聖戦士ダンバイン ~コモンの聖戦士~ (早起き三文)
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第1話「地上人との出会い」

 

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《エコー》

ドレイク・ルフトに仕える兵士、コモンにしてはやや強いオーラ力を持つ。性格的には少し女好き。運命は彼を一兵士では終わらせない。

 

 

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《ホリィ・ウッド》

エコーの幼友達で、彼にほのかな恋心を抱く。オーラ力はそれほど高くはない。が、その操縦潜在能力は高い。

 

 

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《ネデル・スルタン》

ギブン家と関わりを持つ大貴族「スルタン家」の嫡男、家の反対を押しきってドレイク軍にと入る。礼節を心得ている。

 

 

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《レーテ》

地下の種族「ガロウ・ラン」の少女。美しい顔立ち。コモンはおろか、地上人に匹敵するほどのオーラ力を持つ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「この力、全ては御館様の為に!!」

 

 演舞、朝の光に包まれるなか、一機の「巨人」に似た機械がその手足を一人の騎士により動かされ、巨大な剣を振るう。

 

「いいぞ、バーン……」

 

 その騎士に「御館」と呼ばれた、よく剃髪され整えられた頭部を持つ男が、彼の居城「ラース・ワウ」からその人型と呼ぶにはややに異質な巨大な人影を満足そうに見やる。

 

「いいな、オーラバトラー……」

 

 観客で沸くラース・ワウの周辺、その中にいた一人の少年兵士が、その騎士が駆る巨大機械の姿をまばたきもせずに実と見つめ、軽く嘆息をした。

 

「なーにやっているんだ、エコー」

「あ、すみませんベック隊長!!」

「もう、とっくに」

 

 そういうベッグと呼ばれた騎士風の男も、その機械には興味しんしんらしいが、恐らくは己の仕事を忘れない男なのだろう。

 

「ドロの整備は始まってんだぜ!?」

「解りました、今行きます!!」

「あんなてんとう虫、見ている暇はないっての!!」

「確かに、御天道虫には似てますけどね、ドラムロは」

 

 ブゥン!!

 

 その「ドラムロ」というらしき機械の腕がまた一振りされ、剣が空を切る。

 

「それでも、オーラバトラーはオーラバトラーですよ、隊長」

「どうせ、ゲドの亜流だろ?」

「それに乗っていた隊長には、ドラムロが羨ましくはないかも知れませんがね!!」

「言ったな!?」

 

 コンッ……

 

 そう言いながら、ベッグ隊長はエコー少年の頭を軽く叩き。

 

「だったら、お前も手柄を立てて、オーラバトラーに乗るんだな!!」

「言われなくても!!」

「おう、そうか!?」

「いつかは、オーラバトラーに!!」

「ヨーシ、その意気だ!!」

 

 そのまま、気勢を揚げる彼の耳を引っ張って、仕事場へと向かっていった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 オーラ・ボムとは複数人が乗り、初めて動かせる「オーラ・マシン」である。ゆえに、エコー少年と騎士ベッグの他にも何名かのクルーがいる。

 

「あのドラムロの隣にあったオーラバトラー、見た?」

「見ましたよ、ホリィ」

 

 その「ドロ」のクルーの内、二人が整備兵の手伝いをしながらもヒソヒソと話をしあっている。

 

「なんでも、地上人という異世界から来た騎士が乗っているんですってね、ホリィさん」

「チジョービト?」

 

 その無駄話をしている間にも他の機体、すなわち「オーラマシン」を整備している者達は手際よく、そして正確に機械を調整している。

 

「チジョービトってなに、ネデル?」

「だから異世界、つまり地上から召喚された人達の事……」

「へえ……」

 

 そう呟きながら上の方を見るホリィと呼ばれた少女の視線の先には、木材や金属で作られた天井が見えるのみ。

 

「お前達」

 

 ズシリとした声、騎士ベッグの声がオーラマシンの工房内で彼らの頭の上辺りからかかった時、ドロの整備をしていたホリィと。

 

「ハッ、騎士ベッグ!!」

「問題ありません!!」

 

 ネデル少年、彼ら二人が敬礼をした。

 

「どうせ、無駄口を叩きながらの整備ですよ」

 

 そのオーラマシンの工房、通称「機械の館」の入り口あたりから、騎士ベッグに遅れてブラブラと、ホリィとネデルの元へとやってきたエコーが、ニヤつきながらそう皮肉を言う。

 

「あんたはサボッていたでしょうに、エコー!!」

「新型の視察だよ、シ・サ・ツ」

「よく言う!!」

 

 近くに置いてあるドリンクへとその手を伸ばしながら、騎士見習いの少女は顔に付いた油を雑にタオルで拭い取ろうとする。

 

「あんた、あたし達よりも地位が低いんだから!!」

「五十歩百歩、兵士と騎士見習いでは」

「もう!!」

 

 その二人の声を無視し、騎士ベッグは隣のドロを整備している兵にと話しかけている。

 

「ガラリア殿は?」

「あの方なら、オーラバトラーに乗れるようにドレイク様の元へ直談判をしに行きましたよ」

「全く……」

「ブラウーネ、ゲドⅡに乗った快感が忘れられないのでしょう」

「そうかもな」

 

 その話し合いをしているベッグと整備兵の横では、ネデルがもくもくと。

 

「剣の腕だって、あたしに敵わないくせに!!」

「なにおう、ホリィ!!」

「呼び捨てにするか、一兵士!!」

 

 整備をしている傍ら、二人の少年少女が無意味なケンカを繰り広げていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 オーラマシンという戦闘兵器がこのバイストン・ウェル界にもたらされたのは約五年前、いわゆる地上人である「ショット・ウェポン」という男の手によってだ。

 当時、このバイストン・ウェル界内「コモン世界」には地下世界「ポップ・レッス」からの侵略者達、ガロウ・ランの手により、様々な場所で戦の火の手が上がっていた。

 

「つい昨日のように思い出せるわ、エコー」

「そうだな……」

 

 この場にいる彼らも駆り出されたその戦役、この「アの国ドレイク・ルフト領」を主戦場としたその戦いでは、周辺諸国もその戦禍にみまわれ、特に隣の「リの国」では甚大な被害が出たと言われている。

 

 ク、ビィ……

 

「でも、そのリの国には伝説の聖戦士、地上人様が降り立って、救われたらしいな」

「詳しいな、エコー」

「そりゃもう、ベッグ隊長」

 

 そう言いつつに、飲み物を飲んでいたエコーは他の三人にもジュースと軽食を運んでやった。

 

「あたし、今の今まで知らなかったな、リの国の事は」

「無知は罪だぞ、ホリィ」

「すみません、騎士ベッグ」

 

 可愛らしくその舌をペロリと出して、甘えた声を出すホリィを横目に見ながら、エコー少年は。

 

「あの人、元気かな……?」

「あの人ってなんですか、エコーさん?」

「あの裏切り者の地上人、マーベル様さ、ネデル」

「ああ、あの以前、昔にラース・ワウから出ていった……」

 

 ここで話は、約一年から二年前にとさかのぼる。

 

 

 

――――――

 

 

 

 ドゥ、ン……

 

「な、何だあ!?」

「イタタタ……」

 

 明るい林の木陰で眠っていたエコー少年のちょうど胸の上辺りに、突如にそこにとまたがるようにして。

 

「あ、ごめんなさい!!」

 

 栗色の、長い髪をした美しい女性が座っていた。

 

「本当に、ごめんなさい!!」

 

 ズ、リィ……

 

 その女性はそのまま横にでも除けばいいものを、そのままズリズリとその股の辺りをエコー少年の頭の上にまで持ってきたのだから、たまらない。

 

「ここは、どこなの……?」

「お、女の人の匂い……」

 

 そのままエコー少年の薄青色の髪の辺りで立ち上がった女性は、そのままキョロキョロと辺りのラース・ワウ郊外の林を見渡す。

 

「あいて……」

「ん?」

 

 その女性とは別に近くから聞こえてくる男の声、ややに野太い声をしたその男も。

 

「ど、どこなんだよここは……?」

 

 女性と同じ問いをその舌へと乗せる。

 

「ねえ、あなた?」

「は、はい……」

「ここは、どこなの?」

「ラース・ワウです」

「ラース・ワウ?」

 

 スゥ……

 

 エコー少年が立ち上がると同時に、その女性がひざまずくような姿勢になったために、今度はエコーが女性を見下ろすような形となった。

 

「そんな州、聞いたこともないわ」

「で、ですからここはアの国、ドレイク様の領地、ラース・ワウ……」

「だから、そこはどこだのって……」

 

 その女性が不満げに、そのやや厚い唇を尖らせた、その時。

 

「地上人!!」

 

 パクァ、ラ……

 

 ラース・ワウの騎兵隊の一隊が林を駆け、エコー少年達の元へとやってくる。

 

「地上人であるな!?」

「だ、だれだよあんた達!?」

 

 少し、その騎馬の駆ける音に怯えたような男の質問に、その騎兵隊の隊長は。

 

「何か、たちの悪い冗談かよ!?」

「私はバーン・バニングス、アの国の騎士である」

「アの国、騎士ィ?」

「どうかこちらへ、地上の方々」

 

 騎士、バーン・バニングスはそう言いながら、自身とその隣の女騎兵の背へと乗るように二人の「地上人」を促した。

 

「馬には乗れるか、地上人達よ?」

「マーベル、マーベル・フローズンです」

「解った、マーベル殿は馬には?」

「私はなんとか……」

 

 その女性の隣へとやってきた男は軽く頭を振った。どうやら彼は馬に乗れないようだ。

 

「しっかりと、私の腰に手を」

「お、おう……」

 

 女性騎兵には「地上人マーベル・フローズン」が、バーン・バニングスの馬には男性が掴まり、そのまま馬の踵を返そうとする騎兵達。

 

「少年」

「は、はい何でしょう、騎士様……」

「この事は他言無用だぞ、いいな?」

 

 バーン・バニングス、彼は一方的にそうエコー少年にと告げながら。

 

「城へ帰るぞ、皆」

 

 そのまま、地上人を乗せたままに遠くに見える「ラース・ワウ」へと騎兵達を引き連れて行った。

 

「何なんだよ、一体……」

 

 そのエコー少年の疑問に答える声は、小鳥のさえずりのみ。



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第2話「ガロウ・ラン追討戦」

  

 ザァ、ア……

 

 低い低木が繁る、激しい雨が降りそそぐ低地を、ラース・ワウのガロウ・ラン残党討伐軍が進む。

 

「っくしょ!!」

 

 それの地上部隊、オーラ・パンツァー「アケロン」の機体外部席へと座るエコー少年のくしゃみが雨音にかき消された。

 

「俺も、ドロなら濡れる事もないのにな……」

 

 陸戦型オーラマシン「オーラ・パンツァー」とはその呼び名の通り、地上専用のオーラマシンだ。その「アケロン」の上空を数機の飛行型オーラマシン、クラゲのような外見を持つ「ドロ」及び。

 

 グゥン……

 

「あれが、マーベル様のゲドかな?」

 

 ややに低空飛行を始めたオーラバトラー、人型オーラマシンである「ゲド」が空を舞う。

 

「オーラバトラー……」

 

 オーラバトラー、それは新しい戦力であると同時に、地位と力の象徴。

 

「いつかは乗りたいモノ、だが……」

 

 その時にエコーの頭へとよぎる、ある言葉。

 

――必要オーラ力というものがあるらしい――

――必要、オーラ力?――

――なんでも、その数値を満たしていないと、オーラマシン全般には乗れないらしいのだ――

 

 いつか、いつぞやにした騎士ベッグ隊長との会話がエコー少年の頭へと疾った。

 

「各員」

 

 その雨にかすれてよく見えなくなったゲドを眺めているエコー少年の横、機体外スピーカーから上官の指示が出る。

 

「ガロウ・ラン共の姿が見え始めたぞ……」

「りょ、了解……」

 

 そう言いつつに、初陣であるエコーはその手に持つクロスボウへと付いた雨粒を神経質にその手で振り落とした。

 

「ガロウ・ラン……」

 

 ガロウ・ラン、凶悪にして残虐無比な闇からの蛮族。個体てあるならばコモン、このバイストン・ウェルの住人が「手懐ける」事も可能であるが、集団となると、あたかも蝗のようにコモンの世界を食い荒らす、地の世界の住人。

 

「無理はするなよ、初陣の小僧」

「了解、ベッグ隊長」

「うむ……」

 

 ボフゥ……

 

 前方、エコー少年が座るアケロンからややに前方に位置する同型機から、遠く眼前にと拡がる森林に向かって火線が疾る。

 

「馬鹿め……」

 

 その騎士ベッグの呻き声からして、その火焔放射器による射撃は早すぎたのであろう。恐らくは距離を見間違えたのだ。

 

 バァア……

 

「飛竜を確認!!」

 

 その時、エコー少年の目には森林から羽ばたいてきた飛竜、ガロウ・ランが乗騎ならぬ乗竜として使用している飛竜達の姿がその瞳へと、雨を切り裂いて入った。

 

「飛竜を確認!!」

 

 同時にあちこちから、先頭を行くバーン・バニングスのブラウーネやドロからも同じ報告が入る。

 

 

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「周囲へ目をやれ、エコー!!」

「了解、隊長!!」

「ヨゥーシ!!」

 

 その気迫に満ちた声に、ベッグはエコーが初陣の恐怖に囚われていない事を確信した様子だ。彼の満足げな声がスピーカーを通して出る。

 

「アケロン・ワン、ガロウ・ラン地上部隊と交戦中!!」

 

 先頭を行くアケロン、オーラパンツァーが戦闘に入った事に、各アケロンの緊張が一気に高まった様子だ。

 

「左翼、ガロウ・ラン散兵!!」

「フレイ・ボムで蹴散らせ!!」

 

 フレイ・ボム、それはアケロンやドロ、ブラウーネに搭載されている火焔放射器の名前である。

 

 ボゥ!!

 

「アケロン・ワン、ガダの直撃を受けた!!」

「大丈夫か!?」

「な、なんとか……」

 

 確かアケロンの先頭機にはホリィ、エコーの幼馴染みの少女が乗っていたはずだ。その中破したアケロン・ワンを心配そうな目で見つめるエコー少年、その時。

 

 キュイ……!!

 

 雨とオーラマシン部隊の隙間を切り裂き、一匹の飛竜にまたがったガロウ・ランがエコーの乗るアケロンへと急降下を仕掛けてきた。

 

「強獣!!」

 

 その強獣という巨大生物の操り手、ガロウ・ランの手から放たれる榴弾はガダ、ニトログリセリンに似た成分を持つ爆発物だ。

 

「目が、合った……!!」

 

 シュ……!!

 

 そのガロウ・ランと目が合った瞬間に、反射的にクロスボウを撃ち放ったエコー少年。その太矢が雨を引き裂く。

 

「当たった!!」

 

 その飛竜の乗り手がグラリとよろめいたのをその目にしたエコーは思わず、無意識に喝采の声を上げた。

 

「どうですか、ベッグ隊長!!」

「でかしたぞ、エコー!!」

「へへ……!!」

 

 しかし、その間にも左翼からのガロウ・ラン達、それらが駆る陸戦強獣隊の勢いは止まらない。

 

「こちらアケロン・スリー、ドロ隊に支援を頼む!!」

「雨で強獣との見分けがつかねぇよ!!」

「お前、リの国の奴だな!?」

 

 ベッグ隊長が通信を入れた、空色にと塗装されたドロから、中年らしき騎士の怒鳴り声が返ってくる。

 

「だから、根性がない!!」

「言ったな、やってやろうじゃねえか!!」

 

 そういいつつに、そのドロは火焔放射器をもってして頓挫したアケロン達に迫りつつあったガロウ・ラン地上部隊を掃討していく。

 

「右翼、ガロウ・ラン散兵部隊!!」

「アケロンのフレイ・ボムで蹴散らせ!!」

 

 しかし、その散兵隊は身軽に強獣を操り、そのフレイ・ボムの波を潜り抜け、エコーの乗るアケロン・スリーにと迫り来た。雨音がその強獣の足音にかき消される。

 

 ザ、シュ!!

 

「オーラバトラー!!」

 

 そのエコーがハッと息を飲んだ時に、マーベル機と見慣れぬオーラバトラーがその部隊を蹴散らす。

 

「こちら、リのシュンジ・イザワ!!」

 

 雨がますます激しくなっていく中、その不明機からの通信が各アの国部隊の耳を打つ。

 

「アルダム、リの国機は機体不良により後退する!!」

「マーベル、こちらゲド、ゲドバイン!!」

 

 散兵隊を蹴散らした二機のオーラバトラーからややに悲鳴が混じった声がエコーの耳へとこだまをした。

 

「オーラコンバーターの異常により、後退する!!」

「地上人マーベル、後退を許可する!!」

「すみません!!」

 

 そのバーン機ブラウーネからの許可を得て、マーベル機「ゲドバイン」も上空へと退避を開始する。

 

「オーラバトラー二機を後退させて、ガロウ・ランに勝てるのか、バーン?」

「弱気だぞ、ガラリア……」

「私はただ……!!」

 

 それのガラリアの駆るドロから聴こえた声は、激しい豪雨によってかき消された。

 

 バン、バァン……

 

 信号弾、騎士バーン・バニングスからの信号が雨の中でもクッキリとエコー少年の瞳には見える。

 

「ガロウ・ランは撤退を開始した……」

「追撃するぞ、バーン」

「ああ、ガラリア……」

 

 そのガラリア機ドロが破損したアケロン・ワンの上空を通り過ぎ、そのまま散り散りになって逃げようとするガロウ・ランの強獣に向かってフレイ・ボムを放つ。

 

「勝った、のか……?」

 

 初陣、そして一匹とはいえ戦果を上げることが出来たのだ、最初はもっと高揚感の出そうな物だと、出陣前は期待していたものだが。

 

「おや……」

 

 だが、自らの手が震えている事にエコーは気が付き、微かに苦笑する。

 

「親父達の仇に、一矢報いたというのにな……」

 

 そのエコーの独白は、激しくなってきた雨によって叩き落とされた。



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第3話「マーベル・フローズン」

 

 よく晴れた青空を風を切りながら、クラゲに似たオーラマシン「ドロ」が飛行をしている。

 

「こちらが、マーベル様」

「はい」

「フレキシブル・アームの内部操縦桿となります」

 

 アケロン乗車兵からオーラボム、いわば爆撃機という特性を帯びているオーラマシンの搭乗員となったエコーが、地上人「マーベル・フローズン」にと、そのドロ内部の説明をする。

 

「あっ……」

「あっ……」

 

 操縦桿、それに触れるエコーの手にマーベルの柔らかい手の平が重なり。

 

「ご、こめんね、エコー君」

「いえ、こちらこそ……」

 

 二人とも、微かに頬を染めながらどちらともなく謝る。

 

「……」

 

 その光景を見ていたホリィ、エコーの幼馴染みは。

 

「いやらしい女……」

 

 ドロを内部操縦しながら、憎々しげに呟く。

 

「妬いているのか、ホリィ」

「だっ、だれがですか、ベッグ隊長!!」

「ハッハ……」

 

 機体のてっぺんのプラットフォーム、ドロのメイン操縦場からマシン内部を見下ろしながら、軽く冗談を言いつつに、騎士ベッグはエコーにと。

 

「地上人に操縦方法も教えてやれ、エコー」

「は、はい!!」

 

 オーラボムの内部構造を教えるようにと、エコーに命ずる。マーベルはオーラバトラー、人型のマシンにしか乗ったことがなく、オーラボムには不慣れなのだ。

 

「えーとですね」

「あたしが彼女に教えるわ、エコー」

「お、おい!?」

 

 半ば強引にマーベルの腕を引っ張り、マーベルにドロの操縦の方法を教えようとするホリィ。

 

「これがですね、マーベルさん!!」

「こ、声が大きいわ……」

「これが、こうなって!!」

 

 グゥン……

 

 その、怒りに満ちた声と共に思いっきり手前にと引いた操縦の桿によって、ドロが大きくよろめき。

 

「おい、ホリィ!?」

「何ですか、隊長!?」

「俺を落とす気かよ!?」

「知りません!!」

 

 あやうくプラットホームから身を乗り出しそうになったベッグの声も無視し、ホリィは乱暴にマーベルへと操縦方法を教える。

 

「何を怒っているんだ、アイツは……」

 

 その、幼馴染みエコーのボソボソとした声はホリィには届かない様子だ。

 

「エコーさん」

「おう、なんだよネデル?」

「もうすぐ」

 

 その、新しくエコーの同僚となった騎士見習いの少年、ネデルの声にエコーはその首を向ける。

 

「機械の館ですよ」

「そうだよ、エコー!!」

 

 ネデルのその声に重なるかのように、ベッグからも機体内部にと叫び声が飛ぶ。

 

「さっさと着地体勢をとらせんか、ドロに」

「隊長がどうにか出来ないので?」

「何か、ドロの反応が悪い……」

「はあ……」

 

 ため息混じりのそのベッグ隊長の声、それをエコーはマーベルやホリィ達を見やりながら。

 

「ドロ、着地姿勢をとります」

 

 操縦系統の桿を強く押し込めた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「何あれ!?」

「凄いですね……」

 

 ホリィ少女とネデル少年のその驚いた声、そして驚きのあまり無言のエコー達の眼下では。

 

「あれはオーラ・シップだよ」

 

 騎士ベッグが解説する、そのオーラ・シップなるものが、機械の館の広場にと鎮座している。

 

「オーラシップ……」

「ナムワンという」

「ナムワン、ですか……」

 

 その、エコーの唸り声に同乗していたもう一人の地上人「ゼット・ライト」が、マーベルと共にバイストン・ウェルにと飛び降りて来た男がその鼻を得意気にひくつかせながら。

 

「お館様とや、ドレイクはな」

「ドレイク様は?」

「俺も設計に携わった、このナムワンを王様に献上するんだとよ、エコー君」

「へえ……」

 

 夕陽にと映えるオーラシップ「ナムワン」、その偉容は落ちゆく空の光に照らされて、特に何もしていないのにその「力」を見せつけているようだ。

 

「忠臣なのね、ドレイク様は」

 

 ホリィのそのうっとりとした声とは対照的に。

 

「うん……」

「どうしたの、ネデル?」

「いや、なんでもないよ、ホリィ」

 

 ネデル少年は、先程からなにかしら黙りこくっている。

 

「おーい、皆」

「はい、ベッグ隊長!!」

「燃料も少ない、着地するぞ!!」

「ハッ!!」

 

 そのベッグの掛け声と共に、エコー達は持ち場へと戻り、ドロの着地準備を開始した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「今日はありがとうね、エコー君」

「いや、マーベルさん……」

 

 地上人「マーベル・フローズン」にその手を握られながら、そう囁かれたエコーの頬が夕陽に負けない位に紅く染まる。

 

「やっぱり、男の人って」

「何ですか、ホリィさん?」

「ああいう」

 

 その、マーベルとエコーをジトリとした視線を投げ付けているホリィは、ヒソヒソ声で隣にいるネデルへと。

 

「女っぽい人が好きなのかな?」

「な、何で僕に訊くんですか!?」

「別に……」

 

 返答にこまる質問を投げつける。

 

「どうなのさ、ネデル?」

「僕は、どっちかというと……」

「どっちかというと?」

「いや、何でもありません……!!」

 

 そういい、その首をブンブンと振るネデルへホリィは不審な瞳を一つ向けた。

 

「これからも、アの国とドレイク様の為に頑張りましょう、マーベル様」

「うん……」

「マーベル様」

「あ、いや」

 

 アの国、ドレイク、その言葉を聞いたとき、マーベルは微かに沈んだ表情を浮かべたが。

 

「そうね、頑張りましょう」

「はい!!」

 

 そう言ったときの、マーベルの顔には満面の笑み、それと共に再び差し出される手を握るエコーに対して。

 

「いやらしい……」

 

 ホリィはまた、その可愛い顔を歪めるのであった。



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第4話「マーベル脱走」

  

「エコーさん」

「なんだよ、ネデル……」

 

 ラース・ワウ郊外の丘にと寝そべっているエコーとネデルの二人は、上空を飛翔している三機のオーラバトラーの姿をみやりながら、軽く互いにあくびをした。

 

