とある科学の超人(リミットバースト) (はらしょ。)
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とある科学の超人

読んで頂きありがとうございます。
とあるの世界にオリキャラが登場してそいつの影響で物語が変わっていく、というものです。
最初こそ本編通りに進んでいきますが、貴船海翔という男が関わってとある魔術の禁書目録という物語にどのような影響を及ぼすのか是非ご覧ください。


 明日からほとんどの学校が夏休みということで、学生が人口の約8割を占めているこの学園都市はどこもかしこも賑わっていた。

しかし学生全員が浮かれているかと言うとそうでもなく、友達もそんなに多くなくて金もない、そんなに俺みたいな学生にとってはまだ学校がある方が良いまである。 

まあほとんど前者なんだろうけど。

明日から1ヶ月暇だなー。

自分でも思うけど、夏休みが憂鬱って俺ってだいぶ悲しいヤツ?

なんかそこら辺でバカ騒ぎしてる奴全員にムカついてきたんだが。

お前ら何が面白くてそんな大声で笑っちゃってるの?もしかして俺の事可哀想な奴とか馬鹿にしてる?死んじゃう?

「そこの殿方止まりなさい」

はあ、とりあえず帰るか。外にいたら俺のメンタルが持たない気がする。

「ちょっと聞いてますの!?」

リア充爆発しろ。

「無視すんなゴラァ!」

「ぐほぉぁッ!」

え、何なんで俺吹っ飛んでんの?

「痛ってぇ」

「いい度胸してますのね」

ん、何だこのちんちくりん。こいつが俺の事ぶっ飛ばしたのか?

「何だよお前、俺に何か用なの?」

「風紀委員ですの!辺りを舐め回すように見ているという変質者がいるという通報を受けて来てみればあなたとその変質者の特徴が似ていたので声をかけたんですの」

「声かけたっていきなりドロップキックかましてんじゃねえか!」

「あなたが私のことを無視するのが悪いんですの」

「あ、それはごめん」

「やっぱりわざとでしたのね…」

というか俺変質者ってことになってんの?

「ということで大人しく着いてきてもらいますのよ」

「やだよ!なんでったって明日から夏休みっていうのに風紀委員に捕まらなきゃいけねえんだよ!」

「抵抗するなら無理矢理にでも連れていきますわよ」

「やってみろよ。ま、お前みたいなちんちくりんに捕まるわけないけどな(笑)」

「今の一言でのかあなたの夏休みはなくなりましたわ(怒)」

俺の能力は超人(リミットバースト)。

簡単に言えば体内のエネルギーを色んなエネルギーに変換して自由に扱える能力。色々とデメリットはあるが、相手とよっぽど相性が悪くない限り、逃げに徹すれば簡単に逃げ切ることが出来る。

つまりさっさと逃げて家に帰りたいってわけ。

「とりあえず1発受けてもらうぜ!」

エネルギーを運動エネルギーに変化して加速した今の俺は、ちんちくりんに一気に急接近する。

ちんちくりんの方もこの速さには驚いたようで、その場から動く様子もない。

このまま後ろに引いた拳を突き出せば、勝負は着く…はずだった。

「あれ…?」

なんでだろう。

ちんちくりんの顔面を見事にぶん殴るはずだった俺の右手が虚しく空を切ってるのはなんでだろ〜う。

「隙だらけですわ!」

「グヘェッ!」

こいつの能力テレポートじゃねぇかぁー!

「ふっ、テレポートか面白ぇ」

「とんでもないスピードで近づいて来た時は驚きましたが、問題なさそうですわね」

「へっ、たかがテレポートくらいでいい気になりやがって。ちょこまか逃げ回るのが取り柄の能力者なんて俺の敵じゃねえぜ」

やばい、やばいよ言ってる傍から相性の悪い相手来ちゃったよ!

攻撃は当たらねえし逃げてもすぐ追いつかれちまうし、もしかしてこれって詰み?

「んだとゴラァァッ!」

やっべー。

何かちんちくりんの顔がラオウみたいになってるんですけど。

「天将奔烈ウゥー!」

「てめぇさっきからドロップキックしか使ってなかっただろうガァフッ」

結局ドロップキックなんかいー!

