─矛盾─ (恋音)
しおりを挟む

序章
1.魔法


 私達は生きた。

 

 がむしゃらにぶつかって、泣いて笑って、叫んで。愛した。

 非科学的なソレは魔法という形を取った。

 

 私達は幸せだった。

 それを壊すソレが訪れるその日まで。苦しくて悲しくて虚しくて幸せな日々を。過ごしていた。

 

 大好きな緑を見て、私は笑った。

 

 

「私の罪は全部で7つ」

 

 

 さァ、杖を取って。

 泣かないで。

 私は生きている。

 

 

 

 一緒に幸せを掴むんだ。私達が貴方を殺してあげるから。

 

 たとえ雨が降ろうとも、呪いが降ろうとも。未来は輝やいて、地面は固まる。花は咲く。

 

 

 

「私今ならヴォルちゃんにアバダ喰らっても生きれる気がする」

「笑えんぞ、そのアメリカンジョーク」

 

 

 今はまだ知らない、未来の私は笑っている。どこかでアイツは感染型の馬鹿だと言われた気がする。

 

 

 ==========

 

 

 

 1971年、日差しの強くなってきた夏真っ盛り。

 夏休みに突入した3つほど年上の兄さんと一緒に、普段より遅めの時間帯に朝食の席に着いた。

 

 寝癖のついた髪をくせっ毛だと言い張って誤魔化しながら笑い合う。

 

「「おはよう母さん」」

「あら、おはよう寝坊助さん達」

 

 声を揃えた私達に母さんはクスクスと笑う。

 

 机に並ぶ朝食は母さん特製のミートパイだ。私は未だに母さんを越えるパイ作りの職人に出会ったことが無い。

 パン屋コワルスキー・クオリティ・ベイクド・グッズという人気店を開いている父さんですら、母さんのパイには敵わない。

 

「父さんはもう仕事?」

「仕込みもとっくに終わって、もう営業時間よ。全く、夏休みだからってリアムは浮かれてるんだから」

「仕方ないだろ! 僕の可愛いミリーと一緒の学校に通えるんだから!」

「それで夜中ミリーと話していたの?」

 

 昨晩、兄さんの通う地元の学校に入学する話で盛り上がっていた。主に兄さんが。

 兄さんは私を大好き過ぎて困る。顔の造形はほぼ一緒で、髪型と身長さえ同じにすれば見分けが付かない程なのに。残念だ。

 

「ミリー、僕のエミリー。今とても失礼な事考えたね?」

「兄さん心読まないで」

「無理だね! 僕とミリーは二人で一つだから!」

「……母さぁん」

「ハイハイ、ほら、早くお食べなさい」

 

 はーい、と返事をして食べ進める。

 

 母さんのパイは温かいココアと共に食べるのが最高に好きなんだけど、夏場の冷たいココアはなんとなく違うので紅茶をお供にミートパイを頬張る。伸びる手と、食べる速度は兄さんと同じだ。

 母さんは私達を見てクスクスと幸せそうに笑う。

 

「見た目だけじゃなくて行動もそっくりなんだから」

「酷いよ母さん!私兄さんみたいに変態じゃないのに!」

「なっ、僕はミリーみたいに可愛い子見かけたら声掛けに行く節操なしじゃないからね!?ミリー一筋だよ!」

「……中身はジェイコブそっくりなのよねェ。あなた達、互いの顔は?」

「「エクセレント!」」

「あァ、彼の血だわ。私の顔が大好きな所」

 

 母親譲りのストロベリーブロンドとグリーンアイと美貌を持った兄さんの顔は、顔だけは素晴らしい。つまり兄さんと同じ顔してる私も素晴らしいと自画自賛する。

 母さんを含め、母方の家系があまりにも美形過ぎるので仕方ないとしか言えなくなる。家系と言っても母さんの姉である伯母様としか会ったことが無いんだけど。

 

「あー、でも私兄さんの顔は1番じゃないよ」

「僕も顔だけを見たらミリーじゃないよ。というか、ミリーの顔って自分の顔でもあるからね……」

「あら、じゃあ誰かしら」

「兄さんの同級生」

「の、イオ嬢」

「普通にご近所さんだったわ、確かにあの子美人ね」

 

 私と兄さんの好みが一緒過ぎてやだ。運命感じるね、って兄さんは私に語り掛けてくるし。

 は〜〜! 顔が良くても中身がコレじゃあなぁ〜〜〜!

 

 

 心の中で思った、というか嘆いた内容は昔から母さんと兄さんにモロバレなので、兄さんから不服そうな視線が飛んでくる。お互い様だって? 知ってるよ!

 私は可愛い子を! 愛してるの! 全人類、もはや全生物含めて可愛いは正義なの! 兄さんとは解釈違いです!

 

 

「ところでミリー、あの子達の世話は終わったのかい?」

「餌はあげてきたよ。もう少しで無くなりそうだから伯父さんに餌の追加頼まないと……」

 

 

 世界各国飛び回っている伯父夫婦に餌の追加を頼もうかと思っていたちょうどその時。勝手口からノックの音が聞こえた。ゴンゴンゴンゴンと慌てた様な音だ。

 

「リアム、妹を守って頂戴」

「もちろんさ」

 

 尋常じゃない様子に兄さんは私を護る様に立って、さらに母さんが私達を守る様に前に立つ。昔母さんが大切な物だと言っていた枝を手に持った状態で、母さんは警戒しながら扉を開いた。

 

 

「エミリー!」

「……はい?」

 

 ボサボサの髪、そしてボロボロの服装で我が家に入り込んで来たのは先程餌を頼もうかと思っていた伯父さんだった。

 

「伯父さん、何して」

「貴方がニュートなら分かるはずよ、キャリアガールの私が昔就いてた誇るべき仕事の内容をね」

「コーヒー淹れにトイレの呪文解除さ」

「まぁこれでも開心術士だから貴方がニュートだって知ってるけど」

「うん、クイニーだね」

 

 お互い腕を降ろして警戒心を解いた。

 なんのやり取りだコレ。

 

「か、母さん。さっきの何?」

「予定外の訪問ではお互いが本物か確認する事にしたのよ、最近物騒だから」

「顔見れば分かるよね?」

「ふふっ。それでニュート、子供みたいにはしゃいでいる所悪いんだけど……あァ、そういう……。ミリー、伯父さんは貴女に用事よ」

 

 ニッコニッコと嬉しそうに笑うニュート伯父さんが手に持っていた枝を仕舞い、懐から手紙を取り出した。

 

「えっ、顔がいい」

「ミリー、せめて心で言いなさい」

 

 この人が70過ぎてるとか信じられないくらい美しいし本当に父さんより年上? 見た目若過ぎない? 精神的に冒険心忘れられない少年だけど。

 赤茶色のフワフワとした髪が特徴の英国紳士。若い頃は人より動物を愛していたらしいけど歳を重ねて、と言うか奥さんゲットしてから身なりにも気を配る様になったらしい。

 

「ニュート伯父さん久しぶり! ティナ伯母様とアベルは元気?」

「妻も息子も元気だよ、相変わらずだね」

「伯父さんも伯母様も美人なのが素晴らしい限りよ」

 

 伯母様は母さんのお姉さん。流石の家系、母と同じく意味の分からな美貌を持っていて、伯父さんと一緒に世界中飛び回っている。

 彼の息子であるアベルは私の6個くらい年上で、全寮制の学校に通っているから手紙でしかやり取り出来ないのが非常に残念。今の時期は彼も夏休みだからイギリスにスキャマンダー家は揃っていたはず。

 

「また泊まりに来てね」

「もちろんさ」

 

 再会のハグを交わすと手紙を渡された。

 

「開けてみてご覧」

「うん。あ、そうだ伯父さん。あの子達の餌がもう無くなりそうなの」

「丁度良かった、新しく持って来たんだよ」

 

 ペーパーナイフで封を切り、中から古ぼけた羊皮紙に書かれた文字を読む。

 

 内容は『ホグワーツという魔法魔術学校の入学許可を得たので通ってね!』というものだった。

 

「………………詐欺?」

「そう来たか」

 

 詳しく聞くと、イギリスにある魔法を学ぶ学校で、11歳から7年間通う全寮制の学校で途中退学したけどニュート伯父さんの母校らしい。

 アベルが通っているから安心らしいけど。

 

「まほ、魔法?」

 

 そんなものあるのかと首を捻ると兄さんからジト目が飛んでくる。私は記憶を掘り起こして、あからさまにおかしいと思った所を口に出した。

 

「じゃあ、ニュート伯父さんに貰った広がるトランクとか」

「魔法だね」

「父さんのパンのモデルになってる、トランクの中に入った私のペットとか」

「魔法生物だね」

「伯父さんが届けてくれるここらで見ない餌って」

「魔法界のだからね」

「母さんが一瞬で料理を作ったり私の心を読むのも」

「魔法ね」

 

「──私が可愛い子に目がないのも!」

「それは遺伝」

 

 

 なんてこった! 身近に溢れる魔法!

 いや、地元の学校では魔法使いがいるいないで言い争いしてたり、魔女狩りとかの本が沢山あったりするけど!

 

「……むしろ逆になんで気付かなかったの?」

 

 兄さんがポツリと呟いた。

 

「待って、じゃあなんで兄さんは地元の学校に通ってるの? アメリカの魔法学校?」

「リアムはノーマジの学校よ。それにしても、リアムがスクイブだからてっきりミリーもだとばかり。癇癪も無かったし」

「ノーマ……? スクイ…………??」

「まぁエミリーは魔力がびっくりするくらい少ないみたいだし」

「衝撃の展開に! 脳みそが理解してくれません! お願いだから1から説明して!」

 

 とりあえず魔力が少ないというのは大問題なのでは?

 

「キミにプレゼントした動物は魔法生物って分類がされてるんだ。あの子達を育てられるキミは間違いなく才能があるし、好かれやすさはジェイコブそっくりだ!」

「まぁ、はい。えっと母さん、業界用語は?」

「そうねぇ…──」

 

 ニュート伯父さんは興奮している様子なので、母さんが代わりに魔法界の在り方について説明してくれた。

 

 純血とは魔法使いと魔女の間に生まれてくる子供や家系の事で、初代以降混じりっけなしの血を受け継ぐ家らしい。

 そして魔法族と、ノーマジと呼ばれる非魔法族が結婚して出来た魔法の使える子供は半純血。お馬鹿兄さんみたいに親に魔法族の血を持っているが魔法が使えない人をスクイブと言うらしい。

 

 魔力が少ないって事は、私はスクイブになりそびれたというわけか。

 

「あ、でもイギリスではノーマジじゃなくてマグルって言うから覚えておくといいよ」

 

 はァ、つまり伯父さん。

 行くことは決定事項なんですね?

 

 ……めちゃくちゃいい笑顔でサムズアップされた。可愛いけど泣きたい。

 

「せめて日本なら良かったのに」

「日本好きだねェ。確かそっちにも魔法学校はあったはずだけど、手紙が来ないし、何よりこれから盛り上がりを見せようと思ってる魔法生物界隈の超新星をアメリカに取られないよう必死に手回ししてたからね」

 

 私知らず知らずの内に超危険生物育ててたのでは。

 猫だと思ったら小虎だった、みたいなオチ。

 

「……日本じゃダメ?」

「そんなにオリンピックが良かったのかい?」

「ううん、あまり興味は無かったよ。父さんは大興奮だったけど。どちらかと言うとその時食べた食文化に衝撃を受けたわ、アレはまだまだ進化するわね」

「……流石料理上手とパン屋の娘だね」

 

 苦笑いで返されたけどその苦笑いすら可愛い。しわしわな目元がさらにクシャってなる瞬間が可愛い。

 

「──……だよ」

「ん?兄さんなんて言った?」

「ッ、僕はミリーと一緒の学校に行くんだ! 絶対ダメだよ! 通うだけならまだしも全寮制とかより一層ダメだ! あんまりだ! せっかく楽しみにしてたのに!」

「あー、兄さんの癇癪が始まったよ」

 

 夏休み入ってからは特に楽しみにしてたから、私に引っ付きだした。

 

「ねェ伯父さん、私どうしても行かなきゃいけないの?この状態の兄さん死ぬほどめんどくさいから出来れば兄さんと同じ学校通いたいんだけど。どちゃくそ美人のイオお姉様もいるし」

「最後が本音だね。──答えは却下だ。魔法族と判明したからには魔法を制御する方法も学ばないといけない。多分キミには無いだろうけどオブスキュリアルにでもなってしまったら……」

 

 最後の方は聞き取りづらかったが小さな声で呟いた言葉は耳に入った。多分触れてはならない事なのかもしれない。

 両親とスキャマンダー夫妻には謎の絆がある。親族なんて緩い言葉では表せない絆が。

 

 魔法が存在すると分かった今、それは魔法に関係する何かだと思う。

 

 

「それにね、エミリー」

 

 肩を掴まれた私は困惑しながらも尊敬する伯父さんの目を見た。

 

 

「──伝統ある学校だからすごく可愛い子が多いよ」

「入学します」

「ミリーッ!?」

 

 

 即決だった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 9月。イギリスのロンドンにあるキングクロス駅の9と3/4番線からホグワーツ特急が出発する。

 今はお昼時だが到着は夜になるそうだ。

 

「エミリー」

 

 ニュート伯父さんが私の持っているスーツケースをちらりと見て注意をしていく。

 

「いいかい、分かっていると思うが確認だ」

「うん」

「キミの杖の芯材になったオカミーだけど」

「大きさには注意するよ」

「スウーピングエヴィルは飼い放し禁止、絶対携帯」

「大丈夫」

「デミガイズは脱走しないように気を付けて」

「腰にも気をつける」

「あとボウトラックルはポケットに入れてるね? キミは宿り木だからもしもの時は助けてくれるから忘れないで。例えば死刑になりかけた時とか」

「伯父さんもしかしてそれ経験則?」

 

 答えてくれないけどその笑顔が答えらしい。おいイギリス人、ハッキリ言わんかい。

 

「口に出すのを遠慮する系の子達はもう大丈夫だね」

「あの子達そんなに危険なの?」

「……キミが小さい頃から見てるから比較的温厚だけど、いやでもエミリーだし、まぁ、餌の援助は出来るから頑張ってくれ」

「適当過ぎるよ伯父さん」

 

 近所の子達みたいに、犬猫の感覚でお世話して暮らしてるから危険性というのもを認識出来ない。うちの子可愛いよォ!

 

「アベル、エミリーに基礎的なこと教えてあげてね」

「あーーー、まぁ、魔法生物以外なら」

「アベルは魔法生物苦手科目なの?」

「違いますー。あんたらが頭おかしいだけですー。お前なァ、幻の動物とその生息地読み切っただろ」

「8割くらいは」

「そ! れ! は! ……8割読んだじゃなくて覚えた、だろ。この魔法生物オタク共」

 

 私と伯父さんを見比べる従兄。

 あー、分かる、伯父さん魔法生物オタクだから話題に興味無いと専門用語だらけの会話は辛いよね。まぁ、私は好みの合致したから幸せだったんだけど。顔の。

 

「私記憶力あんまり良くないけど美形であるニュート伯父さんの話なら雑談でも覚えてる……」

「ここまで来ると変態の領域だよ」

「もちろんアベルの話も覚えてるよ」

「コワルスキー家って全体的にもうダメなんじゃない?」

 

 伯父さんと叔母様譲りの美貌で冷ややかな目を向けられてもご褒美にしかならない。困った。

 

 

「──うわぁぁん! 僕の愛しのミリー! 僕も、僕も一緒に行くんだ! 僕も乗るんだ! 運命が残酷だよォ!」

 

 ここにも困った奴がいた。

 案外適当な父さんに天然の母さん、そしてこのシスコンの兄よ。コワルスキー家死んだな。

 

 兄さんはやっぱり変だと思う。あと涙と鼻水で顔面がぐっちゃぐちゃになっててなるべく近付いて欲しくない。

 

「ミリィいいい! 酷いこと思わないでくれよォお! それだけミリーを愛してるんだよぉおお!」

「兄さん心読むのやめよう!?」

 

 私もうそろそろ思春期入るんだけど母さんも兄さんも私の心読み過ぎじゃない?

 隣のアベルにお前がわかりやすいだけだ、って指摘されたから精神的ダメージを受けてる。まさかアベルですら心を読んでくるとは……!

 

「……組み分け決まったら手紙書くね」

「ミリィい! やっぱり帰ろう! ほら帰ろう! ダメだ何ヶ月も会えないとか僕が死ぬぅう! あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

「ティナ叔母様、個性的な面々の面倒お願いしますホントに」

「えぇ、任せて」

「……」

「エミリー?どうしたんだ?」

 

 喋らない私を不審に思ったのかアベルが首をかしげて聞いてきた。

 

「…………美しい人が生きているだけで奇跡を感じる。ティナ叔母様今日も奇跡をありがとう」

「俺の従弟妹がこんなにも頭おかしい」

 

 そう言って立ち去ろうとする従兄。

 うわぁ! 1人にしないで! 私も一緒に行く!

 

「ミリーぃいい!」

「今生の別れじゃないんだから! それじゃあ行ってきます!」

 

 

 

 エミリー・コワルスキー。可愛いは正義、美しいは罪という世の中の神秘に気付いたが故に生きるのが楽しくてたまらない普通のアメリカ人です。……果たして、小さな頃から魔法生物を飼育している私が普通かと言われたら疑問なんだけど魔法界では普通だよね!

 




主人公はファンタビの2人に子供がいたら、という捏造設定です。親世代入学から始まるこの物語のテーマは『愛』、愛じゃよ愛とか言ってるユニークな校長を中心に色々ぶっ飛んでます。子世代から特にぶっ飛びます。と、思ったけど親世代でも大分ぶっ飛んでるので楽しんでください。諸君、仲良い親世代とか大好きじゃない?
混沌の恋音ワールドへようこそ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2.出会い

 

 ざわざわと浮かれた声で溢れる中、可愛い子センサーを働かせながら周囲を観察するためき静かにしていた私は、その周囲に変わり者を見る目で見られた。

 可愛い子、可愛い子、うん、あの人も可愛い人。あ、あの人も。えっ、待ってめっちゃ美しい男の人いた、緑のローブね、覚えた。いや待てよ、緑のローブ、めちゃくちゃ美形多いな! しかもイケメンじゃなくて美しい人ばっかりだ! 万歳!

 

 私の世界はここにあった!

 

「じゃあ俺監督生だから別車両行くよ、好みの子を見つけても決して迷惑かけないように。というかむしろ声をかけるなって言いたい、無理だろうけど」

「ねェアベル、ちょっと心配し過ぎでは?私はこんなにも可愛くて普通の魔女見習いなのに」

「……エミリー、俺の事、好き?」

「あざとく言ったって私は分かっているからな! 丸め込もうとしてるんだろう! めちゃくちゃ好きですけど? 伯父さん譲りの赤茶色の猫毛とか頭撫でられると目を細めちゃう癖とか」

「ハイハイ知ってるって。じゃあいい子にしてろよ、鼻血止めてから」

「私の天使が可愛すぎ……」

 

 苦笑いを浮かべて頭を撫でるとアベルは別の車両に足を進めた。彼の黄色いローブが(ひるがえ)る。

 

 やっぱりハッフルパフは伯父さんの寮でもあるから憧れるな。それにアベルは昔から兄さんよりも兄的な存在だから、やっぱり尊敬してるし。

 うん、いいなぁ。あの黄色。

 

「とりあえずコンパートメント探すか」

 

 そう思ったけど、周りの視線がうるさい。新入生特有の私服じゃなくて制服だから先輩達なんだろうけど。

 『あの鉄仮面が笑った』とか『一体何者だアレ、スキャマンダーの年下彼女か?』とか。少なくとも、アベルの評判が私の印象と全く違う事が分かる。

 

 ……学校でどんなことしてるんだろうあの従兄。

 

 可愛いから許すんだけどね!

 それに視線の中には綺麗なお姉さんとお兄さんがいるのも高評価です! 仲良くしましょう!

 

 今は、心の中で思うことにする。

 覚えたからな、絶対組み分け終わったら実行するわ。

 

「あー、席、席」

 

 空きのコンパートメントはまずない。駅から出発してる事もあって、チラホラと先客がいる。

 人がいる所に入らせてもらうしかないな。可愛い子が居たらいいな。

 

 よーし!好みの子見つけるぞー!

 

「うわっ!」

 

 いきなり止まったからかのか、後ろからの衝突につんのめる。

 

「わ、悪ぃ。大丈夫か?」

「あー、こっちこそごめん。怪我は無い?」

 

 男の子の声だったので振り返ると黒髪黒目の美形、と言うよりイケメンと目が合った。琴線に触れないな、好みじゃない。

 可愛いと美しいは私の大好物だが、その花を奪うイケメンは敵だ。

 

「今失礼なこと考えたろ」

「滅相もない」

「どーだかな。それより、アンタもコンパートメント探してるのか?」

「うん、空きが見つからなくてね」

「俺もう1人連れが居るんだけど……。あァ、ちょうど居た、ピーター!」

「ごめんごめん、っと、その人は?」

「目的は俺らと一緒。さっき会った」

 

 振り返るとそこにはくすんだ茶色の短髪の少年がくりくりとした青い目でこちらを見ていた。サイズは私より小さくて何が言いたいかと言うと。

 

「ああ〜〜〜可愛いよ〜〜〜!」

 

 可愛さに心臓が握り潰されるかと思った。

 

「え、僕?」

「貴方の名前は? とっても可愛いね、その瞳を見るだけで心臓が悲鳴を上げそうだよ。あ、私はエミリー・コワルスキーって言うの。良かったらその口で名を呼んでくれないかな?」

「え、あ、え、う、ピ、ピーター、ペティ、グリュー」

 

 パクパクと口を何度も開きながら少年は真っ赤な顔で私が距離を離すと最大距離を保った状態でフェロモン放出型イケメンの後ろに隠れた。

 

「えっ。その行動すら可愛いんだけど」

「なんだコイツ」

「一緒にコンパートメント探そうね。可愛いなぁ、ね、顔を見せてくれないかな?」

「ひぇえぇぇえ」

「『ひぇ』が似合う男の子とか中々居ない」

 

 思わず真顔になった。

 

「あーー……。えっと、Ms.コワルスキー?」

「なぁに、90点」

「…………なんだよそのあだ名」

「顔の系統があと10点可愛いに近ければ好みの子と似た顔立ちになってたから。兄さんの同級生である近所のお姉様がほんとに美人なんだよォ!」

「お前が大変失礼で変な奴だって分かった。とりあえずもうそろそろコンパートメント探そうぜ?」

 

 近所に住んでる美女と似た顔立ちをしているイケメンは呆気なく私を誘った。その呆気なさに思わず私がポカンとする。

 

「なんだなんだ」

「いや、私初対面でやらかしたと思ってるから、この状態で引かれて無いのが驚きで」

「まぁ、俺はキャーキャー騒ぐ女には慣れてるから。俺目当てでだけど」

「そういう子ってやっぱり可愛い?」

「身なりに気を使ってるから見てくれは良い方だろうな」

「許せん、その可愛い子ちゃん達紹介しろ」

「どうせホグワーツ生」

「許した」

 

 伯父さんの話通り好みの子が沢山居そうだ。幸せかもしれない。

 

「あの、Ms.コワルスキー?」

「エミリーでいいよ!」

「……エミリー、コンパートメント探そ?」

「全力で探しますとも、姫」

 

 イケメンの影から覗く可愛い子に笑顔を捧げる。守ってあげたいこの子。

 

「俺はシリウス・ブラック、婚約者は作る気ねェから求婚お断り」

「何それナルシストなの? 私が求婚したいのはピーターの方なんだけど」

「お前、実は魔法界の事良くわかってねェだろ」

「うっそ、もしかして魔法界の有名人? サイン頂戴。プレミアム価格で売り払うから!」

「売るな。有名ってレベルじゃなくて、俺の名前は魔法界での常識なんだよ。高貴なる由緒正しきブラック家ってのは」

「へぇー」

 

 てくてく歩きながら軽く自己紹介を交わし合う。ピーターとシリウスはダイアゴン横丁で出会ったばかりだそうだ。

 

 私はコワルスキー一家とスキャマンダー一家で揃って買い物に行ったんだけど、伯父さんの二フラーが脱走したくらいで運命的な出会いが無なかったんだ。羨ましい。

 

「あ、ここ丁度いいかもな」

 

 ボソリとシリウスが呟いた。

 

「ここ?」

 

 視線の先にある扉の中には2人の男の子が座っていた。ペラペラと何かを話している男の子と、それを笑顔で聞いている男の子。

 顔を確認しようと思ったがシリウスのノック音に意識を戻された。

 

「ここ、3人入ってもいいか?」

「キミは…….。あァ、ブラック家の。久しぶりだね、なにをしてたのか知らないけど、女の子引き連れて随分と遅いコンパートメント探しじゃないか」

 

 天然パーマの男の子がシリウスにそう返す。なんだかトゲトゲしい言い方だ。

 発言内容にブラック家とあるから、家の繋がりがあるのかもしれない。魔法界は純血だとかそういう血にこだわる単語があるから。

 

「はは、随分な嫌われようだな。一体俺がなにをした、ポッター家の。じゃあお姫様だけでも入れてくれよ」

 

 チラリと視線がこちらに向いた。

 イギリス人ってなんでこんなにまどろっこしいやり取りを好むんだろうか。仕方ないなぁ。

 

「そうだね。──お先にどうぞ、姫」

「姫、足元にお気を付けて」

「うぇええぇ!?僕なの!?そこはエミリーじゃないの!?」

 

 手を差し出してエスコートしようとしてみたが狼狽えるピーターが可愛すぎて辛い。シリウスはイケメンフェロモンヲ盛大に振り撒きながらピーターをきちんとエスコートしていた。

 

「ンブフ!ん、んぐ、そっ。そっち……!」

 

 天然パーマの子が耐えきれなくなって吹き出した。

 

「キミはそれで、いいの?」

「……天使を愛でるのに性別なんて関係ないから己の性別に執着がない」

「アッハッハッハ!もうダメだ!お腹痛い!さ、入りなよ!姫もどうぞ」

「良かったな、姫」

「もー!」

 

 プンスカプンと不服そうにしながらピーターが入る。そしてようやく天然パーマの子の目の前に居た子と目が合った。

 

「可愛いの暴力」

 

 膝から崩れ落ちた。

 

「今度は何が琴線に触れたんだよ」

「傷の子が可愛い。ピーターと揃うと威力が倍増して心臓に銃弾が埋め込まれたみたい」

 

 ホグワーツ生活初っ端からコレって私生きていけるのか心配。上手く言葉に出来ないが草木が芽吹くような清清しく深い愛情を抱いた。誰かこの感情に名前を付けるべきだと思う。もう私が付けよう。

 燃え死ぬが1番しっくり来る。可愛すぎて燃え死ぬ。

 

「……コワルスキー、お前早く入れよ」

「おぉ、英国紳士。ありがとう」

 

 呆れた表情なのは触れないであげる。

 扉に手をかけたシリウスが促すので素直に足を進めようとする。しかしその時、コンパートメントに入ってない私は特急列車の揺れがモロに影響を受けた。

 

「うお」

 

 後ろから派手にぶっ倒れるかと思ったが背中を支えてくれた存在があったので倒れずにすむ。

 

 私の後ろで毒々しい色を放っているその生き物は己の行動を称えるように小さく鳴いた。

 

 

「──いやなんだよそれ!」

 

 私を見ていたシリウスは舌を噛み切りそうな顔して言った。中途半端に伸ばされた手が哀れでしかない。

 支えようとしてくれたけど、その手より先にエヴィルが助けてくれた。

 

「スウーピングエヴィルのエヴィルです。ちなみに雌」

「なんつー危険生物持ってきてんだよ!」

 

 中に入った入ったとシリウスの背を押してコンパートメントに入る。流石に外でゴタゴタする気は無い。

 

「あ、待て、お前はピーター達の隣に座るな。ポッターの隣に行け」

「合法的に視界に入れられる……!」

「こいつどこに行かせても肯定的な変態か」

 

 しまった、選択肢ミスった。と言わんばかりにシリウスが頭を抱えてる。怖がっているピーターが傷の子にくっつく姿が2人まとめて可愛いしか感想が出てこない。燃え上がって死ぬ。

 

 

「で、そのスウーピングエヴィルは?」

「多分許可は伯父さんが取ってるよ。小さい時から一緒にいた家族の1人。いつも腰にいるから気を付けてね」

「……具合的には?」

「──天使傷付けようとしたらその脳みそ吸う」

 

 表情は真剣そのものだ。スウーピングエヴィルは人の脳みそが大好物で、何もしない時は手のひら大のトゲトゲした繭になっている。

 毒は人の記憶を消し去るものだから余地なしで危険生物だよね。こんなに可愛いのに。

 

「脅しだ」

「脅された」

「所でMr.ポッター、だったっけ。そちらのかわい子ちゃんを紹介してもらってもいい?私はエミリー・コワルスキー!自由に呼んでね」

「初めましてMs.コワルスキー。僕はジェームズ・ポッター、婚約者は募集してないよ。ミリーって呼んでも?」

「もちろん」

 

 握手を交わして自己紹介を終える。仕方ないと言いたげにだったが傷の子が自己紹介をしてくれた。

 

「僕はリーマス・ルーピン。これからよろしくね、エミリー」

「射抜かれた、胸を思いっきり射抜かれた」

 

 名前すらも可愛いとか何それ神様が遣わした天使なの? 後々天に帰っちゃう天使なの? 儚いの? 可愛い!

 

 ピーターとシリウスも続けて自己紹介を終わらせると、ようやく話せる、といった様子でシリウスが私に質問をぶつけた。

 

「お前、やっぱりポッターにも反応しなかったけど。マグル生まれじゃないのか?」

「え? ジェームズも有名人? サイン頂戴」

「家宝にしてくれるならいいよ!」

「こいつ売り捌くつもりだから是非とも止めることをオススメするぜポッター」

 

 するとコンパートメントの扉をノックする音がした。

 

「失礼、お話中ごめんなさい」

「ねェリリー、やっぱり僕戻ってるよ」

「セブを1人になんて出来ないわ」

 

 健康的な肌に、緑の目と赤毛の美少女。そして病的なまでに色白の肌に長い黒髪の美少年。

 

「ヒキガエルを見てないかしら」

 

 私は2人の手を握りしめて言い放った。

 

「貢がせてください」

「ミリー、落ち着いて」

 

 肩をジェームズに掴まれた。

 

「やァ、僕はジェームズ・ポッター。ヒキガエルを探してるのかい? もしかしてその男の? 趣味が悪いとし」

「──ジェームズ、私の天使査定にはその子も入ってるから。馬鹿にしたら、脳みそ吸うよ」

 

 ただ抜け駆けしたいだけか!

 殺気を込めて肩をギリギリと音がなるほど掴むと、私の表情が見えているシリウスが怖っ、と小さく呟いた。

 

「私の、ヒキガエルなのだけど」

 

 赤毛の美少女が美少年を庇う様に立って言い放つ。えっ、カッコイイ。なんで!?

 

「可愛いのにかっこいい……結婚してください」

「あら可愛い。男の子ばかりの所で窮屈じゃない?私たちの所に来る?」

「リ、リリー!?」

「是非とも」

「抜け駆けはダメだよミリー……!」

「く、ジェームズ貴様、力強っ」

「ミリーこそ力強いね……。腹が立つ程ビクともしないよ」

「兄さんみたいな性格しておきながら負けず嫌いかジェームズ!」

「キミ兄さんがいるの?」

「ジェームズそぉっくりなのがね!」

「お前らやめとけよ」

「ブラックは少し黙ってなよ! これはミリーと僕と運命の人の大事な話だ」

「黙ってシリウス! ついでにその無駄に整った顔面永久的に潰れてろ!」

「上等だ表出ろポッター、コワルスキー!」

「リリー、帰ろう、戻ろう。関わっちゃダメだ」

「ねぇねぇそこの男の子! 可愛いね! 私エミリー・コワルスキー! 貴方達の名前は?」

「ミリー!」

「コワルスキー! こっちが優先だろうが!」

「ぼ、僕らに関わらないでくれ!」

「まぁセブ……」

 

 段々と大きくなってくる騒ぎ声に傍観の姿勢を保っていた1人の人物が。

 

 ──キレた。

 

 ドン、という足踏みの音。思ったより大きな力で踏み込まれたのだろう。

 その音に思わず全員の肩が跳ねる。

 

 恐る恐る音の発生源を見るとそこにはリーマスが笑顔で笑っていた。

 

「……キミ達さァ」

「「「「は、はい!」」」」

 

 ジェームズとシリウスと私、あとついでに色白美少年が声を揃えた。騒いでた自覚のある人間ばかりだ。

 

「近所迷惑、考えてる?」

 

 底冷えする様な冷たい笑顔で告げられた忠告を聞いた私達4人は後に語る。その姿はまるで魔王の様だったと。

 

 

 

 踏んでください。

 

 

 ==========

 

 

 

 結局ヒキガエルはリーマスがカエルチョコだと思って捕まえておいたらしいのでリリーの元に戻った。

 

 そのままなし崩しで2人をコンパートメントに招く事に成功した私とジェームズは共闘の末に戦友の様な関係になった。やるじゃないかイギリス人の口車。

 

 2人は自己紹介をしてくれて、赤毛の美少女はリリー・エバンズ。色白の美少年はセブルス・スネイプという素敵な名前だった。世界はこの2人を産んだことを誇っていい。

 

 

「ヘェ、ブラックとポッターってそんなに有名なんだね」

 

 マグル育ちということでリリーとセブルスと私に説明してくれた。

 ぶっちゃけビクビクしてるセブルスが可愛すぎて、もう純血とかどうでもいい。

 

「そう言えばブラック、キミはマグル生まれに寛容だね」

「今更かポッター。俺は実家の方針が気に入らない異端児だよ、だから純血と言われているのに出身気にしないポッターと話してみたかったんだよな」

「それを言うならウィーズリーもじゃないか?」

「同年代に居りゃいいけど。ま、だから俺はグリフィンドールに行きたいけどな」

「ハハ!キミって最高だよブラック!あの家にもこんな人間がいるだなんて!交流しなかった過去の僕が哀れだ!」

 

 シリウスとジェームズが意気投合したみたいだけど私は恋のライバルらしいセブルスとジェームズの仲が不安でたまらない。

 

「エミリーもマグル生まれなの? セブはお母様が魔法族らしいけど」

「私は母親が純血、父親がノーマジ。セブルスと一緒だね! でもノーマジ、あ、マグル育ちだから2人と一緒だよ!」

 

 アメリカ出身だから少し英語に差がある事を訂正してセブルスに笑いかけた。一緒、という所でセブルスがほんの少しだけ安心したように微笑んだのを私は1ミリたりとも見逃さない。可愛い!

 可愛いがすぎるぞセブルス・スネイプ!

 

「あー、エバンズ。スネイプとはどういう関係かい?」

「……幼馴染よ、ポッター」

 

 セブルスに敵対心持ってると分かったリリーはジェームズを警戒してる。私はされてない! ははは! 同性というアドバンテージ万歳!

 

「ミリィ……。もうスネイプに嫌がらせしないから手の中でエヴィル転がすのやめてよ……」

 

 繭状態のエヴィルをジェームズに見える様に転がしていた。

 遠回しな脅しだ。天使を傷付ける奴は容赦しない。

 

「それって何?」

「伯父さんから貰った子達の1人。このスーツケースには拡張魔法がかかっていて、その中にエヴィル以上のクラスが複数居たりする」

「魔法動物?」

「案外生物もいるよ、ポケットには私を宿り木として認識してるボウトラックルのウトラもいるし」

 

 呼ばれたと分かったウトラは枝のような体をピョンと跳ねさせて私の指に乗った。可愛い。

 

「な、なァ。お前達は魔法界に詳しいのか?」

 

 指遊びしていた可愛い2人は首を横に振り、ふてぶてしさの勝る2人が首を縦に振った。

 

「これ、教科書じゃないけど気になって買ったんだ。魔法族のマ、母が頭抱えたんだけど」

 

 セブルスが取り出した本を見て、ジェームズとシリウスは頭を抱えた。

 

「おぉ、ママと全く同じ反応……」

 

 小さく呟いたセブルスの母親の呼び方が可愛すぎて幼女かなって思ってきた。可愛い。

 

「あら、それってセブが迷子になった時に手に入れたっていう──」

「リ、リリー!」

 

 私の指に乗ったウトラと遊んでいたリリーはその本を見てそう言う。真っ赤になったセブルスはワタワタと手を振りながら話を遮ろうとしていた。可愛い。2人を永遠に見ていられる。

 

 私が燃え死んでいるとジェームズがため息を吐いてセブルスの本を取り上げた。

 

「これ、キミの家関連のものだろ」

「間違いなくブラック関連。これ闇の魔術の、なんつーか、深い所まで関わってる本の完全版。どこで手に入れたんだよ」

「え、分からないが」

「もしもあるとしたなら」

「あァ──」

 

「「夜の闇横丁」」

 

「いい加減に返せっ!」

 

 セブルスがジェームズから本を取り返した。不服そうな顔をしてジェームズを睨みあげる。

 そんなジェームズも嫌悪感をにじませた顔をした。恋のライバル(仮)お互いを意識しまくってるね。とりあえずジェームズ、セブルスを傷つけたら、私が許さん。泣かせたら覚悟しろよ、なんかこう、ギッタンギッタンにしてやるからな。

 

「スネイプ……。それ気に入ってんのか?」

「あぁ! すっごく興味深い!」

「うっわぁ、趣味悪ィ。闇の魔法族にでもなるつもりかよ、ホントにマグルで育ったのか? この本俺の家でも手に入らねェ、運がいいのか悪いのか」

 

「──シリウス・ブラックゥ?」

 

「OK、その手に持った繭は仕舞おうか」

「ならリーフとマンティ。どっちがいい?」

「…………お前、確かスウーピングエヴィルはエヴィルでボウトラックルはウトラだよな」

「そうだね」

「名付けの法則から俺には嫌な予感以外しないんだが」

「だろうね。流石生粋の魔法族」

 

 お察しの通り、ヒッポグリフとマンティコアだ。敬意を欠く者には情け容赦は無用!とばかりに敵意を向けるらしい。らしい、というのも伯父さんから譲り受けた彼らは赤ん坊の頃からスーツケースという隔離された空間で面倒を見ているので気性の荒い所を見たことがないんだよな。文字だけの世界でしか知らない。

 

 確かリーフは魔法省分類でXXXだから優秀な魔法使いのみ対処可能で、マンティがXXXXXだから魔法使い殺し……。

 

 えっ、伯父さん強過ぎない?えっ、伯父さんのスーツケースにはもっと危なっかしいのゴロゴロいるんだけど。

 何十倍もの数と危険性の魔法生物相手に、あのニュート・スキャマンダーはあまりにも非常識すぎるコミュニケーション力。

 

 伯父さんは己を天才という言葉で当て嵌められる事が嫌い。私は有り得ない程の才能を持っているらしいから、こんな歳でも魔法生物相手に立ち回れる言わば鬼才。でも伯父さんは秀才だ。ずっと努力してきた。

 

 

「……私、ハッフルパフに入りたいなぁ」

「突然どうしたんだい?」

 

 何を言っているのかわかんない、むしろ思考が読めない。といった様子でジェームズが首を傾げて見てきた。我ながら己の思考回路が読めたらびっくりなのだが。

 

「憧れの伯父さんがハッフルパフ出身なんだ。親とか親戚とか、身近な人が居た寮だと憧れるよね」

「そうかぁ?」

 

 シリウスがその感覚は全く分からんと言わんばかりに腕を組んでいい放つ。

 私、親戚仲は二代揃って良好だから。

 

「……じゃあ、僕がスリザリンに入りたいと思うのも正常なことか?」

「うわっ、趣味悪っ」

「お前スリザリン希望かよ、頭どうかして…──ないな、うん、いやぁははは!なぁポッター!」

「そうだねそうだね!ブラック!」

 

 ハハハとから笑いをしながらジェームズとシリウスが固い握手を交わす。君ら失言癖どうにかした方がいいと思うよ。大事に抱え直したスーツケースに何かあると察したのだろう、チッ、勘のいいヤツめ!

 

「幼馴染のリリーさん、どう思いますか?」

「セブはどこの寮に入っても似合うんでしょうね。でも、闇の魔術っていうのはあんまり好きじゃないわ」

「リリーはどこに入りたいの?」

「ポッターと別のとこならどこでも。なら、ポッターの嫌うスリザリンに入るっていうのも手ね」

「なんてむごい事を!」

 

 このかわいい幼なじみ強い。

 

「ピーターとリーマスは?」

「僕は割とどこでも。魔法魔術学校に通えるだけでも素晴らしいことだからね」

「そこら辺私にを理解できないわ……」

 

 リーマスが可愛く笑いながら小さく胸を張る。可愛いの極み、燃え死ぬ。やはりマグル出身と魔法界出身では価値観に相違が見られるらしい。リリーはうーんと唸りながら考え込んだ。

 

「ぼ、僕はグリフィンドールに入りたい」

「ピーターには赤が似合うんだろうなぁ!可愛い!」

「……でも僕何も取り柄がないし、勇気なんてないからきっとハッフルパフだ。落ちこぼれの寮」

 

 しゅん、と可愛くしょげるピーター。天使が自信をなくしている!今こそ、私の立ち上がる時だ!

 

「心配しないで、ピーター!」

 

 私は笑顔でピーターに告げる。

 

「私の尊敬する伯父さん、ハッフルパフ出身なんだよ?大事なのはどこの寮に入るかじゃない、その寮でどう生きるか!」

 

 周囲は目から鱗が落ちたかのような顔で私に注目していた。

 えっ、何、そんな可愛い顔で見られたらあたし理性蒸発する。ジェームズとシリウス以外だけど。

 

「俺、実家がスリザリン家系なんだ。そんなこと考えたことなかった」

「僕もグリフィンドール家系だから、グリフィンドール出身は偉大な人が多いし」

 

「……──だって私どこの寮に入っても可愛い子は愛でるもん」

「「「「あぁ……」」」」

 

 

 すごく腑に落ちた感じに納得された。虚しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮は、最後に名前を呼ばれたセブルス・スネイプ以外、皆グリフィンドールだった。私はハッフルパフを希望したはずなのに思いっきり『お前馬鹿だからこっちの方がピッタリだ』とかって帽子に決定させられた。先に終わっていたリリーとシリウスに止められるという痴態を晒す羽目になったけど女の子に触れて嬉しいです。

 

 1人スリザリンのセブルスは組み分け終わりにリリーと離れたことによるショックか、知り合いが1人も居ない場所に入り込む先行きの不安からか。表情に影が差していた。

 

 この展開を予想していたのか、ジェームズとシリウスは薄まってきた嫌悪感を表情から隠し「アイツ大丈夫かな」と小さく呟いていたのを私は知っている。

 

 

 

「まぁアメリカ魔法学校出身の伯母様の調べによると、グリフィンドール贔屓のアルバス・ダンブルドアってホモ疑惑があるんだけどね」

「「えっ」」

「お気に入りは30年くらい前にスリザリン生が居たくらいで、だいたいグリフィンドール。しかも全員顔がいい」

「「えっ」」

「だって、未だに贔屓されている伯父さんが私をアメリカじゃなくてイギリスに入学させた方法って、どう考えてもダンブルドアだもん」

「「……えっ」」

「大丈夫はこちらのセリフだよ、美形家系の、グリフィンドールくん」

 

 さぁ……、と美形(スリザリン)家系のイケメン(シリウス)がその顔から色を失った。視界の端でリーマスがぶるりと震えたのを指摘するべきか見逃すべきか超迷った。誤魔化されたので、見逃すことにしたけど。

 

 

 




一応英語圏の話なので日本語のニュアンスが難しいぞ。『ヴォルちゃん』なんて表現は英語で出来ないし、なんなら『一人称』だってひとつだけ。『先輩後輩』なんて感覚すらない。ここが難しい所。
なので『母』の呼び方は『mother=母or母親』『mam=母さんorお母さん』『mommy=ママ』という三段階分けにしてます。


今はまだ物理で無理矢理仲の悪化を防いでる変態脊髄反射式脳筋主人公。相手が1年生という未熟だからこそ出来る策。知ってるか、これ別に狙ってないんだぜ……?
己の欲望に忠実なだけ。

【コワルスキーさんのスーツケースにいる動物さん】(まだ数匹いるヨ)(ゆっくりそれぞれの説明は追加していくヨ)
・デミガイズ(イズ)xxxx
・ボウトラックル(ウトラ)xx
・スウーピングエヴィル(エヴィル) beast
・オカミーxxxx
・ピッポグリフ(リーフ)xxx
・マンティコア(マンティ)xxxxx


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3.セブルス

 

「おい、見てみろよシリウスー!上空から失礼しまーす」

「おやおやおやおや?これはこれはスリザリンのスネイプではございませんか?我が寮のコワルスキーと揃って何をしているのやら」

 

「っ、ポッターにブラック……。な、なんだよ」

 

 若干震える声でセブルスが赤いローブを着てふざけている2人を睨む。

 

「そんな姿すら可愛いとかセブルスなんなの?キレそう」

「勝手にキレてろ馬鹿」

「馬鹿って言った! セブルスが馬鹿って言った! 可愛い! ジェームズとシリウスには苦手意識あるのに迷いなく私を罵倒してくるそんな扱いも私にとってはご褒美です!」

 

 私に対しての扱いが雑過ぎて新たな扉を開きそうだわ。

 そう考えながら私は一呼吸置いた。

 

 天地を巡る魔力よ、お願いだからここに集まってから私の力となれ…──

 

「──上がれッ!」

 

 

 

 

 

「「ブハッ! やっぱり逃げた!」」

 

 ジェームズとシリウスが声を揃えて笑う。

 私の手の中に収まる筈だった箒はぽん、ぽん、と軽快なリズムで私から距離を取っている。

 

「なんで逃げるの! なんで!? 私渾身の力を込めて念じたよ!? うわぁん子供の頃から箒に乗れる貴族なんて墜落してしまえッ!」

 

 セブルス、顔を背けたって震えてるの分かってるからね。天使なら許す、笑っていいよ? 虚しくなるだけだけど! それで天使に笑顔が訪れるなら私は道化にでもなんにでもなろうじゃない!

 

「ミリー、キミってホント才能があるよ。まさか箒が逃げ出す程の才能だと思わなかったけど!」

「こりゃまた良質な驚きをくれるとはなァ、相棒」

「ね、相棒」

「この魂の双子、天文台からコードレスバンジーでもさせたくなる」

 

 あっという間に心の道という舗装されてない山道を爆走した双子(遠い親戚)はこうなる事が必然だったんと言わんばかりに気が合う。今や悪戯仕掛け人と名乗っていた。

 可愛らしい悪戯の矛先は大体スリザリンで、緑のローブの方々は『スネイプアイツらがまたやった!』と知り合いでもあり家系のカースト制度に無関係なセブルスに押し付けている。なるほど、こうすれば自然とセブルスと会話出来るんだなと目を剥いた。

 

「フーチせんせぇ!」

「セブルス・スネイプ、エミリー・コワルスキー」

 

 上がれ、と言ったセブルスはゴンッと額に箒が強打した。痛みに打ち震えているセブルスの姿を空中から大笑いしているのは誰よりも早く成功させたジェームズとそれに続いたシリウス。

 

 1年生のみ行われる飛行訓練。その監督教授であるロランダ・フーチ先生─別名マダム・フーチ─は鷹のような鋭い目を優しく下げて、私とセブルスの肩を優しく叩いて、優しく告げた。

 

「見学をしましょう。今は飛べなくても、いつかは飛べるようになります。学校の箒は扱いづらいので気を落とさないでください。それに姿くらましを習えば移動手段には困らないのですから」

 

 遠回しに言われた惨事を生まない内に大人しくしとけという牽制にちょっと泣きそうになった。そして厳しいと噂のフーチ先生に気を使われて本格的に泣きそうになった。いいもんエミリー魔法生物がいるもん。いつかドラゴンの背に乗って空を飛ぶもん。ヒッポグリフのリーフに乗せて貰うもん!

 

 

「癖があるって分かってるならなんで箒を買い換えないんですか」

「……伝統があるのですよ」

「安全に飛行する為には慣れることから始めないといけないですよね、マグル出身も受け入れる学校なんですから」

「…………伝統が」

 

「やめてやれコワルスキー、教師として買い換える金が無いとは言えないんだから」

「分かったよセブルス」

 

 フーチ先生は無言を貫く事にした。若干遠い目をしてるのが特徴的だ。

 

「お前、やっぱりアメリカ人だな」

「ハッキリ言うのがお国柄なのよ」

 

 アメリカとイギリスは似てるようで正反対。ぶっちゃけフレンドリーな関係はまず築けないと思っていい。

 

 私は全く、謙遜とか自嘲とか理解が出来ない。自分が出来ることを相手に紹介するのにどうして己を下にして話さないといけないのか。

 

 

 お国柄って難しいな。

 

「僕もはっきり言うのはあんまり好きじゃないが、一つだけはっきり言えることがある」

 

 見学の指示に従うことにした私たちは拙い様子でも飛行を繰り広げる同級生を尻目に壁際でお喋りに興じた。

 セブルスは空を見上げ忌々しいというような視線で例の双子を視界に捉えていた。

 

「──あいつらは腹が立つ」

「わかる」

 

 膝を抱え完全に目が据わった2人で、バレない箒の墜落事故を考えていた。イラッとくるもんな、あの自称双子。煽り顔とか腹立つもんな。

 

「サッカーボールぶつけるとか」

「……? サッカー? フットボールだろ?」

「あァ、こんな所に異国文化の壁が。この壁呪い殺してくれるわ……!」

「呪い、そうだ錯乱呪文を掛ければいい。僕らの歳で高度な闇の魔術を使えるだなんて思わないだろ?」

「ナイスアイディア! キミってホント最高! 私は変身術のマッチ棒も呪文学もぜーんぶ実技はうんともすんとも言わないの!」

「はは、大袈裟だな」

 

「お二人共、私の前で話してるんですからそれは計画だけにとどめておいてくださいね」

「「はーい!フーチ先生」」

「よろしい」

 

 良い子の返事をするとフーチ先生は生徒の方に向き直った。決して実行させまいと思っているのが私達2人から離れない。

 結構結構本気だったのかセブルスは小さな舌を打ちをして顔を背けた。

 

「なぁ、コワルスキー」

「どうしたの?」

「お前、確かグリフィンドールでリリーと同じ部屋だったよな」

「そうだよ、リリーとイヴァナ・ドイルっていう何でも爆発しちゃうアイランドの女の子と一緒。ほら、あそこで箒爆発させた」

「……なるほど、すごく濃いキャラしかいない部屋だということがわかった」

 

 フーチ先生が慌てて駆け寄る。青い目が素敵なイヴァナは、どんな授業でも、どんなものでも爆発させてしまう不思議な才能を持っていた。ウンともスンとも言わない私よりはずっとマシだ。

 

「……お前に」

 

 セブルスは小さな声で呟く。

 

「寮の垣根なんて無いという馬鹿だということはおそらく全学年に知れ渡っている」

「待って、私今褒められた?」

「そういうところ、僕はいいと思うよ。扱いやすくて」

「私に対して地味に当たりが強い、最高! 私に全く遠慮しないセブルスとか、私得過ぎてホグワーツに来れてよかったなぁって心からしみじみと思うよ」

 

 呆れた表情のセブルスが私をじっと見る。ハッハッハ、そんな目をされても、私にはご褒美になるだけだぞ!

 

「お前、スリザリンの上級生に嫌味を言われても全く気付かないどころか口説きにかかっただろ」

「だって、あの先輩たちかわいくない? 流石に嫌味を言ってることは分かってたよ、『銃社会の凶暴種』とかって。いやぁ、銃社会って魔法界でも有名なんだね」

「……それより前に言われていた『さすがクリフィンドール生ね』という嫌味に気付いてないだろ」

「あれ、褒められてるんじゃなかったの?」

「『傍迷惑の代名詞だ』って意味だよ、お前が全く気づかないから上級生が心を粉砕してはっきり言ったんじゃないか。スリザリン生は大概湾曲した物言いで相手をバカにするのが得意なのに」

 

 それセブルスにも言えることなんじゃ、と思ったけど私はいい子なので流石に口を噤んだ。

 砕くどころか粉砕させてしまったか……。

 

「コワルスキー。僕にたくさん話しかけてくれないか」

 

 膝に顔を埋めながらチラリとこちらを見るセブルスが流石に可愛いすぎてしんどい、叫びたい。えっ、これ素で話してるの? ハニートラップとかじゃなくて?

 私セブルスの両親に感謝したい。貢ぎたい。最早セブルスだけじゃなく彼の存在を世界に産み落とした両親に感謝の心を込めてチップ100%で支払うべき。

 

「現金、札束で受け取ってもらえるかな」

「どうしてそういう発想になるんだよ」

 

 頭が痛いと言った様子でセブルスはとても深いため息を吐いた。

 

「遠回しに言っても伝わらなければ、ハッキリ言っても誤変換。素直に頭大丈夫か?」

「辛辣過ぎて胸がときめく」

「変態」

 

 私の脳みそは昔から変わっていないので全くブレてくれない。これもアメリカ人のお国柄なんだよ!

 ……信じてくれなかった。はい、素直に言います私の性癖です。アメリカという大国なら戯言も黙認してくれると思ったんです。

 

「とりあえず、コワルスキーが話しかけてくれるなら同室のリリーとだって話しやすい」

「私という存在はホグワーツでどうなってるの?災害?」

「凄いじゃないか、自分の事をよく分かってるんだな!」

「おっと……ここまで大興奮したお褒めの言葉が飛び出てくるとは……。想定外だ」

 

 

 泣いてない。笑顔が可愛すぎて逆に嬉しい。

 

 

「おーいスネイプ! コワルスキー! 見てみろよ! 秘技、アクロバット飛行! はは、悔しけりゃ空に来てみろ!」

「スネイプ! ミリー! どうだった僕の華麗な飛行!残念だったね二人共……でも悔やむ事はないよ、なんてったって天才である僕が同じ学年にいるんだからどうしても飛べなくなるって!」

「撃ち落とす」

「やめろコワルスキーまともに杖を使えない人間が無闇に振るな、……──僕が撃ち落とす。バレたくないから罪を被ってくれ」

 

「Mr.スネイプ、Ms.コワルスキー」

「「何もしてません」」

 

 私達はクスクスと笑いあった。

 可愛いは世界を救うと信じて止まないエミリー・コワルスキー11歳。セブルスは天使、絶対異論は認めない。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あの馬鹿共に対して合法的に仕返しが出来る日が1ヶ月後に迫ってきた」

「ハロウィンね、ハロウィン」

 

 セブルスが私の目の前でそう告げる。

 可愛い子に目がない私はセブルスの手足、もちろん従いますとも、己の欲望に。

 

「僕はもうそろそろ我慢の限界だ」

「いつも悪戯の餌食だからねぇ」

 

 毎日と言っていいほどジェームズとシリウスに絡まれるセブルスは、苦手意識もあってかそう強く言い返せていない。そこに付け上がる悪戯仕掛け人の双子はここぞとばかりに絡んでいた。

 いじめとか悪戯と言うより弄っている様子なので私のエヴィルの出番は無い。アイツら無駄に賢いから私のアウトとセーフの見極めが上手かった。

 

 勉強出来る馬鹿な優等生は滅べばいいのに。

 

「ところでセブルス。私、その計画に関しては全くもって大賛成なんだけどさ」

「何が問題なんだ?」

「今この場所」

 

 私達はレイブンクロー寮3階の女子トイレ。嘆きのマートルが居るし、よく水をかけられるのでホグワーツでは誰も寄り付かない。むしろここへ向かう途中で忠告を受けたくらいだ。……あと、セブルスに2階に行くぞって言われたと思ったんだけど、向かった先が3階だったのでとち狂ったのかと思った。アメリカではイギリスの3階が2階です。

 

 余談だけどレイブンクローは他寮の談話室と違い、入るにはブロンズ色のワシの形をしたドアノッカーが出す問題に答えれば入れる。セブルス、キミって賢いんだね。

 

「嘆きのマートルの許可はとったよ」

「ついでにピーブズもね!」

 

 面白そう! と混ざったピーブズがワクワクしながら洗面台に腰掛ける。と言えど、ピーブズはポルターガイストなので物は触れないが。

 

「……まぁそれならいいか。ピーブズ、何かあったり人が近付いたら教えてよ、絶対ね!」

「任せてよ! あの悪戯仕掛け人相手にやらかそうだなんて面白いこと混ざるしかないんだモンな! あと赤と緑が結託のとか面白いに決まってるじゃーん!」

 

 親指を立ててド派手な色をしたピーブズが笑顔でそう言う。セブルスはよろしい、と言い返した。

 

「ピーブズは長年ホグワーツに住み着くだけある、話を聞くだけで面白いよ」

「セブルス・スネイプって強かだよネー! 頭でっかちのクソ真面目な奴かと思えば、こんな奴だもん」

「可愛いよね」

「かわ、えっ、これ可愛い?」

 

 ケラケラと笑うピーブズは楽しそうだ。流石混沌の生霊、アーガス・フィルチがカンカンに怒鳴りながら追い払う悪戯好きだ。

 

「私ピーブズは悪戯仕掛け人の味方するのかと思ってた」

「えー、あのさァ、悪戯仕掛ける側が悪戯されるの見てて楽しいじゃん? いーーーっつもしたり顔のドヤ顔で悪戯してるんだヨ?」

「分かる」

 

 ピーブズの言葉にセブルスが頷いた。

 ちょっと分かるぅ。

 

「あっ、そうそう。私は主に魔法生物の素材とか餌に使われてる物とかの調達係として呼ばれてるのかな?」

「うん、そうだ」

 

 セブルスが私にも頷く。

 しかし何故かフリーズして考え込んだあと小さな声で呟かれた言葉に私は未来を察した。

 

「……あと最近コワルスキーが居ないと、さ、寂しい」

「死にます」

 

 約束通りリリーを連れた時は必ず声をかけてるし、周りからのカモフラージュと銘打って天使に絡みたいが為にリリーが居ない時も話しかけに行ってるから、私は本当に幸せです。まさかこんな、こんな。嬉しすぎて泣きそう。可愛い。天使。

 

 馬鹿、と頭を叩かれて軌道修正する。私は正気に戻れと言われたことがない、なぜならずっと正気だからだ。

 

 

 

「ぶっちゃけ計画は全く無い。ここで悪戯のスペシャリストピーブズ氏の出番だ」

「おまかせください」

 

 ピーブズは恭しく帽子を取って貴族の礼をした。

 

「魔法薬学のスラグホーン先生が僕を気に入ってくれてるみたいだからガンガン利用するつもりだ」

「私もツテがあるからお金かけた薬品でも取り寄せられるよ」

「……? 伯父か?」

「ううん、それとは別。伯父さんには餌しか頼んでない。この前その同志にカメラ貰ってさ、その方の守備範囲私より広いから私以上彼以下の『可愛い子』の写真で買収しようと思って」

「どうせポッターとブラックを売るんだな?」

「正解」

 

 たまたま見つけた私の同志。彼も私の見た目が守備範囲内だし、私も彼の美しさに目を奪われているので需要と供給が成り立つ自家発電の仲だ。自撮り写真も入れておこう。

 ちなみにツンデレの婚約者がいるらしいので紹介してもらえる。その婚約者も同志だし、自家発電の間柄だ。

 

「セブルス魔法薬作るの得意だよね」

「え? あぁ」

「良かったら私と共同講座作らない? 魔法薬品研究とかしたいんだー。私の子達から出る素材とか売ればお金になるし、そこから費用に出来るから材料費とか賄えるし」

「良いな、それ! 賛成だ!」

 

 嬉しそうに目をキラキラさせてセブルスが喜ぶ。その姿を見れるだけで私はこの世に生を受けた事に意味を見い出せた。可愛い。

 セブルスはなんでも新しい事に胸踊るタイプだよね。自分で出来るという感覚が楽しくてたまらないみたい。

 

 あー、だから成績がいいのか。特に実技。魔法とかもそうだし、魔法薬学とかも。

 

「でも、なんでいきなり?」

「魔法生物にかかる病気を予防したり出来る限り軽減したり治してあげたい、それは可愛い子にも適用出来る」

「……魔法生物どれだけ好きなんだ」

「多分キミの闇の魔術愛以上には」

 

 なんと言っても一に魔法生物、二に魔法生物、三にも四にも魔法生物。多分父さんに『見合いするならどんな人がいい?』って聞かれても『魔法生物一択で』って答えるわ。

 可愛い子とは結婚したいけど信仰に近いから支え合うなら魔法生物がいい。魔法生物に恋してる。

 

「ごほんっ、では本題に入ろう。何を作るか考える必要がある」

「はーいスネイプ先生!」

「なんだねMs.コワルスキー」

 

 手を挙げて質問だとアピールするとノリノリのセブルス(可愛い)が私を名指しした。

 

「えっ、何その教師像可愛い」

「理想の教師像だ。厳しい姿が教師って感じがする」

「可愛い」

 

 威厳を見せる姿が可愛いけど、実際居たら絶対嫌われる先生ナンバーワンじゃん。頭カチ割ってどんな思考回路してんのか調べてみたいけど、可愛くないのにセブルスがやるとめちゃくちゃ可愛くなるのなんなの。死にそう。

 私スネイプ先生の教え子になりたかった。でも友人という立場を手放したくない私は世界で1番贅沢な悩みを抱えていると思う。

 

「それで質問なんだけど、あとピーブズにもね。コレ、7年間続ける?」

「「楽しそう!」」

「私はその一言で7年を生きる術を身に付けた」

「僕お前のポジティブで理想主義的な所好きだな」

「私はセブルスの悲観主義的な所大好きだよ」

「イギリス人の発音真似するのやめとけ、馬鹿みた…──馬鹿だったか」

「だってイギリス発音素敵なんだもん…」

「不愉快だ、グリフィンドール50点減点」

「凄い!圧倒的な私情でここまでの減点量!」

 

 グダグダと遊んでいたら大分時間が経ってしまった。私達はスイッチが入らないと集中出来ないらしい。

 とりあえず何をするかの計画だけ立て、話し合いは休み時間や放課後、実験は休日を使う事になった。

 

 

 帰り道、セブルスはポツリと腑に落ちた声で呟く。

 

 

「コワルスキーは前衛的で盲目的な馬鹿だから僕みたいな典型的なイギリス人と話せるんだが、イギリス人とアメリカ人の気が合わないのは知ってた。それと僕とポッターは驚く程気が合わない」

「お、おう」

「──アイツはアメリカ人だ」

 

 ジェームズ・ポッターは紛れもなくイギリス人なんだけど、セブルスがそれなら仕方ないという表情をしていたので最早種族が違うと判断したらしい。

 可哀想に、文化に慣れないんだな、と呟くから私の腹筋は限界を迎えて、翌日ジェームズの顔を見て医務室送りになった。

 

 セブルス・スネイプ、恐ろしい子……!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4.悪戯

 

「……コワルスキー、準備はいいか?」

「大丈夫、極自然に渡すんだよね」

「うん」

 

 ハロウィン当日の朝早く、あの魂の双子に対する仕返しとしてセブルスが作った悪戯道具を持ってコソコソ話しながら大広間に向かっていた。

 

「にしても、まさか先生方に理論を聞きに行くだけで点がもらえるとは思ってもみなかった」

 

 仕返しの為に変身術のマクゴナガル先生や魔法薬学のスラグホーン先生、それにDADAのトレーネ先生に聞きに行った。やましい事は何もしてないので正直に言ったら全力でバックアップしてくれた。

 薬自体を調合してる場所を誤魔化すのが大変だったけど、下手な教室使ったら魂の双子にバレるから……。

 

 そして何より先生方は『2寮の生徒が仲良くて嬉しい、アイディアも計画も安全性があって素晴らしい』というニュアンスで加点してくれた。

 

「グリフィンドールとスリザリンって関係だから、中々に珍しいんだろうね。2人でずっと行動してたし」

「……その、リリーにフォローは入れてくれたか?」

「あァ、入れるまでも無かったけど」

 

 ここ1ヶ月セブルスと一緒に居たので恋する男の子としては想い人が勘違いをしないかが不安だったようだ。

 

 リリーとは同室なので一応私がフォローしようと思ったんだけど、リリーって『セブ、私が話すと真っ赤になって可愛いのよね。守りたくなるわ』と素で言う紳士だし、セブルス大好き人間だから、セブルスと私の恋愛模様だなんて1ミリ足りとも考えてなかった。

 『セブと仲良くしてくれてありがとう!』だってさ。とても輝かしい笑顔で言われたからアレはもう保護者の視点だね。

 

「あ、エミリーおはよう」

「おはよぉーアベル」

 

 ハッフルパフのローブを纏い美形の従兄が挨拶をする。今日も言葉で現せない顔面をしてるね。宝。

 にしても、随分久しぶりにアベルと会話をした気がするな。学年も最上級生と新入学生、寮も別々となると接点ないね。

 

「2ヶ月経つけど、どうだ?」

「もう最高だよ。上級生の人とも仲良くなれたし、可愛い天使は沢山いるし。──紹介するね、この子私の天使!」

「は、初めまして。セブルス・スネイプです。コワルスキーの戯言は基本スルーして行く方針で、な、仲良くしています」

 

 少し照れ気味に言ってくれたセブルス可愛すぎかな?私ほんとこんなに幸せでいつ死ぬんだろう。燃え死ぬよ。

 

「スリザリン生か。エミリーだから予感してたけどホントに馬鹿だよな」

「……そうですね」

「アベーール?」

 

 含みのある言い方やめて欲しいなイギリス人!

