亜種日本聖杯戦争 (木々津皆守)
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序章 1-1

万能の願望器、魔術師はそれを聖杯と呼ぶ。
 過去に冬木と言う土地で、聖杯を求める者達が行う聖杯戦争と呼ばれるものが存在していた。
 しかし、その戦争は大聖杯の破壊と言う形で終結を迎えた。
 
「素に銀と鉄。礎に意思と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ」

 だが、それでも『』に至ると言う可能性を閉ざさず、聖杯戦争を再現しようと試みた者も確かに存在してしまった。
 そんな魔術師の中でも、たった一つの言葉を、たった一つの嘘を奇跡によって現実にしようとする者が居た。

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 偶然と呼ぶには余りにも出来すぎており、天啓というには余りにも胡散臭い。

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する」

 日本三大霊山が一つ恐山。
 そこに大聖杯は創られた。

「―――――Anfang(セット)
 ―――――告げる
 ―――――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 まるで、運命は嘲笑うかのように。

「誓いを此処に。我は常世総ての善となるもの、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 魔術師は一人、小さく笑う。

「サーヴァント、ライダー。まかりこしました。武士として誠心誠意、尽くさせていただきます」

 これは、小さな嘘を本当に変える為の物語である。


 東北のとある田舎。桜ヶ咲(さくらがさき)市、そこは春には桜が咲き誇り、冬には雪が舞い大地を白く染め上げる。

 そんな街で彼は生まれ育ち、良き友に恵まれ、唯一つ不満があったとするなら時代錯誤も甚だしい魔術師の家系であったということだ。

 父は魔術を極め、いずれは『』に至る事こそお前に望むことだと願い、勝手に願いだけを託して死んでしまった。

 幼い頃から仕方なく続けていた魔術の鍛錬は身を結び、一人前の魔術師と言えるほどには成長したが、科学技術の発展したこの世の中では使う機会などそうそう訪れはしなかった。

 しかし、それは確かに刻まれたのだ。逃れることの出来ない運命を。願いを叶える道標を。

 

「具合はどうだい、希実香(きみか)?」

 

 病院の一室、白いベッドの上で静かに小説を読む高校生ほどの少女、絃城(いとしろ)希実香(きみか)に世間話をするように話しかける。

 

「ん、今日は調子が良い方だから恭夜に買ってきてもらった小説を読んでるよ」

 

 希実香は小説から視線を外し、恭夜に笑顔で言葉を返す。

 

「そっか、それなら良かった。何か欲しいものがあったらいつでも言ってくれていいからさ」

 

 その笑顔に恭夜は罪悪感を感じながらも、今までのように、それが当たり前だというように気軽に言う。

 それは鞘師(さやし)恭夜(きょうや)が絃城希実香に対する償いであり、決して永くは生きることの出来ない呪いを請け負わせてしまった事実から目を逸らすための行いであるのだから。

 

「欲しいモノ、か。無理とはわかってるけど元気な身体が欲しいかなぁなんて、冗談だから気にしないで? 今、君と話すこの時間が何より幸せだから」

 

 そんなことは無理だと、笑いながらいつもならば答えていた。

 しかしその言葉は出てこず、何故だか不思議と別の言葉が出ていた。

 

「オーケー、確かにその願い承った。知ってたか、実は俺魔法使いなんだぜ」

「あはは、そんなの初めて聞いたよ? それに―――」

「いいや、叶えてやるって。俺は嘘が嫌いなんだ」

 

 信じられないのは当然だと思うし、実際に自分が何を言っているのかわからなかったが、こうでも言わなければ決心が鈍ってしまいそうで、怖くて逃げ出したくなってしまいそうだったから、恭夜は嘘を吐く。

 内心では嘘が嫌いなどとよく言えたものだと吐き捨てながら、希実香の言葉を遮り続ける。

 

「次に俺が此処に来るときは絶対にお前の身体は健康で、他の奴等と同じように暮らせるようになってるからさ」  

「期待しないで待ってるからね?」

「そこは嘘でも期待してるねくらいは言って欲しかったけどな」

「だって、嘘は嫌いなんでしょ?」

 

 希実香のそんな言葉に恭夜は笑う。同じように希実香も笑っていた。

 

「じゃあ、そろそろ帰るよ。ちゃんと安静にしとけよ」

「うん、大丈夫だよ。また、来てくれるよね?」

「ああ」

 

 短く答え、病室を後にする。

 どのみち勝ち残らねば此処には二度と来ることは出来ないだろう、そう思いながらも足早に駅に向かい、今から自分が参戦するべき舞台へと彼は向かう。

 日本三大霊山が一つへ。 

 そこに行けば何がある? そう問われれば彼はこう答えるであろう。

 万能の願望器、過去に失われし魔術師の夢、聖杯があると。

 電車の窓から夜の暗闇に閉ざされた風景を眺めながら、彼は呟く。

 

「明日はいい天気ならいいんだけど」

 

 

 

 霊山の麓町、その一角で光り輝く町並みを眺めるものが二人。

 

「ほぅ、聖杯より賜った知識で知ってはおったが実際に視てみるとやはり信じられぬな」

 

 カジュアルな服装を着こなした黒髪の男は感心したような声で景色を眺める。

 

「さてはて、感心ばかりしておられぬな。小生もマスターより請け負った任務を果たさねば」

 

 などと言いつつも、懐から煙草を取り出しては火をつけ、紫煙を吐き出す。

 そんな姿に痺れを切らしたのか、その頭をごちりと殴りつける少女がいた。

 

「なにをするでござるか、拙者は今から偵察に行くつもりであったというのに」

「どっからどう見ても煙草吸ってサボってるようにしか見えないのだけれど?」

 

 わざとらしく頭をさすりながら、男は頭を殴りつけた人物、燃えるような赤髪の少女に返すが、左手に三画ほど刻まれた刺青のようなモノを見せ付けられると冷や汗をかき始める。

 

「あいや、待ち為されマスター、冗談でござる。だから軽率に令呪を使おうとするのは―――」

「ランサー、わかってるわ。わざわざ令呪をこんなことに使わないし、令呪を使うまでも無いのだから」

 

 にこりと赤髪の少女は微笑むと、人差し指を拳銃のようにランサーに向け、シングルアクションで発動する魔術を放つ。

 

「ガンド!」

「体罰反対!!」

 

 ランサーは叫びながらも身体を軽くひねり、容易く回避を行う。ランサーから射線が外れたそれは、後ろに生えていたイチョウの木にぶつかると鈍い音を立てた後に雲散した。

 本来のガンドとは物理的な破壊力を持たないものだが、彼女の放つそれはフィンの一撃と呼ばれるような代物であり、物理的な破壊力を秘めた呪いの弾丸だ。ランサーの対魔力のステータスで考えれば当たったところでダメージなど無いはずなのだが、彼は必死だった。

 

「ちょっと、素直に当たりなさいよ!」

「マスター、少しは理性的になるでござるよ、こんなことに魔力を消費してはしょうがないであろう」

「ふんっ」

 

 ランサーの説得に不満気に少女は顔をぷいっとそらす。

 

「元々はアンタが悪いんじゃない、聖杯の知識があっても百聞は一見に如かずとか言うからわざわざ寒い思いをしてまで連れて来たってあげたって言うのに」

「ふむ、コレがツンデレという―――」

 

 おちゃらけた様に会話をしていたランサーの表情が一瞬で真面目なものへと変わる。

 

「マスター、サーヴァントが来るぞ」

「へっ?」

 

 少女は突然なことに反応しきれず、間の抜けた声を出してしまう。

 それとは反対に、ランサーは先ほどまでの雰囲気とは打って変わり、歴戦の兵(つわもの)を思わせる鋭い眼つきになっている。

 

「ほう、流石は三騎士の英霊じゃの。気配は完全に絶っていたと思っておったのだが、まだまだ未熟ということよな、カカカ」

 

 現れたのは赤い陣羽織、腰には短く反りの大きな刀、般若の面をつけた小柄な人物だった。

 声を聞く限りは女性だと判断できる。

 

「そんな事無いと思うがね、此処まで接近を許しちまった。見たところセイバーのサーヴァントとお見受けするが如何に?」

「カカカっ、ヌシも世辞が上手いのう、槍兵にそう言われるとワシも鼻が高いと言うものじゃな。じゃが、生憎と魔術師のクラスであってな」

 

 ランサーは少女を背に隠すように構える。

 それに対してキャスターと名乗る般若面の女は手をひらひらと振り、戦闘をする意思は無いと言うように続ける。

 

「そう警戒せんでも今日は戦うつもりなど微塵もないわ。しかし不意打ちなどされては魔術師風情では槍兵に勝てるとは思わぬのでな、武具を持つのは護身ゆえじゃ」

 

 ランサーはキャスターの身体の動きと、その言葉の真意を探ろうとするが、判断材料となるはずの表情は般若面によって見えず、その声から判断するしかできない。

 そのため警戒をするなとは言われたものの、いつでも行動できるように自然体を装いながらも警戒をするのはやめないでいた。それは後ろにいるマスターへのささやかな気遣いでもある。

 

「ちょっと、ランサー。本当に敵意はなさそうだし警戒しなくてもいいわ」

 

 だがそんなランサーの気遣いなど、マスターである少女は微塵も気にせず、警戒を解けという。

 やれやれと思いながらも、マスターの命令ならば逆らうわけにもいかず警戒を解かざる得ない。

 

「ふむ、小娘と侮っていたがなかなかに胆の据わった女子であるな」

「あら、侮って貰っていた方が嬉しかったのだけれどお褒めを預かり光栄ね。それで、戦うつもりが無いなら一体なんの用件で来たのかしら?」

 

 ふたたびキャスターはかかかと笑うと、楽しげに、知り合いと会話をするように答える。

 

「簡単なことよ。ワシはどうしてもこの手で殺したい英霊がおってな、その者をワシに譲って欲しいということじゃ」

 

 そう言う声こそ至って普通に聞こえるが、その言葉を聞いていた少女には強い怒りが含まれていることがわかった。

 生前に因縁を持っているかのように感じる。

 

「もしこの願いを聞き入れてくれるのならば、ワシからは把握している英霊の真名を答え、ヌシらに一切の危害を加えぬと約束しよう」

「その前に答えてくれるかしら?」

「ふむ、答えられることであれば答えよう」

「キャスター、貴方が聖杯に望む願いは一体なにかしら?」

 

 キャスターは少女の言葉に悩むそぶりも見せず、即答した。

 

「ワシが聖杯に願うことなど何も無い。ワシはこの聖杯戦争に召喚されたただ一人の英霊さえこの手で殺し、私怨を晴らせればそれだけでいい、その為だけにワシはわざわざこの聖杯戦争に出向いたのでな」

 

 そう言ってキャスターは般若面を外し、その顔をあらわにする。

 流れるような黒髪、気の強そうな瞳をした美しい顔、その瞳には一遍の曇りも無く、今までの言葉に嘘が無いのだと分かった。

 

「わかった、さっきの条件で私達は貴方の邪魔をしないと約束するわ」

「お、おい、マスター」

 

 その言葉にランサーは焦ったように少女の口を塞ごうとするが、それと同時にキャスターはにやりと微笑む。

 

「では、契約成立じゃな。確かに言質は取った、ゆえに結ばせてもらう」

 

 素早くキャスターは手で印を組み上げると、少女の左手に刻まれた令呪の一角に痛みが走る。

 少女は何事かと自分の左手に刻まれた令呪を確認すると、その一つだけが赤黒くなっているのがわかった。

 

「あーあ、やっちまったなマスター」

 

 ランサーは片手を額にあて、呆れたように項垂れる。

 そこで漸く少女は自分のやらかしたミスに気がつく。

 

