甜花ちゃんの大冒険 (ドラソードP)
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プロローグ 甜花、気がついてしまう
この前書きを見ているということは、恐らく名刺に着いていたオマケQRに目を通してくれたということかと思われます。ありがとうございます、このお話を書いた甲斐があります。
そんなに読んで欲しかったならこんな回りくどい方法ではなく、普通に投稿すれば良かったのでは? というツッコミ、多分だいぶあると思います。こういうちょっと変わったことやった方がそれっぽいじゃん? つまり特に意味は有りません。察して。
ということで前書きはこの辺りにして、早速本編に入っていきたいと思います。Are you ready?
プロローグ
甜花、気がついてしまう
「大変なことになっちゃった……!!!」
それはとある日のプロダクション、なーちゃんが仕事のために部屋を出ていって数分後に発覚した重大な事件だった。
「どうしよう⋯⋯もうなーちゃんはプロデューサーさんと車に乗ってお仕事にでかけちゃったし……」
その日、甜花はいつも通りの時間になーちゃんと一緒に来て、なーちゃんや千雪さん、プロダクションのみんなと楽しくおしゃべりをしたり、朝のレッスンの準備をしてすごしていた。そして、特に何事も起こることなく平和に流れていく時間。
「もう、追いかけても間に合わないかな……」
今日はプロデューサーさんとなーちゃんは仕事の為、朝から一日中ずっと出かけることになっていた。そして甜花は、午後まで仕事もレッスンも予定は無い。だから今日、甜花は午前中の間だけアイドルお休み。
「⋯⋯よし、甜花決めた。なーちゃんには悪いけど、甜花は今日、午前中お休みだから⋯⋯」
午前中は精一杯ダラダラと過ごし、午後はレッスンをちょっとだけ頑張って、その後はなーちゃんとプロデューサーさんの帰りを待つ。そしてなーちゃんとお家に帰って、一緒に買ったばかりの新作のゲームをする。そう予定を立てていた。
「⋯⋯そう、お休みだから⋯⋯」
立てていた、のだった。
「⋯⋯でも⋯⋯もし、それでなーちゃんが仕事を失敗したりして、大変なことになっちゃったりしたら⋯⋯」
しかし、そこで事件は起きてしまった。
「あうぅ⋯⋯どうしよう⋯⋯」
葛藤する心。目の前にあるふかふかのソファが甜花を呼んでいる。あぁ、寝転がりたい⋯⋯あそこに寝転がりながら、ひたすらにだらだらとゲームがしたい⋯⋯たくさん気が済むまでお昼寝をしたい⋯⋯悪魔の格好をした甜花が甜花を呼ぶ。
「なーちゃん、ゲーム、なーちゃん、お昼寝⋯⋯!」
最近はお仕事続きで、お休みなんてほとんど無かった。お家に帰っても仕事やレッスンの疲れで、ゲームをやる前に眠くなってきて寝ちゃうし。
「天使の甜花と、悪魔の甜花がぐるぐる⋯⋯」
まあ確かに、それはアイドルとしてなーちゃんと一緒に輝けているという意味で嬉しいことであって、決して悪いことじゃない。でも、だからこそ、甜花は久しぶりに貰えたこのお休み時間を、心の底から凄く楽しみにしていた。
「⋯⋯いや」
でも、そんなだらだらと過ごすお休みと同じくらいに、甜花はなーちゃんのことが大好き。
「甜花は、なーちゃんのお姉ちゃんだから⋯⋯!」
だから、なーちゃんが悲しむ姿なんて甜花は見たくない。
「甜花、やっぱり頑張る⋯⋯!!」
突如としてなーちゃんに迫る重大な危機。それを防ぐ為に甜花は、勇気を振り絞ることにした。
「お弁当、届けなくちゃ⋯⋯!」
そう、なーちゃんはお弁当を忘れていってしまったのである。
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第一話 甜花、冒険に出る
第一話
甜花、冒険に出る
〜AM 8:35〜
さて、とかなんとか、甜花は葛藤の末、なーちゃんのためにお弁当を届けることにした。
「確か、取材ロケのお仕事って聞いていたけど⋯⋯」
しかし、早速大きな問題にぶつかってしまう。そう、甜花はまず、なーちゃんとプロデューサーさんがどこに行ったのかをそもそも知らなかった。
