深淵卿に憑依しました (這いよる深淵より.闇の主人)
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第0章:物語はまだ始まってすらいない
神?(老人)とのあれこれ


ありふれた職業で世界最強のアニメが公開したけど、遠藤君が全く注目されていないので、書きます

まぁ憑依ものなんですけどね(笑)


駄文だけど見てくれると嬉しいゾ!


「以上で説明は終わりじゃ」

 

 俺は目の前の老人の言ったことを一応確認する

 

 

「えーと、俺死んだから異世界転生ってことでok?」

 

 

「儂の10分にわたる説明が一言で訳されるとは……!」

 

 

 そう言い、わざとらしく目元に手をやりヨヨヨと悲しんでいるアピールをする老人……うわ、うぜぇ......

 

 

「そういうのは良いんで、それで俺は一体どうすればいいんですかね?」

 

 

 定番でいくと転生特典を選ぶんだろう。これが夢でもドッキリでもどっちでもいい。面白そうだから話を合わせることにしよう……俺の夢が叶うかもしれない

 

 

「お主の思ってる通りじゃよ、特典は3つで行き先はランダムじゃな…それより本当じゃからな? 夢とかドッキリじゃないからの?」

 

 

 うん、言ってない筈の俺の心の声に答えてるのは神様特有の力かな?プライバシーもクソもありゃしないなぁおい

 

 

「転生する世界の候補ってどのぐらいなんですか?」

 

 

 ランダムって言われても候補が何個かあるんじゃないかなぁと思い、質問してみたが案の定の答えが返ってきた

 

 

「《ありふれた職業で世界最強》《とある魔術の禁書目録》《転生したらスライムだった件》《ハイスクールDXD》《fate zero》《ようこそ実力至上主義の教室へ》の……今回は6つじゃな」

 

「(今回は?)その6つか~」

 

 

 取り敢えず、その世界に行ったとしてのメリットを出そうか

 

《ありふれた職業で世界最強》なら、大好きなポニテ剣士の八重樫雫がいる。生でポニテ八重樫雫ちゃんをみてみたい。それと一緒に剣の稽古がしたい……斬り合いも良さげだし、欲を言えば付き合えれば最高だなぁ

 

《とある魔術の禁書目録》は神裂火織の堕天使エロメイドが最高……いや、一番重要なのはポニテだけどな! 胸も良いと思うけど……それと、是非とも剣の稽古をつけてもらいたい。魔術なしで純粋に斬り合ったりもしたいな……聖人って言うぐらいだから面白そうだ

 

《転生したらスライムだった件》は……見てないから分からんな……俺的には別に行かなくていい世界だな〜

 

《ハイスクールDXD》は姫島朱乃さん目当てだな、話はよく分からないけど……とにかくポニテでおっとりしてそうで可愛いぐらいだからなぁ

 

《fate zero》は……間近で英霊の闘いが見たいな。聖杯戦争関わったり、もしかしたらマスターになったりして……何人か救いたい人いるし、まぁ楽しそう

 

《ようこそ実力至上主義の教室へ》は軽井沢恵のポニテ姿をみたいなぁ可愛いし、それか綾小路と組んで面白おかしく裏から指示出されて動いたりな。

 えーと、なんか一通り習ってるんだっけ? 格闘術とか? 剣道はやったことあんのかな? 最後の辺りで裏切ったら面白そうだ

 

「……お主、ポニーテールの娘っ子と会いたいとか、剣の稽古をつけて貰いたい! とか、戦いたいとか……そんなことしか考えておらんのか?」

 

「いや、別に髪型なら一番ポニーテールが好きってだけで、それだけで判断してるわけではないですよ。人には人の髪型ってもんがあるわけですし? 全人類女子がポニテだったら変でしょ? 俺は喜びますけどね? 似合う似合わないがありますし……それに剣を使う漫画ばかり見てたからか、憧れて剣道とかやってましたからね。ついでに一通りの武術とか経験してみたり、合気道とか八極拳ね!」

 

「自分の好きなことは随分とよくつらつらと喋るもんじゃなぁ……お主」

 

「まぁ、好きなことには全力、興味ないことには不真面目に適当にってのが売りですからね」

 

「なんじゃその売りは! ……おっほん! 所で特典はどうするのじゃ?」

 

「あ~、んじゃあ1つ目は転生先を《ありふれた職業で世界最強》にしてください」

 

「え、それに特典使うの?」

 

 

 驚いてか口調を崩しながら勿体なくない? とか目で訴えてくるが無視(スルー)する

 

 

「あ〜なんだろうな……直感とか欲しいなぁ」

 

「直感……とな?」

 

「困った時に解決策が急にひらめいたり、危険なことや危ない時、負の感情とか……そういったことを感知したり~的なアレ?」

 

「ほう…ほう、なんとなく分かったわい、儂が勝手にアレンジしておくとして……最後はどうするんじゃ?」

 

 

 ん? なんかニヤッとしたような……? 気のせい…か?

 

 

「家の近くを剣道場とかまぁ、そういった道場があって鍛練ができる場所にして」

 

「えぇ……」

 

 老人は信じられないものを見たかのような目をする

 

「その反応は流石に酷いと思うんだが……」

 

 

 なんなんだ一体、俺にどうしろと? 無双はハジメ君がしてくれると思うんだけど……まぁ、自分に出来る限りの事はするがな

 

 

「そうか……魔王の……ワンチャン」

 

 

 なんだろう………あまり聞こえないが嫌な予感しかしねぇんだけど

 

 

「そんじゃ行ってくるのじゃ〜!」

 

 

 なんか企んでいるであろう笑顔でグッショブポーズをする老人に不信感を抱きながら俺の意識は落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は....


良かったらお気に入りとかしてくれれば作者の投稿速度上がるかも!

ではまた、投稿するときにお会いしましょう


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八重樫雫

簡単に書きすぎたかもしれないから後々直すと思います


今回も駄文ですが、どうぞ


 この世界に転生して気が付いたことがある。

 

 一つ、俺は普通の転生と違い、遠藤浩介君の肉体に憑依転生してしまったということ。

 神様が何か企んでいたようだが、この事(遠藤への憑依)だったのかと仕方なく諦めたのだが……小さい頃から近くにいるのにも関わらず親が俺の事を見失ってしまい、置いていかれてしまったり

、かくれんぼをすれば俺の事を忘れて友達が帰ってしまう程に(予想以上に)影が薄かった。その日の夜中は当然、枕を濡らした。

 

 

 

 そんな事より此方の方が重要で、神にお願いした特典で家の近くに剣道場が欲しいと言ったが、なんと……自分の家から歩って数分の所に剣術道場があり、表札を見たところ……八重樫とあり、なんと!この道場は八重樫さんの家だったのだ!!!

 

 

 確かに俺は転生特典で近くに道場欲しいと言ったが、まさか八重樫さん宅だとは思わなかった。神があの時、ニヤついていたのは俺を遠藤君に憑依させ、八重樫雫さんの家の近くにしたことだったようだ。(←たぶん違う)

 

 

 

 

 

 

 さて……小学生になり、まず驚いた事といえば八重樫雫、天之河光輝、白崎香織、坂上龍太郎という豪華原作組メンバーと同級生だと言うことだ。

 

 というか聞いてくれ、小学生の八重樫さんはポニテではなくボーイッシュな髪型だというのにめちゃんこ可愛いかった。それはもうめっちゃ似合ってた!俺、短髪も良いかも……→(しっかりしろ俺!)

 

 

 

 親から許可をもらい、剣術道場に入門するようになると八重樫雫さんと話す機会が少し増えた。最近は元気がなさそうなので、あれの時期なのだろう

 

 

 そう……原作であったように八重樫さんは天之河に好意を抱いている女子によるいじめを受けていたのだ。

 

 天之河は顔が良い事や運動、勉強、なんでもできるので人気が高く、近くにいる女の子を排除して自分がその間に入ろうとする女子が多かったのだ。

 

 八重樫さんはボーイッシュな髪型と他の女子とは違う地味目な格好、剣術を習っている。ということで標的になってしまったのだ。

 

 

 そんな事をされれば当然、八重樫さんは信頼のおける人物に守ってもらおうとする。

 

 残念ながら、それは俺ではなく天之河だ。だが、助けを求められた天之河は関係者を集めて話し合いという形をとり、そんな事で解決するはずもなく……更に風当たりが強くなった。それも天之河にバレないように巧妙さが増して……

 

 

 可哀想だが、俺は何もできない……放置するしかないだろう。どうせ南雲(主人公)が後々なんとかするんだ。それまでの……辛抱

 

 

・・・・・うん、無理

 

 

 

 そうは思っていても好きな子を放置することなどできる筈もなく、翌日声をかけることにした

 

「八重樫さん、昨日の剣術に関して聞きたい事があるから一緒に帰らない?」

 

 

 稽古の時などにはよく話すようになったが、学校ではあまり話していない俺と帰ろうなんて言われても了承してくれるわけないのでダメ元だが、何故かokされてしまった。

 

 

 

「それで昨日のって?」

 

 

「実はさ━━━」

 

 取り敢えず分からなかった所を聞いている内に、なんて切り出そうかを考える

 

 どうしたもんだか、俺にできることと言えば最近買ったカメラ使って八重樫さんが嫌がらせを受けているところを撮り、脅すことにより嫌がらせを無くすぐらいか……他にあるとすれば一緒に遊びにつれていって元気付けるとか━━その程度か……

 

「遠藤君聞いてる?」

 

 

 と、どうやら黙りこんでいたらしい

 

「ボーとしたけどちゃんと聞いてるよ。……それにしても八重樫さんは凄いよなぁ同い年とは思えないほど強いもんね」

 

「……4歳の時からやってるから」

 

 

 少しだけ表情が暗くなった彼女の様子に、地雷踏んだ感があったので話題をそらす

 

 

「え、えーと。八重樫さんってゲームセンターとか娯楽施設行ったことある?」

 

 

「ゲームセンター? ……香織に誘われたけど、稽古あったし、行ってない」

 

「……」

 

 

 八重樫さんは剣術の才能があるが、それだけでなく自分のやりたい事を犠牲にして努力した結果が今の強さに繋がっている。そりゃ強くなるわな

 

 

 

「よし、ゲームセンター行きましょ!」

 さて、二つ目の案だ。息抜きに遊びに誘うとしよう

 

 

 

「━━え?」

 

 

 

 

 という事でやって参りましたゲームセンター! 

 稽古があると断ろうとした彼女を説得してなんとか連れてくることに成功した

 

「八重樫さんはなにや……る?」

 意見を聞こうと後ろを振り向くと誰もいなかった

 

 あれ? 帰ってしまわれた? 泣いちゃうよ俺? と思ったがクレーンゲームのエリアにおり、人形を眺めていた

 

「それ欲しいの?」

 声をかけると、驚いたのかビクッとしたあとに赤面して手をわたわた動かして「ち、違うよ!」と頑張って否定している

 

 え…………かわええ....

 

「こんな時のために貯めておいて良かったわ」

 

 この世界では俺の知っているようなゲームや漫画、アニメがなどが殆ど占めているので、買わなくても内容は分かっている。そのおかげで金を使わなくて済む、なので今の貯金はなんと4万円ほどあるのだ

 

 

 クレーンゲームは下手なので苦戦して4000円使ってしまったが、無事にプレゼントすることができた。

 

 その後はマリ◯カート、コインゲーム等をして、プリクラを撮って終わった

 

 

「あの……ごめんなさい遠藤君。お人形とストラップ取って貰っちゃって……」

 

「いつも八重樫さんには剣術のアドバイスもらってるし……それの御返しだから気にしなくていいよ」

 

「あ……ありがとう」

 一つ一つの動作すべてが可愛い、原作での凛とした表情も好きだが、この素顔もまた……ポニテのが似合ってるけど、短髪もまたいいかもな~

 

 

「夕方まで遊んじゃったけど、怒られないのかな?」

 

「大丈夫だよ、約束する」

 

 

 と言ったものの、八重樫さんは家に近づくにつれて落ち着かない様子で、人形を抱き締める力が強くなっているのが分かる。

 

「おやおや遠藤君、稽古をさぼって雫とデートかい?」

 

 

 門前には白髪に皺の深い顔立ちの八十代くらいに見える老人が立ってていた。この人は八重樫流の師範にして雫さんの実の祖父だ

 

 

「デートではありませんよ師範、俺が無理を言って付き合ってもらったんです」

 

「ふむ、そうか……まぁ、たまには息抜きも必要だろう

 雫、楽しかったか?」

 

 

 その問いに八重樫さんは少し戸惑ったが、祖父の優しげな表情で安心したのか「うん!」と笑顔で答えた

 

 

「遠藤君と話すことがあるから先に入ってなさい」

 

 

 八重樫さんは此方をチラチラ見ながら家に入るのを戸惑っていたようだが、「また明日ね!」と声をかけると、笑顔で「じゃあね」と家の中へと入って行った

 

 

 

「さて遠藤君、私が何を言いたいのか分かるかね?」

 

 

「電話をしなかった事に関しては謝りますが、雫さんも女の子ですし可愛い物が欲しくなったり友達と遊んだりしたいと思うんですよね……剣の才能があるのは分かっていますが、少し遊ぶ時間をあげても━━」

 

「わかっておるわ。説得されたとはいえ、稽古を休んで息抜きに遊んでくれて嬉しかったわい。

 また、雫と遊んでやってくれ」

 

 

 どうやら怒っている訳ではないようだ。原作の親バカぶりからして、ボコボコにされたりとか思っていたが杞憂だったようだ。

 

「それとこれでは別だからの、サボった分は明日に回しておくから覚悟しておれ」

 

 あ、やっぱり少し怒ってます? 

 

 

 

 




今回はオリジナル要素多いかもな~
好評価してもらったので頑張って投稿します

早めに原作入りたいので、急ぎになってしまってますがどうぞお許しください

来週は異世界転移まで書きたいな

活動報告にヒロイン募について書いておいたので、興味がある方は見ていってください


という事で次のはなしは今日の夕方!遅くとも夜には出します

それでは、雫かわえぇ


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日常は唐突に終わりを迎え、彼らは...

雫が可愛い!!!!



それではどうぞ


 あれから俺たちは小中と卒業し、遂に高校生になった。

 

 高校生になるまでにあった重要な事といえば、中学の時、南雲君と席が隣同士だったので、ラノベや漫画アニメの話で盛り上がり友達になった事。今では家にお邪魔させてもらい、泊まり込みでゲームをやる仲だということだろう

 

 そして俺の中で個人的に感動したのは登下校の道路で不良に絡まれたおばあさんを助けるために南雲が大声で謝りながら土下座していたことだ。

 

 何故このような珍場面で感動していたかというと、このシーンは南雲に対して白崎さんが恋心を芽生えさせるきっかけになった場面だからだ。

 

 まぁ、そんなこんなで原作を見てから一度は見てみたい所を見れて嬉しかった

 

 と、話は戻るが高校生になった時点での俺の年は16で、クラスごとトータスに転移させられるのは17歳になった時だ。そろそろ準備を始めた方が良さそうだな

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 授業チャイムが鳴るギリギリに扉を開けて入ってくる人物をみつける。その人物が入ってきた瞬間、男子生徒の大半が舌打ちやら睨みをきかせている。女子生徒も友好的な視線はない

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモいじゃん~」

 

 と、南雲にダル絡みする4人衆(檜山大介(ひやまだいすけ)斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ))がゲラゲラ笑っている

 

 原因は檜山が言った通りキモオタではないにしろオタクだからだ。理由はそれだけでなく━━

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

 彼女、俺の幼なじみ? でもある白崎香織が原因だったりする。簡単に言ってしまえば学校のマドンナである彼女が、オタクで、授業では大抵寝ていたりする不真面目な生徒扱いの彼が話しかけて貰ってるのが気に入らないのだ

 

 南雲は'趣味の合間に人生'を座右の銘にしているため、授業よりも趣味優先になっているため、白崎に注意されたとしても態度を変えないのでそれもあるのだろう

 

 おっと、そういえば一時限目は現代文だったかな? と教科書とノートを取り出す

 

「南雲君。おはよう毎日大変ね」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気のないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 おっと三人衆もお出ましのようだ。このまま聞いてるのも面白いが、後すこしで鐘がなるので挨拶しにいこう

 

「おはよう南雲、八重樫さん、白崎さん、坂上、天之河」

 その声に全員がギョッとする

 

「「「「いたの(か)!?」」」」

 

「いたよ! はぁ、まあいいや時間だから席に戻った方がいいぞ〜」

 俺は心を少し傷つけながらも南雲(親友)を助けることに成功したのだった グスン

 

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

 4時限目が終了し、背筋を伸ばすとポキポキと気持ちのいい音が鳴る

 弁当袋を取り出して立ち上がると、未だに寝ている南雲の机に向かって歩き出す

 

「zzzz」

 隣に来たのに何時(いつ)もの事ながら誰も反応しない

 

 バチンッ

 

「いっ?! たぁぁぁ!」

 決して殆ど座ってるのに俺だけが立っている状況に誰も気が付かなかった事で、イラついてデコピンしたわけではない 本当だ

 

「授業は終わったぞ南雲(親友)?」

 

「わざわざ起こしてくれてありがとう遠藤君(親友)

 

お互いに、はっ..と笑うと10秒でチャージできちゃう定番のお昼を取り出すと、乾杯するかのようにコツンと合わせ...

 

━━じゅるるるる、きゅぽん!

 

早々にお昼ご飯を食べ終えた俺達は、家から互いに貸していたラノベを出し合う

さて、では互いに感想を言い合うか……と、目をキランッとさせたが、二人のお楽しみタイムは終わることになる

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」

 

「あ~誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」

南雲が必死に抵抗(時間稼ぎ)しているのを横目に、去らばだ友よ……と立ち上がり席に戻rガシッ

 

「ん?」

おかしいな?デフォルトスキルのステルス遠藤を発動している俺を捉えるだと?!

 

「香織の言うとおりだわ……そんなんじゃ今日の手合わせ、私に負けちゃうわよ?」

あれれ~?こういう時ばかり影の薄さが通じないのズル過ぎない?

 

「大丈夫だ問題ない」

 

「それって大丈夫じゃない時のセリフよね?」

そう言い、ため息をついた八重樫は弁当を一つ差し出してくる

 

「?え、作ってきてくれた感じのあれ?」

 

「そ、そうよ……」

 

「助かるわ。ありがとう」

なんてラブコメでありそうなことをしていると南雲と白崎の会話に割り込む声で視線を弁当から目の前に移す。

 

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

爽やかにそう言ってのけた天之河だったが、

 

「え?なんで光輝くんの許しがいるの?」

と返されてしまい、場が少し凍りつく

 

俺と八重樫はと言うと、

「「ブフッ」」

耐えきれず笑ってしまった。

 

八重樫が天之河を止めている(宥めている)のを見ていたが、少し気になったので弁当箱に視線を移し、開けようとする。

 

 

すると突然、足元に純白に輝く魔方陣らしきものが現れた

 

その魔方陣は徐々に輝きを増し、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

驚きの悲鳴と、愛子先生の「皆!教室から出て!」という叫びと、カッと爆発したように輝いたのは同時で

 

あとに残ったのは食べかけの弁当に、錯乱する箸やペットボトル、教科書などで、その場にいた人間だけが姿を消していた

 

 




感想やお気に入り嬉しいです!

さて次はいよいよ異世界の話です

次の話は早ければ深夜帯に、遅くとも明日の朝には投稿したいです

最後に見てくださりありがとうございます。次の話も良かったら見てください

それでは次話でお会いしましょう



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第一章:幕開け
異世界召喚


お気に入りが50件を越えました!皆さんありがとうございます

そして、感想と評価とても嬉しいです!


 さて、遂に原作開始のようだ。漫画や小説などで思い浮かべるのと実際に目にするのでは全くの別物のようだ。上手く言い表せないけどな

 

 

 目の前に広がるのは縦横十メートルはありそうな巨大な壁画。後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中世的な顔立ちの人物が描かれている

 

 その背景には草原や泉、山々が描かれ、そちらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている

 

 おそらくだが、今回、俺たちをこの世界に呼んだ犯人であるエヒトが描かれている人物なのだろう

 

 建物の事は後回しにして、クラスメイト以外の周囲の人間を観察する

 

 まず、俺たちを取り囲むようにして一人一人が祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んでいる人達

 

 その中で一際目立つのが、豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうな細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人で、進み出てきた

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。宜しくお願い致しますぞ」

 

 イシュタルと名乗った老人は好好爺然とした微笑みを見せた。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 場所は変わって十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に案内された

 

 しかし、この状況で誰もたいして騒がないって所は流石カリスマ持ってるだけあるわ残念勇者(天之河)

 

 そう、この状況でクラスメイト達が騒いでいないのは、認識が追い付いてない者も勿論いるが、他は天之河が持ち前のリーダーシップを働かせて、皆を落ち着かせて誘導したからだ

 

 席に着席すると、絶妙なタイミングでパチモンとは違う、異世界の…本物のメイドが飲み物を注いでいってくれる。そんな美少女メイドを大半の男子が凝視し、その光景に女子は絶対零度の視線を向けていた

 

 南雲も俺も男の子で、思春期だ。側に来たメイドを凝視……することはなく、南雲は白崎からの笑っていない笑みを受け、俺は八重樫からのジト目を頂き、二人してメイドから目を反らした。メイド服姿のポニテ少女だったので、少し悔やんでいると南雲はビクビクしながら話しかけてきた

 

「え、遠藤君、これは…」

 

「あぁ、あれだな…円卓の席っぽいよなぁ席の配置とか……」

 俺の発言に少しズルッと肩を落とす南雲

 

「いや...まあそうなんだけど、そうじゃなくて━━」

 南雲が続きを話す前に残念ながらイシュタルの説明が始まってしまった。

 

 

 イシュタルの話を要約するとこうだ。

 ・この世界はトータスと呼ばれている場所で、種族は大きく分けて3つで人間族、魔人族、亜人族である

 

 ・人間族は北一帯、魔人族は南一帯、亜人族は東の巨大な樹海のなかで生きているらしい

 

 ・魔人族と人間族は何百年も戦争を続けている

 

 ・魔物と呼ばれる通常の野生生物が魔力を取り入れ変質した異形の存在で、それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣

 

・魔人族は人よりも数が少ないが、個人の持つ力が強く最近では数多くの魔物を使役してきているせいで、人間の数の有利が覆りつつあるとのこと

 

 まぁ、此処までは何度も原作読んでいた俺としてはなんとか覚えている。そんな事よりも今後について考えなければいけないだろう

 

 南雲が...親友が奈落の底に落ちていくのを防ぐか否か、奈落の底に落ちなければ未来は確定している。

俺たちは全員死ぬ。南雲のあの兵器たちが必要なのだ。

 

 そこまで考えた所で、愛子先生の抗議の声が上がる

 

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! 

 ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! 

 きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 

 生きて帰るために親友を死地に送るか、親友を助けて全員が死亡するbadend展開かを悩んでいたところに愛子先生がぷりぷり怒っているのを見て、頬が緩んだ

 

「お気持ちはお察しします。しかし...あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 先程までぷりぷり怒っていた先生は勿論、その先生を見て「かわいいなあ先生」とかほんわかしていたクラスメイトも顔を青ざめさせ、誰もが何を言ったのか分からないという表情でイシュタルをみる

 

「ふ、不可能って... ど、どういうことですか!? 喚べたのなら返せるでしょう!?」

 

 誰もが衝撃の事実に、何も言えなくなっているが流石は先生、イシュタルに説明を求める

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

 流石の先生でも、そんな事をイシュタルに言われてしまい、脱力したように椅子に腰を落とす

 それを、きっかけに生徒たちは口々に騒ぎ始めた

 

「嘘だろ 帰れないってなんなんだよおかしいだろ!」

「そんなのいやよ! なんでもいいから帰してよぉ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! やるわけねぇだろ!」

「なんで、どうして...」

 

 パニックになる同級生たち

 

 隣を見れば南雲も多少は平静を保てていた。オタクであるが故にライトノベルでこのような状況のは多々ある。まぁ、一番最悪な展開ってわけじゃないからな

 

 

 天之河は立ち上がると、机をバンッと叩いて注目を集めた

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

 天之河の問いに対してイシュタルは、フム...と悩む仕草をすると、そう答えた

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 

 さて、勇者(笑)のカリスマは効果は発揮し、さっきまで絶望の表情だった生徒たちは活気と冷静さを取り戻し始めた。女子生徒は頬を赤らめ、熱っぽい視線を送っている。目がハートに見えたのは気のせいではないだろう

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。俺もやるぜ?」

 

「龍太郎…」

 

 この流れは八重樫、白崎という原作通りの流れで決定かな……と思ったのだが、八重樫が此方を心配そうな表情で見ているのが目に入った。

 

 はぁ、仕方ない…

 

「郷に入っては郷に従えって言うし、自分にできることをやるよ」

 

「遠藤……」

 

「……そうね今のところ、それしかないわよね。私もやるわ」

 

「雫………」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織……」

 

 原作通りとはいかなかったが、オロオロと「ダメですよ~」と困った顔をした先生を尻目に俺たちはクラス全員で戦争に参加することが決まった

 

 




熱中症で倒れるのが先か、寝落ちするのが先か...

やってやりますよ!書けるところまで書きますよ!



また次の話でお会いしましょう!


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ステータスプレート

お気に入りが60件を突破!ありがとうごさいます

ヒロインアンケートや、感想もとても嬉しいです!


それでは~どうぞ!


 さて、全員が戦争に参加することが決定したわけだが、元は平和主義の日本の高校生だ。いきなり魔物と戦うのは不可能って事になり、聖教教会本山がある[神山]の麓の[ハイリヒ王国]に向かうこととなった

 

 途中の綺麗な景色に全員が感嘆の声をあげ、産まれて初めて見る魔法に釘付けとなっている

 

 地上が見えてきた。眼下には大きな町、国が見える。

 山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。

 ハイリヒ王国の王都だ。

 台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。

 

 深い深呼吸をする。今更ながら異世界に転生したのだと自覚できたようだ。

 

 手を握りしめ、これから起こるであろう事についての覚悟を決めるのだった

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 王宮に着くと、俺たちは真っ直ぐに玉座の間に案内された

 

 教会も豪華だったが、それに負けないくらいの煌びやかな内装だった

 

「お、いた...南雲」

 南雲を探す為に歩くスピードを落とす...と、最後尾をこそこそ付いていくのが見えたので話しかける

 

「?! ...遠藤君か、どうしたの?」

 

「今のところの要注意人物について話し合おうかなって」

 

「イシュタルさんとか?」コソコソ

 

「そうそう、というかイシュタルだけじゃなくて教会自体が危ないかもなぁ...てね。ま、只の憶測だし気にしなくていいよー」コソコソ

 

 少し離れていたので急ぎ足で列を追うと、巨大な両開きの扉を次々と通っていってるところだった

 

 中に入ると、玉座の前で立ち上がって待っている国王らしい人物と王妃のような女性、リリアーナ、ランデル、甲冑や軍服らしき衣装を纏った人達や文官らしい人たちが数十人も並んでいる

 

 イシュタルが手を差し出すと、国王はその手をとり、軽く触れない程度のキスをした

 

 その後は自己紹介を受けた

 

 リリアーナとランデルは覚えていたが、どうやら対して目立たないので国王と王妃の名前を忘れていたようだ

 

 後は、メルド団長やその他の高い地位にある者の紹介がされていたがメルド以外に興味ないし覚える必要がないかなと、流した

 

 その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能することになる。見た目は地球の洋食と同じようなものだった

 ピンク色の怪しいソースも、虹色に輝く飲み物もあったが、とても美味しかった

 

 

 晩餐が終わって解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。無駄に豪華だなとか考える前に、眠気が勝ったのか、ベッドにぶっ倒れるように眠った

 

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 翌日から早速、訓練と座学が始まった。

 

 俺と南雲は集合の10分前には並んでいた。時間になると生徒全員が到着したようで、メルド団長が確認する

 

「全員いるか!」

 

「そういや遠藤は?」

「ほんとだ」

「まだ来てない?」

 

 という言葉にメルド団長は側にいた部下に部屋を見てくるように言った

 

「遠藤がまだ寝ているかもしれん、少し部屋のようすを」

 

「す、すいませ~ん! 此処にいますよ」

 

「ぬ、いたのか。これはすまない」

 

 あ、これは久しぶりに枕に顔を押し付けて泣き叫ぶやつや

 

 ていうか、お前らが集合する前からいたんだから気付けよ! 

 

 

 メルドは、ウオッホンと、咳払いをすると俺たちに銀色のプレート...ステータスカードを配った

 

 さて、遠藤(おれ)の初期値はどのぐらいなのかな? と少しわくわくしていると、メルド団長が説明を始める

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、無くすなよ?」

 

「プレートの一面に魔方陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔方陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所有者が登録される。'ステータスオープン'と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだをああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類いだ」

 

 この程度の説明は知っているので、さっさと言われた通りに指に針を少しだけ刺して血を垂らしてこっそりと'ステータスオープン'と言った一瞬淡く輝くと文字が表示された

 

 

 ==================================================================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:1

 天職:暗殺者

 筋力:100

 体力:120

 耐性:60

 敏捷:180

 魔力:30

 魔耐:30

 

 技能:暗殺術・気配操作・影舞・直感・言語理解

 

 ==================================================================================

 

 へぇ、これが初期値か...筋力と体力、敏捷が高いな。勇者(笑)がオール100だとして勝ってるのがこの2つか。

 

 

一人プレートとにらめっこをしていると、説明が終わったのか全員がステータスを見ている

 

「南雲はどうだったんだ?」

 知ってはいるが、確認の意味を込めて一応みせてもらう

 

 ==================================================================================

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 天職:錬成師

 筋力:10

 体力:10

 耐性:10

 敏捷:10

 魔力:10

 魔耐:10

 

 技能:錬成・言語理解

 ==================================================================================

 

「お、錬成師...か、鋼錬(はがれん)みたいなのか?」

 

「それは錬金術師だから違うと思うけど、というか遠藤君凄いね? このステータス」

 

「俺なんかより多分、天之河の方がヤバイだろ天職が勇者だったりしてな」

 

「確かに天之河君なら勇者でチート技能持ってそうだよね」

 

 二人で天之河(勇者様(笑))について話していると、メルドの一言で南雲が凍りつく

 

「後は.....各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

「ぐふっ」

 

「南雲は心に100のダメージを受けた」

 

「はあ、こういうのって俺TUEEEEだと思ったのに」

 ふざけて言ってみたが予想以上に落ち込んでいるようだ

 

「落ち込むのは早いって、こういう話でのお決まりを思い出してみろよ」

 

「ピンチに陥ると、覚醒する~的なやつ?」

 

「そうそう、諦めんなって」

 話し合っていると、メルドに「二人も列に並んで報告しに来てくれ」と言われて初めてクラスメイト達が一列に並んでいることに気がついた。

 

「次は...遠藤か。ではプレートを見せてくれ」

 

「はい」

 返事をしてプレートを手渡す

 

 

「ほう、暗殺者か...素質はあると思っていたが」

 おっと影が薄いからかな? そうなのかな? ケンカ売ってる? とか思ったが、頑張って表情をつくり、「ありがとうございます」と返した

 

 ついに南雲の順番になり、メルドは先程までのホクホク顔から一転して、「うん?」と笑顔のまま固まり、「見間違いかしらん?」と目をゴシゴシしたり、プレートを叩いたり、光にかざしたりした後に微妙そうな表情で南雲にプレートを返した

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときは便利だとか...」

 と、歯切れ悪く説明するメルド

 

 そこへ、南雲のことをよく思っていない...目の敵にしている者の筆頭である檜山が、ニヤニヤしながら近づいてくる

 

 これから始まるのは原作通り、檜山が南雲をボロクソに言う胸くそ展開だ。

 しかしまぁ、親友をボロクソに言うんなら...それなりの対価が必要だろう

 

 俺は息を潜め、何を面白いのかニヤニヤしている檜山の足を払う

 

「なっ...おぶっ?!」

 盛大にすっ転んで、顔面を地面にぶつける檜山

 

「何やってるんだよ~」

 と、クラスの殆どが何もないところでひとりでに(・・・・)転んだ檜山を笑っている。勿論おれも

 

「く、おい南雲! お前そんな非戦闘系でどうやって戦うんだ? メルドさん、錬成師って珍しいんっすか?」

 

「...いや、鍛冶職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っていたな」

 

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

 

 

 檜山が、ウザイ感じでハジメと肩を組む。周りの生徒達──特に男子はニヤニヤと嗤わらっている。

 

 天之河くぅ~ん! ここに仲間を苛めている人がいるよぉ! 的な感じで勇者(笑)をみるが、顔をしかめているが助ける気はないようだ

 

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

 

 

 本当に嫌な性格をしている。メルドの表情から結果を察している筈なのにニヤニヤ気持ち悪い笑みで手を差し出している。他三人もギャハハ! と笑いながらまくしたてている

 白崎さんや八重樫さんなどは不快げに眉をひそめている。

 

 

 

 南雲は投げやり気味にプレートを渡す。

 

 

 ハジメのプレートの内容を見て、檜山はわざとらしく爆笑した。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。

 

 

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」

 

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

 

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

 

「くふふっあっはっはっは!」

 俺はわざとらしく笑い、此方に意識を向ける。

 

「なんだよ遠藤? 流石の大親友様も、こんなの見たら失望しちゃうのか?」

 何を勘違いしたのか笑みを深める檜山に近づく

 

「何勘違いしてんだか、俺は...」

 と、先ほどのように八重樫のお祖父さんである鷲三(しゅうぞう)さんに教えて貰った技術を使って転ばす

 

「さっきまでこんな醜態さらしてた奴が恥ずかしさのあまり人を馬鹿にして必死に気を紛らわせようとしてるのが面白くてな」

 

 

「ほい、災難だったな」

 呆然としてる三人を無視してプレートをひったくって南雲に返す

 

 一部の人が笑いをこらえている。おっと幼なじみ(仮)さんと、ポニーテールさんは笑いすぎると可愛い顔が台無しになっちゃうぞ! 

 

「て、てめぇ! この野郎っ」

 殴りかかろうとしたが、メルドに止められその場は解散になった

 

 




なんだか、雫ちゃんがたまにしか出てこないから次はメインで出したいな

お昼頃に出せたらまた会いましょう


では次回もお楽しみに


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運命の日、前日

一言言うネタがない!


ということで、どうぞ!


 この世界に来てから二週間が経った。

 

 八重樫との危険のない模造剣を使った打ち合いを終え、八重樫が少し席をはずしたすきにステータスプレートを取り出す

 

 ==================================================

 ====================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル8

 転職:暗殺者

 

 筋力:148

 体力:168

 耐性:108

 敏捷:228

 魔力:78

 魔耐:78

 

 技能:暗殺術[+投擲術][+暗器術]・気配操作[+気配遮断]・影舞・直感・言語理解

 

 ==================================================

 ====================

 

 この数週間で、もう派生技能が出てきてしまっている異常な事態に頭痛がして頭を押さえる

 

 何もおかしい事はしていないはずだ……と、記憶をたどってみる

 

 [+気配遮断]の派生技能にいたってはステータスプレートをもらった翌日には現れていたので、俺ってば影薄いですもんねーと諦めた

 

 一週間が経過すると、メルドに頼みこんで、特注で作って貰ったクナイのような物と手裏剣のような物が手に入った。

 他の生徒が危なくなったら敵を怯ませるためである。

投げる練習をしていたら、いつの間にか派生技能として、[+投擲術]が現れており、手裏剣とかを持ち歩いていると、[+暗器術]が追加されていた

 

 うん、意外に身に覚えがあったが同時にそんな事で派生技能が発現するわけねぇだろ! と思った

 

 

 しかし、やたらと頭をちらつくのはグッとサムズアップする老人で、それを思い出すと、四つん這いになって拳を地面に叩きつける

 

「あのクソジジイィィ~!!!」

 突然叫び出した俺に、周りはいつも通り「あ、遠藤君いたんだ…」とか「びっくりした~遠藤いたのか…」と反応していた

 

 いつも通りなのだが、少し傷付いたのでもう一度地面を殴り、ゴロンと前転するように仰向けになる

 

「どうしたのよ浩介?」

 ボーとしていると、ポニーテールを揺らして俺の顔を覗きこんでくる人物がいた。どうやら戻ってきたみたいだ

 

「…いや、不満の種である人物を思い出して叫んでただけだ」

 上体を起こしながら俺はそう答えた

 

「なによそれ」

 ふふっ、と可愛く笑って八重樫は隣に座り、模造剣を置いた

 

「つーか天之河のやつ、成長早すぎだろ…レベル10で全能力値が200だぞ?」

 話すネタが思い付かず、天之河の話を振る

 

「そうね、光輝も凄いけど…浩介も負けずに...す、凄いと思うわ」

 頬を少し赤らめながら、そう言って褒めてくれた八重樫に

 

「お褒めに預り光栄ですっと、はぁ…ちょっと懲りないアイツ達(バカ共)を転ばしてくるわ」

 

 お世辞でも嬉しいのでお礼を言うと、遠くに南雲を蹴飛ばしてちょっかいをかける4人組を見つけ、八重樫に断って転ばせ(止め)るために歩き出す

 

 

 

 訓練場をでて、人気の無さそうな場所に向かうと、五人を見つけたので乱入する

 

「ここに風撃を望mグホッ?!」

 

 散々ボコボコにした後、檜山が炎弾を撃つが、ギリギリで南雲が避け、避けたのを見計らって斎藤が魔法を放とうとするが、寸前で盛大にずっこけた

 

「なっ?!」

 

「懲りもせずによくやるなよな? お前ら」

 

 その声に四人は憤怒の表情を浮かべ、南雲はふぅと息をつく

 

「てめぇ!」

 

「大丈夫かよ南雲? ったく面倒な連中に目をつけられて災難だな…いやホントに」

 

「あはは、いつもありがとう遠藤君」

 手を貸して起き上がらせると、四人と相対する。

 

「南雲のついでにお前も訓練つけてやるよ」

 

邪魔をされてか、青筋を浮かべて剣を構える檜山たち

 

「何やってるの!?」

 今にも飛びかかりそうな檜山だったが、怒りに満ちた白崎さんの声が響くとビクリッと直立になった

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで…」

 と弁明しようとしたが、南雲の様子を見て「南雲君!」と駆け寄る。檜山達のことは頭から消えているようだ

 

「特訓にして、随分と一方的みたいだけど? 浩介が止めてなかったらもっと酷いことをしていたんじゃないかしら?」

 

「いや、それは…」

 目を泳がせて必死に言い訳を考えているようだが……

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

 二人からのお説教の言葉を受け、愛想笑いをしながら逃げていった

 

「ふぅ、ありがとな八重樫…四人は流石に負けちゃうかもしれないからな」

 

「どっちかっていうと、貴方の心配よりも四人がベッドで息絶え絶えになるのを防いだって方が正しいかもしれないわね」

 おっと、八重樫さん? 君から見た俺の印象はどうなってるのかな? 

