戦国の武士が異世界に転生…だと!? (十六夜魔女)
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転生主人公は、元武士。

命と魂の存在は、何か知っているだろうか?

命とは、この世に生まれてから死ぬ瞬間までただ唯一の理であり、意味であると。

 

「おい、小僧。」

 

そして、魂とは。

 

「おい、起きろ。起きねぇーと、死ぬぞ。」

 

「…魂とは…不滅の存在を意味する。」

 

耳の鼓膜にまで響き渡る重低音でしっかりと意識を取り戻したその小僧は、瞬時に耳に入る音を頼りに向かい合う。

そこには、五十匹以上かと思うほどの大型な牛のような化け物が走ってくる。

まるで、重騎兵たちの大行進、いや、爆走ともいえよう。

 

「あぁー、小僧。俺たちは、逃げるが、お前も逃げておけよ。あれは、スミノタウルスっていう闘牛みたいなもんだぜ。やばくなる前に、逃げとけよ。」

 

逃げるの言葉ばかりを強調している逞しいほどの肉体をしていて立派な髭をしているおっさんとひょろっとした体系を隠そうとしているローブを目深にまで被っている人、そして、賢者さんなのだろうかふくよかで豊満な肉体をしている女性が怯えながら走って逃げていく。

その光景を見ながらも、敵に背を向けたくない皇騎は、自身の身体や身に着けているものを調べてある物に気づいてスミノタウルスの方へと足を向けた。

 

「ん?あ、おい。そこの小僧、あぶね…え?」

 

皇騎は、スミノタウルスの猛進に目を向けているのを他の冒険者たちが、気づいた。

その瞳の中に映る灯火が、死地を超えた者にしか辿り着けない境地たる境地。

集中力が半端ないほど強い、そのアビリティを目の当たりにしているおっさんとお姉さんと謎のローブの人。

 

「窮地なほど、滾るほかない。我が主の命により、天罰を下す。」

 

その言葉と同時に一瞬にして、スミノタウルスの先頭を走っている大きな角を持っているリーダーらしき闘牛の目へ睨みつける。

走る動きが少し怯んだ瞬間、皇騎に絶好のチャンスが起きた。

 

「なんだ…あの…動きは!?」

 

「見たことのない、気圧…いえ、威圧…なの!?」

 

皇騎の威圧、それは、重圧というプレッシャーよりもかなりどぎついほどの圧力。

ただ睨んでいるだけで五十匹以上の闘牛であるスミノタウルスたちが、立ち止まっているのだ。

しかも、ただ一人の圧力にしては、アビリティのステータスによって比例はしないはず。

もしそれでも、何十匹もの動きを止めるとしても中には、先頭を走ってきていたスミノタウルスたちが気絶している。

 

「臆して止まるな!!只管(ひたすら)、ただ只管に走り続けるモノたちよ!!刮目せよ。」

 

皇騎の右腰にある剣一本を抜刀して構える態勢へ変えると、その剣を抜いた左手にある変化が起きた。

左手で抜いた剣が震えている。

まるで、振動をしているかのように、剣が生きているかのように。

 

「…魂が震えている。魂が叫んでいる。“生きたい”と!!」

 

気絶をしていない闘牛のスミノタウルスたちが、威勢を取り戻したのか、身震いさせながらも皇騎に向かって突進を仕掛けてきた。

その数秒に遅れて皇騎も動き出した。

背後にいる冒険者であるガタイのいいおっさんが、皇騎に呼びかけた。

 

「おい。小僧、マジであぶねぇーって!!そいつらは、お前さんよりフィジカルが固いんだぞ!?」

 

その刹那だった。

フィジカルが固いスミノタウルスの一匹が、皇騎の一閃で倒れたのだ。

 

「ちょ!?え…なん…まじ…で?」

 

「この一閃で失せてほしかったが、まだ、やるか?」

 

言葉で圧を飛ばす皇騎の眼が、スミノタウルスたちの威勢が失せなかった。

まだ、突進の脅威を奮う行動に皇騎は、ある剣技を周囲の冒険者に見せることになった。

 

「最初にして最後とする。『月紅流・百花繚乱』!!」

 

その一言にして、剣の限界へと高昇る技。

それが、百花繚乱ともいえるのだろう。

だが、剣や刀の焼きが甘いと折れてしまう可能性のある諸刃の剣となる技でもある。

無数の敵がいたとしてもそれでも、折れなかった剣を見てあることに気づいた皇騎。

 

