世界は戦争が多い異世界へと転移したようです (スターリニウム)
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登場国家について

今更ですがこの小説に登場する国家、兵器&用語をそれぞれ別々に分けて説明にしようと思います。

両者とも話が更新されるごとに内容の追加や、内容の更新をする予定です。


異世界全貌の地図

 

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登場国家(地球編)

 

ロシア連邦

 

人口 およそ1億8400万人

 

国家元首 アレクセイ・ボリス・カムスキー大統領

 

ユーラシア大陸に位置する世界最大の面積を持つ連邦国家。世界が突如転移した際になぜかロシアだけが元の位置になく、少し北にずれている。だがその膨大な軍事力を武器に、大統領はロシアの南に位置する大陸『ウズルイフ大陸』のエクリクシス大皇国に侵攻し勝利、現在エクリクシス民主共和国という傀儡国を成立させ、ウズルイフ大陸支配の拠点となっている。

 

 

アメリカ合衆国

 

人口 およそ3億4700万人

 

国家元首 アンソニー・ウォレス大統領

 

北アメリカに位置する、長らくの間世界一の座を持ってきた国。2000年代に入ってから世界一の座をロシアや中国といった国々に奪われ始めるが、物資の量は相変わらずの一位である。現在オーラウト王国と国交を結んでおり、リミー王国とも国交が結ばれる予定だ。

 

 

日本国

 

人口 およそ1億3700万人

 

国家元首 堀谷隆太総理大臣

 

東アジアに位置する、技術力が格段に高い島国。2020年代に自衛隊から国防軍に正式に変更し、対中国の軍備拡張を行ったため、原子力空母や原子力潜水艦、更に弾道ミサイルも国土防衛のために配備され、中国がいつ攻撃しても十分に守れる状態に仕上がったのだが、キルーシュカ魔法連合王国が宣戦布告したために両方面を気にしなくてはならなくなった。

 

 

登場国家(異世界編)

 

 

オーラウト王国

 

人口 およそ3110万人

 

国家元首 国王ローレン5世

 

大西洋の真ん中辺りに位置する『イオルゴス』大陸に属する王国。アメリカが接触するまではごく普通の王国だったが、接触したことにより急激に経済や技術が向上し、列強国に負けない国力を獲得した。現在ソヌヴァ連邦と占領政策の違いから冷戦のような状況に陥っている。

 

国旗

 

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エクリクシス大皇国

 

人口 およそ3000万人

 

国家元首 皇帝エーヴェルト3世

 

ウズルイフ大陸に属していた専制君主制国家。かつては大陸で最高峰の技術力を誇っていたが、ロシア軍のミサイル等のハイテク兵器により戦争に敗れ、現在エクリクシス民主共和国として、ロシアの操り国家として存続している。

 

国旗

 

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神聖タルガリア帝国

 

人口 およそ4600万人

 

国家元首 皇帝アーレンツ14世

 

オーラウト王国とソヌヴァ連邦、そしてホルムストール教国の3方面に挟まれた国。技術力は滅んだホルムストール教国とそう変わらず、海軍の主力艦が戦列艦ではなく装甲艦という違いぐらいだ。この国はソヌヴァ連邦が形成されるまでは大陸で最大の軍事力を誇っていたので、列強国としての扱いを受けている。大陸の冷戦ではどこにも属さず、武装中立を保っている。

 

国旗

 

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ホルムストール教国

 

人口 およそ5500万人

 

国家元首 フロイント2世

 

オーラウト王国だけではなく、大陸中を戦火に巻き込んだ文字通りの宗教国家。魔術の力では大陸屈指で、科学技術のソヌヴァ連邦の次に軍事力が強かった国だが、アメリカとオーラウト王国による冬季大攻勢とソヌヴァ連邦に対する宣戦布告によって軍事力が半分に激減、教皇フロイント2世が住んでいた聖地ベイト・カーメルはアメリカの核攻撃によって死亡、そしてま跡地から複数の小国家群が形成される形で消滅した。

 

国旗

 

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サウリワナ公国

 

人口940万人

 

国家元首 ???

 

ソヌヴァ連邦から分離独立した、建国してまもない国。ソヌヴァ連邦とホルムストール教国に挟まれており、大陸戦争で最初に戦火に巻き込まれた国でもある。その後ホルムストール教国が消滅すると、再び独立することなく、ソヌヴァ連邦に吸収合併された。

 

国旗

 

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リミー王国

 

人口 およそ350万人

 

国家元首 女王アネレア4世

 

オーラウト王国がある『イオルゴス』大陸からおよそ180キロ離れた少し南西に位置する島国。この国の人口の9割が猫人族という、異世界では珍しい人間が国を統治していない国だ。全盛期には大陸にまで勢力圏が広がっていたが、現在は島に留まり大陸国家と国交を結んでいるが、大陸の冷戦に入り、オーラウト陣営に入っている。

 

国旗

 

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ソヌヴァ連邦

 

人口 およそ5800万人

 

国家元首 ???

 

オーラウト王国が属する『イオルゴス』大陸の北側に位置する、この大陸で唯一の科学ツリーに属する国である。ソヌヴァ連邦は、元々小国群が多かった地域だったが、次第にソヌヴァ共和国が小国を合併し、北部を統一したことにより結果的に国力は増加し、第一次世界大戦並の技術力を手にいれた。大陸戦争ではホルムストール教国が侵攻したことにより一時は危機的な状態になったが、現在はオーラウト王国と同様占領政策の違いで対立している。

 

国旗

 

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キルーシュカ魔法連合王国

 

人口 8800万人

 

国家元首 国王アクベンス13世

 

地球と同様、突如異世界へと転移した転移国家。この国はかなり好戦的で、あろうことか日本国とケレジウス大陸に属する国家に対して宣戦布告するという異常っぷりをを見せている。現在この国は自国から最短距離のアーテリカ王国に対する上陸作戦の準備をしている。

 

国旗

 

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アーテリカ王国

 

人口 およそ2800万人

 

国家元首 国王アルフィルク8世

 

ケレジウス大陸の東側に位置する国。日本国との外交でとても固い友情が結ばれているので、アーテリカ王国には、日本国国防軍異世界支局の基地が設けられている。現在突如宣戦布告してきたキルーシュカ魔法連合王国に運悪く最初の攻撃目標に指定されている。

 

国旗

 

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第一章 それは突然起きた
第1話 突然転移~列強国の反応~


ーロシア連邦とある国境付近にてー

「んー、良く寝たぁ...」

彼はある国境警備兵である。
時刻は朝の5時を示していた。
彼はウクライナ方面の国境警備をしており、担当は今日で最後だった。

「今日も平和だな...」

彼は気分転換に簡易な監視塔へと上がった。
周りを見渡すと何も変化はなかった。
だが、別の監視塔へ行くと、彼は目を疑った。

「おい、何が起きてるんだ...」

そこには、本来陸地のはずが、大海原が広がっていた。


ーロシア 首都モスクワ クレムリンー

 

「いったい、何がどうなっているのだね?」

 

そう言うとロシア国防大臣が状況を説明した。

 

「簡単に申し上げますと、本日の夜明けごろにウクライナ方面に所属の国境警備兵が“陸地が消えて、大海原が広がっていた”と証言しています。ですが、他の警備区でもこれと似たような証言が多数報告されています。それと並んで、北極海に向かった艦隊からの通信が途絶。さらに人工衛星からの通信は全くはいってきません。」

 

淡々と状況を説明し、大統領は言う

 

「これは、非常事態だなこりゃ。」

 

大統領の名前はアレクセイ・ボリス・カムスキー 今、話しているのは国防大臣のゲオルギー・フェドセイエフである。

 

「他の国々からの連絡は?」

 

「現在、全く連絡はきていません。」

 

「これじゃ、我が国は孤立してしまったな」

 

「ですが、大統領。一刻も早く今後の計画を立てたほうが、よろしいかと。」

 

「それもそうだな。明日には他の大臣を招いて会議を行う。」

 

「了解しました。」

 

『一刻も早くこの状況を打開しないと...あのアメリカに対抗するためにも。』


 

ーアメリカ合衆国 ホワイトハウスー

 

「まったく、最近はこの国はとんでもない目に合わされてばかりだ。」

 

なにかにイライラさせながらそう言ったのはアメリカ大統領のアンソニー・ウォレスである。

 

「ロシアに煽られて、中国に攻撃されかけて、そしてこの有り様。」

 

「まあまあ、落ち着いてください大統領。」

 

そう助言するのは、副大統領のトラヴィス・スコットだ。

 

「まあいい。それで、この国は何処とも連絡ができず。おまけにGPSからの通信は途絶え。さらに在日米軍やグアムなどの国外基地とも連絡すら出来ない。こんなひどい状況はあったかね?」

 

「アメリカの歴史上、そのようなことはなかったでしょう。それに、こんなことが起こるという事は、ロシアがハッキングしたか、あるいは、今までとは違う位置に移動したかぐらーー」

 

「突然すまないが、国内の軍事基地などの施設は連絡可能か?」

 

「あぁ、はいできます。」

 

「それじゃ、とりあえず全方位に偵察機を送れないか?周りに他の国々がいないか心配でな。」

 

「……分かりました、全空軍基地に伝えておきます。」

 

「ご苦労、アメリカ合衆国に神のご加護があらんことを。」

 

そう言うと、副大統領は足取りを速めながら退室した。

 

 

 

 

 

 

そして、2か月半後。

 

アメリカ合衆国軍は各方面に戦闘機、哨戒機、輸送機、輸送ヘリなど様々な機体を送れるだけ送った。また、各方面の部隊の安否が確認され、その部隊からの情報も送られてきた。さらにアメリカ航空宇宙局が急ピッチでGPSを打ち上げたために、捜索範囲はとても広くなり、たくさんの情報を確保出来た。

この調査により、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニア、そして南アメリカが確認された。だが周りは見覚えのない謎の大陸があった。

 

 

 

 

そう。

 

全世界は異世界へと転移したのだった




初めて小説を書いてみましたが、結構ネタ探しに苦労します。

次回は恐らく他の国の反応辺りになると思います



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第2話 国連会議

小説に少しフォームを入れました。

上手くなりたいな...


2035年 3月31日

 

ーアメリカ ニューヨーク 国連本部ー

 

「全員集まりましたか?」

 

国連事務総長が口を開き、視線を197ヶ国が座るところに向ける。

そして、こう言った。

 

「只今より、国連緊急会議を開催します。今回の会議は、世界共通で発生している通信のトラブルや、アメリカ合衆国のGPSが撮った、我々の世界の周囲にある謎の複数の大陸について議論していきたいと思います。」

 

「まず最初は、アメリカに今いるこの世界について説明してもらいたいと思います。」

 

そう言うと、ウォレス大統領が登壇する。

 

「皆さん、慌てずにお聞きください。今我々がいるこの世界は恐らくですが、地球とは異なった場所つまり異世界へと転移したであろうと、我々は推測します。」

 

異世界”この言葉に会場全体がどよめく。なぜなら、人類史の中で突如地球とは違う世界に転移するということは一度もケースがないからだ。

地球とは異なった世界は、もしかしたら謎の大陸に文明を築いているのかもしれない。そういった期待と不安で紛れている。

 

「ええっと、まず。通信のトラブルについてですが、これは異世界転移による人工衛星の喪失だと考えております。次に、周囲に確認された謎の大陸についてなんですが、今のところ文明の存在は確認されており、その大陸の文明レベルは中世ヨーロッパ並のレベルだということが判明しました。ですが、別の大陸にある文明は、第二次世界大戦時ぐらいの文明をもつ地域がありました。なので全ての国々がいつ攻撃されてもいいように、準備をする必要があります。そのために、アメリカ合衆国は、敵でも仲良くしないといけないでしょう。以上で説明を終わります。」

 

ウォレス大統領が降壇すると、今までのどよめきが無くなり、辺りは静かな空気になった。

 

「それでは、各国の意見を聞きましょう。まずはロシアから。」

 

カムスキー大統領は黙々と登壇する。

 

「我がロシアはアメリカが説明した、謎の大陸に.....

 

 

侵攻するということを提案します。」

 

会場がまたもや、どよめいた。[正気か!?あいつ?]と反対する者もいれば、[そのほうがいいはずだ。]と賛成する者もいた。

この会議は三日間かけて行われた。その間にアメリカ、ロシア以外にも。日本 イギリス ドイツ インド オーストラリア 南アフリカなどの多数の国々が意見を発表した。 これらを基にして、国連は【異世界文明接触マニュアル】という本を作成し、存在が重要な国々に対して配布された。これには日本も含まれていた。そして、いよいよ、

 

 

 

 

 

 

 

異世界文明と接触するときが来たのだった




ここで、会議編は終了です。

次回はついに異世界文明に接触します。


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第3話 接触~アメリカ~

ネタ探しの旅は本当に大変です。

あと、他の小説と比べて文字数少ない気がする...


ーアメリカ ポーツマスー

ここ港町ポーツマスは1800年設立のアメリカ初の海軍工廠であるポーツマス海軍造船所があることで知られる。日露戦争の講和会議は、大統領セオドア・ルーズベルトの仲介により、この海軍工廠内で行われ、ポーツマス条約が調印された有名な場所でもあり、米海軍の聖地でもある。だが、2005年に閉鎖されたはずだったが、ロシアや中国の海軍増強計画によって、造船所が息を吹き返したかのように、様々な種類の艦船を造船している。それは今や、アメリカ海軍の艦艇の生産の要となっている。そしてこの港町で異世界文明使節団の出港を待ちわびんとばかりに大勢の見物客が来ている。

 

「すごい来てますね。」

 

ある男はそう呟く

 

「まさか、こんなに来るとは思いもしませんでしたよ。」

 

彼らは政府から特別に派遣された現外交官デクスター・ミッチェルと元外交官であるアラン・フィリップスである。彼らは今、外交官という重要な任務を背負っている。ので、外交官はたくさんの言語を覚えなければならない。だが、今回は言語の分からない異世界文明。交渉に失敗して戦争状態になれば、ただでは済まない。そういうプレッシャーが彼らの頭の中でよぎっていた。

 

「もし、ロシアが先に異世界文明と交渉が成功していたら、今頃ヤバい生物兵器をつくってんだろうな、ハハッ。」

 

とフィリップスは言う。

 

「あぁ、多分ドラゴンを使った兵器ですら持ってそうだな」

 

そう言いながら歩いていくと、搭乗する船が見えてきた。

 

彼らが乗る船はアトランタ級特殊イージス護衛艦である。最新式のZRUー20レールガンと光学迷彩やステルス機能を搭載したこの船は、エリア51の技術を豊富に搭載したためか、建造費用が普通のイージス護衛艦より10倍高いので、今はたったの一隻しか造られてない。

 

「ったく、異世界文明と交渉するだけなのに、こんな豪華な艦隊編成しなくてもいいと思うが。」

 

「多分、大統領は交渉する文明に対して[我がアメリカ海軍は強いんだぜぇ!]とドヤ顔してまで見せびらかしたいんだろう。」


 

ちなみに艦隊の編成はこんなかんじ

先頭 アトランタ級特殊イージス護衛艦

二番目 アイゼンハワー級原子力空母

三番目 クリーブランド級イージス護衛艦 x2四番目 デトロイト級ミサイル艇 x5

最後尾 アイオワ級ミサイル戦艦

 

アイオワ級は退役や就役を繰り返していたが、2020年に大規模改修が行われて、イージスシステム等が加えられたため、アイオワ級は大きさのわりに防衛が固いのである。


 

 

「出港したら、俺たちが初めての異世界文明と交渉した人ってなるのか。面白いな。」

 

そう話していると出港の汽笛が鳴ったので、旅は始まったと確信した。

 


 

それから約1週間後

ー大西洋 謎の大陸近海ー

 

「ふぁぁ...朝はダルいなぁ...」

 

そう呟くのは、フィリップスだ。だがミッチェルは横のベッドにはいなかった。

しかたなく、ミッチェルを探すことにした。

数分後に甲板に人々がたくさんいることに気づき、ミッチェルもその中に混じっていた。

フィリップスもその中に混ざると、そこには、未知の大陸があった。ついに、見つけたのだ。そう思いながらフィリップスは心の中で嬉しくなった。

その後、使節団の仲間から、もうすぐ到着するから、制服を着るようにと言われて、急いで着替えを済ませた。その後、【異世界文明接触マニュアル】を手にし、いつでも下船できるようにした。港らしきものは段々と近くなる。そして......

 

 

 

 

 

 




結構たくさん書いたと思います。

次回は異世界文明側の反応や、ロシアの話を書きたいなと思います。


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第二章 ロシアの異世界侵攻
第4話 王国の反応とロシアの野望


やっと書けた.....


~オーラウト王国 王都 ゼフテート~

この都市は王国が建国されて以来、長らく繁栄してきた都市であり、王国の政治、貿易、商業、文化の中心として栄えている。その中でも一番大きく賑わいを見せているのは、軍艦や貨物船などが多く行き来するユトラータ港だ。そこには、オーラウト海軍の総司令部がおかれている。だがこの日に限っては、今までの賑わいは普通時に比べ小規模だし、軍艦も見られなくなった。なぜなら、昨日の夜に、所属不明のワイバーン一騎が王国の防空網をいとも簡単に突破し、王都上空を数回旋回した後、任務遂行したのか来た方向へと戻った。幸いにも被害がなかった。

 

一方そのころ、王城では閣僚が集まり会議が行われていた。内容は、昨夜現れた未確認のワイバーンについてだ。この会議の主席がオーラウト王国国王 ラルフ・ローレン5世だ。

 

「国王閣下、昨夜の未確認騎についての正体は何なのか、分かりますでしょうか。」

 

若い軍事最高指令官が尋ねると、国王は答えた。

 

「自分は、その未確認騎を見ていないから分からないが、第5ワイバーン中隊や、ゼフテートの住民や、駐屯している騎兵隊などが目撃したと聞いている。だが問題は・・・・」

 

すると国王は何かを考えているのかと、少しの間沈黙した。数秒後に王は口を再び開いた。

 

「その未確認騎がどこから来たのかだ。仮に西側から来たとしても、我が国の西側にはそもそも国家は存在しないはずだ。あったとしても、あれを遠くまで動かせれる技術を持っていないだろう。なので、未確認騎は恐らく隣国の神聖タルガリア帝国が所有しているだろう。」

 

そう断言した王は続きを話そうとすると、突如ドアノックが聞こえたので入れさせた。入ってきたのは連絡員だった。

 

「国王閣下、報告です。先ほど巡視船ヴァロワが謎の鉄の船舶を見つけており。現在国籍を確認中とのことです。場所はユトラータ港から北西10Km離れたところです。最新の情報が入り次第お伝えします。」

 

「「「鉄の船舶...?」」」

 


 

ー巡視船ヴァロワー

 

「おい、嘘だろ.....」

 

近海の巡視をしていた巡視船ヴァロワの船長タデアーシュは水平線の彼方から接近する多くの船影を見て自分に問いかけるように話した。

その船は、巡視船ヴァロワから約100m手前で停止した。

 

タデアーシュは汗を大量に吹き出しながらも、冷静に状況を判断しようとする。

 

(巨大船、それも後ろに何隻もいる、どういう事だっ!。)

 

「デカすぎるっ……」

 

 

「船長、なんなんでしょうあの旗は……どこの国にも属しません。しかも、木でできていません!」

 

その事に気づいた途端、彼は再び汗が吹き出す。

 

「赤や白の横縞に、小さい四角に沢山の星?見たことがないな。」

 

「どうしますか?」

 

「とりあえず、目的を聞くぞ。」

 

巨大な鋼鉄の船に、目的を聞こうとした瞬間、その船の前方から船員らしき者が見えて、なにやらジェスチャーをしている。

 

「乗れという合図なのかこれは?」

 

その合図に従い近づくと、前方には四角い箱に二つの棒らしき物(ZRU ー 20 長距離レールガン砲)や、4つの丸い筒状の物(RGMー84 ハープーン艦対艦ミサイル)など、彼らの常識から外れたものがいっぱいだった。

 

「とんでもない国と出会ってしまったな...」

 

そう言った後、彼らは恐る恐る鋼鉄の船(アトランタ級特殊イージス艦)へと乗り込んだ。

 

しかしそれでも彼らは驚きを隠せなかった。本当に船全体が鉄で出来ているではないか!タデアーシュは驚きの余り我を忘れ、前から接近するもの達に気づかなかったが、隣の船員に叩かれて思い出した。

 

「ぐっ…………我はオーラウト王国海軍巡視船船長のタデアーシュだ!我が国の領海に来た目的を伺おう!」

 

タデアーシュは勇気を振り絞って声を出した。

 

その言葉を受け、外交官達は驚いた表情を浮かべ、小声で会話し出した。

 

しばらくすると会話が止まり、一人の男が前に出て手を差し出す。

 

「失礼しました。アメリカ合衆国外務省外交官のデクスター・ミッチェルと申します。領海を侵犯してしまい申し訳ございません。」

 

「はぁ……ところで目的はなんでしょうか?」

 

「はい。ですが、その前に一つだけ。我が国、アメリカ合衆国は転移国家だということをお伝えします。」

 

タデアーシュは驚きのあまり頭が真っ白になった。だが、デクスターは話を続ける。

 

「その為に各地に偵察機を送りこみました。偵察の為に領空侵犯をしてしまったことも謝罪致します。我が国の目的はひとつだけ、あなた方…いや、オーラウト王国との国交締結を交えた会談を行いたいのです。貴国の上層部にお伝えください。」

 

「分かりました。上層部に伝えます。」

 

 

 

 

その後タデアーシュ達は、アトランタ級から降り、巡視船ヴァロワに戻ると、王国海軍司令部に魔信機で先の話を伝える。

 

後に、オーラウト王国議会に判断が任され、議会は多少荒れたりはしたが、会談を決定した。

 

会談の最中、英語は通じるのに英語の文字が読めないなど、不具合がいくつか生じたものの、会談は穏便に終了する。

 

会談は両国の技術交換を条件に、外交を締結することを約束した。

 

その後、デクスターとアランはウォレス大統領から全権大使を任命され、異世界での外交に活躍した。

 

 

 

 

 

 

 

そして、オーラウト王国はアメリカが所属するNATO (北大西洋条約機構)の国々、すなわち、イギリス フランス ドイツなどの国々と国交締結をした。

 


 

ーロシア連邦 チェリャビンスク近郊ー

2035年11月10日午後11時頃

 

この頃、ロシア連邦軍は異世界の未知なる魔法技術の欲しさに、アメリカの様な平和的な交渉ではなく、暴力で魔法技術を手に入れる事にした。なぜなら最初に交渉した際、本国から南に53Kmしか離れていない、ウズルイフ大陸のエクリクシス大皇国という国と会談した時、帝国の皇帝から、今すぐに帰れと言われ、さらに大統領の前で堂々と宣戦布告をするという。まさに、自国No.1主義を掲げる国だということがわかった。自国No. 1だと言い張れるのなら、我が国相応の魔法技術を持っているに違いない。そう思ったあげく、こういう結論に至ったのだ

そして今、チェリャビンスク近郊にある空軍基地は、Tuー95が離陸する音が絶えず続いている。この映像を大統領はタブレットで見ていると、国防大臣のフェドセイエフが入室し、作戦名を聞かれると、こう答えた。

 

イースクラ作戦

 

そして、午後11時59分。攻撃開始1分前になると大統領は国防大臣に話した。

 

「いよいよだな。」

 

 

「そうですね。」

 

「我がロシアを見下し、さらに私に対して堂々と宣戦布告するとは.....おもしろいことをしてくれる。痛いのを喰らわせてあげないとな。」

 

そして攻撃が始まる瞬間、大統領は口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今夜、我らの歴史が始まる。」




如何でしたでしょうか。

少しでもおもしろいなぁと思ったらお気に入りに入れてみたらどうでしょうか?

次回はロシア対エクリクシス戦争が開幕します。


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第5話 強く、そして美しい国であるために。

投稿が遅れてすみません。

投稿頻度は早くても2日に1話か、遅くても5日に1話は出したいと思います。

それではどうぞお楽しみください。


ーウズルイフ大陸 エクリクシス大皇国首都ヒルデガルド上空8000m手前ー

 

そのころエクリクシス側はというと、(きた)るロシア戦に向けて、国内で唯一エリートの第2ワイバーン哨戒部隊 通称黒バラ部隊と、第11ワイバーン戦闘団が首都上空を警戒しながら巡回していた。この国は大陸の中では屈指の技術力を誇っており、中には高高度でも攻撃や偵察ができるワイバーンを保有している。そんな中、黒バラ部隊に所属する部隊長グアハルド・セシリオは、巡回中に謎の黒い巨大なワイバーンらしき飛翔体と小さな飛翔体を見つける。彼はこれを、宣戦布告したばかりのロシアだということに気づき、仲間や戦闘団に警戒し、いつでも攻撃できるようにするよう注意をした。ちなみに、哨戒部隊専用のワイバーンでもそれなりの火炎攻撃は施されてはいる。しかし、それは緊急措置で行う攻撃であるため、ワイバーン同士の空中戦にもなれば、もはや不利だ。そのことを理解しつつ、黒バラ部隊と戦闘団はロシアの飛翔体へと近づいていく..............

 


 

ーロシア航空宇宙軍 首都ヒルデガルド上空8000mー

 

同じ頃、ロシア航空宇宙軍はTuー95を率いる第5爆撃隊に、旧式のSu-35が護衛についている。

 

 

第5爆撃隊に所属するSu-35戦闘機パイロットのヴァガノフは周囲を人一倍に警戒していた。なぜなら、爆撃隊を護衛する戦闘機の中では、一番先頭だからだ。

一つでも見逃せば、時には多大な損害を与えるかもしれない。そういう緊張感を背負ったまま、彼はここにいる。

 

「エクリなんとか国ってどういう国か知らんがな、俺らの国に喧嘩売られたのは第二次世界大戦以来だぜ。まったく、このあと主要都市が瓦礫の山になることを知らずにな。」

 

通信で爆撃機のパイロットが言っていると、レーダーに何かの飛翔体が近づいているのが見えた。最初は味方のか?と思われたが、ヴァガノフはあることに気づき、通信で呟く。

 

「敵に航空戦力というのが本当にあったとはな。」

 

そのことに最初は全員疑問に思った。しかし、そんなことを考える暇はないぐらい距離が縮んでいた。もし飛翔体が突っ込んできたら、確実に一機は攻撃を受けてしまう。その事を確信した後、 Su-35の一部の戦闘機が飛翔体の方向へと速度を上げながら爆撃隊から去っていった。この中には、ヴァガノフも混ざっていた。

 

そしてロシア軍とエクリクシス大皇国軍は空が初めての戦いとなった。

 


 

ーエクリクシス大皇国首都ヒルデガルド第2ワイバーン哨戒隊 第11ワイバーン戦闘団ー

 

「隊長!ロシアのワイバーンが近づきます!」

 

隊員が伝えると、グアハルド・セシリオは声を荒げて言い放った。

 

 

「攻撃開始いいいぃぃぃ!!!!!」

 

言い放ったと同時に、多数のワイバーンから火の玉が口から発射された。その火の玉は、ロシアのSu-35に向かって放たれた。だが、Su-35はあっさりと火の玉を回避する。

 

「バカな!あの距離では回避できないはず────」

 

「隊長!なにか光る矢(R-77中距離空対空ミサイル)が来ます!」

 

そう言われるとセシリオは必死に、接近する光る矢から攻撃されないよう回避しようとした。

 

だが、光る矢は、セシリオのワイバーンの翼に衝突した後爆発し、片方を失った。しかし、かろうじてワイバーンはまだ飛べる。周囲を確認すると、味方のワイバーンが次々と来る光る矢によって、無慈悲に殺され、中には、ロシアのSu-35から放たれる複数の光る矢によって粉々にされる者もいた。

 

その光景を見てセシリオは、ロシアのSu-35に向けて言い放った。

 

「クソったれがああああァァァァ!!!!」

 

そして、叫んで間もなく、セシリオは空対空ミサイルによって無惨な最期をとげる。

 


 

そのころロシア航空宇宙軍はというと、ワイバーンとの戦いに行った戦闘機に乗っていたパイロット全員が、ワイバーンを初めて見たのだった。そのあと、元の爆撃隊の配置へと戻った。

 

「さてと、気を取り直して、今からヒルデガルド上空で、爆弾をぶっ放しますか。」

 

「3...2...1...投下!」

 

Tuー95の爆弾ハッチから、大量のFAB-500爆弾が降り注ぐ。

 

ヒュルルル....と音をらしながらヒルデガルドの地上付近まで迫り、そして....

 

ズゴォォォーン!!という音が、首都全体に広がり、爆発した場所は、火柱が高くのぼり。至るところで、建物が崩壊していた。

 

このあとも、第5爆撃隊は、エクリクシス大皇国の各主要都市や上陸予定地を爆撃し終え、チェリャビンスクにある基地へと帰投していった。

 

ーロシア海軍・陸軍 ヘメンシェ海峡にてー

 

同じ頃、ロシア海軍と陸軍はエクリクシス大皇国の本土上陸作戦が決行された。

 

ヘメンシェ海峡をロシアのポモルニク型エアクッション揚陸艦やアルチョーマフスク型小型揚陸艇が覆い尽くす。

 

そして空には、ロシアではまだ現役のMiG-31戦闘機や、空挺部隊を載せたIL-76が飛んでいる。

 

「いいかお前ら!俺ら上陸部隊は、今から異界どもが住んでいる大陸を襲撃する!そしたら、上陸した後、調子が整ったら首都にめがけて突撃し、最後はこの国を俺らが占領する!おおまかな説明は以上だ!分かった者から武器を持って準備をしろ!」

 

説明が終わると数分後、ほとんどの揚陸艇が、準備万端になった。

 

そしていよいよ.........

 

エクリクシス大皇国との会戦が始まる。




如何でしたでしょうか?

もしよければ、感想を書いたり、評価をお願いします。(絶対来ない)

次回は陸軍とエクリクシス側がメインになると思います。


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第6話 エクリクシス本土上陸作戦

ーエクリクシス大皇国 ウリチ村ー

 

この村はヘメンシェ海峡に接する村で、この村は主に漁業が収入源であるため、木製の桟橋に、多数の小舟が点在している。だが、今この村にあるのは、無理やりかき集めた多数の民兵や、少し遠くから来た騎士団で覆い尽くされている。

 

なぜなら、ウリチ村の駐屯地が、ロシアの爆撃隊の攻撃に遭ってしまい、駐屯地に泊まっていた多数の兵士と、小屋にいた哨戒用ワイバーンが爆撃による爆発を喰らい、復旧不可能なぐらいダメージを負った。

 

運良く爆撃に遭わなかった兵士たちは、ロシアの攻撃だと悟り、周辺の住民を民兵にし、さらに少し遠い駐屯地から援軍を呼び、そして今この状況なのだ。

 

沿岸部にこの村の全兵力を集結させており、その中には、生き残った将校たちや、兵士も混ざっている。

 

「まさか、ロシアは空から攻撃してくるとは、敵もなかなかなもんですね。」

 

そう言っているのは、この地域の最高防衛担当のヴァウテル・バジンカだ、彼はウリチ村の兵士から、ロシアがここを上陸作戦予定地だとしていることを言われ、仕方なくウリチ村の民兵に、弓の扱い方を教えた後である。

 

「しかし、我がエクリクシス大皇国の圧倒的な兵士の量と高性能のワイバーンには勝てないだろう。」

 

エクリクシス大皇国の総人口は約3000万人、その内、兵役に就いている人数は約500万人だ。ロシア軍の総員をかき集めても、約90万人しかならない。だが、技術という面では、ロシアが圧倒的に有利なのだ。

 

「バジンカ殿、ロシア軍の上陸部隊との距離が、段々近づいています。そろそろ、攻撃した方がいいのでは?」

 

そう兵士が伝えると、バジンカは言った。

 

「よし、全員攻撃の準備をするぞ。」

 

そう伝えると、バジンカは言い放った。

 

「撃ち方用意!!!」

 

民兵は弓で構え、兵士はクロスボウを構えた。

 

そして、上陸部隊が見えると....

 

 

「撃てえええぇぇぇ!!!」

 

 

無数の弓が、上陸部隊へと向かって放たれた。 だが、惜しくも、敵は射程の外だった。

 

今度は敵戦車からの砲撃がくる。

 

「バジンカ殿!光る物体が高速で来ます!」

 

兵士が言って間もなく、爆発で飛ばされる。

 

そして、バジンカの近くで砲弾が爆発し、爆発の勢いで飛ばされ、バジンカは意識を失う。

 


 

2035年11月12日

 

ーロシア軍 上陸して約5時間後ー

 

ウリチ村の兵士達の必死の抵抗とは裏腹に、ロシア軍は容易く敵部隊を制圧し、上陸して2時間も満たないうちに、ウリチ村とその周辺を占領した。その後、ロシア軍は、上陸地点に橋頭堡を確保した。

 

ここは、村の集落に作られた主要基地だ。この基地は、今後の作戦で重要な基地となる。

 

主要基地は、兵士の会話と、陸軍の車両でごった返している。

 

その基地のあるテントでは、なにやら高官達が、作戦会議をしているのが見える。その中で説明をしているのは、上陸部隊総司令官の、ニキータ・ネクルチェンコだ。

 

「今回の上陸作戦は予定より、早く占領することが出来た。だが、次の作戦予定地は、この村から南東部に8キロ程に位置する、軍需都市リスチーネハムンの攻略だ。この都市は偵察機と諜報員の情報によると、リスチーネハムンに皇国の陸軍を結集させているようで、中には民兵も混じっているそうだ、だが、この都市の攻略には警戒すべき点がある。まず、この都市には投石機や、バリスタ等の戦略兵器があることだ。そしてもう1つは、エクリクシスの最新鋭のワイバーンも実戦投入するつもりだということだ。どのみち、今回の攻略は困難を伴うだろう。だが、ここを突破することができれば、あとは首都へと一直線だ。」

 

高官達は、それで作戦会議が終わったかと思われたが、ここである報告をする。

 

「そこでだ、軍需都市を攻略する際には、集結させている敵軍を駆逐するしか他ならない。ので、本土から編成してもらった、特殊装甲戦闘団が明日中にも到着するはずだ。因みに、この特殊工兵戦車団は既存の戦車と装甲戦闘車両を改造したのが編成されているそうだ。」

高官達はいったいどんなふうに改造されているのかと気になった。

 

翌日、その特殊装甲戦闘団が主要基地に到着すると、一部の車両が兵士の注目の的になっている。

 

その特殊装甲戦闘団の中には、1つ凶悪な車両が混じっていた。それが、コロカジール(ワニ)と名付けられた装甲戦闘車両である。

 

コロカジールはK-17ブーメランクの改造車両で、本来機関砲が付いているところを、火炎放射器が搭載されている。

 

「まさか新しく来た改造車両の中に、火炎放射器を搭載したのが来るとは..........」

 

このことに高官達も予想の斜め上だったようである。

 

そして、主要基地の部隊が準備万端になると、軍需都市リスチーネハムンへと、進路を向けて進撃した。

 

ロシア軍は、異世界の国家を崩壊へと導く.........

