ユニゾン・ワールド (新人ガイア)
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(プロローグ)

「此処がエリア11P03・・・ここが俺の新しい所属先か・・・・・広すぎッ!!」

 

エリア11ポイント03。旧EDFの軍事基地を改修し陸海空のあらゆる方面への出動を目的として、東京湾を埋め立てて建造されたエリア11史上最大の軍事基地である。もとより激戦区であったエリア11は融合事変の中で他国より優れた技術力が混ざり合い世界でもっとも歪な国であった。地球連邦設立後連邦政府はエリア11(11は連邦賛同国の11番目の意味。国境がないため国ごとにエリア別けをしている)を主軸に多方面への災害対処の基盤にすることを決定した。軍事基地であり、主力兵器PS(パワードスーツ)・『顕現装置(リアライザ)』・『PAギア』の製造施設を完備し新型開発の研究施設もあるだけでなく開発した装備を各基地に分配する役目も担っている。文字通り世界の基盤である。

 

 

司令室

 

連邦軍の白い軍服と帽子を被った若い兵士が司令室に入り向かいのデスクに腰掛ける多くの勲章付けた士官の服を着る男性に敬礼をする。

 

「本日より地球連邦極東支部第三軍事基地遊撃一番隊に転属されました”天草一颯(あまくさいぶき)”です!!」

「うむ、よく来てくれた。私はこの基地の司令を務めるレナルド・キャンベルだ。」

 

レナルド・キャンベル。融合事変前の世界でEDF(アースディフェンスフォース)の司令を務め事変後も設立して間もない連邦をまとめた立役者である。激戦区であるエリア11は状況に左右されず冷静な指揮が執れる者が求められており彼に白羽の矢が立った。

 

「しかしよく復帰しようと考えたな。あの地獄を経験してそう考える奴はそういないぞ?」

「・・・あの地獄を味わったからこそ止まってる暇など無いと思っただけです。」

 

彼はそのことを追及されたくないのか視線を下げうつむく。

 

「すまない少し冗談が過ぎたな。鳶一少佐、入ってくれ。」

 

そう言われ、前から待機してたのか一颯が入ってきた扉を開き一人の女性入ってきた。

一颯より背が低く同じ色の軍服を着て腰まで伸びる白い髪が美しい人だ、一颯の第一印象はそれだった。

 

「お呼びですか司令?」

「鳶一少佐、彼が君の部下になる天草一颯一等兵だ。二年前の聖罰で唯一生き残り今日ようやく軍人として復帰した。新人ゆえ君に彼の事を任せたい。頼めるか?」

「了解しました。」

 

鳶一折紙。二年前の総力戦で初めて天使を討伐した英雄と讃えられた女性。優れた戦闘技術と顕現装置(リアライザ)の高い適応性で二年間に大量のノイズと天使を討伐し「世界最強の魔術師」の称号を与えられたまさに英雄である。その実力あってエリア11最強の部隊「遊撃一番隊」の隊長に任命された。

 

「ついて来て。」

「あ、はい。失礼しました!」

 

戸惑いながらも司令に敬礼し彼女の後を追う。

司令室を出て長い廊下を進む折紙と一颯、これからどこへ向かうのか解らない彼は窓から見える広大な軍施設を見て改めてこの基地の大きさを目の当たりにする。

そんな彼とは対照的に悠然と歩く折紙が口を開く。

 

「なぜ軍に復帰しようと考えたの?」

「えっ?」

「聖罰の恐ろしさは聞いている。都市部を中心に建物も人間もまとめて光で焼き払い焦土へと還す神の裁き。聖罰を受けて運よく生き残った君は間近で見たはず、瓦礫も遺体も残らない凄惨な光景を。そんな地獄を見てなぜ君はまたあの地獄に戻るような選択をしたの?」

 

折紙には理解できなかった。両親もいない故郷でもない彼にとって何の関係もなかった土地での任務で身も心もボロボロになった出来事なのに戦えばまたその光景を見ることになるかもしれない選択をする彼の真意が聞きたかった。

 

「・・・俺は、あの地獄を見てしまったから戦わなければいけないと思ったんです。資料では街も人も一瞬で消えたと書かれてました。でも違うんです。ゆっくりと消しゴムで文字を消すようにゆっくり消えていくんです。あんな地獄を見てしまったのに俺が立ち止まったら誰が彼らの死に報いるんですか?繰り返しては駄目なんですあんなことは・・・・。だから歩み続けようと決めたんです。歩みを止めたらそれだけ犠牲が出る。俺は市民を守る連邦軍の軍人です!どれだけ絶望が待っていようと戦うことから逃げるわけにはいかないんです!!」

「・・・・・そう。ならその覚悟、午後に行われる合同軍事演習で証明するといい。この基地の全隊と新設されたIS学園の専用機持ち合わせて約二万人の精鋭相手に君がどこまでやれるか興味がある。」

「っ、はい!!」

「その前に君に支給するスーツを決めないといけない。こっち。」

 

話を切り上げ再び廊下を歩く二人。程なくしてPS保管庫と書かれた扉の前に止まる。

折紙は脇にあるパネルに右手を添え、続いて目、声帯、IDカードなどスキャンし続けセキュリティを解除し扉が開く。扉の奥には多種多様なパワードスーツが並んでいた。

第三基地の保有するPS保管の一つで基本モデルの試着するための部屋と言ったところだ。

 

「どれを使う?」

「え・と・・・あ、ヴィンディケーターなら訓練で使ったことがあるのでこれにします。」

 

【ヴィンディケーター】青と橙のカラーを主体とした地球連邦軍の最新主力フレーム。元から使われてたパーツを使用している為生産コストが低いのが売り。

 

「そう。じゃあ着て。すぐ登録する。」

「いいんですか持ち出して?」

「記録が司令部に送信されて補充されるから問題ない。いそいで。」

 

いつまでも上司を待たせるのはいけないと一颯はヴィンディケーターを手早く装着する、そして慣れた手つきで折紙が使用者登録をしていく。

 

「登録はこれで完了、演習まであと二時間。三十分前には湾外にある特設演習場に集合して。」

「あ、折紙!こんなところにいたのね。その子は?」

 

一通りの作業が終わったと同時に保管庫に入って来る女性がいた。一颯と同じ身長の黒髪で歳は推定28ぐらい、軍人らしい緑の迷彩柄の軍服を着ている。尚、連邦の軍服は色の規定がなく個人が好きな色を着ている。

 

「今日から一番隊に入る新人、天草一等兵。こっちは副隊長の日下部燎子大尉。」

「天草一颯一等兵であります!!若輩者ではありますが何卒宜しくお願い致します!!」

「アハハそんなかしこまらくていいわよ。ここじゃある程度の節度を持っていれば好きに振る舞っていいから。」

「はぁ・・・」

 

フランクな副隊長の言葉に困惑する一颯だが上司を名前で呼び捨てするなどお互いの信頼関係をわかりやすく教えてくれていると納得することにした。

 

「にしてもこれから演習なのに新入りなんてねぇ。まぁ私と折紙もいるしあんたも精一杯頑張りなさい!」

「遊撃一番隊はどの隊より素早く前線に到着し敵の勢いを止めるもしくは撃破するのが役目。責任重大、演習だからと言って無様は晒せない。」

「そういうこと!三人無事にやり遂げれば上出来ってことよ。」

「はい!頑張ります!・・・・・・ん?三人?」

「えぇ私とあんたと折紙。それが一番隊の人数よ?」

 

燎子の言った事実に一颯は耳を疑わざるを得なかった。

 

「物凄く絶望的じゃないですかッ!?」

 

きっとこれが一颯にとって初めての絶叫であろう。戦力差は一万対一どこかのOOのような状況、叫ばざるを得なかった。




シンフォギアのCM風あとがき
一颯「初めまして天草一颯です。人類守護の要であり最強の部隊、遊撃一番隊に配属されたのに隊員がまさかまさかの三人!?そして午後から約二万の先輩方と演習をするとはこの基地結構ハードだなぁ・・・俺やっていけるかなぁ・・・・」

次回「遊撃一番隊」


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第一話「遊撃一番隊」

一颯視点

 

東京湾全体を基地にしてる第三基地。その第三基地の外、湾外に浮かぶ60㎢の人工島『特設演習所』。

連邦の持ちうる技術の粋を集めて出来たをあらゆる状況に合わせてステージを形成する万能演習場。戦闘訓練や救助訓練などどんな訓練もできるようにいろんな地形を再現し実践に近い経験が積める優れものというフレコミだがなるほど、驕りとかではなく本当に優れものだ。

六角形の住宅街エリアを囲うように森林・廃墟・工業地帯・荒野・渓谷・砂漠と七つのフィールドに分けられ各々が得意な状況で戦えるようにセッティングされている。

 

そしてその住宅街エリアの中央部でPSを着た連邦軍とISが数機混じって集合している。その中で一番目を引くのが俺の前にいる鳶一隊長と後ろの日下部副隊長だ!率直に言うと前門のミーティア、校門のデンドロビウムである。隊長のCR-ユニットは「高火力」「高機動」「鉄壁」のバランスを超越した『アリス・リコリス』。天を貫くかのようにそびえたつ50.5cm魔力砲〈ブラスターク〉二門、両腕の篭手に内蔵されている大型レイザーブレード〈クリーヴリーフ〉、機銃やミサイルなどの武装を格納した大容量ウェポンコンテナ〈ルートボックス〉8基、防制随意領域の組成に特化したシールド装置〈ハイペリオン〉とイカレタ性能をこれでもかとぶち込んだような頭のおかしいユニットだ。

 

ちなみに顕現装置(リアライザ)とは

融合する前の世界の30年前に創られた、コンピューター上での演算結果を物理法則を歪めて現実世界に再現する、いわば科学技術を持って「魔法」を再現する技術および装置の総称である。

そしてCR-ユニットとは「戦術顕現装置搭載ユニット(コンバット・リアライザユニット)」の略称である。顕現装置を戦術的に運用するための装備の総称。

防護服である着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)と武装が小型のデバイスに格納されており、起動するとこれらを瞬時に装着することが出来る。標準装備として、ワイヤリングスーツに搭載されている基礎顕現装置が発動すると同時に自分の周囲数メートルに見えない領域「随意領域」(テリトリー)を展開する機能がある。随意領域は文字通り、使用者の思い通りになる空間でありCR-ユニットの要でもある。

ユニットの使用適性を持つ者はごく少数で、かつユニット使用のためには頭部に脳波を増幅させるための機械を埋め込む必要がある。

本来それほどの高性能のユニット使用する場合脳にかかる負担は計り知れない。・・・・・のだが、どういう訳か隊長はあれを半日も使用したまま各地の遊撃を行ったが脳への負担が一切なかったと資料に記されていた。・・・・・流石英雄。常人では出来ない荒業を悠々とやってのける!

 

そして後ろの副隊長纏っている(?)PS(?)『ラウンドハンマー・クアッドリガRC(燎子カスタム)』・・・・どう見てもスーツじゃない、あれはアレだ・・・・全身火薬庫の「ザメル」だ。そうとしか言いようが無い。もう軽車両並みの大きさではっきり言って絶対これ戦車だよねと言わんばかりに鉄でおおわれて顔すら見えない。・・・・機体説明に戻ろう。

PS化された旧型機「ラウンドハンマー」。それに取り付けた強襲ユニット「クアッドリガ」を副隊長が改造した重機体。もともと移動速度の遅い機体に格闘戦用の武器腕「パイルナッコ」、機動力確保のホバーユニットと大型ブースターと白兵戦使用だったのを何を血迷ったのか背部ユニットに増設した重砲「シージキャノン」二門、武器腕に取り付けた大型盾に左右片方づつガトリング砲を三丁計六丁内蔵し余った装甲に大量の機銃と追尾ミサイルを取り付けた「強襲重火力高機動機」と訳の分からない機体となった。さらにこれだけの武装を維持するためにPAギアに使われるエネルギー源「エナジーコア」を二十個も使用しているらしい。コストどうなっているんだろうか?

その改造機で隊長と肩を並べる実力者なのだから凄いのか変なのか・・・・

 

そんな二人の間に立ってる通常機の俺は圧迫感にうなだれそうだ。これが一番隊、実力が形になったような隊だなと思う。

と、うなだれてる間にレナルド司令が台座に立ち演説を始める。

 

「諸君、今回から始まる合同軍事演習はIS学園の専用機持ちとの連携の強化を目的としているが同時に各々の戦力強化も重視して欲しい。我々の敵はノイズや天使だけではない!EDFにいた者なら解かると思うが我々人類を脅かす脅威は地球に留まらず外からやって来るものもいる!融合事変が起きる前に追い出すことが出来たがいつまでも奴らが戻ってこないとは限らない!!その為にも諸君らには毎度のことながらお互いに覇を競ってもらう!各隊に与えられた役割を全うし研鑽を積んでくれ!!では演習を開始するッ!!各隊は指定の位置に移動し準備を進めてくれ。遊撃一番隊はここで待機、鳶一少佐は五分経つまで中央エリアを出ないように!解散ッ!!」

「あの、副隊長。」

『ん?』

「なんで隊長は五分間のエリア制限が掛かってるんですか?」

『・・・・・五分経てばわかるわよ。知ったら知ったで疲れるから。』

「はぁ・・・。ところで覇を競うとは?」

「これから全隊による生き残り戦が始まるから隊の実力を示せという事。」

 

なんでデスマッチ!?

 

「敵は私達の常識から逸脱した存在。そんな相手に通常の戦い方は役に立たない、だから精鋭同士ぶつかることで戦闘技術向上を目指してるの。緊迫した戦況下は人の闘争本能を掻き立て進化を促す。らしい。」

「唐突に人の心読むのやめてもらえません!?」

「顔に出ててから。」

「隊長最初から前しか向いてないですよね!?ISのハイパーセンサーでもついてるんですか!?」

『ま、折紙はそういう子だから。あんたも前線で生き残れば知らぬ間に備わるやよ。』

 

マジですか、俺も隊長みたいな超人になるのか。

 

「一つ付け加えるけどこの演習は実戦を想定している。敗北は死を意味しそれだけ犠牲者が出ることに繋がる。市民を守る軍人が死んでは意味がない。だから簡単に敗れるような隊員は一番隊に必要ない。君はそうでないことを祈ってる。」

「・・・・はい。」

 

言い終えたのか隊長は俺達から距離を置き各エリアの方角を確認し始めた。

 

『ねぇ一颯知ってる、遊撃一番隊が発足されてから今日にいたるまでに亡くなった隊員はもう40人にもなるの。』

「え?」

『私と折紙は発足当時からの仲でね。一番隊は他の隊よりいち早く現地に赴き驚異の侵攻を止める大変な役目だから当然死亡率がどの隊より高いのよ。新しく隊員を追加しても激しい戦闘に耐えきれず一人また一人と亡くなっていってね、折紙のほうから追加要員を拒否するようになったの。そしてあんたが最後の追加要員て訳、さっきのは折紙なりやさしさなのよ。この演習でやられるようなら私も見込み無いと思うわ。だから、せいぜい折紙をがっかりさせないでね?』

「・・・・・はい。俺もここで終る訳にはいかないんです。自分のできることを精一杯やって生き抜いてやりますよ!」

 

副隊長は返事を返さなかった。ただ俺の答えを聞いて満足したのかその巨大な図体を回転させ隊長とは別方向へ移動し武器のチェックを始めた。あと少しで演習が始める、絶対に負けられない。相手は精鋭ぞろい、俺なんかより実力のある先輩方に新入りが勝てる見込みはほぼない。

 

だからこそ!勝つんだ、この演習で少しでも経験を積んであの地獄を繰り返さないために!

 

「へいきへっちゃら。へいきへっちゃら。へいきへっちゃら。・・・・・・・・・ふぅ。よし!」

 

おまじないはした。後はやるだけだ!

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

開始を告げるブザーが鳴る。程なくして各方面から銃声・爆音が鳴り響き弾丸が飛び交う戦闘が始まった。

 

『とうとう始まったわね。』

「副隊長は中心部一体を殲滅。私は外園部を掃討する。君は・・・・」

「はい!」

「・・・・自己判断に任せる。」

「わかりました!」

 

指示を出し終わり隊長は空へ飛び立ち副隊長は少し離れた所で凄まじい弾幕の嵐をばらまいていた。

 

『さぁさぁさあ!死にたい奴からどんどん来なさい!!死にたくない奴も粉々にしてやるけどね!!オラァ!!』

「ゴはァッ!?」

 

両腕のガトリングから放たれるおびただしい銃弾をばらまきPSを撃破したかと思ったらブースタを吹かし一気に間合いを詰めネルを纏った連邦兵を殴り飛ばした。

 

ギャァァァァァァァァァァァ!!

 

中心エリア外園部では光が地面に向かってすべったかと思うと大爆発を起こしその場にいると思うPSを焼き払う隊長がいた。

 

「うわぁ・・・・・圧倒的すぎるうちの隊長達。」

 

と感心してる暇はないようで俺の方にも高速で接近してくる機影が二つ、ホバー移動で敵の間合いに入り込みショットガンで吹き飛ばすことで有名なPS「タイフーン」だ。

 

「くッ!」

 

素早い移動で俺に近づき先頭の一体が牽制で撃ってきた。咄嗟に肩に取り付けてある防弾装甲で防いでしまったがこれは悪手だった。防いでる一瞬の間にもう一機に回り込まれショットガンのストックで殴られ宙に浮かされる。

俺を殴ったタイフーンは爆薬を取り出し俺に取り付けようと接近する。

 

「ッ!させるかァ!!」

 

俺は右肩の防御装甲を引き千切りぶん殴った。

 

「がッ!?」

「!?ちぃ!!」

 

予想外の反撃に一瞬動揺したようだが囮の奴がふたたびショットガンを撃ってきた。それを引き千切った装甲で防ぎひるんでるもう一機を蹴り飛ばし相手にぶつけた。一瞬の出来事で両機は受け身もとれず地面に突っ伏す。その隙を逃さずアサルトライフルで覆いかぶさってる方の背中を撃つ。弾丸は背部に搭載されてる爆薬に引火、爆発を起こし撃破されたことを示す『LOST』の表記がモニターに映し出される。演習の為機体の損傷は微々たるものだが銃器のセーフティが掛かりこれ以上戦闘できないようになっている。

 

「・・・・一番隊とはいえ新入りと侮ったのが敗因か。」

「防御装甲を鈍器として使うとは流石常識離れした一番隊らしい戦い方だ・・・」

「あ、ありがとうございます。」

 

常識離れなのは隊長達で充分なのだが確かにこれは普通の軍の戦い方とは言えないな。だからこそ勝てたわけだ、ならこれは俺の戦い方の一つと認めておこう。

 

「まぁまだ他の奴らには程遠い。せいぜい撃破されずに頑張れや!」

「忠告感謝します!あ、先輩方の武器拝借しますね。」

「あ、ああ持って行け(案外図太いな)。」

 

先輩方のショットガンとマグネティックグレネードをしまい戦闘にもどる。周囲に敵影は居ない、このままじっとして狙撃される恐れもあるし場所を変えよう。依然爆炎をおこす副隊長とは反対方向へ行くことにした。外園部はもう火の海と化し空中で何かを待っている隊長がいた。

 

「隊長、どうかしたんですか?」

「もう片付いた。だから待っている。」

「え?」

『外園部の隊は全滅したと言うことよ。だからエリア制限が解除されるのを待ってんの。』

 

全滅って!まだ始まって一分も経って無いんですよ!?俺ですら二人倒すのに精いっぱいなのに・・・あぁだから司令がエリア制限を掛けたのか。こんなあっさりかたをつける隊長が自由に動けば全エリアの皆さんを瞬殺するのはたやすいと。それじゃあ演習にならないから五分の猶予を与え少しでも皆が研鑽できるように・・・・今頃外の部隊は隊長への対策を講じてるんだろうなぁ。

 

キィイイイイイイイイイン

 

上空から響く音に釣られ上を見上げると白い飛行物体が旋回していた。連邦の航空主力機ガイヤー:エヴォルヴの群体だ。可変機構を搭載してるガイヤーは人が纏うのを想定していない。第三基地のどこかにある操作ルームから遠隔操作する無人PSだ。操縦者は高度な操縦テクニックが求められこの多くは元EDFの航空部隊ライトニングチームが占めている。そんなガイヤーが急上昇したかと思うと何かが外れ落ちてくる。ここに!?

 

「うッソだッろオオオオオオオオオオオオオッ!?」

 

中心エリア全体への空爆は瞬く間に街を崩壊させレーダーに映る反応が三つだけ残る。

 

三つ?あ、俺生きてる!?

瓦礫を払いのけ周囲を見渡す。さっきまであった街の風景は一瞬にして瓦礫の山に変わっていた。

 

「うわぁ・・・・・やるなぁ先輩方。」

 

反応が三つてことは副隊長も無事なのだろうか?その心配を打ち消すかのように対空射撃を行ってる副隊長が見えた。あれだけの爆撃を受けて傷一つ付いてないなんて硬すぎなのかそれとも副隊長の技量なのか?

無事なのは副隊長だけではない。隊長もまたガイヤーの編隊めがけ空を駆っていた。

 

 

 

空爆を終えて上空を旋回するガイヤーを操作するライトニングチームの隊長マーカスは爆炎立ち込める地上の映像をいぶかしげに眺めていた。

 

(今の空爆で中央の殆んどは倒せた筈、でも強者揃いの一番隊がこれで倒せるはずはないよな・・・)

「各機は地上を警戒!敵の滞空攻撃をッ!?」

 

部下に指示を出すより早く燎子が対空砲火しガイヤーを一機、また一機と撃破する。

 

「全機散開!各エリアに避難し各隊の支持をッ」

「隊長ッオォォォォ!!」

 

迎撃された時既に遅し!マーカスの操作するガイヤーのメインカメラに映る白い影が画面を光で塗りつぶし操作モニターとのリンクが切れ「LOST」の文字を刻んだ。

 

「・・・・・はぁ・・・・やっぱり化け物だよ一番隊は・・・・」

 

演習開始から一分で全体の二割が壊滅した。そのほとんどは折紙と燎子の二人による攻撃が主である。

そんな光景を双眼鏡で観察する各エリアの部隊長たち。

 

『やはり空爆だけでは鳶一少佐を倒すことはできないか。』

『それだけでなく日下部大尉も健在だ。今回の演習の為にライトニングチームとの協力を仰いだのに足止めにもならんか。』

『開始から一分、脱落者は千七百人。あと四分の間にどれだけ一番隊達を消耗できる事やら・・・』

『問題ない、あと四分間は鳶一少佐は中央を出られない。各部隊と連携し集中砲火を行い随意領域を削げば・・・』

『お、おいあれッ!!』

『『『!!!!!!』』』

『嘘だろおいッ!?』

 

部隊長達は皆驚き通信を切り自分の部隊に退避指示を出した。

その原因は未だ空中に佇む折紙のとった行動である。

折紙はブラスタークの銃身を外し、クリーヴリーフに直結した。そして両腕を交差しエネルギーをチャージする。

 

「ちょッ折紙っ!?」

「出るなと言われたが撃つなとは言われてない。だからセーフ。」

「セウトダヨ!!」

 

燎子の静止も虚しく折紙はチャージを終えたブラスタークを放射しゆっくりと体を回しながら両腕を開いて全エリアの地上を薙ぎ払っていく。直結された砲撃は極太に収束されて巨大な斬撃となり遮蔽物など関係なく切り刻んでゆく。無慈悲なまでの火力が各エリアの部隊を襲う。

 

ギャアァァァァァァァァァァァッ!!!!!

 

薙ぎ払い火の海となる外周エリア。誰も予想だにしなかった広域殲滅斬撃「ロプトル・レーギャルン」。ブラスタークとクリーヴリーフを直結させ出力を圧縮・膨張させた魔力を剣状の形で放出する対天使用兵装。

その魔剣が放たれたことは直撃を免れた者たちに大きな動揺を誘った。

 

その光景を司令室のモニターで見ていたレナルド司令は手で顔を覆い上を向いて落胆していた。

(次の演習、鳶一少佐を外すべきかな・・・)

 

ブラスタークの連結を解除し折紙は部下の状況を確認する。

 

(副隊長はいつも通り健在、廃墟エリアへと進行中。彼は・・・よかった、まだ無事みたいね。ッ!)

 

一颯の無事を確認し一安心したのも束の間、危険を察知し後方に跳び右に防御随意領域を展開する。瞬間折紙がいた所を青い無数の閃光が降り注ぎ防御随意領域に見えない砲弾が直撃した。

 

「なんで龍咆が防がれんのよッ!!」

「見えないから見えた。」

「意味解んないわよッ!!」

「落ち来なさい鈴さん一筋縄ではいかないとあれだけ言ったはずですわよ?」

「流石は連邦最強の魔術師。攻撃する隙を与えんか。」

 

折紙を囲うように六機のIS。そのうち黒いISの重砲は折紙の随意領域によりひん曲げられていた。回避と防御の合間に砲身を曲げる卓越された思考能力、この才能が折紙を最強と垂らし込める理由の一つである。

 

(すでに二人は別エリアに移動したようね。なら心置きなく戦いに専念できる。)

「ッ!来るぞッ!皆構えろ!」

 

白いISを纏う男「織斑一夏」の号令で武器を構える専用機持ち、対する折紙はゆっくりと息を整え意識を集中する。

刹那!折紙の姿が消えたのと同時に真紅のISを纏う「篠ノ之箒」が地に叩きつけられ「LOST」される。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

一瞬の出来事。二年もの戦闘経験を積んだ彼等ですら対応できなかった圧倒的な力に驚愕するしかなかった。

 

「さぁ、私達の戦争(デート)を終わらせましょう?」




折紙「こんにちは遊撃一番隊隊長の鳶一折紙です。」
燎子「副隊長の日下部燎子よ!」
折紙「原作では女子高生として青春を謳歌してるのにまさかの24才大人。(驚愕)」
燎子「私なんてなんかヤバイもの纏ってヒャッハーしてるしどうなってるのこの世界?」
折紙「混乱する暇もなくIS乗り六人と混戦。これは骨が折れる。」
燎子「どの口が言うか!?主人公より主人公して何目指してんのアンタぁ~!!」

次回「新たなる火種」


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第二話「新たな火種」

現在公開可能な情報

天草一颯
性別:男
生年月日:不明 22歳
血液型:B型
身長:178㎝

初めて起きた聖罰を受けて唯一生き残った地球連邦の兵士。
真面目で明るい性格で誰かの手助けを出来ることを喜びにしている。本人曰く「他人の幸せは自分の幸せ」らしい。
軍人として市民を守ることをモットーにしており二年前の聖罰は彼にとって大きな傷となっている。


演習開始から三分が経過、たった三分で全体の八割の隊員が脱落し今もなおその数は減っている。

その原因である鳶一折紙は専用機IS五機を相手に眉一つ動かさず一人一人の動きを見て正確な対処をしていた。

 

(BT兵器、6時4時8時7時の方角から接近。角度・出力から見て回避を想定した偏向制御射撃(フレキシブル)と断定。及び後方より目視不能な物体が接近、防御随意領域を着弾ポイントに展開、ならび下方より実弾を確認。上空への回避を狙った陽動と確信。対処実行!)

 

龍咆をピンポイントで防ぎ、四方から来るビットのレーザーをかいくぐり防御随意領域を展開し下から撃っていたラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ「シャルロット・デュノア」に体当たりを仕掛ける。

 

「うわッ!?」

 

予想だにしなかった行動に対応が遅れたシャルロットの横脇をかすめ、否!切り刻まれたッ!!

