俺と雪ノ下の最初のポケモンがユキワラシなのはまちがっている。 (リコルト)
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プロローグ
どうも、初めての方は初めまして。
『ボッチのハンドレッド使い』を見て頂いている方は、お久し振りです。
最近、アンチものの作品を書いていた私ですが、気分を変えてアンチものではない作品を試しに投稿することにしました。
二つの作品を同時に書いているため、投稿は遅くなるかもしれませんが、軽い気持ちで見て頂けると嬉しいです。
先日の海浜総合高校とのクリスマスイベントも無事に終わり、修学旅行の一件でギクシャクとしていた雪ノ下と由比ヶ浜との関係もこれを通じて改善することができた。
「二人とも、今日は付き合ってくれてありがとう」
「別に礼はいらない」
「そうだし!私とヒッキーはゆきのんの友達なんだから、わざわざ丁寧にお礼することはないよ!」
由比ヶ浜がそう言うと、雪ノ下は俺と由比ヶ浜にそうねと言って笑みを見せる。
「それじゃ、またな。雪ノ下」
「またね~、ゆきのん!」
「ええ、また会いましょう」
雪のせいで凍結している交差点を背景に俺達はそれぞれの家へと帰宅しようとする。
その時………
キキイィィィッッーー!!!!
「!!!!?」
激しく大きな音がした方を振り向くと、視界に写っていたのは雪ノ下のいる方向にトラックがブレーキをかける様子がなく、迫っている状況だった。おそらく、路面が凍結していたせいで、トラックがスリップしたのだろう。
「雪ノ下ぁぁぁー!!!」
「ヒッキー、待って!!?」
俺は由比ヶ浜の必死の言葉に聞く耳を持たず、雪ノ下を助けるために必死に雪ノ下の方に走った。
「比企谷君!!!」
ーーー俺はそこで意識が途絶えたーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はっ!!!?」
俺は記憶に深く焼き付けられたような雪ノ下の悲痛な叫びでハッと目を覚ました。目を覚ますと、そこは都会では感じることのない新鮮な空気が俺の体を潤し、千葉では考えられない平原のような草むらが広がっていた。
「……どうやら、死んだわけではなさそうだが.、ここは一体何処なんだ?」
そう呟きながら、周りを見渡していると、見覚えのある一人の少年?が俺の方を指差しながら、これまた見覚えのある人と共に心配そうにやって来た。
「比企谷!心配したぞ!戸塚がいきなり比企谷が倒れたというからな。大丈夫か?」
「ひ、平塚先生と……戸塚?どうして?」
「何を寝ぼけてるんだ?今日はトレーナーズスクールの卒業式の記念写真を撮りに先生の私とクラスメイトで1番道路に来たんじゃないか」
トレーナーズスクール?卒業式?1番道路?何を言っているのか良く分からない。
平塚先生に話が分からないまま説明してもらうと、俺はあることに気が付いてしまった。
まず、俺の年齢は11才だということ。確かによく見たら、俺の身長かなり縮んでるな。
二つ、俺のクラスメイトには戸塚を含めた総武で知り合った人物がいること。話を聞くと、戸塚の他にも葉山グループ、由比ヶ浜、川崎、材木座の名前を確認できた。
三つ、少なくとも平塚先生と戸塚には千葉での記憶が無いこと。ただ、記憶喪失のようなものではない。見た感じ、まるで別の生活を送っていたような話ぶりだった。
「まったく……
「ああ、は、はい」
俺は平塚先生についていくようにトレーナーズスクールに帰るが、一体どういうことだ?
トキワシティ……まさかな……
………………………
…………………………………
……………………………………………
トレーナーズスクールと呼ばれる場所に帰って来ると、俺のクラスメイト達が心配してくれた。まさか、名前を聞いて思ったが、由比ヶ浜達の性格や姿も千葉の時とそのままだとはな。
そんな中、俺の顔を見て、明らかに周りとは違う様子を醸し出していた奴を見つけた。
次の瞬間、俺とそいつの頭を平塚先生が優しく掴む。くそ、抵抗する力が出ねぇ。
「お前達は恐らく軽い脳震盪で倒れたのかもしれない。今から保健室に行ってきな」
そう言うと、平塚先生は保健室の場所を俺達に教え、そこに向かわせる。俺達は言われた通りに保健室に向かう最中、均衡を破るように彼女に言葉を交わす。あの感じ……まさか。
「なぁ、雪ノ下」
「……何かしら、比企谷君」
「……生きてたんだな」
その一言で、彼女ー雪ノ下雪乃は驚きの表情を俺に見せ、歩みを止める。
「まさか……比企谷君」
「ああ、千葉での記憶ーあのトラックに巻き込まれるまでの記憶はある。その反応だとお前も記憶があるようだな」
俺がそう言うと、雪ノ下は俺に抱き付いた。
「ええ、ええ、そうよ。それよりも比企谷君が無事で良かったわ。私を助けて死んでしまったと…」
「まさか、あの事故で両方とも生きているとはな。ある意味、奇跡だな」
こうして、俺はこの状況の共有者である雪ノ下雪乃とあの事故から再会することができた。
その後、保健室の中で雪ノ下が集めた情報を元に新たに状況を整理すると、あの想像でしかない吹っ飛んだ仮説が成立してしまった。
「「俺(私)達、ポケモンの世界に来ているだと!?(ですって!?)」」
そう、俺達は死んだかどうかは云々として、ポケモンの世界、カントー地方に来てしまったのだ。
しかも、明日はクラスメイト達が待ちに待ったポケモンを貰う日なのだ。
※作者はカントー地方のポケモンとホウエン地方のポケモンの区別は一応、出来ています。
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状況把握。そして、マサラタウンへ
2話目です!
俺と雪ノ下がこのポケモンの世界にやって来てから、一日目が経った。今日は俺達を含めたクラスメイトがポケモンを初めて貰う日であり、クラスメイトの数名は朝からオーキド研究所のあるマサラタウンに向かったらしい。
だが、俺と雪ノ下は朝からポケモンを貰いに行く余裕はなく、午前中はずっと俺の周りの環境やこの世界について分かる事をひたすら調べていた。だから、俺と雪ノ下は午後にマサラタウンに向かう約束をしており、トキワシティと一番道路の境の近くで待ち合わせをしていた。
「お、雪ノ下」
「遅れてごめんなさい。色々と冒険の準備に戸惑ってしまって」
そう言いながら、雪ノ下は俺に謝罪する。雪ノ下の格好は肩から下げる大きなバックと帽子が目立つ動きやすい格好、ポケモンの女主人公を彷彿させるような姿だった。
「やっぱその感じ…ポケモンを貰ったら、旅をする感じたよな」
「ええ、ポケモンを貰う一日前に旅をやめるなんて親に言えないわ。そういう比企谷君もでしょ?」
「ああ……そうだ」
ちなみに俺の格好はというと、黒い半袖パーカーの服と長ズボンで、背中にリュックを背負った格好だ。どうやら、この世界ではポケモンを貰ったら、旅をするのが当たり前らしく、それを知ってしまうと、ポケモンを貰う一日前に親には簡単に旅をしたくないと言えない。
ああ、去らば我がインドア生活よ。
………………………………
……………………………………………
………………………………………………………
その後、俺と雪ノ下は各々が集めた情報を共有し、確認しながらマサラタウンに向けて1番道路をゆっくりと歩いていた。
どうやら雪ノ下からの情報だと、葉山グループの葉山、三浦、戸部、海老名と由比ヶ浜は朝一番にポケモンを貰いに行ったらしく、今頃はトキワの森にいるだろうか。
「そう言えば、比企谷君。話が変わるけど、貴方はこの世界での自分の状況を確認したかしら?」
「ああ、確認した。俺の出身はトキワシティで、家族構成など他の部分はクラスメイト同様変わった所はなかった。だが、父親は今ホウエン地方に行っているらしい。何でも単身赴任をしているそうだ」
「比企谷君の父親もホウエン地方に?実は私のお父さんも今ホウエン地方で働いていることになってるのよ」
話を聞くと、雪ノ下はホウエン地方からカントー地方に引っ越して生活をしている人生だったらしい。原因としては母親がカントー地方で建設会社の規模拡大を狙っていたからだそうだ。
「そうだ、陽乃さんは何をしているんだ?」
「姉さんはどうやらポケモントレーナーをしているらしいわ。シンオウ地方にいるらしいのだけれど、連絡が取れなくて……」
そうか、陽乃さんも旅をしているのか。あの人の性格からしてポケモントレーナーとかかなりお似合いだよな。
「ところで、ずっと雪ノ下に聞きたかったんだが、お前はこの状況をどう説明する?」
俺は雪ノ下に俺達がこの世界に来てしまった理由とそれについての説明を訊ねた。
「……私の仮説が合っているとは限らないけど、おそらくここは私達の知る世界の平行世界だと思われるわ。もしポケモンがいたらという世界のね」
雪ノ下はそのまま話を続ける。
「こっちの世界にも平行世界の私達がいた。でも、あのトラック事故のせいか、私達という別の世界の魂もしくは意識がこっちの平行世界の私達に移った。現実味がまったく無いけれど、これが今一番納得できる説明ね」
「成る程な。俺もそれに賛成だ」
確かに雪ノ下の説明はとても現実味が無いが、俺もその説が濃厚ではないかと思っていた。やはり、そういうことになるか。
「ちなみに聞くが、俺達が元の世界に戻れるという可能性はどのくらいある?」
「見当がつかないわ。そもそも、私達があっちの世界で死んだかどうかも分からない。そうなった以上、今は成り行きで旅をするしかないわ。旅をしていれば、私達と同じような境遇の人に会うかもしれないから」
「まぁ、そうだよな。悪いな、変な希望を持たせるような質問をして。説明した雪ノ下が一番帰りたいと思っているもんな」
「え?私は出来るなら、この世界のまま帰りたくはないのだけれど?」
「……ふぇっ?」
予想外の答えに俺は思わず口から変な声が出てしまった。その間も雪ノ下は何を言っているの?みたいな目線をこっちに送っている。
「私、実はポケモンの世界に憧れていたのよ。ポケモンの主人公みたいに自由に活動できる環境がね。比企谷君もゲームが好きだから貴方もここに残りたいと思っていたのだけれど?」
「いや、確かに俺もこの世界には感動している。だけど、状況が状況だろ。もしかすると、あっちの世界では両親や友達が心配してるかもしれないし…」
「なら、その考えは今すぐ捨てなさい。これから貴方の両親はこっちの世界の両親と友達よ。それに、もし戻ったとしても貴方は向こうでどうなってるかしら?良くて下半身不随、最悪全身不随よ。トラックに確実に轢かれてるのだから。ちなみに私はすでにこっちの両親を両親と認識しているわ」
容赦ねぇ!?えっ、雪ノ下さんそういう感じ!?あっちの世界の家族と友達バッサリ切り捨てたよ!?あっちの世界に思い入れの一つや二つはある場面だよ!?ゼロじゃん!?全く無いじゃん!?
だけど、向こうに戻った時の雪ノ下の予想が的を射ていそうで本当に怖い。向こうで、意識が戻ってすぐポックリとかあり得そうだわ。
だったら、早い内に悟りではないけど、割り切った方が良いかもしれない。この世界でポケモンマスターになるんだ!というレベルで。
「…そう言えば、雪ノ下さん。ずっと気になってたんだが、かなりポケモンに詳しいご様子…」
「最近だとサンムーン、最も古くてレッドグリーンまでやりこんでいたわ。向こうの世界でお父さんがポケモンにハマッていた成り行きよ」
いや、それ成り行きじゃないです。ドハマりの間違いです。成り行きでポケモンゲームを完全制覇する奴なんてそうそういません。
雪ノ下とそうこう会話していると、目的地であるマサラタウンに辿り着いた。
最初のポケモンって確かフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメだよな?何にしよう。
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最初のポケモン
参加してくれると嬉しいです。
雪ノ下のポケモン事情を聞きながらしばらく歩くと、目的地であるマサラタウンに辿り着いた。
「ここがマサラタウンね。ゲームみたいに家が一つ二つしかない所だと思ったけど、案外大きい町で、活気もある方なのね」
雪ノ下さん、それメタ発言です。本当にゲームみたいな町構造だったら、現実だとそれは町とは言いません。
「そうだな。確か1番道路もゲームよりも少し複雑だったよな。ここはゲームとは似ている所があっても、ゲームとは同じじゃないと思った方が良い」
「ええ、そう思った方が良さそうね。それじゃあ、行きましょうか。目的地のオーキド研究所へ」
マサラタウンに着いて、すぐに俺達は予想よりも大きい町の中でオーキド研究所を探す。家も多く、案外見つかりにくいと思いきや、他の建物よりも目立つ外見だったので、見つけるのにそんなに時間がかからなかった。
「ここがオーキド研究所ね」
「そうだな、中に入ろう」
俺は玄関のドアノブに手をかけて、研究所内に入る。研究所内には研究員達と多くの機械やモンスターボールがあり、如何にも研究所だという雰囲気を醸し出していた。
「すごいわね。まるで社会科見学でもしているような気分だわ」
「ああ、ゲームだと簡素な感じだったが、現実に感じるとやっぱ違うな」
研究所内の壮観な景色に圧倒されていると、奥から俺達を呼ぶ声が聞こえた。
「やぁ、君達が比企谷君と雪ノ下君だね。ほら、早くこっちに来なさい」
俺達は拒否する理由もなく声に従うまま奥の方にやって来た。そこには三個のモンスターボールが乗っていたテーブルと一人のおじさんが立っていた。
この人……まさか……
「初めまして。私の名前はオーキド。このオーキド研究所でポケモンについて研究しておる」
マジかぁー!?やっぱこの人がオーキド博士だったか。確かに他の人と貫禄が何か違うもん!
