ネギまとかいっこうに始まる気配がないのだが (おーり)
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『カゲロウデイz・・・?』

プロローグ的な84.5時間目+α


 ――世界がコマ送りに動いているようだった。

 

 鈍い音がして、押し退けられた感触も、競り負けていた勝負の行方も、全てがどうでもよくなった。

 私は、不死殺しの剣技でつけられる『治らない傷』を上手くかわし、その上で相手を殺さずに行動不能にすればそれで片はついたのだ。

 稚気を出したのが間違いだった。

 あの子にとって、私がどれだけの存在かを、よりにもよって私自身が把握しきれていなかった。

 

 あの子は、烏丸そらは、私が追い詰められた瞬間に目の前に飛び出して、私の代わりに首を刎ねられた。

 

 咄嗟の判断だったのだろう。

 自分でも動いたことが信じられないかのような、そんな虚を突いたかのような死に顔だった。

 それを確認できていたのに、私は自らに力なく圧し掛かってくる彼の死に体を抱き止める。

 刎ね飛ばされた首から濁流のように噴き出る血流を止めることも出来ずに、ただ呆然と事態を受け止めることだけしかできなかった。

 

 

 

『・・・・・・っ!!』

『え・・・・・・、そ、そら・・・・・・?』

 

 

 

 呆然とした頭の何処かで、遠くの風景のように周囲の状況を把握する。

 誰も彼もが、彼が死んだことに捕らえられて、動くことができないようだった。

 それは襲撃者の魔法教師2人も同じであったのだが、その中でもいち早くに動いたのはまさかの長谷川千雨だった。

 

 

 

『行くぞ、神楽坂。呆然としてんな、来い』

『や、やだ、うそだよ、だって、こんな、そんなことあるわけない、うそ・・・・・・』

『“これ”を起こさないために動くんだ! あたしらが今から動けばこれを回避できる! だから逃げるぞ! 早くだっ!』

『・・・・・・っ!』

 

 

 

 ああ、そうか。

 長谷川は『出来ること』をやたらと早くに把握する能力に長けている。

 自分が動く中で何とかできる、その可能性を見つけるのに一番早くに判断できるものが、まさか非日常に慣れていないはずの彼女であったことに誰もが驚くべきであろう。

 

 長谷川は呆然と『そら』を見続けることしかできない神楽坂と桜咲の手を取り、踵を返して私の邸内へと戻ってゆく。

 連れ帰ったネギ先生も準備が済んでいるであろうから、移動場所は何処からでも構わない、ということか。

 

 

 

『っ、葛葉、お前、なんていうことを・・・・・・!』

『わ、私はただ、エヴァンジェリンに対抗できる手段を・・・・・・!』

『それでも、だ。麻帆良が一番問題視されている『武力の所持』で身内に被害が出た・・・・・・。

 これではもう、どうすることもできないぞ。学園長でも、片付けられる範疇を超えているだろ・・・・・・』

 

 

 

 追いかけようとして逃げた先を見、逃げ場が無いことに安心でもしたのか、神多良木と葛葉の会話が平坦に交わされる。

 

 そんなことより、こいつらは今何と言った?

 そらのことを、身内、と言ったか?

 

 殺されたことよりも、そこに私の感情が逆撫でされた。

 普段は私の袂に在るからこそおざなりな扱いを強いていたというのに、今更身内扱いか?

 その理由もわかる。

 そらと私は現在世間的に麻帆良の『被害者』だ、それを内側へ引き込むことで麻帆良に当たる風当たりを緩和しようという『正義の魔法使い』の考えそうな浅知恵であろうこともわかる。

 

 だからこそ、そこに『攻撃』してきたこいつらの対応に一番腹が立った。

 

 

 

「――いただきます」

 

『とにかく学園長に報告す・・・・・・、おい、エヴァンジェリン・・・・・・? 何をしている・・・・・・!?』

『え、なっ・・・・・・!?』

 

 

 

 切り離された首へと貌を埋めて、滴る血流をごくごくと飲み干す。

 ――ああ、美味い。

 こんなに美味いモノは初めて飲んだ。

 考えてみれば、そらから血液を対価に要求したことがなかったのは、やはり家族であったからなのかもしれない。

 私にしては珍しいと、自分自身でもそう思う。

 家族であったから特別な感情を抱けていたのか、特別な感情を抱いていたから家族として迎え入れたのか。

 今となっては、最早どちらでもよかった。

 

 

 

「ぷ、ふぁ・・・・・・、美味かったぞ、そら」

 

 

 

 愛おしく、化け物の愛情をたっぷりに込めた、自分でも驚くほどの優しい声で彼の死に体を撫で付ける。

 最後にこの別れができるだけでも、私はもう充分だった。

 

 

 

『・・・・・・、エヴァンジェリン、その、なんと言っていいのか・・・・・・』

 

「――だから、もう要らない」

 

 

 

 声をかけてくるものがどちらか、などとも、もうどうでもいいことだった。

 

 

 

『――っ!? なんだ、その魔法陣は・・・・・・!?』

『そ、それよりもエヴァンジェリンの魔力が・・・・・・!?』

 

 

 

 彼の血液を取り込んだことで、彼の技術も取り込めた。

 自身にかかる封印の解呪も、一緒に取り込んだ正体不明のエネルギーを介することで難なく解く。

 そうして最初に私が行ったことは、彼の最も最高の僕を召喚する術式であった。

 

 

 

「もう、こんな世界は要らない。全て焼き尽くせ

 ――ハチリュウ」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「………………あれっ?」

 

 

 

 目が覚めたところは知らない天井で。

 えっ、台詞をいうべきだったって? いやいや、そらさんはそんな易々とテンプレに乗るオリ主ではございませんのでね。

 

 ………………つうか、見たことあるぞこの風景。

 

 

 

「おお主人公よ、しんでしまうとはなさけない」

 

 

 

 そんな声をかけてくる方向へと顔を向ければ、そこにいたのは転生前に顔をあわせたお姉さんであった。

 断じて神とは呼びたくない、人格的に難の在りそうな高位観察者である。

 

 って、ちょっとまって、俺死んだの!?

 

 待て待て。状況を整理しよう。

 確か、ネギ君だけでも戻してやって時間軸の再改変をやらせるべきだって相談して決めたんだったよな。

 ちうたんとか明日菜とかは居続けてもむしろ改変された時間軸の方が平穏な生活が送れそうだから、ってことで俺と残るほうを選択していたけど。

 一緒に帰るのは雪広とかの仮契約をした娘ら、ってことで決定されて、ネギ君を回収するために機動力のある長瀬とせっちゃんを往復転移で向かわせて。

 運動部四人娘は一緒に戻るらしかったけど、このかとせっちゃんは残留、バカンフーに長瀬が麻帆良祭最終日に戻る。

 ……あれ? それを決定してから……、どうしたのだっけ?

 

 

 

「覚えていない部分を解説すると、捕まった薬味少年の暴露でロリ吸血鬼の邸宅にみんながいることが判明。それを捜索に来たヒゲグラ先生とアラサー未満先生との交戦に入って、キミはロリ吸血鬼ちゃんを助けるために犠牲になりました、とさ」

「解説どもー……。

 ――ってはぁ!? 俺そんな死に方したの!?」

「おうよ。命を張って家族を守るとか、人としては最高の死に様じゃね?」

「残された方の気持ちを微塵も考えちゃいねぇじゃねえですかやーだー!」

 

 

 

 うわぁ、エヴァ姉絶対怒っていそう……。

 まあ、死んだらもう会えないのだろうから、今更どうこうできる話でも無いけど……。

 

 ………………会えない、よな?

 実はこの転生神お姉さんが安心院さんだったとかっていうオチは無いよな?

 正直ありえそうで怖いのだが。

 

 

 

「まあご安心しなよ、人生は一回限りだからね!」

「転生者に送る言葉じゃないですね」

 

 

 

 どうあれ、あの世界線にはもう戻る必要性はないらしい。

 名残惜しいけど、死んだのだから仕方ないよね。

 

 

 

「それじゃあ俺はもう行きますので。むしろ逝きますので」

 

 

 

 いい加減に涅槃というものを見てみたい。

 

 

 

「おおっとぉ、まさかこの場においてキミを見送るためだけに私が来たと思っているのかい?」

 

「――ですよねー……」

 

 

 

 なんなんだよ、二度目の転生?

 勘弁してよ。もういいよ、オリ主は。

 

 

 

「正確には転生じゃなくってさ、トリップをやってあげようかなぁって」

「ああ、もう一回幼少期を過ごさなくてすむのならまあまだマシ、なのかな……?」

「はっはっは、いい具合に目が濁っているなぁー」

 

 

 

 濁りもするよ。

 二次創作は全体的に迷走するんだからいい加減の程よいところで止めておこうぜ、ってみんな思ってるんじゃないかな。

 というか俺自身を使うことに何か理由でもあるわけ?

 

 

 

「そこはほら、やはり経験をしっかりと積んだキミという個体をそのまま失うには惜しいからだよ。

 ――あとはそうだなぁ、私が個人的にその世界線が嫌いだからかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生の理由が自己ちゅー過ぎるのですがそれは。

 

 と、思ったときには森の中にいた。

 うーわぁー、仕事速ーい。

 

 鬱蒼と茂った樹海にも似た山中にて、格好はシャツに適当なズボンという普段の格好でもない私服。

 ――トリップの仕方が適当にもほどがある!?

 しかも所持品がどうやら何一つ無いという、いわゆるアイテムレスな状況。

 山中でコレは流石に困惑するしかないのですがお姉さま。

 

 

 

『――い! おい! そこでなにをしている!?』

『さてはメガロの傭兵か!? 大人しくしろ!』

 

 

 

 項垂れているとかかる声に顔を向ければ、武装した西洋の兵士らしき甲冑集団がぞろぞろとやってくる。

 彼らの領土でもあるとか、そういう話だろうか。

 それにしたってこの数はおかしいのでは。

 

 ひょっとして転生早々に厄介事?

 勘弁してよ、もう。

 

 

 




~烏丸そら
 転生者
 プリティベルに出てくる某はいよるこんとんさんみたいに開発のほうに性能が傾いている少年
 魔法も扱えるが一応はスタンド使い
 オリジナルなスタンド『インストールドット』を成長させた『インストールドットダイバー』を扱い、言葉使いの一例『体言使い』と名乗る
 容姿は白髪に色黒で何処ぞの贋作者みたい。お陰で踏み台転生者と間違われる
 実は今まで始動キーを欠片も口にしたことが無い似非魔法使い
 仮契約はこの時点で1人のみだが、それが表沙汰になることは最早無い

~ハチリュウ
 そらの作成した精霊だかホムンクルスだか良く分からない使い魔
 姿は八首の炎の龍
 あらゆる魔法や熱を吸収して推進力などのエネルギーに換え、命令をするものがいなければ延々と暴れ続ける
 はっきり言って最後の手段過ぎる召喚獣


シリアスなんていらねえんだよ!
とばかりにネギマジから放逐されたそらくん
番外編の始まりです
初見の方は『ネギまとかちょっと真面目に妄想してみた』を一通り読んでからどうぞ


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『はっぴぃ★まてりある』

誰得二次がはーじまーるよー


 

 さ、て。

 どうしたものかなぁ、と正直思う。

 不法侵入したのは俺であるのだし、謝って解放されることを期待して正直に話すべきかも知れないが、殺気立った兵士なんだか騎士なんだかの甲冑姿の皆様には話が通用しないと思われた。

 

 それ以前に、俺の事情が他人に話せなさ過ぎる。

 死んだと思ったら転生神のお姉さんにトリップ喰らいました、とかって正直に話すのも恐らく理解されないか頭のおかしい奴だと判断されるのが関の山であろう。

 というわけでカバーストーリーを考えた。

 

 見たことの無い遺跡に触れたら転移して、此処に投げ出された。

 技術自体は山奥の魔導師に教わった。

 うし、これで行こう。

 

 

 

「そんなわけで、俺は怪しい人じゃないんですよ。わかってくれますか?」

 

「「「「――はい、なんか申し訳ありませんでした」」」」

 

 

 

 良かった、分かってもらえたみたいだ。

 やはり人間話し合うことが大事だね。

 事態の好転は会話から。

 人間、コミュニケーション能力はやはり大事だ。

 

 ――まあ話を聞いてもらうためには先ず無力化するのが第一、だというのが少々残念ではあるのだけど。

 

 甲冑を大体ボロボロに崩し、土下座で謝るお姉さんたちを眺めつつ、扇情的とかいう感想を浮かべる以前に残念な人たちだなぁ、と思いつつ胸を撫で下ろす。

 己の胸だよ。お姉さんらのじゃないからね。

 

 というか、このお姉さんたち普通の人と違う気がするのだけど。

 耳といい、尻尾といい、……獣人?

 そもそも襲われる前にメガロがどーのとか、ぼそっと聞こえた気がするのだが。

 メガロって、メガロメセンブリアとか?

 ネギま世界で間違いないってことなのかな。

 転生神も少しは詳しく教えてくれよ……。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「エリ・エリ・レマ・サバクタニ、天空支えし巨神の袂、空転する矛を我に授けよ。廻す切っ先は地を傾けよ、下す柄よ天より崩落せよ。世界を呑み込む大いなる蛇よ、我が声に揃えよ。――帝釈廻天」

 

 

 

 よし、出てきた。

 術式覚えていて助かった。

 ケータイすら失ってしまったからショートカットはもう出来ないからなー。

 高位呪文を再現しようとしたら魔法陣用意して詠唱してー、と面倒くさい手順を踏まないと再現も難しい。

 まあ呪文ストックくらいなら圧縮凍結して7つまではできるから、準備時間さえあればどんな状況でもなんとかできそうだけれども。

 というか始動キー久方振りに口にしたわ。

 もう何年振り?

 自己体感時間で15年振りかなぁ。

 エヴァ姉に師事したのって小学生の頃が初めてだから計算合わないけど。

 

 色々とお姉さん方の説明を聞いて、今から戦闘に行きます。

 俺です。

 お姉さんのうちの1人から戦闘中に奪った杖、杖というか刀剣っぽいのだけど、それを使用しての術式再現。

 いくら俺が相応に理論と知識を溜め込んでいても魔法媒体が無くっちゃ扱えないからねー。

 スタンドは失っていないようだけど、下手すると相手の命まで奪ってしまうような攻撃を興したくないわけで。

 慎重に慎重を重ねることは、いくら回り道でも不必要なことでは無いと思います。

 

 

 

「ほ、本当に手を貸してくれるのか?」

「まあこちらとしても己の素性が怪しいものではないと判断してもらえる材料になれば幸いですから」

 

 

 

 なんかねー、このお姉さんたちは今から辺境の村を取り返しに行くらしいわ。

 メガロが砦を作るために帝国領の村を襲って、其処から逃げ延びた人らが援軍を呼び応えたのが彼女らの正体。

 そんな彼女らは中立国アリアドネーの連兵団なのだそうだが、戦争被害者とでも言うべき者たちからの要請であるので『援軍』ではなく『救助』ならば手を貸すのも吝かではないとか。

 だから彼女らは女性だけで現場へと向かっている最中であったのだね。

 あくまで救助だから、村から逃げ延びた人らが戦力になるかもしれなくとも共に向かうわけには行かなかったと。

 ナルホドナー。

 政治って難しいなー。

 

 そんな政治的問題に発展しそうな状況に首を突っ込むのは正直やりたくない俺であるけれども、今の自分が一際怪しいのは事実。

 中立に身を寄せるつもりはなくとも、後顧の憂いを彼女らの中に残したまま立ち去るというのも村を見捨てたみたいで後味が悪い。

 あとついでに言うと彼女らの装備を駄目にしてしまったので、せめてもの罪滅ぼしに露払いだけでもやらせてください、と進言したわけである。

 村奪還の暁には食料とわずかな給金、若しくはお仕事を要求しようとか、そんな下心は一切無いのである。

 あるのは正義の心だよ!ホントダヨ!

 

 ――さて。

 回想を語っている間に目標の村が見えてきた。

 『正義の魔法使い』の実情でも拝見させてもらおうかね。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 うわー、これはないわー。

 薄々、魔法世界分裂戦争の初期か中期くらいかなー、少なくとも終了間際じゃなさそうだなー、と覚悟はしていたけれど、戦争中であるという現状にぶち当たるのも元平和な日本人であった俺からしてみると受け容れ難い現状だ。

 辺境の村を奪還したのはまあいいとしても、内情は中々に惨状。

 男は殺され女は慰み者にされ、男であれば子供も容赦なく、女であっても慰み者にされた後は適当に殺されていたり、と生存者がとてつもなく少ない被害状況。

 捕虜として纏められていた簡素な牢屋(というよりは籠)にはぎりぎり暴行を受けて居なさそうな女児らが捕らえられていて、恐らくだが女性らを一通り楽しむために人質として捕らえたか、纏めて売り払うつもりだったか。

 最悪はニッチな需要を満たすことも考慮して『保険』の意味合いでストックされていた可能性もあるけれど……、想像するのは止めよう。

 さすがに人間不審になりそう。

 

 ともかく、そりゃこんな惨状を目撃したら仙水さんだって人間を嫌いになるよな、ってくらいの状況。

 襲撃噛ましたときに相手側に山賊みたいな気配を感じ、帝釈廻天の『壊れた幻想もどき』を投擲して一掃したわけだけど、その判断は間違っていなかったらしい。

 捕縛し損ねた奴らは結局鏖(皆殺し)にしてしまったわけだけれどもゆるしてにゃん★

 

 

 

「――見なかったことにします。さすがに彼らの行いは目に余りますから、仕方のなかった結果だと……」

「そうしてもらえると助かります」

 

 

 

 生真面目そうないいんちょタイプのお姉さんが村の惨状を悔しそうに眺めつつ俯く。

 けど俺はそっちには気付かない振りして視線を合わせない。

 現実を受け止めるのはそれぞれ個人の仕事だもんね。

 俺でも受け止められない領分くらいはあるってものさ。

 

 そんな彼女と他数人に戦後処理をあらかた任せ、最初に俺に突っかかってきた女騎士みたいな男勝りな性格のお姉さんのそばへと近寄る。

 メンタルがある程度は強そうであったお姉さんだけれども、あのままの戦力でこの村に突っ込んでいれば『オーク×女騎士』みたいな展開に晒されていたのかもしれないのは真っ先に彼女であるのがビビッと脳裏に浮かんだわけで、どんな気持ちかを聞いてみたくなった。

 多分ただの妄想ではなくて、見果てることのなかった世界線から来た何某かのリーディングシュタイナーであったのではないかと妄想する俺。

 戯言だけど。

 

 

 

「それにしても、私たちの鎧を溶かした術式も恐ろしかったが、凄まじいのだな旧世界の魔法も……」

 

 

 

 適当に作ったサクセスストーリーをきっちり信じてくれたらしい。

 彼女はブロークンファンタズムもどきで圧縮されたメガロの兵士らの人間団子を眺めつつ呟いた。

 帝釈廻天は着弾すると中心に向かって周囲の存在を吸い込む極小のブラックホールを作成できるから、人間団子というよりは完全に肉団子にしか見えないのが玉に瑕だが。

 

 しかし、どうしようか。

 こんな惨状の村では仕事なんて有り付けない。

 暫く無職しかないのか……?

 

 

 

「こんな子供が此処まで強大な魔法を扱う……。これは、帝国には勝ち目は無いんじゃないのか? このままでは帝国は滅ぼし尽くされる。帝国領の者たちには人権などなくなってしまうぞ……!」

 

 

 

 戦慄したまま続けますけれどもお姉さん、誰が子供ですか。

 いやすげぇ年を食っているとも自称はしないけれども、体外的には15なのだからせめて青年若しくは少年とお呼びくださいませんかね。

 

 

 

「いやいや、キミはどう見ても15には見えないよ? 精々6つか7つ程度じゃないかなぁ」

 

 

 

 お姉さんを見くびってもらっちゃ困るぜー、とこんな惨状を見ても陽気そうなキャラクターの別のお姉さんにデコツンで窘められる俺。

 ……そういえば最初から思っていたけれども、この人らの年齢が身長を見るからに年上だと思っていたのだが、正面から顔立ちを見るとやたらと若々しい。

 失礼ですがおいくつですか……?

 

 

 

「あたしらはみんな14だよー。あ、アネットちゃんは15だったかな。あの騎士みたいなしゃべり方のお姉さんね? なになに? キミってばアネットちゃんのことが気になっちゃってる感じ? おませさんだなー、あ! だから15さいです、だなんてすぐわかるような嘘をついちゃった?」

 

 

 

 やだ、このお姉さん普通にうざい。

 というか待て、待って、いろいろ待って。

 

 ――え、お姉さん方が年上なんじゃなくって俺が年下?

 つまりは俺の見た目が生前と違うということですかわかりかねます。

 誰か手鏡とかお持ちの方はいらっしゃいませんでしょうかー?

 

 無口系のお姉さまに見せてもらった手鏡にて己の姿を確認し、項垂れる。

 白髪に黒い肌、そして小学校初等部の頃にしか見えない幼い容姿。

 ……思い起こせないが多分幼い頃の自分自身であろう。

 思い起こしたくも無いが。

 

 身体は子供、頭脳は大人、その名は――。

 とかまあそんな現状に晒されるとかマジで勘弁。

 何がしたかったのあの転生神様は。

 ――益々面倒くさい状況に追い込まれそうで自分の未来が嫌になる……。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「本当に一緒に来るつもりはないのですか?」

「はあ、まあ。申し訳ないですけども」

「私たちは問題にする気はありませんが……」

 

 

 

 それでいいのかアリアドネー。

 よくもまあ強大な魔法を扱える人材を、えらく簡単に手放すことを許容できるものである。

 俺としては有り難すぎるが。

 

 このまま子供だけを半壊した村に放置するのも憚られるらしく、学術都市アリアドネーにて保護する方針を固めたお姉さま方。

 方、であったが、俺はその一団に同行するのには拒否の意を示した。

 戸籍とかのほうはまあ存在しなくとも仕方ないとしても、そもそも魔法世界に戸籍ってあるのかね?という疑問も浮かぶし。

 そういう戸籍が必要な現実世界へと島流しにされることになったらなったで、生き延びる先行きがまったく見えない。

 色々現実であればあるほど生存戦略が立てられそうに無いのは、己もファンタジーの住人だという証左になるのであろうか。

 どうしたって世知辛い上に活動に不備と制限を強いられそうな現実世界に戻るよりは、こういう見てよくわかる混乱期の世界ならば生き汚くとも生存率が跳ね上がりそうな気がする。

 という甘い考慮の元の結論である。

 要するに大人の目の届かないところでバカな真似もしたい年頃なのだ。

 察して欲しい。

 

 さすがにそこまでぶっちゃけたわけでは無いけど、こちらの知り合いの伝手に頼ってみる、と言えば意外にもあっさりと別れを惜しむお姉さま方。

 人を信じることの大切さを教えてくださったお姉さま方に免じて、もし仮に傭兵の仕事を請け負ったとしてもヘラス側を受けることにしよう。

 

 そんなこんなで一人旅の始まりである。

 一般であるような魔法の扱い方は正直詠唱も忘れてしまったのだが、自らが作成した術式はさすがにそうそう忘れない。

 旅立つ前に種類別に7つほど作成し、圧縮凍結で左腕にストックすれば、肘から手の甲にかけて7つのバーコード状の呪紋が書き込まれる。

 すげーちゅーに臭い。

 でもなんだかわくわくするのは仕方が無いことだと思う。

 

 それはともかく、戦利品として受け取ったメガロ兵士の鎧とか魔法媒体とか使えそうなアイテムを手に持てるだけ戴いたので、解体して何処かへ売り飛ばせば暫くは生きていけそうでもある。

 村から用意してもらった大八車にて道を下り、そろそろ暗くなり始めたので夜営の準備をしつつ、『荷物へ』と声をかけた。

 

 

 

「そろそろ出てきたらどうだー」

 

「―――」

 

 

 

 鎧の隙間に隠れるようにして潜んでいた少女が、無言のまま顔を出した。

 人の気配は感じていたけど、この娘はこの子で己の意思でこの場に居るようにも思える。

 なんだか物欲を満たす代わりに、不必要なものまで背負ってしまったような。

 そんな感覚を覚えた。

 

 

 

 




~エリ・エリ・レマ・サバクタニ
 ソラの始動キー。恐らくはこれが初登場
 ネギマジでは欠片も出てこなかったのでこの場にて登場。意味は『神よ何故私を見捨てたのか』と意味深な意訳
 幼少期のソラは何を考えてこの始動キーを決定したのか・・・

~村の惨状
 普通に惨殺死体がごろごろ転がっている
 村人の被害はメガロの兵士が。兵士の被害はソラが。兵士の被害の方が惨劇であったのはご愛嬌

~ソラの容姿
 ぶっちゃけると「地を這う大蛇」のヨナ。ソラ本人の感情表現が豊か過ぎるために別人にしか見えないけれど
 でも元居た世界線自体に問題があったためにそこまで思い至れなかった主人公
 某武器商人さんとかが実在するとかね、もうね。なんなのあのピーキー過ぎる世界線は


本編が終わるまではチラシの裏


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『1000%でSparking』

誰得だと最初に言っただろうが


 

「ちぃっ! もうおっぱじめやがったぜ!」

「どいつもこいつも! いい大人の癖してせっかちな奴らばっかりだなぁっ!」

 

 

 隣で翔けてゆくナギに賛同し、飛行魔法で遅れないように現場へと向かう!

 戦場はグレートブリッジ! ヘラス帝国のオスティア侵攻作戦が始まった!

 

 おっと、名乗るのが遅れたな。

 俺の名は『龍宮 牙千代』、神のヤローにネギまの世界へ転生させられた存在だ。

 苗字でわかるとおり龍宮マナに関連付けられる運命にあったのだろうけど、時代背景を見るにネギの就任を待つには随分と時間があったことを知った俺は、己を鍛えつつ魔法世界へと乗り込んできた。

 いわゆる武者修行ってやつだ。

 年代から逆算して恐らくはマナの養父ポジションにつくのだろうけど、今から様々なフラグを建てておけば原作開始時には英雄の一端に成ることも不可能じゃない!

 マナだけといわずに、他の美少女の養父にだってなれるかもしれない!

 イケメンな父親という立場に立って娘を好き放題やるフラグですね最高です!

 なんなら俺がこの世界を救ってやるぜっ? 幸いにも、神に要求した転生特典は『努力すれば成せる才能』だからな!

 それにしたって神の奴もウツワが小さいぜ。まさか特典を一つしか用意できなかったなんてな。

 

 そんな俺一人では流石に戦力に無理があったのだが、魔法世界で修行しつつ旅を続けるうちに巡り合えた後の英雄『ナギ・スプリングフィールド』とその一行。

 奴らと一緒にメガロメセンブリーナ連合の率いる戦場へと参戦することによって、俺の実力を世に知らしめる戦争をいくつか潜り抜けてきた俺たちは、決戦レベルの舞台であり、原作でも特に注目されていた『黄昏の姫巫女』即ちアスナ姫をオスティアの役人共が引っ張り出してきた場面へと遭遇することとなった!

 メガロのやつらは正直胡散臭いことこの上ないけどな、後々ぶっ潰してやるから、精々今のうちに美味い汁でも啜っておくんだな!

 ガトウを仲間にしたときに出てくるであろう不正の証拠がオマエラにとっての最後通牒だ!

 

 

「おいガチョー! 何呆けてやがるんだっ? すぐに戦場だぜっ!」

「っ、いやなんでもねー! あとガチョーって呼ぶな! 俺の名は牙千代(きばちよ)だ!」

「いちいちよびづれぇよお前の名前!」

「んだと!?」

 

「二人とも喧嘩は止めろ! すぐに戦場だとナギが言い出したんだろうが!」

「フフフ、いいではありませんか。場に出ればそんな会話はできないのですから」

 

 

 遠目にヘラスの召喚した航空艦隊と鬼神が見える。

 相変わらずすげえ数だが、今回は特に気合を入れてるな!

 

 そんな航空戦艦の一隻から、今までも見たであろう精霊砲が発射される。

 だが、それもすぐに掻き消される。

 そう、あの射線上には黄昏の姫巫女が居るであろう塔が――、

 

 

「うおっ!? いきなりぶっ放しやがった! 塔の屋根が吹っ飛んだぜ!?」

「今までとは段違いだな……! あれはまさかヘラスの新兵器なのか?」

 

「………………は?」

 

 

 え、ちょ、………………はぁっ!?

 

 待て! 待て待て待て待て!

 なんで魔法が通用してるんだよ!?

 黄昏の姫巫女は魔法を完全に無効化するんじゃなかったのか!?

 

 

「おや、どうしましたかキバチヨ?」

「い、いや……、オスティアの秘蔵の防衛戦力があったって耳にした覚えがあるから、てっきり今回の戦いで使うのかと……」

 

 

 動揺を隠し切れずにアルビレオに応えるが、どうしてこうなっているのかが理解できない。

 俺がこの場にいるからか?

 それとも俺以外のイレギュラーとして、別の転生者がいるって言うのか?

