胡座をかいて傲慢なる人が多いですよね」

2人はそう言うがセシリアはもう限界だった。

(す、すでに二時間……休みすらないんですか……)

千冬が疲れたら真耶。真耶が疲れたら千冬に交代するのでぶっ続けに補習をする為セシリアは全く休めずにいた。

「ほら起きろ。今日は半分は終わらせるぞ」

「そうなると後2時間頑張りましょうね」

「ちょ、ちょっと待ってください!今日で終わりじゃないのですか!?」

「当たり前だ。お前がきちんと理解するまで毎日するぞ」

「そうですよ。でないと後悔するのはオルコットさんなんですからね」

「では続きを始めよう」

「はい。ちょうど100ページからですねでは―」

と千冬の号令と共に真耶は補習を再開した。

(誰か……助けて……ください……)

セシリアはそう心の中で呟き、次から余計な事を言わないようにしようと心に誓ったのだった。


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8話

次の日の朝からのイベントになります

どうぞ


次の日の朝

 

一年生寮の食堂にて、俺と簪と刀奈さんと同じテーブルに座って朝食を食べている。

 

ちなみに右隣に簪、左隣には刀奈さんが座っている。

 

「これ美味しいですね」

 

「そうよ、この学園の食堂の味はいい素材と腕利きの料理人がいるから格別よ」

 

「へえー、そうなんですか」

 

俺の今日の朝食は和食セットを頬被りつつも味の良さに感動する。

 

これも二人が一緒だから、味わえるかもな。

 

これが箒と一緒だったら………やめよう、ゆっくり味わえないどころかせっかくの朝食の時間が台無しになりそうだな。

 

周りの女子の視線を感じるが昨日ほどつらくはない。

 

刀奈さんがいるので視線が分散しているから気持ち的には楽だな。

 

何故、刀奈さんが一年生寮の食堂で朝食をとっているのかというと俺達と一緒に朝食を取りたかったからだそうだ。

 

二年生寮の食堂を使わなくて平気なのかを聞いてみたら

 

「大丈夫よ、ちゃんと千冬さんと二年の寮長から許可はとってるし、それに一夏君と少しでも長く一緒にいたいのよ」

 

と嬉しい事を言ってくれたので思わず刀奈さんを抱きしめた。

 

その様子を見て膨れていた簪も一緒に抱きしめてご機嫌取りをして、3人で食堂に行きこうしてゆっくりと楽しい時間を過ごしていた。

 

とそこへ―

 

「かいちょ〜、かんちゃん、いっちーここに座っていいですか?」

 

本音が朝食のトレーを持ってやって来た。

 

他の女子二人を連れて来ているので本音の友達かな?と思った。

 

「ええ、いいわよ。簪ちゃんと一夏君は?」

 

「いいよ」

 

「俺も構いません」

 

刀奈さんが本音に返事して座るように促す。

 

すると後ろの二人は小さくガッツポーズをしていたので大げさだな〜と思っていたがよくよく考えてみれば刀奈さんはロシアの国家代表にして生徒会長、簪は次期日本代表クラスの代表候補生、そして俺は唯一無二の男性操縦者のスリートップと一緒に朝食を取るのが貴重なんだろうな…………。

 

「うわ、織斑くんって朝はスッゴい食べるんだ―!」

 

「お、男の子だねっ」

 

「ああ、俺は朝はしっかりと食べないと1日持たないんだよ」

 

これは本当だ。

 

朝食は1日の始まりと考えているのでバランスをしっかりして食べるのが基本と考えているが本音を除く二人の朝食の量は少なめだ。

 

少食をアピールしているか、はたまたダイエットしているのかは知らないが詳しく突っ込まない。

 

だって、両隣に恋人達がいるから興味ないしそんな事をすればデリカシーのない男と認識されるのはごめん被る。

 

俺達は他愛ない会話しつつ朝食を楽しんだ。

 

――――――――――――

 

(あの男のせいでわたくしは――――!!)

 

一夏達のいるテーブルから少し離れたところでセシリア・オルコットは怒りに震えていた。

 

 

それもそのはず初日から千冬にケンカを売るという無謀な行動を起こしてしまい地獄の補習を喰らったのだ。

 

(何故、わたくしがこんな目にあわなければいけないのですか!?)

 

自分はイギリス代表候補生で入試主席、そして唯一教官に勝利した事を手土産にクラス代表に推薦されると確信していたが彼女に誤算があった。

 

一夏の存在である。

 

クラスの女子はセシリアではなく一夏を推す声が多数上がり、このままではセシリアを押し退けて一夏がクラス代表になってしまう事に対して、自分のプライドに火が着き、怒りのままあんな演説をしてしまったからさあ、大変。

 

一夏を侮辱して、自分がクラス代表に相応しい事をアピールしたかったが同時に千冬と真耶の怒りを買ってしまう悪循環に陥る事を知らなかったが為にこうなったのだからいわば“自業自得”なのだ。

 

しかし悲しいかなこの女尊男卑の社会に染まった女性は自分に非がないと思い込み、一夏を親の敵と言わんばかりに睨み付けているのだ。

 

ちなみに昨日夜遅くまで補習をしていた為、目の下に隈が出来ているがそこは化粧でごまかしている。

 

本当は今すぐにでも一夏に突っ掛かりたいが楯無が一緒にいる為に睨むしか出来なかった。

 

楯無はロシアの国家代表の現役でこの学園の生徒会長だ。

なのでヘタをすればロシアにケンカを売ってしまい代表候補生の座を剥奪される恐れがあるからだ。

 

千冬は現役を引退し、教師だったからこそ補習という処分で済んだのだから、セシリアは運が良かったのだろう。

 

(クラス代表決定戦で完膚なきまでに叩き潰して差し上げますわ………うふふ……)

 

と怒りを抑えつつ一夏のぼろぼろになった姿を想像しながら右手で銃の形を作り撃ち抜くポーズを取ったのだった。

 

――――――――――――

 

(どういう事だ!?一夏―――!!)

 

篠ノ之箒は一夏達と離れたテーブルで朝食を取りながら嫉妬の怒りを灯していた。

 

(なぜ私を誘わず、他の女達と仲良くしているのだ!?)

 

6年ぶりに再会した幼なじみは格好よくなり、箒自身胸を高鳴らせたが話しかけみたら他人行儀な話し方になってしまった事に困惑したが自分も成長しているし、自分自身自惚れてないが魅力的になったからこそ戸惑っているのだろうと考えていたが結果は箒を素通りして見知らぬ女達と仲良く朝食を取り、更に3人追加して楽しくしている光景に思わず腹がたった。

 

(あんなにデレデレしおって……私がいるのを忘れてはいないか?いや、そんな事はない!!)

 

箒は一夏が自分から離れていってしまうのではないかと考えてしまうがすぐに振り払う。

 

(一夏の隣は私が相応しいのだ!!6年前まではどんな時も一緒だったからな)

 

と心の中で呟くがしかし悲しきかな過去にした自分の行動に自己満足しているがゆえにすでに一夏の気持ちが離れてしまっている事に全く気付いていなかった。

 

(まあ、いい。3年間はこの学園いるのだ。いつでも時間は作れるし、私の良さをアピールして今度こそ一夏を私のものにするぞ)

 

うんうんと箒は頷いた。その表情はどこか楽しげだった。

 

――――――――――――

 

「ところで織斑、お前に専用機が支給される事になった」

 

授業開始時に千冬姉から俺に向かってそう言った。

 

「専用機ですか……」

 

「ああ、そうだ。理由はだいたいわかるな?」

 

「ええ……」

 

専用機を持たされる事にクラスメイト達はざわざわとするが俺としては正直気が重い…………。

 

専用機イコール俺の自衛手段と稼働データが欲しいのだろうな………それと専用機を持つ事に責任を持たなければならない。

 

間違えれば暴力に変わりかねない大きな力を持つ事になるからな……。

 

これはISを勉強していたからこそ理解出来ているからな………無知は恥とはよく言ったものだ。

 

俺は授業を受けながら、IS学園入学に専用機を持たされる事にだんだん逃げ場を失っていき、まるで籠の中の鳥みたいななった気持ちだ。

 

簪と刀奈さんと一緒に暖かい家庭を築く計画がだんだん崩れていくな………はあ………。

 

授業の途中、箒が何か叫んでいたが俺はそんな事に構う余裕はなかった。

 

――――――――――――

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

休み時間、早速俺の席にやってきたセシリアは、腰に手を当ててそう言った。

 

俺としてはどうでも良かったがほっといて欲しいな……全く。

 

「まあ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」

 

いかにも自分が勝つのが当たり前と言わんばかりに宣言している姿に昨日何で二人を止めたんだろうなと考えてしまったが………まあ、いいか。

 

「それで何が言いたいんだ?」

 

「あら、ご存知ないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくしセシリア・オルコットはイギリスの代表候補生………つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

「へー」

 

「……馬鹿にしていますの?」

 

「悪いけどさ、自慢話は他所でやってくれ。それに千冬姉の現役の時は自分の事を自慢する事は一切なく国の代表として立派に恥じない態度や振る舞いをしていたんだ。そんな事を聞かされても興味はわかない………自分の立場をもっと考えて行動しろ、それだけだ」

 

「なっ……」

 

と俺は一方的にセシリアに言い本音と一緒に学食に向かう事にした。

 

背後からセシリアの怒声が聞こえるが俺は構わずに歩き出した。

 

千冬姉も刀奈さんも簪も国家代表と代表候補生としての態度や振る舞いは立派で尊敬できる。

 

それに対してセシリアは代表候補生とエリートを鼻に掛けての自慢と傲慢ぶりに、全く尊敬出来ないし嫌気がさす。

 

俺自身の境遇と重なってイライラしているのかも知れないな。

 

そんな気持ちを抑えつつ学食に向かい昼食にありつくのだった。




この作品の一夏はISを知っているからこういう考えになります


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9話

お待たせしました。

最後のイチャイチャ加減に難しさが……。

ではどうぞ


学食に到着し、俺と本音はそれぞれ食券を買い、カウンターに渡して注文した食事を手に空いているテーブルに座った。

 

「会長達まだ来てないね〜」

 

「そうだな、少し早く来すぎたか?」

 

そう俺達はクラス代表決定戦の為の対策を話し合う為に学食に集まって昼食を食べながらしようと決めていたのでとりあえず合流しようとしていたがまだ来てないみたいだな。

 

「とりあえず少し待つか、よほどの事がない限り、必ず来るさ」

 

「そだね〜、何かあれば連絡してくるね〜」

 

とお互いに納得して料理に手を着けずに本音と対策を話していると。

 

「あー、ゴホン、ゴホン。ちょっとここいいか?」

 

誰かの声が聞こえたが俺と本音は対戦相手のISについて集まっている情報を話しているので気にしない。

 

「一夏聞いているか?おい?」

 

何だろう聞いた事がある声だな?でも気にしない。

 

「一夏―――!!」

 

「うわぁ!?」

 

大声を聞いて思わず、声をあげてしまった。

 

だ、誰だ?非常識なやつは?

 

後ろを振り返ると

 

「し、篠ノ之さん………」

 

箒がトレーを持って立っていたしかも不機嫌な顔をしているので正直マズイ。

 

「な、何か用か?」

 

「一緒に食べていいか?構わないだろ幼なじみなんだからな」

 

と俺の返事を待たずにドカッという音をたてて隣に座った。

 

はあ……勘弁してくれよ……。

 

内心ため息をはきながら、隣に座る幼なじみから気付かれないように少しだけ離れた。

 

本音を見ると箒の態度に少しだけ唖然とした表情に変わったのが確認できた。

 

「それでどうするつもりだ?」

 

「何が?」

 

突然箒が話しかけきたので俺は訳がわからずに聞き返した。

 

「クラス代表決定戦の事だ。お前は初心者なのだろう?勝ち目はあるのか?」

 

「まあ、ある程度の対策はたててるし。そう簡単に負けるつもりはないな」

 

「何だその返事は?男なら絶対勝つ!くらいの気持ちはないのか!?」

 

「そう言われてもな……」

 

箒の言葉にいまいちピンと来なかった。

 

男ならがなんだよ!?お前の考えを俺に押し付けるなよ!!と言いたいがいかんせん至近距離の為、反撃が怖くて言えません………。

 

すっかりトラウマレベルだなこれは…………。

 

「ねえ。君って噂の子でしょ?」

 

箒に対してヘタレてる俺にいきなり、隣から女子に話しかけられる。見ると三年生のようだった。

 

リボンの色が違う。一年は青、二年は黄色、三年は赤だ。

 

よく考えると全学年の知り合いがいるからよくわかってるよな。

 

「まあ、たぶん」

 

俺が返事をすると、先輩は隣の席にかけた。

 

「代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、ほんと?」

 

「はい、そうです。情報早いですね……」

 

女子校だから噂の伝わりはかなり早いのかな?だとしたら正直うかつな行動はとれないな。

 

「でも君、素人だよね?IS稼働時間いくつくらい?」

 

「えっと……一時間くらいですかね」

 

「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がものをいうの。その対戦相手、代表候補生なんでしょ?だったら軽く300時間はやってるわよ」

 

「確かに……」

 

先輩の言葉に俺は同意した。ISを知らなかったらすごいのかわからない状態だったし、ISについてある程度の理解があるからすごいと感じた。

 

そうなると対策をもっと練らないとな。

 

「でさ、私が教えてあげよっか?ISについて」

 

と身を寄せてくる先輩に正直困った。すでに簪と刀奈さんと本音と虚さんからISについて教わっているので間に合っている。

 

がしかし、ここで下手に断れば何かしらのデメリットが生じる恐れがあるからだ。

 

出来れば穏便に済ませたいところだが―。

 

「結構です。私が教えることになっていますので」

 

とここで今まで黙っていた箒が口を開き、とんでもない事を言い出した。

 

俺、そんな事頼んだ覚えはないよな!?

 

「あなたも一年でしょ?私の方がうまく教えられると思うなぁ」

 

「……私は、篠ノ之束の妹ですから」

 

更にとんでもない事を言い出した。

 

ここで束さんの名前を出すなよ!良くも悪くもこの名前は力を発揮するな……。

 

「篠ノ之って――ええ!?」

 

先輩はここぞとばかりに驚いた。そりゃあ、ISを作った人ね妹が目の前にいればね……。

 

「ですので、結構です」

 

「そ、そう。それなら仕方ないわね………」

 

と先輩はそそくさと退散してしまった。まあ、箒のおかげでトラブルにならずに済んだ訳だが感謝はしていない。全然頼んでない上に俺の了解もなく勝手に言ってしまったからだ。

 

「なんだ?」

 

「いや、ISとクラス代表決定戦についてはもう間に合ってるぞ」

 

「何だと!どういう事だ!!」

 

俺の発言を聞いて箒はガタンと音をあげて立ち上がる。

 

「すでに教えてくれる人に頼んであるから、だから篠ノ之さんには悪いけどお断りさせてもらうよ」

 

「なっ!?」

 

正直言って箒に教えて貰う理由はない。

 

何故かって?教え方が下手過ぎるからだ。

 

何でもかんでも擬音祭りで本当にわからない。剣道をやっていた時にその事を深く感じていた。

 

それにISが原因で不遇な目に合っているのに人に教えられる知識がある訳がない。

 

とここまでが建前で本当は箒と一緒に居たくないのが心の底からの本音だ。

 

「よし本音、クラス代表決定戦の話の続きをしよう」

 

「いいよ〜」

 

「ちょっと待て!私を無視するな!!」

 

箒は無視して、俺達は対策案を再開した。そろそろ刀奈さん達が来るはずなんだけどまだかな?

 

本音と真剣に話し合っていると

 

「一夏ぁ――――――っ!!」

 

「ゲッ!?」

 

相手にして貰えなかったのが頭に来たのかどこからか取り出した竹刀を俺に目掛けて振り下ろそうとしていた。

 

竹刀をかわそうにも座っている為動けない、無理に避ければ本音に危害がくる可能性もある、仕方ない受け止めるか………。

 

俺は目を閉じてやってくるであろう痛みに備えた。

 

…………?

 

あれ?痛みがこない?

 

いつまでも衝撃がこないので俺は恐る恐る目を開けると

 

「まったく、危ないわね……」

 

刀奈さんが呆れた表情をしながら立っていた。どうやら俺を守ってくれたみたいだ。

 

「竹刀は暴力を振るう道具じゃないわよ」

 

よく見ると意識を刈り取ったのか箒は床にうつ伏せの状態で倒れていた。

 

「一夏大丈夫?」

 

心配そうにして俺の様子を伺う簪。

 

「ああ、大丈夫だ。それから助かりました楯無さん」

 

「どういたしまして」

 

俺が感謝すると刀奈さんは嬉しそうに返事をした。

 

その後、ちょっと遅れて虚さんがやって来て皆で昼食を取る事となった。

 

箒?千冬姉に頼んで連れて行ってもらったから心配はない。

 

今頃は、説教を受けているだろうな………。

 

――――――――――――

 

「じゃあ今日からISの特訓を始めるわよ」

 

と元気よく刀奈さんが宣言した。

 

これからクラス代表決定戦まで俺にISの特訓を組んでくれた。

 

内訳としては簪と刀奈さんがISの実技について教えて、虚さんは対戦相手であるセシリアのISについての情報や対策、初心者である俺に出来る作戦を考えてくれる。本音は記録と身の回りのサポートを担当する事になった。

 

「それじゃあISに慣れる事から始めましょうか」

 

と訓練機の『打鉄』を用意してもらった。本来なら訓練機は予約制で一杯なのを交渉して譲ってもらった。とりあえず千冬姉の写真を手に交換条件にしたらあっさりと成立したのだった。

 

ちなみにこの件は千冬姉からあらかじめ許可を取っている。出していい写真とダメなのを確認してもらってから交渉の材料としているので問題なし。

 

「まずは準備体操からね」

 

と今日は刀奈さんが最初に指導してくれる訳だが、俺としては正直、目のやり場に困る………。

 

ISスーツ姿の刀奈さんが妙に艶かしいのだ。まあプロポーションがいいのもあるが出るとこ出てるし引っ込むところはしまっている。

 

それに恋人効果もあってドキドキしている、しかし教えてもらっている側としては邪な気持ちで受けてはいけないが正直キツイな……。

 

「もうっ、一夏君聞いてる?」

 

「えっ?は、はい!」

 

 

刀奈さんの声に反応して慌てて返事を返した。

 

「大丈夫?調子が悪いんならやめる?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「でも顔が紅いわよ。熱でもあるの?」

 

そういい手のひらを俺の額に当てて熱を測っていた。

 

「熱はないみたいね。本当に大丈夫?」

 

「大丈夫です。ただ…」

 

「だだ?」

 

「刀奈さんの格好に目のやり場に困ります」

 

「もうっ!何言ってるのよ!」

 

と自分の身体を抱き締めて恥ずかしがる刀奈さん。

 

「すでに私の全部見せてるじゃない」

 

「それでもですよ。刀奈さん艶っぽいし、それに凄く綺麗です……」

 

「一夏君……」

 

「刀奈さん…」

 

お互いにドキドキしながら見詰めながらこのままキスをしようとしたその時―。

 

「かいちょ〜、いっち〜そろそろ始めないと時間なくなるよ〜」

 

「「はっ!」」

 

 

本音の声に俺と刀奈さんは我に帰り、用意してくれた訓練機に乗り特訓を開始した。

 

ちなみに簪とも同じように見つめあってしまい本音に言われて我に帰るという事をやってしまったがISの稼働についてだいぶ慣れてきた。

 

この6日間の特訓で少しだけ自信を着けた気がする。

 

その間箒はというと学食で暴れた罰でクラス代表が決まるまで千冬姉と山田先生の手伝いを命じられた為絡んでくる事なかった。

 

こうしてクラス代表決定戦当日になった。




どうでしたか?


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10話

昨日に続いての投稿です。

どうぞ


「………どうしてお前がここにいる?」

 

迎えたクラス代表決定戦当日。

 

俺は刀奈さんと千冬姉と一緒にピットで専用機がまだ来ていなくて待っていたがある事が気になり千冬の一言から始まった。

 

「篠ノ之」

 

「わ、私ですか!?」

 

千冬姉に言われてショックを受けるがこの中では一番の部外者はお前だよ箒、俺はそう心の中で呟き顔には出さずにいた。

 

「そうだ。いくらアイツの妹だからと言って特別扱いはしない。さっさと観客席のあるアリーナに行け!」

 

「だ、だったらコイツはどうなのですか!?明らかに部外者ではないで…あぐっ!?」

 

ゴスン!

 

ピット内に鈍い音が響く。千冬姉が刀奈さんに指を指して抗議をしている箒の頭上に拳骨を落とした。

 

「上級生に向かってコイツ呼ばわりとは何だ?お前には年上を敬う気持ちはないのか?それに人を指差すな」

 

「す、すいません……」

 

頭を抑えながら謝る箒にちょっとだけ楽しくなった。いいぞもっとやれ。

 

「更識は私が織斑のコーチをするように頼んだのだ。だからここにいて当たり前だ」

 

「なっ!?私ではなくてですか!」

 

「何を言っている?お前には絶対に頼まん。何故だかわかるか?」

 

「い、いえ……」

 

「お前の教え方が下手だからだ!」

 

「な、何を…」

 

「お前の教え方は何だ?擬音だらけで全く理解できん。道場に通っていた時から感じていたぞ」

 

ありがとう千冬姉。俺が今まで言いたかったのを言ってくれて。ああ…、胸のつかえがとれていく。

 

「そ、そんな私は……」

 

「それにお前の事だ。ISの事などそっちのけで剣道の稽古しかやらないで当日を迎える事を想定していた。だからこの学園の生徒会長である更識に頼んだのだ」

 

「うっ……」

 

千冬姉の発言に箒は言葉に詰まる。予想通りかよ!?本当に一緒じゃなくて良かった―――!!

 

と俺は表情を崩さずに試合に集中しているふりをしている。

 

「そういう訳だ。篠ノ之、お前はさっさとアリーナに行け、でないと織斑が集中出来ないだろう」

 

そう言い千冬姉はしっしっと追い払うような手をして箒を退出させようとする。

 

「くっ……い、一夏。お前からも何か言ってくれ!」

 

千冬姉が完全に自分を部外者と認識して対応しているのがわかったのか俺に助けを求めてくる箒だが―。

 

「すまない篠ノ之さん。今は目の前の試合に集中したいんだ。お願いだから織斑先生の言う通りにして退出してくれ」

 

そう言い俺は箒を突き放した。実は内心ヒヤヒヤしながら言っている。

 

「くっ……もういい!」

 

俺の言葉にショックを受けたのかわからないが箒は涙目で睨み付けて、足早にアリーナを後にしていった。

 

「どうやら行ったみたいだな」

 

「ですね……」

 

箒が完全に居なくなったのを確認してから俺はゆっくりと息をはいた。

 

本当に箒がいると体が強ばって緊張してしまうから試合前に近くにはいてほしくはないからな。

 

「簪ちゃん出てきていいわよ」

 

「うん」

 

刀奈さんに促されて今まで隠れていた簪が出てきた。

 

ちなみに四組である簪はクラス代表だ。えっ?何でここにいるのか?って確かに別クラスだけど簪が

 

「わかってるよ。でも一夏の初陣だし、お姉ちゃんと一緒に一夏のそばで応援したい」

 

と嬉しい事を言ってくれたので思わず抱きしめた。

それを見ていた刀奈さんが焼きもちを妬いてしまったのでご機嫌とりで抱きしめた。

 

と言う訳で、簪と刀奈さんが俺の為に一緒に居てくれる事になった。

 

千冬姉にはちゃんと許可をとっているから箒みたいに追い払うなんて事はしない。

 

まだかな〜専用機は?そろそろ来てほしいなと思っていると。

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

 

第三アリーナ・ピットに駆け足で呼びながら副担任の山田先生だ。

 

本気で転びそうで、見ているこっちがハラハラしそうだが、そのさいに山田先生の大きな胸が揺れるので思わず見いってしまった。

 

まるでポヨンポヨンかたゆんたゆんと言う音が聞こえそうだ。

 

おお、スゲエ……改めてみるとデカイな山田先生………。

 

ギュウゥゥッ!

 

「いでででで!?」

 

突然、痛みがやって来たので見ると俺の恋人達がISスーツを着ていたのでむき出しの脇腹をつねられていた。

 

「……一夏」

 

「……一夏君」

 

「は、はい」

 

「今どこを見ていたの?」

 

「今どこを見ていたのかしら?」

 

「ごめんなさい。俺が悪かったです」

 

頬を膨らませた簪と黒い笑みを浮かべていた刀奈さんを見た俺は直ぐ様謝った。

 

いかんいかん、二人がいるのに思わず見てしまったな。

 

「二人共そうむくれるな」

 

俺達の様子を見かねた千冬姉が二人をなだめにかかった。

 

「でも…」

 

「ですが……」

 

「まあ、仕方ない事だ。山田先生のはムダにデカイからな。織斑も見てしまうし誰しも注目するな」

 

「む、ムダにデカイってひどくないですか!?」

 

千冬姉の言葉に思わずショックを受ける山田先生。

 

「そうだろう?でなければあんなにドジはしないはずだがな」

 

「ど、ドジは胸のせいじゃないですよ!!」

 

心外と言わんばかりに千冬姉に抗議する山田先生。

 

「それで何か用があったのだろ?何だ?」

 

「そんな事は後でもいいですから言い訳させてくださ―――い!!」

 

話を反らされてしまい反論出来ずに涙目になる山田先生でした。

 

完全に千冬姉に振り回されているな………山田先生、ご苦労様です。今度差し入れしますね。

 

「ううっ……、それでですね!来ました織斑くんの専用IS」

 

「やっとか……織斑時間がない。装着する準備をしてくれ」

 

「わかりました」

 

千冬姉に促されてピット搬入口に向かう。

 

―そこに『白』がいた。

 

真っ白な装甲を解放して俺を待っているかのような感じがした。

 

「それじゃ、装着しましょう簪ちゃんも手伝ってね」

 

「うん」

 

簪と刀奈さんに言われて白のISを身に纏う。

 

まるで空気が抜けたような感じだが俺としては一体感が出来たような気がする。

 

刀奈さんが周りを確認して、簪がカタカタとパソコンを入力しながら俺の動きについていけるように書き換えてくれる。

 

「時間がないからこれくらいしか出来ないけど全く反応が追い付かないなんて事はないようにしたよ」

 

「後は試合の中で第一次移行[ファースト・シフト]をするしかないから何とか時間を稼いでね」

 

「はい」

 

二人のアドバイスとサポートを受けてピット・ゲートに足を進める。

 

「一夏、無理はするなよ。無事に終わらせてこい」

 

「ありがとう千冬姉」

 

背後から千冬姉の激励が届いたの感謝の返事を返しつつ。ゆっくり目を閉じて集中する。

 

大丈夫。今までの事を思い出せば絶対に負けない。

 

「簪、刀奈さん」

 

「「何?」」

 

「頑張って来ます」

 

「「いってらっしゃい」」

 

俺はみんなに見送られながらセシリアの待つ場所に向かう。

 

さあ、勝負だ




結構短めになりましたが次回セシリア戦をお楽しみに


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11話

セシリア戦になりますが1話で纏まらなかったので二話に分けました。

ではどうぞ


「あら、逃げずに来ましたのね」

 

俺が現れたのを見るとセシリアはふふんと鼻を鳴らした。相変わらずの腰に手を当てたポーズだ。

 

けれども俺はそんな事に興味はなくセシリアのISに目を向ける。

 

鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる。

それを駆るセシリアの手には二メートルを超す長大な銃器レーザーライフル《スターライトMkⅢ》が握られていた。

ISは元々宇宙空間での活動を前提に作られているので原則空中に浮いている。そのため自分の背丈より大きな武器を扱うのは珍しくない。

 

うん。ここまでは虚さんから教えてもらった通りだな。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

腰に当てたを俺の方に、ピッと人差し指を突き出した状態で向けてくる。左手の銃は、余裕なのかまだ砲口が下がったままだ。

 

「チャンスって?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」

 

そう言って目を笑みに細める。

 

俺のISから情報が流れ、ロックされているのがわかる。

 

うーん。俺、謝るような事したかな?むしろ謝る必要があるのはセシリアじゃないのかな?主に千冬姉に……とナメられた言葉を投げ掛けられても怒りは感じなかった。

 

「そういうのはチャンスとは言わないな」

 

「そう?残念ですわ。それなら―――」

 

――警告!敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。

 

「おわ――ひいいっ!?」

 

「へ?」

 

俺に目掛けて砲口からレーザーが発射されそうになり身構えていたら、突然セシリアは悲鳴をあげて自分の身体を抱き締めながら震え出した。

 

真剣勝負に気持ちを切り替えていた俺にとって突然の事に唖然となった。

 

セシリアの突然の変化にざわざわと観客席から戸惑いの声がわき起こる。

 

「お、おい大丈夫か?調子が悪いんなら別の日にしてもいいんだぞ?」

 

顔を青ざめさせて震えているセシリアに対して心配になり声をかけた。体調が悪くて負けたなんて言われたくないし、そんな相手に勝利しても嬉しくないからだ。

 

「だ、大丈夫です。あなたに心配されるつもりはありませんわ」

 

「そう言われてもな……」

 

いまだに震えているセシリアに正直どうすればいいか迷っている。

 

「敵の施しは受けません!お別れですわね!」

 

青ざめさせていた顔を奮い立て、スターライトから閃光が襲い掛かる。

 

「おわっ!?」

 

不意討ちに近い形だが何とかかわした。とりあえずセシリアは元に戻ったようだな。

 

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲{ワルツ}で!」

 

そう言い、射撃射撃射撃とまさに雨のごとく降り注いでくる。しかも的確にこちらを狙ってくる為、凌ぐのですら難しい。でも俺は不思議と焦りや不安がなかった。

 

「装備は…」

 

白式に内装されて武装を見ると『近接ブレード』のみだった………。

 

え―、……それしかないのかよ………。

 

仕方ないな……。

 

とりあえず使ってみるか、俺は近接ブレードを呼び出して装備した。

 

「中距離射撃型のわたくしに近距離格闘装備で挑もうだなんて………笑止ですわ!」

すぐさまセシリアの射撃。それを難なくかわす、普通なら絶望的な距離だが俺には問題ない。何故なら―

 

「悪いが俺は絶対勝利の女神達に愛されているんだ。そう簡単には負けてやる訳にはいかないな……いくぞ!」

 

今まで特訓に付き合ってもらった簪、刀奈さん、そして虚さんや本音の為に引くわけにはいかない。激戦が、始まった。

 

――――――――――――

 

「くっ……なかなかやりますわ」

 

開始から10分が経過した。

シールドエネルギーはそんなに減ってはいないし、実体ダメージはない。

 

「このブルー・ティアーズを前にして、初見でかわされるなんてあなたが初めてですわね」

そう言ってセシリアは自分の周りに浮いている4つの自立型機動兵器を、まるでフリスビーを取ってきた犬を褒めるかのように撫でる。

フィン状のパーツに直接特殊レーザーの銃口が開いている。その兵器の名前が『ブルー・ティアーズ』と呼ばれている。

最初虚さんから聞いた時にはややこしくなったが実戦投入一号機なのでそうなったらしいと教えてくれたので納得した。

 

そのおかげもあって対策はばっちりだ。本当に虚さんには感謝だな。早い内に差し入れしよう。

 

「いつまでもまぐれは続きませんわ。では、閉幕{フィナーレ}と参りましょう」

 

セシリアは笑みと共に右腕を横にかざす。すぐさま、命令を受けたブルー・ティアーズは二機多角的な直線機動で接近してくる。

 

「よっ、ほっと」

 

ビットの先端からレーザーが放たれるが難なくかわす。そこからセシリアのライフルが突いてくるが忍者の動きのごとくよけて接近していく。

 

「さっきからちょこまかとややこしいですわ……」

 

俺の動きに着いてこれずセシリアは思わず呟いた。

訓練機である程度の回避のしかたを教わっていたのと初期状態でここまで動けているのはありがたい。

簪が軽く設定してくれたのが役にたってるな、それならこれが出来るな。

 

俺は簪と一緒に特撮ヒーロー物を観ていた時に必殺技として繰り出していたのを思い出してセシリアの頭上をはるか上空に飛び出した。

 

「一体何を?」

 

セシリアは俺の行動に訳がわからないみたいだがこの方が好都合だ。

このまま1回転してそのままセシリア目掛けて急降下して右足を突きだした。

 

「はああぁぁっ!」

 

「なっ、何ですの!?」

 

セシリアは咄嗟にビットを使い、俺の動きを止めようとしたがそれよりも速く落下している為に当たらない。

 

いけるな。当たれ!!

 

ズドォォン!

 

俺のキックは見事セシリアのボディにヒットした。

 

「きゃああっ!?」

 

衝撃に耐えきれなかったのか悲鳴をあげて吹き飛ばされる。

 

「な、何て攻撃を……」

 

セシリアは壁際までに吹き飛ばされたところを体勢を立て直した時には驚愕の顔に染まっていた。

 

ある程度のダメージは与えたはずたが決定打にはならなかったか。

 

「もう接近はさせませんわ!今度こそ閉幕{フィナーレ}です!!」

 

セシリアの表情が変わったのかわからないがどうやら俺は強者と認識して本気になったみたいだな。

 

「今度はこっちが閉幕にしてやるよ」

 

グッと右手を握り締めてセシリアに向かい打った。

 

――――――――――――

 

「はあぁ……。凄いですね織斑くん」

 

ピットでリアルモニターを観ていた真耶はため息混じりに呟く。確かに一夏はセシリアと比べて稼働時間が劣るとはいえ健闘を通り越して圧倒しているのだ。

 

「ああ、更識達との特訓の成果が出ているな」

 

「そうですね……惚れ惚れしちゃうくらいに成長してますよ」

 

千冬の言葉に笑みを浮かべて楯無は彼氏である一夏の成長ぶりを喜んだ。

 

「一夏……カッコいい……」

 

そして簪は頬を紅く染めながら両手を胸の前に組み目をキラキラと輝かせていた。

 

(やれやれ……一夏の事が好きだからな……仕方ないか……)

 

簪と楯無には恋人フィルターもあってか一夏の健闘ぶりによりさらにカッコよさを引き立たせており、その戦いぶりを目に焼き付けようとモニターに食い入っている事に気付いているのは千冬だけだった。

 

(お二人共真剣ですね。特訓相手をしたから心配なんですね)

 

真耶は二人は一夏の特訓相手をしている事は知っていたので戦いぶりが気になっているのだなと感じていたがしかし、すでに恋仲になっている事は知らない。

 

(頑張れよ……勝負はまだわからないぞ……)

 

千冬はモニターを見つつ心の中で一夏の事を応援するのだった。

 

――――――――――――

 

――獲った!

 

セシリアの間合いに入った俺はブレードを振り下ろしてビットを破壊していく。

 

「なっ!ブルー・ティアーズが!?」

 

まさか全部破壊されるとは思わなかったのかセシリアは驚きと動揺が隠せないようだ。

 

チャンスだ!俺は一気に勝負を決めようと接近したが―

 

「―――かかりましたわ」

 

ニヤリとセシリアが笑うのが見えた。――マズイ!ここで出してくるのか!?

焦り過ぎたか虚さんに教えてもらっていた大事な事を忘れていた。

 

ヴンッ―。

 

セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。その突起が外れて、動いた。

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」

 

そのまま俺目掛けてレーザー射撃用のビットではなく、弾道型つまりはミサイルだ。

 

「チッ……」

 

ドカァァンッ!!

 

咄嗟にブレードを振り下ろすが間に合わず、俺は爆発と光に巻き込まれた。

 




おまけ


セシリアが急に震え出した理由―

「わたくしが――」

(オルコットめ、あれだけ補習しても理解しなかったようだな。私は悲しいぞ……)

(本当にいい度胸してるじゃない。一夏君には悪いけど実力行使しようかしら)

(一夏の事をあんなにバカにして……許せない!!)

上から千冬、楯無、簪である。額にはビシッと怒りマークが出ていた。

「二人共。万が一、織斑が負けたら私が出よう。それでいいな?」

「いえいえ私がでます。織斑先生の手を煩わせる訳にはいきませんよ」

「ううん。私がやる、あんな小物にお姉ちゃんや織斑先生が相手するのはもったいないよ」

と三者三様に言うが心は既に一緒だった。

一夏をバカにしたオルコット許さん!!である。

哀れセシリア、すでに処刑と言う名の模擬戦が組まれていた事は知らなかった。

「「「うふふふ……」」」

と笑み浮かべてセシリアを見つめた。

セシリアはそれを恐怖と感じたのか悲鳴をあげて、寒さで震えるのだった。

(オルコットさん。さすがにやり過ぎですね……自業自得です)

1組で一番の良心的である真耶は3人を止めるような事はしなかった。

何故ならあれだけ補習したのに理解してもらえなかった哀しさにショックだった。

その事に関して心を鬼にして実力行使せざるを得ないと決心していたのだった。


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12話

セシリア戦後半です。

どうぞ


「一夏!」

 

「一夏君!」

 

モニターを見つめていた簪と楯無は、思わず声をあげた。

 

静かに戦況を見詰めていた千冬と真耶も、爆発の黒煙に埋まった画面を真剣な面持ちで注視する。

 

「――ふん」

 

黒煙が晴れたとき、千冬は鼻を鳴らした。けれど、どこかその顔には安堵の色がある。

 

「肝心なところで油断したな……機体に救われたか」

 

まだかすかに漂っていた煙が、弾けるように吹き飛ばされる。

 

そしてその中心には、あの純白の機体があった。

 

そう、真の姿で――。

 

――――――――――――

 

――フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください。

 

ふう……危ない危ない……。ミサイルの直撃を受けたときに現れたウィンドウにちょっと安堵した。

 

どうやら、俺専用になったみたいだ。

 

そして指示されるがまま『確認』ボタンを押すと―。

 

キィィィィン…。

 

高周波な金属音が聞こえるがそれが合図なのだろう。全身の装甲が新たな形に変わっていく。

 

「ま、まさか……一次移行{ファースト・シフト}!?あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」

 

「その通りだよ。出来れば初期設定のまま、終わりたかったが………流石は代表候補生、そう簡単にはいかなかったな」

 

「っ……バカにして!」

 

俺の言葉を聞いてセシリアはギリッと歯噛みをしていた。

 

どうやら挑発と受け取ったみたいだな。

 

そんなやりとりをしているうちに俺の装甲は変化を終えた。

 

最初の工業的な凹凸は消え、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的などこか中世の鎧を思わせるデザインへと変わっている。

そして何より変わったのはその武器だった。

 

――近接特化ブレード《雪片弐型》。

 

日本刀から生まれたような刀身は、刀より反りのある太刀に近い。

それに何より、その名前だ。

 

――雪片。それは、かつて千冬姉が振るっていた専用IS装備の名称。刀に型成した形名。それが雪片。

 

キツいな………

 

「まさかこれを持つことになるとは思わなかったよ」

今更ながらこの専用機を造ったヤツに文句を言いたくなった。

 

雪片は千冬姉だけが持つのにふさわしい武器のはずだ。なのに俺がこれを持つのには正直手に余る。

 

……ああ、まったく。つくづく思い知らされる。

 

「俺は恵まれ過ぎだよな……」

 

専用機に千冬姉の最高の武器を持たされる事に俺は思わず呟いた。

 

「とりあえず、この武器{名}に恥じない戦いをするか」

 

「……は?あなた、何を言って―」

 

「さあ、ここから本番だ!」

 

俺は雪片をしまい。セシリアに素早く接近する。

 

「なっ、速い!?」

 

さっきまでとはスピードが違う、さすがに俺専用になっただけはある。

 

そして、その勢いのまま拳を振り下ろした。

 

「くうっ!」

 

セシリアはとっさに銃身を盾にしてガードするが衝撃は伝わっているようだ。

 

今度は焦らずにいくぞ!

 

俺はセシリアに追撃ラッシュを開始していく。

 

殴打、蹴撃、裏拳、ついでにドロップキック。

 

格闘オンリーで攻めていきセシリアの戦いはさせない。

 

「このっ!いい加減にしなさい!」

 

俺からのラッシュに対応が出来なくなったのか銃身を振り回して距離を離していく。

 

「これ以上はやらせませんわ!」

 

ラッシュ中に再装填していたのか弾頭型のビットが発射される。

 

「もう同じ手は食らわねえ!」

 

しまっていた雪片を呼び出しての横一閃!残っていたビットは全て破壊した。

 

もう隠し玉はないな、虚さんからレーザーが曲がる射撃があると聞いてはいたがセシリアはそこまで扱えていないみたいだ。

 

さあ、そろそろ決めるぞ。

 

雪片は鞘にしまい腰に装着し構える、所謂居合いの形だ。

 

千冬姉は刀を抜いたままで一撃必殺の技を使うが俺は違う。

 

俺は千冬姉みたいな戦いは出来ない………、けれども俺は俺の戦いをするだけだ。

 

「あら、武器をしまうだなんて降参ですか?」

 

「いや、違う。この一撃で仕留めるだけさ!」

 

俺はそう言い、セシリアに一気に加速し接近する。

 

「このっ!墜ちなさい!!」

 

セシリアは接近を許すまいとレーザーライフルをしきりに連射してくるがもうすでに見切っている。

 

後はタイミングのみ……。

 

俺は居合いの間合いに飛び込みセシリアの懐に近付いたところで雪片を抜刀し素早く一閃。

 

そのままセシリアを通りすぎて離れた。お互いに背中合わせにしつつ雪片を1回転させて鞘に収めて呟く。

 

「俺の勝ちだ……」

 

その瞬間セシリアの機体からバチンと言う音と共にエネルギーダウンしていくのがわかる。

 

『試合終了。勝者織斑一夏』

 

決着の着いたブザーとアナウンスで俺の勝利が決まった。

 

――――――――――――

 

「よくやったな織斑。代表候補生に初戦で勝利した事を喜んでいいぞ」

 

ピットに戻った俺に千冬姉はそう言って誉めてくれた。

 

「おめでとう一夏。凄くカッコ良かった」

 

「一夏君良かったわね。特訓が役に立ったみたいだし、私達も嬉しいわ」

 

 

簪と刀奈がやって来てお褒めの言葉と共に抱きしめてくれた。

 

ああ……俺勝ったんだな。しみじみとISでの初勝利を噛みしめる。

 

「えっと、ISは今待機状態になってますけど、織斑くんが呼び出せばすぐに展開できます。ただし、規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はい、これ」

 

山田先生がIS起動におけるルールブックを渡されたが結構分厚い。まあこれくらいでないと規則にならないんだろうな………。

 

「何にしてもお前の初戦はよくやった、今日はこれでおしまいだ。帰って休め」

 

「ありがとうございます」

 

「それから更識姉妹、織斑を頼んだぞ」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

千冬姉に促されるまま俺と簪と刀奈さんはピットを後にした。

 

――――――――――――

 

「はあ……」

 

あれから制服に着替えて夕飯を済ませて部屋に戻ってくるなりソファーに座り一息ついた。

 

「お疲れ一夏」

 

「お疲れ様一夏君」

 

俺の両隣にそれぞれ座り労いの言葉をかけてくれる簪と刀奈さん。

 

「ああ、みんなのおかげで勝てたから正直ホッとしてるよ」

 

部屋に戻って張り詰めた空気が無くなり体が重くなった気がする。今までの疲労感がやってきたみたいだ。

 

「これからもISの訓練は持続させないとね」

 

「そうですね。お願いします」

 

「私も頑張る。ようやく専用機が完成したから一夏と一緒にできるね」

 

そう言ってぐっと両手を握り締めて気合いの入った顔をする簪。

 

今まで専用機の完成が遅れていたがようやく完成のメドがたったみたいだな。

 

一時は完成が見送られる事になりそうだったからな………主に俺のせいで………。

 

俺の専用機を造ったところは簪と同じ倉持技研だそうだ。

 

ところが唯一無二の俺が優先されてしまい簪の専用機の完成を見送られてしまいその事で悲しんでいた姿を見て腹がたった。

 

なので倉持に殴り込みという名の抗議をしようとしたが千冬姉に止められた。

 

私が話をするから安心しろと言っていたのでどうかなと思っていたが、次の日には簪の専用機の完成見送りの件はなくなり晴れて完成する事になった訳だ。

 

ただ簪が言うには技術者達の顔にあちこち痣があったと言っていた事を聞いて思わず頭を抱えたくなった。

 

千冬姉やりすぎだよ………。

 

まあ、千冬姉も怒ってたんだな………。簪と刀奈さんとは仲良いし実の妹みたいに可愛がってるからなおさらだ。

 

「あ〜、そういえばクラス代表どうしょうか……」

 

ふと思い出して呟いた。

クラス代表決定戦で勝利した訳だから必然的に代表になるんだよな。

 

「一夏、クラス代表になるの嫌なの?」

 

俺の顔を見て気になったのか簪が聞いてきた。

 

「まあな、俺としては最初の一年はISの実技と勉強を優先したいからそういうのは遠慮したかったんだよ………」

 

クラスの女子達にしたら唯一無二の男性操縦者である俺を出したかったんだよな〜色んな意味でな。

 

「確かにそうよね。一夏君はまだ初心者だし、クラス代表が忙しくてISの勉強が疎かになったら大変ね」

 

「ええ、出来れば誰かにやらせる形にしたいんですが……何かないですか?」

 

「だったら生徒会に入らない?一夏君が入るなら歓迎するわ」

 

俺に生徒会入りの提案をする刀奈さん、確かに魅力的だよな。

 

「構いませんが俺が入っても大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫よ。一夏君と簪ちゃんが入学するまでは虚ちゃんと一緒だったし、人手が欲しいのよ。どうかしら?」

 

「わかりました。生徒会に入ります」

 

「ありがとう一夏君」

 

「私も生徒会に入ってもいい?」

 

「もちろんよ簪ちゃん」

 

俺が生徒会入りが決まり、それを受けて簪も入りたいと言ってきたのを笑顔で了承する刀奈さん。

 

これでクラス代表は回避される事は決まったな。まあ、セシリアがやりたがってたし問題ないだろう。

 

「一夏君の生徒会入りが決まったところでそれじゃ夜の運動しましょうか?」

 

そう言って刀奈さんは制服の上着を脱ぎ俺にすり寄ってきた。

 

「えっと……今日はもう疲れたから休みたいんですけどダメですか?」

 

「ダ・メ」

 

「それに一夏、山田先生の胸をじっと見てた……」

 

あらら……、さっきの件での嫉妬から火が着いてしまったようです。

 

「なので私達の魅力で一夏君をメロメロにしないとね」

 

「うん。いっぱいして惚れ直してもらうんだから」

 

「あはは……困ったな……」

 

と言ってはみるが本当は困ってない、困ったフリをしてるだけで顔がニヤケてしまっている。

 

「だから今夜は寝かさないよ」

 

「そう言う訳だから覚悟してね」

 

「「一夏(君)♪」」

 

そう言って恋人達に押し倒されてしまい、そのまま俺達は情事に展開するのでした。

 

――――――――――――

 

「では、一年一組の代表はセシリア・オルコットさんに決まりました」

 

『ええ―――っ!?』

 

翌日の朝のSHR。山田先生が嬉々として喋ってはいるがクラスの女子は納得がいってはいないようだ。

 

「静かに!私が理由を話そう」

 

騒いでいる女子達に一喝して黙らせる千冬姉。

 

「なぜ織斑がクラス代表にならなかった理由は生徒会入りが昨日決まったからだ。なのでクラス代表との掛け持ちは無理と判断した為にオルコットがクラス代表を就任する事が決まったのだ。わかったか?」

 

生徒会入りと言う説明にざわめきたつ女子達、まあ当然かな?

 

「あ、あの……少しいいでしょうか」

 

そんなざわめきの中セシリアが手をあげた。

 

「なんだオルコット?」

 

「は、はい……。この前の発言についてお詫びと謝罪したいのですがよろしいでしょうか?」

 

ずいぶんとおどおどしているな、昨日までの傲慢な態度嘘みたいだ。

 

「いいだろう。許可する」

 

「はい。この前の発言で皆さんに不愉快な思いをさせてしまい本当に申し訳ございませんでした」

 

深々と頭を下げてセシリアは皆に謝罪をした。どうやら昨日の内にようやく反省したのだろうこれで落ち着くといいな。

 

「ようやく代表候補生としての自覚が出来たようだなオルコット」

 

「はい……反省しています」

 

「さて、諸君。納得していない事はないかもしれないがオルコットは反省している。これで終わりにしようそれでいいな」

 

『はい!』

 

おお、さすが千冬姉だ。バッチリクラスを纏めあげたな、でなきゃ教師なんてやってられないからな。

 

「それではクラス代表はセシリア・オルコットに決まりだ。異論はないな」

 

はーいとクラス全員一丸となって返事をした。団結はいい事だ。

 

こうして授業が始まった訳だが、視線を感じた。

 

視線の主はセシリアだ。

 

昨日までの見下していた感じがなくなり、俺をまるで尊敬するかのような表情で見ていた事に気付いた。

 

まさかね………俺はふっとある事を考えたがやめた。

 

とりあえず授業に集中しないとな。




セシリアが改心した理由は次話のおまけで書きます。

しばしお待ちください


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13話

お待たせしました。

ではどうぞ


「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んでみせろ」

 

四月も下旬、遅咲きの桜の花びらがちょうど全部なくなった頃、今日もこうして千冬姉の授業を受けている。

 

俺は千冬姉に急かされる前に展開する為意識を集中させる。

 

ISは一度フィッティングしたら、ずっと操縦者の体にアクセサリーの形状で待機している。

ちなみにセシリアは左耳のイヤーカフス。俺は右腕のガントレット。普通はアクセサリーなんだんだが………何故か俺は防具になっていた。

 

(来い、白式)

 

そう心の中でつぶやく。刹那、右の手首から全身に薄い膜が広がっていくのがわかる。約0・5秒の展開時間。俺の体から光の粒子が解放されるように溢れて、そして再集結するようにまとまり、IS本体として形成される。

ふわりと体が軽くなる。各種センサーが意識に接続され、世界の解析度が上がる。一度瞬きすると、俺の体はIS『白式』を装備した状態で地面から十数センチ浮遊していた。

同じく、セシリアもISを装備して浮かんでいる。

 

「よし、飛べ」

 

言われて、俺達は急上昇し、目的の地点まで到達した。

これも刀奈さんと簪と一緒に訓練している成果が出ている。授業では昨日習ったばかりだが上級生の虚さんと刀奈さんから詳しく教えてくれたので解りやすかった。

正直、教えてくれる人がいるのは本当に助かるな。

全くわからない状態だったら………やめよう、惨めな展開しか思い付かなかった…………。

 

「やっぱり空を飛ぶのはいいな」

 

空からの景色を見ながら呟いた。ISを装備しての訓練はキツイけど楽しくもある。空を飛ぶ事によって全く違う景色が見えるから、ある意味心踊るものがある。

 

こうしてみるとISって良いものなのかなと好きにはなれそうだ。

 

確かに束さんが造ったISは確かに宇宙活動用としての目的だがしかし、本来とはかけ離れた使い方や女性にしか使えない事による女尊男卑という、歪んだ世界になってしまった。

 

まあ、俺の姉がブリュンヒルデだし、あんまり本人の前では言いたくはないが一時期千冬姉とISが嫌いになってた時はあった。

 

千冬姉がモンド・グロッソで優勝してから色んな人が織斑千冬の弟としての色眼鏡として見られるから俺はこの生活に嫌気が差していた。

 

どいつもこいつも千冬姉が優秀だから弟の俺も優秀だろと言わんばかりだ。

 

おかげで俺の心はやさぐれてしまい。もういいだろ、構わないでくれと諦めてた時期があったな…………。

 

としみじみしていると――

 

「一夏さんは上達が早いですわ。わたくしからすれば才能があってうらやましい限りですわね」

 

セシリアが俺に話し掛けて来て思考をやめる。

 

「そうかな?俺としては教えてくれる人達が優秀だから上達してるだけで才能があるかわからないぞ」

 

「それを理解して実践出来るから才能があるとわたくしはそう思いますわ」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

楽しそうに微笑むセシリア。その表情は嫌味でも皮肉でもなく、本当に単純に楽しいという笑顔だった。

 

あの試合以降、セシリアの態度は軟化され良家のお嬢様らしく振る舞いクラスメイトの評判は悪くない。初めて会った時の態度が今ではすっかり影を潜めている。

 

どっちが本当のセシリアかわからないが千冬姉と山田先生から代表候補生とクラス代表の自覚が出てきたなと言っていたっけな。

 

まっ、俺としては今のセシリアの態度なら好感は持てると言っても友達としてだけどな。

 

「一夏さん、よろしければそのコーチなさっている方を教えて頂けてませんか?わたくしも一夏さんと一緒に強く―」

 

「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」

 

いきなり通信回線から怒鳴り声が響く。見ると、遠くの地上では山田先生がインカムを箒に奪われておたおたしていた。何してんのあいつ?つかそんな事したら………。

 

ゴチン!!

 

「〜〜っ!?」

 

「教師の装備を奪うな馬鹿者!それから勝手に指示を出すな!!」

 

千冬姉のゲンコツが再び火を噴き、箒の頭上に振り下ろされた。箒は痛さから言葉にならない声で頭を抑えながら身悶えている。

 

 

あいつ(箒)学習能力ないのかな?

 

先日のクラス代表決定戦の時も刀奈さんに突っ掛かってゲンコツ喰らっているのにな………はあ。

 

「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

 

「了解です。では一夏さん、お先に」

 

言って、すぐさまセシリアは地上に向かう。ぐんぐんと小さくなっていく姿を、俺は感心しながら眺めた。

 

「流石だな代表候補生は」

 

そして完全停止も難なくクリアしたみたいだ。――さあ、俺の番だな。

意識を集中させて一気に地上を目指す。

 

(そろそろか………)

 

俺は降下しながら目標に近付いて来たので完全停止に移行させて停止する。

 

「うむ、十センチ。目標通りだな、ちゃんと訓練しているな」

 

「ありがとうございます」

 

と千冬姉からお誉めの言葉を頂いた。厳しいイメージのある千冬姉だがちゃんと誉める時は誉めてくれる。まあ、授業態度ややってはいけない行動を取るとビシッと締める。さっきの箒がいい例だな、うん。

 

その後、武装関係の展開をやったがセシリアは近接武装に戸惑い、千冬姉から注意を受けたら何故か俺に責任転嫁してきた。

 

『責任をとって頂きますわ!』

 

と言って来たがそこは自分でなんとかしようなセシリア。

 

――――――――――――

 

「というわけでっ!セシリアクラス代表決定!そして織斑くん生徒会副会長就任おめでとう!」

 

「おめでと〜!」

 

ぱん、ぱんぱ―ん。クラッカーが乱射される。俺の頭に乗ってきた紙テープは、その実質重量よりもはるかに重くのしかかる。

ちなみに今は夕食後の自由時間。場所は寮の食堂、一組メンバーは全員揃っていた。各自飲み物を手にやいのやいのと盛り上がっている。

 

「……………」

 

おかしいな、めでたいのかこのパーティーは………。

ちらり壁を見ると、そこにはデカデカと『織斑一夏生徒会副会長就任、セシリア・オルコットクラス代表就任パーティー』と書いた紙があるが………。

 

何で俺のだけ字が大きく、セシリアのが小さいんだ………。絶対に文句言いそうだな、就任パーティーね……。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 

「ほんとほんと」

 

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

さっきから相づちを打っている女子は二組だった気がするんだが、気のせいか。んな訳ないよなあからさまにクラスの人数が越えているし、一組じゃない人達や上級生もいる。

 

「みんなパーティーを楽しみたいのよ」

 

その上級生の筆頭である刀奈さんは俺の隣に座って飲み物を注いでくれる。

 

「一夏の人気もあるのかもね……」

 

と他クラスである簪はそう言って俺の隣に座りお菓子をよそってくれた。

 

「人気者だな、一夏は………ふん」

 

箒は機嫌を悪くして鼻を鳴らして離れた場所に座り、お茶を飲み始めた。

 

気にしない、気にしないっと。

 

「はいは―い、新聞部で―す。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました〜!」

 

オーと一同盛り上がる。あの、俺だけじゃなくてセシリアも取り上げてください。

 

でないと彼女のプライドに火が着きそうだな………。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってま―す。はいこれ名刺」

 

受け取って、その名刺を見ると、随分と手が込んでるな……将来はジャーナリストを目指しているのかな?

 

「薫子ちゃんのお姉さんは雑誌の編集者をやっているのよ」

 

「そうですか」

 

「ではではずばり織斑君!生徒会副会長になった感想を、どうぞ!」

 

ボイスレコーダーをずずいっと俺に向け、無邪気な子供のように瞳を輝かせている。

 

「そうですね……」

 

生徒会副会長という重役を担うので下手な回答は出来ないなと少し考える。

 

「副会長に就任したので会長を支え、迷惑をかけないよう責任を持ってやります」

 

と無難な回答をしたが―。

 

「えー。もっといいコメントちょうだいよ〜。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」

 

どうやら不満のようだ。しかもそんなキザなセリフは言いたくはないな………似合わないし、キャラじゃない。

 

「そう言われましても………俺としては重役に就任したのでふざけた回答は出来ませんよ」

 

「固いね〜。じゃあまあ、適当に捏造しておくからいいとして」

 

よくないわ!思わずツッコミを入れようと思ったら―。

 

「ねえ、薫子ちゃん」

 

いつの間に移動したのか黛先輩の背後に回り肩をポンと置いた。

 

「な、何、たっちゃん?」

 

「悪いけど生徒会の事に関してふざけた記事を書くのはやめてくれないかしら?」

 

そう言い微笑んではいるが雰囲気は怖い………。

 

「だからね、織斑一夏君は真面目に答えてくれたからそのまま書いてね。か・お・る・こ・ちゃん」

 

そう言い黛先輩の肩を握るが心なしかミシミシという音が聞こえるのは気のせいだと思いたい。

 

「そそそ、そうよね。私ったらなんて事を!おほほ……」

 

刀奈さんの言葉が効いたのか顔を青ざめさせて黛先輩は何度も頷いた。

 

「そ、それじゃ会長であるたっちゃんから一言お願い」

 

慌てて刀奈さんにインタビューする黛先輩。えっと……色々すいません……。

 

「そうね。彼は人気も実力もあるから、後々成長してこの学園の生徒会長になれよう指導していくわ」

 

「おお〜っ、スゴいね!バッチリ書かせてもらうわ」

 

「お願いね」

 

そう言って再び俺の隣に座る刀奈さん。

次はセシリアにインタビューしたが黛先輩は懲りずに全部聞くまでもなく捏造で終わった。

 

その後セシリアとツーショット写真を撮る事になったがクラス全員が入って集合写真になったがまあいいか。

 

ちなみにこっそりと刀奈さんと簪とのスリーショット写真を撮ってもらい。後日その写真をもらい部屋に飾ってある。

 

ともあれ、この就任パーティーは十時過ぎまで続いた。

改めて女子のエネルギーは凄まじい事をその身に知った1日なった。

 

「つ、疲れた……」

 

俺は妙に消耗して部屋へと帰還。ベッドに転がった。

 

「楽しかったわね」

 

「うん。久しぶりに騒いだ」

 

と俺の恋人達はそう言って楽しげな顔になっている。

 

まあ、確かにこんなバカ騒ぎは滅多にしないからな………更識家は由緒ある家系なので二人共お嬢様なのだ。

 

例外でセシリアみたいなのがいるが、同年代とこうして楽しく騒ぐ機会は少ないので二人にはこういうところでないと出来ないんだろうな…………と思いつつ、簪、刀奈さんという高嶺の華と恋人になれている俺は幸せ者だよな………としみじみと噛み締めた。

 

「そういえば一夏君、簪ちゃん」

 

「何?」

 

「どうしました?」

 

「明日、転校生が来るから教えておこうと思ってね」

 

「転校生ですか………」

 

「随分と急だけど………やっぱり一夏がらみ?」

 

「そうよ。世界からIS学園に入学させようと代表候補生が殺到してるのよ」

 

「うげ……」

 

刀奈さんの説明に思わず呻いた。勘弁してくれよな……マジで……。

 

「お姉ちゃん、転校してくる人は誰かわかってるの?」

 

「ううん。まだ受付は済ませてないからまだ……ただ中国から来るって事しかまだ情報はないわね……」

 

深々とため息をはく刀奈さん。まあ、危険を回避する為にはいち早く情報は欲しいよな………。

 

「とりあえず何が起こるかわからないから一夏君は注意してね」

 

「わかりました」

 

刀奈さんの言葉に頷き、俺達は就寝となる訳だが………この転校生が新たなトラブルの火種を持ち込んでしまう事になるとはこの時俺は知らなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なななな………何なのよ―――――――!!あの女達は――――――!!?」




おまけ

こうしてセシリアは改心した。

「はあ……」

クラス代表決定戦終了後、セシリアは更衣室にてベンチに座っていた。

「負けてしまいましたわ……」

そう呟くがその表情には悔しさなく、むしろ清々しい気分だ。

「ああ、良かった。オルコットさんここにいたんですね」

「山田先生………」

セシリアの元に真耶がやってきた。

「申し訳ありませんでした」

「えっ?えっ?どうしんですか?」

突然立ち上がり頭を下げたセシリアに戸惑う真耶。

「わたくしの為に補習をしてくださったのに全く理解してなかった事に対してです」

「ああ、そういう事ですか」

「はい。わたくしは代表候補生になって浮かれていました。ですのでクラス代表決定戦に負けて目が覚めた気がします」

「それは良かったですね」

「はい」

お互いに微笑んでいたが―

「これで織斑先生との模擬戦がなくなりましたね」

「はい?」

次の一言でセシリアは固まった。

「えっと……それはどういう事なんでしょうか?」

「ええ、実は先ほどのクラス代表決定戦でオルコットさんが織斑くんに対しての暴言や侮辱で怒りをかってしまいまして織斑くんが負けたら次は私が出ると言ってたんですよ」

「ええ――――っ!?」

真耶の説明に思わず声をあげるセシリア。

「本当に良かったですよ……オルコットさんが無事に済んで………」

「そ、そうですわね……」

セシリアは理解した突然やって来た恐怖と寒気の原因はこれだった事に。

(ま、負けて良かったですわ―――――――!!)

