ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?〜雷霆兎の神聖譚〜 (bear glasses)
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兎のはじまり

ある日、とある村で

 

「のう、ベル。ベルは英雄になりたいかの?」

 

彫りの深い老爺が、白髪が特徴的な少年に問う。

 

「えいゆう?」

「うむ。英雄じゃ」

 

その問いに、少年は迷いなく答えた。

 

「そこまで、なりたくないかも」

「⋯!ほう、何故じゃ?」

「だって、おはなしのえいゆうって、おおぜいのひとを救うよね」

「そうじゃな、その力で、民や村を護るものじゃ」

「でもね、だいすきなひとをすくえなかったりするよね」

「うむ。たとえ英雄でも、救えぬものはある」

 

そこで少年は一拍おき、口にする

 

「だからぼくは、()()()()()()()()()()()()()()になる。えいゆうじゃなくてもいいから、おじいちゃんや、むらのみんな、だいすきなひとたちをまもるひとになる!」

 

誓いの様に、少年はルベライトの瞳を輝かせながら、口にする。

 

「⋯そうか、そうじゃなあ。きっと、『ベル』ならば、そんな人間になれるじゃろうなあ」

 

その言葉を聞いた老爺は泣きそうな顔で、そう告げた。

 

ーーーー数年後ーーーー

 

走っていた、少年は、ただただ走っていた。

 

そうして、自分の家の扉を乱暴に開けて

 

「おじいちゃんッ!」

 

すると、中では、農夫の格好をした青年がいた

 

「ああ、ベル。お前のおじいちゃんは、ディオスさんはーーーーー」

 

 

この日、少年『ベル・クラネル』はただ1人の家族を喪った。

 

それから、まる1日経った夜、ベルは祖父の机を見た。遺品整理のためだ

 

 

「これはーーーー」

 

中には、手紙があった。

内容は

 

『 ベルよ。我が孫よ。

 これをお主が読んでいるということは、わしは死んだのじゃろう。

 ベルよ、オラリオに向かえ、そこにお主の求めるものがある。そこにお主のやるべき事がきっとある。

 お主が、護りたいと、救いたいと思えるものがきっと出来る。だからベルよ、オラリオに向かうのだ。

 必要なものは納屋にある。安心して出発するといい。

 お主の幸せを、願っておるよ』

 

「お⋯じいちゃん⋯グスッ、ひっぐ、うぅ」

 

ベルは泣いた。ゴブリンに襲われて怪我をした時よりも、おじいちゃんに怒られた時よりも、なによりも悲痛に、泣いた。

 

ひとしきり泣き終えたあと、ベルは納屋に向かった。

 

「これは、」

 

荷物には、干し肉、かなりのお金、寝袋等々、旅に必要なものが沢山入っていた。その中でも特に目に写ったのがーーーーー

 

「短剣?と、手甲⋯?」

 

白と黒の短剣に、白と金の両手用の手甲。短剣の刀身と手甲の裏には()()()()()()()が彫り込まれている。

 

「凄い⋯あれ?これは⋯」

 

短剣と手甲の下に、まだ何かあった

 

「これは、ペンダントと、手紙?」

 

水晶の中に、黄色の宝石と、赤い花弁ーー大きさと形的に緋衣草(サルビア)だろうかーーが閉じ込められたペンダントと。祖父の手紙、それ以外にももうひとつあった。

 

ベルは迷わず祖父の手紙をあけた。

 

『オラリオで、アイズ・ヴァレンシュタインという少女に会ったら、もうひとつの手紙とともに渡して欲しい』

 

もうひとつの手紙ーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()手紙と、ペンダントを見て。ベルは1人頷く。

 

そうして、ベルはその1日後、オラリオへと旅立った。

 

 



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炉の女神と雷霆兎

遅れてすみませんでしたーーーーーー!!!(土下座)


あれから数日、僕はオラリオについていた。

 

様々なファミリアを寄ったが――――――――

 

撃沈。

 

やれ、「貴様のようなヒョロいガキはうちに要らん」。「ガキはママのおっぱいでもしゃぶってな」。「う、うちに来ないか(はあはあ)」

 

と、最後以外はだいたいからかってたし、最後に至っては恐ろしさが出たので勘で逃げた。なんなら助けを呼んだ。案の定捕縛されてた。

 

と、前途多難通り越して前途絶望まで来て、どうしようも無くなった時。

 