 




次回はついにリスチーネハムン攻防戦が開幕します!


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第7話 リスチーネハムン攻防戦

投稿が遅れて申し訳ない!!!

それではお楽しみください!


ーエクリクシス大皇国首都ヒルデガルド 王室にてー

 

「何だと!?我が国の精鋭ワイバーン部隊が、あのロシア共にやられただと!?ふざけるな!!!」

 

そう部下に怒鳴っているのは、ロシアに宣戦布告を宣言した、エクリクシス大皇国皇帝エーヴェルト3世である。

 

彼は、自分が生まれ育った国に対して、かなりの愛国心を抱いており、その愛国心は時々、悪い方向に導いたりする。また、自国と同盟締結していない国に対しては、即座に格下扱いをするということが多々起きている。

 

その為、もし皇帝に、我が国より優秀な国が付近にいると報告すれば、彼以上に他国に対して嫉妬する人間はいないだろう。

 

それが、この結果である。

 

「ですが、あれは我が軍が敵に数で勝っていなかったからです。なので、ロシアの侵攻予定地と思われる、リスチーネハムンに我が陸軍を総動員で集結させました。リスチーネハムンに集結させた兵士は、予備兵力も含め、約300万人です。しかも、優秀な魔術師達がそこに多く住んでいます。これなら、流石のロシアでも侵攻を防げるでしょう。」

 

部下が自信満々に伝えると、皇帝は少し気分がよくなった。そのせいか、微笑みながら独り言を呟いた。

 

「ロシアよ、見ていろ。お前らは次の戦いで大敗北を味わうがいい!」

 

そう言うと、皇帝は口を大きく開けながら笑った。

 


 

2035年11月14日

 

ーロシア陸軍 リスチーネハムンからあと2キロ地点ー

 

ロシア軍は、作戦当日の朝ごろに出発し、出発してから約10分が経とうとしていた。兵士達は朝だということもあってなのか、まだ眠たそうにしている兵士もいた。

 

そんな中、主力部隊が突撃する前に攻撃準備前射撃が始まろうとしている。

 

「いいか、今から、待機しているロケット砲大隊がリスチーネハムンに攻撃する。発射し終えたらその後、装甲車両を先頭にリスチーネハムンに向かって俺らが突撃する。いいな?」

 

「「「了解!」」」

 

「ロケット砲大隊、発射準備はいいか?」

 

『こちらロケット砲大隊、発射準備完了。いつでも撃てます。』

 

「よし、俺らに宣戦布告したことを後悔させてやるぞ。」

 

それは、リスチーネハムン全域が地獄絵図になる前のことだった。

 


 

ーリスチーネハムン クラリビツァ地区ー

 

一方その頃、リスチーネハムンの全域はこのあと地獄絵図になることを知らず、穏やかな朝を迎えていた。だが、通りには鎧を着た兵士達や、無防備に見える魔術師達が、常に周辺を監視していた。

 

その中の1人、魔術師のイヴァナは、ここ最近、深夜のリスチーネハムン外部の監視で疲れきっていた。

 

「はぁ.....なんでこんなことしないといけないのよ.......」

 

彼女は、魔術師になったばかりの人間であり、いわゆる新入りだ。その為、使える魔術は、軽い治癒魔法と、火炎魔法しか扱えない。

 

すると、向こうからラッパが聞こえてきた。 起床の合図だ。

 

お腹が空いたので、朝食が売られている広場に行くと、そこにはお腹を空かせた兵士や魔術師達で溢れていた。

 

リスチーネハムンは、軍需施設が集結しているので、ロシアの爆撃目標に入ってしまい、かなりの建物が被害に遭ってしまったため、商店街も復旧にかなり時間がかかる。なので、朝昼夜の内、ある時間帯に開く市場は、街のエネルギー源になっている。とはいっても、戦時中なので復旧をほったらかしにしているのだが.........

 

そんなこんなで、朝食を購入すると、広場にある椅子に、金髪のロングヘアーの若い女性が座っていた。彼女は幼馴染みのシャリアだ。

「おはよう、イヴァナ。」

 

「おはよう、シャリア。そこに座っていい?」

 

「いいわよ。」

 

イヴァナは、シャリアの前の席に座った。

 

「今日は、ちゃんと起きれたみたいだね。」

 

「起きれるわよ、子どもじゃないんだから。」

 

「じゃあ、昨日の訓練で誰よりも遅くなって来たのは誰だったっけ?」

 

シャリアは、そんなに古くない昨日の訓練のことをイヴァナに聞いてみた。

 

「もう、そのことは忘れてくれない?」

 

「ごめんごめん。どう?この生活にも、慣れた?」

 

「うん、少しはね。」

 

「そう、それはよかった。」

 

二人がそうにこやかに話しながら食事をしていると突然、一人の魔術師が大きく叫んだ。

 

「空から光るなにかが降ってくるぞ!!!」

 

一同が空を見上げると、そこには無数の光るなにかが降ってくる。

 

「ねえシャリア、なんか嫌な予感がするけど。」

 

「ええ、私も同じ。」

 

そう呟いた途端、光るなにかが、地面に着いた瞬間、爆発し、爆発付近にいた人達は、全身ごと吹き飛び、その遺体は原型をとどめないぐらいだった。

 

「嘘でしょ、まさか訓練で言われたロシア軍の攻撃!?」

 

仲間が次々と、ロシアのロケット砲攻撃に吹き飛ばされていく。しばらくすると、辺りは爆発の痕や、苦しむ仲間、血で溢れかえった石畳、崩壊した建物、まさに地獄絵図だ。だが、その光景を黙って見てはいられなかった。

 

「早く治療しないと、このままじゃ、みんなが死んじゃうよ!」

 

そうシャリアが言うと、イヴァナ達は、まだ生きている仲間達で、もがき苦しんでいる人達を助けに行った。イヴァナは、足全体が無くなっている兵士を助けに行った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁ....熱いし痛いよ.......直してくれぇぇ.........」

 

彼女は、治癒魔法を兵士にかけた。

 

だがもうすでに手遅れだった。魔法をかけて数十秒も経たたないうちに、死亡する。

 

「シャリア、そっちはどう?」

 

「だめ、今の魔力じゃ完全復活できない。」

 

すると、何やら奥から、鋼鉄の箱の郡が、こちらに接近する。そう、この中には、あの凶悪な車両も含まれている。

 

「私たちも攻撃しないと!」

 

「そうね。」

 

彼女達は、魔術師達と一緒に、火炎魔法などを鋼鉄の箱の郡に撃ち放った。

 

だが、どんな魔法を撃ち放ってもびくともしない。

 

その事に気づいた一部の魔術師は、死んだ兵士の剣やダガーを持ち、突撃する人もいた。

 

だが無意味にも突撃する人達は、火炎放射器によって、火達磨になっていた。

 

戦争映画で出てくる火炎放射器は、文字通り炎を吹き出しているが、実際は火のついた可燃物を高圧で吹き飛ばす兵器だ。

 

そのため、普通の家なら数秒もせずに火達磨にできた。その威力を生身の人間が喰らうともなれば、ただでは済まない。

 

「ああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「助けてくれえぇぇぇぇ!!!!!!」

 

「水!みずうぅぅぅぅ!!!!!」

 

そうわめくと、彼らは燃えながら、バタンと倒れた。

 

今度は、無数の光る槍が、残った仲間を殺していく。

 

光る槍を避けるべく、ベテラン魔術師が結界を張り、他の魔術師達が攻撃を再開する。だが、結界を張ったのと同時に、戦車からの砲撃が始まる。

 

すると、あっさり貫通し、付近にいた仲間は皆、大ケガをしていた。

 

「うぅ......痛いよぉ.......」

 

「誰か......俺を回復.......させてくれぇ......」

 

この状態では、もはやリスチーネハムンをロシアから守るのは不可能に近い。

 

二人が必死に回復させても、魔力には限界がある。

 

「どうする?シャリア。」

 

「仕方ないわ、降伏しよう。国には申し訳ないけど。」

 

その言葉に守備隊の皆は、これ以上死者を出したくないと思い、夜の10時頃、リスチーネハムンの全部隊が、ロシアに降伏した。

 

降伏した彼らは、この後、本土へと送られ、収容所で尋問をさせられた。その後、殺すわけにはいかないので、情報を聞き出せなかった人以外は、ロシアの兵士になったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

リスチーネハムンに今までたなびいていた旗は、 深緑、白、黒の三色旗に、真ん中から左に少しずれた所に、紋章で構成されてた、エクリクシスの旗だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だが今は、白、青、赤のロシア国旗が、リスチーネハムンで高くたなびいていた。リスチーネハムンは、ロシアの手に落ちたのだ。

 

ロシアは早速、異世界で手に入れた魔術師達を集め、新設した魔術師部隊に配属させた。その部隊は別名、短剣部隊とも呼ばれている。由来はほとんどの魔術師が、華美な短剣を携帯していたことから、この名が付いたそうだ。この中には、二人も入っていた。

 


 

ー首都ヒルデガルド 王室にてー

 

「リスチーネハムンの全部隊が、死守命令に逆らい、全部隊が降伏しました。」

 

部下が報告すると、皇帝はまたもや機嫌が悪くなる。

 

「くそっ!、こうなったら.....」

 

「何でしょうか。」

 

「緊急命令だ!首都に在住する男子全員、皇国突撃隊に入隊させろ!入隊を拒否する奴は容赦なく死刑にさせておけ!分かったらとっとと軍事司令に伝えろ!」

 

そう怒鳴ると、部下は口を細めて言った。

 

「りょ....了解しました。」

 

そう言って部下は、軍事司令に伝えに行った。

 

「ふふふ......待ってろよロシア共め......私を舐めるなよ.............」

 




もし良ければ、感想をお願いします。

次回は、番外編をするつもりです。


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番外編 ロシアに送られた魔術師と兵士達

ーリスチーネハムンのとある広場ー

 

リスチーネハムンの全部隊が降伏してから、約10分程が経った。

 

辺りには建物の瓦礫や、死体、装甲車両、エクリクシス兵、ロシア兵、魔術師でいっぱいだった。

 

「降伏しちゃったけど....これでよかったのかな?」

 

イヴァナは、シャリアに問いかける。

 

「これでよかったの、死ぬより、まだ生きているほうが良いから。」

 

そう話していると、ロシア兵が声をかける。

 

「おい、今からあのトラックに乗ってもらうぞ。ついてこい。」

 

そう言われたので、イヴァナ達は仲間が乗っている輸送トラック(ウラル・タイフーン装輪輸送車)に乗車する。

 

この時点で、物理攻撃ができる武器はすべてロシアの部隊に取り上げられている。

 

乗ってみると、中は狭く、仲間達で満員だった。

 

その後、なにか音がし始めてまもなく、輸送トラックは移動を開始する。

 

前を見てみると、トラックの車列や、AFV(装甲戦闘車両)が見える。これは、もはや逃げることが出来ない。

 

そうすると、青髪の若い女性魔術師が、運転手に話始める。

 

「ねえ、私たちってこの後、拷問されたりしない?」

 

そう言うと、運転手は答えた。

 

「ああ、そうさ。ただし、俺らに情報提供をしてくれたらの話だがな。」

 

その事に、魔術師達は動揺する。

 

「何も言わなかったら結局殺されるのかよ。」

 

「それって本当?」

 

「はぁ、死にたくないよぉ。」

 

ごちゃごちゃと言っているうちに、トラックがいきなり停まった。どこに着いたのか疑問に思っていると、ドアが開いた。

 

「さあほら、とっとと降りろ!」

 

そう怒鳴られて、急いで降りた。だが、次の指示がくる。

 

「手を頭にのせろ!」

 

手を頭にのせると、並んでいる列へと行った。すると、ロシア兵が説明を始めた。

 

「今から本土に向かうために、あの船に乗ってもらう。ちゃんと指示した通りに動け。」

 

そう説明しているといきなり、近くで、一人の魔術師が逃げ出そうとした。

 

だが逃げてまもなく、銃声が響き、弾丸はその魔術師の背中に複数穴を開け、その後死んだ。

 

「逃げたらこうなるぞ、わかったか。」

 

撃った兵士が捕虜達に警告する。

 

その後、最前列が最初に船に乗リ始める。

 

「・・・次!」

 

次々と乗船し、最後列が乗り終えると、船は出港した。

 

船の中はというと、狭くて暑く、ぎゅうぎゅう詰めの状態だった。

 

ようやく到着したのは、およそ一時間後くらいだった。

 

ー午前0時15分 チェリャビンスクから数十キロ離れた港にてー

 

下船した彼らは、すぐに身体検査を受けた。なにか武器になりそうなものが見つかれば、すぐに殺されることが起こりうる。だが、シャリア達は、運良く疑われることはなく検査をクリアした。

 

「私たち生きてて良かった。」

 

そうシャリア達は心の中で呟く。

 

次の移動手段も、結局輸送トラックで、最初に乗った時に感じた狭さも、もう慣れている。

 

しばらくすると、チェリャビンスクの市街地に入った。

 

「すごい大きい街ね。」

 

そうイヴァナが呟く。

 

「本当ね。」

 

またしばらくすれば、チェリャビンスクの郊外に停車した。

 

降りてみると、そこには、有刺鉄線が敷かれた壁や、広い敷地、多くの監視塔、鉄格子の窓があり、文字通り収容所に来たのだ。

 

「ねぇシャリア、なんか怖い予感がする.....」

 

「ちゃんと指示に従えば、なんとかなるよ。」

 

収容所に入ると、中は清潔で、彼らの思う収容所とは違い、驚いていた。

 

そして、尋問室に近いところで、彼らは順番を待たされていた。もちろん兵士が管理の下でだ。

 

そして、彼らの尋問が始まる。

 


 

「まさか異世界文明の人間に尋問するとは、聞いていないぞ。」

 

そう話すのは、今回の尋問を担当することになった、ヴァシレフスキーだ。

 

「仕方ないだろ、急きょ変更になったんだからよ。いちいち文句言ってると、上の人間に聞こえるぞ。」

 

「仕方ない、ほら、入れ。」

 

そう呼ぶと、金髪の若い女性が、入ってきた。そして、静かに椅子に座った。

 

この尋問室には特殊な仕掛けが施されている。

 

尋問室の隣にある小さい部屋は、尋問室の様子を伺えるが、尋問室からはその部屋は見えない。つまり、監視されていることをカモフラージュするための仕掛けが施されている。

 

「では、あなたの名前は?」

 

「私の名前は、アンネッテ・リネーア・シャリアです。」

 

「年齢は?」

 

「17歳です。」

 

「どういう職業をしているんだ?」

 

「魔術師です。今までは魔術師の見習いとして勉強していました。」

 

すると、ヴァシレフスキーは睨みながら質問した。

 

「その魔術とやらは、どのような種類があるのか、またどうすれば作動するのか、教えてくれないか?」

 

「攻撃魔法や、治癒魔法等の、簡単な魔法は、その魔術の名前を言い放つとその魔法が作動します。反対に、防護結界等の大きい魔法となると、大気中にある『マナ』を呪文で結集させて、それを魔法に変換するんです。」

 

ヴァシレフスキーや、尋問室の隣の部屋で監視していた人達は『マナ』というものがなんなのか、謎に思った。

 

「で、我々でも魔法を作り出すことができるのか?」

 

そう言うと、シャリアは少し考えると、話始めた。

 

「おそらく難しいでしょう。そもそも魔法は、魔術スキルを習得しないと、どんな人間でも簡単に魔法は作動しません。」

 

ヴァレンフスキーは、良い情報を手に入れたと思った。

 

「よし、尋問は以上だ、情報を提供してくれたことに感謝する。」

 

「こちらこそ。」

 

お礼を言った後、シャリアは尋問室を退室した。

 

「何なんでしょうね『マナ』ってやつ。」

 

そう監視していた人がヴァシレンフスキーに聞く。

 

「さあな、でもどうやら『マナ』というものは、あいつらにとっては重要なものなんだろう。」

 

「なるほど。」

 

その後も、尋問は続き、中にはなにも話さない者や、ずっと抗い続けて結局殺された者もいた。

 

だが、このようなトラブルは少なかったので、意外と尋問は早く終わった。

 

ロシア国防省に、今回の尋問で獲得した情報を伝えると、尋問中で出てきたマナという単語や、魔法の詳しい内容に興味津々だったそうな。

 

その後、ロシア国防省は、魔術師達だけで構成された部隊を新設させることになった。




もし良ければ感想を。

次回はついにエクリクシス戦のフィナーレです。


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第8話 ヒルデガルド包囲戦 序曲

2035年11月24日

 

リスチーネハムンが陥落しておよそ一週間が経った。

 

辺りには、ロシア兵や、戦車、装甲車両が駐在していた。

 

そんな中、リスチーネハムンの郊外では、大規模な工事が行われている。

 

この場所は、元々エクリクシス軍の訓練施設だったが、その広さに持て余しぎみだったロシア軍が、空軍基地を建てる計画が持ち上がったためである。

 

ちなみにこの工事には、降伏したリスチーネハムンの守備隊を徴用しており、ロシア軍は指導しているのみだ。

 

リスチーネハムン中心部はというと、街灯にはロシア国旗が掲げられており、戦いで勝ったことを祝っていた。

 

だが、リスチーネハムンの住民は、ある不安を抱いていた。

 

もしかすると、ロシア兵は、皇帝の無礼な外交の報復に、自分達は処罰されるのではないかという事が、住民の間でささやかれていた。

 

だが実際は、処罰されたのは守備隊だけで、住民は何も処罰されなかった。

 

そんな中、高官達は、首都ヒルデガルドを攻略するために、攻勢作戦を考案する。

 

その作戦は、まず、ヒルデガルドに空挺軍を降下させ、陸軍が進撃できるように、橋を確保することだ。

 

何故なら、ヒルデガルドの周囲は複数の河川が入り混じっているため、橋を確保しなければ、陸軍が市街地に突入することが出来ないためである。

 

全ての橋を確保することができたら、陸軍が、ヒルデガルドを囲むように包囲陣をつくり、そこに突撃する部隊を市街地に送り込み、陥落させるという素早い展開が必要の作戦だ。

 

だがこの作戦には、エクリクシス大皇国を滅亡する以外の目的がある。

 

それは、新兵器の実験という目的だ。

 

実はここ最近、ロシアは、アメリカが新型レールガンを配備した情報を聞きつけたため、負けじと、戦車に付けられるレールガン砲を開発したのだ。

 

このレールガンは、まだ実戦配備はされていないが、この作戦の戦果次第で、実戦配備するか否かを決めるそうだ。

 

そんな中、上陸部隊総司令官の、ニキータ・ネクルチェンコはある場所に注目する。

 

その場所は、リスチーネハムンの西に10キロほどの地点にある、森林地帯だ。

 

この森林地帯は、どうやら『エルフ』という種族が確認されている。

 

エルフの種族にこの国の事を聞けば、得する情報があるかもしれない。

 

そう思った彼は、翌日、森林地帯を調査すべく、一部の装甲車両や戦車を率いて、西へと向かった。

 

この部隊は、いつゲリラに襲われていいように、BMP-T ターミネーターも参加している。

 

西へと向かっていると、ネクルチェンコは、奇妙なものを見つける。

 

「なんだこれは?」

 

奇妙な石を手にしてみると、何やら赤く光り輝いている。

 

「まあいい、後で調べるか。」

 

調査隊が森林地帯へと向かっておよそ10分、ついに森林地帯の奥に突入した。

 

「これはすごいな。」

 

この森林地帯は、地球に比べて、巨大樹が多い為、隠れるにはうってつけの場所だ。

 

すると、彼の目に、木の上で待機している人間らしきものを見つける。

 

「まさか、エルフなのか?」

 

そう思って、挨拶しようとする。

 

「やあ、こんにちは。」

 

だが次の瞬間、エルフから放たれた火の矢が、ネクルチェンコの乗る装甲車に当たる。

 

「くそっ!敵対視してやがる!」

 

そう思った彼は、無線を取りだして、焦りながら言い放った。

 

「エルフからの攻撃だ!各自戦闘に備えろ!」

 

そう言うと、BMP-Tの砲塔が動き始めた。

 

BMP-Tは、あのエルフに照準を向けると、30mm機関砲が火を噴く。

エルフは、撃ってすぐに倒れ、そのまま木から落下した。

 

それに反応して、他のエルフ達が現れ、今度は、魔法攻撃を始めた。

 

その魔法は、装甲車や戦車に当たると爆発した。

 

「司令!このままでも大丈夫でしょうか?」

 

「落ち着け、あいつらが使っている魔法は、所詮、榴弾みたいなものだ。」

 

実際に、装甲に当たった瞬間爆発はしているが、貫通しておらず、ダメージを与えていないのだ。

 

だがいつまでもこの状況の中にいるわけににもいかないので、BMP-TやT-14アルマータの攻撃が再開する。

 

BMP-Tから放たれるサーモバリック弾のミサイルやT-14の砲撃が、エルフ達を蹴散らす。

 

だがいっこうに収まる気配がないので、調査隊とその護衛は、リスチーネハムンへと一時的に撤退した。

 

ーリスチーネハムン 前線基地ー

 

前線基地へと撤退した部隊は、予想にもしなかった戦闘に疲れていた。

 

「ネクルチェンコ司令、先の調査はどうでしたでしょうか?」

 

調査隊に含まれていない兵士が質問する。

 

「ああ、とんでもないことになったよ。」

 

そう疲れながら言った。

 

「調査して、いい情報を手にできるかと思ったら、奇襲攻撃に遭ってな、こんなこと予想もしなかったよ。」

 

「そうですか。ですがいい知らせがあります。」

 

「何だね?」

 

「空軍基地があと少しで完成です。訪ねてみませんか?」

 

そう言われたので、訪ねてみると言い、車に乗った。

 

出発して5分くらいで建物が見えてきた。

 

空軍基地前に到着すると、格納庫や滑走路は完成しており、もはや完成に近かった。

 

「もはや完成に見えるじゃないか。何が終わっていないんだね?」

 

「地下の新兵器実験場がまだ未完成です。」

 

「へえ、新兵器実験場か。」

 

ここで彼は、どんな実験をするのかを聞いてみる。

 

「どういう実験をするのだね?」

 

「資料によれば、レーザー砲や、偵察機能付きの昆虫などです。」

 

「なるほど。で、いつ完成するんだ?」

 

「恐らく3日後ぐらいかと。」

 

「わかった。」

 

だがネクルチェンコは、首都に敵の全兵力が集結しないうちに早く完成して欲しい一心だった。

 

帰ろうとすると、建設で働いている旧リスチーネハムン守備隊からクレームを言われた。

 

「おい、お前がこの建設の主導者だな?」

 

「早くここから解放してよ!」

 

「この建設が終わったら絶対にお前を殺してやるからな!」

 

護衛している兵士が警告射撃をすると、ゆっくりと自分が働く場所に戻った。

 

「さっきの連中はなんだったかね?」

 

「あれは旧守備隊のリーダー達です。あの連中はちゃんと監視しないと逃げ出すかもしれませんから、危険人物に指定してます。」

 

そう会話しながら前線基地へと帰っていった。

 

前線基地に帰ってみると、いつもの装甲車両がごった返す雰囲気だった。

 

辺りはすっかりお酒を飲む兵士や、タバコをふかす兵士で多くなっている。

 

「司令、一緒にお酒飲みません?」

 

「いや、結構だ。」

 

何人かの兵士に誘われたが、断った。

 

テントに戻ると、ある高官から話しかけられた。

 

「司令官、空軍基地はどうなっていましたか?」

 

「ああ、ほとんど完成してた。ただ帰ろうとした時に労働者にクレーム言われたけどな。」

 

「いつ頃完成しますか?」

 

「確か.......3日後くらいだったな。」

 

「そうですか。」

 

会話はそれで終わりだった。

 

ー3日後ー

 

3日経ったこの日は、いつもより騒がしかった。

 

何故なら、リスチーネハムン郊外にある空軍基地が完成したからである。

 

空軍基地前には、広大な施設を一目見ようと、リスチーネハムンの住民が押し寄せていた。

 

そして、空軍基地に初飛来する飛行機が近づいてきた。

 

初飛来したのはAn-225ムリーヤだった。

 

その巨大さに、住民は開いた口が塞がらなかった。

 

着陸して数分が経つと、前部のハッチが開き、そこから数台の装甲車両が出てきた。

 

これを見た住民は、戦うべき国を間違えたと、改めて思った。

 

そのころネクルチェンコはというと、空軍基地の完成式典に参加していた。

 

ネクルチェンコは、空軍基地内の色々な施設を訪問した。

 

それを見てネクルチェンコは、作戦に期待を抱いたそうな。

 


 

ー首都ヒルデガルド 王室ー

 

「皇帝閣下、首都に在住する男子全員の徴兵が完了しました。」

 

この時の王室は、いつもより空気が悪かった。

 

相次ぐ主要都市の陥落と兵力不足に、軍部も、そして皇帝も頭を悩ませていた。

 

「そうか、ならば徴兵した分を首都の防衛に当てろ。」

 

「了解しました。」

 

そう部下が言うと、軍部に伝えようと去っていった。

 

すると、王室のドアが突然開いた。

 

「なんだ!入室するときはノックしろ!」

 

入ってきたのは、王室親衛隊指導者の、ライムンドだ。

 

「皇帝閣下!大変です!ロシア軍が首都に向かって進軍しています!」

 

「何ィィィ!!!!」

 

皇帝は予想にもしなかった進軍の早さに驚愕した。

 

「すぐに皇国突撃隊を配備しろ!」

 

「はっ!」

 

そう伝えると、急いで退室した。

 

ついに、ヒルデガルド包囲戦が始まったのだった。

 




もし良ければ感想を。

次回はいよいよ本編です。


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第9話 ヒルデガルド包囲戦 市街戦

ーリスチーネハムン郊外の空軍基地にてー

 

空軍基地が完成してからおよそ2日経ったこの日は、戦闘機や爆撃機、それに戦闘ヘリや輸送機等が、空軍基地を埋め尽くしていた。

 

何故なら、翌日に冬季攻勢作戦が決行するため、いつ出撃命令が下されてもいいようにである。

 

空軍基地には、ロシア空挺軍の連隊が待機していた。

 

ロシア空挺軍には、輸送機からパラシュート降下できるよう設計された、空挺戦車も出撃する。

 

同じ頃、陸軍はというと、主力のT-14やBMP-Tなどが大多数を占めていた。もちろん一部のT -14には、試製のレールガン搭載型も入っている。

 

だが、その中に、コアリツィヤ-SV 152mm自走榴弾砲も混じっていた。

 

これらは、包囲した際に、火力支援を行うときに使用される。

 

辺りは、輸送機や戦闘機が離陸する風景や、出発する装甲車両など、厳めしい雰囲気だった。

 

上陸軍総司令のネクルチェンコは、立場上、リスチーネハムンの通信所で待機していた。

 

そして、およそ5分後、輸送機がヒルデガルド郊外の上空に差し掛かると、IL-76の後部ハッチが開いた。

 

そして、空挺部隊が降下し始めた瞬間が、作戦開始の合図となった。

 

それに続き、空挺戦車も投下され、上空は、白色の落下傘で溢れていた。

 


 

ー首都 ヒルデガルド郊外の防衛陣地ー

 

兵力不足に悩まされていたエクリクシス軍だったが、首都在住の男子全員を徴兵したため、少しの兵力は賄った。

 

ここは、首都郊外にあるクーブルンク川の防衛陣地だ。

 

ここには、ありったけに集めた皇国突撃隊や、重装備をした長槍兵、なったばかりの魔術師が待機していた。

 

「今回、我々に課せられた任務は、クーブルンク川が敵の手に落ちないよう、ここを死守することだ。皆、準備はいいか。」

 

「「「了解!」」」

 

彼らは威勢の良い返事をしてはいるが、本心は突破されると誰も分かっていた。

 

分かっていないのは、長官だけなのだ。

 

「まったく、俺ら国民を使ってまでも死守しろってのかよ、もう降伏すれば早い話なのによ。」

 

「だな。」

 

ある皇国突撃隊の兵士が言う

 

そして、配置につくと、いつでも攻撃ができるように待機していた。

 

すると突然、一人の兵士が頭を飛ばされる。

 

「敵襲!!」

 

辺りは混乱し始め、混乱している内に、空挺戦車が防衛陣地に接近する。

 

一度止まると、光る巨大な何かが防衛陣地に向かって飛んでくるのが見えた。

 

着弾すると、勢いよく爆発し、長槍兵を吹き飛ばした。

 

これを見た彼らは、すぐさま逃亡する者や、必死に戦い続ける者もいた。

 

だが、30分後、辺りは着弾痕や、死体であふれかえっていたのだった。

 

このようなケースの戦闘が、いたるところで発生した。

 

そして最後の防衛陣地が崩壊すると、もはや無防備な状態になった。

 

ここで、陸軍が動き始める。

 

コアリツィヤ自走砲率いる自走砲大隊は、一気にヒルデガルド周囲を円のように囲み、最終的に完全に包囲した。

 

『こちら自走砲大隊、ヒルデガルド周囲を完全に包囲した。これより、火力支援に移る。』

 

この合図で、ヒルデガルド市街戦が開始した。

 


 

ー首都ヒルデガルド 中心街ー

 

そのころ、ヒルデガルドでは、皇国突撃隊や、民兵、重装備の兵士に、魔術師がヒルデガルドを防衛していた。

 

だが、これだけの人数を集めたところで、ロシア軍には敵わない。

 

ヒルデガルドを防衛する部隊の人数は、合計して約9万人だ。

 

しかし、ロシア軍はそれを上回る、およそ30万人のロシア兵が市街地に突入するのだ。

 

おまけに兵士の士気は最低レベルまで下がっており、もはや進撃を食い止めることは不可能だった。

 

そんな危機的状況で、きらびやかな装備をした兵士達がいた。

 

この兵士達は、王室親衛隊のエリート大隊で、中には1つの小隊を、1人で全員倒したという逸話がある者もいた。

 

そのため、装備する武器は、戦果を重視したものが多く、並の兵士は戦果を越えることができないくらいだ。

 

その中の1人、 フェネンダールは、王室親衛隊の中では希少な女性エリート兵士だ。

 

「フェネンダール、調子はどうかね?」

 

彼は、ディトイェンス大隊長だ。

 

「はい大隊長、調子は相変わらずです。」

 

「そうか、期待しているぞ。」

 

「はい、皇国のためならどんなことでも尽くします。」

 

そう言うと、大隊長は違う兵士へと向かった。

 

「お前はよくそんなことが言えるよな。」

 

彼は、同じ大隊に所属する、シュヴァリエだ。

 

「言葉には気を付けろ、シュヴァリエ。」

 

「分かったよ。」

 

そう話していると、大隊長が前に出てきた。

 

「諸君!君たちは皇国にとっての最後の希望となっている!我々に与えられた任務は、首都ヒルデガルドを、敵の手に落ちないよう死守することだ!なんとしてでも、敵に首都を占領されないよう、決死の覚悟を持って挑め!」

 

「「「了解!!」」」

 

大隊長が任務を説明し終えると、エリート大隊は、複数の分隊に分裂し、首都の各地に散らばり始めた。

 

彼女が所属する王室親衛隊は、元々は、皇帝や要人を護衛するための部隊だったのだが、首都防衛の兵力不足を解消するために、護衛から首都防衛へと任務が変わったのだ。

 

フェネンダールは、自ら指揮をする分隊を保有しており、これを構成するのは、シュヴァリエの他に、新入りのフォルジェや、落ち着きがあるイーサクなど7名だ。

 

彼女の分隊の任務は、市街地に流れるガリシア川に架かる、カタヤイネン橋を守ることだった。

 

この橋は、首都へと撤退する兵士達の通路なので、もし占領されれば、撤退のルートが阻まれるためである。

 

「ここが俺らが担当する場所か。」

 

シュヴァリエが呟く。

 

「そのようだ。」

 

そこには、魔術師達や、皇国突撃隊が待機していた。

 

恐らく彼らは、否応なしにかき集められたのだろうと思った。

 

すると、橋の向こう側から、必死になってこちらに向かっている人達が見えた。

 

よく見てみると、その人達は魔術師達で、必死に何かを言っている。

 

「逃げて!早く逃げないと、あの化物に殺される!」

 

そう警告していると、遠くから音が鳴った瞬間、無数の光る細い棒が見えてきた。

 

その光る棒は、魔術師達の身体を貫き、数秒もしない内に動かなくなった。

 

すると、その化物(Mi-28 攻撃ヘリコプター)が見えてきた。

 

その化物は、橋の前に差し掛かると、今度は無数の光る槍が出てきた。

 

光る槍は地面に着くと、爆発し、橋が崩壊した。

 

「おい、嘘だろ.......」

 

シュヴァリエが戦意喪失の状態になる。

 

「全員逃げるぞ!ここにいてはやられるだけだ!」

 

フェネンダール達は、一旦裏路地に逃げようとした。

 