 考え、悩みつつも、俺たちは戦場へと翔けていった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 うん。やっぱりずれたな。

 直射砲撃で『雷の暴風』を10乗ほど乗算した威力を引き出すはずの『峻厳の雷火≪ゲプラーメギド≫』だったのだが、補正と収束で必要であった風魔法を無効化され威力が若干低下し狙いと違う場所を吹き飛ばすだけという結果に。

 まああの塔に魔法無効化術式があるっていうリークがあったわけだから予めこういう術式を組んでいたのだけど、俺の仕事はこれで大体終わったのではなかろうか。

 

 

「エリ・エリ・レマ・サバクタニ――」

 

 

 この世界線に来てから一年ほどが経過し、分裂戦争が激化する中、俺と連れはヘラスの傭兵として参戦していた。

 連れというのは魔法世界にて最初に無双した村にて付いてきた年上の少女。

 名前はマリーという。

 

 

「塩の柱、死せる水銀、焼け付く硫黄。揃えて唸れ大地焦がす火、流動せしめよ灼熱の濁流――」

 

 

 リークしてきたのは現在オスティアに潜入中のそれからの情報なので疑う必要もない。

 メガロ兵に蹂躙された村の怨みを晴らすべく俺に弟子入りした彼女なのだけれども、正確に言うならば彼である。

 どうやら姉妹らの手によって女装させられ年若い少女として一緒に囚われていたお陰で生き延びたらしいが、村の友人や両親を殺されたことは見過ごせるわけもなかったらしい。

 復讐心に燃える部分を除けば、何処の飛天御剣流継承者かと問いただしたくなるプロフィールなのだが……。

 『それ』繋がりで唯一魔法を移植した俺も大概かも知れんけれど。

 だってそもそも魔法資質が無いんだもんあの子。

 そんなんでメガロの兵士皆殺しにしたいとか言い出すんだから、そりゃあアリアドネーに行っても意味ないわなぁ。

 結局脊髄辺りに呪紋術式埋め込むことで発動を可能にして、その他諸々を仕込んで新しい名前も与えてなんとか半年で使い物にした俺は偉いと思う。

 誰か存分に労ってもいいんですよ?

 

 

「――蕩ける鉄、奔流冷め遣らぬ天空、毒を抱えて大挙を掲げよ――――S.A.G」

 

 

 術式を構築して掴んで埋め込む。

 発動しないうちに次の工程へと進む。

 

 ところでこの世界線へとやってきて気付いたのだけど、高位呪文をけっこうバンバン扱える。

 そんなに魔力あったっけ?って首を傾げたけども、考えてみれば俺ってそもそもの生まれが父親である糞が呪式の核として扱うため、魔力精製に秀でた存在として仕込まれていたことを思い出した。

 そーいえば麻帆良じゃATフィールドという名の精神障壁がオートで構築されていたから、これが俺本来のスペックだということか。

 ……はっきり言って最悪の記憶なのだけど、魔法世界で好き勝手やるにはあって困るものでないし、存分に扱わせてもらおう。

 その結果この世界がどうなったところで完全なる世界が後始末してくれそうな気もするし。

 

 

「――卦巡を持って天秤傾け、血と息吹と脈動を鎖した水時計へと鼓舞するオケアノスの子らよ、盟主の束縛を順ずる担い手に一つばかりの祝福を」

 

 

 本当は、俺自身この場に出張る必要性もないのだけど……、でかい仕事をひとつ片付ければその分褒賞金も手に入る。

 戦場だとしても人が動く以上は物資も流通するわけだから、生活費のためならば数をこなさなくとも質のいい仕事を選別すれば生活費の一端程度なら不備はない。

 ……自分でも情けなくなる参戦理由だが、戦争でも生きる奴がいる以上はこういう世知辛い事情が転がっていても文句を言われる沙汰もないのではないかと愚痴愚痴思う。

 

 ともあれ、仕事は仕事なのできっちりやる。

 俺の仕事は戦場の鼓舞と一番槍。

 一撃目でつっかえなかったのだし、大体無理なく戦況は維持できているはずだ。

 俺自身は砲台でしかない、と進言しておいたからこれ以上を望まれても応えるつもりはないし。

 最低限度の成果を出すために子弟揃って参戦しているのだから、賃金以上の戦果を要求とか司令官がしないうちに決定打を打ちたいところなのだけども。

 

 

「――裁断亡きまで奉じられよ、『雷火の結実』を彼の地へ封ず――――術式凍結」

 

 

 用意してもらった戦艦一隻の天頂に陣取って、その場にバーコード状の封印術式を施す。

 さて、これで準備は整った。

 あとはマリーからの報告待ちなのだけど――。

 

 

『うっうー! こちら潜入メイドですー、お仕事は終了したのでやっちゃって構いませんよー!』

 

 

 おお、ナイスタイミング。

 それじゃあ――、

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「ば、バカな!? 無効化術式は何故反応しなかった!?」

 

 

 塔の屋根を吹き飛ばされて、うろたえるおじさんたちがとてもうるさい。

 わたしのチカラが通用しなかったのは驚いたけど、そういうのが効かない人もいることを知っていたので、おじさんたちよりは落ち着いていたと思う。

 その効かない人筆頭がマリー。

 ……それにしたってこの惨状はあんまりじゃないかな。

 落ちてきた屋根に潰されて死にかけの人とかもいるし。

 

 

「大丈夫ですかー、アスナさまー?」

「――うん、だいじょうぶ……。――マリー、今のがマリーのお師匠さん……?」

「はいー。それでは合図がありましたのでわたくしもお掃除を始めますねー」

「――うん、がんばって……」

 

「何を暢気にしている! くそっ、この場も安全じゃない! メイド! アスナ様を連れてゆけ! 無効化術式が効かない以上役立たずでしかないわ!」

 

「言われなくともつれてゆきますよー」

 

 

 マリーが応えたとき、ずかずかと近づいてきたおじさんの首がころりと落ちた。

 わたしの手を取って悠々と階下へ降りてゆく間に、通り過ぎる他のおじさんたちもころころと首が落ちる。

 マリーはわざとゆったりとした足取りで、わたしが転ばないように気をつけて手をとってくれる。

 今まで居たところでは、もう生きている人はいない。

 悲鳴を上げることもなく、マリーに近づいたおじさんたちはみんな首が落ちる。

 鮮やかで素早い。

 以前に、なんでマリーの魔法は無効化できないのかと尋ねたら、

 

 

『難しいことはお師匠さんにお聞きくださいー、わたくしは元々魔法の才能がなかったらしいので、これしか能がないんですー』

 

 

 ただ人を殺すだけの魔法。

 これだけしかマリーは貰わなかったらしい。

 わかっていてそれをあげる、『お師匠さん』も『お師匠さん』である、と思う。

 おかげでマリー以外の暗殺者はみんなマリーが撃退してくれたけど。

 二度と同じ暗殺者が来なかったのはふつうに凄いと思う。

 

 

「おいそこのメイド、何処へ行く気だ?」

 

 

 塔から離れて、火の気のないところを進んでいったところで声をかけられた。

 格好から察するに、メセンブリーナ連合の正規兵のようだ。

 ……わたしたちを怪しいと言いながら、彼はこんなところでなにをしてるんだろう? 戦況からはずいぶんと外れたところにいる気がする。

 

 

「怪しい女だ、取り調べの必要がありそうだな」

 

 

 がしゃがしゃと鎧を鳴らしながら近づいてくる。

 鎧のせいで表情は見えないけど、なんだか声の質が妙に粘着的に聞こえてくる。

 

 

「申し訳ないのですが急いでおりましてー、近づかないでもらえたほうがよろしいのですがー」

 

「ふん、俺に歯向かうとはさてはお前ヘラスのスパイか? 違うというならご奉仕してみるんだな」

 

「おやめくださいー、危ないですよー」

 

 

 言うが早いか鎧の人の首が落ちた。

 ご奉仕ってなんだろう。

 

 ところであの鎧の人はなんでマリーがヘラスのスパイだって気付いたのかな。

 マリーの見た目は完全にメガロ連合の人の姿で、亜人の面影は欠片もないのに。

 ちなみにその変身もお師匠さんのお仕事らしい。

 変身魔法って凄い。

 

 

「なっ、なんだお前ら!?」

「ひっ、首が! 首がぁっ!?」

「敵国のものか!? い、急いで連絡しろ!」

 

「あ、見つかっちゃいましたねー。

 アスナ様、ちょっとだけ遅れますねー。

 うっうー、四閃三獄ですー!」

 

 

 足を止めて手を離して、両手の人差し指をくるりと振るってマリーが唱えたその瞬間。

 ぞろり、と現れた兵士さんたちの首が全部落ちた。

 本当にちょっとだけだった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「くそっ! どうなってやがるんだこれはっ!?」

 

 

 姫巫女のいるであろう塔の最上階へと向かった俺たちだったが、そこは死人だらけの惨劇でしかなかった!

 死んでいるのは連合に順ずるおっさんとかオスティアの高官とかそういう奴ばかりだろうから問題はないとして、アスナ姫は何処に行ったんだよ!?

 

 今まで会ったことがないから俺が知っているのはおかしいだろうから言い出せないし、帝国の戦艦や鬼神兵はずんずんと侵攻中だ!

 ……くそっ! まずはあいつらを片付けてからだ!

 

 

「いくぜナギ! タイミングを合わせろ!」

「おっ、やるのか! いいぜっ!」

 

「「――千の雷!!!」」

 

 

 塔に近づいてきた鬼神兵を纏めて薙ぎ払う!

 同時に放たれたダブル千の雷の威力は単純に倍どころじゃねえ!

 合わされば何十倍にもなるんだぜ!

 

 

「ナギはともかく! キバチヨ! お前はもうちょっと威力を抑えろ! そんなんじゃすぐに魔力不足に陥ってしまうぞ!」

「うっせーぞえーしゅん!」

 

 

 それぐらいわかってんだよ!

 だが限界近くまで魔法を使えば、次はその分もっと強くなれる!

 俺の努力値は無限だからな!

 

 

「――む? あれは……」

 

 

 アルビレオが何かに気付いた様子で鬼神兵の向こう側を見ている。

 なんだ? 何か来るのか?

 

 

「戦艦が一隻……、飛んできますね」

「はぁ? そんなん当たり前だろ?」

 

 

 疑問符を浮かべて向いている方向へと目を向ける。

 確かに一隻飛んできている………………ってあれなんかすげぇ勢いついてる!?

 突進とかそういうレベルの吹っ飛び方だぞ!?

 

 

「おっ、あれ知ってるぜ。カミカゼアタックとかいうやつじゃねーのか?」

「あーなるほど。一隻丸ごとで体当たり――――ってバカ!? 何考えてるんだ帝国もお前も!?」

「俺は関係ねえだろ」

 

 

 ナギと詠春がくだらない冗談を言い合っている。

 が、まあこれくらいなら問題ねえだろ。

 この近辺にアスナ姫もいるかも知れねえからな、塔に突っ込ませるのだけは回避しねえと。

 

 

「へっ、そんなん打ち落としちまえば問題ねえ! ナギ! もう一回やるぜ!」

「おーよ。いくぜっ!」

 

「「――千の雷!!!」」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 マリーが退避したと連絡を受けたので、こちらも個人的な最終調整。

 艦内の人員を強制転移して、全艦に通達。

 

 

『“爆弾”投下準備に入る。最前線から距離を取るよーに』

 

 

 連絡はした。

 あとはインストールドットダイバーで体言を使う。

 

 

「――唸れっ、俺のタイガーショット!」

 

 

 術式を凍結封印した戦艦を『蹴っ飛ばす』。

 質量・比重・資質・空気抵抗など諸々の事実を無視して、飛ばされた方向へと吹っ飛んでゆく戦艦。

 その方向には先ほど『千の雷』で鬼神兵をぶった切った魔法使いがいるからな、狙い通りならこれも打ち落とすはず。

 

 かくして俺の狙いは予測の通りに。

 放たれた『千の雷』が艦を打ち落とすのと同時に、破壊された凍結術式から解放される全体攻撃――。

 

 

「――凍結解除≪レリーズ≫、ソドム&ゴモラ」

 

 

 別に口にする必要はないけど、まあ気分だ気分。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

・グレートブリッジ侵攻作戦戦果報告書

 対軍大規模召喚術式にて30隻から成る艦隊群と鬼神兵28基を侵攻戦に投下。同時に作戦に参戦した魔法使い&魔法剣士の傭兵総数は1800。初撃が要塞の要たる『塔』を破壊せしめたことを皮切りに、圧倒的武力によって侵攻作戦は成功するはずであった。

 連合は後に『赤毛の悪魔』『黒雷≪クロカヅチ≫』と呼ばれる二人の最大火力を前線へと押し出し、鬼神兵の半分を薙ぎ払う。

 対してこちらからの切り札は、後に『地雷屋≪ジライヤ≫』と呼ばれる魔法使いの仕掛けた爆弾術式封入による特攻作戦。効果の程は要塞の要と最前線の魔法使い数名を巻き込む程度の爆発力であったはず、という『彼』の説明とは裏腹に、二名の最大火力が放った『千の雷≪キーリプル・アストラペー≫』×2による相乗効果でグレートブリッジそのものを破壊。

 全長300キロに渡って屹立していたグレートブリッジは直径250キロのクレーター発生と余波の下、海の藻屑と消えた。

 

 尚この作戦において、メセンブリーナ連合盟主国家であるメガロメセンブリアとの地続きが絶たれた王都オスティアを含むウェスペルタティア王国は、メガロメセンブリアとの事実上の盟約を果たせなくなったことにより連合より孤立。最大破壊が為される寸前に帝国の雇った傭兵により救出されていた『黄昏の姫御子』の保護により、ウェスペルタティアは帝国の庇護下へと収まることとなった。

 巨大要塞の陥落こそ果たせなかったものの、ヘラス帝国の戦果は上々。爆弾投下の際にも寸前による通信にて戦力の退避は為されていたので、大規模な被害は敵兵のみ。

 声を大にして成功とは決して言えないが、メセンブリーナ連合の戦力を大きく削ることに成功した本作戦としては、これ以上のない結末であるといえなくもない。

 

 最後に、本作戦の最大の要であった『地雷屋』並びに『首切りメイド』に褒賞と騎士勲章が授与されたことを此処に記す。

 

   記・ヘラス帝国軍規監督長官・スヴェイヘート=バルベロッサ




~転生者
 観察者なお姉さんのちょっと嫌いな世界線
 数多くの転生者をごろごろ投下してゆきます
 本日はニアミス。優しい目で見守ってあげてください

~四閃三獄
 斬撃再現術式
 魔法を扱えなくともネギま世界の住人はリンカーコアが無くとも魔力精製はデフォルトでできるらしいっすね。なので術式を破壊されないように体内に刻印して発動体を肉体と同義に。間合い内の斬撃を思考で再生(リピート)する絶対殺人術式メイドの完成である
 魔力と発動核は体内にあるので無効化の範囲には及ばない安心設計。リライトは流石に防ぐことは無理だけども、射程(殺人圏内)が異様に広いので普通にヤバイ
 なおアスナ様は御付きメイドのマリーさんの明け透けな殺人で人死にに慣れたご様子。うっうー!

~S.A.G
 地殻崩壊術式・ソドム&ゴモラ
 火炎系最高レベルを軽く凌駕する、炎神の吐息を再現し改悪した広範囲破壊術式
 火が燃えるということは分子レベルでの振動が内在するということ。発動によって伝播する振動は宙空に分散することなく地上のみを撹拌して根こそぎ崩落させる
 効果は球状の破壊ではなく平面的な拡散なのでより広域を破壊せしめることが可能。平面といっても10~20メートルほどの厚みがあるが
 凍結術式は呪紋を歪ませれば勝手に発動するので防ぐためには破壊せずに保護するのが正解であった。ちなみに破壊のほどの酷さから問い詰められた結果、『千の雷』が命中した相乗効果、と答えたのはソラの出任せ

~峻厳の雷火
 直射砲・ゲプラーメギド
 魔法で直接発生させた火と雷ではなく、副次的に生み出した水素爆発的な化学反応を放射。魔法陣を敷いて詠唱し、維持と反応発現にと遠回りな工程を踏むので発動まで1時間かかる
 ソラはそれを凍結術式で自らの左腕にストックとして封入しているのでショートカットで発射。方向と収束と調整にどうしても必要な風系魔法が関わる必要性があるのでそこだけは外せなかった
 ちなみにソラの左腕を切り離せば封入された最大七つのショートカット魔法が全て解放されるので下手に傷をつけるとマジ危険。自爆は漢のロマンである

~体言使い
 スタンドを体内にて発動することにより発現したソラの『スタイル』
 行動が現象に繋がり結果を必ず導き出す
 例:『掌』で『握れ』ば呪文の『掌握』も出来る
 但し『闇の魔法』に対するソラ自身の適正値は0



正直『教え(調教し)てほしいぞ師匠(マスター)』というタイトルでマリーちゃんを鍛える話にしようかと思ったけど止めた
昨今の作風に努力とか修行とかの描写はほぼ必要ないんじゃないかなとも思うわけで


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『教えて欲しいですぅ師匠!』

なんだかいい感じのものが出来上がりました
せっかくなので一般に移します


 

「斬撃再現術式である四閃三獄は自分の扱える軌跡を再出現させる代物だ。間合いのうちに対象が入っていれば防御をすり抜けて結果だけを見出せる。但しあくまで再現でしかないから、軌跡を見破られれば防御もされるだろうし、自分自身を守れるわけでもない。ま、結局のところ魔法使いに必要なのは機動力っていうのは“コレ”でも間違いはないってことだなー」

「それで瞬動術ですかー?」

「残念ながら俺はそっちの体術は聞きかじった程度しかないからな、正確には『縮地』を覚えてもらう。居合いとか無拍子とかと同レベルだ、体術というよりは技術の範疇だよ」

「縮地って、確か師匠の出身世界の言うところの究極技法では……」

「大袈裟だな、やろうと思えば猫でもできるぞ。大地を星を一個の自分以上の存在として認識して、それに押し上げてもらうのがイメージだそうだ。大体自分ひとりの力でなんでもかんでもやろうとするのが間違ってんだよ」

「イメージでどうにかなる技法ですか」

「イメージの力舐めるなよ? 格闘が趣味の学生に等身大のカマキリと生死を賭けた死闘を繰り広げさせるポテンシャルを秘めているんだからな、イメージには」

「イメージの力って凄いですー……」

 

 

 そんな会話をしたのが体感時間で大体6年前。騎士勲章と同時に褒章で貰った『体感時間を72倍に延ばす幻想空間幽閉型巻物』に篭もりっきりで外で一ヶ月ほどかけたことになる自身の調整を執り行っていたのだが、どうやらその一ヶ月の間に色々と事態が進行していたらしい。

 修行というよりは技術と術式を照らし合わせる措置であったのだけど、転生し直しているわけだから肉体の効率的な動かし方とかの確認をする時間は必要であったので、肉体を衰えさせないための処置が欲しかった身としては要求が通って万々歳であったのだが。

 必要な処置を取り揃えて外に出たら悠々自適な生活ができると思っていたのに、またもや厄介ごとでござる。

 

 オスティアを侵攻しトリスタンとの国境となるグレートブリッジを崩落させた影響は戦果に響き、ノアキスやシルチス亜大陸なんかをも領地下とすることに成功したヘラス帝国は、実質連合が崩壊したメガロ正規兵らを退去させることに成功していた。

 領地とか支配とかとこちらの政策に口を酸っぱく文句を言う、王権に馴染みがないわけでもなかろうにヘラスのやることをいちいち気に入ってないらしいメセンブリーナ連合の旧世界側の魔法使い陣営は、実質自分たちの連合圏内(と言う名の支配域)に含まれているエオス・トリスタン・オレステス・クリュタエムネストラ等と首都を執り成しているメガロメセンブリアで同盟を組んでいるのだが、戦争をやるには人手が足りない・物資が足りない・勝率が低い、と色々な過不足に陥っていて完全に負け戦な状態であった。

 あった、のだが、そこに投入されたのがナギ=スプリングフィールド率いる『赤き翼≪アラルブラ≫』。彼らの戦力は前線を鼓舞し、最早敗走しか手がないかと思われていたメセンブリーナ連合の意気を揚々と上げた。要するに戦争に勝てるかもしれない、と兵士らに思わせる役割を彼らは担っているのである。

 それに対してヘラス側はというと、魔法世界最古の王国であるオスティアを庇護下という名の実質同盟にまで漕ぎ着けることが出来、必要最低限の支配域も確保したことにより亜大陸内に点在する亜人の集落を庇護下へと引き戻すことにも成功している。中立を謳うアリアドネーを支配域へ引き込むつもりは端から無いし、ボレアリス海峡を飛び越えて龍山山脈まで手を広げる意味も特に無い。必要なものは大概揃え終えているので、これ以上戦争する意味が実は無い。

 正直王家側のモチベーションはこれといって上がっていなかったのだが、オスティアを逆侵攻されたりヴァルカンやニャンドマに戦火が飛び火したりと、領地を奪還されてまでは居らぬが迷惑を被っているのも事実。負けていたのだからそのまま負けて終わらせれば良いのではないかな、と青筋を立てる帝国に未だ喧嘩を売り続ける縮小しているメセンブリーナ連合。

 そして調子に乗り続ける赤毛とその一派。

 

 そんな奴らに対処を頼む、と出所早々依頼を持ちかけられた俺がいた。

 

 

「実質、やつらのやっていることは戦争を無駄に長引かせているだけの迷惑行為でしかない。というか戦場で二つ名を自分から名乗るような恥知らずどもに粛清をかけるのは、停戦を持ちかけているこちらからとしても間違ったことではないと思うのだがな」

「勝っている方の理屈だろうけどね、それも。というか、アリアドネー側からも要請引き受けた旨が届いているらしいのに、更に俺に何をしろと」

 

 

 実情中立であるはずのアリアドネーが影ながらに今回の粛清作戦に戦力を投入しているわけだから、やっぱり赤毛はやりすぎなんだろうなー。と一ヶ月ぶりのまともな食事をしながら、青筋立てたおっさんの憤慨する様を見つつ請け応える。

 肉に野菜・魚に果実に穀物、あるだけ持ってきてほしいとテーブルに並べさせて某自称海賊王のように端から端へと手を伸ばす。いや、仮想空間内とはいえ一ヶ月篭もっていたらさすがに栄養が足りなくて。

 むしろよく死ななかったなと一度あの空間自体を詳しく解体ゲフン解析してみたいとスクロールに意識を向ける。間借りしているスクロールの精霊がビクンと跳ねた姿を幻視した。

 

 

「キミは今回の戦争での立役者ではないか。それと騎士勲預もしているのだから少しは力添えをしてもらわねばこちらとしても困る」

「ふーん?」

「できればというより、実質対抗できる戦力がキミしか見当たらないのも事実なのだ。地雷屋よ、頼む」

 

 

 何かきな臭い匂いが漂ってきているような? 微妙に芳しい気配に穿ったような目を向けてしまう。

 こちらの姿が子供だからか目線を下に向けられるのはまあ仕方ないかな、とは理解するけれども。

 

 というか、前から思っていたのだけどなんで俺ジライヤとか呼ばれてるわけ?

 誰がニンジャだ。何でニンジャだ。

 

 

「請け負うのも吝かじゃないけども。気が乗らないなー。正直俺って前線向きじゃないし」

「まあまあ師匠、顔を出してもいいのではないですか? 懐かしい顔ぶれもいますし」

 

 

 請けたくない空気を醸したところで、マリーが食事を運んできた。

 このメイド、ヘラス皇室に幼少期の家康みたいに囲われているアスナ姫の御付きをしているらしい。なので以前にスクロールに入ったときも三日で先に出て行ったわけだが、今微妙に気になることを呟いたような。

 

 

「懐かしい?」

「あれ? アリアドネーの選抜は見てないのですか?」

 

 

 言われて、おっさんにメンバーの詳細を確認。

 

 あー、ははは。これは確かに懐かしい。

 

 

「なるほど。いーよおっさん、この仕事請けた」

「おお! やってくれるか!」

「まあ、見る限り現地集合みたいだし、いちいち集まって符丁合わせてとかめんどくさい外袷が無いらしいしね。元々個人主義だからそういう点で気になってはいたんだ」

「ああ。それは詳細を語れなくてすまんかった。相手が相手だから軍を動かすのは目立ちすぎてな」

 

 

 要するに今回のは暗殺モドキだ、と。

 集合地はニャンドマの最前線。個人プレーの目立つアラルブラを寄り良く動かすために、メセンブリーナは本人たちを割と好き勝手に最前線へ投入している。

 今回もこの一ヶ月の戦果と同じように投入されているので、そろそろ本気で逆侵攻が始まる前に対処を施すべきだというのが本作戦だ。

 

 こちらから対抗するのは、俺以外にはアリアドネーの中立組合から三名の実力者。どれもが知った顔であるので、久方振りに同窓会モドキと洒落込みますかね。

 ところで、

 

 

「ところでそろそろ甘いものが食べたいなー、と」

「はーい。用意してありますよー」

 

 

 と、マリーから「以前にお師匠さんから聞きかじった旧世界の甘物ですー」と言われつつ突き出されたのは、バケツいっぱいの砂糖水。

 お前俺のこと嫌いか?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「下からシッ↑ツ↓レーイ↑ッ!」

「「「「うおおおおっ!?」」」」

 

 

 戦の前に腹ごしらえとでも言いたかったのか、鍋を囲んでいたアラルブラの面々に真下から突貫かけたのが紙袋を被った大男なのだから、そりゃあ驚きもする。

 鍋を掴み、海面を跳ねるシャチのように地中から飛び上がっていったのは、3メートルに匹敵する大男。但し無駄に手足が長いだけで筋肉はそこまで比率良くはなっていない。背中に抱えた2メートルの赤い大メスが白いスーツと相俟って医者のイメージを髣髴とさせる。実際医者でもあるのだが。

 

 

「なっ、なんだてめぇはッ!?」

「あんたらを刈りに来た。刺客みたいなもんだよ」

「はっ!? んっ、なばぅっ!?」

 

 

 二人目。勇んで立ち上がった黒髪の少年に、じゃらりと鎖が巻きついて高々と放り投げる。

 鎖の出処は背後の森で、放り投げた人物は赤い和服を肌蹴させたポニーテールの赤毛の女性。纏めるところが若干長いために、朝倉みたいなパイナップルヘアではなくてちょんまげみたいな髪型になっているのが目を疑う。

 彼女は袖口から、次々と鎖を吹き出してはアラルブラの面々を捕縛しようとしているが、さすがに実力者相手には大体かわされてしまっていた。しかし吹き出す鎖が無限過ぎる。一向に終わる気配がない。

 

 

「刺客だと? ふんっ、一体何処から来たというのだ。我らは目をつけられるようなことは一切してない!」

 

 

 原作では見たことのない、金ぴかの鎧で着飾ったなんだか勘違いっぽい空気を醸している少年が偉そうに踏ん反り返っていた。黒髪のも見たことなかったけど誰だあいつら。

 あ、あいつらがこの世界線の転生者か。たぶんそうだな。

 つか一人称が我とか。アイツ絶対口癖が愉悦だぜ。ゲートオブバビロンとか使うんだぜ、きっと。

 

 

「その台詞、よく自身の胸に手を当てて考えてもらえませんか?」

 

 

 赤い和服の横から出てきたのは、背中に白と黒の翼を携えた尻尾の生えた少女。こちらは青い髪色でロングヘア、纏った空気は深窓の令嬢を思わせる。

 その女性が出てくると赤毛の女性も舌打ちし、噴出させていた鎖を全て切り離す。放り投げられた黒髪はそのまま逆さに地面へと墜落したが、誰も気にかけることはなかった。

 

 

「今日和、アラルブラの皆様。私たちは本日、今回の戦争の中心点である貴方方を排除するために赴いた者達です」

「戦争の中心だぁっ!? ふざけんな! 俺たちはオスティアを奪回するためにこの戦争に参加してるだけだっ!」

 

 

 青髪の少女の言い分に噛み付いたのはリーダーと思わしき赤毛の少年。原作から鑑みるにアレがナギなのだろう。本当にこの時点ではガキにしか見えない。

 

 

「そのオスティアを奪回し、その後は本当に戦争を止めるのですか?」

「帝国が向かってこなけりゃ終わるだろうが!」

「いえ、それではヘラスも納得がいきません。延々と終わることがない戦いが続くことになります」

「俺たちに言うんじゃねーよ! 帝国が諦めればそれで終わるんじゃねーか!」

「それをメセンブリーナにも言ってやりなさい。そもそもグレートブリッジを陥落された時点で負けたと認めていれば、此処まで戦火を広げることも無かったのでしょうから」

「っ!」

 

 

 おい、赤毛がいきなり論破されたぞ。

 そこ言われたらなー、という顔でみんな目をそらしてる。自覚してたんかい。

 確かに原作では「この戦争はいつ終わるんだ……」みたいなかっこつけな台詞呟いていた気がするけど、考えてみればあいつらが戦場に赴かなければ巻き返しも特に無くメガロ側に手段は無かったっぽいんだよな。上手いこと『黒幕』という存在が戦争に加担していたから、それを討ち倒して英雄として祭り上げられたことで、一定のハッピーエンドは迎えたように見せてはいたけれど。

 実際戦争に参戦していたくせに、甘いこと言ってんじゃねーって話だよな。

 

 

「だ、大体おめーらは誰なんだっ! まず名乗りやがれ!」

「いいでしょう――」

 

 

 え、名乗るの?