 相変わらず美形だなこの野郎!

 

「あっ、スリザリンと仲良くするのが馬鹿って言ってるんじゃないぞ?」

「大丈夫です、分かってますから。存在自体が馬鹿な事くらい」

「良かった、従妹に騙されているわけじゃないんだな。あ、俺はアベル・スキャマンダー。見ての通りハッフルパフの7学年で監督生だ」

「減点という武器でコワルスキーを制御出来ないのは残念ですね」

「顔って武器があるからまだ平気さ、ありがとな」

 

「私置いてけぼりなのに凄い勢いで罵倒されてるんだけど、アベルとセブルスだとご褒美にしかならないのでなんだか嬉しいぞ。私の事よく分かってるね!」

 

 アベルは私を一瞥するとセブルスの肩に手を置いた。

 

「俺は今年で卒業する」

「はい、頑張ります」

「単語で話さずに主語入れよっかー!?」

 

 嬉しそうに卒業の話を持ち出すアベルは紛れもなく私の扱いを心得てるな。心臓が二重の意味で悲鳴を上げているぅ!

 

 同じ学校に通えなくなる事と可愛いがすぎる事、コレエミリー検定の試験に出るので覚えておくように。

 

「あ、エミリー。トリックオアトリート」

「はいどうぞ」

「やりぃ、コワルスキー家のビスケット!」

「コワルスキー家はビスケットじゃなくてクッキーですぅ!」

 

 昨日せっせと厨房借りて作っただけある。実家がパン屋という事もあり小麦料理は大概レシピがある。その中でも大量生産出来るレシピの方。

 我が家はイギリス在住のスキャマンダー家が訪問してくるので、地元によくある蛍光色料理はあまり作らない。だからこっちでも受け入れられると思って作ってみた。

 

 ……セブルスがまさかおねだりするとは思ってもみなかったよ。可愛かった。味見係としてちゃっかりポジションをゲットしたセブルスに『それ、もう無いのか?』なんて悲しそうに言われたら、気付けば作り過ぎてたね。

 

「そっかー、エミリー居るからいつでもコワルスキー家の飯が食えるのか」

「あの、そんなにコワルスキーの料理って美味しいんですか?」

「母親も父親も料理上手いからコイツら兄妹二人共上手いよ。今度Mr.スネイプも作ってもらえよ、あ、でもパイだけは頼むなよ。アレは叔母さ、あー、エミリーの母親の腕が桁違いだから」

 

 あー褒められてる。

 嬉しすぎてニヨニヨしていたらアベルの友人らしき上級生が現れた。

 

「あ、この子駅で見た子」

「スキャマンダー、彼女?」

「……さすがにこれはない」

「アベル、それ、私に凄く失礼」

 

 死んだ顔で首を振ったアベルの姿に頬を膨らませる。英語覚えたての日本人か。

 私はアベルの彼女だと思われてたのね。私は彼女じゃなくて奴隷になりたいのでお断りします。

 

「周りはその外見に騙されないという利点を生むのでお前が傷付くだけで世界は平和だ」

「一目惚れ、って詐欺だよね……。『一目惚れです好きです→やっぱりいいですごめんなさい』って何度言われた事か……。私がフラれたみたいになってるのホント理不尽」

「馬鹿、馬鹿。馬鹿コワルスキー。それは一目惚れが詐欺なんじゃなくて、お前が詐欺なんだ」

 

「さーてお腹が空いたなー! かぼちゃケーキあればいいなー! そーれセブルス行くぞー!」

 

 

 セブルスの口癖が『馬鹿』になる前に背を押して目的地へ向かう。話を誤魔化してるなんてことはないよ。まさかまさか、可愛いセブルスの話を逸らそうだなんて!

 

「エミリー! お前クリスマス戻る?」

「戻らなー…あー、兄さんが……」

「手紙くらい書いてやれよ」

「週一だよ!」

「戻ってやれ」

「……面倒臭いのは年に1度でいい」

「じゃあ伝えとくな」

「ありがとー!」

 

 この様子から見るに休暇毎に来てくれてたんだなぁ、と思うとアベルを益々好きになるよね! 私の従兄がこんなにも可愛い!

 

「……お前兄と同じ顔だって言ってたよな」

「うん」

「ポッターに似てるんだろ?」

「リリーに対する態度とかめんどくさい所そっくり。私が地味に帰りたくない理由分かる?」

「分かる。という事は兄妹揃って顔面詐欺師なのか」

「これは間違いなく褒められてる」

「百味ビーンズ1粒足りとも褒めてない」

 

 ホントセブルスったらこの2ヶ月で随分とクールになったよね。

 あしらい方が上手くなったというか、扱いに慣れたというか。

 

 懐いてくれとは言わないし兄さんみたいになれとは絶対言わないけど初々しさが足りない。不服は無い。情緒不安定みたいだけど私これ己の性癖が浮気性だから超安定してるんだ。

 

 キツめの扱いしても私は嫌になるどころかご褒美になるので離れる所の話じゃないんだけどね!嫌悪滲ませる顔すらセブルスは可愛いので気軽に罵って欲しい。

 

「今度ビスケ、っ、クッキーの作り方教えてくれよ」

「作り方流石に覚えたんじゃないの?」

 

 

「だからお前は馬鹿なんだコワルスキー。お前はやり方が分かっても箒には乗れないだろ、そういう事だ」

 

 この天使積極的に心を抉ってくる。

 ため息と共に吐き出された言葉はとても納得出来た。母さんのパイはレシピ真似しても作れないから。

 

「あ、セブ! エミリー!」

「「リリー!」」

 

 私達を見つけたリリーが嬉しそうに笑って駆け寄る。その笑顔に値段は付けられない。天使の笑顔を見ただけで疲れきった私の心は洗われる。つまり常に天使と共にいるので私は疲れ知らずだ。

 

 まぁ私のことはどうでもいい! リリーが可愛すぎる!

 

 

「エミリーはさっきぶりね」

「先行っちゃってごめんね、私と違ってリリーはとっても素敵な女の子だから身嗜みはきちんとしないとね」

「身嗜みをちゃんとしないエミリーはすぐ出ちゃうんだから……。セブが可愛くて大好きなのは分かるけど、折角綺麗なのに勿体ないわ」

「まぁね! 母さんが美しいから! それにしてもリリーは見た目だけじゃなくて精神的な凛々しさがあるからそんなにも素敵なんだろうね」

 

 もちろん見た目も大好き。愛してる。

 若干フワフワとパーマのかかった細い赤の髪も、日の照った森や草の様な鮮やかな緑のアーモンド型の目元も。優しそうな雰囲気は性格が滲み出てるのに、その中にハッキリ存在する筋の通った信念。どれもこれも美しくて可愛い。

 

「──そこのお2人さん、息を吐くように口説き合わないで欲しいな。僕もエバンズを口説きたい」

 

 私がリリーの魅力に何度目かの心を捧げているとターゲットであるジェームズが声をかけてきた。

 

「おはようリーマス! ピーター! あとついでにジェームズとシリウスも」

「俺らついでかよ」

「むしろ逆になんで天使を優先させないと思ったの?」

 

 シリウスの言葉に心から首を傾げたい。お前私の何を見てきたの?

 

「おはようエミリー」

「……おはよー、えみりー」

 

 笑うリーマスと寝ぼけた状態のピーターが挨拶をしてくれる。1ヶ月以上グリフィンドール談話室で会わない同寮生って中々珍しい。

 

「リーマス大丈夫?」

「えっ」

「……え?」

「はぁ?」

 

 そこらかしこからなんか色々言葉が飛んできた。なんでよ。

 するとその場を代表してジェームズが言ってくれた。

 

「ミリーが、欲望を優先してないって」

「天使が体調崩してたら悶えるより先に心配するに決まってるじゃない。心配しないとかその人本当に心臓動いてる?」

「お前全体的に発言ぶっ飛んでるよな」

 

 顔色の悪いリーマスが大丈夫と困った様に笑ってくれたので話を切り上げる。先月も確か顔色悪かったし、両親の面会でホグワーツに居なかったから、触れない方がいいだろう。

 

「そうだスネイプとミリー! トリックオアトリート! お菓子くれないと悪戯しちゃうぞ」

「期待してるぜ、二人共」

 

 ニヤニヤと笑いながら双子が言う。流石にセブルスは彼らが苦手なので私の背中に隠れるかと思ったら、顔を輝かせた。

 

「えっ?」

「おっ?」

「食べてみてくれるか!?」

 

 セブルスが包装されたクッキーを持って双子に詰め寄った。ジェームズは口を真一文字に結んでキョロキョロしてるが、シリウスは困惑した様子で短く言葉をもらしている。

 

 視界の端でリーマスがパグの様な表情をしながら胸に手を当てた。何をそんなに謝っているんだろう。

 

「これ、本当に美味しいんだ! コワルスキーのクッキーなんだけどな、僕、おかわりしたくらい美味しかった! 貴族のキミらが美味しいと感じるかは分からないけど、冗談抜きで美味しいんだ!」

 

 きゃわいい!

 

 案の定ジェームズとシリウスは戸惑った表情で……まてよアレは可愛さを噛み締めてる顔だな。そして自分の感情についていけてない奴。

 

「リリー」

「どうしたの?」

「あの可愛い生物の胃袋掴んじゃった?」

「完璧にね。じゃあ私の胃袋も掴んでくれる?あ、交換ね!」

「リリーが手ずから作ったものを私の体内に取り込めるってこれ合法でいいんだろうか。内臓売るべき?」

 

 私の涙腺が可愛さでオーバーヒート起こして火を噴きそう。

 

「分かったよ! 分かったから離れて!」

「お腹が空いてる時に食べるのが一番だ、食べてみろ!」

「なにこの大興奮スネイプ! 誰が得するの!?」

「私だ」

「ミリーだったのか」

「暇を持て余したセブルスと私の」

「どうでもいいから早いとこ食って悪戯行くぞジェームズ」

「「邪魔をするなよ!」」

 

 ジェームズと声を揃えて罵倒する。シリウスはノリというものを分かってないんだよこのお坊っちゃんめ!

 セブルスの期待の目から逃げられない2人は大人しくクッキーを食べることにしてる。口に入れた瞬間驚きに染まっているので大成功だ。

 

「えっ、なにこれ美味しい」

「はぁー?意味わかんねぇ! なんだよコレ!」

「だろ! だろ! 最初食べた時はふざけるなコワルスキーと思った!」

 

 美味しいって感情は伝わるのにキレ気味なのが不服でならない。当然セブルス以外ね。

 

「セブー?」

「あ、どうしたのリリー」

「ふふっ、私のお菓子も貰ってくれるかしら」

 

 セブルスの表情が輝いた。

 その時だ。ポンッと栓が抜けたような音がしたと思ったらクッキーを食べ終えた筈の双子の姿に変化が起こる。

 

 ジェームズは鹿の角と耳と尻尾。シリウスは黒犬の耳と尻尾だ。私とセブルスは顔を見合わせてハイタッチをする。

 

「これキミらがやったの!?」

 

 なんてことだ! と大騒ぎするジェームズに周囲を通りかかった人達は吹く。滑稽な格好だ。

 

「僕とコワルスキーからの悪戯だ。苦労したんだぞ、そのポリ」

「あんなどぎつい色したポリジュースの成分どうやっていじくってビスケットに混ぜれたんだよ!? くっそー、やる事は分かってたのにこういう手で来るとは思わなかった……!」

「えっ、は!?ど、どういう事だよポッター!」

 

 やばいといった表情でジェームズは口を噤む。計画知られてた?なんで?あっ、リーマスが謝ってたのってコレか!

 じゃあ何、ジェームズとシリウスは分かってて掛かりに行ったって事!?

 

 シリウスの方をバッと見るとニヤリと笑うイケメンの姿があった。イケメンはこの世から消え失せろ。

 

「これあれだろ、変身術と魔法薬学。それと成分の制御としてDADAと呪文学。よく出来てるよな、ぶっちゃけくそ不味いかと思ってた」

「なんで知ってるの!?」

「秘密」

 

 セブルスは仕返ししてやろうと意気込んでいたのに向こうの方が1枚上手で消化不良の様だ。でも私分かってる、来年はやり返してやろうって思っているの。

 

「スネイプ!キミって才能あるよ!悪戯仕掛け人にならない!?」

「………………正気か!?」

「正気だよ!これ闇の魔法も入ってるんだろ!あんな物騒な魔法をこんな事に変えることが出来るだなんて!僕ら揃えばホグワーツに暴風雨でも呼び寄せられそう!」

 

 それは問題だと思う。

 

「い、嫌だ、僕、お前が大嫌いだから!」

「おうふ……ストレート過ぎて謎のダメージを受けたよ……」

 

 胸を押さえてヨロヨロと呻くジェームズ。セブルス可愛いなぁと思いながら傍観の姿勢を保っているとシリウスが耳元に口を寄せてきた。

 

「……コワルスキー、お前スネイプに何した?」

「アレはセブルス本来の可愛さだよ現実逃避しないで」

 

 シリウスは奇っ怪な物を見る目で私の天使を見なおす。あ、ハロウィンという事を思い出してジェームズがリリーに集りに行った癖に『お菓子』と書かれた紙を渡されたみたいだ。ドヤ顔するセブルスと真逆で血を吐きそうな顔してる。

 

「アレは完璧、気に入ったぞ、アイツ」

「あの可愛さに傾倒しない人間が居たら私はまず呪いがかかってないか考えるね」

「お前流石にそれは馬鹿だろ」

「毎日セブルスに鳴かれてる。もうそろそろ口癖になりそう」

 

 どう考えても私のせいです。

 

「とりあえずさァ、コワルスキー」

 

 シリウスは催促する様に手のひらに物が置けるような形で私に手を差し出した。

 

「ビスケットおかわり」

「クッキーだからあげません」

 

 クッキーって呼び方だけは譲ってたまるか。




悪戯仕掛け人にセブルスとエミリーが追加された。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5.ジェームズ

 時も過ぎ去りクリスマス休暇。

 悪戯仕掛け人に入れば悪戯の被害を食わないんじゃないか…? と考えたセブルスにおねだりされたので肉壁として一緒に入った。

 

 合計6人、それとリリーでよく一緒に行動する。スリザリン1人だけ混ざって周りから何か言われないのか、というと……確かに言われていたんだけど……。

 

 

 『頼むスネイプお前だけがスリザリンの頼りだ被害を無くせとは言わないから抑えてくれ頼む』と多方面から支持があったらしい。ジェームズに流石にどうかと思うよと呟いたけど彼に、計画通り……! みたいな顔されたのでイギリス貴族めっちゃ怖い印象付いた。

 

 

「エミリーとスネイプの悪戯は綺麗だよね」

 

 グリフィンドールの談話室でワンプスキャットのワンプを撫でながら談話室で話をする。ジェームズが呟いた言葉に少し疑問に思った。

 

「性格が同じなら私は美しい人を好きになる。同じ悪戯なら美しい方が得じゃない?」

「うーん、一理ある」

 

 ワンプがスリっと甘えて来る。

 ピューマやマウンテンライオンに似たこの子の生息地が北米の山脈なだけあって冬には強い。引っ付くと暖が取れる。黄色の鋭い眼光が素敵だよ、ワンプ。

 

「でもさァ、僕はビビってる顔を見たいが為に悪戯してるんだよね。目立ちたいが為に悪戯したいんだよね」

「ここに来て悪戯仕掛け人の方向性に違いが出てきたね」

「あ、キミらの悪戯を否定してるわけじゃないよ?」

「分かってるよ」

 

 おいでおいでー、と呼んでみるとジェームズは恐る恐るワンプに近付いた。ワンプはスンスンと鼻をひくつかせて誰かを確認する。

 私の匂いと似た匂いだから身近な人間だと分かったみたいだ。偉い! 可愛い!

 

「……ワンプスキャットって催眠術とか開心術の力を持ってる魔法省分類XXXXXの、だよね」

「アメリカのマスコットらしいよ」

「アメリカ怖い」

 

 英国魔法界がどんな世界なのか知らないけどセンスいいなとは思う。母達の母校であるイルヴァーモー二ーは寮の名前が魔法生物らしい。羨ましい限りだ。是非ともワンプス寮に入ってみたかった。

 

 ワンプの柔らかな毛で覆われたお腹に背を預ける。ジェームズもそれに習って背を預けた。

 

「ねェジェームズぅ」

「なんだいミリー」

「貴方はセブルスとどうなりたいの?」

 

 悪戯の矛先にして揶揄う割りには、スリザリンと馬鹿にしている割りには、嫌悪が無い。リリーを取り合う恋のライバルだという点があるから仲良くするのは中々に難しいと思うけど。

 

「あっ、リリーには好きな子に意地悪したくなる小学生だって言っておいたから嫌われる事はないと思うよ。貴方子供ね、って呆れられるくらいで」

「それは、喜んだら喜んだで問題だよね……」

 

 はー、とため息を吐いた。

 

 

「スネイプは良い奴だよ」

「知ってるよ、ジェームズが心配だからって雑な絡み方してるの」

「バレてるんだねぇ」

「可哀想って同情を集めたら悪者はジェームズだもんね。本当に嫌がる所を見極めているの、素敵だと思うよ」

「リリーにさり気なくアピールしておいてくれる?」

「……それはちょっと。私、リリーと結婚するので」

「おっと、ここにも強大なライバルが居た。じゃあ僕はシリウスと結婚したら平和になるのかな?」

「素晴らしく平和だね」

 

 馬鹿馬鹿しい話でお互い笑い合う。談話室の暖炉の火がゆらゆら揺れて眠気を誘いそうだ。

 無言の時間がただ過ぎ去っていく。時間の中で生きている感覚に心地良さを確かに覚えた。

 

「スネイプは、良い奴だ」

「さっきも聞いたよ」

「闇の魔術が好きな所はどうかと思うけど、それを除いても、良い奴なんだ。まず女性の趣味がいい」

 

 ぽやぽやと答え始めるジェームズ。

 暖も取れるし何より私が丹精込めてブラッシングした毛並みだぞ。そこらの布団より寝心地がいいだろう。

 

「それに僕、ポッター家の次期当主だから……悪戯仕掛け人は居心地がいい……だから、スネイプも無理矢理……」

「無理矢理だったとしても、セブルスは嫌がってないよ」

「ほんとぉー?」

 

 寝ぼけ眼で目を擦りながらジェームズが聞き返す。

 

「本当だよ、二人共素直じゃないんだから。似た者同士だね」

「似てる、似てるかァ……。そんなの、嬉しいじゃないか……」

「……これは本格的に好きな子に意地悪する小学生だね」

「残念、好きではないんだよねー」

「嫌いでもないんだね、分かった分かった」

 

 もう半分以上寝ているジェームズの頭をポンポンと叩いて眠りに誘う。

 こうしてれば可愛いんだけどなぁ。

 

「魔法薬学、とか、闇の魔術が、敵わない、悔しい。秘密だよ」

「正しくライバルだね」

「僕、将来、DADAの先生になりたい。スネイプに対抗する……ライバル……」

 

 かくん、と寝落ちた。

 規則的な寝息が耳に入ってきて、愛おしくなってきたので頭を撫でる。小さく身動ぎをしたジェームズはちょっとだけ口角を上げて本格的に寝入った。

 

「……危険生物に体預けて寝れるとかコイツの心臓鉄製かよ」

「ブホッ」

 

 ゲホゲホと誤魔化す様な咳き込みがそこらかしこから聞こえてくる。流石に居るとは分かっていたけど想像以上の人数だ。

 

「他に感想ねぇのかよ」

 

 私とジェームズの反対側からズシッとワンプに体重を預けたシリウスが口を開いた。ニコーっと笑みを浮かべて私は言った。

 

「そう思ってなくてもそう思わせるようにするもん」

 

 今日ここで『スネイプの事心底嫌い!』って言われたら何故かを聞き出して本音を歪めて私が解釈して何度も言って、そう思わせるよう認識をズラしていた。

 友人と天使が仲違いって悲しいもん。両者共に得がない。

 

「迷惑そのものかお前は」

「翻訳機って言ってよ、いつかは本当の意味になるんだから」

「それもう洗脳だからな」

「あははっ、でもジェームズとセブルスの拗れた関係がまともになるならいいじゃん」

 

 ぴょこっと顔を出したリーマスが笑いながらフォローを加える。思わずチップとしてチョコをあげた。

 この2人がいるという事は……!

 

「あれ? ピーターは?」

「あいつDADA。だーいすきなトレーネ先生のお手伝いだってよ」

「あの先生好きじゃない」

「理由は?」

「20代にしか見えないのにアレで40とか女の敵! ……あとバレないように写真を撮る方法聞きにいったのに全力で止められたから」

「いい先生だな。ピーターが気に入るわけだ」

「とってもいい先生だね」

「天使の興味関心を引く所も嫌いだうわぁん!」

 

 トドメを刺しに来たシリウスなんて将来そのサラッサラの髪がキシキシのくるんくるんになってしまえばいいんだ!

 

「よォ悪戯仕掛け人」

 

 騒ぐ私たちに声をかけたのは恐らく周囲で息を潜めていたであろう上級生だ。褐色の肌にゴワゴワとした髪を持った男が片手を上げている。

 

「やぁMr.ジョンソン。聞いてた?」

「他にもいるけど聞いてたよ」

 

 苦笑いを浮かべる彼が送った視線の先にはクィディッチのグリフィンドール選手ばかりだった。

 クィディッチ大好き人間のジェームズにとって後のチームメイトに醜態を見られたわけか。

 

「ワンプは開心術の力を持ってるって言ったのジェームズなのにね!」

「あー、それで本音がボロッボロに出てきたのか」

「悪いけど()()にしておいてね」

 

 お願い、とジェスチャーで頼むと彼はニヤリと笑う。顔を伏せたワンプは完璧寝に入る態勢だ。

 

「1年生諸君に教えてあげよう!」

 

 大きく手を広げるとチラホラと同学年の生徒が顔を出した。

 

「ホグワーツでの秘密というものは、皆知ってる秘密なのだ! というわけで秘密を共有しに行くぞコーン!」

「お前最低で最高だな!」

 

 Mr.コーンを連れてMr.ジョンソンは外へ向かった。

 上級生はハハハと乾いた笑いを浮かべて2人を見送った。関わる気は無いってか。あれれー、悪戯仕掛け人と同じ構図だなー。

 

 ……私達もよく双子を見送るもんね。

 

「せめて、本人の耳には入らない事を願おうぜ」

「そうだね」

 

 この本人というのは悠々と寝ているジェームズの事である。

 ゴソゴソとスーツケースの表から毛布を取り出しジェームズにかけ、私の分も取り出す。

 

「何、お前ここで寝るの?」

「ワンプが寝落ちた」

 

 ワンプに持たれたジェームズが眠り、そのワンプ自体も眠った。ワンプが嫌がるならジェームズを起こしたんだけど。こうなったらスーツケースに戻すのも嫌だし監視と愛情を込めて一緒に眠ることにした。

 

 

「ねェエミリー」

「エミリー、ちょっとお願いいい?」

 

 私に声をかけたのはマグル生まれだから魔法の基礎を勉強するためにホグワーツに残った女の子達。意を決した様子で口を開く。

 

「私達もここで一緒に寝ていい?私もこの子も、ついでにエミリーもだけど、同室の子が居ないから少し寂しくて」

「もちろん!」

 

 アベル曰くクリスマス休暇は残る人が少ないらしく、私も同室のリリーとイヴァナが実家に戻っているから人恋しい。

 2人はパッと顔を明るくさせて部屋に毛布などを取りに行った。

 

「僕達は同室皆残ってるからそう思わなかったけど、セブルスもそうなのかな。スリザリンってどこの寮より残ってる人が少ないし」

 

 リーマスがポツリと呟いて部屋に戻っていく。多分、アレは毛布を取りに行ったんだと思うな。ワンプが私以外に懐いてるのってリーマスだし。なんというか、戦友って雰囲気。

 

 するとシリウスが明るい声を上げた。

 

「そうだコワルスキー! 他の寮の1年も全員呼ぼうぜ! ホグワーツ1年生クリスマス前のお泊まり会だ!」

「何それ最高!」

「よっしゃ勧誘は任せろ! 一人残らずブラック家の俺が連れてきてやるぜ……!」

「実家の名前を使いこなすシリウス流石! そこに痺れる憧れるぅ! 門限近いから急いでよね! 各寮の合言葉は大丈夫?」

「ハッ、俺を誰だと思ってるんだ」

「悪戯仕掛け人!」

 

 イケメンは何をしても様になる。1年生特有の無鉄砲な行動でも格好良く見えるんだから敵だわ。あの顔面宝箱が数々の可愛い女の子の視線を独り占めしてたと思うと殺意湧いてくるね。

 

「コワルスキー、俺達上級生はダメ?」

「他の寮の子の気が引けちゃうので全員と仲良い人以外禁止でーす。私のワンプも子供じゃないと警戒心強いので諦めて仲良くなることから始めてください!」

 

 薬草学が好きでよく話してくれるMr.ロングボトムが彼女と一緒に聞いてきたけどリア充に情けがあると思うなよ! そんな美人捕まえちゃってさ!

 

 残念そうな顔をしていたが理由を聞いて納得してくれたみたい。他の上級生を引き連れて部屋に戻って行った。

 

「はぁいエミリー来たよー、って、ルーピンも?」

「やぁ、僕も同伴に預からせて……ってあれ?シリウスは?」

「他の子呼びに行ったよ、毛布を抱き締めてるリーマス可愛いね! 量から見てピーターとシリウスの分もかな!」

 

 クリクリと目を丸くしてキョロキョロとシリウスを探すリーマスが可愛すぎて死にそう。サラマンダーの炎で物理的に燃え死ぬなら私はこの世に未練を残さずに天界に行ける。

 

「珍しく良い驚きを考えたね」

 

 毒舌なリーマスはこちらです! 可愛い!

 

「2人はどこで寝る? リーマスは尻尾だよね、モフモフの」

「うん。1度でいいから一緒に寝てみたかったんだぁ」

「私達は、うーん、エミリー達の反対に持たれてもいいかな?」

「大丈夫!」

 

 お邪魔します、と声を掛けてからマグル生まれの2人は背を預ける。魔法界の危険生物に詳しくない生まれの子達だからこそ出来る大胆な行動だ。

 すると便乗してグリフィンドールの1年生は次々毛布を持ってくる。しかも大量にだ。他の寮の子も来るって知ってるもんね。

 

 

 ある程度時間が経ち、もう少しで門限でもある就寝時間だという頃本陣が登場した。

 

「ただいまー! 連れてきたぜ!」

 

 シリウスが残っていた1年生を連れて戻ってきたのだ。ちゃんとセブルスも居る!

 

「ひぇあ!? ワンプスキャット!? おおおお、おいスネイプこいつら脳みそどうにかしてんじゃないのか!?」

「僕に聞くな、それにワンプは比較的大人しい気性だぞ」

「悪戯仕掛け人が! お前ら悪戯仕掛け人がスネイプという唯一の良心の認識をとことんまでズラしやがった性で俺の胃はーーーッ!」

「ノット、生きろ。俺はもうダメだ」

 

 スリザリンの1年が叫ぶ叫ぶ。

 ハッハッハ! ワンプの危険性を知ってる貴族は大変だね! 他の寮の子は知ってて興奮してるか知らずに興奮してるか知ってしまってビビってる反応に別れてる。

 

 ちなみに知ってて興奮してるのはレイブンクロー生。

 

「はぁいノット、お兄さんが大事な時期だから寮に残ってるんだってね、キミは運がいいよ! そっちはエイブリーか、キミはご両親が死喰い人ってやつで活動してて忙しいんだったっけ」

「家庭内事情を複数寮の人間が居る中で暴露するなよ!」

 

 スリザリン貴族って大体が闇の勢力に居るらしい。大変だよね。

 

 グリフィンドールは10人、ハッフルパフが4人、レイブンクローが5人にスリザリンが3人。

 グリフィンドールが多すぎたんだと思う。

 

 ハッフルパフの1人が私に軽く手を上げて挨拶をした。

 

「やァエミリー」

「ロージー、貴女の女の子を侍らすイケメンさは私が唯一女子で恨んでいるだけあるよ」

「ハハ、妬むな妬むな」

「このっ、シリウスよりイケメンがー!」

「まて俺を比較対象にするな」

 

 こう見て驚いた。私全員と話したことあるや。シリウスは全員と知り合いというわけじゃないらしく、ロージーの事をMs.ベルと呼んでいた。

 

「さぁ、上級生が机やソファーを横に避けてくれたから好きな所で雑魚寝しよう」

 

 おずおずとそれぞれが場所を取る。ワンプスキャットという脅威性を知っているスリザリンの貴族2名とそれに連れられたセブルスは1番距離を離した。

 

「クソ、この穢れた血が…!」

「ハイハイノットノット。私可愛い子に言われないとダメージが全くないから」

「ほう。──じゃあスネイプ、お願い致します」

「コワルスキー、穢れた血の存在が偉そうに」

「はぁん可愛い子の辛辣な言葉も私にとってはご褒美にしかならない世界で1番幸せ!」

「頭の中どうなってんだバーーーカ!」

 

 寝っ転がったノットは叫んだ。毛布に顔を埋め、周りの迷惑にならない様に発散する姿は教育の良さが見える。すまないなノット、脳内というより、世界が可愛い子を中心に巡っているんだから。仕方ないじゃないか。

 

「流石スリザリンの上級生が生まれをすっ飛ばして存在自体をヤバいと認識するわけだ。スネイプ大変だな」

「全くだ」

 

 スリザリン生って褒めてるのか貶してるのかよく分からない言い方をするから解読を都合のいい方向に持っていくけど、美人が多すぎてただただ眩しい。

 ガヤガヤと寮の垣根なく話す1年生を見て幸せな気持ちになる。ローブを来てないから色による識別が無いのが効いてるのだろう。

 

「ふふふ、楽しいねえ」

 

 ピーターという名の天使がワンプにもたれて花を咲かせながら笑う。可愛い。ただひたすらに可愛くて死にそう。ただその傍でマイペースなレイブンクロー生は我が子の毛という貴重な素材を堪能していた。

 

「Mr.ノット、Mr.エイブリー! この休みの最中でいいから魔法界の事を教えてくれない?」

「……グリフィンドールのマグル生まれ、お前ら分かってるのか? 俺も! エイブリーも! 純血主義!」

「純血貴族だから詳しいと思って……」

「……それと貴方達、そこにいるエミリー・コワルスキーというある意味問題児を前にしてその言葉に意味があると思ってるの?」

「「……」」

 

 反対側でもたれていた筈の2人がスリザリンの2人に絡みに行く。失礼だよそこの勉強熱心赤コンビと苦労千万緑コンビ。

 確かに主義思考は容姿に関係ないからどんな人でも愛でるけどさ!

 

「マグル学を嗜んでたり、マグルの生活取り入れてるスリザリンの上級生紹介してやるよ」

「些細な事すぎて常識だと分からない事あるし」

「Mr.ノットもMr.エイブリーもエミリーに噛み付けるだけあって素晴らしいわね」

「だよなー。あっ、その魔法界基礎知識講座にマグル生まれのハッフルパフ生も追加しておいてくれ」

 

 便乗するハッフルパフ男子生徒のワイス。1年生を呼んだの悪戯仕掛け人のはずなのにスリザリン貴族が人気とか不服!

 私はスーツケースを開けて1人の魔法生物を呼び出す事に決めた。

 

「マンティおいで!あそこのノットとエイブリーのそばで休んでいいよ!」

「やめろよコワルスキー!バーーーカ!アバダー!」

「……前のワンプスキャット、後ろのマンティコア、母さん父さん、貴方の愛する息子は一足早く天に向かいます。地獄で見守っていてください」

 

 ノットとエイブリーなんて私が飼育している中で1番の危険性を持ってるイギリス魔法省分類XXXXXの2匹と同じ空間で過ごせばいいんだ!

 

「1年!そろそろ寝ろ!特にスリザリン生うるさ…──おい嘘だろこの騒ぎの中、ほぼ中心にいるポッターはまだ寝てられるのか?」

 

 5年の監督生が部屋から降りてきて注意をした。迷惑かけてごめんなさい。もう大人しく寝ようと思います。

 

「ジェームズなのでズレてるんですよ」

「それ絶対コワルスキーにだけは言われたくないと思う」

 

 レイブンクローの男子生徒がそこだけは見逃せないとばかりに顔を上げて発言した。全員が頷いたのを見て虚しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、なにこれなにこれなにこれーーー!? ねェシリウス!? どういうことこれーーー!?」

 

 ジェームズの叫びで皆が目を覚ました。朝の五時だったので思いっきり毛布をぶつけられたみたいだがセブルスが言うにはプロテゴという盾の呪文で防ぎ切ったらしい。ムカついた。

 




【コワルスキーさんのスーツケースにいる魔法生物さん】
・ワンプスキャット(ワンプ)xxxxx←new

原作みたいに何故ジェームズとスネイプがいがみ合わないのかと言うと主人公というクッション材がずっとそばに居るから。原作1巻でロンとハー子が喧嘩した時も『トロール』という経験を一緒にこなしたから友情が芽生えた、つまり主人公は『常に付きまとう災害』扱いになるのでどうでも良くなるんですよね。
例えるなら悪役(主人公)が出て来て協力するアンパンマン(赤)とバイキンマン(緑)です。それが常にあるだけです。

あと感想大好き人間なので良かったら感想ください。なくても暴走列車の如く1日1話頑張りますけども。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6.お勉強

 

 クリスマス、プレゼントの開封。

 リリーから届いた花をいくつも散りばめたキーホルダーはスーツケースに付けていつでも見れるようにした。リーマスからはチョコを直接、ピーターはDADAのトレーネ先生に教えて貰ったらしく、寒さに弱い私に体温を上げる魔法を掛けてくれた。セブルスは資金がまだ無いので『好きな時に何かしてあげる券(有効期限なし)』というある意味贅沢なプレゼント。シリウスは私にマフラーをプレゼントした後、己に届いた呪いのかかったプレゼントを燃やしてた。ジェームズは自撮り写真だった。燃やした。いい暖が取れた。

 

 2月はバレンタイン、愛の日。

 男性陣がやる気を出し、女性陣は届いたカードの送り主が誰かとソワソワする。分かっちゃいたけどロージー・ベルというハッフルパフの女の子誑しのイケメン女子が無双状態だった。私には数通カードが届いたけど名前なんてしらないので1年生は声を揃えて『騙されてる』と言っていた。ほら、私は一目惚れの女だから。

 

 3月末からはイースター休暇。

 クリスマス休暇より増えた居残り組がこの休暇も何回かグリフィンドールでお泊まり会となった。リリーも残っていて、一緒に手を繋ぎながら眠りについた。ちなみに今回もスリザリン生のノットとエイブリーが各寮から人気が出ていた。解せない。ジェームズが拗ねていた理由が前回こんなに面白い行事を寝て過ごしてしまった事についでだったのでみんなで天然パーマを倍増させた。上級生からお菓子を貰ったので一種のパーティー状態だ。

 

 

 

 そして5月。

 

「分からない分からない分からなーいッ!」

 

 夕食後、大広間。

 

「おやー? Ms.コワルスキー? まさかこんなことも覚えられないんですかー?」

「シリウスなんて耳元で蚊の羽音が永遠に鳴り続ければ良いのに」

「地味にダメージ行くやつだな」

 

 目の前にいるシリウスに馬鹿にされながら学年末試験の対策に勤しんでいた。

 

 得意科目は魔法薬学、薬草学。苦手科目は魔法史と変身術とDADA。そして実技は全般ダメだ!杖を使う科目は、実技は捨てた!

 

「ていうかシリウスは勉強しなくて大丈夫なの?」

「余裕」

「はぁ……。可愛い子達に教わりたい。リリーとか頭良いのに」

「エバンズはスネイプに付きっきりだろ。まぁ勉強風景見たけど、両方頭良いみたいだぜ?ジェームズはリーマスに、ピーターはトレーネ先生とお勉強会。──お前は残り物の俺だ」

「か、可愛くな〜〜い!」

 

 思わず机に突っ伏す。

 やる気が出ない、魔法史眠い、覚えられない。そもそも学年に1度だけって言うのがおかしいんだよ。絶対分けた方がいいって。分割払いしたいんだよ。

 

「シリウスは英国紳士なんかじゃない、品がない、魔法界の王族とか嘘だ」

「へいへい、さっさと解き直せよ。とにかく暗記科目は書いて覚えろ。ただし、スペルが違う!」

「痛ったァ!? ……うぅ、仕方ないじゃん。異国語だよ異国。イギリスのスペルにまだ慣れないんだよう!」

 

 チョップを食らった頭を押さえて睨みつける。国境の壁がダイレクトにぶつかってくるこの感じ。アメリカの言語って世界共通語じゃないのかなぁ!

 

 テレビやネットを見たい。車に乗って風を感じたい。

 可愛い子とか美しい人を愛でて英気を養いたい。目の前には可愛くないシリウスしか居ないとかただの拷問でしか無い、脳内で補完して自家発電してみようか……。

 

「あっ! 自家発電!」

 

 思い当たった人物に私はガタリと席を立つ。

 あの人がいるじゃないか! 私より年上で美しくて可愛いもの綺麗なもの大好きで私より守備範囲広くて私の容姿が好きで私も容姿が大好きな可愛いは正義同盟の彼が!

 

「コワルスキー? ついに狂ったか?」

「最善策を思いついたんだ。助っ人を連れてくる!」

「既に狂ってたか……っておい待て!」

 

 制止の言葉に聞く耳待たず、私はスリザリン寮へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──というわけで連れてきました。こちら、Mr.ルシウス・マルフォイでございます」

「やァMr.ブラック」

 

 数秒フリーズした様だが、ちょっと来いや、とシリウスに手の甲を見せたジェスチャーで呼ばれる。ニッコリと笑う姿を今日も美しいと心の中で絶賛しながらお呼ばれしたシリウスの元に近付く。

 彼は肩を組んだ状態、つまりは近い距離で聞こえないように話始めようとする。

 

 シリウスは大きく息を吸い込んだ。

 ……ん? 大きく?

 

「このっ、節操なし馬鹿ーーーーッ!」

「い゛ッ!?」

 

 耳が、耳がキーンってする!

 私の耳死んでない!? 大丈夫!?

 

「おおう、鼓膜が……。ッ、笑うなそこのスリザリン上級生!」

 

 通りすがった上級生に悪態をつく。

 子犬に噛み付かれた程度しか思ってないのかフンと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

「きぃー! 今度の夏好きな人に告白する為に木陰でこっそり練習しているスリザリン生のあんたなんか哀れみの目で見られながらフラれればいいんだーっ!」

「なっ! な、なんでその事知ってんだよ! グリフィンドール下級生ッ!」

「こっそりアンタのいい所アピールしておいてあげるから頑張れよね!」

「言われなくとも頑張るわ馬鹿!」

 

 あれは間違いなく同学年であるノットの兄上。叫び方が一緒だ。いやぁ、惜しいんだよな。顔が惜しい。美形に近いんだけどコレジャナイ感が否めない。

 

「で、マルフォイとはいつからだ?」

「あれは確か……7か月前の事でした」

「おい待てそれ限りなく果てしなく入学直後じゃねェか」

 

「あの頃の私は想像以上に多い可愛い子と美しい人に目が回って、どうして私の記憶上でしか再生されないんだと思っておりました」

「……おぉ」

「その時出会ったのだ、私は運命の同志に。彼は私にカメラをくださいました。まるで泥雑巾のように扱われた下僕屋敷妖精が本の隙間からご主人様の靴下という衣服を見つけたレベルの喜びでございました」

 

 

 シリウスは冷たい目をして私を見る。

 

「簡潔に答えろ」

「可愛いは正義同盟」

「……そうか、マルフォイは同類だったのか」

 

 目じりに何かキラリと輝いた。非常に遠い目をしている。

 

「驚かせて申し訳ございませんMr.ブラック。次期当主であらせられるお方とこうして寮を違えた後でも交流出来ることを心から嬉しく思い」

「つまりどういうことだコワルスキーの同類」

「──可愛いに含まれるのでMr.ブラックの写真と交換で勉強会にお付き合いします」

「コワルスキー!」

 

 この閣下はめちゃくちゃメンタルが強いので全く気にした様子を見せずグリフィンドール席に堂々と座った。互いに互いの顔を見ながら勉強したいので私は彼の向かいに座る。ついでにとシリウスを隣に座らせた。

 

 さすが、よく分かってますね。

 もちろんですとも、コレが逆の立場ならそうしてくださいますから。

 

 目で会話する私達。愛は世界を救う、私の中の世界は平和です。

 はーー、今日も美しいなぁ!

 

「ルシーに頼みたいのはたったひとつだけ」

「その様子だと純粋に勉強を教えて欲しいというわけじゃないようですね」

「察しがいいなぁ」

「これまでや変態ども。コワルスキー、お前マルフォイのことをまさか愛称で呼んでるのか?」

 

 その通りですとも! ……最初は敬意を込めて師匠とか呼ぼうと思ったけど、ルシーは上下ではなく横の繋がりだ。それに本人も婚約者であるシシーと同じような愛称で心底喜んでいるようだったし。

 

「とにかく、ルシーには教科書を音読してもらいたい」

「……音読?」

 

 訳が分からないといった様子で首を傾げるルシーとついでにシリウス。私はある種の裏技を用いることにした。

 

「…──私、好みの人が言ったセリフは全て覚えてる」

「気持ち悪い」

 

 はっきりと正直な気持ちを口にしたシリウスくん、安心しておくれ、あなたのことは覚えてない。

 リーマスとかピーターが言ったシリウスの話というのは覚えてるけど。

 

「魔法史のビンズ先生とか、呪文学のフリックウィック先生とか、好みじゃないから覚えてないんだよね」

「なんとなく分かりますけど、流石にここまでは…」

「ルシー、引かないで。そんな扱いされてもご褒美にしかならないけど」

「それも理解出来ません」

「……別方向の変態どもなんだな」

 

 こういう可愛い子に対しての反応はルシーと気があったことがない。十人十色、お互いがお互いの性癖を認め合ってはいるので問題ない。というか、お互いに顔があれば問題ない。

 

「はァ、Ms.コワルスキー。危ない教科は?」

「魔法薬学と薬草学以外全て。一番やばいのは魔法史です」

「分かりました。では、魔法史の音読から始めましょう」

「……終わったら全部覚えているか小テストするからな。悪ぃマルフォイ、テスト作るから少し席を離す」

「私が変に思われない程度の距離にいてくださいましたら、自由になさって構いませんよ」

 

 

 魔法史の小テストは70点だった。取れなかった30点が全てスペルミスだったので、シリウスは予想以上に引いていた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 張り詰めた空気が続く中、ジェームズとシリウスは余裕と言わんばかりにいたずらを被らず仕込み続けるので全学年全寮の人間から今までと比べ物にならないほどの殺意や怒気を浴びせられた。

 

 

「ジェームズとシリウスの動物耳コンビうるさい! こっちは集中してるんだから黙って!」

 

 もちろん私もテストがピンチなのには変わりない。無心で杖を振り続けていたのに邪魔されて、正直かなりキレていた。

 

「ミリー暗記大丈夫だったじゃん」

「スペルなの! 私に言語の壁が邪魔をするからギリギリなの! 実技が全く出来ないから本当にギリギリなの! 今回ばかりは本当に勘弁して!」

 

 覚えた言葉をそのまま言えても、書き示すと大概ミスになる。実技でマイナスになる事が確定したこの試験、筆記はもう確認するしかないから少しでもマイナスを減らそうと頑張っているのに!

 

「なんで出来ないの?」

「イヴァナ! コイツ爆発四散希望だって!」

「よっしゃきた!」

 

 一緒に実技の練習をしてた同室のイヴァナはなんでもかんでも爆発させてしまう才能の持ち主なのでやる気満々で杖を振るった。

 

 爆発オチなんてサイテー! というジェームズの声をBGMに目の前に居座る試験という敵を倒す為、もう一度頑張ろうと思った。

 目下の敵は今日の午後から行われる変身術だ。マッチを針?虫をボタン? ……そんなの以前にうんともすんとも言わないんだよ。

 

 スリザリン生に本気でスクイブなんじゃないかって完璧善意で心配されるくらいには。泣いたね。

 

 

「ピーター?」

 

 視界の端で寮から出ていく姿が見えた。声をかけてもフラフラと出ていって反応がない。えっ、普通に心配。ごめん嘘死ぬほど心配、風邪かな。

 

 もう少しでテスト始まるというのに……。

 

 

 

 

「──グリフィンドール生、実技試験開始しますよ」

 

 マクゴナガル先生の声を遠くに聞きながら、試験会場の部屋とは別の方向に歩き出した。




1日1話ということは夏休みの終わりに向けて死のカウントダウンが始まっているという事。後半になるにつれ更新してくれるな時よ止まれと願うはず。

アメリカとイギリスでは英語にすごく差があって面白いですね。ちなみに主人公はニューヨーク出身という事にして文化の差を取り入れてます。冬が、嫌いです。
不穏な気配を察知。多分次で1年生の出来事はほぼラストかなー、と思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7.ピーター

 

 グリフィンドール塔からまるで時間を潰す様に城を練り歩くピーター。心配過ぎて後ろを付いてきたけど全く気付いてなさそう。えー、これどうしたんだよう。

 

 ついに彼は天文学塔の1番上までやって来てしまった。

 もうとっくにテストなんて始まっている時間。

 

 私は危うく感じてしまい、思わず手を伸ばした。

 ピーターの二の腕の部分を掴む。

 

 力いっぱい引き寄せて、こちらを向かせて、目を合わせても、ピーター自身の目の焦点が合ってない。

 

「……ピーター?」

 

 いつも以上に意識がふわふわとしている。おかしい、絶対おかしい。風邪とかそんなレベルじゃない事は確か。

 

「ピーター! ピーターッ!」

 

 肩をゆさぶって見ても何も答えてくれなった。無視はこの世で1番キツイです。

 ホグワーツで1番高い塔だから強い風が吹き荒れる。ローブがバサバサと風を受ける中、ピーターは杖腕を大きく振り上げた。手に持っているのは杖だ。

 

 バッ、と向けられた杖先に光が灯る。

 

「ッ、わぁ!?」

 

 赤い閃光が爆ぜた。

 狙いはどう考えても私だ。

 

 ふっふっふっ、日頃から魔法生物を相手にしてきた私に敏捷性及び反射神経で勝てると思──あっ、待ってお願い待って、連射されるとキツイ。

 持っていたスーツケースに赤い閃光が少しぶつかる。ピキっと何かが壊れる音がしたけど、今は外観の破損より中身の魔法生物の安全確保!

 

 私はスーツケースをスライドさせる様、入口の段差側に投げ飛ばした。

 

「ピーター!ど うしたの!? 私にそんな殺意湧い……てるわけないよね! ピーターめちゃくちゃ優しくて友達思いだもん! え、私友達だよね? だよね? 信じてるよ?」

 

 ゴロゴロと転がりながら避ける、避ける。かすったとしても、当たって無ければどうということは無い!

 あの呪文がなんなのか魔法族1年目にも満たない私には分からないけど、これは攻撃されていて、当たるのは絶対にダメだということだけは分かる。でも体力に限りはあるし、普段から思ってたけどホグワーツほんとに寒くて酸素が薄い! どんな標高してんだバカ!

 

 よし、とりあえず杖飛ばす事から始めよう。

 

「えーっと、えーっと、ダメだッ、コレ教わってないやつだ! 全く脳内にルシーボイスで再生されないッ! いやそもそも! 使えるかわからない!」

 

 1つたりとも魔法を成功させたことがない私が! この状況で出来ると思えない! 火事場の馬鹿力でピーターに怪我させても本末転倒!

 

 答えは物理だ!

 

 床を蹴って蛇行しながらピーターの元へ向かう。赤い閃光が放たれて、一歩下がって距離を取って、また蛇行で進む。

 

 かするだけでは魔法に効果は無いらしい。だけど飛び出た釘に擦れるくらい痛い。

 実体験じゃなくて文字の上で知りたかったね! 血が出ないだけまじだけど私も卵肌はもうボロボロだよ!

 

 

「だから、ピーター・ペティグリュー!」

 

 距離が近くなった。でも私の手が届く前に杖の先が当た──!

 

 

 

「ッ」

 

 当たると思った。

 でも杖に灯った光が一瞬弱まって、杖から魔法が出る前に間に合った!

 

 倒れ込んだ勢いでゴロゴロと転がる。ピーターだけは怪我させるまいと、杖腕はしっかり握ったまま2人の体の間で固定し、私はピーターの頭を抱え込む。

 くっそぅ、勢いを付けすぎた!

 

 背中に床のボコボコした木目がダイレクトに伝わる。これが冬なら防寒具がクッションになって痛みが和らいだだろうに。

 

 漫画やアニメの様に、オチはゴツンと壁に後頭部がぶつかる所で回転が止まった。

 

「痛い痛い痛い! ピーター大丈夫怪我してない!?」

「ッ、ェミ、リ! ぶはっ、助かった! ありがとう頭がしっかりしてきた!」

「そいつァ良かった可愛いな今日も相変わらず!」

 

 意識をハッキリと持ち直したピーターは今までに見たこと無いレベルの真剣な顔だった。そして今までに無い至近距離で可愛い顔を見て私は普通に悶えた。

 

「それ朝も言った…──じゃなくて! お願いだエミリー! 右手が全然言うこと聞かない、早く杖を壊して!」

 

 だろうね! 頑張って杖先をピーターにも私にも向かない様にしてるけど私の力でもギリギリだから! 自分自身の知らない全力を無理やり引き出されてるぅ、って感じ!

 

「無理だよピーター! 杖に魔力溜まってるから折ったらピーターに反動が行く! あとついでに私も!」

「でもキミを殺すよりずっといい!」

「当然のデレに私はこんな時なのに和んでしまった! 誰か私を殴って!」

「殴ってあげるからエミリーのこんな状態でも揺るぎない所に和んだ僕も殴ってね!」

「痛い!」

 

 ピーターは左手で私を叩く。殴るというよりパチンと軽い衝撃を与えたみたいに感じた。

 ギリギリッ、とお互いが全力で杖腕を止めようとする。背中に流れる汗が酷くなってきた。

 

「なんで、こんな事に……!?」

「分かんないけど! 分かんないけど僕は正常じゃない! 誰かに操られてッ!」

 

 杖から手を離させようと手を握ってもこじ開けられない。このままじゃ手自体がボロボロになる。

 

「早く壊して!」

 

 必死な声で叫ぶピーター。

 バチバチと赤い火花が杖先から飛び散る。

 

 こんな状態で杖を折ったら必ず魔法が逆流する。呪文学の教科書に書いてあったという事をルシーの音読で覚えている! 間違いなく暴発だ暴発!

 

「だめ、無理、出来ない」

「僕はここでキミを傷付けるくらいなら! 死んだ方がマシだ! 自覚しろよ! 僕はキミ達を大事な友達だと思ってるんだ! 僕はキミに守られる存在じゃないんだ!」

 

 自由の効く左手でピーターは私の胸ぐらを掴んで訴える。

 

 

「……えっ、ピーターの勇ましさが今までの可愛いフワフワした感じと違ってキュンキュンする。これが……ギャップ……? 嘘だろ最高な扉が今開かれた」

「キミの馬鹿はきっと死んでも治らないねッ!」

 

 可愛いのカッコイイは幸せでしかない。

 はわ……馬鹿にする姿も可愛い……天使……。

 

「お願いだよエミリー。……僕にキミを守らせて」

 

 懇願する表情で言われると心が揺れ動く。ピーターの望みは極力叶えてあげたいけど、それでピーターが傷付けば、最悪死んでしまったら。

 魔法の逆流は普段以上の威力を発揮する。そんな事知ってるはず。

 でも言葉通り、死ぬほど願う事が私の無事なら。

 

 葛藤する。迷い揺れ動く。

 

 

 私は自分が死んでもいいから助けたい。でもそんな方法を見つけられない。

 ピーターの望みを、叶えてあげたい。でも私は助けたい。

 

 天使を優先するか、私を優先するか。

 

「エミリー、大好きなエミリー。お願い、僕のお願いを聞いて。僕が1番願っている事を、叶えて」

「そんな、卑怯な!」

 

 

 

 ──パチパチパチパチ……!

 

 

 

 場違いな拍手が耳に入った。

 力は緩めない、気は抜けない。今少しでも手の力を抜いたらあっという間に杖腕は自由を取り戻す。

 

「いやぁー、素晴らしい友情だよ。予想外だ」

「……この声、トレーネ!?」

「先生、だろ。Ms.コワルスキー」

 

 視線を声のする方に移すと、作り物の様な薄ら笑いを浮かべて優雅に立つ姿がある。

 

「な、なんてセオリー通りな!皆に好かれる顔のいいイケメンは大抵碌でもない奴って決まってるのに!まさかその通りな人材だったとは!恐れ入ったよトレーネもげろ!」

 

 これだからイケメンは嫌いなんだ! これだからイケメンは敵なんだ!

 DADAの教師であるトレーネ(天使に仇なす者)はピクリと笑顔を崩したあと、芝居がかった様な仕草で肩を竦めて首を横に振った。

 

「あァ、愚かなグリフィンドール」

「確かにテストすっぽかしたね。心配してくれてありがとう先生」

「絵画を通してダンブルドアが気付くと思い、発動時間もズラして作ったというのに」

「細やかな心遣いが素敵だよ若作り先生!」

「……一定の衝撃で意思が戻るとは。都合の良かった実験体の成長不足もあってこうなるか。コレは試作品は改良の余地ありだな」

「勉強熱心な先生素晴らしいよ! 流石!」

 

「──エミリー、エミリー。トレーネ先生が可哀想だからその翻訳やめよう」

 

 翻訳機なので全ての言葉をツンデレとして脳内で解読する事が出来るよ。被害者ピーターは首を横に振って私の解読を止めようとしないで。

 

 アノ人、悪イ人間、僕ノ友達、利用シタ。

 

 話の内容を理解出来ない訳じゃないよ。

 

 

 トレーネシスベシ。つまりそういう事だね?

 ピーターを操り人間の試作に使った罪深き業、決して許せるものじゃない。

 

「シナリオはこうだ。ピーター・ペティグリューは魔法に狂い、エミリー・コワルスキーを……殺した」

「ッ! エミリーお願い逃げて!」

「はい? トレーネ! ふざけないでよ!」

「冗談では無い、お前はここで死…──」

 

「──ピーターには毎日殺されてるわ阿呆!」

「ぬ……ぅん? は?」

「天使の可愛さはねェ! 時として驚異的な威力を発揮するんだよ! 常時殺意高めだけどいつでも私は燃え死ぬんだよ! なめないで!」

 

 

 何を常識的な事を言ってるんだと怒り狂う。馬鹿にしてる。いっつも馬鹿馬鹿言われてるけどそんな事分からない程馬鹿じゃないよ!

 ピーターの可愛さは私を気軽に殺せるんだよ!