「は、初めまして。比企谷八幡です」
「雪ノ下雪乃です。会えて光栄です」
「うむ、礼儀正しい子達だ。今までの子達とは雰囲気が違いおる。やはり、君達のお父さんの似る所は子供にも似る所があるのかの」
「「……へっ(はいっ)!?」」
オーキド博士からさらりと出た言葉に俺達は驚きを隠せなかった。雰囲気の件は恐らく俺と雪ノ下の精神年齢が同学年より高いのが起因していると思うが、オーキド博士はまるで俺と雪ノ下の父親のことを知っているような話し方だった。そう言えば、父親が何をしているか聞いてなかったんだよなぁ。
「あの……オーキド博士は私達のお父様達とはどのような関係なんですか?」
「おや?雪ノ下君達はお父さんから何も聞かされていないのかね?雪ノ下君のお父さんとはポケモンについて学ぶ大学の先輩後輩の関係なんじゃよ。ホウエン地方でポケモンについて研究しておるが、たまに連絡を取っておる。一方、比企谷君のお父さんはというと、彼は昔オーキド研究所のテストトレーナーだったのじゃ。あれほど腕が立つトレーナーはなかなかいない。ホウエン地方に行くと言った時は説得した位じゃよ」
し、知らなかったなぁ。まさか、お父さんがオーキド博士と知り合いだったなんて。というより、それ以前にお父さんの仕事も今初めて知ったわ。実質ポケモントレーナーをしていたのか。
「さて、君達のお父さんとの思い出話はこの辺にして、君達には一人前のポケモントレーナーとして私から最初のポケモンを渡そう」
おっ、ついにこの時か。フシギダネにしようかな、ヒトカゲ……いや、ゼニガメも……今後の人生を左右すると思うとかなり重い重圧がかかるな。
「確か私達はくさタイプのフシギダネ、ほのおタイプのヒトカゲ、みずタイプのゼニガメから一体を選択するんですよね?」
そう言って雪ノ下は俺より興奮した様子でオーキド博士に訊ねる。あんな雪ノ下見たことがない。
「うむ……雪ノ下君の言う通りなんじゃが、君達には別のポケモンを渡そうと思う」
「「別のポケモン!?」」
「そうじゃ。君達のお父さんから君達に渡してくれと急にポケモンが届いてな。何でもホウエン地方でも珍しいポケモンだとか」
そう言ってオーキド博士はテーブルにあった三つのモンスターボールをしまい、その父さんから届いたモンスターボールを探す。
「おお!これじゃよ!」
博士はプレゼントのように丁寧に梱包された二つの箱を俺達に見せ、中から一つずつモンスターボールを取り出して俺達に渡してきた。
「二人とも、出してみると良い」
「え、はい。出てこい、俺のポケモン!」
俺は受け取ったモンスターボールを床に叩きつける。雪ノ下も俺と同じように地面に叩きつける。すると、ボールが開き、中からポケモンが現れる。
だが、まさか………
「ユキッ!ユキッ!」
「ユキュッ!ユキュッ!」
ポケモンが被るとはなぁ………
…………………………
……………………………………
………………………………………………
「雪ノ下……こいつらって」
「ええ、ゆきかさポケモンのユキワラシね。ホウエン地方ではあさせのほらあな位にしかいないこおりタイプのポケモンよ」
「おお、さすがは雪ノ下君。このポケモンを知っておったか。こいつらはユキワラシ。比企谷君のはオスで、雪ノ下君のはメスじゃよ」
成る程、まさかユキワラシだったとはな。しかも、雪ノ下とポケモンが被るし。最初のポケモンがこおりタイプなのもどうかと思うが……
「ユキッ!ユキキッ!」
まぁ、別にいっか。普通にかわいいし。
「どうやら、二人とポケモンの相性は問題無さそうじゃの。あと、二人にはこれも渡そう」
「これは……」
「ポケモン図鑑じゃよ。そこには君達が見つけたポケモン、捕まえたポケモンが記録される。君達の旅の中で有効に使うと良い」
俺と雪ノ下はオーキド博士からポケモン図鑑を貰う。けど、俺の横には歩くポケモン図鑑がいるからなぁ。雪ノ下はもしかすると、無用かもしれない。
「さて、これで私の仕事は終わりじゃ。まず、君達はニビシティを目指すと良い。そこが最も近い大きな町だからな。朝からやって来た数名も早ければ、明日には着くだろう」
「分かりました、オーキド博士」
こうして、俺と雪ノ下はオーキド研究所を後にした。今日はもう夕方だし、早く1番道路を抜けてトキワシティのポケモンセンターで一泊だな。わざわざ夜の森を歩く必要はないしな。
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1番道路での戦闘とニックネーム
アンケートは一応、8月9日で締め切ろうと思いますので、参加する方はその日までお答えください!
ポケモンをもらった俺達はオーキド研究所を後にしてトキワシティに向かっていた。まぁ、普通に歩いていれば、日が沈む前に着くだろう。
雪ノ下は何をしているのかというと、先程オーキドから貰ったポケモン図鑑開いて眺めながら、俺の隣を歩いていた。
「すごいわね。ポケモン図鑑ってゲームだと、ポケモンの生態や生息分布などしか載ってなかったけれど、現実だと手持ちのレベルまで見られるのね」
「マジか、俺のユキワラシは……レベル5だ」
俺もポケモン図鑑を開いて手持ちのユキワラシのレベルを見た。やはり、レベルは最初の三匹と同じぐらいか。
「私も同じくレベル5よ。けど、最初から高レベルのポケモンを持ってても、ジムバッジを持ってないから、言うことを聞かないポケモンよりは良いんじゃないかしら?」
「まぁ、確かに」
………………………
………………………………
………………………………………
雪ノ下とそんなこんな話をしていると、トキワシティまであと少しの距離の所までやって来る。
「雪ノ下!!止まれ!!」
だが、まるでそれを阻むように雪ノ下と俺の前に野生のポケモンが現れる。その姿は紫色の小柄なネズミのような姿で、ポケモンをやっている人なら誰もが知るポケモンだった。
「コラッ!ラッ!ラッ!」
「こいつは……」
「ええ、コラッタよ」
そう言いながら、俺と同じように雪ノ下はモンスターボールに手をかける。考える事は同じか。
「ねぇ、比企谷君。野生のポケモンの場合って2対1でも構わないわよね?」
「そうだな。ゲームならアウトだったが、ここは現実だ。俺は全然ありだと思うぞ」
「ふふっ、なら行くわよ」
「「行け(行きなさい)!ユキワラシ!」」
そう言って俺達はモンスターボールを投げた。すると、モンスターボールから二体のユキワラシが現れ、俺達の足元でコラッタと対峙する。
「ユキッー!ユキキ!」
「ユキュー!!」
二匹もどうやら戦う気満々のようだな。俺のユキワラシは雪ノ下のユキワラシより元気があるな。
「行くわよ、比企谷君。援護して!」
「ああ。ユキワラシ、にらみつける!」
「ユッキー!!」
そう言うと、ユキワラシはコラッタを怖い顔でにらみつける。すると、それを見たコラッタは体を俺でも分かるぐらい震えさせていた。ゲームだと、防御力が一段階下がるだけだが、現実だと怯んでいる様子も分かるようだ。
「今だ!雪ノ下!」
「分かってるわ!ユキワラシ、こなゆき!」
「ユキューッ!!」
「コラッ!?」
雪ノ下のユキワラシにより辺りの草むらに場所外れの雪が積もる。攻撃を受けたコラッタはこなゆきにより遠くへ吹っ飛ばされる。追い打ちをして来ない限り、これで倒したことになったのか?
そんな疑問を感じつつ、俺はポケモン図鑑でユキワラシのレベルを確認する。見てみると、ユキワラシのレベルが6になっていた。どうやら、野生のポケモンを倒した判定のらしいな。
「お疲れ。ユキワラシ」
「よくやったわ。ユキワラシ」
俺達は戦ってくれたユキワラシ達を撫でる。ユキワラシ達は嬉しそうだが、俺と雪ノ下はある深刻な問題について話し合う。
「ねぇ、比企谷君。ユキワラシ達にニックネームを付けないかしら?」
「…そうだな。このままだと俺達が混乱するからな」
その問題とは雪ノ下のユキワラシと俺のユキワラシの区別がつかなくなる問題だ。まぁ、最初のポケモンが被る珍しいケースだからなぁ。オーキド博士が指摘をしなかったのも仕方がないと思う。
「なら、私はユキヒメと名付けるわ。今日から貴方の名前はユキヒメよ」
「ユキュッ?」
そう言ってまるで猫を飼って名付けている様子の雪ノ下だが、名付けるの早いな!?
俺はどうしようかな……そう言えば、家にあいつがいなかったんだよな。だったら、あいつの名前を使っても大丈夫かな。
「よし、決めた。お前の名前は今日からカマクラだ。よろしく頼むぞ」
「ユキッ?ユキキッ!!」
どうやら、ユキワラシも新しい名前を気に入ってくれたらしい。姿もまるで雪の方のカマクラを連想させるからだろうか?
「そっちも決まったようね。なら、急ぎましょうか。トキワシティまであと少しよ」
「そうだな。行くぞ、カマクラ」
俺達はカマクラ達をモンスターボールに戻さず、トキワシティへと駆け抜ける。カマクラ達も俺達に引っ付くように後を追ってるし、少しの道なら大丈夫だろう。
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トキワシティでの再会
そして、アンケートに答えてくれた方々ありがとうございました。
それでは久々の本編をどうぞ!
トキワシティまで走った俺達は日が沈む前に1番道路を抜けることができ、トキワシティのポケモンセンターに辿り着くことができた。
ポケモンセンターに入ると、そこもゲームのように簡素な構造ではなく、レストランや談話室、ホテルのような寝る場所など多くの設備に溢れていた。この設備の充実さには俺も雪ノ下もびっくりだ。
「じゃあ、私は私と比企谷君のポケモンをジョーイさんの所に預けて回復させてくるわ」
「ああ、じゃあ俺は雪ノ下と俺の分の寝る部屋を確保しに受付を済ませてくる」
「分かったわ。じゃあ、またあとで」
そう言って雪ノ下は俺からカマクラが入ったモンスターボールを受け取ってその場を後にする。
さて、俺も受付を済ませてくるか………
………………………
…………………………………
…………………………………………………
「よし、これで完了っと……」
俺はカウンターで雪ノ下と俺の計二人分の申請書を書き終え、チェックインを済ませる。
さて、こっちは終わったし、雪ノ下の所に向かおうと思っていると、後ろから誰か聞き覚えがする声の人に話しかけられる。
「八幡!!」
「お前……戸塚!それに川崎まで」
後ろを振り返ると、そこにはトレーナーズスクールでクラスメイトだった筈の戸塚と川崎の二人が立っていた。
「二人はどうしてここにいる?俺や雪ノ下よりも早くポケモンを貰っていると聞いていたから、もっと先のニビシティにいると思ってたんだか?」
俺がそう訊ねると、川崎がそれに答えた。
「実は予想以上にトキワの森が複雑でね。私達がトキワシティに着いた頃からニビシティに行ったら、到着が深夜になるかもしれなかったんだ。それにトキワの森にはポケモンがここら辺で一番多くて強いからポケモンの事を考えて、もう少しレベルアップして余裕を持って出発しようと思ってたんだ」
「ほぉ、しっかりポケモンのことを考えているんだな。二人はそんなに急ぐ必要はないのか?」
「あれっ?八幡に言ってなかったっけ?僕はポケモンの医者に、川崎さんはトレーナーズスクールの先生になる夢を持ってるから、次のポケモンリーグのために早くバッジを集める必要は無いんだよ。参加しないからね。ただ、ポケモンを扱う仕事だから、ある程度のバッジは必要だけど」
「あっ……そう言えば…そうだったな」
聞いた感じどうやら、戸塚が知る俺には前に説明していたようだな。俺は今初めて知ったけど。それにしても戸塚と川崎との仲はこっちの世界でも良好的な感じなんだな。こっちの世界でも戸塚と仲良くできて俺は嬉しいぜ。
「そう言えば、さっき雪ノ下さんの名前を言ってたけど、雪ノ下さんもポケモンセンターにいるんだよね?これから一緒にご飯でもどうかな?二人の最初のポケモンも見たいし」
…………………
………………………………
………………………………………………
「へぇ、ユキワラシって言うんだ!僕ホウエン地方のポケモンは本でしか見たことが無かったから、実物は初めてなんだよね!」
そう言って興奮しながら戸塚は俺のカマクラと雪ノ下のユキヒメをまじまじと観察する。
ここはポケモンセンターにあるフードコート。あの後ポケモンの治療を終えた雪ノ下と合流して、流れで一緒に飯を食うことになった。それにしてもポケモンセンターって現実になると、こんなに規模がデカイのかよ。衣食住が完璧に揃ったホテルだろ。
「そう言えば、戸塚君と川崎さんの最初のポケモンは何かしら?」
雪ノ下は注文した紅茶をかつてのように優雅に飲みながら、川崎と戸塚に興味津々に訊ねた。
「ああ、アンタ達には見せて無かったね。出てきな!ゼニガメ!」
「僕も!出てきて、フシギダネ!」
二人は手持ちのモンスターボールを開けると、中から光と共に小さいシルエットが現れる。
「ゼニッ!!」
「ダネッ!フシッ!」
そこに現れたのは本来俺達が貰うはずだったカントー地方の御三家ポケモンである、みずタイプのゼニガメ、くさタイプのフシギダネだ。
「これがフシギダネ……ゼニガメなのね」
そう言って雪ノ下は二体を観察しながら、猫のように頭を撫でたりしている。余談だが、実は雪ノ下俺よりも最初のポケモンについて悩んでいたらしい。実際にゲームの方でも一日は悩んだことがあったとか。特に最終進化でタイプが二つになるダイヤモンド・パール辺りだとそれ以上だそうだ。
「そうだ。アンタ達二人は明日トキワの森を抜けるんだっけ?」
「ああ、そのつもりだ」
「なら、アタシと戸塚も一緒に同行させてもらえないかな?」
別に戸塚と川崎ならトラブルも起こる気配も無いし、川崎が言うようにトキワの森が複雑なら、抜けるためにポケモンの数も多い方が良い。
「別に構わない。こちらこそよろしく頼む」
こうして俺達は川崎、戸塚の二人と一時的にトキワの森を抜けるためにチームを結成した。確かにゲームでもトキワの森は迷路みたいな場所だったが、現実だとどれくらいなのだろう。案内人でもいれば良いのにな。
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トキワの森と黄色の少女
トキワの森ーーそこはマサラタウン、トキワシティ出身のポケモントレーナーにとって最初の試練と呼ばれている。
何故なら、そこに生息するポケモンの種類、その数が多く、そしてレベルが初心者にとって高い。初心者が何も対策を取らずに突撃すれば、手持ちのポケモンが倒れ、逆戻り。最悪、そのままトキワの森をさまよう場合もある。
また、かつてカントー地方で大きく勢力を広げていたロケット団により、今は大きく改善されたものの、他の生息地のポケモンが迷いこみ、トキワの森の生態系に影響を与えていたらしい。
そのため、トキワの森に生息しないポケモンが現れ、トレーナーにも多大な影響を与えていた……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「スピッ!スピッ!!」」
くそッ!?何でトキワの森にこいつがいるんだよ!?最初の試練とはよく言ったものだな!?
俺達は今、後ろを振り返ることが出来ない程必死に逃げていた。
何故かって?そりゃ、スピアーの群れに襲われてるからだよ!ゲームじゃ、ビードルとコクーンはいたけど、スピアーはいなかっただろ!?そこはやっぱ、進化の生態系の現実補正かかってるのか!?
それに、もしトキワの森のポケモンにも現実補正がかかっているのなら、スピアーはマジヤバイ!
