異世界はスマートフォンとともに 改 (Sayuki9284)
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転生、そして始まりの街 第1話 落雷

第1話です。主人公の転生前の話になります。


20XX年。〇月。日本国内のとある科学実験施設でそれは起こった。

 

 

《地下5階》

 

パキ……パキ……パキンッ!!

 

『!!』

 

 

突如としてとある室内に染み渡った『聞こえてはならない』音に、その中にいた大人全員が身体を硬直させる。人間ありえないことが起こるとパニクって身体が動かなくなると言うが、まさにその状態だった。

 

 

……しかし、次の瞬間には嫌でも身体が勝手に動き出すことになる。そう、━━━━━死という名の恐怖によって……

 

 

パンッ!!!

 

「え……」

 

 

誰も声を発しようとしない、いや、発することが出来ない空気の中、突然目の前で発生したその音と『現象』に一人の男が間の抜けた声を漏らした。一番近くにいた故に、何が起こったのかすぐには理解出来なかったのだ。

 

 

……だが、まぁ…無理もないだろう。何せ『ただの人間がいきなり風船みたいに膨らんで全身バラバラに弾け飛んだ』のだから……

 

 

「あ、……あ、嗚呼ぁぁあぁぁぁ!!」

 

「い、嫌ァァあぁぁあ!!」

 

「うわァァあぁぁぁあ!!」

 

 

また別の一人の男の叫びを境に、他の人間が次々と部屋から逃げ出していく。その声と自分の鼻を突き刺す鉄の匂い、そして嫌でも目に入る、目の前に広がる血の海とそれに浮かぶ数多くの人間だったモノの一部を見て、ようやく死んだ人間の目の前にいた男も我に返って叫び声をあげた。

 

 

…………が、

 

 

「う、…うわァァあぁ……ぁ、ア?」

 

 

遅れながら叫び声をあげて踵を返した男は、またも不思議な光景に目を点にした。そう、━━━━━自分の胴体だけが血を噴火しながら走り去っていく光景に……

 

 

ボトッ

 

 

男の生首が地面に転がる。それだけでも恐怖なのだが、次の瞬間、それを逃げながら見ていた者達にさらに衝撃なことが訪れた。

 

その男の生首が何のためらいもなく、まるで道端に転がっている石ころのように踏み潰されたのだ。

 

 

「ひっ……」

 

「や、やめろ……来るなぁぁ……」

 

「い、いやだっ……いやだっ!!」

 

「「うわぁぁあぁぁぁ!!」」

 

 

・ ・ ・

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

《地下2階》

 

「はぁ……はぁ…、もうすぐ……もうすぐ地上に……」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ぁ?……なんだよ、あれ……」

 

「え?」

 

 

地上に逃げ出そうとして登ってきた人たちが、もうあと少しという地下1階へと続く階段を前に足を止める。本当ならエレベーターで一気に上がりたかったのだが、 “何故か” 施設内の電気機器が全て異常をきたしてしまい、仕方なく必死に階段を駆け上がってきたのだ。

 

その数、約60人。それでも地下にいた人間の1割に満たないのだから、どれだけの数殺されたのかは容易に想像がつくだろう。

 

そして、運良くここまで逃げきれてきた者たちが目にしたもの、それは、階段を埋め尽くす形で敷き詰められた死体の山と、施設内で実験道具として飼われていた『人間を含めた動物達』が自分たちに明らかな敵意を向けている光景である。

 

その光景は、一言で言って絶望的。前は敵、後ろは行き止まり、逃げ切る手段など一つもない。戦おうにも、目の前にいるのはただの人間、動物だけでなく、自分たちが実験に実験を重ね強化した猛獣もいる。それはつまり、自分たちがどんな文明兵器を使おうと無意味なことを示していた。

 

それに何より、ここにこの猛獣たちがいる時点で、既に自分たちが必死に逃げてきた存在が地下にいないことは明らかだった。

 

何せこの猛獣が管理されているのは常に地下だけであり、その多くは地下1階で管理されていたのだから。そしてそこで管理されていた猛獣たちが揃ってバリケードを張っている。まるで誰かにそう命じられたかのように……

 

 

出口は一つ、ほぼ一方通行だった道。なのに誰一人として追いつかれていた事に気づけなかった。

 

そのことに気づいた時にはもう、逃げてきたその人たちの目に生気は宿ってなかったのだった……

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

《地上3階》

 

「に、逃げろぉぉ!急げぇぇぇぇ!」

 

「いやぁぁぁ!!」

 

「うわぁぁあ!!!」

 

「化けモノォォ!!」

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

《地上8階》

 

「も、もうやだァァ!!」

「く、くそっ!こうなったら一か八か飛び降りるしか……」

 

「無理だバカやろ!!外はもう実験動物が埋め尽くしてる!!」

 

「でもこのままじゃ……」

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

《最上階(社長室)》

 

「っ、あ……」

 

「………………」

 

「ぁ……ぉ…ぉ…『ブスっ』……」

 

 

ロープで5つの首を縛られた見た目ボロボロの男の背から、突き抜けるように1本の腕が生えてきた。そこに握られているのは、ドクドクと動く男のアレ。

そしてアレを握っている張本人の真っ赤な少年は表情を一切変えないままに腕を一気に引き抜く。

 

 

プシャァあァァァ!!

 

 

腕が抜かれたあとの男の胸辺りからとんでもない量の血液が飛び出し、少年をさらに赤黒く染めた。しかし少年はそれを意に返した様子もなく既に生を終えている男の口に目を向けると、既に舌や歯もくり抜かれ何もなくなっていたその男の口の中へとアレを突っ込んだ。

当然サイズ的には少しきつい。それでも少年は片手で男の顎を無理やり外してこじ開け、アレを指先で握り潰しながら最後には細かく砕いて全てを飲み込ませた。

 

 

「クサイ……」

 

 

感情が篭ってるとも思えない声が部屋の中に響く。少年は最後に渾身の力でその男を人間だったかもわからない赤い塊に変えると、既に興味をなくしたかのようにこの部屋の中を荒し回り、そのまま男だったモノに1度も目をくれることなく夜の闇へと消えていった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

翌朝、日本国内全域に『昨夜、とある科学実験施設で大規模な爆発事故が発生』と報道された。

死亡者数は不明。だが少なくともその爆発した科学実験施設の関係者は全て死亡、もしくは消息が不明であることがわかった。

警察はもちろん最初はテロか何かとも予測したが、これといった手がかりになるものなど何も出てこず、また何か知っているかもしれない人間を探そうにも、一向に見つからなかった。

そして事件はそのまま闇の中へと忘れ去られたのだった……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

科学実験施設での事故から約2ヶ月。あの時血に塗れていた少年は、今ではすっかり身体を綺麗にしてどこからか奪ってきた小綺麗な服を身につけ、とある公園のベンチに頬杖をついて座っていた。

その少年の目に写っているのは、砂場の上で元気に遊ぶ子供たちと、その姿を微笑みながら見守っている母親たちの姿。

もうどれくらいそうしているのだろうか。少年は瞬きもせずに、子供たちが砂場に飽きて滑り台やブランコなどではしゃいでいる間もずっとその姿を眺め続けていた。

しかしその時間も突如終わりを迎える。先程まで少し怪しかった空模様が急に悪化し始め、さらには俄雨まで降り出してきたのだ。

こうなってはこれ以上公園で遊ぶわけにも行かず、お母さんたちは急いで我が子の手を繋いで帰路につき始める。少年もここで初めて動きを見せ、ゆっくりと腰を上げ始めた。そして公園の出口に向かおうとしたところで、ふと足を止め振り返る。

そこには、お母さんの手を振り切り、お母さんがかける言葉を無視して、『あと1回だけ』だと言って滑り台に向かう少女の姿があった。

 

何か予兆があった訳ではない。ただただ悪い予感がしただけだった。

 

そして、その直後…………

 

ピカァァッ!!(ゴロゴロゴロ!!)

 

 

……同時だった。空が激しく光った瞬間、少年は自身の出せる最高速度で少女へと走り込んでいた。そして思いっきり、されど大怪我はしないように優しく少女を突き飛ばす。一緒に逃げている時間などないと分かっていたからだ。

そして少年はそのまま落ちてきた雷を浴び、自分が救った1人の小さな女の子の命と引き換えに、この世界での人生を終えることとなったのだった。

 

「おにぃ……ちゃん……」

 

目の前で突き飛ばした少女が呆然とそう言っている景色を最後に……

 

 

 




以上で、第1話は終了です。

よく分からないと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、どうか寛大なお心でもう暫くお付き合い下さい。

第2話からはいよいよあのおじいちゃんが登場します。


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第2話 神界

お待たせしました。第2話です。

追記:今後のストーリーを考えて、神様から貰うものを一つ増やしました!


 

「ん………ここは……?」

 

 

少年が目を覚ますと、まず最初に目の中に飛び込んできたのはどこまでも続く青い空と白い雲だった。

 

起き上がって周りを見てみても、今自分がいる6畳程の空間を除き、どこまでも真っ白な雲で埋め尽くされている。しかし、だからこそ、少年には自分の今いるこの6畳間の空間が異質でならなかった。

 

周りの風景など気にも止めないとでも言いたげに存在するこの空間は、見たものに少し前の日本の家庭の1室を思い浮かばせるかのように、床は畳で覆われ、その真ん中には木製の丸テーブルと椅子代わりの座布団、壁のない端には箪笥とダイヤル式の黒電話。そして隅に置いてあるのはこれまた一昔前のアナログテレビだ。

 

少年はこの状況を暫く頭の中で整理しているうちにひとつの結論に辿り着いた。

 

 

(そうか……ここが天国か……)

 

「いや、違う違う。」

 

「!!」

 

 

その声を聞いた瞬間、少年は思わず口から心臓を吐き出しそうになった。それほど少年にとって、自分が平時でも気配を読み取れない相手というのは異常だったのだ。

 

少年はゆっくりと深呼吸をしながら声の発生元を見る。そこにはいつの間にか1人の立派な白髭を蓄えたお爺さんが、さっきまでは無かった急須と茶飲みを使ってお茶を入れている光景があった。よく見ればテーブルの上にはご丁寧に煎餅まで用意されている。

 

少年はその光景を未だ頭で整理しきれていないものの、ゆっくりと丸テーブルを挟んでお爺さんの正面にある座布団の上に座り直し、お爺さんから受け取ったお茶を1口啜った。

 

 

「っ……美味いな。」

 

 

少年はほぼ無意識にそう口に出したが、それを知ってか知らずか、目の前に座る袴を来たお爺さんは嬉しそうに笑いながら自分も茶を啜り、口を開いた。

 

 

「それはよかった。ところで今のお主の状況なんじゃがの……」

 

「ああ……それなら、死ぬ前の記憶がいちようありますから。それで、ここは一体どこなんでしょうか?」

 

「ふむ。ここに特に名前などないのじゃが……そうさな、神界とでも呼ぼうかの。ずばり、神様たちのいる世界じゃ。」

 

「神界……」

 

 

少年はお爺さん……もとい、神様の言葉を聞いてようやく頭の中で先程の不可解な疑問を解決することが出来た。

 

 

(そりゃ相手が神様ならいくら俺でも気配なんて読めないよな……)

 

 

少年はそう思って開き直ると、再びお茶を一口啜って目の前の神様に向き直る。

 

 

「えっと、じゃあもうひとつ質問してよろしいですか?」

 

「ああ、構わんよ。いくつでもしてきなさい。」

 

「ではとりあえずひとつ目。なぜ俺はここにいるのでしょうか?普通は天国か地獄のどちらかだと思うのですが……」

 

「ああ、それについては本当に申し訳ないのじゃが……君を死なせてしまった雷、じつは儂が間違って落としたものなんじゃよ……」

 

「は…?」

 

 

神様のその言葉に、少年は相手が神様であることも忘れてそんな声を漏らした。

 

 

「あれは……あんたが落としたのか……」

 

「ああ、本当に申し訳ない…。儂の不注意で誤って神雷を下界に落としてしまったんじゃ。その上まさか落ちた先に人がいるとは……」

 

 

少年はきゅっとズボンの裾をきつく握りしめる。

 

 

「ふざけんなよ……不注意って……神様のくせに……」

 

 

少年は震えた口調でそう言うと、突如立ち上がり神様の胸倉を掴みあげた。

 

 

「ふざけんなよっ!……あんた……神様の癖に…っ。その癖に……不注意って……ありえねぇだろうが!……そのせいで、1人のまだ小さな女の子の命まで奪うとこだったんだぞ!!」

 

「なっ……し、しかし被害受けたのは君だけじゃったはず……」

 

「それは俺が雷が当たる寸前でその子を突き飛ばしたからだよ!!…………あんた、ほんとに何も知らないんだな……」

 

「…………返す言葉もないの……」

 

 

神様は少年の言葉にそれだけ返すと、そのまま深く俯いてしまった。

 

 

「……そうか、儂は……そんな小さな子の命を、奪うとこじゃったのか……」

 

「……そうだよ。だから……頼むから……謝るなら俺だけじゃなくて、あの子やあの子の親御さんにも……謝ってくれ…。」

 

 

少年はそう言ってそのまま深く頭を下げる。それを見た神様は慌てたように手を振りながら少年に声をかけた。

 

 

「いやいや、君が頭を下げる必要はない。分かった。必ずその子とその子の親御さんには夢の中にでも出て謝るとしようかの。」

 

「……お願いします。」

 

「うむ。……それにしても、君は優しい子じゃな。死んだのは自分なのに、自分じゃなくてその死にかけた少女のために怒るなんて……」

 

「そんな事……」

 

 

少年は神様の言葉を否定しようとして、その口を閉ざした。今ここで仮に自分が大量殺人犯などと言えば、下手をすれば自分だけじゃなくて先程自分が口にした少女にも何か影響を及ぼすかもしれないと考えたからだ。

 

そんな少年の姿を見た神様も、何か事情があるのだろうと思い少年に対して追求はせず、1度咳払いして話を進めた。

 

 

「それでじゃな、君の名前は何と言ったかの?たしか……しらさき……」

 

「白鷺優輝翔(しらさぎゆきと)です。あと、出来れば下の名前で呼んでくれるとありがたいのですが……」

 

「うむ。了解した。それでは優輝翔くん。早速なのじゃが、君には生き返って貰いたい。なにせ君は儂の不注意で死なせてしまったのじゃからな。」

 

「そう……なんですか?」

 

 

優輝翔はそう曖昧な返事をしつつ首を傾げた。

 

 

(生き返って貰うって……でも、俺の死体なんてもうないだろ…。)

 

 

そんな優輝翔の疑問に応えるかのように、神様は言葉を付け足す。

 

 

「うむ。ただ君が考えておる通り元の世界に生き返らせることは出来ん。そこで別の世界で生き返って貰いたい。」

 

「なるほど。そういう事ですか。分かりました。」

 

「ああ、素直に納得出来るわけがないと理解はしておるが……って、は?いいのか?」

 

「ええ、まぁ。俺自身思うところがないわけじゃないですけど、だからって喚き散らしたところで無意味なことだと理解しているので。そんな無駄なことをするよりは、まだ母さんに恵んでもらったこの生を全うできることに感謝しますよ。」

 

「そうか……本当に君は……」

 

 

神様は優輝翔の想像以上に達観した姿と母親への思いに袖で目を拭う仕草を見せる。そしてふと決意したような表情を作ると、優輝翔に向かって口を開いた。

 

 

「優輝翔くん。新たな世界に行くにあたって、何か叶えてほしいことはないか?たいていの事は叶えてあげられるはずじゃ。」

 

「えっ?うーん……、いきなりそんなこと言われても……とりあえず、これから俺が生きていく世界の情報を教えてもらえませんか?」

 

「おお、そうじゃったな。これから君を送る予定の世界は……」

 

 

長くなったので要約すると、どうやらこれから自分が行く世界は元の世界と比べて文明の発達していない中世のあたりらしい。だがその代わりに魔法というものが存在しているそうだ。

 

優輝翔自身はライトノベルというものを読んだことがないのでよく知らないのだが、何でも空気中に存在する魔素と自身の持つ魔力というものを利用して発動するものらしい。

 

さらにはその後、優輝翔はその世界のお金の価値や、生態系、身分制度、オススメのお金の稼ぎ方など色々なことを神様から教えて貰った。

 

 

「ありがとうございます。参考になりました。」

 

「なに、構わんよ。それで、願い事は決まったかね?」

 

「その前にひとつ。願い事はひとつだけですか?」

 

「いや、儂に叶えられることなら出来るだけ叶えようと思っとる。しかし、そんなに多いのか?」

 

 

神様のその疑問に優輝翔は首を横に振ると、指を2本を立てて神様に見せる。

 

 

「いえ、3つだけです。ひとつ目はお金に関してなんですが、先程の話でチラッと俺を町から離れた場所に送り込むと言われてましたが……」

 

「ふむ。いきなり町中にやって誰かに見られたらあれだからの。」

 

「となると、仮に俺がその日中に町につけたとしても、お金が無ければ結局外で野宿することになると思うんです。それに正直向こうで働きはするものの、最初の内は給料もたかが知れてるでしょうから、出来れば約1ヶ月、少なくとも2週間程は向こうで不自由なく生活が送れる程のお金を頂けると嬉しいのですが……」