通り過ぎる際に体を回転させクリーヴリーフを当てたようだ。回転の勢いを利用し直角に曲がって急上昇、同時にミサイルをばらまき鈴・シャルロット・セシリアに爆炎の嵐を浴びせた。

 

「くッ!やはり一筋縄ではいきませんわね。なにより動きが尋常ではないッ!」

「それに攻撃が命中しなかった際の対応が早いッ!」

「箒を不意打ちとはいえ一撃で倒すだけじゃなくあたしの龍砲を的確に防いだり、性能面ではこっちが上なのに何で押されてんのよッ!!」

 

天使が地球に埋め込んだ楔によりISやリアライザの出力は大幅に失われた。だがそれでも性能はISの方が上、特殊な力の無いPSに劣ると言った状況だ。

だが折紙がISを圧倒してるのも事実である。

 

「うわぁ・・・凄いですね鳶一さん。織斑君達を相手に被弾一つせず追い込んでます。」

「アレが『事象反転装置』、『ウィル・ドライブ』が引き出した『意志の力』か。」

 

新設されたIS学園のモニターから演習の光景を見ている山田真耶と織斑千冬。

二年前の融合事変で天使によりIS学園が破壊され連邦に保護された彼らは一時的に連邦の嘱託隊員として働いていた。学園崩壊により多くの生徒が他の学校に転校するなか一部の生徒だけがIS学園の復興の為に努力し今に至った。

 

「『意志の力』の力ですか?」

「ドクターウィルの提唱した『事象反転理論』に基づき作られた事象反転装置、一部の者には『ウィル・ドライブ』と呼ばれる装置により事実の逆説化が可能になった現代、ノイズなどの常識の通らない存在を無理やり通らせるあの装置の本質はだだノイズを倒すだけのものではない。事象の反転、不可能を可能に変えるあの装置は人の意思を具現化し本来有るはずの無い力を生み出す。鳶一少佐のあの力は彼女の強い意志を『ウィル・ドライブ』が具現化し底上げしたものだ。あれほどの力を体現する強大な意思を持つ彼女が相手だ、同じ装置を組み込んでるとはいえまだまだ小僧共のあいつ等が敵う相手ではない。」

「でも、あれだけの出力を出してるんですよ?流石に自身への負荷がかかるのでは?」

「無いものを有るとする力だぞ?どれだけ強力でも存在しない力に負荷などあったものではない。」

 

千冬は不敵に笑い言ってのける。

 

「そんな!?それじゃあ鳶一さんは無敵ってことですかっ!?」

「なに、そうでもないさ。意志を力に変えると言うことならその意思を挫くことが出来れば当然弱まる。・・・・あいつらにそれだけの力があればの話だがな。」

 

そういい再び観戦に戻る千冬はそれ以上何も言わなかった、真耶もまたなにも聞かずモニターに向き直った。

 

爆煙が立ち込める空中、目視での確認が出来ない黒煙の中ハイパーセンサーでなんとか折紙を捉えているラウラは四方八方から襲うクリーヴリーフの刃をプラズマ手刀でいなしていた。

 

「ッぃ!センサーによる動きではない!この動き・・・向こうは私が見えているのかッ!?」

 

ラウラの言う通り折紙の目にははっきりとラウラの姿が見えている。それだけではない、煙の外にいる一夏たちの姿も捉えている。意志の力で強化された折紙は常人を超えた演算処理能力と人外の域に達した身体能力を持って戦っている。今の彼女は音だけで周囲の状況が解り千里眼のように演習場全体を見渡せることが出来るのだ。

 

(次の攻撃をしのぐとアンカーを射出し私を遠ざけ仲間に援護させる。なら対応するまでッ!)

「くッ!ええいッ!」

 

斬撃を受け止めワイヤーブレードを射出し折紙を絡め捕ろうとする。そうすれば折紙が回避し離れると考えセシリアたちの集中砲火で仕留めるという算段だ。だが折紙はワイヤーブレードを軽やかに避け、回避の勢いを利用しラウラを蹴り飛ばす。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

折紙に一直線に突き進む白い影、白式のワンオフアビリティ「零落白夜」を開放した一夏が減速せず切りかかる。

 

「・・・・ッ!?」

 

直撃は危険と判断し回避をしようとする折紙だが金縛りにあったように身動きが取れなかった。原因を探し視線を走らせると折紙の後方に先程蹴り飛ばしたはずのラウラが手をかざしていた。

 

「フッ・・・・いくら強かろうとシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前でッガっ!?」

 

勝利を確信し勝ち誇っていたラウラは突然崩れ落ちた。折紙はラウラの頭に随意領域を展開し随意領域内の重力を何倍にも増して圧迫したのだ。いくら完全防御があるISとはいえ意識を刈り取ることは造作もないのだ。

 

「結界はハイペリオンさえあればいい。」

 

ラウラの無力化を確認し一夏に向き直る、既に目と鼻の先まで近づき雪片二型を振り下ろしていた。

歯嚙みし防御随意領域を展開し防ぎ切ろうとする。

 

「無駄だあぁぁァ!!」

「ッ!!」

 

だが防御随意領域は零落白夜を纏った雪片にいともたやすく切り裂かれ折紙を・・・・

 

 

 

 

 

場所は変わり廃墟エリア。ロプトル・レーギャルンの直撃を免れた部隊たちは燎子のクアッドリガの弾幕に襲われ撃破されていた。

 

「ふぅ・・・・・ここ一帯はもうじき片が付きそうね。ん?」

 

不審な物音が聞こえ音の方へ向くと黒い軍用外骨格「パワードスケルトン」を纏った兵士「フェンサー」たちがスラスターを吹かしその素早い動きで燎子を包囲した。

 

(黒いパワードスケルトンにブラストホールスピア・・・てことは)

 

記憶に該当する情報を基に彼らがどの隊なのか思案している間に一人のフェンサーが接近しスピアを放つ。

だが燎子はその鈍重な図体には見合わない身軽な動きで相手の横に回りパイルナッコの反撃で瞬殺する。

 

「やっぱりグリムリーパーね!伝説のストーム3の実力是非とも見せてもらいましょうか?」

「フッ。一番隊の死神直々の誘いとは、同じ死神部隊として手は抜けんな!」

 

グリムリーパーまたの名をストーム3。

レナルドたちとは違う世界のEDFに所属していた部隊。彼らの黒いパワードスケルトンは、「ブラストホールスピア」に特化している。

パワードスケルトンと同時期に開発された恐るべき兵器「ブラストホールスピア」は、物体を爆砕する特殊な槍だ。この武器は、凄まじい破壊力を持つ半面、近距離でしか効果を発揮しない等リスクが高く、グリムリーパー以外には使用者はほとんどいない。融合事変前は常に困難な任務に志願し、捨て身の戦術を駆使する彼らを、兵士たちは死神と恐れられていた。

事変後は第三基地の遊撃部隊として新たな戦場を駆けている。

 

双方死神と恐れられる者達は顔は見えないがお互いに口角を上げ武器を構える。

そして廃墟に鉄がひしゃげる音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

さらに場所は変わり工業地帯エリア

 

一颯視点

 

隊長の邪魔にならないよう別々に別れたが、演習が始まってまだ三分も満たないのに各隊を壊滅状態に追い込むだけの実力を持つ隊長達には驚きよりも劣等感が勝るな。

新人の自覚はあるがあそこまで強力な力を見せつけらると俺に出来ることなんてあるのか不安になって来る。

 

ガスッ!

 

「っ!アンカー!?」

 

不安を抱くとすぐ周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。こんな戦場のど真ん中で立ち尽くすなんて愚かの極み!

俺の横脇に刺さったアンカーの先を見るとワイヤーを高速で巻き取り急接近する巨体、「ネルA3」がその剛腕を突き出す。

 

ネルA3はラウンドハンマーのサブシーケンスとして、新しい戦場のニーズに適合する新しいエンジンとOSを採用し機動性が大幅に向上したモデルだ。近接に特化した機体で驚異的な単発ダメージを発揮する。装備の増加で重くなった機体をロケットアンカーでカバーしている。そんなネルA3の腕に取り付けられてるトンファーみたいな装備「零距離徹甲弾」が俺のヴィンディケーターの胸部装甲に打ち込まれようとしている。不思議なことにその光景がスローモーションのようにゆっくりと進んで見えた。このまま撃ち込まれると大ダメージは免れない。

だが俺は”この程度問題ない”と理解し下手に避けるでもなく直撃を受ける。当然胸部装甲は大爆発実戦なら致命傷だろう、だが撃破交信が無い以上まだ俺はやられたことになってないらしい。なら問題ない、戦おう。

 

「ウおラアァッァァァァァァァァァッ!!」

 

残ってるもう片方の肩部防御装甲を引き外しネルA3の頭部目掛けて兜割をくらわす。

頭部のカメラがひしゃげ動きが鈍った所を関節部のところどころに目掛けアサルトライフルを撃つ!どれだけ強固な機体であろうと関節箇所は基本装甲が薄い、そこさえつけばもう敵ではない。

程なくしてネルA3の「LOST」情報が更新され射撃を辞める。そこへ新たな機影、通常型のネルがヘビーマシンガンこちらに狙いを定めて撃ってきた。

 

「まだだアァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

装甲を盾代わりに銃弾を防ぎながらブースターを吹かし接近する。装甲から伝わる衝撃からこれはそう長く持たないだろう、かなり危険だがせっかく拝借した武器を腐らせるのは癪だ!ネルにタックルしたのと同時にマグネティックグレネードを射出、装甲に足をかけ近距離からのショットガンをお見舞する。弾の一つがマグネティックグレネードに着弾し大爆発を引き起こす。衝撃を装甲に任せ爆風で離脱、吹っ飛ばされながらネルを見ると無事「LOST」を確認した。

受け身を取りすぐ周囲を見渡し敵がいないことを確認する。これで四機、ノイズたちで見ればまだ四体。これだけ苦戦してたったの四体、これが俺の今の実力か。

うなだれる暇はない、次に向かおう!と思ったが・・・

 

「なんだアレ?」

 

上空から地に向かって降り注ぐ薄い緑色の光とミサイルの雨・・・とても現実的な光景じゃない。

それは地上に着弾すると大爆発し演習終了のブザーがなる。

訳が解らないまま演習は終った・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り中央エリアへ

 

「ぐッ・・くッ!!」

 

一夏は折紙の眼前で刀を止めていた。いや、それ以上振り下ろせなかったのだ。

確かに一夏は折紙の随意領域を切り裂き切ろうとした。だが一夏はそれ以上自分の意思で体を動かすことが出来なかった。折紙が展開した随意領域に体を固定され拘束されてしまったのだ。

 

「貴方のそれがどういうモノか知っている。だから私が守りを固めれば絶対切り裂くと確信できた。なら後は罠を張れば簡単に仕留められる。」

 

落ち着いた口調で一夏に説明していく折紙。彼女にとってここまでに至るまでの出来事は全て計算通りの結果なのである、むしろ計算通り過ぎて拍子抜けというのが本音だろう。

捕らわれた一夏を助けようと鈴たちが切ったり撃ったりするがハイペリオンの防御随意領域に阻まれ逆に折紙のミサイルを喰らう始末だ。

ハイペリオンの防御随意領域はシールドの位相がモノフェーズ化※しており展開中であっても折紙からの攻撃はすり抜ける。※本来、物質の位相(フェーズ)は表と裏の両側で対になっているのだが、この防御随意領域では単位相化されているので裏面が存在しない(捕縛用は表と裏がある)。このおかげで自分からの攻撃は一方的に行えるのである。

 

「貴方たちに時間をかけている暇はない。私は隊長としての責任がある!」

 

ブラスタークの標準を一夏に設定しゼロ距離で発射する。これには「OVERKILL」の表記が出たとか出なかったとか・・・・・

 

ピィィィィィィ!!

 

折紙の通信機に五分経過のアラームが鳴る。折紙のエリア制限が解かれたのだ。

 

「五分・・・経過。終わらせる。」

 

折紙は捕縛用随意領域で鈴たちを捕らえ、急上昇する。演習場全てを見渡せる高度に達し見下ろす折紙は体制を整えヘッドギアの一部が変形、バイザーを展開しターゲットモニターを投影する。

モニターにはレーダーに表示される各部隊の光点が映し出され、それが一つまた一つとマルチロックされる。

 

「ターゲット、マルチロック。クリーヴリーフをブラスターモードに移行。ブラスターク最大出力。全砲門開放。ハイマットフルバースト、ディスチャージッ!!」

 

アリス・リコリスの全武装を開放し一斉掃射する。魔力砲とミサイルはロックした対象に向け雨のように降り注ぎ地上を焼き払ってゆく。狙いは正確、魔力砲とミサイルは余すことなく地上の各部隊を射抜き撃破していく。やがてバイザーに映る光点は完全になくなり演習終了のブザーが鳴る。

 

「ハァ・・・はぁ・・ふぅ・・・彼は・・・・」

 

自分の持ちうる全てを乗せた砲撃を撃ち尽くした折紙は先程までの冷静沈着な姿はなく疲労困憊によるくたびれた姿だけだった。だがそれも一瞬の事、息を整えていつもの無表情に近い平静の顔に戻る。

 

地上は瓦礫とクレーターだらけの大地が広がり煙と炎がフィールドを埋め尽くし上空から一颯を確認する事は出来なかった。代わりに廃墟エリアに目立つ大きな物体を目視で確認した。

 

 

 

 

 

 

『ふぅ・・・・なんとか折紙が撃つ前に仕留められたけど・・・流石グリムリーパーの隊長。私のクアッドリガにかすり傷をつけるなんて、流石と言わざるを得ないわね。』

 

廃墟エリアの一角、死神同士がぶつかり合った結果木々は折られ建物は瓦礫に変わり地面は無数の杭の後と薬莢が散らばっていた。その中央に鎮座する要塞(燎子)は右腕に付けられた一筋の傷を感慨深く見て笑っていた。

燎子の周りはパイルナッコに殴られ吹き飛ばされたグリムリーパー隊が倒れ伏している。

そこへ白い飛行要塞(折紙)が降りて燎子と合流する。

 

「副隊長。そっちは?」

『問題ないわよ。最後は歴戦の猛者がいたけどかすり傷で済んだわ。』

「そう・・・彼は?」

『コールはしてるけど一向に繋がらないわ。もしかしたら・・・』

 

演習が終了しコールを続けていた燎子の話を聞いて折紙の顔に動揺の影が現れる。

 

『ザザ・・・・・ゲホッ・・・ジッ・ジィ――・・・ゴホッ!嗚呼・・・隊長・副隊長、一颯です。こちらはなんとか無事です。エホッ!爆風で瓦礫の下敷きなってましたが、なんとか生き残りました・・・』

「ッ!・・・・そう、よく頑張ったわ。」

 

不穏な空気を打ち消すように一颯からの通信が繋がった。それを聞いた燎子は喜び、折紙は一瞬驚きの表情を見せすぐ無表情に戻り安堵の溜息を漏らす。その顔はどことなく笑っているようだった。

 

 

 

 

 

 

演習開始五分。開始当時のボリューム満載な演習会場は五分で更地と化した。

その現実に大きくため息を吐くレナルド司令。

 

「次からは一番隊は外そう。これでは演習ではなく蹂躙だ。」

「司令、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

うつむいている司令に声をかける男性が手に持った資料を渡しある話を持ち掛ける。

 

 

 

 

 

 

一颯視点

 

演習が終わり第三基地格納庫で各々がPSをメンテしたりフォーメーションの話し合いや別の隊と戯れたりとみんなが自由に体を休めていた。一番隊もまた自慢の装備の・・・・

 

「クリーヴリーフのブラスターモードにいくつかの不具合があった。次の戦闘までに万全の状態にしておかないと。」

「シージキャノンの挙動が悪いわね。あと機動力がまだまだ低い!スラスターの出力を上げないと駄目かしら?折紙レンチちょうだい!一度オーバーホールしないとエナジーコアが爆発しかねない!」

「こっちも手が離せない。とるなら自分でやって!こっちもウィル・ドライブに無理をさせ過ぎた。新しいのと取り換えないと!」

 

自分の装備を自分でメンテしている。凄まじい剣幕にとても話しかける状況ではない。

 

「折紙さん、燎子さん。一度手を止めていただけますか?」

 

いつの間にか俺の横にいた男が勇敢にも隊長達に声をかけた!全く気配を感じなかった・・・

 

「岩動(イスルギ)さん。新たな任務?」

「えぇ、最高司令部から直々の御依頼です。詳しくは司令部でお話しますのでご同行お願いします。」

 

さっきまで整備に熱を出していた隊長達が一瞬で作業を打ち切り彼の指示に従う。この人は一体?

 

「あ、一颯さんですね。初めての演習お疲れ様です。岩動惣一(イスルギソウイチ)と言います。第三基地の諜報部員で連邦総司令部の仲介人を兼任しております。」

「はッ!天草一颯一等兵です!知らぬとはいえ挨拶もせず失礼しましたッ!」

 

まさか諜報の方であったとは思わなかった。改めて見ると細型の体型の割に纏う空気というのかとても俺が挑んでも勝てるとは思えないのが解る。

 

「岩動さんはシーア派暗殺教団の探求者でその技術は並の者では到底敵うものではない。」

「すいません心読むのやめてもらえませんか?」

「ハハハ・・・」

 

隊長との茶番に岩動さんは苦笑いをするしかなく大変申し訳なく思う。作業を一時切り上げ俺達は司令部に向けて足を運ぶ。

 

 

司令部に入ると俺達以外に別の隊もいた。どの方も並々ならぬ実力者の風格を感じる。

 

「一番隊・ブラスト小隊無事揃ったな。」

 

ブラスト小隊。レナルド司令と同じ世界のEDF隊員でレナルド司令直属の部隊と前に聞いたことがある。

なんでも宇宙人の侵略を防いだ伝説の部隊をか、そんな精鋭も一緒とは総司令部の依頼とはとても重大なのだろう。

 

「今回君たちを呼んだのは開発研究局局長、つまりウィルアイン博士が開発した新型PSの性能実験をこの第三基地で行うことが決定した。君たちはその新型機の護衛と実験に参加してもらう。それが総司令部からの命令だ。新型機はブラスト小隊隊長タクマ・ヤガミ中佐に装着してもらう。一番隊は実験が終了するまで周辺の警護にあたってくれ。」

「それにしてもその新型って一体どんなもんなんですかねぇ?わざわざ一番隊に警護させるなんてとても重要なもんなんでしょう?」

「黙らないかマイクッ!司令の前だぞ。」

「へいへい解りましたよブレンダ分隊長殿。」

「あの、一つ質問よろしいでしょうか?」

「「「「「「ん?」」」」」」

 

さすがブラスト小隊というべきか基地の最高責任者の前でよくあんなにフランクに話せるものだなぁとおもった矢先俺はある疑問を抱いて挙手をした。

 

「どうした天草一等兵。」

「護衛と言うことは襲撃される恐れがあるのでしょうか?」

 

司令のいう内容を聞くかぎり搬入される新型PSを誰かが強奪するように聞こえた。わざわざ一番隊に警護させる辺りその線は濃厚だと思う。

 

「あぁそうだ。なんでもその新型にはいまの戦況を大きく覆すだけの性能があるそうだ。そのことは既にシンジケートの耳に入っているとウィル博士は予測している。」

「シンジケート?」

「融合事変で各国・各組織が解体され地球連邦が設立されたように反政府組織やテロリストが一つの組織として手を組んだのがシンジケートだ。今わかる勢力では『鋼鉄の黎明(スティールドーン)』を筆頭に『亡国機業(ファントムタスク)』や多くの非合法武装組織が結託しているらしい。奴らは連邦の一個中隊に張り合えるほどの軍事力を備え諜報部の調査を巧みに掻い潜りその構成すら把握できていない。恐らく奴らを支援する多数の社会団体があると思える。奴らにとっても新型PSは貴重でありこの性能実験を狙ってくる可能性は高い。とウィル博士は予測している。」

「また予測ですか?」

「ウィル博士はあらゆる事態を予測する癖があるんだ。それで助かったことが多々合ったから信憑性が高いと言えば高いんだ。」

「世界がこんな状況なのに人間同士で争うなんて・・・・」

「彼等のような争いをビジネスにする連中は国同士の戦争や紛争を収めた連邦が邪魔な存在としてみている。私利私欲に塗れた彼等にはノイズなどの脅威はどうでもいいの。」

「鳶一少佐の言う通り彼らは連邦の打倒を目指していると見ていいだろう。現に摘発しているの米国復権派の勢力が増したという報告を受けている程だ。連邦、ひいては人類の未来の為にも新型PSはなんとしても守らねばならん!明日には搬入され準備が出来次第開始する。各隊は万全を期して待機せよ。解散!」

 

司令に敬礼をし司令部を出ていく。頭で理解しても複雑な物だ。天使やノイズという共通の敵がいるのに人間同士で争ってる場合ではないだろう。なぜ人は一つにまとまれないのだろう?あの地獄が起きたのに私欲を優先させるなんて間違っている!もしそんな彼等を相手に俺は戦えるのだろうか?軍人は市民を守る楯、犯罪者とはいえ人を傷つける事に抵抗を感じないだろうか?

今の俺には答えが出ない・・・・・

 

 

 

 

 

 

同時刻某所

 

暗い格納庫の中に二人の男がいる。白い髪の男が赤い髪の男に歩み寄り声をかける。

 

「ヴォルフェス、機体の調子はどうだ?」

 

ヴォルフェスと呼ばれた男は自分の物と思えるPSのチューニングをおこなっていた。

 

「ようグレア!次の作戦は大仕事だからな、いつも以上に絶好調だぜ!そっちこそ機体の点検しなくていいのかよ?作戦の要はお前なんだぞ。」

「どうせ新型に乗り換えるんだ。いまさら調整する必要なんてねぇよちょろくせぇ。」

 

グレアと呼ばれた男は両腕を広げヤレヤレと首を振った。

 

「もうすぐ作戦が実行されるわけだが亡国機業の奴等役に立つのかねぇ?蜘蛛女が大見得切ってたがありゃ絶対フラグだぞ。」

「気にしても仕方ねぇだろ。それよりディセンダーから指示があったんだろ?」

「あぁ。例の『神聖異物』て奴を成功後受け取ることになる。その為にもこの作戦は絶対に成功させるぞ!お互いの目的の為にもな?」

「あぁ!期待してるぜ相棒!」

 

ヴォルフェスとグレアはお互いの腕をかけ健闘を祈った。




鈴「ようやく出番が来たと思ったのに噛ませ犬のあつかいはなんなのよ!」
セシリア「鈴さんは単調すぎるんですのよ。わたくしのように善戦出来てこそ役は生えるというものですわ!」
箒「私なぞ一言もしゃべられないまま退場されたぞ!」
鈴「こうなったらあたしたちの活躍を記録した話にすり替えてタイトルを乗っと、」

コンコン

ラウラ「おっと、誰か来たようだ。」

次回「極彩色の盾」


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第三話「極彩色の盾」

現在公開可能な情報


鳶一折紙

年齢:24才

身長:158㎝

好きな物:知らない筈の誰か・ギター
嫌いな物:二年前の自分
スリーサイズ:黙秘

二年前の総力戦で初めて天使を討伐した女性。
一番隊の隊長になってから多くの部下を失い表情を表に出すのが下手になった。
もう部下を死なせない為に研鑽を積み連邦最強の一角を担う一人となった。
学生時代にゴスロリの教師に半ば強引にバンドをやらされ今では趣味でギターを嗜む。
時々知るはずの無い男性の記憶が頭に流れることがあるらしい。


第三基地には隊員一人一人に部屋が与えられ大体四畳半の広さがる。

一颯もまた自分の部屋の真ん中で仰向けに寝て天井を眺めていた。

 

(明日は新型パワードスーツの性能実験が行われる。テロリストの襲撃も予測され警戒しなければいけない・・・・か。)

 

「演習の時とは違い命を奪い合う事になるのは嫌だな・・・誰かを守る為に誰かを傷つける・・・・矛盾してるな俺。」

 

(いや、迷えばそれだけ誰かが傷つく。なら迷うな。相手は人を人と思わない虎狼の輩。情けは無用なんだ。)

 

「へいきへっちゃら。へいきへっちゃら。へいきへっちゃら。・・・・・・スゥ・・・・はぁ・・・・」

 

おまじないを口ずさみ呼吸を整え、一瞬で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

部屋のロックが解除され扉が開き小さな影が入っていく。そしてゆっくりと扉は閉まる。

 

 

 

 

 

 

お腹に伝わる重みと首すじが引っ張られる感覚に違和感を感じ目を覚ましてしまった。

違和感のもとであるお腹に視線を下ろすと見慣れない子供が猫のように丸まって俺のドッグタグ(待機状態のヴィンディケーター)を掴み眠っていた。

・・・・・・セキュリティがゆるい。という場合ではないか。

 

「君、君!悪いが起きてくれ。ここは関係者以外立ち入り禁止の軍施設だぞ?不法侵入で逮捕されるぞ。」

 

とりあえず体をゆすり罪状を述べてみた。こういう場合どう対処すればいいのだろう?

 

「ククッw見知らぬ幼女が眠っていてかける言葉がそれか?なんとも華が無いのうお主。」

 

見た目の予想を超える貫録を感じさせる口調に驚いてしまった。

 

「ふ~む、経験不足は否めないが意思は及第点と言ったところよな。これからの成長が楽しみだ。」

 

一人で勝手に満足してドッグタグから手を放しお腹から降りる幼女?はスタスタと部屋の出入り口に向かって・・・

 

「て、そこを動くなッ!」

 

状況に流されて不審者を逃すところだった!すぐ上体を起こし臨戦態勢をとる。

 

「ククッwそう怖い顔をするな一颯一等兵。私はここにいるおじさまに会いに来た一応の関係者さ。まぁもっとも、いまはまだ部外者だがなッ!!」

「っ!?」

 

幼女は懐から取り出した物体を投げると閃光がはしり俺の目を襲う。スタングレネードなんて持ってるなんていよいよ怪しい!扉の開く音が聞こえた幼女が部屋を出たのだろう。目はまだくらんでおり音を頼りに走る。手探りで部屋を出るころにはようやく視界も回復し廊下を確認する。

既に廊下に幼女の姿はない。逃げられたか、急いでこのことを司令に報告しなければいけない!不審者は見た目と違い武装してるおそれ・・・・・まてよ?

武装した幼女のことを報告して果たして誰が信じる?絶対寝ぼけていたと思われ笑われて終わる!!・・・ダラダラと汗も出てきた。

少し思案し起きた現実が非現実的なことだと悟り、俺は考えるのをやめ部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ作戦が始まるな。」

「あぁ。囮と陽動はいつでも使用が可能だ。それに捨て駒たちが長く持たせてくれればオレの任務成功率が上がる。もしもの時はお前が奴らを足止めしてくれ。それとだがヴォルフェス。」

「ん?なんだ?」

「あまりシンジケートにいるのは危険だ。この組織は何かがおかしい。ディセンダーが提供した神性異物『束の頭脳』で組織の装備も強くなったがただのテロ組織にしては化学技術が高すぎる。ゼクサの野郎もディセンダーの思想に崇拝していやがるしどうもきな臭い。お前の愛機が出来上がったら手を引くべきだ。このままは奴らと一緒にいると絶対ろくなことにならないぞ。」

「はぁ・・・お前なぁ。俺が手を切れねぇ理由知ってるだろ?俺には奴らの力が必要なんだ。お前だって自分の目的があるだろ?今さら後には引けねぇ、俺達がやらなきゃいけないんだ!」

 

組織の異質さに気付いているグレアは信頼できる相棒の身を案じるがヴォルフェスの意志は揺らぎなくけして引くことは無い。

 

「だがな!それを利用するのが奴らのやり方だろうがッ!俺達の目的が奴らにつぶされ‘あイタッ!?なにすんだッ!!」

 

必死にヴォルフェスを説得しようとしたら眉間にデコピンをくらわされた。

 

「ハッ!オレより賢いからって優位に立ったとのぼせ上がんな!そういう時はお前が何とかすんだろ参謀殿?」

「・・・参謀になった覚えはねぇんだが・・・・はぁ、いやな役目はいつも俺だ。」

 

ため息を吐きながらヴォルフェスと嗤い合い説得の件をなかったことにする二人。紅炎と業火の双炎は互いに違う目的を持とうと決して消せぬ絆があった。

そんな彼等の通信機に特殊通信がはいる。

 

『4@6.25r,h@;3,jmuhxhpy00qq@aib4s@4p9.』

 

暗号化された通信を受け二人は作戦行動の準備を始める。

 

「目的は新型パワードスーツの強奪、既にタネは仕込んでおいた。後は計画通り事が進めば儲けもんだが足が着くのは避けらないのだろう。」

「お前の作戦は雑に見えて計算されてるから解りずれぇんだよ。最終的自爆はなしだかんな!」

「自爆の何が駄目なのは置いといて陳宮の兵法は偉大なんだぞ!」

 

芸術が爆発では偉大も何もないのではとヴォルフェスは思ったが口にすれば「効率的だろ?」と言うに決まってると諦めた。

 

作戦実行まであと十五分

 

 

 

 

 

 

時間は遡り第三基地の格納庫の一つ、搬入される物資の列を観察する一颯は一緒に搬送される新型PSを見つけて考えていた。

 

「新型て意外と軽装なんですね。」

 

従来のメカらしい角ばった物と違い全体的に丸みを帯びた機体。銀色の装甲に赤いラインが特徴的の新型PSは紫のスリットアイから光を発し装甲の隙間に流れ全体に広がりまた目から光を全体に廻らせるを繰り返している。

アイ〇ンマンとウ〇トロンを掛け合わせてような見た目はどこかおぞましさすら感じさせる。

 

「回収したスコージャーのデータを基に開発されたのでそれに近い見た目になっているんです。侵略兵器の解析・研究は前から進んでいましたが融合事変の騒動でそれどころではない状況が続き開発に時間が掛かってしまいましたからね。ですがその分期待に見合う性能を発揮してくれますよこの『スコートロン』は。」

 

物資の搬入を担当する隊員が手元のタブレットを操作し自信満々に説明する。スコージャーのデータから作られたPSだからスコートロン、実に単純な命名だ。

 

「武装が見当たらないのですがどんな武器を使うんですか?」

「スコートロンの武装は内蔵式で手のひらから発射されるパルスレーザー、指先にエネルギーを収束させ刃を形成する機能もあります。あと胸部装甲に内蔵された高出力ビーム砲の二つがメインですね。」

 

隊員は新型の性能を誇らしげに説明するが一颯はどうも納得がいかなかった。

今の現況を変える新型という割には武装が少なすぎるのだ。性能が良くてもそれだけでノイズや天使、いつか戻ってくるかもしれない宇宙人の相手をするにはどうも得心がいかない。

彼にはあの新型は言うほどの力が無いと思えてならなかッた。なにせ彼の隊長と副隊長がそれ以上の力を見せていたからだ。その力をフルに発揮できるよう自分でカスタマイズしてるのをよく理解している。

いろいろと思うところはあるがもうじきブラスト小隊の装備点検が始める為その場を離れることにした。

 

 

 

 

 

格納庫からⅢブロック離れた訓練広場にブラストの人たちが自分が携帯する武器の点検を行っていた。

広場というだけにこれと言って設備があるわけではなくコンクリートと土の台地が広がる場所であった。

 

「ご苦労様です!」

 

ブラスト小隊の皆さんに見える位置に移動しビシッと敬礼をする。

 

「よう新入り!お前も武器の点件に来たのか?」

 

フランクに声をかけるマイクさん、結構気分屋な所があるがどこか熱い一面もある第二分隊長だ。

 

「いえ、自分のは既に調整が済まされているのでこのままブラスト小隊に合流しました!」

「合流て実験が始まるのはまだ決まっていないぞ?そっちの隊長達はどうした?」

「隊長達は自分の装備を調整しておりまだ来れません。」

 

演習後から隊長達は愛機の点検の点検に続く点検を繰り返し未だ本人たちの望む万全の状態にならず時間が掛かっていた。

 

「へぇ~ならオレの武器視てくんない?こう多いと時間掛かってさぁ。」

「あんたの場合めんどくさいだけだろ?」

「おいおいそりゃないぜ。」

 

ハハハと笑い合うブラスト小隊、とても微笑ましく仲間とはこういうモノなのだなとおもう。いや俺もこの基地の仲間なんだ。なら俺も仲間として手助けをしよう!

