幽溺の空、灰暮れに (湧棄俄)
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碧天のトラモント
子供の夢


リミテッドキャラが来ない…
水着ゾーイも当たらない…
てかSSRが当たらない…

せや!小説にして書いたら手元にあるも同然や!

と言うことで投下


 

数多の島々が浮いているこの世界。

今ではお伽噺の存在となってしまった星の民により齎された科学技術により、人々は空に足を置くことに成功した。

島が浮くと言っても、特別何かがあるわけでも無く、強いて言えば、この世界の人々は空で暮らす…と言ったところか。

 そして、この世界には空の民と呼ばれる4種の種族が共存している。

全てにおいて不条理が無いヒューマン。

聴覚が優れ、獣のように素早く活きるエルーン。

手先に優れ、人一倍力を保有しているドラフ。

非力ながらも、恐ろしき潜在能力を秘めているハーヴィン。

 

この四種の間に嫌悪的な関係は無く、互いに長所を活かしながら暮らしていた。

 

この物語は、トラモントという小島で暮らしていたエルーンの長い長い生の旅路である。

 

 

 

──────────────────────

草木が覆い茂る大自然、目に余るほどの緑。木々はゆらゆらと踊り、小鳥達は声を揃えて囀り飛ぶ。

 

 …なんて事は無く、そこに居るのはひたすら汗を振り撒きながら自分の背丈程の木剣を振るう少年。

身体から滲む汗により密着した服が彼の少しばかり膨らんだ筋肉を目立たせている。そしてエルーンの特徴的な獣の耳と灰白色の髪。

見た目だけで言えば、運動している姿より座って本を読んでいる姿の方が似合うと言えよう。

 

「ふっ!てやぁ!」

 

幼さがまだ残る声を張り上げながら、斬り上げの動作から横一閃…そして突き。

この動作をひたすら繰り返していたため、穏やかに木の上に居座っていた鳥達は飛び去り、声の大きさのせいでまともな小動物は寄ってこない。

 

 

そもそも、彼は森の中で何をしているかというと…鍛錬である。それも一時間や二時間では終わらない5時間にも及ぶ長時間の物である。手の皮は木刀の握り過ぎで血が滲み、肩や足など筋肉痛どころの話では無い。

何故11歳の彼がそこまで血の滲むような努力をするのかというと、誰にでもある夢の実現の為である。

 

時は遡って五年前。

彼はただ街を歩いていただけだった。別に何かをしていた訳でもなく、ただの気分転換の散歩だったのかも知れない。だが、周りはそうでは無かった。

 

ある魔物が住み着き、街の一部を荒らし回ったのだ。

その魔物は人間の3倍はある大きさで、四足歩行の猛獣。とても力では勝てる見込みは無かった。

街の農作物は蹂躙され尽くし、その爪と顎で石すらも砕く破壊力。人間なら豆腐を毟るように砕かれるだろう。

 

住人は他の島に救助を求めた。しかし、短小な島にわざわざ構う大国なんて物は無い。

もう諦めて島からの脱出を計画していたのだが、一つだけ救助を受け入れてくれた国があり、その国に従属する騎士たちが現れた。

 

それからはもう圧巻の一言。

数十人の騎士達は魔法を駆使して相手の動きを封じ込め、相手の急所を確実に叩いていった。

魔物は彼らに手傷を追わせることなく倒れた。

 

少年はその強さに憧れを抱いた。

恐ろしき化物を寄せ付けぬ勇猛さに。

人々は当然お礼に貨幣や食物を献上しようとしたのだが、彼らの代表者らしき者は断ってこう言った。

 

『我らの正義に従って動いたのみ。我らは褒美の為に戦うのでは無く、人と世の為に走るのです』

 

そういって速やかに自分達の国に帰っていった。

少年は今度、その心の強さに憧れた。

少年はこの事柄を受け、彼らのように心身共に強くなり、世の為に働こうと幼い心で決心した。

はっきり言って憧れが過ぎる。理解からの決意が早すぎるのだ、この男は。

 

 

 

以上の事柄が彼を愚直なまでに鍛えさせる理由である。

心身共に強くなる為に身体を壊しそうになっているのは愚かと言えるかもしれないが。

 

この一つの出来事で、盲信的に彼らの騎士道を求め、人生の道を定めようとする時点で、彼もまだ子供の精神という事だろう。

 

疲労も回復しないまま、思考も働かずに剣を振る。

段々と速度が落ちていき、足腰も震えているほどにままならない彼に忍び寄る影が一つ。

 

「ここにいたのか。コーリス」

 

「…ん?ああ。いたのか」

 

少年の名前を呼んだのは青く少し癖っ毛の髪を持つ少女。この少年、コーリスは声をかけられて三秒後にようやく気付いた。恐らく集中より疲労が勝り、耳に言葉が届いても、働かない思考が受け入れるのを拒否したのだろう。なんとも子供にしては人間味の無い話だ。

 

「もう剣を振るのは辞めておいたほうがいいぞ。誰から見ても分かる程に目が虚ろだ。ふふっ、まるで幽霊だな」

 

少女は呆れの感情も含めながらくすりと微笑む。それもその筈、コーリスはこの鍛錬を二年間毎日欠かさないで行っているのだ。毎日こんな姿の幼馴染を見たら誰だって呆れるだろう。

 

一方コーリスは少女の冗談をまともに返せる程の元気は無いのに加え、持ち前の堅物気質故か上手く返せる自信もない。

 

「さすがに五時間は疲れる。悪いけど買い物の手伝いは出来ない」

 

「…別に買い物の荷物持ちを要求しに来たんじゃない。疲れて倒れられても困るから様子を見に来ただけだ」

 

「節度は守る……多分」

 

「守れる確率3%と言ったところかな?お前の馬鹿さ加減は私が一番知っている。皆と遊んだりはしないのか?」

 

 

会話からも分かる事だが、彼女はコーリスの幼馴染である。物心ついたときから側に居るので、家が近いとかその辺の理由だろうとコーリスは思っている。

彼女が買い物に行く時は彼女の妹に荷物持ちとして良く使われている。それこそ人助けだと、コーリスはいつも

満足げに微笑んでいるのだが、周りからしたら女性に連れ回されて喜んでいる男にしか見えないのが悲しい。

そんな彼女はコーリスの頑固さを知っているので、やんわりと棘を刺すのだが、彼はそれを気にも暮れずに剣を振るので、段々と言葉が辛辣になっていった。

 

それでもコーリスは自分の鍛錬が認められ始めていると勘違いしている。

鈍いとかではなく、単純に人の真意を読み取れない性格なのだ。

 

 

閑話休題(そんな事より鍛錬だ)

 

 

 

「遊ぶ……笑止」

 

「しょ、しょう?」

 

 

とても11歳の吐くセリフではない。というか普通の生活で笑止なんて使わない。

彼女の言った通り、お互いに11歳の身で、学校の友達がいない訳でもないのに、彼は真っ直ぐ家に帰ってはすぐ森へ籠もる。

同級生の中には偶然彼の鍛錬姿を見た者もおり、つい『変態だ…』と呟いてしまい、シメられた事もある。このような事例がある為、今の彼に近付くのは禁忌とされている。

身体が弱い妹の世話をしなければならないので、町の人間との交流は薄く、遊びに現を抜かす暇は無い。 

 

さすがに笑止とは言わないが。

 

 

「なんだ…?そのえっと、しょうしとは?」

 

「前に読んだ冒険小説に出てくる騎士のセリフ。騎士を目指すなら佇まいもそうしなきゃいけないからな」

 

「……」

 

 

彼も年頃の男子なのだ。

直感的にかっこいいと感じた物を日常生活で使いたがる。全空で不治の病とされる厨ニ病(若気の至り)に片足を突っ込んでしまった。

後に、彼は自分で発言を後悔して腹いせに家のドアを破壊する程に悶絶するのだが、それはまた今度。

 

 

「もう…島を出るからな。皆と遊びたい気持ちも無くは無い」

 

 

そう、コーリスは自分達を救った騎士達の住む島に行き、騎士を直接目指そうとしているのだ。

戦士を育成する士官学校へ通い、自らが憧れる騎士団への所属を目指している。

 

無論、島の移動は子供に簡単に出来る物ではないが、空を移動する騎空艇を操縦する操舵士がいれば問題の無い事である。

そして幸運にもこの島には良い腕の操舵士がいる為、移動手段に困る事は無い。

 

 

「そうか…あと三ヶ月か…」

 

「だからこそ、士官学校への準備をしなければいけない。期間が迫っているからこそ、皆と遊ぶ暇なんて無いんだ」

 

「…フィラにも会ってくれないか?」

 

「フィラの具合が問題無いならな」

 

 

フィラ。

彼女の妹であり、コーリスにとっても妹のような存在である。彼女とは違い、感性豊かで、毎日を楽しく生きていそうで、いつも微笑ましく見守られている存在。

ただ、体が弱く、毎日寝込んでる事は無けれど運動が出来る訳ではない。

 

コーリスは島の端に捨てられた捨て子だった為、別の人間の家に住んでおり、一人暮らしでは無いが、それなりに自立した生活が出来る。それを知った少女はどうしても用がある時、コーリスに妹の面倒を見てくれと頼んだのが始まりだった。

 

年下の面倒なんて見た事無いコーリスは突然の願いに戸惑い、緊張しながらフィラに会ったのだが、その不満はすぐに解消された。

フィラは驚く程に陽気で、人懐っこく、疎外的な雰囲気を醸し出すコーリスにもコミュニケーションを怠らなかった。コーリスもそれに安心したのか、良く舌が回るようになった。

話す内容は、将来の夢は何だとか、どの島に行ってみたいかだとか、姉は外ではどんなふうに振る舞っているのかなど、他愛無い普通の話だ。

だが、それだけでも外へ満足に出れないフィラには十分に楽しめる内容であり、彼の希望満ちる夢は彼女にとって冒険譚のような聞き心地だったのだ。

 

 

と、そんな過去を語った事で分かったと思うが、フィラは社交的、それに対し姉は閉鎖的。

なのにフィラは家から出る事が叶わず、姉は外で関係を広める事が叶わない。お互いの境遇が噛み合っていないのだ。彼女達の両親も普通の暮らしをさせてやりたいと思っているが、病がそれを許すことは無い。

なんとも皮肉な運命だ。

 

 

(…こいつらが普通に友達と遊んでいる姿を想像できないな。フィラの病気を治してやりたいが……)

 

少なくとも自分に治癒魔法など使えない。

いや、少し前に村に来た医療師でさえ、この病気を治す事は叶わなかった。

 

 

コーリスは、このやり場のない悔しさに身を固めながら、フィラの元へ向かうのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

少し大きめの屋敷。

その屋敷の一部屋がフィラの寝ている部屋だ。

 

コーリスはゆっくりとドアを開け、フィラが寝ているかを確認する。

 

 

「…起きてるか」

 

「あ…コーリスさん!」

 

ベットに腰掛けながら本を読んでいた少女は、コーリスの姿を見た途端本を閉じ、飼い主を見つけた子犬の如くすぐに駆け寄る。

 

 

「具合はどうだ?苦しいようであれば飲み物を持ってくるぞ?」

 

「ううん!大丈夫。手足が少し怠いだけで、具合は悪くないよ!それで…今日はどうしたの?」

 

 

具合は悪くないと言いながらも顔色は常人よりも白く、手足がぎこちないと言うだけでも辛い状態なのに元気に振る舞う健気さにコーリスは少し悲しくなった。

 

だが、フィラの明るさに少し顔が綻んだ事も事実だ。 

それがとても哀しく、この静かな一室がもっと静かになった気がした。

 

自分が来た事を喜んでくれる少女に、自分がそろそろ姿を消す事を知らせなければならないのは残酷な話だが、何れ話さなければならない事だと自決する。

 

 

「もう後三ヶ月で島を出る。フィラとも別れる事になるから…その挨拶だな」

 

「……そっか」

 

「そうだ」

 

 

明るい雰囲気から一変、場が冷え切ってしまった。

それを感じ取ったフィラは焦って話題を作る。

 

 

「えと、あ!何だっけ?その、これから行く島…リスクーウだっけ?」

 

「リュミエール、だ。俺はそこまで変食家では無い」

 

「あれ?でもこの前お姉ちゃんがコーリスさんが蜂の巣を食べてたって言っ「止めろ」………うん」

 

 

これはコーリスが蜂の巣が食べれると言うことを知っていただけで、知らない人間が恐れているだけである。

フィラの姉は虫が大嫌いな為、蜂の巣など絶叫物なのだが、偶然、コーリスが回収した虫が一切入っていない巣にコーリス自身が噛み付いているシーンを見てしまい、誤解が生まれてしまった。

 

コーリスは変食家であり、腹が空けば虫さえ食っても美味しく感じる変態であると。

 

無論でまかせであり、コーリスは悪くないのだが、悲しいかな噂は広まってしまった。

 

 

「お前の姉が話す事は信憑性が高いが、虫に関しては何がなんでも自分の先入観に囚われてしまう。だから安心しろ、蜂の巣は食える」

 

「う、うん」

 

「あと、何だか思い詰めてる顔してるぞ。蜂の巣でも食うか?」

 

「いや、今はいいかな…。えっと、前にお医者さんに言われた事があって…まだお母さん達にも話してないんだけど……」

 

「言ってみろ。出来るだけ秘密は守る」 

 

「あのね…島を出て、大きな島で治療を受けないか?って言われて…」

 

「…」

 

理には適った話ではある。

この島、トラモントは他の島に比べ小さく、国というより村が似合う島だ。

それならば、医療技術が十分に備わった都会の大きな島で治療を受けた方が良いと言うものだ。

 

医者は何一つ間違っていない。

だが、

 

 

「まさか一人じゃないよな?」

 

フィラは年端もいかぬ子供。コーリスですら15にもなっていないのに、フィラ一人で島の移動など危険すぎる。

ましてや、病が完治する確証も無い。

 

誰かが付いていくのならば問題無いだろうが、フィラの様子を見ると、一緒に行く人間は決まっていないらしい。

一人では行かせられない。

 

 

「一人で都会の島なんて大変だろう。付き添いは居ないのか?」

 

「お医者さんが付き添いを手配してくれるから、大丈夫だよ」

 

「そうか。じゃ、もっと会えなくなるかもな…」

 

「大丈夫だよ!私、病気なんかに負けられないから!まだ外の景色なんて知らないけど、病気が治ったら、色んな島に行って、たくさんの思い出を作って…それで島に帰ったら、お姉ちゃんに自慢するんだ!!外の世界はトラモントよりもずっと違って、違う楽しさがあったって。コーリスさんがリュミエールに行くんなら、私はその反対の島を巡るんだ!色んな島の思い出を交換し合おうよ!それから…」

 

「分かった分かった…鬱めいた話をした俺が悪かったな。」

 

フィラはずっとしたい事を我慢してきた為、これから目指す輝かしい理想の人生を夢見る。

しかし、それは決して叶わない夢では無く、フィラの元気があれば、その夢もすぐに実現出来るとコーリスは思えた。

 

 

「なら、約束だな。俺が先に島を出るから、思い出をたくさん拾って来てやる。それまで退屈せずに楽しみに待ってろ。ただ、お前が元気になったら、次はお前が俺に沢山の思い出を語るんだ。楽しそうだろ?」

 

 

コーリスはこの言葉を語ったら少し恥ずかしくなった。

何を偉そうにこんな子供みたいな事を喋っているんだと。ただ励ましの言葉だけで良かったろうに、と。

 

ただ、こんな言葉でも、フィラという少女は

 

 

「ッ……うん!!」

 

 

と、楽しみげに頷いてくれるのだった。

 

 

 

 

 



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空を跨ぐ

結構前の水着フェスの結果…
SSR一枚目…ヴェイン
SSR二枚目…水着パーシヴァル
SSR三枚目…ランスロット&ヴェイン
SSR四枚目…武器(水着パーシヴァル)

男ばっかじゃねぇかお前ん家ィィ!



「そろそろ行きます」

 

騎空挺が駐屯する乗り場では、人だかりが少なからず出来ていた。

今日はコーリスが島を出る日。

フィラと約束をしてから、驚く程に三ヶ月が早く過ぎたように感じた。

そんな彼を送るのは、捨てられていた赤子の彼を拾った高齢の夫婦。

コーリスが島を出たいと思っているのを見抜き、相応の金額まで渡してくれたので、コーリスは感謝が尽きない。士官学校への連絡も済ませたという点では、相当彼を甘やかしていると言えよう。

 

「今までお世話になりました。コーレ伯母さん、レルフ叔父さん」

 

「はは!そんなに畏まらんでもいい。いつも通りが一番過ごしやすいじゃろ?」

 

そう快活に笑うレルフは、捨てられたコーリスを発見した張本人。老いを感じさせぬ力強い振る舞いは周りにも活気を与え、強い存在感を示す。

それに反しコーレは静かな雰囲気を保ち、穏やかで人に安らぎを与える。

 

レルフは義理の息子の旅立ちを笑顔で送り、コーレは溢れ出る涙を布で拭き取り、無事を祈る旨を伝える。

この夫婦の他にも島の人間が大勢集まり、コーリスを送り出そうと様々な言葉をかける。

風を引くな、無駄遣いはするな、独身にはなるな、友達作れ、蜂の巣食うな、耳掃除を忘れるな、など、心配に近いものが様々だ。

こうして見ると、自分は以外に皆に好かれているのだろうか?という浮いた考えがコーリスによぎる。

 

実際、コーリスは街でも色々な人物との関わりを持ち、また、人の助けになろうとする彼の態度は密かに村の人々の好感度を上げていた。

そんなコーリス達まで駆け寄る影が一つ。

コーリスの幼馴染である。

 

「ん?どうした。ここまで降りてくるなんて珍しい」

 

「う、まぁ…別れの挨拶くらいはするべきだと思ってな…少しな…」

 

彼女の家は村から離れた山にあり、その場所もまた人々の疎外感を感じるには充分だった。

村の人々もあまり見ない顔付きに驚き、それと同時に交友関係を持っていたコーリスを意外に思った。

 

「なら恥ずかしがらなくても良いだろう。いつも通り堂々としろ、○○○

 

名前を呼ばれた彼女は一瞬たじろぎながらも前を向き、コーリスに言葉を伝える。

 

「あ、えーと…む、向こうでも、元気にな」

「口下手か」

 

コーリスは殴られた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「まったく酷い話です。知人の見送りを打撃で済ます奴がこの世界にいるでしょうか?いえ居ませんよね」

 

「お前は少し黙っとけ」

 

飛空艇。

それは空を飛ぶ移動手段であり、この世界に生まれたからには絶対に『乗ってみたい!』と思わせる乗り物である。

まして男にとっては最高の憧れ(浪漫)である為、コーリスはとても浮かれていた。

たとえ殴られて騎空艇に搭乗してしまったとしても。

 

彼女が怒りに身を任せ、この騎士目指しの愚物を殴った理由は、単純に『お前に言われたくねーよカス!』というような感情が湧いたからである。

 

この男、自覚してないがとんでもない言動をしている。

勉学に悩み、コーリスに相談をした者は『ああ、単純に覚え方が下手なだけだろう。未だに身につけていないのか?』と、鬼畜極まりない暴言を吐く。

なお、本人にとっては『ああ、自分に合った勉強方法が見つけられてないのか…それならしょうがないな!まだ身につけてなくても、余裕で間に合うよ!』と言っているつもりである。

 

