六道女学院教師GS横島 (ミニパノ)
しおりを挟む

横島、教師になる

「あ、ありえねぇ……」

 

「悪夢だわ……」

 

「そうですか?」

 

一文字、弓、おキヌはそれぞれ思いを口にしていた。

この世の終わりすら思わせる表情の二人に対し、おキヌはむしろ少し嬉しそうにしていた。

その原因は、三人の、正確には六道女子全員の視線の先、

朝礼台の上、六道夫人の隣で困ったように人差し指で頬をかく男、横島忠夫だった。

 

 

 

 

 

「理事長!何をお考えですの!」

 

「ほら来た。だから言ったじゃないッスか」

 

ところ変わって、弓が怒鳴り声を上げながら飛び込んできたのは理事長室だった。

そんな彼女を迎えたのは、いつも通りニコニコしている六道夫人と、件の男横島。

そんな彼を見てハッとした表情をし、横島に詰め寄る弓。

 

「あなた!どんな手を使ったのよ?まさか、理事長の弱みを握ったり脅迫したり……!!」

 

「お、落ち着いてくれ弓さん!冷静に考えて、六道夫人に弱みがあると思うかい?万が一あったとして、そんなもん簡単に握らせると思う?んで握った俺を放置すると思うか?そもそも、俺みたいな若造の脅迫に屈すると?ないない、そんなんありえんって」

 

想像もつかんわ、と一言加える彼に弓も少し落ち着く。

 

「そ、それは……確かにありえないわね。な、なら理事長」

 

冷や汗をかいて言い、それなら、と六道夫人に矛先を変える弓。

一緒に入ってきた一文字とおキヌも視線をそちらにやる。

 

「えぇそうよ~、私の意見で~彼には来てもらったの~。大変だったのよ~、説得するの~」

 

「いや、だから俺はまだ引き受けてませんって」

 

「往生際が悪いわよ~、横島君~。生徒の皆に紹介までしたって言うのに~」

 

そう、横島は六道夫人に半分拉致の様な扱いで連れてこられていた。

しかもその用事は、まさに朝礼で発した言葉。

 

「彼~GS横島君に~短期臨時講師を~お願いしたいと思います~。

そして~その内容次第では~正式に講師をお願いしたいとも思ってま~す」

 

まさに爆弾発言である。いつも以上に間延びした声で放たれた爆弾発言に生徒は騒然とした。

 

横島はまだ高校を卒業して間もない。

教師達よりむしろ生徒に近い年齢、それ以上に問題なのは以前行ったクラス対抗戦の時の醜態。

彼を知らない者は自分に近い年齢の者に教えを請う屈辱。(特にGSを目指しているためプライドが高いものが多い)

彼を知る者は単純に彼の性格に対する嫌悪。(特に弓、一文字の二人)

……二つ合わせてもれなく大反感である。

 

「そうは言いますけど、俺の性格知ってるでしょう。生徒さんの安全のためにも」

 

「私はそうは思わないわ~。

大体ちょっと前の横島君なら~、そんな自分が不利になるようなことは言わないんじゃないかしら~」

 

確かに、と一文字とおキヌが横で納得顔。

 

「それに~前~、お礼に何でも言ってくださいって言ってくれたじゃないの~」

 

「うっ、それは……。

あーもう、わっかりましたよ!でも知らないですからね。

自分で言うのもなんですが、生徒の反感を買ってるのは間違いないんですから!」

 

確かに、と一文字とおキヌが納得顔、横島がそれに気付いてちょっぴり傷つく。

 

「その辺は任せてくれて構わないわ~。

もっとも~、そんな必要はないかもしれないけど~」

 

「いや、ありますって……。あと、俺授業って言っても何やっていいかわかんないんですが、教科書とかってあるんすか?」

 

「自由にやってくれてかまわないわ~」

 

「……は?」

 

夫人の言葉に口を開けたままキョトンとする横島。

教科書などがあればそれに沿えばいいし自分でも出来るか、その程度に思っていたため、一瞬何を言われたのかわからなかったのだ。

 

「教科書は?」

 

「ないわ~」

 

「資料とか」

 

「ないわ~」

 

「何も?」

 

「ないわ~」

 

……沈黙が流れる。

 

「出来るかぁ~!!」

 

「出来るわ~」

 

その間延びした答えに色々諦めたのか、どうにでもなれと肩を落として何も言わなくなる。

そこに今まで黙って聞いていた弓が口を開く。

 

「勝負よ!

私と勝負して勝つくらいじゃないと、私も他の生徒も納得できないわ!」

 

突然弓に指を指されてビビる横島、何とも情けない。

それに対して、夫人は笑みを深め……。

 

「そうしましょう~」

 

と言ってのけた。

それに対して横島がギャーギャー文句やら喚きやらを叫んでいるが、

すべて「大丈夫よ~」で流される。

 

理事長があっさり許可を出したことと、

横島の文句の中に「生徒に怪我をさせたらどうする」などがあったため、自分が侮辱されたと思い、怒りに燃えている弓。

 

「当然、私も納得してないからな」

 

と一文字の発言で、彼女も参戦することが決まり、ここに一文字&弓VS横島が決定してしまう。

 

ちなみに、二人の横島に対する認識は馬鹿で変態でダメ男である。

二人とも自分の彼氏が横島の事を話すときは右から左へ流して、全く信じていなかった。

 

「じゃあ~、2対1で良いわね~」

 

「「なっ!」」

 

てっきりそれぞれが戦うと思っていたため、理事長が言った言葉に驚く弓と一文字。

 

「あ~、何言っても仕方ないんすよね?」

 

「物わかりイイ子って好きよ~」

 

そんな様子に気付いてない横島は何事もなかったように話を進める。

その態度にカチンと来た二人は。

 

「後悔しますわよ!!」

 

「手加減しねぇからな!」

 

そう言い放って部屋を出て行った。

その様子にビビった横島は、ひきぎみに「俺なんかしましたか?」と理事長に聞いたが、

「おばさんわかんない~」とはぐらかされてしまった。

 

そしておキヌはと言うと。

 

「どうせ私なんて前は幽霊でしたし、影が薄いですよ~。クスン」

 

想像以上に影が薄かったことを気にしていた。

 

=====================================================

 

「弓、言っても無駄だと思うが、油断すんなよ」

 

「私があんな変態に油断して負けるわけないでしょう」

 

諦め気味に言う雪之丞に鼻で笑って答える弓。

そのまま踵を返して校庭に張られた結界内へ入る。

弓の後姿を見ながら「それが油断だって言ってるんだよ」と呟く雪之丞だったが、

近くで一文字とタイガーが似たようなやりとりをしているのを見て、諦めた様に苦笑するのだった。

ちなみにこの結界、外からは何の抵抗もないが、中からの攻撃に対しては強固な守りをもつ高度な結界である。

 

「お互い苦労しますのー」

 

「女ってのは頑固だな」

 

「そうですのー」

 

結界内で横島を待つ二人の後姿を並んで見ながら、タイガーと雪之丞はため息をついた。

ちなみにこの二人、六道夫人に呼ばれて来ていた。

実は美神や他のGS達も興味があって、来たかったのだが、仕事や用事で皆来れなかった。

二人も実は仕事があったのだが、六道夫人が裏で手をまわして、延期させたらしい。

結界の周りには六道女子の全生徒が座って観戦している。

勉強になるからと夫人が全員授業扱いとして校庭に集めたのだった。

 

「ホントはな、模擬戦する前に俺と横島でタイマンやって実力わからせてから、とも思ったんだがな」

 

「まぁ、相手を見かけで判断すると危険って事をわかってもらうには、いい機会かもしれんですじゃー。GSにその油断は本当に命取りですけんのー」

 

「そういうこった。多分あのお人よしはあんだけ馬鹿にされても手加減して戦うんだろうけどな、そのあと、俺と本気で模擬戦させちまえば、自分達がどんなレベルの相手と戦ってたか思い知るだろ」

 

ニヤッと笑う雪之丞を見て苦笑するタイガー。

 

「マリしゃんの青ざめる顔なんぞ見たくはないんじゃが、将来怪我されるよりはマシですけんのー」

 

「ずいぶん上手くやってる様だな」

 

「雪之丞には言われたくないのー」

 

ニヤニヤして自分の腹を肘でつつく雪之丞に冷めた目で答えるタイガー。

しかし忘れてはいけないのは嫉妬の神がここにはいることだった。

 

「よぅ久しぶりだなお前ら。人が苦労してんのに、彼女の惚気話か。良い御身分じゃねぇか。

俺の苦労の一部はその君達の彼女が原因なのになぁ」

 

底冷えするような声で二人の肩を同時に組んで割り込んでくる横島。

身長差は考えてはいけない。

 

「よ、よう横島、元気か?」

 

「こ、高校振りですのー」

 

どもりながら言う二人、完全に横島の機嫌をとっている。

その首への力が急に緩む。

 

「けっ、まぁ良い。言いたいことはわかるしな。講師最初の授業のつもりでやってくるわ。

そんな簡単に勝てるとは思っとらんけどGS免許持ってる意地だ、お前らが言ってた事くらい教えれる程度には無様な試合はしないつもりだけどな。……ちなみにお前と本気での模擬戦が死ぬほどいやだからではないからな」

 

「オイ最後本音が出たぞ」

 

「そこが横島さんらしいと言えば、らしいですのー」

 

そう言って笑う三人。

ちなみに結界内で待っている二人は、それを見て話は聞こえないがどうせ馬鹿話をしているのだろうと、イライラを上昇させていた。

 

「さっさと上がってきなさい!」

 

とうとう怒鳴る弓に、ヘイヘイと渋々彼女達の正面に立つ横島。

 

「そんな怒んないでくれよ、二人とも美人が台無しだぜ」

 

「び……!ふ、ふざけてないでさっさと始めようぜ!」

 

横島の軽口に恥ずかしいのか少し頬を染めて開始を催促する一文字。

弓も心なしか顔が赤い。

 

「……やっぱこれ終わったら俺アイツと戦(殺)るわ」

 

「……ワッシも久しぶりに戦(殺)るかいのー」

 

嫉妬深い二人はどうやら横島と一戦交える事を心に決めたらしい。

 

ざわつく生徒達。

校庭のど真ん中に張ってある結界内には3人が構えて立っている。

正確には1人ポケットに手を突っこんだまま構えていない。

結界の正面には六道夫人が立っていて、その隣に雪之丞とタイガーが立っている。

ちなみにおキヌはその横でタイガーより影が薄い事に涙しながら体操座りで結界を見ている。

 