「早く言えよ」

「あのマーベル様っていう地上人」

「騎士、マーベル様がどうかしたのか?」

 

 どうやら、三機のオーラバトラーの先頭にと浮かぶ「ゲドバイン」に乗っている地上人「マーベル・フローズン」の事はすでにラース・ワウ中に知れ渡っている様子である。

 

「ドレイク様に反感があるらしいですよ」

「ドレイク様、お館様にか?」

「ええ」

「なぜ?」

 

 そう言うエコーに対して、ネデルは軽くその細い肩を竦めてみせたのち、細くに息を吐いた。

 

「なんで、マーベル様がドレイク様を悪く思うんだ?」

「なんでも、ドレイク様がフラオン・エルフ王の事について悪口を言っているのが気に入らないとか、何とか……」

「フラオン王ね」

「そして、何やらお館様が野心的すぎるとマーベル様がこぼしていたとか」

「なるほどね」

 

 フラオン・エルフ、アの国中で「暗愚王」として知れ渡っている人物である。

 

「まあ、当然といえば当然だ」

「マーベル様の不満が、ですか?」

「いや、お館様のフラオン王への不満がだよ」

 

 そう言うと、エコーは丘から上体を伸ばし、ニカと笑う。

 

「フラオン王は、このガロウ・ランの戦役について、何もしなかった」

「ちょっと、エコーさん……」

「違うか、ネデル?」

「どこでだれが、聞いているか……」

「おっと……」

 

 確かに、いくらエコーの言うことに理があったとしても、王の事を悪く言っていい「法」はない。

 

「あぶない、あぶない……」

「それに、不敬にもあたりますよ」

「そう睨むなよ、ネデル」

「あのですね、エコー……」

 

 このネデルという少年、彼は説教口調になるとうるさいとエコーは知っている。

 

「だいたい、あなたは……」

「わかった、わかった……」

「いや、この際だから言わせてもらいますが」

「止してくれよ……」

 

 その、妙な口喧嘩じみた事を始めた二人の少年の上空、そこでは三機のオーラバトラーが悠々と飛行していた。示威行為だ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「全く、ネデルめ」

 

 夜も更け、少し酒が入ったエコーは兵舎に戻る前に少し散歩をして。

 

「フラオン王よりも、ドレイク様の方がよほどコモンのお役にたっているっての……」

 

 酔いを冷まそうと、電柱が建ち並ぶラース・ワウの城下をフラフラと歩く。

 

「しかしに、この電灯も」

 

 電灯、灯りを伴ったその柱、すなわち通信の為に作られた「灯り付き電柱」もすべてドレイク・ルフトが庇護しているショット・ウェポンという技師が作成したものだ。

 

「俺の村に医者の手が届くようになったのも、すべてドレイク様の手によるものだ」

 

 オーラマシンの副産物として産まれた様々な薬品、そしていざというときに医者を呼ぶことが出来る電信、それらの恩恵は計り知れない。

 

「それに、不満があるだと……?」

 

 理解が出来ない、エコー少年は心底そう思う。

 

「それが、地上人さんの考えというものなのかな……?」

 

 ひとしきり、人通りの少ない街路の真ん中で愚痴っているエコー、その時。

 

 ガダ、ン……

 

「ん?」

 

 前方の一軒家の扉が開き、一人の女が辺りを見渡しながら街路へとその身を躍らせるように飛び出す。

 

「マーベル様だ……」

 

 栗色の美しい髪、そして美しい横顔は薄暗い街灯の灯りの元でもハッキリと解る。

 

「あれは?」

 

 そのマーベル・フローズンの、小走りに走る先には一台の馬車。

 

「おっと……」

 

 その馬車へ走りながら、辺りをキョロキョロと見渡すマーベルを確認したエコーは、近くにあった大きめの酒樽の脇へとその身を隠す。

 

「まさか、ラース・ワウからの脱走?」

――マーベル様は、お館様のやり方に不満があるらしい――

「ありうるかな?」

 

 ネデルの言葉を頭にと思い浮かべながら、木陰でエコーは一つ頷く、その時。

 

 ガタァ……!!

 

「誰!?」

「し、しまった……」

「出てきなさい!!」

「う……!!」

「その声、まさか……」

 

 うっかりと酒樽を転がしてしまったエコーの方向を、マーベルがそのまなじりを吊り上げて睨み付けた。

 

「マーベル様、いまは脱出を先に!!」

「しかし、ニー!!」

「早く!!」

 

 ニー、その人名らしき言葉を、必死でエコーは頭の中で反芻する。

 

「確か、ギブン家の息子……」

 

 ギブン家、それはアの国ドレイク家の東側に位置する大貴族の名前だ。確か由緒正しい昔からのアの国の忠臣。

 

「マーベル様、ギブン家にその身を寄せるつもりなのか?」

 

 ガラ、ラァ……

 

 けたたましく夜の街を去っていく馬車を見送りながら、ポツリと残されたエコーは一人呟く。どちらにしろ、一人では出来ることはない。

 

「仕方ない」

 

 電灯が灯る夜の中、酔いがすっかり冷めたエコーは。

 

「どちらにしろ、ベッグ隊長に報告だ……」

 

 その足で兵舎へと向かう、が。

 

「マーベルさん……」

 

 ふと、脚を止めてエコーが呟いた愛仰を含んだ言葉は、夜の闇に溶けるのみ。



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第5話「初オーラバトラー体験」

  

 朝焼けの中、上空に二機のオーラバトラーバトラーが飛翔し、模擬戦を行う中。

 

「ふう……」

 

 アの国の騎士「バーン・バニングス」は、ゲドバインの慣熟飛行をラース・ワウの郊外、機械の館付近で行っていた。

 

「堪えるな……」

「お疲れさまです、騎士バーン」

「ありがとう」

 

 そう言いながら、ゲドバインから降りてきたバーンに向かってエコーは飲み物を差し出す。

 

「やはり、このゲドバインは我々コモンの手には余るな……」

「難しいので?」

「ブラウーネやゲドの比ではない」

 

 ク、ピィ……

 

 エコーから差し出された飲み物、野菜ジュースにとその口を付けながら、バーンは微かに自嘲してみせた。

 

「全く、あの裏切り者の地上人の女め」

「マーベル様の事で?」

「他に誰かいるか、少年?」

 

 その言葉と共に放たれたバーンの笑い声に対して、軽く同調してみせる兵士エコー。

 

「オーラバトラー、俺には羨ましい限りです」

「そうか、少年」

「いつか、乗ってみたいものです」

「乗ってみるか?」

「は?」

 

 一瞬、そのバーンの言葉が解らず、ポカンとした顔を見せるエコーに対して、バーンは明るく微笑みかける。

 

「このゲドバインとやらにですか?」

「そうだ」

「よろしいので?」

「許す」

「ワァ……」

 

 そう、感嘆の声をあげながらエコーはゲドバインのコクピットにと続くハシゴにと、その視線を向けた。

 

「エコー、昇ります」

「おう……」

 

 スゥ、ス……

 

「身軽だな、少年」

「どうも……」

「いや、良いことだ」

 

 どうでもいい事を誉められた彼、エコーの上空では、ゲドⅡブラウーネと見慣れぬオーラバトラーの模擬戦が未だに続く。

 

「ガラリアも、ブラウーネでなかなかやるな」

「エコー、コクピットの前です」

「よし、入れ」

「ハッ!!」

 

 そのまま身軽にゲドバイン内部へと入り込むエコー、機体内へと入り込んだその彼の視線の先には、見慣れぬ計器類が所狭しと詰め込まれている。

 

「ドロやアケロンと、似ているようで違う……」

「エンジン・キーを回してみろ」

「エンジン?」

「手元にある、銀色の鍵だ」

 

 コクピットの座席に座り込むエコーは、バーンに言われるがままにその鍵を探す。

 

「これだな……」

 

 錠、家などに付けるそれによく似たその鍵を、エコーはおっかなびっくりにと回転させた。

 

 ギィ、イ……!!

 

 その瞬間にオーラバトラー、それの推進装置であるオーラコンバーターから、奇怪な音が立ち上った、その時。

 

「う、うわ……!?」

 

 そのコンバーター起動と共に、突如としてエコー少年は自身の身体からゲッソリと力が抜け落ちるのを感じる。

 

「コンバーターを止めろ!!」

「と、止めると言っても!!」

 

 コクピットを開放させていたままの為に内部の様子を確認出来ていたバーンから、そう指示がエコーにと飛ぶ。

 

「ど、どうやって!?」

「キーを逆回転させろ!!」

「キー!?」

「鍵だ!!」

「はい!!」

 

 グゥン……

 

 慌てたエコーがその手を滑らせながら、エンジン・キーを回した途端に。

 

「ふう……」

 

 嘘のように身体が軽くなり、緊張がほぐれる。

 

「降りてこい、少年……」

「はい……」

「ゆっくりな」

 

 優しく声をかけてくれるバーンの指示に従い、疲れた顔でゲドバインから降りるエコー。

 

「どうだった、オーラバトラーは?」

「どうもこうも……」

 

 バーンが差し出してくれるドリンクの入った水筒へと口を付けながら、エコーはその唇を尖らす。

 

「よく、こんな物に騎士様達は乗れますね」

「まあ、このゲドバインは」

「ん?」

「特別製だからな」

「はあ……」

 

 そういいつつに、バーンはよく晴れた空を見上げ。

 

「バーン様も、ガラリア様も凄いものだ……」

「ブラウーネはこのゲドバインよりは易しい」

「そうなので?」

「ああ、それに」

 

 模擬戦を続けているガラリア機とその対戦相手を見つめている。

 

「ゲードラムなら、お前にも乗れるかもしれんな」

「ゲードラム、ガラリア様のお相手で?」

「ああ、あの赤い機体だ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ガンッ!!

 

 そのゲードラム、丸っこい人型の機体が、ガラリア機ブラウーネの持つ模擬刀をまともに受け、大きく揺らぐ。

 

「新型、ドラムロの実験機だよ、ゲードラムは」

「ドラムロ?」

「おっと……」

 

 どうやら、その名は極秘の扱いであったらしい。バーンのその顔に微かな狼狽の色が浮かぶ。

 

「今のは他言無用だぞ、いいな?」

「は、はい!!」

「よし、よし……」

 

 そのまま、一つため息をついたのちに。

 

「少し、私は別の仕事に入る」

「あ、水筒……」

「口止め料だよ、くれてやる」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 エコーの返事に対して、バーンはその背を向けたままに手を振り、機械の館にとその脚を伸ばしていった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「この力、全てはお館様の為に!!」

(でも、やっぱり……)

 

 その、バーンの乗ったドラムロが舞わせる剣舞を見つめながら、エコーは。

 

「俺は、オーラバトラーに乗りたいな……」

 

 憧憬の目で、その人型のオーラマシンを見つめている。



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第6話「怒りのホリィ」

  

「反対です!!」

「そう怒るな、ホリィ」

「だって、エコーは一兵士でしょう!?」

 

 その怒気に満ちたホリィの声に、その場にいた騎士ベッグ揮下の兵、エコーとネデルがその顔を見合わせる。

 

「エコーが、ドロのメイン・パイロットだなんて!!」

「傷つくな、ホリィ……」

「何か言った、エコー!?」

「なんでもないよ」

 

 その、ヒステリックに叫ぶホリィ・ウッドに対して。

 

「オーラ測定機では、彼がお前達の中で一番オーラ力が高かった」

「……」

 

 騎士ベッグは彼女を落ち着かせるように、穏やかに語りかけた。

 

「……ベッグ隊長はどうするおつもりで?」

「今度のギブン家攻めにな、バーン殿から」

「アの国、一番の騎士様ですか……」

 

 よほど、身分が下のエコーにマシンを「先取り」されたのが悔しかったのであろう、普段は言わぬ皮肉をホリィはその口にする。

 

「バラウ、ウィングキャリバーでしたっけ?」

「運搬機兼支援機、オーラマシンの一種ですよ、エコー」

 

 小声で繰り出されるエコーとネデルの言葉がその耳にと入ったのか、ベッグは深くその頭を頷かせた。

 

「バーン殿の、直々の依頼なんだ」

「露払いをしろと?」

「偵察も兼ねてな」

「フーン……」

 

 話と時間が経ち、少しはホリィの活火山も収まってきたようだ、だがその彼女は冷たい視線を。

 

「フン……」

 

 一つ、エコーへと投げつけたきりに、何処かへいってしまった。

 

「気にするな、エコー」

「はい、隊長……」

「彼女の反応は、自然な事だ」

「ですけどね……」

 

 ハァア……

 

 最近、我ながらため息が多いなと思いながらも、エコーの口からはまたしてもため息一つ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「全く、もう……!!」

 

 ダァン!!

 

 ビールの入った木製のジョッキを酒場のテーブルに叩きつけながら、ホリィは見事に。

 

「何であたしが、アイツに踏まれないといけないわけ!?」

「荒れてるねえ、嬢ちゃん……」

「なんでなのよ、答えなさいよ!!」

 

 酔客のもたらす厄介事を金髪の男、対面する客へと与えている。

 

「あたしはアイツよりもがんばって、騎士見習いになったのよ!!」

「はいはい……」

「剣の腕も、あたしの方が上なのに!?」

「けどな、嬢ちゃん……」

「何よ!?」

「まあまあ、落ち着けって」

 

 自身も酒をチビチビと口へ運びながら、その男はホリィをなだめすかす。

 

「なっちまったもんは、しかたがなきだろ?」

「これは夢よ……」

「現実逃避したって、どうにもならねぇ……」

 

 そのまま、豆を食べながら悪酔いしてきたホリィの肩へとその手を置いてやる金髪の男。

 

「自分のやるべき事をやるだけさね……」

「……」

「違うかい、嬢ちゃん?」

「……違わない」

「だろ?」

 

 フラァ……

 

 足元がおぼつかないが、ちゃんと金を支払い酒場から出ていくホリィに向かって。

 

「がんばれよ、嬢ちゃん」

「うん、ありがとう……」

 

 その、彼女の背に向かって声をかけてやる男。

 

「がんばれよ、か……」

 

 ホリィが酒場から出ていったのち、その自分が吐いた言葉にやや自嘲げな笑みを浮かべながら、彼は。

 

「俺も、右も左も解らねぇんだ」

 

 かなり酔いが廻ったな、そう感じながらも、男は追加のビールを注文する。

 

「いつも以上に、慎重にいかねぇとな」

「あ、いたぞ!!」

「ん?」

 

 舌を舐めながら、そう自分を納得させるかのように呟いた彼に駆け寄る男が二人。

 

「なんだ、ジャパニーズにロシアンかよ……」

「バーンがさがしていたぞ!!」

「ちっ……」

 

 その騎士の名に、一つ舌打ちをしてから男は席を立ち、店の主人に銀粒を差し出す。

 

「まともに酒も飲めやしない……」

「俺達はこの世界の客人なんだぜ、トッド」

「わかってるって、ロシアン……」

 

 グゥ……

 

「おっと……」

「すまねぇな、ショウ」

「飲み過ぎだ、トッド」

「ジャパニーズには、俺の気持ちは解らねぇよ……」

 

 そう呟きながら、トッドと呼ばれた青年は二人の男に抱えられつつ、酒場を後にした。



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第7話「イヌチャン・マウンテンの戦い」

「これが、オーラマシンで」

 

 森林山脈地帯「イヌチャン・マウンテン」の上空を、ドレイク・ルフトの軍勢が飛ぶ。

 

「風を切る感覚か」

「いい気にならないでよ、エコーは」

「うるさいな、ホリィ」

 

 その軍勢にと含まれる一機のドロ、オーラボムの操縦プラットホームで、エコーはドロを前方にと推し進めるように「念じる」

 

「ギブン家が、何でドレイク様の領地を攻めたのかな、ネデル!?」

「さあ!!」

 

 エコーが大声を出して怒鳴ったのは、マウンテンの風が強くなり普通の声ではかき消されるからである。

 

「わかんねぇな……」

 

 ギブン家、その一部隊が先のラース・ワウで行われたオーラマシン披露会で強襲を仕掛けた理由、それはいくら考えても、所詮は一兵士であるエコーには解らない。

 

「まあ、もっとも……」

「あたしたちが考えることじゃないでしょう、エコー!!」

「ちょっと、うるさい……!!」

 

 そのホリィの怒鳴り声は、単に強風のせいではない様子だ。未だに機嫌が悪いらしい。

 

 ガ、ガガッ……

 

「各員、こちら先頭のバラウ」

 

 騎士ベッグ、彼が駆る戦闘機バラウからの声が、酷く性能の悪い鉱石ラジオを通してエコー達へと届く。

 

「ギブン家のオーラマシン部隊を確認」

「数は解るか、ベッグ殿?」

 

 そのドラムロ、てんとう虫にも似た新鋭オーラバトラーを操る騎士バーン・バニングスの声が、ベッグからの広域無線の中にと混じった。

 

「ゲドとドロが主力、あとはダーナ・オシーが僅かに」

「そのダーナ・オシーには気を付けろ、皆」

 

 ダーナ・オシー、その名はギブン家がドレイク・ルフト家から盗みとった技術で作り上げた模造オーラバトラーだということは、風の噂でエコーも聞いている。

 

「ギブン家にも、オーラマシンがあるのか、ネデル?」

「あるんじゃないですか、エコーさん」

「そうか」

 

 しかし、ドラムロはもちろんゲドの発展系である「ブラウーネ」やゲドとドラムロの中間機である「ゲードラム」はないはずだ。ドレイクはそれらを他国には輸出していない。

 

 グゥン……

 

 先のバーン・バニングス達の声が聞こえたと同時に、女騎士が駆るバラウがドレイク軍全体の上方にと位置をする。

 

「おいガラリア、あぶないぞ!!」

「そのダーナ・オシーとやら、あたしが落としてやる!!」

「ちぃ!!」

 

 忌々しげに呟くバーンを無視し、ガラリアはそのままバラウを高空にと位置させる。そのガラリア機を昼の光が明るく照らす。

 

 バゥ!!

 

「ギブン家から先制攻撃!!」

 

 自機を狙われたにも関わらず、そのドロからのフレイ・ボムを回避しつつに全軍へ警告の通信をするベッグは、まちがいなく名うての騎士の実力を見せつけている。

 

「みんな、いくぞ!!」

「了解!!」

 

 そのエコーの呼び声にホリィ、ネデルが返答する傍らで。

 

「地上人、準備はよろしいか!!」

「ああ、やってやるよ!!」

 

 三機のダンバイン、地上人専用機「ゲドバイン」の発展型から。

 

「ま、やるしかねぇか!!」

「どうすりゃいいんだよ……!!」

 

 マーベル・フローズン達に続き、新たにバイストン・ウェルに召喚された三人の地上人、彼らの声もエコー達へと届く。

 

「あれが、第二の地上人達か……」

「エコー、敵がみえたわよ!!」

「ホリィ、フレイ・ボムの準備を!!」

 

 戦闘態勢へと移行するドロ、プラットホームに立つエコーの目の先では、すでにバーン達の戦闘が始まっている様子だ。

 

「後列、注意!!」

 

 そのドレイク軍の前線をすり抜けた数機のダーナ・オシー、彼らが狙いをつけたのは。

 

「この、くそ!!」

「善悪の区別もつかない、この分からず屋!!」

「なんだと、お前は誰だ!?」

「私はダーナ・オシーのマーベル・フローズン!!」

 

 どうやら、三機のダンバインらしい。その内青色のダンバインが敵機ダーナ・オシーと接近戦を繰り広げてるのを確認したエコーは、ホリィ達に地上人の支援をするように要請する。

 

「遅いよ、ホリィ!!」

「フレイ・ボム加圧器の調子が悪いのよ!!」

「くそ!!」

 

 その報告を聞いたエコーは、プラットホームでフレキシブル・アームを動かすように「念」じ、その念が通じたのかドロ、クラゲの触手のようなフレイ・ボム発射器から。

 

 ザァ!!

 

 滝のような火焔が、そのダーナ・オシー隊を怯ませる。

 

「しまった!!」

「何、燃料を使いきっているんですか、エコーさん!?」

「す、すまん!!」

 

 その、あまりにも苛烈な火焔の渦は即座に消え去り、その後エコー機の出力が大幅に低下した。

 

 バッバア……!!

 

「バカめ!!」

 

 エコーのドロの惨状を見かねたガラリアが前線から舞い戻り、周囲で陣を整えるドロからの支援を受けつつに、そのダーナ・オシー隊の隊長機へとバルカン、実弾兵器による強襲を仕掛ける、が。

 

「うわぁー!!」

 

 二機のダーナ・オシーに取り囲まれ、緑色に塗装されたダンバインが、火を吹きながらイヌチャン・マウンテンの森林にと落下する。

 

「ちぃ、地上人め!!」

 

 その姿を見つめたガラリアが軽く眉をひそめ、舌打ちする音がエコー達にも聞こえた。

 

「エコー機、右だ!!」

「何!?」

 

 後続のリの国、お情けの援軍として一機だけ派遣してくれた空色のドロから、警告の声がエコー達にと響く、が。

 

 グゥ……

 

 オーラ力(ちから)が低下したエコーでは、ただでさえ鈍重なドロの回避行動は不可能だ。先の警告を与えてくれた老騎士の支援フレイ・ボムが飛んだが、その脇をすり抜け一機のゲドがエコー機へとせまる。

 

「く、くそ!!」

「フレキシブルが、エコー!!」

「解っているよ、ホリィ!!」

 

 だが、切り離されたフレキシブル・アームが跳ね、そのゲドの体勢を崩した隙に。

 

「はっ!!」

 

 ドロ隊の直掩機であるゲードラムとブラウーネが、そのゲドを手からのフレイ・ボムの連射で退かせてくれた。

 

「た、助かる!!」

「情けないぞ、ドロ!!」

 

 その試作機のフレイ・ボム発射器は連射の負荷により故障したようであったが、そのお陰でエコー達は助かった。

 

「こちら、バーン!!」

 

 いつのまにやら雲が辺りを覆い、薄闇となったマウンテン、その宙域にバーン機ドラムロからの無線、及び信号弾が宙にと飛ぶ。

 

「ギブン家の手勢は、撤退を開始した……」

「追撃しよう、バーン!!」

「だめだ、ガラリア」

「しかし、ここで敵を討っておかないと!!」

「こちらの損害もある、地上人が一人やられた様子でもあるしな」

「……」

「撤退だ」

 

 そのバーンの声、意見を聞き微かに身体中から力が抜けるエコー。

 

「ちょっと、エコー!!」

「エコーさん、オーラ力が!!」

 

 オーラ力、それが失われそうになったエコーのドロは、危うく高度が下がりそうになる。

 

「武勲を、上げられなかった……」

「そんなこともありますよ、エコーさん」

「うん……」

 

 雨がパラパラと降り注いできたイヌチャン・マウンテンの中、エコーの力がいきなり抜けたのは、何も戦いの恐怖から解放されただけではない。悔しさもあるのだ。

 

「初オーラマシンにしては、まあまあだな……」

 

 いつのまにか近付いてきたドラムロ、微かに破損したバーン機から掛けられた声と共に。

 

「少し、実戦は早かったかな……」

 

 そのドラムロを乗せたバラウ、騎士ベッグの声が苦々しげにエコーには聴こえた。

 

「すみません、ベッグ隊長」

「いや、気にするなエコー……」

「はい……」

 

 実戦で無様な戦いを見せてしまった、そのエコーの心境を代弁するかのように。

 

 ザァ、ア……

 

 夕闇が近付いてきたイヌチャン・マウンテンにと、雨が降り注いできた。



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第8話「ガロウ・ランの少女」

  

「良い風だ……」

 

 季節はすでに秋、落ち葉が舞い落ちる林の上空を、小規模の「ベッグ隊」が飛行する。

 

「これが、ガロウ・ラン退治でなければな……」

「ぼやかないの、エコー」

「はいはい、ホリィ……」

 

 地の種族ガロウ・ラン、それらの残党がこの林の中に潜んでいるというのだ。

 

「しかし、ベッグ隊長」

「なんだ、エコー」

 

 そのエコーの乗るドロのプラットホームにと立つ彼の無線に答え、騎士ベッグのゲードラムがエコー機の前方へ近づいた。

 

「ガロウ・ランの姿は、見えませんね……」

「上手く潜伏しているのだろうな……」

「ゲリラですか」

「難しい言葉を知っているじゃないか、エコー」

「いやあ……」

 

 その隊長の誉め言葉に気を良くしたエコー、その影響か。

 

 グ、ラァ……

 

「ちょっと、エコー!!」

「なんだよ、うるさいなホリィ!!」

「そんなことで喜ばないの、オーラが乱れる!!」

「そんなこと!!」

 

 確かに、エコーの言う通りその程度の事でドロが操縦困難になってはたまらない。ならば。

 

「ネデル、何かしたか!?」

「オーラ吸引関係に異常が見られます」

「全く、もう……」

 

 機体トラブル、最近このドロには特に多い。

 

「しかし」

 

 エコーは冷たく感じる秋風の中からガロウ・ランの気配を感じようとするが、なかなか見つからないことに苛立ち始める。

 

「本当にいないな……」

「そうだな」

 

 その僚機、ややに後方を飛行しているドロのパイロットも同じ事を感じたようだ。エコーの一人言に答えてくれた。

 

「もしかして、いな……」

「エコー、後ろだ!!」

 

 チィイ!!