「つまらないハッタリを。大人しく来てもらいますわよ」

「くそ…」

そうして俺が抵抗を諦めたその時。

「この音はなんですの!?」

俺たちからそう遠くない場所から凄まじい爆音が聞こえてきた。

「「白井さん大変です!市街地で大規模の爆発が発生しました。場所はすぐ近くです!」」

「なんですって!」

どうやらどっかの馬鹿が派手に夏休みで浮かれてヒャッハーしちゃったらしい。

「くっ、こうしちゃいられませんわ!」

支部から連絡があったのだろうこのちんちくりんも現場に向かうようだ。

助かっぜ、今のうちに逃げよう。ありがとうどっかの馬鹿。

「どこに行きますの?」

あっれ〜おかしいなー。

何か体がビクともしないんだけど。

「離せよ事件だろ!さっさと解決してこいよ風紀委員様!」

「それはそれ、これはこれですの。あなたにも着いて来ててもらいますわ」

「いーやーだー!」

「黙らっしゃい!こんなことしてる場合ではないんですの!テレポートであなたごと飛びますわよ」

「いや話をっ…」

「少し酔うのでお気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたわ」

「お前、人の話を、」

あれ、何だろう。

何か気持ち悪くなってき、

「オロロロロォー」

「ここまで酔う方は初めてですの…」

やば、まじでやばい。

例えるなら360度回る椅子に縛り付けられて高速で振り回された感じ。

こいつ毎回こんなことやってんのか。

「初春、今の状況を」

「「はい!現在犯人は銀行に複数人で立て篭っているようです。人質は約20名。アンチスキルは今現場に向かっているようです」」

「面倒ですわね」

「人を勝手に連れてきて放ったらかしにするんじゃねえよ」

「あら、もう大丈夫ですの?」

「まあな。こんなのお前のテレポートでぱぱっと突入して解決してこいよ」

「犯人は複数人ですのよ。そんなことしたら人質に被害が出てしまいますわ」

どうやら思ったより面倒な状況みたいだな。

「でもあいつらも馬鹿だよなー。もし仮に強盗が成功したとしても学園都市に逃げ場なんでないだろ」

「困ったことにそれが分からない連中を相手にすることになりそうですわね」

「それならここは大人しく身を引いてわざと強盗を成功されるなんてのはどうだ?アンチスキルと風紀委員なら後からあいつらを捕まえるのなんて簡単だろ?」

「確かにそれもひとつの手段ですが、万が一がありますの。出来れば連中はここで捕まえておきたいですわね」

犯人は複数犯で、人質を取って立て篭っている。

それではこのちんちくりんが突入した所で犯人が何人か分からない以上、リスクが生じる。

わざと逃がしたところでただの馬鹿ならいいが、万が一もある。外部への逃走経路を確保している可能性も低いが無くはない。

ここは1つこいつに恩を売っておくか。

「なあちんちくりぐはッ!」

「次そのような呼び方をしたら、あなたの心臓にこの金属矢をテレポートさせてあげますの」

「じゃあなんて呼べばいいんだ?」

「白井黒子。私の名前は白井黒子ですわ」

「じゃあ白井で」

「で、なんですの?」

「事件解決に協力してやるから変質者の件はチャラにしろ」

「はぁ、何か策でもあるんですの?」

「一応な。それで、どうする?」

「しかし、人質の命もかかっていますし、それに風紀委員でない人間を巻き込む訳には」

「そんなことはいいんだよ。アンチスキルが来ちまったら学生の俺たちは簡単に動けなくなっちまう」

「…分かりましたわ。変質者と共闘というのは癪ですがそうも言ってられませんし」

「よし!じゃあ約束はちゃんと守って貰うからな」

「もし無事に犯人を捕まえることが出来たのなら、考えてあげますわ」

「もしの話なんてじゃねえよ。俺は人の命を背負って生きてけるほどのメンタル強くねぇんだ。絶対成功させてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで現在、私貴船海翔は女子トイレの壁にめり込んじゃってます。

え、なんでそんなことになってんだって?

自分でもよく分かりません。

え、銀行強盗はどうしたって?

安心して下さい。これも作戦のうちです。

何か白井のパートナーの初春って子が銀行内の監視カメラをハッキングして、中の様子を教えてくれました。

犯人は5人。

1人は玄関前に立ってて、あとの4人で銀行内の中央に集めた人質を取り囲んでいるようです。

そして送られてきた銀行内の間取りを元に、俺を男子トイレへテレポートさせたってのが今の状況です。

白井が交渉人として玄関前にいる犯人の気を引いているうちに俺がちょうど反対のトイレから出てきて人質を取り囲んでる強盗を一気に叩く。

それが今回の作戦です。

でもやっぱりテレポートの演算ってのは大変みたいですね。ちょっとズレちゃったみたいです。

そして現在、私貴船海翔は女子トイレの壁にめり込んじゃってます。

「どうすっかなぁ、これ」

いやー何これ、なんで俺は今から強盗退治って時に壁にケツだけめり込ませちゃってんの?