挙げ句の果てには、騎空士に憧れた小さな子供に対して、『高所が苦手なお前には向いていないな。そんなんじゃとても無理な夢だ』と、外道ここに極まれりと言った言葉を吐き捨てる。思わず泣いてしまう哀れな子供。

この時ばかりは村中の同年代にビンタされた。

 

これも本人には『いい夢だね!でも、高い所が苦手なのを直さなくちゃ大変だよ?これから苦手意識を消していくのを頑張ろう!』という吐いた言葉そっちのけの脳内変換が行われており、同年代から粛清を受けてた時は、『これがいじめか…』という被害妄想まで生まれていた。

 

はっきり言ってこれじゃただの屑である。

コーリスが村の人々から嫌われなかったのは、村の人々がコーリスをネタ扱いできる程に悟りを開いていたのと、コーリスの毎日に及ぶ献身的な行動が村の為になっていたからであろう。

どっちみち口下手に変わりは無いのだが。

 

「…あなたは暴力肯定派ですか?へー」

 

「お前拗ねると本当面倒くさいな…度量ハーヴィンか?」

 

「そこまで言わなくても…ハーヴィン族に失礼です」

 

「自覚あんだったら直せ」

 

コーリスが現在話している人間は騎空艇の操縦士。名をサレア。茶髪で眉目秀麗な彼女には、一時期ファンが耐えなかったとか。

トラモントにいる僅かな操縦士で、その操縦の実力は他の空域の比べても上位に位置するらしい。

若年、そして女性ながらもその操縦能力は天候に関係なく目的地まで難なく到着させる精密さ。まさしく天才と言うべきものだろう。

 

まぁ、その毒舌と荒々しき男のような口調のおかげで婚期を逃し……そうになってるだけだから問題は無い。

少なくとも逃しそうになってるからイライラして辛辣な言葉を子供に投げかける訳ではないだろう…多分。

だが、お互い遠慮の無い言葉を投げかける性格からか気が合い、年の差は11もあるが、今ではすっかり仲良しである。

 

「サレアさんはリュミエールに行った事がありますよね。どんな感じの島なんですか?」

 

「ああ、運び手という職業柄かあんまり中には入れないからな。詳しくは分からないが、まぁ…活気溢れる島だったな。経済は回ってるし、皆笑顔って感じの島だ。犯罪者の数も他の島に比べて少ないらしい。騎士団で有名な国のフェードラッへにも行ったが、あそこは国として機能してるが堅苦しい雰囲気があったな。勿論元気で煩い奴もいたが」

 

「色々珍しい国って事ですね」

 

「そういうことだ。リュミエール聖騎士団も活動が案外自由で、弱い奴でも受け入れるらしい。前に不器用なハーヴィンでも入れたって話だ。来る者は拒まず、辞める者も拒まずって体制と聞く」

 

「そんな国でも一応士官学校は存在するから良く分からないんですよね。実際リュミエール聖騎士団の強さはかなり有名ですし」

 

「指導者が優秀なんだろう。力が無く、取り柄さえ無い奴に対しても適材適所を見つける程にな。まぁ、一番影響を与えているのはこの体制を長年続かせている歴代の国王達だがな」

 

 

コーリス達の住むトラモント、リュミエール聖騎士団本拠地のリュミエール聖国、国を守護する騎士団で全空に名を轟かせるフェードラッへ。

これらの島は全てファータ・グランデ空域という一つの地域として纏められており、広大な海に身を浸すアウギュステ列島や、翠緑の森を持つルーマシー群島、艇整備職人の島であるガロンゾ島を始め、豊かな土地で溢れているのがこの空域の特徴である。

数々の島を渡った操縦士がその中でも特に活気に溢れていると言ったのがリュミエール聖国だ。

 

空域で語るならば、ファータ・グランデと魔物を凶暴化させる乱気流、通称瘴流域を挟んで隣接するナル・グランデ空域が挙げられるが、ナル・グランデは数多くの国が覇権を争う戦乱の空域であり、とても平和な空域とは言えない。

さらに遠方にはファータ・グランデやナル・グランデを超える規模の空域、アウライ・グランデ大空域があるが、多くの瘴流域を挟む上に堅固な情報網で仕切られているため、詳細を知るものは少ない。

 

幾つかの空域の中で、比較的平和なファータ・グランデに生まれるのは、誰だって幸福に思うだろう。

だが、ファータ・グランデにも問題は少なからず存在する。

まず、この世界には『空の民』と『星の民』という種族が存在していた。

空の民とは、言わずもがな現在全空域に存在する四種族、つまりヒューマン、エルーン、ドラフ、ハーヴィンの事である。

そして星の民とは、遥か昔…それこそ数百年前にも遡る時代に突如姿を表した侵略者である。現地民にとって謎でしか無い莫大な技術力を持って土地を蹂躙し、全空最悪の戦乱である『覇空戦争』を引き起こした圧制者達。

戦争を引き起こした後、自分達の兵器を遺して消えるように姿を隠した謎の種族である。

 

星の民の使っていた兵器の名は『星晶獣』。

名称に獣と入っている通り自我を持ち、この世界の創造主である神にも等しい力を持っている。

星晶獣は各自何らかを司る能力を持っており、その全てが戦いに関わる物だった。だが、星の民が撤収した事で戦っていた星晶獣は放置、残った星晶獣は主を失い、結果空の民の地に残されてしまった。

それを見た空の民は星晶獣が蔓延る事を危惧し、数多くの島と契約を結ばせる事でその力を使った発展の仕方を見つけ、もしくは守り神のような存在にした。

 

ここまでは良いのだが、ファータ・グランデ空域には星晶獣と契約した島が多すぎるのだ。

もし、何らかの影響で眠れる星晶獣が暴走し、それに刺激され他の星晶獣が暴れ出してしまったら……きっと第二の覇空戦争が始まってしまうだろう。

そんな自体にならないよう、各島も立ち回っている。

水を司る島なら水質汚染に気を向ける、大地を司る島なら森林破壊などを控えるなど、様々な対策を欠かさない。

 

なお、トラモントは星晶獣と契約していない島であり、歴史書にもそのように記述されている。

 

「星晶獣…仕事的に会う事になりそうです…」

 

「会う時はその島の一大事って事だ。滅多に無いから安心しろ。暴走した星晶獣なんて私でも聞いた事が無い」

 

実際、暴走を危惧されていると言っても実例がここ数十年まったく無い。

周辺の魔物が暴れるケースは少なくないが、星晶獣が人目に触れる瞬間などは無い。いや、あってはならない。

 

「もし、会う事があるなら命に関わる瞬間だ。今からでも気を引き締めろ。私も操縦士という身分、命を背負う事も自分の命を掛ける事もある。だが、お前は人を守る騎士。私以上に命を張る人生になるだろう」 

 

「……分かっています」

 

「秘密にしておけと言われたが流石に言っておく、お前が騎士になりたいと発言した時、コーレさんは肯定するのを渋ったそうだ。あのレルフさんでさえ苦痛に満ちた表情をする程なんだ。お前が島を出た後、きっと泣いただろうな。いいか?お前は後ろめたさを覚えてはいけないんだ。夜通しする程悩んだ末の厚意で送ってもらったお前が後悔するな。それこそ本当の屑野郎になってしまう。いや、ただのポンコツか?」  

 

「…」

 

厳格な口調から悪口になり掛けているが、これも自分への気遣いだとコーリスは受け取った。

 

「説教みたいで個人的に好きじゃ無いが、お前はもう割り切るべきだ。夢だけで行動をした結果堕落なんてのは見るに耐えない。お前は後悔することなく前に進もうとしろ。それが夢の実現だ。無償で得が出来ると思うなよ」

 

厳しい口調だが、コーリスはそれが心地良いと感じていた。無論Mでは無い。

 

明らかになった伯母達の思いと、サレアのアドバイスに隠れた優しさに胸が暖かくなったからだ。

思わずコーリスは頭を下げた。操縦しているサレアが見える訳も無いのにだ。

 

「ありがとうございます。サレアさんの言葉、胸に刻んでおきます。あと…」

 

「ん?なんだ」

 

「やっぱり優しい人ですね。貴女は」

 

「チッ…言っとけ」

 

サレア一瞬忌々しいと言いたそうな顔でコーリスを睨んだが、コーリスには温厚な笑みが浮かんでいるだけ。

ここで終われば良いのだが…

 

「お礼に今度…いえ、もうちょっと先に成りそうな話になるんですが…」

 

「あ?」

 

それで終わらさないのがコーリス。

11歳にして『口下手クソ外道野郎』というあだ名をつけられたのは伊達では無い。

つまり…

 

「優しそうな男性を紹介しますね」

「しね」

 

地雷を一踏み、いや百踏み、千踏み。

温かい空気は、着々と、それでいて確実に殺意の奔流と化した。

 

「な!?操縦の片手間で銃を構えないで下さい!死人が出ます!!」

 

「今なら死んでも下に捨てりゃバレねぇなぁ!!」

 

「自分が悪かったです!!!でも、せめて好みだけでも!サレアさんの役に立ちたいんです!」

 

「ッ!……バニッシュピアース!!!」

 

「ちょ、まってk」

 

 

 

 

 

 

                

 




遅れてすまんのぉ…

まだまだグラブル初心者でのぉ…

マグナ周回して疲れたんじゃぁ…

取り敢えずサイドストーリーやってたらサブル島に殺意が湧きました(半ギレ)


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リュミエール聖王国、来日

石大量配布…ほう?

石配布と共にゾーイとフェリの絵……ニチャァ

ブローディア水着ハートサングラス?


…………やりますネェ!!(ポンメルン)




「付いたぞクソ野郎。ここがリュミエール聖王国だ。荷物降ろしの用意をしろ」

 

「はい」

 

「寮登録までは付き添ってやる。また妙な事をほざいたら風穴が空くと思えよ?」

 

「はい。御忠告感謝致します」

 

昨日の出来事のせいかコーリスに元気が無い。

流石に学んだのか、受け答えも下手な事は言わずに感謝の言葉のみを選んでいる。

コーリスは学ぶ男だ。しかし悲しきかなその場で対応する事は出来てもこれからの人生に活かすことは出来ないだろう…そうでなきゃもう口下手・天然など治っている。

 

少し大きめの皮袋に包んだ荷物を背負い、サレアの案内の元、コーリスは一言も発さずに、足を動かす以外の身体の機能を停止させ、トラウマを思い出した子供のように続いていく。

一方サレアは不機嫌そのもの。コーリスの方を見る度不満と憤怒、憎しみの混じった舌打ちを無意識に打ち付けていく。

それを見たコーリスは『ああ…そりゃ結婚出来ないな…』と相変わらずの思考を無感情の顔面で広げていたのだが、何を感じ取ったのかサレアは腰に掛けている愛銃の引き金に触れたのだ。

 

それからコーリスは何も考えなくなった。

何も考えられなくなった。

自立起動していた思考は錆果て、空の風に当たり冷えて止まっていた汗腺からは激流の如き汗が流れ、感情を表していた瞳は深淵の闇を顕現させていた。

 

少し経った後、コーリスは自分の人生の追想を強いられていた。 

物心つく前から年中霧が立ち込めるトラモントに捨てられ、拾われ、コーレ伯母さん達に育てられた。

エルーンの自分にも優しくしてくれたヒューマン達。

森で遭遇した青色の髪を持つエルーンの少女。山の上に家があり、下の森で迷ってしまったらしいから頑張って家に返したのを覚えている。彼女の両親には凄くお礼の言葉を送られた。

 

魔物に襲われる村。

霧でよく見えない視界の中サレアさんが操縦した騎空艇に乗って駆け付けてきたリュミエール聖騎士団の人々。俺に夢をくれた人達。

夢を追い鍛錬を続け、家で疲れて寝ていた俺を労ってくれたレルフ叔父さん。よく迷惑かけたな…。

 

10になった頃、友人と小さい子供を泣かし、村中の奴らからビンタを食らう。痛かった。

他の奴らは『子の心の方が痛かろう…』と言っていた。何歳だよ。

あいつの妹、フィラに愚痴を零したら苦笑いされた。

 

蜂の巣から溢れる蜂蜜を啜った。勿論虫抜きはしてあるが、それでもあいつには無理だったらしい。一晩で俺が変態になった。いつか〆る。

 

フィラと約束をした。二人だけの秘密。

トラモントを去った。寂しくて泣きそうだ。

サレアさんに怒られた。死ぬ。

 

──ああ、これが走馬灯というやtッ!?

 

「付いたぞ。ここがリュミエール聖王国士官学校第一寮だ。早く証明書を出せ」

 

「…はい」

 

コーリスの飛びかけていた意識を銃で叩く事でサレアは戻した。流石に撃つことはしなかったようだ。

彼は再びビクビクと怯えながら寮の扉を叩く。

中は木造りのテーブルや椅子が設置されており、受付机の前には休憩のスペースが広がっている。

何故か受付にいる人間以外に人気が無い。

 

「すみません、寮の申請に来たものです。これが証明書何ですが…」

 

受付席に座っている外見中老の女性に士官学校との契約で得た証明書を見せ、話し掛ける。

女性は何やら驚いた様子で紙を見る。

 

「ん?おお!騎士志望かい!?若いのに頑張るねぇ…。んん?トラモント…霧の小島から来たっていうのかい!!あの霧を掻い潜ってよくここまで来たね!ああ、人気が全く無いだろう?それはね、他の島から来て態々()()()()()ってのが珍しいからだよ。大体の人間は自由奔放な騎空士を目指すからねぇ。最近は本国でも聖騎士志望が減ってるんだから有難いもんだよ…。あ、私はグルシって名前さね!皆からは愛情込めて『おばちゃん』って呼ばれてるよ。あんたも是非呼びな!今じゃこんな寂しい寮になっちまったが、決してボロくは無いよ!全く最近の若者はヘタレでねぇ…戦うのが怖いって喚きながら家に引きこもってる奴らばっかりさ…加えて勉強も疎か…あんたみたいのは大歓迎さ!あ、後もう一人騎士志望がいたよ。あの子も遠い国から来てたねぇ…ま、仲良くしてやってくれ。あとそれからそれから…………」

 

乾いた外見から恐ろしいマシンガントーク。話題を提示するまでも無く舌は高速回転している。

コーリスはおろか、サレアまで冷や汗をかいている。

このおばちゃん、強い…!

などとくだらない思考を広げている間にも、トークは終わらない。

 

「でね!騎士を目指す人間は皆フェードラッへに行っちまうんだよ!何故かうちの国は緩いと思われててさぁ、あっちに人員を吸われちまうんさ。個人的には国を守るあっちと空域を守ってるこっちじゃ別物だと思うんだけどねぇ…。まったく、商売上がったりだよ!ん?横のアンタは?保護者かい?」

 

「ああ…一応身分は証明するべきか。私は騎空艇操縦士のサレアだ。こいつを送る為に来たんだ」

 

「んん…サレア…!?」

 

「私の事を知ってるのか?」

 

「そりゃあもう知ってるなんてもんなんじゃないよ!操縦士のサレアって言ったら超一流の操縦士で豪雨乱風雷鳴などお茶の子さいさいの天才で有名じゃないか!!いやーうちに来るなんて嬉しいこったね!どうだい?食事でも。騎士はフェードラッへに吸われてるが飯の旨さだけは負けないつもりだよ!何だったらここを食堂に改装しても良いかなんてねっ!はははは!!」

 

「あー、ちゃんと住もうとしてくれる人間がいるから辞めとけ。取り敢えず飯は大丈夫だ。こいつを送り届けたら目的達成だからな」

 

「そうかい…。まぁ未来の騎士様一人確定って事で喜んでおくとするよ」

 

「そうしとけ。私以上の大物になるかもしんないぞ?」

 

「まぁた楽しみな事を言うねぇ」

 

本人そっちのけで繰り広げられる未来への期待。

実はこの二人知り合いかと思わせるような軽い会話。とても初見の若者と年配の雰囲気では無い。

おばちゃんは何百年前からこういう性格と相場が決まっているが、若者は珍しい。

基本、敬語を使かったりする物だが…。

 

だが、コーリスは少し納得していた。

サレア以外の操縦士も見た事がある故の結論だ。

操縦士とはワイルド(血気盛ん)な生物なのだ。飽くなき探究心と死をも恐れぬ芯の太い心は自然とその人格を型どっていく。女性とて例外では無い。

…子供に銃を向けるのはどうかと思うが。

 

舌を回転させながらも事務仕事をきっちり終えたおばちゃんは部屋の番号が記された鍵を渡してくる。

 

【A-02】と書かれた鍵だ。

まさかとは思うが…。

 

「この寮二人しかいません?」

 

Aとはアルファベットの最初に位置する物。恐らく幾つかの区域で分けられており、次に続くBが存在するのだろう。

そして02とは、区域に存在する部屋の番号だろう。

…両方とも最初に位置する番号ということは。

 

「…そうさ。騎士を目指す者はいれど本国の人間ばかり。さっきも散々言ったけどあんたみたいのは本当に珍しいんだ。恐らく、あんたともう一人で終わりだろうね。昔は沢山五月蝿い奴らがいてねぇ…私が30くらいの時は部屋が常に満杯さ」

 

そう語る彼女は先程の和気藹々とした語り口からは一転し、哀愁漂う、そして何かを懐かしむようだった。

単純に騎士業が過疎化した悲しみもあるだろうが、それだけでは無い気がする。そう思ったコーリスは敢えて聞く事をしなかった。

人が自分から言おうとしない限り、人の深層に踏み込むべきでは無いという考えを持っているからだ。彼の数少ない自論だろう。

 

騎士とは守る事。

守るという事は戦う事。殺めるも殺められるも同率に受け止めなければならない。死にゆく者も少なくは無いだろう。

 

「辛気臭い空気になって悪いね。部屋でも確認しに行っててくれよ」

 

言われた通り鍵を持ってAと地面に記されている通路を進む。サレアさんとは外でまた会う予定だ。

何でもリュミエールはあまり訪れないらしく、少しでも見て回っておきたいのと、操縦士としての依頼探しも兼ねてある。

 

「ここだな」

 

最初の方に位置する部屋なのでエントランスから近い場所に部屋があった。

ドアに書かれている文字を確認した後、鍵穴に鍵を差し込み、音を立てないようゆっくりとドアを開ける。

 

 

中は思ったよりも綺麗だった。

木目が目立つ地面は靴が引っ掛かる事も無いし、作業用の机まで用意されてあった。

更にフカフカそうなベッド。コーリスは大満足であった。

 

 

 

用意されてあった椅子に真顔で居座るハーヴィンさえ居なければ。

 

 

 

「待っていたぞ」

 

「…用務員の方ですか?」

 

反射的にそう聞いてしまった。

自分の部屋になる予定の場所に入れるのは掃除を行う用務員でしかあり得ないと思ったからだ。

 

「違うな」

 

癖毛の黒髪に混ざった赤いメッシュを揺らしながら、その小人は表情を変えずに否定する。

その返答を聞きながらこの人物の分析を進める。

エルーンから見て明らかに未発達に見える短い手足、体型に反し大人びて見える顔付き。間違いない、四種族では小柄な種族のハーヴィンだ。

 

「俺はお前を確かめに来た」

 

「はぁ…」

 

「俺と同じ(こころざし)を持つに相応しいかをな」

 

「……と、言う事は」

 

「そう。俺がもう一人の志望者だ」

 

先に申し込みに来ていたもう一人の志望者はハーヴィンの少年だった。

コーリスは少なからずの衝撃を受ける。

 

まず、ハーヴィンは色々な商業に流通している。

そして、数多くの様々な役職に務める。よろず屋、絵画家、質屋、服屋など、職業のフットワークは四種族の中で一番軽いと言えるだろう。

だが、ハーヴィンは傭兵などは一切行わない。

それは何故か?