 

「おお、確かにそうじゃな。ではこれを渡しておこう。」

 

 

神様は手をポンっと叩いて納得すると、これまたどこから取り出したのか、金貨を3枚優輝翔に差し出した。

 

 

「これって……こんなにいいんですか?正直1ヶ月以上は楽できる気が……」

 

 

優輝翔がそういうのも無理はない。先程神様に教えて貰った貨幣価値では、王金貨が1枚1千万円、白金貨が100万円、金貨が10万、銀貨が1万、銅貨が千円で、青銅貨が100円、鉄貨が10円だ。

 

つまり、今優輝翔は1ヶ月分の生活費としては明らかに多いであろう30万円を神様から貰ったことになるのだ。

 

 

「なに、気にせんで良い。それにお主の元いた世界じゃとこれが一般的な1ヶ月分の給与じゃそうじゃしな。」

 

 

確かに。優輝翔も働いたことはないとはいえ、一般的なサラリーマンのひと月の給与がこれくらいだと言う知識は持っていた。しかし自分がこれから行く世界は文明が遅れていて、恐らく貨幣価値も元の世界より確実に低い気がするのだが…。

 

するとそんな優輝翔の疑問を見透かしたかのように、神様は笑いながら優輝翔の前に金貨3枚を置いた。

 

 

「なに、多くて余った分は儂からの詫び賃やお小遣いとでも思っておきなさい。」

 

「そうですか…。では有難く貰っておきます…。」

 

 

優輝翔は先に神様にお礼を言って頭を下げてから、金貨3枚を受け取ってポケットに入れた。

 

 

「じゃあ2つ目ですけど、これを使えるように出来ませんか?」

 

 

優輝翔はそう言ってついひと月ほど前に初めて購入したばかりのスマートフォンを神様に見せる。

 

 

「これをか?うむ。まぁ制限はつくができないことはない。」

 

「それは例えば?」

 

「向こうの世界の住人に電話やメールなどの直接的干渉ができんことじゃな。まぁ何もかもはあれじゃし、儂に電話くらいはできるようにしておこう。」

 

「なるほど、分かりました。ところで充電などは……」

 

「おお、そうじゃな。それなら君の魔力でできるようにしておこう。なに、君の魔力量ならすぐ充電出来るじゃろう。」

 

「そうですか、ありがとうございます。」

 

 

優輝翔はそう言って再び頭を下げる。

 

優輝翔ととしては新たな世界で1番重要となる情報を手に入れる媒体が手に入ればよかったので、機能的には十分であった。まぁ神様への電話機能という特殊なものもついてきたが、それに関しては本当に困った時にでも使わせてもらうとしよう。

 

 

「じゃあ最後に三つ目。これは保険なのですが、今後異世界に行ってどうしても困ったことがあった時、一度でいいから助けて欲しいんです。もちろん立場上難しいこともあるでしょうから、無理なことであれば断ってくださって構いません。」

 

「なるほど……まぁいいじゃろ。元は儂が悪いんじゃしな。一度と言わず、困ったことがあればいつでも連絡してきなさい。さて、ではそろそろ蘇ってもらうとするかの。」

 

「分かりました。お願いします。」

 

「うむ。ではその前に……」

 

 

神様がそう言って優輝翔の前に手を翳すと、優輝翔の周りを暖かな光が包み込んだ。

 

 

「蘇ってすぐ死んでしまってはあれじゃからの。君の基礎能力、身体能力、その他諸々全ての能力値を底上げしておこう。これで余程のことが無ければ死ぬ事は無いじゃろう。無論、もう儂もあんなミスは犯さんように心がけるしな。」

 

「本当にお願いしますよ……」

 

「うむ、分かっとる。あと1度送り出してしもうたらもう儂からの干渉はあまり出来んのでな。そのつもりで。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

「うむ。では行くぞ。」

 

 

神様の言葉に優輝翔はひとつ頷く。

そして次の瞬間には、優輝翔の意識は既に途切れていたのだった……

 

 

 




次回、いよいよ異世界へ


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第3話 ファッションキングザナック

3話目です。今回もよろしくお願いします。


 

徐々に意識が戻り、ゆっくりと目を開ける。直後に飛び込んできた景色は、先程神様のいた所でみた景色とほぼ変わらなかった。

 

続いて起き上がって周りを見る。こっちは違った。森、山、草原、それに道のようなものが1本、目の届く範囲いっぱいまで続いていたのだ。

 

 

「ここが異世界……なのか?」

 

 

優輝翔はそう疑問に思いながらスマホを取り出して電話帳を開く。確かにそこには『神様』という2文字が記されていた。

 

 

(夢じゃなかったんだな……)

 

 

優輝翔はそう確信すると、立ち上がって地図を開いた。そして1番近くにある町の位置を確認してから、道沿いを歩き始める。

 

町までは結構距離があるようだが、急がなくても日が暮れるまでには問題なく着く距離なので、優輝翔はゆっくりと歩いて向かうことにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ガタッ ゴトッ

 

「ん?」

 

 

しばらく歩いていると、何やら後ろから物音が聞こえてきた。

 

優輝翔が振り返ると、少し遠くからこちらに向かって1台の馬車が走ってくるのが見えた。何やらすごく高級感のある馬車だ。恐らく乗っているのはどこぞの貴族か何かだろう。

 

優輝翔は変に絡まれるのもあれなので、大人しく道を開けて馬車を先に行かせる。しかし馬車は優輝翔の隣を通り過ぎるとすぐにその場で停止してしまい、中から勢いよくお洒落で高そうな服を着た紳士が飛び降りてきた。そして不思議に思って立ち止まっていた優輝翔へと一直線に駆け寄り、その両肩をガシッと掴む。

 

 

「き、君っ!ちょっといいかねっ!」

 

 

紳士は優輝翔の身体をガクガク揺らしながらそう尋ねると、優輝翔は首を傾げながらも悪意はなさそうなので素直に頷いた。

 

 

「そ、そうかっ。で、では質問だがっ、この服はいったいどこで手に入れたのかねっ!?」

 

「服?」

 

 

優輝翔のその疑問の言葉を無視して、紳士は優輝翔から手を離すと優輝翔の周りをグルグルと周回しながら唸り始める。

 

 

「う~む…。服の生地や、刺繍、デザインや、縫製技術のひとつをとってもなんと素晴らしいことか…。」

 

 

その紳士の言葉を聞いて、優輝翔はふと自分の服装を思い出す。

 

 

(そう言えばこの服……元の世界にいた時に悪徳社長や評判の悪い政治家のとこから盗みに盗んだ物のひとつだったな。確か値段も桁が違っていたような…。)

 

 

優輝翔はそう思いながら紳士にある提案をした。

 

 

「もしやあなたは服飾関係を携わる方でしょうか?もしそうならこの服をお譲りしましょうか?」

 

「ほ、ほんとかねっ!?」

 

 

優輝翔の提案に紳士が勢いよく食いつく。優輝翔としてはこの服に何ら未練があるわけでもなく、ましてや売ることでよりこの世界に適応した服と高い金を得ることが出来るかもしれないので、万々歳だった。

 

 

「ええ。ただ代わりと言ってはなんですが、この服を売る代金とは別に1着、俺の着れる服を用意していただけると嬉しいのですが。」

 

「よかろう!馬車に乗りたまえ!次の町まで行けば私の店があるので、そこで君の服を用意させよう。服もその時に売ってくれ!」

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

 

優輝翔はそう言って紳士と握手を交わすと、紳士の乗っていた高級感溢れる(実際に中もふかふかの椅子と背もたれが置かれていた。)馬車に乗り、町までの時間を紳士(名をザナックさんと言うらしい)と色々話しながら過ごしたのだった……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

3時間後、ザナックさんと優輝翔を乗せた馬車は無事に最寄り町『リフレット』に着いた。

 

 

「さぁ、着いたぞ。ここが私の店だ。」

 

 

ザナックさんに言われて馬車を降りると、優輝翔は目の前にある店を見上げた。

 

 

(……読めないか。でも何となく英語に似てるな。)

 

 

優輝翔は看板の文字を見て心の中でそう呟いてから、キョロキョロと辺りを見渡した。当然と言うべきか、そこには優輝翔が初めて見る景色が広がっている。

 

 

(これが中世……異世界…。)

 

 

優輝翔はそう思ってほんの少しの間目を瞑り感慨に浸ってから、先に店に入っていったザナックさんを追って店に入った。

 

 

「おお、来たか。ではそこの試着室を使ってくれたまえ。すぐに店の者に君にあった着替えをいくつか持って行かせるから、その中から気に入ったものを選んでくれればいい。」

 

「分かりました。」

 

 

優輝翔はそう返事をして試着室に入る。

 

そして店員の人に持ってきてもらった服に着替えを進めたのだが、ちょっとここで問題が発生した。なんと着替えてる途中で何度もザナックさんが乱入してきては、最終的には下着から何から全て売ってくれと言い出したのだ。

 

これには流石の優輝翔も怒りを通り越して呆れてしまい、結果流されるように全てのものをザナックさんに売った。まぁこの貸しは服の料金に迷惑料として上乗せしてもらうことで返してもらうとしよう。

 

 

(というか使用済みの下着なんて需要あんのかよ……)

 

 

優輝翔はそう思いながら自身の選んだ服を確認する。優輝翔の選んだ服は全体的に派手さはなくシックな感じで、動きにくさもなかった。

 

 

「悪くないな。」

 

 

優輝翔がそう言って納得していると、ザナックさんが見るからにホクホクとした顔で優輝翔の元へとやって来た。

 

 

「いやぁ、良い買い物をさせてもらった。それで、いったいいくら欲しいかね?無論、金に糸目はつけん!」

 

「そうですね…。俺としても多いに越したことは無いですが……ひとまず、ザナックさんの想定額を聞いても?」

 

「ふむ。私としては最低でも金貨30枚以上は出せると思っとる。上限としては倍の60枚あたりだ。」

 

「なるほど…。では金貨58枚でどうでしょうか?」

 

「乗った!」

 

 

優輝翔の提案にザナックさんが勢いよく頷く。

 

ちなみに増えた金貨のうち、約20枚、つまり500万円分は服の料金であり、残りの8枚、80万円は馬鹿高い迷惑料なのだが、まぁそのことは話す必要は無いだろう、うん。

 

 

「では決まりですね。内訳は白金貨5枚、金貨7枚、銀貨10枚でお願いできますか?」

 

「あい分かった。待っていたまえ。」

 

 

ザナックさんはそう言って店の奥に入っていく。

 

ちなみに内訳の理由は持ち数を減らして重さを軽減することと、使い勝手を良くすることだ。

 

そして戻ってきたザナックさんからお金を受け取って中身を確認すると、優輝翔は近くの宿屋の場所をザナックさんに尋ねた。

 

 

「ああ、それなら『銀月』という宿屋が近くにあるよ。ほら、この道を右手に真っ直ぐ行けばすぐだ。」

 

「分かりました。いろいろとありがとうございました。」

 

「なに、また珍しい服を手に入れたら持ってきてくれたまえ。」

 

 

ザナックさんに別れを告げ、優輝翔は『銀月』までの道を歩き始める。その道すがら、優輝翔はスマホの地図画面を開いてあることを確認した。

 

 

「……やっぱり、スマホだとちゃんと翻訳されて出てくるんだな。」

 

 

優輝翔はそう言って先程の店の文字が『ファッションキング・ザナック』と書いてあったことを確かめると、ついでに『銀月』の正確な位置を確認してスマホの画面を閉じた。

 

 

 




話の進みが遅いと思う方もいるかもしれませんが、どうか寛大なお心で読み続けて頂ければ幸いです。


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第4話 『銀月』

4話目です。この先話が進んでいくにつれて話の進行が遅いと思う方も多くなると思いますが、どうかゆったりと気長にお楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。


 

「いらっしゃーい。食事ですか?それとも泊まりで?」

 

 

『銀月』と書かれた看板のある建物の前に着き両開きの扉を開けて中に入ると、右手から若い女性の声が聞こえてきた。

 

優輝翔が振り向くと、カウンターからオレンジ色の髪をポニーテールにした若い(恐らく20前後くらい)女の人がこちらに向かって笑顔を見せていた。

 

 

「すみません、宿泊をお願いしたいのですが……」

 

「はーい。うちは1泊前払いで銅貨2枚ね。あ、食事は3食付いてるから。」

 

「銅貨…(…安いんだな。)」

 

 

知識として日本の平均的なホテル代を知っていた優輝翔は、内心で少し驚きながらポケットから銀貨を6枚取り出す。

 

 

「ではとりあえず1ヶ月分お願いできますか?お代はこれで。」

 

 

優輝翔はそう言ってカウンターの上に銀貨を置くと、お姉さんは少し嬉しそうな顔をしてそれを受け取った。

 

 

「はーい、ぴったりね。今銀貨切らしちゃってたから助かったぁ。ありがとう。」

 

「どういたしまして。お役に立てのならよかったです。」

 

「ふふっ。じゃあここに名前を書いてくれる?」

 

 

お姉さんはそう言って優輝翔に宿帳のようなものと羽根ペンを差し出した。

 

 

「あの、すみません…。実は俺、まだ文字の読みかけがほとんど出来なくて…、代筆をお願いできますか?」

 

「そうなの?そういうことならもちろんよ。名前は?」

 

「白鷺優輝翔です。」

 

「シラサギ?変わった名前ね。」

 

「……いえ、優輝翔が名前です。あと、出来れば優輝翔の方で呼んでもらえますか?」

 

「えっ?まぁいいけど…。」

 

 

優輝翔の言葉にお姉さんは疑問に思いながらも素直に了承する。深く突っ込んでこないのは優輝翔としてもかなりありがたかった。

 

 

「すみません、無理言って……」

 

「えっ?あ、ううん。大丈夫。あ、ちなみに私はミカよ。よろしくね。」

 

「はい、お世話になります。」

 

 

優輝翔の言葉にお姉さん、もといミカさんは笑顔を浮かべて宿帳に目を戻した。

 

 

「にしても名前と家名が逆って……優輝翔君ってもしかしてイーシェンの出身かしら?」

 

「イーシェン……ああ。」

 

 

優輝翔は最初イーシェンが分からなかったが、そう言えば神様に日本と似た国の話を少しだけ聞いたことを思い出し、首を縦に振った。

 

 

「そうですね。まぁただ少し特殊なので、そこに関してもツッコミはなしでお願いできますか?」

 

「そうなの?分かったわ。」

 

 

優輝翔の提案にミカさんは快く頷いた。そして宿帳を後ろの棚にしまうと、今度は引き出しのところからひとつの鍵を取り出して優輝翔に手渡す。

 

 

「はい。これが部屋の鍵ね。場所は3階の奥の1番陽当たりがいい部屋よ。トイレと浴場は1階、食事はここでね。あ、お昼はもう食べた?まだなら何か軽いもの作るけど……」

 

「なら、お願いします。ちょうど小腹が空いてて……」

 

「はーい。じゃあ何か軽いもの作るから、その間に部屋の確認でもしてきて。」

 

「わかりました。お願いします。」

 

 

優輝翔はそう言うと階段を上って与えられた部屋に入った。

 

部屋の中は非常にシンプルな作りで、ベッドとクローゼットに、机と椅子が置いてあるだけだった。

 

試しにベッドに寝転がってみる。感触はなかなかであった。枕に関して言えば、どうやら元の世界のものよりも数段いい物のように思えるほど柔らかく滑らかな肌触りなのだが、これがこの世界の普通なのだろうか?