「月紅と同等の妖の業物か。刃こぼれもなしとは、妙なものだな。」

 

少し嬉しく感じている皇騎であったが、周囲の冒険者たちは、腰を抜かしていた。

言うまでもなく、切り刻まれて動けなくなったスミノタウルスたちは、あの連撃で骨もろとも砕かれることなくすっぱりと切れているせいか安らかに人間たちの糧になってくれるだろう。

 

「さっきの技は…ソードスキル。あの小僧、只者ではないな。」

 

そう、かつてこの世界にてある話を聞いたことがあったとおっさんが話し出す。

 

「かつて遥か昔の話だ。とある冒険者は、自分を転生者だと口にしていた。その者の力は、別世界の力をこの世界で具現化、もしくは引き出すことができるのだと。よもや、その力の名をこう呼んだ。“ソードスキル”だと。まさか、お前さんは…転生者だと、言うのか?」

 

異世界の昔となる書物に記述されている”ソードスキル”は、転生者にしか扱えない。

本来は、長い年月を経て取得のできる力だとおっさんは話す。

 

冒険者である三人を担ぎ抱えながらある街へと皇騎たちは、歩き出した。

その道中で話を聞きながらあることに納得をした。

 

「俺は、この世界で生きることを主に思い伝えます。旦那様、見守ってくださいね。」

 

夕焼け空が夜の空へと変わる瞬間、黄昏のような景色が永遠にと続いて欲しいと願うが一時というものは、どこか寂しそうな感じに見えるのだろう。

空が泣いているように見える、それを母国の言葉では、こう呼ぶのだ。

 

「紅の雫、と。」

 

異世界のことやこの異世界のありとあらゆる情報を知ることになるのは、街のとある場所で聞くことになった皇騎なのであった。




と、いうわけです。
作者のにわかな異世界ファンタジーを無理な戦国時代のキャラで自由自適な生活を送るラノベを書いてみました。
不手際な書き方や読者の読みたいであろう気持ちも深夜テンションで書いています。
申し訳程度の謝罪供述をしている私です。
どうか、こんな私の書いている作品を読んでくれた方々に感謝の気持ちともう少し、読みやすいように次回の話をもうちょっと読者向けの読み切りタイプを目指します。
短編の作品ですが、しっかりと一話で一区切りを取らせてもらいます。
これからも、この私の投稿作品を何卒、よろしくお願いします。


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武士は食わねど高楊枝

この世界には、実力が物を言うと聞いた皇騎。

つまりは、武士として戦ってきた皇騎の唯一となる実力は、申し訳はない。

なのだが、戦うだけで冒険者としてのアビリティの中にある、ステータスに影響が出る。

 

何が言いたいのかというと。

 

「戦うことだけじゃなく、レベルやアビリティだけでもなく…冒険者としてのスキルやサバイブ力が無いとこの異世界で生活が難しい、わけか。」

 

と、皇騎の知識がまた一つ増えた。

時代遅れな人物が先端技術のある時代の知識を身に着けると大体は、慎重性を主体として取り組む傾向になるそうだ。

しかし、皇騎の実力にあるものが存在していない。

それは。

 

「はい、こちらは、リベシグルの街にありますギルドでございます。本日は、どのようなご用件でしょうか?」

 

笑顔がよく似合う女性スタッフが、歓迎をしてくれていた。

そのギルドの外観にも圧巻するほどの大きさがあった。

生前に聞いたことがある。

役所(仕事を受注することができる場所)には、城よりも敷地が大きく作られている場合があるということ、階層ごとに本来は、防具や武器の初期装備に関して購入したり、装備のある程度が補充可能な簡易系の出店が設置してあったことを。

普段は、あまり見慣れていない人は、戦う前に準備をしておくことがあるそうだ。

 

「こういう場所は、普段から見ている人にとっては、大きな差があるというわけか。」

 

ギルド内の周囲の光景を見ても同じことだった。

それは、メインホールなのか出店の中に防具や武器の他にも、飲食の出来るお店があったり、観光目的に作られているのか街のマップまでもが掲示されているのだ。

グラフィックの力が発達しているのかと思ったが、すべてが魔道具によって具現化されていたようだった。

たくさんの魔道具を売店しているようだが、多種多様な魔道具が売られているのが遠くから見てもわかる。

 

「あの、こちらに何か御用がありますか?」

 