セシリアは顔を青ざめさせながらも無事に済んだ事に感謝した。

エリート?イギリス代表候補生のプライド?そんなの物を捨て去ってでも命が大事だと本能が勝った瞬間であった。

「わ、わたくし何でもします!補習も真面目に受けますわ!で、ですから織斑先生との模擬戦は許してください!!」

と泣きながら真耶にすがり付くセシリアであった。

その後真耶のおかげで落ち着き、補習用に渡された教科書を真剣に読み代表候補生としての振る舞いを改めたのであった。





次回はセカンド幼なじみが登場します


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14話

セカンド幼なじみ登場の回です。

ではどうぞ


「ふうん、ここがそうなんだ」

 

夜。IS学園の正面ゲート前に、小柄な体に不釣り合いなボストンバックを持った少女が立っていた。

 

まだ暖かな四月の夜風になびく髪は、左右それぞれを高い位置で結んである。肩にかかるかかからないくらいの髪は、金色の留め金がよく似合う艶やかな黒色をしていた。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

上着のポケットから一切れの紙を取り出す。ぐしゃぐしゃになったそれは、少女の大酒な性格と活発さを非常によく表していた。

 

「本校舎一階総合事務受付……って、だからそれどこにあんのよ」

 

文句を言っても、紙は返事をしない。少女は多少のイライラと一緒に紙を上着のポケットにねじ込む。また中でぐしゃっという音が聞こえたが、もちろん気にしない。

 

「自分で探せばいいんでしょ、探せばさぁ」

 

ぶつくさ言いながらも、その足はとにかく動いている。思考よりも行動。そういう少女なのだ。

 

良くいえば『実践主義』、悪くいえば『よく考えない』である。

 

(誰かいないかな。生徒とか、先生とか、案内できそうな人)

 

学園内の敷地をわからないなりに歩きながら、キョロキョロと人影を探す。とはいえ時刻は八時過ぎ、どの校舎も灯りは落ちているし、当然生徒は寮にいる時間だった。

 

(あーもー、面倒くさいなー。空飛んで探そうかな……)

 

と一瞬考えてやめた。まだ転入手続きを終えていないのに学園内でISを起動させてしまえば、最悪外交問題に発展してしまう。それだけはやめてくれ、と何回も懇願していた政府高官の情けない顔を思い出して、少女の気分はちょっとだけ晴れた。

 

(ふっふーん。まあねー、私は重要人物だもんね―。自重しないとね―)

 

正直に言って、自分の倍以上も歳のある大人がへこへこ頭を下げるのは、ちょっと気分がいい。

昔から『歳をとっているだけで偉そうにしている大人』が嫌いな少女にとって、今の世の中は非常に居心地が良かった。

 

「なるほど……こんな……」

 

ふと、声が聞こえる。視線をやると、女子がIS訓練施設から出てくるようだった。どこの国でもIS関係の施設は似たような形をしているから、すぐにそうだとわかる。

 

――ちょうどいいや。場所聞こっと。

 

声をかけようとして、少女は小走りにアリーナ・ゲートへと向かう。

 

「ありがとうございます刀奈さん。おかげで戦いの幅が増えました」

 

不意を突かれて、少女の体はびくんと震えてその足が止まる。

男の声――それも、知っている声にすごくよく似ている。いや、おそらく同一人物。

予期しなかった再会に、少女の鼓動は急ピッチでペースをあげる。

 

――あたしってわかるかな。わかるよね。一年ちょっと会わなかっただけだし。

 

そう自分に言い聞かせつつ、けれど自分だとわからなかったらどうしようという不安に思考が乱れる。

 

――大丈夫。大丈夫!それにわからなかったら、あたしが美人になったからだし!

 

超ポジティブ思考にスイッチを入れて、少女は再び歩みを再開する。

 

「いち――」

 

ああっ、声裏返っちゃったよ。なんかあたしがすっごい意識してるみたいじゃん。恥ずかしいなぁ。

 

「大分上達したわね一夏君。このままいくと私もうかうかしていられないわね」

 

「ははっ、まだまだですよ。俺なんか刀奈さんの足元にも及びません」

 

「そんな事ないよ。一夏は飲み込みが早いから私も頑張って実力を上げないと一夏に抜かれちゃうかもね」

 

「ありがとう簪、そう言ってくれると嬉しいよ」

 

――えっ?誰?あの女の子達は?何で親しそうなの?っていうかなんで名前で呼んでんの?

 

さっきまでの胸の高鳴りは嘘のように消え、ひどく冷たい感情と苛立ちが雪崩れ込んでくる。

 

「それじゃ行きましょうか本音ちゃん達が待ってるわよ」

 

「うん。遅くならない内に行こ」

 

そう言い簪と刀奈は一夏の腕を組み肩に寄りかかる。

 

ああっ!?な、何で一夏の腕を組んでるのよ!一夏もまんざらじゃない顔してるじゃない!!

 

「それじゃ行きますか簪、刀奈さん」

 

「ええ」

 

「うん」

 

そのまま3人はすたすたと足を進めていく。

 

そして3人がいなくなり少女の中でふつふつとマグマの如く怒りが沸き上がる。元々気が長くない性格の上にあんな光景を見せられたら爆発する訳で………。

 

「な、なななな………何なのよ――――――!?あの女達は――――――!!」

 

誰もいなくなった学園の敷地内で少女の怒りの叫びがこだました。

 

それからすぐ、総合事務受付は見つかった。アリーナの後ろにあるのが、本校舎だからだ。灯りがついていたので、そこだとわかった。

 

「ええと、それじゃあ手続きは以上で終わりです。IS学園へようこそ、凰鈴音さん」

 

愛想のいい事務員の言葉もどこか遠くにあって意識に届かない。少女―鈴音は、見るからに不機嫌ですとばかりに唇を尖らせながら聞いた。

 

「織斑一夏って、何組ですか?」

 

「ああ、噂の子?一組よ。凰さんは二組だから、お隣ね。そうそう、あの子生徒会副会長になったんですって。やっぱり織斑先生の弟さんなだけはあるわね」

 

噂好きは女性の性。その体現のような事務員の姿を冷ややかに見ながら、鈴音は質問を続ける。

 

「二組のクラス代表って、もう決まってますか?」

 

「決まってるわよ」

 

「名前は?」

 

「え?ええと……聞いてどうするの?」

 

「お願いをしようかと思って。代表、あたしに譲ってって――」

 

にっこりとした笑顔には、ばっちり血管マークがついていた。

 

――――――――――――

 

「織斑くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

朝。席に着くなりクラスメイトに話しかけられた。噂の広まりは早いな〜、まあ実際刀奈さんから聞かされてたから話についていける訳だ。

 

「ああ、知ってるよ。今日入ってくるんだろ?確か…中国からだったかな?」

 

今は四月だが、なんで入学ではなくて、転入なのだろうか?

まあ、俺がいるからなんだろうけど無理矢理感が否めないよな………。こちらとしてはいい迷惑だな……もう恋人達はいるし迫られて拒否してもそれを理由に何かしらのトラブルになりそうだ。

 

「さすがに情報が早いね。なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「そうか……」

 

やっぱりか……代表候補生ね……。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?それとも一夏さんが目的かも知れませんわね」

 

一組のクラス代表、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットが腰に手を当てたポーズを取った。

まあ、前者はともかく後者は粗方合っているな……。

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう?騒ぐほどのことでもあるまい」

 

あれ?いつの間にか俺のそばに箒がいた事に気付いた。

不味いな、もう少し警戒しないと……いつ何時竹刀や木刀が飛んでくるかわからないな………本音にも話して警戒して貰おう。

 

「どんなやつなんだろうな」

 

代表候補生と言えど国を背負ってる訳でプライド高いやつは正直お近づきにはなりたくないし、俺を手に入れようとして送り込んで来た使者かもしれないし、どちらもありえるからな………。他クラスとは言え関係ないとは言えない。

 

「む……気になるのか?」

 

「ああ、(色々な意味で)気になるな」

 

「ふん……」

 

箒に聞かれたことに素直に答えたら、なぜか機嫌は悪くなった。

むすっという擬音がよく似合う表情をしている。

俺を気にするより自分を気にしろよ、良くも悪くも束さんの妹なんだからお前に近付く可能性だってあるんだぞ。

 

まあ、何かあっても助ける気はないけどな………その前に束さんがなんとかしそうだ。

 

「一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしませんか?わたくし1人ではどうしても限界がありまして同じ専用機持ちである一夏さんに協力をお願いしたいのです」

 

真剣な眼差しで俺にお願いをするセシリア。

クラス代表になったからには優勝が欲しいのだろう、入学からの失態を取り戻す為に必死に訓練しているのを見かけたりする。

 

本当に変わったな〜、まあ千冬姉が担任じゃ無様な戦いは出来ないと感じているのだろう。

 

「わかった。俺に出来る範囲でなら協力するよ」

 

「ありがとうございます。早速今日からお願いしたいのですが予定は大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。いいよ」

 

セシリアの意気込みに粋に感じて俺は協力する事にした。

 

「セシリア頑張ってね―」

 

「フリーパスのためにもね!」

 

「今のところ専用機を持っているクラス代表は一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

やいのやいのと楽しそうな女子一同にセシリアは「頑張りますので応援よろしくお願いいたします」と深々と頭をさげた。

まあ、四組のクラス代表は簪だからたぶん善戦するか圧倒されるだろうな………主にセシリアが………。

 

このクラスはおろかこの学園内では知らないと思うが簪と刀奈は千冬姉からIS指導をしてもらっている。

 

俺が恋人になったと話してから千冬姉は二人の実力をあげる為に指導を願い出た。

 

簪と刀奈さんは断る理由もなく受託して千冬姉の指導を受けて今の実力になった。

俺が二人に教えてもらっているのは自分達のISの知識と千冬姉の指導の融合なので飲み込みが早いのはそのせいである。

間接的に千冬姉に教えてもらっているのと同じなんだよな。

 

「―その情報、古いよ」

 

ん?教室の入り口からふと声が聞こえた。懐かしい声が聞えたみたいだが……。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

腕を組み、片膝をを立ててドアにもたれていたのは――

 

「鈴……?お前、鈴なのか?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

ふっと小さく笑みを漏らす。トレードマークのツインテールが軽く左右に揺れた。

 

……正直に言うと格好つけすぎて、スゴく似合わなかった………。

小柄な鈴からすれば大きく魅せたいのだろうが逆効果だ。

俺はそう言いたいが言葉を飲み込んだ、ここで指摘したら彼女の性格からして激昂するのは間違いない。

ここはあえて流す方向にした。

 

「久しぶりね一夏」

 

「あ、ああ……久しぶりだな凰鈴音さん?」

 

やべっ!鈴の格好つけに乗って、思わずフルネームで呼んじゃった。

 

「ちょっと―――!!何でそんな他人行儀なのよ!?しかも目反らしてるじゃない!!」

 

態度が気に入らなかったのバタバタと俺の目の前にやって来てバンと机を両手で叩いた。

 

「えっ?そ、そんな事はないぞ……ただ一年会わない内にずいぶんと変わって近より難くなったな〜って全然全然……」

 

「だから!似合わないなら言ってくれてもいいじゃないのよ!!まるであたしイタイ子みたいじゃない!!」

 

と半泣き状態で俺の胸ぐらを掴みガックンガックンと揺らす鈴。

 

鈴といい箒といい。どうやら俺の幼なじみ達の再会は一癖も二癖も変わっていました………。

 

「おい」

 

「なによ」

 

バシン!聞き返した鈴に痛烈な出席簿打撃が入った。千冬姉の登場である。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、邪魔だ」

 

「す、すみません……」

 

すごすごドアに向かう鈴。相変わらず千冬姉が苦手なのは変わらないんだな。

 

「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はいっ!」

 

二組へ向かって猛ダッシュしていくのを見て。ちょっとホッとした、鈴ならば幼なじみある程度の性格は把握している。訳がわからないやつはいくぶんかました。

 

「まさかIS操縦者になってたのか……知らなかったな……」

 

そう素直に思って、なんとなく口に出したのがまずかった。

 

「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだな?」

 

そのほか、クラスメイトからの質問集中砲火。

 

バシンバシンバシン!

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

千冬姉の出席簿が火を噴き、クラスメイトは静かになった。

 

まあ仕方ないかな、今日も1日IS訓練と学習が始まる




話には書きませんがセシリアは千冬が怖くて席に座っていました。


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15話

昨日の内に更新する予定でしたが寝落ちで今日になってしまいました。

ではどうぞ


「お前のせいだ――!!」

 

昼休み、開口一番箒が俺のところに素早くやって来て文句を言ってきた。

 

「何でだよ……全く訳がわからないよ……」

 

「まあ、自分の不注意で怒られた事を他人のせいにするのは恥ずかしくないのですか?」

 

「そうだよ〜しののん」

 

「くっ……」

 

箒は午前中だけで山田先生に五回も注意され、千冬姉から出席簿で何度か叩かれていた。

あまりにひどかった為、昼休み前の授業には再びゲンコツを落とされてタンコブが出来ていた。

 

何かあったかは聞かないが授業はちゃんと受けないとな。

 

「それじゃ本音、セシリア学食に行こうか」

 

「おっけー」

 

「はい」

 

俺と本音はセシリアのクラス対抗戦についての協力する為に昼休みである程度の作戦と対策を話し合う為である。

 

「ま、待て一夏!」

 

「?まだ何か用か篠ノ之さん?」

 

「何故私を誘ってくれないのだ!私とお前は幼なじみじゃなかったのか!?」

 

自分が誘ってくれなかったのか不満なのか箒は俺に問い詰めてきた。

 

「いや、別に篠ノ之さんとは一緒に食事を誘うほど親しくないし、今日はクラス対抗戦について話し合うから必要ないな」

 

「なっ!?私は必要ないのか?」

 

「ああ」

 

 

「ええ」

 

「そうだよ〜」

 

箒の質問に上から俺、セシリア、本音が返答した。

 

「くっ……、一夏の力になりたいのに私では力不足だと言うのか……」

 

「だから、俺じゃなくて試合に出るのはセシリアなんだぞメインとサブを間違えるなよ……」

 

箒の的外れな言葉にちょっと呆れてしまった。

 

「まあいいや、二人共行こうぜ。昼休みの時間がなくなるぞ」

 

とりあえず箒は気にせずに俺達は学食に向かって移動を始めた。

 

「なっ!?私も」

 

「どこへいく篠ノ之?」

 

俺達の後を追いかけようとしたが千冬姉に呼び止められた。

 

 

「ち、千冬さん!?」

 

「織斑先生だ。お前は今日の午前中の授業態度が悪すぎる。罰として今から雑用をやってもらう行くぞ」

 

そう言い千冬姉は箒の襟を掴み、ズルズルと引きずっていく。

 

「あぁ……一夏――!!」

 

後ろから俺を呼ぶ声がするが気にしないで学食に向かう事にした。

 

――――――――――――

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

ドーン、と俺達の前に立ち塞がったのは鈴だった。

 

「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。食券が出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

 

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

ちなみにその手にはお盆を持っていて、ラーメンが鎮座している。

 

「のびるぞ」

 

「わ、わかってるわよ!大体、アンタを待ってたんでしょうが!何で早く来ないのよ!」

 

何で早く来ないといけないんだよ………。ああ、そうか!

 

「鈴、寂しかったんだな……気付いてやれなくてゴメンな……」

 

「な、何言ってるよ?」

 

「クラスで浮いちゃってボッチになったから俺を待ってたんじゃないのか?」

 

「んな訳あるか――――!!」

 

俺の言葉に反応し、鈴は心外と言わんばかりに叫んだ。

 

「えっ?違うのか?てっきりそうだと」

 

「違うわよ!大体何であたしがボッチにならなきゃいけないのよ!?」

 

「今朝みたいな格好付けを二組でも同じ事をやって高校デビュー失敗したと思ってた」

 

「そんな訳ないでしょ!あれは宣戦布告する為にやったのよ!いくら何でも自分のクラスにはしないわよ!!」

 

「それもそうか……」

 

とりあえず鈴は安心だな、うん。小学生の時みたいな事はないみたいだ。

 

「とりあえず席に座ろぜ、それからでもいいだろ?」

 

「わかったわよ」

 

ちょうど俺達の注文した料理が出来たので空いてる席に座る事にした。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど一年ぶりになるのかな?元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

鈴の言葉の返しに思わず苦笑いを浮かべた。相変わらずだな〜、久しぶりって感じがしないのはいい感じだな。

 

「いっちーそろそろ教えて〜」

 

「そうですわ。私達を疎かされては困ります」

 

おお、いかんいかん。思わず盛り上がってしまったな。

よく見ると周りも興味津々とばかりに聞き耳をたてていた。

 

「ああ、こいつ凰鈴音で小学生四年生の時に転校してきてからの幼なじみになるんだ」

 

「そうでしたか、箒さんとは違った幼なじみですわね……」

 

「箒?誰よそれ?」

 

「篠ノ之箒だよ。ほらお前が入れ替わりに転校していったって話したろ」

 

「ああ、なるほどね……」

 

「でこっちが布仏本音でクラスメイトだ」

 

「よろしく〜」

 

「でこっちがセシリア・オルコットイギリス代表候補生で一組のクラス代表だ」

 

「よろしくお願いいたします凰鈴音さん。クラス対抗戦ではいい試合にいたしましょう」

 

「そ、でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

正々堂々とした態度で握手を求めるセシリアに対してふふんといった調子で握手を返す鈴。

 

相変わらずだな、こいつ。妙に確信じみてるし、しかも嫌みではない言い方をする。

 

まあ、鈴の実力はわからないが代表候補生になるだけあってそれなりだろうな。

 

「一夏」

 

「ん?なんだ」

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てもあげてもいいけど?」

 

顔は俺から逸らして、視線だけをこっちに向けてきた。しかも歯切れが悪い言い方だった。

 

「気持ちはありがたいけど間に合ってるよ」

 

「な、何でよ!?」

 

断られると思っていなかったのかテーブルを叩き立ち上がる。

 

「千冬姉からISについて教えてくれる人を紹介してくれてその人からコーチしてくれてるから問題ないぞ」

 

「ち、千冬さんから……」

 

千冬姉の名前が出た途端に鈴は勢いをなくし椅子に座った。

なぜか鈴は千冬姉に弱い……。理由はよくわからないが恐怖の対象として認識しているみたいだ。

 

「クラス対抗戦が近いだろ。お互いに手のうちを知ったら面白くないだろ?」

 

「まあ、そうだけどさ……仕方ないか……」

 

どうやらあきらめてくれたようだ。

 

俺としては簪と刀奈さんという最高のコーチ兼恋人がいる訳だから間に幼なじみの鈴が入ってこられても正直困るだけだしな………。

 

ああ、そういえば。

 

「親父さん元気にしてるか?まあ、あの人こそ病気と無縁だよな」

 

「あ……。うん、元気だと――思う」

 

ん?親父さんの事について聞いたら表情が曇ったな……何かあったのかな?

 

「そ、それよりさ、今日の放課後って時間ある?あるよね。久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ」

 

「あー、あそこ去年潰れたぞ」

 

「そ、そう……なんだ。じゃ、じゃあさ、学食でもいいから、積もる話もあるでしょ?」

 

積もる話ね………まるで家族の事について聞いて欲しくない感じだな……とりあえず鈴から話してくれるのを待つか……。

 

「積もる話で思い出したんだけど弾や数馬に連絡したのか?」

 

「ううん、まだよ。っていうか急に何よ」

 

「鈴が帰って来たって知ればアイツラ喜ぶだろうしさ楽しくつるんでいた頃を思い出すよ」

 

「あ―、そうね」

 

「中二の学園祭が一番良かったよな〜。確か“りんにゃん”でステージイベントをやってたな」

 

「にゃあああっ!?」

 

俺の話に反応して鈴は思わず顔を真っ赤にさせて叫んだ。

 

「りんにゃん?」

 

「何ですのそれ?」

 

「ああ、学園祭の出し物での舞台イベントでな鈴が猫耳アイドル衣装で歌ってたんだ」

 

「やめて―――!あたしの黒歴史―――!!」

 

俺の説明に嫌々と首を振る鈴だが構わずに続ける。

 

「鈴の容姿が猫っぽいのと歌とダンスが上手かったからそれを組み合わせてやってみたら大ウケしたんだよ」

 

「あ――!あ――!!聞こえない聞こえない何も聞こえない!!」

 

耳をふさいで聞こえないふりをする鈴。そこまでいやなのか?結構似合ってたのにな。

 

「ねえねえ、その時の写真とかある?」

 

「あるぞ、数馬が編集したやつが携帯に」

 

俺はポケットから携帯を取り出して操作し、動画を再生させる。

 

「ほら、これだ」

 

猫耳、肉球、尻尾を着けた鈴がフリフリの衣装で曲に合わせて踊り、歌う映像を流れた。

 

「おお〜。スゴいね〜」

 

「本格的ですわ」

 

「だろ、弾が提案して数馬がプロデュースして俺が撮影したんだよ。良い思い出だよな〜」

 

「あううぅ………」

 

恥ずかしいのか頭から湯気を出してテーブルに突っ伏す鈴。

 

「おかげで学校内で大人気になったけど中国に帰ってがっかりしたよな〜せっかくテレビの取材とか来たのに」

 

「何であたしあんな事したのかしらね………」

 

恥ずかしさを通り越してどこか遠い目をしだした。

 

「人気者だったのに何でそこまで嫌がるんだよ」

 

「当たり前よ!ただてさえりんにゃんって呼ばれるのが恥ずかしかったのに中国に帰ってからもりんにゃんりんにゃんって呼ばれてたのよ!嫌になるに決まってるじゃない」

 

「ああ、そういえば。数馬が学園祭のやつを編集してネットにアップしたんだっけな、それを中国の人達が観たんだな」

 

「はあ?ってか何やってんのよ――――!?」

 

「あれ?知らなかったのか?りんにゃんを世界中に知らしめる為に数馬がネットにアップしたって言ってたからてっきり鈴がアップするのをOKしたのかと思ったぞ」

 

「してないわよ!ってかアイツが原因か―――――!!」

 

おおっ!怒りのあまりトレードマークのツインテールが逆立ちになった。

 

「ふ、ふふ、ふふふ……今度の休みの時にアイツシメる……」

 

怖っ!数馬逃げて――!!鈴がマジ切れしてるぞ。

 

「とりあえず放課後空けといてね。じゃあね一夏!」

 

そう言い鈴はラーメンのスープを飲み干して片付けに行ってしまいそのまま学食を出ていってしまった。

 

「嵐のような方でしたわね」

 

「うん。スゴかったね〜」

 

鈴がいなくなった後、それぞれ言う二人。

 

「ねえねえいっちー、そのネットにアップしたやつまだあるの?」

 

「あー、たぶんまだあるとは思うが一応数馬に確認してみるか」

 

俺は数馬に連絡して学園祭の時のやつはまだ残っているか?と聞いたらまだ残しているらしい。

 

数馬いわくその学園祭の動画は何万回も再生してる為に消すことはないそうだ。

 

その後、学園祭での動画のアドレスを本音に教えたのをきっかけに皆が観るようになりりんにゃんは密かなブームとなった。

 

ちなみにこの事を聞いていた二組のクラスメイト達は猫耳片手に鈴に突撃したらしく結果はわからないが鈴のあだ名はりんにゃんと呼ばれるようになったそうだ。

 

そのせいかわからないが怒り心頭の鈴に追いかけ回された。

 

ちなみに数馬は突然悪寒に襲われたらしい。

 




どうでしたか?

鈴のオリジナル過去を作ってみました


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16話

ちょっと間が空きましたが更新です。


「「「え?」」」

 

放課後の第三アリーナ。今日からクラス対抗戦に向けて、セシリアの為に俺と本音はISの特訓をしようとしていた時に思わぬ顔に俺達は間抜けな声をあげた。

 

「な、なんだその顔は……おかしいか?」

 

「いや、その、おかしいっていうか――」

 

「何か場違いだよね〜」

 

「篠ノ之さん!?どうしてここにいますの!?」

 

そう、俺とセシリアと本音の前にいるのは箒だった。しかも、IS『打鉄』を装着、展開している。

 

「どうしてもなにも、一夏に頼まれたからだ」

 

「はあ!?」

 

箒の言葉に思わず耳を疑った。俺そんな事は頼んだ覚えはないぞ?

 

しかもセシリアと本音が疑わしい目と非難気味の視線を送ってきた。

 

「それに、近接格闘戦の訓練が足りていないだろう。私の出番だな」

 

そう言うがはっきり言って出番がない。近接格闘戦についての訓練はすでに俺がいるので事足りている。

 

それに箒は剣道の全国大会優勝していてもISに関しては全くの初心者だ。いくら何でも無理があるな。

 

「予約が一杯でしたのに……。まさかこんなにあっさりと訓練機の使用許可が下りるだなんて………」

 

「やっぱり博士の妹だからかな〜?」

 

うん、それは俺も思った。

 

「では一夏、始めるとしよう。刀を抜け」

 

「おいこら、ちょっと待て!」

 

やる気満々で俺に向かって刀を構えるが制止の声をあげる。

 

「何だ?何かあるのか?」

 

「だから!セシリアがメインの訓練をするんだから俺に刀を向けてどうするんだよ!」

 

きょとんとしている箒に俺は説明したが……。

 

「問題ない、セシリアはついでだ!まずは一夏からだ!」

 

という箒の言葉にガクッと肩を落とした………。

 

ダメだこりゃ………俺しか見てないな………はあ……こうして見るとやっぱり束さんの妹だと感じさせられる。

 

大事な人以外の周りが一切見えない………こっちはえらい迷惑してるんだけどな………。

 

「一夏さんどうしますの?」

 

箒の行動と言動に対して少しだけ不快感を感じているセシリアが俺に話しかけてきた。

 

「悪いけど退場してもらうか……」

 

「どうするの〜?」

 

「とりあえず俺が篠ノ之さんを迎え打つからセシリアは背後からブルーティアーズで攻撃してくれ」

 

「ですが……」

 

「すまない。でないと訓練時間がなくなってしまうぞ」

 

「わかりました。仕方ありませんわね……」

 

俺の提案にため息をはいてセシリアは応じてくれた。

 

「よし、こい!」

 

「では――参るっ!」

 

俺の掛け声と共に箒は踏み込んで刀を振り下ろそうとするが―。

 

「うわっ!?」

 

背後からレーザーが襲い掛かり箒は声をあげた。

 

「セシリア!邪魔するな!」

 

「よそ見は厳禁だ」

 

背後から攻撃して来たセシリアに箒は怒りの声をあげるが俺は構わずに追撃をくらわせる。

 

「なあ!?卑怯だぞ一夏!!」

 

「悪いがここで終わりだ!」

 

セシリアのブルーティアーズのレーザーと俺の居合いで箒のISのエネルギーは尽きた。

 

「ずるいぞ!2対1など!」

 

箒は俺達に対して非難の声をあげたが。

 

「何言ってるんだ?俺達は訓練をしてるんだ卑怯もへったくれもないだろ」

 

俺はあらかじめ用意していた言葉を箒に言ってやった。

 

「くっ……減らず口を……」

 

箒は憎らしげに俺達を睨み付けるが―

 

「っ!?……今日はここまでにしてやる!さらばだ!」

 

何かに気付いた箒は慌てて振り返り走りだした……、まるで悪役みたいな捨て台詞を言って俺達の前から居なくなった。

 

「何だったのでしょうか?」

 

「さあ?」

 

「何か慌ててたね〜」

 

箒の様子を見て俺達は首を傾げた。彼女の性格からしてそう簡単に引きそうにないのだが―。

 

「おい、お前達」

 

突然背後から声が聞こえた。

 

「「「お、織斑先生!?」」」

 

俺達が振り返った先には仁王立ちした千冬姉がいた。よく見ると怒っているのか威圧感を感じる。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

代表して俺が千冬姉に質問した。ちなみにセシリアは顔を青ざめさせ、本音は俺の後ろに隠れた。

 

「篠ノ之を知らないか?」

 

「えっ?さっきまでいましたけど……」

 

「そうか入れ違いだったか……」

 

そう言い悔しげな表情を浮かべる千冬姉。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「クラスの雑用をやらせていたのだが途中で逃げ出したのだ」

 

「ええっ!?本当ですか!!」

 

「本当だ。あいつめ、逃げられると思うなよ!」

 

ドンと地面を踏んづける千冬姉に俺達はビビる………。

こ、怖い……箒、早く千冬姉のところに帰れよ!俺達の事は構わずにさ!!

 

俺達は千冬姉から逃げ出した箒に対して本当に心からそう思った。

 

その後、千冬姉が居なくなってから訓練を再開した。

セシリアに対して近接格闘戦の対策をしながら、俺達はクラス対抗戦についての話し合いをした。

 

セシリアは近接武器を搭載しているが展開が遅い事をどうにかしようと俺が簡単にアドバイスした。

 

そうしたらセシリアは言わずに素早く展開出来た事を物凄く喜びのその勢いで抱き着いてきた時はちょっとヒヤリとしたのは内緒だ。

 

――――――――――――

 

「ふう……」

 

部屋に帰り、シャワーを浴びて体の火照りをさましていた。

 

そばには簪と刀奈さんが俺と同じように火照りをさましている。

 

俺達の顔はほんのり紅い。

訓練後、直ぐ様部屋に帰ってシャワーを浴びているとバスタオルを巻いた姿の簪と刀奈さんが一緒に入ってきた。

俺は入って来た二人には気にせずにお互いに体の洗う事にした

二人の白い肌と時折漏れる艶かしい声を聞きながら二人の体を洗っていき、そこから……ゲフンゲフン。

のぼせそうになる手前で俺達は上がった。

 

とまあ、ゆっくりとした時間が流れていくと

 

コンコン

 

部屋をノックする音がするので開けると―。

 

「お邪魔するわよ」

 

鈴が部屋に入ってきた。俺の許可を待たずに………。

 

「やっぱり噂通りだったわね……」

 

「鈴?何か用か?」

 

「そこの二人にお願いがあって。というわけだから、部屋代わって」

 

「「「はい?」」」

 

鈴の突然のお願いに思わず間抜けな声をあげた。

 

「いやぁ、お二人も男と同室なんてイヤでしょ?気を使うし。のんびりできないし。その辺、あたしは平気だから代わってあげようかなって思ってさ」

 

そう言うが俺は平気じゃない、鈴と一緒だなんて余計気をつかうしのんびりできない。それに恋人達と一緒の部屋を代わろうとするほどバカではないし、幸せ空間を手放すつもりはない。

 

「鈴。それ、荷物全部か?」

 

「そうだよ。あたしはボストンバッグひとつあればどこでも行けるからね」

 

相変わらずフットワークの軽いやつだ。女子にしては荷物がかなり少ない……簪と刀奈さんは割と多めだ。

 

「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから」

 

「あのね……」

 

「部屋は代わらないし勝手に決めないで!」

 

鈴の要望に刀奈さんは呆れ、簪は怒りだした。

 

「あのさ…鈴」

 

「何」

 

「部屋を代わるのはいいが寮長に許可をとったのか?」

 

「まだよ。まっ、あたしなら簡単に許可を取れるわよ」

 

そう言って胸を張るが寮長が誰か知らないのか?仕方ない痛い目にあってもらうか。

 

「わかった。まずは寮長の許可を取ってこいよそうしたら代わってやる」

 

「「っ!?」」

 

俺は鈴にそう提案した。二人の表情が驚きに変わるが構わずに話を進める。

 

「わかったわ。じゃあ寮長に許可を取ってくるわ!待っててね一夏!」

 

「逝ってらっしゃい」

 

意気揚々と部屋を出ていく鈴に心の中で合掌していた。

 

「「一夏(君)!!」」

 

鈴が居なくなり、簪と刀奈さんが俺に信じられないと言わんばかりに問い詰めてきた。

 

「どうして……どうしてなの!?」

 

「私達と一緒に過ごすのが嫌になったの!?」

 

悲壮感漂う表情の刀奈さんと今にも泣きそうな簪にちょっと胸が痛んだ。

 

「とりあえず二人共落ち着いて」

 

「でも……何で……」

 

「何であんな事を言ったの?」

 

「鈴の性格からしてそう簡単には引かないですし、俺も部屋を代わるつもりはないですよ。それに忘れてませんか?」

 

「「えっ?」」

 

「ここの寮長千冬姉だから安心していいですよ」

 

「「あ―」」

 

俺の言葉に納得したのか二人はホッとした表情に変わる。

 

「ひにゃあぁぁぁ!?」

 

ズドォォン!!

 

突如として外から悲鳴と大きな音が聞こえ部屋が揺れた。

 

南無……成仏しろよ鈴。

 

合掌していると――

 

コンコン、ガチャ

 

「入るぞ」

 

ノックする音が聞こえたので俺がドアを開けようとする前にドアが開き千冬姉が入ってきた。片手にはぐったりとした鈴がぶら下がっている……。

 

「織斑、更識姉妹。イタズラ猫は躾ておいた、後は任せるぞ」

 

そう言い鈴をポイッと投げ捨て部屋から出ていった。

 

「おい、鈴大丈夫か?」

 

大きなたんこぶをつくり、気絶している鈴を揺すって起こしてみると。

 

「一夏―――っ!!」

 

ガバッと起き上がり、俺に詰め寄ってきた。

 

「千冬さんが寮長だなんて聞いてないわよ!」

 

「いや、てっきり知ってるかと思ってたから逝かせたんだけどな……」

 

「そんな訳ないでしょう!知ってたら突撃しないわよ!あたしに死ねって言ってるようなものじゃない!!って一夏、微妙に言い方が違う―――っ!!」

 

ダーッと涙を流しながら、俺の胸ぐらを掴みガクガク揺する鈴でした。

 

「そういう訳だから部屋を代わる事は諦めてくれ」

 

「わかったわよ。千冬さん相手じゃ諦めるしかないじゃない………」

 

そう言い渋々といった感じの鈴。まあ、恐怖体験すれば諦めやすいからな。

 

「ところで約束覚えてる?」

 

「約束?いつのだ?」

 

「ほら、小学生の時にした大事なやつ……覚えてるよね?」

 

急に顔を伏せて、ちらちらと上目遣いで俺を見る。心なしか恥ずかしそうにしている。

 

「えーと、あれか?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を食べてくれる?だっけ」

 

「そう!それそれ!」

 

約束を覚えてくれた事に鈴の表情はパアッと明るくなるが………あれ?

 

「何で鈴がその約束覚えているんだ?」

 

「はあ?当たり前でしょ!大事な約束なんだから!」

 

「いやさ……その約束はもう無効になったぞ」

 

「はあ?どういう事よ!?」

 

俺の発言に納得がいかない表情の鈴だ。

 

「あれ?覚えてないのかその後の事を?」

 

「え、えっと……わかんない……」

 

「その約束の返事の前に聞いたんだよ。それってプロポーズか?ってそしたら鈴何て言ったか覚えてるか?」

 

「う、ううん……」

 

「顔を真っ赤にして“嘘嘘!冗談冗談!忘れて忘れて”って言ったんだよ」

 

「ええっ!?そ、そんな事言ったの!?」

 

動揺する鈴の表情からするとそこまで覚えてないな………。

 

「俺は鈴に真意を聞こうとしたら“いいから忘れなさいよ!!”って鬼気迫る顔で言ってたから。からかわれたんだなって感じたな」

 

「ガ―ン!」

 

「俺さ、鈴から(異性としては意識してないけど)そう言ってくれ嬉しかったんだぜ……でも、違うみたいだから親友として接しようと決めたんだ」

 

ゴン!

 

俺の言葉を聞いて鈴は壁に頭をぶつけた。

?何してんだ?

 

「あたしの……バカ……あの時のあたし死ね…」

 

「お―い、鈴大丈夫か?」

 

「あたし自分の部屋に帰る……」

 

そう言い鈴はとぼとぼと部屋の扉の方に歩き出した。

 

「そうか、気をつけて帰れよ。迷子になっても俺達の部屋には泊めないからな」

 

「わかってるわよ!それじゃあね!!」

 

バタンと言う音を立てて部屋を出ていったが―。

 

「うわぁぁん!!あたしのバカ―――――!!!」

 

泣き叫びながら走り去っていった。

まあいっか、明日には元気になってるだろうしな。

 

そう考え、俺は恋人達と一緒にゆっくりと眠りにつく事にしたのだった。

 

――翌日、生徒玄関前廊下に大きく張り出された紙があった。表題は『クラス対抗戦日程表』。うちのクラスの最初の対戦相手は簪だった。




どうでしたか?


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17話

深夜になりましたが更新します。

ではどうぞ


5月。あれから数週間がたち、大分IS学園の雰囲気に慣れてきた。

 

今までは質問攻撃や視線地獄に心折れそうだったがそこをケアしてくれたのは俺の恋人達と布仏姉妹。

 

やっぱり右も左もわからない俺にとっては4人の存在は大きかった。

簪と本音はいつも気遣ってくれるし、刀奈さんは周りの視線から分散する意味で俺の隣を歩いてくれたり、生徒会入りでかなり楽になっている。

 

勉強の方では虚さんが中心になって教えてくれているので非常に助かっている。

おかげで授業に着いていけるレベルにまで上達した。

 

本当に良かったな……、もしもこの4人ではなくて幼なじみの箒や鈴が教えてくれると言って来たら…………。

 

やめよう………想像したら頭が痛くなってきた……。

ISの勉強と実技がはかどらないどころか更に迷走してしまう展開に発展してしまいそうだ。

 

箒は箒で擬音を中心に言いそうだし、鈴は何故か感覚とか言って訳がわからない……。

 

ダメだ……俺の幼なじみはまともじゃなかった……。

 

世の中こんな事ばかりじゃないはずなのにな………。

 

ちなみに箒はクラスの雑用から逃げ出した罰でクラス対抗戦までセシリアの代わりに雑務をやる事になった……千冬姉の監視付きで……。

 

鈴はクラス対抗戦近いのでなるべく相手の情報を知られてはならないのとクラスメイトのいざこざにならないよう接触は避けている。

ただ顔を合わせたら涙目で睨まれて逃げていった時は訳がわからなかった………。

俺が何をしたんだよ。

 

そして放課後、かすかに空が橙色に染まりはじめるのを眺めながら今日もまた特訓の為第三アリーナへ向かう。

 

メンツは俺、本音、セシリア。日に日にクラス対抗戦が近付いている事もあり、セシリアの表情は真剣そのものだ。

緊張しているのかもしれないがそこは本音に任せよう。俺は俺の出来る事をするだけだ。

 

「とりあえず近接に関してはある程度は出来るようになったな」

 

「ええ、中距離射撃型のわたくしには近よられては本来の実力は出せませんわ」

 

「最初は〜大変だったよね〜」

 

そう、本来セシリアの得意戦闘は中距離射撃なので近接されるとかなり弱体する。

一応近接武装は搭載されてはいるもののセシリアはあまり得意にしていなかった。

 

なので近接武装のみでの近接格闘訓練をしたのだが………セシリアが不慣れなのか開始数分で終わってしまうパターンが続いた。

もちろん得意不得意はあるがあまりにひどすぎた為、近接武装の使い方まで教える事になったのはご愛嬌という事で………。

 

後、本音がセシリアの武装についてのアドバイスをしてあげたらビットの稼働が滑らかになり、静止しない状態でも動かせるようになったのは大きい。

 

まあ、それでも簪の勝ちは揺らがないな……鈴はわからないけど……。

 

そう考えながら、俺は第三アリーナのAピットの中に入ると―。

 

「待ったわよ、一夏」

 

何故か鈴が俺達を出迎えた、腕組みをしてふふんと不敵な笑みを浮かべている。おかしいな予定は教えてないはずだけど……。ちらりと後ろを見るとセシリアと本音は鈴がいた事に驚いていた。

 

「鈴、どうやってここに入ってきたんだよ……」

 

「そうですわ、ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ」

 

「はんっ、あたしは関係者よ。一夏関係者。だから問題なしね」

 

と挑発的な笑いと共に、自信満々に言い切ってきたが……なんだそりゃ。

 

確かに関係者ではあるが今回は違うよな……。

 

「でね、一夏。あんたに言いたい事があるのよ」

 

「何だよ言いたい事って?」

 

俺は聞いてみると鈴はプルプルと震えだした、何だ?調子でも悪いのか?

 

「あんたのせいで………あんたのせいで大変な目にあったのよ――――!!」

 

鈴はそう叫んだ来たが俺には心当たりがない。

 

「俺のせいって……いったい何があったんだよ?」

 

「あんたがあの事言うから、あたしは毎日恥かかされてるのよ!」

 

「あの事って?」

 

「中学の学園祭の時の話よ!おかげで色んな意味で人気者になったじゃないのよ!」

 

あ〜、あれね。何で怒る必要があるんだが……。

 

「良かったじゃないか、ボッチになるよりはましじゃないか」

 

「どこがよ!あたしのクラスじゃ、りんにゃんって呼ばれるのが当たり前になってるのよ!あげくには担任や副担任にまでりんにゃんって呼ばれる始末になったじゃない!」

 

「担任にまで覚えてもらって良かったじゃないか。なあ、りんにゃん」

 

「言うな――――!!」

 

俺がりんにゃんと呼ぶと両手を天井に上げて怒り叫ぶ鈴。

 

「まあ、少しは静かにしたらどうですのりんにゃんさん」

 

「そうだよ〜静かにしなよ〜りんにゃん〜」

 

「うがあぁぁぁ――!!」

 

セシリアと本音がりんにゃんと呼ぶと更に怒りのボルテージが上がった。

 

「ええ、ええ、静かにするわよ!しまくってやるわよ!!」

 

ガシガシと頭をかき、地団駄を踏みまくる鈴。

 

そこまで嫌なのかよ………似合ってたのにな……。

 

「とにかく、謝りなさいよ!」

 

「何でだよ。俺は鈴の交遊関係広がるようにしたのに心外だな」

 

「気遣いは嬉しいけどやり方が違う――――!!」

 

と怒り叫ぶ鈴でした。

やれやれ騒がしいな……まったく。

 

「いいわ。来週のクラス対抗戦、そこであんたを全力で叩きのめしてあげる」

 

「おい、鈴―」

 

「ぼこぼこにしてやるから!泣いて謝っても許さないからね!」

 

そう言い残して鈴は出ていった。

 

「クラス対抗戦に出るのはわたくしですのに……」

 

「どうやってぼこぼこにするのかな〜?」

 

「さあな……」

 

俺達は鈴の言葉に首をかしげるしかなかった………。

 

――――――――――――

 

試合当日、第二アリーナ第一試合。組み合わせはセシリアと簪。

 

アリーナは全席満員だ。まあ俺はと言うと刀奈さんと一緒にピットのモニターを見ている。近くには千冬姉や山田先生もいる。

ここは関係者以外立ち入り禁止の場所なので箒はいない、いたら面倒くさい事間違いなしだ。

 

「さあ、今日が簪ちゃんのデビュー戦ね」

 

「そうですね。簪はしっかりやってくれますよ」

 

「そうね。だからしっかりと記録しておかないといけないわね」

 

と何処から取り出したからわからないがビデオカメラを用意していた。

 

そんな事しなくてもちゃんと記録しているはずなんだけどな……。

 

「それはそれ、これはこれよ」

 

「あはは……」

 

そうでしたね。忘れていた訳ではないが俺と恋人同士になる前は簪の事を溺愛してたな……まあ、いわゆるシスコンだ。

 

今ではすっかりそういう事はなかったが抑えていたのが解放された感じだ。

 

嬉々として簪のデビュー戦を楽しみにしている刀奈さんとは対称的に俺の気持ちは複雑だ。

簪には負けて欲しくないがセシリアは一組の代表、一組は俺のいるクラスな訳で勝って欲しいんだけどな……クラス代表押し付けた訳だし………。

 

と考えながらこれから始まる試合に意識を傾けた。

 

――――――――――――

 

「いいの本音?こんなところにいて」

 

「大丈夫〜大丈夫〜私はかんちゃんのお着きのメイドさんだから〜問題なし」

 

第二アリーナの待機ピットにて、これから始まる第一試合の為に待機していた簪は本音がやって来た事に困惑していた。

 

本音は一組であり、対戦する相手は一組のクラス代表。本来なら居てはマズイはずなのだが本音の性格からしたら敵に塩を送るような事はしない。

 

「まあ、いいけど……」

 

「うんうん。ところでさ〜」

 

じろじろと簪を見詰めながらニヤニヤする本音。

 

「な、何?」

 

簪は本音の視線に恥ずかしさを感じつつ身構える。こういう時は大抵よくない事を言ってくる前兆だからだ。

 

「またおっぱい大きくなった?」

 

「ふえっ!?」

 

本音の言葉に簪は思わず赤面した。

それもそのはずISスーツを押し上げる大きな胸、その大きさは原作シャルロットを越えるDカップにまで成長していた。

 

「そっか〜そっか〜、うんそうか〜」

 

「な、何?」

 

「かんちゃんの〜お胸は〜いっちーの愛で育ってるんだね〜」

 

「本音!変な事言わないで!!」

 

本音の言葉に赤面して言い返すが簪の胸が急成長したのは一夏と恋人同士になってからだ。

 

元々簪はスタイルは悪くないが周りの人の胸のサイズは大きめだけに慎ましやかが目立ってしまう。

 

しかし今ではそんな事は感じさせなかった。簪自身急成長ぶりに困惑し、母親から一夏君のおかげかしらね〜とからかわれて顔を紅くした事は覚えている。

 

恋をすると綺麗になるとは言われるが簪はその言葉に当てはまる事が出来たから今があるのだ。

 

おかげで姉しか出来なかった一夏へのご奉仕が自分も出来るようになった事がうれ……ゲフンゲフン。

 

その後、簪は本音からからわれながらも試合への緊張感がほぐれたが恥ずかしさが残った。

 

――――――――――――

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

アナウンスに促されてセシリアと簪は空中で向き合う。

 

「あなたが更識さんですか」

 

「簪でいい。名字だとお姉ちゃんも入っちゃうから」

 

「では、簪さんいい試合をいたしましょう」

 

「うん。その前に聞きたい事があるの、入学時に日本の事をバカにしたって本当?』

 

最後の質問の方はプライベートチャンネルに切り替えてセシリアに話しかける。

 

『な、何故それを!?』

 

『私、日本の代表候補生なの生まれ故郷だし、気になっちゃって。それでどうなの?』

 

『そうでしたか……すいませんでした。あの時は代表候補生としてのひどい振る舞いをしてしまいましたわ』

 

『うん。それを聞いて安心した。別に動揺させて勝とうだなんて考えてないから気にしないで』

 

『そうでしたか』

 

簪の言葉を聞いてホッとするセシリア。さすがに国際問題に発展すれば簡単に候補生の座を剥奪されてしまう恐れがあるだけに安堵する。

 

(でも、一夏の事をバカにした事は許さない!)

 

 

簪は日本の事に関してはある程度の寛大な心は持っているが一夏の事になると別だ。

いくら一夏が許しても簪自身の気持ちに納得しておらず自ずと薙刀の持つ手に力が入る。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

アナウンスと同時に鳴り響くブザーで試合は開始された。

 

「はああっ!」

 

先に仕掛けたの簪、急接近して薙刀を振るう。

 

「くっ…」

 

一方のセシリアはライフルを射とうとしたがそれよりも速い接近に後退せざるをえない。

 

「逃がさない」

 

簪は後退するセシリアから距離を離すまいと更に近より薙刀での突きを放つ。

 

「速いっ!?ですが」

 

セシリアは簪の速い接近に驚きライフルを盾に防ぐのはマズイと判断してし、ライフルを収納し、ショートソードを展開し防いだ。

 

「近接が弱いはずなんだけど」

 

「確かにブルー・ティアーズは中距離射撃型ですが弱点をそのままにしておくほど愚かではありませんわ」

 

自身の攻撃を防いだ事に感心する簪にセシリアはこう返した。

 

「でも……これは防ぐ事は出来ない」

 

そう言い簪は薙刀での連続突きを開始する。

 

「くっ……は、速い!?」

 

セシリアは簪の連続突きをショートソードで弾いていくが突きの速さに翻弄され捌ききれなくなりシールドエネルギーを削っていく。

 

(こ、このままではブルー・ティアーズが展開出来ませんわ)

 

セシリアは徐々に焦り始めていた。簪の連続突きの対応に追われて自分の戦いが出来ずただエネルギーが減っていくのみだ。

それに相手の連続突きでの疲労を待ってたら負ける事は確実であり後退しようにも出来ずにじり貧になりだした。

 

「ならばこれで!」

 

セシリアは一か八かの賭けでミサイル型のビットを展開し発射する。

 

「あまい」

 

簪はそれを予想していたのか荷電粒子砲を展開発射して迎え射つ。

 

「なっ!?そんな……」

 

「残念だったね。これで私の勝ち」

 

ミサイルを撃退され動揺するセシリアの隙を着き簪は一気に接近し残りのエネルギーを無くしていく。

 

『試合終了。勝者更識簪』

 

アナウンスとブザーで簪の勝利が決まった。




戦闘描写は難しいですね…


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18話

感想コメントが増えてありがたいです。

ではどうぞ


「キャー、やったわ!簪ちゃん!」

 

簪が勝利した事により、刀奈さんは喜び俺に抱き着いてきた。

 

「あはは……」

 

俺はそれに対して素直には喜べなかった。

アリーナの観客席の方では簪が代表の四組は歓喜に涌き、セシリアが代表の一組はまるでお通夜のように暗くなっている。

 

「あっ、ごめんなさい。一夏君にはあんまりよくなかったわね……」

 

そう言いバツの悪そうな表情で俺から離れる刀奈さん。

 

「いえ、いいんですよ。俺としては簪が勝ってくれた事一番ですから気にしないでください」

 

「そう……わかったわ」

 

俺の言葉に納得してくれたのか刀奈さんはそれ以上は聞かなかった。

 

まあ、これで俺のクラスは優勝がなくなったが簪が優勝する事を期待するだけだ。

 

ここからはダイジェストの展開になるがここは仕方ないと思ってくれ。

 

次の試合は鈴が登場してそのまま圧勝した。クラスメイトから“りんにゃん頑張れ!”の応援が効いてるな。

 

セシリアは簪に負けたとはいえ他のクラス代表を圧倒し勝ち星を重ねていく。

 

一方の簪は危なげなく勝っていくので今のところ全勝だ。

 

そしてセシリア対鈴の対決になった訳だが俺はあらかじめセシリアに鈴の特徴や性格を教えていたのである程度の対応が出来た。

 

試合開始と同時に鈴が近接武装でセシリアを追い詰めていくが俺が考えた作戦を実行。

 

セシリア、鈴の禁句を言う→鈴怒り爆発→攻撃が雑になる→セシリアは距離を取り射撃のシャワーを降らせて勝利した。

 

しかし、鈴の怒りは治まらずセシリアに掴みかかろうとしたが千冬姉の出席簿に沈んだ。

 

俺が揺すって起こすと復活した鈴は俺に対して

 

「何であんたが出ないのよ!!」

 

と捨て台詞をはいて去っていったがそろそろ俺がクラス代表じゃない事に気付けよな………。

 

ちなみにこの戦いを見ていた千冬姉はと言うと―

 

「あんな無様な試合をして……あいつ、本当に代表候補生か?」

 

呟かれるほど酷評でした。まあ、俺の幼なじみ達の怒りの沸点は低いからな〜。鈴の場合、怒れば動きが単調になりやすい性格なのでそれを利用させてもらった感じだ。

 

鈴の禁句とは“貧乳”……理由は察してくれ……。

 

これで全勝は簪、一敗でセシリア、鈴が並んでいる。

 

そして優勝を決める最終試合になった。

 

――――――――――――

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

「あんたは……なるほどね」

 

鈴は対戦相手を見て、表情は引き締まる。

 

最終試合の対戦カードは簪対鈴。

 

ここで簪が勝てば文句なしの優勝。一方負ければ、待機しているセシリアと三つ巴戦になる。

 

「あなたには負けない。勝って優勝するんだから」

 

「さっきは油断したけど勝ってさっきの金髪とあんたを纏めて倒してあげるわ」

 

鈴は先程の怒りが治まったのかお得意の挑発的な笑みを浮かべている。

 

「そう、でも私が勝つ」

 

『いいわ、それで賭けしない?』

 

『賭け?』

 

『そう。あたしが勝ったら部屋を代わりなさいよ』

 

『何言ってるの?』

 

プライベートチャンネルに切り替えた上に鈴の要望に簪は眉をひそめた。

 

(まだ諦めてなかったんだ……)

 

千冬にあれだけやられても鈴は一夏と一緒の部屋に入りたい事を簪は理解した。

 

『だからねあんたから千冬さんに言ってよ。それなら問題なしね』

 

『……負けたらどうするの?』

 

『はんっ、あたしがあんたに負ける訳ないじゃない。さっさと荷物を纏めて部屋を代わる準備してなさいよ』

 

と鈴は胸を張り簪を見下した発言した。

実際鈴が簪を見てからの第一印象からこいつなら勝てると考えたのだろう。

しかし、簪は千冬から指導されていて実力はかなりある事を鈴は知らない。

 

(くだらない……!)

 

簪は目の前の相手に沸々と怒りが沸き上がる。こんな人を一夏の側に置くわけにはいかない!と簪の心に火が灯る。

 

『一夏をフッた人が偉そうにしないで!』

 

『し、失礼ね!フッてないわよ!』

 

『一夏はあなたの事は親友って言ってたから、もう諦めたら?』

 

今度は簪がお返しとばかりに胸を張り鈴を見下した。

 

『ムッカ―!あったまきたボコボコにしてやるから覚悟してなさいよ!』

 

『それはこっちのセリフ!』

 

売り言葉に買い言葉、すでに両者の額には怒りマークが浮かび上がっていた。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

鳴り響くブザーとアナウンスで試合開始した。

 

ガギィンッ!!

 

お互いに近接武装を展開して打ち合う音がアリーナ内に響く。

簪は薙刀、鈴は青竜刀それぞれの刃でのつばぜり合いでの力勝負は互角だ。

 

「やるじゃない。けど!」

 

つばぜり合いをやめて、鈴は一旦距離を取った。

 

「逃がさない!」

 

簪は鈴を逃すまいと接近するが―。

 

「甘いわね」

 

簪が近寄ってくるの見て鈴は笑みを浮かべる。

 

「っ!?」

 

簪は鈴の表情から嫌な感じ察して、身構える。

 

「きゃっ!」

 

鈴の肩アーマーがスライドして開く。中心の球体が光った瞬間、目に見えない衝撃が簪を襲う。

 

「今のはジャブだからね」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる鈴、ジャブの後からやってくるのは強烈なストレート。

 

「くうっ!」

 

強烈な衝撃を来るのを簪は薙刀を円のように振り回して衝撃を和らげる。

だがダメージを食らっている事は間違いなかった。

 

――――――――――――

 

「あれは一体……?」

 

ピットからリアルタイムモニターを見ていた俺は呟いた。

それに答えたのは、同じくモニターを見つめるセシリアだった。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す兵器ですわ」

 

すらすらと説明していくセシリア。三つ巴戦を想定してISスーツの上に制服を羽織っていた。

 

モニターには苦戦している簪の姿が映し出されている。

 

(簪……)

 

鈴の攻撃にダメージを受けていく姿に正直目を反らしてしまいそうだ……。

 

「大丈夫よ、簪ちゃんなら負けないわ。ほら顔はまだ諦めてないじゃない」

 

「そうですね」

 

俺の肩を叩いて、そう鼓舞してくれる刀奈さんに少しだけ気持ちが軽くなった。

 

(簪…頑張ってくれ)

 

俺は心の中で応援するしか出来ないもどかしさ感じたが勝利する事を信じるだけだった。

 

――――――――――――

 

「よくかわすじゃない。衝撃砲《龍砲》は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」

 

そう言い簪を褒める鈴、全方位から衝撃砲に防ぐだけだったが終盤からかわせるようになった。

 

「あなたの攻撃はだいたい読めた。もう当たらない」

 

「いったわね。これでどうよ!」

 

簪の言葉に鈴は挑発してると感じ、衝撃砲を射つ。

 

「見切った」

 

簪は来るであろう場所から素早く移動してかわす。

 

「なっ!?」

 

「まぐれだと思うならやってみたら?」

 

「やってやるわよ!」

 

鈴は衝撃砲を連発して簪を狙い射つが―。

 

「あまい……今度はこっちの番」

 

簪はそれをかわして荷電粒子砲を展開、鈴を狙い撃つ。

 

「きゃあ!?や、やるじゃないのよ!」

 

「その武器封じる!」

 

簪は荷電粒子砲を連射、鈴の龍砲を破壊する。

 

「なっ!?龍砲が!」

 

「やられたらやり返す。倍返しだよ!!」

 

簪は装甲を展開し、ミサイルポット装着する。

 

「マルチロックオン、山嵐………ファイアー!!」

 

簪から計48発のミサイルが鈴を襲う。

 

「くっ、この……!」

 

鈴は青竜刀でミサイルを切り落とすが数が多いので裁ききれない。

 

「きゃああぁぁっ!!」

 

龍砲を封じられて青竜刀では間に合わず、鈴はミサイルの雨を食らう。

 

「ま、まだ……」

 

「これで終わりだよ!!」

 

ボロボロになっても立ち上がる鈴に簪はとどめの一撃を食らわせる。

 

『試合終了、勝者更識簪。よって優勝は一年四組です』

 

試合終了のブザーとアナウンスで簪の優勝が決まった。

 

「ふう……」

 

簪は勝てた事に安堵した。観客席での四組は優勝した事に盛り上がっている。

 

「負けたわ……完敗よ」

 

「ううん。私もまだまだだと感じさせられた」

 

「一夏と一緒の部屋にはいるのは諦めるわ」

 

「そう。いい試合だったよありがとう」

 

そう言い鈴に握手を求めようとしたが―。

 

ズドオオオオン!!!

 

突然大きな衝撃がアリーナ全体に走る。

 

「「え?」」

 

突然の出来事に固まる簪と鈴。

 

ステージ中央からもくもく煙があがり、アリーナの遮断シールドを貫通して入ってきた衝撃波だ。

 

「な、何!?」

 

「な、なんかヤバイわよ!」

 

――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

 

「「ええ――っ!?」」

 

ISのハイパーセンサーから緊急通告に思わず声をあげた。

 

試合終了していた為二人ISは消耗しており、鈴のシールドエネルギーはほとんどないに等しい状態なのでいわばピンチだった。

 

「ど、どうしよう……」

 

「本気でマズイわね……」

 

目の前の所属不明のISに冷や汗が流れ落ちるのだった。

 

――――――――――――

 

『凰さん!更識さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます!』

 

突然乱入して来た機体に山田先生は簪と鈴に逃げるように連絡していた。

 

「マズイわね……」

 

「ええ、かなりヤバイ展開ですね」

 

乱入して来た機体はアリーナのシールドを破壊して来た訳だから観客席にも被害がおよぶ可能性は大だ。

 

「それに簪ちゃんが危ないわ」

 

「早くいかないと大変ですね」

 

「ああ、更識妹には荷が重すぎるな」

 

「あの―、あそこには凰さんも居るんですよ。忘れてませんか?」

 

「「「あっ……忘れてた」」」

 

「ちょっと――!!更識さんの事だけ考えてる場合じゃないですよ!ふざけないでください!!」

 

「「「すいません……」」」

 

山田先生の怒りの声に俺達は平謝りだ。

 

けどしょうがない俺は恋人だし、刀奈さんは大事な妹、千冬姉は将来の義妹だから心配するんですよ。

 

「更識、織斑」

 

「「はい」」

 

「すぐに出撃だ。あの所属不明の機体を制圧してくれ」

 

「「わかりました」」

 

「待ってください!わたくしも出撃できますわ」

 

「だがな……」

 

「織斑先生、鈴のISのエネルギーはほとんどありません。なので救出する為にも人手は必要です」

 

「そうか……わかった。オルコットお前も出撃だ」

 

「はい!」

 

俺の進言で千冬姉は納得し、セシリアも出撃となった。

 

「今、遮断シールドがレベル4で扉がロックされているが最悪壊しても構わないがなるべく壊す箇所は少なくしてくれ」

 

「わかりました」

 

「よし、ではいけ!」

 

「「「了解!」」」

 

千冬姉の指示で俺達はアリーナステージ中央に向かい走りだした。

 

待っててくれよ簪、今助けにいくからな。

 

逸る気持ちを抑えながら簪の無事を祈った。




次で1巻の内容は終わるかな?