 

単純に、力が足りないのだ。

無論、個人個人の努力で済ませられる程ならば当の昔に解決している問題だろう。

だが、ハーヴィンはその体躯の影響で他の種族より力が劣る。言ってしまえば子供の力で大人の力に勝てる訳が無いのだ。

拳で闘おうとすれば、余裕で掴まれ軽く投げられる。

重い刃物を持とうとすればその重さに振り回され、標的を斬る力さえ出ない。

 

そもそも戦闘に向いていない種族なのだ。

武力に抵抗出来ない身体を良い事に犯罪に巻き込まれる事も少なくない。

普段から軽視される事もある。

成熟した大人が子供扱いされ、馬鹿にされた事もある。

戦闘に関して、全てが不条理な種族。

それが自分と同じ騎士を目指し、尚かつ自分と同じ目標を持つに相応しいか見に来たと?

 

余程の強者か、はたまた単純に余裕を見せに来ている勝ちたがりか。

 

「相応しい?お前がどんな人間が知らないが、騎士とは国を守り、人を守り、世界を守る存在だ。相応しい相応しく無いでお前に合わせている暇も無いし必要も感じられない。志とは人が平等に抱ける物、実現するように努力こそすれ、夢を持つ事に許可なんて必要無い。大体人の部屋に居座るな。驚くだろ」

 

「フッ…その心味、良い」

 

「……気取ったように言うな。ますます訳が分からなくなる」

 

「どうやら本気で騎士を目指すらしいな。ならば言っておこう…俺の名はスルト・ヴァーグナー。リュミエール聖騎士団団長に成り、ハーヴィンの汚名を返上する。均衡を保つ者だ」

 

 

──何だこいつ。

 

コーリスの頭はこの思考で満たされた。

考えても見て欲しい。寮の鍵を渡され初めて部屋に入ったら変な小人が居て、志を共にするに相応しいか確認しに来たと喚きながらドヤ顔で自己紹介。

誰だって混乱する。

 

だが、スルトと名乗った小人はコーリスの様子に触れる事なく、用が済んだとばかりに部屋を出ようとする。

 

「ではな。士官学校ではお互いに睨みを聞かせる好敵手となるだろう。まぁ、お前が強いのならばの話だが」

 

最後にこちらを横目で見ながらそう言ってドアを開けるスルト。

最後までその気取った態度が崩れる事は無かった。

 

 

「ぎゃふ!!」

 

 

短い足が窪みに引っ掛かり転ぶまでは。

 

 

そして、もう一つの疑問が頭を過った。

 

──あいつ…どうやってこの部屋に入った?

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「…てことがありまして」

 

「災難…?いや、友達が出来た事を喜ぶべきか?」

 

「災難…いや、災厄ですね」

 

転んだ変人(スルト)を助けて見送った後、コーリスはサレアとリュミエールの観光をしていた。

夕焼けに染まった空の下では沢山の商店がアピールをしている。

 

中でもコーリスが見ていたのは高額で売られているエリクシール。

エリクシールとは、傷を負った人間が飲めば即座に回復し、疲れ果てた人間が飲めば活力が漲るという魔法の治療薬。

だが、その効果を作る為にそれ相応の労力が費やされている為、かなり高額。

ちなみに効果が薄くなったものの生産コストが大幅に繰り下げられたエリクシールハーフなる物も存在する。

 

(あれを持っていればフィラの病気も治ったか?)

 

その考えが頭を過った瞬間、あり得ないと断ち切った。

そもそもエリクシールに病気は治せない。その前提を失ってた自分に失笑する。

 

(フィラが自分の病気と戦おうとしているのに、結局俺は空想に助けを求めてるのか…)

 

スルトの志審問の記憶も蒸し返され、彼は少し自分に自信を失っていた。

結局、これからも自分は悩み続けるのだろうと、コーリスは憂鬱に身を浸らせた。

 

 

 

 

 

 



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紫苑の夢

テスト期間につき、遅れた。
俺、ワルクナイ。
テスト、ワルイ。



すみませんでした。


──なあ、コーリス。

 

柔らかい森に包まれながら、横に耳を傾ける。

 

──人とどうやって関わり合えば良いんだ?

 

次に目を向ければ涙が。

膝を抱えて、涙目で心情を訴えてくる少女。

朧気な意識を抱え込みながらその質問の返答を考える。

だが、問に答えるまでもなく耳にはもう一つの声が流れてきた。

 

──…話せばいいと思う。

 

聞こえて来たのは涙に対する一切の同情も含まない返答。それが、自分自身の声だと気付くのに時間はかからなかった。

だが、自分の目には声も手も足も存在しない。

ただ二人の動向を横で見つめているだけ。

 

(懐かしいな…)

 

そう、これは過去の自分。

過去の自分を景色として見つめている奇天烈な現象─これを夢と判断した。

違和感のある空気に包まれているのに、その場では疑問に思えないという矛盾。異常空間に溶け込む精神。

人にとって今も、そしてこれからも未開の地。

それが夢である。

 

(こんな声だったか)

 

数年前の自分を見つめ直して思うのは声の変化。

一年前程の景色。横で泣いている○○○には目もくれず、今の状況を理解する。

彼女の横にいる自分の高い声に不甲斐なさを感じ、思わず苦笑を顔に浮かべてながら声を聞く。

 

 

──私はどうすればいいのかな?フィラは病気で家に出れず、母さんはフィラの看病につきっきり。父さんは種族柄かヒューマンに関わろうとしない。私はこうやって森でぼやっとしてるだけ。人の役にも立てず、妹の話し相手にもなってやれないし、作ってやる事もできない。なぁ、お前はどうして自然に過ごせるんだ。

 

──自然?

 

──ああ。お前はエルーンの捨て子なんだろう?拾われても一人の環境の筈だ。それなのに人が寄ってくる。お前が人を突き放したような発言をしても周りが笑顔で()()()()()()()()。私は余計な事を何も言わないのに誰も話してくれない。目すら合わない。

 

──ああ、そんなことか。

 

余りに軽率な返答に頭を抱える。

少なくとも悩みに悩んで涙まで流している少女に対する対応では無い。余りにぶっきらぼうすぎる。

それも過去の自分だと言うのだから、俄然見るに耐えない。今すぐ過去に戻って殴りたいくらいだ。

 

 

──…そうだな。お前にはどうでも良いし簡単な事だったな。頭も良いし、身体も動かせて、友達もたくさんいて、フィラの話し相手になれる。確かにお前は何でも出来るからな…。これなら、こんな陰湿な姉より妹が外にいる方が良い…。いっそ私が病気にかかれば良かったッ…!!

 

痺れを切らし、言葉に比例して涙の量が増えていく。

地に滴る水滴は誰の元にも届く事はなく、現実に溶かされていくだけ。

悩み、というのは妹に対して何も出来ない自分の無能さに打ちひしがれている、と言ったところか。

 

 

──なら、どうして話し掛けない?交友が広がればフィラにも楽しい空間が出来るかもしれないのに。

 

──怖いんだ…。他種族として離されていくのが!仮に私が友達をフィラに紹介したとして、父さんがそれを良しとしないかもしれない!『エルーンの風習』が何だと故郷の決まりごとを並べて仲違いをさせようとするかもしれない。家族の縁が切れて、またあの子に辛い思いをさせるのが堪らなく怖いんだよ……。

 

──へたれめ。

 

──ッ!!!

 

 

 

『…馬鹿が』

 

コーリスは過去の風景を覚えている為、彼女を怒らせ胸元を掴まれた記憶がある。

そして、へたれという言葉を堺にこれから殴られると言う事も知っている。確かに自分が悪いが、自分が殴られる風景を見るのは微妙な気分だ。

いっそ笑い飛ばせれば楽だ。しかし当時は考えなかった彼女の心情が知りたい。

自分の風景に現を抜かす暇はない。

じっと、この景色を見つめてみようか。

 

激情のままコーリスの胸ぐらを掴んだ少女は叫ぶ。

 

──お前には出来るのか!?私に出来ない事を卒なくこなしたお前が!!ならばやってくれよ!ああそうさ、相談というのが間違いだった!お前を頼れば出来ると思っていた私が馬鹿だったんだ!

 

──……お前じゃないと意味が無いだろう。

 

──違う!!お前と話すフィラの表情はいつにも増して楽しそうだった!私と話している時よりも目が輝いていた!最初からお前を頼るのでは無く、()()()()()()()!!周りの人間もお前を頼りに日々を過ごす事もあった。なら、()()も助けてくれよ!!正義の騎士なんだろう!?

 

 

とめどない悲しみと怒り。

もはや自分の無力さを受け入れてしまっている。諦めの心は相手への渇望と変貌して叩き付ける。

ただ普通に生きているだけでも、彼女にとっては一番羨ましい物だった。

 

 

──なぜ黙る!!

 

吐き出した思いに答えないコーリスへの怒りか、それとも無意識に同情を欲しているのか。

年相応の感情の爆発を見せた彼女は、まるで無い物ねだりをして誰かに縋る子供だった。

普通の人間なら、ここで彼女の言葉を受け止めて慰めたり、協力したり、または彼女の望み通り行動するといった方法を取るだろう。

 

しかしそこはコーリス。

自分の思った事を素直に吐き出し、他人の言い分は認めるが言いなりにはならない頑固者である。

地雷を超え、逆鱗に触れる。

 

 

──こんな姉で、フィラが可愛そうと思っただけだ。

 

思えば、この発言は意地っ張りの延長だったかもしれない。

 

───────!!!

 

声にならない叫びを携えて男を殴る。

涙と感情で混ざりあった顔を隠す事も、目の前にいる男に涙が溢れる事も気にせず、嗚咽のまま殴る。

だが、男は自分に対し失望のような感情を含んだ目を向けてくる。痛みなど感じていないように。

 

……それが、堪らなく悔しかった。

 

数分経って彼女は冷静さを取り戻した。

が、大人びた精神がそれを許さなかった。

親友を感情のままに殴りつけたのが良くなかったようだ。どんなに無情な言葉を突き付けられたとしても、人としての罪悪感が込み上げてくる。憤怒に包まれていた顔は病人のように青白く染まり、力強く握られていた拳は開き、カタカタと指を痙攣させている。

 

無論、いくら力強く殴ったと言っても成熟していない少女の腕力。痛みは感じれど傷として顔に残る訳が無い。

コーリスは経験としてそれを理解している。殴られている男が途中にそう思っていたかは本人にも分からないが。

 

──あ、その…私はそ、そんなつもりじゃ

 

──………。

 

──は、はは…馬鹿だな…私は。相談を持ちかけに森へ連れては勝手に怒って人を殴る。唯一の交友関係も自分で断ち切ってしまった。

 

──なぁ。

 

──いや、いいよ。コーリスは頭が良いからな。()()()()()に掛ける言葉もすぐ思い浮かぶんだろう?でも、私にはその言葉に対する返答が思いつかないよ…。

 

 

無言で見つめる男を見てさらに萎縮したのか、言葉もおぼつかない。

もう何もかもが嫌になったのか、男の言葉も断ち切って自分という存在を嫌悪する。

 

 

──こんな馬鹿な女に付き合わされて疲れただろう?今まで済まなかった。もう無茶を言わないよ。

 

──そうか。なら言わせてもらう。

 

──?

 

──第一俺を人間じゃないみたいに言うな。慰めの言葉を直ぐに言える程器用じゃないし、何でもこなせる超人なんかじゃない。まず器用なら言葉で子供を泣かせたりしない。

 

──それでも、私よりよっぽど立派な人間さ。妹にさえ億劫な私より…。

 

──…何を言っても無駄か。

 

口下手な彼が必死に絞り出した言葉でさえ彼女の後悔を忘れさせるには程遠い。

ならば、最後に本心だけは言う。

 

 

──言っておく。誰だって怖いのは普通だ。俺だって一人じゃ他の島の人に声すらかけれない。だが、人を頼りにする事すら怖がっているなら、人間何が出来るんだ?

 

返事をする事なくおぼつかない足元で家に帰ろうとする○○○

 

その言葉は結局彼女に届いたのか。

それは今になっても分からない。

 

だが、何故こんな夢を見たのかは予想がつく。

それは、普段凛としている彼女が見せた数少ない弱みが印象深かったと言う事。

 

 

 

 

そして、これが彼女との初めての喧嘩だったということ。

何か特別な物があるわけでも無い、単なる下らない言い合い。それが思い出として残っているという事なのだろうか。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

聞こえたのは目覚まし時計の音だった。

朝でも遠慮なくジリリリ!!と鳴る時計は、コーリスがトラモントから持ち込んだ私物だ。現在午前5時。

 

「……」

 

…夢でも見たのか。起きた時の妙な目の冴え方と、服に染み込んだほんの少しの汗がそれを連想させる。

夢の内容を覚えている人もいるだろうが、自分は別。

嫌な夢、怖い夢、楽しい夢、奇妙な夢など、様々あると聞くが、どれも内容を覚えていない。

朧気に残っているのは、故郷を思わせる緑と、懐かしい思い出を匂わせる雫だった。

トラモントを想ったのは、一週間前にサレアさんが帰省した時だろうか。

 

「………」

 

重力に引っ張られるように身体を伸ばす。

望んだ行動かは分からないが、勝手に体が動いてしまう。

半分だけ開いた眼で洗面所に向かう。

目に写ったのは耳を垂れさせた半目半口で寝癖を付けたみっともない男だった。

髪型だけでも人前に出せるようにしたいので、顔と髪を水で洗う。

 

髪についた水滴をタオルで拭きながら、窓から外を見渡す。そこから見える中庭はとても綺麗だった。

コーリスは半袖の私服に着替え、部屋を出てエントランスに向かう。

そこには当然グルシことおばちゃんがいた。

 

「相変わらず早いねぇ…」

 

「やる事は朝にやっておきたい性分でして」

 

「ま、それが良いけどね。あんまり切羽詰めんじゃないよ?」

 

眠そうに欠伸をしながら注意をされる。

この寮に入って10日は経った為、早朝に顔を出す事を驚かれなくなったが、毎日同じ時間に起きている内に感心されるようになった。

この生活様式はトラモントでも変わらなかったのだが。

 

朝に起きて即鍛錬。

そんなにも珍しい事なのか。

グルシさん曰くこの年の若者は朝に弱く、やるべき事を後回しにする為昼にやり、最悪夜に回して寝不足になる事がしばしばらしい。

自分は寧ろ夜に弱く、決まって10時には倒れるように眠ってしまうのだ。だから静かな朝に一人で黙々と鍛錬が出来るのは気分が良い。

 

…隣部屋のあいつは真逆だ。

夜は煩いほど声を張り上げて話し掛けてくるのに朝は音量最大の目覚まし時計でも起きない。文字通り叩き起こさないと意味を成さないのだ。

ここ数日間で毎日グルシさんからマスターキーを貰って起こしに行っている。旗迷惑な物だ。

 

「涼しい」

 

 

中庭に出たら思わず言葉に出てしまう程の涼しさ。

丁度良い朝の風が吹き抜け、気持ちよく顔を叩いてくれる。朝早く起きる利点はこの快適さにあると感じる。

 

 

風の余韻に浸る訳にもいかず、鍛錬の準備を進める。

まずは身体解し。予め柔軟をやっておく事で体温の上昇と固まった関節を解す。

次に走り込み。

広く、そして円状になっている中庭は外周に適していて走りやすく、体力の向上に良く繋がっている気がする。

二十周程走ったら息を整え、軽く布で汗を拭き取りながら木器に立てられている木剣を手に取る。

この場所は昔から士官学校の生徒達の鍛錬の場になっていたらしく、色々な種類の武器を模した木造りの塊が置いてある。

 

 

自分が握った木剣は背丈の半分以上の大きさを持つ物。

トラモントで使っていた、要らない木の塊を削って無理矢理剣の形に仕立てていた物に比べ、作ろうとして作られた剣はとても形が整っている。

荒れた部分も無く、つるりとした側面が良く目立つ。

重さも申し分無く、本物の剣には劣るだろうが両手で持たなければならない程には重い。

 

 

両手で構えた剣を中段に保ちながら、剣を横凪に振るう。振るうだけで自分の筋肉が隆起し、足が剣の重さに持っていかれるのを実感する。

それを堪えながら斜めに剣を振り下ろし、脇を締めて突く。

合間合間に足を入れ替えながら剣を振るう事で、如何に効率よく力を節約しながら振るえるかを追求できる。人間とは体格がそもそも違うものなので、自分の体に合った型を見つけるのが得策と言えよう。

 

「───ッ!!」

 

 

最後に振り下ろした剣を手首を回す事で構え直し、下から直線上に振り上げる。上から下に落とすのは誰でも可能な動きであるが、下から上へ物を上げるのは通常よりも腕力を使う。

これらの動きを繰り返すだけで、次第に自分の向き不向きを知る事が出来ると実感する。

 

 

コーリスは、生活に支障が出ない限界まで剣を振り続けた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

朝の鍛錬が終わり、濁流の如く流れた汗を綺麗に浴槽で身体を洗い流し、エントランスのテーブル席に座る。

少しすると、グルシさんがやって来た。

 

「おつかれさん!いやー、凄い気迫だったよ。若者であれが出来るんだねぇ…」

 

「集中してると、自分が変わる気がします。その物事以外どうでも良いと思えるくらいに」

 

「極限まで集中してるって訳だね。で、何時ものを頼むよ」

 

 

そう言って苦笑を浮かべながらマスターキーを渡してくる。理由はもう分かっている。

馬鹿(スルト)を起こしに行くのだ。

先程述べた通り、スルトの朝の弱さは異常であり、近所迷惑になる程の音量を目覚まし時計に設定しても一向に起きてこない。

肘を腹に全力で叩き込む事でようやく目が覚めるレベルだ。

 

 

そんな相手の部屋に向かっている途中で大音量の目覚まし時計の音が聞こえる。

起きないだろうが。全く無駄な足掻きである。

マスターキーを一号室の扉に差し込み、ドアを開ける。

スヤスヤと安らかに眠っているハーヴィンと脈動する目覚まし時計。

この対比が非常に不快である。

 

ベッドの目の前に移動し、スルトの額を軽く叩く。

が、反応が無い。

 

「起きろ!!」

 

 

怒っているわけじゃないが、できる限り大きな声で挑戦してみるも反応無し。

生きているのかと疑問に思えて来た。

前に肘で叩き起こした時は少し堪えた様子だったが、10秒程で何時もの騎士風の佇まいに戻った。

かなり身体は頑丈と言えるだろう。

何度も同じ手を使って耐性を付けられても困るので、少しやり方を工夫してみる。

その方法とは…

 

 

「起きろ()()()()()()()そんなんで騎士になれると思ってるのか?」

 

「んだともう一辺言ってみろ三下ゴラァァァァァァァァ!!!!」

 

 

効果あり。口調すら変えさせる精神攻撃だ。

奴にとって、【チビ、ザコ、マヌケ】は禁止用語らしい。無論本音では無く起こす為の口撃に過ぎないが、理性を失わせるには充分だった。

 

 

 

──まあ、たった三人しかいないけど賑やかで楽しいぞ。そっちはどうだ?○○○

 

 

 




新召喚石でスルトって名前来ちゃった…。

星晶獣と同じ名前で大丈夫?スルト・ヴァーグナー君。
いじめられてない?