弓や一文字という校内でかなりの実力をもつ二人を相手に構えもしない横島に対し、

何人かの生徒が野次を飛ばしているが、結界内の三人は動かない。

 

「構えもしないつもり?馬鹿にするのもいいかげんに……」

 

「相手の挑発に簡単に乗っちゃダメだよ弓さん。

後、挑発に乗ってないようで殺気がダダ漏れだよ一文字さん」

 

「「!!」」

 

横島の指摘にハッとする二人。しかしすぐに怒りに任せて言う。

 

「私達に授業でもしているつもりかしら?偉くなったものね」

 

「随分余裕だなオイ」

 

逆に挑発するような言葉に少しビクつく横島。

青筋浮かべて言っているので、どちらも怖い。まだ何か情けない横島だった。

 

「い、いや、講師頼まれたから、一応それらしい事は」

 

「そういうことは……」

 

「勝ってから言いなさいな!」

 

弓が言うと同時に霊波弾を撃つ。雪之丞にでも教わったのだろうか。

直線状に伸びる霊波砲ではなく、ボールサイズの霊波を飛ばしている。

それを最小限の動きで右に体を捻って避けて、霊波弾を追う様に左手で後ろに触れる。

そのまま体を回して、霊波弾の進路を弓に変えて返す。

 

「な……!!」

 

自分の撃った霊波弾を反射ではなく、投げ返された事に驚きつつもギリギリでかわす。

弓の後ろで爆発が起こり、一文字も弓も動きを止める。

先程までざわついていた生徒達も静かになる。

雪之丞は横島の動きに満足そうに笑みを深める。

 

「え? 戦闘中に動きを止めて余所見はマズイよ」

 

その言葉に意識を横島に戻す二人。いつの間にか二人の後ろに回り込んでおり、いつでも攻撃ができる状態になっている。

言いつつも追撃をかけようとしないのは良くも悪くも横島の甘さである。

 

「オイオイ、あいつ敵が放った霊波を投げ返したぞ」

 

「相変わらずデタラメに器用ですのー。最低限の霊波を掌に、相手の攻撃の方向性を変えるとは」

 

感心半分呆れ半分の雪之丞とタイガー。

 

「さ、流石にGS免許を持ってるのは嘘ではないのね。もう油断はしないわ」

「ま、まぁGS免許持ってんだし、全く戦えないわけがねぇよな」

 

口ではそう言うが、実はこの二人、今の霊波弾だけで横島が目を回して倒れている姿まで想像していた。どれだけ低く見ていたかがわかる。

ちなみに雪之丞は、ダメだあいつら今のがどんだけレベルの高い動きかわかってねぇ、とため息。

 

「いくわよ!」

 

「おぅ!」

 

しかし、流石に優秀なGSの卵である二人、気持ちを切り替え、弓は自身の奥義である観音水晶を身にまとい、一文字は木刀を構えなおして身にまとう霊力を上げる。

そのまま、同時に横島に向かい、横島が両手をポケットから出したのでそれを目で追う。

 

「サイキック猫だまし!」

 

パン、という音が鳴り、全員の視界が真っ白に染まった。

横島、雪之丞、タイガー、六道夫人の4名を除いて。

 

「それまで」

 

全員の視界が回復した時、結界の中には横島だけが立っていた。

六道夫人の合図で結界が解除される。

横島が倒れている二人の元へ行き、肩に手を当てると何事もなかったように二人が立ち上がる。

あまりにも呆気なく終わってしまった戦いに、観戦していた生徒達は呆然としていたが、全員二人が負けたことだけは理解していた。

しかし、目を眩ませて勝った横島に、大部分の生徒が不服そうだった。

そして、弓たちも例外ではなく、納得できていない様な口調で口を開いた。

 

「ちっ、負けちまった」

 

「どんな勝ち方でも負けは負け、ね」

 

横で横島が「まぁ、君達に確実に勝つためだったから勘弁してよ」と苦笑しながら話している。

三人が六道夫人達の所へ歩いてくる。

 

ちなみに先程の横島の動きだが、

目くらましと同時に、一瞬で二人の背後にまわり、霊体に直接麻痺させる程度の霊波を当てたのだ。

それを霊体を傷つけない程度に行っているのだから霊波のコントロールの細微さがうかがえる。

 

少し昔の、勝ち方にこだわっていた頃を考えると成長したとは思うものの、まだ実力の差がわかってない弓に、雪之丞は他と違う理由で不満そうな顔をした。

それにこれでは折角生徒や弓達を納得させるチャンスが無駄ではないか。

と、思い至り、口を開く。

 

「理事長」

 

「あら~、是非お願いするわ~」

 

何も言っていないのに許可を出す夫人に、

まぁ俺が予想出来てたんだから、夫人も当然予想済みか、と納得する雪之丞。

つかこのために俺をつれてきたか?と苦笑。

 

そして夫人が一歩前に出てマイクをもつ。

 

「横島君~、どうせだし生徒の勉強のため、もう一戦お願いね~。

ちょっと実力差がありすぎて参考にならなかったから~、生徒達も納得してないみたいだし~」

 

その発言に生徒がざわつく。

弓達も一瞬で沸点に達したのか、なぜか横島を睨みつける。

泣きそうな顔になりながら六道夫人に近付く横島。

 

「どういうつもりっすか」

 

「言った通りよ~、雪之丞君もやる気満々だし~、もう生徒も期待してるし~、それに~あのままだと彼女たち現場で死んじゃう心配があるのよ~」

 

「期待というか、殺気みたいなものを感じるんですが」

 

弓達を馬鹿にされたと殺気立つ生徒達。マグレで調子に乗るなと言い始める生徒もいる。

 

「横島、諦めろ。たまには全力で俺と戦え」

 

「いやじゃ!」

 

「理事長命令よ~」

 

「……ハイ」

 

キッパリと断った横島にニコニコと言い下す夫人。

流石に横島もガクッと肩を落とし、

諦めたように、もう一度張られた結界に向かうのだった。

別に六道に所属してないんだから理事長命令とか関係ないのに、権力に弱い男である。

 

 

 

構える雪之丞。先程と同じで横島は構えない。

観客達は雪之丞を見て強そうだとは思うが、弓達とは違い知らないので実力をはかろうと目を見張る。

なにせ理事長推薦なのだ、恐らく強いのだろう。その理屈で言うと横島もそうなのだが、皆、横島に対するイメージは最低だった。

 

「逝くぜ」

 

「字が違ぇだろこのバトルジャンキー」

 

横島の呆れた声を合図に雪之丞が霊波砲を放つ。

弓のそれに比べてとてつもない大きさと密度だ。それをみて全員が息をのむ。

恋人である弓ですら彼氏の実力の高さを思い知る。

そして全員が思った。死んだと。

 

「ハァッ!!」

 

いきなり、腰を落として構えをとり、一瞬で右足を前に出す横島。

迫る霊波砲を右の裏拳で弾き飛ばした。

弾かれた霊波砲は上空の結界に当たって霧散した。

唖然とするは観客の生徒達。

誰もがなすすべなく消し飛ばされてしまうであろう威力の霊波砲を横島は素手で弾いたのだ。

成績の良い生徒や弓などは横島が手の甲に霊波を集めていたのに気付いたが、それでもありえない事だった。

平然と見ているのはおキヌ、タイガー、理事長だった。理事長ですら頬に少し汗を張り付けているが。

 

「おっまえ、こんな狭い場所でとんでもない攻撃してくんな!!死ぬかと思ったやろがー!!」

 

「良く言うぜ!しっかり弾いて見せたじゃねぇか!」

 

必死で抗議する横島に対し、嬉しそうに言う雪之丞。

次第にざわつき始めた生徒達に理事長がマイクをとる。

 

「今のは~、手の甲に霊波を集中させて弾いたのよ~。

見えた人もいるかもしれないけど~、有り得ない程の密度でした~。

彼が特に霊波のコントロールに秀でているとは言っても~、それを一瞬で行える彼は超一流と言っても過言ではないのよ~。

ついでに説明するけど~、さっきの試合で霊波砲を投げ返したのも似た様なもので、単純に敵の攻撃と同じ強さと速度で攻撃の方向性を変えたのね~。

単純にとは言ったけど、言うのとやるのは大違いよ~、超一流の霊能力者でも失敗する確率の方が高いわ~。すこしでも込めた霊力が強ければ霊波砲は霧散し、弱過ぎると自分がダメージを受けるからね~。その微妙なコントロールをあの一瞬でやってのけるなんて神業なのよ~。

最後に二人が倒された攻撃だけど、あれも神業ね~。

霊波を霊体に直接流したんだけど、あれほど綺麗に流す方法を私は知らないわ~。

試合直後に霊波をもう一度流すだけですぐ動ける程に後遺症のない攻撃なんてありえないわ~」

 

ざわつきが大きくなる、不機嫌そうにそれが収まるのを待つ雪之丞と、また大げさに言ってと呆れる横島。

 

「おい、今の動きは武術か?」

 

「ん、まぁな。妙神山で散々扱かれたからな~」

 

遠い目をして過酷な修行の日々を思い出す横島。

生徒のざわつきが更に大きくなる。

妙神山と言う単語はGSを目指す者なら知ってて当然なのだ。

 

「ハイ!皆静かに~!続きを始めるみたいよ~」

 

ウンザリした顔でもう勝手に始めてしまおうとした雪之丞を見て、六道理事長が生徒に注意する。

その言葉にすぐに静まりかえる生徒達。これから行われるであろうレベルの高い戦いに期待している。

先程までとは大違いだ。

 

「へっ、やっと静かになったな。ようやくお前も舐められてないようだしな」

 

「お前わざとそのためにデカめな霊波砲撃っただろ」

 

「なんのことだ?」

 

ジト目で見る横島に彼らしい笑みを浮かべる雪之丞。

すぐに横島に迫る。

そこからは激しい戦いだった。

雪之丞が繰り出すラッシュに次ぐラッシュをすべて捌いていく横島。

珍しく余裕がないのか、雪之丞の雰囲気に流されたのか真面目な表情だ。

たまに繰り出すカウンターも雪之丞にかわされるか弾かれていて、二人ともダメージはない。

生徒達は既に顎を落として唖然と見ているものと、真剣に動きを追っているものに分かれる。

 

ならばと一度離れて霊波砲を放つ雪之丞、先程と違い細いがその分密度が高く、威力がある。

それを今度は拳では無くちゃんとした霊気の盾を出す事でまた弾く横島。弾いた勢いでその盾を雪之丞向けて投げる。

 