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19話

今回で一巻の内容は終わりになります。

ではどうぞ。


「くっ……!」

 

目の前に迫るビームをかわしながらなんとかしようと思案する簪。

 

「ちょ、ちょっと離しなさいよ!あたしは戦えるわよ!」

 

鈴は簪に抱えられている状態に戦う意思を伝えたが―。

 

「どうやって?シールドエネルギーがほとんどない上に龍砲が使えない状態で戦えるの?」

 

「うっ……」

 

簪の指摘に鈴は言葉に詰まる。彼女の言っている事は間違いではない、今の状態で戦えば足手まといになる上に最悪命を落とす事になる。

 

(何でこうなるのよ!!)

 

何も出来ない状況で鈴は内心苛立っていた。簪の足手まといになっていて、打開しようにもエネルギーがほとんどない上に援護出来る龍砲は壊されている。

 

(悔しいわね……)

 

鈴自身出来る事と言えば、目の前の『全身装甲』の所属不明のISを睨み付けるだけだ。

 

(このままじゃ……キツイ……)

 

簪は助けを待ちながら時間を稼いでいた。

自分1人ならなんとか出来るが鈴を抱えた状態では敵の攻撃の餌食になるのは時間の問題だ。

自分のエネルギーはまだ残っているが鈴はエネルギーがない。

 

ほとんど無防備状態だ……。最悪、自分を盾にして鈴を守らなくていけない……その状況が簪を焦らせる……。

 

(お姉ちゃん、一夏……早く来て!)

 

簪は頼りになる姉と最愛の人を想いながら目の前の攻撃に備えた。

 

――――――――――――

 

俺達はアリーナステージ中央にいる簪と鈴を救出そして所属不明のISを制圧する為に駆け出していた。

 

「一夏君、そこを右ね」

 

「はい」

 

刀奈さんの誘導で俺とセシリアは後をついていくような形だ。

 

本当なら壁や扉を破壊して向かいたいがその分エネルギーを消費してしまう。

 

なので温存して人力でステージ中央に向かっていた。

 

「待って、この部屋に入りましょう」

 

刀奈さんが足を止めて、扉の前にたった。

 

「この部屋ですか?」

 

「ええ、ここからなら近道よ」

 

そう言って扉を開けると―。

 

「あれは……梯子ですか?」

 

少し広い部屋の中に入り、周りには備品が置いてあり少し離れたところに梯子があった。

 

「ええ。本来なら裏方用に使う物なんだけどこれを使いましょう」

 

「わかりました。先にいきますね」

 

俺は一足早く梯子に手を伸ばして上り始めた。

 

 

 

「えっ?何で一夏さんが先に行くのですか?」

 

先に一夏が行った事にセシリアは疑問に感じた。

 

ここの内部に詳しく誘導していた楯無が本来先に行くべきであると―。

 

「一夏君は気を使ったのよ」

 

「どういう事ですか?」

 

「セシリアちゃんはISスーツだけど私は制服よ。それにスカートだもんみえちゃうわ」

 

「ああ、そうでしたわね」

 

楯無の説明にセシリアは納得した。梯子に上るなら上を見なくていけない、楯無が先にいけば見上げてしまい必然的にスカートの中が見えてしまう訳だから一夏は先に行ったのだ。

 

(一夏さんは紳士ですのね)

 

楯無を気遣い、先行した一夏に感心するセシリア。

 

「セシリアちゃんは気になるのかしら?」

 

「な、何がですか?」

 

「私の、スカートのな・か♪」

 

そう言い楯無は自分のスカートを両手で掴み少し持ち上げて妖艶に微笑む。

 

「さ、先に行きますわ!お、お待ちください!一夏さ――ん!」

 

楯無の妖艶に当てられたのかセシリアは顔を真っ赤にして慌てて梯子を上り始めた。

 

「ちょっとからかいすぎたかしらね……」

 

セシリアが梯子を上る様子見ながら舌を出して、いたずらっ子のような笑み浮かべた。

 

(ちゃんとISスーツは着てるけどね)

 

楯無は非常時に対応出来るよう予めISスーツを着ていた。

 

(私のスカートの中を見せるのは一夏君だけよ……なんてね)

 

そう心の中で呟く楯無ではあるが実は簪の事が心配で仕方ないがそこは更識家の人間、狼狽えないように落ち着くだけだった。

 

――――――――――――

 

「うおおっ!」

 

いち早くステージ中央に着いた俺は白式を展開し、敵ISに斬りかかる。

 

「ちっ……」

 

敵ISは俺の斬撃をするりとかわされてしまい思わず俺は舌打ちした。

 

「「一夏!」」

 

「簪、無事か!?………鈴も」

 

「うん。大丈夫」

 

簪は俺が助けに来てくれた事に笑みがこぼれ安堵した顔になっている。

 

「あたしはついでに聞こえるのは気のせい?」

 

鈴はやや不満気に言ってくるが気にしない、気にしないっと。

 

「大丈夫簪ちゃん!………鈴ちゃんも」

 

遅れて刀奈さんとセシリアがISを展開してやって来た。

 

「大丈夫だよお姉ちゃん」

 

「良かったわ……」

 

簪が無事だと確認出来て安堵する刀奈さん。

 

「あの、皆さん」

 

「「「はい?」」」

 

「鈴さんをかまってあげませんか……ほら」

 

とセシリアが指差した先には―。

 

「いいもんいいもん……かまってくれなくてもいいもん……今のあたしは役立たずだもん……マスコットのりんにゃんだもん……」

 

座り込んでのの字を書いて拗ねている鈴でした。

 

「とりあえず、一夏君は鈴ちゃんを安全な所に連れて行ってね」

 

「わかりました」

 

「簪ちゃんはまだ戦える?」

 

「大きなダメージはないけど、エネルギーを補給しないと無理かな」

 

「じゃ、一夏君は二人をお願い。セシリアちゃんは援護して!」

 

「はい!」

 

「わかりました。ほら鈴いくぞ!」

 

「あっ、ちょ―」

 

刀奈さんの指示通りにして俺は鈴を抱えて開いているピットに向かう。

 

「さっ、いくわよ」

 

「お行きなさい!ブルー・ティアーズ!!」

 

刀奈さんとセシリアは俺達に攻撃が及ばないように敵ISの目線を反らす為に攻めていく。

 

そのおかげもあって無傷でピットに鈴を運ぶ事が出来た。

 

「ほら鈴、着いたぞ」

 

「う、うん……」

 

抱えていた鈴を下ろしたら妙にしおらしい態度に変わっていた。

 

「俺はか、じゃない楯無さんとセシリアの援護しにいくから先に行くな」

 

「うん。エネルギーを補給したら私も行く」

 

「あたしも」

 

「鈴、お前は安全な所に避難してろ」

 

のけ者にされまいと名乗りをあげる鈴に俺は非情な通告した。

 

「な、何でよ!?あたしも戦えるわよ!」

 

「龍砲が壊れてるのにか?」

 

「うっ……」

 

「別に鈴の事をのけ者にしてる訳じゃないんだ。武装が壊れた状態じゃ危ないから無理しないでくれって言ってるんだ」

 

「わかったわよ、大人しくしてる」

 

俺の説得が効いたのか鈴は渋々引き下がってくれた。

 

「よし、じゃあ―」

 

「一夏ぁっ!」

 

俺は刀奈さんとセシリアの援護しようとピットから出ようした時にアリーナのスピーカーから箒の大声が聞こえた。

 

「「「えっ?」」」

 

中継室を見ると審判とナレーターがのびていた。ドア開けた時に気絶させたのかよ……。

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

大声。キーンとハウリングが起こる。ハイパーセンサーで見ると怒っているかわからないがふんぞり返っている顔が見えた。

 

はい。3、2、1

 

「「「アホか――――!!!」」」

 

箒の行動に関して俺達の気持ちが同じになり、シンクロして叫んだ。

 

「バカじゃないの!?ねえ、バカじゃないの!?」

 

「あいつ、自殺志願者だった訳!?」

 

「本当にあれが幼なじみだと思うと目眩がしてきた……」

 

簪と鈴が箒に対して辛辣なコメントを言っているが俺もそう思ってしまった。

 

アイツ(箒)は何考えてるんだよ……全く、訳がわからないよ……。

 

ヤバい!気がつくと、敵ISは今の館内放送で発信者に興味を持ってしまった。

 

刀奈さんとセシリアがこちらに興味をひかせようして攻撃をしているがうまくいかない。

 

「くそっ!間に合うか!?」

 

俺は慌てて敵ISに向かって突撃していく。

箒はどうでもいいが中継室にはまだ審判やナレーターがのびていて逃げられない!

 

このままでは大惨事だ!

 

突撃していく先には今にも砲口のついた右腕を中継室に向けて射とうとしている。

 

「――オオオッ!」

 

自然と雪片を握る手に力が入る。鞘に納めて居合いの構えのままスピードを更に上げていく。

 

「間に合えぇ――!!」

 

―斬!

 

俺は敵IS目掛けて雪片を抜刀してからの一閃。

 

「……!?!?!?」

 

再び雪片を鞘に納めると敵ISは腕ごと体を真っ二つになった。

 

ああ……この手が赤くなっちまったな………。

 

非常時といえ敵ISの命を奪った事に罪悪感が沸き上がるが――。

 

「一夏君!まだ終わってない!!」

 

刀奈さんの声に我に返り敵ISの方に目を向けると―

 

「なっ!?」

 

敵ISはまだ動いていた!あれで終わったはずじゃないのか!?

それどころか残っている砲口の左腕が俺を狙っている。

 

「くっ……!」

 

一体何が何だかわからないが敵ISは最大出力形態に変形させて俺を狙っている。

 

「一夏さん!逃げてください!」

 

セシリアの悲鳴に近い声が俺に逃げるように促すが集中力が切れた状態ですぐに動く事が出来ない。

 

無情にもビームが迫ろうとしていた。

 

無理か……覚悟を決めるか……。と半ば諦めていると―。

 

「山嵐!」

 

ミサイルの雨が敵ISの頭上に降り注ぎ今度こそ制圧した。

簪、間に合ったんだな……。

ホッとしたせいか気が抜けてしまい座り込んでしまった。

 

――――――――――――

 

「お前達よくやったぞ」

 

俺達は千冬姉の元に戻り労いの言葉をかけられた。

 

「まずは織斑。最後まで気を抜かない事だ、更識妹が助けてなかったらとんでもない事になってたぞ」

 

「はい…」

 

微笑みから一転真剣な眼差しで俺を見据えての注意をしてきた。

 

「これは私の予想だが、敵ISの命を奪ったと思い罪悪感が沸き上がって動く事が出来なかった。違うか?」

 

「いえ、合ってます……」

 

「敵ISを調べたのだが人は乗っていなかったぞ」

 

「えっ?」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

千冬姉の言葉を聞いて俺をのぞく皆が驚きに変わる。

 

「そんな、ISは人が乗らないと動かないはずなのに……」

 

「それどころか動いていて一夏を狙おうとしてたわね」

 

「確かに考えてみれば人が乗っていれば大量に血が出てもおかしくありませんわ」

 

「それでも動いているのなら納得ね……」

 

確かに皆が言うようにISは人が乗って初めて動くのだ。

この事は最初の時に教えてもらっていたらこそ、あの時に初めて命を奪ったと罪を感じた。

 

「まあ、詳しい事は話せないが織斑が気に病む事はないとだけは伝えておく」

 

「そうですか」

 

そう言い千冬姉は俺の肩をポンと叩いた。どうやら励まされたみたいだな………。

 

「あの……千冬さん」

 

「凰、織斑先生だ。何だ?」

 

「あいつ、いえ篠ノ之箒の処分はどうなるのですか?」

 

鈴は千冬姉に箒の事を訪ねた。確かに今回は自らの身を危険にさらし、誉められた行動をとった訳ではないからな。

 

「あいつならあそこにいるぞ」

 

と親指でクイッと指差した先には――

 

「〜っ〜っ」

 

「篠ノ之さん大丈夫ですか?」

 

大きなたんこぶをこしらえて山田先生に氷のうで冷やされている箒の姿がいた。

 

(((((うわぁ……)))))

 

俺達は箒の姿に思わずドン引きした。そうとう怒ってたんだなこりゃ………。

 

「全く、無謀と勇気を履き違える馬鹿で本当に疲れる」

 

「本当ですね……」

 

「本来なら自室で謹慎処分

にするところなんだが………こいつは反省する気なしだからな……」

 

はあと、ため息吐く千冬姉。箒に手を焼かされているからこそ余計な疲労が出るんだよな………。

 

「仕方ない……あれをするのが悔やまれるがやむを得ないか……」

 

「ああ、あれですか?」

 

「そうだ。篠ノ之、お前は今日から特別観察処分者だ」

 

「何ですかそれ?」

 

「特別観察処分者は問題児の更正プログラムの一環として取り入れた物だ。これから学園の奉仕活動や教師達の手伝いがメインとなる。しっかりとやるんだぞ」

 

千冬姉は箒に対してものすごい、いい笑みを見せてきた。

 

「では、話はここまでにしよう。後は各自ゆっくり休め、解散!」

 

千冬姉の掛け声で俺達はそれぞれ行動を開始した。

 

――――――――――――

 

「おわっ!?」

 

部屋に帰ってた途端、いきなり二人に抱き付かれた。

 

「簪?刀奈さん?」

 

いきなりの事に戸惑うが二人の体が震えているのに気付いた。

 

「ばかばかばかばか」

 

「心配っ、したんだから!」

 

簪と刀奈さんは今に泣きそうな声で俺をギュッと強く抱き締める。

 

「うん。心配かけてごめん……」

 

俺はそんな二人に謝った。

確かに気を抜いてしまって敵ISにやられそうだったからな……仕方ないか……

 

「許さない。キスして」

 

「私もよ、一夏君」

 

「仰せのままに」

 

俺は二人を抱き締め返してキスをしていく。

 

しばらく抱き締めて二人が落ち着くまでこうしている事にした。

 

(俺はまだまだだな………)

 

改めて、自分の未熟さを痛感した瞬間だった。

最愛の人達を泣かせる訳にはいかないし、やっぱり笑っていて欲しいからだ。

 

俺はそう心の中で決意して二人のぬくもりを感じながらゆっくりとした時間を過ごした。

 

――――――――――――

 

「ほら、簪。あーん」

 

「あーん」

 

「どうだ?」

 

「んっ、美味しい」

 

四組が優勝したのでデザートのフリーパスをゲットし、早速それを使い俺に食べさせてもらっている簪。

 

「ごふっ!あ、あまいわ……」

 

「ぶ、ブラックコーヒーを……」

 

「な、なんてうらやましい……きいい――っ!」

 

俺達の光景を見て、外野はそれぞれ騒ぎ出しているがきにしない。

 

簪は頑張ったご褒美だ、その権利はあるからな。

 

「一夏。次、食べさせて」

 

「ああ。はい、あーん」

 

「あーん」

 

まっ、俺も少し気恥ずかしいけど幸せなんだよな。

 

だって可愛い彼女が喜んで食べている姿を見ているだけで癒されるもんな。

 

しばらくはこうしてようっと

 

 

 

 

 

 

「「ぐぎぎぎ………」」

 

一夏の元に突っ掛かりたいが千冬に監視されている為動けない箒。

 

同じく一夏の元に突っ掛かりたいが簪に試合で負けた上に助けが来るまで守られた貸しがある為動けない鈴。

 

「良かったわね簪ちゃん……後で私もやってもらおうっと」

 

妹と彼氏の幸せそうな顔に微笑ましくしている刀奈。

 

「簪さん幸せそうですわ。いつか私も素敵な方と巡り会いたいですわ」

 

簪を見て、いつか自分もと憧れるセシリア。




一巻、最後のシーンは次話に入れます。


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20話

ここから二巻の内容になります。

ではどうぞ


6月頭、日曜日。俺は久々に五反田の家に遊びに来ていた。

 

「で?」

 

「で?って、何がだよ?」

 

格ゲー対戦中にいきなりな会話フリだな。おっと、危ない!

 

「だから、女の園の話だよ。いい思いしてんだろ?」

 

「してねえよ。むしろ災難続きだっつの」

 

何回説明すれば納得するんだ、こいつは。ちなみにこの五反田弾は俺の中学からの友達なんだが、入学式当日に知り合って以降やたらと馬があって三年間鈴と揃って同じクラスだから中学時代はよくつるんでいたな………。

 

「嘘をつくな嘘を。お前のメールを見てるだけでも楽園じゃねえか。何そのヘヴン。招待券ねえの?」

 

「ねえよ……。ってか楽園っていうけどそんなにいいものじゃねえぞ」

 

「はあ?何でだよ?」

 

「毎日、視線地獄に耐えられるか?まるで動物園の檻にいれられた動物の気分を味わえるぞ」

 

「うげ……」

 

具体的な例を出すと弾は嫌そうに呻いた。

 

「迂闊に学園の女子に手を出せば、その女子の国に連れられてモルモットにされてしまうぞ」

 

「うっ……。そ、それは嫌だな……」

 

「まあ、鈴が帰って来た事は驚いたよ。あいつ中国の代表候補生になったんだぜ」

 

「へえ〜。あのりんにゃんがね〜」

 

と弾はニヤニヤとニコニコの中間みたいな顔をしていたがちなみに“りんにゃん”と名付けたのは弾だ。

 

「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに―」

 

ドカンとドアを蹴り開けて入って来たのは弾の妹、五反田蘭。一個下の中三で有名私立女子校に通っている優等生だ。

 

「蘭か?久しぶりだな」

 

「いっ、一夏……さん!?」

 

部屋着なのかラフな格好をしている。いつもビシッとした格好をしてる訳じゃないもんな。家の千冬姉がいい例だな、うん。

 

「い、いやっ、あのっ、き、来てたんですか……?全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど……」

 

「今日は外出してるんだ。家の様子を見に来たついでに寄ったんだ」

 

「そ、そうですか……」

 

「蘭。お前なあ、ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ――」

 

ギンッ!蘭の視線一閃。弾は萎縮していく、相変わらず蘭には頭上がらないな。

 

「……なんで、言わないのよ……」

 

「い、いや、言ってなかったか?そうか、そりゃ悪かった。ははは……」

 

「………」

 

ギロリと弾に鋭い視線を送り付けてくる蘭。

 

「蘭。そんなに弾を責めてやるなよ急だったんだし、連絡する暇がなかったんだろ?」

 

「そ、それはそうですけど……」

 

「むしろ俺に非難の視線をぶつけられても仕方ないよな」

 

「そ、そんな事ないですよ!よ、良かったら一夏さんもお昼どうぞ。私はこれで……」

 

俺の言葉に萎縮したのか慌てて蘭は部屋を出ていった。

 

「ふい〜、助かったぜ一夏」

 

蘭が居なくなり静かになると弾は額の冷や汗を拭った。

 

「相変わらず蘭には弱いんだなお前は」

 

「うるせいやい」

 

「しかし、まあ。蘭は元気そうで何よりだな」

 

まあ、よそよそしい態度から俺に気がある事はわかってはいるがすでに恋人達がいるので正直困る。でも親友の妹だからなかなか切り出せないよな、この話は………。

 

「とりあえず飯食ってから街にでも出るか」

 

「おう、そうだな。昼飯ゴチになる。サンキュ」

 

「なあに気にするな。どうせ売れ残った定食だろ」

 

ああ、あれか。カボチャ煮定食かな?久しぶりに食べるな〜、メチャクチャ甘いけどな。弾の部屋を出て一階へ。一度裏口から出て、正面の食堂入り口にと戻った。

 

「うげ」

 

「ん?」

 

露骨にイヤそうな声を出す弾を後ろから覗く俺。そこには俺達の昼食が用意してあるテーブルがあるのだが、先客がいた。

 

「なに?何か問題でもあるの?あるならお兄1人外で食べてもいいよ」

 

「聞いたか一夏。今の優しさに溢れた言葉。泣けてきちまうぜ」

 

先客は蘭だった。涙をぬぐう弾に対して相変わらずだよな〜、このやりとりは。

 

「別に三人で食べればいいだろ。それより他のお客さんもいるし、さっさと座ろうぜ」

 

「そうよバカ兄。さっさと座れ」

 

「へいへい……」

 

こうしてテーブルに俺、弾、蘭という並びで座った。

 

「蘭、着替えたのか?」

 

「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」

 

さっきまでのラフな姿はなく。半袖のワンピースを身に纏い、わずかにフリルのついた黒いニーソックスをはいている。

 

「そっか、部屋着じゃ店には入れないもんな。似合ってるぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「良かったな誉めてもらえて。何せお前そんなに気合いの入れたおしゃれをするのは数ヶ月に一回――」

 

バシッ!

 

瞬撃のアイアンクロー。弾の口を塞ぐようにしていた。やれやれそんな事言うから頭が上がらないんだろうなとしみじみ思った。

 

「食わねえんなら下げるぞガキども」

 

「食います食います」

 

ぬっと現れたのは80を過ぎてもなおも健在、五反田食堂の大将にして一家の頂点、五反田厳その人だった。うん、昼飯を頂こう。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

「いただきます……」

 

「おう。食え」

 

俺達がそう言うと満足気に頷いて次の料理を始める。手際のいい包丁捌きで料理を作る様は感心するな。

 

「でよう一夏。鈴と再会したんだよな」

 

「ああ」

 

「あれから、ちょっとは成長したのかよ?」

 

「あんまり本人の前で言うなよ……怒られるぞ」

 

「怒ったって怖かねえよ」

 

そう言うが鈴は弾とのやりとりでよく怒りだして殴る蹴るの応酬が始まる。主に鈴がだが………ただスカートの時に回し蹴りは止めて欲しかったな。当然下着、まあパンツが見えてしまうので慌てて顔を背けたり、他の人に見られないように隠したりしなくてはならない苦労で大変だったな……。

 

「鈴さんが一夏さんと同じIS学園に………」

 

鈴の話になった途端に表情を変わる。鈴は恋のライバルと意識してるみたいだが実際は親友止まりなんだけどな。

 

「決めました。私、来年IS学園を受験します」

 

「お、お前、何言って――」

 

ビュッ―――ガン!

 

見事、お玉は弾の顔面を直撃した。うお、痛そうだな……。

 

「え?受験するって……なんで?蘭の学校ってエスカレーター式で大学まで出れるところじゃなかったのか?」

 

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」

 

「IS学園は推薦ないぞ……」

 

よろよろと立ち上がる弾。あのダメージから甦ったようだ、おかえり。

 

「お兄と違って、私は筆記で余裕です」

 

「いや、でも……な、なあ、一夏!あそこって実技あるよな!?」

 

「ああ、あるぞ。IS起動試験があって、適性があるかないかで合否が決まるみたいだぞ」

 

「……」

 

無言でポケットから紙を取り出す蘭にそれを受け取って開く弾。

 

「げえっ!?IS簡易適性試験……判定A……」

 

「問題はすでに解決済みです」

 

Aランクか……高いな……でも、蘭はわかっているのかな?この結果の裏を……。

 

「で、ですので。い、一夏さんにはぜひ先輩としてご指導を……」

 

ゴホンと咳払いして俺の方に向きを変えて頼んできたが……。

 

「すまない。それは出来ない」

 

「な、なぜですか!?」

 

ガタンと椅子を倒して立ち上がる蘭。断られると思っていなかったみたいだ。

 

「悪いけど、俺は教えられるほど知識も実力もないよ。それにISに関しての事は学園内の生徒達とはかなり差が開いているんだ。そんな事をしたら本気で国家代表やIS企業の就職を目指している人達に失礼だよ」

 

これは本当だ。元々俺はISに関しての知識や実力なんて物は全くないのだ。それを刀奈さんや簪と虚さん、本音でようやく理解している為、俺がISに関して語っていたら笑われてしまう。

 

「それに蘭はまだ選択肢はあるんだからもう少し考えた方がいいぞ」

 

「選択肢ですか?」

 

「ああ、俺みたいにIS学園に強制入学で選ぶ事なんて出来なかったんだ。だから蘭は後悔しない選択をして欲しいんだ」

 

これは一年先輩としてのアドバイスだ。といってもたいした事はないんだよな……。

 

「は、はあ……」

 

「だからよく考えて厳さん達とよく話し合ってそれから決めて欲しい。それでIS学園を受験したいのなら止めないし、もし合格して入学出来たらその時は歓迎するよ」

 

「わかりました。もう少し考えてみます」

 

俺の話に納得してくれたのか蘭は頷いてくれた。

 

「では、そういう事で。ごちそうさまでした」

 

いつの間にか昼食を平らげた蘭は箸を揃えて置き、合掌をして席を立った。もちろん自分が使った食器は自分で片付ける。うん、蘭はいい奥さんになるな。相手の男はさぞかし幸せ者だな。

 

「一夏」

 

「なんだよ?」

 

ずずいっと顔を寄せて、なぜか小声で話し掛けてくる弾。

 

「とりあえず蘭の事はサンキューな。あれで少しは考えてくれるといいんだけどよ……」

 

「んな事言われても最終的に決めるのは蘭だろ?俺から何も言う事はないよ」

 

「そうなんだけどよ、なんつうか心配でなあ……」

 

そういう事言って不安な顔をしているがまあ、いつもの事だろう……俺の事をシスコンと言っているが弾もそうとうなシスコンだよな。

 

「そうだ。一夏、お前彼女出来たのかよ?IS学園内でもモテるんだろ?」

 

「いきなりなんだよ……ったく……」

 

いきなり話題を変えて来た弾にちょっと呆れてしまった。

 

「だってよ〜。あそこにはいっぱい可愛い娘や美人な娘もいるじゃんか。お前なら落とすのは簡単だろ」

 

「あのな……」

 

と再び同じ話題になってしまった。いくらモテても今の俺の立場からしたら普通に付き合ったり出来ないからな……相手に下心がなければ一番いいんだけどな………仕方ないな……そろそろ話すか。

 

「あー、っと彼女ならすでにいるぞ」

 

「え?」

 

俺のカミングアウトに弾が固まった。よく見ると弾と蘭の母親である蓮さんや調理していた厳さんまでも固まっていた。あれ?何かあったか?

 

「ぱ、ぱぁ〜どぅん?」

 

「何でヘンテコな英語で言うんだよ?だから彼女はいるぞ」

 

「嘘だ!!?」

 

ピュッ―――ガン!

 

再びお玉が弾の顔面に直撃した。

 

「嘘じゃねえよ。ちゃんと彼女はいるって」

 

「いやいやいやいやおかしいだろ!お前に彼女がいるだなんて天変地異の始まりか世界の終わりかと思うぞ!」

 

「そこまでひどいのかよ………」

 

弾の言い方に思わずショックを受けてしまった……言い過ぎじゃないのか。

 

「で、その彼女の写真とかないのかよ?」

 

「あるぞ、ほら」

 

俺は携帯を取りだして写真にした物を画像として表示し弾に見せた。

 

「両隣にいる水色の髪の子が俺の彼女達だよ」

 

弾に見せたのは簪、刀奈さんと布仏姉妹と一緒に撮ったやつだ。ちなみに刀奈さんの隣に虚さん、簪の隣には本音がいる。

 

「ふざけんなよ、この野郎!美少女二人独占すんじゃねえよ!しかも二股じゃねえか!どうすればこんな風にモテるのか俺に教えてください―――!!後、眼鏡知的美人のお姉さん紹介してくれ!!」

 

ダーッと血の涙を流しながら俺に迫る弾。

 

「欲望むき出しだな、おい……しかも虚さんか……」

 

「えっ?このお姉さんの名前虚さんって言うのか?」

 

「ああ、一応話してみるが……期待はするなよ」

 

「ありがとう一夏!流石は俺の心の友よ!」

 

と俺の手を取ってブンブンと握手しだした。さっきからテンション高いな………。

 

「まあ、会えたとしても変な事とかするなよ。清い付き合いしろよ、あの人箱入り娘なんだからよ」

 

「そ、そうか……」

 

「もし、変な事して泣かせたら……後ろからブスリだからな……気をつけろよ……」

 

「わ、わかった……」

 

俺の言葉に何度も頷く弾、そこまでして会いたいなら俺も一肌脱ごうと思う。虚さんにはいつもお世話になってるし、幸せになってもらいたいからだ。

 

カランカラン

 

「ん?」

 

物が落ちる音を聞き、した方に体を向けると――。

 

「う、嘘。一夏さんに彼女が……しかも二人だなんて……」

 

顔を真っ青にさせた蘭が立っていた。

 

「え、えっと蘭。あのな……」

 

「う、ううっ、うわぁ――――ん!!」

 

泣きながら走り出していってしまった。あー、やっぱりか……告白された訳じゃないけど何か胸が痛いな………。

 

「蘭は俺の事好きだったんだな……申し訳ない事したよな……」

 

「まあ、仕方ないさ……とりあえず一発殴らせろ!」

 

「何でだよ!?」

 

弾が殴りかかってきたのをかわしまくっていたら厳さんのお玉が俺達の顔面に直撃してしまった。

 

「ったく、孫娘を泣かせやがって」

 

厳さん、マジで痛いです………後、すいません……。後日、虚さんに弾の事を話したらどうやら脈ありみたいな反応をしていた。うん、刀奈さんに協力して会わせよう。

 

――――――――――――

 

「はあ……」

 

五反田家から帰ってきてベッドに寝転がっていた。まだ簪と刀奈さんは戻ってないので今は1人だ。

 

「静かだな……」

 

いつもなら簪と刀奈さんがいて話していたりするのでこの時間は意外に貴重だったりする。

 

(学年別個人トーナメントね……)

 

カレンダーを見ながら、先日の事を思い出していた。

 

 

 

クラス対抗戦が終わり、部屋でゆっくりしていた。簪と刀奈さんは大浴場に行っている。俺も入りたいがいかんせんまだまだ都合はつかないとの事だった。

 

(まあ、事情が事情だから仕方ないか……)

 

いくらなんでも無理を通す訳にいかないしな……。

 

「先に寝てよう……」

 

二人には悪いが先にベッドに寝る事にした。今日の事でかなり疲れたからだ。

 

コンコン

 

ノック音が響く。もう寝たいから無視しよう……。

 

ドンドン!

 

うおっ、拳の音だ。俺はベッドから飛び起きてドアに向かう。誰だ?鈴か?

 

「はい、どちらさまで――げえっ!?」

 

「………げえっ!?とは何だ?げえっ!?とは」

 

ドアを開けるとそこにはむすっとした顔で立っている篠ノ之箒の姿がいた。

 

「な、何か用かよ?」

 

俺はドアノブに力を入れていつでも部屋に入れる様に警戒する。

 

「…………」

 

箒は答えない。顔はますます不機嫌そうだがいまいち様子がわからない。

 

(俺が油断するのを待っているのか!?)

 

箒の全体を見て、更に警戒を怠らない。いつでも竹刀や木刀を常備しているだけに危険だ。

 

「………」

 

「………」

 

お互いに沈黙したまま時間が過ぎていく………これは根比べだな。もう少しで簪と刀奈さんが戻ってくる、それまで辛抱だ。

 

「……篠ノ之さん。用がないならもう寝るぞ」

 

「よ、用ならある!」

 

いきなり大声を出されて、俺はびっくりしてしまった。

 

「ら、来月の、学年別個人トーナメントだが……」

 

「ああ、あるな。どうした?」

 

「わ、私が優勝したら―」

 

頬を紅潮させ、箒は言葉を続ける。何か恥ずかしいのか、目は俺をみていない。

 

(嫌な予感がする……)

 

「つ、つき「却下」おい!まだ言い終わってないぞ!」

 

箒が言い切るまえに宣言を一蹴した。言わせねえよ!

 

「どうせ、お前の事だから優勝したら恋人になれとかそういう約束するつもりだろ?」

 

「な、なぜわかった……」

 

「一応、幼なじみだからな……わかりたくなくてもわかってしまうんだよ……」

 

本当に嫌なんだよな………幼なじみの間柄って………。

 

「そ、そうか……私と一夏は相思相愛なのだな……」

 

「違うわ!何勘違いしてるんだよ!」

 

箒の言葉に思わずツッコミを入れてしまった。

 

「とにかく、この話は却下だ!無理だ!断る!」

 

「な、なぜだ!私が勇気を振り絞って言っているのに一夏はわかってくれないのだ!?」

 

「話は終わりだな、じゃあおやすみ」

 

うろたえる箒は無視してドアを閉めて部屋に入った。

 

ドンドン!

 

「おい!一夏待て!話は終わってないぞ!」

 

ドアを叩いてまだ箒は言ってくるが気にしない。騒ぎを聞いて千冬姉が来るから問題なしっと。

 

「もういい!学年別個人トーナメントで優勝したら私と付き合ってもらう!絶対だからな!」

 

箒はそう叫び去っていった。やっといなくなったな………ふう。

 

 

 

とまあ、こんな事があった訳だが正直迷惑だよな……。いまだに箒は俺に付きまとってくるし、いっそのこと恋人がいるって言ってしまおうかな?いやいやあいつの事だ。

 

「お前を殺して、私も死ぬ!」

 

みたいな昼ドラみたいな展開は勘弁して欲しいな……。なんだろう一番のトラブルメーカーってあいつなんじゃないかな……はあ。

 

(とりあえず箒が優勝しなければ問題なしだな)

 

と思案するが先日のやり取りがきっかけで新たなトラブルに発展する事になるとはこの時俺は思わなかった。




弾と虚の出会いのきっかけが早くなりました。


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21話

今回は原作よりになってます。

ではどうぞ


「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

 

「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

 

「そのデザインがいいの!」

 

「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」

 

「あー、あれね。モノはいいけど、高いじゃん」

 

月曜日の朝。クラス中の女子がわいわいと賑やかに談笑をしていた。みんな手にカタログを持って、あれやこれやと意見を交換している。

 

「そういえば織斑君のISスーツってどこのやつなの?見たことない型だけど」

 

「これは特注品で男のスーツがないから、どっかのラボが作ったもので元はイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」

 

まあ、男のISスーツはまったくないからではあるが聞かれても参考にはならないと思うけどな。その後、山田先生がISスーツについての説明していたがクラスの女子が愛称で呼ばれてあわあわしていた。慕われているのか友達感覚かわからない………。

 

「諸君、おはよう」

 

「お、おはようございます!」

 

さっきまでの賑やかな感じが一変し、ビシッと静かになる。さすが千冬姉だな、ここが人望のなせる技だなうん。

 

(あ、ちゃんと俺の出したスーツ着てくれてるな)

 

昨日家に帰ったときに夏用スーツを出しておいたのを早速使ってくれたみたいだ。千冬姉はここ数年片付けが出来るようになっていた。というのも簪、刀奈さんと彼女になってから心境の変化かあんまりだらしない生活を送らなくなったみたいだ。まあ、洗濯と料理はからきしだが片付けはまともになった事が俺にとっては大収穫でもある。

 

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように、忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着は……無理だな。その時は一度取りに帰らせるからそのつもりでいろ」

 

千冬姉は俺を見て考え直して言ったのだろう、正直に言ってしまえばクラスの女子が下着姿で授業を受けてるのを見たら物凄く気まずい上に本音の情報提供で簪と刀奈さんが嫉妬しまくる事になるのは間違いない。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ」

 

連絡事項を言い終えた千冬姉が山田先生にバトンタッチした。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

 

「え……」

 

『えええええっ!?』

 

いきなりの転校生紹介にクラス中が一気にざわつく。まあ、俺は事前に知っていたので驚く事はない。

 

(はあ、いくらなんでも集中し過ぎだよな……)

 

入学してから半年もしないうちにもう3人が転校生としてくるから、イベントに事欠かないよなと考えていたら、教室のドアが開いた。

 

「失礼します」

 

「……………」

 

クラスに入ってきた二人の転校生を見て、ざわめきがピタリと止まる。そりゃそうだ。だって、そのうちの一人が――男子だったからだ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

転校生の一人、シャルルはにこやかな顔でそう告げて一礼した。

 

「お、男……?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」

 

人なつっこそうな顔。礼儀の正しい立ち振舞いと中性的に整った顔立ち。髪は濃い金髪で首の後ろに丁寧に束ねている。印象は、誇張じゃなく『貴公子』といった感じで、特に嫌みのない笑顔が眩しい。

 

(外見的には上手くごまかしているみたいだな)

 

「きゃ……」

 

「はい?」

 

「きゃああああ――――っ!」

 

教室中に歓喜の叫びが響く。耳にきて痛い……。

 

「男子!二人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった〜〜〜〜!」

 

ときゃいきゃいはしゃいでいる中、俺は冷ややかな目で見ていた。

 

(シャルル・デュノア。二人目の男子か……)

 

シャルルを見ながら昨日の事を思い出していた。

 

――――――――――――

 

「転校生?」

 

「ええ、そうよ」

 

昨日の夜、部屋に戻ってきた二人から話しから更に転校生がやってくる事を知った。

 

「それでどういう人が入ってくるんですか?」

 

「フランスとドイツよ」

 

「フランスとドイツですか……」

 

ドイツと聞き、いい気分じゃなくなった……俺にとってもっとも思い出したくない出来事が脳裏にうかぶ。

 

「一夏、大丈夫?」

 

俺の手を握りながら心配そうに様子を伺ってくる簪。俺の顔から何かを感じたのだろうな。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「ごめんなさい。嫌な事思い出させちゃったわね……」

 

同じように俺の顔から何かを感じたのか刀奈さんは謝ってきた。そんなに罪悪感を感じなくてもいいのに………。

 

「気にしないでください。俺は大丈夫ですから」

 

「そう、わかったわ……」

 

何かいいたかったみたいだけど察してくれたのかこれ以上言うのはやめたみたいだ。まあ、俺としてはこの事がきっかけで二人に出会えたからそこはポジティブに変えよう。

 

「それでお姉ちゃん。二人の具体的な事はわかってるの?」

 

「ええ、ドイツは軍の隊長みたいだけど、問題はフランスの方ね」

 

「フランス?」

 

「どういう事ですか?」

 

「これを見ればわかるわ」

 

そう言い書類の一枚を渡されて俺と簪が見ると―。

 

「「えっ?男?」」

 

写真と書いている内容に俺達は驚いた。パッと見では貴公子と言われてもおかしくない容姿に性別欄にははっきりと男と書かれていた。

 

「そうなのよ。でもおかしいと思わない?」

 

「えっ?何故ですか?おかしいところなんてありませんよ?」

 

「まさか、性別を偽っているかもしれないって事なのお姉ちゃん?」

 

「そうよ、簪ちゃん」

 

「どういう事だ簪?」

 

「よく考えてみて一夏。二人目の男性操縦者が現れたら普通は大々的に発表されるはずなのに……」

 

「今まで公表されてなかったがおかしいって事か?」

 

「確かに公にする必要がなかったと言われればそれまでなんだけど……違和感を感じたのは確かよ」

 

「そうですか……」

 

ここは更識家当主である楯無の観察眼による展開だ。

 

「もしかしたら一夏君に接触してくる可能性は大ね」

 

「確かに同じ男同士なら気兼ねなく近寄れるね」

 

「目的は俺ですか……」

 

その話が本当ならば俺としては正直、嫌な気分になる。ここまで手を込んでまで手に入れたいのなら警戒する必要があるな。

 

「とりあえず引き続き調査してみるけど………大丈夫かしら?」

 

「お姉ちゃん。一応、本音がいるからある程度なら大丈夫だよ」

 

「けど心配なのよね……」

 

そう言って、はあとため息をはく刀奈さん。本音はある程度の信頼はおけるが非常時になるとキツイからな……。

 

「この事は千冬さんにも見せてるから多少は安心出来るはずだがら問題ないけど一夏君も気をつけてね」

 

「わかりました」

 

刀奈さんに気をつけるよう促されて俺達は就寝。朝を迎えた。

 

――――――――――――

 

そして今に至る訳だが………。

 

(目的は一体何だ?)

 

いまだにはしゃいでいるうちのクラスの女子一同とは一歩引いた状態で見ていた。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

面倒くさそうに千冬姉がぼやく。仕事というより、こういう十代女子の反応が鬱陶しいんだろう。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから〜!」

 

山田先生の言葉でようやく静かになる訳だがもう一人の転校生もかなり異端だ。輝くような銀髪。腰近くまで長くおろしてありきれいではあるが整えている風な感じではない。そして左目に眼帯。医療用ではなく黒眼帯戦争映画に出てきそうな感じだな。刀奈さんから見せられた書類からわかるように『軍人』と言われる雰囲気を感じた。小柄だが冷たく鋭い気配が大きく見える。

 

「………」

 

本人は未だに口を開かず、腕組みをした状態で教室の女子達を見ていた。

 

「………挨拶しろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

いきなり佇まいを直して素直に返事をする転校生――ラウラに、クラス一同がぽかんとしていた。異国の敬礼を向けられた千冬は面倒くさそうな顔をした。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えてラウラはぴっと伸ばした手を真横につけ、足をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。――千冬姉の事を教官と呼んでいる事からドイツに教えに行った軍の関係者とわかった。

 

「ラウラ・ボ―デヴィッヒだ」

 

「…………」

 

クラスメイト達の沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたらまた貝のように口を閉ざしてしまった。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

空気にいたたまれなくなった山田先生が出来る限りの笑顔でラウラに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だけだった。あらら、山田先生大変ですね、千冬姉しか言うこと聞かなさそうな感じだな。と考えているとラウラと目があってしまった。

 

「!貴様が――」

 

つかつかと俺の方にやってくる。

 

パシッ!

 

「なっ!?」

 

「何しようとしてるのかな?」

 

俺に平手打ちを食らわそうしていた手を本音が受け止めていた。いきなり殴るのかよアイツは!

 

「貴様!邪魔をするな!!」

 

「いきなり人を殴るのは感心しないよ。ドイツではそれが挨拶なのかな?」

 

受け止められた事で怒りを感じたラウラは本音に言うがその本人は意に返さずに言い返す。普段ののほほんとした雰囲気が一変して、怒りを感じる。

 

「ならば、貴様から排除してやる!」

 

今度は空いている手で本音に目掛けて殴ろうとしていた。危ない!?

 

パシッ!

 

「くっ!貴様!」

 

「おっと、これ以上は黙ってる訳にはいかないな」

 

今度は俺がラウラの腕を止めた。せっかく本音が助けてくれたのを無下にはしたくないな。

 

「教室で暴れるのは感心しないな。おとなしくしたらどうだ?」

 

「そうだよ、おとなしくしなよ」

 

俺と本音がラウラの両腕を抑えながら、落ち着かせようと声をかけた。

 

「くっ!離せ!離せ貴様ら!!」

 

ラウラは俺の言葉を聞いてくれるどころか更に暴れまくり俺達の拘束を解こうとしていた。

 

「離さないのならば……これで!」

 

ラウラは業を煮やし、ISを展開しようとしていた。って、マジかよ!?そこまでするのか!!

 

「やめんか!馬鹿者!!」

 

スパァンッ!!

 

さすがにマズイと感づいたのか千冬姉の出席簿がラウラの頭上に振り下ろされた。

 

「くうっ……!な、何故ですか教官?」

 

頭を抑えてプルプルと震えているラウラは千冬姉に聞いてきた。

 

「教室で暴れようとしていた馬鹿者を鎮圧しただけだ。さっさと席につけ」

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

パアンッ!

 

「いいから座れ。二度は言わんぞ」

 

俺に対して捨て台詞のごとく言ってきたが再び千冬姉の出席簿が振り下ろされた。こいつも要注意だな、これは……。

 

「ううっ……」

 

出席簿の餌食になったラウラは涙目になりながら頭を抑えて空いている席に座った。

 

「では、HRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

パンパンと手を叩いて千冬姉が行動を促す。その合図で俺は立ち上がるこのままクラスにいると女子と一緒に着替えなくてはならなくなる為ここから移動しなくてはならない。

 

「織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

千冬姉に呼び止められて俺は止まる。まあそうだよな。

 

「わかりました」

 

「それと……気を付けろ。何かあるかもしれんぞ」

 

千冬姉はシャルルに聞こえないように近くに寄ってそう言った。

 

「はい」

 

「よし、では行け」

 

千冬姉も何かを感じているのだろう。表では男子の扱いをしているみたいだが違和感があると考えているみたいだ。

 

「君が織斑君?初めまして。僕は――」

 

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」

 

説明すると同時に行動に移す。俺はいち早く教室を出た。それにつられてシャルルも教室を出る。

 

「とりあえず男子は空いているアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」

 

「う、うん……」

 

さっきまでとは違って妙に落ち着かないようだな……。しかし、確証が得られない今はとりあえず男子として接するか。

 

「はやく行くぞ」

 

バタバタと階段を下って一階へ。速度を落とすわけにはいかないのだ。なぜなら――

 

「ああっ!転校生発見!」

 

「しかも織斑君と一緒!」

 

そう。HRが終わったのだ。早速各学年各クラスから情報先取の為の尖兵が駆け出してきている。これに捕まったら最後、質問攻めにあい授業に遅刻する事は決定的になり、千冬姉からキツイ指導を受けてしまう。

 

「いたっ!こっちよ!」

 

「者ども出会え出会えい!」

 

何でしょうね。この統率力の物凄い良さは……これが軍隊なら誉められるわなこれは………ただ、もの凄い不純な動機の結果だけどな……。

 

「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

「しかも瞳はエメラルド!」

 

「日本に生まれて良かった!ありがとうお母さん!今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

もう、どうでもいいや……何もツッコミません。

 

「な、何?何でみんな騒いでるの?」

 

状況が飲み込めないのか、シャルルは困惑顔で訊いてくる。

 

「そりゃ男子が俺達だけだからだろ」

 

「……?」

 

「いや、普通に珍しいだろ。ISを操縦出来る男って、今のところ俺達しかいないからだよ」

 

「あっ!――ああ、うん。そうだね」

 

意味がわからないって顔をしているシャルルに説明したら慌てて納得した顔に変えた。やっぱりおかしいな、普通の男なら騒がれる事にある程度は理解しているがシャルルはわかってない感じがはっきりととれた。

 

「ま、何にしてもこれからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「うん。よろしく一夏。僕のこともシャルルでいいよ」

 

「わかった、シャルル」

 

とりあえずシャルルに警戒されないようにしつつ様子を伺うしかないな。

 

「到着!」

 

校舎を出て、予定より更衣室に着いた。さっさと着替えるか、俺は制服のボタンを一気に外して、ベンチに投げて一気にTシャツを脱いだ。

 

「わあっ!?」

 

「?」

 

俺が脱いだ途端声を上げるシャルルだが今は授業に間に合うようにしないとな。

 

「何してるんだ?早く着替えないと遅れるぞ」

 

「う、うんっ?き、着替えるよ?でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

「わかった。早く着替えろよ」

 

俺はシャルルから距離を離して着替える。まあ、今日は実習があるからISスーツを着ているがあそこまで反応されると余計にあやしく感じた。

 

(問い詰めたいが……はぐらかされるな)

 

ロッカーの鏡からちらりとシャルルを見ながら俺は考える。心なしか視線を感じるな。

 

「シャルル、着替えたか?」

 

「えっ?う、うん。着替えたよ」

 

気になり視線を向けると、シャルルはこっちに向けていた顔を慌てて壁の方にやって、ISスーツのジッパーをあげていた。

 

「うわ、着替えのが早いな。なにかコツでもあるのか?」

 

「い、いや、別に……って、一夏も着替える早いよ」

 

「あらかじめ着ているだけだよ――よし、行こうぜ」

 

「う、うん」

 

お互いに着替え終わって更衣室を出てグラウンドに向かう途中で改めてシャルルを見る。

 

「そのスーツ、なんか着やすそうだ。どこのやつ?」

 

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」

 

「デュノア?デュノアって、あの大企業のデュノア社か?」

 

「うん。僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思う」

 

「そうか。シャルルは社長の息子って訳かなるほどな」

 

「そんなにいいものじゃないよ。社長の息子って肩書き」

 

「肩書き……ねえ」

 

シャルルの言葉に俺は聞き逃さなかった確かにそうだよな、俺も織斑千冬の弟なんて肩書きなんてあるからそこは同情せざるをえないよな。

 

「ああ、気にしないでくれ悪気はないからよ」

 

「うん。わかった」

 

シャルルと軽く会話をしながら第二グラウンドに向かった。多少あやしい点はあるがそこは刀奈さんに任せよう。今、俺に出来る事は目の前に集中するだけだ。決して千冬が授業担当するからじゃないぞ、うん。




次話で山田先生いじられる?かも


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22話

お待たせしました。

うまく山田先生いじれたかな?

ではどうぞ


「……時間ギリギリとはいえ遅いぞ。次からは余裕を持っておくようにしろ」

 

第二グラウンドに無事到着したが千冬姉から注意された。まあ仕方ないな、俺とシャルルは一組整列の一番端に加わる。

 

「ずいぶんゆっくりでしたわね」

 

俺に話し掛けてくる隣の女子はセシリアだった。

 

「スーツを着るだけでしたらそれほど時間がかかりませんが何かありまして?」

 

気になって聞いて来たのだろう。いつもはこんなギリギリでは着かないようにしてたからな。

 

「シャルル目当ての女子が殺到して捕まりそうになってた」

 

「それは……災難でしたわね……」

 

その様子を想像したのかセシリアは同情した表情で俺は見ていた。

 

「今日は不運ですわね。転校生にはたかれそうになりましたし気をつけた方がよくなくて」

 

「ありがとう。そうする」

 

セシリアの言葉に礼を言っておいた。

 

「なに?アンタなんかやったの?」

 

後ろから鈴が話を聞いていたのか間に入り込んで来た。

 

「一夏さん、今日来た転校生にはたかれそうになりましたわ」

 

「はあ!?一夏何やったのよ!はたかれそうになるなんてよっぽどよ!」

 

「………」

 

「ちょっと!何で無視するのよ!?」

 

鈴はそう言うが俺とセシリアは嫌な予感がして会話をやめて前を向いた。

 

「人の話を聞きなさいよバカ!!」

 

「――安心しろ。バカは私の目の前にいる」

 

キギギギッ……ときしむブリキの音で首を動かす鈴。視線の先ではもちろん千冬姉が待ち構えていた。

 

バシーン!

 

蒼天の下で今日もまた出席簿アタックが響くのだった。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「はい!」

 

一組と二組の合同実習なので人数はいつもの倍。出てくる返事も妙に気合いが入っていた。

 

「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」

 

ズキズキと叩かれた場所が痛むのか、鈴はちょっと涙目になりながら頭を押さえていた。鈴よ、悪いけど俺のせいにするのはちょっと勘弁してくれよな。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰!それからオルコット!」

 

「はい!」

 

千冬姉からの指名でセシリアは真剣な表情で返事をして前に出た。

 

「オルコットは理解しているみたいだな。凰、お前も前に出ろ」

 

「一夏のせいなのになんであたしが……」

 

いつまで引っ張るつもりなんだろうか……このりんにゃんは……。

 

「凰、少しはやる気を出せ。――アイツに良いところを見せられるぞ」

 

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

千冬が何か告げた途端に鈴のやる気が上がった。なんだろうか俺を出汁にされたような気分は……よく見ると千冬姉の顔から“計画通り”と言わんばかりの顔をしていた。

 

「それで、相手はどちらに?わたくしと鈴さんとの勝負でしょうか?」

 

「ふふん。クラス対抗戦では油断したけど今度はあたしが勝つわよ」

 

「慌てるな。対戦相手は――織斑、私のところに来い」

 

「はい」

 

キィィィン……。ドカーン!

 

「えっ?」

 

千冬姉の隣に着いた途端に空気を裂く音から地面に衝突する音が聞こえた。

 

(ま、まさか……って、ええ―――っ!?)

 

俺は恐る恐るさっきまでいた場所を見るとISを装着した山田先生が目を回していた姿に冷や汗が流れた。あ、危なかった……危うく大惨事になるところだったな色んな意味で………。

 

「山田先生。いつまで呆けているさっさと起きろ!」

 

「は、はい!!」

 

千冬姉の号令にビクンと反応して立ち上がった。

 

「さて、小娘ども山田先生が対戦相手だ。さっさとはじめるぞ」

 

「え?あの、二対一で……?」

 

「安心しろ。今のお前達ならすぐ負ける」

 

負ける、と言われたのが気に障ったのか鈴は瞳に闘志をたぎらせている。元々勝ち気な性格だからな。

 

「鈴さん、油断は出来ません。慎重にいきましょう」

 

セシリアは千冬姉の言葉から何かに感づいたのか鈴に警戒するように告げた。

 

「何言ってるのよ。あたし達なら勝てるわよ楽勝楽勝」

 

「そうさせる事が先生達の作戦かもしれません」

 

「な、なんですって!?」

 

「山田先生のあのドジはわたくし達を油断させる為の演技。つまり罠ですわ」

 

「くっ……冗談はあの馬鹿デカイ胸だけにしときなさいよ!」

 

「確かに……あれは脅威的ですわね」

 

二人はそう言い山田先生の胸に視線が注がれる。

 

「あ、あの……胸ばかり見られても困るのですが……」

 

「どうやったらあんなに大きくなるのかしらね……」

 

「確かに不思議ですわね……」

 

「あの〜、もしもし!私の顔に目線を上げてくれませんか!」

 

そう言ってセシリアと鈴に注意する山田先生だがISスーツ着用でたわわな胸の膨らみが強調されるのでかなり目立つ。

 

「仕方あるまい。山田先生のはムダにデカイのだから自然と視線が集まるのは当たり前だろうが」

 

「あんまり嬉しくないですよ!しかもムダにデカイって、ひどくないですか!?」

 

千冬姉の言葉にショックを受ける山田先生。

 

「凰、オルコット。山田先生の胸の事が気になるのはわかるが今は戦闘実演をする事が第一優先だ」

 

「でも……」

 

「わかりました……」

 

鈴とセシリアは渋々と言った感じで戦闘実演に集中する。

 

「わかった。そこまで気になるのなら仕方ないな……。もし戦闘実演に勝つ事が出来たら放課後、特別に山田先生がどうして胸が大きくなったかを一組と二組全員に教授する事を約束しよう。もちろんたっぷりと2時間はやるぞ」

 

「な、何言ってるんですか!?織斑先生!!」

 

千冬姉からの無茶振りに山田先生は思わず詰め寄った。

 

「生徒のやる気を引き出すのも教師の仕事だ。それくらい安いものだろ」

 

「そ、そんな事でやる気なんて―」

「頑張ってセシリア!」

 

「りんにゃん。絶対に勝ってね!」

 

「よし!勝つわよ!」

 

「皆さんの為にわたくしは全力を尽くしますわ!」

 

「ありまくりでした―――!!」

 

一組と二組のクラスの女子達がセシリアと鈴を応援し、それに二人が応えている。

 

「良かったな、山田先生。一組と二組はやる気があってこんなに慕っているぞ」

 

「動機が不純過ぎて嬉しくありませ―――ん!!」

 

山田先生、御愁傷様です。俺はなにも言えません、フォローも出来ません。ただ蚊帳の外状態でいるだけです。

 

「では、はじめ!」

号令と同時にセシリアと鈴が飛翔する。それを目で一度確認してから、山田先生も空中へと躍り出た。

 

「一組と二組の皆さんの為にわたくしは勝ちますわ……山田先生お覚悟を!」

 

「ふ、ふふっ、ふふふ……この戦闘実演に勝ってあたしは巨乳になるのよ!」

 

「こ、怖すぎですよ!?オルコットさん!凰さん!」

 

言葉こそいつもの山田先生だったが、表情は鬼気迫るものだった。セシリアの攻撃をかわし、鈴の攻撃を受け流す。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

「あっ、はい」

 

空中での戦闘を見ながら、シャルルがしっかりとした声で説明をはじめた。

 

「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二………」

 

シャルルが説明しているが女子達の関心は戦闘の事しかなかった。というよりあんな約束をされたのだから期待が高まっているみたいだ。

 

「鈴さん、少し距離を取ってください。狙い撃ちされますわよ」

 

「わかったわ。援護しやすいように動くからセシリアは指示だして」

 

「わかりました」

 

初めて組んだのに二人のコンビネーションが良く山田先生を徐々に追い詰めていく。

 

「負けちゃダメ負けちゃダメ負けちゃダメ負けちゃダメよ真耶。負けたら罰ゲームの辱しめが待ってるのよだから負けちゃダメよ真耶」

 

とぶつぶつと呟きながらまるで自分に暗示をかけているかのような山田先生。

 

(お互いに真剣だな……まあ、無茶ぶりされたから阻止しないとヤバいからな〜山田先生………可哀想に……)

 

心の中で山田先生に同情しつつ戦闘を見るのに集中する。結果は山田先生が辛くも勝利した。かなりギリギリだったがな。

 

「くっ、うう……勝負を焦りすぎましたわ……」

 

「あそこまで追い詰めたのにぃぃ……もう一回!もう一回よ!」

 

「もうやりませんよ!諦めてください!!」

 

再戦要求する鈴に山田先生は両腕で×をつくり必死に拒否していた。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

パンパンと手を叩いて千冬姉がみんなの意識を切り替える。………この原因作ったきっかけは千冬姉だよな………まあ、気にしないでおこう。出席簿の餌食になるのは勘弁だ。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ」

 

千冬姉が言い終わるや否や、俺とシャルルに一気に二クラス分の女子が詰め寄ってくる。

 

「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」

 

千冬姉の声で一斉に分かれだし、あっという間グループが出来た。

 

『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうのど、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』

 

ISのオープン・チャネルで山田先生が連絡してくる。とりあえず勉強の甲斐もあって今の段階で意味がわからないということはないし、班長なのでしっかりしないとな。

 

「それじゃあ出席番号順にISの装着と起動、そのあと歩行までやろう。一番目は――」

 

「はいはいはーいっ!」

 

凄い元気のいい返事が返ってきた。片手を上げてぴょんぴょんと跳ねなくもいいんだけどな……。

 

「出席番号一番!相川清香!ハンドボール部!趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」

 

「あ、ああ、わかった。別に自己紹介を……」

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

腰を折って深く礼をすると、そのまま右手を差し出してくる。あれ?なにこれ?

 

「ああっ、ずるい!」

 

「私も!」

 

「第一印象から決めてました!」

 

何故か他の女子も一列に並び、同じようにお辞儀をして頭を下げたまま右手を突き出してくる。

 

「あ、あのさ……そういう事は困るんだけど……」

 

「「「お願いしますっ!」」」

 

「え、えっと……ごめんなさい?」

 

「「「ちくしょ―――!!」」」

 

俺がお断りすると皆一斉にリアクションし出した。ノリ良いな、おい。

 

スパ―ン!

 

出席簿の叩く音がするのでそちらを向くと―。

 

「ボーデヴィッヒ、何をしている?さっさと訓練を開始しないか」

 

ラウラに出席簿アタックを食らわせている千冬姉がいました。

 

「きょ、教官。ISをファッションと勘違いする者達などに私が教える事などありません!無理です!!」

 

出席簿の痛みからか涙目で千冬姉に抗議するラウラ。

 

「ここは学園でISについて学ぶところだ。軍隊ではない、しっかりと指導する事も重要な授業の一環だ。ちゃんとやれ」

 

「わ、わかりました……」

 

ラウラは千冬姉に睨まれながら渋々グループでの訓練を開始した。

 

(千冬姉には逆らえないみたいだな……)

 

ラウラの方を見ながら俺はそう感じた。ちなみに俺の方は順調に進んでいる。途中で立ったままで終えてしまい、山田先生から乗せてあげてくださいと言われたがさすがにマズイので俺がコクピットに乗ってしゃがませた状態にして次の人にやってもらう事にした。

 

「よし、じゃあ次は……」

 

「私だ」

 

な、なんだとぉ―――っ!?箒が俺の班にいる事すら気付かなかった。

 

「…………」

 

「どうした?何を黙ったままなんだ?」

 

俺は箒と訓練機を交互に見る。最悪な事に訓練機は立ったまま解除されており、普通には乗れない形になっていた。

 

「なんだ?早く運んでくれ。私はあまり望まないが、安全面を考慮すると仕方がない。私はあまり望まないが、仕方がないな」

 

としきりに仕方がないを強調してくるが正直困った。本当は箒に教えたくはないが今は授業中だし、遅れる訳にはいかない。

 

「よし、ではしゃがませた状態でやるか」

 

俺はさっさと訓練機に乗りしゃがませた状態にした。

 

「さっ、篠ノ之さん乗ってくれ」

 

「………わかった」

 

笑顔で誘導したら、何故か睨まれた。………何でだ?

 

 

 

(何故一夏はわかってくれないのだ!)

 

箒は一夏の行動と態度に腹を立てていた。

 

(私を運ぶくらい問題ないだろうが!)

 

そう箒は一夏にお姫様抱っこして貰えるという淡い期待を持ったがものの見事に裏切られた。

 

(しかし、さっきまで一夏が乗っていたのだがら残り香が……いいかもしれない)

 

と表情には出さないが箒は一夏の匂いを堪能していた。これをわかる人が見れば危ない人まっしぐらである。

 

(どうすれば私の良さをわかってくれるのだ………そうだ)

 

「一夏」

 

「何か用か?」

 

「そ、その、だな。今日の昼は予定があったりするのか?」

 

平静を装ってはいるが、その声はいつもよりわずかに高く、どこかしら不安を含んでいるかのような声だった。

 

「予定か?あるぞ」

 

「なっ!?」

 

一夏の返事は箒を絶望に叩き落とす。

 

「すでに昼食を食べる約束してるんだ。悪いな」

 

「くっ……」

 

箒は悔しげな表情で一夏を睨み付ける。

 

(誰だ!?約束の相手は!まさか!――あいつか!)