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熱狂火達磨シャウト

リミテッドキャラで私服って珍しいですよね。
ところでラカムの評価が良くない事に憤怒。

変わらないラカム(戒め)


「少々取り乱したが問題無い。(わずら)わしい夢を見ただけだ」

 

「ならその胡乱な目を整えろ。お前の事だから二度寝しそうだ」

 

起きて早々()()()()暴言を吐きあったが、相手は正気を取り戻したようだ。口調が理知的に戻っている。

そして二度寝しそうと言ったが、こいつに限っては昨日四度寝を決め込んだ。

恐ろしい事件だった。起こしても気絶するように閉じる瞼は、きっと肌を切り裂いても開かないだろう。

そう思わせるくらい凄絶な物だった。

 

いい加減にしろと怒り狂い、何度その小さい体躯を蹴り飛ばそうとしたか…。しかし奴は素早く、以上に身軽だ。騎士団長を目指すと豪語するだけあって鍛えている。終いには身体に宿る火の魔法を使って拳の勢いを付け、反撃してくる始末。

しかも奴は魔力が以上に多いのか、拳の威力がおかしい。庭で喧嘩したときは10メートルほど上空に飛ばされたものだ。

自分も魔法は使えるが、得意なのは防御と弱体系。火や水などの攻撃魔法は少ししか使えない。

自分の魔法もおかしいとよく言われるが、ゴリ押し系のスルトよりマシだと思う。

 

話が逸れたが、今日は大事な日だ。

喧嘩などしている暇は無い。

 

 

「全く…今日は入学の日だ。大抵大事な日というものは寝坊常習犯でも起きるものだが…?」

 

「──毎日と違わぬ振る舞いを。これが騎士の享受だ」

 

「……じゃあ毎日早起きしてそれを毎日の振る舞いとしてみれば良いのでは?」

 

「自分の道はッ!…曲げられない」

 

「いや本当に曲げて」

 

 

またこれだ。

事あるごとに言い訳の嵐。馬鹿がなまじ強い力を持つと危険というが、こいつはただ面倒臭いだけだ。

思えば初めて会ったときもそうだった。

 

鍵が掛かっていたのでどうやって先に入っていたかを本人に聞いたら…

 

『中庭から窓に入らせて貰った。火の噴出は実に便利だ』

 

と、不法侵入を反省する素振りも見せなかった。

不法侵入するわ地面の凹みで転ぶわキレて椅子燃やすわで問題児。

グルシさんは楽しそうに眺めているが、追い出しても良いんじゃないかと思う。自分だったら鍋にぶち込んで3日間放置する。

それ程までに奴の蛮行は留まる事を知らない。

 

「着替えろ。朝食の準備が出来たら呼ぶ。くれぐれも寝るなよ」

 

「分かっている」

 

「寝るなよ」

 

「分かっている!!!」

 

 

二度目の注意をして部屋から出ようとした時にはもう火のパチパチとした音が鳴っていた。

そんな事を気にせず部屋を後にする。ああ見えて人に火を直接当てては来ないから安全だ。

早速エントランスの横にある食堂へ移動し、グルシさんが用意しているであろう朝食を運びに行く。

 

グルシさんの料理はなんと言うか…母の味?故郷の味?と言えば良いのか…。

凄く美味しい。無論高級料理店のように着飾った味付けでは無く、栄養や食べやすさを追求している真心の籠もった料理。コーレ叔母さんの味を思い出す。

今日の料理は何だろうか?

良い匂いが立ち込める食堂へと足を踏み込んだ。

 

「起きたかい?」

 

「ええ。もう少しで来ると思います」

 

「ならば良し。起きたばかりだから少量でも問題なさそうだね」

 

 

ハーヴィンは小人だ。その理に従うならば当然胃も小さく、常人の三分の一程の食事で十分なエネルギーを得られる。逆に言えば余り物を食べられないので、食べる事が好きなハーヴィンがいるのならば哀れな話だ。

スルトは味わって物を食べるが、大食いでは無い為か安定して食事を取っているように思える。

外食でもお子様ランチを頼まざるをえないのは本人にも不本意らしいが。

 

両者とも好き嫌いは無く、基本何でも消化できる。

サバイバル訓練なら余裕で3ヶ月生き残れる自信がある。

何故かって?

トラモントで引かれる程危険物摂取したからだよ。

笑い茸、毒キノコ、毒草。

味さえ良ければ満足感で苦しみをカバーできる精神論が意外にも功を成し、毒見最強の称号を得ることが出来た。

ただフィラに引かれると本当に心が傷むので辞めようかなと思っている。

 

 

閑話休題(そんな事より飯だァァァ!!)

 

 

奴がもの食わぬ顔で来たときには既に料理が出来ていた。食事の時は随分と大人しいので、騎士の振る舞いに煩いようにマナーにも気を付けているらしい。

個人的には子供みたいと馬鹿にされないように意地になってるハーヴィンにしか見えないのだが…本人に言ったら殺されそうなので伏せておく。

 

たった三人の食事はまるで家族のような温かみと、少しの寂寥感があった。曰く、大量の長机が満席になる程に人が溢れていた時代より静かでこれもまた良い物らしいのだが、他人とっては廃れていく文化に過ぎないだろう。

今や聖騎士団の栄光など人寄せの材料にならない。

ファータ・グランデでは戦の時代はもう過ぎ去って、戦う事より環境と歴史を大事にする事が最優先なのだ。忌むべき戦乱の災禍を後世へ語り継ぐ。その義務感により歴史を学ぶ人間が最近多いのだとか。

だが、忌むべき記録、それも星の民によって引き起こされた回避しようも無い横暴。星の民を未だに憎む者も歴史を忘れようと躍起になっている者も当然存在する。

愛国心故か戦争を経験していない人間も星の民を盲信的に恨む程の影響がある。

 

全く…こう言っちゃなんだが民度がそこまで良くないな。

何せ霧で子を捨てている自分の姿が他人から見えないという理由でトラモントまで捨てに来る親がいるのだから。

 

 

まったく…度し難い。

 

 

最近増えている事件を載せている新聞に目を通しながら心の中でそう呟いた。

 

 

──────────────────────

 

 

『中々に決まってるじゃないか!最近のは格好良いんだねぇ…』

 

 

グルシさんが言った送りの挨拶はそれだった。

朝食を取り終わった現在、俺とスルトは数日前に士官学校から正式に送られてきた制服を着て外を歩いていた。

白のシャツとネクタイ、そして上に着る碧色のブレザー。グルシさん曰く昔は赤色のブレザーだったらしい。充分かっこいいと思うが…。

 

「赤の方が良かったな…」

 

スルトは赤の方が良いらしい。

どうせ火属性使いにとっては色が被った方が格好いいとでも思ってるんだろう。いや実際そうかもしれないが。

確かに青色の鎧を着る騎士が火を使ってたら違和感が凄い。そう思えば色は大事かもしれない。

 

…自分は微妙な色になりそうだな。

 

「仕方が無いだろう。【赤】は今の時代良く無いイメージを持っているらしいからな。災禍、火事、そして何より問題なのが血だ」

 

「そんなに厳しく止めている物なのか?イメージというのは」

 

「少なくともリュミエール聖騎士団はそうしてる。何より【碧】は青と白の明るいイメージを合わせた物だ。清純さと正義の光を合わせている…これ以上にない色だろう」

 

まあ、憶測でしかないが。

正義という概念を大事にしている騎士団にとってはイメージを固める事は大事だ。

規律が守られている事も表さなければならない。

 

 

「ところで」

 

「…?なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「エルーンって露出狂?」

 

「俺がエルーンと知って言っているのなら蹴り飛ばすぞ火だるまが」

 

 

 

 

上等…粉微塵にしてくれる。

 

 

 

 

 

「いや実際あの背中や脇が男女共によく目に止まるというか…毒というか…」

 

「目の前に何も曝け出していないエルーンがいるが…?」

 

「いやお前は変わり者だし…」

 

「鏡」

 

「未来の騎士団長しか映らんな」

 

「今すぐフェードラッへに行くか商人として生きろ。お前と騎士を目指したくない」

 

「そこまで言わなくても…。で、結局何であの様な服が多いんだ?」

 

 

確かにエルーンは脇や背中を強調する服をよく着ている。自分はヒューマンと同じ長袖服だが。

 

…そう言えばアイツも背中やわ、脇…太腿をよく強調していたな…。破廉恥な!

今意識してみると恥ずかしい…確かに毒だ。

 

 

「おそらくは文化的な物だろう」

 

「文化?」

 

「そうだ。エルーンは常人よりも聴力が強く、身体は軽く疾い。獣の様な身体的特徴が目立つ種族がエルーンだ」

 

「ふむ」

 

「そして森に居所を作ったり弓で狩りをするなど、原始的な風習もある。機械的な文化を好まず自然的な文化に生きるのはエルーンくらいだな。それで、動きやすさと獣の本能のような物が混ざった結果があの服ではないのか?」

 

「なるほど…しかし感謝するぞコーリス」

 

「んん?」

 

「謎と緊張が解けた。今なら死角から攻撃されても完封出来る程の落ち着きだ」

 

「…良くわからん例えだ。ま、緊張を解した後に門を開けられるのは良い事なのかもしれないな」

 

 

 

目の前に聳え立つ建物。

それは間違いなくリュミエール聖士官学校。中央には腕を競い合う為の決闘場が配置されており、それを取り囲む校舎の風格は凄まじい物だった。

 

きっと、厳格な校長による有り難い言葉が飛んでくることであろう。

一言一句心に刻まなければ…

 

と、思っていたのだが。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「え〜にしーろーはーと…全員いますねー。はい皆さんの指導を努めますリエスですー。ま、適当に学んでってください」

 

軽いよ。

士官学校だよ?お勉強の為の学校じゃないの。戦いの技術を学ぶ学校なの。あと校長なんて居なかったわ。

数人の指導者が各分野に分けて指導するシステム。

 

今思えば確かに必要ないわな。

校長がいてもやる事は『がんばってますね〜』の一言と共に訓練を除きに来るぐらいだろう。

数は28人。周りには屈強なドラフが多く、存在感が強すぎる。11歳で中年のヒューマンぐらいの筋肉あるぞあれ…と思わせて美少年のドラフもいる。

うーんこの格差社会。ドラフで産まれたら幸せな人生を拝めるのだろうか。

 

 

後、集合場所の教室に入った時、こちらを見てほぼ全員が驚愕の感情を向けていた。

無論、スルトの事なのだが。気怠けな教師ですらほんの少しの時間目を見開いていたぐらいだ。馬鹿にする視線はなく、奇抜な物を見る目だけがこの場にはある。

真顔なところを見ると、本人は気にしていないらしい。

 

「…ッッッッ!!!」

 

訂正。

めっちゃ気にしてた。顔が赤いし涙目…手も震えている。

宛ら慣れない衣装を着て恥ずかしがる小学生だ。

この時点で数人の女子のハートをキャッチしてしまったハーヴィン。そりゃ美顔で小さくて涙目で震えている姿を見たら可愛いと思うだろう。

 

変な目立ち方をしたせいで屈辱的な気分を味わったスルト。

露出狂呼ばわりをした罰と知れ。

無様なりスルト。燃えるような恥辱を味わい給え。

 

こればっかりは実際種族間の問題だからどうしようもないと言うのに、それを認めようともしない。

ドラフを見ろ。ゴリッゴリの筋肉を自慢げに曝け出しているでは無いか。

まず、ハーヴィンを卑下するという輩はいるが、それ以上にハーヴィンの商業力を認めている人間が多いのだ。いくら小躯だの非力だの馬鹿にされようが知ったことでは無いのだが…さっきのスルトの発言で気が変わった。

 

自然に生きる種族のエルーンが露出狂…?

もしこれからその先入観が広まっていったら…否、もう既にそう思われているとしたら。

屈辱的以前に種族として変態のレッテルを貼られてしまう。

思うとスルトが哀れに思えてきた。

 

(俺もこれから奴の気持ちを考えてみるか…)

 

少しだけ見る目を変えてみようかと思案していた矢先

 

 

 

「このエルーンだって露出狂だぞ!!」

 

 

「貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

恥を書くには二人が丁度いいらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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宿り霧

周 回 か ら 逃 げ る な

初心者はゼノ武器回りましょうね〜^(苦行)


「まず、皆さんは魔力と言うものをどのように見ていますか。人に宿る便利な力か。戦う為に使う力か。ただの個性的な特徴か。ま、結局間違いも無く正解もありません。魔力というのは存在が解明されていない物質でしてね…使い方も様々です。日常で使ったり戦闘で使ったり武器に纏わせたりとね。なんなら剣や斧、鞭でさえも魔力で象れば作ることも出来るでしょう」

 

「ですが、何故傭兵や騎士達は剣を使うのか?正誤関係なく言ってみてください」

 

 

入学してすぐ次の日の今、士官学校としての授業…いや、講習と言ったほうが正しいか。ともかく、戦の心構えから学ぶ必要があるという事で、魔力と武器の使い方について学んでいる所だ。

教師は前日の気怠けリエスさん。

あと数カ月したら鉄製の武器を持たせてくれるらしい。無論、最初から武器を持って訓練なんて脳筋な指導は無い。そんな事はスパルタにしか通用しない。

 

そして、物心つく前から身についている魔力。

スルトは炎。その力を行使するのに何のリスクも必要無く、歩く事と変わらない感触。それで物は燃えてしまう。無論人も都合良く例外になる訳がなく、炎の影響を受ける。

 

何にでも干渉する力、そのような便利な物を何故全力で活かさないのか?

と言うものを聞かれている。

補足として説明すると、人に器用不器用があるように、魔力にも才能がある。

魔力の量が一般人少ない者や、魔法の行使が覚束ない者。また、魔法属性が()()な者。

 

なら…

 

「はい」

 

「コーリスさん」

 

「才能に左右される面が多く、剣や銃を主戦法とし、魔力は武器に纏わせ威力を増長させる形にした方が効率が良いからです」

 

「…なる程。模範的で理想的な解答です」

 

 

自分の答えは間違ってはいないらしい。

 

(露出狂のレッテルを挽回出来そうだな…)

 

何においてもスルトより最適解を繰り出す事で優位に立ち、有能と思わせる事で印象を180度変える…!

今日の俺のIQは200と思え…!!!

 

「ですが」

 

あ、違うパターンですね。

悲しいなぁ…。

そしてスルト、笑ったな?潰す。

 

「それだけで理由付けするには少ないですね。単純な事です。現代において戦う職業を選択する人間は少ない。尚かつ魔力が少なく、相当な努力をしてまで傭兵などになる人間は余りいないでしょう。才能というのは人の未来を決定付ける。希望を見失わず夢を追い続けることは難しい事です」

 

良く考えれば分かることだった…反省点だ。

…しかし。

この教師、最初は気怠けな見た目相応に余り喋らないタイプかと思ったが、淡々と言葉を述べるだけで正しい事しか喋っていない。

指導者としては当たり前なのかもしれないが、頭にスッと入り込んでくる。このような授業はモチベーションが上がる。そう、周りも。

だが、皆思っていた事は同じなのか挙手する人間が少なくなっていた。

 

「はい!」

 

「スルトさん」

 

ただ一人は、違う考え(解答)を持っているらしい。自分にもう心当たりは無く、奴の解答を待つしかない。

ハーヴィンとして注目された存在は独立した答えによってさらに格好の的となる。

三種族の視線が矢となって小さな肉体に突き刺さるが、スルトは動じなかった。

それだけ、確実でいて自信があるのだろう。

 

(気になる)

 

奴は馬鹿だ。

それは周知の事実。だが、馬鹿は時にその場の最適解を導き出す。深読みしすぎて近くの物が見えないと逆で、馬鹿には近くの物しか見えないのだ。

きっと、俺達の思考を超えた答えを導き出してくれる筈だ。

 

信頼の裏返しというやつだ。

さあ、言ってみろ。

 

 

「魔力に耐えきれないからです。俺みたいな天才型では特に!!」

 

 

きっとそれは、間違いでは無いのだろう。

奇怪な目を向けたクラスメイトへの意趣返しだったのかも知れない。

 

だが、 

そもそも魔力が全ての世界ではないだろう。あくまでも便利な力と言うだけだ。結局鍛え抜かれた力と技術だろうに。 

魔法使いでもやりたいのか?お前は。

キラキラした目で天才アピールするな。

 

「…まあ、剣も腕も炎の影響は受けますね。出力を間違えれば何もかも灰と化すでしょう。ですが、やはり技術で補える。武器を使う理由は、肉体による直接攻撃が一番効率が良いということです」

 

結局、努力が物を言うということだ。

 

そして…

 

先生は何故スルトの属性を知っている?

入学して訓練もまともに受けていない俺達の属性を知る術は無い。

何もかも気になって仕方が無い。

 

「──先生は何故馬鹿の魔力を知っているのですか?」

 

「馬鹿は辞めなさいコーリス君。スルト君の事ですか…」

 

「何気に馬鹿で俺に絞られるの酷くないですか!?」

 

「あ、すいません…。で、何故知っているのかでしたね」

 

「はい」

 

「なに、このような職業に就いたら人の魔力の訓練に立ち会う事が多いですからね。人の魔力の種類も感じられる訳ですよ。特別何かが優れているわけでもなく、誰でも時間を掛ければこの感覚は習得できます。例えばそこのシリクさんは風。ドレイルさんは土、ですかね」

 

例として先生は近くの席の人の魔力を言い当てた。

本人達は「合ってる…」と、反応を示したため間違いは無いだろう。

この技術があったからこそ、魔物との戦いで命を落とす者が少ないのだろう。属性による対策が幾らでも練れる。

 

思案に浸っていると、先生がこちらを見据えて口を開く。

 

「…ただ。君だけです」

 

「…?」

 

「君だけですコーリスさん。君の魔力だけは(もや)がかかっているかのように解らない」

 

 

「そう、ですか……」

 

 

 

そうか。

 

 

 

 

やはり俺は解らない(異質)、か。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

例え話だが、周囲が見えない程の暗闇に覆われている森に入って、普通の人間は正しい方向に足を進められるだろうか?

 

答えは──否。

ひたすらに真っ直ぐな道を進むなら子供でも可能だが、如何せん森は真っ直ぐな道が存在するほど整ってはいない。加えて風向きなども変わり、土地勘と言うものは欠片も無意味な物となるのだ。

 

 

では、具体的な話に入ろう。

もし、幼児が霧立ち込める森に迷い込んだらどうなってしまうのか?