 

「……もう、これだからエミリーは」

 

 はぁ、と深いため息を吐かれた。解せない。

 

「アバダケタブラ!」

 

 私の知らない呪文がトレーネの杖から飛ぶ。どこかで聞いた事ある様な呪文だが、魔法は一撃でも喰らったらろくな事にならない。未知の魔法なら尚更だ!

 

 ピーターを抱えて数歩だけでも杖の光から逃げる。

 緑の光は地面にぶつかり消えた。

 

 人間にしか効かない魔法、という事は物理的な破壊ではなく失神や毒や体内に効くもの、だろう!

 

「お前が1人を守りながら2人の魔法相手にどこまで持つのか楽しみだな」

「エミリー避けて!」

 

 ピーターの杖から赤い閃光が放たれる。

 

 あっっっぶな! 避けき── 「アバダケタブラ!」 まだ一息も付けて無いわ阿呆!

 

 緑の閃光と赤の閃光をギリギリの状態で避ける。体力がもう持たない。赤の閃光に擦れる割合が高くなってきた。

 緑の閃光は死んでも避ける。アレは絶対少しでもぶつかればアウトだと直感が教えてくれる。

 

「2人分の魔法、そしてお前は攻撃する者も守らなければならない」

 

 トレーネの杖が向いた方向は、ピーターだ。

 

「エミリー僕はいいから逃げて!」

 

 赤い閃光を放つ右手を止めようと左手で必死に押さえるピーターだが、体は左上半身くらいしか動かないみたいだ。

 

 緑の閃光がピーターに放たれる。

 

 赤の閃光を避け切って、ピーターをタックルしたら何とか避けきれた。でもその隙に赤い閃光が私に向かう。

 

 

「はァ! 何この、ッ難易度!」

 

 息を切らしてもう一度緑と赤の閃光を避け始める。ピーターから距離を取りすぎると、いざという時彼を突き飛ばすのに間に合わなくなっちゃう。

 

 トレーネから距離を取りつつ、赤の閃光とトレーネの攻撃を避け、ピーターの杖腕を掴み、杖を取り上げないと!

 

 3人が直線上に来たらピーターにトレーネの攻撃が当たるかもしれない。気が抜けない! 内ポケットに手を突っ込めればまだ違うのに!

 

 

 今すごく魔法に怯えて魔女狩りする一般人の心が分かる。これは怖いわ。守れない未来が凄く怖い。

 

 

 何度も何度も試しても、流石はDADAの先生。狙いを狂わせたりなんてしないし的は的確。

 私の隙をつこうとしてくる。

 

 ピーターを操る何かは動き自体は単調だけど、追尾的な操作があるのか魔力を溜める以外で止まることは無い。

 

 

「あァ、もうこうしましょう」

 

 トレーネが諦めた様な声で杖を構え直す。

 

「DADAの教師として最期の授業をしてあげますね」

 

 

 そう言う『トレーネ先生』は、普段の様な落ち着きがあった。私に笑顔で辛辣な言葉を吐いて、皆から好かれた先生。40に見えない外見故に美容に力を注いでいる女の子から人気を集めていた。

 

 

「教える魔法は武装解除呪文。基本的に相手を傷付けず、武器を取り上げて無力化するだけもの。 魔法界での決闘に使える呪文として、非常に初歩的かつ攻撃的な要素が少ない術です」

「そうですかそれはありがとう! 私実技劣等生なので運頼みで貴方に掛けますね!」

 

 ピーターの元にようやく辿り着いて腕を掴みあげる。ホッと安堵の息を吐いてトレーネを見た。

 

「エミリーお願い、逃げて……!」

「ごめん! 私にはそのお願い叶えてあげるの、ちょっと無理みたい!」

 

 泣きながら懇願するピーターに私は残酷な笑顔を突き付ける。苦しませているのが私だと分かっている。傷付けるのを嫌がっているのに私はその行為を助長させている。

 

「その呪文はこうです。──エクスペリアームス!」

 

 初めて聞いた魔法は紅色の魔法で、私はその発音を口の中で転がしながらピーターを抱きしめた。

 

 

 本当に武装解除するだけなら、避けきる体力のない私が出来るのはただ一つ、盾になる事だ。

 しかしその魔法は予想以上の威力を発揮していた。

 

 

「ちなみに、優秀な使い手であれば人を吹き飛ばす事も可能です」

 

 

 

 カランコロンと何かが転がる音がした。

 

 

 魔法に押し出される。吹き飛んだその先は、空だ。

 ホグワーツで1番高い天文学塔の頂上から見える、天候の悪い曇り空。

 

 

「エミリーッ」

 

 体が浮遊を感じ取れば、ピーターが()()で抱きつく。まるで少しでも守る様に。

 

「杖、あの呪文で外れたみたいだね」

「うん。ごめんエミリー」

「そのまま抱き着いててッ!」

 

 私は随分と運が良いらしい。両手の自由が効く、そして高い高いこの塔は地面まで距離がある!

 

 私は内ポケットからトゲトゲとした1つの繭を取り出して投げ、名を叫んだ。

 

 

「──エヴィル!」

 

 

 青と緑の毒々しく、蝶の様な美しい空を飛ぶ体。

 人の脳を吸う習性があるスウーピングエヴィルは、その力強さで私とピーターの体を支えた。地面に着く前に、彼女の背に乗ったのだ。

 

 成体になりきってない彼女の背は私1人が乗るので精一杯。私がエヴィルに掴まり、ピーターは自力で私にしがみついてて貰わないと支えきれない。

 

 彼女にバランスを取れと言うのは難しいので私は己の腕力に物言わせてしがみつく!

 

 

「エヴィル、キミは最高だよ!」

 

 しがみつくというか抱き締める状態になっているが、甲高い声で鳴いて誉高い自分を誇っている様だ。んーー!大好きー!

 

「し、死んだかと、思った」

「まだ生き残ったとも言えないよ……!」

 

 エヴィルが空中を旋回して、天文学塔へと戻ってきた。

 トレーネは目をひん剥いて私達を凝視した。

 

「スウーピングエヴィル、だと!?」

「あらァ? トレーネ先生、もしかしてご存知なかったかしら?」

「馬鹿な、あのトランクに触れてな……!」

 

 みーんな知ってるスーツケースの魔法生物。でも護身として身近にいる魔法生物には気付いてなかったみたいだ。

 

「ピーターは杖を!私じゃ殺しちゃう」

「うん!」

 

 天文学塔に降り立った私達は二手に別れた。また操られるかもしれないけど魔法である事に変わりは無いと思う!私の個人的な考えだけど!

 

「クソ、アバダケタブラ!」

 

 緑の閃光がピーターに向かって飛ぶ。キュイッ、という耳を(つんざ)くような鳴き声に脳みそを揺さぶられたトレーネは杖を取り落とした。

 私は取り落とされた杖を思いっきり別方向へ蹴った。

 

「一応言っておくけどトレーネ、私乱闘騒ぎには慣れてるから。マグル育ちを舐めるなよ」

 

 ファイティングポーズを取る。

 魔法なんて使わないマグルの喧嘩手段は全て物理、アメリカのニューヨークにだって治安の悪い所はある。クラスメイトにポカやからしていじめられたから喧嘩でやり返すしかなかったんだよ! 魔法なんてありゃしない!

 

「くっそ!」

 

 懐に手を突っ込んだトレーネに嫌な予感がして殴り掛かる。体格差によって思いっきり殴れなかったがカスリはした。チィッ!

 彼の取り出したのは予備の杖だった。

 

「ハッ、魔法使いが杖1本だけだと思うなよ」

「──エクスペリアームス! 武器よ去れ!」

 

「ッ!」

 

 その隙に杖を拾い切ったピーターが自分の杖で紅色の閃光を飛ばした。操られていた時と違い、自分の意志で放った魔法だ。

 

 

 トレーネの2本目の杖は弾け飛ぶ。

 

 いい魔法を教わったね、流石ピーター! 飲み込みが速い!

 ジェームズとシリウスが優等生過ぎだし、リーマスの方が魔法に馴染みやすい感じがするから見落としがちだけど、ピーターは魔法が上手だ。同学年にはそうそう負けないし、下手したら上級生にも勝る。

 

 悪戯仕掛け人は私以外皆桁違いなんだよ!泣いてない!

 

 

「チッ!」

 

 私に走って近付くトレーネ。

 彼は多分私の杖を奪う気だ。

 

 どうせ魔法使えないし窓からトレーネの杖ごと投げ捨ててやろうかと思ったその時、ビュンッと銀色の魔法がどこからが飛んできた。

 

「「…え?」」

 

 その魔法を背中から浴びたトレーネは途端に笑い転げ始める。どうなってるのこれ。

 

 呆然とした表情でピーターと顔を見合わせる。

 

「さっきの魔法はリクタスセンプラ。くすぐりの術だ」

 

 階段から登って来たのはスリザリンのローブを纏った黒髪の天使。私達を見て安心した様に眉を下げて小さく張り詰めていた息を吐いた。びっくりした、神から使いが現れたのかと思った。

 え、天使って神様のものなの?

 

 そしてセブルスはトレーネを冷たい目で見下ろした。

 

「ン゛ッ、ここに天使がいる! 待ってて私の天使! 私が神様を言いくるめて天から救い出してあげるから!」

「お前は何をとち狂った」

 

 呆れた表情で私を見るセブルスは口元にひっそりと笑みが浮かんてんいた。

 

「──インカーセランス! 縛れ!」

 

 セブルスが続けて放った魔法により、天文学塔にあった縄でトレーネを縛り付けた。

 

「……なんて羨ましい!」

「「馬鹿」」

 

 セブルスの呪文で身動き取れないくらい縛られるとか最早ご褒美じゃない! エミリーめちゃくちゃ羨ましくてたまらない! 馬鹿とか言ってる天使がとても可愛くて心臓が苦しい!

 

 

 

 ドタバタと複数の足音が聞こえてくる。足音から見て恐らく4人。馬鹿だなぁ、足音くらい消しておかないと危険な状態だったらどうしたんだよもう。

 

「ミリー! 何があったの!?」

 

 案の定、リーマスとリリーとジェームズとシリウスの4人だった。ジェームズが息を荒くして聞く。

 

 ボロボロでボサボサの乱闘跡があるピーターと私。そして何故かいるセブルスと、縛られているのに笑いすぎて苦しそうにしているトレーネ。私の可愛い魔法生物、エヴィルはトレーネの上に乗ってちょこちょこ動きながら『吸っていい? 吸っていい?』とアピールしていた。きっと美味しくないよ、ダメです。

 

「……なんで、トレーネ先生が笑い転げてるの?」

「失神呪文はその時々によって起きるか分からない、だからいっそずっと身動き出来ない様にしたらと思って」

「なんでそんな事知ってるんだスネイプ」

「お前達の、悪戯の、被害者、筆頭は、僕だ」

「「おぉ、ごめん」」

 

 フン、と顔を背けて不機嫌そうに鼻を鳴らすセブルスが可愛い。

 

「あの、ごめん、簡潔でいいから答えて欲しいんだけど。なんでトレーネ先生が?」

「ジェームズより先にコードレスバンジーをしてしまった」

 

 リーマスが軽く手を上げて聞く。『なんで』がかかった目的がそれぞれ違ったみたいだ。天使の疑問に私が間髪入れずに答えた。でもリーマスは納得してくれなかったみたいだ。

 

「ごめん分からない、細かく言って」

「僕が言うよ」

 

 ピーターは私達2人に起こった出来事を話す。

 ついでに、とピーターは壊れた状態で転がっていた腕輪を魔法で拾い上げた。

 

「これ、トレーネ先生からクリスマスに貰った腕輪。多分コレに操られていたんだ。これが外れた瞬間スッキリしたし」

「気に入ってたのにね」

「うん」

 

 じっと見続けるピーターを尻目に、セブルスは口を開いた。

 

「僕が駆けつけたのはコワルスキーのペットが引っ張って来たからだ」

「えっ、なんで私の魔法生…──おぐふッ!」

 

 背中に、背中に突進してきた毛深い生物。後ろから抱きしめられてご満悦なんだけどボロボロの今、耐え切れ無い。

 顔から地面にぶつかった。鼻が特に痛いです。

 

 

「私の腰が大好きな子なんてデミガイズのイズしかいない。賢いなぁお前はァ!」

 

 セブルス連れて来てくれてありがとう! と抱きつく。地面に座り直して膝の上に乗せた。腰は勘弁して。

 

 スーツケースを見たら鍵が壊れていた。

 あちゃー、バキって鳴った音の正体はアレの破損音か。んん、ままよ! 結果オーライ!

 

「僕らは、旋回してたエヴィルを見て駆けつけたんだよ」

 

 ピーターを連れてジェームズが私に近付く。

 するとジェームズはピーターごと私達を抱きしめた。

 

「……ありがとう。頑張ってくれてありがとうッ!」

「なんでジェームズがお礼言ってるの」

「生きててくれてホントに良かった、直ぐに駆けつけられなくてごめん! スネイプも、ありがとう……ッ! 本当にありがとう!」

「ぼ、僕はただ、イズに呼ばれただけだ……」

 

 ジェームズの体温が冷えた体温と混ざって心地いい。

 心臓の音が近くで聞こえた。

 

 ピーターの鼓動、ジェームズの体温。

 

 

 生きてる。

 

「怖、怖かった……ッ! 怖かったよジェームズ!」

 

 死ぬかと思った! 死ぬかと思った!

 魔法も全然使えなくて、未熟で、銃も無いのに、ピーターの様子はおかしくて!セブルスが来てくれるまで生きた心地がしなかった!

 

「うん、怖かったね」

「痛いよ、痛い。う、痛いよジェームズ。苦しいよ、背中が痛い、肺が痛いいいい……ッ!」

「すぐにマダムのところ行こうね」

「うわぁあぁあ! ピーター生きてるぅうッ!」

「キミのおかげで生きてるよ」

「遅いよ馬鹿ぁあぁあ!」

「遅れてごめんね」

「誠意が全く見えない! 誠意は期間限定高級チョコレートの形をしているはずだぁあ!」

「手厳しい」

「うぅ、リーマスに貢ぐ……」

「キミが食べるんじゃないのか」

 

 ぐずぐずと泣きながらジェームズにしがみつく。

 先生になんて勝てるわけないじゃんか! 運があって良かった! しぶとくて良かった! ピーターが腕輪に打ち勝とうとしてくれて良かった! 諦めないで良かった!

 

 

 ジェームズに続いてシリウスまで3人の輪に加わる。

 

「見直したぜコワルスキー」

「見直すまでもなく高評価しとけよぉ!」

「その頑張りはピーターとコワルスキーしか知らないのかもしれないけど、よく頑張ったな!」

「次はテメェも一緒に落ちてやる!」

「おう、巻き込め」

「このイケメンがあぁああ!」

 

 頭を胸に寄せて体重を預けると、優しく頭を撫でてくれる。普段では有り得ない優しさに涙の勢いは強くなった。

 

「エミリー」

 

 優しい声でリーマスがシリウスから私の頭を奪い取って抱き締める。

 

「お疲れ様。おかげで僕は大事な友達を失わずに済んだ」

「うわぁあ! 幸せ過ぎて昇天しそう!」

「エミリー、キミも大事な友達枠に入ってるからね?」

「ヴェッ、天使過ぎて精神が凄い勢いで修復されていく」

 

 ひぃんっ! おんなのこになっちゃう!

 いつも毒舌魔王(好き)なのに急に王道王子様(好き)になるやつぅ!リーマスの属性付与が全て私の弱点属性!

 

「エミリー!」

 

 ニッコリ笑顔の天使はリリーの姿をしていた。むしろリリーが天使。いや、女神……?

 

「セブ、照れないの」

「て、照れてなんて無い」

 

 小さく両手を広げて5人の輪の中に近付く尊い幼馴染コンビ。えっ、セブルスまで私を癒してくれるの?

 

「むしろ私から抱き着きに行くーっ!」

 

 グリフィンドール男子に未だぎゅうぎゅうされている状態なので方向だけ変えて2人に両手を広げて抱き着きに行こうとする。動けないので優しい天使は近付いてくれた。

 

「今は泣いてもいいから、素敵な笑顔をまた見せてね。諦めないでくれて嬉しいわ」

「……良く、持ち堪えてくれた。僕も、怖かった。コワルスキー、僕を置いて逝ったら許さないからな」

「ゔォヴェアッ(心がしんどみの頂点に達する音)。あなたもわたしもウォルマート……」

「なんだよそれ」

 

 クスリとセブルスが笑う。涙を若干浮かべて、震える手で抱きしめてくれて。

 えっ、だき、抱き締めッ!?

 

「可愛いが過ぎるぞこの人達!」

 

 思わず動揺して叫んでしまった。不甲斐ない。

 いつもの反応にセブルスはいつもの調子で呆れた目をする。

 

「ちょっとスネイプ、エバンズに近過ぎ。有罪」

「……女性の趣味がいいから仕方ない」

「えっ、まって、まって」

「語尾にハートが付くように言えよ」

「まって♡」

 

 私から手を離していつもの馬鹿げた調子に戻ったジェームズを皮切りに、周りは思わず笑みを零す。秘密は秘密、皆の秘密なんだよジェームズ。言わないけど。

 

「ねェ」

 

 笑い声やいがみ合う声を背景に、ピーターが耳元に口を寄せて来た。

 

「あの時、最初から、僕意識だけはあったんだ」

 

 そうだったのか、とピーターを見返すと、彼は言葉を続ける。

 

「キミは魔法も下手っぴだし、馬鹿だし、一部の人間に対して思考能力が溶けるし」

「突然の罵倒。天然ピーターに悪口仕込んだの絶対リーマス。ご褒美」

「でもね、僕」

 

 ピーターは笑った。

 初めて出会った時と違って、私に向けて信頼を寄せた笑顔を。

 

「キミが来てくれた時から僕はもう怖くなかった。僕を僕より考えてくれるキミがいた。──ありがとう、()()()

 

 

 拾い上げた奇跡は輝いて見えた。

 空から飛んだ時の力強さを覚えてる。

 

 

「どう、いたしま、し……てぇあぁ」

「締まらないなぁ!」

 

 クスクスと笑うピーターと抱きしめ合った。生きている実感を感じていた。

 

 

 

 

 ちなみにトレーネは笑いすぎて気絶していた。




操られていたピーターの赤い閃光は麻痺であるステューピファイです。
トレーネ先生は、不死鳥の騎士団を結成されて焦っていた闇の魔法使い。ダンブルドアを殺そうと独断で狙っていた様です。魔法道具作成が学生時代から得意だった模様。

次の話で点数やら夏休み突入やら。頑張るぞい。感想待ってるわ♡


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8.壁

 

 学年末パーティがやって来た。

 トレーネとの争いから数ヶ月、大広間には全学年の生徒がそれぞれの寮に別れて騒ぎながら座っている。

 

 年に数回ある大事な日には正装として黒い帽子を被らなければならず、ジェームズやシリウスはダサいとブーブー文句を垂れていた。

 

「エミリーエミリー。セブが見えるわ」

「んんっ、2人共可愛い」

 

 スリザリン席でセブルスがリリーに向かって小さく手を振る。横に座っていたノット達がいじるのに対し、顔を真っ赤にして何かを訴えていた。多分『まぁたマグル生まれにお熱だぜ』『うるさい黙ってろ』的なやり取りだと思う。

 セブルス、ちゃんとスリザリンに馴染めたんだなぁ!

 

 彼はリリーの正面に座っていた私にようやく気付いて『んべっ』と舌を出して可愛い!! 無理可愛い!! 可愛いが無限に溢れてくる!

 

「まぁたやってるよあの二人」

「スネイプの奴、好かれてる自信でなんか変な方向に行ってるな」

「まぁミリーの好き好きアピールは大変分かりやすいからね。はぁー、典型的ないじめられっ子だと思ったのに」

「そこの双子、うるさい」

 

 

 あの日はダンブルドア先生が学校におらず、対処はマクゴナガル先生がしてくれた。

 ジェームズの魔法で見世物の如く引き摺られていたトレーネと、後頭部から血を流してボロボロの私(ついでに泣いたせいで目も充血して声もガスガス)がシリウスにおぶさって居たから相当びっくりさせてしまっただろう。

 

 アドレナリン出てたから気が付かなかったけど後頭部ぶつけた時に出血してたらしい。目立ちにくいけどピーターのローブ血で汚していた……。私とした事が……。

 えっ、それでも空中に放り出された時私を抱き締めて守ってくれたのとか、私が気付かない様に気を配って指摘しなかったピーター本当に天使過ぎない?

 

 ちなみにピーターは魔法道具の悪影響が出るかもしれないので一応私と一緒に医務室のお泊まりになった。お互い一晩で終わったけど。

 

 

「はぁ、勝ちたかったなぁ」

 

 ジェームズが緑に彩られた広間を見て不満そうに呟く。

 寮杯はスリザリンの物だ。

 

 可愛い天使は皆向かいの席に座っているので満面の笑みで観察して時間を有意義に過ごしていると校長が現れた。

 あれがアルバス・ダンブルドア。

 この世で1番偉大な魔法使いかぁ。ニュート伯父さんの方が凄いと思うんだけどな、魔法生物のエキスパート。

 

「こうしてまた1年が過ぎた!7学年の皆は卒業を迎え、新たな旅路へと足を進める。ま、他学年は学んだ事を空っぽにする夏休みへと突入するんじゃがのぉ……。おや?ここは笑う所じゃぞ?」

 

 苦笑いなどを含め、微妙な笑いしか無い。

 ダンブルドア先生はゴホンと咳き込んだ後寮の得点を言い連ねる。

 

 4位、グリフィンドール340点

 3位、ハッフルパフ389点

 2位、レイブンクロー405点

 1位、スリザリン430点

 

 うん、間違いなく魂の双子が寮の点数を減点しまくったからね。予想はしていた。何が勝ちたかった、だよホグワーツ最大減点対象。

 

「スリザリンよ、3年連続の寮杯獲得おめでとう。しかしじゃな、わしは少々点を入れておきたい者がおる」

 

 ざわざわと周囲がざわめく。

 

 

「ピーター・ペテイクリュー。咄嗟に友を、命をかけて庇い、己を犠牲にしようとも助けようとしたその心意気、並大抵の覚悟では出来まい。ワシとしてはマーリン勲章の緑を差し上げたい所じゃがの! ──グリフィンドール、40点加点!」

 

 ピーターは呆然としていたが向かいに座っていたシリウスにもみくちゃにされて椅子から滑り落ちる。可愛い。シリウスは後で覚悟しとけ。

 

「そしてエミリー・コワルスキー。類まれなる魔法生物の使い手よ。その子達と上手く協力し、友を救い出した事。そしてその勇気を称え! グリフィンドールに60点!」

 

 わぁ! という歓声と共に弾幕は赤へと変わっていく。10点の差を付けて、グリフィンドールが逆転したのだ。

 お祝いムードになってグリフィンドールが盛り上がる中、ジェームズが大きな声で静止をかけた。

 

「あの件には、もう1人の立役者がいる。彼が居なければ完全に無力化出来なかった! ダンブルドア! 僕は、スリザリンのスネイプも、評価するべきだと思う!」

 

 スリザリンが驚いた顔でグリフィンドールのジェームズを見ていた。

 そしてダンブルドア先生は、悪戯を企む子供のようにニヤニヤと笑いながら目を細めた。

 

「ほっほっほっ、そうじゃったそうじゃった。歳をとると物忘れか激しくていかん。──セブルス・スネイプ。テスト中であろうと友の危険を察知し飛び出すその心優しい行動に、わしはスリザリンに20点を」

「っな!」

「そしてジェームズ・ポッター」

 

 テスト中だったと言うことをバラされたセブルスは顔を真っ赤にする。そしてジェームズは僕?と首をかしげた。

 

「──先程の発言、わしは大変感銘を受けた。グリフィンドールに10点!」

 

 爆発的に騒ぎ声が広がる。

 

 大広間が赤と緑の色々で彩られる。2分割された飾り付けではなく、まばらに彩られた空間。

 

「……うわぁ、これダンブルドアの手のひらの上だったやつだ。僕の行動も読まれてた? 恥ずかしい何これ凄い恥ずかしい」

 

 頭を抱えて身を縮めたジェームズがボソボソと耳を真っ赤にして呟く。

 

「寮杯はグリフィンドールとスリザリンじゃ!」

 

 乾杯!という声を聞いて私はようやくフリーズしていた体を動かした。

 

 

 

「──いや今更かよッ!」

 

 大広間で笑い声が響き渡った。

 寮の垣根を越えた笑い声が。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「頼むコワルスキーッ! 俺の家はスリザリンとグリフィンドールの仲が大変よろしく無い家なんだ! 仲介に入ってくれ!」

 

 マグル育ち半純血のグリフィンドール生に、スリザリン純血貴族家庭のグリフィンドール生が頼み込んだ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「はじめまして、Ms.ブラック。突然の訪問申し訳ございません」

「ただいま。ちょっと話がある、俺が今から親父呼んでくるから。コワルスキーと待っててくれ」

 

 帰ってきた息子に怒鳴り散らそうと思っていたブラック夫人は息子と共に帰ってきた突然の来訪者にキョトンと目を丸くした。

 

 

 

「──待たせたなコワルスキー。親父を呼んでき」

「予想はしておりましたが本当にやはり奥様はお美しい。本当に旦那様は女性のご趣味がよろしく、1種の嫉妬を覚えますね」

「ま、まぁ。口がお上手ですこと」

「この気持ちに偽りなどございません。心から美しいと思って」

「コワルスキー、人の母親を口説くな」

 

 バシリと頭叩かれて渋々口を閉じる。

 

「……それで、シリウス。連絡も寄越さず突然連れて来たそのお嬢さんは純血の子かな?」

「いいや、違うぜ親父。こいつは半純血、らしい」

「母の旧姓をゴールドスタイン、父をマグルに持つエミリー・コワルスキーでございます」

 

 挨拶の礼をしてニコリと微笑む。

 純血よ永遠なれ、と家訓を掲げるブラック家で私は平常通り。このメンタルを買われて家族仲悪化防止に努めさせていただく。

 

 Mr.ブラック……シリウスの父親は顔を歪め、母親は怒りで顔を真っ赤に染め上げた。

 

「シリウスッ!お前というやつはスリザリンではなくグリフィンドールに入った挙句ッ!こんな穢らわしい口だけの小娘をブラック家に招くだなんて!」

「奥様のお怒りはご最もです!私とて高貴な方々の住まうお屋敷に訪問させていただくなど、とても敷居が高い事でございました!後口だけじゃなく心から思っております!しかし、しかしながら!」

 

 私は悔しいという顔をして言葉を続ける。

 

「ご子息がグリフィンドールなどに入った原因を、根源を、お伝えせねばならぬ事がございます!見不相応ながらこうして参りました……ッ!」

 

 奥様に負けない様なテンションで訴えるとびっくりした表情で言葉を飲み込んでいた。他者に怒鳴って大きく見せようとする人種は怒鳴り返えされると一瞬怯む習性がある。小学校の同級生がそうだった。

 

「ご子息がグリフィンドールに入った件、私は大変残念な心できいておりました」

「ッ!えぇ、そうでしょうともそうでしょうとも!決して許せることでは無いですわ!」

「しかし、その件に怒りを覚えるべきはご子息では無い」

 

 すぅ、と奥様の表情が抜け落ちた。何を言っているだこの小娘は、と言いたげな視線だ。の、罵りは無いんですか!ぶっちゃけここで止めたのは罵ってもらいたくてわざと止めたんですけど!

 

「何故、か、お伺いしても……?」

 

 はぁぁあ静かに怒れる奥様の冷たい視線が私にビシビシと突き刺さっ、て痛い!?

 

 横を見るとシリウスが机の下で私の足を摘んでいた。思考回路読まれていたみたい。

 

「あの組み分け帽子には圧力が掛かっていた。と言えば、最早誰の思惑か、そして真に責めるべきは誰なのか分かるでしょう……」

 

 視線をさり気なく下へと向ける。

 こ、これ以上直視してたら目が潰れるかもしれない……!恐ろしいよブラックの名前が!世の中ブラックの名前を聞けば絶対に美形だと思って間違いなさそうだ!

 

 ……なんでシリウスは残念なんだろう。美形じゃなくてイケメンなのが惜しすぎるよ。

 

 

「……何故、そうだと分かって?」

「彼がスリザリン気質だからです。Mr.ノットやMr.エイブリーとよく話をして気が合っている様子でした。そして何より、私も強制的に組み分けされたグリフィンドール生だからです」

「では、キミは、えーっとMs.コワルスキーはダンブルドアが何故圧力を掛けたか、予想出来ますか」

「…………えぇ。私にしか、恐らく気が付かなかったでしょう」

 

 こんな時でも冷静に当主としての仮面を被れるの純粋に凄い。私は隣で軌道修正してくれるシリウスが居なかったら本音がボロボロ出てたと思う。

 

「母は純血の血筋です。出身はアメリカの魔法学校、イルヴァーモーニーです」

「……なるほどな、ホグワーツ出身じゃないからこそ娘を預けるのに不信感が勝り、ツテを使って調べた、と」

「しかも伯母は世界各地を飛び回る闇祓いです」

「ッ!」

 

 小さく息を飲んだ。シリウスが膝を思いっきりつねって何言ってるんだよ、ってアピールしてくる。

 

「闇祓いの伯母か、それで情報を確信出来たのだね?」

「えぇ。伯父がダンブルドアの贔屓にあっていましたし、伯母と母と私は意見を合致させました」

 

 ダンブルドアがホモである、と!

 

「まぁそもそもゲラーうんちゃらバルトって魔法使い?と戦い勝利を収めた親族らしいので元々ダンブルドアに不信感があったようですよ。彼らに何があったのか教えて貰えませんでしたが」

「……なんと、ゴールドスタイン、なるほど、ポンペーティナ・ゴールドスタインの。なるほど、では伯父というのはあの本の」

「お察しの通りでございます」

 

「何??言ってんだ??」

「シリウスステイ」

 

 今は話の内容分からなくても黙っている時です。無い頭振り絞って天使との戯れを封じ込めてシリウスの為にイギリス人の大好きな言い回しを考えたってのに!

 

「いや、待てよ、シリウスクッキー食べる?」

「ッ、食べるッ!」

 

 ポケットから包装されたクッキーを取り出して、開封する。手渡す前にシリウスは横から一つ摘んで口の中に放り入れた。

 

「シリウス、全く、行儀が悪い」

「次期当主の自覚が足りないのでしょう。しばらく自由にさせて世間の厳しさを教え込むのも一興だと思いますけど、おっと失礼。出過ぎた真似を……」

「いや構わない。……礼儀作法は叩き込んでいるはずだがそんなにがっつくとは嘆かわしい」

 

 シリウスがモサモサと食べながら己の父親を睨む。なら食べてみろよ、と言いたげにクッキーの残りを差し出そうとした。

 

「まってシリウス、それはキミ専用だからダメ」

 

 うん?と首を傾げたシリウスは段々自身に起こった変化に気付いたみたいだ。

 がしりと肩を掴まれ訴えられる。

 

「あーはいはいごめんごめん。って聞こえてないよねぇ?いい加減学んでよ、物に仕込まれかねない危機感とか」

「……コレは、魔法薬の…ッ、何か、か?」

 

 目を細めてMr.ブラックがクッキーの残骸を見る。

 

「す、素晴らしいですね。まさか魔法薬の残り香が見えるのですか」

「精巧に作られている。ふむ、毒物を仕込むのも簡単そうだが。味の方は?」

「こちらの魔法薬の分量を失敗して焼き消してしまったクッキーと同じ味です。もちろん毒味はしましたが」

「魔法薬の効果は?」

「耳封じと口封じです。その、まだ聞かせるのには早いかなー、と、思いまして。後耳塞いだら絶対口煩く訴えそうなので」

「……この状態を予想してたと?」

「いいえ全く。特急の中でうるさいから使ってしまおうかと思っておりました」

 

 興味津々と言った様子でクッキーを眺めるシリウスの父親可愛過ぎないか? 知的好奇心の塊?

 

「ダンブルドアはきっとシリウスを狙っています。性的な意味で」

「……組み分け帽子の圧力は恐らくその狙いだろうな」

「ダンブルドアに心酔させ、手の内に縛り込む、と考えてもいいでしょうが。どちらにせよ危ういです。とても」

 

 いやホモ説自体は浮上しているけど流石に捏造だからね。流石に生徒に手は出さないよ、教師だし。なんで騙せてるんだろう。まさか実体験?

 

 ま、いいか! 偉大な魔法使いはこんな話程度で潰れるわけがないし! 子供の悩みを解決する為に利用したっていいよね!

 

「どうかご子息をグリフィンドールに所属する事を許してあげてください。どんな立場になろうとも。私がご子息を、傍で守ります。尊き血筋のお方を護って死ねるのなら半純血なりに名誉な事でしょう!」

「キミはまさかシリウスを好い──」

「──あっ、それだけは無いです」

 

 片手をあげて静止させる。それだけは嫌です。

 

「ではもうそろそろお暇させて頂きたいと思います。お忙しい中お二人揃って時間を取らせてしまい申し訳ございません」

 

「いや、穢れた血の混ざる根っからのグリフィンドール生。とても有意義な時間になったよ」

 

 ピクリ、と頬が引き攣る。

 シリウスが聞こえてないからって嫌味全開だな元スリザリン生。

 

「それは大変、ようございました。身分違いな私に心を砕いて頂き恐悦至極……」

 

 美形に言われたってご褒美でーーす! 残念でした!

 とってもいい笑顔で返します!

 

 ありがとう! ナイス罵り!

 

「あ、そうだ」

 

 玄関に向かうとご丁寧にお見送りをしてくれたので追加で口を開く。マナーなんて何も学んでない小娘相手によく貴族の仮面を被れるよなぁ。

 貴族たるもの、って言うよりこれぞ王族って感じだァ。

 

「──トレーネ先生の件、残念でしたね」

 

 

 

 

 

 

 笑顔で私は宣戦布告をする。

 トレーネを教師に推薦したオリオン・ブラックは顔から笑顔を消して私を温度の無い目で見下げる。

 

 怒りで睨むとかより恐ろしくて、私の背中がゾクゾクする好きぃ。

 

「私アメリカ人なので遠回しな言い方嫌いなんですよね」

「へぇ?」

 

「私はまだ力が無いし、地位も無い、ツテがある訳でも無いし、ぶっちゃけ実技が出来ない」

 

 致命的な欠陥ばかりだし、私が相手にしてるのは魔法界の王族の様な雲の上の存在だ。

 

「でも、喧嘩は売れます」

「随分安上がりな喧嘩ですねェ」

 

 美人は笑う。

 

「私の喧嘩内容はこうです。『闇側なんて存在、要らないと思いません?』」

 

 シリウスに見えない角度で杖先が向けられる。仏頂面のシリウスは気付いてないみたいだ。

 

「それ相応の理由があるのでしょうね」

「当然です」

 

 

 私は満面の笑みで告げた。

 

「美人には陽の光を浴びながら幸せそうに笑って欲しいんで!」

 

 逃げる様に走り去った。

 本音も本音、張本音。

 

 だってブラック家やっぱり美人ばっかり!本当にシリウスったら残念!

 

 ……闇側とか言われてるけど、戦略だとか憎しみだとかに染まる顔は美人に似合わないよ。これで多少は考えてくれると、いいと思ったんだけど無理だろうな。

 

 

 まぁ私身近な天使が闇側に行くって言ったら全力で着いて行くけどね。

 

 

 

「よし、ロンドンで少し遊んでから帰ろう!」

 

 美人に冷たい目で見られたという感動が私にはまだ残っていたのでこのテンション凄い。




ダンブルドアをホモに仕立てあげて、グリフィンドールは渋々入らざるを得なくなった状態のシリウスって設定。

ホグワーツ外ではスリザリンとグリフィンドール、出生の壁なんてブラック家の皆さんの反応が普通の状態かなー。なんて思うけどね。
正直主人公の今の状態は他人に生き様押し付けようとしてる悪人にしか見えない。闇の中でしか生きられない生物を無自覚に殺そうとしてる感じ。
例え……水で泳いだら移動が楽だろうと思ってアリの巣に水注ぐ子供とかかな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9.米国と英国

 

 アメリカニューヨークの夏。日差しが照り付ける地元での生活は流石の暑さにうだっていた。

 

「アベル、大丈夫?」

「暑っつい。冬は心地いいのに夏は絶対可笑しいって」

「分かるけどー」

 

 我がコワルスキー家には従兄一家であるスキャマンダー家も泊まりに来ていた。休暇毎の恒例行事だ。

 暑すぎて机に突っ伏した状態のアベルが唸る。そっと冷やした紅茶を机に置いた。

 

「エミリーおいでー」

「はーい!」

 

 ニュート伯父さんに頼んでいたスーツケースの修復が終わったみたいだ。呼ばれた方へ向かうと魔法で拡張した部屋には魔法生物で溢れ返っていた。

 

「あ、この子達伯父さんの子だ」

「やっぱり見分け付くよね」

「うん。あァそうそう、禁じられた森に色々魔法生物見つけたよー。キメラとか」

「ッ!?ゲホッ!ゴホッ……それ、本当かい?」

「本当。でも比較的友好的だった。もしかしたら子供いるかも」

「それはエミリーだから友好的なんじゃ……。まぁいいか、報告ありがとう」

「どういたしまして」

 

 森の難易度が上がってる、とブツブツ言いながら伯父さんはスーツケースを整え直した。

 

「はい。完成。……しかし、エミリーも1年目から無茶やらかすよねェ」

「魔法界すごいね」

「……まぁ、そういう事にしておこうか」

 

 誤魔化したら誤魔化されてくれた。ありがとうこれだから大好きよ伯父さん。

 

「あ、そうだ伯父さん!私ドラゴン飼いたい!確か資格が必要だったよね!ドラゴンの道には進まないけど、オールラウンダーな魔法生物使いの才能あるよね!きっと!」

「いいよ、いつかは仕込むつもりだった。学校卒業したら魔法生物ブリーダーになれる様に色々教えておこうか」

「やったァ!」

 

 ぴょんぴょん跳ねて喜びを表現すると伯父さんのヒッポグリフが私の首根っこを捕まえた。あ、これ捕獲か。伯父さんのスーツケースに入ってる魔法生物全てと何とか交流出来るのって私しか居ないんじゃないだろうか。

 

「僕が死んだらトランクは任せるね」

「じゃあ私が死んだら私のスーツケースは伯父さんに任せるので老衰以外で死なないでね」

「キミ、さぁ、老衰以外の何で死ぬつもりなんだい?」

「うーん。サラマンダーの炎、いや待てよ、バジリスクの瞳。アクロマンチュラの毒、ズーウー、ドラゴン、天馬……。うーんっ!」

「君の案は魔法生物学者として羨ましいし、素晴らしい考えだと思うけど親戚として言わせてもらうよ。やめて」

 

 可愛くて美しい伯父さんに言われたらやめるしか無い。

 

 

 そう言えば兄さんは店を継ぎたいらしく父さんについてまわってるらしい。パン作りを極めたりと色々忙しそうだ。あぁ、私が居なくて寂しいんだな、ってすぐに分かった。週一で手紙書いてるのにそれでも不足気味か。

 

「ん?」

「お?」

 

 

 何かの気配を感じたのか伯父さんの魔法生物達が外を警戒する。私の子達、と言っても身に付けている子達はそんな様子を見せなかった。

 ドアノックの音が聞こえてくる。

 

 なんだ来客か。

 

 手の空いてる私が出ることにした。

 

「はーい」

 

 扉を開けた先では漆黒の髪にハシバミ色の瞳を持った天然パーマと可愛くない野郎と灰色の瞳を持つ可愛くない野郎と、そしてその影に隠れる天使がいた。

 

 うんうん、流石はニューヨークの夏だなー。

 

 

「「来ちゃった♡」」

「……き、来ちゃった?」

 

 私は手で顔を覆って叫んだ。

 

「幻覚症状ッ!」

 

 暑さで脳みそがやられたのかと思ったけど、私の友達は現実だった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「いやぁごめんごめん、突然来ちゃってさ!」

 

 ジェームズ・ポッターは笑いながら私の肩を叩く。シリウス・ブラックはさっきの私の反応が笑いのツボに入ったらしい。

 

「ごめん、一応僕は止めたんだ。でも」

 

 申し訳なさそうな顔をしてセブルス・スネイプという素晴らしい名前を持った天使が頬をかく。しかし、目を合わせて私に告げた。

 

「激流には身を委ねた方が楽だろう?」

「しばらくぶりの天使の威力が凄まじい勢いで私の心を射抜いて来る、セブルスキミは最高の狙撃手だよ」

「……うん」

 

 おぉ?

 下を向いて何かを考えていたセブルスはハッと顔を上げてジェームズとシリウスを見た。

 

 そう、ニヤニヤ笑っている2人を。

 

 

「おやおや〜?Mr.スネイプ〜?」

「おいおいからかってやるなよジェームズ〜。俺達に一泡吹かそうと頑張って、いーっつも一緒にいたお陰で絆されて〜?居ないのが寂しいとか思っちゃう年頃の男の子にそりゃ〜ね〜ぞぉ〜?」

「なんっ、なんで知ってるんだよっ!」

 

 顔を真っ赤にしたセブルスが2人を叩きに行った。

 えっ、可愛い。可愛いが過ぎる。

 確かにそう言われたからなるべく毎日会いに行こうと……お、毎日だったな。うん、毎日一緒にいた。

 

 義務感云々じゃなくて純粋に天使と傍に居れる合法的な機会を逃すわけがない。

 

「コワルスキーも何か言えよ!」

「可愛すぎて脳みそ溶ける。大丈夫?野生のスウーピングエヴィルに脳みそ吸われてない?」

「普段通りだな」

 

 ちょっと落ち着いたセブルスは2人を睨みつけるに収めた。

 まぁ、都会の街中で騒ぐと迷惑だしね!

 

「スネイプってエバンズといいコワルスキーといい……待てよ、お前まさかコワルスキーの事を好──」

 

 シリウスが己の父親と似たような発想に至り口を開く。

 

「……」

 

 すっっっごい嫌そうな顔をしていた。なんかもう残忍な殺害現場とかマッシュされた肉片を見たような顔。

 

「悪かった」

「シリウス、流石にその発想だけは無いよ」

 

 可哀想、と言いたげにセブルスの肩に手を置くジェームズ。ウンウンと頷くセブルス可愛すぎない?

 

「おまっ、ジェームズ、一応言っておくけどコワルスキーはお前の上位互換だからな!?」

「はァ!?なんだよそれ」

「えっ、何それ何それ」

 

 セブルスは小さくあーー、と何故か納得したような声を上げた。

 流石にその話題には入らざるを得なくなる。ジェームズと言葉は違えど同じような意味を含めて聞き出した。

 

「ジェームズの記憶力とか性格とか変態度はコワルスキーの方が上だろ」

「なんで!?僕記憶力良いよ!?実技も座学も僕の方が上だったんだけど!」

「だってこいつ教科書丸暗記してるぜ?」

「……なん、で」

「ちょっと美形のお兄さんに音読してもらったから」

「──あと顔は絶対コワルスキーの方が上」

「分かる」

「だよね」

「ポッター家の平凡顔がぁあぁあ!」

 

 ジェームズは膝から崩れ落ちた。変な目で見られるからやめて欲しい。

 

「まっ、なんだかんだ表が似てるんだよお前ら」

 

 セブルスにも似たジェームズ、そして彼は私にも似て、自称双子を名乗れるくらいシリウスとも行動が似ている。

 ジェームズ・ポッターって実は平均的な人間なんじゃ…?

 

「ハハ、まぁ似てると言われて嬉しくない訳じゃないけどシリウス、これだけは覚えておいてくれよ」

 

 ジェームズは真剣な顔をして言う。

 

「──僕は天才、ミリーは馬鹿だ」

「ちょっと納得しちゃった私に謝って」

「ごめんね!」

「いいよ!」

 

 馬鹿と天才は紙一重ってよく言うよね。でも私天才の方の人間だからすまない。馬鹿の方(ジェームズ)、期待に応えられなくてすまない。

 

 と言うより真に天才なのはセブルスだと私は思うんだ。視線だけで人を虜にする魔性さを無自覚でやってのけたんだし。勉学面でもテスト受け直しがあったから順位としては出なかったけど、点数はジェームズやシリウスに並んでた。マグル育ちの彼が!流石!素晴らしいね!順位あれば絶対3位だったよ!次は打倒双子だ!

 

 いやいや、天使に任せっぱなしなんて恥ずかしい真似出来るわけが無い。私が倒さねば。可能性は十分にあるよ、私座学でならトップ取れる要素がある。……実技はもう、魔法薬以外諦めてるから。

 

「という事はセブルスとリリーの勉強を聞いていれば完璧……?」

「またコイツ脳の思考回路ぶっ壊れてんぞ。どっか入ろうぜ」

「バ、バスの乗り方もわからん奴が先導をしないで、くれ!田舎ならまだしも、都会のバスは複雑なんだよ!」

 

 セブルスが世間知らず2人の腕を取って行動を押さえる。いや、いきなり外に出した私も悪いけど、今コワルスキー家には超危険魔法生物が闊歩してる状態なのでね、上げられないわけよ。私の子達なら温厚だけどよりにもよって伯父さんの魔法生物は、まずい、色々まずい。ぽっと出の人間相手に牙を向かないわけが無い。

 ……私も兄さんもアベルも子供の頃から触れ合いはあったからね。仕方ない。

 

「暑いからアイス買って家に戻ろう。もうそろそろ戻れるはずだよ」

「あァ、うん、やっぱりいきなりは不味かったかなあ」

「我が家は基本気にしないよ」

 

 少し申し訳無さそうな顔をしてジェームズが私をちらりと見る。天使を連れてきた手柄は流石としか言えないんだけど。

 

「ハッ、なんで天使が居る!?」

「今更かぁ」

「今更かよ」

「お前本当にそういうところだぞ……」

 

 ふっかいため息を3人は吐く。地球の二酸化炭素濃度は上がりっぱなしだ。

 やれやれと言った様子でジェームズの肩を叩きながら空気を変えようとするシリウス。ジェームズは後悔したことを後悔していた。全く解せない。しおらしくしててどーぞ。

 

「スネイプの家庭環境が悪いって聞いてたし、魔法族だって知らない親父さんがいるって聞いてたから居ずらいだろうと思って突撃スネイプ家」

「俺の名前使ってスネイプの母親から泊まりの了承得るだろ、父親の方はまぁ居なかったからよ」

「その後はシリウスと一緒に僕の家に泊まってた。それで唐突に思い付いたのさ、ミリーの住んでるアメリカに行こうじゃないかと」

「ジェームズの両親はやっぱりポッターだな……。ノリノリで手続きしてくれたぜ。もう帰ったけど」

 

 双子の話を聞いて私は思わず膝から崩れ落ちる。そして顔を覆った。

 

「……そんなっ、セブルスの環境は私も知ってたのに、えっ、天使を、先越された……?ひぇあっ、なんでポンコツなのよ私の脳みそ、少し考えれば出てきてもいいのに……!ジェームズ!キミってやつは!」

「うわぁああぁあ!?これ褒めてる!?これ本当に褒めてる!?あああ僕の1時間かけてセットした髪が!」

「セットしてそのパーマ具合か色気付きやがって!」

 

 最悪だ、と呟きながら鏡を見て絶望するジェームズ。流石にセブルスもシリウスも何が変わったのか分から無い様で首を傾げていた。

 

「でもまぁ、良かったよ!セブルス楽しそうだし!」

「魔法使えないって残念だよね」

「魔法が使えない事がこんなにも素晴らしいとはな」

 

 ジェームズとセブルスは正反対の事を述べる。杖ないと悪戯はグッズに頼りっぱなしだもんね。

 とりあえず幸せそうならOKです。

 

「ま、コワルスキーには俺の家の事で助けてもらったし、義理は返すべきだろ」

「そこで僕を助けるに至ったのか」

「よく分かってるだろ」

「本当にね!ありがとうシリウス!愛してるわ!」

「へーへー」

 

 私の事助けてもらうより私の大好きな天使を助けてもらえる方がよっぽど嬉しい。嬉しすぎて大好き絞め技をしようと思ったけど全力で避けられた。

 

「……時にシリウス」

「……なんだよ」

「……セブルスとジェームズの様子はどうだった?」

「案外普通だったぜ、ジェームズが変わったと言うより、ジェームズの本音を知ってるスネイプがなんつーか、発言とか行動を受け取るようになった感じか?」

 

 受け身側に余裕が出来ているから摩擦が生じないって事か。楽しそうだし今はそれでいいかな、って思うよね。

 誤魔化しながら距離を取って聞いたから2人と少し離れてしまった。

 

「それで、シリウスの方はアレからどう?」

「親父がお前を気に入る以外は結構まとも。俺を次期当主の座に据えてる」

「簡単に良かったと言えない。なんで?」

 

 いや、うん、シリウスはブラック家を継ぐの嫌がってたけど私と話して次期当主のメリットに気付いたらしいし、なる方が便利だと言っていた。うん、それは素晴らしい。

 

 でもなんで気に入られる要素があった?私堂々と喧嘩売ってたはずなんだけど。

 

「なんつーか、便利そうだとよ」

「ああーー、命に価値が無い使い捨て便利グッズー!」

 

 フワッと誤魔化したシリウスの言葉。しかし察しのいいエミリーはちゃんと気付いてしまうのだ!悲しい!

 

「……うん、まぁ、言わなくてもいい……、俺がやる番だし……」

 

 ボソリと小さく呟いたシリウスにどういう意味だと返そうとした。その時、別の物から声がかけられたのだ。

 

「うっわ、見ろ、エミリー・コワルスキーだ。頭のイカれたエミリー・コワルスキー!」

「学校に来てないけどついに頭が壊れたかー?」

 

 ガバガバ笑いながら私を馬鹿にする元クラスメイト。あ?とシリウスが威嚇した。

 

「あれ、何?」

「可愛くない子」

「もっと細かく」

「魔法生物が普通だと思っていた頃の私の名残りかな……」

 

 エヴィルに脳みそ吸われそうになっちゃったー、とか頭のおかしい発言をクラスでやらかした時からこうしてからかわれる。

 

「男連れて守ってもらってるつもりかよルーニー!」

「お前の母ちゃんブース!」

 

 2人組が騒いでる中、異変を察知したジェームズとセブルスも駆け寄ってくる。駆け寄るセブルスが可愛すぎて世界は救われた。

 

「お前なんて火あぶりにされちまえばいいんだ!」

「「「はぁ?」」」

 

 魔法族になってみて、2つの視点から見てみて、アメリカは魔法に関して激しい嫌悪というか、根本に流れる差別意識が根深い事を知った。

 つまり非魔法族が火あぶりという単語を使うのは最大の侮辱。

 

「3人が怒ってどうするのよ……」

 

 私が馬鹿にされた事に反応したのは私じゃなくて3人。嬉しすぎて吐きそう。

 

「あのね、私全く気にしてないから無視しよう無視」

「でもミリー、あいつら何も分かってないっ!最ッ低の奴らだ!」

「……傷付くこと覚悟で言うけどセブルスが優しいから非難されないだけで。あの2人への反応は、君達双子への反応と一緒だからね?」

「「えっ」」

 

 いや本当にマジで。特定の趣味嗜好を馬鹿にして悪戯という名の意地悪するのはジェームズとシリウスと同じだから。

 セブルスがちゃんと受け身体勢で居てくれるから『悪戯』として成立してるだけであって。

 

「もちろん傍から見れば、の話ね。何を目的としているかは全く違うし、少なくとも今の在校生は意味を知っているから」

「……えっ?」

 

 今度はジェームズだけがフリーズする。

 全くだ、と言いたげにセブルスが頷いていた。

 

「無視するなよエミリー・コワルスキー!」

 

 興味ないから無視をしていたんだけど、どうやらお気に召さなかったらしい。こんな道中で騒がれても色々困るから相手をしてやりますか。

 何よりセブルスが怒ったから。

 

「ハァイ、しばらくぶりね。元クラスメイトさん」

「な、何がしばらくぶりだよこのブス!」

「え〜?私のどこがブスなの〜?見てよこの容姿、母や兄に似て素晴らしいと思うわ!」

 

 ねー!と同意を求めるとそこらの通行人から口笛やら拍手やら歓声やらが飛んできた。

 

「ありがと〜!……さぁて、元クラスメイト、私可愛くない子に興味がなくて名前覚えてないからそう言わせてもらうけど、好きな子の気を引きたいからって意地悪するのは、どうかと思うな!」

 

 元クラスメイトは周囲の注目の的になった事に顔を赤くして悪口を大声で叫んだ後走り去って行った。

 

「お嬢さんやるね!」

「そうそう、小学生じゃないんだから女としてどうか思うわ」

「庇う友人いい奴らじゃないか!」

「かっこよかったぜ!」

 

 周りは賞賛の言葉を口に出していく。ぽかんとした様子のイギリス人3人。

 

「えっ、何これ」

 

 ジェームズが有り得ないとばかりに首を振った。

 

「あんたジェイコブの所の娘っ子だろ、兄さんそっくりだ!こりゃ驚いたな!どうだい、乗ってくか?」

「わお、素敵なお話ね!3人とも、乗って行きましょう!」

「し、知り合い?」

「「いや、全く!」」

「流石に危険だよちょっとぉ!?僕の言葉聞こえてる!?」

 

 車に乗り込んだ私を引き留めようとするも止まらないのでジェームズは奇声を発しながら後部座席に乗り込んだ。1人にしておけないと思ったんだろう。セブルスもそれに続き、シリウスも続く。

 

「いやぁ、まさかホイホイ乗ってくるとはな!」

「「全くだよ!」」

「んー?コワルスキーの家名を知ってて誘ってくる人に悪い人は居ないじゃない!それに一応武器は携帯してるし」

「ハハッ、いいねいいね!俺ァクローバー・スミスだ。よろしくなァ」

「さっきも言ったけどエミリー・コワルスキーよ。後ろはイギリス人」

「なるほどねェ、だから戸惑ってたわけか。王室大好きなお国柄だと荒っぽい事とか苦手そうだもんなァ」

 

 僕もうアメリカが分からない、とブツブツ呟くジェームズにセブルスが声をかける。

 

「おいポッターしっかりしろ、一応すぐ使えるように握っとけよ」

「わかってるよ……シリウスもね……」

「いざとなればブラック家で握り潰してやる」

「……ちょっとちょっと、何澄ました顔して違法行動起こそうとしてるの。セブルス可愛いから許すけど」

 

 こいつら未成年で魔法を使おうとしている。もしもの時だって分かってるんだろうけど、顔がモロバレな往来で誘っておきながら犯罪者とか誘拐犯は流石に無いと思うよ。

 

「なんだなんだ!そっちの死んでる奴はエイブラハムの子孫か!いやぁ、こりゃ運がいい!」

「えいぶら、はむ?」

「しかも王室大好き所か王室と来たもんだ!歌うしかねぇ!」

「えっ、えっ、えっ!?」

 

 流石に目を見開く。

 Mr.スミスは信号が赤になった時、ジェームズを見た。

 

「俺達米国魔法族は初代闇祓い12人に特別な敬意を払ってんだよ。Mr.ポッター」

「待って、確かに僕の祖先には闇祓いが居るし、家系的に闇祓いが多いけど……。えっ、米国、アメリカの、魔法族……?」

 

 キョトリとしていた顔を段々驚愕の色へと染め上げていく。

 

 

「あっはっは!確かに母然りアメリカではマグルに溶け込んで生活してるもんね!」

「なんと驚き、俺はクイニーの後輩だ!」

「ははははっ!それは!もう!ポッターの名前だけで魔法族だって分かるね!」

 

 あまりにもおかしくて大爆笑する。はァァァ!?と後ろで3人が声を揃えた。

 

 私は言い忘れていた事があったので3人を向く。

 

「──ようこそ私の大好きなアメリカへ!」

 

 今日起こった出来事はアメリカでよくある事なのだ。銃撃音がしないだけマシだと思って欲しい!

 

 

 

 

「お前なら素でアメリカに住めるぞ、ポッター」

 

 私の腹筋を刺激するセブルスが可愛さ余って憎さ百倍。




アメリカってこういう所あるよね。

スミスさん本当に初対面。一応主人公の母親の後輩ではあるけど、そんな母親そっくりの娘が魔法族とは思ってなかった。だって兄がスクイブだったからね。とっても驚いた。
アメリカでは初代闇祓いが特別な立ち位置に存在して、1人は魔法学校の校長をしていたり。熱心な系図学者が、アメリカ魔法界の政治に強い影響を与えたエイブラハム・ポッターの子孫があのポッター家に繋がっている事を突き止めています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.透明マント

 

 1972年の秋。

 今年もまた、この日がやって来た。

 

「なによう、あんた達。去年は少ししか来なかったのに今年は何度も来るのね」

 

 ピーブズにからかわれていたマートルがうじうじと水場から顔を覗かせる。セブルスはこの夏で手に入れた伯父さんお下がりの魔法薬作り用の器具を手に入れてホクホク状態。

 3階トイレで器具を広げたセブルスはニコニコ笑顔で薬草の洗浄作業に入った。

 

「別にいいでしょ、マートル。色んな所使ってみてここが1番使いやすいって分かったんだから。まぁ、魔法薬学準備室の次にだけど」

 

 羊皮紙に書き込みながらマートルと話をする。卑屈で捻くれ者。少し道を変えていたらセブルスの未来はこんな感じだったのかもしれない。

 

「ねーぇー、今年は何やるの! 去年は1年だから優しいのにしたけどド派手いいよね!」

 

 ピーブズがクルクル飛び回りながらセブルスの集中力を乱そうとする。

 

「今年はそうだなぁ、先生方の協力もあるから怪我しない程度の物で……──派手にやってみよっか」

「そう来なくっちゃ」

 

 ニヤリと笑ったセブルスの言葉にピタリと止まったピーブズは、心底嬉しそうに笑った。

 

 天使が笑ってる、喋ってる。しんどい、辛い、可愛すぎて苦しい。もう世界はセブルス・スネイプを祭り上げてもいいと思う。この可愛さは世界を救える。私の英雄。

 いや、でも私だけとか勿体なさすぎるからやっぱり世界に広めるべきだと思う。

 

 ……でも大人数に知られたらセブルスは人気になって私達に構ってくれなくなって。

 いや、セブルスを思うなら!

 

「幸せになってね!」

「また脳みそバグったか」

 

 無駄に問答を口に出さず結論を伝えているのにこの親切が伝わらないという不親切仕様の言語壁。

 ガチャガチャと準備を整えていたセブルスはピーブズに向き直った。

 

「さて、今ある薬品や器具はコレくらいだ。ピーブズ、お前の長年の経験を生かさせてもらいたい」

「OKOK、去年で大体キミらの行動可能範囲って言うの理解したからピーブズ考えちゃうよ」

「もちろん僕も考えるけど……──そうだピーブズ、去年なんでポッター達にバレたんだと思う?」

「んーーーっ、さてねぇ」

 

 セブルスがヘニョりと眉を下げて首を傾げる。

 可愛い。この空間に可愛いが溢れてる。

 

 胸が苦しいよその表情はずるいよォ! セブルスは世界で最も卑怯で最強の精神攻撃を仕掛けると得意だねェ! 被害に遭うのはいっつも私! ついでにルシウス・マルフォイという同志……。あの人セブルスと一緒の寮なんて羨ましすぎる。

 

 スリザリンと言えば今年度からシリウスの弟であるレギュラスが入ってきた。可愛いんだよ、あの子。うへうへ、私より年下! 可愛いね! シリウスに似なくて良かったね〜! ってヨスヨスしたらスヤァしてた。

 

 ……私の手には眠りの作用があるのかも? と今年いっぱいで卒業する同志ルシーに言えば、全肯定botになった。私に構うのがめんどくさかったらしい。

 

 軽くショックを受けているとルシーは笑顔で黙っていれば100点ですよ、って言って褒めてくれたのでルンルン気分でシリウスに報告したら、アイツ「ヨカッタナ」ってまるで機械のような表情で言った。

 何か腹立ったから月一のコワルスキークッキングはシリウスだけお預けという扱いで終わらせたけど、あまりにも理不尽だ!って叫んでるのこの前見たなぁ。つまりは今月、つまり9月のお菓子作りもシリウス抜きでやる。うっへっへっ、リリーに食べて貰ってその血肉を作り出したいなー! ん? 待てよ。

 

「セブルスは、私が作った……?」

「僕は作られた覚えも育てられた覚えもないぞ」

 

 こちらを見向きもしないでセブルスが訂正を加える。いやいや、血肉を作る栄養分は私が作ったんだから私がセブルスを作っ──えっ、ヤバい、私こんなに罪深くていいの?