 仮にも暗殺としてやってきた少女が片手を掲げた。

 

 

「我ら中立都市より派生した戦争仲裁機関! この世界から戦争を無くす! そのためだけに戦場を駆ける、『戦えない者』のための守護天使!」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和うぉー、守るためぇーぃ」

 

 

 ナニコレ。

 弾頭的な前口上を口にしだした少女に合わせて、赤毛のちょんまげと紙袋の大男も一緒に唱えだす。

 

 

「愛と真実の悪を貫く! 信念を推して道理を叩く、華やぐ戦場の敵役! 愛情部隊副隊長! デイズィ!」

 

 

 青い少女が名乗り、

 

 

「暴虐部隊副隊長、梅喧」

 

 

 赤いちょんまげが名乗り、

 

 

「医療部隊隊長ぅ、ファウストっ!」

 

 

 紙袋が名乗った。

 というか、いつの間にか紙袋がちょんまげとは反対の少女の隣に陣取っている。

 

 

「そう、我らこそ!――」

 

 

 バババッ、とそれぞれがそれぞれのポーズを決めた。

 

 

「戦「戦争「争「仲裁「仲「ぅ裁「機関「機k「機かぁー「ん! ト「トライ「ライ「ピース「ピーぃ「ピースッ!」」す」

 

「バラバラじゃねえかッ!!!」

 

 

 鎖から抜け出した黒髪くんがツッコミをいれた。

 確かに。決めたポージングも台詞合わせもばらっばらであった。

 

 ともあれ、拾えた正式名称は『戦争仲裁機関トライピース』。面白そうなこと始めてんな、あいつら。

 

 

「ともあれっ! この戦争を止めるために、『仲裁』を執行しますっ!」

 

 

 若干頬を染め、デイズィの宣言とともに事は始まるのであった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 まあ要するに、あの3人が俺の知る懐かしい顔ぶれであったりする。

 マリーを連れて放浪していた頃、似たように戦火に駆り出されて被害を被っていた奴らに処置を施した『被験者』の一部が彼女らである。

 そんな彼女らに植え付けたのは『空間制御術式』。

 一言に言えば魔力で空間を歪曲させる術式なのだが、その『空間』という範疇が広すぎてどうやって制御するかと思い悩んでいたのが当時の記憶として蘇る。

 範囲が広いのなら別個に腑分けしてそれぞれの専門術式を確立させればいーじゃない、と思い至ってそれぞれ植えつけた3人なのであったのだが、よくもまあ互いに見知らぬはずの御三方が一同に会せたものである。なんだこの無駄エンカウント率。

 

 デイズィには魔力を形状として確定させるための領域確保術式。要するに目に見える掌握領域を再現させてみようと方向性を定めた術式だ。

 あの背中の翼がそうだろう。一方通行の暴走バージョンみたいなのを同時展開しているけど。

 

 梅喧には亜空間接続術式。英雄王とか、漫画とかで見るような『蔵』みたいなのを再現できないかと構築した代物である。

 見たところ袖から鎖とか鉤爪とか、暗器を無限に引っ張り出しているが、『入り口』は袖だけじゃないはずだ。実際足元から畳を引っ張り出して、畳返しで古本を潰してるし。って、畳返しってそういう技じゃねーから。

 

 ファウストには亜空間潜入術式。アイツが一番の成功例な気がする。つなげた空間を自在に“泳いで”赤毛たちの死角から襲撃を繰り返しているし。

 最初に飛び出したのも“それ”を扱った結果だろう。鍋の下の地面は全く穴も傷も無かった。親和性の高い披験体に巡り合えて万々歳だよ俺は。

 

 

 対する赤毛側、むしろ転生者と思われる黒髪と金髪の二人はというと。

 黒髪のほうは魔力量は少し多いが、それだけだ。特に目立った何かがあるように思えない。戦闘技術も中の下。俺から見て弱いとしか言いようの無いデイズィより更に経験が足りないように思える。

 そのデイズィの翼の暴虐で、赤毛側は戦闘距離を測り兼ねているのが現状だ。遠距離がデイズィ、中距離が梅喧、近距離がファウスト。一見ばらばらだけど、上手い具合に割り振りが決まっているんだな、あいつら。

 

 そして金髪の方。予想通り、ゲートオブバビロンを使ってきた。っていうかそう叫んでた。

 叫んでたのはいいけど、射出は出来ないらしい。空間に手を突っ込んで剣を取り出して振るっている。アレも一見すると神秘性の高いアイテムに思えるのだけど、振るう側の使い方が若干残念に思えてならない。もうちょっと上手く扱えないのか?

 

 そうして三時間ほどほぼ互角の勝負を繰り返したところで、3人のスタミナや魔力が切れてきたのかそれとも赤毛側が間合いを読み切り始めたのか、デイズィは大振りになり、梅喧の暗器も見破られ始めた。今は最早ファウストの死角突破のみで現状が持っている状況だ。

 考えてみれば原作でのラカンとの迎合の時も、嘘かホントか十三時間やりあったとか言っていたので、それくらいのスタミナは転生者組み以外は持っている可能性がある。というか、ちょいと問題のある人物がさり気に参入している状況にツッコミを入れたいのであるが。

 そろそろ俺も参戦するべきかもしれない。

 

 

「というわけでお邪魔ー」

 

「「「っ!?」」」

 

「あんっ!? なんだてめぇは――」

「なあおい、旅行するなら何処に行きたい?」

「――は」

 

 

 ボシュン、と先ず赤毛のガキを吹っ飛ばす。

 今の俺からすれば年上なんだけど、正直赤毛の人間が多すぎるからちょっと邪魔なんだよね。

 

 

「「「「「――は……?」」」」」

「にっ、ニキュニキュの実ッ!?」

 

 

 一人、というか黒髪くんが元ネタに反応した。

 残念、バシルーラさ。

 

 

「っ、な、なんだ貴様! ナギを何処へ、」

「ハイ邪魔」

 

 

 金髪も吹っ飛ばす。

 座標は赤毛と同じ場所だから、寂しくないよ!

 

 

「汎断っ!? くそっ、お前一体、」

「はいどーん」

 

 

 黒髪くんも射出。

 腕をぐるぐる回しながら次を狙う。

 

 

「瞬動か……! なんて使い手、」

「そいやっ」

 

 

 針金みたいな剣士を吹っ飛ばす。多分詠春さん。

 ふははは、俺今超無っ双ー。

 

 

「くっ、最強防護っ!」

「無駄ぁっ!」

 

 

 子供と古本を一緒に吹っ飛ばし、術式の限界時間が切れる。

 あー、これが限度かー。

 

 と、いうわけで残ったやつに話があるのだが。

 

 

「お前ぇ……、何者だ? こんなガキの使い手がアイツ以外にこの世界にいたとはな……。しかもあの赤毛バカよりずっと年下じゃねーか……」

「使い手云々はまあどうでもいいとして、あんたヘラス側の傭兵じゃなかったのか? メガロ側に寝返って戦争に参加とか、何してんだよ」

 

 

 残っているのはそう、筋肉ダルマことジャック=ラカン。邂逅というか喧嘩参入というか、そんななんやかんやは既に通過していたらしい。

 聞いたところで意味なんて無いかもしれないが、とりあえず尋ねてみた。

 

 

「戦争? 傭兵? 関係ねーなっ! 俺は俺のやりたいようにやる! それだけだっ!」

「あーそーかい」

「つうわけでっ、いっちょ俺ともやろうじゃねーかっ!」

 

 

 予想通りの答えを返して、突っ込んできた筋肉。

 威圧感が凄い。とりあえず殴ってみればわかる、みたいな思考でかかってきたのかもしれないが、――そりゃ悪手だろ。

 

 

「――レリーズ。ショートカット、“マクロドライブ”」

「ぬぅおっ!?」

 

 

 腕に仕込んだ凍結術式の一つを解除。さっきと同じ術式で、筋肉ダルマも吹っ飛ばす。

 着弾地点はメガロメセンブリアだ。精々良い弾丸として働いてもらおうじゃないか。

 

 さて、これで仕事は終わった。

 撃ち出した7人は生きているだろうけど、戦力を削るという目標は果たしたわけだから問題はないだろう。ついでにメガロの国力も削る『攻撃』になったはずだから、戦争も少しは抑制できていればいいなー。

 そんなことより懐かしい顔ぶれに挨拶せねば。

 

 

「よーお前ら、ひっさしぶりー」

「「「お、お久しぶりです師匠……」」」

 

 

 おいおいどーした。声が震えてるぞ。




~猫でも出来る縮地法
 出典はパタリロ源氏物語
 スーパーキャットさんぱねえです

~格闘が趣味の学生
 イメージだけで技術を極める地上最強の男の息子
 トリケラトプス拳ッ!

~バケツいっぱいの砂糖水
 烏丸そらッ、復活ッ! パンッパンッ(手拍子)
 烏丸そらッ、復活ッ! パンッパンッ(手拍子)

~戦争仲裁機関トライピース
 アリアドネーに集中した戦争被害者の中でも特化した術式を運良く授かった者たちで構成された、『戦えないものたち』のための戦争阻止組合
 負けているはずなのにいつまで経っても抵抗を止めないメガロに、苛立った被害者たちが主立って設立。主力は大体ソラの仕組んだ被験者で構成
 デイズィ・梅喧(ばいけん)・ファウストは某格闘ゲームから参戦。転生者ではありません

~金髪
 転生者2人目。名前は『汎断 創世(あまねだち そうせい)』。かのりかなめさん、お借りします
 特典は「神秘を溜め込んだ蔵を扱いたい」とピンポイントで英雄王を狙った注文。但し“射出”は出来ないし、中に何があるのかを確認も出来ない(自分で集めた代物ではないので中身を知らない)
 その代わり中にアイテムを入れることも出来るし、そのときの状態で保存も出来る。中身さえ把握できていれば実は最良な特典

~マクロドライブ
 所謂バシルーラ。強制射出術式
 対象を選択しマッハ50で射出。運動エネルギーだけで着弾点を破壊し、“弾丸”とされた対象にはその衝撃は一切かからなくする保護結界で包み込む。着弾点にきちんと“到着”するように、飛行中は一切の影響から守られる


アンチと銘打ったのだからメガロメセンブリアを徹底的に叩き潰す
魔法使いも同列だぁーヒャッハーッ!


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『永遠のときを超えてぇ』

書かなきゃ(使命感)


 

『アイロウ、I Look on Laughing! こんにちは! JOL海賊放送のお時間です! ノアキス亜大陸は木精樹海のとある集落へとお邪魔しているワタクシことリポーターですが、こちらの天気は今日も快晴! 畑仕事にも精が出る盛況ぶりに流す汗もキラリと光ります! 本日は出荷予定だったトマトの食レポを執り行う予定であったのですが予定が未定なのはこの業界当然のこと! 私も鍬を片手にお仕事へといってまいりまーすっ!』

 

 

 懐に仕舞ったコイン(金貨)から、元気にカラッと気持ちの良くなりそうな女の子の声が響く。実はコレ正確にはコインの形を取った最小規模の受信機で、ふちの部分はラジオの音量調節みたいな機能がついている。

 問題は放送局と中継点が少ない魔法世界にどうやって広めようかと思考を捏ね繰り回していたのであったのだが、ふとしたことで知り合えた戦争仲裁機関のコネを片手に最低限、ヘラス領全土へと受信機と中継機を用意してもらうことでなんとか一般への普及も及んだわけである。

 

 いきなり何の話かと問われそうなので、それに及ばざるを得なくなった開発事情を語るがその前に、これを普及するに当たって最低限必要であった基礎情報を暴露させてもらおう。

 

 今からひと月も満たないくらい前のこと。

 戦争は終わった。

 

 ヘラス帝国の最大の対立者であったメセンブリーナ連合の主国であるメガロメセンブリア、そこを極小の流星が降り注ぎ国自体を壊滅の危機に陥れたらしい。

 というか時系列を見て、俺がメガロに向けてぶっぱした赤き翼の面子の弾丸が直接的な原因じゃねえのかな、とも思ったけど黙っておいた。

 それはともかく、さすがに自国が壊滅してまで戦争をする余裕はなかったようで、生き延びた連合の属国からの停戦を望む声を聞き届けたヘラス帝国は、戦災復興の援助に手を貸す代わりに『二度と喧嘩を売るんじゃねえぞアアン?』と確約。

 帝国の勝利という形で、魔法界を二分した分裂戦争は幕を閉じた。

 

 当然戦争なのだから、先も語ったようにその後、復興事業が最優先と成ってくる。

 俺も手を貸すことに吝かではないのだけど、正直魔法開発とかなら分野だったのだけど、復興事業に俺自身の手がどう必要なのかは見通せなかったな。前世で(魔)改造したダイオラマ魔法球がそのまま手に出来れば、かなり役に立ったのだろうけどなー。今の俺ではあそこまで大規模な改造するには時間が足りない。試行錯誤が少ない分、前よりかは時間はかかりそうではないのだろうけど。

 ともあれ最低限必要なことは情報であろうか、と思った俺は一般にも普及できる情報媒体としてラジオもどきを魔法界中へ散布。電波ではなく念話を媒介に音を乗せて、広域にそれこそ格差のないように情報の拡散を実行させてみた。

 一応魔法界にもテレビ的なものはあったのだけど、ほら、テレビじゃ放送する人の情報選別がやっぱり上の方で色々シャットアウトされる部分が生まれるからね。生の声を広げて絆を生むって、超大事よ。

 

 合言葉はアイロウ(私は笑っています)、と最初に言い出したのは誰だったのか。

 帝国領中に広がった公認の海賊放送は、今日も聞く人へと笑顔を届けています。

 

 

「――と、聞くといい話に思えてくるから不思議なんだけどな」

 

 

 その裏側では涙を飲んだ英雄未満がいることを、俺は知っている。赤いなんとかとか、黒いなんとかとか、完全なるなんとかとか。

 まあどうでもいいのだけど。

 

 さてそんな俺が、何故かヘラスの王室へと御呼ばれしているわけであるけど。

 

 ――なんで?

 

 

「やることは大概やったし、貰った褒章分の働きくらいは見せたはずなんだけど。………………ひょっとしてあれかな?」

 

 

 思いつくことと言えば、件のラジオもどきの情報の現状にある一部の不明点。

 シルチス亜大陸を覆うはずの情報ネットワークに、一部欠損が見える部分がある。気になって調べたトライピースの情報によれば、曰く集落の消えた跡がある、焼け焦げた雷系魔法の痕跡がある、山賊が横行している可能性が微レ存?

 ひょっとして山賊狩りでもやれとでも言われんだろうか。俺は直接戦闘は専門じゃないから、そういう話を持ってこられてもお断りするしかないのですけれどー?

 

 そんな迂遠な思考をしつつ、なんでか呼ばれた内密のO☆HA☆NA☆SHIをする用のお部屋へと案内され、まいどーと踏み入れる。

 ガッ、と侵入早々に頭を鷲掴みにされた。

 

 

「――あ?」

 

「ぃよーうクソガキ、久しぶりだなぁ……!」

 

 

 ビキビキと青筋を立てた赤い鶏冠のナギスプリングフィールドが……、ってああ、

 

 

「なるほど。最近の山賊もどきはオマエラの仕業か」

 

『なんでそうなるっ!?』

 

 

 部屋中の英雄未満に総出でツッコまれた。解せぬ。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

『おおぅ、なんという巨大なトメイトゥ……! 収穫祭というには若干早すぎるのではないでしょうか。しかし私はあえてこれをいただきます! 微妙に大味に見えますが甘さも酸味も弾けるフレッシュでまさに奇跡のトマトと叫びたくなる美味さ! 甘ーーーい!!!』

 

 

 懐のコインから囁かれる何処かの芸人みたいな少女の声を聞きながら、背の低い少女は森の中を進む。

 一般に見る冒険者のようなアクティブな出で立ちは歳と肉付きから一見すると少年のようにも思わせるのだが、程よく伸ばした茶色がかった髪と上気して赤みがかった頬に柔和な垂れ目が相俟って少女らしい顔立ち。相乗効果のお陰でようやく少女と認識される年頃の少女の名は『祈 典如(いのり てんじょ)』といった。

 典如の傍らには四肢の無い馬が背後霊のように付き従い、彼女の手には角材のように成っている鉄の棒が携えられている。

 そんな彼女は、この森で狩りをしている最中であった。

 

 彼女自身、出身は魔法世界ではない。

 突き詰めれば転生前の平成の世であるのだけれど、昭和の日本においては彼女の持つ異能(転生特典)は異常に映りすぎたらしい。

 人の心を微弱に読み取れる彼女の異常性を恐れた家族は彼女を売り払い、売られ流れて魔法世界へと流れ着いた彼女を待っていたのは奴隷の身分。何も悪いことをしていないのにこんな身分へと落とされたことを、こんな運命に仕組んだと思われる転生させた神とやらを恨んだ彼女であった。

 だが奴隷として売られた先の集落では、懐いてくる幼い少女もいたことでその無益な恨みはとっくに解けた。付き従うように付随した『才能』で生き残るための実力も得ていたし、自らの立場を脅かしていた戦争が終了したことで、元々自身を脅かさなかった集落への恩返しを兼ねて、彼女は今日も貢献することを生活の一部へと委ねている。

 

 彼女を取り囲む部族は肉食をあまり必要としない。しかし、部族であっても一部のものにはある程度は必要なものであることも否定できない。例えば成人未満の小さな子供だとか。

 そんな子供たちの成長のためには、森にとっては必要である幾許かの獣を狩り獲って栄養とするのも致し方ないことである。無論典如自身の身体の成長のためにも。

 しかし部族のものは獣を森から狩り獲れないという特性を併せ持つらしく、必要なことを実行できない役割を外部の、部族以外の信用の置ける者に任せる必要性があった。

 以上の理由から、典如はこの森の狩人役を担っている。故郷の日本では疎まれていた彼女は、此処では必要とされている。それもまた、彼女の意識を改善の方向へと導いた要因であったのかもしれない。

 

 そんな彼女の手にも受信端末がある。

 戦争仲裁機関の持つ普及率はいったいどれほどのものかと、この場にメタな見方をするものがいれば驚愕したのであろうか。というか発信で言っていた集落というのは、間違いなく典如の携わっている集落である。

 己の知るところが、彼女の好きな人たちのことが紹介されて自然と彼女自身の表情が綻んでいる。

 それを見ていて、彼女に付き従う馬も、何処か嬉しそうな表情で幽かに嘶いていた。

 

 ――そんな折、

 

 

『――ガッ、ガガッ――!』

 

 

 ふと、受信機の様子がおかしくなる。

 電波を受信しているわけではない、と説明を受けていた彼女にはあずかり知らない、不明な理由が発生する音声を異常に高鳴らせる。

 不審に思った彼女は、手にしていた鉄の棒を傍らの地面に刺し、懐から取り出したコインの音量調節を弄くってみた。

 途切れ途切れに囁かれていた音声が、悪意の染み出るような甲高い音へと変化する。泣き叫ぶような音の濁流がいくつも響いた後に、ようやく聴こえる声がコインから流れてくる。

 

 

『――助け、て――っ!』

 

 

 その瞬間、

 

 典如は踵を返して、己の知る集落へと駆け出していた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――ふん、こんなものか」

 

 

 集落の大人たちを焼き払い、セクンドゥムが愉悦の貌を浮かべつつ嗤う。

 一時はどうかと思ったが、こうやって少しづつ回帰させてゆかないとやはり追いつかないらしい。リライトを使えるんなら初めっから使えよ、と言いたかったが、同じ組織に属するようになってなんとか理解した。要するに完全なリライトを扱うには出力不足ってことか。造物主も詰めが甘いというか。

 

 

「どうしたケントゥム。手が止まっているぞ」

「――いや、世の中ままならないものだなと、少し感傷に浸っていただけだ」

 

 

 プリームムの疑問の声に応えつつ、迎え撃ってきた他の有角部族をカットし、即座に完全なる世界へと送る。こいつらの一族の末裔である調だかブリジットだかの少女は予定では本来の時間軸に出現しているはずだが、このままだと参戦せずに退場することになりそうだ。まあ運が悪かったと思って諦めてもらいたい。

 

 ネギまの世界に転生し、完全なる世界のオリジナルキャラへと転生を果たした俺ことケントゥム。正確には他の人形連中と違い、人間を素体にした真祖の『なりそこない』だ。

 あの漫画の到達点に納得がいかずに改変を始めたが、その影響じゃないよな? 赤き翼が言うほど有名にならずに、しかもメガロ側が敗北して戦争が終了しやがった。

 おかげさまでもう一度戦争を始めるためにヘラス領内で火種を燻らせる役割だ。ついでに、増えていたおそらくは他の転生者と思われる赤き翼内の戦力に対抗して、2番目も早々に起動させたけれども、どうにも他にもイレギュラーが混じっている可能性がありそうな気もする。なんでアスナがヘラスで捕虜みたいな扱いになってんだよ……。

 まあ造物主自身が活動しているお陰で、個人所有の極小範囲リライトは問題なく発動しているから、アスナが手元にいなくても今のところは問題ないが。

 むしろ有り得そうなのはもっとヤバイ問題だ。ジャック=ラカン付きの赤き翼を脅かせる戦力が、ヘラス側に眠っている。そんな可能性だ。

 それって、普通の転生者じゃないよな。……まさかエヴァンジェリンがいるとか、言い出さないよな。

 

 

「――鋒吹丸っ!」

 

 

 ふと浮かんだ懸念に思考を流されつつ、打ち出されてきた角材みたいな鉄の棒を切断(カット)で弾く。

 思考しながらもしていた仕事の先には、躓いて逃げ惑う少女の姿があった。助けようとした誰かの攻撃? それを今弾いた。

 誰だ?

 

 

「っ、これをやったのは、お前らか」

 

 

 少年みたいな口調の少女。

 現状に怒り心頭なのは間違いない。

 しかし背後に従えた、四肢の無い馬みたいな亡霊染みたあれはなんだ? アレが今の『魔法ではない攻撃』の正体か?

 

 

「そうだ」

 

「なんで、こんなことをしている……っ!」

 

 

 ん? こいつ、転生者とは違うのか?

 このタイミングでやってきて、有角族ではない様子なのにそれを助けた。だから此処がどういう世界なのかを知っている敵かと思ったが。

 

 

「必要なことだからだ。離れていろ女、貴様に用はない」

 

 

 組み込まれた指令(コード)には人間は殺傷不可とある。俺はそれを無視できるが、一応の命令権は未だ造物主のものだ。

 だからこいつも現実世界人、そう判断したが。

 

 

「っ! オーバーソウルっ! 赤目嵐っ!!!」

『がってんでさぁ典如の姐御っ!!』

 

 

 ほう。

 その名称を扱う、ということはやはり転生者か。原作知識が無いとは珍しいが、敵であることに代わりは無さそうだ。

 

 少女の叫びと共に現れた兎の化け物が受け応え、いつの間にか肌蹴ていた少女の身体に鎧のように毛皮を覆う。恐らくはそれが彼女自身の最強の戦闘形態なのかもしれない。

 覆った毛皮が髪と同化し、ケモノノヤリみたいに髪を伸ばして兎の毛皮の少女が生まれる。手には短めの斧を構えて、手足も毛皮で覆われて本物の兎以上に凶暴性が垣間見える。

 むき出しになった攻撃色は俺へと向けられている。お陰で、『人間に』手を出せない1号と2号は静観を決め込む腹積もりらしい。

 

 

「……叩き潰す……っ!!」

 

「やってみろ」

 

 

 マントを翻して爪を構える。目は彼女のものみたいに赤く、血のように染まっていることだろう。要求したワラキアの攻撃能力を確保している俺の、今が本領戦となるのかもしれない。

 

 ――そこへ、

 

 

「ノーーーーーッ!!!」

 

 

 ………………なんか、胡散臭い外国人みたいな発音の男の声が聞こえた。

 若干の胡散臭さを感じつつ、声の聞こえた空中を見上げ、少女も意気を削がれたらしく、少々呆けた表情で声の方向である空中を見上げた。そこには、

 

 

「ノー、ノノノ、ノーデースっ! 喧嘩はノー! 心が荒む、仕方のないこと、デ!モ! そんなときこそ落ち着いて! 戦争を止めることが人類の第一歩なのデースっ! 戦争を止めるためにーっ! そんなときこそ私を見てぇーーーっ!」

 

 

 ………………………………………………なんだ、あれは。

 

 

「何のために生まれてー、何のためによろこぶー、わからないままおわるー、そんなのはノーっ! イッコールっ! それこそが美しいもののためにある唯一の時間っ! 美の鑑賞こそが人の世の真理っ! 今こそ私の真のお披露目っ! 今こそ素晴らしき造形をっ! 最高の芸術をっ! 貴方たちの網膜に焼き付けるのデースっ!!!」

 

 

 ひと叫び毎にポーズをくねっくねっと変化させる、ふっさふさの長髪に薔薇を一輪咥えた優男。そんな『変態』が、空中にて踊っていた。

 もう一度尋ねたい。なんだ、あれは。

 

 

「………………………………………………なんだ、おまえは……?」

 

 

 吐き気すら覚える表情で、少女が泣きそうな声で尋ねていた。俺も立場が違っていたらそうなっていた可能性が大で。

 

 

「!!! ンーーーフゥーーーっ!!!」

 

 

 そして、その変態は尋ねられたことにいっそうの喜びを見せ、くるくるくると回りながら地上へと降り立った。多分、喜んでいる。そんな声音だった。

 

 

「よくぞー、よ、く、ぞ、尋ねまーしたー。そう、ワタクシこそ、地上に降り立った天使の末裔!」

 

 

 叫び、掲げて絡めている両腕を解き、片手を伸ばしてもう片方の手を腰に当て、ポーズを決める。

 

 

「愛と! 美の! 麗しき楽園(エデン)よりの使者!」

 

 

 ひと叫びごとに、バッ、バッ、とポーズを変え、それにあわせて背後に佇むモヒカンのナニモノかが連動して同じようなポーズを決めていた。というかいつの間に現れたそいつら。

 

 

「インキュバスとは、ミーのことデース~」

 

 

 見ているだけで胃凭れしそうな、そんな粘りつく声音が彼女の近くで囁かれた。ご丁寧に薔薇まで差し出されて。

 やめてやれ。もう少女は泣きそうだ。

 

 

「――もっとマシな変態はいなかったのか」

 

 

 ――そして、それが陽動であったと気づいたのは、そんな幼い少年の声が聞こえた。実に遅れまくったその瞬間のことであった。




~アイロウ
 ラジオガール。続きは無いのか

~トライピースの情報
 報告、ではないのがミソ

~祈 典如
 ネギまを知らなかった転生者。漫画の世界に転生できるよ、と唆されて『友達を作れる縁が欲しい』というささやかな願いを曲解された哀れな少女
 友達を作るにあたって信頼できる相手を得るために人の心を読み取れる能力を付加、更にはその延長線である死んだ命との交渉能力も得た。お蔭様で友人となった3体の動物霊、馬の鋒吹丸、兎の赤目嵐、犬の雪房。それらを自身に宿らせて戦う才能まで得たシャーマン系少女。ジャンプは読んでいたらしい
 身長は148。小柄で年は中学生くらい。典如たんprprと書かれると再登場させるのも已む無しと思われる。というか主人公レベルで登場する可能性が大

~ケントゥム
 ネギまの続編だと聞いて期待しつつUQホルダーの単行本を購入、あんまりな内容にコミックスをブックオフへシュゥウーーーッ!超エキサイティン!していたらバイトの店員をやっていた転生神に、じゃあお前が変えてみろよ、と転生させられた少年
 ワラキアのメルティブラッド的な能力だけと言っていたけど、正確には誰かの従者になることでより強くなれるサーヴァンプ的な性質持ち。教えてやってよ造物主

~インキュバス
 ニコポを要求し、鏡の前で笑顔の練習をしていたら「なんだこの天使!俺か!」と惚れまくって脳内も暴虐的に犯された自爆系転生者。スペシャルなナルシストに変貌を遂げた彼の中には最早原作知識とか無いようなもので
 こう見えてトライピース・愛の部隊部隊長。世も末



ごめんね、文章なんか可笑しいけど、次回へ続くんだ


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『Asterisk』

前回の続きですわ
なんか微妙な出来になったことは認めざるを得ない


 

 ――話は小一時間ほど遡る。

 

 

「なんでここにいるんだ赤き翼(オマエラ)、メガロをぶっ壊した主犯格ってことで元老院から賞金かけられてるって聞いたぞ。とっとと出頭しろよ」

「壊した主犯はテメェだろーが!? さらりとヒトに責任なすり付けてんじゃねぇっ!」

「世間的にはオマエラだろ」

 

 

 なんでか知らんが、赤き翼の英雄未満の面子が王室の極秘来賓室にて待機していた。今や元老院自体の影響力は魔法世界一の最低値へと堕ちに落ち着いているわけだけど、こっそりとA級戦犯として限られた階級以上の者に通達が来ているこいつらの居場所が、こんなところでバレでもしたらヘラスの弱味にも繋がる。鬼の首を獲ったように喜ぶメガロの生き残った元老院のドヤ顔が目に浮かぶようだわ。

 つうわけで、帰れーぇ。

 

 

「ついでに言うと最近耳にする山賊染みた行為、オマエラの仕業だっていう意見もちらほら出てるんだけど。雷の最上級呪文をぶっぱした痕跡が残ってるんだってよ」

「それだよ! 俺たちはそれの犯人じゃねえ! それを証明するためにここにいるんだ!」

「おそらくだけど、俺たちの名前を貶めるために誰かが暴走してるんだと思う。そうでなければ、赤き翼の代名詞でもある『雷系』で証拠を残す意味なんてないからな」

「言うほど有名でもねーだろ、お前らは」

 

 

 一番のツッコミどころを指摘すると、赤毛と黒髪がぐうの音も出ない表情で顔を背けた。

 原作の時系列じゃ戦果を挙げて、大々的に大手を振って歩けているのであったのだろうけれど、今や後ろ暗い逃亡者。どうしてこうなったんだろうね?