 

僕は神様に会った。直感的に、僕はこの人が神様だとわかった。

 

寂しそうに1人で佇んでいたその人が放っておけなくて、それで―――――――

 

 

「すみません。女神様」

「ん?なんだい、君は」

「僕をあなたの【ファミリア】に入れてくれませんか?」

「え、ええっ!?良いのかい?うちは零細で⋯」

「そんなことはいいんです!お願いします!」

 

そうすると、その人はとても綺麗な、笑顔を浮かべて。

 

「僕の名前はヘスティアさ!君の名前はなんていうんだい?」

「僕はベル、ベル・クラネルです!」

 

 

そうして、僕は神様の【ホーム】に向かい、そのボロさに少し驚きながらも、その地下へと向かって、【恩恵(ファルナ)】を刻んでもらうことにした。

 

「じゃ、上半身の服を脱いでおくれ」

「はい!」

 

なんでも、【恩恵(ファルナ)】を刻むには背中に直に血を垂らす必要があるらしい。

 

そして、遂に、【恩恵(ファルナ)】を刻む時になった。

 

 

――――――――

 

「じゃ、刻むよー!」

「は。はい!」

 

血を垂らす、そして、ステータスが現れる。瞬間

 

「なっ⋯!?」

 

ヘスティアは愕然とした。【スキル】が3つ、【魔法】が2魔法はつ初期から発現している。しかもそれぞれが()()()()

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

【ステイタス】

 

力:l0

 

耐久:I0

 

器用:I0

 

敏捷:I0

 

魔力:I0

 

 

 

魔法

 

【ロスト・ケラウノス】

 

付加魔法/殲滅魔法

 

付加詠唱【雷霆よ、鳴り響け!】

 

通常詠唱【遺されし我が身に来たれ雷霆。灰燼すら残さず焼き尽くせ。失われし大いなる雷光(ひかり)よ!輝け!!】

 

 

■■■■(■■■■)

再誕英雄(アルゴノゥト・リンカーネーション)】による魔法用スロット

 

 

 

スキル

 

再誕英雄(アルゴノゥト・リンカーネーション)

・■■■■■■■■■■■■■■■■■

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権

・チャージ時に想起した英雄の能力を魔法として一時発現できる(スロットは常時消費している)

 また、この魔法は毎回リセットされる

 

 

雷霆継承(ディオス・ブラッド)

 

・大神の義孫たる証

 

・戦闘時、敏捷に超高補正

 

・格上との戦闘時、全ステイタスに補正

 

・以下、ランクアップするごとに解放

 

 

最終英雄(ラスト・ヒーロー)

 

・黒龍殺しの宿業を宿すものにみ発現

 

・早熟する

 

・あらゆる呪い、状態異常効果を無効化

 

・攻撃に龍/竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の付与

 

・己の信ずるものの為に戦う時、全ステイタスに超高補正

 

 

なんだ、このスキルと魔法は?雷神(ゼウス)の血族?この少年が?黒竜殺しの宿業を宿す?失われた雷霆(ロスト・ケラウノス)?ますます分からない。

否、それはどうでもいい。今わかっているのは、何時かこの子が大いなる事を成す事。なら、僕がする事はひとつ。

護り、育てることしかない。

 

ヘスティアは子供に悟らせず、静かに決意をした。

 

「さ、出来たよベル君!」

「ありがとうございます神様!」

 

そして、ヘスティアはステイタスを共通語(コイネー)に直し、ベルに渡した。

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

【ステイタス】

 

力:l0

 

耐久:I0

 

器用:I0

 

敏捷:I0

 

魔力:I0

 

 

 

魔法

 

【ロスト・ケラウノス】

 

付加魔法/殲滅魔法

 

付加詠唱【雷霆よ、鳴り響け!】

 

通常詠唱【遺されし我が身に来たれ雷霆。灰燼すら残さず焼き尽くせ。失われし大いなる雷光(ひかり)よ!輝け!!】

 

 

■■■■(■■■■)

再誕英雄(アルゴノゥト・リンカーネーション)】による魔法用スロット

 

 

 

スキル

 

再誕英雄(アルゴノゥト・リンカーネーション)

・■■■■■■■■■■■■■■■■■

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権

・チャージ時に想起した英雄の能力を魔法として一時発現できる(スロットは常時消費している)

 また、この魔法は毎回リセットされる

 