 

 はぁ、可愛い成分の摂取過多で息が苦しい。

 それにしても今学期始まってから変わりなかったのに今日はすごくおかしな気分だ。うーん。

 

「……セーブルース。ちょっと気になった事言っていい?我ながら頭おかしいと思うんだけど」

 

 ピタリと止まりこちらを向くセブルス。顔は驚愕の色に染まっていた。

 

「コワルスキー自ら頭がおかしいと思いながらも発言する、だって? ちょっと待ってくれ、覚悟を決める」

 

 スーハースーハーと呼吸を整えだした姿をこれぞ私の天使と眺めながら待つ。どうぞ、と言いたげな視線を受けたので私は口を開かせてもらった。

 

「この空間、可愛い成分が強過ぎる。絶対セブルスの可愛いを3倍くらいにした感じ。私の可愛いものセンサーが訴えてきてる」

「……何を、言っているのか、サッパリ分からない」

 

 可愛い天使が理解の範疇を越えた顔をしていた。

 私の言葉を聞いてピーブズはギャハギャハと笑いだす。とりあえずキミは私に自分の体を埋め込むのやめてください。

 

 私のお腹から顔を出したピーブズはぐるりと上を向いて私と目を合わせた。

 

「ピーブズさァ!お気に入りアンタに決めた!」

「ありがとう。えーっと、可愛いの気配が強いのは……──」

「お前相当頭おかしい発言してるの分かってるか?」

「とっても」

 

 まだ笑い続けるピーブズが空中でゴロゴロと転がる。私は女子トイレを見渡して、何も無い空間をじっと見た。

 

「猫か」

 

 セブルスが猫って言う姿可愛過ぎないか???

 何も無いところをじっと眉寄せて見てる猫っているよね、あれなんでなんだろう。幽霊でも居るのかな。可愛い幽霊。

 あの現象に名前を付けたい。

 

「あれはフェレンゲルシュターゲン現象と言うぞ」

「初めて知った」

「だろうな、20年前にドイツの物理学者が発表した研究結果だからな」

「フェレンゲルさん?」

「いや、フェレンゲルは愛猫の名前だ。シュターゲンが学者名」

「へぇー!賢いねぇセブルス!可愛い!」

「…………コワルスキーって馬鹿なんだなぁ」

 

 しみじみと言われた。

 そんな改めて言われても認めるしかないよね!

 

 可愛すぎて悶えた。

 間違いなくセブルスは私を殺せる。

 

 

 

 ……は!

 

「ここだァッ!」

 

 何かの気配を感じ取って私は空中を掴む。すると手にはサラリとした水の様な手触り。

 これは、キメ細やかな布……?

 

 思いっきり姿の見えない布を引っ張る。

 

 ある程度の反発、まるで布団に丸まった人間が布団を外すなと抵抗するような感覚に眉を顰めた途端、その場にはとある4人の姿が現れた。

 

「ジェームズの馬鹿! 何がバレないだよ!」

「だって去年シリウスと一緒だった時は全く気付いて無かったんだよ!?」

「俺達の常識をついに超越しやがったなコワルスキー!」

「ここまで来ると逆にすごい」

 

 天パを揺さぶる姿と感心したように見てくる姿を見て私は思わず呟いた。

 

「可愛い子居た」

「──正直気味が悪い」

 

 セブルスの辛辣な言葉はご褒美にしかならないのである。参った。

 

 

 ==========

 

 

 

「Mr.ジェームズ・ポッター」

「はい……」

「この透明マントで去年覗いてたね?」

 

 ピーブスのポルターガイスト現象に捕まったジェームズはしらーっと目を背けた。

 

「……Mr.シリウス・ブラック」

「全てはジェームズが悪い」

 

 仲間のあっさりとした裏切りにジェームズは百味ビーンズを丸呑みしたような顔をした。

 

「ジェームズはよからぬ事を企まないと生きていけないの?」

「ふぅー、流石ミリー! そのワード気に入ったよ! 我、よからぬ事を企む者なり!」

「開き直るなァ! もういいよ! こうなったら私はマクゴナガル先生の所に駆け込んでジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックが女子トイレに入ってきましたって涙ながらに報告するから!」

「やめて! ただでさえエバンズの評価が『うふふ、ダメな子ね』みたいな感じで僕は新たな扉を開きかけてるのに!」

「ようこそ!!!」

 

「……へこたれてないな」

「ジェームズってエミリーの同類だよねぇ」

「でもミリーは節操なしだよ?」

「どの道、両方頭はイカれてる」

 

 シリウスのドン引きした顔は心底どうでもいいが、背の低いピーターとセブルスの2人を覆い被さる様に肩を組んで体重をかけたリーマスのおかげで過呼吸おこしてしまいそう。尊い。この光景が尊い。

 天使が意識せずに仲良くしてる姿を見るこの瞬間、世界が輝く。ジェームズのことなんてどうでも良くなってきた。ありがとう世界、ありがとう宇宙。

 

「ねェジェームズ。事前に種を知っている悪戯ほどつまらないものは無いんじゃない?」

「でもさ! 悪戯されておきながら余裕、または無傷の方が絶対カッコイイよね!?」

「予めネタ知ってる方がかっこわっっっるい!」

「そんな心から言わなくても!」

 

 個人の感情でどうでも良くてもセブルスの思惑─ジェームズとシリウスに日頃の仕返し─を守るためには断固譲ってはならない。

 あとホグワーツ生活の生き甲斐が失われてはならないから!!

 

「もういいよコワルスキー」

 

 セブルスが可愛くため息を吐きながらジェームズを見た。当のジェームズは分かりやすく肩を揺らすと小さく唸った。

 

「な、なんだよスネイプ……」

「僕はガッカリだポッター」

「えっ」

 

 セブルスはわざとらしく肩を竦めているのに、ジェームズは親に怒られた子供のように表情を歪める。

 うっわめちゃくちゃ可愛い。

 

 実はセブルスってSっ気入ってるよね。そしてセブルスは元よりだけど、実はジェームズもセブルスに苦手意識あるよね。

 

「そんなに卑怯者だっただなんて、ガッカリだ」

「う……!」

「傲慢で目立ちたがり、だが差別を全くしない騎士としての精神が備わった真のグリフィンドール生だと思っていたのに……!」

 

 演技がかった落胆の言葉の数々にジェームズはじわじわと顔を赤くしていく。

 

 あ、これ泣くな。瞬時に悟った。

 

「あァ、最低だ卑怯者!」

「そっ、そんなァ!」

 

 ハシバミ色の瞳に水が貼っていく様子を確認すると、セブルスはジェームズに背を向けた。

 

 その表情はおかしくてたまらないとばかりに笑いを堪えている。

 

 しかし残念ながらセブルス・スネイプ、実は笑い上戸なので笑いを我慢するなど無理な話。蹲って笑い声を誤魔化す方法に入った。

 

 ────可愛い。

 

「どうしようシリウス」

「あーはいはい、カワイイナ」

 

 シリウスカット入りました。

 

「えっ、泣いてるの、ごめん、ごめんねスネイプ。お願いだからガッカリしないで、もうしないから、ごめんってば!卑怯な事もうしないから!」

 

 声に出さずに笑っているセブルスの周囲をグルグルと回りながら半泣き状態でジェームズが必死に言葉を紡ぐ。

 流石に私も耐えきれなくなったので思わず吹くと、それにつられて傍観側の天使が笑い始める。

 

 シリウスは己の相棒を不憫に思ってか、引き攣り笑いしか出来ないようだった。

 

 

 セブルスって大分強くなったなぁ。




※女子トイレである

2年生突入しました。去年のハロウィンでネタバレしてたのは透明マントで双子がこっそり見てたからですね。仲良し親世代楽しいなぁ!
リリーがこの場に居ないのは少し残念だけど仕方ない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11.星

 

 

「はーっはっはっはっ!」

 

 ジェームズの高笑いが大広間に響く。

 

「今回は僕らの勝ちだった様だねスネイプ! ミリー!」

 

 

 本日はハロウィン。

 私とセブルスは偵察の無くなったのをチャンスに全力で力を入れた。準備期間は9月中頃からハロウィン当日まで約1ヶ月半だ。

 

 教師、そしてピーブズ。

 時には先輩達にも力を借りて計画したというのに。

 

 本気を出したジェームズは心底恐ろしかった。魔法界で育てば魔法についてここまで詳しくなれるのかと思う程。

 

「くっそ、今年はと思ったのに……!」

 

 スリザリン席で項垂れるセブルス。そして同じくスリザリン席で悶えている私。

 

 

 私達の仕掛けた悪戯というのは魂の双子だけじゃなくている大広間全体に対してだった。ピーブズとの約束である『派手である』という事を有言実行したのだ。

 

 私は、普段料理を作ってくれている下僕屋敷妖精─セブルスは苦手らしい─に頼んで、それぞれの寮の机にジャック・オー・ランタンを仕込んだ。そのランタンから薬草の燃える炎色反応を利用した炎の花を空に向かって咲かせた。

 火花、といった所だろう。

 杖を使えないから魔法薬調合して熱を持たない火を作り出したって言うのに!

 

 ジェームズはそれを予感していたとばかりに雨を降らせたの! しかも杖で簡易的に雨を降らせるんじゃなくて、予め悪戯グッズを仕込んだ状態で!

 壁に飾り付けられていたランタンからスプリンクラーの如く水が噴出された時の絶望感と言ったら!

 

 しかも人に当たれば蒸発するという仕様。びしょ濡れにならない様に仕込んだ悪戯というレベルの高さに各寮の上級生は感心した吐息を漏らしていた。悔しい。さらに言うなら蒸発した水が霧状だったので仮装組はテンションが上がる上がる。ランタンの光が拡散されてぼんやりとしたハロウィンらしい雰囲気になっていた。

 

 完敗だ。紛うことなき完敗だ。

 

 

「……来年は絶対アイツらに負けない悪戯を仕込む」

 

 あれ、そんな目的だっけ、と思いながらもセブルスが可愛いので私は全力で肯定した。

 

「で、なんでグリフィンドール生が堂々とスリザリン席で寛いでいるんです。他の純血、あー、スリザリン生は何も言わなかったんですか?」

「んー! レギュラスったらもう今日も可愛いねェ! ヨスヨスしよっかぁ!」

「やっ、やめてください」

 

「……その『やっ』って発音可愛過ぎない? 大丈夫? そんなに可愛くて大丈夫なの? 嫉妬で刺されない?」

 

「僕は彼女にどういう反応をすればいいんですか……」

「睨んでからこう……──」

「えっ、えっ、それで大丈夫なんです?」

「間違いなくいける」

 

 レギュラスはシリウスと同じく背が高い。低身長+座っているセブルスの背に身を小さくして隠れながらボソボソ会話をしていた。

 私の隣に座っているルシーはマルフォイの名前を使ってベストポジションの席を取っているのでニッコニコ笑顔で天使の戯れを全力で観察していた。今日の私は観察対象じゃないらしい。ヒェン四方が好み。

 

 すると意を決したレギュラスは纏う空気を変えて腕を組んだ。

 

「──この僕に対して、随分と頭が高いんじゃないんですか? 立場を知れ、この下賎な輩が」

 

 私よりも大きな背は、立っているからこそ更に大きくて。

 夜のように真っ黒な瞳に睨まれて。

 ポツリと落ちる水滴しか波を起こすことがない洞窟の静かな白濁した湖の様な声が脊髄をごつりと叩く。

 

──ゴンッ

 

 胸を抑えてヒュッという音と共に頭を机に打ち付けた。

 

「あの、ほんとに、これ大丈夫なんですか?」

「うーん、流石にオーバーキルだったか。これが黙らせる程の好みだと思っていたんだけど」

 

 元の様子に戻ったレギュラスの困惑した声とブツブツと呟いて考え唸るセブルスの声で耳も追加で死んでいく。苦しい、苦しい! しんどい! 尊すぎてしんどい! 最高……余韻に浸っていたい……。

 

「スネイプ。なんでコワルスキーが死を迎えてるんだ?」

「あァノット。レギュラスにちょっと頼んで黙らせたんだ。もうそろそろ弱ってる状態で復活する、と思う、多分」

「……Mr.ブラックやMr.マルフォイに色々頼めるスネイプが凄いよ」

「だって、僕には魔法界の王族だとか言われてもピンと来ないし、レギュラスはアイツと違ってすごくいい子だし」

 

 可愛い。可愛いがすぎる。推しが尊すぎてしんどい。

 客観的に捉えて、落ち着いて咀嚼して考えて愛しさと切なさと心強さを追究しようとした。冷静に考えて無理。別に冷静じゃなかった。

 

 腕を組んだ時に人差し指で二の腕を2回叩く所とかもう所作がえっち。

 

 サラサラと髪がなびく所とかほんと無理オブ無理。圧倒的に眼球不足。

 

「コワルスキー?」

 

 尊みに涙を流しているとノットと一緒に行動していたエイブリーとマルシベール(スリザリン非好み貴族達)が心配そうに顔を覗かせた。

 

「落ち着く顔……」

「喧嘩売ってんのか半純血」

 

 マルシベールが私の顔面をガッと掴んだ。ハッハッハ、キレやすいと品が疑われ……待って痛い痛い痛い!

 

「私の貴重な誇れる素晴らしく麗しい顔面が潰れる!」

「謙遜ってのを少しはしろよアメリカ人」

「その発言はやめろマルシベール! 非魔法族含めてアメリカ人全員に失礼だろ! コワルスキーはマグルのアメリカ人以下なんだから!」

「ノットォ!」

 

 この3人組ほんとに私に遠慮しない。ツッコミノットに諦めエイブリーにキレ気味マルシベール。親同士仲良いからって幼馴染になったらしいけどそこまで仲良くないらしい。

 

「……はぁ、Mr.ブラックの視線も言葉もゾクゾクしたなぁ。たまらないなぁ」

 

 先程のレギュラスを見て脳裏に浮かんだのは流石の血筋。彼らの父上であるオリオン・ブラック氏だ。

 

「待ってくれ」

 

 ポツリと呟いただけの筈だがノットがストップを掛けてきた。随分と真剣な顔だ。

 

「……そのMr.ブラックって、どのMr.ブラック?」

「えっ、シリウスとレギュラスのお父上の」

「あのお方に会ったのかお前!?」

 

 ノット十八番の叫びツッコミ。

 私は頬に手を添えてうっとりとした。

 

「あの罵りはさいっっこうだった」

 

 心を込めた言葉に、周辺に居たスリザリン貴族達は汚い雑巾で濾過したミネラルウォーターを飲んだ表情になる。

 

「お前なんで生きてるの?」

 

 生まれたことすら拒否された気分。

 エイブリー、そこに座れ。スウーピングエヴィルの餌にしてくれるわ。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「貴女はどうして僕らの家に干渉するんですか」

 

 大広間を出て外をブラブラしているとレギュラスが私を追ってきた。禁じられた森に入る寸前で良かった。

 

「夏休み、貴女が来てから僕の家は荒れっぱなしです」

 

 責めるわけでもない、でも純粋に気になるのだろう。レギュラスはそんな様子だった。

 視線を少し下に向けて私と目を合わせてくれる。

 

 彼は多分、最も『ブラック貴族』から遠い人間なのかもしれない。

 

「母はよくウロウロしてます。貴女みたいな関わったことない人種と触れて混乱してるんだと思います。それと思い出したかのように怒鳴ります」

「あー、レギュラスが被害とか受けてない?」

「父は思い出し笑いが多くなりました。正直、ちょっと気味が悪い程上機嫌です。あと羽根ペンの破損数が多くなりました」

 

 答えられないという事は特に被害を受けてないんだろう。シリウスから何も言われてないし大丈夫なのだと思う。

 

「兄は急に次期当主に向けて色々学びだしました。それら全ては貴女に繋がります」

 

 レギュラスは控えめに私のローブをちょこんと摘んだ。

 

「教えてください。どうしてですか?」

「ん゛っ、ちょっと待って可愛すぎて吐血しそう」

「あ、はい」

 

 胸が一気に締め付けられたので心臓を押さえて深呼吸を繰り返す。

 ある程度落ち着いてからもう一度向き直った。顔が整いすぎているからレギュラスは神聖な物として崇めていいと思う。

 

「うーん、そうだねぇ」

 

 私はレギュラスの手を繋いだ。

 

「おいで!」

 

 スーツケースから魔法生物が現れる。

 雪すら濁った様に見える真っ白な毛並みに、氷のようにキラキラとした瞳。姿形は馬だが、額にある一角が馬ではないと証明してくれる。

 

「なっ、なぁ!?」

「私のユニコーン、名前はユニ。この自慢の毛並み、綺麗でしょ?」

 

 金色の蹄を地面に慣らし、ブルンッと凛々しくひと鳴きするユニ。

 

「……すごく、綺麗、です」

 

 ユニに目を奪われているレギュラス。握っている手をゆっくりと引いてユニの元へと向かう。

 

「っ、ま、待ってください。敬意、敬意を現さないと」

「大丈夫」

 

 私は笑いながら律儀なレギュラスの頭を撫でた。誰もが羨むほどの艶を持ったサラサラの髪を堪能するように。

 

「レギュラス、魔法生物は心から敬意を示している人間くらいちゃんと見分けられるよ」

 

 コクリと息を呑み込んだレギュラスは恐る恐る救いを求める様に手を伸ばした。

 ユニはその手を優しく迎え入れる。

 

「美し……い……」

「ユニは私と同じ年月を共に生きてきたの。ユニコーンの中ではまだまだ若輩者だけど、私は彼を見る度に世界が好きになっていく」

 

 心に響く神聖さ。魔法生物は人間とは次元のズレた尊き存在で、私はちっぽけな存在なのだと思ってしまう。

 

「魔法生物は、私達よりずっと歳上で、気高い。とても優しい存在」

 

 レギュラスはさらりとユニを撫でる。

 

「私達は共存している。スーツケースという小さな世界で共に生きている。浄も不浄も全て引っ括めて」

 

 ユニはレギュラスの体を撫でた。

 

「常に彼らと一緒に居たらさ、私は優しくなれるんだ。シリウスが、家族という小さな世界で共存出来ないのなら、助けてあげたい」

「んっ」

「それはレギュラスも同じ」

 

 可愛いなぁ、と頬を撫でる。

 レギュラスは恥ずかしそうに顔を染めるが嫌がる事は無かった。

 

「私は聖人君子じゃないから嫌いな人間とか普通にいるけど! 好きな人は大事にしたいから! それが理由っ!」

「もしかして、貴女は愚兄の事を…──」

「あっ、それだけは無いんだよね」

 

 似たような反応はこれで3回目だ。

 なんだよ、親子兄弟そっくりじゃないかキミ達!

 

「知ってるかいレギュラス! シリウスって星は2つあるんだよ」

「えっ、そうなんですか?」

「そーなの、実視連星でね、私の予想ではもうひとつのシリウスは地球と同じ位の大きさなのかなーって思ったりしてる」

「うーん、そんなに大きいんですかね」

「予想だから夢見てもいいの!」

 

 ドーン、と地面に寝転がって空を見上げる。レギュラスは仕方ないなぁ、と言った表情で私の隣に寝っ転がった。

 

 無言が続く。

 私達は何も言わずにもう1つのシリウスを探す。

 

「見えないですね」

「でも、人間はよぉーーく見たからもう1つを見つけたんだよ」

 

 冷たくなってきた空気が肺に入り込む。

 

「……」

「………」

 

 これから寒くなってくるんだろう。シンシンと雪が降り積もり、晴れた夜は空との距離が近くなって、キラキラと降り注ぐ星が見えてくる。冬は嫌いだけど、あの澄んだ空気は大好きだ。あの時期ならもう1つのシリウスを見つけられる気がしてくる。

 

「──何やってんだお前ら」

 

 無言で星空を眺める私達を覗き込んだのは、レギュラスと似ている筈なのに全く似てない可愛くない方のブラックだった。

 

「「ぶはっ!」」

 

 あまりのタイミングで二人揃って笑い始める。

 

「ふ、ふふっ、ありましたね」

「あははっ! あったね!」

 

 シリウス探し中にシリウスが現れた。あまりにも可笑しすぎる。

 

「人の顔みて笑うとか失礼過ぎるだろ……。はぁ、ほら、戻るぞ」

 

 未だに寝転がったままの私たちに手を伸ばすシリウス。チラリと一瞬視線を交えた私とレギュラスは、その手を掴んで思いっきり地面に引っ張った。

 

「おわっ!?」

 

 体勢を保てなかったシリウスはそのまま私達の間にドスンと転がり込んだ。闊歩するユニが少し心配そうに見ている。

 

「っ、あははは!」

 

 レギュラスは大声を出して笑う。シリウスは困惑した表情で私を見てくる、と言うより訴えてくる。

 

「人間は目だから! よぉーーく見ないと! もう1つは見つからないんだよね!」

「そうですね!」

 

 第一印象だけじゃ分からない、見えない所はどんな物にだってある。だから私はスリザリンだろうとなんだろうとよぉーーく見れる様に歩みを止めない様にしてる。

 そうやってよぉーーく見た結果、私はその(ひと)の素敵な面を知れる。

 

 差別意識がシリウスAなら、もう1つのシリウスBはその人の本質だ。

 

 

「シリウス見つけた!」

「み、見つかった?」

 

 私はブラックという真っ黒な宇宙に、もう1つのシリウスを見つけて欲しくて、見て欲しくて、そして私がもう1つのシリウスを見つけたくて関わりたいと思っている。

 

 オリオン・ブラック、ヴァルブルガ・ブラック。あなた達のもう1つのシリウスを知りたいから、私はよぉーーく見るのです。

 あなた達が私に語るその言葉を胸に抱きながら。




ブラック兄弟というか、主人公がドMメンタルの他に『なぜ』辛く当たる人間と付き合っていけるのかという話。

英国も米国も、先輩後輩、敬語、などといった認識自体がないので難しいのですけど、基本スリザリン生は上下関係に敬語を付けて表現していきます。もちろん丁寧な英語というのもありますが、私はそこまで英語が詳しくない。以上。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12.スラグ・クラブ

 

 ある日、魔法薬学のスラグホーン先生に呼び出された。

 

「「「スラグ・クラブ?」」」

「あァ、実は前々からキミたちを誘いたいと思っていたんだよ」

 

 授業後、呼び出されたのはセブルスとリリーと私。出入口付近で悪戯仕掛け人グリフィンドール男子が遊びながら話が終わるのを待っている。

 

 顔を見合わせた私達。

 最初に口を開いたのはリリーだった。

 

「お誘いはとても嬉しいですスラグホーン先生。しかし、私はグリフィンドール生ですしマグル生まれ。他の上級生の皆さんを不快にさせるわけにはいきません」

 

 謹んで遠慮いただきます。と言った様子でリリーは告げた。

 私もやりたいことがあるのでなるべく時間を取りたくないので、遠慮しようと思った。

 

「それについては心配ない、君達と仲がいい上級生というと、ルシウス・マルフォイがいい例だろう」

「参加させてください」

「コワルスキー、そういう即答は良くない」

 

 セブルスは深い溜息をついて、私をちらりと見た。好みの人間がいたら私は迷うことなく向かう。自然の摂理だ。間違いなく私の摂理だ。

 

 発言を取り消すことがないと分かったのか、セブルスはもう一度深い溜息を吐く。

 

「コワルスキーが参加するなら、僕も参加します。一応スリザリン生として放置はできない」

「……そうね、同室としても放置できないわ。本当に私が行って大丈夫かしら」

 

 半純血のセブルスと私ならともかく、と小さな声でリリーは不安を漏らした。本人は書き取らせる気はなかったのだろうが、私には聞こえた、むしろ聞こえないはずがない。

 可愛い子の言葉は少したりとも逃してたまるか。

 

「大丈夫です、貴女は優秀な魔女ですから。マグル生まれでこのクラブに誘われた人間は貴女が初めてですが、それだけ素晴らしい才能を持っているのだと、マイナスからのスタートで一気に駆け上がれるほどの才能を持っているのだと自信を持ってきてください」

 

 別の寮とはいえど寮監の先生に褒めらて悪い気になる人間は少ないだろう。リリーが先駆けとなったらこれから後の世代で選ばれたマグル出身の子が入りやすいだろうしね。

 

「じゃあ、私も参加させてください」

 

 リリーは本当に可愛いなぁ!貧血のセブルスを地面に倒れる前にプリンセスホールドする所とかかっこいいのに。

 

「コワルスキー今失礼な事考えただろ!」

「シリウス辺りなら姫抱きしても大丈夫かな?」

「忘れてくれっ!」

 

 私の思い出していた出来事を悟ったセブルスは真っ赤になった顔を手で覆った。可愛すぎて無理。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「おや、セブルス。キミ達もいるのか」

 

 特定の日を除いて不定期に開かれているらしいスラグ・クラブに初めて行くと、早速声を掛けてくれたのはルシウス・マルフォイ、つまりルシーだった。

 

「はい、こんにちはMr.マルフォイ」

「ルシウスでいいと言っているのにこの子は……」

 

 ルシーは上下関係を守るセブルスの態度にクスリと麗しく笑った。

 

「初めましてMr.マルフォイ。リリー・エバンズと申します。いつもセブを気にかけてくれてありがとうございます」

「Ms.エバンズ、キミに会えるのを楽しみにしていたよ。まさかここで会えるとは思わなかったけどね」

 

 天国はここにあった。

 ルシーが可愛い子(限定)に心から優しくて幸せ。

 

「ルシーっ!」

「やァMs.コワルスキー!」

 

 私は挨拶の終わったルシーにいそいそとブツを取り出して近付いた。

 

「単刀直入にこれを見て欲しい!」

 

 私が差し出した封筒を受け取ったルシーはいそいそと中身を取り出し始めた。私のその封筒は写真がいつも入っているからね。

 

「こっ、これは」

「すっごく綺麗でしょう!?」

 

 ルシーの手にした写真はシリウスとレギュラスのツーショット写真だ。

 ただしユニにもたれかかって昼寝をする神聖な写真。

 

 心做しかシリウスまで美しいと思えてくる逸品。

 

「驚きました、貴女どれだけ写真技術を上げているんですか? しかもこれは、マグルのカメラですね……」

 

 動かないけど、画質は魔法界以上だろう。

 ポーカーフェイスを保てないルシーは口に手を当てたまま凝視し続けている。

 

「ブラック家に訪問した帰り道」

「……本当はそこから問い詰めたい所ですが」

「その帰り道!」

 

 叱られてはたまらない。無理矢理話を進めさせてもらう。

 

「ロンドンで伯父の迎えを待っている中、マグルの男の子と出会いまして。彼が本当の写真の撮り方を教えてくれたんです」

「なるほど、だからマグルのカメラなんですね」

 

 ぴょこぴょこ跳ねていたセブルスとリリーがルシーに写真を見せてもらえて、そして思わず口を押さえる。可愛い。私の写真技術ではこの可愛さを100%収める事が出来ない! 師匠助けて!

 

「……貴女の会話能力ってどうなってるんです?」

「えっ、普通ですよー?」

「僕は人間の上限を突破してると思います」

「アメリカって大体こんな感じだけど……」

 

 師匠にはお世話になりました。ホント師匠の写真技術は凄い。

 彼の目で見る世界は私と全く違うんだと思ってしまうほど、美しくて、悲しくて、幸せで、激しい情景を1枚の紙に収めてしまう。

 また会えるかなー。会えるといいなぁ。

 

 ルシーの疑問に返事をする所セブルスは大体フォローに入る。私に対してじゃなくてルシーに対して味方になる所は解せないけど、可愛いよね。仕方ない。

 

「おや、皆早いね。さぁ席について歓談しようじゃないか」

 

 軽く雑談をしているとスラグホーン先生が現れた。

 部屋の中でこちらを見ながらも雑談していた人達が、何故か慌てて座り出す。別に先生が来たからってそんなに慌てなくていいと思うのに……。

 

 疑問符を浮かべたが、ふと気になり上を見上げる。すると、ルシーは私達に決して見せない笑顔で佇んでいた。す、凄みがある。それでいて美しいとか本当になんなの。

 

「……」

「おや、Ms.コワルスキー。どうしました?」

「いやぁ、うん……」

 

 ぱっと表情を変えて目を合わせてくれるルシーに苦笑いしか浮かべられない。この人、私が見てしまった事に気付いておきながら動揺した様子見せない所が私を『庇護すべき人間』に括ってない感じがするよね。うーん、同志ルシーが可愛いすぎるぞ。

 

「……まぁリリーが守られるならいっか」

「そういうとこありますよね」

「お互い様です」

 

 盛大なブーメラン発言にツッコミを入れながら私は席についた。楽しそうなスラグホーン先生が一人一人と交流していく。

 聞いたことある名前や交流のある名前をフンフンしながら聞いていた。有名人が多い。

 

「次は、そうだね、Ms.コワルスキー」

「はいっ」

「君のご両親は何をなさっているのかな?」

 

 スラグホーン先生に聞かれて私は思わず笑顔になる。両親大好き。というか親戚もひっくるめて大好き。

 それに父さんの仕事は自慢だからね!

 

「父は、アメリカでパン屋を開いています。行列が出来てしまうので、近隣にご迷惑をかけないように営業時間の調節をしようとしている最中なんですよ」

「……パン屋、か」

 

 笑顔の私と対照的にスラグホーン先生は分かりやすくガッカリとした顔を見せる。少しイラッとしてしまう。

 そこまで分かりやすい態度を取るならハッキリ言って欲しいものなんだけど。

 

「1度食べたことがありますが大変美味しかったですね……。アメリカ特有の大きさなのかと思いましたが女性でも食べ切れるサイズで、会食で出したいと思う程の味でしたよ」

 

 落胆した様な声に被せるように発言したのはルシーだった。思わずギョッとする。

 

 えっ、いつ来たの、いつ来たの!? 教えてよ!? 会いたかったのに!

 

 ルシーは驚きまくっている私を全く気にしないで話を続けた。

 

「流石に驚きましたね。Ms.コワルスキーの腕前はここから来ているのかと。去年卒業したスキャマンダーが絶賛するわけです」

 

 ニコニコとスラグホーン先生に名前を連ねていく。

 あっ、そうか、コワルスキーって名前はアメリカの非魔法族だからスキャマンダーとの繋がりがあるってあまり知られてないのか。

 

「あァ、ハッフルパフのアベル・スキャマンダーか。ニュート・スキャマンダーの息子の」

「アベルは夏場アイスティーを飲むのが好きなので暑くなるとよく来ますね。イギリスには冷たい紅茶が無いので」

 

 この発言で合ってるかな……?

 よく分からなくてルシーに恐る恐る視線を向けると笑みが深まった。どうやら正解したらしい。

 

 ホッと息を吐く。

 イギリス独特の遠回しな言い方が分からないから大分ストレートな言い方になったけど問題ないならそれでいい。さりげなく仲が良いですよアピールって難しいね。

 

「Ms.コワルスキーは彼と仲が良いのですね。魔法生物が好きなようですし、彼のお父上と交流でも?」

「まぁアベルは従兄ですし、伯父ですから」

「なんと……!?」

 

 流石に驚いたのかスラグホーン先生は席を立ち上がる。慌てて座り直したけど、そりゃそうだろう。普通なら全く繋がりが持てない。

 

「そ、そうでしたか。Ms.コワルスキーは魔法生物と魔法薬学どちらの道に進むつもりで?」

「魔法生物ですね、魔法薬学はその為の手段ですから」

「……あのレベルで手段か」

 

 ぽつりとセブルスが呟いた。んっふ、可愛い。

 

「今は! ……セブルスと一緒に色々研究している最中なんです。時々リリーに手助けしてもらう事があるんですけど。ッ、今年のハロウィンは、敗北しましたけど」

 

 普通に魔法薬学の話をしようとしたのに忌々しい出来事を思い出して顔を歪めてしまう。

 セブルスもハロウィンを思い出して嫌そうな顔をしていた。

 

「2年生3人は魔法薬学が優秀だって聞いたよ。良かったら私も助けて欲しいね」

 

 レイブンクロー生が空気を変えるように笑顔で言ってくれた。私でも分かるけどこれは社交辞令かな。

 

「彼はダモクレス・べルビィ。私の学年では彼以上に魔法薬学に精通している人物は居ないよ」

 

 ルシーが紹介してくれるということは純血の人なのかもしれない。だって好みでは無いはず。

 ぱっと顔を輝かせたセブルスが私に視線をくれた。OK、把握した。

 

「Mr.べルビィ! あの、僕、僕達魔法薬学で研究してて、それで良かったら見て欲しい物があるんです」

 

 私は持っていたスーツケースの、マグルに見られても平気な方をダイヤルで回して羊皮紙を取り出した。私から受け取ったセブルスが手渡すと、彼は興奮した様子で内容を読み進めた。

 

「……驚いた、私が研究している内容を追い抜かれている」

「ほ、ほんとですか!?」

「特にユニコーンの角をこんなにも使うなんて、入手が難しいのに効果は確かにある……! なるほど、ここがMs.コワルスキーの腕前か!」

「もっと全体の量を少なくするにはどうしたらいいか考えているし、まだまだ効果が甘いので、それでその!」

 

「キミ達、私の科目で盛り上がってくれるのは教師として嬉しい話だが専門的な会話は他の時間にしなさい」

 

 苦笑いでスラグホーン先生がストップをかける。

 リリーも内容を知らないし、他の生徒もそこまで魔法薬学に詳しくないので専門会話は控えた方がいいんだろう。

 

 でも私達3人は顔を見合わせていた。

 後でしっかり話し合おう、といいたげな顔だ。

 

 私自身セブルスと違う着眼点を持っているから魔法薬学研究の力になれるけど、やっぱりセブルスは才能が凄い。闇の魔術と魔法薬学に限っては絶対にジェームズもシリウスも敵わないだろう。

 

「去年引きこもって研究してるんじゃなかった。こんなにも有望な子達が入ってきて居ただなんて……」

 

 ボソボソ呟いていたが頭をぶん殴ったルシーが物理的に黙らせた。研究者の脳みそは大事にしてあげて……。

 

「ははは、今日は大人しいなコワルスキー」

 

 そう祈っていると知り合いの上級生が声をかけてきた。

 

「はぁいアルトリウス、最近どう?」

「駆け落ちした兄さんが家に戻ってきたよ」

 

 緑のローブを着た上級生はリリーに似た赤毛にそばかす顔のアルトリウス・ウィーズリーだ。

 

 ウィーズリー家も純血貴族。

 ただしルシー達の様なスリザリン貴族ではなく、代々グリフィンドール家系の貴族だ。

 

「はーーー、これでウィーズリーの当主はアーサー・ウィーズリーになるわけか」

「ごめんルシウス」

 

 ウィーズリー兄弟は3人で、上からアーサー、アルトリウス、アルトス、という獅子王に由来した名前となっている。アルトリウスはルシーと同じ歳で、アルトスはレギュラスと同じ歳。アーサーという話題の人物はルシーと6程離れている様だ。

 シリウスに教わったんだけど、ホグワーツにはどの年で入学しても必ず『ウィーズリー』がいるらしい。

 

「ルシーはそのアーサーって人嫌いなの?」

「嫌いなんてもんじゃない。反吐が出ますね」

「……間に挟まれるアルトリウス可哀想」

「スリザリン寄りなウィーズリー、ちょっと胃が痛い」

 

 アルトリウスはグリフィンドール家系なのにスリザリンに入ったからと実家でギャンギャン言われているらしい。可哀想。

 

「可哀想なアルトリウスに、アルトスの写真をプレゼントしよう」

「いくら弟の写真を貰ったって別に嬉し…──まってなんだこれめっちゃ綺麗に写ってんなぁ!?」

 

 これからもグリフィンドールをよろしくという心を込めて。

 ちなみにノットやエイブリーが去年のクリスマスに言っていた、マグル知識持っている純血貴族というのはこの人の事だ。

 

「Mr.ウィーズリーは最近何かしているのか?」

「グリフィンドールの生徒に魔法具の作り方教えてる」

 

 私も知らない上級生に声をかけられてアルトリウスは返事をする。

 彼がこの場に呼ばれたのは魔法具の才能だろう。特に付与技術が凄い、と、ピーターから聞いた。

 

 ……そう、彼が教えているグリフィンドール生はピーターだ。

 

「なんでペティグリューは魔法具で操られていたのに魔法具に進もうと思ったんだか……」

 

 まだ記憶に新しい『天文台からコードレスバンジー事件』に関わったセブルスは遠い目をしていた。『自分の体が動かないって凄いよねぇ!』ってキラキラと目を輝かせていたピーターがまさかそっちに進むとは、私も思ってなかったよ。

 

「悪戯仕掛け人ってなんでか一癖も二癖もあるのよね」

「ため息つくリリーアンニュイな雰囲気で素敵っ!」

「癖があるのよね」

 

 なんで2回言ったんだろう。そしてなんで周りは頷くんだろう。

 私ほどわかりやすい人間はいないと思うのに。

 

「悪戯仕掛け人と言えばついにクィディッチデビューが近いな」

「僕はクィディッチどころか箒を折り捨てたい気持ちなので詳しくないんですけど。今年もスリザリン対グリフィンドールから始まるんですよね、伝統ですか?」

「分かる折り捨てたい〜!」

「魔法具にも敬意を払わないと心を通わせれるわけないだろう」

 

「……僕はコワルスキー程無機物と積極的にコミュニケーション取りに行く人間を知りませんよ」

 

 アルトリウスが叱るが、セブルスはこちらをジトリと見てきた。

 

「この前エミリーったら椅子に向かって『可愛い子に踏まれる気分はどうだ』って恨めしそうに聞いてました」

「もちろん1年の時は箒に『どう乗ってあげようかな』って口説いてましたよ」

 

 天使な幼馴染コンビが私の情報をボロンと零す。

 スラグ・クラブは一体感に包まれる。

 

 心に抱いたであろう言葉を、私は一切想像しない様にした。

 

 

 

 天使が可愛いなぁ!




捏造、オリジナル多くて把握しきれなくなるのが今すごく怖いです。
友好範囲の広い主人公が、原作登場キャラが少ない親世代にいるんだからどうしてもオリジナルが多くなりますよね。

まぁ一般的な親世代と仲が良いって事を把握してるだけでいいんですけどね!仕方なく名前を作っているという事でごちゃごちゃしいのは堪忍してつかぁさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13.クィディッチ

 

 クィディッチ。

 魔法界で大人気の球技だ。

 

 縦500フィート、横80フィートの楕円形のフィールドの中を、箒で空を飛びながら点を奪い合うサッカーの立体版の様な物だ。

 

 

 細かい話や、御託は良い。

 私は音声拡張の魔道具の前に立ってマイクを握りしめた。

 

『さァ今年もやって参りました寮対抗クィディッチ杯! 何故か今年から導入された実況に選ばれた! 可愛いと美しいは最も尊ぶべき存在だと思います。グリフィンドール2年生、エミリー・コワルスキーでございます! アメリカのマグル育ちなので箒から理解できなくてマダムに見捨てられました! 解説はこの方!』

『……はい、解説のスリザリン2年生、スタンレー・ノットです。どうして俺がこの馬鹿と居なくちゃならないのが不満でたまりません。スネイプ、チェンジ』

 

 私は大きく息を吸い込んだ。

 

「箒なんてクソだああああッッ!」

「コワルスキー!」

 

 マクゴナガル先生のストップが飛んできた。

 

 

 

 

「さてと、クィディッチを知らない人の為にルール説明でもお願いしますね、ノット」

「俺任せかよ」

 

 落ち着きを取り戻した私は試合に向き直った。

 

『さぁさぁ皆様お立会い、選手方の紹介ついでにノットが解説してくれるというので私ばぶん投げながら語り手に行かせてもらおうじゃありませんか!』

『はい、可哀想なノットです。こういうのエイブリーでもいいと思うんだけど』

『諦めようねー。さぁて両陣営入場! 赤はグリフィンドール、緑はスリザリン!』

 

 歓声に合わせて選手が入場する。

 芝生の上をザクザクと歩む姿はまさに有名人の風貌だ。

 

『赤、キーパーでリーダーのジョンソンに続いて入場です。ビーターを務めるのはグリフィンドール内でも有名なバカップル、ベインとイップ! 家名(敬称略)で失礼します!』

『ゴールを守るキーパーに暴れ玉ブラッジャーをぶん殴るビーターですね。この御二方の妨害がどんなものか気になります』

『続きますチェイサー! コーンとハッキネン、そしてブラックです! あァ、可愛い子の声援を引き受けるシリウス・ブラック。──男性諸君、今なら誰がやったか分かりません、物を、投げるのです』

『次期ブラック家当主に何やらかそうとしてんだコワルスキー!』

 

 グリフィンドールの紹介にシリウスがズゴッとバランスを崩す。下から聞きなれたワンコの怒り声が聞こえた気がしたが進んで無視させて貰おう。

 

『緑、リーダーのチェイサー、マルフォイが登場! その美しさは留まるところを知らない! キャーーッ! ルシー! 頑張れー!』

『なぁ、お前グリフィンドール生だよなぁ? なぁ!?』

『続きますはキーパーのウィーズリー! ちなみにこの音声拡張具は彼のお手製です!』

『なんでお前グリフィンドール生なんだ?』

『ビーターの御二方も入場です、グリーングラスとノット、あ、兄のほうね。グリーングラスは相変わらずその冷たい視線を私に向けてくれないんですけどどうしたらいいですかね、夏休み木の下で『僕の蛇ちゃん』という練習の成果も何も無い告白を見事成功させた方のノット』

『可哀想な方のノットです! 多分関わることすらしたくないからだと思う! あと俺の兄さんの個人情報バラバラ撒かないであげてくれ!』

 

 兄のテディ・ノットが私に怒りの声を飛ばす。はっはっはっ、聞こえんなぁ。実況解説席は観客席よりも高めに作られてある為、どうしても遠くの声は聞こえづらくなる。

 

『残るチェイサー、ハーヴェイとハインズも堂々と入ります。う〜〜ん、スリザリン顔面偏差値がグリフィンドールの比じゃない! ……頑張れ、グリフィンドール』

『そんな可哀想な感じに応援されるなら向こうも応援されたくないと思う。なんでこいつを実況に選んだ?』

 

 ノットの持っている疑問はすごく分かってしまう。私、クィディッチなんて去年初めて知ったし、贔屓凄いのに。

 まぁグリフィンドールを贔屓するんじゃないんだけど。

 

 そうこうしている間に両陣営の6人が箒を片手に向かい合った。

 

『さて、主役の登場です。グリフィンドール! 期待の新人! 最近目が悪くなってきたと不安に思っていたのでこれを機にメガネになった! 我らがポッター!』

『微妙に褒めてないんだよなぁ』

『私の発言は解説しなくて良くない?』

 

 一際大きい歓声が観客席から湧き上がる。

 クィディッチはスニッチというボールを掴まえてゲームを終わらせるシーカーが主人公だ。

 

『続いてスリザリン! 盛り上がってまいりました! いつもキレ気味ただし私限定! 同じポジション、同じ学年、そして同じく眼鏡ということでマルシベール』

 

 銀の髪をなびかせながら私に中指を立てて来るマルシベール。愛いやつめ。そんなに私が大好きか。

 

『個人的にはスリザリンに勝利して欲しいけど、一応解説なのでグリフィンドールの方も解説していきたいと』

『──えっ、私めちゃくちゃスリザリン応援する気満々で旗とか作って来たんだけど』

『お前もうアバダくらってろ!』

『あ、それ去年のDADA教師が天文台塔で私に向かって何回も使ってきたやつだァ。あの緑のやつでしょ、アブラカタブラみたいな呪文の』

『えっ』

『え?』

『……お前、マジか』

『なにその反応怖い』

 

 空気が凍った。

 

『この馬鹿には後で鉄拳をあげるとして』

『そこは解せない』

『試合がもうすぐ始まるぞ。審判、腕を上げます』

『よォし、いくぞぉ!────クィディッチ!開始!』

 

 ピーーーッ、という音が高くに響く。

 晴れた空の元、赤い革の張られたクアッフルが空を舞った。

 

 

 

 と言っても実況は初めて。

 ここからはダイジェストでお送りしよう。

 

 

『はっ!? ちょ、ノット見た!? グリフィンドールの恋愛脳リア充ベインとイップがボールを操ったよ!?』

『──アレは〝ブラッジャー逆手打ち〟って技術だ。逆手で棍棒を持ったビーターがブラッジャーを後方に飛ばす錯乱技だ。あの御二方の凄い所はそれで敵チームにぶつける所だ』

『べ、勉強になります』

 

 叫んで。

 

『おい? コワルスキー実況どうした? なんでフリーズしてんだ?』

『……どうしよう』

『実況しろ』

『チェイサーマルフォイ、クアッフルを箒で叩き落として何者に邪魔されることなく点を獲得した瞬間小さくガッツポーズして、恥ずかしかったのか慌てて箒を握って地面スレスレを走ったかと思うといつの間にかクアッフル持ってた。全ての所作が美しすぎてむしろ逆に引く』

『その行動を実況しろって言ってんだろうが!』

 

 叫ばせて。

 

『はい、ブラック得点。今だビーター! 余裕ぶってるイケメンの画面にブラッジャーぶち込んでやれ!』

「っざけんなコワルスキィイイイッ!」

『あー、グリーングラスと兄さん、一応さっきのコワルスキーの発言については手加減してやってくれ』

『ノットはなんでグリフィンドールの味方するの? あんたスリザリンでしょ?』

『その言葉そっくりそのまま棍棒で殴り返してやるよ。カレ、ブラック家、オレ、ノット家。いくら所属が別寮チームでも相手を尊重するし、ぶっちゃけお前の贔屓が酷すぎていくら敵だろうと可哀想に思えてくるから』

『えっ、それってキミの言う穢れた血も?』

『……お前以上に、ふざけた人種が、いるのか、俺には、もう、分からないッ。お前なんで半純血なんだよ! お前が親マグル派だったら俺は迷う余地なく侮辱出来たのに……ッ!』

 

 嘆かれたり。

 

『……おいメガネズ、長いんだよ。麗し部類、スリザリン選手のマルフォイとグリーングラスを中心に実況してるけど、うっかりミスで魔球が飛んでくるだよね。ぶつかりに行こうとしたら可哀想な方のノットに止められるんだよ。早くしてよ』

『まだ1時間だろ。あと今年に入って頻発するグリーングラスのうっかりミスはマクゴナガル先生やマダム・フーチが黙認している辺り学べ!』

 

 背側にめちゃくちゃ穴が開いてたり。

 

『じゃあスニッチを追い始めたメガネズの為に魔法生物のスペシャリストの一番弟子がスニジェットの魅力をお話しよう』

『実況しろっ!』

『別名ゴールデンスニジェット。魔法省分類はレベル4で、まぁ可愛らしい』

『……専門知識と専門技能のレベルが低く感じる言い方はやめてくれ!』

『いやいや、スニジェットは危険性が高いんじゃなくて、保護重視です。魔法生物規制管理部が主に管轄しているの。──体は美しい金、瞳は赤く、くちばしが細くて。そして最も素晴らしいのは丸いあのフォルム! あの体で繰り広げられる超スピードは堪らないよ、いやほんと』

『えっ、お前まさか所持済み?』

『残念、流石に許可くれなかった。学生だから環境的にも絶滅危惧種だけはやめてくれって言われてさぁ』

 

 嘆いたり。

 

『そう言えばニュート・スキャマンダーが最近起草した実験飼育禁止令』

『……。』

『何か言え問題児』

『……法として暴走を止められるようにって』

『どうしようクィディッチに関係ない話なのに必要なさそうで必要そうな豆知識がゴリゴリ出てくる…』

 

 話題が脱線したり。

 

『もうこれ私とノットの会話を全公開してるだけだよね!』

『基本お前が実況しないからだ!』

『えー、してるじゃん?』

『特定の人間のみ追うことを実況とは言わねェよ! それはただの追っかけだ!』

 

 叫ばせて、叫ばせて。さらに叫ばせて。

 

『あ、ポッター、箒が制御不能に陥りました。普段の彼には有り得ない程の暴走具合に振り落とされそうです』

『おおいコワルスキー!? そんな淡々と実況する場面じゃねーよな!? 普通に実況投げ捨てて慌ててもいいと思うんだが!? アレ、お前の親友だろ!?』

『実況しろって言ったり実況するなって言ったり、ノットってホント面倒臭いねェ。あ、スリザリンのハインズが点を獲得』

 

 ジェームズが箒に振り回されたり。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

『はぁあああぁぁぁああぁっ!?』

「うるさっ、あと反応が遅い」

 

 拡張具から口元を離したノットが隣で小さく文句を垂れる。私は勢いのあまり手摺にぶつかったが、しっかりとジェームズを見る。

 

 ブンブンと振り回されている箒に必死に捕まっていた。

 

『か、解説のMr.ノット。これどうなっているの?』

『全部が全部素人の俺に解説できるものだと思うなよお前!』

『貴族様頼りにしてまーす』

 

 拡張具越しに会話をするとノットは目を凝らして箒を確認する。あれか?これか?とブツブツ呟いて考えている。

 ブンブン振り回され続けているジェームズの姿にシリウスは腹がよじれるほど笑っていた。なぜならジェームズがずっと笑っているから。

 

「多分、錯乱呪文。箒に掛けられてるのは間違いないけど」

「さくらん」

 

 

 

 ── 呪い、そうだ錯乱呪文を掛ければいい。僕らの歳で高度な闇の魔術を使えるだなんて思わないだろ?

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 脳裏にちょっと有り得そうな可能性が浮かんだ。

 咄嗟に天使を疑うのはどうかと思うけど、些細な雑談でもスペルも単語も少したりとも間違えることなく覚えている私の超人的な脳みそが今ばかりは憎い。

 

 ……脳裏に浮かぶセブルスも可愛いが過ぎるな。

 

『愛してるよセブルス!』

『お前の思考回路ホント読めねェ! なんでそうなった! おい! 誰かコイツの翻訳してくれ! ご指名だぞスネイプ!』

 

 スリザリン席でレギュラスと一緒に観覧していたセブルスが全力で首を横に振った。

 

「……!」

『──そうこうしている内にスリザリン点を稼ぐ稼ぐ! さぁグリフィンドール、主役の行動不能に驚いている暇はないぞ!』

 

 セブルスがどこかを見て驚いた顔をしたあと私に視線を合わせた。遠い距離に居るのに、セブルスがよく見える。

 セブルスは私が合わせられるようにゆっくりと視線を観客席の1部に動かした。その先では目を開いてブツブツと呟いている様子のスリザリン女子生徒がいる。

 

『おおっと身に力が入ったグリフィンドール、チームプレイでスリザリンと対立し出す! しかし! ここぞとばかりにスピードを上げるマルシベール! リア充ビーターも妨害工作に動き出しました! 勝負はまだ終わらないようでーすッ!』

『おわっ、やめ、おい肩を組むな! 仲が良いとか勘違いされたら俺は自殺したくなるから!』

 

 ゴーゴー! と拡張具を持った腕を振り上げて、肩を組んだノットの耳元でボソリと呟いた。

 

「……表現は怒ったままでキープして、ゆっくり視線を動かして。セブルスやレギュラスの位置から見て右30°」

「……アレは、パーキソンだな。様子がおかしいけど」

「……そう、あのパグ顔のかわい子ちゃん。錯乱呪文の術者を見つけたんだけど、ノットが注意出来る家?」

「……難しいな。大体スリザリン以外に対する優しさをノット家に求めるな」

「……ふぅん。多数の人間の視線がある状況では家柄的にスリザリンの味方は絶対しなければならない訳ね」

「お前なぁ」

 

 遠回しな言い方を翻訳する。ノットはまだ親の庇護下にある存在だからノット家の方針には逆らえないみたいだから、彼がパーキソンって人を注意する事は出来ないわけか。

 

『あっ、見てみてノット、ジェームズが箒ごと落ちた』

『少しは心配してやれよグリフィンドール生!』

『怒らないで私のキティちゃん♡』

 

 ちゅーーっ! とほっぺに愛のキッスを送るとノットは私の脳天に拳を振り下ろした後、顔を怒りで真っ赤に染めて突き飛ばした。

 

『もう限界だ! あ、マクゴナガル先生ちょっとよろしいですか、コワルスキーが…──』

『いやんいけず』

 

 いてて、と思いながら腰をさすって立ち上がり直すと場から笑い声が響く。実況と解説席の傍にいたマクゴナガル先生に私の文句を報告しようとヅカヅカ向かう去り際のノットと目が合った。

 

 私は私の企みに乗ってきてくれた事に嬉しくてニンマリ笑うが、ノットは顔の赤みなんて知りませんと言いたげな無表情でこちらに視線を送っていた。

 

 いやぁ!スリザリン貴族凄いな!私を嫌がりながらマクゴナガル先生にチクリに行く機転が聞くんだから!

 ……いやほんと、私何も出来ないし、普通にノットをおちょくっただけだからね。違和感なくいつもの調子でツッコミノットは私に怒り散らすし。凄いな。

 

 視界の端にブラッジャーが掠めた。

 

『ッ、ブラッジャー、ポッターの元へ向かいます。未だに箒が暴走気味のポッターの脳天にッ! あ、避けた! 3回、避けました。更に大きく飛び上がり勢いを増すブラッジャーッ!』

「飛んでいけやぁああぁッ!」

 

 大きく自分の箒で振りかぶったシリウスがブラッジャーにぶつかりに行った。と言っても箒で軌道を逸らしたと言った方が正しいだろう。

 

 

『ここまで聞こえていた飛んで行けという発言でしたが実際は己の箒が折れてまでしても方向を逸らすしか出来なかったのですが、まぁイケメンなんてそんなもんですよね、うん』

「ちゃんと俺の魅力を実況しろよ」

 

 いつの間にか目の前にまで飛んできたシリウスは私に叱咤を飛ばす。その後ろからジェームズが飛び上がって空へと向かっていった。箒は錯乱から解けたようだ。チラリと向ければホッとした様子のセブルスが私を見てサムズアップしていたので、ちょっと冗談じゃないくらい可愛い。セブルス錯乱呪文かけようとか言ってたから反対呪文も使えるの? すごくない?

 

『おお! マルシベールを追うポッター! グングン一気に空高くまで上昇していく!』

 

 ジェームズは空へ向かう。空へ、空へ!

 赤と緑が競い合う中、ジェームズが左腕を伸ばす。2つの箒は急降下し始めた。恐らくスニッチが下へ飛び出したんだろう。

 

 押し合い、競い合い、スニッチを追う2人。ふと、マルシベールの体当たりでジェームズが体勢を崩した。

 右手が箒から離れる。なのに左手はスニッチを追いかけたままだ。

 

 

 ジェームズは地面に向かって…──

 

 

 

 

 

『──220対290でグリフィンドール逆転勝利!』

 

 私の声に、ホグワーツ生は盛大な歓声と拍手を惜しみなく送っていた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 ドタドタと廊下を走る。息が切れても足を止める事はなかった。

 

「ジェームズッ!」

「医務室ではお静かにMs.コワルスキー!」

 

 ホグワーツの校医であるマダム・ポピー・ポンフリーの注意が飛んで来るがそんなこと全く気にせずベッドでヘラヘラ笑うジェームズの元へと駆け寄った。

 

「箒で振り回された時に全身傷だらけだっただろうに、ブラッジャーで右手を折ったね」

「よ、よく見てるね」

「しかもマルシベールとの最後になんで怪我しやすい様に左手を伸ばしたの!」

「ス、スニッチが」

「平静保って実況するのかなり辛かったんですけど!反省して!もうあんな無茶をしないって約束して!」

 

 都合の悪い事になると、嘘はつかないにしろ、視線を逸らすのはジェームズの癖だ。

 

「……ごめん」

 

 きっとこの謝罪はまた無茶をするって予感しているからだろう。

 

「死んだら元も子もないでしょ……ッ」

「それは違うよミリー」

 

 ジェームズは慌てた様子で私の目を見た。

 

「死んで何も残せないって、そんなの絶対無いよ」

「いや、でも死んだらクィディッチこれ以上出来ないんだよ?かわい子ちゃんとイチャイチャ出来ないんだよ?」

「まぁそれ以上は望めないだろうね。でもね、僕は死んでしまっても君達の中に絶対生きているじゃないか」

 

 私は1歩ずつジェームズに近付いて頬に触れた。

 生きている温度が手のひらに伝わる。

 

 私は両手でジェームズの頬を包むと……──捻り潰した。

 

 

「いや、それとこれとは話が違うでしょうが」

「ひゃい、しょのとーりでひゅ……」

 




はい、クィディッチのお話でした。
かける呪文は解除付きじゃないと使う意味ないですよね。脅し的な意味で。セブルス・スネイプ、と言うより親世代が全体的にチート過ぎて私はこっそり叩き上げ世代と呼んでいます。子世代はゆとり世代。孫世代はみのり世代。ちなみに爺世代は混沌の始まり時代です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14.それ以外の魔法使い

 

 2年というのはホグワーツ生活にも慣れ始めた年で、月日はあっという間に過ぎて行った。

 

 それでも変化というものは起こるようで。

 

 

 私はクィディッチが嫌いになった。友人があれだけボロボロになる姿を見て、嫌いにならないわけが無かった。それでも1年実況をした私は褒められていいと思う。余談だが実況中はそうでも無いのにその前後は倒れるくらい顔が青くなるらしいから、私はひょっとして演技の才能があるのかもしれない。

 

 ジェームズはシーカーとして寮対抗クィディッチ杯をグリフィンドール優勝という形で終わらせた。一躍有名人というわけだ。最近調子に乗っているのか、怪我をさせそうな程派手な悪戯や眉を顰める様な驕った態度が目立ち出した。

 

 シリウスは基本的にジェームズと連動している為活動が派手になっていく。ただし、『ブラック家次期当主』を目指しているのでレギュラスの前では大人しめだ。魔法界の頂点に君臨するブラック家のトップになれば、そこから魔法界を変えることができるから。

 

 リーマスは月に3日ほど居なくなる事を除けば特に変わりない。でも最近私の魔法生物達と交流する時間が増えている様な気がする。可愛いの極み。

 

 ピーターは魔法道具の魅力に取り憑かれているのでスリザリンのアルトリウスにぴょこぴょこついて行っていた。その姿に一個下であるアルトリウスの弟のアルトスが不思議そうな顔をしていたけどまぁ問題ないだろう。

 

 リリーはジェームズの求愛行動を無視しながら、1個下のダーク・クレスウェルという同じマグル生まれの子のお世話をしている。魔法薬学が苦手らしく、得意なリリーが奮闘している姿は女神と見間違えた。

 

 セブルスは意外とリリーの行動に嫉妬はなく、自分も集中出来ることを見つけているから私と一緒に魔法薬研究に励んでいる。魂の双子の悪戯に引っかかっているスリザリン生の味方をして怒鳴り散らしたりしているから、スリザリンで株が上がっているのと話だ。ちなみに魔法薬研究にはレイブンクローのMr.ベルビィの助力や助言が大変役に立っている。ありがたい。

 

 

 

 そして今年卒業する勢。

 

 

「うえっ、ふぐっ、ルシィーっ」

「……シシー、ちょっとこのハンカチ濡らしてくれないかな」

 

 私はルシーのローブを掴んでべそべそ泣き喚いていた。

 

「全く、この子は。いい加減になさい、ルシウスの迷惑ですわ」

「シシーのツンデレが今後気軽に味わえない辛い……」

 

 

 私が2年生の終わりに卒業するのはルシーの学年だ。

 そこそこ交流のある上級生というのは結構いるが、具体的に名前を上げるとしたら。

 

 ルシウス・マルフォイ

 ナルシッサ・ブラック

 アルトリウス・ウィーズリー

 ダモクレス・ベルビィ

 テディ・ノット

 

 と言った所だろう。

 この全てにおいて純血貴族という事実、我ながら凄いと思う。私となんだかんだ交流のある方々だ。

 

 Mr.ベルビィ以外皆スリザリンか。私がセブルスに会いたくてせっせと朝食の時スリザリン席に移動している成果だよ。

 

「ルジーとシシーどあえな゛いのづらい!げっごんしぎぃ、よんでよォ!」

「「それはちょっと」」

「レギュラスは当然だけど、シリウスとジェームズは招待されてるのになんで私はダメなんですがぁああ!」

 

 ホグワーツ特急に乗ってロンドンに行く道すがら、私は着いてくれるなとばかりに癇癪を起こして泣き叫ぶ。

 ジェームズ達が取ってくれたコンパートメントに入らず廊下で咽び泣いている。

 

 冷静に考えると通路で喚くのが迷惑なのは分かりきっているんだけど割り切れほど大人じゃないですぅ!