「あ、すみません。此処で冒険者登録をしたいのですが。」

 

「では、こちらにどうぞ。登録料として、五ユールかかります。」

 

この世界では、違う国でもユールが通貨単位として通じているのだろう。

ユールと言うにしても、金貨や銀貨も同じように使えると冒険者たちから聞いた。

まさか、この世界に存在していた金銭流通が自分の生きてきた世界でも同じだった。

 

「それでは、こちらです。このマナリア(魔玉)に手をかざしてください。」

 

これが俗にいう力量を測る事が出来る装置。

いや、魔法というのは存外にも使い方によっては、多様性があるものだと気づいた皇騎。

複雑な気持ちでもあり、まだ整理が出来ていないのだろうかとんとん拍子に事が進んでいくことに少し、引いてしまう程だ。

 

「光りだしましたね。これは、魔法の計測の他にその人の身体能力まで表記されます。これが、冒険者登録証となります。カード化となっていますので、ポケットにしまうかギルド以外でも通行手形としても扱えますので、存分に他の街や都に入れますのでどうぞ、どんどんご利用ください。ちなみに、ポイント制となっておりますので、そのポイントで買い物もできます。初回特典として、千ポイントを贈呈しますね。」

 

冒険者登録証を発行できるようになって、自身のステータスを確認する皇騎。

これからの戦いに挑むべきクエスト(依頼書)に始める準備をしようと思っている。

まずは、クエストをする前にパーティを編成するのだが、ソロで始めようとしているようだ。

 

「パーティは、組まないのですか?でしたら、クエストのランクを少し下げて集金をするクエストに挑まれてはいかがでしょうか?何事も金銭面に少し余裕があると幾ばくかレベルアップする際に装備品や防具、武器の新調も出来るはずですから。それと、宿屋や食事するお金も必要になりますので、今現在…二つほど受注が出来ますが、どうなさいますか?」

 

その言葉に勧められるようにスタッフの言葉通りに頷く。

初めての受注クエストを二つ受けることになった皇騎は、金銭面を肥やすために少しだけでも生活面を癒しておきたい。

そのためにも、この世界の生活に慣れておきたいのもあるので報酬額の良いクエストを受けられて助かっているようでもある。

 

「感謝します。こんな俺にこんな依頼を貰ってしまっていいのかと思いますが、あなたみたいな人には感謝しきれない恩を返したいと思っています。」

 

「そんなことはないですよ。それよりも、怪我をせずに帰ってきてくださいね?お帰りをお待ちしておりますので。」

 

笑顔を見せてくれている女性のスタッフは、皇騎の恥ずかしがっている顔を見て少し可愛いと見られてしまったようだ。

これからが、大変だろうと皇騎は、自身の冒険者登録証をじっと眺めて軽く意を決めたようだった。

 

“冒険者 オウキ”

 

これからが、オウキの異世界生活の始まりだと告げる鐘が鳴り響いた。

 




はい、というわけです。
あとがきにてあまり書くことがないのですが、今回は、キャラクターの人数が少ない回でした。
簡単なキャラ設定を載せておきます。

主人公のオウキ。
年齢は、いまだに不詳となっております。年齢の設定は、次回でわかるかと思います。
冒険者として登録されていますが、後々に転職設定が追加されますのでその時に職種も変わっていきますのでどうか温かい目で見守ってください。

サブキャラで登場しました、女性スタッフですが。
年齢は、オウキと近いと思います。
若干、親切なお姉さん的なポジションを狙っているのかもしれませんが恥じる男性を見ると可愛いと思ってしまう女性独特な趣味を全開に出していこうと思っています。

ちなみにですが、そのサブキャラの女性スタッフは、今回から何度も出てきますのでメインキャラになっていくかもしれません。
名前を知りたいなぁと思う人は、次回のあとがきにて詳細を出しますので最後まで読んでいってください。

それでは、またの次回までお楽しみにです。


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高望みすれば煙は立たぬ

あれからかなりの数日が経ってからというもの。

あれよとあれよと、依頼書というものなのだろうかクエストが数多くに掲載されている内容があまりにもゾンビ退治というものばかりである。

クエストの中でもまともそうなのはといえば、ギルド関連の調査関係ばかり。

ギルドの関係者たちが幾度も調査しても解明されないことが多くあるためか、ギルド内でもクエストとして申請してしまう程に困っているのだという。

 