どっかのエロ同人ですかぁ?

というか計画早速詰んだ?

「おっ、」

携帯の着信音がなる。

無事にテレポート出来たかの確認だろう。

「もしもし」

「「無事にテレポート出来ましたの?」」

「全然無事じゃねえよ!てめぇのせいで俺のケツが大ピンチだ!」

「「はぁ?これは遊びじゃないんですわよ」」

「遊んでんのはてめぇの方だろうが!お前のせいで女子トイレの壁にケツがめり込んじまったじゃねえか!」

「「ぶふぉッ」」

「笑ってんじゃねぇよどうしてくれんだァ!お前のせいで計画は早速詰んじまったじゃねえか!」

「「大丈夫ですわ。少し計画が狂ってしまいましたが解決策は用意してありますのよ」」

「解決策ゥ?」

「「一気に引き抜きましょう」」

「ふざけんなぁ!そんなことしたら俺のケツが丸裸になっちまうだろうが!」

「「大丈夫ですわ。あなたなら出来ます。そーれ、いっち、にっ、さんっ!」」

「そのカウントダウンやめろっ!俺のケツが一生使いもんにならなくなっちまうだろうが!」

「「あら。あなたそっちの気もおありで?」

「てめぇ終わったらぶっ殺してやる」

「「とりあえず、私もそろそろ動き出さないといけませんの。その間になんとかして下さいまし」

あ、切りやがったあいつ。

よーし、俺なら出来る。

大丈夫いち、に、さんで一気に引き抜けば痛みも一瞬のはず。

「いっち、にっ、サァァァァンッ!」

て出来るかー!

そんなことしたら俺のケツの皮ずる剥けちゃうよ!

俺の息子も嫉妬しちゃうよ!

能力使えば壁をぶっ壊して出れそうだがそれじゃあ音で強盗に気付かれちまうし。

「誰か助けてぇー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ黒子、行きますわよ!」

計画は多少狂ってしまいましたが順調。

私の仕事は交渉人やってきた風紀委員の振りをして強盗の気を引くこと。

「なんだテメェは!」

「落ち着いて下さいまし。私は交渉に来ただけですの。あなた方に危害を加えるつもりはありませんわ」

「テメェみてえなガキが交渉人?証拠を寄越せ!証拠を」

「これでどうですの?この街に住んでいるのなら見覚えがあるはずですわ」

「てめぇ風紀委員か」

「これなら信じて貰えますの?」

「いいだろう」

第1関門クリア。

なんとか強盗に交渉人と思わせることが出来ましたの。

「であなた方の要求はなんですの?」

「車を寄越せ。」

「それだけですの?」

「あぁ、それで十分だ」

「ここは学園都市ですのよ?車を用意したところで逃げ切れるとは思えませんが」

「んな事お前には関係ねえだろ。安心しろ、車を持ってきたらちゃんと人質は解放してやる」

「分かりましたわ」

あとは変質者の気を引いているうちにあの変質者が人質を救出する手筈ですが。

「ブフォッ」

「何が可笑しいんだ?」

「い、いえなんでもありませんわ」

まさか女子トイレの壁にめり込んでしまうとは。

ざまあみろですの。

「あれ?」

おかしいですわね。

初春からの情報では人質を取り囲んでいる強盗は4人居たはず。

いち、に、、さん。

1人足りませんわね。

「お仲間はこれで全員ですの?」

「ん?あぁ、もう一人いるが今はクソしに行ってるよ。あれ?どうしたお前ラオウみたいな顔して」

「ち、ちなみにその方の性別は?」

「んな事聞いてどうすんだ?」

「まさか女性ですのよ!?」

「まぁそうだけど?てかさっきからどうした?中学生の女の子がしていい顔じゃありませんよ、どっかの世紀末覇者の顔ですよそれ!」

やっべぇぇー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそー三日前に期限が切れた牛乳なんて飲まなかったらよかったー」

えっ、誰か来た!?

ちょいょちょい待ってぇっ!

やだよこんな姿見られんの!

てかこれ強盗だったらやばくない?