「ちょっと、もしかして?」

「お察しの通りだぜマスター、キャスターに強制(ギアス)を許しちまったんだよ。もしかしなくてもアンタ馬鹿じゃないのか」

「だ、だだだだって、こんなことになるなんて思ってなかったもの!」

 

 呆れるランサーと慌てふためく少女にキャスターは言う。

 

「ふむ、焦ることはない。こちらから契約を違えるつもりは無いのでな。ほれ、ワシもしかと刻まれておるからに」

 

 そう言ってキャスターは左手を二人に見せつけ続ける。

 そこには少女の左手に刻まれた令呪を写したような何かが刻まれていた。

 

「安心せい、契約の中には危害を加えぬというものがきっちり含まれておる。では早速だがワシの知りうる情報を提供するとするかの」

 

 

 

 

 霊峰の中腹にある菩薩(ぼさつ)寺で二人の女は楽しそうに笑う。

 

「凄いなぁ、此処まで上手くいくとは思わんかったわぁ」

「クハハ、そうであろうそうであろう。我を褒めてもいいのだぞ」

 

 一人は赤いジャケットを着こなし、寺の雰囲気にはそぐわぬ格好をした糸目の女性。もう一人は美しい装飾が施された着物を纏い、額からは二本の美しい角の生えた金髪の少女である。

 

「なんや聖杯戦争やったっけ? この調子だったら茨木ちゃんの一人勝ちになりそうやねぇ」

「うむ、我が召喚された以上それが当たり前というものよ。玲香(れいか)のような者に呼ばれたことも幸いであったしな」

「いややわぁ、そんなにほめんといてぇな」

 

 唇に指を当て、妖艶な雰囲気を漂わせながら赤いジャケットの女性、玲香は呟く。

 

「そんな茨木ちゃんに朗報なんやけどなァ、漸く七人揃うたようやよ」

「なに、それはまことか! クハハ、遂に我が聖杯を手に入れる条件が整った!」

「ほんでな、この近くに一匹おるらしいんよ。今から味見でもしにいかん?」

「それはよいな、うむ、では行くか」

 

 茨木のその答えに玲香はにっこりと微笑むと立ち上がり、菩薩の前に置かれた一振りの刀を手に取り腰に差す。

 そこで玲香は楽しそうに言うのだ。 

 

「んー、わざわざ出向かなくても向こうから来るなんてせっかちさんやねぇ。でも、嫌いやないよ」

「む、我の知覚には引っかからぬがこちらに来ておるのか?」

 

 茨木も同じように楽しそうに聞き返す。

 

「いま極楽浜の近くにおるようやし、移動速度も考えればまだ正確な位置はわかっとらんはずよ」

「ふむ、我等がじきじきに向こうてやるか」

「さーんせー、じゃあ、軽く向かいましょ。わるいけどまたおぶってくれる?」

「よかろう、それくらい容易いこと」

 

 茨木は玲香を背負うと寺の扉を開け放つ。

 目の前には収まる限りの視界どころか、一面が銀世界だ。普通の人間であったならば、慣れている者でも移動は手間だろう。

 しかしその身はただの人間のものではなく英霊と呼ばれるもの。軽く板張りの床を茨木は蹴り付け、高く飛び上がる。

 そのままの勢いで次々に背の高い樹木を足場に、一直線へ極楽浜へ向かう。

 

「すとっぷすとっぷー、此処からは茨木ちゃん霊体化してなぁ。うちがまずはあそびたいからなぁ」

 

 そう言うと玲香はよいしょと雪の上に足を下ろし、茨木に霊体化してもらう。

 

「まぁ、こんな真冬にこんな場所にまともな人間なんておらんし、間違ってたら殺しちゃえばええしな」

(我が危険だと判断すればどういった状況であろうが戦わせてもらおうぞ)

「はいはい、茨木ちゃんも血気盛んやねぇ」

(ヌッ、玲香にだけは言われとうないな)

 

 そういいながら玲香は雪に足を取られぬように器用に歩く。

 そうして幾許か歩いたところでお目当てであろう少年を見つけた。

 満足そうににっこりと玲香は微笑むと、そのままその人物に声をかける。

 

「すんまへん、見たところお兄ちゃん一人みたいやけどこんな真冬にどうしておるんや?」

 

 不意に声をかけられた為か、その人物はびくっと振り返り、玲香と視線が交わる。

 

「いえ、ちょっとした用事がありまして。お姉さんこそ一人でこんな場所にいたら危ないですよ?」

「用事、ね。もしかしてこんなものに見覚えあらへん?」

 

 玲香は不意に胸元を晒すようにそれを見せ付ける。

 刺青のようなそれを見た瞬間、少年は玲香から距離を取るように飛びのき呟く。

 

「起動(スイッチ)開始(オン)」

 

 少年の瞳は黒い瞳から薄い蒼に変わっていた。

 

「しっかりサーヴァントも引き連れているようですし、どうやら貴方もマスターというわけですね」

「ふぅん、在り得ざるモノが見えるやなぁ。浄眼って言うんやっけ? そないなもんつこわれたら隠す意味もないわなぁ。バーサーカー、でておいでぇ」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりにバーサーカーのクラスで召喚された少女、茨木は姿を現すと同時に少年に向かって斬る事よりも叩き潰すことに特化した骨刀を振りかざす。

 

「くっ、アサシン!」

「承知」

 

 少年の眼前まで迫った骨刀は、侍のような格好の男の身の丈ほどある刀に受け流される。

 

「クハハ、いいぞ、良くぞ往なした」   

「やれやれ、血生臭いことよ。むっ、構えろマスター!」

 

 それと同時に玲香も腰に差した刀の柄を握り、少年に向かって一歩、二歩、三歩と変則的に加速しながら飛び込んでいく。

 

「油断したらあかんよぉ、ついつい刀が出てまうからなぁ!」

 

 そして懐に潜り込んだ瞬間、凶刃は放たれ、少年の身体を両断せんと奔る。

 しかしその凶刃は空を切るだけで、少年には当たることは無かった。

 

「ふぅ、女性だと思って侮っていたのは詫びましょう。しかし、それはお互い様ですよ」

 

 少年は懐から切れ味の良さそうな短刀を取り出し、姿勢を低く構える。

 

「今のはずすかぁ。なんや、出来るみたいやし分が悪いなぁ。そやそや、お兄ちゃんの名は?」

「弓塚(ゆみつか)幹久(みきひさ)。お姉さんは?」

「うちは軋間(きしま)玲香いいますわ」

 

 そう言って玲香は抜刀した刀を鞘に収める。

 

「何の、つもりですか?」

 

 その姿を訝しげに幹久は見つつも、構えを解かずに問いかける。

 すぐ近くでは茨木とアサシンが今もなお、剣戟を切り結んでいるというのにだ。

 

「なんのつもり言われてもなぁ、味見も済んだから帰ろう思うてね。バーサーカー、そろそろ帰ろか」

「ヌッ、折角血が滾って来たと言うのにか?」

 

 茨木は楽しそうにアサシンと刀を交えながら、不満そうに玲香に答える。

 

「だってなぁ、うち疲れてもうたもん。あー、疲れたなぁ、帰りたいなぁ」

 

 手足をばたばたと振って玲香は駄々をこねるように、茨木をちらちらと見る。

 

「駄々をこねるでないわ、わかった、わかったから騒ぐな! クッ、此処は我がいったん退いてやる、逃げるのではないからな!」

「ふむ、それも良かろう。こちらとてこのような場所では戦いにくくてな、次はお互い全力で切り結ぼうではないか」

 

 アサシンはそう言うとあっさり刀を鞘に収めると、幹久の隣に並び立つ。

 

「ほんなら、またね」

 

 茨木に玲香は背負われると、楽しそうに手を振ってその場から遠のいていく。

 

「この聖杯戦争も随分と愉快な御仁が参加しているようだ」

「まあ、アサシンが言うのも大概だよね。なにせ本来呼ばれるはずの無い英霊の皮を被った農民だって言うんだしさ」

 

 そう言われるとアサシンは堪え切れずに笑う。

 

「はっはっは、違いない。しかし、アレは鬼種の類であったと見るがどうであろうな」

「日本の英霊として召喚されそうな鬼ね。んー、有名どころが多すぎるし情報が少ないなぁ。アサシンはわかるかい?」

「私が知る限りではないぞ、そもそもそれはマスターの役割だろう?」

 

 幹久は返す言葉も無いと笑うと、この聖杯戦争の異常さについて考えるが、一抹の不安が過ぎり、思考を停止する。

 

「まあ、とりあえず頑張るよ」

 

 そう言って本来の目的を果たすべく、その足を進めるのだった。

 

 

☆  

 

 外を眺める。そこには私の求める世界があった。

 当たり前のように学校に通い、当たり前のように友達を作って、好きな人と一緒に笑って過ごす。そんな日常が外の世界には広がっている。

 病室で与えられる些細な幸せは、毎日のようにお見舞いに来てくれる少年とのほんの少しだけ許された会話だけだった。

 だというのに、そんな些細な幸せな時間すらも世界は私から奪い去ろうというのか?

 

「嘘は嫌い、か。丈夫で健康な身体なんかより、君と話す時間が、私にとってのかけがえの無い幸せだったのに」

 

 断片的にしか視えない未来は、私を奮い立たせるには充分すぎる理由だった。

 

「君が死んでしまう未来なんて私は許容できないし、絶対に見たくない。だからごめんね、私だけ待ってるなんて出来ないよ」

 

 歩くだけで倒れそうになる身体に鞭をうち、ふらふらと彼と過ごしていた日常である病室から抜け出す。

 足がもつれ、転びそうになっても私には心強い味方がいる。

 

「ちょっと、マスターなにしてんの! ほら、アタシに掴まって」

 

 最優のサーヴァント、セイバー。それが私が召喚した英霊だった。

 

「だい、じょうぶ。ううん、ありがとうセイバー」

 

 初めて彼女を見たときはいくら未来を断片的に視ていたとはいえ驚いた。

 鈴鹿御前、彼女は神霊と呼べるような存在だったのだから。

 

「いいの、アタシはマスターのしたいことを手伝うって決めてるからさ」

「でも、本当にいいの? 聖杯、壊しちゃうんだよ」  

「アタシが聖杯に望むことなんてなんにもないし、マスターの魔力量なら聖杯のバックアップ無しでもしばらくは大丈夫だし、無問題じゃん?」

「ごめんね」

「なんであやまるし、別にいいって。アタシはマスターの願いを触媒に呼ばれたんだし、なにより恋する乙女なら手伝いたいって思うし」

 

 私の身体は少しだけ特異で、普通の魔術師の十倍以上の魔力が常に身体の中を巡っている。

 そのせいで私の身体は常に魔力中毒状態にあり、放出することが出来たならば健康体で居られたはずだった。

 しかし、私の身体は自分の意思で魔力を外に出すことが出来なかった。

 けど、今は違う。セイバーのおかげで今まで体内で渦巻いていた魔力の奔流は解消し、すこぶる調子がいいのだ。

 ただしばらく動いていなかったせいで上手く身体が言うことを聞いてくれない。

 

「じゃあ、私達も向かおうか。セイバー、お願いできる?」

「あったり前じゃん!」

 

 セイバーは私の言葉に二つ返事で答えると、その小さな身体に私を背負うと、病院の屋上から飛ぶ。

 

「ねぇ、セイバー?」

「ん、舌噛まない様にね。どうしたの?」

「マスターじゃなくて名前で呼んで欲しいなって、駄目かな?」

 

 セイバーはにっこりと笑い、答える。

 

「いいじゃん、希実香。アタシそういうの大好きだし」    

 

 凍える様な冬の寒さも、背中越しに伝わってくるこの英霊の心強さに忘れることが出来そうだ。

 

「恭夜だっけ、ちゃんと二人で助けようじゃん」

「うん、セイバーならできるよ」

「違う違う、アタシ達ならでしょ」

 