 

勿論、帰れなくなるだろう。

偶然歩いていたら家に着いていたという幸運話はあるが、自分から動いて望む到着地点にたどり着く事は不可能に近い。

大人の捜索を待ちながら泣き喚くのが関の山。

 

 

だが、霧立ち込める小島に偶然捨てられていた子供。

名をコーリス、と名付けられた。

その者だけは何かが違った。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は霧が濃いな…」

 

霧の島、今日のトラモントは少し危険だ。

余りにも濃い霧によって遮られる視界。迷った魔物が町に入ってく少しる可能性も否めない。

眼鏡をかけ、頼りな下げな雰囲気を出しながらも優しそうな男は村外れの森から聞こえた子供の泣き声を頼りに歩く。

 

事の発端は霧だ。

突然濃い霧が湧き出したので、娘達を森へ行かせないよう家に入れた矢先、自分はは人間の泣き声を聞いた。

エルーンの優れた聴力は例え深い森の中にいる音すらも見逃さない。

村から外れた山の方に家を建てているので、森の環境にも慣れている。

 

──大丈夫、何の問題も無い。

 

自分は耳が良い。森の地形は理解している。もしもの為に斧と弓も携帯している。死ぬことは無い。

そう自分に言い聞かせながら男は歩く。

 

もうかなり深い場所まで来た。

子供の泣き声も目の前に等しい。

 

 

自分の耳に従い、数歩歩いた結果鳴き声までたどり着いた。

 

そして、目の前に居たのは傷一つない幼児。

獣のように生えている耳からしてエルーンなのだが、この村には他の島から来た自分達以外にエルーンは存在しない。

と、なると。

 

──捨て子、か。

 

事情を察するのに時間は不要だった。

簡単な話だ。大きな街に捨てれば直ぐに保護され、親元を特定されるか預けられるか。

だが、トラモントは霧が立ち込めている為、捨てている姿を見られずに済む。加えてこの3歳程の幼児は精神が未発達な為に親の顔を忘れるかもしれない。

 

酷い話だと思うが、筋は通る。

そこまで我が子が疎ましかったのか、邪魔だったのかは本人にしか分からない事だ。

男は戦士でも英雄でもないが、無垢な命を侮辱する行為には怒りを覚えた。

 

「ひっ…ぐ…す」

 

その熱は子供の嗚咽で冷まされた。

先ずは保護が優先。

 

「どうしたんだ?こんな所に一人で…」

 

「母さんとはぐれちゃって…手までつないでたのに…!」

 

──可哀想に。

 

人が来たからか少し落ち着いたように見える幼子は、捨てられた事に気付く筈も無い。ただ逸れたと思い込むのみだ。

 

「じゃあ、お父さんは?」

 

「きょうはおしごと…。木を売りにいったの」

 

「そうか…。取り敢えず、ここは危ないから安全な屋敷に行こうか!」

 

母の独断かはどうでも良い。この危険な状況から脱する事を優先した結果─ミスに気付いた。

ここに来るまでは幼子の声を頼りにした。だが帰りはどうだ?手がかりが全くない。

来るまでの道に印を付けておくべきだったのかも知れない。冷静さを失いすぎた。

 

「…ねえ、おじさん大丈夫?」

 

突然の質問。

子供の不安を煽らないためにも平然を装おうとするが、冷や汗は止まらない。

 

「大丈夫、大丈夫。直ぐに温かい場所に連れて行ってあげるからね」

 

「ねえ?」

 

「なんだい?」

 

「おじさんの家の形はどんな形?」

 

問題ない。

これは精神の安寧を保つ質問。答えてあげるだけで安心するなら幾らでも応えてあげよう。

 

「そうだね…少し大きめで、尖ってて、ぽつんと建っている家かな」

 

「ひとりぼっち…」

 

「そう。独りぼっちさ」

 

子供は少し考える素振りをして目を閉じる。

疲れて寝てしまったのか。

なら、気持ちの良い目覚めにして上げなければならない。

 

霧で途切れた視界を記憶でカバーし、魔物の匂いを感じたら即座に身を隠す。

そう思い来た道を引き返す。

眠っているだろう幼子を背負いながら朧気な記憶を蒸し返す。

 

「…?」

 

何故だ。先程通った道を思い出せない。

それこそ、頭の中が()()()()()()()()()()

 

忘れたなどという下らない理由では無く、森に入ってからの道のりの記憶が綺麗に消え失せている。

無論、今やるべきことは分かっている。

だが、違和感を覚えるほどに記憶が──

 

「ねえ」

 

こちらの焦りを諸共せず、悠然とした態度で急に問いかける。

起きていたのか。

 

 

「どうしたんだい?お腹が空いたのか?」

 

「ちがう」

 

「おじさんの背中じゃ眠りづらいと思うけど辛抱だよ。絶対に家に届けるからね」

 

脳機能を全回転させ、風向きや足元などで帰り道を探る。

歩くなら正しく。間違ったなら滑らかに。

幼子を不安にさせないよう歩き方に気を付ける。本当はこんな気遣いが出来るほど余裕のある状況では無いのだが、子供を泣かせ、魔物を呼ぶよりはマシだと考える。

 

「ねぇ──あっちだよ」

 

「──は?」

 

「おじさんの家、尖ってておおきい。ひとりぼっちにぽつんとたってるんでしょ?あっちに坂があるから…」

 

 

混乱していた。

だがこの幼子は至って真面目に、そして冷静にこの場の状況を支配したのだ。

 

 

──────────────────────

 

 

「そこは水に濡れてすべりそうだよ。きをつけてね」

 

「そこに木があるからえだに刺さらないようにしてね」

 

「あのお犬さんもはぐれちゃったみたい…おびえてる」

 

「もうちょっと右に行って…この坂の上にあるお家でしょ?」

 

 

「うん…ここも右」

 

信じられない物を感じた。

視界が白に巻かれる中、見えない筈なのにこの幼児は口を開けば周りの環境の形を理解している。

 

地面の草木が雨により濡れていたら滑らないようにと注意。

大木が倒れているならば、枝に刺さらないようにと注意。

正しい方角の指定。

見ず知らずの今日知り合ったばかりの人間の家の場所を特定。

この子に第六感が働いていると言われても頷いてしまう程の察知能力。

従えば、自分の家の下の坂まで着いたではないか。

 

一昔前、一目を見ただけでその場の景色を脳内に記録し、様々な角度での視覚を脳内で再現できる天才がいた。その天才はその類まれなる記憶力と変換力により、一度見た場所で迷う事は無かったようだ。

 

だが、この幼子は違う。

()()()()()()()()のだ。度々目を瞑って景色を特定する事がある為、何らかの術があるのだろうが、そん物を子供が使いこなしているのは疑い深い。

 

魔力か?空気か?匂いか?風向きか?

 

視覚に頼らず場所を知る方法はいくつかあるが、どれも根強い経験が必要な訳で、今日初めてこの島に来た幼子が取る行動ではない。

では…何をした?

 

思考を鈍らせないように平然を保つ。

今は魔物が襲って来ないよう警戒をする事と分かっている筈なのに、霧がかった記憶と不理解が思考の余裕を無に返す。

 

今分かることは唯一(ただひとつ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この子が──異質だって事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




気づいたら一月に一話投稿になってました…すいません。


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特別なんて

年末って祝い事が多いですよね。

ガチャピンモード。
ガチャピンモード。
ガチャピンモード。ガチャピンモード。ガチャピンモード。



あれ…?
他に何かあったっけ?


──ねえ…あの子。ええ。あの銀髪の子。捨て子らしくてね。村長に拾われてこの村で育ってるんだけど…。

 

──笑顔を見せるようになったのよ!!最初は感情も何も抜け落ちたような顔をしていたのだけれど杞憂だったわ!村のみんなとも仲良くしてるし!

 

──ああ、ごめんなさい…つい興奮してしまって。何でも最近じゃ騎士に憧れて身体を鍛えているらしいの。立派よねぇ。年寄りの手伝いも毎日やってるわ。私の子供の世話までしてくれるし…

 

 

 

──でも、なんでかしらね。

 

 

──霧が出ると決まってあの子は…

 

 

──どこか、おかしな方向を見ているの。

 

 

 

 

【とある主婦による情報】

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

何も無かった。

特別な物は何も無かった。親に与えられていた筈の名前は霞隠れに透過し、今は『コーリス』という名前を与えられている。

父は木材などを売り、母は家事に勤しむ。

何の変哲のない只の家庭。それが滞りなく毎日を過ごさせているのなら、それは幸せと言うのだろう。

 

だが、母は俺を捨てた。

何故かは未だに分からない。そもそも両親との生活すら朧気だ。捨てられた日で憶えているのは、父は木を売りに出かけていたのと、気が付いたら母とはぐれ、霧が見えていた事。

濃い霧だったと思う。 

()()()()()()()母とはぐれた事が問題だったのだろう。

大声は上げなかったが、つい泣いてしまった。3歳の頃の話なのだから許してほしい。

 

「どうしたんだ?こんな所に一人で…」

 

 

聞こえてきた声は野太かった。

エルーン特有の長い耳、斧を手に持った頼りなさげな男性だった。○○○

の父さんだから少し髪が青かったな。

救世主のようだった。母を見つけてくれと懇願した。

彼は霧で周りが見えない中、自分を不安にさせまいと母を見つけたと優しい虚偽を述べた。

今思うと、彼は既に俺が捨て子だと気付いていたのだろう。

彼は俺を家で保護すると言ったので、好奇心と不安からかどんな家か聞いた。

 

尖り、大きく、孤立するように建っている。

 

その情報を教えてもらった後に、彼が俺を背負い向かったのは家とは真逆の崖。

 

──()()()は危ない。()()()が坂なのに…

 

当時の俺はこう思っていた。

この状況下でこの思考は気狂いか思い込みか疑われる所だが、事実、俺は初めて来た土地の地形を完全に理解していた。

その感覚は他人には持ち得ないだろう事を知ったのは五年ほど後の事だった。

 

何故?分かるものか。

人が熱を感じるように。

人が眩しさを感じるように。

人が痛みを感じると同様に、俺は霧を感じる事が出来ただけだ。

 

人が何処にいるのか分かる。

何処にどんな形の自然物があるのかが、目で見るより鮮明に感じる。

生物の呼吸が分かる。

だから、助けてくれた彼の焦りにも勘付いていた。

 

不可解、そして異質。

それは当時問わず俺を表すに適した言葉だと自解する。

生まれた時から持ち得た第六感(バグ)

人の視界が閉ざされる灰の世界が、自分には何もかも目の前に収められる魔法の世界に思えて仕方が無かったのだ。

視界は閉ざされても。

鼻が機能しなくなっても。

霧があれば全てが分かるのだ。無論、霧が出ている範囲であればだが。

トラモントは霧の島。毎日過ごす中で、一個人の挙動が鮮明に流れ込んでくる事は珍しくない。

だが、視界は閉じれば暗く、鼻はつまめば意味がない。

それらの感覚に従い、霧の感知を塞ぐ事も可能なのだ。

と、思っていた時期はあったり。

 

我ながら間抜けな物だ。

触覚を閉じる方法が何処にある?

霧を消して意味を無くすか?根本的な解決になっていない。

 

彼が家に着いた時には、彼の家族が俺の保護をしてくれた。温かい食事を用意してくれたし、彼が身体を洗ってくれた。

その時に知り合ったのが○○○とフィラ。と言っても会話なんて交わさなかった。

でも、母の姿は見つからなかった。

そのことに気付いたのは後日。疲労により気にする間もなく寝ていた為、朝になってようやく思い出したのだ。

そして、俺は森の下へ連れられヒューマンが住む小村に預けられた。

 

「君が……わざ…村に降り…ると………の子は!?」

 

「捨……す村長。申し訳ありませんが彼の生き方…私…に……にはいかない。エ……ンで…が…」

 

「…よい。ワシらは種族で……するような愚か者で…い。与え……れるのは両親……生活だが、責…を……って預かろう」

 

「感謝します」

 

「ところで…あの霧の中で良くも生きて帰れたな。鼻が利くという問題ではあるまい?」

 

「いえ、その点も含めて話があります」

 

唐突に送り出された村に混乱していた為か、その時の会話を思い出す事は出来ない。

途中からの会話は聞こえていた。自分を受け入れる事に好意的な村長と、申し訳なさそうにしている○○○の父。

そして、その両者の間に下らない言葉を。

 

「ねぇ、母さんはどこ?」

 

その時の両者の顔は苦にして無情。

片や気まずそうに下を向き、片や同情の視線と一人への怒り。

子供であった俺は、母を保護したという言葉を純粋に信じ続けていた。

 

「何故…下らぬ言い訳など使った!!その場で事実を語らなくても良い、だが夢物語など語るのは愚の骨頂と知っているだろうに!!」

 

「…申し訳ありません」

 

それはどちらへの謝罪だったのかは本人にしか分からない。恐らくは両者か。

 

「もういい!ワシから説明しておく」

 

「…本当に済まない。君には申し訳無い事をした」

 

これは俺に謝罪していると分かった。

それからはもう……

 

 

 

 

忘れたかった。

 

 

 

──────────────────────

 

「今から言う事は君に辛い話になるだろう。だが、言わねば君のこれからの疑問に背を向ける事になるだろうし、君が生き難くなるのも必然だ」

 

「…どういうこと?」

 

「む…つまりだな」

 

村長は厳格な老人だ。

故に使う言葉を理解するのは子供には難しい。

 

「──君は捨てられた」 

 

「……え?」

 

残酷な言葉。

これを言うのにどれだけの勇気が必要か計り知れない。この言葉により俺は壊され、救われた。

 

「すてるって、ゴミのことでしょ?いらないから」

 

「ああ、そうさ。ゴミは不要物だから捨てる」

 

「じ、じゃあ僕はいらないからすてられたの?」

 

「悪いが、それは君の母にしか分からない事だ」

 

捨てる。

その後味の悪い言葉により、涙すら出ず。

湧くのは空虚感のみ。

 

「どうして嘘をつくの?あのおじさんはたすけたって…」

 

「君が傷付くのを避けた為だよ」

 

普通なら、『嘘つき』や『意地悪』と罵りたくなる気分だが、不思議と心の穴にすんなりと言葉が入った。受け入れられた訳ではないが。

きっと、あの時だ。

母の手から自分の手が抜けた時、母らしき形が村の方へ駆け抜けていったのを感じていたから。

思いもしなかっただけで、知っていたのだ。

母が俺を捨て、一刻も早く島から抜け出そうとした事など。

 

「…泣いても構わないが?」

 

「泣くのは喜ぶ時だけだって、母さんが」

 

「大人びているな。その年で辛いだろうに」

 

「エルーンは常にりんとしてた方がカッコイイって、父さんが」

 

「…何故だ」

 

「……?」

 

「何故自分の境遇を気にしない?自分がこれからどうなるか不安じゃないのか?」

 

「うん。だって今、解った(受け入れた)んだもん」

 

そうだ。

母が俺を捨てたのは要らなかったから。

父が仕事をしているのは生活の為だから。

おじさんが俺を助けてくれたのも善意があったから。

おじいさんが僕を見てくれるのも同情と責任があるから。

 

結局、流されるしかないんだ。

今まで幸福の嵐に飲まれていたのが、普通の嵐に変わっただけ。

 

 

「…強がるな。そんな顔は子供には似合わん」

 

「でも」

 

「でも、ではない。子供というのはだな…感情の赴くままに泣いたり起こったりして、反省を覚え、常日頃学び、成長していくものだ。それが人間という生き方だ。ヒューマンもドラフもハーヴィンも。そしてエルーンもだ」

 

「おじいちゃんの言ってる事、よく分からない…」

 

「そういう風に困っておれば良いのだ。何でも受け入れるなんて生き方は人の形ではない」

 

「…!」

 

 

目の前が輝く。

昔の俺は言葉を理解せずとも、自らの存在を容認されている事に気付いたのだ。

 

ごみとして捨てられた俺に。

霧がかった存在の自分に。

 

この老人は生きる目的を与えてくれた。

 

 

 

「そう言えば…お前の名前を聞いていなかったな」

 

「コーリス」

 

「ふむ。名字はあるか?」

 

「必要なの?」

 

「ふむぅ…。強いて言えば必要ないが、お前自身の存在を認知するのに効果的だろう。自己の確立は大事だ」

 

「…でも僕の家にはないよ」

 

「なら儂の名字を授けようか?」

 

「え」

 

「ふ、不満か!?」

 

「それって?養子になるって事でしょ?いいの?」

 

「構わんよ、儂には息子がいない。老後の寂しさにはちと辛くてな。なに、心配するな。暮らしに支障は無い」

 

「ありがとう…」

 

「構わんと言っているだろう。さて、儂の名字だが…」 

 

 

その名字は彼が生涯胸に抱える誇りであり、彼を証明する独立性(アイデンティティ)

 

 

「オーロリアという。端的に言えば…極光か」

 

「コーリス・オーロリア…!!」

 

「どうだ?」

 

「かっこいい!!」

 

「そうかそうか名字の感動より語呂を喜ぶのか…。意外に面白い性格してるなぁコーリスよ」

 

 

 

時として一瞬の会話だったが、子供である彼を変えるのには十分過ぎる時間だ。

もし、彼があと三年も生きていたら戻すことは不可能だったかもしれない。

彼が人生に光を見出すきっかけになったのは、一人のエルーンと、一人のヒューマンの献身あっての事だったのだ。

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

「コーリスです」

 

「入ってください。さて、貴方を呼んだ理由について説明しましょうかね」

 

 

──君だけは靄が掛かったかのように分からない。

 

あの発言の後に追求は無かった。

だが、注目を浴びたという点では大きな影響はあった。

訝しげな視線では無く、何か逸脱した物を見る目。

逸脱と言っても語弊があるかもしれない。実際にコーリスの魔法を目にしたわけでも無いので、先生の発言から違和感を覚えての注視だろう。

少なくとも、嫌悪感は見受けられなかった。それは安心に値する。

 

「まあ気を楽にして下さい。私個人としての興味です。単純に貴方がどんな力を持つのか知りたいだけです」

 

確かに生徒がどんな力を持つのかは知っておく必要があるだろう。単に珍しい魔力、魔力量が桁違いな者。危険性が高いものなど見極めなければならない。

そういった中で、見極められない力があるのは危険と言える。

 

「あ、言った通り興味本位六割ですので悪しからず。何も異常だからといって手放したりしませんよ」

 

「了解です。ですが、俺の力は出すより説明した方が効率的なんです」

 

「ほう…何故?」

 

「人間に効果的でない範囲で使えば問題ないのですが、この力は生物に対し極めて有効なんです」

 

「では、詳細を聞きましょうか」

 

顎に指を置き、観察するようにこちらを見る。

少し忌避感を覚えながらも、偽りのない言葉で述べようと思う。

 

 

「まず、俺の魔力は霧です」 

 

「霧、ですか」

 

「はい。このように身体から霧を放出出来ます。原理は火や水のと同じく魔力によるものでしょう」

 

 

そう言って手から薄い霧を出してみる。

霧が先生に触れないように辺りに充満すると、何時ものように鮮明に浮かび上がる物がある。

周りに置いてある器具から地面の埃までもが一つ一つ解る。

ただ、余りの情報量にまだ慣れていないため、目を瞑り視界をシャットアウト。

 

どうもこの感覚は頭に直接来るため、精神的疲労または頭痛が起きる可能性がある。

ただ、目を開けている時より周りが鮮明に視えるので、プラマイゼロと言っても良いだろう。

だが、視覚と霧の同時感覚に慣れなければならない日も来るかもしれない。

 

その時はどうするか。

否、どうにか出来るように鍛えなければならない。

ひたすらこの力を行使することが修行となるのか。それはこの学校で鍛えられて初めて分かる事だ。

 

「そしてこの霧の中に1ミリでも踏み入ると、俺は対象を知覚します。肉眼で見るよりも、耳で音を聞くよりも、触るよりも。どんな五感よりも鮮明に感知する事が出来ます」

 

「続けて下さい」

 

「この霧には現在四段階のレベルがあります。これが一段階。薄い霧ですが感知するのにはこのレベルで効力が上限まで達しています」

 

「便利ですね…次」

 

ペンを走らせ問いかける。

メモとして形に残すことにしたらしい。珍しい魔力の情報は後世に残す事が最善と考えたらしい。

 

「第二段階はこれより濃くなる霧です。この段階では人に影響を及ぼすようになります」

 

「害か?良い効力か?」

 

「害の方です。この霧に触れるとまあ、何というのでしょうか…ぼぅっとすると…」

 

「ああ、呆然自失の状態になると?」

 

「そうです。苦しむとか特に無く、只もやっとするらしいです。自分に影響はありません…」

 

 

第二段階。

これはトラモントで偶然発覚した力。魔力を皆で出し合ってた時年上の子供に影響を与えてしまったようで、意識が軽く空に行ってた子が火を出しすぎて軽い火事になった。  

 

霧と言えばコーリスと、認知されていた頃なのでめちゃくちゃ怒られた。 

 

 

「そして、三段階目は記憶に靄を掛ける。霧に入ってからの記憶を軽く飛ばします。記憶喪失にはなりません」

 

「…ちょっと怖いですね。四つ目…」

 

 

これらは霧だけの影響。

霧を解けば何も問題は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも駄目だ。四つ目は。

それだけは駄目。未知なんだ。

使えない訳じゃない。使ったら死ぬわけでもない。

使っていい保証がないんだ。

これを人に向けたら。

 

 

 

 

母さんが。

皆が。

 

 

 

 

 

俺を忘れる。

 

 

でも、使ってしまった

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

「はぁ…はぁ…!」

 

──楽観視していた!