 

「俺でよければやらせてください!幸いPAギアを使ったことがあるのである程度の装備なら視れます。」

「マジ!いやホント助かるわ!!」

「あんた、無理に付き合わなくていいんだよ?こいつは昔からこうだから付き合うだけ疲れるわよ。」

「大丈夫です、現在絶賛手持無沙汰中なのでむしろ手伝わせてください!」

 

いやしかしなとブレンダ第一分隊長が心配するが笑顔で応え納得させた。

マイクさんの装備を点検して思うが精鋭部隊の割には使用するのは通常隊員が使用する普通の武器と変わらないんだなぁ。

 

「天草一等兵、PAギアを使ったことがあると言ったがそれはいつのことだ?」

「はい、二年前の総力戦が初陣でその時に」

 

―――――あ

 

「二年前ってあの?」

「・・・えぇ、人類が初めての聖罰を受けたあの日、市民の避難誘導を担当してました。」

 

そのことを話すとブラストの皆の顔色が悪くなった。当然だよな、あの出来事は人類にとって大きな傷をつけたんだから。

 

「人類初の聖罰。北アメリカとその周辺の国を巻き込んだ大災害、大陸一つを飲み込んだ光は一瞬にして人間の痕跡を消したと言われその死者は約六億人を超えたと聞く。この出来事によりアメリカは完全に壊滅した。聖罰を受けた土地は地面からあふれ出る高純度のエネルギー《マナ》に満たされ”人間”だけが生きるのを否定された世界となった。マナに満たされた場所は神秘に包まれたような景色に変り『聖域』とまで言われているそうだ。」

 

タクマさんの言う通り、あの世界は聖域と言っていい程人を否定した場所だった。大地からあふれ出る光の玉《マナ》、それが天に昇って世界を温かく照らす世界は一切の不純物を取り除いた綺麗すぎる世界だ。そんな世界に何故俺だけが生きられたのか?解らない。だが解ることはあんなこと繰り返してはいけないことだけは確かだ。

 

「あの件で君も辛い思いをしたと聞く。」

「もう過ぎたことです。大事なのはこれからどうするかですよ。人類はまだ生きている、ならば今を・」

 

言い終える前にヴォンという音が俺達の真上から聞こえみな上を見上げる。上空には白い機械が浮いていた。

俺を含む皆少しの間思考が止まったがすぐに状況を理解し武器を取り戦闘態勢をとる。俺も遅れてヴィンディケーターを纏いアサルトライフルの標準を飛行物体に合わせる。あれは資料にあったアグレッサーの

 

「こちらブラストリーダー!上空にアグレッサーのアタックポッドが出現した!司令部、支持を頼む!!」

 

そう自立稼働し空中から人間を襲う殺戮兵器、黒いタイプもいるらしくそっちの方が脅威らしい。アグレッサーを追い出し機能を停止したはずなのになぜ動いている!?

そうこうしてる間にアタックポッドはどんどん転送され数が増えていく。

 

『こちら司令部、オペレーターのメイヴです!状況は確認しました。直ちに撃破してください!』

「了解!天草一等兵!緊急事態だ、指揮系統を一時的に「了解!!」・・・総員攻撃開始!!」

 

いくら俺でも現状くらいわかる。いまはタクマ隊長の指示に従い侵略兵器を破壊する!

標準を合わせ引き金を引く、手持ちのアサルトライフルは弾丸が毎秒五十発発射されその弾がポッドの装甲を貫き爆発する。既に攻撃態勢に移ってるポッドがパルスレーザーをばらまき俺達に襲い掛かる。

 

「あぶねッ!」

「油断するな!ギアを纏っているとはいえ当たればただではすまないぞ!」

「くっ!ちょこまかとッ!」

「天草落ち着け!攻撃時はこちらを狙い動きが鈍る、そこを狙え!!」

「了解!」

 

ワープしたと勘違いする程の超高速移動でこちらをかく乱するポッド、だがタクマ隊長の言う通り攻撃時はこちらに標準を合わせるために移動速度を落としている。

敵の攻撃を避け・守りチャンスをうかがい的確に落とす!

徐々に援軍が此処に集まりポッドの数が瞬く間に減り出現から五分足らずで全滅出来た。同時に司令部から通信が入った。

 

『上空からそちらに飛来する物体を多数検知しました!注意してください!!』

 

俺達はすぐに空を見る上空に黒い点がいくつも見えそれが徐々に大きくなっていく。

 

「お、おいアレってッ!?」

「プライマーのテレポーテーション・アンカーだとッ!?」

 

タクマ隊長達とは違う世界のEDFが戦った異星人「プライマー」の転送装置。その金色の柱が目視出来るだけで十六本もここに向かって落ちてくる!その一本の軌道がが俺のいる場所に向かって落ちてくる!!

 

「う、ウッオォォォォォッ!?」

 

間一髪飛びのき押しつぶされるのを回避したが落下の衝撃で数メートル吹っ飛ばされる。

 

「大丈夫か天草!」

「問題ありません!皆さんの方は無事ですか?」

「他の隊が数名負傷したが問題ない!それより気を付けろ、アレが本物なら・・・」

 

アンカーの方を見やり頭頂部の宝石のようなモノが光り巨大なアリやカブトムシみたいなゲテモノが無尽蔵に転送されて来た。特にカブトムシの化け物は体のところどころを機械でつなぎ合わされ紫色の血を吹き出しながら単眼をぎょろぎょろと動かしていた。物凄く気持ち悪いッ!!

 

「各隊は巨大生物を狙え!俺達はアンカーの撃破をsッ!!」

「なッこいつ等は!?」

 

タクマ隊長が指示を出すが敵はさらなる先手を打って落ちてきた。

先程新型PSの資料で見た人型兵器「スコージャー」と金色の継ぎ接ぎ装甲を纏った巨人がライフルらしき武器を持ち落ちてきたのだ!よく見たら巨人の方は体のところどころに電極らしき装置が刺さっており定期的に電気を発している。

巨人たちは操り人形のようにガクンガクンと関節をあり得ない方向に曲げながら各隊に武器の標準を合わせ、スコージャーもまた油の切れた機械のようにギギギッと音を鳴らし腕の銃口を向ける。

 

「ッ各隊はそのまま巨大生物を撃破しろ!俺達は巨人どもの相手をする、天草一等兵!」

「!はいッ!!」

「お前はテレポーテーション・アンカーの破壊をしてくれ!」

「俺がですか!?」

「俺達が全力でお前を守る!その間に素早く破壊しろ!これは命令だッ!!」

 

なんて無理難題を新兵に任せるんだ!!だがやるしかない!アンカーがある限り巨大生物を送り続ける。たとえそうじゃなくてもこれ以上増えるのは良くない。

 

「わかりました!ブラスト小隊の皆さんにご武運を!!」

 

アサルトライフルを握り直しアンカーにみけてスラスターを吹かす。

アリとカブトムシじゃなくラズニード・ラーヴァ?の大群のうち数匹が俺に狙いを定め群がって来る。

だがその群れ左右から弾丸が放たれ奴らを襲い動きを止める。

 

「お前等の相手はそいつじゃないだろ?」

「今のうちにアンカーを叩け!」

「はい!」

 

マイクさんとブレンダさんの援護に感謝しつつライフルの射程距離まで近づきアンカーの頭頂部を撃つ!

転送装置に弾丸が当たるがひびが入る程度の損傷が続き次第に大きなカケラが飛び散るよになって三つ目のマガジンをリロードし終わり撃ちだしてようやく一本破壊出来た。一本破壊するまでに他のアンカーからとめどなく巨大生物を転送している。このままでは埒が明かない・・・・

思考を切り替え次のアンカーに向かいまたライフルを発射する・・・・・が弾が途中から出なくなった!

 

「ッこんな時にジャム!?」

 

いけない急がないとと思うと手元が狂い中々薬莢を取り外せない・・・こんなことで時間をかけている場合ではないのに!次第に最悪な結末を想像してしまう。駄目だダメだだめだ!!

なにか手はないか?最速で最短でなおかつあの硬い装置を破壊する手は・・・あ!

 

「くおォらッアアアア!!」

 

思い立ったら吉日!左肩の防御装甲を引き千切りスラスターを点火し急上昇、アンカーの頭上にいたり急降下して装甲を垂直に維持しながらダンクシュートのように振り下ろす!ただでさえ硬い装甲、面積が薄い側面ならなおのこと固く推進力に乗った装甲はアンカーの装甲を貫く。駄目押しで殴りつけると装置の中枢を砕いたのか嫌な音がしたので急いで装甲を引き抜き盾の要領で防御態勢をとる。

ワンテンポ遅れアンカーが大爆発し爆風に吹き飛ばされる。その勢いを利用して近場のアンカーに狙いを絞り同じ方法でぶったき破壊する!!

 

「うん、とても扱いやすい。これならいける!!」

 

チマチマ撃つより早い、この方法で一気に終わらせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

防御装甲でぶん殴る光景を見ていたブラスト小隊は皆々呆れと関心の表情で笑みを浮かべていた。

 

「あいつ、また装甲で殴ってるぞ。」

「《盾殴り》・・・一番隊らしい常識はずれなやり方だな。」

「隊長!敵の増援です!」

「お前たち!天草がアンカーを壊している、一匹たりとも天草に近づけさせるな!!」

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三基地の戦闘をモニターで確認しているグレアは顎に手をあて思案する。

 

「・・・・・囮に獲物が引っ掛かり動ける部隊が誘われたか。いかに二万の兵力とはいえど全隊が常に基地にいるわけではない。今いるのが奴らの最高戦力か・・・・噂の一番隊が出て無いのは気がかりだが問題ないか。」

 

アンカーがまた破壊され巨人たちの数が減ってもなおグレアの顔は笑っていた。

 

「囮の役目はもうじき終わるか・・・・・なら次は”陽動”だ。この陽動に作戦成功率が大きく左右される。・・・・・・・・・・・・まぁ成功しようとしまいと目的は果たされるんだがな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すおりゃああああああァアアア!!」

 

装甲がアンカーに突き刺さり爆発、爆風を防いで次に行く。これで十二本目、八本目あたりから装甲に限界がきて突き刺さる途中で折れてしまった。諦めて右肩の装甲を引き千切り破壊作業を再開し今に至る。

上昇して急降下し勢いつけて装甲を突き刺す、この工程を続けて少しコツを掴んできた。

装置の核は上から二メートル横三メートルの位置にあり真上から勢いよくぶっ刺せば装置内の機材をを押し込み核を押しつぶすようだ。

俺の防御装甲は大体一メートル。ほぼ刺されば後は押し込まれた機材が核を潰してくれる。もしだめなら装甲を殴ってしまえばいいだけだ。

また一つアンカーを破壊しあと三つ、転送された巨大生物の数は確実に減っている。振ってきた巨人たちも各隊の奮闘で目で数えるほどだ。しかしあのコスモノーツ達はなんなんだろうか?電極の電流で動かされているというよりは無理やり動いているような、それはラズニード・ラーヴァにも言える。あっちも体についている機械で無理やり動かされているような気がする、現に単眼の目は明後日の方向を見て体液をドバドバ出している。

まさかどっちも死骸から電流を流して動かしてるのか!?

そもそも今俺達は何と戦っているのか?

アグレッサー?プライマー?いやだとしたら自分たちの同胞をあんな風に使わない筈だ。

ではシンジケートなのか?だとしたら奴らはエイリアン共の技術を手に入れてるのか?

考えても答えは出ない。現状だけの情報だけでは少なすぎる。それに今俺がやることはアンカーの破壊だ、集中しろ俺!

考えながらやってる間にあと一本!スラスターを最大まで吹かしアンカーに迫る。

だが俺とアンカーの間に割り込むようにスコージャーが現れた!

 

「邪魔だぁあアア!!」

 

さらに加速してスコージャーに迫ろうとする。だがスコージャーの体に一筋の縦線が引かれたと思ったら左右に真っ二つに裂け俺はその間を通り越してしまった。何が起きたのかと疑問に思ったらスコージャーの残骸の後ろから白い大きな機体が見えた。それは最近見てそしてよく知っているものだ!

 

「鳶一隊長!!」

「そのまま飛んで、君のやるべきことを果たしなさい!」

「了解ッ!!」

 

隊長のクリーヴリーフから魔力刃が出ている、あれでスコージャーを両断したのだろう。もっとも頼もしい人の参戦、これほど不安を吹き飛ばす要因はない!迷いを吹っ切り手に持つ装甲に力を込めてアンカー目掛けてダンクシュート!最後だから余すことなく装甲を限界まで押し込む!!刹那大爆発!!

 

「勢いつけ過ぎたぁあああアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

加減を考えずにぶっ刺したから爆発の時間を早めてしまったみたいだ。衝撃をもろに喰らい体全体に痛みが走り爆炎で装甲が焼かれ物凄く熱いッ!!

 

「アチャチャチャチャチャチャチャ!!」

 

ふっ飛ばされて地面をのたうちまわり必死でPSについた火を鎮火する。きっと機体のダメージは火より地面を転げまわった摩擦が多いと思う。

 

「なにやってんのアンタ…」

 

自分の醜態を恥じていると茶色と黒の戦車みたいなこれまた見慣れたロボモドキPSを纏った日下部副隊長が俺を見下ろしている(この機体デカすぎるから顔がどこなのか見当がつかないが視線を感じるので多分見下ろしている)。

 

「あ、副隊長。整備終ったんですね。」

「全然よ!いきなり敵襲が来るから急場しのぎ見繕ってで出向いてきたのよ。」

 

「はぁ」とため息を吐き愚痴をこぼす副隊長。よく見たら機銃がいくつか取り外されて主砲のシージキャノンが二門ともなかった。隊長のリコリスも鉄壁を誇るハイペリオンを取り外し以前よりスマートに見える(目の錯覚です)。

周囲を見渡してみると既に巨大生物と巨人は倒れ動く奴は一匹もいなかった。なんとか勝ったんだな・・・・

 

『こちら司令部!気をつけてください、さらに上空から飛来する物体を確認。これは・・・・ミサイルですッ!』

 

ッまだ来るのか!三度空を見上げるとブースターから勢いよく火を噴き地上に目掛けて飛んでくる大型のミサイルが五つ。機体が弾道予測を算出し着弾地点を予測する。

 

「総員!衝撃に備えろッ!!」

 

タクマ隊長の号令でみなが動く。鳶一隊長はミサイルに向かい合いブラスタークを起動する。

 

「撃ち落とす!」

 

この基地であの大型ミサイルを破壊できるのは隊長の大火力兵装しか他ならない。

チャージが完了したブラスタークから放たれる魔力が五発のうちの一つに向かって進みそして・・・・魔力が霧散した。いやなにかにぶつかり行き場を失い弾けたというのが正しい。ヴィンディケーターのカメラを拡大させ見てみるとミサイルの先端近くについている装置が光の壁を形成しそれが隊長の魔力砲を無効化したと見える。

 

「アレは・・・・」

「シールドベアラーの防御フィールドだと!?」

 

周りのみんながどよめきだす、当然だエイリアンの襲撃に驚かされこんどは人間の兵器にエイリアンの技術が利用されている。間違いない、この襲撃は人為的な物だ!しかも連邦よりエイリアンの研究が進んでいる。こんなことが出来る組織がいるとしたら・・・

 

「くッ!間に合わない!!」

「総員伏せろぉッ!!」

 

鳶一隊長の迎撃も虚しくミサイルは隊長の横を通過してしまう。そしてここに向かってなお加速する。既に皆着弾予測地点から退避しており着弾の衝撃に備えるべく身をかがめる。

そして広場の中心部に五発のミサイルが着弾し・・・・爆発せず土煙と加速による衝撃波がとんでくる。

程なくして土煙はやみゆっくりとたちあがる俺達の前に五発のミサイルが不気味に鎮座する。

 

「なんだ?不発かぁ?」

 

マイクさんの冗談が合図となったのかミサイル中心の装甲が吹き飛び中から何かが降りてきた。

赤いメインカメラが特徴的なヘッドパーツの機体と見たことの無い赤いスリットアイの黒い機体、それがミサイルから十機、総勢五十機が着地しゆっくりと立ち上がり赤い目を光らせる。

 

「あのモノアイって土木建設用PSのオーバロード1000じゃねぇか?」

 

誰かがポツリとつぶやいた一言で思い出した。よくノイズなどの襲撃後の現場で復興作業をしているPSだ。それがいまもう一種の機体と同じ武装をして俺達に銃口を向けている。

間違いない、アレは敵だ!

 

「「総員迎撃開始(せよ)!!」」

 

隊長達の号令で皆一斉に銃撃を開始する(俺はいまなにも装備がない)。が、ミサイルの装甲がまたパージされそれが敵機の前に突き刺さり敵が身を隠し横脇から反撃する。

 

「ちぃ!ハンガーまで用意してるとは周到な!・・・一番隊!」

「「「ッ!!」」」

「お前たちは新型PSが保管されている倉庫へ向かってくれ!!」

「タクマ隊長?」

「奴らは間違いなくシンジケートだ!これだけの準備をしておいて強襲部隊がこれだけとは思えない!倉庫に向かい新型の防衛を頼む!!」

「了解。」「わかったわ!そっちは頼むわよッ!」

 

タクマ隊長の指示に迅速に動く隊長達。俺もいそいで倉庫へ向かおうとしたら副隊長が俺の前に立ちふさがる。

 

「乗って!その方が速い!!」

 

考えるよりも先に体が動き副隊長の砲台が無い部分に乗る。

 

「しっかり捕まってなさい!四肢がもげるわよ!!」

 

ブースターが点火し急加速する。ヴィンディケーターの装甲が軋み体に凄まじい、いやとてつもないGが襲う!!

瞬発的に爆発的な推進力を生む超加速に体が押しつぶされそうになるがヴィンディケーターはなんとか耐えている。こんな殺人級のGによく副隊長は耐えられるなぁ・・・いやもしかしたら平気なのかもしれない。

 

「アンタ武器ないわよね?これを使いなさい。」

 

そういいクアッドリガに内蔵されている補助アームからサブマシンガンとマガジンを俺に差し渡す。

 

「ありがとうございます!」

 

振り落とされそうな状況の中武器を受け取りリロードする。既に副隊長は上空を移動してる隊長と並走し新型が保管されている倉庫へ向かって駆けている。

Ⅱブロック目を抜けてあと少しと言った矢先副隊長が急停止し勢いよく投げ出されてしまった。

 

「ほブっ!?」

 

慣性に乗った勢いで二転三転どころではなく転がり二メートルを超えるバウンドをし続けて壁に激突する。物凄く痛かったが”死ぬほどじゃない”と解っていたので俺は冷静に何が起きたのか知るべく副隊長の元へ戻る。

副隊長の姿が見えた所でようやく理解した。副隊長のクアッドリガの脚部に白い糸がまとわりついていて動けないでいた。

 

「ナニコレ!?ぜんぜん引きはがせない!!」

「ハハハッ!どうだいアラクネの糸は強力だろぉ?」

 

品の無い荒々しい声の主が物陰からクモンガみたいな気持ち悪い見た目のISを纏って姿を現した。

 

「「キッモ!!」」

「なッ!?キモくねぇし!!」

 

副隊長も同意見だったみたいで見事にはハモる。(というか本音が漏れてしまった。)

感想を述べてると俺の後方上空で爆発音がし振りむくと鳶一隊長が黒い蝶を彷彿とさせるISと対峙していた。

 

「一颯!あんたは先に行きなさい!!」

 

クモンガ女の糸を引きはがそうとしてる副隊長が急に指示を出してきて戸惑ってしまう。この状況、助けるべきだが副隊長を置いていくという選択が判断を鈍らせる。

 

「しかしッ!」

「今動けんのはあんただけなのよ!状況解ってんでしょうね!?」

 

ッそうだ。今重要なのは新型PSの防衛だ。それに隊長達は俺なんかよりはるかに強い。それなのになにを腑抜けていたんだ俺は!みんな命を賭けて自分の仕事を全うしている。なら俺は俺のやるべきことを全うするんだ!!

返事はせず踵を返し倉庫に向かう。最速で最短でいっちょくせんに!!

 

「いかせるk「すおりゃあああああああッ!!」がっ!?」

 

後ろで鉄が軋み何かがガラガラと崩れる音が響く、振り向かなくてもなんとなく想像できる。きっとクモンガ女の糸を馬鹿力で引き千切ってクモンガ女をご自慢のパイルナッコで殴り飛ばしたんだろう。

ハハハッ圧倒的じゃないか俺の隊長達!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新型PSが保管されている倉庫の内部。そのなかに置いてある備品の一つが赤く光り周囲一メートルほどのドーム状のフィールドを展開した。フィールドの中心が赤黒い光を形成し徐々にドーム内に充満する。やがてドームが収縮し消え一機のPSを転送させた。広場でオーバロード1000と一緒に連邦に攻撃してる『グレーム』というPSだ。

同じグレームだが強襲部隊の黒ではなくこちらは燃え盛る業炎のように真紅(あか)かった。

紅いグレームの乗り手グレアは自分の足元にある一平方センチメートルの紫色の装置を踏みつぶし歩き出す。

 

(作戦は順調に進んでいる。エイリアンの残骸共を囮に奴らを広場に集め釘付けにする第一段階。囮が役目を終えスティールドーンと傭兵の陽動部隊を投下し奴らを倉庫に近づけさせないようにする第二段階。それでも倉庫に近づく敵に捨て駒をあてがい時間を稼ぐ予備作戦。これだけの作戦にこれほどの準備をしたおかげで事は上手く運んでいる。後は輸送コンテナにしのばせたておいた転送装置を使い俺が潜入すれば目的は完遂される。)

 

グレアはマスクの中で不敵に笑う。彼にとってこの作戦は上手くいかなくてもよかった、ほんの一時時間を稼げればよかったのだ。とはいえすぐ邪魔が入られれば強奪どころではない、だからあえて手間のかかる作戦を用意し自分が安心して強奪できるように計画したのだ。

左右を見渡し目的のブツを探す。

そして・・・

 

「・・・・あった。」

 

前面のアクリル板から紫色の光が漏れるスコートロンの収納ケース。そのケースには強奪防止のために何重ものセキュリティが施されているがケースの前に立つグレアは転送装置とは違う黒色のキューブをコンソールに当て、瞬く間にロックを解除しケースを開閉する。

 

(フッ、いかに技術の粋を集めた連邦のプログラムもエイリアンの技術とあの”流れ者”の技の前には紙切れ同然か・・・・にわかに信じていなかったがこれならオータムたちに渡した(なすりつけた)悪魔の種(デモニック・シード)も期待できるだろうな。)

「さて、さっさと頂いてかえr「動くなッ!!」・・・」

(はぁ・・・そう簡単にはいかないか・・・)

 

ため息を漏らしそれでも強奪を諦めていないグレアは両手を上げてゆっくりと声の主、一颯へ向き合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしたものか・・・・スコートロンのある倉庫にたどり着いてすぐ周りを警戒したが敵はいなかったので安心するがいやな胸騒ぎがして倉庫の中に入ったら敵がスコートロンのケースを開いて強奪する瞬間だった。すぐにサブマシンガンを構え相手の静止を促す。襲撃してきたPSの色違いはゆっくりと振り向き俺を見る。顔は無論装甲でおおわれてるから確認は出来ない。だが何故か俺にはこいつが笑っているように思えた。

 

「・・・・世の中上手くいきすぎると重要な所で失敗するもんだなぁ。こうも邪魔が入るなんて、どこで計算を間違ったかな?」

 

追い詰められているような気配を感じさせず悠然としゃべりだす。しかもオープンチャンネルで変声機の類も使っていないようだ。それ故に相手が俺より年上の男であるのが解った。

 

「お前達はそれを使って何を企んでいる?」

 

理由を問う。だが犯罪者がそうそう目的を話すわk

 

「これを使って世界を変えるのさ!」

 

てッ!答えるのかよ!?

 

「世界を変えるだと?」

「そうさ、融合事変により世界は混沌に見舞われた。だが政府は連邦なんてものを築き上げ全てをうやむやにした。しまいには自分達の意にそわない組織を弾圧してねじ伏せる始末だ。特に鎌倉の件は上手くやったもんだな?権力と暴力で民衆を欺く連邦のやり方では世界は変わらない!だからオレ達が連邦を打倒し民を導くのさ!!」

 

なんてありきたりなセリフ。連邦の在り方を暴力などといいながら暴力で解決するて矛盾してるだろ!

 

「そんな事、させるわけにはいかない!!」

「ま、冗談だがな。」

「は?」

 

さっきまで組織の信念めいたことを熱く語っていたテンションから一片、肩の力を抜き左手を腰にあて溜息を漏らす。

 

「だいたいオレは奴らの思想なんてどうでもいいんだよ。こんなクソッタレな世界、どう変わろうと知ったことかって話だ。」

「じゃあ何故こんなことをッ?」

 

銃を構えなおし標準を頭に集中させる。

 

「言う義理があるか?まぁ強いて言えば・・・・・奪われたものを取り戻すために力が必要だったてとこだな。」

 

奴はまたも笑う。自信に満ちた奴の声は悪意を全く感じさせず俺は困惑する。速やかに拘束するべきだが相手の力量が未知数な以上下手に動けない。

 

「オレにはオレの目的がある、お前達ごときに無駄な時間をかけるわけにはいかないんだ。つうわけで、奪わせてもらうぞッ!!」

 

男はスラスターを吹かせ俺に急接近する。

 

「そうはさせないッ!!」

 

引き金を引きサブマシンガンを乱射する。

 

「いいや、させてもらうよ。」

 

バシュッ!と音がし敵PSの背中が縦に裂け、虫の脱皮のように男が脱出する。纏う者がいなくなったのにPSは止まらず俺に抱き着き押さえつけられてしまった。

 

「くそッ!!」

「フッ、そこで大人しくしてろ。」

 

顔を上げ露となったヤツの姿を見る。白に近い銀色の長髪に真紅のコート、紺色のジーパン茶色のブーツ。

白銀のロン毛が薄暗い倉庫の僅かな光で輝き、その光でコートが業火の如く燃え滾っているように見えた。

 

敵の思い通りにさせない為に腕を滑らせ腰からナイフを取り出しPSの首筋を突き刺す。PSは糸の切れた人形のように力を失い機能を停止した。急いでPSを払いのけ立ち上がると目の前に銀色の足が伸び顔面に重い痛みが走り視界が一瞬真ッ黒になる。そのすぐ後に背中から体全体にかけて痺れるような痛みが駆け巡る。

なにが起きたのか解らないまま目を開けると俺は倉庫の外にいた。目の前には大きな穴の開いた倉庫、それを見てようやく理解した。俺は、蹴り飛ばされたんだ。そして外にあったコンテナに叩きつけられたのだ。

俺が現状を把握するのに合わせたかのようにスコートロンを纏った男が空いた穴から出てきた。

 

「これが新型PSの性能か・・・悪くはない、が。これが戦況を大きく覆すだと?たしかに強力なのは認める。しかしその為に高性能なOSや装着者の動きをカバーするバックアッププログラム・・・随分とお金を掛けてるな。それにこの装甲・・・ビブラニウムか、また貴重な物を使っているなぁ・・・これ一つで高層ビルが二つも買えるだろうに。性能は良くても量産性に欠ける。こんなのが本当に戦況を覆すのか?」

 

・・・・・・・・・驚いた、まだスコートロンを着てそんなに時間も経ってないのにそこまで機体の状態を理解するなんて、ただのテロリストが到底真似出来る事じゃない。奴は一体・・・・

 

「まっ、そんな事気にしても俺には関係ないか。折角手に入れた新型だ。機体のテストに手伝ってもらうぞ、連邦の軍人さんよぉッ!!」

 

さっきと同じく男はスラスターを吹かせ急接近する、違うところがあるとすればスピードが二倍近く速い!サブマシンガンを撃ち牽制するが弾幕の中を縦横無尽に動き俺との距離を一気に詰める。

 

「くッ!!」

「ちょせぇッ!!」

「かはッ!?」

 

懐に入られナイフを横薙ぎに振るうが奴は腰を落としナイフの軌道を回避し右ストレートのカウンターを喰らわしてくる。

お腹に伝わる鈍痛と吐き気、再び宙に浮き壁に叩きつけられ意識が朦朧とする。

 

「そんな通常機でオレを捉えられるのか?さっきから隙だらけだぜ?」

 

返す言葉もない、機体性能は圧倒的な差がある、それだけじゃない。さっきから奴の動きを見てたが荒々しい言動に比べ動きに無駄がなくキレのある一撃で的確にこちらを屠りに来ている。明らかに手練れだ。

基礎的な戦闘術しか心得てない俺には到底太刀打ちできるものではない・・・・・・・・

 

「・・・からこそ」

「ん?」

「だからこそ!逃げ出すわけにはいけないんだ!!痛いし苦しいが、”死ぬほどじゃない”と解っているなら恐れるものはない!!」

 

そうだ、どれだけ相手が強くても生きてる限り足掻いて噛みついてやる!!