 

 どうもこの英雄未満ども、オスティアの姫さんに伝手を頼ってわざわざヘラスまで身の潔白を証明しに来たらしい。のだが、正直潔白も何も、こいつらを必死になって追いかけているのは元老院ぐらいの暇人くらいで、広義においては“言うほど名前を知られていない”という前提があることを自覚していないようにも思えてくる。

 先ほどこいつらが主犯じゃね?ということも口走ったけど、犯人が誰かよりは再犯を防ぐほうに重視している国境警備の面々。そういう“真相を暴こう”という仕事は国の上の方がウィスパードしているくらいのレベルで、本当に犯人であるかどうかというのは至極真面目にどうでもいい問題でしかなかった。

 なかったけど、わざわざ語ることでも無いから黙秘でいっか。

 

 

「とりあえず犯人捜すってのはまあこっちとしては問題ないから許可くらい下りるだろ。で? 俺が呼ばれた理由ってなんなんだ?」

「うむ。それなのだがな」

 

 

 前にも顔を合わせたヘラスの重鎮らしきおっさんが、こっそりと耳打ちするように俺の疑問に応えてくれた。

 

 

「オスティアのアリカ姫からの推薦状も持っていたので信用はしたいのだが、正直本人たちの過去的に今ひとつ信用ならん。丁度いいレベルの使い手をお目付け役に備えようとしたのだが、それがお前以外にいないのだ」

 

「おいこら聞こえてんぞオッサン」

 

 

 ビキビキと赤毛バカがヤンキーみたいに青筋を立てている。が、知ったことではない。

 それにしたってアリカ姫の実名付きの推薦状を持ってきているということは、姫直属の配下と見て間違いない立場の赤き翼。こんな不審者を配下にしている辺り、オスティアの姫さんの人格を若干疑う。原作の修正力なのか、はたまたそれだけ実力が認められているとでもいうのか。

 それとも足を引っ張るためにわざわざこちらの国に派遣させたか? どういう意図があるにせよ迷惑なことをしてくれる。

 

 

「引率の先生役に更に年下を用意するって、人道的にどうなのよ?」

「お前がそんなことを気にするタマか」

「おっさんがやれよ」

「わしはこう見えても国の重鎮だから。こんなことで時間をとられるのは御免なのだ」

 

 

 アリカ姫とやらの推薦状をぐいぐいと、互いに押し付けあう子供とオッサン。

 

 

「おめーらいい度胸してんじゃねーか……!?」

「ナギ、落ち着きなさい。私たちの所属するオスティアはヘラスと同盟を組んでいるのですし、一応は密命を受けている身です。騒ぎを起こすわけにはいかないのですよ?」

「でもよー……」

「…………そうだ! それなら模擬戦をしようぜ! コブシを交えればどんな人間かお互い分かり合えるだろっ?」

「おっ、いい考えだな! さすがはガチョーだぜ!」

「ガチョーって呼ぶんじゃねぇっ!」

 

 

 ふざけんな脳筋。

 押し付けあっている間に変な方向へと話題が進んでいる。そもそも俺は分かり合うつもりも端から無いので、その提案も正直犬の糞にも劣る。

 

 

「マリー、代わりに戦っておいて」

「う、うっうー……」(困惑)

「女子を前に押し出すとかそれでも男か!」

 

 

 黒髪のガキにそんなことを言われた。が、提案したのもオマエラの一方的なものだし、そもそも俺がその話を飲む謂われも無いし。ついでに子供だから良いんですぅー。

 間に挟まれたマリーはマリーで、若干引き気味であるのも仕方がない。戦えば首が落ちる(相手の)というのも理由かもしれないけど。

 

 

「こぇーのかよー、ヒューヒュー、ヨナたんビビッてるぅー」

「誰だヨナって。つうか魔法使いが隠密で戦うとか無理にも程があるだろうよ」

 

 

 場所も暇も、此処には無い。素直に帰れば良いのにコイツら。

 人を煽っても暖簾に腕押しだったことに不満だったのか、黒髪が舌打ちし、赤髪が腕を振り回す。

 

 

「難しいことは関係ねぇ! 要はどっちがつぇーかを決められればそれで良いんだよ!」

「良くねぇよ。やらねぇって言ってるだろうが」

「なんだよお前、それでも男か!」

「聞き分けねぇな、それでも年上か」

 

 

 うざい。果てしなくうざい。

 

 

「まぁまぁ、スプリングフィールドさんも師匠も落ち着いて。怒っていてもいいことないですよー、スマイルスマイル♪」

「俺は別に怒っちゃいない」

「っ、お、俺も怒っているわけでもねーしっ。ただ、」

「ナギ。そこで言い訳を繋げるのも男らしくないぞ」

 

 

 詠春さんの追撃にむくれて黙る赤鶏冠。というか、マリーに間に入られたとき、なんか顔が赤かったのは気のせいじゃないよな。

 どうでもいいけど、こいつが男だってこと……、言う必要ないよな?

 そんな微妙すぎる風景を余所に、懐のコインが救難のシグナルを発した。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 救難信号に駆けつけるはトライピースの、一番近い場所にいるらしい部隊長2人と副隊長。そう拾った情報にあったわけで、時間を合わせるようにまっすぐ飛んでゆく。

 

 

「こっ、これ速いな! 良く分かったなこんなアイテムがソーセイの蔵にあるって!?」

「俺もあるとは思わなかったよ」

 

 

 ハングライダーみたいなマントをあまねだちとかいう金髪の異次元蔵から引きずり出し、赤き翼と俺の全員で個別に装備して飛び行く。マクロドライブで射出するのも考慮に入れたけど、隠密である以上それは着弾点が惨劇になるだけだから却下。何かないかと考えていたところに、前回の彼らの戦いを思い出し、不思議アイテムを収納しているのなら何かないものかと手を突っ込んでみたわけである。ちょっとくすぐったいぞ。

 思いのほか用途に合ったアイテムをサルベージできて結果は上々であったのだけど、金髪君は中にこんなものが入っているとは思いもよらなかったらしい。まあ件の青い狸も全部を全部完全に把握している風じゃなかったみたいだしね、劣化四次元ポ●ットならそうなるのも仕方なかろうよ気にすんな。

 それにしたって飛行能力もそうだけどスピードの出方が半端ない。このままならばル●アの処刑にも余裕で間に合いそうな勢い。あっ、斬月忘れた。

 

 

「――と、もう其処みたいだな」

「よっしゃぁ! ニセモノはどいつだーっ!?」

 

 

 先に到着して制圧を仕掛けているトライピースらしき人物を目視で確認し、その俺を追い抜いて突貫してゆく赤鶏冠。

 さぁーあ、夜会≪サバト≫の始まりだ。我は求め訴えたり!

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

『――そんなに見たければ見せてやる。レリース、ショートカット“氷輪丸≪ヨルムンガルド≫”!!!』

 

『『『『『『『『『『『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!???』』』』』』』』』』』

 

 

 気がついたら遥か遠方にて、氷の龍が暴れていた。

 余りにも酷いキングクリムゾンに加えて、理解の範疇の外側の光景を目撃。典如が混乱するのも無理はない。

 

 こうなった経緯を簡単に説明すると、完全なる世界の暴虐に立ち向かった典如を止めに入ったインキュバス、それを囮にソラと赤き翼の面々が参戦したのが数分前の出来事。その典如と集落の生き残りはナイスなタイミングで現れたファウストの采配によって異次元へと避難が成功した。

 しかし、突然登場した原作にはいないはずのキャラクターを『ヨルムンガルドのヨナ』かと疑問に思い口に出したのが、完全なる世界のケントゥム。その寸前から知らぬキャラクターを挙げられていて理解の外であったソラが、そんなに見たければ、と術式を解放した結果が、これである。

 

 ドーム状に覆う分厚い雲と、乱気流と雹と雷の絶え間ない奔流が典如のいる場所から遠目に見える。中に置き去りにされた何人もの襲撃者と救助隊が、纏めて嵐に晒され悲鳴を上げているのが良く見えた。

 障壁も意味を成さないくらいの何某かを、ソラが仕掛けているのかもしれない。

 うわー、と可哀想なものを見る目で遠い目をしている白と黒の翼状の何某かを背に携えている少女デイジィと、物言わぬ紙袋の長身の白衣ファウストが敬礼をしているのが、彼らの現状と未来を端的に表していた。

 それを見て、典如もそっと祈りを捧げた。どうか彼らに安息が訪れますように、と。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

『――世界全てが敵、良いではないか。こちらの兵はたったの9人、だが最強の9人じゃ

 ならば、我らが世界を救おう。我が騎士ナギよ、我が盾となり剣となれ』

『へっ、相変わらずおっかねぇ姫さんだぜ

 いいぜ、俺の杖と翼、あんたに預けよう』

 

 

 数日後、とある丘の上にてなにやら舞台染みたことをやっている集団に典如は遭遇した。

 金髪の二股眉毛美女は見た覚えはないが、その他の面子は数日前の集落襲撃犯と一緒に吹雪と雷雨の嵐に蹂躙されていた赤き翼の面々である。行く先々で出会うのはともかく、こんなところで何を演劇みたいなことをやっているのかと、思わず胡乱な目で典如は彼らを見る。

 

 

『――他人の家の前で何やってんだお前ら』

 

 

 訂正。彼女以外にも胡乱な目を向けるものがいた。

 奥の方にある掘っ立て小屋に住んでいるのだと聞いて会いに伺ったはずの、あの日に遭遇した少年兵が件の小屋から顔を出し、10人程の男女に向かって愚痴を零していた。

 

 

『うむ。完全なる世界と名乗る連中がまたもや戦争を起こそうと躍起になっておる。そこで、それを阻止するための勇士を募ろうと、先ずはお主に声をかけに参ったのじゃ。手を貸してくれ』

『それが人に物を頼む態度か。帰れ』

 

 

 小学校にも上がってないであろう少年が、歯に衣着せぬ物言いで二股眉毛の金髪美女の言い分を切って捨てる。

 その対応が予想外だったのか、二股(以下略)はううむ、と唸り、

 

 

『何故じゃ? 世界を救うことはヘラスの安寧にも繋がるであろう? お主は戦争を止めるために戦い、弱きもののために立ち上がっていたと耳にした。またあの悲劇を繰り返さないためにも、もう一度立ち上がってはくれぬか? 今度は味方として、共に戦おうではないか』

『誰のことだよそれ、すげぇ鳥肌立ったわ

 そういう観念的でご立派な大義名分はどうでもいいんだよ。問題は、俺が手を貸すことが当然みたいに勧誘に来ている現状だ。何も支払うものも提示しないで商品を要求とは不逞ぇやつらめ』

『そんな子供のうちから見返りを求めるような生き方は、正直どうかと思うぞ?』

『騙されねぇー、尤もらしいことを口にしながら俺に対する保障を口にしない時点で信用ならねぇー』

 

 

 ある意味至極尤もな返答を少年兵に返されて、屈んで言葉を続けた二股(以下略)はちょっと困惑していた。

 確かに言い分も尤もかもしれないが、女性の言ったように子供が口にすることではないのも事実。典如は事の成り行きをどう見計らったものかと、少しだけ途方に暮れる。

 

 

『おい! アリカ様が頼んでいるのだから応えたらどうなんだ!?』

『まぁ待てタカミチ、そう言えば身分を明かしていなかったな。ウェスペルタティア王国第三皇女、アリカ・アナルキア・エンテオフォシュアじゃ。好きに呼ぶとよい』

『そう。じゃあとりあえずアリカさん。帰れ』

 

 

 頑なだった。

 しっしっ、と手を払う仕草で掘っ立て小屋へと戻ってゆく少年兵に、最初に憤慨した子供が更に切れていた。

 

 

『~~~っ!!! なんなんですかアイツはっ!? 皆さんもなんであんな奴に好きに話させているんですかっ!』

『いやぁ、そうは言ってもな。アイツのキャラクターがあんななのは元から知っていたし』

『ああ、正直こうなるんじゃないかとちょっと予測してた』

 

 

 それを宥める、というよりは火に油を注ぐような発言をするのが赤毛と黒髪の少年たち。数日前の余波の影響か、火傷と凍傷でボロボロなところを包帯でぐるぐる巻きになっている赤き翼は力なく笑う。

 その彼らの後を継ぐように、タカミチと呼ばれた少年と同じくらいの少年が口を開いた。こちらもボロボロである。

 

 

『じゃが、奴の実力が確かなのも、身内に戦力として確保できれば最も安心できるのも確かなのじゃ。まかり間違って完全なる世界へすかうとされたりすれば、目も当てられん』

『帝国からも相応に信頼されているようですしね。しかし困りましたね。三顧の礼をしようにも今の私たちには時間もありませんし……』

 

 

 女みたいな美形の男性が言葉に賛同しているところへ、丁度別の影が転移してくる。

 その転移してきた人物は、軽く追い払われて若干傷ついている様子のアリカを見つけると、ずかずかと近づいてゆく。

 

 

『アリカ様! こんなところに居られましたか! もう会議を始められますぞ! 完全なる世界めに目に物を見せてやりましょうぞ!』

 

 

 仲間、いるんじゃねーか。

 

 

『む、朱雀院か。少し待て、今頼りになる人物に伺いを立てているところでじゃな、』

『そのような何処の馬の骨ともわからぬ輩なんぞよりも我らのほうがずっと役に立ちます! ウェスペルタティアの魔導兵を、たかが傭兵と同列に扱うとは! アリカ姫は冗談がお好きのようですなあ!』

 

 

 目が笑っていない。

 なんだか強面の額の広い青年は、少年兵をdisりながらてきぱきと転移陣の構築を用意してゆく。それはアリカの周りのみに準備されており、他の赤き翼の面々すら彼にとっては邪魔者である。と口にしているようにも思えた。

 

 

『おいキリー、俺らの分の転移結界は?』

『話しかけるなゲスが。貴様らのような犯罪者もどきがアリカ様のお眼鏡に適うことすら苦痛なのだ。集閣会議には参加させぬからな』

 

 

 訂正。実際思っているらしい。

 これが王国の総意なのか、それとも彼個人の志向なのかはわからないが、赤き翼が大手を振って歓迎される状況ではないのは何処でも同じなようである。

 

 

『なぁ詠春、コイツぶん殴っても良いか?良いよな?』

『落ち着けバカ。姫殿下には疑いの目を向けられていないとはいえ、一応俺たちは指名手配中なんだ。そんな対応をされるのくらい当然だろうが』

『勘違いするなよ。指名手配犯であろうとなかろうと、お前らのことなんかゴミくず同然だと思っているんだからな』

『はっはっは、朱雀院は相変わらずツンデレだなー(棒)』

 

 

 黒髪の少年が時代的に理解できないことを口走ったことを締めに、アリカは転移で消える。続けるように朱雀院と呼ばれた青年も消えていった。

 それで少年兵の勧誘は今日はもう諦めたのだろうか。口々に愚痴をこぼしつつ、丘の上から去ってゆく赤き翼の面々。

 以上の寸劇を終始目撃していた典如には、誰も触れないままに去っていった。

 

 

「………………見えてないわけじゃないよね?」

 

 

 思わず自分が幽霊か何かになっているのかと、己の身体を見直す典如。ついでに自分に憑いている三匹の動物霊らにも、伺いの視線を向ける。三者三様であるけど、それぞれ問題ないよ、と応えてくれた。

 そうしてとりあえずの準備をし直して、典如は小屋へと声をかけた。

 

 

「すいませーん、少々お尋ねしたいのですけどー」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 面倒くさい奴らを追い払った直後に、我が家へと現れたのは記憶にない少女だった。

 年齢的には年上だから、少女と呼ぶには憚られる気もするけど。幼い感じはまだ抜けない様子なので、背も低いし少女で良いと判断して表現する。

 つうか、いい加減この場所から引っ越したほうがいいかなぁ。と新たな住処を思案しかける。

 

 

「――で、先日集落襲撃の際に、助けていただいたものなのですけど……」

「ああ、はいはい。なんか御用でもあったかね」

 

 

 銀河に思いを馳せるかのように、思考が明後日の方向へと吹き飛びかけていた俺を引き戻したのは少女の声。

 それにしても普通だ。小学生にしては落ち着いているので中学生くらいかな、と見て取れるが、原作キャラでもないのに素朴系美少女としてキャラが立っているようにも見える。

 それなのに普通って、どういうことなのかと問いたくなるけど。

 

 

「あの、失礼ですけど、貴方って旧世界の人……?」

「ん? なんでわかった?」

 

 

 見た目年下であるからだろうか、彼女の口調はなんだか若干言い辛そうにも感じられる。敬語を使った方が良いのか、はたまた年下に対するので構わないのか。彼女自身判別に困っているようにも見て取れる。

 こちらとしてはどちらでも良いけれど、どちらでも良いのでわざわざ口にはしない。

 そんな彼女から出た次の言葉に、俺は思わず興味を惹かれた。

 

 

「貴方のオーラ?が、魔法世界の人にしては奇特で。なんだろう、守護霊が憑いている人が、そんな感じ……かな?」

 

 

 オーラ。

 心当たりは若干ある。

 

 

「……ひょっとして視える人?」

「うん。こっちの世界に来てからは私以外ぜんぜん見なかったから、ひょっとしたら、と思って……」

 

 

 視える。つまりは幽霊とか亡霊とか悪霊とか――――――スタンドとか。

 

 そう判別した俺は、背後にインストールドットを顕現させて、

 

 

「――何が、視える?」

 

「わ、え、えっと、カラス? 人型の……」

 

 

 一瞬驚きつつも、しっかりと俺の背後へと視線を向けてそう断定された。

 はい。確定。

 

 インストールドットを仕舞い、茶を淹れた湯呑みを差し出す。

 久方振りに興味を惹かれる客人が来た。

 

 

「まあまあ、飲んでくれ。下らない勧誘や苦言や感謝の言葉なら追い返しているところだが、少し話をしてみたい。一先ず名前を教えてくれ」

「あ、ど、どうも。えっと、典如です。祈 典如。貴方、は?」

「こちらは烏丸そら」

 

 

 久しぶりに、自己紹介というものもした気もする。

 

 

「日本人だったんだ……。ソラ、くん? ソラさん?」

「呼びやすいほうで良いかな」

「じゃあくん、で。ていうかその歳相応に見えない話し方、ひょっとしてキミも神様に会ったクチ?」

「……否定はしないよ」

 

 

 やはりこの娘も転生者か。多いな、この世界線。

 

 

「わ、初めて会った。同類の人」

「というか、オーラとやらで判別は出来ないのか」

「そっちの視覚は勝手に見えちゃうんだけどね。長い付き合いだし、一応は見ないように制御かけていたんだ。見えるとその人の心の中まで、ある程度の思考の方向性が見えてくるから、向こうにいたときはちょっと人間不信気味だったなぁ」

 

 

 人間不信の割にはよく喋る。

 

 

「俺をひと目で判別つけた、ってさっきは聞こえたけど?」

「ソラくんのは、見ないようにしていたのに見えちゃったっていうか。目を逸らしてもオーラの種類が丸わかりだったから」

「種類?」

「憑かれてるタイプの人」

 

 

 スタンドは悪霊扱いですか。何処かのガクランの牢屋住まいを思い出す。

 つーかさっきと言ってるニュアンス違ってないか。

 

 

「私も動物霊に憑かれているから。あ、心の方までは見てないよ。ていうか、こういう憑かれている人は別のオーラで覆われているから、本人のまで見えないって言うのもあるけど」

「本物のサトリじゃないだけマシかねぇ。つうか動物霊? 見覚えないのはそれが原因か?」

 

 

 見覚えのないという言葉に苦笑いの典如。

 いや、実際あの場に居たと言われても見覚えないから仕方なかろー。

 

 

「あのときはオーバーソウルしてたから……」

 

 

 シャーマ●キングか。

 心を見透かす、というのも似通っているし。ひょっとしてそれが特典かね?

 ……俺の特典って、そういや結局なんだったんだろ……。スタンドは使える奴結構いたし、ATフィールドは心の壁だし……。

 

 思わず心中で浮かんだ疑問に悩まされるも、典如はこちらの心中には気付いた様子はない。

 こっちが黙り込んだのを自分が要因なのかと思ったのか、

 

 

「じゃ、じゃあちょっと見せてみようかな

 ――オーバーソウル! 赤目嵐!」

 

 

 そう言って、背後から現れた兎耳の怪物を自身へと纏わせ――っ! ほほぅ……。これは見事なバニーガールだ……。

 肉感的には大分物足りないけれどもコレはコレで尚良し。思わず目が釘付けになってしまうのも仕方ないかと思われる。

 つうか、俺ってなんかつくづくこういう兎に縁があるような。俺の嗜好を的確に突いてくる奴ばかりと出会うのは、どういう運命なのだろうね。

 

 

「赤目嵐は私の体毛を素体にしていてね。近接戦が得意な状態かな、これで」

「強化外骨格みたいな状態か」

「きょ……? うん、まあ、よくわからないけどそういうこと、かな?」

 

 

 おい。本人が一番わかってないっぽいぞ。

 つうか、若干俺の知ってるオーバーソウルとは別物に思えるのは気のせいなのかね?

 

 

 




~氷輪丸≪ヨルムンガルド≫
 氷の精霊を召喚するのではなく、天候操作でもなく、天候再現の術式。中心に聳える氷の龍は赤いギャラドスもビックリな電波塔の役割を持ち、そこから半径数百メートルに渡って吹雪と雷雨の豪風雨、某天空の城の映画に出てきたような“竜の巣”を3時間~半日ほど再現する空間を展開する
 氷の龍は術式の核である使い手を守るシェルターの役割も兼ねており、ちょっとやそっとの攻撃では傷一つ付かない。また、変化したフィールド内は魔力ジャミングまで展開しており、“闇の魔法”に匹敵する掌握術式を備えていないと魔法を使うのもままならない。障壁もほぼ無効化されるので、筋力だけで突破する必要性が出てくる地獄みたいな3時間
 ちなみにルビがこうなったのはデビ●ルのヨルムンガルドが氷属性だった、というしょうもない理由

~朱雀院キリト
 本名、クラディール・オ・レンジ。魔法世界人で転生者
 どういうキャラなのかは、名前で察して欲しい

~典如たんprpr
 書き込み多かったから再登場。以後もまだ登場予定
 口調が安定しないのは仕様です



なんだか長ぇし尻すぼみなry
スランプなのかなー…
好きな話を書いているはずなのにちょっと前へと進まない
書く必要性があるのに面白くない部分ばかり進めているからかも知れん
心機一転してかなりくだらないギャグでも書きたい所存


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『えんぜるわっしょい!』

お久しぶりです更新です
頭空っぽにしてお楽しみください


 

 

 

≪朱雀院キリトの苦難の日々またはクラデュール・オ・レンジの滑稽な人生計画≫

 

 私の名は朱雀院キリトという。

 此処魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫に生み落とされた転生者というやつだ。

 神を名乗る老人から『魔法を剣の形に凝縮できる能力』名付けて『黙示録の魔剣≪アポカリプス・バルムンク≫』を授かり、魔法界では珍しくもないので違和感がない筈であろう銀髪でクリアブルーとクリムゾンレッドのオッドアイ。紛う事なき美形の青年。それが私だ。

 ……本名が覚えのある創作物にアレ過ぎる響きだったので、思わず改名してしまったのは遺憾だが。

 あれこそが黒歴史だ。だからこそ私は、捨て去ったかつての名を語る気はない。俺の、いや、私の本名は≪朱雀院キリト≫だ! それでいいじゃないか!!!

 

 コホン。

 そんな私だが、今現在は由緒ある国である≪ウェスペルタティア王国≫の姫殿下の近衛兵を務めさせてもらっている。

 生まれこそ没落貴族で、家柄知った瞬間に「詰んだ」と悲嘆に明け暮れた日もあったが、私の実力を買っていただいた騎士団の先輩方には頭も上がらない想いである。そんな先輩方も先の戦争で勇敢に戦った勇者たちであった――。是非とも墓前には高価な花を飾らせていただくので、安らかに眠ってほしい。

 さて、王族の近衛兵となれば騎士団の中でもエリートコース一直線なわけなのだが、かてて加えて警護に当たっている姫殿下の美しさは天井知らずである。

 前世にて読んでいたラノベならば、間違いなくメインヒロインクラスの美貌。そして私が『転生者』という特別かつ特殊な立ち位置の人間なれば、間違いなく私こそがこの世界の『主役』の座を握っているはずだ。

 リアルプリンセスラバーキターーーーーー!!!

 ………………と、逆玉の輿を想定していたはずだったのだが、ちょっと想定外のことに晒されて少し困惑しているのが最近の日常である。

 この世界にネットが繋がっていれば、某掲示板にて解決策を安価で急募するくらいには困っている。我が脳内の『オマエラ』よ、今こそヘルプの時である。

 

 まず、戦争があった。

 世界を二分する大規模な戦争が起こり、我らが王国も両陣営から狙われていたのか、間に挟まれ激戦が治まらない日々が続いた。

 今でこそ護衛をしている私だが、当時は騎士の一兵卒であった。そんな私が成り上がれたのも『騎士団大量虐殺事件』という生首がゴロゴロ乱雑に散らばった挙句に土地そのものを崩壊させられた『グレートブリッジ陥落戦』が根本にあるのだが、今はその話は置いておこう。

 幼馴染の一人もいないままに戦争が始まった、などというギャルゲーでは有り得ない展開だが、これがエ●ゲーなら戦場で生まれる恋もあり得るかと思いきや、遭遇したのがそれこそ黙示録かと間違いそうな超局地的災害魔法の混沌である。引き起こしたとされている赤き翼は絶対に許さない。絶対にだ。

 そしてその問題である赤き翼が、こともあろうに姫殿下に群がっているのである!

 おいふざけんなよ糞共がテメェラ誰のヒロインに勝手に近づいてやがる距離をとれ距離をこれだけ威圧してもわからんのかよクソガキがぁあああああ!?

 

 ――ふぅ。

 

 そして、そんなクソガキを出し抜いて、今私は『夜の迷宮』に捕らわれの身となっている姫殿下をお助けするべく馳せ参じた次第であった。

 待っていてくださいアリカ姫!

 この朱雀院キリトが! 今こそ貴女をお助けします!

 そしてその暁には……っ! ぐふゅ、ぐひゅひゅふひゅひゅ――以下自粛――

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 さーて、どういたしましょうかねー。

 皆様こんにちは、首狩りメイドのマリーです。うっうー!

 今私は、なんでか知りませんけど≪夜の迷宮≫とかいうなんだかエロティックな名称の場所にて、捕らわれのヒロインもどきをやっております。

 ……いえ、逃げようと思えば逃げられるのですけれども、捕えた人たちの狙いは私が本日御付であるヘラスの第3皇女であらせられるテオドラ殿下――ではなくて、会談ということでご一緒におられたアリカ姫だったらしく……。

 ……正直、メガロ側であったこの人を、私が守る必要性なんて微塵もないんですよねー……。

 でも連れ出さずに逃げたら帝国にも居づらくなりそうな気もしますしー、アスナ様にも良心の呵責から顔向けできなくなりそうですしー。

 ……めんどくせーなー、全部ほっぽって逃げちまうか……でもそうしたら師匠が怒るかも知れないし……。

 ぶっちゃけ大した面識もないであろうアリカ姫を放置するよりも、一応は国を挙げて迎え入れ準備万全である帝国の第3皇女殿下を放り投げるほうがずっと師匠には怒られそうな懸念でもあったりします。

 でこつんさせられてしまいそうですー。

 うっうー(´・ω・`)。

 

 あ。

 捕えた人たちが、なんだか私を見る目が若干やばげ。

 師匠を見るお城の女中さんたちみたいな目ですね。

 →ロリコンの目だよあれは!

 →貞操の危機です!はわわ!

 →もう全部ぶっち斬っちゃって良くない?

 

 ですね。

 それでは、お仕事お仕事ー。うっうー!

 

 

「アリカ様! 助けにk

 

 

 

 

 

≪祈典如の冒険でしょでしょ!?≫

 

「見様見真似、九頭龍閃!」

 

 

 一体誰のを見真似たのか。

 そら君改め師匠さんが、頭身以上の槍だか鉾だかで迷宮の魔獣をざっくばらんに解体した。

 つよい(確信)。

 

 

「――はい、やってみ」

「無茶な!?」

 

 

 縮地が使えるお人の基準で、一般奴隷に毛が生えた程度の小娘になんという無茶振り。

 この人についていくのは早まったのかなぁー……。

 だがしかし、他に碌な選択肢がないというのも事実なので、私は今日も冒険という名の修業を執り行う。

 ハローハロー読者様。

 読んでいる方がいらっしゃるかは甚だ疑問ですけれど、徒然なるままを日記みたいに書いてみてます典如です。

 文章に残すことのリスクは百も承知ですけれど、思考を整理することに一役買うらしいからと、お師匠の教えの下に執筆活動中です。

 ちなみにタイトルはせめてもの抵抗。

 日々が冗談にならないので冗談ぽく書いてみた。

 読む人は私の扱いに咽び泣くといーよ!