 

 

先程冷静な態度でコーリスに問答を仕掛けていた男は先程と反転し、焦燥の表情を隠さず走る。

 

 

──不味い!あの力は!

 

 

 

男の向かっている先は城。

リュミエール聖王国の本拠地と言える国。

 

 

──彼は必ず騎士になる男だ!性格にも問題は無い!

 

 

だが。  

 

 

──問題は騎士になった後だ…彼が少しでも悪意を持ったら…

 

 

この国。

この空。

この世界。

 

 

──全てが忘却()()()()()!!

 

 

 

故に。

 

 

──彼を堕落させてはならない。自分の過去現在所持している権限を全て使ってでも進言しなくては。

 

 

彼の人生を終わらせてはならない。

 




シヴァ煽りを出来る余裕が欲しかったです…


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百花繚乱ブラッディソード

士官学校編チンタラやってもテンポ悪くなるのでどんどん飛ばしますよ〜。

鍛錬描写くどいと飽きますからね。書く側も見る側も。


──コーリス?ああ、良い奴だと思うよ。あそこまで真面目な奴はそうそう見ないかな。でも少し辛辣というか…言葉を選んで欲しいと思う場面もあるな。

 

 

──いやなに、別にそれで喧嘩が起こるわけでも無いんだが…寧ろそれがあいつの特徴なのかな。あと、スルトと仲がいい。

 

 

──スルトはどうかって?アイツはただの馬鹿だ。ただ凄く強いのがムカツクとこだな。ま、アイツも良いやつではあるよ。コーリスと一緒だとコントも見られて面白い。

 

 

──…コーリスとスルト、どっちが強いかだって?随分難しい事聞くんだな。

 

 

──俺が思うに、スルトの方が強い。

 

 

 

──俺だって士官学校在学生だしな、戦闘の分析ぐらい出来る。それでもやっとつい最近分かったことがあるんだ。

 

 

──コーリスがスルトと模擬戦をやる時。戦いづらそうにしているのを俺達はずっとスルトの戦い方のせいだと思ってたんだ。もう皆と過ごして1年は経つからな。コーリスの霧の力もスルトの炎の強さも知ってる。その上スルトは素早いわ小さいわで攻撃が当てづらい。霧だって炎で撒けるからな。

 

 

──でも、それだけじゃない。コーリスが戦いづらそうにしてるのは…

 

 

 

──魔力を調節してるみたいだったよ。手加減してる訳でも無さそうだった。違う事を念頭に置きながら戦ってるみたいでさ。

 

 

──まあ、さっきのは憶測だからコーリスに聞かないと分からないと思うよ。

 

 

 

 

【某士官学校の生徒より】

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「──三歩交わして二者択一。東か西か、先来一決(せんらいいっけつ)後悔なかれ」

 

「と、ポエムをいきなり吐くお前だが。詩人に目覚めたか?」

 

義父(父さん)が良く言ってたんだ」

 

 

道を歩く二人組。

成長期故に色々伸びたコーリスと、成長期だが1cm*1しか伸びなかったスルト。

寮へ帰宅する姿は珍しくない。というか毎日見られているぐらいに自然に溶け込んだ物になっている。

 

それもその筈、彼等がリュミエールに来て約一年が経ったからだ。

彼等が一年間学んだ事は決して軽い物では無かった。

 

戦術の有効さを知り。

武器の重みを知り。

魔術の深みを知り。

学の清らかさを知った。

 

そんな彼等だが、現環境は夏の休日。

と、言っても士官学校だ。

一般で言われる、夏休み等とは違う。せいぜい一週間の休みが限度なのだ。

その間に騎士候補生達は全力で休む。ただ、外部の島から来たコーリスとスルトは里帰りの時期であり、三日ほど故郷で過ごすチャンスとなった。

 

今は昼食帰りの二人。

何でも最近屋台で話題を集めているラーメン。

その流行りに彼らも乗ってみたかっただけだ。加えて騎士として鍛えられる日々にはラーメンのような物を食べ過ぎると栄養的にまずい。

無論、食事制限のような物は設けていない士官学校だが、騎士を本気で目指す彼等はストイックだ。プライドも合わさって妥協を許さない。

 

だから、妥協を許される休日の初日に二人で食べに行ったという訳だ。

コーリスは味噌ラーメンを頼み、スルトは小サイズの塩ラーメンを頼んでいた。

夏にラーメンというのも可笑しな話かもしれないが、鍛錬を続けていたある一人の生徒がこう言った。

 

『夏にラーメン食って汗流しまくれば代謝良くなって身体機能上がるんじゃね?』

 

コーリスでもスルトでも無い、一年経った今なら友達と言える間柄のクラスメイトがそう言った時。

皆の目が変わった。無論、身体機能が上がるなど身も蓋も無い話だが、修行の苦しみに明け暮れ、強さに飢えていた者共は簡単に信じた。

彼等は12歳だ。欲には従う。心では違うと目を反らし続けていたが、依存性があると噂されていた程のラーメンを食べたくて仕方がなかった。

 

回りくどい言い方をしたが、要するにラーメンを後腐れなく食べる理由が欲しかっただけだ。

そして、リュミエール士官学校にラーメンというプチブームが舞い降りた。

 

屋台の店長曰く、『暑い時にラーメンを食う物好きは居るが、学生。それもまたクラス単位で来るのは流石に遺憾である』らしい。

 

そして先程から言われている鍛錬。

それが何処まで厳しいと言うとそうでも無い。

 

教師は合理的な指導をする。

経験の深さから魔術の属性のアドバイスを的確にこなし、武器の熟練度を見抜き至らぬ点を指摘。単純な肉体能力の低さは個人への筋トレメニューで解決。

頭脳的な面を教える場合は基本過去の戦争や偉人達の戦いの記録から引っ張り出す。

 

スムーズな教育は生徒達に意欲を与え、極め付きにそれぞれが扱う武器の私物化を許可した。

刃物などを与える行為なので、如何に生徒への信用が高いかが伺える。

意欲を道具でブーストされた彼等は興奮(OVER DRIVE)状態になり、狂うように鍛えた。

結果、リュミエールの生徒は脳筋になった。

身も、心も。

丸々とした姿のハーヴィンであるスルトの軽やかな肉体ににすら鍛え上げられた筋肉が隆々と浮かび上がる程だ。コーリスもドラフ程では無いが非常に細マッチョ。

脂肪などかなぐり捨てた姿になってしまった。

これはリュミエールに来る前から鍛えていた名残であるが。

 

言っておくと、コーリスのクラスは皆こんな感じだ。

一人に付き一般的な犯罪者を完封できる程の実力は備えている。

コーリスのクラスだけが特別かは分からない。

この士官学校は先輩や後輩などとの交流は無い。他のクラスの事情を知る機会が全く無いからだ。

 

 

「で、ポエムの意味は?」

 

「俺にも良くわからん」

 

「ああ?じゃあ何故口ずさむんだ?痛いぞ」

 

「うるさい、大体のニュアンスは理解している。只意味を聞く以前に当時の俺は幼児だった。対して意味も分からず意味を聞く前に亡くなってしまったよ」

 

「…そうか。じゃあお前が思っている意味を教えてくれ」

 

「恐らくは…『人は個人個人色々な道を進むが、どれも選択肢は一つだけだから、どれを選ぼうとも後悔はするな』、という意味だと思う」

 

「なんだ、思ったより道徳的だな。まぁカッコいいから使うか」

 

「いやお前が使うのかよ」

 

「強者オーラが出て良し」

 

 

 

「なお、身ちょ「黙れ」

 

 

「別に何も「止めろ」…アッハイ」

 

 

見た目に言及されると怒りに身を染めるのも変わっていない。

寧ろ、キレが掛かっていると見ていいだろう。

 

 

「貴様に分かるか!?真面目に勉学に励んでも、模擬決闘で相手を打ち負かしても!男女問わず出てくる感想は『かわいい』だ!!」

 

「愛されているって事だろ」

 

「舐められているんだよ!!大体お前は人に頼られすぎだ!何だ!俺も霧を出せば信用されるのか!?」

 

「そうやって一々身長とか気にしてるから可愛がられるんだろ。可愛いという概念がお前への信用だ。では、出航の用意をさせてもらうので先に寮へ戻っているぞ」

 

「ま、待て!話はまだ終わっていない!!」

 

「ははっ!!里帰りして両親に誇るが良い!()()()()()()()()()()()()ってなぁ!」

 

「貴様ァァァァァァァァ!!!!」

 

 

元より、コーリスは人を煽り倒す人間では無い。

ノリで皆がなじる相手に対し便乗する訳でも無い。ただ、単純に思うのだ。

 

『スルトだから良いか』…と。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

馬鹿の相手をするのも疲れるという物だ。

クラスメイトからは『お前も含めて馬鹿と言っている』なんて愚語を吐かれるが、全く持って間違いだ。

スルトより頭良いぞ、俺。

 

なんて思いながら二時間の間昨日里帰りの為に纏めた荷物を確認し、トラモントへ旅立つ空挺に乗り込んだ。

やはり晴天の中乗る空挺は至極の心地。

 

里帰りと言ったが、俺の場合それは少し違う。

一度村長である義父に預けられた身だが、義父は俺が8歳になる頃に病気で死んでしまった。

結果、義父の親戚であるレルフ一家に養われる事になった。

当然第二の親を失って悲しかったが、くどくど毎日を過ごしていてはあの日に助けてもらった礼にならない。

そしてレルフ一家は俺をリュミエールに送り出すのに悩みに悩んだ。俺がトラモントから出発した時には号泣していたそうだ。

 

もし、俺がトラモントからリュミエールへ向かう光景を見せたら哀しい思いをさせるかもしれない。

だから、半端に過ごすよりは顔を見せる程度にしておこうと思う。

 

何より、俺はもう一つの家に行かなければならない。

 

 

「元気してるかな?おじさん…」

 

 

 

おじさん。

叔父ではない。俺を見つけてくれたエルーンの大人。

わたしとフィラの父。今日はその一家にお邪魔させてもらう事になっている。

 

特になまえとは手紙を送り合っていたので、家の事情は把握済み。

歓迎してくれるそうだ。

ちなみにフィラは病気を直すために既に近隣の島に旅立っており、彼女とも手紙での交流をしている。

 

だが、フィラはお互い元気な姿で会いたいそうなので、病気が治ってから会う事にするらしい。

 

 

「はぁ…」

 

 

しかし、度し難い。

レルフ一家への訪問の問題を手紙で○○○に相談したとしても、思っていた返答が来なかったのだ。

 

『どの様に面会したら良いんだろう?』という質問に対し、帰ってきた手紙にはこう書いてあった。

 

『何も無理してレルフさん達と一緒に過ごす必要は無いんじゃないか?コーリスだってまた親元を離れるのは辛いだろ?騎士になることを約束して送ってもらったんだからもう少し立派な姿になって戻って来た方が私は良いと思うな。お互いそれなりの覚悟を決めて来たんだろ。もし、トラモントが恋しいなら私の家に泊まれば良い。何、お父さん達も喜ぶさ』

 

と、帰ってきたのだ。

またトラモントの森で静かな日常を過ごしたいという思いも無くは無いし、何よりおじさんにも会っておきたい。おばさんの美味しいご飯も味わいたい。

極限まで自分の欲望と戦いながら選んだのは…

 

 

『ありがとう。お願いする』

 

欲望に負けた己の姿だった。

だが、アイツが積極的に誘ってくるのは珍しい事で、自分でもそんな態勢に憶えはない。

 

とはいえ浮かれているのは俺も同じなので、早くトラモントに着いて欲しいと思う。

早くあの薄い霧が立ち込める島に行きたいのだ。

常人には分からんと思うが、薄い霧の中から見える晴天の空は美しい。

 

霧の島なんて呼ばれているが、大抵の日は薄い霧が立ち込めているだけだ。

更には夕方に真っ赤な景色も楽しめる。

ん?それは他の島でも変わらん?

 

分かっとらんねぇ。

霧の島、なんて言う窮屈なイメージから繰り出される秀麗な景色がまた良いんじゃないか!

何だか湧いてきたぜ!

一応持ってきた剣も腰に引っ掛けておいたし!

何も怖いものはない!

じゃあ、行こうか^~

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

騎空挺から降りて見えたのは森。

その奥に見えるのは霧に囲まれた小村。だが、今日行くべき場所はそこでは無いので、向かうのは明日以降とする。

変に姿を見せる必要は無いので、霧を出しつつ村外れの森から入っていく。

 

 

こうすれば、人を避けつつ更に魔物の感知も行える。

もう視覚との共有も訓練により慣れたような物だ。それでも広範囲に及ぶ感覚には目眩を起こすが、半径200メートル程なら問題は無い。

将来的には島一つ分の範囲まで伸ばしたいが、先生にドン引きされたので辞めようと思う。

妥協して、今の目標は街一つ分だ。

時間があれば距離を伸ばす訓練を続行したい物だ。

 

「…」

 

無言で山までの道のりを歩くが、霧の中に四足歩行の生物が侵入した事を感知。

中型の狼か…?

こちらに迷うことなく近付いてくる事から、匂いでこちらを嗅ぎ付けている事は分かった。

 

「……」

 

更に近づく。

もう50メートル県内に姿を表している。もう自分の姿は薄っすら確認されている。

脚が収縮している…恐らく飛びかかる気か。

 

敵意を確認した所で念の為持ってきた長剣を鞘から抜き腰に構える。そして、目を瞑り足で地面を鳴らす。

これは一種のルーティーンのような物で、戦闘前にこのように決まった動作を行う事で心身を研ぎ澄まし、余分な考えを心の剣で斬り裂く動作。

 

20メートルもの近さに達した時、既に生物の特定は完了している。

それはウルフリーダー。凶暴な野獣であるランドウルフで最も力を持つものが呼ばれる名前。

一際大きく、爪をまともに受ければ人の傷は内蔵まで達する力。ランドウルフが強くなる方法は正に弱肉強食と言った風情で、例え人は食わずとも生態系を乱した結果そうなると言える。

騎空士の依頼でも数多くの討伐が依頼されている事からも危険性が伺える。

 

そんな相手への温情は一寸たりとも存在しない。

ただ、斬る。

 

あと飯に持って帰る。

 

 

「────」

 

 

自分の意思すら意に止めず、剣を持った右腕と地を踏みしめる左足に精神を上乗せする。

相手が唾液を垂らしながら万全の筋力でこちらに飛びかかる。

 

「ガァァァァァ!!!」

 

 

敵意と殺意を乗せた雄叫びを上げながら。

だが、

 

 

「ガァァァァァ──────。」

 

相手の喉笛を引き裂く。

それを行おうとした時には既に──

 

 

「──!……?……。」

 

 

大狼は喉笛を切り裂かれ絶命した。

 

自分の暴力の顕現──雄叫びを最後まで上げる事も出来ずに。

自分が失敗した事だけを察知して獣は事切れていった。

 

 

「……ふゥ」

 

 

深めの息。それは溜息ではなく安堵の息。

簡単な決着だったとしても今のは純粋な死合。その場に絶対の安全は無い。

 

今、俺が使った動作は()()()()

獣にしろ人間にしろ、人の及ばない位置の死角を取るのは有効な手段。

だが、角度に関係なく解っている俺なら死角を取ろうとしている相手の死角を取れる。

 

原理としては簡単で、死角を取ろうとしている人間はそれに全力を注ぐ為一瞬だけとは言え一直線の動きになる。その直線の呼吸を乱し、例え小指で小突いても主導権を握る事が出来る。

但しこの動きが出来るのは、恐ろしく耳が良い…又は俺のように感知系の魔法を使えるか。

こう思うと我ながら便利な魔法だなと思う。

クラスメイトと打ち合う鍛錬で使えば面白いほど倒れてくれるからな。問答無用のクソ技認定されたよ。

まあ、バ火力のスルトと力自慢のドラフ共にはゴリ押しでやられたがな。

 

「…さて」

 

この狼、捨て置くには無作法と言うもの。

勝手ながら、これから行く家へ献上する夕飯にさせてもらおう。エルーンは自然に生きる者、これも狩りの一貫として大事に食べてくれるだろうさ。

 

 

時間差で流れてくる血を袋に入れる。

首を直接切断した訳では無いので血が飛び散る事は無かった。

身体にも血が付着していない事から、剣術としてマシな範囲内だと考えた。

狼を縄で縛り、結び目を背負って山登りを再開。

 

 

「…ああ」

 

 

見知った景色。

山の上に見える幽霊屋敷のような見た目をした建物。

懐かしい。

 

 

「──」

 

気分が高潮していくのを感じる。

今の自分はきっと笑っているのだなと思う。

 

 

「─」

 

 

森の景色を横目に登れば時間を忘れて結果が訪れる。

もう玄関に着いた。

 

少し緊張しながら呼び鈴を鳴らす。

 

 

「……」

 

程なくして、直ぐに走ってドアを開けようとする音が聞こえる。

 

今更緊張するな。自信を持って入ってやろうではないか。自分の身だしなみも問題ない。血も何も付いていない。

 

ドアが開けられる。

 

 

「っ!コーリスか!?」

 

待っていたかのように俺への期待の言葉が掛けられる。

それに笑顔で返す。

 

 

「久しぶりだ「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」

 

 

 

…え?

何で?

いきなり叫んでどうした?

何故家に逃げる。

 

 

 

「……!!!」

 

 

 

 

自分の身体に異変でもあったのかなと下に視線を向けて…気がついた。

 

──ああ、そりゃ逃げるわな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣…拭いてなかった」

 

 

 

 

 

*1ハーヴィン的には伸びた方




最後の状況、分かりづらかったら申し訳ありません。

単純に説明すると。

①待ってた人が来た。
②ウキウキでドアを開けた。
③血塗れの剣を持った笑顔な人が待ってた。
④逃げた。


って感じです。
そりゃ逃げるわ。

ちなみに名前にぼかしがかかってる人はフェリですね。
単純にフェリはあだ名で、本名がグラブル本編で明かされていないのでああするしか無いのです。
コーリスは本名で呼ぶタイプなんです。


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騒なる旅路、静なる帰路

お気に入り登録者や評価者が増えるとやる気が満ちますネェ!