 在り得ざる聖杯なんて求めない。

 私はただ、先が永くないと分かりきっている身体だとしても、君と生きる時間が大好きだから。

 だから抗ってみせる。血生臭い奇跡なんか必要ないのだから。

 

 

 

 

 七つの駒が置かれた古めかしい地図のようなものを見て、小柄な少女は叫ぶ。

 

「ワシの出番が全然来ないのじゃが!」

 

 彼女の名は織田信長。アーチャーのクラスで召喚された英霊である。

 

「んー、そんな事いわれましてもねぇ。ささ、信長殿、和菓子でも食べて落ち着いて落ち着いて」

 

 そんな彼女に対し、マスターである明智(あけち)有彦(ありひこ)は和菓子を差し出し宥める様に言う。 

 

「む、しょうがないのぅ。べ、別に和菓子に釣られたんじゃないんじゃからな!」

「わかってますよ、まあでも、焦って戦う必要も無いわけですし。小生としましては先祖がやらかしたツケを返せるだけで満足ッスから」

「なんじゃ欲の無いやつじゃのー。ワシつまんない」

「是非もないっすよねー」

「あー、それワシの台詞じゃ! む、この羊羹美味しいのう」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、羊羹を食べると歳相応な少女の笑顔となる。

 

「まあでも、まさか信長殿が女性だったとは小生知らなかったッスよ」

「そんなことを言うたら英霊なんてもんは大体あれじゃ、伝記とか歴史とか捻じ曲がって伝わっておるしの。是非もないネ☆」

「絶対それ言いたかっただけッスよね?」

「むっ、言わせるでない馬鹿者!」

「逆ギレっす、理不尽ッス!」

 

 そういう有彦の顔は目だけ笑っているように見えるが、それ以外のところは全く笑っている要素がない。

 

「む、そういうところだけは光秀にそっくりで嫌になるわ!」

「言いがかりッス!と、まあ、冗談はさておき、これからどうするッスか?」

「突然真面目になるのをやめんか。ふむ、ワシとしては顔合わせでもしたい気分じゃがどうせ駄目じゃというんだろ?」

 

 有彦は考えたかのような素振りをみせ、何一つ変わらない目だけが笑っている表情で答える。

 

「んー、別にいいッスよ。小生も叶えたい願いとかは特にないっすけど研究材料が欲しいところなんで」

「かるっ、今までの腰を重く行くスタイルとやらはどうしたのじゃ!?」

「軍師は仕える主の願いを聞き入れるものッスよ。あと、個人的に霊峰の近くにある温泉に入りたいからッス」

「有彦、後者が本音と見えるが如何に?」

「き、気のせいッスよ?」

 

 ちゃきりと有彦の額に冷たい筒状のモノが添えられる。

 

「じょ、冗談ッスよ? いや、マジでそれはだめッス!!」

「是非もないネ☆」

 

 ズガンと脳を揺さぶるような音が有彦を襲う。

 

「じょ、冗談にならねぇッスよぉぉぉぉ!!」

「たわけ、避けるでない」

 

 

こうして亜種日本聖杯戦争の幕は密かに開かれていくのだった。

 




――――――
登場キャラ
セイバー 鈴鹿御前
マスター 絃城希実香

アーチャー 織田信長
マスター  明智有彦

ランサー ????
マスター 赤髪の少女

ライダー ???
マスター 鞘師恭夜

キャスター ????
マスター  不明

アサシン 佐々木小次郎
マスター 弓塚幹久

バーサーカー 茨城童子
マスター   軋間玲香 


―――――― 


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序章1-2

過去を変えることが出来るのならば、あの日あの時の全てをやり直せたのならとこれまでの間、毎日のように考えていた。

 いつも夢に見る悲劇の光景。それは脳裏に焼きつき、忘れることを許してはくれなかった。

 

「マスター、マスター! どうなされたのですか、随分とうなされていたようですが」

「ん、いや、ちょっと夢見が悪くってさ。わざわざすまない」

 

 真冬だというのに背中は汗でやけに濡れている。

 

「いえ、私は私がするべき事をしたまでです。戦は万全の状態で行ってこそ勝率が上がるというものですし」

 

 そう言ってライダーはにこりと笑う。

 ライダーの、彼女の聖杯への願いは歴史を覆しかねないものであると同時に、それは過去のやり直しと言いえるものであった。

 兄との仲直り、たったそれだけの事を聖杯に願うなど彼女のことを知らぬ人間であればきっと理解をしようなどと思うなかっただろう。

 クラスはライダー、日本であれば彼女を知らぬものは居ないというほど名高い英霊。何の因果か文献や資料とは違い男性ではなく女性で、しかも全盛期であろう次期よりも若い姿で召喚された彼女の真名は牛若丸。後に源義経となる英霊である。

 天才ゆえに兄の、人の気持ちが理解できなかった存在。

 その一言が牛若丸の全てであった。

 

「ん、ありがとな。さてと、他の陣営に動きは?」

 

 だが彼には彼女、牛若丸が辿って来た果てに行き着いた願いは余りにも真っ直ぐで眩しくて、羨ましく思えた。

 それに対して自分が聖杯に望む願いは過去の否定、やり直し。此処までは牛若丸と同じように聞こえるが本質は全くの別物である。

 自分はただ、誰にも分かち合って貰えない罪の重さから逃げたかっただけなのだから。

 

「霊峰付近に恐らく二騎、市街地に三騎、それとマスターの故郷の方角から一騎向かっているようです」

「桜ヶ咲から?」

「ええ、それも他の英霊よりも圧倒的な」

 

 それを聞いて恭夜は戸惑う。

 あの土地で魔術師の家系は鞘師だけなのだから。

 

「ライダー、お前なら勝てると思うか?」

「愚問ですよマスター、勝ちます」  

「わかった。こちらから仕掛けるぞ」

 

 外様の魔術師である可能性は否定できないものの、不確定要素は排除しておきたかった。

 あの土地の人間と戦い、つまり殺し合いをすることが出来るかの確認も兼ねての考えだ。戦いに人間の情を残したままでは足元を掬われかねない。故に恭夜は自らの願望の為に人殺し足りえるのか、どんな相手であろうと非情に徹することが出来るのか確かめたかった。

 

「ええ、必ずやマスターの期待に応えましょう。準備が出来たら随時指示を」

 

 自らが戦いの場に立つ覚悟、それを表すかのように恭夜は鞘師の宝刀であり、受け継がれてきた魔術礼装である獅子刀(ししとう)を腰に携える。

 戦う意思を表現するかのような赤い鞘、抜き放てば触れたものを両断する概念を付与された刀身、如何なる魔術師といえどこの攻めを受けきるのは不可能と言わざる得ない鞘師最高の一品である。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 拭い去れぬ不安を胸に、彼は凍える大地を駆けるのだった。

 

 

 その身一つで長距離移動を行っているセイバーは近づいてくる一つの気配に気付く。

 

「ん、希実香。こっちに誰か向かってきてるっぽい」

「他のマスターかも知れないね。セイバーはどうするべきだと思う?」

 

 一瞬だけ考える様な仕草をしてからセイバーは希実香に答える。

 

「今のうちに余計な敵を減らしておくのもありかもって思うけど、そこは希実香に任せるじゃん。未来視はどうなの?」

「未来視は私が望んで使えたら良かったんだけどね。答えは視えていない」

「ん、了解。とりあえずこのまま行くと間違いなくぶつかるから此処で待ってみようか」

 

 セイバーはすとんと地面に着地すると希実香を背中から降ろし、不意を打たれぬ様に周囲の警戒を始める。

 

「私、戦えるかな?」

「希実香はアタシの後ろで見てくれてるだけでいいよ、アンタが死んじゃったらどうしようも無いからさ。ん、そこの樹の影にでも隠れてて」

「ごめんね」

 

 希実香は小さく謝ると言われたように樹の影に身体を隠す。

 それから数分ほど経った頃、セイバーの刀は振りぬかれていた。

 

「その首、頂戴致す」

 

 やけに軽装の少女は軽い身のこなしでセイバーの首を刎ねんと一撃を放つが、その一撃はセイバーの振りぬかれた刀で受け止められている。

 腰には尻鞘と呼ばれる、動物の毛皮を鞘に拵えたものが携えられており、その刀身の美しさは名のある名刀なのだと推測できたが、それが何の刀なのかまではわからない。

 

「あっぶなー! ちょっと、不意打ちとか卑怯じゃん、見たところ武士でしょ? だったら正々堂々戦うってモンじゃん」

 

 その言葉に相手の英霊は動きを止め、しかめっ面だが律儀に応答する。

 

「むっ、そう言われては武士の名折れというもの。私はライダーのサーヴァント」

「うんうん、じゃあアタシも名乗っておこうかな。セイバーのサーヴァント、今宵アンタを倒すものじゃん!」

 

 お互いに名乗りを上げ、意気揚々と剣戟を結び合う二騎の英霊。

 素人目に見るとセイバーの方がやや優勢かと思えるが、実際のところはセイバーは攻めあぐねていた。 

 

「アンタのその刀、常時発動型の宝具って所でしょ?」

「死闘の最中にその観察眼、最優は伊達では無いようですね」

 

 源氏宝刀(げんじほうとう)・四種刀(ししゅがたな)。それはライダーが生前に愛用していた刀である薄緑の過去全てを束ねる宝具である。

 牛若丸が源義経として生きていた頃に彼女は源氏の宝刀に薄緑と名を授けたが、それ以前には別の名称、真名で呼ばれていたのだ。

 ある時代には膝丸と呼ばれ、ある時代には蜘蛛切り、またある時代には吠丸、そして今現在の名称である薄緑。

 それぞれに逸話があり、彼女は源氏最後のこの刀の主であるため、この刀の歴代の真名を知っている。

 故にその逸話全てをこの一振りで機能させることができるのだ。

 

「魔力を吸われる感じってか異形に対する効果? それにアンタの剣術もアタシは知ってる、京八流剣術。つまるところアンタの真名は源義経って所じゃん」

「有名すぎる弊害という奴ですね。しかし知られたところで私に弱点という弱点はありません、天才ですから」

 

 なんたる出鱈目な存在なのかとセイバーは思いながらも、己の宝具の一つも使用せずに戦えているのはやはり最優の名は伊達ではないと言うことであろう。

 しかしこのままではジリ貧であることは確かなため、己の切り札の一つを切らざる終えなかった。

 

「あんま本気(マジ)になって戦うって好きじゃないんだけど、しゃーないってカンジだしぃ、いっちょやってやるじゃん」

 

 彼女の持つ大通連という刀は、一本二本三本とその数を増やすように分裂し彼女の周りに意思を持っているかのようにふよふよと浮かんでいる。

 神霊としての頃よりは劣化しているが神通力のスキルにより鈴鹿御前は自身のアイテム限定で操ることが出来る。そして本人としては余り使いたくないが才知の祝福の同時発動により自在にその分裂した刀を操ることが出来る。

 

「別にさっきまで手を抜いていたって訳じゃないけどさ、これならどう!」

 

 ライダーから距離を取るように後ろに飛び退ると同時に、分裂したセイバーの刀が意思を持ったようにライダーに襲い掛かる。

 それに対しライダーは回避行動で避けれるものは避け、防がねばならない物だけを見極め刀で受け流す。

 

「真名開放―――膝丸!」

「ちょ、マジ!?」

 

 真名開放を行ったライダーの刀は先ほどと同じ要領で受け流した刀を数回に一度、幻想を打ち消すかのように刀を破壊する。

 離れていた距離は次第に近づいていき、あと一歩でセイバーを切り伏せるには充分な距離だった。 

 流石に身の危険を感じたセイバーは咄嗟にマスターである希実香に念話を行う。

 