 

 私との邂逅にて色々思うところがあったらしい師匠さんは、雪房とか赤目嵐とかと話をし、何やらこの世界についての造詣を一層深めたみたいでした。

 私? 話についていけなくって途中で挫折。

 少なくともこの世界には幽霊の類は私に憑いてきている三体以外にはいないらしい、ということは理解できたっす。

 あとの例外は師匠のスタンド?くらいだとか。

 理由については師匠が色々考察していたけど、あーいうことを語るのが好きな人なのかなー、ってスルーに近い形で放置してたらふてられてしまいましたです。

 ふて寝する少年が可愛くて、ちょっとショタコンでもいいかも、と思いかけたことは墓の下まで持ってゆく。

 ちなみに鋒吹丸は無口ちゃんなので、会合には参加せずに私ともふもふしてました。

 

 ――で、問題だったのはその先の事項。

 なんか私のオーバーソウルってシャーマン●ングのアレとは結構別物であるらしく、使うごとに寿命とかそういったものが削れてしまっていたらしい。

 マジっすか、と驚愕の真実にびっくりな私。

 それをなんとかするために、今現在修業の真っ最中であるわけでありまして……。

 ――一般魔法を一通りと最低限の体術をハー●マン軍曹張りに仕込まれております……――。

 

 

「――あれですか、師匠は私に泣いたり笑ったりできなくなれと暗に言っていますか……?」

「いやいや、そんな機械みたいな人間を作る気はさらさらないよ? 泣いたり笑ったりしながら人並み以上のことをできる人間が生まれるほうがずっと有意義さ」

 

 

 その割には烏丸ブートキャンプがハードモード以上にルナティック。

 要求レベルが割高で、最近死んだように眠る日々が連日連夜です。

 自衛隊の訓練って、こんな風なのかなぁ。

 

 

「何しろ個人スキルが命がけだからなー、それに頼らない生存戦略を組み立てるのは必須だろ? 出来ることが増えるのはそれに越したことはない」

「……コ●ン君って師匠みたいなのかなぁ」

「おい、現実逃避するな」

 

 

 基本的に魔法を覚える必要性がこれまで皆無だとばかり思っていたわけですから、一からまた学び直すのがまた面倒で面倒で。

 それに合わせて体術訓練を強いられておりますが、この人の基礎レベルがなんか普通におかしい。

 呼吸と同時に踏み込みをしろとか、武器を構えて突くんじゃなくって構えた瞬間には遅いとか、判断以上に反射神経を優先させろとか、要するにノーモーション(無拍子)で体幹を組み立てろとか。

 それって何処の達人レベルの修業ですか?

 第七感覚を目覚めさせろ、とか、甲羅を背負って牛乳配達しろ、とか。そういう分かりやすいレベルの修業が望ましいです先生!

 

 

「そうこう言ううちに、第二波がきたぞー」

 

 

 お休みは終了のご様子。

 師匠の声と同時に、砂煙を上げて襲い来るのは腹を空かせた魔獣の群れ。

 ……うわぁー、目がすっごい血走ってるぅー。

 

 ……せめて魔法剣を作る師匠の技術を教えてください!

 重力場を発生させるその槍とか!

 この鋼の剣(RPG風)だけだと心許無いです!

 

 

「基礎が出来てからな」

 

 

 チクショー辞めてやる!現実なんて辞めてやるー!

 

 

 

 

 

≪烏丸先生のハートフルボッコ魔法界講義初級編≫

 

 霊が見えるという少女、典如を拾って大体二週間ほど。

 俺たちは彼女の修業のためにダンジョンと魔獣で溢れかえっているRPGの本場、所謂≪夜の迷宮≫にてキャンプを張っている。

 見た目年上を少女と呼ぶには語弊を招くかもしれないけれども、“前”での俺より年下に見える中学一年生くらいなのだから、もうそれでいいだろう。

 こっちも別に敬ってほしいとか、態度に気を付けろとか、そういうことを言うつもりはないのだからお互い様、というやつである。

 ちなみに≪夜の迷宮≫と聞くと、なんだか記憶の片隅にイベントが張ってあったような、原作知識が警鐘を鳴らす気配を微かに感じるわけだけど。

 ……まあ迷宮区もそれなり広いし、鉢合わせるとかそうそうないだろ。うん。

 こっちも一応の目的あってのことだから、出会ってもスルーしておけば問題ない筈。

 

 典如の修業、と書くと俺を知るものならば違和感を覚えるだろうけれど、彼女の場合は“いつものように”魔法圧縮コードを身体へ埋め込むのは憚られる。

 別にこいつの体を気遣ったとかそういうわけではなくて、特典の消失が関わるから手が出せないわけで。

 なんでそれを知るかって?

 実行済みだからだよ、言わせんな恥ずかしい。

 

 インキュバスのやつは簡単な重力魔法を埋め込んだ程度で二コポが消え去ったし、他にも2・3人転生者らしきレアスキル持ちを改造したらレアスキルが消失した。

 どうにも俺の圧縮コードとの相性は頗る悪いらしい。

 致命的なのが『幻想殺し』を持っていたやたらと説教の長い少年だったのだが、作って使いどころのなかった龍化魔法を埋め込んでみたら途端に無口になってしまった。

 作品準拠ならば異能を悉く破壊するはずの右手のはずだったのだが、何故かスタンドとかスタイルとかは無効化できなかったので普通に圧倒できたのだけど。

 魔法自体は大体無効化できているらしかったから、あのままだったらナギ程度には勝てるように成長できていたかも、と思うと若干悔やまれる。

 面白そうだったのだけどなぁー。

 こちらを転生者だと決めつけて殴り掛かってきたので思わず『捻じ伏せ』てしまったわけだが、作品に準拠するならあれは魔術基準世界だから魔術を下積みとしている異能を破壊可能なだけであって、そのままだと多分別の世界線じゃ役立たずのままに終わるのだろう。

 憶測だけれども、転生特典も無効化できるように転生神に調整してもらった可能性が、……無きにしも非ずな微妙な芳香が微かに芳しい。まあ、俺のは特典でもない別世界の法則に則ったらしき技術だから無駄だったのだろうけど。

 典如の話を聞いても思ったが、件の転生神は碌な事を仕掛けないのだなぁ、とやや呆れる。

 今じゃあどれも想像するしかできないが。

 

 件の少年、名を雲蔵といったか、が今どこで何をしているのかは全く持って不明。

 トライピースにも入った様子はないし、生きてるのか?

 

 

 さて、そんなもうどうでもいい話はさておいて。

 夜の迷宮くんだりまで足を運んだのは、簡単に言うなら火事場泥棒みたいな理由だったりする。

 レアな魔法アイテムが眠っていると聞くので、ちょっと漁りに。

 

 ――いや、そんな目で見ないでよ。

 構造がどうなっているのか、ちょっと気になっているだけだよ。

 大体調べ終えたら売るだけだからさ。

 リライトが小刻みに発動しだしたんだから、今のうちに拾えるものは拾っておくべきだと思うんだよね。

 それというのも、霊を見えるという話を聞いて、疑念があった魔法界の事情に少しだけ解析の目が向けられたからなわけだけど。

 

 魔法界の死者が欠片も霊化していないということは、戦争の死者は全員が“完全なる世界”へと還元しているとも考えられるのだが、俺はそこにちょっと待ったをかけたかった。

 そもそもアスナ不在の状況で、リライトが完全に発動しているとは若干疑わしい。

 そこは造物主の手腕が関わっているのか?とも考えられそうだけど、それ以前にリライトの使い手以外の手で死んだ奴らの霊も存在してないということは、完全に消滅していることを指す。

 そんな高度な技術が全員に備わっている世界?

 その時点で眉唾過ぎる。

 ――となれば、“世界自体”にその下準備が備わっている、と考えたほうがむしろ自然な理屈が当て嵌まるわけだ。

 

 この世界で死んだ命って、魔力になって循環するんじゃね?

 円環の理に還るとか、そんな設定があるとかさ。

 

 原作の最後の方、明日菜が魔法世界を再構築したシーンに、少しばかりの突っ込みを入れたいわけですよ。

 それができるんなら、栞のお姉さんも蘇らせられるんじゃねーですかね?って。

 魔法界においての完全なる死者と、リライトによって不完全に消失させられた被害者と、差異は一体何処にあったのかと。

 俺としてはそこが少しばかり気にかかる。

 もしこれが、復活させられなかったのではなくて復活できなかったのだとしたら、そこには相応の理由が眠るはず。

 そう考えた末の、件の疑問。

 

 世界自体を構築している魔力の脈動が存在していて、死者は漏れなく其処へ還る設定が出来上がっているのだとしたら。

 だとすれば、霊を見れなかった、という事実も理解できる。

 

 さてそんな事実を知った以上、俺としてはリライトには少しばかり抵抗したい。

 せめて不完全すぎるあいつらの手筈をどうにかこうにか改造できないものでしょうか、と少しばかりの参考に魔法アイテムを乱獲するのが正当な理由。

 どーよこの理論武装。

 そんなに疑わしいならば見てろよ?

 悪の組織も正義の味方も、どちらの勢力も壊すことなく、俺が魔法世界を救ってみせる!(キリッ)

 

 

「師匠師匠、なんか無駄にカッコいい顔つきしてるところ悪いんですけどちょいご相談が」

「なんだよ無駄って。カッコよければいいじゃねーかよほっとけよ」

「いやだって小学校上がらないくらいの男の子がそんな顔つきしたところで、ねえ?」

 

 

 うるせぇな。

 年齢(そこ)は言うなよ、気にしてるんだから。

 

 心の中で大言壮語且つ主人公キャラ気取って騙っていたら、なにやら用事のある典如に突っ込まれた。

 なんすか、何の御用?

 レアアイテム見つけた以外の用事だったらスルーな。

 

 

「壁突き抜けて甲冑騎士が吹っ飛ばされていったんだけど、穴の向こうに女の子が何人か捕まっているって、雪房が」

 

 

 ん? 山賊かなんかの住処だったのか?

 

 ――そんな呑気な気持ちで顔を覗かせたことを、俺は暫く後悔する羽目になる。

 

 

 




~黙示録の魔剣
 アwポwカwリwプwスwバwルwムwンwクwww
 所謂、ぼくのかんがえたかっこいいオリのうりょく()
 よくあるよくあるwww
 朱雀院のよく使うのはそのうち出す予定
 え?死んでないですよ?

~うっうー(舌打ち)
 三十路の岬で演歌を歌うようなやさぐれマリーがチラ見
 なんというブラックマリー。いやさ、ブラッディマリー?
 ……大丈夫!マリーは相手の間合いの外から切り殺せるから返り血を浴びないのが仕様です!
 ……それ何処のスズキさん?

~典如の憑依合体
 実はガチでケルベロス的肉体構成に則っている赤目嵐らの骸装形態。典如たんの皮膚や髪の毛血液などを素体に肉体を構成して鎧状に身に纏っているというのが正解
 地味に寿命というか、身体細胞の分裂数が懸念される擬似的オーバーソウル
 ――そして地味に朱雀院君のレアスキル(もどき)を扱える烏丸

~幻想殺しの転生者
 神成雲蔵(しんじょう くもぞう)。これさえあれば魔法使い相手なんてラクショーだぜ!と意気込んだかは知らないが魔法界へとやってきていた現実世界出身の少年兵
 烏丸が察した通り、転生神の微調整を要求して相手が転生者ならばレアスキルという名の転生特典をも掻き消せるように設定してもらったらしい。が、そもそも烏丸の能力は特典と違うし、同じネギまでも別の世界線(宇宙)から移動したので効果がないままに瞬殺。というか幻想殺し自体が一つの世界を準拠にした基準点としての性能を持っているに過ぎないとかって原作であった気がするから、多分この解釈であっているんじゃないかなと思われるのだがどうか
 ちなみに埋め込まれた龍化術式はRAVEの竜人みたいな見た目に変身する魔法。火も吹ける
 もひとつちなみに、螺子で迎え撃たれた彼の最後の台詞「えっ、オ≪大嘘憑き≫!?ちょい待てそこは普通に贋作士だろボフォウ!?」

~物語を壮大にするならしっかりと設定語ってから終わってよ先生
 リライトと魔法世界の関係性についての一種の解釈をさらっと語ったけれども、不明部分と納得できない部分が多大にあるままに風呂敷無理矢理畳まれても単行本を山積みにした焚書活動が勃発する土壌が育まれているだけなんじゃないかと僅かばかりの懸念があるのですがそれわ
 有給とかで、寿命が違う程度で目くじらを立てる奴が普通に異常な精神性の持ち主みたいな書き方にしか見えない漫画を続けている場合じゃないっすよ先生
 そもそもフェイトが出てきたけど、おもいっくそ敵の組織の大ボス的な立ち位置でついでに不死者でもあるんだから、排斥運動やっている下っ端がなんかただの快楽主義者っつうかちょっと強いチンピラみたいなキャラにしか見えなくなってきたのがどうにもこうにも以下略



言いたいことは大体書いたのでまた次回


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『ルネッサンスなPassion』

お久
ちょびっと長くなったけど楽しんでもらえるのなら多分問題無ーし


 

 贅沢は敵です。

 戦争が終わって間もない今の時代、たとえ王族といえども金にものを言わせた優雅な生活は言語道断。

 されども希少な物に値がつくのは世の道理、手にできない口にできないとなればそれに伴ってプレミアが付くのは至極当然の理屈。

 つまりは21世紀の日本のように、儲けようとする商人の手によって取引された高額商品が相応の市場に出回る、発展途上という甘美な言葉の誘惑の俎上に突き動かされる様もまた通過儀礼≪イニシエーション≫の一環とも呼べるのだろう。

 ――まあ難しい話はさておいて、

 

 

「ともあれ、本日はごちになりまーす」

「「「「「なりまーす」」」」」

 

「う、うむ。……いや、時代の理屈を並べ立てられると、そう簡単に受け入れて良いのか……?」

 

 

 俺らを接待したいと言い出したのは姫様なんすから。

 最初のgdgd喋っていたのは建前っすよ建前。

 

 ≪夜の迷宮≫で拾ってしまった現世界最大国家の第三王女、と最古の王国の姫殿下それぞれ2人。

 攫われて人質扱いとなっていたらしき御二方+マリーを偶然巡っていたダンジョン内にて発見した俺と典如は、ひとまずヘラスから褒章を貰い、その数日後にはアリカ姫からこうしてとあるレストランへとご招待されていた。

 レストランっつうか、リストランテ、とかってオサレな呼び名に言い換えても可笑しくないくらいには高級そうなお店である。

 テーブルマナーとか知らないよ俺たち。

 

 つうか呼び出されたのが、所謂『烏丸組』とも称せるくらいに馴染みのある面々。

 トライピースに所属しているディズィ・梅喧・ファウスト、そして俺と典如とマリー。

 インキュバスは用事があるとかで対応せず、カオス一歩手前の混迷感溢れるメンバーが一堂に会することとなった。

 もったいないよなぁ、こんな贅沢が味わえる機会なんてもうそうそうないと思うのに。

 

 

「……普通に師匠に関わりたくなかったからなんじゃ……」

「ディズィ? なんか言った?」

 

 

 後ろの方からぼそっと聞こえた、気がする。

 

 

「ともあれ、先日は助けていただいて実にありがたい。今日のこの席でもって礼とさせていただくので、存分に楽しまれると宜しい」

 

 

 咳払いをしてアリカ姫が音頭をとる。

 こっちが国家的上下関係に疎いものだと理解してもらっているためなのか、口調は若干歪でたどたどしい。

 相手に謙る、という行為を削ぎ落とすのが王族の礼儀作法なのかもしれんな。

 

 まあそんな社交辞令もそこそこに、コース料理が運ばれてきた。

 

 

「わ、私こういう料理初めてですよ……っ」

「安心しろ、アタシもだ」

 

 

 ディズィと梅喧が目前に並べられた、綺麗な料理が食欲をそそる前菜を前に戦慄の表情で囁きあう。

 そんな二人を見て微笑むのは、ヘラスの第三王女テオドラ姫だ。

 

 

「まあ細かいところは気にしなくても良い、これはお礼も兼ねた今後とも付き合いを良くして行こう、という席じゃからの。軽く無礼講ということで」

 

 

 難しい言葉知ってるなこの幼女。

 そんな会話が飛び交ううちに、全員の前へと皿が並ぶ。

 戴きます、と礼をし、なんだか長い名前の魚料理を一口大に切り分けて口にする。

 

 ――瞬間。

 

 口内に広がる爽やかな香りと甘みと旨味が怒涛の濁流のように口の中を蹂躙し咀嚼することを促すように唾液が溢れて次々と誘惑する妖艶な食感がぷちぷちと弾けるのは美女に誘われる洞穴の如き深淵の冷気が飲み込むことを必死で遮るように困惑する無貌なる混沌の坩堝と化す化生の祭典がイドへと通ずる深謀の囁きを願う謳歌の王子が真実の愛を物語る。

 混在するストーリーを体験させられたかのような、怒涛と表するに相応しい錯覚が、口にした己の心情を席巻した。要するに、

 

 

「――なるほど、これは旨い」

 

「「「「「「「それだけぇっ!!!!?」」」」」」」

 

 

 全員から総ツッコミを食らった。

 

 

「旨いの一言じゃ済ませられないよコレ! 旨いなんてもんじゃないよコレ! こんなの味わったことなんてないよコレぇっ!」

「これは再現不可能ですー!」

「生きてこんな味を味わえるなんて思ってもみなかった……っ!」

「うーーまーーいーーーぞーーーーー!!!」

「ばんな、そかな……っ!」

「う、腕を上げよったな料理長……っ!?」

「もうなにもこはくない……っ!」

 

 

 一部やばい台詞が飛び交っている食卓にて、一人だけ冷静というのは若干居心地が悪いが、

 

 

「ところでアリカ姫、さっきの御付きの人なんだけど」

「こんな状況で平然と二口目を切り分けられる上に話題を振る、だと……っ!? 主、どんな精神構造をしている……っ!?」

 

 

 なんか慄かれた。仕方なかろうよ、俺って結構味覚音痴な方なんだから。

 全ては幼少期の体験の所為だね。食うものに困る人生を味わったら、ちょっとやそっとの料理では驚けない自分が出来上がるわけである。

 まあいっぱしの概念使いだし、食に込められた感情程度ならば味分け(みわけ)るくらいのことなら出来るが。毒見の意味も兼ねて。

 ……折角OnOffを切り替えられるのだし、二口目からは純粋に味わおう。切り替えなかったから一口目から怒涛の旋律がカオス的叙事詩で襲い掛かってきたのだし。なんというショショリカ……。

 

 

「なんつったかな、あの銀髪オールバックのおっさん。なんか睨まれた気がしたのだけれど」

「(本当に雑談を続けるのか……)あ、ああ、朱雀院のことか」

「そうその厨二ネームのおっさん」

 

 

 間違ってもこの場に居ないから言える愚痴である。

 アリカ姫の背後に控える黒服らの中には居らず、先ほどの彼は店の外で巡回警備に当たっているらしい。

 

 

「なんか揉めてたみたいだったけど、なんかあったの?」

「む、いや、少し降格しただけだ。主が気にすることではない」

「降格?」

「こちらの恥になるが、私が夜の迷宮より主らに救い出されてからしばらくのこと、どうも仕事を放りだして一切連絡が付かなかったらしいのだ。それまでは一応乍ら私の護衛として働いてくれたわけであるし、気持ちの整理も兼ねてしばらく距離を置いてもらおうということに、な」

「そんな采配がまかり通るってことは、けっこう有能?」

「実力がそれなりにある。掌握術式の亜種を兼ね備えているのでな、乱戦の中下手に流れ弾を味方へ撃たないだけまだ使えるほうだ。性格はやや人を見下す傾向にあるが、まあ元貴族出身なのだし仕方ないのだろう」

「ふぅん」

「で、その朱雀院の何が気になるのだ?」

 

 

 随分詳しく教えてくれると思ったら、姫としてもこっちの思惑を図りかねているのかな。

 まあ、魔法世界出身でわざわざ日本名で名乗っているし、赤き翼にやたらと敵対心持っているみたいだし、ついでになんかアリカ姫に妙な執着をしているみたいだし。とどう見てもやや性格に難のある転生者っぽいから、注意を促そうと思ったのだけど。

 ……まさかそれを直に言うわけにもいかんしねー。あーいうタイプの人種は自分本位が多いから、騎士としていたとしてもそのロールプレイがいつ剥がれるか分かったものじゃない。つまり裏切りやすい、ってことなんだけど。それこそ言ったところで俺の言い分が通用するわけはない。まあ信用されなくっても個人的にどうということでもないから、

 

 

「気になるというか見せてくれたじゃんか、闇の剣だっけ? あーいう実力者がいて、なんでわざわざ『赤き翼』を味方に引き入れたのかなー、と思ってね」

 

 

 ドヤ顔で「見ろ!これが私の108の必殺剣の一つ、光をも斬り裂く黒刀剣・約束されし闇の剣≪ナハトヴァーレ・カリバーン≫だっ!」ってすんごい厨二を堂々晒すとは思わなかったから、ちょっとだけ引いたのは事実。……俺も傍から見たらあんななのかな。注意しよ。

 ちなみに俺に対抗意識持っていたおっさんは、その直後同僚の人らに引き摺られて仕事に向かったのだが。

 

 

「ああ、ナギらのほうか、気になったのは。まあ、やつらもまた実力者揃いであるしな。メガロメセンブリアに直接与せず、好き勝手動いて戦果も挙げられるのならば、注視する物好きもいるということだ」

「戦果のついでに戦火も広がっていたけどね、当時は」

「ぶっちゃけ、妾はアイツらは好きではない。特にジャック・ラカンのやつ、帝国民であるのに堂々と戦争中に寝返りおって!」

 

 

 テオドラ姫が口を挟んできた。

 あれ? おかしいな。アイツらに関する好感度が随分と下だぞ?

 

 

「ラカンは元々奴隷拳闘士だったと聞く、きっと奴にも相応の理由があったのだろう」

 

 

 いいえ、ノリで共同戦線張ってただけです。原作から記憶を見る限りは。

 

 そんな楽しい会話をしていた丁度その時、店全体が何某かの衝撃で揺れた。

 

 

 

     ×    ×    ×    ×    ×

 

 

 

「チッ! こんなところまで現れるとはつくづくゴキブリみたいな奴らだな! 目障りな赤髪一行めっ、テラフォーマーズとでも呼ばれたいかっ!?」

「誰が黒い悪魔だワラキアもどきっ! むしろオマエラがじょうじじょうじ鳴きやがれっ!」

「喧しいぞ雑種ども! 揃いも揃って喚き立てるな! とっとと我が覇道の前に道を開けぃ!」

「ここから先は一歩たりとも進ません! オール・ハイル・オスティアッッッ!」

 

 

 うわぁ。

 店の前にて転生者四人が一堂に会していた。

 見た目と言動で完全に転生者って捉えちゃったけど、別に問題ないよね。アイツらだけにしかわからんような会話で意味が通じ合っているのに、お互いがお互いを邪魔者だとして認識し合っているみたいだから結局ぶつかり合うしかない宿命。悲しいけど、これって二次創作≪神様転生≫なのよね。

 あれか、女性に飢えているからあんなに殺伐としているのか? どいつもこいつもイケメンっぽいけど、この時代的にメインヒロインクラスが少ないから、結局のところ取り合いになってるんだろうなー。件のメインは大概“主人公”に寄っちゃっているから、顔の良さだけで選別してもらえるというわけでもない、と。ふむ。

 考察はともかく、罵り合いながらもしっかりと魔法で応戦し合っているのは、バンパイアみたいなマントと黒髪の拳闘士と金髪の鎧と銀髪のオールバック。端の方では白い髪の多分アーウェルンクスシリーズっぽい1号と2号が、赤い翼の主戦力であるナギとラカンとぶつかり合っている。お、流れ弾がこっちへ来た。

 

 

「危ないっ!」

 

 

 それを翼で受け止めて吸収したのはディズィ。

 空間制御系の術だから出来る、いわゆる一つの“死出の羽衣”みたいな応用。

 使いこなしてるなー、その術式。

 

 

「なんて危ない……、この店が潰されたらとんでもない損失ですよ……っ!」

 

 

 え、そっちが理由?

 後ろを見ると烏丸組が微妙に奮闘すべくいきり立っている。美食を提供してくださったお礼に、拳を振り上げることも厭わないと、そんな理由っぽい。

 

 

「ん、じゃあ典如。実力お目見えってことで、あいつら無力化してみ?」

「わっかりましたー」

 

 

 ぐるぐると腕を回しながら典如が行く。

 はてさて、転生特典を使わずに何処まで使えるようになったかな?

 

 それぞれがそれぞれと対立しあっているのを見据えて、典如は悠然と懐から杖を出す。

 折角まともに人に教える立場となったので、そこらの魔獣の骨を削って作ってみた俺謹製の魔法杖である。

 あれ、そう考えると典如がまともな一番弟子なのか?

 

 

「インリー・イード・レシェ・イドラ、這いよる死者の手、拙い骸、容定まらぬ熟れの果て、我が声に応えて桜花と荒べ。

 ――灰の嵐≪キニス・テンペスタース・トルトゥーラ≫!」

 

「はっ!?」

「ぶわっ!」

「なんっぶ!?」

「ごふぁー!?」

 

 

 詠唱の果てに周囲から舞う粉塵が、広範囲に広がってその場にいる転生者“全員”を包んだ。

 ナギらやアーウェルンクスには届いてない、か。もう少し風系の術式を組み込むことを考慮した方がいいかな。

 

 

「なっ、なにをする貴様! ……って、お前はいつかの娘……!」

 

「お久しぶりだね吸血鬼もどき。死ね≪ファッシス≫!」

 

「くけっ!?」

 

 

 しっかりと距離を保ったままに術式の起動キーを唱えれば、そのままにバンパイアもどきの大仰なマント野郎が奇声を上げて呼吸困難に陥った。というか容赦ねーな典如。実はあれか、結構狙っていたのかアイツのこと。

 

 

「!? どうしたケントゥム! 障壁を通過されるなんてお前らしくないぞ!?」

 

 

 髪型からして2号かな。ラカンの攻撃をかわしながらマントの方を見て叫んでる。

 あ、よそ見してるから拳骨でぶん殴られた。こう、ぬぅん!って感じで。

 アイツらそれぞれに得意分野が違うんだから、対処している相手スイッチすればいいのに。確か1号は土系統で、2号が風? 対蹠的にもラカンとナギの相手をするのって、それぞれ別だろ。

 

 

「……っ!? い、一体何が……?」

 

「そっちの黒髪、弾丸として丁度良さそうだよね。吹っ飛べ≪ジャンプ≫」

 

「え、ちょまっ!?」

 

 

 ゴム毬のように跳ねて殴り飛ばされた2号と空中で衝突して錐揉み落ちた黒髪君。

 やったね!ラッキースケベフラグだよ!

 

 

「お、おおぅ……、さすがは師匠のガチ弟子、人を弾丸扱いするところまでしっかり継承ですか……」

 

 

 ディズィが震えた声で呟いた。うるさいよ。

 

 

「な、なんなんだ、これは……?」

「さっきから、いったい何が……」

 

「跳べ≪ジャンプ≫」

 

 

 そして理解できていない金髪と銀髪の2人が跳ねて、1号とナギへと纏めて殺到した。

 さすがはイケメン。モテモテである。

 

 

「……で、どういう術式なんだい、これは?」

「攻撃じゃねーから障壁にもスルーされる。そういうトリックだよ」

 

 

 胡乱な目の梅喧にさらりと説明する。何気に魔法世界っぽく作ってみたオリジナルスペルである。

 魔力を練った灰を周囲に漂わせて、“それ”に命令をする。するとその通りに包まれた灰が蠢くという、実は手品みたいな魔法だったりする。空気同然に且つ煙幕にもならないくらい薄まってばら撒かれるので、これに風を混ぜればもうちょっと使い勝手が良さそうになるはずなのだが。

 ……ただ、これのお蔭でかは知らないが、典如の属性が『灰』という土と火の中間かその先かみたいな新系統に特化してしまった。ネクロマンサー≪死霊使い≫の成り損ないみたいな魔法少女が出来上がってしまったのだが……。

 これは、そのうち卍解した流刃若火みたいな術式を覚えさせろ、との天の采配な気がする……っ!オラわくわくしてきたぞ!

 

 wktkしていると店から姫様らまでが出てきた。

 ちょっと困り顔の店主も一緒だから、多分押し切られたんだろう。

 

 

「……主ら、何をしている?」

 

「イテテ……あっ? 姫さんかよ、なんでこんなところにいるんだ?」

 

「それはこちらの台詞じゃ。私たちが攫われたときも探しに来ず、こんなところで遊んでいるとは……」

 

 

 ……ん? なんかアリカ姫微妙に怒ってないか?