「ま、魔法に、スキル!?」

 

いずれも、自身が憧れていた物だ。

一度に齎される等とは思いもしなかった。

 

「さて、じゃあ登録に行こうか!」

 

 

そして、ギルドに行って、登録を行った。

自身のアドバイザーになったというエイナさんはとても優しくて、厳しい。

2日程座学に潰れた。めちゃくちゃ厳しかった。

 

 

そして、3日目。

「神様、行ってきます!」

「うん。行ってらっしゃい!⋯帰って、来てね」

「かならず!」

 

ベルは祖父から貰った両籠手に、ナイフ、そしてギルド支給の装備を付けて、ダンジョンへと走った。

 

 

 

 

そして、ダンジョン第一層。

 

初の狩り。目の前にはコボルト。しかし不思議と不安も焦りも無い。()()()()()()()()()()()()()が自分を勇気づけてくれる。多分、おじいちゃんの短剣と籠手だからかもしれない。

 

「行くぞ―――――――【雷霆よ、鳴り響け】!【ロスト・ケラウノス】!!」

 

瞬間、雷を身体が包み、自身の動きを強化する。

瞬足で接敵。そのまま、ナイフを振るう。

コボルトの首は容易に飛んで、灰へと還った。

 

「凄い⋯!これが魔法の力⋯!」

 

続けて、【スキル】のトリガーを想起する。

想起する英雄は『アキレウス』。神速の英雄。アルゴノゥトより後の時代に、モンスターと敵国から国を護り、走り抜けた最速ともされる英雄。

突如として、詠唱文が浮かんだ。恐らく【スキル】の魔法が発現したようだ。

 

「【走れ。走れ。風よりも疾く。雷よりも迅く】!!」

 

瞬間、コボルトが襲いかかってくる。それに対し、詠唱は止めずに回避に専念する。

 

「【其は最速の英雄。雷神(ゼウス)が謳いし韋駄天の英雄】!!」

 

飽きずに飛びかかるコボルトに雷撃を放って牽制。目を潰す。

 

「【三馬の車で駆け抜けし英雄よ、その槍以て走り抜けよ】!!」

 

「【アキレウス・イミテーション】!!」

 

瞬間、風と雷がエンチャントされ、特に脚にエンチャントが多い。しかも、ナイフは槍の如く長くなっている。

 

そして、大幅に強化されたであろう神速を以て、敵を貫き続ける。

1度の疾駆に6のコボルトが命を落とした。

それを3回。都合18のコボルトがものの数秒で灰へと還る。

 

そして、限界となってエンチャントが切れた。

 

「っはぁー⋯!っはー⋯!!や、ヤバい。集中力が切れる。足が限界だ」

 

どうやら、このエンチャントは強力な代わりに反動(バックファイア)が凄まじいようだ。

多用はできまい。最悪精神枯渇(マインドゼロ)で文字通り犬の餌だ。

 

「⋯よし!もう少し潜ろう!」

 

ヘスティア様を養うのは僕。である以上、稼がなくては不味い。女性を食いっぱぐれさせている等と祖父に知れれば地獄から這い上がってでも、天国から無理くり降りてきてでも僕を殺すだろう。

 

さあ、僕達の晩飯のために、犠牲になれ、ワンコロ共!

 

そうして、この日、ベル・クラネルの冒険は始まりを迎えた



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雷霆兎(ベル・クラネル)魔剣鍛冶師(ヴェルフ・クロッゾ)

原作より邂逅超早いですけど気にしないで下さいませ。


初めてのダンジョン探索から1週間ほど。

 

ベルは五階層に到達し、ステイタスは以下の通りとなった

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

【ステイタス】

 

力:E403

 

耐久:H199

 

器用:E412

 

敏捷:D521

 

魔力:D529

 

所持金も、初日から狩りまくった影響で何故か25000ヴァリスの余剰がある。

なので、今日は【ヘファイストス・ファミリア】の新人が作った作品を買いに来たのだ。

 

「これは⋯」

 

一目で、惹かれた。素材そのままの、ライトアーマー。白銀の輝きは美しく。理屈ではなく、僕の魂がこの装備を欲した。この鎧には『魂』が籠っている。灼きつくような、情熱の炎が。

 

「ああ」

 

そうだ、僕はこれに()()()()()()()()()。どうしようも無く、心の根幹とも言える部分が、この装備と、これを作った人に惹かれた。

 