『希実香、宝具使うよ!』

『大丈夫、全力でいいから負けないで』

 

 まさか此処まで早い段階で宝具を使わざる得ない状況になるとは思わずセイバーは悔しさに歯噛みしながらも、更に分裂させた大連通を足場に宙を移動する。

 

「ほんと出鱈目すぎて頭に来るけど、これならどうじゃん!」

 

 自身の髪飾りを大連通の夫婦剣に見立て、彼女の宝具は初めて形を成す。

 

「文殊智剣大通連(もんじゅちけんだいとうれん)恋愛発破―――天鬼雨(てんきあめ)!!」

 

 先ほどまでの数本とは違い、天を埋め尽くさんばかりに増えた大通連は迫り来るライダーに向かって一斉に降り注ぐ。 

 完全包囲からの一斉射撃、精度こそ低いがオールレンジからのその攻撃には精度の低さをカバーするには充分すぎるほどの破壊力を秘めていた。

 だが相手は日本の歴史で織田信長と並ぶほど有名な相手である。故に一切の慢心も油断も無く、相手が沈黙したことを確認するまでは息を吐こうとはしなかった。

 その心構えが功を奏した。

 

「鵯越(ひよどりごえ)なんて二度と御免だと思っていましたが、あの経験に救われました」

 

 セイバーがその声の聞こえたほうに目を落とすとボロボロになったライダーの姿があるがその目は死んでなどおらず、むしろ手負いの獣を思わせるような眼に変わっていた。

 確かに一切の油断も慢心も無かったはずだ。

 それだというのに、今この瞬間に霊核を破壊せんと迫る一撃を前に身体の反応が追いつかないでいる。

 

「壇ノ浦―――八艘跳!!」

「ダメッ!!」

 

 どうしてセイバーは目の前にマスターがいるのかなど理解できなかった。理解したくなかった。

 守るべき対象であるはずマスターが自分を庇い、切り伏せられ絶命する姿など見たくなかった。

 

「ライダーやめろッ!!」

 

 だが、その光景はいつまで経っても訪れることは無かった。 

 

「何故です、何故止めるのですマスターッ!! 例えこの女性がマスターの想人であろうと、貴方はそれを覚悟の上で此処に来たのでしょう!!」

「ダメだ、頼む、わかってくれライダー」

 

 自分の意思とは反する令呪の束縛に、ライダーは苦しげに、苛立ちながらも身体の動きが止められている。  

 

「何故、兄上が私を見る時と同じ眼で私を見るのです、何故!」 

「頼む、わかってくれライダー」

「くっ、わかり、ました」

 

 強く唇を噛み締めたせいか、ライダーの唇からは血が流れている。

 令呪の強制もあり、ライダーは不満そうに霊体化する。

 

「どうして、お前が此処にいるんだ・・・・・・希実香!」 

 

 今まで戦況を見守るだけだった恭夜は腰に携えている獅子刀の柄を握り締めながら叫ぶ。

 

「私は、君を止めに来たんだよ」

「止める? 俺は、お前の為に、命懸けの戦いに身を投じたって言うのに、何でだよ」

「私はそんなこと頼んでないから。それは、私の願いじゃないよ」

 

 恐怖の余りに震える身体を精神力で押さえつけながら希実香は答える。

 その言葉は届くことは無いというのに。

 

「希実香、そこを退いてくれ。じゃないと、次は抑えられない」

「嫌だ、絶対に退かない。私はそのために来たんだから」

「お願いだ、退いてくれないと俺は―――」

「その刀で私を斬るって、そう言うの?」

「ッ!!」

 

 抜き放たれた凶刃は寸分違わずに希実香の首筋を捕らえ、薄皮一枚の所で止まる。

 

「出来ないでしょ? だから―――」

「うるさい、煩い、五月蝿い!! 何でそんな眼で俺を見るんだ! 俺は、俺は!!」

「桜ヶ咲に帰ろう? そこで今まで通り、私は―――」

 

 そう言って差し伸べた手は誰にも掴まれる事は無い。

 

「希実香! もう何を言っても無駄じゃん、行くよ!」

「でも、私はっ!」

「このままだと何も出来ないじゃん、いったん退くのも戦略って奴」

 

 何かに焦るようにセイバーは希実香を無理やりに背負うと、その場を離れるために飛び上がる。

 

「ちょっと、待って、まだ私は!」

「悪いけど今のアタシじゃ二体同時に相手するだけの余力残ってないっての。アンタが焦ってもしょうがないじゃん」

「え、二体って・・・」

「どっかのサーヴァントに感づかれたっぽい」

 

 遠のく恭夜の姿を視界から外せぬまま、セイバーによってその場を去る。

 私の言葉を貴方に絶対届けると、そうもう一度心に刻み、希実香はセイバーと共に敗走するしか出来なかった。

 

 

 



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序章1-3

鼻歌交じりに上機嫌そうに洋服を選びながら、玲香は茨木童子に着せては脱がしてを繰り返していた。

 

「ヌッ、ぬぅ。玲香よ、そろそろ仕舞いにはせぬか?」

 

 それに対して茨木童子はいつまで経っても終わる気配の無い時間を終わらせるべく期待を込めてやんわりと言う。

 

「えぇ、こんな可愛いのにぃ? もっとつきおうてくれてもいいんやで?」

「そうか・・・・・・」

 

 しかしそんな期待など微塵も無かったかのように、そのまま着せ替え人形と化す運命は変えられなかったようだ。

 

「んー、そうやねぇ。終わったらチョコ買ってあげるから我慢してぇ?」

「あの甘いのか!」

「そうそう、茨木ちゃんの大好きなあの甘いのやよ」

 

 だが先ほどまでの終わりの見えない着せ替え人形としてくるくる回されていた時間とは違い、茨城童子はチョコという魅惑の条件を前にお預けを食らっている犬のような状態になった。

 もっとも、そのどちらであろうが玲香にうまくあしらわれていると言う事には気が付いていないのだが。

 

「とりあえずコレとコレとコレ、全部お買い上げでよろしゅうな店員はん」

 

 ゴシックロリータと呼ばれそうな一式、その他小物を指差して玲香は楽しそうにしながら店員に品物をレジまで運ばせ、会計を済ませる。

 その顔は非情に満足そうで、良き買い物になったとにこやかだ。

 そのついでと言わんばかりに菓子類の置いてあるコーナーに向かうと、カゴいっぱいにさまざまな種類のチョコレートを突っ込み同様に会計を済ませる。

 

「コレ全部我が食べても良いのか!」

「うんうん、ぜーんぶ茨木ちゃんのやから帰るまで我慢なぁ」

 

 何故彼女等がこのようにショッピングを満喫しているのかと言われれば、たいした理由などないのだ。

 つい先日には霊峰の中腹にある寺を陣地として引きこもってはいたのだが、引きこもるにも食料品などの備えなど全く無く、たまたま持っていたチョコレートを茨木童子にあげたところ非情に気に入ってしまったのだ。ならばと玲香は考え、モノを餌に茨木童子を着せ替え人形にして遊びたいなと思ったためにわざわざふもとの町まで下りて来てショッピングに勤しんでいたのだ。

 

「むぅ、この小さいのも食べたらダメなのか?」

「フフフ、しょうがあらへんねぇ。一個だけやからね」

 

 余りにも茨城童子のチョコをねだる姿が可愛すぎたため、犬に餌をあげるように玲香は板チョコの一つを茨木童子に手渡す。

 それを受け取った茨木童子は包装紙を剥がし、銀紙をめくりチョコに齧り付く。

 その姿を眺めながら玲香は微笑む。

 

「むっ、なんだ、玲香も食べるか?」

 

 その視線に気が付いたのか、夢中になって板チョコに噛り付いていた茨木童子はモノ惜しそうにチョコと玲香を交互に見てから、まだ齧っていなかった部分を割って玲香に差し出す。

 

「フフッ、ほんまに茨木ちゃんは可愛えぇなぁ。うん、折角やし貰おうかぁ」

「食べたかったのなら先に言えば良い。こんなに美味しいのだ、玲香の気持ちはよく分かるぞ」

 

 どこか勘違いをしながらも茨木童子は胸を張る。

 この姿だけを見れば仲の良い姉妹に見えぬことは無いだろう。もちろん姉は玲香で妹は茨木童子だ。

 

「んふふ、ほんまうちは恵まれてるなぁ。このまま茨木ちゃんと暮らしたいくらいや」

「ぬ、今一緒に居るではないか?」

 

 チョコレートをもごもごと食べながら、きょとんとした顔で玲香を見る茨木童子を見ながら玲香は己の過去を思い返す。

 混血と呼ばれ、鬼の一族として生を受けた軋間玲香。その一族はとある一族の人間を殺そうとした故に起きてしまった暴走で自身を除いて皆殺しにされてしまった。

 その後は今までの土地から離れ、隠れるように住処を転々と移し、漸くたどり着いた地は北の大地だった。

 そんな場所で人から隠れるように過ごし、日々を生きる為だけに人を襲い、その日暮らしの金を握り、たった一人で生きてきた。

 一人ぼっちだった彼女に転機が訪れたのは、そんなある日のことであった。

 霊峰にて聖杯戦争の兆しがあり。そんな言葉を耳にした玲香はある魔術師の家を襲い、参加に至る条件を色々と調べた。必要とあらばその場の人間全てを殺し、礎と変えた。

 そして彼女は己自身を触媒に召喚に至る。

 鬼の一族、その血を持って生まれたことを少女を召喚してから玲香は初めて感謝した。

 自分は一人ぼっちではなくなったことを喜べた。もうその時点で彼女は聖杯に願うべき願いは叶えられ、少女の願いを手伝うことにした。

 

「そうやなくてね、ううん、ええんよ。うちは現状で充分に満足しとるんやから」

「我には時々だが玲香が何を言いたいのかわからんことがある」

「ええの、とりあえずやらなあかん事だけはわすれてへんから」

 

 例えこの聖杯戦争でこの命を捨てることになろうとも、永い間埋める事の出来なかった寂しさを、不安を、辛さを、それ以外の全てを埋めてくれたこの子の為に。

 

「そうであったな、そうであった。我等で必ずやこの戦、勝ち抜くぞ玲香」

 

 狂戦士として呼ばれたにしては理性が残りすぎているこの鬼の子を、勝ち抜かせるために。

 

「あたりまえやん、うちと茨木ちゃんなら余裕やわぁ」

 

 だがその前に、少しくらいは満喫しても罰は当たらないはずだ。

 そう思いながら玲香はもうしばらくの間、帰りに寄り道を繰り返すのだ。

 

「む、この綿菓子もうまいな!」

「うちにも一口ちょーだいな」

 

 これから起こるべく戦いに備え、二人の鬼はそれぞれの思惑のもとに今を生きる。

 きっと、今の時間はそう永くは続かないのだろうと心のどこかで思いながら。

 



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序章1-4 終

 運命に導かれるように自らが創りだしたナイフは自分自身の心臓のあった箇所に突き刺さる。

 

「悪かったな、こんな世界に付きあわせちまって。きっと日常には戻れねぇと思うけど、お前等なら大丈夫だ。なんたって俺の所員なんだからよ」

 

漸く永遠とも思えるような邪神が創りだした世界から俺は解放される。目の前に広がるのは親友の悲しそうな顔と、今までこんなくそったれな世界で俺を慕い、信じ、俺が裏切って尚も涙を流して悲しんでくれる後輩(たんさくしゃ)達の姿。

 きっと次に目を覚ますときは今までの記憶を引き継いだ俺ではなく、あの時間軸の何も知らない頃の死にかけの自分なのだろうと考えながら、目を覚ました後に迎える結末はどんなモノなのだろうかと物思いに更ける。