こんな間抜けな格好で死んでたまるか!

お、落ち着け俺!

何もしなくたってどうせ何もしなくもバレるんだし能力使っても大丈夫だろ。

体内に蓄えたエネルギーを運動エネルギーに変換。

「オラァ!」

よし、なんとか抜け出せたが。

「な、なんだお前!?」

結構大きい音出てたからなー。

こいつをさっさと倒して白井のとこに向かわねえと。

「怪しいものではないんでー、どうぞうんこ済ませてって下さい」

「はいそうですかって訳には行くかよ。侵入者は排除させてもらうわよ」

「そっちがその気ならしょうがねえな」

「はやっ…がはぁっ」

よーし予定はだいぶ狂っちまったがなんとか1人倒した。

急いで白井のとこに行かねぇと。

トイレから出ると案の定、外では騒ぎになっていた。

「なんだ!今の音はっ!」

「やってくれましたわね、あの変質者。」

「俺には貴船海翔って名前があんだよ」

「ちっ、最初からそういうつもりか。動くな!それ以上動いたら人質たちの命はねえぞ!」

「そういう三下じみた真似は…」

「消えたっ!?」

「死亡フラグ、ですわよ」

気づけば強盗のうち1人が白井のドロップキックを後頭部にもろにくらい倒れていた。

「お前の能力便利だなぁ」

あと2人!

俺はとりあえず1番近くにいたやつに狙いを定め、背後に回り込んで絞め落とす。

その間にテレポートした白井がもう1人を気絶させ、あっという間に人質を囲む包囲網は崩れ去った。

「さぁ、大人しく投降しなさいな!」

「くそがぁ!」

残された強盗は持っていたライフルの銃口をこちらに向けた。

「こいつをブッパなせばお前らは無事だろうが人質はどうなるだろうな」

「卑怯な…」

馬鹿だなぁ。

そんなことしたってもう逃げられないし、罪を重ねるだけじゃねえか。

ヤケになってるのか知らねえが、んなことに一般人を巻き込んでんじゃねえよ。

体内エネルギーを光エネルギーに変換。

「目ぇ潰れ、白井」

放出された大量の光は強盗の顔面に直撃した。

これならまともに目開けられねぇだろ。

「今だ!」

「わ、分かりましたわ!」

「何ッ!?」

強盗が怯んだところで白井がテレポートで接近して強盗を気絶させた。

「あなたの能力便利ですわねー」

「うっせー。それよりも約束覚えてんだろうな」

「まぁ今回はあなたにも助けられましたし、変質者の件は水に流して差し上げますわ」

「元々変質者じゃねぇんだけどな」

とりあえず、面倒事に巻き込まれちまったが、退屈はしなかったし疑いも晴れたから良しとするか。

「「白井さんアンチスキルが到着します!今すぐ現場から離れた方がいいかと!」」

「げっ、すっかり忘れてましたわ。逃げますわよ!」

「なんで犯人は捕まえたのに逃げるんだ?」

「人質もいるのに勝手に行動したなんてバレたら大目玉を食らってしまいますの!」

「それは分かったけどなんで白井さんは俺の腕を掴んでらっしゃるのですか?」

「え?」

まさかこいつ俺ごとテレポートする気か!

「ちょっやめ…」

「時間がないですわ、行きますわよ!」

「オロロロロロォー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
もしかしたら設定がおかしい所もあるかもしれんませんので気付いた方はコメントでご指摘頂いたらありがたいです。
それとは別に感想なども書いていただけると作者のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!


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とある夏休みの1日

何とか今日中にかけましたー。
まだ本編には繋がりませんが、もうすぐ主人公も本編に絡みだします。



「あー。昨日はとんでもない目にあったなー。」

夏休み初日。

昨日のこともあって今日は家から1歩も出たくない気分だったが、昼飯でも食おうと立ち上がったところで冷蔵庫に何も入っていないことに気づき、渋々家を出たところだ。

にしてもやかましいなぁ。

んだよリア充アピールですかコノヤロー。

お前らはいちいち騒がねぇと楽しさを表現出来ないんですかー?