 

「へぇ~、面白いこと言うなぁお前?ならギアを上げていくぞッ!!」

 

さらに速度を上げてより正確により重い拳が俺の左胸に当たり続けざまに左アッパーを喰らい脳が揺れる。攻撃の手を緩めない相手は体を捻りながら飛び、首目掛けて回し蹴りを浴びせた。

ゴキッと嫌な音がし首に激痛が走り地べたに顔面から滑り落ちる。

 

「ぐ、ガアァァァァァァァァァァァァ!!」

 

痛みを堪え立ち上がると背中に焼かれるような高熱が襲い爆発が起きた。恐らく腕に内蔵されてるパルスレーザーだろう。

爆発の衝撃で再び倒れすぐ立ち上がると振り向きざまに左頬を殴られ、みぞおち、背中、右頬と立て続けに殴られ続けた。文字通り手も足も出せない。機体性能と相手の技量についていけずサンドバック状態と化していた。

 

「はぁ・・・これじゃあ性能実験にもならない・・・もういいよ、お前。」

 

殴るのを止め体を捻ってミドルキックを繰り出し俺のみぞおちに命中し吹き飛ばされる。

 

「あ、そうだ。まだコレの性能を試して無かったな!!」

 

スコートロンの胸部装甲が開閉し内蔵されたビーム砲があらわになる。奴は腕を胸の前で交差させ僅かなエネルギーチャージを行い腕を広げると自分の体を包み込むほどの極太ビームを俺に放射させる。

流石にあれは防がなければ”死ぬ”のが解ったので両腕を前に交差し守りを固める。

高出力のビームは簡単に俺を飲み込み全身を焼かれる。

 

「ガ、アアアア、グぅ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――!!」

 

ヴィンディケーター越しから高熱が伝わり装甲が焼けこげ人体が蒸される。防御した腕の状態が一番酷く装甲が解け腕を焼かれて炭化し始める。暑いを通り越して熱い。機体も耐えられる温度を優に超え、けたたましいアラームが鳴り響く。

自分の身が危険にさらされているのに”死なない”と解っているからか俺はとても冷静だ。

ビームが止み、満身創痍の体は受け身もとれず地面に叩きつけられる。打撲と火傷の痛みが体全体を襲う。多分骨折もしてるだろう、それでも”まだ死なない”と解るあたり俺の体は丈夫という訳か?

 

「これは驚いた。あの一撃でもまだ原型保ってるなんて、意外としぶといんだなお前。」

 

男は自分の最大火力を耐えた俺を興味深そうに見ていた。

もう指先の感覚の無い腕を動かし立ち上がる。感覚は無いのに痛覚は生きてるのが不思議だ。

痛いイタイイタイ痛い痛い痛いイタイイタイ痛いいたいイタイイタイ痛いいたいいたいいたい

と頭が警報を鳴らしているが任務を果たすために無視する。

 

「まだ立ち上がるのかッ!?もうよせって!運よく死ななかったがこれ以上やれば間違いなく死ぬぞ!?無駄死にが任務とでも言いたいのか?」

「・・・死にたくはない・・だが・このままスコートロンを盗まれるわけにはいかない・・・それは・・人類の明日を守る希望だ・・・それを・・・・お前等なんかにわた・・すわk・に・・・・」

 

マズい、もう口を動かす力が・・・

 

「はぁ・・・・お前のしつこさはよく解った。・・・・仕方ない。気は乗らないが、このままお前を野放しにしたらおいおい作戦に支障をきたす可能性がある。悪いが、殺すぞ。」

 

明確な殺意を向けながら腕を交差しチャージを始める。またアレを撃つ気だ、次は”確実に死ぬ!”そう解っているが体はもう動かないしヴィンディケーターもバヂバヂと火花を散らし動いてくれない。

 

「許せとは言わねぇ。好きなだけ怨め、呪え。そして・・・こんな世界を憎め!」

 

交差した腕を広げ高出力ビームが放たれる。無慈悲な光が俺を消し去る為に迫って来る。

もうなんの術も思い浮かばない。なんの役にも立てず跡形もなく消される現実。

・・・・だからこそ!諦めるものか!!

俺はまだ、なにも守れていない!まだ死んでいない!生きてる限り諦めてたまるか!!こんなところで、終わってなるものかぁああああああ!!

 

 

『Matching fitting allclear。スヴェル、ビスレスト。タイショウヲテキゴウシャニトウロク。【ユニゾン・リンク】ヲジッコウシマス。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

グレアは目の前の光景に違和感を感じ首をかしげる。自身が発した高出力ビームは一颯を飲み込み焼き尽くす筈だった、だがビームは一颯の手前付近で何かにせき止められ扇状に拡散していく。真正面にいるグレアには何が起きてるのか解らないでいた。

だが事態はすぐ理解することになる。突如としてビームが弾き跳びまばゆい光の壁が姿を現す。否、アレは・・・

 

「氷の・・・盾・・?」

 

一颯の言う通りそれは盾だった。

その盾は突如として一颯の目の前に現れエネルギーフィールドを壁のように広範囲に展開して高出力ビームを防いだ。

氷のように蒼い半透明の盾が一颯に向き合うように反転し佇む。すると一颯と盾の間の何もない空間から新たな物体が出現した。

 

「虹色の、鍵?」

 

錠前に使うタイプの鍵は七色に彩られており盾の中心を差し込み独りでに回る。

盾と鍵は不思議な電子音の曲を奏でバラバラに砕け散った。

その欠片は一颯の周りを漂い、そして・・・一颯に襲い掛かる!

 

「ぐッ!・・アァァ・・・・アアアアアアアアアアアアぁァァァァァaaaaaaaaaa!?」

 

ヴィンディケーターの装甲を貫き体全体に突き刺さった欠片はじわじわと体内へと入りこもうと侵入する。

欠片が全て体内に入った途端体内がグチャグチャとかきまわされる感覚とナニかが体中を駆け巡る感覚に気持ち悪くなりその場に崩れ落ちる。

急激に体温が上昇し息が苦しくなる、だが不思議と嫌な気分はなくむしろ力が沸いていく感覚を感じる。

そして変化が訪れた。

ヴィンディケーターが光の粒子へと変わり一颯の体内へと取り込まれる。続いて背中から光の膜が現れ体全体を包み込み機械の形へと変わっていく。

変化が収まると一颯の姿は見たことのない白いPSを纏っていた。そして左腕の籠手には先程より一回り小さくなった白い盾が無数の輝きを放ち周囲を照らしていた。

 

「これは・・・一体・・・」

 

謎のPSを纏いさらに先程まで受けた傷が癒えていることに戸惑いを隠せない一颯。そんな彼の疑問に応えるかのように眼前に投影式のディスプレイが現れ文字が表示される。

 

『新世代型PS【セブンスライト】起動を確認。【スヴェル】【ビスレスト】、適合者との同化に成功。損傷した肉体を分解・再構築、異常なし。  SYSTEM ALL GREEN。 戦闘行動を開始します。』

 

その情報は未だ状況を理解するには難しいが唯一理解できることは―――――

 

セブンスライトと呼ばれるPSのツインアイが緑色の光を放つ。

 

(俺はまだ・・・・戦える!!)




グレア「長い!この回に至るまでの工程が長すぎる!!なんでこうなった?!どこで計算を間違えた!?」
オータム「つ~かあたしの扱いなんだよ!?出会い頭で「キッモ!!」とか初めての扱いだぞ!?」
エム「黙れクモンガ女。お前等いい方だ私は漫画の一コマだけの出演みたいな扱いだったぞ!此処の作者はIS操縦者の扱いがひどすぎないか!?」
グレア「あ、そうだ。ISで思い出したんだが水色の髪のメガネっ娘いただろ?あいつレギュラー入りするらしいぞ?」
オータム・エム「「優遇の差が極端すぎる!!」」

次回「そこで自爆だ!!」


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第四話「そこで自爆だ!!」

現在公開可能な情報

天草機関

融合事変前のある世界で風鳴機関と双璧を成した人類守護を掲げる日本の特務機関。
人命を優先するために他国への技術提供や時に機密情報の公開など自国や組織を脅かしかねない行動をするが世界各国から賛同者により世界政府に高い信頼と影響力を得ており切るに切り切れない存在となった。
国を守るために人命を蔑ろにする風鳴機関とはよく衝突し犬猿の仲である。
現当主の天草至導(しどう)は風鳴訃堂(ふどう)に「国を守るのも必要だが、そこに住まう民がいなければそれは国ではなく唯の墓標だ」と吐き捨てた。

融合事変後はその高い組織力で各国を束ね地球連邦の設立を提唱した。
連邦政府の幹部は天草機関が選出した人物で構成されており実質連邦政府の支配者である。


第三基地作戦司令部のモニターには偵察ドローンのカメラから送られる映像が映し出されている。

映像には突如として形を変えたPSを纏う一颯の姿が捉えられており突然の事態に司令部は混乱していた。

 

「アレは、一体・・・」

 

いまだ状況が理解できないレナルド司令、そんな司令の元に歩み寄る者がいた。

 

「ようやくセブンスライトを起動したか。かなり危うい状況だったがまぁ聖遺物の同化が上手くいったから良しとしよう。」

「貴女は!?」

 

その人物は一颯の部屋に侵入した不審者の少女であった。金色のミディアムヘアーと赤い目の幼女は白衣を羽織りとメガネを掛け不敵に笑う。

 

 

 

場所は変わり倉庫前

 

グレアはPSの姿が変わり困惑する一颯を観察していた。

 

(あのPSの形状・・・連邦が最近開発した試作機の『サンダーボルト』に似ている。同型機か?いや似てはいるがシステム構造が根本的に違う、サンダーボルト系は確か従来と同じ量子変換による装着か前面の装甲が開閉して入るタイプのどちらかだった筈。別の機体の形状を変える機能は無い。それにあの盾・・・結果を出すにはまだ情報が少ない。今はこの機体を持ち帰るのが大事か、だがおそらくあっちが・・・・。)

「ハハッ!なんだソレ。そんな隠し玉があるなら最初から使ってくれよ?それとも焦って頭から抜けてたって奴かッ!」

 

グレアは地を蹴り一颯に急接近する。一颯もグレアに気づいて構えをとる。

右腕を引き、体を捻って渾身の力を込めた拳を振りかぶり一颯を襲う。それを左に体を傾かせ回避する。

 

(コイツ!速いッ!?)

 

ヴィンディケーターの時と桁違いに反応速度が上がっていることに驚愕するグレア。攻撃を回避されカウンターを警戒するが当の一颯は体を傾けた途端左へゴロゴロと転がっていった。

 

「ぐあッ!!」

「・・・・・あん?」

 

想定とは違う光景にグレアは呆気にとられる。

 

(くッ!なんて性能だ!?自分の思い通り、いやそれ以上に先に機体が動く!!)

 

さっきまで使っていた通常機を優に超えるセブンスライトの性能に振り回され奔走される。そんな一颯の問題などお構いなくグレアは跳躍し左足を伸ばしてかかとを一颯の頭目掛けて振り落とす。

 

「ッ!!」

 

敵の動きを確認し転がって直撃を回避するがちょっと転がるという一颯のイメージと裏腹に機体は勢いよく体を回し数メートル先の倉庫の壁に激突し頭をぶつける。

 

「ぐおぉぉぉ・・・・・!!」

(・・・・・・・機体の性能に本人が付いていけてないのか。)

「はぁ・・・せっかく面白くなったと思ったのに持ち主が素人じゃその機体もうかばれないぜ。」

 

グレアの挑発を聞きながら立ち上がり機体の情報を整理しする。

 

(このままじゃ駄目だ。折角もう一度戦う力を手に入れたのに・・・なにか、なにか武器は無いのか!格納されてる装備は・・・・無い。内蔵されてる武装は・・・・こっちも無い!他にある武装は・・・)

 

必死にヘルム内のモニターから武装に関する情報を探すがいっこうに見つからない。ただ一つだけ登録されている装備を除けば・・・

 

(万能型支援光粒子盾『ビスレスト』・・・・・・・この盾だけッ!?」

 

盾しか装備がないという滅茶苦茶な事実に思考が途中から本音に変わっていた。

 

「考えはまとまったかルーキー!!」

「くッ!クソぉォォォ!!」

 

スラスターの加速を利用し渾身の右ストレートを繰り出すグレア。打つ手がないは一颯はやむなく左手に装着されているビスレストを構えグレアの前に突き出す。拳が盾に直撃すると盾から発せられる衝撃にグレアは吹き飛ばされる。一瞬の出来事に動揺するがすぐ体勢を立て直し一颯に向き直る。

 

「ぐッ!?。・・・・・・・・・・今のは。(衝撃の吸収と反射・・・さっきのビームが拡散ならあの盾を攻略するのは骨が折れる。だが相性が悪いだけでオレが勝てない通りは無い!!)。」

 

攻撃を加える度に一颯の解析を進めていくグレアは再度接近し拳を振るう。立ち向かうべく盾を構える一颯だがグレアは直前で攻撃を止め、素早いステップで背後に回りこみ右足を鞭のようにしならせ背中を蹴り上げる。

苦悶の声を漏らし飛ばされる一颯だが痛みはそれほどなく、スラスターで体制を立て直しグレアに向き直る。

 

(さっきまでのダメージが嘘のように軽い。この機体の防御性能のおかげか?とても頼りになるがまだ思うように動かせていない。向こうはもうスコートロンを使いこなしている。どうしたらいいんだ?このスーツをどう活かせばいいんだ?)

(蹴り飛ばしたこっちが痛くて向こうは大したダメージはないみたいだな。あの盾といい機体自体の強固さ・・・今までの情報から考えるにおそらく防御特化型と見ていいだろう。前衛向きの機体ではないのをふまえて導き出される答えは・・・自爆、イヤイヤ待て落ち着け早まるなオレそれはとっておき、まだ出す時ではない。だがそろそろ潮時だ。他の仲間たちも限界の筈、だがせめて・・・装甲の一つはもらって帰らないとなぁ!!)

 

お互いにいろいろと考えているが幾分グレアの方が頭の回転が速く決断も早く地を蹴り仕掛ける。

一颯はまだ答えが出ないまま戦いに集中せざるを得ない。そんな状況に流石に限界が来たのかとうとう一颯は奇行に走る。

 

「だあぁッ!!解るかんなもんッ!!」

 

駆けだした一颯は盾の縁を右手で掴みいっかい回ってグレア目掛けて放り投げた!

 

「んなッ!?ごふッ!!」

 

勢いよく駆けだしたグレアと勢いよく投げられた盾。グルグルと回転し面積の少ない側面の装甲が顔面に激突し背中から地面に滑り込む。

 

(守りの要の盾を投げるとか・・・どんな思考回路してッ!?)

 

起き上がり目を開けると盾を回収して跳びかかる一颯が目の前まで迫り左腕に持つ盾で顔の右頬を殴る。

 

「ごハァあああああああああ、へぶッ!?」

 

続けてくり出した盾を振り戻しアッパーを浴びせる。

 

「もんじゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

さらに拳を握り締め盾を突きだす。すると盾の装甲がスライドしエネルギー状の装甲を展開し回転しだす。回転するシールドは騒音をたててスコートロンの胸部に触れ、ガリガリとビブラニウムの装甲を削り落としていく。

 

「グッ!?ぐおおおおぉぉォォォォォォォォォ!!」

 

刃と化したシールドがスコートロンの装甲を削り火花を散らしながらグレアを吹き飛ばす。やがて火薬を積んだコンテナに突っ込み大爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

時を少し遡り日下部燎子はオータムのISアラクネの糸により動きを封じされていた。

同じく折紙もIS黒騎士を纏う亡国機業構成員エムと刃を交え動きを抑えられていた。

 

『くッ!手あたり次第糸を巻き付けて!!』

「ハハハッ!手こずらせやがって。こうも全体を抑えられればいくらお前でももうどうにもできまい!!」

 

地上は走る要塞の全体を糸で絡め捕るクモンガが高笑いし、

空中は黒と白の刃が交差しやがて刃同士が衝突し鍔迫り合いとなる。

 

◇上空

 

「ほぉ、お前強いな。」

 

黒騎士の大剣フェンリル・ブロウをクリーヴリーフ一本で受け止める折紙に感心し賞賛の声を述べるが―――

 

「そういうあなたは弱いわね。」

「何・・・」

 

対する折紙は冷たく憐みの言葉を述べた。

格下と見られ激高したエムはクリーヴリーフを振りはらい上段の構えから一気に振り下ろす。だが対する折紙はもう一方のクリーヴリーフを展開し横一閃に振う。両者が通り過ぎぶつかり合った刃はちいさな火花を散らしエムの大剣が両断された。

 

「―――――――――――は?」

 

何が起きたのか解らないエムは切られ半分の長さになった大剣を呆然と眺めていた。そして現状を理解し折紙に向き直り二対のランサービットによる砲撃をおこなう。折紙もブラスタークによる迎撃を開始する。

エムの放った螺旋状のエネルギー砲は折紙の魔力砲に対衝突するが、拮抗するどころか容易に押し込まれランサービットを破壊されてしまう。

 

「馬鹿なッ!?」

「あなたのISはとても強い。けどあなたはそのISを使いこなせていない。機体性能に頼っているだけのあなたに私が負ける通りは無い!」

「ッ!貴様が、その機体を使ってる貴様がぁ!それをいうかぁ!!」

 

エムは残された腕部ガトリングガンを乱射する。だが圧倒的な実力差を見せつけられ逆上したその目はろくに標準が定まらずかすりもしない。当たりもしない弾丸を横目に折紙はエム目掛けて加速しクリーヴリーフをクロスさせ振り払う。刃はエムの体の直前で展開された絶対防御に阻まれ一瞬だけ止めるがすぐ砕けその肉を切る。楔の力により絶対防御の力も弱められ操縦者の命を完全に守ることは出来なくなっている。切られたエムは地に落ち胴体に大きなⅩの傷を刻まれ血がにじんでいた。

 

 

 

◇地上

 

 

身動きの取れない燎子に近づくオータムは不敵な笑みをしながらナイフを取り出す。

 

「さぁて、テメェのその堅苦しい装甲を削ぎ落として中身を晒してもろおうか?」

『(マズいわね、一颯だけを向かわせて結構立つ。既に倉庫の方でも戦闘が起きているようだし急いで加勢に生きたいのにこうも全体を拘束されては・・・)仕方ないわね、少し本気を出しますか。』

「ハッ!そんな状態で何ができるってんだw寝言は寝て――」

《オーバードライブ起動》

 

全身を糸で固定されてる燎子の言葉を強がりと思ったオータムは笑い飛ばそうとしたが突如燎子のクアッドリガが金色の光を放ち絡みついていた糸を吹き飛ばしていった。

 

「なッ!?」

『さあッ!こっからは鉄拳制裁タイムよ!!』

 

オーバードライブ。かつてクローサーと言われた兵士が使っていたエナジーコア・タイプSの決戦機能であり融合事変後、連邦軍が解析しウィル博士の助力により改良型のタイプZが開発された。第三基地のPAギアにはこのタイプZが導入され大きな戦力増加を可能にした。そんなタイプZを贅沢にも二十個もクアッドリガに使用しておりその機体性能はISを優に超えるほどといわれている。

 

オーバードライブを起動した燎子はオータム目掛け殴りかかる。クアッドリガは金色の残像を残しながらオータムに接近し光輝く右腕を突き出す。

オータムはISのハイパーセンサーでギリギリ捉えるがそれだけ、見えていても避けられるという訳では無く避けられるほどの身体能力を持っていなかった。拳は無慈悲にもオータムの顔面を捉え彼女を宙へ飛ばす。殴り飛ばされた彼女に自由は許されず回り込んだ燎子の左アッパーを受け空へと飛ばされる。続けて燎子は跳躍し両手を合わせオータムの無防備なお腹目掛け振り下ろす。

地面に叩きつけられた彼女は虫の息でかろうじて生きていた。たった三回の攻撃でアラクネの装甲は全体的にひび割れ満身創痍の状態となりもはやろくに動かない。

オータムを完膚なきまでに叩きのめした燎子はその巨体のバーニアでゆっくりを地に降り彼女を見下ろす。

 

「ガッ・・は・・・ば、化け物が・・!!」

『えぇそうよ。人類を脅かす化け物どもを相手するんだもの、同じ化け物にでもならないと勝ち目ないでしょ?』

 

忌々しく睨むオータムに毅然とした態度で答える。

 

 

 

「あなたたちに勝機は無い。」

『大人しく投降しなさい。今なら牢屋に入れられる程度で済むわよ?』

 

ISを大破され重傷を負わされたエムとオータムは悔しさのあまりに歯を食いしばるがまだ戦うことを諦めてなどいなかった。二人は拡張領域(バススロット)から黒い種のような物を取り出しソレを渡したグレアの事を思い出す。

 

 

任務開始前の事、出撃準備をしようと移動していた二人の元にグレアがやってきて例の黒い種を渡した。

 

『なんだいこのゴミは?』

『ゴミとはひどい言い草だな。あの流れ者がくれた秘密兵器だぞ?』

『秘密兵器だと、このしなびた種がか?』

『そうさ!なんでも人間の破壊衝動と理性を融合させ驚異的なパワーと超人的な危機回避能力を得るんだそうだ。半ば暴走状態に近いが意識はちゃんと保たれるらしい。』

 

明らかに胡散臭い売り文句に目を細める二人、こんなものを渡すグレアに不信感を憶えるのも無理はない。

 

『なぜそのような物を渡す?それが本当なら貴様のような外道がみすみす私達に渡す訳がない。』

『そうだ!あたしたちを捨て駒って言ってるお前が敵に塩送るようなことする訳ねぇ!』

『はぁ・・・心配だから渡したってんのに随分嫌われたもんだなぁ。』

 

利用し利用される関係の彼等だ。信頼関係など無くそれ故に呆れるグレアは淡々と説明を始める。

 

『今回のお前たちの任務は噂に名高い遊撃一番隊の足止めだ。天使すら屠る化け物相手に弱体化してるISには荷が重い。化け物を相手取るには同等化け物にでもなるしかないだろう?まぁこれは最終手段として記憶の片隅にとっておいてくれればいいし使わないならそれでも構わない。まぁ精々頑張れや♪』

 

 

 

(・・・・・あの野郎、こうなることが解っててあたしたちにこれを渡しやがったな!!)

(忌々しい。はなから私達を切り捨てる腹積もりだったか!だがいいだろう、黒騎士で勝てぬというのなら化け物でもなんでもなってやる!!)

 

二人は種を天に掲げ握りつぶす。すると拳の中から赤黒い光があふれだしやがてイバラとなって二人の体に巻き付き飲み込んでいく。

 

「ぐっ!?があぁあぁaaaaaa!」

「むぐっ!?んんんんn!!」

 

エムとオータムを飲み込んだイバラは徐々に形を変え闇の球体へと変化する。そしてオータムを包む闇は突如八本の足を生やしエムの方は蛾のような翅を形成し球体を起点に変化する。変化が完了した闇が砕け散るとその全貌が明らかとなる。

全長3mを超える黒い巨大な機械蜘蛛。蜘蛛の頭部にはオータムの上半身が同化しており、蜘蛛を模した仮面を着けていた。

もう一方は濃い紫色の機械の蛾。エムの上半身が本体となり下半身は蛾の腹となっていた。背中から生える生物的な翅から鱗粉のようなエネルギー粒子を放出し宙を待っている。

 

Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!

 

おぞましい二体の咆哮が基地中に響き渡る。

 

『なんなの一体?形態移行(フォーム・シフト)?』

「蝶かと思ってたけど蛾だったのね。」(たぶん違います)

 

咆え終わる二体の怪物は折紙と燎子に狙いをつけ襲い掛かる。

巨大な八本の脚を動かし迫るオータムに対する燎子はガトリングによる迎撃を行うが弾はオータムの体にはじかれダメージを与えられなかった。目の前まで近づいたオータムは前足を燎子目掛け突き刺す。燎子は(毎度)巨体に似合わない素早い動きで回避し後退しながらガトリングを斉射するがまたも弾かれる。さらにオーバードライブの限界時間が過ぎ、反動で機体性能が低下してしまう。

 

(ん~これはマズいわね、出来れば早く方をつけたいんだけど・・・)

 

エムは大きな翅を羽ばたかせ腕を鋭い刃へと変え折紙目掛けて空を駆ける。折紙も両腕のクリーヴリーフを展開しエムの左腕に狙いを定め右腕を振るう。クリーヴリーフと刃となったエムの腕はぶつかりあい火花を散らしいなす形で両者をすれ違わさせる。お互いが向き直り再度突進、今度はお互いとも真正面から剣を振り刃越しの押し合いとなる。

 

(先程とはまるで別物、手心を加える余裕はなさそう・・・)

 

さっきまでボロボロにやられていた奴らとは思えないほど強くなった相手に折紙と燎子は攻めあぐねる。

 

再び接近するオータムに燎子はパイルナッコを使い振り抜くが蜘蛛の頭部の眼前で軽やかなステップで回避し口から糸を吐く。バックパックからホバーユニットにかけて機体後部全体を糸で固定され身動きが取れなくなった。

 

『しまったッ!!』

 

見た目の大きさと攻撃的な荒々しさからは想像できない身軽でトリッキーな動きに動揺し油断した燎子はすぐさま立て直そうとするが横薙ぎに振るわれる巨大な脚に薙ぎ払われその巨体が宙に飛ぶ。

そのまま放物線を描いて飛んでいくと思ったがオータムが吐き出す糸に絡め捕られ時計回りに振り回し周囲の倉庫群に叩きつけ二転三転と振りまわし続ける。

壁を突き破り別の建物にぶつけられ地面に激突しクアッドリガの装甲が凹みひしゃげ火花をちらす。やがて糸が切れ瓦礫にほおり出され土煙を巻き上げる。

 

『ゴホゴホっ!エホッ!つぅ~!!・・・あぁ~さっき私がやったことの仕返しのつもりかしら?結構痛かったわよ・・・』

 

瓦礫が盛り上がり、中からボロボロになったクアッドリガが姿を現す。両腕のガトリングは全部グニャグニャに折れブースターは潰れホバーユニットはバヂバヂと火花を散らし機能を停止していった。

 

(機体の86%が停止したか、いよいよマズい状況ね。ここまで私が手こずるなんて二年前の総力戦以来かしら?)

 

昔の記憶を掘り起こし燎子は自傷気味に笑う。そんな燎子にトドメを刺そうと大きなアゴを開き直進してくるオータムが迫る。

 

 

 

 

 

 

クリーヴリーフを受け止める腕を振るいふり払うエムは翅を動かし突風を起こす。折紙は突風を随意領域(テリトリー)で防ごうとするが随意領域が上手く形成できず崩壊していく。崩壊した隙間から風が入りリコリスの装甲に無数の傷をつける。

 

「ッ!?マズい!!」

 

危険を感じ守りの体勢を取るが吹き荒れる風が折紙を飲み込むと機体全体を切り刻んでいく。随意領域が展開できずなすすべなく切りつけられる折紙は収集できる限りの情報を集め考えていた。

 

(風による損傷ではない、彼女が発している鱗粉が原因?アレが随意領域の展開を妨げていると見るなら辻褄が合う。ハイペリオンが無い今のリコリスでは分が悪い・・・どうすれば?)

 

対応策を模索するも打開策が出ず突風に閉じ込められCR‐ユニットだけでなくワイヤリングスーツや生身を切りつけられ窮地に立たされる。だがそれでも瞳に焦りの色はなくエムを見据えチャンスを窺う。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

両腕の刃を重ね突風の檻に突撃するエム。エムの刃が折紙の胸を捉え檻ごと突き破る。

だが刃は折紙の胸に届かず胸の前に展開された五ミリほどの小さな防御随意領域に防がれそれ以上奥に進まなかった。

範囲を縮小し意識を集中することで阻害された空間でも随意領域を展開し防御力を限界まで引き上げたのだ。

 

「くぅ!!」

 

だが防いだはずの折紙は口から血を吐き苦悶の表情を浮かべる。

ピンポイントで防御随意領域を展開し直撃はまぬがれたが高速で突進してきたエムの刃を受け止めたために突進から生まれた衝撃波をもろに受け肉体にダメージを受けてしまったのだ。

わずかに生まれたスキを逃す筈もなく防御随意領域を切り裂き、再度突風を起こす。

随意領域を切り裂かれ、回避行動をとった折紙は直撃はまぬがれたが突風による損傷でリコリスの機能が低下しており飛行しているのがやっとの状態であった。

 

(微細な粒子が機体の隙間に入り機能障害を起こしているみたい。無理に武装を使用すれば暴発する恐れもある。・・・・ここまでか・・)

 

「シぃnEえlelelelel!!」

 

フラフラと飛行する折紙を追いかけ刃を突き出すエム。動きが悪くなっていくリコリスを動かしエムへ向き直る。

 

「くッ!!」

 

自分を殺さんとする凶刃が眼前に迫り、そして―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宙を浮き牙が折れる蜘蛛とズタズタに刃が切り落とされ動揺する蛾がそこにいた。

 

(は?/はぁ?)