 

「な━━」

 

 そんな事を気にしながら、わざとではないが天之河の呆れたセリフを無視して

 

「もう訓練が始まるから行こうぜ」

 

 と声をかける。俺の言葉に不満そうな奴が一人いるが、華麗にスルーして、訓練施設に戻るのだった

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 いつも通りの訓練が終わると、メルド団長から呼び止めがかかった。いつもなら自由時間で、八重樫と剣を打ち合うのだか、今日は違うようだ

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まあ、要するに気合い入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では解散!」 

 

 

 

 




次は【オルクス迷宮】かな


投稿は2時頃か夕方です!

それでは次回もお楽しみに


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トラップ、それは絶望の始まりを告げる◯◯◯

サブタイトルを厨二っぽくしてみたけどどうかな?


さてさて、お気に入り100件目指してがんばります!


それではどうぞ!


 俺たちは今、【オルクス大迷宮】へと来ている。一番重要な場所なのだが、昨日あった事が忘れられずに集中力を欠いていた

 

 

 時を遡ること数時間前~

 

 

 風呂に入った俺は、明日の為にクナイ擬きや手裏剣擬きを磨いていた。【オルクス大迷宮】でのことは覚悟がきまった。しかし緊張しているのか眠れず、こうして意味もなく武器を磨いて気を紛らわせていた

 

 コン コン

 

 扉を叩く音が聞こえたが、隣の南雲の部屋だろう.きっと白崎が南雲と密会するために扉を叩いているのだ

 

 コン コン

 

 おいおい南雲! はやく出てやれよ! 白崎さんをあんな格好で廊下に放置とか酷すぎるぞ? 

 

 コンコンコンコンコンコンコン……

 

 扉を高速でコンコンした後に、首謀者の声がした

 

「開けてくれないかしら? 浩介君?」

 

 どうやら隣ではなく、俺の部屋に用事があるようだった。扉を開けると、ネグリジェにカーディガンを羽織っただけの八重樫が立っていた

 

「え……うそん」

 呆然とした表情で呟くと、急いで手を掴み部屋に招き入れる

 

「ど、どうしたんだ、そんな格好で」

 

 緊張していることを悟られないように注意しながら紅茶を注ぐと、質問をする

 

「その、明日の実戦訓練なんだけど.嫌なこと思い出しちゃったから、寂しくなっちゃって」

 

 いつもの凛とした雰囲気はなく、俺の目の前にいたのは弱々しい女の子()の八重樫雫だった

 

「━━そうか……まぁ、だいたい予想はつくが……王都外での魔物を倒す訓練の時でも思い出したか?」

 

「……」

 返事はないが、代わりに頷きで返してくれたので当たりのようだ

 

「確かに初めて魔物を斬ったときは気持ち悪い感触だったし、罪悪感も少なからずあった……でもさ、俺は自分が生きるためなんだから仕方がないって割りきったよ」

 

「……」

 

「その考えを八重樫に強制するつもりはない……あの時言ったように俺は自分にできることを全力でやるだけだ。

 言っちゃあ悪いが、この世界の奴らには対して、さほど関心がない。可哀想だとは思うがそれだけだ……俺は自分とクラスメイト、それに先生を守るので精一杯だからな。魔物(てき)に躊躇するだけ無駄だ」

 

 格好つけたようなつけていないようなセリフを言った後、恥ずかしくなって紅茶を一気に飲む

 

「やっぱり浩介は格好良いわね……よし!」

 ボーと、したあとに何かを決心したようで八重樫は俺の手を取ると、自分の頭に置いた

 

「何してんの?」

 突然のことで目を丸くしている俺を尻目に数秒後、ボソッと何かを言って「━━おやすみ浩介!」と出ていった。

 

「いや、本当に……あーチクショウ……決心鈍るから止めてくれよ」

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

「浩介! 大丈夫か?」

 

 目の前には心配した様子のメルド、そして仲間たち(クラスメイト)

 

「すみません、ボーとしてました」

 

「無理そうなら……「あぁいえ、大丈夫です」そ、そうか」

 

 意識を切り替えて目の前の小型の魔物と相対し、気配遮断技能で見失っている隙に一刀両断にし、クナイ擬きや手裏剣擬きで敵を怯ませながら反撃をさせる暇なく倒しきった

 

「よ、よし全員終わったか……次はいよいよ20階層で訓練だ! 最後だからといって気を抜くなよ!」

 

「はい!」と全員が元気に返事をして、先に進む

 

「遠藤君、ボーとしてたけど何かあった?」

 

 心配してくれたのか、南雲が駆け寄ってきた

 

 

「いや、昨日緊張しすぎて眠るのが遅くなってな」

 

 勿論だが嘘だ。あの後、いろいろと準備をしていただけだ

 

 

「へ、へぇ」

 

 昨日という単語で南雲の様子が少しドギマギになった。

 

 

「そっちこそ昨日は何かあったのか?」

 

「い、いや? な、何にもなかったよ?」

 

 目を泳がせて慌てている南雲に追い討ちをかけようとしたが、メルドの「遠藤、お前も前に出ろ!」との声に中断させられてしまった

 

 っ━━おのれメルドぉ! 

 

 

「擬態しているぞ! 周りをよく注意しておけ!」

 

 渋々と前に出て前衛組に合流すると、敵を見つけたメルドが大声で忠告してくれた。

 

「頑張りましょ……浩介」

 

「おう」

 

 さてと……確か咆哮をして前衛を一時的に麻痺させるんだったか

 

 俺は後ろに一気に下がる。八重樫はいきなり下がった俺に驚きながらも、持ち直して剣を構える

 

 それと同時に咆哮が発せられて前衛組は硬直してしまい、その隙にロックマウントというゴリラ型の魔物は、岩を投擲……否、それは岩ではなく後衛組にルパンダイブで突っ込むロックマウントだった

 

 それを俺は技能を使って壁を走り、飛んでいるロックマウントの首を落とした

 

 さきほどまで、「いやぁぁぁ! 変態ぃぃ」とか騒いでいた白崎達は別の意味で「ヒィッ?!」と悲鳴をあげた

 

「貴様、よくも香織達を.許さない!」

 

 白崎たちの悲鳴を勘違いした天之河が怒りをあらわにすると聖剣が輝き出す

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──"天翔閃"!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルドの静止を聞かずに発動したその技は、ロックマウントを真っ二つに(オーバーキル)し、奥の壁を破壊し尽くした

 

 殺りきったぜ! と清々しい顔をした天之河にメルドは近付いていき、拳骨をした

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうするんだ!」

 

 メルドの言葉に「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪をした天之河。そんな落ち込んだ様子の彼を後衛組が近づいてきて慰める

 

 ふと、白崎が例の罠であるグランツ鉱石を指さす

 

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。その美しさに香織を含め女子達は夢見るように、うっとりした表情になった。

 

 

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい

 この鉱石は加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としても人気だ」

 

 

 

「素敵……」

 と、白崎がチラッと南雲の方に視線を向けている。それをニヤニヤ見守る俺だったが、隣にいる八重樫と目が合うと反らされてしまった。何故に? 

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 そう言ってグランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと壁を登っていく

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 檜山はその注意を聞いてないフリをして無視し、どんどん登っていく

 

 トラップがないか探っていた団員は顔を青ざめさせて叫んだ

「団長! トラップです!」

 しかし、騎士団員の警告もむなしく、檜山は鉱石に触れてしまった

 

 その瞬間、部屋全体に魔方陣が広がった。魔方陣は徐々に白く光輝いていく

 

「くっ、撤退だ! この部屋から急いで出ろ!」

 メルドの叫び声もむなしく、誰一人として間に合わず、一瞬の浮遊感の後、地面に叩きつけられた

 

 その場所は石造りの橋の上で、俺達の位置はちょうど中間で、両サイドには奥に続く通路と上階への階段が見える

 

 奥の通路からも魔方陣が出現し、ベヒモスが現れた




次はベヒモス戦です

評価と、お気に入り嬉しいです!ありがとうございます!

応援がある限り書き続けるのでよろしくお願いします!


それと、恋愛とかそういった甘いシーンは下手くそだから見逃してください!すいません!


それではまだ次の話でお会いしましょう


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ベヒモス

徹夜はツラいよ!

更新スピード落ちるかもしれないけど許してね!


今回も駄文ですが、

それではどうぞ!


 ベヒモスが現れた反対側からはトラウムソルジャーと呼ばれる骨格だけの体で、剣を携えた魔物が数百体に上る数が現れる。だがその数は未だに増え続けている

 

 メルドはベヒモスの叫びで正気に戻ったのか、部下に指示を出す

 

 俺はもうすでにトラウムソルジャーへと駆け出していた。どうやら俺の気配遮断の技能は不具合なく発揮しているようで、気が付いてなかった目の前の敵を難なく倒す

 

「突っ込みすぎるなよ! 囲まれたら終わりだ」

 後ろからアランさんと他の仲間が来た

 

「大丈夫です。俺は自動ドアに三回無視されてるほど影が薄いんで」

 

「? お、おうそうか! 期待してるぞ!」

 自動ドアがなんなのか分かっていないようだったが、期待してるぞなんて言われてしまったので、その期待に応えることにする

 

 まず、しっかりと全体をみる。右奥にいる女の子の後ろからトラウムソルジャーが斬りかかろうとしているので、クナイ擬きを投擲して援護する

 

 相手が狙ってこない分、やりやすく簡単に数を減らすことができた。しかしそれは自分の周りだけで、奥にはうじゃうじゃいる

 

 すると再度咆哮が聞こえ、ベヒモスとメルド達の障壁がぶつかり合う

 

 その衝撃で、橋は大きく揺れて転倒する者も現れる

 前からも後ろからも迫り来る敵に殆どの者がパニックに陥っている。一人の女の子が転んでしまい、目の前にはトラウムソルジャーが剣を振りかぶり...

 

「残念、させねぇよ」

 その剣を受け止めると、流れるように腕を斬り落として最後に首を跳ねる

 

「大丈夫か?」

 

「は、はいぃ!」

 

「よし、コイツ等は冷静に対処すれば簡単に倒せる敵だ。危なくなっても援護するから頑張れよ!」

 そういい残して、錬成中の南雲の元に向かう

 

 

「さて、南雲...どうする?」

 

 

「みんなパニックになってる、このままだといずれ死者が...」

 

「そうだな...そして残念ながらあれを一掃できる火力は俺にはない

 だが、そんな圧倒的火力で道を開くリーダーが一人いるよな?」

 

「そうか、天之河くん!」

 南雲は未だに駄々をこねている天之河の元へ走っていく

 俺は此方の相手をしますか

 

 

「天之河くん!」

 

「なっ、南雲?!」

 

「南雲くん!?」

 

 驚いている一同に南雲は必死の形相でまくし立てる

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて━━━」

 

 

 

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

 

 ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、南雲は今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

 

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

 光輝の胸ぐらを掴みながら指を差す南雲。

 

 その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。たまに首が飛んだり、斬られているが

 

 

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

 呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

 メルドに撤退することを言おうとした瞬間、遂に障壁は砕け散った

 

 

 

 トラウムソルジャーの相手をしていた俺だったが、凄まじい衝撃にベヒモスの方に目を向ける

 

 障壁は砕け散り、メルドたち護衛は吹き飛ばされたのか横たわっている

 

 八重樫と坂上が時間を稼ぎ、天之河が"神威"を放つが、全くダメージを受けていないベヒモス

 

 ベヒモスは天之河達を睨むと、頭を上げる。頭の角がキィーーという甲高い音をたてながら赤熱化していく。

 

 俺は全力で駆け、三人をベヒモスから遠ざけると同時に、ヘッドアタックをしてきた

 その衝撃に近くにいた者も、遠ざかった俺たちすらも吹き飛んだ

 

 ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと必死に踏ん張っている

 

 少し足を捻ってしまったが問題ないと判断し、立ち上がると南雲とメルドが話し合っていた

 

 しばらくすると、メルド団長が距離を取り、南雲が錬成で時間を稼ぐ

 

 天之河が大技で敵を凪ぎ払い、道ができた。その隙に階段前を陣取り、南雲が錬成を中止した途端、メルド団長の号令で魔法が一気に放たれた。

 

 此方に南雲が走ってくるが、悪意によって誘導された魔法はきれいに南雲に当たる。

 

 

 絶望は続き、三度目の赤熱化を行ったベヒーモスは標的を南雲に定め、突進する。それをなんとか避けられたものの、度重なる衝撃に橋が耐えられなくなったようで、崩落し始める。ベヒーモスはもちろん、南雲も落ちるだろう

 

 白崎さんは八重樫に止められた。しかし俺の派生技能である気配遮断があるためか、誰も気づくことなく止めてくることはない

 

 崩れかけているが、橋の断片にしがみついている南雲の手を取った。しかし、足場が全て壊れ俺と南雲は奈落へと落ちていった。

 

 

 落ちながら自分のした偽善者行為に笑みを浮かべる

 

 結局俺は南雲を助けず、奈落に落ちて貰うことにした。しかしそれでは後味が悪いので絶対に助からない所に助けに行き、一緒に落ちる

 

 

 他の人には俺がやった事が理解できないだろう。だが、南雲が奈落に落ちることを知っていながら行動を起こさなかったんだ。これぐらいしないと割りに合わないだろ

 

 死んだらそれまで、生きてたら━━親友と一緒に怪物生活でもできればいいな




う~ん最後が微妙かな~途中で直すかもしれません!

お気に入りがもう少しで100になりそう!頑張るぞい!


続きは20時にあげられたら上げます


最後に読んでくださってありがとうございます!

それではまた次話で!



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奈落での再会と怪物たちの目覚め

どうも!少し遅れてしまいましたが投稿させて頂きました!

急ぎ足っぽいけど許してください!



それではどうぞ!


「うっ」

 と呻き声を上げて俺は目を覚ました

 

 

 未だ完全に意識が覚醒しないながらも、痛む全身に鞭を打ち上体を起こす

 

「痛っ、そうか...助かったのか」

 全身の身体が痛むが、それどころではない。周りの状況を確認する

 

 周りは薄暗いがなんの石かは分からないがそのおかげで、何も見えないという程でもない。どうやって助かったのかは分からないが、自分は悪運が強かったのだと思い込むことにした

 

 

 取り敢えずはどうするか...南雲は何処にいるか分からないが、今頃は爪熊に襲われていたりするのかもしれないな

 

「辺りを散策しよう... 」

 今の俺には何もできることはない。戦うとしても短刀とクナイ擬きが3つ、手裏剣擬きが4つしかない。一度は戦闘できるだろうが、戦いを避けて行こう

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どのぐらい時間が経ったんだろうか、直感のおかげで眠っていても魔物が来たときには分かるので、睡眠についての問題はなんとかなったが...ぐぅぅ

 

 

 腹が減った。水は近くに小川のようなものがあったから良かったものの、そういえば奈落といえば食べられる物があるとすれば魔物ぐらいだ

 しかし、その魔物も神水がなければ食べた瞬間に死んでしまう

 

 人は水だけでもなんとか生きれる筈だ。食べ物は諦めて南雲を探そう

 

「待ってろ、一人にはしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからまた数日経った。直感を駆使して探し回った甲斐があって、錬成を使った形跡のある場所が判明した

 爪熊に襲われて、南雲は錬成を駆使して逃げたのだろう

 

「穴の中にいたんじゃ、俺の声なんて届かないよな」

 諦めて他の場所に行こうとしたが、不意に獣の悲鳴のようなものが聞こえた

 

 俺はすぐさま駆け出した。別の魔物同士で争っているかもしれないが、南雲の仕業というのもある。南雲じゃなければ逃げればいい

 

 

 近づくに連れて、人の声.南雲の声が聞こえてきた

 

 

「やっぱり刺...な。だ...想定...だ」

 

 段々はっきりと聞こえてきた

 

「痛てぇか? 謝罪はしねぇぞ? 俺が生きる為だ。お前らも俺を喰うだろう? お互い様さ」

 

 曲がり角を曲がると目をギラギラとさせて、槍のようなものを狼型の魔物に振り下ろしている南雲の姿があった

 

「...南雲」

 人は此処まで豹変するものなのか...と、驚きつつも、自分のせいなので、首をふって親友の名前を呼ぶ

 

「遠藤...か?」

 南雲は信じられないものを見たような目で俺を見たあと、駆けていくとハグをしてきた

 

「南雲...生きていてよかった。後、助けられなくてすまん」

 

「助けに来てくれただけでも嬉しかったよ

そっちこそ生きてて良かった」

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「今頃だけど、右腕は大丈夫なのか?」

 南雲に案内されて、洞窟に入った俺は質問した

 

「此処にある"神結晶"から流れ出ている"神水"のおかげで助かったんだ」

 

「ああ、書物に書いてあったなぁそういえば」

 南雲は二尾狼を俺が渡した短刀を使って捌いている

 

「え~と、その魔物の肉を食う気か?」

 

「...腹が減ってるからな、遠藤の分もあるけど要らないなら食べちまうが」

 

「あー...んじゃあ同時に食べないか?」

 という事で同時に食べることになったのだが、口に入れると、不味いながらも我慢できないほどではなかった。

 

 しかし、その肉を飲み込むと頭が沸騰しているのではないか? というほど熱くなり、全身が引き裂かれるような痛みに合う

 

 

「ぐっ、がぁぁぁぁぁ?!」

 

「どうし...アガァ!!!」

 

「う、オエァァ...カハッ! オオォォォォァァァ!!」

 

「なんで...なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

 俺と南雲は神水をがぶ飲みしたが、全身を襲う痛みは収まらず数十分もの間、地獄の苦しみを味わった

 

 

 

 

「はぁっ! はあっ! そういえば、魔物の肉を食ったら死ぬんだっけな」

 

「はあっ、はあっ、お前が俺に教えてくれたのに忘れてるのかよ」

 

「知ってて食ったのかよ、言ってくれればいいのによ」

 仰向けになっていた状態から身体を起こし、互いに顔を見合わせる

 

「おい、お前金木君になってるけど」

 

「お前もな」

 

「一体どうなってるんだ?」

 

「さあな、ステータスを確認してみるか」

 

 南雲がステータスを確認しだしたので俺も見てみる

 

 ==================================================

========

 

遠藤浩介! 17歳! 男! レベル12

 天職:暗殺者

 筋力:236

 体力:456

 耐性:196

 敏捷:416

 魔力:366

 魔耐:366

 

 技能:暗殺術[+投擲術][+暗器術]・気配操作[+気配遮断]・影舞・直感・胃酸強化・纏雷・言語理解

 

 ===========================================================

嘘だろ?強すぎだってばよ

 

 

「なあ遠藤、勇者越えちゃったんだけど」

 そう言って差し出してきたステータスプレートは、確かに全ての能力値が100以上になっていた

 

「どうやら魔物の肉を喰ったことで、レベルとステータスが上がり、技能まで手に入れられたみたいだな

 と、その勇者を越えた者さえ越したぞ」

 自分のプレートを渡す

 

「規格外怖い」

 俺は心の中で、お前には言われたくない! と突っ込んだ

 

「それで? これからどうするんだ?」

 

「勿論此処を出る、そのために必要な武器を作る」

 

「あーえっと、俺の武器も作ってくれないか?」

 

「ん? あぁ俺のが終わったら作るよ」

 

 ということで、武器作りの開始だ

 

 

 

 




お気に入りが100件を越え、評価も頂いちゃってとても嬉しいです


次回は武器作り...ではなく、次の階層に上ります!なんだか急ぎ足になっちゃってるけど、早く雫ちゃんとか他のヒロインだしたいんだい!


文才がなくておかしいところが多々あるとおもいますが、応援してくださると嬉しいです!


それでは24時頃に出せたらだすので、その時にお会いしましょう!


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新たなる武器と目覚めの深淵

感想、お気に入り、評価ありがとうございます!

サブタイトルの割には深淵様が出た理由がショボいですが、どうぞ!






 武器制作が決定してから体感時間約3週間ほどで、南雲の武器、大型のリボルバー式拳銃であるドンナーが完成した。

 

 

「見ろよ遠藤! 剣と魔法の世界に現代兵器! 試し狩りをしてきたが殺傷力は十分だぞ」

 

 完成するや否や飛び出して行き、蹴りウサギをホクホク顔で狩ってきた親友に

 

 

「おう、一つ言わせて貰うとお前の方が規格外だよ」

と言った

 

 この数週間、俺は手伝えることが殆ど無くて、傍らで作業を眺めていたが...何処で銃の作り方を知ったのかは知らないが、何度も失敗を繰り返しながら試行錯誤を続け、(鉱石)から作る。そんな姿をみて、初めて親友の事を(良い意味で)やべぇと思った

 

「なんだろうな、遠藤のそれ、褒め言葉に聞こえてきたぜ」

 よし、無視してウサギ肉を食べよう。

 

 さて、ステータスは

 

 ==================================================

 ========

 

 遠藤浩介 17歳 男 レベル15

 天職:暗殺者

 筋力:298

 体力:456

 耐性:264

 敏捷:489

 魔力:382

 魔耐:382

 

 技能:暗殺術[+投擲術][+暗器術]・気配操作[+気配遮断]・影舞・直感・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

 

 ===========================================================

 

 派生技能の[+空力]と[+縮地]は、できれば欲しい技能だったので、かなり嬉しい。暗殺者兼刀を扱うものとして感動だ

 

 早速使おうと外に出て、[+縮地]を試してみる。足に力を込めて...踏み出したら壁に思いっきり突っ込んだ

 

「プフッ」

 後ろから聞こえてきた笑いに笑顔で振り向く、一瞬にしてその場から移動した俺は南雲の頭をアイアンクローする

 

「わ、悪かったって! つーか普通に使えてるじゃねぇか!」

 わお、本当だわ

 

「よし、俺もやってみるか」

 そう言って思いっきり踏み出した南雲は、俺と同じように壁へ激突した

 

「プクススス~、ドンマイ」

 青筋を浮かべた南雲は[+縮地]を使い、俺の後ろに回り込んだ

 

「残念、それは残像だ」

 アイアンクローをかけられる直前、更に後ろへと周り込んでデコピンする

 

「クソッ! もうマスターしてやがる!」

 

「俺は八重樫の道場で色々と仕込まれているんだよ、その応用だと思えば...ちょろいもんよ」

 

 次に[+空力]を試してみる。確か足場を置くような技能だったはず

 

「てやっ! グフッ?!」

 自信満々にジャンプしようとしたのだが、何かに躓いて顔面から盛大にぶっ転んだ

 

「だ、大丈夫か? ほら、神水」

 サンキューと礼を言い、受け取ると一気に飲み干す

 

 難しいなこれ、ちゃんとイメージしないとな

 

 もう一度慎重にやってみると、今度は地面とキスをする~なんてことにはならなかった。まだ危ういが形はできた

 

 それから更に特訓を重ね、技能を使いこなせるようになった。

 そんなある日、南雲が「俺の左腕を喰った奴を倒してくる」と言いだした。ついていこうとしたが、「アイツだけは俺の手で倒したいんだ」と言われてしまい、留守番をすることになってしまった

 

 暫くは自分の思い描いた仮想の敵と組手をしていたが...

 

「う~ん...よし」

 俺は、死地に赴く決意でとあることを練習する

 

「疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート、参る!」

 その練習とは、ステータスプレートに[+深淵卿]が追加された時に心が折れないようにする特訓だ

 

「よし、次はポーズだな」

 片手で顔を覆いつつ、もう片方の手にはナイフを見立てた棒を持ちながら顔を覆う手とクロスするように構える

 

「やっべぇ格好よくね?」

 俺は調子に乗り、覚えてる限りの香ばしいポーズとセリフを実演していく

 

「ふ、どこを見ている?」

 片手をポケットに入れながら少し上体を逸らしつつ、もう片方の手でサングラスがあると仮定して中指で押さえる

 

「ふっ。いい殺気だ。だが、足りない。姿形なき深淵を捉えるには、全く足りない!」

 

「感じるだろう? 冷たくも優しい闇の(かいな)を」

 

「俺は、満月よりも三日月が好きだ。夜の闇を払うほどではなく、しかし、この素晴らしき暗闇に彩りを添えている。弧を描く姿は、まるで夜の女神が微笑んでいるかのようだ」

 

 この男、案外ノリノリである

 

「よし、次は」

 

 ドチャッ

 

「あ」

 俺は即座に南雲の目の前に移動する

 

「おかえり」

 

「あ、あぁ爪熊は倒してきたぜ」

 

「そりゃあ良かった。それじゃあソイツを食べて俺の武器を作ってくれないか?」

 

「そうだな、ところで━━」

 

「さて、どのぐらい能力値が変わるか楽しみだな」

 

「だな、ところ━━」

 

「次の階層にはどんな魔物がいるんだろうな?」

 

「あー...よし、食べるか」

 

 そうだ、何も聞かないでくれ

 

 ==================================================

 ========

 

 遠藤浩介 17歳 男 レベル20

 天職:暗殺者

 筋力:378

 体力:536

 耐性:354

 敏捷:539

 魔力:432

 魔耐:432

 

 技能:暗殺術[+投擲術][+暗器術][+深淵卿]・気配操作[+気配遮断]・影舞・直感・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

 

 ===========================================================

 

 説明にはこうある

 

 効果:凄絶なる戦いの最中、深淵卿は闇よりなお暗き底よりやってくる。さぁ、闇のベールよ、暗き亡者よ、深淵に力を! それは、夢幻にして無限の力……

 

「オラァッ!」

 プレートを叩きつけると、足でゲシゲシする

 

「なんで発現してんだよ! ポーズか?! さっきのあれか?!」

 うおぉぉ! と、頭を地面に叩きつけていると、南雲が止めに入って冷静さを取り戻した

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 あれから落ち着いて話し合って、次の階層に行くことにした。(勿論武器は作ってもらった)

 上にいく道が無い代わりに、下へ続く階段..というか凸凹した坂道のような道があったので進んでいく

 

 その階層はとにかく暗かった。

 

 地下迷宮だからというのもあるだろうが、今まで潜った階層は緑光石が存在し、薄暗くとも視認できないほどではなかった

 

 あまりの暗さに南雲は、自作の緑光石を取り出し灯りとする。それを左手に括りつける。

 

 

 

 しばらく進むと、通路の奥で何かがキラリと光った気がした

「南雲、直感が反応した。いるぞ」

 

「便利でいいなその技能は」

 慎重に進んでいると、左側に敵がいると分かったので、灰色のトカゲのような魔物を感付かれる前に斬り殺す

 

 その肉を剥ぎ取り、どんどん奥へと進んでいく

 途中で羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウと、六本足の猫が襲いかかってきたが、すべて返り討ちにして俺たちの食料となった。

 

「この二つの技能は便利だよな、遠藤」

 拠点を作り、食事を終えた南雲はステータスプレートをヒラヒラさせて言う

 

「確かに、でも気配感知は直感があるからそこまでだが、夜目は嬉しいな」

 

 あの三体の魔物はそれぞれ、トカゲは石化耐性、フクロウは夜目、猫は気配感知の技能を持っていて手に入れることができた

 

 知ってはいたものの、石化の邪眼とか格好良いから欲しかったなぁと思っていると、俺の中の深淵卿が「呼んだ?」と出てきたがねじふせる

 

 南雲の弾丸作成と神水補充が終了すると探索は開始され、すぐに下へと通じる道があった。俺たちは迷うことなく先へと進んだ

 




遅れましたが投稿です

次回は早くもユエ登場!

早く雫を出したい!


それではまた次話でお会いしましょう!


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ユエ

今日はリアルが忙しいので、次の投稿は夜になるかもしれません


それではどうぞ!


 あの後、俺たちは殆ど休む暇なく下へ下へと潜っていった。

 

 様々な強敵に会い、何度も死にかけたが南雲の作った武器や装備、仕掛けに助けられた

 

 今現在のステータスは下記のようになっている

 

 

 ==================================================

=======

 

 

 

 遠藤浩介 17歳 男 レベル54

 天職:暗殺者

 筋力:958

 体力:1028

 耐性:914

 敏捷:1129

 魔力:792

 魔耐:792

 

 

 技能:暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+伝振][+遁術][+深淵卿]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+滅心]・影舞・直感・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠目・気配感知・魔力感知・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

 

 ===========================================================

 どうやら原作の遠藤君を軽く越してしまったようだ。なんだか魔王の右腕っていうよりは、二人目の魔王っぽくねぇか? 

 

「遠藤、どうする?」

 どうする? とは、今現在俺たちがいるのは丁度五十階層あたるところで、つまりは吸血鬼であるユエが眠っている場所なのだ

 

「当然行くっきゃないでしょ」

 

「だな」

 南雲は扉に手をかけ錬成を開始しようとしたが、

 

 バチィイ! 

 

「うおっ!?」

 赤い放電が走り、南雲の手を弾き飛ばした。手からは煙が吹き上がっている。南雲は神水を飲んで回復する

 

 ──オォォオオオオオ!! 

 

 野太い雄叫びが部屋全体に響いた

 

 その正体は、扉の両側に掘られていた二体の一つ目巨人だった。

 

 瞬間、二体の巨人の首が飛んで巨体が倒れる

 

 南雲の目に動揺はない、もちろん俺もだ。なにせこれをやったのは俺だからだ

 

「おいおい、ひっでぇ事するなぁ遠藤は」

 ニヤリと笑みを浮かべる南雲に、抉り取った二つの拳大ほどの大きさの魔石を渡す

 

「二体どころか一体でも待つだけ無駄だからな瞬殺が一番...と、これで扉が開くぞ」

 二人は門の前に立ち、魔石を窪みに合わせる

 

 直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り、魔方陣に魔力が注ぎ込まれていく。光が収まると周囲の壁が発光し、久しく見ていなかった程の明かりに満たされた

 

 俺と南雲は顔を見合わせ、頷くと扉を開く

 扉の奥は光一つなく真っ暗闇だったが、俺と南雲は"夜目"があるので問題なく中の様子を見ることができる

 

 中は教会でみたような大理石で造られており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいる

 その中央には立方体の石があり━━━

 

 

「...だれ?」

 かすれた弱々しい女の子の声が聞こえる

 

 俺は自前の影の薄さを利用して空気になる

 

「人...なのか?」

 驚く南雲は金髪で裸のロリをみて.

 

「すみません。間違えました」

 

 そう言って扉を閉めようとする。あ、そうだった南雲とユエのイチャイチャしか印象に無かったけど、コイツ等は最初こんな感じだったな

 

「ま、待って! ...お願い! ...助けて」

 掠れて呟き程度の声だったが、必死に助けを求める少女、しかし

 

「嫌です」

 やはり扉を閉めようとする南雲。控えめにいって鬼である

 

 しかし、少女の「裏切られた」という言葉を聞くと、無関心だった南雲が興味を示す

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

「私、先祖返りの吸血鬼....すごい力持ってる....だから国の皆のために頑張った。でも....ある日...家臣の皆.... お前はもう必要ないって...おじ様...これからは自分が王だって....私....それでもよかった....でも、私、すごい力あるから危険だって....殺せないから封印するって....それで、ここに....」

 

 それを聞いたあと、南雲は何個か質問をする。そして再度「...助けて...」と言われ、少女を拘束している立方体に手を置いた

 

 錬成を初め、濃い紅色の魔力が放電するように迸る

 抵抗が強いようだが、負けじと雄叫びを上げて錬成する

 

 俺、空気じゃね? とか思いながら...その姿を見ていた俺だったが、そろそろ動ける準備をしておく、大きな音をたてて、少女の拘束が外れた。もうじき蠍型の魔物がやってくる

 

 少女が南雲にユエという名前をつけてラブコメをしているが、お構いなしに俺は二人を抱き抱えてその場を離脱した

 

 直前までいた場所に真上から魔物が落ちてきたのである。二人は驚いたような顔をしている

 

「...誰? 」

 

「助かったぜ遠藤、いたんだな」

 決して二人の言葉にイラついたわけではないが、乱雑に放り捨てる

 

「二人は回復してろ、時間は稼ぐ」

 二人の非難する目を知らんぷりして、敵へと肉薄する

 

「どこまで強くなったのか...試させてもらうぜ」

 




見てくださりありがとうございます!

それではまた次話でお会いしましょう!


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封印部屋の化け物は沈み、少年は強さを求める

圧倒的な雫人気!
みんな好きだなぁ

いや、俺もだけどね?


ということでどうぞ!


「らぁぁァァっ!」

 サソリモドキの爪部分に斬りつけてみたが、傷一つとしてつかない

 

「硬いなぁおい」

 自信満々に飛び出したのはいいものの、大したダメージを与えられない自分に少しイラつきながらも冷静さを忘れず慎重に動く

 

 たまに魔法攻撃を撃ってくるが、動作をよく観察していれば簡単に避けられる

 

「重いが捌けねぇ程でもねぇな!」

 爪を使って攻撃してくるが相手は巨体の割には中々のスピードで攻撃してくるが、比較的簡単に爪の攻撃を捌くことができる。ただし一撃が重いので、剣が壊れないように受け流すのに骨が折れるのが唯一の欠点だ

 

 距離をとると、触手だが尻尾だか分からないが、そこから針を飛ばしてくる。それを[+縮地]と[+空力]の会わせ技で避ける

 

「これでも喰らえやぁぁぁ!」

 避けると同時に影舞を使って壁を走り、勢いをつけて胴体部分に踵落としを喰らわせた。

 怯んだ隙に剣で追撃しようとするが直感が離れた方がいいと警告したので、すぐにその場から飛び抜く

 

「遠藤! 回復が終わったぞ!」

 それと同時にユエの"蒼天"が叩き込まれる。回復だけでなく、血も吸っていたようである

 

 

 そういえば...と、俺は一つの提案をする。

 

 この魔物の外殻は鉱石でできている。原作でも、錬成を使えば簡単に外殻を突破できると言っていた

 

 余計な傷は負わないに限る

 

「おい南雲! この魔物の外殻、もしかしたら鉱石かもしれない 鑑定してみてくれないか?」

 

「なに?」

 一瞬、何言ってんだコイツ? 的な顔をしたあとに、ため息をつくと、接近して魔物に触れる

 

「どうだ?」

 

「マジだったわ」

 "縮地"を使い、一瞬で帰って来た南雲はそう答えた

 

「ということは」

 

「そうだなぁ」

 二人は凶悪な笑みを浮かべる。

 

 俺たちはサソリモドキに近づくと、南雲が錬成で外殻を突破し、胴体部分に斬りつける

 キィィィイ──と甲高い悲鳴を上げるサソリモドキだったが、そこで終わらないのがこの二人、次に

 

 尻尾を斬り、足を斬り、口内に南雲特製の爆弾を入れて起爆、動かなくなったサソリモドキをみて、やっとで二人は倒したのだと納得した

 

 

 本当ならこのサソリモドキとの戦いはもっと激戦した筈なのだろうが、浩介の原作知識という最大最強で理不尽な武器のせいで呆気なく散ったのだった

 

 

 

「しっかし、便利だよなぁ直感の技能」

 なんと説明しようか迷っていたところ、話しかけてきた南雲の言葉に助けられた

 

「あ、あぁ...直感がこんな事にも使えるなんて初めて知ったわ」

 

 俺たち二人と新たに仲間になったユエはサイクロプスとサソリモドキの素材と肉を持って拠点へと戻った

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

「シュタル鉱石、魔力を込めた分だけ硬度が増す...か、コイツのおかげで俺たちの武器は更に強力になるぞ」

 

「魔力を込めるほどに折れにくい刀...いい」

 深淵卿が「ねぇねぇ呼んだ? ねぇね」と煽っている気がするが無視を決め込む

 

 南雲とユエが重要な話をしている、しかし俺は聞いていなくても知っているので、南雲が現在製作している俺の武器の名前を考えることにする

 

 夜のように黒い刃、そして桜のごとく散っていく敵

 夜桜(よざくら)とか? 

 

 いやいや、

 

 ここはもっと単純に、黒い刀身を夜に例えて夜刀(やと)? 

 

 黒刀とか関係ないけど、神様に反逆するわけだし...英語で「反逆」を意味するリベリオンとか? 

 

 

 常闇(とこやみ)とか、俺の写し見ってことで(かげ)か? ... いや、俺はコースケ・E・アビスゲートだし、深淵卿(アビスゲート)でいいんじゃね? 