「変質者発見、ですわ」

「うわぁっ!」

「人の顔を見てその驚きよう。失礼ですわね」

「顔じゃなくててめぇの登場の仕方に驚いてんだよ」

いやビビった。

「また懲りずに変態活動ですか」

「てか人を変質者扱いするのやめろよな。俺だってちゃんと白井って呼んでるだろ?」

「では貴船さん。あなたいったい何をしていらっしゃるの?」

「昼飯食いに来たんだよ。お前こそ夏休みだってのに制服で何してんだ?」

「パートロールですわ。」

「へぇー。夏休みまでパトロールとか面倒くさそうだなぁ」

「そうでもありませんわよ。しかしちょうど良かったですわ。実はあなたにお話があったんですの」

「ん、話ってなんだ?」

「あなた、風紀委員に入る気はありませんの?」

「えーやだよ。面倒くさそうだし」

「最初はそう感じるかもしれませんが、とてもやりがいのあるものですのよ」

「確かに退屈はしなさそうだけどよー」

「ま、強制はしませんし、考えておいて下さいな」

「気が向いたら連絡するわ」

「分かりましたわ。それでは」

そう言うと白井はテレポートでどこかへと消えてしまった。

風紀委員か。

柄じゃねーけど悪くないかな。

上司がアイツってのは気に食わねーが。

まぁでも、アイツも悪いやつじゃねーしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食べに手頃なファミレスに入ったのは良いが…

居心地が悪い!

なんであの女子中学生たちはこっちをジロジロ見てるんですか?

ん?何か頭に変な花乗っけた女が立ち上がったな。

何かこっちに来てるような。

まぁ気のせいか。

あれ?やっぱりこっち来てるよね?

明らかに進行方向の先に俺いるよね?

やっべぇチラ見してんのバレた?

くっそー今財布にいくら入ってたっけ。

「あのう…」

「な、なんですか?」

「もしかて、貴船海翔さんですか?」

え、なんで名前知ってんの?

「そうですけど…」

「私、初春飾利って言うんですけど」

「初春?」

どっかで聞いた事ある名前だな。

「昨日は白井さんがお世話になりました」

あー思い出した。確かに白井のパートナーの初春って子か。

「あー白井のパートナーさんか。こっちこそ初春さんのおかげで助かったよありがとう」

「いえいえ、良かったらこっちの席空いてるんで一緒にどうです?」

「友達と一緒みたいだけど大丈夫なの?」

「いえいえ、みんな白井さんがお世話になったお礼をしたいと言っていたので大丈夫ですよ!」

「じゃあお言葉に甘えようかな」

よっしゃあ!

可愛い後輩と一緒にランチ。

わざわざ家からちょっと遠いファミレスまで来てよかったぜ。

「へーこの人が貴船さんかー。白井さんもなかなかやりますねー」

「黒子がお世話になったみたいで。ありがとうございました」

「いやいや、こちらこそ」

俺の隣に座ってる頭に花のっけた可愛い子が初春飾利ちゃん。

そして正面に座ってる短髪の可愛い子は御坂美琴ちゃん、その横の黒髪ロングの可愛い子は佐天涙子ちゃん。

うん、みんな可愛い。

「ところでなんで初春さんは頭に花乗っけてんの?」

俺がそう質問した瞬間、何か初春さんの周りの温度が少し下がったような気がした。

「えぇー。なんのことですか?」

「だからなんで頭に花乗っけ」

「なんのことですかぁー?」

「………」

怖ーよ。なんでニッコリブチ切れてんだよ。

そんな触れられたくねーなら外しこいそんなもん!

「あ、あははは。それより、黒子は無茶してませんでしたか?アイツ普段こそちょっと変わったやつですけど、風紀委員のことになるどうも頑張りすぎちゃうんで」

「あいつのおかげで余裕で解決だったよ。確かにちょっと変なやつだけど俺、ちょっとあいつのこと尊敬してんだよね」

普段はムカつくやつだけどさ。

風紀委員の仕事やってる時はやっぱりちゃんとしてなって見直したぜ。

「風紀委員って入るなんて相当な覚悟がないとできないでしょ?自分の時間削って、大怪我するリスクだってあるのに自分から希望して入るなんて俺には理解出来なかった。でもアイツ見てたら凄いなーって。とてもちょっと前までランドセル背負ってたガキとは思えないよ。俺の中一のころとは大違いだ」

「そんなことないですよ。貴船さんだって昨日は大活躍だったそうじゃないですか」

「そんなのたまたまだよ。」

「謙遜しちゃって〜。あ、そうだ!貴船さん、運が良かったらもう少しで面白いものが見られます〜」

「面白いもの?」

「白井さんの意外な一面、ってやつです!」

「あー、確かにあれは普通の人が見たら驚くでしょうね〜」

「驚くと言うよりも引いちゃうんじゃないんですか〜」

「そこまで!?」

そこまで言われると気になるな。

白井の意外な一面、か。

ブラックコーヒーが飲めないとか?