 

箒ははっと気付きある人物に顔を向けた。

 

「?」

 

箒が向けた先には本音がいた。視線に気付いたのか本人は首をかしげてまた授業に集中する。

 

(許さんぞ私の一夏をたぶらかしおって………奪い返してやる!!)

 

そう心に怒りの火を灯すがまったくの検討違いである。何にしても、箒は本音を親の仇と言わんばかりに睨み付けて千冬からありがたい出席簿の餌食になった。

 

 

 

昼休み、俺は屋上に向かっていた。今日は簪と刀奈さんが俺の為にお弁当を作ってくれるのだ。うきうきと心が踊る。

 

(シャルルは食堂までは案内したし、取り巻き達は上手くまいたから安心だな)

 

最初はシャルルと本音と一緒に食堂まで案内し、途中で抜けてきて駆け足で屋上に向かい到着した。

 

「お―っ。天気がいいな」

 

晴れ渡る空から屋上は美しく配置された花壇には季節の花々が咲き誇り、欧州を思わせる石畳が落ち着いていり。それぞれ円テーブルにはイスが用意されている。

 

「お待たせ」

 

「もーっ、遅いよ一夏」

 

「ごめんごめん」

 

二人が待っている場所に着き声を掛けると待ちくたびれたと言わんばかりに簪はやや不機嫌気味な顔をしていた。

 

「まあまあ、今日は私達しかいないしゆっくり出来るわよ」

 

「そうですね」

 

刀奈さんが簪をなだめている。ちなみにみんなはシャルル目当てで学食に向かっているので事実上貸し切り状態だ。やったね。

 

「それじゃ、お昼にしましょうか」

 

刀奈さんはテーブルにお弁当を置き、お弁当を包んだ布をほどくと重箱が現れる。

 

「おおっ凄いですね」

 

「せっかくだから私も簪ちゃんも気合い入れて作ってみたのよ」

 

そして重箱の蓋をあけると――。

 

「おお――っ!!」

 

色とりどりのお弁当に思わず声をあげた。

 

「一夏、食べてみて」

 

「ああ、さっそく」

 

簪に促されるままに玉子焼きを口に入れる。

 

「ど、どうかな?一夏君……」

 

俺の味の感想が気になるか刀奈さんが不安げに尋ねてきた。これは刀奈さんが作ったのか。

 

「うん。美味しいですよ」

 

「本当に?良かった〜」

 

俺の評価に安心したのか刀奈さんはほっと胸を撫で下ろした。

 

「そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ。お二人の料理が美味しい事はわかってますって」

 

「そう言われてもねぇ……」

 

「うん……」

 

あれ?俺は誉めたのに二人の表情は何故か暗い。

「最初の頃に一夏君の料理を食べた時は女子のプライドが木っ端微塵になったのよね……」

 

「うん……あの時は本当に傷付いた……」

 

「あ、あはは……」

 

簪と刀奈さんの言葉に苦笑いするしかなった。

 

(まあ仕方ないか……)

 

そう、更識家に居候する事になり一ヶ月がたった頃にお世話になりっぱなしになるのも気まずい為、俺は料理を振る舞う事にしたのだ。みんな最初は俺の料理を楽しみにしていたが一口食べたら本音を除く皆が落ち込んでしまった。本音は喜んで食べていたがあまりの温度差にどうしたらいいか困ってしまった。

 

「あれから一生懸命に料理を勉強したきっかけになったのよね」

「うん。一夏に美味しいって言って欲しくて頑張った」

 

うんうん。簪と刀奈さんは本当に嬉しい事を言ってくれる。

 

「一夏、今度はこれを食べて私の自信作」

 

「一夏君、いっぱい食べてね」

 

「はい、いただきます」

 

俺は二人のお弁当を堪能し、午後からの授業までの英気を養った。

 

よーし!午後も頑張るぞ!!

 




おまけ

「ねえ、一夏君」

「どうしました刀奈さん?」

「山田先生に勝つと胸が大きくなる秘訣を伝授するっていう噂がうちの学年であるんだけど何か知らない?」

「あっ、私も聞いた。どうなの一夏?」

「さ、さあ……?俺には……わからないです」

「そう……」

「それなら仕方ないわね……」

(い、言えない……全部千冬姉の無茶ぶりでこうなりましたと………)


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23話

少し長くなりそうなので一旦きりました。

ではどうぞ


「じゃあ、改めてよろしくな」

 

「うん。よろしく、一夏」

 

夜。夕食を俺とシャルルは部屋に戻ってきた。食堂では二人目の男子転校生という事で相変わらずの女子包囲網&質問攻めにあい、延々と続きそうなそれを適度な頃合いで切り上げてきたのだ。ちなみに部屋割りは俺の隣の部屋にシャルルが入る形になった。最初はシャルルと同室になる予定だったが千冬姉と刀奈さんとの話し合いで別々の部屋にする事を了承することが出来た。

 

(まあ、俺としてはありがたいよな………)

 

そう心の中では安堵している。二人の恋人達と一緒に過ごしていたのに疑わしいやつと一緒に過ごすのは正直抵抗がある。今は食後の休憩をかねて俺の部屋にシャルルを招き日本茶を飲んでいる。

 

「紅茶とはずいぶんと違うんだね。不思議な感じ。でもおいしいよ」

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ。今度機会があったら抹茶でもどうだ」

 

ちなみにセシリアは日本茶が苦手らしくほとんど飲まない。どうも色が引っかかっているんだそうだ。まあ、緑色の飲み物は外国では見ないからな……。

 

「抹茶ってあの畳の上で飲むやつだよね?特別な技能がいるって聞いたことがあるけど、一夏はいれれるの?」

 

「抹茶は『たてる』って言うんだよ。俺は略式しか飲んだことがないな。今は駅前に抹茶カフェっていうのがあるんだよ。コーヒーみたいな感覚で飲めるのがあるぞ」

 

「ふうん。そうなんだ。じゃあ今度誘ってよ。一度飲んでみたかったんだ」

 

「ああ、それから案内もいるか?まあ、あたりに詳しい人も知っているから一緒に行動すると楽しいぞ。シャルルはそれでいいか?」

 

「本当?嬉しいなあ。ありがとう、一夏」

 

柔らかな笑みを浮かべるシャルルに、俺は疑惑が深まる。全体的に感じる中性的な印象がそうさせているのか、わからない………。どっちつかずが更に怪しさを際立たせていた。

 

「まあ、出かけるなら人数が多い方が楽しいし。シャルルならすぐに友達になれるかもな」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

俺が疑っている事を悟られないようにさりげなくフレンドリーに話していく。

 

「そういえば一夏はいつも放課後にISの特訓しているって聞いたけど、そうなの?」

 

「ああ。俺は他のみんなから遅れているから、地道に訓練時間を重ねるしかないな」

 

今日は訓練はお休みだ。体を休める事も立派な訓練だし疲労感が残ったままでは怪我をする恐れがあるからである。明日から訓練を再開して実力をつけないとな。なにせ今月には学年別トーナメントがあるからだ………不本意な約束阻止が第一優先だけどな………。

 

「僕も加わっていいかな?何かお礼がしたいし、専用機もあるから少しくらいは役に立てると思うんだ」

 

「それはありがたい話だがいいのか?」

 

「うん。僕に任せてよ」

 

「わかった。よろしく頼む」

 

「ありがとう。それじゃ僕はそろそろ寝るね、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

俺は手を振り、シャルルはそれに応えて部屋を出ていった。

 

「ふう……どうでした?」

 

深々と息をはき、隠れていた二人を呼んだ。シャルルを観察する為に俺がフレンドリーに話しかけて簪と刀奈さんは嘘かどうかを見極めていた。

 

「パッと見は男だけど……仕草が女性らしいところが目立つ」

 

「私は骨格もそうだけど何かで隠してる感じがするわね」

 

「ではシャルルは……」

 

「ええ、あの子はクロね」

 

「理由は何なんでしょうか?」

 

「それは本人に聞いてみないとね……もう少し調べてみるわ」

 

「一緒に訓練してみて核心が持てたら問い詰める?」

 

「逃げられるかはぐらかされるかだな……」

 

「とりあえず、何かわかったら教えるわね……とりあえずは泳がせてみてね」

 

「わかりました」

 

刀奈さんの言葉に頷き、この日はお開きになった。

 

――――――――――――

 

「……ねえ、一夏」

 

「なんだシャルル?」

 

「一夏って本当に初心者?」

 

「そうだけど、何でそんな事を聞くんだ?」

 

シャルルが疑わしい目でみてくるので俺はそう答えた。シャルルが転校してきてから5日が経って、今日は土曜日だ。土曜日はアリーナが全開放なのでほとんどの生徒が実習に使う。それは俺も同じで、今日もこうしてシャルルに軽く手合わせをしてもらった後、それを見ていた刀奈さんからIS戦闘に関するレクチャーを受けていた。

 

「一夏がここまで強いだなんて思わなかったよ!僕、全然勝てないじゃないか!!」

 

「そ、そうか……?」

 

シャルルの言葉に思わず首をかしげた。あれ―?おかしいな?

 

「いや、てっきり手加減してるのかと思ってた」

 

「違うよ!手加減しようと思ったのは最初だけで後は本気でやってるんだよ!」

 

「そ、そうなのか?」

 

シャルルのカミングアウトに思わずあ然となった。まさか全勝するから、わざと負けてるかと思ったがまさか本気だったとは………。

 

「攻撃はあっさりかわされるし、しかも牽制しても銃弾を弾いて近寄ってくるから恐怖でしかないよ」

 

「ISの性能じゃないのか?簡単に出来ると思うぞ」

 

「出来ないよ!一夏が凄すぎるんだって!!」

 

「そういうものかな?」

 

シャルル若干怒り気味に言ってくるので俺はそういうしかなかった。

 

「仕方ありませんわ。一夏さんは才能がありますし、なにより生徒会長から指導を受けてますから実力がついている事に気付かないだけではなくて?」

 

今まで俺とシャルルのやりとりにセシリアが入ってきた。ちなみにここにいるメンバーは俺、簪、刀奈さん、セシリア、シャルル、本音だ。

 

「僕が教える事なんて何もないじゃないか……むしろ教えて欲しいくらいだよ……」

 

とぶつぶつ何かを呟きながら落ち込んでしまうシャルルでした。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

急にアリーナ内がざわつきはじめだした。俺はシャルルに声をかけようとしたが視線を感じて注目の的に視線を移した。

 

「…………」

 

そこにいたのはもう一人の転校生、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。転校初日以来、クラスの誰ともつるもうとしないどころか会話さえしない孤高の女子だ。俺は敵対視されている相手には話しかけたりはしない、そこは千冬姉が何かしらのアクションは起こすはずだ。

 

「おい」

 

ISのオープン・チャネルで声が飛んでくる。初対面があれだったのだから、その声は忘れもしない。ラウラ本人の声だ。

 

「……何か用か?」

 

気が進まないが無視しても進展はしないだろうから返事をしてみる。言葉を続けながらラウラがふわりと飛翔してきた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「断る。戦う理由がないし、意味もない」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

「………」

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

ああ、そうかよ―。千冬姉の教え子ということから、その強さに惚れ込んでいるだろう。だから、千冬姉の経歴に傷を付けた俺が憎い、か………俺もあの時ほど自分が憎かったさ……けどな、試合を放棄して俺を助けに来てくれた千冬姉の事を誇りに思うし、尊敬出来るんだよ!千冬姉の事をわかったような感じで言うラウラに腹がたった。

 

「また今度な」

 

しかし、それはそれ。これはこれ。俺とラウラが戦う理由にはならない。少なくとも、俺は戦う必要がないからだ。

 

「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

言うが早いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へシフトさせた。刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。

 

「!」

 

ゴガギンッ!

 

「……そこまでよ」

 

「なっ!?」

 

横合いから割り込んできた簪が実弾を弾き、それと同時にラウラにランスを突き付ける刀奈さん。

 

「悪いけどいきなり戦闘を始めようとするのはやめてくれないかしら。ここには他に訓練してる人達もいるのよ?あなたの攻撃で巻き込まれて怪我させたいの?」

 

「貴様……」

 

ギリと歯噛みして刀奈さんを睨み付けるラウラ。俺をターゲットにしているからっていきなりやってくるとはよっぽど憎いんだな……。

 

「大人しく退きなさい……でないとあなたを排除するわよ」

 

そう言うと刀奈さんから殺気が溢れ出す。

 

「っ!?」

 

ラウラも刀奈さんの変化に気付いたのだろうビクッと身構えた。今は優しい刀奈さんではなく更識家当主楯無になっている。だから威圧感と殺気が見える。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

横槍を入れられたらなねかもしくは刀奈さんには勝てないと考えたのかラウラはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートへと去っていった。

 

「一夏、大丈夫?」

 

「ああ。大丈夫助かったよ」

 

ついさっきまでラウラを睨み付けていた簪は元に戻り、心配げに俺の顔をのぞき込んでいた。

 

「アリーナの閉館時間が迫ってるし、今日はここまでね」

 

「わかりました。じゃあ先にいってるなシャルル」

 

「あっ、うん。わかったよ」

 

刀奈さんが終了の言葉を言ったので俺は更衣室に向かう事にした。シャルルはIS実習後の着替えを一緒にしたがらないので表向きは恥ずかしがり屋か?とか見られたくない傷痕でもあるのか?と言っておいた。

 

(まあ、それがかえって疑惑を深めるだけなんだけどな………)

 

裏向きはもしシャルルが女だとしたら、一緒に着替えたくはないな。性別がバレてしまえば終わりだし、何より俺が恥ずかしい思いをしたくないからだ。

 

「ふう……」

 

更衣室に着き、俺はベンチに座り一息ついた。

 

(シャルルに……ラウラか……)

 

着替えながら俺は二人について思考を深める。

 

(シャルルはもう……クロと考えた方がいいな……いつまでもごまかせる訳ではないからな)

 

いずれシャルルは刀奈さん達の元、正体がはっきりするはずだ。

 

(シャルルの事は問題ないとしてラウラか……)

 

今日の行動からして俺が憎いと言う事を再認識された。刀奈さんのおかげで引いたが次は何をするかわからない……。俺の身近な人を傷付けるなら、容赦はしない!

 

(その前に千冬姉が釘をさしてくれればいいけどな……)

 

あんまり期待は出来ないけど最悪な事も想定しておこう。

 

「あのー、織斑君とデュノア君はいますか!?」

 

「はい?織斑だけいます」

 

ドア越しから呼んでいる声が聞こえたので思考を中断した。声の主は山田先生のようだ。

 

「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますー?」

 

「大丈夫です。着替えはすんでますよ」

 

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」

 

パシュッとドアが開いて山田先生が入ってきた。

 

「デュノア君は一緒ではないんですか?今日は織斑君と実習しているって聞いていましたけど」

 

「まだアリーナの方にいます。どうかしましたか?大事な話なら呼びますけど」

 

「ああ、いえ、そんなに大事な話でもないですから、織斑君から伝えておいてください。ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に二回の使用日を設けることにしました」

 

「そうですか……」

 

「何か嬉しくないみたいですね……」

 

「あっ、いえ……」

 

山田先生は俺の返事と態度が気にさわったのか上目遣いで怒ってますアピールをしてきた。

 

「わざわざ俺達の為にそんな事をしてくれて嬉しいやら、申し訳ないやらでいっぱいなんですよ」

 

「あー、そうでしたか……」

 

俺の言葉にぽんと手を叩いて納得してくれた。

 

「これも仕事の内ですよ。生徒の事を気遣わないと教師じゃないですからね。織斑君とデュノア君の為に頑張りました」

 

そう言い自慢気にえっへんと胸を張る山田先生。そのさいに大きな胸が揺れるので思わず見入りそうになるのを慌てて目線をそらした。

 

「……一夏?何してるの?」

 

「ああ、シャルルか。山田先生が俺達に用件があったから待ってたんだよ」

 

シャルルが更衣室に戻ってきたので俺はそう返した。

 

「そうなんだ。待たせちゃったかな?」

 

「いえ、ついさっきでしたので大して待ってませんよ」

 

「男子の大浴場使用許可が認められそうだ。シャルルは湯船に浸かるのは好きか?」

 

「うーん。僕は大体シャワーで済ませちゃうからどうかな……」

 

「それなら、大浴場を是非とも使ってみてください。広いし、設備も良いですし最高ですよ」

 

そう言いシャルルの手を取り大浴場に入る事を進める山田先生。

 

「そ、そうですか……あ、あはは……」

 

山田先生の行動に困惑したのか俺に助けを求めるようにチラチラと視線を向けてきた。

 

「ああ、忘れるところでした。織斑君にはもう一件用事があるんです。ちょっと書いて欲しい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか?白式の正式な登録に関する書類なので、ちょっと枚数が多いんですけど」

 

「わかりました。じゃあシャルル先に行ってるな」

 

「うん。わかった」

 

「じゃ山田先生、行きましょうか」

 

俺は山田先生の後に着いていきながら更衣室を後にした。

 

 

 

「……で以上よ」

 

「やっぱりですか……」

 

「うん。そうみたい……」

 

書類の手続きが終わり部屋に戻ると真剣な表情の刀奈さんと簪が出迎えた。聞けばシャルルの正体がわかったので渡された書類を見ると本当に女だとわかる……。

 

「それじゃ、シャルルを呼びますね」

 

俺は二人にそう聞くと簪と刀奈さんは頷いたのを確認するとプライベート・チャネルでシャルルを呼び俺の部屋に来るように言った。

 

コンコン

 

「どうぞ」

 

「入るよ一夏」

 

数分経たない内にシャルルがやってきた。

 

「あれ?あの二人は?」

 

「ああ、俺のルームメイトだよ。更識楯無さんと妹の簪だ」

 

「そうなんだ。よろしくね」

 

「ええ、よろしく」

 

「よろしく」

 

「それで僕に大事な話って何かな?」

 

「まあ、立ち話も何だから座って話そうか」

 

「う、うん……」

 

シャルルは戸惑いを隠さずにイスに座った。

 

「はい。お茶よ」

 

「ありがとうございます」

 

「それで話って言うのはシャルルの事だ」

 

「僕の事?」

 

「ああ、そうだ。何か隠してる事はないか?」

 

「な、何もないよ!何言ってるのさ!」

 

隠し事と言うとシャルルは動揺しだした。

 

「なあ、……お前は一体誰なんだ?本当は男性操縦者ではないんだろ?」

 

「ぼ、僕はシャルル・デュノアで男だよ!」

 

俺の問い掛けにシャルルは気にさわったのか怒り気味に声をあげる。

 

「もう隠し事は出来ないわよ。シャルル・デュノア君……いえ、シャルロット・デュノアちゃん」

 

「っ!?」

 

刀奈さんから自分の本名を言われ、シャルルはビクッと驚き息を飲んだ音が聞こえる。

 

(この反応間違いないな……)

 

さあ、正体を暴かせてもらうぞ。

 

 

シャルル・デュノア……いやシャルロット・デュノア……。




次回はシャルルの正体暴きます


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24話

指摘がありましたので修正版を更新します


「ど、どうして、僕の本当の名前を………」

 

本名を言われて顔を青ざめるシャルル。

 

「悪いけどあなたの事を調べさせてもらったわ」

 

刀奈さんはパサリとテーブルの上に報告書を置いた。

 

「デュノア社長に息子なんていなかったわ。それにシャルル・デュノアなんて人物も存在しなかった」

 

「そ、そこまで……」

 

「それにもっと調べてみたら、デュノア社長には愛人がいて子供がいた事がわかったの」

 

「それがシャルロット・デュノア………君だよな?」

 

「…………」

 

俺達が言い終えて暫く静かになる。シャルルは俺達とテーブルの上にある報告書を何度も繰り返して見ていた。

 

「………仕方ないよね」

 

諦めたのかシャルルはポツリと呟いた。

 

「ここまで調べられたら言い訳出来ないね……全て話すよ。その前にバスルームに行ってもいいかな?」

 

「何をするのかしら?」

 

「ああ、変な事はしないよ。真相を話すからちょっと待ってて」

 

そう言いシャルルはバスルームに行った。

 

がチャリ

 

「お待たせ」

 

少ししてシャルルはバスルームから出てきた。

 

「やっぱり……」

 

「うん。そうだよ、僕は女だよ」

 

シャルルが出て真っ先に気付いたのが服の上からわかる女性特有の胸の膨らみがあった。

 

「どうして男の格好なんてしてたの?」

 

真っ先に簪がシャルルに一番の疑問をぶつけた。

 

「それは、その……僕の父からの直接の命令なんだよ」

 

シャルルはデュノア社関係の話から表情が曇っている。

 

「命令って……親だろう?なんでそんな――」

 

「愛人の子だからだよ……本妻の子じゃないから僕は従うしかなかったんだ。……生きていく為に……」

 

「生きていくって……母親はどうしたんだ?」

 

「お母さんはすでに亡くなってるんだ……二年前に僕の父親に引き取られて、それからIS適応が高くてテストパイロットになったんだ。それから……」

 

シャルルは俺達に今までの事を話してくれた。父親に会ったのは二回で会話も少なく、本妻には『泥棒猫の娘が!』と罵倒され殴られた。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

 

「デュノア社は量産機ISのシェアが世界三位だったはずじゃなかったのか?」

 

「そうだけど、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発っていうのはものすごいお金かかるんだ。ほとんどの企業は国からの支援があってやっと成り立っているところばかりだよ。それで、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているから、第三世代型の開発は急務なの。国防の為もあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨なことになるんだよ。」

 

「なるほどな……」

 

「それでデュノア社でも第三世代型を開発していたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型の最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなか形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの」

 

「大体はわかったけど、何で男装する事になったの?」

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに―」

 

シャルルは俺達から視線を逸らし、どこか苛立ちを含んだ声で続けた。

 

「同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体とデータを取れるだろう………ってね」

 

「目的は俺の白式のデータか……」

 

「うん。それを盗んで来いって言われてるんだよ。もし失敗したら僕の体を使って一夏を手込めにしてでもデータを盗めって言われてるんだよ。あの人にね……」

 

マジかよ……いくら切羽詰まっているからと言って、ここまで強要するのかよ……。俺は沸々と怒りが沸き上がる。

 

「とまあ、そんなところかな。もうばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

 

シャルルは言いたい事を言い終えたのかもう何もかも諦めたように悟った表情に変わった。

 

「……シャルルは、それでいいのか?」

 

「えっ?」

 

「あなたはそれでいいの?良いように使われて捨て駒みたいに捨てられる人生で終わりたいの?」

 

「そ、それは……」

 

「あなたには生きる権利があるのにそれを放棄するの?親の命令だからってそれに従って死ぬの?」

 

「そんなの嫌だよ!嫌に決まってるじゃないか!でも……」

 

「安心していいわ。すぐに帰る必要はないわよ」

 

「「「えっ?」」」

 

「忘れたの?特記事項第二十一、の事を」

 

「あ、あの事項を利用するのですか?」

 

「そうよ。IS学園にいれば3年間は身柄を拘束される必要はないわ」

 

「その間になんとかなる方法を考える事が出来るって訳だね。お姉ちゃん」

 

「流石楯無さんですね」

 

「当然よ。生徒会長だもん」

 

俺と簪に誉められて満更でもない顔で胸を張る刀奈さん。

 

「後はシャルルがどうしたいか決めてくれ、今すぐでなくていいぞ」

 

「うん、わかった。よく考えてみるよ」

 

「それじゃ、夕飯にしよう。今日は俺が作るよ。シャルルも食べるか?」

 

「うん。いただくよ」

 

どうやらシャルルの表情は明るくなったようだ。まあ、引き続き調査する必要があるが、今わかった事はシャルルは悪いやつではないとわかっただけでもよしとしよう。

 

(後はラウラか……)

 

もう一人の転校生の事を考えながら夕飯を作りあげる。まあ、近いうちにアクションを起こしそうだが今は様子見しかないな………。ちなみに夕飯を食べたシャルルは何故か落ち込み、その様子を見ていた簪と刀奈さんは肩に手を当てて慰めていた事に苦笑いするしかなかった。

 

――――――――――――

 

「……それは本当なんですの?」

 

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

月曜の朝、教室に向かっていた俺は廊下まで聞こえる声に目をしばたたかせていた。

 

「なんだ?」

 

「さあ?」

 

「さあ〜?」

 

隣にいるのはシャルルと本音である。

 

「本当だってば!この噂、学園中で持ちきりなのよ?月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と交際でき――」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃああっ!?」」」

 

な、なんだ?クラスに入って普通に声をかけたはずなのに、返ってきたのは取り乱した悲鳴だった。

 

「で、何の話だったんだ?俺の名前が出ていたみたいだけど」

 

「ええ、実は噂で月末の学年別トーナメントで優勝すれば一夏さんとこ―」

 

「「「ちょっと待った―――!!!」」」

 

全部話す前にクラスの中の女子みんながセシリアを黙らせた。

 

「お、おい……」

 

「じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

 

「そうだね!私達も席につかないとね!」

 

「んーっ!!んーっ!?」

 

パタパタとよそよそしい様子で女子達は自分のクラス・席へと戻っていったがセシリアは何故か何処かへ連れられて行ってしまった。

 

「……なんなんだ?」

 

「さあ………?」

 

「さあ〜?」

 

俺達は訳がわからずに首を傾げるだけだった。その後余鈴が鳴った時に制服が乱れてヨロヨロ状態でセシリアが帰って来た。その姿を見て回復するまで話はしない事にした。深く追求すれば再び彼女の身に災いが降りかかる為だ。

 

――――――――――――

 

(な、なぜこのようなことに……)

 

教室の窓側列で箒は表面上平静を装いつつも、心の中では頭を抱えていた。近頃なにか月末の学年別トーナメントに関する噂が流れていることは知っていた。

しかし、問題はその内容でる。

 

『学年別トーナメントの優勝者は織斑一夏と交際出来る』。

 

(そ、それは私と一夏だけの話だろうっ!)

 

一夏が言いふらしたとは考えられないので、どこからか情報が漏れたのだろう。今にして考えると、あの時の声はやや大きかったかもしれない。それでもふたりだけの秘密ということで安心していた面もある。

 

「………」

 

しかし、現実にはもうほとんどの女子が知ることとなっているらしく、さっきも教室にやってきた上級生が『学年が違う優勝者はどうするのか』『授賞式での発表は可能か』などとクラスの情報通に訊きに来ていた。

 

(まずい、これは非常にまずい……)

 

と自分以外が一夏と付き合うことに激しい抵抗感があるのは言うまでないがしかし、箒自身一夏に恋人達がいる事はまだ知らない為の花盛りの十代乙女、溢れる情動の暴走を誰が止められる訳がない。

 

(と、とにかく、優勝だ。優勝すれば問題ない)

 

そう決意するが悲しきかな、箒の実力は他のクラス女子と同じくらいであり、優勝には程遠い事はまだ知らない。

 

――――――――――――

 

「はあっ!?」

 

昼休みになり、回復したセシリアと本音、簪、それと途中で合流した刀奈さんを連れて屋上に行き先程の話の途中からの内容を訊き唖然とした。

 

「その様子だとご存知なかったみたいですわね」

 

「当たり前だよ。何だよそのふざけた噂は………」

 

俺は額に手を当ててため息をはいた。

 

「確かにそんな噂は聞いていたけどここまで拡がるだなんて思わなかったわ………」

 

「うん……まるで一夏が優勝商品みたいな扱いに聞こえるよ……」

 

刀奈さんは困った顔をし、簪は不機嫌な顔をしながらそれぞれ言った。

 

「噂とはいえ、何も知らない状態では一夏さんもお困りでしょうからお話いたしました」

 

「ありがとうセシリア。ったく誰だよ、こんな噂を流したのは?」

 

「確かにそうよね。何か心当たりない?」

 

「そういえば〜、きよきよ達がそんな話してたよ〜」

 

「本音、どんな内容?」

 

「何でもある女子がいっちーの部屋の前で月末の学年別トーナメントで優勝したら交際する約束を叫んでいたって」

 

「あっ。あれか……」

 

「何か心当たりがあるんですの?」

 

「ああ、実は……」

 

セシリアに尋ねられて俺は先日の事を話した。

 

「そう、そんな事が……」

 

「噂の原因は篠ノ之さんからでしたのね……」

 

「ああ、いい迷惑だよ……」

 

「だよね〜……」

 

「うん……」

 

俺の話を聞いて皆が不愉快気味な表情を浮かべた。

 

「前々から気になっていたのだけど、あの子って一体何を考えているかしら?」

 

「この前のクラス対抗戦の時にはわざわざ危険なところに向かう方ですし、わたくしには理解出来ませんわ」

 

「何か一夏だけしか見ていない気がするのは気のせい?」

 

「当たりだ、簪。あいつは俺しか見てないよ」

 

「どういうこと〜?」

 

「篠ノ之さんから一方的な好意を向けられてるんだよ。それを俺は断っているんだが……諦めが悪いんだよな……」

 

「それって物凄い質性が悪いじゃないの?」

 

「そうなんですよ。あいつは自分の良いように解釈してしまうので困ってるんですよ」

 

「なるほど、だから織斑先生の態度が厳しいのがわかりましたわ」

 

「とは言え、なんとかしないとねえ……」

 

「うん……」

 

「たとえ俺が優勝しても上級生の優勝者に交際迫られたら本当に大変ですよ」

 

「二年は私が優勝すればいいし、三年は虚ちゃんに頑張ってもらうしかないわね……」

 

「完全にトラブルに巻き込まれた感じですわね……」

 

「「「「はあ………」」」」

 

俺達は思わず深いため息を吐いた。俺が知らないうちにここまで噂が進展してしまった事に頭を悩ませることとなった。

 

――――――――――――

 

「相変わらず距離が長いな……」

 

学園内に男子が使えるトイレが三ヵ所しかない現状、まあ元々は女子校だけにあんまり文句を言える立場じゃないから仕方ないと思い諦める。

 

「なぜこんなところで教師など!」

 

「やれやれ……」

 

ん?ふと曲がり角の先から声が聞こえたので思わず足を止めて声のする方に耳を傾ける。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

ラウラは千冬姉の現在の仕事についての不満や思いの丈をぶつけているみたいだな。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

 

「ほう」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

 

「なぜだ?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そんな程度の低い者達に教官が時間を割かれるなど――」

 

「――そこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ……!」

 

凄みのある千冬姉の声。さすがにラウラは黙ってしまうか……まあ、ある意味わがままを言っているようにも聞こえなくはないが……。

 

「少し見ない間に偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は……」

 

千冬姉の威圧感にのまれたのかラウラの声は震えている。嫌われてしまうかもしれない恐怖を感じているようだ。

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

「………」

 

千冬姉がせかして、ラウラは黙したまま早足で去っていった。

 

「そこの男子。盗み聞きか?異常性癖は感心しないぞ」

 

「わかってますよ……ただ気になっただけです織斑先生」

 

「そうか……」

 

「織斑先生、ラウラはドイツでの教え子なんですね」

 

「今は織斑先生はいい。その通りだ。ラウラは私がドイツで教導した教え子だよ」

 

「やっぱり……でも、ここまで千冬姉に執着してるとは思わなかった」

 

「ああ、アイツは私が一番手塩にかけて育てたからな……」

 

そう言って腕を組み顔を曇らせる。

 

「私を慕ってくれるのは嬉しいが、度が過ぎてしまうのも困るのだがな……」

 

「あの様子じゃあ暫くは千冬姉にドイツに来てほしいって言いそうだ」

 

「まったく、困ったものだ」

 

額に手を当ててため息をはいた。

 

「じゃあ授業が始まるので教室に戻ります」

 

「わかった。それと一夏」

 

「何か?」

 

「もし月末トーナメントでラウラと当たったら遠慮はいらん。完膚無きまでに叩き潰せ」

 

「教師がそんな事言っていいのかよ?」

 

「仕方のない事だ。このままいけば必ず間違った方向に傾くことは想像できる。だから一度負けてちゃんと教えるつもりだ」

 

「わかりました。それでは」

 

「ああ、気をつけてな」

 

俺と千冬姉は会話を終えてそれぞれの教室に向かうのだった。

 

――――――――――――

 

「「あ」」

 

ふたり揃って間の抜けた声を出してしまう。時間は放課後。場所は第三アリーナ。人物はセシリアと鈴だ。

 

「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

 

「そうでしたか。わたくしも特訓しに来ましたわ」

 

鈴はセシリアをライバル視するがセシリアは優勝には興味がなく、噂を払拭させる為に一夏達に協力する事を優先にしていた。

 

「ちょうどいい機会だし、この前の実習のことを含めてどっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

 

「どちらが上かなんて興味はありませんが、お互いに実力を高め合うのならわたくしは受けて立ちますわ」

 

ふたりはメインウェポンを呼び出して構える。

 

「では――」

 

――と、いきなり声を遮って超音速の砲弾が飛来する。

 

「「!?」」

 

緊急回避のあと、セシリアと鈴は揃って砲弾が飛んできた方向を見るとそこにはあの漆黒の機体がたたずんでいた。

 

「………どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

とん、と連結した《双天牙月》を肩に預けながら、鈴は衝撃砲を準戦闘状態へとシフトさせる。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

いきなりの挑発的な物言いに、鈴の口元を引きつらせる。逆にセシリアは冷静にラウラを見ていた。

 

「何?やるの?わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

 

「鈴さん、あんまり挑発に挑発で返すのは良くありませんわ。しかもドイツをバカにした発言は止めた方がよろしいかと思いますわ」

 

ラウラの全てを見下すかのような目付きに不快感を抱いた鈴が怒りのはけ口を言葉に見いだそうとしたのをセシリアは注意した。

 

「はっ……。ふたりがかりで量産型に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

ぶちっ――!

 

何かが切れる音がして、鈴は装備の最終安全装置を外す。

 

「ああ、ああ、わかった。わかったわよ。スクラップがお望みなわけね。――セシリア、あたしが先にやるわよ」

 

「鈴さんお待ちください!こんな私闘はやめるべきです!」

 

完全に堪忍袋の緒がキレた鈴を慌てて宥めようとセシリアは制止の声をあげた。

 

「はっ!ふたりかがりで来たらどうだ?一足す一は所詮二にしかならん。下らん種馬を取り合うようなメスに、この私が負けるものか」

 

「ラウラさんもおやめください!さっきから他国を侮辱したり場にいない人間の事まで悪くいったら織斑先生が黙ってませんわ!」

 

「「っ!!」」

 

セシリアの言葉に今にも戦う寸前だった鈴とラウラはピタッと止まる。

 

「ちょ、ちょっとセシリア……嫌な事言わないでよ、せっかくアイツをボコるチャンスだったのに……」

 

「ただの喧嘩でしたら止める必要はありませんが、私達は代表候補生。国を背負っている事を忘れてISでの私闘などしたら国際問題に発展しますわ」

 

「うっ……」

 

セシリアの言葉に鈴の表情は曇る。セシリアの正論に何も言い返せないからだ。

 

「ラウラさんもです。この前の事といい。今といいいきなり攻撃するのは一体何ですか!その攻撃に巻き込まれて怪我をさせたらどう責任をとるおつもりですか!」

 

「そ、それは……」

 

セシリアの言葉にたじたじになるラウラ。千冬の名前が出た途端にさっきまでの挑発的な態度が鳴りを潜めてしまう。

 

「ラウラさん、あなたは織斑先生が怖くないですか?いくら何でも目につく行動ばかりとっていれば怒られますわ」

 

「怖くないかだと?……そんなの怖いに決まってるじゃないか!」

 

セシリアの問いにダーッと涙を流すラウラ。千冬に対する恐怖を思いだしたようだ。

 

「それでも私闘をなさりたいのならもう止めませんわ。後はお好きにどうぞ、織斑先生が来てもわたくしはフォローしませんのでそのつもりで……」

 

そう言い二人から去ろうとしてピットに体を向けると――

 

「ちょっと待て―――!!」

 

「ちょっと待ってよ―――!!」

 

セシリアを呼び止めようと鈴とラウラが叫んだ。

 

「何か用ですか?わたくしは別メニューをしようとしてましたのに」

 

「お願い見捨てないでセシリア!!」

 

「そうだ!私達に死ねと言うのか!!」

 

涙目になり必死にセシリアを止めようと詰め寄る鈴とラウラ。

 

「そう言われましてもわたくしには関係ありませんし、お二人の問題ではなくて?」

 

「いやよ。千冬さんの模擬戦と言う名の処刑なんて受けたくないのよ」

 

「そうだ。私達に逃げ道すら与えてくれないのだぞ!」

 

「だったら私闘など止めればいいだけの話ではないですか」

 

「「うっ……」」

 

鈴とラウラは再び言葉に詰まりお互いに顔を見る。

 

 

「「………」」

 

そのままにらみ合い、ふっと表情が和らいだ。

 

「やめましょう。こんな事やって千冬さんに怒られたくないもん」

 

「そうだな……私もやり過ぎた。こんな事すれば、教官怒るのは当然だ」

 

「わかってくれて何よりですわ」

 

「すまなかった。この勝負は学年別トーナメントでつけよう」

 

「そうね。そうしましょう」

 

鈴とラウラはお互いに頷き、私闘は回避されたのだった。



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25話

お待たせしました。最近は忙しくなりましたがようやく落ち着いての更新です。

ちょっと、悩みましたけどね……


放課後になり、俺達は訓練を終えて着替えてから合流して廊下を歩いていた。

 

「相変わらず簪は強いな〜」

 

「そんな事ないよ。一夏だってちゃんと力を着けてきてるよ」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ……だって、いまだに僕は一夏に1勝もしていないんだからね………」

 

そう言い、ジト目で俺を見るシャルル。

 

「シャルルンは〜、いっち―に負けるのが悔しいんだね〜」

 

「そうだけど……僕の得意な戦い方してもあっさりと看破されて負けると、流石に自信なくすよ……」

 

はあ、とため息を吐き、暗い表情に変わるシャルル。ちなみに今のメンバーは俺、簪、本音、シャルルの四人だ。セシリアを誘ったのだが、今日は1人で訓練をしたいとの事で、丁重に断られてしまったがまあ、学年別トーナメントでの切り札みたいなのを考えているのだろう。だとしたら対戦が楽しみだな。

 

ドドドドドドッ……!

 

「な、何だ?」

 

「な、何か近付いてくる?」

 

地鳴りに聞こえるそれは、遠くから響いてきて、しかも段々近付いてきている。

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

「うおおっ!?」

 

「うわあ!?」

 

「きゃあっ!!」

 

俺達の目の前に雪崩れ込んでくる数十名の女生徒を見て思わず悲鳴を上げてしまった。怖いって!!

 

「ど、どうしたんだ一体?」

 

「と、とりあえずみんな落ち着いて」

 

「「「「これ!」」」」

 

目の前の光景に恐怖を感じつつも状況が飲み込めない俺達に、バン!と女子生徒一同が出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申込書だった。

 

「えっと、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行う為、2人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」

 

「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」

 

そしてまた一斉に伸びてくる手。こ、怖い……まるで某ゾンビゲームみたいだ……。

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

どうしていきなり学年別トーナメントの仕様変更があったかはわからないが、その事は後で刀奈さんに聞くしかないな、ともかく今こうしてやってきているのは全員一年生の女子だ。学園内で二人しかいない男子ととにかく組もうと、先手必勝とばかりに勇み迫ってきているのだろう。しかし――

 

「え、えっと……」

 

そう、シャルルは実は女子なのだから、誰かと組むというのは非常にまずい。今後ペア同士での特訓も行うだろうし、いつどこで正体がバレてしまうとも限らない。そう思ってシャルルを見ると、数秒間だけ困り果てた顔でこっちを見たのがわかった。俺と視線が合うと、助けを求めているのがわかってしまうと思ったのだろう、すぐに視線を逸らしてしまった。相変わらずの遠慮深さに俺は苦笑いを浮かべてしまった、シャルルのこういう仕草が健気でいじらしい所をアピールしているのがわかる。普通の男だったらイチコロだな、でも俺には二人の恋人達がいるから、それには応えられない。なので――

 

「悪いな。俺は簪と組むから諦めてくれ!」

 

俺は簪の両肩に手を置き、わあわあと騒ぐ女子全員に聞こえるようにキッパリと大きな声で宣言した。

しーん……。いきなりの沈黙に俺は気持ちが少しだけ後ずさる。

 

「ぼ、僕は布仏さんと組む事にしたんだ!ゴメンね!」

 

シャルルはこの沈黙と女子達の追求から逃れようと俺と同じように本音の両肩に手を置き、そう宣言した。

 

「「ふえっ!?ふえぇぇ――――っ!!」」

 

俺とシャルルの宣言に我に返ったのか簪と本音はびっくりした悲鳴をあげた。

 

「「「ちくしょ―――!!」」」

 

「「「先を越された―――!!!」」」

 

「「「神は死んだ――――!!!」」」

 

「「「そんなバカな―――!!!」」」

 

等々、悲鳴に近い形で叫ぶ女子達。その後バタバタとペア探しに走り出した。

 

「ふう……」

 

「行ったみたいだね……」

 

女子達がいなくなり、俺とシャルルは安堵のため息をついた。

 

「い、一夏!」

 

「ど、どうしたんだ簪!?」

 

いきなり大声で俺を呼ぶ簪に思わず、ビックリしてしまった。

 

「わ、私で……いいの?」

 

そう言い、不安気な表情でチラチラと上目遣いで俺を見る簪に愛らしさが沸き上がる。思わず抱き締めたくなるが……ここは我慢だ。

 

「もちろんだ。俺は簪としか組まないよ」

 

「本当!本当に本当!?」

 

「本当だって、嘘はつかないよ」

 

「嬉しい……」

 

潤んだ瞳で俺に寄り添いそっと抱き締める簪。くっ……抱き締め返したい……でも……いいか。俺は自分の気持ちを抑える事はせずに簪を抱き締め返した。

 

「あ〜、ゴホン!ゴホン!もういいかな?」

 

「いっちー、かんちゃん。そろそろ〜帰ってきてね〜」

 

「「はっ!」」

 

わざとらしく咳払いするシャルルと本音の声に慌てて離れる俺と簪。いかんいかん二人がいる事を忘れてたな。

 

「あんまり〜見せ付けられてもこっちが困るよ〜」

 

「僕達がいる事を忘れないでね」

 

「「ごめんなさい……」」

 

ジト目でそう言う本音とシャルルに平謝りする俺達、とりあえずシャルルは本音と組む事で性別バレは回避出来るし、俺は簪という最高で最強のパートナー組む事で優勝に近くなるのは間違いないな。

 

「それじゃ、僕と布仏さんとのペアでの練習するから」

 

「またね〜」

 

ブンブンと手を振ってシャルルの後を着いていく本音を見送った。本音は外見はまあ、あれだが実力はかなりあるし、パートナーとしては申し分ないだろう。

 

(シャルルと本音のペアかセシリアは誰と組むかわからないが対戦するのが楽しみだ)

 

俺は学年別トーナメントで対戦出来る事を楽しみになり、その日が来る待ち遠しくなった。余談だがこの事を知った鈴が何故自分と組まないのかを怒り心頭で追いかけられた。

 

――――――――――――

 

「あ、あのね、一夏っ」

 

「どうした?」

 

夕食後、部屋に連れ立って戻るなり、簪が口を開いた。心なしかその語調には勢いがある。どうしたんだろ?

 

「あのね、私と組むって言ってくれてありがとう」

 

「その事か?別にお礼を言われるつもりはないぞ」

 

「それでもだよ、私の事信頼してくれて嬉しかった」

 

「バカだな……」

 

健気に言ってくる簪に愛しくなり抱き締める。

 

「一夏……」

 

「俺は簪しか、組むつもりはないよ。もちろん将来もこれからも一緒だ」

 

「うん、ありがとう一夏」

 

そう言い簪は目を閉じて顔を上げた。俺はそれに応えるようにそっとキスをした。

 

「え、えへへ……」

 

「は、ははっ……」

 

お互いに照れくさくなり、笑っていると―

 

「……2人共、私の事忘れてない?」

 

「「にょわっ!?」」

 

突然の声に驚き、奇声を上げてしまった。慌てて声のした方を見るといつの間にか部屋に戻ってきていた刀奈さんがいた。心なしか拗ねた顔をしている

 

「ふんだ!ふ―んだ!そうよね、一夏君は簪ちゃんが一番だもんね。私は忘れられる運命なのよ」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「ち、違いますよ刀奈さん」

 

「……いいのよ。本当は簪ちゃんと両想いなのを私が無理矢理入った形だから仕方ないわね……」

 

あ、あれ?何だか暗いぞ……まるでずぶ濡れになった捨て猫みたいだ。

 

「……私だって一夏君に信頼して欲しいし、もっと愛して欲しいのよ……でも……」

 

ま、マズイ!刀奈さんはネガティブモードに落ちてる!この状態になるのは簪と仲直りする前の時に何度も見掛けたから対処するのに物凄く骨が折れた……。

 

「刀奈さん」

 

「あっ……」

 

俺は刀奈さんを落ち着かせようと抱き締めた。

 

「一夏君?」

 

「そんなに落ち込まないでください。刀奈さんもこれからも将来も一緒ですよ」

 

俺はそう言い、刀奈さんの顎をそっと手に触れて上を向かせてそのままキスをした。

 

「これで信じてくれましたか?」

 

「一夏君……ありがとう」

 

刀奈さんは嬉しさから俺をギュッと抱き締めてくる。どうやら元に戻ってくれたようだ。

 

「お姉ちゃん、3人で幸せになろうって言ったの忘れたの?」

 

「ごめんなさい。2人の間に入れなくて、置いてけぼりされて悲しかったから、ついね……」

 

「そんなに遠慮しなくていいんですよ。俺は簪、刀奈さんを愛してるんですからちゃんと受け止めますよ」

 

「そうね。ありがとう」

 

こうして俺達はまた1つ愛を育んでいくのだった。さあ、学年別トーナメントに向けて頑張るぞ。

 

――――――――――――

 

6月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色に変わる。その慌ただしさは予想よりも遥かに凄く、今こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っていた。それらからやっと開放された生徒達は急いで各アリーナの更衣室へと走る。ちなみに男子組(俺だけな)は例によってこのだだっ広い更衣室を二人占めである。まあ、組むパートナーの都合により、既にISスーツ着替えている簪と本音がここにいる。

 

「しかし、凄いなこりゃ……」

 

更衣室のモニターから観客席の様子を見る。そこには各国の政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入ると思うよ」

 

「そうか……なるほどな」

 

シャルルの話に耳を傾けながら、俺はこのトーナメントの結果次第で将来が変わるきっかけなのだと考えた。

 

「今年は一夏がいるから、皆が注目していると思うよ」

 

「それは困るな………」

 

「モテモテだね〜いっちー」

 

「いやいや、それは違うと思うよ。本音」

 

本音の言葉に思わずツッコミを入れるシャルル。どうやら本音と仲良くなったみたいだ、元々親しくなりやすい性格だからすぐに打ち解けたのだな。

 

「さてと、対戦表はまだかな?」

 

「誰が来てもいいように準備しないとね」

 

「ああ」

 

ちなみに鈴とセシリアはそれぞれ自分の部屋のルームメートと組む事にしたようだ。二人が組んだ対戦をしたかったがお互いの考えがあるらしく、今回は見送る形になったようだ。

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

モニターがトーナメント表へと切り替わった。俺もそれまでの思考は一旦停止して、そこに表示される文字を食い入るように見詰めた。

 

「「「「―――えっ?」」」」

 

でてきた文字を見て、俺達は同時にぽかんとした声をあげた。俺と簪の一回戦の対戦相手はラウラ、そして箒のペアだったのだ。

 

「随分と面白いカードが組まれたね。でも二人なら絶対に勝てるよ」

 

「頑張ってね〜かんちゃん、いっちー」

 

「ああ、ありがとう本音」

 

「うん。絶対に勝つ」

 

シャルルと本音の激励に俺と簪の気持ちが引き締まる。これで2つの問題が解決出来るチャンスに違いないからな、自ずと力が入る。

 

(ラウラ……そして箒、決着を着けるぞ!)

 

俺はそう決意し、一回戦の舞台に上がった。




次回はラウラ戦です。


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26話

ラウラ戦前編です。

どうぞ


「………………」

 

「………………」

 

一夏達が使っているのとは反対側の更衣室。人口過密のそこにあってなお、冷気を放つ一角があった。一人はラウラ・ボーデヴィッヒ。もう一人は篠ノ之箒である。二人の放つ異様な気配に、すし詰めで生まれた粗熱も二の足を踏んでいるかのようだ。

 

(初戦の相手が一夏!?なんという組み合わせだ……)

 

箒は静かにまぶたを閉じながら、その心中は穏やかではなかった。ペア参加への変更が決まった日、どう言って一夏を誘うかを考えていたら夜はどっぷりと更けていた。せめて日付が変わる前にと部屋を訪れると、待っていたのは「もう簪と組んだから諦めてくれ」という返事だった。

それからどうしたものかと考えている内に締め切り当日になってしまい、ペアが抽選で決まってしまった。それがよりによってラウラであった。一年で抽選ペアになったのは箒とラウラだけだったらしい。

 

(私は何が何でも優勝しなくてはならないというのに!)

 

――最悪。最悪である。

 

確かに戦力としては十二分だろう、ついさっき千冬に出会し「良かったな篠ノ之。ボーデヴィッヒとのペアなら優勝出来るかもしれないぞ」と肩をポンと叩かれて声を掛けて来たのだ。

 

(千冬さんがそう言ってくれるのはありがたいが、しかし……)

 

箒とラウラは全く意見が合わない。何せ向こうはこっちの話を聞く気などハナからなく、一度口を開いたのも「邪魔しなければそれでいい」という不遜に充ち満ちた言葉だけである。

そりが合わないのである。

しかし、それ以上に箒が抱いているのは――近親憎悪だった。力が全てだと思っている姿は、かつての自分そのものに見えた。まるで過去の醜悪な姿を見せつけられているかのようで、箒は嫌で嫌で堪らなくなる。

 

(……いや、今は考えないでおこう)

 

そうしなければ戦えない。――そうしなければ、一夏とは、戦えない。箒は組んだ腕に僅かに力を込めて、静かに意識を集中させていった。

 

 

 

(とりあえず面倒な奴同士を組ませる事に成功したな……)

 

千冬は箒とラウラを見ながら内心ホッとしていた。

ラウラは一匹狼、箒は一夏と組みたがる事はわかっていたがすでに簪とペアになっている為に他に組む相手がいない状況でのペアである。

 

(まあ、お互いに協力する気はないな……いくらボーデヴィッヒの技量でも限界はある)

 

個人であれば、ラウラは優勝を狙えるだろう。しかしペア戦となれば話は別だ。お互いに協力して戦いを有利にしなければ優勝は出来ない。ラウラは力が全てと思い込み一人で出来ると慢心しているだけに協調性は全くない。

 

(さて、ここまでのお膳立てはした。後は一夏、簪頑張れよ)

 

別の更衣室に待機している弟とその恋人にエールを送りながら自分の持ち場に戻っていった。

 

――――――――――――

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたと言うものだ」

 

「あっ、そう。俺は別に決勝の舞台でも良かったけどな」

 

試合開始まで後5秒。4、3、2、1―開始。

 

「叩きのめす」

 

ラウラの言葉を聞きながら、試合開始と同時に俺は瞬時加速を行う。この一手目が入れば戦況はこちらの有利に大きく傾く。

 

「おおおっ!」

 

「ふん……」

 

ラウラが右腕を突き出す。――来るか。

俺は昨日、生徒会室で作戦会議中に刀奈さんと虚さん達から情報とその対策についての意見を聞いていた時の事を思い浮かべた。

 

『AIC?ですか?』

 

『はい、シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器です。アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略称で慣性停止能力です』

 

『なるほど……』

 

『ちなみに一夏君はPICはわかってるわよね?』

 

『ええ、パッシブ・イナーシャル・キャンセラーの略称で浮遊、加速、停止を意味してますよね』

 

『その通りよ。ちゃんと勉強しているみたいね』

 

『そりゃあ教えてくれる人達が優秀ですから、ちゃんと理解してますよ』

 

『ふふっ、ありがと』

 

『どういたしまして〜』

 

『では、話を戻しましょう。AICの理屈としては空間圧作用兵器と似たようなエネルギーで制御しているてみられます』

 

『つまり、範囲内に入らなければ捕まらない訳ですね?』

 

『それだと一夏君はかなり不利な戦い方をしなければならないわね』

 

『確かに……俺のは近接型ですからかなり不利だから、その為には簪の力が必要になりますね』

 

『そうですね。むやみやたらに攻撃を行えば相手の術中にはまります。そこで簪様の出番です』

 

『もしかして、一夏がおとりになって私が攻撃するの?』

 

『言い方が悪いがその通りだな』

 

『そうね、勝つ為には一夏君もだけど簪ちゃんの力が必要になるの、行けるわね?』

 

『うん。大丈夫』

 

その後もあの手この手の作戦を考えてその日を終えての当日。

 

(かかったな)

 

ラウラがAICの網に掛けて捕まえようとするが―

 

「何っ!?」

 

「なあっ!?」

 

俺は向きを変えて、AICをかわして箒に突撃する。

 

「まずはお前からだ!」

 

「貴女は邪魔!」

 

簪も俺の後を着いていき箒に攻撃を仕掛ける。俺達の作戦としては真っ先に箒を撃墜させて、それからラウラを叩くという考えだ。

 

「私を無視するとはいい度胸だな!」

 

プラズマ手刀を展開したラウラが俺達の背後から迫ってくる。まあ、当然だよなまるで眼中無しと言わんばかりの行動と考えたか……

 

「ちっ……」

 

「私が足止めする?」

 

「いや、いい。真っ先に篠ノ之さんを倒そう」

 

「わかった」

 

簪はそう提案するが今の俺達ならかわしながら攻撃するくらい問題ない。いち早く箒を撃墜する事を優先にした。

 

「ひ、卑怯だぞ!?二人がかりで仕掛けるな!!」

 

箒は俺達の攻撃を近接ブレードで弾いていくが―

 

「悪いが即刻退場してもらうぞ!」

 

「早く終わらせる!」

 

俺達は箒が捌ききれない手数で応戦、シールドエネルギーを削っていく。

 

「くっ……」

 

「これで……終わりだ!」

 

「し、しまっ……ああっ!!」

 

俺は一気に畳み掛ける様にしての居合い斬りと簪の荷電粒子砲が当たり、残量0―リタイアだ。見ると箒は悔しそうにしていたが同情はしない。

 

「第一段階はクリア。ここから本番だ」

 

「うん」

 

「先に片方を潰す戦法か。無意味だな」

 

俺達が振り返ると腕を組みながらラウラはそう言って来た。どうやら箒ははなから数には入れていないのだろう。しかし、俺達にとっては意味はある。

どちらも俺を狙ってくるだけに両方を対処するのは正直キツイ。そこで倒しやすい箒に的を絞り簪と一緒に撃墜してラウラに集中しようと予め決めていた事だ。

 

「作戦は成功してるんだ。後はお前を倒せば終わりだ」

 

「私と一夏のコンビネーションで勝つ」

 

――――――――――――

 

「ふあー、凄いですねぇ。2週間ちょっとの訓練であそこまでの連携が取れるなんて」

 

教師だけが入る事を許されている観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら真耶は感心したように呟く。

 

「やっぱり織斑君って凄いです。才能ありますよね」

 

「ふん。更識達と訓練しているからこそ、あそこまでの実力と連携が出来て当然だ。まあ、本人は才能はないと言っているがな……」

 

若干呆れ気味に言う千冬に、真耶はやや苦笑い気味に言う。

 

「そうだとしても、他人がそこまで合わせてくれる織斑君自身が凄いじゃないですか。魅力のない人間には、誰も力を貸してくれないものですよ」

 

「まあな……(確かにそうだな、一夏の魅力に惹かれて更識姉妹は恋人になり、布仏姉妹は一緒に協力してくれているな)」

 

真耶の的を得た言葉に千冬は感心していたが、真耶は照れ隠しなんだと考えて深くは気にしていない。

 

「それにしても篠ノ之さん、あっさり負けてしまいましたね」

 

「専用機がなければあんなものだろう。もっとも、ちゃんと連携が取れればあっさり負ける訳がないな……」

 

しっかりと連携が取れていないな。と付け加えて、千冬はモニターに視線を戻す。そこでは一対二でありながら、互角に渡り合うラウラの姿があった。

 

「そういえば、ボーデヴィッヒさんは助ける素振りも見せませんでしたね………確かに強いですけど……」

 

「ああ……変わらないな。強さを攻撃力と同一だと思ってている。だがそれでは――」

 

一夏と簪には勝てないだろう。しかし、その言葉は決して口にはしない。身内贔屓になる訳にはいかないが、このカードは自分に関わっている人達の為言っても言わなくてあまり変わらない事は間違いない。

 

ワアアアッ!

 

会場が一気に沸いた。その歓声が観察室まで直に響いてくる。

 

「あ!織斑君が居合いの構えを見せましたね!一気に勝負をかけるつもりでしょうか」

 

「いや、あれは……誘いをかけているな……何を狙っている?」

 

「えっ?えっ?そんな事がわかるんですか?流石姉弟ですね―。私、感心しちゃいま―」

 

「山田先生、放課後の補習項目に新しい教科を担当して貰うか。内容は『どうして胸が大きくなったか?の豊胸術』だ」

 

「や、止めてくださ――い!!そんな恥ずかしい事はやりたくありませ――ん!!」

 

顔を真っ赤にして慌てて首を振り手を振りと大忙しの真耶に、千冬は低い声で畳み掛ける。

 

「私は身内のネタでいじられるのが嫌いだ。多少は我慢するが、度が過ぎると本気でやらせるから覚えるように」

 

「は、はい……。すみません……」

 

顔を真っ赤にしたまま真耶はしぼんでしまう。それがあまりに可哀想だったのか、千冬はぽんと軽く頭を撫でた。

 

「さて、試合の続きだ。どう転がるか見物だぞ」

 

「は、はいっ」

 

――――――――――――

 

「これで決めるっ!」

 

雪片を鞘に納め居合いの構えながら、ラウラへと直進する。

 

「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが……それなら当たらなければいい」

 

ラウラのAICによる拘束攻撃が連続で襲いかかる。右手、左手、そして視線。それらの目に見えない攻撃を俺は急停止・転身・急加速でかわす。

 

「ちょろちょろと目障りな……!」

 

立て続けの攻撃にワイヤーブレードも加わり、その攻勢は熾烈を極める。しかしこっちには最高にして最強のパートナーがいる。

 

「一夏!私が隙を作るからそこを攻撃して!」

 

「わかった!」

 

荷電粒子砲でラウラを牽制しながら、俺が攻撃しやすいようにサポートしてくれる。つくづく、簪と組んで良かったな。安心して俺の背中を預ける事が強みだ。

 

「ちっ……小癪な!」

 

ワイヤーブレードをくぐり抜け、俺はラウラを射程圏内へと接近する。

 

「無駄だ。貴様の攻撃は読めている」

 

「普通に斬りかかれば、な。――それなら!」

 

俺は納めていた雪片の柄をラウラに向けて、指で弾く。

 

「!?」

 

斬撃が読まれるのなら、俺は奇策で攻める。鞘から抜き出た雪片はラウラを襲う。

 

「無駄な事を!」

 

突然な攻撃にラウラ一瞬動揺するが雪片をかわし、AICで俺の体を固定した。

 

「ふん。武器を投げて隙を作るとはな……だがお前の動きを止められれば――」

 

「……随分と余裕だな、今は俺だけが戦ってるんじゃないんだ。これはペア戦、二人組なんだぜ?」

 

「!?」

 

慌ててラウラは視線を動かすが、もう遅い。すでに零距離まで接近した簪が、俺の投げた雪片を使い素早く斬撃を叩き込む。次の瞬間、ラウラの大口径レールカノンは真っ二つに斬られ爆散した。

 

「くっ……!」

 

やはり、予想通りだ。ラウラのAICには致命的な弱点があった。それは『停止させる対象物に意識を集中させていないと効果を維持出来ない』事だ。このおかげで俺の拘束は解除されていた。

 

「一夏!」

 

「ああ!」

 

簪から雪片を受け取り、再び鞘に納めて構える。

 

――そろそろ決めるぞ!