 

「遠藤、ほら」

 思考にふけっていた為か、南雲の話を聞いていなかった俺に刀が放られたが、気づかない。寸前で直感が働いてくれたおかげで、投げ渡されたものを受け止められた

 

「ボーとしてたが、大丈夫か?」

 

「いや、コイツの名前は何にしようか考えてたんだ」

 

「いや、普通に黒刀でいいだろ」

 

「う...そうだな」

 さっきまで考えていた名前の数々は何だったんだろうか、とか思いつつ刀を構えてみる

 

「どうだ?」

 持ってみた感触もそうだが、重さも丁度よく感じる

 

「最高だ! 流石は南雲だな」

 

「それは良かった」

 南雲の武器を絶賛していると、ユエが俺と南雲の二人に話をふってきた

 

「ハジメとコウスケ、どうしてここにいる?」

 当然の質問に、驚いたが、南雲は自分のこれまでの経緯を話していった。

 仲間と共に異世界に召喚されたこと、南雲はありふれた職業である[錬成師]が天職で能力値も並以下、それが原因で無能と言われていたこと、ベヒモスとの戦いで仲間に裏切られて奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、神水のことや今使っている武器が元いた世界での兵器だということ

 

 すると、グスッと鼻を啜るような音が聞こえだす。発生源を見ると、ハラハラと泣き出すユエがいた

 

「....ぐすっ....ハジメ....つらい....私もつらい....」

 

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 ポンポンと頭に手をやり、そう言う南雲

 

 その光景をみた俺は場違いな気がしたので、刀を持って外にいこうとする。が、そこでユエの静止の声がかかる

 

「グスッ...待って...コウスケは?」

 

「別に俺は話すような事は無いしなぁ...」

 話す気がない雰囲気を察した南雲が自分の話した内容に少し付け加えた

 

「俺は確かに仲間に裏切られて逃げ遅れ、奈落へと落ちた。でもな、落ちる寸前、崩れかけの床にしがみついていた俺の手を取って助けようとしてくれたのが遠藤なんだ。

 まぁ、逃げるより先に掴まってた場所も足場も全部崩れて二人とも奈落に落ちちまったけどな」

 

「そういや、あの時の礼を言ってなかったな...結局落ちちまったが、助けに来てくれてありがとな」

 

「ッ! ...助かってないんだから礼をいうなよ...はぁ、話すよ。

 俺は落ちた後、直感を頼りに敵がいない道を通って逃げてただけだ。

そして、敵がいないルートを通りながら直感を頼りに南雲を探した。後は知っての通り二尾狼を錬成を使って仕留めている南雲を見つけ、一緒に魔物の肉を喰って...後は南雲と同じだな」

 

 と、ユエが近づいてきて頭を撫でてきた

 

「...なぜ撫でる?」

 

「コウスケ....命懸けでハジメのこと助けようとした。偉い」

 

 ....限界だった俺は刀を持って外に出る

 

「お、おい! どうしたんだよ?」

 

「ユエの食事を邪魔しないように出ようかと思ってな、後は自主練だ。明日の朝までやる」

 

「朝までって...ほら、お前のメシだ持ってけ!」

 南雲が二つの肉を渡してくれた

 

「サンキュー」

 簡単に返事を返すと拠点から出る

 

 確かこのサイクロプスの肉が、"金剛"で、サソリモドキの肉は"魔力放射"と"魔力圧縮"の技能を獲得できるんだったか

 

 

 これでまた強くなれる。だが足りない、俺はもっと強くならなければいけないんだ

 

 起きたことはもう変えられない、全て俺が悪いんだ。そう、俺の責任だ

 

 強くなって俺は━━━━

 




随分と遅くなってしまいました。すいません!

いやぁ~サソリモドキが呆気なく死んでしまいましたね

すんません、なるべく彼らには傷ついて欲しくなかったんですよ遠藤君は

次の投稿は早くて2時くらいになるかもしれません

それでは次回もお楽しみに!


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最奥のガーディアン

お気に入りが250!?

本当にありがとうございます!

楽しみにしてくれている方がいる限り頑張ります


それではどうぞ!


 ユエが仲間となってどのぐらいの時間が経ったのだろうか...あの後、ユエのおかげか順調に階層を突破していき、次の階層で俺達が落ちてきた場所から百階層目になるところまで来た。

 

 その一歩手前の階層で、俺たちは異様な雰囲気を醸し出している階下へと続く階段を前に準備をしていた。自分の装備を確認しながらチラリと二人をみる

 

 南雲とユエは、時間が経つにつれて仲良くなっていき、今では良いパートナー同士だ。

 

 それは結構なのだが、俺がいる時にイチャイチャしないで頂きたい、拠点で休んでいる時には必ず密着しているし、横になれば添い寝の如く腕に抱きつき、座っている時でも背中から抱きつく。

 吸血させるときは正面から抱き合う形になっているのだが、終わった後も中々離れようとしない。南雲の胸元に顔をグリグリと擦りつけ満足げな表情でくつろぐ

 

 そのおかげで邪魔になるからという理由で拠点を出て鍛練に時間を割けられたので願ったり叶ったりだ。うん、羨ましくなんかないぞ!

 

 ちなみに今の俺のステータスはこんな感じだ

 

 

 ==================================================

=======

 

 

 

 遠藤浩介 17歳 男 レベル81

 天職:暗殺者

 筋力:2058

 体力:2148

 耐性:2124

 敏捷:2569

 魔力:1792

 魔耐:1792

 

 

 技能:暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+伝振][+遁術][+深淵卿][+操影術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ][+顕幻]

 [+滅心]・影舞[+水舞][+木葉舞]・直感・魔力操作[+魔力放出][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠目・気配感知・魔力感知・熱源感知・魔力感知・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

 ===========================================================

 

 原作にもなかった暗殺術の派生をみて、にやけていると、武器の整備を終えた南雲が声をかけに来たので、刀を持ち三人で下層へと降りていった

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 下層に降りると、まず目に入ったのは無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の太さは五メートル程もあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻き付いたような彫刻が彫られている。天井までの高さは三十メートルはありそうだ

 

 その荘厳さを感じさせる光景に見惚れながらも足を踏み入れる。すると柱が奥に向かって光っていき、全長十メートルはある巨大な扉が姿を見せた。これまた美しい彫刻が彫られており、七角形の頂点に描かれた文様が印象に残る

 

「...これはまた凄いな。もしかして...」

 

「...反逆者の住処?」

 二人は扉から発せられる異様な気配にうっすらと額に汗を浮かばせている。

 

「...感じているようだが、一応言っておくと直感が鬱陶しい程に警告してるぞ?」

 原作知識があるからではない、ガチで俺の直感の技能はこの先にいる魔物はマズイのだと知らせてきている

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 不敵な笑みを浮かべて答える南雲

 

「... んっ!」

 ユエも覚悟を決めたのか気合いを入れる

 

 そして、全員揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 

 

 その瞬間、扉と俺達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 

 

 俺と南雲は、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、俺たち二人が奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。

 だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

 

「やべぇなこれはマジで」

 

「だな、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

 目の前の魔方陣のデカさに軽く引いてると、ユエが力強く言った

 

「...大丈夫...私とハジメ、コウスケの三人なら誰にも負けない... !」

 

 その言葉に南雲と俺は「そうだな」と返し、気を引き締める

 

 魔方陣の輝きは更に増し、俺たちは目を潰されないように手を前に置き光を遮る。その光が収まると目の前には

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラがいた

 

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」

 常人ならそれだけで死に至らしめるような凄まじい殺気を放ちながら妙な咆哮をあげる

 

 先制は彼方が取った。赤い模様が刻まれた頭が口を開き、火炎放射を放つ。前方から壁が迫ってくるのではないかという程の密度、しかし三人はそれを右、左、上へと三方向に避ける

 

 初めに反撃したのは南雲で、ドンナーで赤い模様の頭を吹き飛ばすが、白い模様の頭が「クルゥアン!」と叫ぶと元に戻ってしまう。ユエも遅れて緑の模様の頭を炎弾で吹き飛ばすが、また白い模様の頭が元に戻してしまう

 

 知っていた事なので初撃から本命の白い頭を狙って黒刀を振り下ろす...が

 

「なっ?!」

 気配遮断を用いた攻撃を黄色の文様の頭が割って入り、

 その頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝いて俺の斬撃を受けきった

 

 "南雲、ユエ! 黄色頭からやらないと白頭が狙えない"

 

 "あぁ、見てたが攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな "

 

 "...ん、厄介"

 

 "二人が黄色頭に攻撃してくれ、俺がその隙に白頭をやる"

 

 "了解した"

 "わかった"

 

 南雲は最高火力のドンナーと〝焼夷手榴弾〟を投げ、ユエは〝緋槍〟を連発する。それをボロボロになりながらも受けきった黄色の頭だったが、所々傷ついてる

 

 白頭に一瞬で近づいた俺は今度こそ攻撃を加え...そんな上手い話があるわけもなく、ぎりぎり他の頭が割り込んできて盾になり、赤頭が炎弾を放ってきた

 

「ぐおっ!? ...くっ」

 "空力"と"影舞"を使ってなんとか燃えカスになるのは回避できたが、左腕をかすってしまって大火傷を負った。直ぐに神水を飲んで回復する

 

「クルゥアン!」

 

 黄色頭と割って入ってきた緑頭が傷ひとつなく修復する。南雲が〝焼夷手榴弾〟を白頭の上で破裂させると悲鳴をあげる

 

 追い討ちをかけようとした所で、目の端でユエが黒頭と相対しているのが見えた

 

「(まずいっ)ユエっそいつから離れろ!」

 黒頭がユエにデバフをかける前に頭を切り飛ばそうとしたが遅かったようだ

「いやぁああああ!!!」と絶叫を上げるユエ。黒頭は吹っ飛ばしたが、青ざめた表情でくたりと倒れこむユエに青頭が迫る。

 

 大顎を開けていた青頭だったが、次の瞬間には斬りすてられた頭が宙を舞う。即座にその場からユエを抱えて離脱する

 

 "ユエは何があったんだ? "

 二体の頭を相手取りながら南雲は念話をとばしてきた

 

 "黒頭の能力がデバフ付与とかで、嫌な記憶を思い出して恐怖状態にでもなったんだろ"

 

 "何もやってこないと思ったらそういうことか"

 悠長にしている暇はないらしい、赤頭と緑頭が炎弾の風刃を無数に放ってくる

 

 それを"縮地"と"空力"を使って必死に攻撃をかわす。

 

「大丈夫か遠藤?」

 赤頭と緑頭をドンナーで吹っ飛ばし、〝焼夷手榴弾〟を使って足止めをしてくれた南雲が近づいてくる

 

「大丈夫だ。それよりユエを回復してやれ

 俺は時間を稼ぐ」

 

 

「一人で大丈夫か?」

 その声を聞き、俺はいつの間にかかけていた南雲特注品であるサングラス擬きをクイッとして不敵に笑う

 

「ふっ、問題ない...早くしないと俺が全て終わらせてしまうかもしれないぞ?」

 南雲は何も言わずユエを抱えて隠れた

 

「さて、悪しき竜よ覚悟するがいい。疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート。推して参る!!」

 牙突の構えで遠藤...いや、深淵卿は高らかに名乗りをあげた

 

 

 

 




さて、次の話は深淵卿が戦います!


昨日は忙しかったですが、明日は暇なので続きを22時か前には出したいと思います。
アンケートですが、雫ちゃんの人気がヤヴァイ


それではまた次話で!




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決着

皆さん暑いですね!熱中症にならぬよう気をつけて下さいね!

深淵卿の言いそうなセリフとか考えるのを苦労したけど、完成したので、どうぞ!

あまり期待せんでね(汗)


 まず攻撃を仕掛けてきたのは先に回復を終えていた青頭だった。氷弾を散弾のように飛ばしてくるが、それを避けるか切り裂いて接近する

 

 

「深淵流暗殺剣術・疾風転斬」

技名を言いながら何処ぞの兵長のように無駄に回転して頭を斬り落とす

 

 柱をブレーキ変わりに回転していた身体の勢いを殺すと、"空力"を使って、次の標的である黄色頭に向かって突っ込む

 

 黄色頭は俺の攻撃を受け止める気のようで、体が発光する。俺や南雲が持っている"金剛"のような技能だろう。だか、残念ながら俺は防御を突破することが狙いではない

 

「深淵流暗殺剣術・一の太刀...突雲凪」

 刀を突き出し、敵へと触れた瞬間に上へと斬り上げる。黄色頭はのけ反るように上へと弾かれる

 

 がら空きになった白頭だが、直感に警告されたので、"縮地""空力"を使い、その場から離脱する

 

 他の頭を相手していたせいで、回復した赤頭と緑頭は炎弾と風刃を放ってきていたのであのままだと危なかった

 

「遠距離攻撃は俺も得意だぞ?我が愛刀よ深淵を宿せ━━"闇纒し斬撃(深淵への誘い)"」

 新しい派生技能である"操影術"を使って刀身に影を纏わせると、地面に黒刀を思いきり突き刺す。

 

 すると、俺の影がヒュドラ目掛けて真っ直ぐに広がっていき、ヒュドラの影と重なる。その瞬間、下方向(ヒュドラの影)から人一人分程度の黒い斬撃が現れた。

 

 俺の攻撃に黄頭はのけ反っていた頭を急いで戻して防いだが、範囲外だった頭二つが深い傷を負った。

 

「「グルゥウウウウウ!!」」

 

 悲鳴をあげてのたうち回る二つの頭、しかし「クルゥアン!」と段々腹立たしくなってきた声がすると回復してしまう

 

 やはり一対多では分が悪いようだ。相手よりも実力が圧倒的に上の場合なら勝ちようがある。だが、相手はラスボス、格が違う

 

 しかも防御要因、回復要因、デバフ要因まで揃っているのだ。バランスが良すぎる

 

 どうしようか考えていた所、黒頭と目があった。すると、俺の胸中に不安が湧き上がり、奈落に来たばかりの頃の孤独感、恐怖、飢餓感、無力感や後悔などが波となって襲いかかる

 

「...俺の深淵に比べれば、この程度の闇どうということではない!」

 

 一瞬だけ動きを止めてしまったが直ぐに復帰して目の前に迫る攻撃を"縮地"で避ける

 

「すまん助かった」

 俺に攻撃していた頭を潰しつつ、南雲が隣に並び立つ

 

「構わないさ。さて、あの6つ首どう攻略する?」

 

「ユエと一緒に遠藤は俺の援護をしてくれ、シュラーゲンで吹き飛ばす」

 

「了承した」

 

「"緋槍""砲皇""凍雨"」

 ユエは南雲の援護をすべく、手数重視の魔法を弾幕のように次々と撃ち込む

 

「深淵流操影術"奈落の魔手(深淵は抵抗を許さず)"」

 何やら手を素早く動かし、両手で印を組み出す。まるで、NINJAのように! NINJAのように! 

 

 地面から無数の手の形をした影が胴体や首に巻き付いて行動を制限させる

 

「「「「「「グルゥアアアア」」」」」」

 ユエの魔法攻撃と俺の影の拘束、そして

 

「死ねっ! 駄竜がぁっ」

 南雲のシュラーゲンが紅いスパークを起こし━━

 

 ドカンッ!! 

 

 大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に弾丸が発射される。

 発射の光景は極太のレーザー兵器のようだ。拘束の手を緩めずに弾丸の行方を見守ると、射出された弾丸は真っ直ぐ黄頭に直撃した。

 

 黄頭は俺と戦った時に使ったように防御をしていたが...まるで何もなかったように弾丸は背後の白頭に到達、そのままやはり何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

 結果は当然、二つの頭が消滅し断面はドロッと融解したようになっている。背後には深い穴が空いた壁がある

 

 残り4つの頭は俺の拘束を解こうとしていた暴れようは何処へ行ったのか、呆然と南雲の方をみている。その南雲はというと地面に着地し、煙を上げているシュラーゲンから排莢した。

 チンッと薬莢が地面に落ちる音で我に返ったのか、先程とは比べ物にならない強さで暴れたせいで拘束から逃れてしまった

 

「"天灼"」

 ユエがそう言うと、四つの頭の周囲に六つ放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な電球を作り出した。

 

 ズガガガガガガッ!! 

 

 中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。逃げようとするが、雷球で囲まれた範囲を壁があるかのように抜け出せない

 

 そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となる

 

 いつものごとく魔力枯渇で荒い息を吐きながら座り込むユエ

 

「二人ともまだ終わってない!」

 二人に向かって駆け出しながら、ヒュドラの残骸に背を向けてユエの方に歩き出していた南雲は俺の叫びに振り返る

 

 背後には七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、南雲を睨み付けていた。思わず硬直する南雲、銀色に輝く頭はユエを鋭い眼光で射抜くと予備動作もなしに極光を放つ

 

 俺は先程の影の拘束を使用した時に消耗しすぎてしまい、間に合わない。南雲は覚悟を決めてシュラーゲンを前に掲げて"金剛"を発動する。極光が二人を飲み込む...その寸前に、もしものためにと配置しておいた分身体を極光迫る南雲の前に割り込ませる

 

「操影術・防御形態!」

 原作でも使っていた偽であるが、"空遁・万地在空(我、求める所に存在す)"を使って場所を入れ換えると、影を使って全力で極光を防ぐ。が、

 

 

「なっ?!グオオオオオォォォォッ!」

 その防御を突破して俺は極光を受けてしまうが当たる寸前、咄嗟に刀を目を庇うようにして差し出し"金剛"を使って全身を襲う痛みから咆哮を上げてるが耐える

 

 南雲達が銀の頭に攻撃を加えてくれたおかげで早めに極光が収まる

 

「ぅあ...」

 予想以上の攻撃を受けてしまい、呻き声を上げながら前のめりに倒れこんだ

 

「遠藤(コウスケっ)!」

 俺を呼ぶ声は銀頭の咆哮と共に放たれたガトリングのような凄まじい攻撃の音でかき消された

 

 俺に攻撃が迫っているのか直感が逃げろと警告するが動けない。攻撃が当たる...その寸前に誰かが抱えて助けてくれた。「大丈夫か!?」と近くで叫ぶ声からして南雲が助けてくれたようだ

 

「ユエ、遠藤を回復させておいてくれ」

 俺を下ろすと、それだけ言い残して行ってしまった

 

「コウスケ大丈夫?」

 心配の声に応えようとするが「うぁ」と呻き声をあげることしかできない。そんな俺にユエは神水を口に突っ込んでくれた

 

 極光には肉体を解かす一種の毒のような効果もあるが、神水の回復力は溶解速度を上回っており、魔物を喰い強靭な肉体となったおかげか、時間をかければ治りそうだ

 

 俺は直に治るので、技能の[+顕幻]を発動して南雲に加勢するように伝える。

 

 ユエの遠ざかっていく音と共に俺の意識も遠ざかっていった

 

 

 

 




お気に入りがもう少しで300にぃぃ?!ありがとうございます!

アンケートで募集した話は暇なとき書いて出します!次の話は11時頃に出せれば出します!

アニメとか漫画みて書いてみたけど戦闘シーンは難しいです

文才ないなりに頑張って書くので応援お願いします


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オスカーの住処

今回はステータス紹介回みたいなものですね

お気に入りが300越えしていて倒れそうになったZ

それではどうぞ


 "ヒュドラ"との激戦を終え、【オルクス大迷宮】の最深部に至ってから二ヶ月が経った。

 

 そして現在、俺は━━

 

「ハジメ...気持ちいい?」

 

「ん~気持ちいいぞ~」

 

「ふふ...じゃあこっちは?」

 

「あ~それもいいな~」

 

 親友とユエのイチャイチャ現場を見せつけられていた

 

「はぁ...南雲とユエ、俺がいるんだから自重しろよ」

 自身の胸に南雲の手によって魔改造された黒刀を抱き、暗に「俺には愛刀(相棒)がいる」と主張しつつ抗議の声をあげる

 

「うおっ浩介いたのか」

 

「...びっくり。だけどコウスケ、これでも自重してる方」

 

 いつも通りの反応に肩を落としながらため息を吐く

 

 

 この迷宮の創造者、オスカー・オルクスの住処で俺たちは戦いの傷を癒し、迷宮のクリア報酬として〈生成魔法〉。現在では失われた神代魔法のひとつを手に入れた

 

 俺たちは工房にいいものがないか探していると、ユエがとあるものを見つけた。それは他の六人の迷宮に関することだ。他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入る。

その中には帰るために必要な魔法があるかもしれない。とのことで、当分の目的は六つの迷宮をクリアすることに決まった

 

 

 

 

 俺は椅子に座りながら左目の義眼に手を当てる。

 

 本当なら南雲の右目が極光によって眼球が蒸発してしまって欠損するはずだった。

 しかし、これ以上南雲に傷を負って欲しくないため、俺の技で場所を入れ換え代わりに攻撃を受けた。

 

 だが、俺はあの時に目を焼かれないよう目の前に刀を差し出して盾代わりに防御した筈だった。しかし左目は間に合わず、右目も危なかったがすんでの所で間に合い神水で治癒

 

 おかげで今の俺は黒布を使った眼帯を着けなければ、左目の義眼は常にぼんやりと青白い光を放つという深淵卿が喜ぶような見た目になってしまった

 

 俺と南雲は互いの姿をみて、「「厨二キャラにいそう」」と同じ発言をして一緒に四つん這いになって南雲はユエに慰められ、俺は黒刀で素振りをして落ち着いた

 

 

 "ヒュドラ"の肉を喰った現在のステータスはこうだ。

 

 =============================================================

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:??? 

 天職:暗殺者

 筋力:11028

 体力:13248

 耐性:10824

 敏捷:13569

 魔力:14952

 魔耐:14952

 

 技能:暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+伝振][+遁術][+深淵卿][+操影術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][夢幻Ⅲ][+顕幻][+滅心]・影舞[+水舞][+木葉舞]・直感・魔力操作[+魔力放出][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠目・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐怖耐性・全属性耐性・先読・金剛・威圧・念話・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

 =============================================================

 

 "ヒュドラ"を倒す前からヤバいステータスだったのが、倒して肉を喰らったらマジもんの化け物入りを果たしていて驚いた

 

 しかも天歩の最終派生である"瞬光"があったのにも驚いた。"ヒュドラ" と戦っている時に敵の攻撃がスローに見えていたりして妙な気はしていたが、最終派生だったからなのだと納得した

 

 原作ではユエを助けるために"瞬光"に至っていた南雲だが、ステータスプレートを見せてもらうと、しっかりと"瞬光"があった。どうやら俺を助ける時に最終派生したようだ。ごめんよ親友、俺で

 

 

 そんなことを考えていると、南雲とユエがきて周りをキョロキョロする。確認し終えると

 

 南雲が"魔晶石シリーズ"と名付けたアクセサリー一式をユエに送ったのだ、だが、その第一声はというと

 

「...プロポーズ?」

「なんでやねん」

 とぶっ飛んだ発言に関西弁で突っ込む南雲。そして、「俺には刀あるし」と呟く俺

 

「それで魔力枯渇を防げるだろ? 今度はきっとユエを守ってくれそうだろうと思ってな」

 

「...やっぱりプロポーズ」

 

「いや、違ぇから。ただの新装備だから」

 

「...ハジメ、照れ屋」

 

「...最近、お前人の話聞かないよな?」

 

「...ベッドの上でも照れ屋」

 

「止めてくれます!? そういうのマジで!」

 

「ハジメ...」

 

「はぁ、何だよ」

 

「ありがとう...大好き」

 

「...おう」

 

 最後まで見ていた俺も悪いかもしれないが、ここで俺はぶちギレた

 

「てめぇらイチャつくのはいいが、俺がいない時にしてくれって言っただろうが!? なんでわざわざ人がいるところに来てやんの?!」

 

 鬱憤が溜まっていた俺全力の言葉は

 

「いや...全く気付かなかった。すまん」

 

「全く気配しなかった。それに確認したけど...いなかったような?」

 

 え、俺には刀あるしとも言ったのに...

 ━━━

 

「俺は部屋に籠るからそっとしておいてくれ」

 その日、男のすすり泣く声を二人が聞いたのは言うまでもないだろう

 

 




因に遠藤君の装備は苦無、黒い短刀、黒刀、ギミックの付与されたナイフですかね

次回、シアが出てきます

ヒロインにしようかなと今は考えております。というか雫のことをアンケートに入れなければよかった。みんなそっちに投票しちゃうし

次の投稿は夜の6時頃になると思います


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第二章
残念ウサギと苦労人浩介


遅れてしまって申し訳ないです!

お気に入りが400件も!?とても嬉しいです!


それではどうぞ!


 あれから十日して、遂に俺たちは地上へと出る。南雲は魔方陣を起動させている

 

「久しぶりの地上かぁ……うん、なんだか緊張してきたぞ」

 

「だな……そうだ、話しておくことがある。

 遠藤……は大丈夫か」

 話をふられるのかと期待したが、途中で止められて非難する俺だったが、南雲に手で制された。大事な話をするのだろう

 

「ユエ、俺の武器や俺たちの力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

 

「ん……」

 

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

 

「ん……」

 

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

 

「ん……」

 

「世界を敵にまわすかもしれないヤバい旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

 

「今更……」

 南雲の言葉に笑みで返すユエ。そんな彼女の髪を優しく撫でると気持ち良さそうに目を細めるユエ

 

 出そうになるため息を押し留めると、「あーもう二人だけの空間だねー邪魔物は空気になりますぅ~」と言いたそうな顔をして離れようとして━━手を捕まれた

 

「ここからはお前もいないと駄目だ」

 

「邪魔者は退散しようとしただけですぅ~」

 

「……コウスケいじけてる。可愛い」

 

「まぁさっきまでのは別に言わなくても俺たち(親友)なら分かっていて当然だと思ってんだ。悪かった」

 

「……なんと、ライバルは身近にいたっ……!」

 どういうわけだそりゃ? と思ったが、口に出さずに次の言葉を待つ

 

「俺が、遠藤が、ユエが、それぞれが守り合う。それで俺たちは最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

「んっ!」

 

「おうっ!」

 

 その言葉にユエはいつも通り笑顔で返し、俺は不敵に笑って答えた

 

 

 魔方陣が発動し、一面が光に満たされた視界、何も見えなくても確かに変わったことは実感した。奈落の底の淀んだ空気とは全くの別物。懐かしさを感じる空気に自然と笑みが浮かぶ。

 

 しばらくすると光が収まり目を開けた俺の視界に写ったものは……

 

 洞窟だった。

 

「「なんでやねん」」

 普通ここは地上だろ! と、思わずツッコミを入れてしまったが、どうやら南雲も同じようだ

 

「とにかく進もうぜ、よくよく考えたら反逆者の住処が隠されていない筈ないもんな」

 

 その言葉に頷くユエと南雲、途中にトラップの反応があったが、南雲の指輪のおかげで一切何事もなく洞窟内を進んでいると遂に光を見つける。これは確かに外の光だ。俺たち二人は数ヶ月、ユエに至っては三百年間という長い年月。求めていた光だ

 

「ふっ、お先に!」

 俺たちは互いに顔を見合わせてニッと笑みを浮かべて━━俺は抜け駆けして、いち早く駆け出す

 

 近づくにつれて段々大きくなる光。新鮮な風も吹き込んでいる

 

 俺は光に飛び込み、待望の地上へと出た。最初は眩しくて目を開けていられないが、じき慣れてきて目の前の光景を見る。二人も追いついてきたようだ

 

「戻って来たんだな」

 

「……んっ」

 

「おぉ」

 

 そして顔を見合わせた俺たちは喜びからか叫ぶ

 

「よっしゃぁぁぁ──!! 戻ってきたぞぉおおおっ!!」

 

「んーー!!」

 

「やったぞぉおおっー!」

 俺は感動したのかツーと少し涙を流しながら雄叫びに近い大声を上げる。存分に叫ぶと、魔物が集まってきているのにいち早く気付き、二人の方を見る

 

 南雲はユエを抱きしめると、くるくると廻る。二人は笑顔に満ち満ちた笑い声をあげているが地面の出っ張りに躓いて転倒してしまう。気にしてないのか大の字になるとクスクス、ケラケラ笑い合う

 

「あーはいはい、魔王様とその奥方様の為に一仕事しますよぉ~」

 俺は呆れたように言うと、喜びあっている二人の周りに集まってきた魔物たちを排除するために迅速に動く

 

「別に? 目の前に立ってる俺を無視して二人を襲おうとしたからって怒るわけないじゃん? ましてや二人が俺の存在を忘れてイチャイチャしてるからってのも違うからな? はははっ」

 

 ブツブツと怨念のように呟きながら"瞬光"も使い、機械のように手を動かして魔物を殲滅させた。

 あーいい仕事した。

 

「うおっ、どうしたんだ? 魔物が殺られてやがる」

 

「……本当、一体誰が?」

 俺の中の何かが切れた気がした

 

「あっちに魔物がいる気がするぞぉぉぉ! 憂さ晴らしじゃぁぁ!」

 "直感"の技能に頼って、全力で走る(・・・・)。後ろで何か聞こえた気がしたが知らない。

 

 全力ダッシュをしてから暫くして、頭が二つ生えているティラノサウルス擬きの魔物が何かを追いかけていた

 

「獲物発見っ! 即殺二コマだごらぁぁ! 深淵流暗殺剣術・疾風転斬っ!」

 ヒュドラ戦で使用した技名を叫ぶと一瞬にして頭を斬り飛ばした。格好いい技名だが、要するにただの回転斬りである。重要な事なのでもう一度言おう……ただの回転斬りである

 

 無駄に格好よく着地を決めると刀を鞘に納めて去ろうとする……しかし自らが倒した魔物の下敷きにならんとしている少女が見えた。それを助けるために行動する

 

「深淵流移動術・"疾影降臨(我求めるは速さなり)"!」

 はい、ただの"瞬光"である。"瞬光"を使って少女のもとへと一瞬で移動するとお姫様抱っこをして離れる

 

「大丈夫か?」

 少し深淵モードに入っていたが、あの二人以外の者に"深淵卿(恥ずかしい姿)"を見せるわけにはいかないので無理やり素に戻って声をかける……て、あれ? この子は━━

 

「は、はいぃ! 助けて頂きありがとうございますぅぅ!!」

 シアなのか? いや、別の兎人族の人って事も

 

「はっ!? そうだった! 私の話を聞いてくだいぃぃ!」

 頬を上気させているシア(仮)だったが、いきなりガバッと掴みかかってきた。それを肩に手をやり引き離そうとする

 

 ガオォォォオォォン! グルッ! キキィィィッ! 

 

 南雲たちが追い付いたらしく、異世界に似合わない音を響かせて魔力駆動二輪が俺たちの手前に止まる

 

「遠藤すまなか」

 南雲が途中で言葉をつまらせる。それに心配したのか南雲の肩に手をかけて此方を覗きこむユエだったが、そのユエまで硬直して二人はヒソヒソ話し出す

 

「ユエっ!」

 

「……ハジメっ!」

 すると話し合っていた二人はいきなり抱きしめ合い、此方を向くとグッとサムズアップしてきた

 

 どいうこと? 

 

「彼女できたんだな! おめでとう!」

 

「……んっ! これで好きなだけイチャ……寂しくないね」

 おっとユエさんや、好きなだけイチャつけるとか言おうしただろこら

 

「いやっ、違うから! 俺はこの子を助けただけで……だよね?」

 内心で「いや、この子アンタの将来の嫁さんだよ!?」とかツッコミながら、未だに放心中の彼女に真実を話して貰おうとデコピンしてやると「ひゃうっ!?」と可愛らしい声をあげて戻ってきたらしい

 

「はやくしてくれ」

 

「なっ、なんですか?! いきなりキスっ!?」

 俺が問い詰めるように接近すると、何を勘違いしてるのか目を瞑り、口をタコのようにしてチューと近づけてきた

 

「アホ」

 今度はデコピンではなく、軽いビンタをする

 

「な、なにするんですか!?」

 

「人の話を聞かないからだろうが!」

 

「話……そうです! 

 先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいます! 取り敢えず、私の家族も助けてください! ものすっごくお願いしますっ」

 

 いやなんで俺の方見てんの? だから南雲に言えって

 

「遠藤、助け行ってフラグ回収してこい!」グッ

 

「……んっ! コウスケ頑張れ」グッ

 

 

「いやだからさ……なんで俺ぇぇぇ!?」




続きは6日の昼間く頃ですかね

それではお楽しみに!


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シア・ハウリア

よし、なんとか一日一話投稿できてるな

お気に入りが500越えてるぅぅ!?ヤヴァイ

ありがとうございます!

そして感想とても嬉しいです!


それではどうぞ


 ノリでふざけていた二人だったが、「そろそろ行こうか」と、魔力駆動二輪"シュタイフ"に魔力を込めはじめる南雲

 

「えーと、俺の移動手段は?」

 先程までの態度から一変して何事もなかったように去ろうとする二人に流石だなぁと、一周回って感心しながら疑問を口にする。尚シアは突然のことに固まっている

 

「俺がシュタイフ作ってる時、お前も影扱う技能でバイク出してなかったか?」

 

 そうなのである。確かに俺は南雲がシュタイフを作っているときに、自分の"操影術"で作り出せるんじゃね? と考え、イメージしてみるとあっさり出来上がったのだ

 

 形だけだと思い試しに乗ってみると普通に走れた。どうやらハンドルから魔力を流してタイヤを動かすらしい。しかし一つ重大な欠点がある

 

「いや、違うんだ……魔力を予想以上に消費する上に、この形態を維持するの精神的に疲れるんだ」

 俺の言い訳を聞いた南雲は、「いや別に魔力を消費するって点では同じだろ。男二人だときついし」と正論をぶちかましてきた。しょうがないと覚悟を決めることにする

 

「出でよ黒バイク……さて、行くか」

 

 自らの影がぐにゃぐにゃ動き、次第に黒バイクへと形を変えていった。出発しようとバイクに跨がろうとするが、

 

 

「ちょっ、ええっ!? 無視ですかぁぁ!! に、にがじませんよぉここで引き下がったら未来が変わっちゃいますぅ……」

 

 固まっていて、俺たちの会話に入ってこれなかったシアは半泣きになりながら慌てて俺の腰に抱きついてくる。

 

「ちょっ、離れろって!」

 重要な人物だと分かっているので、怪我をさせないように加減をして引き離そうとするが、全然ダメだ

 

「痛っ!」

 強く腕を掴みすぎてしまったのか、声をあげるシア

 

「すまん、大丈夫━━」

 慌てて謝罪をして怪我を見ようとしたところで、シアがニヤリと笑っているのに気付いた。この女、騙しやがったな

 

「こんな可愛くてか弱い女の子に乱暴したんですから私の話を聞いてもら……え?」

 意味わからんことを言う前に頭をガシッと鷲掴みにして南雲目掛けてぶん投げる

 

「ちょっ……はわわわっ!? そこの人、受け止めてくださいぃぃぃ!」

 

 その叫びに気付いたのか南雲はシュタイフを前進させて避ける。当然受け止める者などいないので、地面に顔面をぶつけ、その痛みからかあ゛あ゛あ゛あ゛~と声を上げて転がり回るシア

 

「……なんて酷いことを」

 

「お前が言うな」

 転がり回っていたシアだったが、ぬぐぅぅ! と気合いで立ち上がると南雲に抗議の声を上げる

 

「受け止めてくれても良かったじゃないですかぁ! 酷いですぅ!」

 そんなシアの頭に手を乗せた南雲は……"纏雷"を発動

 

「アババババババ!?」

 プスプスと少し焦げっぽくなりながらもシアは諦めずに、ユラユラと起き上がってくる。まるでゾンビのようだ

 

「うぅ~こんな場面見えてなかったのに……というかさっきからなんですか!! 私のような美少女に男二人でよくこんなことができますね!!」

 

 俺と南雲がシアの美少女という発言に「自分で言うか?」と心の中でツッコミをいれる

 

「ハジメ、コウスケ少し話を聞こう。未来がどうとか……ちょっと気になる……」

 ユエはシュタイフから降りながら話を聞くことを提案する。俺たちもしょうがなく乗り物から降りる

 

 

 その言葉にニパァーと笑顔になるり、全員一ヶ所に集まるとシアは話始めた

 

「私たちハウリア族は亜人国『フェアベルゲン』にある樹海の奥の集落で暮らしていました。でも私のせいで一族は国から追われることになってしまったんです」

 

「亜人族は本来魔力を持っていないのですが私は魔力を持ち直接操作できます。さらに固有魔法"未来視"……仮定した先の未来を視る力を持っています」

 

「へぇ……遠藤の持ってる技能、"直感"の上位互換っぽいな」

 

 その言葉に反応して此方(俺の方)を見るが、目で続きを話すように促す

 

「これは魔物と同様の力を持つということ、捕まれば間違いなく処刑されるでしょう。一族は樹海を後にして北の山脈へと向かいました。ですが」

 

 そこでシアは手をギュッと握る。その仕草はどこか後悔しているようにもみえる

 

 

「その途中で、帝国兵に見つかってしまったんです。ハウリア族は争いを苦手とする一族、気がつけば半数以上が捕らえられてしまいました。全滅を避けるために谷へと逃げ込んだのですが、モンスターが襲ってきて……」

 

「お願いです━━私たちを、私の一族を助けてください」

 

 その説明を受けた南雲は躊躇なく「断る」と言ってのける

 

 流石は南雲!未来のハーレム魔王様! そこに痺れる憧れるぅ

 

「ちょ……ちょっと待ってください! 今の流れはどう考えても、安心してくれ俺たちが何とかする━━って流れじゃないですか!! 実際に助けてくれた所を"未来視"で見ましたのに! 