「チッ」

 

舌打ち一つうって同じ様な盾を作り出し、相殺させる雪之丞。

そのタイミングを狙って霊波刀を展開して迫る横島。

なぎ払った斬撃は雪之条をとらえなかった。

 

「魔装術か……」

 

呟いた横島の目線の先では魔装術に包まれた雪之丞が空中に浮いていた。

 

「お前空飛べなかったよな」

 

「あの時は本当に歯痒くってな、あんな時に何も出来なかった事が許せなくて再修業したんだよ」

 

「……お前らしいわ」

 

横島が苦笑した瞬間空中から霊波砲を連続で撃ちまくる雪之丞。

土煙りに包まれた横島を見て、今度こそ決着かと土煙りが晴れるのを待つ生徒達。

しかし、土煙りが晴れる前にそこから跳び出す影、横島。手の中には文珠が一つ。

 

『翼』

 

空中で再度起こる殴り合い。

しばらくお互いにダメージがない状態が続くが、

とうとう雪之丞の蹴りが横島のわき腹をとらえて叩き落とす形になる。

横島が砂煙の中に落ち、雪之丞がそれを追うように地面に急降下。

その勢いで砂煙が晴れ、隠れるように立っていた横島めがけて霊波砲を放つ。

放たれた細い霊波砲は呆気なく横島の腹部を貫通し、全員が目を伏せた。

 

「ほい、俺の勝ち」

 

驚愕に目を見開いた雪之丞の首筋に霊波刀が当てられ、後ろに無傷の横島が立っていた。

 

「『幻』か……」

 

「まぁ、俺には搦め手しかないしな」

 

両手をあげて魔装術を解く雪之丞に苦笑しながら霊波刀を消す横島。

腹を貫かれた幻も消える。

 

「ヘッ、良く言うぜ。砂煙に落ちた時に用意したのか?」

 

「いんや、飛ぶ前」

 

「ハッ、途中からお前のてのひらで踊ってたってことかよ」

 

久しぶりに戦えて満足なのか、嬉しそうに言う雪之丞。

生徒たちは目の前で行われた超レベルな戦いに絶句している。

そして、弓と一文字も自分が如何に格上と戦っていたかを思い知っていた。

雪之丞、タイガー、理事長の思惑の通りに事が運んだということである。

パチ……パチと少しずつ拍手が響き渡り、生徒全員の拍手喝采が響いた。

 

「なんや?何事や?」

 

「いや……おめぇに拍手してんだよ」

 

「そ、そうなんか、いやぁ、照れるな」

 

「そういうこった、頑張れよ、横島せ・ん・せ・い」

 

状況を理解して照れる横島に、ニヤッと笑って言う雪之丞。

その言葉を聞いて横島は固まり。

 

「そ、そうやった!騙されたー!!」

 

と叫ぶのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手探り教師横島始動

実は続けるつもりはそこまでなかったのですが、
まさかの、評価、しおり、感想をありがたいことに何名からか頂きまして、、、
サブタイトルにもありますが、作者自身が手探りで初投稿したものに反応を頂けるとやはり嬉しいものでして、つい続きを投稿してみたくなった次第です。
※特にしおりが入っていたのを見た時に、(あれ?これ続き書かないと…?)と勝手に勘違いしたというのもあります(笑)

また単発的な感じですので連載というわけではないですが、楽しんで頂けると幸いです。

※最初に投稿した話を読み返して、久しぶりに原作を引っ張り出してみたところ、弓さんの口調があそこまでお嬢様口調ではないことに気付いたので、適当なタイミングで直すかもしれないです。
⇒とりあえず直しました


今日は俺の初授業だ。

まぁ、なし崩しに講師をやることになったわけだが、特別授業としてたまに選択授業扱いでやるだけらしいので、それほど人は集まらないだろう。

ま、来てくれた子たちはしっかり教えるとして、気楽にいこう気楽に。

 

ガラ

 

……そんな風に考えてた時期が俺にもありました……。

 

 

 

 

 

どうも今までずっと影の薄かったキヌです(泣)

今日は横島さんの初授業です。

この選択授業は学年も関係なく、誰でも参加出来るのですが。

……まさか教室に入りきらずに抽選扱いになろうとは思いませんでした(汗)

まぁここにいる時点で私は抽選に当たったのですが、

まさか弓さんと一文字さんが横島さんの授業を受けるとは思いませんでした。

やっと横島さんの事を認めてくれたと思うと嬉しくなります。

 

「オイ、あいつ大丈夫かよ」

 

「何がですか?」

 

一文字さんがヒソヒソと話しかけてくるが何の事かわからない。

ちなみに私の右には一文字さん、左には弓さんが座っています。

この教室は他の教室と違って広めの教室を使い、大学の教室のように段になっているため、その中段くらいに三人で並んでいます。

 

「いや、こんなに生徒が集まるとは思ってないだろ、ノミの心臓じゃなかったっけ?アイツ」

 

「そうでしょうね、下手したら帰りかねないわよ」

 

「た、確かに……」

 

一文字さんと弓さんが結構酷い事を言っていますが、

スミマセン横島さん、反論できません。

そんな事を話していると授業開始前ですがドアの所に横島さんの影が現れる。

 

「来たわよ」

 

「そのまま扉閉めなきゃ良いけどさ」

 

「ハハ……」

 

 

 

 

ガラ

 

 

「…………」

 

 

ピシャ

 

 

 

 

シーン

 

 

 

 

よこしまさぁ~ん!!(泣)

 

「見事に予想を裏切らなかったわね」

 

「そこは裏切ってほしかったな。アイツのキョトンとした顔は笑えたけど」

 

「ひ~ん」

 

一度ドアを開けた横島さんは教室を見て一瞬フリーズ、そのままドアを閉めてしまった。

一応ドアの前に影があるから帰ったなんて事はないけど、入ってくるかはわかりません。

周りの皆も横島さんの行動にざわついている。

……横島さんの気持ちもわかりますが。

 

ガラ……

 

先程とは違ってゆっくりドアが開かれる。

そしてコソコソと情けない動きで横島さんが教壇につく。

 

「一応入ってきたぞ」

 

「入ってこなかったら大問題よ」

 

そんな二人の会話を聞きながら横島さんを見ていると、教壇に置いてあったマイクに気付き、それを抜き取る。

いや、抜き取ろうとして中々抜けずに力いっぱい引っ張ってオデコにぶつけている。

教室から笑いが起きるが、横島さんも苦笑してオデコをさすりながら口を開く。

 

「先程は失礼しました。正直こんなに人が集まると思ってなかったんで帰ろうかと思いました」

 

また教室から笑いが起きる。

そんな教室の空気に私もホッとした時に、横島さんが爆弾発言をする。

 

「で、先に言っておきたいのですが、皆さんもしかしたら先日の戦闘を見て来てくれたのかもしれません。でも私はまだまだ若輩者です。

大した授業は出来ませんし、そんなに大したことは教えられません。あくまで現場を体験しているという意味での先輩として、助言レベルだと思ってもらって結構です」

 

一息付いて続ける横島さん。

 

「それと、この授業では恐らく皆さんが期待している様な戦闘などは殆ど教えません。

GSになる心構えや生き残る手段、逃げる手段、卑怯な手、戦闘をしなくてすむケース。

その様な、人によっては退屈だったり毛嫌いするような授業になるかもしれません。それでも良い方のみ残ってください」

 

先程まで穏やかな雰囲気だった教室がざわざわと騒がしくなる。

 

「ここに俺がいると教室を出辛いと思うので、15分、席を外します。

興味ない授業だった、とか期待していたものとは違った、と思う方はその間に出てもらって構いません。当然理事長に話を通し、成績に影響が出ないようにします。

その代わり残った方には、一応授業を任された身として、GSになった時に生き残れる確率を、俺の出来る範囲にはなりますが、必ず上げるよう努力します」

 

最後に、では、と言って横島さんは本当に教室を出て行ってしまった。

教室はかなりざわついている。

どどどういうつもりなんでしょう?!

混乱している私の耳に一文字さん達の声が聞こえた。

 

「で、どうすんだ?出るのか?」

 

「まさか。確かに戦闘を教えていただいても為にはなったでしょうけど、それ以上に為になりそうな授業だわ」

 

今までを考えると有り得ないようなことを言う弓さんに、私も一文字さんも驚く。

 

「マジか、てっきり私にはあわないわ、とか言って帰るのかと思ったぜ」

 

「だからこそ残るのよ。たまには自分の偏った考えを見直してみるのも悪くないわ」

 

「……彼氏の入れ知恵だな」

 

「ゆゆゆ雪之丞は関係ないでしょ!」

 

「図星かよ。つっても俺もタイガーにその辺の事説教されたんだけどな」

 

あのタイガーさんが一文字さんに説教ですか。お二人とも大事にされてますね。

二人も残ってくれる事に嬉しくなりつつも少し羨ましいです。

 

「でも、やっぱ帰る奴もいるよなぁ」

 

「えぇ、私も今までなら帰ってたわね」

 

折角抽選までしたのに残念です。

 

「しっかし意外とちゃんとした対応でビックリしたぜ。全然口調も違ったし」

 

「えぇ、死ぬほど似合わなかったわね。というか誰?としか思えないわ」

 

「弓さん、それはちょっと……」

 

……否定できない自分が悲しいです。ごめんなさい横島さん。

 

 

 

 

そろそろ15分ですが、教室いっぱいにいた生徒は今は大体3分の1くらいになっちゃいました。

 

ガラ

 

横島さんが教室に入ってきて、教壇に立って教室を見渡す。

 

「お、結構残ったな」

 

先程の堅苦しい感じが抜けて話す横島さん。

というかどれだけいなくなると思ってたんですか。

 

「何か今聞いたんだけど、この授業抽選したらしいな。

で、理事長の話だと、今残っている人は免除として、ちゃんと授業内容を通達してから残りの席を再抽選するそうっす。

だから万が一次の授業から参加者がいたら、今日の授業受けられない差がでちゃうから、今日は俺なりに考えているこの仕事に対しての大前提を話して終わります。

後は自由時間と質問時間、何か悩みや伸び悩んでる事があればアドバイスもできるだけするから」

 

そう言って後ろを向く横島さん。

黒板に大きく何かを書き始める。

 

『GSが除霊中に最優先すること』

 

そう書いた後もう一度私達に振り返る。

 