 つーか探しに来ず、って……ああ、俺が見つけちゃったからニアミスしたのかな。

 

 

「は? 攫われてた? 帝国のと作戦会議していたんだろ?」

 

「知らんかったのか……、というかいつの話をしておる……」

 

 

 知らんかったんかい。それでよくこんな盛大に遊んでいられるな……。

 しかし距離を縮めないねお前ら。早くどっちか近寄ればいいのに……。

 あ、いつの間にかマントやアーウェルンクスが居なくなってる。逃げたか。

 

 

「で? 何故こんな場所で暴れておる。帝国領だから暴れていいというわけでもないぞ」

 

「いや、アルのやろーから、アイツらがこの店に来ているって情報があって、それを調べるために入ろうとしたら店に止められてさ」

 

「当然じゃ。此処はVIP御用達の店じゃ。紹介状が無ければ入ることは許されん」

 

「だから強行突破しようとしたんだよ」

 

「………………」

 

 

 おお、呆れた顔で頭を抱えた。何気にレアかもな、アリカ姫のこんな姿を見れるのって。俺別にこの人のこと何とも思ってないけど、原作を知る身としてはなんか得した気分になる。

 

 

「そしたら朱雀院のやつに止められてさー、言い争っているうちに店から出てきたアイツらと鉢合わせになってバトってたんだよ! やっぱり俺らの狙いは合っていたってわけだな!」

 

「………………そんな無茶苦茶な理屈を振りかざしてこの店に迷惑をかけたと……?」

 

「悪党の溜まる店だろ? 潰したところでへーきだろ」

 

 

 ぶちり。

 と、なんか血管の切れるような音が背後のいろんなところから聞こえた。

 あとはまあ、お察しである。

 不用意な発言をしてしまった赤毛は、そのまま惨劇の色へとシフトしていった、としか遺せる言葉は無いのであった。どっとはらい

 




~ショショリカ
 食品処理特殊科、の略。潔癖症で拒食症の緑でもやしな主人公が食と愛に向き合ってゆく、というポエムな料理漫画
 主人公の味蕾が特殊すぎて味わうごとに料理ポエムが押し寄せる、という設定を持つ

~約束されし闇の剣≪ナハトヴァーレ・カリバーン≫
 “闇の射手”を凝縮した黒い刀剣。ネーミングはともかく本当に光を斬れる。但し使い手が見切れたら、の話
 何気にちう凡にて強化したネギ坊主の弱点に成り得る剣。まあクロスする予定は無いけど

~灰の嵐≪キニス・テンペスタース・トルトゥーラ≫
 キニスは灰、テンペスタースはそのまま嵐、トルトゥーラは何気に拷問という意味がある
 効果は作中で説明した通り、魔力で練った灰が障壁を通り越して体に付着すると、そのまま単純行動を操作できる。火と土から派生している要するに火山灰なので、一旦付着するとなかなか取れない。ケントゥムの場合は灰が絡まって首を括った結果
 それより恐ろしいのは典如の属性が偏ってしまった現状。この状態で他の魔法へと転用して見ればどんな結果が出るのか想像もつかない


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『但し跪いて足先を舐れ』

転生者多数、ってタグ入れろとツッコミ貰いましたので入れときましたが、
――大体出揃っているのであとは減らすだけです
なんだかもう今更ですねw


 

 

「ついに見つけたぞ、ジライヤ。まさか龍山にまで足を運んでいるとは思ってもみなかったがな」

「おー、確かデュナミスだっけ? ナニ? 完全なる世界って暇なの?」

「暇なわけがあるか! 貴様が逃げ回らなければ少なくとも一か月前には話は済んでいたわっ!」

 

 

 6歳児追っかけて魔法世界中を駆けずり回ってるんだから、そう捉えられても可笑しくないと思うんだ。

 あと誰が逃げていたか。お前らなんて逃げるほどの脅威もねーし。必要なことを片づけていただけだし。

 

 赤き翼特攻部隊、いわゆる赤毛バカと筋肉馬鹿を会食の合間にお仕置きしてから一ヶ月ほど。俺と典如は世界一周旅行を敢行していた。

 旅行というか、まあ典如の最終調整みたいな部分もあったのだけど。

 ちなみに烏丸組&アリカ姫に粛正されたバカコンビは一ヶ月の活動禁止を姫に直接命じられていたので、例え相手が完全なる世界だとしても表立って行動を起こさない限りは迎撃に赴くことすら出来なかった。……筈だ。

 そこは姫の人徳を信用するしかないのが若干不安。さすがに味方に窘められたら早々勝手なことをしたりするような奴らじゃない……と、思いたい。

 あと朱雀院がそんな赤き翼を指さしてプギャーwwwと笑っていた。すげーどうでもいい。

 

 

「インリー・イード・レシェ・イドラ! 灰の精霊53柱、集い来りて敵を討て! 魔法の射手・連弾・灰の53矢!」

「水の53矢! ……って、これも駄目か! 貴様なんなんだその属性は!? どんな射手でも相殺不可とかチートすぎるぞっ!」

「キミの知ったことじゃないねっ!」

 

 

 典如の“灰の射手”が水を吸って泥となり、灰の熱が即座に土・砂へと形態変化を促して、最終的に砂の射手と同等の威力となってケント、ゥム……だったか?を襲う。どこぞのレベル5みたいな砂鉄剣染みた破砕力が足元に集中、片脚を引き千切った。

 雷だと互いに干渉せずに射手はまっすぐ進む(但し雷撃の方は灰の中で攪乱されて望んだ方向へ飛ばなくなる)、砂だと飲み込んで同化して襲うし、火や土も同形質なので同化する。水は今見たとおりだし、氷だと火力に負ける。ついでに言うと風の術式も“灰”を形成する上で無詠唱状態で組み込んであるので無効化するし、光や影・闇だと射手にぶつかった瞬間に拡散する。

 一言で“灰”と言っても単純な属性なのではなくて、火・土・風で形成されている多重属性、というのが正解。とりあえず『単純な』魔法は。自分で言うのもなんだけど、随分とチートな仕様になったよな典如も。

 ……というか、アイツの口調、なんでかケントと対峙すると男っぽくなるな。……なんで?

 

 比較的平和なこちらと違って、出会うたびに迎撃している典如なのでケントの相手をいつも任せているのだけど、顔を見たらとりあえず攻撃するような反射が身についてしまったのだろう。ちょっと後ろの方で五体を切り刻まれるケント君を遠目に見つつ、のほほんとデュナミスと対峙する。

 ケント君? 吸血鬼っぽいし、そのうち再生するんじゃね?

 

 

「……会うたびに強くなっているな、彼女は」

「そりゃあしっかりと修業してるから。ケント君は、なんか最近弱くなった?」

「変化はない筈なのだがな……。というか、そこの少女は誰だ。前に会ったときはいなかっただろう」

 

 

 デュナミスは俺の隣にいる、俺よりちびっこいウサギ耳帽子の幼女を指さし疑問を浮かべる。

 とはいってもいっつも仮面だから表情は覗えないけど。

 

 

「秘密。誘拐じゃねーから安心しとき、お前らとは違うから」

「そんな懸念はしていな、おいちょっと待て。貴様我が組織のことをどういう風に認識しておるのだ」

 

 

 どんなって、幼女誘拐犯? アスナを攫ってイタズラしたんだよな? 原作では。

 ……って、そういえばこっちじゃまだやってなかったか。

 

 

「すまん、ちょっと失言した」

「素直に謝られても更に不安を煽るとしか……。まあ、いい。そんなことよりも本題に入るぞ」

 

 

 うん。ようやく本題か。

 さて、慎重にいかなくちゃな。懐にどの程度の契約アイテムを忍ばせているかわからんけど、言葉を濁すように口にしなきゃ。

 

 

「単刀直入に言う、貴様我が組織の一員となれ」

「いーよ」

 

 

 空気が、凍った。

 

 

「――なんと?」

「だから、いーよって」

 

 

 おや。どーしたのかなデュナミスてば。

 頭を抱えて蹲っちゃって。

 

 

「……はっ! わかった! 貴様の国で“懐に潜り込んで内側から殺す”という意味の隠語だな!? そうはさせんぞ!」

「本当にそうしてやろうか」

 

 

 どんだけ外道だと思われてるんだ。

 

 そんなやりとりをしていたら、魔法を打ち合っていた2人が、それぞれ俺とデュナミスの間に対峙したまま着地する。ドラゴンボールみたいなことするなぁ。

 

 

「し、師匠! 何を言い出してるの!?」

「どういうつもりだデュナミス! こいつらを仲間にするだと!?」

 

「何か、可笑しいかな」

「む、ケントゥム、貴様我が主の意向を聞いていなかったのか?」

 

 

 俺としては物事をショートカット出来るから、問題は無いんだけどな。

 

 

「こいつらの目的はこの一ヶ月で大体掴めたからな。見えないところで勝手なことをされるより、見える範囲に居てもらった方がずっとやりやすいさ」

 

「我らの第一目標は魔法世界人だ。彼らは揃いも揃って現実世界人、倒せない以上リライトが利かない以上、今より強くなるというのならば味方に引き入れて損はあるまい」

 

 

 ん? リライトが利かない? ……試したことあるのか?

 理論上は『完全なリライト』は魔法世界人だけじゃなくて、メガロメセンブリアの連中にも効果がある、って原作で言っていた気がするんだけど。

 ……そこもそのうち折り合いつけないとダメか?

 

 

「――って、ちょっと待て。貴様、我らの目的を掴んでいる、だと?」

「ん? ああ、うんまあ。あれだろ? 魔法世界を維持する魔力が枯渇し始めたから、世界全部を消失させようっていうんだろ?」

「「「!?」」」

 

 

 あれ? 典如まで驚いてる。

 

 

「……言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!? え!? それじゃあ仲間になってもならなくても同じじゃ……!」

「同じじゃない。利用しようとするから駄目なんだ。こういう問題はみんなで解決させないと」

「……解決法がある、っていうこと?」

「うん。まあ」

 

「――出鱈目だッッッ!」

 

 

 ケント君が怒鳴り声を上げた。

 

 

「解決法なんてあるか! 纏まらない魔法世界を“みんなで”解決する!? 子供の戯言だ! 大体なんでお前みたいな子供がその事実を知っている!?」

「そりゃあ、各地の魔力推量とか、消失術式の痕跡とか、地殻形成の隆起飽和とか、アストラルラインの目算とか? それなりにいろいろ調べてりゃあわかるものもあるさ」

「…………っ!?」

「ついでに言うと、纏まらなくても違う枠組みの中でも“仲良く”するだけならどんな生物でも出来る。戦争の一番の理由は『貴方と私は違う』だと誰もが認めるけれど、“違う人間”なんてのは何処にだってどれだけだって存在してるんだよ。だったら“違う”程度のことは“同じ”ようなもんだ。お互いが分かり合えないということを理解すれば、“だからこそ分かり合う”のも人間の領分だもんな」

「………………は?」

 

 

 なんか説教臭くなっちったな。やめやめこんなの。

 というかケント君も理解しきれてないし。間抜け面晒すなよ、ワラキアもどき。

 

 

「ま、ともかくお話ししようぜ。世界を救う方法について、さ」

 

 

 

     ×    ×    ×    ×    ×

 

 

 

「………………大変なことになったのじゃ……」

 

 

 謹慎中、水晶を翳していたゼクトさんが青い顔でぽつりとこぼしていた。

 

 

「どうかしたんですか?」

 

 

 ガトウ師匠が旧世界から帰ってくれば、きっと謹慎も解けるはず。

 そんな一縷の望みを懸けながら、教えてもらった咸卦法を練習していたところでのこれだ。気にならないわけがなかった。

 

 

「タカミチ、急ぎアリカ姫に取次ぐ様、クルトに頼んでくれぬか?」

「えっ、でも、そんな急には……」

「急がなくてはならん。今知る限り、最悪のぱたーんに入ったのじゃ」

「さ、最悪?」

 

 

 なんだ? ゼクトさんは一体、何を“覗いていた”んだ?

 

 

「……っ、ジライヤが、あの小僧が『完全なる世界』と手を組んだ……っ!」

「――っ!? す、すぐクルトに聞いてきますっ!」

「頼む! 儂はナギに声をかける!」

 

 

 本当に最悪な展開だ! い、急がないと……!

 くそ、だから仲間にならなかったのかアイツ……!

 

 

 

     ×    ×    ×    ×    ×

 

 

 

「――おろ?」

「どうした?」

「いやぁ? 覗き見していた奴が消えたからさ、急がないとなーって」

 

 

 多分俺のこと危険視しているナギの師匠辺りじゃねーかと思う。

 ショタジジイってことで、コナンもどきな俺としては若干の親近感を覚えていたから放置していたけど。……ま、すぐにピーピングトムを再開するだろ、アイツらなら。

 

 

「つーわけで、典如。即座に決着をつけろ」

「了解師匠!」

 

「ケントゥム……、本当にやるのか?」

「当たり前だ。これくらいやらないと納得できるか……!」

 

 

 結局納得してくれなかったケント君。言うこと聞かせたければ力ずくで、と言い出したので典如の本気で模擬戦開始。

 とんでもない再生能力は既に見て知っているので、それを上回るような攻撃しなければ戦力低下には陥らない筈。なんせあっちは転生者の数が多いからなー。力の1号・技の2号だけじゃ絶対的に数が足りんよ。

 

 

「――ゆくぞっ!!!

 バオル・イシシス・アシュタラス! 冥府の爪もて地獄の番犬! 聳える門へ叩き付けろ王の錫杖! 暗く暗く深く深く、穴の底より這い出よ! 暗澹たるラッパが鳴り響くとき、汝の暴虐を祖に占めさん! 這い出ろ、渓谷の魔獣ども!」

 

 

 おお、オリジナル召喚術?

 ケルべラス渓谷の魔獣召喚とか、面白いことするなー。その数、20数体ってところか。

 うーん、“もっと早くに”仲間にしておけば良かった。

 

 

「魔法の効かない魔獣どもだ、倒せるものなら倒して見せろ!」

 

「――いいのかい?」

 

「………………へ?」

 

「エーミッタム、『赤目嵐』」

 

 

 ごきり、と隣の幼女から骨と肉のひしゃげる音が響いた。

 きちんと連れて行け、と言わんばかりに典如の方へと放り投げる。ボールの様に飛んでいった『そいつ』は、空中で質量を見る見る増やし、典如の前へと着地したときには、数多の魔獣が混合した形容のし難い不定形となって、対峙するケント君&魔獣の群れを威圧していた。

 

 

「………………おい。なんだ、あれは……?」

「『赤目嵐』、典如の従者でね。肉体はケルべラス渓谷で“収穫”した生きた魔獣数百体分になっている。乱獲禁止されているわけじゃないし、いいよな?別に」

 

 

 正確に何体収穫したのか忘れちゃったんだよな。

 

 

「いや、そこは構わないが、いやそうでなくて! ……生きた魔獣?」

「死体だと盾役としては不十分だ。命を多めにストックさせるから、ああやって主を守る盾になることが出来る」

 

 

 要するに、死徒ネロ・カオスか吸血鬼アーカードの本気モードを再現したみたいな感じ?

 雪房や鋒吹丸より赤目嵐の方が相性良かったんだが、元々あーやって肉体を形成して活動する怨霊だった可能性が微レ存。

 実際あの身体になってから、赤目嵐は口数がめっきり減ってしまった。一応典如の命令は聞いているけど、肉体を作ることを本能的に求めているような節がややある。

 今も“新しい肉体の補充”が目の前に来ているのが、我慢できない様子だ。

 

 

「赤目嵐、食べちゃっていいよ」

『――ッ! ルォォオオオオオオオオッ!』

 

「なっ、なんだそれはぁっ!?」

 

 

 あ、ケント君が逃げ出した。

 まあ一目散に目前の魔獣に齧り付いたのだから、まかり間違って食われないようにするのは当然だろうけども。

 おーおー、肩や足から延びる口が噛みついて同化するし。

 ……まだ召喚出来るんなら、もっと補充させておきたいんだけどなぁ……?

 

 

『――クゥル、クゥ、ゴ、ゴチソウサマデシタ』

「はい、よくできました」

 

 

 ――駄目っぽい。腰を抜かして身動きが取れないご様子だし。

 一応、俺が言っておくかね。

 

 

「――で? 納得できた?」

「………………オマエラの方がずっと悪の秘密結社じゃないのか……っ?」

 

 

 絞り出したような声は、実に失礼な物言いであった。

 余計な御世話だよ。

 




~インリー・イード・レシェ・イドラ
 典如始動キー。前回触れられなかったけど、知ってる人居らんのかな
 元ネタヒントはホーンテッドな交差点

~バオル・イシシス・アシュタラス
 ケントゥム始動キー。アーウェルンクスシリーズもどきなので作ってみた(適当)

~貴様ッ、見ているなッ!?
 ネギマジ読んだ方には既に既知かと存じますが、遠視の魔法の類は逆探知可能ってそら言ってた


ぶっちゃけこの子の人生経験ってそこらの転生者より割かし濃いから
努力と成長に裏打ちされた経験の前に、神様から適当に特典貰って活用している程度のチートオリ主が勝てるのかと問われるとまず間違いなく無理かと。って感想で突っ込まれたことにちょっと反論してみる
いや、チートを上回るチートで対抗しているだけだ、って言われたのが元だけどね?そもそも言うほどチートでないよこの子。スタンドは特典でないし、そもそも普段からそれほど使わんし。魔法を撃つのにだってそれなりに時間も距離もかかるし
そんなそらだけどきちんと弱点はありますよ?そこを突っ込まれる前に戦局覆せるだけの経験があるからマジ無双に見えるだけですから
ってこの先の暗礁に乗り上げそうな展開を先に口ずさんで主人公情報を補填してみる
次回、ついに赤き翼と決着か…?

ついでに言うとこの世界線の神様って特典一つしか与えられないし、性能的には多分下層
まあ多く与えられたら上等かと問われると、二次創作系は大体杜撰としか言いようがなry


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『ハートを磨けばきらりと輝くけど、アイツに届かない光じゃ意味がないと以下略』

そろそろ終わりが近づいてまいりました


 

 

 大聖堂かとも錯覚するような広く平坦な舞台の上で、幼い少年の姿をした誰かが合図とばかりに片手を挙げる。

 ――瞬間、割れんばかりの大歓声が、空間中から響き渡った――。

 

 

「それじゃあ先ずは1階大ホールから行ってみようかーーーっ!? 黒天狗にーーーっ!?」

『栄光あれーーーっ!!!』

 

「2階観覧席、黒天狗にーーーっ!?」

『栄光あれーーーっ!!!』

 

「地下1階もーーーっ!?」

『栄光あれーーーーーーっ!!!』

 

 

 少年の掛け声に合わせて大合唱が響いたが、それを取り成したのは少年のみで、周囲にいる『完全なる世界』ならびに彼の弟子である少女らはノータッチだ。

 というか、むしろどう取り扱っていいのかがわからない。

 これだけの数をわずかな期間で集めた少年の手腕も恐るべきものだが、それ以上に自分たちに一切説明せずに始まったこの集会に呆気にとられるばかりである。

 

 世界を相手に渡り合うと格好をつけたはずの悪役の看板が、盛大な音を立てて爆破された。

 そんな言いようのない不安が、彼らの共通認識として今この瞬間に幻視されたのは言うまでもない。

 

 そんな悪役もどきは置いといて、少年の弟子である少女は今のやり取りを見、ぽつりと呟く。

 

 

「……なんだこれ」

 

 

 さもありなん。

 

 

 

    ×    ×    ×    ×    ×

 

 

 

 やり切りました。

 企画して声かけて、数を大体全ホール合わせて十万弱集めたところで掛け声を統一しておこうかと例に挙げたのだけど、やってみて凄い快☆感。

 アニメ版銀天狗の爽やかさはマジで異常だよ。漫画版は、なんでああなっちゃったんだろうね?

 

 まあ今回のこれは本当に全員をホールに集めたんじゃなくって、ラジオもどきで意識投影だけ促したテレビ電話みたいなもんだけどね。

 さすがに取り止めを把握しきれない世界情勢の中でこれだけの数を本当に集めるのは無理がありんす。

 ほら、メガロメセンブリア(跡地)とかがまだ旧世界人で構成されている国だし。

 あそこらは基本的に負けた属国だから、ちゃんと話を聞いてくれるかが予測付かんのだよね。

 議題に誘って獅子身中の虫を腹に飼えるほど、お人よしじゃねーでありますのですよ。

 

 

「さあて、おふざけはこのくらいにして本題に入ろうか。ぶっちゃけ魔法世界が魔力足りなくって維持できないらしいんだけど、移民の用意してるから皆、話に乗ってくれるかなー?」

『いいともー!』

 

 

 ノリがいいな魔法世界人。

 

 

「――っておいちょっと待て!? 代案ってまさかそれか!? というか暴露が明け透けすぎるぞ簡単に話していいことじゃないだろうしそこらの亜人どももそう易々と話に乗るなッ!?」

 

 

 ワラキアもどき君が突っかかってきた。

 というかツッコミが鋭角すぎて如何にもヘイトっぽい。

 

 

「落ち着けよ百太郎、というか差別視すんのは辞めようぜ」

「誰が百太郎だッ!?」

 

 

 お前だ、お前。

 『ケントゥム』って、ラテン語でまんま『100』のことだそうじゃないか。

 

 

「というか、ばらして何か問題でもあるんか? 魔力枯渇はこの世界で生きる奴ら全員の命題だろう、隠してこそこそするよりずっと動きやすいのだと思うのだけど」

「それは、……あれだ、移民とか言ったところで、行き場が無いだろ。……だよな?」

 

 

 なんで不安げ。

 ていうか、コイツ実はあんまり現状の把握が出来ていないのか、若しかして。

 

 

「百太郎のいう通りだ」

「おい。プリームム、お前もそう呼ぶのか? 泣くぞ? 仲間に裏切られた現実に盛大に泣き喚くぞ?」

 

 

 『人形』と名乗る割には結構ボケたことを、1号くんが口を挟んでくる。

 百太郎も大の大人とは思えない返事で1号くんに抗議を訴える。が、

 

 

「仮に移民が成功したとしても、いずれは消滅する仮初の存在だ。大々的に手引きをしたところで、最終的に纏まりを見せずに終わるのが関の山だろう」

「――無視か……ッ!?」

 

 

 ボケの割には正鵠を射るように不安点を追及する。

 まあ、だからといってリライトだけで最終目的を完遂できる、とは俺も見得ないから、こうやって口出ししているんだけれどもね。

 

 

「というか、そんな細々とした下準備とか別にいらねーからね」

「――何?」

「決めるときは一気に決める。それが出来ねーからお前ら三流なんだよ」

 

 

 という分かりやすすぎる挑発に、『完全なる世界』のメンバーらが身を乗り出した。

 

 ――ところで、

 

 

――――ドォォォン……!

 

 

「は?」「え」「何?」

 

 

 宮殿に響く轟音。

 茫洋と、ベストなタイミングを出待ちしていたようにも思えてくるけど、此処は其れっぽく心中で察する。

 

 ――来たかな?

 

 

「――っ、ほ、報告っ! 赤き翼が、侵入してきましたッ!」

 

 

 宮殿に響き渡った爆音のすぐ後に、伝令役の下っ端が必死の形相で駆けこんで来た。

 ほーらね。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ――遡ること十分前。

 

 

「――あれか?」

「うむ、間違いない。空中王宮最奥部・墓守り人の宮殿、オスティア王族のみしか立ち入ることを許されておらぬ筈の其処に、奴の、ジライヤの気配がする。しかも今まで世界中を二日と同じところに居なかったのに、今回の滞在は既に一週間じゃ。何かの間違いであったとしても、彼奴等『完全なる世界』の秘密が眠っていると見て間違いないじゃろう」

「なぁるほどな……」

 

 

 ゼクトの言葉に改めて、宮殿を睥睨する赤髪の少年ナギ。

 その眼は、これまでの眼差しとさして変わることなく、何処か楽しげな喜色を帯びていた。

 

 

「最初にアイツが裏切った、って聞いた時には驚いたが、考えてみりゃ始めっから仲間じゃなかったな。此処で証拠を突きつけてやれば、姫さんだって目を覚ますだろうぜ」

「おいおいナギ、アリカ姫のご機嫌取りか? お前やっぱ姫さんの事好きなんじゃねーの?」

「そ、そんなんじゃねーよっ! ただ得体の知れないアイツを信用しているって言うのが、気に食わねぇだけだっつうの!」

 

 

 本来彼ら『赤き翼』は、一ヶ月以上前の暴走行為によって件のアリカ姫より『謹慎』を受けている身だ。

 だが、彼らは宮仕えの朱雀院等とは違い、元より正式なアリカの配下などでは無い。

 口約束だけの『謹慎』などと元々聞く耳も持たず、それを覆せるだけの『敵』の存在が顕わになった今、倫理面での配慮に基づいても、彼らを止められる理由など存在しない。

 何より、これまで散々苦汁と煮え湯と苦虫を浴びる様に呑ませられ続けている『相手』が『敵』だと分かり、先走ってでも行動を遮りたいと突貫するのは無理もないことであった。

 

 そしてそんな相手の弱点をとうとう突けられることに喜色も顕わなナギ少年の漏らした本音を、牙千代が中学生男子みたいにおちょくる。

 が、牙千代の狙いはその反発心であり、アリカに対する素直になれない恋心を少年らしい心情である今の内に自信から否定させてその隙間に己が入り込もう、という緻密に計画された姑息でどうしようもなく下衆な下心なのであるが、とりあえず今はどうでもいいことである。

 そんな二人のやりとりを、創世が無視して詠春へと。

 

 

「で、やはりオスティアからは援軍は無しか」

「ああ。ガトウさんにも話をつけてくれるように頼んでおいたが、やはり俺たちで単身捜索するしか道は無さそうだ。……まあお前らの暴走の結果が今なんだけどな」

「まったく、碌でもない凡人共だな」

「お前もだよ」

 

 

 謹慎の理由を作り、信用すらも失ったのはナギの責任が強いが、その場に居た創世も同罪。

 結果として、今からラストダンジョン(仮)に潜り込もうというのに、自分たちが形だけでも所属している国からの保障は米粒一つとて寄越されていないのが現状だ。

 ちなみにその場に居たのはオスティア王族のみでは無く、同席していたヘラスの第三王女も赤き翼特攻部隊の暴走を目の当たりにしていたために筋肉バカの株価も大暴落。

 本来ならば動くに動けないはずなのだが、留まるところを知らない無駄に力ある者たちの手綱を握るには、王族や国と言うカテゴリですら役不足なのだろうか。

 閑話休題。

 

 

「ま、ごちゃごちゃやっていてもしかたねー。いくぜっ!」

 

 

 ふざけていた少年らが、いの一番に突貫してゆく。

 立ち入り禁止区域に指定されているために空中にも人気のない墓守り人の宮殿なので、目立った遮蔽物は無いお蔭でスピードを上げた魔法使いらを止める者はそれこそ無い。

 ――外には。

 

 

「――やあ、赤き翼の諸君。ようこそ、と言いたいところだが、こちらも今立て込んでいてね。今すぐに引き返してもらえるかな」

 

 

 悠々と侵入した少年らを待っていたのは、プリームムを筆頭とした『完全なる世界』の幹部連。

 要するに原作26巻くらいのラストダンジョン攻略話みたいに居並んだ面子なのだが、セクンドゥムとケントゥムがいるお蔭で転生者が2人メンバーに居る赤き翼とも数は同等である。

 そんな彼らを見て、ナギは鼻で嗤う。

 

 

「ハッ、寝言は寝て言いやがれ! お前らが何をたくらんでいるのか、この場できっちり説明してもらうぜ!」

 

「そうか、残念だよ。――此処がキミたちの墓場となるのがね」

 

 

 斯くして、既定の歴史よりわずかに早く、魔法世界の命運を掛けた大勝負が始まった――ッ!

 

 

 

 ~省略~

 

 

 

 ――魔法と剣技と拳の応酬の果てに、決着は着いた。

 アーウェルンクス・プリームムの首を持ち上げて、処刑人よろしく断罪の一撃を今にも叩き込もうとしているナギに、他の『完全なる世界』の面々も、死にこそしていないが満身創痍にて乱雑に散らかされた宮殿入口のそこかしこに放逐されてしまっている。

 

 

「っ、っ、さぁ、話してもらうぜ。お前らは、あのジライヤは、此処で何をしようとしていたのか、をな」

 

 

 息も絶え絶えに詰問するナギ少年。

 一方で、プリームムは身動き一つ取れない状態だが、その表情は悠然としていた。

 

 

「く、くくっ、僕らのしようとしていることは元より、魔法世界の救済だ。そこに加わった“彼”も、それは当然の事実だろうがね」

「そういうことを聞いているんじゃねー、要するに何をしようとしているのか……、いや、なんであんなことをやっていたのか、そこを聞いてるんだ!」

 

 

 これ以上ない程に明確な答えを言っているが、そもそもナギはこの世界が『どのようにして在る』のかを未だ知らない。

 彼らがやってきたことが戦争を扇動することなのは百も承知だが、その理由にプリームムの言った『救済』という言葉が繋がらない。

 それというのも、こう見えてもこの少年が戦ってきた回数が『それなりに』あるための、理屈を探る経験則だ。

 『救済』という言葉の通りならば真っ先に宗教に繋がりもするだろうが、以前に戦い勝利した本物の宗教家ならば、もう少し狂気の色が憑いて居た。

 其処との違いを感じ取っていたナギは、目の前の『黒幕』が、どうしても明確に『敵』であるとは判断がつけられない。

 何より、プリームムには『意志』が足りないように感じるのである。

 

 

「なんで……? それは、命令だから、としか言えないな」

「――何?」

 

 

 そして、ようやくこの事実へと繋がる。

 彼らの上に、まだ誰かが居るのだと。

 

 

「ど、ういうことだ……! お前らが魔法世界を混乱に陥れた元凶なんだろう!? まさか、あの少年が本物の黒幕だとでも言うんじゃないだろうな!?」

 

 

 2人の会話を聞いていた詠春が声を荒げ、

 

 瞬間、アルビレオ=イマが気配に気づいた。

 

 

「――っ! ナギ! 後ろです!」

 

 

 

「――リライト」

 

 

 

 ――遅かった。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「――――――…………は?」

 

 

 間の抜けた声が何処からか漏れて、それが自分の物であると認識するのに時間はかからなかった。

 というよりも、それが誰のモノかなんてのはどうでもいい問題だったから、何よりも現状を理解するので手一杯だったから、言葉も思考も、全てが置いて行かれてしまっていた。

 

 ――ナギが、死んだ。

 

 誰しもがその事実を信じられない。

 そんなあっさりとした終わり方で、未来の英雄は目の前から『消失』していった。

 ――って、なんでナギにリライトが効くんだよ。可笑しいだろ……?