 

「だって貴女、純血じゃないでは無いですか」

「うぇええぇぇんっ!」

「この2年、貴女がホグワーツに入ってきてから大変迷惑してたんですよね。純血でもない貴女が私の周りを蜜蜂の様にブンブンと」

「ヴボァッ!」

 

 ルシーの言葉に胸を押さえ蹲る。

 最高オブ最高かよ。その蛆虫を見る様な視線が堪りません。

 

「マ、マルフォイお前……!こいつらに優しくしているから見直してたのに!」

 

 4年生のグリフィンドール生、確か半純血の人が恨めしそうにルシーを睨む。

 

「おや、私は純血主義のマルフォイですよ?何を勘違いされているのやら」

「ぅわぁ」

 

 相変わらずドン引く美しさである。

 可愛い子には分け隔てなく愛でる(行動にはなかなか移さない)同志だということに、私の崇拝対象だと言う所でルシーの価値はズドンと重い。はぁ、純血主義バージョンのルシーとか私得。

 

 

 そう言えば、ルシーが純血主義だと言われているのには理由がある。

 

 

 ブラック家は顔がいい。

 ブラック家は純血主義である。

 ブラック家の親戚は純血である。

 

 純血は顔がいい。

 

 

 ……分かるな。贔屓する顔のいい人達が純血だから純血主義だって言われているんだよ。

 

 でも純血を尊ぶ姿勢を否定しないどころか、こうやって純血主義だと振る舞う理由は分からないな。尊ぶは純血ではなく可愛い子なのに。

 

「……あ、俺分かったわ。マルフォイ」

 

 お目付け役として私について来ていたシリウスがポツリと呟く。ルシーはニッコリ笑っていた。

 

「帰るぞコワルスキー」

「いやぁああぁあ!シシーのドレス姿見たいいいい!でも卒業しないでえぇぇ!」

 

 はっ、と思い出した。

 私はシシーのウエディングドレス姿を見たいんだ!

 

「離してシリウスううう!」

「オーよしよし、大丈夫だって。マルフォイは別にお前のこと嫌っちゃいねェよ」

「そんなのはどうでもいいんだよ!私の顔が変わらない限り嫌われることは無いって確信してんだよ!私、欲望に忠実!ルシーの態度はむしろ興奮材料です!」

「……お前」

 

 抵抗も虚しく引き摺られた。女の子にこの扱いはどうかと思うんだけど、英国紳士。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ホグワーツ特急でロンドンに着いた後、私はパブ漏れ鍋からダイアゴン横丁に入り込んだ。シシーに濡らしてもらったルシーの紋章付きハンカチをどうしようと思いながらフラフラしていたんだ。

 これで目元冷やせってことなんだと思うけどこんな聖遺物を私が使えるわけないじゃないか!

 

 状態保存の魔法みたいなの無いのかな。同級生組も上級生も断ってきたから大人に頼る他ないのかな。

 

 ウロウロしながら暇そうな人に声をかけていく。

 

「ただの状態保存ならともかくその水分を上書きすることなく保存出来るわけが無いだろ」

「コワルスキーの嬢ちゃんだな。息子に関わるのを控えろと言われているんだ」

「あー、君が例の……。おっと娘の迎えがー」

 

 

 悪評が辛い!

 声をかけてもかけても私を基本知ってる保護者にしかぶつからない!そりゃそうだよね!だってこの時間帯はお子さん達がホグワーツから帰ってきた時間帯なんだから!

 

 

 苦肉の策だ、デメリットが大きいがメリットも大きい!

 私は人があまり通らない様な埃っぽい道を通って『裏側』へと足を踏み入れた。

 

 

 裏側というのも、ダイアゴン横丁の裏の顔というべきものだろうか。裏側に住む住民が売買する場所。

 夜の闇横丁、ノクターン横丁だ。

 

 基本空気の悪いこの環境、魔法生物にとって大変好ましくない、が、腰にいるスウーピングエヴィルとかは大好きなのだ。繭になっているエヴィルがぴょこぴょこ微振動を発生させていた。

 

 ……可愛いな。うん。

 

「はぁ……」

 

 現実逃避しても仕方ないと思い周りを見渡すが、頭の狂ったやつしかいなくて思わずため息を吐く。

 薬の乱用者と同じような反応しかない。

 

 私が求めるのは理性も保った魔法の腕が一流で小娘に見返り求めるくらいなら鼻で笑う様な裕福な人間。そう!悪役的なポジション!例えるならルシーとか純粋ピュアな方のノットとか!それの大人バージョン!……ルシー達も十分大人なんだけどね、こう、ニュアンス的な意味で。

 

「お?」

 

 ふと、行き止まりの小道に視線が行った。何も違和感なんてない筈なのに私の心がそこにいると訴えかけてくる。

 

 1歩1歩進んで私はその違和感の前に立った。

 

「お兄さんこのハンカチを術者のかけた魔法を維持したまま上書きせずに保存できる魔法とか知らないかな!?報酬は私が匿うって事で!」

 

 怪しいだとかそんなこと言ってられる暇が無いくらいに私はハンカチを保存したかったのだ。察しろ。

 

「……なぜ、俺様がここにいると分かった」

 

 何も無い空間から聞こえて来た大人の声に私は思わずニヤリと笑った。

 

「フッフッフッ、初歩的な事だよホームズ君」

「初歩的な事で間違えているがそこはワトソンだろう。後、そんなセリフ存在しない」

「あれ?」

 

 帰って来た言葉におかしいな、と思いながらも理性的な言葉で一安心する。

 

「ともかく答えよう!正解はその透明マントを見なれているからさっ!いや、本物は流石に一部の条件下を除いて無理なんだけど、流石に製作者側の生産者としたらわかるよォー!」

 

 ハロウィンで本物の透明マントを見ることが出来て本当に良かったよ。この夏休みは透明マントを作ってみようと思っていた所だからね!後水中生物の対処も学べるらしい!くぅー!たのしみ!

 

 1人ニマニマしていると透明マントを被って見えない状態のお兄さんは怪しげに笑い始めた。

 

 

「答えてくれた代わりに俺様も答えよう。先程提案した維持魔法は、出来る」

「うわぁーーいっ!やったァ!」

「ただでする程善人でも無い、匿うことが条件だ」

「是非も無いよね!」

 

 いそいそとスーツケースを広げる。小屋の中に何も居ないことを確認したら私は透明なお兄さんに向かって指示を出した。

 

「さっこーい!」

「…………は?」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 スーツケースの中に入っても姿が見えない。

 ピリピリと警戒した魔法生物の様な気配が背筋を撫でる。あぁ、私がスーツケースの中に降りた時、背後を取れる場所に隠れていたのか。

 

「貴様は…──」

「とりあえずこのハンカチ!」

 

 ビニールで汚れが着かない様に保護したハンカチを差し出した。

 

「あっ、ひょっとしなくても警戒してるよね!どうしようとりあえず私の杖預かって!」

 

 杖はあってもなくても無駄に変わらないのでハンカチと一緒に差し出すと、透明マントから手が伸びてきてふたつを奪った。マントの微かな光から魔法を使ったのかと確信する。そしてホイ、と雑に投げ捨てられたハンカチは死ぬ気で地面に着く前に守った。

 

「何するの!?宝物なんですけど!?」

「知るか」

 

 はぁー、と深い溜め息が聞こえてくる。

 

「ここはトランクの中を拡張魔法で広げた場所か。ふむ、扉の先に魔法生物の反応があるのは見た。なるほど、では、トランクはどこに置いた?」

「わぁ!お兄さんさてはかなり把握能力高いな!多分知ってると思うけど、ボージン・アンド・バークスの一室。こういう緊急時にはスーツケースを置くスペースとして借りてるんだよね」

「無用心な。目くらましの術くらいかけぬか」

 

 透明なお兄さんはスーツケースに魔法をかけた。そして透明マントを脱いだ。

 

「なぜ俺様を匿う、という思考に至った」

「えっ、だって目くらましじゃなくて透明マント使ってたから」

 

 杖を向けられているが気にせず棚を漁る。

 おっ、あったあったちょっといいとこの紅茶。冷やしても美味しいから夏場は重宝している。去年ジェームズに貰ったやつ。

 

「お兄さんとりあえず座れば?ピリピリしてても疲れるだけだよ?」

「なぜ警戒しない」

「別に私の天使に牙を向いたわけじゃないし。それにハンカチに維持魔法付けてくれた恩人だからね」

 

 熱い紅茶にこの前作り出した魔法薬を1滴垂らすと紅茶は冷たくなる。ガラスのコップに注いで完成だ。

 

「よいしょ、イギリス式じゃなくてごめんね」

 

 備え付けの机に冷蔵庫から取り出したサンドイッチと先程作った紅茶を置く。氷入りの紅茶は慣れないだろうから普通に冷たくしただけにしたんだけど受け付けられるかな。

 

 お兄さんは仰天しました、という顔をして私を眺めている。

 

「お互いを知ることから始めよう!どうせお腹空いてるんじゃないの?」

「まぁ、そうだが」

「毒殺とか警戒する?一応私も同じ食事を摂ろうと思って大皿出しで手掴みのサンドイッチと同じ形のコップで同じように作った紅茶なんだけど」

「……ふ、はは、なるほど面白い。俺様の姿を見て怯える所かもてなすとはな。貴様純血の出か?」

「いや全く。純血のお友達は結構いるけど……あれ?友達だよね?えっ、もしかしてスリザリンの人とかお友達って思ってない?信じてるよ?新学期始まったら問い詰めよう、うん」

 

 私はお兄さんに手を出した。

 中々ファンシーな出で立ちをしているがとりあえずルシーとシシー合作の宝物を守ってくれてありがとう。

 

「エミリー・コワルスキー!ホグワーツ2年生!ご覧の通り魔法生物のスペシャリスト候補です!」

「……はー、マグル生まれか。それにしては中々な施設を持っているな」

「いやいや、親戚の伯父さんが殆ど作ってくれた。えーっと、多分知ってるだろうけどニュート・スキャマンダーって人」

 

「言葉の節々から察するに、貴様は半純血でアメリカ出身でスキャマンダーの姪、そしてポッターと親しい仲でスリザリン以外の寮生でマルフォイと付き合いがあるということか」

 

 私の手をガン無視したお兄さんは顎に手を置いて少し考えた後、そう発言してドヤ顔した。

 びっくりして目を見開く。

 

 

「……凄すぎて冷静になった」

「なんだそれは」

 

 訝しげな表情でお兄さんは席についた。

 

「俺様の名はヴォル……」

「ん?」

 

 名前を言いかけて口を噤んだヴォルなんとか。しばらく考えてまぁいいかと思ったのだろう。仕方ないという表情で続きを口に出した。

 

「ヴォルティーグだ」

「おぉ、羽毛の生えた蛇様に擬態する神様と同じ名前だ。名前呼ぶ度に心のどこかが削れそう。うん、ヴォルちゃんでいいよね!」

 

 無言は肯定!無言は肯定!

 蛇神イグ様の子と同じ名前を呼べるわけが無いよね!

 

 ……嘘ですヴォルで止まったから名前のイメージが強過ぎるだけです。

 

「それでヴォルちゃん。私が匿うって思った理由だっけ?」

「いや、大体分かった。あのニュート・スキャマンダーの親戚だと言うなら予想は出来る」

「……マジかよ」

 

 名前に関してはガン無視か。そう思いながら発言する。あれか?名前に執着無いタイプ?

 

 席について紅茶で喉を潤す。

 はー、冷たい紅茶って夏に向いてるよね。

 

「目くらましは移動事に魔力を食う。魔法生物を扱う者なら知っていて当然だ」

「使えた事は全くないけどね」

「その代用として透明マントを使った。しかも旅行マントに目くらましをかける物ではなくデミガイズを使用したタイプの物。長期間の目くらましに向いている、というわけだ」

 

 長期間目くらましが必要という事は何者から隠れている可能性が高いということ。

 ヴォルちゃんは面白そうに笑っている。

 

「よくぞそこまで観察してみせた。一瞬の判断力が優れている」

「OK、ヴォルちゃん。キミがまだ小屋の外を見ていない事は分かった。チラッと覗いただけだね?」

 

 咄嗟の判断だとか、状況の観察だとか、魔法生物を相手に過ごすんだったら心から大事になってくると思っている。普段と違う様子、体調、状況から判断するし、その判断だって迷っていたら手遅れになる可能性がある。

 

 それが魔法省分類レベル3以上だ。

 

「まぁいいや、とりあえず食べよう」

「……そうだな」

 

 父さんのパンに私が作ったおかずを挟んだ物だ。強請られたので作ったホグワーツ特急での残りだけど。

 適当に取って食べる。うん、いつもと変わらない味。

 

「……美味いな」

「美味いでしょ。皆絶賛してくれる」

「うん、美味いが、少し足りないな。なんの味だ……。そうか、深みだ」

 

 初めてだ。

 初めて、私の料理を褒めるだけで終わらせなかった人。

 

「ヴォルちゃんって凄いんだねェ」

「フハハハ!称えるがいい!」

「ねェヴォルちゃん、私いつまで匿えばいい?夏休み?」

 

 大笑いし始めたヴォルちゃんに私は首を傾げて聞いた。

 何を言っているんだコイツ的な視線が私に突き刺さってくる。え、何、おかしい事言った?短かった?

 

「何を企んでいる」

「魔法生物のお世話と料理の味見♡」

 

 優秀な魔法技術と的確な舌を持っているのなら使わない手は無い!匿うので手伝ってください!それに魔法薬の研究の手助けになってくれるかも!私には先を生きた大人の知恵と知識と発想が地味に必要です!

 

「貴様……」

 

 はぁーーー、と深すぎるため息を吐くヴォルちゃん。

 

「夏休み中。夏休みだけでいい」

「やったァ!私の料理スキルが上がっていく!」

「俺様好みの味付けになるだけでは無いのか……?貴様本当に魔女か?俺様を追う奴らが……」

「まぁまぁまぁまぁ!」

 

 助手という立場でいいのでは無いかな!うんうん!

 それに腕のいい魔法使いみたいだから、私のド下手実技をなんとか出来るかもしれない!

 

「俺様が怖くないのか」

「ヴォルちゃんの事よく知らないし、私は会話出来る者の区切りって大体『好みの人』と『それ以外』だからなぁ」

 

 ここで初めてヴォルちゃんの頬が引き攣った。

 

「好みか、関係ないな」

「あ、そうだルシウス・マルフォイって知ってる!?大概の立場の人間は知ってると思うんだけどもうほんとに美しくてさ!全ての所作が輝いて見えるの本当魔法だと思う!多分闇の帝王が私に呪いをかけているんだと思うよ!なんかの凄い魔法!」

「酷い冤罪だ」

 

 引き気味の表情でこちらを見てくる。

 じゃあ多分闇の帝王の仕業じゃないならゲラート・グリンデルバルドだよ。そうだそうだ。

 

「ならば、それ以外はどう思っているのだ?」

 

 私は少し考えた。それ以外。よく知らないそれ以外だと、例えば目の前にいるヴォルちゃんだと……。

 

「……生きてるなぁ」

「大概の人間を大雑把に見すぎていないか貴様」

 

 私はにーーっこり笑った。

 

「今はキミに全く興味の無い私だけど、たまたま出会ったお兄さんを招く事は出来るから安心してよ」

「……『知らなかった』というわけか」

「そうそう!私は興味無いからキミの事は全く知らないの。例え闇の魔法使いだろうと凶悪犯罪者だろうと、知らないの。誰に居場所を教えればいいのだとか、そんなのも全く興味無いから知らない」

 

 捕まろうが死のうが興味無いけど、そもそもそうなるに至らないのがこのスーツケースの中に居ることだ。

 だから安心していいよ、と伝えるとヴォルちゃんは大笑いし始めた。

 

「フハハハハ!俺様に対してこうも口を聞けるとは笑わせてくれる!」

「遠回しな言い方苦手なんだけど楽しめたのなら良かったよ」

「だが1つ勘違いしていることがある」

 

 ヴォルちゃんはずい、と顔を近付けた。赤い瞳が私と緑の瞳を凝視する。

 

「イギリス人が好むのは遠回しな言い方ではなく皮肉めいた言い方だ、アメリカ人よ」

「マジで?」

 

 2年目にして認識を誤解していたみたいだ。セブルスが皮肉ばっかり言うのはそういうコミュニケーションだったんだねぇ。

 

 ……ジェームズ・ポッターのアメリカ人ッ!

 




赤い目をした例のあの人。ゲットだぜ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15.魔法の研究

 

 ゴリゴリと薬草を削る音。

 独特な臭いを放つ調合室でヴォルティーグことヴォルちゃんは研究中の薬の紙をピラピラ見ていた。

 

「……ふーん。理性を保った状態。これが第一目標か」

「それは最優先に仕上げたい薬。名前はまだない」

 

 左に2回、右に3回。いや、もう1回回そうか。

 

「次に作りたい薬は……ほう、目くらましの代用か」

「実はそれは結構出来てたりする。あとは改善の方を研究したいと思っているんだけど、いやぁ、改善って中々難しいよね」

 

 ほうほうと鳴きながら紙を捲る音を聞く。途中でそこは鍋を三周分回すといいと言われたので指示通りにしてみる。おぉ、生ける屍の水薬の色が桁違いに良くなった。やっぱり教科書通りにやることだけが全てじゃないね。

 

 空き瓶に薬品の名前と試作番号を書き込んで中に入れると一段落着いたことになる。

 

「エミリー・コワルスキー、腹が減った」

「はーい。私もお腹空いたし、丁度いいや。お昼にしようか!」

 

 奇妙な同居生活1週間目、実はこの1週間の間に日本に行っていたりする。なぜなら伯父さんが私のスーツケースの拡張作業をしてくれるということだったので、私もヴォルちゃんもスーツケースから離れなければならなかったからだ。

 じゃあもう仕方ねェ! って事でイギリスもテロやら何やらで騒がしいしアメリカも物騒だから日本旅行をしてきた。ヴォルちゃんの魔法様々だよ。削れた鼻とかは包帯やガーゼで骨折した設定にした。ちなみに、魔法界に居たら治せよとか言われるので、包帯を付けるに当たってマグル社会で過ごすことになったんだが。

 

 

「おい、醤油は使え」

「もちろんですとも!」

 

 

 ヴォルちゃんが日本食にハマった。

 ついでに言うと私もハマっている。

 

 

 というかマグルで常識かけ離れた非魔法族が過ごせるか、と言うと実は意外と過ごせるの。文化が全く違う国家だったからってのもあるだろうけど、ほんと曰本やばい。何がやばいってまず思想がやばい。

 

 驚き!日本は魔法族と非魔法族が共存してる!もちろん存在をほのめかす程度の共存なんだけど、()()()()()って言えるくらい魔法に嫌悪感無いの!

 いやほんと日本ってすげぇ。書店に魔法を題材とした物語とか沢山あるし、なんか異文化沢山取り入れてるし、鎖国国家って本当かと疑いたくなった。

 

 

 あ、ちなみに母さんには卒業生と一緒に行くって言っていたから特に嘘ついてないし流してくれていたから大丈夫だと思う。兄さんには拗ねられたけど。

 

「そうだヴォルちゃん、魔法薬学苦手って聞いたけど得意な学友はいるんだよね。紹介してよ」

「チョットダケヨ」

「アンタモ…──って、やったあ!」

「おい、最後までノるならノらんか!」

 

 購入した醤油(ヴォルちゃんの持ち運び用の袋で運んだ物)を水で薄めて牛肉をドーンと入れる。そこから火を通して砂糖を入れて。

 

「パンに入れる」

「味が濃すぎないか?」

「パンなどの食べ合わせはもう挑戦するしか無い。あのオコメって穀物はアメリカでも入手出来るけど高いからなぁ」

「……エミリー・コワルスキー。ギュードンの具はパンじゃなくてピザ生地に乗せたらどうだ?」

「ナイスアイディアっ!」

 

 父さん直伝、と言っても全然味を再現できないあまっちょろい生地だけど、ヴォルちゃんの時間を経過させるとかって魔法のお陰で短時間で作ることが出来た。本当は途中で火加減とか変える方がいいんだけど物質の変化という事で細かい調整は無理らしい。

 これが魔法の限界という事ね。

 

 醤油の焦げた香りが胃と唾液腺を同時に刺激する。原液はとても食べられる様なものじゃないのに工夫を凝らす事でこんなにも美味しい香りを放つのだから堪らない。この塩っぽい香りは日本独特の調味料だからこそだろう。

 

「……六等分か」

 

 ヴォルちゃんが杖を少し振るとピザカッター要らず。早速席について食べ始めた。

 

「美味しい」

「美味しい」

 

 うん、美味しい。やっぱりオコメで食べたかったけど、醤油凄い。中国に似た調味料があるけど、それとはまた違う甘みがある。こっちの方が好きだな。

 

「だがまだまだ本場には遠いな」

「再現頑張るから夏休み中付き合ってよ」

「いいだろう。俺様の時間を取るのだから必ず成し遂げよ半純血」

「半純血めっちゃ頑張る」

 

 人は共通の何かが通じ合うと仲良くなれるのだと分かった。私とヴォルちゃんなら食事ね。

 

「ヴォルちゃんって、料理もそうだし、なんだかんだ魔法薬もそうだけど、研究って好きだよね。なんだろう、私ヴォルちゃん見てると魔法生物を彷彿とさせるんだ」

「魔法生物はさておき、だ。俺様はそもそも魔法開発を中心に活動していた。もとより研究者としての性質が強い」

「へー!なら一緒だね!」

 

 私と一緒だと喜んでいるとヴォルちゃんは顔を歪めた。凄い嫌悪してる感じの顔だ。

 

「お前と一緒だと……?」

「えっ、なんで嫌そうなのよ」

 

「魔法生物が元になった材料に頬を当ててうっとりとする様な変態と一緒にされたくない」

 

 素材の質が全く悪くならない所が変態すぎて腹が立つ、と言いながらヴォルちゃんは喉を潤した。

 

 ……いや、ウチのオカミーに大興奮して凶暴性も忘れてすっ飛んでったてめぇに言われたくは無いな。

 

 私はこっそり言葉を飲み込んだ。

 

「そう言えばこのトランクの中はどれだけの充実具合いなのだ?」

 

 ふと思ったのかヴォルちゃんが聞く。恐らく小屋の中自体は調べ尽くしているであろうから、魔法生物の闊歩する外の方を中心に口頭で説明していく事にした。

 

()()()()()()の出入口であるここ、キッチン兼リビングみたいな空間から繋がるのは3つ。日本で手に入れた醤油とか味噌とか置く食材置き場、地下、そして外」

()()()()の地下は俺様が寝泊まりしている研究兼調合室と気候に合わせた素材の保管庫、それと完成した薬品置き場だったな」

「そうそう。それで多分1番聞きたいだろう外」

「流石に気軽に出歩けぬからな」

 

 ヴォルちゃんの言葉に頷く。それは凄く正しい判断。

 私はどうやら父さん似で魔法生物に好かれやすい体質らしいから苦労した経験は少ないんだけど、私のスーツケースにはそれなりに危険性が高い生物が居る。慢心して貰ったら気軽に命を落とせるよ。

 

「外は複数のバイオームに別れてるの。すぐそこは草原。そこから徐々に変化していくんだけど、小屋を出て右手側に向かうと寒くなって、左に向かうと暑くなる」

「区切りは?」

「緩やかに変化している所もあれば魔法が付与されているカーテンで思いっきり環境変化がある所もあるよ」

「ほう。空きスペースなどはあるのか」

「そりゃね、魔法生物が居ないスペースもある。例を出すなら、草原から真っ直ぐ行く道かな。日本に行ってる最中、伯父さんに追加してもらった川や海とかの水源地帯になるよ」

 

 早く見に行ってみたいなぁ、とワクワクしていると呆れた表情のヴォルちゃんがため息を吐いて呟いた。

 

「それほど広さがありながら魔法が使えんとは嘆かわしい」

「い、移動は魔法生物に頼ってるから!スウーピングエヴィルとか、ヒッポグリフとか!」

 

 1時間だけ臭いを消す魔法とかなんか複雑そうな魔法をかけてくれたから、ちょっと使ってみたんだけど、杖は枝としか作用してくれなかった。つまりいつも通り実技がスクイブ。

 この調子だと目くらましも姿くらましも無理だし、それどころか1年で習得すべき実技も壊滅しているから本当に実技自体使えないかもしれない。

 

「魔法先生」

「なんだその肥溜めに魔結晶を放り込んで火にかけた様な呼び名は」

「魔法先生、私の杖はおかしいのでしょうか」

「………………貸せ」

 

 私の無様さを知っている魔法先生は渋々私の杖を手にした。

 

「芯材と木材は」

「オカミーの鱗と、木は、興味なかったから覚えてない」

「ふむ、まぁいい」

 

 ヴォルちゃんは杖で軽く魔法を使おうとして眉を歪めた。

 忌々しげに私の杖を睨みつける。

 

「杖の分際で抵抗か……。余程他人に使われたくないらしい。よかろう、その抵抗いつまで持つか見ものだな」

「えっ、怖っ」

 

 杖先からバチバチと静電気の様に光が放たれる。その光に照らされたヴォルちゃんの赤い目がぶっちゃけ超ホラー。

 

「フハハハ……!その程度で抵抗か!笑わせてくれる!」

 

 ……危ない人みたい。

 正直ヴォルちゃんって精神が危ない人なんだろうって思っては居たんだけど、これで確信しそう。加虐趣味持ち合わせた俺こそが魔王とか素で言いそうな人。

 

「失礼な事を考えるな!」

「い゛っ!」

 

 静電気の鞭が私の頭を思いっきり打った。え、なにこれ痛いのに外傷が無い……。

 ん?痛いのに外傷がほとんど無い状態どっかで味わったな。

 

「あっ、呪文が完全にぶつからない状態の痛み!」

「よく分かったな。不完全な状態だが呪文としては発動出来た」

「そりゃ、1年の時に赤と緑の2種類の呪文必死に避けてたからね!赤いのはかすった!」

「えっ」

「え?」

「……緑の閃光を放つ呪文を掛けられそうになった事があるのか?」

「アブラカタブラみたいなやつなら」

 

 ヴォルちゃんはドン引きした表情で私を見下す。表情筋全然動いてないのに表情豊かだな。その顔面絶対赤ん坊なら泣くよ。

 

「だから失礼な事を考えるな」

 

 今度は魔法ではなく手で頭を叩かれる。

 ヴォルちゃんは手加減を知らないんですか全く。というか心を読まないで欲しい。自我のある頃から母さんと兄さんがよく読んでくるからだいぶ慣れてるけど、やっぱりビックリして……ビックリ。

 

 え?ビックリ?

 

 

 

「……ヴォルちゃんはゴールドスタイン家だった?」

「阿呆な事を抜かすなこのたわけが!」

 

 投げ捨てられた杖を椅子から転げ落ちながらもキャッチする。心を読むのは母親の血筋だと思ってたけど、魔法だったのか。

 えっ、じゃあなんで兄さん魔法使えないはずなのに使えるんだ? 世界の神秘がよく分かんない!

 

「とりあえずその杖は使えない所かかなり忠誠心が強い。お前以外ではろくに扱えないだろう。俺様に反抗する程度には力がある杖だ。それに魔力を帯びた物が早々主人の意思に反する事は無いのだが」

「……つまり?」

「──お前が問題」

 

 思わず頭を抱えた。

 

 そうか、私以外は扱えないほど忠誠心が強い杖だから使えないのは私が原因ってことか。

 

「忠誠心あるなら私の望む魔法を使わせて!!」

「切実だな」

 

 

 私の不甲斐なさにか、分からないけどヴォルちゃんは呆れた視線を寄せてくる。

 うっ、うっ、と泣きながら杖を見て、流石に項垂れた。魔法界の道具全般と相性が悪すぎる。オーブンなら手足のように扱えるというのにさ!

 

 箒にも杖にも嫌われるこんな魔法界なんてポイズンッ!

 

「嘆く暇があるなら魔法薬でも研究しろ。姿くらましは煙突飛行粉(ブルーパウダー)に、開心術は真実薬(ベリタセラム)に、忘却呪文は忘れ薬で代用できる。お前の欠点は得意分野でカバー出来る。出来ないことを嘆くより出来ることで人より優位に立て」

「でも、成績とか……」

「ハッ! そんなものドブにでも捨てておけ! 全て平均の人間より秀でた分野のある人間の方が使える。平凡など無意味だ」

 

 私は彼が人の上に立つ人間なのだと分かった。これはついて行きたい。

 救いを求める様に見上げるとヴォルちゃんはニヤリと笑った。

 

「求めよ、お前が本当に欲しいものを」

「欲しい物?」

「左様。特別が欲しくないか。秀でる分野の無い平凡で無益な存在で過ごす人生、しかしそれ以上の才能を持ち合わせた時の名声!求めるものも、力も、何もかもを自由に出来る!」

 

 魔法を使えなくたっていい。私は私の得意分野を。

 ヴォルちゃんなら私の長所を伸ばしてくれる。

 

 きっと彼について行けば……──

 

「──じゃないね! 誰が望んで可愛く美しくも無い人間の元に下るか! ヴォルちゃんもしかして洗脳仕掛けていたのかな!?」

「チィイィッ!」

「舌打ちが大きい!」

 

 あまりにも大きな舌打ちに戦慄する。この人のカリスマ性怖い。悪属性付与されてる気分。

 どっと疲れたのでふぅーっと深く息を吐いて呼吸を落ち着かせる。

 

「多分ヴォルちゃん純血主義でしょ。なのになんで私は殺されないんだろうって思ってたよ」

「あァ、正直お前が俺様をここに招いた時殺してしまおうかとは思っていた」

「よかった、私1週間生き延びてる」

 

 今度は安堵の息を吐く。地球の二酸化炭素濃度は上がりっぱなしだ。

 

「使える者は消耗するまで使いこなす質でな」

「だろうね。さては学生時代いい顔して寄ってきた人間を人心掌握で部下にしてきたな?」

「言い方」

「変わらないでしょうに。それで、私はどこがキミの琴線に触れた?」

 

 分かりきった所だろうけど聞いてみる。

 スーツケースに入り、私が小屋に降りてくる(をころそうとしたとき)までの間に起こったことなんて凄く限られている。

 

「まずは外の魔法生物だな。その年で操れるとは中々な才能。後ほど知ったがニュート・スキャマンダーの姪であれば有り得る」

「まぁ自信を持って誇れる分野だしね……って、()()()?他にもあるの?」

「もう1つはこれだな」

 

 魔法生物以外に何か目を引くものがあっただろうかと首を傾げているとヴォルちゃんが取り出したのはフンフンと興味深げに読み込んでいた研究羊皮紙だった。

 

「お前の研究は、俺様の望む結果だ」

「それ第1目標のやつだよね?」

「あァ。これがお前を殺さない俺様の利益だ」

 

 魔法薬研究、最優先目標──

 

「──理性を保った人狼化。ふむ、そうだな。少々言葉になるがお前は今のところ光側だ、ひとまずこれを『脱狼薬』と言っておこうか」

 

 私が半純血でも殺されない理由は、どうやら思っていたより私に利益もあるらしい。




研究者としての血筋が騒ぐぜー!ってやつね。
そう上手く人心掌握出来ないのが主人公。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16.選択授業

 9月だと思ってロンドンを舐めてはいけない。ニューヨークと違ってめちゃくちゃ寒いのだ。たかが9月だとしても。

 

 そんな9月の寒い無人トイレ。

 セブルスは私の研究羊皮紙を眺めながら半分キレていた。

 

「なんだこの研究。頭がおかしい」

「だよね。分かる。その方法思い付いた本人さ、魔法薬学は苦手なんだって。ただの手段でしか無いとか言ってた」

「どっかの馬鹿と同じような事言ってるんだな」

「そんな馬鹿がヴォルちゃん以外に居るの?」

「あァ居るな、目の前に」

 

 羊皮紙から目を離さないのでその馬鹿は紙ということになるんですがそれは。

 

 

 

 去年は、卒業を迎えたレイブンクローのダモクレス・ベルビィが同じ分野で研究をしていたので、スラグ・クラブにて交流を取り出してから研究を進めていた。のだが、ユニコーンの素材を使うのか否かなどの話で行き詰まっていた。つまりはほぼ構想段階。

 しかし私は夏休みに手に入れたヴォルティーグという強力な協力のお陰でその問題が解決したのだ。

 

「盲点だったよ。狼化の生物にとって最も害悪であるトリカブトを使うなんて」

「……毒を持って毒を制す、という事か。でもこれは、尚更服用実験なんて出来ないぞ」

「うん、だからひたすら理論と効果を、あと副作用も計算するしかない」

「でもこれで主成分の方向性が1パターン埋まった。僕も複数のパターンを調べてきたけど、現実的な物はこのトリカブトを使用する薬だ」

 

 そして、と私は数枚紙を取り出してセブルスに渡す。少し視線を寄越しただけで重要な資料だと分かったセブルスはぎょっとした表情で私を見た。

 

「お前、この夏休み本当に誰と組んだんだ」

「知らない!」

 

 その内の1枚はトリカブトの種類だ。トリカブトと言えど、生産地や栽培方法に色々ある。そもそもトリカブト属は変種含めて約50。

 その紙に書かれてあるのは種類と入手難易度、相場に生産地だ。毒性などの成分はこれから1つずつ研究していかなければならない。

 

 そしてもう1枚は狼人間の名前リスト。

 これについてはヴォルちゃんが記憶を探りながら書いていたので彼の記憶任せ。ただ、「……これは利用価値があるから違うな」とかブツブツ呟いていたので、リストに乗った狼人間は多分ヴォルちゃんにとってどうでもいい存在なのだろう。頭かち割りたくなった。なんだその記憶力。

 

 それとついでに情報を渡すとしたら、狼化した生物を頼めば送ってくれるらしい。ネズミとかそこらならゴロゴロ作れるとか言っていたので間違いなく狼人間に伝があると分かった。

 

「……くっ、どう考えても危険な伝としか思えないのに、あまりにも便利すぎる!」

「だよねェ」

「だーよねー! ピーブズもそう思うー!」

 

 研究者は時としてリスクやデメリットすら見て見ぬふりをできるのだ。

 

「……ってピーブズ、いつ来たの?」

「結構前。さっきまでマートルを虐めてたよ!」

「あァ、道理でシクシクと声が続いてるわけか。程々にしておけよ、水ぶっかけられて困るのは僕らで、巡り巡ってピーブズになるんだからな」

「やっだァ、じゃあメソメソマートルってこの場の覇者じゃん。ピーブズ、そういうのどうかと思う」

 

 自然と会話に加わってきたピーブズ。気分によっていじられたりいじられないと見せかけていじられたりするマートルがあまりにも不憫なので程々にしてあげてと言いながら話に加える。どうせハロウィン終わるまでベッタリなんだろうから話題を逸らす意味が全く無い。

 ピーブズって大人じゃないけど子供でもないよなぁ。

 

「何さエミリー。そんなにピーブズに熱い視線を送ってもイタズラは辞めてあげないよ」

「あ、うん、まさか新一年生の組み分けでグリフィンドール席から吹き飛ぶとは思ってなかったんだけどまぁ面白かったから気にしてないよ」

「えっ、そこは気にして欲しいな」

 

 3年になってすぐ、本当に初日なのにピーブズはポルターガイストで私をグリフィンドール席からスリザリン席まで吹き飛ばした。あちゃー、といった表情をしていたのでテンション上がりすぎて威力を間違えたんだろうけど物じゃなくて人を浮かすんだったらもうちょっと威力考えて欲しかったな。

 ちなみにセブルスが魔法で確保してくれた。助かった。あのまま行くと壁に衝突して医務室送りだったかもしれない。

 

 セブルスが研究の経過を頭に叩き込んでいる最中なのでピーブズとおしゃべりとする。ふわふわ浮かぶピーブズを目で追うのは結構疲れるのだ、じっとしていてくれないかな。

 

「キミ達はピーブズのお気に入りだからね、学校辞めないでよ?」

「天使がいるのに辞める理由があると思って?」

「……だってほら、エミリーが入学した位の年に闇の勢力が増大したから、やっぱり海外行く、って生徒多くてさ」

「アーガス・フィルチがボヤいてた?」

「ボヤいてた!」

 

 情報通のピーブズはホグワーツに詳しい。ホグワーツ城というかホグワーツに通う人間についてとっても詳しいので正直知りたくない事まで耳に入ってしまう。例えばフィルチがスクイブだとか。

 

「ハッフルパフのノア・アグリッパ、レイブンクローのテュルク・ラードナーとか半純血勢が今年に入って姿を見せないけどもしかして辞めてるの?」

「まだ今年度始まって1日しか経ってないのによく分かるね……。うん、辞めてるよ。純血は地位が高いから比較的安全だし、マグルっ子は親が魔法界に詳しく無いから辞めないけど、片親が魔法界に詳しくて地位も低いって言うんなら他国に移動した方が安全でしょ」

「へー。半純血勢の私、全く危機感無いや」

「アメリカからわざわざ来てる奴なんてエミリーくらいの馬鹿じゃないといないんだからねー」

「運命だよ」

 

 私はホグワーツに住まう天使のために生きてきた。これは最早天が遣わした運命。

 神様、あなたの天使を私にください。

 

「微妙に噛み合ってない会話をよく永遠と続けられるな」

 

 ポスッと頭を羊皮紙で叩かれたのでデレッと笑う。セブルスは本当に可愛いなぁ! 最近成長期に入ったのか視線が同じでとっても嬉しいね。これじゃ抜かされちゃうかな〜!

 

「とりあえずお前の夏休み研究は頭に入れた。出来れば今年度の間に効果を確認したいな」

「とっかかりが掴めたんだ。きっと出来るよ」

「……うん。絶対作るぞ」

 

 狼化。

 二次感染は狼人間による噛み傷から。一次感染経路は未だに不明で、レアケースだが魔法生物にも感染する、という事案が確認されている。

 狼化した魔法生物は危険性も高くてすぐさま殺処分という形を取っている。本当にレアケース。

 

 次期魔法生物学者として、本来ならもっと優先すべき魔法薬の研究はあるかもしれない。でもエミリー・コワルスキーは何よりも優先しなければならないのが狼人間の理性を保つ研究なのだ。

 

 

 脱狼薬と仮に名付けられた薬。

 

 

「魔法省分類XXXXX、狼人間。全く、厄介な()()と友人になったもんだ」

「私セブルスのそういうとこ本当に大好き」

「……馬鹿言ってないでさっさと戻るぞ、Mr.ベルビィにもフクロウを送らなきゃならないんだ」

「はーい」

 

 今年はまだ始まったばかりだ。

 セブルスは私に屈託のない笑顔で言った。

 

 

「──今年もよろしく、相棒殿」

 

 

 目覚めたら医務室だったけど理由は言うまでもないだろう。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「私の時代が来た!」

 

 心臓がこれでもかと波打って私に興奮を伝える。ゾクゾクと躍り始める胸に自然と笑みが零れた。

 火山が噴火する様に、爆発する様に、心臓のポンプは勢いよく体に血液を巡らせる。

 

 鼻息荒くした私の首根っこを掴んだのはシリウスだった。

 

「スリザリーン、こいつを解放しても大丈夫か?」

「覚悟は出来た!」

「よしきた!」

「この授業に関しては死ぬ覚悟だグリフィンドール!」

 

「……、なんかスリザリンが可哀想になってきた」

 

 私を見下ろしたジェームズが有り金を溶かしたような顔でポツリと呟く。この馬鹿に同情を向けられるとかスリザリンは一体何をしたの?

 

 

 

「さァ、グリフィンドールとスリザリン! 初めての魔法生物飼育学の授業へようこそ! わしは言わずと知れたケトルバーン先生じゃ!」

 

 元気よく挨拶をしたのはシルバヌス・ケトルバーン先生。そう、3年からは選択授業が解禁されて魔法生物飼育学が選択できるようになったのだ!万歳!

 

「さて、まずは魔法生物の分類についての話から始めよう。魔法省分類について分かる者は手を上げてアピールしてくれ!」

 

 視線は自然と私に集まる。

 長期休み毎に同学年の居残り組は泊まり込んで居たんだから分かるんじゃないかな、と思ってスリザリンの可哀想なノットを見てみたけど頭抱えてた。エイブリーとマルシベール、キミらは視線を逸らさないでくれ。

 

 ケトルバーン先生と目を合わせてノットを指さした。

 

「よし! Mr.スタンレー・ノット! 答えてくれるかな?」

「なんで!? なんで俺!? エキスパートならそこにいますよね!?」

「正直Ms.コワルスキーだと教えられるか不安だから」

「超分かる自分が居る!」

 

 嫌ァ!と汚らしく耳障りな声を叫びながらノットは首を横に振った。相変わらず叫び芸をしてくれる。あの子、在学中に彼女出来るのかな。嫁貰いそびれたら嫁いであげようかな、貴族だし自由に出来る時間が増えそう。

 ……グリフィンドールの生徒から同情の視線がノットに向けられているのがなんだか不服だけど。

 

「……魔法省分類とは、生物の危険度を示すもので、基本的にXの数が多い程危険なはずなんです。俺の貴族としての常識はそれが正しいと訴えてくれるんです、そうだった筈です」

 

 えぐえぐと顔を覆って泣きながらノットは答えた。

 うーん、マンティコアとワンプスキャットはXXXXXだから、魔法生物飼育学を取るノットの為にも慣れるように傍に呼んでたんだけどなぁ。

 

 確か就職必須科目に魔法生物飼育学が入っていたってボヤいてたから親切心で。

 

「ではMs.コワルスキー!行けるね!答えなさい!」

「はーい!」

 

 常にテンション振り切れてるケトルバーン先生に釣られてか自然とテンションが上がる。エミリー、めちゃくちゃ元気にお返事出来るよ。

 

「魔法省分類、それは魔法省の魔法生物規制管理による『動物』『存在』『霊魂』それぞれの危険度を5段階に分けて分類されているものです! X:つまらない、XX:無害、XXX:有能な魔法使いのみ対処すべき、XXXX:専門知識を必要とする危険、XXXXX:魔法使い殺しで訓練することも飼い慣らすことも不可能。大まかに言うとこのような所ですね!」

 

 周囲はドン引きした表情で私を見ている。何か間違っていたかな?教科書が変わったとか?専門知識とかってわけじゃないしなんなら1年生でも知っている事だから皆知っているよね?

 

 首を傾げながらシリウスを見ると目も当てられないと言わんばかりに手で目を塞いでいた。

 

「ミリー、僕らに謝って」

「質問に答えただけで謝罪を要求されるとは思ってもみなかったよジェームズ」

 

 眼鏡のポッター君は私の肩に手を置いて静かに首を横に振った。

 

「なぜ皆が固まっているのですかね、Ms.コワルスキー」

「私もよく分からないです」

「……?」

 

 先生と一緒に首を捻りあう。

 場の空気は一体感に包まれていた。

 

「では本題に行こう!今回は一番最初という事でこの子を用意させてもらったよ!」

 

 森番をしている魔法生物飼育学の助手であるハグリッドが連れてきてくれた魔法生物に私は目を輝かせた。

 

「お、ジェームズとシリウスじゃねぇか。禁じられた森にはもう入るんじゃねェぞ!」

「ふふふ、ハグリッドにそんなこと言われても止まる僕らじゃないんだよ!だってほら!悪戯仕掛け人だし!」

「セブルス、お前さんが頑張って止めてくれな」

「……なんで僕」

 

 肩を叩かれて不服そうに呟いたセブルスの可愛い声と姿はきちんととらえた。

 

「さて、Ms.コワルスキー、この魔法生物の名前を……どうやら知っているようじゃな!」

「もちろんですとも先生!初日にこの子を持ってくるそのセンスに痺れるし憧れますね!」

 

 伯父さんは昔一緒に居た経験があるらしいが私は初見も初見。でもこの堂々とした出で立ち、わからないわけが無い!

 

「ヒッポグリフ……に似てるけど。違うな」

 

 長期休暇は絶対家に帰る派、マルシベールが唸ったけれど見慣れてないと確かに迷う要素はあるかもしれない。頭とか特にそっくりだし。

 でも長期休暇はホグワーツに居残り組は多少なりとも同じ空間に居た経験を持っているので迷う事は無い模様。

 

「──サンダーバード!」

「先生エイブリーが気絶したので俺が医務室連れて行ってもいいですかッ!切実にッ!」

 

 心がときめく!まさかお目にかかることが出来るだなんて!

 

「そう、このサンダーバード。触れるのは大変危険じゃ。決して近寄らない様に。では、Ms.コワルスキー、どれほど説明出来るかな?」

 

 試すような目付きで先生は私を見る。

 フッフッフッ、舐めないで頂きたいねェ!

 

「あ、その前に『困った時のMs.エバンズ』に聞いておこう!」

 

 思わずずっこけた。

 先生、先生、このタイミングは流石に無い。

 

 先生達の中で授業の質問で困った時にはとりあえずリリーに当てておけって風習はピーブズ情報で知っているけど、このタイミングはあまりにも酷いです。

 

 まぁリリーの麗らかで艶やかな天使の声が聞けるってだけで私は幸福だけどね!!

 

「えーっと……。サンダーバードは魔法省分類XXXXに分類される動物で、飛翔時に嵐を生み出す事が出来ます。アメリカの乾燥地帯に生息する、不死鳥にも近い種族です」

「アッハーー!よろしい!予想外の万能さにわしは大変嬉しい気持ちでいっぱいじゃ」

「そりゃ!私の!天使ですから!」

「エミリーが私より喜ぶのはもう慣れたけど、恥ずかしいからやめてよもう」

 

 頬をその髪色と同じように赤く染め、手で口を覆い隠すリリー。ギュン、と心臓がおかしい音を立てたけどこれはおかしい訳じゃなく正常な反応でむしろ常識。

 え……かわ……しんど……。

 

 ちらりと見たらジェームズとセブルスが被弾してた。分かる。心臓苦しいよね。

 

「エバンズ、3人を再起不能に追い込むのやめろ」

「あらブラック、私そんなつもりは微塵もないんだけど」

「……んな晴れやかな笑顔で言われてもな」

 

 確信犯め、とかシリウスがぶつくさ言いながらジェームズを殴る。再起動したジェームズはリリーに向かって口説き始めた。……最近あしらうの上手くなって来たよね。乱雑な扱いをしてもらえるジェームズが地味に羨ましい。

 

「あー、皆さん魔法生物を前にして他の事で盛り上がるのは止めるんじゃ。危機感が少なくすぎるぞ。サンダーバードはLv4、その油断は今すぐ捨てるんじゃ」

 

 真面目な声色のケトルバーン先生の言葉に皆が動きを止める。

 確かに油断をしていた。いくら先生が居ようと伯父さんが経験があろうと私はサンダーバードと対峙した事無いのだから。

 

 気を引き締め直してサンダーバードを見つめる。

 

「さてさて、ではサンダーバードの特徴と危険性から先に話しておこう!サンダーバードはアメリカ合衆国のアリゾナ州などの乾燥地帯に暮らす生物で、何より注意すべきは爪じゃ。獲物を捕える姿は大変美しいが、それが我らの様な非力な人間に向けられると並大抵の魔法使いは簡単に餌になることを覚えておくように!」

 

 サンダーバードと目があってクルル、と鳴かれる。おお、人に慣れてる子なのか。

 

「特徴的な翼はとても強力じゃが、まず人間に向けられる事は無いと思って良い。何故ならその爪だけで十分すぎるほど脅威になるから…──止まれサンダーバード、止まるんじゃ。生徒に近付くな!全員背を向けずに距離を取れ!」

 

 サンダーバードの闊歩にケトルバーン先生が指示を出す。目を合わせたまま数歩後ろに下がった。

 グリフィンドールもスリザリンも皆私の後ろへと避難する。……私は肉壁か。まぁ可愛い子が多い学年ですから喜んで肉壁にでもなるけどさ。

 

 いつもの面子に魔法生物飼育学を選択してないピーターとリーマスが居ないけど。

 

「クルル……ッ」

 

 顔を私に近付けて鼻をスンと鳴らしたはいいがサンダーバードの警戒心が取れない。むしろ警戒心が強くなっている気がする。

 

「コワルスキーお前何した!」

「まだ何もしてな!……あっ」

「心当たりがあるんじゃねーかよ馬鹿!」

 

 ノットの叫びに今朝した行動を思い出す。

 

 しまった、赤の他人の子と触れ合う機会なんてそうそうないから油断してたけど、朝はワンプスキャット(XXXXX)のワンプと触れ合った。

 ……多種の匂いどころか、自分より危険な生物の匂いが生徒からするんだ。危険視するに決まっている。

 

「あー、大丈夫、ワンプは私の子だから大丈夫。敵じゃ無いよ、生徒を守ろうとしてくれてありがとう」

 

 両手を広げてニッコリ笑うとサンダーバードは警戒をそのままにスンスンと匂いを嗅ぎ続ける。私は大丈夫と声をかけ続ける。

 

 この子凄い天使。可愛いがすぎる。

 

 手を差し出すと羽毛を雷の様に黄と青の色に染め上げてそっと触れてくれた。

 

「ケトルバーン先生この子すごくいい子!」

「指示も全く無しに警戒心を完璧に解いたキミは授業で先陣切って魔法生物に触れることを禁止します」

「なんで!?ほーら、サンダーバード君とこんなに心を通わせることが出来ますよー!?」

 

 もふぅ!と天使の羽の様な体毛に体を埋めて仲良しアピールをするも、ケトルバーン先生は首を横に振るだけだった。

 

「皆さん、Ms.コワルスキーは例外中の例外じゃ、この対応だけはしてはいかんぞ」

「「「はい、ケトルバーン先生!」」」

 

 声と心を揃えた同級生に私は頬を膨らませた。




ケトルバーン先生って死ぬほど口調が掴めてないんだ。

魔法使い殺しを手なずけている主人公に言われてもお前が言うなという反応しか出来ない周囲。いい加減にして欲しい。(心の声代理)

野生の豚っているのかな。裏庭で草食べている豚を目撃した恋音です。人間は驚くと思考が停止するけど体は何事も無かったかのように動くから思考と肉体に一瞬ラグが発生するって知った。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17.満月の夜

 

 

 私とセブルスは魔法薬の研究により一層力を入れていた。何よりも早く脱狼薬を仕上げたかった。

 折角軌道に乗り始めた脱狼薬。Mr.ベルビィにも報告すれば絶賛されたのでトリカブトを使用した方法で進めていく事になった。

 

「ミリー、スネイプ、今夜いいか?」

「また抜け出すの? リーマスが居ないんだから大人しくしてた方がいいんじゃない?」

「なぁ、僕夜は課題で忙しいんだけど」

 

 本日の全ての日程が終了し、教室に残ってあーだこーだと理論を考えていたらジェームズが声をかけてきた。

 これから実験するけども、夜はお互い課題や世話で時間が潰れる。セブルスも難色を示していたが、友達の誘いともあって強く拒否は出来ない。

 

 まぁセブルスもジェームズもお互いが苦手な部類だから余計にだろうけど。

 

「銅像の裏から抜け出して来てよ、暴れ柳の傍で待ってるから」

「いいけど……今度は何をするつもりなの? ハロウィンは共闘無しだよ?」

「分かってるって! それとスネイプはついでだからな、仲間外れにするのもどうかと思って誘ってるだけだから!」

「はいはい」

 

 ハロウィンは1年2年と負け越しなので今年こそは素晴らしいイタズラを仕掛けたい。周囲に評価を聞くのが1番公平だろうけど、本当に2年間ははっきりと負けだと分かるので悔しくてたまらない。

 

 まぁ1年の耳生やしクッキーはジェームズとシリウスの最強コンビも負けとか言ってるので引き分けでいいかもしれないけど、セブルスが譲らないのでね。

 

「……素直になれないお年頃なのかな」

「かもなぁ」

 

 ずんずんと去っていったライバルを素直に誘えない男ジェームズの背中を見ながら2人で言葉を交わした。さて、脱狼薬の続きとしますか。

 移動が勿体ないのでスーツケースじゃなくてマートルのトイレで。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 夜中はよく寮から抜け出すので扉の婦人に小言を漏らされながらも問題なく外へと向かう。同室のリリーに見つかってしまったので彼女も着いてきたけど、途中出会ったゴーストの方達に挨拶をして暴れ柳の元へと向かった。

 

「セブ」

「えっ、リリー? なんでいるの?」

「ごめんセブルス、見つかっちゃった」

 

 仲間外れ禁止、とばかりに腕を組んだリリーに私が勝てる可能性が1パーセントでもいいからあると思うかい?答えは考えるまでもなく無い、だ。

 

 その気持ちが伝わったのかセブルスは腕を組んで誇らしげに頷いている。心の声を代弁するなら『だって僕のリリーだからな!』という感じ。リリー大好き星人め、私のオープンな愛に感化されて段々オープンになってきたな。

 キミ達の幼少期の話は幸せな気持ちになるのでもっと積極的に話してくれていいんだよ。

 

 例えばワルツの真似っ子遊びしてて男女パートがどう考えても逆だったこととか。私はリリーに支えられながらわけも分からずキャッキャと楽しむセブルスの姿を妄想して吐血しそうになったよ。その話をしたリリー本人は腕を組んで誇らしげに頷いていたので幼馴染みって行動がリンクするんだなぁ、って思ったね。

 

「っはー! フィルチって透明マント効かないんじゃないの!?」

 

 ゼェゼェと息を切らして、ジェームズが文句を言いながら現れた。

 

「ピーター! 無事で良かった今日も世界は平和です!」

「その脈略のなさとかミリーにしか出来なくて偽物とか疑えないよ」

「シリウスー! 今間違いなく天使に褒められたよね!」

「……おう、そうだな」

 

「おおいそこのシリウス・ブラック、ツッコミを諦めないで欲しいかな! 僕が無視された所とか! 褒めてるのか微妙な所とか!」

 

 透明マントでボサボサになったピーターが可愛くてしんどくて軽率に死ねます。

 天然パーマのピーターとジェームズが髪の毛を一生懸命直している中、シリウスが私の頭でドリブルしながらリリーに話しかけた。

 

「エバンズがいるなんてな」

「あら、最近エミリーを取ってる悪戯仕掛け人の皆さん。御機嫌よう」

「はわ、はわわ……嫉妬リリー可愛い……顔がいい……美人度増してきた……」

「お前本当に可愛くねェよなぁ」

「え?美人だって?ありがとうシリウい゛っだァ!? こいつ躊躇なくレディのケツを蹴った!」

 

 手加減を全くしてない蹴りが私のお尻に……。

 うおぉ! とお尻を押さえて膝から崩れ落ちる。いやこれは痛いって。少なくとも英国紳士目指してる男が女に向かってする行動じゃないって。痛いヒリヒリする。大丈夫、私のお尻割れてない?

 

 シリウスは最近言葉じゃなくて行動で何かしらを訴えてきだしたから察するこちらは大変だよ全くこいつは困るんだからー。普通に言葉で伝えてよ。このまま行くと私はシリウスの視線で言葉を探らなきゃならなくなるじゃん。目と目が合うその時心は揺れ動き想いを伝える。

 

 口 で 言 え 。

 

「人が来るぞ、少しは静かにしろよ」

「セブルス誘拐されない? 大丈夫?」

「そうやって脊髄で発言するから頭おかしいって言われるんだぞ」

 

 腕を組む姿が可愛すぎてちょっとどうすればいいのかわからない。魔法生物は私じゃなくてセブルスの様な天使を守る方が世のため人の為、そして平和の為になると思うんだ。

 人は世界に平和をもたらした天使に祈りと感謝を捧げ天使は慈愛の笑みを浮かべる。ただ生きているだけで世界は循環する。

 ということは天使に魔法生物というボディーガードを纏わせることは世界で1番名誉ある役職なのでは……? 畜生! 魔法生物に生まれたかった!

 いやまて、根本的なところを見失っている。まずセブルスという天使に手を出すという馬鹿がこの世に何人存在する?神に逆らう事が不可能の様に天使に手を出そうとするか?

 

 ……。

 …………。

 

 私なら出すな。そのおみ足を撫で回したい。涙目で睨まれたいし蔑まれたいし罵られたい。

 

 魔法生物ボディーガード必要だな。誰に頼むのが1番有効的だろうか。それともブリーダーとして未熟な私が世界の要の守り手についてもいいものか。

 天使はこの場に3人もいるんだ。これは重要な役割になってくるぞ。

 

「コワルスキー?」

「バジリスク辺りがセブルスにはお似合いだと思う」

「なんでそうなった?」

「ジェームズ、時間かけてるからミリーが壊れたよ。なんか魔法生物とお見合いさせられる気がする」

「ミリー、僕だとどんな魔法生物が似合う?」

「肥溜め」

「こえだめ」

 

 ジェームズなら肥溜めに浸かってたりするだけで誰も手を出さなくなると思う。私は天才だからね、こんな考え造作もない。

 

「……まぁいいや。2年かけてようやく見つけた成果を共有しないと」

 

 不服そうな顔でジェームズが呟くと暴れ柳に向かって行く。

 

「あっ、ポッター! 暴れ柳は貴重な材料だから絶対に傷付けない様にしてくれ!」

「魔法薬学オタクめ! 分かってるよ!」

 

 セブルスの忠告を素直に聞き入れたジェームズはドヤ顔をして魔法を暴れ柳のコブへとぶつけた。それだけで近付こうとした者を寄せ付けない暴れ柳はただの柳へと変わっていった。

 

 え、素直に凄い。暴れ柳を手懐けた。

 

「ふふん、凄いだろう」

「ハイハイそうね」

 

 でかしたジェームズ!素晴らしいオブ最高!

 暴れ柳の材料がこれで手に入る!素晴らしい!

 

「こっちだ、滑りやすいし暗いから気を付けてね」

 

 ジェームズが示すのは暴れ柳の根元にある穴。よく目をこらすと木の根で自然な階段状になっている。

 隠し通路だったわけね。これでホグワーツから脱走する通路が1つ増えたというわけか。

 

 今で合計5つ目だから恐らくまだまだあるな。

 

「でも凄いよジェームズ。どうやって見つけたの?」

「あー、見つけたのは僕じゃないんだ。リーマスとピーター、って言った方が正しいかな」

「流石私の天使。略して天使」

 

 微妙な笑顔を浮かべているピーター。リーマスが今居ないから1人で喜ぶのはなんだか違う気がするんだろう。

 

 可愛い。世界よありがとう。

 

「行こうか」

 

 ジェームズが先頭で、指名されたのでその次が私。セブルス、リリーと続いて殿がシリウス。

 先生とか他人に見つかった瞬間逃げやすい上に天使を守れる位置だ。私は遠慮なくジェームズを囮にするけど。

 

「これ、どこに繋がってるんだ?」

「1週間くらい前にこっそり調べたけど、無人の屋敷に繋がったよ」

「この方角で屋敷と言うとっ、まさか叫びの館!?」

「あれー?スネイプ、もしかして幽霊とか怖いのー?」

 

 私を挟んでセブルスとジェームズが口喧嘩をし始める。

 幽霊怖いセブルスとか誰得だよ私だよ。

 

「ミリーって幽霊怖がったりしないよね。血塗れの男爵とか首なしニックとかさ、あと灰色のレディ」

「有り無しは生死じゃなくて好みで決めるから……。正直そこにいる好みの人間が生きてようが死んでようが関係ない……」

「うっわぁ」

 

 ジェームズにすっごいいい笑顔でドン引きされた。

 

「むしろ美人の幽霊に憑かれたいし祟り殺されてもお礼しか言えない」

「僕生まれて初めて幽霊に同情したよ」

 

 灰色のレディに出会う度に求婚してたら男爵がセコムについた。酷い扱いだとは思わないかな。

 

『ヴ……ァヴヴヴヴヴヴヴ……!』

 

 獣の呻き声の様な音が私たちの耳に入った。それほど距離は歩いて無い気がしたが、いつの間にか人工物の扉が見えていた。

 

「ねェ、無人詐欺」

「無人の屋敷とは言ったけど今無人だとは言ってないね」

 

 ナウだよナウ。とジェームズが笑顔で言ってきたので思わず殴り掛かる。足跡は人の足跡しか無いから魔法生物では無さそうだけど、私をわざわざ呼んだって事は魔法生物な気がする。

 

 無人じゃないと想定していたみたいだから、最近になって怪我した野生の魔法生物を保護したとかそんな感じかな。

 

「わざわざ夜に来なくてもいいのに」

「いいや、夜じゃないと確信が出来なかった。僕もここから先には進んだことないから念の為ミリーを連れてきたんだけどね」

 

 え……?