 

「やらせるか!」

 

ラウラは両手にプラズマ手刀を展開して俺の懐に飛び込んでくる。

 

「ちいっ……!」

 

俺は雪片を抜き、鞘を使いながらラウラの攻撃を捌いていく。

 

「一夏はやらせない!」

 

「邪魔だ!」

 

ラウラは俺の攻撃の手を休めないまま、援護に入ろうとした簪をワイヤーブレードで牽制する。そのどちらもが精度の高さとスピードを伴った攻撃で、改めて相手の技量の高さを思い知らされる………。

 

「くっ……近寄れない!」

 

「この間に貴様を墜してくれる!」

 

ワイヤーブレードをかわすのが精一杯の簪にラウラは俺との勝負を急いだようだ。

 

――しかし

 

「何っ!?」

 

プラズマ手刀の刃を弾きラウラの体は仰け反った。

 

「ただやられっぱなしは癪なんでね。反撃させて貰う!」

 

仰け反った体制のままのラウラのボディに膝蹴りを喰らわせる。

 

「がはっ!」

 

俺の膝蹴りが決まり、ラウラは溜まっていた息を吐き出された声をあげる。

 

「まだ終わりじゃないぞ!」

 

俺はラウラの背後に回り、羽交い締めの体制を取った。

 

「くっ……離せ!」

 

「ああ、離してやるよ。この一撃でな!」

 

拘束されて解放しようと暴れるラウラの右腕を取り、グルンと振り向かせる。いわば社交ダンスのような感じだな。

 

「おおおっ!」

 

俺はそのままラウラの首にラリアットを喰らわせる。

 

「がっ!?」

 

俺のラリアットを喰らいラウラは1回転する。かなり効いていればいいが―

 

「き、貴様―――っ!」

 

ラウラは俺の攻撃に激昂するが足取りはフラフラとしていた。効いてるな……よし!

 

「簪!」

 

「うん!『山嵐!』」

 

俺は今まで待機させていた簪を呼び、切り札でミサイルの雨を降らせる。

 

「っ!?」

 

初めて、ラウラの表情に焦りが見えた。それは、文字通りの必死の形相だった。

 

「おおおっ!」

 

ラウラはプラズマ手刀でミサイルを切り落としていくが、数が多く回避は出来ない。

 

「ぐううっ……!」

 

俺は簪の射程圏内から離れてラウラを見るとミサイルが一発、また一発と当たっていく。今まで大技を出す為の時間を稼いでいたから強力だ。

 

「があああっ!」

 

ラウラは必死にもがき叫ぶがエネルギーの残量は減っていくのみだ。

 

(終わったな……)

 

俺はラウラの機体から紫電が走り、IS強制解除の兆候を見せ始める。

 

「あああああっ!!!!」

 

突然、ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発する。と同時にシュヴァルツェア・レ―ゲンから激しい電撃が放たれる。

 

「な、何!?」

 

「ISが変形していく……」

 

俺も簪も目を疑った。その視線の先には、ラウラが……ISが変形していた。いや、変形などという生やさしい物ではない。装甲を型どっていた線はすべてグニャリと溶け、どろどろの物になって、ラウラの全身を包み込んでいく。黒い、深く濁った闇が、ラウラを飲み込んでいった。

 

「なんだよ、あれは……」

 

俺は無意識にそう呟いていた。おそらく、それを見ていたであろう全ての人間がそう思ったに違いない。

 

「一夏……」

 

簪は目の前の光景に恐怖を感じたのか俺の側に近寄る。俺は簪を安心させるように肩を抱き、警戒する。

やがてシュヴァルツェア・レーゲンだった物はラウラの全身を包み込むと、その表面を流動させながらまるで心臓の鼓動のように脈動を繰り返し、ゆっくりと地面へと降りていく。

そしてそこに立っていたのは、黒い全身装甲のISに似た『何か』。しかしその形状は先月の襲撃者とは似ても似つかない。ボディラインはラウラを表面化したままで、最小限のアーマーが腕と脚につけられている。そして頭部にはフルフェイスのアーマーに覆われ、目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。

その手に持っている武器を見て思わず息を飲んだ。

 

「《雪片》……!」

 

かつて千冬姉が振るっていた刀。それに酷似していた……。

 

「嘘だろ……」

 

「な、何で……」

 

俺と簪は目の前のラウラだった姿に言葉を失ってしまいそうだ。

 

「………」

 

なぜなら、千冬姉もどきが目の前にいるのだから………。




次話でラウラ戦決着、二巻終了まで持っていきたいと思います。


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27話

皆さん、お久しぶりです。連休中はいかがお過ごしでしょうか?

ちなみに自分は仕事が入りましたので暇なかったですね。

ラウラ戦後半、その後になります。

もしかしたら一番長い話になりそうです。

ではどうぞ


(こんな……こんな所で負けるのか、私は……!)

 

確かに相手の力量を見誤った。それは間違えないようなミスだ。しかし、それでも――

 

(私は負けられない!負ける訳にはいかない……!)

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前。識別上の記号。一番最初につけられた記号は――遺伝子強化試験体C―〇〇三七。人口合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

 

――暗い。暗い闇の中に私はいた。

 

ただ戦いの為だけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えらるた。知っているのはいかにして人体を攻撃するかという知識。わかっているのはどうすれば敵軍に打撃を与えられるかという戦略。格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦方法を体得した。私は優秀であった。性能面において、最高レベルを記録し続けた。

 

しかし、ISが現れその適合性向上の為に行われた『越界の瞳』の処置に失敗し、『出来損ない』の烙印を押されるまでに転げ落ちていった。そんな私が、初めて目にした光。それが教官との……織斑千冬との出会いだった。

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、何心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」

 

その言葉に偽りはなかった。特別私だけに訓練を課したと言うことはなかったが、あの人の教えを忠実に実行するだけで、私はIS専門へと変わった部隊の中で再び最強の座に君臨した。私はあの人の強さに。その凛々しさに。その堂々とした様に。自らを信じる姿に、焦がれた。

 

――ああ、こうなりたい。この人の様になりたい。

 

そう思って私はある日訊いてみた。

 

「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」

 

その時――ああ、その時だ。あの人が鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。

私は、その表情に何故だか心がチクリとしたのを覚えている。

 

「私には弟がいる」

 

「弟……ですか」

 

「あいつを見ていると、わかる時がある。強さとはどういうものなのか、その先に何があるのかをな」

 

「……よくわかりません」

 

「今はそれでいいさ。そうだな。いつか日本に来る事があるなら会ってみるといい。……ああ、だが1つ忠告しておくぞ。あいつに――」

 

優しい笑み、どこか気恥ずかしそうな表情、それは――

 

(それは、違う。私が憧れる貴女ではない。貴女は強く、凛々しく、堂々としているのが貴女なのに)

 

だから――許せない。教官にそんな表情をさせる存在が。そんな風に教官を変えてしまう弟、それを認めらない。認める訳にはいかない。

 

だから――

 

(敗北させると決めたのだ。あれを、あの男を、私の力で、完膚無きまでに叩き伏せると!)

 

ならば――こんな所で負ける訳にはいかない。あの男は、あれは、まだ動いているのだ。動かなくなるまで、徹底的に壊さなくてはならない。そうだ。その為には――

 

(力が、欲しい)

 

ドクン……と、私の奥底で何かが蠢く。そして、そいつは言った。

 

『――願うか……?汝、自らの変革を望むか……?より強い力を欲するか……?』

 

言うまでもない。力があるのなら、それを得られるのなら、私など――空っぽの私など何から何までくれてやる!

だから、力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対を――私によこせ!

 

Damage Level……D.

Mind Condition……Uplift

Certification……Clear.

 

《Valkyrie Trace System》……boot.

 

――――――――――――

 

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』

 

ラウラのISが異変を起こし、姿を変え、黒い全身装甲を身に纏った状態に手には雪片を握っている事態を危険と判断したのかアナウンスで避難指示とアラームが鳴り響いていた。

 

「………」

 

「一夏?どうしたの?」

 

俺の様子から異変を感じたのか、簪は俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

 

「いや……、何でもない……」

 

「そう……」

 

簪は俺の答えに違和感を感じた顔を浮かべたがすぐにいつもの表情に戻った。

 

(………落ち着け、落ち着け俺!)

 

 

俺はぐっと右手を握りしめて気持ちを落ち着かせる。今のラウラは千冬姉になりきっている状態、いわばコピーしてそのまま使っているような感じだ。

 

(いくら慕っているって言っても限度があるだろ!)

 

ラウラは千冬姉の何を憧れていたんだ?強さか?優しさか?それとも最強の力か?

 

目の前のラウラの姿に怒りが沸々と沸き上がっていた。しかし、俺は気持ちを落ち着かせる事が出来ている。

本当なら怒りのままラウラに斬りかかりたいが………それが出来ないまま立ち尽くしていた………。何故ならこの前のクラス対抗戦で俺は自らの行動で危険をさらしてしまい2人を心配させて泣かせてしまった。

 

(あの時は、嫌ってほど痛感したな……)

 

再び危険な行動に出てケガを負ってしまい簪と刀奈さんを泣かせる訳にはいかない………だから俺は冷静になれたのかもしれない……。

 

「行こ、後は先生達が鎮圧してくれるよ」

 

「ああ、そうだな」

 

簪に促されて俺は一緒にアリーナから避難しようと動きだした。箒?すでに先生達に回収されてもういない。

 

『織斑、更識……』

 

突然俺達に千冬姉から通信、プライベート・チャネルが入る。

 

『織斑先生、何かあったんですか?』

 

『いや、先生はいい。一夏、簪お前達に頼みがある』

 

『頼み、ですか?』

 

『ああ……』

 

千冬姉の頼みと聞いて首を傾げたが、心なしか声が暗い事に気付いていた。

 

『無茶を承知で頼む、ボーデヴィッヒを……ラウラを助けてくれ!』

 

『千冬姉……』

 

『千冬さん……』

 

『わかってはいるんだ。教師部隊が鎮圧するのが一番だと……しかし、それではラウラはどうなるかわからない……だから―』

 

『だから俺達に何とかして欲しいって訳か』

 

『ああ……本当なら真っ先に私が行きたいが………今の持ち場を離れる訳にいかん……』

 

千冬姉は悔しげにそう言い、舌打ちをした。教え子のピンチに何とかしてやりたいが今は非常事態の上にIS学園の教師として自分の持ち場を離れる事は職場放棄とみなされる事になるだろう。

千冬姉はもどかしい気持ちを抑えつつラウラを救う為の最善の方法として俺達に白羽の矢がたった訳だ。なので―

 

『わかったよ、千冬姉。任せてくれ。簪は大丈夫か?』

 

『うん。任せて』

 

俺達は千冬姉の頼みを受ける事にした。少々骨が折れる頼みだが出来ない事はない。

 

『ありがとう……すまないな』

 

『いいって、謝らないでくれよ』

 

『そうですよ。後は私達に任せてください』

 

『ああ、頼んだぞ』

 

千冬姉の力強い言葉を聞き、通信は終わった。

 

「さあ、早く片付けようか」

 

「うん。援護は任せて」

 

「ああ、頼む!」

 

そう言い、簪は黒いISにミサイルと荷電粒子砲を混ぜての牽制射撃を行い、隙を作って俺に攻撃しやすいようにしてくれる。

 

「この状態で使うのは初めてだな」

 

俺は抜き身の状態での雪片で使う特殊能力。

 

「《零落白夜》――発動」

 

ヴン……と小さく反応したのがまるで返事のように聞こえる。そして、全てのエネルギーを消し去る絶対無効の力を持った刃が、本来の刃の二倍近い長さとなって現れる。

 

(やっぱり、居合いの太刀よりはイメージするのは難しいか……)

 

この雪片の特殊能力は相手に直接ダメージを与える替わりに自分のシールドエネルギーを削ってしまう諸刃の剣だ。千冬姉はこの能力を上手く扱い、そして優勝した。

 

(集中しろ……居合いのようにするだけだ)

 

意識を集中させて、エネルギーの刃を日本刀の形に集約させる。

 

(よし!これならいけるな)

 

普段は雪片を鞘に納めて居合いの太刀での抜刀した瞬間に特殊能力を使う。

千冬姉みたいに抜き身での雪片ではすぐにシールドエネルギーを無くしてしまう為、使う時は鞘に納めて居合いにしている。

 

(それじゃあ――行くぜ!)

 

俺は刀を腰に添えて、抜き身での居合いの構えで黒いISへと向かう。腰を落として構え、刀を持つ手は己が身の背へと導く。その目はただ一点、正面の敵のみにと閉ざしていった。

 

「………」

 

黒いISが刀を振り下ろす。それは千冬姉がするのと同じ、速く鋭い袈裟斬り。けれど、千冬姉の意思がない。ならばそれは――

 

「ただの真似事だ」

 

ギンッ!腰から抜き放って横一閃、相手の刀を弾く。そしてすぐさま頭上に構え、縦に真っ直ぐ相手を断ち斬る。これこそが一閃二断の構え。一足目に閃き、二手目に断つ。

 

「ぎ、ぎ……ガ……」

 

ジジッ……と紫電が走り、黒いISが真っ二つに割れる。そして、気を失うまでの一瞬であろう間に俺とラウラの目が合った。眼帯が外れ、あらわになった金色の左目と。それはなんだかひどく弱っている、捨てられた子犬のような眼差しに俺には見えた。助けて欲しいと、言っている様に見えたのだ。

 

「……千冬姉に感謝しろよ。本当ならお前をぶん殴ってるんだからな」

 

力を失って崩れるラウラを抱きかかえて、俺は一人そう呟いた。それが果たして聞こえたかどうかは、ラウラだけが知る所だろう。

 

――――――――――――

 

『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係する為、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上――』

 

ピ、と誰かが学食のテレビを消す。俺は海鮮塩ラーメンを食べながら見ていたのであんまり気にならない。

 

「ふむ。シャルルの予想通りになったな」

 

「そうだねぇ。あ、本音、七味取って」

 

「は〜い」

 

「ありがと」

 

当事者なのにのんびりとしたものだと何処かから批判が来そうだが、ついさっきまで教師陣から事情聴取されていたのだ。やっと開放された時には時刻は食堂終了ギリギリの時間。俺と簪を待っていてくれた本音、シャルルと一緒に慌てて戻ると、話を聞きたかったのかかなりの女子が食堂で待っていた。

とりあえず晩飯を食べてから、と言う事で俺達は夕食優先でテーブルに着いたのだが、何やら重大な告知があると言う事でテレビに帯が入り、そしてさっきの内容となる訳である。

 

「ふう、ごちそうさま。学食といい寮食堂といい、この学園は本当に料理が美味いな。……ん?」

 

何故だか知らないが、さっきまで俺達の食事が終わるのを今か今かと心待ちにしていた女子一同がひどく落胆していた。

 

「……優勝……チャンス……消え……」

 

「交際……無効……」

 

「……うわあああんっ!」

 

バタバタバターっと数十名が泣きながら走り去っていった。

 

「どうしたんだろうね?」

 

「さあな……」

 

「さあ……」

 

「さあ〜?」

 

シャルルはちんぷんかんぷんだが俺と簪と本音は理由はわかっていたので言葉を濁すのでした。

 

「…………」

 

女子が去った後に、一人呆然と立ち尽くしている姿を見つける。それは見慣れた幼なじみの箒だった。口から魂が抜けているかのような姿だが、ひとまず俺は箒のそばへと移動する。

 

「そういえば篠ノ之さん。先月の約束だが――」

 

「ぴくっ」

 

ちょっと反応した。生きてるか、でもまあこれからもっと落ち込む事を言うけどな。

 

「却下だ。あんな強引な約束されて誰が喜ぶか、そのおかげで変な噂にまでなったんだ。いい加減にしろ」

 

俺は言いたい事を言い終えてすっきりした顔で簪達のいる所に戻っていった。

 

「…………」

 

戻ってから、箒はガックリと肩を落としてとぼとぼと去って行くのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

 

(襲ってこなくてよかった……。)

 

そう、俺の言葉に反応して怒りのまま竹刀や木刀を振り下ろしてくるのかと思ったがショックの方が大きかったみたいだな。

 

「あ、織斑君にデュノア君。ここにいましたか。さっきはお疲れ様でした」

 

「いえ、そんな……。それより山田先生どうしましたか?」

 

「ええ、実は朗報です!」

 

グッと山田先生が両手拳を握り締めてのガッツポーズ。そのさいに大きな胸の膨らみが揺れていたが視線は山田先生の顔に向けていた。危ね……。

 

「なんとですね!ついについに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

 

「えっ?随分と急ですね。まだかかると思ってました」

 

「それがですね―。今日は大浴場のボイラー点検があったので、元々生徒達が使えない日なんです。でも点検自体はもう終わったので、それなら男子二人に使って貰おうって計らいなんですよ!」

 

ありがたい計らいだが……正直、嬉しくない部分もある。何故ならシャルルは女だ。山田先生はわからないが当然混浴になってしまう訳で………簪と刀奈さんという恋人がいる俺として何としても避けたい所だ。

 

「すいません。せっかくの大浴場使用はありがたいのですが今回は辞退させて頂きます」

 

大浴場に入りたいが……ここはグッと堪えて山田先生に頭を下げて丁重にお断りする事にした。

 

「えっ?ど、どうしたんですか?」

 

「あーっと今日は色々ありすぎて早く寝ようかなと思いまして、はい」

 

丁重にお断りしたが山田先生は今にも泣きそうな表情で俺に聞いてくるので納得がいくような説明をした。

 

「それでしたら大浴場を使ってください!湯船に浸かってゆっくりと疲れを取る事も大事ですよ!」

 

山田先生は俺の手を両手で握り、勢いよく言ってきたのでちょっとびっくりした。生徒思いなのだろうが今回は勘弁して欲しいが………どうしよう……。

 

「さっ、織斑君!デュノア君!二人共早く着替えを持って来てください!大浴場の鍵は私が持っていますからお二人の部屋に行きますよ」

 

そう言い、山田先生は俺とシャルルの手を取るとすたすたと歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

「そ、そんな強引に……」

 

「時間は限られていますからね。さあ、行きますよ!」

 

俺とシャルルは抵抗しようとするが、普段とは違う山田先生の強引さに圧倒されてしまい連行されてしまった。

 

あー、本当にどうしょうか……困ったな……。

 

 

 

「………」

 

「かんちゃん?」

 

山田先生に連れ去られていく一夏とシャルルを見ていた簪から何かを感じた本音は思わず声をかけた。

 

「こんな事、絶対に見過ごす訳にはいかない!」

 

そう言い簪は携帯を取り出して電話を掛ける。

 

「あっ、お姉ちゃん。ちょっといい?」

 

数回のコールの後に出た相手は自身の姉である楯無だった。

 

「……うん、私は大丈夫。それよりも一大事なの……あのね―」

 

話ながらすたすたと歩き出していく簪。

 

「かんちゃん……大丈夫かな?」

 

隣にいた本音を無視して行く簪の表情からは危機感を感じていたのだった。

 

――――――――――――

 

「ふう………」

 

湯船に浸かりながら全身に広がる安堵感に一息ついた。久しぶりの風呂なので嬉しいのは間違いないが……気掛かりはある。

それはシャルルの事だ。あの後、結局山田先生の押しに負けた形で俺とシャルルは大浴場に向かう事となり、俺は気を使って先に入るように促したがここは先にどうぞとシャルルが遠慮した。

 

その後どちらが先に入るかで数分もめたが………最終的には俺が折れる形で先に風呂に入浴する事になった訳だが……正直、申し訳ない部分はあるだけに長風呂は出来ないと思う反面、久しぶりの入浴と疲労感も手伝ってリラックスしてしまい湯船に出るのを躊躇ってしまう。

 

(あ〜……気持ちいいな〜)

 

心地よさに身を任せていると――

 

カラカラカラ……。

 

(あれ?今脱衣場から扉の開く音が聞こえたような……)

 

さっきまで湯船の心地よさに浸っていた気分は一瞬にして消え去り、今は冷や汗が流れ落ちる。

 

ピタピタピタ。

 

さらに濡れたタイルの上を歩く音が嫌な予感が沸き上がる。ま、まさか……

 

「お、お邪魔します……」

 

「!?」

 

聞き慣れた声が耳に入り、慌てて振り向くと湯気の向こうから現れたのは、一糸纏わぬ姿のシャルルだった。一応タオルを巻いてはいるが改めて女性らしいボディラインをしているとわかる。

 

「す、すまん!」

 

シャルルだとわかり、慌てて直ぐ様回れ右で背中を向ける。

 

「ど、どうしてここに?そ、それよりも何で入ってきたんだシャルル!?」

 

正直、俺が入浴している時に入ってこないだろうと9割方考えてだけに冷静になれず焦るしかない。

 

「ぼ、僕が一緒だと、イヤ……?」

 

「そ、そう言う事言ってるんじゃなくて……その……」

 

マズイ……本当にマズイ!まさかシャルルが入ってくるとは思わなかっただけにこの場から離れようと思考を巡らす。

 

「やっぱり、その、お風呂に入ってみようかなって。――め、迷惑なら上がるよ?」

 

「だ、だったら俺が上がる。もう堪能したし、後はシャルルが入ってゆっくり堪能してくれ!」

 

俺はそう言うと大急ぎ湯船を上がり脱衣場に向かって早歩きでシャルル(視線はタイルを見ている)を通り過ぎようとしたが――

 

「ま、待って!」

 

突然、大声で呼びながら背後から抱き着かれた事で動作が止まる。

 

「そ、その、話があるんだ。大事な事だから、一夏にも聞いて欲しい……」

 

「あ、後でダメか?その……」

 

「い、今じゃなきゃダメなんだよ!お願い聞いて一夏」

 

そう言ってシャルルは俺をギュッと抱き締める……アカン!?背中に当たる胸の膨らみを感じて、更に冷や汗がダラダラと流れていく………。

 

(こ、このまま流されては正直マズイ……)

 

俺はシャルルの大胆な行動に戸惑い、困るしかなかった……。

 

カラカラカラ。

 

再び脱衣場から扉の開く音が聞こえた。ヤバイ!?山田先生が様子を見に来たか!しかも今の状況はかなりマズイ!裸の男女が後ろから抱き締めてる姿の光景を見られてしまえば、当然学園中に知れ渡る事は間違いない。

 

(そうなったら……どう言い訳すればいいんだ……)

 

脳裏に浮かんだのは泣きながら俺を責める簪と刀奈さんに流水のごとく怒る虚さんと笑ってはいない本音、更には業火の如くぶちキレた千冬姉の光景が浮かんだ………。

 

(神様仏様……どうかこのピンチをお救いください……)

 

この最悪なピンチにもう祈るしか出来なかった………ああ……ダメか。

 

「お邪魔します」

 

「一夏君入るわよ」

 

再び聞き慣れた声が耳に入ってきた。あれ?これって……。

 

「「「あっ」」」

 

俺の目の前に居たのはバスタオルを巻いた姿の簪と刀奈さんだった。

 

「………シャルロットちゃん。何してるのかしら?」

 

「一夏から離れて!」

 

俺とシャルルの姿を見た刀奈さんは冷笑を浮かべ、簪は怒り出した。

 

「あ、あはは……ゴメンゴメン」

 

簪、刀奈さんの登場にシャルルはパッと俺から離れた。………ほっ。

 

「どうしてここに?今日は女子は入れないってきいてましたけど……」

 

「そこは生徒会長権限を使って、山田先生に無理言って通してもらったのよ」

 

「それに一夏と一緒に入りたかったのもあるけどね」

 

「そ、そうでしたか……」

 

二人の登場は本当にありがたいと思う。だって最悪な展開は避ける事が出来た事は間違いない。

 

「「「………」」」

 

(この娘、侮れないわね。簪ちゃんから聞かされてなかったら本当に危なかったわ………)

 

(やっぱり……一夏の事狙ってた……気をつけないと盗られちゃう)

 

(せっかく一夏と二人っきりになれると思ったのに……いい所で邪魔されたな……でも負けないよ!)

 

とそれぞれ三人が内心思っていた事はこの時の俺は気付かなかった。だって最悪な未来にならなくて安堵した事が大きかったからだ。

その後、4人で湯船に入りシャルルはこの学園に残る事を決意した事と本当の名を名乗り女性として再転校する事を聞かされてこの場は御開きとなった。

 

――――――――――――

 

翌日、シャルロットの姿がなかった。まあ、大体の理由はわかっているしそんなに気にする必要ななかった。教室を見回すとラウラもいない。昨日の今日では流石に無理かな負傷しているし、事実聴取もあるからな。

 

「み、皆さん、おはようございます……」

 

教室に入ってきた山田先生はフラフラしている。多分いやおそらくだがその理由大体察した。

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生と言いますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

山田先生の説明はよくわからないが正直どう説明すればいいかわからないのだろうな………。クラスの皆は転校生に反応したらしく一斉に騒がしくなった。

 

「じゃあ、入ってください」

 

「失礼します。――シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

ペコリと、スカート姿のシャルロットが礼をする。俺を除いたクラス全員がポカンとしたままだ。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。と言う事です。はぁぁ……」

 

と疲労感たっぷりのため息を吐く山田先生にちょっとだけ同情した。男子生徒の為に頑張ってたら実は女子生徒でしたってオチだからな……ショックもあるか。ん?何か忘れているような?

 

「え?デュノア君って女……?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわね」

 

「って、織斑君、隣同士だから知らないって事は――」

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場を使ったわよね!?」

 

ザワザワザワッ!教室が一斉に喧噪に包まれ、それはあっという間に溢れかえる。そうだった!シャルロットが女とわかれば当然何かしらの間違いないがあると勘違いする事をすっかり忘れていた!なんだろう……嫌な予感がするな。

 

バシーン!

 

教室のドアが蹴破られたかの様な勢いで開く。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

そこに現れたの鈴だった。その顔には烈火の如く怒り一色に染まっていた。って、何でお前が怒るんだよ!?

 

「死ね!!!」

 

ISアーマー展開、それと同時に両肩の衝撃砲がフルパワーで開放される。何やってんだよ!アイツは!?ここは教室で俺の他にクラスメイトがいるんだぞ!!俺は咄嗟にISを展開、皆を守ろうと両手を広げて仁王立ちのように立ちはだかり衝撃に備えるた。

 

ズドドドドドオンッ!

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」

 

怒りのあまり肩で息をしている鈴がいる。その姿は毛を逆立てて怒る猫の様に見える。あれ?衝撃が来ないぞ?

 

「…………」

 

間一髪、だったのかどうかはわからないが、俺と鈴の間に割って入ったのは――なんとあのラウラだった。その体には黒いIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏っている。おそらく、衝撃砲をAICで相殺したのだろう。とりあえずはクラスの皆に被害がなかった事にほっとしていた。

 

「助かったよ、ありがとう。………そういえばお前のISはもう直ったのか?」

 

「……コアはかろうじて無事だったからな。予備パーツで組み直した」

 

「なるほど。そうなの――なっ!?」

 

いきなり、俺はグイッと胸ぐらを掴まれ、ラウラに引き寄せられる。………くっ、もうお礼参りかよ!?

 

(マズイ!油断した……本音!)

 

(任せて〜いっちー)

 

とわずか0.5秒のアイコンタクトで本音と会話し、素早く行動。そして――

 

「!?!?!?」

 

驚天動地、何が起こったのかわからないが、鈴を始め、その場の全員があんぐりしていた。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!いい…なあっ!?」

 

ラウラはそう宣言した目の前の相手に驚いていた。そうその相手とは――

 

「えっ?えっ?わ、私……なの?」

 

クラスの女子の唇を奪っての嫁宣言に唇を奪われた方は呆然としている。

 

「嫁よ!何故かわす!」

 

「誰に言ってんだよ……嫁はあっちだろうが……」

 

ラウラはキッと俺を睨み付けてくるがそんな事は関係無い訳だしな。

 

「きゃ……」

 

「ん?」

 

『きゃああああ―――っ!!』

 

クラス中に黄色声援が響いた。

 

「見た!?百合よ!生百合よ!」

 

「私、こういうの初めて見た!」

 

「ボーデヴィッヒさん、大胆!」

 

「応援するから幸せにね!」

 

等々、ラウラと嫁宣言されたクラスの女子に祝福と歓喜の悲鳴と共に輪を囲っている。

 

(幸せになるんだぞラウラ)

 

とうんうん、頷いていると――

 

「まだ話は終わってないわよ!」

 

「……一夏、貴様どういうつもりか説明して貰おうか」

 

そうは問屋が卸すまいと鈴と箒の幼なじみコンビが俺に迫ってきた。

 

鈴は双天牙月を手に、箒は日本刀を手に……って、ちょっと待て!?

 

「何で日本刀なんて持ってるんだよ!?しかも真剣じゃねえか!!」

 

「これは実家から送ってきて貰った物だ。問題ない」

 

「そ、そうか問題ないのか……んな訳あるか―――!!」

 

箒の言い訳に思わずノリツッコミを入れてしまった。なんていう我の強い言い方だな。

 

「いいから説明しなさいよ。その後にO☆HA☆NA☆SHIするけどね」

 

「そうだな、納得する理由を聞かせ貰おうか」

 

と物凄くいい笑みで問い詰め様と幼なじみコンビは迫ってくるが――正直怖い……。

 

「ほう……面白そうだな、私も混ぜて貰おうか?」

 

ギギギギ……と軋むブリキの音で首を動かす箒と鈴。そこには出席簿を片手にポンポンと肩を叩いている千冬姉の姿がそこにいた。

 

「「ち、千冬さん!!」」

 

ゴガスン!!

 

二人の頭上に拳骨が振り下ろされた。

 

「「〜っ〜っ」」

 

「織斑先生だ。貴様ら一体何をしている?特に凰、ISを無断展開の上に教室でテロリスト紛い事したそうだな」

 

「そ、それは……その……」

 

「放課後、反省文とたっぷりと補習をしてやる。覚悟しておくんだな」

 

「は、はい……」

 

返事をしてガックリと肩を下ろす鈴。自業自得だな。

 

「それから篠ノ之。これは没収だ!貴様には真剣を持つ資格などない!」

 

ヒョイと箒の持っていた日本刀を奪っていく千冬姉。

 

「ま、待ってください!これは―」

 

「いい訳は聞かん!貴様の事だ、暴力にしか使わない事は想像出来る。宝の持ち腐れだ、私が預かる」

 

「わ、わかりました……」

 

渋々と言った感じで引き下がる箒。まあ当然だよな……。

 

「それからボーデヴィッヒ。おめでとうちゃんと幸せにするんだぞ」

 

とラウラに物凄い、いい笑顔を向けていた。

 

「ち、違います教官。私は―」

 

「ん?ああ、そうそう間違えて織斑に手を出すなよ。浮気とみなして容赦しないからな」

 

「はい……」

 

ラウラは千冬姉に言われて今にも泣きそうな顔になった。千冬姉に祝福されて嬉しいんだな。うん。

今日もまた長い一日が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?ちょっと待って!もう終わり?私の出番は?『紅椿』のくだりは無しなの?ねえねえ、おかしくない!?ちょっと―――!!」




ラウラのキスした相手は次話になります。楽しみしていた方すいません。


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28話

皆さん、こんばんは。

感想が200件越えましたね。本当にありがたいです。
しかも、ランキングに入っていた事に驚きました。
あんまり気にしてなかったの正直びっくりです


チュンチュン……。

 

「ん……」

 

窓の外では早く入れろとばかりに朝日が差している。同じく、目覚めを促すかのようにスズメが鳴いていた。

 

(もう少し……もう少し……)

 

この微睡み延長は至福の時である。おそらくこの緩やかな時間を愉しまない人間はいないだろう。うん、間違いない。

 

(さてと……)

 

俺は少しだけ目を開けて、両隣にいる恋人達に視線を向ける。

 

「「ん……」」

 

スヤスヤと寝ている二人の寝顔を眺めるのも楽しみの1つだ。普段から魅力的な二人だが寝顔もまた違った魅力がある。

 

(今日も可愛いな……うん)

 

簪と刀奈さんの寝顔を眺めながら意識をゆっくりと覚醒させていくのが最近の日課だ。

 

「さてと……」

 

俺は二人を起こさないようにして体を起こす。この状態からジョギングをするのも悪くないし、二人の為にお弁当を作ったりするのもいいなと朝からどうしようかと考えていたら―。

 

「ん―!ん―!」

 

突然、俺の耳にぐぐもった声が聞こえた。

 

「何だ?……って、ラウラ?」

 

声のした方を見るとラウラがいた。しかもロープでぐるぐる巻きにされている上に猿轡もされて床に寝かせられているという徹底ぶりだ。

 

「何してんだよ……ったく……」

 

ラウラの姿に呆れつつも近付いて猿轡を外した。

 

「ぷはぁ!はあ……、はあ……」

 

猿轡を外して話せるようになったのかラウラはおもいっきり息を吸い込んだ。

 

「―で、何でこんな風になってるのか話してくれるか?」

 

「夫婦とは一緒に寝るのが一般的だと聞いたぞ。それで嫁と一緒に寝ようとしたら、あの二人に邪魔されたのだ!」

 

ラウラの説明に思わず頭が痛くなった……あの二人とは簪と刀奈さんの事だろう……未だに俺の事を嫁と呼んでくる事は正直勘弁して欲しい………。

 

「それでどうやって部屋に入ってきたんだ?鍵を掛けてたはずなんだが……」

 

「その程度のロックなど私の前では無意味だ!簡単に外せる!」

 

「はい、アウト―」

 

ラウラの言葉に野球の審判がジェスチャーをするみたいに手をあげた。不法侵入の上に嫁発言、そして浮気でスリーアウトチェンジです。

 

「ところでそろそろこれを解いてくれると―」

 

「解く必要はないわよ」

 

ラウラのお願いを遮るように刀奈さんの言葉が入る。見るとパジャマ姿で体を起こしていた。

 

「ああ、楯無さんおはようございます」

 

「おはよう一夏君、この子は織斑先生に引き取って貰うからこのままでいいわ」

 

「なっ!?」

 

「わかりました」

 

刀奈さんの言葉にラウラの顔はみるみる青ざめていく。

 

「い、嫌だ!絶対に嫌だ!わ、私に死ねと言うのか!?教官は泣いて謝っても許してくれないのだぞ!」

 

「だったらこんな事は二度としない事ね。すでに連絡はしているから、そろそろ来るわよ」

 

「お、鬼!悪魔!人でなし!お前は魔王か!?」

 

どうする事も出来ずに刀奈さんに罵倒浴びせるラウラにちょっとだけムカッと来た。失礼な奴だな刀奈さんは(俺の)女神だぞ。

 

「くっ、こうなったら―」

 

「何をするつもりだ?ボーデヴィッヒ」

 

「っ!?」

 

最終手段としてISを起動しようとしていたラウラに冷たい怒りの声が耳に入る。

 

「きょ、きょきょきょ教官!?」

 

声の主は千冬姉だ。よく見ると不機嫌な顔をしていた。

 

「織斑先生だ。朝から何を騒いでいる」

 

「そ、それはその―」

 

「言い訳は聞かん、既に更識姉から事情は聞いている諦めろ」

 

「そ、そんな……」

 

千冬姉がそう言うとラウラは顔を更に青ざめて涙目になる。

 

「さてと、こいつから事情聴取しなければならないな………私はこれにて失礼する。お前達は遅刻はするなよ」

 

「「はい」」

 

「いい返事だ。ではまたな」

 

ラウラを肩に担ぎ上げて、スタスタと部屋を後にしていった。

 

「はあ……」

 

いなくなり、思わずため息をはいた。あの様子じゃ説教の上に雑用かな……。

 

その後、簪も起きてきて3人一緒に朝食を食べながらラウラが部屋に入って来た経緯を聞くと更に頭が痛くなってきた。

俺達が寝ているとドアから鍵を開けるような音が聞こえて、簪と刀奈さんは目を覚まし、直ぐ様警戒。

そこに入ってきたのはラウラだったと言う話だ。しかも何も着ていなくて素っ裸だったという事に危険を感じてあの様にしたそうだ………。

二人はハニートラップと勘違いしたのかわからないが………悪いけど俺そんな趣味はありませんよ………すでに恋人達がいるし、ラウラには嫁にするって人がいるじゃないかよ………まったく。授業が始まるまでの間、頭痛は治まらなかった。

 

――――――――――――

 

「まったく………何で私が……」

 

とブツブツと呟きながら、ラウラを引き摺るのは篠ノ之箒。なぜ彼女がこの様な事をしているかというと。朝練終了後、一緒に朝食を食べようと誘う為に一夏の部屋までやって来たまではよかったが――

 

「ん?篠ノ之か?」

 

「ち、千冬さん!?」

 

一夏の部屋から出てきたの姉である千冬だった、肩に何かを担いでいるのがわかる。

 

「ちょうどいい。こいつを運んでくれ」

 

「ふぎゅ!」

 

千冬はポイッと自身の肩に担いでいたのを箒の前に投げた。

 

「ボーデヴィッヒ?これを私がですか?」

 

投げた物はラウラだった事に訝しげに眉を寄せる。

 

「そうだ。拒否はないぞ、さっさと運べ」

 

「わかりました……」

 

千冬の言葉に納得はいかないものの箒は渋々従う事にした。

 

(くっ……私は一夏の所に行きたかったのに……)

 

今の箒は“特別観察処分者”である。この前のクラス対抗戦にて自らの危険行動により、不名誉な肩書きを付けられてしまった。

特別観察処分者になった者は学園の奉仕活動や教師達の雑用の手伝いをしなければならない。

この特別観察処分者は問題児を更正させるべく作られた物だがこれになった生徒は少ないという(千冬談)。

 

「ところでボーデヴィッヒ。何でそんな事になっているんだ?」

 

ロープでグルグル巻きにされているラウラが気になって聞いてみた。

 

「私は嫁と一緒に寝ようと思って部屋に入ったのだが……あの二人に邪魔されたのだ」

 

「ちょっと待て!嫁って一夏の事か!?お前にはちゃんと相手がいるではないか!何をしている!?」

 

ラウラの説明に思わず声を荒げる箒。

 

「何を言っている?私の嫁は一夏だ!あいつなど知った事か!」

 

「ふざけるな!一夏は私の物だ!決して貴様の物ではない!」

 

「何だと!?」

 

「何だ!」

 

とお互いに睨み合い取っ組み合いの喧嘩になる寸前にまで発展するが、しかし―。

 

「ほう……私を無視して喧嘩とはいい度胸な貴様ら……」

 

「「あっ……」」

 

近くに誰がいたのかを忘れてはいけない……。

 

「そうかそうか。お前達は説教と雑用と補習の三点セットが希望か」

 

額に血管マークを浮き上がらせて、今にも爆発しそうな怒りを抑えている。

 

「「す、すいませんでした――――!!」」

 

「謝って済むか!!馬鹿者――――!!」

 

「「いやぁぁぁぁっ!!」」

 

ズドオーン!!

 

その日、寮内に大きな音と地震が起こった。

 

ちなみにその日は大きなたんこぶこしらえて机に突っ伏しながら授業を受ける箒とラウラにクラス一同首を傾げたのだった。

 

――――――――――――

 

「おー、よく晴れたなぁ」

 

週末の日曜。天気は快晴、素晴らしい。来週から始まる臨海学校の準備もあって、俺は簪と刀奈さん。そして本音と虚さんを連れて街に繰り出していた。

 

「あの……、私達まで一緒でいいのですか?そのお嬢様達の邪魔にはなりませんか?」

 

と居心地が悪そうにして虚さんが俺達に聞いてきた。まあ、臨海学校の準備の買い物をするので本来なら関係ない刀奈さんと虚さんが一緒になる理由はないが、俺は簪と刀奈さんと一緒に買い物がてらデートに洒落こもうと思っていたが今回は違う。

 

「私達は気にしないから虚ちゃんは遠慮しないでいいわよ」

 

「そうだよ〜お姉ちゃん〜気にしすぎだよ〜」

 

「本音は少し気を使いなさい!!」

 

「はうぅぅ〜」

 

本音の言葉にカチンと来たのか虚さんは怒る。

 

「まあまあ、あんまり怒らないであげて」

 

 

「簪様、この子は甘やかすと調子に乗るのでちゃんと注意しないとダメです!」

 

簪が虚さんを宥めようしたが上手くいかなかったみたいだ。まあ、ここで立ち往生してもつまらないので話を進めよう。

 

「虚さん。ここで説教してたらせっかくの日曜が台無しになりますよ。そろそろ行きましょう」

 

「そうね。一夏君には私達の水着を選んで貰わないとね」

 

「えっ?俺はあんまりセンスないですよ?」

 

「別に気にしないよ。私達の似合いそうなのを選んでくれる?」

 

「そう言うのなら……わかった。ちゃんと選ぶよ」

 

「お願いね〜」

 

と笑顔で言われれば断れないな、しかしこれは責任重大だぞ!真剣に選ばなければ………。

 

(去年とは違ったのを選ぼう)

 

去年、プールデートに行った時の事を思い出しながら笑みがこぼれる。簪と刀奈さんの水着姿が良すぎて周囲の視線を独占してたからな……うん、眼福眼福。

 

「それじゃ行きましょう」

 

「お〜!」

 

刀奈さんの掛け声と共に俺達は駅前へと進む。当然、簪と刀奈さんは俺の腕を組んで歩いていくが……。

 

「…………」

 

その俺達の姿を羨ましそうに見ている虚さんに気付いていたが気にしないふりをした。

 

「ところで一夏君。ちゃんと連絡した?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。今頃は一生懸命、服を選んでいるでしょうね」

 

そう、俺達はいつもお世話になっている虚さんの為に俺の親友である五反田弾を紹介する為に連れて来たのだ。

 

「上手くいくといいね」

 

「ああ、お互いに意識はしてるみたいだしな……」

 

そう、この前の休日の時に弾の所に遊びに行った時に彼女の話題になり、簪と刀奈さんが写っている携帯を見せたら、虚さんが気になったのか紹介して欲しいと頼み込んで来た。

虚さんにこの事を話したら、どうやら気になるみたいらしくお互いに意識はしているみたいだ。そこで会わせようと今日実行する事にしたのだ。

 

ちなみにこの事を虚さんは知ってはいない。驚かせようとして計画した訳だが正直不安はある。

弾が先走らない事だけを祈りつつ、待ち合わせ場所に向かう事にした。

 

――――――――――――

 

「…………」

 

「…………」

 

駅前に向かって歩き出す一夏達。その姿を物陰から見つめる2つの影があった。一行が青になった横断歩道を渡って人混みに消えると、頃合いとばかりに茂みから姿を現す2つの影。1人は躍動的なツインテール、1人は優雅なブロンドヘア―。つまり、鈴とセシリアであった。

 

「……あのさあ」

 

「……なんですの?」

 

「……あれ、腕組んでない?」

 

「……組んでますわね」

 

100人が見たら100人共そう返すであろう言葉を発して、セシリアは微笑ましげにしながらも羨ましく感じていた。

 

「そっか、やっぱりそっか。あたしの見間違いでもなく、白昼夢でもなく、やっぱりそっか。――よし、殺そう」

 

握り締めた鈴の拳は、すでにISアーマーが部分展開していて準戦闘モードに入っていた。衝撃砲発射までのタイムラグはおよそ2秒といった所である。

何とも恐ろしい十代乙女の純情であった。

 

「………はあ」

 

そんな鈴の様子を見て、思わずため息を吐くセシリア。

 

(一夏さんが誰と一緒に行こうと鈴さんには関係ありませんか……)

 

額に手を当ててセシリアは心の中で呟いた。今日の朝いきなり鈴が部屋にやって来て、『セシリア、一緒に出掛けるわよ!』と一方的に言って部屋から出ていってしまい。断る事も出来ずにこうなった訳だがまさか一夏達の尾行をするはめになるとは思いもしなかっただろう。

 

(織斑先生にあれだけ怒られても懲りてませんわね……)

 

ISを部分展開して今にも襲撃しようとしている鈴に呆れてしまう。先日、シャルロットが本当の性別で再転校した時に鈴は1組を強襲、ISを展開させて衝撃砲を一夏目掛けて発射させていた。

それをラウラが防いでいたから良かったものの一歩間違えれば大惨事になる事を鈴は理解していなかった為に千冬から説教と反省文を書かされた上に補習を喰らっても懲りない性格にある意味感心せざるを得ない……。

 

(とりあえず簪さん達にお知らせしておきましょう)

 

そう考え、セシリアは携帯を取り出して簪と楯無と一夏に対して警戒して欲しいとのメールを打つことにした。

 

(いざとなったらわたくしが止めないといけませんわね………)

 

もし、鈴が暴れたら街を破壊したり、そこを歩いている人達がケガしたりするのは間違いない。だからこそ自分は抑止力になろうと心に決めていた。

 

(あら?)

 

セシリアは鈴の背後から近付く人影がいる事に気付いた。

 

「鈴さん」

 

「なによ?」

 

「残念なお知らせがあります」

 

「はあ?何言ってるのよ?」

 

セシリアの言葉に鈴は更に不機嫌になる。

 

「おい」

 

「なによ!」

 

ドガスン!

 

鈴の頭上に拳骨が降り下ろされた。

 

「〜っ〜っ〜っ」

 

「織斑先生が来てますわよって、言おうとしてましたが……手遅れでしたわね」

 

拳骨を落とした人物は千冬であり、鈴は痛さから頭を抑えて座り込んだ。

 

「凰、貴様は教室で暴れ足りずに今度は街で暴れようとするとはいい度胸だな」

 

「い、いえ…それは……」

 

「帰ってから反省文だな、それと特別観察処分者の候補に入れて置くぞ」

 

「は、はい……」

 

鈴は千冬に逆らえる事は出来ずにガックリと肩を落とした。

 

その後、やってきた真耶と一緒に買い物に向かう事になり、セシリアはホッとしながら千冬達と一緒に行動するのでした。

 

――――――――――――

 

(どうしてこうなった………)

 

ラウラは今の自分の状況に落ち込むしかなかった。

 

「さっ、何から行こうか」

 

「まずは水着から買ってそれから服を買いましょう」

 

「うん。それがいいね」

 

両隣には2人の女子がラウラに何が合うかを談笑していた。1人はシャルロット、もう1人は鷹月静寐である。

 

何故こうなったかと言うと一夏が更識姉妹達と出掛ける事を知り、自分も交ざろうとしていた所を千冬に呼び出された。

 

「ボーデヴィッヒ、貴様は何故鷹月を相手にせずに織斑に手を出す?」

 

「私の嫁は一夏です!ですのでアイツ(鷹月)は関係ありません!」

 

とキッパリと答えたが―。

 

「だそうだ、鷹月」

 

「ひどい……」

 

千冬の言葉に促されて泣きながら静寐が現れる隣にシャルロットが付き添う形だ。

 

「私の事、強引にキスして……熱烈なプロポーズまでして……もう浮気?……私もう捨てられたの……」

 

「ラウラ、最低だよ!静寐の事大事しなきゃ!お嫁さんにするのは嘘だったの!?」

 

シャルロットはここぞとばかりにラウラを責め立てる。

 

しかし、内心では――

 

(ここでラウラを静寐とくっ付けさせれば一夏のライバルが減るからちゃんとしないとね)

 

表情は怒りになっていたが心の中ではニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「ボーデヴィッヒ」

 

「は、はい!」

 

「私は言ったはずだぞ?織斑に手を出すなと……随分と浮気癖があるみたいだな?」

 

「い、いえその―」

 

「残念だ……私の教え子は相手がいるのに浮気を平気でするとはな……」

 

悲壮感漂う表情で天井を見上げる千冬。

 

「ち、違います!私は―」

 

「もういい。今日は鷹月と一緒にデートしてこい。監視にデュノアをつける」

 

「そんな!?」

 

千冬の言葉にラウラはショックを受けた。

 

「鷹月、ボーデヴィッヒの事を頼んだぞ」

 

「はい」

 

「それからデュノア。しっかりと頼むぞ。逃げ出したら私に連絡しろ」

 

「わかりました」

 

「ボーデヴィッヒ、ちゃんと鷹月をエスコートするんだぞ」

 

「はい……」

 

千冬はそう言いながら肩をポンと叩かれてラウラは従うしか……なかった。

 

(私は一夏に恋したのに……)

 

VTシステム発動し助けられた事にトキメキ恋をした。

その事を副隊長であるクラリッサに相談し、教えてくれたのが『気に入った相手を嫁にする』のが習わしだという事であった。

さっそく、一夏に対して実行したが、結果は静寐にキスしての嫁宣言にクラスは皆、この仲を応援していたのだ。

 

(おかげで私は一夏に近付けないではないか!)

 

一夏に近付こうとしたらクラスの女子にガードされてしまい、静寐がいるでしょと睨まれる始末。故に居心地が悪い……。

 

先程も一夏の部屋に侵入して一緒寝ようとしたら更識姉妹に撃退されてしまったのだ。

 

(どうすれば私は一夏と一緒になれるのだ!)

 

そう考えるがクラリッサに相談してアドバイスされた事を行動したら結果は裏目、最悪な結末しかなかった。

 

「えっ?ラウラって寝る時は裸なの!?」

 

「そうなんだよ。僕は何度も注意するんだけど聞いてくれないんだ」

 

「じゃあ、寝間着も買わないとね。お金、大丈夫かな?」

 

「大丈夫だよ。代表候補生になればある程度のお金は入るし、それに軍の隊長もやってるから給料もあるはずだよ」

 

「じゃあ安心だね。しっかりとラウラに似合うの買わないとね」

 

「うん。僕も手伝うよ二人でしっかり選ぼうね」

 

「ありがとうシャルロット」

 

「どういたしまして。さあ、行くよラウラ」

 

そう言いシャルロットと静寐はラウラの手を取り歩き出した。

 

(くっ……私には……選択肢がないのか……)

 

ラウラはこれからくるであろう災難が回避不能となり絶望に染まる。

 

その後、街繰り出し着せ替え人形となったラウラはいつもと違った疲労感に襲われ、シャルロットと静寐は楽しんでいたのだった。




ラウラの相手は鷹月さんでした。

静寐の“寐”の字が出なかったのでちょっと焦りました。

それからタグを追加しました。


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29話

前回、感想を見てアンチタグを着けました。

今回はオリジナル要素を入れての弾と虚の初顔合わせです。

ではどうぞ


「えっと、水着売り場はここだな」

 

俺達は駅前のショッピングモール、『レゾナンス』の2階にいた。この施設は各種レジャーや食べ物は色々なジャンルも完備し、いろんな物も取り扱っている。

中学校時代によく弾と鈴との3人で放課後繰り出した物だ。ちょっと懐かしい。

 

「さっ、一夏君。私達の水着を選んでね」

 

「わかりました」

 

刀奈さんの声に返事をして水着を眺める…………うん、いっぱいあるな………。

 

「もちろん、虚ちゃんと本音ちゃんのも選んでね」

 

「お嬢様!?」

 

刀奈さんの言葉に虚さんの言葉が上擦った。

 

「わ、私もですか?」

 

「そうよ、“私達”のって言ってたじゃない。当然虚ちゃんと本音ちゃんも対象よ」

 

「そ、そうですか……すみません」

 

そう言い申し訳なさそうにして俺に謝る虚さん。そこまで気を使わなくていいのにな………。

 

しかし、悩むな〜。皆それなりにスタイルがいいのである程度の水着は似合うかもしれないが、そこは俺のセンスにかかっている。

 

『一夏君』

 

どうしょうか真剣に悩んでいると刀奈さんからプライベート・チャネルが入ってきた。

 

『どうしました?』

 

『ずいぶんと真剣に選んでいるみたいだから、私達も選んでいいかしら?』

 

『そうだね、真剣に選んでいると時間が過ぎていっちゃうよ』

 

そこに簪も会話に加わってきた。

 

『そうですね。そうしてくれた方が助かります』

 

『ところで私達の水着のイメージは浮かんでいるの?』

 

『大体は……去年のとは違うのを選ぼうと思います』

 

『去年ので思い出したけどお姉ちゃんの水着、大胆過ぎなかった?』

 

『そう?一夏君は喜んでくれたのは覚えてるわよ』

 

『でも、男の視線を集めすぎたのはちょっと嫌でしたね………』

 

『もう少し露出控えたのにしたら?私、隣歩いててちょっと恥ずかしかった……』

 

簪はそう言うが美少女姉妹が水着姿で歩いていたら嫌でも周りの視線は釘付けになるのは間違いないな……うん。

 

『そうかしら?簪ちゃんはもう少し大胆な水着にしたら?でないと一夏君に飽きられちゃうわよ?』

 

『そ、そそそそそそそそんな事ないもん!そうだよね!?違うよね!?一夏!?』

 

『落ち着け簪。動揺し過ぎだから……後、刀奈さんは煽らないでください』

 

確かに簪が刀奈さんみたいな水着姿になったら似合うかもしれないがちょっと反応に困る………嬉しいけど。

 

『だってねえ……、一夏君が周りの女の子の水着姿に目移りしたら何か嫌でしょ?』

 

『それは……うん』

 

『ちょ、ちょっと待ってください!俺、そこまでひどくないですよ!?』

 

二人の会話に思わず待ったをかけたが――。

 

 

『山田先生の胸を見てたよね』

 

『山田先生の胸を見てたでしょ』

 

『すいませんでした。俺が悪かったです』

 

二人の次の言葉に俺は白旗を立てるしか出来なかった………ぐっ、その話題に触れらるとさすがに返す言葉がない………。

 

「あの、お嬢様達どうしましたか?」

 

俺達の様子を見て気になったのだろう。虚さんが訪ねてきた。ちなみに本音は先に水着選びをしていて離れている。

 

「なんでもないわよ」

 

「なんでもないよ」

 

「なんでもありません」

 

「そうですか」

 

虚さんに俺達はそう返したが納得はしていないみたいだ………。

とりあえず俺達は一端解散してそれぞれ水着を選ぶ事にした。途中で変な女性に絡まれたが刀奈さんが機転を利かせて、追い払ってくれたので助かった。

数十分後、俺が選んだのと刀奈さん達がそれぞれ選んだのを試着してもらい気に入った方を購入してもらうような形にしたが刀奈さん達は両方を購入する事になった。

どうやら俺の選んだのも気に入ってくれたみたいだな……うん、ホッとした。

 

さて、簪と本音は臨海学校にはどっちを着てくるのかな?試着した水着姿は見せてもらってないから……ちょっと楽しみではある。

 

――――――――――――

 

「………全く、山田先生は余計な気を使う」

 

「ですね」

 

俺達は水着を買い終えて、次に行こうかと話していたところを千冬姉と山田先生、セシリア、鈴とのメンバーに出会した。

 

………何故か鈴の頭から、でっかいたんこぶがあるのは気になるが……まあ、深くは聞かない事にした。

見ると千冬姉達は水着を買い来たみたいだ。そこで山田先生は何故か気を利かせてしまい俺と千冬姉の二人だけになった。

 

「ふぅ………。言っても仕方がない、か。一夏」

 

「どうしたんだ千冬姉?」

 

下の名前で呼ばれたので俺は普段の姉弟としての接し方に変わる。

 

「さっきまで更識姉妹と布仏姉妹の水着を選んでいただろ。で、一夏。どっちの水着がいいと思う?」

 

そう言って千冬姉が見せたのは専用のハンガーに掛けられた水着2着。

片方はスポーティーでありながらメッシュ状にクロスした部分がセクシーさを演出している黒水着。

もう片方はこれまた対極で、一切の無駄を省いたかのような機能性重視の白水着。どちらもビキニで、肌の露出具合はかなり高そうだった。

 

(これは……黒の方が似合いそうだ)

 

と、そこまで考えてみて悩む。千冬姉はどちらを着ても似合いそうだしな〜まあ、ここは―。

 

「黒の方かな」

 

とりあえず千冬姉に似合いそうなのを選んだ。

 

「ほう。白を選ぶかと思ったが意外だな」

 

「そうかな?」

 

「お前の事だから、余計な事を考えて反対の方を言ってくるかと思ってたがな……」

 

「そこまで考えちゃいないって……」

 

俺はそう言うがさすがに千冬姉。姉弟だから見抜かれていたのが丸わかりだな……。

 

「で、お前の方はどうだ?簪と刀奈との仲は順調か?」

 

「もちろんだって、ケンカする事なく上手くいってるよ」

 

「そうか、それを聞いて安心した」

 

腕を組んでうんうんと頷く千冬姉。心配してくれてるんだな。

 

「そろそろ籍を入れておくか?私は構わないぞ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ千冬姉!?」

 

いきなりの言葉に思わず突っ込んだ。結婚って早くないか!?いずれするけど。

 

「何だ?二人はもう結婚出来る歳だ。なら問題ないだろ?」

 

「いや俺、後2年必要なんだけど……」

 

「今のお前は無国籍だ。日本の法律には当てはまらんだから問題ない」

 

「いやいや。いくら何でも気が早すぎるって!?」

 

「私は早く甥っ子か姪っ子の顔が見たいのだ。だから頼むぞ」

 

「だから落ち着けって千冬姉!」

 

あまりに気が早すぎて暴走する千冬姉にどうする事も出来なくなってきた……。

 

「だ、大体何でそこまで急ぐ必要あるんだよ!?」

 

「何を言っているんだ?今のお前達の立場を考えたら今の仲を引き離される可能性だってあるんだぞ?」

 

「うっ、それは……」

 

「それにアイツが何を仕出かすかわからんからな」

 

「だよな……」

 

千冬姉が言うアイツとはあの人の事だろう……正直、何を考えているかわからない。

 

「とりあえずお前達の仲をアイツらに話した方がいいな」

 

「アイツらって……」

 

「お前もわかっているだろ?あの4人の事だ」

 

「ああ……」

 

千冬姉の言うアイツらとは箒、ラウラ、シャルロットと後は誰だろうな……?

 

「後は鈴もいるぞ」

 

「えっ!?」

 

マジかよ、鈴の事は親友だと思ってたのにな………。

 

「とりあえず臨海学校の時に話す場を設けよう。その時までに心を決めておけ」

 

「わかったよ千冬姉」

 

「では、またな」

 

千冬姉はニヤリと笑いレジの方に歩いていった。そろそろか………早かったな……色々な国事情があるから暫くは簪と刀奈さんと恋人になっている事は黙っておけと言われていたけど、今更ながら大丈夫か心配になってきた。

まあ、きっと何とかなるな。そう考えて刀奈さん達と合流する事にした。

 

――――――――――――

 

「「……………」」

 

ベンチから二人の男女が座っているが重苦しい雰囲気が伝わっていた。

片方は弾。もう片方は虚である。

 

(ど、どうしましょう……わ、私の方が年上だから話し掛けないといけないのかしら?)