値段は9900ヴァリス⋯即決だった。

 

 

 

 

―――――――

 

作者の名前は、ヴェルフ・クロッゾと言うらしい。

家を聞いたので、そこに訪れた。

 

 

「あのー、ヴェルフ・クロッゾさんは居ますか?」

「⋯なんだ?」

 

現れたのは、炎のような赤毛と瞳が特徴的な青年だった。

 

「いえ、この鎧の製作者って、貴方ですよね?」

 

と言って、【兎鎧(ピョンキチ)】なる鎧を出す。

 

「お、おお!確かにそうだぜ!買ってくれたのか!」

「実は、これの調整をお願いしたくて」

「勿論だ!入ってくれ!」

 

とても、嬉しそうに、まるで少年のような笑顔を浮かべた青年に案内され、ベルは中に入った。

 

「そういや、なんで俺の防具を選んでくれたんだ?」

「なんで、ですか」

「ああ。気になってな、それくらいいだろう?」

「なんというか⋯理屈じゃないんです。貴方の装備を見た時に、『これが欲しい』って、心から思ったんです」

「――――――っ、そうか。なあ、お前は魔剣を欲しがらないんだな」

「魔剣?何で魔剣が関係あるんですか?」

 

その言葉に、ヴェルフは驚いた。まさか。本当にそれを知らないのか。とでも言うように。

 

「――――――まあ、丁度いいか。いいぜ。教えてやる」

 

そして、ヴェルフは語った。

魔剣とは、魔法が装填された武具であり、所有者に絶大な力を与える『消耗品』である事。

そして、ヴェルフの一族はそれを作り、森を焼き払ったせいで、魔剣を打てなくなり、没落。

しかし、己は打てたせいで、魔剣を打つことを強要されたので逃げてきたのだと。

 

「違うだろ、そうじゃねえだろう。武器ってのは。所有者と共に歩むもんだろ。だから、俺は魔剣を認めねえ。所有者を残して勝手に壊れる魔剣は、認めねえ」

 

ああなるほど。だがしかし。

 

「なら、クロッゾさんが『砕けない魔剣』を作ればいいんじゃ⋯」

「⋯今、なんて」

「あ、いえ、だって、()()()()()()()()魔剣が嫌いなら、()()()()()()()()()()魔剣を作ればいいんじゃあって、思ったんです」

 

その言葉に、ヴェルフは再度衝撃を受けた様な顔になった。

 

「――――クッ、ハハ、簡単そうにいいやがって」

 

悪態をつきつつも、楽しそうな笑みで、ヴェルフは言った。

 

「なあ、ベル。俺の事はヴェルフって呼べ」

「へ?わ、分かりました。ヴェルフさん」

「敬語も、さんもなしだ!」

「わ、わかった!ヴェルフ!」

「んで、俺と専属契約とパーティを組め」

「へ?」

「俺に『クロッゾの魔剣を超えろ』なんて言いやがったんだ。付き合ってもらうぜ、超えるまでな!」

 

と、悪ガキのような、面倒見のいい兄のような笑顔を浮かべて、ヴェルフは笑った。

 

「⋯うん!分かったよ!ヴェルフ!」

「そうでなきゃな!よろしく頼むぜ!ベル!」

 

そうして、時を超えて『■■■■(■■■■■■)』と『魔剣鍛冶師(クロッゾ)』は再開し、新たなる神聖譚(オラトリア)が紡がれる。

 

―――――――

 

次の日のこと。ベルはヴェルフとパーティを組み、ダンジョンに潜っていた。

 

「【雷霆よ、鳴り響け】―――――【ロスト・ケラウノス】!!」

 

雷の付加魔法(エンチャント)。ベルが加速し、そのナイフでどんどん切り裂いていく。

 

それを見て、ヴェルフが戦く。

 

「(こ、これが、ダンジョン探索1週間の冒険者!?巫山戯ろ!こんなの、俺でもできるかどうかってとこだぞ!?俺の方が長いのに!)」

 

悔しく、少し妬ましい。しかし、それよりも

 

「(追いつきてえ。共に駆け抜けてえ!)」

 

この可能性の塊のような少年に置いていかれてたまるか!と、心の炎を燃やす。

 

そして背の大剣を手に、自身もかけ出す。

 

ああ、影響されている。鼓舞されている。

俺も、こいつのように―――――――!!

