緋弾のアリア 熱心な信仰勧誘神 (やきのり)
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1.遅刻の原因。

超能力捜査研究科のくせしてショットガンとか使いやがる主人公ですが、多目に見て下さると嬉しい限りです。
原作は一応全部読んでますが読み直してはいないので設定に矛盾が生じるかもしれません。その場合、指摘してくださると幸いです。


 死因は――何だったのかな。

 過労死だったような気がする。

 受験の一週間前に死ぬほど勉強をしまくって。

 それが終わってから神社へ合格のための願いをしようと足を運んだ。

 鳥居の前で意識が薄れて、そこから先の記憶がない。

 今は素直に一回寝てから願い事をしに行けば良かったと反省している。

 もう遅いけれど。

 

「眠い……」

 

 ゴロン、と寝返りを打った。

 窓から差し込む朝日が鬱陶しい。カーテンを閉めたいけれど、そのためには布団から出なければならない。そんなことするくらいならこのままでいい。

 温かくて心地良かった。

 

「……そーいえば」

 

 今日は何かイベントみたいなものがあったような、無かったような。

 なんだったかな。

 考えるのがめんどくさかったが、大事なことだと困るので思い出そうと頑張ってみる。

 ああ……そうだ。

 今日から二年生になるんだった。

 時間大丈夫かな、なんて思いながらケータイを手に取った。

 えーと。

 七時五六分。

 

「……あー」

 

 現時間以降でバス出るのって何時だっけ。

 七時五八分。

 おかしいな。何だか冷や汗も流れてきた。

 布団から飛び出る。速攻で『女性用の防弾制服』に着替え、寝癖を直して顔を洗った。

 その時点で意識は完全に覚醒しており、急がなければならないという考えが脳の大半を占めていた。

 モスバーグM590とかいう適当に店で買ったショットガンを弾丸ホルダー付きスリングを利用して背負い、手で持つこともショットガンにも付けることも可能な便利な銃剣を制服の内側に仕舞う。

 多分バスにはもう間に合わない。自転車で行こう。あれどう見ても子供用だから嫌なんだけど。

 玄関を出て自転車の置いてある場所まで急ぎ、それに乗って走り出した。

 くそ。もうちょい身長があればもっと速いのに。

 あと、もうちょい神力があればもっと速く漕げるのに。

 悔やんでも仕方が無い。兎に角急ぐのみ。

 

「……ん?」

 

 今、隣をセグウェイらしきものが通過して行った。

 目を凝らして確認すると、どうやら結構前を自分と同じように自転車で急いでいる男子生徒を追いかけているようだ。

 何かサブマシンガンみたいなものが乗ってたような気もするが、気のせいではないだろう。

 

「…………ふむ」

 

 どう考えてもセグウェイのサブマシンガン様はあの男子生徒を狙っている。

 普段なら見知らぬ誰かのことなどどうでもいいと切り捨てるところであるが、今日の俺は違う。今日の俺はいつもより少しだけ信仰勧誘に熱心なのだ。

 あれだ。

 あいつを華麗に助けてやれば、かなり信仰の勧誘が成功し易そうじゃね? ってことである。

 

「よし」

 

 決まれば即実行――と行きたいが、さてどうやって助ければよいのだろう。

 ショットガンをぶっ放すというのが一番簡単な方法だ。が、自転車を漕ぎながらそんなことをやればバランス崩れて倒れてしまう。大怪我間違い無しだ。そんな格好悪い助け方じゃ俺が納得しない。

 取り敢えずあの男子生徒に並走しようと速度を増させたが、その直後。聞きたくもない言葉が前の自転車から耳に届いてきてしまった。

 

『そのチャリには爆弾が仕掛けてありやがります』

 

 あ、ボーカロイドだ。このモデルは聞いたことないな。どこの会社のだろ。

 って、そうじゃない。今なんて言ったんだっけ。爆弾が仕掛けてある? だったかな。

 なんつーめんどくさそうな……。

 少しだけ考えるように顎に手を当て、うん、首を縦に動かした。

 無理だ。爆弾を直接破壊すれば目の前の生徒死ぬし、セグウェイ壊しても爆弾が生徒を殺す。他には爆弾を外すというのもあるが、その場合サブマシンガンに狙撃されはずだし並走しながら爆弾外すなんて俺にはできない。

 諦めるしかない。信仰勧誘は別の奴にすればいいだろう。最初から難易度ベリーハードの勧誘ミッションなんてするべきじゃない。まずは誰にでもクリアできそうなベリーイージーがいい。

 そう結論付け、減速を始めた。他にもセグウェイから放たれるボーカロイドが色々と男子生徒に語りかけていたが、既に傍観する気満々なので興味はない。

 前を走る男子生徒は第二グラウンドの方向へ走っていった。

 それを傍観する。ふざけ気味に手を振って。

 