 

 

「……下行くか。」

 

 

優輝翔はしばらく寝転がった後で、そう言って立ち上がり部屋を出た。

 

 

「あっ、来たきた。ちょうど出来たよ。」

 

 

優輝翔が下に降りると、ちょうどミカさんがテーブルの上に食事を並べてくれていた。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

優輝翔はお礼を言って食事の用意された席につく。メニューはシンプルにサンドイッチとサラダ、スープのようだ。

 

優輝翔はまずサンドイッチを手に取って一口齧る。たまごサンドだ。これはシンプルに卵の具合、料理した者の腕で味に違いも出やすいのだが……

 

 

「……美味い。」

 

 

優輝翔は素直にそう思った。なんと言うか、心休まる故郷の味と言った感じだ。まぁ、優輝翔に故郷(ソンナモノ)は存在しないが……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

食事を終えた優輝翔はミカさんに一言ことわって町の様子を見に行った。優輝翔自身、初めて見る中世の(おそらくヨーロッパのあたりであろう)町並みに興味があったし、何よりこれからしばらくの間自分が過ごす予定のこの町をもう少し詳しく知っておこうと思ったのだ。

 

 

「やっぱり武器を持っている人は多いな。」

 

 

最初に口から出た言葉はそれだった。

 

優輝翔は予め神様にこの世界の一般的な稼ぎ方として、ギルドという場所で登録を済ませて依頼をこなす事で収入を得るということを聞いていたのだが、やはり魔物を狩る依頼なども多いのであろう。

 

そして優輝翔が自分の武器を何にしようか考えながら歩いていると、ふと近くの路地裏から複数人が争う声が聞こえてきた。しかも声を聞く限り幼い女の子も関わっているようだ。

 

 

「……行くか。」

 

 

優輝翔はそう呟くと静かに音の発生源へと歩いていった……

 

 

 



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第5話 双子との出会い

第5話です。いよいよ第1妃の登場です。


 

「約束が違うわ!代金は金貨1枚のはずでしょ!」

 

「けっ。何言ってやがる。確かにそうも言ったが、それは傷物でなければだ。ひとつでも傷があったらアウトなんだよ!」

 

「なっ……!そんなことっ、1度も言ってなかったわよ!だいたい傷だってねぇ!…………」

 

 

路地裏の先で1人の少女とガラの悪い男2人がそんな言い争いをしている。

 

少女の方は銀髪のロングヘアで、活発な印象を受ける女の子だ。そしてもう1人、女の子がそのロングヘアの少女のすぐ後ろに隠れるようにいるのだが、その子も銀髪(こちらは短く切り揃えられているが)であることから、恐らく姉妹であろう。後ろの女の子の方からは、どこか清楚な印象も受け取れる。共に歳は10代前半といったところだろうか。

 

男達の方は……まぁ、需要なさそうなので説明しなくともよいだろう。そんな男達だが、そのうちの1人、筋肉質?な男の方の手には何やら水晶でできた透明な鹿の角のようなものが握られていた。おそらくはあれが今回の争いの原因であろう。

 

そして確かに、その角にはほんの小さな切り傷があった。

 

なるほど。確かに元の世界の場合ならこれは男達に多少分のある争いである。まぁそれがこの世界でも同じかは分からないが、仮に同じであるとすれば、優輝翔が味方すべきは男達の方になるというわけだ。

 

だが……

 

 

(まぁ、ここで男達の肩を持つのはあれだわな。)

 

 

優輝翔はそう思ってため息を吐くとと、ゆっくりと争っている4人の元に歩いていって声をかけた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜

 

 

「悪い、ちょっといいか?」

 

「「「「!?」」」」

 

 

優輝翔の言葉に4人が一斉に優輝翔の方へ顔を向ける。最初は皆一様に驚いた顔をしていたが、次の瞬間には女の子たちは混乱したような戸惑っているような顔を、男達は睨みつけるような威嚇するような顔を優輝翔に向けた。

 

 

「あぁ!?なんだてめぇ!なんか用か!?」

 

「いや、別にあんたらに用はない。俺が用があるのはそっちの方だ。」

 

「なっ……」

 

 

そう言って優輝翔が銀髪ロングの女の子の方に顔を向けると、女の子は「えっ?私っ?」と言って再び驚いた様な顔を優輝翔に向けた。

 

そんな女の子に優輝翔は頷くと、ポケットから金貨を1枚取り出して女の子に交渉する。

 

 

「ああ。提案なんだが、その角、俺に金貨1枚で売ってくれねぇか?」

 

「………………!!う、売る!売るわ!」

 

 

一瞬、女の子は優輝翔が言っていることを理解出来なかったようだが、すぐにその意味を理解すると勢いよく頷いてそう言った。

 

 

「よし、契約成立だ。」

 

「わっ!」

 

 

優輝翔はそう言って女の子に金貨を投げる。女の子は急な事でビックリしていたが、なかなかにいい反射神経で見事金貨をキャッチした。

 

優輝翔はそれを見送ると、すぐに道端の石をひとつ拾い上げて先程からワアワア喚き散らしている男達の持つ角へ指で弾いて投げつける。

 

 

パリんっ!

 

「なっ!てめぇ!!」

 

「何すんだこらァッ!!」

 

「別に、その角が俺が買ったもので、その俺がいらなかったから割っただけだ。あんたらにやる価値もなさそうだしな。」

 

「このやろっ!」

 

「覚悟しやがれっ!」

 

 

角を割られたことで怒った男達は、細身の男はナイフを、筋肉質の男は斧のようなものを取り出して優輝翔に襲いかかった。

 

対して優輝翔は素手。武器などはまだ入手はしていなかった。

 

 

だがしかし、まぁ相手が悪かったとでも言っておこう。こと対人戦に関して、優輝翔の右に出るものなど、それこそ神を除いているはずもないのだから……

 

さらに、と言うべきか、優輝翔は神様により全能力値を底上げされているのだ。それがどういう意味か、もう分からない人はいないだろう。

 

 

(……遅い。)

 

 

まず感じたのはそれだった。優輝翔は男達との距離を2mとちょっとくらいまで詰めていたが、それでも男達が自分に攻撃を当てるまで、優輝翔としては男達を誇張なく3桁は殺せる時間があったように感じた。

 

そして男達たちの攻撃が優輝翔に届きそうになったところで……動く。

 

 

「なっ…カハっ!」

 

「!!……ガっ!」

 

 

男達にはいきなり動き出した優輝翔は消えたように見えたであろう。実際には優輝翔は全力のぜの字も出してないのだが、まぁそんなことはどうでも良いか。

 

優輝翔は男達の攻撃を一瞬のうちに躱した後、それぞれ首筋と鳩尾に衝撃を与え気絶させた。最初は殺そうかなとも考えたのだが、それは流石に目の前で血を見せられる女の子たちが可哀想だろうと思いやめたのだ。もし仮に優輝翔が冷静でなかったのなら、優輝翔は女の子の前であろうと関係なく男達を殺していただろう。男達にはこれでもまだ運が良い方だと思ってもらいたい。本当に。

 

そして優輝翔は男達が2人とも気を失っているのを確認すると、改めて女の子の方へと向き直って目の前まで歩く。

 

 

「すごい…。強いのね、あなた。」

 

 

優輝翔が目の前まで行くと、先程男達と言い争っていたロングヘアの女の子が目を輝かせながらそう言った。

 

心成しか、ショートヘアの子も顔を赤くして自分の方を見つめているように思える。

 

 

「まぁ、少なくともあれくらいはな…。ちなみに、俺は白鷺優輝翔だ。優輝翔が名前だからそっちで呼んでくれ。」

 

「分かったわ。私はエルゼ・シルエスカ。こっちは妹のリンゼよ。」

 

「リンゼ……シルエスカです//」

 

 

姉の紹介にショートカットの妹も照れながら頭を下げる。ちなみに2人は双子で、歳は共に13歳だそうだ。

 

 

「にしてもほんとに助かったわ。改めてありがとね、優輝翔。」

 

「ありがとうございます//」

 

「いや、別に気にしなくていい。ただこれからはもう少し気をつけるようにした方がいいと思うぞ。」

 

「そうね。今回のでよく分かったわ……」

 

 

優輝翔の忠告に、エルゼが少し反省したような顔色を見せる。しかしすぐに元に戻すと、ふと思い出したかのようにポケットに手を突っ込んで金貨を1枚(恐らく先程優輝翔が渡したやつを)取り出した。

 

 

「はい、これ。危うく返すの忘れる所だったわ。」

 

「はっ?なんで返すんだ。俺は確かに角を買ったぞ。」

 

「えっ、だってそれは私たちを助けるための口実じゃ……」

 

「角もすぐに割っていましたし……」

 

 

2人の言葉に優輝翔は首を横に振ると、金貨を差し出しているエルゼの手を押し返すようにして告げた。

 

 

「口実でもなんでもいいから、それは持っとけ。別に金には困ってねぇしな。それにあれは俺が助けたかったから助けただけだ。気にすんな。」

 

「でも……」

 

「いいから。それより、2人はこれからどうするんだ?」

 

 

優輝翔が話題を変えたことに2人は顔を見合わせると、エルゼは金貨を再びポケットにしまった。

 

「ありがとう//これからのことに関しては、とりあえず宿を取ろうと思ってるわ//」

 

 

「ありがとうございます//」

 

 

「ああ。それと宿に関してだが、良かったら俺の泊まってる宿に来るか?1泊前払い3食付いて銅貨2枚だ。ちなみに俺は今日から1ヶ月泊まる予定だが……」

 

 

優輝翔がそう言うと2人は顔を輝かせて同時に頷いた。

 

 

「ええ!お願いするわ!」

 

「よろしくお願いしますっ。」

 

 

「よし、なら行くか。」

 

 

そう言って優輝翔は2人を『銀月』まで連れて帰る。ミカさんは優輝翔がさらに新しいお客さんを連れてきてくれたことで嬉しそうにエルゼたちを歓迎し、そしてその日の夜は、みんなに少し豪勢な夕食が出てきたのだった……

 

 

 



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第6話 ギルド

第6話です。
今話もどうぞよろしくお願いします。
まだ序盤なので3話以降あまり原作と相違はないですが、それでも読んでくださる方に感謝を……


 

翌日、優輝翔は昨日会ったばかりの双子と一緒に朝からギルドへと向かった。

 

昨日、夕食後に3人で話し合った結果、一緒にギルドに行ってパーティーを組もうという話になったのだ。優輝翔としてもちょうどギルド登録をしようとしていたところだし、双子も双子で(特にエルゼが)昨日の出来事で懲りたのか、これからはギルドから依頼を受けて収入を得ようという話になり、それならばということで、そういう結論に辿り着いたのである。

 

優輝翔としても1人きりよりは何かと都合が良かったし、エルゼたちとしても優輝翔には強くて優しい頼れる人という印象がついていたので、お互いに何ら問題はなかった。

 

ギルドに着くと、3人は真っ直ぐに空いている受付へと向かった。

 

 

「すみません。ギルド登録をお願いしたいのですが……」

 

「はい。後ろの方も含め3人ですね。ギルド登録は初めてでしょうか?もしそうであれば簡単に説明の方を致しますが……」

 

「お願いします。」

 

「畏まりました。」

 

 

受付のお姉さんは軽く頭を下げると、ギルドについての説明を始めた。

 

以下、内容を簡単にまとめるとこんな感じだ。

 

1、ギルドは依頼者からの仕事を紹介してその仲介料を取る機関である。

 

2、仕事はその難易度によってランク分けされており、その難易度は下から順に、黒<紫<緑<青<赤<銀<金という順番になっている。

 

3、下位の者が上位ランクの仕事を受けることはできない。しかし、パーティーの過半数が上位ランクに達していれば、下位ランクの者がいても関係なく上位ランクの仕事を受けることができる。

 

4、依頼に失敗した場合、違約料が発生することがある。

 

5、さらに数回依頼に失敗し、悪質だと判断された場合は、ギルド登録を抹消される。この場合、もうどこの町のどこのギルドでも再登録は不可となる。

 

6、(その他)、5年間依頼をひとつも受けないと登録失効になる、複数の依頼は受けられない、討伐依頼は依頼書指定の地域以外で狩っても無効、基本、ギルドは冒険者同士の個人的な争いには不介入、ただし、ギルドに不利益をもたらすと判断された場合は別…etc

 

「以上で説明を終わります。他に何か不明な点などが出てきましたら、係のものにお尋ねください。」

 

「分かりました。」

 

「それではこちらに必要事項の記入をお願い致します。」

 

 

お姉さんはそう言って3枚の用紙と羽根ペンを優輝翔たちに差し出した。優輝翔はそれを受け取り案の定文字が読めないのを見ると、自分の横に来て今まさに用紙に文字を書き込もうとしているリンゼに話しかけた。

 

 

「リンゼ。リンゼたちは確か読み書きは普通に出来るんだよな?」

 

「えっ?あ、はい。できますけど……」

 

「なら俺のも頼めるか?実は読み書きをまだほとんど覚えてないんだ。」

 

「そうなんですか?分かりました。」

 

 

リンゼは優輝翔の頼みに快く頷くと、自分のと一緒に優輝翔のも書き上げた。

 

 

「出来ました。」

 

「ありがとな、リンゼ。」

 

「ふぁっ//ど、どういたしまして…//」

 

 

優輝翔がリンゼの頭にポンっと手を置いてお礼を言うと、リンゼは少し頬を染めて言葉を返した。優輝翔はそんなリンゼに軽く微笑むと、既に書き上げていたエルゼの用紙と一緒にお姉さんに渡した。

 

するとお姉さんは引き出しからピンと黒いカードを3枚ずつ出し、優輝翔たちにカードに血を染み込ませるように伝えた。

 

そして優輝翔たちがそれも終えると、お姉さんは最後にギルドカードについての説明(簡単に言うと、持ち主本人以外の人が持てば10秒ほどで灰色になる)を行って、ギルド登録の終了を優輝翔たちに伝えた。

 

 

「さあ!依頼を探しに行きましょうか!」

 

 

エルゼが元気よくそう言うと、他2人もそれに頷いて3人で依頼ボードの前に立った。

 

…………は、いいのだが……

 

「読めないんだよな……」

 

 

仕方ないので、優輝翔はリンゼに通訳してもらいながら3人で依頼を吟味し、最終的に1枚の依頼を選び出した。

 

内容は一角狼の討伐。数は5匹で、報酬は銅貨18枚だ。エルゼたち曰くこのメンツなら難しくない相手らしいので、その内容で1人6千円なら悪くない依頼だろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

依頼申請を終えてギルドを出た3人は、優輝翔の武器調達のため町の武器屋に来ていた。

 

店の名前は『武器屋熊八』。その名の通り、店主も一目熊のような大男である。

 

 

「優輝翔はどんな武器がいいの?」

 

 

店の中を見て回りながら、エルゼがそう聞いてくる。

 

 

「そうだな…。(基本は素手で十分なんだが……)とりあえず、使いやすそうな剣を見てみてもいいか?」

 

「もちろんよ!ねっ?リンゼっ。」

 

「うんっ。優輝翔さんの場合はやっぱり力よりも速さが武器だと思うので、片手剣はどうですか?」

 

 

リンゼがそう言って片手剣のコーナーを指で指す。そして優輝翔がそこに行ってしばらく剣を見ていると、1本の剣に目が止まった。

 

いや、『刀』と言った方が正解なのだろう。

 

優輝翔はその刀をそっと両手で持って重さを確かめる。そしてその後はそっと刀を抜いて刃の形や質を見てから、ひとつ頷くとそれをまた鞘にしまった。

 

 

「あら、それ…。やっぱり故郷の剣が気になるの?優輝翔。」

 

 

優輝翔が刀を持って色々試しているのが気になったのか、エルゼが傍からそう優輝翔に聞いてきた。

 

 

「まぁな。とりあえずひとつはこれにするよ。」

 

「えっ?ひとつはって……いくつか買うんですか?」

 

「ああ、ちょっとな。」

 

 

優輝翔はリンゼの問いに軽くそう答えると、ナイフや小太刀などが売ってるエリアに行き、そこで数点物色してから店主のところに向かった。

 

 

「会計をお願いします。」

 

「はいよ。えーと……合計で金貨3枚と銀貨2枚ですね。」

 

「「えっ!?」」

 

あまりに金額が高かったせいか、優輝翔の後ろで待っていた双子が同時に声を上げて驚いた。

 

「金貨3枚って……」

 

「優輝翔さん……いったい何を買ったんですか…?」

 

「別に。ただ切れ味のいいナイフとを幾つかだけだ。」

 

 

優輝翔はそう言って金貨4枚で会計を済ませ、買ったナイフを自分の服の至る所に仕込んでいった。

 

 

「よし、じゃあ行くか。」

 

「優輝翔……あんたそれじゃまるで……」

 

「暗殺者……」

 

 

双子がそう言いながら固まっているが、優輝翔はそれに対して軽く口角を上げるだけで特に返答はせず、次の店へと歩き始めた。

 

そしてその後、必要なものを全て買い終えた優輝翔たちは3人揃って依頼の指定場所である東の森へと歩き始めたのだった……

 

 



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第7話 初戦闘

今話もよろしくお願いします。
今少し元々書きだめしてあったストーリーに手を加えていて、その関係でもしかしたら今まで出した話もいじるかも知れませんが、ストーリーの流れにほとんど影響、変化はないので安心してください。


 

リフレットを出て約2時間。優輝翔たちは無事に東の森まで辿り着いていた。

 

森の中に入ってしばらく経った頃、優輝翔は突如前方から2つの気配がものすごい勢いでこちらに向かって来るのを感じ取った。優輝翔は自分の後ろをついてきていた双子を手で合図して静止させると、そっと腰を落として剣に手を添える…。

 

 

ザシュッ!ザシュッ!