だって……
〇スピアー
・集団で現れることもある。猛スピードで飛び回りお尻の 毒針で刺しまくる。
毒針ってやばいじゃん。ポケモン図鑑の説明は地方によって変化するのは知ってるよ。でも、そんなに変化はないじゃん。毒を持ってるとか、集団で襲うとか。というか、今その状況だよ。
「……仕方ない。このまま逃げてても連鎖的に他のスピアーを増やすだけだ。今、片付ける」
「は、八幡!?」
戸塚は驚いた様子で急停止する俺を止めようとするが、俺はすでにボールを構えていた。
「いけっ!カマクラ!!」
「ユキッ!!」
ボールを草むらに投げると、中からカマクラが戦闘準備と言うが如くスピアーに向かい合っていた。
「……成る程、あの技ね」
雪ノ下はどうやら、気付いたようだな。さすがは歩くポケモン攻略本だ。言ったら、怒られそうだから本人の前では絶対に言えないけど。
「カマクラ、こごえるかぜ!!」
「ユッキー!!!」
そう言うと、カマクラは口から冷たい冷気をスピアー達の群れに対して包み込むように吐き出す。すると、前の方にいたスピアー達は凍ったように草むらに落ちていき、それを見た後ろ側のスピアー達は撤退していく。さすがは全体攻撃のこおり技。効果は抜群だ。
「ふぅ……危ねぇ」
周りの安全を確保出来た俺達は逃げるのをやめ、一旦はぐれないように集合する。
「た、助かったよ、八幡。それにしても八幡のユキワラシは強いね。僕なんか全然だよ」
「いや、戸塚のフシギダネはくさタイプだからな。むしタイプとどくタイプが多いから、あまり無理はしなくて良い。こおりタイプを持つ俺と雪ノ下を遠慮なく頼ってくれ」
そう言って、俺はポケモン図鑑でユキワラシのレベルを確認する。見てみると、ユキワラシのレベルは14から15に上がっていた。
まぁ、トキワの森に入ってからは率先して野生のポケモン達と戦っていたからなぁ。ちなみに雪ノ下のユキヒメは俺達の中で二番目にレベルが高く、14レベルだと雪ノ下本人が話していた。
「それにしても川崎の言う通りトキワの森はかなり複雑だな。道らしい道も無いし、ニビシティに行くのに方角しか頼れないとか」
「ええ、ひとまずはニビシティがある北に向かって歩きましょう。先程のスピアーの大群で、道から逸れたわけだし、軌道を修正するわよ」
雪ノ下の提案に俺、戸塚、川崎はこくこくと頷く。今はまだ昼前だから、何としてでも夕方には着いて向こうでゆっくりしたいものだ。
…………………
………………………………
…………………………………………
「ねぇ、何か聞こえないかい?」
ニビシティの方角に向かって草むら歩く最中、川崎が俺達にそう訊ねてきた。
「いや、俺には何も……」
俺には全く聞こえないため、戸塚と雪ノ下にも確認するが、首を横に振っていた。
「ちなみに、何が聞こえたんだ?」
「ポケモンのなき声だよ。数からして二体…だね。何か争っているような……。こっちだよ!」
説明をしていた途端、川崎が突如道から外れて、急ぐように走っていく。俺、雪ノ下、戸塚もそれを見て、彼女を追うようについていった。
「どうしたんだ!?川崎!」
「ポケモンのなき声が一つ急に聞こえなくなった!まさかだとは思うけど!」
俺達三人は川崎の聴覚を頼りに、その現場へと向かった。やがて、草むらが少なくなり、ひらけた場所に出る。そこにいたのは……
「ニ、ニドッ……」
「シャーッボック!!」
「あれは……ニドリーノとアーボックだよ!でも、あのニドリーノ怪我をしてる!」
戸塚の言う通り、そこにいたのは紫色のツノが特徴のニドリーノと人の顔のような模様の腹が特徴のアーボックだった。
ただ、ニドリーノの方は全身に大きな怪我をしており、アーボックはそれに追い打ちをかけるようにとどめを刺そうとしていた。
雪ノ下は「ニドリーノはニドランの進化形だから、近くの22番道路から来たのは分かるけど、アーボック以前にアーボはこの辺には生息しない……」とボソボソと考察していて、俺もその意見には賛成したいが、今はあのニドリーノを助けないとな。
「いけっ!カマクラ!」
俺はニドリーノとアーボックの間にカマクラを繰り出し、アーボックの注意をカマクラに引き寄せようと試みる。
「三人はニドリーノの方を頼む。俺はこっちのアーボックをやる!」
「「「分かった(わ)!!」」」
そう言って三人は協力して、俺のバトルに影響しない場所に連れて行き、治療を行う。
「さてと………」
(ああ言ったが、このアーボック、俺のカマクラの倍以上のレベルはあるぞ……。最低でも25レベルぐらいか。こんな奴がトキワの森にいるのは、雪ノ下の言う通り変だが、今はこいつを何とかしないと。雪ノ下のユキヒメは三人を守る最後の防衛線だし、バトルの協力は望めないな)
「カマクラ!こおりのつぶて!」
「ユキッキー!!」
俺がそう命令すると、カマクラは複数の氷の粒を具現化させ、アーボックに命中させる。
「シャーッ!!!」
けれども、アーボックには攻撃が効いたような気配は無く、むしろ八幡達に怒りの矛先を向けるだけの結果だった。だが、それが八幡の狙いだった。
(やはり、カマクラの攻撃じゃ効果は薄いか。だったら、ひたすらこっちに注意を向かせ、雪ノ下達から出来るだけ遠ざかって時間を稼ぐまでだ)
「カマクラ、こっちだ!」
「ユキッ!!」
俺とカマクラは雪ノ下達とは別の方向に走り、アーボックを切り離す。後ろを見てみると、アーボックが俺達を狙うように追いかけていた。よし、狙い通りだ。
「シャボッ!」
「ッ!?カマクラ、かわせ!」
すると、アーボックは口から毒々しい液体を俺達に向けて吐き出した。俺達は何とかかわしたが、その液体の正体はすぐに分かった。
「成る程……ようかいえきか」
ポケモンは分からないが、人間にモロに当たったら、確実に即死だな。ポケモンの技って現実になったら、こうも恐ろしいとは。
「カマクラ!撹乱させて、あいつに少しずつ攻撃を与えていくぞ!まずはかげぶんしんだ!」
「ユキッ!ユキキッ!」
すると、カマクラの小柄な姿がアーボックを囲うように何体も現れる。
「いけっ!こごえるかぜ!」
「ユッキー!!」
分身したカマクラ達はアーボックに冷たい冷気を覆うように吹きかける。
だが……
「シャーッ!!ボック!!」
アーボックはそれをびくともせず、長いしっぽをカマクラ達に振り回す。
「ユッキー!?」
「カマクラっ!」
やがて、アーボックの長いしっぽによる攻撃が分身に紛れ込んでいた本体に当たり、カマクラは吹き飛ばされるように俺の胸元に帰って来た。
「くそっ!」
これ以上、カマクラには無謀なバトルはしてもらいたくない。そう思いながら、俺は怒り大爆発のアーボックに目を合わせながらジリジリと後ろに下がる。
「シャーッ!!!」
ちっ!ここまでか………
そう思った瞬間……
「オムすけ!ハイドロポンプ!!」
突如、俺とアーボックの間に割り込むように草むらからオムスターが飛び出して来る。最初は新手かと思ったが、オムすけと呼ばれたオムスターはアーボックに向けてハイドロポンプを浴びせた。
「シャーッ!?シャ、シャー!!」
それを受けたアーボックはオムスターを見ると、戦意喪失したのか、逃げるように草むらへと帰って行った。あれほど好戦的だったアーボックがこうも簡単に逃げるとは。俺はすかさず、ポケモン図鑑を使ってオムスターのレベルを確認する。
「えっ…強くね?」
そこに映っていたのはレベル50という数字。オムナイトがオムスターに進化しているため、そこそこレベルが高いと思っていたが、とんでもない。こりゃ、アーボックが逃げ出すわけた。
しかし、オムスターがトキワの森に野生でいるわけがない。オムスター以前にオムナイトはカセキから復元するポケモンだ。なら、このオムスターは何処からか来たのか、その答えは一つだ。
「あの、大丈夫ですか?」
オムスターが出てきた草むらから遅れるように黄色い髪の少女が現れる。やはり、あのオムスターはトレーナーのポケモンだったか。
「はい、大丈夫です。助けてもらってありがとうございます」
「いえ、お礼なんて。偶然、僕も近くで寝ていたら、ポケモンが騒いでいる予感がして見に行ったら、そこに貴方がいたんです」
寝ていただと……!?こんなヤバい森で昼寝をしていたのか、この少女!?ポケモンが強いなら、トレーナーもそのぐらいヤバいというのか!?人は見かけで騙されてはいけないという教訓が初めて身に染みたわ。
「申し遅れました。僕はイエロー・デ・トキワグローブ。年はまだ14才とそんなに変わらないので、気軽にイエローと呼んでください」
「ひ、比企谷八幡でしゅ」
噛んだ。そりゃ、目の前にいる女性が思った以上に強者だし、年上だもの。許してよ。
「八幡さんですね……あっ!そう言えば、八幡さんはあのアーボックに襲われたんですよね?でしたら、その前に襲われていたポケモンを知りませんか?」
イエローがはっとした様子で思い出した一言で、俺も雪ノ下達とニドリーノの事を思い出した。
「そうだ……実は」
…………………
………………………………
………………………………………………
「なるほど、4人はニビシティを目指していたんですね。なら、ここを一直線で抜けたら、ニビシティに着く筈です。僕しか知らない近道なんですけど」
「すいません。ニドリーノと俺のカマクラの治療までしてくれた上に、案内までしてもらって」
「いえいえ、治療は戸塚君のお陰でほとんど終わっていたんです。戸塚君はきっと良いポケモンの医者になりますよ」
イエローさんにそう言われると、ニドリーノの治療に当たっていた戸塚が恥ずかしそうにする。
あの後、俺は事情を話したイエローさんと共にニドリーノの治療のために雪ノ下達と合流した。イエローさんはすぐにニドリーノの容態を確認すると、綺麗な応急処置をされており、もう大丈夫だとお墨付きをくれた。その代わりとして、アーボック戦で怪我をしたカマクラを治療して貰ったわけだ。
それに加えて、トキワの森に詳しいという事から、俺達にニビシティまでの近道を教えてくれたのだ。これで、もう複雑なトキワの森で迷う必要は無いだろう。
まじ、感謝でしかない。やっぱり、優れたトレーナーは器が全然違う。こんな人が世界中にいる世界になれば良いのに。
「それに君達は図鑑所有者ですから。先輩である僕が後輩を助けるのは当たり前ですよ」
「イエローさんも図鑑を持っているんですか?」
「はい、持ってますよ」
雪ノ下が訊ねると、イエローさんは懐から俺達と同じ型のポケモン図鑑を取り出す。
イエローさんに聞くと、彼女の知人の何人かもポケモン図鑑を持っている人達だとか。イエローさんはちょうどそんな知人達の同窓会みたいな集まりでバトルフロンティアから帰って来たらしい。詳しい事は聞けなかったが、バトルフロンティアで同窓会ってどういう状況だろう?
「そうだ、八幡君。君にはこれを」
別れ際、俺はイエローさんから一つのモンスターボールを俺に渡した。
「これって、さっきのニドリーノの……」
「さっきのアーボックとの戦いを見て、君についていきたくなったって。僕も君ならこのニドリーノと共にもっと成長できると思うんだ」
イエローさんがそう言うと、ニドリーノがそれに賛成するかのようにモンスターボールを中から揺らす。ニドリーノも異論は無いそうだ。
「そうか……よろしくな、ニドリーノ」
俺はニドリーノが入ったモンスターボールを手持ちへと加える。戸塚と川崎はそれを嬉しそうにしていたが、雪ノ下は若干妬んでいる様子だ。雪ノ下も二体目の手持ちが欲しいのが伺える。
「それじゃあ、イエローさん。またどこかで」
「うん。4人共頑張ってね」
こうして、一人の図鑑所有者に助けられ、新たなポケモンを手に入れた俺達はニビシティへの近道を進んで行った。ニビシティはすぐそこだ。
ちなみに、今日3月3日はイエローの誕生日です!!
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ニビシティ到着と月夜の決意
「ようやく着いたな、ニビシティ」
トキワの森を抜けて、ついに俺達は最初のジムがあるニビシティへと辿り着いた。
時間もまだそんなに遅くはない。今からジムに挑むことは出来るが、トキワの森を抜けた後にやるのは流石に辛いため満場一致で明日に延期することにした。俺もぶっちゃけ体力が限界である。
「それにしても大きい町ね。それにあちこちで鉱夫の人が多く見られるわね?」
「そりゃ、そうだよ。ニビシティにはカントー地方最大の博物館があるし、近くにはおつきみ山という進化の石が多く取れる鉱山があるからね」
雪ノ下の質問に戸塚が丁寧に説明する。要は鉱業が発達している町という感じなのか。ゲームでは、博物館とジムしか無いような町であったが、屋台のような店や石造りの家が多く、発展している様子は感じられる。
だいたいはゲームと似ているが、所々は現実味があるんだよな。なんか変な感じ。
……………………
……………………………………
………………………………………………
初めて来たニビシティをある程度観光した後、俺達はニビシティのポケモンセンターに入り、人数分の寝床を確保し、トキワの森で付いた汚れを綺麗に流し落とした。ポケモンセンターって最高の施設だよな。トレーナーだったら、寝る場所とお風呂を無償で提供してくれるから。これに慣れたら、もう野宿は二度としたく無いと思う人絶対にいるよなぁ。
「そう言えば、比企谷君。イエローさんから貰ったニドリーノの様子はどうかしら?」
戸塚達を含めた計4人で、ニビシティのファミレスで夕飯を食べていると、雪ノ下が俺に訊ねた。
「問題ない。さっきモンスターボールから出して、様子は大丈夫そうだった。しっかり、俺の命令も聞いてくれたよ。だからついでに、どんな技を覚えているかとレベルも確認したさ」
そう言って、俺は雪ノ下達に自分のポケモン図鑑を見せて、手持ちのレベルを見せる。
〇カマクラ(ユキワラシ)レベル21
〇ニドリーノ レベル20
「かなり強くなったわね。二匹共」
「そりゃ、比企谷にはトキワの森で積極的に沢山のスピアーとかを倒して貰ったからね。アタシ達のポケモンもレベルは上がっているけど、比企谷だけこんなにレベルが上がっているのは納得だよ」
そう、川崎の言う通りである。雪ノ下や戸塚や川崎も自分のポケモンで、トキワの森のポケモン達を倒していたが、倒した数が多いのは俺である。しかも、イエローさんに助けられたとはいえ、カマクラ達は高レベルのアーボックと戦闘し、勝ち星を取っている。その時の経験値も獲得しているのだろう。
「そう言えば、明日のジム戦はどうするんだ?一人ずつ挑戦する感じか?」
「別に4人で手持ちを合計しても5体しかいないから協力して一斉に挑戦するのは大丈夫だと思うよ。むしろ、ニビシティはトレーナー初心者の人達が最初に受けるジムだから協力して一斉に挑戦する形を奨励しているジムなんだよね。他のジムでは、八幡が言ったように一人で挑むのが主流だけど」
へぇ、つまりは4人で挑んで、ジムリーダーを倒したら、4人共ジムバッジが貰えるシステムか。初心者にとっては有難いし、ジムチャレンジもかなり効率的だ。戸塚に聞いて正解だったわ。
「なら、明日は全員で協力して挑むわよ。私は少し外の風に当たってから寝るから」
「ああ、分かった。当たりすぎて寝不足になるなよ、雪ノ下。じゃあ、おやすみ」
俺と川崎と戸塚は先に寝るが、雪ノ下はまだ起きているらしい。やっぱ、自分の好きなゲームの世界に来ているからウキウキしているんだろうな。無理はするタイプだが、人には迷惑をかける奴ではないし、大丈夫だろう。迷子をする奴でもないしな。
さて、俺は先に寝るとするか……
…………………
……………………………
………………………………………
「比企谷君だけズルいわ。新しい手持ちのポケモンを手に入れるなんて」
比企谷達が眠りに着く頃、雪ノ下はニビシティの近くの草むらに足を運んでいた。
「私だって、本当は新しいポケモンを捕まえたかったわよ。でも、むしタイプのポケモンは生のスピアーを見たら、どうも躊躇っちゃって……」
「ユキュ?」
「……大丈夫よ、ユキヒメ。別にポケモンが怖くなったわけじゃないから」
そう言って雪ノ下は心配そうにその様子を見ていたユキヒメを抱っこして、頭を撫でる。
「それにしても、私が知っているポケモンの世界とこの世界は何か違うようね。比企谷君が持っているニドリーノの件も含めて、ポケモンの生息地はバラバラ。さらにはスピアーのような進化形のポケモンも普通に存在している。比企谷くんは気付いてそうだけど、まるで私達の常識とゲームが交ざっているみたいだわ」
しばらく歩き続けていた雪ノ下は手頃な斜面を見つけ、そこで横になりながら休憩しつつ、この世界について改めて深く考えていた。
「でも……悪くないわ。私の好きな事が出来る世界。それなら、少しぐらいのイレギュラーな事が起こっても嫌いじゃない。逆にそうでなきゃ、つまらないもの。私はこの世界で自由にやらせて貰うわ」
決意と共に雪ノ下は空に浮かぶ青白く綺麗な満月を掴もうとする。
「ピッピ?ピッピッ!」
「……えっ!?」
その時、ピンク色のシルエットが彼女の顔を覗きこむ。雪ノ下はその姿に動揺を隠せなかった。
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VSニビジム
この作品を前から見ていた方々は気づいた方もいるでしょうが、雪ノ下のユキワラシのニックネームをユキヒメに改名させて頂きました。
困惑された方々、申し訳ありませんでした。
次の日を迎えた俺達はしっかりと朝食を摂り、手持ちのポケモンを確認し、最初のジムであるニビシティジムの入り口前に足を運んでいた。
「よし、3人共準備は良いか?」
「もちろん!」
「ああ、最初から全力で行くよ」
俺の問いかけに戸塚は元気よく、川崎は男勝りな口調で自信満々に返事をする。二人も最初のジム戦という事もあり、手持ちのポケモンのコンディションも完璧だと言う。
ニビシティに来るまで、俺も野生のポケモン以外にトレーナーとも戦ってきたが、ジムリーダーの強さというものがいまいちピンと来てない。そこらのトレーナーより強いのは分かっているが、ジムリーダーだとそう簡単には倒せないだろう。
幸い、戸塚と川崎のポケモンはフシギダネとゼニガメでいわタイプのジムリーダーであるニビシティジムリーダーには非常に効果的だ。俺としては彼らに非常に頑張ってもらいたい所だ。
「当たり前よ♪早くジムバッジを手に入れるわよ」
「「「…………………………」」」
そして、こいつはどうしたのだろうか。ジムに挑むという気持ちがすごく感じられるが、戸塚や川崎よりも顔のテンションが高い気がする。しかも、口調がいつも通りなので、ギャップが激しい。
元々重度のポケモン好きという趣味を隠していたが、ジム戦でこんなにテンションが高くなるものなのか微妙な所だ。重度のポケモン好きに加えて戦闘狂という性格を隠していたのか?