 

(や、やべえ……何を話したらいいんだ?見た目よりずっと大人な感じだし、変な事は話せねえぞ……)

 

とそわそわしてしまい、話すきっかけが掴めない。

 

「「あの―」」

 

「あっ、どうぞお先に」

 

「い、いえいえそちらこそ」

 

「「…………」」

 

と延々譲り合いを繰り返しては沈黙してしまい既に30分が経過していた。

 

 

 

「何これ?」

 

俺達は遠くから様子を見ていたが刀奈さんの感想がまずこれである。

 

「やっぱり、急に二人っきりにしたのはマズかったみたいだな……」

 

「そうみたい。どうしたらいいか困っているみたい」

 

俺は刀奈さん達と合流して待ち合わせ場所に移動し、弾と合流、虚さんと会わせる事に成功した。

弾と虚さんがいい雰囲気になったので刀奈さんが二人っきりにして少しでも距離が縮まるように気を使った訳だが………結果はこうなってしまった。

 

「もうっ!じれったいわね一夏君はそっちをお願い」

 

と刀奈さんはしびれをきらしたのか二人の方に行ってしまった。

 

 

 

「はあ……とりあえず弾のところに行くか……」

 

刀奈さんの後ろ姿を見ながらため息を吐きつつ、弾を引っ張っていく。

 

「おい、弾。紹介して欲しいって言っておきながら、あの態度は何だよ?」

 

あれでは虚さんが困ってしまうのは当たり前である。

 

「だ、だってよ。虚さん写真よりずっと大人で美人だから緊張しちまうんだよ」

 

「鈴くらいにフレンドリーに話せばいいじゃねえか。それなら虚さんも話に入りやすいぞ」

 

「あれ(鈴)は妹みたいで異性すら感じてねえから出来んだよ。あの人と一緒にすんな!!」

 

「鈴が聞いたら怒りそうだな……」

 

どうやら虚さんの落ち着いた雰囲気の上に年上もあって弾はそれにのまれて緊張したみたいだ。

 

向こうを見ると刀奈さんも虚さんを引っ張って来てあーだ、こーだと説教している。普段は逆になるのだが、今回は刀奈さんが虚さんにアドバイスする立場だからな………。

 

 

 

「もうっ!何やってるのよ虚ちゃん!」

 

「す、すみません……」

 

「あれじゃ、あの子緊張しちゃって会話にならないでしょう」

 

「で、ですが……」

 

「虚ちゃんの方が年上なんだから、もう少し積極的にいかないとダメよ」

 

「や、やっぱりそうですか……ですが、緊張してしまってダメなんです」

 

「はあ……」

 

虚の消極的な態度に思わずため息を吐く刀奈。

 

「虚ちゃんはあの子の事どう思ってるの?」

 

「え、えっと……」

 

「正直に答えて」

 

「い、異性としてき、気になる方かなと……思います」

 

「そう……」

 

少し曖昧な返答に刀奈は少し困るがとりあえずは納得する事にした。

 

「わかったわ。急に二人っきりにした私達も否があるから今回はフォローしてあげる」

 

「すみません……」

 

「いい、虚ちゃん。今日はお互いにアドレス交換する事が最低条件よ。いいわね?」

 

「えっ?ええ―――っ!?」

 

「でないとお互いに先に進まないわよ。それを見ている私達がじれったく感じちゃうわ」

 

「わかりました」

 

刀奈の言葉に虚は渋々頷いた。その後、皆と一緒に行動し刀奈と一夏が弾と虚の為に話題を振り、会話になるようにフォローし目的である。アドレス交換を成功させた。

 

 

 

「………来ちゃった」

 

一夏達から離れた所で様子を伺う赤毛の少女、弾の妹の蘭だ。

 

(今朝からお兄の様子が変だったし、やたらと服を真剣に選んでいたから気になって後を着けて来たら、一夏さん達がいるなんて……)

 

蘭は弾が普段とは違う様子を見て気になり、何か面白い事があるのかと思い尾行して来た先に一夏達がいた事に驚いた。

 

先日、一夏が遊びに来てくれて喜び、自分が出来る精一杯の背伸びをしてのおしゃれで気を引いて貰おうとしたが結果は惨敗、一夏に彼女がいる事を知り、告白する前に失恋してしまっていた。

 

(お兄の隣にいる人、凄い美人だ……)

 

ベンチに座ってそわそわしている虚を見て蘭はそう感じた。

 

(上手くいくといいな………)

 

普段女っ気のない兄を気遣う蘭。自分は失恋したばかりなので上手くいって欲しいと祈るばかりだ。

 

(それに………)

 

ちらりと一夏達のいる方に目線を向け、そこにいた刀奈と簪を見詰める。

 

(一夏さんの彼女達、スッゴい美人だし……それにスタイルもいい……)

 

自分と見比べてかなり落ち込む蘭。

 

(私じゃダメだったんだ……ううっ)

 

そして、失恋の傷が痛み涙が溢れ出す。

 

「どうしたの〜?」

 

「えっ?」

 

突然後ろから声を掛けられて蘭は慌てて振り返るとのほほんと少女がいた。本音である。

 

「泣きそうな顔してたから〜声を掛けたんだよ〜」

 

「そ、そうですか……」

 

「何かあったの〜?ずいぶんと落ち込んでみたいだけど〜」

 

「そ、その……えっと……」

 

本音から訪ねられて蘭は戸惑う、見知らぬ人に話していいものかと考えてしまった。

 

「話したら楽になるよ〜。ねっ」

 

「わ、わかりました…」

 

蘭は本音に促されてポツリポツリと話し始めた。もちろん名前を伏せておいてが前提である。

 

「そっか〜失恋ね〜」

 

「はい。恋した人のライバルに勝ち目なくて諦めるしかないんです……」

 

「ん〜。でも、奪ってやる気持ちはないのかな?」

 

「ありません。あの人達の幸せそう顔をしてたら……そんな事出来ません」

 

本音の問いかけに蘭はそう答えた、いくら何でも他人の幸せをぶち壊してまで一緒になりたくないと思ったからだ。

 

「そっか、それはいい心掛けだね〜」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん。いい女になれるよ〜。それで恋した人よりずっといい人をゲットしなよ〜、見返してやる〜って感じで」

 

「ぷっ」

 

本音の言葉を聞いて蘭は思わず吹き出して笑みがこぼれた。

 

「ありがとうございます。おかげで元気が出ました」

 

「すっきりした?」

 

「はい!」

 

「そっか〜それは良かったね〜」

 

「はい。あの、お名前を聞いてもいいですか?」

 

「私は〜布仏本音だよ〜」

 

「私は五反田蘭です。今日はありがとうございました」

 

「またね〜」

 

「はい」

 

本音はブンブンと手を振り、蘭はペコリと頭を下げて、立ち去っていった。

 

「ふう……これで〜いいのかな?いっちー」

 

本音は蘭が居なくなって一息つき、自身の後ろにいた人物に声を掛けた。

 

「悪いな本音……」

 

「本当だよ〜、今度何か奢ってね〜」

 

「わかった……」

 

本音に言わて一夏は仕方ないと言わんばかりに頷いた。

 

 

 

(頑張ってね、いっちー。かんちゃんとお嬢様と一緒に幸せにならなきゃ許さないんだから)

 

その表情は普段ののほほんした雰囲気ではなく、更識家従者としての顔に変わっていた。

 

(その前にお姉ちゃんかな〜?まっ、私も手伝わないとね〜)

 

若干、ギクシャクした感じの二人を眺めながら、本音はそう思う。

 

何はともあれ、弾と虚の恋物語は始まったばかりである。




ここの話のセシリアと本音のポジションがマトモになっていく………あれ?狙ってる訳じゃないですよ、多分……


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30話

深夜ですが更新です。

急に暑くなって大変です。ちょっとペースが落ちぎみかな


「海っ!見えたぁつ!」

 

トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子が声をあげる。臨海学校初日、天候にも恵まれて無事快晴。陽光を反射する海面は穏やかで、心地よさそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。

 

「ふぁ……」

 

俺はというとさっきの女子の声で目を覚ました。バスでの移動中ずっと寝ていたからだ……いわゆる、寝不足。

 

何故なら昨日の夜、刀奈さんに激しく求められたからだ。

俺の安全面の為に臨海学校に同行したかったが(それは建前で本音は別)学園の安全面を考慮して刀奈さんは待機となり、お留守番という訳になった。

なので二泊三日で会えない寂しさからか、俺との夜の運動になった訳だ………それを見て、簪も便乗してしまい俺を求めてしまって、二人を満足させる為に頑張り、次の日を迎えてしまって寝不足になった訳で……おかげでバスの移動中は熟睡モードに変わり、外の景色を楽しめなかったが………まあ、よしとしよう。

二人が喜んでくれればこれくらいなら我慢しようではないか。

 

「んにゅ〜……」

 

バスでの俺の隣の席に座っているのは本音だ。しかも、寝ている。まあ、正直に言えば本音で良かったと思える。他の女子が隣だったら気を使うし、眠る事すら出来なかっただろう………まあ、セシリアは気を使ってくれそうだが……。

 

「ふゅ〜……」

 

しかし、よく眠るな……。

 

「むにゃむにゃ〜、寝る子は〜育つ〜……」

 

スゲエ………寝言でむにゃむにゃ言ってるよ。

色々とサポートしてもらってるから疲れているのだろうな………多分……。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

千冬姉の言葉で全員がさっとそれに従う。指導能力抜群であった。

言葉通り程なくしてバスは目的地である旅館前に到着。四台のバスからIS学園一年生がわらわらと出てきて整列した。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

「「「よろしくお願いしま―す」」」

 

千冬姉の言葉の後、全員で挨拶する。この旅館には毎年お世話になっているらしく、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

歳は三十代くらいだろうか、しっかりとした大人の雰囲気を漂わせている。仕事柄笑顔が絶えないからなのか、その容姿は女将という立場とは逆に凄く若々しく見えた。

 

「あら、こちらが噂の……?」

 

ふと、俺と目が合った女将が千冬姉にそう尋ねる。

 

「ええ、まあ。今年は一人男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな。それに、いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

「感じがするだけですよ。ほら、挨拶をしろ、お世話になるのだからな」

 

千冬姉に促されるまま俺は前に出た。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

そう言って女将さんはまた丁寧なお辞儀をする。その動きは先程と同じく気品のあるもので、こういう大人な女性に耐性はあっても少し緊張してしまう。

 

「うちの弟の為にご迷惑をおかけします」

 

「あらあら。織斑先生ったら、弟さんには随分と厳しいんですね」

 

「いえ、公私混同しないだけです。そこは弟も理解しております」

 

まあ、その通りだよな。学園では教師と生徒だし、厳しくしておかないと周りがえこひいきと取られかねないからな………。ちゃんと気遣ってくれるけどな。

 

「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」

 

女子一同は、はーいと返事をすると直ぐ様旅館の中へと向かう。とりあえずは荷物を置いて、そこからなんだろう。ちなみに初日は終日自由時間。食事は旅館の食堂にて各自とるように言われている。

 

「ね、ね、ねー。いっちー」

 

俺も旅館の中に行こうとしたら本音に呼び止められた。

 

「いっちーの部屋どこ〜?一覧に書いてなかったー。かんちゃんと一緒に遊びに行くから教えて〜」

 

その言葉で周りにいた女子が一斉に聞き耳を立てるのがわかった。二人が遊びに来てくれるのはこちらとしては大歓迎だ。

 

「いや、俺も知らない。まあ、ある程度の予想は出来るけどな」

 

「だよね〜。いっちーには安全な場所が用意されてるんじゃないのかな〜?」

 

女子と寝泊まりさせる訳には行かないという事で俺の部屋はどこか別の場所が用意されるという事は山田先生から聞いていた。

 

「織斑、お前の部屋はこっちだ。ついてこい」

 

ここで千冬姉からのお呼びの声に俺は本音と別れる。

 

「ここだ」

 

「え?ここって……」

 

ドアにバンと張られた紙は『教員室』と書かれている。

 

「最初は個室と言う話だったんだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押し掛けるだろうと言う事になってだな」

 

はあ、とため息をついて千冬姉が続ける。

 

「結果、私と同室になった訳だ。これなら、女子もおいそれと近づかないだろう」

 

「賢明な判断ですね……」

 

これなら、問題は減るだろうな……いくら何でも夜這いしてくる人物はいない。

 

「一応言っておくが、あくまで私は教員だと言う事を忘れるな」

 

「わかりました」

 

「それでいい」

 

そうして部屋に入り、注意事項や入浴時間など聞きそこへ山田先生がやって来て仕事の時間となり、俺は自由時間を楽しむ事にした。

 

 

 

「………」

 

(やべっ!?)

 

俺は更衣室のある別館へ向かう途中で箒を見つけ、慌てて隠れた。

 

(何を見ているんだ?)

 

物陰から様子を見ると箒が見ているみたいだ……。

 

(あれはウサミミ?)

 

そう、道端にウサギの耳が生えているのだ。箒プラスウサミミイコール良い事はないなと脳内で計算してもう少し様子を見ていると箒はすたすたと歩き去っていった。

 

「はあ……」

 

俺はため息をついて携帯を取り出して千冬姉に連絡、あの危険物を撤去して貰おう。数分後、千冬姉がやって来てウサミミを処分して事なきを得た。

 

 

 

(うーん、それにしても……)

 

別館の一番奥の更衣室に向かう途中、中から聞こえるきゃいきゃいとした黄色い声に気まずさを感じてしまう。

 

「わ、ミカっば胸おっきー。また育ったんじゃないの〜?」

 

「きゃあっ!も、揉まないでよぉっ!」

 

「ティナって水着だいた―ん。すっごいね〜」

 

「そう?アメリカでは普通だと思うけど」

 

…………。

そう、こういう話題が平然と飛び交っているのだ。そして、俺は正直これが苦手だ。彼女達持ちの俺としてはあんまり耳に入れたくはない………。理由は察してくれ………。

やや早足でその場を立ち去り、更衣室へ。手早く済ませて海へ。

 

「あ、織斑君だ!」

 

「う、うそっ!わ、私の水着変じゃないよね!?大丈夫だよね!?」

 

「わ、わ〜。体かっこい〜。鍛えてるね〜」

 

「織斑くーん、後でビーチバレーしようよ〜」

 

「ああ、時間があればいいぜ」

 

更衣室から浜辺に出てすぐ、ちょうど隣の更衣室から出てきた女子数人と出会う。各人、可愛い水着を身につけていて、その露出度にやや照れてしまう………いかんいかん、冷静にならねば………。とはいえ、女子だらけの水着姿では正直目のやり場困るな……とりあえず首から上に目線をあげよう。

 

「よっ、と……」

 

とりあえず準備運動を始める俺。足がつって溺れても格好悪い。準備運動しながら簪が来ないかな〜と待っていると――

 

「い、ち、か〜〜〜〜っ!」

 

俺の待ち人ではない声が聞こえて来たので咄嗟しゃがむ。

 

「ふぎゃ!?」

 

砂にダイブして、カエルが潰れたような声をあげる鈴がいました。

 

「何で!避けるのよ!?」

 

ガバッと起き上がり俺に詰め寄る鈴。そういえば水着になると飛びついてきたからいつの間に避けれるようになったんだな……成長したな〜俺。ちなみに鈴の水着はスポーティーなタンキニタイプでよく似合っている。

 

「いや〜、何となく?」

 

「何よ、それ!?」

 

後頭部に手を当てながら、誤魔化すが鈴はご立腹のようだ。

 

「何をしてますの?」

 

と、そう言ってやってきたのはセシリアだ。手には簡単なビーチパラソルとシート、それにサンオイルを持っている。こちらは鮮やかなブルーのビキニ。腰に巻かれたパレオがちょっと優雅で格好いい。モデルみたいだな。

 

「鈴が俺の背後から飛びついてきたのを避けたら、何故か怒ってるんだよ」

 

「………何をしてますの鈴さん?」

 

俺の説明を聞いて、呆れた顔をするセシリアは鈴に非難の視線を向けていた。

 

「何よ!?あたしは一夏とスキンシップをしようとしたのよ!それを避けるなんてヒドイじゃない!!」

 

「色々と気になる事はありますが……いきなり飛びついてくるのはやめた方がいいですわよ。はしたなく感じますわ」

 

「何ですって!?」

 

セシリアの注意に鈴の怒りは更に増していくが………。

 

「あっ、りんにゃん発見!」

 

「いたわ!みんなこっちよ!」

 

と、他の女子達がバタバタとやってきた。何だ?何だ?

 

「な、何よ……?アンタ達は?」

 

突然の事で鈴の怒りが飛んでしまい、戸惑いの表情に変わる。

 

「んっ、ふっふっ……じゃあ―ん!」

 

と取り出したの猫耳とその他諸々の小道具にカメラだった。一体何するんだ?

 

「皆さん、それで何をするんですか?」

 

「勿論、りんにゃんの水着versionでの撮影よ!」

 

「にゃあぁぁぁ!?」

 

あー、なるほどね。鈴は今水着姿になっているから、せっかくだからりんにゃんで撮影しようとしたんだな。

 

「と、言う訳で早速やるわよ!」

 

「何が!?って言うかやらないわよ!!」

 

「甘いわね………私達から逃れられないのだよりんにゃん」

 

「ちょ、冗談じゃないわよ!!」

 

鈴は女子達の表情から、危険を察知して慌てて逃走し出した。

 

「待て――っ!」

 

「逃がさないわよ―――っ!」

 

「諦めて私達の手に堕ちるのだ―――っ!」

 

「いやぁぁぁっ!!」

 

鈴は必死になって逃げるが女子達の包囲網と統率力は凄まじくあっさりと捕まれてと何処かへ連れ去られて行ってしまった………。南無、頑張れよ。

 

「…………」

 

「…………」

 

俺とセシリアは鈴と女子達がいなくなってから少しの時間が流れ。

 

「俺、ちょっと歩いてくるわ」

 

「ええ、どうぞ。わたくしはゆっくりしてますわ」

 

それぞれ行動する事にした。さーて、簪は何処かな?

 

「あっ、一夏」

 

「簪」

 

ビーチパラソルの下に座っている簪が俺の姿を見付けて声をかけてきた。

 

「ど、どうかな?似合ってる?」

 

簪はスクッと立ち上がりくるんと1回転して俺に魅せてくる。髪と同じ水色のワンピースタイプの水着だ。って、これは―。

 

「うん。一夏が選んでくれたのだよ」

 

「そっか、ありがとう。似合っているよ簪」

 

俺の選んだ水着を着てくれた事が嬉しくもあり、笑顔で誉める事にした。

 

「えへへ、ありがとう一夏」

 

簪はちょっとだけ頬を紅く染めてはにかんだ笑みを魅せた。うん、可愛いな。

 

「かんちゃ〜ん〜、いっちーここにいたんだ〜」

 

「本音」

 

俺と簪の元にやってきたのは狐の着ぐるみ着た本音だった。何だろう……見ていて暑く感じるのは気のせいか?

 

「相変わらずだな本音」

 

「うん。そこは変わらないね」

 

と、俺と簪はそれぞれ言うが本音の寝間着は着ぐるみなので普段から見慣れているので大体は予想できた。

 

「ふっふっふ〜。今日の〜わたしは〜一足違うのだ〜」

 

そう言って着ぐるみに手を掛け、そして、そのまま脱いだ!?

 

「「ほ、本音!?」」

 

突然の本音の行動に俺と簪の声が上擦った。な、何をするんだ?

 

「じゃあ〜ん!どうだ〜」

 

と、言いながら現れたのはオレンジ色のビキニ姿の本音でした。

 

「な、何で……」

 

「これは〜いっちーがわたしに選んでくれた水着だよ〜。どうかな〜?」

 

本音は俺に向かってポーズを決めてきた。確かに俺は本音が似合いそうだけど着ないだろうなと考えながら選んだやつだけに驚きを隠せなかった………しかも、本音は胸がデカイ……普段はダボダボな服に隠されているからな……ばっちり胸の谷間が出来ている。

 

「あ、ああ似合っているぞ本音。まさか着てくれると思わなかったな」

 

「いっちーが選んでくれたからね〜。着ないともったいないもんね〜、それにお嬢様から頼まれてるんだ〜」

 

「お姉ちゃんに頼まれた?」

 

「うん。他の娘の水着姿に惑わされないように〜かんちゃんと一緒に水着姿でいっちーを誘惑しなさいって言われてるんだ〜」

 

本音のカミングアウトに思わず泣きたくなった……いくら何でも心配だからってやり過ぎですよ!刀奈さ―――ん!!

 

優しい気遣いなのか信頼ないのか複雑な気持ちになった。あれ?そういえば―

 

「簪は何とも思わないのか?」

 

「ううん。別に……」

 

何も反応しない簪に聞いてみたら、それほど気にしてないみたいだ。あれ――?

 

「他の娘なら嫌だけど、本音なら許す。私の大事な幼なじみだもん、怒らないよ」

 

「えへへ〜、ありがと〜かんちゃん」

 

きゃいきゃいと二人がはしゃぐ姿をみて、ため息しか出なかったな……。

 

「お前達ここにいたか」

 

「あっ、織斑先生」

 

「ああ」

 

俺達の元に更にやってきたのは千冬姉だった。例の水着を着ている。黒の水着をばっちりと身に纏い、そのスタイルのいい鍛えられた体を惜しげもなく陽光に晒している。流石だな〜、このままモデルデビューしてもおかしくないな。

 

「素敵です、千冬さん」

 

「とっても〜お似合いですよ〜千冬さん」

 

「似合っているよ千冬姉」

 

俺達はそれぞれ千冬姉の水着姿に感想を述べた。

 

「織斑先生な。それから誉め言葉は受け取っておくぞ」

 

千冬姉軽く注意したが表情は満更でもないようだ。

 

「そら、お前達はゆっくり遊んでこい」

 

「先生は?」

 

「私は僅かばかりの自由時間を満喫させてもらうとしよう」

 

「後でビーチバレーしませんか〜?」

 

「考えておこう。楽しんでこい」

 

「「「はい」」」

 

俺達は千冬姉に促されて、その場を離れた。そして俺達は泳いだり、ビーチバレーしたりゆっくり昼食を食べたりして自由時間を楽しんだ。

 

そして、夕飯前に千冬姉に呼ばれ、今日の夜に俺と簪の仲を話す事になった。

いよいよか………緊張するな。でもこれで1つのけじめは着けないとな、その前に腹ごしらえをしなきゃな。夕飯が何が出るのかちょっとだけウキウキしていたのは内緒だ。




おまけ

その頃のお留守番組は―

「暇ね〜」

「暇って、ちゃんと仕事してくださいお嬢様」

「失礼ね、もう終わってるわよ」

「えっ?嘘?」

虚は楯無の言葉が信じられずに書類をチェックしてみるが―。

「ほ、本当に……終わってます……」

「当たり前でしょ。一夏君と簪ちゃんに何かあったら、いつまでも駆け付けられるようにしておかないとね」

「あ、あの量を終わらせるなんて………」

虚は今日1日では終わりそうにない量だとわかっていたが終わらせてしまった事に唖然となった。

「昨日から一夏君に元気と愛をもらったからこんなの簡単よ」

「お、恐るべし愛の力……」

「それよりも虚ちゃんはちゃんとしてるのかしら?」

「な、何を言ってるんですか!?」

「だって、あんまり話してくれないからどうかな?ってアドバイスくらいならするわよどう?」

「是非ともお願いします」

刀奈は虚の恋の相談もといアドバイスをして時間を潰すのでした。


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31話

カミングアウトの回です。どうぞ


時間はあっという間に過ぎ、現在七時半。大広間三つを繋げた大宴会場で、俺達は夕食を取っていた。

 

「うん、美味い!昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だなぁ」

 

「そうだね。IS学園だからかな?」

 

「そうかもね〜」

 

そう言って頷いているのは簪と本音だ。右に簪、左に本音で座っている。今は全員がそうであるように、二人共浴衣姿だ。よくわからないが、この旅館の決まりらしい。『お食事は浴衣着用』だって。

 

「それよりも一夏、いいの?」

 

「何がだ?」

 

食事を楽しんでいると簪が俺に話し掛けてきた。

 

「私達の関係の事を話す事だよ」

 

「あ〜……」

 

簪の言葉にさっきまで食事を楽しんでいた気分は萎んでいく。

 

「………一夏、大丈夫だよね?何か嫌な感じがするの……こう、もやもやしたのが離れない……」

 

不安気な表情で俺の顔を覗き込む簪に少し気持ちが揺らぐ………。

 

「大丈夫だ、心配し過ぎだって簪」

 

「そうだよ〜。何事も〜ポジティブにいこうよ〜」

 

簪を不安を取り除こうとして、俺と本音はそれぞれ声を掛けた。正直俺にも不安はある………がしかし、このままではいけない事は間違いない。

 

(何かあれば、千冬姉が止めるだろうし俺も頑張らないとな………)

 

いくら何でも暴れはしないはず………だよな?いかん急に不安になってきたな、おい……。食事が終わるまでどう対処するか、頭を悩ませるのだった。

 

――――――――――――

 

「ふぅ、さっぱりした」

 

食後に温泉。なんという贅沢だろうか。

 

(これで刀奈さんも一緒にいてくれれば良かったな……。更にプライベートならもっと楽しくなりそうなんだよな……)

 

ここにはいないもう一人の俺の恋人に想いを馳せながら、部屋に戻ってきた。

 

(千冬姉も温泉かな?)

 

部屋にいないところを見ると、たぶんそうだろう。――と、ちょうど千冬姉が帰ってきた。

 

「ん?一人か?簪と本音はいないみたいだな」

 

「二人はまだ温泉だよ。もう少ししたら来るさ」

 

「そうか、いよいよだな」

 

「ああ……」

 

千冬姉の言葉に自然と俺の顔が強張る。

 

「大丈夫だ。私が何とか抑えよう。教師であり、世界最強だからな大船に乗ったつもりでいろ」

 

俺の顔を見て、千冬姉は声を掛けてきた。緊張を解してくれたのだろう、その言葉だけでもありがたい。

そして、簪と本音がやって来て二人もそわそわし出した。

 

「千冬姉久しぶりにマッサージしていいか?何かしてないと気が滅入りそうだよ」

 

「やれやれ……しょうがないやつだな……」

 

――――――――――――

 

(織斑先生から大事な話があると言われて来ましたが一体何でしょうか?)

 

セシリアは千冬に呼ばれて、部屋に来いと言われたので向かっていた。

 

(わたくし、何か悪い事でもしたのでしょうか?でも代表候補生としての振る舞いで何かあっては困りますわね)

 

大事な話で首を傾げるセシリア、しかし、良い方ではなく悪い方に考えが傾くだけに内心不安を隠せない。

 

「………」

 

「………」

 

「あら?」

 

部屋の前、その入り口のドアに張り付いている女子が二名。

 

「鈴さん?それに箒さんまで。一体そこで何を―」

 

「シッ!!」

 

鈴がそう言うなりセシリアの口を塞ぐ。状況がわからずにもがいていると、ふとドアの向こうから声が聞こえた。

 

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

 

『そんな訳あるか、馬鹿者。――んっ!す、少しは加減をしろ……』

 

『はいはい。んじゃあ、ここは……と』

 

『くあっ!そ、そこは……やめっ、つぅっ!!』

 

『すぐに良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね』

 

『あぁぁっ!』

 

…………。

 

「一体、何ですの?」

 

ドアからの声に首を傾げるセシリア。

 

「…………」

 

「…………」

 

鈴と箒は、ズーンと沈んだ表情をしている。その様子はまるでお通夜さながらだった。

 

「オルコットです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

セシリアは二人を気にせずにドアをノックして向こうに千冬達に声を掛ける。

 

「来たな、オルコット………何だ?コイツらは?」

 

「さあ?わたくしにはわかりません」

 

ドアを開けて千冬が出迎えたが向こうで沈んでいる箒と鈴に首を傾げた。

 

「まあ、いい。お前達も入ってこい――その前にボーデヴィッヒとデュノアを呼んでこい」

 

「「は、はいっ!」」

 

鈴と箒は駆け足で二人を呼びに行った。

 

「おお、セシリア来たか。いらっしゃい」

 

「一夏さん?それに本音さんと簪さんまでどうしてここにいますの?」

 

セシリアは部屋の中にいた一夏達がいた事が気になり尋ねてみた。

 

「ああ、俺の部屋はここなんだ。それに二人がいる理由はこれから言う大事な話があるんだ」

 

「大事な話ですか?」

 

「ああ」

 

そう言って頷く一夏を見て、セシリアは何かあるのだろうと考えた。

 

(悪い事ではなさそうですわね……)

 

セシリアは悪い事ではないとわかり内心ホッとした。それから暫くして四人がやってきて千冬に言われた通りにそれぞれ好きな場所にと座った。

 

 

 

『……………』

 

俺達は座ったまま止まってしまっている。隣には簪と本音。向かい合うに箒、鈴、シャルロット、ラウラその間に千冬姉とセシリアが座る形になった。

 

「おいおい、葬式か通夜か?いつもなら話くらいは出るだろ?」

 

「い、いえ、その……」

 

「緊張してしまいまして……」

 

「まったく、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう。篠ノ之、何がいい?」

 

千冬姉からのいきなり呼ばれて箒はビクッと肩をすくませた。何を言っていいかわからないようだ。

 

「ほれ。ラムネとオレンジとスポーツドリンクにコーヒー、紅茶だ。それぞれ他のがいいやつは各人で交換しろ」

 

そう言い、俺達はそれぞれ飲み物を手に取る事にした。

 

「い、いただきます」

 

全員が同じ言葉を口にして、そして次に飲み物を口にした。全員の喉がごくりと動いたのを見て、千冬姉はニヤリと笑った。

 

「飲んだな?」

 

「は、はい?」

 

「そ、そりゃ、飲みましたけど……」

 

「な、何か入っていましたの!?」

 

「失礼な事を言うなバカめ。何、ちょっとした口封じだ」

 

そう言って千冬姉が新たに冷蔵庫から取り出したのは、星のマークがキラリと光る缶ビールだった。プシュッ!と景気のいい音を立てて飛沫と泡が飛び出す。それを唇で受けとって、そのまま千冬姉はビールを飲んでいく。

 

「織斑先生、仕事中ですよ……」

 

俺は非難気味の視線をぶつけながら一応注意した。これから大事な話をするのに酒を飲まれて困る。

 

「堅い事を言うな。それに今日の分は終わりにしているから大丈夫だ」

 

「そうですか」

 

そこまで言うのなら、咎めないがせめて話が終わってからにして欲しかったな。

 

「さて、そろそろ本題に入るとしよう………ボーデヴィッヒ」

 

「は、はい!」

 

千冬姉に呼ばれてラウラはビシッと立ち上がる。

 

「お前は何故、織斑を嫁と呼ぶのだ?鷹月がいるはずだが未だにそう言ってくるから気になっていた。理由を話せ」

 

「は、はいっ!実は―」

 

千冬姉に言われてラウラは理由を話だしたが……俺達は呆れてしまった。

聞けば、俺に好意を持ったがどうすればいいか解らず自身の部隊の副官であるクラリッサという人に聞いたら『日本では気に入った相手を嫁にする風習がある』と教えたそうだ。なので俺に対して嫁と呼ぶのはそれが原因らしい……あの時、ラウラにヘッドバット所謂頭突きを喰らわされると思って回避したがあれはキスしようとしてたんだな………(鷹月さんに)悪い事したな……。

 

「そうか……大体わかったが間違えているぞ」

 

「えっ!?」

 

千冬姉の指摘に驚くラウラ。確かにその通りだ。

 

「お前の言う、気に入った相手を嫁にする風習は日本の一般的にはない!それから嫁という言葉は女性に対してだ。織斑は男だ。まったく、当てはまってない嫁ではなく婿だ。日本語をちゃんと勉強しろ」

 

「そ、そんな………」

 

ガーンとショックを受けるラウラ。もう少し考えて発言しような。

 

「わ、私のやっている事は……ま、間違えていたのか……?」

 

「うん」

 

「そうよ」

 

「そうだ」

 

「そうだよ〜」

 

「そうですわ」

 

「間違いだらけだね」

 

「おかしいと思わなかったのか?」

 

とそれぞれ返事を返す俺達。これで少しは正しい方向に行って欲しいな……。

 

「まあ、織斑に好意があるのはわかった。やり方はおかしかったがな…」

 

「うぅ〜……」

 

千冬姉の追い討ちの言葉にラウラは恥ずかしさからか唸り声をあげた。

 

「だが、お前のその想いはもう叶わん。………そうだろう織斑」

 

「「「「えっ?」」」」

 

うおっ!?ここで俺に振るのかよ!!無茶振りもいい所だよ!!

 

「ど、どういう事だ?私の想いが叶わないって……」

 

「実は俺には好きな人がいて、もう付き合っているんだ」

 

「それってもしかして」

 

「ああ、恋人が既にいるんだ」

 

「「「「嘘だ!!?」」」」

 

俺のカミングアウトに反応して叫ぶ四人。まあ、納得はしないだろうな……。

 

「は、はは……一夏にしては面白い冗談だな」

 

「そ、そうよね。あたしは聞き間違いをしたのよ。そうよその通りよ」

 

鈴と箒は昔の俺を知っているだけに冗談と受け取ったみたいだが現実逃避に見えなくはない。

 

「ちょっと待って恋人ってまさか……」

 

シャルロットの言葉に一斉にある人物に向けられる。

 

「「「「こいつか(よ、だね)!!」」」

 

四人が指差したのは――。

 

「ふええ―っ!?ち、違うよ!!」

 

何故か本音だった……おいおい、一緒にいたからと言って付き合ってはいないぞ。

 

「違うよ。俺の恋人はこっちだ」

 

そう言って簪の肩を抱き、引き寄せる。

 

「俺は簪と恋人としてお付き合いしてるんだ」

 

「い、いつから?」

 

「中学二年の頃に俺から告白してそれから付き合いだしたな」

 

「そ、そういえば生徒会長とも仲良かったよね?も、もしかして―」

 

「そうだ。俺は楯無さんと簪、二人と恋人同士になっているんだ」

 

シャルロットの疑問を俺はこう返した。

 

「まあ、そうでしたか。仲がよろしかったから、まさかと思いましたがそういうご関係でしたのね」

 

「悪いな、なかなか切り出せなくて」

 

「いいえ、何かしらの事情がおありでしょうから一夏さんかお話ししてくださると思っていましたから、わたくしは構いませんわ。おめでとうございます、わたくしは応援しますわ」

 

「ありがとうセシリア」

 

笑顔で祝福してくれるセシリアに感謝した。本当にありがとう。

 

「俺に好意を持ってくれたのはありがたいがもう相手がいるんだ。諦めてくれ」

 

俺は四人対して深々と頭を下げた。まあ、シャルロットとラウラはどうかはわからないが、箒と鈴は納得がいかずに襲撃してくる可能性があるかもしれないがそこは覚悟を決めていた。

 

「「う、うわあぁぁぁぁん!!」」

 

鈴とラウラは泣きながら部屋を飛び出して行った。まあ、そうなるか。

 

「……そんな……一夏が……」

 

箒はふらふらとしながら部屋を後にした。とりあえず最悪な展開はなかったみたいだな………。それからすぐに解散という形になり、散り散りになって部屋から出ていった。

 

 

 

「シャルロットさんは大丈夫なんですか?」

 

隣に歩いていて、失恋しているはずなのに笑顔が崩れないシャルロットを見て気になって尋ねるセシリア。

 

「ん?大丈夫だよ。一夏が二人と恋人になっているのは何となくわかっていたんだよね」

 

「そうでしたか」

 

「それにね。僕は負けないよ、いつか一夏を僕のものにするんだ。あの二人から奪い取ってみせるよ」

 

「えっ!?」

 

シャルロットの言葉を聞いてセシリアは耳を疑った聞き捨てならないセリフを言ったからだ。

 

「それって冗談ですわよね?」

 

「ううん、本気だよ。略奪愛って燃えるよねセシリア?」

 

「さ、さあ……」

 

シャルロットの言葉に思わずドン引きするセシリア。

 

(こ、この方が一番危ないかもしれませんわ……)

 

ひくひくと口元震わせて、ひきつった笑みを浮かべながらそう思うセシリアだった。

 

 

 

「あれ?」

 

静寐は走っていくラウラを見掛けた。

 

「ラウラ……どうしたんだろう?」

 

様子がおかしい事に気付き後を追いかける事にした。

 

「確か、ここに……いた」

 

少しして歩き回るとポツンと立っている銀髪の少女を見つけた。

 

「ラウラ」

 

「っ!?」

 

静寐に呼ばれてビクッと反応するラウラ。

 

「……静寐?」

 

「ラウラ?な、何で泣いてるの!?どうしたの!?」

 

涙をポロポロと流しながら振り返るラウラに静寐は驚いた。

 

「静寐、し〜ず〜ね〜!!」

 

ラウラは耐えきれずに静寐に抱き着き号泣し出した。

 

「よしよし、安心していいからね」

 

静寐はラウラが落ち着くまで抱き締めながら頭を撫でてあげて、暫くすると眠ってしまい。そのまま部屋に帰っていった。

 

 

 

「一夏……一夏……」

 

箒はふらふらしながら、外へと歩いていた。

 

「そんな……私じゃないのか、私じゃ……」

 

ブツブツと呟きながら、人が来ない場所までたどり着き。

 

そして―

 

「うっ、うっ、うわぁぁぁぁ!!」

 

箒はおもいっきり泣き叫んだ。誰の目に気にせず、わんわん泣いている。

 

「………箒ちゃん」

 

そんな箒を物陰からこっそりと覗く人物がいた。青と白のワンピースに身を包み頭にはウサミミのカチューシャを着けていた。

箒の実の姉である篠ノ之束である。

 

「………箒ちゃん」

 

束は箒の元に行って慰めたいが体が動かなかった……心は必死に行こうとするが体は拒絶していた。

 

「………」

 

暫くして箒は泣き止み、目元を拭うと旅館へと帰っていった。

 

「あ、あはっ、あははは!」

 

箒がいなくなり束は笑い出す。

 

「そうだよね。箒ちゃんにはいっくんしかいないよね!いっくんは騙されてるんだよね!」

 

束はうんうんと頷きながら納得したような表情を浮かべた。

 

「待っててね箒ちゃん。いっくんをたぶらかす悪い虫はこの束さんがやっつけちゃうよ。ううん、消しちゃおう」

 

鼻歌混じりにその場からいなくなる束であるがしかし―

この篠ノ之束が巻き起こす出来事は一夏と箒の仲の溝を更に深めてしまう事はこの時は考えていなかった。

 

かくして夜は更けていき明日を迎えた。そして一夏達にとってもっとも長い1日が始まるのだった。




束ってこんな感じかな?
とりあえずひとつのけじめをつけましたね。


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32話

久しぶりの更新です。短編ネタが思いつき過ぎましたね……では、どうぞ。


合宿二日目。今日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。特に専用機持ちは大量の装備が待っているのだから大変だ。

 

「「「…………」」」

 

昨日のカミングアウトから、次の日を迎えての三人の目は赤い……まあ、ショックだから仕方ないのだろうな。ただラウラは鷹月さんと一緒にやって来たのは好材料かな?手を繋いでいたし、このままいって欲しいな。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

はーい、と一同が返事をする。流石に1学年全員がずらりと並んでいるので、かなりの人数だ。

 

「篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

皆が忙しくしている中で千冬姉から箒が呼ばれた。

 

「お前には今日から専用――」

 

「ちーちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

 

ずどどどど……!と砂煙を上げながら人影が走ってくる。

 

「……束」

 

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめ――ぶへっ」

 

飛びかかってきた束さんを片手で掴む。しかも顔面。思いっきり指が食い込んでいた。不機嫌さも手伝って容赦のない千冬姉だった。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

そしてその拘束を抜け出して、よっ、と着地をした束さんは、今度は箒の方を向く。

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

がんっ!

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ……。し、しかも木刀で叩いた!ひどい!箒ちゃんひどい!」

 

頭を押さえながら涙目になって訴える束さん。そんな二人のやり取りを、一同はポカンとして眺めた。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

そう言ってくるりんと回ってみせる。ぽかんとしていた一同も、やっとそこでこの目の前の人物がISの開発者にして天才科学者・篠ノ之束だと気付いたらしく、女子の間がにわかに騒がしくなる。

 

千冬姉が女子達を注意したり山田先生に束さんが飛びかかったりして再び千冬姉からの制裁が入った。見ていて疲れるな………。

 

「それで、頼んでおいたものは………?」

 

「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

ビシッと直上を指さす束さん。その言葉に従って箒も、そして他の生徒達も空を見上げる。

 

ズズーンッ!

 

いきなり、激しい衝撃を伴って、なにやら金属の塊が砂浜に落下してきた。銀色をしたそれは、次の瞬間正面らしき壁がばたりと倒れてその中身を俺達に見せる。そこにあったのは――

 

「じゃじゃ―ん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

真紅の装甲に身を包んだその機体は、束さんの言葉に応えるかのように動作アームによって外へと出てくる。新品のISだが現行ISを上回るって言ってだけに高性能なのは間違いないな………。

 

「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「……それでは、頼みます」

 

「堅いよ〜。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方で―」

 

「早く、始めましょう」

 

「ん〜。まあ、そうだね。じゃあ始めようか」

 

箒は束さんの言葉を取り合わずに行動を促されて作業を開始した。

 

「あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの……?身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

ふと、群衆の中からそんな声が聞こえた。それに素早く反応したのは、なんと意外な事に束さんだった。

 

「おやおや、歴史の勉強をした事が無いのかな?有史以来、世界が平等であって事など一度もないよ」

 

ピンポイントに指摘を受けた女子は気まずそうに作業に戻る。それを別段どうでもいいように流して、束さんは調整を続ける。――というか、発言の間もずっと手は止まっていない。相変わらずの天才ぶりだった。そしてそれもすぐに終わって、束さんは並んだディスプレイを閉じていく。

 

「後は自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

 

「あ、はあ……」

 

束さんが俺の方を向く。正直気乗りはしないがあの人の性格がわかっているだけに展開させる。

 

「データ見せてね〜。うりゃ」

 

言うなり、白式の装甲にブスリとコードを刺す束さん。すると、またさっきと同じようにディスプレイが空中へと浮かび上がる。

 

「ん〜……不思議なフラグメントマップを構築してるね。何だろ?見た事ないパターン。いっくんが男の子だからかな?」

 

「そういえば束さん、どうして男の俺がISを使えるんですか?」

 

俺は一番疑問に思っている事をぶつけてみた。

 

「ん?ん〜……どうしてだろうね。私にもさっぱりぱりだよ。ナノ単位まで分解すれば解る気がするんだけど、していい?」

 

「やめてください……」

 

「にゃはは、そう言うと思ったよん。んー、まあ、わかんないならわかんないでいいけどね―。そもそもISって自己進化するように作ったし、こういう事もあるよ。あっはっはっ」

 

はぐらかされた気がするが聞いてもムダか………あの人の事だ、何かしらの秘密があるかもしれないな。

 

その後、試運転に入り束さんから説明を受けている箒を見ながら俺は表情が固いセシリアに話し掛けた。

 

「セシリア」

 

「どうしました一夏さん?」

 

「いや、表情から様子がおかしかったからどうしたのかと思ってな」

 

「ええ、篠ノ之博士に会えて是非ともわたくしの専用機を見ていただこうと思っていましたが………途中でやめてしまいましたわ……」

 

「やめた?」

 

俺な言葉にセシリアはええと頷き。

 

「わたくしが話し掛けても相手をしなさそうな雰囲気を感じましたのでやめる事にしました……」

 

「そうか……」

 

普通なら束さんに話し掛けたくて仕方ないのだろうが、束さんは特別な人以外は認識しない性格である。千冬姉に会ってからマシになったらしいが………どれだけひどかったのかわからないがセシリアの判断は間違っていない。

 

「――やれる!この紅椿なら!」

 

箒はミサイルを撃墜させてISの性能に手応えを感じたのだろう………表情から力を得たと感じているが………俺にはあまりいい感じはしなかった……何故かと問われれば答えには詰まりそうだが近い内に良くない事が起こりそうな予感がした。

 

「…………」

 

千冬姉も俺と同じ感じを受けたのか束さんと箒を厳しい見詰めていた。

 

(何かなければいいが……どうかな?)

 

俺は内心そう思い箒を見詰めていたが―。

 

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」

 

慌てた様子で千冬姉に報告しにいく山田先生。

 

「どうした?」

 

「こ、こっ、これをっ!」

 

渡された小型端末の、その画面を見て千冬姉の表情が曇る。

どうやらただ事では無いだろうわからないように手話で会話している。

 

「そ、そ、それでは、私は他の先生達にも連絡してきますのでっ」

 

「了解した。――全員、注目!」

 

山田先生が走り去った後、千冬姉はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機する事。以上だ!」

 

「え……?」

 

「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って………」

 

「状況が全然わかんないんだけど………」

 

不測の事態に、女子一同はざわざわと騒がしくなる。しかしそれを、千冬姉の声が一喝した。

 

「とっとと戻れ!以後、許可無く室外に出た者は我々で身柄を拘束する!いいな!!」

 

「「「はっ、はいっ!」」」

 

全員が慌てて動き始める。接続していたテスト装備を解除、ISを起動終了させてカートに乗せる。その姿は今までに見た事のない怒号におびえているかのようだった。

 

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、更識、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!―――それと、篠ノ之も来い」

 

「はい!」

 

妙に気合いの入った返事をしたのは、今し方俺の隣に降りてきた箒だった。やけに自信満々と言わんばかりの表情していた………。正直俺には不安しかない。

 

(嫌な予感、的中か………大丈夫なのか?)

 

俺はこの特殊任務が自分にとって大きな出来事になるとは……この時はまだ思い付かなかった。

 

――――――――――――

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間では、俺達専用機持ち全員と教師陣が集められた。照明を落とした薄暗い室内に、ポウッと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

千冬姉の説明に俺の顔が強張った。マジかよ……軍用ISの暴走とはな……。周りを見ると全員が厳しい顔付きになっている。

簪も普段とは違う表情をしているから少し戸惑いを感じてしまう。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過する事がわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処する事となった」

 

淡々と続ける千冬姉。その次の言葉はある意味予想していたかもしれない。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

やっぱりか……軍用ISがどれくらいかわからないのに俺達で止めるしかないだ。

 

「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

 

「はい、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは2か国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

 

「了解しました」

 

セシリアをはじめ代表候補生の面々と教師陣は開示されたデータを元に相談を始める。

 

福音は広域殲滅を目的とした特殊射撃型、セシリアのブルー・ティアーズと同じオールレンジ攻撃が出来る上に機動力もあり、一部未知数もある、か……。

 

しかも、偵察が出来ずアプローチが一回しかないとの事。

 

「一回きりのチャンス……という事はやはり、一撃必殺を持った機体で当たるしかありませんね」

 

山田先生の言葉に全員の視線が俺に集まる。

 

「なるほどな……俺の出番か……ただエネルギーを温存したいから移動手段が欲しいところだ」

 

「しかも、目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

「それならわたくしのブルー・ティアーズが最適です。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度センサーもついています」

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

 

「20時間です」

 

「ふむ……。それならば適任――」

 

だな、と言おうとしていた千冬姉を、いきなり底抜けに明るい声が遮る。

 

「待った待―った。その作戦はちょっと待ったなんだよ〜!」

 

しかも、声の発生源は何処かと言うと、天井からだ。全員が見上げると、部屋のど真ん中の天井から束さんの首が逆さに生えていた。

 

「……山田先生、室外への強制退去を」

 

「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りて来てください……」

 

「とうっ★」

 

くるりんと空中で一回転して着地。その軽やかな身のこなしはサーカスのピエロも顔負けだ。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

 

「……出て行け」

 

頭を押さえる千冬姉。山田先生は言われた通り束さんを室外に連れて行こうとするが、するりとかわされてしまう。

 

「聞いて聞いて!ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」

 

「なに?」

 

「紅椿のスペックデータ見てみて!パッケージなんか無くても超高速機動が出来るんだよ!」

 

束さんの言葉に応えるように数枚のディスプレイが千冬姉を囲むようにして現れる。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ!これでスピードはばっちり!」

 

そう言い束さんは千冬姉の隣に立って説明を始めた。聞けば紅椿は第四世代型ISであり、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能との事か………それを使いこなせればかなりのスペックを引き出せる事になるがそれは操縦者次第だな……。

 

ただ、白騎士事件に話題が変わると千冬姉の表情が変わっていた事に気付いた。何か関係しているのか?

 

「話を戻すぞ。………束、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」

 

「お、織斑先生!?」

 

驚いた声をあげたのはセシリアだった。専用機持ちの中でも高機動パッケージを持っているのが自分だけだった為、当然作戦に参加出来るものと思っていたらしい。

 

「わ、わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ!」

 

「そのパッケージは量子変換してあるのか?」

 

「そ、それは……まだですが……」

 

「どれくらいかかる?」

 

「1時間、いえ30分もあれば終わらせる事が出来ますわ」

 

「ちなみに紅椿の調整時間は7分もあれば余裕だね★」

 

「そうか……」

 

千冬姉は腕を組んだまま少しだけ思考し。

 

「よし。では本作戦では織斑・オルコットの両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。そしてサポートには更識にも同行してもらう。作戦は1時間後。各員、直ちに準備にかかれ」

 

「なっ!?」

 

「え―っ!?」

 

千冬姉の作戦を聞いて、束さんと箒は不満の声をあげる。

 

「ちーちゃん、聞いてた?ここは紅椿の出番だよ!」

 

「そうです!私と紅椿ならやれます!」

 

「黙れ。今回の作戦は危険だ。私は堅実に行く、来たばかりの専用機を使いこなせないやつを最初から作戦の頭には入れてはいない。ここで待機していろ」

 

千冬姉は束さんと箒の抗議を気にせずに言い返す。

 

「な、なら私を呼んだのですか!?」

 

「決まっているだろう。お前の性格からして勝手に出撃して混乱させるのがオチだ。そうならない為の監視だ」

 

「ぐっ………」

 

千冬姉に睨まれながら言われて箒は言葉に詰まる。こちらとしては箒が出ない方が成功率は上がりそうだ。すでに教師陣はバックアップをしようと行動している。

 

 

 

「ふう……思ったより早く出来ましたわ。ありがとうございます。簪さん、一夏さん」

 

俺達はセシリアのパッケージを量子変換を早く終わらせようと簪が手伝いを申し出た。

 

「ううん。たいした事ないよ」

 

「ほとんど簪が終わらせたんだ大したことないさ」

 

簪とセシリアだけではと思い、俺もサポートを願い出て一緒に作業する事にした。

 

「とりあえず作戦は立てられそうだな」

 

「うん。ぶっつけ本番よりはましかもね……」

 

「任されたのですから、しっかり準備はしておきましょう」

 

俺達は福音についてどうアプローチするかやサポートについて話し合う事にした。この特殊任務は成功させないとな………。

 

そうこうしている内に作戦時間が近付いて来て指定の場所に行こうとしたら。

 

「お前達、ここにいたか……」

 

その前に千冬がやって来たが様子がおかしい事に気付いた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「まずはお前達には謝らなけれならない………本当にすまない」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「急遽、作戦が変更になった」

 

「「「ええっ!?」」」

 

千冬姉の言葉に俺達は驚く。作戦変更って、まさか!?

 

「俺と篠ノ之さんでやるって事ですか?」

 

「そうだ……」

 

「そんな!?どうしてですか!」

 

セシリアは悲鳴に近い形で千冬姉に問い詰める。

 

「あのバカがやらかしたのだ……上層部を揺さぶって強引に作戦変更を余儀なくされた……」

 

「あのバカって、篠ノ之博士ですか?」

 

「そうだ………クッ!」

 

 

簪の言葉に千冬姉は頷き近くの壁をガンと殴った。内心怒りで一杯なのだろう……俺も怒りを感じている。

 

「せっかく作戦の準備をしてくれたのに振り回す形にしてしまった事は本当にすまない………申し訳ない」

 

そう言って俺達に頭を下げる千冬姉に誰も不満の声を出すのはいなかった。

 

――――――――――――

 

時刻は十一時半。砂浜で俺と箒は大きく距離を離して並んで立つ。

 

「………白式」

 

「いくぞ紅椿」

 

箒はこちらを見たが目を合わせるつもりはない。お互いにISアーマーを展開させた。

 

(何でこうなるんだか……)

 

隣の箒をちらりと見るとすでに浮かれていて、本当に不安しかない。

 

「どうした?緊張しているのか?安心しろ、私がちゃんとお前を運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

「………」

 

白々しい………そう言いたくなるがそこは堪えた。束さんにお膳立てされての任務同行される身になれよ!と怒りたくなる。

仕方ないので箒の背中に乗った。

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

ISのオープン・チャネルから千冬姉の声が聞こえる。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ』

 

「了解」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『そうだな。だが無理はするな。お前はその専用機を使い始めてから実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が出るとも限らない』

 

「わかりました。出来る範囲で支援をします」

 

出来る範囲ねえ……、箒はそう言うが浮わついた感じは抜けてはいない。

 

『――織斑、いや一夏』

 

「はい」

 

今し方使っていたオープン・チャネルではなくプライベート・チャネルに切り替わって千冬姉の声が聞こえた。

 

『どうも篠ノ之は浮かれているな。あんな状態では何かを仕損じるかもしれん。用心していけ』

 

「わかりました」

 

『それから、無理だと思ったら直ぐに引け。最悪、篠ノ之を盾か囮にしても構わん、無事に帰ってこい』

 

「教師がそんな事言っていいのかよ?」

 

『知るか。あのバカが勝手にやった事だ。それにあいつ(箒)に何かあれば助けるはずだ。問題ない』

 

「ああ、わかった」

 

それからまた千冬姉の声がオープンに切り替わり、号令をかけた。

 

『では、はじめ!』

 

――作戦開始。

 

箒は俺を背に乗せたまま、一気に上空三百メートルまで飛翔し、福音目掛けて加速した。

 

(………やるしか、ないな!)

 

相手が誰であれこのままではいけないよな。必ず成功させる。そう心の中で決意した。

 

――――――――――――

 

「はあ………」

 

別室で待機していた簪は待っている間。不安でため息がもれる。

 

「簪さん……」

 

「セシリア……一夏、大丈夫だよね……」

 

「不安要素はありますが……多分大丈夫だとおもいますわ」

 

「そう……」

 

セシリアの言葉に相槌をうつ簪。この部屋には簪とセシリアしかいない。

 

(一夏………無事に帰ってきて)

 

簪は不安で胸中穏やかではないがセシリアはその事に気付き、話し掛けて不安を少しでもまぎらわせようとしていた。

 

「さ、更識さん!オルコットさん!」

 

息をきらせた真耶が二人の前にやってきた。

 

「山田先生、どうなさいました?」

 

「お、織斑君が!織斑君が!」

 

「一夏がどうしたんですか?」

 

「先程の任務に失敗して織斑君は撃墜されました……」

 

「えっ……」

 

「そんな……」

 

真耶の言葉にセシリアはショックを受け、簪の表情はみるみる青ざめていく。

 

「そ、それで一夏さんの様子は?」

 

いち早くショックから立ち直ったセシリアは真耶に質問した。

 

「福音の攻撃を受けて大きなやけどを負って重症です……」

 

「………」

 

「簪さん!?」

 

ふらりと倒れそうなる簪を慌ててセシリアは抱き起こす。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「だ、大……丈……夫…」

 

セシリアの問いかけに簪は何とか返事をするがショックが大きくて受け入れられない状態だ。

 

特殊任務は失敗。織斑一夏の撃墜という大きな痛手を負ってしまうのだった。




一夏撃墜の戦闘は次話になります


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33話

お待たせしました。更新します。福音戦までいけませんでした……戦闘描写がムズいな……。


「……一夏……」

 

旅館の一室。壁の時計は四時前を指している。ベッドに横たわる一夏は、もう三時間以上も目覚めないままだった。

その傍らに控えている簪は、一夏の手を握りずっと目覚めるのを待ち続けている。

 

「簪さん……」

 

「かんちゃん……」

 

その簪の側で心配そうに彼女の様子を見詰めるセシリアと本音。本来なら本音は一般生徒であり、ここにいてはいけないのだが千冬が特別に許可をした。

 

「一夏………」

 

簪は呼び掛けるように一夏に呟いた。今にも目覚めて笑ってくれる訳ではなく。ただ力なく横たわっているだけだ。ISの防御機能を貫通して人体に届いた熱波に焼かれ、一夏の体の至る所に包帯が巻かれている。

 

(どうして……、どうしてなの……)

 

簪は箒に対する怒りが再び沸き上がっていた。先程、真耶から一夏の撃墜を告げられて一夏の容態をその目で確かめる為に逸る気持ちを抑えながら駆け付けると教師陣から引き揚げられて、項垂れている箒と大怪我を負った一夏を見て簪の怒りが爆発した。

 

「……貴女が!貴女がっ!!」

 

「ひっ……」

 

簪は箒の胸ぐらを掴み、拳を振り上げて殴ろうとしたが―

 

「更識!やめろ!!」

 

二人の間に入り、簪の拳を止めたのは何と千冬だった。

 

「止めないでください!」

 

「落ち着け、こいつを殴っても何も変わらん。冷静になれ!」

 

尚も箒を殴りかかろうとする簪を必死に止める千冬。本当なら千冬が真っ先に殴りたいが簪の怒りで冷静になれた。

 

「それでも!私はっ!」

 

「気持ちはわかる!それで織斑が元に戻る訳がないだろう!」

 

「―ですが!」

 

「作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自待機しろ。山田先生、篠ノ之を別室に連れていけ。そいつは次の招集まで謹慎処分にする」

 

「は、はいっ!わかりました」

 

真耶は千冬に言われて箒を連れていく。教師陣や他のメンバーが散り散りになり、一夏は治療の為すでにいない。そして残ったのは千冬と簪の二人だけになった。

 

「落ち着いたか?」

 

「千冬さん……」

 

「簪、すまないがお前は一夏のそばにいてくれ。私にはやる事がある、この意味はわかるな」

 

「はい……」

 

「頼んだぞ」

 

千冬は簪の肩をポンと叩き作戦室へ向かっていく、簪は涙を流して頭を下げ、そして一夏の元へ向かうのだった。

 

――――――――――――

 

「………」

 

ところ変わってIS学園。虚は廊下を歩いて生徒会室に戻るところである。しかし表情は暗い。

 

(まさか、一夏さんが……)

 

先程、放送で呼び出されて学園長室に向かい学園長から一夏の撃墜を聞かされた虚はショックを受けたが直ぐに立て直した。

 

(嫌な役回りを受けてしまいました……)

 

本当ならば楯無が呼び出されるはずだがこの事を聞かされればどうなるかわからない為、虚に伝達役を頼んだのだ。

 

(悩んでいても仕方ありませんね……)

 

こういう時の従者の立場と役回りに、内心嫌になるが逃げても変わらない為やるしかない。

 

ガチャ

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり虚ちゃん」

 

生徒会室に入ると書類とにらめっこしながら仕事をしている楯無が出迎える。

 

「お嬢様、大事なお話があります。落ち着いて聞いてください」

 

「ど、どうしたの?怖い顔してるけど何かあった?」

 

「一夏さんが……撃墜されました……」

 

「えっ……?」

 

虚の言葉に楯無は持っていたら書類を手放した。

 

「な、何で…どうして…?」

 

「先程、特殊任務を失敗し一夏さんは撃墜。大やけどを負う重症だそうです」

 

「そんな……嘘……」

 

虚の言葉にショックを受けて楯無の顔はみるみる青ざめていく、その表情から信じる事が出来ずにいた。

 

「っ!」

 

「お嬢様、何処へ行くのですか?」

 

生徒会室から出ようとしている楯無を虚は止める。

 

「決まってるでしょ!一夏君と簪ちゃんのところよ!」

 

「お嬢様、まだ招集の知らせは来ていません。それに残念ながらここから出る事は出来ません」

 

「どうして!?」

 

「先程、IS学園外から不穏な動きを感知したとの知らせを受けました。お嬢様には警戒してもらいたいと学園長からの通達です」

 

「そんな!?学園には教師達がいるのに何で!!」

 

「それが更識家の務めです。私情で放棄する事はこの学園を危険にさらし、一般生徒に被害が及びます。それをお嬢様は見捨てるのですか?」

 

「そ、それは……」

 

「どうしても行きたいのでしたら止めません。ですが一夏さん達のところに行けば、お嬢様は学園の護衛を放棄したとみなされますし。そのせいで一般生徒達に危害が加わればどう責任を取るおつもりですか?」

 

「そんな……ひどい……」

 

虚の言葉に楯無は力なく座り込んだ。

 

「そんな事言われたら……行けないじゃない……ううっ……」

 

苦しい選択肢を迫られてどうにも出来ずに楯無は泣き出した。

 

「どうして……どうして、私の大事な人達を助ける為に駆け付ける事が出来ないの?……どうして……」

 

「お嬢様……」

 

「これじゃ、何の為の“楯無”よ!私はこんなつもりで受け継いだ訳じゃないのよ!なのに……なのに……!」

 

床に手を着き、俯き出して泣くしか出来ない楯無。

 

(私は嫌な女ですね……本当はいかせてあげたいのですが……)

 

虚は楯無の姿に心が痛んだがしかし、この学園の護衛を疎かに出来ないのも事実だけにどうにも出来ない。虚は楯無に声を掛けようとした、その時―

 

〜♪〜♪

 

楯無の携帯から着信音が鳴り出す。

 

「………はい、更識です。………千冬さん!?」

 

手で涙を拭い携帯に出ると掛けた相手は千冬だった。

 

「……は、はい。私は大丈夫です……それよりも一夏君は!一夏君は大丈夫なんですか!?………そ、そうですか……はい、はい…わかりました。こちらは私がやります……ですから千冬さんは簪ちゃんと一夏君をお願いします………では、失礼します」

 

楯無は電話を切り、ほうと息を吐いた。

 

「お嬢様、千冬さんは何と言ってましたか?」

 

「一夏君は重症だけど命には別状はないって、学園はお前に任せるからこちらは私に任せろって言ってたわ」

 

「そうでしたか」

 

「私はやるべき事をやるわ。千冬さんを信じて帰りを待つ事にする」

 

そう口にする楯無、その瞳には強い意思が感じられる。

 

(千冬さん……ありがとうございます)

 

虚は千冬に感謝した。自分ではここまで励ます事が出来たかわからないからだ。

 

(お願いします。皆さんどうかご無事で)

 

虚は一夏達がIS学園に帰ってくる事を祈りつつ仕事を再開するのだった。

 

――――――――――――

 

「……ふう」

 

千冬は携帯をポケットにしまい一息ついた。

 

(やっぱり、動揺していたか……仕方ないか……)

 

千冬は学園から一夏撃墜の知らせを聞かされて動揺する事は確実だろうと考え、気持ちを落ち着かせようと楯無に連絡を入れたのが幸いした。

 

(……にしても)

 

千冬は白式と紅椿からの戦歴データを見詰めた。

 

――――――――――――

 

「見えたぞ、一夏!」

 

「!!」

 

ハイパーセンサーの視覚情報が自分の感覚の様に目標を映し出す。『銀の福音』はその名にふさわしく全身が銀色をしている。そして何より異質なのが、頭部から生えた一対の巨大な翼だ。本体同様銀色に輝くそれは、資料によると大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システムだそうだ。

 

「加速するぞ!目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」

 

「わかった!」

 

スラスターと展開装甲の出力をさらに上げる箒。その速度は凄まじく、高速で飛翔する福音との距離をぐんぐんと縮めていく。

 

「うおおおっ!」

 

俺は雪片を握りしめて瞬時加速を行い間合いを一気に詰める。

 

(決める!)

 

居合いの刃が銀の福音に触れる、その瞬間。

 

「何っ!?」

 

福音は、最高速度のままこちらに反転、後退の姿で身構えた。

 

(くっ、気付かれたか?だが押し切る!)

 

嫌な予感を感じさせつつも、自分の間合いだけに決めてしまおうと判断したが―

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘》、稼働開始」

 

オープン・チャネルから聞こえたのは抑揚のない機械音声だった。けれど、そこに明らかな『敵意』を感じた。

 

―だが、決めてみせる!

 

ぐりん、と。いきなり福音が体を一回転させ、俺の居合いを避けようとするが、その前に俺の太刀が福音を斬り裂いた。

 

「!?!?!?」

 

当たったと思っていたが福音はまだ動いている。

 

「浅かったか………」

 

どうやら福音はとっさにダメージを減らす様に動いたのだろう。ここまで精密な動きをするとは思わなかった。改めて軍事用のISの性能に驚くしかなかった。

 

「一夏!援護するぞ!」

 

俺の攻撃を見て、やれると思ったのか箒は俺を背中に乗せて再び福音にアタックする。

 

「ちっ……」

 

しかし、攻撃は当たるものの最小限のダメージしか与えていない上にこちらには限界が近付いてきている。

 

(このままじゃじり貧だな………)

 

福音は逃げているばかりではなく、攻撃をしてくるがこれもやっかいだ。当たれば一斉に爆ぜる上に速射速度がかなり速い………。

 

(そろそろヤバイな……退くか?)