「大前提だからね、細かい事じゃなくて大きく考えてみて貰っていいかな。

あくまで今から言うのは俺の考えではあるけど、間違ってはないと思う。

とりあえず皆の意見を聞いてみようか。君はどう思う?」

 

横島さんが目の前にいた三つ編の女の子に聞く。

 

「え、わ、私ですか?うーん、依頼の達成ですか?」

 

「うん、それも大事だな。じゃあ君は」

 

今度はボーイッシュな子に聞く。

 

「やっぱ除霊対象の殲滅ですかね?」

 

「うん、確かにそういう事もあるね、けど、まぁそれは次の授業で話すよ」

 

それから何人かに聞いたけど、周りへの注意、や依頼内容の確認など、色々な意見が出たが、どれも横島さんの考える答えではなかった。

 

「ごめんね、皆に色々聞いたけどそんな難しい事じゃないんだ。むしろちゃんとした授業なら君らが言ったほうが細かくは正しいんだと思う。でも俺が確認したかったのは言った通り本当に大前提だからね。俺が考える答えは」

 

また黒板に字を書き始める横島さん。

 

『命』

 

「当たり前だな。おぉぅ、皆そんな呆れた顔しないでくれ。

当たり前だけど、これを守れないと『死』にます。

GSはそれが常にありえる、そんな仕事だという事をまずは理解して下さい。事実誰からもこの答えは出なかったよね、当たり前過ぎて言わなかったんだろうけど、何よりも優先するべき事と言う意識がないと待つのは『死』です」

 

さらに念押しする横島さん。気付き難いレベルで言葉に言霊を乗せてますね。

最初は馬鹿にしたように聞いていた皆も真剣に耳を傾ける。

 

「GSは火事に向かう消防士や凶悪犯に立ち向かう警察官の様な者だと個人的には思っている。そこには常に命がかかっている事を忘れないで欲しいんだ。

何が言いたいかと言うと、命を軽く見ない事。

これは自分だけではなく、仲間や時には相手の命にも当てはまるからね。それを次の授業までに良く考えてみてください。

ではかなり早いですが終わりにして、自習と質問タイムにします」

 

そこで横島さんの話は終わり、皆それぞれ横島さんに質問に行ったり、相談したり、友人と話したりしています。

 

「私がタイガーに言われた事と大体同じだったぜ」

 

「私も雪之丞に言われたわ。先日の戦いも相手が横島さんでなければ私達は死んでいたわけですし。やはり本当に実戦を潜り抜けてきただけで私達とは違うのね。よく考えなくとも美神おねーさまの横でずっと実践だったわけなのよね」

 

「そもそも横島さんは何度も死にかけてますし」

 

それに、ルシオラさんの事もありますし。

 

「せんせー!何か雑談してよ。仕事の経験談とか聞きたいですー!」

 

一人の女の子が横島さんに手を挙げて言う。

他の生徒も賛成なのか、皆席に戻る。

横島さんは苦笑して口を開いた。

 

「んー、そんな聞いて楽しいモンじゃないかもしれないけど、まぁ反対意見がないなら構わんぞ。じゃあさっきの話に繋がる、俺が実際死にかけた例とかいくつか。

どんな除霊があったとか仕事の話はまた今度な」

 

そう言って話し始めた横島さん。

 

「まず、俺が死ぬと思ったのは首の頸動脈をすっぱり切られた時。

とんでもなく血が噴き出してな、あれは死んだと思ったよ。噴水なんて目じゃないくらい出たんだわ、わはは」

 

笑っている横島さんに対して、一瞬で真っ青になる生徒達。

って横島さんそんな目にあったことがあるんですか?!

殆ど一緒にいたつもりでも知らない事ってあるんですね、と少し寂しくなるが、事の大きさに無事でよかったと言う気持ちが上書く。

 

「そんときはたまたま一緒にいた知り合いの神様に助けられたんだけどな、俺に直接憑依して止血してくれたんだ。

他には悪魔の攻撃で観覧車が自分めがけて倒れて来た時とか、滅茶苦茶怖かったよ、観覧車のあの骨組の間をすり抜ける形で俺が立ってたところに倒れてきたからなぁ。これはあと数センチずれてたら死んでた。

他には魔族が自分の腹に寄生して腹を食い破って出てこようとしたときとか、これも上司が全力で腹を殴ってくれて吐き出さなきゃ死んでただろうなぁ、宇宙空間だったし。

その直後、生身で大気圏突入した時は流石に記憶喪失になったけど。

幽体離脱で宇宙空間行って人工衛星に捕まっちゃった時は身体との繋がりがドンドン細くなってやばかったし。

それと、事後に聞いた話なんだけど、実は俺、一度魔族の攻撃で死んでるらしくてな、たまたま色んな状況が重なって発動した数分の時間跳躍で助けてもらったり。

あ~、あと、聖天大斉老師の如意棒食らった時なんかも終わったと思ったね、走馬燈が見えたわ。いまでもしょっちゅう修行中に死にかかってるけど。

……あれ?何で俺生きてるんだろう」

 

横島さん、それは皆が思った事です。

あと神様という発言や聖天大斉老師の名前が出たところで生徒の一部がざわついていましたよ。

そして途中まで皆青ざめたり真剣に聞いてたりしてたけど、途中からコイツは人間か?と言う目に変わってました。

それと、当たり前ですけど、やっぱり東京タワーで死にかけた話はしなかったですね。

 

「とにかく、もっと数え切れないほどあるけど」

 

もっとあるのかよと言うツッコミがどこかからあがる。

気持ちはわかります。

 

「俺はたまたま生きてたけど、一歩間違えれば死んでたんだ。

GS目指す以上、そう言う覚悟は持ってないと本当に取り返しのつかない事になるからね。

当たり前だけど、死ぬ覚悟じゃなくて、生き残る覚悟とか命に対する覚悟だからな」

 

そこまで話して授業終了の合図がなる。

 

「ほい、じゃあまた次の授業で。あと、しつこいけどやっぱ微妙って人は今回で終わりでも大丈夫だからね」

 

そう言って横島さんは教室を出て行った。

 

「めちゃくちゃな人ですわね」

 

「なぁ、横島さんって人間か?」

 

「あ、当たり前じゃないですか……たぶん」

 

すみません、横島さん。断言できませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ、まさか改めて募集してまさか教室が埋まるとは」

 

横島さんの二回目の授業です。横島さんのつぶやきの通り、再抽選した結果、授業の内容を開示された上でも参加希望がかなり多く、結局教室が埋まることになりました。

それも、どうやらどちらかというとエリート組というより、どちらかというと自分に自信が持てない方や、言い方は悪いですが成績上位クラスではない方が多く集まったみたいです。

 

「んじゃ、改めて前回の復習、つっても一言だけ、全てにおいて命は大事ってことを覚えて欲しいってだけだな」

 

といって前回話した話を軽く繰り返しで話し始める横島さん。

こういう丁寧な対応は先生に向いてる気がします。

 

 

「さて、ちょっと違う話もしていこうか。

早速だけど、前回の俺の戦いを見てくれた人たちに注意事項。何度か俺が使ったコレ、覚えてる?」

 

言いながらサイキックソーサーを展開する横島さん。相変わらず器用ですね。

 

「うん、結構皆覚えてくれてるみたいだな。これは体の霊力を一部に固めて物質化してるわけなんだけど、端的に言うとこの技は実戦で使っちゃ駄目です」

 

なるほど、私は理由を知っていますが、皆はちょっと使ってみたいと思っていたのか少しざわつく。

 

「試してみる、くらいなら良いんだけど、絶対に実戦で使わない方が良いぞ。それも理由があります。はい、何故でしょう」

 

横島さんの質問に誰も手を上げない。

と思ったら一人上げました。

 

「はい、キミ」

 

「えーと、威力が高すぎて危険、とか?」

 

「なるほど、それも理由の一つに上がるな。特にこれは爆発するから自分が巻き込まれる可能性も高いから。でも違うんだ。こんな技よりよっぽど威力の高い技も沢山あるから、それが使用推奨しない理由ではない。観点は非常に良いんだけどな」

 

さりげないフォローも忘れない。流石横島さん、優しい。

 

「弓さん、キミならわかるんじゃない?」

 

「あら、答えを言っても良いのかしら?」

 

「頼むよ」

 

「そうですわね、私のこれを見れば皆さんも気付くのではないかしら?」

 

弓さんが立ち上がって水晶を身にまとう。

何人かはそれだけで納得したようだ。

 

「凄いね、非常に強力な防御力だ」

 

感心したように言う横島さん。

じっくり弓さんを見ているが、以前のような煩悩全開な視線ではなく純粋に霊視しているみたいだ。

 

「つまりはその逆、ということよ」

 

「その通り、流石だね。他にも既に気付いた人もいるみたいだけど、この技は霊力が少なくても簡単に威力の高い攻撃力、硬い防御力を得られる反面、その分全身の霊力を一箇所に集めて使うから、他の場所に攻撃を受けると何もしていないより大ダメージを負う事になるんだ」

 

なるほど、と全員が納得する。

 

「俺はもうこの戦闘スタイルに慣れたってのと、これでもかなり修行したから霊力の絶対量が昔より持てる様になったから霊的防御を捨てずに使える程度で俺はこの技を使い続けてるけど、それでもオススメできる技ではないのは明白だ。まぁ生き残る手段として知っておくことは悪いことではないけど、コントロールを失敗すると爆発するから、それだけでも危険な技だからね」

 

「それを霊力覚えたての学生が使ってたんですからどれだけ危険なことをしていたのやら」

 

「耳が痛いね」

 

続けて言う弓さんに対して、たはは、と苦笑しながら頭をかく横島さん。

 

「とはいえ、そこまでの硬度と威力を求めないならコレ自体は便利ではある、というか基本だからね、霊力を体のどこかから放出するのはそのまま霊波刀や霊波砲に派生するので練習には良いとは思う。まぁ試すときは霊的コントロールに優れた人を近くにおいてやった方が良い。霊力をつめすぎると危険だからね」

 

 

 

そこから横島さんが色々頑張って考えてきたであろう授業内容が続いた。

本当に真面目な人だと思う。

流れで引き受けたとはいえ、今まで教師なんてやったことないのに、自分なりに絶対この子達の生き残る確率を上げなくちゃ、という想いが伝わってくる。

……変わったと言っても、流石にこの状況だと煩悩が刺激されて大変なんでしょうけど、やっぱりあの事件があったのが一番大きいんでしょうね。

あの事件のあと、暫くはいつも通りの横島さんでしたけど、ある日美神さんに休暇願いを出して妙神山にこもった頃から段々大人になっていったと感じていた。

 