 できることならば親友だけはこんな非日常に足を踏み入れないように助言してから逝きたいモノだと思いながら、ボロ雑巾のようになっているはずの自分の身体に戻る瞬間を心待ちにしているのだが、いつまで経ってもそれは訪れず、ありえない感覚に目を覚ます。

 

「待て、どういう状況だコイツは」

 

 自身の肉体はあの終わった時間軸よりも力に満ち溢れ、失ったはずの心臓は違和感こそ孕んではいるが鼓動を刻んでいる。

 焼けつ付くような痛みと共に、右腕には今まで無かった刺青のようなものが刻まれ、それと同時に役割を教えるかのように脳に直接情報が流れ込んでくる。

 

「聖杯戦争・・・・・・?」

「妙な気配を感じてわざわざ戻ってきたが・・・・・・やりおったな」

 

 背後から聞こえた声に反射的に振り返ると、般若面をつけた人物が何も無かった場所から姿を現す。

 

「はは、そうかよ、俺にまた理不尽で不条理な運命を押し付けようって言うわけか」

「む、貴様は何を言うておる。気でも触れたか?」

 

 その声は女性のもので、その風体から漂う気配は明らかに常人のモノとは違い、しいて言うのならば邪神や旧支配者といった存在のモノに酷似していた。

 経験上、この手の類の存在に良い印象を持っていなかった為に、いつでも行動を取れるように表面上ではわからぬくらいに神経を研ぎ澄ます。

 

「大丈夫だ、まだ残念なことに正気だよ。それで、俺は何かやらかしたみたいだが何をしたんだ?」

「む、それはヌシがやったのではないのか?」

 

 会話が通じる相手のようだと判断し、指を指された方に視線を移す。

 そこには二十台ほどの男性が床の上で倒れている。

 

「生憎と記憶に全くといって良いほど無い。どういう状況だ?」

 

 その返答に女性はくつくつと笑いを堪える様な声で答えてくれた。

 

「全くといって良いほどに嘘は吐いておらぬのだな。そやつはワシのマスターだったものじゃ」

「マスターだったもの?」

「気付いておらぬのか? それは既に事切れておる。もっとも、今のマスターとしての機能もその証である令呪もヌシに移っているわけじゃがな」

 

 流れ込んできた情報と女性の言葉から推測される候補を脳内で整理し、現状で出来ることを判断する。

 

「要するにアンタは俺のサーヴァントって事でいいのか?」

「そうなるのぅ」

 

 不確定な要素が多すぎるために、少しでも情報を増やしたかった。

 それに不思議と令呪(コレ)の使い方も理解していた。

 

「だったら令呪を持って命ずる、俺の問いに答えろ」

「なっ!?」

 

 右腕に刻まれた令呪は一箇所のみ色を失い、正常に機能しているのだろうと推測できた。

 後は本当に効果があったのかだけを確認するのみだ。

 しかし目の前の般若面をつけた女性の反応から察するに、確認をするまでも無く効果はあったのだろうが。

 

「聖杯戦争とはなんだ?」

「ヌシはもしかしなくとも阿呆なのか? わざわざこのような下らぬ事に令呪を使いおってからに。じゃが答えよう。ヌシは頭が良さそうじゃから簡潔に答えるぞ。願望器を手に入れるための戦争じゃ」

「お前は一体なんだ?」

「サーヴァント、キャスター。 ヌシの使い魔のような存在じゃ。ついでに聞かせてもらうがヌシの名は?」

「夜は―――夜月。しがない探偵だよ。続けるぞ、真名は?」

「しがない探偵かの、ふむ。ワシは鬼一法眼、伝承では鞍馬天狗と同一視される存在じゃ」

 

 今までの言葉全てが本当かの真贋を問われれば微妙なところではあるが、今まで空想の存在と笑われるような存在と相対したことのある夜月は考える。

 脳内に流れてきた情報と照らし合わせたところで何処までが正解なのか不明瞭ではあるが、少なくとも聖杯戦争は実在しており、目の前にいる存在は英霊と呼ばれる存在で、自分はその戦争に何らかの形で参戦することになったのだと判断した。

 

「じゃあ最後に質問だ」 

「なんなりと聞くが良い。どうせワシは答えざる得ないのだからな」

「アンタの願いはなんだ?」

「復讐じゃ、聖杯に願うまでも無くこの戦いで満たされるほど小さな願いじゃ。故に邪魔はせんで貰いたい」

 

 非現実には慣れたものだと思っていたが、どうやらまだまだのようだと実感しながら夜月は不確定要素の多い情報を整理した結果一つの結論に至る。

 

「要するにまだまだ楽はさせてくれねぇってことか」

「ふむ、勝手に結論付けているようじゃがワシも少し問いたいのじゃがいいかの?」

「ん、かまわねぇよ。一方的に聞くのはフェアじゃねぇ」

 

 どんなことを聞かれたところで知らないことは知らないし、答えられることなら答えるつもりだ。

 

「かかかっ、ふむ、これでは面を見せぬというのは失礼であるな」

 

 先ほどの言葉に気を良くしたのか、女性は般若面を外し、その素顔を見せる。

 

「ほぅ中々の美人じゃねーか」

「ほほう、中々の美人とな? そう言われると悪い気はせんな。では本題と行こうではないか。ヌシの心臓に聖杯があると見るが、いや、ヌシの心臓こそが聖杯と見るがそれはどういうことなのじゃ?」

 

 キャスターの言葉に夜月は動揺こそするが、一番初めに感じた違和感の原因と、失ったはずの心臓が鼓動を刻んでいることに関しての答えを得ることになる。

 

「正直に答えるが詳しくは知らねぇ。ただ強いて言えるとすればだ、俺の能力で補われていた心臓がそのまま聖杯とそっくり入れ替わった。それくらいだな」

「ほほう、能力とな? して、それはどのようなモノなのじゃ」

 

 今までは失った心臓を補うために能力のリソースをほぼ全て割いていたため今までは肉体の再生程度にしか使用できなかったが今は違う。悪夢の対価として与えられた忌々しい能力ではあるが、使えることに越した事はないと考え、適当なイメージを脳内で細部まで固め、掌の中に創造する。

 探索者として箱庭の世界で数度使った程度のものであったが、掌の中にはイメージと寸分違わぬモノが納まっていた。

 

「簡単に言えばイメージを具現化する能力だ。イメージさえできれば精密機器でも何でも創れる」

 

 そう言って創りだしたモノをキャスターに手渡す。

 

「ほほぅ、興味深いな。投影と違い中身もしっかりしておる。なにより一つのモノとして世界からの修正力を受けておらぬとはな」

「修正力ってのがなんだかは知らねぇが、なんとなく理解した。俺の創ったものは現実のものとして存在する、俺の意思で破棄するまでは壊れるでもしない限りはなくならねぇ」

「聞けば聞くほどに出鱈目な力じゃの。ふむ、話を戻すとするかの。ヌシ様よ、どうかワシの願望の邪魔だけはせんで欲しい。答えを聞かせてはくれぬか?」

 

 あらかた聞きたいことは聞けたのか、キャスターは夜月に対してその頭を下げ、予てからの望みを懇願する。

 どのみち聖杯戦争に参加することは決定事項であり、どうすることが正解なのかはわからぬが、唯一つわかっていることはこの戦争に勝ち残らねばならない。

 たったそれだけのことだ。

 

「別にかまわねぇよ。ただ、負けることは無しだ。俺が困る」

「そうあっさりと承諾を貰えるとはおもわなんだ。しかし、感謝する。ワシは負けぬ、義理には恩で返そう」

「やめろやめろ、仮にも日本史を支えてきたような英霊が俺ごときに頭を下げんな。ギブアンドテイク、それが俺とお前の関係だキャスター」

 

 今まで散々に探偵事務所の所員を困らせてきたが、それでも夜月はギブアンドテイクの精神は貫いてきた。成果には報酬、信頼には身体を張ってでも応える。

 

「ふむ、ぎぶあんどていく。しかとヌシ様の答え承った、ではよろしく頼むヌシ様よ」

 

 差し出された手を夜月は握り、応える。

 

「ああ、こちらこそ頼むよキャスター」

 

 こうして全ての役者(キャスト)は揃った。

 前座に過ぎないような序章は幕を退き、聖杯戦争の始まりは人知れずに訪れる。

 

 これは小さな嘘を本当にするための物語。

 

 これは大切な者を失わないための物語。

  

 これは孤独から開放されるための物語。

 

 これは失ったものを取り戻すための物語。

 

 これは忠誠を示すための物語。

 

 これは願望器を求める物語。 

 

 これは全てに終止符を打つ為の物語。

 

 それぞれの願い、想い、その全てを乗せて今、日本亜種聖杯戦争は幕を開く。

 カーテンコールは鳴り止まない。



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2-1 歪み始める運命

震える手を無理やりに押さえこみ、鞘に抜き出した刀を収める。

 

「なんで、希実香が・・・・・・」

「主殿……?」

 

 思い返すのは先ほどまで行われていた人智を超えたサーヴァント同士の戦いではなく、セイバーのマスターである少女のことであった。

 彼女に対する贖罪として、贖いとして、そんな建前で参加した聖杯戦争。ならば彼女が聖杯戦争に参加してしまっていては恭夜のそもそもの前提が崩れてしまう。

 なにより自分は彼女に向けて得物を向けてしまった。

 それは恭夜の精神を狂わすには充分すぎた。

 

「は、はは、どうせやり直すんだ。今、この瞬間の彼女を殺したところで」

「主殿ッ!!」

 

 ぐるぐると渦巻く思考に飲まれかけたところで、ライダーの声で正気を取り戻す。

 

「あ、俺は、何を、口走って」

「主殿、正直なところですが私はあそこで押し止まれたことに感謝しています。主殿の判断は間違っていなかった」

「でも、俺は」

「いいのです、過程は関係ないのです。大事なことは結果なのですから」

 

 あの時、恨めしそうな顔をして何故止めたと訴えていたライダーの瞳とは違い、何かに気が付きマスターである恭夜を慈愛に満ちた目でライダーは続ける。

 

「私と主殿はやり直しを望んだ。ですが私と主殿は根本的に違っている。既に失ってしまった私と、引き返すことのできる貴方とでは違うのです。なれば主殿はセイバーのマスターを殺すべきではない」

「ライダー、お前はそれでいいのか? それはお前の願いを―――」

「いいえ、私は天才ゆえに他者の気持ちが理解できなかった。故にあのような結末になったことでさえ理由がわからなかった。ですがこの戦いでわかるのではないかと思うのです」

 

 願いは簡単に諦められるようなモノではない。それは恭夜自身が死ぬほど理解している。

 そこに願いを叶える方法があるならば誰しもがそれを求める。

 それが人の背負った業だから。

 

「私は他者の気持ちを理解したいと、天才であることを理由に否定してきました。ですが今は違う、主殿と共に戦うことであの時の兄上の気持ちを理解できるのではないかと思うのです。今この時、この場所に存在している私はそれを知る義務があるのですから」

 

 しかしライダーは笑顔で、自らの予てからの願いであるはずの兄との仲直りという願望を捨てると言う。

 故に恭夜は戸惑う。

 

「それに聖杯で仲直りが実現したところで同じことの繰り返しになっては意味が無い。だから私はこの戦いで得ようと思うのです」

「何を、言って・・・・・・」

 

 その笑顔は眩しくて、自分の卑しさを浮き彫りにさせる。

 

「私は他者と同じ視点に立ち、己自身の過ちを見つめたい。それこそが一番の近道なのですから。なので主殿は私と共に勝ち残り、聖杯など捨て、セイバーのマスターと日常に戻るのです。それが今の私の願いです」

 

 もしも此処でライダーに責められていたのならば、きっと恭夜は止まらずに居られただろう。

 だが現実は違った。

 ライダーは恭夜に日常に戻るために戦えと言う。それは余りにも残酷で、余りにも遠い。

 

