お隣さんちのジャンヌ三姉妹 (Eクラス)
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おはよう、オルタ

暖かい目でよろしくお願いします


 オレは藤丸立香(ふじまるりつか)

 

 女っぽい名前がコンプレックスなだけの、それ以外はどこにでもいる普通の高校二年生。そして、「普通でつまらない」と言われた悲しきエピソードを持つぐだ男です。はい。

 

 しかし、オレは声にして言いたいことがある。

 

 普通の何が悪い。

 

 普通のどこがいけない。

 

 というより、悪目立ちするより普通でいたいだけなのだ。普通過ぎてつまらなくて彼女ができないのだとしたら、そんな幻想はぶち壊して、しかし、不良に目をつけられない程度に普通でいたいと思う。

 

 そもそも、オレが普通でなかったら世界の理は歪んで、焼却された未来を取り戻すためにタイムスリップとかして過去を旅していたんじゃないだろうか……そんな気がする。

 

 しかし、そんな大事件が起こるはずもなく、奇跡の1つも起こることもなく、いつものように安心して普通の朝を迎えた。

 

「朝よ、ぐだ男。早く起きなさいっ」

 

 

 

 

 

 いつも通り幼馴染に顔面を踏まれる朝を迎えた。

 

 

 

 

 

「ジャンヌ~、昨日の件だけどぉ……むにゃむにゃ……オルタには内緒だぞー……むにゃむにゃ…………ふごっ!?」

 

 なんて、寝ぼけてみたら、さらに足の裏で顔面踏まれた。ふみふみ……と、きた。

 

 普通さ、人が寝てるベッドに勝手に上がって、人を跨いで足蹴にする奴はいないぜ。

 

「おい、貴様。その薄汚い足をどけろー……むにゃむにゃ」

 

「朝っぱらからアタシを煽るようなことをしたアンタが悪いんじゃなくて?」

 

「ご、ごめんよー……むにゃむにゃ」

 

 確かに、沸点の低いこいつを煽ったのはオレの失策だった。ここは寝ぼけながら謝るのがベスト。して、顔面ふみふみはご褒美ではないので、こいつの足を手で払いのけて寝返りをうって、仰向けからうつ伏せの態勢に入り、一種の抵抗を試みた。

 

 じゃあ、次は後頭部をふみふみされた。

 

「なんでもいいから早く起きなさいっての。また学校遅刻するわよ」

 

「ぐっ……あと5分」

 

「あっそ。じゃあ、5分の間ずっと踏んづけるけど、いいのよね?」

 

「じゃあ、後頭部じゃなく、背中とか腰とかを優しくお願いします」

 

「アタシはマッサージ師じゃないっての」

 

「でも、お前にはその才能が備わっているんだぜ?毎日されているオレが言うんだ、間違いない。オルタ、これからも毎日よろしくなっ」

 

「アンタ・・・・・・それって、まさかプロポーズとかじゃないでしょうね!?キモっ」

 

「なんでやねん!?」

 

 嫌味のつもりで言ったんだが!?どんな解釈したらそうなる。そもそもオレ達はただの幼馴染みだし。

 

「な、なんでもいいわよそんなこと!それより、早く起きなさい!」

 

「うげっ・・・・・・」

 

 こいつ、何かを誤魔化そうと後頭部を踏むのを止めて、布団をひっぺ返し、うつ伏せのオレを足蹴にベッドから落としに掛かった。

 

 オレはベッドのシーツにしがみつき抵抗してみせた。落ちたくない。落とされてたまるものか・・・・・・せめて、あと5分。

 

「というか、アンタいつになったら1人で起きれるようになるっていうのよ。いつまでもガキンチョで恥ずかしくないのかしら?」

 

「あ、じゃあもう起こしにこなくていいです。特にお願いした覚えもないんだがな!」

 

「い、言ったわね!言ってはいけないことをついに言ってしまったわね!毎日甲斐甲斐しく朝起こしに来る幼馴染みに向かって言う台詞とは到底思えない事を言いやがったわね!?」

 

「ふっ、ついに言ってやったぜ・・・・・・ふごっ!?」

 

 また、後頭部を踏み付けられた。この隙を見逃すほど奴は甘くなかった。オレの抵抗も虚しくベッドから落とされてしまった。

 

 ふっ、完敗だ。今日もオレの負けだ、セニョール。

 

 しかし、奴の怒りは収まらなかったらしく追撃がオレの顔面をまだ襲う。勿論、オレは奴の振り下ろした足を両手でガードしてみせるのだがな。

 

「そもそも、別に起こしてくれなくても1人で起きれるしな」

 

「嘘おっしゃい。もう7時半回ってるんですけど?アタシがここで起こしてやってギリギリなのよ?」

 

「でも朝ごはん抜きにしたり、うん子するの諦めたりしたら間に合うだろ?」

 

「女子の目の前でウンコとか言うんじゃないわよ!」

 

「まぁ、なんでもいいから落ち着けって。カリカリしなさんな」

 

「カリカリさせたのはアンタよね?」

 

「カリカリしたくなければ、朝起こしに来るのをやめればいいだけの話さ」

 

「アンタ、本気でそれ言ってんの?」

 

「ジャンヌかリリィに頼むから大丈夫だ」

 

「あの2人はダメって前にも言ったでしょうが!特にあの女は駄目なの!」

 

「はいはい、わかったからそろそろ足に力を入れるのやめてくんない?」

 

「アンタが起きるまでやめないわよ」

 

「もう起きてるんですが!?」

 

 顔面を踏みつけようとしている幼馴染みの足を受け止めるだけで精一杯。ここから、立ち上がれってか・・・・・・こいつ、まさか冷酷な魔女か何かか!?

 

「あと、あのチビも駄目よ」

 

「リリィは別にいいだろー」

 

「アンタ、それで何回も寝坊したじゃない」

 

「でしたねー」

 

 三姉妹の末っ子も何回か起こしに来てくれたこともあるんだけど、オレが中々起きなくて根負けして、そのまま一緒に寝てしまっちゃうパターンなワケよ。

 

 それは長女も然りなんだけどな。

 

「そもそもの話なんだけど・・・・・・」

 

「何よ?」

 

 オレがこいつに朝起こしに来るのを遠慮してもらいたい理由。

 

「そもそも、お前、今日もパンツ見えてるぜ?」

 

デュヘインするわよっ!?

 

 毎日オレを起こしに来る幼馴染みのジャンヌ・ダルク・オルタ。家が隣で、ちょっと風変わりな名前で、そこそこ美人で、外国人で、ドSで、ツンデレ要素も含んでて、ラブコメよろしく王道の展開かと思いきや、普通を望むオレにはちとハードルが高いんだよな、これが。

 

 否が応でも仰向け状態なんだから、ヒトを跨いで顔面をフミフミしようとしたら、そりゃ毎日スカートの中見えるでしょJK。

 

 いや、でも、今日の今日まで黙っていたのは、普通の健全な男子だから是非も無いよな。




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こんにちは、ジャンヌ

 次女オルタに忠告されたことがある。

 

「あの女はどこか頭のネジがぶっ飛んでいるあざとい聖女様だから普通に気を付けなさい」

 

 確かにそうなのかもしれない。

 

 ジャンヌ家の長女ジャンヌ・ダルクはあざと可愛い。

 

「うふふ、だーれだ?」

 

 休憩時間、校内を1人ぶらついていたら後ろから手で目隠しされた。

 

 誰って・・・・・・声からして、次女オルタと似ていて、しかし、あいつがこんな小っ恥ずかしいこと、死んでも学校でしない。

 

 だから、答えは1つしかなかった。

 

「そう。君のお姉ちゃんですよ♪」

 

 お姉ちゃんぇ・・・・・・振り返るとあざとい聖女様が嬉しそうにニコニコしてらっしゃった。

 

「何かいいことでもあった?」

 

「君に会えました

 

「お、おう……」

 

 学校は同じ、クラスは違えど学年は同じなんだから遭遇する確率も高いだろうに。あぁ、意図せず会うから嬉しいんだろうか。

 

 学校では一緒にいないからこそ、次女と比べて絡みが少ないからこそ、こういった瞬間が嬉しいのだろうか。だが、流石に学校では自重されたし。

 

 少しモジモジしては手を後ろに組み、ちょっと下から覗く感じの上目遣いがまたあざと可愛いな、おい。

 

 くっそ、、、反則級だぜこの聖女様は。

 

「で、ちょっとイタズラできて満足?なら、オレもう行くけど」

 

 オレの理性が保っている内に退散するのだ。したいのだ。

 

「もう、まだ用事は済んでませんよ。いつもそうやってお姉ちゃんを避けようとするなんて酷いです。泣いちゃいますよ?」

 

「はいはい、ごめんな」

 

 テキトーに流されたからなのか、ほっぺたをぷくーと膨らませてご立腹をアピールしてらっしゃるよ。駄目だ、直視できない……あと、近いんだって。

 

 知ってるか、ヒトにはパーソナルスペースってのがあってだな……

 

「あ、オレ便所行きたかったんだ。悪いな、ジャンヌ」

 

「あ、まだ私の話は終わってませんよ!!」

 

 オレは理由を作って男子トイレに逃げることに成功した。

 

 まったく。

 

 まったく、、、、身が持たない。用を足して一度深呼吸をしよう。落ち着こう。

 

 確かにオレはジャンヌを避けている。たとえ、幼馴染としても次女と在り方が違うから戸惑いさえする。次女は同じクラスだからもう慣れたが、オレは基本悪目立ちをしたくない『普通』を望む人間だ。

 

 なんだよ、あの聖女様。あざと可愛い過ぎなんだよ。

 

 オレ達が学校の奴からどういう風に見られているのか、あの聖女様は知らないのだ。いや、確信犯だったら最悪なんだけども。

 

 昔からああだよ。

 

 子供の時から一緒にいるから、ああなっちまった。家族を想うが故の行き過ぎた好意だ。ちょっと愛が重いと感じてしまう。

 

『普通』じゃない。それはよくない。

 

 別に長女のことは嫌いじゃないぜ。でも、ああいう過度なスキンシップは敵を作り過ぎるだけだ。それがオレは心配で、そして、個人的に迷惑と感じてしまう。

 

 はぁ、心休まねぇ。何のために1人になったのか、これじゃわからない。

 

 しかし、心休まず問屋は降ろしてくれなかった。

 

「トイレ済ましましたか?」

 

「何故、いる……」

 

 オレは誰にも会わない別棟の3階トイレまで逃げ込んだというのに。この聖女様、待ち伏せしてやがりましたよ。

 

「まだ話は終わってませんでしたから」

 

「いやいやいやいやいやいやいや」

 

「そんな否定しなくても」

 

 いや、怖いってちょっと……いや、オレが露骨に避け過ぎた反動だ、これ。

 

「つーか、せっかくの昼休みなのにこんなことしてるの勿体ないって。友達と恋バナでもしてこいよ」

 

「マリーと恋バナするのにもネタがないと……」

 

「いやいや、オレは何も恋を咲かせるほど面白いネタとか持ってないって。これに関しては普通以下だし、期待するなし」

 

「そんな、卑屈になっちゃ駄目ですよ。ちょっとこっちでお姉ちゃんとお話しましょう」

 

「ぐっ、どこへ連れて行く気だ貴様…………っ!??」

 

 別棟。4階上がった所の屋上前の鍵で封鎖された扉前まで力づくで連れてこられました。

 

 退路は断たれた。

 

 聖女様はオレを追い込み壁ドンしてきた。両手でメリメリって……コンクリートの壁に亀裂入ったのは脆かったからだよな……っ!?

 

「ジャンヌは壁ドンする相手を間違っているぜ……」

 

「まさか、ジークくんのこと言ってますか?」

 

「お、おう……」

 

「立香はほんとデリカシーが欠けてますね」

 

「上手いこといってないのか?」

 

「それは……」

 

 ジャンヌ、もしかして……寂しくなってオレに?

 

 この長女には彼氏がいるんだけども。だから、オレも学校であからさまに度がしがたいスキンシップは避けるようにしているんだけども。

 

 彼氏の名前を出した途端、ジャンヌは顔を伏せて沈黙してしまった。壁ドンも私少し怒ってますアピールからくるものだろう。ジャンヌもどうしていいのか混乱しているんだろう。

 

 とりあえず、何があったのか説明してもらうために階段に腰を下ろすように促して2人並んで座った。ジャンヌは最初からオレの肩に頭を乗せて、ぽつりぽつり話してくれた。

 

「私達、当分の間距離を置くことになりました」

 

「そっか……」

 

「もう別れるかもしれません」

 

「うん……」

 

「原因は立香にもあります」

 

「あ、え、オレーーーーー!??」

 

 えーオレのせいー?

 

「そんなに驚くことですか?」

 

「いや、なんでオレも原因なのさ」

 

「立香が可愛い過ぎるから原因なのですよ」

 

「いやいやいや……ちょっと待って、意味がわからない」

 

「お姉ちゃん、ちょっと奥手なジーク君にそろそろ痺れ切らして、意地悪なことをしてしまいました。お姉ちゃんと立香がイチャラブしてる写真見せたら『俺も男だガオー』ってなると思ったんです」

 

「そして、見事に嫉妬して作戦失敗したと」

 

「はい。いつもに増して怒ってしまってお姉ちゃんまだ処女なんです」

 

「それは聞きたくなかったかなー・・・・・・」

 

 1年も付き合っといて『まだ』してなかったとこにびっくりした。

 

「それで、ジーク君は私を避けてしまって・・・・・・それで、今日さっき話すタイミングができたのですが、距離を置こうと言われまして」

 

「そっか・・・・・・」

 

 というか、オレが悪いのかこれ。オレが甘いからこうなったのか?

 

 なんか、おかしくね?

 

「お姉ちゃん、反省してます。ジーク君の気持ちを知ってましたし、立香にもいつも迷惑かけてしまって、ごめんなさい」

 

「ジャンヌ・・・・・・」

 

 その気持ちがあればジークも許してくれるだろう。よりも戻せるはずさ。

 

 そんないい事を言って締めるつもりでした。

 

「あぁん、でも、お姉ちゃん本当にオトウトニウム不足なんですよ!だから立香とこうして学校でもこっそりイチャイチャしてエネルギー充電したいんです!!」

 

「ダメだこりゃ・・・・・・」

 

 あの、クンカクンカしないでください・・・・・・

 

 当分の間、この聖女様に男2人振り回されるのは言うまでもないだろう。




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こんばんわ、リリィ

 放課後、特に何もやることのないオレは不良に絡まれないように即座に家へ帰宅した。

 

 今日はバイトもない。夕食ができるまで、リビングのソファで寝転んでアイスを頬張りつつ、スマホのアプリゲームをプレイして時間を潰す。

 

 キッチンからまな板をリズムよく叩く包丁の音が聞こえる。もうすでに何か美味しそうな匂いがリビングにも漂っていた。今日の献立は何かな、聞こうかな、できるまで知らない方がいいのかな、なんて考えながらソファをからこっそり身を乗り出し、少しだけ様子を伺ってみようとする、我慢のできないオレ。

 

 夕食の支度をする母さんはいつも通り鼻歌を歌っていた。そして、もう一人エプロン姿で母さんの手伝いをする聖女様がいた。

 

 うん。特に普通だ。

 

 藤丸家の食卓事情として、お隣のジャンヌ三姉妹を家に招いてみんなで食事を取る。

 

 ジャンヌ家の事情とかで、おばさんは夜勤で家を空けることが多く、おじさんはギョロ目でフランスに単身赴任中だったりで、だから世話焼きな母さんが三姉妹を家に招いて食卓をみんなで囲むようになった。

 

 それは昔からずっと続いている。

 

「こら。お行儀が悪いですよ・・・ほら、ソファにアイスを零しちゃってるじゃないですか」

 

「うわっ、やべ……」

 

 オレはよほど行儀の悪い恰好でジャンヌを眺めていたのだろう。あざとカワイイ聖女様がエプロン姿だから眺めていたわけじゃなく、今日のお昼休みのことでちょっと心配になってジャンヌを観察していただけだ。

 

 他意はない。

 

 下心もない。

 

 何故なら、あざとカワイイ聖女様のエプロン姿など見飽きて特に普通なのだ。

 

 普通って素晴らしいな、おい。

 

「うふふふー。そのソファってこの前買い替えたばかりのはずよねー。あーあー、お母さんのお気に入りだったのになー」

 

「それは大変だ……っ!?」

 

 母さんはのんびりした口調で、だがしかし、オレを咎めた。

 

 藤丸立夏、一生の不覚。端っこの方に落としただけだから、こ、殺されないよな……??

 

「ジャンヌちゃん、私今手離せないの。ちょっと変わりにバカな息子シバイてきてくれる~?」

 

「では、喜んでシゴいてきますね♪」

 

「おい、オレの聞き間違いだよな!?聖女様はそんなこと言わないし、待て早まるな貴様……っ!!」

 

 あざとカワイイ聖女様がウキウキワキワキしながらこっちに来る前に、オレはスタンドアップ・ハリアーップ、ティッシュでこぼれたアイスをふき取って見せた。

 

 そして、インターホンが鳴った。

 

 ピンポーンと。

 

 あ、これは逃げの口実を作れるチャンスだ。

 

「あーもう、今いいところでしたのに」

 

「あらあらー、うふふー、誰かしらね~」

 

「は、母上、姉君、この不詳の息子にお任せあれっ」

 

 今日のあざとカワイイ聖女様は情緒不安定である。まぁ、昼間にあんなこと聞かされちゃ、仕方が無いかと思ってしまうのだが。

 

 とりあえず、モニター越しを確認した。

 

 姿が見えない。イタズラかな。もしくは不審者かもしれない。だから、念のためにモニター越しに尋ねてみた。

 

「どちらさまですかー?」

 

「ロジカルです!!」

 

 これじゃ誰だかわからない?伝わらない?いいや、オレには伝わったね。

 

「少し待ってな」

 

「はーい♪」

 

 オレは後ろにいるニコニコしている聖女様と般若へ振り返ることもなく、玄関を出て来客を出迎えた。

 

 来客は律義に玄関前で待機していた。小学生がランドセル背負ってお辞儀した。

 

「こんばんは、トナカイさん」

 

「こんばんわ。リリィ」

 

 オレをトナカイさんと呼ぶのは、お隣さんちのジャンヌ三姉妹が三女のジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ。

 

 長女や次女と違ってこの末っ子は普通に可愛い。

 

 時間的に「こんにちは」でもよかった気がするが、それは些細なことだ。気にしないでおこう。

 

「あ、トナカイさん。アイスキャンデー食べていたんですか?」

 

「あぁ、グレープ味だ。リリィの分も取ってこようか?」

 

「夕食まであと少しでしょうし大丈夫です。それより、そのトナカイさんの分をちょこっとください」

 

「あいよ。」

 

 そう言ってオレのアイスをちまちまと残りを舐め始めた……まっ、いっか。

 

 それで、オレ達は家に入ることなく、玄関前のちょっとしたポーチの所で腰を下ろした。いつものように末っ子のリクエストも兼ねて外でちょっとお話をする。小学生だから高校生な姉二人と違って一緒にいられないからなー。

 

 だから、ちょっとしたこういう時間は貴重なんだぜ。

 

 この時間帯、我が家でジャンヌは大体一階にいるし、オルタは二階のオレの部屋でシレっとPC立ち上げて居座っていたりで、リリィと静かに過ごす時間が家の中では作れない。

 

 あの二人には困ったもので、リリィの隣に座ってお喋りしただけで、「私も」「アタシも」とすぐにかまってちゃんになるから、リリィも作戦を考えたのだろう。「中が駄目なら外!まさにロジカルです!」と意味深な言葉を発して、オレ達が平穏に過ごせるひと時のこの状況を実現させたのだ。

 

 実際、オレは凄く助かってる。三姉妹の喧嘩などの面倒ごとが少なくなったと思う。癒されてもいる。ロりは正義とまでは言わないがな。

 

 しかし、この笑顔は守りたい。

 

「トナカイさん。アイス、美味しかったです。ごちそうさまでした」

 

「今度は一緒に食べような」

 

 オレの食べ差しのアイスをあげるのもリリィだけだろう。他には絶対やらない。

 

 長女は論外。次女は「は?アンタの喰い差しとか誰がほしいわけ?キモッ」って言われるのがオチだが、リリィにそれを渡している所に居合わせていたら「は?アンタ、あのガキンチョをちょっと甘やかしすぎなんじゃない?だからソレはアタシが貰うわ!」などと見事なツンデレっぷりを見せて次女VS末っ子のどうでもいい不毛な争いになるのだから、めんどくさいのだ。

 

「ところで、トナカイさん。今日、学校の音楽の時間で新しい曲を練習してきました。聞いてくれますか?」

 

「勿論だぜ。なんて、曲?」

 

「『色彩』って曲です。とてもいい曲なのです」

 

 リリィはランドセルにぶっ刺していたリコーダーを引き抜く。かなり乱暴な表現になってしまったが、大体イメージできるだろう。

 

 リリィはえへへと少し照れながら、深呼吸をして吹き始めた。

 

 ピーヒョロロ……

 

 夕刻に鳴くのはカラスではなく、リリィの奏でる音色だ。

 

 たまに音を外したり詰まることもあり正直下手である。そりゃ今日が初めてだ。でもリリィは一生懸命に吹いてくれた。

 

 それがたまらなく愛おしく見えた。

 

 そして、オレは涙を一粒こぼした。

 

「ト、トナカイさん……??」

 

「え、あ……これは、あれだ、目にゴミが入ったからだ。それより、本当に良い曲だな。聞かせてくれて、ありがとな。リリィ」

 

「は、はい……!!」

 

 危なかった。

 

 オレはバカなのか。ロリコンなのか……子供の前で本気泣きをしかけた。

 

 なんでかはオレもわからない。

 

 疲れているのだろうか……うん。確かにあざとカワイイ聖女様に振り回されて疲れているよ、今日。

 

 そして、パチパチと拍手が聞こえた。

 

「こ、こんにちは。よかったですよ、今の曲」

 

「こんにちは。お姉さん、ありがとうございます。ほら、トナカイさんも挨拶してください」

 

「ど、どうも……」

 

「ふふっ、たまにお見かけしますが、本当にお二人は仲がいいのですね」

 

「はい、ロジカルな『家族』ですから♪」

 

「………」

 

 ここが家の外だから、リコーダーの音色もご近所に響いていたのだ。

 

 家の前をジョギングしているお姉さんにも聞かれていた。

 

 リリィは礼儀正しくお辞儀までしてらっしゃる。長女と次女にも見習わせたいぜ。

 