「…………」

 

 その時点で運が悪いことに、とあることを思い出してしまった。

 武偵何とか……何とか条。『仲間を信じ、仲間を助けよ』。正直このようなルールみたいなものを覚えるのは苦手なのだが、これだけは明確に内容を覚えていた。一番重要なものらしいから。

 今の場面を誰かに見られていた場合、俺、ヤバいんじゃないだろうか。

 いやいや。誰も見ていないはずだ。大丈夫……なはずだ。

 そう信じたいのだが、うちの高校には色々なやつがいる。二キロ近くの距離で狙撃を完遂させるやつとか、気配を悟らせないことが得意なやつとか。

 一度思考してしまうと、段々とそれが現実味を帯びてくるから不思議だ。

 溜め息を吐き、自転車を第二グラウンドへ向けて漕ぎ出した。

 今日は遅刻決定か。まぁ、武偵何とかを破ってよりキツイ処分を受けるよりはマシと言える。

 第二グラウンドに辿り着いた頃に物凄い爆音がして、そちらに目を向けた。

 自転車が爆発しておる。

 男子生徒死んだかなー、なんて思っていると、体育倉庫から物音がした。

 一瞬、女子生徒と男子生徒が絡まっているような光景をこの目に見えたような。

 どうなったのかな、と自転車を降り、野次馬精神で体育倉庫に近付いていった。

 中に入り、探すように周囲を見渡す。

 

「ヘンタイ――――!」

 

 女の子の声がして、そちらへ視線を動かした。

 崩れた跳び箱の中。

 突然の変態発言の後にも色々と「サイテー」とかなんとか叫んでいる。あの中で何が起こってるんだろ、なんて少々期待しながら近寄っていった。

 瞬間。

 背中に衝撃を受け、軽く吹き飛ばされた。

 

「いッ」

 

 痛い。普通に痛い。

 転がるよう跳び箱に激突し、続いて何発か腹に受けた。跳び箱のせいで威力を受け流せずに普通に受けてしまった。

 めっちゃ痛い。

 

「あ、あんただれ!?」

「被害者です」

 

 苦い顔で告げつつ跳び箱の後ろ側へ即座に移動した。

 なんだよもう。今日は厄日だ。

 

「イライラする」

 

 跳び箱の中には男子生徒と女性生徒が一人ずついるようで、男子生徒が女子生徒へ状況の確認をしている。

 それを余所にショットガンを下ろし、手元に構えた。

 撃ってきた奴ら――七台のセグウェイへ撃ち返す。

 

「っと」

 

 衝撃で体が後ろ側に倒れた。やはり神力が足りない。信仰が足りない。もっと神力があれば肉体も強化されるはずだ。

 それでも今はこのまま行くしかない。

 スライドを前後させて装填。もう一度ぶっ放す。

 跳び箱の方から女子生徒も援護してくれていた。

 装填。撃つ。

 もう一度装填。放つ。

 セグウェイが射程圏外へ逃げるように移動し、取り敢えず一息を吐いた。

 使用した分の弾を即座にリロードしていると、跳び箱の中から男子生徒が低い声で訊いてくる。

 

「――やったか」

「隠れただけみたいだけど」

「並木の向こうにね。きっとすぐまた出てくるわ」

 

 最初に俺が答え、その後に女子生徒が返答した。

 

「強い子達だ。それだけでも上出来だよ」

 

 なんだこいつ。

 思わず浮かんだ言葉を頭を振ることで打ち消し、リロードを終えたショットガンを再度構える。

 今は目の前のことに集中すべき――。

 と、その瞬間。視界が男子生徒の顔がドアップで映し出され、いつの間にか片手で胸の中に抱えられていることに気付いた。

 反対側の手には女子生徒の姿も。

 ……背、低いなこの女の子。俺と同じくらいじゃないか?

 桃色の髪とカメリアっぽい色の瞳のツインテールの女の子を見てそう思う。

 観察している間に意味不明理解不能なことを宣う男子生徒をしれっと受け流していると、マットの上に二人揃って座らされた。

 男子生徒のイケメン語を翻訳すると、どうやらセグウェイを倒してくれると言っているようだ。

 どうでもいいけど、男子生徒くんはよく二人も人間を同時に持てたな。俺なんかショットガンを抱えてるのに。

 疑問を抱いた直後、銃声がした。セグウェイがサブマシンガンで体育倉庫の壁を撃ちまくっているようだ。

 男子生徒が拳銃を引き抜き、敵の射撃線が交錯するドアの外へ躍り出る。

 何発かよくわからなかったけど、多分十発以内。

 彼がそれだけ撃ったかと思うと、何かが壊れるような音が同時に幾つも聞こえてきた。

 その後、沈黙。

 