「今この時より私は貴方の為の刀となりましょう。今までは己の願望のみのために振るってきた技術、知恵を全て貴方の為に使いましょう」

 

 此処で引き返すには余りにも遅い。遅すぎた。

 もし戦う前であったのならば、恭夜は受け入れることが出来たのだろう。

 今まで噛み合う事の無かった歯車が、歪んだ形で噛み合う事さえなければ。

 

「ライダー」

「はい、なんでしょうか主殿?」

 

 サーヴァントに対する三回のみ使える令呪は先ほどの戦いで一画失われ残りは二画。

 

―――その残りの一画に強い意志を持って言葉を紡ぎ

 

「令呪を持って命ずる」

「え?」

 

―――自らを縛りつけ、己に正しい道を示してくれたライダーを裏切るように

 

「立ち向かう敵を悉く全てを殲滅しろ!!」

 

―――その呪詛を言葉にした

 

 正気でなんか居られない。

 狂った歯車は狂気を持って強く噛み合い、歪んだままに加速する。

 それがどのような結末を迎えるかなど誰にもわからない。

 

「何故、何故なのですか!!」

 

 ライダーの悲痛な叫びに、恭夜は何も答えることは無かった。

 

 

 

 その一方でセイバー陣営は先刻の戦いから敗走の一途を辿っていた。

 

「何とか離脱できたっぽい。希実香、大丈夫?」

「うん、私は大丈夫。鈴鹿は?」

 

 追って来る気配を感じず、周囲の警戒を行い、漸くの思いで人の居ない小屋を見つけそこに身を隠す。

 ただ気になる事といえば周辺に薄らと感じる程度の魔力の残滓が漂っていることだが贅沢を言っていられるほどに余裕が無かった。

 

「アタシは希実香の魔力で回復できるからへーきへーき」

「本当に?」

「ほんとの本当に。ただ、いつでも動けるように警戒しないとダメっぽいから希実香はアタシから離れないでね」

 

 実際にセイバーの言葉に嘘は無く、尽きることの無い魔力を供給されている側としてはマスターである希実香の心配をすることが出来るくらいには余裕である。

 

「なれば、ワシの事も当然気が付いておったりするのかの?」

 

 警戒こそしていたが、この声が聞こえるまでその存在に気が付くことは出来なかった。

 

「っ!」

 

 咄嗟に刀を抜き、隙あらば即座に離脱できるように突如現れた気配に向ける。

 そこには般若面をつけた女性が何一つ構えずに立っていた。

 

「やや、気が付いておらんかったか。すまぬがそれを収めては―――」

「悪いけどそれはムリ、アンタ何しにきた」

「ふむ、当然といえば当然のことよの。なればそのままでよいゆえ話を聞いてはくれぬか?」

 

 依然腰に差した刀に手を伸ばそうともせず、自然体で般若面の女性は言う。

 

「まず、アンタは何処のサーヴァントじゃん? それと―――」

「ワシはキャスター。何をしに来たかと問われれば話をしに来たとしか言えぬな。むろん戦闘をする気は一切無い」

 

 真名を看破されぬように付けているであろう般若面を外し、キャスターはその素顔を見せる。

 

「安心できぬと言うのであればこちらもマスターには付いてきてもらっている。ここに呼んでも良いぞ。マスターと相談するというのならば一向に構わぬ、いくらでも待つ」

 

 淡々と敵意がないと伝え、あまつさえサーヴァントの前にマスターを出しても良いというほどのキャスターの余裕。  

 それに対してここで戦うにはマスターである希実香を庇いながら戦わねば成らない為、セイバーには余裕があるとは言えない。

 

「マスター、どうする?」

「敵意があったらたぶんこうやって姿も見せないと思うし、あのまま私のこと攻撃できたと思う」 

「つまり、マスターは信じてみるって言いたいって事でいい?」

「うん、確信はないけどライダーみたいな殺気は感じないし、セイバーは?」

「確かにアタシもそういったのは感じない。とりあえずだけど相手にもマスターを此処に呼ばせるのがいいかも」

 

 そんな会話をしているとキャスターはくつくつと笑う。

 

「何がそんなに可笑しいじゃん?」

「いやいや、気を悪くしたなら謝ろう。では、マスターを此処に呼べば話は聞いてもらえると言うことでよいか?」

 

 その言葉にセイバーが答える前に希実香が言う。

 

「そちらのマスターも姿を現し、こちらに危害を加えぬと言うのだったらですが」

「うむうむ。と、言うわけじゃがマスターよ、良いな?」

 

 どこに向かって言うでもなく、キャスターが問いかけたところで虚空から声が聞こえる。

 

「いや、良いなも何も初めからそのつもりで来たんだろう?」

 

 何もない虚空に扉が出現し、何らかの模様が描かれた扉が開くと気だるげな表情をした青年が姿を現す。

 完全に青年が扉から出ると、勝手に扉は閉まり、その存在を消す。

 

「ヌシ様は本当に奇怪な術を使いおるのぅ。ほれ、見てみよ、変人を見るかの様な眼で見られておる」

「誰のせいだ、ったく。 驚かせて悪かったな、うちのキャスターも趣味が悪くてな。この通りこっちに敵意も無ければ危害を加えるつもりも無いから安心してくれ」

 

 魔術の知識に疎い希実香ではあるが、それでもわかることがあった。

 今のは既知の魔術の類ではなく、それで居てキャスターの力でも無いという事に。

 

「貴方の、名前を教えてくれませんか?」

「ん、悪いな。俺はしがない探偵をやってる夜月って者だ。君は別に名乗らなくても良い、既に知ってる。気を悪くしたのなら先に謝罪しよう」

 

 夜月はそう言うと軽く頭を下げる。

 きっと本人は謝罪をしているつもりなのだろう。だが、希実香にとってそんなことはどうでも良く、聞きたいことがあった。 

 

「今のは魔術の一つですか?」

「ああ【こちら】の世界と【あっち】の世界では系統こそ異なるが、確かに魔術であるといっておこうか」

 

 答えることを渋ることさえも想定していたが、夜月は意味深な言葉と共に希実香の問いに何一つ躊躇わずに答えたために若干の戸惑いを隠せなかった。

 それに気が付いたのか夜月は煙草を胸ポケットから取り出し咥えると、火をつけて吸いながら言う。 

 

「ただ違うところがあるとすれば君達の扱う魔術は正気の産物で、俺が扱う魔術は狂気のトリガー足りえる産物という所だ。それと、そんなに表情に出されるとこちらとしては会話の手間が省けるから助かるがな、取引をする側としては非常に騙しやすい。あくまでこれは此方側から持ち掛けた会合だからこそ、こうして教えてやるがどうにも君は魔術師としても一人の人間としても正直すぎる節がある」

 

 紫煙を吐き出し、夜月は笑う。

 まるで内心を見透かされているような感覚に、希実香は更に戸惑う。

 

「っと、まあ、あんまり脅かしてもしょうがねーな、本題に入ろう。此方側の頼みはキャスターの私怨を晴らす為にとある陣営との戦いを邪魔しないで欲しい。此方が君達に払う対価は情報と一時的な休戦協定だ」

「ちょっと待ちなよ。今の言葉じゃアタシ等じゃ相手にならないから見逃してやるって聞こえるんだけど?」

 

 セイバーはこの一方的に提示されていく状況を危ぶんでか、立場は対等、それ以上に此方側が上であるように立ち振る舞う。 

 

「仮にだ、今お前が俺かキャスターのどちらかに攻撃をしたとしよう。もしくは同時に俺達を切り殺せると仮定しようか」

「何を言って―――」

 

 そんなセイバーの言葉も聞こえているのかいないのか不明だが、夜月は続ける。

 

「それをワンアクションで済ませる自身が無いのならやめとけ。お前はどうにかなるとしてマスターは必ず死ぬぜ?」

 

 瞬間、セイバーは庇うように希実香と夜月の間に割って入る。

 希実香は驚き、戸惑い、困惑する。

 

「アンタ、何をしようとした。返答次第じゃ交渉も何もなく此処で切り殺すよ」

 

 実際、夜月はただ会話をしていただけだった。殺意も何も無い、純粋な会話だ。

 そこで今まで黙っていたキャスターがこの雰囲気はよろしくないと感じたのか、仲裁に入るように言う。 

  

「ヌシ様よ、交渉とは言葉の暴力とは違うと理解しておるかの? それとセイバーよ、そのようにカリカリしてもしょうがないであろう、今のはワシ等が悪かったと謝るゆえ、どうにか落着いてはくれぬか」

 

 言うが否やキャスターは夜月の頭を掴み床に擦り付ける勢いで押さえつけ、それと一緒に自らの頭も深々と下げる。

 

「おい、床に俺の顔を擦り付けんな!」

「何が交渉事は得意分野じゃ! 少しばかり期待しておったがヌシ様に交渉事は向かん。ワシが交渉する」

「正直な話だが金が絡まねぇ仕事は遊びながらやらねぇと飽きるんだよ」

「それが本音か! それが本音なんじゃな!!」

「おい、マジで痛てぇからやめろ、終いにはぶちのめすぞコラっ!」

「このキチガイが! その口を閉じろと言っておるんじゃ!」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎながら口論をしている二人の姿を見て、セイバーは困惑し、希実香は唖然とする。  

 

「おい、相手さんが困ってんだろうが!」

「誰のせいじゃ!」

「「お前(ヌシ)のせいだろ(じゃ)!!」」

 

 どうしてこんなことになってしまったのかと思いながらも、冷静になった希実香は今までの夜月の言葉を思い返しながら情報を整理する。

 まず夜月の交渉を受け入れた場合のメリットはこの得体の知れないマスターとキャスターとしばらく戦わずに済む事と彼等の知りうる情報を手に入れることが出来る。

 そしてデメリットとしてあげられるのは、そもそもの前提として交渉とは名ばかりで騙まし討ちや嘘の情報を提供されることである。

 そこまで考えたところで不意に声をかけられる。

 

「そっちが考えるようなデメリットはまず在り得ないから安心してくれ。なんならセルフギアだって署名してやる」

「えっ?」

 

 いつの間にかキャスターの押さえ付けを払い、おまけと言わんばかりにキャスターを押さえ込みながら希実香の眼を真っ直ぐに見つめる夜月の顔があった。

 その表情は嘘をついている表情などではなかった。

 

「信用も信頼も俺と君には存在しない。信用しろとも信頼しろとも言わない。断るのなら断ってくれてもいい、それは君が自分で考え、自分で決めることだ」

「夜月さん、今までずっと演技してたんですか?」 

「何のことだかね、俺にはさっぱりわからんね」

 

 信用も信頼もないけれど、信じてみようと思った。

 この人はきっと、絃城希実香が抱えている問題も、今から成し遂げようとしていることさえも簡単に出来る。そう思ったから。

 

「私は、そちらの提示した条件を飲もうと思います。その代わり、一つ約束してください。いえ、此方の願いも聞き入れて欲しい」

「依頼とあらば受けよう。仮にも探偵だ、俺の出来る範囲でなら期待に応えるさ」

 

 二つ返事で返された言葉だが、信じると決めた希実香にとってそれでよかった。

 

「ライダーのマスターを、私の日常の象徴を、どうか助けてください。聖杯なんて私は必要ない、セイバーも分かってくれています。彼は私にとっての空気で、いなくなってしまったら私はきっと息苦しさで窒息してしまう。こんなことを貴方に願うのは間違っているかもしれませんが、それでも! だから、どうか―――」

 

 初めこそ自分自身とセイバーでどうにかできると思っていた。

 しかしあの戦闘で気付いてしまった。気付きたくなかった。

 もう自分の言葉は彼には届かないのだと。 

 だからこそ、まだ引き返せる場所にいると信じたかった。

 