感謝感謝です。

カンソウモマッテルヨ(/ω・\)チラッ



「どうした!?何かあったのか!?」

 

 

○○○が家に駆け込んだ事で異変を感じ取り、父親もといおじさんが様子を見に来たようだ。

だがおじさんは立派な大人。幾ら頼りない性格をしていようが俺をコーリスと気付いてくれる筈だ。

おばさんは温和な人だ。だが決して楽観的な思考の持ち主ではない。狼を見れば、即座に剣に滴る血も人のものでは無いと分かる筈だ。

 

大丈夫、大丈夫なんだ。

俺はコーリス・オーロリア!!

スルトを嘲り、人から頼られる男!

スルトを蹴落とし、騎士団長になる男!

 

『でもあいつに何時も負けてるよな』

 

シャラッップゥゥ!!

俺に勝ってから物を言え雑兵共!

俺がスルトに負けて悔しがってる時に何時もほざきやがってっ!!

こんな時まで脳内で出しゃばるな!!

 

 

「な、何だ君は!?強盗の類か!」

 

「ち、違いますよ!コーリスです!貴方の娘の見舞いに良く来ていた、そして貴方が拾った!というか貴方とも交流あったでしょう!?見舞いついでに料理をいつも食べさせてくれたじゃないですか!」

 

 

 

その目は俺の顔を直視しているのにも関わらず、殺人鬼を見ているようだった。

 

いや、俺が悪いのだがな?

 

 

「黙れ!コーリス君は誠実な男の子だ!、何より娘がコーリス君を怖がろうものか!その血塗れの剣…。やはり君は人を…!」

 

 

そう言っておじさんは護身用に持ってきたのか、ククリ状のナイフを構える。

…!?

洒落になってない!

本気で強盗か何かと勘違いしてるの!?若しくは快楽殺人鬼!?

 

弁明の舌を回さないと…!

 

 

「いや、あの、そ、そうだ!この白色の髪!そしてエルーンの耳!!ちなみに貴方に誘われた時期は3歳の時だと()()()()()()!!」

 

「聞いている…?」

 

 

3歳の記憶など定かでは無い。

村長に聞いた結果、当時の俺は3歳と言っていたそうだ。

俺を拾ってくれた当事者だ。ここまで個人情報を晒せば納得してくれるだろう。

俺は王手を打ったと心で微笑む。

更には狼の土産。狼の肉は基本狩りに生きるエルーン以外は食さない。というか都会に住む人間は例えエルーンでも食わなかったりする。

 

だが、森の住人にとってはご馳走。

若干の獣臭さは残ろうが、程よい油と肉厚な身が食欲を増進させる。

更に、俺が持ってるのは巨大な個体。間違い無く高級品のレベルだろう。

 

彼が俺を誠実な人間だと思っているのなら、この大狼にも合点が行き、コーリスだと気付いてくれる。

そう信じる。割と切実に。

 

 

「聞いただと…?まさか、お前、コーリス君に何を吐かせて…いや、もう何も言うまい…。刺し違えてでも…!!」

 

 

いやだからもういいんですけど。

何で殺人鬼が身元割るために拷問して情報吐かせたみたいになってんだよ。

怒っていいか?常時燃えてるスルトモードに入ってもいいか?霧で記憶失わせてもう一回玄関まで来たほうがいいか?

 

よし、逃げるか。

 

 

「すみません。出直してきます!!!」

 

 

そう言って島の入り口にまでガチダッシュをかまそうとした時。

暴徒(自分を棚に上げて)を止める者がいた。

 

「落ち着いてくれ父さん!あいつはコーリスだ!さっきはその剣に驚いただけだから!!」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「そうだそうだ!娘が言ってるんだから当たり前でしょう!俺はコーリスですよぉ!!」

 

「う、煩い!お前は逃げようとしただろうが!これ以上場を狂わせないでくれ!父さんを止められそうだから」

 

 

ここで思わぬ助太刀!

先程真っ先に逃げてこの問題の原因を作った本人からのヘルプ!

ブラッディソードを生成した落ち度は俺にあるが、お馴染みを裏切った君にも恨みはあるのだよ!

 

 

 

 

 

唐突だが。

…俺、ここ一年で多感になった気がする。

リュミエールに行く前は冷静沈着の自負が合った気もする。いや、士官学校でも無口だが俗に染まる愚行を犯してはいなかった筈。

 

幾ら都会人に囲まれて一年を過ごしたからと言って、ここ最近の横暴は目に余る。

煩悩に塗れすぎている。

 

…何だか悟りを開いてきた。

浮かれきっていた脳味噌が真夏に寒風を浴びる。

 

故に。

 

 

「申し訳ありませんでした」

 

「いやいきなりどうした!?」

 

 

俺は土下座をしていた。

許してくれ。唐突だがこれが最善手だ。

頭を地に付け、首を下げるという人間と獣の尊厳を同時に引き下げる行為。

エルーンとしては最上の謝罪…!!

 

 

「今までの俺は感情のまま生きる獣畜生…!!そんな愚行で騎士など笑止千万。今までの無礼、お許しを…!!!」

 

「…!!此方こそ済まなかった。君は間違い無くコーリス君だった」

 

「父さん!?」

 

 

俺の土下座は真摯に伝わりすぎてしまったのか、それはおじさんにまで誘発してしまった。

俺に匹敵する見事な謝罪体勢。

感服する他ない。

 

む?

何を遠い目で見ている○○○そ、そうか…。やはり許せないか。

でかい口を叩いて島を出た男がみっともなく帰ってきたのが許せないか。だが、今の俺にはこうするしかない。

 

 

「おじさん、おれが。不甲斐ない俺でも許してくれるか?」

 

「え、あ、その」

 

「…無論!此方こそ君を歓迎する!」

 

「おじさん!」

 

「コーリス君!!」

 

 

おじさんと俺は涙を流しながら握手を交わす。

そこから熱い抱擁を…!?

 

 

「っが!」

 

「ぐっ!!な、何奴!?」

 

 

 

ビシッ!!!

 

 

背中に熱い感覚。

張りの良い音と共に藻掻く俺とおじさん。

まるで縄か何かに叩かれたような感覚…これは?

 

 

「…………!!!!」

 

 

背後で俺が見た者は。

 

 

「もう…止めてくれ。これ以上………恥を晒すのは」

 

 

 

死んだ目で鞭を持つ○○○ だった

……。

 

 

いやいやいや!!

お前まで武器を持ち出すのか!?いつからこの一家は武装集団になったのだ!

まさかおばさんまでも武器を…?

 

いや、冷静に考えろ!

何故温厚なお前が!?

 

ま、まさか。

共感性羞恥心!!!!

父親と比較的身近にいた俺の会話が情けなさ過ぎて、羞恥心極まり武力行使に望んだと!?

だがあそこまで墜ちる必要も無い。というか何処から鞭を出したのだ?

 

もたもたしている場合では無い!

 

「はぁ!」

 

「くっ!!」

 

 

先の一撃で沈んだおじさんを差し置いて俺に鞭を振るう彼女。

まず打たれ弱すぎるだろう…。

それはさて置いて剣で受け止めるが…

 

 

「チィッッ!!血で滑る!」

 

「それが、その剣があったからっ!!」

 

最早先程の俺達と同じ様に涙を流しながら鞭を振るう。

その目は怨嗟に満ちており、如何に先の状況が不愉快だったかを物語る。

 

 

「だが、負けるかァァァァ!!!」

 

「……!!」

 

 

鞭をわざと剣に巻かせ、剣ごと引っ張ることで鞭を奪う。剣の強度が心配だが、手入れは欠かさなかった事で刃溢れから折れる事は無いだろう。

問題なのは鞭が奪えない事だ。

 

驚くべきは彼女の剛力。

その華奢な腕からは筋肉も何も隆起していない。だが、戦闘の為の訓練を施されている俺と互角以上。

 

 

「クソ!怒りとはこれ程までに強力か!」

 

「今更被害者顔するなぁぁぁぁ!!!」

 

「く、ガァァァァァ!!!!」

 

「いや何やってんのあなた達」

 

「「あっ」」

 

 

 

俺の劣勢だった綱引きの結果は、様子を見に来たおばさんの声で無に帰した。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

「コーリス君とフェリは思春期だし…そういう事は可笑しくないけど。貴方は流石に見過ごせないわ…」

 

「「いっそ馬鹿にしてください…」」

 

 

ここに項垂れている人間は三人。

愚人第一号のコーリス。

愚人第二号のなにかの父親。

風評被害にあったできた

三者ともかなりの絶望が見られる事から、正気に戻った言える。

 

ちなみに『フェリ』とは○○○の妹、フィラが付けたあだ名である。

わざわざ姉をあだ名で呼ぶ理由は分からないが、フィラ自身と近しい存在でいたかったのか。

ともかく、この場ではコーリス以外は皆彼女の事をフェリと呼ぶ。

今は場に従いフェリと記す事にしよう。

 

先程冷静になった様に見えたコーリス達だが、皆場の雰囲気に当てられたのか非常に変質していた。

コーリスは喜怒哀楽が激しい情緒不安定者に、フェリの父は流れに飲まれる哀れな男に、フェリは極度の羞恥心によるストレスで豹変。

無事だったのは現在コーリスが狩った狼を捌いているフェリの母だけである。

 

 

「まぁ、何はともあれコーリス君!先ずはお疲れ様!こんなに大きい狼まで持ってきてくれて、ありがとうね」

 

「いえ、別に買った物でもありません。先程襲われたので倒したのですが、流石に放置という訳には行きませんので…」

 

「あら!この大きさのランドウルフを狩れたの!?強くなったのねぇ…」

 

「一年間鍛えましたから。それより、俺としてはさっきの鞭術の方が気になりますね」

 

 

コーリスは純粋な疑問を持ってフェリに視線を向ける。

そこには悪意も何も無く、ひたすらに先の剣の手応えに理由があると思い聞いたまでだ。

だが、話題を向けられたフェリはぎこちなく視線を反らす。

 

「別に何も…」

 

「ああ、フェリね。この子コーリス君が居なくなってから急に自分で身を守る術を身に着けようとしたのよ」

 

「ちょっと母さん!!」

 

「…?理由は」

 

「いや、昔からコーリス君の霧のおかげで森で遊べてたわけでしょう?危険な生物がいたら避けられるから。でもコーリス君がリュミエールに行ったら森から安心して出られないじゃない。だから君ほどじゃないけど、それなりに本人は練習してたのよ?」

 

 

「…当たれば相応の威力が出せる鞭は効果的だが、決して簡単な武器では無い」

 

「それが……どうしたんだ」

 

「いや、お前が強いと思っただけだ」

 

「………」

 

 

フェリの沈黙はどんな意味を持つのか。

本人にとってはコーリスが居なくなった後の気休めの様な物。率先して魔物を狩るわけでもないし、森の中心に赴き従来のコーリスの様に鍛えていた訳でも無い。

ただ、自分が集中出来る事をやりたかっただけだ。

そうで無いと、退屈で仕方が無かったからだ。

 

だが実際、自分の力を認められたのだ。

果たして素直に喜ぶべきか、本当に自分は嬉しいと思っているのか、悩ましい所なのだろう。

だから、彼女は母の証言に恥ずかしみを覚え、頬を膨らます事しか出来なかった。

 

 

「何だその顔は」

 

「コーリス君コーリス君!女の子が言ってほしい言葉は『可愛い』『可憐』『美しい』『見惚れた』などなどetc…」

 

「母さんはもう黙ってて!!」

 

「あの目で可愛いは無理が」

 

「お前もだ!!」

 

 

身も蓋もない母の言葉を全力で遮るフェリ。

真面目に悩んでた所を純情乙女に仕立て上げられても困ると言うもの。かと言って女っ気が無いと言われてもムカつく所。

父親は数十分間無言なのでフォローも望めない。

疲れが溜まっていく様だと頭を抱えている。

 

 

「さて、ここの空気も温まってきた頃だし、少し早いけど夕飯にしちゃいましょう」

 

「…!!」

 

「コーリス君ったらあからさまに目を輝かせて喜んでるわね!楽しみだったのかしら!」

 

「はい!あっち(リュミエール)の食事も好きなのですが、こっち(トラモント)の味が忘れられなく…」

 

「やっぱり都会の味は違うの?」

 

「それはもう調味料ガンガンと…。あ、そういえばリュミエールにラーメンという大変美味な物の屋台が来ているのですが、これがまた最高に美味いんです。もし他の島に行く機会があったら食べてみて下さい!」

 

 

自然な流れでラーメンを布教する男。

彼は何故かラーメンに好き嫌いが通用すると思っておらず、ラーメンが最高級の食物と捉えているようだ。

 

 

「へぇ…どんな食べ物なの?」

 

「まぁ短的に言うのならば熱々のスープに浸る龍の如き長さの麺というものが入っていて更に野菜細かく言うのならばもやしやねぎなど大変食べやすい物、肉は大変肉厚で少し甘みがあり満足感があります大将曰くチャーシューと言うそうです。更に更にメンマと言う名のなんとも形容し難い深みのある味と食感の食べ物も食欲を増進させます。そして多種に渡る味があり味噌醤油塩、豚の骨の出汁を取る豚骨まであるのですここでメニュー選びを楽しみラーメンが届くまでどんな味か期待に胸を踊らせます食べる前から幸福感が凄いこれがラーメンですどうですか?」

 

「う、うん。コーリス君がすごく気に入ってる食べ物だってのは分かった」

 

「というかお前…夏に熱々のスープって…」

 

「?ラーメンに時期関係ないぞ」

 

コーリスはこれ程の情報を凡そ7秒で言い切った。当然常人には聞き取ることは出来ず、その歪んだ愛情に引くのみだが、ここで驚くべきはフェリ。

一言一句聞き漏らさずに内容を理解し感想を述べる。

幼馴染力が成せる聴力なのだろうか。

とにかく幸せな男である。

 

そうしている間で料理は完成している。

 

 

「はい、お待ちどうさま!ランドウルフのお肉を出汁に鍋にしてみました。新鮮だからそんなに臭みは無いわ」

 

「うわぁ…!美味しそうです」

 

「確かに美味そうだ…!ほら父さんも起きて、ご飯だ」

 

 

ここでようやく起こされるフェリ父。

鞭が痛かったというより娘に手加減無く痛めつけられたという事実が辛いらしい。

 

 

──いただきます。

 

 

エルーンの風習と言うより本能だろうか。

食前の号令は感謝、そして形は祈りに近い。多くの者が声に出し料理を口に運ぶが、生命への感謝に密接に関わってきたのはエルーンだ。

口には出さず、心から届くように。

ここに居る四人とも、目を瞑っていた。

 

 

「うん。美味いよ母さん」

 

「でしょ?美味しい野菜と美味しいお肉。合わせて不味い訳無いもの!」

 

「だね。それでコーリス君、どうかな?」

 

「……………美味しいです」

 

 

少し間を空けて答えたコーリスは、ひたすら静かに料理を口に運んでいく。

その表情、虚無。

食事を楽しみにしていた時の輝かしい目は無く、不機嫌までに行かずとも、エンジョイ精神の欠片も無い表情だった。

 

それを見かねてか、感想を聞いた父親は尋ねる。

 

 

「…く、口に合わなかったかな?」

 

「いえ、美味しいです」

 

「そ、そうか。何か、思い詰めてる事でもあるのかな?」

 

「いえ、特に」

 

「や、やっぱり僕が居ると邪魔かな?」

 

「そんな事はありません」

 

「何さっきから質問攻めしてるのよ。コーリス君なら何時も通りじゃない」

 

「何時も通りでは無いだろう。さっきより悲しげな雰囲気じゃないか」

 

「だから何時も通りっていったじゃない。ね?フェリ」

 

「そうだな。コーリスは変わってないよ」

 

 

父はぐぬぬ…と唸る。

 

(それなりにコーリス君の事を見てきたが、これと言って特別な特徴は無い。何時も平坦な顔をしていて、態度も崩す事は無い。娘はコーリス君の鍛錬を見に行くが、帰って愚痴を漏らす事も無かった。かと言ってここまで露骨に静かになる人間でもない筈だ…さっきのは久し振りの再開でお互い舞い上がっていたのもあるだろう…)

 

 

「あ、すみません…。食事の際には状況関係なく黙って食べる様にしているんです。食べる事は好きなので、味に浸る時間が欲しくて…」

 

「…そうなのかい?」

 

「そうなのも何もコーリス君はいっつもこうだったじゃない。貴方コーリス君を気にかけてきた割には余り見ていないのね」

 

 

妻の率直な言葉で少し胸に傷を負う夫。

コーリスは月に一回は必ずこの家の食事に誘われて来たので、家族にも周知の事実だった筈なのだが、この父親は違ったようだ。

 

フェリの父は地理学者。

トラモントの霧の起源を探る為に住み込んできた男だ。それ故か観察眼はそれなりに鋭いのだが、如何せん空気が微妙に読めないという点があり、更に学者として致命的な『他人の意見に流されやすい』という性格も相まって意思が弱い。

更には幼少期のコーリスに嘘を付いた事が後ろめたく、無意識にコーリスの深層の追求を避けていたのかもしれない。これは本人にもコーリスにも知る由は無いが。

 

「美味しかったです」

 

 

鍋に盛られた料理の味を一通り堪能し、数が減りすぎない程度に食したコーリス。

手を合せて、満足げな微笑みを見せながら料理の感想を口にした彼はまた真顔になった。

そして、何故か次は耳が垂れ下がった。

 

エルーンの特徴的な感覚器官。

獣を思わせる大耳は感情的に動く事が多い。

喜ぶなら多少の振り、落ち込みは下に垂れ下がる事が多い。

それから察するにコーリスは落ち込んでいる。

と、フェリの両親は考察する。

 

「コーリス君、悩みがあるんだろ?話してみなさい。親身になって聞く事は出来ないが、経験から君に教えられる事もある筈だ」

 

「そう。私達もコーリス君の落ち込む姿は見たくないわ」

 

「…………」

 

聖人の提言と言えるまでにコーリスへの気遣いを見せるが。

これに対しコーリスは口を閉じるまま。

いよいよ深刻だなと二人は心配するが、

 

 

「ああ、違うよ二人共」

 

 

フェリはそれを否定する。

コーリス自身の問題をフェリが遮る。

 

「この耳の垂れ具合は…食事を取った後は眠くなるだろ?コーリスはその眠気と今戦ってる」

 

「いや瞼動いてないよ!?耳で眠気表現出来るのか!?」

 

「…?そんなに可笑しいかな…」

 

「耳の垂れ具合で読み取る貴女も凄いわね…」

 

 

フェリはコーリスに詳しい。

しかも身体的特徴にまで。

この事実は両親を非常に驚愕させ、フェリも少し変わり者なのかなと考えさせられたという。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

「早いもんだね…2日経つのも」

 

「結局前と余り変わらなかったわね」

 

 

コーリスが滞在して二日が経ち、三日目の今日はコーリスが村を回る日。

この二日間は特に変わりが無かった。

 

フェリ一家がコーリスの学校生活などを聞き、コーリスはトラモントの生活を聞いた。

伸びた身長の比較、新聞によるファータ・グランデ空域の情報を元にする口論など、他愛もない事で彼らは楽しんだ。

 