 

 そのベッグ隊長の声と同時に、銃の弾丸がエコー機ドロの表面を傷つける。

 

「くそ!!」

 

 後続のドロ、エコーよりも先輩の兵が乗るドロがフレイ・ボムをその弾道を見やり、闇雲に撃ち始めた。

 

「まて、無駄撃ちするな!!」

「そ、そうですね!!」

 

 その兵もやや慌てていた様子だ、ベッグの声によって冷静を取り戻した彼は、そのままプラットホームからガロウ・ランの姿を見極めようとその目を凝らす。

 

「ガロウ・ラン……」

 

 エコーにとっては忌まわしい記憶、父と母をその闇の種族に殺されたとあっては、駆逐したい存在である。

 

「どこだ……」

 

 しかし、いくら探してもガロウ・ランの姿は見つからない、少し目を休ませようとした、その時。

 

「ライフル、フリントホックの!!」

 

 チェーッ!!

 

 先の狙撃が、今度はエコーの足元へと撃ち当たる。あと少し狙いが正確であれば、生身のエコーにと命中していたはずだ。

 

「いた!!」

 

 ボゥ!!

 

 エコー機のフレキシブル・アームの内、一本が火を吹き。

 

「当たったか……?」

 

 そのガロウ・ランが隠れていた木々を焼き払う。

 

「ミスったか……」

 

 だが、その次の瞬間、エコーはその目で信じられない物を見た。

 

 ギィイ!!

 

「ゲド!?」

 

 漆黒色にと塗装されたオーラバトラー、それがエコー機目掛けて一直線に飛び掛かってくる。

 

「う、うわ!?」

 

 反射的にフレキシブル・アームを振り回すドロ、それが一本黒いゲドにと命中したが、損害は与えていない様子だ。

 

「落ちろ!!」

「女、女のガロウ・ランか!?」

「女で悪いかよ!!」

 

 ボフゥ!!

 

 出鱈目に撃ち放ったバルカン、一本のアームだけに備え付けられた近接兵器がそのゲドの装甲を軽く叩き、ようやくエコーはそのガロウ・ランを僅かながら怯ませる事に成功した。

 

「くそ、コモンめ!!」

「ガロウ・ラン!!」

 

 その隙をつき、ベッグ隊長のややに破損したゲードラムが、そのゲドにと接近戦を挑む。

 

「エコー、お前達は林に潜んでいるガロウ・ランを狙え!!」

「ですが、隊長!!」

「ガダを装備している奴もいる!!」

 

 ピュウア……!!

 

「弓矢、ガダか!?」

 

 ガダ、衝撃を受けると大爆発を起こす液体火薬。その直撃を食らったらオーラマシンといえどもただではすまない。

 

「くっ、やる!!」

 

 ベッグ隊長はそのゲドに苦戦している様子ではあるが。

 

 ピッ、ヒュウ……

 

 木陰から姿を現し、クロスボウを撃ち始めたガロウ・ランの事が目に入り、エコー達は隊長の命令を守ろうとする。

 

「おのれ!!」

 

 後方に控えるもう一機のドロと共に、火焔放射器でそのガロウ・ランを薙ぎ払おうとするが、どうも「相方」のドロも調子が悪いらしく、フレイ・ボムが上手く発射できていない。

 

「高度を!!」

「エコーさん、無茶です!!」

「しかし、このままでは!!」

 

 その、一瞬の隙がエコー達の命取りになった。

 

 バウゥ!!

 

「きゃあ!!」

「ホリィ、大丈夫か!?」

 

 ついに一発のガダが命中をし、その衝撃でホリィが身体を機体の壁面に打ち付けた様子だ。

 

「オーラ吸気、出力七十パーセントダウン!!」

「立て直せないか、ネデル!?」

「無理です、完全にやられています!!」

 

 そのネデルの言葉の通り、どんどんとその高度を下げていくエコー達のドロ。

 

「くそ!!」

 

 しかし、その高度が下がっていく中でもエコーはオーラマシン特有の「念」の力でフレイ・ボムをガロウ・ラン、その顔をハッキリと解るようになるまで近づいた彼らに向かって撃ち放つ。

 

「不時着するぞ、皆!!」

「は、はい!!」

 

 ホリィの介抱をしていたネデルは、そのエコーの言葉を受け、近くの手すりにホリィを抱え込んだままにしがみつく。

 

「着地、三、二、一!!」

 

 ズゥン……

 

 そのまま、フレイ・ボムにより焼かれた林にと不時着するエコー機。その彼らに向かって。

 

「コモンだ、獲物だ!!」

 

 ガロウ・ラン、地の世界の蛮族たちが攻めよってくる。

 

「俺、銃はあまり得意ではないが……」

 

 とはいえ、選り好みをしている場合でない。その背にと背負っているライフル銃をその手に持ち、迫り来るガロウ・ランに向かって射撃体勢を取るエコー。

 

 ボウゥ!!

 

 だが、そのガロウ・ランの群れに僚機のドロがフレイ・ボムを連射し。

 

「エコー、大丈夫か!?」

「俺は大丈夫ですが、ホリィが……」

 

 ゲードラム、ベッグ機もそのガロウ・ランにと向かって、火焔を放射し始めた。

 

「隊長、あのゲドは!?」

「今ごろ、近くの林の中でウンウン唸ってるさ」

「そうですか……」

 

 どうやら、騎士ベッグはあの黒いゲドを下したらしい、だからこそこうやってエコー達の手助けに駆けつけられたのであろう。

 

「ネデル、ホリィの容態は?」

「大丈夫、少しあざになっているだけよ」

「その口調では、大丈夫そうだな」

 

 プラットホーム上にいるエコーにも聴こえる位にハッキリとした声を出せるということは、大した怪我ではなかったのだとエコーは想像した。

 

「まあ、何はともあれ……」

 

 ドロとゲードラム、二機のオーラマシンにより撃ちのめされたガロウ・ランが逃走を始めた姿を見やりながら、エコー少年は。

 

「危機は去った、と」

「あたしはまだ身体が痛むわよ、エコー」

「唾をつけておけば、治るさ……」

「もう!!」

 

 フウと、一息をついた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「あいたた……」

「両手を上げろ、ガロウ・ラン」

「ほら、よ……」

 

 剣を持つ手を失った黒いゲド、そのコクピットから一人の若いガロウ・ランがもろ手を揚げながらも、身軽に密集した木々をつたいながら地面へと飛び降りてくる。

 

「へえ、これは……」

「なんだい、アンタは?」

「いや……」

 

 美しい、まだ少女とも言える年頃であると思われるが、エコーは彼女の顔を見たとたん、軽くその両目を細める。

 

「ガロウ・ランは……」

 

 よく、ガロウ・ランは見た目が正視に耐えない連中が多い。その中で彼女は珍しいタイプなのであろう。

 

「さて、ガロウ・ランとはいえ投降者をどうするか……」

 

 騎士ベッグ、彼はこの彼女に対する処遇を決めかねている様子である。

 

「殺しちゃってもいいんじゃないかしら、ベッグ隊長」

「僕もそう思います」

 

 ホリィとネデル、二人の意見は決まっているようであるが、エコーは。

 

「ベッグ隊長」

「なんだ、エコー?」

「彼女、捕虜にしましょう」

「捕虜、誰に対してだ?」

「そりゃ……」

 

 考えてみれば、相手は騎士ではない。捕虜にしたところで得るものはなにもない。

 

「とっとと殺せばいいじゃないのさ、コモン……」

「いや、それは出来ない」

 

 少女の言葉に対してとっさに反応したエコーの答えに、その場にいた者達全員がその目を丸くする。

 

「だって、美人だし……」

「また、コイツの悪い病気が始まった……」

 

 そのエコーの言葉に、ホリィは頭痛がしてきた頭を軽く天にと仰がせた。

 

「おい、エコー……」

 

 同僚、僚機にと乗っていたドロの搭乗員も呆れ顔を隠そうともしない。

 

「へえ……」

 

 その、ガロウ・ランの少女はエコーのその言葉にもクスリとも笑わない。

 

「好き者か、あんたは」

「なんとでも言え」

 

 情けない理由でガロウ・ランを助けようとするエコーを尻目に、ベッグは何かを考えている様子だ。

 

「まあ、ゲドを操れるガロウ・ランだ」

「ゲド?」

「お前が乗っていたオーラバトラーだよ」

「ゲドっていうのかあれは、ふーん」

 

 何かに納得したような笑みを浮かべる彼女、ガロウ・ランの少女に向かって。

 

「名前は、なんて言うんだ?」

「情けないよ、エコー……」

「ほっとけ、ホリィ」

 

 本当に情けない理由で彼女を助けようとするエコーに呆れはてたホリィ、エコーの幼馴染みを。

 

 ヒュウア……

 

 夜が近付く足音を含んだ秋の風が、軽く彼女の事を笑った。



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第9話「ネデルの里帰り」

 

「レーテ」

「それがあなたの名前か?」

「そうだよ、何か?」

「いや……」

 

 最初、このガロウ・ランの尋問を行おうとしたのはエコーではあったが。

 

――ねえ、逃がしてくれない?――

――ゴクリ……――

 

 と、彼女が誘惑をし、それをネデルに見咎められた為に、彼ネデルが尋問係となった。

 

「ゲドを手に入れた経緯は?」

「仲間からのもらいもんさ」

「操縦は誰にならった?」

「自己流」

 

 別にガロウ・ランの情報なぞ得ても仕方がないとホリィ辺りは言っていたのだが、頓挫したエコー機ドロの回収隊がこの夜の林に着くまでには、まだ時間がかかる。

 

「質問はそれで終わり、ボウヤ?」

「僕は貴方と大して、歳は変わらないと思いますが?」

「フン……」

 

 それが為に、彼女を尋問でもしようとエコーが言い出したのだが、ベッグ隊長が見る限り。

 

「俺が、彼女の尋問を再開しましょうか?」

「ダメだ、不許可だ」

 

 どうにも、そのエコーには下心があるように見受けられた。

 

「あのガロウ・ラン、ラース・ワウに連れていくらしいってよ」

「へえ……」

 

 夕食を終えたエコーの僚機のクルー達も、特にすることがないので見張りを立てた上で、彼女を尋問する様子を実と見ている。

 

「回収隊、まだかしら……」

「無線が無事でよかったな、ホリィ」

「そうですわね、鼻の下伸ばしエコーさん」

「なんだよ、その言い方……」

 

 つまらないバカ話をして時を潰しているが、秋の夜は肌寒く、野営には不向き。ゆえに早く回収隊が来るようにと願っている彼らベッグ隊のメンバーであるが。

 

 ズゥ……

 

「お、クレーン・ドロだ」

 

 その願いは叶い、オーラマシンの回収用に利用されているクレーン・フレキシブル・アームを装備されたドロの、オーラ吸気音が聞こえてきた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「父上、ただいま帰りました」

「うむ」

 

 ラース・ワウとギブン家の館を結ぶ街道のちょうど真ん中、そこからすこし外れた小山の中に「ネデル・スルタン」の実家、スルタン家の屋敷がある。

 

「ラース・ワウではよく働いているようだな」

「いや、そんな……」

「まあ、ともかく」

 

 そういいながら、ネデルの父は一つ咳き込んだ後に、彼ネデルへ風呂へ入るように勧めた。

 

「その前に、食事にしたいな……」

「おう、そうか……」

 

 どうやら、居間の食事の匂いに誘われたらしい、ネデルの腹の音が微かに鳴る。

 

「では、ささやかながら晩餐といこうか」

「はい」

 

 そのまま、彼らは廊下を歩き居間、この屋敷の主人使用人用の食事場へと向かう。

 

「父上、お体の様子は?」

 

 廊下を歩き、居間にたどり着いた彼ら、ネデルとその父はテーブルの上に並んでいる芳ばしい食事の匂いを鼻にと入れながら、軽い雑談をしている。

 

「ああ、あまり良いとは言えないな……」

「そうですか……」

 

 テーブルにつきながら、話を続けている彼らに、メイドが温かいスープを運んできてくれた。

 

「父上」

「なんだ?」

「ギブン家の噂、聞きましたか?」

「あたりまえだ……」

 

 ギブン家、このスルタン家と深いつながりがある名家の話題を出しながら、二人は運ばれてきたスープをすする。

 

「奥方が、ドレイクの手勢に殺されたらしいな」

「なぜ、ドレイク様はそのような事を……」

「解らないが、しかし……」

 

 ネデルの父はパンを口にしながら、何やら考え込んでいる様子。その様子を見つめながら、ネデルは肉料理へとその手を伸ばす。

 

「あの噂は、本当かもしれん」

「ドレイク様が、下克上を目論んでいるという噂……」

「その手始めの為に、古くからアの国の重鎮であるギブンを、攻撃した」

「そんな……」

 

 ネデルは料理を口に運ぶその手を止め、父の言葉にその言葉に実と耳を傾けている。

 

「父上、私は」

「言うな、ネデル」

 

 息子の言葉をその手で遮ったネデルの父、彼は咳き込みながらもその話続けた。

 

「ネデル」

「はい」

「お前に一か月の猶予を与える」

「は……?」

「ドレイクの元を辞せよ」

「そんな!!」

 

 ガタッ……!!

 

 椅子を蹴るように立ち上がったネデル。その行為についてお付きのメイド達がヒソヒソと小声で話をするなか、父は再びその手で息子を制する。

 

「私は、私なりに考えて……」

「わが家とギブンは、古くからの間柄だ」

「……」

「お前も、次期スルタン家当主としての自覚をもて」

 

 そう、厳しい口調で言い放ったネデルの父から、また一つ低い咳がこぼれ出た。

 

「すまないネデル、少し休む」

 

 体調が優れないのだろう、ネデルの父は息子の返事を待たずに、そのまま食事の場から立ち去っていく。

 

「僕は……」

 

 料理が冷めるのも無視、メイド達の疑惑の視線をも無視して、ネデルは呆けたようにその場に立ちすくむ。

 

「どうしたらいいんだ、エコーさんに……」

 

 そのネデルの独り言、それに答える声はこの場には存在していない。

 

「ホリィさん……」

 

 無論、その片想いの少女を呼ぶ声にもだ。



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第10話「ドラムロ翔ぶ」

  

「ネデルの奴は、里帰りか」

「ええ、お屋敷にね」

 

 オーラマシン「ドロ」の整備をしている二人の男女、エコー少年とホリィ少女は。

 

「スルタン家、結構な名家よ」

「いいとこの出なんだな、アイツは」

「ええ、あたし達と違ってね」

「ちぇ……」

 

 世間話をしつつに、整備基地の廻りへと散らばっている、他のオーラマシンをふと見やる。

 

「あ、ドラムロタイプだ」

「こんな辺鄙な基地に、珍しいわねぇ……」

 

 そのドラムロのパイロットと思わしき、気品に満ちた男は何やら整備員と話し合っている様子だ。

 

「ドロの数も、結構あるわね」

「そうだな、ホリィ」

「そうそう、ドロで思い出したけど」

「なんだ?」

 

 何やら、フレキシブル・アームをバルカンにと換装した他のドロ、それを操っているクルー達が揉めている声がエコー達の元にまで届く。

 

「アームが三本しかなくて、より小型のドロって知っている?」

「なんだ、それは?」

「何か、どこかのギブン家の基地を攻めた部隊が見つけたみたい」

「へえ……」

 

 そのギブン家とドレイク・ルフト家の争いは、すでに家同士の揉め事という枠に収まらず、ちょっとしたアの国内乱のレベルにまで達している。

 

「ギブンのダーナ・オシーと同じようなもんかな?」

「分析した人によれば、結構良い出来だったみたいよ」

「じゃあ、異国からの輸入品……」

「かもね」

 

 輸入品、すでにオーラマシンはドレイク家だけの専売特許では無いことを意味する。現に。

 

「リのアルダムだって、ショット様が唸るくらいの素晴らしい出来だったみたいよ」

 

 アの国の隣国「リ」は、少数ながらも自国製のオーラバトラーを他国に輸出し、ドレイク家にも数は少ないが配備されている。

 

「戦争でも、始まるのか……?」

「すでにギブン家とは戦争じゃない」

「いや、そうじゃなくて国同士の」

 

 その言葉をエコーが吐いた時に彼が感じた寒気は、何も冬の風のせいではない。

 

「まあ、どっちにしろ」

「あたしたちは、今やる事をするしかない、でしょ?」

「人の心を読むなっての……」

 

 ブツブツと文句を言いながら、エコー少年はオーラ・セイバー・リキッド、マシンの補修部品が無くなったのに気が付き。

 

「ちょっと、基地司令部へと行ってくる」

「新しいフレイ・ボム加圧器も陳情出来ないかしら?」

「あれは結構消耗が激しく、あんまり意見が通らないんだよな……」

 

 補給部へと向かおうとした、その時。

 

 ボフゥ!!

 

「な、何だ!?」

 

 突如として、ややに離れた基地の地面から火柱が立ち上る。

 

「敵襲だ!!」

「敵襲!?」

 

 その見張り台の兵、彼女が発した声に。

 

「見張り、何を見ていた!?」

「おそらく、雲を隠れ蓑としていたんです!!」

 

 騎士ベッグ、オーラバトラーのパイロットであり、エコー達の直属上官が見張り兵の彼女を問いただす声がエコー達の辺りまで響く。

 

「エコー!!」

「おう、しかしに!!」

 

 いち早く整備中のドロにと乗り込んだホリィの声に、エコーも彼女と共にドロへ飛び乗ろうとするが。

 

「二人だけで、動かせるのか……?」

 

 爆発音、それがすぐ近くで聴こえたエコーはその身を震わせながら、プラットホームにとその身体を預ける。

 

 グ、グゥ……

 

「くそ、宙に浮かない!!」

 

 焦るエコーの視線の先にはダーナ・オシー、ギブン家のオーラバトラーが無人のバラウを破壊している姿が見え、その光景が余計にエコーを焦らせた。

 

 ドゥ、ドゥド……!!

 

 一機のドレイク側のドロが、敵のドロと相討ってエコー達のすぐ近くへと落下する。

 

「くそ、動けよ!!」

「エコー、急いで!!」

「わかってる、わかっているけど!!」

 

 バゥ!!

 

「うわぁー!!」

 

 またしてもエコー達のすぐ近くで爆発、その爆風に巻き込まれ、ドラムロのパイロットにと選抜された男の姿がその余波によりかき消された。

 

「そうだ……!!」

 

 一つ、頭にと閃く物を感じたエコーは、プラットホームから身軽に飛び降り。

 

「あのドラムロならば!!」

「ちょっと、エコー!?」

 

 パイロット不在となった、ドラムロへとその足で駆けた。

 

「俺にだって、オーラ力はある!!」

 

 恐らくはギブン家、それのゲドが近くに落下してくる姿に軽く脅えを感じながらも、エコーはドラムロの元へとたどり着き、急いでコクピットへと続くタラップをかけ上がる。

 

「よし……」

 

 いつぞや見たゲドバインによく似たコクピット内部、エコーはエンジン・キーと思われる鍵を回し。

 

「動く、動くぞこいつ!!」

 

 そのドラムロの背部コンバーターから、気流を発生させる。

 

 ギィ、イ……!!

 

「いけぇー、ドラムロ!!」

 

 オーラコンバーターは正常、ドロのフレイ・ボム計器類にと似た機器のメーターも正常。そのままそのエコー機「ドラムロ」はよく晴れた空へと飛翔し。

 

「フレイ・ボム発射!!」

 

 エコーの掛け声と共に、目前のダーナ・オシーにとフレイ・ボム、火焔放射器を撃ち放つ。その火球は見事ダーナ・オシーの胴体部へ命中。続けて彼エコーは。

 

「落ちろ!!」

 

 そのダーナ・オシーに止めの一撃を加えようと、彼はドラムロの肩に装備されている剣をその右手に持つようにと「念じる」

 

「ドラムロ、エコーか!?」

「ありゃ!?」

 

 だが、そのダーナ・オシーは騎士ベッグが駆る「ゲードラム」の剣によって止めを刺され、地上へと落下していく。

 

「ベッグ隊長!!」

「エコー、エコーなんだな!?」

「どうです、隊長!!」

「後ろだ、エコー!!」

「何!?」

 

 ややに自慢げにベッグへ答えたのが仇となったのか、エコー機は背後に見慣れぬウィングキャリバーの接近を許してしまう。

 

 バッ、ハァ!!

 

「う、うわ!?」

 

 そのウィングキャリバー、運搬機からの機銃掃射がドラムロの装甲を叩き、機体内部の計器類が大きくぶれる。

 

「く、くそ!!」

 

 あわててその身を翻そうとしたエコー、しかしその時、そのウィングキャリバーがフレイ・ボムの火焔により、コンバーターから火を噴き出す。

 

「エコー!!」

「ホリィか、助かる!!」

 

 地上に停泊したままのエコー達のドロ、そこからホリィがアームだけを動かし、そのウィングキャリバーを撃墜してくれたらしい。

 

「しゃらくさいんだよ!!」

「ガラリア殿か!?」

「騎士ベッグ、敵はまだいる!!」

 

 その女騎士ガラリアが駆るゲードラムもまた、一機のドロを叩き落とした。最初の奇襲による混乱も収まり、組織的な反撃が出来るようになったドレイク側に戦局は有利であると思われる。

 

「バラウ隊、フォウ相手に情けないぞ!!」

「バラウじゃフォウに敵わないんだよ、騎士ガラリア!!」

「泣き言は聞きたくないね!!」

 

 どうやら、敵のウィングキャリバーは「フォウ」という名らしい、それの一部隊が再びエコー機ドラムロにと狙いをつけ。

 

 ボボゥ!!

 

「くっ!!」

 

 ミサイル、火器を撃ち放った。それを的確にフレイ・ボムの爆風で撃ち落としてくれるガラリア。

 

「貴様な、情けないぞネイベル!!」

「す、すみません!!」

「何!?」

 

 ゲド、そしてダーナ・オシーの剣撃を打ち払いながら、騎士ガラリアは喫驚の声を上げる。

 

「貴様、ネイベルではないな!?」

「エコー、兵士です!!」

「後であたしの元へこい、修正してやる!!」

 

 バッフゥ!!

 

 またしてもエコー機を狙ったバルカンの連射。オーラバトラーに関しては素人であるエコーにかわしきれる筈がなく、ただドラムロの厚い装甲に助けられていだけだ。

 

「こな、くそ!!」

 

 それでもエコーは根性を見せ、そのバルカンを放ったドロのアームを剣によって切り払う。

 

 パァ、パァン!!