 そして、ジョギングのお姉さんは遠慮がちに手を振って去っていった。たまに見かけるお姉さんだが、どこかで見たことある顔なんだよな、これが。

 

「しかし、いつ見てもデカい乳上だったなー」

 

「むっ、今何か言いましたか?トナカイさん」

 

「さて、何のことやら。それよりも、こんなオレをさ、ロジカルな『家族』って言ってくれたこと、凄く嬉しかったぜ。改めて礼を言うぜ……リリィ、ありがとな」

 

「何を言っているんですかトナカイさん。当たり前じゃないですか。それにお礼を言うのは私達の方です。いつも私達のことを本当の家族のように接してくれてありがとうございます。姉二人はいつもあんなですけど、どうかこれからも私達のこと、よろしくお願いします」

 

「うぉおおおおん、リリィはええ子や~」

 

「ちょ、なんで泣くんですか。近所迷惑にもなりますし、すごく恥ずかしいです。それに家の外で過度の密着は……きゃーーーー!?」

 

 ごめん、感極まってどうかしてた。

 

 危なかった。こんなのロジカルでもなんでもない。家族じゃなかったらただの犯罪だった……

 

 

 

 

 

 で。

 

 夕食時。

 

 藤丸家の食卓にて稀に起こる裁判が始まった。

 

「えー、トナカイさん。あなたの罪状は以下の通りです。女の人のお胸ばかり見て鼻の下を伸ばすどうしようもない節操無し。これについて裁判を始めたいと思います」

 

「あ、そっち……」

 

 よかった。ロりに手を出してブタ箱行きかと思った。




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三姉妹と食卓裁判

 藤丸家の食卓裁判。

 

 それは父さんが仕事で遅くなる日を狙って行われる、圧倒的に女性陣が有利でしかない裁判のことである。母さんとジャンヌ三姉妹の女4人に対して男はオレ1人で行われる不平等でしかない裁判というか公開処刑が今宵も開催されることになった。

 

 とりあえず、食卓に並ぶ料理を黙々ともぐもぐ食べてようと思うのであった。

 

 あー、コロッケがうめー。

 

「それでは裁判長さん。第26回、藤丸家の食卓裁判を始めたいと思いますが構いませんね?」

 

「オッケーよ~」

 

 母さんが、裁判長。

 

 お誕生日席に座る母さんはノリノリでリリィにゴーサインを出した。

 

 オレこと藤丸立香の罪状は以下の通り、意味不明である。

 

「トナカイさんはいつもおっぱいの大きな女性に鼻を伸ばす節操無しです。ここに兄を慕う『妹』がいるというのに、何故そのような行為ができますでしょうか?私は懲役3年の『妹と毎日添い寝で独り占めの刑』を要求します」

 

 リリィさん、とてもご立腹でいらっしゃるようですが、要求内容がとても可愛いらしい。

 

 しかし、まぁ、特に普通だな。

 

「あらあら~、お母さん的に刑が軽いと思うのよ~。世間的な目もあることだしー、ここは懲役5年『毎日お風呂掃除の刑』でも良いと思うわ」

 

「なんでやねん、風呂掃除なんてならねーよ」

 

「はーい。そこの被告人くん、私語は慎みなさい~」

 

「ちっ……異議あり!!」

 

「その異議も受け付けておりませ~ん」

 

 くっ、わかっていたはずだ。これは勝てない裁判だということを……論破さえできねぇ。

 

 あ、こっちのコロッケ、オレの好きなカニクリームコロッケだ!

 

「あー、裁判長。それではアタシが異議を申し立てますわ」

 

「はい、オルタちゃん。なんでしょ~?」

 

 静観していた次女のオルタが口を挟んだ。この理不尽かつ不毛な裁判で、唯一オレの弁護を時たましてくれる心強い味方だ。今回も助けてくれるって信じてたぜ。

 

「コイツ、いえ、被告人・藤丸立香くんはアタシとよく行動しているからわかるのですが、無差別に女性の胸ばかりを見て鼻の下を伸ばす節操無しではありませんのであしからず。そこのお子様の証言も被害妄想が含まれていますので、それだけで白黒付けるのは早計です」

 

 こいつ、なかなか弁が立つ相棒だぜ。

 

「そうなの~?」

 

「はい。そもそもこの男は別に巨乳好きというわけではありません。貧乳もイケる口だそうですから。罪はもっと重いのですよ」

 

「それは本当なのですか、トナカイさん!?」

 

 そんなところに食いつかないで、リリィさんや。つーか、何オレの罪を重くしようとしてるの、お前。勝手に味方だと思ったオレが悪いのか。

 

「あらあら、息子は巨乳も貧乳も可愛ければなんでもいいってわけね?」

 

「それは人聞きが悪いぜ母ちゃん。異議ありだ!!」

 

「だから、被告人に発言権はないのよ~。お座り」

 

 オレは犬ではないんだが。

 

 しかも、この裁判嫌だよ何故母親にオレの性癖を暴露されつつあるんだよ。

 

 普通じゃない……

 

「でも、オルタ。立香が巨乳貧乳どちらでもイケると言いますが、お姉ちゃんのおっぱいそこそこ自信あるんですけど、見向きもしてくれませんよ?」

 

 それは貴女の胸に手を当てて聞いてみてください。

 

 人差し指を顎に当てる仕草はもう狙ってやっているとしか考えられない。スルーしておこう。現にオルタはあざとカワイイ聖女様をスルーしている。

 

「異議ありです!!」

 

「はい、リリィちゃん~」

 

「裁判長。"正しくない方の私"は話の論点をズラそうとしております。トナカイさんが巨乳好きでも貧乳好きでも事実がどうあれそれは別に構いません。問題にしているのは、サンタな妹であるこの私を差し置いて他の女性に愛情を注ぐべきではないということです」

 

「要はリリィちゃんファーストをしなかった愚息を罰しろってことかしら~?」

 

「はい、刑も私だけにメリットがあるものを要求します」

 

「異議あり。そんな横暴な要求は認められません。立香が他の女にうつつを抜かして頭を悩ましているのはアタシも同じです。お子様1人の悩みではありませんので、ここは公平なジャッジでアタシにもメリットがある処分をくだしてほしいものですね」

 

「やっぱりそれが狙いだったのですか!というか、あなたいつもトナカイさんと一緒にいるのにまだ何か要求するつもりなんですか!」

 

「何よ、文句ある?」

 

「はーい、2人とも少し落ち着きましょうねー」

 

 駄目だ、こりゃ。

 

 やっぱり姉妹喧嘩が勃発した。おい、長女よ。あざとい聖女様よ。この2人を止めておくれよーと、発言権のないオレはアイコンタクトしてみるも、目の前に座るジャンヌはニコニコと微笑むばかりか「楽しいですね、立香♪」と言ってウインクしてくる。

 

 駄目だな、このあざとカワイイ聖女様も。

 

「ところでトナカイさん。この前、"駄目な方の私"とトイレでこそこそナニしていたんですか?場合によっては二人とも厳重処罰に当たるかと思いますが」

 

 駄目な方ってどっちか最早オレにはわからん。

 

「あれはアタシが先にトイレ行きたかったけど、コイツが譲ろうとしなくて追い出そうとして揉めてたのよ」

 

 あ、オルタの方ね。

 

「それで10分も揉めていたんですか?」

 

「ぐっ、何よ。計っていたっていうの!?も、文句あるなら、コイツに言ったら?」

 

 隣に座るオルタがげしげしと箸でオレの頬っぺたを突っついてきやがった。

 

 あの、ご飯粒が付いたんですけど……

 

「そんなどうでもいいことよりもお姉ちゃんの話も聞いてくださいよ。立香くんはお姉ちゃんのこと「お姉ちゃん」と呼んでくれません。これも罪ですよね?罪深いですよね?なので懲役100年『お姉ちゃんとの添い寝の刑』を希望したいのですが」

 

 などと、ワケのわからないことを言って身を乗り出し、油断していたオレの頬っぺたからシュッと効果音付きでご飯粒を奪い取って食べやがりました。

 

 そのドヤ顔も自分ではあざとカワイイと思っているのだろうか??もし、そう思っているのなら、まずはそのふざけた幻想をぶち壊さないといけないのだが。

 

「"正しい方の私"は最早何が"正しい"のかわかりませんが……あなたにも言いたいことがあります。あなた、トナカイさんが入浴時にまた洗面所に忍び込んでナニしていたのですか?何かよからぬこと企んでませんでしたか??」

 

「えー別に~……お、お姉ちゃん、リリィが何のこと言っているのかちょっとわからないですねー」

 

「いや、アホでしょアンタ」

 

 あ、標的がオレから自称・お姉ちゃんに変わった予感。ラッキー。

 

 今のうちに味噌汁を胃に流し込むぜ。

 

 母ちゃん、しめじが美味しいよー。

 

「んーと、えっと~……あ、もしかして。アレのこと言ってるのではありませんか?」

 

「はあ。アレとは何ですか……」

 

「お姉ちゃん、主に誓っていかがわしいことしようと思って洗面所に忍び込んだことなんて一度もありませんよ。もし、リリィが見かけたのがそれだとしたら、アレは"見張り番"をしていたのです」

 

「見張り番ですか?」

 

 頼んだ覚えがありませんが?発言権のないオレは首を振るしかなかった。

 

「トナカイさんが無言の抵抗を見せておりますが?」

 

「でも、見張り番しなくちゃ、誰かが立香の入浴タイム邪魔して乱入するかもしれないじゃないですか?お姉ちゃんはそれが心苦しく、姉妹よりも弟くんを守ることに決めたのです」

 

「それで私がトナカイさんとお風呂入ろうとするのを阻止しようとしたんですか?」

 

「リリィは、もういい大人なのですから。節度を持たないと」

 

 それ、アンタが言えるわけ?とオルタが代弁してくれる。そして、リリィも……

 

「ですが、私がいないと貴女が突入しようとしたわけですよね?」

 

「はっはっはっ、そんな、まさか……ね?」

 

「うわっ、この聖女様あざとさ全開でアンタをちらちら見てるわよ」

 

 言われなくてもわかってるんだが。あざとくモジモジされてるんだが!?

 

「そういうオルタはどうなのですか?」

 

「はぁ?」

 

「立香とお風呂に入りたい~とか思わないんですか?」

 

「アンタじゃないんだから、別にもうこの歳になって思わないわよ……」

 

「そんなバカな!?」

 

 そんなバカなのは聖女様、お前だよ。

 

「じゃあ、もういいですー。オルタなんか知りませんー。ブーブー」

 

「なんなのよ、この聖女様は」

 

「味方になってくれると思っていたんじゃないですか?」

 

「あー」

 

 ブーブーと口を尖がらせて頬っぺたぷくーっとさせてる聖女様。ちょっと不細工になってもそれでもあざとカワイイんだよなー。

 

 どこまであざと可愛くなれば気が済むんだろうか……

 

「お姉ちゃんは弟くんと仲良くしたいだけなのにー」

 

「うふふ~、ジャンヌちゃんはホント昔から面倒見が良くて立香のことが好きなのよね~」

 

「それはもう世界一大好きな弟くんですから♪」

 

「わ、私だって世界一トナカイさんのこと大好きですよ!」

 

「はいはい、アンタは張り合わないの。それよりも、長女。アンタの場合、愛が行き過ぎるのよ。節度持って自重しなさいよ」

 

「でも姉弟ですよ?子供の頃は一緒にお風呂入って裸の付き合いしていたのに、それが大人になったからできないなんて、そんなのロジカルじゃないと思いまーす」

 

「うわ、開き直ったわ。こわっ」

 

「というか、それは私の台詞ですよ!」

 

「ていうか、長女。アンタ彼氏いるのにナニやってんの?って話なんだけど」

 

 ですよねー。普通じゃない。マジで。それはよくない。

 

「だって弟くんが冷たいもーん。だから、距離を一気に縮めようとしただけだもーん」

 

「もーんってなんですか。ぶりっ子キャラですか!あなたはあざといキャラのはずですよね!」

 

 突っ込む場所はそこじゃないんだよなー。

 

 母さんはニコニコと静観しているだけ。もはや、食卓裁判は崩壊した。というか、息子が困っているのを面白がっていないか、あんた。

 

 しかしだ、あれだ。

 

 料理が冷めてるぜ?オルタのコロッケ、いただきー。

 

「あっ、アンタどさくさに紛れて、なに、アタシのコロッケ取ってんのよ!?返しなさい!!あーーーーーー!!?本当に食べてんじゃないわよバカ!!デュヘインされたいわけ!?」

 

「まーまー、怒らないで、オルタ。お茶目な立香に代わって姉ちゃんのをあげますよー。はい♪」

 

「はい、じゃないですよ。何故"駄目な方の私"じゃなくてトナカイさんの方を見て言うんですか?フォローしておきましたよっていうサインですか?アイコンタクトですか?そうやってポイント稼ぎですか?どうなんですか?」

 

「それはアンタも一緒じゃない。というか駄目聖女様、アタシこんな食べさしコロッケとかいらないわよ……」

 

 もう三分の一も残っていない原型留めているのかも怪しいコロッケをもらったオルタ。よかったな。

 

「こうなったのもアンタが悪い。だから責任もってアンタが食べなさいよ。ほら」

 

 うへー、食べ残しが回ってきた。

 

「なんで2人とも嫌そうな顔をしてるんですかー?お姉ちゃん、今日は散々でしたのにこんなの悲しいです。しくしく……」

 

「嘘泣きしてもダメですよ。見てください、トナカイさんの呆れた顔を」

 

「ちっ、駄目でしたか」

 

 あざといウソ泣きから、さらっと舌打ちもできるカワイイ聖女様!?

 

「というか、リリィ。何故、トマトを残すのですか?」

 

 さらっと矛先がいたいけな少女に向いた。こわっ。

 

「そ、それは……」

 

「好き嫌いしてちゃ、成長できる所も成長しなくなりますよ。私達みたいになれませんよ」

 

 胸張ってアピールする容赦のない聖女様。

 

 そもそもトマトで大きくなるものだろうか……

 

「でも、トナカイさんは小さくても大丈夫って言ってくれましたし」

 

 いや言ってないんだな、これが。オレはまだ一言も自分の好みを発言していないんだがな。

 

「リリィ、小さいより大きいに越したことはありません。立香も然りです」

 

「聖女様はそろそろ口を閉じた方がいいんじゃない?」

 

 ほんと止めてくれよ、オルタえもん~。

 

「そもそも、トマトで胸はデカくならないわよ。それよか、牛乳飲みなさいよ。アンタ、牛乳も飲めないお子様だものね」

 

「うぅ~、牛乳はもっと嫌いです……」

 

「リリィちゃん、今度おばさんがおっぱいが大きくなる方法を伝授してあげるわよー」

 

 あんたもさらっとお子様に何言ってんだか。

 

「でもね、子供の時は好き嫌いなく、牛乳もトマトも食べなきゃ駄目よ~?ねぇ知ってるかな、トマトには"リコピン"っていう最強ワードの栄養素が含まれていて、とても素晴らしい野菜なのよ~。子供のうちはしっかり栄養取らないと駄目って話、ちょっとずつ克服していきましょ~?」

 

「そうですよ、リリィ。トマトを食べていたら風邪なんか引きません。無敵なんですよ。なので、私の分もあげますから、頑張って食べて栄養価付けてくださいね」

 

 そう言って、ジャンヌは自分の分のミニトマトの残りを全部、隣のリリィの皿に移し替えた。

 

 あざとい笑顔で惨いことしやがるぜ……

 

「ふえ~ん、トナカイさーん!!」

 

「あー、リリィ。泣くな……一個だけ頑張って挑戦してみようか。残りは全部食べてやるからさ」

 

「アンタってほんとコイツに甘いわね。まー、今のは流石にアタシもドン引きしたけどさ……」

 

 こうして、オレとリリィの間にまた絆が深まった気がした。

 

 食卓裁判もこの流れからは再開できないだろう。有耶無耶に、ミニトマトの件で借りもできたことにより、これにて第26回目の食卓裁判は終了することになった。

 

 特にオチもなく、ただただ賑やかな食事であって、だけど、これが『普通』でいつもの藤丸家の食卓だというように終われそうだ。

 

 めでたし、めでたし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 などと、聖女様は笑顔で問屋を下ろさないのでした。

 

「ところで、話戻すのですが、立香はまだ童貞ですか?」

 

「え、今それ聞く?」

 

「ア、アンタ・・・・・・気は確か?」

 

「お姉ちゃんは立香くんのことが心配で……てへっ」

 

 てへっ・・・・・・じゃなくて、オレはあんたの頭の中が心配だ。

 

 せっかくいい感じで終わりかけてたじゃん。何故蒸し返す。やっぱり昼間のあれが原因か・・・・・・

 

「今その話関係なくない?」

 

「その、今じゃないと駄目な気がして……」

 

「そ、そっか……」

 

「はい♪」

 

「あらあら~……」

 

「トナカイさん。トナカイさん。ドウテイってなんですか?」

 

「お子様のアンタが知らなくていいことよ……」

 

「さあ、オレもよくわからないぜ。ドゥカティの聞き間違いだろ……おっ、そんなことよりミニトマト食べれたんだな。リリィは偉いなー」

 

「えへー。意外と甘くておいしかったです」

 

「だろ?それじゃ、ご馳走様だな」

 

「はい、ご馳走様なのです♪」

 

 オレとリリィとオルタは食器を下げて、二階のオレの部屋へ退散。

 

「ジャンヌちゃん」

 

「は、はい……」

 

「ちょっと、おばさんと大事なお話しをしましょうか?」

 

「あははは……ですよねー」てへぺろ

 

「・・・・・・」

 

 一階では、久しぶりにジャンヌが母さんに説教されるのであった。

 

 あとから、聞いた話、あのあざとカワイイ聖女様は母さんの前で"てへぺろ"したらしい。

 

 母さんにやっちゃダメだろ。

 

 外は嵐。雷鳴が家の中まで轟いていた。




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ヴィヴ・ラ・フランス

 先日、母さんにこってり叱られた長女ジャンヌ。

 

「立香……リリィがいる前でお姉ちゃんはちょっと暴走してしまいました。下ネタ系お姉ちゃんなんて需要ないですよね、反省しています」

 

 なんて、言ってたんだけど。あまり深く突っ込んでも駄目だなと思いテキトーに流した。

 

 気にしたら負けだ。

 

 まぁ、あのあざとカワイイ聖女様も少しは反省しているようで、あれからというもの学校でも家でも過度なスキンシップがなくなった。

 

 よかった。普通によかった。でも、何か訴えてくる目が気になるけど。早いこと彼氏と仲直りしてもらいたいものだ。オレもジャンヌへの対応が甘かったのだろうから、弟離れができるよう、これからより厳しく接しようと思う。

 

 なんて、考え事をしながら体育館横の自販機でイチゴ・オレを購入しては校内をぶらぶらする昼休みのこと。

 

「はぁ、彼女が欲しい……」

 

 正直、これですべてが解決するような気がする。

 

 オレに彼女ができたら姉として引き下がらなければならないだろう。オレがジャンヌを拒むのではなく、オレがジークに何かフォローするのでもなく、そこは2人の問題なのだから2人で解決しろよ言いたい所、目下オレに彼女さえできれば、ジャンヌもあざと可愛さを装うことなくオレから距離を置いてくれればいい。

 

 それが『家族』としての在り方。それが『普通』なのだ。

 

「だったら、子犬。私が彼女になってあげるわよ」

 

「あ、エリちゃんはいいです。ごめんなさい」

 

「な、なんでよー!!」

 

 通りすがりのクラスメイトに独り言を聞かれてしまったみたいだ。

 

 とりあえず、ごめんなさいして1人になるべく、即座に退散した。せっかく、教室からオルタや不良から逃げてきたというのに、別の厄介ごとはごめんだぜ。

 

 オレはまだ見知らぬ出会いを求めて校内を彷徨う童貞なのさ……

 

「じゃあ、ボクと結婚しようよ藤丸くーん。毎日裸エプロンで起こしてあげるよー♪」

 

「あ、間に合ってます。無理です。ごめんなさい」

 

「ガーン……っ!??」

 

 不用意な独り言は控えるべきだったな。どこで誰が校舎に潜んでいて何を聞かれているのかわかったものじゃない。大人しくオルタの傍にいるべきだったか…つーか、オレのクラスメイトはこんなんばっかりだ。やだ。

 

「ふむふむ、エリザベートさんとアストルフォくんを秒殺するとは、流石ジャンヌの弟くんなことだけはあるわね」

 

「……今の見られていたんですか、王妃様」

 

「ヴィヴ・ラ・フランス!ごきげんよう、藤丸さん。たまたまだったのだけれど、偶然ここを散歩していたら面白いものが見れたわ」

 

「はいはい、ヴィヴ・ラ・フランス。別に見世物じゃないけどな」

 

 このヒトはマリー・アントワネット。ジャンヌの親友であり、顔見知りなわけだけども。いつもフランス勢のSPもどきの取り巻きが付いていて、ジャンヌと並んで自身の教室をきゃぴきゃぴさせる恐ろしい王妃様だ。王妃様っつうのも、歴史上の人物と同姓同名なだけにそんなあだ名をオレ達が勝手に名付けているだけなのだが。

 

 まぁ、アレだ……

 

 好奇心旺盛でお転婆娘なだけに、オレとクラスメイトとのやり取りは見られたくなかった。絶対にジャンヌにチクるからな。

 

「というか、1人……??」

 

「あら、ジャンヌがいないことが気になるのかしら?」

 

「いや、別に……」

 

 うふふ、と手を口に当てるマリーさん。

 

「安心して。ジャンヌもアマデウス達も近くにはいないわ。お花摘みに行くと言って抜け出してきたの。貴方と一緒ね」

 

「あー、なるほどね……」

 

 いつも誰かと一緒にいるとな……たまに1人になりたい時があるものだ。

 

「うふふ、一緒にお花摘みに行っていたジャンヌをジークさんに押し付けてはあたふたしていたし、アマデウス達は今頃大騒ぎして私を探している頃合いかしら」

 

 そして、人を引っ掻き回すのが得意なお茶目な人だ。敵に回すとある意味恐ろしい。

 

「オレ、今こうしてあんたと一緒にいるのを遠慮したいんだが……」

 

「あら、私は貴方ともう少しお話していたいのだけど。ジャンヌを遠ざけるために彼女欲しいんでしょ?」

 

「いや、それについては忘れてくれよ。というか、ジャンヌとかに絶対チクるなよ~??」

 

「それは約束できかねないわ。この時間、どこか2人きりでお話できたら別なのだけども」

 

「………」

 

 駄目だ、オルタと一緒に教室にいたらよかった。オレ、絶対後でマリー親衛隊とかワケわからない連中に殺される。

 

「あぁ、愛しのマリー。キミはどこに行ったんだい?」

 

「マリアー!!どこだーい!!」

 

「アントワネット王妃!!どこですかー!!」

 

 うわ、いつもの3人組の声がした。しかし、今日はそれだけじゃない。

 

「まさかとは思うがマリーさん、あの例の男と一緒にいるなんてことはないよな?」

 

「例の男ってジャンヌ様の弟君??」

 

「あぁ、2年5組の外国人たらしのシスコン野郎だ!」

 

「駄目よ、マリーちゃんがあんな男の毒牙に掛かってはいけないわ!!」

 

「そうだ皆、奴の毒牙で僕たちのマリアが奪われてしまう前に取り戻そう!」

 

「おい、そのジャンヌ様から啓示だ!!マリー様と弟が一緒にいる可能性が高いらしい。そんな気がするって!!」

 

「女の勘って奴ね!!」

 

「だったら……フランス祖国のために、剣を取れ!同志たちよ!!見つけ次第処刑せよ!!」

 

「「「「うおーーー!!」」」」

 

 なんだか大事になってるじゃねーか!??