 

 

直後、前方から2匹の灰色の狼が連続して飛び出してきた。額に立派な角も生えていることから、この生き物が一角狼で間違いないのだろう。

 

尚、優輝翔がこのことを認識するのにかかった時間は僅か0.2秒。そして狼が飛び出してきてから0.5秒と経たないうちに、優輝翔はうち1匹に向かって素早くナイフを投げつけていた。

 

 

「わふっ!」

 

 

優輝翔の投げたナイフが見事片目に突き刺さり、刺された狼は失速した。そしてその隙に優輝翔はもう片方の狼の首を刀で飛ばし、続いて残ったもう一匹の狼の命の灯火も消し去った。

 

ここまでにかかった時間、僅か1.8秒。

 

 

「うわぁぁ…//」

 

「す、すごい……」

 

 

双子は優輝翔の戦いぶりに思わずとも驚きの声を漏らしていた。

別に打合せしていたわけではない。ただ、自分たちもと思った時には既に戦いが終わっていただけだった……

 

そんな呆然とした様子の双子に、優輝翔はそっと両の手の平を差し出す。

 

 

「次がもう来る。今度は任せたぜ。」

 

「「!!」」

 

「……ええ、任せておいて。」

 

「スー…ハー…スー…ハー……行きます。」

 

 

双子はそう言うとそれぞれ優輝翔の手に自分の手を軽く合わせてから臨戦態勢に入った。そして3匹の狼が飛び出してきた瞬間、リンゼが炎の魔法で瀕死に追い込み、エルゼが強烈なパンチを繰り出して戦いを終えた。

 

流石双子と言うべきだろう。実に息の合ったコンビネーションプレーであった。

 

 

「ふぅ。案外簡単だったわね。」

 

 

エルゼがそう言いながら汗を拭う仕草を見せる。別にそこまで汗はかいてないだろうから、単にそうしたい気分なのだろう。

 

 

「よし、じゃあさっそく角を切り取るか。」

 

 

優輝翔はそう言って倒した狼の角を採取していく。

このような討伐依頼の場合には倒した証拠として必ず討伐部位というものが必要になるそうで、その討伐部位というのは魔物ごとにほぼ決まっているらしいのだ。それが今回の一角狼で言うと、角に当たるのである。

 

ちなみに魔物の討伐部位以外の箇所も持って帰れば売ることは出来るそうなのだが、まぁそれは馬車で移動している人や空間系の魔法を使える人の特権だそうだ。

 

角の採取を終えると優輝翔たちはまた2時間掛けてリフレットの町へと戻った。そしてギルドに行って依頼完了の報告をする。

 

 

「はい。一角狼の角5本、確かに受け取りました。ではギルドカードの提出をお願いします。」

 

 

受付のお姉さんの言葉に優輝翔たちがカードを差し出すと、お姉さんは引き出しからハンコのようなものをひとつ取り出してカードに押し付けた。

するとそこから小さな魔法陣(?)のようなものが広がり、またすぐに消える。

 

 

「今のは?」

 

「これはカードにあなた方の実績を記録する魔道具です。こうして実績を積み重ねていけば、ランクアップの基準を満たした時には自然とカードの色が変わる仕組みです。」

 

 

お姉さんは優輝翔の疑問に丁寧に答えると、優輝翔たちにカードを返して小さな小袋を渡してきた。

 

 

「こちらが報酬の銅貨18枚になっております。ご確認ください。」

 

 

お姉さんに言われ優輝翔は枚数を確認すると、エルゼとリンゼに6枚ずつ分けた。

 

 

「ではこれにて依頼完了になります。お疲れ様でした。」

 

 

お姉さんの言葉に、優輝翔たちは軽く頭を下げてからギルドを出る。

するとエルゼがポンっと手を叩いて優輝翔とリンゼにある提案をした。

 

 

「ねぇ、折角だし、どこかで初依頼成功のお祝いでもしない?私、お腹すいちゃった。」

 

「そう言えば、もうお昼すぎてるもんね。」

 

「でしょ?リンゼもお腹すいてるみたいだし、優輝翔はどう?」

 

「ああ、俺もちょうど腹が減ってたんだ。どこか食べに行こうか。」

 

「やった!」

 

 

エルゼはそう言って可愛らしく胸の前で両の拳を握って喜ぶと、リンゼと一緒に飲食店を物色し始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

その後、優輝翔たちはエルゼが選んだ『パレント』という喫茶店に入った。ちなみに選考理由は、「私の空腹センサーが反応したから」らしい。

 

注文を終えると、優輝翔は双子に昨日から考えていた頼みを伝える。

 

 

「2人とも、ちょっといいか?」

 

「ええ、いいわよ。」

 

「何でしょうか?」

 

「実は2人に2つほど頼みがあるんだが……」

 

 

優輝翔がそう言うと、2人は1度顔を見合わせてから笑顔で頷いた。

 

 

「ありがとう。実は俺に文字の読み書き、そして魔法を教えて欲しいんだ。」

 

「「えっ!?」」

 

 

優輝翔の言葉に2人は同時に声を上げて驚いた。その反応に優輝翔は少し首をかしげながら2人に尋ねる。

 

 

「どうした?何か変な事言ったか?」

 

「い、いえ、そうではないんですが……」

 

「魔法を教えてほしいって……適性はあるの?」

 

「適性?」

 

 

エルゼの疑問に、優輝翔も適性が何かわからずに疑問で返す。するとリンゼが適性について簡単に説明し始めた。

 

 

「適性とは、その人がどのタイプの魔法が使えるか、というもので、生まれ持った適性によっては、魔法を発動できない人も少なくありません。」

 

「なるほど。すべては適性次第か…。(そんな話は聞いてないぞ、神様。)」

 

 

優輝翔は内心で少しだけ愚痴ると、双子に適性の調べ方を尋ねる。

 

 

「それならここに……」

 

 

リンゼはそう言って自身の持っていたポーチを開くと、中から綺麗な色をした小石を幾つか取り出した。そしてそれを綺麗に並べると、1番左を指さして説明し始める。

 

 

「左から順番に水、火、土、風、光、闇、無の魔石、です。これを手に持って、水なら『水よ来たれ』。火なら『火よ来たれ』。と唱えれば、魔石の反応の有無で、適性は確認できます。」

 

「なるほどな。ちなみにその反応は?」

 

「水なら水が出て、火ならそのまま火が魔石から出てきますよ。」

 

「ならここではできないか…。じゃあリンゼ、悪いけどあとで一緒に適性の確認をしてもらってもいいか?」

 

「はいっ。もちろんです。」

 

 

リンゼはそう言って心地よく頷いてくれたところで、全員分の料理がテーブルに運ばれてきた。

 

 

「じゃあ乾杯!」

 

「「乾杯!!」」

 

 

エルゼの音頭に、優輝翔とリンゼが続く。そして3人は美味しい食事に舌づつみを打ちながら、一旦先程とは全く関係のない、たわいもない話を始めるのだった。

 

 

 




今話もありがとうございました。
短くて進むのも遅いですがどうか気長にお願いします。隙間時間にさっと読めると思うのも利点だとは思うので。


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第8話 魔法と適性

第8話です。気づいた方がいたかも知れませんが、数時間前に1度間違えて時間指定せず投稿してしまいしまして…。勘違いさせて申し訳ありませんでした。
あと昨日から今月末にかけて最後の後書きのところにアンケートも出しているので、宜しければご協力ください。


 

『パレント』での初依頼達成祝賀会を終えた後、エルゼは1人単独で依頼を受けに、そして優輝翔はリンゼに魔法を教えてもらうため、リンゼとともに『銀月』へと戻っていった。

 

 

「ミカさん。ちょっといいですか?」

 

「あ、優輝翔くんっ。いいよ、どうしたの?」

 

 

優輝翔がカウンターから声をかけると、ミカさんがすぐに厨房から顔を出す。

 

 

「実はリンゼに魔法を教えてもらうことになったので、裏庭の方を使わせてほしいのですが……」

「えっ、優輝翔くんって魔法も使えたんだ?」

 

「ええ、まぁ。それを確かめるためでもあるんですけどね。いいですか?」

 

「うん、もちろん。今は他にお客さんもいないんだし、自由に使って。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

優輝翔はお礼を言うと、笑顔で手を振るミカさんに見送られながらリンゼと中庭に向かった。

 

そして中庭にあった木製の椅子にテーブルを挟んで座ると、さっそくリンゼから魔法についての講義を受け始めた。

 

 

「えっと、ではまずは基本的なところから……魔法には、『属性』というものが全部で7つ存在しています。えっと……内訳は、さっきお話しした通り、です。」

 

「確か水、火、土、風、光、闇、そして無だったな。」

 

「はい。そしてその中で私は水、火、光の3つの属性を使うことが出来るんですが、先に言っておくと、これは珍しい方なんですよ。」

 

「大抵は1つか2つ、もしくは適性なしなのか?」

 

「はい。例えばお姉ちゃんなら、無属性の1つしか適性がありません。」

 

「なるほど。他には何かあるか?」

 

「はい。次は属性の相性なのですが、例えば私の場合、火属性が1番得意なんですけど、光属性はあまり使えません。」

 

「苦手ということか…。そこんところもあの石ころで確認はできるのか?」

 

「はい。もちろんです。」

 

 

リンゼは優輝翔の問いにそう答えると、再びポーチから7つの小石を取りだして、その中から水の魔石を指で挟んで持った。

 

 

「水よ来たれ」

 

 

リンゼがそう唱えると、リンゼの持つ水の魔石から少量の水が零れれる。

 

 

「これは……少ないのか?」

 

「いえ、これが一般的だそうですよ。そしてこの場合、水の量や澄み具合で、魔法を発動した人の魔力量と質が分かるようになっています。」

 

「なるほどな。」

 

 

優輝翔は納得してリンゼから残りの説明を聞いた。

 

以下、簡単に要約すると、

 

1、光は別名を神聖魔法と言い、治癒魔法もここに含まれる。

 

2、闇は主に召喚魔法(契約した魔獣や魔物を使役する魔法)のことを指す。

 

3、無は特殊な魔法で、滅多に同じ魔法を使える人がいないことから、別名を個人魔法という。

ex)「ゲート」「ブースト」…etc

 

という事だ。

 

 

「さて、では優輝翔さんの適性を調べてみましょう。」

 

「よし、分かった。」

 

 

優輝翔はそう言って立ち上がると、まずは水の魔石から試す。

 

 

「水よ来たれ」

 

プシャーっ!!

 

「っ!」

 

「きゃっ!」

 

 

優輝翔が魔法を唱えた瞬間、先程のリンゼの時とは比較するのが烏滸がましい程の大量の水が魔石から溢れ出してきた。

 

流石の優輝翔もこのままでは服がびしょ濡れになってしまうため、慌てて魔石をテーブルに投げ捨てる。その時点でも既に靴は中までびしょびしょで、地面にはいくつか水溜まりが出来ていた。

 

 

「……リンゼ、今のはかなりの魔力量と見ていいのか?」

 

 

「あ、はい…。それに、それだけじゃなくて…、魔力の質も、すごい、です。ほんとに、ありえないくらい、澄んでて……」

 

 

リンゼは余程衝撃的だったのか、途切れ途切れになりながら言葉を紡ぐ。

 

優輝翔も最初は驚いたものの、すぐにこれについて分析し始めた。

 

結果、

 

 

(まぁ、神様に能力値を底上げしてもらったお陰だろうな。)

 

 

と結論を出した。そしてまだ余韻が残ってるのかぼーっとしているリンゼを置いて、次々と適性を確認していく。

 

 

「火よ来たれ」

 

ボワァァ!!

 

 

結果、魔石から猛烈に燃え盛る青白い色の炎が生まれた。

 

 

「土よ来たれ」

 

ザァーっ!!

 

 

結果、ものすごく綺麗な砂浜の土のようなものが土砂崩れのように流れ出た。

 

 

「風よ来たれ」

 

ビュゥゥっ!!

 

 

結果、綺麗で透き通った黄緑色の風が暴風みたいに吹き出た。

 

 

「光よ来たれ」

 

ピカァァっ!!

 

 

結果、太陽のように眩しく神々しい光が溢れ出た。

 

 

「闇よ来たれ」

 

モワァ……

 

 

結果、恐ろしく禍々しい闇が周囲一帯に広がった。

 

 

「無よ来たれ」

 

……………………シーン。

 

 

結果、反応なし。

 

 

「なるほど。俺は無属性以外の6属性というわけか。」

 

「………………えっ!あ、ち、違うんです!優輝翔さん!」

 

 

優輝翔が納得していると、先程まで優輝翔の行動を見ながら呆然と突っ立っていたリンゼが、突如そう声を上げながら首と手を横に振った。

 

 

「違うって……何がだ?」

 

「えっと、無属性魔法は特殊、なんです。だから、何か実在の魔法を唱えてみて、それが発動するかどうか、もしくは少しでも魔石に反応があるかどうかで、適性を調べるんです。」

 

「そうなのか。なら……」

 

 

リンゼの説明に優輝翔はもう一度無属性の魔石を持って立ち上がると、先程少し便利だと感じた魔法を唱える。

 

 

「ゲート」

 

 

…………結果、魔法はちゃんと発動した。

 

 

「………………「ブースト」。」

 

 

…………結果、こちらもちゃんと発動した。

 

 

「「…………………………」」

 

「全部だな……」

 

「そう、ですね……」

 

 

優輝翔の呟いた言葉に、リンゼがポツリと言葉を返す。そのあまりの衝撃に2人は動き出すことが出来ず、しばらくの間その場に立ち尽くしていたのだった……

 

 

 



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第9話 アイスクリーム

9話目です。
第1話を中心に修正を加えましたが、第1話以外はほぼ変化などないので、修正が気になる方は第1話だけ見ていただければ万事大丈夫です。


翌日、優輝翔たちは昨日同様に午前中に依頼を終わらせると、エルゼは再び1人で依頼を受けるためにギルドへ、優輝翔は今日は姉よりも頭がいいという(まぁ見た目からも滲み出てるが……)リンゼに文字の読み書きを教えてもらうため、リンゼとふたりで『銀月』へと戻った。

 

自室に戻ると道すがら買ってきた紙と羽根ペンを手に、リンゼに隣で教えてもらいながら一生懸命頭に叩き込む。もともと優輝翔は物覚えがかなり良い上、神様に記憶力の向上までされたので、1度紙に書いて読み上げた文字はその瞬間に頭の中にインプットされていた。

 

そしてそのお陰か、優輝翔は僅か数時間後にはリンゼの作ったテストで満点を叩き出したのだ。

 

「優輝翔さん、すごいです//このテスト、今日習ったばかりの人には絶対に満点を出せない程難しく作ったのに…//」

 

 

「てかそんなの出すなよ。」という言葉は言わない方がいいだろう。優輝翔は空気が読める男である。たぶん。

 

 

「まぁな。もともと物覚えはかなりいいんだ。でもそれだけじゃなくてリンゼの教え方が上手かったのも確かだから、ありがとな。」

 

「ふぇっ///あ、えっと、……はい…///」

 

 

優輝翔がそう言ってリンゼの頭を撫でると、リンゼは顔を真っ赤にしながら辿々しくそう返した。優輝翔はそんな初心で可愛らしい反応に自然と笑みを浮かべ、ほんの少しだけ長めにリンゼの頭を撫でていた。

 

 

「さて、じゃあ勉強タイムは終わった事だし、下に行って何かミカさんにデザートでも作ってもらうか。」

 

「あ、はいっ//」

 

 

優輝翔の言葉にリンゼが頬を染めながら頷く。そしてふたりで1階まで降りたのだが、1階の食堂で何やらミカさんとエルゼ、それとあと1人、優輝翔の知らない女の人が3人で難しい顔をして話している様子が見えて、二人は顔を見合わせて同時に首を傾げた。

 

 

「どうしたんですか?ミカさん。」

 

「あ、優輝翔君っ。お勉強は終わった?」

 

「ええ、まぁ。ところでそちらの人はミカさんの友人ですか?」

 

 

優輝翔が初めましての人を見ながらそう言うと、その女の人は少し驚いたように声をあげ、少し緊張気味に自己紹介し始めた。

 

 

「あっ、は、はいっ!私はミカの友人で、アエルと言いますっ。」

 

「俺は白鷺優輝翔です。あ、呼び方は優輝翔でお願いします。」

 

「分かりました、優輝翔さん。」

 

優輝翔の頼みにアエルさんは快く頷く。するとミカさんがアエルの隣にやって来て、補足事項を加えた。

 

 

「ちなみに、この子あの喫茶店『パレント』の従業員よ。……」

 

「へー。あそこのですか。俺達も昨日行きましたよ。とても美味しかったので、またお邪魔しますね。」

 

「ほんとですかっ?それは是非!」

 

 

優輝翔の言葉にアエルさんは嬉しそうに手を胸の前で叩いてそう言った。優輝翔がその姿に笑みを浮かべていると、ふと自分の服が後ろから少しだけ引っ張られてるのに気づき後ろを振り返る。するとリンゼがまたも可愛らしく、若干頬をふくらませながら少し拗ねた感じで抗議してきた。

 

 

「優輝翔さん……私も混ぜてくださいよぉ……」

 

「あー、ごめんごめん。」

 

 

優輝翔がそう言いながらリンゼの頭を撫でると、リンゼは一瞬で期限を直して優輝翔のなでなでを堪能する。優輝翔はその様子に柔らかな笑みを浮かべ、そのままアエルさんにリンゼを紹介した。

 

 

「アエルさん。この子はリンゼ・シルエスカ。そこにいるエルゼの双子の妹なんですけど……」

 

「まぁっ、それで似ていたのね。」

 

「……その様子だと、もう自己紹介自体は終わってるみたいですね。」

 

「当たり前よ。」

 

 

優輝翔の呟きに、ここで初めてエルゼが口を開いてそう返す。

 

 

「言ったでしょ。相談してるって。」

 

「いや、言ってねぇから。」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

「あはは…。エルゼちゃん、実はまだ優輝翔くんたちには話してないんだよねぇ…。という訳で優輝翔くん。リンゼちゃんも、ちょっと相談に乗ってくれない?」

 

「「相談??」」

 

 

そう言ってまたも綺麗に同時に首を傾げる二人にミカさんは苦笑しながら、相談してた内容を説明してくれる。何でも、アエルさんが新作の女性受けするお菓子を作りたいそうで、そのアイデアを出してほしいということらしかった。

 

 

「女性受け……難しいですね…。」

 

「確かにな…。…………アイスクリーム、は単純すぎるか?」

 

「「「「アイスクリーム????」」」」

 

「えっ?」

 

 

優輝翔の言葉に今度は優輝翔以外の4人が一斉に首を傾げる。それに釣られて優輝翔も思わず声を漏らしてしまった。

 

 

「もしかして……アイスクリームを知らないのか?」

 

「えっと、氷……ではなく?」

 

「ああ……なるほどな。なら作ってみるか。」

 

 

リンゼの言葉に優輝翔はある意味納得した。考えてみればこの文明の遅れた世界に冷蔵庫などというものがあるはずも無く、それならばそんなすぐに溶けてしまうようなアイスクリームはなくても当然であろう、と。

だが……

 

 

(作ったって、その場で食べきれば問題ないか。てか氷魔法使えばよくね?)