昨日は普段の雪ノ下だったから、夜の内に何かがあったのだろう。すごく知りたいが、こんな状態の雪ノ下に聞くのってめっちゃ勇気がいる。
ただ、余計なことを聞いて、この俺達のコンディションを壊すのもあれだし、聞かないのが正解だろう。ジム戦になったら、普段のクールな雪ノ下に戻るだろう。いや、戻って欲しい限りです。
…………………
………………………………
………………………………………………
ジムの中に入ると、内装はプロレスの会場のような感じで、真ん中にバトルフィールド、そしてそれを囲うような形でギャラリー席が設けられていた。
もうこの時点で、俺と雪ノ下のゲームの知識を逸脱している。ジムの内装は迷路っぽいものがゲームでは見られたが、この世界では違うらしい。チャレンジャーの俺達としては簡素で嬉しいが、なんか寂しい気もする。
そう思いつつ、ジムの中を見学していると、バトルフィールドではジムリーダーと思われるゴツい男性と見慣れた金髪がバトルを終えた所だった。
「ヒトカゲ!!」
見慣れた金髪の男、葉山が自分の手持ちであるヒトカゲに駆け寄る。どうやら、葉山はジムリーダーに負けたようだ。
「あのジムリーダーのポケモン……まさか、カブトプスか?」
葉山のヒトカゲも気になる所だが、何より気になったのは相手のジムリーダーのポケモンだった。
ジムリーダーのポケモンはカブトプス。カブトの進化形で、ゲームにおいてニビシティのジムリーダーが出す筈の無いポケモンを使っていたのだ。
これには俺だけでなく、雪ノ下や戸塚や川崎も予想外の反応を示していた。何が最初のジムだよ。ガチでチャレンジャーを倒しに来てるじゃん。
「待つし!!何でニビシティのジムリーダーがカブトプスを使ってくるし!初心者に優しいっていうのは嘘だったのかし!!」
「そうだし!優美子の言う通りだし!!」
しかし、葉山が負けたという結果に納得できないのか、俺達と同じように協力してジムをクリアしようとしていた仲間の三浦と由比ヶ浜は相手のポケモンについて抗議をする。そして、その二人を何とか抑えようとしているのは同じく彼らの仲間の戸部と海老名さんだ。
よくよく考えてみたら、この世界に来て初めてあいつらと対面するわけだが、どんな世界に来ても変わらないものは変わらないようだ。
「何も意地悪をしたわけじゃない。ポケモンジムはチャレンジャーを試す場所だ。特に最初のジムチャレンジャーが多いこのニビジムでは慎重に試している場所である。チャレンジャーのポケモンのレベルとトレーナーの実力をな!」
三浦達の抗議に対してジムリーダーも黙っているわけではない。彼の叱咤に近い説教がジムの中に響き渡る。その声に葉山達はビビるが、ジムリーダーが怒る原因を俺は理解していた。
「けど、隼人のヒトカゲのレベルは私達の中で一番高い方だし!最も自信があるポケモンで挑んで、この仕打ちは無いし!」
三浦はそう言って反論を続けるが、あのジムリーダーが怒っているのはそこではない。
「……三浦君と言ったね。確かに彼のポケモンは君達が出してきたポケモンの中で一番鍛えられていたよ。けれど、君達トレーナーはタイプの相性を理解しているのか?」
「っ!?」
それを聞いて、三浦は初めてハッとした様子で気付く。ようやく気付いたのか。
そう、ここはいわタイプのポケモンを出してくるジム。そこで、相性が悪いほのおタイプのヒトカゲを使うなんて悪手でしかない。レベルが高いと言っても、リザードに進化していないところから、いわタイプに効果抜群の技を覚えていないだろう。
「ポケモンの相性を考えないで、突撃させるなど言語道断だ!君達は自分のポケモンを傷つける気か!そんなトレーナーにジムバッジを渡すわけにはいかない!日を改めて出直してこい!」
その言葉に三浦も由比ヶ浜も反論する気を無くしたのか、そそくさとその場を立ち去る。心の余裕が無いのか、彼らはすれ違った俺達に気付く様子もなかった。まぁ、気付いた所で、こんな状況で話し込むのも無理な話だと思うけどな。
「さてと、君達が次のチャレンジャーだね。俺はニビジムのジムリーダーのタケシだ」
ニビジムのジムリーダーであるタケシさんに自己紹介をされ、俺達も自己紹介を行う。やはり、ジムリーダーはタケシだったか。それにしても、顔も細目でゲームとそっくりだ。まるで、知り合いに会ったかのような安心感を感じる。
「比企谷君と雪ノ下さんか……ついに来たか」
「「?」」
「いや、何でもない。こっちの話だ」
タケシさんは俺と雪ノ下の顔を見ながら、何かを言っていたが、あまり聞き取れなかった。
「では、まずは確認しよう。君達は協力してニビジムに挑みに来たんだよな?」
「はい、そうです」
「そうか、ならこちらは君達の人数に合わせて4体出そう。君達はそのポケモンに合わせて交代して戦ってくれ。ただし、必ず一人一回はポケモンを倒すことだ。連戦は無しだよ」
なるほど、要は一回戦闘して勝った人はHPに関わらずもう戦えないということか。
「分かりました」
「よし、なら行くぞ!出てこい!オムナイト!」
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雪ノ下の新たな手持ち
「ゼニガメ!みずでっぽう!」
「ゼニー!」
勢いのある川崎のゼニガメのみずでっぽうがタケシさんのイシツブテに直撃する。いわとじめんタイプのイシツブテには効果は抜群だ。ゲームならば、最大の4倍のダメージを与えたことになる。
「ツブイチ!!」
『イシツブテ戦闘不能!勝者、川崎選手!』
タケシさんのイシツブテを倒したという審判のアナウンスがバトルフィールドに響く。
「やったね!川崎さん!」
「ありがと、戸塚」
ゼニガメをモンスターボールに戻し、控え室に帰って来る川崎を前の試合で勝利を飾った戸塚が笑顔で迎え入れる。
「これで、2勝ね。比企谷君」
「ああ、後は俺達だけだ」
4人で協力したジム戦もすでに半分。残りは俺と雪ノ下の二人である。
ちなみに、戸塚の試合はすでに終わっている。もちろん、白星だ。最初、タケシさんが繰り出してきたオムナイトには驚いたが、冷静に対処して、くさタイプのフシギダネを持つ戸塚が相手をし、無事に勝利をおさめた結果となった。
「二人とも、しっかりタイプ相性を理解しているね。それにポケモンも良く育てられてる」
タケシさんからの戸塚と川崎の印象も良く、さっき三浦達に怒っていたのが嘘みたいに優しい。しっかりとした人にはそれ相応の評価と対応をチャレンジャーに行う。チャレンジャーを試すジムリーダーの鏡のような人物だ。
「さて、残りは雪ノ下さんと比企谷君か。なら、君達にはこれを出させて貰おうか!」
第3戦。タケシさんは三体目のポケモンを手持ちからバトルフィールドに繰り出す。
出てきたのは………
「リッキ!リキー!!」
「…………………マジかよ」
なんとタケシさんが繰り出してきたのはワンリキー。いわタイプのジムリーダーがかくとうタイプのポケモンを出すのは計算外だ。
「驚いたか?いわタイプのジムリーダーがかくとうタイプを使って。でも、これぐらいの状況にも対応して貰わないと、今後のジムチャレンジで苦労するぞ!」
どうやらタケシさんは並みならぬ思いで、俺と雪ノ下を試しているらしい。俺としても、ここは期待に応えたい所だが、俺と雪ノ下のポケモンはユキワラシ。こおりタイプはかくとうタイプに相性が悪い。ここは俺のニドリーノを繰り出すか?
「ここは私が行くわ!比企谷君」
「雪ノ下、正気か?」
雪ノ下はニドリーノを繰り出そうとする俺の手を止め、バトルフィールドに降り立つ。
「先に雪ノ下さんか。どうやら、その顔を見ると、やけに自信がありそうだな?」
タケシさんはそう言うが、雪ノ下はユキワラシのユキヒメしか手持ちにいない。明らかに悪手である。ここは俺が出るべきだろう。
しかし、雪ノ下の顔はやけに自信がある様子だった。何か秘策でもあるのか?
「はい、出てきなさい!!」
雪ノ下はそう言ってバトルフィールドにモンスターボールを投げ入れる。
そこから出てきたのは………
「ピッピ!ピッピ!」
「…………ピッピだと!?」
雪ノ下が投げ入れたのはユキヒメのモンスターボールではなく、彼女が繰り出したのはいつ捕まえたのか分からないようせいポケモンのピッピだった。
「雪ノ下さん、いつの間に……!?」
「昨日の夜に捕まえたのよ」
戸塚の問いかけに雪ノ下は答える。どうやら、彼女はおつきみやま近くの草むらで散歩していた所、あのピッピと遭遇して自分の手持ちにしたらしい。
「ピッピだと?だが、ピッピはノーマルタイプだぞ。それで良いんだな?」
「そ、そうだ!ピッピはノーマルタイプ!相性は「構いません。これが私の答えです」
タケシさんと川崎にもピッピを繰り出したことに異論を唱えるが、雪ノ下の答えは変わらない。
「八幡………」
「大丈夫だ。雪ノ下は勝てる」
だが、戦わない俺達はこれ以上どうすることも出来ない。戸塚や川崎は不安そうにしているが、見守るしか術は無いだろう。
「なら、行くぞ!ワンリキー、けたぐり!」
「リッキ!!」
ワンリキーの素早いけたぐりがピッピのお腹の部分にクリーンヒットする。
「……比企谷、やっぱり相性が悪すぎるって」
「そうだよ。ここはやっぱり彼女のパートナーポケモンのユキヒメじゃなきゃ……」
「……川崎、戸塚。どうやら、別にそうでも無いらしいぞ」
「「えっ?」」
雪ノ下の戦いを見て心配する二人を落ち着かせるために俺はピッピの方を指差す。
「ピッピ!!ピッピッー!!」
そこにいたのはワンリキーのけたぐりを喰らっても元気だぞとアピールするように可愛らしくはしゃぐピッピの姿だった。
「ピッピ!チャームボイス!」
「ピッー!ピッピー!!!♪♪♪」
「リッキー!??」
ピッピの可愛らしい声がスタジアムに響き渡り、その音波がワンリキーに直撃する。
「リッ……リッキー」
至近距離でまともに喰らったワンリキーはその場にグタッと倒れこむ。勝負は決したようだ。
『ワンリキー戦闘不能!勝者、雪ノ下選手!!』
審判は勝者の名を大声で呼び、同時にジムチャレンジクリアに王手をかけたことを証明する。
「………流石は雪ノ下さんだ。まさか、つい最近発見されたフェアリータイプを知っているなんて。久しぶりに驚かされたよ」
「タケシさんは知っていたんですね。私のピッピはワンリキーに相性が良いということを」
「ジムリーダーだから当たり前だ。最近のポケモンにまつわる情報は雑誌で目にしているよ。ピッピがノーマルタイプのポケモンではなく、フェアリータイプのポケモンだということもね」
そう言ってタケシはワンリキーを自分のモンスターボールに戻し、最後のバトルに臨む。
「比企谷君、後はまかせたわよ」
「ああ、まかせろ」
雪ノ下とすれ違うように、俺もバトルフィールドへと赴く。泣いても笑ってもこれが最後だ。
「ここまで勝ち上がってきた君達には俺の一番のポケモンを見せよう!出てこい!イワーク!」
「イワー!!!」
タケシの手持ちから繰り出されたポケモン。それは大きな岩が連なっているような巨体、いわへびポケモンのイワークであった。
「なら、出てこいカマクラ!」
相手のジムリーダーが一番のポケモンを出してきたなら、こちらも一番の相棒を出すしかない。
「ユッキー!!」
さぁ、最終戦だ。
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ニビジム最終戦
「イワーク!いわおとしだ!」
「カマクラ!かげぶんしんでかわせ!」
イワークの巨体から繰り出される大きな無数の岩をユキワラシはかげぶんしんで回避する。
くっ!!ゲームだと、ボタン一つで決まるようなバトルが現実だとここまで気が抜けないものだとはな。ジムリーダーだとまるでデスゲームをやっているような緊張感だ!
「かわすだけじゃ勝負は勝てないぞ!イワーク!たいあたりを決めろ!」
「イワー!!!」
「ユキッ!?」
「か、カマクラ!」
あの巨体で何て素早さだ!?ゲームでなら、重さ的にユキワラシの方が軽い筈だろ!