だが、その化物の速度は早く、数秒も経つと、追い越して彼らの前に現れた。

 

すると、彼らの前で光る細い棒を撃ち始めた。

 

このあと、光る細い棒は、彼らの鎧を貫き、身体が粉々になるまで撃たれ続け、その後死亡した。

 

そのころ、王室では、度重なる敗北の報告が続いていた。

 

その影響で、皇帝は、前までの威勢が弱まり、気を失っていた。

 

それは、ロシア軍の占領部隊が、王城まであと100m地点の時だった。

 


 

同じ頃、ロシア軍は、意気高揚としていた

 

異世界の国々に、ロシアという名前が知れ渡るからだ。

 

王城の防壁は、自走砲大隊の猛砲撃で完全に崩壊しており、誰でも容易に入れた。

 

そして、作戦開始からおよそ2日、王城にロシアの占領部隊が突入した。

 

占領部隊はその後、皇帝とその家族を殺害し、王城の塔に、ロシア国旗を掲げた。

 

それはまるで、ライヒスタークの赤旗*1が蘇ったようだった。

 

西暦2035年11月27日 エクリクシス大皇国は、ロシア連邦に対して無条件降伏した。

 

こうして、エクリクシス軍の勇敢な戦士達は、降伏していったのだった。

*1
1945年にドイツの国会議事堂で、ソ連兵がソ連国旗を掲げている写真




これでエクリクシス戦は完結です。

次は戦後処理に入ります。



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第10話 ロシアの異世界侵攻に対する反応

最近、展開を考えるのが難しいです。

ですが投稿を怠らないように頑張ります。




ー旧エクリクシス大皇国 首都ヒルデガルドー

 

2035年11月30日

 

エクリクシス大皇国が降伏してから、およそ数時間が経っていた。

 

ヒルデガルドはすでにロシア軍によって制圧され、皇帝は死んでいた。

 

皇帝の権力を象徴していた王城の塔は、今や象徴の意味ですら失われていた。

 

辺りは、瓦礫の撤去作業をしている者や、戦勝を祝ってウォッカを飲んでいる者、悲しみながら途方に暮れる者など様々だった。

 

ロシア連邦政府は、占領したエクリクシス大皇国の領土に興味を示していた。

 

皇帝がいなくなったこの国は、内閣も既に解散しており、エクリクシス軍も解体された。

 

大通りでは、装甲車や、戦車が行き交っており、今までの風景とはかなり異なっていた。

 

そのころ、旧王室では、軍部の人間が皇帝の代行となり、降伏文書調印式が行われた。

 

この調印式には、上陸軍最高司令のネクルチェンコや、大統領のカムスキーまで参加していた。

 

大統領は早速、軍部の人間に、降伏文書を机の上に置くと、さっと戻っていった。

 

降伏文書の内容をおおまかに説明すると、

 

全部隊への無条件降伏、

 

ロシアとエクリクシスとの敵対関係の解消、

 

君主制の廃止、

 

エクリクシスの北東部地方をロシアに譲ること。

 

皇国の魔法技術を、ロシアに教えること、

 

ロシア連邦に賠償として10億ルーブルを支払うこと、などの条件があった。

 

だが軍部の人間は何か不可解なのか、大統領に尋ねてみる。

 

「10億ルーブル? いったいいくらするのだね?」

 

すると、大統領から答えが返ってきた。

 

「簡単に言いますと、あなたの国の予算の13%ぐらいですかね。」

 

軍部の人間は、降伏文書を睨んだ。

 

そして、こう断言した。

 

「10億ルーブルだと!高すぎる、払えませんな!」

 

周りはこの発言に驚きを隠せなかった。

 

だが大統領は、こう言った。

 

「もし、払えることが出来ないのでしたら、エクリクシスの全領土を無断でロシア連邦に編入しますよ、それでもいいんですか?」

 

軍部の人間は、この発言に何も言い返せなくなった。

 

そして大人しくこう言った。

 

「分かりました、払います。」

 

そう言って、降伏文書にサインした。

 

その後、カムスキー大統領は、ネクルチェンコに、首都に集結している全兵力を、エクリクシスの北東部地方に移動させろと言った。

 

ネクルチェンコはこれに応じ、この後、首都の部隊は首都から撤退することになる。

 

エクリクシスのその後について話そう。

 

エクリクシスは、エクリクシス民主共和国となって、ロシアの傀儡国となった。

 

エクリクシスにはもう皇帝という地位は存在せず、代わりに資本主義政権が樹立したのだった。

 


 

ロシアが異世界の国家を降伏させたことは、瞬く間に全世界に広まった。

 

ーアメリカ合衆国 ホワイトハウスー

 

「なんだと!あのロシアが異世界の国家を倒したあげく、傀儡国を樹立させただと!」

 

ウォレス大統領は、異世界に親露の国が樹立した事を危惧した。

 

何故なら、異世界に親露の国が樹立したことによって、ロシアの異世界侵攻の拠点になると思ったからだ。

 

「その情報はどこから聞いた?」

 

スコット副大統領に質問する。

 

「ロシアにあるアメリカ大使館からです。」

 

「はぁ、何てこった。」

 

大統領は深くため息をついた。

 

「大統領、2日後にはNATOの会合が始まります、なのでその時にこの件を話せばよいかと。」

 

「ああそうだな、そうしておくよ。」

 

ウォレス大統領は、ロシアや中国にトップの座をとられるのはどうしても避けたかった。

 

その思いを抱きつつ、二日後、NATOの会合がブリュッセルで行われた。

 

会合は、主に対中国の軍備増強計画や、異世界侵攻を行ったロシアを偵察するか否かに関することだった。

 

「これより、NATO加盟国の首脳による会合を開催します。」

 

NATO事務総長の言葉で開幕した。

 

この会合には、NATO加盟国の首脳が集合していた。

 

イギリスのアナベラ・デイヴィーズ首相、

 

フランスのロラン・オリオル大統領、

 

イタリアのクリストフォロ・ガッリーニ大統領、

 

ドイツのマクシーネ・ユンガー首相、

 

スペインのコンテスティ2世国王

 

などの首脳が集合していた。

 

最初は、異世界侵攻を行ったロシアを偵察するかに関することが話題に上がった。

 

ここでウォレス大統領は話始める。

 

「我々アメリカ合衆国は、異世界侵攻を行ったロシアを偵察する事に賛成します。理由としては、現在ロシアは軍備増強を行っており、その勢いで新兵器を作っている可能性があるからです。」

 

だがここで、ドイツのユンカー首相が発言する。

 

「ドイツはこの事に反対します。列強国同士の偵察は、下手すれば新冷戦になりかねません。」

 

などなど、意見の食い違いがおきたが、結果的にロシアを偵察することに決定したのだった。

 

次は、対中国の軍備増強計画について話された。

 

そこでもウォレス大統領は先に話した。

 

「アメリカはこう思います。今の中国軍は数では圧倒的に多く、脅威になりかねません、ですが我々は、数ではなく、技術という面で圧倒すべきだと思います。」

 

この言葉には賛同者が多く、計画は技術を向上させるという目的に変わっていた。

 

こうして、ブリュッセルでの会合は早々と閉幕した。

 

そんな中、オーラウト王国がある『イオルゴス』大陸で、とある国が大陸共通の脅威になっていた。

 

その国とは............




全世界異世界転移のお気に入り登録者数が20人になりました。

無計画で始めたこの小説ですが、まさかここまでお気に入り登録してくれるとは思いもしませんでした。

本当にありがとうございます。


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第三章 大陸戦争
第11話 領土要求と大陸戦争の危機


投稿が遅れて申し訳ありません。


オーラウト王国がある『イオルゴス』大陸では、とある国が、大陸共通で脅威の存在だった。

 

その国は、ホルムストール教国という国だ。

 

この国は、ここ最近、周辺諸国に対する領土要求が度々発生しており、その影響は、神聖タルガリア帝国や、オーラウト王国にまで広がっていた。

 

領土要求の理由としては、そこの地域に、ホルムストール人が多いからという理由だけだった。

 

その影響で、オーラウトとタルガリアは、ホルムストールを憎んだ。

 

そのため、敵同士であったはずの2ヶ国は軍事同盟を結び、対ホルムストール包囲網を形成した。

 

だがそれでも領土要求は止まらず、今度はオーラウト王国に対して、ゼブレイロス地域を要求してきたのだった。

 

ゼブレイロス地域は、別名オーラウト回廊とも呼ばれており、教国は、この挟まるように存在する領土が邪魔でしかなかった。

 

そんな中、王都ゼフテートの大通りに、黒いリムジンが走っていた。

 

このリムジンには、ウォレス大統領の御一行が乗っていた。

 

何故なら、国王と会談があるからである。

 

「凄い発展しているな。」

 

ウォレス大統領が王都の周囲を見て思った。

 

辺りはまるで、中世のヨーロッパとは思えない発展をしていた。

 

通りは自動車が行き交い、現代的な建物の建設が始まり、更には空港までもがあった。

 

これも外交官のお陰だということを、大統領は改めて思った。

 

しばらく走っていると、王城の城門に到着した。

 

降りると、国王ローレン5世が出迎えてくれた。

 

「ようこそ、我が王城へ。」

 

「こちらこそ。」

 

そう言いながら、王城門をくぐり抜けると、近衛兵が列を成していた。

 

ここを通り抜けると、王室が見えてきた。

 

中に入ると、二人用の椅子が用意してあった。

 

「国王は、いったいどのような要件で呼んだのですか?」

 

「ああ、ちょっと相談したいことがあってな。」

 

「どのような相談でしょうか?」

 

「ある厄介な国の話でな。」

 

そう言うと、二人は椅子に座った。

 

「よし、まず厄介な国に関する事を話そう。」

 

「その厄介な国というのは、ホルムストール教国という国でな、ここ最近、領土要求を我が国にしてくるのだ。」

 

ウォレス大統領は、真剣に耳を傾ける。

 

「なので、この要求を受け入れるか、受け入れないかで悩んでいるのだ。」

 

すると、ウォレス大統領は早速質問をする。

 

「ちょっといいですか?その、ホルムストール教国というのは、一体どんな国ですか?」

 

国王は答えた。

 

「あの国は、元々はホルムストール共和国として、我が国と友好的な国じゃった。だが、あのおかしな宗教が勢力を強めたせいで、ホルムストールはかなり変わってしまった。今じゃ、過去の面影は一切残っておらぬ。」

 

「なるほど。」

 

「それじゃ、本題に移ろうか。」

 

本題に戻ると、ウォレス大統領は話す。

 

「まずは、領土要求に関する事は、教国と会談しましょう。なので、同盟国を一緒に会談に参加させるのが良いかと。」

 

「ああそうじゃな、神聖タルガリア帝国の皇帝に手紙を送ってみるよ。」

 

「分かりました。ついでに言いますが、会談が終わった際には、我が国に結果を報告してくれませんか?」

 

「報告はするが、あまり変なことはしないでくれ。」

 

「はい、それも承知の上です。」

 

その後、皇帝と大統領の会談は1日で終わった。

 

その翌日、ゼフテートで、オーラウト王国国王ローレン5世と、タルガリア帝国皇帝アーレンツ14世、ホルムストール教国教皇フロイント2世が集い、領土に関する会談が行われた。

 

「教国は、我が王国のゼブレイロス地域が欲しいということで間違いないですね?」

 

ローレン5世が確認をする。

 

「はい、間違いありません。」

 

「では、何故ゼブレイロス地域が欲しいのですか?」

 

そう言うと、フロイント2世がすぐに答えた。

 

「そこの地域には、優秀なホルムストール族がたくさん住んでいるからです。」

 

国王と皇帝は、優秀という単語に疑問に思った。

 

二人は、何故優秀と言ったのかについて、尋ねようと思った。

 

そして、国王が尋ねてみた。

 

「あの──」

 

「何か問題でも?」

 

「い........いえ......」

 

いきなりはさまれて、言えなくなった。

 

だが数秒経つと、教皇は話始める。

 

「私は、ゼブレイロス地域を譲渡してくれれば、もうそれ以上の領土要求はしません。」

 

国王と皇帝は判断に迷った。

 

だが、ここで断れば、大陸戦争の道に繋がりかねないと思い、国王は決断を下した。

 

「我々オーラウト王国とタルガリア帝国は、領土要求を承認しますが、そのためには、この紙に署名してください。」

 

紙を教皇に見せる。

 

その内容は、周辺諸国の領土に侵攻しないという事項が書いてあった。

 

「はい、もちろん。」

 

教皇は早く署名したのだった。

 

その後、大陸戦争の危機は回避したかのように見えたのだが、教皇があの紙に署名して2日後に事件が起こる。

 

なんと、譲渡した地域でも足りなかったのか、必要以上の領土を教国が占領したのだ。

 

これにより、オーラウト王国の領土は、今までより、さらに狭まってしまった。

 

それと同時に教国は、隣国のサウリワナ公国に目を向け始めた。

 

国王と皇帝は、もういい加減だと思い、彼らは、ホルムストール教国に対して、最後通牒を送った。

 

その内容は、「もしサウリワナ公国を侵攻するという暴挙に出るのなら、我が国はホルムストールに対して宣戦布告する」と。

 

教皇は、元々オーラウトとタルガリアだけで戦争をするつもりだったが、二方面で戦いたくはなかった。

 

なので、今のところは、サウリワナ公国をまたいだ国のソヌヴァ連邦と軍事同盟を組むことにした。

 

この同盟は、二カ国を驚愕させた。

 

ソヌヴァ連邦は、この大陸では唯一の科学ツリーに属する国だ。

 

そのため、強大な国力を保持しているためか、一部の国家は、ソヌヴァ連邦の一員になっている。

 

しかし、ソヌヴァ連邦は、あまり社交的ではなく、今まで外交締結した国はないというくらいだ。

 

だが、ホルムストール教国と同盟締結したことで、ソヌヴァ連邦は、二カ国を敵対視した。

 

そして、二カ国が同盟締結してから一週間後の2035年12月7日に、ホルムストール教国は、サウリワナ公国に宣戦布告し、それと同時に、オーラウト王国と神聖タルガリア帝国がホルムストール教国に宣戦布告したのだった。



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第12話 奇襲

かなり遅れてしまった....

変な終わり方したけど、まあいっか。



大陸戦争が始まって、最初の被害国となったサウリワナ公国。

 

サウリワナ公国は、必死になって抵抗をしたが、両側から迫り来る巨人に耐えられず、宣戦布告からわずか2週間で、サウリワナ公国は、ホルムストール教国とソヌヴァ連邦の領土に分割された。

 

この事を聞きつけた国王と皇帝は、戦局の悪化を恐れ、しばらくの間ホルムストール教国に攻撃を仕掛けてこなかった。

 

そんな中、オーラウト王国のユトラータ港近海では、アメリカ海軍の第2艦隊が集結していた。

 

なぜならオーラウト王国は、海軍に関しては他の周辺諸国に比べると弱く、あまり船舶が多くないからだ。

 

そのため国王は、大統領に対して、アメリカ海軍の艦隊を我が王国の近海に集結してくれるように頼み、それにアメリカが同意したので、このようなことになっている。

 

そのあまりにも異様な光景に、ゼフテートの住民は興味を抱いていた。

 

そのせいか、多くの住民は、同盟締結した艦隊を一目見ようと、警備されているユトラータ港に集まっていた。

 

第2艦隊は、ユトラータ港のすぐ近くまで近づいていた。

 

すると、港近くで、アイゼンハワー級原子力空母の汽笛が大きく鳴った。

 

その音の大きさに、一部の住民は耳を塞ぐ者もいた。

 

港には、国王の代理に、王太子が出迎えに来てくれていた。

 

まもなく、アイゼンハワー級原子力空母は王子が待機している近くに停泊する。

 

そして、原子力空母から、外交官の2人と、その護衛が下船してきた。

 

デクスターとアランだ。

 

彼らは、王太子へと近寄った。

 

「こんにちは、あなたが王太子でしょうか?」

 

デクスターが確認をする。

 

「はい、私が王太子です。」

 

「これはこれは、会えて光栄です。」

 

「こちらもです。ですがその裏腹に寂しい出迎えになってしまったことをお許しください。」

 

「いえいえ、王太子が直々に面会してくれるのはとても有り難いです。」

 

そう言われて、王太子は少し気が楽になった。

 

「ありがとうございます。改めまして、オーラウト王国にようこそ。」

 

彼らは、港を出ると、住民の熱列な歓迎を受けた。

 

そして彼らは、王城へと向かうべく、馬車へと乗車した。

 

馬車の中は、かなり派手な装飾が施されていた。

 

「これはすごいですね......」

 

「えぇ...この馬車は、来賓用に作られているので。」

 

外交官達は、装飾にかなり注目していた。

 

いくらリムジンに乗車しているとはいえ、ここまで豪華な馬車は見たことがないからである。

 

馬車の中では、王太子と外交官達が会話をしていた。

 

そんなにごやかな雰囲気だったが、この後彼らは緊迫の1日を迎えることをまだ知らなかった。

 

しばらく移動をしていると、上空になにやら黒い飛翔体の群が飛んでいた。

 

「あれは、いったいなんですか?」

 

と、外交官達が黒い飛翔体の群を指差す。

 

王太子は、それを見ると、何かを悟ったのか、外交官達に迫るように話した。

 

「あれは.......ホルムストール教国のワイバーン群です!」

 

ホルムストール教国というワードを聞いて、外交官達は何の事だと思った。

 

「あの、ホルムスト──」

 

「早く逃げないと、ワイバーン群の攻撃に遭いますよ!」

 

そう言っていると、複数のワイバーンが急降下し始めた。

 

それは、ここも例外ではなかった。

 

一体の紅のワイバーンがこちらへと向かって迫り来る。

 

すると、そのワイバーンの口から、火炎が出てきた。

 

それを見た彼らは、すぐさま馬車から飛び出し、火炎から逃れようと、必死に路地裏へと逃げた。

 

幸いにも、火炎は馬車に直撃はしたが、彼らの身になにも起きなかった。

 

「おい、まさかワイバーンの攻撃が来るとか聞いてないぞ!」

 

外交官達は、いきなりの攻撃に焦っていた。

 

ワイバーン群は、ゼフテートの市街地や、港を集中攻撃していった。

 

その影響は、アメリカ海軍の第2艦隊にまで広がっていた。

 

ーアメリカ海軍 第2艦隊 アイゼンハワー級原子力空母ー

 

空母の乗務員は、いきなりゼフテートが戦火に包まれるのを見て、急遽、出撃命令が下された。

 

空母から、F/A-18 ホーネットや、F-35 ライトニング II 等が発艦していった。

 

第126攻撃飛行隊は、ゼフテートで暴れ回るホルムストールのワイバーンに目掛けて、速度を上げていった。

 

「あれが、暴れ回るワイバーンか...」

 

第126攻撃飛行隊のパイロット一同は、初めて見るワイバーンに驚いていた。

 

そのワイバーン群は、数えれるだけでも、およそ50騎は空を舞っている。

 

だが、驚いて間もなく、編隊飛行をしていた飛行隊は、すぐさま分裂し、ワイバーンへと向かって行った。

 

これが、米軍で最初の、異世界の国に対する戦闘となった。

 

ゼフテート上空では、現代兵器の戦闘機と、異世界の航空兵器のワイバーンがドッグファイトをするという、カオスな状況になっていた。

 

「ワイバーン見事に撃墜!」

 

「スパロー発射!」

 

「ざまぁ見やがれ!」

 

航空無線は、色んなパイロットの会話で入り乱れていた。

 

その頃、裏路地へと逃げ込んでいた王太子と外交官達は、安全な王城へと避難していた。

 

王城は、ワイバーンからの攻撃対策として、バリスタの代わりに、M19対空自走砲がアメリカからプレゼントされていた。

 

そのため、他の国の対空手段を比べても、類似の兵器が無いため、決して馬鹿にはできない破壊力がある。

 

そのせいか、王城の防衛手段は、アメリカにとって不必要になっていた兵器を使用しているので、いつの間にか魔法の必要性が無くなっていた。

 

つまり、王城は異世界の技術力では攻略不可能なのだ。

 

彼らは、奇襲が止むまでの間、王城で待機することにしたのだった。

 

すると、デクスターは、王太子に質問をする。

 

「はぁ、ところで一体ホルムストール教国とは一体どんな国ですか?」

 

「えっとですね、確か民族主義を掲げる国で、亜人とかの他の種族を見下している国だったはずです。」

 

彼らは、その事を聞いて、ナチスドイツを思い浮かべた。

 

しばらくして空を見上げると、空を舞っていたワイバーン群はいなくなっていた。

 

見渡すと、アメリカ海軍の戦闘機が空を舞っていた。

 

すると、王太子が感心していた。

 

「おお、これはすごい!ぜひ、我が軍にあのワイバーンを導入させていただけませんでしょうか?」

 

「あの、それはワイバーンではなくて、我々は飛行機と呼びます。」

 

「おっと、これは失礼。」

 

「いいですが、その前に大統領に許可をもらわないといけませんので。」

 

「分かりました。」

 

そして、外交官達は、本国へ戻るために、港へと徒歩で戻った。

 

この奇襲によって、市街地の一部で大規模な火事が発生し、数百人が死亡した。

 

さらに、港も奇襲攻撃に遭い、第2艦隊の一部の艦艇が、軽傷を負った。

 

これを受けて、アメリカは、オーラウト王国に、アメリカ空軍の基地を建設するという計画が持ち上がった。

 

ーアメリカ合衆国 ホワイトハウスー

 

「なんと、友好国であるオーラウトが、ホルムストール教国という国から、奇襲攻撃に遭ったのか?」

 

「はい、面会していた王太子がそう言っていたので、間違い無いかと。」

 

「そもそも、ホルムストール教国とは一体どんな国なのだ?」

 

「王太子が言っていましたが、おそらく、ナチスドイツのような考えを持つ国かと。」

 

「なるほど、これは厄介だな。」

 

大統領は、ホルムストールに宣戦布告するかしないか迷っていた。

 

だが........

 

「よし、オーラウト王国の領土内に、空軍基地を建ててみてはどうかね?」

 

大統領は、宣戦布告することをやめた。

 

「いい案ですが、そもそも空軍基地を建てれるぐらいの広さの土地はあるのでしょうか?」

 

「確か、王都の郊外に、広大な森林があったような気がする。」

 

「なるほど、検討してみます。」

 

そして、デクスターは去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第13話 モンスター処理と大規模侵攻の前夜

ーホルムストール教国 聖地 ベイト・カーメルー

 

ここは、ホルムストール教国にとって聖地でもあり、主要都市でもあるベイト・カーメル。

 

この都市は、古代から、世界の王[ジュゴボ]がこの地に巨大な穴を穿ち、そこから神々の力で生み出した燃える石や、光る石等の財宝を蓄えていると伝えられており、その石の採掘地でもある。

 

中心部にある宮殿前広場では、オーラウト王国の王都の奇襲成功を祝う式典が開かれていた。

 

そこには、教皇のフロイント2世も参加していた。

 

辺りは、騎馬兵や、騎士団などが行進し、そして無数のワイバーンが辺りを飛んでいるという、軍事パレードのような雰囲気だった。

 

「続いては、我が軍最新鋭の装備を揃えた、近衛騎兵隊の入場です!」

 

そう大声で伝えると、携帯式の魔導砲を装備した近衛騎兵隊が現れ、観衆は拍手喝采を送った。

 

しかし、この近衛騎兵隊は、教皇を護衛するために創られた部隊ではない。

 

近衛騎兵隊と謳ってはいるものの、実際は戦時中に戦力として送り込まれるれっきとした部隊なのだ。

 

各方面の軍が行進を終えると、フロイント2世の演説が始まろうとしていた。

 

すると、教皇の護衛が広場全体に渡るように大声で言い放った。

 

「教皇様の、御登場でございます!」

 

フロイント2世が表舞台に姿を表すと、観衆はすぐに静かになった。

 

そして、教皇が演説を始める。

 

「神聖なるホルムストール族に生まれた、諸君、昨日、敵国の主要都市の奇襲成功に加え、科学文明のソヌヴァ連邦と軍事同盟を正式に結んだ。これは誠に喜ばしいことだ、そして、我々ホルムストール族を貶してきたあの2か国どもに、今まさに天罰が下るときだ。」

 

「我々は、他の種族とは違い、世界の王の子孫だ。そして、ありとあらゆる面で優秀だ。そして、その優秀を活かすときが、まさにこの時だ。」

 

すると、黙って聞いていた観衆が、興奮しだした。

 

「今我々がすべきことは何か、それはわが民族を存続させるために、自らが全力を尽くすことだ!」

 

そう話すと、観衆は教皇に向かって歓声を上げた。

 

「教皇様万歳!教皇様万歳!教皇様万歳!」

 

という声が、雷鳴のように響き渡った。

 

 

2035年12月13日午前8時頃

ーオーラウト王国 ゼフテート郊外にてー

 

その頃、復興作業で忙しいゼフテートとは裏腹に、郊外の森林のすぐ脇の道路に、駐在アメリカ軍の車列が行進していた。

 

理由は、ここの近隣住民からモンスターが出没するという苦情が王国に伝えられていたため、王国が駐在アメリカ軍に処理を要請したためである。

 

この車列の中のハンヴィーに乗っていた、新兵のカーソンは、新兵の仲間たちと会話していた。

 

会話していると、突然指揮官が割り込んだ。

 

彼の名はグレイソン、新兵の部隊を指揮しているベテランだ。

 

「よしお前ら、早速初仕事が入った。今回我々は、近隣住民から苦情が出ている森に向かう。どうやらその森には狂暴なモンスターが出るそうだ、くれぐれも警戒は怠るな。それと、今回は森に近いティシュク村という所にある、ギルドという冒険者の集まりにも協力している。どのみち、この任務は我が軍にとって在庫処分にもなりえるだろう。」

 

そう説明していると、指揮官の無線にノイズがかかった。

 

指揮官はすぐに手に取った。

 

「こちら指揮官、何の用だ。」

 

「こちら最前列。もうすぐ指定された場所に到着します。搭乗している部隊に指示を。」

 

「了解した。」

 

会話が終わると、無線を近くに置いた。

 

「いいか、もうすぐで目的地に到着する。今のうちに武器の準備をしておけ。」

 

そう言ったので、新兵達はHK416の弾倉を挿入する。

 

しばらくすると、村とおぼしき建物の郡が見えてきた。

 

車列が村に入ると、住民たちは怪物を見るような目でこちらを見ていた。

 

「そういえば、俺が初めて軍の車両を見たときの事を思い出すな。」

 

カーソンが話をする

 

「で、初めて見た感想は?」

 

「正直あれに踏まれたらめちゃくちゃ痛そうだなって思ってたな。」

 

そう言って、車内に笑いが起こる。

 

しばらく進んでいると、冒険者ギルドと書かれた看板を見つける。

 

その建物は、3階建ての家屋のようなものだった。

 

そして、車列は入り口の前に止まった。

 

「さて、着いたぞ。くれぐれも挨拶ぐらいしておけ。」

 

車両から出ると、グレイソンが言った。

 

「ようこそいらっしゃいました!」

 

入り口の前で待っていたのは、まだ中学生ぐらいの女の子がカーソン達を迎えていた。

 

「え、えっと、君は確か......」

 

「私はアンヘル・ニャーミラ!ここの冒険者ギルドのギルド長だよ!」

 

こんな子供がギルド長をやっているのかと驚愕したカーソン達だった。

 

「なあ、俺達違うところに来たんじゃないのか?」

 

カーソンが隣の兵士に小声で言う。

 

「黙っとけ。」

 

そう会話していると、ギルドの仲間と思われる人達がぞろぞろと出てきた。

 

「あの.....貴方達が一緒に参加してくれる部隊?」

 

赤髪の女の子がカーソン達に質問をする。

 

「ああそうさ、俺らはアメリカ陸軍。王国から頼まれた。」

 

グレイソンが答える。

 

すると、その人達は、カーソン達が手に持っているHK416に注目する。

 

そのことに気付いたのか、グレイソンが説明をする。

 

「君達が見ていたこれは、銃というものだ。この武器は皮膚でも木材でもなんでも貫く。簡単に言ってしまえば勝るもの無しだ。」

 

そのことを聞くと、ギルドの仲間達は少し警戒した。

 

「それ、私達に向かって攻撃しないよね?」

 

「大丈夫だ、俺らはいちいち民間人を殺したりはしない。安心してくれ。」

 

そう言うと、彼らはホッとした。

 

「それでだ、我々は森林に生息する狂暴なモンスターがいると聞いて、王国から要請があって来たが、そこまで案内してくれないか?」

 

「は...はい。いいですよ。」

 

ギルド長が答えた。

 

「そうか、ありがとう。」

 

「では、私達についてきてください。」

 

「分かった。」

 

「よし、ギルドの仲間についていくぞ。」

 

そう言って、新兵達は、言われるがままに付いていった。

 

しばらく歩くと、森林の入り口があった。

 

「ここが問題の森林ですか。一見おかしい所はないように見えますが、本当に沸くのでしょうかこんなところに。」

 

カーソンが言う。

 

「まあ、沸いたら沸いたでさっさと撃てばいい話だ。」

 

グレイソンがそう言って、冒険者達と駐在アメリカ軍は森の中へと突き進んだ。

 

森へと入って数分経つと、モンスターが彼らの目に見えてきた。

 

「お、あれか」

 

「気を付けてください。あいつは例の狂暴なモンスターで──」

 

しかし、ギルド長の忠告を聞かず、グレイソンは勝手にHK416の照準を、狂暴なモンスターの後頭部に合わせ、引き金を引いた。

 

数発の弾丸がモンスターの後頭部に直撃し、モンスターはぐしゃりと倒れた。

 

冒険者たちは口をぽかんと開けて唖然していた。

 

「え?」

「なんだ、思ってたよりも弱かったな。」

 

グレイソンはすでに死んでいたモンスターに対して軽く呟いた。

 

「我々だけでここにいるモンスターを全滅出来ますね。」

 

「そうだな、このまま全滅させるか。射撃訓練にはよい場所だ。」

 

HK416を構えた新兵達は、再び前進した。

 

冒険者達は、ただ新兵達に付いていくしかなかった。

 

駐在アメリカ軍が、モンスターの処理を開始して数時間後、ついに狂暴なモンスターは全滅した。

 

「はぁ、やっと終わった。」

 

「まさかこんなにいたとは思いもしなかったぜ。」

 

カーソン達は疲れていた。

 

そう言っていると、ギルド長は駐在アメリカ軍を見ていた。

 

「どうした?」

 

カーソンが見ているのに気付く。

 

「あ、いや...アメリカの武器はすごいなぁと思って。」

 

「ああ、それは分かる。小さい頃に見たときはものすごく怖そうだって思ってからなぁ。」

 

「おい、そろそろ行くぞ。」

 

グレイソンがカーソンに呟く。

 

この後、駐在アメリカ軍は、王都へと戻っていった。

 

 


 

 

12月13日午後10時頃

ーホルムストール教国とオーラウト王国の国境付近ー

 

その夜、国境付近では、ホルムストール教国のオーラウト王国侵攻のために、部隊が配備されていた。

 

主な部隊は、ベイト・カーメル聖騎士団や、近衛騎兵隊、オーラウト人戦士隊*1、魔術師師団x5、ワイバーン150騎、そしてソヌヴァ連邦から借りている、戦車およそ15両が配備していた。

 

【挿絵表示】

戦車のイメージ

 

「愚かなオーラウト共め。攻撃しておけば戦力を少しでも削ることができたものを。」

 

そう言っているのは、今作戦の全部隊指導者となった、ノーノ・オーヴェストだ。

 

「オーヴェスト殿、たった今、作戦予定地に全戦力を集結させました。攻撃のご指示を。」

 

ベイト・カーメル騎士団の団長が報告しに来た。

 

「ああそうか、伝達ご苦労。」

 

そう言うと、団長は元へと戻った。

 

そして、ノーノ・オーヴェストは、深く深呼吸した後、声をあららげた。

 

「総員!攻撃開始ぃぃぃ!!」

 

その合図と同時に、ホルムストール軍は進軍を開始した。

 

こうして、オーラウト王国に対する直接進攻が始まった。

*1
ホルムストール在住のオーラウト人を対象にした、教皇に忠義を誓った者だけ入隊出来る部隊



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第14話 電撃の洗礼

戦闘描写は少なめです。すみません。


2035年12月14日午前4時

ーオーラウト王国 ベドニズ街にてー

 

ホルムストール教国の大軍が大規模侵攻を始めた頃、国境から数十キロ離れた街があった。

 

その街は、いままで国境間の交易場として、主に商業で栄えていた。

 

だが、現在では交易場としての意味は失い、オーラウト陸軍が待機していた。

 

この時、彼らはホルムストールの計画的な侵攻にまったく気付いていなかった。

 

ベドニズ街で集結させている兵力は、およそ10万人ぐらいで、ホルムストール軍と比べると、数という点では多かった。

 

だが、技術という点では大きい差があったため、少なからず負けるだろうと思われていた。

 

ここの防衛を担当していた、オーラウト陸軍の魔術師大隊と戦士隊は、いつ現れるか分からない敵に警戒していた。

 

その中の1人である、魔術師のルシュラは、街中にある家屋で休んでいた。

 

何故なら、配備している部隊全員を収容できる施設を建設する時間がなく、街の建物全部を使って寝床にしたからだ。

 

「はぁ...ここで待ち構えておよそ3日...気が遠くなりそう...」

 

彼女が所属する魔術師大隊は、戦士隊に比べ、比較的安全な後方に待機していた。

 

だがいくら安全だとはいえ、どこから命を狙われているか分からないこの状況に、精神的に疲れていた。

 

すると、ルシュラが居る部屋のドアから、ノックが鳴った。

 

「今開けますよ。」

 

ルシュラはドアへと近づき、ドアを開けた。

 

ドアで待っていたのは、黒髪で瞳孔が青い女性だった。

 

「やあ、ルシュラ。元気してる?」

 

「うん、元気だよ。」

 