 

 こえーよ、似非フランスの1組の連中。マリー親衛隊だけじゃなく、他の連中たちも勝手なことばっかり言いやがって……というか、ジャンヌがどうのこうのって…………

 

「もしかしたらジャンヌの嫌がらせかもしれないわ」

 

「意味がわからないのですが……!!」

 

「さっきも言ったでしょう。私、ジャンヌとお花摘みに行くと見せかけて、ジャンヌにも罠を仕掛けたって」

 

「あぁ、ジークにジャンヌを押し付けたんだろ!!今のあの聖女様にしたら逆効果だよな!!」

 

「えぇ、きっとその仕返しよ」

 

「………」

 

 じゃあ、取るべき道は1つ。オレとマリーさんはここで何事もなかったかのように、お互い別の道を歩いていけば問題解決だ。

 

「うふふ、私は今ここで大声で彼らを呼ぶこともできなくはなくてよ?」

 

「ふっ、詰んだか……」

 

 オレ達が別々の道を行くという選択がここにはなかった。

 

 クソったれのこんちくしょう。オレはマリーさんの手を引っ張り、直感に従い彼らの死角をかい潜り抜けて、別棟の屋上まで逃げ切るのであった。

 

 とりあえず、ここは立ち入り禁止エリアで人は寄り付かない。普通なら扉は鍵で閉まっているが、先日にジャンヌが屋上扉前で壁ドンしたことが原因で壊れたのか開いてしまったので利用させてもらうだけだ。まさか、立ち入り禁止エリアに誰かがいるとは思わない。

 

「愛の逃避行みたいで何だか楽しいわ!」

 

「お気に召したのなら何よりで……って、おい貴様。ベーゼはやめろ……やめ……や……」

 

 お互い走って息切れしては屋上の地べたに寝転んだ。2人して笑った。お嬢様なマリーさんには新鮮だったらしく、興奮してベーゼしようとしてきたので、それは丁重に……いや、オレは乙女のように顔を赤くして抵抗した。

 

 この人、誰構わず好きになった相手にこんなことしてるからなー……困った人だ。

 

「喉が渇いたわ。ちょっと、ソレ恵んでくださらない?」

 

「マリーさんがいいなら……」

 

 オレの飲み差しのイチゴ・オレ。

 

 でも、この人キス魔だからあんまり関係ないか……

 

 そして、ひと口飲み返却された。オレに残りを飲む勇気を誰かくれ。

 

「ふう。ジャンヌったら、毎日こんなことを貴方と楽しんでいるのね」

 

「毎日こんなことしてたら普通に死ねるって……」

 

「うふふ、そうね。でも、なんだかジャンヌが羨ましいわ。ジャンヌが貴方を本当に弟のように可愛がるのもわかる気がするんだもの」

 

「……マリーさん、そのジャンヌのことなんだけど」

 

 やっと2人きりになれたのだ。

 

 ジャンヌの親友に相談できる機会はなかなかない。特にあのめんどくさい親衛隊がいない今がチャンスである。オレは話した。学校でのジャンヌでなく、あまり知られていない家での聖女様のことを。

 

 行き過ぎな『家族』への愛情のことを……お互いは大事な『家族』と思っているが認識のズレを感じること……だから、オレが彼女を作ったら少しは距離を取ってくれるかなと思ったこと……ジークとも早く仲直りしてほしいこと。

 

 で、お悩み相談係のマリーさんの回答はこうだ。

 

「たぶん貴方が彼女を作っても『家族』の愛は変わらない。ジャンヌはジャンヌよ」

 

「それって、つまり……??」

 

「ジャンヌが彼氏作ったが変わらなかったように、貴方が彼女を作っても何一つ問題は解決しないってことよ。ジャンヌは貴方のことが可愛くて、そして、とても大切なヒトだから」

 

「そか………」

 

 いや、待て。オレは今納得しかけたが、流石に彼女ができたらお風呂特攻とかはやめさせるべきだろ。そこだけはやめさせるべきだろ……とか思うのだが。

 

「ほんと、手のかかる■■■■ね」

 

「だから、何故ベーゼしようとしてくる!?」

 

「うふふ、青春を謳歌し恋に悩める男の子に嫌がらせしようと思って♪」

 

「なんだよ、それ……」

 

 なんか、引っかかる言い方したよな、今。聞き慣れないワードもあるし。よくわかないけど。

 

 それと、マリー親衛隊の皆さん達の声が徐々に大きく近づいてきていることがわかった。勘づかれたか……それともジャンヌの啓示なのか。

 

 どうやら、タイムリミットのようだ。

 

「もう。今からがいい所だったのに」

 

「オレの貞操は奴らに守られた……!?」

 

「ふふっ、バカなヒト……この続きはまた今度しましょう?ライン教えてくださらない??」

 

「あ、はい……」

 

 こうして、マリーさんのラインゲットした。

 

 やったね、親衛隊に知られた日がオレの命日だ……

 

「一応、私から3つほど提案はできるわ。今度、私とデートしてくれたら教えるわね」

 

「そんな、今言ってくれよ……っ!!」

 

 デートなんかしたら絶対に処刑される。

 

 マリーさんは、それは恐ろしくも超ド級の投げキッスをしてくださり立ち去っていった。親衛隊がここに駆けつけるよりも早く立ち去ってくれて助かったのだが……どこぞのあざとカワイイだけじゃない美少女の投げキッスでオレはノックダウンした。

 

 仰向けで倒れたまま、残りのイチゴオレを飲み干した。

 

 マリーさんって反則級だよな。

 

「はぁ、普通に彼女が欲しい……」

 

 オレだって健全な男子高校生だぜ……って話。

 

 なんか、モヤモヤして、こう、悶々としたので、5時間目は授業はここでサボることを決めた。

 

 なーんて、今日を終われたらよかったんだけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私が彼女(仮)になってあげましょうか?セ・ン・パ・イ♪」

 

「げっ、BBちゃん!?」

 

 オレの望む『普通』の日常は、1人の小悪魔系後輩女子によって振り回されることもあるってことを、このあと改めて知ることになる。




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悪友

 5時間目を屋上でサボろうと思っていたんだけども。

 

 気づいたら、何故か保健室のベットの上で仰向けになっていた。あまり馴染ではない天井がそこにあった。おかしいな、オレは何で保健室で寝ていたんだろうと自問自答する。たしか、1組のマリー・アントワネットと別棟の屋上にいたはずだ。しかし、何故か保健室にいた。

 

 そして、何故かベッドに拘束されている。両手はバンザイ、両足も大股に開いて4箇所上手いこと手錠で繋がれていた。

 

 だ、誰がこんなことを.........

 

 そういえば、オレはマリーさん以外の誰かと屋上で会っていたような気がする。うっ……思い出せない。

 

「目が覚めたか?」

 

「お、お前は……っ!?」

 

 な、何故、お前がここに……。

 

「教室に戻ってこないから心配したぞ。まったく放し飼いにした途端にコレだ」

 

「放し飼いって、お前……」

 

「あぁ、だからこうして手錠でお前を拘束しているわけじゃないぞ?コレは私が来た時こうなっていたのだ」

 

「そ、そうか。それを聞いて少し安心したぜ」

 

 こいつの趣味じゃなくて良かった。

 

「というか、オレに何があったんだ?」

 

「覚えていないのか?貴様は屋上で倒れていたらしい」

 

「マジっすか……」

 

「あぁ、マジだ」

 

 などと、心配(?)な顔をするコイツの名前はアルトリア・ペンドラゴン・オルタ。

 

 ジャンヌ・オルタと同じく"オルタ"って名前付いていてややこしいので、オレはアルトリアと呼んでいるがな。たまに、アルトリア・ブラックとかふざけてみたりするのだが。

 

 コイツはクラスメイトの不良。入学式の日に、当時学園最強だった上級生の慢心金ぴか王に喧嘩を売ってボコった伝説があったり、次女オルタと何度も衝突があったりなんやかんやの問題児だ。

 

 そんで次女オルタの悪友になったものだから困ったものだ。主にオレの理想の普通な学園生活が台無しになった元凶の1人だから。

 

「それで、オレは何故屋上で倒れていたんだろう」

 

「そこまでは私も知るところではないがな。倒れていた時の前後の記憶が無いというのはよくあることだ」

 

「それで、お前がオレを発見して、ここまで運んでくれたのか?」

 

「いや、貴様を発見して、ここまで運んだのは私でなく貴様の後輩だ。ほら、アイツだ。私は名前は知らないが、時たま貴様と一緒にいるだろ。紫の髪の後輩だ」

 

「そっか、お礼を言わないとな……」

 

 というか、それって誰のことだよ……

 

 髪が紫の後輩……

 

 うっ……誰だろう。思い出せそうで思い出せない……

 

 笑顔はチャーミングだったかもしれない……

 

 親し気に先輩って呼んでくれていた気もしなくもない……

 

 でもどこか人を見下していて……

 

 腹黒で…………

 

 いつもオレを困らせて、こうやってオレをベッドに手錠で拘束するのも普通にやってしまいかねない異常性癖をも内に秘める小悪魔系女子……

 

 ここまで出てきているのに……あと、もう少しなのに…………

 

 イメージしてみても駄目だ。目隠し線でフィルターが掛かっているイメージだ……

 

 やっぱり、思い出せないや……

 

 まっ、いっか。

 

「それで?その後輩からバトンタッチしてオレの付き添いをしてくれているのか」

 

「まぁそんなところだ」

 

 アルトリア曰く、授業が始まっても教室に戻らないオレを探すため、(授業を抜け出す口実ができてラッキーと思っていたらしく)テキトーにぶらぶら校内を散策してたら偶然その後輩を発見したそうだ。気絶しているオレを引きずっている怪しい後輩を発見したらしい。

 

 それでその後輩の後を付けたら、ここ保健室にたどり着いたそうだ。

 

「私はその後輩に言ってやった。ソレは私のモノだ。私の許可なく勝手に手を出すな…とな」

 

「ア、アルトリアさん、かっけー……っ!!」

 

 主人公か何か、コイツ。

 

 でもな、大前提で間違っているんだよなー、これが……いや、今は否定するより説明を聞くけども。

 

「じゃあ、その後輩は何て言ったと思う?『じゃあ私の代わりに先輩の彼女(仮)になってくれますかー?先輩、彼女欲しい童貞卒業したいって五月蠅いのなんのその』と言って私にその役目を譲ってくれたワケだ」

 

「……何言っているのかよくわからない」

 

「つまりアレだ。今からセックスするぞ」

 

「いつものパターンじゃねーか………っ!?」

 

 よし、今すぐ逃げよう!!

 

「ふふっ、手錠に繋がれているのを忘れたか、馬鹿者め」

 

「オ、オルタえも~~~~ん!!」

 

「今日こそ年貢の納め時だな。あぁ、あの突撃女は宛てにするな。貴様が教室にいないことなど気にもぜず、ノートに漫画の落書きしていたな。私があ奴に確認してみたが、どうせサボりだろうと決め込んで自分の世界に没頭していた」

 

「ア、アイツ……」

 

「まったく薄情な幼馴染を持ったものだな、貴様も」

 

 まぁ、それがジャンヌ・ダルク・オルタであり、アイツの美点でもあるし。しかし、タイミングが悪いな、おい。

 

「私が貴様の幼馴染だったら、片時も放し飼いはしないというのに」

 

 太ももさすさす、やめてっ。

 

「あの後輩、私と貴様のためにと思って、いろいろオモチャも用意してくれているそうだ」

 

「うわー……」

 

 なんかベットの下からいっぱい出てきた。

 

 学校の保健室って、すげー。

 

「ふっ、気の利く良い後輩を持ったな」

 

「いや、きっとロクでもない後輩だぜ。そいつ」

 

「す、凄いな…コレは、こんな感じで動くのか」

 

「待て、スイッチ入れるな!」

 

「お、おおっ……私の聖剣と同等の波動を感じる」

 

「まさかの神造兵器っ!?」

 

「ふん………///」

 

「テレんなよ……っ!!?」

 

「黙れ。これは貴様で試してやる」

 

「ごめんなさい。まだ男でいたいです」

 

「じゃあ、男性用ので試してやる。脱がせるぞ」

 

「待て待て、早まるな!!話せばわかる……っ!!」

 

 アルトリアがオレの身体を跨った。俯いているせいで表情が読み取りにくい。コイツ、マジなのか……

 

「私はな、立香……こうして抵抗して嫌がる貴様の顔が三度の飯より大好物だ」

 

「………」

 

 うん、知ってた。基本、いじめっ子だもんな。お前。

 

「アレだ。初めてはやはりナマはよくないと思うから、コレを使わせてもらう」

 

「あぁ、コンドウさんね……」

 

 アルトリアはポケットに隠し持っていたソレを開封した。そして、「なんだコレは。使い方がよくわからん」といってテキトーに捨てた。

 

 ワイルドハントだな、コイツ。

 

「そもそもの話だが、貴様がまだ童貞だったことに驚いている」

 

「オレはお前がコンドウさんの使い方も知らないお子様なことに驚いているぜ」

 

「黙れ。」

 

「はい、すいません……」

 

 話の腰も折ってすみません。

 

「私はてっきりあの突撃女とすで済ませていると思っていた……」

 

「オレとオルタが……ははっ、まさか」

 

「いつも一緒にいるだろ……」

 

「そうだけど、オレ達はそんなんじゃ……」

 

「三姉妹との関係が壊れるのが怖いか?」

 

「………」

 

「図星か」

 

「図星だったらどうだっていうんだ」

 

「正直な、貴様たちを見ているとイライラする」

 

「………」

 

「貴様がいつも口にするソレは聖女様に弟離れしてもらうための建前か?それともあの突撃女へのけん制なのか?それとも幼子への言い訳か??」

 

「それは……」

 

「まぁ、いい。貴様が答えなくてもその反応だけで十分だ。貴様の想いがどうであろうと、貴様があの者たちの想いをどう受け止めようと、私の知ったことじゃないがな。とにかく一発ヤらせろ。あの突撃女の嫌がらせのためにもな……もちろん、このことは黙っておいてやる。2人だけの秘密だ。なに、バレなければいいのだ。大人になれ、バカ立香。大人になって女を知れ。知って私の気持ちを知れ。バカ■■■■」

 

「アルトリア……」

 

 後に続く言葉が出なかった。

 

 アルトリアが身を寄せて顔を近づけてきたから。オレは何故かコイツを受け入れてしまった。悟ったというか諦めたというか、そんな心境だ。抵抗しても無駄だから。

 

 不良の彼女はちょっと嫌かな……とは思うけど。凄く傲慢だし。強引だし。コイツ、いろんな所で喧嘩吹っ掛けているからな。デートの時にチンピラに絡まれたらたまったものじゃないとか、いろいろ考えてしまうわけだが。

 

 でも、彼女欲しいと口にしてきたのはオレ自身だ。いい加減覚悟を決めるべきだ。

 

 これで長女の問題は解決する。次女には……どう謝るべきか。そもそも何故謝らないといけないのか、という疑問も出てくるわけだが。別にオルタとは何もない。恋心を抱いたことが一度もなく、昔から一緒にいるが、それが普通で当たり前過ぎたから恋することもない、ただの幼馴染。あいつは大切な家族の1人にすぎない。

 

 オルタは祝福してくれるだろうか……あぁ、泣きながらデュヘインされそうだな。

 

 オレとアルトリアの唇があと一秒で触れる。

 

 その一秒が永遠に感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、あと一秒遅くれて来ればいいものを……間の悪い女だな。貴様は……」

 

「戻ってくるのが遅いと思って探しに来てみれば……また、ナニをしようとしてるのかしら??冷血女」

 

 息を切らしたジャンヌ・オルタの登場だ。

 

 待ってたぜオルタえもん。

 

「突撃女。よくここがわかったな」

 

「たまたまよ」

 

「そうか。なら、そういうことにしておこう。それよりも、今良い所なんだ。少し待つがいい」

 

「ふざけんな!教室戻るわよ!!」

 

「えぇい、私の邪魔をするな!私はこいつと今日こそ合体するんだ!!」

 

「が、合体とか言ってんじゃないわよ!!!」

 

 あー、なんだかなー、、、、、

 

 いろいろシリアスな部分とか台無しなのだが、とりあえず、またいつものように、オレの上で見苦しい戦いが勃発した。

 

「いつもこうだ。いつも貴様という奴は私の邪魔をする」

 

「当ったり前でしょうが!!学校でコイツとナニしようとしてたら止めに入るでしょ!!」

 

「いや、今日という日は我慢の限界だ。そろそろ貴様とは決着をつけたいと思っていた。ここで全てを終わらせてやろう」

 

「えぇ、いいわよ。やってやろうじゃない。対戦ルールは何にする??」

 

「じゃあ、今日はこれだ。ポッキーゲームで引導を渡してやる」

 

「え、えぇ、望むところよ……っ!?」

 

 ふっ……可愛いな、こいつら。

 

 不覚にもそう思ってしまった。




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ポッキーゲーム

 学校の保健室でポッキーゲームって普通じゃないよな。

 

 あまりに危険だ。命がいくつあっても足りやしない。ポッキーの日でもないのに、やっちゃいけないわコレ。いやポッキーの日でも保健室でやっちゃいけないんだが。風紀の取り締まりは厳重にされたし。危険、両端から食べるな。駄目、絶対……主に女子同士。特に美少女同士。

 

 というか、ベットに拘束されたオレの上に跨るオルタ達の構図がとても危険だ。一見してオレ役得じゃね?とか思ったりもしなくはないが、こんな事故現場を誰かに見られたら社会的に死ねる。身動きできないオレは真っ先に死ねるぞ。視界は暗くて何も見えないがな……一体全体どうやって視界を奪われているかを、わかっているオレが一番ヤバい状況下にいることだけは確かである。

 

 そもそも、保険医の先生とやらは何故ここにいないのか……止めてくれる大人は誰もおらず、まだ性に無知なアホ共によって禁断の百合の花が開花しようとしていた。

 

 他に決闘のやり方ぐらいあっただろうに……決闘にしてはチープ過ぎた。

 

 静寂な保健室に聞こえるのは少女2人が両端からポッキーを食べる音。そして、時々ベットが軋む音、時折2人から甘い吐息が漏れた声、おまけにオレのうめき声ぐらい。オレはアホ共の決闘の行く末を視界にとらえることはできないから、唯一情報を得られるのは聴覚のみであり、だからこそ音しか拾えないのでそれがまた情報処理していくとエロく聞こえる。

 

「ちっ、10本目も引き分けか。忌々しいな、突撃女」

 

「ど、どう?悔しいかしら、冷血女」

 

 とりあえず、ルールのおさらい。

 

 2人が向かい合って1本のポッキーの端を互いに食べ進んでいき、先に口を離したほうが負けとなる。もし、どちらも身を引かず、最後までお互いが口を離さずに食べ切った場合は引き分けとし、追加でもう1本勝負する。

 

 それが10回も続いていた。

 

 意外だった。犬猿の仲だっていうのにな、ジャンヌ・オルタはよく頑張った。アルトリアもコイツがここまで粘るとは思ってみなかっただろう。甘く見ていただろう。いろんな意味で負けられない戦いなのだ。

 

 ポッキーゲーム如きで負ける幼馴染ではない。

 

「埒が明かないな。次はもう少し攻めるとするか」

 

「ふん。かかってきなさいよ」

 

「言わずもがな。次、貴様にキスした瞬間に舌を入れてやる」

 

「「っ!??」」

 

 こ、この女、ぶっ飛んでやがるぜ......