「……おー」

 

 多分。多分、だが。

 あの男子生徒はセグウェイの数の分だけ弾丸を放ち、セグウェイを一発ずつで壊したのだ。

 すげー、と素直に感心する。本当に凄い。実力で言えばAランクか……はたまたSランクかな。今の出来事だけで決めるのは早計だが、凄い奴ということだけは確かだ。

 なんだよ。こいつ助けようとしなくても良かったじゃん。

 何だか段々と腹が立ってきた。

 隣の女子生徒も何かよくわからないけど起こっているみたいだ。目の前で繰り広げ始めた会話を聞く限り、どうやらセクハラを受けたとかなんとか。

 不可抗力だ、なんて言いながら男子生徒が女子生徒――アリアというらしい――にベルトを投げる。

 見ると、彼女のスカートのホックが壊れてしまっていた。よく気付いたな、こいつ。

 更に傍観して話を聞いていた。

 簡単にまとめると。

 服を脱がそうとし、胸を凝視していた、と。

 こいつが悪い。何が不可抗力だ。そんな言い訳は通じない。

 こんなやつのために怪我を負ったのか、と溜め息を吐いた。

 

「落ち付いて聞いてくれ。俺は高校二年だ。君達は中学生だろう? そんなに歳が離れているのに脱がしたりするはずがない。だから――――安心してほしい」

 

 俺は高校生なんだけど。

 呆れながら男子生徒を見据える。俺は特に何を思うことも無いが、隣のアリアさんは思うところがあるようで怒りの声を発した。

 あろうことか男子生徒は続けて小学生と間違えてくる。

 流石にそれには怒りも頂点に達したようで、隣のアリアさんは拳銃を取り出した。

 撃つ――。

 

「あたしは高二だ!!」

 

 同い年の方でしたか。

 手に持った二丁の拳銃を放ち、しかしそれは外れる。

 両手を男子生徒に抑えられていた。

 そのまま取っ組み合いになりそうかと思えばアリアさんが跳ね腰みたいに男子生徒を投げ飛ばす。

 何だか蚊帳の外にされてるような気がしたのでショットガンを構えた。

 標的はセクハラ野郎男子生徒。

 別に大して狙わなくても当たるのだから無理に標準を合わせる必要は無い。すぐに発砲をする。

 男子生徒はしっかりと見極めた様子でギリギリに横に避け、アリアさんから奪っていたらしい拳銃の弾倉を投げ捨てた。

 

「…………」

 

 あまりにも簡単に避けられたことに目元をひくつかせつつ、スライドを前後させて装填をする。

 二発目。

 同時にアリアさんも二刀の短刀で攻撃していたが、俺の攻撃もアリアさんの攻撃も後ろに転がることで回避させられた。

ここまで来たら意地だ。装填をし、照準を合わせる。

 発砲。

 だが、やはり当たらない。

 逃げられてしまった。

 

「…………」

 

 何だか悔しかった。いや、自分より上の奴なんて山ほどいるのだけれど、そういうことではなく。

 あいつのせいで遅刻だ。あいつのせいで遅刻。大事なことなので心の中で二回反芻させた。

 もう嫌だ。何だよもう。

 

「……そういえばあんたは何者なの?」

 

 体育倉庫を出ようとした矢先、アリアさんから問われる。

 アリアさんは、何か、バラまかれた多数の拳銃の弾で転んで追いかけられなかったようだった。それもその弾丸はアリアさんのもの。

 セクハラされた挙句、拳銃の予備弾倉を捨てられ、更に弾を無駄にされているということ。

 いや、こっちも撃っていたので非があるんだろうけど。でもセクハラした奴に撃つくらいは武偵高では普通だ。日常茶飯事だ。

 

「俺……じゃなかった。私は」

 

 この外見で俺の一人称が合わないことは理解している。

 だから言い直し、その後に今の自分の名前を告げた。

 

超能力捜査研究科(SSR)Eランク超偵、今日より二年の洩矢諏訪子」




超偵で合ってますよね……?
間違ってたらすいません。


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2.世界と武偵と。

※一話目とは多少文法というか、書き方を変えています。というより今回みたいな書き方が自分の本来の書き方と思ってもらって大丈夫です。
 一話目は、あれです。原作に少し似せようと頑張った結果です。失敗したような気がしますが。


 ボロボロな神社の内部で目覚めた俺は、見知らぬ場所にいることを疑問に思いつつ立ち上がった。

 眠気が残っているので目元を擦り、視界を安定させる。

 そして異変に気が付いた。

 

「……ん?」

 