彼女はティスナ、ルシュラと同じ大隊に所属する魔術師で、多くの種類の魔法が撃てる数少ないエリートだ。

 

「一緒に外に出てみない?魔力も完全に溜まったみたいだし。」

 

「うん、いいよ。」

 

そしてルシュラ達は、彼女が休んでいた家屋を出て、街の中心部へと向かった。

 

街中は、暖かい部屋の明かりはついておらず、冬の冷たい風が吹き通っており、暖かい明かりは中心部にあるたき火のみしかない。

 

中心部は、仮設の指令部が設置されていて、同じ魔術師の仲間がたき火で暖を取っている。

 

ルシュラ達も同じく、暖を取ろうとすると、深緑色の制服を身にまとった、若い男性がこちらに近づいてくる。

 

「やあティスナ、調子はどうだ。」

 

「あ、ロライン少佐、お疲れ様です!」

 

「まあ落ち着け。それはそうと、魔力切れの状態だったルシュラはどうだったんだ?」

 

「はい、今までのように健全な状態に戻りました。今私と一緒に暖を取ろうとしたところです。」

 

ロライン少佐は、ティスナの隣にいるルシュラを見つけ、健全になったのだと確認する。

 

「それは良かった。今の状況では、人材を一人でも失ってはいけない状況だからな。引き続き、ここの防衛を頼む。」

 

「りょ...了解しました。」

 

そう言うと、少佐は周辺にいる魔術師達に声をかけに向こうへと行った。

 

少佐が去っていくのを確認すると、ティスナはため息をつく。

 

「ティスナ、どうした?」

 

「いや、なんでもない。」

 

そう言うと、彼女は炎魔法を使って火をつけ、そのたき火に近寄った。

 

ルシュラも空気が寒く感じたのか、そのたき火の近くに一緒に入る。

 

「ねえ、この戦争っていつ終わるのかな?」

 

ティスナがルシュラに向かって言う。

 

「分からない。けど、すぐには終わらないかな。」

 

「そうか、仕方ないよね。私たちはいやでも、上の人の命令に従わないといけないんだから。」

 

ティスナが無気力になりながら言う。

 

「でも、あっちの人達も、もしかしたら戦争が終わって欲しいって思ってるかも。」

 

そう言うと、ルシュラが、ティスナを慰めるように近寄る。

 

すると、中心部からそう遠くない石畳の通路で、突如爆発が起きた。

 

「な...何が起きてるの!?」

 

しかも、その爆発は何回にもわたって続いていた。

 

「全員伏せろ!」

 

そう聞こえたので、ルシュラ達はとっさに伏せる。

 

その時聞こえるのは、爆発音と、爆発した時に起きる瓦礫が落ちる音しかなかった。

 

伏せてからしばらく経つと、爆発はさっきよりもおさまっていた。

 

辺りは、崩れた家屋や、爆発に巻き込まれたであろう死体、そして地面で爆発した痕が残っている。

 

「一体、何がどうなっているの?」

 

「...もしかして、敵がここに攻めてきたんだとか。」

 

その言葉通りに、敵軍と思われる黒い人影がこちらに向かってくる。

 

「部隊を展開しろ!おい、急げ!」

 

一人の魔術師の声かけと同時に、彼女達のような生き残りも参加した。

 

残った魔術師達全員で、迫り来る敵に対して、様々な攻撃魔法で抗戦した。

 

攻撃を始めておよそ數十分後には、人影は見えなくなっており、通路になぎ倒されていた。

 

だが、敵の攻撃はおさまったのだろうかと思われたが、それと同時に後ろから巨大な箱が見えてくる。

 

「なんなの、あのデカイやつは...」

 

すると、その巨大な箱は、無数の光る矢と、光る大きな飛翔体を飛ばしてきた。

 

それに当たった者は、すぐに倒れる者、爆発して肉体が酷いことになる者でいっぱいだった。

 

中には、それを上手に回避して、近くの家屋に逃げる者もいた。

 

この生々しい光景を見た彼女達は、一生忘れられない光景を見てしまったのである。

 

すると、その動く要塞が、彼女達に姿を現す。

 

それを見た途端に、ルシュラ達は近くにある石造りの建物へと逃げる。

 

ルシュラ達は動く要塞がすぐに去ってくれるように、二人は息を殺して敵からの存在を消した。

 

数秒経つと、動く要塞は何事もなかったかのように移動し始め、市街地の奥の方へと進んだ。

 

そして、去っていくのを確認すると、隠れていた魔術師達はホッとした。

 

だが、いつまでもここにいるわけにはいかなかった。

 

もうしばらくすれば、敵軍の増援が来るかもしれない。そう思った魔術師達は、ここからの脱出を試みることにする。

 

魔術師達がいるベドニズ街と、防衛軍が待機している陣地までは、およ50kmぐらい離れていた。徒歩で行けば12時間半はかかるだろう。

 

かといって、あの動く要塞に身を晒してまで奪うというわけにもいかなかった。

 

脱出する方法を手探りで探していたが、なんも解決する方法はなく、仕方なくここで身を隠すことにしたのだった。

 

このような、電撃的な攻略方法によって、オーラウト王国の領土は10日で半分しかない状態になっていた。

 

そのおかげで、王都ゼフテートと、ホルムストール軍の大軍との距離はあと35kmぐらいしかなく、もはや絶望的な状況だった。

 

なのだが、それはアメリカがオーラウト王国の友好国でなければの話である。

 

12月24日午前8時頃

ーオーラウト王国 王都ゼフテート 駐屯アメリカ軍基地ー

 

王都ゼフテートでは、唐突の侵攻により、住民やオーラウト軍は混乱していた。

 

それは、駐屯アメリカ軍も同じことだった。

 

地上では駐屯アメリカ軍が部隊を早く展開し、海軍は航空隊や護衛艦の艦対空ミサイルなどによる援護を行なっていた。

 

「いいか!我々の任務は、周辺にいるホルムストール軍を追い払い、オーラウト軍と協力してここに防衛ラインを築くことだ!分かったらすぐに装甲車に乗れ。質問は?よし、いくぞ!」

 

すると、新兵のカーソンが口を出す。

 

「一つ質問があります。」

 

「カーソン、勝ちたけりゃ口を閉じてろ。さあ行くぞ!」

 

そう言うと、カーソン達はすぐさまLAV-25に乗った。

 

王都上空では、無数のワイバーンが海軍の攻撃飛行隊と交戦しており、地上ではホルムストール軍が王都に迫っていた。

 

すると、近くで何かが地面に墜ちる音が聞こえた。

 

それと同時に人の悲鳴が聞こえた。

 

恐らくワイバーンが墜落したのだろう。

 

車内では、完全武装した兵士達が、いつ敵が現れてもいいように準備していた。

 

すると、グレイソンが注意をする。

 

「忘れるな。戦場では常に敵の魔法が飛び交う。頭を下げ、一箇所に固まるな。訓練通りにやれば生き残れる。」

 

そう言うと、兵士達は意気込んだ。

 

そして数分後には、敵との戦闘が行なっている前線に到着する。

 

到着すると、兵士達は一気に降車し、部隊は散開し始めた。

 

すると、遠くから複数の赤い光が、カーソンの部隊に向かってくる。

 

その赤い光は、着弾すると、凄い勢いで炎が発生した。

 

「あの赤い光に気をつけろ!当たると火炎放射のような攻撃に遭うぞ!」

 

それと同時に、M2重機関銃や、M1エイブラムスの120mm滑腔砲で応戦した。

 

カーソン達も、主武装のHK416で迫り来る敵を倒していた。

 

しばらくすると、ホルムストール軍の兵士ほとんどが死んでいた。

 

「なあ、これで終わったのか?」

 

カーソンがオーラウト陸軍の兵士に質問をする。

 

「ええ、今のところは。」

 

すると、奥から、巨大な箱が現れてきた。

 

それを見た瞬間、M1エイブラムスのAPFSDS《装弾筒付翼安定徹甲弾》が火を噴く。

 

巨大な箱に着弾すると、勢いよく爆発し、巨大な箱からは火柱が立ち、動かなくなった。

 

しばらくすると、そこから燃える人らしき者が見えたが、外に出るとすぐに倒れた。

 

「なんだったんだあれは...?」

 

カーソンは謎に思った。

 

すると、近くにいたオーラウト陸軍の兵士が言った。

 

「恐らく...ソヌヴァ連邦の戦車では?」

 

そう言われると納得がいくので、カーソンはあの巨大な箱を戦車だと思った。

 

この戦闘で、ホルムストール軍は多大な犠牲を払ったのだが、ホルムストール軍が損失したのは全部隊で約10%しかない。

 

この影響で、アメリカ合衆国及びNATOに加盟している諸国は、ホルムストール教国とソヌヴァ連邦に宣戦布告した。

 

こうして、異世界での最大規模の戦争が始まることとなった。

 

 




次回は、NATO諸国による攻撃が始まります。お楽しみに。


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第15話 本格的侵攻の下準備と海戦の前兆

NATO軍が活躍すると書いていましたが、次話で本格的に始まります。


2035年12月27日正午

ーオーラウト王国 ユトラータ港近海ー

 

NATO諸国が、ホルムストール教国とソヌヴァ連邦に宣戦布告してからおよそ3日が経った。

 

NATO軍が2カ国に本格的な攻撃を開始すると同時に、ホルムストール本土をどう攻略するかという計画が持ち上がっていた。

 

ユトラータ港近海では、アメリカ海軍を主体とするNATOの合同艦隊が集結されており、現代人から見れば最終戦争を彷彿とさせるような事態が発生していた。

 

アメリカからはクリーブランド級イージス護衛艦5隻や、アイゼンハワー級原子力空母1隻、アイオワ級ミサイル戦艦を派遣し、イギリスからはクイーン・エリザベス級航空母艦1隻と、45型駆逐艦2隻、フランスからはアキテーヌ級駆逐艦2隻、イタリアはカルロ・ベルガミーニ級フリゲート1隻などおよそ20隻くらいの艦船が集まっている。

 

さらに、陸軍の配備も本格的に始まり、ゼフテートの中心街では多数の軍用車両が行き交いしていた。

 

「イギリスとかの連中がこんなに派遣してくれるとは思わなかったぜ。」

 

「だな。こんなに陸軍が来るとか、滅多に見られないからな、今のうちに目に焼きつけておいたほうがいいな。」

 

その頃、アイゼンハワー級原子力空母の船内では、各国の軍代表が集い、対ホルムストール軍全滅のための作戦会議が行われていた。

 

会議では、NATO軍最高司令部が作戦の説明をしていた。

 

「では今から、ホルムストールを侵攻するための作戦会議を開始する。」

 

会議が始まると、辺りは静かになり、皆がNATO軍最高司令部に目を向ける。

 

「今回我々は、ホルムトール教国にCIAの諜報員を送り、教国に関する詳細な情報を手に入れることができた。今から、それらに関することを、実際に見てもらった諜報員に説明する。」

 

そう言うと、CIAの諜報員が出て、ホワイトスクリーンに映像が流れ始める。

 

「まずは、こちらをご覧ください。これは、ホルムストール軍の式典で行われた軍事パレードです。彼らは、主に魔導砲や、黒魔術師、それにワイバーンを主戦力としており、非常に魔術の発展度が大きいです。」

 

諜報員は映像を切り替える。

 

「こちらは、私が撮影したホルムストール海軍が所有する軍港です。見た通り、数え切れないほどの戦列艦と思しき軍艦を複数所有しています。中には、ワイバーンを船上で運用するといった、我々で言うところの空母みたいな軍艦もありました。」

 

各国の代表達は、諜報員の報告に耳を傾けていた。

 

「では、軍隊から一度離れて、教国の文化といきましょう。」

 

「こちらは、ホルムストールの住民の衣服です。男性は見た感じ、キリスト教のキャソックを主に着ていて、女性は牧師みたいな服を着ており、頭は白いスカーフを被っていました。」

 

すると、今度は屋根のついたバルテノン神殿のような巨大な建物が映し出されていた。

 

代表達は、これが一体何の建物なのか謎に思っていた。

 

「これは、近隣の住民に聞いてみたところ、どうやら教国の主導者が住んでいる神殿らしいそうですが、その詳しい情報は住民でも分からないようです。ですが、神殿の周囲は分厚い壁に覆われており、防壁には魔導砲や、投石機といった兵器、さらには監視塔までもが設置されていました。」

 

代表者たちは、敵国の武装の多さに驚いていた。

 

「とまあ、今回の調査で分かったことはこれくらいでしかないですが、今後も我々は必要あれば調査する意向です。」

 

そう言うと、CIAの諜報員は元の席に戻った。

 

「さてと、本題に移ろう。現在、教国を侵攻するプランは主に2つある。1つ目は、機甲師団を中心とした部隊を、敵の防衛が弱い地点に集中攻撃して敵を弱らし、その勢いで首都に向かうといった作戦。もうひとつは、陸軍が侵攻を始めると同時に、揚陸艦から教国の領土に上陸し、挟み撃ちにして首都に向かう作戦があり、このどちらかだ。もし何か意見があれば言ってくれ。」

 

だが、各国の代表者たちは何も言わずに、ただ黙っていた。

 

「では、代表者による投票を行う。代表者達は、賛成する作戦方法を記し、この箱に入れてくれるようお願いする。」

 

すると、代表者達は順番に投票箱に紙を入れた。

 

全員の投票が終わって数分後、結果が発表される。

 

「結果として、両作戦の票は大差はなく、投票日と作戦執行日は延期とする。」

 

これが、今回の会議での結論となった。

 

だが、各国の代表者達は、いち早く作戦を決定させ、自国の兵士を戦遠ざけたかった。

 

それを悔いつつ、代表者達は、空母を下船したのだった。

 

12月27日午後6時半頃

ーホルムストール教国 首都近郊の軍港にてー

 

同じ頃、ホルムストールはというと、海戦でオーラウト海軍の船舶を削り、それと同時に首都を砲撃するという作戦が、明日にも執行されるのである。

 

NATO軍は、この事を何も知らなかったのだが、いざという時に出撃し、対艦ミサイルや、空母の攻撃飛行隊で殲滅すればいいと考えていたので、NATO軍はあまり警戒していなかった。

 

港では、無数の戦列艦や竜母が出港の準備をしており、辺りは見送る民衆でいっぱいだった。

 

その民衆とは少し離れたところに、教皇のフロイント2世が護衛と共に訪れていた。

 

「ふふふ......我が名を持つ艦隊は実に素晴らしいことだ。」

 

フロイント2世が満面の笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

すると、護衛が何者かからの魔通信を受け取ると、すぐさま内容を教皇に伝える。

 

「教皇様、我が軍で最大で最強の艦隊の編成をお伝えします。戦列艦5500隻、竜母500隻、そしてソヌヴァ連邦の戦艦20隻となっております。これなら、流石のオーラウト共も、降伏するでしょう。」

 

ソヌヴァ連邦の軍艦は、ほとんどが第一次世界大戦時のレベルだが、NATO軍が参戦するまでは、最強の軍艦として大陸にその名を轟かせていたのだ。

 

すると教皇は、護衛に向かって話しかけた。

 

「良い編成を軍はしているな。所詮オーラウトは低知能の民族共が威張っているだけの底知能国家だ。あんな国なんぞ黒魔術師だけで潰せるというのに、なぜこんなに苦戦しているのだ?」

 

護衛は、正直に答えた。

 

「最初の戦いで生き延びた兵士がこう言っていました。あれは自分が知っているオーラウト軍ではない。我々の技術力ではどうにもできないくらい発展している無敵国家だと証言していました。まあ、あんな兵士はただの変人でしかないので、聞いてあげるだけにしましたが。」

 

「その対応で十分だ、むしろ聞かなくても良かったくらいだ。このような奴らは再教育させるよう軍部に伝えろ。」

 

「はっ!了解しました。」

 

そう言うと、一人の護衛が軍の司令部へと向かった。

 

すると、教皇は護衛に向かって、魔通信を手渡すように命令し、手渡すと、艦隊へと通信を始めた。

 

「神聖なるホルムストール族の誇りである諸君。我はフロイントだ。今我々は、聖戦という歴史の転換点を見ている。諸君らは、この聖戦に身と心を捧げ、我らのために尽くしてくれるであろう。そして、我が民族に勝利をもたらす砦なのだ。ぜひとも、あの低知能国家に天罰を下すのだ。」

 

そう言い終えると、教皇は護衛に魔通信を返した。

 

すると、数では圧倒的なフロイント大艦隊は、オーラウト王国近海へと出航し始めた。

 

数で負けているNATO軍に殲滅させられることを知らずに......

 

 




次回から、大規模海戦が始まります。

お楽しみに。


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第16話 大規模海戦

2035年12月28日午前7時前

ーオーラウト王国 ユトラータ港にある在オーラウトNATO軍司令部ー

 

水平線から太陽が昇ってきれいな朝を迎えているこの頃、在オーラウトNATO軍司令部では、朝とは思えないような騒がしい空気だ。

 

「おい、一体どうなっているんだ。」

 

在オーラウトNATO軍の司令官がレーダーを監視している仲間に質問する。

 

「はい、1時間程前の話ですが、ユトラータ港近海を監視しているレーダーが、敵の船舶かどうかは不明ですが、複数の船舶がこちらへと向かっているんです。」

 

そう報告を聞くと、司令官は、これらの船舶はホルムストール軍の軍艦であることを分かっていた。

 

だがその事を口には出さなかった。

 

「で、その国籍不明の船舶は一体どれくらいあるんだ?」

 

「恐らく...6000はありました。」

 

聞いたこともないような船舶の数に、司令官は頭を痛める。

 

「司令官、現在国籍不明の船舶郡は、ここからおよそ10海里です。このままですと、あと数十分でユトラータ港に到着します。今のうちに指示を。」

 

そう言われると、司令官はゆっくり答えた。

 

「よし、こう伝えてくれ。NATO合同海軍は、ユトラータ港近海にある国籍不明の船舶を調べるようにと。いいな?」

 

「了解しました。」

 

そう言うと、司令官は自分の部屋へと戻っていった。

 

ーユトラータ港 NATO合同海軍 クリーブランド級イージス護衛艦ー

 

同じ頃、クリーブランド級の艦内では、クルーが朝食を摂っていた。

 

「今日も平和な朝を迎えたな。」

 

「ああ、まったくだよ。こんな平和な日常が続ければいいのにな。」

 

そうクルー達は、前までの平和な日常を懐かしんでいた。

 

すると、艦長から緊急の連絡が入ってきた。

 

「朝食を食べている中すまないが、先程、在オーラウトNATO軍司令部から連絡が入った。内容は、この港へと接近する複数の船舶を調査することだ。皆、速急に朝食を済ませるように。」

 

「はぁ...さっそく最初の任務が始まったよ。」

 

「仕方ない、怒られる前にとっとと終わらそうぜ。」

 

クルー達は、怒られないように早く食べ始める。

 

しばらくすると、クルー達は朝食を済ませ、皆が配置についていた。

 

そして、NATO合同海軍は、謎の船舶郡を調査するために、港を出港する。

 

そして、合同海軍と、司令部とのやり取りが始まった。

 

しばらくすると、NATO合同海軍の目の前に、複数の木造船が見えてきた。

 

「おい、あれを見てみろ。」

 

「あいつら、一体なにする気だ?」

 

「もしかしてこれは敵の艦隊じゃないか?」

 

無線は、各船の艦長が困惑の声でいっぱいだった。

 

だがすぐに彼らは気を取り直す。

 

「こちらNATO海軍。調査対象の船舶郡を発見した。これより調査を開始する。」

 

「こちら司令部了解。分かり次第報告するように。」

 

そう言うと、NATO合同海軍は調査を始める。

 

すると彼らは、まず最初に国籍を確認した。

 

「調査を始めたのはいいが、大体あの船舶郡の国籍はなんだ?」

 

イギリスの45形駆逐艦の艦長が言う。

 

「見たことがないな、あの国旗。見た感じ白と青がベースになっているが、これがイスラエルなわけがない。」

 

国籍は分からなかったので、次に船体を調べることにした。

 

「あの船舶郡、どうやら主に木で造られているようだな。しかも、側面には大砲みたいなのが載っているし、一部はワイバーンを搭載してるのもある。」

 

クリーブランド級の艦長が司令部に報告する。

 

すると、司令部は何かを思い出したのか、全船舶に無線を送り始める。

 

「全船舶、こちら司令部。先程の報告により、国籍を判明させることが出来た。その結果、国籍不明の船舶郡はホルムストール教国の大艦隊だと判明した。ただちに処理を要請する。」

 

そう司令部が言うと、各船が混乱し始めた。

 

しばらく経つと、合同海軍から無線が入った。

 

「こちらNATO海軍了解。即座に実行する。」

 

そう言うと、合同海軍の全船舶から、一気に対艦ミサイルが、ホルムストール軍の軍艦に向かって同時に発射した。

 

そして、大規模な海戦が幕を開けた。

 

 

ーホルムストール軍 フロイント大艦隊 戦列艦 プレンデールー

 

これからゼフテートを砲撃し、港に停泊しているオーラウト軍の軍艦を破壊する予定のフロイント大艦隊は、ゼフテートへと迫っていた。

 

この大艦隊で旗艦の戦列艦プレンデールは、海軍用魔導砲を150門搭載している。さらに、この海軍魔導砲は、 本来の魔導砲に比べ、様々な弾が撃てるようになっているので、火炎弾や氷結弾などの攻撃魔法弾の他、ソヌヴァ連邦の榴弾までも撃てる。

 

「うむ、なんと素晴らしい町の光景なのだろうか、このあと我が軍の砲撃によって美しさが無くなると思うとすこし寂しいな。」

 

そう双眼鏡で見ながら言っているのは、艦長のライネリオ・アルスタだ。

 

「艦長、フロイント大艦隊の全船舶が、作戦予定海域に集結いたしました。」

 

そう連絡員が艦長に報告する。

 

「連絡ご苦労。我が海軍は、あのオーラウト軍に負けると思うか?」

 

艦長が質問をする。

 

「いえ、そういうことはあり得ません。我が民族は、必ずしもあの低知能の種族なんかに負けたりはしません。」

 

「ほう、よろしい。本部に作戦予定海域に到着したことを魔通信で送れ。」

 

「了解しました!」

 

そう言うと、連絡員は去っていった。

 

すると、艦長は独り言を話始める。

 

「あの連絡員は一体何を考えているのだ?新兵ですら今回の海戦の結果を察するぐらいだ。今ではオーラウトもただの威張っている国家ではない。れっきとした大国だというのに...」

 

そう言った次の瞬間、クルーの一人が大きい声で指差しながら言った。

 

「空から謎の飛翔体がこっちに向かってくるぞ!!」

 

だが時はすでに遅し、謎の飛翔体は他の戦列艦に直撃したあと、盛大に爆発し、その船体は真っ二つになりそのまま沈んだ。

 

「戦列艦メルセ沈没!」

 

「くそっ!全船舶結界を張れ!」

 

だが、謎の飛翔体はあまりにも高速で、ほとんどの船は魔法結界を張れずに撃沈した。

 

運よく結界を張れた戦列艦や竜母でも、安全なはずの結界を、謎の飛翔体が容易く貫通し、もはや意味を成していなかった。

 

「戦列艦カイテル沈没!竜母ティマイラス沈没!」

 

このあとも、戦列艦と竜母の沈没の報告が相次ぐ。

 

気付けば残っているのは、150門戦列艦プレンデールと他の戦列艦50隻、竜母5隻、ソヌヴァ連邦の戦艦10隻だけとなった。

 

戦列艦のクルーは、あの飛翔体が次に当たるのは我々ではないかと恐れていた。

 

「なんなんだよ、恐ろしい兵器を持っていやがって...あれはオーラウト軍の兵器なのか...?」

 

「諸君!恐れるな!たとえここで死んだとしても、祖国は我々を英雄とするだろう。」

 

艦長が、クルー達を励ましていると、遠くからかなり速い飛行物体の集まりが見えてきた。

 

そう、この集まりは、アイゼンハワー級原子力空母から発艦した第126攻撃飛行隊や、クイーンエリザベス級空母のF-35戦闘機40機が接近していた。

 

両部隊とも主な武装は対艦ミサイルで、予備として対空ミサイルが2つ搭載しているぐらいだ。

 

「な......なんだこれは...」

 

その光景をみたクルー達や艦長は、顔が青ざめていた。

 

しばらくこの状態が続いたが、ソヌヴァ連邦の戦艦から、対空攻撃が始まる。

 

だが第一次世界大戦の対空能力しかないソヌヴァ連邦に、音速で飛ぶ攻撃飛行隊はまったくダメージを負わなかった。

 

すると今度は、攻撃飛行隊から、ソヌヴァ連邦の戦艦に向けて、対艦ミサイルが放たれた。

 

その対艦ミサイルは、戦艦の厚い装甲を貫き、沈没までにはいかなかったが、漏水を引き起こした。

 

だが、対艦ミサイルが放たれてまもなく、ライネリオ達の前にアイオワ級ミサイル戦艦が姿を現す。

 

「おいおい......なんだよあの化け物が!」

 

戦列艦のクルーが罵声を浴びせると、アイオワ級ミサイル戦艦から、50口径砲が火を噴く。

 

それを見た戦列艦のクルー達は、この戦いはもう終わったと理解した。

 

その言葉通りに、50口径砲弾がソヌヴァ連邦の戦艦に直撃すると、鋼の船体は高温で溶け、船は火柱を上げて、船体は裂けて沈没し始める。

 

これを見たクルー達は、最強なはずのソヌヴァ連邦の戦艦が沈没するのを見て、希望を失ってしまった。

 

「艦長、もはやここで戦い続けるのは自殺行為に等しいです。おとなしく降伏しましょう。」

 

「ああ...あれを見た以上、そうするしかないな。」

 

そう艦長が言うと、クルーは船体後部にある旗を、ホルムストール教国の国旗から、白旗に変えるのだった。

 

こうして、ホルムストール海軍にとって地獄のような海戦は、自軍の降伏によって終結するのだった。

 

 

ーユトラータ港近海 NATO合同海軍ー

 

その頃、NATO合同海軍はというと、ホルムストール海軍のあまりにも多い軍艦の数に驚いていた。

 

「艦長、先程攻撃に出向いていた攻撃飛行隊が空母に帰還したのを確認したので、我が軍の勝利が確定しました。」

 

そう船員が報告すると、艦長はすこし微笑んだ。

 

「そうか、だがこれで全てが終わったとは言えない、もうじきに我が軍とオーラウト軍共同でホルムストール教国の本土へと押し返す作戦が行われる。この作戦でも、我々合同海軍の援護が不可欠になるだろう。しっかりと頑張れ。」

 

「了解です艦長。」

 

そう言うと、船員は待っていた仲間のところへと戻った。

 

大陸戦争の終結は、そう遠くないかもしれない。




次回は、攻勢作戦の初めあたりなると思います。


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第17話 新年の幕開け作戦と教国の動向

なんか独ソ戦みたいな展開になってきた...


2035年12月31日午後11時半

ーオーラウト王国 最前線からおよそ10km地点にある防衛陣地にてー

 

あの大規模な海戦から、およそ3日ほどが経過した。

 

陸上では、オーラウト王国陸軍と共同で、オーラウト王国領土内に残留するホルムストール軍を、ホルムストール教国の聖地ベイト・カーメルに押し返す冬季大攻勢作戦がこれから行われようとされている。

 

この作戦には、主に3つのステップがあり、ステップ1は、オーラウト-NATO陸軍で、前線近くに居座るホルムストール軍を敗走させ、前線を後退させる。ステップ2は、空軍の全航空機で、オーラウト王国の元国境までの領域を徹底的に攻撃し、残るホルムストール軍を陸軍と協同で殲滅させる。そしてステップ3は、ホルムストール教国領土内にある軍事施設を巡航ミサイル等で破壊し、陸海空合同で教国の聖地ベイト・カーメルに向かうといった、かなりの戦費を費やす作戦だ。

 

この作戦は、作戦開始日がちょうど新年を迎える日のため、兵士の間では「新年の幕開け作戦」と名付けられていた。

 

上空ではB-2スピリットやB-1ランサーなどの戦略爆撃機、A-10サンダーボルトIIやF-117ナイトホークなどの攻撃機、F-22やF-16などの戦闘機が上空を迂回し、地上ではM1エイブラムスや、ドイツ軍のレオパルト2、イギリスのチャレンジャー2、フランス軍のルクレールなどの主力戦車が参加した。

 

この作戦にも、カーソン達新兵部隊も参加していた。

 

「......今は、ただこの戦争が終わるのを待つのみだ。と。」

 

カーソンは、もし自分が死んだときのために手帳に手紙を書いていた。

 

すると、隣でみていた彼の仲間が声をかける。

 

「よおカーソン、お前も故郷に彼女がいるとはな。俺も故郷に彼女がいればな、まったく。」

 

「ベイトカーメルに着くまで待て、これが終わったらご褒美にいい女の子達が待っているぞ。」

 

「マジか!そりゃいいな。」

 

仲間はかなり喜んでいた。

 

周りは、第一次世界大戦時のフランス軍のような服装をしたオーラウト軍と、現代的な装備をしたアメリカ陸軍、イギリス陸軍、フランス陸軍などのNATO陸軍が出撃準備をしていた。

 

すると、防衛陣地の前を、B-2やF-22が低空飛行しながら通過すると、仲間はこう言った。

 

「よおし!地獄を見せてやれ!」

 

その言葉に、兵士達は士気が上がる。

 

「ここの近くは制圧されているよな?」

 

そうカーソンが言うと、それにグレイソンが答えた。

 

「怖いのか新兵。」

 

「いいえ。」

 

そう言うと、カーソン達が搭乗するEFV遠征戦闘車が姿を現した。

 

「さてと、これが俺らが乗るやつか。」

 

「どうやらそうみたいだな。」

 

「まあ、どのみち長い道のりになりそうだ。」

 

カーソンが他の仲間に短い会話をすると、すぐにEFVに搭乗する。

 

そして、2036年1月1日午前0時になり、作戦開始の時間になると、空軍は、ホルムストール軍が占領している空域を監視し、陸軍は占領地帯を進軍し始めた。

 

EFVの車内では、兵士一人一人がいつ戦闘が起きてもいいように覚悟をしていた。

 

「おいカーソン、火あるか?」

 

同じ仲間が気を落ち着かせるためにタバコを吸いたそうなので、カーソンはたまたまあったライターをタバコに近づけた。

 

すると、ライターの火がタバコにつきそうになったときに、突如車体に爆発音がし始め、車体がすこし揺れる。

 

「ホルムストール軍の攻撃だ!伏せろ!」

 

グレイソンがそう言うと、進軍しているNATO陸軍の周りで爆発音が聞こえてきた。

 

NATO陸軍もこれに反応し、前方に展開していた戦車群がホルムストール軍に向かって砲撃で対抗した。

 

この状況でもグレイソンは、兵士達に伏せろと言い続けた。

 

しばらくすると、爆発音は最初の時と比べるとすこしおさまっていた。

 

「グレイソン中尉!現在敵の本軍が待機している野営地まであと数百メートルです!このままですとあと数十秒で到着します!」

 

「いいか、もうすぐでホルムストール軍の野営地に到着する。ここを制圧し、あいつらを敗走させるんだ!」

 

そう言って数分後、多数の兵士を乗せた装甲兵員輸送車群は、野営地から100m離れた地点で停止する。

 

だが戦車群は後方で停車し、砲撃と車載機関銃で歩兵部隊を援護した。

 

到着すると同時に、複数の装甲兵員輸送車のドアが開くと、兵士達が一斉に降車し、近くの遮蔽物へと即座に隠れ、ホルムストール軍との戦闘を開始した。

 

「全員遮蔽物に隠れろ!」

 

グレイソンがそう言いながら、兵士達は魔術師や、剣で突撃してくる騎士団をHK416で倒す。

 

戦場になっているホルムストール軍野営地前は、周りは収穫されていない小麦畑や、粗末に作られたバリケード、密生したイバラが、兵士達にとって絶好の射撃ポイントだった。

 

だがあまりにも敵軍の人数が多いので、歩兵部隊だけでは対応しきれなかった。

 

「くそっ!おい援護してくれ!こっちだけじゃ数が多すぎて手に負えないぞ!」

 

そうカーソンの部隊が戦車部隊に無線で伝えると、数台の戦車の砲搭が、敵がぞろぞろと出てくる方を向いた。

 

そして、戦車砲が火を噴くと、突撃してきた騎兵団は、すぐさま後退しだした。

 

「マジか!あの連中が後退しているぞ!嘘みたいだな!」

 

カーソンが騎兵団に向かって大きい声で言うと、車載機関銃が敵の陣地を制圧する。

 

「今だ!野営地の奥に突撃するぞ!」

 

グレイソンが周りに聞こえるような声で言うと、カーソン達他の兵士が野営地へと突撃を始めた。

 

カーソンも同様、野営地の奥に入ろうとした。

 

するといきなり、カーソンはテントに待機していた魔術師に襲われ、魔術師の持っていたナイフで刺されそうになった。

 

だが仲間はそれに気付き、カーソンに当てないよう注意し、魔術師の頭に弾丸を当てた。

 

そして魔術師は、そのまま横にばたりと倒れた。

 

「ったく。いったい何なんだよ。」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「大丈夫です中尉。」

 

そうカーソンが言うと、兵士達は行動を再開した。

 

そしてカーソン達は、野営地にある、作戦司令部みたいなところに入る。

 

中は誰もおらず、すこし狭い司令部には、ろうそくが複数灯していた。

 

「こりゃすごいな、野営地の割には造りがしっかりしている。おまけに壁にはナチスみたいなプロパガンダがあるんだが、なんて読むんだあれは?」

 

そのプロパガンダには、地球のどこにも属さない文字が大きく書かれていて、絵はというと、オーラウト軍を猿みたいに描いていた。

 

カーソンはこれに興味を持ったので、プロパガンダを壁からはがして持って帰ることにした。

 

するとグレイソンが、なにやら普通とは違う紙を見つける。

 

「お前ら、敵軍の作戦マップらしき広い紙を見つけた。」

 

そう言うと、グレイソンは地図に書いていることを読み取ろうとする。

 

「うむ、どうやら俺らがあのホルムストールに攻撃しなかったら、2回目の王都攻略作戦が行われたらしいな。」

 

そうグレイソンが言うと、兵士達は先に攻撃に踏み切って良かったと思うのだった。

 

「さてと、ここにいる敵は殲滅したし、NATOの国旗を掲げるか。」

 

そう言うと、兵士達はホルムストール教国の旗を下げ、新たにNATOの旗を掲げた。

 

こうして、最初の攻勢は、戦略的勝利で終わるのだった。

 

1月1日午前8時前

ーホルムストール教国 聖地ベイト・カーメル

にある宮殿ー

 

その頃、ベイト・カーメルにある宮殿では、教皇のフロイント2世が軍部と会議をしていた。

 

「まったく、どうすればあの低知能の種族どもに負けるというんだ!わが民族の恥だ!」

 

「すみません教皇様。ですが我々もあの低知能種族に対抗してきました。」

 

「はぁ......で、あのオーラウトがここまで強くなっているのは、他の国が関与しているからに違いないと?」

 

「はい、戦地に赴いた兵士達曰く、あんな強力な装備をオーラウト軍は所持しているはずがない、どう考えても他の国がオーラウトの味方しているに違いないと言っていました。」

 

するとフロイント2世は立ち上がり、近くにある暖炉に火をつけた。

 

「なるほどな。で、オーラウトどもと同盟を組んでいる国はいったいどんな国なのだ?」

 

「たまたまそれを聞き付けた兵士が、その国を、アメリカと言っていました。」

 

フロイント2世はいったい何の国なのか謎に思い始める。

 

「アメリカ?聞いたことがないな。まさか魔通信での聞き間違いではないか?」

 

「いえいえ、魔通信でもはっきりと聞き取れていましたので、聞き間違いではございません。」

 

すると、フロイント2世は、元の席に戻った。

 

「そうか、ではそのアメリカとやらの詳しい情報はあるか?」

 

「いえ、まだ分かりません。ですが、我が民族にとってとても脅威的な国だということは確実です。」

 

そう結論付けると、フロイント2世は、ホルムストール軍よりも、オーラウト王国のほうが技術的に勝っていることに気づく。

 

「ということは、今の段階ではオーラウトを屈服させることは難しいと?」

 

「現段階ではそう言えます。しかし、そのアメリカという国がいつまでオーラウトに味方していくのかが注目すべき点です。」

 

そう軍部が言うと、フロイント2世は、とある奇策を思い浮かんだ。

 

「そうだ、我に良い策がある。」

 

「その策とは、いったいどういったものでしょうか?」

 

軍部が言うと、フロイント2世は、窓を見ながらこう言った。

 

「ソヌヴァ連邦との同盟を、破るということだ。」

 

軍部は、この発言に焦りを感じていた。

 

「教皇様!いったい何を考えておられるのですか!?ソヌヴァ連邦は、大陸で最強の国家ですよ!もし宣戦布告すると言うのなら、それは我が民族は終わ──」

 

「今なんて言った?」

 

「い...いえ......何もございません。」

 

するとフロイント2世は、机に置いてあったソヌヴァ連邦との同意書を持ってくる。

 

「いいか軍部達、ソヌヴァ連邦との同盟を結んだこの同意書、こんなもの所詮ただの紙だ。我々は好きな時にこの同盟を破棄することができるのだ。」

 

「ですけど、もしソヌヴァ連邦を侵略したら、無駄な戦線をまた一つ作ることになりますよ。」

 

「そうか、我は一向に構わん。」

 

その発言を聞いて、軍部は呆れた顔をした。

 

「分かりました、教皇様の言う通りにソヌヴァ連邦方面に向けて軍を配置します。ですが、この選択を後悔しないでくださいよ。」

 

そう言い残して、軍部達は会議室を退室した。

 

「さてと、あとは結果を待つのみだな......」

 

教皇は、ソヌヴァ連邦との戦争に意気込んでいたのだが、軍部は結果をすでに分かっていた。

 

ソヌヴァ連邦の国土は広く、おまけに冬が長いので、戦線を長く維持することが困難だということを。

 

 




変な終わり方してしまった...