 

 

 

 

 

 

 これ以上は過激のため以下省略。

 

 

 

 

 

 とりあえず、これだけは言わせてくれ……オルタ達が性に無知?とんでもない。オレは人生で何度目かの女って生き物に戦慄してしまった。

 

 このあと、ポッキー1箱分を全て食べ尽くして引き分けのままポッキーゲームは終了した。もうそれはドロドロで過激な戦いだったみたいだ。オレは何も見てないけどな。どうなったのかだけは全てわかっている。オルタは真っ白に燃え尽きてしまったぜ。お前はよく頑張ったさ。

 

 それに引き換えアルトリアはやりきった感を出して、光悦な笑みを浮かべていた。引き分けなのにな……

 

 とりあえず、結局は5時間目授業をサボったオレ達は教師たちに見つかり「藤丸、いい加減にしろっ」と理不尽にもお叱りをいただき、放課後に生徒指導室に呼び出されては反省文を書かされた。それで、オレは一応被害者みたいなもんだから1人解放され、クラスメイト達に背中を指さされては帰宅した。オルタ2人は保健室の風紀を乱した罪を償うために、学校のドブ掃除の刑で今も学校に居残りだ。

 

「ただいまー」

 

 もうオレのライフは0も残っていない。

 

 つまり、リビング到着した途端に活動限界を迎えるワケだけども。

 

「おかえりなさ~い。あら~?今日はオルタちゃんと一緒じゃないのかしら~??」

 

「ま、まぁ、いろいろと……」

 

「あらあら~、今度は一体全体何やらかしたのかしら~」

 

「………」

 

 す、鋭い……何かやらかしたか前提で疑う母親。というか、日頃の行いだよな!オレがオルタと家に帰ってこない時はいつもそう思われているらしかった。結局の所、黙っていても何故か学校から藤丸家に連絡が行くので絶対に母さんの耳に届くのだがな。

 

「ジャンヌとリリィは??」

 

「まだ帰ってないわよ~」

 

 そっか。平和で何よりだ。疲れてるからリビングのソファでぐっすり眠れるぜ。

 

「お母さんこれからスーパーだからお留守番よろしくね~」

 

「あいよー」

 

 ソファにダイブして寝るぞー。

 

「それとあなたの部屋に後輩の女の子が来てるわよー。うふふ~」

 

「は?」

 

 母よ、それを先に言おうぜ。

 

 うふふ~、じゃないだろ。オレがいないのに男子の部屋で待たせるとか。後輩の女子?誰それ?うっ、頭が………嫌な予感しかしない……

 

 オレはダッシュで2階へ駆け上がった。

 

「あっ、お邪魔してますよー。センパイ♪」

 

「やっぱりお前だったか、BBちゃん……」

 

 オレの部屋にいたのは小悪魔系後輩のBBちゃん。

 

 フリーダムというか我が物顔でベッドに寝転がっては漫画を読んでいて、こっちを振り向きやしない。足をゆっくりとリズム良くバタ足しては、次のページをめくっていた。

 

 なんというか、人を小バカどころか完全に見下したその態度に腹立たしくも思うのだがな……オレはそれよりも、バタ足する度にスカートの中が見えてしまっていて、そっちの方が気になっていた。

 

 というか、今まで何でオレはこの子の存在を忘れていたのだろう……たぶん、屋上から保健室に運びベッドに拘束したのはこの子だと思う。というか、この子しかいない。

 

 だから、オレは最大限の警戒した。こんな危険人物を一時とはいえ、存在を忘れてしまっていたことに警戒しないわけがなかった。

 

「へー、この物語の主人公くんは密航者であるヒロインちゃんを助けてしまったがために、なんやかんや世界を巡る戦争に巻き込まれていくんですね。センパイもいつか自由な空飛びたい系男子だったりするんですかー??」

 

「別に。物語自体は面白いと思うけどな。オレ自身、空より地に足付けときたいタイプの人間だぜ。そもそも、密航者を助けるとか、まずない」

 

「うわーロマンもクソもないつまらない人間ってことですねー。はい、BBちゃん知ってましたワラ」

 

「………」

 

 喧嘩売っているのだろうか。買っていいだろうか。今なら勝てる気も無きにしも非ず。ラスボスのオーラを醸し出す生意気な小娘を後ろからガツンと一発、ね。

 

「じゃあ、質問変えますけど…センパイがもしこの漫画のような主人公だった場合、密航者がBBちゃんだったら命がけで守ってくれますかー?」

 

「それは……」

 

「えー、その間はなんですかー?BBちゃんショックでーす。即答でオレが守ってやるぜってキメ顔で言って欲しかったんですけどー」

 

「ごめんな。BBちゃんなら主人公に守ってもらわなくても自分の力で世界の1つぐらい救えると信じてるから」

 

「ここにきて後輩最強説が浮上中!?センパイはいつもBBちゃんにドライだけど実は評価されていた!!これ、BBちゃん的にとてもポイント高いですよー♪」

 

 さて、オレはデスクの椅子に座って警戒は怠らない。

 

 くだらないやり取りかもしれないが、後輩の機嫌をなるべく損なわないようにしないといけないからな。いつ襲られるかわかったものじゃない。だって、そうだろ?保健室のベッドに拘束したのは九割九分五里コイツだぜ?

 

「それよりもさ、BBちゃん。オレ、お前に聞きたいことがいくつかあるんだけど」

 

「あーはいはい。センパイ的には早く本題入って欲しいんですよね。わかってますよ、そんなこと。でもでも、せっかちな男は嫌われますよー?」

 

「それでもいいさ。教えてくれよ、BBちゃん。なんで、今日あんなことをしたんだい?」

 

「それは、いつも言っているじゃないですかー。BBちゃんはセンパイ専用の後輩なんですよ。センパイのためにひと肌脱いであげたんです」

 

 そう言ってBBちゃんは次のページをめくった。

 

 相変わらず、顔は合わせてくれない。先輩想いの後輩の態度じゃないのだけはオレにだってわかる。だが、敢えて訊く。

 

「オレのため?」

 

「はい、センパイのためです♪センパイは彼女欲しかったんですよね?」

 

「だから、お手伝いしましたってか?」

 

「はい♪全力でサポートしてあげたつもりでーす☆」

 

 また、次のページをめくる。

 

「でも、せっかくあんな面白おかし……おっと失礼。とても素敵なシチュエーションまで用意してあげたというのに、このセンパイときたらヘタレちゃんでBBちゃんちょっとガッカリしました」

 

「ガッカリさせて悪かったな……」

 

「でもでも、そのおかげでポッキーゲームなんて面白いもの見せてもらえましたので、今回はBBちゃん個人的にお腹いっぱいです♪」

 

「どこからか見ていたんだな……」

 

「それは勿論。センパイある所に後輩ありですから…具体的には先輩たちが使っていたベッドの隣のベッドの下に隠れて一部始終観察していたわけですけど♪」

 

 な、なるほど。この子、こわっ。

 

「BBちゃんはセンパイのためなら、たとえ火の中水の中草の中森の中でもお手伝いしますよ♪センパイが彼女欲しいと希望するならBBちゃんが彼女候補を探してきますし、次々センパイの貞操を襲うようにそそのかしてあげますよ。センパイがハーレム学園を満喫したいというなら、学園の男子生徒を闇討ちしてでも男子人口を徐々に減らしてあげますよ。今からなら3年生に進級した時にクラスの八割を美少女達にすることだって朝飯前です♪ギャルゲー、エロゲー、オレTUEEEEしてみませんか?」

 

「いや、そんなことしなくていいから……」

 

「え。センパイってお〇ん〇ん付いてますか?男ですか?ハーレムお嫌いですか??」

 

「………」

 

 それは男子高校生にとって魅力的で恐ろしい提案なのかもしれない。これが夢だったら願わくばそういう選択肢もあったのかもしれないが……だが、これがリアルだ。

 

 そんなことやってしまえば、大切な人たちが悲しむだけだ。

 

 だから、オレにはいらない。

 

 そんな提案は拒絶する。

 

 だというのに……この後輩ときたら…………

 

「あっ、センパイ。次の巻、本棚から取ってくれますー?」

 

「………」

 

 さっきまでの提案などどうでもいいかのように、先輩をあごで使いやがる。本当に世話のかかる後輩だ。

 

 オレは先輩らしく本棚から次の巻を取り出し渡してあげた。しかし、それはブラフ。オレが警戒を少し解いて射程圏内に近づけるための口実にしか過ぎなかった。右腕を掴まれて引っ張られてベッドに引きずり込まれて仰向けのまま組み伏せられてしまった。

 

 BBちゃんはやはり先輩のオレを小馬鹿にしていた。

 

「油断しちゃ駄目じゃないですかーセンパイ。ほんと、弱っちくてどうしようもなくイジメたくなる生き物ですよね、センパイって。でも、まぁ、そこがBBちゃん的にはポイントが高いんですけど。とりあえず、私達もポッキーゲームをしてみませんか?」

 

「え、何故に……」

 

 先輩のオレは当然の困惑。

 

「BBちゃん、生まれてこの方センパイみたいなちっぽけな生き物とポッキーゲームなんてしたことないからですよ♪」

 

 BBちゃんは人を小馬鹿しながら器用にどこからか1本のポッキーを取り出しオレの口に刺した。

 

 目が「ポッキーゲームやらないとブタさんにしますよー?」的なこと言っていそうで怖いので大人しく従おうと思う。出会って間もない頃に脅されたことあるんだ。笑顔で「ブタ男にしてあげましょうかー?」って。そんな笑顔を今もしてらっしゃる。

 

「そりゃじゃあ、ポッキーゲーム。スタート―♪」

 

 BBちゃんがもう片方の端を咥えてポッキーゲームが唐突にスタートした。

 

 といっても、BBちゃんがパクパク食べていって迫ってくるだけなんだがな。顔を逸らすと後が恐ろしい。後輩女子とオレの部屋で何してんるんだろうなと思いながらも、唇と唇が接触する瞬間まで大人しくしていた。

 

 そして、2人が接触してゲーム終了。

 

 目を開いて少しビックリしていたのはBBちゃんの方だがな。

 

「さ、最後、自分から来ませんでしたか?センパイ」

 

「やられっぱなしは性にあわねーから」

 

「センパイのそういう所が女性を勘違いさせるんですよ。昔から……この女垂らし!」

 

「………」

 

 それはあんまりだ………いや、待て。サラッと流そうとしたが、BBちゃんはオレの昔のことなんて知らないはずだ。今年4月に知り合ったばかりで1ヶ月も経っていない……

 

 危ない、騙されるところだった。

 

 というか、知り合って1ヶ月も経っていない後輩女子とオレの部屋でポッキーゲームしたらアウトだろJK。また食卓裁判になる可能性も無きにしも非ず。

 

 で、BBちゃんはこう言った。

 

「でも、本当によかったんですか?三姉妹のためにファーストキス取っておいたんじゃ??」

 

「ファーストキスなら、とっくに終わってるけどな」

 

「ガーン。それは私のデータにありませんでした!いつの間に!!」

 

 まぁ、ガキの頃の話だ。

 

「ぐぬぬ、センパイはこのBBちゃんを本気にさせましたね!」

 

「えと……」

 

 ちょっとやり過ぎたか!?

 

「はい♪だから『普通』な学園ラブコメものを送れるだなんて思わないでください。覚悟してくださいねセ・ン・パ・イ

 

 本当に……この後輩ときたら…………

 

 オレ、いつフラグ立てたんだろう。




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主役級の人物紹介

藤丸立香(ふじまるりつか)

16歳

日本人

聖英学園2年5組

あだ名:ぐだ男

 

好きなもの:家族、普通

苦手なもの:普通じゃないもの

 

藤丸家の一人息子にして、『普通』の日常を送りたいだけの、どこにでもいそうな少年。

お隣さんちのジャンヌ三姉妹とは小学生の頃からずっと一緒にいて、それが『普通』で当たり前となっている。両親が忙しい三姉妹を大切な『家族』と思う程にシスコン。

しかし、外人幼馴染とかまず『普通』じゃないよな……と客観的に見て少しドライになる部分もある。

「普通の彼女が欲しい」と気まぐれに言っては三姉妹をけん制したり、性格に少し難あり。

 

長女・ジャンヌとの関係

自分では『幼馴染』と思っている。

が、長女は呪いや洗脳してくるように姉と言い続けてくるので、もう『姉』でいいかとなっている。

もはや、あざとカワイイ聖女様にしか見えない。

彼氏と上手いこといっていないのは自分のせいかと悩み心配するも、

他人の心配だけをしている余裕もなく、常に気を張っていないと、いつか姉弟の一線を越えてしまうんじゃないかと警戒している。

要は口で否定しているも少しは意識しているみたいだ。

 

次女・オルタとの関係

よくわからない。

姉でもなく妹とも思ったことは一度もなく、幼馴染でほぼ『家族』でしかないと思っている。

遊び友達感覚?ゲーム仲間??相棒??バイトも一緒にするし。マックにも良く行く。夏コミ冬コミに参加したりする仲。

だからか、一緒にいる時間が長いからか、恋心を抱くことが今までに一度もなかった。長女の言動にドキッとすることはあれど、次女にドキッとしたことがない。

流石に今の歳でお風呂入ったりオルタの裸をみたらドキッとするだろうが……それだけで恋に発展するはずもなく。そもそも、オルタに風呂突撃なんてする勇気があるとは到底思っていない。

しかし、一番息が合っている。

 

三女・リリィとの関係

お子様。カワイイ。癒し。

とりあえず、自分が認めた男じゃないとお付き合いさせないつもりだ。

そして、リリィのトナカイは自分だけだと自負している。

妹を可愛がることはロリコンではないと主張している。

以上。

 

最後に一言

「最近、普通じゃないと思ったことなんだけど……オレの知り合いに外人多くね?」

 

 

 

 

 

ジャンヌ・ダルク

16歳

フランス人

聖英学園2年1組

通称:ジャンヌ

 

好きなもの:弟、妹たち、家族、夏、イルカ

苦手なもの:勉強全般

 

ジャンヌ三姉妹の長女

普段は明るい性格で委員長気質、妹たちの面倒見が良く家族想いな少女。

史実の人物と同姓同名であるがために“聖女様”と呼ばれたり

隠れファンクラブもあるほど人気が高い

 

しかし、次女曰く「あざとい聖女様」である。

 

しかも、残念なことに超が付くほどのブラコン。

昔からお隣さんちの藤丸立夏のことを『幼馴染』というより『弟』のように可愛がるあまり

彼氏ができても弟ファーストする傾向にあるヤバい人。

 

高校生にもなっても未だに弟と一緒にお風呂入りたいとか寝言を言ったり

弟の貞操を心配したり、

持ち前のあざと可愛さで弟の心を揺さぶっては

よく暴走しがち……

 

なので、

暴走して藤丸の母親から説教されることがある。

現在、反省中につき、弟に迷惑かけないよう家でも学校でも大人しくしているようだが……

 

最後に一言

「お姉ちゃん、夏が来たら最強ですよ♪」

 

 

 

 

 

ジャンヌ・ダルク・オルタ

16歳

フランス人

聖英学園2年5組

通称:オルタ

 

好きなもの:絵を描くこと、漫画、ゲーム、藤丸家(ぐだ男の部屋)

苦手なもの:正義とかきれいごと、偽善者、冷血女

 

ジャンヌ三姉妹の次女

学校では『竜の魔女』と中二病な二つ名で悪目立ちする不良少女

時折、毒舌も混ぜたり、他人が言いづらそうなことも言う時はズバッと切り捨てる苛烈な一面もあり

人によっては近寄りづらいタイプなのだが……

 

ぐだ男曰く、「ツンデレチョロイン乙マジ卍バイブスいとあがりけりーワラ」とナメられている

 

幼馴染のぐだ男とは小学生の頃からの長い付き合いで、三姉妹の中で一番同じ時間を過ごしている

独占欲は強めで、しかし、彼のことが好きかと訊かれたら「別に」とそっぽを向くツンデレさん

とりあえず、他の女と楽しそうにしているのは面白くないから八つ当たりはするらしい……

 

あと、悪友の冷血女にも頭を悩ましているとのこと。

 

最後に一言

「アタシがアイツのことをどう思おうが別に勝手でしょ。デュヘインするわよ?」

 

 

 

 

 

ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

9歳

フランス人

小学4年生

通称:リリィ

 

好きなもの:トナカイさん

苦手なもの:トマト、ニンジン、ピーマン、ブラックコーヒー

 

ジャンヌ三姉妹の末っ子。とにかく、カワイイ。

ぐだ男のことを『兄』と慕って『トナカイさん』と呼ぶ。

 

姉二人と違ってしっかり者で、

しかし、最年少なため少し背伸びしてしまう傾向がある。

子ども扱いすると頬っぺたを膨らませて怒ったりもする

 

口癖は「ロジカルです!」

 

最後に一言

「“駄目な2人の私”にヒロインの座を簡単に譲る気はありません!」




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リリィのほっぺたをつんつん

 土曜日の朝のこと、リリィはうちに来て学校の宿題をしていた。

 

 勉強嫌いな姉共と違ってリリィは偉いな。今日の午後から友達と公園で遊ぶ約束をしているらしいから、それまでに終わらせたいんだとさ。とても良い心掛けだよな、オレも助力しよう。わからないところがあったら、なんでも答えてやるからな。トナカイの手も借りたいとはよく言ったものだ。

 

 オレはマグカップを片手に隣で待機した。遅めの朝食にハムエッグトースト食べて、コーヒーを飲んで。リリィの様子を見てみると漢字ドリルと睨めっこしているのだ。

 

 おいおい、最高の朝かよ。

 

 このお子様が宿題に奮闘する光景はいつ見ても癒されるぜ。次女がここにいたら「このロリコン野郎」と罵ってくるだろうが……しかし、尊い。だから、意地悪したくなるんだよなー。

 

 頬っぺたつんつんしてみようか。つんつんとな……

 

「むぅー」

 

 むぅー…だってさ。

 

 なんだよ、それ。つんつんしただけなのに、反応がクソ可愛すぎるんじゃありませんか。邪魔しないでくださいって頬っぺたを膨らまして流し目で訴えかけくるんだけど。でも、ちょっと嬉しそうにしているリリィたん。構ってもらえて嬉しいんだろ。そう思ったらもっとツンツンしたくなるんだけど。宿題の邪魔しちゃ駄目なんだろうけど、兄としてサイテーかもしれないが、駄目だもう我慢できない。

 

 頬っぺたモチモチ赤ちゃんのような肌触りが何より癖になってしまう。こんな頬っぺた、長女や次女じゃ味わえないぞ。

 

 これはカワイイ妹が持った兄の宿命みたいなものなのだから是非もないよネ。

 

「つんつん」

 

「もぉ……」

 

「ほれ、つんつん」

 

「ぶぅー……っ」

 

「ははっ、冗談だ。ほら、リンゴ食うか?」

 

「当たり前です。対価はちゃんと支払って貰います」

 

 可愛いな―、可愛すぎるぞこの生き物。

 

 小皿に乗ったリンゴをフォークに刺して、リリィに「あーん」してあげる。“くし形切り”のやつな。それで、ちょっとは機嫌直してくれよな。

 

「で?宿題はどんな感じなんだ?」

 

「難しいですよ。これが小学生の今の宿題か!?って、トナカイさんは腰を抜かすと思いますよ」

 

「つっても小4レベルのドリルだろ?たかが知れてる……って」

 

 と言って、ちょこっとドリルを拝借して絶句。

 

衣不重帛(いふじゅうはく)……贅沢をせずに慎ましくすること。

 

烏兔匆匆(うとそうそう)……歳月が速く過ぎ去るたとえ。

 

紆余委蛇(うよいだ)……山や林がうねうねと屈曲しながら長く続くさま。

 

雲雨巫山(うんうふざん)……男女の情交をいう。

 

「そうか。最近の小学生はいろいろ進んでるだな……」

 

 一石二鳥とか簡単なやつじゃないんだな。男女の情交とか小4に教えちゃ駄目だろ。

 

 オレはドリルを閉じてそっと返すのであった。

 

「トナカイさんの世代が遅れているだけですよ。今の小学生はこれぐらいこなしては、さらに3か国語ぐらい余裕なんですからね」

 

「マジですか!??」

 

「とにかく、宿題中なので邪魔しないでください。ツンツンも禁止ですっ」

 

「ほーい」

 

 つーか、オレいらなくね?トナカイの手借りる間もなく宿題は終わりそうだ。

 

 だから、暇を持て余したオレは次に頬っぺたを摘まもうと思った。無性にそうしたかったのだ。

 

「むぎゅ」

 

「………っ」

 

 こんなにもっちり肌を放っておく方が悪だろうか。

 

 わかりやすく、声付きでリリィの頬っぺたを軽く摘まんでやった。しかし、リリィは我慢してドリルに専念している。スルーされた。

 

 我慢対決かな、お兄ちゃん的にスルーはショックなので、次は引っ張ってみた。どこまで伸びるかなー?

 

「むぎゅ~」

 

「………っ」

 

「びよよーんで草」

 

「うぅぅぅううぅううう………っ」

 

「……って、うそうそ冗談だって」

 

「むぅーーーー………っ!!」

 

 ポカポカ叩かれた。両手でポカポカ。何をしてもリリィは可愛いな。

 

「ほら、リンゴもう1つやるから怒るなって」

 

「それだけじゃ足りません。そっちのゼリーもっ」

 

「はいはい」

 

 涙目だが、それもカワイイとしか言いようがない。

 

 オレの朝食のデザートがことごとくリリィに胃袋に投入されてて草。コンビニで売っているようなカップゼリーを開封しスプーンですくってやる。

 

「ほら、リリィ。あーんしろ」

 

「こんなことで許されると思ってるんですか、まったく……」

 

 なんて文句垂れてるけど、しっかり「あーん」はするんだな。照れ隠しに怒ったフリするリリィたん。やばたん。

 

「最近トナカイさんは“駄目な方の次女”に似てきてたと思うのです。イジワルです」

 

 それはリリィが可愛いから仕方が無いんだが。

 

 リッチなブラックを飲んで大人の余裕を見せるオレ。しかし、内なるオレはリリィの頬っぺたをツンツンしたいと疼いている。などと、今か今かとタイミングを計ろうとしていたのだが……

 

「立香ー、リリィちゃんの邪魔しちゃだめよ~」

 

「あ、はい。すみませんした……」

 

 リビングで通販番組を見ていた般若(はは)がこっちへ振り向いた。こわっ。

 

 注意勧告が出てしまったものは仕方が無い。

 

 あと1回が限界だろう。タイミングだけは間違えるなよ、オレ。

 

「リリィ、オレンジジュースも飲むか?」

 

「むっ……」

 

「欲しいだろ??それともコーヒー飲むか??」

 

「私がブラック飲めないとでも?もうお子様じゃありませんよ!」

 

「じゃ、飲んでみな」

 

 オレの飲み差しだが渡してあげると、恐る恐る一口飲みんでは、

 

「うぇ…やっぱり苦いです」

 

「そっか…じゃ、オレンジジュース取ってくるからちょっと待ってな」

 

 まだブラックは駄目だったみたい。リッチなんだけどなー……オレは席を立ち冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してお子様用のコップに注いでやった。

 

 止めを刺すなら今か……

 

「ほら、オレンジジュースだぜ」

 

「今に見ていてください。10年後には克服してみせますからねっ」

 

「はいはい、期待して待ってますよーからの両方の頬っぺたつんつん攻撃ー」

 

「ぶふっ!?ひ、人がジュース飲んでる時に何してるんですかーーー!?」

 

 隙だらけだった無抵抗のリリィの頬っぺたを両側からツンツン攻めてやった。そしたら見事ジュースをちょっと噴き出した。狙い通りで、それはもうブサ可愛いのなんのその。

 

 リリィは激おこぷんぷんしているがな。

 

「わかりました。そっちがその気ならこっちにも考えがありますから」

 

「へー、それは面白い。またつんつんされるのが関の山だぜ?」

 

「その余裕も今の内ですよ。トナカイさん」

 

 ずずぃっと詰め寄ってくる。息がかかるほどの至近距離。ニヤリと笑い足をこついてくる。嫌な汗が背中に流れた。オレは眠れる獅子を呼び起こしてしまったのかもしれない……っ!?