 

 

そう思って優輝翔はスマホを取り出すと、パパっとアイスクリームのレシピを検索する。そして4人に手伝ってもらいながら、5人分のアイスクリームを作り始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

しばらくして、アイスクリームが完成した。

 

 

「美味しい!」

 

 

まず最初にと、1口食べたアエルさんがそう反応する。いや、実際はそれよりも先に優輝翔が毒味(?)をしているので、最初ではないのだが……

 

 

「ほんとっ。美味しいね、これ。」

 

「すごく甘い……」

 

「うん。冷たいけど、それも美味しく感じます…。」

 

 

どうやら4人の口に問題なくあったらしい。優輝翔としてはこの世界と元の世界との味覚の違いに不安を寄せていたが、問題なかったようだ。

 

 

「どうですか?アエルさん。保存方法に関しては先程(※アイスクリームを作る時に、リンゼの氷の魔法を使って固めたこと)のように水属性の適性がある人に氷を作ってもらって、それを砕いて周りに固めて置いておけば小一時間くらいなら軽く持つと思うんですが…………」

 

「そうですねっ//アイスクリーム、すごくいいです!//ありがたく使わせて頂きますね!//」

 

 

アエルさんは嬉しそうにそう言うと、一目散に優輝翔から貰ったレシピを持って『パレント』へと帰る。優輝翔はそんなアエルさんに苦笑しつつ、ひとり頭の中で考える。

 

 

(今度はパフェのレシピでもあげてみようかな。)

 

 

と……

 

 

 



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王都、そして『「恋愛」とは……』 第10話 王都へ

節目の10話目です。
今話もよろしくお願いします(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ペコ


数週間後、週6ペースで依頼をこなしていた優輝翔たちのランクはともに紫まで上がった。

 

そしてその翌日、優輝翔たちはさっそく紫の依頼書の中から『王都への手紙配送(報酬:銀貨8枚)』という依頼を選択し、馬車で王都に向かう。この依頼の選考基準としては、この国の首都である王都に1度は足を運んでおきたい(そうすれば次からは「ゲート」が使えるため)というのと、この依頼の差出人が優輝翔の知り合い(?)であるザナックさんだったからだ。

 

王都への道すがら、優輝翔は実家が農家のため馬の扱いにも慣れているという双子に御者の方を任せ、1人荷台で魔法の本を読んでいた。ちなみに題名は『無属性魔法百科』である。

 

リンゼのお陰でこの世界の文字をほぼマスターした優輝翔は、午後から1人で買い集めた本を読み漁っていた。読んでる本の例を挙げると『水属性魔法百科』、『火属性魔法百科』、などの魔法の本や、『ベルファスト王国の歴史について』、『ミスミド王国の成り立ち』などの歴史や政治の本だ。

 

 

「優輝翔さん。調子はどうですか?」

 

 

今しがたエルゼと御者を交代したばかりのリンゼが優輝翔の隣に来てそう尋ねた。

 

 

「まぁまぁってところだ。他の魔法の本と違って、無属性魔法の本は分厚いくせに内容が薄いからな…。」

 

「まぁ、まさか個人魔法と呼ばれる無属性魔法を全部扱える人が出てくるなんて、誰も予想つかないですからね。」

 

「なるほど。こんな本を買うのはただのバカか物好きってか。」

 

 

優輝翔の投げやりな言葉に「あはは…」とリンゼが乾いた声を漏らしながら頷いた。

優輝翔はその反応を横目に見ながら「ふぅ…」とひとつ息を吐くと、パタンっと本を閉じてスマホを取り出した。

 

 

「休憩だ。流石に疲れた。」

 

「そう言えば優輝翔さん、途中の町で昼食を取った時以外はずっと本を読んでましたもんね。」

 

「まぁ、朝読んでたのは別の(歴史の本)やつだけどな。」

 

 

そう言いつつ、優輝翔は慣れた手つきでスマホの画面を開き、最近暇な時にやっているボードゲームアプリを開いた。そしてその中からチェスを選択して遊び始める。

 

 

「何をしているんですか?」

 

 

優輝翔がスマホに集中しているのが気になったのか、リンゼがそう尋ねてきた。

 

 

「ああ、ボードゲームだ。」

 

「ボードゲーム?」

 

「ん?………ああ。(そう言えばこの世界は娯楽が少ないんだったな)。ほら、これだ。」

 

 

優輝翔は1人そう納得すると、リンゼにスマホの画面を見せるために身体をくっつけた。

 

 

「ひゃっ///」

 

「ん?悪い、嫌だったか?」

 

「い、いえ…///……えっと、これが?//」

 

「ああ、これはチェスというゲームだ。他にも……」

 

 

優輝翔はそう言ってスマホの画面を戻し、リバーシ、将棋、麻雀、囲碁などの他のボードゲームを紹介する。

 

 

「すごい、こんなに……」

 

「リンゼは何かやりたいやつあるか?」

 

「そうですね…、お姉ちゃんならこの麻雀?というゲームなんですけど……」

 

「ん?何故だ?」

 

「だってお姉ちゃん、運はいいですから。」

 

「……そうなのか?」

 

「はい。」

 

 

優輝翔の疑問にリンゼははっきりとそう言って頷く。恐らくお祭りとかの抽選では毎回当たっていたのだろう。この世界にお祭りがあるかは知らないが……

 

その後、リンゼがとりあえず全部順番にやってみたいと言うので、優輝翔はリンゼがエルゼと御者を交代する時まで付きっきりでリンゼに大まかにルールを教えていった。

 

ただまぁ流石にこの量のゲームのルールを全て覚えきるのはすぐには無理なので、一通りルールを話した後は優輝翔が先ほど遊んでたチェスをより細かいルールを教えながらひたすら二人でやり続けたのだが…。

 

ちなみに、リンゼがエルゼと御者を交代したあと、エルゼはリンゼの勧めで優輝翔に簡単にルールを教えてもらってから、優輝翔とコンピューターを混ぜて麻雀を行い、案の定一人勝ちを収めたのだった。それも大勝。

 

そして『決してエルゼとは麻雀はしない』と心に誓う優輝翔であった…。

 

まぁそうなるとエルゼが拗ねてしまうので、結局その後エルゼと麻雀をやり続けたのだが……

 

(もちろん全敗)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

夕刻になり、優輝翔たちを乗せた馬車はリフレットの次の次の町、『アマネスク』へと到着した。そして適当に宿を決めてその日はそこで一泊。

 

翌日、優輝翔たちは午前中をこの町でゆっくり過ごしてから旅を再開しようと話し合い、それぞれこの町の観光をし始めた。そして昼前になり、3人で集まって昼食場所を決めようとしたのだが……

 

 

「……何か騒がしいな。」

 

「ほんとね。何かあったのかしら?」

 

 

優輝翔の言葉にエルゼも続く。3人の目の前には少し人だかりが出来ていた。

 

優輝翔たちが気になってその中心まで顔を出してみると、そこでは1人の変わった格好の少女が複数人の男に囲まれている風景が映し出されていた。

 

薄い紅色の着物に紺色の袴を身につけ、腰には大小2つの刀を挿している。髪はポニーテールに結われていて、そこに控えめな簪が1つ添えられていた。

 

 

「侍か。」

 

「サムライ?それって確かイーシェンの……」

 

「ああ。」

 

 

リンゼの言葉に優輝翔が頷く。優輝翔自身も生で見たのは当然初めてであった。

 

どことなくオーラを感じなくもない。

 

そんなことを考えていると、男達が一斉に女の子に殴りかかった。中には武器を持っている者もいる。

 

 

「助けた方がいいかしら?」

 

「………いや、普通にやってれば問題ない。」

 

 

優輝翔の返しにエルゼが納得したように「それもそうね」と言って目の前の戦いを傍観した。

 

それもそのはずで、女の子は戦いが始まってから1度も男達に攻撃を当てられていないのだ。むしろ襲ってくる男達を剣を抜かずに体術だけでいなしていた。要は、相手になっていないのだ。

 

だが……

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

女の子が攻撃を受けていないのにも関わらず、急にお腹を抑え始めたのを見て優輝翔がそう呟く。

 

そして男達は今が好機と思い、女の子に一斉に飛びかかった。

 

 

「優輝翔っ!」

 

「ちっ!ああ!」

 

 

エルゼと優輝翔はお互いに声をかけ合い、女の子に飛びかかろうとしていた男達を蹴散らす。女の子は初め混乱したような顔をしていたが、敵ではないと判断すると再び男達を蹴散らし始めた。

 

そしてほとんど男達を片付け終えたところで町の警備兵がやってきたので、後を任せて優輝翔たちは女の子とともにこの場から離れ、近くの路地裏に入った。

 

 

「ご助勢かたじけなく。拙者、九重八重と申す。あ、八重が名前で九重が家名でござる。」

 

 

そう言って女の子、もとい八重が頭を下げた。続いて優輝翔たちも自己紹介を行うと、優輝翔は先程の疑問を八重に尋ねる。すると八重はまたお腹を抑えながら……

 

 

「いやぁ……実は、その……拙者、ここに来るまでに、恥ずかしながら路銀を落としてしまい、それで……」

 

ぐうぅぅぅ……

 

 

八重の言葉に反応したかのように、八重のお腹から大きめの音がこの辺り一帯に響き渡ったのだった……

 

 

 



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第11話 襲撃

今話もよろしくお願いします。

それともアンケートの方ですが、一番多かった『このまま(週一投稿)』になりました。多くの投票ありがとうございました。


ちょうど自分たちも昼食を取ろうとしていたので、優輝翔は八重も伴って近くにあったこの町評判のレストランに入った。

 

八重は最初「赤の他人に施しを受けるわけにはいかないでござるっ!」と言っていたが、優輝翔たちが対価としてイーシェンの内政や八重自身の情報を要求するとあっさり首を縦に振った。チョロイ。

 

そして昼食中に分かったことは、

 

1、八重の家系は代々武家の家柄で、実家は八重のお兄さんが継ぐことになったので、八重は腕を磨くために武者修行の旅に出たということ。

 

2、八重の目的地が王都にいる、昔父が剣術を教えに出向いていた生徒の家だということ。

 

3、八重の家は徳川の収める領地のオエドにあるということ。

 

4、日本と同じような名前の武将(織田、毛利、上杉……etc)がイーシェンにもいるが、別に戦国時代のように争ってはないということ

 

などである。ああ、そう言えばもうひとつ。八重の胃袋は底なしだということも追加で。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

昼食を終えると、優輝翔たちは八重も加えて4人で王都へと旅立った。ちなみに何故八重も一緒かというと、単純に目的地が一緒だからだ。

 

但しそのままだと、王都に着くまでの間、八重は金銭面を優輝翔たちに頼りきってしまうことになってしまうので、優輝翔は八重を雇うという形にして、その代わりに八重は優輝翔に旅の費用を全額担ってもらうということでお互いに合意した。

 

そしてアマネスクの町を出て3日。優輝翔たちは今日も馬車に揺られていた。

 

今御者台には八重が1人で乗っている。基本はエルゼとリンゼも混ぜて3人で交代しながらなのだが、八重は自分が雇われているということで、2人よりもかなり多めの割合で御者を担っていた。

 

そして荷台では、エルゼは優輝翔のスマホで麻雀(しかも超上級者向け)をひたすらプレイしており、リンゼは優輝翔の隣に座って一緒に魔法の本を読んでいた。

 

 

「この魔法……試してみるか。」

 

「何かいい魔法があったんですか?」

 

 

優輝翔の声を聞いてリンゼが優輝翔に尋ねる。

 

 

「ああ。「アポーツ」って言う魔法なんだが……」

 

「……遠くにある小物を取り寄せる魔法……ですか。」

 

 

リンゼが優輝翔の持っている本を覗きながらそう言うと、優輝翔は頷いて手のひらを上に向けた。

 

 

「アポーツ」

 

「あっ!えっ、うそっ!」

 

 

目の前からエルゼの悲鳴が聞こえてくる。そして優輝翔の手のひらの上にあるのは1台のスマートフォン。そしてその画面では……

 

 

「あっ、負けてる……」

 

「しっ、仕方ないでしょっ!//相手も強いんだからっ!//」

 

 

優輝翔の呟きにエルゼがそう言いながら奪い取るように優輝翔の手の上からスマホをひったくった。

 

 

「珍しいな。」

 

「ふんっ!//言っとくけど勝率はいいんだからねっ!//次は勝つし…//」

 

 

エルゼはそう言うとまた元の場所に座ってスマホを弄り始めた。恐らく再戦をしているのだろう。

 

 

「もう……お姉ちゃんったら…。その魔道具は優輝翔さんのなのに……」

 

「別にいいさ。リンゼもゲームをやる時は熱中してるだろ?」

 

「えっ、あ、ごめんなさい……」

 

「気にするな。ふたりが楽しんでくれてるならそれでいいさ。」

 

「…///」

 

 

優輝翔がそう言いながらリンゼの頭を撫でると、リンゼはお馴染みのように顔を赤くした。そして照れ隠しのようにさっさと自分の読みかけていた本へと意識を落としたのだった……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

午後、先程途中の町で昼食を終えた優輝翔たちは再び王都への旅路についていた。ちなみにもう距離もそこまで遠くはない。

 

そんな中、優輝翔はまたひとつ新しい魔法を試そうとしていた。

 

 

「ロングセンス」

 

 

優輝翔がそう唱えた瞬間、優輝翔は隣にいるリンゼだけでなく、優輝翔の目の前で今も麻雀をしているエルゼ、そして御者台にいる八重の呼吸音、さらにはその3人の心臓の鼓動までもが自分の耳に流れ込んでいる感じがした。

 

 

「これは、すごいな…。」

 

 

優輝翔がそう感心して他の音にも意識を傾けようとすると、ふと同じように強化されていた嗅覚に馴染み深い臭いがした。

 

優輝翔がすぐにその臭いの漂ってきた方角に視覚を最大限強化して向けると、目に飛び込んだのは革の鎧を身にまとった二足歩行の多数のトカゲ(恐らくリザードマンであろう)が、剣と盾を手に複数の鉄の鎧を着た兵士らしき者達と戦っている風景だった。

 

また兵士の人たちの後ろには優輝翔が今まで見たことも無い煌びやかな馬車があり、またリザードマンたちの後ろには黒のローブを着た怪しげな男が1人目の前の戦況を見守っていた。

 

その肝心な戦況だが、どうやら兵士たちの方が分が悪いようだ。恐らくは既に過半数が地面に倒れ血を流している。

 

 

(これは急がないとまず兵士は全員死ぬな。)

 

 

優輝翔はそう確信すると、数秒ほど悩んだ後、即座に御者台にいる八重に少し大きめの声で指示を出した。

 

 

「八重!全速力だ!もう少し行った先の森の中で人が襲われてる!」

 

「なっ!しょ、承知!」

 

 

優輝翔の掛け声に、八重が鞭を入れて一気に馬の速度を上げる。そして着くまでの間に優輝翔はもう少しだけ詳しい様子を見ることにした。

 

 

(倒れているのは……今はまだ6人か?でも残りが4人ならやばいな。というか1人は今にも倒れそうだ。対してリザードマンはその数倍。あとは男の方だが…………なるほど、やはりあいつは闇魔法の使い手か。)

 

 

優輝翔はローブの男が何やら呟いた後にリザードマンが1体男の前から現れたのを見てそう確信し、馬車に乗っている3人に指示を出し始めた。

 

 

「敵はリザードマン十数体だ。戦っている兵士は今はもう3人だ。」

 

「えっ!3人ですか!?」

 

「ちょっ!それやばいんじゃないの!?」

 

「いや、恐らくもう着くからもつにはもつだろ。ただ時間がないから先に指示を出す。リンゼ。」

 

「は、はい!」

 

「リンゼは目に見えるとこまで来たら先制魔法を打て。その後は八重とすぐ御者を交代。そのまま馬車の上から援護射撃してくれ。」

 

「分かりました!」

 

「エルゼ。八重。ふたりはリンゼが馬車を止めるか、行けると思ったら、すぐに飛び降りて兵士と協力してリザードマンを倒せ。俺は黒幕を殺る。」

 

「「了解(でござる)!!」」

 

 

ふたりからの返事を聞くと、優輝翔は再び戦況を確認する。4人を乗せた馬車と血のついた戦場までの距離は、もう目と鼻の先だ。

 