「その依頼、確かに引き受けた。だが、問題が一つある」

「問題・・・?」

「俺達の、いや違うな。キャスターの願いはそのライダーをその手で殺すことなんだ。キャスターがマスターに興味がないと言うなら俺は別に構わないんだが」

 

 夜月はそう言って、何処か笑いを噛み殺したようにキャスターを見る。

 それに対してキャスターは笑いながら言う。

 

「あくまでワシの願いはこの手でライダーを殺す。ただそれだけじゃ。分かっていてそう問うのは無粋というものじゃ、ヌシ様も人が悪いのぅ」

 

 それを聞いて夜月は言う。

 

「そういうわけだ、良かったなお嬢ちゃん。君の願いは確かに引き受けた、セルフギアは必要かい?」

「いいえ、必要ありません。貴方は嘘を吐くように見えませんから」

 

 その言葉に夜月は一瞬だけ苦い顔をするが、すぐに笑いながら答える。

 

「そういうわけでセイバー、君のマスターと交渉は済んだわけだが・・・。セイバーも同意と思って大丈夫か?」

「アタシは、アタシはマスターの判断で動くし、希実香が選択したことなら異論はないよ」

「オーケー、確かに言質は取った。じゃあ契約は成立だ」

 

 そう言われ、希実香は握手をしようと手を差し出す。

 その手は汚れなどなく、美しい色白な掌だ。

 だがその手を夜月が掴むことはない。

 

「悪いが君の手を俺は握り返せない」

「どうして?」

 

 思わず聞き返していた。

 

「君はまだ汚れを知らないからだよ、お嬢さん」

 

 その言葉はきっと拒絶ではなく、優しさなのだろう。

 何故か、不思議とそう思えてしまった。

 だからこそ、希実香はその手を強引に掴む。

 

「私はこれからきっと、貴方の言う汚れの意味を知ると思います。だからこそ、貴方の手を握らなければいけない。そう思います」

 

 きっと夜月ならば簡単に避けることも出来ただろう。

 だが握ったその手は振り払われることもなく、優しく握り返される。

 

「いやはや、年下とはいえ美人には弱いな」

 

 そうして冗談めかしく言われた言葉と共にその手は離れ、夜月はキャスターと共に去っていく。

 

「君のその心の在り方は俺には眩しすぎるよ」

 

 そう一言だけ残し、夜月は雪降る宵闇の中へと消えて行くのだった。

 

 

 

 先ほどまで交渉を繰り広げていた小屋が見えなくなる程に離れた頃、キャスターは口を開く。

 

「ヌシ様にとって人心の掌握など容易い、それなのに何故あのような茶番を興じたのじゃ?」

 

 それに対し夜月は煙草を吸いながら答える。

 

「んだよ、そんな茶番に付き合うお前も大概だろうが。しかも本気で床に擦りやがって」

「かかかっ、この様な時でなければヌシ様とのすきんしっぷとやらは取れんじゃろ」

「はぁ、暴力的な女は嫌われるぞ」

 

 その言葉に機嫌を良くしたのか笑いながらキャスターは返す。

 

「ワシでさえ一人の女として見るとはな、かかかっ。もう少しばかりこうしてヌシ様との会話を楽しみたいのじゃが、どうやら客人のようじゃ」

 

 そう言うとキャスターは霊体化を解き、夜月を守るように戦闘態勢に移る。

 

「もしかしなくてもバレとったん?」

「くはははは、別に良かろう玲香。どうせこの場で倒すのだからな!」

 

 そこには恋焦がれた思い人に出会ったように微笑む玲香と、剥き出しの戦意を隠すこともなく笑う茨木童子が居た。

 

「どうにも逃げられる雰囲気じゃねーよなぁ」

「別に多少の痛手を覚悟の上ならば逃げられはするが、あまりいい手段ではないとだけは言っておこうかのぅ」

 

 やれやれと心底めんどくさそうに夜月は肩を落とすのだった。

 

 



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2-2 好む好まぬに関わらズ

人生とは選択する事を強いられ、その選んだ道のどちらかは出口の見えない袋小路に突き当たる。

 選ぶことで成功するか、選んだことによって失敗するか、選んでみるまで正解なんて分からないし、何処にもないのかもしれない。

 

「つくづく神様って奴には嫌われてる気がするんだが、まあいいか」

 

 ただ間違いなく言えることは、その選択を強いられたときにどちらかを選ぶ必要などない。

 

「おにいさん、あんたはんからはうちと同じ匂いがするんよ」

「さあ、何のことだか。アンタみたいな美人と似た匂いがするって事はそりゃいい匂いなんだろうな」

「あはは、嬉しいけどそうやないよ。血の臭い、それも一人や二人なんてもんやないよ、一体なにをどうしはったらそんな風になれるんってくらい」

 

 楽しそうに玲香は夜月の顔を、その眼を見つめながら刀に手を添える。

 

「自分の身を守って戦ってただけなんだがね。それに人間はまだ一人しか殺してない」

「ふぅん、まだ一人ねぇ。まあええわぁ。お兄さんも得物持ってはるなら少しくらい待ってはるよ?」

「お気遣い無く、このままで平気さ。それに女性相手はあんまりしたくないんだが、ダメか?」

「うふふ、こんな状況でもうちのこと女性扱いするなんてなぁ。でも、うちかて戦う理由があるんよ」

「はぁ、期待は薄いと思ってたがやっぱりダメか」

 

 夜月はわざとらしく片手で額を押さえながらやれやれと溜息をつく。

 その一瞬で玲香は夜月の懐に飛び込み、その手に握った刀を鞘に滑らせるように抜き、胴体を両断せんと一閃する。

 そのままの軌道で振り抜かれれば両断こそ出来ないが、確実にその胴体を切り裂くはずだった。 

 

「良い腕してるな、だからこそ読みやすいんだが」

 

 避けることもせず、刀の腹に夜月は軽く手刀を入れて弾く。

 想定外の捌かれ方に玲香の身体は前のめりに倒れそうになるが片足で踏ん張り、体勢を辛うじて持ち直す。

 

「あは、滾る、血が滾るわぁ。おにいはん、手加減なんてされてまうとうち堪えられんわぁ」

「女性がそんな顔でそんなこと言うなよ。折角の美人が台無しだ」

 

 夜月は冗談を言うように軽く言葉を交わす一方で、玲香はその言動や行動とは裏腹にどんどん冷静になっていく。

 

(にしても、なんかあれやね、まるで動きを見てから対応してはるっていうか、隙だらけなんにわざとらしい)

 

 未だに夜月はと言うと構えなどほぼ取っておらず、何処吹く風というように身体に一切無駄な力など入っておらず何処までも自然体である。

 

「なら、こないなのはどう?」

 

 玲香はブレスレットから仕込んでいたワイヤーを夜月の身体に巻き付けんと肉薄する。

 それに対して夜月は初動こそ両腕を使って防ごうとしたが、すぐさま回避行動に移り、ワイヤーの射程範囲から飛びのける。

 

「流石にそんなもんで締め付けられちまったら腕が無くなっちまうよ」

「いけず、それが狙いやったんけど失敗みたいやね」

「あー、物騒なこった。もう一度だけ聞くけどよ、話し合いで済ませるってのはどうだ?」

「そないなこと分かりきってはるくせにぃ」

 

 交渉決裂。

 そもそも期待すら薄かったため夜月としてはやることなど変わらず、死なない程度に殴るだけである。

 

「あーめんどくせぇ。だが、少しばかり付き合ってやるよ」

 

 そう言って夜月は懐に手を入れ、何かを取り出すようなそぶりを見せてから脳内で拳銃をイメージし、その掌に再現する。

 それは夜月のイメージしたものと寸分違わぬ物としてこの世に創りだされた。

 

「ふぅん、意外やね。おにいはんの得物は銃なんや」

「お試しで使ってみるだけだから腕はからっきしだけどな」

 

 引き金を引くと同時に玲香は回避行動を取るが、射線から外れたというのにも関わらず弾丸は軌道を変えて玲香を追尾していく。

 

「あは、これは厄介やねぇ。でも、追って来るなら切り払えばいいだけや」

 

 一閃。

 弾丸は真っ二つになり、地面に転がる。

 一安心と玲香は一呼吸吐こうと思ったが、夜月自身の接近に反応が遅れてしまい、脇腹を鋭い蹴りで穿たれる。

 

「かはっ!?」

「これでチェックメイト―――とはいかねぇか」

 

 マスターの危険を察知してか、先ほどまでキャスターと打ち合っていたはずの茨木童子が夜月を急襲する。 

 大振りであったが完全に意識の外から来た斬撃に対応しきれず、持っていた銃の銃身で受け止めようとするがバターを斬るように半ばまで両断されかけている感覚に不味いと判断した夜月は銃から手を離し、斬撃の勢いを利用してそのまま吹っ飛ばされることを選択する。

 

「玲香! 大丈夫か!?」

「なんとか、茨木ちゃんがおらんかったらすこーし不味かったなぁ」

 

 茨木童子に手を引かれ立ち上がる玲香に対し、深く積もった雪に頭から刺さる形で吹き飛ばされた夜月の右手はあらぬ方向に折れ曲がっており、重傷のように見える。

 

「あー、雪つめてぇ。 つーか右腕めっちゃいてぇ」

「マスター、大丈夫か・・・の?」

 

 そんな吹き飛ばされた夜月の身を案じてか、キャスターがうろたえながらも夜月のそばに駆け寄る。

 

「なんとかな。右腕一本もって行かれたが問題ない」

「ヌシ様よ、普通の人間ならば痛みで気絶するレベルなのじゃがそれは?」

「まあ、経験上死んでないし実際に生きてるからこの程度ならってことだよ」

 

 雪に埋もれながら会話をしていた夜月であったが、よいしょと片手で起き上がるとのんきに服についた雪を払う。

 

「つくづく人間とは思えぬなヌシ様は」

「俺は人間のつもりだけどな。それに今まで心臓の機能に割り振ってた能力も万全と来てる。これくらいなら余裕で再生できる」

 

 おもむろに折れ曲がった右腕を掴むと、捩れてしまっていた腕を激痛に顔を歪ませながら元のあるべき状態に無理やり戻す。

 

「はぁ、アイツみてぇに吹き飛んでも端から再生するレベルじゃねぇからいてぇもんはいてぇんだよなぁ」

「ヌシ様よ、ワシ以上の化け物にしか見えぬのじゃが?」

「やめろよ、何度も言うが俺は人間だっての。クソ、やられっぱなしっての少々腹立たしい。少しばかり真面目にやるとするか」

「その決断がもう少しばかり早ければそのような思いをせずにすんだのではないかの?」

 

 そんなキャスターの言葉を無視して夜月は呪文を口ずさむ。

 それは人間の口から唱えられているというのに酷く冒涜的で、聞くもの全ての精神を蝕み、何かの強い呪詛の様にさえ聞こえる。

 キャスターですら顔をしかめているというにも関わらず、夜月は平然とした顔で唱え続ける。

 その冒涜的な詠唱に茨木童子は直感的に危険を感じ、地面を強く蹴り弾丸のように夜月に突っ込んでいく。

 

「遅いぞバーサーカー。右腕の分しっかり利子つけて返してやるよ、吹き飛べ」

「ふん、たかが魔術師の攻撃など―――ッ!?」

 

 小さく【ヨグ=ソトースの拳】と夜月が唱えると、何かに弾き飛ばされたかのように茨木童子の身体は後方へ吹き飛ばされた。

 

「おー、よく吹っ飛んでったなぁ。さてキャスター、今のうちに逃げるとするぞ」

「はぇ?」

 

 善は急げと夜月は唖然とするキャスターを余所に街の方に向かって走り出す。

 