 

地には紫色のワイヤリングスーツと青と金色のCR-ユニットを纏った燎子が黄金のガントレットを天に掲げ、天には純白と金色のCR-ユニットを纏った折紙が白銀と漆黒の二振りの実体剣を持ち地を見下ろしていた。

 

エムの刃とオータムの牙が二人を襲おうとした寸前、折紙と燎子はお互いの武装をパージし新たなCR-ユニットを纏い、オータムを殴り上げ、エムの腕を武装箇所だけ綺麗に切り落としたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令部

 

「ッ!?鳶一少佐及び日下部大尉が【カール・ズ・マーニュ】と【サノス】を起動しました!!」

「なんだと!?」

 

オペレーターの報告に驚きを隠せないレナルド司令が声を上げる。

 

「ほう、かの大帝と死の王か。天草機関が開発した世界に十機しかないと言われる王の名を関するCR-ユニットをまさか一番隊の二人が保有していたとは・・・・これは各基地が黙っていないだろう?」

 

意味深なことを口にする少女に咳払いをし毅然とした態度を取り繕う司令。そんな司令の様子を見て少女は愉快そうににやける。

そこへ暗い司令部の明かりが届かない隅から闇に紛れるように諜報員の岩動が現れ少女に説明を始めた。

 

「それについては既に至導(しどう)代表より許可を得ています。なにより第三基地は各エリアへの足掛かりを担ういわば守護の要です。原則に縛られず人々を守護するためには他の基地のような体制では駄目なんですよ。」

「なるほど、人を守る為なら法も国も取り壊すか、風鳴とはまことに正反対なのだな天草の頭首は・・・だからこそ地球連邦として成り立つか。そうでなくては私が此処におもむいた意味が無いからな、せいぜい楽しませてもらうぞ!」

 

少女はハッハッハッ!と高らかに笑い戦闘の様子を眺め期待に思いを馳せる。まるでこれから起きる騒乱を楽しむかのように。

 

 

 

 

 

 

 

【カール・ズ・マーニュ】を纏う折紙は自身が持つ二振りの剣【ジュワユーズ・リアリティ/ファンタズム】を見比べた後視線を地上に向ける。

ブラスト小隊たちが交戦する広場では未だ硬直状態、一颯が向かった倉庫は炎に巻かれ黒煙が立ち込めて状況がつかめない。それを確認しエムを見おろし攻撃を開始する。

肩の鎧のような装甲が変形し非固定ユニットのブースターとして火を吹き加速する。

 

「グッ!?アァァァァァァ!!」

 

動揺していたエムは折紙の接近に気づきもう一方の腕を突き出し応戦する。

 

「ジュワユーズ!!」

 

折紙は剣に魔力を纏わせエムの刃に這わせるように回転し腕の装甲を輪切りにする。

 

(なにがおこった!?何故私の刃が切り落とされて…)

 

目の前の現実が受け入れられないエムの思考は乱れ折紙の姿を見失っていた。そこへ追い打ちをかけるように翅の一つが切り落とされ体勢を崩しようやく折紙の事を思い出し警戒態勢をとる。

 

(ぬおッ!?翅が切られた!?奴はどこだ!?どこから来る!?)

「もう十分楽しんだでしょ?」

 

周囲を見回し警戒するエム、だがそんな警戒も虚しく腹の装甲が切り落とされ素足があらわとなる。

片翅を失い体を支える事も出来なくなったエムは徐々に地上へと墜ちていく。

形勢は逆転し勝機と見た折紙速度を上げエム本体に向けて進み双剣を振るう。

 

(ッ!!装甲の硬質化!なんとしても防がなくては!!)

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

(駄目だ!間に合わないッ!!)

「でも遊びはもう終りッ!!」

 

必死に我が身を守ろうと黒騎士だった物の装甲を体全体に纏わせようとするが纏う速度よりも速く翔る折紙の斬撃が装甲を切り刻んでいく。

 

「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

両者の方向が響き渡り装甲の欠片が地に落ちていく。

ジュワユーズの刃は確実に黒い装甲を削いでいき遂にエムの本体を引きずり出しその首を掴む。

 

「ぐっ、あぐ、!!」

「あなたに戦う力はもうない、投降して。」

 

完全に無力化されたエムの首を掴みながら淡々と勧告し地上に向かって降りていく折紙。

その様子を物陰から窺う男がいた。

 

 

 

 

 

Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!

 

地に叩きつけられたオータムはすぐさま起き上がり【サノス】を纏う燎子に向かって突き進む。

自分の間合い入ったオータムは鋭利な脚を巧みに操り燎子を切り刻もうと迫るが身軽になった燎子は軽やかなフットワークで避け逆に蜘蛛の顔にカウンターを喰らわす。

カウンターをくらったオータムはより攻撃の勢いを上げるがその度に両腕の手甲による強力な打撃を受けひるむ。

攻撃してる自分がやられてることにシビレを切らしたオータムは糸を吐き出し捕えようとする。その糸を燎子は左手で掴み引っ張り上げオータムを引き寄せる。引き寄せられ近づくオータムに合わせるように右腕を振り落とし蜘蛛の頭を殴りつける。蜘蛛の頭が地面にめり込み身動きがとれなくなることに焦るオータム、その眼前に立つ燎子はジャブでオータムの頭を殴る。

 

「Gaフっ!?クソガ!!」

 

顔に伝わる痛みで苛立ちを増したオータムはエムと同じように腕を刃と変え振り抜くが手甲に止められ腹を殴られる。続いてもう片方の刃を突き出すが回避し後ろに回り込まれ背中を殴られる。それから何度も腕を突き出すも防ぎ殴られ本体を纏う装甲にヒビが入っていく。しだいに攻撃の勢いが弱まっていき燎子は攻撃の手を増してうちのめしていく。ついには頭を掴み下に引き寄せ膝蹴りをくらわしひるんだオータムの腹を掴み機械蜘蛛から引きはがした。

 

「さぁて、見ての通りあんたはもう戦えないけどまだ続ける?出来ればもう降参してくれるとありがたいなぁ?なにせ今もこの力を抑えるので必死なのよねぇ?」

 

散々殴られボロボロになったISスーツでかろうじて大事な部分は隠せているが本体だった上半身はアザだらけで顔は鼻血で赤く染めあげていた。そんなオータムの頭を左腕の手甲で掴んでいる燎子は右腕を引き今にも殴り出しそうなのを必死で抑えていた。

戦う力を失い楽しむように殴られ圧倒されたオータムは抵抗する気力すら失いただ睨むことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

グレアを吹き飛ばした一颯は呼吸を整えながら燃え盛るコンテナの残骸を見据える。その先にはコンテナを払いのけ立ち上がるグレアの姿があった。

 

「つゥ・・あぁ~いてぇ。」

 

腹を抑え苦しむグレア、よく見ると腹部から胸に向けて大きな傷が出来ておりそこから血が流れていた。

 

「ビブラニウムの装甲を溶断する切れ味。やっぱり本命はそっちだったか・・・はは」

 

重傷を負っているというのに未だに余裕の態度を崩さないグレア。そんなとき広場の方で爆発が起きる。

 

「広場の連中はそろそろ限界か。エムたちもやられたようだしここいらが引き時か。」

「逃がすと思うか?」

 

一颯はグレアの前に立ちふさがり盾を構える。それをお手上げといわんかのように手を上げ首を振るグレア。

 

「だよな~状況は最悪、味方は孤立し援軍はない。とても逃げられる状況じゃない・・・・・・そこで自爆だ!!」

 

ヘルムを外し素顔を晒すグレアは指を鳴らす。すると倉庫から飛び出る影が現れた。それは一颯が無力化したグレームだった。グレームは一颯目掛け四足歩行で駆け出し跳びかかる。一颯は盾で受け止めるが無人のグレームは盾もろとも一颯に抱き着く。引き剥がそうとした瞬間グレームからピピピピピと音が鳴り始める

 

「ッ!コイツは!?」

 

それが何を意味するのか察した一颯は何もできず歯を食いしばり衝撃に備えた。そして間もなくしてグレームは機体を膨れ上がらせ爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

時同じくして広場の方でも動きがあった。テロリスト達のPSの目が点滅し背部が開閉し装着者を排出した。

 

「おわッ!?」

「これは!?」

 

突然の出来事で動揺するテロリスト達をよそにひとりでに動くPSは相対していたタクマ達に向かって走り出す。銃で応戦されても無人の為その勢いは止まらない。頭を射抜かれようが胴体が吹き飛ぼうが手足を動かし確実に対象に飛びつく

 

「うわぁ!!なんなんだこいつ!?」

「この!離れろっての!!」

 

取り付いたPSは振りはらおうと暴れる連邦軍を巻き込み大爆発し濃度の濃い煙を上げる。

 

「グレアからの合図だ!みんなずらかるぞ!!」

 

機体の自爆を確認したテロリストたちは懐からピンク色の液体が入った小瓶のような物を取り出し、それを地面に叩きつける。すると地面に魔法陣のような物が描かれ光り出しテロリスト達が消えていく。

煙が晴れたときには既にテロリストの姿はなく自壊プログラムによって残骸となったロケットだけが散らばっていた。

 

 

 

広場での爆発は燎子達がいる場所からも見え大きな煙が舞っていた。

 

「あの爆発は一体?」

 

爆音を聞いた燎子も視線を広場の方に向け状況の確認をしていた。そんな燎子を見たオータムは残った力で拘束を解き逃げ出す。

 

「なっ!まだそんな体力を!?」

 

逃げるオータムを追おとした燎子だったが停止していたはずの機械蜘蛛に覆いかぶされ動きを封じられてしまった。

 

「コイツなんで動いてるの!?しかもこの音って!!」

 

間近にいる燎子だから解かるが機械蜘蛛の中から小さな音が徐々に早くなっているのが聞こえていた。

そして内部から光が漏れ出し大爆発を起こす。

 

 

 

「また爆発。これも貴方たちの仕業?」

 

広場と燎子がいる所と立て続いておこる爆発を目の当たりにした折紙は捕らえているエムに質問する。

 

「フン。さぁな?奴の考えなど私が知るものか。」

 

だが正直に答えるはずもなく折紙から視線を外す。これ以上追及してもなにも得られないと思った折紙はふと背後から迫る気配を感じ振り向きざまにジュワユーズを振るう。

 

「ッ!」

 

だが視界に映ったのが生身の人間だと気付くと剣を振るう手を止めた。

折紙に肉迫する赤毛の男、ヴォルフェスは折紙の振るった剣の腹に足を乗せ折紙の頭上を飛び越える。ヴォルフェスの動きを見失わないよう目で追っていた折紙だが自分の眼前に落ちてくるスタングレネードの閃光により視界を奪われてしまう。

ヴォルフェスはグレームを纏いエムを担いで折紙から遠ざかる。

 

「もしもの時に備えて待機とは言われたが本当に起きるとはな!だが自爆が実行されるってことは奴の思惑通りなんだろ、ならもうここに長居する必要はないな!」

 

エムを抱えながら走るヴォルフェスはオータムがいた方角に進みそしてボロボロになったオータムを見つける。

 

「オータム!」

 

急いで駆け寄り肩を貸し体を支える。

 

「くそッ!グレアの野郎あんな化け物を押し付けやがって!!」

「文句いうなら本人にしな。拠点に戻るぞ。」

 

エムを下ろしポケットから仲間たちと同じ容器を取り出し地面に投げ割る。地面に写し出される数式のような紋様に照らされヴォルフェス達を消していく。

 

 

 

「・・・・・逃げられたわね。」

「逃げられた。・・・・・」

 

視界を取り戻した折紙と自爆を受けた燎子は周囲を見回し対象に逃げられたのを理解し溜息を吐く。

 

 

 

敵のまさかの自爆に耐えた一颯は爆発のダメージにより息苦しさからむせていた

 

「ゴホゴホッ!」

 

呼吸を整え最初の位置から一歩も動いてないグレアを見る。グレアは広場の爆炎を見つめ満足そうに息を吐く。

 

「向こうは無事脱出できたようだな。後はオレだけか。」

 

グレアの手には仲間たちが離脱の為に使用した【テレポートジェム】があり、それを足元に放り投げる。

 

「ッ!逃がすか!!」

 

それが逃げる手段だと直感した一颯は駆けだす。

 

「なぁ、お前には守り抜きたい人は居るか?」

「は!?」

 

唐突に発したその一言で逃亡を止めようとした一颯の脚を止めた。一颯はグレアの言葉に解答できる言葉を持ち合わせていなかった。同時に人を守ると口にはしながら特定の誰かを守るという考えを持っていなかった自分自身に動揺してしまった。

そんな一颯の顔を見て何かを確信したグレアは不気味に顔を歪め口を開く。

 

「そのようすじゃあ誰もいないようだな。・・・・なぁお前。守りたい人がいないこんな世界、守る価値が本当にあるのか?お前もオレと同じ、この世界に殺された被害者だ。」

「俺が、お前と同じ、、だと?」

「そうさ。気づいたら自分だけが取り残され何も無い世界を生かされる。教えてくれよ。お前は一体、何を信じて守ってんだ?」

「ッう!!」

 

グレアの言うことは逃げるために自分を惑わすものだと理解してるがどうしても割り切ることが出来なかった。自分自身を見透かされているような感覚がして思考がまとまらなくなっていく。

 

「フッ。お前とはまた会いそうな気がする。次会うとしたらぜひ答えを聞かせてくれよ。じゃあな。」

 

転送の時間を稼いだグレアは一颯に手を振りながら消える。グレアを取り逃がした一颯は自分の不甲斐なさを悔やむが戦闘が終った為か体からこみあげてくる疲労感とめまいに襲われ意識を失い倒れる。

 

「俺は・・なにを・まもろうと・・・・」

 

意識を失った彼の口は無意識にそう口にしていた。

 




グレア「唐突ですが此処でシンフォギアク~イズ!!」
一颯「本当に唐突だな。」
グレア「問題です。とある事故で胸に金属の欠片が刺さり取り除こうにも命の危険がありそのままにするしかないがそれが戦う力の源になっている主人公のこの子はだ~れだ?」
一颯「ふっ。実に簡単な問題だ!答えはアイアンマッ」
グレア「シンフォギアって言ってんだろおぉぉぉぉぉぉ!!」


次回「嵐の後の反省会」


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第五話「嵐の後の反省会」

現在公開可能な情報


天使

ノイズとは異なる自然災害
発生計数はノイズより低くノイズ出現から数分後に出現するのが多い
出現後はノイズと同じく人を襲うが人より建造物を優先する傾向がある
天使はノイズのように人に触れ灰にするのではなく光を放ち当たった対象物をマナに変換し無に帰す。これを一般に〈浄化〉といい信仰者の間では神の裁きという声も上がっている
人が多く密集する場所での出現が多く、その習性を利用し各エリアの基地を中心に都市を形成し被害の拡大を抑えている。
エリア11の第三基地は天使の出現を集中させる目的もあり軍の中で激戦区として恐れられている


某所・シンジケート拠点

 

シンジケート拠点の一室、テレポートジェムによる帰還に用いられる帰還室に転移するグレア。傷ついた胸を抑え苦悶の表情を浮かべる。

 

「・・・・・い、痛ってえぇぇェェェェぇェェェェぇェェェェ!!」

 

そして地べたに転がり痛みに悶えていた。

 

「チクショウあの野郎!守るとか言いながらおもいっきし切り刻みやがってぇ!!つうか防御フィールドを丸ノコのように回すとか常人が考えるもんじゃねぇだろ!?いてぇ!痛てぇよチクショウが!!」

 

しばらくのたうちまわった後、ピタッと動きが止まり、ゆっくりと上体を起こす。その顔は既に平静を取り戻しておりさっきまで悶え苦しんでいたのが嘘のようだ。

 

「ふぅ~。だが目指すべき方向性は掴めたな。(奴のあの動きは機体スペックによるものではなくもっと別のもの・・・・奴があのスーツを着る前に欠片が体内に入り込んだのが見えた。恐らくあの流れ者が言ってた機械と肉体の融合に近い物のか?であれば操縦者の意思に反応しスーツが動作するよりも格段に処理速度が上がるはず!だとすれば・・・)ッ!・・・とりあえず治療しなきゃな。」

 

胸の痛みで自分が怪我人であることを思い出しその場を後にした。

 

 

 

 

 

数分後

 

メディカルルームで治療を終えたグレアは意気揚々出てくる。胸の傷は塞がり包帯を巻かれコートを肩に羽織り帰還した仲間達が居る格納庫へ向け歩き出す。

 

 

グレア視点

 

 

いや~設備の整った医療技術に優秀なメディカルスタッフ、テロリストとは思えない充実した環境には驚かされるばかりだ!しかも必要であれば機体の素材も融通してくれるとオレにとって天国といってもいいものだ!長居する気はないが・・・

 

「無事に戻ってきてなによりだが私が渡したシードを他人に渡すとはどういうことだ?」

 

げっ!あの茶髪と叡智の結晶(メガネ)は流れ者のパラケルスス・・・・面倒だなぁ。

 

「仕方ねぇだろあいつらの実力じゃあ一番隊の足止めは荷が重すぎたんだ。お前の”現代錬金術”ならなんとかなると思ってな?現にうまくいったろ?」

「だが一時の間でその後瞬殺されただろ。アレの制作に私がどれだけ苦労したt「グレアッあアアァァァァァァ!!」。」

 

荒々しい猛り声と殺気が迫ってきたのでサッと後ろにさがる。目の前を包帯で巻かれた右腕が通り過ぎ本体のミイラ女がオレを睨む。あ、このギラギラした目はオータムだ。生きとったんかワレ!!

 

「おぉ!オータム生きてたのか!!てっきり自爆したかと思ったぞ?いやぁオレの作戦もまだまだだなぁw」

「ッ!!テメェエエエ!!」

「やめろオータムッ!」「怪我塞がってないんだぞ!?」

 

軽く煽ってやったらあっさり怒り出した。仲間(仮)の傭兵たちに取り押さえられながらもオレに噛みつこうと暴れてやがる。実に使いやすい。

そんで後ろから殺気だけを飛ばすエム。殺気を向けるだけで噛みつく気力はないようだ。右目を包帯でくるまれ右腕はギプスで固定されて服もボロボロだ。まぁあの鳶一折紙(天使スレイヤー)を相手して生きてるだけよしとするか。

 

「お前は殺らないのか?捨て駒にした恨みくらいぶつけてもいいんだぜ?」

「チッ。お前のその人の神経を逆撫でする性格は生まれつきなのか?だとしたら救いようのないゲス野郎だなお前。」

「あぁ。お前等のようなゴミがいるからオレもこうならなくちゃいけないんだよ。」

 

お互い侮蔑を込めた罵り合いを繰り広げオレは嘲笑うが耐性が無いのかエムはイライラしてオレを睨む眼光が鋭くなる。もう少し罵ったら銃でも奪って撃って来るかもな。よ~しそれじゃa

 

「それくらいにしてもらえるか。」

 

ッ!!背筋から凍り付くような悪寒!それに部屋一体の温度が冷え切っていくようなこの重圧はッ!!

 

「「ウィンターッ!!」」

 

冬の名を関する亡国機業の用心棒ウィンター。白を基準としたボディスーツに空色のライダージャケットを羽織り鬼を模した仮面で目元を隠している男。手には二メートルを優に超える黒い太刀を握っている。

こいつの纏うオーラは冷たく重く恐ろしい。それは周囲にまで及びまるで命を凍てつかせる絶対零度のようだ。

 

「・・・・戻っていたのか。」

「あぁ。方々の任務が一段落して報告に行くところだ。・・・あまりオータムたちをイジメないでくれ。ただでさえ組織としての連携が芳しくないんだ。無駄な争いは避けたい。」

「んなことはわ~てるよ!オレはコイツらのような馬鹿じゃねぇんだからな。」

「なら良い。では報告に言ってくる。」

 

あぁさっさと行っちまえ!

 

「な、ウィンター待てよ!」

「私を無視するな!」

 

ウィンターが部屋から去るとオータムとエムがその後を追う。はぁ~ようやく一息つけるワケダ。

 

「はいッ麦茶どうぞ!」

 

そこらに転がってる木箱に腰を下ろすと左から麦茶の入った紙コップが差し出される。オレはそれを受け取り差し出した本人の頭を撫でる。

 

「おう、ありがとよヨハン!」

「うわッ!もう~!子ども扱いしないでくださいよアニキィ~」

 

コイツの名前は『殺生院ヨハン』。身長は140くらいの小柄で金色のショートヘアーにアホ毛(触ろうとすると恐ろしく怒る)が一本ピコンと立ってるエメラルド色の目が特徴的な子だ。オレやヴォルフェスをアニキと慕いここまでついてきた見かけによらずキモの据わった奴だ。

 

「いや~こうも気の利いて人柄がよく顔も良い可愛い後輩がいてオレは幸せだよぉ~。これで男じゃなかったら抱きしめてたのになぁ・・・はぁ~」

「流石にそれはボクでも引きますよアニキ。」

「君はロリコンなのか?それはそれで問題だと思うが非合法組織には気にするモノではないか。」

「んなわけあるかッ!!可愛い子は大であれ小であれ愛でるもんだろ!?」

 

まったくパラケルススの奴まだ居たのか。いい加減どっか行ってくれねぇかなぁ~。

内心でそんなことを思いながら近くにあったテーブルに無造作に置かれた端末を拾い上げシンジケート、正確にはスティールドーンのデータベースにアクセスする。

 

「それにしてもウィンターさん凄いですよねたった一人で任務をこなしてるんですから。」

「奴が只者じゃないのは今に始まったことじゃない。・・・うわぁ~相変わらず仕事が速いモンで・・・」

 

オレはウィンターが受けていた依頼に関する情報をヨハンに見せる。こういった情報はスティールドーンが独自に収取しオレたちが裏切らないように記録しているんだからイヤになる。

 

「わぁ~凄いですね連邦の機密史料保管庫に侵入して警備のPS装着者を無力化。厳重なセキュリティで守られた扉や無人機を刀で切り裂き保管された神性異物【ヌアザの銀腕】と聖遺物【選剣・カリヴァーン】の剣先を強奪・・・五右衛門ですか?」

「おまけに奴は自前のスーツを持ってない、それなのに奴は生身でこれをこなすんだ。まるでIS学園の世界最強(ブリュンヒルデ)みたいで恐ろしいだろ?」

「神性異物、人の肉体を侵食しかつての神の力を発現する文字通り人にとっての異物。そんな異物とかの王の聖剣の欠片を盗んでスティールドーンは何をしようとしてるのかね?」

あいつ(ゼクサ)が何を考えてるかなんてオレらが知るか。オレは奴らから依頼を受けていかに成功率を上げる作戦を練るか、それさえすりゃいいんだよ。」

「その作戦に毎度自爆を組み込むのはいただけねぇがな。」

 

ウィンターの事で話をしていたらいつの間にかヴォルフェスがやってきてた。

 

「おぉヴォルフェスお疲れさん。」

「お疲れって言われてもやられたオータム達の回収するまでジッとしてただけがな。」

「だが楽だっただろ?一番危険な仕事を与えてんだ安全策としてはいい方だったと思うんだがねぇ~」

「へッ!あんなじれったいやり方俺の性分じゃねぇ!次は絶対前線で戦うからな!!」

「はいはい解ったよ次は盛大自爆するプランを考えておくから期待しとけ。」

(((自爆しない作戦はないんだな・・・)))

 

なんだよその不満そうな顔は?オレの作戦に問題でもあんのか?

 

「とッ忘れる所だった!ゼクサの野郎が呼んでたぞ、今回の仕事の報告を聞きたいそうだ。」

「はぁ?なんでオレなんだよ。そんなのお前からでもいいだろ?」

「幹部達を交えての大事な会議も兼ねてるらしい。自覚無いようだがお前奴らに一目置かれてるんだぞ?」

 

はぁ~ゼクサの野郎・・・どうせディセンダーに言われてオレを呼んでんだろう。たくッ!組織の長もスポンサーには頭が上がらねえってか?まぁコイツ(スコートロン)の事で言いたいあ事もあるしちゃちゃっと終わらせるか。

 

「はぁ~めんどくせぇ~。ヨハン、”ソーニャ”に遅れると伝えといてくれ。」

「任してくれアニキ!!」

 

疲れて重い腰を上げヴォルフェス達に別れを済まし格納庫をあとにする。

 

 

 

 

 

グレアたちと別れたウィンターは長い長い廊下を歩いていた。

そのあとをオータムとエムが追いかける。

 

「待てよウィンター!」

「どうした、オータム?」

 

オータムに呼び止められ歩みを止めるウィンターは二人に向き直り応える。

 

「どうしたもこうしたもねぇ!!なんでアイツ(グレア)の下で活動しなきゃいけねぇんだ!」

「奴の作戦のせいで危うく死にかけた。それにISも大破される始末だ。」

 

二人はグレアの作戦の不満を訴えてきた。それを黙々と聞き思案しウィンターが口を開く。

 

「お前たちの言い分はよく解った。だが総合で考えてグレアの下で行動してた方がいい。」

「なんでだ!?」

ここ(シンジケート)の指揮系統をスティールドーンが握っているからだ。彼らはゼクサの目的の為なら命を投げ出す連中だ。倫理から逸脱した者がどれだけ非道かくらいお前達も解らない訳じゃないだろ?奴らにとって亡国機業は仲間じゃない、あくまで利害が一致した敵同士だ。隙あらば切り捨て葬ると常に思っているだろう。だから傭兵の彼の下にいれば動きやすいと言うことだ。」

「どういう事だ?」

 

ウィンターのグレアへの信頼に疑問を持ったエムが問う。

 

「奴は傭兵の立場でありながら独自の指揮権を預かっている。このフロアの一画も彼の管理下にあるようにグレアはスティールドーンに、正しくはゼクサにいたく気に入られている。それに・・・彼は仲間を捨て駒というが今までの作戦で死亡者も拘束者も出していない。最終的自爆するところはどうしようもないが仲間と思っているうちはお前達の身の安全は保障されると思うわけだ。」

「は!随分甘い事ぬかすな!安全とか今さら気にしてッ「亡国機業はもう君たち五人しかいないんだぞ、スコールにこれ以上負担を増やす気か?」ッう!!」

 

ウィンターの仲間の安全を考えた方法を甘いと断じようとしたオータムだったが自分たちの置かれている立場を突き付けられ言葉を失う。

融合事変の際多くの構成員の行方が解らなくなり後ろ盾の米国も聖罰により浄化され亡国機業は壊滅した。残党となったスコールたちは各地を逃げ回ってる最中ウィンターと出会いシンジケートの噂を聞き今に至った。今の亡国機業の地位はシンジケート内でもっとも低く奴隷と大差ない扱いで戦闘に投入されていた。今の今まで無事だったのはウィンターという抑止力があるからだ。

 

「不満はあるだろうがグレアと共にいれば自分も安心して任務に専念できる。それに・・・・いやなんでもない。」

「なんだよお前らしくない。言いたいことあんなら言えよ。」

「いや大丈夫だ気にしないでくれ。そろそろ報告の任に戻らなくてはならないからこれで失礼する。」

 

話を打ち切りウィンターは廊下の奥へと向き直る。

 

「ウィンター、報告が終ったら私と一戦交えて欲しい。」

 

だが歩き出す前にエムが試合を申し込んできた。

 

「お前その体で何言ってんだ?」

「いや構わない。最強を目指すなら負傷時の立ち回りも学んでおいた方がいいだろう。」

 

オータムはあきれたがウィンターは生真面目なのかエムの期待に応えるべく承諾したのであった。

 

「おい本気か!?だってこんなボロボロだぞ!?」

「たいした問題じゃない。片方の腕が動くなら武器は持てるしいくらでも応用が利く。むしろ万全な状態でないと勝てないとかほざく奴がいたらそれこそ笑いものだ。エムにはいかなる状態でも勝てるように鍛えておきたい。」

「感謝する。」

「うわぁ・・・・お前ら結構ハードだな(汗)。」

 

鍛えることになると加減を知らない二人を見て呆れながらどこか微笑ましいと感じるオータムであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーティングルーム。主に任務の報告などに使われる部屋。

その入口で鉢合わせするグレアとウィンター。

 

「げッ・・・・」

「む?」

 

この部屋の通路は格納庫から別々のルートから左右に分かれ収束し繋がってるため別の道から進んでいても向かうところが同じなら必然的に鉢合わせしてしまう。

 

「お前・・報告しに行ってたんじゃねぇのかよ?」

「少し立て込んでいたのでな。遅くなってしまった。」

「あっそ。」

 

お互い深く詮索するわけでもなく軽口を交わし部屋に入る。部屋の中は薄暗く前方に大きなモニターと周囲に複数の小さなモニターがありこちらの姿を捉える監視カメラが四隅の天井に着けられている。

 

「あ~かったるいわぁ~。何でオレが殺すことしか能のないバカ共の為に報告しなきゃいけないんだがまったく・・・」

 

これから組織の幹部と話し合うというのにグレアは面倒くさく悪態をつく。

 

「その誰にも物怖じしない性格には感心させられる。」

『全く、相変わらず口の減らない奴だねぇ、傭兵風情が・・・ッ!』

 

大きなモニターの右上の小さなモニターが光り、紫の髪の女性の姿を映し出す。

スティールドーンの幹部の一人、【エリザベス・ハクフォート】だ。

 

「テメェも同じ傭兵だろうが、二年の間に脳の老化が早まったか?オバサンw」

『チッ!このっ・・・!!』

『相も変わらず規律を乱す悪しき舌よ。その醜き口をゼクサ様の御前で開くことすら罪深い。』

 

続いてエリザべスを映しているモニターの下にある別のモニターからフルフェイスマスクの男が映し出される。

同じくスティールドーンの幹部の一人でゼクサの副官【トリスタン・アレキサンダー・クルーザン】。

正直彼の独特な口調は解りづらくて疲れる。ただでさえ出番も少なく口数も少ないのに癖のあるキャラで出ないで欲しかった。恨むぞ!