 

 



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第12話 公爵令嬢

さてさて、今話もよろしくお願いします。

今話はいつもより文字数が多いですが、その分内容も濃いので、お楽しみいただければ幸いです。

それと先に書いちゃいますが、恐らくこれと同じタイミングで投稿されるであろう『異世界はスマートフォンとともに if』という小説もオススメしておきます。全部というわけではもちろんないですが、少なくとも色々変更しているこの作品よりは原作に似通っている作品なので、アニメを見ていない人、もしくはアニメのストーリーの記憶が曖昧な人はそちらを見てからこちらの作品を見に来てもらうのもありだと思います。

さて、前書きまで長くなってしまいましたが、改めて最新話をどうぞ(*^^*)



 

「炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム」

 

戦場が見えたところで、御者台に移動していたリンゼが得意の火属性魔法をリザードマンの中心に叩き込んだ。そしてすぐさま八重と御者を変わると、馬車のスピードを落とす。

 

優輝翔たちは馬車のスピードがある程度落ちると、馬車から飛び降りてリザードマンたちの中に飛び込んだ。

 

 

「はぁぁっ!」

 

「っ!」

 

 

エルゼが得意の打撃で、八重が一撃必殺の一刀でリザードマンを倒していく。優輝翔もいつも使っている自身の愛刀を使って一瞬でリザードマンの息を刈り取りながら、一直線にローブの男のところに向かった。

 

そして……

 

 

「っ、このっ…「死ね」……」

 

 

ローブの男が優輝翔に気づいて声を上げた瞬間、優輝翔は既に男の頸動脈を一刀で斬り捨てていたのだった……

 

 

「あれ、消えた?」

 

「終わった……でござるか?」

 

 

後ろから聞こえたふたりの声に優輝翔が振り向くと、リザードマンたちは1匹残らず居なくなっていた。恐らく召喚主が殺されたことが原因だろう。

 

優輝翔はふたりと、馬車を止めて合流したリンゼの4人で兵士たちと対面した。

 

 

「すまん、助かった…」

 

 

足を怪我しているのか、剣を杖替わりにしている兵士が代表してそう告げてくる。

 

 

「いえ、ちなみに兵士で残ったのはあなた方3人だけですか?」

 

「ああ、他も確認したが……既に死んでいたよ…っ!」

 

 

悔しそうに兵士が歯を噛み締める。優輝翔はとりあえず残っている3人だけでもと、リンゼとふたりで回復魔法をかけた。

 

 

「助かった。ところで…「誰か!誰かおらぬかっ!」…っ!お嬢様!」

 

 

兵士が何か言いかけたところで、突如割って聞こえてきた声にそう叫んで自分たちが守っていた馬車のところへと飛んで行った。優輝翔たちも後に続き兵士たちの後ろから馬車の中を覗き見ると、中では先程の女の子が椅子に横たわっているお爺さんの手を握りながら助けを求めていた。

 

 

「誰か!誰か爺を!胸に…胸に矢が刺さってっ!」

 

「リンゼ!」

「はい!」

 

 

優輝翔は兵士を押し抜けてリンゼと共に馬車の中に入る。執事の礼服を着たお爺さんは確かに胸のあたりに矢が突き刺さっており、そこからは大量の血が溢れ出ていた。まだ息はしているが、もう虫のそれだ。

 

 

「まずいな。リンゼ、どうだ?」

 

「む、無理です!恐らく優輝翔さんの魔力なら上位魔法で治すことは可能ですが、矢が邪魔です!でも矢を無理に抜くのは……」

 

「ちっ…」

 

 

優輝翔は思わず舌打ちをする。確かに矢を抜けばそこからさらに出血して最悪死ぬだろう。だが矢を抜かなければ、たとえ回復したとしても刺さっている部分からまた出血を繰り返すだけだ。

 

 

「矢……矢を退ける方法は………………いや、ある!」

 

「えっ!」

 

 

優輝翔はそう叫ぶとすぐさまその魔法を唱えた。

 

 

「アポーツ」

 

「光よ来たれ、女神の癒し、メガヒール」

 

 

優輝翔は連続で2つの魔法を唱え、矢を取り除いた瞬間にお爺さんの傷を回復した。

 

 

「どうだ…?」

 

 

優輝翔がそう呟くと、お爺さんは自身の手を空いている方の手を胸のあたりに当て驚きの声を漏らした。

 

 

「こ、これは……痛く、ない…?」

 

「爺!」

 

 

お爺さんがゆっくりと起き上がると、女の子は嬉しさのあまりお爺さんに飛びついた。それを見た優輝翔は少しだけ嬉しそうなほっとしたような顔を浮かべ、まだあまり無理しないよう忠告してから馬車を出る。

 

すると、いきなり後ろと前から誰かに抱きつかれた。まぁ前はエルゼだと分かっていて、八重は自身の正面にいるのは見えているので、後ろも簡単に特定できるのだが……

 

(と言うか元よりひとりしかいない。)

 

 

「さすがです……優輝翔さん…///」

 

「ほんと……あんたって奴は…//」

 

 

そう言って自分に額を擦りつけてくるふたりの頭を優輝翔は優しく撫でる。

 

 

「いやぁ…リザードマンとの戦いの場面でもそうだったでござるが、優輝翔殿は魔法も一流なんでござるか…。ほんとに何でも出来そうでござるな…。」

 

 

八重がそう感心したような声でそう言うと、優輝翔はゆっくりと首を横に振りながら答えた。

 

 

「いや、何でもはできないさ。もし何でも出来るなら死んだ兵士も生き返らせてるよ。」

 

「優輝翔殿……」

 

 

優輝翔の哀愁が漂う言の葉に、八重はポツリとそう漏らした。

 

確かに優輝翔は「リザレクション」という蘇生魔法があるのは知っている。しかしそれには複数の複雑な条件や代償が必要になってくるのだ。優輝翔は当然全て暗記しているが、今回の兵士の場合、条件の面でまず蘇生は不可能であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

戦後の後処理を終えた後、優輝翔たちは改めて助けたお爺さんに頭を下げられた。

 

 

「本当に助かりました。まさかまだこの生を全うできるとは、ほんとに、なんと御礼申し上げて良いのやら……」

 

「いえ、あまり深く考えないでください。俺としては目の前で死にかけてる人がいるのに無視する方が嫌ですし。それに執事さんも、さっきも言いましたが血がまだ戻ってないんですから、あまり無理はしないで下さい。」

 

 

優輝翔がそう言うと、今度はお爺さんの横で手を腰に当てて少し偉そうな態度で突っ立っていた女の子が優輝翔たちに感謝の意を述べる。

 

 

「感謝するぞ!優輝翔とやら!お主は爺の、いや爺だけではない。妾の命の恩人なのじゃ!」

 

「あ、ああ……」

 

「申し訳ございません、優輝翔さん。ご挨拶が遅れました。まず私、オルトリンデ公爵家家令を勤めております、レイムと申します。そしてこちらのお方が公爵家令嬢、スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様でございます。」

 

「うむ!スゥシィ・エルネア・オルトリンデだ!よろしく頼む!」

 

 

お爺さんの言葉で優輝翔は女の子が偉そうな態度でいた理由を納得した。公爵とは即ち、国王を除く貴族のトップ、であり、国王を除いて唯一の王族でもあるのだ。

そしてその事実を聞いたせいか、優輝翔の隣にいた他3人はすぐさま地に膝をつけた。

 

 

「ああ、なるほど。確か今の公爵は国王陛下の弟……でしたっけ?」

 

「うむ!しかし……優輝翔は平然としておるの?大抵は横にいる女子共の様になるのに……」

 

「まぁ、お望みとあらば……」

 

 

そう言って優輝翔が跪こうとすると、慌てるようにスゥシィが優輝翔を止めた。

 

 

「いやいやいや、せんでよい!公式の場ではないし、さっきも言ったように優輝翔らは妾たちの命の恩人なのじゃ。本当なら頭を下げるのはこちらの方。呼び方も気軽にスゥでよいし、敬語もいらん。じゃからそこの女子共も楽にしてくれ。」

 

 

スゥの言葉を聞いて、躊躇いながらも跪いていた3人は互いに顔を見合わせながら立ち上がった。

 

ちなみにその後聞いた話では、スゥ達はとあることを調べるためにスゥのおばあちゃんの家に行った帰りだったようで……

 

 

「その道中を狙われた、か…。なるほどな。それで、これからどうするんだ?王都までまだ1日はかかるだろ?」

 

「その事なのでございますが……」

 

 

優輝翔がスゥにそう聞くと、レイムさんが口を挟んできた。

 

 

「護衛の兵士が半数以上倒れてしまった今、このままでは同じようなことが起きた時にお嬢様をお守りすることができません。そこで優輝翔さんたちに護衛依頼をお出ししたいのです。もちろん報酬は弾ませていただきますので、どうかお願いできないでしょうか?」

 

「護衛依頼ですか……」

 

 

レイムさんの頼みに、優輝翔は難しい顔でそう呟きながらチラッと後ろの3人に目を向けた。その視線に真っ先に気づいたリンゼはニッコリと微笑んで首を縦に振る。

 

 

「優輝翔さんにお任せします。」

 

「リンゼ……」

 

 

リンゼの言葉に優輝翔は表情を和らげた。するとエルゼ、八重からも続けて賛同を送られる。

 

 

「もちろん私はいいわよ!どうせ王都に行くんだしね!」

 

「拙者は雇われている身故、優輝翔殿におまかせするでござる。」

 

「……そうか。分かった。その依頼、引き受けさせてもらいます。」

 

「ありがとうございます!」

 

「よろしく頼むぞ!優輝翔!」

 

 

こうして4人はスゥたちとともに、もうあと少しまで迫った王都へ向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この話にはまだ続きがあった。スゥたちを襲おうとした真犯人。それがまだ分かっていないのだ。

 

優輝翔があのローブの男を殺さずに尋問していればあるいはという可能性もあったが、あの時はとにかくリザードマンの数が多かったし、こういう場合現場に出向く男が真犯人を知っている可能性も低いので、優輝翔は迷いなく殺すことを選択したのだ。

 

そしてそれは正しかった。実際にローブの男は真犯人、自分にそれを命令した男のことを知らなかったのだから。

 

 

 

だが、それならそれで、優輝翔はもう少し周りに注意を向けるべきだったのだ。

 

 

『もし優輝翔たちが来るのが一日ずれていたとしたら?』

 

 

『ローブの男の目的がスゥを “殺す” ことではなく、 “誘拐する”事だったとしたら?』

 

 

もしそうなら、ローブの男は果たして安全にスゥを連れていけたのだろうか?恐らく誘拐するのであれば、人質の線が高い。何せスゥは公爵の愛娘。人質には十分すぎるくらい十分だ。

 

だとすれば、ローブの男はスゥにはなるべく傷を追わせたくないはず。つけるとしても、致命傷や重傷は避けたいはずだ。

 

ならば気絶させればいい?だとしてもどうやって運ぶ?流石に抱えては目立つだろう。それにローブの男は言わば金だけで雇われた下っ端。余所者。裏切らない可能性がどこにある?

 

 

ならここから導き出される結論はなんだ?

 

 

 

 

 

……そう、あの現場には真犯人が派遣した直属の部下がもう一人潜んでいたのだ。隠密能力に長け、戦闘能力に長け、消して裏切ることのない重要人物。

 

そして、その人物を優輝翔は見逃してしまった。気配は消していたので「ロングセンス」でざっと見渡しただけじゃ見つけられるはずもなかったのだが、それでも “音” に集中すれば間違いなく聞こえたはずなのだ。少し遠くに潜んでいる人間の鼓動が。

 

そしてこの失敗が後に大きく、大きく自分に返ってくることになる。

 

 

 

“最悪” という名の悲劇となって……

 

 

 



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第13話 公爵家

今話もよろしくお願いします(。ᵕᴗᵕ。)


翌日、優輝翔たちは公爵家令嬢のスゥたちと共に王都へと辿り着いた。

 

ちなみに優輝翔は4人の中で1番の実力者ということで、スゥを直接護衛するためにスゥとレイムさんの乗る馬車に乗っている。そしてその間は流石にスマホでゲームをしたり本を読んだりは出来ないので、優輝翔は暇つぶし代わりにまだ10歳になったばかりというスゥに日本の昔話や有名な映画のストーリーなどを読み聞かせていた。

 

そうこうしているうちに、馬車は庶民エリアから貴族エリアと呼ばれるエリアに突入し、やがて1軒の一際大きな大豪邸の前に出た。そして5、6人の門番が協力して開けた重そうな扉から中に入ると、大きな庭を暫く進んだ後に馬車が止まる。するとスゥが勢いよく扉を開けて外へ出ていったので、優輝翔たちもそれに続き、レイムさんに開けてもらった扉から家の中に入った。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様。」

 

「うむ!」

 

 

いつからいたのか、スゥが中に入るとすぐに正面にあった赤い絨毯の両隣に並んでいたメイドさんたちが頭を下げた。そしてさらにその赤い絨毯を辿って目で正面に続く階段を登ってみると、そこには1人の見るからに高価な服を着た、スゥと同じ金髪の逞しい男性の姿があった。

 

 

「スゥ!」

 

「父上!」

 

 

男性、もといスゥの父である公爵が娘の名を叫びながら階下に駆け下りてくると、スゥもスゥで一直線に自身の父親のところへ駆けて行きその胸に飛び込んだ。

 

 

「おお、スゥ…。良かった…。本当に良かった…!」

 

「大丈夫、わらわはなんともありませぬ。昨日、早馬に持たせた手紙にそう書いてあったではありませぬか。」

 

「うむ……手紙が着いたときは、ほんとに生きた心地がしなかったよ…。」

 

 

男性は娘の生をしっかり感じるかのようにきつく抱きしめながらそう言うと、ふと優輝翔たちに気づいて視線を向けた。

 

 

「おお!君たちがスゥを助けてくれた冒険者だね!」

 

 

公爵はそう言いながら優輝翔たちに近づくと両手で1番前にいた優輝翔の手を握りしめる。

 

 

「ありがとう…。本当にありがとう…。」

 

「いえ、俺たちは人として当たり前のことをしただけですから。」

 

「そうか…。謙虚なんだな、君たちは。」

 

 

公爵はそう言うと嬉しそうに笑った。

 

そしてその後もう少し詳しいことを話すため、場所を2階のテラスに移した。テーブルは2つあったので、優輝翔はとりあえず未だに緊張気味だった3人を別のテーブルに押しやり、話し合いは自分と公爵のふたりで行うことにした。

 

 

「なるほど。君たちは手紙輸送の依頼で王都まで来たのか。」

 

「はい。まぁ1度は来てみたかったですからね。依頼を終えたら少しの間観光もするつもりです。」

 

「そうか。それではぜひ楽しんでいってくれ。王都は国の首都なだけあって他では見られないようなものもあるからな。」

 

 

公爵はそう言って笑いながら紅茶を一口飲む。そして「ふぅ…」と息を吐くと、少し真剣味を帯びた顔で呟いた。

 

 

「にしても、君たちがその依頼を受けてなければ……」

 

「……ちなみに、襲撃して来た者に心当たりは?」

 

「ない…とも言えんな。立場上、私のことを邪魔に思っている貴族もいるだろうし。」

 

「……やっぱめんどくさいですね。上の立場って……」

 

 

優輝翔が顔を顰めつつそう呟くと、公爵は苦笑いしながらまた紅茶を口にした。するとテラスの戸が開いて、レイムさんと一緒に薄桃色の可愛らしいドレスに着替えたスゥが出てきた。

 

 

「父上、お待たせしたのじゃ。」

 

「おお、エレンとは話せたかい?」

 

「うむ、襲われた件はあれなので黙っておいたのじゃ…。」

 

「あはは…、そうだね。」

 

 

スゥが席に着くと、レイムさんがスゥの紅茶を入れるついでにそれぞれに紅茶のお代わりとお菓子の追加をしてくれた。

 

 

「あの、エレン、というのはもしかして……」

 

「ん?ああ、すまない。エレンは私の妻だ。すまないね、娘の恩人なのに姿も見せず…。妻は目が悪くてね……」

 

「病気……ですか?」

 

「ああ、もう5年も前だ。一命は取り留めたが代わりに視力を失ったよ……」

 

 

公爵がそう言いながら辛そうに拳を握りしめる。スゥはそんなお父さんを心配し少しでも安心させるかのように自分の両手でその拳の片方をそっと包み込んだ。

 

 

「……医者は?」

「ダメだった。魔法も試したが宮廷魔導師を以てしても治すのは無理だと言われたよ。」

 

「こんな時……お爺様がいらっしゃれば……」

 

 

スゥのその言葉に、優輝翔は疑問を感じて公爵に問いかける。

 

 

「スゥのお爺さんは、もしかしてエレンさんを治すことの出来る何かを持っていらっしゃったんですか…?」

 

「ああ。スゥの祖父……妻の父は特別な魔法の使い手でね。あらゆる状態異常を治す魔法を使えたんだ。」

 

「……ちなみに、その魔法の属性は?」

 

「ん?無属性魔法だが、それがどうした?」

 

 

優輝翔はその言葉を聞くと、公爵が首を傾げながらそう聞いてくるのに対し、口角を釣り上げながら告げた。

 