 

「撤退、撤退だ!!」

 

 恐らくは敵の隊長機なのだろう、信号弾を揚げた深紅のゲドが、襲撃部隊全軍にと退却命令をだす。

 

「逃がすか!!」

 

 その威勢がよいガラリア機が、背を向けたフォウを一機、叩き切る姿が。

 

「ハァ、ハア……」

 

 初のオーラバトラー戦による疲れ、それが現れ始めたエコーの目前で繰り広げられた。



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第11話「ショットの目」

「あいてて……」

「どしたのエコー、そのタンコブは」

「いや、昨日の戦いの後、騎士ガラリア様にな」

 

 その頭にと出来たコブを撫でながら、エコーは。

 

――オーラバトラーは貴様のような一兵士が乗って良い品物ではない!!――

 

 昨日、そうガラリアによって鉄拳制裁を食らった事をホリィにと話す。

 

「そりゃ、災難だったわねぇ……」

「俺にだって、オーラ力が……」

 

 ホリィに向かって愚痴をこぼしているその時、彼らの近くへ。

 

「偶然を自分の力と勘違いするんじゃない」

「はい、ベッグ隊長……」

「まあ、もっとも」

 

 軍靴の足音高くやってきた騎士ベッグが、ニカとエコーに向かって微笑む。

 

「初めてにしてはよくやったよ、エコー」

「はあ……」

「ガラリア殿はな」

 

 未だに基地の後片付けも済んでおらず、無駄口を叩くエコー達を近くを通った者が冷たく見るのも気にせずに。

 

「妬いているのさ」

「何に、ですか?」

「一兵士の分際で新鋭機、ドラムロにと乗ってしまったお前にさ」

「そうですか……」

「気位の高い方だからなあ……」

 

 ベッグはやや愉快そうに話し、エコー少年のその細い肩を叩く。

 

「では、な」

「基地の戦死者簡易葬儀は、いつやるので?」

「明日の朝だ、遅れるなよ」

「はい、ベッグ隊長」

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「兵士エコー!!」

「は、はい!!」

「ショット様がお呼びである!!」

 

 雪積もるラース・ワウに帰ってきて早々に、伝令兵が偉丈にそうエコーにと告げ、去っていく。

 

「なんだろう……?」

「先の基地襲撃で、ドラムロを勝手に使った罰じゃないですか、エコー?」

「誰に聞いたんだよ、ネデル?」

「もっぱらの噂ですよ、身の程しらずってね」

「ちぇ……」

 

 何か、気が重くなりながらもエコーは。

 

「ショット様って、あの……」

「オーラマシンを発明した地上人の事ですよ、ホリィ」

「し、知っているわよその位……」

 

 そのホリィ達の会話を背にとしながら、兵士詰所から雪降る街路へとその足を踏み出した。

 

「寒い寒い、心も寒いよ……」

 

 雪はなおも強く降り注ぎ、ショット・ウェポンが家でもある「機械の館」への道を固く閉ざす。

 

「何事もなければいいな……」

 

 ブツブツと不平を言いながら歩くこと約二刻、ようやく機械の館にとたどり着くエコー。

 

「ショット様の部屋は二階、と……」

 

 喧騒けたたましい館の騒音に耳を塞ぐ仕草をしながら、エコーは機械の館の二階へと続く階段を警護する兵に、自分が来たことをショットに伝えてくれと頼む。

 

「ショット様がお会いになるようです」

「ありがとうございます」

 

 そのまま、ギシギシと言う階段を登りショットの居室の前へと立つエコー。

 

「兵士エコーです、ショット様」

「入れ」

「ハッ……」

 

 ギィ……

 

 重い、彫金が施された扉を開けた先には、執務机にと座るショット・ウェポンの姿。

 

「たしか、この方はまだ三十歳前のはず……」

 

 ショット、外見は金髪の青年である彼が年齢不詳に見えるのは、ラース・ワウのちょっとした七不思議の一つとなっている。

 

「前の戦いでは、ご苦労だったな」

「いえ、お務めなので……」

「まあ、座れ」

「はい……」

「話がある」

 

 エコーはそう答えながら、ショットがあごで示した椅子にと自身の身体を預けた。その緊張しているエコー少年に対して。

 

「悪い話ではない、エコーとやら……」

 

 ショットは軽く、その白い歯を出して微笑みかけた。

 

「ドラムロの件、申し訳ありませんでした」

「何故、謝る?」

「身分の程をわきまえず……」

「なんだ、そんなことか」

 

 そう言いながら、ショットは執務机の脇にと置いてあった茶菓子をエコーにと勧める。

 

「旨いぞ、これは」

「そんな、おそれ多い……」

「いいから、食え」

「はい……」

 

 とはいっても、そのクラッカーによく似た菓子を目上の者がいる前で平気な顔で食べれるほど、エコーの神経は図太くはない。

 

「私はな、エコー君」

「はい」

「いずれ、一兵士に一台のオーラバトラーを預けたいと思っている」

「しかし、それは……」

「この私、地上人のナンセンスだと思うか?」

「いえ、その……」

 

 しどろもどろになって、クラッカーを喉につまらせたエコーを見て、ショットはその顔を軽くしかめる。

 

「ホラ、水だ」

「すみません……」

「まったく……」

 

 その、ショットが差し出してくれた水は甘い果実の香りがした。

 

「オーラバトラーを操れた人間とも思えん」

「あんなの、ただの偶然ですよ」

「偶然で、オーラマシンは動かせるものではない」

「ショット様」

「うん?」

「何がおっしゃりたいので?」

「決まっているじゃないか」

 

 そのように、口ごもるようにと呟いたショットは、窓際にと立ち、降り注ぐ雪へとその視線を向ける。

 

「君に、一兵士に一台のオーラバトラー、それの先鞭となってほしいのだ」

「俺に、騎士のようになれと……」

「恐れ多いか?」

「はい……」

「ならば」

 

 窓の外を見つめていたその目を、実とエコーにと向けたショットは、すでにその瞳に笑いの色を浮かべていない。

 

「私が、君に騎士への道を教えてやる」

 

 

 

――――――

 

 

 

「なあ、ドレイク……」

 

 狐に包まれたような顔つきで機械の館から出ていったエコー少年。彼を二階のベランダから見下ろしながら、ショットは。

 

「このようにして、人の心を掴めばならんのだよ……」

 

 その表情を動かさずに、軽くワインを飲みながら笑い声をあげる。が、その声は無論に雪の静けさによってかき消された。



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第12話「悩めるホリィ」

  

「ベッグ」

「おう、レーテ」

「また、ドロに乗っていいか?」

「任せる」

 

 その騎士ベッグの言葉に親指を立てながら、ガロウ・ランの少女「レーテ」は鎮座されているドロの元へと歩いていく。

 

「あんなガロウ・ランを雇うなんて、ベッグ隊長はどうかしている……」

「どうしたってんだ、ホリィ?」

「だって、そう思わない、エコー?」

 

 最近、このホリィという少女は、何かと機嫌が悪いことが多く、もはやエコーもあまり気にしていない。

 

「あの、彼女の高いオーラ力に惹かれたんだろう……」

「あの黒いゲド、単なる偶然よ」

「偶然でオーラバトラーは動かせるものではない……」

「……なによ、エコー」

 

 それでも、やはり少しはこの彼女の精神状態がエコーには心配である。

 

「いくら、あの女に惚れてるからって」

「誰がだよ、ホリィ?」

「あんた以外にいないでしょ!!」

 

 そう、言い捨てたきりに彼女はそのまま、食堂にと立ち去っていく。

 

「なんなんだよ、いったい……」

 

 だが、エコーには今のホリィの心配をし過ぎている暇はない。昼飯が終わったら。

 

「ドラムロか、乗れるんだな……」

 

 ベッグ隊長に、オーラバトラーの稽古をつけてもらう予定があるのだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「まだだ、エコー」

「はい、ベッグ隊長」

 

 ショットの意見によって、ドレイク・ルフトからドラムロを授与されてから半月、騎士見習いエコーは、オーラバトラーの操縦方法を上官であるベッグにつけてもらう日々が続く。

 

「キックも戦法の一つ、それの間合いが遠い、ですね」

「わかっているなら、何故やらない?」

「すみません……」

「声が小さい!!」

「すみません!!」

「よし、その意気だ!!」

「はい!!」

 

 そう、自分に発破をかけながらエコーは、再び騎士ベッグの駆るブラウーネへと飛び掛かっていく。

 

 

 

――――――

 

 

 

「騎士見習いエコーか」

「どうしたんです、ホリィさん?」

「いやな、ネデル」

 

 ドラムロとブラウーネの模擬戦を遠目に見やりながら、軽くその息を吐きつつにぼやくホリィ。

 

「追い付かれちゃったな、と思ってね」

「エコーさん、騎士見習いですか……」

「あたしも、頑張っているつもりなんだけどね……」

「気にすることはありませんよ、ホリィさん」

「……」

 

 その、微かに沈んだ表情を実と見つめていたネデルは、しばしの間無言でいたが。

 

「あたし、やっぱダメなのかな」

「決めた」

「え、なにネデル?」

「僕はこのまま、ドレイク様の元にいるよ」

「え?」

 

 突然何を言い出すの、とでも言いたげな表情でネデルのおとなしめの顔を見つめるホリィ。

 

「何かあったの?」

「ちょっと、家の問題でね」

「へえ……」

「それに」

 

 スゥ……

 

 そう言いながら、ネデルはポケットからクッキー・バーをホリィへと分けてやり。

 

「僕にも、チャンスがあるということだ」

「何の?」

「ホリィ、君はエコーが好き?」

「ブッ!!」

 

 突然のネデルの妙な言葉、それに対してホリィはクッキーを吐き出してしまう。

 

「な、なによ突然!?」

「異性として、好きかって事」

「そんなわけないでしょ!!」

 

 だが、その彼女の耳たぶは僅かに朱にと染まっているを、ネデルは見逃さない。

 

「女に対する嫌がらせよ、それは」

「ごめん……」

「あいつは」

 

 そのホリィの視線の先、そこには地上で白兵戦を繰り広げてるエコー機達の姿が見える。

 

「ただの幼馴染みで、いまはライバル」

「だから、僕にもチャンスがあるっていう……」

「はあ!?」

 

 その間接的な好意の言葉に、ホリィはまさしく呆れた声を絞りだし。

 

「バカバカしい……」

 

 と、吐き捨てながら立ち上がり、いずこかへ立ち去っていく。

 

「悪いことを、僕は……」

 

 再び空中戦にと訓練の場所を移したエコー達、彼らの近くではレーテが「一人」でドロを浮かしている姿が見える。

 

「言っちゃったかな?」

 

 その彼の先の発言、それの無神経さは、もしかしてお坊ちゃん暮らしのせいかもしれない。



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第13話「ギブン家基地強襲」

  

 ギブン家が劣勢になったとしても、さすがは大貴族といったところか。未だにギブン家の分家、一族郎党はドレイク・ルフトに対して徹底交戦の構えである。

 

「このドラムロって」

「なんだ、エコー?」

「確か、センコウリョウサンガタっていうんでしたよね、ベッグ隊長」

「そう、先行量産型……」

 

 騎士ガラリア機を先頭にとしたギブン家残党の補給基地、それの夜間襲撃が今回エコーたちに与えられた任務であった。

 

「バーン殿が、テストパイロットを努めていた機体だよ」

「だから、手が爪ではなくちゃんとした五指がある……」

「性能は、今の生産タイプに劣るがね」

「あの騎士ガラリアの機体と」

 

 エコーはそう言いながら、先頭のガラリアが駆るゲードラム、それにと視線を向けた。

 

「それと、このドラムロは、どちらが強いですかね?」

「どっちもどっち、じゃねえのか?」

「トッドさん……」

「少なくとも、俺達が乗るダンバインに比べればね」

 

 確かに、その地上人二人が乗るダンバインの高機動力には、ドラムロもゲードラムも、騎士ベッグの乗るブラウーネもまた、敵わない。

 

「このダンバイン、ご機嫌だぜ」

「だが、その性能を活かせなかった奴もいる……」

「ロシアンの事は忘れなって、ジャパニーズ」

「……だが」

「いや、ショウよう……」

 

 その地上人、聖戦士の称号を得ている者達の会話が時おりエコーにも聴こえてくるが。

 

「ようやく、ドラムロにも馴れてきたかな……」

 

 ドラムロを使った初の実戦、攻めこむ戦いに緊張している彼エコーは、その会話に割って入る心の余裕は無い。

 

「見えたぞ、地上人よ」

「また、一方的な戦いじゃないか、ガラリア……」

「何か言ったか、ショウ・ザマ?」

「いや……」

 

 しかし、それでもエコーはその彼、ショウ・ザマのダンバイン後方に「ホリィ・ウッド」と「ネデル・スルタン」そして他部隊からの支援クルーが乗るドロ、そして。

 

「レーテは、戦いというものについてどう思っているのかな?」

 

 ガロウ・ランの少女「レーテ」が駆る黒いゲドの姿を、その目で確認する。

 

「どうせ旧式のゲドだから、弾除けとして利用するってガラリア様は言っていたな……」

 

 その台詞、少しはガラリアにも理があるが、エコーにはどうにも納得が出来ない物であった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 低出力であれば、偵察に出たエコー機もトッド機も、そうオーラバトラーの排気音は出ない。

 

「解体中のオーラバトラーかな、エコーとやら?」

「あれはどうでしょうかね、トッドさん?」

「気の無い返事をしちゃって、まあ……」

 

 その紺色のダンバイン、トッド機からの茶々は無視して、エコーは低空飛行で敵の状態を確かめている。

 

「まあ、俺も常にホンキってわけじゃないしな」

「トッドさんは」

「ん……」

 

 その敵ギブン家基地には解体整備中のオーラバトラーを始め、幾つかのオーラマシンがあるが、それでも一番目を惹くのが。

 

「なんだよ、言ってみなコモナー」

「何のために、聖戦士をやっているので?」

 

 オーラシップ、大型のオーラマシンとも言える空飛ぶ船であろう。

 

「そりゃ、新天地での立身出世よ」

「ハッキリ言いますね、地上人は……」

「そうすりゃ、ママにも……」

 

 カァン、カァ……

 

「しまった、気付かれたぞエコー」

「はい!!」

 

 敵基地の警報の鐘、それが鳴り響くと同時に、その基地のオーラマシンに次々とエンジンの火が入り始める。と、共に基地内のあちこちへと電灯の灯りが付き始めた。

 

「いたぞ!!」

 

 ボフゥ!!

 

「くそ、大丈夫ですか、トッドさん!?」

「大丈夫に決まってんだろ、コモナー!!」

 

 三本のアームを振りかざしたオーラボムが出鱈目にエコー達のいる林の辺りへ火を撒き散らす中、トッドのダンバインを先頭として空中退避を行う二機。

 

「まだ、発進していないフォウを狙え!!」

 

 その無線を通して伝わるガラリアの声、その声だけはわかるのだが、夜の帳のお陰で敵基地のどの辺りにいるのかはわからない。

 

「いたぞ!!」

 

 僅かなあいだ、無防備でいたエコー機ドラムロ、そしてトッド・ギネスのダンバインにと、数機のオーラバトラーが寄ってくる。

 

「くそ!!」

 

 バァ、バ……!!

 

 そのオーラバトラー隊の内、一機をオーラショット砲で貫いたトッド機ダンバインを横目に見ながら。

 

「ダーナ・オシーか!?」

 

 エコー機は、ギブン家がコピー作製をした機体「ダーナ・オシー」とその剣を切り結ぶ。

 

「くぅ!?」

 

 訓練とは訳が違う敵機の放つ殺気、それに呑まれないようにと、自らに発破をかけながらエコーは、ドラムロの手によってオーラソードを振り回す。

 

 ガッ!!

 

「しまった!!」

「終わりだ、ドラムロ!!」

 

 敵の剣、僅かに湾曲した曲刀がドラムロの右肩部を強く打ちつけ、そこに内蔵されているフレイ・ボムの燃料タンクから「燃える水」が辺りへと散る。

 

「だが、ダーナ・オシー!!」

 

 その時、エコーは咄嗟の判断でドラムロを敵機に体当たりをさせ。

 

「う、うわ!?」

 

 敵機ダーナ・オシーが破損し、怯んだ隙に残った左肩、そこから繋がる左手からフレイ・ボムをゼロ距離射撃を行おうとする。だが。

 

「後ろだ、エコー!!」

「レーテ!?」

 

 いつの間にか手負いのダーナ・オシーとは別に後ろに回り込んだギブン家のゲド、その機体がドラムロの機体構造上、もっとも脆弱なコンバーター基部を破壊しようとする。

 

「はあ!!」

 

 そのレーテの掛け声、それと共に黒いゲドの剣から。

 

「蒼い光……!?」

「ボサとしてない、エコー!!」

「す、すまん!!」

 

 謎の蒼い燐光を発している剣を携えたレーテ機ゲドの斬撃が、エコーの背後にと回り込んだゲドを一刀両断にする。

 

「た、助かったよレーテ!!」

 

 もう一機の、手負いのダーナ・オシーもトッドのダンバインによって止めをさされ、微かに緊張がほぐれた、その時。

 

 ボゥウ!!

 

「オーラ・シップ砲!?」

 

 きらびやかに艦の各部から点滅光を発しているナムワン、オーラシップから放たれた光の柱オーラキャノン砲が、ドレイク勢のドロ一機を蒸発させた。

 

「ホリィ機、ホリィではない……」

 

 そう思いたい、そう信じたいと願うエコーの目前、基地上空には。

 

「ナムワン、二隻確認!!」

「二隻もいるのか……!!」

 

 おそらくはショウ・ザマとかいう地上人の声であろう、彼が苦々しげに呟く声が通信機を通して微かにエコーの耳へと入る。

 

「だが、俺の狙いは!!」

 

 浮上をしてきたフォウと謎のオーラボムの部隊をエコーは、他のマシン達と共に迎え撃とうとし、ベッグ隊長に通信を入れようとしたが。

 

「隊長、ベッグ隊長!!」

 

 だが、その無線機からはベッグ機ブラウーネの返事はない。

 

「ベッグ隊長……」

 

 ただ単に、戦闘に集中しているか、無線の故障だ、最悪のケースを頭から逃し、エコーは。

 

 バゥ、ハッア!!

 

 こちらにと、ミサイルとバルカン攻撃を仕掛けてきているフォウ部隊の相手を独自にする。

 

「引き際かもしれんが……」

 

 エコー機は油が漏れだし、直撃弾を食らえば誘爆する恐れがある。しかしそれでも。

 

「俺は、オーラバトラーのパイロットだ……!!」

 

 そのまま、左手に剣を持ち換えフォウの尻をその剣で突く。もはやフレイ・ボムは使えない。

 

「エコー、後ろ!!」

「まぁたかよ、レーテ!!」

「あたしがお前のケツの心配なぞするか!!」

 

 しかし、そうは言いながらも。

 

 ファサア……

 

 謎の燐光、それを発しながらその三本のフレキシブル・アームを持つオーラボムを、エコー機の背後のその敵機をまるでバターのように切り伏せるレーテ機。

 

「な、なんだってんだ、クソ!!」

 

 脱出用の飛行器具「シュット」を使い、落ち行くオーラボムから離脱するクルーが、その黒いゲド、レーテ機にと戦慄する。

 

「フォウの一波が通り過ぎた……」

 

 その僅かな時間、エコーには戦局を見渡す余裕が出来る。見れば一隻のナムワンに。

 

「ガラリア様と、あれはベッグ隊長の機体だ」

 

 そのゲードラムとブラウーネを筆頭とするマシン達は、ナムワンに何度も剣と射撃の連打を加え、ついに。

 

「ウワー!!」

「ナムワンが落ちたぞ!!」

 

 轟音をたてながら、基地地表の暗い地面へと沈み行くナムワン。それを見た敵機達が。

 

「全軍、バルガの砦に撤退するぞ!!」

 

 広域無線を発した深紅のダーナ・オシー、それの号令と共に残りのナムワン、そして敵のオーラマシンは。

 

「逃げるのか!?」

 

 いつの間にかその腕がもげているダンバイン、トッド機の罵声も無視し、一直線に撤退を始めた。

 

「クゥ……!?」

 

 戦果を上げたい、その気持ちはあるが、何やら得体の知れない疲れがエコーの身を包む。

 

「ゲドバインの時と同じく、オーラ力が消耗しているのか……」

 

 その疲れきったエコーが見つめる先、そこには。

 

「ホリィ達も、消耗している……」

 

 ドロのプラットホームにと立つホリィ、彼女の機体もあちこちに損傷を受け、アームが二本消失している。

 

「でも、それでも」

 

 彼女達が生きていて良かったと、彼騎士見習いエコーは思った。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ダンバインの解体パーツだと?」

「ああ」

 

 騎士ガラリアからの問いに、ベッグはややに疲弊した表情を浮かべながらそう答える。

 

「おおかた、イヌチャン・マウンテンで戦死した地上人の奴だと思うが」

「そうか……」

 

 そう、ガラリアはベッグに答えながら。

 

 グ、ビィ……

 

 女丈夫は、腰の酒袋にとその口を付け始めた。

 

「しかし、なんだな」

「なんだ、ガラリア殿?」

「貴殿の部下、エコーとか言ったか」

「アイツがどうかしたか?」

「気に入らないね」

 

 恐らくはその、未だにドラムロの事を引きずっているガラリアの言い分に、ベッグは苦笑するしかない。



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第14話「接待飛行」

  

「シュンジ王は」

「ん?」

「よくその、ゲドバインを操れますね」

 

 夕焼けにはラース・ワウ、ドレイク・ルフトの居城が美しく映え、田舎からの「お上り」の名観光地として名高い。

 

「まあ俺はな、エコー君」

「俺は?」

「聖戦士、らしいからな」

 

 そのラース・ワウの上空を、アの国の隣国にして同盟国「リ」の国王、シュンジ・イザワとアの騎士見習いエコー少年が、悠々とオーラバトラーを駆る。

 

「聖戦士、今一つ俺には実感の無い呼び名だがね」

「しかし、そのゲドバインを操れるのでしょう、シュンジ王は?」

「良い機体だ」

「なのですか?」

「うん」

 

 エコーの問いに、彼の「接待飛行」の相手、シュンジ王はコクピットの中で軽く頷いた気配をエコーは感じた。

 

「ショット殿が、アルダム数機と引き換えにくれただけのことはある」

「さすがは聖戦士、オーラ力が高い」

「へえ……」

「はい?」

 

 接待飛行、その聞き慣れない言葉はショット・ウェポンが言い出した事であるが、彼のお陰でこの「ドラムロ」を操れる特権を手に入れたエコーにとっては、断れる話ではない。

 

「俺、いや私は何か変な事を言いましたか?」

「いや、よく知っているなと思ってな」

「何を、でしょうか……?」

「聖戦士とは、オーラ力の高い者」

 

 接待には、もっと位の高い者が当たるべきだとエコーは思ったが、生憎他のオーラバトラー乗りに手空きの者がいなかった。軍備に忙しいのだ。

 

「よく知っているね、君は」

「いや、私は地上人は皆聖戦士だと……」

 

 そのエコーのあたふたした言葉、それにシュンジは笑いながら。

 

「なんだ、当てずっぽうか」

「すみません……」

「いや、ヤマカンでも正しい答えかもしれない」

 

 コンッ……

 

 ゲドバインのその拳で、エコーの初期型ドラムロのその手を軽く叩く。

 

「ショット殿が言うには、な」

「はい」

「地上人はオーラ力が高い」

 

 その言葉、それを証明するかのように、シュンジはゲドバインの速度を急速に上昇させた。

 

「そして、その高いオーラ力が」

「ま、待ってくださいよ!!」

 

 そして、シュンジのいきなりのオーラバトラーのストップに、今度はエコー機ドラムロが前に出る形となる。

 

「もう、お人が悪い……」

「オーラマシンいかんに関わらず、奇跡」

「奇跡……」

「すなわち、聖戦士たる行いをさせると言っていたよ、ショット殿は」

「なるほど……」

 

 その理論的な説明、それはエコーにも理解出来る話であった。

 

「その奇跡の力で、シュンジ王はリの国を救ったのですね?」

「リの人達、そしてドレイク殿のお陰だよ、エコー君」

「謙遜を……」

 

 だが、シュンジはそのエコーが放った本気の「世辞」に、すぐには答えない。

 

「シュンジ王?」

「……」

 

 そのまま、何かを考え込んでいるかのような空気、それをゲドバインの中のシュンジは醸し出している。

 

「……エコー君」

「はい」

「そろそろラース・ワウ、機械の館に戻ろう」

「は、はい!!」

 

 何か、話が消化不良に陥ってしまったが、エコーは自分があまり深入りすべき話題、では無いような気がした。

 

「あれ?」

「君も気が付いたか、エコー君」

「はい」

 

 夕闇が迫るラース・ワウ、その郊外の森から、一機のオーラバトラーが低空飛行で、まるで誰かに見つかるのを恐れているかのようにと宙を疾る。

 

「あれは、ダンバイン……」

「ショウ・ザマ君のオーラだ」

「解るので?」

「ああ……」

 

 その不審な挙動を見せているダンバイン。その機体の顔がこちらを向いたような気がしたエコーは。

 

「聖戦士ショウ・ザマ!!」

「バカ、エコー君!!」

 

 迂闊にも、無線を使ってそのダンバインにと声を掛けてしまう、そして。

 

 ギュア……!!