んっ?……ゲームなら?まさか。
ポケモン図鑑を開き、イワークのページを見る。
〇普段は土の中に住んでいる。地中を時速80キロで掘りながらエサを探す。
おいおい、地中を時速80キロが適用されるのかよ。しかし、あのイワークがやけに素早いのはそれだけが原因じゃないだろう。
そう思いつつ、イワークの姿を見ると、さっきより長さが短くなっているのが分かった。
「なるほど、ロックカットか」
「その通り!動きが鈍いと見せかけて、相手を素早く、力強い、攻撃で打ち負かす!これが俺のイワークの戦い方だ!」
流石はジムリーダー。ポケモンの能力を生かした優れた戦い方だ。これまでのトレーナーとは一味も二味も違う。こんな人があと7人もカントー地方にいるのには驚きだが、タケシさんがこれでも本気を出していないのも驚きだ。事実、葉山のヒトカゲを倒したカブトプスとは戦わなかったわけだし。
「ちっ!カマクラ!こごえるかぜだ!」
「ユキッー!!ユキキッ!!!」
だが、俺も負けるわけにはいかない。俺も全力でイワークに攻撃をしかけようとする。しかし、じめんタイプを持つイワークに効果は抜群ではあるものの、決定打ではない。効いてはいるが、まだピンピンとしている感じだ。
「フンッ!そんな冷風はイワークには効かない!イワーク!いわなだれを見せてやれ!」
すると、ユキワラシの頭上にいわおとしの比じゃない量の岩が落ちてくる。
いわタイプの技はこおりタイプには効果抜群だ。こういう時、ゲームと違って4つの技に限定されない現実で良かったと思う。
「カマクラ!まもるだ!」
「ユキッーー!!!」
俺はカマクラの最後の無敵防御技、まもるを命令する。すると、カマクラの周りに薄緑色の透明なバリアが張られ、いわなだれという窮地を脱した。
このポケモンの世界が一度覚えた技なら何時でも使えるというもので助かった。だが、こちらが劣性だという状況は変わらない。
くそっ!ユキワラシが素早さでイワークに負けるのは分かっている。どうにかして、あのイワークの動きを止められれば、良いんだが。
そう思っていると、ポケモン図鑑がスマホのように点滅する。この点滅の仕方は新たにポケモンが技を覚えたシグナルだ。どうやら、戦いを通してカマクラはレベルアップをしたらしい。
(この技……一か八かの賭けだな)
カマクラがレベル23に上がり、新たに覚えた技を確認して微かに見えてきた勝機を伺う。これがもし決まれば、イワークの動きを止められるかもしれない。
「カマクラ!」
俺は新たに覚えた技をカマクラに命令する。
「こおりのキバだ!!」
「ユキキッ!!」
すると、カマクラの小さな歯に辺りを凍らせるような冷気が纏う。
「ユッキー!!!」
「イワーッ!!?」
「なっ!?イワーク!?」
カマクラはその歯でイワークにこれまでのお返しだと言うように噛みつく。すると、イワークの体が噛みついた場所から徐々に凍りついていく。
「賭けには……勝ったようだな」
そう、俺の狙いは状態異常。こおり状態だ。ゲームの頃なら、こおりのキバには僅かながら相手をこおり状態にする能力がある。俺はそれに賭けたのだ。
後は体が凍りつき、動けなくなったイワークを可哀想ではあるが、一方的に技を浴びせるのみだ。
「カマクラ!イワークにありったけの冷気を浴びさせてやるんだ!!」
「ユッキーッ!!!」
カマクラはこのチャンスを逃さず、ありったけのこおりタイプの技を浴びせる。それにより、こちらにも冷気が入り込み、肌寒いぐらいだ。
「………見事だ」
そして、イワークはうめき声のような低い声の悲鳴をあげて、地面に倒れた。
『イワーク戦闘不能!!勝者、比企谷選手!』
…………………
………………………………
………………………………………………
「おめでとう。四人とも良い勝負だった」
俺達によって倒されたポケモンを回復させるためにスタッフに預けたタケシさんは俺達の方までやって来て、賛辞の言葉を送る。
「君達には色々と渡すものがあってね。まずは俺に勝った証を君達に送ろう」
そう言ってタケシさんは人数分のバッジケースとニビジムのジムチャレンジをクリアした証であるグレーバッジを渡した。
これがジムバッジか。元の世界では切手みたいにバッジを集める趣味は無かったが、ゲームを知っている俺からすれば、これは集めたくなる。雪ノ下なんか目を輝かせているし。
「次はこれだ」
「あっ!ポケギアですね!」
タケシさんが次に見せてきたのはポケギア。この世界でいうスマートフォンみたいなものだ。それを見て、戸塚は興奮した様子を見せる。
「その通り。君達全員分のものを用意してある。これを使えば、いつでも電話番号を交換した人と連絡が取れるし、旅も楽になるだろう。俺の電話番号はすでに君達のポケギアに登録してあるよ」
そう言って、タケシさんは黄緑色のカラーのポケギアを戸塚に、オレンジ色のポケギアを川崎に、水色のポケギアに、俺には黒色のポケギアを渡す。起動してみると、電話番号の場所にはすでにタケシさんの電話番号が登録してあった。
まさか、ポケギアをくれるだけでなく、ジムリーダーの電話番号も教えてくれるとは。タケシさんに聞くと、ジムリーダーを倒した人物の中でジムリーダーが特に気に入った人物には電話番号を渡しているらしい。ジムリーダーのお気に入りにされて、少し恥ずかしい気分だ。
「そして、最後に比企谷君と雪ノ下さんにはある人からの伝言を送りたい」
「「ある人?」」
「ああ。比企谷君の父ー比企谷重吾と、雪ノ下さんの姉ー雪ノ下陽乃さんからの伝言だ。二人がニビジムをクリアした時、伝えてくれと頼まれたのさ」
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※おもいでリンク(父と姉)
今更ですが、評価を付けて下さった皆様、ありがとうございました!
これからも少しずつ投稿していきますので、よろしくお願いします!
『カブトプス!げんしのちからだ!』
『バンギラス!ストーンエッジ!』
ニビジムのバトルフィールド。普段のジムチャレンジとは違い、ギャラリーが誰もいない雰囲気の中で、タケシのカブトプスと比企谷八幡の父ー比企谷重吾のバンギラスが激しい戦いを繰り広げていた。
互いのいわタイプの技がぶつかり合い、バトルフィールドは地形が変化する程だ。これには偶然戦いを見ていたフィールドの整備士も頭を悩ませる。
『カブトプス!きりさく!』
『バンギラス!きあいパンチ!』
だが、そんな整備士の気持ちも知らずに二人は笑みをこぼしながら、激闘を続ける。
『カッ!?』
『ギラァー!!!』
そして、長かった激闘も幕を閉じる。バンギラスのきあいパンチを喰らったカブトプスは吹き飛ばされ、そのまま立ち上がることは無かった。
『カブトプス!!?』
『勝負ありって所だな。戻れバンギラス』
そう言って黒髪の青年ー比企谷重吾はバンギラスを手持ちのモンスターボールに戻した。
………………
………………………………
……………………………………………
『また負けたか……』
『俺としても簡単には負けるわけにはいかねーよ。第5回ポケモンリーグ優勝者なめんな』
『ああ……そうでしたね。
『その呼び名はマジで勘弁してくれ。子供にはその名前で呼ばれたくない。くそッ……ポケモン協会のジジイがドヤ顔で命名しやがって……』
そう言って俺の前で頭を抱えている黒髪の男は比企谷重吾。ポケモンリーグ優勝者という肩書きを持ち、トレーナーズスクールでは先輩にあたる男だ。
『けど、タケシ。前よりは強くなっていたぞ。つい先日のジムリーダー対抗戦ではミカンという少女に負けたらしいが、もう数年鍛えれば彼女には勝てるよ。相手がはがねタイプの使い手だとしてもな』
『はい……今日はわざわざ練習に付き合ってくれてありがとうございました』
『それにしても今日はよく来てくれましたね。家庭に仕事に忙しい筈でしょう?』
『ああ、実はついでにタケシにその話をしようと思ってな。俺の息子の話だ』
『息子……ああ!八幡君ですね。確か今はもう9歳ぐらいでしたっけ?』
『そうだ。八幡も後2年もすれば、ポケモントレーナーの資格を持つことが出来る』
『良いですね。自分がポケモンを初めて持つ時は一緒に来た親が泣いて感動してましたよ。ポケモントレーナーになるっていうのは大人に近づく一つの儀式ですからね!』
『ああ……そうなんだが、残念ながらその場にはいないかもしれない。仕事が入った』
『仕事……ですか?』
『そうだ。どうしても外せない仕事なんだ。依頼者がホウエン地方のとんでもない貴族で、娘達を一流のトレーナーにして欲しいという要望だ』
『……断らなかったんですか?』
『断れなかったんだ。相手はポケモン協会に多額の出資をしている。しかも、俺がシンオウやイッシュやカロスに留学した時に資金援助してくれたのがその人達なんだ。恩を仇で返すことは出来ない。だから、今日お前にこれを渡しに来たんだ』
そう言って、重吾は俺に手紙を渡す。
『これは?』
『紹介状だ。俺の息子は最初にニビジムに挑戦する。もし、息子がジムバッジを得る程の実力を持っていることをお前が認めたのなら、その手紙も一緒に渡してくれ。『セキチクシティとシオンタウンに早めに向かえ』というメッセージと一緒にな。俺がいない時、息子をさらに強くしてくれる筈だ』
『は、はぁ……』
『頼んだぞ、タケシ』
ーーーーーーーーーーーーーー
『やっほー、タケシさん!』
『どうした?雪ノ下じゃないか!?』
俺のジムに何食わぬ様子で入って来たのは雪ノ下建設の長女、雪ノ下陽乃。俺が認めた数少ないトレーナーの一人で、その実力はポケモン協会が認める四天王にも匹敵するぐらいだ。
『今日はどうした?雪ノ下がジムに来るなんて珍しいじゃないか。明日は流星群でも降るのか?』
『何で私がジム来たら、流星群が降るわけ!?ドラゴンタイプ使いへの宣戦布告と受け取ってもよろしいのかな?』
『いや、やめとく。お前だけでなく、ワタルやイブキも敵にしそうだ。その3人がニビジムに来るだけで俺の胃がもたない』
顔見知りという仲を冗談混じりの会話で示す二人。しばらくそんなやり取りをしていると、陽乃はタケシにジムに来た本題を切り出す。
『タケシさん、実はお願いがあるんだ』
『お願い?どんなだ?』
『後、数年で私の妹の雪乃ちゃんがポケモントレーナーになるんだけど、彼女がタケシさんにジムバトルで勝ったら、これを渡してくれない?』
『これは進化の石か?』
俺は雪ノ下からもらった進化の石を鑑定するように見る。みずの石に見えなくはないが、色は青緑色に透き通っており、中心部にはトゲトゲの吹き出しのような模様がある。
『そう、偶然見つけたの。でも、どんなポケモンを進化させるための物か分からなくてさ。だから、雪乃ちゃんに渡してくれない?旅のお守りとして』
『そんな物……姉であるお前から渡せよ』
『いやいや、私近い内にシンオウ地方に行くから。そこにはドラゴンタイプのポケモンの伝承が多く残っていてさ~!そこで鍛えれば、もっと強くなるかなぁと思って!今の所、一年はいるつもりかな?』
『まったく………』
この前は親不孝者ならぬ、息子不孝者が来たと思えば、今度は妹不孝者か。
だが、二人の頼みは流石に断れないな。なら、君達が話した息子と妹の実力を楽しみにして数年待つとしよう。
気付いた方もいるかもしれませんが、タグの方をいくつか変更させて頂きました。
ストーリー展開もある程度固まった上での変更なので、確認して頂けると、幸いです。
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新たな指標と新たな騒動?
注意して読んでください。
「これが俺の親父からの……」
「これを姉さんが………」
当時を振り返るようにタケシは八幡と雪乃に二人の父と姉から託された物を渡す。
異世界から意識だけ来てしまった俺からすれば、親父に何らかの形で間接的に触れるのは初めてだったが、タケシさんが言うには本当に強い人だったらしい。元の世界では普通のリーマンだったのに。
タケシさんから貰った紹介状の中身を見るが、そこであることに気がつく。
「タケシさん、これ……」
「そうなんだ。紹介状に重吾さんの直筆のサインしか書いて無いんだよ。あの人が言うにはセキチクシティとシオンタウンに行けば、その紹介した人は分かるらしい。まったく、ポケモンリーグ優勝者が紹介状ぐらい丁寧に書いてくれって話だ……」
タケシさんが俺の気持ちを代弁してくれたように、実は親父からの紹介状には親父の名前しか書いてないのだ。紹介した人の名前、詳しい住所、そして挨拶と内容。全てが空白なのだ。
いや、マジで勘弁して欲しい。
元の世界の親父も杜撰な方ではあったが、ここまで杜撰ではなかった。タケシさんもこれを貰った時は危うく捨ててしまう所だったらしい。
「大変ね、比企谷君」
「ああ……まったくだ」
それに比べて雪ノ下の物はしっかりしている。正体不明の進化の石ではあるが、こんな白紙同然の手紙よりは全然マシだ。俺もそういう実用的な物が欲しかったわ。
「さてと、これで君達に渡す物は全て渡した。君達は次のジムに行くべきだけど、比企谷君は紹介状の通りならシオンタウンとセキチクシティに先に行かないと駄目だね」
「ええ……けど、ここからシオンタウンとセキチクシティってかなり遠いですよね?」
「別にそんなことは無いわ。2番道路に戻れば、ディグダの穴があって、そこからクチバシティまでショートカットが出来る筈よ。そこから近いのはシオンタウンかしらね?」
流石は歩くポケモン図鑑。地理関係も全て把握済みだ。これには説明しようとしていたタケシさんも驚きである。
「どうやら、次の指標決めも完璧のようだな!なら、早くその目的地に行くと良い。けれど、次からのジムリーダー達は個人の力を確認する者達ばかりだ。鍛練を怠るなよ!では、また会おう!」
こうしてジムリーダーらしい激励を頂いた俺達は長い戦いを行ったニビジムを後にしたのだった。
……………………
……………………………………
…………………………………………………
「次はクチバシティか。となると、次挑むとなるのはクチバジムだな」
「ええ、本来なら最も近いハナダシティのハナダジムを目指すべきでしょうけど、別にジムの順番は自由で良いと思うわよ」
「だな。戸塚達も一緒に「八幡。実は僕トキワシティに戻ろうと思うんだ」……えっ?」
ニビジムを出てすぐの戸塚からのカミングアウトに頭が一瞬フリーズする。
「実は私も考えてたんだ」
えっ!?川崎もか?急な話でついていけないんだけど。まさかのホームシック!?