「ま、待つのじゃ、逃げるのか?」

「そう言ってんだろ。目的も果たした・・・・・・のかは微妙だが、少しは確認も出来たし気にすんな」

「む、むぅ。了解じゃヌシ様よ」

 

 もともとセイバー陣営から気を逸らすことが目的であったため、夜月としては敵の脅威と聖杯戦争というものに召喚された英霊の強さを知ることが出来ただけでも大いに成果はあった。

 だが先ほど呪文を使用してから脳内に誰かの笑い声がちらつく。

 その声は妖艶で、美しく、狂気を孕んでいて、聞きたくなくとも勝手に脳内で再生され続ける。

 夜月の正直な感想としては不愉快極まりないものであり、彼の経験上では二度と遭遇したくないものである存在に限りなく近い。 

 

「どうやらこの戦争ってか、この世界にもいるんだろうなぁってことは理解したくなかったが理解した」

「突然どうしたのじゃ?」

「いや、これから起きるであろう事を考えると気が滅入るってことだよ」

「まったくわからんのぅ」

 

 故に夜月はこの戦争の黒幕であろう存在に、内心で悪態づくことしか出来ないのであった。

 

「さてはて、どうしたもんかなこりゃ」 



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2-3 対話

 

 

 

 忍装束を身に纏い、影に潜み、影から影へと移動し気配という気配を完全に遮断し、そこに本当に居るのかすら疑わしく思えてくる存在は偵察任務をこなすためにバーサーカー陣営とキャスター陣営の戦闘を観戦していた。

 

『ちょっと、あれ本当に人間なんでしょうね!?』

 

 彼のマスターより持たされた簡易使い魔から騒がしく怒鳴りつけられる。

 

「マスター、アレが普通の人間だというのならば全人類がサーヴァントレベルの化け物になるんだが」

『だ、だって、キャスター陣営のマスターってキャスターの傀儡じゃないの!? どう見てもアレは自分の意思で戦ってるように見えるし……』

 

 ランサーの目を通して同じく戦況を見ている少女、赤朱(せきしゅ)秋(あき)は理解できない状況に混乱してしまう。

 確かに聖杯戦争の7人が揃う直前までの、キャスターのマスターは傀儡と言って差し支えの無いような男だった。しかし今の戦闘を行っていた人物の顔には見覚えすらなかった。

 故に混乱し、激情のままランサーに怒鳴りつけたことで威勢の良かった彼女の声は尻すぼみに縮んでいった。 

 

「あー、ずっと真面目モードだとおじさん疲れちゃうんだけどマスター?」

『何よ、アンタの場合は既に半分くらいふざけてるでしょ? なんでこんなのが私のサーヴァントなのかしら……。頭が痛いわ』

「おじさんからしても不思議なもんだよ。元々ただの武士だってのに何さ、英霊の座にいたら気が付けば忍者になってるでござる状態だぜ? しかもクラスとスキルが噛み合わないおまけ付きのさ、頭が痛いのはこっちだぜマスター」

『あぁ、ほんと、それは現在の日本人のせいだから何も言えないわ……。ごめんなさいランサー、ちょっと落ち着いたわ。それと同時に腹も立ったけどね』

「はいはい、体罰反対体罰反対っと。それよりどうするよマスター。俺たちは以前のキャスター陣営とは休戦協定を結んでたけどよ、今の状況ってどうなるんだろうな。マスターが変わった以上キャスターの考えとは別に行動する可能性が出てくるってことだ」

 

 キャスターのマスターはサーヴァントよりは弱いだろうが不確定要素はなるべく潰しておくべきだとランサーは考える。

 自分のマスターである赤朱秋はまだまだ甘さを残していると言わざるを得ない。それに魔術師として優秀だとしても硬い頭のままでは戦争において敵以上に厄介な相手となる。しかし決して馬鹿ではない聡い少女なのだ、ある程度まで誘導さえすればきっちりと答えを出してくれるはずだ。

 

「要するにだ、今すぐ手負いのキャスター陣営に追い打ちをかけるか協定を結びなおす必要があると俺は考えている。マスターはどっちにしたいんだ?」

『え、ちょっと待ってね、うん。質問に答えるのなら後者を選びたいわ。相手の目的と状況次第にはなるけど、積極的に戦いなんてしたくないわ』

「そうか、マスターがそう言うのなら俺はそれに従うさ」

『ありがとうねランサー』

 

 素直な礼の言葉を受け取ることが出来る、それだけでランサーとしてはマスターがこの人物でよかったと思えた。

 

「いやいや、お礼を言うくらいならマスターの平たい胸でも撫でさせてくれないでござるかねぇ」

『平たい言うな! わ、私だってこれから大きくなるんだから!』

「はいはい、ござるござる。それで、向かうなら今すぐのほうが良いと思うんだが?」

 

 しかし遊び心は忘れないほうがいい。真面目過ぎるとお互いに疲れすぎてしまう、疲れはそのまま死に繋がることも少なくは無いのだから。

 

『わかった。ランサー、私を回収してからあの二人に追いつける?』

「三騎士の中では最速と自負してる俺にそれを聞いちゃうのマスター?」

『愚問だったわね。じゃあ、行くわよ!』

 

 

 

 

 

 

 田舎の地方都市、そんな場所にでも廃墟はいくらでもあることが救いだった。

 目覚めたときには死体が隣で転がってると思ったら犯人にされかけたり、紆余曲折あってキャスターと契約したり、セイバー陣営と協定を結んだついでにバーサーカー陣営にちょっかいかけられたりとここ最近は散々な日々であった。まあ、そんなことよりも何よりも金がない。そもそも寝床の確保が出来ていなかったのだ。

 

「何だっけ、キャスターのクラスって陣地作成とか言うスキルあんだろ? 家でも作れんのか?」

「たわけ、もともとある施設を工房に替えることは出来ても一から家など作れんわ。ヌシ様はアホの子だったのかのぅ?」

「うるせぇ、少しくらい現実逃避させろっての。あー、ふかふかのベットで寝てぇ、温泉に入りてぇ……はぁ。腹減ったなァ」

 

 廃墟になってしばらく経ってあるであろう校舎の一室で、今までの人物像からはかけ離れた男が汚れなど気にせずに不貞寝している。

 

「ベットならヌシ様の能力で創れそうな物じゃけどな。そうボヤいているという事は創れぬという事なのだろうがのぅ」

「………いや、うん。知ってたよ、創れるってさ、創れるぜ? でもさ、そんなくだらないことに使っちゃうか? 一応切り札的な奴をさ」

「ヌシ様よ、一度本気で殴っても良いかの? いいであろう? 先っちょだけでいいからの?」

「止めろ馬鹿、先っちょとかねぇから! グーで殴ったらどのみち全部当たるじゃねーか! そもそも金があったらこんな場所にいねーんだよ!」

 

 ぎゃぎゃあと罵り合い、キャスターが夜月の胸ぐらをつかみ、負けじと夜月が胸ぐらをつかみ返したその際に顔が交差した瞬間だった。

 

「キャスター、こんな茶番でも役に立つもんだな。アホが一匹釣れたぞ」

「あー、あのなヌシ様。あ奴らとも休戦協定をな、結んでいてな……」

「は?」

 

 気まずそうにキャスターが視線を逸らす。

 

「いや、じゃからな、休戦協定を結んでる陣営での、ワシは戦闘など起きても役に立てん…という、ことじゃ」

「なあキャスター、そういう事は事前に伝えるべきことだよな? 他はもういないだろうな……?」

「今のところはランサーの陣営とセイバーの陣営だけじゃ、本当じゃ!」 

 

 面を外してキャスターは涙目で夜月に訴える。

 

「お前、本当に良い性格してるよ。わかったよ、今回はそのウソ泣きに騙されてやるよ」

「かかっ、バレておったか」

 

 にへらとキャスターは笑うと面を付け直し、夜月にアホと言われたであろう人物たちが居るほうに向かって言う。

 

「戦うつもりで来たのではあるまい、こそこそと隠れておらんで出てきたらどうじゃ?」 

 

 シン―――と静まりかえる室内、その静寂は二人の人物の登場によって打ち破られた。

 

「お、オイっ、マスター!? 俺より先に出て歩くんじゃねぇ!」

「煩いわね! クソつまんない茶番で釣られたとか最悪じゃない、ちょっと一発あのバカを殴ってやるのよ!」

「協定に反することを簡単にしようとするんじゃねぇ! 俺たちの目的はあくまで対話のはずだろうマスター、冷静になれって。格好よく登場したいつもりだったってのは黙っておいてやるから、な?」

「な、ななな、何言ってんのよ!!」

 

 そんな二人の姿を見て夜月はキャスターに囁くように話しかける。

 

「なあ、クソつまんない茶番とか言ってる割にアイツらも茶番に興じてねぇか?」

「あー、言ってやるでないマスター。ランサーは多分ワシらと同じ意見だろうが小娘のアレは間違いなく素であると思うぞ」

「なるほどな、つまり面白い奴だと言いたいってわけか」

 

 その会話が聞こえてのであろう少女、赤朱秋は頭が痛いと言った風に額を抑えながらも夜月とキャスターを睨みながら咆える。

 

「ちょっと、聞こえてんのよ! ああもう、本当最悪な気分だわ。協定がなかったなら今すぐ殺してしまいたいそんな気分よっ!」

 

 その言葉にランサーはやれやれと言った風に、手がかかると言いたげな表情をしながらも赤朱秋の前に立つ。

 

「すまないなキャスター、アンタは知ってるだろうがうちのマスターってちょっとアレな娘でな。今までの非礼を俺が詫びさせてもらうよ……」  

「良く言えば人が好いという事じゃろうに、気にせずとも構わぬ。それでじゃ、汝らは一体何を思うてワシ等の元に来たんじゃ?」

「いやなに、至極簡単な事さ。アンタのマスターが変わった以上、先刻に交わした契約はどうなってるのかが気になってって所さ」

「なるほど、汝も難儀な奴よな。あの契約はワシ個人が勝手に結んだものだ、故にマスターが変わったところで契約はそのままは生き続ける。もっとも、協定違反があれば即刻に汝の喉笛を噛みちぎってやることが出来るがのぅ」

「ハハハ、おっかねぇなぁ。まあ別嬪さんに喉笛を噛みちぎってもらえるなら本望ではあるが、生憎とうちの娘っ子(マスター)と戦う以上簡単には殺されてやらんがな」

「ぬかしおるな小童(こわっぱ)が」

「小童ねぇ、見た目的にはアンタの方が小童と言いたいところだが……、まあやめておくとするさ。こちらの些細な質問にお答えいただき感謝致すキャスター殿」

  

 ランサーはそう言ってひとまずこの場を締めることにしたようだ。

 もっとも彼のマスターである少女もこの僅かな時間の間に落ち着きを取り戻していたようではあるが。

 

「ねぇ、キャスターのマスター。アンタは何のために聖杯戦争に挑み命をかけてまで戦うのかしら?」

 

 その質問に夜月は特に考えるまでもないと言ったように答える。

 

「死なないためにだよお嬢ちゃん。それだけさ、聖杯に願う事なんて特にない。そういう嬢ちゃんは何を願い何を望む?」

「万能たる願望機がそこに在るから欲しくなった。そんな単純な事よ、アンタの事をどうこう言えた理由じゃないけどね」

「いいんじゃないか? 大層な夢物語を語るやつよりよっぽど好感が持てるくらいにはな」

「ふぅん、意外ね。それともう一つだけ聞いてもいいかしら?」

「質問次第だ、答えられることなら答えよう」

 

 

 夜月の言葉に赤朱秋は真剣な眼差しを向けて言った。

 

 

 

 

「貴方は漂流者? それとも意図的にこちらに来たの? どっちか答えて貰おうじゃないの―――」

 

 

 

 

 



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