 

「まるで聖書みたいな言い回しだな。オレの挑発で規律が乱れるようならゼクサはその程度の指導者だったてことだなwだいたい品や礼儀なんかで世界が変わるか馬鹿馬鹿しい。テメェのその古臭い言い方も近代化改修して歴史に適応したらどうだ優等生君(オールドマン)w」

『き、貴様!!』

『安易な挑発に乗るな!お前(グレア)も組織の輪を乱すようなことをするんじゃあない!』

 

クルーザンを諫める新たな声、エリザベスとは真逆の左上のモニターに顔に傷のある褐色のいかつい男が映し出されていた。エリザベス達と同じ幹部の一人【ルード・ヴァン】だ。

スティールドーンの分隊指揮官を務める巨漢で隙あらば部下と共に連邦政府に襲撃をかけようとしているがグレアの指示で行動を制限されている。

 

「だったらテメェがまとめやがれ!テメェら無能共が馬鹿やってからオレが策を練らなきゃいけねぇんだぞ!」

『ウッ・・・』

 

グレアの剣幕にたじろぐルード。昔グレアの態度が気に喰わず作戦中に殺そうとしたのだが自爆に巻き込まれ死にかけたことがあり彼に強く言えないのだ。

部屋はすっかりグレアのペースにのまれ混沌を極めていた。そんな空気を打ち壊すかの如く中央のモニターが付き右目に眼帯を付けた強面の男が映し出される。

彼こそがスティールドーン、ひいてはシンジケートを統率する悪名高いテロリスト【ゼクサ・ノーマッド】。強権的、傲慢、雄弁。野心家、しかし彼の悪行は自らの内にある行動原理に明確に則っており、彼自身もそれを重視している。目的の達成を最優先とし、そのための手段を択ばない。

 

『・・・皆集まっているようだな。』

「おせぇぞゼクサ!人呼んどいて遅れるとか非効率的だろうが!!」

 

だがそんなことグレアには関係ない。組織のリーダーに対してもこの態度、部下である三人の顔(一名仮面の為解らないが)は穏やかではなく寧ろ恐れている。

 

『それはすまなかったな、こちらもなにかと忙しくてな。・・・さて話を聞かせてもらおうか?』

「ハイハイなるべく早く終わらせてやるかんな。」

 

流石に自分から長引かせることはしないらしくグレアは煽ることはぜず普段とはうって変わって丁寧な口調で任務の結果報告を述べる。

 

「任務実行前に用意した異星人とその機動兵器を導入し連邦軍の意表を突くことに成功。及び軍の注意を広場に集中させあえてスコートロンを狙っているとにおわせ主力である遊撃一番隊を格納庫へ誘導、亡国機業のIS乗りに足止めさせ時間稼ぎにあたらせる。その間に格納庫内に仕込ませておいた転送装置で内部に侵入、保管されていた新型PS【スコートロン】の奪取を完了した。多少イレギュラーな事態が発生し連邦の未確認PSと交戦、スコートロン胸部装甲を斬り刻まれることになったが部隊全員撤退し事なきを得た。・・・以上がスコートロン強奪任務の結果だ。どうやら噂の新型は連邦が既に着用してたようだ。まんまとやられたよ。」

 

報告を終えたグレアはヤレヤレと手を振り一息つく。

 

『あれだけ大口叩いといて・・・・連邦が本物の新型を持っていたのなら何故奪わなかったッ!!』

 

グレアの報告を聞いてルードが声を荒げる。

だがグレアは呆れたと言わんばかりに溜息を吐き説明をする。

 

「はぁ~。オレの任務は”スコートロン”の強奪であって未確認PSの強奪は請け負ってねぇんだよッ!!そんなにとって欲しかったんなら追加依頼しとけ馬鹿が!なんならテメェが奪って来いよ?どうせ基地手前でお縄に着くのが関の山だろうがなw」

『グ、グレアテメェッ!!』

「もっとも新型PSの情報はオメェさんらからの情報だったからなぁ~連邦の情報操作に踊らされ偽の情報をつかまされたんだろう。それはそちらの落ち度ってもんじゃあねぇのかなぁ~ああッ?」

『はぁ!?調子乗ってんじゃないわよガキがッ!!』

『やめろ馬鹿共。グレア、お前から見てその新型はどう思う?使えるか?』

「ふ~む・・・結論から述べると無用だな。スコートロンを超える性能は驚かされるがこれといって凄まじい機能があるわけでもなくただ固いだけ。まさに盾そのものだ。お前の理想の役に立つような代物ではなかったな。(他に機能があれば別だが)」

『そうか、お前が言うのならそうなのだろう。今回はよくやった。それでウィンター、例のモノは手に入れたのか?』

 

グレアの説明を聞き納得したゼクサは興味なさそうにウィンターの報告を聞く。

 

「依頼にあった神性異物と聖遺物は研究班に送り解析中だ。近いうちにそちらに解析結果が送られるはずだろう。」

『わかった。計画は着実に進みつつある。【アンリミテッドワークス】が完成した今我らの戦力は連邦を凌駕した!後は【ティアマト】の完成と例の物が手に入れば良いのだが…進捗はどうなっている?』

 

ゼクサはウィンターの報告を淡々と聞きすぐ視線をグレアへ移す。

 

「だいたいの設計は完了してそっちの技術者が組み立ててる筈だ。だが肝心の炉心なんだが……まだ目途が立っていない。一つでアレをまかなえるだけの火力がなぁ~……世界を燃やすほどの炎があれば手っ取り早いんだがなぁ~例の物はオレの専門外なんでそっちで何とかしてくれ。」

『貴様!ゼクサ様の手を煩わせ『よかろう。』ゼクサ様!?』

 

グレアの態度に耐え消えなくなったクルーザンが声を上げるがゼクサの了承に驚き言葉を失う。

 

『会議はここまでだ!お前たちは持ち場に戻り役目を果たせ!グレアはスコートロンのデータを提出しろその後は改造するなり好きにするがいい。』

『『『はッ!!(御意!!)』』』

「ヘイヘイ」

 

幹部を映したモニターが消えゼクサのミニターだけが残るのを確認したグレアたちも部屋を出ようと扉に向かう。

だが・・・

 

『グレア、お前はそこに残れ。』

「あん?」

 

グレアだけ呼び止められた。

ウィンターは一度グレアを見据え、すぐに扉へと向き直るのであった。

部屋に一人残されたグレアは心底イヤそうに溜息を吐く。

 

「で?なんなんだよオレだけ残して?他になんか要件があんのか?」

『イイヤ。私からは何もない。・・・・私からはな』

「・・・・・・・・・・あぁそういう事か」

 

含みのある一言で何かを察したグレアは視線を全モニターに向け、右端の一つのモニターが薄く輝っていることを確認する。

 

「最初からずっと見てたんだな・・・・ディセンダー。」

 

―――――キタイドおリnO働キヲシテイル用ダナ。――――

 

ノイズの混じった声のような意識のようなものがグレアの頭に直接伝わってくる。

それはディセンダーの声であり聞こえるのはゼクサを含んだごく少数、指を数える程度しかおらず、グレアもその一人なのだ。

頭に入ってくる不快感にグレアは眉を顰めながら口を開く。

 

「言われた通りの事を忠実に従っただけだ。わざわざそんなことを言いに来たのか?」

 

―――イイ矢。御マエ2アタラシイ任務をヨウイシタ。hi奇ウケ手呉れるな?――――

 

「はぁ?ついさっき帰ってきたのにもう次かよ!人使いあれぇなぁ。」

『グレア、ディセンダー様にそのようなk』

 

―――鎌ワン。―――

 

『ハッ!失礼いたしました!!』

 

目的の為なら手段を選ばない冷酷なゼクサが相手に媚びを売る異様な光景。何度も見てきたグレアにはもう見飽きた光景で早くこの場を出たいと本音を押し殺しながらディセンダーの真意を探る。

 

―――報酬ㇵ素手にワタシてR。Zuぼん乃ヒダリノぽけっとを白べテミロ―――

 

一瞬「は?」と思ったグレアは言われた通りズボンの左ポケットに手を突っ込む。

ポケットの奥の方まで突っ込んだところでなにかビンのような物が入っていることに気づく。それを取り出してよく見ると、ホルマリンのような液体で満たされた筒状のカプセルの中に骨のような物が固定されていた。

一目見た瞬間グレアはそれを理解した。それはグレアがずっと望んでいた代物だったからだ。

 

「こ・これは!?」

 

―――オマエがずっと欲しがっていた神性異物・【アシュヴァッターの脊髄】だ。それで望んでいたモノを作るがいい。任務はもう一度ポイント3に戻りある人物の手伝いをしてもらう。―――

 

いつの間にかディセンダーの声はノイズが除かれており、音が二重に重なったようになっていた。

【アシュヴァッターの脊髄】出自不明の背骨のような神性異物。不滅の炎を宿し、被験体に移植したところ体を燃やした例のある危険な代物。

 

「・・・いつの間に?」

 

―――メディカルルームでは随分リラックスしていたな。基地の中とはいえ油断大敵だぞ―――

 

「ハイハイそうですね。・・・受け取った以上引き受けるのはいいが、なんでオレなんだ?他の連中でもよかったんじゃないのか?」

 

―――これはオマエにしか務まらない仕事だ。それにこの任務はお前にとっても必要なものだ。お前の命運を左右する程にな・・・、どうあがこうとお前は己の選択から逃れられないのだよ。それが、世界の意思(運命)だ―――

 

【運命】。その単語を聞くだけでグレアの思考は加速し否定の眼差しをディセンダーに向ける。

 

「くだらねぇ。そんな誰が書いたシナリオで全て決められると思うな!!オレの選択はオレが考えて導き出した答えだ!!オレが此処にいるのもオレの頭脳で解き明かした証明だからだ!!その結果すら運命というのならオレはその運命を焼却して証明してやるッ!!よぉく見とけディセンダー!オレが世界を焼き払い全てを無に帰えすさまをな!!オレは・・・・・運命の焼却者だ!!」

 

―――・・・・・・・・・フッ!あぁ、楽しみだよ。お前が人の歴史を燃やし運命を否定する未来をな!!―――

 

しばし沈黙が続いた。一瞬のような、永遠のように思える長く短い虚無が流れた。

頃合いと判断しディセンダーが口を開くことでその沈黙を破る。

 

―――話は終わりだ。自分の部屋に戻り任務の準備にあたれ。―――

 

「あぁ、そうさせてもらう。」

 

モニターに背を向け一直線に部屋を出ていくグレア。グレアが退室したのを確認したのちディセンダーが口を開く。

 

―――奴の任務が終ったら研究データをすべて回収しろ。―――

 

『は?』

 

意外な命令に間の抜けた声を出すゼクサ。だがディセンダーは冷酷に内容を伝えていく。

 

―――この任務で奴は我々と袂を別つことになるだろう。どれだけ世界を憎もうと愛情で目的を見失うのが(グレア)と言う男だ。だが奴が残すものはお前達の役に立つだろう。それが世界の意思だ。―――

 

『はっ!仰せのままに!!』

 

会話は終り、モニターの電源が切れ部屋は暗闇に包まれた。

 

 

 

 

グレア視点

 

ようやく目的のブツを手に入れた。こいつがあればオレの理想のPSが作れるはずだ。

既に設計は出来ている。後はコイツ(神性異物)のマッチングが上手くいくかだが、、、、とラボに着いたな。

 

「ただいま~」

『お帰りなさいませ、グレア様。』

 

扉をくぐるとホログラムの球体がオレを出迎える。

彼女は【ソーニャ】、オレが作った対話インターフェイスを搭載した自作の人工知能だ。元々はオレのメンタルケアを目的に作った医療用AIだったがPSの設計や作戦の立案の検証などを一緒にやっているうちに学習しいつの間にかオレに助言などするほど賢くなってしまった。その為今は医療用でなくラボの研究開発補佐を担当している。

 

「ソーニャ、〈様〉はいらないと何度も言っただろう。まぁいい、すぐに【アルマデル】の設計図を開いてくれ。コイツの解析も忘れるな。その上で何処に組み込むのが最適か検討する。」

『かしこまりました。』

 

ラボ中央のモニターまで進み展開された設計図と神性異物のデータを見比べてみる。

 

『対象から検出される物質に微弱なマナを検知しました。アルマデルの設計上、神性異物を組み込む場合、人体の浸食を視野に入れなければいけません。』

 

さっそく問題点を突き付けてきたな。だがすでに対応策は考えてある。

 

「確かに神性異物の力を使うには人体の浸食は必要不可欠だ。だが直接でなくても力を抽出できるはずだ。神経接続プラグを利用した間接的な疑似浸食ならどうだ?理論上は可能なはずだが。」

『・・・・・・・・・・・可能ではありますが危険です。神性異物を使用して無事で済んだ例がありません。疑似とはいえマナ由来の物は基本的人工物との相性が悪いです。』

 

確かにそうだ。マナはどんなものであれ人間に関りのあるものをマナに変換する浄化現象を起こす。ゆえにマナを動力にする技術がなく機械とは相性が悪い。

オレがいなければ話は別だが。

 

「マナは濃度によって浄化機能が左右される。微弱なマナ濃度なら浄化機能は低くPSに組み込んでもさしたる問題はない。それに、濃度を薄めて動力にしたエーテルリアクターもある。リアクターに接続すればマナの問題も解決するんじゃないか?」

『・・・・・・・・その答えが出ることは予測しており既に製造に至る段階まで考えた時点でもう理解していますが、本当によろしいのですか?』

 

ソーニャの言いたいことは解る。ずっと一緒に研究してきたんだ、オレがアルマデルを完成させることはどれだけ討論しても避けられないと言うことを。

そして完成させればもう後戻りはできないことも。

 

「フッ、いまさら自分の命なんて惜しくもないさ。初めから自滅するのを前提に設計してきたんだ。世界を、いや、この星を焼き尽くすためにオレはオレの全てをなげうって今まで生きてきた。あの日、オレの世界を否定した世界に報復するためにな!だからこそ必要なものを探し、解らないものを理解するために新しい知識を手に入れた!」

『おかげで科学者なのに医者やら考古学者じみたことをしていましたね。傭兵もでしたが』

「茶化すなよ(汗)。とにかくだ、アルマデルは完成させる。今まで得た知識と技術を駆使すればこの星を灰燼に帰すことは不可能ではない!荒れ地を緑豊かな大地に変える事も出来たんだ、今回だってそうさ、誰もが出来ないとほざきやらなかった空論を現実にし、全てを灰に帰してやるッ!!」

 

熱くなり語っていた自分の恥ずかしさを覚えたがソーニャは口を挟まず全てを聞いていてくれる。そこが機械のいい所でもあるが、それ故にこの世界にはオレを案じてくれる奴はいないんだと痛感させる。

 

『解りました。ですがこのことを友人のヴォルフェス様とヨハン様に黙っておくのですか?お二人はグレア様の事をとても信頼されておりましたのに。』

 

嗚呼そういえばあいつらがいたか。確かにあいつらは良い奴だ、こんな世の中でも夢に目指して必死に生きてる。

・・・・・・・・・だからこそ反り合えねぇ、オレのこれは夢じゃなく手段だ、アイツらの目指す場所とオレの行き着く先は全くの真逆だ。

それに・・・・・・・・オレは○○○○さえいればよかったんだ。

だからいいんだ。アイツには悪いが、この星もろとも消えてもらう。

 

「フゥ~。この話は終わりだ!さぁさっそく製造に移ろう!計算が合っていようと実際に試さないと解らないこともあるからな。一つ一つ検証していって確実のモノにしてやろうッ!!」

『かしこまりました。』

 

 

火種は蒔きにくべられ燃え上がった。後はこの火が世界中に広がり炎炎の焔となるようにするだけだ。

○○○○、待っていてくれ、もう少しで世界に復讐できるから・・・・・・・・・・・・・・あれ?

 

 

 

 

 

世界を憎む男は自分の目的が叶うことに喜び歪んだ笑みを浮かべるが自分が涙を流していることに気づき動揺するのであった。




ヨハン「う~~~~ん・・・・」
パラケルスス「おやヨハン君どうしたんだい?」
ヨハン「あぁパラさん。ソーニャさん見て思ったんだけど、うちのアニキ、傭兵なのに科学者ていうのがよくわからなくてどういうことなのかな?って。」
パラケルスス「パラさんて・・・君はウィンストンて知ってるかな?」
ヨハン「煙草のですか?」
パラケルスス「いや、それじゃなくてね。まぁ彼は戦いながら考える人と考えればいいのさ。」
ヨハン「戦いながら考えるって、なんか余計に解からなくなってきましたよッ!」
パラケルスス「まぁ彼はどれだけ行ってもハルクが関の山。どれだけ賢くなっても彼はトニー・スタークには成れないんだよ。」
ヨハン「さっきからなに言ってるのかよく解らないんですがぁッ!?」


次回「騒乱の夜明け」


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第六話「騒乱の夜明け」

現在公開可能な情報

融合事変以降の世界
異なる世界同士が融合したことで大きな混乱が起きたが地球連邦の設立により鎮静化された。国という形を廃止し一つの組織として動き人類の敵に対抗するために結束を強めるようとするが聖罰の大陸浄化が人類の生息域を脅かし、活動領域の分断を余儀なくされている。
エリア同士で連絡し連携を維持しているが特定の企業や団体などの野心がいつ牙を剥いても可笑しくない。



この世界は人を否定した。

 

青々と生い茂る草花と緑豊かな山々。その草を獣が食し、猛獣が獣を喰らう自然本来の景色。

 

人という異物を取り除き本来あるべき姿を取り戻した世界、「聖域」。

 

地面からは光の玉「マナ」が断続的にあふれ出し天へと昇っていく。

 

アレは純粋なエネルギーであり生命を生み出す素なんだとなんとなく理解する。

 

温かく眩しい光、人が触れれば瞬く間にマナとなって浄化されるものがこの世界に満たされ循環されている。

 

この世界では生と死の境界はなく食われた草はすぐ生い茂り喰われた獣は光となって母体へと戻り生まれる。猛獣も然りだ。・・・・とても異質だ。

 

幻想的で争いの無い世界・・・・・・・・何故そんな世界で俺だけが消えず存在しているのか・・・・

 

見えるはずの無い人が俺を見つめ、聞こえるはずの無い声が俺に語り掛ける。

 

――どうして助けてくれなかったの?――消えたくないよ――なんでお前だけ生きてるんだ――ズルい――助けてくれ――許さない――お前は何も守れない――私達を見捨てた――憎い――返せ――俺達の未来を返せ―――――――

 

これは現実じゃない。過去の記憶と自分自身の嫌悪が混じり合った夢だ。

 

彼等はそんなことを言う事も出来なかった。消え入る瞬間を恐れることで精いっぱいだったはずだ。だからこの声は俺自身が彼らの思いを代弁したものにすぎない。

 

次第に声は消え人影も一人また一人と消えていく、一人の少女だけ残して。

 

この娘は俺が避難誘導をしている際保護した少女だ。親とはぐれ泣いていたのを見つけ抱きかかえて避難所にむけて運んだあの少女だ。大丈夫だよと声をかけ泣き止ませ家族のもとに連れて行くと約束し笑顔を見せてくれた彼女を俺は守れなかった。

 

聖罰の光にのみ込まれ俺の腕の中で消えていく彼女を俺はただ見ているだけしか出来なかった。

 

「・・・・・・・・・・すまない。」

 

なにも出来ず救えなかった俺は謝ることしか出来なかった。

 

「―――――――――」

 

彼女が口を開くがその声は聞こえなかった。

 

いつも同じだ。同じ夢を見て何度も彼女の言葉を聞くことが出来ない。

 

彼女が何を伝えたいのか、理解できないことに焦り彼女の元へ向かおうと足を踏み出すと景色は一変し舗装された道路のコンクリートを踏む。

 

すると体の力が一気に抜け地面に倒れ伏してしまう。

 

これは聖域を抜け人の地に出た時の記憶だ。聖域を出ようと歩き続け、太陽が昇って沈むのを数えるのを繰り返して三十超えたあたりでようやく出れた時の記憶だ。

 

聖域では飢えと言うものも感じず何も食べなかった、食べなくても体を動かすエネルギーはマナから供給させそれ故に空腹を感じず眠ることもない。聖域にいれば何も食わな無くても生きられるのだ。

 

だから聖域を抜けた途端、人本来の疲れと栄養を取っていない故に栄養失調に陥り倒れ伏したのだ。

 

夢の中だというのに意識が薄れ次第に視界が暗くなる。やがてまぶたを閉じ意識を失う。

 

それが夢の終わりであり現実へと連れ戻さる工程である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んっ・・・・・うぅ・・・・・」

 

目が覚め見える白い天井。

 

「目が覚めた?」

 

と逆さに映る鳶一隊長の顔。

 

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 

寝起きと突然の出来事に混乱が中々収まらない!

 

「あ、あの~鳶一隊長?」

「なに?」

「何故俺は隊長に膝枕されているのでしょうか?」

 

そう俺は本来の畳の床ではなくふっかふかなベッドに寝かされており、なぜか鳶一隊長の膝に頭をのせている(いや乗せられている)状態であった。

 

「顔色を変えず苦悶の声を出し大量の汗を出していたからうなされていると思い処置を行っただけ。」

「それが何故膝枕!?」

「人肌に温められると大概の人間は落ち着くと科学的に証明されているから」

「それ絶対ハグの方ですよね!?だまされてますよぜったい!!」

「・・・・・部下の体調管理は隊長の務め。」

「なんで言い直した!?」

 

俺には隊長が何を考えているのか解らない!何か裏でもあるのか?元から感情が読めない顔をしているからなおのこと理解できない。

 

「お?目が覚めたのかい?」

 

混乱の最中、天の救いか地の災いかはわからないが日下部副隊長が入り口のドアを開け入ってきた。

 

「副隊tyッ!?ぐぉおおおおおおおお!?」

 

俺は勢いよく上体を起こした途端、全身を尋常じゃない激痛が駆け巡り悲鳴を上げる。

 

「あぁ重症なんだから無理しないの、顕現装置で治したと言ってもダメージは残ってるんだからね。」

「ッ!そうだ!任務は!?あれからどうなったんですか!?敵は!?味方に被害は出てないんですか!?」

「落ち着けって言ってんでしょ!!」

 

副隊長は取り乱した俺の頭頂部にご自慢の鉄拳を繰り出し鎮圧した。頭が割れるかと思われるくらい強烈な激痛が脳天に集中する。

 

「お、おれ重症患者なんですよね?・・・」

「悪いわねつい手が出てしまったわ。」

 

その後落ち着いた俺に副隊長は襲撃の後の事を教えてくれた。

基地の被害は小さなもので負傷者も軽傷、広場は巨大生物の体液で汚染され死骸からサンプルを取り焼却処分、除染に数日を要するらしい。敵が使ったロケットやバンカーは証拠を残さないためか自爆し解析不明な状態まで壊れたらしい。そして敵に逃げられた隊長達はすぐ倉庫に向かい正体不明のPSを纏って倒れていた俺を見つけたらしい。

あ、因みに鳶一隊長はベットから降りて椅子に座っていただいてる。

 

「いやぁ救護班から聞いた時はヒヤッとしたわよ。あんた息してないし心臓止まってるし左腕の骨が砕けて原型とどめてないていうしどんな戦い方したらそうなるのよって話よ!」

 

それ重傷通り越して死んでません!?よく蘇生できたな顕現装置!科学が神秘を再現できる時代の素晴らしさを今理解したよ。

 

「なにはともあれ。そい!」

「んぎぃ!?」

 

副隊長は俺に歩み寄り首筋に何か注射のようなモノを打たれた。

 

「な、なにをやったんですか・・・?」

「強心剤よ、これで歩けるはず。」

「メタルギアかッ!!」

「ごめんあんたが何言ってるかあたしにはよく解らないけど多分それで合ってるわ。」

「すいません俺もなんの単語言ってるのか解らないですが納得しないでください。」

「強心剤。主に衰弱した心臓の機能を高めるために使用する薬剤。ジギタリス製剤・キサンチン誘導体・ドーパミンなどg・・」

「誰も効能なんて聞いてませんよ!!」

 

唐突なボケの副隊長、冷静にボケをかます隊長、この隊にはツッコミが少なすぎる!!

 

「そもそもなんでそんなもの打ったんですか?」

「あんたが目覚めるのを誰かが確認したら直ちに打つように各隊に言われてんのよ。ねぇ折紙?」

 

隊長がコクンとうなずいて胸ポケットからトリガータイプの注射器を取り出す。ほんとうに皆強心剤を持っていたようだ。

 

「さて!薬も打ったしさっさと司令部に行くわよ。あれからずっとお預けくらってたんだし、あんたのこと含めよぉく聞かせてもらわないと!!」

「着替えはここに置いてある、着替え終わるまで外で待ってるから急ぐように。」

 

俺の軍服が入ったカゴを置き部屋を出ていく隊長達。

・・・・・・・・・・・・・俺、重傷なんですよね?

激痛は走るがそれでも体を動かし、痛みに悶えながら着替えを済ませ隊長達と合流し司令部に向かう。

 

 

 

 

 

司令部に到着し中に入るとブラスト小隊の皆やあの時テロリストの襲撃に対応した隊達が整列していた。

 

「来たな、君が目覚めたことは既に各隊に通達され把握している。これでようやく事件の報告ができると言うものだ。」

 

なんで各隊に通達されてんの!?どっかに隠しカメラでも設置されてるのか司令!?

なんて言うのは流石に野暮だな、隊長達の後に着いていき列の中に加わる。

程なくして周りから視線を感じヒソヒソと耳打ちが聞こえる。無理もないか、”こんな髪”してれば。

今まで俺は軍帽をかぶって髪の事を隠していた。俺の髪は前側が普通の黒髪の短髪で後ろ半分は肩まで伸びた長髪、色はグラデーションのように黒から白に変色している。おまけに先端の白髪は薄く発光しているのだ。気にならない筈がない。

 

「なぁ、おい一颯。その髪って・・・」

 

とうとう耐えかねてマイクさんが声をかけてきた。

 

「あぁ、、、やっぱり気になりますよね?この髪、聖罰を受けてからずっとこんな感じで、切っても朝になるとこの長さまで伸び切るんですよ。」

「また、聖罰か・・・」

「そう!聖罰を受けて生きて帰った唯一の人間!!それが今回の作戦の重要なファクターなのさ!!」

 

屈強な兵士たちが集まるこの場でとても似つかわしくない幼女の声が司令部にこだまする。てかこの声って・・・

皆が謎の声に動揺した束の間、司令の後ろに隠れていた小さな影が躍り出て高らかに声を上げる。

 

「やぁ諸君!ご機嫌は如何かね?良いとは言い切れれないだろう、なにせ突然の襲撃、新型PSを盗まれ大変歯がゆい気持ちだろう。だがしかぁ~し!気にすることは無い!!なぜなら~新型PSは既にある隊員に渡してあるかね!!」

「あぁ!!あの時の武装少女!!」

「知り合い?」

「そんな訳ないでしょう!?こいつはあの襲撃のあさ、俺の部屋に侵入した不審者ですよ!おまけにスタングレネードまで持って怪しいのなんのって。てかしゃべり方変わってる!?あの時と全然違うんだが!!」

「あぁあれねぇ~。いや~せっかく所属するわけだし、なにかキャラでも作ろうかと模索してたんだけど、途中で飽きた。」

 

飽きたんかい!!てかいま所属するって言ったか?!