「……何か理由があるのね?」
そう言って雪ノ下は冷静に二人に訊ねる。
「さっき、タケシさんが言ってたけど、これからのジムバトルは個人の力で戦うんだよね。だから、僕はトキワシティとニビシティをしばらく拠点にしてポケモンを鍛えたいんだ」
「私も同じ。今回は二人に助けられたから、トキワの森も抜けられたし、ジムバッジも貰うことが出来た。だから、今度は自分の力で攻略出来るようにしたいんだ。残念だけど、二人とはお別れだね」
戸塚と川崎は俺達と別れることに残念そうにするが、二人の新たな指標を聞いた以上、俺と雪ノ下がそれを止める理由はない。
「分かった。俺達は先で待ってるから。そこで、また強くなって再会しよう」
「うん、僕もポケモンの医者になるための知識を蓄えて二人に追い付くから。八幡と雪ノ下さんも無理しないように頑張ってね。それじゃあ」
そう言い残して、戸塚と川崎はトキワシティへの方向へと戻っていく。この時間なら、トキワの森を抜けてトキワシティに今日中に着くだろう。
「比企谷君、貴方はどうする?彼らを追うようにディグダの穴に向かう?」
「なわけ。今はカマクラを回復させるのが優先だ。二人にも無理をするなと言われたばかりだ。今日はニビシティで一泊するぞ」
「賢明な判断ね。貴方がパートナーで良かったわ。もし、貴方が脳筋みたいにクチバシティに行こうとしてたら、見捨てていたわよ」
「……笑えねぇ冗談だ」
戸塚達を見送った俺達はその足でポケモンセンターに向かおうとする。雪ノ下のピッピは大丈夫そうだが、俺のカマクラは限界まで頑張ってくれたため、かなり疲れが溜まっている。まだ昼ぐらいだが、ここは休むべきだろう。カマクラを回復させている間は生活必需品の補充も出来るし、観光もありだな。
そう思いながら、雪ノ下と話を進めていると、俺達を遮るように見慣れた男達が現れる。
「やぁ、ヒキタニ君に雪乃ちゃん。どうやらジムバッジをゲットしたようだね。俺達も最後の方を影で二人の戦いを見ていたよ」
「……だから、何だ?俺達はポケモンセンターに行きたいんだ。邪魔をしないでくれるか?仲間を巻き込んでまでよ」
「いや、君の戦いを見ていたけど、トレーナーズスクールでの成績がまるで嘘みたいでね。あの下位の成績だったヒキタニ君がここまで強くなったとは思っていなかった。だから、俺は君にポケモン勝負を挑もうと思うんだ」
「はぁ?」
葉山の言い分に思わず呆れてしまう。俺がトレーナーズスクールでは成績が悪かったという新たな自分についての情報は分かったが、ポケモン勝負を挑む理由があまりにもひどい。
「葉山君、貴方はタケシさんから説教された筈よ。こんな事をしているなら、貴方はその説教を生かすために他にやることがあるはずだけど」
「これがそうだよ。タケシさんに勝ったトレーナーに勝てば、タケシさんも実力を認めてくれる筈だ。俺が鍛えたポケモンが負ける筈が無い!」
そう言って葉山は誇らしげに言うが、あまりにも醜い。周りの状況を確認すると、三浦と由比ヶ浜は葉山に協力して、戸部と海老名は嫌々としている感じか。
「断る。俺は行く場所がある」
「はぁ!?ヒッキーマジキモいし!ジムリーダーに勝ったのもどうせマグレだし!」
「由比ヶ浜さん!貴女ね!比企谷君は……」
「結衣の言う通りだし!ポケモンも私達が知らないポケモンを使っているし、ジムリーダーに勝ったのはそのポケモンのお陰だし!」
由比ヶ浜と三浦の醜い罵倒を雪ノ下は必死に弁護するが、治まる様子が見えない。
「おい、葉山。先にポケモンセンターに行かせてくれ。勝負するならそれから「駄目だ。ポケモンを入れ換えようなんてする真似はさせない。君は手持ちのそのカマクラというポケモン
ブチッ
こいつは本当にポケモントレーナーか?回復が済んでいないポケモンに勝って何が嬉しいんだか。そんなんで、タケシさんが認める筈が無いだろう。
だが、良いことが聞けた。
「……分かった。
「ああ、そうだ。それなら大丈夫だ」
「そうか、ならすぐに場所を移して戦おう。すぐに終わらせてやるから」
まさか、こいつらが良い感じに勘違いしているとはな。ジム戦では出せなかったが、どうやらこいつの出番はまだ残っているようだ。
…………………
…………………………………
………………………………………………
「何よあれ……どういう状況?陽乃に言われてニビシティに来たけど、来て早々にトラブルの予感じゃない。最悪のケースも考えて、私も行ってみた方が良さそうみたいね」
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VS葉山
「さぁ、早く始めろよ」
ニビシティの町中にある屋外のバトルフィールドに移動した俺達は早々と勝負を終わらせようと互いに準備をし、俺と葉山は向かい合うようにバトルフィールドに立つ。
ちなみに、その他の雪ノ下達はバトルフィールド脇にあるベンチでそれを傍観しているつもりだそうだ。三浦と由比ヶ浜は大きな声で葉山を応援しているが、海老名さんと戸部はあまり乗り気ではない様子。
そこで、試合前に海老名さん達にトレーナーズスクールでの俺について簡単な話を聞いてみると、葉山には成績で負けていたのは事実らしい。ポケモンの扱いについても葉山の方が上だったとか。
そして、そんな成績だった俺がトレーナーズスクール時代でも優等生だった雪ノ下と一緒にいる事と彼が負けたジムリーダーに俺が勝った事が葉山にとっては気に食わないらしい。それが、今回の事件の発端だ。
何でも、葉山家は雪ノ下建設お抱えの弁護士一家で、嫡男である葉山隼人と雪ノ下雪乃は幼馴染みの関係であったとか。それを聞いて、雪ノ下はこの世界でも変わらないのね……と、絶句していた。
戸部と海老名もこの凶行には最後まで反対していたらしいが、三浦と由比ヶ浜、そして彼女らに賛成した葉山によって多数決のような形で言いくるめられてしまったらしい。
まぁ、葉山は元の世界でも女には甘いからな。ニビジムで見た時もどうせ由比ヶ浜と三浦によってよいしょされて、言われるままに最も自信のあるヒトカゲを出したに違いない。
「ああ、君の実力が本物なのか俺が確かめてあげるよ。いけ!ヒトカゲ!」
そう言って、葉山は回復させたヒトカゲをバトルフィールドに繰り出した。
やはりヒトカゲを出してきたか。
こおりタイプのカマクラに相性が良いほのおタイプのヒトカゲを出すのは当然だと思うが、疲れたばかりのポケモンを回復させたばかりのポケモンと戦わせるのはどうかと思う。そのいつまでも余裕ぶっている顔を崩してやりたい気分だ。
「さぁ、ヒキタニ君も早くポケモンを」
「ああ……いけ!ニドリーノ!」
「ニッドー!!ニドッ!」
「なっ!!?」
対して俺はカマクラを出すと思っている彼らの予想を覆すためにジム戦には出してやれなかったニドリーノを繰り出した。
ニドリーノも初陣だからか、自信に満ち溢れている様子だ。それとは対照的に葉山達は予想外と言わんばかりの顔をし、雪ノ下は口に手を当ててクスクスと笑っている。
「ヒッキーマジキモいし!?何で別のポケモンを使うし!あんなの卑怯だし!」
「あーしも反則だと思うし!何でさっきのジム戦で使ったポケモンを使わないし!?」
あーあー、向こう側のギャラリーがうるさい。これには雪ノ下もそうだし、同じグループの海老名さんと戸部もドン引きしている。
「だから、さっき確認したよな?今の手持ちのポケモンなら、大丈夫だと。お前達が手持ちのポケモンが一体しかいないと勝手に勘違いしているのが悪いだろ。それに疲れたばかりのポケモンをバトルを出すのはトレーナーとしてはどうかなと思うぞ。その疲れたポケモンを狙いに来た奴も大概だけどな」
「そうだよ。結衣、優美子。さっき比企谷君も目の前で確認してたじゃない」
「だべ~。比企谷君が二体目を持っていたのはビックリしたけど、文句を言われる理由は無いっしょ」
そう言って海老名さんと戸部は俺を擁護するように二人に反論する。この反論には同じグループの由比ヶ浜と三浦も予想外で、これ以上ギャーギャーと何も言うことは無かった。
元の世界では葉山グループに何とか従属するBL好きの女子とお調子者ではあったが、彼女らにもポケモントレーナーとしてのプライドがあるらしい。そう言えば、この世界の葉山グループで名前をしっかり呼んだのはあの二人だけだ。元の世界では間違えて呼んで嫌気はあったが、この世界の彼女らとは仲良くやっていける気がする。
「何かそちらで勝手な手違いがあったらしいが、まだポケモンバトルをするのか?」
「くっ!確かに君が二体目を持っていたのは予想外だったが、君には負けるわけにはいかない!ここで、君の実力を見定める!ヒトカゲ、ひのこだ!」
「カゲッ!!」
そう言って葉山が命令すると、ニドリーノに向けて小さな炎を撒き散らす。
「ニドリーノ!ひのこをかわしつつ接近して、ヒトカゲにどくばりだ!」
「ニドッ!!ニッドー!!!」
「カゲッー!!?」
だが、ニドリーノも何もしないわけがない。ニドリーノはひのこを丁寧に当たらないようにかわしながら、ヒトカゲに毒々しい角の攻撃を浴びせる。
「ちっ!?ヒトカゲ!ニドリーノが接近した今がチャンスだ!連続でひっかくだ!!」
「カゲ!カゲッ!カゲッ!」
どくばりを喰らったヒトカゲはそのままニドリーノを離さず連続でひっかく攻撃をする。
「………………………………」
あいつ、何も分かってないな。
……………………
…………………………………
………………………………………………
「この勝負、比企谷君の勝ちね」
「えっ?どういう事?雪ノ下さん」
「そうだべ。俺っち達には分からないべよ。比企谷君のニドリーノは明らかにヒトカゲの連続ひっかくで攻撃を受け続けてるべ。比企谷君もまったく反撃をしないなんて変だべよ」
「そうね。確かにヒトカゲは攻撃を続けているわ。けれど、攻撃をする度にヒトカゲの調子は悪くなっていないかしら?」
「言われてみれば、そうだね。ヒトカゲの顔色が徐々に悪くなっているし、攻撃も遅くなっているような……。もしかして、これって!?」
「そう、答えはどく状態。あのヒトカゲは戦闘中に状態異常にかかっていたのよ」
「でも、雪ノ下さん?隼人のヒトカゲはどくばりしか喰らってないべよ?そんな簡単にどく状態になってしまうものなのかだべ?」
「戸部君の言う通り、どくばりで状態異常になったケースもあるけど、一発でなるのはかなり可能性が低いわ。答えはあのひっかく攻撃が原因よ」
「ひっかく……?あ、そう言えば!!」
「海老名さん、気付いたようね」
「ニドリーノには『どくのトゲ』という物理攻撃で相手をどく状態にする特性があるんだよ!!」
………………………
……………………………………
………………………………………………
「おいっ!?ヒトカゲどうした!?」
「カゲッ……カゲッ……カゲッ……」
しばらく攻撃を続けていたヒトカゲであったが、やがてその場に倒れるように寝てしまう。
ヒトカゲには悪いが、ようやく効いたようだな。俺もあまり攻撃はしたくなかったんだ。
「答えはニドリーノのどくのトゲだよ」
「どくのトゲだと?そうか、ニドリーノの特性でヒトカゲがどく状態に…………」
「そうだ。連続でひっかくなんかさせたら、特性でどく状態になるのは分かっているだろう。そんな短絡的だから、お前はタケシさんに負けるんだよ。ポケモンが可哀想だ。」
それを言うと、葉山は唇を噛み締めながらヒトカゲの元に駆け寄る。しかし、その反応からは俺への悪意という物が感じられなかった。
「ヒキタニ君……いや、比企谷君。君の実力を俺は甘く見ていたようだ。俺は今からもう一度鍛え直してタケシさんに挑む。だから、俺が強くなったら、もう一度君と戦いたい」
俺の方を真っ直ぐ見て答える葉山。その目からはタケシさんのような真っ当なポケモントレーナーとしての資質の片鱗を感じられた。まるで、正気に戻ったような感じである。
「ふっ、気が向いたらな」
「やれやれ、トレーナーズスクールの頃からだったけど、君は素直じゃないね」
こうして、葉山とのポケモンバトルは俺の勝利で、葉山が更正した感じで終了した……
筈だった。
「比企谷!危ない!」
葉山の言葉で俺は突如飛んできた飛来物に対して何とか回避できた。見てみると、後ろにあった木の枝がスパッと綺麗に切れていたのだ。
「優美子!何のつもりだ!」
葉山は俺に飛来物を飛ばした犯人、三浦優美子と相棒のフシギダネに一喝する。その声からはみんなの隼人の片鱗が見えない怒りが詰まっていた。
「隼人がこんな奴に負けるわけないし!!きっと、負けたのはこいつが仕組んだからだし!」
「バトルは俺達が提案した事だろう!それに、俺が負けたのは相手のポケモンの特性やタイプを知らない俺が悪かったからだ!比企谷とのポケモンバトルはもう終わった事なんだよ!」
「っ!!うるさいし!隼人はそこで見ているし!あーしが倒してやるから!」
「やめろ!優美子!!」
葉山の言葉は三浦に届かず、三浦はフシギダネにはっぱカッターを命令する。おいおい、倒してやるって俺の方かよ。トレーナーに技を放つなんて言語道断だろ。
「ジュゴン!れいとうビーム!!」
だが、その攻撃が俺に来る気配がなかった。なぜなら、俺の前で何者かによる凄まじい冷気がフシギダネの攻撃を無効化したからだ。
「な、何者だし!?」
三浦が邪魔をした犯人を見つけようとすると、凄まじい冷気の霧からあしかポケモンのジュゴンと女性のトレーナーが現れる。
「まったく……陽乃が言うからわざわざニビシティに来たのに、この騒ぎはどういうことよ。ポケモンがポケモントレーナーに技を撃つなんて今時R団ぐらいしかやらないわよ?」
そう言って出てきた女性トレーナーは橙色のポニーテールを揺らしてバトルフィールドに入ってくる。その姿はまるでOLのような姿ではあるが、明らかにOLの仕事をしている人物ではない。まるで、ジムリーダーに似たような雰囲気を醸し出している。
「な、何者だし!?」
「私はカンナ。元・四天……いえ、今はただのこおりタイプのポケモン使いよ。そんなに戦いたいのなら、私が相手になるわよ」
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こおりタイプ使いのカンナ
これで、アンチ回は終了ですかね。
(カンナ……だと!?)
突如バトルフィールドに降り立った女性。俺からしたら、助けてくれた恩人である彼女の名前を聞いて、俺はもちろん、雪ノ下も驚きを隠せなかった。
なぜなら、彼女はカントー地方を舞台にしたポケモンのゲームでは四天王というラスボスのようなポケモンの世界では数少ない存在だったからだ。
だとしたら、あの並外れた雰囲気も理解できる。まさか、ジムリーダーと戦った後に四天王にも会えるとはな。目の前で彼女の実力の片鱗を見てしまったが、今の彼女には絶対に俺達では歯が立たないだろう。返り討ちにされてしまう。
「いきなり何だし!?割り込んでくるなし!」
「彼らのバトルに先に割り込んだのは貴女でしょう?そんなに戦う気満々なら、私が相手をしてあげる。トレーナーに攻撃をさせられる貴女のポケモンが可哀想だわ」
「なっ!?なら、やってやるし!!」
カンナさんの挑発に乗ったような形で三浦はカンナさんと対峙する。フシギダネ対ジュゴン。これはもうタイプ以前にレベルの問題だろう。どちらかが先に瞬殺されるなんて見なくても分かるな。
「そこのニドリーノの少年。名前は?」
「ひ、比企谷八幡です!」
急にカンナさんに名前を訊ねられ、俺は噛みそうになるが、どうにか自分の名前を答える。
「比企谷……成る程、彼の息子ね。見た目にも面影があるわ。なら、八幡くん。これを持って、あの金髪くんとこの場から離れた方が良いわよ。私、あまり加減しないタイプだから」
そう言ってカンナさんは俺に緑色の袋に入った粉のような物を受けとらせる。
「カンナさん、これは?」
「かいふくのくすりよ。これを使って、金髪くんのヒトカゲと貴方の二体のポケモンを回復させなさい。状態異常と体力が回復するから」
「分かりました。行くぞ、葉山!」
「あ、ああ、すまない」
カンナさんの忠告に従うように俺は葉山と共に雪ノ下達がいるベンチへと移動した。そして、ベンチを移動した俺達はカンナさんから貰ったかいふくのくすりを葉山と自分のポケモンに飲ませる。すると、ポケモン達はみるみると戦う前の元気な姿を見せてくれた。流石はかいふくのくすり。その効果は高い一級品の価値なだけはある。
しかし回復させたは良いが、この状況はあまりにも良いとは言い切れない状態だ。先程まで文句を言っていた由比ヶ浜はカンナさんが現れてからは怯えたように黙ったままだし、優美子はカンナさんに堂々と宣戦布告。どうか、何事もなくこのバトルが終わって欲しい。
「そちらから仕掛けてどうぞ」
「ちっ!!余裕ぶっているのは今の内だし!フシギダネ!ジュゴンにつるのムチ!」
「ダネッ!ダネッ!」
「ジュゴン、受け流しなさい!」
三浦のフシギダネが二本のツルを使ってジュゴンを何度もひっぱたく。しかし、その攻撃はジュゴンには全く効いていなく、余裕なジュゴンは水族館にいるアシカみたいな声を出す。
「ま、全く効いていない。どうして!?」
「当たり前よ。このジュゴンは私がパウワウの頃から共にした私の最初のポケモンよ。私が優しく丁寧に育ててきたジュゴン……貴方みたいなポケモントレーナーに負けるはずが無いわ!」
「なっ!?」
「……今から貴女には二つの選択肢を与えるわ。ここで、貴女が降参を認めるなら、私もこれ以上は何もしない。けれど、もし貴女が戦いを続けるなら、取り返しのつかないかもしれない事を貴女のポケモンにするわ。貴女がポケモンの事を思うトレーナーなら、貴女はどちらを選択するのかしら?」
なるほど、カンナさんはポケモンに優しいトレーナーなら、遠回しにここで降参しなさいと言っているわけか。これ以上、戦ってもジュゴンに勝てる見込みは無い。俺ならば、カマクラ達を傷つけさせたくないから、すぐに降参を即断する。
だが、カンナさんの言う取り返しのつかないかもしれない事とは一体どういう事だろうか?