 

「言わんことではない、エコー君!!」

 

 そのダンバインが急激加速を行い、エコー達から離れていく姿を見て。

 

「す、すみません!!」

「追うぞ!!」

「はい!!」

 

 シュンジ、そしてエコーは自機のスピードを上げる。

 

「まて、ショウ君!!」

 

 さすがにゲドバインは素早く、そのダンバインにも追い付かんばかりの速さではあるが、エコーのドラムロは。

 

「く、くそ!!」

 

 全くと言って良いほど、その二機のオーラバトラーには追いつく気配がない。シュンジ王の機体、それの後ろ姿を見るのみだ。

 

 ガッ!!

 

 ショウ機ダンバインも速かったが、シュンジのゲドバインがそれを上回った。そのままシュンジはダンバインを背後から羽交い締めにする。その時。

 

「……なさい、シュンジ王!!」

「……ル様!?」

 

 一陣の強烈な突風が吹き荒れ、そのせいか無線が不明瞭になる。

 

「女の声……!?」

「……」

「だれだ……!?」

 

 そのエコーの問いに答えるのは、無線から流れる雑音のみ。

 

「……謝します、シュンジ王」

「……らばだ、シュンジ」

 

 スゥ……

 

 短いながらも緊迫感が感じられた無線の声、それが終わると共にシュンジはゲドバインからダンバインを解放する。

 

「シュンジ王!!」

 

 ようやく追い付いたドラムロ、エコーはそのやり取りの内容を聞き出そうとシュンジを問う。

 

「あれは、やはり!!」

「ああ、ショウ・ザマだ」

「やっぱり……」

「そして、リムル様も乗っておられた」

「リムル様ですって!?」

 

 リムル・ルフト、ドレイク・ルフトの一人娘の名である。

 

「なぜ、リムル様にショウ殿が……」

「さあ、な」

 

 その時、エコーの頭にと浮かんだのは。

 

――マーベル様は、ドレイク様のやり方に付いていけないらしい――

 

 ややに昔の、ネデルが言っていた台詞である。

 

「もしや、お二人ともドレイク様にご不満が……」

「へえ、やはり……」

「そうなのですね?」

「やはり、君は勘が良い」

「笑い事じゃありませんよ、シュンジ王」

 

 その言葉は、仮にも一国の主に対する態度ではないが、それはエコーは気がつかない。

 

「なぜ、逃がしたのです?」

「何を言っているんだ、君は?」

「だから……」

「フェアではないだろう、リムル殿もいるし」

「あ……」

 

 確かに、あのままダンバインと戦っていたら、リムル・ルフトの身の安全は保証できない。

 

「すみません、考えが浅すぎました」

「まあ、気持ちは解る」

「はい……」

「さて、俺は」

 

 もはや夕闇の時刻が近づき、ラース・ワウのその姿にも陰りが差してくる。

 

「ドレイク殿への、言い訳を考えなきゃな……」

「お気持ち、察します」

「ミの国攻めに、このゲドバインで先陣を切るので納得をしてもらえないかな?」

「ミの国?」

「おっと……」

 

 どうやら、天下の聖戦士殿と言えども口を滑らす事はあるらしい。そのシュンジは。

 

「今のは内緒だぞ、エコー君」

「は、はい……」

「ヨーシ」

 

 エコーにと口止めを依頼しながら、ゲドバインの中で豪快に笑った。

 

「はは……」

 

 そのあまり慣れているとはいえないシュンジの演技じみた笑いに追従するエコーの媚び笑いもまた、下手くそであると言える。

 

 

 

――――――

 

 

 

――気持ちは解る――

 

 そのシュンジ王の言葉、エコーがその真意に気が付くのは、随分のちの刻になってからであった。



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第15話「墓参り」

  

「レーテな」

「なんだ、エコー?」

「ガロウ・ランにも」

 

 明るい光に照らされた小高い丘。それの上にと立つエコーの両親達の墓の墓前には花束が手向けられている。

 

「親っているのか?」

「産みの親はいるに決まっている」

「では……」

「育ての親という、概念は薄い」

 

 何処か寂しげに答えたレーテ、ガロウ・ランの少女の髪が、暖かくなってきた気候のそよ風にと、微かになびく。

 

「そうか……」

「親というのは、どういうもんなんだ」

「ガロウ・ランに殺された」

「フン……」

「それ以上は、あまり言いたくない」

「なぜ?」

「良い想い出ほど、失った時の痛みが増すからな」

「ハイハイ……」

 

 なにか、その彼エコーの答えが彼女の気にと触ったようだ。そのまま暫し無言で過ごす二人。

 

「なあ」

「なんだよ、エコー?」

「お前、好きな奴とかいるか?」

「はあ?」

 

 その無遠慮なエコーの質問に、レーテはまさしく「呆れた」といった表情を見せる。

 

「いるわけないさ」

「そ、そうか?」

「でも、強いて言えば」

「言えば?」

「あのネデルとかいうお坊ちゃん、なかなか……」

「そ、そうなのか」

「そう」

 

 その言葉を最後に、再び沈黙が二人の間にと訪れた。

 

「エコー」

「おう、ホリィ」

 

 その僅かな間の後、ホリィとネデルが丘の下手から駆け上がってくる。

 

「弁当な?」

「ベッグ隊長が買ってくるって」

「へえ……」

 

 五人分、その弁当を持ってくるのは大変だろうと、エコーの頭にあまり意味の無い疑問と心配が生まれ。

 

「手伝ってくれば良かったのに、ネデル」

「ベッグ隊長が、別にいいって言ってました」

「そ、そう?」

 

 ネデルへと、ややに強い口調で言葉を放ってしまう。

 

「墓参りか……」

 

 そう呟き、ホリィはちらりとレーテへと、何か複雑な感情が混じった視線を向ける。

 

「お前のお袋さん達の墓も、その内に參らないとな、ホリィ」

「うん……」

 

 その言葉を吐いた後、エコーから放たれた視線にもまた、レーテは動じた様子は無い。

 

「おーい、お前達!!」

 

 その時、丘の麓の方から。

 

「弁当、買ってきたぞ!!」

「はい、ベッグ隊長!!」

 

 騎士ベッグ、エコー達の上官がその手を振りながら、丘の下手へと来るような仕草をしてみせる。

 

「行こうぜ、レーテ」

「ああ……」

 

 そのエコーの掛け声と共に、彼らの仲間は墓の前から立ち去り、ベッグ隊長の元へと向かった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「このチッタ、旨いねえ……」

「ネデルが選んでくれたんだぞ」

「へえ……」

 

 チッタという小麦で作った団子を口に含んだレーテは、そのベッグの言葉に。

 

「いいねえ、いいねえ……」

「な、なんですかレーテさん?」

「フフ……」

 

 ネデル、その彼女の言い方に困惑する彼にと、微かにすり寄っていく。

 

「全く……」

 

 そのレーテにホリィは魚のフライを食べながら、呆れ顔であるし。

 

「……」

 

 干した果物を口に含んでいるエコーに至っては、何か不機嫌な顔をしている。

 

「旨いな、このナゲナのフライは」

 

 騎士ベッグ、彼はこの場の微妙な雰囲気に気が付いているのかいないのか、我関せずといった風情で弁当箱にフォークを突き刺す。

 

「ほ、ほらあの噂を聞いたか?」

「なんだよ、エコー……?」

「ギブン家の当主が戦死したって話さ、レーテ」

「そんなこと、あたしが知るもんか……」

 

 その素っ気ないレーテの返事、しかしエコーはそれにもめげず。

 

「ねえ、ネデル……」

「そ、それとミの国がさ!!」

「なんだよ、全く……」

「つながってたと、ホントかな!?」

「うるさい奴だ……」

 

 レーテの気を自分に引こうと必死だ、その必死さにホリィが忍び笑いを漏らした。

 

「風の噂では、そう聞いているな……」

 

 その疑問の答えには、先程から黙々と弁当を食べていた騎士ベッグ、中年の隊長が答えてくれる。

 

「ミの国、がねえ……」

 

 そのレーテに辟易しているネデルのぼやきも無理はない。ミの国と言えば、アの国とは比べ物にならないくらいの小国であるからだ。

 

「本当に、戦争が始まるんですかね?」

「私が知るもんか、ネデル」

「ですよね、隊長……」

 

 何か、休暇をとっての墓参りだというのに、この場の空気が天候に似合わず重くなってしまう。

 

「さ、さあみんな!!」

「なんだよホリィ、急に……」

「お弁当が冷めちゃうわよ、ね!!」

 

 その空気を吹き飛ばそうと、エコーの隣でランチボックス、ショット・ウェポンがオーラマシン発明の副産物で、いつでも食べ物が暖められる器具を指差しながら、ホリィは叫ぶ。

 

「まあ、そうですよね」

「そうそう」

 

 ホリィのその言葉、それにネデルとレーテも賛同をし。

 

「ほら、ネデルあーん」

「だから、止めてくださいよレーテさん!!」

 

 ベッグ隊長がネデル達のやり取りに苦笑しながら、弁当をがっつき始めた。

 

「おい、俺たちも食べようぜ」

「ええ、エコー」

 

 その隊長の姿を見たエコーとホリィ、彼らも冷めない内に弁当を食べる事にしたようだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ねえ、エコーさん」

「なあに、ネデル?」

「エコーさんはなぜ」

 

 エコーの生まれ故郷の近くの街でとった宿、そこで男部屋と女部屋に別れながら、休息をとるエコー達。

 

「ドレイク様の軍に入ったんですか?」

「徴兵さ」

「嫌々ですか」

「いんや……」

 

 その時レーテ、彼女から風呂が空いたとの言葉がエコー達にと伝わる。

 

「今は、ドレイク様に忠誠を誓っている」

「忠誠を誓う理由は?」

「ガロウ・ランを駆逐してくれた恩もあるし、それに……」

 

 風呂にと入る準備をしながら、エコーはその自身の額に指を付け、どこか昔を思い出すような仕草をしてみせた。

 

「俺の少し前に死んだバアちゃんも、ドレイク様とショット様がもたらした技術革新のお陰で、一時期病気から快方した」

「恩人、ですか……」

 

 その言葉にエコーは頷き、そのまま部屋から出ようとする。

 

「エコー」

「ホリィ、風呂は出たのか?」

「ええ」

 

 その風呂上がりの格好、薄着のホリィからは微かに石鹸の薫りが漂う。

 

「ネデル、行こうぜ」

「はい」



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第16話「黒いダンバイン」

  

「ショット様もな」

「なんですか、エコー」

「いや、その……」

 

 忙しい中、ドラムロの整備を手伝ってくれるネデルへ軽く感謝の視線を送りながら、エコーは。

 

「本当に、妙な発想をする方だと思ってな」

「機械の館のオーラ測定機、レーテさんは嫌がってましたよね」

「そりゃ、得体の知れない機械だからなあ……」

 

 ショット・ウェポンが目を付けたガロウ・ラン、レーテが操る黒いダンバインにとその視線を向けた。

 

「確かに、彼女のオーラ力は高いかも知れないけどさ」

 

 そのダンバインは、以前ギブン家基地攻めの時に発見された物であり、死んだ地上人が乗っていたダンバインのパーツを再構築させたものである。

 

「ガロウ・ランがダンバイン、聖戦士専用機ですか、エコー……」

「変な話だな、ネデル」

「ええ……」

 

 しかし、ラース・ワウ郊外の空き地で慣熟飛行を行っている彼女、レーテの潜在能力はエコーとて認めざるを得ない。

 

「まるでレーテの奴、手足のごとく操ってやがる」

「それだけの、資質だということでしょう」

 

 そう言いながら、ネデルはドラムロを整備するその手を止め。

 

「すみません、エコーさん」

「何か用事があるのか、ネデル?」

「ドレイク様に、謁見しなければならないのです、今日は」

「謁見、何かしでかしたのか?」

「いえ、そうではなく……」

 

 漆黒のダンバインが悠々と空を翔ぶなか、その風下にと立つエコー達は春の昼の光にその瞳を細める。

 

「家の問題なんです」

「そうか……」

「あれ?」

 

 その時、レーテが操るダンバインが静かに、エコー機ドラムロの隣へと。

 

「エコー、ネデル」

 

 フワリと、着地する。

 

「調子はどうだ、レーテ?」

「ゲドの時もそうだったが、このオーラバトラーと言うものは」

 

 なにか、そそくさとその場から立ち去るネデルを見て、レーテは一つ舌打ちをしてから。

 

「あたしの感性に合う」

「そりゃ、良かったな……」

 

 そうエコーが答えた時、彼のその視線の先では。

 

「まだだ、ホリィ!!」

「はい!!」

「アルダムは扱いやすい機体だと思うが、ドラムロとは違うんだぞ!!」

「とは言っても、オーラバトラーがここまで扱いにくい物だとは……!!」

 

 他の部隊から借り受けたアルダム、隣国「リ」から輸入したオーラバトラーを四苦八苦しながらも、何とか乗りこなそうとしているホリィの姿がみえた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ネデル・スルタン、参上致しました」

「うむ……」

 

 ドレイク・ルフト、禿頭の偉丈夫であるアの国の地方領主、その彼が座る豪華な椅子の前にと、ネデルは控える。

 

「大儀である、スルタン」

「は……」

「まあ、楽にしろ」

 

 ズシリと腹にと響くドレイク・ルフトの声、気の弱い者であればその声だけで畏怖を感じてしまうだろう。

 

「今日呼んだのは、他でもない」

「……」

「貴殿の家と、ギブン家の事だ」

「はっ……」

「主の父、彼が倒れたそうだな」

「元から病気がちだった故、覚悟はしておりました」

「家督、主が継ぐのであろう?」

「そのつもりであります」

 

 そのネデルの言葉、それを吐いた時に、何か不気味な沈黙がこのラース・ワウの謁見の間を支配する。

 

「お館様……?」

「これからも、主には」

「ハッ……」

「儂に協力してほしい」

「あっ……」

 

 そう言われて、ようやくネデルは今日、何故自分がドレイクに呼ばれたかが解った。

 

「スルタン家当主、騎士ネデルよ」

 

 スルタン家、ギブン家やルフト家と肩を並べる程の家を敵に回したくないのだ、彼は。

 

「主には、騎士の称号とオーラバトラー、そして旧式ながらオーラシップを与えよう」

「……」

「もっとも、オーラシップは主の上官、騎士ベッグの指揮下にと入る事になるがな……」

 

 間を包む冷たい沈黙、それに耐えられるネデルの肝も大した物であると言える。

 

「答えは、ネデル・スルタン?」

「……決まっています」

「申せ」

「これからもこのネデル・スルタン、ドレイク・ルフト様に忠誠を誓います」

「うむ……」

 

 その答えに満足げに頷いた彼、ドレイク・ルフトは、手元にと握っていたエツ、杖にとよく似た昆虫生物へ一言二言呟くと。

 

 バァ……

 

 そのエツを手放し、その昆虫は何処かへ飛び立った。

 

「騎士ベッグ、彼の奥方ネイリンへと話を伝えた」

「承知いたしました、ドレイク様」

「これからも、よろしく頼む」

 

 そう、最後に言い残したきり、ドレイク・ルフトは宝石が散りばめられた豪勢な座席から立ち上がり、謁見の間を出ていく。

 

「……ニー」

 

 ニー、ニー・ギブンとはその名の通り、ギブン家の嫡男である。その彼と。

 

「気のいい奴だった……」

 

 戦わねばならないと考えると、彼ネデルの胸へ、何か冷たい物が零れ落ちる。



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第17話「聖戦士達との戦い」

  

「やはり、ドラムロやゲードラムの補修物資では、アルダムは直せんか」

「どちらかというと、ゲドの構造に似ているからね……」

「ならば故障中のブラウーネ、ゲドⅡから共食い整備が出来ないか?」

「やってみます、騎士ベッグ」

 

 その整備士ベーベルの言葉に、騎士ベッグは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

 

「しかし、その事はネイリン艦長に伝えなくてはなりません、騎士ベッグ」

「ああ、頼む」

 

 そうなれば、このナムワンでの稼働可能な機体はドラムロ、ダンバイン、そして。

 

「ザーベントな、慣れたかネデル?」

「オーラ増幅器とやらのお陰で、何とか乗れそうです」

「訓練と同じ、そう思えば良い」

「はい、隊長」

 

 ネデルにとあてがわれたザーベントしかない。後のアルダム、それとベッグ隊長のブラウーネは使えない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ドロの奴も、修理不能として破棄してしまいましたしね」

「もともと継ぎ接ぎだらけだったのだ、仕方がないよ、ネデル」

「そうですね、隊長」

 

 あとは非武装のバラウがあるが、それは戦力として埒外だ。

 

 ガッ、ガガ……

 

「こちらメイン・ブリッジ」

 

 内線放送で聴こえるネイリン艦長、騎士ベッグの妻でもある彼女の声が、ハンガーデッキのエコー達、彼らの耳へと伝わる。

 

「ゼラーナ、空中停泊をしたまま、動く気配なし」

「……ゼラーナ」

 

 ドラムロ内のエコーが呟いたゼラーナと言う名の艦、それはギブン家残党の中でも最強と呼び名の高い遊撃部隊の事であり。

 

「どこからか、彼らは支援を受けているとは思うのだが……」

「コモンの世界はややこしいな、エコー」

「うるさい、レーテ」

 

 噂によれば、ドレイク・ルフトの元から離反した聖戦士、すなわちマーベル・フローズンも所属していると言われている。

 

「不明艦ゼラーナより!!」

「どうした!?」

「オーラバトラーが一機、発進しております、艦長!!」

 

 そのナムワンのクルーが上げた声により、一気にハンガー内へ緊張の色が疾った。

 

「ダンバイン、いや……」

「どうにか、機種は確認出来るか?」

「すみません、無理です艦長」

「やむを得んな……」

 

 雨の林という現象の中、昼だというのに夜間のようになお暗く、強烈な豪雨が降り注ぐこの状況下では、視認による確認は困難だとはネイリン艦長にも解る。

 

「……ら、ゼラーナのマーベル……」

「無差別通信か……」

「そこの、……ワン、停船しなさい……」

 

 その特異な現象は無線機にも影響が出ているらしい。しかし。

 

「マーベル様、か……」

「仕方がない、エコー」

「やりますか、隊長?」

「うむ……」

 

 だが、いくら不利な状況といえども、何もせずに退却することは言い訳にも出来ず、相手がそれを許してくれるとは思えない。

 

「……物資を頂戴したい、さすれば貴艦の生命は保証しま……」

「エコー、ドラムロ」

 

 ザァア……!!

 

 ハンガーのオーラマシン出撃用ドアを開くと、そこはまさに雨の森、その轟音のみが鳴り響く闇夜の空間に恐怖感を覚えながらも。

 

「出ます!!」

「ダンバイン、発進準備完了!!」

 

 その黒いダンバインにと乗るレーテの声を尻目に、雨降る中へとドラムロを飛び立たせる。

 

「……戦の意思ありと見なします!!」

「マーベル様!!」

「……の声は!!」

 

 雨の中、先にとゼラーナから発進した機体はどうやらダーナ・オシータイプであるらしい。その事に複雑な表情を浮かべているエコー。

 

「……コー!!」

「ダンバイン、いるかと思ったが……」

 

 最悪のケース、ラース・ワウでシュンジ王が逃がしたダンバイン、ショウ・ザマ機がゼラーナに合流しているとの噂があった為、その覚悟をしていたのだ。

 

「しかし、ダンバインではなくても!!」

「ドレイクに与するなら、エコー!!」

 

 ボゥ!!

 

 その鮮明にとなってきたマーベル・フローズンの声、それに呼応してそのダーナ・オシーからフレイ・ボムが発射された、が。

 

「あなたも敵!!」

 

 ザァ……!!

 

 降り注ぐ大雨により、その火力は遮られ、エコー機もまたフレイ・ボムによって反撃を試みたが、その火球も雨の林によってかき消される。

 

「敵ならば、落とします!!」

「そう、言葉だけで戦いが出来るものか!!」

 

 その挑発的とも受け取れるマーベルの声に、エコーは自分が素人に毛が生えただけのオーラバトラー乗りだということも忘れ、怒鳴り返す。

 

「攻める!!」

 

 エコーの気迫に満ちた声と同時に放たれたドラムロの火球、それもまた雨によって遮られ、嫌も応もなく二機は接近戦を強いられる。

 

 ピシィ……!!

 

 その互いの機体が剣を合わせた時、エコーは雨の林の雷鳴が鳴り響く中で。

 

「……ちら、……ザマ機、敵のダン……を相手する」

「エコー、敵にもあたしと同じ……バインが」

 

 途切れ途切れではあるが、ハッキリとした声量で吐き出された通信、それによって大まかな状況を知ることが出来た。

 

「よそ見を、エコー!!」

「おっと!!」

 

 しかしエコーはそのダーナ・オシーの斬撃、曲刀から繰り出されたその一撃を受け止める位にはオーラバトラーに慣れ始めた様子だ。

 

「……らネデル機ザーベント、ダンバ……にレーテさんと共に当たる!!」

「ネデル、そしてレーテか!?」

 

 二機がかり、それならば相手が聖戦士であろうと負けはしまいと、エコーは気休めにも似た感情で己を納得させる。

 

「死ぬなよ、ネデル!!」

「くっ、戦いの最中で他人の心配を!!」

 

 ダーナ・オシーの二撃目、それをエコーはいわゆる「後の先」を取る事に成功し、ドラムロの剣がダーナ・オシーの装甲を不快な音をたてて、滑った。

 

「出来るほど、あなたは強いの!?」

「そんなわけないでしょ、マーベル様!!」

 

 その自らを卑下するかのように聞こえる台詞。それを逆に証明するかのように。

 

「さ、さすがに地上人!!」

 

 マーベル機ダーナ・オシーからの連続攻撃、それに対してエコーはすぐさま、防戦一方になったしまう。

 

「同じダンバイン、機体性能は一緒のはずなのに!!」

「何故、僕のザーベントの剣を見切れる!?」

 

 二機がかりのレーテとネデル達、しかし彼らはショウ機ダンバインにと相当な苦戦をしていることが無線を通してエコー達には伝わる。

 

 グィン……!!