「幾ばくか、依頼をしても冒険者たちから受けたくないと言われてばかりでして。」

 

「白羽の矢がたったのが、この俺というわけか。厄介ごとには、首を突っ込みたくない。」

 

何かしらの意見を求めたいのなら聞いても良いのだが、やってほしいというのは強制的過ぎて正直言うとやりたくないの一言。

押し付けることをしたくないような申訳のない表情で伺うその女性スタッフは、落ち込んでしまっているようでこちらとしては、頭をかきむしるばかりだ。

 

「仕方ない。ただし、クエストを受注するが、報酬金額を上乗せしてもらいたいのだが。」

 

保険として怪我をして帰ってくる可能性もある。

その考えが自分の頭の中で過るのだが、明らかに何かありますよと言っているクエストを見やると何かしら違和感を感じて拭えないでいる。

 

「ありがとうございます。こちらからは、何かご用意をしてほしいのであれば、言ってください。」

 

ギルドの女性スタッフは、何度も頭を下げては感謝の意を込めて手を握ってくる。

正直、受けたくない内容だと頭を掻くものの仕方がないと一言で済ませてしまう自分に腹が立ってしまう。

そもそもクエストの内容が内容なのだ。

 

“ゾンビの掃討依頼 エルクラ村にてデルゾンビの集団が夜中に強襲してくるため掃討を頼みたいそうです。 報酬は、冒険者の中でゾンビ退治の出来る人によります。”

 

はっきり言って、嫌な予感しかしない。

複雑な気持ちのままエルクラ村に向かう準備を始めるオウキ。

対ゾンビ用の掃討するあるモノを部屋で製作することになるオウキは、やたらと愚痴っていた。

こんなことなら、専門家に頼めよと。

 

「さてと。明日、エルクラ村に着く距離だと言うし…しっかりと休むか。」

 

そう言って、眠りについたオウキは、部屋を暗くしてベッドに横になろうとした瞬間だった。

部屋の隅からある気配を感じた。

異質な感覚に襲われるオウキは、何かがこっちを見ているのだとはっきりわかっていた。

霊感とは言い難い感覚で背中に冷たい水が垂れていくような。

 

「誰か…いるのか?姿を、現せ。」

 

オウキは、ゆっくりと誰かがいる部屋の隅のほうへ足を運ぶ。

じっとりと汗が垂れるのが冷や汗だと気づくのに、数秒がかかるほどだった。

そして、やっとのことで数メートルまで近づいたところで男性の声らしきで話しかけてきた。

 

「…オレ…たちの村に…クル…な……。」

 

やはり、嫌な予感が当たったようだ。

怖がっているわけでもないオウキは、その村に何かあるのかと思ってその男に話しかけたのだが、その男は頭を俯いていた顔を見せるように見上げた。

 

「…わかった。ならお前の村を俺が直してやろう。だから、安心するが良い。」

 

オウキが、そう言うとその男は、顔色を変えて安心したようにすぅっと笑顔で消えていった。

まさかとは思うが、あれが俗にいう幽霊だというのだろうかと思うオウキだった。

その日の夜が過ぎて、早朝にその街から発ってしばらくしたらエルクラ村が見えた。

時間的には、太陽が真上に差し掛かった時だったのでお昼ぐらいだったのだろう。

ちょうど、村の入り口にある人物が見えたので声をかけることにしたオウキ。

 

「すみません。旅の者ですが、こちらで宿に泊まりたいのですがよろしいですか?」

 

オウキが話しかけた人は、背丈が自身より低く髪の毛が長い女性に声をかけたのだが吃驚して転んでしまうほどの反応を見せるのでお気の毒だなと思ってしまった。

 

「驚かせてすみません。旅の者なのですが、宿屋なんてありますか?」

 

「は、はい。私のところが宿として経営しています。一泊、でしょうか?」

 

宿泊する日数をその女性に伝えると理解してくれたのかその女性の顔をようやく見せてくれた。

その女性の顔は、何故だか以前に見に覚えのある感じだった。

 

「こちらです。どうぞ、お部屋は、二階にありますのでどうぞお寛ぎください。」

 

そう言うと、考え事をしていたオウキに声をかけて階下へと向かって行ってしまった。

確かに何処かで見た顔だと感じたオウキは、部屋に荷物を置いてエルクラ村の周囲を見に回っていくことにした。

村の周りには、石垣で囲まれているのが見える。

少し小高い場所があり村の周囲が見渡せる場所があるので石垣で囲まれているのがよくわかるのだが、何故か、この村にある違和感が感じる。

襲われたとしても、壊れた石垣が見当たらないのだ。

 