もし良ければ評価と感想をお願いします。

次回は冬季大攻勢の中間あたりぐらいの予定です。


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第18話 ノーブレー=イザンツァ奪還作戦

この話での戦闘描写が少し雑ですのでご了承ください。




2036年1月3日午前6時頃

ーオーラウト王国 旧ホルムストール軍野営地 現オーラウト-NATO陸軍補給地点ー

 

一昨日、野営地などの前線付近に居座るホルムストール軍の軍事施設の制圧で始まった新年の幕開け作戦。あれから2日経った今日、新たなステップを迎えていた。

 

この日は、アメリカ空軍とオーラウト-NATO陸軍合同で、オーラウト王国の元領土にある都市、ノーブレーとイザンツァを今日中に奪還する予定なのだ。

 

なぜこの2つの都市を先に奪還しなければいけないかというと、実はオーラウト王国にとって軍事上重要な都市だからだ。

 

ノーブレーとイザンツァは共通して、異世界では希少な光る石の産出地でもあり、なおかつ、オーラウト王国が現在開発中の純国産戦車、『AL-35』の原動力に必要な素材だからだ。

 

このAL-35戦車は、アメリカから少しの技術を借りており、性能は冷戦時代の戦車とそう変わらないので、実戦配備すれば間違いなく異世界の列強と軍事面で渡り合える。

 

オーラウト王国は、開発中のAL-35戦車を実戦投入したいがために、この二つの都市を奪還するということをオーラウト王国の国王がNATOの司令部にお願いした。

 

NATO軍にとっては何の利益にもならない話なのだが、NATO軍の上層部はこれを受け入れた。

 

そして今日、オーラウト-NATO陸軍と、アメリカ空軍がノーブレーとイザンツァ奪還に向けて、APC《装甲兵員輸送車》の群と、オーラウト王国に配備されているNATO軍の一部の戦車が参加し、空軍からは、F-16ファイティング・ファルコン、B-1ランサー、A-10 サンダーボルト II、そして攻撃ヘリコプターのAH-64Dアパッチ・ロングボウが主な戦力となっている。

 

ここはNATO軍の物資補給地点だ。辺りはNATO軍の戦車や装甲車両、それにAH-64Dが浮上準備をしていた。

 

ここにも、カーソン達が補給地点にいた。

 

カーソンがいるところでは、ちょっとした会話がしていたのだが、ここにグレイソンも入る。

 

「よしお前ら、こんな機会は滅多にないぞ。オーラウト王国の都市を奪還するチャンスが来た、しかも戦略上重要な都市をな。報告によれば、その都市はノーブレーとイザンツァという所だ。だがここにいる敵の守りは堅く、そこには召喚魔術師も防衛に加わっているとの報告がある。だがノーブレーとイザンツァを掌握すれば奴らの主導権をこっちに移すことが出来る。いずれにせよ、俺達の勝算が高いのは確実だ。」

 

「それはすごいことですね中尉。」

 

そう言うと、カーソン達は喜びながらもEFV遠征戦闘車に搭乗し、最初の目的地ノーブレーに到着するのを待った。

 

カーソン達が乗っているEFV遠征戦闘車を含んでいる車列の周りは、雪がとても積もっており、辺りは一面雪化粧と化していた。

 

しばらくすると、兵員達全員に無線が入ってきた。

 

「戦闘車両に搭乗している兵士達、もうじきに目的地のノーブレーに到着する。皆、準備をするように。」

 

そう無線から聞こえたので、兵士達は自分の緊張を和らげるために、深呼吸する者、煙草を吸う者でいっぱいだった。

 

そして、車列の先頭車両がノーブレーに到着すると、先頭車両の運転手が門の近いところに到着したのを確認した。

 

ノーブレーの周囲は、少し高い防壁に囲まれており、車列は防壁の門の少し前に停車していた。

 

「いいかお前ら、先頭からの報告によると、どうやらノーブレーの防壁門に到着したようだ。このあと後方に展開する戦車に門を破壊してもらう。門が爆発したら、その拍子に一気にノーブレーの市街地に突入する、いいな?」

 

グレイソンが兵士達に説明すると、いつ降車してもいいように、兵士達は武器を構える準備をした。

 

そして午前8時前、大雪がノーブレー周辺に降りかかる頃、後方に展開していた戦車群の発砲によって火蓋は切られた。

 

発砲された砲弾は見事に防壁門に命中し、その爆発の勢いによって、頑丈な門はすぐさま使い物にならなくなった。

 

この爆発音は、ノーブレーの中心にまで聞こえたので、中心にいる部隊はすぐさま防壁門に駆けつける。

 

「よし!全員突撃するぞ!」

 

グレイソンがそう言うと、装甲車両から一斉に兵士達が銃を構えながら降車し、上空からAH-64Dや、F-16戦闘機がノーブレーに同時侵入してきた。

 

防壁門の近くはまだ爆発の煙が上がっていたので、兵士達は、防壁門付近の身を隠す場所にすぐさま隠れた。

 

そして爆発の煙が晴れると、すぐさま銃弾や攻撃魔法が飛び交い始める。

 

とそこに、AH-64Dが、隠れているNATO軍の先頭に出て、攻撃魔法で攻撃してくる黒魔術師達はすぐさま防護結界を張るのと同時に、M230機関砲が火を噴く。

 

M230機関砲から放たれる焼夷榴弾は、防護結界を貫き、黒魔術師達は体の部位がえぐれていた。

 

厄介な黒魔術師達が攻撃ヘリコプターの援護によって死んだので、オーラウト-NATO陸軍は進む道を開けた。

 

上空では、アメリカ空軍の爆撃機や、攻撃機が常にノーブレーを防衛するホルムストール軍に攻撃を続け、ノーブレーでは常に爆発音が鳴り止まない。

 

だがすぐにホルムストール軍の第2波が来る。

 

今度は上空からワイバーンおよそ200騎が飛んできた。

 

「ワイバーンだ!狙われないよう散開しろ!」

 

そうグレイソンが言うと、固まっていた部隊と戦車部隊は、ワイバーンからの攻撃から避けるべく、複数の分隊に分裂し、ありとあらゆる方向へと向かった。

 

カーソン達の分隊は、市場が行われる広場へと向かっていた。

 

広場へと向かっていると、1体のワイバーンがこちらを狙って急降下してきた。

 

「ワイバーンが急降下してきたぞ!全員路地裏に隠れろ!」

 

そうグレイソンが言ったので、カーソンの分隊は路地裏にへと逃げ込んだ。

 

「ったく!あいつらどんだけワイバーン持ってんだよ!」

 

カーソンが少し焦りながら言った。すると分隊の仲間が携行していた、FIM-05 携帯式対空ミサイルを、ワイバーンに向けて発射した。

 

ミサイルはワイバーンの左翼に当たり、そのワイバーンは飛行不能状態になり、そのまま家屋へと衝突した。

 

「気が利くな!」

 

そう言っていると、空軍がワイバーン撃墜に着手し始めたので、カーソンの分隊は広場にそのまま向かった。

 

この頃、空軍による火力支援によって、ノーブレーを防衛しているホルムストール軍の戦力を半分に削った。

 

作戦行動を再開したカーソンの分隊は、歩き始めて数分後、ようやく広場に到着した。

 

広場には、仮設のテントが多く設置されており、周辺には監視する槍兵がいた。

 

「さてと、広場を制圧しちゃいますか。」

 

そうグレイソンが言いながら出したのは、LSAT軽機関銃だ。

 

監視する槍兵にバレないように、照準を監視する槍兵に向けた。

 

そして、グレイソンが引き金を引くと、軽機関銃の連射が始まった。

 

監視する槍兵達は、分からない方向から来る銃弾に、みるみるうちに倒されていき、しまいには人の気配ですら感じなくなった。

 

「こちらオスカー分隊、ノーブレーの広場を確保した。」

 

「こちら司令部了解、手に負えない味方の援護をするように。」

 

そう司令部が言ったので、分隊は他と交戦している分隊を探し始めた。

 

すると、また無線から連絡が入ったので、グレイソンは無線を取る。

 

「こちらは司令部、全分隊に告ぐ、各方面に展開している分隊は、ノーブレーの防壁の外に退避せよ。繰り返す、全分隊は、ノーブレーの防壁の外に退避せよ。」

 

その連絡を聞いて、カーソン達は何が起こるのかを悟った。

 

それは、クラスター爆弾を大量に積んだB-1 ランサーが、もうすぐでノーブレーに到着するのだ。

 

カーソン達はすぐさま防壁の外へと向かった。

 

防壁の門へと退避するよう指示されておよそ5分後には、全部隊の退避が完了した。

 

そして、上空にあるB-1ランサーが市街地に侵入すると途端に、大量のクラスター爆弾CBU-97がノーブレー全体にばらまかれた。

 

爆弾が投下されて数十秒後には、クラスター爆弾は見事に爆発し、たくさんの子爆弾の爆発音がノーブレー全体に被害をもたらした。

 

ノーブレーを防衛していたホルムストール軍の部隊は、子爆弾の爆発による影響でホルムストール軍の兵士達のほとんどは死亡、あるいはかなりの重傷を負うこととなった。

 

「どうやら収まったみたいだな。1回確認してみよう。」

 

そう兵士が言うと、他も爆撃後のノーブレーを確認すべく、中心街へと足を運んだ。

 

兵士達は、中心街とは思えない荒廃した光景を見ては、思わず写真を撮ってしまう。

 

さらに石畳の道路はひび割れ、その上にはミンチよりも酷い状態の死体が散らばっており、中心街にあった銅像も半分に折れていた。

 

イザンツァもノーブレーと同じような状況になっており、イザンツァの防衛部隊のほとんどがこの世を去った。

 

この結果、かなり残酷な一手でノーブレーとイザンツァの攻略を完全に終わらしたNATO軍だったが、その結果、オーラウト戦線の主導権は、オーラウト-NATO合同軍に移り変わり、オーラウト-NATO合同軍が大陸戦争での勝利は確実した。

 

だがその裏で教国は、ソヌヴァ連邦に対する戦争準備を着々と進めていた。

 

そして......教国の破滅へと導くソヌヴァ戦線が今、始まる。




もし良ければ感想や評価をしていただけるとありがたいです。

次回は、主にソヌヴァ連邦がメインの予定です。


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第19話 一定期間の同盟

同年1月3日午後5時半

ーソヌヴァ連邦 とある国境検問所ー

 

NATO軍が、ノーブレーとイザンツァを奪還してからおよそ6時間が経過した。

 

ソヌヴァ連邦のとある国境検問所では、一人の男が見晴らしの良い雪原地帯を監視していた。

 

「今日も相変わらず寒いな...」

 

彼は、運よく戦地に駆り出されることはなかったが、その代わりに、周りは何もない国境検問所の仕事をすることになったのだ。

 

国境検問所とはいえ、国境地帯の監視をするというのも任務に入っているので、彼は双眼鏡を手に取り、周辺を確認する。

 

「異常なし。異常なし。異常な...?」

 

彼はいつものように、全て異常なしで終わるはずだったのだが、遠方から見たこともないような人の群とワイバーンの群が見えていた。

 

「なんだよ...ホルムストールのやつらこんなに呼んで。何かの演習か?」

 

彼はホルムストール軍の演習だということで片付けようと思ったのだが、その予想はまったく外れていた。

 

彼は、国境地帯の確認を終えたので、検問所にある窓からホルムストール軍の演習を見てみることにする。

 

すると、ワイバーンと隊列を組んでいるホルムストール軍が、国境検問所へと少しずつ迫ってくる。

 

「おい、まさかこっちに喧嘩を売る気じゃないよな...?」

 

すると、遠方から赤色の光が検問所へと迫ってくる。

 

「いや、完全に喧嘩を売っているぞこれは!」

 

そう言った彼は、迫りくる赤色の光を回避し、幸い火炎の攻撃魔法で済んだが、安心してはいられず、緊急用の伝書鳩に、ホルムストール軍が侵攻してきたという内容の紙を、彼はすぐさま近くにある本部へと送った。

 

その後も彼は、検問所にあるボルト・アクション・ライフルで迫まりくる敵を倒していくが、あまりにも多すぎるため、ホルムストール軍の攻撃魔法を受けてしまい、その後死亡した。

 

そして彼は、ソヌヴァ戦線で最初の被害者となった。

 

午後6時頃

ーソヌヴァ連邦 交易都市 カリーツィンー

 

国境検問所から、およそ30キロ離れた位置にある交易都市、カリーツィン。

 

ここは戦前、他の国との同盟を持たなかったソヌヴァ連邦の唯一の交易都市として、様々な文化が入り交じっており、その影響からか、カリーツィンに定住している外国人は他と比べると多く、異世界では数少ない多民族居住地なのだ。

 

ここにある、ソヌヴァ連邦軍ホルムストール方面司令部では、長い冬を生き延びるために、首都のピョトルブルクから届いた小麦などの穀物類の整理をしていた。

 

「今年も首都からの支援物資が多いな。」

 

「ああ、そうだな。むしろこんなにいらない気がするな...去年なんかカリーツィンにある農場だけで住民の食糧を賄えたし。」

 

「まったくだよ。こんなに送ってくれるのはありがたいのだが、多すぎて司令部の倉庫だけじゃ入りきらないんだよな。」

 

そう話しているのは、ホルムストール方面軍司令官ベネディークと、副司令官のヴァウテルスだ。

 

彼らは階級の差があるのだが、元々訓練兵だった時同期だったので仲がよく、二人の時はため口で会話しているのだ。

 

彼らは、たくさん届いた穀物類をどこに保管していくのか悩んでいた。

 

「司令部の倉庫を拡張するのはどうだ?」

 

「やめとけ、司令部にある倉庫はこれ以上拡張出来ないんだ。だから、住民に分けてみたらどうだ?」

 

「それはいい考えだな。だが...こんなに寒い時期に今さら配っても仕方ないと思うんだがな。」

 

すると、窓から伝書鳩が副司令官に向かって来た。

 

「ベネディーク!一通の伝書鳩の手紙が来たぞ!」

 

「どれ、読み上げろ。」

 

「こちらはホルムストール方面にある国境検問所。先程、検問所にてホルムストール軍が唐突の攻撃を仕掛けてきた。もう少しすればホルムストール軍がカリーツィンを攻撃するだろう。偉大なるカリーツィンの防衛をお願いします。」

 

「ホルムストール軍がこっちに侵攻してきただと...!クソッ!」

 

するとベネディークは、通信機器を使用し始め、カリーツィンにいる全部隊に戦闘準備をするように話始める。

 

「全部隊、こちら司令部。各部隊は、ホルムストール軍が侵攻するカリーツィンに集結し、襲いかかってくるホルムストール軍の勢いを弱らせろ!」

 

そうベネディークが伝え終えると、すぐさまヴァウテルスの近くに行った。

 

「ヴァウテルス、久々の仕事が俺らに入ったぞ。すぐに部隊が集結している広場に出発だ。祖国は我々を必要としているのだ、急がねば。」

 

「はいはい、分かったよ。」

 

そうヴァウテルスが言いながら、二人はリボルバーと司令官の印であるサーベルを装備し、二人はすぐさま広場へと急ぎ足で出発した。

 

「なんだよ、夜なのに兵士達は騒がしいな......」

 

そう住民が走り去る二人を見て言ったのだが、なぜここまで騒がしい理由は知る由もなかった。

 

「なあベネディーク、俺らってそんなに必要とされているのか?」

 

「分からんが、とにかく行かないとまずいことになるだろ。」

 

そう言っていると、カリーツィン上空に対空射撃のためのライトアップが始まり、それを見た二人は遅かったと思うのだった。

 

しばらくすると、二人は広場前に到着し、兵士達の前に無礼な格好はさせまいと、服を整え、広場へと入る。

 

広場は一面、モスグリーン色の軍服で埋め尽くされており、二人は少し高い台へと登壇する。

 

「偉大なる祖国の英雄達よ、こんなときに広場に呼び出してしまい申し訳ない。君達は、なんの予告もなしに攻撃し始めたホルムストールのやつらの勢いを、この都市カリーツィンで阻止しなければならない。ただ、ホルムストール軍の数は多く、阻止は困難を伴うだろう。だが、仮にこの地で死んだとしても、祖国は我々を敬い続けるだろう。なんとしてでもここ、カリーツィンでホルムストール軍の勢いを止めるのだ!」

 

そう演説し終えると、兵士達は士気が高揚し、手に持っているライフルを空に上げた。

 

「よしヴァウテルス、我々も行くとするか。」

 

「分かったよ。」

 

そして今、カリーツィンの戦いが幕を開けた。

 

ホルムストール軍が侵入してくるであろうカリーツィン南部辺りには、ホルムストール軍が到着する前に塹壕を掘り始めており、一部の塹壕には機関銃が設置されていた。

 

塹壕には、いつでも襲いかかっていいように兵士達は戦闘配置についており、一部の兵士は機関銃を構えていた。

 

ベネディークとヴァウテルスもその一員に入っており、二人は、いつ敵軍が現れてもいいように、常に双眼鏡を構えていた。

 

「ヴァウテルス、ホルムストール軍は見えるか?」

 

「いえ、今のところは。」

 

すると、遠くから、無数の馬や、人の人影が見えてきた。

 

二人はホルムストール軍が来たのだと思った。

 

「まだ撃つな。」

 

そして、その人影がはっきりと見えてくると、ベネディークは声を言い放つ。

 

「攻撃開始!!」

 

そう言うと、歩兵が持っているライフルと、一部の兵士の機関銃の引き金が同時に引き、辺りは銃から放たれる曳光と銃弾の破裂音しかなかった。

 

射程距離は共に長いライフルと機関銃は、射程距離が少ししか届かない攻撃魔法に比べ、早射性にも優れており、ホルムストール軍にとっての遠距離攻撃手段である攻撃魔法はこの距離では扱えないため、突撃してくるホルムストール軍の騎士団はあっけなく機関銃の餌食になる。

 

だがすぐさまホルムストール軍の第二波が塹壕で戦う兵士達に襲い始める。今度は騎兵団ではなく、4頭くらいの馬が馬車を引いていた。チャリオットだ。しかも多くて、馬車には機関銃が設置されている。

 

「ベネディーク司令!敵軍の第二波が来ます!しかもかなり多いです!」

 

「怯むな!ここカリーツィンがあいつらの手に落ちたら、祖国を見棄てるのと同等の行為だぞ!なんとしてでもここを守るのだ!」

 

そうベネディークが言うので、兵士達は仕方なくこの場で戦い続けることにした。

 

だがベネディークもこのままの戦力で戦い続ける訳にはいかず、仮設の通信所で空軍の爆撃部隊に助けを求めていた。

 

だが空軍基地とカリーツィンまではおよそ20キロあり、すぐには到着しないことは分かっている。それでもこの場で戦い続けるしか祖国を守る手段はなかった。

 

ソヌヴァ連邦陸軍は、厄介なチャリオットから放たれる機関銃に苦戦を強いられており。そのせいか、一部の兵士はチャリオットからの機関銃で負傷しており、戦闘に参加できる人数は減っていった。

 

「畜生!爆撃部隊はまだか!」

 

ベネディークはあまりにも多い敵軍の兵力にかなり焦燥していた。

 

すると、上空から巨大な複葉機と、その護衛の複葉機がこちらへと向かっているのが見えた。爆撃部隊だ、そう思ったベネディークは少し気が落ち着いた。

 

爆撃部隊が塹壕線を越えると、巨大な爆撃機は、突撃してくるホルムストール軍に向けて爆撃し始める。

 

爆弾は突撃してくる兵士やチャリオットをあっさりと吹き飛ばし、戦争地帯を消し去った。

 

爆撃部隊のおかげで、戦争地帯に突撃してくるホルムストール軍の兵士はおらず、辺りは静粛な空気になった。

 

「ベネディーク司令、これで終わったのでしょうか?」

 

「分からないが、恐らくこちらが勝ったのではないか?」

 

ベネディークは、ホルムストール軍がこちらへと突撃してこないので、カリーツィンの戦いは勝利したのだと思っていた。

 

双眼鏡で見ても、ホルムストール軍らしき人影は見えない。

 

その言葉通りに、突撃してきたホルムストール軍の部隊はソヌヴァ連邦の陸軍と空軍共同で殲滅させたので、突撃できるホルムストール軍の兵士は現状はいないので、この戦いでソヌヴァ連邦が勝利したといってもいいかもしれない。

 

この戦いでソヌヴァ連邦は数百人の兵士を失い、ホルムストール軍はおよそ2万人の兵士が命を落とした。

 

だが両国との戦争は開戦したばかりなので、手加減はせず、ソヌヴァ連邦は戦争に毒ガスを使用し始め、ホルムストール軍は召喚魔術師を使用し始めるといったイタチごっこが始まろうとしているのだった。

 

 




もし良ければ感想や評価をお願いします。

次回は、オーラウト-NATO軍に舞台は戻ります。


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第20話 城塞攻略と核ミサイル発射の前夜

2036年1月8日午後5時前

ーオーラウト王国 ノーブレーにてー

 

ホルムストール教国がソヌヴァ連邦に対して、何の予告もなしに侵攻してからおよそ5日程が経過した。

 

空は夕日によって赤く染まり、きれいな空には少しの煙がのぼる。

 

クラスター爆弾による爪痕が残っているノーブレーでは、NATO軍がホルムストール軍の死体を回収し、疫病を防ぐため焼却処分をしたり、重傷を負ったホルムストール軍の兵士や魔術師を手当てしていた。

 

そんなノーブレーの主要の道では、カーソンともう一人の兵士が一緒に周辺を探索していた。

 

「うわぁ...そこら中死体の山ですごい臭いな。」

 

カーソンは、燃え盛る死体の山の前を歩きながら見てそう呟く。

 

「仕方ないさ、あんな死体を道端に放置してたら、それを見た敵軍のやつらはすぐさま報告しだすからその隠蔽だよ。」

 

「だとしてもな、他にも処理する方法があったろう。土に埋めるとか、この世界にいるモンスターに食わせるとかな。」

 

「どっちも処理するのには効率が悪いから、言ったら上層部には却下されるな。」

 

「はぁ...臭くて鼻が詰まりそうだよまったく。」

 

そう言いながら歩いていると、 複数の戦車がカーソンの横を通ったのと同時に、ベージュ色のアメリカ軍の戦車の中に1台色が変わった戦車を見かける。

 

「なあ、さっき戦車の列の中にグレー色の戦車が通ったような気がするが。」

 

「グレー色の戦車?ああ、オーラウトが開発していた戦車が完成したのか。」

 

「オーラウトの戦車?」

 

カーソンは始めて知るオーラウト王国の戦車に首をかしげる。

 

「ああ、軍がオーラウトと協力して、異世界のどこの国にも負けない戦車を作るってなってな。性能は冷戦時代の戦車とそう変わらないってさ。」

 

「へぇ...」

 

カーソンは桁違いに発展しているなと思うのだった。

 

「おっと、早くしないと次の作戦の説明が広場で開かれる、急ぐぞ。」

 

「だな。」

 

そう言って二人は、作戦の説明がある広場へと走って向かった。

 

広場へと到着すると、他の兵士達が整列していたので、カーソンもその中に紛れる。

 

すると、前から高官らしき人物が列の前に現れた。

 

「様々な国から派遣された兵士達よ、ついにホルムストールの奴らを叩きのめす作戦は、いよいよ終わりに近づいてきた。我々NATO軍が次に攻撃する場所は、ノーブレーから北に10キロ離れている、城塞都市ダレスチツェの攻略だ。この城塞都市は、二重の壁がダレスチェを囲っており、どの壁にもバリスタが複数配備されている。だが、この城塞都市の攻略には、陸海空軍の協力が常に不可欠である。諸君には、ホルムストール本土侵攻の妨げであるダレスチツェ周辺を制圧、占領し、次なる作戦の支障にならないようにせよ。」

 

「イエッサー!!」

 

高官の話が終わると、兵士達が一斉に返事をし、並んだ列は崩れ、広場の近くにある装甲車や戦車へと搭乗し始める。

 

「さてと、この戦争の最後を派手に飾らないとな。」

 

「だな、もうすぐこの戦争を派手に終わらさないと、刺激的なことが無くなっちまうよ。」

 

そう言っていると、戦車が先頭の陸軍機甲師団は、ダレスチツェへと向かい出発する。

 

1月8日午後6時

ーホルムストール教国 城塞都市ダレスチツェ 第一防壁ー

 

日は地平線へと沈み、防壁にある松明以外は、暗闇に包まれている。

 

これからアメリカ軍によって鉄の雨が降るダレスチツェの防壁では、複数のバリスタを特殊兵がいつでも発射できるように準備しており、壁では複数の監視兵が交代で任務を行っていた。

 

監視兵の一人フェサラーは、視力が並の人間に比べかなり良いことから、若くして監視兵に抜擢された。

 

彼は、防壁の門前の監視を任されており、いつ敵が襲ってもいいように常に周りを警戒していた。

 

「よおフェサラー、こんな高いところで監視して怖くないか?」

 

壁の防衛に慣れている特殊兵の一人が、入ったばかりのフェサラーに話しかける。

 

「いえ、まったく。むしろ教皇様のために任務をやっていると思うと、何も怖くないです。」

 

「そうか、それはよかったな。」

 

特殊兵がそう言いながら、周辺を見始める。

 

すると、特殊兵は何かを見つけたのか、フェサラーに声をかける。

 

「フェサラー!あそこの道路から、なんか光が見えないか?」

 

そう言われたので、フェサラーはその方向に注目すると、遠くから光が点在していた。

 

フェサラーはこれを見た瞬間、敵軍と判断し、すぐさま魔通信で通達する。

 

「門前にて、敵軍と思われる光を発見した。これより敵軍に対する攻撃を開始する。」

 

そう魔通信に言うと、特殊兵達は光の方向へと向け、巨大な矢を装填した。

 

「全員発射!!」

 

そう特殊兵の一人が言うと、バリスタから複数の巨大な矢が風を切りながら放たれた。

 

そして着弾し、敵軍は一目散に逃げるのかと思いきや、さらに門へと距離を詰めてきた。

 

「あれおかしいぞ、なんで消えないんだ?」

 

特殊兵達は、謎に思い始める。

 

すると、その光から一際大きな光の槍がこちらへと向かってきた。

 

「敵の攻撃だ!退避し──」

 

特殊兵がそう言い切る前に着弾し、バリスタと人間の肉片が辺りに飛び散る。

 

「お......おい!いったいどうなってんだ!」

 

フェサラーはあまりにも予想外な展開に、頭が混乱していた。

 

そう混乱しているうちに、NATO軍の機甲師団によって次々とバリスタは破壊されていき、残るのはフェサラーただ一人のみとなった。

 

「嘘だろ...誇り高き我が民族が...あんな低知能種族に負けるなんて......」

 

そう言い残してフェサラーは、戦車からによる砲撃でこの世を去った。

 

 

ーホルムストール教国 城塞都市 ダレスチェ 第二防壁前ー

 

守りの堅い第一防壁を難なく突破したNATO軍は、次第に中心部へと繋がる第二防壁が、NATO軍の前に顔を見せる。

 

「ここが第二防壁か......予想通りの防衛の堅さだな。」

 

そう言った戦車の車長は、無線で攻撃ヘリAH-64Dによる航空支援を要請する。

 

「こちら機甲師団。防壁にある兵器の解体を頼む。」

 

「了解、すぐに向かう。」

 

そう伝えると、上空から複数のプロペラの音が聞こえ始めた。

 

音が収まったかと思うと、防壁の前で停止し、今度はハイドラ70ロケット弾ポッドが火を噴き、防壁上にある戦略兵器を解体していった。

 

「いいぞ!もっとやれ!」

 

機甲師団の兵士達は、AH-64Dの活躍に興奮していた。

 

「俺たちも負けてはいられないな。」

 

「よし、おいしいとこを奪うなよ空軍。」

 

そう戦車兵が言うと、車列は門へと進軍を再開した。

 

第二防壁の硬い門は、AH-64Dによる航空支援によって破壊されており、車列は堂々と主要道路を通ることができた。

 

すると前方から、隊列を組んだ魔術師や召喚魔術師が並んでいるのが見えた。

 

「流石ホルムストール、魔術師の数だけは負けていないな。」

 

そう言うと、敵の防衛隊列の奥から突如、眩しい光りと一緒に巨大な何かが現れる。

 

「うぐっ!何だあれは!?」

 

前方を確認すると、石で作られた巨人がこちらを睨んでいた。

 

「ゴーレムか...」

 

すると、砲手はすぐさまゴーレムにむけてAPFSDS弾が発射される。

 

APFSDS弾は装甲貫通に特化した弾頭だが、ゴーレムに着弾して貫通すると思いきや、貫通せず、逆にゴーレムの喧嘩を買ってしまう。

 

「チッ、なかなかしぶといな」

 

そう判断した装填手は、榴弾を装填し、すぐに榴弾を発射した。

 

今度はダメージを喰らわせたので、ゴーレムは榴弾の爆発によってゆっくり倒れる。

 

すると今度は残った魔術師からの攻撃魔法の一斉攻撃が始まる。

 

「そんなんで俺らは潰せねえよ!」

 

それに応じて、戦車や装甲車にある車載機関銃が火を噴き、魔術師達の体に穴を開けていき、血飛沫を上げていく。

 

「よし、このまま進むぞ!」

 

そう判断した車長は、魔術師が倒れこんでいる目の前を進み始める。

 

それと同時に兵士を乗せた装甲車のドアが開き、 一気に降車した兵士達は市街地全域をカバーするように各方向に動きだす。

 

運悪く戦車や装甲車の無限軌道に踏まれた者は、形容しがたい苦しみや痛みで悲鳴を喚き散らし、その声は車内にまでも聞こえてきた。

 

「こりゃ掃除が大変になるな。」

 

そう車長がふざけるていると、中心部の広場へと続く階段から、軍から支給された剣を持った民兵達がこちらへと突撃してきた。

 

「残りの敵軍はそれしかないのか?」

 

戦車兵がそう言いながらも、車載機関銃であっという間に民兵達はその場で倒れる。

 

「車長、恐らくここにいる敵軍は制圧したのでは?」

 

「どうやらそうみたいだな。」

 

そう言うと、M1エイブラムス戦車のキューポラから車長が上半身を出して、周囲を双眼鏡で見渡した。

 

「車長、辺りの光景はどうでしょうか?」

 

「そうだな、全体的に見えるのは死体しかない。もはや死体なのかどうかすら見当がつかんものまである。」

 

そう言うと、車長の無線から連絡が入った。

 

「こちら歩兵部隊、確認したところ、ダレスチェにいる敵兵は全滅し、制圧したことを確認した。これより広場へと合流する。」

 

「こちら機甲師団了解、広場で落ち合おう。」

 

そう言い終えると、車長はキューポラを閉め、広場へと続く階段を他の戦車と共に向かった。

 

その後NATO軍の兵士達は広場で仲間同士お酒を酌み交わし、タバコをふかしたりして、この戦いでの疲れやストレスを消していった。

 

この攻略戦によって、オーラウト-NATO軍は敵の物資や施設を確保することが出来たので、付近に戦略的に重要な施設は無くなり、前線近くのホルムストール軍の半分は聖地の防衛のために移動しなければいけなかった。

 

だが、ホルムストール軍の大部分を防衛に当てた聖地が、数日後には火の海になることをまだ知らなかった。

 

 

ーアメリカ合衆国 ホワイトハウスー

 

その日の夜、アメリカ合衆国のホワイトハウスては、大統領は戦争がすぐにでも終わるように祈っていた。

 

するとスコット副大統領がドアを開ける。

 

「大統領、ホルムストール教国との戦況報告をしますけど、よろしいでしょうか?」

 

「ああ、別に構わない。」

 

そう言うと、副大統領はタブレットを大統領に見せた。

 

「現在陸軍と空軍による活躍によって、友好国のオーラウト王国の元国境まで押し返すことができ、さらには戦線付近にある城塞都市の攻略に成功し、ホルムストール軍のほとんどは聖地の防衛に回っています。」

 

大統領はタブレットを真剣な表情で見つめる。

 

「ですが、ホルムストール教国には多くの主要都市があり、それらを現兵力のみで全て攻略するのには約2カ月はかかるでしょう。」

 

そう言うと、大統領はいきなり口を止めさせる。

 

「待て、さっき全て攻略するには2カ月はかかると言ったか?」

 

「はい、そうですがなにか?」

 

すると大統領は、副大統領を驚かす発言をする。

 

核ミサイルを使用するというのはどうだろうか?」

 

そう発言すると、副大統領は少し嫌な予感を感じた。

 

「い...いい案ですが...核ミサイルを使うというのは少しリスクが高いのでは...?」

 

「どういうことだ?」

 

「要は、核ミサイルを発射したことが他の人に知れ渡ると、世論から批判を受けることになります。」

 

「そうなるかも知れない、だが早いうちに終わらさければ。我が国は他の同盟国の援助をも借りて戦争しているのだ、どの国も本来なら戦争に参加はしたくないものだし、出来れば戦争に巻き込まれたくはない。」

 

「な...なるほど、了解しました。ではどこから発射しますか?潜水艦からの攻撃が陰密性が高いですが...」

 

「それにしてくれ。」

 

「了解しました。明日の夜までにはオハイオ級原子力潜水艦一隻を大西洋に派遣し、そこから、複数個別誘導再突入体を搭載したトライデント-IIを一発のみ発射するよう海軍に通達します。」

 

「了解した。」

 

そう言って副大統領は退出しようと思ったが、大統領はなにかを忘れたのかまた呼び出す。

 

「すまない、もう1つあった。この事はオーラウトにいるNATO軍にも伝えておけ。」

 

「はっ。」

 

そう言うと、副大統領は通達するために退出した。

 

 




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次回はいよいよ核ミサイルがホルムストールに落ちます!