 

「トナカイさん、昨日の件ですが……あの約束は無かったことにしましょう」

 

「な、なんのことを……いや、まさかBBちゃんのことか!?」

 

 まさか、そういうことか……

 

 昨日、放課後に突如乱入してきたBBちゃんは、あれからすぐに帰っていったわけだけども……帰りしなに玄関先でリリィと出くわしていたのであった。

 

 一番顔合わせさせたくなかった組み合わせだったのだがな。あの時はBBちゃんも「カワイイ妹さんですね、食べちゃうぞ☆」ぐらいしか冗談言わなかったし、リリィにもちゃんと説明したわけだけども。

 

 オレはリリィにこう言ったのだ。長女と次女には黙っててくれとな……そして、その約束が無効になってしまった。

 

「そうですよ。BBちゃんって人です。なんですか、BBって。改めて訪ねますが、あだ名で呼ぶ中なんですね」

 

「き、昨日も言っただろう。ただの後輩だって」

 

「本名は何て言う方なんですか?」

 

「さ、さあ?」

 

「さあ……って、本名も知らない後輩を家にあげたのですか?ヤバくないですか?」

 

「確かにヤバいな……」

 

 家に入れたのは母さんだけども。

 

 言われてみれば普通じゃない。

 

「で、そのBBさんとやらと何してたんですか?エッチなことですか??」

 

「い、いや、オレの持ってる漫画について話してただけだよ。BBちゃんが漫画貸して欲しいっていうからさ(嘘)」

 

「百歩譲ってそういう話の流れだとしても、本当にそれだけなんですか?」

 

「も、もち…の、ろん」

 

 ポッキーゲームをしたとか言えない……っ

 

「ふーん、でも、やはり信じられませんね。昨日、あの後こっそりトナカイさんの部屋確認したら、ベッドから知らない女の人のニオイ、たぶんBBさんのニオイがプンプンしてましたよ」

 

「そんなバカな!?アイツそんなニオイきつかったか……っ!??」

 

「なんですか、その反応は。正直に言ってみてくださいよ!後輩のBBさんとベッドで何してたんですか!!何もやましいことなければリリィにも同じことできますよね!!さあ、今からトナカイさんの部屋で実践してもらいましょうか!!それとも食卓裁判しますか!!」

 

「あわわわわわ……っ」

 

 女の子って怖いね。

 

 オレの両方の頬っぺたをむぎゅっと可愛らしく掴んでは力の限り引っ張ってきた。

 

 まだまだお子様だと思っていたリリィもすっかり姉たちに似てきて逞しくなっちゃって……そんなにぷんすかぷんすか頬っぺた膨らましちゃって……リリィ、恐ろしい子っ!!

 

「ふっ、今日はオレの負けだ……リリィ」

 

「それじゃ罪を認めるんですね……やっぱりエッチしてたんですか!!?」

 

「ふっ、お子様なリリィには10年早いお話ってことぜ草」

 

「またそうやって子ども扱いする!!私はもうロジカルな大人なのですからね!!」

 

「じゃあ、今から2階で昨日してたこと実践してみるかい?」

 

 ポッキーゲームだけどな!!

 

「そ、それは……」

 

「わはは、できるはずないよなー!!はいそこで油断しない、隙だらけだぜツンツン攻撃!!」

 

「ふぁっ!?や、やりましたねーーー!!」

 

 オレもお返しに頬っぺたを両側からつんつんしてやった。つんつんして、むぎゅっとして、サンドイッチして、欲望の限りモチ肌ほっぺたをこねくり回してやったわ。リリィの宿題もそっちのけで頬っぺたこねくり合戦は続くのでしたとさ。

 

 つーか、高2が小4相手に何してんだろ。

 

 いろんな人から怒られた。




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『姉』という隣人

 オレのお母様は偉大である。

 

 偉大というか、鬼ババというか、絶対的な存在というか、般若というか、畏怖そのものというか……つまり、何が言いたいかというと、リリィとの頬っぺたこねくり合戦をして宿題を邪魔したことについて説教され、わたくし藤丸立香は大いに反省しております。えーえー猛省しておりますとも。

 

 もう、それはありがたい説教を頂きましたね。

 

 小4の女の子とじゃれあうのも度が過ぎると犯罪になる?そりゃそうだ。兄の立場を利用して妹を好き放題したら駄目?そりゃごもっとも。お前、リリィが変な性癖に目覚めたら責任取れるのか?そりゃ無理だ……よって、小一時間ほどお尻をシバかれた。高2がお尻丸出しで母親にひたすら叩かれるだなんて、誰が想像できただろうか。「アウッ」とか「オウッ」とかふざけているワケじゃないんだけど「アヒーッ」とか情けない悲鳴を漏らして醜態をさらけ出す男子高校生がどこの世界にいるというのだろうか。

 

 正直、何言っているのかオレもわからないが、これだけはわかる。お尻が腫れて痛い。

 

 久しく忘れていたぜ、あの強烈なビンタを。アレを知っているのはオレとオルタぐらいなものだ……せめてもの救いはオルタがすべてを察してリリィを連れて昼飯時前に家に一度戻ってくれたことだろうか。リリィにはアレはまだ早い。アレは最後の瞬間、白目になって股間を濡らすのだから……

 

 とりあえす、オレは自室で反省中。お尻が痛くてうつ伏せでベッドに寝転がり枕を濡らしていた。もうお嫁にいけないなどと、思ったり思わなかったりで、身動きすることなく、ただただお尻の痛みを少しでも沈静させて和らげなくてはならなかった。

 

 オルタのやつ、オレがこんな状態でも昼から出かけるとか言い出したからな。容赦ないわー、マジで。

 

 などと、このケツの痛みからオルタに八つ当たり気味に悪態をついていると、ドアがノックされた。まさか、母ちゃん!?まだオレのプリティーなケツ叩きが物足りなくやってきたのか!??とも身構えたが、ノックした主はどうやらジャンヌだった。

 

「り、立香くん……入りますよ」

 

「………あ、うん」

 

 最近気まずいから入ってきてほしくないんだけどな。なんか、しおらしいというより弱々しく、自分のあざと可愛さに自信を無くしてしまった聖処女様である。

 

 手には救急箱を持っていた。

 

「あの……お尻、痛いと思って」

 

「テキトーに置いといて」

 

「あ、はい……」

 

 ………。

 

 とりあえず、起き上がろうとしたが、まだ痛くて態勢が崩れてこけた。あと30分、動きたくないや。で、そんな情けない所を見せてしまったがために、自称・姉は変な使命感に燃えることになった。

 

「お、お姉ちゃんが湿布貼るの手伝ってあげましょうか?」

 

「いや、1人で貼れるから、手伝わなくていいって……」

 

「これをこう剥がして……え、えと………こ、こうでしょうか?え、あ、指にくっついて……あれれー??」

 

「人の話聞いてる?遊ぶなら他所でやってくれません?」

 

「あ、遊んでなどしていません!」

 

 しかし、一気にめくってしまった為に粘着部分がよれよれに片手に張り付いたり、粘着部分同士がくっついたり、離れなくなったり、無理に手を振って余計に絡まったりして団子を作っていた。

 

 終いにはオレに助けを求めてきた。

 

「り、立香くん……」

 

「……はいはい」

 

 もうイラっとしかしませんでしたな。

 

 ジャンヌの右手に付着した団子もどきはゴミ箱行きとなった。とても申し訳ない顔がまたオレをイラつかせるだけなんだが……この聖処女様、まだ続けようとしている。とにかく、オレのお尻に是が非でも湿布を貼りたいみたいで、二枚目を救急箱から取り出して、また同じ過ちを繰り返そうと、一気に粘着部分をさらけ出した。

 

 今度は慎重に両手でつまんでいるけど、どうやってオレの尻に貼るつもりなんだか……オレがこいつの目の前でズボンを下ろしてスタンバイするとでも思ったのだろうか。

 

 今の気持ちをコイツに伝えれたらどれだけ気が楽になれただろうか。オレは怒鳴らないように自制して、なるべく心を落ち着かせて、敢えて姉が失敗するところを見届けて次に言う言葉を考えた。なるべく、穏便にだ……

 

「あの……」

 

「なにさ」

 

「お、お尻、ズボンとパンツをズラしてくれないと貼れないのですが……」

 

「………」

 

「き、聞こえてますよね?」

 

「聞こえてるよ。聞こえた上で無視してんだよ……そもそも、彼氏持ちの姉のすることじゃないだろ。それでも貼りたきゃご自由に。でも、それ失敗したら次はないからな」

 

「うぅぅぅううぅうううっ……」

 

「………」

 

 ジャンヌは両手に湿布をつまんだまま、オレの部屋を後にした。

 

 うわー、なんだよアレ。ガキかよ、リリィじゃあるまいし、調子狂うわー。あざと可愛くない聖女様なんて嫌だわー……などと、悪態をついていたら般若を連れて戻ってきやがった。

 

「立香~。湿布をお尻に貼るのはジャンヌちゃんよりお母さんの方がいいのかしら~?あらあら~四つん這いにしてヒーヒー言いたいのかしらね~この子ったら」

 

「あわわわわわっ、ジャンヌでいいです!」

 

 お許しをっ。どうかお許しくだされー……

 

 指をボキボキ言わせてやってくる母を追い返しては、オレは渋々ズボンとパンツをズラしてうつ伏せになった。完全にケツをきゅっと閉じて大事なマイサンがはみ出さないように……ほんと最悪だ!!

 

「とても痛そう。だいぶ腫れてますね……湿布する前に氷で冷やした方がいいみたいです」

 

「は?」

 

「ちょっと準備してきますねっ」

 

「は……??」

 

 オレのケツは自分が思っていたより酷く腫れていたみたい。

 

 ジャンヌは濡れタオルを一枚、オレのケツに薄く敷いてはその上から氷が大量に入ったスーパーの袋を当ててくれた。

 

 ま、まあ、悪くはない……ケツも見られないで済むからな。しかし、ジャンヌはスーパーの袋を当てるが故にすぐにオレの部屋から出て行ってくれそうにないんだよな。これが……

 

「悪かったな……さっきは邪険に扱って」

 

「い、いえ……」

 

「……でも、オレ、昼から出掛けるんだけど」

 

「オ、オルタとですよね。じゃあ、それまで、お姉ちゃんが付きっきりで冷やして看病しますから。それで、オルタが来たら湿布を貼りましょう」

 

「……わかったよ」

 

 早く、オルタ来てくれないかなー……逃げ道が完全になく気まずい時間は続くのであった。

 

「きょ、今日はどこに出掛けるのですか?」

 

「え……あ、あぁ。昼飯食べてテキトーにぶらつくんじゃね?ゲーセンとか……」

 

「………………………ずるいですよ、オルタばっかり」

 

「………」

 

 あの、小声でそういう反応やめて欲しいんだけど。返事に困る。下手に言えないし。

 

 ベッドのスプリングがぎしりと軋んだ。居心地悪さに身じろぎしたのはオレだけじゃないと思う。

 

「今日は……早く帰ってきてくださいね。GWの予定、決める日ですから」

 

「あー、おう……たぶん大丈夫だと思う」

 

「お母さんも、今年も立香と一緒に過ごせる日ができたのが嬉しいみたいで、朝からはしゃいでましたよ」

 

「そか……喜んでくれて何よりだよ、オレは」

 

「去年は男1人のハーレム旅行でしたよね。お母さん、立香に凄く積極的でそれを皆で止めに入って。もう大変でしたよね」

 

「あぁ、そうだったな……」

 

 酒豪の母さんはともかく、おばさんは酒に溺れるタイプだ。あの日の出来事は藤丸家・ジャンヌ家で封印された思い出となってしまった。とくにおじさんには言えないハプニングだらけだったからなー……

 

 懐かしい思い出には変わりないが。

 

「今年も沢山想い出作りましょうね」

 

「おう」

 

「で、できれば……お姉ちゃんと2人きりで、どこかお出かけできたら嬉しいのですが……」

 

「……ジャンヌにはジークがいるだろ」

 

「ジ、ジークくんはジークくん。立香は立香ですよ。恋人と弟では思い出の作り方が違いますっ」

 

「あっそ………好きにすればいいさね。もう」

 

 今、これ以上言っても無駄かなと思った。もうオレは何も言わん。一応、時間作れるかは考えておくことだけは伝えたつもりだ。

 

「あ、GWの弟くんとの思い出といえば。小学校の頃にもこんなことありましたよね」

 

「は?あったっけ?」

 

「立香がおば様に怒られてお尻腫らしたということではありませんが。キャンプ場で転んで尻もちついて怪我したじゃないですか。その時、手持ちの絆創膏で貼ってあげましたよね。覚えてますか?」

 

「あぁ……ははっ、そんなこともあったな」

 

「ふふっ、もう立香ったら2人きっりだっていうのに恥ずかしがって、中々お尻向けてくれなくて血もドバーって出るところでした」

 

「いやいや、誰もいないと言っても外だぜ?しかも、5年の時だろ?流石に女子にケツ見せるの恥ずいだろ」

 

「でも、結局あの日、ロッジでオルタもリリィも私もまとめて一緒にお風呂入って、あなたのお尻ぶりぶり変な踊りまでしてたじゃないですか」

 

「あ、あれはもうやけくそっつーか、オルタが無茶ブリするからだって」

 

「あの時、初めてオルタが私達家族の前で笑ってくれた日でした」

 

「ツボってたよなー、アイツ」

 

「うふふ、そうですね」

 

 うん、割とシャレになってないハプニングなんかもあの後に起きていたよな。

 

 昔話をしていく中でいつの間にかオレ達は変に意識することなく、これが『家族』やら『姉弟』かというように1つの思い出を共有し語り合った。気まずい空気がどこかへ飛んで行った。

 

 ほんと、バカらしい。

 

「昔はあんなに可愛らしかったゾウさんだったのに、今では凶暴なエレファントマンモスさんですもんね、立香は。お姉ちゃんもドキドキしているんですよ。な、なんちゃって……///」

 

「………」

 

 あー前言撤回。

 

 やっぱり『姉』という生き物とは一生分かり合えないかもしれない。

 

「あー、そ、そういえば……立香のお部屋にお邪魔するのは随分久しぶりな気がします」

 

 急な話題転換は常套手段だ。特に普通だ。ジャンヌの調子がいつもに戻っただけでおも、今は目を瞑っておこう。

 

「弟くんの部屋……スーハ―スーハ―///」

 

「……深呼吸するなよ」

 

「むっ、いいじゃないですか。減るものなんてないんですし」

 

「酸素は確実に減ったけどな」

 

「お、お姉ちゃん、やっと立香と久しぶりにこうしてお喋り出来て分かり合えたと思ったに……まだ弟くんに注ぐ愛情が足りませんか!!」

 

「い、いえ……」

 

 め、めんどくさい聖処女様だこと……

 

「やはり落ち着きます。オルタがここを独占するのもよく分かりますよ」

 

「そ、そか……」

 

 できれば、自重してほしいのだが。

 

 聖処女様はクンカクンカ、こっそりしているつもりだろうがオレにはバレバレの行為をしては……

 

「クンクン……ん?あれ?」

 

「………」

 

「スンスン……弟くんのベッドから知らない女の人の匂いがするんですけど…………」

 

「………」

 

 ………。

 

 嘘だろ……気のせいでは?というか、気づかれた?昨日の話だろ、まだ残り香が……っ!?

 

「オルタでもリリィでもおば様でもあるいはうちの母という線も考慮しましたがその誰でもない匂いがするのですが嘘ですよね嘘だと言ってくださいよ立香お姉ちゃんショックです」

 

「………」

 

 に、ニオイするか?そんなにBBちゃんのニオイってキツいのか??

 

 などと、考えている場合じゃなかった。ジャンヌの目のハイライトが消えかかっているんだけど……まためんどくさい展開になりそうなんだけどもっ。

 

「ま、まさか、立香……誰かとシたんですか?お姉ちゃんに黙ってナニしちゃったんですか!?」

 

「………も、もし、後輩の子と(ポッキーゲーム)したって言ったら?」

 

 なーんちゃって。

 

「お、おおおおおおおお姉ちゃん、赤飯炊いてきますねっ。ふぇ~ん」

 

「あ、ちょっと、嘘……なんだけど…………っ」

 

 オレの制しの手も空を掴み……

 

「せ、せめて、湿布貼っていって欲しかった」

 

 うわー、やっちまった。

 

 この嘘がのちにあんな波紋を呼ぶことになるとは今は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時刻は13時。

 

「で、アンタはケツ丸出しにしてナニしてんのよ?」

 

「違うんだ、オルタ。これには宇宙誕生の秘密よりも深い理由があってだな……」

 

 このあと、尻丸出しで放置されたオレを次女オルタに発見されるのでした。

 

 ちゃんちゃん。




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神父×麻婆豆腐×JK

 オレはまだ痛むお尻を心配しながら、オルタと遊びに出掛けるのであった。

 

 昼食は外で取ると母さんに伝えており、オレ達は電車に乗りいつもの遊び場へ目指した。まー、遊び場つっても新宿なんだけども。どうせ、いつものようにゲーセンだろうけど。メダルゲー楽しいよなー。

 

 でも、オルタの今日の目的は違った。

 

「なにここ?」

 

「神父が作る麻婆豆腐が映える店らしいわよ」

 

「へー……」

 

 店の中に入りテーブル席に通されたオレはオルタからそんな説明を受けた。

 

 ここは神父が営む中華料理屋だってさ。ザ90年代な古めかしい内装。従業員はたった1人なもんで、広さもそれほどなく、サラリーマン辺りのおっさん常連客ばかりが好きそうなイメージなんだが、それは偏見でしかないようだ。

 

 この店の売りというかコンセプトがあるそうで、ターゲット層は若い女性に、特にJKに的を絞っているらしく、店1番のオススメ料理である麻婆豆腐がJK共にウケるらしい。そして、神父×麻婆豆腐×JKの絵が映えるとかで、店に来たら麻婆豆腐を頼んでSNSにアップするのが今の新宿JKの流行りだとか。しかも、JKであれば麻婆豆腐半額とかっ。マジかよJK。

 

 確かに店内を見渡すといろんな学校の制服姿のJKばかりいるんだよなー。新宿民でもないオルタもそれにちゃっかり便乗したいらしく、学校指定の制服でやってきたわけだ。ちなみに、オレも制服なのは命令されて着せられたからだ。

 

 とりあえず、注文しようぜ。

 

「すみませーん。麻婆豆腐と麻婆ラーメン。それから、餃子2人前くださーい」

 

「承った。しばし待たれよ」

 

 神父さん、渋い声だな。そりゃ、おじ様好きなJKにはたまりまへんわなー。

 

 オルタもこういうおじさんが好きなのだろうか……だとしたらヤバいな。

 

「え、なに?」

 

「別に……」

 

「でもアンタ、失礼なこと考えてたよね」

 

「……エスパーかよ」

 

「そりゃわかるわよ。何年アンタと一緒にいると思ってんのよ」

 

「そーだな……」

 

 こいつ、さらっと言うよな……

 

「いや、お前のタイプってどんな人かなと思ってさ」

 

「は?な、何よ今さら……そんなの、なんでアンタが気にするのよ…………」

 

「いや、おじさん好きならオレも放っておけないし。円〇とかしてないよな?パパ活とか絶対してないよな!!」

 

「ど、どんな心配してくれてるのよ、まったく……」

 

 そんなわけないでしょ、と一蹴されたのでオレも一安心である。

 

「それよりGWはどうするのよ。今の内に予定決めないとアンタまたひどい目に合うわよ?」

 

「うっ……頭が…………」

 

「母さんも張りきってたしね。また町内会の旅行に連れていくんだーとか言ってたわ」

 

「……やべーよ、それ」

 

 頼光マッマ。ブーティカママ。マタハリママ。エレナママ。巴さん。メディア夫人。オマケに般若にジャンヌママ……あぁっぁああああばばばっば何も思い出したくねぇええええ。

 

「まぁ、流石に嘘だけど」

 

「嘘かよ。あまりシャレになってねーよ。二度と行きたくねーよ」

 

「アレは完全な拉致だったわよね。流石に同情するわ」

 

「……今度は助けてくれよな」

 

「アンタ次第よねー。今晩マッサージよろしくー」

 

「はいよ……」

 

 この世は弱肉強食だ。

 

 だから、弱者は強者に媚びを売るしかないのである。

 

「おまちどうさま。麻婆豆腐と麻婆ラーメンに餃子2人前だ。冷めないうちに食べなさい」

 

「こ、これが噂の……」

 

「……とりあえず撮るか」

 

 テーブルに置かれたマグマのようにぐつぐつ煮えたぎる赤い麻婆豆腐と神父とJKの絵が必要なんだろ??