 

 どういうことが脳みそが理解を拒んだ。その一瞬でジェームズは唸り声のする部屋への扉を開こうとしていた。

 

「ピーターの魔法具様々だよね。位置を把握出来る装飾品を作っちゃうんだから」

「待ってジェームズ! 中に何が居るの……!?」

 

 扉の先に。

 傷だらけの狼が居た。

 

 普通の狼では無い、毛の薄いガリガリにやせ細った手足の長い。初めてみた特徴だ。だけど、私はよく知ってる。

 

 

「ウィアウルフ! ダメ! 下がって!」

「ミリー大丈夫、僕らなら大丈夫だって、彼は狼人間じゃなくて……」

「ッ、ふざけないでジェームズ! 彼? 彼って言った!? 知ってたんならなんで言わないの! 調べたんでしょ! 魔法省分類くらい授業で習ったでしょ!」

 

「──ポッター!」

 

 

 

 緑色のローブと真っ赤な鮮血が視界に入った。

 

 涎を垂らした狼人間は長い前足を使ってジェームズに降り掛かって、それを、セブルスが。

 

「スネイプ!」

「セブルス!」

 

 くたりと力なく倒れ込むセブルスをジェームズが支える。後ろから赤い閃光が爆ぜ、ウィアウルフへとぶつかったのを呆然と見ていた。

 

「クソ、魔法は効きが悪いのかッ! ジェームズ、スネイプ連れて早いとこ下がれ! ピーター、エバンズ! お前らも早く外に戻れ!」

 

 殿から一気に前へ躍り出たシリウスが私を支えて杖を構える。

 

「ちょっと待ってよシリウス、危ないって!」

「1番危ないのはスネイプだ! 1番足の早いピーターが医務室に駆け込んでマダムぶち起こして来い! ジェームズはスネイプ運べ!」

 

 ダラダラと赤い血が流れ落ちる。

 セブルスが、セブルスが死んでしまう、セブルスが。

 

「危ねぇッ、コワルスキー、しっかりしろ、テメェがここ1番の要だ!」

 

 セブルスが死んで、怪我を、セブルスが。

 

「──エミリー・コワルスキー!」

 

 鼓膜が破れそうな程の大声で意識がハッとする。

 眼前にはウィアウルフとシリウスが力比べをしていた。人間には圧倒的に敵わない勝負だ。

 

「エヴィル!」

 

 腰からトゲトゲした繭を取り出すとその繭はスウーピングエヴィルの成体へと変化し、尾の所にある針の様な噴射口から強力な液体を噴射した。液体は粘つく上に固まり、拘束に丁度いい。

 

「ッ、は、助かった」

「怪我は、噛まれてない?」

「大丈夫だ。明日は筋肉痛に違いねェけど」

 

 ウゴウゴ動いてるウィアウルフの体格を担いで部屋の中へと押し入れる。仲間を呼び寄せてはいけないので口まで拘束しているエヴィルの判断が天才。

 

 心臓がバクバクとうるさい。

 

 セブルス、お願いだから死なないで。キミが死ぬと私は友人を2人も失うことになる。

 

「行こうコワルスキー、アイツらが心配だ」

「……うん」

 

 唸り続けるウィアウルフの殺気を受け止めながら、私は彼に抱き着いた。

 

「ごめんね、大丈夫、絶対助けるから」

 

 エヴィルにここに残るように指示をして私とシリウスは屋敷の外へと出た。二人揃って大きくため息を吐く。

 

「説明して、でもセブルスが心配」

「ならさっさとここから離れるぞ。医務室に行こう、説明はジェームズがした方がいい」

「事と次第によっちゃ私は軽蔑するからね」

「……分かってるよンなこと」

 

 震える足で立ち上がる。

 シリウスは汗を拭って私を見ると担ぎ上げた。

 

「……明日筋肉痛なんじゃないの」

「震えた女を歩かせる程クズに成り下がったつもりはねェよ、この状況を引き起こしたのは、俺らだけどよ」

 

 私より背も体格も大きいシリウスは軽々しく抱えるからなんだか無性に悔しくて鳩尾に1発くれてやった。落とされた。

 

「酔っても文句言うなよ」

「超特急でお願い」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「あなた方は一体何をしたのか分かっているのですか!!!」

 

 カンカンに怒り狂ったマクゴナガル先生を目の前に私たちは並んで立っている。セブルスは傷の手当をしている最中に目を覚ましたのでベッドの上だ。

 時間外の医務室で緊急説教タイム。先生、眠たいです。

 

 普段なら医務室での騒ぎは絶対禁止のマダムですら黙認している辺り、彼女もかなり怒っているに違いない。

 

「夜中に部屋の外に出るどころかホグワーツの外に出て!挙句Mr.スネイプは怪我を負っている!何をしたのですか!説明をなさい!」

「だから、僕が悪かっただけなんだってマクゴナガル先生〜っ!」

「そんな抽象的な説明は不要です!エバンズ、貴女なら答えてくれますね!」

「えっと、良く、状況が分からなくて……」

 

 マクゴナガル先生がリリーに視線を向けた瞬間セブルスは痛がってマダムの視線を集め、悪戯仕掛け人は首を横に振る。

 アピールは『何も言わないでくれ』だ。

 

 私とシリウスが来る前からこんなやり取りが続いていたらしい。

 

「はぁ、マダム、スネイプの傷は」

「魔法生物によるものです。大分深いですよ。ただの傷なら完治しますが、これだと傷が残るでしょうね」

「ッ、誰にも、言わないでください。その事は、ここにいる人間と先生方の間でのみの話にしてください!」

「……魔法生物、ですか。エミリー・コワルスキー。貴女であればこの状況を適切に説明出来ますね」

 

 すう、と目を細めたマクゴナガル先生が静かに私に視線を寄越す。

 必死に訴えるセブルスめちゃくちゃ可愛いとか思ってる暇なかったわ。

 

「もちろん、魔法生物による傷です。リリーが説明出来なかったのはその魔法生物が『何か』知らなかったから。前から私の魔法生物が運動不足で困っているとジェームズに話しているのが事の始まりでした」

「待ってミリー! キミが責任を負う必要は無い! 全部僕が悪くて!」

「黙ってジェームズ」

「……。いいでしょう、続けなさい」

 

 苦い顔で口を噤んだジェームズと話の続きを催促したマクゴナガル先生にホッと安堵の息を吐いて私は続きを話し始めた。

 

「日中は流石に人の目があるので、不特定多数の人物相手に魔法生物を出す訳にはいきませんでした。それで、ジェームズは夜を提案してくれました。それで今日、寮を抜け出したのです」

「抜け出す前に何故相談に来ないのです……。貴女が魔法生物の扱いに慣れている上に他の生徒と違う生物をペット申請しているのはこちらも把握しているのですよ」

「それは、ごめんなさい。それとリリーは私が部屋を抜け出す前に注意してくれたんですけど、リリーも私の子には慣れているので人手が欲しくて引っ張り出しました」

「エミリー、私を庇わないで。外に出たのは私の意思よ。それに対して庇われる謂れは無いし、破った校則に対してお咎めを受けるのも私の意思よ」

 

 リリーがあんまりにイケメンな発言をするからキュンとした。ジェームズにも被弾してる。ということはセブルスにも被弾しているはずだ。

 

「……では、外で何があったのですか」

「禁じられた森からキメラが現れました」

 

 マクゴナガル先生は息を飲んだ。

 しかしそう簡単に流されてはくれないのがマダム・ポンフリー。

 

 厳しい目付きで私を見ながら傷の説明をし始めた。

 

「キメラは胴体がヤギです。足は蹄、しかしMr.スネイプの傷跡は鉤爪でした。これについてはどう説明するのですか」

「キメラに応戦したのはワンプスキャット、鉤爪です」

 

 ちゃんと言い訳くらい考えている。禁じられた森でキメラを見たのは本当だ。

 ウィアウルフを理由として正直に話すと、悪者が出来てしまう。

 

「……なるほど、それでポッターは貴女を庇おうと」

「待って先生! ミリーは悪くないんだ! 本当に、僕の軽率な判断が悪くて!」

「おいポッター。いい加減黙ってろ、うるさい」

「ッ、スネイプ! お前だって分かってるだろ!」

「分かってるさ! 分かってるからコワルスキーの覚悟を受け止めてるんだろ! いつまで子供のつもりだ!」

「この、野郎……!」

 

 一発触発の雰囲気をマクゴナガル先生は咳払い1つで収めた。

 

 頭に血が上ったセブルスとジェームズは顔を背けて眉間にシワを寄せ、小さく舌打ちをした。そっくりか。

 

「罰則は追々伝えます。ただ、夜中に出歩いた事に関して1人50点減点をさせていただきますからね」

 

 グリフィンドール生はこの場に5人居るので250点も引かれる事になる。年間悪戯仕掛け人が引かれた点数の総数と同じになった。今年はペースが早いなぁ、とか現実逃避してみる。

 

「Ms.コワルスキー、貴女は明日にでも校長と話をしていただきます」

「はい」

「なんでミリーがッ!ぐ、う……待ってすごく痛い鳩尾やめて」

 

 言うと思っていたので私が肘鉄をジェームズの鳩尾に入れて物理的に黙らせた。

 

 ジェームズにも後で話を聞かないとダメだけど、今は黙っていて欲しい。拗れる上に追求されたらこれ以上言い訳なんて思い浮かばないから。矛盾点を生まないでほしい。

 マクゴナガル先生もイギリス人だからさ、色々と怖いんだよ。

 

「Mr.スネイプはしばらくこちらに寝泊まりしてもらいますからね」

「……分かりました。コワルスキー、しばらく出来そうに無い」

「ううん、リハビリ頑張って。護れなくてごめん」

「僕は護られる気なんて無いけどな。とにかく、皆死んでないんだ。死んだら祟り殺す」

「ご褒美だね……」

 

 へにゃりと笑ったセブルスが可愛くて燃え死ぬ。

 尊さの塊。

 世界は救われた。

 

 

 ……胸が痛い。




激おこプンプン丸な先生達。そしてついに校長と話す事になった主人公、この作品の校長はボケ老人かたぬき爺か。

次回「主人公死す」 デュエルスタンバイ!

ところで推しを傷付けたくなるこの性癖は一体何なのだろうか。まぁ必要事項ですけどね!親世代の学生時代はただのフラグでしかないのだ……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18.衝突

 

 

 まだ例の件から1日も経っていないと言うのに、マイナスにまで減点されたグリフィンドールの点数を見て『夜中に出歩いた事』がホグワーツ中に広まった。

 

「コワルスキー、この後はどうするんだ?」

「1時間くらい待機して、校長室。セブルスは医務室に監禁でしょ?」

「んー。まぁ。でも医療に携わる薬学知識は医務室が1番手にしやすいだろ? 今は時間が惜しい。トリカブトの知識を頭に入れながらマダムに色々聞いてみるから一覧貸してくれないか?」

「後で音読してくれるなら」

「暗記して音読してやる」

 

 セブルスはウィアウルフに傷付けられても心までは傷付いて無いらしい。むしろ丁度いい情報源が己に生まれたとテンションが上がってる最中だ。

 

 傷を負ったセブルスが全く気にした様子を見せない所か嬉しそうにしているのだ。ジェームズも何も言えないだろう。責任を感じることも。

 優しいな、と心から思うよ。愛おしい。

 

「この時間帯に説明するとか言ってた癖に中々来ないな」

「だよねぇ」

 

 まったりと陽射しを感じながら暴れ柳を眺められる位置に座って待っているとようやくジェームズが現れた。ピーターはシリウスにくっついていて可愛い。

 

「リリーは?」

「説明不要、しばらく話しかけないで、だってさ」

「セブルスが怪我したからねェ、割り切れないだろうね」

 

 地面に座り円卓を囲む。まぁ囲むのは野外円卓の上に置かれたスコーンとぬるめの紅茶なんだけど。

 

「さて、説明をもらいましょうか」

「うん」

 

 スコーンを割いてクロテッドクリームを塗り、ジャムを塗り重ねる。

 ホロホロと崩れるのも気にせず口に含めた。

 

 アフターヌーンティーというのも3年目となると慣れてくるもんだな。習慣化してきてる気がする。ハイ・ティーならアメリカにあるけどさ。

 

「まずはミリー。ごめん、責任を負わせてしまった」

「そこは気にしてないよ。罰則云々は置いておき、夜間外出はいつもの事だし。──でもさ、ウィアウルフを庇うって事は」

 

 減点に関しては寮から色々言わたし、スリザリンの点も減っていことから悪戯仕掛け人だと分かったみたいだけど、リーマスが居ないのにもう1人分減った謎というのはまたグリフィンドール生の誰かが何かをやらかした余分な点数として処理されている。リリーを責める言葉が無いのはいい事だ。

 

 それよりも問題はジェームズにある。

 点数の事に関しては気にしてないようだけど、隠した真実(先生への説明で私が庇った事)に関しては物凄く気にしているようで、グリフィンドールもスリザリンも『あのポッターが夜間外出で減点された事に反省してる!?』とザワザワしている。日頃の行いのせいだね。

 

 というかほぼ毎夜無断外出してるだろうに。私達。

 

「ミリーとスネイプも気付いてるみたいだね」

「流石に、生態とか知ってるし、1年の中盤には気付いてた」

 

 セブルスと顔を合わせて肯定の意を込めて頷く。

 

 

 リーマス・ルーピンが狼人間、ウィアウルフだと言うことを。

 

 

 満月の周辺3日〜5日は毎月学校を休む。全寮制だと言うのに学校自体に居ない。

 両親の事が、って理由を付けてたけど、魔法生物の気配に魔法生物が気付か無いわけないし。治らない傷にも納得が出来る。魔法生物によって付けられた傷は自然治癒しない。

 

「それで、魔法生物に関してなら私が何とか出来るかもって思ったわけね。魔法省分類XXXXXだと分かっていても。私が人に慣らしているから」

「……うん。それに僕達なら大丈夫だって驕ってた……そんなこと無かった……親友だと思ってたのに……」

「それがウィアウルフって生物だよ。狼になった状態では理性なんてタカが外れてる。でも、覚えてるよ。狼になった状態で起こった出来事」

「はぁ〜……絶対リーマスが気に病むやつ……」

 

 今までに無いほど落ち込んでいるみたいだ。

 手を組んで項垂れている。何度目かのため息を吐き終わるとジェームズは顔を上げた。

 

「ほんとごめん」

「俺も謝る。悪い、軽率な判断だった。XXXXXって言うのを甘く見てた。普段がアレだから、より一層根拠の無い自信で危険に晒した」

「僕も巻き込んでごめんね……。リーマスに発信魔法具取り付けて位置情報確認したんだ。大丈夫だって、思っちゃった」

 

 ピーター可愛い。

 

 謝罪する3人に対して首を横に振る。

 

「私も魔法生物の専門家になりたいと思っているのに、魔法生物の危険性を甘く見させてしまった事は本当に悪いと思ってる。これは誰がなんと言おうと私の認識不足」

 

 もっと気付く要素はあった。

 昨日が満月だったとか、叫びの館に向かう事だったりとか、本当は気付かなくちゃならなかった。魔法生物を相手に将来を決めているのに、注意不足だった。

 これは口に出すとジェームズ達に向かって『私が保護者的立場にならないといけない、やれやれ面倒見なくては、監督責任だよ』と責めている様になって、更に傷付けてしまうことなので心の中に押し留める。

 

 魔法生物飼育学のケトルバーン先生が私に魔法生物と交流させない理由がようやく分かった。

 私が簡単に魔法生物のレベル5と触れ合っているから、周りも簡単に見えてしまうんだ。周りの人間の認識を変えてしまう。

 

「ごめんね合戦はそこまでにしろ。時間が惜しい」

 

 セブルスの一声にジェームズは軽く睨んでからスコーンを手にした。ジャムを塗ってクロテッドクリームを上に塗り重ねている。

 文句を言いたいけど、責めるのはお門違いで嫌な言葉を言いたくないから口に物詰める、って所か。ふっふっふっ、翻訳機舐めるなよ。行動でも言葉は分かる。

 

「今日校長室に行かなきゃならないんだけど。聞いておきたいこととかある?」

「は? お前校長室になんのために行くんだよ」

「説明だよ」

「いやそうだけどそうじゃなくてさ、逆に質問される側だろお前は」

「んー、どうだろう。ウィアウルフの件については校長という権力者は知ってないと、ホグワーツから出ることを許さないと思うんだよ。多分、マクゴナガル先生も知ってるのかなー。そこは不安要素」

「……あー。つまり起こった出来事包み隠すつもりは無い、と」

「微塵も無いね」

 

 リーマスを退学にする事、なんて事は絶対にない。だって被害者であるセブルスがそんな事実は存在しないって貫いているんだから。

 それどころか脱狼薬の制作により一層力が入ってる状況。私はセブルスを信じる。

 

「じゃあダンブルドアがホモかどうか聞いといてくれ」

「ゲホッ!」

 

 シリウスの言葉に思わず紅茶を吹く。

 いや、確かにブラック家で言ったけど、それ捏造だからね。

 

「あー、お前の捏造だっての分かってるって。でも妙に腑に落ちてよ」

「罰ゲーム受けてる気分。学校一の権力者に『貴方はホモですか?』って他国の英語の教科書に書かれてあるような文を使うことになるとは」

「コワルスキー、学校一の権力者じゃなくて英国魔法界一の権力者だ」

「ガッテム」

 

 頭を抱えて項垂れてみる。巫山戯た調子のまま、ちらりと横目で伺ったセブルスはすごく不機嫌そうだ。

 何が不服なんだよォ!

 

 私はセブルスとジェームズの固執というか、執着というか。2人の仲は誰にも分からない。下手に介入しない方がいいとは思うけど、心配だなぁ。特にイギリス人って私みたいなアメリカ人と違って内側に入り込まれるのを嫌がる傾向があるみたいだし。

 

「みんなに提案があるんだけどさ」

 

 茶化した私とシリウスのやり取りに目もくれず、ジェームズは口を開いた。

 

「アニメーガスになろう!」

 

 聞き覚えの無い単語に首を傾げる。アニメーガスとは何だろう。セブルスもこの世の人間全てを虜にするレベルの可愛さで首を傾げているのでジェームズが独自で調べだした情報だということが分かる。

 

「……どうせぶっとんだことだろ」

 

 ボソリとセブルスが呟いく。

 え、呆れる姿すら可愛い。腕を組んでるんだよ、可愛い。

 

「あー、アニメーガスって?」

「動物になる魔法だよ、まぁ動物もどきだけど」

 

 頭の中から知識を引っ張り出してくる。

 

 血の呪い、は女性にしか発生しない病だもんな。しかも遺伝子感染。呪いと言われて納得するほど稀有な運命を辿る病だけど。

 ……自由自在に動物になれるからって、意志とは関係なく最終的に永遠と動物になれるんだから最高だよね。多分魔法生物とは会話出来る! 素晴らしい!

 

 まぁ独自で調べていた知識だから天使音読で暗記したものじゃなくて記憶違いがありそうで怖い。そしてアニメーガスとやらでは無いと思う。

 

「変身術か……?」

 

 セブルスが疑問を口に出すとジェームズは分かりやすくドヤ顔をした。あぁ〜! セブルスのイライラゲージが溜まる!

 

「違うんだ、杖を使わずに変身できる。それに自由自在に変われて、人間としての知性も保ったままなんだ」

「……変身術の上位互換って所か」

 

 何故それを身に付けようとしているのか。私は紅茶を飲み干して考えた。

 

「あ、そうか。ウィアウルフは人間を襲う。逆を言うと人間以外は襲わないから動物になってウィアウルフの傍に行って観さ……」

「そう! その通りさ! リーマスの傍に寄り添ってあげようと思って!」

 

 

「「……は?」」

 

 予想しない方向の終着点にセブルスと二人揃って声を漏らした。

 小さな漏らしだったからジェームズには気付かれて無い様だったけど、セブルスの声は分かったのでそちらに顔を向けると『何言ってんだこの脳内花畑野郎が』と言わんばかりの表情をしていた。

 

 ううーーーん、口に出さないだけギリギリセーフ。

 

「僕とシリウスとピーターは1年の途中からやり始めたんだよね、もう少しで掴めそうなんだけど」

「そ、んなに、習得に時間がかかるのか」

「学生の内に出来る人間ってひと握りなんじゃないかな」

 

 セブルスはとても深く息を吐いた。頭が痛いと言いたげな表情でギロリとジェームズを睨んでいる。

 その鋭い眼光にジェームズは怯む。そして私は興奮する。

 

「そんな時間、僕には無い。この話はなかったことにしろ」

「なっ……!」

 

 オブラートなど知らないストレートな言い分にジェームズがガタリと席を立つ。

 

「ちょおっっとぉ! 喧嘩、ダメ、人間、平和、1番!!」

「人間に成り立ての宇宙人かよ」

「黙れシリウス・ブラック!」

 

 あわわわわわ、今までに無いほどな一発触発!

 天使に殴りかからないでねー、ジェームズを煽んないでねー! 頼むから!

 

「セブルス、別の言い方があるんじゃないかなーと……思うんだけど……」

「事実だろう?」

「えっ、可愛い」

「お前絶対中立の立場に立たない方がいいと思うぜ」

 

 シリウスがなんか言ってるがハラハラしてるピーターが可愛いのでこの状況も案外悪くないんじゃないかと思ってきた。

 

「折角僕がっ、仲間外れにならないように気にかけて、誘ってるのに……! リーマスが孤独で苦しんでて、それを支えてあげたくて……! なんでお前は、優しさってもんが無いんだ……っ!」

「ッ、誰が誘ってくれと言った。僕は僕でやりたいことがある」

「それはアニメーガスになることより大事な事なのかよ!」

「そうだよ! そんなその場限りの傷の舐め合いよりももっと大事な研究だ!」

 

 ジェームズの剣幕に一瞬ビクリとしたセブルスだったが拳を握りしめて言い返した。

 私とセブルスの研究している脱狼薬は2人だけではなく、他の人間も関わっている研究。おいそれと概要を教えるわけにはいかない。

 

 まぁ特に私の方の協力者であるヴォルちゃんがヤバめの人っぽいのでそれが原因の大半を占めているんだけど。

 

「はっ、どうせ闇の魔術についてだろ、忘れてたよ、キミが性悪な卑怯者で根暗のスリザリン生だってことをね……!」

 

 どうしよう闇の魔術を用いてることは否定出来ない。トリカブトとか危険薬物だし、それ相応の闇の魔術を使う。

 

 うーん、ジェームズの言いたいことも分かるんだよなぁ。リーマスは満月前になるとすごく悲しそうな、寂しそうな顔をするし。

 心に寄り添うのはリーマスにとって救いになるだろうし大事な事。

 

 ジェームズは心の支えを重視する優しい考え。筆記もだけど実技も優れている彼らならほぼ確実にアニメーガスを習得出来るだろう。

 

 対してセブルスは悩み自体を無くすという根本的な所を睨んでいる。ぶっちゃけ私たちが生きている間に完成するかも分からない途方もない研究だ。

 

 確実に勝ちを狙うか大博打のどんでん返しを狙うかの全く違うスタイル。

 

 価値観の違いで起こる衝突は正解が無いし第三者があーだこーだ言えない。これは参った。どうしよう。

 

 

 セブルスは絶対アニメーガスを選ばない。脱狼薬の確率を下げることは絶対しないしなんなら超が付くほどの頑固だ。2年丸々付き合ってきて、この推理に間違いは無いと思う。ジェームズは折れることは出来るけど基本友達想いの自分が大好きで自己肯定感の塊だから……。

 

「よしリーマスに意見を聞こう」

「「なんでそうなるんだよ!」」

 

 喧嘩してたはずの2人に声を揃えて怒られた。くすん。

 

「だってありがた迷惑とかあああぁぁ」

「ちょっとは空気を読もうねミリー」

「はわ、袖を引っ張るピーター可愛い……」

 

 引っ張られたせいで思いっきり椅子から転げ落ちたけど可愛い天使がいるならOKです。私のピーターがこんなにも可愛い。

 あ、腰がピキって言った。

 

「いくぞコワルスキー。能天気バカと話してても埒が明かない」

「なんだよそれ! っこのアグリースリザリン!」

 

 バチン、と音がした。

 あ、とやらかした表情をするジェームズ。

 

「……っ、い、たいな。ジェームズ・ポッター」

 

 口の端を切ったのか血が滲んでいるセブルスがボソボソ呪詛の様に文句を言い始めた。

 

「大体なんで僕が寝る間も惜しんで研究してると思っているんだ……。一刻も早く完成させないとならないってのに……! 本来ならこんな雑談なんて無視して研究したいのに……! 医務室に缶詰めになるから自由時間は薬物とか触ってたいのにこの脳みそゆるゆるの腐れグリフィンドールが……ッ!」

 

 ぶった。ジェームズがセブルスをぶった。

 あぁ私の天使の顔に傷が……。いや傷なんてお互い今更なんだけどね、薬品の暴発とかで。マートルのトイレは実験失敗してもピーブズの悪戯だと思われてるみたいで誰も来ないんだけどね。

 

 まぁそんなことよりセブルスをぶったジェームズだよ。

 

「ジェームズう」

「な、なんだよ、思わず手が出たけど今回に限り絶対に謝らないからな。危ない研究と友達どっちが大事なんだよ……!」

「お前は独占欲の強い女か! いいや謝れ! 今回に限りじゃないんだよアホ!」

「………………ッ、だってお前ら何の研究してるんだよ! 僕これでも知ってるからね! お前らの会話に出てくるトリカブト、別名が狼殺しだって事!」

「おいジェームズ! 声が大きいッ!」

 

 悪戯仕掛け人の衝突は思ったより目立っている様で、自然と注目を集めていた。シリウスが慌てて口を塞ぐ。

 

 あーーもう! ジェームズのアホ! セブルスぶった! 私はセブルスとジェームズだったらカメムシ1粒程の迷いもなくセブルスを選ぶからな!

 むきぃ! ホルモンバランスが土砂崩れ起こしそう!

 

「魔法生物の餌食に……」

「行くぞコワルスキー! そいつらに構ってるな! お前も校長と話だろう!」

「……行く」

 

 席を立って去ろうとしたセブルスに大人しくついて行く。はわ、セブルス優しいの塊。私が危害を加えようとしたジェームズをさりげなく庇ってる……。こ、これがスパダリ……! 庇われたジェームズが羨ましい。憎しはジェームズ・ポッター、覚悟して。私は杖を握りしめてお前を殴る。ここに真の撲殺天使が誕生したわけだ。あ、でも天使は私じゃない。

 

「……お前今何考えてる?」

「セブルスの打撃値」

「馬鹿だ」

 

 ふっかいため息。

 

「ミリー! そんなスリザリンとつるんでたらどうなっても知らないからな!」

 

 背中からの叫び声に私は無言で頷いた。

 天使の過剰摂取で死んでしまいますよね、分かる分かる。

 

 隣のセブルスは微妙な顔をして私を見ていた。不服だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「レモンキャンディーーー!」

 

 約束の時間を1時間オーバーして訪れた校長室。なんか律儀に時間守るの癪だったから医務室でセブルスとリリーと戯れてたわ。

 

 合言葉を告げて、中から伸びてきた階段に乗る。ホイホイとトランクを持ちながら上がると、そこには校長がいた。

 

「よく来たねエミリー」

「先生が美形だったら時間を考えた」

「ほっほっほっ」

 

 見るからに高そうな机と椅子が置かれ校長室でダンブルドア先生は座りなさいと言うとにっこにっこ朗らかに笑っていた。

 

「さて、それでは今回の件の真相について聞こうかのう」

 

 あ、この人の目ってアイスブルーなんだ。キラキラしてて綺麗。

 まあ単刀直入とばかりに聞かれたので、私は変な御託を並べずにあっさりと全てを話した。

 

「──と、言った感じで。現在仲違いする可能性もありますね」

 

 今日の出来事まで全て。

 

 別に校長は可愛くもなんとも無いので興味は無い。

 

「そうかそうか、エミリー。よく教えてくれた。そう、そうじゃったか」

 

 あごひげを撫でながら校長は思案顔をする。困ったように眉を下げて私を見た。

 

「エミリー、お主はニュートの親戚筋。魔法生物の話はよぉく聞く」

「えぇまぁ得意科目ではありますからね」

「そこで、じゃ。頼まれてくれるか、リーマス・ルーピンの学校生活を」

 

 リーマスは分類的に言えば魔法生物という立場の方が強い。人狼、ウィアウルフとはそういう存在で、人間だけど人間じゃない存在。

 校長が敢えてリーマスを人間ではなく『魔法生物』として私に頼んだのは、何となくだけど分かる。

 

 私が「リーマスは人間だ!」って言う思想を持ってない事、そして私がリーマスと魔法生物が好きだという事。

 

 だから私は口を開いて返事をした。

 

「──お断りします」

 

 笑顔でそう告げるとぞわりと背筋が凍ったような気がした。気のせいの範囲内、だけど私はこの感覚を魔法生物で知っている。

 ワンプスキャットの開心術と似ていた。

 

「それは、なぜじゃ?」

「ダンブルドア先生が、私を舐めているからです」

 

 引きずり出される本音。なんで私が違和感を覚えるのか。

 あぁ、母さんや兄さんが私の心を読む感覚と似ているからか。

 

 私はひとまず、校長に言葉を言い放った

 

「先生に頼まれなくても、独自で動いてるわ。舐めないで。私がリーマスの事を大事に思っている気持ちを、頼み事なんて真似で踏み躙らないで」

 

 頼まれたから助けるんじゃない。助けたいから助けるんだ。

 前者と後者じゃ全然違うんだ。

 

「……そうか。彼は、とても良い友人を得たようじゃな」

「リーマスの事入学前から気にかけてたんですか?」

「もちろん。ウィアウルフの問題というのは案外根深い。ニュートはよくやってくれていてのう、ようやく、新しい時代に差別が無くなる兆しが見え始めた。それはお主にも分かるじゃろう、実際区別はあれど差別はしておらん」

「…………はい」

 

 ニュート・スキャマンダー、伯父さんは狼人間登録名簿というシステムを作り上げている。恐らくそこにはリーマスの名前もある。ニュート伯父さんは曖昧な立場に居たウィアウルフの地位を確立させようとしている。私は今まで以上に彼のことを尊敬している。

 

 ダンブルドア校長はそれに対し嬉しそうに笑っていた。

 

 

「先生、今開心術使ってます?」

「……。」

 

 

 表情が一瞬固まった。そしておそらく、この思考もバレているだろう。

 そこまで考えるとん校長はわざとらしくもため息を吐いた。

 

「エミリー、キミは勘が鋭い。野生の勘、とも言えるじゃろう。なにかに勘付いた後に理由を見つける、そんな子じゃと思っておる」

「そう、かな? うーん、自覚が無い」

「盲信し過ぎるのもいかんが、頼りにすると危険は回避出来るじゃろう。──だが」

 

 校長はアイスブルーの瞳で真っ直ぐ私を見つめた。

 

「敢えて危険に首を突っ込もうとする。そんなタイプでもある。今回のリーマス・ルーピン達の問題も含めて」

 

 ……それは、全く否定が出来ない。

 例え危険だと勘が告げていても大事な人を守るためなら喜んでに窮地(きゅうち)に赴くだろう。

 

「それでこそ勇敢なグリフィンドール。じゃがのうエミリー、そうと割り切れんのが教師というものじゃ。死んだ後に英雄と呼ばれる様な生徒を、誇らしく思うことはあるが、同時に命を落とす必要があるのかと謎でしかならん」

「それ、は」

「ただの予想でしかならん。お主は賢い。だからこそわしは言いたい。──己の命を無駄にしてまで、他人を生かそうとせんでくれ。子供は守られるべき存在なんじゃ」

 

 思い返すのは1年の終わり頃。

 ピーターとDADAの教師の件、それにブラック家の訪問の件。

 

 己の命の重さ、か。まだ私には理解出来ない。

 私は自分より、誰かの命の方が大事に思うんだ。

 

「分かりません」

 

 素直に笑顔でそう返した。

 私の心のうちは開心術を使っている校長ならきっと分かってくれている。だから言葉は重ねなかった。

 

「愛を学ぶんじゃエミリー。愛を。道を踏み外さないように」

「私が天使を愛してないとでも」

「そうじゃない」

 

 思わずガタリと立ち上がり反発した言葉に、校長は片手を出して落ち着けと言いたそうに静止を掛けた。

 

「愛されること、愛すこと。生に貪欲になれ。誰かを慈しむ心と愛する気持ちは活力になる。自分が死ねば自分を愛する誰かを不幸にすると、そういう愛を学んでんくれ」

「……よく、わかり、ません」

「ほっほっほっ!そこは安心しなさい。ここはホグワーツ。学びの場じゃ」

 

 安心する笑顔だった。

 

「聞いていいですか?」

「うん?」

「なぜアメリカ育ちの私をイギリスの魔法魔術学校に入学を許可したのか、その理由を」

 

 疑問ではあった。伯父さんはここが母校で、ダンブルドアに恩があると何度も言っていたし、お気に入りの生徒の1人。

 だからといって私がアメリカの魔法魔術学校じゃなくてホグワーツに入れる意味が分からなかった。

 

「ホグワーツ創設者の4名は、授業で習ったの?」

「ええ」

「なんでも良い、その4名に対する感想を教えてくれんか」

 

 ゴドリック・グリフィンドール。

 ヘルガ・ハッフルパフ。

 ロウェナ・レイブンクロー。

 サラザール・スリザリン。

 

 魔法史で1年の時に習った基本的な成り立ちしか知識は無い。サラザールは血の在り方への価値観により、他の3人と意見が分かれ、最終的にゴドリックとの激しい決闘の末、ホグワーツを去ることとなった。

 

「仲が、良いんだなって」

 

 校長はただ何も言わずニコリと笑って続きを催促した。

 

「仲が良くないと衝突するほどの意見のぶつけ合いは出来ない。だから彼ら4人は本当に取り繕うことなく意見を交わせる、素敵な関係だったんだと」

 

「私が彼らの意見を正しく拾うことなんて出来ない。でもただ一つだけ分かるのはぶつかり合えた事、それだけは真実」

 

「だから羨ましい」

 

「私は仲良くしようとすることしか出来ない。意見のぶつかり合いで仲違いすることが恐ろしくて堪らないから。そんな勇気が欲しい」

 

「先生は私を勇敢と言いましたが、またそれとは違う勇敢さなんだと思います。そして、私たち生徒の中で、それに1番近いのは……──」

 

 校長にはお見通しだろうが私は自分の口から吐き出したかった。

 

「セブルスとジェームズ。この2人です」

 

 

「だから怖いんです。魔法生物という驚異で脅してもろくな事にならないのは分かっているけど、2人が今みたいに衝突する事が怖かった。今も怖い。仲違いして、憎しみあって、ちょっとしたすれ違いで将来殺し合いにまで発展したらと思うと、とても怖い」

 

「もしも闇と光に別れてしまったら、いがみ合ったまま、憎悪に染まったまま、道が分かたれてしまったら。きっと頑固な2人は喉元に杖を突きつけ合う。そうじゃなかったとしてもきっと、きっと。……死んでしまう」

 

「夢を見るんです。とても恐ろしい夢を。ジェームズも、セブルスも、矛盾に満ちた世界ですれ違って死んでいく夢を」

 

 

 これは創設者の話なんかじゃない。なんでだっけ、どうしてこんな話になったんだっけ。

 

「エミリー、わしはキミのその考え方が好きじゃ。じゃがその恐怖心はより一層の死を引き寄せるとわしは思う。今、2人に曲げられない信念のぶつかり合いが起こっておるんじゃろう? エミリー、傍観してみなさい。──信じてあげなさい」

 

 ボロボロといつの間にか泣いていた。喉がカラッカラなのでいつから泣き出したのか自分でも分からないけど。とにかく泣いていた。

 

 

「エミリー・コワルスキー。お主は立派な人間じゃ。例え親がどんな立場だろうが、寮が違おうが分け隔てなく接するその心。わしは教師として大変嬉しく思う」

「別の寮生は敵じゃないわ。ホグワーツはこんなにも面倒臭い学校なんだから。だって──……」

 

 

「……ほう!そうかそうか!そう、捉えてくれるか。……エミリー、わしはキミを希望に思う。どうか、素敵な学校生活を送っておくれ」

 

「ッ、はい、先生!」

 

 スッキリとした私は、満面の笑みでそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

「お前俺の質問聞いてくれた?」

「あっ」

 

 シリウスの言葉で忘れていた質問の存在に気付いた。




まあ気付かなかったのは質問だけじゃないけど。

久しぶりにハーメルンに投稿したらなんか楽曲機能が付いてた……。すまない、私は多分使わない。それと喘息で今期は死にそうですが来年から超ハイペースになるので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19.やばい人

 

 これから寒くなっていく季節。そんな冷え込み出した朝からスリザリン席に現れたのは、『両親の都合でホグワーツを離れていた』リーマスだった。

 

「セブルスッッッ!」

 

 うっわ涙目可愛い。

 口元に手を当てて思わず悶えた。今日も私はハッピーです。

 

「ルーピ……」

「ごめんセブルスッ、僕、僕なんてことを……!」

「あぁその事か。気にしないでくれ」

「え、えっ、え、なんで、ああ違う、そうじゃなくてとにかく謝りたくて、事情、あの、説明、いやごめんっ! うう、ごめんセブルス……!」

 

 なんでもないような顔をしてセブルスが言うも、若干パニックを起こして顔が真っ青なリーマスはあわあわとしている。

 近くに座っていたレギュラスは不思議そうに様子を見ていた。

 

 

 私? 当然朝食はスリザリン席です。1年から不信そうな目を向けられるけど可愛い子以外からの視線は特に気にしてないので。

 

 

「怪我もほぼ完治している。心配しないでくれ。医務室生活で得るものが多くて、マダムに頼み込んで長期間の治療という名目で入り浸れないか交渉中だから」

「で、でもっ」

「そんなに責任感を抱かないでくれルーピン。アレは仕方の無い事だっただろう? ほら、早く席に戻らないと朝食を食べそびれるぞ」

 

 へにょりと眉を下げて困った様に笑う天使が泣きそうな顔をしている天使を説得する。世界はここで平和を迎えた。締結。

 

 

「……何があったんですか?」

 

 リーマスが去ったことを確認したレギュラスが朝食の乗ったトレーを手にして隣に座ると、私に声をかけた。セブルスが食べ始めたのと、私なら答えないことはないという確信からだろうね。可愛い。もちろん答える。シリウスに似なくて本当に良かったねレギュラス。

 

「自分が実家帰っている時にジェームズ達を止められなかったことへの責任感……かな。だって私が教えたからネ!」

「貴女思ったより酷い人間ですよね」

「いい子だよねェ、責任感強くて。可愛いオブ可愛い。可愛いの具現化。気にするリーマス可愛いよう」

 

 スリザリン生はリーマスに同情的になった。

 

 

 

 毎朝ながらザワザワとザワつく朝食の時間だが、今回の客人はリーマスだけではなかったらしい。

 

 私? 別に3年間朝はスリザリンで摂ってるからもう客人じゃないでしょ。

 

 

「……一目惚れです! 恋人や想い人が居なければ、俺と付き合ってください!」

 

 遂に、この時期がやって来たか……。

 

 そう、2年間は行動に移す人物が少なかったから捌くの楽だったし、シャイが多かった。大人数の視線という数の暴力を味方に付ける頭の回る子は現れなかった。周囲、野次馬の雰囲気的に断りにくくなるからね。アメリカでは如何に周囲を味方に出来るかで変わるから、特に苦労した。

 

 私は遠い目をして頭を冷静にさせた後、顔を真っ赤にした子を眺めた。純粋そうで素直そうで可愛い子だった。でもローブは緑だから間違いなくこの状況確信犯なんだろうなぁ!! くそう可愛い!

 

「こいつ揺らぎかけてるぞ」

「コワルスキー好みだやばいぞ」

「おいスネイプあれって」

「放っておいたらどうだ……?」

 

 ざわめきが一段と大きくなる。スリザリン席で動揺が走り、その内容を口を出しているのは主に同学年。特に長期休暇で魔法生物とのお泊まり会(強制)に参加する、私に対して微塵も遠慮のない面々だ。

 

 可愛い子は許すが、他はあとで強制魔法生物育成コースな。私のスーツケースに何が入っているか知ってるだろう同学年。

 

「あー、えっと、キミは誰かな?」

「スリザリン1年の、バーテミウス・クラウチ・ジュニアといいます!」

 

 パッと顔を輝かせてMr.クラウチが私を見る。目はキラキラと輝いていて、可愛いを掻き集めたような笑顔で……。

 

 私はそっと胸を押さえた。

 

「揺れてるな」

「あぁ揺れてる」

「1年2年の時は上級生方が多かったけどもう本性割れてるし今年から下級生が多くなるな」

 

 エイブリー、マルシベール、ノット。

 あんたらうるさい。

 

「父と同じ名前なので、ジュニアと呼ばれることが多いですが、どうかバーティと呼んでください」

「ん゛ッ、んん、OKバーティ。えっと、一目惚れだっけ」

「はい! Ms.コワルスキー。貴女の紅茶の様な美しい髪や、野を想起させる瞳、何よりいつも絶やさないその笑顔に惹かれています」

 

 じゅ、純粋さか私の心にグサグサと突き刺さるっ!

 いや結構可愛い子だから反応に困る。そばでボソボソと私の悪口を言うスリザリンは滅べばいいと思うけど、誰が一目惚れ詐欺師だ。口を慎め。

 

「バーティ、貴方のセンスはとてもいいと思うわ。なんと言っても私を選んだんだから」

「それじゃあ……!」

「でもごめんなさい、私は今やりたいことがあるの」

 

 心を痛め後ろ髪を引っ張られながらもお断りの言葉をハッキリ口に出す。可愛いんだ、可愛いからこそ今までに無いレベルで断りづらいの。

 私は誰か特定の人と付き合ったりとか結婚する気は無いんの本当に……! だってその状態で好みの可愛い子口説いたら浮気になっちゃう……! 全ては世の中に存在する可愛い天使を制覇する為に!!

 

「そんな」

 

 ガン、と頭を何かにぶつけた様な顔でショックを見せるバーティ。心が痛む。可愛いし燃え死ぬ。涙目可愛いよ。

 

「他にも素敵な人は沢山いるから周りに目を向けることをオススメするわ。例えば…──そこ行くパーキソンとか」

「なんであたしよっ! 心底あんたに関わりたく無いんだけど!」

 

 スリザリン7年監督生の女性、パーキソンが丁度通りかかったので話題に出してみる。

 クラウチ家もパーキソン家も聖28一族だから話合うと思う。うん。

 

 

 ちなみにこのパーキソン、去年クィディッチの試合の際、ジェームズの箒に錯乱呪文をかけていた張本人なのだがそれはさておきだ。

 

「何よ、ポンコツ。あんたまた詐欺してるの?やめときなさいクラウチ、こいつ頭おかしいから」

「えっへっへっ、パーキソンのポンコツ頂きました〜!」

「幸せそうに笑わないで吐き気がするわ」

 

 プンプンと怒りながらパーキソンはそっぽを向く。不器用な新手のツンデレだと思うと素晴らしく好みドンピシャったんだよねえ!

 

「可愛いなぁパーキソンとバーティの組み合わせ。というか聖28一族可愛い人多すぎるわ。ルシーが純血主義なの分かるー!私も純血主義に染るー!」

「「「やめろ!」」」

 

 至る所、しかも主に純血の方々から同時に止めの言葉が入った。

 

「クラウチ・ジュニア、同じ聖28一族として言わせてもらうけど、こいつは半純血だしそれ以前に頭がおかしいから止めといた方がいい」

「酷い風評被害だ」

「これ以上にないくらい正確な情報だろうが」

「えっ、え。ですがスリザリンに馴染んでるしブラック家の方々との交流も……」

 

 話しかけたエイブリーに対し、バーティはオロオロと視線を彷徨わせた。小動物みたいでよしよししたくなる。

 

「一周まわって円滑になった方が楽だと気付いたんだ……俺は……」

「そんな諦めているエイブリーに私という呪縛から解き放たれずクィディッチの試合実況を共にしたノットから一言」

「諦めたらそこで試合終了だ」

「ザブトン1枚!」

「……ザブトンってなんだよ」

 

 ノットの発言と私の発言に、エイブリーは頭を項垂れた。最近諦めが早すぎるぞエイブリー! 私と顔を合わせた瞬間にため息を吐いて視線を逸らすのは流石に傷付くんだが!

 

 戸惑った様子のバーティは私に助けを求めるような視線を向ける。んんっ、可愛い。美人というより可愛い子!

 

「──ダメですよクラウチ・ジュニア」

 

 後ろから脳を揺さぶるような甘ったるい声が耳を支配した。思わず硬直すると背後から肩を撫でるようにするりと細い手が伸びて私を抱きしめる。耳元で破壊力抜群の美声の持ち主が呟いた。

 

「この人は、僕に虜なんです。ねェコワルスキー、そんなにこの男が気に入りましたか? 本当に貴女は幸せそうに笑いますよね、まるで泥の中にいる豚のようだ」

 

 レギュラス・ブラックは「おや」と不思議そうに首を傾げた。

 

「もしかしてアメリカ人にはこんな言葉も伝わりませんか? ふふ、仕方ない子ですねぇ。噛み砕いて教えてあげますよ。──貴女、下品で未熟で、それでいて醜い世間知らずなお馬鹿さんですね」

 

「ヴァーーーーー!!!!」

 

 私は言葉のキャパオーバーに思わず奇声を発して涙を流した。興奮も、周りの引いた視線も気にせずレギュラスの手を取る。

 

「貢がせてください!」

「クッキーを所望します。僕の家に来た時に持って来たアレです」

「神よ、私は今、天に向かいそうです」

 

 誰かが神様もお前は要らないって、と言った気がした。

 

「えう、えぐっ、ルシーですらしなかった私に対してのえげつない口攻撃、ゾクゾクするしご馳走様だしでももっと欲しいし欲望を叶えてくれるレギュラスが優しすぎるしはぁーーーきゅんきゅんする。セブルスに足りないのはこれだと思う。好意的な優しさ塗れの手酷い言葉の数々! 厳しいようもっとこうガッツリどぎつい言葉で罵ってくれようセブルス」

「お前それすごく矛盾してるの分かってるのか?」

 

 ひえぇええ、幸せ、私ったらすっごい幸せ者! こんな可愛い子に囲まれてこんなに恵まれてていいの大丈夫私あと何年生きられる!? 死なない!? というか、燃え死ぬよね!

 

 天使は悪霊の火の形をしている。今日の成果だ。

 

「で。──目は覚めましたか、クラウチ・ジュニア」

 

 レギュラスの一声にハッと覚醒してバーティを見る。すると彼は真っ青な顔をして、更に涙目という私の性癖をグサグサついてくる姿で首を横に振っていた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、夢見てました。近付かないで」

 

 可哀想に、夢に見るぞ、もちろん悪夢。

 黒歴史になるぞあれ。哀れだ。

 

 そんなの声がボソボソと私の耳に入った。

 

「そこお!優しい私がとっても素敵な夢を見れる睡眠薬をぶっかけてやるから可愛くない奴だけかかってこい!」

「貴女それ自作じゃないでしょうね」

「安心してレギュラス、自信作!」

 

 レギュラスはふっかいため息を吐いた。そんなレギュラスも可愛くって罪深い。

 

 

 ==========

 

 

 

 そんな朝の出来事を思い返す放課後の孤独。

 リリーは近々あるだろう薬草学の収穫に合わせて同級生(特にマグルっ子を中心)に指導。セブルスは医務室で治療。魔法生物の傷特化の塗り薬はマダムに許可貰ってプレゼントしたから早く塞がってくれるといいけど。……マダムにはなんの魔法生物が原因だったのかバレてるよねぇ。

 

 

 何故私がこんなにも天使に思いを馳せているのか。

 

「ねェミリー、僕の話ちゃんと聞いてるのかい?」

 

 行く手を阻むジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックがいるからだ。

 

「……なんでピーターとリーマスが居ないのよ。呼び出し名はピーター・ペティグリューだったんだけど」

 

 ホグワーツ城の裏にある、人通りの無い抜け道の一つ。悪戯仕掛け人が全員声を揃えて安全な抜け道、と言う場所だ。それ即ち悪戯仕掛け人以外誰も知らないであろう場所。

 

「話題が話題なだけに、リーマスを巻き込めるわけないでしょ? それとミリーはピーターが居ると話聞かない」

「そうだけど!」

 

 ピーターはジェームズの協力者。リーマスは恐らくピーターと一緒に引き止められている。セブルスは医務室に軟禁。

 

 つまり助けは来ないということ。

 

 一類の望みをかけてシリウスを見上げるが奴は腕を組んだまま抜け道の前を陣取って無慈悲にも鼻で笑った。誰がざまぁみろだてめえ。心の中で言ったって分かるからな多分!

 

「ねェ、2人は何を企んでいるんだい? アニメーガスより、リーマスより大事な研究なの?」

「……」

 

 傍観に徹すると、ダンブルドア先生に誓った。

 それを知っているシリウスはため息を吐くと私に質問をした。

 

 

「時折お前らの会話に出てくる狼殺しの薬草、トリカブト。まさかと思うがリーマスに使う気じゃねェよな?」

「……」

「お前……! それすら答えねぇって事は……ッ!」

 

 頭良いな。

 頭は良い、けど、一直線だから誤解は誤解のままなんだろう。

 

 私がリーマスを傷付けるわけが無い。けど、実際脱狼薬という未知の薬を使う時、狼の成分を殺す時、傷付けてしまう可能性がある。

 だから私は何も答えない。

 何も答えられない。

 

 そもそも主体はセブルスだし。天使の為に頑張る天使を私は全力バックアップ&サポートさせていただきます。

 

 そうそう、バックアップと言えば。去年卒業したレイブンクローの魔法薬学オタクのダモクレス・ベルビィが気軽に連絡を取れない、フクロウじゃ時間がかかりすぎると手紙で文句を言っていた。共同研究という形だけど、セブルスと私がまだ学生だから寮にいるってのが逆に不便なんだろうね。

 電話とか持ち込めないのが痛いところだよねホグワーツって。

 

 今度ヴォルちゃんに相談してみようかな。私の協力者であるヴォルティーグことヴォルちゃん。

 セブルスとMr.ベルビィと私。それとヴォルちゃん。

 

 うーん、ヴォルちゃんは正規協力者じゃないから頭数に換算しないとして、いや換算してたとしても人手が足りないよね。

 

 なるべく早く作成したいのは山々だけどミスが出来ないから慎重にならざるを得ない。今医務室に軟禁状態の可愛い可愛いセブルスのことを考えると私がMr.ベルビィと連絡取ることになるけど。

 打診してみようかな。いい感じの伝手が無いかって。

 

 ヴォルちゃんにも言ってみよう。本人曰く魔法研究者である彼なら魔法薬学研究者の知り合いが居てもおかしくない。

 

 

 

 あ、資金面に関しては魔法生物学者候補の私がいるから問題ない。特に育成をしている魔法生物学者はね、リターンが無いと思われがちなんだ。

 

 魔法生物の餌に、設備とかの維持費用。それがもうかさむかさむ。

 挙句、魔法生物の寿命は人間より長い種族の方が多いので、亡くなった魔法生物達を素材にしにくい。

 

 

 でもね、魔法生物学者にしか知られてない金稼ぎの方法があるんだよこれがまた。このジャンルの学者の絶対数が少ないからこそ、魔法界としても認めている裏技とも言えない物だけど。

 

 

 

「ミリーお願いだから、会話をしてくれないかな……」

 

 心の中で独り言を呟いているとジェームズが根気負けしたのかガックリと肩を落とした。

 

 なんだ、根性がないなぁ、仕方ない。

 

「で、何が不満?」

「全部が不満」

 

 堂々とそう告げた。

 私は心理に詳しいわけじゃないからなぁ。せいぜい愚痴を聞く事や認識の押し付けしか出来ない。

 

「ジェームズ、貴方はセブルスとどうなりたいの」

 

 私は1年の時に言ったことのあるセリフを口にする。ジェームズは聞き覚えがあったのか目を丸くした。

 

「競い合う、相手で居たい」

「それはシリウスじゃなくて?」

「シリウスとは、背中を合わせて居たい」

 

 それは初めて聞いたのか、シリウスは驚きの感情を表情に出していた。

 ジェームズの顔は真剣そのもの。茶化すのも悪い気がして来る。

 

「……セブルスの事を、どう思ってるの」

「凄いやつ」

 

「具体的に何が不満?」

 

 するとムスッとし初めたジェームズ。

 おうおうなんだよ兄ちゃん、なんか文句あんのか?

 

 セブルスぶったこと私が許すと思うか。

 

「分かったら苦労はしてないよ! どうして嫌なのかも分かんないよ! こんな、感情ぐっちゃぐちゃで、冷静装えもしない! でも嫌だ、スネイプの奴は嫌なんだ! 秘密主義な所も、スカした顔も、リリーの幼馴染でリリーの事好きな所も! なんで嫌いなのか分からない!」

 

 頭をぐしゃぐしゃと掻きむしりながら天パを増殖させている。

 感情が昂るままに言い募るジェームズ。

 

 私は腕を組んで1つ頷くと、踵を返した。

 

「いやまてまてまてまてエミリー・コワルスキー。普通そこで帰ろうとするか!?」

 

 シリウスに止められた。

 

 チッ、逃亡失敗か。

 

「はァ。だってさァシリウス君、自分で言うのもなんだけど絶対人選間違ってるよ? 私別に相談に向いてるわけでも無いよね?」

「まぁそうだけど……。いや確かにそうだな」

「ダンブルドアに言いなよ、彼は確かに良い先生だわ。人を導くのが得意そう」

 

 ウンウンと頷いて面倒そうなことをダンブルドアに押し付ける。

 その回答じゃ納得いかなかったのかジェームズは私の肩を掴んで叫んだ。

 

「ッ、じゃあエミリーはスネイプがすっごいえぐい闇の魔術とか使いまくったらどう思うんだよ!」

「闇の魔術になりたいなぁ、って」

「えっ、あ、そうじゃなくて」

 

 セブルスのためになるセブルスが生み出した魔法とか私にとってご褒美でしかないよね?

 

 ジェームズは引いてた。シリウスも引いてた。

 

「まぁなんやかんや勝手に言わせてもらったけどさ、私は最近のセブルス、やばいと思うんだ」

「……やば、い? それってまさか闇の魔術に傾倒したりとか」

 

 ゴクリと喉をならしたジェームズは真剣な顔付きで肩を掴んだままだった。

 私はここ最近、特に3年に上がってからの日々の『やばさ』というのを思い返す。

 

 ふとした時の表情。目が合った時。何より実験している時はあまり気にしないのにそれが終わった瞬間。

 特に隣に並んでいて、顔を向き合わせる時を。

 

「最近成長期なのか私より低かったセブルスの背は今や変わらない位に伸びてよく目が合うんだ……」

 

 恐ろしいとばかりに私は喉を震わせながら心の底からの本音を言った。

 

「前髪に隠れたあの甘い瞳に映されると破壊力に正気とか色々飛ぶ。──本気でやばい」

「ヤバイのはテメェの頭だッッ!」

 

 ド畜生! 真剣に聞いて損した!

 そう叫びながらシリウスが膝から崩れ落ち、地面に向かって思いっきり叫ぶ。

 

 いや冗談じゃなくて本気でやばいんだけど。

 

 元から可愛いのに今まで以上に私と目が合うんだよ?美人になってきてんだよ????やばくない????可愛いと美人の狭間とか私の得過ぎない??

 

 でも、ほんとに辛い。

 可愛すぎてさ、あれはもう息が出来ない。新手の兵器だし凶器。闇の帝王と名高いヴォルデモートもビックリだよ絶対。

 あの世界的大犯罪な目はさ、魔法だよ魔法。

 

 

 そう言えばヴォルちゃんってヴォルデモートリスペクトしてるのかな。自分は人の上に立つのが当たり前ですって位えっっらそうな態度だし。闇の魔法大好きだし。名前も似てるし。多分犯罪者だろうし。

 ぶっちゃけ教師向いてると思ったんだけどビジュアルで不採用になったのかな……。不憫過ぎる。あの姿に産んだ親と、あえてそれを強調するかの様な服装と仕草のヴォルちゃんが悪い。それって本当頭どうかしてると思う。やばいよ。

 

 

「ねェ、帰っていい?今部屋にイヴァナ1人だからさ、何か爆発させないか心ぱ──」

 

 ドォン、と壁が吹き飛ぶ。

 穴の空いた塔の中からモクモクと黒煙が立ち上る姿を見て私は何事だと場所を確認しようとした。

 

「手遅れ、か……」

 

 同室のイヴァナ・ドイル。

 なんでも爆発させるので1人にさせてはいけない。

 

 私たち3人はグリフィンドールの常識を思い出して同時にため息を吐いた。




コワルスキーの呼吸、壱の型。面食い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20.研究者

前回までのあらすじ
人狼露見→魂の双子とスネイプが対立→やったるぜヒャッハー

3年生の話ではなく、3年の終わりの夏休みの話。


 

 3年生の間、セブルスとジェームズは喧嘩をしていた。

 優しくて可愛くて軽率に私を燃え死なせるセブルスは大して可愛くもないジェームズに悪戯をされながらも研究し続けた。

 

 魔具を使っていた賢く応用能力が高く発想力が桁違いなピーターが何かに気付きさりげなくジェームズとシリウスを動かしてセブルスに危害が行かないようにしたり。

 この現状の責任の一端を握っていると察してしまった優しくて責任感が強くて影で悪戯仕掛け人の人形師(パペッター)と呼ばれるリーマスが何とか仲を取り持とうと頑張ってみたり。

 

 

 それに比べてヘナチョコのあんちくしょジェームズはセブルスに悪戯。構ってちゃんなくせに実際目が合ったらすぐ逸らす。

 それに腹を立てるセブルスはますます頑固になってガン無視の一途を辿る。フン、って鼻を鳴らすセブルスは可愛すぎて辛かった。死ぬかと思った。心臓がバックバック踊り狂ってそこから灼熱の炎が飛び出るかと。

 

 

 悪戯というのもまだ可愛いものだ。基準が魔法生物の悪戯だけど。

 例えばくそ爆弾投げ込まれたり。魔法が投げ込まれたり。

 

 オラオラ〜セブルスくーん、って感じで直接絡みに来ないけど無視は鬱憤が溜まるみたい。リーマスからのチクリより。

 

 

「あんっっっっっのくそMM共(イタズラ好き)が……!」

 

 セブルスが鬱憤溜め込んでるけど。

 

「すごいねセブルス、やり返さずに目的の為に淡々と作業を続けるの……」

 

 それがジェームズを煽ってる事に気付かない辺りがとても可愛い。

 

 

 時は3年終わりの夏休み。

 3年はジェームズに悩まされたと言うよりジェームズに煩わされ脱狼薬に悩んだ年だった気がする。ホグワーツ内は可愛いらしい応酬だったのかもしれないね。大人の世界はよく分からないからハッキリは言えないけど、闇の帝王とかいう頭病んでる人が勢力拡大して大変みたい。子供は邪魔だからと長期休み残ってた同学年多いし。

 

 とにかく、そんなセブルスと私は、セブルスの家庭環境の色々もあって今回の夏休みは私が引き取ることに!パンパカパーン!

 

 1年2年とジェームズシリウスにその役目を取られてたからね。あ、親御さんの許可はちゃんと貰ったよ。

 

 チップ120%を実行しちゃった。

 

 とりあえずお父上にチップ握らせたけどお母上にもこっそり魔法で渡しといた。多分それで正解。セブルスに知らせたら絶対怒られるだろうから教えてないけどね。

 

「ミリー、ミリー」

 

 コンコンと部屋をノックする音がした。そこから聞こえてくるのはリアム兄さんの声。

 

「どうしたの兄さん」

「ミリーにお客さん来てるみたいなんだけど、店まで降りてもらっていい?」

「ん、了解」

 

 行ってくるね、とセブルスにラブコールを送ると、無言でスーツケースを開いて飛び降りてしまった。塩対応もご褒美です!