「襲われたにしては、真新しい石垣…この村、何かあるようにしか見えないのだが。」

 

確かにと言えるのかわからないが、村の石垣には痛みもまったく無い状態。

不可思議にも門が壊された箇所が無いのも可笑しいなと感じていた。

だというのに、何なのかわからないが胸のところが苛立っている感覚には、覚えがある。

前に冒険者たちが襲われていた時のと、同じな感じ。

 

「この村には、何かを隠しているようにしか思えない。」

 

そう感じながらも太陽が夕焼けになり始めていることに気づいたオウキは、宿屋へ戻ることにした。

それでも、ふとあることに違和感も感じ始めた。

 

“人のいる感覚があるのだけど、どうにも薄い”

 

稀薄な人体の感覚は、空気の破調を感じ取りやすい人もいるのだが。

言ってしまえば、気配に近い存在が殺気へと感じる人もいるのだ。

言いえて妙な感じでもあるが、人の居る感覚は、目で見て音で聞いて始めて人がいると感じ取るのが主なのだと専門家は言うだろう。

だけど、修練をする人間には、その感覚を周囲の空気で感じ取り人の存在を確かめる。

 

「…村の人間は、こんなにも…薄い感覚な…ものなのか?」

 

周囲をきょろきょろと見るのは、いささか挙動不審に見られるのではないかとオウキは思ったのか真っすぐに前を向きながら気配だけで周囲を感じてみることにした。

どうにも、人間の生きている感覚が薄い。

まるで、生きる力を抜かれた器としか思えない。

 

「旅のお方でしょうか?もし、宜しければこれをどうぞ。」

 

「私のところで採れた野菜ですが、どうぞ持っていって下さい。」

 

顔色が少しばかり薄い感じのおばさんやおじさんが食べ物をお裾分けしてきた。

旅の者に対してなら、優しく接してくる地元の人たちは、笑顔で話しかけてくる。

オウキは、何事もなく笑顔で感謝を言葉にしてその場を立ち去って行った。

だが、明らかに村の人たちは、隠しきれてない心を見せていた。

 

この村から早く立ち去ってほしそうな表情を背後でビンビンと感じ取っていたのだ。

 

宿屋に着いてからは、夕食をご馳走になり深夜、皆が寝静まる時間を見計らうことにしたオウキは、宿屋に泊めてもらった恩として多額の金額をカウンターに置いて出かけた。

向かう先は、石垣の近場にある門。

 

この村に来る途中で気になっていた宿屋の女性と出会った場所。

どうにも、門前の場所で女性がいるなんて場違いな感じがしていた。

まるで、ついそこまでに誰かと話をしていたような素振りだったように。

 

「……冷たい…まだ、近くにいるか。」

 

門を出てすぐにあるのは、林道。

だが、林道の左右にある木々たちの間に確かに何かの存在を感じ取っていた。

先ほどまでいた門前では、何も感じ取れなかった気配が出てすぐにいくつかの気配を感じるようになったのだ。

 

「…お前たちが、ゾンビという輩か。名を持つものは、名乗ってもらいたい。俺は、オウキだ。」

 

自ら名を名乗ってみるが、相手方の出方を探るには好都合だったのかもしれない。

だが、一番に驚いたのは、オウキの方だった。

 

左側の木々の間から見えたのは、夕方に出会った村人たちだった。

でも、右側の木々から出てきたのは、身体が腐敗している人間、デルゾンビが居たのに驚いたのだ。

 

「え!?」

 

オウキは、何故、村人たちが居る前でデルゾンビが姿を現したのかが不思議でならなかった。

襲われるはずの村人たちがデルゾンビたちが居るというにもの動じたりしない様子。

これには、さすがに黙ってられなかったのか村人の一人、女性らしき子が話し始めた。

 

「あの、これには、理由があるのです。実は、デルゾンビの中には、私たち村人でもあるのです。このことを冒険者の人たちに話しても理解できず、倒すのだと言ってデルゾンビたちの何人かがヤられていってしまったのです。どうか、話を最後まで聞いてくださいませんか?」

 