それとも辛いものが苦手とか?

猫舌だったりもする?

フッ、やっぱりあいつもまだまだ中学生だったって訳だな。

「お、ね、え、さ、まっ♡」

「うわぁ、あんたこんなところでやめなさいってば!」

「あ、きたきた!」

俺が白井の意外な一面を約40通り目まで思いついたところで、御坂さんと佐天さんの間に割って入るように白井がテレポートして来た。

いやファミレスくらい普通に入れ。

「私、お姉様に早く会いたくて仕方ありませんでしたの!黒子の思い受け取って下さいまし!」

「しつこいのよ!暑苦しいわぁ!」

「か、い、か、んっ!」

「あぁーんお姉様〜。この黒子に!もっとお仕置きして下さいませぇ〜」

何かすっげぇ変態飛んできたんですけどー!

何あれあんなの俺の知ってる白井じゃねえよー。

あれか?また演算失敗しちゃってどっかの変態と脳みそ入れ替えちまったのかァ!

「あのー初春さん?あれはどうしたの?」

「あれが素です」

ただの変態じゃねェかァっ!

んだよ人を変態扱いしといてお前は生粋の変態じゃねぇか!

やだよこんなやつに学園都市の平和を任せるなんて!

ある意味俺の中一の頃とは大違いだわ!