 いつもより目線が低いように感じたのだ。一瞬で気付くくらいに違いがあり、体の方にも違和感があった。

 見下ろせば、小さくて貧相な体と、蛙の模様が描かれたおかしな腹が目に入る。

 自分の手を目の前まで持っていき観察をした。ぷにぷにとした柔らかい子供の様な手。それが自由に動かせている。感覚を共有しているようだ。

 困惑しつつ、鏡代わりになるものを探すように周囲を見渡した。だが何も無く、仕方無く神社を出る。

 日差し。日光。

 神社の地形は俺が祈願に来た場所と同じものだ。見覚えのある地域。ただ、最後に見た時より神社がボロっちいことが少し気に掛かる。それも見てすぐにわかるくらいにだ。

 何が起こってる?

 混乱。わけがわからなかった。

 神社付近を徘徊していると小さな池を見つけ、近寄ってその水面を覗き込んだ。

 そこに映るのはいつもの自分とは全く違う姿。

 レモン色の髪と瞳を備え、蛙の目のようなものが左右に付けられている黄土色の帽子を被った、小学生くらいの少女。

 水面に映る彼女の顔は驚愕と困惑に染まっている。

 

「俺……なのか……?」

 

 放たれた言葉と共に少女の口が上下していた。

 間違い無い。水面に映るそれが同時に動いたのだから。

 頬を引っ張り、明確な痛みがあることを確認する。少女の顔が苦しげに歪んだ。

 

「…………」

 

 そして俺は、この少女の正体を知っていた。

 名前を洩矢諏訪子。

 土着神の頂点と言われる、とあるゲームにおける神様である。

 それと容姿が全く同じだ。

 

「どうなってるんだよ……」

 

 今更だが、口から出ている言葉も、子供らしい高い声音になっていることが把握できた。

 頭を抱える。

 しばらくそのままジッとしていた。定まらない思考を続ける脳内を宥めるように、落ち付けと心で念じていく。冷静になるように努め、ただその場で動かずに。

 頭が完全に冷えた頃に立ち上がった。

 

「家に帰らないと」

 

 呟き、神社の階段へ足を進め、降りて行く。

 足取りはゆっくりだ。

 慣れない体ということもあるし、現状を人に見られたくないという気持ちもある。

 階段を降り切った後も人がいないか確認をしてから前進をした。

 

「……そうだ」

 

 鳥居の前まで来て思い出す。

 受験のために猛勉強をして、祈願のために俺は神社に来たんだ。でも疲れていたからここで意識が遠くなって、そのまま倒れた――ような。

 神社に来たことは確かなのだが、そこからの記憶が随分と曖昧だった。思い出そうとしてもさっぱり分からない。ただ、祈願はしていないことは確かである。

 何で俺は神社の中に居たんだろう。何で俺はこんな姿になっているんだろう。

 沸き上がる疑問を無理にでも抑え、今は家に行くのが先だと判断して再び歩き始めた。

 ボロボロな神社だからか人は全然いない。それとも人がいないからボロボロになるまでに至っているのか。詳しいことは分からないが、俺の記憶では結構人気な神社だったはずである。

 神社の敷地を出るとチラホラと人の姿が見えてきた。

 人がしっかりと居ることに安堵しつつ物陰に隠れて観察をする。

 一般人。何ら遜色の無い携帯を持ち、ありがちな服装に身を包む人々。

 どうやら未来に来たとかそういう話では無さそうだ。そのことに軽く安堵したが、では何故神社がボロくなっていたり俺の姿が諏訪子サマに変わっていたかが不可思議な事象となる。

 俺の家は神社の近くなのでもうすぐだ。人目を避けながらゆっくりと進む。

 そして目的の場所に辿り着く。

 そこには何も無かった。

 

「…………」

 

 言葉を失ったとはこのことだろう。

 空き地。整地された地面だけが存在する何も無い空間。家なんてどこにも無い、単なる更地。

 意味がわからない。

 一体全体、これはどういうことなんだ。

 

「――――ッ」

 

 唐突に銃声が響き、ビクリとする。

 反射的に音源を探すように視線を彷徨わせた。

 

「あ……すみません、セーフティを掛けるのを忘れてました」

 

 呆然としていたので人が近付いていたのに気付けなかったのだろう。いつの間にか結構近くを歩いていたどこかの制服を着た男性が驚いた風の俺へ謝罪するように頭を下げ、取り出した拳銃を弄り出す。

 当然のように。

 銃を持っていることも、学生のはずなのに手慣れていることも。

 全てが当たり前のことみたいだった。

 

「…………」

 