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第21話 宗教国家の終焉

結構書きました。

たぶん書いた中では最多だと思います...


2036年1月9日午前9時頃

ーホルムストール教国 城塞都市ダレスチェ オーラウト-NATO軍前線司令部ー

 

あの大統領が、ホルムストール教国の主要都市に対する核攻撃の許可が出てから半日が経過した。

 

前線近くにある占領した城塞都市、ダレスチェにある広場を利用した前線司令部では、軍の高官が各分隊の分隊長を集め、重要な連絡が伝達されている。

 

ここには、カーソンが所属するオスカー分隊の分隊長グレイソンも連絡を聞いていた。

 

「────という訳だ、この事は分隊に所属する兵士全員にしっかり通達しなければならない。もし君達が連絡事項の1つでも何かしらの不備があれば、その翌日から諸君らを軍人という職から解雇処分する。いいな?」

 

「イエッサー!」

 

分隊長らは、まったく予想にもしなかった連絡に本心は疑っていたが、疑っても結局は連絡しなければならないので、その内容を熱心に聞いていたのだ。

 

とはいっても、まさか大統領があんな選択するものかと、NATO軍の大方の予想を覆すものだった。

 

そう思いながらも、分隊長たちは所属する兵士に連絡すべく、早足で自分らがいるところへと移動した。

 

ーNATO軍のテントがある広場にてー

 

その頃カーソンは、広場にある銅像前で分隊の仲間と楽しく会話していた。

 

「おいお前ら、いきなりだが、どっちを聞きたい?良いニュースか?それとも悪いニュース?」

 

いきなり話に割り込んできたグレイソンにカーソンは少し返事に戸惑ったが、良いニュースからまず聞くことにする。

 

「えっと...良い方からで。」

 

「良い方か?もうすぐでここでの戦争が終わることだ。」

 

「では悪い方は?」

 

「それを終わらすために核ミサイルを使うということが大統領によって決まったことだ。」

 

そうグレイソンが普通に言うと、カーソンは予想にもしなかった事に頭が混乱していた。

 

「へ...?今、核ミサイルって言いましたか?」

 

「そうだが何か?」

 

「い...いえ何も。」

 

カーソンは自分の聞き間違いなのではないかと思ってグレイソンに確認すると、普通に言っていたのでホッとしたのだが、核ミサイルを使うとは全く思いもしなかったので、カーソンは嫌な予感を感じていた。

 

「ならいい、その核ミサイルのことなんだが、どうやら海軍の潜水艦から一発だけ発射されて、そこから敵国の主要都市にばらまくという計画らしいそうだ。まあどのみち、俺らが活躍の場を見せつけれるのはミサイルが敵国に落ちて数日後なんだがな。」

 

グレイソンがそう言うと突然、別の分隊長からガスマスクが支給される。

 

「おいグレイソン、至急品のガスマスクだ。」

 

「おお、ありがとうな。」

 

そうガスマスクを手に取ると、グレイソンはカーソンに配りながら話を続ける。

 

「いいかお前ら、俺達は核ミサイルが発射した時から、主要都市の放射能が少なくなるまでの間は、ほんの少しだが平和な休日が過ごせる。だが放射能の数値が0だと分かった瞬間からすぐに連絡が来る、だからいつでも出撃ができるようにしておけ。いいな?」

 

「分かっていますよ分隊長。俺らはいつ戦ってもいいようにしっかりと訓練されていますから。」

 

「そうか、まあ少ししかない休日だ、一日を無駄にするなよ。」

 

「了解です。」

 

そう言うとカーソン達はさっきまでの会話に戻り、グレイソンは分隊長の集まりに参加してパーティーをすることになる。

 

 

同年1月10日午前6時前

ーオーラウト王国 ユトラータ港近海にてー

 

太陽が水平線から上り始め、少しずつ明るくなってきているこの時間、ユトラータ港近海の水面からは、アメリカ海軍所属のオハイオ級原子力潜水艦が、複数の核弾頭を搭載したトライデント-IIの発射準備をしていた。

 

潜水艦内は、発射に備えて最終確認が行われていた。

 

この潜水艦の艦長であるデイヴィスは、敵国に対する核ミサイルの実戦使用に気分が上がっていた。

 

彼は攻撃目標地点の市街地を見ていると、報告をしに来た船員が近くに来る。

 

「艦長、核ミサイル発射まであと3分を切りました。現在ミサイルは発射準備段階に入っており、午前6時には発射され、午前8時までには各主要都市に核弾頭が着弾する予定です。」

 

そう聞くとデイヴィスは、船員に対して冷静に言う。

 

「ほう、やっとあのおかしな宗教国家に爆風と放射能のプレゼントが出来るから気分が上がるよ。」

 

「そうですね、ここのところ最近ホルムストールが大陸を暴れていましたから、天罰を下すのには絶好のタイミングです。」

 

「だな、あいつらは俺達と同盟を結んでいるオーラウトに喧嘩を売るという時点で負けは確実だということを分かってなかったからな。」

 

デイヴィスは、宗教国家に対する核ミサイルの使用に最初から賛成していたのだ。

 

そのためか、普通の任務時よりもかなり気合いが入っており、船員は少し彼に引いていた。

 

「艦長、ミサイル発射まで残り1分を切りました。早く指揮室に行かないといけませんが...」

 

「そうだな、そろそろ行くとするか。」

 

そうデイヴィスが言うと、報告をしに来た船員と一緒に指揮室へと向かっていった。

 

指揮室内は、かなりの船員が集まっていて、ほとんどがミサイル打ち上げを見に来ており、一部のモニターにはベイト・カーメル含め攻撃予定の主要都市、8都市がモニターに映っていた。

 

「ミサイル発射まであと30秒!」

 

そう船員が声を大きく言う。

 

「いよいよだな。」

 

「そうですね、今私は、歴史の転換点にいるような気分です」

 

そう言うと、艦長は静かにミサイル発射をモニターから見守る。

 

「発射まで10秒!9 8 7 6」

 

「5 4 3 2 1 発射!」

 

発射と言ったのと同時に、潜水艦発射弾道ミサイル・ハッチが開き、トライデント-IIが発射された。

 

トライデント-IIは高圧蒸気を出しながら海面から出て、その後すぐに3段式ロケットの1段目が点火し、予定通りの流れに入ることができた。

 

「1段目ロケット点火を確認!敵国の方角へと移動を確認!」

 

そう船員が言うと、ミサイルは順調に敵国ホルムストールの方角へと向かって飛んでいく。

 

発射されて1分が経過すると、ミサイルは高度が約1000キロメートル上空に達していた。

 

「2段目分離!3段目着火!」

 

この報告を聞くにつれて、デイヴィスは段々と笑顔になってきていた。

 

(早く着弾してくれないだろうか...)

 

このあとミサイルは、幾度か軌道修正を行い、ミサイルはホルムストール教国の領土上空約1000キロに入った頃には数十分が経過していた。

 

「予定の軌道に投入を確認、これより、8個の核弾頭を主要都市に投下する。」

 

そう言うと同時に、ミサイルから8個の核弾頭が切り離され、それぞれ別方向にある都市へと投下した。

 

そして、ホルムストール教国にとって地獄の時間は、今まさに始まろうとしていたことは知る由もなかった。

 

 

ー同日午前7時半 ホルムストール教国 聖地ベイト・カーメル 住宅街地区ー

 

これから晴れのち爆風に変わるホルムストール教国の聖地ベイト・カーメルでは、在住する軍人から住民まで、仕事や学校の準備をしていた。

 

その住宅街にある家には、とある一人の男が教国のために魔法学校に通っていた。

 

「さてと、早く行かないと待ち合わせに遅れてしまう...」

 

そう言いながら彼は、家の扉を素早く開けては閉めた後、待ち合わせ場所へと足を速める。

 

その男の名前は、テランス・ツヴァイン。髪色は赤色、瞳は水色をしており、愛称をテランと呼ばれている。

 

テランは真面目で、他の魔法学校生に比べると魔術の上達速度がかなり早く、周囲からは百年に一人の逸材と呼ばれているが、ただひとつ『ツキがない』という欠点があった。

 

なにしろ最初の魔法修得の際に事件を起こすほどで、これまでに十数回も事件を経験し、魔術学校近くの街が巻き込まれるような事件を起こすことがあるくらいだ。

 

そんな彼も魔術に関しては優秀ということに変わりはなく、彼は他の魔法学校生に魔法の修得方法を教えているのだ。

 

足を速めていた彼は、近くに停まっていた馬車で移動することにする。

 

「あのすみません、ちょっと市場が行われている所までお願いできますか?」

 

「ああ市場ね、いいぞ、さあ乗れ。」

 

たまたまその馬車の馬を操る人が優しかったので、テランはすぐに馬車に乗り、馬車は市場が開かれている所まで移動をする。

 

「君は魔法学校生なのか?」

 

「はい、そうです。」

 

「広場で待ち合わせしているのか?」

 

「はい。」

 

「そうか。」

 

テランと馬車の馬を動かす人との短い会話が終わると、数十秒後には市場前には到着していた。

 

「ありがとうございます。」

 

そう言うとテランは、馬を動かす人に銅貨10枚を渡して、待ち合わせ場所へと一目散に向かった。

 

ここはフロイント2世の名がつく広場であり、宮殿からすこし離れた所にあるフロイント広場には、一定期間に開催される市場で人が多く、ここの住民は待ち合わせの際、巨大なフロイント2世の像を目印に集まっているのだ。

 

テランも同様フロイント2世の銅像前を探索していると、誰かが遠くからテランに声をかけてくる。

 

「おいテラン!こっちだ!」

 

声をかけてきたのは、髪色が茶色の男だ。

 

「よお、フレーゲス遅れてすまない!」

 

「テラン、相変わらずの遅刻だな。」

 

「わりぃ、ちょっと道が混んでてな。」

 

「ああそうかい、じゃあ行くぞ。」

 

そうフレーゲスが言うと、魔法学校方面へと向かって歩き始める。

 

今テランがいる地点と魔法学校までは歩けば3分で着くので、二人は余裕そうに呑気な会話をしていた。

 

「テラン、今日は魔法修得の試験だぞ、くれぐれも事故らないようにしとけよ、ツキがない人。」

 

「ツキが無くて悪かったな。でも俺のほうが上達のスピードでは誰よりも勝っているぜ。」

 

フレーゲスがそう警告するが、テランの返しにフレーゲスはムキになる。

 

「あのな、上達のスピードが早けりゃいいってもんじゃないんだぞ。」

 

「はいはい、それは分かってますよ。」

 

といった会話が学校の門に着いてからも続いていた。

 

門前では、たくさんの魔術学校生が椅子に座りながら会話したり、それぞれの魔法学校生が技を競いあったりしている。

 

「今日も刺激的な一日が始まりそうだよ。」

 

そうテランが何気なく言うが、このあと本当に()()()()()()を迎えるとは知らなかった。

 

魔法学校の門をくぐり抜けると、テランはふと空を見上げる。

 

空を見上げると、遠くからなにか光っているのが見えた。

 

「おいフレーゲス、空からこっちに向かって光るなにかが見えるんだが...」

 

「なんだよそれ、どうせお前の幻覚だ......え?」

 

フレーゲスも空を見上げると、確かに光るなにかがこっちに向かっているのが見える。

 

付近の魔法学校生や住民も、その光に気づき、空を見上げる。

 

「何だよあれ?」

 

「なんか不吉な予感がするけど...」

 

「神がこの世に降臨したのか?」

 

魔法学校生や住民が一人一人不安を口にする。

 

だが見ているうちに、光るなにかは魔法学校を通過しそうで、付近の人々は光るなにかに目を追う。

 

そして魔法学校の上空を光るなにかが通過した。

 

その速度はかなり速く、あっという間に魔法学校を通過し、ついにはホルムストール教国の政治の中心である宮殿の近くまで飛んでいた。

 

だがそこでテランは、あることに気付く。それは、あの光るなにかは宮殿近くに目掛けて少しずつ高度が下がっていることを。

 

「おい、まさかオーラウトが開発した兵器じゃないよな?」

 

テランはそう口に出すが、フレーゲスには聞こえなかった。

 

そして次の瞬間、光るなにかは、いきなりピカッと眩しくなり、あまりにも眩しくて人々は目を手で覆う。

 

数秒経つと、眩しくなくなったので手を広げると、そこには見たこともない巨大なキノコ雲が上っていた。

 

すると、すぐ近くで雷が落ちたような轟音が鳴り、人々はパニック状態になった。

 

「う、うわあああああ!!!隠れろおおお!!!」

 

一人の住民がそう叫ぶと、人々はすぐさま近くの建物に隠れ、住民は開けていた木の扉をすぐに閉め、魔法学校生も学校へと逃げ始める。

 

「お、おい俺らも隠れるぞ!」

 

テランがそう言うと、テラン達は魔法学校生達と一緒に学校へと逃げ始める。

 

すると後ろから、熱い風がものすごい勢いで建物を破壊し始め、周囲に瓦礫が散乱する。

 

それと同時にテラン達魔法学校生も熱い風に吹き飛ばされ、かなり熱いのを感じたのを最後に衝撃で気を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う......いてぇ......」

 

あの爆発から約30分が経過していた。テランは気が復活したが、あの衝撃の痛みはまだ少し感じていた。

 

彼は、核弾頭の爆風によって魔法学校の瓦礫の下敷きになっており、足をかなりケガしていた。

 

「フレーゲスのやつはどこに行ったんだ?」

 

そう言うとテランは、上達したばかりの風魔法を起こして瓦礫を飛ばし、瓦礫から出るとケガをしている足部分に治癒魔法をかける。

 

「ふぅ......これで大丈夫だな...」

 

そう安心すると、近くに下半身がえぐれている人の死体があるのを見つける。

 

「...あれ?もしかしてフレーゲスじゃね...?」

 

そう言うと、その死体に近づいて確かめる。

 

死体をよくみると、顔は分かるが、皮膚はかなり火傷をしていて、服はボロボロ、腕は爆風と熱による影響で赤黒くなっており、見るだけでも痛く感じる。

 

「お......おい嘘だろ...俺の友が...まさかこんな目に遭うなんて......」

 

テランはあまりにも突然な友との別れに、涙を隠せず、死んだフレーゲスの前ですすり泣いた。

 

アメリカ軍による核ミサイルの実戦使用によって、聖地ベイト・カーメル含め8つの都市が復旧困難なダメージをくらってしまい、結果的に数百万人の住民や兵士が死亡した。その中には、教皇のフロイント2世や、ホルムストールに味方したオーラウト人も含まれていた。

 

その影響で、ホルムストール教国は無政府状態になり、ソヌヴァ戦線は圧倒的にソヌヴァ連邦が有利になり、戦争中の間停滞していた神聖タルガリア戦線も動き始めたのだった。

 

 

同日午後12時頃

ーアメリカ合衆国 ホワイトハウスー

 

核ミサイルが実戦運用されておよそ5時間が経過した頃、ホワイトハウスでは大統領が核ミサイルの報告を静かに待っていた。

 

「失礼します大統領。」

 

そう言いながら入ってきたのは副大統領だった。

 

「はぁ...何だ君か。驚かさないでくれ。」

 

「すみません。」

 

「まあいい、核ミサイルの戦果を教えてくれ。」

 

「はっ、今回ホルムストール教国にある8つの主要都市を核ミサイルによって攻撃しました。その結果、聖地ベイト・カーメルの建物の過半数が破壊あるいは半壊しており、死亡者数は合計しておよそ920万人と推定されています。」

 

副大統領は報告を続ける。

 

「ですが、我々の核攻撃によって教国は無政府状態になっており、降伏文書に調印してくれるかどうかはわかりません。」

 

「まあいい戦果じゃないか。せっかく厄介な国を無政府状態にすることが出来たんだ、さあ飲め。」

 

大統領がワイングラスを副大統領に差し上げた。

 

「はい、では喜んで。」

 

 

 

「アメリカ合衆国に万歳!」

 

そうワイングラスを乾杯しながらホワイトハウスは戦勝を祝った。

 




もしよろしければ感想や評価をお願いします

次回は降伏した後の話を書く予定です。


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第22話 大陸戦争の終結

投稿がかなり遅れてしまって申し訳ありません

駄文展開ですのでご了承を。


2036年1月12日午前8時

ーホルムストール教国 聖地ベイト・カーメル 主要道路にてー

 

アメリカ軍の核ミサイル攻撃によって荒廃した都市、ベイト・カーメル。

 

この都市にはホルムストール教国の主要都市としての意味は失い、辺りは家屋の瓦礫しかなく、所々に散らばる死体かどうか分からない肉塊、象徴的存在の宮殿は柱の一部分が飛ばされており、今までの賑やかさとはまるで嘘みたいだ。

 

核弾頭がこの地に着弾して以来、空は黒い雨を降らす雲によって支配されていたが、その雨も止み、今日は所々に雲があるが晴れている。

 

そんなベイト・カーメルでは、瓦礫が散らばり、家屋の跡地が目立つ主要道路に、ベージュ色や灰色の軍用車両が車列をなしてで進んでおり、それに乗る兵士達の顔はガスマスクに被われている。

 

そう、NATO軍とオーラウト陸軍がベイト・カーメルの被害状況を確認しに訪れたのだ。

 

すると1台の装甲車両から一人の男が窓から顔を出して、周囲の被害状況を確認している。

 

顔を出しているのは、オスカー分隊長のグレイソンで、その装甲車はオスカー分隊の兵士全員が乗っている。

 

「これは酷いな...まるで砂漠だ......どこを見渡しても家屋はまったく見当たらない。いくら大統領もさすがにやり過ぎじゃないか?」

 

そう言うとカーソンが返答する。

 

「ここにいる誰もがそう思っていますよ、もう少しマシな終わり方があったろうにって。」

 

「だろうな。俺は長い間軍人として戦場に赴いてきたが、こんな酷い有り様は初めてだ。むしろこれ以上のものは、どこを探してもないんじゃないのか?」

 

そうグレイソンが言うと、前方からなにやら巨大な建物が見えてきた。

 

「...ん?何だあの神殿は?」

 

グレイソンは見たこともない巨大な神殿に首をかしげる。

 

「あれですか?オーラウト兵によると、どうやらあの神殿は、我々で言うホワイトハウスみたいなところらしいそうです。」

 

「そうなのか。にしては巨大すぎる...」

 

グレイソンはあまりにも巨大すぎる神殿に目を奪われる。

 

しばらくすると、車列は宮殿のエントランスらしき所で止まり、それに気づいたのか一気に兵士達が降車し、宮殿のエントランス前に入る。

 

宮殿の中は核攻撃によって少し天井に穴があるが、それ以外は大した被害ではなかった。

 

するとカーソンが近くの仲間に話しかける。

 

「なあ、俺らの核ミサイルでも吹き飛ばされなかったのはすごいと思うのは俺だけか?」

 

「いいや、俺も同じことを思ってたよ。」

 

「おいお前ら、今回やる調査の内容を手短に伝えるから静かにしろ。」

 

そうグレイソンが間入りすると二人はすぐに黙った。

 

「いいか?俺らはここ周辺の被害状況を確認するために調査しに来た。もし生存者がいれば、すぐに俺に報告してくれ。いいな?」

 

「イエッサー」

 

そう静かに返事をすると、分隊は宮殿を出て、周辺を調査し始める。

 

分隊は主に主要通りとは違う通りを調査していて、ここも相変わらず瓦礫とやらが散乱していた。

 

「ていうか、こんな更地に生存者なんているはずがないだろ。」

 

「ああ、正直言ってここを探索したってなんの成果にもならないってのによ。」

 

そうカーソンと兵士がブツブツ言いながら周囲を探索しているが、どこを見ても何も無さすぎて違う通りを探している別の分隊が見えるほどだ。

 

「うむ...どうやらここに生存者はいないようだな...。」

 

そうグレイソンが見渡して断言すると、カーソンが何かを見つけたのか、突如声を出して指さした。

 

「分隊長!あっちに人影が見えます!」

 

「何だと!どこにいる!?」

 

グレイソンがカーソンの指さした方向を見ると、そこには一人の人間が途方に暮れながら歩いているのが見えた。

 

するとグレイソンは無線を手に取り、生存者を発見したことを報告する。

 

「こちらオスカー分隊、探索中に生存者と思しき人間を発見した。至急応援をお願いする。場所は宮殿前の通りだ。」

 

「こちらフレディ分隊了解、直ちに現場に向かう。」

 

そう無線で連絡を取ると、右側から数人の分隊が加わってきた。

 

「よし、今から生存者にコンタクトを取る。もし生存者が暴れたら射殺しても構わない。いいな?」

 

そうグレイソンが部下に命令すると、聞こえないように小声で返事をする。

 

「了解です。」

 

そう言うとグレイソンと部下の二人の兵士は生存者にコンタクトを試みる。

 

近づいてみると、その生存者は少し背が低く少女で、髪色はちょっと分からないが少し長かった。

 

すると生存者は、瓦礫の上で突如座りこんだ。二人の兵士は心配して、先にコンタクトしようと話そうとすると、言う前に生存者から言葉が出てきた。

 

「.........ずが...い」

 

「え?何て言ってるんだ?」

 

「みず...が...ほし...い」

 

そう聞こえたのでグレイソンは、軍用の飲料水を生存者の口につけて飲ませる。

 

「よし、これで大丈夫だろう。」

 

「分隊長、この生存者はどうしますか?」

 

「とりあえず名前は聞かないとな。軍に報告する際、名前が分からなかったら話にならないだろ。」

 

そう部下に言うと、グレイソンは近寄って名前を聞き始める。

 

「やあ、君はなんて名前なのかな?」

 

そうグレイソンがいつもとは優しい口調で話の話題を作ると、答えが返ってきた。

 

「私...ラジェナって...いうの。」

 

「ラジェナか...いい名前だね。」

 

そう言うとグレイソンは、話の話題をすぐに変える。

 

「君は元気がないね、俺たち仲間と一緒に来るかい?」

 

「う...うん。」

 

そう首を縦に振りながら言うと、グレイソンは自分の軍用飯とスプーンをラジェナに1個渡した。

 

「ほら、これでも食べて元気だせ。」

 

そう言うと、ラジェナは恐る恐る中身を開けると、手渡されたスプーンで軍用飯を食べ始めた。

 

「分隊長、本当に連れて行くんですか?」

 

兵士の1人が分隊長に確認をする。

 

「仕方ないだろ、生存者は出来るだけ生かしておかないと、逆にこっちが悪者扱いされるぞ。」

 

「はいはい、分隊長が言うなら仕方ないですね。」

 

そう兵士が分隊長の考えに同意すると、オスカー文隊一同とラジェナは、陸軍の兵員輸送車が駐車している宮殿前へと向かった。

 

陸軍の車輌が駐車している宮殿前の道路に到着すると、調査を終えた他の文隊が集まっており、中には廃墟となった宮殿内を記念に写真に収める者もいた。

 

オスカ一分隊とラジェナは車輌に乗ろうとすると、近くにある別の分隊長に声をかけられる。

 

「よおグレイソン、お前どうやら生存者を見つけたらしいそうだな。」

 

「ああそうだ。こいつはラジェナって名前だ。くれぐれも変な真似はしないでくれよ。」

 

「分かってるって。」

 

そう別の文隊長が言うと、ラジェナの頭を軽く撫で始める。

 

「ラジェナ...だったけ?俺はフランクリン、こいつの友達だ。これから宜しくな。」

 

そう言うとラジェナは、堅い口を少しだけ開けた。

 

「よ...よろしくお願いします。」

 

そうラジェナが言葉を返すと、フランクリンは彼女の手にチョコレート数粒を渡した。

 

ラジェナは、軍人から渡された、丸くてカラフルな色の何かが一体どんなものか気になっていた。

 

「あの...これは一体何です...?」

 

そうラジェナが不思議そうに見て言うと、フランクリンは答えた。

 

「ああこれか?そいつは『チョコレート』っていうやつだ。とても甘いぞ。」

 

チョコレートという初めて聞く単語に、ラジェナは更に謎が深まった。

 

試しにそのチョコレートを口に入れてみると、噛むと同時に甘みが口に広がってきて、彼女の少しの空腹感を満たす。

 

「どうだ、美味いだろ?」

 

「は...はい...とても美味しいです。」

 

「もっと欲しければあげるぞ、どうだ?」

 

「い...いえ... もう充分です。」

 

そういった和やかな会話はベイト・カーメルから撤退するまで続いた。

 

同日午前11時半

ーオーラウト王国 王都ゼフテート 王城前通りにてー

 

オスカー分隊が、ベイト・カーメルで生存者のラジェナと会話していた頃、王都ゼフテートにある王城前通りでは、数ヶ月の間工事していたゼフテート地下鉄の完成式典と同時に、国際会議場の完成式典が開かれていた。

 

ここの通りは元々、王城の景観を損なうので、あまり高い建造物が無かったが、国王がアメリカが考案した都市開発計画に同意してくれたので、開発区域の建物を全て解体し、建設が始まったのだ。

 

周辺の建物は以前に比べ、現代的な超高層ビル群が目立っており、その中にある国王の名が由来の『ローレン・センター』は、異世界では最高峰の462mという驚異な高さだ。

 

その通りにある地下鉄駅、ゼフテート・シティ駅では、完成した地下鉄を一目見ようと大勢の住民が訪れていた。

 

そんな駅前の混雑から少し離れた場所に、国王ローレン5世とその護衛が王城の外から眺めていていた。

 

すると国王は、アメリカから輸入したコーヒーを飲み始める。

 

「うむ...とてもよい眺めだ。まさかアメリカの都市開発でここまで発展するとは予想にもしなかった。」

 

「ええ、まったくです。今回の戦争での勝利に、王都の都市開発、さらに夢を見ているようなくらいの建造物の高さ...アメリカはこの世界の列強国にも対抗出来るくらいの国力を確実に持っているでしょう。」

 

この世界には、まだその大陸にどんな国があるのかが未解明の大陸が、解明されたのと比べても数多くある。

 

その大陸の一部には、周辺諸国を圧倒するような経済力、技術力、知能、そして軍事力に富んだ、『列強国』という立場が存在する。

 

この列強国という立場の国は共通して、周辺諸国を見下す傾向がある。そのため、その国と外交する際、威圧的な態度を取ることもおかしくないのだ。これは植民地時代の欧米諸国と変わらないレベルだが、列強国がその国と戦争になったときに、その飛び火が付近に広がり、戦争が長期化するのだ。だからこの世界は戦争が絶え間なく続くのだ。

 

「そうだな...だが恐ろしいのは、アメリカだけじゃなく、他の国もこの世界の列強国に対抗できる力を持っている国があるって大統領から聞いたくらいだ。考えるだけでも恐ろしいよ...」

 

「ええ、その国も...アメリカみたいな友好的な国だといいですが......」

 

「そうだな...アメリカによれば、その国はここの大陸から海を超えてかなり離れているらしいのだ、だからあの国の政治家にはあまり注目されていないそうだ。まあ例えその国が列強国みたいな態度の大きい国だとしても心配することはないのだが。」

 

国王はゆっくりとコーヒーを飲み干す。

 

「さてと、もうすぐで昼食の時間だ。そろそろ戻らねば。」

 

そう言うと、国王と護衛達は王城内へと戻った。

 

 

同日午後1時頃

ーリミー王国 王都リミアー

 

オーラウト王国が属する大陸から180キロ離れた少し南西に位置する島、リリア島。この島は、クレタ島より少し大きいくらいだが、冬でも少し温暖で、夏になると大陸に住む人間が観光目的で来たりするのだ。

 

そんな島には、たった1つの王国があった。

 

リミー王国。この国は異世界では数少ない、人間が統治していない国だ。

 

面積はリリア島全般を領土としており、この島に住んでいる9割が猫人族なのだ。

 

元々この王国の種族は猫人族だけなので団結力が高く、全盛期には大陸まで勢力圏を拡大していったが、その後の人間の技術発達と魔術発達により島へと押し返され、現在は大陸にある周辺諸国と仲を保っている。

 

そんな王国の王都リミアにある、女王が住む城のある部屋には、諜報員が集合していた。

 

そこには大陸で情報収集していた諜報員達と、女王アネレア4世が集まっていた。

 

「ではこれより、大陸の政治状況の報告を始める。各諜報員は、大陸で収集した情報を一人ずつ報告するように。」

 

女王の言葉で、閣僚達の顔は引き締まる。

 

「まずは、ソヌヴァ連邦に赴いていた者から聞こう。」

 

「はっ、ソヌヴァ連邦の近況を報告します。ソヌヴァ連邦は...」

 

このような近況報告が続き、最後のオーラウト王国担当の出番が来る。

 

「では最後に、オーラウト王国担当に聞こう。」

 

「はっ、オーラウト王国の近況を報告します。オーラウト王国は、ホルムストール教国との戦争中、アメリカ、イギリスが中心の同盟国が参戦し、戦局が逆転、更に教国の都市に同盟国が巨大な爆裂魔法を使用したのを確認しました。これは教国を担当していた諜報員も見たと言っています。」

 

オーラウト王国担当の諜報員が報告すると、辺りはざわつき始める。

 

「静粛に!ホルムストール担当はどうだ?」

 

「はい、私はその爆裂魔法の範囲から離れていたので助かりましたが、その爆裂魔法は突如近くに雷が落ちたかのような音を出し、しばらくすると、教国の聖地の方角に巨大な雲が見えたんです。恐らくこの魔法は列強国でも開発したことがないと推測します。」

 

そう言うと、部屋はまたざわつき始めた。

 

「静粛に!静粛に!つまりオーラウト王国の同盟国であるアメリカやイギリスは、我々の世界の列強を超える軍事力があるとでも言うのか?」

 

「はい、そうとしか言いようがないです。でないとあんな爆裂魔法はまず使えません。」

 

そう教国の担当者が女王に手で動作しながら話すと、女王は何かを考え始める。

 

(本当に列強国じゃないだろうか...いくら列強国があんな魔法が使えないだとしても、我々が知らないうちにその技術が開発されているのかもしれないはず......だが、ここでアメリカとやらの国と同盟を結ばなかったら、王国の技術力は大陸国家に追い付けなくなる...)