 

「ねェミリー、ぼくそんなに男っぽくないかな」

 

 階段を降りて店まで行く途中リアム兄さんがぽつりと呟いた。

 ピーン、と閃く。

 

「当ててあげようか兄さん。私だと間違えられて『エミリー、髪切ったんだ、似合ってるね』とか言われたでしょ!」

「そんなもんじゃないよ。『おい出来損ない、パン作る暇があるならさっさと作業を進めないか』って思いっきり罵倒されたんだけど」

「まぁ兄さん顔は私そっくりだからね〜!」

「待ってその発言に謎は無いの?」

「私を知ってる人ならその評価って妥当だと思わない?」

「ミリー!?学校で何やらかしてるの!?」

 

 『やらかしてる』って選択肢が出てくる時点で兄さんも大体察してるんじゃない。

 私はパン屋コワルスキーへと続く扉を開いて店内に入った。

 

「はぁいお客様。どなた?って……」

 

 そこに居たのは黒いマントで身を包んだ男が2人店内で佇んでいた。

 他のお客さんは遠巻きに見ている。

 

 ヴォルティーグぅうう!

 

 

「Fuck you!」

「同じ顔が2つあるとか最悪だなエミリー・コワルスキー」

「その見るからに怪しいですアピールなんなの!?営業妨害も甚だしいわ!最低!もうこっちきて!もっとまともな格好出来ないの!?」

「な…ッ!貴様、俺様が誰だと」

「ただのOB!」

 

 イギリスには無い風習でビックリした覚えがあるんだけど、あの国あんまり母校とか愛さないんだね。

 母さんや父さんなんて生粋のアメリカ人だから母校の名前が彫ってある指輪持ってんだけど普通に。私もそれが普通だと思っていた。

 

 つまり私と同じ学び舎に通っていた人物だと知った周囲のアメリカ人は警戒心を解いた。

 

 同じ学校出身ってアメリカでは凄く尊ぶ事なんだぞ!心の距離が一気に縮まる魔法の言葉なんだぞ!常識よ!

 

「なんだいエミリー。お前どこの学校行ってんだ?」

「伯父様の勧めで彼の母校に。この見るからに悪い事してそうな格好してる人も同じ学校出身なのよ。勉強と国風教えてくれる約束してたけど……まだアメリカに慣れてないみたいなの」

 

 肩を竦めながらヤレヤレと言った様子で常連客の小父さんに軽い説明をする。私はヴォルちゃんとその連れを押して奥へとむりやり押し込んだ。おいとか講義の言葉が聞こえた気がするけど多分気のせいだわ。うんうん。

 

 バタン、と扉の閉まる音。

 

「──ごめんなさいMr.スミス、よかったら焼き立てのパン食べてね。ハァイ、元同級生さん、そろそろ減量しないと不味いわよ。そのお腹、パンみたい。あら?父さん?そんな縮こまってどうしたの?」

 

 一応店内のアフターケアをしていたら厨房でカチコチに固まったジェイコブ父さんが扉の方を見て呆然としていた。

 

「父さん?」

「……いや、やばいやつとの既視感が。俺のトラウマが……蘇る。あぁハニー……行かないでくれ……」

「一体何があったのよ父さん達親世代に」

「聞くな」

 

 呆れ果てた私は兄さんとバトンタッチをして客人の元へと向かった。

 

 

 

 

「それでヴォルちゃん、そちらの方は?」

「俺様の知り合いだ。魔法薬学に精通している」

 

 マントの下からギョロリと丸くした目で観察された。

 ふむふむ、警戒されてるわけね。

 

 

 私は素直な人間なので思ったことをすぐに口に出した。

 

「ヴォルちゃんの知り合いって可愛くない人しかいないの?ヴォルちゃんが可愛くないから?類が友を呼んじゃった?」

「不敬」

 

 頭を思いっきり叩かれた。馬鹿になったらどうしてくれるんだ。

 

 ギャンギャン騒ぎながら歩いていたからなのか私の部屋からセブルスが顔を出した。

 あっ、可愛いッッ。この世の果てで恋を唄う少年って感じがする可愛い。クリクリしたまだ幼い感じが残る顔付きが心臓を鷲掴みする。新手の殺害方法。

 

「闇の帝王すら使えないであろう見るだけで人を殺せる魔法……!」

「いつも通りだすまない」

 

 セブルスがヴォルちゃん達に向けて謝った。

 はわぁ、私の友人めっちゃ可愛い……。リリーとセットで一体いくら位出せば貰えるのだろうか。言い値で買う。ただし私の全財産で帰る程安いわけが無いので分割払いがきくとありがたいです。

 

「僕の部屋じゃないですけど、立ち話もなんですから中に」

 

 セブルスの勧めで全員が私の部屋に足を踏み入れる。ヴォルちゃんは狭いとブツブツ文句を垂れながらも私がセブルス用に出した座り心地のいい椅子に勝手に座った。蹴り落としてやろうかこの魔法オタク。

 

「セブルス・スネイプです。コイツの友人を不本意ながらしてます。貴方が、この馬鹿の協力者の……?」

「ヴォルティーグだ。こっちは魔法薬学に精通した学友だ」

「Mr.プリンス、と呼んでくれたまえ」

「「はい、Mr.プリンス」」

「よろしい」

 

 仲良く声を揃えるとMr.プリンスはヴォルちゃんを見た。

 無言の訴えに応える様にヴォルちゃんは首を1度縦に動かして厳かに言い放った。

 

「エミリー・コワルスキー、お茶」

「エミリーはお茶じゃないのでヴォルちゃんだけ出てきませーん!」

 

 Mr.プリンスは綺麗にずっこけた。

 

「このように、貴様が警戒する必要性も無いほど能天気な奴だ。むしろ警戒すればするだけ無駄だ。分かったな」

「……左様で」

 

 主語のないやり取り(主語自体はあるけど大概言葉を省く)ので良くわからなくて首を傾げるが、Mr.プリンスのちりちりとした警戒心がふと緩和されたのが分かった。

 

「それで、どこまで完成した」

「ははん、マグル出身舐めないでよね。マグルの医療関係を探ってワクチンとかからヒント貰ってた。ヴォルちゃんとか、というか魔法族全般杖でなんでも出来ちゃうからマグルの方が医療関係の技術がすごい」

 

 なんせ高いお金を払ってマグルの調合器具とか使ってやってましたから。と言っても、マグルの医療関係っていう伝手は夏休み入ってすぐのロンドンで手に入れたんだけど。

 うん、マグルの写真技術教えてくれた師匠の親って言うんだ。その伝手。

 

「何回か取り掛かってみたけど理論に片をつける前に君達が来たから」

 

 スーツケースを開けて作業室にご案内する。

 Mr.プリンスは若干戸惑っていたみたいだけど、貴重な魔法生物の材料が多くあるとしって心做しかワクワクしてるように見えた。

 

「しかし、マグルの医療機関か……」

 

「マグルが不可能な事を魔法使いが出来るんだから、魔法使いが不可能な事を出来る可能性があるじゃない?」

 

 それが今回人狼という感染症の治療薬作成の技術であっただけ。ヴォルちゃんはマグル差別激しいから多分Mr.プリンスも激しいと思うからフォローを入れてみる。

 

「マグルは魔法族と違って杖が使えない分、そこら辺は発展してますから」

「だよね。未だに魔法界不便なところあるもの、テレビとか映画とか」

「キッチン用品とかもだな」

「あと食事文化」

「「「それは国の未発達部分」」」

 

 あーー、マグルとか魔法界とかひっくるめて食事文化はダメダメなのね。うん、マグルだろうと食事は控えよう……。

 

「とりあえずヴォルちゃんとMr、これ見てちょうだい」

 

 作業台の引き出しに入れた書類を取り出して、2人に見せた。

 

「必要最低限の土台は出来たのよ!」

「僕がな」

「もちろんセブルスが!」

 

 自慢げにというよりめちゃくちゃ自慢しながら書類を眺める2人にドヤ顔をする。私のセブルス本当に可愛くって賢くって強くってすごいでしょう!

 

「そこから数種類作ってみたんだけど、とりあえず効果が分からないから理論を計算する作業に入る予定。……まあトリカブトの種類多すぎて膨大な作業になるから1年目安で」

「ふむ、これは失敗であるな」

 

 つらつらと説明を重ねていたらMrが1枚を燃やした。

 

「あーーっ!」

「まず飲み合わせが悪い。イギリスのメジャーなトリカブトと魔法生物素材は通常だとそこまで相性は悪くないのだが、魔法生物という生きた物には大変に相性が悪い。故に、ウィアウルフには毒になりすぎる」

 

「──セブルスの文字が!」

「悲しむところはそれでいいのかコワルスキー……」

 

 横でセブルスがめちゃくちゃなため息を吐くのだった。そのため息を肺いっぱいに取り込んだ私は燃えカスを瓶に詰める。

 勿体ない。セブルスの……あとついでに私の努力の結晶、無駄だとわかっているけど集めてしまう……。

 

「…………やばさが増したなエミリー・コワルスキー」

「そもそも、何故トリカブトが我がイギリス魔法界で狼殺しと言われていると思っているのだMs.コワルスキー?」

 

 顎を上げ、煽る様に首を傾げるMr.プリンス。

 ぐううう。

 

「わ、分からない……」

「でしょうな。流石は蛮族、まだ魔法界にて暮らし日が浅い。──にもかかわらず常識を持たない状況下で良くもまぁ無駄に設備及び素材を無駄にしましたな。紙が大変に勿体ない」

 

 い、言われてみれば……!

 言い返したくて対抗する言葉を探して視線をウロウロさせていると気分を良くしたのかMr.プリンスはにんまりとドヤ顔をした。

 

「はっ、腹立つ〜!」

「口を慎めグリフィンドール生。我が君の前であるぞ」

 

 

「……まあ無礼不敬は今更な話ではあるがな」

 

 去年の暑い夏(物理)を共に過ごしたヴォルちゃんは死んだ目で明後日の方向を眺めた。

 

「あぁ、そういえばルシウスが」

「美形過ぎて情操教育に悪いから子供が出来た時子供が可哀想に思えると私の中で話題のルシーが!?」

「そうだな、そのルシウスが「流すのですか……」今後関わるつもりはない、それはそうとして写真を送り合う様にしよう、と言っていた。俺様の前で、堂々と」

「はわわわわわ(わかったよありがとうヴォルちゃん)」

 

 語彙力の大半を乗せたトロッコが激しい音と衝撃を与えながら沼地に落ちて行った。さようなら心の中のトロッコ。

 貴方が壊れても私の中では永遠に生き続けるよ。私の中で壊したんだけど。沼の底で元気にね。沼の底は寂しいだろうから新たにいくつかそちらに送るよ。

 

「それよりMr.プリンス!貴方とてもすごい人なのですね!すごい、材料と量から反応と効果を暗算できる人なんて初めて見た……!」

 

 あーーーーーー(トロッコが沼に送られる音)

 

「私は魔法薬学に精通している。このくらい出来て当然だ」

「よ、よろしければ……僕にコツを教えて貰えませんか……?」

 

 上目遣いセブルスへっへっへっへっ可愛い無理だ私は今日この日命日とする。

 ハー、顔面の偏差値高すぎて家を失う。家を売り払ってでも貢ぎたい。こんなに私の好みに優しくって大丈夫なんですか?それで私の相棒とかもう私をどうするつもりなの…っ!

 

「手取り足取り腰取り私が教えてぇーーーーーー!」

「──セブルス、この変態を止めよ」

「褒めないでください図に乗ります」

「褒めてないが??????」

 

 

 変態だなんて照れる!




久しぶりです書けました。
Mr.プリンス(スネイプ先生のお爺さん)の資料を探していたんですけど見つからなかったのでスネイプ先生をモチーフにもう作ってしまいました。

一応親世代の学生時代はプロローグなのです。雰囲気と間柄は大分かけたのでプロローグ終わらせるためにも、4年生からは重要なところだけ書き連ねていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21.リーマス

 1974年10月31日。透き通る空に浮かぶ星を打ち消すほど明るく辺りを照らす満月の中。

 イタズラの祭典とも言える待ちに待ったこの日、にだ。

 

「あの研究好き共はどこに行ったんだよ」

 

 ジェームズ・ポッターは最高に不機嫌であった。

 

 イラつきを隠す様にミートパイを口に放り込むと、苦労して作ったイタズラの被害先をキョロキョロと探す。

 

 ホグワーツの毎年恒例行事。ハロウィン。

 普段厳しい先生方も今日この日は多少優しくなる。この合法的に悪戯が許される日に、悪戯をせずして誰が悪戯仕掛け人であろうか!

 

 ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックのコンビ、そしてセブルス・スネイプとエミリー・コワルスキーのコンビがトリックを競う姿は同学年から上の認識から最早イベントとして恒例行事となりつつあるのにも関わらず……。

 

「はぁーーーー、あの薄情者め」

 

 件の2人が姿を現さないのであった。

 

 不機嫌に頬を膨らませるジェームズの傍にはシリウス、そしてピーター・ペティグリューの姿があった。ただ、今日が満月な為リーマス・ルーピンはそばにいない。ハロウィンが終われば拙いながらも夏休み完成させたアニメーガスで動物に成り、そばに居ようと言う計画だった。

 

 余談だがリリー・エバンズはスキルアップになるからとアニメーガスを習得。逆に言えばアニメーガスを習得してないのはセブルスとエミリーだけ、ということになる。

 

「まぁまぁ、気分入れ替えようぜジェームズ」

 

 シリウスが宥めるようにそう言えば、ハムスターのように食べ物を頬張ってピーターが頷いた。

 

「大体リーマスもリーマスだよ。ただの帰省にあんな傷だらけになっちゃってさ。僕らが気付かないとでも思ったのかな」

「つったってお前気付いたの2年だろ」

「わっかりやっすい壁作ってさー。必要以上に関わろうとしなかったし」

 

 ブツブツとちり積もった愚痴とも言えない文句を口に出す。

 シリウスはやれやれと言いたげに肩を竦めてた。

 

「でもっ、ん、セブルスとミリーはどこ行っちゃったん……」

 

 ふと、食べ物を飲み込み口に出そうとした言葉が尻すぼみに消えていく。ロウソクの火が揺らいで消えるように。

 

「??」

「ピーター……?」

 

 視線が大広間の入口に向けられ固まった彼を不思議に思い、思わずシリウスがピーターの視線の先を向いた。

 

「えっ」

 

 ピキッ、とシリウスが釣られて固まってしまった。連鎖する様に綺麗に固まってしまった友人2人にジェームズは盛大に取り乱した。

 

「えっ、なになになになに、まってこわい。お前たちの視界の先に何があるの?僕振り向けないんだけど」

「………」

「何か言ってよォ!メデューサでもいるの!?」

「……マーリンのヒゲ」

「くっそーー!シリウス・ブラックの色欲魔ーーーッ!」

 

 覚悟を決めて振り返った。

 

 

 

 

「えっ」

 

 覚悟を決めていたジェームズすら体が固まる。なぜ、どうして。

 

 ここでもう一度言うならば、今夜はバリバリ満月であるということ。

 

 

 

 

「……──リーマス」

 

 3人の視界の端に、お姫様抱っこで登場したリーマスがいた。

 

 どっちに驚けばいいんだろう。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「無理無理無理無理無理!」

「いける、理論上はいけるんだ」

「理論上行けたとしても倫理的にアウトな匂いがするよお!」

 

 叫びの屋敷と噂されるボロボロの小屋の中で1人、月夜に心を奪われているリーマスの所へセブルスと一緒に突撃した。

 月め、許さん。リーマスの心を奪うとは何事だ。

 

 それにしてもセブルスの見るからに怪しい液体を無理矢理飲まそうとする様は脳内のネジぶっ飛んでて可愛いなぁ。

 

 私はゴブレットを2つ両手に携えてそう考えた。

 

「ねぇセブルス聞いてる!?えっ、ちょっ、目がヤバいって犯罪者みたいな目してるって!エミリー!助けて!」

 

 小屋の端で攻防を繰り広げる天使達。

 素晴らしく清い光景。この世に生まれて良かった。あぁ、天におわすマイゴッド。この天使はてめぇにはやらん。お前の物ではなく私の可愛い天使である。

 

「リーマス……。私とセブルス、3回一緒に夜を明かしたんだ」

「それ大分やばくない!?」

「安心しろ理論上は行ける」

「理論上の事しか言えないのッ!?」

 

 人間にはまだ早すぎるーーーッ!なんて可愛い事をいいながら首を横にブンブン振って拒否するリーマス、その可愛い首がとれそうよ。

 

 

 脱狼薬の完成。

 

 ──は、正直まだ出来てない。

 

 

 効果という意味でも辛うじて効くレベル。理論上は。

 これはウィアウルフの歴史の第1歩なのよ……!ゴブレット3杯分、各種それぞれ効果は違うけれど飲んだら間違いなく人狼化を抑えられるし、月を見ても平気!な!はず!理論上は!

 

 チャイナ産のトリカブトの茎を煮込んだ煮汁をアメリカ産のトリカブトの花にかけてトリカブトの毒性のバランス問題は解決させた。頭冴え薬からの参考。

 あとは生ける屍の水薬から狼の部分を眠らせる眠りに特化させた部分の効果を参考にして。催眠豆を14個にアスフォデルの球根を2個。変身薬の化ける成分から毒ツル蛇が脱皮した皮と、リーマスが体調万全の時の髪の毛に、──大本命の満月草。これは人狼化という意味でも材料的にピッタリだった。

 あと変身の効果を『反転』させるものだから、ポリジュース薬に使う不純を司る二角獣の角ではなく、純粋を司る一角獣の角の粉末を5本。

 

 これが今セブルスが持ってる脱狼薬のベースである材料だ。

 本当はフロバーワームという子の粘液で魔法薬を縮小させたかったんだけど拒否反応が激しく出るから原液のままで出してるけどまだまだ改良の余地あり。

 

 あとは拒否反応を抑える薬がひとつに体調を整える薬がひとつ。

 ゴブレットで。

 

「最悪3杯目は飲まなくていい。1杯目と2杯目は続けて即座に飲むんだ」

「あ゛ーーーーッッ待って待って待って待って!人類では克服出来ない前衛的な臭いがする!悪臭もこれの前では箒をぶん投げて逃げ出すから!」

「大丈夫だ今のお前は魔法生物だ」

「人類じゃなければいいってもんじゃないからァあぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁ!!」

 

 

 5分後

 

 

「ぅ゛ぇっ、ぉ、おぇ……」

「吐くなよ」

「ダークマターを通り越してブラックホールが僕の中に存在してると思ったら死ねる……」

「セブルスの子がリーマスの中に……!」

「エミリーそういう言い方やめ…ぅぇ……」

「悪阻か?」

「殴るよ」

 

 フォアグラされるガチョウの気持ちが分かった、と言いながら両手と膝を地面について唸ってるリーマス。生理的な涙がボロボロ出ている姿は宗教画でもおかしくない。

 レオナルド・ダ・ヴィンチを呼ぼう。ここにモナ・リザが可愛いねって言えるくらいの美がここにあるよ。

 

「即効性だろうから外出るぞ。もうハロウィンが始まってる時間だ」

「足に来てる……不味さって言うレベルじゃない鬼畜さが足に来てる……」

「任せて」

 

 私はそっとリーマスの体を持ち上げた。

 世間的に言うお姫様抱っこの体勢で。

 

「エミリー!写真を撮るぞ!」

「うっ、可愛い子を腕に抱えた状態でセブルスの満面の笑み+初の名前呼び……?ここが……天国……?」

「うぇ……吐きそう……」

「吐くなよ」

「吐かないでね」

「僕の友人は総じてクソです神様……」

 

 そしてついに満月を眺めることが出来たリーマスは言った。

 

「満月の衝撃を上回るくらいの不味さが感動を相殺してきた」

 

 

 

 

 暗転

 

 

 

「リーマスッ!」

 

 ジェームズが他の寮の机すら乗り越え慌てて駆け寄る。

 続いてシリウス。そして可愛いお姫様が続くが転びかけて、それをリリーがローブを引っ張ることで防いだ。

 

 ピーターとリリーの組み合わせとんでもないな。核爆弾?

 

「リーマスッ、リーマス!」

「あ、うん、リーマスだよ」

 

 目玉が飛び出そうなほど仰天したジェームズがリーマスに詰め寄る。私がお姫様抱っこしてるから衝撃が伝わって来た。

 

 うーん!エクセレント!この驚きっぷりは最高だね!

 

 意地でも落とさない様にしてたんだけどリーマスの降りたそうな気配を察してそっと地面に降臨させる。はわわ、天使だ。

 そういえばシリウスをプリンセスホールドした時はもう死ぬしかねぇって顔してたけどアイツ顔芸向いてるわよね。

 

「どうして、リーマスっ、体、体は、体調は!」

 

 地に降り立った天使に無作法にも肩を掴みジェームズが体を揺さぶる。

 

「平気……ではないけど大丈夫だよ」

「リーマス!」

 

 ジェームズを押し退け愛しのリーマスにシリウスが抱擁した。リーマスが幸せそうだからよし。

 

「あのさ、シリウス、僕ずっと」

 

 涙目でリーマスがにっこり笑う。

 

「ずっと君のこと苦手だった」

「今言うか???」

「だって君さ、諦め悪くて。必要以上に関わって欲しくないのに秘密を暴こうとするし。ジェームズはその点良かったよ。気付いても普通に過ごしてくれた」

 

 あぁ、分からんでもない。

 ジェームズは友情大好きマンで短絡的に見える。だけど、ここぞという時は誰よりも冷静になれる。悪戯仕掛け人のブレイン。

 対してシリウスは普段冷静ぶってるけど、実は誰よりも友情に熱い男だ。

 

 ジェームズ、覚悟決めると演技上手いしね。口からでまかせがどんどん飛び出る。

 

「わっかるぅ〜!シリウス、リーマスがいないとギャン泣きだったしね!」

 

 ゲラゲラ笑いながらジェームズがシリウスを指さした。何その情報面白すぎる。

 

 

「君たちと一緒に過ごした満月は、とても待ち遠しくて、すごくワクワクした。そんな気持ち、初めてだったんだ。ありがとう!」

 

 

 リーマスは誰よりも綺麗に笑った。いつもの貼り付けた様な、必要以上に人と距離を取ろうと自分を隠す笑みではなく。満面の笑みを。

 

「ところでジェームズ、吐きそう」

「えっ、ちょっと待って、ふく、袋!」

「吐くなよ」

「絶対吐かないでよね」

 

 吐いた瞬間セブルスが魔法で無理やり押し込む気満々だから。胃の中で直に魔法薬錬成する気満々だから。

 

「はー、やっと落ち着ける」

 

 横からポツリと強がりの言葉がこぼれる。

 

 眠気MAXのセブルスが吐き戻し対策で杖を取り出したままだったので、私も杖を取り出してコツンと杖をぶつけあった。ゴブレットで乾杯するように。

 

「悪戯完了、だね」

 

 キョトンとこちらを向いて視線を合わせた後、私の天使は幸せそうに笑みを深めた。

 

「ああ」

 

 ねぇセブルス、次は貴方の番だよ。

 

 

 

 セブルスは吐き気で言葉に出来ない悲鳴を上げるリーマスの背中を叩く。

 ただでさえ人類は克服できない理論上はいける前衛的な物体を飲んで吐き気が止まらない中だったんだから死ねるよね。

 リーマスは助かったと言わんばかりに私の背中に逃げ込んだ。私はどうやら今日で死ぬ様子です。燃え死ぬ。

 

 

「すっ、スネイプ」

 

 私の手を離れてセブルスはカエル野郎の元ににじり寄る。蛇に睨まれた蛙は数歩後退したが机のせいで立ち止まった。

 

「ジェームズ・ポッター」

「ハッ、はい!」

 

 覚悟を決めるようにセブルスはその解像度の高い綺麗なお手手を握りしめた。

 

 選手、手を大きく振りかぶる。

 

「歯を……──食いしばれッッ!」

 

 いったーーーーー!!!

 セブルス選手やりました!可愛い拳がジェームズ選手にクリーンヒット!筋肉増強剤が無事効いている様で何よりです!

 

「うわぁ……バキッていったぞ……」

「えぇぇぇえぇ……」

 

 ピーターとシリウスが思わずといった様子で私の傍に避難してきた。リリーはアラ、と驚いた様子で頬に手を当てているかっこよくて可愛いとか最強だと思うわリリー。

 私イケメン嫌いなんだけどリリーは大好きだからイケメンでも愛せる。というか愛さざるを得ない。全人類愛すに決まってるじゃない。国民総幸福量はイギリスがダントツで1位だわ。

 

「ッ、一体なんなんだお前は!めんどくさい男だな!お前のせいで右手は痛いし!」

「普通に理不尽!」

 

 思わずといった様子でセブルスが叫んだ。

 

 そりゃ、思いっきり殴ったからね。

 その上普段肉体的な運動をしないし1年の時箒の練習してる最中貧血で倒れるくらいには脆い体してるしね。

 

「ここ1年ほんとに大変だったんだぞこっちは!ずっと薬のことばかり考えているのにお前という男と来たら僕の手の届かない位置に荷物を移動させるし、読みかけの本の栞を10ページずらすし、服の口を縫い付けるし、悪戯と称したクソ魔法をぶつけてくるし、くそ爆弾で一体どれだけ悪臭に煩わしさを覚えたと思っているんだ!」

「魔法はぶっちゃけ実験も兼ねてた!人に洗浄魔法をかけると口から泡が出るなんて驚きだよ!」

「いつの間にスリザリンに侵入したのか知らないが僕の髪の毛を絡ませるし!寝不足だし!扉に小指ぶつける魔法をかけるし!そのせいで今日3回もぶつけたんだぞ!」

「待って事実無根の冤罪が続いてるんだけど」

 

 怒りで顔をりんごみたいに真っ赤っかにさせて拳を握りしめたままセブルスが叫び続ける。

 

 はーーあーー幸福量上がったよ。過剰供給で私は死の間際。ありがとう、おめでとう。

 

 

 セブルスはゴン、と大瓶に入った予備の脱狼薬を懐から取り出した。

 

「──これは脱狼薬、まだまだ改良の余地しかないがようやく第1歩が完成したんだ。この中にもちろんトリカブトが入っている。お前が言ってた薬は、これだ」

「脱狼……薬?」

「お前は本当にクソめんどくさくて感情の整理すら出来ないガキンチョでめんどくさくて寂しがり屋でプライド高くてめんどくさい男だが」

「僕これ貶されてるよね間違いなく喧嘩売ってる?言い値で買うよ」

 

 ボロッと耐えきれなかった涙がセブルスのひとを虜にする瞳から零れ落ちた。

 

 

「僕はお前と…………友達になりたいんだ…ッ、」

 

 わ゙だじじん゙ぜがい゙の゙がみ゙に゙な゙る゙!

 そのこぼれ落ちた世界で1番神聖な液体を私が保管するんだァ!

 

「エミリー・コワルスキー、表情がうるさい」

「派手な背景は黙ってて」

 

 私の感情を邪魔したシリウスの顔面を叩く。避けられた。チィッ!

 

「スネイプ……」

「僕は、お前たちといて楽しかったんだ。研究も好きだけど、バカみたいに騒いでるの、好きだったんだ……。お前が居ないのは、酷く寂しい」

 

 寝ぼけ眼で頭をゆらゆらと揺らしながらセブルスが訴えかけている。きゃわいい。セブルスの姿をかたどったこういう玩具を世界は作るべき。

 

 ……幼少期からセブルスの可愛さに触れて大丈夫かしら。人格崩壊しない?

 

「ぼ、僕も……スネイプと友達にな……」

「だがそれとこれとは話が別だ!お前はどうして短絡的な解決策しか生み出さないんだ!お前絶対スラムの政策は炊き出しとかしか考えられないタイプだよな!」

「君実はすごく眠たいな!?寝ろ!」

 

 ステューピファイ!と叫びながらジェームズが呪文を唱え魔法を放てばセブルスはスコンと気絶した。

 

「全く、めんどくさいのはどっちだよ……」

 

 肩で呼吸をしながら汗を拭うジェームズ。どっちもどっちだよ。

 

 ……まぁ。

 

 

 

 

「『リーマス』で『ルーピン』なんて誰が見ても人狼を連想するよね」

「「「「「「コワルスキーッ!」」」」」」

 

 タブーに触れたようで全校生徒一同から合唱が入った。私も眠たいんだ、察してよ。




リーマスはローマ建国神話のレムス(狼に育てられた)と同じ綴りある。
ルーピンも「狼のような」を意味するlupineと類似している。

いつもより地の文にキレがないのも爪が甘いのもコワルスキーがめちゃくちゃ眠たいからである。この後沢山睡眠した。という筆が上手く乗らなかった時の言い訳。
基本的にコワルスキー視点で進んで行くのでコワルスキー無しで起こるイベントは今現在は書くつもりはありません。回想として出したりラジバンダリします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22.プリンス

 

 ハロウィンから色々変わったことがある。

 

「うわっ、ジンロー」

「よォオオカミくん」

 

 もきゅもきゅとお肉を頬張り食事を取っていたリーマスが、グリフィンドール生の言葉にスンと表情を消した。

 

 脱狼薬の1件。実は人狼なんじゃね疑惑が根付いていたホグワーツに確信として情報が広まってしまった。3徹目の頭は思っていた以上に働かないことがよくわかったね。

 

 

「……やめてよ」

 

 リーマスが声を震わせてか細い声を上げる。

 

 

 

「──ミリーが興奮するからやめてよ!」

「いやほんとドンマイだよオオカミくん」

「ご愁傷さま……」

 

 リーマスが愛称で呼んでくれるという行為だけで私は死の間際なんだけど。

 困ったことに無自覚天使のリーマスは己の尊い姿に気付いてないみたいなので私は素直に両手を握りしめて祈った。一挙一動が散弾銃のそれ。

 リーマスは合法的な宗教。いやでも可愛さで言うと犯罪級。罪のエレクトリカルパレードなんだよね。

 

「ただでさえ可愛い可愛いと言われてるのになぁ……」

「エミリー・コワルスキー、魔法生物だいっすきだしな。それもケトルバーンがドン引きするほど」

「あのケトルバーンをドン引きさせるのはこの世でこいつしか居ないだろ」

 

 可愛い天使×魔法生物のリーマスは最高。私は脱狼薬、出来れば完全に魔法生物要素抜きたくないって思っているのよ。

 魔法生物の天使………いい……。

 

「スーツケースで肌身離さず……いい……」

「ルーピン、友人付き合いは少し考えた方がいいと思う。なぁに簡単だ。ほんの少し考えるだけで答えが出るからな!」

「今更僕が距離を離したところでどうにかなると思う?とりあえず君達も人狼してみる?」

「「勘弁してくれ!」」

 

 がお、と言いながら歯を見せたリーマス控えめに言えないくらい可愛いがすぎる!終身刑です!私の腕という名の監獄に閉じ込めておきたい……。

 

「それお前の腕の中がアズカバンだって言ってるようなもんだぞ」

 

 ボスリと私の頭に教科書が置かれた。しかもこれ頭ガジガジ噛んでるからモンスターブックオブモンスターだ。わざわざベルト外す辺り性格の悪さが滲み出ているわ。

 

「あらごきげんようシリウス」

「機嫌よく見えるならそいつァ節穴だな」

「……正直天使以外の他人の機嫌とかどうでもいい」

「そういうやつだよお前は」

 

 去っていった同級生の背中を眺めながら私は顎に手を置き、疑問を口に出した。

 

「これ、どういうこと?」

 

 私は今回の人狼バレ、多少なりとも反発があるとは思っていたんだけれど、蓋を開ければあらびっくり。嫌悪どころか同情の視線。

 彼らの言っている通り私は盛大に大興奮してるし隠す必要性も無くなったから思う存分愛を叫べているから助かるのだけど。私の愛と比例する毎に世界はリーマスに優しくなっている。

 

 もしかして私の愛が優しい世界を産んだ……?ゴットマザーとお呼び。

 

「ジェームズが」

「バレちゃったもんは仕方ない!ミリーに押し付けちゃおう!」

「…──だってよ。というか来てたのかジェームズ」

「僕の可愛い泣き虫ちゃんで遊んでたら面白い話が聞こえたからさ!」

 

 机の下からひょっこり顔を出したジェームズが汚ねぇウインクを飛ばした。核爆弾やめろ。

 

「ミリーの求愛行動は慣れればジャズの入ったただのBGM。ならばそれを逆手に取ればいい。君がギルガメッシュになるのさ!」

「うん、言い分はわかった。──セブルス!貴方の愛しのジェームズが折檻をお待ちよ!」

「ジェームズ・ポッターッッ!絶対その口を閉じなければエヴィルの餌にするぞッッッ!」

「勝手に引き合いに出される私のエヴィル。ええ、私はセブルスの味方ですとも」

 

 ご勘弁ーーーーーーー!と言いながら笑顔で逃げ去るジェームズ。

 そんな姿を見てセブルスは小さな可愛い舌打ちをした。

 

「よォスニベルス」

「ブラック……お前までポッター病に……」

 

 頭が痛いと言いたげに眉間を揉みながらため息を吐くセブルス。その疲れ果てた姿をシリウスはケラケラと笑っていた。

 

「スニベルスって?」

 

 リーマスが唇に指を添えながら不思議そうな顔をして意味を聞いた。すすり泣くを少し変えた言葉だとは思ったけど。

 

「コイツよく泣くからってジェームズがつけた愛称」

「それを愛称というなら僕はハニーパイレベルの愛を込めてコワルスキーを馬鹿と呼ぶ」

「きゃあ!罵って!」

「誰が罵るか。愛情故にだ馬鹿」

「絶対込めてないだろ……」

 

 地の果てまでセブルスを愛するとここに誓う。

 ひょえーーー!ラブアンドピースやー!

 

「そういえばコワルスキー」

「なに?」

「次の夏休みだけど、俺たち全員でアメリカ行ってもいいか?」

 

 ピシャーン。

 例えるなら雷が落ちてきた衝撃。シリウスの提案にわなわなと体が震える。

 

「…………つまり朝から晩まで天使たちに囲まれたハーレム状態?」

「え、なにそれ僕聞いてない」

「僕は次の夏も研究三昧だと思ったから行く気満々なんだが」

 

 私はガッと立ち上がってシリウスの手を掴んだ。

 

「今初めてシリウスを愛しいと感じた」

「ははは。グーチョキパー、好きなの選ばせてやるよ」

 

 発想が天才的すぎて世界はきっとシリウスにひれ伏すだろう。よっ、イギリス王朝!あんたが世界一!犬っころ!

 ……迷わずチョキが来た。

 

「目がああああああああぁぁ!」

「少ない労力で確実にダメージを与えるチョキを躊躇なく攻撃させる才能はピカイチだなコワルスキー」

 

「──ちょっと待ちなさい貴方達」

 

 涙で前が見えないけど、この鈴を転がした様な可憐で凛々しさという芯が感じられる声はリリー!あと気配的にピーターもいるね(確信)

 

「また。まー!たー!……私を仲間はずれにするんじゃないでしょうね」

 

 うわ可愛い。

 プンスコ拗ねた感じの声色。世界中がリリーを愛する。百合の花は平和の象徴だよ。この世に生まれてよかったと思わせる。幸福度が上がるぅ。うへへへ、滾ってくる!

 

 リリー・エバンズという存在は合法で健康的で元気になるお薬。

 

「ズルいわ。皆どんどん私を置いて仲良くなっちゃうんだから!」

 

 疎外感を感じて寂しくなっちゃって拗ねてるリリー。

 なんて私の瞳は今チョキで死んでるの?この瞬間を目に焼き付けないでどうするって言うの。1瞬1秒とて目を離せないこの貴重な場面をよりにもよって天使以下に邪魔されるだなんて……!

 

「──シリウス・ブラック許すまじ……」

「なんでそうなるんだよ!」

「コワルスキーの思考回路は直列かと思えば幾重にも別れる並列だから困る」

 

 セブルスの褒め言葉辞典でも作ろうかな!

 

 

 

 ==========

 

 

 

「俺様が来たぞエミリー・コワルス……」

「「「「いらっしゃーい!」」」」

「…………………………何故増えてる」

 

 ヴォルちゃんがギギギギとブリキの様な動きで私を見て、天使たちを指さした。

 

「私の学友よ」

「そんなに見ても僕にコワルスキーが止められると思わないでください」

 

 しれっと答えた可愛いセブルスの言葉を皮切りにグリフィンドール生はワッとヴォルちゃんに駆け寄った。

 

「あなたがミリーとセブルスの協力者ですよね!?あの脱狼薬はくっっっそ不味くて死んだかと思いましたけどお陰で人狼でも学校に馴染めました!」

「優秀な魔法の研究者って聞きました!あの、僕畑違いかもしれませんが魔法道具の試作を見てもらいたくて……!」

「進路相談に乗ってくれません?私マグル生まれだから魔法界の職業に詳しくなくて。先生方は極一般的な職種しか教えて下さらないの!」

「うちのミリーとスニベリーが世話になったね!あのミリーが懐いてる様子を見るに中々癖のある人物とお見受けするよ!」

「なァ、お前もしかして……!」

 

 

「ええい黙れ!エミリー・コワルスキー!この野生動物達の面倒は見ないか!」

 

 可愛い子達の戯れてる姿は最高に可愛い。可愛すぎて馬になっちゃうわ。

 真ん中のヴォルちゃんとジェシリは要らないけど。

 

 

 

 ヴォルちゃんの決死の叱咤で大人しくなった悪戯仕掛け人。何故か私とセブルスまでジャパニーズ自殺スタイルで座らされている。まあセブルスは薬草の選別をしながら、私は催眠豆を切り刻んでいる。

 この催眠豆切りにくい。ニンニク刻んでるみたい。

 

「それでエミリー・コワルスキー。最初の契約と違うようだが」

「へ?契約なんてしてたっけ?」

「お前の記憶力はガバなのか!?」

 

 ヴォルちゃんそんなに叫んだら喉怪我するよ。

 思い返して見るけど、私ヴォルちゃんと何かしらの契約したっけ……?一緒に美味しいもの食べた記憶しかないわ。

 

 ガシッと胸ぐらを掴まれた。ゴツンと額同士がぶつかる。頭突き痛い。私にも痛覚はあるわ。それとドアップのヴォルちゃんの顔面見ても別に嬉しくもなんともないのだけどを

 

「(夏休み期間だけ匿う、と!)」

 

 あァなんかそんなこと言ってたな。

 

「………。え、あれ!?今ヴォルちゃん口に出した!?」

「馬鹿者俺様が脳内に直接伝えたに決まっておるだろう!」

「決まらないですぅ!」

「あと俺様の顔を間近で見れることを光栄と思わんかこの馬鹿!」

 

 すっごいナチュラルに心読まれた。

 手に持ってたナイフでぶちゅっと催眠豆を潰してしまう。

 

 

「セブルス大発見!催眠豆ってニンニクみたいに面で潰した方が汁が出るわ!」

「……は?あ、ほんとだ」

「エミリー・コワルスキー!俺様と話しをしている最中に余所見を………………なるほど、これは確かに早いな。材料も無駄にならん」

 

 潰れた催眠豆を3人で覗く。

 Mr.プリンスがはぁとため息を吐いた気がした。私はセブルスの吐息に集中するので忙しいんです。息を吐くな。

 

「我が君」

「……そうだったな」

 

 ヴォルちゃんが顔に真剣さを取り戻して腕を組んだ。

 

「エミリー・コワルスキーと愉快な仲間よ。今年の夏の方針を発表せよ」

「代表のジェームズ・ポッターです!今年は脱狼薬の完成度の向上、それと卒業制作に向けての立案、それと同時にスニミリーのコンビと僕とシリウスのコンビのハロウィン対決の準備です!今年は負けない!」

「なんだその愉快な対決は……。それにしても貴様ら、ポッターとブラックか……。ブラックの倅がグリフィンドールに行ったとは聞いていたがまさかほんとに……」

 

 頭が痛いと言いたげに額を抑えるそばでグリフィンドールのかわい子ちゃん3人はハロウィン準備の最中自分たちは何をするかをニコニコ笑顔で話し合っていた。あそこだけ空気感が違う。

 

「ところでセブルス」

「え、はい」

 

 Mr.プリンスが口を開いた。

 

「貴様の母親の名前はアイリーンではないか」

「そうだよ!」

「何故お前が答えるコワルスキー……」

「アイリーンさんめちゃくちゃ綺麗だったから……!艶やかな色気があるってああいう人を言うんだろうな……。草臥れた感じが似合う人って中々居ないと思うの。ぷっくり膨れた唇から溢れ出るため息は」

「自分の母親を目の前で褒められる息子の気持ちを考えろ馬鹿」

「ほんとそれな」

 

 褒め称える言葉はセブルスの可愛い鳴き声で止められた。横から割り込むシリウスが分かってるぜみたいな顔で頷いている。

 

「アイリーン・プリンス。私の娘だ」

 

 時が止まった。

 そう、全ての。

 

 ヴォルちゃんだけは知っていたようで驚く私たちを見ている。プリンス。え、じゃあこの人はアイリーンさんの父親でセブルスの……。

 

 

 

 私はゆっくりと立ち上がり、わなわな震える手で指さした。

 

 

 

「──Mr.プリンスは美形じゃないのになんでッ!?」

 

 ヴォルちゃんの渾身の飛び蹴りは多分私くらいしか喰らわないんじゃないかと思いました。




原作でどうやってプリンス性だと分かったのか分からなかったので直接触れ合って分かった感じに仕立てあげました。
ここから時間軸はサクッと飛んで行ったりするかもしれないので読み返しながら待っててね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23.卒業制作

 

 

 夏休み。

 小屋から微笑ましい笑い声と汚ぇ笑い声が同時に聞こえる中、私とヴォルちゃんとシリウスで魔法生物に餌をやっていた。

 

「あ、ヴォルちゃんそこテボいるから」

「──ップロテゴ!」

「コワルスキー、テボって?新入り?」

「不可視化出来るイノシシ」

「そんな可愛い存在であってたまるか。獰猛種だ、MOM分類XXXXの、どちらかと言うとイボイノシシだろう。突進されればホグワーツのガーゴイルにクアッフル並の速度でぶつかる気持ちでいることだな」

「テボってよりテロじゃん」

 

 シリウスが慣れた様子で兎を放り投げていく。

 クルクルと喉を鳴らしながら私の可愛い魔法生物達は一口で食べて進めていた。

 

「あ、ヴォルちゃんそこマピーいるから」

「マピー……? ──うおっ!?」

 

 水辺から手を伸ばしたマピーがヴォルちゃんを水中に引きづり込んだ。

 

「対策出来ないから識別名じゃなくて種族名で忠告してやれよ。というかコワルスキー、お前水中系の魔法生物持ってたっけ?」

「去年来てくれたの」

「へぇ、このスーツケースさらに凶悪になるのか」

「私卒業したら家を買い取って全部拡張工事して魔法生物と暮らす予定よ。私、この前のクリスマス休暇でルサールカの情報を探しに行ったじゃない?」

「ルサールカが何か知らねぇけど突然抜け出したな」

「その時ブルガリアの小父様が、環境工事を生業とする魔法使いを紹介してくれたのよ。中々素晴らしい腕だったわ」

「どっから出てきたんだよブルガリアの小父様」

 

 東ローマ帝国の歴史を探りたくて向かったんだけど、やっぱり休暇届けも外出届けも出さずに抜け出した状態じゃまともな散策は出来なかった。魔法もまともに使えないし。でもその代わりにポートキーの繋がりを入手出来たのは1番の収穫! ポートキー、調べても出てこないし路線わからなかったんだよね!

 

「ブハッ! ……ぜぇ……ぜぇ……助けんかエミリー・コワルスキー……」

「あら、ヴォルちゃんなら平気だと思ったのだけれど」

「この俺様がマーピープル如きに敬意を表すとでも思ったのか……!」

「全く!」

 

 マーピープルのマピー。

 魔法省分類XXXXの水中人。ちなみにホグワーツの黒い湖の中にもマーピープルがいる。

 去年は時々マピーをスーツケースから出して黒い湖を自由に泳がせていた。

 

 ユニコーンやケンタウルスの様に敬意を持って接すれば基本的に害のない心優しい種族の子だ。知性が高いからね!

 

「ケルピーが見えた瞬間流石に息を忘れたぞ」

「水中だから息できるわけないじゃない」

「普通はな……!」

 

 ケルピーのケピー

 同じく魔法省分類XXXXの幻獣。色んな姿形をするけど基本的に海馬の姿をしている。次点で海蛇の姿かな。

 最近はえら昆布を食べて一緒に海中散歩を楽しむのがブーム。

 

 私は学生だから基本的に一種類一匹しか所持許可を持っていない。寂しい思いをさせてしまっているか心配だったけど、マピーもケピーも同じ水中族だしマーピープルは水魔を飼う特性があるから水魔であるケルピーとも相性がいい。とても仲良くしてくれている。

 はぁ……うちの子天才……可愛い。

 

 あ、マピーが顔だけひょっこり水面から出している。

 

「きゃああああああああああああッ!」

「うっっるさ! いきなり叫ぶな!」

「失礼な、マーミッシュ語よ。マーピープルと話すための言語。勉強したの」

「ほぉ、エミリー・コワルスキーは動物言語もできるのか」

「1部だけどね。マーミッシュ語は比較的やりやすいわ」

「きぃいいいっ!」

「えっ、ああああうううッ」

「きゅいいッ!」

「叫びあいにしか聞こえないけどな。マーピープルはなんて?」

「…………ヴォルちゃん最高にカッコイイねって」

「ブホッ」

「おい何故吹いたシリウス・ブラック」

「やめといた方がいいと強く勧めておいたわ」

 

 ヴォルちゃんはもしかしたらマーピープルの視界にはかっこよく映るのかもしれないけど、うちの子は嫁にやりません。

 マピーはいたずらっ子だからなぁ。

 

 ヴォルちゃんがなんてことない顔をして服を一瞬にして乾かした。

 実は実技得意のジェームズでも苦手とする衣類乾燥魔法。風化させないように乾かすのは非常に難しいらしい。ジェームズよりリリーの方が生活直結の魔法は得意なのかもしれないね。

 リリー、なんてったって優秀で綺麗で可愛くてカッコイイから。彼女最近影でなんて言われてると思う? グリフィンドールの騎士様だよ。野郎共を凌いで騎士様だよ。

 ちなみに姫はピーター。魔王はリーマスだ。

 

 ジェームズとシリウスは知らないけど、ジェームズはこの前同学年で行われるランキングバトルの『恋人にしたくないランキング』部門で4年連続1位を獲得した。私が4年連続2位であることを除けば大賛成するランキング結果だったわ。

 逆に今年の恋人にしたいランキングはハッフルパフのロージー・ベル(♀︎)だったよ。けっ、あのイケメンが!

 

「あ、あー。えっとMr」

「名を呼ばぬのであれば卿と呼べ」

「……卿。あんたは一体なんの目的が合ってコワルスキーとこうしてつるんでいるんだ?」

 

 ヴォルちゃんは数秒悩んだ素振りを見せた。

 シリウスの疑問はご最も。見るからに偉い立場についてるヴォルちゃんがホグワーツを卒業してない小娘の相手を毎年夏休みおはようからおやすみまでしてるんだよ。え、ロリコン?

 

「投資だな」

「とうし。」

 

 まともな理由に思わずオウム返しをしてしまった。

 

「シリウス・ブラックよ。そもそも、魔法生物学というものは学びこなす為にセンスが必要だ」

「センス……ッスか」

「魔法薬学も防衛学も変身学も、理論があるからこそ努力でどうとでもなる。ただ、魔法生物という不規則的な生き物を相手にする学に最も必要なものはその場その場を乗り切る為のセンスだ」

 

 ヴォルちゃんはパシンと肉付きの悪い手で私の頭を叩いた。

 

「コレは俺様が今まで見た中で最もセンスがある。その感性を研ぎ澄ます事を邪魔する『その他』を俺様直々に削ることによって、コレはますます魔法生物学の発展に手を貸すこととなるだろう」

「……なら、あんたがコワルスキーを囲えばいいじゃねぇか。ホグワーツから連れ出し、友をも殺し、その他を全て殺しちまえば」

 

 いやちょっとまちなさいシリウス・ブラック。

 なんで物騒な発想をさ、明らかに実行しそうなヴォルちゃんに勧めるわけ? 遠回しの自殺願望?

 

 ヴォルちゃんの口からでなくお前の口からそんな発想が出たことが何よりも驚きなんだけど。

 

「今は──その必要はあるまい」

「……。」

「不服そうだなシリウス・ブラック。ブラック家の異端児よ。良いだろう、俺様は気分がいい。分かりやすい解答をくれてやる」

 

 ヴォルちゃんは目を細めた。

 

一個人(ヴォルティーグ)はこの半純血を気に入っているのだ。ブラック、お前の知る闇の帝王(おれさま)は純血以外要らんがな」

 

 純血主義(確信に近い予想)のヴォルちゃんの口から零れ出た褒美の言葉は、血統ではなく個人を優先してくれた事実だった。

 シリウスの頬が引き攣る。

 

 うーん。

 

「コワルスキー、俺たちズッ友でいような」

「──正直ヴォルちゃんに評価されても好みじゃないからわりとどうでも」

「コワルスキーと縁切るわ」

 

 そういうやつだよお前は。というため息が前と横から同時に聞こえた気がしたけど多分気の所為だと思う。手のひらの返し方が早すぎて最早ドリル並。

 そんなことより小屋の中でどうしましょうって呟いたリリーの声が聞こえた気がするからそちらを優先したい今すぐ愛の狩人が向かいます。そう、私がね!

 

「そういえばヴォルちゃん」

「……なんだエミリー・コワルスキー」

「私、将来ヴォルちゃんの為に働くつもりないよ?」

「おいバカやめろ!」

 

「…………お前が純血であったとする。金を積まれてもこちらから願い下げるわ愚か者め」

 

 他人に頭下げそうもないヴォルちゃんが頭下げる勢いで要らない不良品はこちらでーす! 行け、オカミー! そのハゲ絞めるんだ! 無言で首を横に振らないでください。

 

 口を塞ぎかけ、そのまま停止したシリウスの手をサッと払う。何ヴォルちゃんと見つめあってるのよ。仲良くしたいの? 仕方ないな、付き合いの長い私が一皮脱いであげようじゃない。ハー、やれやれ。(建前)

 

「んじゃ二人で話してていいよ。私戻るから」

「おい待てコワルスキー。俺とお前はズッ友だろ? 置いてくな」

「ねぇ情緒安定してくれない???? リリーが困って私に頼りたい気配を察知したから戻りたいんだけど(本音)」

「適当ぶっこいて逃げ出そうとすんな馬鹿」

 

 私がリリーを言い訳に使うわけないじゃないぶん殴るよ。

 ひっつき虫のモノマネに挑戦するシリウスを引きずりながら小屋の中に向かう。

 

 そういえば卒業制作、皆は何をするんだろうか。

 ホグワーツに卒業制作なんてものは無いけど、折角様々な分野の優秀生徒が揃いまくった悪戯仕掛け人だ。あっと驚く様な卒業制作を作ってみたい。

 

 バン! と気持ち的には思いっきり開けたいけど振動で魔法薬だったり食器だったりが雪崩起こしたらたまらないのでそっと開く。

 

「リリー! 呼んだ!?」

 

「え、うそ、呼んだわ」

「……Ms.コワルスキーは人間に擬態した魔法生物なのか?」

「コワルスキーはコワルスキーって言う新種の生物なんだと思います」

 

 小屋の中組と外組はもれなく同時にドン引きしていた。

 ホントに漏れがなくて笑えない。いや、普通分かるでしょ。うちのリアム兄さんとかそれ。

 

「リアム兄さんのココア飲みたいな」

「いきなりどうした???」

 

 ──バンッ!

 

「ミリーッ、呼んだかい!?」

「兄さんここには倒れたら不味い物沢山あるから勢いよく開けないで」

「ごめんね! ココアすぐ持ってくるよ!」

 

 別にココアは要らないかな。

 

「えっ、要らないならなんで呼んだの……?」

 

 スーツケースに顔を突っ込む形で天井から息を切らして顔を覗かせたリアム兄さんを指さして無言で私の親友達に訴える。

 これがコワルスキークオリティだよ。ちなみに心の中で思ってても大体バレるよ。これを普通と言わずしてなんて言うの? 変態? 褒め言葉だね!

 

「ところでリリーの困っていることって?」

「え、ミリー待って僕は無視なの? 兄さん仕事ほっぽり出して駆けつけたんだけど」

「(この兄にしてこのコワルスキーか。つーかスーツケース置いてる部屋ならともかく下のパン屋からどうやって聞こえたんだよ)」

「シリウス、顔に全部書いてある。うるさい」

「えっと、卒業制作で何をするか迷っていたんだけど……。コワルスキー家の神秘にしようかしら」

「密着取材なら万事大歓迎ッ!!」

「ミリーが兄さんを無視する……悲しい……イオ嬢と付き合うことになったの教えてあげないから……」

「──ッッ!?!??!??」

 

 突然の爆弾に首がひねり飛びそうな程の勢いで兄さんを見上げる。

 え、イオ嬢って兄さんの同級生でご近所にすむイオ嬢だよね!? あの! 黒髪めちゃくちゃ強め美人の! お父上のマリウスさんがイケメンだったから娘のイオ嬢も親に似てイケメン寄りの美人になったあの! 嘘でしょ!? アメリカ中が敬う高嶺の花じゃない! なんで兄さんと!?

 

 兄さんは私の驚きを察したのかそのお綺麗な顔面をドヤ顔に染め上げてバタンとスーツケースの蓋を閉じて仕事に戻って行った。

 

 ……今夜問い詰めよう。

 

「それで皆は卒業制作、何をするの?」

 

 リリーが可愛らしくコテンと首を傾げた。心臓と諸々鷲掴みにされて多分内臓全部持ってかれたわ。この仕草、可愛い子にしか許されない行為。ジェームズがやったらぶん殴ってるから。訂正、ぶん殴ったから。

 

「僕は脱狼薬の完成を。正直仮完成の状態から完成に持っていくには根本から組み立て直さなければならないかもしれない。間に合わない可能性もある。が、そう思うと……──ワクワクする」

 

 にんまりと小悪魔みたいな表情でセブルスが笑うから私は軽率に死んだ。来世でも会いましょうね。仲良くしてね。

 

「間に合わないといえば僕もかも。流石に秘匿して1人で出来ると思えないからぶっちゃけちゃうんだけど、賢者の石を作りたいなって」

 

 えへへー、とかんっっわいい口から溢れ出たのは魔法界出身の可愛くない純血野郎ども4人がピッタリと同じタイミングで固まる程衝撃的なワードだった。ヴォルちゃんの家名を知らないから憶測だけど、純血主義っぽいし多分彼も純血。

 

「……ピーター、それは流石に、生涯目標じゃないかな?」

「未知の状況から作るなら兎も角、この魔法界において賢者の石は前例があるんだから欠片でも入手出来たらきっと大丈夫だよ!」

「…………俺様も全面協力しよう。興味がある」

 

 賢者の石ってなんぞや。

 そう思っていたけどヴォルちゃんが乗り気なので多分脱狼薬並に大事な物なんだろうな。いやヴォルちゃんが乗り気だろうが乗り気じゃなかろうが愛しのピーターの事だ、私は手伝うに決まってるけど。

 

「僕は……そうだね。地図を作りたいな。ホグワーツの地図。抜け道とか書いた秘密の地図」

 

 にっこり笑ってリーマスが素敵な提案をする。

 ホグワーツ出身生なら抜け道の一つや二つ皆知っているだろうからそれを集めるだけでもかなりの情報量だ。ジェームズが嬉しそうな顔をした。ワクワクしてますみたいな表情している。子供みたい。

 

「いいね! 後世で僕たちの様なイカした生徒に引き継いでいこうよ!」

「イカしたっていうかイカれた生徒だろ」

「なぁにスニベリー。悪戯仕掛け人といえば僕らグリフィンドールの男4人が出てくることに嫉妬してるのかい?『え、お前って悪戯仕掛け人(マローダーズ)だったの?』ってベンジー・フェンウィックに言われたのまだ気にしてるの?」

「僕はお前たちみたいにいつでもかつでもバカスカ悪戯を小出しにして驚きの質を下げたくないからな」

「ふぅん、気にしてるんだ」

「同じマローダーズのリリーとコワルスキーも僕派だ。そっちこそ嫉妬してるんじゃないのか? すまないな、綺麗所を両手に持ち合わせてしまって。お前みたいな雑草は持てないんだ」

 

 死因:セブルス。

 私はこの尊さに膝から崩れ落ちすぎて一体何度膝を痛めつけたらいいのだろうその痛みですら私の生きるこの世界が現実だと教えてくれるありがとう世界ありがとう宇宙。この星、この世界、この時代、この運命にどうもありがとう。

 

「シリウスは?」

「あー。俺は……」

 

 シリウスがチラッとヴォルちゃんに視線を向けたあと観念した様な顔で口を開いた。

 

「……闇の魔術を、研究しようかなって」

「え!?シリウスが!?陰険スニベリーじゃなくて!?」

「お前は一々僕に喧嘩売らないと気が済まないのか。殴るぞ、コワルスキーが」

「行きます」

「「来るな!」」

 

 魂の双子はシンクロした動きで私の握り拳から距離を取った。私は魔法生物と日頃から触れ合っているから、筋力及び体力には自信あるよ。なんと体脂肪率は15%を切ってるの!

 

「いや、ほら。純血一族ってどうやっても闇の魔術に惹かれるところあるじゃん。もしかしたら純血と闇の魔術には密接な関係があんのかなって。敵を知り己を知れば百戦危うから……あーえっと。敵じゃなくて……。──ま!そういうことだ!ジェームズはどうするんだよ」

「えぇー……。まぁ、僕はまだ決まってないけど。杖無しか無言呪文出来るようになりたいよね。ミリーは杖あっても使えないけど」

「ジェームズは息吐く度に喧嘩売らないと気が済まないの?吸うよ、エヴィルが」

「ごめんそれはほんとに勘弁して」

 

 エヴィルに人間の脳みそは食べさせてないから味は知らないけど、脳みそが美味しいことは知っているよ。

 私のテリトリーで私に勝てると思うなよジェームズ・ポッター。明らかに過激なヴォルちゃんでさえ大人しくしているんだから。

 

「エミリー・コワルスキーは決まっているのか」

 

 心を読まれたのかと思うほどタイミング良く睨まれたので、私は元気よく答えた。

 

「内緒っ!」

 

 もう決まっているのだけどね。魔法生物学者界のエキスパートである私なら1人でもやれそうだし、多分私が出来なきゃ皆出来ない様な内容だから。

 

「どーせドラゴンブリーダーの資格でも取るんだろ」

「それはまぁするけど」

「するのか」

 

 ただドラゴンは目くらましの呪文を使えないと資格貰えないから呪文の代わりになる魔法薬の開発を進めなきゃならない。ここはセブルスに手伝ってもらう所存。

 

 あ、ヴォルちゃんには言ってもいいかも。

 多分興味ないだろうし、もしかしたら年の功でいい方法知っているかもしれない。

 

 視線を向けると私の気持ちに気付いたのか目があう。それと同時にため息を吐かれた。泣くよ。ヴォルちゃんは好みじゃないから悲しくないけど。

 

「で、何をするつもりなのだ」

 

 ヴォルちゃんが体を傾けて耳を私に近付ける。

 視界の端でシリウスがナイナイナイナイと首を横に振って現実逃避しているのが気になったけど、私は普通に口を近付けた。

 

「──ピーブズの使い魔計画、とか?」

 

 ピーブズ。誰の味方でもないトリックスター。ゴーストと似て非なる存在であり、魔法生物とも似て非なる存在。

 そんな彼を魔法生物の分類に当てはめてしまいたい。誰にでも迷惑をかけるポルターガイストではなく、誰でも迷惑をかける守護霊として。スーツケースの仲間たちのように。

 

 私がそこまで考えていると顔面をベシリと叩かれた。痛いわ。

 

「やめておけエミリー・コワルスキー」

 

 苦虫を噛み潰したような顔でヴォルちゃんが吐き出した。

 

 おや?