 

 

「ごくろーさん1号くん。充分に囮として盛大に働いてくれた。以降は完全なる世界で英気を養っておくれー」

 

 

 気楽な口調で、諸共に消失していったプリームムに何処へともなく声を投げているのは、ゼクトよりも、タカミチよりも幼い少年。

 ――ジライヤだ。

 

 

「並びに赤き翼の皆も、わざわざ此処までご苦労様だ。報酬はきっちり支払うから、後の仕上げはお任せあれ。ってね」

 

 

 そいつは『造物主の掟-コードオブライフメイカー-』を片手にくるりと回し、悠然とこちらへと向けた。

 

 

「リライト」

 




追悼、ナギ=スプリングフィールド
並びに赤き翼の面々、+転生者2名
あと完全なる世界の皆様、+転生者の百太郎君
黙祷を捧げます


え?誰か忘れてる?
誰だっけ?


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『DANDANcocoloが轢かれてく』

オッス!オラごk


 

 

「くそぉッ! 小僧ッ貴様ッ! 誰に向かってその生意気な口を利いているッ! この俺がッ! 俺がこの世界の主人公なんだッ! 金も名誉も女も世界も心躍る冒険もッ! 全部が俺のモノの筈なんだぁッ!」

 

 

 いい年を過ぎて、そこらのいや、今時の子供以上に盲目的で幼稚な戯言をボロボロと吐き出しながら、引き摺られてゆく朱雀院改めクラデュール・オ・レンジの行く末を憂う。

 何処から出てきたのか知らないが、メガロメセンブリア元老院とオスティア上層貴族との癒着の証拠が明るみになり、大規模な政財界の構造改革を信頼のおけるメンバーで開始。その中でも我々にとって獅子身中の虫でもあったクラデュールの戦中の犯罪証拠などが見つかったので、筆頭に処分の対象とさせてもらったのである。

 正直、彼みたいな小物が何をやっていようと知ったことでは無かったのだが、彼自身が特異な実力者であるということも一応の事実。あんな形をしていても“赤き翼”と相応に対抗できるのだから、搦め手で退路を断たせてもらった。

 

 より正確に言えば、アリカ様に彼の罪状を申告した上で、殿下御自身にハニートラップを敢行させていただいた。

 非常に不本意ではあったけれど。

 

 

「すいませんでしたアリカ様。姫殿下にあのような下衆に色目を使わせるなどと言う真似をさせてしまい……」

「何、気にするなクルト。それもこれも、国の未来を思えばこそ、だ。元老院の残り火に国庫を食い潰される恐れを抱くくらいならばだまし討ちの一つや二つ、妾とて容易な物よ」

 

 

 まあ、クラデュールの方がどちらかというと姫様に懸想を抱いていた思考だったからこそ引っかかったのだけれども。

 実際、演技がたどたどしくて別の意味で危機感を覚えたのは、……胸に秘めておくとしよう。もうこういう手段もそうそう使わないだろうし。

 

 

「それにしても、中々様になって来たではないか。その様子ならばオスティアの政治も任せられそうだな」

「はは、ご冗談を。僕にはあんな腹芸出来そうもありませんよ。まあ、国が良い方向へ傾くというのなら、その手伝いをするのも吝かではないのですけれどね」

「そういうところが、だ。サムライマスターの弟子と聞いていたが、師匠とは打って変わって中々に強かそうだ」

「結局のところ、正式な弟子というわけでもありませんからね。それにしたって、彼らは一体何処へ消えたのでしょう……」

 

 

 赤き翼の主要メンバーがその行方を晦ませて、一週間ほどが経った。

 謹慎がかかっている筈だから下手な陽動を図ることもないと思いたいが、影も形も消失した、ということが疑念的に頭に引っかかる。

 オスティア上層の噂では死んだとも言われているが、そんな噂通りに行ったと言ってもそうそう出来るような人材が居るわけでもないし。

 ……対抗出来そうな人物とグループが今脳裏を過ぎったけど、彼らにこそそんなことをして得られるメリットが無い。……と、思いたいのだが。

 

 

「正直、以前にも戦争煽動の嫌疑で帝国とトライピースにも狙われた彼らですし、全戦力で討伐を目指されたら本当に出来そうな人材がゴロゴロとしていますしね……」

 

 

 そしてそれを『造り上げた』のがジライヤと呼ばれる、僕等よりも年下の少年兵だ。

 ……本当にあの子供は何者なのか。

 ゼクトさんみたいに爺口調ならば見た目が変わってないだけのそういう人物として捉えられるのだけど、そういった“歳経た”仕草が一切無いから本当に掴み処がない。

 旧世界人だという情報くらいはアリアドネーからは出ているけれど、その最初の“戦歴”に関しては容赦の無さが赤き翼とは比較にならない。

 そして何より怖いのが、人材を造り上げるという謎の施術。

 その施術を得た者たちには、殿下の魔法無効化すら効果が及ばない。

 彼らが本気を出せば、かつての戦争がアリアドネーの勝利、というわけのわからない結果で終わっていたかもしれない。そんな有り得ないifを、思わず妄想してしまうのも仕方がないのかもしれない。

 ただ、

 

 

「しかし、そういった戦いが起これば少なくとも何かの情報は出てくるはず。何も出てこないとなると、戦闘に至ったと考えるには些か早計ですね」

「うむ。まあ、昨日旧世界より戻って来たガトウや、タカミチなんかもこちらには残っているのだ。あの2人が本気で探れば、この世界で得られぬ情報など無いであろう」

 

 

 タカミチはどうでもいいが、ガトウさんには期待できる。

 彼には世界各地のゲート使用履歴を洗い直してもらっているから、もし仮に旧世界へ赤き翼が渡っていたとすれば早々に情報は得られるはずだ。

 まあ、本当にそうならば追いかける必要はない。こちらの案件が片付くまでは、大人しくしていてもらおう。

 そう思考を纏めて、何気なく空を見上げると其処には――……、

 

 

「――……は?」

 

 

 ――空全体を覆う謎の紋様が、見渡す限りいっぱいに広がっていた。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「術式の名は『崩壊紋章』。惑星全体を覆い尽くし、電子レンジのような分子運動の要領で内部を破壊しつくす。はっきり言って逃れる術は無い、最悪級の術式だ」

 

 

 師匠は語る。

 その絶望的な内容に、誰もが二の句を継げないだろう。

 

 

「基点は各地のゲート。それぞれが共鳴し合い、一部を破棄しても他の基点の共振ですぐに術式核は再生される。またゲートはその間使用不可。まさに逃げ場が無いわけだ」

 

 

 正確にはゲート使用にはその出口となる共鳴地が必要なだけで、その都合上1ヶ所のゲートが使われていると他が不可になるというだけ。

 今現在稼働中のゲートは此処『墓守り人の宮殿』だけで、だからこそ魔法世界人には逃れる選択肢なんて端からないわけである。

 

 

「『赤き翼』が発動させた術式は、あと一時間で完全発動に至る。そうなる前に被害を最小限に抑えるために、『全員』に通達する」

 

 

 コイン型の通信機を全機解放し、魔法世界中へと言葉を送る。

 傍らにはマリーさんとアスナ姫。アスナ姫の手には、『造物主の掟』という名の巨大な鍵が握られていた。

 

 

「今から移民用の魔法を発動させる。全員抵抗をせず、速やかに身を任せてほしい」

 

 

 特にアリカ姫とか。

 そう念押しする様子はないが、これを聞いているであろう姫殿下も理解していると思う。

 

 数秒後、アスナ姫の「りらいと」で『移民』は割と簡単に終了した。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「懸念はアリカ姫さんだけだったんだが、すんなり終わったなぁ」

 

 

 俺の術式も組み込んだお蔭か、魔法世界還元術式『完全なる世界(リライト)』からの撃ち漏らしはほぼいないと見ていいみたいだ。

 やっぱ術式の核に『造物主』を真っ先に埋め込んだのは正解だったか。

 ついでに魔力簒奪機構も術式内に埋め込んだから、取り込まれたナギとかラカンとかの魔力を使用しての術式補填も可能という完璧計画≪パーフェクトプラン≫。

 自分で自分を褒めてやりたい(照れ。

 

 

「すっげぇ大嘘吐きましたよね、いいんですか? 赤き翼の所為にしちゃって」

「これだけの大魔法を扱える術者を探す方が難しいからなー。戦中『千の呪文の男』とかって名乗っていたんだし、妥当な線だとみんなが納得したと思うけど」

 

 

 典如が胡乱な目で見てくる。

 アスナとマリーはリライトの核となる『造物主の掟』を抱え、一足早くに現実世界へと転移してもらっている。

 現在、世界は『墓守り人の宮殿』を遺した状態で粒子化の一途を辿り、回収出来る限りまで『完全なる世界』の中へと収納させている。

 ゲートを通じて旧世界改め現実世界へとその粒子の波は延々と続き、マリーは術式を完遂させるためのアスナの護衛役だ。しっかりと現実世界でも生きられる肉体を補填しておいたし、出先は原作通りなら世界樹の真下。今頃世界樹自体の発光現象が地上じゃ起こっているだろうから、近衛近右衛門も地下にまでは目が向けられない筈。万が一地下まで来たら恐らく胴と首が泣き別れになってしまうので、出来れば遭遇していませんように、とだけ祈っておく。

 

 

「惑星まで壊す必要性が感じられませんが……」

「立つ鳥跡を濁さず、ってね。後顧の憂いは断っておくに限るでしょーに」

 

 

 ちなみにゲートが核になっている、というのも嘘。

 正確には俺が一ヶ月の間に世界中を渡り歩いて、地中深くにボーリングの応用で凍結術式を埋め込んだのである。

 あ、発動まであと一時間を切っているって言うのは本当。

 いっそ火星がなくなれば、この先色々面倒くさいフラグを立てなくっても済むような気がしたんだー。

 テラフォーミングとか、移住計画とか……うっ、頭が……!

 

 

「――お?」

「はい?」

 

 

 ――気づく。

 可視可能なまでに暴濁と奔流する魔力の渦中に、飛び込んで来た何者かの気配。

 可能性としちゃ想定していたけど、どうやら生き残りがいたらしい。

 

 

「典如、一足早くに現実世界へ行ってくれ。後は当初の予定通りだから、俺が戻れなくっても計画は完遂するように」

「えっ、師匠は?」

「俺は――」

 

 

 言いかけたところで、宮殿に穴をあけて飛び込んでくるのは、スーツ姿のヒゲ眼鏡なダンディさん。

 どう見てもガトウ・神楽・ヴァンデンバーグさん、その人である。

 ポケットに手を突っ込んで、咸卦法なのか覇気だかオーラだかを身に纏う某スーパーな野菜人の如く、臨戦態勢ばっちりなおっさんと目が合った。

 

 

「――あの人を鎮めてからいかにゃならんらしい」

 

「――元に、戻せ……ッ!」

 

 

 わーお、むっちゃ怒ってるわ、おっさんてば。

 ……なんで此処まで怒り心頭来てんでしょーね?

 

 

 





~ハニトラ
 正義の為、と銘打っているけど、やっていることは今週号のマガジン巻頭の新連載と同レベル。やられる方からしてみれば胸糞以外の何物でもないので、良い子は真似すんな

~崩壊紋章
 元ネタはスターオーシャンセカンド
 ちなみに作者は最終戦手前でボスのリミッターを外してしまい、二進も三進もいかないまま今に至る
 手も足も出なかった苦い思ひ出

~造物主
 なんか静かだと思ったら組み込まれていたんかーい
 さらっと語られる衝撃の真実。しかし作中じゃ誰にも気づかれない、という不遇

~火星
 誰かが言った、誰もが思った。無くてもいいんじゃね?と
 此処でUQフラグを根こそぎ根絶しておくのが烏丸クオリティ。ちなみに有給自体はそらくんまったく認識してません。だってそれを知る前に転生している人だし

~ガトウさん
 烏丸製リライトなので魔法世界に馴染んでいない現実世界人は回収不可
 具体的に言うならば肉体の新陳代謝の都合上の問題



短いけど此処まで
次回、最終決戦


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『蒼きフランメ』

ちなみにGespenstJägerとは、直訳すると『幽霊猟師』になるらしい


 

レリーズ(凍結解除)、『マクロドライブ(突破する流星)』」

 

 

 ――さて。

 この場においてソラの先ずとった選択は、目の前の対象への攻撃では無かった。

 先ずは移動を。

 そうでなくては、対処した戦闘如何によっては『墓守り人の宮殿』そのものが崩壊する恐れもある。

 それを回避するために、縮地レベルの移動術で懐へと潜り込み、一撃で息の根を止めることも出来るはずなのに、『超長距離砲撃魔法』でガトウ“そのもの”を弾丸に換え『宮殿の外』へと放り出す。

 

 移動術それ自体は達人レベルに見られそうなのだが、それはあくまで『個人としての視方』という狭窄的な解釈レベルでの話であって、ソラの持論では全然大したことは無い技術だ。

 言うなれば、ガトウの使う『居合い拳』と同レベルか、そうでなくとも無拍子に近しい程度の反射的動作の真髄の一つ。

 体感時間のみでの成長と修業を、『前世』とをも含めれば都合20年とちょっと。

 “それだけ”に傾倒するような生き方をしている彼にとっては、その程度の技術の結実は出来て当たり前のことでもある。

 

 着地点が崩壊するが、それこそ近隣は『魔法世界還元魔法(リライト)』の真っ先な影響で火星の大地が見え欠けてきている。

 周辺は生物も建物も地形も一緒くたに片端から魔力素に変換され、アスナ姫の持つ術式核の『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』その媒体とされる世界樹・蟠桃へ、と既に集束されていた。

 最終的にはこの宮殿も崩壊そして回収されるし、壊されても実質的な被害はソラ自身にベクトルは向かない。

 だが、今回のこの事態に至っては、あそこは“最後まで”残っていてもらわないと困るのである。

 

 

「続けて、レリーズ、『ヨルムンガルド(氷輪丸)』」

 

 

 ――剥き出しになった火星に氷雪と雷霆の奔流が、竜巻となって顕現した。

 

 今回のこの事態に於いては、最優先される結末は『相手の討伐』では無い。

 例外として健在しているからといって、何もソラ自身は好き好んで大量虐殺を臨む嗜好などは嗜んではいないのだ。

 彼が所属する『赤き翼』には、個人的にはまあ思う処は有れど、進んで敵対しようなどという腹積もりも含むモノもソラの方には無いわけで。

 なので、今回は相手を無力化し、説得して、穏便に現実世界へと戻って貰えられればそれで構わないのである。

 あとは、ほんの少し“こちら”のやる『始末』に口を挟まなければ万々歳というわけで。

 

 が、氷の竜に身を任せ乍ら、ソラは思う。

 「俺ってそういう“穏便な無力化”が苦手なんだよなー」と。

 前世に於いても、烏丸そらの最大の弱点は『攻撃方法が大雑把すぎる』であったという点が、此処に来て露見してしまった瞬間でもあった。

 

 

「負け、るかぁ……ッ! 七条大槍居合拳!」

 

 

 しかし、ガトウもまたされるがままでは無い。

 大気の奔流を、力技で突破された。

 咸卦法で底上げされているガトウ自身の膂力が、居合い切りの要領でポケットからの拳で放たれる刹那の拳圧が、3時間は優に止まない筈の氷雪の竜巻を内部より破砕する。

 “そう”された現状に、ソラはしかしほほー、と内心喝采を送る程度の感想しか抱いておらず、悠々と次の“手”を解放する。

 

 

「レリーズ、『ゲプラーメギド(峻厳の雷火)』」

 

 

 それは、核熱反応を魔法の“余波”で構成し放射する、爆砕形式の術式であった。

 のだが、この程度なら大丈夫だろー、とソラの適当な裁量でぶっ放される。

 風系の術式で指向性を与えられたそれは、ガトウへと一目散に放射されていった。

 

 

 

      ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ボロボロに焼け焦げた状態で、一見満身創痍に視得るガトウを遠目に、

 

 

「……っ、まだ動くよ……。元気なおっさんだなー……」

 

 

 彼が動こうとするその数瞬を縫って、呆れたように呟いた。

 腐っても英雄未満、多少痛めつけた程度では直ぐ様陥落とは為ってはくれないらしい。

 

 ややげんなりと、灼熱に焼け焦げた大地から、ぎろり、と睨み上げてくる彼に、ソラは己の采配を数え直す。

 完全消費に至るにはまだ4つほどあるが、実質ストックしてある中では『適当な』ダメージを期待できる術式はもう無い。

 しかし、そこに件の術式を使えば、今度は本気で命を絶つ恐れもあるのだ。

 尚、そこまで思考したところで、此処までやっておいてその懸念に至るのは如何な判断力か、ともゴーストは囁いた。

 

 囁いたその隙間を縫ったわけではなさそうだが、ガトウが瞬動術で飛び掛かる。

 が、ソラの反射速度からしたらワンランク遅い。

 達人を凌駕するのが基本レベルの人間相手に何を、と彼を知る者たちの彼の中の虚像が、ガトウの行為を洟で嗤う。

 

 

「ッ!?」

 

 

 ――次の瞬間には、ガトウは何故か諸手をポケットから外して万歳の形をとっていた。

 自分でも、何故そうしてしまったのかがわかっていない表情で。

 そのガトウに、正面に立つ少年は、

 

 

「――『(こぶし)』って字と『()げる』、似てるよなぁ」

 

 

 そう告げて、舌を出し、嗤う。

 ソラのその舌には、歪んだ『漢』の文字が、いつの間にか這っていた。

 

 漢字遣い。

 行動を現状を『漢字』に変換して、状況へと昇華させる『言葉遣い(スタイル)』の一つ。

 例えば、膨大な『炎』でも『(みず)』を加えるだけで『淡』く掻き消すことが出来たり。

 例えば、『石』を『九』と『十』投げるだけで鎧すらも『砕』くことが出来たり。

 また、漢字に変換し直してから状況を改竄する、『誤読』も可能性の一つだ。

 

 この世界線に来る以前、彼に備わっていた独自の能力は『スタンド』であった。

 それは『傍らに立つ者』と呼ばれる、生命エネルギーが形を成した異能の発現。

 そもそもの世界でも数少ない異例であったその能力は、彼が己で成長するに能って“彼自身”に『潜り込む』ことで『別の可能性』へと昇華していた。

 それが、『体言遣い』というスタイル。

 そして、スタイルとは一説に寄れば『能力』では無い。

 状況によって流動し、変動し、共感し、共振する。

 それは『言葉そのもの』の『可能性の姿(パターン)』なのである。

 そして“そういう”非常識な現象を『実現』させるのが、言葉遣いの真骨頂。

 今迄は遣えなかった、わけでは無い。

 遣う必要が無かった、ただそれだけだった。

 

 戸惑い、動けなくなったガトウに、ソラは悠々と詰め寄り、

 

 

「――なぁガトウ、ガトウ・神楽・ヴァンデンバーグ。あんた、なんで怒ってる? 俺は全てが始まる前に、これは移民の為の計画だ、と説明したはずだよな?」

 

 

 と、優しく問いかけた。

 此処までボロボロに痛めつけておいて優しくも糞もないとは思うだろうが、彼個人としては充分に『手加減した』レベルである。

 実際に『叩き潰す』としたら、彼は敵方に容赦は一切しない。

 それは今までのこの世界での身の振り方からも垣間見えてくる内情だが、そういった機微を推し量れるのはあくまでも近くに居た彼の弟子などの非常識集団くらいのものであって、其処とは一線を画しているガトウにとっては与り知らぬことでしかない。

 そして、そんなことも最早関係ない。

 

 次の瞬間には、ソラは顔面から殴り飛ばされていた。

 

 

「なんで、だと……! ふざけるな! これが! これが移民だと!? 魔法世界の総てを粒子レベルに分解し、逃げ場も失っているこの黙示録のような災害を、よくもまあ平然と実行できるな!? 貴様に人の心は無いのか……ッ!?」

 

 

 が、

 

 

「――………………あれ?」

 

 

 返事の無い状況に、身体が自由となったガトウは首を傾げる。

 その放物線を描いて吹っ飛ばされた殴り飛ばされた少年は、たったの一撃で沈黙していた。

 

 

「………………は?」

 

 

 勝ったの、か? と、ガトウ自身思いもかけない結果が付いてきており、その呆気なさ故に次の行動が立てられなかったのである。

 

 一見、万能且つ自在に視得る『言葉遣い』だが、最大にして唯一と言ってもいい『弱点』が存在する。

 それは、言葉の通用しない相手には通じない、という一点。

 要するに、本気で『怒った』ガトウには、漢字遣いの拘束も意味を為さなかったのだ。

 

 ピクリとも動かない少年に、どうしたものかとガトウは悩む。

 が、其処はそれ、相応の魔法使いらを相手取ってきていた人生経験の為せる直観に従う。

 ガトウは、この『術式』を阻止すべく、墓守り人の宮殿へと足を向けた。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ――その、数十秒後。

 

 

「っ、レ、リィ、ズ、ぅ……、『完全、回、復術、式(ベホマ)』っ……」

 

 

 折れた骨が接ぎ直され、気道を確保し、破裂した血管が繋がり、千切れた筋肉繊維が編み治され、皮膚が貼り直され。

 体液と血液が増幅し、全身に循環し、体調も万全となって、烏丸そらが勢い良く起き上がる。

 

 

「っあ゛ーーー……っ、死ぬかと思った……」

 

 

 例え瀕死であったとしても、一息で完全に万全に十全に、全力で『戦える身体状況』へと復活させる、起死回生の術式である。

 だが、当然のことながら一回限り。

 ゲームのように、魔力の許す限り何度も繰り返せるわけでは無い。

 ちなみに、一気に細胞の循環と回転を促す為に、何気にちょっとした後遺症が寿命とかその辺に出るのであるが。

 具体的に言うならば、一昔前のクローン体の器官劣化並みの弊害が。

 

 それはともかく。

 

 

「本気でやるとは……、大人げない大人め、子供をよくもまあぶん殴れるな……。

 で、何処に行ったんだ……?」

 

 

 と、現状を認識し直して、はた、と気づく。

 

 

「――まさか、」

 

 

 墓守り人の宮殿へと、その首を向けた。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「……っ、悪夢か、これは……っ」

 

 

 ゴォォォ……! と、魔法世界中の構成物質が全て魔力素へと変換され、墓守り人の宮殿を目的地として目に見える濃度で集束してゆく光景を再度目にして、ガトウは息を呑んだ。

 自分でも先ほど口走ったが、これだけのことをしでかしたトリガーが、あの少年のどの心境に隠れているのであろうか、と恐ろしくも思う。

 しかし、とガトウは思考を止める。

 思うことは思う事、先ずは現状を回復してからが第一歩である。

 

 彼がやろうとしていることは至極簡単、この術式の集束点である『墓守り人の宮殿』の破壊だ。

 

 戦う前、場所を移すべくソラがガトウを移動させたのは明確に彼にも理解できた。

 此処に実際あるのは、麻帆良世界樹の真下へと繋がるゲートのみ。

 要するに、この状況になった火星から脱出できる、唯一の出口でもある。

 つまり『此処を破壊されては困る事態』が、ソラの方にもあるということだ。

 出口が無くなれば、彼が避難することも不可能となる。

 

 

「――よし、いくぞ……っ!」

 

 

―千条閃鏃無音拳ッッッ!!!

 

 

 と、無数の迫撃砲並みの射線が宮殿を襲う直前に、

 

 

「――レリーズ、『大波濤解放術式(ティブロン)』」

 

 

 ――大量の水が津波となって、その大体の拳圧を防御した。

 

 

「っ! やはり此れを壊されるのはまずいみたいだなっ!」

 

 

 その現れた大量の水はともかく、誰が防いだのかは理解できる。

 声のした方向へと、急ぎ身体を傾ければ、其処には万全のソラが片手に三叉矛を掴んで現れていた。

 

 

「……肉弾戦がお望みなら相手してやるぞ、但し丸腰じゃねーけどな」

 

 

 掴んでいるのは『帝釈廻天』。

 傾ければその方向へと自身にかかる重力を変更できる、重力魔法の凝縮具現した『術式』であった。

 

 先ほど一撃で沈んだ本人が言うには、酷く荒唐無稽な暴言を吐く。

 が、何某かを用意すれば『赤き翼』全員すらも手玉に取れる少年の言である。

 それが冗談では済まないことは、ガトウにも理解できていた。

 出来ていたので、

 

 

「……いいや、先にこちらが手を得る番だ……!」

 

 

 状況を打破出来得る、起死回生の一手を。

 避難が不可能となった彼が魔法世界の崩壊を阻止する方向へ、行為を向けられるための状況を成立させるためにも。

 それを望み、再び先ほどと同等の一撃を、宮殿へ向けて放射していた。

 

 

「っ、させるかよっ!」

 

 

 どうやら、解放された大量の水はある程度は彼の自在に出来る代物らしい。

 再び盾のように蠢いて、宮殿を取り囲む。

 だが、

 

 

「所詮は水、数の前では無力だ!」

 

 

 防ぎきることは出来ない。

 

 ――数合も撃ち合わない内に、宮殿はガトウの拳によって瓦礫へと解体されてしまった。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「――さぁ、これで、どうなる……?」

 

「あんた……、なんってことを……」

 

 

 絶望に歪んだ、ように見える表情の少年を見、これで何かしら状況を変えられるかもしれない。

 ガトウはそう思っていた。

 そう、願っていた、の間違いかもしれないが。

 

 

「これで、キミも逃げることは出来なくなったろう。さあ、この術式を止めるんだ!」

 

 

 子供に言い聞かせるように、やってはいけないことを咎めるように。

 術式の阻止を、ソラへと促すガトウ。

 そんなガトウの目には、これで上手くいくと、すべて戻ってくると、そう思えていた。

 ゲートが崩壊したことで、術式の核は消え去り、魔力素の流出も止まった筈だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんなわけはなかった。

 

 

「!?」

 

 

 魔力素の流出は止まらない。

 むしろ、ゲートと言う箍が崩壊したのか、先ほどよりも濃度の濃くなった魔力素が、勢いを増してゲートの在った『穴らしきもの』へと吸い込まれていった。

 

 

「……安定した移動が出来なくなっても、繋がっていた航路が消失したわけじゃない。『そのまま』じゃもう無理だが、破壊だけで終わるほど安い術式なわけねーだろ。仮にも造物主の作ったモノだぞ……?」

 

 

 剥き出しになった火星の大地に、共に降り立つ2人。

 ソラは、手にしていた帝釈廻天をそこらへと適当に放棄する。

 彼が掴むことで維持されていた術式は、手放されたことで極小の重力子となって消失自壊していた。

 

 

「これであんたを連れ帰ることはもう無理だ。もういいよ、勝手に死ねよ、回復の手段もねーし、邪魔さえしなけりゃそれで全部上手く行っていたのに」

 

「なん……、い、いやまて、何かできるだろ、せめて星が消えるとかいう術式を止めるくらい……」

 

「……今から火星中回ってボーリングして術式探すか? 一時間以内に? 大気もそのうち消えるぞ?」

 

 

 魔法世界が支えていたオゾン層も崩壊しているしな、と『現代の』知識では理解できないことを語る少年。

 そんな自暴自棄な様相を見て、本当に取れる手段は無いのだ、とガトウは理解した。

 

 

「つーわけで、この勝負はアンタの勝ちだ。俺はアンタを『生きたまま』引き摺ってでも帰るのが目的だったのに、それを阻止しきったからな、あーあー、最後の最後でこんな負け方かよー」

 

「か、勝ち負けじゃないだろ! キミの命までかかっているんだぞ!」

 

「命程度は何とかなる。最後の一手は勝ちじゃなくて、自決用の一手だったからな」

 

 

 これ、アンタには効かないから、本当に最後の切り札なんじゃよ。

 と、何処かの黒幕っぽい博士みたいな口調で、最後の圧縮術式を指でなぞる。

 そのまま、その指先を、己の米嚙みへと少年は向け、

 

 

「――それじゃあな、ガトウさん。『また勝てなかった』」

 

 

 何か意味深な台詞を、舞台のように呟いて、その指をトリガーのように傾けた。

 

 

「レリーズ、『リ ラ イ ト(・ ・ ・ ・)』」

 

 

「――っ! 待っ、」

 

 

 ニヒルに嗤うその少年は、その姿勢のまま、花弁のように粒子となって掻き消えたのであった。

 

 

 




『烏丸そらはもっと評価されてもいいと思う』
実際、魔力総量はネギとかこのかよりずっと下なのよ。
生成器官とかを備えているけれど、精々そこらの魔法生徒よりもワンランク上程度の常人レベルで、しかもその魔力が普段は一切自由に出来ないっていうハンデ付。
その成長の過程から生成するに至った最強の拒絶タイプレベルのATフィールド並みの精神系魔法障壁。
それへの生成がオートで発動するので、認識阻害が大々的に掛けられている麻帆良じゃ実質役立たず。
障壁以外へと転用できる魔力が足りなくってねー、そうなった成長の結果が原因だから矯正も難しいし。
エヴァの修業で障壁からの更なる転用も出来るようになったけれども、これって要するに自分で作った魔法を自分に掛けてマホトラ使うみたいなとてつもなく効率の悪い転用だからねー。
まあスタンドっていう能力があったからなんとかなったけど、それも実際攻撃力がねー。
パワーがEランクよ?コイツのインストールドットって?
成長したら成長したでスタイルに進化して、余計に扱い辛くなったし。
間違いなくスタンドバトルじゃ主人公張れない。
むしろジャンプ大戦でラスボス気取る方。
使っているオリジナル術式も、細々とした小さい効果のものを掛け合わせて創り出した詠唱に時間がかかるからストックしているっていう理由だし。
大魔法系?1、2発唱えたら魔力切れ起こすよ?
ネギみたいに魔法の射手1001とか無理無理。
ようやく半分行って、ってレベルの常人ですよ。
だからこうやって体術系のレベル上げたんじゃねーかよ。
時間圧縮で精神体だけで反復練習。
作中で言ってたけど、20年だよ?常人でもそれだけに傾倒したら達人レベル凌駕出来るよ。
ネテロの爺様だって50を過ぎて開花する、とか言ってたけど、其処に至る前段階があるだろ?
別に飲まず食わずで6年間正拳突きばっかしてたわけじゃねーだろ?
そう考えるとやっぱ凄くねこの子?
あとは発想力かな。
一応前世持ちっていう優位性があるけど、その知識を総動員して『自分を造り上げる』っていうのはそこらのチートオリ主にも出来ることじゃないと思う。
だってそういう人たちって神様特典持ってるもんね?
コイツの特典って結局何なのよ?
俺は『主人公連中に巻き込まれるレベルの因果』かと睨んでいるけど?
それくらい絡まれてるもんね?
そんで結局負け続けている人生送っている気もするけど。
まあそこは気の持ちようだよね!頑張れ烏丸!