 

そう考えた女王は、考えた事を口に出した。

 

「ホルムストール担当が言いたい事は分かった。我々もアメリカやイギリスに同盟を結ばない事は、王国の発展を遅らせるに等しい。今後王国は、オーラウト王国の王都ゼフテートを経由し、アメリカの首都に向かい、外交を結ぶための使節団を送ることに決定する。だがもしアメリカが拒否すればイギリスに使節団を送る。異議はないか?」

 

「は...はい」

 

「分かった。ではこれにて報告会は閉幕する。今回の報告会によって、列強国を超える技術力の持ち主、アメリカとイギリスに国交を結ぶよう使節団を送ることに決定した。皆はアメリカと安全に国交成立するよう努めていただきたい。神よ、リミーの民を護り給え。」

 

「「「神よ、リミーの民を護り給え!」」」

 

報告会は、国のモットーで閉幕した。

 

 




もし宜しければ感想や評価をしていただけると励みになります。

次回は読者様お待ちかねの日本が、ちょっとですが登場する予定です。


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第23話 突如の来訪者と日本国を揺るがす事態

予告通りに日本国が登場します。

どうぞお楽しみください。


2036年1月21日午前7時頃

ーアメリカ合衆国 ホワイトハウスー

 

大陸戦争が終結してから約9日が経過した。

 

大陸戦争で、作戦報告などで日々忙しかったホワイトハウスは、終結してからすっかり今までの平和な日々が戻った。

 

「ふぁぁ......暇だな...」

 

ウォレス大統領は、大陸戦争が終結したことによって、対中国ロシア方面に軍の偵察を集中することが出来たが、その分時間をもて余していた。

 

すると、ドアノックが鳴り、ドアが開く。

 

「大統領、おはようございます。」

 

「やあ君か、おはよう。」

 

大統領の机へと向かうと、副大統領は大統領が座る机にコーヒーを置いた。

 

「いつもありがとうな。」

 

そう大統領が言うと、副大統領は近くの椅子に腰掛ける。

 

「大統領、あの戦争以来すっかり平和な日々になりましたね。」

 

「そうだな、平和になったから中国やロシアに目を向けれるのはいいが、なんか時間をもて余しているような気分だ。」

 

「ええ、こんなに平和な日々になると、やっぱり時間をもて余すので暇ですね。」

 

そう会話していると突然、ドアノックが鳴った。

 

「入ってよろしいでしょうか?」

 

その声は、合衆国国務省長官のアレクサンダー・フォルケンバーグだ。

 

「どうぞ、入れ。」

 

そう大統領が言うと国務省長官は部屋の中へと入った。

 

「大統領、突然ですがお話があります。副大統領もご一緒に。」

 

「わ...私もですか?」

 

「ええ、突然ですいませんが...」

 

そう言うと国務省長官は、タブレットを持ちながら説明を始める。

 

「本日の早朝、リミー王国と名乗る集団約10人が、我が国と国交を結びたいということで大統領に接触したいと言ってきました。そのリミー王国と名乗る集団ですが、見た感じは人間に見えますが...ちょっと信じられない内容となっております。」

 

「構わん、続けろ。」

 

「そのリミー王国の集団一人一人が、頭に猫耳が生えていて、更には猫の尻尾が生えているんです。」

 

人間なのに猫耳と尻尾が生えているというワードに、大統領一行は頭が混乱する。

 

「......は?、すまないがもう一回言ってくれないか?」

 

「頭に猫耳が生えていて、更には猫の尻尾も生えてるんです。」

 

「猫耳と尻尾?君の見間違えじゃないのか?」

 

大統領は疑い始める。

 

「そんな訳ないです。嘘だったら、私はわざわざ執務室に来てまでそんな嘘は吐きませんよ!」

 

「まあ落ち着け。やっぱり異世界の国のことだ、この目で見ないと分からないものだな...そういえばリミー王国という集団は現在何処にいる?」

 

「現在集団は外交官応接室にて待機させています。」

 

「そうか...スコット、交渉に行くぞ。何しろあっちが国交を結びたいと言っているんだ、こっちが行かなかったら失礼な態度をとることになる。」

 

「ですね。では行きましょう。」

 

そう副大統領が言うと、国務省長官と共に外交官応接室へと移動した。

 

 

同日午前7時半

ー外交官応接室 リミー王国使節団ー

 

その頃、リミー王国の使節団は、急遽用意した席に座って大統領が来るのを待っていた。

 

一人一人の顔は緊張しており、もし王国にとって不平等な条約を押し付けられても、それを受け入れる覚悟があった。

 

その中の一人、リミー王国使節団団長で女性のアネットは、16歳という若さで使節団に編入されたので、かなり緊張していた。

 

(ここに到着した時から思ったけど、正直列強の国でもここまで発展している国はないかも...)

 

大統領が来るのを待っていると、突然ドアが開いた。

 

すると、最初に入ってきた男が話し始める。

 

「使節団御一行様、まもなく大統領が入室します。」

 

そう言われたので使節団一同は皆気持ちを引き締める。

 

そして、大統領らしき人物が入室した。

 

「こんにちは使節団の皆様。私はアメリカ合衆国第48代目大統領のアンソニー・ウォレスと申します。この度は、はるばる遠くからおいでいただきありがとうございます。どうぞ気を休めてください。」

 

「こ...こちらこそ、貴国のお気遣いに感謝します。」

 

そう言うと、大統領は使節団の前に座った。

 

「あ...あの──」

 

「使節団の皆様は、我が国に国交を締結するためにここにいらっしゃった、間違いないですか?」

 

「は...はい...間違いないです。」

 

そう言うと、大統領は近くにいる男に紙をもらった。

 

「では、こちらの文書にサインをしてください。」

 

大統領は使節団団長の机に、事前に用意していた文書とペンを置く。

 

その文書には、大陸共通語でこう書かれていた。

 

【貴国は、我々アメリカ合衆国と正式に国交を締結し、貴国の防衛のために領土内の一部区間にアメリカ軍の駐屯基地を設置する事に同意する。尚、この文書に同意すれば、貴国に我が国のインフラを設けることを約束する。】

 

そうアネットがおおまかに見終えると、何か不可解なのか、困った顔をする。

 

(この文書...大陸共通語で書かれている...)

 

「すみません、ちょっとお時間頂けませんか?」

 

「はい、いいですが...」

 

するとアネットは、隣にいる男に小声で助けを求める。

 

「ねえ、これって何て読むの。私大陸共通語が読めないから代わりに読んでくれない?」

 

「お、おお分かったぞ。」

 

そう言うと男は、彼女に聞こえる程度の声で内容を伝える。

 

「そういうことね、分かった。」

 

するとアネットは、文書にあるサイン欄に、丁寧に文字を書く。

 

(やっとか......)

 

大統領は、使節団がやっと書き終えてくれたので、少しホっとした。

 

「では、使節団が文書にサインしていただきましたので、我が国との国交は正式に結ばれました。本日は遠くからおいでくださったので、さぞかしお疲れでしょう。本日は、我々が特別に使節団を宿泊できるホテルへとご案内します。」

 

その言葉に使節団一行は、頭が混乱する。

 

「あ...ありがとうございます。」

 

「そうですか。ではホテルへと向かう車に案内します。どうぞこちらへ。」

 

そう大統領が言うと、使節団一行は、ホワイトハウスの前に止まっている車へと向かう。

 

「大統領、こんなに接待して大丈夫なんですか?」

 

「まあいいじゃないか、遠くから来てるというのに宿泊できる場所が無かったら、疲れがとれないだろう。」

 

「まあ...そうですね...」

 

そう言うと大統領達は、仕事が終わったので執務室へと戻った。

 

 

同日午後10時前

ーアメリカ ワシントンD.C ポトマック川沿いにある高級ホテルにてー

 

このあと使節団一行は、ポトマック川沿いにある高級ホテルへと移動し、そこで長旅の疲れを癒していた。

 

そのホテルにある二人部屋の個室には、アネットと、使節団の仲間である女性がくつろいでいた。

 

「ふぁぁ...眠いなぁ...まさかこんな扱い受けるとは思わなかったよ。」

 

「それにしても、私達ってラッキーだよね。ベッドはふかふかで、ホテルの夜景は王国より綺麗、更に部屋は快適だし、なんか楽園にいるみたいよね。」

 

「本当よね。だって捻れば水が出るんだもの、こんな簡単に水が出るような機能が王国にもあれば、苦労はしないんだけどねぇ。」

 

そうアネットが言うと、仲間の女性が掛け時計を見る。

 

「もうこんな時間か...アネット、そろそろ寝ようか。」

 

「そうだね。」

 

「おやすみ。」

 

そう言うと、二人部屋の灯りは消灯した。

 

 

ーその日のアネットの日記にてー

 

私は、このアメリカという謎に満ちた国に訪れた。最初に上陸して思ったのは、あまりにも高い建物が多かったことでしかない。更にあの白い小さな宮殿みたいな所に到着するまで、辺りには謎の鉄塊がものすごい速さで動いてた。私達が住んでいる王国の移動手段である馬車よりかなり速い。しかも大統領という国家元首が、我々を敬うかのような口調で話し、ついでに我々を快適な宿場へと送ってくれた。私達猫人族は、普通は人間から見下されてもおかしくないというのに、こんな扱いを受けるのは生まれて初めてだ。

 

正直言って、こんなに文明が発達している国は、列強国でも無いかもしれない。私は、列強国を上回る技術力を持っている、アメリカという国と国交締結が出来た事に感謝している。

 

 

同年1月22日午前8時前

ー日本国 総理官邸ー

 

東アジアに属する、技術力が格段に高い国、日本。

 

この国は、アメリカとロシアに次いで異世界の国と接触し、その中で唯一異世界の国々との外交を多く築いており、いわば成功した国家なのだ。そのため、日本から東に2300キロ離れている『セクノラティア大陸』や、元々サイパン島があった地点に発見された、ニューギニア島の2倍くらいの面積の『ケレジウス大陸』といった所まで外交を結んだのだ。

 

日本は、2020年代末までに、自衛隊から国防軍に組織名を変更し、更に国防軍に正式に変更した後、対中国のための軍備拡張を行い、結果として、戦後日本が保有できなかった航空母艦であり原子力空母の『あしたか』が就航し、更には原子力潜水艦の『くろしお』形が就航。その規模はもはや、かつての大日本帝国海軍の復活そのものだった。

 

国防陸軍は、弾道ミサイル──JAXAのロケットを改造した物だが──を開発し、中国からいつ攻撃されてもいいような体制だった。

 

休日が終わり、これから通勤通学ラッシュで忙しくなり始める時間帯の東京。朝は寒く、人々は長袖のコートを着る姿が目立っている。

 

そんな東京にある、総理官邸の記者会見室には、朝にも関わらず大勢のマスコミ関係者がカメラを構えていた。

 

何故なら一昨日、マスコミ関係者に対して、政府から、重要な記者会見を行うと告知されてたので、これを聞いたマスコミはかなり早くからカメラをセットしていたためである。

 

マスコミ関係者は、官房長官が登場するのを今かと、首を長くして待っていた。

 

だが、記者会見開始予定時刻の午前8時を過ぎたが、まだ官房長官は出てこなかった。

 

そのせいなのか、一部のマスコミ関係者はあくびしながら待っていた。

 

すると1分後に、スーツに淡い青色のネクタイを着用した男が記者会見室に登場し、それと同時にカメラのフラッシュが瞬く間に点滅する。

 

彼は、官房長官の辻谷尚宏(つじたになおひろ)であり、総理大臣の堀谷隆太(ほりたにりゅうた)は現在国防省と会議をしているのだ。その顔は、敵地に足を踏み入れたような険しい顔をしていた。

 

マスコミ関係者は、よほど緊急かつ非常事態なのかと注目しており、これを見ていた視聴者もどんな事を発表するか注目していた。

 

そして、辻谷官房長官が発表の準備を整えると、マイクに向かって声を発する。

 

「ええ本日は、政府からの重要な会見に出席いただいた報道関係者の方々に感謝します。これは、内閣だけでなく、国民全員の脅威になりうる話でしょう。」

 

彼はマスコミに対する感謝と国民に対する注意の一言で会見が始まった。

 

「...では、本題へと移ります。我々は、一ヶ月前に国交を締結した、キルーシュカ魔法連合王国という名は、記憶に新しいかと思われます。この国も、我々と同じく転移国家ですが...一週間前に、キルーシュカ魔法連合王国が、我が国に宛てた手紙を送りました。外務省がその手紙の内容を読み、意味を解読した結果、キルーシュカ魔法連合王国が、我々日本国及び、ケレジウス大陸の国家に対して、宣戦布告してきた事を、国民の皆さまにお伝えします。」

 

そう真実を伝えると、一気にカメラのフラッシュが辻谷官房長官に向けられる。

 

そしてその記者会見を見ていた国民は、あまりにも唐突すぎる内容に、開いた口が塞がらなかった。

 

「現在我が国は、宣戦布告してきたキルーシュカ魔法連合王国に対して、外務省がこの状況を回避すべく、文通で和解を求めております。ですがキルーシュカからの返信はほとんどなく、これは完全なる戦時体制に入ったと言っても間違いないでしょう。国民の皆様、我が国と皆様の安全は必ずや我々が守ると約束しますのでご安心してください。」

 

そう言うとマスコミは本能を抑えきれず、ついに質問要求するように手を挙げ始めた。

 

辺りは「官房長官!」といった声が響いており、メディアから見ている者でも緊迫感が分かるくらいだ。

 

「ネット上での書き込みによると、転移したキルーシュカ魔法連合王国の超弩級戦艦が、日本国の海域に派遣されているとの憶測がありますが、それらは真実でしょうか?」

 

「現在それらに関することは何も情報はありません。」

 

すると別のマスコミ関係者が質問し始める。

 

「その魔法連合王国の戦争主導者はどうするつもりでしょうか?」

 

「ラフザーという名で知られるアクベンス13世という国王に関する情報の詳細は分かりませんが、早ければ居場所を突き止めてそのまま暗殺する方針です。」

 

そう言うと辻谷官房長官は、次の質問をするマスコミに指さしをする。

 

「キルーシュカ魔法連合王国が、魔法結界が張られている空飛ぶ空母を開発しているとの情報がありますが、それに国防軍はどう対応していくのですか?」

 

「対空能力がある兵器は出来るだけ戦地や航空機に配備し、更に魔法国家特有の防護結界があるだろうと推測されるので、仮に対空ミサイルが防護結界を貫かない場合は、対艦ミサイルを使用して対応します。」

 

そう答えると、更にマスコミの質問が増えており、官房長官は対応に追われていた。

 

「異世界外交の今後は?国交を結んでいる国々と協力したりしますか?」

 

「現在キルーシュカに近い大陸であるケレジウス大陸の一部国家に協力し、事態を収束させようと急いでいますが、今回の出来事によってどれくらいの被害が起こるかは分かりません。」

 

そう答えると辻谷官房長官は、退出する準備をし始めた。

 

「本日の記者会見及び質疑応答は以上になります。どうも、これで終わります。」

 

辻谷官房長官は、記者会見室を退出し始める。

 

「「「最後にもう1つ質問を!!」」」

 

そうマスコミ関係者が言うが、辻谷官房長官はそのまま退出した。

 

 




もし良ければ感想や評価をお願いします。

読者様、長らくお待たせしました。遂に日本国編が開幕します。

次回は恐らく会議だけになると思います。

何しろ日本国の政治に関する知識が乏しいので...


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第四章 転移国家の野望
第24話 国家安全保障会議の裏で...


2036年1月23日午前10時頃

ー日本国 総理官邸 大会議室ー

 

あの異例な記者会見から丸一日が経過した。

 

日本国内は、記者会見で発せられた宣戦布告というワードに全国が戦慄した。

 

SNS上では記者会見に関するツイートが多数のせられており、日本全国が混乱し恐怖感を味わっていた。

 

そのせいか、一部の自治体では戦争に備えてやたらと食料品や衣服等を安全な地下に蓄えるといった予想にもしなかった事態が発生している。

 

そんな混乱の最中、東京の総理官邸の前は、記者会見から翌日の今日でもマスコミが集っていた。

 

何故ならここ、総理官邸で、対異世界国家安全保障会議が現在行われているのだ。

 

この会議には、総理大臣の堀谷隆太や、官房長官の辻谷尚宏、外務大臣の切通優維(きりとおしゆい)、異世界開発庁長官の上津原寛典(うえつはらひろのり)、更には国防大臣の新塚達幸(にいづかたつゆき)の5つの行政機関が参加しており、その顔は、皆固い表情をしていた。

「それではただ今から、対異世界国家安全保障会議を開幕します。まずは国防大臣からご報告があります。」

 

会議の最初は、新塚国防大臣の報告から始まった。

 

「ええそれでは報告します。昨日の昼頃、ケレジウス大陸にある、キルーシュカ魔法連合王国に近い国の、アーテリカ王国から515キロ離れた海域を偵察飛行していたRF-4EJ偵察機の件ですが、報告によると、どうやら海上に巨大な船影が発見されており、更にそれより一回り小形な船影があったと報告されていました。」

 

国防大臣の話を聞いている者は、顔が強張りながら聞いている。そこに堀谷総理が口を出す。

 

「国防大臣、因みにその巨大な船影とやらの詳細を映した画像は残っているのか?」

 

「はい、こちらがその画像です。」

 

そうスクリーンに映し出された画像は、海面を割るかのように進んでいく船影が鮮明に映されている。これを見た総理や官房長官、そして他の大臣は幼児のように目を丸くしていた。

 

すると、国防大臣は、木で出来た船の甲板にズームインする。

 

「この船には共通して、砲塔が確認されていますが、ご覧のとおり4連装砲がついた砲塔が3つ搭載されています。しかも煙突らしき所からは、赤色の排煙が排出されているのが分かるかと思います。」

 

「4連装砲が3つ搭載してある船で赤色の排煙を出す船だと?そんな技術力がある異世界の国はあるわけがな......」

 

すると、総理大臣は何かを思い出したのか、いきなり考え事をする。

 

「...ん?もしやあいつらか!」

 

「総理、あいつらとはいったい何のことで...はっ!てことは...」

 

「そういうことだ、この巨大な船影とそれを護衛する船の群に、煙突から出てくる赤色の排煙、これは恐らく宣戦布告してきたばかりのキルーシュカ魔法連合王国が所有する軍艦ではないだろうか。」

 

そう総理が言うと、官房長官や大臣の不安が顔に汚点のようにくっつく。

 

すると、そこに異世界開発庁長官が口出しをする。

 

「そ...総理、いくらあの国の魔法の発展がすごくても、流石にあの船を造船出来るくらいの技術力はないかと...」

 

「じゃあ聞くが、赤色の排煙を排出する船に、戦艦のような巨大な砲塔が3つ、こんな船が造れる可能性がある国は魔法連合王国の他に何がある?君なら分かるはずだ。」

 

総理大臣が異世界開発庁長官に向けて言うと、なにも返せなくなったのか、そのまま黙った。

 

「...国防大臣、説明を続けよう。」

 

「は、はい。その軍艦に関することですが、もし総理大臣の許可が下りれば、あの軍艦に対して攻撃を行うことが出来ます。ですが相手は戦艦ですので、それなりに装甲が厚いでしょう。なので我々の攻撃に効果があるかどうかは不明瞭です。」

 

「うむ...どのみち友好国のアーテリカ王国を助けなければならないだろう。あの技術力から想定すれば確実にアーテリカ王国は壊滅的な被害を負うし、最悪の場合はアーテリカ王国そのものが消滅するだろう。で、用がすめば次にこっちが狙われるというわけだ。だから助けないと我が国の安全を脅かすこととなる。」

 

堀谷総理は、アーテリカ王国を魔法連合王国に占領されれば、魔法連合王国のケレジウス大陸支配のための橋頭堡になり、いつかはケレジウス大陸が魔法連合王国の植民地と化するだろうと思っていた。

 

すると、国防大臣が結論を迫るかのように話を作った。

 

「総理大臣、ご決断をお願いします。」

 

「うむ...魔法連合王国の軍艦に対する戦闘を許可する。」

 

「了解しました。」

 

その後も会議は続き、会議はおよそ5時間で終了した。

 

 

同日1月23日午前11時頃

ーケレジウス大陸 アーテリカ王国 近海にてー

 

日本国が、唐突の宣戦布告によって混乱していた頃、アーテリカ王国の近海では、一際大きな船が海面を割りながら前進していた。

 

空は青く澄んでおり、視界もかなり良好だ。

 

キルーシュカ魔法連合王国の超弩級戦艦、『ラフザー・アクベンス』とその護衛は、これからアーテリカ王国の戦列艦艦隊と戦闘するのだ。その数、およそ1900隻。列強と比べると少ない数だが、これでも王国にある全ての軍港からかき集めたのだ。

 

超弩級戦艦『ラフザー・アクベンス』で特徴的なのは、なにより四連装魔導砲が船に3つ搭載されていることだ。

 

主砲である四連装魔導砲の口径は38cmで大和と比べると小さいが、この38cm魔導砲が1つの船に12門、副砲の三連装15.2cm魔導砲4基も含めると計24門もあるので、数の暴力とも言える。おまけに対空能力にも秀でており、連装対空10cm魔導砲8基、13.2mm四連装機関魔法銃4基という、この船だけで国を滅ぼせるような威力を持っており、まさに動く要塞というニックネームに相応しい戦艦だ。

 

そんな動く要塞の戦艦の艦長、アルゲーディは、これから対決するアーテリカ王国の戦列艦艦隊に対して不安を抱いていた。

 

「アルゲーディ殿、現在敵の本軍はここから約20km離れています。主砲と副砲ともに装填が完了し、いつでも撃てるような状態にしてあります。」

 

「そうか、ご苦労だったな。ちょっと君に聞きたいことがある。」

 

「はいアルゲーディ殿、何でしょうか?」

 

「君はこの海戦で、我が軍が勝つ勝算は高いと思うか?」

 

「はい、そもそも国王の名が由来の超弩級戦艦であるラフザー・アクベンスは、あんな木造船の集団なんかに負けはしません。まああの艦隊の艦長なんぞ雑魚で、髭が取り柄しかないだけでしょうから、あいつらは仲間割れしますよ。大勝利間違いなしです!」

 

「そうか、君の言葉で勝機が上がった。」

 

そう言うとアルゲーディは、魔通信を使って各船員に対して士気高揚させるような話をする。

 

「全ての船員に告ぐ。まもなく、我々キルーシュカ海軍遠征艦隊は、アーテリカ王国の戦列艦艦隊と交戦する。これまでの訓練の成果を発揮する日だ。皆、いつでも戦えるようにしとけ。」

 

そう言うと、歓声が聞こえる魔通信から、ため口のような声が聞こえてくる。

 

「ああ!任せとけ!アーテリカ王国海軍とかいう戦列艦の集団なんか余裕で蹴散らせれるわ!」

 

「意気込みは素晴らしいが、言葉には気を付けろ。」

 

そうアルゲーディが言うと、魔通信をオンにしたままにし、そして、戦列艦艦隊からの距離があと15km切ったところで、奮い立つようなしっかりとした声を言い放つ。

 

 

「総員!戦闘開始!!」

 

 

その言葉によって、アーテリカ沖海戦が始まった。

 

 

同じ頃

ーアーテリカ王国 戦時戦列艦艦隊 旗艦アーテリアー

 

その頃、アーテリカ王国海軍の戦時戦列艦艦隊は、本部の指示を受けたので、その船(ラフザー・アクベンス)を沈没させるべく出撃していた。

 

この戦時戦列艦艦隊の主力艦であるアーテリア級戦列艦は、魔導砲100門というそこそこの性能な軍艦だが、その安定性のある速度とバランスで、改装されながらもアーテリカを護ってきたのだ。だがこの後、予想にもしない距離からの攻撃によって木っ端微塵にされるのをまだ知らなかった。

 

このアーテリア級の旗艦である『アーテリア』には、艦長の他に艦隊指揮官も同乗していた。

 

しばらく進んでいると、乗組員の一人が叫んだ。

 

「北西の方向に敵と思われる軍艦を発見!しかもかなり大きいです!」

 

そう乗組員が言うと、皆は北西の方向に目を動かす。するとそこには、巨大な塔みたいなのがはっきりと見えていた。しかも大きさは王国の戦列艦を余裕で超えている。

 

「おい、まさかあれと戦うわけじゃないよな...?」

 

「多分、あれは違うかもしれない...」

 

そう言った瞬間、ラフザー・アクベンスの四連装魔導砲が火を噴くのが見えた。

 

「敵の攻撃だ!全艦回避ぃ!」

 

そう指揮官が魔通信で呼び掛けるが、その時にはもう遅かった。

 

「戦列艦ニヴェーレ被弾!」

 

そう魔通信士報告すると、戦列艦ニヴェーレは激しく爆発しながら燃え、木片や肉片を撒き散らしながらゆっくりと沈み始める。

 

「せ、戦列艦ニヴェーレ轟沈!」

 

「くそっ!やっぱりこうなるか!」

 

指揮官が焦燥しながら言うと、魔通信から連絡が入ってきた。

 

「指揮官!このままでは我々アーテリカ王国戦列艦艦隊は消滅します!一刻も早く撤退をって、うわああああああ!!!!」

 

「戦列艦ザウラク通信途絶!恐らく敵の攻撃を受けたかと思われます!」

 

「.........」

 

指揮官は、船上から間近に見ている地獄絵図に言葉を失っていた。

 

(我々アーテリカ王国は、あの魔法連合王国に好き放題にされる宿命なのだろうか...)

 

そう思うと、彼は無理矢理声を魔通信に向けて張り上げる。

 

「全艦艇に告ぐ!総員撤退!撤退!海域から撤退せよ!」

 

するとすぐさま、アーテリア級含め残留戦列艦は、王都へと帰還するためにその方角に全速力で移動を開始する。

 

だがその船(ラフザー・アクベンス)の攻撃はまだ収まらず、撤退するために急ぎに急いでも攻撃は続き、戦列艦艦隊は500隻に減少していた。

 

「全艦回避運動しながら撤退しろ!あの砲弾が直撃すると死ぬぞ!」

 

そう指揮官が言うと突然キルーシュカ魔法連合王国海軍からの攻撃が止んだ。艦長は、一体何が起きているのか分からなかった。

 

「か...艦長、敵の攻撃が止まりました。我々は神からの助けが我々を味方にしたのでしょうか?」

 

「いや、分からない。だがあの無敵軍艦からの攻撃が止まったのは有難いことだ。まああんな無敵軍艦が我が王国の領土を直接攻撃するともなると、恐怖でしかないんだが。」

 

戦列艦に乗る乗組員は、笑い事では済まない話でしょうにと思った。

 

王国海軍の軍港からかき集めて結成した戦時戦列艦艦隊は、超弩級戦艦『ラフザー・アクベンス』の全力攻撃によって、およそ1400隻を海の中に葬った。

 

この熾烈な戦いは、後に日本国が参戦するきっかけを作ることとなった。

 

 

ーアーテリカ王国近海 超弩級戦艦『ラフザー・アクベンス』司令塔

 

「アルゲーディ殿、敵の本軍は我々の攻撃によって、撤退しています。」

 

「よし、攻撃を止めろ。」

 

そう魔通信に向かって喋ると、戦列艦艦隊の方向を向いていた砲塔は、元の位置に戻ろうとゆっくりと動き出す。

 

すると、一人の若い男が艦長に何かを報告しに近寄ってくる。

 

「アルゲーディ殿、何故攻撃を止めるのですか。」

 

「いいか、君の気持ちも良く分かる。だが撤退している相手に向かって攻撃を続けるのは失礼とは思わないか?そんなことをすればただの一方的な虐殺だ。」

 

「ですが──」

 

「ですがじゃない。君はそこら辺の大陸にいる国家みたいな野蛮な考えを持っている、それに気を付けろ。」

 

「りょ、了解しました。」

 

そう言うと、若い男は深いため息をつきながら司令塔を出た。

 

それと同時に、アルゲーディは魔通信を使用し、全艦艇に帰港を呼び掛ける。

 

「キルーシュカ魔法連合王国海軍遠征艦隊の全艦艇に告ぐ、本拠地へと帰港する。」

 

こうして、アーテリカ王国近海での戦いは、キルーシュカ魔法連合王国の勝利に終わってしまった。この結果、キルーシュカ魔法連合王国はアーテリカ王国近海の制海権や制空権を獲得し、キルーシュカ魔法連合王国の上陸はもはや時間の問題となるのだった。




もし宜しければ感想や評価をしていただけると励みになります。

次回は日本国国防軍が登場する予定です。


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第25話 阿鼻叫喚のアーテリカ王国上陸戦①

かなり戦闘描写が雑です。

前回国防軍が登場すると書いてましたが次回に回して頂きます。すいません。


2036年1月25日午前10時頃

ー日本国 総理官邸 大会議室にてー

 

アーテリカ王国海軍がキルーシュカ魔法連合王国から絶望的な被害を負っていたその日から、日本国では大会議室で、あれ以来毎日のように国家安全保障会議を行っていた。マスコミは今日も総理官邸前で集っていて、それを見ていた通行人は共通して、懲りないなと思っていた。

 

大会議室はいつもの5つの行政機関の大臣と長官が集結していて、その顔は、連日の会議のせいで疲れたような顔をしていた。

 

だが、今回の会議は違った。何故ならアーテリカ王国の国王アルフィルク8世を招待しての会議だからだ。

 

「それでは、ただいまより会議を始めます。まずは国王アルフィルク8世のお言葉がございます。」

 

そういうと、アルフィルク8世は座っていた席を起立する。

 

「では、私からお話をします。日本国の官僚殿はご存じないかと思われますが、我が王国の戦列艦艦隊が一昨日...キルーシュカ魔法連合王国の巨大な軍艦から攻撃を受けました。」

 

その言葉に大会議室は緊張した雰囲気に包まれる。

 

国王アルフィルク8世の説明は続く。

 

「その巨大な軍艦に関することですが、運良くその攻撃から生き延びた戦列艦の艦長や指揮官に聞いてみたところ、どうやら我が王国の戦列艦をも越える大きさと威力だったと言っていました。」

 

すると、総理大臣は隣に座っていた国防大臣に小声で話しかけているのが見えた。

 

「あの...総理大臣殿?」

 

「あ、これは失礼しました。」

 

この光景に国王は、本当に国防の全てをまかせていいのかと悩んだ。

 

すると、国防大臣が国王に話し掛ける。

 

「国防大臣です。突然すみませんが、国王は我が国の国防軍の参加に許可をいただけないでしょうか?」

 

国防大臣からの、日本国国防軍の参加の許可という内容に国王は頭が追い付けなくなる。総理大臣との会談で流れは大体つかめているが、今回は初めての戦略会議なので、流れが今一つだ。

 

「と、言いますと?」

 

「貴国の戦列艦艦隊がその巨大な軍艦を目撃し、それと同時に攻撃を受けてしまい甚大な被害を及ぼしたのは分かりました。ですからその代償として、我が国がキルーシュカ魔法連合王国に対して攻撃をします、なのでその許可をいただけませんかということです。」

 

「な、なるほど。そういうことですか...我が王国、いや、ケレジウス大陸全部の国で戦っても到底あの軍には勝てはしないでしょう、日本国国防軍の参加に許可します。」

 

「許可を頂き、感謝します。少しでもお力添えになるように、我々も出来る限りの援護をしたいと存じます。」

 

そういった流れで会議は、意外と早くおよそ3時間で終了した。この会議での結論は、次のようなものである。

 

日本国国防軍の軍事的関与を許可する。

 

キルーシュカ魔法連合王国からの攻撃を大陸共同で阻止する。

 

といった事が会議によって確定事項となった。

 

この影響で、現地の人々はアーテリカ王国にキルーシュカ魔法連合王国が上陸するのは不可能と思われていた。会議直後にキルーシュカ魔法連合王国の上陸部隊が上陸するまでは.........