 

 ううっー! 貴方は先ほど助けてくれましたし、助けてくれますよね!?」

 南雲に詰め寄ったかと思うと、話を取り合ってくれない事を察したのか標的を俺に変え、詰め寄ってくる

 

「はあ……お前等は助けて貰えるから良いかもしれんがな、俺らには何のメリットがない。というかデメリットだらけだろ」

 

「うっ……! それは……!?」

 

「帝国と樹海の国、二つから追われている。助けるってことは二つの国を敵にまわすかもしれないってことだ。

 そもそも"未来視"があれば防げた事だろ」

 

 最後の言葉はなんだか自虐したような気がする。

 

 

「……あなたの言うとおりです。未来は一生懸命頑張れば変えることができると少なくとも私はそう信じてます。

 でも頑張りが足りなくて変えられなかった未来もありました。私は今度こそ━━貴方たちとの未来も諦めたくはないんです……!」

 

「……連れてっても良いんじゃね? 樹海行くんだし、案内人ってことで」

俺は元々助けに行く気があったので連れていく事を提案する。ちゃんとメリットがあることも説明して

 

「本当ですか!? ありがとうございま ぶっ!?」

 その言葉に笑顔で抱きつこうとしてきたが、デコピンで撃退、また地面を転がり回る

 

「……んっ、私も賛成。コウスケの言うとおり……案内させるなら元住人だからちょうどいい」

 

「まあ、そうだが」

 俺たちの言い分には納得できたようだが、どうやらもしも国二つを相手取ることになったら面倒だなと考えているようだ

 

「それに大丈夫、私たちは最強!」

 その言葉に南雲はため息をつき、俺は頬を緩ませる

 

「よし、というわけだ。シュタイフは俺とユエ専用だからな、アイツをお前のバイクに乗せてってくれ」

 先導よろしくと言い残してシュタイフに乗る南雲

 

「任せろ。おいウサギ! いつまで寝そべってるつもりだ? 早く乗れ」

 

「う~は、はい━━よろしくお願いします! それと私はシア・ハウリアです!! シアって呼んでください!」

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 俺の"直感"を頼りにバイクを走らせること数十分、その間は暇なのでシアが質問してきた事を返していた

 

「それじゃあ……コウスケさんとハジメさん、ユエさんも魔力を直接操れたり固有魔法が使えると」

 

「あぁ、そういうことだ。この乗り物は暗殺術の派生技能の"操影術"ってやつで、南雲が乗ってる乗り物はアイツが作ったアーティファクトだがな」

 

「ほへぇ~

 ……それってつまり私とお三方って━━」

 

「俺と南雲は後天的ではあるが魔物と同じ力を持つって点では同類ってことだな」

 

「…………」

 先程から色々と質問してきていたシアは急に黙りだしてしまった

 

「そうだったんですね……」

 なんだ? と後ろの様子が気になる所だが、運転中なので見れない。ぐすぐす聞こえるので泣いているのだろう。

 

「俺の服で涙は拭うなよ……」

 

「すいません……一人じゃなかったんだって思ったら嬉しくって……」

 顔を背中に押しつけられて、少し涙がついてしまったが、しょうがないと気にしないことにした

 

「そうか……」

 俺は一言だけそう答えたが、返答が気に入らなかったらしく抗議の声をあげる

 

「ここは『大変だったな。これからは俺が傍にいるから一人じゃないよ』とかいって頭撫でてくれたりして慰めてくれる所じゃないんですか? 私、さらに惚れちゃいますよ?」

 

「残念だが、運転中はよそ見ができないし、ハンドルから手を離せないんでな……ん? あれは━━」

 

「魔物の群れ……コウスケさん! もしかしたら……!」

 

「わかってる……飛ばすから捕まっとけ」

 俺は南雲に念話を飛ばすと更に加速させる。物凄い勢いなのでシアが落ちないように腰にしっかりと捕まっている

 

 そうして最高速で飛ばすこと数分して、今まさに襲われようとしている兎人族たちがいた

 

 

 




次回、みなさん大好きハウリア登場!



次の投稿は━━━明日の朝までには書きます!


それでは!


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再会のハウリア

お気に入り600越えたと思ったら700になってるぅ!?

み、みなさんありがとうございます!

なかなか進まなかったですが、どうぞ!





 ハウリア達は岩影に隠れてなんとか凌いでいるが、長く続く筈もなく二人のハウリアが隠れている岩が破壊され、魔物が襲いかかる。が、その前に南雲がドンナーで魔物の頭を吹き飛ばした

 

 ハウリア一同、何が起こったか分からないような顔をしていたが、後部座席に立ち上がり「みんな~! 助けを呼んで来ましたよ~!」というシアの声にハウリア達は一斉に彼女の名前を呼んだ

「「「「「「「シア!?!?!?」」」」」」」

 

 仲間が無事なのが嬉しいようで、ブンブン手を振り小刻みに跳び跳ねる。

 それは良いのだが、落ちないように密着しているのを忘れないでほしい。この子凄い━━てか初めて触っゴホッゴホッ

 

「おいシア、口閉じてろよ舌噛むから」

 煩悩退散! と自分に渇を入れる。そして後ろにいるシアを脇に抱えながら立ち上がってすぐさま跳躍、壁を"影舞"を使い、走って接近すると魔物を両断する。というかこの魔物、ワイバーンっぽいな

 

「な、何が起こっ━━んん──!!」

 どうやら舌を噛んだらしい。言わんこっちゃないと呆れつつ、魔物を次々と切り裂いていく。南雲のドンナー&シュラークの射撃も相まって大量にいた魔物達は僅か数分で壊滅させられてしまった

 

 

 

「大丈夫か?」

 戦闘が終わったのでシアを降ろすと、ヨタヨタしながら「ぎもぢわるいでずぅぅ」と岩の陰へ言ってしまった。なんかすまねぇ

 

「すいません、此処にシアはおりませんでしたか?」

 シアが向かった方を見ていると、濃紺の短髪に顎に髭を生やした男のハウリアに話しかけられた

 

「あんたは?」

 

「はい、私はシアの父で━━」

 コイツがカムか、自己紹介をしようとするカムを「ちょっと待ってくれ」と止めて南雲とユエを呼ぶ

 

 

「俺はコウスケで、コイツが南雲ハジメ、隣の美少女がユエだ」

 

「これはご丁寧に……私はシアの父にしてハウリアの族長をしております。カムといいます。この度は我が一族の窮地を救って頂き、なんとお礼を言えばいいか━━」

 

「お礼は受け取りますが俺━━「父様!」……」

 樹海の案内のことを話そうとしたが、タイミング悪く復活したシアの言葉でかき消された。

 てかタイミングが悪かったんだよな? 狙ってねぇよな? 

 ……まぁいいや話す手間が省けたし

 

 

 

 少しして、ハウリア達は話し合いが終わったようで、互いの無事を喜んだ後、俺たちの方へ向き直った。

 

「コウスケ殿、ハジメ殿、ユエ殿……この度は私共一族の窮地を救ってくださっただけでなく娘のシアを助けていただき、本当になんとお礼を言えばいいか。更に脱出まで助力くださるとか……父として族長として深く感謝致します」

 

 そう言って、カムと後ろにいるハウリア族一同が深々と頭を下げた。

 

「礼は受け取っておく。だが樹海の案内と引き換えだってことを忘れるなよ?」

 

「━━勿論ですとも」

 

「……それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 あっさりと答えるカムに南雲は疑問げにそう言った

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 南雲の言葉に微笑みながらそう答えるカムに、シアのために一族で故郷でるだけはあるなぁと思いながらもそろそろ先に進むように促す

 

「こんなところでグズグズしてれば直に魔物が集まってくる。はやく峡谷(ここ)から出ようぜ」

 とか言って出たはいいが……

 

 

 

「おいおいマジかよ。兎人族の連中生き残ってやがったのか」

 俺たちの前方には鎧を着た兵士のような奴等がいた。コイツ等がシアの言っていた帝国の人間だろう。俺の横にいるシアを見るとニタァと気持ち悪い笑みを浮かべている

 

「あぁもしかして奴隷商人か? 峡谷からご苦労なこった。まぁいいやそいつら全員帝国で引き取るから置いてけ」

 南雲が奴隷商人だと思ったのか、気安く話しかけてくる。が、

 

「断る」

 その一言で見るからにに機嫌を悪くする

 

「……よく、聞こえなかったな━━今なんて言った?」

 

「断ると言ったんだ。さっさと国に帰ることをオススメする」

 今度は脅しのつもりなのか剣を抜き、目の前で(それ)をちらつかせて質問するが南雲の答えは変わらない。後ろの連中は座って談笑してたりしたが、会話が聞こえたのだろう立ち上がって武器に手をかける。俺は前へと歩み寄る

 

「……なるほど世間知らずのクソガキか……ちょいと世の中の厳しさってやつを教えてやろう」

 しゃべっている奴の隣を通って後ろの連中に近づくが誰も気がつかない。刀に手をかける

 

「まずはてめぇの四肢を斬り落とし、連れの嬢ちゃんがお━━ッ何!?」

 後ろにいる連中の首を全て斬り飛ばす。身体が倒れると首の断面から血飛沫が吹き出る

 

 此方(後ろ)の異変に気がついたのか男は振り返り、驚愕する。目に入るのは仲間たちの死体……そして刀を鞘にしまう俺の姿

 

「な、なんだてめ……ぐわぁぁ!?」

 

 ドパッという音と共にドンナーが放たれ、男の左足が吹き飛ばされた。

 

「お前、すでに捕まえた兎人族はどうした。この辺りにいるのか?」

 殺さなかったのは、これを聞くためだったらしい。

 

「うぐっ……てめぇこんなことをして━━ぐっぎゃあぁぁっ!?」

 

 二発目の発砲、今度は右腕が吹き飛ばされた

 

「ヒィィ!? 言うがらぁ! ソイツ等なら帝国に既に送ったあぁぁあ!」

 

「━━そうか」

 三発目の発砲で男の頭部は吹き飛んだ。

 

 それを見送ると、先に進んで他に敵はいないか偵察しながら、対人戦でも普通に戦えるようだ。人を殺したのに、別段なにも感じなかった。俺も奈落に落ちて価値観が少し変わったのかな? と思いつつ、帝国兵が捕まえたハウリアの輸送に使う為らしい馬車を見つけた

 

 

 

 

 

 

 馬車に乗って出発し、少しして俺たちにシアが話しかけてきた

 

「……あのっ! お三方のこともっと教えてくれませんか? 旅の目的とか今までしてきたこととか

 ハジメさんとユエさん、そしてコウスケさんのことをもっと知りたいです!」

 