事務所のテーブルに置かれたそれを手に取り、いざ出発⋯⋯と意気込んだまでは多分良かったんだと思う。でも、なーちゃんとプロデューサーがどこに行ったのか分からないのでは、そもそもどこにも行きようが無かった。
「あうぅ⋯⋯」
甜花、早速大ピンチ。
「どうしたらいいんだろう⋯⋯」
甜花は考えた。甜花は勉強はあまり得意では無い。しかし幸いにも、甜花は考えるということ自体は不得意でもない。むしろ、色々なゲームで色々なことを考えて、悩んで、解決してきたお陰で好きな作業の内にも入るのかもしれない。
「とりあえず、なーちゃんに電話する⋯⋯? それとも⋯⋯プロデューサーさんに⋯⋯?」
恐らく、ここまで頭を働かせたのはつい先月、仕事の合間を縫って挑戦し続けようやくクリアした、あの超難度のアクションゲーム以来かもしれない。でも、それほどなーちゃんのピンチは甜花にとっても重要なことだった。
「でも⋯⋯もし、車の中や電車の中だったら迷惑になっちゃうかもしれないし⋯⋯メールだと、時間がかかっちゃうし⋯⋯」
できればなーちゃん達にはお仕事に集中してもらいたい。もし仮に、今日のお仕事が重要なお仕事だったとしたら、その打ち合わせ途中だったとしたら、甜花が電話やメールをしてしまったが故に流れを止めてしまったとしたら、それはそれでとても申し訳なくなってしまう。
「それに⋯⋯」
それに、甜花にはもう一つ違った思いがあった。
「⋯⋯甜花だって、やればできる子だから」
これは完全に個人的な話になってしまうのかもしれない。だけど、甜花は内緒でお弁当を持って行って、二人がお弁当を忘れたことに気が付く前に届け、甜花だってやればできる子だって見直してもらいたいという気持ちもあったのだ。そう考えると、二人への連絡は最終手段としておきたいと、そう甜花は思った。
「⋯⋯例えばこんな時、ゲームの主人公ならどうするだろう⋯⋯」
甜花は更に考えた。いつもゲームをプレイする時、行き詰まったらまず何をするのか。何をしてピンチを乗り越えたのか。今までの経験を総動員し、この問題に向き合う。
「⋯⋯そうだ!」
そして甜花は閃いた。
「⋯⋯はづきさん!」
例えばそれはRPGゲーム。広大な世界を旅するRPGゲームなどでは、次の目的地を見失ってしまうことも少なくはない。道に迷ってしまった、もしくはやるべき事が分からなくなった。そんな時の鉄板はまず『近くに居る人たちへの聞き込み』をすることに限ると。
「はいー? 何ですか〜、甜花ちゃん?」
「はづきさん⋯⋯プロデューサーさんとなーちゃんが今日、どこに行ったか知ってる⋯⋯?」
甜花がそう聞くと、はづきさんは慣れた動作でパソコンに何やらカタカタと打ち込み始めた。そしてしばらく何かについて調べたかと思うと、作業の手を止めた。
「えーっと⋯⋯確か二人は今日、渋谷の方に⋯⋯」
「しっ⋯⋯渋谷⋯⋯!?」
あぁ、なんということだろう。甜花、再びの大ピンチ。なんと今、はづきさんの口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
『渋谷』
流行の最先端。若者が集う街。多くの人々が日々行き交う、日本屈指の大都市。しかし、そんなことよりも一番の問題が甜花の前には立ちはばかる。
「そうですね〜。なんでも、ファッションの最先端についての取材と撮影のために、色々なお店を巡るとか⋯⋯らしいですね〜」
「渋谷⋯⋯人や車⋯⋯いっぱい⋯⋯」
そう、知っての通り甜花は、人混みが大の苦手だ。
「あっ、あうぅ⋯⋯」
渋谷の人混みを想像しただけで頭がくらくらしてくる。様々な人々の話し声や環境音、息苦しくなるほどの人の密度。そして何より、自分より可愛いく、魅力的に見えてしまうオシャレな人達。甜花にとって渋谷は、まさに踏み入れるだけで精一杯な魔境都市、最高難易度のダンジョンだった。
実を言うと渋谷には、ごくたまに仕事や、休日のお出かけで行ったことはあることにはある。けれども、そういった時はなーちゃんやプロデューサーさんなどの、誰か信頼できる人が必ずそばに居た。でも、今回はそんなプロデューサーさんやなーちゃんも居ない。だからこそ、甜花にとって渋谷という言葉は諦めるのに充分な言葉だった。
「⋯⋯やっぱり、届けに行くのはやめにしようかな⋯⋯」