 気付かないはずがない。

 ここは俺がいた日本とはどこか異質で異様な、決して交わらない世界の日本なのだと。

 パラレルワールドというものを聞いたことがある。

 違う選択肢を選んでいれば進んでいたはずの可能性世界。違う選択肢を選んでいれば進んでいたかもしれない可能性世界。

 きっと俺がいるのはそういう世界だ。

 神隠し。

 俺は神隠しにあって、この世界に移された。

 そう考えるのが妥当。いや、非現実的なことに妥当も何も無い。

 ただ、漠然としてそう感じたのだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ――――武偵。

 段々と凶悪化していく犯罪に対抗するために作られた国家資格の名称である。

 その免許を持つ者は警察に準ずる活動が可能となり、武装も許可される。

 ただ、武偵は警察とは違って金で動く。そして武偵法と呼ばれる武偵に対する法律を侵さぬ限りは様々なことを行うという、警察とは趣旨の違う何でも屋のような一面もあった。

 それを育成するという目的で設けられている施設の名が武偵高。世界に存在し、俺も通っている高校だ。

 授業の大半は武偵に関することであり、一般的な国語とか数学などはオマケ程度にしかやることはない。しかも総じてレベルが低く、一応前の世界では受験勉強を死ぬほどやった身としては楽すぎて手応えがないと感じられる。

 武偵の授業は何故か散々なんだけど。実戦ですらない覚え系のものもどうしてか全然できない。未だ武偵……憲章? とかいうやつもうろ覚えである。確か一〇条までしかなかったはず。

 話を戻すが、武偵校では実技の実力があれば学力がなくてもあんまり問題はない。単位制の学校であり、授業以外にも単位を稼ぐ方法があることも多大な影響を及ぼしていると思われた。

 その単位を稼ぐ方法というのが依頼。

 授業の一環として学園や民間から寄せられる依頼を受けることができるのだが、実力があれば楽にこなすことだって可能になる。難易度によって貰える単位に違いがあり、実力が高い方が確実に上がり易くなっている。

 知識よりも実力優先。

 当然こんな学校では社交性のないやつらばかりが集まるのは当然と言えた。教師も生徒もどこか壊れている部分が見受けられる。俺もその一人と言えなくもなく、前の世界と今の世界の感性がごちゃ混ぜになっている自分は確かにどこかおかしい部分があるんだろう。

 そして武偵校では銃と刀剣の類の携帯が義務付けられている。制服も防弾製のものが支給されており、いつでも軽い戦闘くらいはできるようにしていなければいけないらしい。

 最後だが、武偵校は幾つもの学科に分かれている。俺が所属するのは研究部(リサーチ)の超能力捜査研究科(SSR)。通称S研と呼ばれる学科であり、超能力のような超常現象による犯罪捜査研究を行うところだ。この科に所属する者は超偵と呼ばれている。

 超能力と言っても直接的に被害を及ぼすような力を持っている人は少ない。よくあるようなものがダウジングなどで、結構地味な超能力捜査である。

 因みに俺は殆ど何もできない。ダウジングは全く動かないし、その他のことに関しても全然だ。そのため超能力捜査研究科では珍しく、誰でもできるような適当な依頼を何とかこなして単位を保たせ続けている。

 

「うふふ。じゃあまずは去年の三学期に転入してきたカーワイイ子から自己紹介してもらっちゃいますよ!」

 

 妙にテンションの高い先生の言葉を耳にし、この世界に来た時のことを思い出したり、武偵について改めて振り返っていた意識が、現実へと引き戻された。

 口元に垂れる涎を拭いて目元を擦る。

 去年の三学期は単位稼ぎを必死に行っていたので交流や信仰勧誘は少なめとなっていた。だから三学期に転入してきたなんて話は初耳で、先生の視線の先へ自分も目を向ける。

 そこにいたのは、体育倉庫で出会った女子生徒ことアリアさん。

 開口一番にとある席を指差して『隣に座りたい』と漏らし、周囲が歓声の渦に包まれた。

 指の先に居たのは同じように体育倉庫で出会ったセクハラ野郎。同じクラスだったことを今把握し、しかし体育倉庫の頃とは少しだけ雰囲気が違うことに違和感を覚える。

 あんな根暗そうなやつだったっけ。もっと目元がキリっとなってたような気がする。

 俺の予想なら簡単に受け入れるはずだったのだが、あろうことか「なんでだよ」と嫌そうな声を発した。

 本当に嫌そうだ。

 本来あのセクハラ野郎――キンジという名前らしい――の隣だったはずの男が親切そうにアリアさんに席を譲る宣言をし、移動を開始する。

 教室内は拍手と喝采で埋め尽くされた。

 アリアさんがキンジに近付き、借りていたベルトを投げ渡す。着替えてきたのだろうか、ホックは既にしっかりと存在していた。

 

「理子分かった! 分かっちゃった! これフラグばっきばきに立ってるよ」

 