 

「すぐに詳しい魔法の効果と魔法の名称を教えてください。そうすれば俺がエレンさんを治します。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「あら?珍しい……お客様、ですか?」

 

 

優輝翔がベッドに横たわるエレンさんの元まで行くと、エレンさんはそう言いながら身体を起こしてベッドに腰掛けた。

 

 

「白鷺優輝翔です。呼ぶ時は優輝翔が名前ですので、ぜひそちらでお願いします。」

 

「えっと、はい…。……あの、あなた?」

 

「ああ、大丈夫だよ。エレン、優輝翔殿はスゥの命の恩人だ。」

 

「まぁ!」

 

 

公爵の言葉を聞いて、エレンさんは混乱したような驚きの声あげたが、すぐに目の前にいるであろう優輝翔に頭を下げた。

 

 

「ありがとうございます!スゥを……娘を助けていただいて……」

 

「大丈夫です。人として当たり前のことをしただけですから。それより、今からあなたの目を治したいので楽にしてもらえませんか?」

 

「えっ!?」

 

 

優輝翔の言葉を聞いてまたも驚きの声をあげて少し困惑した様子を見せたエレンさんだが、その後スゥや公爵から「大丈夫」との掛け声をもらって落ち着きを取り戻すと、静かにその場に沈静した。

 

 

「いきます……「リカバリー」。」

 

 

優輝翔がエレンさんの目の前に手を添えてそう唱えると、優輝翔の手から魔法陣が広がり、やがてそれが消えると、エレンさんが徐々に目を開いて辺りを見渡した。

 

 

「……どうですか?」

 

「……見え…る……見える……っ!見えますっ!見えますわっ!あなたっ!スゥシィっ!」

 

「エレンっ!」

 

「母上っ!」

 

 

エレンさんがその場から立ち上がってそう叫ぶと、すぐさま公爵とスゥが駆け寄ってきてふたりでエレンさんをきつく抱きしめた。

 

優輝翔はそんな3人を邪魔しないようにそっとその場から離れたのだが、すぐさまデジャブとでも言いたくなるように後ろ、前、そして今度は横も合わせて3人の少女に抱きつかれた。

 

 

「優輝翔さん……優輝翔さん…っ!////」

 

「やっぱあんた、すごすぎるわよ…///」

 

「うぅ……流石でござるよ…、優輝翔殿…//」

 

 

3人は涙を流しながらそれぞれそう言った。優輝翔は「はぁ…」と短く息を吐いて少し苦笑いを浮かべると、3人の頭を順に優しく撫で始めたのだった……

 

 

 



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第14話 公爵家からの報酬

もう14話目ですね。

実はもう少し先……と言っても週一なので実際は数ヶ月ほど先なんですけど、少し大幅な修正と加筆をしてまして…。量もさることながら内容も濃くしすぎたせいかちょっとスランプ気味で手が止まってまして……

数ヶ月あるので間に合えばいいんですけど、もしかしたらそこで話が止まるかも知れません。まぁまだまだ先なんですけど、いちよう先にお詫びとお願いをしておきます。

皆さんもし間に合わなかったらごめんなさい。そして出来れば間に合うようにコメントなので応援のメッセージなど頂ければ幸いです。

皆さんの一言一言が書いている人の力になるので、是非メッセージお待ちしております。

図々しくて申し訳ございません。

それでは今話もどうぞ。



 

「君たちには本当に世話になった。感謝してもし切れないほどだ。まさか娘やレイムの命だけではなく、妻の目まで治してくれるとは…。本当に…、本当にありがとう……」

 

 

応接間で優輝翔たちの向かいに座る公爵が改めて優輝翔たちにそう言いながら頭を深々と下げた。

 

ちなみにここには優輝翔たち4人と公爵、そして公爵の後ろで立って控えているレイムさんがいて、スゥは目が見えるようになったエレンさんといっぱい話をしたいからとここにはいない。

 

 

「いえ、俺としてもまだ知らなかった無属性魔法を知れましたし、エレンさんの件はそのお礼とでも考えてください。それにスゥの件も何回も言ったように、俺たちは人として当たり前のことを……」

 

「いや、悪いがそういうわけにはいかん。君たちにはきちんとお礼をしたいのだ。レイム。」

 

「はっ。」

 

 

公爵が優輝翔の言葉を遮りそう言ってレイムさんを呼ぶと、レイムさんはすぐに手に持っていた茶色の小袋と同色の小箱の乗った銀のお盆を公爵の手の届く位置に差し出した。そして公爵はそこからまずは小袋を手で持つと、優輝翔の前に置く。

 

 

「まずはこれから受け取ってくれ。娘を助けてもらったお礼と、道中の護衛に対しての礼だ。中に白金貨で40枚入ってる。」

 

「「「「!?」」」」

 

 

公爵から出された予想をはるかに超える金額に、優輝翔たちが一斉に目を丸くする。白金貨で40枚、つまり日本円に換算すると1人1千万という大金を貰うことになるのだ。

 

そして公爵は立て続けに小箱の方も手に取って優輝翔に差し出す。

 

 

「そしてこれは妻を助けてもらった礼だ。」

 

 

そう言って公爵が小箱を開けると、中には4枚の銀色のメダルが入っていた。

 

 

「これは…?」

 

「これは我が公爵家のメダルだ。これがあれば検問所は素通り。貴族しか利用できない施設も利用できる。なにかあったら公爵家が後ろ盾になるという証だ。君たちの身分証明になってくれるだろう。」

 

「いいんですか?そんな高価なもの……」

 

「なに、気にすることは無いさ。本来ならこの程度のはずがないんだ。逆にこっちが申し訳ないくらいだよ。」

 

 

公爵がそう言いながら申し訳なさそうに顔を暗くさせる。優輝翔はそんな公爵に一言「大丈夫ですよ」とだけ声をかけると、個人個人で刻まれている文字が違うらしいメダルを3人に配ってから自分のを手に取る。一方、お金に関しては流石に持ち歩くことは出来ないので、それぞれ1枚ずつ手元に残してから公爵経由でギルドへ預けてもらうことにした。

 

そしてそろそろお暇しようと玄関に移動すると、スゥとエレンさんも見送りのために急いで優輝翔たちの元に駆けつけてくれた。

 

 

「優輝翔さん、娘のことも、私自身のことも、本当にありがとうございました。」

 

「いえ。それよりも今までの分、たっぷりスゥと遊んであげてください。」

 

「はい。」

 

「優輝翔!また来るのじゃぞ!待ってるからな!」

 

「ああ、また来る。じゃあな。」

 

 

優輝翔はそう言って2人との会話を終えると、既に馬車に乗っていた3人に続いて馬車に乗り込んだ。

 

そして公爵家の面々に見送られながら、4人は公爵家を後にするのだった……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「それにしても……私たちもこれをもらって良かったんでしょうか…?」

 

 

公爵家から十分離れた広場のようなところで馬車を止めると、リンゼはそう言いながら先程貰ったメダルを取り出した。

 

 

「ん?何故だ?」

 

「何故って…、だってエレンさんを治したのは優輝翔さんなんですよ……」

 

「そう言われてみればそうね。それに今思うと私たちはリザードマンをちょっと倒しただけで、争いに気づいたのも、レイムさんの命を救ったのも優輝翔だったし……」

 

「さらに言えば、拙者は雇われでござる。なのに優輝翔殿と同じ報酬は……」

 

 

そう顔を暗くしながら呟く3人に、優輝翔が首をかしげながら声をかける。

 

 

「別にいいだろ?俺たちはパーティーメンバーだ。」

「でも拙者は……」

 

「なら八重も混ざれよ。というかスカウトしようか。」

 

「「「えっ!」」」

 

 

優輝翔の言葉に八重のみならず双子までも驚きの声をあげた。そしてリンゼが少しダークな目を向けて優輝翔に問いかける。

 

 

「あれ、優輝翔さん……もしかして八重さんのこと……」

 

「ん?なんだ?リンゼは八重をパーティーメンバーに入れるのは嫌なのか?」

 

「ふぇっ//い、いえっ//優輝翔さんがいいならっ//それに、八重さんともせっかく仲良くなりましたし//」

 

 

優輝翔がリンゼの頭を撫でつつ顔を近づけて目を見ながらそう言うと、すぐにリンゼは頬を染めて目を少し逸らしながらそう言った。

 

ちなみに言っておくが、リンゼの発言に偽りはない。ただ嫉妬しただけで、八重との仲は良好である。

 

 

「さっすが優輝翔!//やったじゃないっ、八重。」

 

「い、いいんでござるか…?」

 

「いいも何も、リーダーの優輝翔がこう言ってるんだし。もちろん私ももっと八重といたいしね。」

 

「エルゼ殿…っ//有難く、お受けするでござる!//」

 

 

八重はそう言って涙を流しながら頭を下げた。そんな八重をリンゼとエルゼが嬉しそうに背中を撫でたり言葉をかけたりしている。

 

優輝翔はそんな3人を微笑ましく見つめつつも、いつまでもこの場にいるわけにいかないので3人に声をかけた。

 

 

「よし、そろそろ依頼を終わらせにいこうか。」

 

「っと、そうね。危うく忘れるところだったわ。」

 

「そう言えば、依頼の手紙の送り先はどなたなのでござるか?」

 

「えっと確か……ソードレック子爵、ですね。」

 

 

リンゼがザナックさんから受け取った手紙の送り主を見ながらそう答えると、八重は驚いたように目を見開いた。

 

 

「なんとっ!せ、拙者が会おうとしていたのもその人でござるよっ!」

 

「「「えっ!?」」」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

子爵家の応接間で優輝翔たちは子爵と対面する。子爵は公爵よりも一回り大きな体つきをしていて、その顔も温厚そうな公爵とは反対に険しく、見るからに武人と呼ぶのが相応しいような人物であった。

 

 

「さて、私がカルロッサ・ガルン・ソードレックだが、お前たちがザナックの使いか?」

 

「はい。この手紙を渡すように依頼を受けました。子爵に返事をいただくようにとも言われております。」

 

 

優輝翔がそう言いながらザナックさんからの手紙を差し出すと、子爵はそれをナイフで封を切って開き、中身にざっと目を通した。

 

 

「……なるほど。少し待て、返事を書く。」

 

 

子爵はそう言って部屋を出て行く。すると入れ替わりにメイドさんが入ってきて、お茶を菓子を優輝翔たちに用意し始めた。そして優輝翔たちが暫く寛いでいると、片手に手紙を持った子爵がズカズカと部屋に戻ってきた。

 

 

「待たせたな。これをザナックに渡してくれ。」

 

 

子爵はそう言って手紙を優輝翔に手渡すと、そのまま目線を今度は八重へと向けた。

 

 

「ところで……さっきから気になっていたんだが、そこのお前。どこかで…いや、会ったことはないな。しかし……名前は何という?」

 

 

首を捻りながら子爵が八重の目を見てそう尋ねると、八重も子爵の目を真っ直ぐ見つめ返しながら名を名乗った。

 

 

「拙者の名は九重八重。九重重兵衛の娘にござる。」

 

「なっ!お前、重兵衛殿の娘か!」

 

 

子爵はそう言って驚いたように目を見開くと、すぐに「ガッハッハッ」と笑いながら膝を叩いて嬉しそうにまじまじと八重の顔を眺め始めた。

 

 

「うむ、間違いない。若い頃の七重殿に瓜ふたつだな。母親似でよかったなあ!ハッハッハっ」

 

 

子爵は楽しそうに笑いながら、少し昔を懐かしむように言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「いやぁ……懐かしい。私がまだ若い鼻垂れ小僧だったとき、こっぴどくしごかれたもんだ。いや、あれは厳しかった。もう20年も前になるのか。そうか…、そりゃ娘も生まれてこんなに大きくなるわな…。」

 

「父上は今まで育ててきた剣士の中で、子爵殿ほど才に満ち溢れ、腕が立つ者はいなかったといつも口にしてござる。」

 

「ほほう?世辞でも嬉しいものだな、師に褒められるというのは。」

 

 

満更でもなさそうに子爵がそう言って笑みを浮かべる。そんな子爵に、八重は少し真剣味を帯びた口調で告げた。

 

 

「もし、子爵殿と出会うことがあらば、ぜひ一手指南していただけとも、父上は申していたでござるよ?」

 

「ほう…?」

 

 

子爵は八重の言葉に面白そうに目を細め、ペロリと唇舐めた。

 

 

 



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第15話 子爵の力、そして……

長いですが、今話もよろしくお願いします。

さて、ここから原作解離を始めていきましょう^^*


ところ変わって、子爵家武闘場。武闘場とあるが、実際の造りは日本の剣術道場のまるでそれだ。その道場の中心部で2人の人物が対峙している。当然、八重と子爵、その二人である。

 

 

「お前達。お前達の中に回復魔法を使える者はいるか?」

 

 

子爵が見物人として端に正座していた優輝翔とリンゼにそう尋ねる。ちなみにエルゼは審判役なので、子爵たちと少しだけ離れたところで待機していた。

 

 

「俺と隣の彼女が回復魔法を扱えます。なので遠慮なく八重の指導をよろしくお願いします。」

 

「そうか、分かった。」

 

 

優輝翔がそう言って頭を下げると、子爵も一言そう呟いてまた八重の方を向いた。

 

 

「さて、じゃあ……」

 

 

優輝翔はそう言いながら自身のポケットに手を突っ込んでスマホを取り出した。それを見て、リンゼが首を傾げる。

 

 

「あれ?優輝翔さん、何かするんですか?」

 

「ああ、ちょっとこの試合の映像を記録しようと思ってな。」

 

「えいぞうをきろく?」

 

「まぁ、後で見せるさ。」

 

 

優輝翔がそう言ってカメラをムービーモードにして録画を開始したところで、エルゼの声が響き渡った。

 

 

「始め!」

 

 

その瞬間、八重は一瞬で子爵の元まで移動し木刀を振り抜いた。しかし子爵はその一撃を真正面から受け止めると、次いで繰り出される連撃を、すべて自らの木刀で受け流していく。

 

何度も……何度も…。子爵は八重が1度距離を置いたり、リズムを変えたり、フェイントを入れたりしながら繰り出していく剣を全て受け止めていた。時に流し……時に躱し……時に受け止め……また時には力で弾き返す。だが、攻撃は一切してこなかった。

 

そして八重の息が切れ攻撃が止んだところで、ゆっくりとその重たかった口を開く。

 

 

「なるほど。お前の剣はまさに正しい剣という言葉がぴったりだな。模範的というか、動きに無駄がない。俺が重兵衛殿から習ったそのままの剣だ。」

 

「……それが悪いと?」

 

「いや、悪くはないさ。だがもしこのままだというならば、お前にそこから上はない。」

 

「!?」

 

 

子爵がそう言いながら木刀を上段に構えた瞬間、今までにない闘気が溢れ出してきた。ビリビリとした鋭い気迫は優輝翔たちにこの武闘場が揺れてるのかとさえ思わせるほどのものだった。

 

 

「いくぞ。」

 

 

子爵はその一言とともにあっという間に八重の間合いまで飛び込むと、振りかぶった剣を八重の正面に振り落とした。八重はそれを受け止めるため木刀を頭上に掲げたのだが……

 

 

「終わったな。」

 

 

優輝翔は短く極小の声で1人そう呟いた。

 

そしてその次の瞬間には、八重は脇腹を押さえて道場に倒れ込んでいたのだった…。

 

 

「そ、そこまで!」

 

 

エルゼが慌てて試合の終了を告げる。優輝翔はその合図を聞いてからゆっくりと立ち上がると、慌てることなく八重に歩み寄り魔法をかけた。

 

 

「……もう、大丈夫でござる…。」

 

 

八重はそう言って立ち上がると、まず優輝翔に頭を下げてから、子爵の前でさらに頭を深く下げた。

 

 

「御指南かたじけなく。」

 

「お前の剣には影がない。虚実織り交ぜ、引いては進み、緩やかにして激しく。正しい剣だけでは道場剣術の域を出ぬ。それが悪いとは言わん。強さとは己次第で違うものなのだからな。」

 

 

子爵はそう言って八重をキッと睨みつける。

 

 

「お前は剣に何を求める?」

 

 

八重は何も答えなかった。いや、答えられなかったと言った方が正しいのだろう。何せ八重はまだ若干15歳。剣に捧げた時間が短すぎる。

 

 

「まずはそこからだな。さすれば、道も見えてこよう。そして見えたのなら、またここへ来るがいい。その時はまた、お前の相手になってやろう。」

 

 

子爵は最後にそう言い残し、静まり返る道場から去っていった……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

その後、優輝翔たちは子爵邸を出て大通りの方へと向かった。その道中、荷台の上では八重がずっと1人考え込んでいた。そんな八重を心配してエルゼが声をかける。

 

 

「大丈夫よ!勝負は時の運、負ける時は何をやったって負けるんだから!」

 

「エルゼ殿…、それはあまりフォローになってないでござる…。」

 

「うっ……」

 

 

八重の冷静な指摘にエルゼはそっと目を逸らす。そんなエルゼを横目に八重は溜息をつきながら、ぼんやりと遠くを見つめるような目をして呟いた。

 

 

「それにしても……世の中は広いでござる…。あのような御仁がいるとは……」

 