だから、というわけではないですけど、私は横島さんは意外と教師に向いていると思っていますよ。

意外と、というのは失礼かもしれないですけどね。

 

想定より早かったのか、授業終了の合図を聞いて、慌てて話を締めくくる横島さんを見ながら、そんなことを思ってしまうのでした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ちょっと前のお話

今回は、美神令子事務所の面々のちょっと前のお話となります。
ただ、原作より1年後くらいではあるので、独自設定、独自展開になっていることには変わりないです。
それでも宜しい方はお暇つぶしにでもどうぞ。
※前回同様横島がだいぶ強いです。(魔族化とかではありませんが)




今日も今日とて美神除霊事務所は平和であった。

 

「せんせ~、サンポに行くでござるよ~」

 

事務所の中央にあるマホガニーの机に向かい座っている人物に、人狼であるシロがシッポをぱたぱたとさせながら言う。

いつもならその席には事務所の所長である美神令子が座っているのだが、今は違う人物が座っている。

 

「あとでな~」

 

その人物横島忠夫は、目の前の書類を片付けながら適当にシロに返事をする。

その様子を、ソファに座って<世界お揚げ百選>たる雑誌を広げているタマモは呆れた風に、横島にお茶を持ってきたおキヌは苦笑しながら見ていた。

 

「そんな殺生な~、そもそも何をしてるでござるか?」

 

横島の肩を掴んで揺すっていた手を止め、背中越しに書類を見るシロ。

 

「だぁ!ひっつくな暑苦しい!結構前から美神さんの事務作業の手伝い始めたの知ってるだろ、今は依頼者のリストをまとめてんだよ」

 

のしかかってきたシロを振り払いながら説明する横島。

振り払ったのは暑苦しかったからで、決して煩悩が働きそうになりジャスティス(ロリ否定)に危機感を覚えたからではない……ハズだ。

 

「そういえば、横島さん結構前に急に事務作業を教えてくれって美神さんに言ってましたよね?何か理由があるんですか?」

 

「あぁ、それは「ただいま~!」」

 

お茶を机に置きながら尋ねるおキヌに横島が答えようとした瞬間に、ドアが開いて美神が入ってきた。

少し機嫌が良さそうにして大量の荷物を降ろす様子を見ると、厄珍堂が大きな損失を出した事は間違いないだろう。

 

「あ、美神さんおかえりなさい」

 

「ただいま、おキヌちゃん。横島くん、頼んどいた書類は終わった?」

 

「多分これで大丈夫だとは思いますよ」

 

言いながら手元にあった書類をまとめながら立ち上がり、トントンと軽く揃えてから渡す。

それをペラペラとめくりながら眼を通す美神。

タマモは興味がないのか、それとも雑誌に興味津々なのか、雑誌を穴が開くくらいに見つめている。

しばらく、書類を眺めていた美神が一つ溜息をついて書類を机の上に置く。

 

「え、何か駄目でした?」

 

結構自信があったのか美神の溜息を悪評価だと思い、書類に手を伸ばそうとする横島。

 

「い~え、完璧よ」

 

その様子をみて苦笑しながら先程まで横島が座っていた椅子に座る美神。

シロは横島の仕事が終わるまでサンポは諦めたのか、タマモの読んでいる雑誌を横に座って覗き見ようとしている。

 

「え、じゃあ何で……」

 

「不満そうかって?そりゃ不満にもなるわよ。アンタ私が色々教え始めてからたった一年よ?

なのにこんだけ完璧にこなすなんて……。今まで碌にGSの仕事を教えてこなかった私へのあてつけかしら?」

 

冗談めいて少し怒った表情をする美神。

機嫌が良さそうなところを見ると、むしろ成長を喜んでいるところも見受けられる。

正直心中複雑なのだろう。

おキヌもそんな様子を見て苦笑している。

 

「何言ってんすか~、美神さんの教え方が良いに決まってるじゃないですか。

俺なんて高校の成績もひどかったの知ってるくせに……。あ、でももっと手取り足取り腰取り教えてくれれ『キン』スミマセンホントスミマセン」

 

話の途中で美神が取り出した神通棍を見て冷や汗ダラダラで後ずさる横島。

即土下座をするその姿勢は流石だ。その姿を見て美神がもう一つ溜息をつく。

 

「はぁ、でも血筋かもしれないわね。横島君の両親って確か凄い商才もってるでしょ?アンタも基本的に何でも出来るんじゃないの?」

 

「あ、そういえば美神さんがGメンに行ってた時も黒字で凄かったですしね」

 

「たまたまっすよ」

 

美神が横島の両親を思い浮かべて言い、おキヌが一時期美神抜きで事務所を経営していた事を思い出してそれに同意し、横島が笑いながら否定する。

ソファではナインテールが赤メッシュにイラついている。どうやら雑誌を読むのにだいぶ邪魔なようだ。

 

「でも……、この努力を見る限りだと本気みたいね」

 

「まぁ……、そうですね」

 

ポリポリと人差し指で頬を掻く横島。

美神と横島の会話に首をかしげるおキヌ。

ソファの方で赤い炎が見えた気がする。

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ここらで時間的な説明をすると、アシュタロスの核ジャック事件から凡そ1年が経っていた。

横島は何とか留年する事無く高校を卒業し、正式に美神除霊事務所の所員となった。

ここでこれまでと大きく違う事は二点。

一点目は当然給料について。

アルバイトでなくなり、社会人として雇いなおしとなったため、人並みの給料をもらっているのだ。

当然、美神が自分から言い出すなんて事はなく、雇用条件についての決定が横島の母親と美神の母親からの圧力による事なのを横島は知らない。

その場にたまたま居合わせたシロとタマモは、今でもその時の事を思い出すと動物形態になって部屋の片隅で震えてしまう。

とはいえ、元々美神も横島の正当な評価分から実際に渡していた給料との差額をちゃんと管理しており、纏めて渡したところをみると最初からそのつもりで、プライドから渡す機会を作れなかっただけのような気もするが。

 

二点目は、横島が正式にゴーストスイーパーになった事だ。

これも単純な話にはならない。

長い、それは長い横島の説得(お願い)があり、渋々「条件を満たしたら」と美神が条件を出し、その条件がとんでもない内容と量だったのだ。

具体的に言うと、AランクBランクの仕事を一人で除霊数十件(ほぼ全部の除霊で死にかける)、当然皆で除霊の仕事は強制参加(疲れでミスってしばかれる)、

Sランクの仕事を一人で一件(何故か近くに美神の霊力を感じたが)、シロと耐久サンポ42.195キロを三日間(流石のシロも倒れた)、

タマモと大食い対決(お揚げのみ)、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘(かわごろも)、龍の首の珠、燕の子安貝、etc…etc……。

途中から関係ない上に冗談も色々とあったが、なんとかその冗談以外の条件をすべてクリアしてやっともらえた許可だった。

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「何するでござるか!!」

「あんたが邪魔するからでしょうが!」

 

前髪を少し焦がされたシロがタマモに食って掛かる。

二人ともソファに立っていて、タマモはソファに雑誌を置いて反論する。

どう見てもシロが悪いが、だからといって狐火はやりすぎである。

まぁそれだけタマモにとって大事な時間だったのだろう。

 

「こら、喧嘩すんじゃねーよ。せめて外でやれ、外で」

 

仲裁というより、美神の怒りが発動するのを恐れて事前に止めようとする横島。

 

「ちょ!今回のは私は悪くないでしょうが!!」

 

「なんだと、この女狐!先に手を出したのはそっちでござろう!!先生は拙者の味方でござるよね」

 

「俺まで巻き込もうとするな!」

 

そのかいなく、ヒートアップする喧嘩。むしろ横島まで巻き込まれていく。

当然ここまで騒がれて、事務所一沸点が低いあの方が動かないわけがなく。

 

「あぁもう!うっさいわね!!

そんなに元気が有り余ってんなら、二人とも横島に修行でもつけてもらいなさい!!」

 

ピタッと止まる二人。横島はその様子を見てキョトンとし、しばらくして納得したように、苦笑の表情になる。

 

「??……な、なによ?」

 

そんな三人の様子を見て訳がわからず怒りを忘れて言いよどむ美神。

 

「あ……いやぁ……せ、拙者サンポがいいでござる!そうでござる!先生、サンポ連れてってくだされ!!」

 

「ちょ、なんなのよその下手糞過ぎる誤魔化し。私、なんか変な事言った?タマモはともかくシロは横島君の弟子でしょ?」

 

その場を誤魔化そうと横島を引っ張って外に行こうとするシロ。

どことなく、横島に対しても気まずそうだ。

それに対する美神の疑問に対して苦笑の顔をしたまま答える横島。

 

「いやぁ、実はシロに修行つけてあげたのってフェンリルの時だけなんすよ」

 

頭をかきながら言う横島に少し呆れる美神。

おキヌも、横島さんらしいですねと苦笑。

 

「あんたねぇ……師匠名乗ってんならたまには稽古ぐらいつけてやるもんよ」

 

「いや、名乗ってないですし、美神さんにそれは言われたく……ハイナンデモナイデスヨ」

 

自分自身美神にここ最近以外何か教えてもらった覚えのない事を言おうとするが、美神の一睨みで諦める。

 

「まぁ、だったらちょうど良いじゃない。たまには稽古つけてもらいなさいよ」

 

その言葉に反応しないタマモ、むしろ冷めた目で美神を見ている。

そして何処か挙動不審なシロ、先程と同じく二人の様子を見て苦笑の横島。

その様子を見てとうとう椅子から立ち上がり、三人に近づく美神。

 

「もう、何なのよあんたらは!!」

 

「あ、いや……その……拙者は「はっきりしなさい!」はいぃ!!」

 

要領を得ないシロの物言いに苛立つ美神。

そんな中タマモがやれやれといった感じで前にでる。

 

「はっきり言ってやりなさいよ馬鹿犬。何で私達が自分より弱い相手に稽古つけてもらわなきゃなんないのよ。

稽古つけてもらう?私達が稽古つけてあげる。の間違いでしょ?ってね」

 

「「「……!」」」

 

「やっぱなぁ~」

 

途中犬ではないと抗議を入れるが、タマモの言った言葉に言葉をなくすシロ。

おキヌと美神も言葉をなくすがシロとは違う意味である。

何を言っているのかこの子は……?と言う疑問の目でタマモを見る二人。

横島は予想してた答えだったのか妙に納得して笑っている。

 