「ちょっ、黒子あんたほんといいがげんにした方が良いわよ。周りをよく見なさい!」

「周りの目なんてどうだっていいではないですか!誰であっても黒子とお姉様の関係を邪魔することは…」

あ、目合っちゃった。

「なんであなたがここにいますのっ!」

「いや遅せーよ」

「あっはっはっ!お腹痛い助けてぇ」

いや全く面白くないから佐天さん。

俺さっきまでみんなの前でこいつのこと尊敬してるとか言っちゃったんですけど。

「ハッ!さてはあなたもお姉様を狙って…」

ハッ、じゃねえよ。

「あなたもってなんだよ。お前と一緒にすんな」

「隠さなくても良いんですのよ。お姉様の美しさ、老若男女全てに通じるものなので」

「いやだから」

「しかし、お姉様の露払いとしてあなたみたいな人をお姉様に近づける訳にはいきませんの」

お前の中での御坂さんは一体何者なんだよ。

ある意味ちょっと前まで小学生だったやつの発言とは思えねぇよ。

「いや話を、」

「問答無用ですの!お姉様に近づく狼は私が排除しますわ!」

「し、白井さん落ち着いて下さい!お店の中で暴れるのはまずいです!」

もう無駄だよ初春さん。

もうこいつ俺の後頭部目掛けてドロップキックしてるから。

「死ねやオラァァァッ」

へっ、何度目だと思ってんだいい加減学習してるっつうの。

「ちっ、避けやがりましたか」

「あはははっ!」

「お前ほんと落ち着けって!」

「あーもぉぉ…一緒に怒られるのは私なんですよぉ」

「いい加減に…シロォォッ!」

「アァァァァーンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして俺たちはファミレスを追い出された。

いやー見た?あのホールのお姉さんの顔。

人間ってあんなに冷たい目出来るんだね。

「流石は超電磁砲。俺レベル5に会ったの君が初めてだけどやっぱり桁違いだわ」

「いやいや、ていうか知ってたんですか?」

「まぁ有名だしなー。この前俺の学校の授業でも名前出てたし」

「えぇー。何かちょっと恥ずかしいですね…」

御坂美琴。

学園都市中でも7人しかいないレベル5のうちの第3位。

レベル1からレベル5になったという話は有名で、学校の授業なんかでも努力でレベル5に登りつめた例として、名前を聞くことが多い。

一時期俺も彼女に憧れて自分がレベル5になるなんていう夢を見たものだ。

今はただの妄想だけどな。

あと一つ何だけどなぁ。

「いやいや、誇っていいだろー。レベル1からレベル5まで上げるなんて凄いことじゃん」

「与えられたカリキュラムをこなしてきた結果ですよ。誰でも出来ることをしただけです」

誰でも出来ることかー。

俺もまだまだ努力が足りないってことですかねぇ。

「それに、超電磁砲なんて大層な肩書き背負ってるくせに出来ることなんて何も無い…」

「え、それってどういう」

「なんでもないです!それより貴船さんの能力ってどんな能力なんですか?」

何か不自然な話の逸らし方…まぁ言いたくないなら別にいいけどよー。

「俺の能力は体内に蓄えたエネルギーを色んなエネルギーに変換する能力だ。まぁ便利だけど使いすぎたら動けなくなっちまうから頼りすぎる訳にもいかないけどな」

「いいなぁ能力者様たちはー。私も早く能力者になりたいなー」

「別にレベルが高いから偉いってわけじゃないって。初春さんだってその情報処理能力で風紀委員を支えてるわけだし」

「まあ佐天さんの気持ちも分かるなー。俺は小学校1年の時から学園都市に来たんだけど中二になるまでレベル1だったからな。小学生でも凄いやつはレベル3だっていたし、焦って周りが見えなくなって、小学校の時の俺のあだ名しってる?懐中電灯だぜ?」

「7年間…」

「懐中電灯…ふふっ」

初春さァん?そこ笑うとこじゃないからァ。

「気にするなって言われても学園都市はそういう街だからなぁ」

「でも佐天さんは能力開発始めたの中学からでしょ?焦るのはまだ早いって!」

「そーそー。断言はできないけどこうゆう例があるってのを知ってたらちょっとは楽になるだろ?」

「あはは、さっきのは軽いジョークですよー。私は私らしく能力が目覚めるまでのんびり待ってまーっす」

それが彼女の本心かは知らねーけど大したもんだよ、本当に。

俺なんかコンプレックスと周りへの嫉妬心でしょーもないことばっかやってたなぁ。

「あなたも苦労人ですのね」

「まあなぁ」

「はい!何しんみりしちゃってるんですかっ!せっかくなんですしここは白井さんの奢りでパァァっと遊んじゃいましょう!」

「なんでそうなりますのっ!?」

「あんたのせいでファミレス追い出されたんだし当然でしょう?」

「なっ、元はと言えばこの変質者がいけないんですの!」

「だから変質者じゃないっつーの。お前腐ってもレベル4なんだし金は結構貰ってんだろ?」

「腐ってないですの!だいたい高校生がJCにたかるなんて人間性を疑いますの」

「お嬢様がケチケチすんじゃねぇよ。お前のせいで俺たちまで変態扱いされてんだ」

「そーですよー。このことが固法先輩の耳に入ったら私まで怒られちゃうんですからね!」

そうして俺は白井の奢りで好き勝手遊び回った。

「あんまりですのぉ…」

「お、おい。泣くことねえだろ…」

「黙らっしゃいッ!だいたい1番はしゃいでお金を使ったあなたが何言ってますの!?」

「分かったって。俺も半分今日の金出してやるから」

なんか気づいたらすげえ金使っちまってたからなぁ。

それにほんとにJCにたかるってのはまずいよなぁ。

「どういう風の吹き回しですの?」

「人の好意には黙って甘えとけ」

「貴船さん男前〜!」

「で、いくらなんだ?」

「覚悟してくださいませ」

「お、おう」

白井は持っていたメモ帳に今日かかった金額をメモして俺に見せた。

「お、おい」

その金額約7万。

あの後佐天さんおすすめのパンケーキ食ってゲーセン寄っただけだろぉ?

一体どこに7万も消えちまったんだぁ?

「そのうち約6万はあなたのせいですの」

ほとんど俺じゃねえか!

「何を驚いていますの?ゲームセンターのゲームを何周もプレイして、クレーンゲームに約1時間張り付いて結局何も取れず、勝手に腹を立ててその後また各ゲームを何十周もプレイしていたではありませんの」

な、そんなにやったっけ俺!?

そりゃあこいつも泣くわ。

もし俺が白井だったら俺をぶっ殺すまである。

「悪かったな白井。今日は俺の奢りってことにさせてくれ」

「え、良いんですの?」

「そりゃあさすがに中学生に3万5000なんて出させられねぇよ。ほぼ俺が使った金だし」

「私もほんとに奢らせたら引いてましたよー」

「まぁその代わり今度飯でも奢ってくれ」

「ま、まぁ私が暇であればよろしいですわ」

それにしてもゲーセンとパンケーキで約6万ってどーやったらそんなに使えんだよ俺。

「それじゃあそろそろ解散にしますか!」

「あぁそうだな」

もうすぐで完全下校時間ということもあり、周りの学生のほとんどが駅の方へと歩いていた。

「私たちは門限がありますので急ぎますわ。それでは」

「じゃあ私たちもこれで」

「じゃあなー」

俺たちは各々の帰路へと向かう。

この1日、疲れたけど楽しかったなー。

なんだろう、オッサンが金出してJKと遊ぶ気持ちも今なら分かる気がするな。

 

 

 

 




今回も読んで頂きありがとうございます。
とあるシリーズは設定が多くておかしいところがないか確認はしますがそれでもおかしいところがある場合はどんどんご指摘下さい!