 

 ドン引きなオルタを急かしてオレはスマホを取り出した。神父も慣れたもので、オルタの横に並び屈んではフレームに収まってくれた。オレがシャッターを押すたびにポーズを変えてくれる。オルタはそれを確認してオッケーを出す。オレも1枚1枚確認してみたが、オルタの奴は全部笑顔が引きつっていたがな。何はともあれ当初の目的は達成して満足していたようだ。

 

 しかし、これで終わりではない。

 

 これからオレ達はこの明らかに辛いであろう麻婆豆腐を食さなければならない。オレは麻婆ラーメンとかふざけた料理を頼むんじゃなかったと後悔した。餃子も2人前胃袋に入れる自信がないんだがな。

 

 なかなか神父さんが厨房に戻ってくれないことから察するに、一口目の感想でも待っているのだろうか。

 

「「いただきます」」

 

「うむ」

 

 とりあえず、プレッシャーはあるが、一口……オレはレンゲで麻婆をすくって口に付けた。オルタもええいままよと一口パクリと食べる。

 

 そして、時が止まる。店内は騒がしいというのに、まるで自分達だけが世界から切り離されたような錯覚に陥った。

 

 要するに滅茶苦茶辛くてスプーンを持つ手を止めたということだ。

 

「か、辛~~~~っ!??」

 

 水っ、みずーーーっっっ……

 

「で、でも、味は今まで食べたことないぐらい美味しいわっ」

 

「こ、これが本場の味とでもいうのかっ」

 

「駄目っ、箸が止まらないわっ」

 

「待てオルタ。お前、それを言うならレンゲが止まらない、だろっ」

 

「でもアンタは箸でラーメンも啜ってるじゃないっ。何よその組み合わせズルいわ美味しそうねっ。ちょっと一口よこしなさいよっ」

 

「あぁ、食べてみろよ。マジなにこれ麻婆と麺が絡み合うだけでこんな美味しいもんになるのかって感じでさーまじバイブスいとあがりけりーって感じだぜ」

 

「ズズー……アンタ食レポ向いてないわ。でも、美味しいわっ何これ箸が止まらないもの勝手に手が動くのよっ……ズズーっ」

 

「おいおいそんなに食べたらオレの分なくなるだろ。それよりも、お前汗ヤバいぜ」

 

「そういうアンタも汗ヤバいわよ。ちょっとエロいんですけど……あ、嘘よ?冗談ですっ。こほんっ。まーそんなことより。はい、アンタの分返すわ。もう半分食べちゃったけどね」

 

「うわホントだ、オレの麻婆食べ過ぎだろっ……!!?」

 

「だったらアタシの分少しあげるわよ。皿に移すわよ??」

 

「あぁ、当然だろ。オレの麻婆をすみやかに返せ。お前が食べた分だけ麻婆を麺にかけてくれっ」

 

「はいはい、アタシが食べたのはこんだけよ……」

 

「あれ?レンゲ一口分??お前コノヤロー」

 

「うふふっ、さて何のことかしらー」

 

「あははっ、こいつめー」

 

「うふふーっ」

 

「あははーっ」

 

 などと、麻婆の取り合いに発展した。どこのバカップルのやり取りなんだか、、、、なんて恐ろしい麻婆なんだろうか。麻婆に魅力され理性を失う者たちの美しくも醜い小競り合いである。仲良く取り合いしているように見えるがオレ達の目は笑っていないからな。ガチだからな。

 

 これ、もっと世に出回ったら戦争に発展しないか?それぐらいエグいんだぜ?麻婆兵器か何かだろ。

 

「少年少女たち。麻婆豆腐の取り合いもいいが、餃子も食べてみてくれ」

 

「おっと悪い。見苦しい所を見せちまった」

 

「なに。今のやり取りで、どれだけ美味しく食べてくれたか十分に伝わったぞ」

 

「それじゃ、餃子もいただきますかー」

 

「ええ」

 

 お互い、一時休戦して小皿を2人分用意した。

 

 醤油を入れラー油を入れて1つはオルタに渡しては、さっそく餃子につけて口に運んだ。

 

「な、なんじゃこりゃーーーっ!!?」

 

「な、中に麻婆……!?」

 

「どうだね。麻婆餃子のお味は」

 

「凄く辛いけど最高だ……っ」

 

「あぁん、口の中がピリピリして涎が止まらないじゃないっ」

 

「それはよかった」

 

「はぁはぁ、あちぃー脱ぐか、、、、」

 

「う、うくぅ、ア、アタシも脱ぐわっ。そして、麻婆餃子おかわりするわっ」

 

「承知した」

 

 これが神父の狙いか。まずはド定番な麻婆豆腐をオーダーさせて、そこから麻婆の激辛に、美味しさに、奥ゆかしさに触れ味わい他のメニューにも手を出させる作戦なのかもしれない。

 

 こんなの普通じゃねーよ。しかし、この時ばかりは普通じゃできない麻婆がここにあんだね。

 

 オレ達はブレザーを脱いでブラウスもボタンを外していく。神父がタオルを用意してくれていたらしく、それを受け取って1度汗を拭いた。

 

 そして、ここからだ。

 

 残りの麻婆ラーメンをノンストップで啜り麻婆も豆腐も全部胃袋に流し込んだ。エグいほど辛いんだが箸もレンゲも止まることはなかった。頭が真っ白になってスパークして無我夢中で手と口だけが動いていた。

 

 鼓動が高まり完全にハイッてやつだぜ~。

 

 そんでもって、追加した麻婆餃子が届きオレ達はすぐさま食らいついた。

 

「くっ、ビンビン来てやがるぜ」

 

「ア、アタシもキてるわっ」

 

「これ以上駄目だってわかってるのに箸が止まらねぇっ。あひっあひーっ」

 

 できたてで熱いんだよ。口の中で麻婆が踊る踊る。それが快感で堪らない。やめられないっ。

 

 オレ達は食事をしているはずだよな。しかし、この快楽はやめられず、性に無知なオレ達は新しい世界を開いてしまったのかもしれない。

 

 もうぶっちゃけ目の前のオルタがエロい。普段はなんとも思わない幼馴染が久しぶりエロく見えた。多分、それはオルタも同じこと思ってるんだろうけど。それはわかる。いつも一緒にいるんだからコイツの反応ぐらいわかる。お互い目を逸らさないもんな。視線が絡み合い舌で麻婆を絡ませ、そして、胃袋に落としてはビクンビクン身体が悲鳴を上げるのだ。

 

 だが、オレ達の今の関係が崩れることはない。一戦越えることはなく、越えないラインで互い牽制し合いこの瞬間の生と性と食と麻婆だけを貪り尽くすだけだ。

 

「「ご、ご馳走様でした、、、、」」

 

 最後の一口を食べ終えたオレ達は完全燃焼した。

 

 息も乱れ服ははだけては、もうそれは肉食動物にどうぞ食べてくださいと言っているような無様な格好になっていた。こんなの普通じゃない。だが、それでいい。今は、少しでもこの余韻に浸りたいのだ。

 

 JKがコレにハマってしまう理由がわかっちまった。他の客達もみんなが麻婆に溺れていた。

 

 これが神父の本当の狙いだったかもしれない。見てみろよ、遠巻きからオレ達や他の客達の反応を見下ろす姿は愉悦に帯びている。なんて変態野郎なんだ。

 

 うん、海老反りなマジ卍。




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GWのスケジュール

 今年のGWは大型連休であり最大10日間休みがあるそうだ。

 

 10連休ってなんなの?アホなの?バカなの?日本人はバカになれって言ってるの?ここはオレの知ってる日本じゃないのかもしれない。そう、普通じゃない。

 

 まぁ、ちょくちょく現実逃避していくことはご愛嬌ということで目を瞑って頂きたいのだが、今年は凄い年になりそうな予感はビンビン来てます……いや、まだ麻婆豆腐食べた余韻が残っているとか、今夜のオレはビンビン丸なのかもしれない。今夜のオルタはブンブン丸かもしれないのは無きにしも非ずだが。

 

 そういえば、今年は年号が平成から令和に変わるんだよなー。藤丸家はカウントダウン的なことするんだろうか思ったり。GW中に年号変わるんだろ?でも、いいよ。そんな行事とかめんどくさいだろうし、きっとロクなことにならないだろうから遠慮したいものだ。

 

 それで、これから藤丸家のGWのスケジュール表を発表があるとのこと。午後9時を回って晩御飯も終えてリビングのソファで一息つく団欒はこれより修羅場と化する。尚、主な犠牲者はオレしかいない。

 

「なぁ、オルタ……」

 

「なによ?」

 

「オレはどこからツッコんでいくべきだろうか」

 

「好きな所から突っ込めばいいじゃない」

 

「じゃあ、お前からつっこむけどいいか?」

 

「か、勝手にすれば……///」

 

 こいつ、麻婆豆腐にやられてまだ頬が赤いな……

 

「じゃあ言うけどさ。前々から言おうと思ってたんだけど、お前のその部屋着ってダサいよな。外人観光客向けに現地で売ってる意味不明な漢字プリントされたシャツと同レベルでダサいんだよ」

 

「そ、それは今つっこむことでもないでしょうがっ!!?」

 

 いや、お腹に『春夏秋冬』背中に『迷走中』とか意味不明過ぎる。別に面白くもないしな。

 

「あぁ、だからか……」

 

「な、なにが……っ!??」

 

 皆まで言うまい。言わぬが花ってやつだ。

 

「さて、ジャンヌくん。次はチミだよ」

 

「わ、私ですか?何が駄目なんでしょう。お姉ちゃん的にオルタの次というのに不満を覚えなくはないですが、2番目の女でもお姉ちゃん的にオッケーですよ」

 

「もうそれお姉ちゃん的発言じゃないからな。それよりも、重たいから膝の上に乗るのやめてくれますー?」

 

「もうっ、女の子に重たいとか言っちゃ駄目ですよっ。お姉ちゃん怒っちゃうぞ、めっ」

 

 あざといお姉ちゃん再爆誕っ!??

 

「お姉ちゃん的にエレファントマンモスさんを元気にしてあげようと思っただけじゃないですかっ」

 

 オレの膝の上を占領していたジャンヌが立ち上がり、ソファの背後に回り抱きついてきた。ぐえっ、首が閉まる―。あと、クンカクンカしないでっ!!

 

 というかさー……

 

「なぁ、この愚姉ちっとも反省していなんだけど、そこんとこどうなの?母さん」

 

「あらあら~。お母さん的にもうジャンヌちゃんの好きなようにしたらいいと思うわ~」

 

 え、まさかの投げやり……っ!??

 

 この般若の説教をもってしてでもジャンヌを更生させられなかった。とんだあざとカワイイ聖処女様だぜ。

 

 などと、ジャンヌばかりに気に掛けているわけにはいかなかった。

 

「あ、ヤッター。や~っと立香くんの膝が空いたわー。膝枕してもらおっとー。顔も埋めちゃえ~♪」

 

「あー!駄目ですよ、お母さん!!トナカイさんの膝を次に狙っていたのは私なんですからー!!」

 

「ぶーぶーリリィのけちんぼー。なによー、リリィはいつでも立香くんと楽しいことしてるじゃなーい。ワタシなんか年に数回しか膝枕も腕枕もしてくれないどころか10年に1度くらい一緒に寝てくれないしお風呂も入ってくれないのよー」

 

「そんなの当たり前です!そもそも10年に1度って、トナカイさんが子供の時に無理やり拉致ってお風呂に連れ込んだと聞いていますが!」

 

「えーそんなことした覚えないしー知らないしー。そもそもよっちゃんにオッケー貰ってたしー。文句あるならよっちゃんに言ってよー」

 

「お、おばさんがトナカイさんをお母さんにプレゼントしたというのは本当なのですか?」

 

「だって~、その方があとあと面白い……じゃなかったわ~。思い出話しは沢山あった方が楽しいじゃない~」

 

 最悪だ、このよっちゃん!??

 

「そもそもです。いい歳して子の前で母がはしゃぐなどロジカルじゃありません。大人げないです、一歩引いて子供の成長と気になる男の子との間に生まれるラブロマンスを見守るのが母親ってもんです。横取りしないでくださいっ」

 

「あ、それは無理。お母さん娘に宣戦布告してでも立香くんに膝枕してよしよししてもらうんだからー。そもそもリリィだけズルいのよー。頬っぺたツンツンもしてもらったことないんだからねっ」

 

「何自分の子供に嫉妬してるんですか!?駄目です、トナカイさん。この大きな子供を説得してくださいよっ!!」

 

 それができたら苦労しないんだよな、これが。

 

 ジャンヌの暴走っぷりは遺伝なのだろう。ジャンヌ達の母親・イザベルさんはもうそれはバーサーカーの如くヒトの言うことを聞かない唯我独尊状態の人間である。それどころか、よっちゃんことオレの母さんに何を唆された知らないが、オレのことを家族と思って接してくれるあまり、どこかでネジがズレて異常なまでの愛情を向けてしまったアホな人である。そして、リリィと同レベルな喧嘩するお子様である。

 

 仕事はできるヒトらしいんだけどなー。仕事以外まるっきりダメ人間なんだよ、このヒト。

 

 逆に言いたいね。娘たちよ、自分達の母親をどうにかしなさいってな……

 

「立香くんったら知らない間に大きくなって。このエレファントマンモスさんもそれは立派になっちゃって……///」

 

「ちょっと母。待ちなさい母。アンタね、その辺でやめときなさいよ。長女だけでも手妬いているのに立香が困ってるじゃない」

 

「なによーオルター。嫉妬ー?立香くん取られて悔しいのー??ねぇどうなのー??」

 

「う、うっさい!」

 

 我が子を煽るなよ……

 

「こら、オルタ。母親にそんな口の利き方は駄目ですよ。論するならこうするんです。お母さん、立香は熟した果実より今旬の甘いものがお好みなんですよ。ほら、見てくださいよこの立香の緩んだ顔を。なんでこんな顔するかわかっていますか。それはお姉ちゃんの果実がアラフォーのソレより美味しいに決まっているから!!」

 

「なによー!ワタシだってまだまだピチピチもっちり肌よー!!ねぇそうでしょ立香くんー!!」

 

「なんの、お姉ちゃんの方が良いに決まっていますよね!!」

 

「本当かしらー?今バストいくつよー??」

 

「わ、私は、85です……」

 

「はいワタシの勝ちー!ワタシ、B87ありまーす!」

 

「くっ、こ、こちらにはまだ成長の余地はあるんですからね!立香もお姉ちゃんの成長を期待していてくださいね!」

 

「もう駄目だわ、この親子……」

 

「ト、トナカイさ~ん……」

 

 しっかりしろ、オルタ、リリィ。お前たちがジャンヌ家最後の砦なんだ。

 

 この親にしてこの子ありってね。もうそれは見苦しい争いがまた火花を散らしたわけなんだけども。親子喧嘩っつーより姉妹喧嘩みたいだ。ジャンヌ達の姉と言われても不思議じゃないほど若いんだよアラフォーなのに。

 

 オレはいつからジャンヌ家は3姉妹だと錯覚をしていたんだろうか……

 

「じゃあ、このアホ達が言い争っている間にリリィにもつっこむんだが……いいか?」

 

「あ、はい。なんでしょう……というか、この見苦しい我が家の親子喧嘩に挟まれて動じないなんて流石ですね、トナカイさん」

 

「リリィ、こういう時こそ冷静にならなきゃな。物事の本質を見失ってはいけないぞ」

 

「は、はい!凄く勉強になります!!」

 

「あーはいはい、そうやって話を脱線させるからああいう事態が生まれるのよ。いい加減に学習しなさいよアンタ達。それでリリィには何つっこむつもりなのよこのロリコン!」

 

「お前も脱線させる気満々じゃねーか!!?」

 

「トナカイさん、私に何をつっこむ気なんですか??」

 

「………うん、リリィも一旦黙ろうか」

 

「そんな酷いっ!??」

 

 確かに酷い扱いをしてしまった。あとでいっぱいよしよししてやろう。

 

「う、うそうそ、リリィにツッコミ入れるネタは後でいっぱい考えてやるからなー」

 

「もうトナカイさんなんて知りませんもん」

 

 とか言っちゃって、隣に座るリリィはギューッとくっついてくる。なにこのカワイイ生き物。とてもスコ。

 

 ふっ、オルタはロリコンを見る目でオレを見ているが、それはスルーして。

 

「なー母さんやい。そろそろGWのスケジュールを発表してくれないか?」

 

「そうねー。お父さんも帰ってこないしどうせ逃げてどこか飲み歩いているだろうけど待つのも面倒だしそろそろ発表しましょうかね~」

 

 父ちゃん、この連中から逃げたら駄目だよ。マジで。

 

「それじゃー、藤丸家ジャンヌ家合同GWのスケジュール表を発表しま~す」

 

「「「おおー!!」」」

 

「………」

 

 ………。

 

 テンション低めの2名(オレとオルタ)を除いて他の連中は息ぴったりだね。そして、拍手がおこった。

 

 というか、アホだ。スケジュール表の発表?これからスケジュールを決めていくのではなく、もうスケジュールは決まっているかのような口ぶりにオレは戦慄を覚えるのだがな。ツッコミたくなかったら最後まで引き延ばした結果がこの様だ。

 

 

4/27 藤丸家でBBQ

 

4/28 立香くん、おばさんとよっちゃんと一緒にショッピング(荷物持ち)

 

4/29 お姉ちゃんとデート。バイキング行きたいところあるんです

 

4/30 リリィちゃんの番ね。動物園希望

 

5/1 オルタちゃんは立香とバイト?

 

5/2 立香くんはおばさん達と温泉デート♡

 

5/3 温泉デート2日目笑

 

5/4 お姉ちゃんとデート2日目。ジークくんも誘ってどこかお出かけしたいです。

 

5/5 リリィちゃん、こどもの日にお友達と鯉のぼり観に行きたいらしいから連れていってあげなさい

 

5/6 おおとりのオルタちゃん笑さっさとやること済ましなさいよー

 

 

 うん、駄目だこりゃ。

 

 オレはもうこれに関して何も言うまい。このスケジュール表も希望なだけで決定ではないという解釈でいいだろう。とりあえず、リリィの希望だけは叶えたいと思う。あとは、ジャンヌのバイキングだけは考えといてやるか……

 

 つーか、ジャンヌよ。ジークと3人はマズいだろ。




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下駄箱にラブレター

 ふあ~…あー、ねみぃ。

 

 なんて、欠伸をしながら登校する今日この頃。いつものように、当たり前のように幼馴染(オルタ)と登校するオレ。今週末からGWだなー嫌だなーとか愚痴りながら登校する。GWってさー、もっとワクワクするもんだよなー……なんだよ、GWが嫌いな男子高校生って。そんなのラノベ主人公でも聞いたことねーよ。

 

「あ、犬のうんち踏んでやんの」

 

「げげぇっ!?」

 

 誰だよ、うんち拾って帰らなかった飼い主は?

 

 オルタとの登校は安パイなはずのに……ついてない……いや、うんは付いたけどな。靴裏に着いた“うん”と“ち”をアスファルトや電信柱に擦り付けながら登校する。

 

「ねぇ、うんち君」

 

「お前、幼馴染の名前がうんちって嫌だろ……」

 

「でも、今のアンタにお似合いのあだ名よ」

 

「……そうかい。で、なに?」

 

「また、犬のうんち踏んでるわよ……」

 

「う、うんちぇ………」

 

 オルタは前方不注意なオレを注意しようと声を掛けてくださったのだが、うんち君のあだ名に気を取られたオレはまたしても前方に転がるヤツを避けきれず踏んでしまった。

 

 ツイてなさすぎて逆に笑える。

 

 学校着いたらソッコーでうんち洗い流そう。

 

 あと、

 

「新しい靴を買うしかあるまい……」

 

「だったら行ってみたいとこあるから、そこで買いましょ。ちょっと遠いけどね」

 

「わかった」

 

 なんでも、最近新しくできたアウトレットだとか。アウトレットの雰囲気は好きだからオレは別にいいけどな。とりあえず、こいつとのGWの予定が1つ決まった。

 

 そして、うんちなやり取りをしながら歩いていると、前方に見覚えある背中を2つ発見した。信号1つ越えた先にジャンヌと、その彼氏が一緒に並んで歩いていた。

 

「あれ?あの2人、より戻した??」

 

「それはどうかしらね……」

 

 2人の距離が微妙なんだよな……。

 

 恋人のそれじゃねーのよ。もっとこうガッとくっついてだな。手でも握れってんだいっ。

 

 それと歩くの遅い。このままのペースだと追いついてしまうじゃないか。だから、オレたちは歩くペースを緩め、信号を1つズラしたりして、学校まであともう少しの距離をそろーりそろりと奴らの後ろをこっそり歩いた。時に電柱に隠れ、時に犬のうんちに触れ…他の生徒に変な目で見られながら……

 

 つーかさ。もうじれったいとか通り越してなんかイラっとくるんだよなー。

 

 お前らどうしたいの?より戻したいの?終わりにしたいの?なんで楽しくお喋りしてないの?オレ介入していいの?今まで静観していたけど愛のキューピットした方がいいの?大きなお世話?お前らに言いたいことは山ほどあるというのに地の文にもできないこの感情。もうそれはモヤモヤしましたとも……

 

「ほんと、アレ見てるとなんかイライラするわね」

 

「ホント何なんだろうなー」

 

「別にアタシはあの二人がどうなろうと知ったこっちゃないんですけどね」

 

「でもジャンヌが心配なんだろ?」

 

「はあ?心配してないわよ。そんなワケないですー。むしろアタシ達であの2人を罠にハメてラブホぶち込んであげたいぐらいですー」

 

「お前ね…オレは自制したというのに酷いよな……」

 

「う、うっさいわねー……でも、あの2人って、いざラブホ行ってもまごついて失敗するパターンのカップルよ」

 

「失敗って例えば?」

 

「た、例えば……部屋の明かりを付けたらミラーボールが回っちゃってディスコの中でヤっちゃうとか……」

 

「それはヤれたんだから成功してんじゃねーの?」

 

「うっ……そ、そんなことよりも、アンタはどうなのよ??」

 

「……どうって何が?オレの初体験でも知りたいのかお前??」

 

「は??」

 

「え??」

 

「し、シたの??誰と……」

 

「え、いや……襲われることはよくあるけど。未遂なのは、お前もよく知ってるだろ」

 

「………う、うん」

 

「いやいや、オレらがアイツらみたいな空気になってどーするんだよ」

 

「そ、そうね。アタシが聞きたいのはそういうことじゃなかったわ。ごめんごめん、アンタは聖女様がアイツに取られてもいいのか?って聞きたかっただけよ」

 

「お、おぅ……」

 

 でも、オレが聖女様をどう想おうとそれって今関係なくね????とは言えなかった。

 

 言うよりも先にジャンヌ達がこちらに気づき、あいつはまた性懲りもなく笑顔で手を振っていたから……『家族』なら仕方ないのか。『姉弟』はこれが普通なのか……オレはジークが気まずそうに先に校門をくぐり校舎の中へ入っていくのを見届けて、またイラっとした。

 

 関係なくはない。ただオレはジャンヌに普通に幸せになってほしいと思っている。今、言えるのはそれぐらいだ。

 

「弟くん、今朝方ぶりですね♪」

 

「姉。一応言っとくけど、アタシも隣にいることをお忘れにならないでくださる?」

 

「オルタはお姉ちゃんにスルーされて妬いてるんですかー?貴女もようやく可愛げが出てきましたね。お姉ちゃん嬉しいです」

 

「……もうアタシは何も突っ込まないわよ」

 

 姉が妹を煽っていくスタイル。つっこんだら負けだぞ、オルタ。

 

「というか、立香……なんかクサイです。ごめんなさい、離れてください」

 

「アンタが勝手に離れたらいいでしょうが!!」

 

 恋人以上の至近距離ゼロメートル。

 

 オレの靴底に踏んづけてまだこびれ付いているだろう犬のうんちの臭いが風に誘われて、あざとカワイイ聖女様の鼻孔をくすぐった。鼻をつまんで二歩下がってやっと普通の立ち位置ってなんなのさ。一歩が短い……が、オレの代わりにオルタは言ってくれて助かるわー。

 

 それよりも、さっきのこと注意してやろうかと思ったり。でも、それは家に帰ってから説教したらいいかと、今日はちょっと本気なオレを見せてやろうかと思わなくもなかったり。マジで何考えてんだろうな、この聖女様。あざとカワイイ聖処女様は本当に……

 

 とりあえず、オレは靴底についたうんちを処理するため水道ある校庭に立ち寄った。靴底から剝がれ落ちて排水管に流されるうんちを見送っては「次、うんち処理していない飼い主を見かけたら説教する」と心に誓った。そんでもって真剣にうんちを処理するオレに何かいろいろ言いたいところがある姉妹と一緒に校舎へ向かった。この道中も、お姉ちゃんを名乗る聖女様から「お姉ちゃんが新しい靴を一緒に買いに行ってあげましょうか?」なんて言ってくるもんだから、次女は「先約済みですー残念~」と煽るもんだから、それで長女はまたあざと可愛くオレにアピールして「お姉ちゃんも連れて行ってほしいなっ☆」とかお願いする始末で……

 

 

 

 オレじゃなくてジークと行けばいいだろ。

 

 

 

 心の中でつぶやいた。こんな冷たい言葉で、今のこんな『姉』に言いたくなかった。

 

 結局の所、このイライラはうんちが原因なのか自称・姉とその彼氏が原因なのかよくわからなくて、そう考えると余計にさ……言葉を選ぼうとして、結局何にも見つからなかった。もうこれ以上面倒ごとになるんだったら、『家族』皆で行けばいいだろ…としか思えなかった。

 

 そして、GWの予定すら今はどうでもよかった。

 

「下駄箱にラブレターだ……」

 

「「は??」」

 

 オレの下駄箱にラブレターが置いてあったっ!!!???