 おやや?

 

「ヴォルちゃんもしかして……──苦手?」

 

 

 

 チョークスリーパーはダメだって!!!!

 




シリウスはヴォルちゃんが何者か気付いている様子です。うーん、誰なんだろうなー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24.スパイラルホーン

 

「僕がグリフィンドールの監督生じゃないのおかしくない!?」

 

 ジェームズが騒ぎ始める1975年の9月。そう、私たちはついに5学年となり、それぞれの寮から監督生が選び出された。

 

 グリフィンドールの監督生に選ばれたとても素敵で可憐で美しくて可愛くて天使な2人。リーマス・ルーピンとリリー・エバンズが監督生の講習を受けて帰ってきたところ、机の上で無様に咽び泣いてるジェームズを見て苦笑いを浮かべた。ただし苦々しいのはリリーとリーマスのリーコンビだけで、私にとってはパン一斤丸々は秒でいける程の幸福感を与えてくれる合法的な甘い笑みだった。

 

「僕!これでもこの学年の学期末テスト4年連続1位なんだけど!」

「チッッッッ」

「スニベリー舌打ちが大きいよ!」

 

 年々表情の作り方がガラ悪くなってるセブルスもそれはそれで素敵だと思う。

 というかセブルスに素敵じゃない瞬間なんてあると思う?ないよ。

 

「寮を管理し、学生の質を高めるのが監督生の仕事。──貴方には無理よ」

「ぐすん……じゃあ監督生は諦めるからエバンズ付き合って……」

「嫌よ」

 

 速攻告白して速攻でフラれたジェームズ。

 これ今年度入ったばかりだけどもう5回目だということをここに記しておくわ。

 

「そういえばコワルスキー!」

「なーにー!そこのハッフルパフー!」

 

 クレスウェルだってば。なんて言いながらたまたま出会って挨拶するような気楽な態度で寄ってくる。

 

「やあこんにちはリリー」

「こんにちはダーク」

「それでコワルスキー、キミってオーグリーって飼ってる?君がオーグリーと一緒に居たの見たんだけど」

「オーグリーは居ないわ。恐らくあなたが見たのは去年丁度卒業したレイヴンクローのクレイ・アストロノフって可愛いそばかすの女性のペットね」

 

 ペットにオーグリーを選ぶとは趣味がいいな、ってことでナンパしたんだったっけ。

 オーグリーは雨の日の前にグッグッと唸るように鳴くの。別名天気予報鳥。私が今付けたんだけど。魔法省分類はXXだから結構飼いやすい種族ね。

 

「アストロノフっつーとブルガリアの純血か……ん?お前が前言ってたブルガリアの小父様って」

 

 クレイ・アストロノフ。

 綺麗というより可愛い人で、ずっと話しかけたいと思ってたんだ。彼女、控えめな性格してるから私からがっつくと心労かけちゃう。魔法生物が口実だったけど、私にしては穏やかな距離の詰め方してたわ。ふふ、計画通り……!

 

「それでオーグリーがどうしたの?」

「ペットにいいなって思ってさ。アドバイス貰おうと思ったけどキミが飼ってないならいいや」

「英断ね、知識でしかない私より飼ってる人に聞いた方が確実だわ」

 

 そう言ってハッフルパフ生は消えていった。彼、親マグル派だったっけ。4年生という年齢を考えるとペットを飼うにはかなり遅めだけどアレは確実にオーグリーにベタ惚れする流れね。エミリー知ってる。

 

 するとさっきまで項垂れていたジェームズが絡んで来た。

 

「キミ偏差値違うレイヴンクローと会話出来るの?」

「それはちょっと偏見が過ぎない?レイヴンクローは勉強熱心だけど頭がいい人特有の常識乖離は起こってないわ」

「あ、ごめん。偏見してるのはレイヴンクローじゃなくてキミ。感情直結型のホグワーツの誇る変態的なキミが、理論的で理性的なレイヴンクローとまともに会話出来るとでも思ってるの?」

「友情デリートも辞さない」

 

 はァ、とため息を吐き出す。こいつしばき倒してしまおうかしら。

 頬に手を当てて肘をついていると、この夏休みでげっそりと疲れ果ててしまったシリウスが私をマジマジと見ていた。

 

「顔がいいな」

「呼吸が出来るよね、と同然のことを言われても」

殴りたい(なぐりたい)

 

 今二重で声が聞こえた気がした。多分気のせいだけど。

 というか今更なんだろうか。この顔と付き合わせてもう4年以上の年月が経っているのだけど。おだてようったってそうはいかない。ごく当たり前の事を言われても私の心は揺れ動かな……。

 

「いや、俺さ。今度のクリスマス、実家でパーティが行われるんだけど。パートナーが居なくて」

「行く」

 

 震度5レベルで揺れた。

 

 パートナーの……お誘いだね……!

 実家ってことはブラック家の美形(シリウス除く)の綺麗に着飾った姿が隅から隅まで見えるってことだよね!最高じゃない!

 リリーはセブルスとあとついでにジェームズがお熱だから誘うのはばかられるしね!愛してるわシリウス、今だけ!

 

「いやでも肝心の学生は上も下もコワルスキーの奇行を知ってるしな……。女避けにはなんねぇんだよな……」

「愛すの辞める」

 

 今日はグリフィンドール席で戯れていたが、セブルスもいるということでスリザリン生は時々挨拶みたいに寄ってくる。

 そんな中美しくて可愛くて天使なスリザリン生のレギュラスがやってきた。

 

「よ、レギュ」

「……はァ。兄さん。一応忘れてそうなのでいっておきますけど、コワルスキーはブラック家出禁ですよ」

「あ、そういやそうだったな」

 

 お前何やったの、ってそこら中からツッコミが飛んで来る。

 

 むしろ私自身が知らなかったんだけどブラック家出禁になってるの?え、突撃してもいい?シリウスくーん遊びましょー!ってクリスマスに仕掛けに行っていい?だって私悪戯仕掛け人だもんね!

 

「うん、仕方ないよね」

「なァお前何を考えた?ホントに諦めたか?????」

 

 仕方ない、まともな悪戯を仕掛けなければ、悪戯仕掛け人の名が泣くもの。ウンウン仕方ない。悪戯仕掛け人の実行犯と名高いシリウス・ブラックに負けない様にしなければ。そのついでにレギュラスのパーティ服とか、Mr.オリオンの着飾った姿とかMrs.ヴァルブルガのドレスとか見ちゃっても仕方ないと思うんだ。

 そういえばマルフォイ家のルシウス・マルフォイ、ルシーに嫁いだシシーことナルシッサ・マルフォイ。彼女も麗しのブラック家出身。ブラック家、分家であろうとレベル高ぇ……。シシーには姉が2人いるって聞いてるし1度会ってみたいものだ。パーティに来ないかな。

 

 ブラック家は本家も分家もほぼほぼ艶やかで潤いが朝露を想起させる黒髪に不死鳥が永遠と次なる生を望む力強い灰の様な瞳を持っている。シリウス除く。

 一見すると冬を思い出す色合いだけど、心のうちは『流石古きより王者として君臨するブラック家よ!』って讃えたくなるほど燃え盛っている。シリウス除く。

 はァ、この魅力で魔法界を牛耳ってきたのね。シリウスは次のブラック家の当主候補らしいけど、絶対レギュラスの方が向いてると思う。

 

 ほら、今だってレギュラスは姿勢をピンと張り顎を引いて冷静に物事を見ているじゃない。美しい。宗教画かな?

 うん、麗しの王子様って感じ。好き。愛してる。らぶゆー。

 

「俺の声聞いてねぇなコイツ……。スネイプ、呼んでくれ」

「後で羊皮紙奢れ。──エミリー」

「くぁwせdrftgyふじこlp(なぁにセブルス)」

「なんて?????」

 

 今セブルスなんて言った!?エミリーって呼んだよね!質問しなくてもわかるし永遠と覚えておけるしセブルスの声を吹き込んだ目覚まし時計が欲しい。鳴る前に起きてフルで聞いたあと永眠出来る。

 目覚まし時計の意味がないって?お間抜けさん、意味がなくても存在するだけで意味になるのよ……!

 

「シリウス・ブラック殿がお呼びだぞ」

「…………テメェかよ(なぁにシリウス)」

「お前天文台からもう1回ダイブしたいのか?」

 

 遠回しの殺害(アバダ)予告。遠回しにしすぎてたどり着く頃には緑から拳に変わっているだろう。淑女に躊躇なくグーパンするお前が英国紳士であってたまるか。

 こいつが恋人にしたいランキング4年連続2位なのは全く納得いかない。

 

「……お前さ、母親の旧姓ゴールドスタインだったよな」

「うん」

「レギュ、どう思う」

「彼女が無口でいる限りどうとでもなります」

「無理か」

「無理ですね」

 

 始まる前に終わった気がする。

 

「まあ、コワルスキーは純血以前の問題だからな………」

「兄さん、諦めてください。母さんがカンカンに喚き散らしますから」

「ああ……。父さんならまだしも母さんへの印象悪くするのはな……」

 

 Mrs.ヴァルブルガの印象をシリウスが気にしてる?

 ようやく魅力に気付いたの?分かる、親子であろうと最高に膝まづいて靴先にキスしたいよね。

 随分遅い気付きです事。何年かかってるの?もうすぐ16ね──スパンッッッッ!痛ったぁ!?

 

「あ、わり、手加減しちまったかも」

「普通叩いたこと謝らない!?シリウスの遠慮ってどこにあるの!?」

「そこにねェならねェな」

 

 ならないね──!

 バレー選手もびっくりのスパイクを頭に打ち込まれて思わず頭を抱える。これ以上馬鹿になったらどうしてくれるのよ!

 

「お、れ、は!純血一族を統べるブラック本家の当主になるんだよ!純血主義のヤツらのトップに!」

「頑張ってね」

「おう頑張るわ。──ってそうじゃねぇよ俺の求めてる返事は。俺が純血主義なんて最高に素晴らしい思想と思ってんのは知ってるだろ」

「最高よね」

「……オイこのクソアメリカ人。文面をそのままの意味で捉えるんじゃねェよ」

 

 私、ルシーと同じく純血主義だけど。

 純血って最高よね。古くからある近親結婚で顔のいい人ばかりが遺伝で生まれる純血。

 もちろんマグル出身に顔がいい族が生まれるのと同じように、シリウスやジェームズやノットやエイブリーやマルシベールみたいな例外はあるけどそれを差し引いても純血主義になる理由がある。純血最高!

 

 どうして純血なのに顔が微妙な純血が生まれてくるんだろうか。リアム兄さんみたいなスクイブポジションなのだろうか。それとも世界の均等を図るため?

 うんうん、綺麗ばかりじゃ疲れるものね。

 高級フレンチばかりじゃなくてジャンクフードも時々食べたいものだわ。

 

「──力がなけりゃ声は魔法界に伝わらねぇ。俺は純血のブラック家として純血主義なんて時代錯誤なふざけた思想をぶち壊すんだよ」

「ふぅん」

「興味を無くすな」

 

 2年の時くらいから知ってるけどな、私。

 1年の終わりにどうにかしてくれと頼み込んだのはシリウスだよ。

 

「ところでエミリー、例のストーカーどうなったの」

「「ストーカー!?」」

 

 ギョッとした顔でグリフィンドール男子から見られた。もくもくと魔道具工作をしながらサンドウィッチ(カロリー補給)を食べていた可愛い可愛い幼女……ごほん、ピーターでさえもその手が止まっている。

 もっちもちのほっぺたつつく為には一体幾ら払えばいいんだろう。お金で解決しようとしない、ピーターはお金如きで買えるほど安くないわ。はい。

 

「ホグワーツに生徒と教師以外が入り込んでるのかい…?」

「すぐそういう発想になるの良くないと思うわ5年連続目指してるの?」

「僕は1人にモテたいだけだからね!(負け惜しみ)」

「ハイハイガーゴイルの背え比べ」

「「黙れロージー・ベルに負けた男が!」」

「ここまで綺麗なブーメラン初めて見たわ」

 

 シリウスが勝ち誇った顔で鼻を鳴らす。むきー!腹立つ!お前なんか顔面と家柄だけの男の癖に!

 

「そ、それでミリーがストーカーって!?」

「最近部屋に居るとエミリー宛に小包が届くのよ」

「あぁ、何故か僕のところにも何度か届いたな」

 

 リリーの言葉にセブルスが反応をしめす。

 

 中身が……。と2人は声を揃えた。

 

「ハートに削られた小石」

「ハートが割れた小石」

「「ん?」」

 

 リリーの内容とセブルスの内容が違った。

 私は苦笑いしか浮かべることができない。ジェームズとシリウスなんてめちゃくちゃ引き攣り笑いを浮かべている。

 

「セブルス・スネイプ」

「な、なんだ」

「……お前そのストーカー野郎に恋敵として見られてるぞ」

 

 シリウスがズバッと言い放った。

 意味のわからないと言いたげな顔をしたセブルスがいるだけで今日も世界は回っている。

 

「僕はコワルスキーと付き合ってないが?え、というかこの暴虐の限りを尽くす傍迷惑浮気性のとんでも馬鹿と誰が付き合うと言うんだ」

 

 そんな心底不思議みたいな顔しなくても……。ちょっと心が傷付いた。ときめくけど。

 

「今年はO.W.L試験試験があるから早めに解決しろよ」

「O.W.L試験?」

「Ordinary Wizarding Levels(普通魔法レベル試験)の頭文字を取ってO.W.L。通称ふくろう。コワルスキー、お前が魔法生物メインでやるならふくろうで魔法生物学で『(E)』以上は取っとかなきゃ7学年のいもりに影響するぞ」

「それ、いつ」

「今年の学期末に2週間」

「じっ、実技は」

「あるに決まってんだろ馬鹿」

 

 あっっかーーーーーーん!

 ダメだダメだダメだ。

 

 先生達に『私ってスクイブなんですか!?』って聞き回っても優しい瞳で肩を叩かれるくらいには壊滅的なのに……!

 

「──決めた!」

 

 突然項垂れていたジェームズが勢いよく顔をあげた。

 

「何を?」

 

 リーマスがジェームズの視線に合わせて腰を屈めるなんて必殺的な可愛さを持つ行為に、ジェームズは気付かず指をシリウスに向けた。

 

「シリウス、キミはパッドフッド」

「ん?」

「ピーターはワームテールで、リーマスがムーニー!」

「ジェームズの思考回路ってどうなってんの?」

「ミリー、キミのその発言そっくりそのままふくろう便で返したいよ」

 

 ジェームズはとんでもなくウザイ顔でチッチッチッと指を左右に振る。ぶちおるよ。

 

「渾名だよ。我ら悪戯仕掛け人のね!」

「へぇ」

 

 苦笑いのリーマス可愛いなぁ。

 

「てか、『足の肉球』に『ミミズのしっぽ』に『月』?」

 

「……ふぅん、じゃあジェームズはプロングズだな」

「いいねぇパッドフッド。『枝分かれ』か」

「ピッタリだろプロングズ」

「エバンズは『アイ』にしよう!『瞳』だよ。ピッタリだと思うんだ!」

 

 ジェームズとシリウスがそう続けるが、リーマスなら兎も角ピーターのあだ名の由来が分からない。

 

「どういうこと?」

「キミには内緒」

「私卒業したら本を書くの。ジェームズ・ポッターに学ぶ一生独身貴族を貫く方法って本」

「暖を取るのに丁度良さそう」

「ありがとう」

 

 ジェームズ本人からのお褒めの言葉に私はカテーシーで光栄だと言わんばかりのポーズを取った。

 

「ええい腹立つな!ピーター!ミリーの守護霊調べちゃってよ!」

「任せてね、てれれってってってー!守護霊の鏡〜!」

 

 手鏡を持って掲げるようにニコニコ笑顔のピーター。

 可愛くって可愛くって、食べちゃいたい!食べたら無くなっちゃうので食べないけど。

 

 ……え?可愛すぎて大丈夫?(ガチトーン)

 

「ミリー、この鏡覗いて見て!」

「え〜可愛い〜〜」

 

 笑顔のピーターって世界を救えるんじゃないだろうか。

 

 言われた通り覗いて見ると鏡には美人の私が映っていて、その後ろに何故かユニが居た。

 

「!?!??!???」

 

 バッと後ろを振り向いて見てもユニは居ない。

 

「え!?な、え、ユニは!?」

 

 思わず足元に置いていたスーツケースを見ても蓋は開いてない。

 

 鏡の世界にしか居ないユニコーン。

 幻獣種とは言えど、幻は見なくていいと思うんだ。

 

 混乱してる最中の私にピーターはへぇと声を上げた。

 

「ミリーはやっぱり魔法生物だったんだね」

「……?」

 

 可愛い。

 間に可愛いを挟まないと気が済まないくらい可愛いピーターにそう言われて、理解不能状態に陥る。

 

「守護霊の呪文ってあるでしょ?」

「うん、今年習うってリリーが言ってたね」

「その守護霊がなんなのか分かる鏡だよ。僕の魔導具!」

 

 ひぇ……。天才なの……?

 普通そういうの簡単に分かるものじゃないと思うんだ私。

 

「じゃあスパイラルホーン!ミリー、キミは『螺旋の角』だよ」

「つまり何度でも蘇るってことか……」

「どういうこと???」

 

 いっけない、魔法生物学界隈のマル秘。

 『ユニコーンの角は生え変わり』を漏らす所だった!

 




守護霊

コワルスキー…馬
ジェームズ……鹿

つまりそういうこと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25.レイブンクロー生

 

 

 5年になってそれぞれが卒業制作の本格計画をし始め、なんやかんや4年以上ほぼ毎日一緒にいたセブルスとでさえ別行動が多くなった。

 

 私はピーブズの使い魔の件について調べ始めていた。

 使い魔、と言っても実はその定義はかなりふわふわしている。

 

 例えばリリー・エバンズ。彼女が使役している生物はヒキガエルだ。同級生の中に鼠や猫、そして梟。そう言った生物を従えている者は多い。

 それに対して私がガッツリ使役しているのはユニコーンやスウーピングエヴィルなどの魔法生物。

 

 『生物』と『魔法生物』

 呼ばれ方が違うこの意味をマグル出身の私はこう仮説した。

 

 ──マグル界に知られているかいないか。

 

 魔法界で動物図鑑を見ればわかる通り、猫だろうと鼠だろうとユニコーンだろうと同じ魔法省部類が定められている。

 だから本質的には同じなんだろうけども、生物と魔法生物は使い魔としての格が違うのだ。だって魔法生物は、マグルに知られないよう生き延びているから。その魔法という特殊さで。

 

 

 私は禁書棚から『魔法生物との魔術回路』を手に取った。

 

 

 魔法省の魔法生物規制管理部には3つの部署が存在する。1811年、当時の魔法大臣のナンタラスランプみたいな名前の奴がヒトたる存在の定義が定められてから。

 

 『動物課』『存在課』『霊魂課』

 

 動物とは魔法社会の法律を理解できる知性を持たず、立法に関わる責任を担うことができない生物である。

 存在とは魔法社会の法律を理解するに足る知性を持ち、立法に関わる責任の一端を担うことのできる生物である。

 霊魂とは肉体を捨てこの世に尚も存在し続けている痕跡の過去形存在である。

 

 まぁ狼人間援助室が存在課にあるのに狼人間登録室が動物課にある時点でお察しだとは思うが。

 

 そう、ガバである!そりゃもうゲームでバグだらけの欠陥クソゲーをヴォルちゃんと大爆笑しながらやった記憶レベルにはガバである!

 霊魂課なんて『そのほか』みたいなもんだしね。

 

 さて、魔法生物の存在定義のガバガバさは置いておき本題に戻ろう。

 

 使い魔の定義がふわふわしている理由の一つとして、契約がない事だ。

 多数の魔法生物を使い魔として従えている(この言い方は好きじゃない)私としては、曖昧なんだ。

 

 友達になれた!仲良くなれた!

 と、そう思ったのはケトルバーン先生が連れてきたサンダーバードやニュート伯父さんが使役している魔法生物。

 

 あ、私の子だ。

 そう確信出来る瞬間は確かに訪れる。それは絆とも言えるし勘とも言える。

 

 知性の高い魔法生物ではなく、知性の低い生物を使役する場合、あらかじめ百貨店などで魔法をかけるらしい。

 なんの呪文かはまだ教えてくれなかった。どうやら卒業してから知識だけは伯父さんが教えてくれるらしい。

 

 

 魔術回路のつなぎか「──エミリー・コワルスキー!」

 

「ひぇ!」

「また禁書棚の方に来たのですね!」

 

 禿鷹そっくりのマダムピンスがカンカン状態で現れた。うぇえなんで見つかるのよォ!

 

「グリフィンドール5点減点です!」

「うぅ……そんなに怒っちゃいやん」

「10点減点」

 

 ス……、と真顔になられた。

 ダメだわコレ怒りが頂点に達して無になるやつ。

 

 説教はご勘弁願います──!

 

 最高速度で普通の方に逃げ込んだ。あっぶなぁ、マダムピンスに捕まるとだいぶ時間を使っちゃうんだよね。

 

 うーん。忘れ去られた古い魔法と呪文は前読んだし……十八世紀の呪文選集も読んだ。そもそも使い魔及び魔法生物の研究者が少なすぎるとエミリーは思うわけ。

 

 魔法生物という存在の性質上、秘匿しなければならない事が多いというのは分かる。実際私が知っている『魔法生物界言外禁止事項』の中で、ガッツリ影響されるのはユニコーンの角だ。

 ユニコーンの角は実は月一で生え変わる。ポロッとね。

 希少価値をつけて高く売り捌いてるってわけ。まぁ大概は魔法薬とかに入れて効果を上げたりほかの素材の数を少なくするのに利用して利益率を上げてるのがほとんどなんだけど。

 

「──月が満ちる」

 

 隣からの野太い声に思わずびっくりしてそちらを向くと、トンボみたいな眼鏡をかけたレイブンクロー生が居た。

 

「深淵を覗く機会は巡り会う。春が死ぬ時、繋がりは濃く深く。終わりを誘う。瞳は緑に包まれ、そして視るだろう。始まりもなく終わりもない深淵を。しかし彼女は終わりを知ることとなる。そして門の鍵を──」

 

「図書館で喋っているのは誰ですッッ!」

 

 マダムのカンカン怒鳴り声。

 私はビクリと肩を弾ませてバサバサと本を落っことしてしまった。

 

「……………………よぉくわかりましたエミリー・コワルスキー」

 

 ぽん、と肩に手を置かれた。

 

「あはは。マダム、さっき話してたのはそっちのレイブンクロー生で」

「おやまぁ、貴女の目はどうやら人間の目とは違う出来のようで。レイブンクロー生なんて居ませんよ」

「ば、馬鹿な……!?」

 

 さっきまでボソボソと喋ってたのに!?

 

「それより、貴重な本、落としましたね」

 

 この、本オタクめ……!

 私は心の中の恨み言を盛大に吐き出した。ただし、脚力として。

 

「ごめんマダム!デートはまた今度し」

「インカーセラス!」

「おぎゃあ!?」

 

 しゅるんと蔦がどこからか伸びてきて私の体を縛り付けた。マダムピンスは杖を片手に『どうだやってやったぞ』みたいな顔をしていた。普通に腹立つ。

 

「この私を図書館で声を荒らげさせるだなんて。えぇいいです、貴女の手伝いをしてあげましょう。この図書館に相応しくないと自覚する手伝いをね」

 

 罰則決定ルートです。とんだとばっちりじゃん!

 

 

 

 ==========

 

 

 

「アッハッハッハッハッ!」

 

 ピーブズの笑い声が校長室の前の廊下に響く。

 

 マダムピンスの罰則は笑い事じゃないんだけど。まさか本棚の本を全て掃除していく羽目になるとは。少しでも破いたら魔法飛んでくるし。

 

「それで年下のレイブンクロー生にしてやられたってわけ!?お前ってほんと面白いよな!」

「面白くないわ。面白いのはせいぜいマダムピンスの顔が禿鷲通り越してドラゴンに見えたくらいよ」

「眠れるドラゴンは起こすべからずだよ!」

 

 ドラゴンは積極的には起こしに行くべきだと私は思うな!

 

 私はヘラをぐるっと回した。

 

「Ms.エミリー。生徒から『コワルスキーが悪臭振り撒いてます、あれはきっと闇の魔術です先生防衛して!』……なんて告発があったのですが」

「あ、ごめんなさいDADAの先生」

 

 名前覚えてないな。

 

「貴女私の名前覚えてないでしょう」

「よくわかったね!こいつ好みじゃないやつに関しては大概ポンコツだから期待しない方がいいぜ!」

「なんでピーブズが答えるのよ」

 

 DADAの先生はため息しか出ないようだった。

 

「なぜここで魔法薬掻き回しているんです」

「悪臭でダンブルドア先生誘き出し作戦? 私、お気に入りの場所悪臭で汚したくないの。先生許して?」

「そっちが本音でしょう」

 

 呆れ返った先生は杖をビューンヒョイとすれば魔法薬の入った大釜が空に浮かぶ。ああ! 私の貴重な透明化薬試作が!

 

 今のところ透明化するけど悪臭で場所がバレちゃうっていう難点があるけど。

 

「エミリー・コワルスキー。罰則です」

「1日2回も!?」

「は、むしろ私の前に誰かから罰則受けた状態でこんなこと仕出かしてるんですか? 私あなたを自分の子にしたくないんですが」

「むしろ私もお断りですけど?」

 

 なんで勝手にフラれたみたいになってるのかエミリーちょっとよく分かんない。

 ピーブズは空中でうひゃうひゃと笑い飛ばしている。物理的にポルターガイストで。いやポルターガイストって物理なのか?

 

「ともかく着いてきなさい」

「はぁい」

 

 あ。

 

「先生なんて名前だっけ?」

 

 DADAの先生は私と目を合わせて言った。

 

 

 

「──ロックハート」

 

 

 ==========

 

 

 目を覚ますとレイブンクローの生徒が私の目の前に居た。

 

 

「えっ、可愛い!」

「嗚呼! おはよう、僕のエミリー・コワルスキー」

 

 男の子。とも言える幼い少年。

 可愛い可愛い子。

 

 私がホグワーツの可愛い好みの子を知らないとでも思うたか。

 

「ギルデロイ・ロックハート……?」

「えぇ!」

 

 ロックハート。

 あれ、そういえばDADAの先生もロックハートだったような。

 

「貴女は酷い人です。僕と貴女はずっと通じ合っているというのにあのどこのどいつか分からないスリザリン生やグリフィンドール生と一緒にいて」

「……うん、うん。うん?」

 

 なんかおかしい感じの表現、最初に混ざってなかった?

 シュル……。

 

 私のネクタイが解かれた。

 

「僕のいとしい人」

 

 えっ顔がいい!

 どうしよう。顔面の可愛さでとてもごり押されてる気がする。ちょっと待ってこれ何が起こってるの?DADAの先生は?罰則は?

 

 馬乗りになる形でロックハートは私を押さえつけている。今いるのはベッドの上……? この独特な色々な物が染み付いた匂いはDADA準備し…──顔がいい。

 

 蕩けるように笑みを浮かべるロックハートの顔面に意識を全部持っていかれる。

 

「ちょ、ちょっと待ってロックハート。私と貴方、多分初めましてだと思ったんだけど」

「でも僕は貴女を知ってるし貴女も僕を知ってる」

「そりゃそうね」

 

 私が可愛い子を見逃すとでも?

 

「貴女にずっとずっと贈り物を届けていました。僕の愛を伝える恋の石を」

 

 恋の石。小石?

 もしかして、永遠に届いてくるハート型の小石……。

 

「うひゃぁ!?」

 

 ぞわりと背筋に寒気が走った。

 下半身を見るとロックハートが私の太もも当たりを下から上になぞっている最中。

 

 

 

 はっはーん。エミリー分かっちゃった。

 ……これもしかしなくても貞操の危機とやらでは。

 

「パパに協力してもらったんです」

「へ、へぇパパに。DADAの先生のことかな」

 

 ズルズルと上へ逃げ出すも腰をがっしり掴まれて引き戻された。うぎゃあ。

 

「僕と貴女は結ばれてるのに。あのスリザリン生が仲を引き裂く。だから、もう、事実を作ってしまいましょう」

 

 パチン。

 これは第1ボタンの外れる音。あと、動いてみて分かったんだけど、これ、スカートのホックも外れてない? 嘘、絶対外れてるって確信できる。

 

 そうしてロックハートは私の下腹部。

 ………………子宮の辺りを愛おしそうにさすった。

 

 顔が可愛い。こんな状況なのに顔面の良さに悶える私を誰か殴って欲しい。

 

「う、うっ、」

「ん? どうしたのですか」

「──ウトラ!」

 

 胸ポケットから飛び出したウトラがロックハートの顔面を思いっきり引っぱたいた。

 突然の衝撃で顔を覆うロックハートの手から無理矢理抜け出す。可愛い子を無下に出来ないけどちょっと落ち着こう!ね!

 

 私一目惚れ詐欺師だぞ!多分ロックハート、キミは幻を見てるだけなんだ!

 

──ばんっ!

 

 扉が大きな音を発した。

 

──バンバンバン!

 

 殴りつけるような音に意識を持っていかれて、私はロックハートの魔法に気付かなかった。

 

「ウィンガーディアムレディオーサ!」

 

 ぶらりと私自身が宙に浮かぶ。ああああお客様!お客様おまちくだされ!スカートが!スカートが!脱げます!

 

 

 ガンッ、と扉が蹴破られる音と共に現れた乱入者は現状を見た。

 逆光でよく見えないけど、可愛い子とか麗しい人じゃないのは確か。

 

「今すっげえ腹立つこと思われた気がするけどまあいい! アクシオ!エミリー・コワルスキー!」

 

 グインっとした内臓を引っ張られ感覚。魔法生物のアトラクションの時の数倍酷い。

 

 私はその声の主に抱き寄せられた。

 

「し、シリウス?」

「よぉ、迎えに来たぜプリンセス!」

 

 そして私を肩で抱え──脱兎の如く逃げ出した。

 

「ほんっっっっっとーーーーにてめぇトラブルしかうまねぇな!ToLOVEるってか!ばーか!」

「たすけてくれてありがとう!でも後で覚悟しとけアホ!」




ギルデロイ・ロックハートくんの登場でした。可愛い子への苦手意識を植え付けたかったんじゃ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26.ゴースト

 

 研究や調べ物ばかりしている1年は長いようで早い。

 

 5年終わりの夏休みも、ほぼ研究に費やした。リリーはヴォルちゃんに頼みまくったのでほぼ完成に至っているらしい。いやちょっと早過ぎない?

 これはヴォルちゃんがすごいのか、それともリリーがすごいのか。迷う余地なくリリーがすごいに決定しました。ちなみにヴォルちゃんは一切私の研究を手伝ってくれない。

 

 夏休みのハイライトといえばあれだね。『暑いッッッッ!』ってキレ散らかしたヴォルちゃんがポートキー作成して全員を日本の避暑地に連れて行ってバーベキューしたこと。別にアメリカも日本も気温は変わらないと思うんだ、私。ツラツラ理由を語っていたけど、ただ純粋に日本に行きたかったに1票。

 最初はドン引きしてたジェームズも、ここが墓場かと顔を青くしているシリウスも最終的には『海水浴もありだけど森林浴って最高にイカしてるね!』って言いながらはしゃいでいた。

 

 

 そんな楽しい夏休みを過ごした私達はホグワーツ特急から脱走しよう作戦をおっかないお姉さんに阻止されて大人しく連行され、遂に6学年へ進級となった。

 

 さて、本題に入ろう。私の卒業制作予定の『ピーブズを使い魔にしよう大作戦』だけど、実はこれといって進展が無い。

 去年はまぁ色々あったから過保護の働いたセブルスもしくはシリウスが常に一緒にいたって言うのもあるし。シリウスは心底いらないけどそんなシリウスが派手な背景になるくらいにはセブルスにメロリンしてたわ。

 

 とにかく、魔法生物では無い存在を魔法生物の使い魔契約として契約する方法の情報が無さすぎるから今年の私は別の観点から攻めようと思う。

 

「こんにちは、レディ」

「あら、グリフィンドールのお転婆娘」

 

 灰色のめちゃくちゃ美人のレディの手に触れてキスを送る。残念ながらレディは幽霊だから触れられないんだけどね!

 

 彼女は灰色のレディと呼ばれるレイヴンクローのゴースト。本名はヘレナ・レイヴンクロー。1年の時つき回していたら名前を渋々教えてくれたとっても美人の……あヨダレが出てきた。ぐへへ、美人を見るだけで食パン一斤はいける。

 

「今日も綺麗だなあ……。流石世界の絶景36選」

「聞いた事ありませんけど?」

 

 呆れたような表情でレディは息を吐くけどゴーストなのでレディの吐いた息を吸い込めないのが今世で1番の悔いかもしれない。

 こう……ゴーストを実体化させて……呼吸を……ここは魔法の世界だからワンチャン、1ミリ位は可能性があるかもしれない。

 

 うっ、レディそんな冷たい目で見ないで。物理的にも。

 はわぁぁ昇天しちゃうぅ。ホグワーツに憑いてしまう。永遠にレディのストーカーする。永遠に。Always。

 

 

 永遠と言えばこの前セブルスに『お前の変態は永遠だろうな』って言われた。変態……心当たりがないけどセブルスが言うんだったらそうだネ!!!

 

「貴様は性懲りも無くまたヘレナに近付いて……!」

 

 ずいっ、と別のゴーストが恨めしくもレディとの間に挟まってきた。百合の間に挟まる男は極刑。

 人間の刑罰では生ぬるい。ここは魔法界。この恨み……この恨み……!

 

「この恨み……末代まで祟り殺す……!」

「ゴーストよりゴーストっぽいことをしようとするな!」

 

 血塗れの男は下品な喚き方をした。アッアッ、レディが後ろでどっちも迷惑みたいな顔している! か、可愛い!ドン引きした顔も素敵だね!扇で口元を隠すとか人間のツボが分かってるぅ!

 

「おい、おいコラ。貴様私の話を聞いてないだろ!」

 

 なんかノイズ走ってるなって思ったら血塗れの男はまだ何かを喋っていた。はー、やれやれ、仕方ない。相手をしてあげようじゃない。

 

「レディを名前呼びするとか無礼じゃない?」

「はんっ、生前からの付き合いだ。貴様のような生者とは付き合いの長さが違うのだよ」

「ですってレディ。年季の入ったストーカーにまとわりつかれて大変ですね」

「(お前がそれを言うんかいって顔)」

 

 ほーらレディ迷惑そうな顔してるじゃーん!

 

「……ところで今更だけどレディのストーカー血塗れは、誰?」

「きっさまぁ!!!!????その脳みそは欠陥しかない!!!!1回死んでやり直してこい!!!!」

 

 転生しても変わらない気がする。

 

「血みどろ男爵だ。全く、貴様の頭の記憶力は3日しか持たないのか!?」

「レディに求婚したら現れる邪魔としか存在認識してないから……ごめんね血飛沫男爵」

「わかってなぁい!!!!」

 

 死んでもエネルギッシュなのどうかと思うわ。

 

「ちなみにだけどグリフィンドールのお転婆娘」

「はい、我が女神」

「……。はぁ、その男、私の死因。被っている血は私の血よ」

「あっばばばあ!?」

 

 へ!?なにそれ!?初耳なんだけど!?

 というかレディの血液という聖水にも等しいそれを頭から被る男爵を羨むべきなのか、レディの死因になったという罪を憎むべきなのか。

 

「スコージファイで洗濯?それともアクシオで血液を集めるべき?」

「うっわぁ、きつ……」

「と言うかこの男が末代そのものなんだけど……。まあいいわ」

 

 レディはゆらりと空中を一瞬漂ってずいっと顔を近付けた。

 

「で、グリフィンドール。私に用事があると思っていたのだけど?」

「レディの美しさの前には霞む話題だよぉ〜」

「おだまり」

 

 デレデレと愛を囁いているとレディは呆れたようにため息を吐いた。私は是非ともそのため息になりたいわ。ゴーストが呼吸をしてないことがこんなにも悔しいだなんて……!

 

「私、死んだら絶対ゴーストになる……!」

「止めなさい」

 

 スカッとレディが私の頬を叩いた。

 ただしそれは触れ合うことも無く、私の顔を掠めて冷たい空気を漂わせる事しか出来ない。凍るような冷たさ。

 

「大馬鹿者。いい、ゴーストになるって言うのはね、生前の未練と後悔を抱え続けるって言うことよ。あの世に行くことを拒んだの。私たちは成長も変化も許されない脆弱な存在、過去のわだかまりをずっと抱え続けるのよ!」

 

 ぼう、とレディは青い炎に変わった。

 

「未練があるのに未練を晴らせない。腐った食べ物でパーティーをしてグズグズと永遠と。恐怖を抱えたまま、批難を抱えたまま、後悔も、罪悪感も。そう、全て! 何日、何年、いいえ何世紀も。新たに生まれ変わることさえ許されない。いいえ許さなかった」

「レディ……」

「私、灰色でしょう。私の人生の続きはこういう色をしてるのよ……。貴女は色に溢れてる、その色を喪うのは醜くて見るに耐えないわ」

 

 レディが一体どこの年代で生きてどんな人生を送ってきたのか、私は聞かない。レディが言わないから、調べない。

 

 だけどひとつ言いたいことがある。

 

「──レディ、単一色でも麗しいとか最早人智を簡単に凌駕してる」

「………………生きてる人間に後でこの子の頭しばき倒して貰うように言っとくわ」

 

 レディ自らご褒美を与えられないだなんてご勘弁!

 あっ、でももしレディがセブルスとかに頼むなら『レディ+セブルス』からのご褒美になるのでしばき一発で二回分のご褒美が含まれている……!

 

「シリウス・ブラック辺りに」

「ノーッ!」

 

 ご無体な!

 悲しみで涙が溢れ出てくる。そう、私の心は砕け散ったよ……。

 

「貴女、生きてる人間にも死んでる人間にも節操が無いのね」

「これはお褒めの言葉!」

 

 私、復活!

 節操無しだなんて照れるわ。

 

「……全く褒めてないと思うのだが」

 

 血飛沫男爵はちょっと黙ってもらっていいかしら?

 

「馬鹿らしくなってきたわ」

 

 ため息を吐く姿でさえ優美。だから私はそのため息になりたいと何度願えばいいのか。人間の概念は軽率に超越しておこう。

 

 そういえば去年辺りにアニメーガスみたいに動物に変身出来る魔法があるんだからため息に変身する魔法があるんじゃないかってマクゴナガル先生に聞きに行ったんだけど『……勉強熱心なのは結構、ですが、実技が0点だって言うことを忘れた記憶力に高望みはしない方がいいですよ』って言われちゃった。つまりあるってことでいいですね???

 

「あっ、それでねレディ。聞きたいことなんだけど」

 

 おっと危ない。本題を忘れていた。

 

「実は、ピーブズを使い魔にしたいの」

「…………正気じゃないわ」

「正気も正気よ」

「言い直すわ。あなたはとんだ馬鹿で、無鉄砲で、能天気で、善し悪しの区別がつかないアメリカ人って事が、よーく分かったわ」

 

 爆速で褒め言葉って事よね。

 私は腕を組んで満足気に頷いた。レディは何故かドン引きしていた。

 

「……ピーブズは、混沌よ。人もゴーストも、彼の内側に入るなんて考えられない。あれに関わった生物は知性があればあるだけ、発狂する」

「つまり理性も知性もかき消した私は……!」

「………………(ガチ悩み中)」

 

 あの、レディ? 冗談なんだけど。

 なんでそんな真剣な表情で『あれ、なんかこいつならワンチャンイケるかもしれない』みたいな感じの雰囲気醸し出してるの? それはそれとしてレディが期待するなら私はワンチャンでもノーチャンでも頑張る。

 

「……とにかく、やめておきなさい。あなたは生きているのだから、生者は生者に関わる事ね。死者も、不生不死も、生者が関わるものでは無いわ」

 

 そう言ってレディは私に対する興味を失ったのかそれとも呆れ返ったのか、優雅にフンと鼻を鳴らして掻き消えるように姿を消して行った。

 あぁ、あの美貌をもう少し拝みたかった……!

 

「ところで男爵ってピーブズに相性有利属性動いてたよね?」

「貴様は私のことを覚えているのか覚えてないのかはっきりさせてから出直せ!」

「なんで?」

「…………なん……だと?」

 

 怒りで身につけた鎖をガタガタ揺らしていた男爵はその窮屈そうな顔面を呆然と形容するに相応しい表情に変えた。

 

「分からない?」

「分かるわけがないだろう! 貴様を含めそこらの雑踏にわざわざ頭を回す必要が無い!」

 

 再び怒り散らかす。

 ゴーストの特徴。それは変わらないこと。そして考えないことだ。

 なぜ彼らが死でもなくゴーストへの道を選んだのか、それは私には分からない。その時の感情の赴くままに彼らは死んでも生き続ける道を選んだのだ。

 

 だから、彼らにあるのは最期の感情と記憶。それに縛られ続けるということ。

 

 灰色のレディは『嘆き』と『呆れ』

 血だらけ男爵は『怒り』と『後悔』

 

 ピーブズとゴーストの違う点って、喜怒哀楽なんだよね。ピーブズはゴーストよりも人間臭い。だと言うのに、ピーブズの過程に『人間』という言葉は無い。

 

「おい、貴様、無視をするな、おい! おいエミリー・コワルスキー! ハロウィンのパーティーに招待されたくないのか!」

「おお、我が主よ!」

「都合のいい耳引っこ抜くぞ貴様」

 

 とりあえず考えても仕方ないことだからピーブズに直接言いに行こう。

 

 

 

 

 

「えー、ピーブズを使い魔にぃ?」

 

 そういう日に限ってピーブズは中々校内におらず、今では庭とかした禁じられた森に居た。

 ピーブズってホグワーツ城だけじゃなくてホグワーツの敷地内にも行けるんだね。

 

 禁じられた森、薄暗くとても大きい森。高レア魔法生物の宝庫で、実は中々手に負えない魔法生物もいたりする。広大な土地を占めており、全ての範囲を探索したことが無いのが悔しい。

 学校の敷地内になんつー危険なものを存在させているんだ、って思ったんだけど。魔法生物が闊歩してるだけって知ったあの日から禁じられた森は私のテーマパーク。

 

 流石にキメラが出た時はキメラの周囲をぐるっと回って写真撮影をしたあと戦略的撤退をしたけど。

 ……そういえばあの時のシリウスの顔はビビるとかそんなの通り越してドン引きしてたね。

 うんうん、キメラレベルの強者が出てきたらびっくりするよね。

 

「そう、使い魔! どう?」

「えー面白そう! あ、でもピーブズの行動が制限されるのはいただけないなぁ!」

「そこはご安心。待遇は今までと変わりなく! 唯一変わるとしたら人権! なんとあのフィルチに『ピーブズ使い魔だから追い出すのは迫害だよばーーーーか』と言えます(真顔)」

「めちゃくちゃ面白いじゃん(真顔)」

 

 どうやらピーブズは乗り気のようだ。

 そう来なくっちゃ! さすがはピーブズ、我らがトリックスター!

 

「ところで行き詰まってるんだけど、ピーブズってどうやったら使い魔にできると思う?」

「ピーブズ興味ないから全然分かんないよ」

「だよねー」

 

 2人して首を傾げる。

 私はふよふよ浮かぶピーブズを見上げて呟く。

 

「魔力のない動物は魔法使い側が魔法を使い使役する、魔力のある魔法生物は魔力回路を向こうから繋いでくれる。どう?しっくりくる?」

「ぜーんぜん」

「まぁ、ピーブズは魔法生物というよりゴーストに近い存在だろうから、ゴーストと契約するって思えばいいんだけど……うーん」

 

 ゴーストの使い魔契約って、前例が無いんだよね。いっそ吸魂鬼レベルを契約してしまえばやり方がわかるんだろうか。

 でもゴーストって、死んでしまった瞬間の感情に縛られるから……意思がしっかりしすぎていて、死んだ状況から使い魔になるという変化を求められない。

 変革に感情は必要不可欠だから。

 

「頭パンクしそう」

 

 とりあえず、契約には何かしらの繋がりが必要不可欠なんだよね。

 

「ピーブズって、魔法使えるよね」

「え、と言ってもポルターガイストだぜ? ピーブズってほら、イタズラのために存在してイタズラのために生きてるから」

「魔法使い同士の契約みたいに、ファンタジーに繋げる?」

「あのな、エミリー・コワルスキー。ピーブズなら分かると思って説明を省いて話するの友達無くすからやめた方がいいと思うぜ?」

「私実技苦手だからピーブズ主体になるけど」

「好みじゃないからってピーブズの抗議無視して話を続ける度胸褒めてやるよばーか」

 

 魔法使いの契約、なんだっけ。授業でやってたような気がするんだけど。

 血で約束事して、絶対に破らせねぇぞってやつ。

 

 あれ魔法生物との契約に代用出来ないかなって思って。

 魔力の持たない動物、知能レベルもしくは意思疎通レベルの低い動物を使役するには魔法使いから一方的に何らかの魔法が必要不可欠なんだったら、魔法実技レベルが無に等しい私に対して魔法を使えるピーブズが契約魔法を持ち掛ければいいんじゃないかって思って。

 

 え?それだと契約者はピーブズにならないかって?私が使役される側なんじゃないかって?

 

 わかる。どうしようかな。

 

「で、いつ決行予定なの?」

 

 ピーブズがイタズラ顔で聞いてきた。

 

「卒業式!」

 

 内輪の卒業発表なんだもん、最高のタイミングで驚かせたいじゃない!

 

 

 

 

 

 ちなみに今年のハロウィン対決は口の中で味が変わる巨大ケーキを作った我々の勝利だった。どうも、私たちに対抗して食べ物対決に持ち込んだジェシリさん。食べ物で私に敵うと思わないでよね。




ピーブズって本当に何者なの……(読み返し調べ返しながら分からなくなる作者の図)

お久しぶりです、ハリポタの二次創作ってハリポタの世界観を自己解釈した上で書かなくちゃならないから難しいですよね。まぁ、そんな考えねぇんですが。なんてったって主人公がコレだし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27.最高学年

 

 

 ……はい。

 

 こんちには、私はエミリー・コワルスキー。

 アメリカ生まれアメリカ育ち、イギリス学生の魔女。

 

 突然ですが。

 7学年になりました。そうです最高学年です。

 

 新入生の入学式を前にして、私達の目の前に。いや、ホグワーツ城どころか新聞にも乗る程の大衝撃が襲ってきたのだった。

 

 

「──初めまして、学生の皆さん。今年から闇の魔術に対する防衛術の教師として教卓に立ち、貴方達を導く事となりました。オリオン・ブラックです」

 

 声を大にして言いたい。

 

「私のっっ! 時代がっっ! 来たっっっ!」

「来たのは闇の時代だろ」

 

 それ魔法生物学が解禁された時にも言ってたとシリウスが叫ぶ。

 

 ちなみに私たちの学年の退学率(怪我死亡含む)は37パーセントよ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「エミリー助けて!」

「喜んで」

 

 リリーとシリウスというあんまり見ない組み合わせが私の元にやってきた。息が切れてるリリー可愛いね。走ったせいか汗ばむ肌が光で反射してキラキラ輝いてるし、色付いた肌がリリーの髪色と合わさってすごく素敵。ここに今、戦争を終結させる。なんの戦争って?世界中の戦争全てだよ。

 

「コワルスキー、ジェーの馬鹿がエラ昆布の効果が長引いて──おいこら話聞けこの馬鹿2号。あーもう、これでも聞かねぇのかよ、エバンズ、スネイプ!」

「エミリーシリウスの話聞いてあげて?」

「コワルスキー、駄犬が呼んでるぞ」

「なぁにシリウス」

「おう(慣れ)……んでジェーがエラ昆布を改造したはいいが効果が切れなくていま湖の中でスリザリンに喧嘩売りながらマーピープルとダンスしてるんだが解決方法あるか?」

「ジェームズは一体進級そうそう何をしてるの?」

「馬鹿なんだろ」

「多分私が無機物から生物を生み出す魔法を練習しているから、かしら……。水龍なら海藻や水草の方がいいのかな、って悩んで。その、ポッターの前で漏らしちゃったのよね」

「……あぁ(察し)」

「あぁ(察し)」

「リリーってほんと天使」

 

 どうやら水龍の様なものを作り出してみたいらしい。流石に命を作るのは倫理的にも禁忌的にもアウトだからなんちゃってらしいけど。

 今は百合の花から白い小魚を作り出したそうだ。本物と大差無いようで、たまたま通りかかったスラグホーン先生にあげたという。

 

 くっ、どうしてそのタイミングで私通りかからなかったの……!

 

「そういえばセブ、背が伸びたわよね」

「あぁ。だいぶ遅かったがな。成長痛が痛すぎる」

「もとより背が高かったけど、リーマスの次に背が伸びたもんねぇ。成長率はセブルスが一番大きいんじゃない?」

「二人は小さいな」

 

 ほのぼのとした雰囲気に癒されていく。セブルスの身長が私と並んだ時は目線が常にあってて心臓鷲掴みされて燃え死んでたけど、身長抜かされてからは鎖骨が目の前にあって聖域広がってたよね。

 入学当時はダボダボだった服も今ではピッタリに着こなしているし、普段なら見えないんだけど私と一緒に薬草採取したり調合したり魔法生物の世話したりする時はようネクタイとかボタンを緩めるの思い出しただけでも色気がやばい。

 

 リリーはなんだか最近雰囲気がガラッと変わってきて。1年のころはお上品に見せかけてカエルとか木登りとか好きななんちゃってお嬢様で、隠しきれない無邪気さがギャップですごく可愛かった。とても好き。でも最近は(私が出禁になってるから)社交界にパートナーとしてジェームズやシリウスに連れ出されているからなのか、気品が溢れてきた。ベリー好き。

 肩の力が抜けたっていうのかな、特にセブルスがジェームズと和解して、減らず口を叩き合いながらも切磋琢磨してる姿をみて肩の荷が下りたっぽい。リリーはセブルスの幼なじみでは無く、リリー・エバンズとして自身を優先し始めた。だからかなぁ!美に磨き掛かってんの!!もう!ほんと!目が潰れる!激しく好き。

 

 

 セブルスとジェームズの和解と言えばその要因及び起爆剤になったリーマスは入学当時から背が高かったんだけど相変わらず元気に伸びている。狼人間という特性上生傷耐えない生活を送っていたんだけど、脱狼薬の効果が効いてきたのか「傷ができなくてすごく嬉しい」ってぽわぽわ花飛ばしていた。傷、引き攣るもんね。一番背が高いのに可愛い属性に全振りしすぎて私は気付いたら医務室だった。あれれ?

 彼も1年の時とは比べ物にならないくらい明るくなった。私たちとはもちろんの事、MM以外だと顕著だ。ひょんなことから全生徒に狼人間だってことバラしちゃったから今ではリーマスの秘密は皆の秘密。髪とはストレスと直結する。健康的な生活に隠し事のない生活。ライトブラウンの髪は最近その艶を余すことなく放っている。いつかお嫁さんが出来るといいな、というのは彼の言葉。泣いちゃったよね。うおぉん。

 

 泣いちゃったと言えばピーター。ピーターは超優秀なのにジェームズやシリウスといった比較対象がある分、どうしても周囲にMMの腰巾着とか悪口言われてたんだけど、ついにこの前やりました。あの双子が馬鹿やらかしてる最中にピーターの実験道具を破壊してしまうという事件が発生してね、ムキーッて泣きながら怒ってた。双子も流石に悪いことしてた自覚があるのか反論せずに大人しくしてたよ。まぁ背後でスウーピングエヴィルでボール遊びしてたからってのもあるかもしれないけど。

 涙すら可愛いとか可愛いの擬人化と言っても過言では無いよね。あまりにも可愛すぎて終わったあと静かに倒れたよ。予想してたエヴィルが支えてくれた。最近叫ぶ暇もなく可愛さで殺してくるから静かに絶命する他あるまい……。 

 

「エミリー聞いて……るわよね」

「うん、聞いてる、一文字一句違わずに覚えてるよ」

「変態だな」

 

 リリーを挟んで階段を降りる。どこだろー?と迷子になってる可愛い1年生を眺めながら今日も平和(退学率37%)な一日が始まるのだった。

 

 ……シリウス?あぁ、あの派手な背景。よく分からないけど居なくなったよ。

 

 

 ==========

 

 

「──杖を置いて。教科書も閉じて。さて、それでは改めまして。あなた方の闇の魔術に対する防衛術を教えることになりました、オリオン・ブラックです」

「……何が闇の魔術に対する防衛術だ。闇の魔術そのものじゃねぇか」

「シレンシオシリウス」

「もがっ!んぐ、んくぐ!」

 

 丁度隣に座っていたシリウスのうるさい声を防ぐ。黙らっしゃい!Mr.オリオンの甘くて蕩けるような、それでいてスっと体から抜けていき余韻に浸れず次を求めたくなる様な素晴らしい声が聞こえないでしょ!

 

「(なんでお前が黙らせるんだって顔)……皆さんは闇の魔術についてどれほどご存知でしょうか。えぇもちろん、最高学年たるあなた方がホグワーツ城で最も優れている。あなた方が最もご存知だ」

 

 Mr.オリオンの影のある笑顔に全員が姿勢を正す。ブラック家。それはイギリス魔法界に置いて王族とも言える方、らしい。私アメリカ人だからイギリスの歴史詳しくなくって……。ただあの美貌ならイギリスを掌握することも容易くなくてよ。

 

 昔はあまりの尊さから下の名前なんて呼べなかったんだけど、レギュラスとシリウス筆頭に『紛らわしいし変な気持ちになるからやめろ』と言われちゃったから……。本人の前では流石に言わないけど許して欲しい。あと割とポピュラーな苗字なのかイギリスはもとよりアメリカにも普通にいる。近所のノーマジでありリアム兄さんといい感じのイオ嬢一家とか、ミドルスクールの時の先生とか。

 

「さて、根本的なことを質問しましょう。……そうだね、Ms.エバンズ」

「っ、は、はい!」

「闇の魔術のことについて偏見も含めてていいから答えてなさい」

 

 美!!!!!!……っくりした。まさか純血主義とも言われるブラック家の当主(美)がマグル生まれのリリー(美)を名指しで当てるとは思わなかった。

 

 戸惑うリリーも可愛いね。天にも登りそう。

 

「……闇の魔術とは、主に対象に害をなすために使われる魔法の総称で、許されざる呪文から有毒な魔法薬の醸造、闇の生物の飼育が含まれてます」

「うん、よく勉強しているね」

 

 Ms.オリオンはリリーを立たせたまま次の質問に移った。

 

「では、許されざる呪文についてご存知かな?」

「許されざる呪文は三つ。磔の呪い、服従の呪い、そして、死の呪いです。これらの呪いは1711年に法律化されました」

 

 リリーと通路を挟んで隣に座ったセブルスと、隣に座ったジェームズが今にも飛びかかりそうな勢いでMr.オリオンを見ている。

 天使と小バエを欠片も見ずにリリーを見続けるMr.オリオン。うーん。美。

 

「さて、では今日は服従の呪文についてのお話をしよう。服従の呪文は対象者をトランス状態にし、術者の思うように動かすことができます。対象者は快楽や幸福感に満たされ、この状態になると術者の命令に無条件で従うことになるのです」

 

 Mr.オリオンは庭小人が入った籠から一匹取り出して呪いをかけた。

 

──インペリオ

 

 その艶やかな唇から紡がれた美声に庭小人は幸福そうな顔をした。

 

 そして。

 

「きゃあああああああ!!!!」

 

 庭小人はそのまま自分の耳を引きちぎったのだった。

 

 

「──そのため、他の者が忌避するような事柄まで疑いなく実行するのです」

 

 狂気と思われてもおかしくない笑顔はそりゃもう人を狂わせるほどに美しく、Mr.オリオンを中心に風が吹いたように整えられた美しい髪がなびいたような気がした。

 

「この呪いは一切抵抗が出来ません。特にマグル生まれであれば、あるほど」

 

 立たされたままのリリーに再びMr.オリオンの視線が降り注ぐ。

 

「んぐぅぅ」

「……お前は何に悶えてるんだ?」

「絵面が美しすぎるのと授業とインパクトと庭小人が傷付けたオタクの感情と私もMr.オリオ……ブラックに服従の呪いを掛けられたいから庭小人そこ変われって感情と……いっぱい」

「(聞いて損したって顔)」

 

 ブラック家は感情を何も言わずに顔だけで表現する才能に優れてると思うよ。

 

「闇の魔術はとても危険です」

 

 ふい、とリリーへの視線が外れた。教室全体を見渡したMr.オリオン。一人一人の素質を精査する様に、見定める様に。

 

 でも決して、けっっっして、私とは目が合わなかった。悔しいとは思ってないです。そういう王様気質なところも興奮燃え死にポイントです。スリザリンに100億点!!

 

「闇の魔術は危険、だが、とても魅力的で美しく、そして非常に残酷です。生来人は闇に惹かれ、手を伸ばす。そこに存在しようとしなかろうと、幻想の影を追い求めて。……。だからあなた方は闇の魔術を知ってください。その魅力と、抗えない人の愚かさを」

 

 ぞわりと肌が毛羽立つような、闇そのものの様な笑顔。笑顔なのに何故か脅しの様な怒りの様な感情でさえ感じられる。

 

「人は何故、罪を犯すのか。罪とは果たしてどちらなのか。あなた方の中で一体誰が、闇に飲まれるのか……予想でもしながら、ね」

 

 しん。と痛いほどの沈黙が流れる。

 私はツン、と心臓が激しく痛かった。

 

 ぐう、視線一つ一つ、動作一つ一つがMr.オリオンの素晴らしい演説能力をはねあげさせて私の心臓もはねあげさせる。馬鹿みたいな音量が心臓から流れそう。

 

「……Mr.ブラック。私の意見を言ってもよろしいでしょうか」

「何か、Ms.エバンズ」

 

 リリーは小さく震えた唇をグッと噛み締めて力を抜くと、その本来の力強い緑の瞳をMr.オリオンに向けた。

 

「闇の魔術は人を傷付ける物が多く、とても危険です。抗えない欲望と似たような形をしています」

 

 リリーは手を握りしめてはっきりと言った。

 

「でも、全てがそうじゃない」

 

 

「例えば先程のインペリオ。錯乱状態の人を落ち着かせたり犯罪や自殺を止めることだってできるでしょう。私はマグル生まれだから魔法の怖さも魔女狩りの恐ろしさも両方理解できます。闇の魔術に該当しなくても、怖い魔法は沢山ある。闇の魔術は人が決めたもの、ならば使う人によっては闇の魔術が人を守るものにだってなりうるんじゃないかって」

「人、ねぇ。それは確かにそうでしょう。だが人により、だ。例えば今の戦争で闇の陣営の長である例の──」

「──ヴォルデモート卿も人。そして私は人であるなら、どんだけ悪い魔法使いと呼ばれようと誰かを慈しむ事も愛する事も出来る」

 

 リリーはとても素敵な笑顔を浮かべた。

 

「闇の魔法使いと言われて闇の魔法を使おうと、美味しいご飯を研究して食べて、この味じゃないって悩んで、夜更かしして怒られて、夏になれば避暑地に旅行に行って、怒って、笑って、馬鹿にして」

 

 指折り数えて何かを思い出すように。

 慈愛に満ちた顔って私はリリーの事だと信じて疑わない。

 

「闇の魔術も、闇の魔法使いも。全てがそうじゃない、誰もがそうじゃない。考え方や視点によって、この世にとって素晴らしい物になる。……そう考えています。これが私の偏見です」

 

 Mr.オリオンは浮かべた笑顔を一切崩さず、リリーを席につかせた。

 

 

 

 

 

 

「闇もいえば、ヴォルちゃんもヴォルデモートとかいう闇の魔法使いの仲間だったりするのかな?」

「おま……!っ、このアメリカ人!!!」

「なんだとこのイギリス人!!!」

 




本当はオリオンの心情とかも入れたいところなんだけど基本今はコワルスキー視点でしか動かないのでコワルスキーへのドン引き感情しか出ません。うーん、久しぶりに動かしたけどコワルスキー心の声うるさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。