 面倒そうな南雲に「暇潰しで話そうぜ」と言い、話すことになった

 

 ~~~~~~~~~~~

 

「う゛……うぅ……つらい……つらすぎます……」

 びぇぇんと涙を流すシアに布を渡す。

 

「ありがとうございます━━私、お三方に比べたら恵まれてますぅ! 自分が情けないですぅ」

 するとシアは決心を決めたように立ち上がった

 

「私! 決めました!! このシア・ハウリアお三方の旅のお供をさせていただきます!! 

 私たちはたった四人の同類……いえ、仲間! 共に苦難を乗り越えましょう!」

 ここに、四人目の仲間が誕生━━

 

「現在進行形で守られてるヤツが何言ってんだ?」

 

「なんて図太いウサギ……」

 

 するはずがなかった。ん? なんでこっち見てるんだ? 

 

「コウスケさんは賛成してくれますよね!?」

 

「いや?」

 俺の言葉に「そんなぁぁ」と落ち込むシア

 

「というか俺たちの目的は言っただろうが、七大迷宮の攻略だからな。今のシアじゃあ瞬殺されて終わりだ。同行させるって方がおかしい」

 

 とどめをさしたようで、グフッと言って隅に行って体育座りをしだしたが、誰も気にするものはいなかった。

 

 

 それから少しして、しっかりと暇つぶしの目的は果たせたようで、森の前で馬車が止まる。どうやら着いたらしい

 

「では行き先は森の深部、"大樹"のもとでよろしいですか?」

 降りるとカムが、俺たちに確認をとるように聞いてきた。南雲がそれに答えると、全員で森へと入っていく

 

 大樹とは、南雲が先ほどカムに聞いていた樹海最新部にある巨大な樹"大樹ウーア・アルト"。迷宮はここだ

 そういえばハウリア強化が入るんだったな……ハー◯マン軍曹見ててよかった

 

 考えに耽っていると様子がおかしいことに気付く、キョロキョロと何かを探しているようだ。少し離れていたようなので近づいていき、聞いてみることにする

 

「どうしたんだ? シア」

 

「こ、コウスケさんが━━ぴぎゃぁあ!?」

 人の顔みた瞬間変な声で叫ばないでくれますかね? 泣きたくなるんで

 

「驚きました……まさかコウスケさんの気配を消す力がこれほどまでとは━━」

 シアに引き続き近づいてきたカムにまでいじめられるとは

 

「これ、素なんですけどね」

 

「そ、それは申し訳ないことを……」

 

「コウスケさん、違うんですよ!? 私は━━」

 

「……南雲」

 

「……あぁ」

 こんなに馬鹿みたいに騒いでしまえば見つかるのは必然だろう。何者かが近づいてきた。シアとカムは気配で何者かを察知したようだ。

 

 

「動くな! 何故ここに人間がいる!!」

そう声を荒げて武器を構えた数人の獣人たちが現れた




次回はちゃんとハウリア強化パート入ります!


たくさんのお気に入り登録と感想、本当にありがとうございます

これからもこの作品をよろしくお願いいたします


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残念ウサミミ族━━ハウリア

ランキング入ってた!?
あ、ありがとうございますぅ!

お気に入りも900件越えで、とても嬉しいです!頑張って毎日投稿していくのでよろしくお願いします!

それでは、どうぞ


 言われた事にカム達は弁解しようとするが、虎の獣人の視線がシアを捉えると目を大きく見開かせる

 

「白髪の兎人族の女……貴様らが報告に上がっていたハウリア族だな? 忌み子を匿い続けた亜人族の面汚し共め! 今度は人間も招き入れるとは」

 

 "気配遮断"を使って首もとに短刀をやり、脅しにでもいってやろうか……と歩を進めようとするが、南雲が手で進行を妨害した。仕方ないので大人しくしているとする。その役(脅し)は南雲が担ってくれるらしいし。まぁ、その方が手っ取り早いだろう

 

「反逆罪が! もはや弁明など不要! 生きては帰さんぞ! 全員この場で━━」

 

 ドパンッ!! 

 

 虎の獣人が攻撃命令を下そうとした瞬間、銃声と共に一筋の光が隊長であろう彼の頬を掠め、その背後にある樹を抉り飛ばした

 

 反応できない速度にあり得ない破壊力、それを目の当たりにした虎の獣人は呆然とした表情で硬直している。追い討ちをかけるかのごとく南雲は"威圧"使って話す

 

 

「言っておくが今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射できる。それに、周囲に潜んでいるヤツらも把握済みだ。……意味はわかるな?」

 

「なっ……詠唱がっ……」

 詠唱いらずでとんでも破壊力の攻撃を連射できる上、尚且つ潜んでいる仲間のことを把握していると言われて唖然とする虎の獣人。現に南雲はとある方角にシュラークの銃口を向けると、あきらかに動揺した気配がある。

 

 

「殺り合うってんなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺たちが保証しているからな……ただの一人でも生きて帰れると思うなよ」

 

 

 威圧感だけでなく南雲は濃厚な殺気を放つ。その殺気を真っ正面から受けた彼は、見るからに冷や汗を大量に流し気付いているかは分からないが僅かに足が震えているのが分かる。

 

「だが、この場を引くというなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もない。さぁ選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

 

「……その前に、一つ聞きたい……何が目的なんだ?」

 

 返答次第では死ぬことになっても戦う。そう覚悟を決めたような顔で南雲を睨み付けながら質問をする虎の獣人。

 

 

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

 

「た、大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

 自分たち亜人を奴隷にするつもりだと思っていたらしく面を食らったように困惑しながら何のようで大樹に行きたいのかを聞いてきた。南雲は続ける

 

 

「そこに、本当の大迷宮への入り口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアはその案内のために雇ったんだ」

 

 

 その言葉を聞き更に困惑の表情を濃くしながらこの樹海こそが迷宮であると答えるが南雲はそれは違うと断言する。理由もしっかりと話しているが理解できていないようだ。

 どうやらこの問題は自分の手に余ると判断した虎の獣人は一つの提案をする

 

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えぬというなら、大樹の下へ行くくらい構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけにはいかないからな」

 

 

 その言葉に後ろで控えている三人の獣人、そして周囲で取り囲むように潜んでいるお仲間がざわざわと動揺している気配を感じる。

 

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方がおられるかもしれない。お前の目的が本当にそれだけなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 先ほど同様に冷や汗をだらだら流していながら、しかしそれでも瞳には強い意思を宿しながら睨み付ける虎の獣人。

 

 南雲は少し考えるような仕草をした後

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

 

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

 

 それに答えるように「了解!」と返事をするとザムと呼ばれた獣人だろうか、一つの反応が遠ざかっていく。

 

 それを確認すると構えていたドンナー・シュラークをホルスターに納めて、"威圧"を解いた。その場の空気が少し軽くなりホッとしている様子だが、それと共にあっさりと警戒を解いた南雲に訝しそうな眼差しを向ける虎の獣人。

 

「お前等が攻撃するより、俺の抜き撃ちの方が早い……なんなら試してみるか?」

 

「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

 

「わかってるさ」

 

 周りに潜んでいるお仲間たちは出てくる気配がなく、包囲はそのままだが、居心地が悪そうな視線を受けながらもカム達ハウリアは安堵の吐息を漏らす。

 

 

 しばらく、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、ユエが南雲にちょっかいをかけ始めた。この雰囲気に飽きてしまったらしい

 

 敵陣の真ん中でイチャイチャしてんなよ。といつも通り呆れていたが、急にキョロキョロしだしたシアは俺を見つけると、こちら側に駆け寄ってきた

 

「どうしたシア?」

 話しかけるが、もじもじしているだけで話さない。少ししてやっとで答えた

 

「え、え~と……ハジメさんとユエさん、楽しそうですね!」

 

 え、そんなこと? 少し驚きながらもちゃんと返事を返す

 

「あぁ……そうだな、あのイチャイチャはデフォルトだし、俺をもう少し気づかって欲しいよ」

 アイツらがイチャつくと、俺なんて空気になるからな……元々そうだってか? 泣くぞ? 

 

「馬車に乗っている時も何度かありましたもんね」

 

 そうそう、そんなイチャイチャバカップルに君は第二の嫁さんとして割り込まないと駄目だってのに……なんで俺のとこ来るんだよ

 

 

 その後、「こんな奴いたか?」みたいな視線を向けられて落ち込んだが、無視することにしてシアとの他愛ない話をして一時間が経過、急速に此方に近づいてくる気配を感じた。

 

 

 場には先程までの少し緩い空気はなくなり、再び緊張が走る

 

 

 霧の奥からは、数人の新たな獣人……(いや、よくよく考えたら亜人か)亜人たちが現れた。彼等の中でも特に目を引くのが初老の男だ、流れる美しい金髪に碧眼そして尖った長耳だ。彼はどうやら森人族(エルフ)というものらしい。

 

 俺とて男だ。初めて会う森人族が女性でないのにがっくりとしながらも、雰囲気的に彼こそが"長老"と呼ばれる存在なのだろうと予想をつける

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

 南雲の言葉遣いに、周囲の者達が何て態度を! と憤りを見せるが、それを片手で制して森人族の男性も名乗り返した

 

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求を聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。"解放者"とは何処で知った?」

 

 目的ではなく、解放者という単語に興味を示すアルフレリックに南雲は奈落の底にあるオスカーオルクスの隠れ家で知ったと話す。

 その時、微かに動揺していた。他のものは何だか分かっていない顔をしていることを考えると上の存在……長老やその側近しか知らない案件なのだろう

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないな……証明できるか?」

 

 そう言われて難しい表情をする南雲に俺は指輪の事を提案する

 

「南雲、指輪あったろ? あれでいいんじゃないか? それか奈落の魔物の魔石とか」

 

「あー成る程、というか指輪(これ)アイツから頂戴した物だったな」

 

 早速"宝物庫"から地上の魔物ではあり得ない質の魔石を取り出し、アルフレリックに渡す

 

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことはないぞ……!?」

 アルフレリックは声に出さず呑み込んだ言葉を隣の虎の亜人が驚愕の表情で声をあげる

 

「後はこれだ。オルクスの付けていた指輪なんだが……」

 

 そう言ってオルクスの指輪をみせると、アルフレリックは指輪に刻まれた紋章を見て見開くと息を吐く。

 

 

 どうやら認められたようで、フェアベルゲンへの滞在をハウリア共々許し、客人として迎え入れるとの言葉に周囲から猛烈な抗議の声が上がる。

 

 アルフレリックが周囲の亜人を徐々に黙らせていく中、それを見計らってか南雲は。

 

「なに勝手に俺の予定をきめているんだ? フェアベンゲンには用はない、問題ないなら大樹に向かわせてもらう」

 

「いや、お前さん。それは無理だ」

 

「なんだと?」

 

 無理だと言われ、やはり邪魔をするのか? と目で訴えるが、アルフレリックは逆に困惑した様子で理由を説明する

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くて亜人族でも方角を見失う。一定周期で訪れる霧が弱まった時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族ならば誰でも知っているはずだが」

 

 その言葉に南雲は振り向き、カムを睨む。しばらくポカンとした表情をしていたカムだったが、青ざめた表情で「あっ……」と声を漏らす

 

「……おい、どういうことだ?」

 その目には微かな怒りを宿しながら問い詰める

 

「え……いや、なんと言いますか……色々ありましたし、つい忘れていたというか……その……」

 そこまで言うと急に後ろに振り返り、仲間たちにビシッと指を指し

 

「ええいお前たち! なぜ途中で教えてくれなかったのだ!」

 

「な……父様、逆ギレですか!?」

 そう、シアが講義した通り、逆ギレである。シアに続き、他のハウリアも文句を言うが南雲には関係ない。皆等しく頭に拳骨を喰らわせる。その姿を見て呆れた表情をしたアルフレリックに仕方なく案内を頼み、フェアベルゲンへと向かうのだった




今回ハウリア達の強化入りたかったんだけどなぁ

次の話に持ち越しってことで!それと明日からコミケに行ってくるので、1日1話投稿ができなくなるかもしれません!なるべく書くのでお許しください!


雫ちゃんのグッズ買ってくるぜ!それではまた次の話で会いましょう!


遅くなりましたが、今夜には出そうかと思っております(8/13)


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フェアベルゲン

すっごく遅れてすいません!!!

二日に一回は投稿していくのでよろしくお願いします!

お気に入りが1000件突破嬉しいです!


急いで書きましたので不備があったらすいません。あとから直します

それではどうぞ!!!!


 濃霧の中を虎の亜人(名前はギルというらしい)の先導で進む。

 

 カムのど忘れにより、十日経たなければ大樹に向かうことができないので、アルフレリックの言葉に甘え、フェアベルケンに向かっている。

 南雲、ユエ、俺、ハウリア族、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めて進み、既に一時間ほど経過した。

 

 

 しばらく歩いていると……突如、とある部分のみだが霧が晴れている場所に出た。

 

 分かりやすく表現するのであれば霧のトンネルのような場所だ。よく見れば、道の端に青い光を放つ結晶が地面に半分埋められていた。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようにみえる。

 

 その水晶に南雲が興味を示すと、アルフレリックが良い事を教えてくれた。

 これはフェアドレン水晶といい、霧や魔物を寄せ付けない物なのだという。なんとこれが今向かっているフェアベルケンを囲んでいるおかげで街は霧がないらしい。ユエも霧を鬱陶しく感じていたらしく、喜んでいた

 

 

 

 

 そして今、眼前には巨大な門が見えている。数十メートル程度はありそうな太い樹が絡み合ってアーチを作り、其所に両開きの扉が鎮座していた。

 

 

 先頭を歩いていたギルが門番と思わしき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音をたてて門が僅かに開いた。周囲の亜人たちから俺たちに対して向けられた視線が突き刺さっている。嫌っている人間が招かれているのだ動揺しない方が無理って話だ

 

 門をくぐると、そこは別世界だった。数十メートルは越えるであろう巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。

 極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成していたり、樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるっぽく、樹の高さはどれも二十階くらいありそうだ。

 

 

 南雲とユエ同様、俺も美しい街に見惚れていると、ゴホンッと咳払いが聞こえて、ようやく立ち止まっていることに気がついた俺たちは歩を前に進ませる

 

 

「どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 俺たちの反応に、アルフレリックは嬉しそうにそう言い、他の亜人たちも誇らしげにしている

 

 

「ああ、こんな綺麗な街を見たのは始めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だな」

 

「ん……綺麗」

 

 二人が感想を言い、俺もなんか良さげな褒め言葉を考えようとしたが、思い付かなかったので自分が思った感想を素直に口にすることにした

 

「……霧に隠されし国"フェアベルゲン"か……良い。それになんだあの秘密基地みたいな面白工夫は…… 左目が疼いてきそう」

 

 二人のストレートな称賛に、少し驚きながらも嬉しそうに亜人達はケモミミや尻尾を動かしている。俺の一言には何故か微妙な顔して皆一様に首をかしげていた……なんか少し"深淵卿"入ってたけど……本当(マジ)で格好いいと思ったんだけどなぁ

 

 

 

 そんなことを思いつつも、俺たちはフェアベルゲンの住人たちから好奇や憎悪、色々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 

 

 現在、南雲とユエ、そして俺は、アルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、オスカー・オルクスの住み処で得た情報である〝解放者〟のことや神代魔法のこと、次いでに俺たちがこうして七大迷宮を攻略しようとしている理由(自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等)も話した。

 

 

 

 アルフレリックに、この世界の神の話をしたが顔色を変えたりはしなかった。特に思うことはないのだろう。

 気になったのか、南雲が驚かないのか聞いたところ……

 

 

「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」

 と、答えが返ってきた。

 

 神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないからということらしい。

 

 

 俺達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話してくれた。

 

 簡単に言ってしまえば、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者がきたら敵対しない。その者のことを気に入ったのなら好きな場所連れてってやれという内容だった。

 

 

 アルフレリックが話す

 

【ハルツィナ樹海】の大迷宮、その創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事と、 その仲間の名前と共に伝えたものなのだという。

 フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたらしく、最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が規格外なのを知っていからこその忠告なのだろう。

 

 

 そして、オルクスの指輪の紋章に反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

 

 

「それで、俺は資格を持っているというわけか……」

 

 

 

 アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、事情を知っているのはごく一部なので後から話し合う必要があるのだろう。それを思い浮かべてか、少し頭を押さえている。

 

 

「大変そうな所、悪いんだが……質問いいか?」

 あまり重要な事ではないが、アルフレリックに質問したいことができたので声をかける。

 

 俺の言葉にアルフレリックは構わないと答えようとしてくれたのだろうが「構わ……む?」と、言葉を詰まらせる。何やら階下が騒がしくなっているのでそのせいだろう

 

 俺と南雲、ユエ、アルフレリックのいる場所は最上階で、階下にはシアを含めたハウリア族を待機させている。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。俺たちは立ち上がると急いで彼女たちの下へ移動した。

 

 

 

 

 

 心配だったので、一番に駆けつけると……そこには大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族がおり、剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。

 

 部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

 南雲とユエも階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては━━んうぉあ!? な、なんなんだ? 長老会議にて━━ぐ……うおっ!?」

 

 熊の亜人は話している途中に何もないところで二度も床にひっくり返る。それを不審に思ったようで、キョロキョロ見回すと青筋を浮かべて俺を睨んできた。どうやら少しにやけていたようでバレてしまったらしい

 

 

「そんなに睨み付けるなよ━━契約で十日後まで、ハウリアの安全は俺たちが保証している契約なんだ。手を出されて殺されなかっただけマシだと思ってくれ」

 

 ピキッと青筋が増えた気がした。顔を真っ赤にしながら先程よりも大きく、そして苛立ったようにアルフレリックに声をかける。

 

「アルフレリック! そのガキが資格者って奴なのか?!」

 

「いや、資格者はその隣にいる者だ。資格者ではないからと、手を出すでないぞ? お前が二度も━━」

 

「資格者では無いなら掟には反していない筈だ! 貴様の実力を試してやる!」

 

 そう言い、突如俺の近くに突っ込んでくると、微動だにしない俺に笑みを浮かべながら拳を振り下ろした。

 

 

 この亜人の実力を知っているのであろう者たちは(シア含めたハウリア以外)俺がひき肉にでもなるものだと幻視し、いきなり殴りかかると思っていなかったアルフレリックは驚愕の声をあげる。

 

 

 しかし次の瞬間、彼らは目の前にある光景をみて凍りついた

 

 

 バチィッ! 

 

 

 急な攻撃に気がついていなかったと思われていた少年は、熊の亜人が放った拳を軽々と受け止めたのだ

 

「資格者じゃないからって……謎理論すぎだろ。まぁ、先に手を出したのはお前だからな、悪く思うなよ」

 

「なっ!?」

 誰が漏らしたのか驚愕の声が上がる。熊の亜人はすぐさま俺の手を引き離しにかかるが、離れない

 

 メキメキッ……グチャッ

 

「ぐ、うぉあぁぁ!?」

 

 嫌な音と共に骨が折れ、痛みからか声をあげて膝をついてしまった熊の亜人、そんな隙など逃すはずもなく正拳のように拳を引き絞る

 

 

「破ッ!」

 

 

 熊の亜人が咄嗟に両手でガードしていたのをものともせず、俺の拳は腹に突き刺さり、もの凄い勢いで吹っ飛んでいく。熊の亜人は悲鳴など上げる暇なく背後の壁を突き破って消えていった

 

 

 誰もが言葉を失い硬直していると、「さて」という言葉と共に俺は長老達に脅しの意味を込めて殺意の視線を向ける。

 

「お前らもやるのか?」

 

 

 俺の言葉に返答するものはいなかった

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 その後、先ほどアルフレリックと話していた部屋で他の亜人の長老を四人加え、話し合うことになった。

 俺たちの前方にに座っているのが長老衆でそれらと向き合うように座っている。

 俺を真ん中として、傍らにはユエと南雲、カム、そしてシアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。

 

 普通は南雲が真ん中だろうが、「話し合い遠藤にまかせるわ」と譲られてしまった

 

 

 

 向かい合って相手方の様子を確認すると、長老衆の表情はアルフレリックを除いて緊張感で強ばっていた。長老クラスが一瞬で殺られた(注:殺してない)のだ。こうなるのも当たり前か

 

 

 因みに俺の吹っ飛ばした亜人は、身体の所々の骨が折れたりでボロボロになっており、俺の八重樫道場で教わった衝撃透しの技術も使っての突きだったので、今頃は内蔵がしっちゃかめっちゃ掻き回されている用な痛みに襲われているだろう。

 

 

 

 

 

 取り敢えずは任されたので俺から話を切り出す

 

「……俺たちは大樹の下へ行きたいだけで、それを邪魔しなければ敵対するつもりはない……だが、亜人族として意思を統一してくれないと、何かあった時に何処まで殺っていいのか分からないのは不味いだろ。生憎と殺し合いの中で手心を加えるほど俺たちは器用じゃないんでね」

 

 一応は本来の目的と、敵対するなら亜人族全体とでも殺り合うことをチラつかせると、緊迫していた空気が更に悪くなった

 

 

 

「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

 

 

 苦虫を噛み潰したような表情で抗議する虎の亜人……

 

 

「は? 先に殺意を持って仕掛けてきたのは熊の亜人野郎、俺は正当防衛しただけだ。自業自得だろ」

 

 

「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつも国のことを思って!」

 

 ジンとは熊の亜人のことで、様子を見るに親しい関係なのだろう

 

 

「国のためを思っている奴が……ましてや一つの部族を治める長老が冷静さを欠いてあんな行動とるかよ?」

 

「そ、それは! しかし!」

 

「あの熊野郎は俺が資格者じゃないからとか変な理由つけて殴りかかって来たんだぞ? 

 ……どう考えても俺が被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ? なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」

 

 

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼らの言い分は正論だ」

 

 

 

 アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めて座り込んだ。そのまま、黙り込む。

 

 

 

「そっちの資格者の君は紋章の一つを所持しているし、そのお仲間の実力、報告であった見たことのない武器……僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 

 

 そう言ったのは狐人族の長老、名前はルアというらしい。糸のように細めた目でハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 

 

 

 その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックが言ってきた

 

 

 

「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんらと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

 

「絶対じゃない……か?」

 

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

 

「それで?」

 

 

 

 アルフレリックの話しを聞いても南雲の顔色は変わらない。少しの間続きを待っているとアルフレリックが頼みを持ちかけてきた

 

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

 

 

「……殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

 

 

「そうだ。お前さんの実力なら可能だろう?」

 

「あの熊野郎が手練れってんなら出来るだろうよ。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちはわかるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のないものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

 

 

 奈落の底で培った、敵対者は殺すという価値観は根強く南雲の心に染み付いている。殺し合いでは何が起こるかわからないのだ。手加減などして、窮鼠猫を噛むように致命傷を喰らわないとは限らない。その為、アルフレリックの頼みを聞くことはなかった。

 

 いきなり話すのが南雲になっちまった。これがカリスマ? いや、違うか……資格者だからっていう理由と、コイツが一番ヤバイってのを分かってるからか? 

 

 

 

 そこで虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

 

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 俺と南雲、ユエは一瞬訝しげな表情になった。何故なら案内はシア達ハウリアにさせるつもりで、フェアベルゲンから案内を貰おうとは思っていなかったからだ

 

 察してか、ゼルが続けて言う

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 

 

 ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのは情が深いから故だろう

 

 

 

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

 

「シア! 止めなさい! 皆覚悟はできている」

 

「でも、父様!」

 

「お前にはなんの落ち度もない。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わん……我らハウリア族はどんな時でも一緒だ」

 

 感動的な場面なのだろうが、コイツら忘れてないか? と思いながら横目で隣をみると、南雲もため息をつきそうになっている

 

「大樹に行く方法がなくなったわけだが、どうする? 運良く辿り着く可能性にかけてみるか?」

 おちょくるように言うゼルに呆れながらも、間違いを正すために口を開く

 

「お前、俺たちの話聞いてたか? 俺らが大樹の下へ向かう為にハウリアを雇った。その案内人であるハウリア達を処刑するというのなら、俺たちの邪魔するってことだろうが」

 

 俺の言葉にゼルを含め、他の長老たちは驚いているようだ……いや、全員気づけよ

 

「あぁ、俺たちの邪魔をするってんなら等しく敵だ。覚悟してもらおう」

 アルフレリックの視線で察した南雲も俺と同じ意見だと言う

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言ってもか?」

 アルフレリックの提案に南雲は黙る……どうやら俺が答えろと言うことらしい。なんで? 

 

「残念だが、俺たちの案内人はハウリアなんでな。諦めてくれ」

 

「大樹に行きたいだけなら案内は誰でも良いはず。なぜそこまでこだわる? 

 案内人を変えるだけで我々と争わずに済むのだ。問題なかろう」

 

「案内するまで助けるって約束したからな……いい条件が出たからって途中で投げ出すなんて……格好悪いだろう?」

 

 

「何をいっても無駄か。ならばお前さんの奴隷ということにでもしておこう。この国の掟では奴隷として捕まり、樹海の外へ出ていった者は、死んだものとして扱っている。

 掟により、ハウリア族は死亡したものとする。すでに死亡したものは処刑できん」

 

「なっ!? 屁理屈にも程が━━」

 

「ゼル、わかっているだろう。この者達が退くことはない。ハウリア族を処刑すれば敵対する。どれだけの犠牲が出るか想像できぬわけではなかろう?」

 

「ぐっ━━」

 俺の戦闘を見ただけでなく、南雲の武器についても話し合いが始まる前に亜人同士で話し合って知っているようなので、どうやら反論できないようだ

 

 

 

 結果、俺たちはフェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁止されたわけだが、ハウリア達には手を出させないことを約束させることができた。




よし!(開き直り)

次からハウリア強化パートだぜ!


また次のお話でお会いしましょう!

それでは!

さて、続きは8/18の夜には投稿できるかもしれません

お楽しみに


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ハウリア族強化の十日間

すいません気がついたら寝てました

昨日の夜に投稿するはずだったのですが、申し訳ありません

寝不足と風邪のせいで誤字やおかしな部分があるかもしれませんがご了承下さい……さて、どうぞ



「さて、お前たちには大樹へと向かうまでの十日間、戦闘訓練を受けてもらうからな」

 

 フェアベルゲンから追い出されてきた俺たちは大樹の近くに拠点を作って一息つく暇もなく俺はそう言った

 

 まぁ、拠点といっても南雲が盗……頂戴してきたフェアドレン水晶を使って結界を張っただけだが……

 

 

 俺の言葉にハウリア族達は一斉にポカンとした表情になった

 

「え、えーとコウスケさん。戦闘訓練とは……?」

 ポカンとした表情からいち早く復帰したシアが質問してきた

 

「そのままの意味だよ。これから十日間は霧が晴れなくて大樹へと辿り着けないんだ。ならその時間を有効利用して、弱々甘々集団であるお前たちを自分ぐらいは守れる程度の……いや、返り討ちにできる程の戦闘部族に仕立てる」

 

「え、えー……と? な……何故、そのようなことを……?」

 俺の本気の目と圧に少し驚きながらも、本当に分からないようで、更に困惑した表情になるシア含めたハウリア族

 

「なぜ……何故って聞いたか? 残念むっつりウサギ」

 

「え、えー?! ついさっきまでシアって名前で呼んでたのにぃぃ?! というかむっつりなんかじゃ!?」

 

 

「うるさい黙れ」

 

 

「酷いでずぅぅ」ひーん……と項垂れているシア(残念むっつりウサギ)を横目に言葉を続ける

 

 

「俺たちが交わした契約は、大樹の下へ案内してもらう代わりに、それまでお前たちの安全を約束するというものだ。案内が終わった後はどうする、それを考えてたか?」

 

 

 ハウリア族たちは、それぞれ顔を見合わせると、ふるふると顔を横に振る。長老であるカムに「どうだ?」と聞くと難しい表情をして「いいえ」と答えた

 

 

「まぁ、そうだろうな。はっきり言うとお前たちはこのままだと間違いなく全滅、せっかく拾った命も無駄になる。

 理由は単純明快、弱いお前たちは悪意や暴力から逃げるか隠れる事しかできない。そんなお前ら唯一の隠れ家であるフェアベルゲンからも追い出され、追われる立場……更に人間も魔物も容赦なく襲ってくる。このまま黙って殺されていいのか?」

 

 

「そんな……良いわけがない」

 ポツリと誰かが零した言葉に触発されたように次々と顔を上げ始める。その瞳からは運命へ抗う決意が感じられる。

 

 

「そうだ。いいわけがない。ならばどうするか、答えは簡単だ。強くなればいい! フェアベルゲンの亜人たち、帝国や他の人間、魔物……襲い来る存在を打ち破り、自らの手で生存権利を勝ち取ればいい」

 

「……ですが私たちは兎人族で━━」

 

 自分たちは兎人族で他の種族と違って特に秀でた事がないのだと否定的なことを言おうとするが、それを遮るように続ける

 

「兎人族だからなんだ? 南雲はな、前の仲間たちから"無能"なんて呼ばれてバカにされてたんだぜ?」

 

「……え?」

 ハウリア族は全員が目を丸くして南雲の方をみる。この場所に来る途中で打ち合わせをして先に謝っており、話を振られる事を事前に知っているので、南雲はそれを特に顔色を変えずに答えた

 

「俺はステータスも技能も平凡極まりない一般人……いや、それ以下か。仲間内での最弱。戦闘では足手まとい以外の何者でもない。だから、かつての仲間たちは俺を"無能"と呼んでいたんだよ。実際その通りだった」

 

 南雲の告白にハウリア族は皆、驚愕をあらわにする。【ライセン大峡谷】では見たこともない武器で凶悪な魔物から自分たちの窮地を救ってくれて、虎人族に森で遭遇してしまった時の物凄い殺気……そんな彼が"最弱"で"無能"など誰も信じられないようだ。

 

 

「だが、奈落の底に落ちて俺は強くなるために行動した。出来るか出来ないかなんて関係ない。出来なければ死ぬ、俺は……俺たちはそこで自分達の全てを賭けて戦い……気がつけばこの有様だ」

 

 深い静寂が訪れる。南雲の語る内容があまりにも壮絶な内容だからだろう。顔を青ざめている者もいる

 

 

「かつての俺とお前たちの状況は似ている。約束の内にある今なら手助けをしよう。諦めるなら構わないさ、今度こそ全滅するまで残り僅かな生をガタガタ震えながら待っていればいい」

 

 そう言い、目で問う南雲。ハウリア族達は直ぐには答えを出せず、黙り込んで互いに顔を見合わせている。頭では自分たちが強くなる以外に道はないと理解しているようだが、元は温和で平和……なにより争いが大の苦手な種族だ。すぐには決断出来ないだろう

 

 

「やります。私に戦い方を教えて下さい! もう、弱いままは嫌です!」

 

 樹海全体に轟くのではないかというほどの叫び……確かな決意を宿した瞳で真っ直ぐに南雲、俺を見つめながらの全力で想いを込めたであろうシアの宣言だ。

 

 その彼女を唖然として見ていたカム達ハウリア族だったが、次第にその表情にやる気を滾らせて立ち上がっていく

 

「ハジメ殿、そしてコウスケ殿……よろしく頼みます」

 カムは全てのハウリア達が立ち上がったのを見計らって前に進み出ると、南雲と俺に頭を下げる。

 

「わかったが、覚悟しろよ? あくまでお前等自信の意思で強くなるんだ。俺たちはただの手伝い。途中で投げたした奴は問答無用で切る。期間は十日と短いんだ……死に物狂いでやれ。生きるか死ぬかは己の頑張り次第だ」

 

「任せろ。死ぬほど厳しく指導してやる。その代わりに十日でお前たちを亜人最強の種族へと変えてやるよ」

 

 

 俺たちの言葉にハウリア族は皆、力強く頷いた

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ~一日目~

 

 まず最初に南雲は、ハウリア族を訓練するにあたって宝物庫から錬成の練習に使っていた装備を配った。

 

「シアはユエによる魔法訓練がある。よって残りは俺と遠藤で担当する」

 

「あ、あのぉハジメ殿……」

 カムが何か質問があるのか、おずおずと手をあげる。

 

「カムか、なんだ娘が心配なのか? 安心しろユエは━━」

 

「いえ、それもありますが……そうではなく……」

 

「じゃあなんだ?」

 てっきり娘のシアを心配しての質問だと思った南雲は本当にわからないといった顔で理由を聞く

 

「その……もっと安全な武器はないですかな? 木製とかの……」

 

「「……はぁ!?」」

 俺と南雲は数秒固まった後、驚きで声を上げた

 

「だ……だってこの鋭さ……こんなので斬られたら痛いに決まってるじゃないですか……」

 

 カムの言葉とそれに同意するハウリア族に拳骨を落として説教をする南雲を横目に、殆ど重要な場面以外忘れていた原作の知識を思い出そうと頭に手をやり、必死に思い浮かべる

 

 しかし、俺には南雲がハート○ン軍曹式の教えをしてハウリア族がいたこと以外は思い出せなかった。

 

「━━わかったか? 俺たちは手伝いで、強くなれるかはお前たち次第だ。逃げ出したい奴は今すぐ抜けろ。残る者は死に物狂いでやれ……わかったか?」

 

「「「「「は、はい!」」」」」

 

 

 説教が終わり早速訓練を始める。

 

 まずは武器を持たせると、構えや動き等の基本的な動きを教える。俺の生前習っていた武術と八重樫道場での教えの中でも最も簡単なものと、南雲が奈落の底で手にした自己流の動きを合わせて教えた。

 南雲と話し合った結果、今後の予定として、このハウリアという種族の強みである索敵能力と隠密能力を生かした奇襲と連携に特化した集団戦法を身につけさせることにした。

 

 因みに俺が教えたのは師範代にちょっとだけだから……と覚えさせられた、音をたてにくい歩法や気配をより良く絶つ方法、投擲術等々だ。

 

 

 逃げることしかしていなかった為か、自己流の型などが無かった為か、はたまた別の理由か……思ったよりも上達が早かったので少しだけ安心した。霧の向こう側からシアの叫び声や悲鳴が聞こえるのであちらも順調にやっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、俺と南雲は隠密組と奇襲組の二手に別れて訓練を開始した。元々、得意なだけあって少し教えただけで上達していったので、実際にネズミ型の魔物と戦わせてみるとこにした。初めてとはいえ、少しばかり傷を負いながらも敵の背後を取ったりして上手く魔物を倒している。

 

 しかし……

 

 

 グサッ! 

 

 

 魔物の腹部に、小太刀が突き刺さり絶命させる。

 

 

「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇぇ~!」

 

 

 それを行ったハウリア族の男が血など関係ないとばかりに魔物に縋り付くと、血まみれになりながらも涙を流して悲しんでいる。まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男のようだ。

 

 

 

 ブシュゥゥッ! 

 

 

 

 また一体、魔物が切り裂かれて首と胴体が泣き別れして血を大量に首元から吹き出しながら倒れ伏す。

 

 

 

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私は生きるためにこうするしかないのよぉ!」

 

 

 

 首を裂いた小太刀を両手で握り、ガタガタ震えると地面へ力なく崩れ落ちるハウリア族の女。まるで狂愛の果て、愛した人をその手で殺めた女のようだ。

 

 

 こんなのはほんの一部分で、あちこちで色々なドラマ的な光景が生まれている

 

 この現状を眺めながら、そういえば南雲がハート○ン軍曹式の扱きに変えた理由はこんなんだったよなぁ……とやっとで思い出した。

 

 先が思いやられる……と、遠い目をして切り株に腰かけて頭を押さえる。そんな俺のもとに女性のハウリアが歩み寄ってきた。

 

「あの……大丈夫で━━ッ!?」

 突然、その場から飛び抜く……が、上手く着地できなかったのか、横に転がって足を擦りむいてしまったようだ

 

「お、おい……何があったんだ、大丈夫か?」

 

 疑問に思いつつも近づいて手を差しのべようとするが、それ以上進まないでぇ! と悲痛な顔で言われてしまったので、歩みを止めて指を指した方向を目で追う。

 

 

 そこにあったのは花だった。

 

 

「━━この花がどうかしたのか?」

 

「良かった……あ、いえ……この花を踏んでしまいそうになったので━━」

 

「花……? まさか━━」

 

「はい! 間一髪で気がついて良かった。昨日教えてもらった緊急用? の避け方が無かったら危なかったもの」

 

 その言葉に、自らが教えた回避方法は決してこんな事の為に教えたのではない……と、青筋を浮かべる

 

「なるほど、その花のせいで妙に跳び跳ねたり、無駄なステップを踏んだりしていたのか? お前らは?」

 

 

 そうなのである。先程から妙なタイミングで飛び退いたり、移動したり、転がったりしていて疑問には思っていたが、教えて二日目だからだと気にしないようにしていたのだが

 

「いえいえ、そんなことはありませんよ」

 

「はぁ、だよな……」

 

 若いハウリアの男が苦笑いしながら答え、流石にないよな……と安心からか頬が緩む

 

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣います。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まないように避けますがね……コウスケさんから教えていただいた動きがなければ危ない場面が何度もありましたから助かっています!」

 

 

 本当に助かっているといった様子で笑いかけてくる若いハウリアの男に、ふふふ……と、不気味に笑いながら片手で顔を覆い天を仰ぐ。俺のそんな様子に、何か悪いことを言ったかとハウリア族達が一斉にオロオロと顔を見合わせた。

 

 そんな事気にせず、顔に当てていた手を刀に置くと、全力でにっこりと作った笑顔を見せる。

 急に笑顔になった俺の様子を不思議に思いつつ、ハウリア族達も一緒に笑顔になった

 

 

 シャキンッ! グシャアッ! バキバキッ! ズズーンッ

 

「「「「「「「ヒィッ!?」」」」」」」

 いきなりそこらに生えていた花、虫が一瞬で消し炭になり、木が何本か倒れた。勿論それを成したのは俺だ

 

「よぉ~し……これで心置き無く訓練できるなぁ?」

 ガタガタと震えながらも、一人のハウリアが声をあげる

 

「む、虫や花だって生きて……ヒィッ!?」

 睨まれた男のハウリア族が悲鳴をあげる

 

「まだ言うか貴様ら? ……つーかよ今の現状理解できてるよな? いや、もう一度だけ教えてやるから無駄に長いその耳でよく聞け、十日後までに何の成果も上げられなかったらハウリア一族は全滅。

 俺らはどうでも良いが、生き抜くために死ぬ気で頑張るって話になった。そうだよな? それを"花"だの"虫達"だのと……ハハ、気が付かなかった俺の落ち度だ。戦い方を教えるとかそんなレベルじゃなかったんだよコイツらは……フフフ」

 

「コ、コウスケさん!? 一体どうしてしまったというのですか!?」

 血走った目と青筋を浮かべた顔で早口にそう言いながら不気味に笑うコウスケにハウリア族達はより一層ガタガタ震えを加速させる。

 

 

 

「今から貴様らは薄汚い〝ピッー〟共だ。この先、〝ピッー〟されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ! 今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみろ! 貴様ら全員〝ピッー〟してやる! わかったら、さっさと魔物を狩りに行け! この〝ピッー〟共が!」

 

 俺からの汚い暴言に硬直するハウリア族。そんな彼等に俺は容赦なく苦無を放つ。

 

 

 トンッ! トンッ! トンッ! トンッ! トンッ! トンッ! トンッ! トンッ! トンッ! トンッ!  

 

 

 

 顔のすぐ横や足下、股下を通っていく苦無に、ひぃー! と蜘蛛の子を散らすように樹海へと散っていくハウリア族。

 

 

「十匹は最低でも殺して持ってこい、"ピッー"共! 規定に達したものには睡眠をプレゼントしてやる。達しない者には寝る資格はない! 死ぬ気でやれ薄汚い"ピッー"以下の"ピッー"共が!」

 

 その日、あちこちで"ピッー"を入れなければいけない用語とハウリアの悲鳴や怒声、銃弾や苦無が飛び交ったのだった。

 

 

 霧が弱まるまで、残り八日間━━




注意として、遠藤君(転生者)は原作知識を重要な所以外、忘れかけています。迷宮での濃い体験をすれば一々細かい場所を覚えてられないでしょう?


さて、次は旅立つ所まで行きたいですね

それでは皆さんお休みなさい


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兎人族ハウリアの………

どうも皆さんこんにちは這いよる深淵よりです

えーとね……ハウリアは強いです!


これだけ……それではどうぞ!


 あれから九日間、俺と南雲によるハート◯ン式のハードな訓練で彼らハウリア族は見違える程に成長……いや、豹変した。

 

 今から三日前に、南雲と俺で別れて指導していた部隊を合流させ、一緒に訓練をした。南雲は俺が無理言って頼んだ武器を作成するために指導係から抜けてしまったので一人で調きょ━━指導するのは骨が折れたが、立派な戦士へと生まれ変わった……

 

 

(Lord)、お題の魔物……ハイベリアの尻尾です。お納めください」

 

 俺の目の前には魔物の尻尾が大量に積み重なり、殆どのハウリア族達が跪いている

 

「あ~いや、うん……よくやったな。でも俺は五人一組で二体ずつって言わなかったか?」

 

「……いえね? 途中でお仲間さんがワラワラ沸いてきやがりまして、しかもコイツら生意気にも殺意を向けてきやがったので……わからせてやったまででさぁ」

 

 そう答えたのはカムだ。始めに見た頃の温和な彼は何処へやら……南雲の訓練を受けて勇ましい顔つきと荒い言葉遣いになっている。

 

「そうなんですよ。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

 

「きっちり落とし前はつけました。一体たりとも逃してませんぜ?」

 

「ウザイ奴らだったけど、いい声で鳴いてくれたわねぇ……フフッ」

 

「見せしめに晒しとけばよかったか……」

 

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

 

 

 

 若い女性のハウリア族も刃の峰をチロリと舐めながら答え、四人のハウリア族も不敵に笑いながら答えた

 

 

「……おい」

 俺が指導した隠密部隊のハウリア族達に説明を求めると、一斉に土下座をしだした

 

(Lord)、申し訳ありません! 止めようとしたのですが……あの"ピッー"共、あろうことかハジメ殿(ボス)コウスケさん()が与えてくれた武器を体当たりで弾き飛ばしやがりましてッ! "どんな時でも冷静に"とのお言葉を無下に……まだまだ未熟でした!」

 

「ヤオ……いや、自分で気付けたんだ……成長したじゃないか」

 俺が指導した中でも選りすぐりで上位に入り込むこの男……ヤオの肩に手を当てて励ましの言葉を送る

 

「勿体なきお言葉……ですが(Lord)よ、俺の名前は〝幻武のヤオゼリアス〟とお呼びください。せっかく付けていただいたのです。どうか、この名で……」

 

 その言葉に、俺は頭を抱えて項垂れる

 

「くっそ、つい呼んじまった二つ名(厨二)がこんな面倒な事になるとは……」

 

 このような事になってしまった原因はつい二日前……ラナやヤオ、バル君の名前を聞いた時に、うっかりと二つ名(厨二)を呟いてしまったのだ。そのせいで興味を持って集まった全員に二つ名を付ける羽目になり、なりを潜めていた"深淵卿"が顔を出し、色々とやらかしてくれたのだ

 

 

「おーい、遠藤~」

 南雲がユエとシアを連れて此方に歩いてくる。シアは頬が緩みっぱなしで、デレデレしながら俺に手を振っている……と思ったら、バシュッと意外に早い速度で駆けてきた

 