 

 

同日午後0時56分

ーアーテリカ沖 魔法連合王国軍上陸部隊ー

 

その頃、アーテリカ沖では、灰色の船の大群がアーテリカ沖に集結していた。後方にはあの超弩級戦艦も入っている。

 

太陽は真上に位置し、赤道に近いためか冬ても暖かい。

 

キルーシュカ魔法連合王国の上陸部隊は、大勢の兵士や兵器を敵地に早く送り込むために多くの戦車揚陸艦や、攻撃輸送艦が列のように作戦開始の指示を待っていた。

 

この作戦では、アーテリカ王国のワイバーン対策のために数隻の航空母艦が派遣されているのだ。

 

その航空母艦の艦載機であるアルクテュルス戦闘機は、最高速度は570km/hというワイバーンを余裕で越える速度だ。武装は7.5mm機関魔法銃四丁だけだが、発射レートが早くてオーバーヒートしにくく、かなり扱いやすい武器なのだ。

 

超弩級戦艦には、艦長のアルゲーディと、作戦司令官のバナーレクが艦橋からアーテリカ王国があるケレジウス大陸を見つめていた。

 

すると作戦司令官のバナーレクがアルゲーディに話し掛ける。

 

「もうすぐだな。」

 

「はい、今回の上陸作戦は新たなる大陸支配のための第一歩になるでしょう。」

 

「うむ、誉れ高き魔法連合王国がこの世界に転移してはや2ヶ月、遂にこの世界の文明と交戦する時が来たとはな。所詮木造船ごときの国なんかに負けはせん。」

 

「私も、この世界の海軍と戦いましたが、やはり木造船の集団はあっさりと撤退しました。」

 

「そうか...作戦開始の時まであと3分。各船の状況はどうだ?」

 

「現在、魔法連合王国海軍遠征艦隊の全艦艇の主砲及び副砲の装填が完了しており、上陸部隊を乗せた戦車揚陸艦と攻撃輸送艦の準備は万端ですので、今作戦は余裕で成功するかと。」

 

「なるほど......」

 

「さらに言えば、敵の抵抗が激しかった際に備えて、普通の戦車群の中に特殊戦車も混じっています。」

 

作戦開始の時が来るまで、二人は会話を続けていた。

 

そして、作戦開始時刻である午後1時まであと10秒を切ると、作戦司令官は魔通信を通して全艦艇に圧のかかった声を発っする。

 

「作戦開始ぃぃぃ!!!」

 

そして、午後1時アーテリカ王国上陸作戦が開始した。

 

 

同じ頃

ーアーテリカ王国 王都アーテリアから北に145キロ離れた海運都市エスパリスー

 

日本国での会議がちょうど終了した頃、海運都市エスパリスの港は、被害を負った戦列艦の修理や、行き来する船で溢れていた。

 

アーテリカ王国の海運都市エスパリスは人口46万人で、王国の貿易拠点でもあり、アーテリカ王国海軍の軍港でもある。だが港の両側にあるきれいな白い砂浜は、夏になると大勢の観光客で押し寄せるのだ。

 

この海運都市エスパリスに在住するラチェスは若くして修理士の仕事に入り、現在王国海軍の戦列艦の修理を仲間としており、今は遅い昼食を仲間と食べている。

 

「なあ知ってるか?あの戦列艦があんなに大破しているのは巨大な軍艦からの攻撃らしいぞ。」

 

「本当か?」

 

「ああ、あの戦列艦に乗っていた艦長がどうやら見たらしい。」

 

「へぇ、で、どれだけ威力を持ってるんだ?」

 

「それなんだが、艦長に聞いたら、とにかくその船の砲弾が当たったら船は爆発しながら沈むんだってさ。まあ出港した時よりもかなり減ってたし、そもそもそんな国は日本以外ないから、どっちかといえば信用できる話だな。」

 

「そうか?日本が王国を裏切って攻撃したんじゃないのか?」

 

「それは流石にないだろ。」

 

そう会話していると、仲間の一人が何かを誘いに話し始める。

 

「なあ、ここんとこ戦列艦の修理で疲れてるし、一回外に出てみようぜ。」

 

「お、そうだな。」

 

仲間の一人の提案に乗ったラチェス達は、戦列艦の修理をしている施設から出て、近くの砂浜でリラックスした。

 

「なんか久々に外に出たかのような気分だな。」

 

「昨日もここに来ただろ。」

 

そう仲間が言うと笑いが起こる。

 

「なんか、この国は戦争状態なのに、平和みたいだな...」

 

そう言いながらラチェスは、砂浜から見える海を眺めていた。仲間は疲れのせいか、砂浜でぐっすり寝ている。

 

(なんて綺麗だろうか。)

 

そう思いながらふと水平線を見つめると、そこには明らかに自然の色ではない何かが水平線上に整列していた。

 

(...え?何だあれは?まさか夢じゃないよな?)

 

試しに自分の顔を平手で軽く叩くが、水平線上に浮かぶ何かは消えなかった。

 

(夢じゃない...?てことは!)

 

その時、平和な日常を過ごしていた海運都市エスパリスのあらゆる地点に突如火山が噴火したかのような爆発が起こった。

 

実は水平線上に浮かぶ何かはキルーシュカ魔法連合王国の上陸部隊が待機する戦車揚陸艦や攻撃輸送艦の群であり、火山が噴火したみたいな爆発を相次いで引き起こしているのは魔法連合王国の遠征艦隊の艦砲射撃である。

 

仲間はこの音に飛び起き、何が起きているのか理解できていなかった。

 

「お、おいラチェス!一体何が起きてるんだ!!」

 

「わ、分かんねえよ!水平線上に浮かぶ何かを見ていたら、いきなり火山が噴火したみたいな爆発がしたんだよ!」

 

そうこうしていると、ラチェス達が寝ていた砂浜にまで艦砲射撃の砲弾が着弾していく。

 

「とにかく逃げるぞ!」

 

ラチェス達は、安全なアーテリカ王国軍の駐屯地へと向かってすぐさま走った。エスパリスへの艦砲射撃は段々と濃密になってくる。

 

海運都市は大混乱に陥っていた。辺りは安全な場所へと向かうべく走り惑う住民や、艦砲射撃の砲弾を回避しながら中心部へと向かうべく、ボルトアクションライフルみたいな旧式魔法銃を構えた戦士隊や、ステッキを大事に持つ魔術師などで溢れかえっていた。ラチェス達は、逃げ惑う住民の中に紛れながら、駐屯地へと向かっていた。

 

「おい、駐屯地に行くってどういうことだよ!」

 

「駐屯地にいけば、そこで軍隊が食糧や飲み水だってある。」

 

そう説明していると、艦砲射撃によって家屋に砲弾が直撃し、辺りに瓦礫を撒き散らすが、そんなことを気にせずにラチェス達は走る。

 

すると、たまたま近くを通った駐屯地方面の貨物用馬車にすぐさま乗り、しばらくの間はこの馬車に乗ることになった。

 

海を見れば、綺麗な白い砂浜は艦砲射撃によって所々地面に穴が出来ていて、空を見上れば、光るなにかが暴風雨のように降り注ぐ。街を見れば、瓦礫の下敷きによってもがき苦しむ者、運悪く砲弾が近くに着弾し肉塊を撒き散らす者など、この世のものとは思えないような光景が広がっていた。

 

「俺達...なんか悪いことでもしたのか?」

 

と、ラチェスは疑問に思いながら抑揚のない呟きをする。さっきまで笑顔だったラチェス達の顔は、今や見てはいけないものを見てしまったような表情だった。

 

 

同じ頃、アーテリカ王国の砂浜に近い道路にある塹壕では、戦士隊が旧式の魔法銃を構え、魔術師は後方で攻撃魔法を撃つ準備をしていた。

 

戦士隊隊長のケフェズは、愛用の魔法拳銃を手に構えながら水平線を見ていた。

 

「隊長!水平線から灰色の小さい舟が近づいてきます!」

 

そう兵士が言ったので目線を向けると、水平線から無数の上陸艇が砂浜に近づいてくるのが見えており、その中に一つだけ戦列艦並の大きさくらいのが迫っている。

 

「構えぇぇぇ!!!」

 

ケフェズが大声で言うと、戦士隊は旧式魔法銃のサイトを覗き、魔術師は攻撃魔法の火炎玉をチャージしていた。

 

そして、上陸舟が砂浜に着岸し、前方のハッチが開いた瞬間声を荒らげた。

 

「撃てえぇぇい!!!」

 

そう言い放つと、旧式魔法銃から弾丸が発射し、魔術師の攻撃魔法の火炎玉が一斉に放たれた。

 

旧式魔法銃の弾丸は突撃してくる魔法連合王国軍兵士の肉体に入った瞬間すぐさま倒れ、魔術師の火炎玉は地上に着弾すると火炎瓶を投げたかのように一気に火が広がり、それに巻き込まれた兵士は海に入っても鎮火しない仕様の火なので、もがき苦しみながら死んでいく。

 

その流れに応じて、騎士団数個師団を砂浜まで一気に送り込み後退させるという方法で対抗した。

 

だがいくら戦士隊や魔術師を呼び出しても技術力に勝る魔法連合王国軍が負けるはずもなく、すぐさま反撃に転じる。

 

魔法連合王国軍兵士の主武装でもある新式魔法銃は、我々で言う半自動ライフルみたいなようなものなので、ボルトアクションのようにいちいちボルトを動かす必要が無くなったため、効率的に敵を殺傷させることが出来た。さらに一部の兵士には発射レートの高い軽魔法機関銃を持たせており、まさに魔法技術の最高峰といっても過言ではなかった。

 

そのため、軽魔法機関銃の攻撃で突撃する騎士団がばったばったと倒されるのを見たケフェズは、すぐさま手元の魔通信で航空支援を要請する。

 

「こちら戦士隊!現在魔法連合王国軍の上陸地点にて交戦中!至急ワイバーンによる支援攻撃を要請する!」

 

「了解、ワイバーン部隊の距離はあと数キロだ。それまで耐えてくれ。」

 

あと数キロというワードにケフェズは心が沈むが、気を取り直して魔術師や戦士隊に報告をする。

 

「全兵士に告ぐ!もうじきで我々王国のワイバーン部隊が支援攻撃をしにくる!それまでここを守りきるんだ!」

 

ワイバーン部隊が来ると聞いた瞬間、やる気になったのか戦士隊や魔術師の攻撃の速度が上がった。そのおかげか、かなりの敵兵が死んでいた。あとはワイバーンの部隊さえ来たら、ここの防衛は突破されないと思っていた。

 

だが、その希望は一つの戦列艦並の揚陸艦の着岸によって絶たれる。

 

戦列艦並の揚陸艦が砂浜に着岸すると、前部のハッチが開き、鋼鉄の箱が生き物のように砂浜へと前進し出した。魔法連合王国の戦車だ、しかもその中に一台戦車の砲塔上部に複数穴の開いた小さな箱のようなものまである。これを見た魔術師や戦士隊は体が固まる。

 

「お、おい、これが話で聞いた戦車ってやつなのか...?」

 

「怯むな!あんな鋼鉄の箱なんぞ、ただの飾りに過ぎん!攻撃魔法をひたすら喰らわせ続けば爆発す──」

 

すると、魔法連合王国の戦車の砲撃が始まり、その砲弾に巻き込まれた兵士達は勢いよく上に飛ばされ体の一部分を失いながら死んでしまう。

 

この瞬間を見たケフェズは悩んだ。もし後退なんかすれば、兵士達の士気は下がる。かといってここで戦い続けるには限界がある。そのため、ケフェズは最後の手段を選ぶことにした。

 

「全員ここから突撃するぞ!ワイバーン部隊の到着は待てない!」

 

そう言うと、戦士隊は銃剣の付いた銃口を前に向け、魔術師達は魔法杖やレイダークラブを持ち、格闘のためにいつでも殴れるように構えた。この時、魔法連合王国軍の大群はアーテリカ王国軍の塹壕に着々と進んでいた。

 

そして、ケフェズは死を覚悟して憤激の雄たけびを上げる。

 

「突撃ィィィィィィ!!!」

 

その叫びと同時に戦士隊や魔術師達も凛とした声で叫び、塹壕から飛び出す。

 

「王国ばんざぁぁぁぁぁい!!!」

 

その瞬間、砂浜に向かって大勢の軍が津波のように魔法連合王国軍に襲い掛かってきたのと同時に、魔法連合王国の攻撃が始まった。

 

だが攻撃のタイミングが遅く、アーテリカ王国の騎士団、戦士隊、魔術師達は魔法連合王国と格闘戦闘を始める。そしてこのタイミングで、ワイバーンの部隊が砂浜に到着した。

 

砂浜の近くは、今や修羅場と化していた。砂浜は艦砲射撃や戦車の砲撃で無数の穴が開いており、ワイバーンからの火炎攻撃も始まっていた、ある者は手に持っているレイダークラブで敵兵の頭をかち割り、ある者は銃剣突撃によって地面に叩きつけられて死ぬ。またある者は、突撃してくる敵兵に対して近くにあった剣を腹部に刺し殺し、ある者は怪我して動けないところを戦車の無限軌道に踏み潰されながら絹を裂くような悲鳴を出すなど、阿鼻叫喚を極めたような状況で、それは中世の時代がそこにあるかのようなものだった。飛び交うものといえば、魔法連合王国軍の魔法銃から放たれる弾丸と曳光しかない。

 

だが、その光景を麓にある山から双眼鏡で見ている者がいた。その者が着ている服は、魔法連合王国とは違い、緑や茶色などの色が混ざった斑模様の服を着ている。

 

「これは酷いな...まるで硫黄島の戦いぐらいの熾烈な戦いが起きているな。」

 

「はい、今のうちに我々も支援攻撃を行わないと、エスパレスは確実に敵の手に落ちます。」

 

「だな、よし神田、このことをすぐに支局に通達しろ、ついでに航空支援もな。」

 

「了解です岩田陸曹長。」

 

そう言うと神田は無線に、攻撃ヘリや戦闘機の火力支援を要請した。

 

そして遂に、日本国国防軍の牙が魔法連合王国へと向く......




もし良ければ感想や評価をして頂けると嬉しいです。

次回は日本国国防軍が魔法連合王国を返り討ちにする予定です。


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第26話 阿鼻叫喚のアーテリカ王国上陸戦②

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。




2036年1月25日午後3時頃

ーアーテリカ王国 海運都市エスパレス郊外上空にて-

 

魔法連合王国軍が上陸作戦を開始してからおよそ3時間が経過した。海岸近くにある区域は魔法連合王国によって占領されており、アーテリカ王国軍は技術力の差に耐えきれない状態で、今でも後退しだしそうな状況だった。

 

そんな中、最前線から約10キロはなれたエスパレス郊外の上空では、複数の飛行物体が最前線へと向かっていた。

 

その飛行物体の外見は、緑や茶色の混ざった模様をしており、その上部には黒い羽が超高速で回転している。

 

これらは日本国国防陸軍が所有する軍用ヘリコプター、AH-64DとUH-1Jである。さらにUH-1Jには、異世界方面軍の第2空挺団が搭乗している。

 

このヘリコプターの群が行う任務は最前線にいるアーテリカ王国の部隊と協力し、魔法連合王国の勢いを弱らせるという任務で、簡単に言えば最前線付近にいる魔法連合王国の陣地を制圧することだった。

 

今回の支援攻撃に使う武装は、AH-64Dの場合、AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルやハイドラ70ロケット弾ポッドという完全装備で参加し、UH-1Jの一部には対人用にGAU-17 7.62mmガトリング銃が搭載されている。そしてヘリコプターよりも高い空域には、F-15Jがヘリコプターを攻撃する航空機がいないか見張るため、エスパレス上空を巡回しているので、向かうところ敵なしという状態だ。

 

「こちら異世界方面ヘリコプター団、まもなく攻撃目標地点に到着する。」

 

そして、日本国国防陸軍異世界方面軍の攻撃が、始まろうとしていた。

 

 

-海運都市エスパレス 最前線の塹壕線にて-

 

その頃、エスパレスの中心部付近では、アーテリカ王国の戦士隊などの部隊が即席のバリケードや塹壕を使って敵を足止めしていた。

 

だが相手は第二次世界大戦時くらいの技術力を持っている魔法連合王国、そう長く防衛線が保てれるはずもなく、ゆっくりと、だが着実と占領されていく。

 

最前線に位置する中心市街地には、半壊した建造物や、艦砲射撃によって形成された無数の小さい穴、その地面には人間だったものが散乱していた。

 

そんな中心市街地にある道路には、旧式魔法銃を構えた戦士隊が塹壕で待ち伏せをしていた。

 

彼らは、まだ戦車という動く要塞のことを知らないので、気分が高揚していた。そのため、いつ襲い掛かってきても敵を潰せるような気分でいたのだ。しかも、魔法連合王国兵の死体から鹵獲した軽魔法機関銃もあるので、これで敵との差は少しは縮まるだろうと考えていた。

 

旧式魔法銃にあるアイアンサイトから顔を覗かせ、いつでも射撃が可能な状態だ。

 

すると、塹壕の向こうからおびただしい数の人影がこちらへと向かってきた。

 

「攻撃開始!」

 

塹壕にいる高官の命令で、戦士隊一同はすぐさま敵と判断し、旧式魔法銃と軽魔法機関銃の引き金を引く。

 

敵兵はすぐさまドミノのようになぎ倒されていき、一部は新式魔法銃で対抗するが機関銃の弾幕に当たり倒れた。

 

だが、今度は奥から見たこともないような鋼鉄の箱がこちらへと迫ってきた。

 

これを見た戦士隊は再度攻撃をするが、いくら撃っても弾は跳ね返されて、それどころか敵戦車は砲塔をこちらへと向けてきた。

 

それを見た戦士隊は人生の終わりを感じ、いつ死んでもいいように覚悟していた。

 

だが、そんな絶望的な戦局を覆すような出来事が発生する。突如、空から煙を吐きながら超高速で槍のような()()()戦車に向かうと、当たった瞬間その戦車はあっけなく爆発し、砲塔が吹き飛んだ。

 

これを見た戦士隊一同は、衝撃的な展開に目を丸めるが、それだけでは終わらなかった。

 

空を見上げると、ワイバーンを超える高速で移動する黒い物体が、戦士隊がいる塹壕の近くで空中に留まり、先端部分から光る細いのが流星のように吐き出される。

 

これを喰らった魔法連合王国の兵士は身体がミンチより酷い状態になり、気が付けばその辺りだけは赤黒く変貌していた。

 

戦士隊一同は、あんな数の兵士達を難なく制圧したのを見て、唖然としていた。

 

「高官、まさかあれが噂で聞いた日本国のヘリコプターというものなのでしょうか...?」

 

「恐らくそうだろう。空中浮遊しながら流星のような細い光を敵地に無数にばらまけるのは、我が国はおろか、問題の魔法連合王国ですらそんなものは存在しないはず。もしかすると日本国が我が軍を助けるために支援攻撃に踏み切ったのではないだろうか。」

 

「もしそうともなれば、とても感謝すべき事です。後に恩返しをしないといけませんね。」

 

「だな。よし、この流れに乗って奪われた部分を奪い返すぞ!。」

 

そう言うと、戦士隊の兵士達は塹壕から出て、占領された砂浜へと向かうべく警戒しながら進んだ。これは、別の塹壕で戦っていた兵士達も同じことで、戦線が後退しきっていたのが、日本国の支援攻撃によって戦局が好転し、アーテリカ王国が優勢となった。

 

 

-日本国国防陸軍 異世界方面軍ヘリコプター団-

 

「いやぁ、まさか魔法連合王国が戦車持ってるなんて予想にもしませんでしたよ。本当対戦車ミサイルがあって良かった。」

 

そう無線に話すのは、先程編隊飛行から一時的に離れ、支援攻撃を行っていたAH-64Dの操縦士である。すると、それにUH-1Jの操縦士が応える。

 

「お前は昨日の報告を聞いてたのか?あんな巨大な戦艦を開発できるくらいの技術力がある国だぞ、そんなもん戦車なんか余裕で製造が出来て当たり前だ。」

 

「そんな怒らなくてもいいと思いますけど。」

 

「悪かったな、だがまだ任務がある。我々はこれから、重要占領区である大聖堂周辺に向かう。偵察機からの情報によれば、どうやら敵軍の防衛拠点と化しているらしいのだ。大聖堂に到着したら、速やかに敵兵や戦車等を一つ残らず掃討し、その後第2空挺団を懸垂降下させ、そこに俺らの戦車が来るまで占領の手助けをする。いいな?」

 

「了解です!」

 

そう言うと、異世界方面軍ヘリコプター団は大聖堂周辺へと向かった。

 

そして、目標の大聖堂が見えてきた。偵察機の情報通りに戦車が多くて敵兵も多い。中には対空機銃みたいなものを構えている兵士までいた。

 

「こちらヘリコプター団、これより大聖堂周辺の掃討を開始する。」

 

そして、AH-64Dからヘルファイア対戦車ミサイル約7機全てが一斉に放たれ、それぞれが別々の方向へと向かった。

 

ヘルファイアは戦車の装甲を貫徹したあと火柱を上げ、色のあった戦車は黒く変色し、爆発した部分は鉄が溶けていた。

 

「戦車全て破壊完了!」

 

すると、近くにあった対空機銃みたいなのがAH-64Dに攻撃を仕掛ける。

 

だがAH-64Dの操縦士はそれに気付き、すぐに回避行動に移る。

 

「ロケット弾発射!」

 

2つのロケットポッドから、大量のロケット弾が対空機銃に向かって放たれ、地面に着いた瞬間爆発した。その爆風は対空機銃の周りにいた兵士たちも巻き込んだ。そのおかげで、辺りは死体や破壊された戦車の山となっていた。

 

「大聖堂周辺異常なし!降下可能です!」

 

UH-1Jに搭乗している第2空挺団の兵士が報告すると、すぐさまUH-1Jは大聖堂の入り口前にホバリングをする。

 

「降下!降下!降下!」

 

UH-1Jから大量の兵士たちが懸垂降下をし始め、地面に着地すると23式自動小銃を構えて入り口へと向かった。

 

 

-海運都市エスパレス 上空5000m地点にて-

 

その頃、国防空軍の第37航空隊は、上空5000mを保ちながら周辺を巡回していた。

 

すると、遠方にある異世界方面軍通信基地から第37航空隊に無線が入る。

 

「こちら通信基地、港の方面から謎の飛行物体の群が接近中、速度はそこまで早くない模様、恐らく魔法連合王国の戦闘機部隊かと思われる。至急戦闘体制に入れ。」

 

「こちらストライク2了解、ただちに脅威の対象を排除する。」

 

そう言うと、第32航空隊の戦闘機は5000mより低い約1500mくらいにまで高度を下げる。

 

「あれが魔法連合王国の戦闘機か...あれはまるで第二次世界大戦のレシプロ機そのものだな。」

 

「だな、だけど手加減はしないほうが身のためだな。」

 

第32航空隊は魔法連合王国の戦闘機部隊へと接近する、しかも音速を超える速さで。

 

「よし、空対空ミサイル発射!」

 

そう言うと、F-15Jの翼から魔法連合王国の戦闘機部隊に向かって空対空ミサイルが放たれた。

 

空対空ミサイルは見事に命中し、幸いにも数が少なかったのでミサイルだけで済んだ。

 

「こちらストライク2、脅威の対象を排除した。再度巡回行動に移行し、陸からの支援要請があれば向かう。」

 

「こちら通信基地了解、引き続き巡回を宜しく頼む。」

 

 

-キルーシュカ魔法連合王国 超弩級戦艦『ラフザー・アクベンス』艦橋-

 

「おいアルゲーディ!一体どういうことだ!」

 

作戦司令官のバナーレクが焦燥しながらアルゲーディに話し掛ける。

 

「それが、上陸した部隊の過半数が敵によって殺されており、更にはアーテリカ王国の技術力では破壊できないはずの我々の戦車の約半数が破壊されているんです!」

 

「...ちっ!日本の奴らか!話では聞いていたが、まさかここまで援護をするとはな...」

 

「司令官!一刻も早く撤退を指示しましょう!でないと日本国によって全部隊が消滅します!」

 

「だな、それしか今のところ選択肢はない。」

 

そう言うとバナーレクは、魔通信に向かって、残っている部隊は速やかに撤退するようにとアーテリカ王国領土内にいる全部隊に通達した。

 

 

-アーテリカ王国 海運都市エスパレス-

 

「あれ、何で敵は砂浜へと帰っていくんだ?」

 

アーテリカ王国の戦士隊の兵士達は、戦車や魔法連合王国の兵士が尻尾を巻いて撤退するのを見て不思議に思っていた。

 

「もしかして、俺らは勝ったのか?」

 

「そうみたいだな。だが、あいつらがいつここに上陸するのかは分からない。が、少なくとも軍備を整える時間は出来たことだし、敵に獲られるよりはまだマシだな。」

 

そう高官が言うと、兵士達は戦いでの勝利に喜んだ。そしてその歓声は、エスパレス全体に広がった。

 

魔法連合王国による唐突の上陸によって、一時防衛線がエスパレスの市街地付近まで後退していたが、日本国国防陸軍による支援攻撃によって危機を突破し、結果としてアーテリカ王国側の防衛成功で終わった。

 

そして日本国国防軍は、魔法連合王国が再び上陸し出しても対処出来るように、アーテリカ王国の兵士一人一人に89式自動小銃を配備し、更には魔法連合王国の上陸作戦も考案、後に実行に移されることになるのだった。

 



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第27話 魔法連合王国上陸作戦の準備

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。

詳しい情報等を調べに調べてたので結果かなり遅れました。




2036年1月27日午前9時

ーアーテリカ王国 王都アーテリア 王城にてー

 

アーテリカ王国にとって重要な海運都市エスパリスを目標にした、魔法連合王国の上陸作戦から2日が経過した。

 

アーテリカ王国の王都アーテリアにある王城の謁見の間では、日本国総理大臣の堀谷隆太と、アーテリア王国国王アルフィルク8世が会談をしている。

 

会談の内容は主に、国防や、実行予定の魔法連合王国上陸作戦に関することなどだった。

 

「この度は、アーテリカ王国に魔法連合王国が足を踏み入れるのを予知できずに我が国が許した事は申し訳ございません。」

 

「いえいえ、別に構わないですよ。魔法連合王国が我が王国に上陸を仕掛けてきたのは我々が会談が終了した直後だったので仕方がないことです、なのでご心配なく。」

 

「お気遣いに感謝します。」

 

「は、はい。」

 

「では早速本題へと移りましょう。」

 

そう堀谷総理が言うと、彼は事前に用意をしていたタブレットを国王に見せた。

 

その画面に映っているのは、魔法連合王国本土の画像が映されており、所々に赤い点があるのは重要な占領地点を表していた。

 

「こちらは魔法連合王国の本土の画像です。先の会議で既にご存じかと思われますが、我々日本国はこの魔法連合王国本土への上陸をしようと考えています、国王もこの作戦に同意しますでしょうか?」

 

アルフィルク8世は少し頭を捻るが、すぐに決断をする。

 

「まあ同意はします。ですが日本国が指定する上陸地点は一体どのような環境なんですか?」

 

「具体的に言うと、上陸地点である南西部の砂浜は機関銃や魔導砲のトーチカで堅く防衛されており、その砂浜には無数の地雷が埋設してあることが確認されています。我々が上陸する地点はこの砂浜一帯に上陸をするつもりです。」

 

アルフィルク8世は、何故これほど危険な場所にわざわざ上陸させるのかが気が気じゃなくて仕方なかった。

 

「ちょっと待ってください。何故これほど防御されている場所を選択したんですか?もしかして砂浜を大軍勢で押し切るとかじゃないですよね?」

 

「これは最近になって判明したことなんですが、実は魔法連合王国の本土にあるほとんどの海岸にトーチカや海岸砲が設置されているんです。ですからどこを選択しても結局は機関銃や魔導砲の砲火に兵士達は晒されます、なので他と比べれば比較的防御が薄い南西部を選択したわけです。」

 

そう説明してもアルフィルク8世はまだその地点に上陸させることに懐疑的だった。

 

「ですが、その鉄壁とも言えるような防御線はいったいどのように攻略するつもりですか?」

 

「まず作戦開始日当日の深夜の時間帯を狙い、誘導地中貫通爆弾を搭載した爆撃機2機と、誘導爆弾や対空ミサイルを搭載した戦闘機5機を向かわせて厄介なトーチカを破壊します。対空ミサイルは敵の迎撃部隊に対して使用するつもりです。そして予定の朝には強襲揚陸艦や輸送艦を砂浜近くに移動し、トーチカ跡にヘリコプターで兵士を上陸させて南西部の砂浜一帯を占領した後に、橋頭堡を築くといった所ですね。」

 

そう説明すると、アルフィルク8世はさっきとは打って変わって感心しだした。

 

「なるほど...これはとても戦略的かつリスクが少ない方法ですね、やっぱり日本国なしに魔法連合王国には勝てませんよ。」

 

「そ、それはどうもありがとうございます。」

 

(なんか思ってたよりも時間掛かったな。)

 

するとアルフィルク8世は、堀谷総理に励ましの言葉を掛ける。

 

「きっと日本国が作戦を指揮すれば大陸に再び安全な日々が戻ります。ですからこの事を伝えればケレジウス大陸の全国家がどんなことでも協力してくれます。なにしろ大陸中の脅威である魔法連合王国を打ち砕けるのは日本国しかありませんから。」

 

「そうですか...なんか色んな人々を助けている感じがしてとても精々します。」

 

そう堀谷総理が言うと、国王アルフィルク8世は座っていた座席から起立しだす。

 

「さあ総理大臣殿、もうすぐ昼なので昼食はいかがですか。本日は王国の閣僚も招待しているので様々な話が出来ると思います。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

国王と総理は昼食を摂るべく謁見の間から退室した。

 

同日午後4時

ーアーテリカ王国 海運都市エスパリスにて-

 

何の予告もなしに始まり結果失敗に終わったアーテリカ王国本土への上陸作戦の傷跡は、2日が経った今日ですらまだ残っていた。

 

魔法連合王国海軍による市街地全体への猛砲撃によって、一帯は灰と化し、港は運良く軽傷で済んだものの、市街地のほとんどは荒廃していた。砲撃によって散らばった瓦礫を片付けたり、傷付いた石畳の道路にある死体かどうか分からないものを回収する住民がちらほらいるなか、海軍港では歴史上見たこともないような数の兵士達が集まっていた。

 

理由は来月の2日に行われる、日本主導の魔法連合王国本土への上陸作戦のために、日本国だけでなく、アーテリカ王国などのケレジウス大陸に所属する国から志願、あるいは徴兵されてきた兵士達が、予め日本国国防海軍が用意した揚陸艦等に乗船するためにここに集結しているのだ。

 

港では様々な国籍出身の兵士達が日本製のヘルメットを被っており、その顔や表情は様々だった。

 

その人混みの中には、二人の若い男性が海を眺めながら何か会話をしていた。

 

「ついに噂で聞いた日本国の海軍のお出ましか、なんかわくわくするな。」

 

「だな。聞いた話だと、日本国よりもアメリカという国のほうが技術力が高いし数も多いらしいそうだ、ただでさえ日本は技術力の差がすごいのにその上がいるとはな...まったく次元が違うよ。」

 

そう話しているのは、アーテリカ王国の西に位置する国、イルト国出身のハーフエルフのセルカとシェアトだ。

 

イルト国は多くの民族が共存している国家なのだが、この国に住んでいるハーフエルフは人間の次に多い人口を持っているにも関わらず地位は低い。そのため人間の統治者が若い男性や女性のハーフエルフを対象に徴兵を行い、その結果一部のハーフエルフが今回の魔法連合王国上陸作戦へと送り出された。その数、およそ5000人。この中にも彼らは含まれていた。

 

「にしても、いくらなんでも俺らを徴兵するなんて流石にないだろ。」

 

「多分人間の統治者が俺らを邪魔者だって思ってるんだよ。まあいつかはこんな扱いを受けるだろうて思ってたし別に構わないのだがな。」

 

そうシェアトが言うと、水平線から船影が複数見えてきた。

 

「あれが日本国の海軍か...なんか思ってたよりも数が少ないな。」

 

セルカは船影を見てふと呟くが、ここにいる誰もがそう思っていた。

 

列強でなくても、ケレジウス大陸の全国家は、海軍は数で勝負するという考えが定着しているのだ。そのせいか日本国が派遣した艦隊は自国の艦隊と比べても小さく見えているのだ。

 

すると、日本国国防陸軍の担当らしき男が拡声器を口に近づけると日本語で指示をする。

 

「多国籍から来た兵士の皆さん、まもなく搭乗する船が港に到着します。くれぐれも足には気を付けてください。それと搭乗する際は列を乱さないようお願いします。」

 

「もう来るのかよ速いな。」

 

そう言うと、彼らは下に置いていた89式自動小銃を手にした。

 

すると、最初の船が到着したのか人混みは船の方向に動き始め、二人もそれに釣られるかのように動き出す。

 

「かなりデカイな...噂通り一門だけの船もあるが、俺らが乗る上が平らな船ってもしかしてあれか?」

 

「そうみたいだな。だが、上についているあれは一体何なんだ?」

 

それを見ると、上には鋼鉄のワイバーン(F-35B ライトニング II)が均等に置かれているのが見えた。

 

「あれか?どうやら日本国の航空戦力らしいそうだが、見るからにワイバーンより強くて速そうだ。」

 

「ていうか、そもそもあれはワイバーンとは言えないだろ。」

 

そう二人が会話していると、彼らが搭乗する船に近づいてきた。

 

日本国国防海軍が所有する強襲揚陸艦『さつま』型は、日本国国防海軍所有のF-35Bを10機だけ配備しているのみだが、各種ヘリコプター20機の配備が出来る能力がある強襲揚陸艦だ。

 

更にこの強襲揚陸艦は戦闘員約2500名を戦地に送り込むことができ、おまけにLCACエアクッション形揚陸艦とAAV7水陸両用強襲輸送車約10輌を搭載することが出来るという優れものだ。

 

しばらく中を進んでいると、かなり広大な部屋に入った。

 

そこはLCACやAAV7を収容しているウェルドックで、現代人から見てもやはり驚いてしまうくらいの広さを持っている。

 

「す...すげぇ、これが噂のヨウリクカンってやつか?」

 

「ヨウリクカンって何のことかわからないが、とにかく強いに違いないだろう。」

 

そう言うと二人は船内を更に進んで、F-35Bが待機している甲板へと向かった。

 

到着すると、辺りは兵士達で溢れており、その中には同じイルト国出身の兵士もいた。

 

するとセルカがシェアトに声を掛ける。

 

「なあシェアト、あの鋼鉄のワイバーンは日本国の兵士に聞いたらどんなレーダーでも探知しづらい素材で塗装してるって言ってたぜ。」

 

「それ本当か?日本国とはいえど、流石にレーダーに見つかりにくい戦闘機なんて有り得ないだろ。」

 

シェアトはレーダーでも探知しづらい事に耳を疑ったが、そうなるのも無理はなかった。なにしろレーダーさえあれば悪天候であろうがどんな飛行物体でもレーダーに映るし、更に言えばレーダーの監視網からは逃れられないと考えていたのだ。

 

「そのレーダーに探知しにくい素材って何で出来てるんだろうな。」

 

「さあな、それを聞いたら国家機密だから教える事が出来ないって言ってたし、それが完全に理解出来るのには数百年はかかるんだろうな。」

 

「もしかしたら数百年掛かっても解明できないかもな。」

 

そう言うと、二人は強襲揚陸艦内にある到着するまで泊まる部屋に向かった。

 

日が水平線に沈み始め、空が夕焼けに染まる午後6時頃、イージス護衛艦『こんごう』数隻と強襲揚陸艦『さつま』3隻と、もうじき参加予定の原子力空母『あしたか』で構成される敵地上陸打撃群は、アーテリカ王国のエスパリスから出港の汽笛を鳴らして魔法連合王国へと向かった。

 

こうして、転移国家と転移国家同士による熾烈な戦いまでのカウントダウンは着々と進んでいった。

 

そして、平和を取り戻す戦いが、始まる。



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