 物凄いフリルで制服を改造している金髪ツインテールの少女――理子が席を立って声を上げる。

 全員が注目する中で、彼女は『キンジとアリアがベルトを外すような何らかの行為をした』と推測を立てて見せた。

 クラス中が騒ぎに包まれ、席を隣に移動してきた、元々キンジの隣だった男子――武籐が話し掛けてくる。

 

「あいつあんな女子嫌がってたくせに裏でそんなことやってたのかよ! なあ洩矢!」

「…………そーだね。なんていうか、悔しかったり嬉しかったり、ごちゃまぜな気持ちになるよね」

 

 適当に相槌を打った。武藤は「女のお前でも分かってくれるか!」と俺の手を握って上下に振ってくる。痛いです。

 武藤とは中学からの知り合いだ。理子とも一応知り合いである。学校中で信仰勧誘をやっていた時に出会い、偶々喋る程度の交流をしていた。

 一切、神を信じてくれないけど。いや、信じてくれていたらとっくにEランクなんて脱出してるんだが。

 学科ごとにランクがあり、それはR、S、A~Eまで幅広く存在している。Aが一流と呼ばれるほどで、SがAランクが束になっても敵わない程度の実力。Rランクは世界に数人程度しかいないので除外する。

 何が言いたいのかというと、俺は中学から超能力捜査研究科に所属していながら未だEランクということだ。要するに雑魚。

 姿が洩矢諏訪子のものとなると同時に、同じように力も俺は授かっている。だがその力に問題があり――とどのつまり、信仰が無ければ力を発揮することができない。

 今の自分の神力――信仰により手に入るエネルギー――は本当に少ない。

 と、直後。

 教室中に銃声が木霊した。

 

「れ、恋愛だなんて、くっだらない!」

 

 言い切って見せた彼女の声は震え、更には顔を真っ赤に染めていたが、それを指摘してはいけないだろう。

 

「全員覚えておきなさい! そんな馬鹿なこと言う奴には――風穴あけるわよ!」

 

 神力があれば風穴くらいは耐えられそうだけど、今は困るかな。

 苦笑しつつ欠伸もして、肘を付き頬に手の平を付ける。

 ああ。授業も昼休みも全部終わったら、今日の依頼、どんなの受けようかなー。



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3.キンジの噂。

 全然できない実技とあんまり分からない筆記授業が終わり、昼休みになる。

 その直前で周知のメールが届くがチャリジャック事件のことだった。朝のアレだな。適当に読み流す。

 

「それにしても何でお前はそんなに布教が好きなんだ?」

「布教じゃないよ。信仰勧誘」

 

 購買で買ったパンを口に含みつつ、隣の席からの言葉に答えを返した。

 布教は宗教を広めること。教えをバラまくことだ。俺のしていることはそれとは違う。何も教えないし教えられない。

 

「『私を信じて』とか『私って実は神なんだ』とか、初見で言われてもギャグにしか思えねーけどな」

 

 学校中の殆どの生徒のところへ回って声を掛けたり、手書きのポスターを作ったり。

 一年の一、二学期の頃は色々やってきたが、やはりそんな簡単には信仰者は集まってくれない。

 三学期は忙しくて何もできなかった。どちらにせよ、信仰勧誘をその時にやっていたとしても今の状況は変わっていなかっただろう。

 ままならない。

 溜め息を吐き、パンを食べ切った。もうお腹一杯だ。パン一個しか食べてないけれど。

 

「武藤ー……」

「ん?」

「どーすれば信仰集まるかなー……」

 

 机に上半身を寄り掛かせつつ問い掛ける。

 二年になったと言ってもメンバーは去年と同じだ。去年はかなり目立つことをしていたし、あれで信仰が集まらないならどうすればいいのか分からない。

 注目を集めるだけでは駄目だということがよく分かった。

 なら、何をすればいいんだろう。

 

「神様パワー的なものを見せびらかせればいいんじゃないか? そうすれば数人くらいは釣れると思うが」

「信仰パワーが足りなくてできねー」

 

 人に見せびらかせるくらい強大な力なんて今の俺は持っていない。何せ信仰が殆ど無いのだから。

 信仰を得るためには力が必要。力を得るためには信仰が必要。

 なんて酷い悪循環だ。ふざけんな。どうすればいいんだよ。

 人を騙せばいいのだろうか。信仰が集まれば嘘も本当になってくれる。だが、バレた時のリスクが大き過ぎる。

 それに、人を騙すと言っても何をどうすればいいんだ。偽物の力を見せつけたとしても武偵ならそれにすぐ気付いてしまうはず。

 本当にままならない。

 

「……はあ」

 