「コウスケさん! 私も三人の旅に着いて行ってもいいでしょうか!?」

 

「あ? ……南雲とユエは━━」

 

「二人からは勿論、許可をもらいました!」

 

 

 ほう……と感心しながらもカム達と話している南雲にアイコンタクトを取ると、ため息をつきながら頷かれた。

 

「南雲とユエが納得してるんなら俺に確認しなくても良くないか? どんな理由でも二人が納得したなら俺は別に構わないしな」

 

 俺がそう答えると、シアは何故か納得のいっていないといった顔で俺をみる。

 

 ━━なんで? 

 

「私が着いていきたい一番の理由は……えっとぉ……その……」

 

 そこでシアは顔を真っ赤にしてモジモジしだした。

 

「いや、お前が来る途中……馬車に乗ってる時に俺達に協力したいからって宣言してたろ? それに元々、一族を離れる予定だったとも言ってたし、別にいわなくても━━」

 

「~~っ!!」

 

 え、なんでそんなにキッと睨むの? あれ……南雲とユエ、ハウリア族達がうわぁって感じの顔してるし……「うわぁ……」いや、実際に言いやがったけど!? 

 

「コウスケさんの傍にいたいからですっ! しゅきなのでぇ~!!」

 

 言っちゃった、そして噛んじゃった! と、あわあわしているシアを前に、俺は当然の反応で返す

 

「はぁっ!? なんでっ!?」

 

 

「気付いて無かったんですぅかぁ?!」

 

 気付かねぇよ! と言おうとかと思ったが、南雲とユエの呟きで遮られた

 

「鈍感ってレベルじゃねぇわアイツ……どう考えてもバッキバキにフラグ建てまくってたろ」

 

「……コウスケにも春が来た。私たちも遠慮せずイチャつける……!」

 

 フラグ? 

 えーと、シアをティラノ擬きから助けて……ハウリア族の窮地も南雲と二人で助けて……ハウリア族を処刑させないように立ち回って、ハウリア族を十日間かけて鍛えたと……わお

 

 

「いや……心当たりは無いわけでもないが、そんなの一時的にかも知れないだろ?」

 

「そんな事ないです! 私は……コウスケさんと一緒にいられるように、着いて行けるようにユエさんと特訓して強くなったんです!」

 

 

「……凄い頑張ってた」

 

 シアの言葉にユエが頷きながら肯定した

 

 

 俺は一体どうすればいいんだこれ……ティラノ擬きから救ったのは偶然だし、一族を助けたのも鍛えたのも必要だからだ。なにより俺は八重樫が好きだし━━

 

 そこで俺はやっと気づいた。

 

 なんか俺って"直感"で八重樫が俺に好意持ってるって知った時に、南雲のヒロインだからって理由で遠慮してたけどさ……別にしなくて良くない? 俺が奈落に落ちた時点でこの世界は原作と別物だし。

 

 八重樫に次会った時に告白しようと決めながら、シアに返事を返す

 

「着いてくるのは構わないが、俺には好きな人がいるから告白には応えてやれないぞ?」

 

 俺の勝手な行動のせいでフラグ建てたくせに断るなんてクズゴミ最低野郎だけどマジですまん。シアは嫌いじゃないし、好きだが……恋愛感情じゃないと思うんだよな。それに付き合う資格なんてないし……

 

 

「そうですか……でも、未来は絶対じゃないんです! 最悪、一番になれなくても二番目の大切な人になれれば十分です! 隙あれば本命を狙いますが!」

 

 シアの返答はというと……フラれてもそこまでショックではないようだ。しかも自分は二番目でも構わないと言っている……驚きで黙っていると、それに気がついたシアが笑みを浮かべながら理由を答えた

 

「"未来視"で結果をみて断られるのはわかってました」

 

「は? じゃあなんで━━」

 シアの言葉にさらに困惑していると続けて答えた

 

「知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

 "未来視"を持っている者だからこその言葉なのだろう。努力次第で未来を変えられると信じているようだ

 

「……一番は(……)絶対に無理だな」

 

(ロード)! 報告いたします!」

 

 突然一人のハウリア族が木の影から現れて、そう言った。どうやら残って監視をしていた者らしい

 シアは、(ロード)? と首をかしげ、今ごろ気がついたのか、カムや一族の様子を見て驚いている。

 

「リキか……どうした」

 

「私のことは"霧雨のリキッドブレイク"とお呼びください」

 

「……報告とは?」

 またそれか……と、思いながら続きを促す

 

「大樹へとルートに武装した熊人族の集団を発見! おそらく我々に対する待ち伏せと判断します!」

 

「わかった……よく見つけたな」

 

「はっ! 勿体なきお言葉!!」

 

(ロード)、我々にお任せ願えませんか?」

 

 南雲と話終え、カムが此方に歩いてきて言った

 

 

「大丈夫なのか?」

 

「はい、この十日での成長を試すいい機会ですので……」

 

「できるんだな?」

 

「勿論です」

 

「ならば任せよう」

 

 

「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 昨日を持って糞蛆虫を卒業したのだ! 新しき名を貰い受け生まれ変わった! お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 一人一人が最高最強の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない〝ピッー〟な熊共にそれを教えてやれ! 奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん! 唯の〝ピッー〟野郎どもだ! 奴らの屍山血河を築き、その上に最弱の部族の名を返上してやれ! ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明するのだ!」

 

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

 

「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「お前達の特技は何だ!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「敵はどうする!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

 

「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」

 

「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」

 

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」

 

 凄まじい気迫と共に霧の中に消えていくハウリア族達。その中でヤオを呼び、一言だけとある事を伝えるとヤオも走り去っていく。

 顔つきや目付き、言動など変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。

 

「……流石は遠藤だな」

 

「カム含めた強襲部隊はお前の教えが強すぎて抜けきってないから俺のせいじゃない」

 

 なんか南雲に全部俺がやった事にされそうだったので言い返す

 

 しくしく、めそめそと泣くシアだったが、一人の少年を見つけると、咄嗟に呼び止めた。

 

「パルくん! 待って下さい! ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ? 君まで行かなくても……お姉ちゃんとここで待っていませんか? ね? そうしましょ?」

 

 

 

 諦めきれないのか、信じられないようで、まだ幼い彼だけでも元の道に連れ戻そう呼び止めたらしい。生前(死んでないけど生まれ変わったって意味)好きだった綺麗な花を指差して必死に説得している。

 

 

 

 シアの呼び掛けに立ち止まった少年は、「ふぅ~」と息を吐くと肩を竦めた。

 

 

「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃあいませんぜ」

 

 

 ちなみに、パル少年は今年十一歳だ。

 

 

「ふ、古傷? 過去を捨てた? えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃないんですか?」

 

「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな"ピッー"な気持ちは」

 

「そんな、あんなに大好きだったのに……」

 

「ふっ、若さゆえの過ちってやつでさぁ」

 

 

 何度でも言おう、パル君は今年十一歳だ。

 

 

「それより姐御」

 

「な、何ですか?」

 

 

 ボーと、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシア。少年の呼び掛けに辛うじて返答する。

 

 

「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今は(ロード)に頂いた誇り高き名前がありやす。

 バルトフェルド……〝必滅のバルトフェルド〟と呼んでくだせぇ」

 

「誰!? バルトフェルドってどっから出てきたのです!? ていうか必滅ってなに!?」

 

「おっと、すいやせん。部下が待ってるのでもう行きます。では!」

 

「あ、こらっ! 何が〝ではっ! 〟ですか! というか部下ってなんですか!? まだ、話は終わって、って早っ! 待って! 待ってくださいぃ~」

 

 

 

 崩れ落ちたまま霧の向こう側に向かって手を伸ばすシア。答えるものは誰もいない、何故なら彼女の家族は皆、戦場に向かってしまったからた。ガックリと項垂れ、再びシクシクと泣き始めたシア。

 

 

 そんな彼女を微妙な表情でみたユエは、南雲に視線を転じるとボソリと呟いた。

 

 

「……流石ハジメ、人には出来ないことを平然とやってのける」

 

「いや、だから何でそのネタ知ってるんだよ……というか俺じゃない遠藤だ。遠藤が悪い」

 

「止めろコラ。俺は片方だけだろ、もう片方の部隊は二日くらいしか指導してないぞ」

 

「……二日でここまでの洗脳を……すごい」

 

「……いや、まぁ……うん」

 

「てか(ロード)って━━くくっ」

 

「……やるか? ボス」

 青筋を浮かべながら南雲に向き合いながら刀に手をかけ、キレ気味に言うと

 

「実際ボスっぽい役回りだしな俺、言われてもなんとも感じないな」

 ニヤニヤしながらホルスターに手を伸ばす南雲

 

 

 

 しばらくの間、ハウリア族が去ったその場には、シアのすすり泣く声と、戦闘音が響いたのだった。

 




いや~……よし、次は旅立ちかな?

シアの事に関しては……なんかすいません

後々良さげに直すと思うのでお許し下さい……

というか今まで20話以上投稿したのが無かったので、自分でも驚いてます。完結まで書きたいなぁ

表現力などが無くておなしな所がありますがとうかこの作品をこれからもよろしくお願いいたします!

次の話は明日までには投稿したいです

それでは次回お会いしましょう━━


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失敗は成長の元

UAが五万を越え、お気に入りが1105になりました!

見てくださってありがとうございます!


昨日に引き続き投稿できて良かったです。はやくミレディの所に行きたい……いや、八重樫と会わせたい!その前に先生達とティオか………

それではどうぞ~


 シアが一族(家族)のあまりにもな豹変ぶりに落ち込んでから数分……俺たちを必死に(それはもう命懸けで)止め、カム達が駆けて行った場所へと向かう

 

 

 

 

 さて、今頃彼らはどうなっているのか……

 

 ハウリア族達は俺と南雲による地獄のような特訓よって、身体能力向上は勿論のこと、敵を傷つけたり殺したりすることに戸惑いが無くなっている。元々優れていた気配の強弱の調整も俺の手によって何段階も成長させた

 更に一族全体を家族と称する程の絆を持ち合わせた連携が合わされば……勇者倒せるかな? まだ無理か

 

 

 そこに、俺の頼みで改造(強化)された南雲お手製の武器も色々あるのだ。……あれ? オーバーキルじゃないこれ……まぁ、大丈夫か

 

 

 そんな彼等が、たかが亜人最強(笑)の熊人族と戦ったとしたらどうなるか……

 

 

 

 そんなの目の前の戦闘光景を見ればわかるだろう……いや、戦闘光景じゃねぇなこりゃあ、一方的な蹂躙だわ。

 

 

「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」

 

「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」

 

「汚物は消毒だぁ! ヒャハハハハッハ!」

 

 

 ハウリア族の哄笑が響き渡り、複数の斬撃が急所へと的確に振るわれる。容赦なく命を刈り取ってくる一撃と"ピッー"を連呼している兎人族らしからぬ言動に動揺を見せてしまった熊人族は、情け容赦なく斬り伏せられている。

 

 熊人族の一人が頭に矢の狙撃を喰らって倒れると、聞き覚えのある声がした

 

 

 

 

 

 

「一撃必倒! 次もド頭吹き飛ばしてやりまさぁ! (Load)から頂いた〝必滅〟の名にかけて!」

 

 

 あんなに幼く可愛らしかった男の子のパル……必滅のバルトフェルド君だ。彼はヒゃははー! と、一人、また一人……と熊人族()を仕留めていっている

 

 

 因みに彼の最近の口癖になってしまった「一撃必倒」であるが、最初は「狙い撃つぜ!」が口癖だったのだ。それを、南雲に止められてしまい、忘れ去られた花への愛着が戻ってしまいそうになるほどに落ち込んでいた。

 

 そんなパル君化しかけていた彼を助言しに(パル君へと戻りかけていた少年の心を)現れたのが浩介であり〝必滅〟の名付け親も(厨二への闇沼へと陥れたのが浩介だ)浩介だ。

 

 

 この状況をみたシアは頭を抱えて「もう私の知っている一族(家族)はいないんですぅ」とぶつぶつ呪文のように唱え出してしまった。彼女に申し訳ない気持ちで同情しつつもスルーして、相手さん(熊人族)の出方を観察する……どうやらパニック状態に陥っているようだ

 

 

「レギン殿! このままではっ!」

 

「一度撤退を!」

 

殿(しんがり)は私が務めっグボォッ!?」

 

「トントォ!?」

 

 

 

 一時撤退を進言している部下に、族長を再起不能にされたばかりか部下まで殺られ、怒りと驚きで判断に迷い、指揮を執れていないレギン(部隊長(仮))。その判断の遅さを逃すほどハウリアのスナイパーは甘くはない。殿を申し出て再度撤退を進言しようとしたトントと呼ばれた部下のこめかみを矢が貫いた。

 

 

 それに動揺して陣形が乱れるレギン達。それを好機と見てカム達が一斉に襲いかかった。

 

 

 

 霧の中から矢が飛来し、足首という実にいやらしい場所を正確に狙い撃ってくる。それに気を取られると、首を刈り取る鋭い斬撃が振るわれ、その斬撃を放った者の後ろから絶妙なタイミングで刺突が走る。

 

 

 

 だが、それも本命ではなかく、その背後からハウリア族が現れ致命の一撃を放つ。どうやら教えた通りに連携と気配の強弱を利用してレギン(熊人族)達を翻弄できているようだ。

 

 

 

 しばらく粘ったレギン達だったが、混乱から立ち直る前に満身創痍となり武器を支えに何とか立っている状態まで追い込まれてしまった。

 

 連携と援護射撃を利用した波状攻撃に休む間もなく、全員が肩で息をしている。一箇所に固まり大木を背後にして追い込まれたレギン達をカム達が取り囲んでいる。

 

「流石だ。ここまでになるとは……成長したな」

 

 ホロリと涙を流しながら戦い(蹂躙劇)を見守る俺に南雲とユエが若干引いている。

 

「コウスケの隠れた技能は洗脳? ……それか本当に闇魔法の……」

 

「一人一人の気配の操作、攻撃の精度や戦略……元から良かった連携もここまでの域にするとはな。さすが遠藤━━」

 

 ユエの言葉に否定の言葉で返し、南雲の言葉にはカム達(教え子)と共に自分も誉められて気分を良くした……が、

 

「いやぁ……本当に俺にはできないなぁ……二つ名(厨二)も付けたりしてなぁ? 深淵卿様よぉ?」

 

「グフッ……てめぇ」

 どうやらそこにツボるようで、ニヤニヤしながら言う南雲に青筋を浮かべるて睨むが今は我慢する。手は打ってあるのでカム達の活躍を見るとしよう

 

 

「どうした〝ピッー〟野郎共! この程度か! この根性なしが!」

 

「最強種が聞いて呆れるぞ! この〝ピッー〟共が! それでも〝ピッー〟付いてるのか!」

 

「さっさと武器を構えろ! 貴様ら足腰の弱った〝ピッー〟か!」

 

 

 

 兎人族と思えない"ピッー"な罵声が浴びせられ、戦慄の表情を浮かべている熊人族達。

 

 中には全身をガタガタと震えさせ、涙目で「もうイジメないで?」と訴えて降参のポーズをとっている。当然、ヤオの手によって気絶(・・・)させられた

 

 

 

「クックックッ、何か言い残すことはあるかね? 最強種殿?」

 

 

 

 カムが悪人面で皮肉げな言葉を投げかける。跪いている熊人族を見下ろし、ニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべている。

 

 

 

「ぬぐぅ……」

 

 

 

 レギンは、カムの物言いに悔しげに表情を歪める。どうやらやっとで混乱からは立ち直れたようでその瞳には本来の理性が戻っているようだ。まだまだ怒りの炎は残っているものの、生き残っている部下たちだけでも存命させなければならないという責任感で正気に戻ったようだ。

 

 

「……俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、部下は俺が無理やり連れてきたのだ。見逃して欲しい」

 

「なっ、レギン殿!?」

 

「レギン殿! それはっ……」

 

 

 

 レギンの言葉に部下達がざわつき始めた。自分の命と引き換えに部下達の存命させるためだろう。動揺する部下達にレギンが一喝した。

 

 

 

「だまれっ! 俺はどうなってもいい。兎人……いや、ハウリア族の長殿よ。全ては同族を駆り立てた俺の責任だ。勝手は重々承知。だが、どうか、部下だけは見逃してくれ……頼む……」

 

 

 

 武器を手放し跪いて頭を下げるレギン。それを部下達は何も言えずに立ち尽くして見ている。必死に我慢しているのかプルプル震えている

 

 

 

 頭を下げ続けるレギンに対するカム達ハウリア族の返答は……

 

 

 

「……だが断る」

 

 

 

 という言葉と投擲されたナイフだった。

 

 

 

「うぉ!?」

 

 

 

 流石はこの場を率いているだけあって咄嗟に身をひねり躱すレギン。しかし、カムの投擲を皮切りに、一斉に矢やら石などが高速で撃ち放たれた。大斧を盾にして必死に耐え凌ぐレギン達に、ハウリア達は哄笑を上げながら心底楽しそうに攻撃を加えている。

 

 

 

「なぜだ!?」

 

 

 

 なんとか声を搾り出し、問答無用の攻撃の理由を問うレギン。

 

 

 

「なぜ? 貴様らは敵なのだ。 殺すことにそれ以上の理由が必要か? それに何より……貴様らの傲慢を打ち砕き、嬲るのは楽しいのでなぁ! ハッハッハッ!」

 

 

「━━なっ!?」

 

 

 カムの言葉通り、ハウリア達は実に楽しそうだった。

 突っ込んで首を断つだけで終わるものを、弓等の中遠距離武器を安全圏から嬲るように放ったり、小型ナイフを投擲するだけ……それをニヤつきながら行っているのだ。相手が苦しんでいるのを心から楽しんでいるように……懸念していたことだが、初めての人族、それも同胞たる亜人族を殺したことに心のタガが外れてしまったようだ。要は、完全に暴走状態ということだ。

 

 

 

 攻撃は更に激しくなり、レギン達は身を寄せ合って必死に耐えているが、もはや既に限界。致命傷を避けているというよりは避ける以前に致命傷になる攻撃がこないが満身創痍だ。次に攻められれば終わりだろう。

 

 

 

 カムが口元を歪めながらスっと腕を掲げる。ハウリア達も狂的な眼で矢を、石をつがえた。レギンは、諦めからか身体の力を抜いて目を瞑る。死ぬ覚悟をしたようだ

 

 

 南雲が仕方なくホルスターに手をかけようとしたところを手で制してとめる。

 そうこうしているうちにカムの腕が振り下ろされ、一斉に放たれる矢と石。瞬間、俺らの横でをシア(何か)が、バヒュッ! と横切った。そして━━

 

 

 

「いい加減にしなさぁ~い!!!」

 

 

 

 ズドォオオン!! 

 

 

 

 白き鉄槌が全てを吹き飛ばした

 

 

 

「は?」

 

 

 

 思わず間抜けな声を出してしまうレギン。だがそれは無理もないだろう。何せ、死を覚悟した直後、目の前に一瞬で青白い髪のウサミミ少女が現れ、槌を地面に叩きつけてクレーターを作ったのだ。しかもその際に発生した衝撃波で飛んできていた矢や石を吹き飛ばしたのだ

 

 

 登場したのは、もちろんシアである。振り下ろした槌をヤンキーのように肩に持っていき、トントンしている。たしかあの槌は南雲が作った見た目によらず相当な重量を誇っているのだが、まるで重さなど感じさせずブオンッと振り回し、ビシッとカムに向かって突きつけた。

 

 

 

「もうっ! ホントにもうっですよ! 父様も皆も、いい加減正気に戻って下さい!」

 

 

 

 そんなシアに、最初は驚愕で硬直していたカム達だが、ハッと我を取り戻すと責めるような眼差しを向けた。

 

 

 

「シア、何のつもりかは知らないが、そこを退きなさい。後ろの奴等を殺せないだろう?」

 

「いいえ、退きません。これ以上はダメです!」

 

 

 

 シアの言葉に、カム達の目が細められる。が、そこでまた新たな乱入者が数名ほどシアの両隣へと現れた。

 その乱入者とは、俺がハウリア族達が移動を始めている時に呼び止めたヤオ達だ。

 

「ええ、退くことはできませんな族長……いいえ、"深淵蠢動の闇狩鬼カームバンティス・エルファライト・ローデリア"」

 

「狂った仲間を正しき道に導くのは当然のことよ」

 

「ヤオさん、それにラナさ……というか深淵蠢動って何!?」

 

「シアだけでなく、"幻武のヤオゼリアス"、〝疾影のラナインフェリナ〟……狂った仲間とはどちらの事だ? 

 我らの邪魔をし、敵対しているのはお前たちではないか」

 

 

「敵対? いえ、別にこの人達は死んでも構わないです」

 

「その通り、この"ピッー"共はどうでもいい」

 

「ええ、問題なのはこの"ピッー"共ではないわ」

 

「「「「どうでもいいのかよ!?」」」」

 

 

 てっきり助けに来てくれたのだと考えていた熊人族達は、シア達にツッコミを入れる。

 

 

「当たり前です。殺意を向けて来る相手に手心を加えるなんて心構えでは、ユエさんの特訓には耐えられません。私だって、そんな甘い考えは既に捨てました」

 

「ふむ、では何故止めたのだ?」

 

 

 カムが尋ねる。ハウリア族達も怪訝な表情だ。

 

 

「これは相当に重症だな」

 

「シア、貴女の口から教えてあげなさい」

 

「はい! お二人に代わって言わせてもらいますが、今の父様達が正気ではないからです! このまま止めなかったら戻ってこれない所まで堕ちてしまうからです!」

 

「我らが正気ではない? 堕ちてしまう?」

 

 

 

 どうやら本当に気がついていないようで、訳がわからないという表情のカムにシアは言葉を続ける。

 

 

 

「そうです! 思い出して下さい。ハジメさんやコウスケさんは一旦敵だと認識すれば容赦しませんし、問答無用で、無慈悲ですが、魔物でも人でも殺しを楽しんだことはなかったはずです! 訓練でも、敵は殺せと言われても楽しめと言っていましたか!?」

 

「い、いや、我らは楽しんでなど……」

 

「……今、父様達がどんな顔しているかわかりますか?」

 

「顔? いや、どんなと言われてもな……」

 

 

 

 シアの言葉に、周囲の仲間と顔を見合わせだすハウリア族。一呼吸置いたシアは続きを話す

 

 

 

「……まるで、私達を襲ってきた帝国兵みたいです」

 

「ッ!?」

 

 

 

 実の娘から告げられた衝撃の言葉に瞳に宿った狂気が吹き飛んだらしい、武器を落として頭を抱える。家族を奪った帝国兵(彼等)と同じといわれてしまい、耐え難いショックを受けているようだ

 

 

「シ、シア……私は……」

 

「ふぅ~、少しは落ち着いたみたいですね。よかったです。最悪、全員ぶっ飛ばさなきゃいけないかもと思っていたので」

 

 

 

 シアが大槌をフリフリと動かす。シアの指摘と、ついでに大槌の威容に動揺しているハウリア達に、シアが少し頬を緩める。

 

 

「まぁ、初めての対人戦ですし、今、気がつけたのなら、もう大丈夫ですよ! 大体、ハジメさんやコウスケさんも悪いんです! 戦える精神にするというのはわかりますが、あんなのやり過ぎですよ! それに変な二つ名? も付けて恥ずかし━━」

 

 

 

 今度は、南雲と俺に対してぷりぷりと怒り出すシア。その背後では熊人族がどさくさ紛れて逃げようとしていた。当然、逃がすわけがない

 

 

 苦無を当てて止めようかと思ってぶん投げるが、それよりも少し速く一発の銃弾が飛んでいく

 

 

 シアの背後で「ぐわっ!?」という呻き越えと崩れ落ちる音がする。そう言えば、すっかり存在を忘れていたとシアとカム達が慌てて背後を確認すると、額を抑えてのたうつレギンの姿があった。

 

 

 

「なにドサクサに紛れて逃げ出そうとしてんだ? 話が終わるまで正座でもしとけ」

 

 

 

 流石に速撃ちには勝てなかったようで南雲がレギン達に銃撃したようである。但し、何故か非致死性のゴム弾だったが。俺の苦無はレギン()が倒れてしまった事で背後の木にトンっと突き刺さった

 

 

 

 ハジメの言葉を受けても尚、逃げ出そうと油断なく周囲の様子を確認している熊人族に、ハジメは〝威圧〟を仕掛けて黙らせた。ついでに俺の"影操術"で木に吊っておく。そんな彼等を尻目に、シア達の方へ歩み寄る南雲とユエ

 

 

 

 南雲はカム達を見ると、若干、気まずそうに視線を彷徨わせ、しかし直ぐに観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にした。

 

 

 

「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」

 

 

 

 ポカンと口を開けて目を点にするシアとカム達。まさか素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があった。

 

 

 

「ボ、ボス!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」

 

「メディーック! メディ──ク! 重傷者一名!」

 

「ボス! しっかりして下さい!」

 

 

 

 故にこういう反応になる。青筋を浮かべ、口元をヒクヒクさせる南雲

 

 

 

 今回のことは南雲自身、自分のミスだと思っていたようで、ちゃんと謝罪をしたのだが……帰ってきた反応は正気を疑われるというものだった。南雲はキレかけるものの、グッと我慢したようだ。

 

 

 

 取り敢えずこの件は脇に置いておいて、レギンのもとへ歩み寄ると、その額にドンナーの銃口をゴリッと押し当てた。

 

 

 

「さて、潔く死ぬのと、生き恥晒しても生き残るのとどっちがいい?」

 

 

 

 南雲の言葉に、熊人族よりもむしろハウリア族が驚きの目を向ける。セリフからして場合によっては見逃してもいいと聞こえるからであろう。俺としては殺さなかった時点で何かしらあると思っていたが……ようやく合点がいった。カム達は意図に気がついていないようで、「やはり頭を……」と悲痛そうに言うので南雲の額に青筋が量産されていく。

 

 

 

 レギン(彼ら)も意外そうな表情で南雲を見返した。ハウリア族をここまで豹変させたのは間違いなく眼前の男だと確信していたので、その男が情けをかけるとは思えなかったのだろう。

 

 

 

「……我らを生かして帰すというのか? だが、無条件で返すとは思えぬ……望みはなんだ?」

 

「ああ、察しがよくて助かる 一つ、伝えてほしい事があるだけだ」

 

「伝えてほしい事だと?」

 

 

 

 見逃す条件が伝言だと知り、レギンのみならず周囲の者達が一斉にざわめきだした。「頭を殴れば未だ間に合うのでは……」「んじゃあ俺はデコピンかな~」シアに混じって俺もふざけて提案すると、カム達が賛同しはじめた。

 

 

 

 ハウリア族達にはキツイ仕置をすることを確定として、察しておきながら先程のお返しとばかりに妙な提案をし、話をややこしくしている遠藤(バカ)を殴りたい心を落ち着かせ、頑張ってスルーするハジメ。

 

 

 

「ああ、そうだ。〝貸一つ〟とだけな」

 

 

「……ッ!? それはっ!」

 

 

「で? どうする? 引き受けるか?」

 

 

 

 伝言の意味を察したようだ。〝貸一つ〟それは、襲撃者達の命を救うことの見返りに何時か借りを返せということだ。

 今回のレギンの事を含め、ジンの場合も一方的に仕掛けておいたにも関わらず返り討ちにあい、今回は命を見逃して貰うのだ。長老会議で不干渉を結んだ事になっており、伝えれば長老衆は無条件で南雲の要請に応えなければならなくなる。最悪、南雲や俺と事を構える事態になる

 

 長老会議の決定を無視した挙句、負債を背負わせる、しかも最強種と豪語しておきながら半数以上を討ち取られての帰還……南雲の言う通りまさに生き恥だ。

 

 

 流石は未来の魔王、殺さなかったのは未だに詳細が分からない七大迷宮の詳細がわからない以上、口伝で創設者の言葉が未だに残っているくらいなので用事が出来るかもしれない……という万一に備えての保険のようなものだった。

 

 だが、そこで終わらないのがハジメクオリティー、表情を歪めるレギンに追い討ちをかける。

 

 

 

「それと、あんたの部下の死の責任はあんた自身にあることもしっかり周知しておけ。ハウリアに惨敗した事実と一緒にな」

 

「ぐっう」

 

 

 己の引き起こした事で仲間の多くを無くし、長老方にも迷惑をかけようとしている始末、頭を抱えて悩むレギンに、南雲は容赦なくゴリッと銃口を押し付け、選択を迫る。

 

 

 

「五秒で決めろ。オーバーする毎に一人ずつ殺していく。〝判断は迅速に〟。基本だぞ?」

 

 

 

「イーチ、ニー、サーn━━」

 

 

「わ、わかった。我らは帰還を望む!」

 

「そうかい。じゃあ、さっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」

 

 

 

 南雲の全身から、強烈な殺意が溢れ出す。もはや物理的な圧力すら伴っていそうだ。ゴクッと生唾を飲む音がやけに鮮明に響く。

 

 

 

「その日がフェアベルゲンの最後だと思え」

 

 

 

 悪魔の……いや、魔王の所業に俺の隣にいるハウリア族から、「いつも通りのハジメさんに戻りましたね! コウスケさん!」とか「ボスが正気に戻られたぞ!」とか妙に安堵の混じった声が聞こえ、南雲の顔が物凄い事になっている。必死に耐えているようだが我慢の限界のようだ

 

 

 

 暗い表情で霧の向こうへと熊人族達が消えていき、それを見届けると……南雲はくるりとシアとハウリア族の方を向く。

 もっとも、俯いていて表情は見えない。が、カム達は狂喜に落ちしまった事の弁明をするために土下座をしていて、その雰囲気に気がついていない。シアだけが、「あれ? コウスケさん? これってヤバいやつじゃあ……いない!?」と冷や汗を流している。

 

 勿論、俺を含めた数名のハウリア族は、とばっちりを喰らわないよう瞬時に離脱している

 

 

 南雲がユラリと揺れながら顔を上げた。その表情は満面の笑みだ。だが、細められた眼の奥は全く笑っていなかった。しかも口元がヒクついている。返事がなかったボスを不審に感じたカムが顔を上げ、ようやく様子がおかしいと気づいたカムが恐る恐る声をかける

 

 

 

「ボ、ボス?」

 

「うん、ホントにな? 今回は俺の失敗だと思っているんだ。短期間である程度仕上げるためとは言え、歯止めは考えておくべきだった」

 

「い、いえ、そのような……我々が未熟で……」

 

「いやいや、いいんだよ? 俺自身が認めているんだから。だから、だからさ、素直に謝ったというのに……随分な反応だな? いや、わかってる。日頃の態度がそうさせたのだと……しかし、しかしだ……このやり場のない気持ち、発散せずにはいれないんだ……わかるだろ?」

 

「い、いえ。我らにはちょっと……」

 

 

 

 カムも「あっ、これヤバイ。キレていらっしゃる」と冷や汗を滝のように流しながら、ジリジリと後退る。ハウリアの何人かが訓練を思い出したのか、既にガクブルしながら泣きべそを掻いていた。

 

 

 

 とその時、「コウスケさんHelp!」と、シアが一瞬の隙をついて俺の下へと移動しようとしたが、(何か)に足を捕まれ、顔面から地面に激突して気絶した。

 

 

「━━よし、助けた」

 

 二つ名のことを根に持っていたので、憂さ晴らしが済んだことで満足気な顔になった俺を見て、ドンナーを構えていた南雲はチッと舌打ちをするとホルスターに戻し、両手をポキポキ鳴らすと━━怒声と共に飛び出した。

 

 

 

「取り敢えず、全員一発殴らせろ!」

 

 

 

 わぁああああ──!! 

 

 

 

 ハウリア達が蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。一人も逃がさんと後を追う南雲。しばらくの間、樹海の中に悲鳴と怒号が響き渡った。

 

 

 

 後に残ったのは、地面に突っ伏して動かなくなったシアと、

 

 

 

「……何時になったら大樹に行くの?」

 

 

 

「全員殴り終わったらじゃないかな?」

 

 

「「「「「「「(Load)でよかった」」」」」」」

 

 

 蚊帳の外だったユエの疑問の言葉と俺の返事、そして一時離脱していたハウリア族が浮かべる安堵の表情だった

 

 

 

 




次はやっとで大樹かな

飛ばして旅立ちにしちゃおうかなー

あと、活動報告で色々と募集しているので、覗いてみてください


それでは次の話で会いましょう!

ではでは~


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旅立ち

いや~昨日は日間のランキング入れて嬉しかったです。お気に入りも1400を越えました。とても嬉しいです!

少し時間をかけてしまいました。すいませんでした!


FGOの誘惑がありますが、きっちり書くのでよろしくお願いします!

それではどうぞ!


 深い霧の中、俺たちは大樹に向かって歩みを進めていた。先頭をカムに任せ、他のハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。一部を除き、全員もれなくコブか青あざを作っているのは自業自得なので気にしなくていいだろう

 

 

「酷いですよぉ~! コウスケさん~!」

 

 

 気絶から復活したシアは先程から恨みがましい視線と共に文句をたらたら言っている。元々はシアの一言が原因なので……

 

 

「正直言って鬱陶しい」

 

「鬱陶しいって、あんまりですよぉ。わ・た・し! 顔面から地面に激突したんですからね!」

 

「チッ……声に出てやがったか」

 激突したわりに目立ったケガが無いことに少し驚きつつも、自然と声が出ていたことに舌打ちする

 

 

「あ~! 今、舌打ちをしましたね! もうす━━」

 続きを話そうとするシアだったが、俺は影を操って口を塞いだ。まだ、ん゛~!! と喧しいがマシだと諦めた

 

 

「……つーかシア(アイツ)、遠慮なしの本気で俺の事をぶん殴る気でいたんだが……」

 

「……シアは私が鬼のように指導したから」

 

「……そうかい」

 

 

 

 えっへん! と、無い胸を張ってドヤァしながら南雲を見るユエ。南雲は、ため息をつきながらも頭を撫でる。ユエは気持ち良さそうだ。

 

「……!! ……ん゛ん゛~~!!」

 二人の様子を見て目を輝かせると、俺の手を取り自分の頭へと持っていこうとするシア。それが、あの日の夜の八重樫(彼女)と重なり……

 

 

「……チッ」

 振り払おうとした手は彼女(シア)の意思通りに頭に乗せられ、動揺からか、お喋りを封じていた影を解いてしまった

 

「……あれ?」

 てっきり振り払われると思った手で頭を撫でられている事に気付いたシアは顔を真っ赤にして、デレデレと頬が緩んでいる

 

「えへへへぇ~」

 

 あの日の事を想いながらシアの頭を撫でるのは悪いと思い、止めようとするがシアの幸せそうな顔を見てしまって、これはシアへのご褒美だと思うことにして少しの間ウサミミも堪能したのだった

 

 

 二組のカップル(俺は断じて違う)はイチャイチャ(何度でも言うが俺は違う)しながら進むこと十五分。カム含めたハウリア族のニヤニヤ顔を耐えきり、遂に大樹の下へたどり着いた。

 

 

 

 大樹を見た南雲の第一声はというと、

 

 

 

「……なんだこりゃ」

 

 

 

 という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。俺もフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していただけに、拍子抜けだった

 

 

 

 そう、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。

 

 

 

 大きさに関しては想像通り途轍もなく、明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を生やしているのに対し、大樹だけが枯れ木となっている。

 

 

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

 

 

 俺達の疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながら南雲は大樹の根元まで歩み寄った。そこにあったのは、アルフレリックが言っていた通りの石板が建てられていた。

 

 

 

「これは……オルクスの扉の……」

 

「……ん、同じ文様」

 

 

 

 石版にあった模様は、オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。南雲は確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。

 

 

 

「やっぱり、ここが大迷宮の入口みたいだな……だが……こっからどうすりゃいいんだ?」

 

 

 

 南雲は大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いたりしているが、当然変化などなかった。カム達に聞いてみたりしてみたが、返答はNOだった。直感で今は(……)この迷宮には挑戦できないと分かっている。それは原作知識とも一致しているので確かだ。

 

 

「南雲~この迷宮は駄目だ。直感で分かったが挑戦できないとよ」

 

 これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始めていた南雲だったが、俺の言葉に此方を向くと一言

 

「マジかよ……」

 

 

 その時、石板を観察していたユエが声を上げる。

 

 

 

「ハジメ……これ見て」

 

「ん? 何かあったか?」

 

 

 

 ユエが注目していたのは石板の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。

 

 

 

「これは……」

 

 

 

 南雲が、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 

 

 

 すると……石板が淡く輝きだした。

 

 

 

 何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も次第に集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、徐々に光が収まると、代わりに文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 〝四つの証〟

 

 〝再生の力〟

 

 〝紡がれた絆の道標〟

 

 〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

 

 この四つは、迷宮に挑戦するための条件……手順だったか? まぁいい……確か一つ目は四つの迷宮をクリアすればいい筈だ。再生の力は神代魔法の一つだったな……紡がれた絆の道標は確か、案内人の亜人族が必要……三つ目はともかく、この場所以外の迷宮を三つクリアしてこなければいけないのだ。

 

 

「……どういう意味なんだこれ?」

 

「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」

 

「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」

 

 

 

 頭を捻る南雲にシアが答える。

 

 

 

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうかって事じゃないですか?」

 

「……なるほど。それっぽいな」

 

「……あとは再生……私?」

 

 

 

 ユエが自分の固有魔法〝自動再生〟を連想し自分を指差す。

 

「違うな……多分だが他の迷宮の再生に関する神代魔法

 なんだろう。それで枯れ果てた大樹を甦らせれば試練を受けられるんじゃないか?」

 

 

「なるほどな……はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことかよ……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」

 

「ん……」

 

 

 

 ここまで来て後回しにしなければならないことに歯噛みする南雲。ユエも残念そうだ。しかし、大迷宮への入り方が見当もつかない以上、悩んでいても仕方ないので、気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れることにする。

 

 

 

 

 

「集合!」

 号令をかけると、ハウリア族は一瞬で俺たちの目の前に現れ、綺麗に膝をつくと頭を下げる。

 

「聞いていただろうが、俺達は、先に他の大迷宮の攻略をしにいくことになった。大樹の下へ案内するまで守るという契約も破棄される。しかし、お前達ならば……もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

 取り敢えずこんなもんか……と、シアに別れをするんなら今だぞ? と目で促す。

 シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。

 

「とうさ「ボス! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは……」

 

 

 

 シアの呼びかけをさらりと無視してカムが立ち上がり、一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。横で自分の娘が「父様? ちょっと、父様?」と声をかけているのにも関わらず真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。

 

 

 

「あ~、何だ?」

 

 

 

 父様? 父様? と呼びかけているシアを無視する方向にして南雲はカムに聞き返した。カムは、シアの姿など見えていないと言う様に無視しながら、意を決してハウリア族の総意を伝える。

 

 

 

「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」

 

「えっ! 父様達も私たちの旅に付いて行くんですか!?」

 

 

 

 カムの言葉に驚愕を表にするシア。

 

 

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボス……そして(Load)の部下であります! 是非、お供させて頂きたく!」

 

「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」

 

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

 

「ぶっちゃけっ!? 父様がぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!?」

 

 

 

 カムが着いて行きたい旨を声高に叫び、シアがツッコミつつ話しかけるが無視される。そんな状況に少し動揺しつつも南雲が答える

 

 

「却下だ」

 

「なぜです!?」

 

 

 南雲の当然すぎる返答に身を乗り出して理由を問い詰めてくるカム。他のハウリア族も気付けば間近に迫っていた。

 

 

「足でまといだからに決まってんだろ」

 

「……し、しかしっ!」

 

「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百四十日くらい早いわ!」

 

「具体的!? ですが、そこをどうか━━」

 

「んじゃあこうしようぜ。次に大樹に来た時までにカム達は鍛練して己を鍛え、それで使えるようなら部下として手伝わせる。でいいんじゃないか?」

 

 

 

 食い下がろうとするカム達に向けて一つ提案する。このままだと隠れて着いてきそうな勢いなので、妥協案として条件を出した。ついでにヤオ達に目配せしておく

 カムは納得顔で頷くと、瞳をギラつかせて俺の言ったことを確認してきた

 

 

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

 

「ないよ……南雲もそれでいいだろ?」

 

「……まぁ、いいか。次来たときに使えるようなら考えてやらんでもない」

 

「……わかりました。おっしゃあ! 聞いたかお前ら! 次にボス達が来た時までに、今よりも強くなって絶対にお供するぞ!」

 

「「「「「「ウオオオオォォォ!!」」」」」」

 

 

 早速鍛練だ! と、去っていくカム達(教え子達)、それを頬を引きつらせながら見守る南雲。すると、俺の目の前に二人のハウリア族が現れた。ヤオとラナだ

 

「お前ら……鍛練を怠るなよ。それと、南雲の二つ名(例のアレ)頼んだぞ」

 

「はい! どうかお任せください! ハウリア族総出で事にかからせて頂きます!」

 

 

「一体何を頼んだんだ?」

 

 例のアレについて気になったのか南雲が聞いてきた

 

 

「ハウリア族の士気を上げる為に少々……な」

 

 

「それでは失礼します」

 

 シュバッ! タッタッタッ! と走り去っていく二人……というかラナは何をしに来たんだ? 何か言いたがっていたようだが……

 

 

「ぐすっ、私のお別れの言葉も聞いてくれない……旅立つっていうのにあんまりですぅ」

 

 

 

 流石に可哀想なので、体育座りでイジけているシアに近づくと「ドンマイ」と一言だけ慰めの言葉をかけた

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 樹海の境界でカム達の見送りを受けた俺たちは、現在、俺とシアは影で作ったバイクに、南雲とユエは魔力駆動二輪に乗って平原を疾走していた

 

 

 

 やたら胸を背中に押し付けながら抱きついているシアが背中越しに質問する。

 

 

 

「コウスケさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

 

「ん? あぁ、そういえば言ってなかったな……次の目的地はライセン大峡谷だ」

 

「ライセン大峡谷?」

 

 

 

 俺の告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】だ。確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのだろう

 

 

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われてるんだ。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだから後回し、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが……どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら途中で迷宮を一つクリアしちゃおうかなと」

 

「そ、それって……ついででライセン大峡谷を渡るってことなんですが……」

 

 

 どうやら"ついで"感覚でライセンを通る事が信じられないようだ。不安そうに抱き締めている腕の力を少し強くした。

 

「……シア、お前はもう少し自分の力に自信を持て。今のお前なら此処らの魔物ぐらい問題なく対処できる。それにライセンは放出された魔力を分解する場所だ。身体強化に特化したお前は何ら問題なく動ける……言わば独壇場だ。南雲とユエは知らんが、俺はシアに期待してるんだからな?」

 

 

「……はいぃぃっ! 頑張りますぅ!」

 

 

「おう、ヘマしてもちゃんと助けてやるから安心しろよ。お前はもう立派な仲間なんだし」

 

 

 俺の言葉に無言になったかと思えば何故か慌てて質問してきた

 

「~っ! そ、そういえば今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行くんですか?」

 

 

「いや、色々やることあるし南雲が町にしようって言ってな。俺らが向かってる方角に町があるらしい。まともな料理が早く食いたいぜ」

 

 

 買い物するには金銭が必要だが、俺らは無一文。しかし素材は南雲が宝物庫へ大量に収納しているので、それを売って金にするから問題なし……問題なのは向かってる町にサーモンサンドがあるかどうか……

 

 

 

「はぁ~そうですか……よかったです」

 

 

 

 俺の言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。気になったので「どうした?」と聞き返す。

 

 

 

「いやぁ~、ハジメさんとコウスケさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんもハジメさんの血があれば満足でしょうし。お二人はまともな料理も食べるんですね!」

 

「当たり前だろ! 美味しいからって食べてる訳じゃねぇのによ。全く俺らの事をなんだと……あ、そうだ首輪を」

 

 

「ちょ、なんですかそれ!? どっから出したんですかっ、その首輪! ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~」

 

 

 

 

 

 

 数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。奈落から出て何ヵ月かぶりの町に自然と頬が綻ぶ、わくわくした気持ちを抑えつつ、ステータスプレートの隠蔽をしなければいけない事を南雲に伝えた

 

 

 

 