「い、いや拙者、先生を尊敬しているでござるよ。拙者に霊波刀を教えてくれたのも先生でござるし……」

 

「でも、今は自分の方が強いって思ってるでしょ?馬鹿犬もなんで未だに横島を師匠扱いしてるのか理解に苦しむわ」

 

「せ、先生は……!……拙者の、師匠でござる」

 

二人のやりとりをみて盛大に溜息をつく美神。

 

「つまり、シロも尊敬はしてるけど、なんだかんだ実力に関してはそう思ってるわけね……」

 

「……」

 

沈黙で答えるシロ。

正直美神は呆れていた。こいつらは何だと。超感覚を持ってる犬神達ではないのか。

一緒に仕事をしている時、何処を見ていたのか。

馬鹿をやっているようで、常に誰のフォローも出来る位置にいて、何かあれば自分がその被害を最低限に抑えてダメージを受ける。

実力がないと出来ない事に何故気づかない。

色々問い詰めたくなり、その呆れは段々怒りに変わりつつあった。

 

美神令子はプライドが高い。

非公開ではあるが、横島は1年前にすでに自分と戦い、そして勝っている。

自分まで馬鹿にされているようで面白くない。

彼女自身そう思い込んでいる。

意地っ張りな彼女は自分が怒りを感じている理由がそれだけで無い事に気づかない。

 

おキヌも怒りを感じはしないものの、似たような感情を抱いていた。

彼女達は1年前のあの時以来彼が変わったのを敏感に感じ取っていた。

二人はそれを知らない故に気にした事もなかったのであろう。

おキヌはそう自分を納得させていた。

 

因みに横島自身は下に見られている事も、シロタマがどう思っていようとたいして何も感じていなかった。

彼にとっては二人は仲間であり、守るべき存在、彼が気にするのはただその一点だった。

 

「……予定変更よ。おキヌちゃん、今日の依頼断りの電話入れといて」

 

「はい」

 

パタパタと電話の方へ行くおキヌ。

美神はキョトンとしている三人に向かって高らかに言い放った。

 

「あんた達は横島君と手合わせよ。稽古じゃなくてコテンパンにしてもらいなさい」

 

「「「!!」」」

 

そうなると驚くのは横島、シロ、タマモの三人だ。

 

シロは流石にコテンパンとは聞き逃せないとばかりに目を鋭くさせ、タマモに至っては何を馬鹿な事をという表情。

横島は逆に慌てていた。

 

「ちょ、美神さん何を考え「やるのよ、横島君」……!」

 

抗議しようとしたが、怒るでもなく、脅すでもない、美神の真剣な物言いに何も言えなくなる横島。

 

「アンタ後から来た後輩二人に馬鹿にされてんのよ?ここらで実力の違いを見せ付けてあげなさい。

……それにね、事はプライドの問題だけじゃないの、私達はチームで仕事してんのよ?互いの実力もわかってないんじゃ連携なんてとれないわ」

 

前半はシロタマの二人を挑発するように、後半は横島にしか聞こえないように言う。

 

「でも俺は……!!……俺はそれでも守ります」

 

「……」

 

横島も美神にしか聞こえないように言う。

その真剣な眼に驚きつつも少し呆れたように耳元で囁く美神。

 

「……アンタらしくないわね。それにアンタ、独立はどうすんの?」

 

「っ!」

 

はっ、と何かに気づいた様子から苦虫を噛み潰した様な表情になる横島。

 

「そろそろあの子達にも成長してほしいんだけど?ウチの事務所の為にもあの子達を守るためにも」

 

「……わかりました」

 

シロタマは美神と横島がこそこそ話しているのを面白くなさそうにみていたが、おキヌが帰ってくる足音に気づく。

 

「美神さん、依頼のキャンセル終わりました。後、小竜姫さんに今日伺っても良いか聞いたらOKもらえました」

 

「あら、そんな事までありがとね、おキヌちゃん。ほら、アンタ等も聞いたでしょ?出かけるわよ。準備しなさい」

 

おキヌは何も言われてないが、恐らくこうなると思っていたのか、妙神山の修行場を使用していいかの許可を取っていた。

シロもタマモも渋々ではあるが、あそこまで言われたらやはり納得できないのか出かける準備を始める。

その様子を見て、自分の右手に視線を落とし、見つめる横島。

何かを決意したようにその右手をギュッと握る。

 

「……」

 

その様子を横目で見る美神だった。

 

 

 

 

 

 

 

何時間もかけて山を登り、たどり着いた5人の目の前には大きな門構えに鬼の顔が二つへばり付いている光景があった。

 

「よぅ鬼門、また来たぞ。開けてくれ」

 

「おぉ横島、おぬし等か。待っておったぞ、話は聞いておる故入るが良「ヨコシマ~!!」ブゥ!!」

 

久しぶりの来訪者に小竜姫から話を聞いていた鬼門達は快く横島達を迎え入れようとするが、

いきなり門が内側から力技で開かれ、そこから黄色い物体が飛び出して、横島に体当たりをかます。

鬼門達は開かれる勢いのまま壁に激突して気絶しているようだ。

 

慣れた様子で高速タックルをしっかり受け止める横島。

そんな横島の受け止めた先には小学生にしか見えないような少女が嬉しそうに横島に抱きついていた。

その様子は仲の良い兄妹にしか見えず非常に微笑ましい。

 

「よっ、パピリオ。いい加減そのタックル出迎えやめろよ。いつか死んじまう」

 

言葉とは裏腹に笑顔で少女に話しかける横島。

 

「な~にいってるでちゅか。ここ一ヶ月パピリオが突っ込んでも微動だにしなくなってまちゅよ!ヨコシマもやるようになりましたね」

 

「慣れだよ慣れ。頼むから他の人にやるなよ?」

 

「ヨコシマ以外にはやらないでちゅ!!」

 

「正しいが納得いかん!!お前は何か俺に恨みでもあんのか!!」

 

「ないでちゅ!ほら、文句言ってないでさっさと行くでちゅ!」

 

「言い切るな!!納得いかーん!!」

 

じゃれ合いながら門を潜る二人。

そんな微笑ましい風景を見て和んでるおキヌ。

誰?といった表情のタマモ。

そこは自分の立ち位置だと、パピリオを睨むシロ。

そんな三人とは違い、美神は驚愕の目で二人を見ていた。

 

パピリオは魔族であり、その力も霊圧も半端ではない。

そんな彼女が、手加減しているとはいえみぞおち付近に突進してきたらどうなるか。考えるのも恐ろしい。

 

実際横島もだいぶ前に自分と来た時は突進を受け、彼方へ飛んでいき気絶していた。

元々体力が尋常でない横島でもそれだったのが、今は微動だにしない?慣れでそんな事にはならないだろう。

ただの筋力でそんなことは人間には不可能、ということは力を上手く流している?だとしたらどんな繊細なコントロールを行っているのだ、あの一瞬で。

恐らく横島はここに何回も来て修行をしている。しかも私達には内緒でだ。

そんな事を思った美神は非常に面白くなさそうに妙神山の門を潜った。

 

結論から言うと美神の予想は当たっていた。

彼はたまに、パピリオに会いに行くと言う名目で(実際それもあるが)妙神山に修行に来ていたのだ。

美神の言うだいぶ前とは凡そ1年前、それ以外ではそれぞれ別々に来るか、たまたまパピリオが居ない時に来るかのどちらかだったので、美神がこの光景を見るのは久しぶりだったのだ。

ちなみに、たまたまパピリオが居なかった時に事務所全員で来た事があるので、シロもタマモも妙神山と小竜姫の事は知っている。

 

 

「のぅ、右の。ワシ等扱い酷くないかのぅ」

「言うな左の。何処でもワシ等の扱いはこんなもんじゃ」

「「はぁ~……」」

 

 

歩きながらパピリオと横島の会話は続く。

因みにパピリオは横島に肩車をしてもらっているので、頭の上だ。

 

「そういえば小竜姫様はどうしたんだ?」

 

「神界にいってまちゅ、何だか呼び出しを受けたみたいでちゅよ」

 

「保護観察中のお前置いて?大丈夫なのか?」

 

「今は猿のおじいちゃんもいまちゅから」

 

「そういやここにはゲーム猿も居たんだったな。くっそぉ~、小竜姫様にとびかかる予定が……!!」

 

「なんつぅ予定立ててるでちゅか。パピにとびかかりまちゅか?」

 

「俺に犯罪者になれと?」

 

「何を今更……ルシオラちゃんの年齢忘れたでちゅか?

あ、その小竜姫から伝言でちゅ『急に呼び出しを受けまして、留守にして申し訳ありません。お話は伺いました。いつもの修行場を使用して構いませんので』でちゅ」

 

「ほい、了解~。相変わらず律儀な人やな~」

 

「胸が終わってる人は真面目にならざるをえないんでちゅ」

 

「……それ絶対本人の前で言うなよ?」

 

先頭を歩くパピリオと横島。

話している内容がわからずおキヌに視線をうつすシロとタマモ。

 

「ねぇおキヌちゃん、ゲーム猿って誰の事?」

 

「それより、あいつは何者でござるか!拙者の先生にじゃれ付きおって!それに魔族の匂いがするでござるよ!」

 

それに苦笑しながら答えるおキヌ。

 

「彼女はね、訳あって妙神山に預けられてる魔族のパピリオちゃんって言ってね、凄く良い子だから二人とも仲良くしてね。

後、ゲーム猿って呼ばれてた方は、……孫悟空って言ったらわかるかしら?」

 

「え”?!」

 

「なんと?!」

 

歩きながらあごに指を当てて考えた後、おキヌの口から出てきた名前に二人は驚いているようだ。

当然である、誰もが知っている様なビッグネームがこんな身近で聞けるとは誰も思うまい。

 

「ね、ねぇ……それってまさか本物の孫悟空じゃないわよね?西遊記の」

 

「あら、そーよ。言ってなかった?二人が来た時は会わなかったんだっけ?」

 

オドオドと言葉を選んで質問するタマモにあっさり答える美神。

二人ともあごが外れんばかりに驚いている。

 

「でも、横島君が言った通り、ゲームばっかやってるただの猿よ」

 

大した事ないわよと、目の前でひらひらと手を振りながら言う美神。

そんな行動を取りながらも、小竜姫からの伝言で、先程の自分の推測が間違ってない事を確信する。

 

-----------

これはひょっとすると……想像以上に差をつけられたかしら?