 

 その戦局の様子を「確かめてしまった」エコーの隙をつき、ダーナ・オシーがいったん距離をおいて、豪雨が森を隠れ蓑にしながら、腰からミサイル・ランチャーを取り出す。

 

「くそ!!」

 

 そのランチャーから発射されたミサイル群が雷の光に隠れエコーには見えず、その内数発がドラムロの左腕にと命中した。しかし。

 

「う、うわ!!」

「落ちなさい、エコー君!!」

 

 そのミサイルはどうやら牽制であったらしい。急速接近を仕掛けてきたマーベル機の剣が、緑蒼の光を放つ。

 

「ハァ!!」

 

 曲剣による強烈な一閃、それがドラムロの後頭部辺りへと命中し。

 

「う、うわぁー!?」

 

 その、あたかも頭部と連結しているかのようなオーラコンバーター、それの基部にと強烈な熱を送り、ドラムロのコントロールが不能となる。

 

「バカな子……」

 

 ドラムロが沈黙をし、雨の林の下部へと落ち行く姿を横目に見つめながら、マーベルはショウ機ダンバインの戦いを見守る。

 

「私が、加勢するまでもないわね……」

 

 雨に煙る戦場ではあるが、そのマーベルの観察眼は鋭く、確かに。

 

「お、落ちる……!!」

「レーテさん!!」

 

 今ちょうど、レーテの黒いダンバインがコクピットにとクローアーム、ワイヤーで射出する格闘兵器を撃ち込まれ、エコー機と同じく雨降る森へと落下していく。

 

「くっ、よくも地上人はエコーさんとレーテさんを……!!」

「降伏しろ、新型」

「……おのれ!!」

 

 怒りに燃えるネデルではあるが、その彼のザーベントとて、剣を持つ片腕を先ほど。

 

――必殺、オーラ斬りだぁ!!――

 

 と、いう敵機ダンバインの内部から聴こえてきた幼い少女の声と共に、燐の光に輝く剣によって半ば切断されたばかりだ。

 

「……こちら、ナムワンの責任者、騎士ベッグ」

 

 ブォン……

 

 雨の林の中、一機だけナムワンに配備されていたバラウ、オーラバトラー運搬機にと乗ったベッグ隊長が、そのまま戦場を突き抜け、ゼラーナにと接近する。

 

「降伏する、何が望みだ?」

「こちら、ゼラーナ艦長ニー・ギブン、貴艦の補修物資を頂きたい」

「了解した」

 

 そのニー・ギブンという青年らしき男の声、それには。

 

「ひさしぶりだな、ニー……」

「……その声、ネデルか?」

「酷いことをするものだ、昔の友に向かって」

「昔の、友か……」

 

 スルタン家のネデルには無論、聞き覚えがある声である。

 

「良い認識をしているじゃないか、ネデル」

「僕は哀しいよ、ニー」

「だが、ここは戦場だ」

「お前のやり口は、ガロウ・ランじゃないか……」

「遊撃部隊とはな、ネデル……」

 

 ショウのダンバインとマーベルのダーナ・オシー、二機に先導されながら、ゼラーナはナムワン、エコー達の部隊が集う母艦へと接舷するために近寄ってきた。

 

「こういうことをするのが、常だ」

 

 そのニー・ギブンの冷徹とも受け取れる声、その声は雨の林がもたらす冷気にと影響を受けた物か、それとも彼等の覚悟がもたらす物かは、ネデル達には解らない。



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第18話「邂逅(前編)」

  

――お母さん!!――

――だめだ、ホリィ!!――

 

 あちこちで燃え盛る家々、それに踊る人影達は各々武器を携えた蛮族たち。

 

――もう、すでに殺されている――

――ゲヘ、エィ――

 

 その異様な姿をした悪魔、彼らが茫然自失としているホリィの元へと近付く姿を目にしたエコーは。

 

――はぁ!!――

 

 ビュ、ウ……

 

 ためらわずにその蛮族、ガロウ・ランに向かって弩を射掛ける。

 

――ホリィ……――

 

 そのガロウ・ランの喉に矢が突き刺さり、エコーはその「敵」が息絶えた事も確かめず、少女の手を引く。

 

――ガロウ・ラン……――

 

 すでにその頭を斧で叩き割られたホリィの母、その亡骸の姿が。

 

――ガロウ・ラン――

 

 数日前に殺された、エコーの両親たちの姿を思い出させる。

 

――ガロウ・ラン!!――

 

 その先ほど仕留めた蛮族、ガロウ・ランの姿がエコーの目の前で歪み、そして。

 

「ガロウ・ラン!!」

「うわ!?」

 

 覚醒した彼、エコーは目の前の少女、レーテへと掴みかかる。

 

「な、なによ!?」

「あ……」

 

 ザァ、ア……!!

 

 降り注ぐ豪雨、それが地面と木々を叩く音が、エコーの耳へと飛び込む。

 

「す、すまないレーテ」

「もう、乱暴だね……」

「すま……」

 

 そう、言いかけた時にエコーの身体のあちこちが。

 

「い、てぇ……!!」

 

 悲鳴、それをあげた。

 

「まだ、安静にしていた方が良い」

「レーテ、ここは洞窟……?」

 

 首を振り、ぐるりと視線を巡らすエコーの目にと入ったのは、茶色い土の肌壁とその入り口の外にと降り注ぐ、滝のような雨。

 

「なんだとは思うが……?」

「恐らくは、誰かが掘ったのだと思う、この洞窟は」

「ここまで運んでくれたのか、お前が?」

「重かったよ、エコー……」

 

 そう言いながら、微かに微笑むレーテにもあちこちにかすり傷が見られる。

 

「すまないな、レーテ」

 

 だが、レーテはそのエコーの礼にはすぐに返事はせず、実と通信機をいじっている様子だ。

 

「ダンバインの通信機か、それは?」

「そうだけど、ほとんど壊れている」

「俺のドラムロのは?」

「そちらはすでに試した」

 

 そう言いながら、レーテは洞窟の隅にと置かれている鉱石ラジオを指差し、その首を微かに振った。

 

「これは完全にオシャカだ」

「まいったな……」

「なにより、この雨だ」

 

 豪雨、雨の林の幕の中では、ナムワンの仲間がエコー達を見つけるのは至難の技であろう。

 

「運に期待するしかない、エコー」

「そうだな……」

 

 そう、彼エコーが思ったとたんに傷が再び痛み始める。特に左脚が痛む。

 

「骨にまで、僅かに来たかもしれない……」

「当て木、してみるか?」

「いや、骨折ほどではないと思うが……」

 

 ややに心配そうなレーテの視線を気にしながら、エコーは彼女にと安心させるように微笑んでみせる。

 

「な、なあレーテ」

「何、エコー?」

「お前さ、好きな奴とかいるのか?」

「何を突然……」

 

 その唐突なエコーの問いに、レーテは皮肉めいた表情を彼にと浮かべて見せた。

 

「一人、いるな」

「誰だよ、それは?」

「お前なあ……」

「息抜きさ、ほんのね」

「怖いのか、この状況が?」

「少し」

「正直だな、エコー」

 

 一つため息をついた後、彼女レーテは外の様子を確かめるため、洞窟の入り口にと脚を運ぶ。

 

「やっぱり、雨……」

 

 リィン……

 

 その時、彼女の耳にどこからか。

 

「何だ……?」

 

 鈴の音とも何とも言えない、涼やかな音色が響く。

 

――あ、いたいた――

「な、何だ!?」

――マーベル、エコーとやらがいたよ――

 

 リィ、ン……

 

 再度の鈴の音、それと共に一つの光が洞窟内に入り込み。

 

「あんた、エコーっていうんでしょ!?」

「な、何だ!?」

 

 妖精、それの姿を形取る。

 

「まさか、フェラリオ……」

「そのまさか、よ!!」

 

 フェラリオ、それはこの世界「バイストン・ウェル」のコモン界に時おり姿を顕す妖精のような者であり。

 

「あたしは、チャム・ファウ!!」

 

 コモンの者に幸運、または不運を呼び込む者として言い伝えられている存在である。

 

「マーベルが、あんたの事を心配しててねぇ……」

「マーベル様が……」

「この、果報者!!」

 

 そう言いながら、けたたましく笑う小妖精の声に軽い不快感を感じるエコーの耳へと、続けてレーテの声が飛び込む。

 

「エコー、誰かがこっちへ来るよ!!」

「マーベル、それにショウだなぁ!!」

 

 フェラリオ、チャム・ファウのその言葉、それにエコーはギョっとした顔をする。

 

「俺達は、捕虜になるのか……」

「捕虜にしないで下さいと、頼んで見たらぁ?」

「バカにするな、フェラリオ!!」

 

 己の想像に軽い苛立ちを感じてしまったエコーは、傷の痛みも忘れてチャムとかいうフェラリオにそう、怒鳴ってしまう。

 

「その様子だと、エコー君」

「ちょっと、誰よあんた!?」

「大丈夫みたいね」

 

 その凛とした女性の声と共に聴こえてくるレーテの慌てた声、それを聞いたエコーは。

 

「レーテ、いいから通して!!」

「でも、エコー……」

「大丈夫さ、多分……」

 

 コッ……

 

 軽い足音、それと共にエコーの元へとやってきたのは。

 

「お久しぶり、エコー君」

「お久しぶりです、マーベル様」

 

 マーベル・フローズン、彼エコーが初めて会った地上人ともう二人。

 

「直接、顔を会わせるのは」

 

 レーテ、エコーの仲間である彼女と共に洞窟へと入ってきたのは一人の青年、その彼の声には聞き覚えがある。

 

「初めて、かな?」

「地上人、ショウ・ザマ……」

「俺の名前を、覚えていてくれたか」

 

 肩にチャム、フェラリオを乗せた青年は、そう言いつつに微笑みながら、エコーのその手を軽く取った。

 

「俺は、敵ですよ……」

「だが、あのガロウ・ランの彼女と同じく、良きオーラ力を感じる」

「そりゃ、どうも……」

 

 一応、そのエコーの言葉は皮肉のつもりではあったが。

 

「今は一時休戦としないか、エコー?」

「こいつ今、嫌みを言ったよ、ショウ!!」

 

 フェラリオ、チャム・ファウにしか通じなかったようだ。



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第19話「邂逅(後編)」

  

「よく、俺の場所が解りましたね?」

「マーベルが、君のオーラをたどったのさ」

「へえ……」

 

 さすがは聖戦士、とエコーは言いそうになったが、どうせ皮肉と受け取られると思い、その言葉をグッと喉へと落とす。

 

「シュンジ王と、同じ事が出来るんですね」

「シュンジか……」

「ええ、リの国の国王」

「あいつには、借りが出来てしまっているからな……」

 

 そう言いながら、ショウ・ザマは一つ苦笑をしてみせる。

 

「だがな、エコー」

「はい」

「シュンジは、ドレイクの事をどう思っているのか、知っているか?」

「どうって……」

 

 少しその言葉にエコーは考えを巡らせてみたが脚の怪我、それの痛みのせいかあまり考えがまとまらない。

 

「わからない、地上人ショウ」

「あいつも、ドレイクには不信感を持っている」

「まさか……!!」

「だから、俺を逃がしてくれたんだ、解るか?」

「……」

 

 確かに、ショウ・ザマがラース・ワウから脱走するとき、シュンジ王は彼を一旦捕捉しながらも、結局は逃がす事を選んだ。

 

「しかし、リの国は……」

「ドレイクがオーラマシンを譲り、助けてくれた、その話は聞いている」

「そうです、ショウ・ザマ……」

 

 雨が未だに降り注ぐ中、マーベルとレーテ、そしてチャムはエコーとショウの話を実と聞いている。

 

「その恩がシュンジ王にはないと?」

「だからこそ」

 

 そこで、一旦ショウは話を切り。

 

「彼、シュンジは悩んでいる、板挟みになっているのさ」

「何にですかね、ショウ?」

「ドレイクの野望を止めるか、加担するかにだ」

 

 そのショウの言葉は、今まで巷で噂されていた数々のドレイク・ルフトに関する疑心、それを肯定するものだ。

 

「……俺にどうしろと?」

「解らないの、バカ」

「悪かったな、フェラリオ……」

「チャム・ファウ!!」

「わかった、わかった……」

 

 耳にとキンキン来る彼女チャムの声、それは今の精神的にも肉体的にも不安定なエコーには堪えるものである。

 

「俺は地上人でも、ましてや聖戦士でもない」

「わかっているさ、わかってる……」

「ならばなぜ、俺にそんな話題を?」

「マーベルの顔を立ててやったのさ」

 

 その言葉、それに対してマーベル・フローズンが軽くその頭を振ったように見えた。

 

「さっきね、エコー君」

「はい、マーベル様」

「私がニーに連絡をして、ナムワンに貴方達の居場所を教えるように言ったわ」

「では……」

「間もなく、救援が来ると思う」

 

 その言葉に、当のエコーよりも。

 

「やれやれ、天下の聖戦士に借りが出来てしまったか……」

 

 レーテ、彼女の方が喜んでいるように見えた。

 

「じゃあな、エコー」

「もう行くので、ショウ?」

「ここにいつまでもいたら、俺達の方が捕虜になってしまう」

 

 その正論にはエコーは反する言葉はない、しかし。

 

「結局、あなた達地上人は俺達に何を言いたい訳だったので」

「何も期待していない」

「だったら……」

「だが」

 

 すでにマーベルは洞窟の外にと出て、オーラバトラーに乗り込むまで濡れないように頭へと手をやりながら、何とか少しでも雨をやり過ごそうとしている様子が見える。

 

「ドレイクへの盲信は止めた方が良い、地上人としての意見だ」

「ショウ、俺は」

「俺は?」

「所詮、コモンの人間です、アの国の人間です」

「だから」

 

 そう言いながら、ショウもその背をエコー達にと向け、チャム・ファウを肩にと乗せたまま。

 

「何も期待していないと、言っている」

「すみませんね、地上人……」

 

 それは紛れもない皮肉であったが、今度こそその皮肉は。

 

「あなたのような見識を持てなくて、ショウ・ザマ」

「……安心しろ、エコー」

 

 聖戦士「ショウ・ザマ」にと通じたようだ。

 

「すみません、命の恩人に対して」

「いーだ、バカコモンのトーヘンボク!!」

「すまないな、フェラリオ……」

 

 彼ら、地上人達の去り際にチャム・ファウがその舌をエコー達にと広げてみせたのに、わざわざエコーが彼女に頭を下げた所が、エコーという少年の気の良い所であろう。

 

「地上人とは」

「なんだ、レーテ?」

「おかしな考えをする……」

「まぁな……」

 

 そのレーテの捨て台詞じみた言葉を聞きながら、エコーは。

 

「所詮は地上人だ、考え方の根本が違う、違いすぎる……」

 

 と、己を納得させるように胸の内でそう呟く。

 

「だけど、な」

 

 地上人、その単語を頭へと浮かべたエコーは、アの国に所属したままの、もう一人の地上人。

 

「トッドさんはどう思っているのかな……」

 

 トッド・ギネス、彼の顔を思い浮かべる。

 

「ああ、そうだエコー」

「何だ、レーテ」

「ネデルだよ」

「はい?」

 

 そのレーテの言葉、あまりにも唐突だった為か、エコーにとってすぐには意味が解らなかった。



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第20話「機体実験」

  

「ドラムロとダンバインの修理の事な」

「すみません、ベッグ隊長……」

「さんざん、ショット様に嫌みを言われたよ」

 

 戦いでの損傷とはいえ、その二機とザーベントを含めた修繕、それを依頼したときによほど彼、騎士ベッグは文句を言われたのであろう。彼が普段、部下には言わない言葉を言う。

 

「まあ俺もな、エコー」

「隊長はドレイク様にも、叱責を受けたと……」

「ナムワン、それに積まれていたオーラマシン用の補修物資を奪われたからな」

「全く、聖戦士達め……」

 

 だが、その聖戦士によって命を救われたエコー、彼のその口調には力が無い。

 

「ところで、ベッグ隊長」

「何だ、エコー?」

「ドレイク様、いや騎士バーン様が率いる軍勢がミの国を攻めたって話は、本当ですか?」

「ああ……」

 

 その、ややに憂鬱そうに答えたベッグの言葉、そこから彼の心境を読み取るのは、若輩であるエコーには難しい。

 

「いよいよ、本格的な戦争が始まるな」

「確か、ミの国はその隣国、ラウと繋がりがあるとか……」

「スキャンダルの話だな?」

「ハハ……」

 

 ミの国とラウの国のスキャンダルとは。

 

――何でも昔、ラウの国王様の一人娘が、ミの国の王様の元へと駆け落ちしたらしいわよ――

 

 その手のゴシップが好きなホリィ、彼女が話していた事がある。

 

「エコー」

「はい、隊長」

「ショット様がな」

「はい」

「少し、お前を借り受けたいとおっしゃっていた」

「へえ……」

 

 借り受けたいというのはよく解らない話ではあるが、おそらくは。

 

「大方、オーラマシンのテストをやれという意味でしょうか?」

「へえー!?」

「な、なんですか隊長!?」

 

 突然、ニヤついた笑みを浮かべ始めたベッグ隊長の顔、それを見たエコーは、僅かに脚を半歩引く。

 

「変な顔をして……」

「いや、お前は自分がテストパイロットに選ばれる程、偉くなったと思った訳だ!!」

「い、いやそんなつもりじゃ……!!」

 

 だが、その彼ベッグ隊長の口調には嫌みの色が無い所をみると。

 

「頑張れよ、テストパイロット!!」

 

 彼、エコーを祝福している、のかもしれない。

 

 

 

――――――

 

 

 

「どうだ、エコー!!」

「どうもこうも、ショット様!!」

 

 蒸し暑い、夏が近づいてきた陽気の日、コクピットを開放して試験機へと乗っているエコー、彼の生身の身体には強い風が吹き付ける分いいのだが、それでも。

 

「オーラ関係機器が、滅茶苦茶な変動をします!!」

「それでいいんだ、それで!!」

 

 いくらシートベルトで身体を包んであるとはいえ、不安定な機体を操る身としては不安な事この上ない。

 

「ゼットが考案した、オーラ変換器だそうだからな!!」

「せめて、無線を付ければ!!」

「不許可だ、データが乱れる!!」

「全く!!」

 

 機械の館、そのベランダから怒鳴るショット・ウェポンの声に、エコーは試験用の黄色にと塗装された実験型ドラムロ、それを操縦しながら愚痴の声を上げる。

 

「こんなもの、使い道があるんですかね!?」

「お前の壊したオーラバトラー、ドラムロを直すのに、ドレイクの許可を得るのに大変だったんだぞ!!」

「すみませんね、全く……!!」

 

 グゥン……!!

 

 そう、叫びながらもエコーはショットに頼まれた曲芸飛行をやってのけるが、またしてもオーラ関係のメーターが激しくぶれ始めた。

 

「怖いもんだ、この機体は!!」

「もうすぐだ、もうすぐ新型オーラ増幅器のデータ採取が終わる!!」

「だと、いいんですが!!」

 

 曲芸飛行の次はスピード測定だ。その機体がグンと加速するたびに風がエコーの身体を強く押す。

 

「汗が乾くよりも、新しい冷や汗が先に出る!!」

 

 そのまま、エコー機はラース・ワウ郊外の森上空へとたどり着き、その勢いを生かしたまま急旋回をする。

 

「うわ、わ!?」

 

 オーラノズルの急激な出力低下、それをどうにか微調整をしつつ、実験型ドラムロはそのままショットの元へと機体を戻させる。だが。

 

「ちくしょう!!」

「おい何処へ行く、エコー!!」

「機体が止まりません!!」

 

 ビュウ、ウ……

 

 その悲鳴にも似たエコーの声を表すように、ドラムロはさらにそのスピードをアップさせ、そのままラース・ワウ上空を通り過ぎていく。

 

「何をしている、そこのオーラバトラー!!」

「止まら止まら止まらないんですよ!!」

 

 黄色の疾風、それがラース・ワウの見張りの尖塔を掠め飛び、そのまま。

 

 ズ、ンゥン!!

 

 森へと突っ込み、機体を強制的にストップさせてしまった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「あいてて、傷に染みます……」

「動かないで、エコー」

 

 せっかく怪我が治ったばかりなのに、またしても負傷をしてしまった彼エコーを、ショット配下の青い髪をした女性が手当てをしてくれる。

 

「これでよし、と……」

「ご苦労だった、ミュージィ」

 

 笑いながらショットが言ったその言葉、それは。

 

「私に言ってくださいよ、ショット様……」

「すまんすまん、エコー……」

 

 確かにエコーのいう通り、実験に付き合ってくれた彼にこそ言うべきであろう。

 

「また、ホリィ達にと笑われてしまう……」

「たしか、お前の部隊はミの国攻めに加わっているんだったな?」

「ええ」

「ザーベント、良い実戦データが取れるといいが……」

「別にそれの本格タイプであるビランビーとやらがあるのなら、もういいでしょう?」

「試作タイプには、試作なりの良いところがあってだな……」

 

 そのあからさまな技術者気質のショットの言葉に、エコーはその口の端を歪めつつ、微かに苦笑してみせた。

 

「少しはその実験機に乗る、ネデルの事も心配してくださいよ……」

 

 エコーのその皮肉めいた言葉、それに対してショットの部下であるミュージィという女性が軽く笑う。

 

「ザーベントはドラムロの成分を含んでいるよ、エコー」

「だから、安心だと?」

「その通り」

「あまり、信用できる話ではありませんね、実に」

「そうかい?」

 

 そう、ショットは言ったきり機械の館の医務室から出ていこうとその背をエコーにとむけながら。

 

「ミュージィ、手当てが充分なら、しばらく一人にしてやれ」

「まあ、大して大きな怪我でもないことですし、ショット様……」

「少し、気分を落ち着かせた方が良い」

 

 ショットのその言葉は、ややに神経がささくれ始めたエコーにとっては、ありがたい事とも言える。

 

「ふう……」

 

 ショットとミュージィという女性も医務室から出ていき、一人ベッドに残されたエコーが考える事は。

 

「ホリィ達は、今頃どうなっているかな……?」

 

 ミの国攻めにと参戦しているはずの、仲間達の事である。



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第21話「キロン城陥落」

  

「このビランビータイプならば!!」

 

 そのバーン・バニングス、アの国ドレイク・ルフト家に仕える騎士団長の勇ましい掛け声の通り。

 

「旧式など、敵ではない!!」

「お、落ちる……!!」

「よし、次!!」

 

 ミの国のゲド、及びダーナ・オシーなどは、その最新鋭機には全く敵わない。それ以外のドレイク軍オーラマシンにしても。

 

「もはや、我々の古式戦法は通用しないということか……」

「皆、あのナムワンにかかれ!!」

 

 小国「ミ」に対しては圧倒的なアドバンテージを誇っている、運搬機バラウが標準装備化しつつあるゲードラムにドラムロ。

 

 ズゥ、フゥ……

 

 そしてそれらには及ばぬものの、性能が向上しているドロ等の波状攻撃によって、ミの国国王「ビネガン・ハンム」が乗るナムワンが沈み行く。

 

「ミの旗艦が落ちたか……」

 

 その姿を遠目に確認したバーンは、彼のビランビー、新型オーラ関連機器「増幅器」を搭載したそのオーラバトラーの後方にと控える重オーラ・シップ。

 

「こちらバーン・バニングス、ブル・ベガーよ聴こえるか!?」

 

 ブル・ベガー、比類なき火力を秘めたそのシップに向けて、無線機を通して大声で叫ぶ。

 

「ミの中枢を叩いたように見える」

「了解、確認を急ぐ」

 

 夕陽に照らされた周囲のミの国軍勢、それらが途端に攻撃の手を緩めたからには、そのナムワンがミの中核を担っていたのは確かであると思われるが。

 

「まだ、周囲では戦いは続いている……」

 

 沈んだナムワンが激突したミの王城、それの制圧がドレイク軍の騎士団長である彼には残された用事としてあるとはいえ、まだまだ自分が戦い足りないと思う所が。

 

「俺が、オーラバトラーという時代の流れに乗ってきたということかな?」

 

 若さ、それであるとバーン・バニングスは自覚をしている。

 

 

 

――――――

 

 

 

「くっ!!」

 

 ギィ、ン……

 

 ネデルはザーベント、試作型ビランビーで一機のダーナ・オシーを撃墜したが、その剣が落とした敵機にと食い込んだ隙に。

 

「参る!!」

 

 深紅のダーナ・オシー、その明らかに他のタイプとは異なるオーラバトラーから、フレイ・ボムを投げ付けられる。

 

「何の、ダーナ・オシーめ!!」

 

 敵機からのそのフレイ・ボムをネデルは自らの空いた手、左手から同じフレイ・ボムの火焔を放射して相殺しつつに、先に撃墜したダーナ・オシーから埋め込まれた剣を力を込めて引き抜く。

 

「はあ!!」

 

 その抜刀の勢いを生かしつつ、ネデルはコクピット内でオーラ増幅器の出力を調整し、その変換効率をあげる。

 

「……く!!」

「落ちろ、ダーナ・オシー!!」

 

 だが、その紅いダーナ・オシーには恐らく名のあるパイロットが乗っているのであろう。出力自体はザーベントの方が圧倒的に上なのに対して、ネデルの目前の敵機はその勢いを反らすかのような機体捌きをみせていた。

 

「しぶとい!!」

「パワーが段違いか、新型!!」

 

 とは言え、そのダーナ・オシーのパイロットも自機ダーナ・オシーとザーベントとの性能差は解っている様子だ。いったんその紅い機体はネデル機にと。

 

 ズゥン!!