今はコーリスとフェリが何やら話し込んでいる様子。

 

 

「しかしあれだな…あの二人が離れる姿が想像できないな。いや、恋人の様な間柄には見えないけどさ」

 

「確かにそうね。昨日の鍋、コーリス君が皿洗いを申し出て…台所に立ったとき。いつの間にかフェリが横に立ってたのよ。喋りもしないでずっと二人で何かしてる姿を見るのも久し振りね」

 

「うん…魂のパートナーって奴なのかな?」

 

「そうなのかも知れないわね!」

 

 

両親は二人を見て微笑む。

彼等は仲違いはすれど、最終的には必ずよりを戻す。

フィラが仲裁に入る事もあったが、仲直りの一歩を踏み出すのは二人同時同じタイミングだった。

恋仲の様に初々しい物ではない。親友のように日々語り合ったりなどもしない。

それでも、彼等が縁を切る風景が想像できない。

 

(だってほら、)

 

(また笑顔で話し合ってるじゃないか)

 

満足げに彼らを見る両親に気付かず、コーリスとフェリ

は温かい雰囲気で会話をする。

それはきっと、別れの挨拶では無い。リュミエール行きの騎空艇に乗る時、フェリはまた送りに行く予定だ。

 

 

「船は何時に来るんだ?」

 

「15時40分だな」

 

「次はいつここに?」

 

「そうだな…来年は忙しくなりそうだからな。最低でも三年後くらいにはなるだろう」

 

「そうか…」

 

「まぁ、安心しろ。フィラが近い内に帰る筈だ。あと半年もしたら完全復帰出来るらしい。楽しみにしておけ」

 

「そう、だな。うん。楽しみにしておくよ!」

 

「その鞭術。フィラに何と思われるんだろうな」

 

「う、まあ…荒れたと勘違いされるかもしれないな。取り敢えず、お前が次来る時は剣を破壊できる程の威力にしておくか」

 

「どんな威力だ」

 

 

二人はけらけらと楽しそうに笑う。

寂しさが全くないわけでは無いが、また会う楽しみに比べれば些細な物。

 

コーリスの硬い拳と、フェリのか細い拳が合わさる。

コツン、と。小さな音を立てるが、それは何よりも硬い絆で結ばれていると確信している。

 

「またな」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

 

 

コーリスは迷う事なく村へ行き、まずレルフ一家を訪ねた。

無論文通で顔を見せに行くと言っておいたので驚きこそされないが、一年間顔を見ていなかった義息が来るのは大変嬉しいものだったらしい。

 

特に叔母のコーレはコーリスに抱き着いてはおいおいと泣く為、今日中に帰る彼に罪悪感を湧かせたくらいだ。

人間誰しも年寄りの涙には逆らえないのだ。

 

去らないというわけにはいかず、先に何か会話をしようと思ったがレルフが遮る。

 

『騎士になる過程の話は騎士になってから存分に聞くから、村を回って来い』と。

 

 

本人達ももう一回息子と別れるのは辛いもの。

ならば帰ってきた時の楽しみを増やせば良い事。

コーリスはその気遣いに甘え、村を周った。

 

 

幼児に発見され、剣を触れさせないようしながら面倒を見た。

 

年齢が近しい者には近況を聞かれたが、『まだまだ遠い』としか返せず、目を丸くして驚かれていた。

どうやらコーリスは超人か何かと勘違いされているのかもしれない。コーリスの怒りに触れれば何処にいてでも見つけ出してくる事を思えば確かに頷けるだろう。

 

大人達には成長した姿を喜ばれ、果物等を次々と渡していく。コーリスの好物を的確に渡していく姿は感動的だ。思わずコーリスも涙が出てしまった程に。

トラモントの民度は全空一。コーリスはそう確信したのだ。

 

そうこうしている間にも船が来る。

 

 

名残惜しげだが、コーリスは去年と同じ様に激励を受けながら乗り込む。

フェリ一家、レルフ一家を含め皆が再会を確信してコーリスを送り出す。

 

 

──鎧が似合う男になって帰ってこい!!

 

──はい。吉報を届けられる様にします。

 

 

レルフの叫びに返すようにコーリスは小さく呟き、トラモントを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが今世の別れになると知らずに。

 



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最強の二人。その実力はいかに…

季節シルヴァ…待ってっからぁ!!!

季節シヴァ…………待ってっからぁ!!

季節ポンメルン………………待ってっからぁ!





 

 

「そういえば、今思ったんだが」

 

「んん?」

 

ふと誰かが問い掛ける。

 

 

「今日って模擬決闘の日だよな?」

 

「そうだな」

 

 

此処はリュミエールの中枢にある士官学校、それに追随する様に建設された闘技場。

戦闘の技術を教え込む場、或いは実技により経験を積ませる場。

卒業目前には、トーナメント戦によるリュミエール伝統の決闘大会が行われる。

これはリュミエール国王が見に来るくらい王道なイベントである。

今日そこで行われるのは模擬決闘。 

生徒達が平等な状況から行う1vs1(タイマン)の勝負である。そこでは安全性を求め、そして正々堂々闘う事を心掛ける。

 

…筈なのだが。

 

 

「あいつら使ってんの…実物じゃね?」

 

「あっ」

 

 

今苛烈な決闘をしている二人は、あろうことか木造りの物などでは無く、鋭利な刃が付いた正真正銘の武器だったのだ。

 

そして、その武器を使っている二人は。

 

 

「相変わらず芸が無いなァ!!」

 

「燃えてるだけで胸を張れる奴の言うことは違うな…ッ!!」

 

 

 

当然、KYエルーン(コーリス)愚童ハーヴィン(スルト)である。

状況を説明すると、霧を出して行動を予測しようとしたコーリスに対し、炎で霧ごと無力化しようとするスルトの戦闘になるだろう。

決闘という真摯な場において相手を煽り合うのもどうかと思うが、相手の気を少しでも動転させる手段としては適していると言える。

だが、何時も同じ煽りを繰り返している二人にしてみれば意味は無いと思えるので、結局何もプラスになっていない。

 

 

二人の剣撃。

それは似ても似つかず、独特の型を生み出していた。

コーリスの剣は防御。霧による予測で攻撃を回避または往なし、カウンターを狙う態勢。

 

逆にスルトの剣は猛攻。炎と剣撃による同時攻撃は避けられない訳では決して無いが、彼の剣は相当に難しい。

剣に炎を纏わせ攻撃してくるのに対し、剣を交わし合うことになるのだが、剣とは無関係に独立し襲い来る炎まで存在している。

加え、彼の身のこなしはハーヴィン由来とは言え上物が過ぎる。一年間の努力では無く、スルトの場合炎術と運動神経どちらも才能による物だった。

 

霧というものは案外魔力で払える物なのだ。

炎で蒸し返し、風で払い、闇で飲み込める。

霧が完全に優位に立てるのは水属性ぐらいでは無いだろうか。コーリス自体霧だけに頼る戦術を取っていると思われがちだが、彼の剣術も弱くない。

戦いにおいて起こる興奮による呼吸、可動のズレが一切無い。堅実に過ぎる程の安定性、それが強みなのだが…。

 

「……!!」

 

「体幹は自らを支える物だな?では、他人からの干渉を考慮してない訳だ!!」

 

 

──自分がずれ無くても、相手からペースをずらされれば意味が無くなる。

 

人は熱を反射的に退ける。

熱せられた物に触れた瞬間、大抵の人間は『あっつ!!』と声を上げ素早く手を離すだろう。スルトの熱気に当てられれば、来たるべき苦痛を避ける為身体の芯が崩れそうになるが、意識してしまえば耐えられるものである。

 

だが、意識していても体の支点を崩されれば無意味となる。

身体を逸らすために使われる踵をつま先で突かれ、強張っていた身体が低空に投げ出される。

 

「こざか…ごへ!?」

 

 

 

足払いを食らった後の様に身体が地面と平行になった瞬間、顔にお見舞いされたのは剣の柄頭による打撃。

実物を使っているからとは言え、相手に手傷を追わせる訳にはいかないという判断だろう。

 

いや、単に頬を打撃により歪ませるコーリスの顔を見て馬鹿にしたかったのかもしれない。

その証拠にスルトの顔はにんまりと意地の悪い笑みを浮かべている。

だが、剣の使い方についてはコーリスも同意見だったそうで。

 

 

 

「───は?」

 

 

 

バランスを崩した瞬間、剣を振っていた。

 

 

 

「──ごばぶ!?」

 

 

刀身の側面、剣の樋と呼ばれる部位がスルトの顔に直撃し、バランスボール顔負けの勢いで跳ね飛ぶ。

スルトの方が一手早かったとはいえ、ほぼ同時に剣による物理攻撃の威力には差が生じる。

種族の関係上、普遍的な体格のエルーンと小人のハーヴィンでは力の差は歴然。

ドラフの腕力だとスルトは恐ろしい事になっていたかもしれない。

冗談抜きで顔面が吹っ飛ぶのでは無いだろうか。

 

 

起き上がったコーリスは頬から下向きに攻撃が通った顎を抑え、スルトは涙目になりながらも鼻を庇い相手へ向かい出す。

 

 

「………」

 

「………ァァ?」

 

 

鼻を抑え、自分の身に何が起こったかを実感する小人。金属の塊で殴打された部位からは血が溢れ、自らの炎で蒸発していく。

 

──心が、燃える。

 

自らの有利をただの体格差で埋められた不条理、相手より大きいダメージによる屈辱。

怒りを爆発させるのに時間は不要。

スルトが()()()

 

 

「やって、くれたな」

 

「お互い様だ」

 

「初撃は俺だ」

 

「その隙を突いたのは俺だが」

 

「鼻血が──出ているんだぞ?」

 

「ティッシュいるか?」

 

「うん」

 

 

怒りからの衝突。

それは唯の気遣いで避けられ──

 

 

 

「でもな、コーリス」

 

「ん?」

 

「俺が欲しいのはな」

 

「……ああ」

 

 

 

コーリスは察する。

このハーヴィンが罪に寛容な訳が無いと。

未だ収まっていない炎、収まるどころか猛烈に広がっている。

 

炎が、口を開く。

 

 

 

「貴様の鼻血による精算だァァァァァァ!!!」

 

「冴えてるな懺悔里帰りィ!!」

 

 

半狂乱になって剣を振り回すスルト。

狙うはコーリスの鼻。炎の勢いを剣に乗せ、全力で鼻を叩くつもりでいる。

 

だが、戦乱はやがて収まるのが道理。

 

 

「そこまで!」

 

 

お互いの頭にチョップを食らう。

静止の声と共に制裁を下したのは我らが先生。

 

 

「何やってるんですか貴方達は!?」

 

「先生どけ!そいつ殺せない!」

 

「粛清!」

 

「ぐはッ!!」

 

 

野蛮な暴言を吐いたスルトの腕が背中に拘束され、二度目の手刀が突き刺さる。

 

 

「スルトさん。貴方の言い分は」

 

「正々堂々勝負を挑まれたら受けるのが騎士の役目」

 

「粛清!」

 

「ガハッ!」

 

 

コーリスにも手刀が刺さる。

 

 

「勝負を挑むも良し、受けるのも良し!ですが、命を容易く奪う実剣で戦うなど不霊頑冥!!」

 

「ちゃんと柄頭で殴りました!!」

 

「尚更剣を使う必要無し!木剣で充分。特にコーリスさん。貴方の殴り方は危険極まりない。角度が少しでも横だったら顔が斬れてましたよ」

 

「…はい」

 

「二人には罰を与えます」

 

 

どのような罰が向けられるのだろうか?

バケツ持ちか、逆立ちグラウンド周回か?

 

─否。

闘技場という場に相応しい罰がある。

 

 

「私の持つ生徒は28人。貴方達の他の26人を同時に相手取ってもらいましょうか。二人に分ければ13人という事になりますねぇ…」

 

「──え」

 

「無論一人づつ倒すという生ぬるい物ではありません。同時です同時」

 

「ち、ちょっと先生!?コーリスはともかく、俺にはとても捌けん!」

 

「捌かせるつもりの罰ではありません。貴方達と共に鍛えた26人。精々揉んでもらいなさい」

 

「──ヒィ」

 

 

コーリスが声にならない怯えを漏らした後、背後を振り向くと既に木剣を構えた26名。

教師が割り振りを決めた訳でも無いのに自然と半分に分かれている。

実に優秀な生徒達である。

 

 

「おま──」

 

言葉を吐ききる前に突風が頬を掠った。

今のは風属性の魔法。

 

 

「ごめんね、コーリス君」

 

エルーンの少女が細剣を構えた風を纏わせる。

他の生徒達も魔力を滾らせる。

 

 

「こんな状況だけど…私達全員、力を試すいい機会だと思ってるよ?」

 

「く、」

 

「じゃあ…行くね」

 

「クソッタレ共がァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

獰猛な笑みを浮かべた生徒達によるリンチは、決して教師による本意だけでは無いだろう。

日頃の鬱憤。

コーリスの霧による感知。やられた側は途轍もないストレスを覚える。

 

例えるならば、鬼ごっこで人を追い詰めたが、手を尽く避けられ、時間切れまで粘られるという感覚だ。

いつの間にか剣も木造の物にすり替えられている。

 

戦禍は訪れた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「はぁ!」

 

 

顔横に細剣が振り抜かれるが、見てから回避は可能。一対一なら他愛もない。

だが、あと12人もの攻撃が襲い来るのだと思うと苦笑いすら浮かべられない。脳の処理伝伝は関係無く、単純に身体が追い付かない。

 

 

──足元に剣。

 

飛んで回避。

 

──頭上に振り下ろし。

 

剣の腹を踵で蹴り剣を飛ばす。

 

──腹になぎ払い。

 

鍔迫り合いによる衝突、そしていなし。

 

──背後からの斬撃。

 

相手の手首を掴んで体重移動、回避。

 

──水属性による気配の阻害。

 

どうしようもない。

 

──肩に向かって…剣。

 

避ける。

 

──避けた先にドラフのシールドバッシュ*1

 

………。

 

 

「無理」

 

 

巨体のドラフのシールドバッシュは格別。

手加減で体に食らわせてくれたがやばい。剣を盾の前に置いて最低限の防御はしたが、まともに食らったら骨が砕ける。

だって今でも面白いくらい飛んでる。

青タン出来るとかいう問題じゃない。泣くよ?

 

 

「ふ、ぅ……」

 

 

肺から息を吹き出し、苦しみを開放する。その息には溜息も混じっていたと思う。

スルトはどうなっているだろうか?

あいつの場合炎を撒き散らしていれば…ん?

 

横に何か飛んできた。

これは……!!

 

 

「ヵ、ハァ…」

 

「す、スルトォォォォォォ!?」

 

 

虫の息になって捨てられたスルト君だった。

な、何故?

 

 

「幾ら炎でも…氷と水で攻めれば冷めるよね?」

 

「あ、悪魔共が…!」

 

 

微笑を帯びる魔性のヒューマン。

目を光らせるドラフ。

細剣を構えるエルーン。

唯一のハーヴィンはボロ雑巾。

 

あっちの13人も此方に合流した。

 

 

「多数対一。今更だけど可哀想だね。騎士としても駄目な行為だと思う」

 

喋るはクラスでも理知的で評判のヒューマン少女。

今にでも慈悲を貰いたいものだ。

 

 

「でも──霧がうっとおしく思えてきたから……!」

 

 

矢張り戦闘モードになると冷徹マシーンに変容する。

理知的というのは戦闘において慈悲も容赦も持ち合わせない唯の機械なのだ。

 

証拠に目の光が薄くなった。

ははっ信じられるか、アイツ12歳なんだぜ?

 

 

「…正直ドラフの突進だけは食らいたくないので」

 

「シールドバッシュ禁止?」

 

「いや、少し分断させて貰おうか」

 

 

木剣を置き、両手に魔力を宿し。

虚空に向ける。

 

余り使いこなせるか不安だが、手が青色に光っているからまだ成功できるだろう。

 

 

「…何を」

 

「──刮目しろ。専売特許は霧だけじゃない」

 

 

俺は魔力の量は桁違い。

霧を島全体に行き渡せられる程なのだ。もし俺に火が使えたら…島を燃やせる可能性もある。

実際使える魔力は霧と、補助魔法。

 

そして…

 

 

「──エンシェアント・イアス」

 

 

防御魔法。

 

ヒューマン、ドラフ、エルーンの三すくみが偶然出来上がっていた事が幸運となり、ドラフとヒューマン・エルーンの間に透明な壁を作る事が出来た。

 

 

「なっ…?」

 

「俺が霧だけの一芸に留まるとでも?甘い。数で押し切れば終わると……?舐められた物だな」  

 

「だけど!今まで使ってこなかったじゃない…」

 

「俺はそこの馬鹿とは違う。巨大な壁を生み出すより霧を出して最低限の動きをした方が効率が良い」

 

「つまり…今までの私達は本気を出すに値しなかったってこと…?」

 

「そうとも言える。実際、力勝負のドラフを除けば簡単な相手ばかりだった」  

 

「へえ…ッ!!」

 

 

憤怒に染まる表情。

挑発は効いたと見えた。冷静さを失った攻撃は見切りやすい。

こちらのペースに持ち込めれば簡単だ。

 

加えて、ドラフ達が魔力と筋力による壁の突破を試みているが無駄。

俺の渾身の魔力を込めた壁だ。そもそもが堅いし、一枚二枚破られようがまた作れば良い。

片手で作ることになる分強度が落ちるだろうが、また割らなければいけないという強迫観念が精神的なストレスを催し、疲労困憊にする事も可能。

 

 

懸念は遠距離による攻撃。

魔法と物理攻撃を同時に繰り出されれば派手に負ける事になるだろう。

 

囲まれても敗北必須。

怒らせて視野を狭める他ない。

 

 

「ドラフ共が合流したら俺の不利だが、先程まで有利だった身だ。ドラフが8人程減った所で問題ないだろう?」

 

「……」

 

「袋叩きで勝てると思っていたのだろう?やれば良いだろう。正面から攻めれば終わりだ」 

 

「後悔、しないでよ?」

 

「この壁により後悔という概念はお前らの物となった。精々吠えていろ」

 

 

誘導完了。

前方からの戦闘を認知。

 

──行ける!

 

 

相手に殺意がない以上、此方の粘り戦法は完全な物となり、消耗勝ちを狙える。

スルトが数人倒してくれればまだ余裕があったのだが、心が先に折れたのか一人も倒せていない。

 

勇猛果敢が軟弱千万に早変わりだ。

 

俺は勝つぞ。

 

 

「来い──俺が()()()()()()

 

 

「上等ッ!!!!!」

 

 

売り言葉に買い言葉。

最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の授業による負傷者

 

 

スルト・ヴァーグナー

 

・腹部に打撃痕。猛烈な一撃を受けたと思われる。

 

・鼻部に打撃痕。骨にヒビ一歩手前である。

 

 

コーリス・オーロリア

 

・頬に突痕。別状なし。

 

・腹部に打撃痕。別状なし。

 

………・全身に打撃痕。特に書く事はない。

 

 

 

他の生徒達に外傷無し。

無傷で授業を終えたと判断する。

 

 

 

──担当教師 リエス・コルセン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

要するに…コーリスは一撃も当てれずに負けたのである。

 

 

 

 

*1盾による殴打。痛い。というか頭に食らったら死ぬ。



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