「あーしに降参をしろって言うし!?ふざけないで欲しいし!ポケモントレーナーなら、最後まで戦ってやるのが常識だし!」
だが、その問いかけの相手はプライドの高い三浦。ここまでやっても、降参のこの字は彼女の頭には無いようだ。その答えにカンナは手を頭に付けて、悩ませた様子を見せている。
「……そう、ごめんなさい彼女のフシギダネ……」
「何をしんみりに謝っているし!フシギダネ、はっぱカッターだし!」
三浦は戦闘を続行。彼女のフシギダネがジュゴンに向けてはっぱカッターを繰り出す。それと同時にカンナさんは苦渋の決断の末、ある技を命令する。
「ジュゴン………ぜったいれいど」
それと同時にバトルフィールドが先程のれいとうビームと比にならないぐらいの冷気と白い霧がバトルフィールドを一気に包みこむ。カンナさんの忠告に従わなければ、あの冷気を直に喰らっていただろう。離れたベンチに座っているだけでも、冬と思わせる冷気が立ち込めている。
「ふ、フシギダネ!!」
やがて、白い霧と共に冷気も分散し始める。それと同時に三浦はフシギダネのいた場所へと駆け寄る。対照的にカンナさんは全て分かったようにジュゴンを自分のモンスターボールに戻していた。
ぜったいれいど………俺と雪ノ下はその恐ろしい技をゲームで知っていた。ゲームでは当たる確率がほとんど低い技、しかしその技が当たれば、一撃必殺。そんな技を三浦のフシギダネは喰らったのだ。カンナさんが躊躇ったのも十分に分かる。
「いや!いや!フシギダネ!返事をしてよ!」
三浦は泣きながら、フシギダネを抱えて必死に何度も呼び掛ける。しかし、フシギダネの体は凍りついたように微かな動きすら見せない。
「貴女もポケモンの為に泣ける優しい気持ちはあったようね。本当はそれをあの段階で気付いて欲しかったのだけれど」
そんな三浦の元に、フシギダネをあんな状態にしたカンナさんが近寄る。三浦からしてみれば、恨めしい人物かもしれないが、今の彼女にはカンナさんに文句を言う気持ちすら無かった。今の彼女にとって、そんな小言よりもフシギダネを想う気持ちの方が勝っていたのだ。
「……これを持って、友達と共にポケモンセンターに向かいなさい。今なら、まだ間に合うわ」
「これ……は?」
「ふっかつそうよ。ポケモンにはかなり苦いけど食べさせれば、意識を取り戻すわ。後はさっきの金髪くんにあげたかいふくのくすりを使って、ポケモンセンターで休ませれば大丈夫よ」
それを聞いて、三浦は涙を隠さず、すぐに行動に移した。まず、葉山達にカンナさんに言われた事を話し、協力してくれないかとお願いする。
「比企谷、優美子が本当にすまなかった!次会った時は優美子と一緒に謝罪する!だから、また会ったら、俺ともう一度戦ってくれ!」
優美子から事情を聞いた葉山はそう言い残して、海老名さんと戸部と由比ヶ浜を連れて、フシギダネをポケモンセンターへと急いで連れていく。
あの人数がいれば、フシギダネもきっと大丈夫だろう。運動部に所属していた葉山と戸部に連れて行かれれば三浦達女組よりも早く着くし、人手が足りないという問題も生まれない。
俺達も行こうとは思っていたが、俺に攻撃をしてきた三浦は気が動転していると思うし、葉山と戸部と海老名からは行く間際に謝罪をされたから、行かなくても良いか。葉山が言っていたようにまた近い内にどこかで会いそうだ。
取り残された俺と雪ノ下。そんな俺達に四天王であるカンナさんが話しかけてきた。
「さてと、ようやく落ち着いて話せるわね。改めて私はカンナ。元は四天王と呼ばれていたけど、今は自分の故郷を拠点にポケモンを改めて鍛え直しているただのトレーナーよ」
「は、初めまして雪ノ下雪乃です」
初めての四天王に萎縮する雪ノ下。さっき名前を聞かれた時、俺もそんな感じだったわ。ちなみに、俺はさっき名前を言ったので省略。
「ふーん、あの生意気な陽乃とは大違いね。あれの妹がこんな礼儀正しいとは……」
「あの、姉さんとはどういう関係なんですか?」
雪ノ下の顔をジロジロ見て、ポロっとこぼれた一言に雪ノ下が反応する。
「あー、教えてなかったわね。昔、私は陽乃とトレーナーズスクールのクラスメイトで、今はポケモンを鍛え合うライバルのような関係よ。実は陽乃に貴女について面倒を見て欲しいと言われたのよ」
「姉さんが?」
「そう!あのムカつく魔王様がね!まぁ、詳しい話はポケモンセンターにあるホテルで話しましょう。二人とも、ジム戦で疲れていると思うから」
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カンナの鍛練と更なる分断
4年間続けたゲームがサービス終了すると、悲しいものですね……。
ゲームで涙が止まらなくなるっていう初めての体験でした。
「へぇ、カンナさんは陽乃さんと知り合いだけではなく、俺の親父とも知り合いなんですね」
「ええ、そうよ。比企谷重吾を知らないジムリーダーや四天王はカントーやジョウトにはいないわ。彼に息子がいるっていう話は陽乃からも軽く聞いていたけど、まさか陽乃の妹と一緒にいたとわね」
葉山達との一騒動を解決し、夜を迎えた俺達はポケモンセンターで元・四天王であるカンナさんから俺の親父や雪ノ下の姉の陽乃さんから色々な話を聞いていた。
ニビシティのポケモンセンターで一泊を過ごすため、先に来ていた葉山達に短い間の再会をすると思っていたが、一回も会わなかった。ジョーイさんに聞くと、付きっきりでフシギダネがいる集中治療室にいるのだとか。きっと、夜もそのままそこで寝泊まりするだろう。特に三浦は自分のポケモンだからひどく心配していたしな。
今はあまり関わらず、明日になったら、すぐに出発するのが一番だろう。下手に関わって、また新たなトラブルを生みたくは無いからな。
「そうそう、八幡くんで思い出したわ。実は陽乃から八幡くん宛にあるものを預かっていたのよ。陽乃は昔、重吾さんに短い間弟子入りしていた事があってね。まだ幼い八幡くんをかなり可愛がっていたらしいわよ」
「へ、へぇ、そうなんすか」
衝撃のカミングアウトである。まさか、陽乃さんとも面識があったとは。しかも、姉と弟みたいに可愛がられていた様子。それを聞いた雪ノ下は何故か俺の方を睨むが、全く身に覚えが無い事案である。
「これは………?」
「進化の石ね。陽乃は昔からポケモンの進化に関わる石を集めるのが趣味なのよ。お姉ちゃんからのトレーナーになったお祝いだって」
カンナさんから受け取った石。その石はまるで黒曜石のような黒い光沢がある石だった。雪ノ下がタケシさんから貰った水色の石とは対照的に素朴さというか渋さを感じる。
「ありがとうございます、カンナさん」
「礼なら陽乃に直接言ってちょうだい。私は偶然八幡くんがいたから渡しただけよ。今日、ニビシティに来た本題はそっちの娘にあるから」
そう言って、俺からのお礼を簡単に受け取ったカンナさんは雪ノ下の方を見る。
「そう言えば、カンナさんはどうしてここに?陽乃さんがどうこうとか言ってましたが………」
俺が確認するように訊ねると、カンナさんはコクコクと頷いてそれを肯定する。
「そうよ。陽乃が久しぶりに家に来たと思ったら、『雪乃ちゃんを私の代わりに鍛えてあげて』とお願いされてね。最初は断ろうと思ったけど、あいつ……すぐにシンオウ地方に旅に出掛けたらしくて。断ることすら出来なかったわよ」
それは御愁傷様の一言に尽きる。あの人の自由奔放さと行動力はポケモンの世界でも変わらないようだ。しかも、四天王を振り回すとか………。
「でも、貴女は良い腕してると思うわ。特に最初のポケモンがこおりタイプのユキワラシを使っていることにセンスを感じる!あんなドラゴンタイプを最初のポケモンに選ぶ陽乃と同じ姉妹なのか疑いたくなるぐらいよ!」
ここまでの会話を通して陽乃さんとカンナさんの仲が何となく見えてきた。恐らく、犬猿の仲なのだろう。確かにドラゴンタイプとこおりタイプは相性的にかなり悪い。水と油みたいな仲なんだな。
「本当はそっちの八幡くんもユキワラシを使うらしいから、鍛えてあげたいのだけれど、確か八幡くんは急がなきゃいけない用があるんだっけ?」
「はい……親父からカンナさんみたいに鍛えてくれる人物の紹介状を貰いまして……。シオンタウンとセキチクシティに行かなきゃいけないんすよ」
俺はカンナさんに紹介状のこと、内容が白紙のこと、全てを話した。すると、それを聞いたカンナさんはあることを思い出したのか、顔に焦りの色が表れていた。
「待って……。シオンタウンって言ったかしら?」
「はい。まさか、何か思い当たりが?」
「う、うん。一人だけね。まさか、よりにもよってあの人に頼むかしら……?でも、重吾さんが信頼する実力を確かに持っているわね……」
「えっ……どんな人なんですか?」
「……むやみに名前を呼んだら、駄目なのよ。あの人は地獄耳だから。悪口を聞かれただけで、確実に呪い殺される気しかしないわ」
いやいや、どんな人だよ!?名前を呼んだら、駄目って完全にヴォル〇モートじゃん!しかも、あの四天王が恐れるぐらいの人って。親父は一体誰宛の紹介状を書いたんだ!?
「いや、でも四天王だったカンナさんからも機会があるならば、鍛えてもらいたいし、先にカンナさんに鍛えて貰ってからでも良いのでは……」
「いえ、先にそっちに行くべきよ!というか、今から行っても良いぐらい!むしろ、私が原因で遅刻したみたいに報告されたら、私が呪い殺されそうだから全力でやめて!?」
さっきまでの冷静さが嘘みたいに焦るカンナさん。その様子は曇った眼鏡で十分に分かる。俺はとんでもない人物を紹介されたようだ。
「なら……それはつまり……」
「ええ、そういうことになるわね」
雪ノ下はカンナさんに確認する。やはり、この会話からいくと、そういうことなんだろうな。
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ー次の日の朝ー
「……俺はもう行くぞ。雪ノ下もカンナさんの元での鍛練頑張れよ」
「そっちも頑張りなさい。私も今より強くなって、比企谷君とすぐに合流するから」
次の日朝、俺は雪ノ下とカンナさんに見送られる形でニビシティをクチバシティ方面に向けて出発しようとしていた。
話の内容から分かっていたが、雪ノ下とはここで暫しのお別れだ。カンナさんも忙しい中来ていたわけだし、俺の用事を終わらせてから俺も鍛え直して下さいと言うのも図々しい話だしな。
カンナさんもこの決断には納得していた。一応、カンナさんと雪ノ下の電話番号はポケギアに登録したからいつでも連絡できる状態だが、鍛練のために引き篭ると言っていたし、邪魔をしないように極力連絡しない方が良いだろう。
「また会いましょう、比企谷君。シオンタウンにいる例の人物は貴方をさらに鍛えてくれるわ」
「うっす、カンナさんもお元気で」
こうして二人との別れを済ませた俺はディグダの穴を通過してクチバシティに向かうために2番道路へと歩みを進めるのであった。
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「さてと、雪乃ちゃん。私達も移動するわよ。鍛練をする場所へ」
「はい……でも、鍛練する場所って?」
「ハナダシティの郊外。ハナダのどうくつよ!」
「えっ……!?」
ここで、一段落ですね。
しばらくは大学の用やバイトとかでまた忙しくなり、投稿するペースは遅くなるかもしれませんが、完成次第すぐに投稿しますので、楽しみにして頂けると嬉しいです!