 

 体当たりし、そのまま機体間の距離を取ると。その背を見せ。

 

「逃がすか!!」

 

 ザーベントから放たれた股間部バルカン、それをあたかも背中に目がついているような正確さで発射線を見切り、そのまま日の沈み行く方向にと全力で向かう。

 

「おのれ、旧式のくせに速い!!」

「ネデル!!」

 

 そのダーナ・オシーを追撃しようとしたネデル機、だがその彼の後ろに迫った見慣れぬ機体をホリィのアルダムが、ミサイル・ランチャーで牽制をした。

 

「深追いはしないで!!」

「わ、わかっている!!」

 

 微かに緊張がほぐれてしまったネデル、その彼を謎の疲労感が襲い。

 

 ザァ、ア!!

 

 その何処か所属が不明な敵機、そのオーラバトラーがその手に持つ射撃兵器の発射を許してしまう。

 

「よけろ、ネデル!!」

「レーテか!?」

 

 他方面のドレイク軍に編入され、その部隊でベッグ隊長と共にミの軍勢と戦っていたレーテ機である黒いダンバイン、その機体の腕から放たれたオーラショットがその不明機の射撃武器、何か「矢」のように見えるそれらを的確に迎撃していく。

 

「ミはすでに落ちた!!」

「だが、まだ徹底交戦の構えの連中がいるんです、レーテ!!」

 

 そのレーテ機の支援の隙に体勢を整え直したネデルが見たのは、その不明機と剣を切り結ぶホリィ機アルダムの姿。

 

「思っていたより、この敵は!!」

「無理はやめな、ホリィ!!」

「うるさい、レーテ!!」

 

 何か、何かに意地になっているホリィの声に半ば呆れながらも、ネデルとレーテはその不明機、それが複数この宙域に展開し始めた事に対して。

 

「僕たちだけで、防ぎきれるのか……!?」

 

 その迷い、それがネデル少年の脳裏にと宿る。

 

「剣が、通らない!!」

「終わりだ、アルダム!!」

 

 どうやら、その敵の不明機は装甲も厚いようだ。アルダムの僅かに湾曲した剣はその敵機の外殻を貫通できず、そのままホリィ機は圧される形となってしまう。

 

「ホリィさん!!」

 

 その様子を見たネデルは、ザーベントの高出力を発揮させ、機体を体当たりさせる要領でその不明機を剣で貫こうとする。

 

 バァ、ア!!

 

 股間部バルカンからの威嚇音と共に、ダンバインも撃ち尽くしたマガジンを取り替え、レーテも彼らネデルとの阿吽の呼吸で再度の射撃、それをホリィとネデルへと近づく敵機達にと放ち続ける。

 

「う、うわぁ!!」

 

 ザーベントの突進剣をその機体に受けた不明の敵機。それがそのザーベントの剣を身体に加えつつ、煙を立てながら夕闇が覆い始めた牧草地にと、錐揉み落下をしていく。

 

「一機撃墜!!」

「ネデル、また射撃が!!」

 

 そのホリィの言葉と同時に複数の「矢」による遠距離射撃が、ややに姿勢が崩れたネデル機にと向かって飛ぶ。

 

 ボフゥ!!

 

「情けないぞ、新型の試作機!!」

「ガラリア様!!」

 

 援軍に駆けつけたガラリアのドラムロがフレイ・ボムの爆風でその矢達を吹き飛ばし、そして。

 

「おれだって、聖戦士なんだぜ!!」

 

 トッド・ギネスが駆る紺色のダンバインが、その剣に青い燐光を纏わせながら、敵の新型機へと果敢に突進していく。

 

「ミの国残党の方が手強い、バーンは楽をしている!!」

「そうなので、ガラリア様!?」

「ゼラーナ隊もいたしな、新型の出来損ない!!」

 

 確かに、そのガラリアの言葉通り、彼女らのオーラバトラーにはあちこちに微細な傷があるようにネデルには見えた。

 

「ここの敵が、最後のようだな……」

「ベッグ隊長……」

 

 ガラリア達に続いて援助に駆けつけた騎士ベッグのドラムロも損傷が激しく、ホリィは。

 

「何に出会ったんですか?」

「グナンの群れだよ、ホリィ」

 

 機体出力が大幅に低下を始めた自機アルダムの事も気にしながらも、そう自分達の隊長にと訊ねる。

 

「数が多かった……」

「グナン、とは?」

「恐らくは、ラウの国製のオーラボムだ」

「もしや、以前から時おり見かけた三本脚の……」

「そう、それだ」

 

 その、ややに主戦場から離れた場所で交わされるホリィとベッグの会話、それはネデルやレーテ、それにガラリア達が敵を受け持ってくれるから出来るものではあるが。

 

「ラウの国……」

 

 夕陽の光の中、ホリィが見つめているその敵不明機達が撤退を始めたその方向は、まさしくその「ラウの国」の方面である。

 

 パァン、パァ……

 

 その時、すでに夜が近づいた薄闇の中でミの国王城「キロン」の一際高い尖塔から、降伏の白旗と共に、停戦を求める信号弾が空にと放たれた。



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第22話「ヨミツヒラサカ」

「おや……」

 

 実験型ドラムロの試験飛行をショットに頼まれ、それの慣熟を行っているエコーは。

 

「あの建物は何だろう……?」

 

 何か、ラース・ワウからかなり離れた場所にある湖の近く、そこにある建物にと気がついた。

 

「民家、のようには見えないが……」

 

 その建物は堅硬な石造りであるようにも見えるし、それに何かあちらこちらに意味がよく解らない紋様、のような物で装飾が施されている。

 

「まあ、ちょっとした息抜きだ」

 

 少し、最近の実験動物にでもなったかのような境遇にも飽きてきた事もあり、エコーはその建物を詳しく見てみる事にした。

 

 ズゥ、ン……!!

 

 赤いドラムロが地面にと降り立ち、それのコクピットから地面へと降りるタラップ・ロープを垂らすエコー。

 

「このロープ、あんまり慣れないんだよなあ……」

 

 文句を言いながらも、そのロープを下ったエコーの目前には。

 

「やはり、変な作り物だ……」

 

 入り口らしき鉄製のドアが目を引く、謎の建物がそびえ立つ。

 

 ズゥ、ウ……

 

「おや?」

 

 てっきりドアには鍵が掛かっているかと想像していたエコーは、その厚く重いドアが静かな重音を立てて奥へと押せる事に少し驚きながらも。

 

「変な匂いだな……」

 

 その建物の内部にと立ち込める妙な空気、甘いのか何か、判断がつきづらい薫りが立ち込める空間にと。

 

「まあ、度胸だ……」

 

 その脚を踏み入れる、そのエコーの視線の先には、開いた鉄格子型のドアから続く地下への階段。そこから何か冷たい空気が上へと吹き込まれてくる。

 

「何だろう……?」

 

 建物の中は外見よりもずっと広い、テーブルや椅子、食べ物が入っている棚などもあり、生活感が微かに感じられる。

 

「しかし、人がいたようには思えないな……」

 

 何はともあれ、問題は地下へと続く階段だ。

 

「行ってみるか」

 

 僅かな恐怖感、それを覚えながらもエコーは、勇気を出して冷気漂う地下へとその脚を踏み出す。

 

 スゥ……

 

「寒い……」

 

 ドラムロ、オーラバトラーのパイロット・スーツに当たる皮鎧は、決して厚くはない。身体の動きを阻害させないためだ。

 

「それに、この階段の素材も」

 

 どこか異様、強いていうならば動物の臓物のような「足触り」を感じさせる、青白い色をした階段なのだ。

 

「……」

 

 しばらく、そのまま階段を下るエコー。しばらく下ると階段のみならず、壁すらも青白い、謎の構成物で出来はじめる。

 

「……おや?」

 

 寒さに耐えるエコーの視線の先、その先には階段が二股にと別れ、その一方から。

 

「……リ、マン」

 

 何か、祈りとも呪詛とも受け取れる声が、エコーの耳へと入る。

 

「さて、どっちに行くか……」

 

 しかし、そうは口ごもりながらもエコーの答えは決まっている。声が聴こえないもう片方の階段は。

 

「薄気味が悪すぎる……」

 

 階段、そして壁の色が青から赤にと変わり、その天井から何か妙な液体がこぼれ落ちているのを、エコーは忌避する。

 

「こっちにしよっと……」

「……ト、モア、イ」

 

 まるで自らがその「呪文」にと導かれる錯覚を覚えながら、エコーは声の方向へと向かう。

 

「誰か、いるのか……?」

「……」

 

 誰かはいる、しかしそのエコーの声には答える者はいない。その時。

 

 シィ、ア……!!

 

「うわ!?」

 

 階段の奥、そこから何か緑蒼の色をした光が、エコーの両眼を射る。

 

「……何だ、今の光は?」

 

 その光は一瞬ではあったが、どこかエコーの身体にも暖かく、優しい気を感じた。

 

「おおい!!」

 

 誰か、何かがいる。そう直感的に感じたエコーは、謎の施設内で一人だという心細さもあってか。

 

「誰か、いるのか!?」

「……」

 

 必要以上に、大声を出してしまう。

 

「……だれ?」

「……女?」

 

 その細く儚く感じる声、それは若い娘とも老婆とも受け取れる謎の、女の声。

 

「だれだ!?」

 

 ダッ……!!

 

 足元のグニャリとした感覚に辟易しながらも、駆けたエコーの視線には、蒼い光が見え始めた。そのまま走るエコー、そして。

 

「うっ……!!」

 

 突如の広い空間、周囲を巨大な半径の鉄格子にと囲まれた大きな泉の中央には。

 

「アナタは、だれ……?」

 

 薄い、何とも言えない髪の色をした、裸の若い娘が立っていた。

 

「お、俺は……」

「貴方は、地上人か?」

「ち、違う……!!」

 

 その娘の姿格好はあまり見ないようにしながら、エコーはその足を軽く滑らせるように動かし、彼女にと近付く。

 

「俺は、エコーだ」

「地上人ではないのか?」

「聖戦士、いや地上人ではない……」

 

 謎のプリズムで輝く天井、そこから降り注ぐ光がエコーとその女性、そして蒼い泉を照らす中。

 

「私は、シルキー・マウ」

 

 そう、自己紹介でもするかのように自らの頭を下げた後。

 

 ポゥ、シュ……

 

 その身を、泉へと沈ませる。

 

「お、おい!?」

 

 その様子を見たエコーは、円形の鉄格子の中で唯一鍵のような物が刺さったままに開いている部分、そこへと駆け寄り、その泉の中へ足を付けたが。

 

 ボゥ……!!

 

 泉全体がその奥深くから紅い光を発し、その激しい光がエコー少年をも包み込む。

 

「……うわ!?」

 

 光の奔流を受けたエコーはその身が宙にと浮くのを感じながら。

 

 ズゥ!!

 

 天からのプリズムと紅い光、それらに翻弄され、徐々に意識を失っていった。



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第23話「ワーラー・カーレン」

 

 その、宙を漂うエコーが聴いたのは。

 

「……水の音?」

 

 川、それがせせらぐ音色である。

 

「ここは……」

 

 薄暗い川底、そこにとエコーは「沈んで」いた。

 

「しかし、息が出来る……?」

 

 そのエコーの疑問通り、川の中だというのに、全く息苦しさを感じない。

 

「それはいいのだが……」

 

 しかし、いくら川の中で呼吸が出来るからといっても、ここはどこだという疑問の解決には、全くならない。

 

「確か、俺はあの泉にと降りて、そこに裸の女がいて……」

「それは、私の事でしょうか?」

 

 そのエコーの質問、それに対していずこからか投げ付けられる声。

 

「私は、シルキー・マウ」

 

 リィン……

 

 シルキー・マウ、そう名乗った女の姿が、エコーがいる川底にと鈴のような音と共に舞い降りる。

 

「フェラリオです、コモンの者よ」

「フェラリオ、か……」

 

 フェラリオ、それはいわば妖精のような種族。その種族に属する女が、薄絹のような衣服を身にとまとい、エコーの顔を覗き込んだ。

 

「フェラリオにも、人間と同じ大きさの奴がいたんだな」

「私は、小妖精のようなフェラリオとは違います」

「まあ、その辺りは俺にはよく解らないが……」

 

 その違いとやらは、あまり学があるとは言えないエコーにとって、彼女にと言った言葉の通り良くは解らない、しかし。

 

「それよりも、ここはどこなんだ?」

「ワーラー・カーレン、天の河です」

「ワーラー・カーレン……」

 

 どこかで聞いたようなその名前、それをエコーは思い出そうとするが。

 

「お喋りが過ぎるぞ、シルキー・マウ!!」

 

 パァ……!!

 

 年配の女と思われる女の厳しい叱責の声、それが放たれたと同時に。

 

「う、うわ!!」

 

 エコー達を包んでいた川が、文字通りに「干上がる」

 

「お、おどろかせやがって……」

「コモンよ」

「な、何だよ……?」

「名乗れ」

 

 何か、その身を竦ませているシルキー・マウを横目に見やりつつ、エコーはその法衣の様な物に身を包ませた女の顔を正面から見つめ。

 

「二度言う、名乗れ」

「俺の名はエコー」

「エコー、鳴り響く者という意であるか」

「あんたは?」

「ジャコバ・アオン、聞き覚えはあろうな?」

 

 そのジャコバとかいう女が吐くその威圧的な声に、エコーは軽い反発を感じ、その為。

 

「無学であるか、コモンよ?」

「悪いな、無学で……」

「フム……」

 

 言外に彼女の名を「知らない」と答えたエコーに対して、ジャコバ・アオンはその鼻を一つ、小馬鹿にしたように鳴らしてみせる。その態度が余計にエコーにと反発を生ませる。

 

「何ゆえ、そなたがここにやって来たのか、我にはわかっておる」

「俺には、さっぱり解らない……」

「このシルキー・マウ、愚かなフェラリオが地上人を召喚したその余波」

「はい?」

「そして、それによって力を使い果たしたこやつが水に消えた勢いに、呑まれたのであろう」

「すまない、言っている意味が……」

 

 そのエコーの言葉は正論ではあるが、それに構わずジャコバ・アオンは。

 

「招かざる客よ、コモン」

 

 断じるように、吐き捨てるようにそうエコーにと言葉を絞り出す。

 

「直ちに、このワーラー・カーレンから立ち去れ」

「だから、俺は何でここに来たのか、どうやって帰るのかも……」

「このフェラリオのでき損ない」

 

 そう言いながら、ジャコバ・アオンはその女に脅えきっているシルキー・マウに向かって、その人差し指を伸ばしながら。

 

「シルキー・マウに聴け」

 

 何か、呪のような物を唱え始める。

 

「慈悲を、ジャコバ・アオン……」

「ならぬ」

 

 その哀願に満ちた言葉を放つシルキーが、その呪を受け。

 

「この女の、身体が縮んでいく……?」

 

 徐々にとその体躯を、以前に出会ったチャム・ファウ、小妖精の姿へと変えていく光景を、エコーは呆気にとられつつ、呆けたように見詰めている。

 

「この庭から追放する、シルキー・マウ!!」

 

 ビュウ……!!

 

 ジャコバ・アオンのその烈帛に満ちた怒声により、身体が縮んだシルキー・マウはその背にと新たに生やした翅を震わせ、そしてエコーの服を掴み。

 

「う、うわ!?」

「シルキー・マウの手により、コモン界に戻れ!!」

 

 そのエコーを掴んだシルキー、彼女の身体が緑蒼色に染まると同時に、彼と彼女の輪郭が歪み始めた。その時。

 

「何だ、この真っ黒な、それでいて蛍の様な光が瞬く光景は……?」

「オーラ・ロードです、エコー」

「なんだって、シルキー・マウとやら?」

「天の河、そうとも言えます」

「だから、訳がわからないと……」

 

 その、地上の人間ならば一般知識として知っている光景の中で、エコーは。

 

「オヤジ、オフロク……?」

 

 何か、懐かしい顔をその目前にとよぎらせながら。

 

「何だ……!?」

 

 彼は、その意識を失った。



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第24話「王の責務」

  

「結局、このゲドバインでは……」

 

 ナムワン、ベッグ隊長が指揮下の艦であり。

 

「あまり、ミの国攻めの役には立たなかったようだな」

「まあ、試作機のそのまた試作機でありますからね、シュンジ王」

「覚悟はしていたがね……」

 

 その騎士ベッグの妻、ネイリンが艦長を努めている艦の中で、リの国の国王「シュンジ・イザワ」はやや愚痴めいた声をこぼす。

 

「ドレイク殿に、示しがつかなくなった」

「それでも、リの騎団は旧式化が始まっているアルダムで、ラウからの増援を撃退をして頂きましたわ」

「ドレイク殿から買い取ったドラムロも混じっているさ、ネイリン艦長」

 

 そう、どこか哀愁に満ちた声を、ナムワンのメインブリッジの中で上げながら。

 

「やはり、ラース・ワウ製のオーラバトラーは巧く作られているよ……」

 

 彼シュンジはリの国の艦、ナムワン級からの連絡を待っている。

 

「ゲドバイン、もうすぐ自力飛行が可能になるそうです」

「ありがとう、ネイリン艦長」

 

 シュンジ王、彼がこのナムワンに着艦したのは彼の愛機「ゲドバイン」がエンジントラブルを起こした為であり、それの修理が順調であることに。

 

「また、ドレイク殿に借りが出来てしまったな……」

 

 心中はともあれ、ホッとしているシュンジである。

 

「聖戦士シュンジ王!!」

「おう、確か……」

 

 威勢が良い、しかしどこか「張り」が感じられないその声を放ったのは。

 

「ネデル殿、だったな?」

「ネデルで構いません」

「解った、ネデル」

 

 ネデル、ザーベントの修理が終わった彼が、どこかソワソワした風情でブリッジにと佇んでいる。

 

「俺に何か用か、ネデル?」

「少し、お話が……」

「うん?」

 

 その、あまり一国の王に対して適切な言葉とも思えないネデルの発言に対して。

 

「ネデル、少し下がっていなさい」

 

 ネイリン艦長が、軽く彼をたしなめた。

 

「……」

 

 その間、シュンジ王は彼、ネデルの顔を実と見つめ、そして。

 

「……似ているな」

「ハッ……?」

「いや、少し前にリの国を辞した男にだ」

 

 ポツリと、どこか遠い目をしながらそう呟く。

 

 

 

――――――

 

 

 

「シュンジ王は」

「ん……」

「ドレイク様の噂について、どう思われますか?」

 

 二人きりの食堂、そこでコーヒーを飲みながら、シュンジは彼ネデルの言葉に耳を澄ます。

 

「お噂では……」

「アの国を手中に収めようとしている、だな?」

「はい」

「どうもこうもない」

「と、申しますと……?」

 

 少し行きすぎた質問かとネデルは思ったが、それでも彼はその舌を止めない。

 

「シュンジ王は、ドレイク様の考えを肯定なさるので?」

「誘導質問、君はドレイク殿のスパイか?」

「いえ、それは……」

「どうもこうもない、と言ったのはな……」

 

 あまり旨くないコーヒーを啜りながら、シュンジ王はややに不機嫌そうにそのネデルの質問に答えてみせる。

 

「恩義としても、地理学的にもドレイク殿に肩入れしたい、というのが俺とリの国民の総意だからだ」

「恩義はガロウ・ランからの侵略の話だとは解りますが、地理学とは?」

「解らないか、ネデル君?」

 

 グ、ビィ……

 

 カップに淹れてあるコーヒーを全て飲み干してから、彼シュンジはネデルの問いに、やや疲れたような声を出した。

 

「コモン界の地図によればリの国は、ドレイク殿の領地の真下にあり」

「はい」

「いざ、ドレイク殿と戦いになったときに、ラウ等の国からの助けは期待出来ない」

「ケム、ハワの国とは……?」

「あまりリとは国交がなく、噂によればその国々にも、ドレイク殿からの密使が来ているとの噂がある」

「……」

「俺は、国王なんだ」

 

 ポッ、ポウ……

 

 その時、食堂の鳩時計が夕刻を伝える音を出した。

 

「ドレイク殿の強引なやり方に疑惑があっても、協力体制は崩せない」

「ちょっと、そのおっしゃり方はシュンジ王……」

「君が間接的に本心を言ってくれたから、俺もそれに答えたまでの事」

「すみません……」

「いや、いい」

 

 夕闇が迫ってきた外の空気、窓から見える海の景色には、雨粒が見え始めている。

 

「俺は聖戦士である以前に、リの国王の道を選んだ」

「はい」

「いわば、縛られた身なんだ……」

 

 その、微かに居たたまれなくなったネデルは、どこか侘しく笑うシュンジ王から視線を逸らし。

 

「責任、か……」

 

 その若き王の背後、ナムワンの窓から見える雨にと、自身の目を泳がせた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「シュンジ王!!」

 

 気分転換にハンガーデッキへと降りてきたシュンジ・イザワの顔を見た騎士見習いホリィは。

 

「頂いたアルダム、調子が良くなっていますよ」

「そうか、ホリィとやら」

「はい」

 

 彼、シュンジのお付きであるフェラリオと語り合うのを止め、軽く若き王にと頭を下げる。

 

「このアの国の人達、流石にアルダムを上手く改造しています」

「そうか、フィナ?」

「はい、シュンジさん」

 

 そのフェラリオ、フィナというらしい彼女は、その薄い翅から淡い燐光を振り散らしながら、シュンジ王の肩にと止まってみせた。

 

「地上人って」

 

 その光景に興味をそそられたのか、ダンバインの整備を行っていたレーテ、ガロウ・ランの少女がフィナの小さな身体をしげしげと見詰めている。

 

「フェラリオを飼う習性でもあるのか?」

「俺も、このフィナとの縁はよく解らない」

「そうなのか、シュンジ王?」

「そうさ……」

 

 そのレーテ達の会話に聞き耳を立てていたネデルにしてもフェラリオ「フィナ・エスティナ」と先程そうシュンジから彼女の事を紹介してもらったネデルの目からして見ても、一国の王が肩にフェラリオを乗っけている姿は妙な物だとは思う。

 

「このアルダムは、他の部隊の物だったんですが、シュンジ王」

「うん?」

「ぶん取っちゃいましたよ、オーラバトラーが欲しかったから!!」

「ハハ……」

 

 シュンジ王とホリィのそのやり取り、それに少しは心が救われた気がするネデル。先の話題はやはり、一国の王に対して失礼極まりないと思っていたのだ。

 

「シュンジ王達!!」

 

 その時、ハンガーデッキを開くとその手でサインを送ったベーベル整備士の指示に従い、皆がハンガー出入り口から遠ざかる。

 

 ブ、ルゥ……!!