物事には諦めが肝心、ということもまたゲームから学んだことだ。よく、いくら強い敵や難しいステージでつまづいたとしても、諦めない心が大切とは言われがちだ。しかし、全く勝ち目が無いのに無駄に時間を消費することは、あまり得策ではないとも甜花は知っている。時にはきっぱりと諦めて、お昼寝をする勇気も必要だ。
「えっと⋯⋯とりあえず、教えてくれて、ありがとうございました⋯⋯はづきさん」
「いえいえ〜」
情報を教えてくれたはづきさんにお礼を言った後、甜花はゆっくりとソファに腰掛けた。
「ごめんね⋯⋯なーちゃん⋯⋯悪いのは全部、渋谷のせいなんだ⋯⋯」
甜花は全ての責任を渋谷のせいにして、お弁当を届けに行くことをきれいさっぱり諦めた。だって、ダメな物はダメだから。決してやっぱり行きたくなくなったとか、そんなことではない。決して、決して。
「さてと⋯⋯午後のレッスンにそなえて、たくさんお昼寝しなきゃ⋯⋯」
そう言って、うとうととしながらソファに寝そべろうとした次の瞬間、部屋には一人の声が響き渡る。
「あー!! 何ですかそれ!! とっても面白そうです!!」
声の主、それは事務所に所属するアイドルである小宮果穂ちゃんの声だった。
「⋯⋯ん? これ?」
果穂ちゃんの声に反応した人物がもう一人。先程から事務所の窓際で、黙々と手元の小さな機械をいじっていた芹沢あさひちゃんだった。
「実はわたしもよく分かってないんだけど、これは多分、ちょっと前に流行った携帯育成ゲームだと思う」
「携帯育成ゲーム⋯⋯!!」
「最近家の整理をしていたら、棚の奥から出てきてさ〜。気になったから事務所に持ってきたんだ」
あさひちゃんの言葉に、果穂ちゃんはその目を眩しいくらいに輝かせる。確かに、あさひちゃんが持っている携帯育成ゲームは一昔前に流行ったものだ。丁度甜花は世代に被っていたため話が分からなくもないが、二人からするとそれは珍しい物になるのかもしれない。
「一応、電源を入れたら動いたんだけど、データが最初からになっていて何が何だかよく分からないんだよね。それにわたし、そんなにゲームとかには詳しくないし」
「でも、育成ゲームってなんだか面白そうですっ! ゲームの中で生き物が生きているなんて、まるでこの前見たヒーロー番組に出てきた、コンピューターウィルスの怪人みたいです⋯⋯」
「んー⋯⋯なんだよくわかんないけど、そんなに気になるならやってみる?果穂ちゃん」
「はい!!」
そう言って果穂ちゃんはあさひちゃんからゲームを受け取る。途端に果穂ちゃんは満面の笑みを浮かべて、その小さな機械をいじり始めた。
「うーん⋯⋯あたしもなんだかやり方が分からないです。何かマークが出ているんですけど⋯⋯もしかしたら、お腹が空いているんでしょうか?」
『お腹が⋯⋯空いている⋯⋯?』
「あー、確かに肉のマークが出ているし、もしかしたらそうなのかも」
「このボタンは違うし⋯⋯このボタンは⋯⋯あれっ? なんか画面が変わっちゃいました」
「あー、ちょっと貸して! それは多分オプション画面だと思う。餌やりは確か⋯⋯」
二人は小さな機械を互いに取り合いながら必死にプレイをしている。何やら気になるワードこそあったものの、甜花は深いことは考えないようにした。
「ああ⋯⋯あさひさん! なんだかさっきより、この子の元気がないように見えます!」
「うーん、説明書でもあれば良いんだけど⋯⋯ん?」
「ん?」
と、甜花はあさひちゃんと目が合う。
「丁度いい所にゲームに詳しそうな人が!」
そう言うとあさひちゃんは、まるで飛んでくるかのような勢いで甜花の所に走ってきた。
「甜花ちゃん、ちょっとこれのやり方わからないっすか? ゲームに詳しい甜花ちゃんなら色々やり方とか分かりそうっすけど」
「えっ、えーっと⋯⋯うん、分かった」
甜花はあさひちゃんからその卵ほどの小さなサイズをしたゲーム機を受け取った。そして、目を凝らしてその小さな画面を確認する。
「⋯⋯あっ」
しかしどうやら、時は既に遅かったみたいだった。画面には十字架と共に幽霊のキャラが映し出されていて、死んでしまったことが読み取れた。
「どうっすか?」
「えっと⋯⋯多分、もうお腹が空きすぎて⋯⋯死んじゃったみたい」
お腹が、空きすぎて⋯⋯
「⋯⋯お腹が空いて、死んじゃった⋯⋯!?!?」