「ああ…、確かにあの人の最後の一撃はすごかったもんね。私、近くにいたけど子爵が何をしたか全く分からなかったもの。」

 

「確かに…。あれは一体なんだったんでござろうか…?拙者は確かに頭に下ろされた剣を、受け止めたと思ったのでござるが…。」

 

「ああ、それなら答えは簡単だ。八重が受け止めたのはただの幻だよ。」

 

「「えっ?」」

 

 

突然割って入ってきた優輝翔の言葉に、エルゼと八重はともに驚きの声をあげて優輝翔を見た。

 

 

「幻ってどういうことでござる?確かに言われてみれば影の剣というものを拙者も聞いたことがあるでござるが……」

 

「てか私はそれも知らないわよ。と言うより、優輝翔は見えたの?」

 

 

そう言った2人の疑問に優輝翔は順番に答えながら真実を話す。

 

 

「ああ、見えた。ただかなり速くて特殊な技術も使ってたから、俺以外に初見で見破れるやつは少ないだろうな。」

 

「特殊な技術……それって、影の剣ではないのでござるか?」

 

「ああ……悪い。俺は影の剣と言う名は知らないんだ。だが恐らくそれであってると思う。もう答えを言ってしまうと、八重は幻……つまり子爵が自身の『気』で作った囮にまんまと引っかかったんだ。」

 

「なんとっ!」

 

「てかあんた、どうしてそんなのも知ってんのよ……」

 

 

優輝翔の言葉に八重は驚きで絶句し、エルゼはただただ首を振りながら少し呆れたような目線を優輝翔に向けた。

 

 

「まぁ詳細はこれに録画してある試合映像で確認してくれ。八重も影の剣なんてものを知ってるなら分析は1人でいけるだろう。」

 

 

優輝翔はそう言うとスマホで先程録画した映像を2人に見せた。2人は初めかなり驚いていろいろ優輝翔に問い詰めていたが、優輝翔が順番に説明していくと、驚きや呆れや感動や感激など多数の感情が入り交じった顔をし、その後、優輝翔から渡されたスマホで試合映像を食い入るように見て2人で話し合い始めた。

 

優輝翔はそんなふたりに暖かな笑みを向けると、1人御者台に座っているリンゼの隣へと向かった。

 

 

「悪いな、ほうっておいて。」

 

「ほんとです…。後で私にも見せて下さいよ?」

 

「ああ、分かってる。」

 

 

優輝翔がそう言いながらリンゼの頭を撫でてやると、リンゼは嬉しそうに目を細めて優輝翔の手に頭を擦りつけた。そしてそのまま身体もそっと優輝翔に密着させる。

 

 

「強かったですね、あの人。」

 

「ああ。今の八重じゃ手も足も出ねぇよ。」

 

「優輝翔さんなら、勝てますか?」

 

 

リンゼはそう言って優輝翔を見上げるも、何も答えずただ前を向き続ける優輝翔を見て答えを察し謝った。

 

 

「すみません、優輝翔さん。愚問でしたね。」

 

「だな。まぁ影の剣は厄介だし、子爵もさっきのが本気でもないと思うが、それでも俺は負ける気がしない。剣一本の勝負でも余裕だろ。」

 

「ふふっ。さすがです、優輝翔さん//」

 

 

リンゼはそう言って優輝翔の肩に頬を擦り、恥ずかしそうに上目遣いで優輝翔を見上げた。

 

 

「優輝翔さん、わたし…//」

 

「リンゼ……」

 

 

優輝翔はリンゼの想いに決して気づいていなかったわけではない。それどころか優輝翔は幼い頃に特殊な状況下にいた関係で、相手の感情を読み取るのはむしろ得意分野であった。そのためリンゼはもちろん、エルゼが恋愛感情を抱いているのも知っているし、まだ日が浅い八重でさえもそう言った感情が芽生え始めているのは理解している。

 

だが、そんな2人に比べてリンゼの気持ちは特段強かった。それこそ比較にすらならないほどに……

 

優輝翔は自分を真っ赤に染まった顔で見上げるリンゼの腰に優しく腕を回して、リンゼの身体をさらにぎゅっと引き寄せて抱きしめると、そっとリンゼの耳元に口を近づけて呟いた。

 

 

「リンゼ、今日の夜は俺の泊まった部屋に来い。それと、朝まで帰らせる気はないから、部屋割りは気をつけろ。」

 

 

優輝翔のその言葉にリンゼは目を見開くと、見る見るうちに涙を溜め込んで顔を更に紅潮させた。

 

 

「はいっ///」

 

 

リンゼがそう呟いた瞬間、1滴の雫がリンゼの頬を伝ってリンゼの服に染みこんでいった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……この時、リンゼはおろか、優輝翔ですら気づいていなかった。リンゼから優輝翔に対する想いは本物でも、優輝翔からリンゼに対する想いはまだ本物になりきれていないということを。

 

そして、それは “最悪な形” となって、後々自分に降り掛かってくるということを……

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

ところ変わって、とある屋敷の中……

 

 

「なに?失敗しただと?お前がいながら何をやっとたんだ!!」

 

 

一人の腹の出た男が、目の前で膝まづく黒のローブを着た男に怒鳴りつける。

 

 

「申し訳ございません。ですが、邪魔をした者達の顔はしっかりと記憶しております。そのもの達の処置はおまかせを。」

 

「ふむ……ちなみに、そいつらは全員男なのか?」

 

 

太った男がそう聞くと、ローブの男は下に向けた顔に笑みを浮かべながら、言葉を返した。

 

 

「いえいえ、まだ10代前半頃の女3人と後半くらいの男一人です。女の方は一人胸が物足りませんが全員レベルは高いと見え、何より年齢から考えておそらく “初モノ” かと…。」

 

「ほぉ…。よし、なら分かってるな。」

 

「全員で宜しいのですか?」

 

「男はいらん。あと女も男が混じってるのだから万が一もある。よく調べて初モノだけを連れてこい。後は好きにしろ。」

 

「御意に……」

 

 

ローブの男はそう言って深く頭を下げると、そのまますぅーっとその場から姿を消した。そして残された太った男はデーンっという効果音が似合う姿で後ろの無駄に豪華な椅子に座ると、ニンマリと笑みを浮かべながら呟く。

 

 

「ハッハッハッ。穢らわしい獣風情のせいで最近イライラが止まらんかったが、いい捌け口を見つけれそうじゃわい……」

 

 

そう呟く男の人生最悪最後の日まであと数週間……

 

 

 




今話もありがとうございました(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ペコ

一部口調に不安がありますが、皆さんどうか寛大な心でお許しください


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第16話 過去と今

16話目です。今回から18禁版の方も作成させていただき、そちらの方にもう少しだけ詳しく?書いた優輝翔の過去編①を乗っけております。

そちらも含め、今話もよろしくお願いします。


 

《過去編①》

 

━━━約十年前━━━

 

 

「おらっ!!」

 

「ゴホっ!」

 

 

男が一人、手加減なしでまだ六歳の子供の鳩尾に蹴りを入れた。そして休むことなく他の男達も追撃を加える。

 

 

「おら立てよこらっ!」「おらっ!」「おいっ!」「このっ!」

 

「かハッ!」「ゴボッ!」「ブッ!」「ッ……おえぇぇ……」

 

「たっく、可愛いねぇこいつぁ。いいサンドバッグだ、ストレス発散にもってこいってな。」

 

 

男はそう言って床に血を吐いて倒れている少年の頭を容赦なく踏みつけた。

 

 

「うぅ……痛い……痛いよ…、お母さん……おかあ…ヴぉえッ……」

 

「優輝翔!!」

 

 

目の前で苦しみながら自分に助けを求めてきた一人息子が乱暴に蹴りあげられるシーンを見せられ、男達に拘束されていた母親は大声で息子の名を呼んだ後、涙を流し懇願するような目で息子の近くにいる自分の『夫である男』に叫んだ。

 

 

「お願い!!私はなんでも言う事を聞くから!!だからっ!優輝翔だけは助けて!!お願いします!!」

 

 

もうここ一時間足らずで何度目か分からない母親の悲痛な叫びを聞いても『夫である男』の顔色が変わることは無かった。ただひたすら息子と自分の姿を見てニッコリと笑っているだけ。とても楽しそうに。

 

ただ、今回は少しだけ反応を示した。

 

 

「ふむ……何でもか…?」

 

「えっ…、ええっ!そう!なんでも聞く!聞きます!だから優輝翔は傷つけないで!!お願い!!!」

 

「そうか。なら……」

 

 

そう言って『夫である男』が始めたのが、この場にいる男達、計十三人(『夫である男』含め)全員で母親を壊すことだった……

 

 

 

 

 

そして、数時間後……

 

死ぬ間際の母親が最後に見たものは、自分の愛する一人息子の顔が、自身が死ぬ瞬間をまるでサーカスのクライマックスでも観ているかのような目で見つめている『夫であった男』に踏み潰されている、残酷な映像だった……

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「………嫌な夢を見たな……」

 

 

優輝翔は苦しそうな顔でそう呟いてベッドから起き上がる。

 

お金には余裕があるということで少し……いや、かなり高めの宿、否、ホテルを選択した優輝翔たちは、今はホテルでの豪勢な夕食も終えてそれぞれの自室で休んでいた。

 

ちなみに今回ホテルは1人1つの部屋を取っており、それぞれの部屋には風呂とトイレも完備されている。それゆえ値段もそれなりに高く、1人金貨3枚だ。

 

時刻は午後9時前。優輝翔は軽くシャワーを浴び、ベッドの上に座って1人の来客者を待った。

 

 

そして、その時はやって来る……

 

コンコンっ……

 

 

「いいぞ、入って。」

 

「し、失礼します…///」

 

 

そう言って控えめな態度で入ってきたのは、リンゼ・シルエスカ。今日優輝翔に自身の初めてを捧げるためにここに来た女の子である。

 

リンゼは緊張しているのか、顔を真っ赤にして身体をモジモジさせながら、チラチラ優輝翔を見つつその場にい続けていた。優輝翔はそんなリンゼの様子を見て立ち上がると、リンゼの元まで歩み寄ってその身体ぎゅっと抱きしめる。

 

 

「あっ…////」

 

「風呂、入ったんだな…//」

 

 

優輝翔はリンゼの濡れた銀髪を指で解きほぐしながら、耳元で囁いた。

 

 

「んっ// はい…////汗、かいてましたから…////」

 

「そうか…//スーッ……シャンプーのいい匂いだ…//」

 

「……////」

 

 

優輝翔がリンゼの髪に顔を擦り付け匂いを嗅ぐと、リンゼは頬を真っ赤に染めあげる。

 

 

「リンゼ…//先に幾つかいいか?//」

 

「は、はいっ…////」

 

「まずひとつ目なんだが……俺はまだ結婚とかする気はないし、子供も作る気はない//」

 

「えっ///でも優輝翔さ んっ…///」

 

 

リンゼは優輝翔の言葉に動揺したように声を上げたが、言葉を最後まで言えないまま優輝翔の指で口を閉ざされた。

 

 

「分かってる//だからリンゼにはこれを飲んでもらいたい//」

 

 

そう言って優輝翔がポケットから取り出したのが、小瓶に入っているピンク色の透明な液体だった。

 

 

「これは…?///」

 

「避妊薬だよ//後遺症とかもない安全なやつだ//」

 

「えっ、でもいつ…?///それに高かったんじゃ…///」

 

「まぁ…な//前者に関しては食後すぐだ//「ゲート」があるしな//後者はまぁ……リンゼが気にすることはない//だがその分効果は保証する//(少しだけ媚薬効果もあるしな//)」

 

 

実際は金貨1枚なのだが、まぁリンゼに知られて申し訳ないとか思われるよりはましであろう。リンゼも優輝翔の気遣いを気づいてかは知らないが、少し表情を崩して笑顔で頷いた。

 

 

「ありがとう//2つ目はエルゼたちに関してだが……//」

 

「あ、それならちゃんと『どうしても今日中に読み終えたい本があるから邪魔しないで』って伝えてあります///部屋の鍵も掛けました///」

 

「そうか…//じゃあ最後に、リンゼ//」

 

「はい…///」

 

 

優輝翔からの真剣な眼差しに応えるように、リンゼははっきりと返事をして真っ直ぐ優輝翔の目を見つめ返す。

 

 

「最初に言ったな//俺は今はまだ結婚もしないし、子供も作らないと//その理由には当然生まれてくる子供に安定した安全な生活空間を用意してやりたいというのもあるが、他にも俺がまだ冒険者でいたいだとか、リンゼたちともっと冒険者を続けていたいというのもある。これに関しては、あと最低1年くらいはやっていたいな//」

 

「1年…ですか…///そうですね…///まだ始まったばかりですし///」

 

「ああ//でも、俺はリンゼと恋人になる気はない…//それだと、心のどこかでリンゼを実験台にしているような気がして嫌なんだ…//」

 

「えっ……えっと…///」

 

 

優輝翔の言葉の真意が掴めず、リンゼは少し困惑した目を優輝翔に向けた。そんなリンゼに優輝翔は優しく微笑みかけると、そっと頭に手を置いて撫で始めた。

 

 

「リンゼ//今から出す問いには、これ以上ないくらい真剣に考えて答えを出してほしい//」

 

「…………はいっ…///」

 

 

リンゼは優輝翔の目から、言葉から、雰囲気からその問いに対する重要性を感じ取り、それに対して力強く言葉を返した。

 

優輝翔は1度頷くと、1度部屋の奥に行き、そこから小さな白の小箱を持って戻ってきた…。そしてその小箱を見た瞬間、リンゼは目を見開いて思わず声を漏らす。

 

 

「えっ///そ、それって///」

 

「ああ//………リンゼ//」

 

 

優輝翔はリンゼの言葉に頷くと、リンゼの前まで行って膝をつき小箱を開けた。そこにあったのは紛れもない『婚約指輪』と呼ばれるものであった。

 

その中でも優輝翔が選んだのは『エタニティリング』と呼ばれるもの。なんでも『永遠』を意味するのだとか。

優輝翔は指輪を見て感極まったのか、手を口に当てて涙を零しているリンゼの名を呼ぶと、しっかりと目を見つめながら言葉を紡いだ。

 

 

「リンゼ//俺のことを好きなのはリンゼだけじゃない///そのことはリンゼの方が気づいているよな…//」

 

「…はい…///」

 

「俺は……そいつらの気持ちにも、その都度応えていくつもりだ…//むろん一番はリンゼだが、お嫁さんが増えてくればお前だけに構う理由にはいかなくなる//」

 

「……コクリ///」

 

「……その場合、俺がリンゼに確かにあげられるものは、俺の『初めて』でリンゼの『初めて』を奪うことと…//俺がリンゼを一生守ってやるという誓いと…//」

 

 

リンゼの目から次々と涙が溢れ出す。それはもう口元を抑えている手の下から絶え間なく流れ落ちるほどに……

 

 

「お前が少しの間だけ、俺の唯一の婚約者であることと//お前が俺の第1妃であるという事実くらいだ…//まぁ最後のは俺がどっかの王様にでもならないとあまり意味をなさないだろうがな…//」

 

 

優輝翔は最後に冗談じみた言葉でリンゼの笑顔を誘おうとした。だがもはや、リンゼはもう前など見ていなかった。ただただ泣きながら顔を手で抑えて、優輝翔の言葉に耳を傾けていたのだ。

 

優輝翔は1度深呼吸をすると、指輪を手に取ってリンゼに尋ねた。

 

 

「リンゼ////ここまで聞いて尚……この指輪、受け取ってくれるか…?/////」

 

「…ッ……ッ…はぃ……ッ…/////」

 

 

大粒の涙を流しながらもしっかりと返事を返したリンゼに、優輝翔はそっと手を伸ばしてリンゼの左手を取った。そしてゆっくりと薬指に婚約指輪をはめる。

 

 

「……綺麗だ//よく似合ってる//」

 

「優輝翔さん…///わたし…///」

 

「ああ……リンゼ、キスしていいか…?//」

 

 

優輝翔の問いにリンゼは真っ赤な顔にトロンとした目を浮かべながらゆっくりと頷いた。そして優輝翔は1度立ち上がるとリンゼの腰と後頭部に手をやり、そのまま顔の距離を詰めた。リンゼも優輝翔の顔がアップされるのを見て静かに目を瞑る。

 

 

「んっ///」

 

 

リンゼの口から可愛らしい声が漏れた。優輝翔は一瞬だけ口を離すと、またすぐに自身の唇をリンゼのそれに押しつける。何度も……何度も……

 

リンゼも途中からは優輝翔の首に手を回し自分から優輝翔を求めていた。何回も……何回も……

 

 

 

時間にしては5分ほどだろうか。短いと思うかもしれないが、触れ合うだけのキスだけで5分は決して短くはないと思う。

 

事実、ふたりは永遠のような5分を過ごしていたのだから……

 

 

 




いかがでしたでしょうか?not18禁版に書き直す際にちょっと文字が変わった所もありますが、話の流れに変化はないのでご安心ください。

次回は完全18禁予定なので、そちらの方に投稿させていただく予定です。18歳以下の方は1週か2週話が飛んでしまいますが、どうかお許しいただけると幸いです。


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