-----------

 

そんな、美神にしては珍しく、横島を認める様な、自分のプライドを無視する様な事を考えていると、後ろから声をかけられた。

 

「ゲーム猿で悪かったのぅ」

 

サー、と美神の顔から血の気がひく。

ゆっくりと後ろを振り向くと、中国でよく見る道着を着てメガネをかけた猿が、笑顔のままキセルを加えて美神を見ていた。

 

「どうした?ただのゲーム猿に何の遠慮をしとる?」

 

「や、や~ね、冗談に決まってるじゃない!老師もご冗談が通じないんですから!ホ、ホホホホホ」

 

不思議そうにする老師に苦しい言い訳をする美神。

やがて、老師がニヤリと笑ってキセルを手に取り、一息煙を吐く。

 

「まぁいいじゃろ、それよりそっちの二人は初めてじゃな。

犬神が二人とは……相変わらず御主の事務所は非常識じゃの」

 

「あ、アンタが斉天大聖……」

 

「た、タマモ!し、失礼でござろう!!武神である老師に向かってそのような口を……」

 

ガチガチに緊張している二人、それでも老師にアンタと言えるタマモは流石である。

 

「ほぅ、そっちの嬢ちゃんはもしや、白面金毛九尾の狐か?懐かしいのぅ妲己、いや玉藻前だったかの」

 

「へぇ……、私あんたに会った事あるんだ。でも、今の私は転生してタマモを名乗ってるの、記憶は戻ってないわ」

 

言われて驚きはするものの、冷静に返すタマモ。

シロは、タマモと老師が転生前とは言え、顔見知りと聞いて、目を見開き、驚愕している。

 

「それは難儀じゃったの、……とりあえず小僧の後を追わんと見失うぞ」

 

遠い目をして、もう一度キセルを銜えた老師の言葉にハッとする四人。

遠くでパピリオを肩車したままドンドン進む横島を見て、慌てて追いかける。

 

「人界……いや三界唯一の文殊使いに、世界最高のGS、世界最高のネクロマンサーに、フェンリル関連の人狼、おまけに白面金毛九尾の狐か……、相変わらずとんでもない連中じゃ」

 

追いついた四人が横島にからむ姿を楽しそうに見ながら呟く老師だった。

 

 

 

所変わって

 

 

 

「あ~、んっとなぁ~、ホントは俺が自分に自信が持てるまで、お前らに教えれる事なんてなかったつもりなんだけど、相手の潜在能力探らずに見た目で油断したり、俺の勝手なエゴで怪我されたり危険な目にあわれるの嫌だからさ、……今回はマジでいかせてもらうぞ」

 

朗らかな笑顔から(ヘラヘラとも言う)目を細めて真剣な顔になる横島。

 

「あんの馬鹿!シリアスな横島はGSとして価値が無いって言ったでしょうが!!」

 

目を吊り上げ、横島に文句を言おうと身を乗り出す美神。

それに待ったをかけたのは隣にいるパピリオだった。

 

「何を言ってるでちゅか?あいつはもうすでに煩悩なしで霊力を操れるようになってまちゅよ。まぁ煩悩あった方がブースト入るのはかわりまちぇんが。……やれやれ、あんたも犬とキツネの事言えまちぇんね」

 

「は?」

 

呆れた様に溜息をつくパピリオ。片目を瞑ってやれやれと両手をあげてあげている。ちなみに、ここに来た経緯は説明済である。

続けて言葉を紡ぐパピリオ。

 

「よく見てるでちゅ。あんたが教えなかった基礎を教わって、それからも力を求めたヨコシマの力を」

 

眼を細めて横島達を見るパピリオ、美神とおキヌもそれにつられて彼らを見る。

 

 

「とりあえず二回戦うから。あ、二対一な」

 

「嘗められたものね」

 

当然のように二対一を提案した横島に対して憤りを隠そうともしないタマモ。

シロはまだ躊躇いがあるのか、無反応。

 

「まず一回目だが、卑怯な敵を想定してくれ。ま、ホントは自分でその辺りも警戒して欲しいんだが、今回はサービスだわ」

 

「もう稽古つけてるつもり?いいからかかってきなさいよ」

 

狐火を出して戦闘体勢をとっているタマモ。

シロも腹をくくったのか霊波刀を出して構える。

 

「これから俺は敵だからな、本気でやれよ。殺される可能性も考えて本気で来い」

 

「言われなくて、も!」

 

狐火を横島に放つタマモ。

閉鎖空間に巨大な火柱があがる。

火柱のある場所は言わずもがな先程まで横島が立っていた場所である。

 

「はい、おしまい!ヨコシマの癖に調子乗るからよ」

 

「せ、せんせ~!!」

 

その光景をみて、やりすぎたかと思いつつも横島なら大丈夫だろうと、勝ち誇っているタマモ。

シロは涙を流しながら火柱に向かって叫んでいる。こちらも少し余裕があるところを見ると本気で命の心配はしていないようだ。

 

「シロ、俺は敵だって」

 

「「!!」」

 

突然シロの後ろで発せられた声に、ばっと振り向こうとする二人。

 

「はいストップ!」

 

いつの間にかシロの後ろに立つ横島の言葉につい反応して止まるシロ。

タマモはすでに横島とシロの方を向いている。

そして――

 

「はっはっはっは!!これが見えるかタマモ!下手な抵抗は止して降参するんだな!!」

 

彼の手から伸びる栄光の手はシロの首元に添えられていた。

その様子はまさに人質をとる犯人そのものだった。

 

「「だあぁぁ」」

 

ついこけそうになる二人。遠くで美神もこけている。

おキヌとパピリオは苦笑いだ。

 

「アンタ何考えてんのよ!!」

 

「せ、せんせぇ~、いくらなんでもこれはあんまりでござるぅ~」

 

タマモとシロの抗議が入るが横島も耳を貸さない。

 

「なぁに言ってんだ、最初に卑怯な敵つっただろ。油断してるお前らが悪い。で?どうすんだ、本物の敵で卑怯な魔族がこんなことをしてきたらどうする?タマモ」

 

正論である。

にしても先程までの雰囲気が台無しである。

 

「くっ……、狐火じゃシロまで巻き込んじゃう」

 

「味方のピンチだし、降参するか?」

 

「するわけ……ないでしょ!!」

 

また真剣な顔になる横島に少し気圧されつつも、挑発に飛び出すタマモ。と同時に横島の不意をつこうと振り向くシロ。

 

「馬鹿野郎……!!」

 

「「え?」」

 

タマモの足が止まる。

二人が横島の真剣な呟きに疑問を抱く前に、タマモの視界にはシロの背中から光り輝くものが飛び出しているのが見えた。

 

「か……かはっ……」

 

シロの口から赤い液体が落ちる。

まさか本当に刺すとは微塵とも思っていなかったのだろう、タマモの顔は蒼白だ。

 

「あ……あんた……なにを、何、してんのよ!!!!」

 

顔色が白から赤へと変化する。

怒りと勢いに任せて、横島へと突っ込む。

それを見て顔色も変えずにシロの腹部から栄光の手を抜いて、タマモへとシロを突き飛ばす。

 

「!!」

 

急ブレーキでシロを受け止めようとするタマモ。

 

「はい、終わり」

 

真後ろでする横島の声に背筋が冷える。疾い。

気づくとタマモは背中に横島が乗った状態でうつ伏せに横たわっていた。

横島の手には『重』の文殊が握られている。

 

「一回目はとりあえず終わりな」

 

淡々とタマモの背に座って言う横島。

その様子に憤るタマモ。

 

「アンタ!!自分が何やったかわかってんの?!」

 

「何がだ?」

 

呆ける横島。

その様子にぶちぎれるタマモ。

涙を浮かべて足掻くがどうにもならない。

その様子に苦笑して、先程まで自分とシロが居た方面を指指す横島。

横島を睨んでいたタマモは自然と指の先に視線をやる。

 

――と、そこには先程横島に人質に取られた時と変わらぬ姿で、呆然と立ち尽くすシロがいた。

当然腹部に穴も開いてない。

ぽかーんとシロを見た後、自分が受け止めようとしていたシロを見る。

横たわった血だらけのシロが霞んで行く。そこに残ったのは『幻』と書かれた文殊だった。

 

「――アンタ」

 

「俺がお前ら傷つけるわけ無いだろ」

 

笑いながら『重』の文殊を消す横島。

その瞬間に横島を弾き飛ばして跳ね起きるタマモ。向かう先は当然――。

 

「どわあぁぁ!!待てタマモ!もう一回目は終わりだって!!ちょ!当たる!!

やめて!その!どわぁ!狐火!!」

 

先程と違う意味も含んで顔を真っ赤にしたタマモが横島を追う。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

「そ、その辺にするでござるよ、タマモ」

 

仁王立ちして肩で息をするタマモを、珍しく宥めるシロ。

タマモの目の前には、ぷすぷすと煙を上げる真っ黒の物体Yがあった。

 

「シロ……、止めんの遅い……」

 

物体Y改め横島の涙ながらの台詞もスルーされる。止める遅さも考えると、シロも結構怒っていたのだろう。

 

「あのなぁ、怒るのは勝手だけど、俺は最初に『卑怯な敵を想定してくれ』とも『これから俺は敵だからな』とも言っただろ」

 

やれやれ、と立ち上がる横島。すでに怪我はない。

う、と詰まる二人。

 

「まぁ、知ってる人物である俺が相手だから今回は仕方ないとしても、さっきのタマモの行動は最悪だろ。

仲間が人質にとられてんのに後先考えずに突っ込む馬鹿がいるか。

お前なら幻術なり少し隙を作るなり出来るだろ。隙さえ作っちまえばシロが何とかするかもしれないしな。

場合にもよるけど、最悪降参しちまえよ!そこから隙をついて反撃できるかもしれないし。もしかしたら二人とも命だけは助けてもらえるかもしれないだろ。

あとシロも、敵が人質とって調子乗ってる時に一切お前の方見てないし油断してんだから隙をつけただろ。相手のペースに乗せられてどうする。

隙をつくタイミングも最悪だ。タマモが無謀な特攻して、敵が人質にしか頼れない時、お前まで動いたら殺される可能性が一番高いだろ。

あぁなっちまったら、もうとにかく霊的防御に徹しろ。

それ以前に二人とも一撃目で油断しすぎ。ただでさえ火柱で敵が見えないんだから油断すんな。シロなんかは気ぃつけてりゃ、匂いで俺が後ろに居るの察知出来るだろ。

――とまぁ、ほとんど小竜姫様の受け売りで、俺なりにアレンジ(卑怯とかな)しただけどな。

とりあえず、一回目の戦いで俺が伝えたかったのは、油断すんなってのと、いつでも最悪を想定して戦えってところかな。

――仲間は失いたくないだろ?」

 