そんなわけで次回最終回
終わったら何か同世界線上で色々書いていこうかと思うけど、まあ終わったらってことで
あ、感想とか希望とか期待してますー


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『ゲートキーパー2003』

明日の笑顔の為にぃぃぃ……ッ!!!


 

「編入生……ですか?」

 

 

 麻帆良学園学園長・近衛近右衛門に呼ばれ、一枚のとある人物の資料を渡されてそれを読む。

 資料の右端には浅黒い肌に白い髪の、学園の生徒となる予定の人物の写真が載せられていた。

 

 

「うむ。フランスの方の、儂の友人の孫での。日本で学びたいという本人たっての願いで、我が校に招くこととなったのじゃ。その際には、キミのクラスに受け持ってもらえれば助かるのじゃが」

「はぁ。構いませんけど、……言っちゃなんですが、うちのクラス、濃い、ですよ……?」

 

 

 去年より受け持つ我がA組(今年から2年生)は色物キャラの集大成と呼ばれている。

 吸血鬼に未来人、半妖、ニンジャ、ネコミミ娘。

 そして実年齢詐称疑惑、と極めつけられた周囲からの評価の元、混合人種の坩堝である麻帆良に於いても特にすげぇ、と戴きたくもない評価№1を戴いてしまっている。

 そういう場所に、一見すれば普通の生徒を通わせようとか。

 この学園長、意外とおにちく。

 

 

「その冷淡な視線を止めてくれんかのぅ。その子は所謂“飛び級”みたいなもんじゃからの、そういう『特別』の中に埋もれさせてしまおう、というのも親御さんからのご要望なのじゃよ」

「中学程度で飛び級も無いと思いますけど……」

「あと見た目じゃわからんかもしれんけれど魔法世界関連じゃし」

「ああ。わかりました」

 

 

 あれから20年も経っているのに。

 未だにそういう人が残っているんだなー。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 西暦2003年、昭和(・・)78年。

 魔法世界が召喚(・・)されてから20年が経ち、かつて『旧世界』と呼ばれていたこの現実世界は、当初の混乱はさておきどっこい平和だった。

 

 魔法世界人を完全に消失回収補完した『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の核は世界樹・蟠桃に収まっており、その内部で循環する魔力に混じり乍ら『回収された人々』は幸せな夢を見る。

 それがアーウェルンクスや造物主の目的だった。

 けれど、其処で終わらせなかったのが“地雷屋”ソラだ。

 彼の仕込んだことはそれ程多くは無い。

 結局のところ、“それ”を『解放』させる役処である、『私』が自由になっていたのが一番の功績であった。

 

 夢の世界から解放された人々や魔獣や街並みは現実世界の至る所へと召喚され、世界は混沌と化した。

 その際の召喚術が、元よりこの世界の下地に在った『何か』を諸共に召喚してしまったのか、伝承の存在や妖怪・悪魔・神獣なんかを受肉させてしまったのだけど、それに対抗できるだけの『人材』も一緒に呼び出したのだからプラスマイナスゼロ。

 私は悪くない(棒読み)。

 全ては魔法世界人を受肉させるための術式までもご丁寧に仕込んでいたソラの所為。

 

 

 ……ちなみに、回収された人々は強制的に埋め込まれた『強魔力簒奪術式』にあやかって、本人が強ければ強い程その魔力構成力を世界の構成へと奪取されるので、赤き翼とかの馬鹿魔力な面々も今では普通の魔法使い程度の実力だ。

 そもそも召喚に応じるか否かは、本人の自意識より無意識下へ誘導を働きかける比率が大きい。

 『夢を見ている状態』で茫洋としているのが『完全なる世界』内の彼らの意識状態で、自分の意志で勝手に出てくることも出来るには出来るはずなのだが、召喚に応じたのは意外と少なかった。

 何故かメガロ系の人たちとか元老院議員?らの大半が特に『完全なる世界』から出てきたくない、みたいな反応していたから、そのまま放置しておいたけど……。

 受肉していないとはいっても人の精神は無限じゃないから、最大でも寿命が来たらそのまま魔力素に変換されて魔力へと流転するんだけれどなー。べつにいっか。

 特に『赤き翼』のキバチヨとか、オスティア騎士のすざくいん?とか、完全なる世界のヒャクタローとかが召喚に応じなかったのは、……今思えば、余程現実が認めたくないと思われる……。

 まあ、ご勝手にどうぞ。

 

 

 さておき、世界中の混乱の中でも『魔法使い』としての実績と経験が予めあった、召喚の実質本拠地である麻帆良は、それでも学園都市としての地位を保持していた。

 国境の違い、肌の違い、言語の違い、等と言うレッテル以上に、人種そのものの違い、が存在する中で、その全てをいち早くに受け入れた姿勢は特により良い人材収集を誘致し、とうとう首都以上の日本の主要都市となることとなっていた。

 また、特殊な人材が頭角を顕わに出来るチャンスを促してくれるという、世界召喚以前からの特色も相俟って、そんな学園都市に通いたいと思う学生は後を絶たなかった。

 ぬらりひょん、まさにうっはうはな状態である。

 まあ、かてて加えて仕事量も比例して増えているから、そのうち過労で斃れそうなのだけどね。

 実際、さっきも好々爺に見せかけて、未確認提出書類が山積みの部屋だったし。

 

 ああ、そういえば自己紹介を忘れてた。

 『私』の名前は『新田 明日菜』。

 今年26になる、教員歴4年目の麻帆良の女教師である。

 このツインテールが目に入らぬかー。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「やあアスナさん、今からお仕事かい?」

「そういうアンタはまたサボり? 所長にドヤされても知らないわよ、タカミチ?」

 

 

 学園長室へと足を踏み入れてきたのは、何故か彼だった。

 私より3つほど年上のはずなのだが、付き合いの長さから自然とタメ口を使ってしまう。

 仕事は確か、麻帆良署の生活安全課の巡査だとか言っていた筈。

 そんな彼は、最近何故だか髭をあまり剃らないようにしている。

 その様は野暮ったさが際立っているが他人から見る分にはイケメンアラサー未満……実際の処、私経由でよく顔を合わすうちのクラスの女子中学生ズからは受けは良くないので止めてほしいのだが……。

 勘違いダンディズムにでも目覚めたのだろうか、と『父』が吸わないので正直苦手な煙草の香りを漂わせながら登場する彼には、普段より疑問符が程よく湧く。

 ……煙草と硝煙の香りが漂う生活安全課の刑事(警察官)? 今更だけど駄目じゃないの? それ。

 

 

「酷いな、仕事だよ」

「おお、タカミチ君か。スマンのう朝からわざわざ。今朝方突然に連絡を寄越されたので、こちらとしても困っておってのぉ」

「……え。誰から、でしょうか……?」

 

 

 飄々とした態度を取ろうとしていた彼が、学園長の言葉にぴしり、と表情を曇らせる。

 何故だか、私まで嫌な予感がした。

 

 

「アリカくんじゃよ」

「……帰っても、いいでしょうか……?」

「スマヌ、事態は急を要する」

 

 

 続けて並べられた姉(正確には違うけれど、姉同然の立場ということになっているひと)の名前に、私は嫌な予感が的中したのを悟る。

 現在イギリス在住の彼女の名前が出てくるということは、十中八九ナギが問題事を起こしたに違いないのだ。

 タカミチもそのことを理解できているのだろう、溜め息を吐くと、意識を入れ替えているみたいだった。

 

 

「……はぁ……。……で、アリカ様は、何と?」

「いや、そこまでヤバい事態でもないのじゃ。明確に言うならキミの公務にも則っておるお願いごとじゃ」

「前置きはいいですから、本題をお願いします……」

 

 

 力が抜けているみたいな口調だった。

 

 

「ナギとアリカくんとの、ホレ、ネギくんという子を知っておるじゃろ?」

「ああ、あの酷いネーミングの。確か3番目の子でしたっけ? 写真でしか見た覚えはありませんが、ナギさん似の子でしたね。可哀そうに」

 

 

 タカミチも言うようになったなぁ。

 昔はあんなにナギの事を尊敬していた気がするのだけど。

 

 

「何を思ったのか、ナギが社会勉強等と言い出したらしくての。日本に送り出したと、今朝方知らせが届いたのじゃ」

「……はぁ?」

 

 

 ……はぁ?

 と、あまりにも頭の悪い状況進行には、流石の私もタカミチと同じ感想しか湧いてこなかった。

 

 

 アリカが召喚されたのと同時に、彼女の『国』も同時に呼び出された。

 地に足をつけて生きていた人々が一千数百万程、当時戦犯でもあったスザクイン等を筆頭に“自己勝手な”奴らは夢の中で幸福を享受していたらしいのだが、それを除いても『国家』を形成するには充分すぎる人員が呼び起こされたのである。

 その中にはタカミチと、クルトという同年の子も混じっていたのだが、(彼曰く当然らしいのだが)特に政治的に強権であったはずのかつての国家上層部は軒並み補完中。

 『明日を生きてゆくしかなくなった』かつての魔法世界人オスティア国民らは、当然の如くアリカを国主へ総べるように、と強く望んでいた。

 

 が、ある程度の立て直しが終わるとアリカはナギと結婚。

 彼らと国を率いて生きてゆくことを選ばずに、駆け落ち同然でナギの生まれ故郷へと移住したアリカ。

 混乱期を乗り越えたことで何か琴線に触れるモノでもあったのか、とは思いはするが、何もアレと結婚しなくともいいだろう、というのは誰からもの感想であった。

 駄目男をヒモにする因果を併せ持ってそうあの姫様、というのは典如さんの意見だったりする。

 

 

「アリカくんが気付いた時には既に送り出された後じゃったらしくてのぉ……。スマンが、件の少年を保護してもらえるかの?」

「え、いやそんな無茶な。日本の何処に送り込まれたのかもわからないのにですかっ!?」

 

 

 狼狽えるタカミチ。

 まあ当然だろう。

 いくら警察とはいえ、この事態は完全に私事だ。

 それなのに、個人で出来る範疇を凌駕している事件など、彼だけでは片付け切れまい。

 

 

「そこを知った上でも心苦しいのじゃが、頼む」

「~~っ! ……はぁ、わかりましたよ、やりますよ。はは、また始末書かな……」

 

 

 まだ若いのに、すっごい草臥れた感が出てる。

 良かったじゃない、ダンディズム溢れているわよ?

 

 

「朝からお疲れ様、タカミチ」

「……そう思うのなら、今度デートでも付き合ってくれないかい? 奢るからさ?」

「……そういえば、前に那波ちゃんを口説いていた誰かさんg「それじゃあ僕はそろそろこれで、ネギ君を探さなくちゃいけないからねははh」

 

 

 言い終わらない内に部屋を出て行くタカミチ巡査。

 流石に中学生をナンパするような駄目人間に買取を許可するほど、私は安く無いのである。

 いや、那波ちゃんが中学生に見えないのは、確かに私も認めるけれども。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「ううぅ、此処は何処なんだろう……」

 

 

 麻帆良が彩盛を誇る一方で、近すぎたが故にその食み出た不浄を一身に集約してしまった都市がある。

 其処は今でも首都である一方で、格差がよりはっきりと明暗の分かれた嘘と欺瞞と裏切りの都。

 誰が詠んだか、その仇名を混沌都市(ケイオス・シティ)・東京。

 飛行機に乗せられるままに送り出されたネギ少年は、成田に到着してから人の波に導かれるままに『首都』へと到着していた。

 

 

「父さんは武者修行に行けって無理矢理送り出すし……、いくら僕と同じくらいの年の頃にはもう1人旅をしていたって言われたって、その頃とは時代が違うよぉ……。武者修行なんていうのも時代遅れだしさぁ……」

 

 

 実際、彼が独り言ちる程度には世の中は様変わりしている。

 麻帆良や、運良く『大召喚』の被害に遭わなかった大小様々な国家に魔法世界大国の擁立によって確約した技術の進歩は、“歴史通り”に相応の進化と革新を齎し、魔法だけでは無く科学技術も促すに至った。

 だが、それが正しい恩恵を巡らせてくれるとは限らない。

 

 小鹿のように震えながら、ネギ少年は薄暗い表通り(・・・)を歩く。

 技術革新の恩恵で、都市は三重の構造街という特殊な造りとなっている。

 太陽光の当たる上層を歩めるのは相応にバカ高い税金を納めている上位納税者のみで、それ以外の『区外在住』の人間は中層か下層しか通行出来ない仕組みとなっている。

 中層はビル街の中ほどに網目のように張り巡らされた通路を通ることで歩むことが出来るが、その為には一度ビルの内部へと足を踏み入れる必要性がある。

 上層とビルの隙間にいくつか設けられている空間より差し込む光しか光源は無い、ネギ少年の歩むコンクリートの道路が広がるのは下層のみだ。

 そしてその『道路』には、風魔法の応用で押し込められた車の排気と、住人らが勝手に放棄して回収する者もいない廃棄品で埋め尽くされて、まさにゴミ箱と呼ぶに相応しい様相と相成っているのである。

 

 地震対策のモデルケース、という謳い文句であるが、それは明確に格差を知ら占める対象となっていた。

 この首都は、そんな恩恵のダーティな部分をより色濃く集約させた、違法と犯罪の吹き溜まりにもなっていたのである。

 

 

「……おっ、なんだい坊や、こんなところを1人で歩いて。迷子かなんかかい?」

 

 

 そして、そんなゴミ箱の住民は区民だけでは無い。

 居場所を失くした人間もまた、何かに導かれるように堕ちて行く。

 華やかで煌びやかな夢を彷彿とさせる麻帆良では無く、濁った夜灯の明かりに寄せられる誘蛾の如く。

 行こうと思えば届く格差の、背景に潜む暗い陰を狙うように。

 ネギ少年に声を掛けたのは、そんな『親切な』男であった。

 

 

「へぇ、そうか、武者修行か。懐かしいなぁ、オジサンも昔冒険に出かけたりしたさ。銃とナイフを片手に、魔獣狩りとかね」

 

 

 大召喚が起こって数年ほどは、会話もままならない出自が純魔法世界産の魔獣らを狩り出すことが一種のブームにもなっていた時期があった。

 当時は彼奴等の外皮や骨が何らかの妙薬や材料に転化できないか、と魔法使いらやコミュニケーションの取れる妖怪・魔人なんかが適度に狩っていた為に、自分らでも出来るのではないかと勘違いした若者がそれなりに居たのだ。

 バブルが弾けた時期が近かったのも相俟って、そういう『夢』を求める若者が増えたのも一種の流行に発展した理由かもしれない。

 

 

「よし! 此処で会ったのも何かの縁だ! オジサン謹製の特殊武器(・・・・)を特別に見せてあげよう! お父さんやお母さんには内緒だゾ?」

 

 

 言いながら、男はネギ少年を路地裏へと連れ込み、股間を弄り乍らズボンを摺り下ろs――、

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ……? なんか、何処かで誰かが哀れな目に遭っている気がする……?

 

 益体も無い電波が舞い込んで来たけど、地球の裏側で誰かが悪い目に遭っている、というのは基本的に今私が気にかけてもどうしようも無いことなので、そういう時は思考を停止させるに限るのだ。

 ドライな人間なのでは無く、これも一つの精神の安寧を得るための防衛手段。

 第一知らない人間が何処でどうなっていようと、“知らない現状”ではどうしようもないのだし。

 心苦しく思うのは、それらを知った後でも良い。

 こんな私だって、見も知らぬ子供たちが年々命を落としている、というニュースに心を痛める思春期はあったのだ。

 だからそれで勘弁、ということで。

 

 さて(閑話休題)

 いつまでもやってこない編入生を学園長室で待っていられるほど、私は暇では無い。

 今日から新学期になるのだし、クラスはそのまま繰り上がりだから特別なことは基本的には無い。

 だからこそ、キチンと明日からの授業準備程度はしておかないと。

 

 始業式もクラスミーティングも終わり、職員室へと向かっていると元気な声が廊下に響く。

 

 

「あすなせんせい、今良いかっ?」

 

 

 声から誰なのか、くらいは判別できる。

 振り向くと、其処に居たのは予想通り、エヴァちゃんだった。

 

 

「ん? どーしたの?」

「これからクラスのみんなとカラオケに行くんだ。せんせいもいっしょに行こう!」

 

 

 一部で『吸血幼女』『喋らなければ貴族』『出来そこないの金髪西洋人形(だがそれがいい)』『誰お前ぇ』と何気に話題になっている彼女は、一時期の鬱屈した雰囲気をここ数年で完全に払拭し、今ではこんなに元気な娘になっている。

 彼女が初等部の頃から付き合いがあるのだが、そうなっている要因に私があってほしいな、というのが希望的観測。

 まあ十中八九、同クラスで付き合いの長い雪広ちゃんやアルカナちゃんとの相互関係からだろうとは思うけれど。

 ……あれ、それにしてはアルカナちゃんはずっとクーデレのままだ。デレてくれたことなんて一度も無いけど。

 

 

「んー、行きたいけれど、今日来るはずの編入生の子とまだ顔を合わせてないのよね。だから、また今度誘ってくれるかしら?」

「むぅ、仕方ないな。せっかくだからマナも誘うか、数合わせに」

「いや、最初から誘ってあげなさいよ。同室でしょあんた」

「マナは最近偶に奇行に走るから、ちょっと扱いが難しくって……」

 

 

 諌めると顔を逸らす。

 確かに、なんか最近「隠されたマガンが……!」とか片目を隠して身悶えたり、「この呪われし血族には影がお似合いさ……」とか斜に構えた苦笑を漏らしていたり、厨二チックな台詞を口走っているのを見かけるけれど。

 

 

「それより、新しいクラスメイトはどんなやつなんだ? わたしはもっと地味目のやつが欲しい!」

「まーたトトカルチョになっているわね?」

「そ、そんなことありませんですよ?」

 

 

 話題を逸らそうとするが、一目でわかり易すぎだ。

 声震えてるじゃないの。

 ちなみにA組はよくこういう食券賭けを繰り返すので、学年主任の新田先生、まあ私の義父なのだが、に目をつけられている。

 そのしわ寄せが簡単に私に直結するので、よく其処を諌める為に父直伝の『新田流補習術』を敢行するので、たまーにだけど私も恐れられているらしい。

 基本的には友達感覚でいるが。

 

 

「残念だけど御次もキャラが濃そうよ。魔法界出身ですって」

「ガッデム!」

 

 

 また桜子の独り勝ちかぁ!と天を仰ぎ見るエヴァちゃん。

 ……本当に元気っ子になったなぁ。

 

 

 彼女は600年生きた吸血鬼だ。

 メガロメセンブリアからは莫大な賞金も賭けられていたらしいが、メガロが国政破綻したのでそれも流れている。

 だが、その悪名のほとんどは、かつてより連れ立った彼女の『相方』の齎したものである。というのが最近になって判明した。

 

 その相方とは、根本的には女性の敵。

 女性の頭を左手で撫でることで魅了と洗脳が簡単にできるスキルホルダーだったらしく、エヴァちゃんはそいつに騙されるままに自分の同種へと転化させてしまっていたらしい。

 同種の吸血鬼、しかも上位存在であるはずのエヴァちゃんは洗脳済み、という制約無しの不死へと成ることに成功したそいつは、実に600年もの間エヴァちゃんを弄んできた腐れ外道だ。

 

 真っ当な教育も得られず、幼い身体を無理矢理に手籠めにされ、エヴァちゃんと出会った当初、彼女は本当に600年も生きているのかと問い質したいくらいに幼稚だった。

 洗脳と魅了はそいつの傍に居ないと完全とならない常時型だったらしく、出会った時にはそいつのことなど思い出したくもない、といったふうになっている彼女を見て心底安心した。

 むしろエヴァちゃんの魔法抵抗力が高いのもあったのだと思うが、それでも支配しきっていたのだから恐るべきものである。

 

 ちなみに、エヴァちゃんを無理矢理に働かせて数々の魔法使いに凌辱の限りをし尽くしたそいつは、大召喚の影響でそいつの『中』に召喚された『造物主』の人格に肉体を乗っ取られたそうな。

 そうすることで洗脳が解けたエヴァちゃんは、造物主に教えられるままに彼女がされていたことを実感し理解し、『彼』が望むままに外道の肉体をバラバラに切り分けて氷漬けにし、世界各地へと転々と封印して回ったという。

 海底10000mの底とか、クレバスの隙間とか、最後に残った心臓は日本の種ヶ島宇宙センターからロケットに載せてスペースデブリの一角へと。

 最後の封印作業を施すように手配したのは、他でもない学園長だ。

 エヴァちゃんが麻帆良にやって来た時、彼女の覚束ない説明の補填をすべく、詳しい記憶を探ったのも学園長。

 その結果として、麻帆良で彼女を敵視する者は今では一人も居ない。

 

 もう一つちなみに言うと、彼女の身体も外道に穢される『前』に回復済みだった。

 まあこれはその都度自己修復していたらしい。

 心の傷は出来なくてもせめて身体だけでも、と同じ女性ながらに思った部分なので独善としか言えないが。

 簡潔に言うと、不死者すげぇ。

 

 あ、そういえばアルカナちゃんとの邂逅も、件の外道が切欠じゃなかったっけ?

 

 

「じゃあわたしはそろそろいくな、あすなせんせいまた明日!」

「うん、またね」

 

 

 ピッと手を挙げて挨拶すると、マーナー!と叫びながら廊下を爆走していった彼女。

 元気になってくれたなぁ、と微笑ましく見守りつつも、……廊下は走るな。

 

 

「あ、明日菜先生、編入生の子、来てますよ?」

「あっ、はい。今行きます」

 

 

 瀬流彦先生に呼ばれて職員室へと急ぎ足で。

 学年主任に義父が居る為か、下の名前でしか呼ばれたことが無いのが少々気恥ずかしかった。

 っていうか、私がお世話になっていた頃の先生方も未だに現役だしね、この学園。

 

 

「お待たせしたわね、貴女が編入生、の……」

 

 

 後姿を見、彼女を認識すると同時に、『完全なる世界』の門番として所持している『管理者権限』が脳裏に働く。

 魔法世界出身者、ということは一度『強制回収術式(リライト)』を受けているということで、其処を一度でも通過した者のアストラルコードは自動的に『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』に登録される。

 要するに、“それ”が“誰”なのかを、私は自動的に理解することが出来るわけである。

 

 その『彼女』は振り返ると、花のように笑顔を綻ばせ、軽く敬礼みたいなポーズで名乗りを上げた。

 

 

「初めまして、クロエ・ガーネットです。よろしくおねがいしますっ」

 

 

 

「………………………………ソラ?」

「何故バレたし」

 

 

 白い髪に浅黒い肌の、書類上は11歳、となっていた彼女は、こちらの疑問に即座に身元を明かしてくれた。

 ……ていうか、あんたなんでそんなに若いのっ!?

 

 




~新田明日菜
 20年前の世界樹大発光時に、同時期に起こった『大召喚』と言う『現象』に巻き込まれたとされる少女
 出自のわからない少女+2名を子供のいなかった新田夫妻が保護し、学園長が気付いた時には既に養女となっていたらしい
 当然の如く、彼女の正体は『完全なる世界の門番(ゲートキーパー)』アスナ姫
 但しそれらの事項は魔法使いらの中では公然の秘密であり、魔法世界が“こうなってしまった”現状に口出しする関係者はいやしない。まあそういう口出ししそうな輩は基本的に『中』から出て来れない程度のキャラだし
 『魔法先生アスナ!』はじまりません


~召喚されたモノ・者・物
 魔法世界を一つ丸ごと呼び起こす、という暴挙は土地を圧迫する事態にも陥りかけたが、其処を“どうにか”できるだけの魔力は回収された魔法世界人の『強大な魔力』で補われる
 具体的に言うと、浮遊する大地、とか天空の城、とかが地上10000m前後の上空を茫洋と漂うことになった
 オスティア・ヘラスなんかの純魔法世界国家は特に巨大な大地を保持し、その周囲に彼らの属国の集落が浮島となって点在していたりする、というのが現状
 元魔法世界人らは地上にもバラバラに呼び出された同族や魔獣を回収するべく、地上の人々とも交流を相応に図っているとか


~ナギとアリカ
 一応は史実通りに結婚
 但しナギの馬鹿魔力もアリカの魔力も簒奪されているので、現状『人格と経験』を除けば只の魔法使い
 その息子のネギも普通の魔法使いとしての才能しか無い少年なのだが、兄や妹や弟がチート性能を備えていたり
 兄その一のサギが輪廻眼
 兄その二のホギが直視の魔眼
 妹のナリカが魔獣の召喚術(プリティベルの権能)
 弟のヤギが竜闘気(ドラゴニックオーラ)
 ネギを除いた全員が莫大な魔力保持者
 ナギがネギだけを送ったのは彼だけが魔法学校に入学前だったから、他は飛び級入学
 但し魔法学校を性能だけで卒業させる後ろ盾(メガロメセンブリア)は存在しないので、真人間になって卒業するころには原作が終了予定
 先ずは魔法の制御から覚えましょう


~『完全なる世界』
 原作通りに『幸せな夢』を見せ続ける、世界樹を核とした大魔力を循環させるための貯蔵庫(プール)
 メガロメセンブリア元老院議員ら、また転生者各位はそっちの方がずっと生き易いご様子
 もういい……っ! もう、休め……っ!


~エヴァ
 ナデポを持ったチート転生者に鹵獲されていた金髪幼女吸血鬼
 ナデポの性能が強いのではなく、エヴァの抵抗力が紙。原作でナギに簡単に靡いていた彼女の前科的に勝手な予想
 ナデポ性能自体は一度洗脳すると傍に居続ける限り解除されない、というもの
 腐れ外道がああなるのも納得の仕様


~マナ・アルカナ
 なんか中二病扱いだけど、性能的には間違っていない地黒少女
 クラスメイトの那波千鶴と並ぶと、よく女子大生に間違われる
 腐れ外道に目をつけられて、恋人の元より誘拐され犯される寸前、造物主が召喚されて押留まった経緯を持つ
 二進も三進もいかなくなったエヴァをなんとか麻帆良まで連れてきたのも彼女
 ちなみに恋人は現状只の保護者の域をはみ出さないご様子。年齢詐称のままに騙しちゃえば良かったのに
 ……あれ? この馴れ初めだとこの子ガチで年齢詐称してんじゃね? と実年齢と年代が合わない罠


~造物主
 尤も最初にリライトされちゃったコズモエンテレケイアの人柱的お父さん
 エヴァの近くに召喚に応じたのはきっと最後の親心。良い人じゃん


~クロエ・ガーネット
 己自身をリライトした、烏丸そらの成れの果て
 魔力簒奪術式の例に漏れず、魔力精製器官を剥奪された末に女体化した
 こいつも一応は転生者なのだけど、幸せな夢とかが思いつかない末に浮上してきた経緯。これは泣くしかない
 召喚された際に己の肉体が女体化していることに気づき、なんじゃこりゃあ!?と丹下声で絶叫
 →そのままカードでキャプターな方向性を目指すのも一瞬思考しかけたが、折角なのでくるぉえるうぇーるですぅ!と全力出してふざける腹積もりで世界を放浪
 →前世での魔女より聞きかじった錬金術の知識を掘り起し、一年かけて精製した『生命の水(アクア・ウイタエ)』を服用して健康に気を使わない身体へ。その代り5年に1歳しか年を取らないという不老長寿へ
 →フランスのガーネット夫妻の下に養女として引き取られる。数年後、そういえば麻帆良どうなっているのかな、と原作開始を思い出して懐かしい顔ぶれにも会いたくなり留学を決意。ちなみにガーネット老夫婦は18年ほど若々しいままの彼女のことを「こういう人種なんだろうなぁ」と勝手に理解。魔法世界人と思われとるがな。ある意味間違ってはいないけど
 見た目はプリズマイリヤのクロにくりそつ。髪の長さは老夫婦のご期待に添えるように、と程よく長いです



最終話でした
なんかエヴァが不憫なんだか滑稽なんだか
最終的にはいい子に育ってくれたので問題は無いかと思われます
そして【速報】魔力精製器官は男性器の模様【ソラTS】
ずっとやろうやろうと潜めていたネタです。丹下桜さんごめんなさい!
あとは典如とマリーの世界放浪新婚生活とか、詠春が実家の色々な問題にぶち当たってこのかだけA組に居ないとか、ヤードラット星から帰って来たスーパー咸卦人ガトウさんとかくらいしかネタが無いけどわざわざ書かなくっても問題ないよね!
それじゃあこれで一先ずのお終いと言うことで!
やっと本スレに戻れるぞーっ!!!


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