 

「んんッ!このままでは話が進まないので私が紹介しよう。彼女は一番隊の技術班として着任したウィル・アイン博士だ。」

「え?ウィルってまさか!?あのウィルですか!?」

 

突然のワードにマイクさんが狼狽するのを見てニィ、、、と不敵に笑う少女。

 

「そう、私こそ君たちが利用してる事象反転装置の生みの親にして人類の未来を守らんと研鑽する天才!ドクターウィルその人さッ!!」

 

俺を含め隊の大半がその事実の驚きの声をあげる。ウィル博士は連邦軍であれば知らない者はいない有名人だ。人類の脅威に対抗するための発明を連邦に提供し今の体制を維持してきた。

それがこんな身長130cmほどの幼女だとはだれも思わなかった。

 

「うんうん君たちの気持ちは大体察したよ。目に見える事柄に囚われ真実を認められない実に人間らしい反応だ。私の予測通りでむしろ安心するよ。」

「ウィル博士、そろそろ本題に入ってもらおうか。」

「やれやれ、レナルド君は心にゆとりと言うものを持った方がいいと思うよ?「ウィル博士!」ハイハイ解りましたよ。」

 

博士のあっけらかんとした性格に皆呆然とするがレナルド司令はペースを乱されることなく厳格な態度で博士を制する。

 

「さてと!君たちが事件のことで知りたいことは新型PSの件だったね?奪われたスコートロンの事で気に病む者がいるなら必要ないので気にしないでくれ。アレは私の最高傑作の性能を引き立てるための真っ赤な偽物だからねw」

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

ふざけんなよおいッ!!じゃあ俺は偽物に命かけて取り戻そうと奔走したのか!?死にかけたのにとんだ無駄足じゃあねぇか!!

 

「まぁまぁ落ち着きたまえ諸君。君たちを騙したことには申し訳ないと思っていないが、全ては新世代型PSの起動の必要な処置だったんだ。」

「「「「新世代型PS?」」」」

「そう!!万能型強襲用支援機【セブンスライト】。人類を守る盾にして未来へ架ける橋、私の技術の粋を集め心血を注いだ新時代に投じる一品さ!!」

 

高らかに機体名を告げ高揚感に酔いしれる博士と対照的に聞いたことのある機体名に心臓の鼓動が激しくなり汗ばむ俺。つまり博士が言った新型PSを持っている隊員というのは俺の事だ。だが肝心のセブンスライトを俺は持っていない!マズい!これは非常にマズい!!

 

「事象反転装置とPSが普及し現代、一般兵でもノイズを倒せる今の連邦にとってノイズはもはや脅威ではなくなった。だが天使はノイズなど比較にならない程強力な敵だ。天使はノイズと違って出現確率が極めて低い。人が密集している場所に現れる習性があるが必ず現れるわけでもなく、残念なことに今の武器では天使の衣に傷をつける程度しか効果がない。今の連邦軍に出来ることは天使に集中砲火を浴びせマナを霧散させることで消滅(ロスト)させることくらいだ。だが消滅は一時的に活動を止めるようなもので殺すに至らない。天使殺しのエキスパートである一番隊であるなら話は別だけどね。だがいくら一番隊でも世界各エリアに出現した天使を倒すのは至難の業だ。仮に遠いエリアで出現したら今の移動手段では間に合わない。

そこでセブンスライトが活躍する訳だ!!理解したかな、一颯君。」

 

俺を名指したことでみんなの視線が俺に集中する、どうしよう(汗)

 

「完成したセブンスライトを一度電子化させ君のヴィンディケーターの回路内に忍ばせた時はちゃんと起動してくれるか不安であったが君は見事私の期待に応えてくれた!!

強奪されたスコートロンと対峙し相手に一泡吹かせたのは爽快だったよwやはり私の予測に間違いはなかった!」

「で、ですが。俺はそのセブンスライトを持っていません・・・」

「あぁ大丈夫。セブンスライトは君の中にあるからね!」

 

は?・・・・・・・あまりにも現実味を感じない発言に胸の鼓動が速くなり胸に手を添える。

 

「おれの・・・なか?」

「そう君の中。ずっと考えていたんだよ。いくら強力な兵器を作ろうと、奪われれば元も子もない。どうすれば盗まれずに済むか模索した結果、使用者と兵器を【同化】させればいいと思ったわけさ!

PSを量子変換し人体の物質構造に同化することで肉体の一部とする。そうすることで盗まれる危険を回避しお互いの性質が反発することもなく安全に扱えるという訳さ!【融合】だと異なる二つの性質が共存しどちらかに傾けば命の危険が伴う。だが【同化】ならお互いが同じ性質になり一つとなって安定する。1+1ではなく1×1なんだよ。

つまり君がセブンスライトでありセブンスライトが君であるんだ。理解できたかな?」

 

いや一文字一句理解することが出来なかった・・・・・今のはオンドュル語か?

 

「いろいろトラブルはあったが無事起動したことでソレは完全に君のモノになった。まぁもともと君専用に創ったから当然なんだけどね。」

「俺専用・・・ですか?」

「あぁ、セブンスライトの装着者は初めから君と決めていたからね。性能は素晴らしかっただろ?」

「え、えぇ・・・扱えない程ハイスペックで・・・てそうじゃなくて!なんで俺なんですか!?」

「君は特別だからさ。聖罰を受けても消えず、聖域から脱出した唯一の人間!天草一颯こそ私の発明を託すに相応しい!!」

 

また聖罰か、、、その言葉を聞くと胸の奥が痛み体が重くなる。それだけの理由で貴重な新型を託されるのは非常に心苦しかった。

 

「間違っている。」

「うん?」

「ただ聖罰を生き残っただけで新型を託されるのは間違っている!

俺は特別なんかじゃない!

タクマ隊長達のような世界を救った英雄でもなく、最近復帰したばかりのただの軍人だ!

新型は俺なんかより有効に扱える人がいるはずです。ですので「いいや君は特別だ」ッ!」

 

話の途中で博士は声色を変え真剣な表情で俺の意見を打ち切る。

 

「そもそもセブンスライトを起動した時点で君が特別な存在であることは証明されたんだよ。」

「え?」

「セブンスライトはただのPSではない。【聖遺物】というガラクタを「貴重な異端技術をガラクタと…」レナルド君シャラップ!!。コホン、そのオーパーツをコアとして組み込んでいてね、既存するPSの範疇を超える超常的な代物なんだ。

使った聖遺物はふたつ。あらゆる攻撃を防ぐ無敵の盾【氷盾・スヴェル】、世界の端と端を繋げる無窮の橋【虹橋・ビスレスト】。正確にはビスレストは橋を起動する鍵なんだけどそれは置いといて、この聖遺物は起動するのに特殊な方法でないと動かなくてね。現在確立されている方法は反政府勢力『特異災害対策機動部二課』が保有する兵器『シンフォギア』の適合者による歌から発せられる『フォニックゲイン』というエネルギーで稼働する方法でね、現状それ以外の方法が見つからなかったんだよ・・・・二年前までは。

私は研究を重ねついに聖遺物を起動させる方法を見つけた。ようは特定のエネルギーで動く機械に万能燃料を注げばいいと言うことだと気付いてね目的の燃料を探したんだ。そして『マナ』に行き着いた訳さ!

マナはあらゆるエネルギーの原点であり命の源でもある。つまりマスターキーとして使えると言うことだ。

私は実験を重ね聖遺物が起動できることを立証しPSへと組み混んだ。

だが起動できたのはマナを照射している間だけ、しかも人が管理できる濃度の低いものだからか機体の性能をろくに引き出せなかった。

・・・・・それを君は、フルパワーの状態で起動しその力を悠々と振るってみせた!!

つまり君にはセブンスライトを纏い聖遺物の力を完全に引き出すほどの膨大で高濃度のマナを宿し生成しているという訳だッ!!」

 

ビシッと俺に指をさし博士が断言する。

 

「俺の中に・・・・マナが?」

 

あまりの事実に動揺し思考が追い付いていけない。

 

「おそらく聖罰を受けた時からだろう。それだけじゃない、襲撃を受けた時ここから(司令部)君の映像を見させてもらったよ。

あの時君は何度も命の危険にさらされていたのに何度も立ち上がり常に冷静に立ち回っていたね?普通なら恐怖におののき逃げ出しても可笑しくないというのにだ。

まるで自分の生死が解かっているかのようだ。」

「ッ!!」

「図星か。君は”次元難民”だから過去の記録は無いが少なからず聖罰前はそうではなかった筈だ。それが聖罰以降その力を宿しいままで生きてきたのだろう。

私が何を言いたいか解るかい?

天草一颯、何故君が体内にマナを宿しているのか、何故自分の生死の境界を理解できるのか、何故聖罰を生き残ったのかッ!!・・・・その答えは唯一つ。

ハァ~・・・・天草一颯!君が、人類で唯一、マナに適合し人から逸脱した存在だからだぁッ!!」

 

突きつけられる博士の結論。それが憶測だろうと今の俺には衝撃的すぎてなんといえばいいのか解らなかった。

他の皆もざわめきだし混乱し始める。

 

「じ、冗談ですよね?俺をからかう為にそんなこと言ってるんですよね?」

「冗談をいう雰囲気だと思うか?」

「・・・・・」

「信じられないのは仕方が無いだろう。だがそうでなければ君の髪の辻褄が合わないんだ。」

 

俺の髪が?

 

「君の体をスキャンしてわかったことだが、君のその変色した髪の先端からマナが放出しているんだ。といっても濃度が極めて低く、浄化されてない空気に混ざり消えるほどだがね。

おそらく体内に収まり切らなくなったマナを発光に使い消費し排出しているのだろう。

それに聖罰以降そうなったと自分から言ってた以上私の仮説は明確だと思うがね。

これで納得してくれたかな?君は特別な存在でありそれ(セブンスライト)を託すに値する人間であると。それとも、この期に及んでまだ自分はタダの人間と言い張るのか?

悪いが事は君が思ってるほど生ぬるい物ではない!私達人類は天使・ノイズという共通の敵に脅かされている。

君は既に人類存亡をかけた戦いの中枢を担う立場にあるんだ。いつまでも新人だからといって臆してもらっては困るんだよ!戦うと決めたのだろ?そのための力をもっておきながらウダウダしているんじゃない!!」

 

博士の鬼気迫る説明を聞き自分という存在を再確認する。確かに俺は聖罰を受けて変わった。その変化に気づいてないふりをし目をそらし自分が普通の人間じゃないという事実を恐れていた。だがそんなことはもうどうでもいい!

どんな力であろうと俺は俺だ!あの地獄を再び起こさないためにもう一度戦場に戻ると決めたんだ!

なら迷うことは無い、必要なものは託された。あとは俺次第だ。

 

「ふぅー、、、へいきへっちゃらへいきへっちゃらへいきへっちゃら。すぅ~はぁ~。

情けない姿を見せて申し訳ございません。でももう大丈夫です!

自分に何ができるか何も解りませんがやるだけのことをやってみます!!」

「・・・結構!ああ言っておいてなんだが何も君に重荷を背負わせる訳じゃない。ただ一番隊のハードな出動に役立てて欲しいだけなんでね、自分の正しいと思ったことを貫いてほしい。」

「そうだ天草!一番隊の隊員らしく自分を貫き通せ!」

「そうそうエイリアンの大群に囲まれるより大変な任務に放り込まれるから覚悟したほうが良いぞぉ~w」

「いやいやそれアンタ等(ブラスト小隊)の経験談だろ!」

 

タクマさん達の激励と副隊長のツッコミで現場に笑顔が戻る。嗚呼こんなにも頼れる仲間がいるのに何を恐れてたのだろうか。

場が和んできた所でウィル博士が両手をパンパンと叩き話を戻す。

 

「さて、この件はここまで!次は襲撃者の主犯についてだ。更識君、例の資料を。」

 

そう言われオペレーターの席から変わった髪飾りと眼鏡をかけた水色の長髪女性が立ち上がり博士の横に並び立つ。

 

「紹介しよう、彼女は更識簪君。元IS学園の生徒で現在は私の助手として働いてもらっている。では更識君後は頼む。」

「はい博士。ではこれをご覧ください。」

 

そおいい手に持っているタブレットを操作し司令部のモニターに写真やグラフなどが映し出す。

粉々に砕けた鉄の欠片、穴ぼこだらけのエイリアンの死体、黒焦げになったPSの残骸などなど襲撃に使われた兵器の写真だ。

 

「襲撃後回収した残骸を解析したのですがどれも損傷がひどく何処で造られたのかすら解りませんでした。ですが、襲撃のタイミング、間をあけての強襲、一番隊の足止め、そして倉庫内部に仕込まれていた転移装置、そして所在を特定できないように機材の破壊するなど用意周到に練られていた戦略。これらを総合しますと敵は知略を得意とし戦い慣れている人物だと予測できます。

そしてあの自爆、あんなことを好んでやる人物といえば皆さんもうお解りでしょう?」

 

更識女史の説明を聞いて周りの隊員たちが「アァ~」と何かを納得し数人が溜息を吐く。え、どういう事?

 

「これらのパターンを以前に各エリアで起きた反政府運動と照らし合わせると同様のケースが検知出来ました。そしてそれらの運動で作戦指揮をしていたのがこの…」

 

タブレットを操作しモニターに一人の男の顔写真を映し出す。特徴的な銀髪、見間違えるわけない。奴だ!

 

「彼の名は《グレア・ラインフォード》シンジケートに雇われた傭兵で知略と自爆を得意とする危険人物です。鳶一少佐の証言から傭兵の《ヴォルフェス・ボナパルト》がいたこともあわさりグレア()が実行犯で間違いないでしょう。」

「『双炎』の二人か、厄介な敵が現れたものだ。」

「でもでも、もうやってこないだろ?盗るもんとったんだしもう別のエリアに高跳びしちまったろ。」

「そういう問題じゃないだろマイク!あんたこの第三基地がテロリストに負けちまったて世間が知れたら大問題なんだよ!?」

 

主犯格がグレアと解かるとタクマさん達が口を開き思案する。だが俺にはそれよりも気になることがある。

 

「あのぉ更識女史。」

「なんでしょうか?」

「先程グレアが自爆を得意といってましたがそれってどういう事でしょうか?」

「あぁ、天草さんは初めてでしたね。グレア()は何度も持ち前の頭脳で連邦を翻弄しているのですが、撤退やここぞという場面で必ず自爆するんです。味方のPSや自立兵器など見境なく爆破しとても危険です。しまいには自身のPSにも爆薬詰め込んで特攻してきます。自分と他の構成員たちのPSに脱出機構を付けて自分達には被害を出さず連邦に甚大な被害を与える悪魔の策が彼のアイデンティティになっているわ。」

「知略と謀略を駆使しトドメとして自爆するとにかく自爆する。尋常じゃない自爆への執着から《陳宮の申し子》なんて呼ばれているよ。まぁ結論、彼は自爆する、理由の有無関係なく自爆しなければ納得しない、そう言った人間なのだよ」

「ビリリダマかッ!?」

「私はクヌギダマの方が好きだがね。」

「どっちでもいいわ!!」

「博士、話が脱線しますから黙ってください。」

 

更識女史の冷たい一言に「私の方がエラいのにぃ~」と愚痴をこぼしながら大人しくなる。

 

「話を戻して、彼の自爆があまりの驚異の為、連邦軍から台風のような印象を受け皆関わりたくないんです。」

「あぁ~だから皆さんの顔色がよろしくないのか。にしても流石ですね、こうも早く敵の正体をつきとめるなんて!」

「でもいくら正体が解かっても私達に打つ手はない。」

 

各隊が対策を講じようと思案してる最中鳶一隊長が放った一言で場が一瞬に静まり返った。そして追い打ちをかけるように副隊長が続く。

 

「そうね、敵がシンジケートてのは解るけど肝心の居場所がわからなきゃこちらから打って出るどころか偵察すら出来ないわ。」

「肝心な証拠は彼お得意の自爆でコナゴナ、向こうは好きなだけ襲い私達の手の届かない安全地帯へと一瞬で逃げおおせた。完全に連邦(私達)の負け。」

 

隊長達の言葉に誰もが反論しようと思ったが事実である為言い返せず沈黙が続く。

だがこの光景を見て博士がにやりと口角を上げ口を開く。

 

「そう!いくら軍備を増強しようと君たちに出来ることはいつも自衛だけ!!自ら攻撃するには上からの許可が必要で常に対応に遅れる。敵は好き勝手暴れているというのにいつも君たちはその後からやってきてようやく武力を行使する。結局君たちは後からしか動けないなにせ『防衛』の軍だからね!!反撃しか出来ない。」

 

侮辱とも等しい暴言を吐き続ける博士、明らかに俺達を煽っている。しびれを切らせマイクさん辺りが異議を唱えようとした時。

 

「だがそれは悪い事ではない。」

 

博士自身が否定した。

 

「君たちは兵士だ。戦うことを目的として武器を取り死地へと赴く者だ、力は振りかざすモノではなく象徴であればいい。君たちは守るものがあるから戦う、だから後手に回ってしまうことは仕方が無いんだ。

だからこそ私達、智慧をしぼる者がいる!敵の居場所が解らないだって?上等じゃないか!なら解かるまで徹底的に調べ、つきとめてやるさ!!どうせ奴らは連邦を攻めてくるんだ、いくらでも対策は講じれるよ!」

 

途中からやけくそのような気もしたが皆の気が収まっているようだし言わないでおこう。

 

「彼らの調査は諜報部も動いている。詳細が分かり次第各隊に指示を仰ぐ。尚、鳶一・日下部両名は許可もなく冠位顕現装置(グランドクロス)を使用した為謹慎を言い渡す!!」

 

隊長達に指をさし怒気を込めた司令の言葉に驚いた。

隊長達の謹慎処分ではなく冠位顕現装置というワードの方にだ!

 

「グランドクロス!?それって世界で唯一顕現装置(リアライザ)を製造してるAIT(天草インテリジェンス)のあの!?」

 

グランドクロスとはAITが天使を倒すために世界各国の技術の推移を集めて開発された最高性能を誇る顕現装置だ。ISのVT(ヴァルキリー・トレース)システムの設計を一から見直したFT(フェイトトレース)システムによる歴史上の英雄の疑似人格を投影、CR‐ユニットに顕現させるというコンセプトを確立し顕現装置の域を超えた存在へと至った代物だ。

疑似とはいえ英雄の意志が宿っているため並の魔術師では使うことが出来ず、疑似人格を従わせるほどの強力な精神を持った特別な魔術師『契約者(マスター)』の存在が必要不可欠だった。だが契約者が纏えばその恩恵は絶大であり一人でノイズの大群を一掃できるほどの力があるとされる。

一人で大国を支配できるほどの性能がある為、連邦議会の決定で1エリアにつき適合者一人と決められている筈だ。

だが司令の言葉を聞く限り隊長と副隊長がそのグランドクロスを所持しているということになる。

 

「一颯君が驚くことも無理もないかく言う私も、第三がグランドクロス適合者を二人も保有しているのを知ったの時は驚いたよ。」

「激戦区である第三は通常より天使の数が多い、他の基地と同じでは対応が追い付かないのでな。至導代表より許可を得て二人まで引き上げてもらった。だが当然使用には上層部の許可が必要だというのに・・・・お前達という奴は!!」

 

着任して間もない俺だがレナルド司令程の方が怒気を込めてこんなに感情的になるのはそれほどグランドクロスが問題の代物という訳なんだろう。

そんな司令の怒りなど知らんというかのように司令部を出ていく隊長達。それを見てさらに怒りをあらわにしそうなのをウィル博士がなだめていた。まるで駄々をこねる息子を諭す母のように・・・・

司令が頭を冷やすために自室に戻ったため会議は終わり各隊は今後の対策や明日の職務の事を話し合いながら退室していく。

 

「あっ!一颯君ちょっと待ってくれ。」

 

俺も退出しようと思った時ウィル博士に止められ、白衣の中から茶封筒を出し俺に渡してきた。

 

「これは?」

「それはセブンスライトの戦闘に役立つ資料だ。セブンスライトは強力な性能を誇るがあくまで支援機だからね、武装も盾しかないから参考になる映像資料を用意した。ぜひ活用してくれ!」

「ッ!ありがとうございます!!必ず使いこなせるよう精進します!!」

 

親指をグッと立て笑顔を見せる博士に感謝し俺は急いで自室に向けて歩き出す。

病み上がりでさらに薬で無理やり立っていた状態の為走ることが出来ず早歩きで部屋に戻った。

はやる気持ちを抑え茶封筒の封を切り中身を取り出す。中にはディスクを治めた青いケースが二つありその表紙に目を通した。一枚には青いスーツを着た星のマークのついた盾を持つ青年が描かれ、もう一枚は厳つい鎧を着た初老のおじさんが描かれていた。そしてタイトルには・・・・・

 

『Captain America: The First Avenger』『イングヴェイ:伊達と酔狂に生きた男』

 

と書かれていた・・・・・・・・・

 

「ただのアメコミ映画じゃねぇかあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

怒声とともにケースを地面に叩きつけた。だがケースは最新技術の強化プラスチックで出来ていたため衝撃を吸収し中身のディスクを完璧に保護していた。どこに技術注いでんだ!!

茶封筒にはそれ以外何もなく本当に映画二本しか入って無かった。これを見て訓練しろと?冗談だろ?

幸いテレビとブルーレイレコーダーは部屋の壁に組み込まれていたから見れるが・・・なんか釈然としない。俺はこんなの見てセブンスライトを使いこなせるのだろうか?

そんな疑念を抱いていると玄関からノックが聞こえた。

 

「はぁ~いただいま!」

 

玄関の戸を開くとそこには鳶一隊長がいた。

 

「すこしいい?」

「え?・・・・あぁどうぞどうぞ!」

 

流石に部屋前では失礼なので中に入れる。突然の来訪に驚くが一体何なんだろう?

 

「すいませんなにもない部屋で(汗)」

「そう言って本当に何もない部屋を見たのは生まれて初めて。」

 

家具も何も置いていない部屋(一応バスルームに洗濯機と替えの軍服が10着ほどあるが扉で隠されてるから見えない)を一瞥する鳶一隊長、これといって気にしていなかったが今後は来客用のお茶でも用意しておこう。

 

「それでこんな時間にどうされたんですか?」

 

既に時刻は午前四時を過ぎている。わざわざ自室に赴いてまで来るようとは何なのか聞こうとしたら突然頭を下げ

 

「ごめんなさい。」

 

突然謝罪してきた。

 

「!?何してるんですか頭を上げてください隊長!!」

「私は君を守る立場にありながら君を危険な目に合わせあまつさえ死にかけさせてしまった。すべて私の判断ミス、とても許されることではない。」

 

隊長・・・・あれからずっと気に病んでいたのか。部下を多く失ってきたからか、誰よりも責任を感じているんだろうな。

 

「顔を上げてください隊長、俺は気にしてませんから。あの時の俺は自分のできることを全力でやっただけです。隊長が謝ることじゃありませんよ。」

「でも・・・」

「それでも申し訳ないと思うのでしたら、俺に守ることを任せてもらえますか?ほら俺防御専門のPS持ってる訳ですし!」

 

言ってることが理解出来てないのかぽかんとする隊長。

 

「俺は二度と倒れません。隊長達に認められる部下を目指してこのセブンスライトを使いこなせて見せます。だから隊長も俺のこと信じてくれませんか?」

「・・・・・認めるもなにも君の事は正式な部下として認めている。」

「え?」

 

え?そうなの?まだ入隊して二~三日くらいしか活動してなかったけど俺隊長の期待に応えられるほど活躍してないような気がするんですが・・・

 

「言うのが遅れたけど合同演習で倒れず残っていた時から認めていた。改めておめでとう。私は君を部下として信頼してる。だから死にかけていた君を見た時、また部下を守れなかったことに恐怖で押しつぶされそうになった。

もう仲間を失うのは見たくない・・・・」

「・・・・ありがとうございます。でも安心してください。俺は自分の生死がハッキリわかりますから絶対に死にません!敵が強くて負けるかもしれませんが絶対に生き残って押し止めます!!一番隊の一員としてしっかり自分の役目を果たしてみせます!!ですから、これからもよろしくお願いします!!」

 

深々と頭を下げて俺の意志を隊長に伝える。

 

「・・・・そう。」

 

納得したのか隊長は口元を少し上げ微笑んでくれた。

そして踵を返し玄関へと歩いていく。

 

「貴方の覚悟はちゃんと受け止めた。明日はゆっくり体を休めて次に備えて。

隊長として部下の体調管理も重要な仕事だから。じゃあ、また。」

 

そう言い残し隊長は部屋を出ていった。

自身に掛かっていた不安は消え去りとても晴れやかな後ろ姿だった。

・・・・次の戦闘までに隊長達の謹慎解除されるよね?

そんな不安を打ち消してくれる人など居らず内心焦る俺なのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令部での会議が終わり退出したタクマ達ブラスト小隊は自分達が担当する防衛エリアでノイズが出現した知らせを受け、ノイズの反応が合った山間へと降り立った。

だが・・・

 

「どうだ、見つかったか?」

「・・・戦闘の痕跡は見受けられますがそれ以外は何も。」

 

現場にはノイズは居らず刀で切り付けられた跡とノイズだった灰が散乱しているだけだった。

 

「とても鋭利な刃物のようね、プロールライダーが使うアークソードでもここまでの切れ味は出せない筈。」

 

地面に出来た斬撃痕を撫で確認するブレンダがその切り口を見て驚愕する。

 

「隊長!見てください!!」

 

麓側を調べていたマイクの呼びかけでタクマや他の隊員も集まって来る。

マイクの足元には二つの細長い凹みがありそれがふもとの方へと続いていた。

 

「これは・・・バイクのタイヤ痕か。」

「えぇ、恐らく俺達が輸送機で来るのを予期して地上から移動したのかと。」

「まだ遠くには行っていないと思いますがどおしますか隊長?」

 

ノイズを倒したアンノウンを追うかどうか悩むタクマ達。答えの出ぬなか闇夜に日の光が差し込む。

 

「もう夜明けか・・・・」

「たしかこの後、皇神グループの兵器を第三基地の格納庫に搬入する仕事が控えてた筈。」

「アレだろ?旧式の無人戦車で名前は・・・」

「ミチ一七式丙【マンティス】。機体自体は古いが事象反転装置を組み込んであるからノイズ掃討に役立つはずだ。わざわざ輸送船で大量に運んで来るらしいからな急いで戻った方がいいだろう。ここは調査班に任せて全員引き揚げるぞ!」

「「Hoo-ah!!」」

 

号令と共に各々が撤収作業に移る

姿の無い存在を探すのはその手の専門家に任せ次の任務に向けて引き揚げ準備をする最中タクマは戦闘跡をみて思案する。

 

(今月でもう6度目、他のエリアでもノイズの出現は聞くが俺達の担当エリアでのみ何者かがノイズと交戦している。ノイズの出現計数も他のエリアより多い。なにか理由があるのか?なんにせよ奴らの本拠地が特定できるのも時間の問題、戻り次第司令に報告せねばならないな。)

『隊長!撤収準備完了しました。』

 

通信機からの報告を受け輸送機に目を向けると機内に隊員たちが乗り込み開いた席に腰掛けていくのが見えた。

 

「あぁ解った今行く!」

 

通信を切りタクマも輸送機に向けて走り出す。全員の搭乗が完了し輸送機は第三基地に向けて飛行を開始する。

移動の最中ブラスト達をすれ違うように調査班の輸送機が戦闘現場へと向かっていく。

 

「彼らの調査で何か情報が掴めるといいですがね。」

「情報は着実に集まっているはずだ、焦ることは無い。」

 

ブレンダを諭すタクマは不意に窓から見える街並みを眺める。ビルや商店街が並ぶなか他より近代的な建物に視線を落とす。

 

「リディアン音楽学院」

「お?隊長もリディアンに興味あるんすか?」

 

ぽつりと建物の名前をつぶやいたのを聞き逃さなかったマイクがタクマに詰め寄る

 

「いやそう言う訳じゃなくてな。確かあそこの運営に奴らが噛んでいたはずだったのを思い出してな。」

「ですが二年前の調査では校内には奴らに関する施設も隠し部屋などは見つからなかったはずです。」

「そうなんだがな・・・・」

 

連邦の設立と同時におこなわれた大規模調査と摘発でリディアンには何もなかったことはタクマも理解しているがどうにも納得できない違和感のような物が彼の中で渦巻いていた。

しだいにタクマ達を乗せた輸送機は町から遠ざかっていく、その輸送機を地上から睨んでいる少女がいることを彼らが知る由など無い。




ウィル「天草一颯!君が、人類で唯一、マナに適合し人から逸脱した存在だからだぁッ!!・・・・・・フフ、決まった!一度こういうの真似したかったんだよねぇw」
簪「人が悪いですよ博士、一颯さん混乱してたじゃないですか。」
ウィル「フフフ、何事も自覚は大事なことさ、理解こそ人の絆を紡いでいくと私は信じている。いや、予測するね!」
簪「彼はSR(セブンスライト)を上手く使いこなせるでしょうか?」
ウィル「なぁ~に、君が用意した映像資料が役に立つさ。盾振り回してぶん殴るヒーロー物ほどうってつけなものは無いね!」
簪「そういうモノですかね・・・(言えない。若気の至りとはいえ手持ちのビデオがアレしか無かったなんて言えない!!)」


次回「休日の第三基地」

ウィル「ようやく序章も終わりを迎えるね。私の予測が正しければ明日は”槍”が降るね。」


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第七話「休日の第三基地」

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2融合事変前の世界(折紙・燎子)

AIT(天草インテリジェンス)により顕現装置(リアライザ)が普及し魔法が日常化した世界。
折紙は魔術による悪用を防ぐため魔導士養成学校で魔術の基礎を学び、燎子が率いる国連魔導士師団に入団した矢先融合事変に巻き込まれた。


やや曇りがかった空の昼下がり、エンジンの駆動音鳴り響く第三基地の自室で天草一颯は悩んでいた。

 

(療養とはいえ休みを貰ったのは良いのだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この休みをどう有効活用すればいいんだ?)