 今年は去年みたいに馬鹿正直に勧誘するのではなく、頭脳を使おうかと考えていた。

 だが全然駄目だ。前世のことは色褪せずハッキリと覚えているのに、何故かこちらの世界に来てから思考能力やその他諸々が落ちている。

 お子様ボディのせいなのか、それとも神力が足りていないのか。考えが及ばない。

 

「ねぇ」

「ん……あー」

 

 聞き覚えのある声がし、顔を上げた。

 アリアさんが立っている。

 こちらを覗き込むように腰を下げて呼びかけてきていた。

 

「朝の事件の時の援護、助かったわ。ありがとう」

「別にいいよ」

 

 適当な挨拶。おそらくこれ以外に本題があるのだろう。耳を澄まし、言葉を待つ。

 

「キンジって知ってる? あいつのこと教えてほしいんだけど」

「知らねーっす」

「あ、俺知ってますよ」

 

 武藤が気の良い返事を返した。元々そちらに期待していたのだろう。こいつはキンジを知っている風な雰囲気を出していたから。

 俺は除外され、黙って二人の会話を聞いていた。

 どんな武偵なのかということや実績。色々なこと。

 キンジというあの男子生徒はどうやら探偵科(インケスタ)のEランクらしい。

 Eランク。Eランクだ。武偵校最低ランクの雑魚のEランクだ。俺と同じ。

 しかし違和感があった。

 あの時……あの体育倉庫で見た彼の実力はその程度のものではなかった。

 セグウェイに搭載されたサブマシンガンの放つ弾を避け、尚且つ銃口へその数だけの弾を放ってサブマシンガンを壊す。

 あんな芸当をやるならばSランクほどの力が無ければ無理だろう。悪くともAランクの実力が必要なはず。

 運が良かった、だけでは片付けられない。あの時のキンジは全てに対して冷静に対処していた。

 

「入学時はあいつも強襲科(アサルト)のSランクで凄かったのだがな」

 

 気になることを耳にする。

 実力を隠しているということだろうか。ありえるが、けれどどうしてそんな無駄なこと……。

 ランクが高ければ学期を乗り切るのに有利になる。周りに信頼されるようにもなるし、金も稼ぎやすくなる。

 アリアが情報収集を終了した後に武藤へキンジの今のランクを問い掛けた。

 Eランクみたいだ。

 やはりおかしい。

 もし目立ちたくないにしてもEランクというのは逆効果。普通程度の実力であるCランクくらいにしておけばいいはずだ。Eランクだと弱過ぎて逆に目立つのだから。

 SとE。急激過ぎる暴落。

 違和感があった。

 今の俺の頭脳では推理とかそういうことが全然できないが、その違和感や先程の話からキンジが何かを周囲に隠しているということが分かってしまう。

 まさか、俺のように神力を?

 いや、それはありえない。それならわざわざ信仰が下がるような手抜きをしないはずだ。神力は力の源とでも言うべきもの。信仰度を下げたくないと思うのは当然の心理

 そもそも神力を持ってるくせに強襲科、というのは無い。無さ過ぎる。普通は超能力捜査研究科だ。

 なら別の要因が絡んでいることになるが……。

 性格の変化も気になる。

 最初に会った時はキザ野郎、という感じの認識だった。だが事件後の教室での出来事では逆に根暗みたいな雰囲気を醸し出していて。

 何だかよくわからなくなってきた。

 特定の条件でしか発動できない不思議な力みたいなものだとでも捉えておこう。俺の神力もそれに当てはまるし、そんな感じのもののはず。

 超能力とは違う別の力の可能性が高いし、もしかしたら同郷の人かもしれない。

 色々と想像ができるが接触しない限りは何も分からない。

 近い内に話し掛けよう。

 

「……その前に五時間目の専門科目のために教室から移動しないと」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 相変わらず全然できなくて意味不明な授業が終わり、空き地に植木を植えるという依頼を受けてきた。

 空き地――前世では俺の家があったはずの場所でその作業をしている。

 

「…………」

 

 黙々と続けていた。今の俺はただの子供と変わらないくらいの筋力や体力しかないので大変だ。

 少しだけ楽をしたい、という思考を基に、現状では殆ど役に立たない『能力』を使用する。

 根が傷まないように綺麗に植え、土を整えた。他に三本くらい同じように植えたところで神力が空っぽになったことを自覚し、能力が切れる。

 

「……はぁ」

 

 こんなことにしか能力を使えないことを苦く感じ、溜め息を漏らした。

 洩矢諏訪子が保有する能力は、即ち『坤を創造する程度の能力』。

 坤というのはつまり大地のことで、本来なら土を整えるくらい造作も無い……のだが、俺は神力が足りな過ぎるのでショボイことにしか使えない。

 あと一本植えれば依頼は完了だ。

 最後は素手で頑張ろうと気合を入れ、集中をした。

 