 

 皆が搬入口から遠ざかったのを確認したベーベルは手際よくマシン用の出入り口を開き、そこから一機のバラウがハンガー内へと飛び込んで来た。

 

「シュンジ王、迎えに来ましたぜ」

「ご苦労、ザン団長」

 

 そのザンと呼ばれた老騎士と共にバラウにと乗っていたベッグ、このナムワンの責任者が、シュンジと入れ替わるようにして運搬機バラウから身軽に飛び降りる。

 

「では、俺はリのナムワンに戻ります」

「お元気で、シュンジ王……」

「うん……」

 

 そのネデルの声に一つ手を振る仕草をしながら、シュンジはバラウにと飛び乗り。

 

「おい、お前達」

「はい、ベッグ隊長」

「シュンジ王に失礼が無かっただろうな?」

 

 バラウがけたたましい羽音を立てて、雨の中にと飛び立つ姿を目にしながら、ベッグは部下達にと釘をさす。

 

「そりゃあ、もう隊長殿」

「だと、いいがな……」

 

 ガロウ・ラン、レーテのややに軽薄な返事に、騎士ベッグは微かに苦い顔をした。



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第25話「祝福の時」

  

「では……」

 

 コンッ……

 

 儀礼の為として作られた、女性用の板金鎧を身に纏ったホリィのその細い肩、それをバーン・バニングスは刃の付いていない剣で軽く叩く。

 

「本来ならドレイク様にしか、ナイト・ストライクは許されないのだが」

「はい、騎士バーン」

「ホリィ・ウッド、貴公を騎士として認める」

 

 ブル・ベガー内部にと応急的にしつらえた騎士叙勲室、その中でホリィはバーン、アの国一の騎士として謳われる男により、騎士としての有り様を教わる。

 

「皮肉をいうようだが、ホリィ・ウッド」

「ハッ……」

「やはり、貴公の騎士叙勲はオーラバトラー乗りを増やすための、単なる肩書きとしての意味合いが強い」

 

 その言葉はホリィの心に刺さる物であるが、確かに自分の実力が騎士、オーラバトラー乗りとして高い水準を満たしているとは思えない。

 

「だが、騎士の名を手に入れたからには、今以上の精進をしてほしい」

「かしこまりました、騎士バーン!!」

 

 あくまでも、オーラバトラー操縦者イコール騎士としての図式、それをお偉方が「規律」として守る為の、彼女の騎士叙勲なのだ。

 

「でも、これでアイツに大きな顔はさせないぞ……」

 

 しかし、それでも何だかんだいって、騎士となった事は満更ではないホリィである。

 

 

 

――――――

 

 

 

「まあ、とりあえずは……」

 

 自分達の艦「ナムワン」にと帰還した騎士ホリィを、レーテを始めとした。

 

「おめでとう、ホリィ」

「ありがとう、レーテ」

 

 クルー、そしてパイロット達が、拍手を持って祝福する。

 

「ここに、エコーの奴がいないのは残念だけど」

「今ごろ、ショット様に良いように使われてるのではないですか、ホリィさん?」

「そうねぇ……」

 

 エコー、彼女ホリィの幼馴染みが今、どのような境遇にあるのかは解らないが、騎士叙勲を受けた自分としては自慢したい相手ではあるし。

 

「アイツにも、拍手をしてもらいたかったな……」

 

 少し、寂しさを覚えてしまうホリィ。

 

「でも、この時期に騎士叙勲とは」

「何ですか、ベッグ隊長?」

「いや、例のドレイク様がいよいよ……」

 

 その、騎士長ベッグの言葉、それが意味する所はあまり。

 

「ちょっと、あなた……」

「すまんすまん、ネイリン」

 

 この喜ばしい、祝いの場で言うような事ではない。

 

「さ、さあみんな!!」

 

 その場に流れた微妙な空気を吹き飛ばそうと、ネデルが実家から取り寄せた珍しい食べ物、それを材料として作った料理の事を皆にと話し。

 

「冷めない内に、食べましょう!!」

「そうだね、うん」

 

 ネデルの気を使ってか、レーテもまた彼にと同意する。

 

「でも、やっぱり」

「何ですか、ホリィさん?」

「エコーの奴にも、食わせてやりたかったな」

 

 そのホリィのどこか未練がましい声に、その場にいたナムワンのメンバーが苦く笑った。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 見慣れぬ夜の土地、あちらこちらにラース・ワウの名物である「電灯」が点いた柱が立ち上る床に、エコーは座り込んでいる。

 

「大丈夫ですか?」

「ん……?」

 

 その妙にでこぼこした、それでいて滑らかとも言える地面にと佇むエコーに、一人の小妖精「フェラリオ」が声をかけてきた。

 

「君は、確か……」

「シルキー・マウです、ええと」

「エコーだ」

「はい、エコーさん」

 

 そのフェラリオの翅から散らばる燐光、それが闇夜の世界をややに明るく照らす。

 

「お怪我は……?」

「いや、ないが……」

 

 それでも、自らが座りこんでいる石畳らしき物、それの尻に当たる不快感はなんとも言えない。

 

「どこの国だ、アの国ではない……?」

「オーラが」

「何だ、シルキー・マウ?」

「大気に含まれるオーラが、希薄です」

 

 そのシルキー・マウの言葉、それが意味する所はエコーには解らず。

 

「まるで、バイストン・ウェルではないみたいです……」

 

 ただ、シルキー・マウの言葉を耳にと入れているのみ。

 

 キィ……

 

「何だね、君は?」

 

 その時、石畳にと座り込むエコーの目の前に、見慣れぬオーラマシンが悲鳴のような音を立てて止まり、中から一人の男が出てきた。

 

「ここは、一般人は立ち入り禁止だが?」

「な、何だと言われても……」

「とにかく」

 

 そう、男は一つ咳払いをした後に彼エコーにとマシンの中へ入るように促す。そのマシンの中にはもう一人、人がいるような様子だ。

 

「事情を聴きたい、車に入りたまえ」

「あ、あんたは誰だよ!?」

「ここが自衛隊の基地であることは、君も解って入ったのだろう?」

「ジエータイ?」

 

 聞き慣れぬその言葉、その意味をエコーは男にと訊ねようとした、その時。

 

 リィ、ン……

 

「な、なんだ!?」

 

 フェラリオ、光輝くシルキー・マウを見た男は。

 

「ど、どこのオモチャ、いやドローンだ!?」

「どうした、香川?」

「皆川さん、妖精が……!!」

「はあ?」

 

 マシンの中にいるもう一人の男に叫びながら、何か激しく動揺をしている様子である。



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第26話「地上界」

  

「アイルランドの国!?」

「だから、アの国でバイストン・ウェル!!」

 

 先程からエコーと。

 

「ドレイク様の領地、そして俺はそこの騎士見習い!!」

「騎士、どこのゲームの話よ!?」

「オーラバトラー!!」

 

 見慣れぬ服にと身を包んだ男との問答は続き、そしてラチがあかない。

 

「佐藤、どうだ?」

「どうもこうも、皆川さん……」

 

 何か、その場にいる全員が頭にとキンキンくるその感覚に対し、疎ましげにそのこうべを振りながら、話をどうにか続けようとしている。

 

「不法侵入に妄想癖、やっかいな少年ですよ」

「だがな、佐藤」

 

 皆川と呼ばれた男は、佐藤という名らしき男と交代し、エコーの目の前にと座りこんだ。

 

「この、相手の唇と言葉が一致しない現象はなんだ?」

「さあ……」

「それに」

 

 一つ、咳払いをしたのちに皆川は。

 

「外に置いてあった、よくお台場とかにあるロボットの人形……」

「カンタムですよ、ユニコンカンタム……」

「それによく似た、あのロボットはなんだ?」

 

 そういいながら、皆川は一枚の紙をエコーの目の前にと差し出す。

 

「皆川さん、それは……」

「上の許可はとってある」

「よくも、まあ……」

 

 その差し出された紙、それはショット・ウェポンが書いた実験型ドラムロの説明書だ。

 

「あのロボットの中に置いてあった。英語と一緒によくわからん字が書いてある」

「ショット様が書かれた、ドラムロの説明文だよ……」

「そうなのか、栄光君?」

「はいミナカワ、さん……?」

「それでいい」

 

 何か、その皆川という男はしばらくの間、何かを考えていたようであるが、その彼の思考を遮るように。

 

「ミナカワさん、ドラムロを見せて下さい」

「……」

「俺と一緒に飛ばされてきたみたいですね」

「さぁてね……」

「あのドラムロを動かすキーは、俺が持っているんですよ?」

「……」

 

 エコーが見せびらかすように、自らの懐から取り出したオーラバトラーのエンジン・キー、それを眺めながら、皆川は。

 

「佐藤君」

「ハッ……」

「小野寺司令に連絡だ」

 

 

 

――――――

 

 

 

 ブォフ……

 

「良くできたオモチャだ……」

 

 昼の光が降り注ぐ中、例によって固い石畳の上でエンジン・キーでドラムロをアイドリングさせたエコー。彼の機体の目の前には、大型の対戦車用火器をその手に持った。

 

「完全に、カンタムじゃねえかよ……」

 

 ジエータイの人達が、呆れたようにそのドラムロを眺めている。

 

「こっち、向いてぇ!!」

 

 そのドラムロのコクピット、それを開放させているエコーのすぐ近くを飛んでいるシルキー・マウ。彼女の姿を一目見ようと、男女問わず多くの人々が集まって来ている姿を、エコーはドラムロの内部から見下ろす。

 

「小野寺司令、やはり地下施設の方が良かったんじゃないですか……?」

「皆川、このロボットは」

 

 小野寺司令のその言葉、それが放たれると共に、彼らの瞳はドラムロの肩の剣、そして。

 

「あきらかに、戦闘兵器だ」

「はい」

「地下で爆発でもされてみろ、よほど厄介だ……」

 

 その指はドラムロの掌、フレイ・ボム発射用の砲門にと向いている。

 

「ロボットに、妖精かよ……」

「一応あの少年は話が通じています、司令」

 

 また一つ、鳴り響くシルキー・マウへの歓声。

 

「宇宙人とかそういうのではないみたいですが……」

「レザーの衣服か、それでもバイクスーツではないようだが」

「はい」

 

 彼ら「ジエータイ」がドラムロを外にと出したのは、すでに発見された時に普通の人に。

 

――すげー、ロボットだ――

――スマホ、スマホ!!――

 

 撮影、それがされていた為であり、隠しきる手段が絶たれた為である。

 

「アメリカが、何か言ってこないかな?」

「映画用のロボットだと誤魔化せないでしょうかね、司令」

「あの偏執的なお国柄だぞ、自由の国を謳っていても……」

 

 その言葉が聞こえたか聞こえていないか、コクピットからエコーがその身を乗りだし。

 

「飛んでもいいですか、ミナカワさん?」

「そんなことが出来るのか、このドラムロとやらは!?」

「もともと、その為のオーラバトラーです!!」

「ダ、ダメだ、止めろ!!」

「は、はい……」

 

 皆川の慌てたようなその言葉に、エコーは慌ててドラムロのコンバーター出力を下げた。

 

 バッ、バッバ……

 

 そのドラムロの頭上を飛ぶ、待たしても見慣れぬこの「異世界」でのオーラマシン。

 

「あのマシンは、ミナカワさん?」

「アメリカの物だよ、栄光君」

「アメリカ?」

「そのショットとか言ったか、彼が書いていた字を母国語としている国だ」

「ヘエ……」

 

 アメリカ、その名はショットや地上人マーベル・フローズンにと聞いたことがある。その時。

 

「あ、もしかしてミナカワさん……」

「なんだ、栄光君?」

「ここは、ニホンという国ですか?」

「そうだ、知らなかったのか?」

「は、はい……」

 

 その、尻つぼみに囁くエコーの声に対して、皆川は軽くその頭を捻って見せる。

 

「俺のいた国、そこにシュンジという人がいまして」

「ふむ……」

「その人が、ニホンという国の人だったみたいです」

「なるほど」

 

 コクピットから聞こえてくるエコーの大声、それに対して皆川の声もまた、大きくなってしまう。

 

「警察の捜査願いにでも、あるかな……?」

「バイストン・ウェル、あの方はそこに異世界転生をされたと言っておりました」

「まあ、未だに私は半信半疑ではあるが」

 

 皆川はそう言いながら、深くため息をついてみせ。

 

「異世界、私は信じてみるしかないかな……」

 

 またしても、その言葉の後にため息が一つ。

 

「小野寺司令!!」

「おう、なんだ?」

 

 何か、慌てて駆け寄ってきた「ジエータイ」の隊員に、その組織で権限というものを持っている小野寺司令は。

 

「アメリカ軍が、そのロボットを見せろと言っております」

「来たか……」

「何か、すでにアメリカのジョーカー大統領には知らせてあるんじゃないですかね?」

「かもな……」

 

 その女性隊員の台詞に、皆川と同じく深いため息をついた。



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第27話「東京上空」

  

「矢部総理から」

「はい」

「そのドラムロを、アメリカに引き渡せとの要請が出ている」

「ハッ……」

 

 その官房長官からの連絡は、そのまま自衛隊を「下り」

 

「小野寺さん?」

「皆川くん、ドラムロの件であるが……」

 

 自衛隊基地、小野寺司令にと命が下りた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「エコーくん」

「はい」

「君には、アメリカに行ってほしい」

 

 ズゥ……

 

 皆川から出されたお茶を飲みながら、その言葉に対してエコーはしばしの間、無言である。

 

「アメリカ、ショット様やマーベル様の故郷ですよね?」

「広くて、いい国だよ」

「俺も、マーベル様のような方を産んだ国は好きになれそうです」

「最近、ジョーカー大統領のせいで、色々と揺れている国だがね」

「ジョーカー、大統領?」

「王様の事だ」

「ああ……!!」

 

 何か、その皆川の言い方に好意を感じたのか、エコーは茶菓子をくわえながら嬉しそうな声を上げた。

 

「あなたは、人に優しい人ですね、皆川さん」

「そうかな?」

「俺、いや私に色々と気を使ってくれる」

 

 その言葉、それは紛れもなくエコーの本心であったのだが。

 

「参ったな……」

 

 どうも皆川は、好意的な世辞と受け取ってしまったようだ。

 

「私達は、君をアメリカに売ろうとしているんだよ?」

「私はニホンに住めないので?」

「第一、国籍がない……」

 

 何か、呆れ顔でそう皆川が言いはなった時。

 

 ドンゥ!!

 

「何だ!?」

「失礼します、皆川三尉!!」

 

 何か慌てたように、一人の自衛隊員がエコー達のいる客室へと飛び込んできた。

 

「オーラバトラーが、もう一機東京の上空に!!」

「なんだって!?」

 

 その言葉を聞いたとき、エコーの袖にと掴まっていたシルキー・マウが。

 

「エコーさん……」

 

 その袖に掴まる力を、グッと強めた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「何だ、この石の塔の集まりは!?」

 

 新鋭のオーラバトラーを駆るガラリア・ニャムヒー。アの国ドレイク家に仕える騎士の内ではエコーの先輩にと当たる彼女は。

 

「このような所で、人が住めるのか!?」

 

 その石の塔のありさま、それに苛立ちの声を上げている。

 

 バゥウ……!!

 

「また、地上とやらのウィングキャリバーか!?」

 

 その戦闘機、先程出会ったときはなんとか回避に専念できたが、今度は数が多い。それに。

 

「いつまでも、私はコソコソと逃げ回る訳にはいかんのだよ!!」

 

 見る人が見ればそれはF15イーグル戦闘機であると解るその機体は、しかし先の戦闘と同じく。

 

「くそ、ミサイルのロックオンが人形に出来ない!!」

 

 オーラバトラーが生体パーツを多用しているのが原因か、メイン・ウェポンであるミサイルの発射が出来ずにいる。その相手の戦闘機が作った「隙」に。

 

「くらえ!!」

 

 ガラリア機は、その手に備え付けられた大型オーラバトラー用火器であるオーラ・ランチャーを撃ち放つ。

 

 バフォウ!!

 

「な、何!?」

 

 その相手パイロットの絶命の声なぞは聴こえない、その余裕が無いほどに。

 

「ち、地上界ではオーラバトラーが強くなるのか……?」

 

 オーラランチャーの余波、それが巻き起こした凄まじい街中の破壊に、ガラリアはコクピット内で戦慄する。

 

「ガラリア、ガラリア・ニャムヒー!!」

 

 その動揺が強いガラリアに向かって、飛来する青いオーラバトラーが、彼女の機体を羽交い締めにしようと試みる姿が。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ショウ・ザマのダンバインと、謎の新型オーラバトラーだ……」

 

 テレビの前でその画像を見つめている、エコーと皆川を始めとする自衛隊員達の前で繰り広げられていた。

 

「君の乗るドラムロも」

 

 そう言いながら、エコーを見つめる皆川の視線は厳しい。

 

「ここまで凄い兵器なのか?」

「そんなわけないでしょ!!」

「しかし、これじゃ核兵器だ!!」

「カ、カクヘイキがなんだか知りませんが……!!」

 

 核兵器、その言葉を聞いたときに何か、ゾワッとした感覚にエコーは戸惑いながらも。

 

「こんなの、ドラムロにもダンバインにも出来るものじゃない……」

 

 身にとしがみつく、シルキーの頭を撫でながらもエコーのその言葉は尻つぼみとなる。

 

 ガ、チャ……

 

「皆川三尉」

 

 その時客室のドアが開き、この基地の司令が。

 

「アメリカの連中が、あのドラムロを強引に持っていった」

「な、なんですって!?」

「やることが、アメリカだという意味だ」

「しかし、このドラムロはエコー君の……」

 

 そう言って皆川はエコーの方を振り向いたが。

 

「……」

 

 エコーはシルキー・マウと共に「テレビ」と説明を受けた物体を眺め、その画像にと。

 

「何だ、この恐ろしい感覚は……?」

「エコーさん……」

「大丈夫だ、シルキー」

 

 食い入るように、その視線を向けているのみ。

 

「単なる、疲れさ……」

「エコー君……」

 

 その言葉には、シルキー・マウよりも皆川三尉の方が心配そうな目を向けている。

 

「皆川さん」

「はい、エコー君」

「あの青いオーラバトラーは俺の知り合いです」

「ピンク色の方もか」

「解りませんが、ただ……」

 

 そう言いながら、エコーは自らの眉間を軽く押さえて見せた。

 

「何か、知り合いのような気がします」

「予感、か……」

「何かを、感じるんです」

「……」

 

 その言葉、それにこの場で沈黙している自衛隊員達、そして同じくその翅を震わせながら黙っているシルキーが。

 

「何か、アの国だけが世界ではないという」

 

 強い口調に満ちたそのエコーの言葉に、何かに押されたように身を固まらせる。



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第28話「バイストン・ウェルへの帰還」

  

「これが、地上界とやらのマシンですか……」

 

 シルキー・マウ、彼女からこの世界が地上であることを聞いたエコーは、その地上でのマシン「ヘリコプター」にとその身を預ける。

 

「すまないね、エコー君」

「いえ……」

「ドラムロを奪い取った挙げ句、そのダンバイン達とやらを止める危険を冒させてしまうなんて……」

「御茶と菓子、美味しかったです」

「ありがとう……」

 

 バッバ……

 

 アイドリング状態からエンジンが本格始動し、その身を浮かせ始めたヘリコプターから、エコーとシルキーはその手を。

 

「達者で、皆川さん達!!」

「元気で、エコー君!!」

 

 この地で世話になった人物、小野寺司令と皆川三尉達に向かって、強く振った。

 

 

 

――――――

 

 

 

「止めるんだ、ガラリア!!」

「しかし、ショウ・ザマ!!」

 

 ズゥイ……!!

 

 重い音を立てて周囲を飛び回る、旧式と思われる「戦闘機」にとその神経をささくれ立たせながら、ガラリアは。

 

「このバストール、エンジンと火器の出力が安定しない!!」

「それでも、俺たちはここにいてはいけない!!」

「私とて、ここでは居場所がない、ショウ・ザマよ!!」

「ならば!!」

 

 僅かに錐揉みをしながら、その二機のオーラバトラーはやや上方にとその位置をずらす。

 

「共にバイストン・ウェルに帰ろう、ガラリア!!」

「出来るのか、ショウ・ザマ!?」

「チャム、フェラリオの力で出来るらしい!!」

 

 バゥ、バ!!

 

「ええい、鬱陶しい!!」

「騎士ガラリア!!」

「何い!?」

 

 自衛隊機から、安全ベルトをその身に巻き付けたまま呼び掛けるエコーの声は、そのガラリア機にと届いたらしい。驚いた声を上げ、エコーが乗るヘリコプターにと視線を向けるガラリア。

 

「それに、聖戦士ショウ!!」

「その声は!?」

 

 単純な声ではない、何かテレパシーのような「エコー」が混じり、その彼の声はダンバインにと乗るショウ・ザマにも通じる。

 

「エコー、君もオーラ・ロードに乗ったのか!?」

「よくわかりませんが、このシルキーのお陰でね!!」

「ならば、君も!!」

 

 そう、コクピット内から響く声をもって叫びながら、ショウ・ザマ機はエコーが乗るヘリコプターにと機体を近づけた。

 

「バイストン・ウェルに戻ろう!!」

「どうやって、ショウ!?」

「フェラリオの力を使えば、出来る!!」

 

 ショウ・ザマのその言葉、それを聞いたエコーは、自身の内ポケット内へと捕まっているシルキーに。

 

「本当か、シルキー!!」

「私には、解りません……!!」

 

 その真偽について聞いてみたが、ハッキリとした答えは得られない。

 

「そうだろう、チャム!?」

「だけど、オーラロードの道が見えない!!」

「無理でもやってくれ!!」

 

 そう、ショウ・ザマは叫びながらいったんエコーの乗るヘリコプターからその自機を遠ざけ、再びガラリアの駆るオーラバトラーのその腕を握りしめながら。

 

「俺とガラリア、そして」

 

 グゥ!!

 

 ガラリアもどうやらショウ・ザマと協力する気になったようだ。ダンバインに引っ張られるままにヘリコプターにと近づき。

 

「エコーの力があれば!!」

「エコーの近くにもう一人、フェラリオがいるよ、ショウ!!」

「本当かチャム!?」

「シルキー・マウかも!!」

「ならば!!」

 

 ダンバインのその掌、それをヘリコプターにと突きだし、エコーを誘い込む。

 

「確実だ!!」

「わかったよ、聖戦士ショウ!!」

 

 安全ベルトを自衛隊員達に手伝ってもらいながら切り離し、エコーはそのオーラバトラー「ダンバイン」の手のひらにとジャンプしようと。

 

「行くぞ、ショウ・ザマ!!」

「おう!!」

 

 身を屈ませ、その屈伸姿勢から大きく我が身を弾ませる。

 

 バァ……

 

 そのエコーの身体は見事にダンバインの右手の上にと乗り、ショウはガラリア機から左腕を離し、そのエコーの身体を包み込む。

 

「大丈夫か、シルキー!?」

「だ、大丈夫です!!」

 

 内ポケット、そこからのシルキー・マウの声に安心を覚えたエコーはそのまま。

 

「準備はいいぞ、ショウ!!」

「エコー、君から何か強いオーラを感じる!!」

「おう!!」

 

 そのままダンバイン、そして。

 

「……ハア!!」

 

 そのダンバインにとその手を付けたガラリアの機体が、淡い光に包まれる。

 

「オーラロード、開けるよ!!」

「そうか、チャム!!」

「シルキー・マウが力を貸してくれる!!」

 

 見ればシルキー・マウ。エコーのポケットにと入っている彼女の身体も、緑蒼の光を放っているのがエコーには感じられた。

 

「エコーさん、オーラロードです」

「どこに……!?」

「あの、高い建物の近くに……!!」

 

 スゥン……

 

 ショウか開いてくれたダンバインのコクピットにと潜り込んだエコーの視界の先、そこには一際高い建物が立ちそびえる。

 

「スカイタワーか!?」

 

 確かにショウ・ザマにはこの東京上空、その空に高層タワーであるその建物の付近から何か、淡い光のような物が天に向かい、道筋を作っているように見えた。

 

「行くぞ、ガラリア!!」

「心得た!!」

 

 またしても周囲にと飛び交う戦闘機、地上世界のマシンから身を遠ざけるようにして、ショウ達はその天へと続く光の河へと、オーラバトラーを突入させ。

 

 シャア……!!

 

「また、親父とお袋の顔だ……」

「お前にも見えるのか、エコー?」

「ああ、聖戦士ショウ……」

 

 ダンバイン達は、その天の河を「登ろう」とした。

 

「死者の魂の河……」

「どうした、ガラリア?」

「いや、なんでもない……」

 

 だが、そのガラリア機の挙動はどこかおかしい。

 

「そこのオーラバトラー、気をしっかり持って……」

「解っている、フェラリオ……!!」

 

 そのチャムの発破に、何かでたらめな動きをしていたガラリアのオーラバトラーが何とか体勢を整えなおし、魂の河へと合流する。

 

「父上、母上、それにおばあさま……」

 

 所々から煙のような物を噴出させながら、そのガラリア機もまた。

 

「私は、バイストン・ウェルに帰るのか……」

 

 己が魂の生まれ故郷、バイストン・ウェルに帰還する。



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