 

軍属したとはいえ初陣から即重症しリハビリと軍に復帰するための訓練に明け暮れていた彼にとって初めて何もしない日が訪れたのだ。今までの自身の課したスケジュール通りに動いていたため、予定も何もない休暇をどうしたらいいのかその答えを彼は出せない。

 

(博士から渡された資料もとい映画を見たが参考になるものはなかった。一本目のキャプテン・アメリカは星条旗を模した柄のタイツ着た変態が盾を投げたり縁で殴ったりする非現実的な映像だし二本目のイングヴェイはほぼ女の口説き方だけだった。博士は俺に何をさせたいのか?四時間以上時間を無駄にしてしまった。)

 

渡されたセブンスライトの参考資料は参考のさの字も役に立たず昼過ぎの虚無期間の存在を大きく見させるだけだった。

 

(う~ん・・・・これが暇を持て余すと言うものか。実感すると何もしないというのはなぜか危機感を感じてしまうな!いや冷静に考えてみろ、俺はこの基地に来て日が浅い。そしてこの基地の事をよく理解していない。地図はあるが知っているのと実際見るのとでは理解がだいぶ違うのだ。これだけ広い基地だ各施設の事を知ることも隊員にとって必要なことだと思う。)

 

思い立ったが吉日。一颯は軍帽をかぶり(私服など無く常に軍服を着てる)部屋を出るのであった。

 

 

 

部屋を出て基地の正面ゲートまで歩いた一颯は基地に向かい合い地図を開く。

 

「此処が現在地で、ここが研究施設、その横が訓練施設で中央が食堂、それから・・・」

 

東京湾を埋め立て建設した第三基地の広大な施設の場所を把握し何処から見ていくか思案する。

 

(流石に全部を見て回るのは無理だなこれだけ広いと一週間はかかる。なら最初は軍港でも見てみるか。海外のエリアに装備を運ぶ船や噂のセイレーン艦隊が見れるかもしれない!)

 

セイレーン艦隊とは連邦軍がエイリアンの技術や顕現装置(リアライザ)などの技術で建造した最先端の飛行船や戦艦などの総称である。ビーム兵器や最新の艦載機を惜しげもなく使われ海の支配者を自負する程の存在なのである。

軍港は正面ゲートから一番遠いところである為一颯は移動手段に悩む。ただでさえ広い基地を流石に徒歩で行くのは時間が掛かる、その為、地図にのっている地下道に目を付けた。

各施設の入り口に出れるよう無数に張り巡らされている地下道はエスカレーターを地面に引いたような動く歩道【ムービング・ウォーク】が備え付けられており徒歩でも最速で移動できるようになっている。

行先を決めた一颯は地図をしまい地下道に向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「ようやく着いた・・・」

 

当初の予定を大きく外れ地上を携帯用セグウェイで移動した一颯は腰に手をやる。

 

(まさか地下道がこの前の襲撃で軍港側の通路が崩壊してるなんて…五分で着くはずが十数分も掛かってしまった。)

 

ため息を吐くも軍港から香る塩の匂いにより不満は消えていく。

改めて軍港を見渡すと三日月のように内側に広がる造りをし陸上には大量の格納庫が建造されている。その船着き場の左奥から手前にかけて黒塗りの未来的なつくりをした船がいくつも並んでいた。表面の模様はネオンの様に点滅しておりどこか不気味さを感じさせる。

 

「駆逐艦Pawnに軽巡洋艦のKnightがニ十隻ほどか、噂の飛行艦のデビルフィッシュが見れたらよかったんだけどなぁ・・・あれは?」

 

件のセイレーン艦隊を魅入っていたら反対岸に大きな輸送艦が停泊してるのに気が付いた。船首には皇神グループのエンブレムがプリントされており船から黄緑色のカマキリのような見た目の機動兵器が何台も格納庫へと移送されていた。その光景を眺めていた一颯は見慣れた人物を発見し駆け寄る。

 

「タクマ隊長!」

「ん?あぁ天草か、どうしたんだこんなところで。」

「療養のために休暇を頂いたのですが普段働く時間に何もしないというのはとても落ち着けず、折角なので基地の施設を見学しようかと思って。タクマ隊長は今何を?」

「見ての通り皇神グループから納品された戦車の搬入作業の指揮さ。見えるだろ、第九世代戦車【マンティス】だ。」

 

船の方に視線を向けると船から降りてくるマンティスが列を成し格納庫に向かって走行していくのが見える。中にはEDFの搭乗式強化外骨格コンバットフレームに担がれて運ばれるのもいる。

 

「こうしてみると意外と機動兵器をまだ使ってるんですね。」

「そうだな、PSの普及によって兵器の需要が一気に変わったが、中にはビークルの方が上手く扱える隊員も少なくない。そこで政府は利用数の多い兵器を選別し生産と供給の管理を行うようにしたんだ。だから今でもコンバットフレームとかの人気あるビークルは健在なわけだ。」

「そういえばタクマ隊長達の世界の【ウォーメック】てビークル見なくなりましたよね。二年前は他のビークルと一緒に活躍してたのに。」

「俺達の世界では結構強かったがほかの世界のに比べたらデザイン的に問題があってな。」

「あぁ~、某宇宙戦争に出る帝国軍の歩行戦車に似てますもんね。」

 

製造されなくなった理由がなんともおかしなことに「ハハハ・・・」と苦笑いをこぼすタクマであった。

作業の手を緩めず雑談をするタクマ達のもとに歩み寄る男がいた。

桃色の髪と修道士のような服を着た長身で顔の整ったイケメン。

近づいて来るのに気づいた一颯はそう思った。

 

「やぁタクマ隊長。先程予定通りマンティスの納品が終ったよ、皇神から連邦への愛をたっぷり込めてね!!」

 

突如愛を囁き男は両手を広げタクマに報告をする。何故か男の声は妖艶で色っぽさを感じさせる。

満足したのか不敵に笑いポーズを解いてようやく一颯の存在に気付く。

 

「あや?そこのキミは誰かな?」

「彼は最近一番隊に入った新入りの天草だ。」

「天草一颯です!階級は一等兵であります!」

 

敬礼をし自身の紹介する一颯を見た男は雷に打たれた衝撃を感じたじろぐ

 

「んはぁ~!?」

 

髪が揺らめき服がしわくちゃになるのも構わず自身の体を撫でまわす。

 

「嗚呼!嗚呼なんてことだ!この胸の高鳴り、これはまさしく・・・・・・・・・愛だ!!」

「愛、ですか?」

 

いきなり意味不明なことを口走る男に一颯は臆することなく聞き返す。

 

「あぁそうだ少年!ワタシの名はパンテーラ。愛おしい少年よ、ワタシの愛を受け止めておくれ!」

「え?いやそれは困ります。」

 

いきなりの告白に当然困惑する一颯。

 

「俺には愛というのが何なのかよく解りません。せっかく貴方の様な美しい方の申し出に、俺はどう受け止めればいいのかわからない・・・」

 

否、真剣に悩んでいた!

一颯の返答にとうのパンテーラは驚いたように目を見開き、タクマもまさかの答えに呆然していた。

 

「いやまともに答えるな!コイツは誰にでも愛とかなんとか言ってるんだ。というかまさか…そっち系なのか?」

「そっち系?」

 

一颯はタクマの言うことの意味が理解できず首をかしげる。

 

「フ、フハハハハ!!これは驚いた!愛を知らないとは実に愛らしい!!少年よ、愛を知らないのなら学ぶがいい!愛を理解した時、改めてワタシから愛を送ろう。」

 

パンテーラの手が一颯の顎を捉え、クイッと持ち上げる。

 

「・・・・・穢れの無い綺麗な目だ。その輝きはきっと世界を照らしあまねく人に愛を広げるだろう。」

 

一颯の瞳を凝視しうっとりとした表情でパンテーラはささやいてくる。

そこへ緑のプロテクターとフルフェイスのヘルメットを着けた皇神の構成員の男がやってきてパンテーラに敬礼をする。

 

「パンテーラ様!まもなく本艦が出航します。急ぎ乗船してください!」

 

マンティスの搬入が終り、輸送船は錨を引き上げ皇神本社へ戻る為の準備が進められていた。

パンテーラは酷く残念そうな顔をし、一颯に添えている手を名残り惜しそうに離すのであった。

 

「嗚呼、もう別れの時が来てしまったのか!胸躍る一時ほど早いものは無く、愛のように儚い・・・」

「そう落ち込むことは無いと思いますよ、織姫と彦星のように離れていても再びあいまみえる時が必ずきます。それが人の縁。これも貴方の言う愛なんじゃないんですか?」

「ホウ!?なんと素晴らしいことを言ってくれるんだ君は!!そうだね、また君と会えるという()を糧にワタシは行こう!少年よ!しばしの別れだ!次会う時はゆっくり愛を確かめ合おうではないか!!」

 

また会うと言うことに希望を見出したパンテーラは意気揚々と輸送船へ歩き、乗船する前に今一度一颯を見てニヤリと笑みを浮かべるのであった。

 

 

パンテーラを乗せた輸送船が軍港を出て徐々に遠ざかっていくのを確認しようやく一颯が口を開いた。

 

「とても素敵な方でしたね。」

「本気で言ってるのか!?」

 

変人ともいえるパンテーラを素敵と言える一颯に今一度驚きの声を上げるタクマ。

とうの一颯は彼が何故驚いているのか解らず首をかしげている。

 

「では俺は他の施設を見ていくのでこれで失礼します!」

 

一颯はタクマに敬礼をしその場を駆け足で去っていく。

 

「・・・・・・・大丈夫かな?」

 

走り去る一颯を見ながらタクマは彼の今後が不安で仕方が無いのであった。

 

 

 

 

タクマと別れ軍港を後にした一颯はまた携帯用セグウェイで移動し、トレーニング施設前にたどり着く。

 

「此処は肉体強化に必要な器具が充実してるらしいから今後使うだろうな。」

 

地図によると隊員の希望に合った運動器具からいろんなスポーツのコートなどが地下に何個も用意されてるらしい。トレーニング施設に限らず第三基地の各施設は地下に幾つもの部屋を設けておりこの基地だけで第三の全てをまかなっていると言っても過言ではない。

早速玄関をくぐりフロントで利用手続きを済ませた一颯は一階の運動器具広場を探索した。

 

「このあたりは健康ランド的な手ごろなダンベルから体操選手向けみたいな大型なの器具までそろってるんだな・・・・・ん?」

 

ならんでいる道具を見回していると奥のサンドバックが並ぶエリアでまた見慣れた人物を目撃してしまった。

深い溜息を吐きながら一颯はサンドバックをボッコボコに殴り続ける彼女に声をかけた。

 

「謹慎中になにやってるんですか、日下部副隊長。」

 

許可もなくグランドクロスを使用したため謹慎処分を受けた二人のうちの一人日下部燎子がサンドバックを見るも無残なほどに殴り壊していた。呼吸を整え規則正しくブレのないまっすぐなストレートでサンドバックを吹き飛ばした所でようやく一颯に気付く。

 

「あぁ一颯じゃない。謹慎て言われても部屋でじっとしてるなんて性に合わないし、一番隊は任務とあらば謹慎でも出動しなきゃいけないからこうして体を慣らしてるのよ。それに反省してるなら過去の失態の改善の為にも鍛えるしかないわ!!」

「言い訳になってませんよそれ・・・」

「細かいことは気にしない気にしない!てかアンタこそ何してんの?筋トレ?」

 

謹慎の事など気にも留めず燎子は一颯に詰め寄る。

今の燎子の格好はトレーニングウェアとスパッツという普段の軍服とは違い肌の露出が多く、細マッチョ系の体と胸の膨らみがあわさりとても扇情的で一颯は普段の燎子にない色気に戸惑ってしまう。

 

「///!んんッ!俺は折角の休暇ですので基地の施設を見て回ろうかと思って」

「で、あたしを見つけたと。なら観るだけじゃなくやってみたらどお?知ってるのとやってるのとでは大きく違うんだし。はいこれグローブ!すぐ新しいの掛けるから。」

 

物を言わさず燎子はグローブを一颯に渡し、新しいサンドバックを掛けて場を整える。

 

「はぁ、そういうのでしたらお言葉に甘えさせてもらいます。」

 

特に断る理由もないため一颯はグローブをはめ、サンドバックの前に立ち構えをとる…

 

…が!!

 

一颯は目の前に吊るされてるものがサンドバックではないことに気付いて思考が停止する。

 

「あの・・・副隊長?コレは一体?」

 

それは・・・サンドバックというにはあまりに大きすぎた・・・・大きく、分厚く、重く。そして鋼鉄すぎた。

 

「ん~それ?損傷が酷くて廃棄される予定だったラウンドハンマーの装甲板よ。」

(なんちゅうもん使ってんだこの人!?)

 

よく見れば吹き飛ばしたサンドバックも同じ装甲板だった。表面はボッコボコに凹み、かつての原形をとどめていなかった。

ふと一颯は燎子の手を見て驚く。先程まで装甲板を殴っていた手はテーピングなどしておらず、拳にいくつもの傷跡があったのだ。

 

「まさかいままでもコレを殴ってたんですか?」

「そうね、普段は重火器バラバラ撃ってるけど最終的に頼れるのはこの拳だけだからね!敵は天使とか並の相手じゃないし普通のトレーニングじゃ意味ないのよ。だから鉄を殴ることにしたの。でもこのところ張り合いなくてねぇ~タングステン合金とかすぐ壊れちゃうの。ビブラニウムとか希望してるんだけどなかなか許可が下りないし、はぁ~退屈だわ。」

(おいおい嘘だろ!?戦艦の主砲でも耐えれるラウンドハンマーの装甲を素手で壊すとか軽く常人の域を超えてるだろ!?この人の体どうなっているんだ?)

 

あまりにも常識離れした燎子の腕力に一颯は驚嘆する。だが同時にこんな人外と一緒にトレーニングをしてもいいのかと疑問に思ってしまう。このままだと確実に装甲板を殴り続ける、そんな未来が頭をよぎってしまった。

いい知れない不安を抱えた一颯はそっとグローブを外し燎子から離れるように後ずさる。

 

「すいません副隊長、他の施設も見て回りたいので俺は此処で失礼します。」

「え?」

「サイタマはお一人でなってください!!失礼しましたッ!!」

 

クルっと燎子に背を向け全速力で施設を脱出する。いきなりの事で何が何だかわからず、燎子は呆然と一颯の後姿を眺めていた。

 

「・・・ハ!?ちょっと!なんでいきなり埼玉が出てきたわけ!?おぉ~い!!」

 

漫画やアニメを見ない燎子にはサイタマの意味など知らず、その叫びは一颯に届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

燎子の装甲板トレーニングから逃げた一颯は格納庫エリアにたどり着いた。

ここは各部隊専用の格納庫が並ぶエリアで各部隊との連携・情報の共有をしたり技術班に自分の装備を強化してもらうなど次の任務に備える場である。

辺りを見渡せばトラックや装甲車、PSを纏った隊員たちが行き交い緊急時でもないのに慌ただしかった。

縫うように隊員たちを避けつつ激戦区特有の空気を肌に感じながら一番隊の格納庫たどり着いた。

シャッターは開いており中に入るとクアッドリガとアリス・リコリスが待機状態で鎮座していた。装備の細部に至る所まで整備が行き届いておりまるで新品のような輝きを放っていた。

装甲も入念に磨かれたのか照明の光を反射し鏡のように眺めている一颯の姿を映し出している。

 

「はぁ~・・・凄いな(整備が)。」

「本当に凄いですよね(機体が)。」

 

あまりにも素晴らしい仕上がりに見入っていた一颯がポツリと感想を述べると一番隊の整備士、更識簪が一颯の隣に立っていた。どうやら見るのに夢中で簪がいたことに気付いていなかったようだ。

 

「あぁ、更識さんも整備班に入ってたんですね。」

「私は博士の助手ですからね、必然的にそうなります。」

「じゃあこれは更識さんが?」

「あ、いえ、、これは博士がほとんど自分で仕上げて、私はプログラミングを少しだけ・・・」

 

先ほどまで落ち着いた態度でせっしていた簪だが整備の事を聞いた途端あたふたしだし気落ちしたのか黙りこくってしまった。聞いてはいけなかった話題と察し一颯はすぐさまあやまり場の空気を戻す。

簪を気にしていないようで一颯はホッと安心し、ふと疑問に思ったことを思い出し簪に問いかける。

 

「昨日の紹介で気になっていたのですが、IS学園の生徒だった貴方が何故博士の助手に?」

 

先日の自己紹介で彼女がIS学園の生徒であったことは知っている。だが彼女がなぜ学園を離れウィル博士の助手となったのか、一颯はその経緯と理由が気になっていた。

一颯は知らないが更識簪は元日本の代表候補生でそれなりに優秀であった。わざわざ連邦軍に入隊する必要もなく学園でISの研鑽を積む事も出来ただろう。

簪は一度呼吸を整え語り出す。

 

「きっかけは大したことじゃないです。融合事変が起きてみんなどうしたらいいのか解らないなか天使に襲われて必死になって戦って、敗れて、専用機を失って途方に暮れていた時博士に出会って言われたんです。『武器を振り回すだけが戦いじゃない。情報を集めたり調べることだって立派な戦いさ。』て。・・・一颯さんは今の行方不明者の数をご存知ですか?公式に発表はされていませんが数億人にのぼるんですよ。」

「そんなに!?でもその数はおかしくないですか?」

 

簪の話に驚きを隠せない一颯だが彼女の話には矛盾があった。聖罰により数億人の死者が出たのは解かる、だが彼女はそれとは別に行方不明者がいると言ったのだ。

 

「なにもおかしくはないですよ。そもそもこの世界は複数の世界が混ざり合って今の形になってるんです。では融合事変が起きる前の世界の人たちは一体何処に行ったと思いますか?」

「それは・・・」

 

一颯は答えることは出来なかった。自分が知り得なかった現実が今のこの世界に起きていることを自覚することで頭が一杯だった。

 

「私の大切な人もその一人に数えられています‥‥でも、私は今もあの人が生きてると信じています!あの時、博士の手を握った時決めたんです。必ずあの人を見つけ出すって。戦う武器はないけど私は自分の知識と技術で戦っていきます!!」

 

彼女の目に迷いはなく力強かった。そんな彼女の覚悟に一颯も力になりたいと思うのだった。

 

「きっと見つかりますよ。力になれるか解りませんが俺も出来るかぎり強力しますッ!」

「フフ、ありがとうございます。ところで、一颯さんはなぜこちらへ?非番だった筈では?」

「そうですが、これといった趣味も無く時間がもったいないと感じて、せっかくなら基地の施設を見て回ろうかなと。あ!鳶一隊長見てませんか?さっきトレーニング施設で副隊長が謹慎無視して鍛えてたのでまさかと思うんですが。」

「あ~・・・あっちの奥でくつろいでますハイ。」

 

裏口に続くドアを指さした簪は気まずい表情を浮かべる。先程の自身に満ち溢れた目は光を失い関わりたくないかのようにドアとは逆の方向を見つめる。

 

(なにがあったんだ?)

「それじゃあ私は仕事があるのでッ!セブンスライトの事でなにかあったらラボの方に来てください!!」

 

急用を思い出したのかそれともその場を離れたいのかそそくさと走って(逃げて)いった。

残された一颯はただ呆然と隣のラボへと避難する簪を眺め、しばらくして折紙がいる裏口へと向かうのであった。

扉を開け外に出ると目に映ったのは山積みになったタイヤやビールを入れるかご、折りたたまれたダンボールが区切りとして敷かれている柵にのしかっていた。

どうやら不用品置き場として使われているみたいだ。

そんなゴミ溜めの真ん中に彼女(折紙)はいた。折紙はアンプに腰掛け自前のエレキギターで曲を奏でていた。

ビートを刻み、軽快に絃を弾いく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歯で。

 

(歯ギターーーーーーーーーーーーーーーーー!?)

 

普段の冷徹なイメージからは想像できないヘビーでメタルな演奏をする折紙に一颯は驚愕し度肝を抜かれていた。

 

「・・・・なに?」

 

一颯に気付いた折紙が絃から歯を外しギターを膝に置いて問いかける。

声を掛けられた一颯は放心状態だった意識が覚醒し我を取り戻す。

 

「ハッ!!すいませんあまりにも想像だにしなかった光景を目の当たりにしたので思考が停止していました!」

「そう、・・・意外だった?」

「いえ、その・・・歯ギター、するんですか?」

「ええ。学生の頃バンド組まされてそれからずっと。歯ギターは良い、音程が直で伝わって気分が落ち着く。」

「へぇ~そ、そうなんですか。(歯ギターで高揚してる・・・こんな隊長はじめてみた)。」

 

ギターを掲げ歯ギターについて熱く語る折紙。自分は一体何を聞かされているのか?そんなことを思う一颯を見て何を勘違いしたのか、折紙がギターを差し出す。

 

「弾いてみる?」

「え?」

「ギターに興味ないの?」

「いや、(ギター自体は)興味がない訳では無いんですが…(歯で弾いた絃がなぁ。)」

「なら持ってみて。」

「あ、はい。」

 

半ば強引にギターを持たされ折紙が肩を掴む。

 

「それじゃあ歯ギターの練習を始めましょう。」

「なんで歯ギター前提なんですか!?」

「歯ギターしか弾けないから。」

「ウゾダドンドコドーン!」

 

ギターを突っぱね折紙から距離を置く。

 

「そ、それはまたの機会でお願いします!」

「そう、それは残念。」

 

教えを断られた折紙は残念そうにうつむき、指でチューニングをし始める。

 

(弾けるんじゃん!)などいう思いは押し殺しあらためて折紙を観察する一颯なのであった。

 

「それにしても、やっぱり隊長も謹慎無視してここにきたんですね。さっき副隊長がジムでトレーニングしてましたよ。」

「一番隊はどんな時でも最前線で活躍する部隊、だから謹慎中であっても出動は絶対。なら部屋で何もしないよりこうして出撃の準備をした方が反省になる。」

「うわッ!副隊長と似たような事言ってる!!」

「それは心外。副隊長はなにも考えず本能で動いてるだけ、私はプランを考え効率的に動いている。」

「五十歩百歩も甚だしいですよ!!」

 

ビシッとなにもない空間をたたきツッコむ一颯、度重なるツッコミで疲れ息が荒くなっているが折紙はそんな事露知らず問いただす。

 

「それで、なにかよう?」

「いえ、ようというほどでは無いんですが・・・基地の場所を把握しようとあちこち見て回っている所存で。」

「そう・・・研究施設は関係者以外立ち入りを禁止されているからおすすめしない。新兵なら尚のこと。」

「そうでしたか、どんな装備を作っているか気になっていましたが残念です。」

 

最先端の軍事技術をお目にかかれないことに大きなため息を吐き一颯は肩を落とした。

 

「・・・休みなのにやりたいことはないの?趣味とか、それくらいあるでしょ?」

 

休日なのに基地内を散策し仕事に近いことをする一颯。折紙はそんな一颯に違和感のようなモノを感じ彼を問いただすことにした。

 

「そうですね・・・自分の趣味や好みがどんなものだったのか(・・・・・・・・)解りませんからね。」

「その発言は変。どういう意味か説明をこう。」

「実は俺、融合事変前の記憶が無いんですよ。おまけに次元難民だからどの世界で生きてたのかすら調べようがなくて・・・。」

 

アハハと笑って平静を装っているがその表情は暗かった。隊長を困らせないようなるべく明るく振る舞いながら事実を明かしたが今でも自分が何者だったのか不安で仕方ないのだ。今の一颯にはいろんな物事に執着がなくなにかをやりたいという意欲もない。そんな空っぽな自分でもなにか出来ることが無いかと考えた結果、次元難民の徴兵制度を利用し軍に入った。

だが彼は未だ何も成せていない。なにもない自分の気を紛らわす術すら浮かばずこうして基地を見回りなにかを得ようと奔走するのが彼の限界なのだ。

そんな彼をを見て折紙は目を閉じ、ギターの弦を弾きながら彼に語り掛ける。

 

「無理をしてなにかを得ようとする必要はない。そういうのはいつの間にか宿っている物だから。」

「そういうもの・・・ですか?」

「ここまで歩き回ってなにか得られた?失った物ばかり目がいくから大事なことを見失う、なにかを得たいならこれからの事に目を向けるべき。」

「これからのこと?」

「歯ギターよ。」

「アノスイマセン、感動的な雰囲気が出来そうなとこで無理やり歯ギター吹き込むのやめてもらえませんか!?」

「・・・・・・・・・・・・・・はぁ。冗談よ」

「せめて本音と建て前を逆にしましょうよ!!なんでそんなに歯ギターに固執するんですかッ!?」

「フフ、すこしは表情が明るくなったね。」

「え?あ・・・」

 

微笑みながら折紙は鏡を取り出しそれを一颯にむけた。鏡に映る自分の顔には焦りと不安の影はなくほのかに口角が上がって微笑ましい表情をしていた。

 

「君の戦いは始まったばかり、やるべきことも趣味もこれから見つけていけばいい。私達、遊撃一番隊と共に。」

「ッ!!はいッ!!」

 

折紙の言葉に感動した一颯は姿勢を正し綺麗な敬礼をするのだった。

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

突如として鳴り響くノイズ警報。それにしたがい基地中が慌ただしくなる。

そして折紙たち一番隊のインカムに司令部より通信が入る。

 

『遊撃一番隊より報告!ブラスト小隊が担当する防衛エリアでノイズの反応を多数確認!直ちに現場に急行してください!!』

「「『了解ッ!!』」」

 

出撃要請を受け折紙たちは私物をその場に置き、格納庫へかけっていく。

格納庫には既に簪とウィル博士が到着しており、クアッドリガとリコリスに繋いでいるケーブル類を外す作業を行っていた。

遅れて燎子も格納庫に入り出撃準備を行い始めた。

 

「ブラスト小隊の担当エリアって此処からだと目と鼻の距離ですよね?」

 

鎧を纏うイメージを描き、意識を集中してなんとかセブンスライトを纏った一颯が折紙に問いかける。

 

「といっても各エリアの中で最大級の範囲を占めてる。防衛範囲が広い程被害も大きくなる。」

「あそこは住宅密集地と工場施設があるからノイズの出現率が比較的に多いのよ!」

 

準備を終えワイヤリングスーツを着た燎子がクアッドリガに搭乗し起動作業に移りながら一颯に伝える。

 

「マズいじゃないですか!?今ブラスト小隊はこの第三基地にもどってるんですよ!!」

「だからこそ早急な対応が必要・・・乗って。」

 

リコリスを装着し終えた折紙はクアッドリガの真上に飛行しリコリスの下部に備え付けられているプラグと固定具を同じくクアッドリガの上部装甲にある接続用のパーツに繋げた。

接続が完了し、飛行能力のないクアッドリガを輸送する準備が完了した折紙は一颯をリコリスのミサイルコンテナの間に乗るよう指示をする。

 

「あぁ、そんなに急がなくてもいいよ?」

 

一颯がセブンスライトのスラスターを吹かしリコリスの上に乗った時ウィル博士が待ったをかけた。

 

「博士どいて。急がなければ市民に多くの被害が出る。」

「だから急がなくていいんだってば!ビスレストさえあれば何処へだってひとっ飛びなんだから。」

「・・・どういうこと?」

 

今にも飛び出しそうな剣幕だったが、ひとっ飛びなどという博士の言葉にを訝しみながらも折紙は耳をかたむける。

 

「それを今から説明するからよ~く聞くんッ!?」

 

だが余裕綽々な態度で弁論をしようと思っていた博士は突如ノイズが出現したと言われている方角を向き驚いたような顔をした。

 

「・・・博士?」

 

なんの反応も示さず硬直したままの博士を心配した簪が近寄る。彼女の呼びかけに気付きなにかを悟ったように不敵な笑みで一颯たちに向き直る。

 

「ん~~~~どうやら気を付けた方がいいよぉ。ノイズの数が普段より多そうだ。出るかもしてないね、彼等の存在を察知した天使たちが。」

「「「「ッ!!??」」」」

 

【天使】、そのワードを発せられたことで場は一気に凍り付いていった。




パンテーラ「あぁ!せっかく我が愛の理解者に出会えたというのに離れ離れになるとはなんという事だッ!!少年の事を思うと狂おしい程に我が身を蝕んでいく!!」
タクマ「なんでこのコーナーの担当がコイツと一緒なんだ!?どう見ても人選ミスだろッ!!」
パンテーラ「おや~?怒っているのかい?ワタシが美しいばかりに!?」
タクマ「はぁ~(駄目だコイツ、はやく、なんとかしなければ…)」
パンテーラ「フフ、どうやら疲れてるみたいだね?ならばワタシの胸に飛び込むと良い!さぁ来たまえ!ワタシの愛を君にも与えてあげよう!!」
タクマ「うわあぁぁぁぁヤメロ!!それ以上ちかづくなアァァァァァァ!!」


次回「刀を持った変質者と撃槍」

パンテーラ&一颯「「皆も一緒にぃラブ&ピース!!」」


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