よぉーし、頑張って続き書くぞ~!(徹夜確提)


この先の展開が自分の中で決まってきたので、ペースを上げて書けるように頑張ります!


次回、シアとのデート!(嘘)お楽しみに!


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ブルックの町

遅れまして、すいません

早めにライセンの迷宮行きたかった……

それでは、どうぞ!


 しばらく進み、町まですぐ近くになったところでバイクから降りる。南雲の方も魔力駆動二輪を宝物庫にしまった。俺も宝物庫欲しいなあ……と思いながら町の外観を眺める。

 

 周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町で、街道に面した場所に木製の門がある。その傍には小屋があるので、門番の詰所だろう。

 

「うふふ……えへへへ~~」

 

「おい遠藤……どうしたんだコイツ、にやにやと気持ち悪い」

 

「おおシアよ、乗り物酔いでおかしくなるとは情けない」

 

「おっと突っ込まないぞ。いやな? これから町に入る訳なんだが……兎人族(シア)がただ出歩いていたら面倒なことになるからって南雲に首輪を貰ったろ? あれを付けてやったら……」

 

「こうなったわけか……こんな性能つーかデメリット付けた覚えは無いんだけどな」

 

「嫌がってたから首輪を付ける理由を教えただけなんだが━━」

 

「よしわかった……遠藤、バカウサギに話した内容を言え」

 

 

 話してる途中……意味が分かったらしい南雲からそう言われ、俺はシアを説得する為に話した内容を伝えた

 

 

 

 

 ~遡ること数分前~

 

「なんで首輪なんてつけようとするんですぅ~?! 私たち仲間じゃなかったんですかぁ~」

 

「仲間だからこそだ。奴隷でもない亜人のお前が町を歩けるわけないだろ?」

 

「うぅ……ですがぁ」

 

 

「それにお前は兎人族、鬱陶しいのが欠点だが、可愛いしスタイルも魅力的だ。こうでもして(首輪でもつけて)周囲にわからせないと面倒なことになるんだよ」

 

 シアear

(大事な仲間だからこそ、可愛くて魅力的なシアが誰のものか分からせる為に首輪(の証)をつけないと心配で町も出歩かせられないんだよ)

 

 

「も……もう何を言い出すんですかぁ~可愛いとか魅力的だとか━━」

 

「まぁ……事実だからなぁ(鬱陶しいっての聞こえてないのか?)」

 

「えへへ」

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「よし、ステータスカードの隠蔽おわり。遠藤もちゃんとやっとけよ~」

 

 どうやらスルーすることにしたらしく、どんどん歩いていく……その二人を見た俺も面倒なので放っておくことにした、とりあえずステータスを……ん? 

 

 =============================================================

 

 遠藤浩介 17歳 男 レベル:??? 

 

 天職:暗殺者

 

 筋力:11517

 

 体力:13452

 

 耐性:10824

 

 敏捷:13727

 

 魔力:14986

 

 魔耐:14986

 

 

 

 技能:暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+伝振][+遁術][+深淵卿][+操影術]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][夢幻Ⅲ][+顕幻][+滅心]・影舞[+水舞][+木葉舞]・直感[+????]・魔力操作[+魔力放出][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠目・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐怖耐性・全属性耐性・先読・金剛・威圧・念話・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

 

 =============================================================

 

 直感の派生技能? しかも技能名が[+????]ってどうなってる? 

 

 "直感"は()からの特典、って事は絶対的にあのクソ()の仕業だ。たく、どんな力か分からないってのに、追加したんなら説明してほしい(・・・・・・)

 

 ステータスプレートの説明を見ても全て?になっているので、どんな力なのか全くわからない。こんな面倒な事をしてくれた犯人であろうクソ()に苛立っていると、急に頭の中に文字が浮かんできた

 

 

 {[+????]は、一日に二回まで使用できます。

 この力は使用者の疑問に思った事や知りたい事をある特定のものを除いて知れるもの、二回目からは膨大な魔力が必要になる。

 

 使用方法・念じる}

 

 え、なにこれ……俺が説明しろって思っ(念じ)たから使えた感じ? 

 

 ……まぁいいや、それより早く行かないと

 

 

 

 

 急いでステータスを隠蔽すると、南雲とユエよりも少し遅く町の門までたどり着いた。予想通り、門番の詰所だったらしく、武装した男と南雲が話をしていた。

 

 

「えーと、いいのか? ……それじゃあ、ステータスプレートを見せて、町に来た目的を教えてくれ」

 

 

 

 急いで正解だった、どうやら待っていてくれたらしい。俺が来たのを確認した南雲は門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

 

 

 

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

 

 

 

 ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男が南雲のステータスプレートをチェックする。

 普通ならば南雲の化け物染みたステータスに驚愕するだろうが、そんなことにはならない

 

 

 理由は簡単、先ほど俺が言ったようにステータスプレートには、ステータスの数値と技能欄を隠蔽する機能がある。冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。

 

 

「よし……次は━━」

 

(気づいて無いよなぁ)……すまんが、俺のも頼む」

 

「……は? うおっ!? い、一体どこから!?」

 

 

 南雲のプレートを返すと、俺を無視してユエの方に顔を向けたので何時もの落ちで気がついてないのだと判断して声をかけると予想通りの結果で、門番が驚いている

 

 

「……俺は暗殺者だからさ、気配を自然と消しちまうんだ。驚かせたようですまなかったな」

 

「そ、そうだったのか。なるほど……よし、大丈夫だ。

 ……で、後ろの二人のプレートは?」

 

 

 門番がユエとシアにもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエとシアをみている。門番の男は二人に見惚れて正気を失っているようだ。

 

 

 

 南雲がわざとらしく咳払いをする。それにハッとなって慌てて視線を南雲に戻す門番。

 

 

 

「━━連れは、その……魔物の襲撃のせいで失っちまってな、こっちの兎人族は……わかるだろ?」

 

 

 

 その言葉だけで門番は納得したのか、なるほどと頷いた

 

 

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外に金持ち?」

 

 

 

 未だチラチラと二人を見ながら、羨望と嫉妬の入り交じった表情で門番が南雲に尋ねる。南雲は肩をすくめる

だけで返した。

 

 

 

「まぁいい。通っていいぞ」

 

「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」

 

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

 

「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」

 

 

 

 門番から情報を得て、門をくぐり町へと入っていく。門のところで確認したところ、この町の名前はブルック。久しぶりの町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ていた。

 

 ━━ホルアドか、そういや八重樫と買い物行ったことあったな……八重樫が今なにをしてるのかとかってわかるのか? 

 

 気になったので、"八重樫は今なにをしている? "と念じてみると、また頭の中に文字が浮かび上がってきた

 

 [八重樫雫は、天之河光輝、白崎香織、坂上龍太郎ほか数名とパーティーを組み、【オルクス大迷宮】で魔物と戦っています。]

 

 

 頑張ってるなぁ~なんて思っていると、急激な脱力感に襲われて倒れそうになる……それをなんとか踏ん張り、奥歯に仕込んだものを噛んで神水を摂取する。心配した様子でシアが聞いてきた

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、いつの間にか追加されてた"直感"の派生技能を使ってみたんだが……どうやら魔力を一気に持ってかれたようでな」

 

「"直感"の派生技能?」

 

「ほれ」

 

 

 気になっているようなのでプレートを投げて渡す。南雲はそれを受けとるとプレートを見て訝しげに俺を見る

 

「……ん? これはどういう技能なんだ?」

 

「えーとな……疑問に思ったことや知りたいことを念じるだけで知れる技能だってよ。一日に二回しか使えなくて、二回目は一回目とは違って"デメリット"として魔力を大量に消費するらしい」

 

「……ん? ということは、もう二回使ったのか?」

 

「一回目はこの技能について考えてたら頭の中に使い方が思い浮かんでな。二回目は八重樫が何してるのかな~と」

 

「そんなことで倒れそうなほど魔力使うなよ……」

 

「ハジメ……好きな人がなにをしてるのか気になるのはしょうがない」

 

 

 呆れて言う南雲に珍しくユエが弁護してくれた。その後ろでは初めて聞く名前にシアが困惑し、俺の好きな人と聞き、俺に詰め寄ってきた

 

「こ、コウスケさん!? なんでハジメさんとユエさんが知っていて私に教えてくれなかったんですか!?」

 

「いや、聞かれなかったし……」

 

「た、確かに!? ぬぐぅぅ~!…… い、今教えてください!」

 

 そんな風にぐいぐい八重樫の事を聞いてくるシア。それを答えながらメインストリートを歩いていくと、一本の大剣が描かれた看板を発見する。

かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

 

 

 

 南雲は俺らの方をチラッと見た後、ため息をして扉を開いて中に入っていき、俺たちもそれに続くのだった

 

 




二日に一話のはずが!?す、すいませんーー!

それと技能増やしちゃいました!(テヘペロ)

早く雫ちゃん出したいなぁ……


それでは……また次回お会いしましょう~


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ギルドとマサカ(の宿)

どうも皆さん……深淵よりです。いや~アニメ最新話みました!


なんかいつの間にかアニメの方が先をいっていた……


更新速度あげます!

それではどうぞ!


 中に入ってみると想像とは違い、意外に清潔さがある場所だった。正面にカウンター、左側には飲食店があり、冒険者らしい何人かが食事を取っていたり雑談をしている。

 

 

 人が入れば注目されるのは仕方のないことで……冒険者達が此方に視線を飛ばす。最初に入ったのは南雲、なんだ男か……と興味を失ったのか目線を逸らそうとした……だが、ユエとシアに視線が向くと、途端に「ほぅ」と感心の声を上げる者や門番同様に見惚れている者、カップルだったのか相手の女性に殴られている者がでてくる

 

 

 無い方が良いのは当然だが、テンプレのようにちょっかいを掛けてくる者はおらず、此方を観察するに留めているようだ。気にせずに南雲はカウンターへ真っ直ぐに向かう。

 

 

 南雲の向かった先、カウンターには人が良さそうな笑みを浮かべるオバチャンがいた。異世界では美人な受付嬢というイメージがあり、別に期待していないが俺の抱いていた(もの)は幻想であった事に少し悲しみを覚えた……それを勘違いしたのかシアがジーと冷ややかな目を向けてくる。南雲の方も同じようでユエからの冷たい視線を受けている。

 

 

 本当に思ってないのに……ポニーテールの若くて可愛い(美しい)受付嬢なんて……あれ? なんか視線じゃないけど悪寒が追加された? 

 

 

 そんな俺達、男連中の内心を知ってか知らずか、オバチャンは更にニコニコと人好きのする笑みを深めて俺たちを迎えてくれた。

 

 

「両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

 

 ……多分だが南雲と俺の思っていることは同じだろう。オバチャンは読心術の固有魔法が使えるのかもしれない。南雲は頬を引き攣らせながら何とか返答する。

 

 

 

「いや、そんなこと考えてないから。俺は片手にしか花を持ってない」

 

 

「……ん? あはははは、どうやら本当のようだね。私の意識から外れるなんて……貴方、暗殺者の上級者かい?」

 

「まぁ、上級者ってのは自負してますけど……これ、ただ自前の影の薄さですから」

 

「あらそうなの……ごめんね?」

 

「慣れてるんでお構い無く……」

 

 

 

 微妙な空気になり、本当に申し訳なさそうに謝ってくれたが別にいつものことなので気にしないよう伝えると、オバチャンは気を取り直して挨拶をする

 

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド……ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

 

「ああ、素材の買取をお願いしたい」

 

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「ん? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 

 

 南雲の疑問に「おや?」という表情をするオバチャン。

 

 

「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

 

「……そうだったのか」

 

「へぇ……」

 

 どうやら冒険者には親切設定となっているようだ。まぁそれも当然だろう……俺の知識だが、冒険者は魔物と戦う危険な仕事で回復薬の元となるであろう薬草を採取するのもそうだ(その筈)。危険が伴う以上、得してもおかしくはない

 

 

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 

 

 

 ルタとは、この世界トータスでの通貨だ。特殊な鉱石に別の鉱物を混ぜることで異なった色ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の九種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっており、貨幣価値は日本と同じだ。

 

 

 

「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくかな。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」

 

「可愛い子がいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

 

 

 

 オバチャンがかっこいい。ハジメは、有り難く厚意を受け取っておくことにした。ステータスプレートを差し出す。

 

 

「アンタは冒険者登録してあるのかい?」

 

「察しの通りしてないんだ、して貰えると助かる。俺も文無しなんでな……南雲(コイツ)から差し引いておいてくれ」

 

 

「はぁ……」と、何処か呆れたようにため息をつくと、南雲に目だけで「いいのかい?」と確認する。それを肩を竦めるだけで返す南雲。これまた呆れたように「はいよ」と、俺のステータスプレートを受け取った。

 

 もちろん二人とも隠蔽したので、名前と年齢、性別、天職欄しか開示されていない。オバチャンは、ユエとシアの分も登録するかと聞いたてきたが、断った。そもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態でオバチャンの目に付くことになる。

 

 

 

 二人のステータスを見てみたい気持ちもあったが、オバチャンに隠蔽されていない状態のステータスプレートを見られてしまうのは面倒なことになるので諦めた。

 

 

 南雲の次に返され、戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 

 

 

 この青色の点とは、冒険者ランクのことだ。上昇するにつれ通貨の価値を示す色と同じ上がりをする。つまり、青色の冒険者は一ルタ程度の価値……というわけだろう。

 しかしだ、ランク的に最底辺である冒険者が、黒や金など高位の冒険者を叩きのめしたら格好いいだろうなぁ……いや、やらないけどね(……)(やらないけどね)

 

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さんにカッコ悪ところ見せないようにね」

 

 オバチャンが何故、金ではなく黒を目指せと言ったかというと……戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒という話だからだ。

 

「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」

 

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

 

 

 オバチャンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀なオバチャンだ。南雲はバックから素材を取り出した。その物としては、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。

 

 

 

「こ、これは!」

 

 

 

 恐る恐る牙を手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げたオバチャンは、溜息を吐き南雲に視線を転じた。

 

 

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 南雲に限って「うっかり奈落の魔物の素材をっ……!」なんて事はない。こんな場所で奈落の魔物の素材なんて未知の物体を出してしまえば、一発で大騒ぎだ。オバチャンの反応からして樹海の魔物の素材でも充分珍しいようだが、此方の方が見たことがない物(…………)よりかはマシだろう

 

 

 

「……あんたは懲りないねぇ」

 

 

 

 オバチャンが呆れた視線を南雲に向ける。どうやら変な想像をしていたらしい

 

 

 

「何のことかわからない」

 

 

 

 大方の予想はつくが、別世界のテンプレチート主人公ならば奈落の素材を出して受付嬢が驚愕し、ギルド長登場! いきなり高ランク認定! 情報はすぐに広まり、モテモテハーレムを~とかなっていたかもしれないので、そういう男なら一度は考えてしまう妄想をしていたのだろう

 

 ……例えばなのにシアから冷ややかな視線を浴び、それ以外の悪寒を感じた。「アンタもかい」とため息混じりの呆れた視線をオバチャンから受けてしまった。

 

 完全なるとばっちりである。なんでさ……

 

 

 

「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

 

 

 

 オバチャンが何事もなかったように話しを続けた。オバチャンは空気も読めるようで、大変優秀なオバチャンのようだ。

 

 

「やっぱり珍しいか?」

 

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

 

 

 オバチャンはチラリとシアを見る。おそらく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シアのおかげで不審にまでは思われなかったようだ。

 

 

 

 それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だが、オバチャンが言うには中央に行けばもう少しだけ高くなるらしいが、それを断って金を受け取り、門番の彼に言われた簡易な地図について聞いた

 

 

「ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」

 

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 

 

 手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。

 

 

 

「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」

 

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 

 

 

 このレベルの地図を落書き……しかも金は取らないって……オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたいレベルだ

 

 

 

「そうか。まぁ、助かるよ」

 

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

 

 

 オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。南雲は苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエも頭を下げて追従する。

 

「すまんが最後に聞きたい事があるんだが……」

 

「どうしたんだい?」

 

 てっきり出ていくのかと思ったら質問してきたので少し驚いたように聞いてきた

 

「いや、その……"サーモンサンド"もしくは何でもいいんだが、サンドイッチは食事処にあるのか?」

 

「…………」

 

「えーと……」

 

「あら、ごめんなさいね。確か地図にも書いておいたけど"マサカの宿"って所にあるはずよ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺はそれに心から感謝の気持ちを伝え、入り口へと向かった。シアも頭を下げて俺の後を追う

 

 食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までシアを目で追っていた。のを確認しながら南雲たちを追うのだった

 

 

 

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 

 

 

 後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 ギルドを出た俺たち二人はすぐ二人に追い付いた。南雲はユエと一緒に貰った地図をみて泊まる宿を探していたので、オバチャンから教えてもらった"マサカの宿"を勧めた。調べてみると、料理が美味くて防犯もしっかりしている。なにより風呂があるとのことで〝マサカの宿〟に泊まることになった。少し高めだが、金はあるので問題ないと判断した

 

 

 

 

 

 

 "マサカの宿"に到着し、入ってみると一階が食堂になっていたようで、複数の人間が食事をとっていた。南雲を先頭に入って行くと、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。一々気にしていても仕方がないので、それらを無視(スルー)して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらいで短髪少女が元気よく挨拶しながら現れた。

 

 

 

「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

 

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

 

 

 南雲が見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。

 

 

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

 

 

 女の子がテキパキと宿泊手続きを進めようとするが、南雲は何処か遠い目をしてボーとしている。どうやらオバチャンの名前がキャサリンという名前だったのが相当ショックだったようだ。女の子の「あの~お客様?」という呼び掛けにハッと意識を取り戻した。

 

 

 

「あ、ああ、済まない。一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

 

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが……」

 

 

 

 女の子が時間帯表を見せる。南雲に続いて俺やユエやシアも見る

 

「久しぶりの風呂だしなぁ……二時間で良いんじゃないか?」

 

「だよなぁ……二人もそれでいいか?」

 

「……ん、それだけあれば充分」

 

「お、お風呂……大丈夫です! 頑張ります!」

 

「えっ、二時間も!?」

 

「このバカウサギは何を頑張るんだよ……二時間は取れないのか?」

 

「い、いえ……大丈夫です! 

 え、え~と……それで、お部屋は二人部屋が二つでよろしいですか?」

 

 

「ああ、二人部屋を二つで頼む」

 

 

 南雲の返答に、女の子が宿泊手続きを行っていく。

 

「……シア、コウスケと二人きりの夜。頑張って……」

 

「はい! 教えを生かす時ですぅ」

 

「一体何を教えたんだ?」

 

「……何って……ナニ?」

 

「ちょっ、ユエさん! 他の人もいるのに駄目じゃないですか! お下品ですよ!」

 

 

 

 ユエの言葉を発端に、色々とややこしい話の流れになってきた。食事を取りながら聞き耳を立てていた男連中が、俺と南雲に対して嫉妬の眼を向け始める。

 

 宿屋の女の子なんて顔を赤くしてチラチラと此方を見ながら小さな声で聞き取れないが何かぶつぶつ言っているようだ。

 

「……こんな事で驚いてたら"ピッー"とか"ピッー"もしなきゃいけないんだから……それにシアは大きい、だから"ピッー"もできる」

 

「……はぅぅ……でも、コウスケさんに私の処女(初めて)を貰ってもらうには強気に出ないとぉ……

 」

 

 

 決してハウリア族が使っていたアレ("ピッー")ではなくユエが使っているのはあっち系の"ピッー"である。二人の……というかユエの大胆発言にシアはもう顔をゆでダコのように真っ赤にしてヤベェ発言をしている。

 

 

 全く……

 

 

 ゴチンッ! 

 

 

 バチンッ! 

 

 

 

「ひぅ!?」

 

「はきゅ!?」

 

 

 

 ユエには南雲からの鉄拳、シアには俺がデコピンをすると、二人の少女の悲鳴が響き渡った。ユエは涙目になって蹲り両手で頭を抱えている。シアは後ろに一回転した後、頭を押さえて床をゴロゴロのたうち回っている。

 

 

 

「ったく、周りに迷惑だろうが、とんでもないことばかり言いやがって……」

 

「……うぅ、ハジメの愛が痛い……」

 

「自業自得だバカヤロー」

 

「お前もだぞシア、というか俺には好きな人いるっつったろ」

 

「遠慮しなくていいって言ってたからぁ~というかもう少し、もう少しだけ手加減をぉぉ……」

 

「疲れてるんだよ……」

 

 

 カウンターの女の子に向き直る。彼女は俺の視線を受けるとビシッ! と直立になった

 

 

「騒がせて悪いな。部屋でゆっくりしたいんだが……手続きって終わったか?」

 

「……はっ、はい! ……あれ? 部屋でゆっくりシたい……っ!? 

 はっ!? ま、まさか……お風呂を二時間も使うのはそういうこと!? 一時間交代でお互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんなことやこんなことを……なんてアブノーマルなっ!」

 

 

 

 俺は別に変なことを言っていなかった筈だが、何故か女の子はあわあわと誤解をしだす。

 

 どうやら見かねたのか、女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね? 我慢できないよね?」という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。

 

 

 

 何を言っても誤解が深まりそうなので、南雲に"念話"を送って未だ蹲っているユエを担いで運んでもらい、俺はシアを肩に担ぐと、そのまま三階の部屋に向かった。南雲と別れ、部屋に入るとシアをベッドに寝かせると、自らもベッドにダイブして意識をシャットダウンした。

 

 

 

 

 

 

 まだ寝足りないが、夕食の時間になったようで南雲が起こしにきた。気絶していたシアを起こすと、四人で階下の食堂に向かった。俺の記憶が確かならチェックインの時にいた客が全員まだいる。まじかコイツら

 

 

 

 え、なんでいるの? と動揺しかけたが、なんとか冷静を装って席に着いた。「先程は失礼しました」と聞き覚えのある謝罪の声が聞こえ、声のした方を見ると昨日の女の子が顔を赤くしながら給仕に来た。謝ってはいるが、別のことに興味を示しているのが丸分かりだ。久しぶりに食べた"サーモンサンド(?)"は美味しかったが、なんだか落ち着かなかい食事だった。

 

 

 

 風呂は風呂で、男一時間と女一時間で分けたのにも関わらず、ユエもシアも乱入してきた。ユエの裸を見られたくないのか、南雲が目潰しを放ってきたので、それを間一髪で避けたり、シアが手で顔を隠しながら隙間から覗いて此方に突っ込んで来たのをお湯に沈めたり、その様子をこっそり風呂場の陰から宿の女の子が覗いていたり、のぞきがばれて女将さんに尻叩きされていたり……

 

 

 

 夜寝るときも、当然のようにシアがベッドに入ってこようとしたのを影で拘束して放置しておいたので、ぐっすりと睡眠がとれた

 

 

 

 

 朝起きて朝食を食べた後、南雲がユエとシアに金を渡し、旅に必要なものの買い出しを頼んだ。チェックアウトは昼なのでまだ数時間は部屋を使える。なので、ユエ達に買出しに行ってもらっている間に、俺と南雲は部屋で用事を済ませることにする。

 

 

「用事ってなんですか?」

 

 

 シアが疑問を素直に口にする。

 

 

 

「迷宮攻略に必要なことをだよ……じゃあまた昼に会おうぜ」

 

 質問にそう答えると、二人は買い物に出掛けた




ライセン行きたい~!


お気に入りが1500いったし頑張るぞい


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おいでませ~ライセン大迷宮!(1)

よし、投稿早いな!

アニメよりも先にティオの所まで行きたいですが、まぁ……来週ティオに会うわけではないし、大丈夫だよね!(大丈夫だよね?)


さて、それではどうぞ


 あの後、買い物から戻ってきたシアに南雲から戦槌型アーティファクトが送られ、町を出た後(ユエシアのファンらしき人々の見送り付き)、俺を先頭にして南雲はユエと魔力駆動二輪に乗り、俺はシアと一緒に影バイクを走らせて、【ライセン大峡谷】を四日ほど進んだ

 

 

「死ね」

 

 

 ザシュッ! グシャッ! ズパンッ! 

 

 

 

「一撃必殺ですぅ!」

 

 

 

 ズガンッ!! グチャッ! 

 

 

 

「……邪魔」

 

 

 

 ゴバッ!! 

 

 

 

「うぜぇ」

 

 

 

 ドパンッ!! ブシュー! 

 

 

 

【ライセン大峡谷】を進む俺たちの前には、何度殺しても懲りもせず魔物たちが襲ってくる。

 

 

 シアは影バイクから飛ぶと、持ち前の筋力+身体強化された一撃で文字通りの一撃必殺、南雲から貰った大槌で魔物を叩き潰した。攻撃を受けた魔物は為す術もなくグチャッと潰れて絶命する。

 

 そのシアを影を操って回収しながら相棒(愛刀)である黒刀で近づいてきた魔物を斬り捨てていく。回収したシアが「やりましたよ~コウスケさん!」と、腰に抱きついてくるが反応したらウザイし負けだと思い、そのことには触れずに黙っておき「ナイス」とだけ言っておく

 

 

 南雲は言うまでもない。魔力駆動二輪を走らせながらドンナーで頭部を狙い撃っている。魔力駆動二輪を走らせながら"纏雷"を発動させ続けるのは相当魔力を消費する行為なのだが、魔力切れを起こす様子もなく淡々と鬱陶しそうに魔物を殺している。

 

 

 

 ユエは横から来る敵が至近距離まで迫ると、俺たちに及ばずとも強大な魔力に物を言わせて強引に魔力を発動し、魔物たちを屠っていく。南雲からプレゼントされた魔晶石シリーズに蓄えられた膨大な魔力もあるので、魔力切れを起こす心配はない。襲い来る敵たちは一概の例なく炭化して絶命していった。

 

 

 

 ちなみに俺の影バイクは魔力で影を操り、その形態を維持しながら魔力を流し続けて走っているので南雲以上に魔力を消費するが、魔力切れは起こさない。しかし精神的には少しきついのが難点だ。

 

 

 

 俺たちは、魔物たちの残骸を放置して[+????]を使って得た通りに進んでいく

 

 

「う~ん、もう一度だけ夜営をすれば目的地に着きそうだな……」

 

 

 

「本当ですかぁ!? それにしても凄いですね? その……なんでしたっけ?」

 

「あ~、unknownだろ? [+????]ってのは言いづらいからって南雲と二人で決めたやつ」

 

「そうそれです! unknownです! なんか、私の未来視なんて目じゃない凄い力ですよね~何でも知りたいことが分かるんですから!」

 

「何でもってわけじゃないけどな……てか未来視も充分貴重で凄い力だからな? お前が使いこなせてないだけで」

 

「ぐふぅ……」

 

 

 俺の返しに後ろで少し落ち込んでいるシアを無視し、日が沈んできて丁度いい場所(・・・・)なので、南雲に念話を飛ばして止まるように伝えた。

 

 

 

 俺と南雲はバイクをしまうと、夜営の準備を始める。まず、夜営テントを設置し、次に夕食の準備をする。宝物庫から町で揃えた食材と調味料、そして南雲が作った調理器具を出してもらう。

 

 

 野営テントだが、金属製の骨組みに白い布が被せられただけに見えるが実は違う。南雲が作る物が普通なわけがないのだ。

 まず、生成魔法により創り出した〝暖房石〟と〝冷房石〟が取り付けられていることにより、常に快適な温度を保ってくれる。その冷房石を利用して〝冷蔵庫〟や〝冷凍庫〟も完備されているのだ。さらに、金属製の骨組みには〝気配遮断〟が付加された〝気断石〟を組み込んであるので敵に見つかりにくい……南雲にかかれば夜営でも快適なのだ。

 

 

 

 そして調理器具だが……なんと火が要らないのだ。流し込む魔力量に比例して熱量を調整できるフライパンや鍋、そして魔力を流し込むことで〝風爪〟が付与された切れ味鋭い包丁などがある。もしもこれを売れば一生遊んで暮らせる金が手に入るだろう。まぁ、買った者が魔力の直接操作が出来ないと扱えないので、普通の人(・・・・)が買った場合ただのフライパンと鍋なので買い損だろう……防犯対策もしてあるなんて……恐ろしい子! 

 

 

 

 ちなみに、その日の夕食はクルルー鳥のトマト煮である。クルルー鳥とは、空飛ぶ鶏のことだ。肉の質や味はまんま鶏である。この世界でもポピュラーな鳥肉だ。一口サイズに切られ、先に小麦粉をまぶしてソテーしたものを各種野菜と一緒にトマトスープで煮込んだ料理だ。そのスープにつけて食べる柔くしたパンはとても美味しい。

 

 

 

 そんな大満足の夕食を終えると、いつも通り食後の雑談をする。テントの中にいれば、大抵の魔物が寄ってこないので比較的ゆっくりできる。たまに寄ってくる魔物は、テントに取り付けられた窓からハジメが手だけを突き出し発砲して処理する。そして、就寝時間が来れば、見張りを交代しながら朝を迎えるのだ。

 

 

 

 そろそろ就寝時間だと寝る準備に入るユエとシア。最初の見張りは俺と南雲だ。取り敢えず俺は外に出て、いつも通りの素振りを行う。

 

 ガサッ

 

「……ん? シアか」

 

「あ、コウスケさん」

 

「どうした?」

 

「え、え~と……ちょっとお花を摘みに……」

 

「なんだトイレかよ……そう言えばいいのに」

 

「もうっ! ハジメさんもコウスケさんもデリカシーってものが無いんですか!?」

 

 

 

 俺の発言にキッと睨みつけてくる。確かに女の子相手に悪かったかな~と思い「悪い悪い」とだけ謝っておく。ぷんすかと怒りながら俺に見えないようにか少し離れた所へと向かった

 

 

「お~い、南雲~ユエ~」

 

「……ん」

 

「本当に迷宮が見つかるのか?」

 

 シアが行ったのを確認すると、テントの中にいる二人に呼び掛ける。俺が呼びに来るのを知っていた二人は準備万端の格好で出て来てそう言う。

 

 俺の[????](unknown)によれば、この場所でテントを張って就寝の時間になると、シアがトイレに行くと外に出て行き、迷宮の入り口を見つけてくる。とあるのだ

 

 南雲が別にそこら探せばいいじゃねぇか……ともっともな事を言ったが、俺の力の証明……本音はマジだったら面白いって事で[????](unknown)の通りにすることにしたのだ。

 

 

「コ、コウスケさ~ん! ハジメさ~ん! ユエさ~ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

 

 

 と、シアが、大声を上げた。三人で顔を見合わせて声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。何処か嬉しそうにしている事から俺と南雲が思っていることは一緒だろう

 

 

 マジだったのか……あったのね

 

 

 

「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」

 

「おい、少し声を落とせ」

 

「わかってるから、そんなに引っ張るな。服が破けちゃうだろ」

 

「……少し落ち着いて」

 

 

 

 はしゃぎながら俺の事をずるずる引っ張っていくシアに、ちょっとしたネタで返し、南雲は少し引き気味に、ユエは落ち着くように注意する。シアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさしてムッフ~と、胸を張った。

 

 

 ボインッ

 

 

 あ、胸が揺れた……そんな事はさておき、指先をたどって視線を転じる。そしてそこにあるものを見て「はっ?」と思わず呆けた声を出し目を瞬かせた。

 

 

 

 俺たちの視線の先、其処には、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。

 

 

 

 〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪ 〟

 

 

 

 〝! 〟や〝♪ 〟のマークが妙に凝っている所が何とも腹立たしい。

 

 

 

「……なるほど、これは先が思いやられる」

 

「……コウスケは間違ってなかった」

 

「そろそろいいか……」

 

 南雲とユエ、二人の声が重なる。その表情は、まさに〝信じられないものを見た! 〟という表現がぴったり当てはまるものだ。二人共、呆然と地獄の谷底には似つかわしくない看板を見つめている。

 

 

 

「ふ、ふ~ん! やりましたよコウスケさん! おトイ……ゴホッン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。大迷宮を見つけた私に何かご褒美ないんですか? コウスケさ~ん! ありますよね~?」

 

 

 

 能天気なシアの声が響く中、俺はシアに教えていなかった事を伝える。取り敢えずはシアに教えていた場所の説明から、この迷宮が、おちょくり度が高くてイラつくだろうが落ち着いて冷静にしていることやトラップが沢山あるので不用意に動かない、|ラスボスは巨大なゴーレムだということ

 

 

「……ぜ、全部知ってたのに教えてくれなかったんですか~!?」

 

「すまん……お詫びに俺が出来る範囲で何かしらご褒美とやらをやるから、迷宮攻略を━━」

 

「しゃあっ! 忘れないで下さいよ~! その約束を!」

 

 

 涙目で訴えていたシアに謝り、埋め合わせをする事を伝える。すると、たちまち元気になり「攻略がんばるぞー!」と注意して歩けという言葉を忘れたのか、其処ら中をペタペタ触って回っている。

 

 

「……チョロすぎだろアイツ」

 

「……ん、残念チョロインポジ」

 

 

 二人はどうやら此処が迷宮だと確定したようだった。俺の技能[????](unknown)が信用できると分かったからだろうし、〝ミレディ〟その名は、オスカーの手記に出て来たライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間的に有名だが、ファーストネームは知られていない。故に、その名が記されたこの場所が【ライセンの大迷宮】であると確定付けている

 

 

 

「ん? おいシア、そっちは━━」

 

 

 

 ガコンッ! 

 

 

 

「ふきゃ!?」

 

「ぬおっ!?」

 

 

 直感が反応してトラップに気がついた俺だったが、シアを止める事は出来ず、手を伸ばしていた俺も一緒に壁がグルンッと回転して壁の向こう側へと送られた

 

 ヒュヒュヒュ! 

 

 回転し終えた直後、無数の風切り音響いたかと思うと暗闇の中、何かが飛来する。"夜目"が使える俺からは正体は分かる。それは矢だ。漆黒の矢が無数に俺とシア目掛けて飛んできたのだ、トラップがあることは事前に知っていたので、それを容易くく刀で斬り払う

 

「だから不用意に━━」

 

「おい遠藤、大丈夫━━」

 

 

 ヒュヒュヒュ! 

 

「念話しときゃ良かったわ」

 

「此方こそ確認取らなくて悪かったな」

 

 シアに注意しようとしたが、そこで南雲たちも此方側へ来てしまい、また矢が飛来する。それも当然のごとく全て斬り捨てて、何でもなかったように南雲と改善点を言い合う

 

 

 

 床を見れば斬り捨てた矢が四十本程度ある。どうやら二十本ずつ飛んできていたようだ。それを確認すると、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。俺達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

 

 

 〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ〟

 

 〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟

 

 

 

「「……」」

 

「やべぇ[????](unknown)ちゃん愛してる……本当にイラつくわ」

 

 

 どうやら南雲とユエも教えたので分かってはいたようだが、少し青筋を浮かべてイラッとした表情をしている。"ニヤニヤ"とか"ぶふっ"の部分が強調されているのも腹立たしい要因の一つだろう

 

 

 

 そして、ふと、ユエが思い出したように呟いた。

 

 

 

「……シアは?」

 

「あ」

 

「シアはそこに……」

 

 ユエの呟きで南雲も思い出したようで、周りを確認してシアを探す。俺は矢を斬る時に邪魔で横へ飛ばしたのを覚えているのでそちらを指差す

 

 

 俺の指を指す方にシアは……いた。壁に突っ込んで涙を流しながら……床を濡らして

 

 

 

「うぅ、ぐすっ、ゴウズゲざん酷いでずぅぅ……見ないで下さいぃ~、それとハジメざんもぉぉ、ひっく」

 

 

 

 ユエが俺と南雲に後ろを向いているように言って、南雲が宝物庫から着替えを出し、それを受け取ったユエはシアの元へと歩いていく

 

「お前、何したらあんな風になるんだよ……」

 

 

 あれは俺でも可哀想だと一瞬思ったぞ? と言う南雲に俺は弁明をする。

 

 

「いや、直感でシアが危ないと思ってな? 止めようとしたんだが、一緒に此方に来ちまってさ……そしたら矢が飛んできて、[????](unknown)でも入った直後にシアが酷い目に合うってなってたから突き飛ばして避難させようとしたんだが……どうやら気づいて避けようとしてたらしく……」

 

「……なるほど、逃げようとした力とお前の突き飛ばした力が合わさって壁に激突、漏らしたと」

 

「そうなるな」

 

「そう言えば花を摘みに行っている途中だったな……」

 

 

 しばらくすると、ユエによしよしされながらシアが歩いてきた

 

 

「私、避けようとじたのにぃぃ……」

 

「……シア、負けちゃダメ。コウスケのタイミングも悪かったけど、先に済ませなかったシアも悪い」

 

「うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」

 

 

 

 女として絶対に見られたくない姿を、よりにもよって惚れた男の前で晒してしまったことに未だ、涙を流すシア。ウサミミもペタリと垂れ下がってしまっている。

 

「……コウスケ」

 

 ユエによる一応謝っておけとの圧力に押されて謝ることにした。元々謝る気でいたんだがな……

 

 

「その、すまんな。お前が危ないと思って……」

 

「コウスケさんは悪くありません……私が先に済ませておけば良かったことですし……」

 

 

 和解(?)をして、シアの準備も整った。さて、いざ迷宮攻略へ! と意気込み奥へ進もうとして、シアが石版に気がついた。

 

 

 

 顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠す。しばらく無言だったシアは、おもむろにドリュッケンを取り出すと一瞬で展開し、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。ゴギャ! という破壊音を響かせて粉砕される石板。

 

 

 

 よほど腹に立ったのか、親の仇と言わんばかりの勢いでドリュッケンを何度も何度も振り下ろした。

 

 

 

 すると、砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには……

 

 

 

 〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!! 〟

 

 

 

「ムキィ──!!」

 

 

 

 シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したかのように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る。

 

 

 

 発狂するシアを尻目に南雲はポツリと呟いた。

 

 

 

「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」

 

「「……激しく同意」」

 

 

 

 

 

 俺の説明した事など忘れ、冷静さの欠片も無くなったシアが落ち着くまで数時間かかってしまったのは仕方のない事だろう

 

 

 

 

 

 




お漏らしルートは回避できず……ドンマイシアちゃん


さてさて、次は何処までいくのかな?



次回もお楽しみに~


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おいでませ~ライセン大迷宮!(2)

遅れて本当にすいません!!!

リアルが忙しくて遅れてしまいました

それではどうぞ


 シアが、最初のウザイ石板を破壊し尽くして数時間。なんとか落ち着かせることに成功させ、俺を先頭にして通路を進んでいる

 

 

 シアが気の済むまで石板を叩き壊している時に暇だったので、南雲とユエを交えてライセンの大迷宮について確認程度に話し合って、俺とシアが先導して南雲やユエが後ろに追従する形になった。

 

 

 これにはれっきとした理由がある。この場所は谷底よりも更に魔法がまともに使えなくなっているのだ。魔法特化のユエでも上級クラスの魔法でなければまともに使うのも難しく、その上級魔法でも威力が減衰しており、中級以下に至っては魔法を使っても二メートルで効果が出れば御の字、今まで魔物を強力魔法で一発で葬ってきたユエにとってはやりづらいだろう

 

 

 

 そして南雲、こちらも多大な影響が出ているのだ。〝空力〟や〝風爪〟といった体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、〝纏雷〟もその出力が大幅に下がってしまっている。ドンナー・シュラークは威力が半分以下に落ちている。シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルしかない。

 

 また、魔晶石シリーズに蓄えた魔力の減りも馬鹿にできない。俺とシアは基本的に斬ったり殴ったりだから別に良いかもしれないが、二人は俺たち(俺とシア)以上に考えて使う必要がある。

 

 

 [???? ](unknown)の指し示す通りに安全な道(・・・・・・)を通ること十分が経過した。流石に何も無さすぎる為、南雲が疑問の声を上げる

 

 

「なぁ遠藤……確かこの大迷宮は大量の罠が張り巡らされてるって言ってたが……」

 

「……何も無さすぎる」

 

「安全な道だから……大丈夫な筈なんだが、うん……俺まで心配になってきた」

 

 

 更に十分が経過し、嫌な予感が的中してしまった。何故ならば、目の前に広がるのは斬り捨てられている無数の矢の残骸、そして見覚えのある水溜まりとヒビが入った壁……二十分前までいた場所だったからだ。

 

 

「えぇっ!? こ、この場所って……」

 

「……ん、嫌な予感が当たった。最初の部屋」

 

「……おい、さっきあった石板の反対方向に新しく……」

 

 

 南雲の言葉通り、新しく石板が追加されていた。そこには……

 

 

 "仕掛けに怯えながら進んだ先にあったのは、スタート地点でしたぁ! ぷぷぷ~! "

 

 "安全に通れる道なんてあるわけないじゃ~ん? "

 

 "ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ"

 

「「「「……」」」」

 

 

 しばらく無言で文字を見つめていた四人だったが、俺がため息をつくと三人は一斉に此方をみる

 

 

「はぁ……これは流石にキレそうだわ」

 

「ま、まぁまぁコウスケさん! 確かに罠一つない安全なルートだったんですから……き、気を落とさずにぃ」

 

「……こんなの気にしないで行こう」

 

「まぁ、予想できた事だしな」

 

 

 冗談で言った俺のキレる発言に、三人が慰めてくる。それに「冗談だ。気にしてない」と返し、取り敢えず俺とシアが前衛で南雲とユエが後衛っていうのは変えずに俺の直感便りで慎重に進む事となった。

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 南雲に"マーキング"("追跡"の固有魔法のこと)任せて進むこと五分、とある広大な空間に出た。

 

 

 そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。

 

 

「これはまた……」

 

「ザ・迷宮って感じだな」

 

「……ん、迷いそう」

 

「面倒くせぇですぅ」

 

 

 

 面倒そうに思いつつも、南雲は"マーキング"を、俺は直感と眼帯を取って魔眼石を使いながら罠に注意して進む

 

 

「この鉱石は……"リン鉱石"っていうのか、へぇ空気に触れると発光する……か」

 

「……ッ! おい南雲そ━━」

 

 南雲は薄青い光を放っている鉱物が気になったようで、〝鉱物系鑑定〟を使って調べたらしい

 

 聞きながら嫌な予感がして振り返ると共に止まるように言おうとして━━

 

 

 

 ガコンッ

 

 

 

 という音を響かせて南雲の足が床のブロックの一つを踏み抜いた。そのブロックだけ南雲の体重により沈んでいる。「えっ?」と一斉にその足元を見た。

 

 

 

 その瞬間、

 

 

 

 シャァアアア!! 

 

 

 

 そんな刃が滑るような音を響かせながら、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

 

 

「はわわっ! こ、コウスケさ!?」

 

「ふん、こんなもん回避するまでもない」

 

 

 迫る刃に俺は突っ込み、まずは右の刃を斬り、そのまま流れるように移動して左の刃も斬り捨てる。

 

 斬られた二つの刃はクロスするように飛んでいき、壁に突き刺さった。

 

 

「終わりか……?」

 

「どうだろうな……」

 

「警戒を……ッ!? 南雲、ユエを抱えて前方に回避しろ!」

 

 第二陣を警戒して、注意深く辺りを観察する俺と南雲。何もなかったので終わりだと思ったが、唐突に真上から嫌な予感がしたので、南雲にユエを抱えて回避するように言い、俺もシアを抱えて同じように前方に飛ぶ。

 直後、今の今まで俺達がいた場所に、頭上からギロチンの如く無数の刃が射出され、まるでバターの如く床にスっと食い込んだ。やはり、先程の刃と同じく高速振動している。

 

 

 

 冷や汗を流して足先数センチに落とされた刃を見つめる南雲。ユエも硬直している。シアも一瞬だけ青ざめた表情をした後に俺に抱き抱えられているのに気がつき、デレデレし始めた。もうコイツ(シア)は駄目かもしれない

 

 

「……完全な物理トラップか。どうりで魔眼石じゃあ感知できないわけだ」

 

 

 俺の魔眼石では感知できなかったので、どうやら純粋に魔力を用いない物理トラップのようだ。意味がないなら魔眼石を晒している必要はないので眼帯を再度着け直す

 

 

「……危なかった。ありがとうコウスケ」

 

「もう少し慎重に行くべきだったな……悪かった。にしてもあれを斬るとは流石だな」

 

「えへ……はきゅっ!?」

 

「あの程度なら誰でも斬れるよ……それより先に行こう」

 

 

 いつまでもイヤンイヤンしているシアをもはや定番となったデコピンをし、先に進むように促す。

 

 

「なぁ遠藤、アイツは大丈夫だと思うか?」

 

 

 順番を俺、南雲、ユエ、シアに変更して先に進んでいると南雲からそう話しかけられた

 

 

「大丈夫だろ、ユエも身体強化は化け物レベルだって認めてたし、この大迷宮では魔法は使い物にならない代わりに物理特化なら有利だし……馬鹿なのが欠点だがな」

 

「馬鹿なのは知ってるし、そっちじゃなくてだな……俺とお前はオルクス大迷宮の魔物や鉱石を使った防具や武器があるからこの程度の罠なら殺される心配なんて無い。ユエも勿論そうだ"自動再生"があるしな」

 

「あぁ成る程……」

 

 

 南雲の言いたいことがわかった。つまりは俺と南雲、ユエは防具や固有魔法があるから罠程度では死ぬ危険はないだろう。だが、シアの手持ち戦力は身体強化の魔法と""、ドリュッケン、動きやすさ重視の軽装だ。そして残念ながら"未来視"は未だに完全に使いこなせてはいない。

 

 必然的に俺たち四人の中で一番危険なのはシアだ。今はデレデレしてる余裕なんてあるかもしれないが、その事に気がついた時シアのストレスが天元突破するであろうことだけは確かだった。

 

 

 

「あれ? コウスケさん、ハジメさん、何でそんな哀れんだ目で私を……」

 

「強く生きろよ、シア……」

 

「ドンマイ、フォローはする」

 

「え、ええ? なんですか、いきなり。何か凄く嫌な予感がするんですけど……」

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 今度こそ俺達四人は、トラップに注意しながら更に奥へと進む。それはもう本当に注意深く、大袈裟かもしれないが一歩一歩進んでいる

 

 

 オルクスでは大量に湧いて出てきた魔物だが、今のところ一切出てきていない。そもそもこの大迷宮は魔物のいない迷宮とも考えられるが、それは楽観が過ぎるというものだろう。それこそトラップという形で、いきなり現れてもおかしくない。

 

 

 

 時間をかけて進み、やっと通路の先にある空間に出た。その部屋には三つの奥へと続く道がある。取り敢えず入り口に〝マーキング〟だけして貰い、俺達は階下へと続く階段がある一番左の通路を選んだ。

 

 

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

 

 

 階段の中程まで進んだ頃、突然、シアがそんなことを言い出した。言葉通り、シアのウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

 

 

「南雲━━」

 

「お前、変なフラグ立てるなよ。そういうこと言うと『ガコン』……ほら見ろっ!」

 

「わ、私のせいじゃないすぅッ!?」

 

「!? ……フラグウサギッ!」

 

 

 

 進むほどに嫌な予感はあったが、ついに俺の"直感"が警鈴を鳴らした。その事を伝えようと二人の会話に入ろうとして、嫌な音が響いたと同時に、いきなり階段から段差が消えた。かなり傾斜のキツイ下り階段だったのだが、その階段の段差が引っ込みスロープになったのだ。しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

 

 

 

「くっ、このっ!」

 

「……危なッ!」

 

 

 俺はというと、刀を床に突き立てて踏ん張り、南雲は咄嗟に靴に仕込んだ鉱石を錬成してスパイク状にする。どうやら義手の指先からもスパイクを出して滑り落ちないように堪えているようだ。ユエは、咄嗟に南雲に飛びついたので滑り落ちることはなかった。流石この二人、阿吽の呼吸である。

 

 

 

 しかしながら日も浅く、急な事態での対処が遅い人物が一人。言わずもがな、シアである。

 

 

 

「うきゃぁあ!?」

 

 

 

 段差が消えた段階で悲鳴を上げながら転倒し後頭部を地面に強打。「ぬぅああ!」と身悶えている間に、液体まみれになり滑落。そのまま、M字開脚の状態で南雲の顔面に衝突した。

 

 

 

「ごえっ!?」

 

 

 

 その衝撃で義手のスパイクが外れてしまい、南雲は、右手にユエを掴んだまま後方にひっくり返った。足のスパイクも外れてしまい、スロープの下方に頭を向ける形で滑り落ちていく。シアは、そんな南雲の上に逆方向で仰向けに乗っかっている状態だ。

 

 一番前にいた俺は三人を止めようとしたが、タールのような物の予想以上の滑りやすさに、体勢を崩して転倒してしまった。突き刺さったままで刃が此方を向いている危険な刀を南雲たちが突っ込んでくる寸前で抜いて納刀、三人に押される形で滑っていく

 

 

 

「てめぇ! ドジウサギ! 早くどけ!」

 

「しゅみません~、でも身動きがぁ~」

 

 

 

 滑り落ちる速度はドンドン増していく。南雲が必死に靴や義手のスパイクを地面に突き立てようとするが既に速度が出すぎていて、中々上手くいかない。ならばと、直接階段の錬成を試みるが、迷宮の強力な分解作用により上手く行かない。

 

 

 

 シアが、もがきつつも何とか起き上がる。南雲の上に馬乗りになっている状態だ。

 

 

 

「ドリュッケンの杭を打ち付けろ!」

 

 

 

 南雲がシアに指示を出す。シアの持つ大槌ドリュッケンには、幾つかのギミックが仕込まれており、その内の一つが槌の頭部分の平面から飛び出る杭である。一点突破の貫通力を上げる為の仕掛けだ。それを地面に突き立て滑落を止めようというわけだろう。

 

 

 

「は、はい、任せッ!? ま、前! 道がっ!」

 

 

 

 シアが背中の固定具からドリュッケンを外そうと手を回した。と、直後、前方を見たシアが焦燥に駆られた声をあげる。

 

 

 

「っ! ユエ!」

 

「んっ!」

 

 

 

 咄嗟にハジメはユエの名を呼ぶ。それだけでユエは意図を正確に読み取った。

 

 

「おいシア、しっかり掴まってろ!」

 

「は、はい!」

 

 

 

 シアは、馬乗りのままヒシッとハジメにしがみつく。

 

 

 

 そして遂にスロープが終わりを迎え、俺達は空中へと投げ出された。一瞬の無重力。その隙にユエは魔法を発動した。

 

 

 

「〝来翔〟!」

 

 

「あ……」

 

 

 風系統の初級魔法だ。強烈な上昇気流を発生させ跳躍力を増加させる魔法である。だが、この場は魔法の力が及ばない領域。ユエの魔法は、ほんの数秒の間だけ浮かせる程度の効果しか発揮できなかった。しかしハジメには十分だったようで、右手にユエを、首にシアをしがみつかせたまま、義手を天井に向けて掲げた。そして魔力を流すと……

 

 

 

 パシュ! 

 

 

 

 という空気が抜けるような音を響かせて義手の内手首から細いワイヤーが取り付けられたアンカーが飛び出し天井の壁に勢いよく突き刺さった。そして、アンカーから返しが飛び出し完全に固定される。宙吊りになっている三人だが、どうやら心配無さそうだ。

 

 

 

 俺はというと、別段危険は無いようなので下に真っ逆さまに落ちていく。ユエのおかげか落下スピードはほんの少し抑えられていたので、苦もなく着地━━グチャッ

 

 

「ん?」

 

 

 どうやら着地の際に何かしらを踏み潰してしまったようで下を見る。そこには虫型の魔物? の死体、そして俺を避けるように黒い何かが蠢いていた。

 

 

 カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

 

 その正体はおびただしい数のサソリだった。体長は十センチくらいだ。ユエを封印していた部屋に置かれた魔物に比べればかわいいものだ。いや、そっちの可愛いでは無いし、別に気持ち悪いだとかそういった嫌悪感も無いのだが、どうやらサソリ(あちら)は違うようで、仲間を踏み潰されて怒ったのか一斉に突っ込んできた

 

「あらよっと」

 

 

 気の抜けたような声と共に、その場から跳躍して南雲の足に捕まる。

 

 

「おっと……よお、人生初のサソリの海はどうだった?」

 

「貴重な体験だった……お前もどうだ? 毒なんて効かないし危険はないぞ?」

 

「あのぅ、コウスケさん上を見てください」

 

「上?」

 

 

 シアに言われ、天井に視線を転じる。すると、何やら発光する文字があることに気がついた。

 

 

 

 〝彼等に致死性の毒はありません〟

 

 〝でも麻痺はします〟

 

 〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!! 〟

 

 

 

 わざわざリン鉱石の比重を高くしてあるのか、薄暗い空間でやたらと目立つその文字。ここに落ちた者はきっと、サソリに全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばすだろう。そして発見するのだ。このふざけた言葉を。

 

 

 

「いや、まぁ……麻痺耐性もあるけどさ…………」

 

「「「……」」」

 

 

 

 何とも言えないミレディのウザさに俺たちは黙り込むしかなかった。「相手にするな、相手にするな」と自分に言い聞かせ、何とか気を取り直すと周囲を観察する。

 

 

 

「……ハジメ、あそこ」

 

「ん?」

 

 

 

 すると、ユエが何かに気がついたように下方のとある場所を指差した。そこにはぽっかりと横穴が空いている。

 

 

 

「横穴か……どうする? このまま落ちてきたところを登るか、あそこに行ってみるか」

 

「俺はあの穴に行っても良いと思うが……」

 

「わ、私は、お二人の決定に従います。ご迷惑をお掛けしたばかりですし……」

 

「いや、そのお仕置きは迷宮出たらするから気にするな」

 

「逆に気になりますよぉ! そこは『気にするな』だけでいいじゃないですかぁ」

 

「……図々しい。お仕置き二倍」

 

「んなっ、ユエさんも加わると!? うぅ、迷宮を攻略しても未来は暗いですぅ……コウスケさぁん」

 

 

 

 南雲とユエの容赦のなさに嘆くシアは俺に助けを求めてくるが

 

 

「んじゃ南雲、彼処に行くってことでいいな?」

 

「そうだな。なにより戻るより進む方が気分がいいし」

 

「……ん」

 

「了解っと」

 

「ちょっ、コウスケさん!? 無視はひど━━」

 

 

 手を離してサソリの海へと再度ダイブ、グチャと何匹かサソリを潰しながら着地し、すぐさま跳躍して移動していく。南雲の方はアンカーをもう一本射出し、ターザンの要領で移動していっているようだ。

 

 

 

 

 こうして俺らは無事に横穴へとたどり着き、警戒しつつも、この先に待ち構えているであろう嫌らしいトラップの数々を思い浮かべ、ウンザリとした表情をしながら通路を進むのだった

 

 




ミレディの迷宮の難易度上がってます。


今日中にもう一話出せるように頑張ります

それでは次の話でお会いしましょう


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おいでませ~ライセン大迷宮!(3)

遅くなって本当にすいませんでしたッッッッ!!


今回少なめ?かな?

それではどうぞ!


 あれから分かれ道もなく、警戒しながらも十分程度ただ真っ直ぐに続く道を歩き続けるコウスケ達。代わり映えのしない石造りの通路は、同じ場所を歩き続けているようにも錯覚してしまう。

 なんとなく気分が悪くなってきた。と、それを見越してか代わり映えのしない通路が終わりを迎え、前方に大部屋が見えたのだ。

 

 

「遠藤、どう思う?」

 

「まぁ……普通に考えて何かしらの仕掛けがあるのは間違いないな。嫌な予感しかない」

 

「だよなぁ……でもまぁ」

 

「……ん、進もう」

 

「どんなトラップでもぶっ潰してやるですぅ!」

 

 四人の考えが纏まり、大部屋に足を踏み入れる。その部屋の奥には新しい通路への入り口がある。喜んだのも束の間、最後尾のシアが足を踏み入れた瞬間……ガコンッと嫌な音が響く。俺の嫌な予感は的中、反応は真上からで……

 

 

「クソっ……天井だっ! 急いであの入り口まで走━━」

 

 

 直後、天井が降ってきた(・・・・・・)。古典的で定番のトラップだが、魔法行使が難しいこの大迷宮での範囲トラップはキツイ

 

「くっ、シアも手伝ってくれ……南雲は錬成で穴を開けてくれ!」

 

「は、はい!」

 

「あいよ」

 

 

 "直感"のおかげで天井の変化に気づけたはいいが、奥の通路まで間に合わないと判断し、落ちてきた天井を支える事に切り替える。シアには手伝ってもらい、南雲には錬成で穴を開けるように言って難を逃れた

 

 

「さて、どうするか……俺の錬成で奥の通路まで進むってのがいいと思うが」

 

「いや、ここは俺に任せろ。南雲は刀を振れる程度に穴を広くしてくれ」

 

「刀を振れる程度って……まさかお前……」

 

「そのまさかだ」

 

 南雲の提案を断り、代わりに穴を少し広げてもらえるように頼む。南雲は俺の意図に気づいたのか呆れた顔で言った通りに広げてくれた

 

「何をするつもりなんですか? コウスケさん」

 

「これだよ」

 

「……刀?」

 

 

 二人は疑問の表情を浮かべていたが、刀に手をかけ、もはや壁になった天井と相対する。どうやら意図がわかったようだが……南雲同様に出来るの? 斬れるの? といった疑いの眼差しを向けられる。果たして入り口まで天井を斬り進められるのか……

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 その数分後、コウスケ達が入って来たのとは反対側の壁に面する通路。その壁が切り刻まれ、人が通れるほどの穴が空いた。出てきたのはもちろん、コウスケ、ハジメ、ユエ、シアである

 

 

「また、つまらぬものを斬ってしまった……」

 

「五右衛門かよ。まぁ、魔力を温存できたのは良かったが……チッ、〝高速魔力回復〟も役に立たないのか。回復が全然進まねぇ」

 

「……取り敢えず回復薬……いっとく?」

 

「ありがたく貰うが、つっこまないからな」

 

「コウスケさんも一本、どうぞぉ~」

 

「……ありがとよ」

 

 

 この大迷宮での錬成は通常よりも多くの魔力を使うらしく、少し疲れた様子で壁にもたれて座る南雲。そこにユエが手でおチョコを使って飲むジェスチャーをして魔力回復薬を渡す、シアもポーチから魔力回復薬を取り出して渡してくる。魔晶石から蓄えた分の魔力を補給してもいいが、意思一つで魔力を取り出せる便利な魔晶石は温存し、服用の必要がある回復薬の方がいいだろうと受け取って、一気に飲み干した。味はまんまリ◯ビタンDである。

 

 

 先へ進もうかと思ったが、立ち上がった南雲そのまま棒立ちになってとある方向を見つめている。俺らもそちらを見てみると、何時ものウザイ文を発見した。

 

 

 

 〝ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い〟

 

 "何人生き残れたのぉ? もしかしてぇ、俺を置いて行くんだ! とか人間ドラマしてたぁ? ド・ン・マ・イ♪ "

 

 どうやらこのウザイ文は、全てのトラップの場所に設置されているらしい。ミレディ・ライセン……嫌がらせに努力を惜しまないヤツである。

 てかマジでシャレにならんだろコレ……本当にこんな場面(人間ドラマ)あったらぶちギレてるわ

 

 

 

「あ、焦ってませんよ! 断じて焦ってなどいません! ださくないですぅ! というかシャレにならないんですよぉ!」

 

 

 

 ウザイ文を見つけたシアが「ガルルゥ!」という唸り声が聞こえそうな様子で文字に向かって反論する。シアのミレディに対する怒りは振りきれんばかりのようだ。

 

 

「いいから、行くぞ。いちいち気にするな」

 

「……思うツボ」

 

「冷静にって言ったろ? その怒りはラスボス戦で晴らせ」

 

「ぐぬぬぅ、はいですぅ……」

 

 

 

 その後も、進む通路、たどり着く部屋の全てに罠が待ち受けていた。突如、全方位から飛来する毒矢、硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、アリジゴクのように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、ギロチンの刃のようなものが絶えず降ってくる部屋、そしてウザイ文。コウスケ達のストレスはマッハだった。

 

 

 

 それでも全てのトラップを斬り抜け、この迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は六、七メートルといったところだろう。結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっている。おそらく螺旋状に下っていく通路なのだろう。

 

 

「おい」

 

「わかってる、トラップだろ」

 

「……油断なんてしない」

 

「進んだら罠に警戒、曲がったら罠に警戒、部屋に入ったら罠に警戒、矢、毒、ギロチン……うへへ」

 

 なんだか怒りではなくトラウマになりかけているシアをユエに任せて、俺と南雲は警戒することに徹する。こんな如何にもな通路で何のトラップも作動しないなど有り得ない。

 

 

 

 そして、その考えは正しかった。もう嫌というほど聞いてきた「ガコンッ!」という何かが作動する音が響く。もうなんか、スイッチを押すとか関係なく入って少し時間をおけば勝手に発動している気がする。

 

 

 

 今度はどんなトラップだ? と周囲を警戒するコウスケ達の耳にそれは聞こえてきた。

 

 

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 

 

 明らかに何か重たいものが転がってくる音である。

 

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 

 四人が無言で顔を見合わせ、同時に頭上を見上げた。スロープの上方はカーブになっているため見えない。異音は次第に大きくなり、そして……カーブの奥から通路と同じ大きさの巨大な大岩が転がって来た。岩で出来た大玉である。全くもって定番のトラップだ。きっと、必死に逃げた先には、またあのウザイ文があるに違いない。

 

 

 

 ユエとシアが踵を返し逃げ出そうとする。俺は斬ってしまおうかと刀に手をかけたのだが、南雲の様子を見て止めにする

 

 

 

「……ハジメ、コウスケ?」

 

「ハジメさん、コウスケさん!? 早くしないと潰されますよ!」

 

 

 

 二人の呼びかけに、南雲は答えない。それどころかその場で腰を深く落として右手を真っ直ぐに前方に伸ばした。掌は大玉を照準するように掲げられている。そして、左腕はググッと限界まで引き絞られた状態で「キィイイイ!!」という機械音を響かせている。

 

 

 

 南雲は、轟音を響かせながら迫ってくる大玉を真っ直ぐに見つめ、獰猛な笑みを口元に浮かべた。

 

 

 

「いつもいつも、やられっぱなしじゃあなぁ! 性に合わねぇんだよぉ!」

 

 

 

 義手から発せられる「キィイイイイ!!」という機械音が、南雲の言葉と共に一層激しさを増す。

 

 

 

 そして……

 

 

 

 ゴガァアアン!!! 

 

 

 

 凄まじい破壊音を響かせながら大玉と南雲の義手による一撃が激突した。南雲は、大玉の圧力によって足が地面を滑り少し後退させられたがスパイクを錬成して踏ん張る、そして、南雲の一撃は衝突点を中心に大玉を破砕していき、全体に亀裂を生じさせた。大玉の勢いが目に見えて減衰する。

 

 

 

「ラァアアア!!」

 

 

 

 南雲が左の拳を一気に振り抜き、大玉は轟音を響かせながら木っ端微塵に砕け散った。

 

 

「あの大玉を木っ端微塵にするとは、流石は南雲だな~」

 

「はっ、俺がやらなかったらお前が斬ってただろうが」

 

「ま、ストレス発散は大事だからな~」

 

「へいへい、譲ってくれてありがとよ」

 

 

 軽口を言いながら先に避難していた(逃げていた)シアとユエの所へ移動する。二人はそれをはしゃいだ様子で迎えてくる

 

「……流石ハジメ」

 

「ハジメさんのおかげでスッキリですぅ! ミレディの"ピッー"め! ザマァですぅ……う?」

 

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 

 相当ストレスが溜まっていたのだろう。普段言わない"ピッー"を使ってまでミレディに文句を言っているシアだったが、聞き覚えのある音に笑顔のまま固まる。同じく笑顔で固まる南雲と無表情ながら頬が引き攣っているユエ。ギギギ……と、恐る恐る振り返る三人。次は俺の番か? と刀に手をかけ、三人同様に背後を振り向いた俺の目に映ったのは……

 

 

 

 

 ────予想通り黒光りする金属製の大玉だった。だが、先程の大玉よりも決定的に違う……何故なら、これは━━

 

 

 

 

「うそん」

 

 

 

 南雲も思わず笑顔を引き攣らせながらそう呟く。

 

 

「あ、あのコウスケさん。気のせいでなければ、あれ、何か変な液体撒き散らしながら転がってくるような……」

 

「……溶けてる」

 

 

 

 そう、こともあろうに金属製の大玉は表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体が付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶けているようなのである。

 

 

 

「よし、逃げるか」

 

 

 斬ることは出来るが、酸らしき液体の影響でシアが無事では済まないかもしれない。それに二つ目が転がってきたのだ、次々と転がってくるに違いない。そう判断した俺はそう一言だけ言い残して呆然としているシアを肩に担ぎ、全速力でスロープを駆け下りていく。

 

 

 南雲はユエと一瞬だけ顔を見合わせ、クルリと踵を返すとユエを抱え(お姫様抱っこすると)、コウスケを追って一気に駆け出した。

 

 

 

 俺達の背後からは、溶解液を撒き散らす金属球が凄まじい音を響かせながら徐々に速度を上げて迫る。

 

 

 

「コウスケさん! どうせならユエさんみたいに抱えて下さいよぉ!」

 

「余裕か! ……はぁ、何時でも刀を使えるように片手をフリーにしたいんだよ。あと、舌噛むから話さない方がいいぞ~」

 

「たく、置いてくなよ」

 

「ああ、すまんすまん。俺達はともかくシアがあの液体に触れたらまずそうだし、先に行かせてもらった」

 

「コウスケさん! やっぱり私の事が大事でぇ……っ!? ん゛~!」

 

 

 そうこうしている内に通路の終わりが見えた。〝遠見〟で確認すると、どうやら相当大きな空間が広がっているようだ。だが見える範囲が少しおかしい。部屋の床がずっと遠くの部分しか見えないのだ。おそらく、部屋の天井付近にコウスケ達が走る通路の出口があるのだろう。

 

 

 

「真下に降りるぞ!」

 

「んっ」

 

「おうっ!」

 

「う゛う゛~」

 

 コウスケ達は、スライディングするように通路の先の部屋に飛び込み、出口の真下へと落下した。

 

 

 

 そして、

 

 

 

「げっ!?」

 

「んっ!?」

 

「ひんっ!?」

 

「くそっ」

 

 

 

 四人それぞれが呻き声を上げた。出口の真下が明らかにヤバそうな液体で満たされてプールになっていたからだ。

 

 

 

「んのやろうぉ!」

 

「嘗めるなよ! クソッタレッ!」

 

 

 南雲は、咄嗟に壁へとアンカーを撃ち込み、落下を防いだ。

 

 俺はというと、何度も南雲に世話になるわけにはいかないと思った俺は、その場で思いきり足を振り抜き、その勢いで身体を壁へと飛ばす。壁へ(そこへ)刀を抜刀して突き立てた

 

 

 

 直後、頭上を溶解液を撒き散らしながら金属球が飛び出していき、眼下のプールへと落下した。そのままズブズブと煙を吹き上げながら沈んでいく。

 

 

 

「〝風壁〟」

 

 

 

 ユエの魔法で飛び散った溶解液が吹き散らさられる。しばらく、周囲を警戒したが特に何も起こらないので、南雲はようやく肩から力を抜いた。

 

 

「ぐすっ、ひっく、酷い……何で私だけごんなめにぃぃ」

 

「なんで泣いて━━━あぁ……うん、すまん」

 

 

 溶解液は此方に飛んできてはいない。だったらなんでだ? と思ったのだが……ヒビの入った壁、額にできたタンコブ、そしてタンコブを擦って泣いているシアを見て察した

 

 

「うぅ……お姫様抱っこしてくれていればこんな目には……」

 

「いや、してたらプールに落ちてたけど? てかお前、嘘泣きじゃねぇか!」

 

 

 

 眼下に落ちれば即死な状況(シアのみだが)にも関わらずギャーギャー騒ぐコウスケとシア。意外に余裕そうである。

 

 

「遠藤~早く降りてこいよ」

 

「う~い」

 

 

 サソリプールでの時のようにアンカーを利用して振り子の要領で移動し、地面に着地していた南雲に言われ、それに返事を返す。

 

「ふぅ……なんとか助かったな」

 

 

 俺は一言そう呟くと、周囲を見渡す。部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

 

「まさかミレディの住処に着いた……のか? いや、ミレディ(アイツ)のことだ。この周りの騎士甲冑が動いて襲ってくんとだろ」

 

 

「だよなぁ……いかにもそうなるって感じの配置だし」

 

「……大丈夫、お約束は守られる」

 

「それって襲われるってことですよね? 全然大丈夫じゃないですよ?」

 

 

 

 嫌な予感を感じつつ話ながらも、微かな可能性に賭けて進み、コウスケ達が部屋の中央に辿り着くと、確かにお約束は守られた。

 

 

 

 もはやこの大迷宮お約束となってしまったあの音である。

 

 

 

 ガコン! 

 

 

 

 ピタリと立ち止まるコウスケ達。来ると思っていた四人はすぐさま戦闘体勢を取りつつ周囲を見ると、騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝いた。そして、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきた。その数、総勢五十体。

 

 

 

 騎士達は、スっと腰を落とすと盾を前面に掲げつつ大剣を突きの型で構えた。窪みの位置的に現れた時点で既に包囲が完成している。

 

 

「はいはい、お約束ね。動く前に全部斬っておけばよかったか。まぁいいや……南雲、ユエ、シア、やるぞ」

 

「OK、次からは絶対壊す」

 

「んっ」

 

「か、数多くないですか? いや、やりますけども……」

 

 

 

 南雲はドンナーとシュラークを構えた。少数VS()多数であるこの状況では機関砲のメツェライが有効だが、この部屋にどれだけのトラップが仕掛けられているかわからない。無差別にバラまいた弾丸がそれらを尽く作動させてしまっては目も当てられない。従って、二丁のレールガンにしたのだ。

 

 

 

 ユエは、コウスケの言葉に気合に満ちた返事を返した。この迷宮内では、自分が一番火力不足であることを理解している。だが足でまといになるつもりは毛頭ない。南雲のパートナーたるもの、この程度の悪環境如きで後れを取るわけにはいかないのだ。ましてや、シアがいるのだ。師匠として彼女に無様なところは見せられない。

 

 

 

 一方でシアは、少々腰が引け気味だ。このメンバーで影響なく力を発揮できる一人とは言え、実質的な戦闘経験はかなり不足している。まともな魔物戦は谷底の魔物だけで、僅か数日程度のことだ。ユエやコウスケとの模擬戦を合わせても二週間ちょっとの戦闘経験しかない。もともとハウリア族という温厚な部族出身だったことからも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はない。むしろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点でかなり根性があると言えるだろう。

 

 

 

「シア」

 

「は、はいぃ! な、何でしょう、ハジメさん」

 

 

 

 緊張に声が裏返っているシアに、ハジメは声をかける。

 

 

「お前は強い。俺達が保証してやる。こんなゴーレム如きに負けはしないさ。だから、下手なこと考えず好きに暴れな。ヤバイ時は必ず助けてやる」

 

「……ん、弟子の面倒は見る」

 

「は、ハジメさんが……デレた! こんなのレアですよ!?」

 

「あぁん?」

 

「ひぃぃ!? じょ、冗談ですよぉ~」

 

 

 シアは、ハジメとユエの言葉に思わず涙目になりつつも、今までのハジメの対応を思い返して信じられないのか変なことを言い出し、ハジメに睨まれてしまう。しかしその顔は認めてもらえていたのが嬉しいようで笑顔だった。

 

 

「んじゃあ覚悟も決まったらしいし、行くぞ」

 

「思う存分暴れさせてもらいますよぉ!! 

 よーし! かかってこいやぁ! ですぅ!」

 

「いや、だから、何でそのネタ知ってんだよ……」

 

「……だぁ~」

 

「……つっこまないぞ。絶対つっこまないからな」

 

 

 

 俺と南雲の疲れた心境を知ってか知らずか、五十体以上のゴーレム騎士は一斉に俺たちへと斬りかかってきた

 

 




遅くなりまして誠に申し訳ありませんでした!!!

いや、本当にすいません。やべぇよアニメはもうティオ出てきちゃうよ!明日までに出したいけど……渋谷マルイ行って来るからなぁ……電車内で暇なときに書ききれたら上げます。

次回、ミレディと戦いたい

それではお楽しみに


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おいでませ~ライセン大迷宮!(4)

いや、もう……本当にすいませんでしたぁ!一週間もの間、投稿できなかったのはリアルの方が大変でして……FGOのイベントが来るし……いや、今度こそ一週間以内に投稿をっ!(フラグ)


それではどうぞぉ!


 ゴーレム騎士達の動きは、二、三メートルはあろう巨体に似合わず俊敏だった。ガシャンガシャンと騒騒音を立てながら急速に迫るその姿は、装備している武器や眼光と相まってって凄まじい迫力である。

 

 

 そんなゴーレム騎士達に先手をとったのは南雲だ。普段よりと半分以下の火力が出せないとはいえ、対物ライフルの数倍もの威力がある弾丸はゴーレム騎士達に一切の容赦なく浴びせられる。

 

 

 ドパン! ドパン! 

 

 

 二丁のレールガンから放たれた弾丸はゴーレム騎士の目の部分を性格に撃ち抜き、衝撃で後方へ倒れる騎士達。それを飛び越えて後続にいる騎士達が南雲達へと迫る。南雲は包囲されないようレールガンを発砲し、隊列を乱していく。

 

 

 

 

 そんな激しい銃撃を盾と大剣と仲間の体で凌ぎながら、遂に南雲の目前へと迫った数体の騎士だったが、いち早く気がついたシアが上段に構えていた大槌を遠慮容赦の一切ない全力の一撃で振り下ろす

 

 

 

「でぇやぁああ!!」

 

 

 

 ドォガアアア!! 

 

 

 

 凄まじい衝撃音を響かせながら盾で防御していたゴーレム騎士をその防御ごとペシャンコに押し潰した。だが、渾身の一撃を放ったため、地面にめり込んでしまったドリュッケン。シアには次の行動に移るまでに隙が出来てしまった。それを逃すはずもなくゴーレム騎士が大剣を振りかぶるとシアを両断するべく迫り来る。

 

 

 

 

 特訓の成果か、それにしっかりと反応していたシアは、柄を捻ってドリュッケンの頭の角度を調整してトリガーを引く

 

 

 

 ドガンッ!! 

 

 

 

 そんな破裂音を響かせながら地面にめり込んでいたドリュッケンが跳ね上がった。その勢いを殺さず、その場で一回転すると、大剣を振り下ろそうと迫っていた騎士の腹部分に叩きつけた。

 

 

「りゃぁあ!!」

 

 

 

 そのまま気合いの声と共に一気に振り抜く。直撃を受けた騎士は、体をくの字に曲げてぶっ飛んでいき、後ろから迫っていた騎士達を巻き込んで地面に叩きつけられた。騎士の胴体は、原型を止めないほどひしゃげており身動きが取れなくなっている。

 

 

 

「ユエがカバーしてるし大丈夫か」

 

 危なくなったらカバーしようとゴーレムを相手にしながら横目でシアの戦闘を見ていたコウスケは、ユエが南雲の作った武器で援護に入ったのを見て、目の前の敵を斬ることに集中することにした。

 

 

 

 まず、目の前の騎士が振り下ろしてきた大剣を刀で受け流し、そのまま斬り上げる。二つに斬り裂かれた騎士には目もくれず、続けて背後から迫っていた二人の騎士を大剣を振り下ろす前に上半身と下半身を泣き別れさせる。落ちていた大剣を拾い上げると、全力で斜め後ろに向けてぶん投げると、投げた大剣はシアの死角から接近していた騎士に当たって吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 

 いくら倒しても湯水のごとく湧いてくる騎士達は大迷宮(ミレディ)のせいで溜まりにたまったストレス解消には持ってこいだった。しかもまともな対人戦(???)なので、感覚を取り戻すには丁度いい

 

 

「遠藤、コイツらの核なんだが━━」

 

「ん? あぁ、すまん今から確認する」

 

 

 

 オスカーの住処を調べていた時に、ゴーレムは体内にある核が動力源であり弱点だと知っていたのだが……戦闘に集中していたせいか魔眼石で核の場所を探すことを忘れてしまっていた。

 

 

「……ん?」

 

 

 眼帯をずらして核の場所を探したが、それらしい反応は無い、視えたのはゴーレムから発せられる微量な魔力だけだった。

 

「その反応だとやっぱり核は無かったか」

 

「やっぱり? 心当たりでもあったのか?」

 

「シアが最初にぶっ潰した騎士があったろ? あの残骸が無くなっててな。あそこまで潰れてたら核も一緒に潰れてる筈なのに再生してたんだよ」

 

「なるほど……なら核が無いコイツらは誰かに操られて動いてるってか?」

 

「そうなるとキリがないからな。騎士は無視して扉まで突破するぞ!」

 

「まぁそれが一番だな」

 

「……ん、わかった」

 

「と、突破ですかぁ? 了解です!」

 

 

 

 

 南雲の合図と共に、ユエとシアが一気に踵を返し祭壇へ向かって突進する。南雲はドンナー・シュラークを連射して進行方向の騎士達を蹴散らし、俺は他の邪魔になりそうな騎士連中を斬って進む。南雲は後方から迫ってくる騎士達に向かっても手榴弾を二個投げ込んだ。背後で大爆発が起こり、衝撃波と爆風で騎士達が次々と転倒していく。

 

 

 

 俺の斬撃と南雲の射撃によって進行方向にいた敵がいなくなり、残りもシアのドリュッケンでの体ごと大回転させて吹き飛ばし、技後の硬直したシアを狙った攻撃をユエの"破断"が飛来して切り裂いていく

 

 

 

 余裕がある俺と南雲が殿を務め、後方から迫ってくる騎士達を足止めしている隙にシアが祭壇の前で陣取り、続いてユエが祭壇を飛び越えて扉の前へ到着した

 

 

 

「ユエさん! 扉は!?」

 

「ん……やっぱり封印されてる」

 

「あぅ、やっぱりですかっ!」

 

 

 

 見るからに怪しい祭壇と扉、そしてミレディの性格からして何も無しで通れるなど思っていなかったので封印は想定内。だからこそ、落ち着いて封印を解くためにゴーレム騎士達を相手取ったのだ。案の定の返答に文句を垂れつつ階段を上がってきた騎士を殴り飛ばす

 

 

 

「封印の解除はユエに任せる。俺と遠藤、シアはユエの解除が終わるまで騎士共の進行を妨害するぞ」

 

 

 

 如何にもな祭壇と黄色の水晶なんて物が置かれているのだから、正規の手順で封印を破る方がきっと早い。南雲は瞬時にそう判断して、戦闘では燃費の悪いユエに封印の解除役を任せてた

 

 

 

「ん……任せて」

 

 

 

 ユエは、二つ返事で了承し祭壇に置かれている黄色の水晶を手に取り、背後の扉に振り返ると解除を試みている

 

 

 

 南雲の手榴弾によって動けなくなっていた騎士達だったが、どうやら再生が終わったらしく一斉に突撃してきた。南雲がドンナー・シュラークで銃撃して数体を相手取り俺はその他の騎士を斬り伏せ、撃ち漏らし(斬り漏らし)の数体をシアが殴り潰していく

 

 

 

「ハジメさ~ん。さっきみたいにドパッと殺っちゃえないんですかぁ~」

 

 

 

 なんど殴り飛ばしてもしぶとくわらわら集まってくるゴーレム騎士達に、シアが手榴弾の使用を南雲にお願いする。

 

 

 

「あほう。あれはちゃんとトラップが確実にない場所を狙って投げたんだ。階段付近は、何が起こるか分からないだろうが」

 

「こんなにゴーレムが踏み荒らしているんですし大丈夫ですよ~」

 

「いや、ミレディ・ライセンのことだ。ゴーレムにだけ反応しない仕掛けとかありそうじゃないか?」

 

「うっ、否定できません……」

 

 

 

 少しずつだが連携が取れてきて冷静になれたのか、雑談をかわしながらゴーレム騎士達を弾き飛ばしていくコウスケ達。無限に突撃してくる騎士達に呆れながらも、これも剣の鍛練だと思い気合いを入れて斬り込む

 

 

 

「でも、ちょっと嬉しいです」

 

「あぁ?」

 

「ん?」

 

 

 

 また一体、ゴーレム騎士を叩き潰し蹴り飛ばしながら、シアがポツリとこぼした。

 

 

 

「ほんの少し前まで、逃げる事しか出来なかった私が、こうしてコウスケさんやハジメさんと肩を並べて戦えていることが……とても嬉しいです」

 

「……ホント物好きなやつだな」

 

「……良かったな」

 

「えへへ、私、この迷宮を攻略したらコウスケさんにご褒美でキスしてもらうんだ! ですぅ」

 

「なんで自然と死亡フラグに繋げたの!? おバカヒロイン(仮)から悲劇のヒロインにチェンジとか荷が重すぎるから止めとけって!」

 

「それは、『絶対に死なせないぜ愛しのマイハニー☆』という意味ですね? コウスケさんったら、もうっ!」

 

「あれ? 俺ってそんな戯言いったっけ……おかしいなぁ」

 

「最近、コイツのポジティブ思考が恐ろしくなってきたんだが……ま、遠藤がんばれ」

 

「ハジメさんも私とコウスケさんの関係を応援してくれているなんて……うへへ」

 

「あーうん、はい」

 

 

 そんなやり取りをしながら騎士達の進行を防ぐこと数分。ある意味、イチャついていると見えなくもない二人の間に、ぬぅ~と影が現れた。ユエだ。

 

 

 

「……私とハジメが我慢してるんだがら、いちゃいちゃ禁止」

 

「いや、してないけど!」

 

「ぬふふ、そう見えました? 照れますねぇ~」

 

「……どうだった?」

 

 

 

 俺とシアを交互に見たユエは不機嫌そうな眼差しを向ける。南雲に聞かれた事と、そんな状況ではないと思い直したようで得意気に任務達成を伝えてくれた。

 

 

 

「……開いた」

 

「早かったな、流石ユエ。シア、遠藤、下がれ!」

 

「はいっ!」

 

「オッケー」

 

 ユエの言うとおり後ろを確認すると、封印が解かれて扉が開いているのが確認できたり奥は特に何も無さそうだが、俺の直感が反応はしているので嫌なトラップがあるのだろう。ユエの報告を聞いた南雲からの指示で撤退をする。最初にユエが、続いてシアが扉の向こうへと入り、いつでも閉められるように二人でスタンバる

 

 

 

 俺が入ったのを確認した南雲は、置き土産にと手榴弾を数個放り投げると、二人は扉を閉める。ゴーレム騎士達が逃がすものかと扉の前までガシャガシャと殺到するが、手榴弾が爆発し強烈な衝撃で吹き飛ばされただろう。

 

 

 

 部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたようで、三人は少し拍子抜けしている。

 

 

 

「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」

 

「……ありえる」

 

「いや、とんでもなく嫌な予感はしてるから警戒はしておいてくれ」

 

「ですよね……け、警戒ですぅ!」

 

 

 

 俺の言葉にがっかりしていた三人は、武器を構えて何処からでも攻撃がきてもいいように備える

 

 

 

 ガコン! 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

 仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、コウスケ達の体に横向きのGがかかる。

 

 

 

「っ!? 何だ!? この部屋自体が移動してるのか!?」

 

「……そうみたッ!?」

 

「うきゃ!? あ、コウスケさん……ありがとうございます……うへへ」

 

 

 

 南雲が推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかかる。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。俺は刀を地面に突き刺して体を固定すると、ついでにシアの体を反対の手で支える

 

 

 

 部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。俺とシアは勿論のこと、南雲は途中からスパイクを地面に立てて体を固定していたので急停止による衝撃にも耐え、ユエも南雲の体に抱きついていたので問題はない。

 

 

「ふぅ~、ようやく止まったか……ユエ、大丈夫か?」

 

「……ん、平気」

 

「シア、大丈夫か?」

 

「大丈夫です! 逆にコウスケさんの体に抱きつけたので元気百倍ですぅ! ううっぷ」

 

 警戒しながらも南雲はスパイクを解除して立ち上がった。俺も刀を抜いて周囲を観察するが特に変化はない。先ほどの移動を考えると、入ってきた時の扉を開ければ別の場所ということだろう。

 

「元気百倍じゃなくて気分の悪さMAXじゃねぇか。横になって休んでろ」

 

 

 空元気だったようで今にも吐きそうな様子のシアを横にさせて、二人と一緒に周囲を確認していく。そして、やっぱり何もないようなので扉へと向かった。

 

「嫌な予感って部屋が掻き回された事なのか?」

 

「そうじゃねぇの? さて、何が出るかな?」

 

「……操ってたヤツ?」

 

「その可能性もあるな。ミレディは死んでいるはずだし……一体誰が、あのゴーレム騎士を動かしていたんだか」

 

「……何が出ても大丈夫。ハジメは私が守る……勿論コウスケとシアも」

 

「「…………」」

 

 

 

 いつも通り場所を問わず二人はイチャイチャしだした。南雲は優しい手付きで、そっとユエの髪を撫でる。ユエも甘えるように寄り添って気持ち良さそうに目を細めている。

 

 

 

「……コウスケさん、前から言おうと思っていたのですが、ハジメさんとユエさんって唐突に二人だけの世界作りますよね……はっ! これを出来るようにしろっていうユエさんからの指導の一環!? 勉強になりますぅ! うっぷ」

 

 

 

 吐き気を堪えながらも頑張ってユラユラ立ち上がり、俺に質問してきておきながらブツブツと自己完結してシアは床に沈んだ。しかしそこで終わらないのがシア、諦めきれなかったのか、手と足を使いながらコウスケの元へと近づこうとホラー映画に出てきそうな動きで這いずってくる

 

 

「……前から言おうと思っていたんだが、時々出る、お前のそのホラーチックな動きやめてもらえないか? 何ていうか、背筋が寒くなる上に夢に出てきそうなんだが」

 

「……シア、今の動きは減点」

 

「な、何てことを。少しでも傍に行きたいという乙女心を何だと、うぷ。私もユエさんみたいにナデナデされたいだけですぅ。コウスケさぁん、私を抱きしめてナデナデして下さい! うぇ、うっぷ」

 

「すまんが今にも吐きそうな顔で、そんなこと言われても困るんだけど……そ、そういうのはご褒美だろ? 外に出たらな」

 

「……ふふ」

 

 

 

 シアが根性でコウスケ達の傍までやって来て、期待した目と青白い顔でコウスケを見上げる。コウスケはそっと、視線を逸らして扉へと向き直る。背後で「言質をとれましたぁ! うぇっぷ」という声が聞こえるが何とかスルーした。

 

 

 

 扉の先は、ミレディの住処か、ゴーレム操者か、あるいは別の罠か……嫌な予感はしているので警戒しつつも不敵な笑みを浮かべて扉を開いた。

 

 

 

 そこには……

 

 

「……何か見覚えないか? この部屋」

 

「……物凄くある。特にあの石板」

 

「嫌な予感ってこれかよ……」

 

 扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が二つ立っており左側に通路があり、斬られた黒い矢のようなものまである……見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は

 

 

 

「最初の部屋……みたいですね?」

 

 

 

 やっとで復活したらしいシアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

 

 

 〝ねぇ、今、どんな気持ち? 〟

 

 〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち? 〟

 

 〝し~か~も~二回目だよね☆キャピッ"

 

 "ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? 二回も同じ目にあった時ってどんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟

 

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 

 コウスケ達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。四人とも、微動だにせず無言で文字を見つめている。すると、更に文字が浮き出始めた。

 

 

 

 〝あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します〟

 

 〝いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです! ビシッ〟

 

 〝嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ! 〟

 

 〝ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です〟

 

 〝ひょっとして作っちゃったの? 苦労しちゃったぁ? ざ~んねん! 全て無駄なのでしたぁ~プギャァー〟

 

 

 

「は、ははは」

 

「フフフフ」

 

「フヒ、フヒヒヒ」

 

「クククッ……えひゃひゃひゃッ! いいね。いいね。最ッ高だねェ! いいセンスしてやがんじゃねぇかよミレディ・ライセンのクソッタレがよォ!」

 

「え、あの……コウスケさん!?」

 

「……コウスケ?」

 

「え、遠藤……てか遠藤か? 深淵卿の方なのか?」

 

 シアはあれだが、流石のハジメとユエの二人も頭にキているのか、壊れたような笑い声を響かせる。だが、それ以上に頭にキテる男がいた。最初に振り出しに戻ってしまったのは自分のせいであり、二度も同じ目に遭った原因である自分とミレディに対して三人以上にぶちギレた様子のコウスケだ。普段言わないような事を叫び散らしている

 

 

 

 

 凄まじく興奮している人が傍にいると、逆に冷静になれるということがある。ハジメとユエ、シアの現在の心理状態はまさにそんな感じで、狂ったように笑いながら時々「ミレディぶち殺す」とか、血走った目をして青筋まで浮かべているコウスケ

 

 

 シアは「え、コウスケさんですよね!? 大丈夫なんですかぁ!?」と、驚きつつも心配の声を上げ

 

 ユエは普段から考えられないコウスケに若干戸惑いながらも心配している

 

 ハジメはハジメで、遠藤なのか……はたまた深淵卿が出てきたのだろうか……と、ほんの少しだけ心配になりつつも妙なことを気にしている

 

 

 

 

 しばらくして再び迷宮攻略に乗り出したコウスケ達。ギロチントラップや大玉が転がってきたり等の危険なトラップから金たらい、トリモチ、変な匂いのする液体ぶっかけetcなどの地味なトラップまで、様々なラインナップのトラップを文字通り斬り進んで行くコウスケを先頭にした三人は「遠藤(コウスケ)を怒らせないようにしよう」と心に決めてコウスケの後に続いて行った

 







すいませんが未完作品とさせていただきます
あらすじに理由が書いてあります。本当にすいません

リメイクを書きましたので、良ければそちらの方をお願い致します


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