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藤丸立香の青春

 ふあ~…あー、ねみぃ。

 

 なんて、欠伸をしながら登校する今日この頃。

 

 オレの名前は藤丸立香(ふじまるりつか)。聖英学園に通うどこにでもいる普通の男子高校生だ。彼女いない歴イコール年齢と定番だったり、ラノベ主人公よろしく普通に幼馴染はいるものの一線を越えることは一度もないという素晴らしいまでの『普通』を体現したかのような日常生活を送っている。

 

 世間では10連休のGW間近と浮足立っていたり、オレもそれに触発されて浮足立っていた。

 

 何故浮足立っているかは明白で、とても簡単なことである。それは何故ならオレにも春がやって来たからだ。カレンダー的に春は終わりを迎えているが、オレ自身は少し遅めの春が到来したのだ。

 

 オレはラブレターを貰った。

 

 藤丸立香の青春の物語は今日ここから始まる。

 

 え、お前なに綺麗な形で初めからやり直そうとしてるんじゃないかって?まったくそんなことないさ。朝幼馴染に起こされたりここまでの道のりの全てがプロローグでしかなく、ここからが本編開始でしかないということ。それは決して問題ない事のはずだ。人それぞれのモノの味方、考え方の問題だ。

 

 わかるかな、諸君。勝ち組になれば、こういうやり方もできるということだ。今までの汚点をなかったことにして、綺麗なモノ(都合の良いモノ)だけを残して新しく物語を綴っていくことだって可能なんだよ。

 

 春の終わりを迎える今日この頃をオレは幼馴染と学校に登校して、そして、オレの下駄箱にラブレターが置いてあること。それがオレの青春の物語の始まりなんだよ。きっと……

 

「下駄箱にラブレターだ……やったぜ、ははっ」

 

 ラブレターなんて人生で初めて貰ったぜ。

 

 下駄箱の中にある上履きの上に、そっと、丁寧に手紙が入っていたのを手に取った。これを春が来たと言わずしてなんというか。ラブレターじゃなければオレはGWを迎えないからな。

 

 というか。

 

 というか、今どきラブレターは時代遅れだろうか。

 

 否、そんなことはないさ。

 

 いつの時代になろうと女性からラブレターを貰えたら嬉しいものだ。そこにラブロマンスな神様はいるのだ。知らんけど。

 

 現状確かなことは、可愛らしい女の子っぽい柄のラブレターの封筒を使っていて、ハートマークのシールで施されて封されていることと、宛先人がオレであることだけは確定している。もうオレへのラブレターは決定したも当然だ。

 

 まぁ、差出人が誰なのかは手紙を読んでからのお楽しみってな。

 

 しかし、あまりの嬉しさに声に出したのがマズかったな。なんか、幼馴染の2人がオレの肩をそれぞれ片方ずつ掴んでは決して逃がさんというのがヒシヒシ伝わってきた。そして、目が泳いでいた。

 

 ふっふっふ、動揺してるな?実に良い気分~!!

 

「ふん、ソレが本物だったらモテない男子全員を敵に回すってことよ。覚悟できてるのね……??」

 

「オルタ。まだそれがラブレターなるものと決まったわけじゃないです。な、何かの間違いですよね?」

 

「んなワケあるか。ほら、オレの名前が書いてあるぜ」

 

「「ま、マジで……」」

 

 幼馴染というのは、誠にめんどくさいキャラクターである。後々変に話がこじれないように宛先人がオレであることだけは確認させた。

 

 中身はこいつらでも見せないがな。

 

「ま、まぁ、アンタが変な女に好かれるのは今に始まったわけじゃないけど……どうせ、また変な女絡みよきっと」

 

「オルタに立香。何故お姉ちゃんの方を見るのですか??」

 

 そ、それは……

 

「と、というか、そのドヤ顔やめなさいよ。うんち君の癖にラブレターなんて生意気よ!!」

 

 おい、うんちネタやめろよ。

 

 なんのために、これまでの汚点を綺麗さっぱりにして、オレの物語を一から始めたいのかわからないじゃないか。

 

「きっと、それ、イタズラとか呪いの類の手紙ですよ。立香」

 

 このあざとカワイイ聖女様はもっと酷かった。

 

「ねぇ、当然今から開けて中身見るわよね?」

 

「いや、あとでこっそり見るつもりだけど」

 

「期待させて悪いんだけど、ラブレター大作戦ドッキリ!大成功~☆なんてハメられたら精神的ダメージでかいわけだし。アンタも慰められるのも早い方がいいでしょ?」

 

「そうですよ、お姉ちゃんがアフターケアしてあげますから。とりあえず、ソレをお姉ちゃんに渡してください。立香」

 

「……ちょっと何言っているかわからないんだけど」

 

「もし、それがラブレターだとしても、まずはお姉ちゃんに話しを通してもらわないと困ります。差出人が弟くんに相応しいお相手かどうか、見極めるのも姉の務めですので」

 

「いや、流石にアタシはそこまでは言わないけどさ……」

 

 オルタは顔を引きつった。

 

 姉の異常さに加担しかけたことに気づき、掴んでいたオレの肩から遠慮気味に手を放した。が、聖女様。こいつはオルタとは逆にさらに強く掴んで離さないみたい。力はバーサーカー並みで肩にがマジでゴキゴキミシリって言ってんですけど。下駄箱を背に押し付けられ逃がさないと言わんばかりだ。

 

「さあ。早く。今ポケットに入れたソレを渡してください。お姉ちゃんが優しく言っている今しかないですよ。痛い目見たくなければですけど」

 

 こわっ。

 

 ニコニコしているが目は笑っていない。

 

 久しぶりにキているらしい。こんなことで、オレがラブレターを貰うだけでコレだ。姉にあるまじき態度だぜ。ほんと怖い。狂気を久しぶりに感じた。いや、あれだ……

 

 あぁ、違う。

 

 何故、ジャンヌが怒っているのかは、なんとなく察することができた。ただ、今言うと話が拗れてオルタまでギャーギャー騒がれるのは面倒だから割愛させてもらうが。

 

 ジャンヌは……この人は、オレのことがとても大切なんだ。ただそれだけなんだ。それだけでバーサーカーになれるんだ……結局のところ、自分で言っててよくわからなくなってしまった。

 

 とりあえず、オルタに助けを求めるが横に首を振られた。もう勝手にすれば?とお手上げのようだ。何とも言えない顔をされた。困惑しているようにも見えるし、このバーサーカーもどきの長女をどうすることもできないようだ。触らぬ神に祟りなしと言うかのように。しかし、後ろを見てみろよ。登校してきた2年5組のクラスメイトや他の連中が下駄箱前で渋滞を作っていた。上履きに履き替えたい野次馬たちの憐れみとか非難とか妬みとか面白がったいろんな感情が混ざった視線を向けている。

 

 なんだよ、この展開。せっかく気持ちリセットして青春をスタートしたかったというのに。このままだとバッドエンドか……まいったな。

 

 などと、途方に暮れかけそうな、そんな時だった。

 

「ヴィヴ・ラ・フランス~♪ご機嫌よう、ジャンヌ」

 

 それは愛?

 

 否、救世主のマリーさんの登場だ。

 

「マリー、おはようございます」

 

「あらまぁ、ジャンヌったら朝から弟くんとがっつりラブなのね」

 

「違うの、聞いてくださいよマリー。この子ったらラブレターを貰って、でも、お姉ちゃんに何も相談しないつもりなんですよ」

 

「まーまー、落ち着いてジャンヌ。弟というのはそういうものでなくて?よくあるいつもの反抗期じゃない」

 

「でも、今日という今日はそういうのじゃないんですっ」

 

 泣きそうになるジャンヌをマリーさんは苦笑いして頬を撫でた。そして、こう告げた。

 

「ほんと、可愛い人。ねえ、ジャンヌ…このままだと予鈴が鳴ってしまうわ。だから、この件は教室に行ってからにしましょう。勿論、私も協力するわ。だから、教室で何をそんなに怒っているのか話してくれないかしら??……それに、ラブレターの定番は放課後に呼び出して告白したりするものでしょ?」

 

「え、えぇ……」

 

「ほら、まだ猶予はあるわよ。だから今はココをどきましょ?皆の邪魔になるわ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「………」

 

 何故、マリーさんの言葉だけは素直に通じるのだろう…とオレは困惑。

 

 ふっ、オレはマリーさんに勝てないや。

 

「立香。今日という今日はお姉ちゃん、怒ってますからね。お昼休みに伺いますから逃げたら承知しませんよ。プンプンっ」

 

「………」

 

 なんて言っているが、今日の5時間目は体育なので昼休みは昼食パパっと終わらしてトンズラ決め込むつもりだべ。といっても、1組との合同体育で女子も外で授業だろうからグラウンドで会うんだけども。そんでもって放課後は皆まで言うまでもないがな。

 

 聖処女様はオレを横目に流して自分のクラスへ向かうのであった。

 

 そして、その場に残されたオレ達―――オレとオルタとクラスメイトや別のクラスの者達、又はものの珍しさに野次馬と化した先輩後輩たち―――はこの騒ぎに駆けつけた先生に注意されることになるだろう。

 

 ほら、見てみろ。いつものように拳を作っては「いつでもシバくぞ?お??」と顔芸して指の関節をボキボキ鳴らすジャージ姿の元ヤンのマルタ先生がやってきた。

 

「ほら、こんな所で何してるの?予鈴鳴るわよ、その前に教室へ入りなさい……って、またお前か藤丸!!今度は何をしでかしたんだ!!え、なに??下駄箱にラブレター??わっはっはー、リア充はさっさと教室に入れぇええええ!!」

 

「オレだけ扱いおかしくね………??」

 

「「「「「………」」」」」」

 

 マルタ先生は2年1組の担任だったり、2年女子体育の授業を受け持ち、尚、生徒指導の先生でいつも問題児を鉄拳制裁して更生させる凄腕美人教師!カッコイイ!!

 

 しかし、教室に入れとか言いながら拳骨ぐりぐりヘッドロックは駄目でしょう。動けないどころか脳天かち割れるぜ、これ。

 

「いつもいつもお前って奴はぁあああああああああああああああ!!!」

 

「先生っおっぱいがあばばっばばばばっばばばっ!??」

 

 そりゃないぜ。

 

 ラブレター貰っただけで何でこの仕打ち……

 

 そして、逝く前にこれだけ言わせてくれ。

 

 マルタ先生のおっぱいは何度味わっても…………良きかな。がくっ。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ラブレターだが

 

 一目惚れでした。少し前から気になってました。だから、放課後、伝説の桜木まで来てくれますか?待ってます―――――と、それだけ書かれていた。




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ぐだ男のお友達

少しライン風にしてみましたm(_ _)m
5時間目だけ、いつも通りぐだ男視点で文章です


 一目惚れでした。少し前から気になってました。だから、放課後、伝説の桜木まで来てくれますか?待ってます―――――ラブレターにはそれだけ書かれていた。

 

 

  ―☆   ―☆ ―☆  ―☆ ―☆  ―☆   ―☆ ―☆  ―☆ ―☆

 

 

○1時間目:数学

 

マリーさん

ヴィヴ・ラ・フランス♪

 

ぐだ男

ヴィヴ・ラ・フランス

 

マリーさん

ぐだぐだー

授業が退屈なのですわー

(´・ω・)=3 フゥ~

 

ぐだ男

先生が知ったら悲しむぜ

 

マリーさん

でもー

事実なのですわーo(*`ω´*)o

 

ぐだ男

そっちの教科は??

 

マリーさん

みんな大好き物理ですわ♡

 

ぐだ男

え、みんな好きなの??

 

マリーさん

お相手してくれないと

物理で言うこと聞かせますわよ

(≧∇≦)三M

 

ぐだ男

え、そっちっ!?

 

マリーさん

貴方もマルタ先生好きでしょ

(*`艸´)ニシシ?

 

ぐだ男

好きか嫌いかで言うとlike

 

マリーさん

あ、やっぱり(笑)

マルタ先生に言っておくわ

ヒューン =͟͟͞͞ ( ˙꒳˙)

 

ぐだ男

絶対やめて!!

 

マリーさん

それじゃお話しましょー(๑ˇ3ˇ๑)

 

ぐだ男

つーか、オレじゃなくても

 

マリーさん

アマデウス達ったら授業中は

相手してくれないもの〜٩(๑`^´๑)۶

 

ぐだ男

普通そりゃそうでしょ

 

マリーさん

でも、貴方は優しいじゃない|ω•)チラッ

私たち秘密のお友達だものね。うふふ♡

 

ぐだ男

まぁ、ね、、、、笑

 

マリーさん

微妙な反応ね、、、、

もしかして嫌だったの(¬_¬)?

 

ぐだ男

わー滅相もございません!!

マリーさんとライン友なれて

ちょー嬉しーなーーーー!!

 

マリーさん

私も嬉しいわ(♡º3º)♡

 

ぐだ男

さいですか

 

マリーさん

か、勘違いしないでよねっ

別に貴方のことなんか

好きじゃないんだからね(˘^˘ )プイッ

イジりたいだけなんだからねっ

(°ε°((⊂(`ω´∩)

 

ぐだ男

それってツンデレ?

 

マリーさん

(σ-`д・´)アッカンベー

 

ぐだ男

自由だなー

 

マリーさん

フランスは自由な国よー(・ω・)ノシ

ぐだぐだに自由な発言を求めム!

 

ぐだ男

と言いますと?

 

マリーさん

弟くんのトーク次第で

貴方のお姉ちゃんにある事ないこと

告げ口しちゃう可能性も

無きにしも非ずってこと(*`艸´)ウフフ

 

ぐだ男

それは大変だっ

 

マリーさん

じゃあ頑張れー(๑•̀o•́๑)۶ FIGHT☆

 

ぐだ男

善処いたしますm(_ _)m

 

 

 ―☆   ―☆ ―☆  ―☆ ―☆  ―☆ ―☆ ―☆

 

 

○2時間目:社会

 

マリーさん

小腹が空いてきたわ(・―・)ぐぅー

 

ぐだ男

まだ2時間目だぜ、おぜうさま

 

マリーさん

何か甘いモノが欲しいのよ

ч(゜д゜ч)ぷり〜ず

 

ぐだ男

お昼まで我慢しましょう

 

マリーさん

ついでに言うと、

お寿司も食べたくなってきたわっ

(゚Д゚)ノ

 

ぐだ男

まぐろ、サーモン、いくら、うに、

甘エビ、はまち、カッパ巻きは

いかがっすかー

 

マリーさん

想像するだけで涎出てくるの

( ✧﹃✧)

 

ぐだ男

マリーさんって高級寿司しか

食べたことないイメージ

 

マリーさん

そうねσ(-ω-*)フム

くるくる寿司行ったことないの、、、

 

ぐだ男

ジャンヌ達誘って行ってみ?

 

マリーさん

そうね。GWにでも誘ってみるわ~

ε≡≡\( ˙꒳˙)/シュタタタタ

 

ぐだ男

イイね!!

 

 

―☆   ―☆  ―☆  ―☆   ―☆ ―☆  ―☆ ―☆

 

 

○3時間目:現代国語

 

マリーさん

ねぇ、ぐだぐだ('-' ).........。

 

ぐだ男

なにさ?

 

マリーさん

どやさ??(¬∀¬)

 

ぐだ男

つーか、オレのあだ名それで定着??

 

マリーさん

私のことはマリマリって呼んで

‹‹‪⸜(*ˊᵕˋ* )⸝‬››‹‹‪⸜( *)⸝‬››‹‹‪⸜( *ˊᵕˋ*)⸝‬››

 

ぐだ男

考えときます、、、、

 

マリーさん

そんなことよりもよっ(っ・д・)≡⊃)3゚)∵

 

ぐだ男

今朝の話し?

 

マリーさん

それよっ!!

聖英学園新聞にも

掲載されていたわよ

『くだ男、スキャンダル発覚!』

(ノ∀≦。)ノぷぷ-ッ

 

ぐだ男

この学校って

アホばっかりだ、、、

 

マリーさん

ぐだぐだって有名人ー

私とのスキャンダルも秒読みね

(*´艸`)キャ

 

ぐだ男

隠ぺいしたい事実だな

 

マリーさん

まぁ、冗談も程ほどに

ラブレターの返事はどうするの?

(๑• . •๑)?

 

ぐだ男

放課後、会ってみる

会って、話して、返事する

 

マリーさん

ドキドキねっ(๑•﹏•)

 

ぐだ男

良識ある普通の子キボンヌ

 

マリーさん

ふむ、、、、、(´・д・`)

 

でもね、

ジャンヌは納得していないわ

今朝のあれから元気ないのよ

もちろん原因は貴方のせい

۹(◦`H´◦)۶プンスカ!

 

ぐだ男

いつものことだから

ほっといたら??

 

マリーさん

こらっ( •̀ω•́ )σ めっ

でも、私は聞いたわよ。

先週、後輩の女の子を

家に連れ込んだらしいわね?

 

ぐだ男

あれは誤解なんだけどなー

まぁ、少し意地悪して

嘘ついたんだけど

 

マリーさん

駄目じゃない┐(´д`)┌やれやれ

 

ぐだ男

いや、こんな騒ぎになるとも

思ってなかったし

 

マリーさん

でも、そのせいで

後輩ちゃんとエッチしたクセに

もう次の女の子とエッチしたくて

たまらない発情期真っ盛りの

弟くんにしか見えないらしいわ

( ¯▽¯ )ヤバー

 

ぐだ男

それは重症だな、、、

 

マリーさん

本当に後輩ちゃんと

何もなかったの?

マリーお姉ちゃんに

全部ゲロりなさいな

((°ε°((⊂(`ω´∩)

 

ぐだ男

お姉ちゃんが増えちゃったよ、、、

 

マリーさん

ウフフフフッ( *´艸` **ウフ♡)

 

―☆   ―☆   ―☆   ―☆  ―☆   ―☆ ―☆  ―☆ ―☆

 

 

○4時間目:英語

 

ぐだ男

まず、後輩がオレん家にやってきた件だけど。

あれ、知り合いの後輩が勝手に訪ねてきて

母が勝手にオレの部屋に上げちゃっただけ

勝手にオレのベッド占領されただけだし

別に何もやましいことしてませんよ?まじで

神に誓います。

先輩であるオレの趣味が

何なのか把握したいだけだろ

漫画一巻読まして追い返しただけ

 

嘘です

ポッキーゲームをしました

一本勝負だけ

引き分けになりました

不慮の接触事故が起きただけです

 

で、ジャンヌは当時家にはいなかったけど

後輩の残り香を察知して問いただしてきたんだよ

そんで、オレは一度は否定したんだけど

しつこいから

もし、後輩とヤってたらどうなんだよ?

とイジワルなこと嘘言ってしまって。

それで、ジャンヌは真に受けてさ

赤飯炊きに自宅に逃走する始末

まさか、こんな嘘信じるとか……

 

まぁ、あれを放置したオレも悪いが

「姉」にはいい薬だと思った。

 

以上、、、、

 

マリーさん

とりあえず、

アウトってことでいいわね?

( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン

 

ぐだ男

やっぱりアウト?

 

マリーさん

私ともポッキーゲームを

してくれたらセーフになるわ

(๑˘ ³˘๑)

 

ぐだ男

いや、罪が重たくなるだけだから

 

マリーさん

その話は今は置いておきましょうか

(ง •̀_•́)ง

 

ぐだ男

できれば忘れて、、、

 

というか、

オレ的にはあれは

そういうのじゃなく

どっちかというと、

罰ゲームみたいなもんで

ノーカンのつもりだった

 

マリーさん

もしかしたら

後輩の子は本気だった

かもしれないのよ?

(>_<)

 

ぐだ男

かもしれないよな、、、

 

マリーさん

それで貴方はどうしたいの?

自身の罪も見詰め直したことだし

改めて( ¯꒳¯ )

ラブレターの件はどうするのかしら?

 

ぐだ男

それでもラブレターをくれた子とは

放課後会いたいと思う

会って、話してみて

やっぱり、それから

考えて決めたい

 

マリーさん

そう。わかったわ。

それが貴方の答えなら

私はそれを応援するわよ

(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑fight

 

ぐだ男

え、怒らないのか?

 

マリーさん

あら以外?(笑)

 

ぐだ男

うん

 

マリーさん

確かに不純異性交遊なら許さないわよ

でもいっぱい恋することには賛成よ

だから、ぐだぐだー

٩(๑>∀<๑)۶♥Fight♥

 

ぐだ男

お、おう

 

マリーさん

それから、手遅れになる前に

ジャンヌにはちゃんと説明して

誤解を解くこと( ´-ω-)σ

 

ぐだ男

うーん、、、、

マリーさん、お願いできない?

正直もうジャンヌ怖い、、、

 

マリーさん

もうo(*`ω´*)o

 

次、5時間目は

1組と5組の合同体育よね

男子も女子もお互い『外』の

授業のはずだから

少し早めにグランドに出て

ジャンヌとお話してみない?