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クチバシティと中二病男との再会
「ふー……やっと抜け出せたぜ」
一日ぶりの日の光を浴びて、ディグダの穴を無事に抜けたこと、クチバシティの近くまで来たことを噛み締めるように確認する。
まさか、ディグダの穴がこんなに長いとは思ってなかったわ。偶然会った山男に聞いたら、自転車では半日、徒歩だと一日はかかる長さだって言うし。まぁ、途中でペンションみたいな小屋もあったし、何もない野宿よりはマシだっだと思う。
「それにお前達を鍛えるのにも丁度良かったな」
そう言って、俺は手持ちのモンスターボールに目をやる。ポケモン図鑑で調べたら、カマクラとニドリーノのレベルは29ぐらいとかなり成長している。
「さてと、ここを西の方向に向かったら、クチバシティだよな。洞窟で付いた泥も洗い流したい所だし、即刻ポケモンセンターに「だ、誰かー!!?我を助けてくれー!!?」……ああ?」
まさかの洞窟を抜けてからすぐにトラブルに遭遇かよ。本当はポケモンセンターにすぐにでも行きたいが、あんな大声の悲鳴が聞こえた以上、確認しないわけにはいかない。
それにしても、今の悲鳴………何処かで聞いた事があるんだよなぁ。今時、自分のことを我と言う知り合いなんてそんなにいない筈なんだが。
そう思いつつ、俺は悲鳴がした場所へと急行する。到着すると、そこには茶色いロングコートを着た男が大量のサンドに襲われていた状況だった。
「ぬおー!!?誰かぁ!??」
「ちっ!!カマクラ!こごえるかぜ!!」
カマクラをモンスターボールから繰り出し、大量のサンドに向けて冷たい冷気をカマクラは吐き出した。すると、じめんタイプのサンド達は逃げるように草むらへと走っていく。この様子なら、報復をするような気配も無いな。
「おい、大丈夫か………って、お、お前!?」
「むっ!!?その声、その姿、八幡ではないか!」
わーお……マジですか。何で久しぶりに地上に出てきた俺が最初に話す人物がこいつなんだよ。というか、こいつもこの世界にいること忘れてたわ。
何とそこにいた見慣れたロングコートの男の正体は元の世界ではラノベ作家を目指していた中二病、こっちの世界ではトレーナーズスクールの同級生にあたる中二病、材木座であった。どっちの世界でも中二病はやっぱ変わらないのかい。
………………………
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………………………………………………
「まさか我が相棒に助けられるとはな!」
「あー……うん、そうだな……」
クチバシティへの帰路の中、俺はこいつの話をひたすら聞かされていた。普通に話せば良いのだが、武勇伝のようにいちいち話が長くなるためうんざりとしている所だ。こいつに会った時点で、色々察していたけど。
「……そう言えば、お前何でサンドに襲われていたんだ?普通にしてれば、襲わないポケモンだろ?」
「うむ……実は貴様にも話したと思うが、我は親の関係で研究者を志している。トレーナーズスクール卒業後はクチバシティにある研究所で、フィールドワークを続けていてな。そしたら、そのフィールドワークの最中にサンドを驚かせてしまって………」
「なるほどな……」
要するに自分が蒔いた種というわけか。というより、この世界では材木座は研究者になろうとしているのか。ラノベ作家よりはマシな職業だな。
「お!そうだ!八幡には後で我の新作を見せてやろう!研究者にはなりたいとは思っていたが、未だに物書きだけは止められなくてな!」
ごめん、前言撤回。ここにさりげなく兼業しようとしてる奴いたわ。
そうこう話している内に俺達はクチバシティへと辿り着いた。流石は港町。今まで見てきた中で、一番発展している。豪華客船もあるしな。
ひとまずはポケモンの回復だ。そう言えば、雪ノ下は大丈夫なのだろうか?四天王がいるわけだし、死ぬことは無いだろう……多分。
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材木座の研究所とでんきタイプのジムリーダー
「ここが我の研究室だ!」
「へぇ、意外にまともにやってるんだな」
クチバシティに到着した俺はポケモンをポケモンセンターに預け、その暇な時間を使って材木座の研究室へと来ていた。
材木座の研究室は3~4人しか入れない規模の個室タイプではあったが、あちこちには資料やポケモンに関わるサンプルのような物が窺えて、しっかりとやっているのが伝わる。まぁ、本棚の中にはラノベのような本が数冊詰まってはいたが。
「キキキ!キュィ!?」
「リザッ!!リザーッ!」
「ああ、帰るのが遅れてすまんな。コイル、リザード。今日は客人がいてな」
すると、研究室の奥からドローンのように浮遊してくるコイルと実験器具のような物を手に持つリザードがやってくる。
「もしかして、お前のポケモンか?」
「うむ。我が自慢の手持ちのポケモンである!」
そう言って、材木座が俺についてポケモン達に紹介すると、最初は警戒していた材木座のポケモン達は俺にすり寄って来る。
それにしても、意外だった。まさか、最初のポケモンが進化していて、さらには新たなポケモンを捕まえている。戸塚や川崎や葉山グループを含めたトレーナーズスクール出身組では一番ポケモントレーナーしているんじゃないかと思う。
「なんだよ。普通にポケモンいるじゃん。何でサンドの調査に連れていかなかったんだよ?」
「サンドの調査にコイルもリザードも圧倒的に不利だからな。我としても研究を手伝って貰っているポケモン達を無理に傷つけさせるのは不本意だ。だから、すぐに帰って来る事を告げて出掛けたら………」
「成る程、把握したわ」
そこで、俺が材木座の悲鳴を聞いたあの場面に繋がるというわけか。まったく……自身の安全を確認して引き際を弁えて欲しいものだ。
「そう言えば……お前のリザード。ヒトカゲが進化したんだよな?あまり戦わせたりはしないと言ってたが、どうやって進化したんだ?」
ポケモンの進化には色々と方法がある。石による進化、特殊な気候や時間による進化、なつき度合いによる進化、そして一般的なレベルアップによる進化。ヒトカゲはこのレベルアップによる進化に該当する。だとすれば、材木座のヒトカゲはポケモンバトルによるかなりの経験値によって進化したことになる。そう考えると、あまりポケモンを戦わせたりはしない材木座のポリシーに反する。
「おお、そのことか。実は我はある人物の専属技術スタッフもやっていてな」
「ある人物?」
「うむ。クチバシティで研究者を始めた頃、我の昔からの機械いじりの才能がその人に買われてな。我はその人の頼みを度々聞くたびに、その人が我のヒトカゲとコイルを暇潰しに鍛えるようになったのだ。で、その人物が「おぉい!材木座!俺が依頼した技マシンの機械は一体どうなってる!?」……タイミング良くその人物が来たようだな」
材木座がそう言うと、部屋の外から大声を出していた男が勢い良く部屋の中に入ってくる。髪は金髪で、服装は軍人のような迷彩柄の服、普通の人なら外見だけで怖い人だと認識してしまう程に厳つい。
「しっかりと調整は終えてあります、マチス殿。ほら、これが例の技マシンの機械です」
「おぉ………流石の出来映えだぜ!で、今日は珍しく客人がいるじゃねぇか?お前、名前は?」
「ひ、比企谷八幡です……」
まるで借金取りに会った気分だ。外見も厳つければ、内面もその通りである。俺達よりかなり年上ではあるが、材木座がいつもの喋り方をせず、丁寧な話し方をするのも理解できる。確実に機嫌を損ねたら、ヤバい人だ。
「比企谷……八幡か。ほう、確かに面影があるぜ。お前の親父とは俺が昔所属していた組織の同僚のツテで見たことがある」
「どうして親父のことを?」
「おお、自己紹介がまだだったな。俺の名前はマチス。このクチバシティのジムリーダーをやっている。歓迎するぜ、八幡」
ええ……まさかのジムリーダーかよ!?というか、材木座の依頼人ってこの人だったのか。なら、材木座のリザードの進化も頷けるわ。
…………………
…………………………………
…………………………………………………
「えっ!?八幡の親父殿ってそんなに有名人なんですか!?初耳なのだが!!」
「ああ、コイツの親父はジムリーダーで知らねぇ奴は絶対にいねぇヤバいトレーナーだ。今時のトレーナーは比企谷重吾の名前を知らないのか?」
そう言ってジムリーダーであるマチスさんは自分の年齢とのジェネレーションギャップを染々と感じながら、材木座に俺の親父の話をしていた。
「そう言えば、八幡。聞き忘れておったが、お前はどうしてクチバシティに来たのだ?」
あ、そう言えば材木座には話してなかったな。クチバシティに来るまでコイツの話をひたすら聞かされていただけだったし。
「もちろん、ジムバッジ集めだ。と、言いたいが、今はシオンタウンに行かなくてはならなくてな。クチバシティにはポケモンを休めるために来ただけだ。休め終わったら、すぐ出るつもりだ」
そう言って、俺はタケシさんから紹介状を見せながら事の経緯を説明する。目の前にクチバジムのジムリーダーがいるが、ジムバトルをしない宣言をして海に沈められたりしないだろうか。
「セキチクシティ……か。比企谷重吾が息子を鍛えて欲しいと頼んだ相手は一人しかいないな。それに、その白紙の紹介状も仕組みが分かった」
俺の話を聞いたマチスさんはセキチクシティの紹介状の人物に覚えがあるらしい。それに、紹介状もなぜ白紙なのかが分かったそうだ。
「本当ですか!?なら教え「だが、ただで教えるわけにはいかねぇ。目の前にジムリーダーがいながら、ジムバトルをしねぇと言った少々贅沢な野郎には痛い目にあって貰わねぇとな!」
やっぱり、根に持ってたよ!?すいません、マジですいません!だから、どうか海には沈めないでください。死んで転生するのは一回で十分です!
「……ポケモンが回復するのは後どれくらいだ?」
「……えっ?後、一時間ぐらいか…と?」
「そうか!なら、話が早い!ポケモンが回復したら、すぐにクチバジムに来い!俺がすぐにジムバトルをしてやる!もし、お前が勝ったら、バッジと共にセキチクシティの相手について教えてやるぜ!このクチバジムをスルーする奴にはこうでもしないとな!」
……成る程、まさかの避けられないジムバトルと来たか。だが、ここで嫌ですと言って海に沈められるよりは全然マシである。
「……分かりました」
「おーし!じゃあ、クチバジムで待ってるぜ!……そうそう、
「?……何のことだ?」
そう言い残して、マチスさんは材木座の研究室から出ていった。何やら、意味深な言葉を残していったが、どういうことだ?
「気をつけるが良いぞ、八幡。マチス殿は意外にも巧妙なテクニックの使い手だ。昔はロケット団に所属していた経歴を持つが、その腕は一流である」
「えっ?ロケット団?」
「知らんのか?今は活動はしてないが、5年前のロケット団全盛期のマチス殿はロケット団の中枢のような存在だったのだぞ。今はマチス殿と同じように普通のジムリーダーをやっているが、何人かのジムリーダーも昔はロケット団の仲間だったらしい……。まぁ、我達も幼かったから知らなくても同然だな」
へぇ……ジムリーダーの中にはそういう経歴の奴もいるのか。ロケット団についてはあちこちで情報を集めている際に、一人の少年によって潰されたことは知っていたが、それは知らなかったなぁ。
やはり、ここは俺が知るただのポケモンの世界では無いらしい。正確にはポケモンの世界に基づき、それに似ている世界と表現した方が良いだろう。
とはいえ、今はマチスさんだ。今はそれに集中しないとな。
「うん?これは?」
そう思っていると、材木座の机に散らばった数枚の研究資料に目がいく。
「こいつは進化の石のカタログか………」
パラパラとページをめくるように資料を見ていくと、ある写真が目に入った。
「……こいつは!?」
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VSマチス
なかなか投稿出来なくてすいません。
あつ森にハマッていました(自白)
「よーし!時間通りに来たな!」
「……うっす」
指定された時間にクチバジムにやって来た八幡。ジムの中に入ると、工場のような複雑そうな内装の奥で八幡を呼び寄せた張本人マチスが面倒くさそうな八幡とは対照的に上機嫌に彼を出迎えていた。
(……ジムリーダーのマチス。ゲームだと、でんきタイプの使い手だったよな)
本来なら今からでもシオンタウンへと向かいたい所だが、マチスさんとの約束を破って、後からジムに挑戦出来ないのは非常に困る。何せクチバジムのバッジはポケモンリーグに必要不可欠だからな。
さらには宛名が分からなかったセキチクシティの人物にも心当たりがあると言う。情報が確かとは言いづらいが、少しでも情報が欲しい。俺の要求をよく分かっている交渉のやり手だ。これなら、簡単には断れないだろう。
外見と性格からはテンションが高いジム通いの外国人にしか見えないが、材木座の言う通り狡猾さのような一面も見られる。やはり、ジムリーダーをやっているだけのことはあるということか。
「ハチマン!手持ちは二体だよな?」
「そうですが、何か?」
「だよな!なら、手持ち二体同士のシングルバトルといこうぜ!俺はこの二体を使う!!」
そう言ってマチスさんはモンスターボールが付いたベルトから二つのボールを俺に見せつける。
今の言い方……何か変なんだよな。まるで、俺の全てを知られているような感じだ。俺の手持ちの数も予め知った上で、確認しているような聞き方だった。材木座とは会ったばかりだし、あいつとはポケモンが回復する時間まで俺と一緒に研究室にいたから、あいつがマチスさんに伝えたとは考えにくい。
まぁ、別に良いか。ジムリーダーが個人的に知ってくれたなら、ジムバトルの準備も効率良く進行する。恐らく、そういう事だろう。
「こちらから行かせてもらうぞ!出てきな!!My favorite ポケモン!!」
「マル!マルマー!!!」
「……マルマインか」
マチスさんの最初のポケモンはマルマイン。でんきタイプのジムリーダーの名に恥じない生粋のでんきタイプのポケモンだ。彼のお気に入りのポケモンという事もあり、強いのは明白だ。
なら、俺も出し惜しみはしない。
「いくぞ!カマクラ!!」
「ユッキー!!」
俺は最初のポケモンにカマクラを選択する。相手がお気に入りのポケモンでかかって来るなら、俺もそれに対して対抗するしかない。
「ふっ…やはり相棒のユキワラシで来たか」
マチスさんもこれには納得しているのか、カマクラを見て笑みを浮かべている。だが、その笑みの裏には何かが潜んでいるようにも窺えた。
「……何を隠しているのかは分かりませんが、俺から行きますよ。カマクラ!こおりのキバ!」
「ユキ!ユッキー!!」
「マルー!!?」
カマクラの冷気を纏ったキバがマルマインの身体に刺さり、マルマインはキツイ顔を見せる。だが、マルマインのトレーナーであるマチスさんは一切焦るような様子が見えなかった。
「……なかなかやるじゃねぇか。だけど、危険物にはあまり近寄らない方が良いって言うのは父親に学ばなかったようだな!マルマイン!でんじは!」
「マールー!!!」
「ユキュっ!?」
「ちっ……しまった!?」
マルマインから発せられる痺れるようなでんじはを至近距離で噛みついているカマクラが避けることは出来なかった。それにより、カマクラは麻痺するように動きが鈍くなっているのが分かる。
「ま、まさか!?」
マチスさんがこの状況でカマクラをまひ状態にする理由、そしてマルマインを使った理由がこの状況でようやく俺は理解する。
「カマクラ!離れろぉ!!」
「…気付いたか。だが、遅い」
俺が呼ぶ頃にはすでにマルマインは白い光と共に何かを発する直前だった………
「マルマイン!だいばくはつだ!!」
…………………
……………………………
…………………………………………
「これで、両者は残り一体同士だな!」
「ですね………」
俺はボールに戻したカマクラを手持ちにしまう。こればかりは俺の誤算だった。俺がもう少し様子を見ていれば、こういう事にならなかった筈だ。
そう思いつつ、二体目であるニドリーノを場に出そうとすると、マチスさんは俺に話しかける。
「お前の二体目……ニドリーノだろ?」
「そうですが、それが?」
まるで手のひらで踊らされているような口ぶりに思わず不機嫌に答えてしまう。
「ジムリーダーはそれぞれチャレンジャーにポケモンバトルで大事な事を教えるのは知っているか?」
「ええ……まぁ……」
それはニビジムのタケシさんから十分な程身に染みている。タケシさんは初心者のためにポケモンのタイプ相性を教えていたんだよな。
「俺が教えるのは『情報の大切さ』だ」
「情報の大切さ?」
「ああ、俺が教えるのは謂わば情報戦。ポケモンリーグにおいて、対戦相手の手持ちを良く知っている奴はその分バトルを有利に進められるし、逆に自分の情報が相手に知られれば、知られる程不利になる。ポケモンバトルっていうのは相手を知っている奴が勝つのさ」
「じゃあ、俺の手持ちを知っていたのは……」
「俺がこの一時間でお前に纏わる情報を全て予習したからだ。ここは港町のクチバシティ。他の地方とも交流があるここでは情報って言うのは何よりも大事で、知らない所から流れやすいのさ」
やられた。手持ちを知っているのはそういう事だったのか。だが、ここで文句を言うのは間違っている。マチスさんの言っていることは正論だからだ。
「……けど、まだ勝負は分かりませんよ」
「どうかな?それはこの俺のAce ポケモンが教えてくれるぜ!出てきな!」
「ギギィ!!キキィ!」
「……マジか、レアコイルだと?」
マチスさんが二体目に出してきたのはコイルの進化系であるレアコイル。それを見て、俺は焦りを覚えているような状況だった。
「ニドリーノはどくタイプ。レアコイルはでんき・はがねタイプ。ニドリーノのタイプ相性は圧倒的に悪い。さぁ、どうする!ハチマン?」
……まさか、こいつを使う時がすぐ来るとはな。
俺はカンナさんから貰った黒曜石のような渋みのある黒い石を鞄から手に取る。
「……おいおい。そいつは!?」
先程まで俺を試していたようなマチスさんもこの展開は予想もしてなく、額から汗が零れていた。
「ニドリーノ!受けとれぇ!」
「ニドッ!!ニッドー!」
投げつけた黒い石をニドリーノがキャッチすると、白い光に包まれる。
光が止むと、そこには低い重厚感のある足音と共に二足歩行する巨大な姿があった。
「ニッドォォーーー!!!!」
「……おいおい、これは聞いてねぇぜ!流石は比企谷重吾の息子だ!このタイミングでニドキングに進化させるとはなぁ!面白れぇ!」
先程まではマチスさんもこの進化には予想外だった様子だったが、今はこのイレギュラーな事態を楽しむかのよいに興奮し、楽しんでいる様子だった。
さぁ、改めてどく・じめんVSでんき・はがねのポケモン同士の最終戦といこうか。
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