最後に二人の頭に手を置く。

横島の言う事に何も言えない二人、突っ込みどころも多少あるが、言っている事に間違いはないのだ。

油断が仲間や自分の死に繋がる事は、幻とは言え今体験したところだ。

最後の言葉の時、悲しみと優しさが混じった顔をした事が少し気になりながらも二人が口を開く。

その意味を知っている三人は複雑そうな表情だ。

 

「拙者、勉強になったでござる。これからも自分の力に過信せず精進するでござる」

 

「まぁ、今回の負けは認めるわよ。教わる事もいっぱいあったし、アンタの特殊な強さもわかったわ。

でもシロの剣術だったり身体能力的な話はやっぱり稽古なんてつけられないでしょ?まだアンタのちゃんとした力は見れてないわ」

 

「言うと思ったよ。次はそれも含んで見せるよ」

 

苦笑しながら、もう一度タマモとシロから距離をとる横島。

 

 

 

 

「あの二人にはいい勉強になったでしょうね。私や横島君の横で仕事してんのに、トリッキーな戦いに慣れてないんだから。

実戦経験もつくし、今回の思いつきは意外と収穫かもしれないわね。

ただ、私が言った思い知らせてあげなさいってのは、こういう意味じゃないんだけどね~」

 

戦いの様子を見ていた美神がぼやく。

正直あの二人に見て欲しかったのは、自分とタメはれる程の横島の実力だったのだ。

 

「それは、ヨコシマも理解しているみたいでちゅよ。ホントは戦いたくないんでちゅよアイツは。一瞬美神を見て苦笑いしてたでちゅからね。

これからでちゅよ、ヨコシマの実力は」

 

 

 

 

二人から十分距離をとって、自然体で居る横島。

 

「さっきのは卑怯な敵を想定した戦いだったけど、二回目は――自分より強い相手との戦いを想定しろ」

 

「「!!」」

 

二人に対して霊力を乗せた睨みをきかせる横島。

美神の威圧感に似た横島のそれに圧倒される二人。

 

「あ、あいつってこんな霊力あったの?美神くらいはあるじゃないの」

 

「せ、拙者は知らないでござる」

 

「アンタの師匠でしょうが!」

 

「そんな事言ったって知らんものは知らんでござる!!」

 

冷や汗を流しながら、顔を向けずに罵り合う二人。

 

「協力しなくてええんか?お前ら霊力も力も人間より高いんだから。意外で固まるのはわからんでもないが、それじゃ勝てるモンも勝てんぞ」

 

少しプライドが傷つけられたのか、シロの眼が真剣なそれに変わる。先程の戦いにも思うところがあったのだろう。

 

「犬塚シロ、参る!!」

 

「あ、バカ!!」

 

タマモの制止も聞かずに霊波刀で横島に斬りかかるシロ。

それをいつの間にか出現させていた霊波刀で受ける横島。

止められた事に驚き、一瞬反応が遅れるもすぐ次の斬撃をうちこむ。

それも何処に来るかがわかっているかの様に横島に止められる。

 

「ならば!」

 

斬撃による乱舞。受け止められる度に違う角度から斬りかかる。

それをすべて逆の角度から打ち払う横島。

シロが上段から攻めると横島が下段から迎え撃ち、下段から打ち上げると同じ速度で上段から打ち払われる。

上下左右何処から攻めても斬撃は横島に届かなかった。

 

「人狼のスピードについていってる……」

 

その様子を呆然と見ていたタマモが呟く。

それに返事をするかのように横島が口を開く。

 

「いや、スピードについていってるわけじゃないぞ。

これはシロの癖とか、視線。後は俺が偶に斬りかかるフェイントを入れてシロの斬って来るコースを誘導してるだけだ」

 

「!余所見を、しないで戴きたいでござる!!」

 

打ち合いの最中にタマモの相手をされた事を馬鹿にされたと思い、一度下がって突きを横島に繰り出すシロ。

 

「おぉ、悪い。そんなつもりは無かったんだ。

……よしシロ、初めて師匠らしい事をしてやろう」

 

その突きを軽々と弾く。それから2、3歩下がる横島。

その横島の言葉に歓喜を表したいも今は戦闘中、すぐに振りかけた尻尾を抑えて構えなおすシロ。

 

「霊波刀はな、密度を上げるとこれくらいは出来るんだ」

 

横島が霊力のコントロールを研ぎ澄ますと、手にした霊波刀が手元から物質化していく。

シロもタマモも美神でさえも驚いて眼が離せない。おキヌはぽかーんとしている。パピリオのみがニヤリと笑っている。

数秒で、横島が手にしていた霊波刀の見た目は完全に刀になっていた。

 

「避けろよ?」

 

言ってシロに向かう。

そのスピードは相当速いもので、シロは咄嗟に自分の霊波刀で受けてしまう。

 

「わ!馬鹿!!」

 

横島の霊波刀を受け止めたと思った瞬間、止めたところからまるで豆腐でも切るかのように真っ二つに切れるシロの霊波刀。

そのまま霧散してしまう。

目を見開くシロ、しかしそれどころではない。

 

「なっ!!」

「どっせい!!って、のわぁ!!」

 

目の前で自分の霊波刀が消えてしまい、迫る横島の霊波刀に眼を瞑るシロ。

遠くでパピリオと美神が身構える姿があるが間に合うタイミングではない。

横島の言う事を守らなかった事に後悔しつつ衝撃を待つシロ。

最後に横島の声が聞こえた気がしたが、すぐにシロの身体を衝撃が襲った。

 

――ドカ――

 

しかしその衝撃はシロの想像していたものではなかった。

咄嗟の常識はずれの反応で、霊波刀を消し去っていた横島。

ただし、勢い付いた身体はシロと衝突していた。

結果――

 

「せ、せんせぃ。拙者、まだ心の準備が……」

 

シロを押し倒す形になっていた。

 

――ビキッ――

 

4箇所から何かが凍る様な音が鳴る。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!不可抗力や~!!シロも余計な事言うな~!!師匠を殺す気かぁ!!

――つぅか、大丈夫か?シロ」

 

跳ね起きて、純粋にシロの心配をする横島を見て4つの氷点下が収まる。

一つだけものごっつ黒かったのは気のせいだろう。それがパピリオと美神の隣から発生していたとしても、気のせいだったら気のせいだ。

 

「だ、大丈夫でござる。それにしても凄いでござるな、拙者の霊波刀を斬ってしまわれるとは……」

 

差し出された手に掴まって起きながら感心するシロ。

 

「単純に出力が違うからな、というか集束度が違うんだよ」

 

「しゅうそくど、でござるか」

 

「まぁ、簡単に言えばどんだけこの形に霊力を集めたかだな。俺、元々霊力のコントロールは得意でさ。それはそうと、シロはさっきので終わりな」

 

「クーン……」

 

事実横島が必死で攻撃をやめてなければ自分は少なくとも重傷を負っていたであろう事に、

うな垂れながらも負けを認めざるを得ないシロ。

最後に頭をポンと軽く叩いて振り返る横島。

 

「で、タマモはどうす」

 

「たぁ!」

 

「っと!」

 

振り返った瞬間にタマモの爪が眼前に迫っていた。

不意打ちに関心しつつも避ける。

めげずに連続で爪での攻撃を繰り出してくる。

シロと違い、フェイント等を織り交ぜている。シロには悪いがコイツの攻撃の方が避けにくい。

――でも比べちゃ悪いけど、まだ小竜姫様と比べると甘いな。

 

「ほ、ほ、ほ。流石に疾いし、上手いな」

 

少し頬を緩めて言う。

 

「油断!」

 

「!」

 

一瞬で狐火を横島に複数投げるタマモ、しかし横島はそれをサイキックソーサで全て相殺してしまう。

 

「油断はお前だったな」

 

言われてタマモが手元を見ると、自分の腹にいつのまにか霊波刀が伸びて刺さる寸前で止められている状態だった。

 

「……まいった」

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------

 

「ま、煩悩があると更に霊力が上がるのは今でも彼らしいですけどね」

 

「小竜姫、いつのまに戻ってたでちゅか」

 

美神達が声に振り替えると小竜姫が立っていた。

しょうがない人です、とぼやく小竜姫に対して、驚きを隠せない美神。

 

正直横島の実力がここまでとは思っていなかったのだ。

実力があるのは知っていた。シロタマが軽く見過ぎているから揉んでやれ程度の気持ちだった。

しかし、これでは自分も彼の力を軽く見ていた事になる。

意地っ張りな美神だったが、横島の実力はある程度認めていた。

しかしそれでも自分と同等か、少し自分より上くらいなものだと思っていたのだ。

これでも相当凄い。(実力という意味でも、美神が認めるという意味でも)

 

それがどういう事だろう、いつの間にこんなに差をつけられたのだろうか。

そう思い至って――背中を冷たいものが流れる美神。

もう若い世代の時代か……、自分がいつまでもトップで居られるわけがないか。

開いた口が塞がる。

 

――そして獰猛な笑みに変わる。

 

私は美神令子だ!そんなに大人しく引き下がる性格はしてるわけが無いだろう。

上等だ、前にも言ったが後輩に出し抜かれて黙ってるわけにいかないのだ。

 

その様子を横目で見て、苦笑しながら小竜姫は続ける。

 

「あなたがちゃんと基礎から教えていたらもっと早く成長してたかもしれないんですよ?

本当に驚きました。初めて彼がここで修行をしたいと言った時、最難関の修行コースが終わっているので普通の修行しか出来ないと言うと、それでも良いと言うので始めてみたら何も基礎を知らないのですから。あなたは今まで師匠として何を教えていたのですか」

 

「ア、アハハ~……」

 

頭を掻きながら、裏返った声で気まずそうに笑う美神。

 

「ハア……、気の練り方の基礎すら知らない者が、妙神山の最難関コースをクリアしたなど初めてのことで、老師なんて色んな意味でショックを受けたらしくしばらく引き篭もってしまいましたからね」

 

「老師はいつも引き篭もってんじゃないの」

 

それを言われると反論が出来ないのか、苦笑いの小竜姫だった。

 




教師になる前の模擬戦と同じような流れですね。
そして文字数多くなってしまった。。短編とはいったい。。。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。