 

 

その日の稼ぎは、2人分というのを鑑みても、ヴェルフのこれまでの冒険者生活で1番高かったそうだ。

 

 

その日の夜。

 

 

「ヘファイストス様!ステイタス更新お願いします!」

「あら、ヴェルフ。珍しいわね。良いわよ。横になりなさい」

 

そして、更新

 

「――――――なっ!?」

 

ヴェルフ・クロッゾ

 

Lv.1

 

【ステイタス】

 

力:C617

 

耐久:D521

 

器用:C645

 

敏捷:D509

 

魔力:I70

 

 

 

魔法

 

【ウィル・オ・ウィスプ】

 

対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

 

詠唱式【燃え尽きろ、外法の業】

 

スキル

 

魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)

 

・魔剣製作可能

 

・制作時における魔剣能力強化

 

 

英雄追駆(テーセウス)

 

・早熟する 

 

・友を追い掛け続ける限り効果持続

 

・友の隣に立ちたいという思いの丈により効果向上

 

早熟スキル。未だに例を見ない、破格の【スキル】。しかし何よりも驚きなのは、そこまで追いつきたいという友が出来たことだ。

 

「どうかしましたか?」

「い、いえ。なんでもないわ」

 

ステイタスを紙に移した際に早熟スキルは隠した。

 

「ねえ。ヴェルフ。今日何かいいことでもあった?」

「分かりますか?実は」

 

話を聞くと、今日ヘスティアの眷属と専属契約をしたのだそう。

ああ、これは明日ヘスティアに詰問ね。

 

⋯覚悟しなさい⋯!



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宿敵(ミノタウロス)運命(アイズ・ヴァレンシュタイン)

ヴェルフとパーティを組んでから数日。

ヴェルフは今日【ファミリア】で色々と雑務があるらしく、今日は不参加となった。

 

その中で、ベルは一人ダンジョンに潜っていた。

 

ヴェルフの作品たるナイフに、祖父から貰ったナイフを付けて、駆けていた。

 

零細ファミリアである為、社畜の如く働かざるを得ないのだ。

 

しかし、今ベルは正しく脱兎のごとく駆け抜けていた。なぜなら――――――――――

 

『ヴモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「ハ、ハハハ」

 

「なんで、第五階層(・・・・)にミノタウロスが居るんだよ………ッ!!!」

 

ミノタウロス—————————Lv.1のベルでは到底倒せない敵が現れた為だ。

 

かといって、逃げることも出来ない。逃げ出そうがいつかは死ぬ。だから————

 

『ヴゥウウ…………!!』

「ぶっ潰す!!」

 

たとえ無理でも此処で倒す!!

 

『ヴゥウウウモォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

「—————————ッ!」

 

振りかざされる攻撃を避ける。そして

 

――――――想起する。

 

ああ、そうだ。あれしかない。ミノタウロスと戦った非力なる英雄など、あの英雄しかいないだろう。

 

『ヴモォオオオオオオオ!!』

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

 

高速で移動し、襲い掛かる刃をすり抜け、想起された英雄の魔法を詠唱していく。

 

 

「【嗤え。謳え。滑稽たる英雄(道化)】!」

 

振りかざされる暴力を避ける。詠唱を続ける。

 

「【才持たぬ身を以て嗤え!始まりを謳え!人の嘆きと悲しみを破壊しろ!】」

 

1歩間違えれば死ぬ。冷や汗が止まらないがしかし、頭は冷静を保つ。

 

「【精霊の雷を、友の魔剣の炎を以て迷宮の怪物を討滅せよ!その生と死を以て英雄の時代の幕開けを叫べ!】」

 

そしていよいよ最終節まで移行する。

 

「【偉大なりし英雄の船よ】!!【アルゴノゥト】!!」

 

祖父のナイフが雷を、ヴェルフのナイフが炎を纏う。

心が高揚する。身体を迸る雷がその強さを増していく。

思考すらも加速する。雷が()()()

駆け出す。

 

雷と炎の2つが連撃とともにミノタウロスに叩き込まれる。

この魔法は『ナニカ』が違う。何故か違う。体に馴染む。魔力が迸る。

このまま【ロスト・ケラウノス】を放っても大丈夫なくらいに。

 

『ヴ、モォオオオオオオオ!!!!!!!?』

 

しかし。あくまで感覚。確証はない。しかし、決定打がないのも事実。

ならばっ!