「ん? どうしたんすか?」
途端に甜花の頭の中には、なーちゃんの姿が映し出される。
『甜花ちゃん⋯⋯お腹が空いたよ〜⋯⋯』
『うーん⋯⋯お腹が空いて力が出ないよ〜』
『甘奈、もうダメかも⋯⋯』
その瞬間、甜花の体から血の気が引いていくのがわかった。
「⋯⋯大丈夫っすか?甜花ちゃん。なんだか顔色が悪いっすけど」
「⋯⋯甜花、やっぱり行かなくちゃ」
「ん? 行くってどこに行くんすか? 確か甜花ちゃんは今日、午前中は休みで仕事とかレッスンの予定は無かったんじゃないんすか? 」
「うん⋯⋯そう。でも⋯⋯」
それでも、助けに行かなければいけない人が居る。
「⋯⋯甜花を、待っている人が居る」
甜花の助けを待っている、大切な人が。
「だから、甜花は冒険に行かなくちゃ⋯⋯!」
「「冒険⋯⋯!!」」
甜花の言葉に、二人は今日一番の笑顔を見せ、顔を合わせる。
「今、冒険って言わなかったっすか!?」
「冒険!! 冒険ですか!?」
「ひぃん!?」
詰め寄ってくる二人の勢いに押され、思わずびっくりして声が漏れる。
「せっ⋯⋯芹沢さん⋯⋯?」
「それならちょうど、わたしも暇をしていた所なんすよ! だからわたしも、冒険に連れて行ってくださいっす!!」
「あっ、あの⋯⋯」
「隠そうとしても無駄っすよ!! もう聞いちゃったっすからね! わたしの耳はごまかせないっす!」
「冒険だったら、あたしも連れて行ってください! あたしもあさひさんと同じで、ちょっと退屈をしていた所なんですっ!」
「果穂ちゃんまで⋯⋯あぅ⋯⋯」
さて、これは困ったことになった。いくら一人で行くのが不安とは言ったが、全く無関係の、しかも自分より年下の小学生と中学生の二人を巻き込むとなると、少し気が引ける。それに、元気いっぱいの二人は、甜花一人で面倒を見切れるのか少々不安が残る。
「でも、冒険って一体どこに行くんっすか? というか、そもそも目的はなんなんすか? 宝探し? 未開の地の探索?」
「目的地は⋯⋯渋谷⋯⋯!」
「「おぉ⋯⋯!」」
「目的は⋯⋯お弁当を忘れたなーちゃんのために、お弁当を届けに行くこと⋯⋯」
「すごいですーっ! 甜花さん、甘奈さんにお弁当を届ける為だけに、渋谷まで行くんですか!?」
「うん⋯⋯」
甜花は小さく頷く。まるでもう行くことが決まったかのような反応をする二人に、二人がついてくることを断りにくくなってしまった。
「まあわたしは理由なんてどうでも良いっす。楽しそうなことができるなら、それだけで充分っすからね!」
「誰かのために何かを頑張るのは、ヒーローの仕事です! だったらあたしも、甜花さんを手伝いたいです!」
甜花は申し訳なく視線を下げる。
「でも、元はと言えば甜花の勝手なお節介だし⋯⋯二人を付き合わせちゃうのは⋯⋯」
「別について行くのはわたしの勝手っすし、そんな細かいことは気にしなくて良いんすよ」
「『ヒーローは助け合いでしょ』って、そうあたしの大好きなヒーローが言っていました! だからあたしも、甜花さんを助けます!」
すると、果穂ちゃんが甜花の手を握ってきた。
「一緒に、甘奈さんを助けに行きましょう!」
「はいっす!」
甜花が顔を上げると、そこには純粋な笑顔をした果穂ちゃんとあさひちゃんが居た。
「⋯⋯芹沢さん、果穂ちゃん⋯⋯!!」
そして甜花は、二人を信じてみようと思った。
「それじゃあそうと決まったなら、早く冒険に行きましょうっす! 時間は待ってはくれないんっすから!」
「まずは冒険の準備ですね! 今日は外も暑いですから、水筒に、ハンカチに⋯⋯」
「はづきさーん! わたしたち、ちょっと出かけてくるっす! 午後のレッスンの時間までには戻るっす!」
こうして、甜花達の壮大な冒険は今、ここから始まろうとしていた。正直な所、なんだか色々と不安になるメンバーかもしれないけど⋯⋯
「さあ、甜花ちゃんも準備が終わったら早く行くっすよ!」
「困っている甘奈さんを、助けに行きましょう!」
「⋯⋯うん!!」
けど、この二人と一緒なら、不思議となーちゃんにお弁当を届けられる気がした。
遅くなってすまんのじゃ
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