昨日から嫌な予感が的中したのは、言うまでもなかった。

どうやら、昨日の夜にデルゾンビの一人の男性がオウキの泊っている場所を突き止めて部屋に隠れていたのだという。

そして、この村に来ないでほしいといった理由は、掃討を依頼されている書類を見てしまったので来ないでほしく忠告をしに行ったのだという。

あの晩、ずっとあの部屋に居たことを反省したみたいだった。

 

「するというと。話が複雑になっていき、収拾がつかなくなってしまった、と。」

 

理由をある程度話し終えた村人たちの顔色が悪かったのは、デルゾンビになる兆候なのだと聞いたことには吃驚ものだったが。

掃討してくれと頼まれた以上は、することが一つ。

この村にある仕掛けをするほか無いなと、ある計画を持ち掛けてあげた。

村人たちは、快く承諾してくれたのか、ひと安心すると村人全員がデルゾンビの姿に変わっていった。

便利な変化機能だな。

 

「では、早朝にその場所へ向かいます。本当に、ありがとうございます。」

 

デルゾンビになった女性は、頭を下げてその村の村人全員をある場所へ避難させた。

俺はというと、ある仕掛けをするのに早朝まで時間がかかってしまっておかげで寝不足と疲労でしんどい目にあってしまった。

 

そして、早朝。

 

太陽が上がると同時刻。

ギルドのあるリベシグルの街から見える東から昇る太陽。

そこに位置するエルクラ村に大きな火柱が立ち上った。

その轟音と共にリベシグルの街の住民たちが騒ぎながら起き上がったのだ。

 

「な、何事だ!?」

 

「確か、あっちの方って…エルクラ村!?」

 

「ちょ、待って!?あの村には、オウキさんがいる…はず…よ?」

 

リベシグルの街の人たちは、オウキという冒険者のことを知っていた。

何故なら、街の住民たちにお世話になると言って挨拶回りをしていたことで覚えていたようだった。

だが、本来、クエストで出かけたはずのオウキの行き場所まで知っている皆が、かなり心配するように騒ぎ立ててしまっている。

 

「一体、何が起きたというのだ。あの村には、オウキ殿が居るはずだろ!?」

 

「あの人、私たち家族にお裾分けと言って果物を貰ったのよ!?」

 

何かと近所付き合いにも奥様方に好評だったようで吃驚するギルドマスターとギルドの女性スタッフ一同。

そんな御仁に何かあったのかと心配になりながらもオウキの帰りを待つことに数分後。

 

ある人物がゆらりと歩きながらリベシグルの街へ入ってきたのが見えた。

 

「オウキ…殿……では、ない!?」

 

そこに現れたのは、小さな幼い女の子が歩いていた。

いったいどうしたのかとギルドマスターがその少女に駆け寄って話しかけた。

 

「君は、どこの子なんだい?オウ…いや、成人ぐらいの男性を見なかったかい?」

 

「ワタシ…は…エルクラ村の住民…見たけど……覚えて…ナイ。」

 

その少女は、右半身と右の顔が焼け爛れて今でも死にかけそうな顔をしていた。

そんな身体でよくこの町まで歩いてきたものだと街のみんなが慌てふためいている。

少女の身体をタオルで巻いてあげて今すぐにでも治療をしてあげないとまずい状態だったが、すぐにでも医者に見せないと思ったギルドマスターは、その足で少女を抱えて走って行く。

 

「それにしても、エルクラ村と言えば…デルゾンビが出ている場所だろ。クエストでも掃討する依頼が来ているっていうのに、そこから来た少女ってことは、まさか…だろ。」

 

「その村…確か、爆発音のした方向だろうね。あんな爆発でオウキさん、生きていない…はず……だ…よね?」

 

火薬をちょっとでも間違えれば人間なんて木っ端みじんになってしまうほどの威力なはずだから、たとえ、魔法でさえも死ぬことはないにしろあの音と威力。

あれだけの衝撃ともなれば、死んでいても可笑しくないだろうと皆が口々に話す。

 

だけど、そんなことを信じたくないとある女性スタッフが皆の意見にちょっと待ったをかけたのだ。

 

「まだ、可能性はあります。生きているはずです。皆様に顔を出していたり、挨拶回りをしている人が、死にに行ったりしますか?きっと、帰ってくるはずです。」

 

「そう言われると、恥ずかしい…のだがな。」

 

まだ、早朝にしても数分しか経っていない時間なはず。

なのに、まだエルクラ村にいるはずのオウキの声が、近くで声がする。

周囲のみんながその声を頼りにどこから聞こえてくるのか、見渡す。

だが、どこにも居ない。

 