それなら

私もフォローできるのだけど

チョンチョンヾ(・ᵕ・ )

 

ぐだ男

オレからは家帰ったらするから

学校ではテキトーに

説明しといてm(_ _)m

 

マリーさん

仕方がないヒト

わかったわ

借し1つよ(*≧艸≦)

 

―☆   ―☆     ―☆ ―☆    ―☆   ―☆   ―☆     ―☆ ―☆    ―☆

 

 

○5時間目:体育

 

 そう、5時間目は体育。

 

 1組と5組の合同体育であり、本日もグランドに出てサッカーの授業だったりする。オレ達男子のテンションは高めで昼食を早く終わらせて校庭を出た。そんで、体育倉庫からサッカーボールを運んだり、グランドの端に置かれたゴールポストを強力し合って運び定位置に設置した。

 

 ジャンヌはどうするかって?マリーさんに任せたんだ。オレは家帰ってから話し合いするつもりだ。今は放っておけ。え?どうなっても知らない??いや、マリーさんが誤解といてくれるんだから問題ないだろ。

 

「デュフフフフフ、見てくだされ藤丸氏。これぞ拙者の真の宝具クイーンアンズ・リベンジーーーwwwこれで、女子も拙者に杭付けですぞwwww」

 

「わー、スゲー」

 

 黒髭というクラスメイトは逆立ちで足の裏でボールをリフティングからのブレイクダンスを披露してはキレッキレだった。オタクなのにな、とんでもない隠し芸である。なんて、バカやったりして残り時間は各々好き勝手にボール蹴ったりして時間を潰すことに。

 

 そんでもって、黒髭とふざけていると他のクラスメイトがぞろぞろ揃ってきて……

 

「なぁ、藤丸」

 

「なにさ?」

 

「お前、幼馴染の三姉妹だけじゃ飽き足らず、ラブレターに夢うつつを抜かすリア充は爆発した方がいいんじゃないか?」

 

「誤解しか生まない発言はよせよ、カドック」

 

「しかし、オルタのフォローはしたのか?そもそもフォローって何だよ…というか、なんで僕がお前たちの心配しなくちゃいけないのかわからないのだが……あの聖女様はともかく、オルタとはちゃんと話したのか??」

 

「まぁ、放課後会ってみるとは言ってるよ……」

 

「そうなのか。でも、納得してなさそうだな。見ろ、お前のことを憤怒の業火で燃やしたいと言ってなくもないほど睨んでいるぞ」

 

「うわー」

 

「ちなみに、隣のアルトリアはさっき体育館裏で聖剣の素振りしてたな……」

 

「こわっ」

 

 あいつら女子は体育の授業はテニスなので、グランドから比較的近いテニスコートにいるのだが、フェンス越しでオレを食い殺さんかというように、どす黒いオーラみたいの出していた。

 

 ふっ、可愛い奴らめ……

 

「はぁ。お前は味方を作るのは上手いが敵を作るのも上手いよな」

 

「へへっ、それほどでもねーさ」

 

「いや、褒めてないからな……っ!!とにかく、今日も覚悟した方がいいぞ。1組の連中もお前がラブレターを貰ったのがよっぽど気に入らないのか、というか十中八九その背後のいる聖女様の啓示を受けてヤる気だ……っ!!」

 

「まぁ、いつも通り特に普通だな……」

 

 心優しいツンデレ・カドック君はオレの肩に手を置き同情した。

 

 1組の連中は殺気のオーラを隠そうともせず、今か今かと5時間目授業開始合図のチャイムを待っているのが視界の端に映っている。

 

「今日のマリー派とジャンヌ派は一味違う気がする。俺もさっき、すれ違い様にガン飛ばされた」

 

「ジーク、お前……」

 

 ふっ、もう気まずいとか言っている場合じゃねーよな。

 

 ジークとの会話は気まずいが、体育の授業は流石に避けて通れない。クラス一丸となってあの1組のアホ共に立ち向かっていかなくてはならない。というか、ジャンヌの彼氏になったものだから、ジャンヌ派に目の敵にされているジークはオレに助けを求めて……いや、アホ共の矛先をオレだけに向けようと画策しているのだ。

 

 まぁ、しょうがねーべ。

 

「今日も1組のアホ共に勝って正々堂々とジャンヌの彼氏と名乗ってみせろよ」

 

「あぁ、すまない……」

 

「気にするな。それより、早くジャンヌと仲直り……しろよ?」

 

「善処、する……」

 

 いや、すまん。オレが何かを言える立場でもないよな。

 

 つーか、1組のアホ共のあの狂気を目の前により戻せとかいうのは酷なもんだろう。そうだよな、こういうのもあってジークは苦労しているんだよなー。『弟』扱いされるオレだけが悩みの種ってわけではないってことさね。

 

「とりあえず、今日の作戦だけど、藤丸とジーク…このFW2人を囮に、空いたスペースを僕達が一気に攻める」

 

「いつもの作戦ですなwww」

 

 オレ達は腰を落とし、カドックが指でなぞる地面に描いた図で作戦会議をしていく。

 

「それと、もう1つ。藤丸とジークのどちらかをペナルティエリアまで上げてパスを出してファアルを誘発させてPKを取るぞ。そっからは黒髭、お前の出番だ。お前の宝具で必ず点を決めてこい」

 

「んんwww任されたwwwゴールキーパーにして、ペナルティキックの海賊と呼ばれた拙者に任せてくだされwww」

 

「よしっ。今日も1組に勝つぞ!!」

 

「「「「「「うりぃいいいいいいいいっ!!!」」」」」」」

 

 なんだよ、その掛け声と思ったりもするけど。しかし、5組の男子共が一丸になる数少ない場面だった。

 

 相手にとって不足もない。

 

 5時間目の始まるチャイムが鳴り、レオニダス先生がやってきた。今日も相変わらず筋肉が素晴らしいですよねとか暑苦しく思ったり授業が始まった。ランニングとか軽めのストレッチとか勿論して、さっそく男子のテンションが上がるゲームを始める。

 

 キックオフはこちらが勝ち取り皆フィールドに散らばった。つっても、FWのオレとジークはセンターサークルでキックオフしないといけないのだが。

 

 うわー、もうね。相手チームは皆バーサーカー並みに狂気を感じるね。

 

「授業中にマリーとずっとラインしていたのはそこのお前かー!!ギロチンしてやるるるぅうう!!」

 

「そもそもマリアが授業サボって不良になったらどう責任取るんだ!!グランドピアノのあのパカーって開いた蓋の所に挟んであげようか藤丸ーーー!!」

 

「いーけないんだーいけないんだー!!私もマリー王妃と授業中にあんなそんなとキャッキャウフフなライン我慢していたのにシュバリエシュバリエ!!」

 

「「「「「「うおーーーーフランス万歳ッ!!」」」」」」

 

 いつものマリー親衛隊やその他大勢アホ共の罵詈雑言が飛んでくる。というか、クラスの大半が日本人なのにな、異常だぜ。まったく…

 

 というか、何故マリーさんとのラインのやり取りがバレたんだろ……

 

 ただ、狂気のフィールドに立つオレとジークは何故か冷静でいた。

 

「オレさ……ジャンヌのことは好きだぜ。ジーク」

 

「知ってるよ…そんなこと……」

 

「でも、この感情は恋じゃないんだよ。そんでもってジャンヌも違う……」

 

「君はそう言っても……彼女はどうだか。まぁ、今はそういうことにしておくよ」

 

「まぁ、アレだ。今はこいつらに勝つぞ」

 

「あぁ、当然だ……そして、藤丸。君といつか決着をつけることにした。今決めた」

 

「あぁ、それでいいさね。望むところだジーク。ジャンヌに暗い顔させる奴はたとえお前だろうとオレが許さねぇ」

 

「え、それは君も人のこと言えないだろ……」

 

 あれ?まぁ、そうなんだけども……そもそも、そういう話だっけ??ジャンヌを取り合う話だっけ???なんて思ったけど、ノリで言ってしまったもんは仕方がない。

 

 こういうのはノリだ。この体育で生き残るためには無理やりテンションを上げていかないといけない。

 

「というか、生きて帰るぞ。オレは放課後ラブレターの返事もしなくちゃならないのでな。だから、ほらよっ」

 

「えっ……」

 

「ジーク。強く生きろっ」

 

「藤丸、君という奴は……っ!!?」

 

 突然の、キックオフ。

 

 敵からも味方からも「早く始めろ」と五月蠅かったから始めたまでさ。オレはジークにボールを渡して、さっさと危険エリアから離れていく。

 

 が、、、、、、、

 

「藤丸。お返しだ.......っ!!」

 

「げげぇー!?おいすぐパスしてくんじゃねーよ!?」

 

「これも作戦だ……」

 

 ジークにワンツーパスをされて、

 

「それは読んでいたぜ聖女様の弟さんよぉおおおおおおおお!!」

 

「う、うぉぉおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオ…!!」

 

 1組のジャンヌ派の1人がバーサーカーの如く特攻スライディングを仕掛けてこられたり。この後の展開はもうそれは酷いもんだったさ……

 

 

 ―☆  ―☆    ―☆   ―☆ ―☆ ―☆ ―☆  ―☆    ―☆   ―☆ ―☆ ―☆

 

 

○6時間目:保健室

 

マリーさん

ヴィヴ・ラ・フランス♪

 

ぐだ男

ヴィヴ・ラ・フランス……

 

マリーさん

サッカーの試合、5組が勝ったわね

流石はぐだぐだ。カッコよかったわ

ヵコ(*゚∀゚)bィ-ィ

 

ぐだ男

保険室行きだけどな、、、、

 

マリーさん

生きてるだけ素晴らしいじゃない

( -`ω-)b

 

ぐだ男

というか、マリーさんはジャンヌの

誤解といてくれました?

 

マリーさん

もう、過ぎたことを

言っても仕方がないわよ

('ω' )))≡3ーッ

 

ぐだ男

失敗したんだな?

 

マリーさん

うふふっ、説明するの頑張ったわよ

でもね、なんで弟くんと

ラインやり取りしてるの?って

いろいろバレちゃって

ふっ(´ー∀ー`)

 

ぐだ男

あぁ、そういうやつ、、、、

 

マリーさん

最後の全方向からの

8人タックルを躱したのは

圧巻だったわね

あれで1組女子の

ぐだぐだの評価うなぎ登り

私もキュン死に秒速センチだったわ

(♡ㅁ♡)ドキューン

 

ぐだ男

冗談も程ほどにな

 

マリーさん

あら?冗談じゃないわよ??

いずれ、わかるわ((´艸`*))

 

ぐだ男

怖いこと言わないで、、、、

 

マリーさん

うふふっ(♡º3º)

 

マリーさん

それで、真面目な話に戻るけど

放課後はついに、いよいよね?

(´・ω・)?

 

ぐだ男

ですねー

 

マリーさん

少なくとも私は貴方のこと

応援してるわよ

(๑•̀o•́๑)۶ FIGHT☆

 

ぐだ男

ありがとう

 

マリーさん

あ、それと放課後、

HR終わったらソッコーで

教室から出るのをおススメするわ

(´-ω-`)

 

ぐだ男

え、なんで、、、??

 

マリーさん

ジャンヌがこのままで

終わるワケないでしょ?

ファイト♡(๑•̀ω•́๑)

 

ぐだ男

ガ━━Σ( ̄□ ̄;)━━ン!!

 

 

―☆    ―☆              ―☆  ―☆    ―☆   ―☆ ―☆ ―☆          ―☆  ―☆    ―☆   ―☆ ―☆ ―☆




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お姉ちゃんVS弟くん

ガチャを回せ!
水着PU2を回せ!!

おっ、金回転だ!クラスはルーラーだ!!

来るよね!バニ上来るよね!!
え…………違う。まさかのジャンヌ!??

ジャンヌンウヌヌヌウウウウウウウ!!!


 少女は旗を掲げる。

 

 何のために?と訊かれたら、彼女は「お姉ちゃんが正しく弟くんを導くために」と答えるだろう。それがたとえ、6時間目の終わりのチャイムが鳴り終わった時であろうとも。

 

 少女は教卓に立ち旗を掲げた。

 

「聞け、この教室(クラス)に集いし、万夫不倒のクラスメイトたちよ!本来、弟と相容れぬ者同士、マリー派の者であろうとも、今は私の我がままをどうか聞き入れよ。弟の不純異性交遊を止めるため、姉弟としての絆が今試される時である!

 我が真名はジャンヌ・ダルク。主の御名のもとに、貴公らと共に放課後5組の教室に進撃を開始する!!」

 

「はいはい、バカ言ってないで席に着きなさい。そんなこと私がさせるわけないでしょうに問題児共。HR始めるわよー」

 

「で、ですよねー」テレテレ///

 

「うふふっ、ジャンヌったらお茶目さん♪」

 

「「「………」」」

 

 2年1組では担任マルタ先生のHRが始まりまーす。

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 何か、寒気がした。背中がゾクッとした。

 

 オレの第六感が告げている。さっさとHRを終わらせて教室から離れろとな。マリーさんからの忠告もあったことだし、気を引き締めなければならないようだ。たぶん、また誰かの血が流れるだろう……

 

 オレは帰る準備をして、オルタに一声かけて教室からおさらばしよう。オルタは「勝手にしたら」なんて無愛想もいいところで顔すら合わせてくれなかったが、まぁそれは今は置いておくか。家に帰ってアイツの好きなプリンでも買って渡してやればいいさね。今はそっとしておこう。

 

 教卓では生徒のバカ騒ぎを眺めてニコニコしている担任の先生から「今から愛のロマンス?オーケー、お姉さんも一枚噛ませてボウヤ。ちょっと、こっそり後を付けて見守って冷やかすだけだゼ」的なアホな発言いってたが、今日は丁重にお断りしては教室を出ようと前側の扉に手をかけた。

 

 そして、オレが扉を開けるよりも先に勝手に扉は開いた。

 

 少し、思考が追いついていない。いや、少し考えればわかる。教室側に位置するオレが開けるよりも先に廊下側から誰かが扉を開けたということを。そして、嫌でも知る。オレの思考が追いつかないというか速度が低下していく現実を目のあたりにしたのだから。

 

 自称お姉ちゃんのジャンヌが目の前に立っていた。

 

 待ち伏せ……そんな言葉が脳裏に過る。1組の方がHRを終えるのがほんの少し早かったようだ。動揺しては駄目だ。奴に弱みを見せるな。怯むな怯えるな。一歩引きさがるな。しかし、その判断が間違いだと気づく暇もなく、奴はそんな一瞬を突いてオレの腕を掴んだ。

 

「立香、今日はお姉ちゃんと一緒に帰りましょう♪」

 

「あわわわわ……」

 

 奴はまだ諦めていなかった。これから『弟』の告白イベントがあると知っていながら、寧ろ妨害しようと力強くオレの腕を片手でガッチリ掴んだ。そして、容赦なく問答無用で引きずられていく。廊下に引きずられて下駄箱へ目指して、見苦しくもクラスメイトやその他大勢に指差されながら、ラブレターの返事をすることもできずに家に帰ることになるんだ。

 

 最悪だ。

 

 オレは勿論のことだが、今のやり取りを見ていたジークもドン引きだ。先生なんて「おっ、修羅場ってやつニャー」と笑っていたが笑いごとじゃないからな。オルタからも目を逸らされオレはドナドナ~と連れていかれる。

 

「この、ジークと帰れ!!」

 

 勿論、オレも黙っていては男が廃るってもんだから抵抗をしてみるが、この(バーサーカー)には勝てなかった。

 

「やだ。立香たらジーク君と3人でだなんて、なんて大胆……」

 

「え、何が……」

 

 オレ、もう困惑。

 

「2人で帰れって言ったんだけど!??」

 

「あ、そっちですか」

 

「そっち以外にどっち!??」

 

「もう、お姉ちゃんと久しぶりに帰れるからと言ってはしゃぎ過ぎですよ。ほら、手を繋ぎたかったんですよね?うふふ♪」

 

「こんの握力ゴリラめ……」

 

「もっと握りしめて欲しいんですか??えいっ♡」

 

「ギャー!??」

 

 オレはこの姉に勝てる気がしない。

 

「立香、泣かないでください。男の子でしょ?」

 

「ぐすっ、だってさー……」

 

 オレは最後にささやかな抵抗を試みた。

 

 そう、嘘泣きだ。

 

「泣き止むまでシゴきますよ?」

 

「でジマ……」

 

 顔は笑っているが目がマジだった。だから、オレは即座に嘘泣きをやめた。というか、嘘泣きってバレていた。

 

 そして、いつの間にか下駄箱前に到着した。駄目だ、打開策が何にも思い浮かばない。本当にこのまま家に帰るだなんて絶対にできない。しかし、ラストチャンスはここしかないだろう。ジャンヌが先に上履きから靴に履き替えた。そして、次にオレの靴が置いてある場所まで移動して、ここに全てを賭けるしかなさそうだ。

 

「ジャンヌ、ごめんな」

 

「何がですか……」

 

 ジャンヌは声のトーンを落とし足を止めた。

 

「後輩とヤったって話し、アレ嘘だから」

 

「別に立香が誰とシたって私には関係ない話ですよね……」

 

「でも、お前それ真に受けて今日のラブレターの件もあって、不純異性交遊だって頭にキてたんだろ?オレのこと想って怒ってくれたんだろ?」

 

「当たり前じゃないですか、そんなの……それにマリーにはラインでイチャイチャだなんて許されるはずがありません」

 

「うっ……でも。オレさ、いつもながら煩いと思ってたけど、ちょっぴり嬉しかったんだ。お前がオレのこと真剣に『家族』として怒ってくれてんだなーって。だからさ、オレもお前とちゃんと向き合って言葉にして伝えないとわかってもらえないと思うから言うぞ」

 

「………」

 

 ジャンヌの目は真剣だった。

 

 だから、オレはジャンヌの『弟』として、言葉を告げる。

 

「オレは今からラブレターをくれた人に会いに行く」

 

「立香……」

 

「会って、話し合って、どういう人か見て、ちゃんと答えを出す。オレがどういう人間かも話すし、ジャンヌやオルタのこと、リリィも家族のこともそうだし、クラスの連中も、他の連中も、ちょっと誤解を招きそうなトラブルメーカーな後輩がいることだって話して、お互い知った上で答えを出したいとオレは思ってる」

 

「………」

 

「オレはもうガキじゃないんだ。あんたの弟を信じろ。だから、心配するな。お……」

 

「お?」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「ズキュゥゥウウウウウンッ!!?」

 

 言いたくなかったワードを言って、ジャンヌのハートが何か矢みたいなもので射抜かれた。聖女様は胸を両手で抑えてはのけ反り、よろけた。それぐらいに効果抜群のワードだったのだろう。

 

「り、立香……い、今、ななんて!!?」

 

「うっ……」

 

「もう一回お姉ちゃんって言ってみてください!!お願いプリーズちょーやばみーです!!」

 

「………」

 

 たぶん『お姉ちゃん』以外のオレの台詞とか頭の中から全部吹っ飛んだろうなと思う今日この頃。肩を揺さぶられ『お姉ちゃん』ワードをお願いされるわけだけども。

 

 絶対、もう言わない。

 

「お姉ちゃんってもう一回言ってくれないとこの手は放しませんよ!!」

 

「うっ……」

 

 結局、最悪だ!!

 

「ほーらほら、もう一回言ってみてください!!ラブレターの子が待ってるんですよね!!」

 

「ぐぬぬ……」

 

「あーいいんですかー?お姉ちゃんって言わないと……んー、そうですね。こうしましょう。お姉ちゃんも付き添いでラブレターイベント参加しますよ!お姉ちゃんの紹介も自分でしますね♪」

 

「お姉ちゃんそれは絶対にダメだぞ!?」

 

「キャー立香がお姉ちゃんって言ってくれました!!もう好き好き好き好き好き好き今日の晩御飯のおかず多めに乗せときますね!!」

 

「お、おぅ……」

 

 お気に召してなりよりだ。

 

 しかし、ちょろいなこのお姉ちゃん。お姉ちゃんと言っとけばご機嫌取りができることがわかった瞬間だった……とか、愚かにも『お姉ちゃん』を過小評価してしまった瞬間だった。

 

「それじゃ立香、行きましょう♪」

 

「え、どこへ……」

 

「どこって、ラブレター貰った人の所に決まってるじゃないですか♪」

 

「え、いやそれは1人で行く約束じゃ……」

 

「あれ?約束した覚えはありませんよ??」

 

「なん……だと……」

 

「お姉ちゃんと呼んでくれたからといって前言撤回するとは公約してません♪」

 

「そんなバナナ……」

 

「なので、お姉ちゃんも同席します。立香がそこまで言うならお姉ちゃんが直々にお相手さんとお話しましょう!任せてください!!」

 

「………」

 

 ふっ、ドヤ顔のあざとカワイイ聖女様を久しぶりに見た気がするぜ。オレは膝から崩れ落ちた。orzこんなポーズである。

 

 しかし、

 

「ジャンヌ。もうよすんだ……」

 

「ジーク君!??」

 

 ジークというイケメンがジャンヌの暴走を止めに入った。今のやり取りに流石に見かねたのだろう。オレが自力でジャンヌの魔の手から逃れるのならそれに越したことはなかったんだが、無理だと判断したのだろう。

 

 流石、ジャンヌの彼氏だぜ。

 

「ジーク。あとを頼むぞっ」

 

「あぁ、わかった」

 

「あっ、待ちなさい立香っ!!話はまだ終わってませんよ!!」

 

 オレは四つん這いからのハイハイして、猛ダッシュで来た道を引き返した。ジャンヌは靴を履いているがオレは上履きだ。時間稼ぎはできるだろう。校舎の中を駆けて裏手から回って伝説の桜木の下を目指した。

 

 それに、ジークも時間稼ぎをしてくれる。奴はできる子だとオレは知っていた。

 

「ジャンヌ……もうほどほどにするんだ。『弟』から『お姉ちゃん』と言われて良かったじゃないか。今日のところは諦めて……ぐっ」

 

「ジ、ジーク君……??」

 

「ジャンヌ……す、すまない……ごほっ(血)」

 

「え、ジーク君……っ!?」

 

 ジークは突然左手で口を押させて吐血した。吐血して、膝をついた。

 

 あまりの突然のことにジャンヌは困惑した。

 

「ジ、ジークくん!?だ、大丈夫ですか!??」

 

「ぐっ、誰か。救急車を頼む……」

 

「ジーク君!しっかりしてください……ってあれ?この血……まさか、ケチャップですか??」

 

「………」

 

「ジ~ク君?」

 

「す、すまない。時間稼ぎだ……」

 

 流石ジーク!!でかした!!

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 そして、こうしている間にオレは辿り着く。

 

 伝説の桜木の下に待つ少女の元へ。




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