 

俺と箒のエネルギーは減っているし、残り時間も少なくなっている。ここで無理はしない方がいい、やれるだけはやったと割り切ろうとした。

 

その時―

 

「なっ!?」

 

俺は白式からパイパーセンサーから伝えられた情報で海面を見ると―

 

「船!?何でこんな所に!」

 

そう、先生達が封鎖したはずなのに俺達の近くに船があった。まさか、密漁船か!?

 

「織斑先生、大変です!」

 

俺は素早く千冬姉に通信を繋いだ。

 

『どうした?何があった?』

 

「非常事態です。俺達の近くに船がいます」

 

『何だと!?海上は教師達が封鎖してたはずだぞ!』

 

「わかりません。恐らくは密漁船かと思われます」

 

『くっ……作戦は中止だ。お前達は密漁船を護衛しろ。今、教師達を向かわせる』

 

「わかりました」

 

千冬姉の指示に従い俺は密漁船に向かうが―。

 

「はあああっ!」

 

「なっ!?」

 

千冬姉の指示に従わずに箒は二刀流を繰り出して、福音に斬りかかる。

 

「何してるんだ!千冬姉の指示を聞いてなかったのかよ!?」

 

「うるさい!そんな犯罪者など放っておけばいい!」

 

俺は箒に向かってそう叫ぶが箒は耳を貸さない。

 

「アホか!ちゃんと指示に従え!さっさと戻ってこい!」

 

「ふん!一夏はここで見ていろ!福音は私がやる!」

 

俺の言葉を振り切り、箒は福音に猛攻を仕掛けていく。

 

「La……!」

 

福音も紅椿の攻撃に防御し出したが徐々にかわしだした。

 

「くそっ!なぜ当たらない!?」

 

箒は福音に避けられ続けてイライラし出した。いくら機体の性能が良くても操縦者が良くなければ宝の持ち腐れだ。

 

「だあっ!くそっ!」

 

しかも、その余波がこっちにやってくる。福音から出される光弾をかき消したり腕や脚の装甲で受けたりして密漁船を守っていた。

 

「このままじゃ、もたねえ………」

 

すでにエネルギー切れに近い状態になりつつありこれ以上喰らえば確実にヤバイ。密漁船に逃げる様に指示を出してもこの状態ではさすがに無理だ。

 

「ぐあっ!」

 

箒の苦痛の声で顔を向けると福音の攻撃を喰らい吹き飛ばされる紅椿だった。

 

「嘘だろ……」

 

吹き飛ばされた先は密漁船、当たれば無事では済まない。

 

「La……!」

 

しかも、最悪な事に福音は箒にとどめを刺そうと一斉射撃開始し、発射した。

 

「間に合えぇぇぇっ!!」

 

俺は瞬間加速を使い、一直線に箒へと向かう。このままでは密漁船と箒が危ない上に無事では済まない事はわかっていた。だがここで見殺しにする訳にはいかない。

 

「うおおおっ!!」

 

俺は勢いのまま箒を蹴飛ばして福音と密漁船の間に入った。

 

「ぐあああっ!!」

 

咄嗟に腕をクロスして顔を守ったがそれも無意味だった。爆発光弾が一斉に俺の全身に降り注いだ。エネルギーシールドで相殺仕切れない程の衝撃が何十発と続き、ミシミシと骨があげる軋みが聞こえる。同様に悲鳴を上げる筋肉、アーマーが破壊され、熱波で肌が焼けていく。

 

(密漁船は無事か……何とか守れたな……)

 

気が狂いそうな激痛を受けながら無傷で逃げていく密漁船を見て、思わず笑みがこぼれる。

 

「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」

 

泣きながら俺にやってくる箒を見て、ぐらりと世界が傾く。

 

――はは、もう限界か……。恨みますよ束さん……

 

海へ真っ逆さまに落ちていく中、俺はこんなふざけた作戦を立てた束さんに悪態つきつつ、気を失った。

 

――――――――――――

 

ダン!

 

千冬は戦歴データを何度も見返してテーブルを叩いた。

 

(………ふざけた事を!)

 

千冬は怒りに震えていた。密漁船に気付かずに作戦区域に侵入を許した教師達、自分の指示に従わずに勝手な行動を取った箒、そしてこんな状況で何も出来ない自分自身に腹が立っていた。

 

(………こんな時に“暮桜”があれば……)

 

千冬はかつての愛機を思い返すが、とある事情で使用出来ない。かと言って自分が出て指揮を放棄する訳にはいかない。

 

(一夏……すまない)

 

千冬はグッと拳を握りしめて自分の弟に謝る。こんな事態を起こした事を悔いるしか出来なかったが――。

 

「お、おお、織斑先生!織斑先生!」

 

「どうした?山田先生」

 

「た、大変です!篠ノ之さん達が―」

 

そんな時間すら嘲笑うかのように慌ててやって来た真耶の知らせで再び千冬は頭を悩ます事になる。

 

――――――――――――

 

「……一夏………」

 

 

簪はいつ目覚めるか知らずに手を握り、一夏に呼び掛けている。隣には食事を用意していたが一切手を着けずにいたままである。

 

「「…………」」

 

そんな簪の様子を見ながら、何も出来ずに見守るしか出来ない本音とセシリア。

ついさっき、教師達が持ってきた食事を食べていたが、簪が何も食べずに一夏に寄り添う姿に全く味気すら感じなかった。しかし、セシリアはいつ来るかわからない招集の為に備えて万全にしていた。

 

「オルコット!いるか!?」

 

戸を開けると同時にやって来たのは千冬だ。

 

「織斑先生、どうなさいました?」

 

「すまないが緊急事態だ。直ちに出撃してくれ」

 

「な、何があったんですか?」

 

千冬の表情と出撃命令に思わずセシリアの表情は強張った。

 

「先程、篠ノ之、凰、デュノア、ボーデヴィッヒが無断で出撃したのだ」

 

「ええっ!?一体何があったんですか?」

 

「わからん。恐らくは織斑の敵討ちて意気込んで独自行動をとったのかもしれん」

 

「何を考えてますの、あの方達は………」

 

千冬から聞かせられた理由にセシリアは呆れてしまう。いくら勇ましい行動でも自分達の今の立場からすればただでは済まないポジションだと言う事を無視したのだから思わずため息が出てしまう。

 

「だから、オルコットにはアイツらを連れ戻して欲しい。可能ならば福音を撃墜しても構わんが、命令違反組を連れ戻す事を最優先にして欲しい」

 

「わかりました。セシリア・オルコット、任務開始します」

 

千冬に向かって力強く宣言して任務に向かおうとしたが―。

 

「………待って!私も行きます!」

 

そんなセシリアを止めようと待ったを掛ける簪。

 

「簪さん……」

 

「更識………」

 

「織斑先生、セシリア一人ではこの任務は大変です。私も一緒に行かせてください!」

 

簪は千冬の前に立ち、同行の許可を取るべく向き合う

 

「たが、お前は……」

 

「大丈夫です。私も代表候補生覚悟は出来ています」

 

千冬は一夏の事で不安になっている心情を察して、同行を渋るが簪は力強い瞳で千冬を見詰める。

 

(……これ以上は無理か……)

 

簪の表情から説得しても無理だと千冬はわかった。彼女も更識家の人間、纏うものが変わったのを肌で感じた。

 

「わかった。オルコット、更識の二人で命令違反組を連れ戻して貰う。それでいいな?」

 

「「はい!」」

 

「よし!ではいくぞ」

 

そう言い、千冬は先に部屋を出ていった。

 

「かんちゃん」

 

「本音、一夏をお願い」

 

「うん。わかった」

 

「じゃあ、行ってくるね一夏」

 

簪はそう言い一夏にキスして、素早く用意していた食事を平らげて部屋を後にした。

 

(一夏さん……)

 

セシリアも続いて部屋を出ようとしたが一度足を止めた。

 

(わたくしが簪さんをお守りしますわ。ですから一夏さんは早く目を覚まして安心させてください)

 

セシリアはそう心の中で言い、二人の後を追っていくのだった。

 

――――――――――――

 

ざぁ……。ざぁぁん……。

 

(ここは……?)

 

遠くから聞こえる波の音に誘われるまま、俺はどこともつかぬ砂浜の上を一人歩いていた。足を進めるたび、さく、さく、と足下の白砂が澄んだ音を立てる。

足の裏に直接感じる砂の感触と熱気。海から届く潮の匂いと波の音。それに心地よい涼風と、じりじりと照りつける太陽。

 

(夏………なのか?今は……)

 

ここがどこで、今がいつなのかわからない。

俺は何故か制服を着ていて、そのズボンの裾を折り返した状態で素足のまま砂浜を歩いていた。手には、いつ脱いだのか靴がある。

 

「――。―――♪〜♪」

 

ふと、歌声が聞こえた。とてもきれいで、とても元気な、その歌声。俺は無性に気になって、声の方へと足を進める。

 

さくさく。さくさくと。足下の砂が軽快に鳴る。

 

「ラ、ラ〜♪ラララ♪」

 

少女は、そこにいた。波打ち際、わずかにつま先を濡らしながら、その子は踊るように歌い、謡うように躍る。その度に揺れる白い髪。輝き、眩いほどの白色。それと同じワンピースが、風に撫でられて時折ふわりと膨らんでは舞った。

 

(ふむ………)

 

俺は何故だか声をかけようとは思わず、近くにあった流木へと腰を下ろす。その木はずいぶん前に打ち上げられたのか、樹皮は剥げ落ち、色も真っ白になっていた。白いいびつなソファーに座って、俺はぼーっと少女を見つめた。

ざあざあと波の音が聞こえる。時折吹く風は心地よくて、俺はただただぼんやりと目の前の光景を眺めた。

 

(あれ?何かあったっけな…………?)

 

俺は何故ここにいるのか?あの後どうなったのか?を思い出す事が出来ずにただただ少女の歌と踊りに見いられていた。




次話は福音戦、長くなるかな?


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34話

お待たせしました。8月最初の更新です。暑さとの戦いでダウンしながらも頑張っていきます。


千冬の出撃命令を受けた簪とセシリアは福音と命令違反組が交戦している場所に向かって飛んでいた。

 

「簪さん、そろそろですわ」

 

「うん、わかった」

 

箒達が福音と交戦しているであろうポイントが近付いて来てセシリアが簪に声をかけた。そして目の前に福音が確認出来た。

 

「ぐっ、うっ……!」

 

 

ぎりぎりと福音に首を締め上げられている箒の姿を見付けた。他の専用機達の姿が見えない、おそらくは撃墜されたのであろう……。

 

「セシリア」

 

「ええ」

 

二人は春雷とスターライトを展開、目の前のターゲットに照準を合わせる。

 

「準備はいい?」

 

「もちろんですわ」

 

「では、作戦開始!」

 

簪は号令をかけ、二人は福音目掛けてトリガーを引き攻撃を開始した。

 

――――――――――――

 

ざあ、ざあん……。

さざ波の音を聞きながら、俺は飽きもせず女の子を眺めていた。その歌は、踊りは、何故だか俺をひどく懐かしい気持ちにさせる。

 

(……あれ?)

 

ところが、ふと気が付くと少女の歌は終わっていた。踊りもやめて、少女はじぃっと空を見詰めている。

俺は不思議に思って、座っていた木から離れて少女の隣へと向かう。ざあ、ざあ、と。波打ち際までやって来た俺を、涼しい水の調べが濡らす。

 

「どうかしたのか?」

 

声をかけるが、少女はまだじぃっと空を見詰めたまま動かない。俺も何と無く空を眺めると、ふと少女の声が耳に届いた。

 

「呼んでる……行かなきゃ」

 

「え?」

 

隣に視線を戻すと、もうそこには少女の姿はなかった。

 

――あれ?

 

キョロキョロと左右を見るが、もう人影は見当たらない。歌も、聞こえない。ざあざあと、ざあざあと。波の音だけが。

 

「うーん………」

 

俺は仕方なく木のソファーに戻ろうと体を反転させる。すると――背中に声を投げ掛けられた。

 

「力を欲しますか……?」

 

「え……」

 

急いで振り向くと、波の中――膝下までを海に沈めた女性が立っていた。その姿は、白く輝く甲冑を身に纏った騎士さながらの格好だった。大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を預けている。その顔は目を覆うガードに隠されて、下半分しか見えない。

 

「力を欲しますか……?何の為に……」

 

「力、ねえ……ん―……」

 

ざあ、ざあん、と。波だけが俺と女性の間にある。

 

「……そうだな。仲間を、大事な人達を守る為かな」

 

「大事な人達を……」

 

「そう、俺の愛しい人達。まあ、世の中って結構色々と戦わないといけないだろ?単純な腕力だけじゃなくて、色んな事でさ」

 

俺は簪、刀奈さんという大事な人達が出来てより一層二人を守れる力が欲しいと思っていた。

 

「そういう時に、ほら、不条理な事や、道理のない暴力から二人を助けたいし、もちろん家族や仲間と一緒に助け合って戦うんだ。いつか皆で幸せになる為に」

 

「そう……」

 

女性は、静かに答えて頷いた。

 

「だったら、行かなきゃね」

 

「えっ?」

 

また後ろから声を掛けられる。振り向くと、白いワンピースの女の子が立っていた。人懐っこい笑み。無邪気そうな顔で、じぃっと俺を見詰めている。

 

「ほら、ね?」

 

手を取られて、ニコリと微笑みかけられる。俺はひどく照れくさい気持ちになりながら、

 

「ああ」

 

と頷いた。すると、いきなり変化が訪れた。

 

「な、なんだ?」

 

――空が、世界が、眩いほどに輝きを放ち始める。その真っ白な光に抱かれて、目の前の光景が徐々に遠くぼやけていく。夢の終わり、なんて言葉がふいに浮かんだ。

 

(ああ、そういえば……)

 

あの女性は、誰かに似ていた。

 

白い――騎士の女性。

 

――――――――――――

 

「ん………」

 

ゆっくりと目を開けて目の前の光景に思わず。知らない天井だ……と呟いてしまいそうになるが俺は体を起こした。

 

「ここは……えっと……」

 

「……いっちー?いっちー―――!!」

 

「わぷっ!?」

 

俺はどうにか思いだそうとしていたところを誰かに抱き着かれた。

 

「ほ、本音?」

 

「良かった〜心配したんだよ〜」

 

本音は俺を抱き締めながら嬉しそうにそう言ってくるが目が潤んでいる。

 

「えっと、俺は確か船を守る為に盾になって、それから……あっ!?」

 

「いっちー?」

 

「本音。あれからどうなったんだ!?」

 

俺はふと思い出して、目の前の本音の肩を掴んで問い掛ける。

 

「ごめん……私には何も……」

 

「そうか……」

 

何か知ってるであろうと考えて聞いてみたが本音は生徒会メンバーとはいえ、一般生徒だ。詳しい内容を聞いている訳ではないか………。

 

「ただね……」

 

「ただ?」

 

「かんちゃんとセッシーがさっき出撃していったよ」

 

「何だって!?」

 

本音の話を聞いて、俺は思わず声をあげた。

 

「ま、まさか追撃命令が出たのか?」

 

「ううん、ちょっと違うみたい……」

 

「ちょっと違う?」

 

「うん。さっき千冬さんがちょっと怒った様子でやって来てセッシーに出撃命令を言って来て。それをかんちゃんが名乗り出て一緒に出撃していったよ」

 

「そうか……」

 

簪が名乗り出たのであれば、恐らくは福音を撃墜するのだと考えた。まさか俺の為にか………そう考えると嫌な胸騒ぎがする。

 

「わかった。ありがとう本音、俺も今すぐしゅ―」

 

「待っていっちー!」

 

立ち上がり、部屋から出ようとした俺の腕を取り本音が止めてくる。

 

「どうした?」

 

「無断で出撃しちゃダメだよ。千冬さんに怒られるよ」

 

「うっ……」

 

「それに出撃するにしても場所わかるの?ただやみくもに探してたらエネルギーが無くなるよ」

 

「た、確かに……」

 

本音の指摘に俺は冷静になった、このまま無断出撃したら千冬姉に怒られるのはもちろんだが交戦場所がわからないままで探しても効率が悪い。最悪エネルギーが無いままで福音と戦う事になれば足手まといだ。

 

「ありがとう本音。とりあえず千冬姉の所に行ってみる」

 

「うん。かんちゃんを安心させてあげて」

 

「ああ、もちろんだ」

 

本音にそう返して俺は部屋を後にした。

 

「頑張ってね、いっちー!」

 

背後から本音の応援する声に手を上げて応えた。

 

――――――――――――

 

バン!

 

「織斑先生!」

 

俺は千冬姉達がいるであろう作戦室にたどり着き戸を開けた。

 

「お、織斑!?」

 

「織斑君!?」

 

千冬姉と山田先生は俺の姿を見て、驚いた顔をしていたが構っている訳にはいかない。

 

「すいません、今の状況を教えてください!」

 

俺は千冬姉達から、近況を教えて貰おうと頭を下げた。

 

「……お前が撃墜された後篠ノ之、凰、デュノア、ボーデヴィッヒが無断で出撃していった」

 

「はあっ!?」

 

「そいつらを連れ戻す為に更識とオルコットに出撃してもらったのだ」

 

「マジかよ……」

 

千冬姉の説明に思わずそう呟く。箒達が無断で出撃したのを連れ戻すって言ってもあの二人………箒と鈴は言うこと聞かなさそうだよな……多分いや、正直不安しかないな……まさか、連れ戻すなんて事は考えずに簪は福音を撃墜するつもりなんじゃ………。

 

「織斑先生、お願いがあります」

 

「何だ?」

 

「俺に出撃命令をください!」

 

「ええっ!?無理ですよ!織斑君は大怪我を負ってたじゃないですか!許可出来ません!」

 

山田先生が驚いた顔をして出撃に反対した。やっぱりそうなるよな………。

 

「俺は大丈夫です!出撃出来ます!」

 

「で、ですが……」

 

「……織斑、出来るのか?」

 

なおも俺を引き止めようと渋る山田先生に対して千冬は静かにそう言った。

 

「織斑先生!?」

 

「はい、出来ます!」

 

「織斑……いや、一夏」

 

千冬姉はゆっくりと俺の元に近付いてきた。

 

「なあ、本当に大丈夫か?本当に大丈夫か?本当に大丈夫か?」

 

千冬姉は俺の両肩をグッと掴み真剣な眼差しを向けて問い掛けてきた。だが千冬姉の瞳から不安と心配が伺える。

ここは重要だな……もしこれで目を背けたり顔を反らしたら、そのまま待機させられる……それだけは絶対に避けたい。

 

「はい、大丈夫です!いけます!」

 

「………わかった。出撃を許可しよう」

 

「織斑先生!?いいんですか!」

 

「私は織斑の意志を尊重した。それを信じる」

 

「ありがとうございます」

 

千冬姉の決断に俺は感謝した。

 

「ただし、無理はするな。危ないと思ったら、更識とオルコットを連れて無事に逃げ帰ってこい」

 

「はい!」

 

「それと、これを持っていけ」

 

千冬姉は俺に四角い何かを手渡した。

 

「これは?」

 

「お前達の専用機のエネルギーと弾薬と武装を補給するパックだ。急だから3つしか用意出来なかったが使え」

 

「ありがとうございます」

 

「蒼色はオルコット、灰色は更識のだ間違えるなよ。後、場所はお前のISに送った確認しておけ」

 

「わかりました。織斑一夏出撃します!」

 

俺は千冬姉達に深々と頭を下げて部屋を後にした。

 

「えっと、場所は……あれ?」

 

海に向かう途中白式を確認すると見慣れない武装が着いていた。

 

「これが俺の新しい力か……」

 

さっきの夢がそうさせたかわからないが今の状況からして正直ありがたい。

 

「よし、待っててくれ簪!セシリア!」

 

俺はそう言って白式・雪羅を纏い。福音のいる場所に向かった。

 

――――――――――――

 

「……ゲホッ…ゲホッ…」

 

「とりあえず無事みたい……」

 

「そうですわね……」

 

簪とセシリアの攻撃を受けて福音は箒を掴んでいた手を離す。福音の手から解放された箒は咳き込んでいた。

 

「お〜ま〜え〜ら〜」

 

「「ん?」」

 

「今、私ごと狙って撃ったたな!!」

 

助けられたのに怒り心頭で二人に詰め寄る箒。

 

「「さあ?」」

 

「とぼけるな!私は見てたぞ!」

 

「気のせいだよ……」

 

「気のせいですわ……」

 

「私の目を見て言え!」

 

あからさまに顔を反らして言う簪とセシリアに怒鳴る箒。

 

「そう言われましてもわたくし達は織斑先生から箒さん達を連れて帰れと命令されてますし」

 

「言っても頑固だから全く聞いてくれなさそうだし、無理なら撃墜して連れて帰ろうかと考えてた」

 

「ちょっと待て!私達の扱いがひどくないか!?」

 

「仕方がないじゃないですか、元々貴女達が命令無視して出撃している時点で扱いが悪くなるのは当たり前です」

 

「それにどんな形であれ、貴女達を連れて帰るのが目的だから撃墜されてる状況を想定されてもおかしくないし問題ない」

 

「ぐっ……」

 

セシリアと簪の言葉に箒は反論出来ない。

 

「ところで他の専用機達はどうしたの?」

 

「説明していただけますか」

 

「わ、わかった……」

 

箒は簪とセシリアにここまでの事情を話した。

先程の任務に失敗して落ち込んでいる所に鈴がやって来て叱咤、激をとばして一夏の敵討ちを決意。そこへラウラとシャルロットが現れて作戦を計画、場所はラウラが予め探っていた。

そして四人は福音の場所を襲撃して見事撃退し、海に墜ちていったが何と福音は『第二形態移行(セカンド・シフト)』を行い圧倒的な戦力になすすべもなく次々と撃墜されて最後に箒が残った形だ。

 

「貴女達は一体何をしてますの……」

 

「なっ!?そんな言い方はないだろう!」

 

説明を聞いてジト目で見るセシリアと簪に対して納得がいかないと言わんばかりの態度をとる箒。

 

「これじゃ、逃げると言う選択肢がなくなったね……」

 

「ええ、ここで上手く逃げたとしても福音がわたくし達を追いかけられでもしたら、旅館に到達して襲撃されてしまいますわ………」

 

簪とセシリアは最悪な事態を想定して表情を曇らせた。まさか、ここまで良くない事態に進んでいるとは思ってもいなかった。

 

「この状況は流石に厳しいですわ……」

 

「うん。やりにくいね……」

 

目の前の福音に対してどうするか悩む簪とセシリア。

 

「…………」

 

だが福音はそんな様子などお構い無しにこちらに向かってきて身構える。

 

とそこへ―

 

「おおおおっ!」

 

『!?』

 

突然、福音は何かの衝撃を受けて吹き飛んでいく。

 

「どうやら、間に合ったな………」

 

福音を吹き飛ばしたのは白式を纏った一夏だった。

 

 

 

「一夏っ、一夏なのだな!?「「一夏(さん)!!」」………おわぁ!?」

 

俺の元にやって来ようとした箒を吹き飛ばして、やって来る簪とセシリア。

 

「すまない。二人共心配かけた……」

 

「本当ですわ……簪さんが一番心配していましたわ」

 

「簪、ゴメンな……迷惑掛けちまって」

 

「ううん。私は一夏が目を覚ましてくれた事が嬉しい……」

 

俺の姿を見て、涙ぐむ簪にそっと優しく頭を撫でてやる。

 

「感動の時間は後で、とりあえずは福音を落とそう」

 

「うん」

 

「ええ」

 

「最初の時に話した作戦でいくぞ!」

 

「「了解!」」

 

「それじゃ――再戦と行くか!」

 

雪片を手に、俺は正面から福音に斬りかかっていった。

 

「私はのけ者か……のけ者なのか………」

 

遠くから箒の呟きが聞こえたが目の前に集中する事にした。

 

「一夏さん!私と簪さんが隙をつくります」

 

スタ―ライトとビットを駆使して福音を攻撃するセシリア。

 

「一夏は一撃で倒す事に集中して!」

 

同じく山嵐と春雷を駆使して福音に攻撃する簪。

 

俺達は作戦変更前に考えていたのは一撃で決められない場合、全方位攻撃がかなり厄介である事がわかっていたので簪、セシリアの攻撃で牽制して隙を作りながら俺が決めるというシンプルな作戦だ。

 

「逃さねえ!」

 

俺は《雪羅》を展開、エネルギー刃クローで斬り、追撃で雪片で斬りつける。

シールドエネルギーに阻まれていたが、ダメージを与える事は出来ている。

 

『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』

 

エネルギー翼を大きく広げ、さらに胴体から生えた翼を伸ばす。そして次の回避の後、福音の掃射反撃が始まった。

 

「そう何度も食らうかよ!」

 

俺は避けようとはせず、左手を構えて前へと飛ぶ。

 

――雪羅、シールドモードへ切り替え。相殺防御開始。キンッ!という甲高い音を鳴らして、左腕の雪羅が変形する。それから光の膜が広がって、福音の弾雨を消していく。

 

「うおおおっ!」

 

強化され、大型四機のウイングスラスターが備わった白式・雪羅は、二段階瞬時加速を可能にしている。複雑な動きをする福音も、最高速での回避が可能な訳ではないのだから、これで十分追い付ける。

 

『状況変化。最大攻撃力を使用する』

 

福音の機械音声がそう告げると、それまでしならせていた翼を自身へと巻き付け始める。それはすぐに球状になって、エネルギーの繭にくるまれた状態へと変わった。

 

――まずい。嫌な予感がする。

 

それは、最悪な事に的中した。翼が回転しながら一斉に開き、全方位に対して嵐のようなエネルギーの弾雨を降らせる。

 

(くっ!守りきれるか――!?)

 

俺は直ぐ様、後ろの二人の盾に走ろうとするが、それを大声で蹴飛ばされる。

 

「一夏さん!心配はご無用ですわ!」

 

「一夏は福音を倒す事に集中して!」

 

「簪…セシリア…わかった!」

 

仲間と恋人を信じる。今の俺にはそれしかない。けれども、不安よりも安心感があるからどこまでも信じて前にいける。俺は雪片と雪羅を手に再度福音へと飛び込んだ。

 

――――――――――――

 

(一夏が駆け付けてくれた……!)

 

それはもう、嬉しいを飛び越えていた。心が躍動する。熱を持って、跳ねる。そして戦う一夏の姿を見て、何よりも強く願った。

 

(私は、共に戦いたい。あの背中を守りたい!)

 

強く、強く願った。そして、その願いに応えるように、紅椿の展開装甲から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出す。

 

「これは……!?」

 

ハイパーセンサーからの情報で、機体のエネルギーが急激に回復していくのがわかる。

 

――『絢爛舞踏』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築……完了。項目に書かれているのはワンオフ・アビリティーの文字だった。

 

(まだ、戦えるのだな?ならば、行くぞ!紅椿!)

 

赤い光に黄金の輝きを得た真紅の機体は、夕暮れの空を裂くように駆けた。

 

――――――――――――

 

「ぜらあああっ!!」

 

零落白夜の光刃がエネルギー翼を断つ。しかし、両方の翼を斬るのは至難の業で、またしても二撃目を回避されてしまう。そうしている間に失った翼は再度構築されて、こちらへと強力無比な連続射撃を行ってきた。

 

「くっ!」

 

――エネルギー残量20%予測稼働時間、3分。

 

(くそっ!このままじゃ……)

 

リミッター無しの軍用ISがどれほどのエネルギーを持っているのか、見当もつかない。対して自分の機体は稼働限界が近付いている。それは焦燥へと変わって、じわじわと俺の心を焼いていく。

 

(どうする……千冬姉から貰ったパックを使うか……?)

 

ここで使うべきか否かを判断に迫られていた。

 

「一夏!」

 

「篠ノ之さん!?何か用か?」

 

「いいから!それよりも、これを受け取れ!」

 

箒の――紅椿の手が、俺の白式の手に触れる。いきなり手を触られて条件反射で身構えしまった………。

 

「……何かあるのか?何にも起こらないぞ?」

 

「何だと!?そんなバカな!」

 

箒の紅椿から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出してはいるが俺の白式に何の変化が無い為そう告げた。

 

「そんなバカな!『絢爛舞踏!』、『絢爛舞踏』!」

 

俺の言葉が信じられないのか手をギュッと握りながら叫ぶが特に変わった様子は………なかった。

 

「箒さん!何をふざけていますの!?」

 

「邪魔するなら離れて!」

 

箒の行動は妨害と感じたのか、セシリアと簪は批難気味に叫ぶ。

 

「ふ、ふざけてはいない!私は一夏のエネルギーを回復しようとして……」

 

「それで一夏の手を握る必要あるの?」

 

「ええい!これでどうだ!」

 

簪のジト目を嫌ったのか俺は諦めて簪とセシリアに触れた。

 

「あ、あら?エネルギーが回復してますわ!」

 

「本当だ。私のも回復してる」

 

セシリアと簪のISのエネルギーが回復していく。

 

「ほら、どうだ。私の言った事は間違ってないだろう!」

 

「でも一夏のは回復してないよね……」

 

「くっ……」

 

「もしかしたら一夏さんの機体だけ対象外っていうオチではないのですか?」

 

「………冷やかしか嫌がらせなら邪魔しない距離まで離れてくれないか?」

 

「そんな………」

 

俺の言葉にショックを受けてガックリと肩を落とす箒。

 

「とりあえず一夏、私のエネルギー少し分けてあげるね」

 

「わたくしも少しお分けしますわ」

 

「ありがとう。助かる」

 

箒が回復したエネルギーを二人が仲良く分けてくれてこちらはやり易くなったな。

 

「さあ、決着をつけるぞ!」

 

意識を集中させ、雪片を握る手が力が入る。

 

「うおおおっ!」

 

福音は俺の横薙ぎを縦軸一回転して回避、こちらを再び視界に捉えると同時に光の翼を向けてくる。――かかった!

 

「簪!セシリア!」

 

「任せて!」

 

「お任せください!」

 

俺の方に向けられた翼を、ブルー・ティアーズのレーザーと打鉄弐式の荷電粒子砲で破壊する。

 

「絶対に逃がさねえ!」

 

急加速で福音の懐に入り、その勢いのまま回し蹴りを食らわせる。予想外の攻撃に大きく姿勢を崩した福音を、俺は下から上へと返す刃で光翼をかき消した。そして、最後の攻撃を繰り出そうとする俺に、福音は体から生えた翼全てで一斉射撃を行ってきた。

 

(ここまで来たら、後は決めるのみ!)

 

エネルギー弾をギリギリかわしながら、俺は福音の胴体へと零落白夜の刃を突き立てた。

 

「おおおおおっ!!」

 

エネルギー刃特有の手応えを感じながら、さらに俺は全ブースターを最大出力まで上げた。押されながらも、俺の首へと手を伸ばす福音。その指先が喉笛に食い込んだ所で、銀色のISはやっと動きを停止さた。

 

「お、終わったか……?」

 

アーマーを失い、スーツだけの状態になった操縦者が海へと墜ちていく。

 

「しまっ――!?」

 

俺はとっさに手を伸ばそうとしたが下から鈴がキャッチしたので大丈夫だ。

どうやら、撃墜されたダメージが回復したみたいだ近くにシャルロットとラウラがいる。

 

「終わったね」

 

「ああ……。やっと、な」

 

俺と簪は肩を並べて、空を見た。あれほどまでの青さを誇った空はもうすでになく、夕闇の朱色に世界は優しく包まれていた。

 

 

 

ザシュ!!

 

「えっ………」

 

ホッとしていた所に突然、何か鈍い音がしたのでそちらを見ると

 

「な………っ!?」

 

俺の目の前には所属不明のISが簪の背後から刃を突き刺している胸を貫通している光景だった。目の前の事が理解出来ずに信じられなかった。

 

「か、簪ぃぃ――――っ!!」

 

 

 

 

戦いは……まだ、終わらない………。




3巻の内容は後2、3話くらいで終わるかな?


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35話

皆さんお久しぶりです。
1ヶ月とちょっとぶりに更新です。

今まで、仕事と身内の不幸でバタバタしていてましてここまでかかってしまいました。

なのでちょっと半端な所で終わってしまいました。

ではどうぞ


「簪から離れろぉぉ―ーっ!!」

 

俺は簪を助けようと急接近して所属不明のIS目掛けて雪片を振り下ろす。

 

「…………」

 

所属不明のISは簪から刃を引き抜き、俺の攻撃をかわす。簪はアーマーを強制解除され、ISスーツのまま海へ落ちていく。

 

「くっ……!」

 

俺は簪を助けようと向かおうとしたが所属不明のISが立ち塞がった。

 

「そこをどけえぇぇ―――っ!!」

 

立ち塞がる所属不明のISを振り払おうとするがかわされて反撃してくる。

 

「ちっ……くそぉ!」

 

俺は反撃をかわしながら、何とか簪の元に向かいたいが所属不明のISはそれを阻止しようとしてくる。

 

(簪……!)

 

白式のハイパーセンサーからパシャンという音を立てて海に沈んでいくのがわかり、俺は焦りだした。このままではマズイ!刺された所はわからないがこのまま沈んでいけばいくらISでも助けられない深さに沈めば命はない………。

 

「お前、何者だよ!?」

 

「……………」

 

所属不明のISはこちらの呼び掛けには答えない。目的は何だ!?何故、簪が狙われなければならない!?しかも、今まで何処にいたんだ!?今の状況よりも簪の事が気になってしまい焦りがマトモな思考を奪う。

 

「くっ………」

 

俺は再び簪を助けようと海に向かうが案の定、所属不明のISが立ち塞がる。

そこまでして俺の邪魔したのかよ!自然と雪片を握る手が強くなる。

 

「………!?」

 

そんな俺の背後からレーザーが飛び交い、所属不明のISを怯ませる。

 

「一夏さん!」

 

「セシリア!どうしてここに!?」

 

セシリアが俺の所にやってきた。どうやらレーザーを撃ったのはセシリアのようだ。

 

「話は後です。わたくしが敵ISの相手をしますわ。一夏さんは簪さんをお願いします」

 

「わかった。セシリア頼む!」

 

「ええ、任せてください」

 

セシリアはスターライトを手に所属不明のISに目掛けて撃ち、レーザーの雨が俺の邪魔をしないように牽制していく。

 

(待っててくれ簪!)

 

セシリアの助けもあり俺は瞬時加速を使い海に向かいそして―

 

バシャン!!

 

そのまま簪が沈んでいく海に飛び込んだ。

 

――――――――――――

 

ざぁ……。ざぁぁん……。

 

(ここは……?)

 

遠くから聞こえる波の音に誘われるまま、簪はどこともつかぬ砂浜の上を一人歩いていた。足を進めるたび、さく、さく、と足下の白砂が澄んだ音を立てる。

足の裏に直接感じる砂の感触と熱気。海から届く潮の匂いと波の音。それに心地よい涼風と、じりじりと照りつける太陽。

 

(ここは……どこ……?)

 

ここがどこで、今がいつなのかわからない。

簪はさっきまでISスーツだったが何故か制服を着ていて、素足のまま砂浜を歩いている。手には、いつ脱いだのか靴がある。

 

「――。―――♪〜♪」

 

ふと、歌声が聞こえた。とてもきれいで、とても元気な、その歌声。簪は無性に気になって、声の方へと足を進める。

 

さくさく。さくさくと。足下の砂が軽快に鳴る。

 

「ラ、ラ〜♪ラララ♪」

 

少女は、そこにいた。波打ち際、わずかにつま先を濡らしながら、その子は踊るように歌い、謡うように躍る。その度に揺れる白い髪。輝き、眩いほどの白色。それと同じワンピースが、風に撫でられて時折ふわりと膨らんでは舞った。

 

(えっと………)

 

簪は声をかけようとは思ったが歌声に惹かれてやめると近くにあった流木へと腰を下ろす。その木はずいぶん前に打ち上げられたのか、樹皮は剥げ落ち、色も真っ白になっていた。白いいびつなソファーに座って、簪はぼーっと少女を見つめた。

ざあざあと波の音が聞こえる。時折吹く風は心地よく、簪はただただぼんやりと目の前の光景を眺めた。

 

(あれ?何かあったのかな…………?)

 

簪は何故ここにいるのか?あの後どうなったのか?を思い出す事が出来ずにただただ少女の歌と踊りに見いられていた。

 

ただ簪が座っている流木は先程まで一夏が座っていた事は知るよしもなかった………。

 

――――――――――――

 

「ぷはっ!」

 

沈んでいく簪を見つけてそのまま抱き上げて海から上がり息を吐いた。

一応、絶対防御がある訳だから息を止める必要はないのだが条件反射でしてしまった。

 

「簪!しっかりしろ簪!」

 

俺は簪を揺すりながら声を掛けたが………。

 

「…………」

 

簪は何も答えない、いや答えてくれない………。

更に全体を見ると胸には先程刺さっていた刃の傷から流れた血がISスーツを真っ赤に染めていた。

 

「簪………くっ……」

 

顔は青ざめて力なく、ぐったりとした姿に無性に悲しみと怒りが沸き上がる。

 

(許さねえ……)

 

簪をこんな目にあわせた敵ISに怒りと共に殺意が目覚めた………許さねえ……絶対に許さねえぞ!!

 

「一夏さん!」

 

そんな所にセシリアが再び俺の所に合流した。

 

「簪さんは大丈夫なのですか?」

 

「わからない……ただこのままじゃマズイ事は確実だ………」

 

「―っ!?だったら急いで旅館に戻りませんと―」

 

セシリアは簪の姿に驚き、思わず悲鳴を上げそうなのをこらえながらもそう言った。

 

「他の皆は?」

 

「皆さんのISの損傷が激しくて足手纏いになりそうなので撤退させましたが……」

 

「ただ?どうかしたか?」

 

「箒さんがまだ戦えるとタダを捏ねてましたので仕方なく気絶させてお帰り願いましたわ」

 

「そうか……」

 

セシリアの言葉に静かに頷いた。これなら……問題ない!

 

「すまない。簪を連れて旅館に急いでくれ、頼む!」

 

「ですが!」

 

「俺達二人で逃げても時間がかかるし、俺よりセシリアの方が戻るのが早い。ならば俺が敵ISを引き付けてセシリアが旅館に戻る方が得策だ」

 

「………わかりました。ですがこれだけは約束してください。必ず生きて帰る事を忘れずにお願いします」

 

「わかった、約束する」

 

俺は簪をセシリアに渡して敵ISに顔を向ける。

 

「いくぞ!」

 

セシリアが簪を抱えて旅館に向かうと同時に俺は瞬時加速で敵ISに斬り込んでいく!

 

「………」

 

敵ISは雪片の刃をかわして反撃にでようとするが―

 

「させるか!」

 

素早く蹴りを放ち、体勢を崩した所に拳を振り上げてぶん殴る!

 

「!?!?」

 

俺の攻撃が効いているのか敵ISの装甲が剥がれていく。

 

(俺の怒りはこんなもんじゃねえぞ!)

 

俺はこれだけでは満足せずに追撃を開始しようとした。その時―

 

ドオオオオンッ!!!

 

突然の俺の背後から爆発音が聞こえた。

 

「なっ!?」

 

爆発した方を見るともう1体の所属不明ISがセシリアを攻撃している所だった。

よく見るとセシリアのISはボロボロになっていて、今にもヤバい事だけはわかる。

 

「くっ!あくまでも狙いは簪かよ!」

 

セシリアがもう1体の所属不明ISの攻撃から簪を庇うようして受けている事から、完全に狙いは簪だ。

 

「くそっ!最初から敵の罠にかかっていたのかよ!」

 

よくよく考えれば、最初から敵ISが1体だけだと決め付けていたのがそもそもの間違いだった事に悔しくなりギリッと歯噛みをした。

 

「―って、あれはまさか!あの時の!?」

 

セシリアを襲っている所属不明のISはクラス対抗戦に乱入して来た無人機に似ていた。 ただ違うのは背後の部分に何かのパーツと両腕に着いているビーム砲口が大きくなっている事だ。

 

「今、助けに―くっ!?」

 

セシリアに向かおうとしたがさっきまで戦っていた敵ISの刃が降り下ろされるのを慌ててかわす。

 

「邪魔すんじゃねえ!」

 

雪片は横に切り払うもかわされる。こいつもさっきから動きが不規則気味だ、もしかしたら無人機の可能性が高いが………今はそんな事を考えている時間はない。

 

セシリアと簪の所に駆け付けたいのに何も出来ずにもどかしい時間だけが過ぎていく……。

 

(ちきしょうっ!)

 

俺は内心苛立ちを隠せないまま、敵ISを倒す為に雪片を握り直して攻撃を開始した。

 

――――――――――――

 

「はあ……はあ……」

 

ブルー・ティアーズはボロボロになり、セシリアの息がすでにあがっていた。

 

 

一夏の頼みを受けて、旅館に戻ろうとしている途中。

 

「きゃあ!?」

 

突然、セシリアの背後から衝撃が伝わりダメージを受ける。

 

「な、何が……っ!?」

 

セシリアは攻撃があった場所をハイパーセンサーから見て思わず驚いた。

 

「あれは……クラス対抗戦の時の!?どうしてここに!」

 

目の前には深い灰色の全身装甲のISがおり、その姿は一度見ていたセシリアは驚いた。しかも右腕をこちらに向けていたからさっきの攻撃はこのISからである事がわかる。

 

「…………」

 

そんなセシリアの動揺を知ってか知らずか敵ISはビーム砲撃を放つ。

 

「くっ……」

 

セシリアはビームをかわして、なんとか逃げようと距離を離そうとしたが―

 

「なっ!?」

 

ブルー・ティアーズからの警告音と共に目の前から弾雨が襲う。

 

「あれは!?まさかビット兵器なのですか!?」

 

セシリアは自分のISに搭載されているビットと似たような武装に動揺してしまい。

 

「くううっ!」

 

ビット兵器からの射撃をまともに喰らってしまい、装甲にダメージを負ってしまう。

 

「スターライトが!?」

 

ビット射撃の弾雨から簪を守ろうと盾にしていた主武装が壊れてしまう。

 

「…………」

 

敵ISはセシリアの状態に追撃を開始し、更に追い込んでいく。

 

「ああああっ!」

 

盾になるものがなくなり、セシリアは簪を庇うようにして自らが盾になって敵ISの攻撃を受けてしまう。

 

「うっ……くっ……」

 

セシリアは苦痛から声が漏れる。既にブルー・ティアーズから警告のアナウンスが流れており、これ以上は危険にだとわかっていたが―。

 

(絶対に、守ってみせますわ!)

 

セシリアの瞳にはまだ光が残っていた。簪という親友の為に一夏の頼みを果たす為に自身の心を奮い立たせる。

 

がしかし―

 

「………」

 

敵ISはドドメと言わんばかりに両腕の砲口から最大出力のビームが無情にも発射された。

 

「ひっ……」

 

目の前に迫る巨大なビームにセシリアは絶望に晒される。

 

(避けられない……)

 

ボロボロの状態では回避しようにも出来ずにビームがまるでスローモーションの様に迫り来る。

 

(………一夏さんごめんなさい、約束を破ってしまいましたわ………せめて簪さんだけでも!)

 

セシリアはギュッと簪を抱き締めて必死に守ろうとビームから背中を向ける。

 

(………っ!!)

 

これから来るであろう衝撃と苦痛に目を閉じて身構えた。

 

スドオオオオン!!!

 

敵ISのビームがセシリア達に命中した。

 

――――――――――――

 

ざあ、ざあん……。

さざ波の音を聞きながら、簪は飽きもせずに女の子を眺めていた。その歌は、踊りは、何故だか簪をひどく懐かしい気持ちにさせる。

 

(……あれ?)

 

ところが、ふと気が付くと少女の歌は終わっていた。踊りもやめて、少女はじぃっと空を見詰めている。

簪は不思議に思って、座っていた木から離れて少女の隣へと向かう。ざあ、ざあ、と。波打ち際までやって来た簪を、涼しい水の調べが濡らす。

 

「どうかしたの?」

 

声をかけるが、少女はまだじぃっと空を見詰めたまま動かない。簪も何と無く空を眺めると、ふと少女の声が耳に届いた。

 

「あれ?……どうしてここにいるのかな?」

 

「え?」

 

少女はを見ると開口一番に簪に向かってそう言った。

 

「ここはあんまり入れる所じゃないんだよね」

 

「ここ?」

 

「うん。もしかして呼ばれたのかな?」

 

「呼ばれた?」

 

少女の言葉に簪は訳が解らずに首を傾げた。

 

「さっき、変なのが入ってきたから気持ち悪くて拒否しちゃったんだよね」

 

「えっと……」

 

少女の言っている意味が解らず、簪の頭には?マークが飛び交う。

 

「まっ、いいや。後ろのあの子が呼んでるよ」

 

「えっ?」

 

少女が指差した方を振り返るとそこには―

 

「…………」

 

黒髪をポニーテールにした巫女服を着た女性が立っていた。

 

「……あの」

 

「初めまして、主」

 

「主?」

 

「お気付きならないのですか?いつも貴女と共に戦っています」

 

「まさか……打鉄弐式なの?」

 

「はい」

 

簪は絶句した。目の前にいるのが自身のパートナーであるISがこうして現れるのが信じられないのだ。

 

「驚かれるのは無理もありません……ですが、貴女の力になりたくて協力して貰ったのです」

 

「うん。まさか私達の世界にやって来るとは思わなかったな」

 

少女は巫女服の女性の言葉に笑みを浮かべて言った。

 

「主、貴女は力が欲しいですか……?」

 

「えっ……。」

 

巫女服の女性は簪を真剣な眼差しで見詰めながら問い掛ける。

 

「力を欲しますか……?何の為に……」

 

「力……」

 

簪は考えている間。静寂の中にざあ、ざあん、と。波の音が入る。

 

「……そうだね。仲間を、そして大事な人達を守る為かな」

 

「大事な人達を……」

 

「うん、私の大事な人達。将来共に幸せに生きたいから、どんな事に一緒に戦える力が欲しい」

 

簪は大事な人である恋人にである一夏と姉である刀奈と一緒に幸せになりたい為により一層二人を守れる力が欲しいと思っていた。

 

「でも、私に出来る事は少ないけど想いは誰にも負けないよ。もちろん家族や仲間と一緒に助け合って戦うんだ。いつか皆で幸せになる為に」

 

「そう……ですか」

 

巫女服の女性は、静かに答えて頷いた。

 

「うん、これなら大丈夫だね」

 

「えっ?」

 

「主、貴女になら更なる力を使いこなせます」

 

「うん。私の力を合わせればあなたの望む強さになれるよ」

 

「あ、ありがとう………」

 

簪の答えに納得がいったのか少女は笑みを浮かべ、巫女服の女性は微笑んだ。

 

(認めてくれたのかな……?)

 

「じゃ、そろそろ急がないとね?」

 

「ええ、いきましょう」

 

二人は簪の手を取るといきなり変化が訪れた。

 

「えっ?ええっ?」

 

――空が、世界が、眩いほどに輝きを放ち始める。その真っ白な光に抱かれて、目の前の光景が徐々に遠くぼやけていく。夢の終わり、なんて言葉がふいに浮かんだ。

 

「頑張ってね。私達のマスターをお願い」

 

少女はニコニコと微笑み簪にそう言った

 

(あれ?)

 

簪は何かに気付いて振り向くと、波の中――膝下までを海に沈めた女性が立っていた。その姿は、白く輝く甲冑を身に纏った騎士さながらの格好だった。

 

「…………」

 

騎士の女性は簪の視線に気付くと笑みを浮かべて、手を振った。簪はそれを見届けると真っ白い世界から覚めていくのだった。

 

――――――――――――

 

「………ん……っ!?」

 

簪は目を覚ますと何かに体に巻き付いている感覚を得た。

 

(えっ?セシリア!?)

 

簪はよく目を凝らすとセシリアが自分を抱き締めていた事に驚いたがすぐに落ち着く。

 

(あれはビーム砲!私達を狙っているんだ)

 

迫り来るビームに対して簪は不思議と焦りは来なかった。

 

(おいで、打鉄弐式!)

 

そう心の中で念じてISを展開させると右腕に新たな武装が追加されていた。

 

「これは……うん、大丈夫かな」

 

打鉄弐式からの情報で新たな力だというのがわかる。右腕から爪が現れ、その爪からエネルギーを纏うとそのまま

 

「ああああっ!!」

 

簪は地面から掬い上げるように爪を振るうとエネルギー刃が発生し、ビームを切り裂いた。

 

スドオオオオン!!

 

ビームは簪の前から真っ二つに割れてそのまま爆発が起きる。

 

「………かん、ざしさん!?」

 

セシリアは目の前にいる簪の姿に驚きを隠せないでいた。先程まで重症を負っていたはずなのにと―。

 

「うん、打鉄弐式がセカンドシフトしたみたいだね」

 

簪は自身の纏うISを確認すると所々変わっているのがわかった。

 

「さあ、ここから反撃開始だよ」

 

そう言う簪の瞳にはしっかりと戦う意思があり、凛々しくあった。




次で3巻終わりにいけるかな?
先に短編を更新予定です


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36話

ハーメルンよ!私は帰って来たぞ――――!!

………わからない方は流して結構ですよ。

皆さんお久しぶりです。かなり待たせてしまいましたがこの話で3巻は終了です。

ではどうぞ―。


「簪さん、大丈夫なのですか!?」

 

我に帰ったセシリアは簪に駆け寄り心配そうに訪ねた。さっきまで重症を負っていただけに不安を隠せない。

 

「うん、大丈夫。それよりもゴメンね。私のせいでボロボロに………」

 

「いえ、わたくしは構いませんわ……簪さんが無事ならそれで……」

 

申し訳なさそうに謝る簪にセシリアは笑顔で答えたが目元は潤んでいる。

 

「それじゃ、反撃しないとね」

 

簪が目線は向けるとそこには別の無人機と戦っている一夏がいた。

 

「今援護するね、一夏」

 

簪は春雷を展開し、無人機に照準を合わせて発射した。

 

 

 

「くそ……っ!」

 

俺は今、非常に焦っていた。セシリア達がピンチで駆け付けたいのに目の前の無人機が邪魔をして、援護に行けずにいた。

 

「いい加減に…しろ!」

 

俺はこの一撃で仕留めようと急接近した、その時―。

 

「!?!?!?」

 

突然、背後から荷電粒子砲がやって来て目の前の無人機の頭を撃ち抜いた。

 

「えっ?今のは……?」

 

無人機が攻撃を受けて、ゆっくりと落ちていくのを見て、唖然となった。援護出来る人は居なかったはずだ……。

 

「まさか……」

 

俺は後ろを振り返るとそこには―

 

「簪……?簪!?」

 

さっきまで重症を負っていたはずの簪がISを展開している姿がいた。

 

「簪!」

 

俺は簪のいる場所に向かう。重症であるはずなのに妙に元気な姿に無理をしているんじゃないかと心配になるが意識を取り戻してくれた嬉しさが勝っていた。

 

「簪、大丈夫なのか!?」

 

俺は簪とセシリアの元にたどり着き声を掛けた。

 

「大丈夫。心配かけてゴメンね」

 

「いや、簪が無事ならいいんだ……」

 

さっきまで重症だったはずの簪だったが表情は明るい。何があったかはわからないが内心ホッとしている。

 

「っ………ちっ!?」

 

このまま簪を抱き締めたくなったがハイパーセンサーで無人機2体が俺達に攻撃をしかけようとしていた。

 

「くそっ、頭が無くても動くのかよ………」

 

「さっきのビームが来ますわ!」

 

「大丈夫、私に任せて」

 

そう言い簪は俺達の前に立ち右腕から爪が現れる。

 

「はああっ!!」

 

そして、そのまま右腕を振り上げるとエネルギー刃が発生し、ビームと同時に頭の無い無人機ごと切り裂いた。

 

「!?!?!?」

 

頭の無い無人機は縦真っ二つに斬られて爆発し、もう片方の無人機は今の事態に混乱している

 

「簪さん、それは……」

 

「これ?私の打鉄弐式がセカンドシフトした時に追加された武装だよ」

 

「俺の雪羅に似ているけど、名前はあるのか?」

 

「ううん、まだ……後で調べてみるね」

 

「そっか、これのおかげで残りは一機だな」

 

「うん。でもこの武装物凄いエネルギーを消費するのが欠点かな……かなり少なくなってきちゃった」

 

「それなら、これを使え」

 

俺は千冬姉から預かったキューブを取り出す。

 

「これは一体何ですの?」

 

「これは俺達専用のエネルギーパックだ。これである程度なら回復するぞ」

 

俺が説明するとキューブは簪とセシリアと俺のISに吸い込まれていく、そして―。

 

「凄い、エネルギーが回復してる」

 

キューブの性能が開放し、俺達のシールドエネルギーが回復していく。

 

「ええ、おまけに武器や弾薬も補給出来てますわ」

 

セシリアはボロボロだった装甲が元の状態に修復し、予備用のライフルを手に微笑んだ。

 

「さあ、いくぞ!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

回復し、反撃の準備を終えた俺達は一気に決着を着けるべく飛び出した。

俺と簪で前衛に立ち、セシリアが後方支援する形だ。

 

「うおおおっ!!」

 

俺は真っ先に無人機に対して斬り込んでいった。

 

 

 

(力になりたい……)

 

セシリアは一夏と簪が無人機に攻撃を仕掛け、後方支援をしながら、思っていた。

 

先程まで大怪我を負った簪を守るべく自らが盾になっていたが今は違う。友としてあるいは仲間として2人の為に力を願った。

 

「お願い、ブルー・ティアーズわたくしの想いに応えなさい!」

 

セシリアはライフルの引き金を引き。ライフルからビームが放たれる、その先には一夏と簪がいた。このままでは二人に当たり誤射になるが―

 

「!?!?」

 

ビームは曲がり二人を避けて無人機目掛けて貫いた。BTエネルギー高稼働率時のみ使える偏向射撃。まさしくセシリアの想いにISが応えた結果であった。

 

「まだまだこれからですわ」

 

セシリアは自身の想いに応えてくれたISに笑みを浮かべて、ライフルは構えながら再び引き金を引くのであった。

 

 

 

「!?!?」

 

俺達の攻撃とセシリアの援護射撃によって無人機の装甲はボロボロになり、かなりのダメージを与えていた。

 

「決着を着けるぞ!」

 

「うん!」

 

瞬時加速を使い、俺と簪は無人機に近付き斬撃を与えていき一気にダメージを与えて弱らせていき、そして―。

 

「これで!」

 

「「終わりだよ!(ですわ!)」」

 

最後に俺と簪の荷電粒子砲とセシリアのビームによる一斉射撃を無人機に向けて発射し―

 

ドカァァァン!!

 

無人機は俺達の攻撃を受けて爆発し、消滅した……。

 

「終わったの………?」

 

「わからない………」

 

それぞれ呟き周囲を警戒した。さっきの事があるだけにお互いに背中を預けた形にしてから少しの時間が経ち。

 

「帰りましょう。一応、警戒だけは忘れずに」

 

「ああ」

 

「うん」

 

セシリアの言葉に俺と簪は頷き帰路についた。俺達はこれ以上の襲撃者が現れない事を祈りつつ、周りを警戒しながら、旅館に帰還する事にした。

 

――――――――――――

 

「「「…………」」」

 

俺と簪とセシリアが戻って来ると千冬姉が腕組みをして先に戻っていた4人に正座を命じて、大広間で説教をしている光景に俺達は固まった。

 

「あ、あの、織斑先生。もうそろそろそのへんで………。お、織斑君達が帰ってきましたよ」

 

「ふん……まあ、いいだろう」

 

怒り心頭の千冬姉に対して、おろおろわたわたとしている。さっきから救急箱を持ってきたり、水分補給パックを持ってきたりと忙しい。

 

「じゃ、じゃあ、一度休憩してから診断しましょうか。ちゃんと服を脱いで全身見せてくださいね。――あっ!だ、男女別ですよ!わかってますか、織斑君!?」

 

俺に気付いて慌てて言う山田先生だが―

 

「すいません山田先生。急いで簪を!簪を診てください!」

 

俺は優先的に簪を診て貰うために山田先生に頼んだ。

 

「えっ?ど、どうしてですか?」

 

「先程の戦闘にて簪は胸を刺されています。今はわからないですが重症かも知れません急いでください!」

 

「ええっ!?」

 

「何っ!?」

 

俺の説明に驚く千冬姉と山田先生だが今は簪が心配なのだ、構っている余裕はない。

 

「そ、そうですわ!ここまで元気でしたから気付きませんでしたが簪さんは胸を刺されて重症でしたわ!」

 

セシリアもハッと気付いて簪を心配し出した。

 

「ほら、早く診てもらえ簪!」

 

「えっ?えっ?わ、私は大丈夫だよ、それよりもセシリアを先に診て上げてください!私を庇って大怪我を負っているはずです!」

 

簪は自分は大丈夫だとアピールしながらセシリアを気遣い始める。

 

「まずはセシリアから先に行って!」

 

「わ、わたくしは大丈夫ですわ!それよりも一夏さんは大丈夫なのですか?先程まで大火傷の重症だったはずです。先に診て貰うのは一夏さんですわ!」

 

セシリアは簪の気遣いに遠慮し、今度は俺の事を心配してくる。

 

「い、いや俺は大丈夫だ。まずは簪が先だ!」

 

「ううん、セシリアが先だよ!」

 

「いいえ、一夏さんが先ですわ!」

 

俺達は譲り合いに発展してしまった。三人共かなりのダメージを負っているだけに気遣った訳だが一向に決まらない。

 

「ええい、鬱陶しい!お前達三人はさっさと診て貰え!山田先生、三人を案内してください!」

 

俺達のやり取りに業を煮やした千冬姉が一喝し、山田先生に俺達を医者の所に案内するよう促す。

 

「残ったコイツらは私が診よう。ふむ………異常なし。さっさと部屋に帰れ」

 

「「「「ヒドッ!!!?」」」」

 

千冬姉は腕を組み箒、鈴、シャルロット、ラウラを診てそう言うと4人は非難の声を上げた。

 

「……冗談だ。お前達もちゃんと診察してやる感謝するんだな」

 

「では、織斑君達はこちらに来てください。診断しますからね」

 

「3人の診察が終わるまで私とじっくり話し合いをしようか、もちろん正座でな」

 

俺と簪とセシリアは山田先生に促されて医者が待機している部屋に移動し、診察を受ける事になった。後ろで顔を青ざめさせながら俺達に助けを求める箒達の視線を受けたが気にしない。

 

とりあえず、今回の戦いは終わった。考えなければいけない事、整理しなくてはいけない事が山程あったが、とりあえず――

 

(まだまだ力不足だな………俺は……)

 

理想とする強さに程遠い事を痛感する瞬間だった。

 

――――――――――――

 

「ね、ね、結局なんだったの?教えてよ〜」

 

「………ダメ。機密だから」

 

お膳を挟んで向かい側、ぱくぱくと夕食を食べるシャルロットに一年女子が数名群がってあれやこれやと訊いている。おそらく一番取っ付きやすいシャルロットになら訊けると思ったのだろうが、それは判断ミスってやつだ。多分あの子は専用機持ちの中でも責任感が強い。それは間違いない。

 

「シャルロットさんに聞いてもムダでしょうに………」

 

「うん。好奇心で聞いたら大変な事なのに………」

 

俺達は離れたテーブル席でその様子を見ていた。

正座の苦手なセシリアと俺達の体調を気遣ってくれた山田先生がわざわざ用意してくれたのだ。ちなみに俺と簪が隣同士、向かい席はセシリアと本音だ。

 

「ところで一夏」

 

「ん?何だ?」

 

「お姉ちゃんに連絡した?」

 

「へ?」

 

簪の言葉に訳が解らずに首を傾げた。

 

「そうだね〜。いっちーの事を知って〜お嬢様は心配してるんじゃないのかな〜」

 

「マジかよ……」

 

訳が解らなかった俺に本音の説明で納得した。確かに撃墜されてケガすれば心配してるだろうな………。

 

「だから連絡してお姉ちゃんを安心させて」

 

「そ、そうだな……」

 

簪の頼みに食事を中断して席を立った。

 

「って、楯無さんに連絡して大丈夫なのか?」

 

「気になるのであれば一度織斑先生に訊いてみたらよろしいかと思いますわ」

 

「わかった。ありがとう、連絡してくる」

 

俺はセシリア達にそう言い千冬姉の元に向かい刀奈さんに電話していいかの許可を取り、了解を得て連絡して安心させる事が出来た。

 

――――――――――――

 

ざあ……。ざぁん……。

 

「ふうっ……」

 

海から上がって、俺はとんとんと頭を叩く。右に左に首を傾けて耳の中の水を抜くと、俺は近くの岩場に腰を下ろした。

食事の後、俺は軽い休憩を取ってから旅館を抜け出して夜の海へと繰り出した。

満月の今日は、真夜中であっても明るい。俺は穏やかな波の音を聞きながらぼんやりと空の月を見上げた。

 

(綺麗な月だ………、簪と一緒に見たいな……)

 

せっかくの景色を1人で見るのは勿体無く感じてプライベートチャネルを展開して簪に連絡して会う約束をして待つ事にした。

 

(それにしても―)

 

簪を待つ間、俺はさっき刀奈さんに電話した時の内容を思い出していた。

俺が刀奈さんに連絡するとすぐに出て、慌てた様に俺の事を何度も聞いてきた、あまりの必死さに罪悪感を感じながらも何とか落ち着かせる事が出来た。

 

『ねえ、一夏君……』

 

「はい」

 

『会いたいよ……』

 

「刀奈さん……」

 

『声を聞いてるだけじゃダメなの……会って抱き締めて安心したい……寂しいの……』

 

「………」

 

刀奈さんの悲痛な想いが俺の心を苦しめる……心配かけすぎてしまったかな……。

 

「大丈夫ですよ。明日ちゃんと帰りますから、ねっ」

 

『本当に?嘘じゃないよね?』

 

「嘘はつきません。刀奈さんは安心して待っててください」

 

『……わかったわ。待ってる……ちゃんと帰ってきてね』

 

俺は刀奈さんを励まして、電話を終わらせた。

 

(帰ってきたら、デートや埋め合わせしないとな……)

 

俺は待っているであろう恋人のご機嫌取り方法を考えていると―

 

「い、一夏……?」

 

突然名前を呼ばれて、俺は振り向く。

月明かりに照らされて姿が浮かんだのは、水着姿の箒だった。

 

「し、篠ノ之さん……」

 

待ち人ではない相手の水着姿に顔を反らした。

 

白い水着――それも、箒にしては珍しく、絶対に着なさそうなビキニタイプ。緑の方に黒いラインが入ったそれは、かなり肌の露出面積が広く、普通の男子であれば十二分魅力的である事は間違いないだろう。

 

(い、いかん。これは予想外の展開だ………)

 

恋人達がいる俺にとっては全くの予想外だし、箒が水着姿で現れてもドキドキはしないが別の意味で落ち着かなかった。

さらに1メートルほど間を開けて隣に座った箒がどうしても気になってしまっていた。

 

(簪が勘違いしないといいが……)

 

何も知らないやつが見れば俺と箒との仲を良さげと思われるのも嫌だし、簪がこれを見て浮気と取られる事はもっと嫌である。

 

「…………」

 

「…………」

 

無言で静寂が流れる。波の音だけが耳の中に入ったくるだけだ。

 

「そ、その一夏……」

 

「な、なんだ?」

 

どうにかしてこの場を後にしようと思案していると箒から話しかけてきた。

 

「そ、その……だな。お、お前は大丈夫なのか?その、ケガしていただろう」

 

「ん?あー、なんか、治ってた」

 

「な、なに?」

 

「目が覚めていたら、治っていたぞ」

 

「ば、馬鹿なことを言うな!そんな事がありえる訳――」

 

そう言って箒は俺の肩を掴むと、グイッと背中を月光へと向ける

 

「消えている……。本当に、なんともないのか……?」

 

「ああ、治っていたな。簪の看病のおかげかな?」

 

「…………」

 

俺がそう言うとおそるおそる箒は俺の体に触れ、そこに傷がない事を指先で何度も確かめる。そのたびに「おかしい、おかしい」と呟いていたのが、おかしかった。

 

「そろそろ離れてくれないか?くすぐったいんだけど……」

 

「あっ、す、すまない……」

 

いつまでも箒に触らせる気はないので指摘するとパッと離れた。

 

「そ、その……す、すまなかった」

 

「はい?」

 

「わ、私のせいで一夏に迷惑をかけてその上ケガをさせて……本当にごめんなさい」

 

と箒は深々と頭を下げて謝罪してきた。今までそういう事がなかっただけに戸惑いを隠せない。

 

「いいって、俺は気にしてないよ……」

 

「だが、私は……」

 

「自分が悪いって気付いたんならその悪い所を直せばいいだからさ……なっ」

 

「一夏……」

 

俺の言葉を聞いて箒は目元を潤ませる。

 

「一夏は優しいんだな……こんな私を見捨てないなんて」

 

と箒は感極まっているが実は内心は違う。ここで突き放してほっとくのは簡単だが後々面倒事に発展しかねないから、ここは優しく諭して何とか修正してもらうしかない。その為に相手をしているだけである。

 

「それじゃ、俺はこの辺で―」

 

俺は岩場から立ち上がり、箒から立ち去るべく歩きだそうとしたら。

 

「やっぱり……やっぱり諦めきれん!」

 

「はあ?」

 

突然大声を上げた箒に思わず立ち止まり振り向く。

 

「私は一夏が好きだ!この想いは絶対に諦めないぞ!」

 

「おいおい……」

 

箒の告白と宣言に右手で頭を抑えた………。

 

「あのさ……俺には恋人達がいるんだからその想いを受け取るのは無理だから」

 

「既に二人いるのだろう。なら私を3人目の恋人にしてくれ!!」

 

「何言ってんだよ!!」

 

箒は頼みに思わず俺は声をあげた。

 

「お前。自分で何言ってるのかわかってるのかよ!?」

 

「そんな事はわかってる!私だって、こんな事は言いたくはない!でも、諦めきれないのだ!」

 

「だからってそんな事出来る訳ないだろが!」

 

これは本当だ。簪、刀奈さんという素敵な彼女を持っている俺にとって、箒の願いを叶えてやる事は出来ない。いくら何でも異性として意識するなんてもう無理だ。

 

「ど、どうしてもダメなのか……?」

 

「ああ、諦めてくれ……」

 

「くっ……ならば……」

 

「って、おい!何しようとしてんだよ!?」

 

俺の言葉が本気だとわかった箒は自らの水着に手を掛けながら迫ってきたのを慌てて止める。

 

「私には魅力がないのか!?これだけしても一夏は見てくれないのか!?」

 

「だからやめろって!そんな事しても気持ちは変わらないし、このままじゃ俺が悪者になるじゃないかよ!」

 

尚も脱ぎながら迫ろうとする箒を必死に止める。そこまで諦めきれないのかよ!