「こっちだ。どこを見ているんだ。」

 

ふと、女性スタッフは、真上から聞こえてくるのを耳に入ってきた。

屋根の上で服がボロボロになりながらも煙突のところに片足を乗せて格好よく登場していた。

まるで、伝説の英雄が帰還したかのような登場っぷりだった。

 

「オウキさん!!よ、よかった…無事でよかった。」

 

「まだ、あの世に逝くにしちゃ…若過ぎじゃねぇーか。」

 

さっきの発言を聞いていたのか、女性スタッフは、顔を真っ赤にしていたのだが、すぐに怒り口調で何があったのかを事情を話してほしいとせがまれた。

 

「なぁに。エルクラ村の住民たちがデルゾンビのちょっと手前だったみたいでこの街の冒険者たちに掃討依頼を出していたらしいのだが。あれは、ギルドの勘違いだ。解決をしてほしい依頼だったんじゃないかと思った俺は、除霊グッズをしこたま買い込んでいたんでね、それをあの村に仕込んで発動させたら爆発系だったんでやんの。マジそれの影響で俺がそれの巻き添えで吹っ飛んで行った方向がこの街だったんで助かったわけよ。そんで、その村では、まだデルゾンビになる前の村娘が居たんで昨日の夜にデルゾンビになる宿 

屋の人から預かってたんでな。早いうちに街へと向かう道を教えて逃がしたってわけよ。あの子も一応、デルゾンビになるからしっかりと直してやってくれ。」

 

そんな話をされてギルドのスタッフ全員が弾圧されたのは、後日のことだった。

街にいる冒険者たちからお説教を受けたあとのギルドマスターが、オウキの対応をしている女性スタッフのところに来て本題の話をすることになった。

 

「それで、あの村の人たちは、どうしたのでしょうか?まさか、あの爆発系の威力に巻き込まれて。」

 

「そんなことはしてないですよ。村人たちは、今は…この街へ向かっているところだ。」

 

「へ?い、今…なんて、言いましたか?」

 

「だから、この街へお昼ごろに来ますと、言いましたが?」

 

「ちょ、え、なんで!?なんでなんで!?どうしてそうなったのか話してくれますか!?」

 

ギルドマスターと女性スタッフは、驚きのあまりにテーブル越しに前のめりになって顔を近づけてきた。

近い近い。

 

「この街で重労働をするために来るってだけですが?彼らは、普段から人間の生活をしてきた習慣があるわけで悪さなんて出来ないはずだと考えたわけですよ。それならってことで、俺の屋敷で働いてみないかと誘ったわけですよ。」

 

確かに、ほかにもオウキの屋敷には、幽霊屋敷だということで貸し出している事情を知っているのがギルドの人たちしか知らない。

近所付き合いをしっかりとしているオウキの大らかな性格だからこその成せる業。

幽霊屋敷にデルゾンビを働かせるのもどうかと思うギルドマスターだったが、彼の監督下の元で働くのであれば被害もないはずだと考えてみた。

 

「そうですか。では、デルゾンビをあなたの屋敷へと歓迎させましょう。もちろん、ギルドマスター権限でギルドのスタッフ一同が誤解をしてしまった謝恩もありますゆえに。」

 

「そのご意見、痛み入ります。そして、報酬金のことですが。」

 

「あ、はい。本当に誠に申し訳ありませんでした。百万ほどで、いかがでしょうか?」

 

「上乗せでプラス五十万。」

 

「……ご、ごひいきにしてくださりありがとうございます。」

 

これにて、デルゾンビたちの屋敷へ歓迎することに決まった形でことは解決をした。

ギルドマスターの誤解となる内容、そして、こうなることを予知していなかったことにギルドマスターは、三日三晩に枕を濡らしてしまったことは、誰にも語り継がれなかったのでした。

 

百五十万の謝恩礼金として、デルゾンビたちの給金に回ったことであの村から出て仕事に就けれたデルゾンビたちの喜ぶ顔が屋敷内に広まった。

これで、幽霊屋敷の幽霊たちもおとなしくなるだろうとオウキは、満足そうに眠りにつくのでした。




こんなオチにしてみました。
人間の生んだ誤解は、一生に付くものだと教訓になることを書いてみました。

あとがきは、これにて終わりです。

何も書く子とがありませんでした。
すみません。


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