 

チャージ実行権を使用する。

 

リン、リン、リン、鈴の如き音が静かに鳴り響く。

 

振るわれる刃の嵐を避けていく。拳が自身の数ミリ横を掠り、奥の壁を殴り砕く。

 

怖い。逃げたい。投げ出したい。しかし、そうはいかない。自身は逃げ切れるだろう。

しかし、それを己が是とするか?否。断じて否。負ける訳には行かない。逃げる訳にも行かない。これで逃げたらもっと大勢が犠牲になる。

誰かを護れ、力を尽くせ、心を燃やせっ!

 

リィイイイイイン、リィイイイイイン⋯!!と、音は凄まじさを増し、感覚的にもう無理だと察知した、10秒のチャージ後。

 

「【遺されし我が身に来たれ雷霆】!」

 

詠唱を開始する。

何かを察知したのか、先ほどよりも焦ったようにミノタウロスが攻撃を加えていく。ベルは付加魔法のリソースをひたすら回避に使い、避け続ける。

 

『ヴモァアアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛! ! ! ! ! !』

「【灰燼すら残さず焼き尽くせ】!!」

 

苛烈になっていくミノタウロスの攻撃。進む詠唱。

 

『ウ゛モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛! ! ! ! !』

「【失われし大いなる雷光(ひかり)よ】!!!」

 

そして、最後、全霊の拳がベルに迫る。しかし、それよりも1拍早く、魔法は完成した。

 

「【輝け】、【ロスト・ケラウノス】!!!!」

 

瞬間、眩い雷火が迸り—————————————————

 

世界が、白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が消えて、残った迷宮には

 

精神枯渇(マインド・ゼロ)』で気絶し、倒れた少年(ベル・クラネル)と、ミノタウロスの魔石、そして、戦いの一部始終を見ていた(・・・・・・・・・・・・)剣姫(アイズ・ヴァレンシュタイン)が居た。

 

「ミノタウロスを、倒した—————————?」

 

全くの無名の、恐らくはLv.1であろう少年が、ミノタウロスを倒したという事実に、剣姫は暫く放心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————————

 

剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインは愕然としていた。

自身が逃したミノタウロスを倒してしまった兎の様な少年の強さに。

 

「(一体、どうすればこんな強さを……)」

 

純粋に、興味が湧いた。この少年に。この強さの秘訣に。

 

「(知りたい。教えてほしい)」

 

自然と、足が動いた。近くまで来て、しゃがみ込む。

 

「(気持ちよさそうな寝顔)」

 

安らかで、庇護欲をそそられる寝顔。

 

「ふふ……」

 

かわいいな。と、純粋に思った。何故だろう、初対面の筈のこの子をとても好ましく思う。

 

「たしか、こういう時は—————————————」

 

膝枕?すればいいんだっけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————

 

 

ふと、目が覚める。瞬間、目に入ったのは————————————

 

金色。輝くような、美しく、艶やかな金色の髪と瞳を持つ、綺麗な女性。わかった、わかってしまった。金の髪と金の瞳、青い装備に身を包む、美しい女性。

第一級冒険者。

————【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「あ、起きた………?」

「う、あ………」

 

顔に熱が集中する。喉が乾く、動悸が激しくなる。

 

「あ、ああああ」

「……?」

 

ああ、僕は、僕はアイズ・ヴァレンシュタイン(このヒト)に、

 

恋を、した。

 

「ねぇ、大丈夫?」

「だ、大丈夫ですっ!!」

 

慌てて状況を把握する。後頭部に柔らかな感触。視界に少女の顔。これは、これは———

 

膝枕だ。

膝 枕 だ っ ! ! !(大事なことなので二回(ry)

 

「失礼します!!」

 

慌てて起き上がり、飛びのく。

 

「あっ……」

 

何故か残念そうな声が聴こえたが、気のせいだ。気のせいったら気のせいだ!!

 

「すいませんでしたぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

急いで地上にダッシュする!!

今の真っ赤な顔を見られたら恥ずかして死んでしまう———————!!!

 

 

 

 

因みに、このことは秒速で触れ回ったらしく、ベルはその後非公式に「剣姫お気に入りの愛玩兎(アイズのペット)」という。不名誉な2つ名をつけられることとなった。

更には、ロキ・ファミリアとアイズのファンからの視線が針のむしろレベルでやばくなった。

ベルの胃は軽く死んだらしい。

 



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