「……終わった」

 

 既に夕方も終盤に差し掛かり始めた頃。失敗しそうになりながらも最後の一本を植え終わり、呟くことでそれを実感する。

 背伸びをすると気持ち良さが体を駆け巡った。

 脱力し、ショットガンを背負い直して歩き出す。

 

「……やめとこ」

 

 自分の神社が近いので少し寄ろうかとも考えたが、もうすぐ暗くなりそうなのでさっさと武偵校近くへ帰ることにした。

 最初に俺が目覚めたあの神社はどうやら俺のものらしく、あそこでお参りなんかをされると神力が増す。

 神主も巫女もいないボロ神社。あそこが今の俺の実家となっている。

 乾いた笑いを浮かべながら足を動かした。

 武偵校で依頼完了の手続きを済ませ、女子寮へ向かう。

 

「ただいま……」

 

 空には既に赤みはなかった。完全に夜と化した時間帯に部屋の扉を開ける。

 

「あ、おかえりなさい、諏訪子様」

 

 中では同室の白雪が着替えを行っていた。

 巫女服を畳んでいる。

 彼女は俺を神だと信じてくれる唯一の人間で、星伽神社と呼ばれる神社の巫女さんだ。

 本来なら俺のことを神と信じてくれるだけでも信仰は集まる。だが、彼女は別の神社に既に仕えているので大して神力を送ってもらえない。

 

「様はいらないよ。私の方がランクは下なんだし、至上最低ランクの神って言っても過言じゃないんだから」

「で、でも……」

 

 言い淀む彼女が呼び方を変えてくれないことなんて本当はわかっている。何とか敬語は止めてもらったが、呼び方だけはどうしても変えるのは無理みたいだ。

 流石に神を呼び捨てというのは巫女として駄目なことなのだろう。

 どうしようもないこととわかっているからそれ以上は言わず、自分のベッドに腰を掛けた。

 

「今日は、諏訪子さ……様は何をしてきたんで……の?」

 

 物凄い詰まっているのはきっと敬語を言いそうになっているからだ。

 大きな噂になるのは困るので、敬語は無理矢理にでも止めさせてもらっている。

 そちらの方が言いやすいのだとしても。

 

「植え木を埋めてきた」

 

 土に関する依頼を受けることが多いのは周知の事実だ。

 先に風呂に入ることに了承を受け、さっさとそれを済ませる。

 ベッドに寝転がり、明日に対しての思考をする。

 恐山での合宿、だったかな。

 超能力捜査研究科での合宿授業だ。めんどうくさいが、行かなければならない。

 

「白雪、キンジって知ってる?」

「え、キンちゃん……?」

 

 知っているらしく、自分が彼に対して呼んでいるであろう名を呟いていた。

 

「どんな人なのかとかわかるかな?」

 

 訊くと、何だか急に雰囲気が一変したような印象を受ける。

 穏やかな空気が不穏なものになったような。

 首を傾げていると、白雪が「それって」と言い出した。

 

「それってどういう意味で訊いてるの……?」

「……? どういうって、何か面白そうな人だから話してみたいとか、そんな感じだよ」

 

 答えると黒かった空気が霧散し、和やかなものへと戻る。

 本当になんだったのだろう。

 白雪が「え、と」と躓きつつも質問に答えてくれた。

 

「キンちゃんは優しい人だよ」

「……うん」

 

 優しい、と言えば優しいとも納得できる。一応、体育倉庫では助けてもらった。

 いや、巻き込まれたのを勝手に掻き回された感じだから認めたくないけど。

 

「それから格好良いの」

「……うん」

 

 あんなキザな言動も他の女子達には格好良く見えるのかな。

 少しは格好良いと認めながら話を聞き続ける。

 

「それにとっても強いんだよ」

「……うん」

 

 確かに強かった。俺では絶対にできない芸当もやってみせた。

 白雪が知っているのなら、きっとあの強さは幻や偶然ではないものだ。

 期待が高まる。

 それからも色々と聞き続けていた。途中で半分以上が惚気話だと気付いたが、時既に遅し。

 白雪はキンジという男子生徒に惚れているのかな。

 きっとそうだ。確信を持ち、「そろそろ風呂に入れば」と催促をする。

 一人になったところで急に頭が痛くなり、ベッドに寝転がった。

 何だか熱い。

 おかしいな、と思いつつ気持ち悪さも感じている。

 

「う、ん……」

 

 耐えきれず、意識は闇の中に落ちていった。




恐山に合宿のことを忘れていて二日くらい停滞してました。
結構無理矢理な展開になってしまうと思いますが、了承いただけると嬉しいです。


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