 

「そうよ、諦めてたまるもんですか!」

 

「鈴!?」

 

俺と箒のやり取りに乱入するかの如くやって来たのは鈴だった。しかも水着姿である。

 

「あたしだって一夏の事諦めきれないのよ!だからね……」

 

そう言って一時の間を置き。

 

「あたしを一夏の恋人にして!そして、あたしの作る酢豚を毎日食べなさい!」

 

ビシッとそう宣言する鈴。ってお前もかよ………。

 

「いや、無理だからな!もう鈴は親友と決めてるから今更、もう無理だからな!」

 

諦めきれない恋する乙女part2かよ!

 

「そうだよ!僕だって諦める訳にはいかないんだ!」

 

「シャルロット!?」

 

更にシャルロットまで乱入して来た。しかも水着姿である。

 

「僕も一夏の事が好きなんだよ!僕を一夏の恋人にして!」

 

「おいおい……」

 

「それが無理だったら、愛人でもいいよ。二人にマンネリ化したらいつでも言ってね」

 

「ちょっと待てい!!」

 

満面の笑みでそう言うシャルロットに思わず待ったをかけた。

 

「お前、その境遇で辛い目にあっているのに、そっちに堕ちるなシャルロット!」

 

「ふふふ……。不思議だよね何だか体が軽いよ。お母さんも同じ気持ちだったのかな?」

 

いやいやいやいや絶対に違うと思うぞ、多分絶対……。

 

「そうだ!私も諦めないぞ!」

 

「ラウラ!?」

 

クネクネと悶えるシャルロットの後に乱入してきたのはラウラだった。水着姿で……。

 

「私は一夏が好きだ。お前を私の婿にする!異論は認めん!」

 

「アホか――――!!」

 

ラウラの宣言に思わず叫んだ。

 

「お前に鷹月さんがいるだろうが!お互いに恋人いるじゃねえかよ!」

 

「ふん、そんなものは関係ない。それに日本でこういう事があるということを聞いた」

 

「な、何だよ……?」

 

「気に入った相手に恋人がいるなら、寝取ってしまえと教えてくれたのだ!」

 

「誰だ――――!!こいつ(ラウラ)に変な事を教えたやつは!?」

 

ラウラの言葉を聞いて思わず叫んだ俺。今度千冬姉と一緒に絶対にシバく!と固く心に誓った。

 

「それはいい名案ね」

 

「うん、それはいい名案だ」

 

「いい名案だね」

 

「はあ?」

 

ラウラの寝取る宣言に箒、鈴、シャルロットが賛同してしまった……や、ヤバいかも………。

 

「あっ、俺。千冬姉に呼ばれてたんだっけな、さらばだ!」

 

嫌な予感がした俺は直ぐ様撤退するべく逃げ出した。

 

「「「「待て――――!!」」」」

 

「待つか――――!!」

 

追いかけて来た4人に走るスピードを上げていく、もし捕まったら最後俺は簪、刀奈さんに会わす顔がなくなってしまう展開になってしまうのは間違いない。

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバい……」

 

背後から迫る危険にひたすら逃げるしかない。このままでは体力が尽きるのは時間の問題だ………。少しだけ心が折れそうになりかけた、その時―

 

「あれは、千冬姉!」

 

やった!助かった!俺は千冬姉の元に向かった。

 

「千冬姉!」

 

「織斑?どうした?」

 

「助けてください!」

 

「はあ?一体何を………そう言う事か……」

 

助けの声に千冬は一瞬、呆気に取られるが後から追いかけてくる者達を見て納得してくれた。

 

「わかった、後は私がなんとかしよう。お前はどうするんだ?」

 

「簪と会う約束をしてる」

 

「そうか、遅くならない内に部屋に帰れよ」

 

「わかった、それじゃ」

 

この場を千冬姉に任せて俺は簪との待ち合わせ場所に向かって行った。

 

途中、後ろから悲鳴を聞こえたが気にしないでおいた。

 

――――――――――――

 

箒達から逃れて、簪との待ち合わせ着き。ホッと一安心して待っていると―。

 

「お待たせ、一夏」

 

呼ばれる声に、俺は振り向いた先には水着姿の簪だった。

 

「この水着どうかな?」

 

とはにかんだ笑みで聞いてくるが俺は簪の水着姿に見惚れていた。

 

昨日着ていたワンピースタイプとは違い、水色のビキニにパレオを腰に巻いていた。簪は肌を露出する服はあまり好んでは着ないが俺の為に大胆なのを選んだのだろう。だから――

 

「綺麗だ……」

 

自然と口からそういう言葉が出た。

 

「あ、ありがと……」

 

簪は頬を紅く染めて、俺達は近くの岩場に座った。

 

「…………」

 

「…………」

 

俺と簪は何も言葉を発しないままゆっくりと月を眺めていた。

 

「月、綺麗だね……」

 

「ああ………」

 

簪の言葉に俺は同意して彼女の横顔を見詰めた。月の光に照らされた簪の顔は昼間とは違い、妖艶な美しさに見える。

 

「どうしたの?私の顔に何か着いてる?」

 

俺の視線が気になったのか簪は俺にそう訪ねてきた。

 

「簪が綺麗でずっと見惚れた」

 

「バカ……」

 

俺の言葉に恥ずかしさを感じたのか立ち上がり、海に向かって走り出した。

 

「きゃっ!冷たい」

 

波打ち際で海水が足に浸かりながらはしゃぐ簪。パレオを手にしてパシャ、パシャと水の音が聞こえた。

 

「……………」

 

月の光に照らされる簪を見て、綺麗に感じたがそれと同時に何処かへいなくなってしまいそうな感じがして俺はそのまま簪に近付き。

 

「ふえっ?」

 

気が付けば簪を抱き締めていた。

 

「ど、どうしたの急に?」

 

突然の事に簪は驚いているが俺はより強く抱き締める。

 

「ま、待って一夏。く、苦しいよ!」

 

抱き締める強く簪は苦しげに身をよじるが俺は構わない。

 

「良かった……」

 

「えっ?」

 

「簪が無事で……」

 

「一夏………」

 

「あの時簪が刺された時、俺は心臓が止まりそうだった……簪がいなくなるんじゃないかって……」

 

あの時、簪が命を落としていた。俺は無力に嘆いていたかもしれない。

 

「私が死んだらどうなるの?」

 

「俺と刀奈さんと一緒にわんわん泣いてるかもな」

 

「ぷっ」

 

俺の返答に簪は吹き出した。

 

「笑うなよ……」

 

「ごめんなさい。想像したらつい……でもね」

 

簪はギュッと俺を抱き締め返し。

 

「私は何処にもいなくならないよ。一夏とお姉ちゃんと一緒に幸せになるまで絶対に死なないよ」

 

「簪……」

 

「一夏……」

 

俺達はお互いに見詰め合いゆっくりと顔を近付けてキスを交わす。

 

「ん……」

 

そのさい、簪の吐息が漏れたがゆっくりとそして深いキスを交わしていく。

 

「一夏……もっとキスして……」

 

「ああ……」

 

簪のお願いに応える様に再び深いキスを交わしていき、俺と簪は時間が許す限り、二人だけの時間を楽しんだ。

 

――――――――――――

 

「よし、乗っていないやつは居ないな?では―」

 

翌朝。朝食を終えて、すぐにIS及び専用装備の撤収作業を行い、全員がクラス別のバスに乗り込み千冬が自分のクラス全員がいるかの確認をしていた。

 

「先生!織斑くんと布仏さんがいません!」

 

「それに2組の凰さんがいます!」

 

1組の女生徒達が手を挙げてこのクラスに居るべき人物達と居てはいけない人を指して訪ねた。

 

「織斑と布仏は4組のバスに乗っている。それに凰は昨晩問題行動を起こして私が監視する為に1組のバスの乗せたのだ!――以上!」

 

千冬の説明に1組の女生徒達は黙るしかなかった。

 

色々聞きたい部分はあるが鈴達の顔は真っ青でプルプルと震えている様子にこれ以上はヤバいと感じたからだ。

 

ヘタにつつけば自分もああなると………。

 

「何をしていますの、貴女達は?」

 

そんな鈴達の様子を見ながら呆れた表情で訪ねるセシリア。

 

「し、仕方ないでしょ。一夏の部屋に突撃したら千冬さんがいたのよ!」

 

「まったく予想していなかったから、大目玉をくらい説教地獄だ……」

 

「………そのおかげでこうなっているのだ……」

 

上から鈴、箒、ラウラの順である。

昨晩、一夏を寝取ろうとして迫ったが千冬に制裁食らって撤退したが諦めきれずに今度は一夏の部屋に突撃し、夜這いを仕掛けようとしたが彼女達の大きな誤算は千冬であった。

 

大激怒でメガシンカし、鬼神に進化、彼女達を鎮圧と説教を喰らわせたのだ。そのさいに巻き込まれた一夏は睡眠不足の為に本音と一緒に簪の4組のバスで帰る事となった。

 

「……まったく、懲りない方々ですわね……」

 

「そうだね。あの時にやめてれば良かったんだよ」

 

セシリアのため息混じりの愚痴に同意するシャルロット。

 

「って、シャルロット!アンタ!アタシ達と一緒に一夏に夜這いに行ったクセにいつの間に逃げたのよ!」

 

「さあ、なんの事かな?」

 

鈴の怒りの非難に知らぬ顔のシャルロット。

 

(危なかったな……一夏の部屋に織斑先生がいたのに気付いて、慌ててラウラ達を身代わりにして逃げて良かったよ)

 

そう、シャルロットは一夏に夜這いを仕掛けようとラウラ達と一緒に行ったまでは良かったが部屋に入る直前で嫌な予感がして、一番最後に入ると千冬の姿を見付けて、慌てて逃走し間一髪逃れたのである。

 

(うーん。一夏を落とすのは手強いな……でも、絶対に僕は諦めないからね!)

 

とぐっと手を握り締めて心にそう決意をするのだった。

 

「よし、誰も乗っていないヤツは居ないな?では出発する」

 

千冬は皆が居る事を確認し、IS学園へ帰るべくバスを発車させた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

「ただいま」

 

「お姉ちゃん帰ったよ」

 

バスに揺られて、IS学園に着いたのは夕方から夜に差し掛かる間に到着して、解散。俺達は自分の部屋に帰り、待っているであろう刀奈さんに声を掛けた。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「お姉ちゃん寝てる」

 

簪が指差した先にはテーブルに腕を置いてその上に寝ている刀奈さんがいた。

 

「そのままにしておきたいけど風邪ひいちゃうね」

 

「そうだな、起こすか」

 

俺は刀奈さんに近付き、肩を揺する。

 

「刀奈さん、刀奈さん起きてください」

 

「……ん……」

 

俺の呼び掛けに刀奈さんはゆっくりと目を覚ました。

 

「……一夏君?……簪ちゃん?」

 

目を擦りながら体を起こして俺と簪を交互に見詰め。

 

「一夏君!?簪ちゃん!?」

 

「うわっ!」

 

「ひゃっ!」

 

驚いた声をあげると直ぐ様ガバッと俺達に抱き着いた。

 

「刀奈さん?」

 

「お姉ちゃん?」

 

刀奈さんは体を震わせて抱き締めたまま離さないまま少しの時間が過ぎた。

 

「おかえりなさい」

 

ゆっくりと体を離して、刀奈さんは満面の笑みで俺達を出迎えた。

その顔は凄く綺麗に見えた。

 

「「ただいま」」

 

俺と簪は刀奈さんに答え、帰って来たなと実感を感じた。

 

何にせよ、長く短い臨海学校は終わったのだった。




長い間のスランプと久しぶり感でいっぱいいっぱいでしたが何とか出来ましたね。

次は番外編か4巻に突入です。短いかも………


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番外編
37話


4巻に入る前の番外編に入ります。

では、どうぞ


チュンチュン……。

 

「ん……」

 

窓の外では早く入れろとばかりに朝日が差している。同じく、目覚めを促すかのようにスズメが鳴いていた。

 

(もう少し……もう少し……)

 

この微睡み延長は至福の時である。おそらくこの緩やかな時間を愉しまない人間はいないだろう。うん、間違いない。

 

(さてと……)

 

俺は少しだけ目を開けて、両隣にいる恋人達に視線を向ける。

2人の寝顔を眺めながら意識を覚醒するのが俺の日課だったのが……。

 

「……あれ?」

 

両隣に誰も居らず、2人がいたような温かみもない、余りの異変に思わず俺は体を起こした。

 

「簪?刀奈さん?」

 

俺の愛しい人達の名前を呼びながらキョロキョロと周りを探すも………居なかった……。

 

「おっかしいな〜?」

 

よく見ると2人の荷物はなく俺だけしかいない……。いつの間に部屋を引っ越したのだろうか………?

 

「うーん………?」

 

2人とケンカした訳でもないし、部屋を出る理由など全く心当たりがない為頭を悩ませていると……。

 

コンコン

 

ドアをノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

もしかしたら、簪と刀奈さんが俺を起こしに来てくれたのかな?まあ、そこで理由を聞けばいいしな。

俺はそう解釈して二人(簪、刀奈さん)が入ってくるだろうなと期待していたら。

 

「一夏、入るぞ」

 

「おじゃまします」

 

「うげ……」

 

予想を大きく裏切る2人が俺の部屋に入って来た。箒とシャルロットである……期待していた2人とは全く違う2人の姿を見て、思わず嫌な声を出してしまった。

 

「?急に嫌な顔をしてどうしたのだ?」

 

「何かあったの一夏?」

 

俺の声に反応してこっちに近寄ってきた。ヤバいヤバいもう少しポーカーフェイスを心掛けないと竹刀や木刀が飛ぶ。

 

「い、いや……何でもないんだ。お、おはよう、篠ノ之さん、シャルロット」

 

ピシッ……。

 

俺が2人に挨拶したら、急に空気が変わった、何だ?

 

「い、いいいいいい一夏?」

 

「い、いいいいいい今何て?」

 

急に顔を青ざめさせてどもる箒とシャルロットに思わず首を傾げた。

 

「ん?何かおかしい事言ったか?」

 

普通に返事をして、挨拶しただけなのにな……。

 

「お、おかしいも何も……」

 

「ぼ、僕達の事を何て……」

 

「何てって……普通に呼んで挨拶しただけじゃないか………違うか?」

 

「「違う(よ)!!」」

 

俺の言葉を聞いて2人は声を不満の声を上げた。

 

「私の事は“箒”と呼んでたはずだ!急にどうしたんだ!?」

 

「そうだよ!僕の事“シャル”って呼んでたじゃないか!おかしいよ!?」

 

と2人は猛抗議するがそんな風に呼んだ記憶はないので……。

 

「いやだな……2人の事はいつもそう呼んでたじゃないか。なあ、篠ノ之さん、シャルロット」

 

と俺は満面の笑みでそうはっきりと答えた。

 

「ごめんなさい!」

 

「何かしたのかわからないけどごめんなさい!」

 

「急に謝るなんてどうしたんだよ。後、着替えるから部屋を出てくれな」

 

いきなり謝りだした2人を部屋から追い出して着替えて朝食を食べるべく食堂に向かうのだった。

 

――――――――――――

 

「うーん……」

 

授業が終わって放課後になり俺は再び首を傾げた。

 

例えば、ISでの授業で千冬姉に指されて普通に答えたら、何故か戸惑われたりクラスの皆が驚いたりしたので思わず訳がわからなくなり、周りを見渡してしまった。

 

それから実技授業で白式を展開してみると俺は愕然とした、鞘がない上にエネルギー効率がかなり悪い設定になっていたので慌てて調整しなおした。

おかしいな……確か簪に見てもらって虚さんに調整してもらってたのに………。

 

とりあえず見てもらうか…はあ……そう思い行動しようとしたら背後から箒達が俺の後を着いてきそうなので………。

 

「本音」

 

「なあに〜おりむー?」

 

「(おりむー?)これあげるから足止めよろしく」

 

「わかった〜」

 

近くにいた本音にお菓子を渡して足止めを頼み、簪がいるであろう。整備室に向かう事にした。

 

――――――――――――

 

整備室に向かって歩いていくと―。

 

「おっ、いたいた」

 

水色の髪の女の子が歩いているのが見えた、簪だ。

 

「簪」

 

「あっ、一夏」

 

俺の呼ぶ声に簪は振り向き可愛らしい姿に思わず、笑みがこぼれる。うん、癒されるな。

 

「どうしたの?」

 

「いや、白式を見てもらおうと思ってな。ISに関しては簪に頼むのが一番だし、信頼出来るしな」

 

「そ、そう……」

 

簪は顔を紅くして、照れくさそうにしていた。頼りにされたのがそんなに嬉しいのか?

 

(――って、あれ?)

 

簪を見ると何故か違和感を感じた。愛しい恋人のはずなのにいつもと違う……何でだ?

 

「?」

 

簪は俺がジッと見ているのに気付いて小首を傾げた。その仕草を見て可愛いが上から下まで見ていると――。

 

(わかった!胸だ!)

 

そう。簪の胸は刀奈さんには負けるが大きな胸の持ち主なのだ、それなのに目の前の簪の胸は慎ましやかだ………まあ、それでも簪の想いは変わらないのだが……。

 

ま、まさか急に縮んだ訳ないよな……?

 

―とアホな思考していたら。

 

「………一夏」

 

「何だ」

 

「私の事じろじろ見てどうしたの?それに今、何か失礼な事考えていたよね?」

 

そう言い不機嫌な顔をした簪が俺をジト目で睨んでいた。

おっと、いかんいかん。ご機嫌斜めにしてしまったな。なのでここは―。

 

「簪が可愛いから見惚れてた」

 

「ふえっ!?」

 

俺の言葉に反応し、顔を真っ赤にしてボンッという音を立てて湯気があがる。

 

「う、嘘ついてごまかそうとしないで……」

 

「嘘なんてつかないさ……」

 

「あっ……」

 

俺はポンと簪の頭に手を置き。

 

「簪は可愛いよ。俺が保証するし、嘘じゃない」

 

俺はそう言いそのまま簪の頭を撫でてあげる。

 

「あうあうあう………」

 

簪は顔を真っ赤にするものの撫でている手を振り払おうせず、俺にされるがままである。

気のせいか、犬耳と尻尾が生えてちぎれんばかりに尻尾を振っている姿になっているように見える。

 

(癒されるな〜)

 

このまま癒しの時間を堪能しようとしていたら――。

 

「っ!?危ない!」

 

「きゃっ!?」

 

背後から殺気を感じ、とっさに簪を抱き締めてかばい、今いる場所から急いで離れた。

 

スドドドオオン!!

 

衝撃音がして振り向くと俺達がいた場所がクレーターになっていた。

 

「簪、大丈夫か!?」

 

「えっ?う、うん……」

 

簪が無事なのを確認して、ホッとした。

 

「一体誰だ………?」

 

俺は攻撃してきた方向に視線を向けながら警戒する。まさか襲撃者がやってきたのか?だとしたら簪を安全な場所に逃がさないと………臨海学校みたいな事は絶対に避けたい。俺は攻撃してきたであろう方向に目線を向けた。

 

そこには―。

 

「ふーっ!ふーっ!」

 

俺の目の前には髪を逆立てながら肩で息をしている鈴がいた。

 

「何してるんだ!?危ないじゃないか!」

 

「うるっさぁい!アンタが変な事してるからでしょうが!」

 

「はあ?」

 

何言ってるんだ?俺はただ簪と会話して頭を撫でてただけで攻撃されるのかよ!?

 

「てか、ここは一般生徒が通るんだぞ!ケガさせたらどうするんだよ!」

 

「そんなのアンタが全部喰らえばいいだけの話でしょうが!」

 

なんだよ、その理不尽………。俺は校則にも載っている事を注意したのにそんな返しとは千冬姉が黙ってないぞ。

 

「……一夏、貴様どういうつもりか説明してもらおうか」

 

「待てや!俺の前にISで攻撃した鈴の事から説明するのが先だろうが!」

 

日本刀を構えながら怒り心頭で現れる箒、てか日本刀は確か千冬姉が没収したはず!?何で持ってるんだよ!!

 

「へえ〜、一夏って他の女の子の前で抱き合うんだね。僕、びっくりしたな」

 

そう言い満面の笑みでISを起動させて左腕にシールド・ピアースを構えるシャルロットが現れた。

 

「へっ?あっ……」

 

シャルロットに言われて気付いた。そう言えば簪を抱き締めていたままだったな……まあ、別にいいけど。もう少しこのままでもいいか、視線を簪に向けると彼女の顔は紅い。

 

「一夏、貴様は私の嫁だろう。一度教育する必要があるな」

 

「おいおい……」

 

同じようにISを起動させて現れるラウラ。鷹月さんがいるのに俺の事を嫁呼ばわりは正直止めて欲しい……。

 

ああ、いかん頭痛が………。

 

「いい加減にしろよ!こんな所で暴れたら不味いだろうが!!」

 

「アンタが悪いんでしょうが!全部!絶対!アンタが悪い!!!」

 

「そうだ一夏が悪い!」

 

「一夏が悪いんだよ。こんな事するから!」

 

「嫁よ!お前が悪い!」

 

――ブチッ。

 

四人の理不尽さに俺の中で何かがキレた。

 

ふ、ふふっ、ふふふ……上等だ。今まで我慢していたがもう限界だ。

 

「簪、悪いけど安全な場所に隠れていてくれ」

 

「一夏はどうするの?」

 

「俺はコイツらを鎮圧してくる」

 

「えっ、でも……」

 

心配そうに俺の顔を見詰める簪に俺は思わず抱き締めたくなったが今は我慢だ。

 

「大丈夫だ。すぐに終わる」

 

「う、うん。頑張ってね一夏」

 

「ありがとう簪」

 

簪の応援を胸に秘めて力にして、目の前相手に向かっていく。

 

さあ、泣いて謝っても許さないからな!!

 

――――――――――――

 

「ふう……」

 

十数分後、俺はゆっくりと額の汗を拭う。

 

「「「「…………」」」」

 

俺の足元には箒達がピクピクと震えながら気絶している。鎮圧行動が簡単に済んで良かったな、後は鎮圧時間を縮めるように努力しないとな。

 

「ところでセシリア」

 

「は、はい!」

 

「その手に持っているライフルはどうするんだ?」

 

俺は離れた所でライフルを手にしているセシリアに対してそう質問した。俺達のピンチに駆けつけて来てくれたのならありがたい、だがライフルの照準は俺達を狙っていたのだ。もし、箒達と同じ目的なら心は痛むが俺の手で止めなければならない。

 

「い、いえ、これは、その、ぶ、ブルー・ティアーズを整備しようと思いまして気が早まりましたわ!」

 

「そうか、展開するなら整備室に入ってからにしろよ。こういうのは千冬姉うるさいから気をつけた方がいいぞ」

 

「そ、そうですわね。オホホ……」

 

セシリアの回答に俺はホッとした。良かった、セシリアは仲間だからあんまりこういう事はしたくないんだよな………。

 

 

 

(あ、危なかったですわ……もし、このまま箒さん達と一緒に攻撃していればわたくしもあんな目にあってたかもしれませんわね………)

 

一夏が自分に対して攻撃の意思がない事にホッとするセシリア。

先程、一夏と簪が抱き合う光景に思わず嫉妬に駆られてライフルを展開し、撃とうとしたが、今日はいつもと違っていた。

いつも逃げていた一夏が箒達を鎮圧させる為に反撃したのだ。突然の出来事に唖然としたセシリアは全く着いていけず、箒達が悲鳴をあげて気絶していく姿を見て、冷や汗がダラダラと流れ落ちていく。

 

そこへ一夏に自分の名前を呼ばれた時に流石にヤバいと感じ、慌てながらも苦し紛れの言い訳をしてなんとかごまかそうした。そのおかげかわからないが自分に危害がない事になったのが幸いしたのだった。

 

(一夏さんを怒らせるのはいけませんね………反省しないと……)

 

セシリアはこの一件で一夏の接し方を改めようと決めた瞬間だった。

 

「それじゃ整備室にいこうぜ、簪頼むな」

 

「うん、わかった」

 

「でしたら、わたくしも整備のアドバイスくれませんか?機密がありますのでそこは一部は教えられませんが……」

 

「うん。簡単なのなら教えられるけどそれでいい?」

 

「ええ、それで構いませんわ」

 

一夏、簪、セシリアは自分の専用機を整備するべく整備室に向かっていった。

 

気絶した箒達を放置して………。

 

その後、3人は有意義な時間を過ごして専用機を整備したのだった。

 

――――――――――――

 

夕食時間になり、食堂で簪とセシリアと一緒に食事を取る事となり、一夏は簪に整備を手伝ってくれたお礼にデザートを奢る事にしたのだが………。

 

「はい。簪、あーん」

 

「ふえっ!?え、えっと……」

 

デザートのパフェをスプーンですくった一夏から食べさせてくれる行為に簪は動揺していた。今日1日一夏からのアピールに全く着いていけないからである。

 

(わ、私一夏に何かしたのかな?で、でも……あうあう……)

 

これまで異性との付き合いが少ない上に気になる男子から可愛いと褒められ、恋人同士がやる食べさせあいを受けているのだから全く心臓が落ち着かない。

 

「遠慮しなくていいんだぞ、ほらあーん」

 

「あ、あーん」

 

簪は一夏に言われるがまま口を開けて、パフェを食べる。

 

「どうだ?」

 

「お、おいしい……」

 

「そうか、良かったな」

 

ニコニコと笑みを向ける一夏を見て、簪は俯く。

 

(ど、ドキドキし過ぎて、味がわかんないよ………)

 

簪は完全にフワフワした状態に陥っていた。自分に好意を向けられるだけでこんなに取り乱すとは思わなかったのだ。

 

(な、なんですの……この蚊帳の外っぷりは……)

 

セシリアは一夏と簪の食べさせあいを間近で見せられてしまい、全く間に入れない。

 

しかも―。

 

「あ、甘い。甘過ぎるわ……」

 

「ぶ、ブラックコーヒー飲まなきゃ……」

 

「も、もう無理……ガクッ」

 

「ああっ!砂糖吐いて倒れた!?しっかりして!」

 

「だ、誰か衛生兵!衛生兵!」

 

と二人のイチャイチャ見せられて周りは耐えられずブラックコーヒーを求める人達で溢れていた。

 

(こ、このままでは簪さんの1人勝ちになってしまいますわ!)

 

このままではいけないと感じたセシリアは二人の仲に入るべく行動を開始した。

 

「ンンンッ!」

 

「どうしたセシリア?」

 

「い、いえ、その……」

 

「ああ、セシリアもやって欲しかったのか。気付いてやれなくてゴメンな。じゃあ、はい、あーん」

 

「そ、そうですわね。食べて差し上げないこともなくってよ」

 

「そうか、無理にやって悪かったな。はい、簪あーん」

 

「ちょっ!?一夏さん!」

 

自分からあっさり簪に鞍替えされた事にショックを受けて声をあげるセシリア。

 

「どうした?急に何だよ?」

 

「わたくし、一言も嫌とは言ってませんわ!」

 

一夏の取った行動に心外と言わんばかりに批難するセシリア。

 

「だって、そんな態度したら嫌なんだなって思われるぞ」

 

「そ、それは……」

 

「いくら照れ隠しとはいえ、そんな態度されたらあんまりいい気はしないな」

 

「で、ですから……」

 

「人の好意は素直に受け取った方がいいぞ、でないと損するのはセシリアなんだからな」

 

「そ、そうですわね。すみませんでした……」

 

一夏の言葉に素直に謝るセシリア、せっかく自分に向けてくれたのに自らの態度で相手に不快な思いをさせたので当然だと思った。

 

「じゃあ、気を取り直して。はい、セシリア、あーん」

 

「あ、あーん」

 

「どうだ?」

 

「お、美味しいですわ……」

 

「そうか、良かったな」

 

満面な笑みで答えるセシリアを満足そうに頷く一夏。

 

(一夏さんに食べさせてもらえて幸せですわ……)

 

頬を紅く染めて嬉しげにするセシリア。彼女の表情から歓喜が溢れんばかりにこぼれている。

 

(セシリアもこういうの憧れてたんだな、いい仲間だし、もう少し気遣ってやらないとな)

 

セシリアの様子を見て、一夏は早くいい相手に巡り会う事を願うのだった。

 

「にしても、今日の簪はどうした?」

 

「えっ?何が……?」

 

「いや、いつもこういう事しているからさ簪が遠慮するなんて珍しく感じてな。あっ、もしかしてセシリアがいるから遠慮してるのか?」

 

「いつも?」

 

ピシッ……

 

一夏の発言に空気が一変凍りだす。

 

「それ……どういう事なんですの簪さん?」

 

「し、知らない!私、知らないよ!!」

 

ギギギ……ときしむブリキな音で首を動かし、絶対零度の視線を向けるセシリアに顔を真っ青にさせて必死に首を振る簪。

 

簪自身全く身に覚えがない為、必死に否定するしかないのだ。

 

「こらこら、簪をいじめるなセシリア」

 

「ですが……」

 

「俺が食べさせてやるから機嫌直せよ」

 

「わかりました。お願いします」

 

「ああ、いいぜ」

 

一夏が宥めてくれたおかげでセシリアの機嫌が元に戻った事にホッとする簪。

 

それを見て一夏はセシリアと簪を満足させるべく食べさせあいを開始し、二人は終わるまでご機嫌であった。

 

 

 

そして、一方では―

 

「………解せん」

 

離れたテーブル席で一夏達の様子を見ていた四人、それを真っ先に呟いたラウラは頭に氷嚢を乗せていた。

 

「何で簪とセシリアがあんな態度なのよ!?おかしいじゃない!」

 

と背中を痛そうに擦りながら悔しげにする鈴。

 

「ううっ……今日の一夏何だか僕達に対して冷たいよ………」

 

半泣きになりながら、背中を痛そうに擦りながら首を氷嚢で冷やすシャルロット。

 

「シャルロット、お前はまだいい。私なんか名前で呼んでくれないのだぞ……」

 

と首と顎を痛そうに擦りながら落ち込む箒。

 

それもそのはず、この4人は一夏と簪のイチャイチャを見せられての嫉妬から暴力に発展したが今回は一夏の反撃をくらい、返り討ちを受けて大ダメージを負ったからである。

 

元を正せば彼女達の自業自得なのだから仕方ないのだが。そこは十代の乙女全く納得がいってないのである。

 

「あんな雰囲気を出してたら間に入れないではないか!」

 

「ま、まさか一夏、あの二人が好きなのかな?」

 

「そ、そんなバカな!?そんな素振りは全く感じなかったぞ!!」

 

あの3人に関係に対してシャルロットの言葉にあーだ、こうだと言い合う箒達。

 

「ふ、ふふっ、そっか。やっぱりそっか。我慢しなくてもいいわよね――よし、殺そう」

 

嫉妬で限界に達し、握りしめた鈴の拳は、すでにISアーマが部分展開してい戦闘モードに入っていた。それを見た他の3人もそれぞれ展開して武装し、今に襲い掛かろうとしていた。

 

「ほう………誰を殺すのだ?」

 

「「「「!?」」」」

 

背後からくる声にビクッと反応する4人。

 

「「ち、千冬さん!」」

 

「きょ、教官!」

 

「お、織斑先生!」

 

ギギギ……とブリキがきしむ音で振り返った先には最強教師織斑千冬の姿がいた。

 

「織斑から食堂で暴れる奴らがいるから警戒して欲しいと連絡があってまさかと思って来てみれば案の定だったな……」

 

出席簿を手に肩をポンポンと叩き、呆れたようにため息を吐いた。

 

「「「「…………」」」」

 

その様子を見て、冷や汗がだらだらと流れる4人。

既に蛇に睨まれたカエル状態と化していた。

 

「お前達、ISの無断展開は禁止だ。相変わらず校則を破るのが好きなようだな」

 

「あっ、いえ……その……」

 

「そういえば整備室前の廊下でクレーターが出来ていたと先生方に聞いたのだが、誰の仕業だ?」

 

「え、えっと、その……」

 

「まあ、いい。ゆっくりと聞けばいいだけの話だ。お前達逝くぞ」

 

ガシッと4人掴み連行していく千冬。

 

「「「「ご、ごめんなさ―――い!!」」」」

 

「安心しろ、今晩は寝かさないからな覚悟しておけ」

 

「「「「いやああああああっ!!」」」」

 

ズルズルと引き摺られて涙目になりながら悲鳴をあげる4人。このまま生徒指導室に連行された。

 

 

 

――――――――――――

 

「ふう……」

 

自分の部屋に戻りシャワーを浴びた俺はベッドに座り一息ついた。

 

「やっぱり別々か……」

 

先程まで一緒にいた簪に部屋場所を聞いてみたら俺とは別の部屋であり、ルームメイトは本音であった。

更に俺は1人部屋である事を聞かされて何だか寂しく感じた俺は「俺と一緒に寝るか?」と本気で簪に聞いてみたら真っ赤な顔して、大慌てで部屋に帰ってしまった。

 

あらら、フラれたか……残念。1人で寝るのは久しぶりだな……はあ。

 

今日1日過ごしてみてがどうやら俺は別の世界に来てしまったようだ。しかも中身だけ………まるで夢を見ている気がするが現実だからな………。

 

まあ、いいか……明日になれば元通りだ、うん。

目覚めれば簪と刀奈さんが俺と一緒寝ているのは間違いない。俺はそう自己完結して、眠りについた。

 

しかし、俺の思いとは裏腹にこの生活がまだ続くとはこの時思わなかった………。




4巻の内容が3、4話くらいで終わりそうです………。番外編は続きます。


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38話

お待たせしました。2ヶ月ぶりの更新になります。

番外編その2です


「はあ………」

 

次の日になり、目を覚ました訳だが……。

 

「やっぱりいないか……」

 

周りを見渡すが二人の姿がいない……二人が居たような痕跡もない……元の世界に戻れてない展開に全く着いていけなかった……困ったなどうしよう……。

 

非常事態に悩むが解決策は全く見付からない上にこの事を千冬姉に話しても無理そうだしな………。

 

「とりあえず動くしかないか……」

 

俺は制服に着替えて部屋を出る事にした。途中簪に出会い朝食を一緒に食べる事となり、楽しい朝食時間を過ごした。

 

今日は休日。何しようかな?

 

――――――――――――

 

朝食を済ませた後、俺は生徒会室に向かっていた。目的は刀奈さんに会う為だ。

 

コンコン

 

「失礼します」

 

俺はドアをノックして生徒会室に入った。

 

「おはよう、一夏君」

 

「おはようございます一夏さん」

 

俺を出迎えてくれる虚さんと刀奈さん。

 

ここは変わらないな……、本来なら本音がいるはずだがいない……書類仕事はあんまり得意じゃないからな………。

そう考えながら刀奈さんを見てみる。

 

うん、特に変わってるところはないな。簪とは違い刀奈さんに違和感は感じなかった。

 

「どうしたの?私の顔をじろじろ見て、もしかしておねーさんに惚れちゃったかしら?」

 

そう言い茶目っ気たっぷりにからかってくる刀奈さん。その表情はとても可愛らしく感じる。

 

「そうですよ」

 

「えっ?」

 

「俺は楯無さんに惚れてます。そして今も貴女に夢中です」

 

俺は満面の笑みでそう答えた。だっている世界は変わっても二人の想いは変わらない。だから俺は素直に想いを言える。

 

「そ、そそそそう!う、嬉しいわ」

 

「あれ?」

 

俺は想いを素直に答えたはずなのに刀奈さんは顔を真っ赤にさせて視線を外した。大抵こう言うと喜んでたのにな………まさか、こういうのに耐性がないのか?

 

「お二方、書類仕事がありますのでこういうのは後にしてください」

 

「あっ、すみません」

 

もう少し口説こうかと思ったが虚さんに注意されてしまった。うーん、残念。とりあえず目の前の事を片付けますか。

 

俺は制服の袖を捲り、目の前の仕事の山に取り掛かった。

 

――――――――――――

 

「ふう……」

 

書類仕事を終わらせ、一息ついた。もう少し時間がかかるかと思ったが予想より早く終わった。時計を見るとまだお昼前だ。

 

「早く終わって良かったわ〜」

 

そう言いぐーっと背筋を伸ばす刀奈さん。スタイルがいいからいい画になるんだよな〜。

俺は頬杖をつきながら、刀奈さんに見惚れていると―。

 

「一夏君……」

 

「はい」

 

「あんまりこっちを見ないで……」

 

俺の視線に気付いたのか刀奈さんは恥ずかしそうにして縮こまる。

 

「好きな人を見ていたいのは当たり前じゃないですか、おかしいですか?」

 

「お、おかしくはないけど……何だか恥ずかしいわ……」

 

刀奈さんに言われて俺は見るのやめる。どうやらやり過ぎたみたいだ……あんまりしつこいと嫌われるのはイヤだし、かと言って見ないのはもったいないな………そうだ。

 

「楯無さん、午後は空いてますか?」

 

「えっ?ええ、今日は書類仕事を1日中やる予定だったけど、早く終わったから特に予定はないわね……」

 

良かった、予定はないみたいだ。内心ガッツポーズしながら本題を切り出す。

 

「それだったら一緒に出掛けません?いい天気ですし楽しいですよ」

 

「えっ?それって」

 

「はい、デートのお誘いです」

 

「ちょっとゴメンね、一夏君」

 

そう言い刀奈さんは俺に近付き、額に手を当てる。

 

「………熱はないみたいね」

 

「………俺は健康ですよ、楯無さん」

 

「ごめんね。急にデートなんて言うから、疑っちゃったわ……」

 

「そうですか……」

 

バツが悪そうにして謝る刀奈さんに俺は内心ショックを受けた。この世界の俺はどんな生活してるんだ?

 

目の前に最愛の人がいるのにデートに誘わないだなんて………って、違う世界だったな。

 

「それじゃ1時間後に駅前で、待ってますから」

 

「えっ?ちょ、ちょっと!?」

 

「絶対に来てくださいね!楽しみにしてますから!」

 

俺はそうまくし立て、生徒会室を後にした。まっ、30分もあれば準備出来るな。

 

「後は……」

 

俺は刀奈さんを喜ばせるべくデートプランを練り出した。時間もあるし、短くても充実したのを選ばないとな………。そう考えながら刀奈さんとのデートに心がウキウキとしていた。

 

ああ、楽しみだな!廊下を歩く足取りも軽く感じた。

 

 

 

「どどどど、どうしよう虚ちゃん!?」

 

「どうするも何もせっかく誘ってくれたのですから行って楽しんでくればいいじゃないですか………」

 

一夏が部屋から居なくなり動揺する楯無に虚は冷静にそう返した。

 

 

「そうなんだけど……」

 

「どうしました?何か不満があるんですか?」

 

「不満はないんだけど………何かおかしいのよね……」

 

「おかしいって、一夏さんは本気でお嬢様に惚れてるんじゃないのですか?」

 

「想いはわかるんだけど……今までの一夏君とは別人みたいで何か違和感を感じるのよね……」

 

「はあ……」

 

「とりあえずお誘いを受けた訳だし、私は行くわ」

 

「いってらっしゃいませ」

 

「いってきます」

 

楯無は席を立ち生徒会室を後にした。

 

――――――――――――

 

生徒会室から30分後、学園を出て駅前で刀奈さんが来るのを待っている。ちょっと強引なところはあったが来てくれると嬉しいが待ちぼうけはかなりショックだ。

 

まあ、まだ待ち合わせ時間にはまだまだ余裕があるな………。ちらりと携帯の時計を見てそう考えていると……。

 

「お待たせ〜」

 

パタパタと走りながら、俺のところにやって来た刀奈さん。

 

「そんなに待ってないですよ。来てくれて嬉しいです」

 

「せっかく誘ってくれたんだもん行かなきゃね」

 

そう言い笑顔ではしゃぐ刀奈さん。うん、私服姿もいいな。

 

「その服、似合ってますよ」

 

「ありがと。さっ、いきましょうか」

 

「そうですね。せっかくだから手を繋ぎませんか?」

 

「て、手を?」

 

「はい。ダメ……でしたか?」

 

「う、ううん。イヤじゃない……」

 

おっ、好感触だ。刀奈さんの返事に気を良くした俺はそっと手を繋いだ。

 

「あっ……」

 

「それじゃいきましょう」

 

「ええ……」

 

手を繋いだ途端、刀奈さんが急にしおらしくなったがここは俺がエスコートしないとな。

 

俺は刀奈さんの手から伝わるぬくもりを感じながらデートを開始した。

 

 

 

「…………」

 

一夏と楯無が手を繋ぎながら駅に入っていくところを1人の水色の髪の少女が見詰めていた。簪である。

 

(一夏とお姉ちゃん!?何で!?)

 

今日は休日であり、趣味のヒーロー物を物色するべく外出し駅前に着いた時に一夏を偶然発見し、せっかくだから一緒に行こうと誘うべく一夏の方に向かおうとしたが自身の姉である楯無が現れ、慌てて物陰に隠れて様子を伺うと会話して手を繋ぎながら駅内に入っていったのだった。

 

(どうして?わからない……)

 

昨日はあれだけ自分に好意を向けて来たのに今日は自分の姉に対して好意を向けている事に動揺を隠せなかった。

 

「確かめなきゃ!」

 

簪はそう決意し、一夏と楯無の尾行を開始したのだった。

 

――――――――――――

 

刀奈さんと一緒にデートを開始し、街内に繰り出す前に昼食を取る事にした。

 

「ねえ、一夏君……」

 

「どうしました?」

 

「せっかくのデートなのにここはないんじゃないの?」

 

若干不満気に言う刀奈さん。俺達が入ったのはファーストフード店である。

 

「そうですか?」

 

「そうよ、もう少しムードがあってもいいんじゃない?」

 

「そんな事はないですよ。学生デートならファーストフード店なんて当たり前ですよ」

 

「そ、そうかしら?」

 

俺の答えに少し首を傾げる刀奈さん。そういえば更識家のお嬢様だもんな………こういう所はあんまり行かないな。

 

「それにせっかくデートですから、少しでも長く楽しみたいんですよ。だから軽めの昼食にしたんです」

 

「そういう事ね。わかったわ」

 

「という訳で。はい、あーん」

 

「ええっ?」

 

ポテトを手に取り、刀奈さんの口元に移動してそう言ってみる。

 

「遠慮しなくていいですよ。はい、あーん」

 

「えっ、ええ……」

 

俺の言葉に促されて、口を開けてポテトを食べた。

 

「どうですか?」

 

「お、美味しいわ……」

 

「それは良かった。それじゃ、はい、あーん」

 

「まだやるの!?」

 

「勿論。楯無さんとの恋人気分を味わいたいからです」

 

「うぅっ………」

 

俺の恋人発言に顔を真っ赤にさせる刀奈さん。こういうのは慣れてないみたいだな。

 

「ほらほら、早く食べてください。まだまだありますからね」

 

「も、もう許して〜」

 

俺の言葉に恥ずかしさからなのか更に顔を真っ赤にさせた刀奈さんはそう懇願してきたが滅多に見れない表情なので、もう少し堪能しよう。

 

俺の中でいたずらっ子みたいな気分になりつつ刀奈さんに食べさせあいを楽しんだ。

 

――――――――――――

 

昼食を済ませて、俺達はショッピングに繰り出した。刀奈さんに似合いそうな服を選んだり、刀奈さんも俺に似合いそうな服を選んで貰ったりとお互いにコーディネートしてあげたりしたり、それからゲーセンに行きぬいぐるみを取ったり、ゲームなどをして遊んだりした。途中で刀奈さんに似合いそうなペンダントを見付けて、いない内に素早く買った。もちろん簪の分も忘れない。

 

「ふう………」

 

夕方に差し掛かり、俺と刀奈さんはある場所に向かっている。

 

ある場所とは俺が見付けた取って置きの場所だ。それに………。

 

(後をつけられてるな……簪か………)

 

途中から視線を感じてこっそりとISを展開させてみると簪が俺達の尾行をしているのだ。

 

そんな事しなくてもいいのにと内心そう思うがもしかしたら俺達に気を使ったのかもしれないな………。

 

チラリと隣の刀奈さんを見ると簪の視線に気付いていないのか俺の手を繋いだまま大人しく一緒に歩いている。

 

まあ、四六時中“楯無”でいるのは大変だからな、この時ばかりはその重荷を外して“刀奈”に戻ってもらいたい。

 

まあ、更識家に居候させてもらってなかったらこんな気持ちにはならなかっただろうな。先代から“楯無”についての話を聞いてからより一層大事にしようと思う気持ちが固くなる。

 

そうしている内に目的の場所に着いた。

 

「さっ、着きましたよ」

 

「ここって………」

 

俺が連れて来たのは街を見渡せる展望台絶景スポットなのだ。

 

「わぁ……」

 

刀奈さんは夕日に照らされた街を見渡して感嘆な声をあげた。

 

良かった、喜んでいるみたいだ。俺は刀奈さんの表情からそう察した。

 

無邪気な所も魅力的なんだよな〜と微笑み刀奈さんの顔を眺めていると―。

 

「どうしたの一夏君?私の方を見て何かあるの?」

 

視線に気付いた刀奈さんが俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

 

「楯無さんの横顔が綺麗なので見惚れてました」

 

「そう……」

 

俺がそう答えると刀奈さんの雰囲気が急に変わった。あれ?何かマズイ事言ったかな?

 

「ねえ……」

 

「はい」

 

「貴方は……誰?」

 

「えっ?」

 

刀奈さんはそう問いかけると同時にランスを俺に突き付けてきた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?急にどうしたんですか!?」

 

突然の事に戸惑いながら何とか目の前のランスを解除してもらうべく話を聞き出す。

 

「今日、貴方とのデートは楽しかったわ………でもね、一夏君にしては出来すぎよ」

 

「はい?」

 

「今までの一夏君じゃ、こんな女心のわかる、気のきいた事をする人じゃないわ。違和感がありすぎて逆に気持ち悪いくらいよ!」

 

ガーン!?

 

刀奈さんの言葉に内心ショックを受けた。何やってんだよこの世界の俺は!?あまりに酷すぎじゃないかと怒りを覚えた。

 

「昨日は簪ちゃんを口説いて接近して、今日は私に接近して取り入ろうとして何が目的なの?誰の命令なの?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!俺は―」

 

「御託はいいわ、正直に答えなさい!でないと容赦しないわ!」

 

そう言い、殺気をビシビシとぶつけてくる刀奈さんに俺は冷や汗が流れた。

マズイ!?更識家当主“楯無”になって完全に警戒されてる!

 

参ったな……せっかく、楽しい時間過ごすはずなのに警戒されては面白くない。

 

「はあ……」

 

刀奈さんに気付かれないようにため息をはいた。愛する人に敵意をぶつけられるのはつらいし、悲しくなるな………。

 

「わかりました。話しますから武器を解除してください」

 

「そう……」

 

俺の言葉をきいて刀奈さんは武装を解除してくれたが、ただ警戒はしたままなのか表情は変わらない。

 

「話す前に……簪、いるんだろ?出てこいよ」

 

「えっ?」

 

俺は隠れて様子を伺っているであろう簪を呼び出す。

 

「……」

 

俺の呼び出しに応じて簪は物陰から現れてゆっくりとこちらに向かってきた。

 

「簪ちゃん!どうしてここに!?」

 

「ごめんなさい。一夏とお姉ちゃんが一緒になって歩いているのを見付けて後を着けてきたの……」

 

「そ、そう……」

 

「途中から簪が尾行している事には俺は気付いてましたよ」

 

「えっ?そうなの?」

 

「気付いてなかったんだね………お姉ちゃん……」

 

「………はい」

 

簪の言葉に肩を落として返事をする刀奈さん。どうやら気付く事が出来なくて、ショックだったみたいだ。

 

「とりあえずベンチがあるからそこに座りませんか?」

 

俺はそう言い近くのベンチに座る。

 

「さあ、二人も座ってください」

 

俺は簪と刀奈さんに対して座るように促す。―がしかし、すぐには座る訳にはいかないのか警戒している。

 

「何もしませんよ。罠なんてありませんし、なんならこれを預かってください」

 

俺は白式を外して、刀奈さんに投げて渡した。

 

「……わかったわ。座って聞きましょう」

 

「いいの?お姉ちゃん……」

 

「多分大丈夫よ。あの一夏君は私達に対して敵意はないみたいだし……信じましょう」

 

「………わかった」

 

簪は一瞬不安な表情を見せたが刀奈さんの説得に納得し、二人はベンチに移動し俺の両隣に座った。

 

「それで貴方は何者かしら?まずはそこからね」

 

「何者って言われても……俺は織斑一夏ですよ」

 

「でも、お姉ちゃんが言ったようにいつもの一夏じゃない、違和感があるのはなんで?」

 

「うーん……話すと長くなりますが構いませんか?」

 

「ええ」

 

「うん」

 

二人が頷いたのを確認した俺はゆっくりと話し始めた。

 

「二人は平行世界とかパラレルワールドとか聞いた事ありますか?」

 

「あるけど……それが何?」

 

「俺はこの世界の“織斑一夏”ではありません」

 

「「ええっ!?」」

 

俺の言葉を聞いて驚きの声をあげる簪と刀奈さん。

 

「えっ?えっ?どういう事?」

 

「あー、体はこのままですが中身は別世界から来た感じですね」

 

「にわかに信じられないわね……」

 

「俺も最初は信じられない事に驚いたのですが現実を突き付けられて理解した感じです」

 

俺はそう話すが二人は混乱したままである。

 

「だって、朝を目を覚ましたら簪と刀奈さんがいないからビックリしましたよ」

 

「「?………どういう事?」」

 

「いつも二人とは一緒に寝ているからです」

 

「「ええ―――っ!!?」」

 

俺の言葉を聞いて更に驚き声をあげる簪と刀奈さん。

 

「い、一緒にってまさか……」

 

「はい、俺は簪と刀奈さん……あー、楯無さんか……お二人と恋人同士です」

 

「「はいぃぃっ!?」」

 

俺の言葉を聞いて驚きながら顔を紅くして声をあげる簪と刀奈さん。

 

「その様子じゃ、この世界の俺と簪と楯無さんの関係は恋人じゃない訳だ………」

 

ようやく理解したな……この世界の俺は簪と刀奈さんとの関係は深くないんだな………はあ。

 

「そ、その……私とお姉ちゃんを恋人にしたなれ初めとかを聞いてもいい?」

 

「構わないぞ、まずは―」

 

俺は簪に聞かれ話出した。二人との出会いから恋人として付き合いながら今までの事を話した。

 

「そ、そうなんだ……」

 

「まさか、簪ちゃんに一目惚れした一夏君の初恋がきっかけなのね……」

 

二人はしみじみとしながらも感想を述べた。

 

「あ〜、一応聞きますがこの世界の俺はどんな感じなんですか?」

 

「私達はそんなに一夏君との交流は少ないから深くはないわよ?それでいいなら話すけど……」

 

「構いません。お願いします」

 

「うん、わかった。それじゃ―」

 

俺の了解をえると簪から話出した。

 

 

 

「マジかよ………」

 

簪と刀奈さんの話を聞いて額に手を当てて落ち込んだ。

 

「簪に一目惚れする前の俺じゃないか………」

 

そう、この世界の俺は鈍感一直線に進んでいた事にショックを受けた………。

 

まあ、簪と刀奈さんの出会いがなければこうなっていた訳で………マジでヘコむ………。

 

「そこまでヒドイとは思わなかったな……」

 

「まあ、確かに昨日今日の一夏君と比べれば確かに違うわね」

 

「うん、こんなに違うとは思わなかった」

 

「そう言われると違和感あるって言われても仕方ないか………」

 

改めて、この世界は俺のいた世界とは違うと認識させられた。

 

「ねえ、一夏君」

 

「なんですか?」

 

「もしも、もしもよ。元の世界に帰る事が出来なかったらどうするの?」

 

「そうですね……」

 

 

刀奈さんの質問に少し考えたが答えは決まっている。

 

「勿論、二人を俺の彼女にしますよ。迷う必要ないです」

 

「で、でも向こうの私達とは違う部分や好みもあるんだよ?それでもいいの?」

 

「それは好きになって貰えるように努力したり、受け入れる覚悟は出来てますよ」

 

「全くブレないのね……」

 

「そうですよ……だって」

 

俺は少しの間を取り、ベンチから立ち上がり、クルリと二人の方を向き。

 

「俺が愛しているのは更識簪と更識刀奈の二人だけです。他の誰も好きになりませんよ」

 

俺は微笑みながらそう言った。

 

「「………」」

 

「あれ?」

 

二人が呆けてしまい俺は戸惑うが―。

 

ボン!!

 

二人の頭から湯気が上がると当時に顔が真っ赤になった。

 

「あうあうあう……」

 

「………ど、どうしょう……本気になっていいのかしら………」

 

と二人はブツブツと呟きだした。大丈夫かな?

 

「そろそろ帰りません?時間も迫ってますし、遅くなりますよ」

 

「そ、そうね。そうしましょう」

 

「う、うん。早く帰らないとね」

 

ベンチから素早く立ち上がり頷く簪と刀奈さん。

 

「じゃ、帰りましょう」

 

「ええ」

 

「うん」

 

俺達は学園に帰るべく歩き出した。途中で二人と手を繋いでいたが簪が急に俺の腕を組んで来た事に驚いたが刀奈さんもつられて腕を組んでくれたのは良かったかな。

 

学園の校門前に着いた時に箒達の襲撃を受けたが簪と刀奈さんを安全な場所に避難させて撃退し、事なきを得た。

 

――――――――――――

 

「あら、お帰りなさい一夏さん、簪さん、会長さん」

 

俺達が学園内に帰ると俺達に気付いたセシリアが笑顔で出迎えてくれた。

 

「ああ、ただいま」

 

「一夏さんは簪さん達と一緒にデートしてたんですの?」

 

「ああ」

 

「そうよ、楽しかったわ」

 

「ほとんどお姉ちゃんがメインだったけどね……」

 

「まあ……それは良かったですわね」

 

「「あれ?」」

 

「どうかしたんですの?」

 

「いつもならここで不機嫌になるのに落ち着いてる……」

 

「そうね。今までセシリアちゃんなら何かしらのリアクションを取りそうなのに……」

 

セシリアの態度に首を傾げる簪と刀奈さん。セシリアって普段そんなだっけ?

 

「ふふっ、以前のわたくしでしたらその様な幼稚な行動をとってたかもしれませんが今は違います。そんな事しても嫌われるだけだと気付いたからです」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「ですので、これからは淑女として振る舞っていますわ」

 

そう言いセシリアはスカートの端両手で掴み少しあげてペコリと頭を下げた。

 

「セシリアちゃんは変わったわね……」

 

「皆さん夕食まだでしょうか?」

 

「いや、まだだ」

 

「でしたら、わたくしもご一緒しても構いませんか?」

 

「俺は構わないぜ、簪と楯無さんは?」

 

「いいわよ」

 

「私もいいよ」

 

「だそうだ」

 

「ありがとうございます。早速いきましょう」

 

セシリアのかけ声で俺達は食堂に行き四人で夕食を楽しんだ。

 

昨日のデザート食べさせ合い聞いていた刀奈さんに言われて三人に食べさせ合いをしたのは余談だ。

 

 

ちなみに気絶した箒達は千冬姉が連行されて行ったので問題ないだろう。

 

そろそろ元の世界に帰れないかな……そんな思いを抱き眠りについた。




次話で番外編はラストです


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