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とあるシスター

今回はタイトル通りあのシスターさんの登場回です!


8月9日。

最初こそ色々あった俺の夏休みだが、あの一件以来特に何もない日常を送っている。

しかしこうも毎日何も無いと暇だなぁ。

不本意だがあの騒がしさが恋しくなってくるぜ。

家にいても電気代がかかっちまうし、外に出れば白井がいるんじゃないか、そんなことを考えながら今俺は第7学区の商店街をぶらついていた。

勘違いして欲しくないから言っとくが、別に俺はあいつに会いたいとかいう気持ちわりぃ理由でなんの用もないのに外をぶらついているわけじゃあない。

あいつといたら何かと退屈しないってだけだ。

一応銀行強盗の時に連絡先は交換したけど俺から連絡するのは絶対嫌だしな。

てかいねえなぁあいつ。

周りを見たら学生だらけ。

しかも必ず2人以上の複数人で行動してやがる。

大丈夫かな俺。

あぁ、なんかどっかからなんかあいつ1人でずっとブラブラしてるよー、ぼっちなんじゃね、とか聞こえてくる気がするんですけど。

…まぁぼっちなんだけど。

10分ほど歩いて、人通りの少ない公園までやってくると、そこには科学の街では普段目にすることがない、真っ白な修道服を着たガキがぶっ倒れていた。

「お腹すいたぁ…」

「お、おい大丈夫か」

なんも考えずに声掛けちまったけど大丈夫か?

てかこいつこんな暑ぃ日になんて暑苦しいかっこしてんだ。

「だれ?」

「俺の名前は貴船海翔。お前何してんの?」

「見て分からないの?お腹が空いて倒れてるんだよ?」

ますます怪しいな。

こんなガキが昼間に腹空かせて倒れてるなんて。

「親はどうした?迷子か?」

「子供扱いはしないで欲しいかも。家の場所だって分かるし私は迷子じゃないもん」

「じゃあ家に帰れ。じゃあな」

「ちょっ、ちょっと待って欲しいかもっ!」

「なんだよ?」

「ここであなたに会ったのも何かの縁。ここは私にご飯奢ってくべきかも!」

「いやだからぁ、そんなに飯が食いたいってんなら家に帰って食えばいいだろうが」

「冷蔵庫の中身は空っぽ。おまけにとうまはガッコーに行くって言ってたから当分は帰って来ないかも」

とうま?こいつの兄貴か?

まだ8月なったばっかりじゃねぇか。

もう冷蔵庫空っぽって、計画性のねぇやつだなぁ。

「このままじゃホントに死んじゃうかも…。あなたは今にも飢え死にしそうな女の子を放ってどこかに行っちゃうの?そんなことしたらこれから食う飯はきっとまずいかも!」

なんだよそのとんでもねぇ呪い。

「ちっ、分かったから少し落ち着け。しょうがねぇなぁ」

「いいのっ!?」

「あぁ。その代わり贅沢言うんじゃねぇぞ」

まぁ、こんなガキに昼飯奢るくらいなら別にいいか。

ほっといたらほんとに死んじまいそうだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいしぃ〜!」

あれ、おかしいなぁ。

なんか鉄板がものすげぇ数重なってんですけど?

それなのにこいつの手は止まるどころかなんかさっきよりスピード跳ね上がってんですけど?

「やめてェェッ!それ以上食っちゃったら俺の財布空になっちゃうからッ!」

「えぇ…私なりに遠慮して注文してたつもりなんだけど」

「てめぇは遠慮の意味を辞書で調べてこい!」

くそ、小せぇガキだからって油断した!

大食いの女ってのはアニメとかで見るのは微笑ましいが、実際体験するとクソ腹立つな。

「だいたいよぉシスター。お前さっきから肉ばっか食ってるけど宗教的に大丈夫なの?」

「確かに嗜好品や食欲への執着は禁じられてるけど私はまだ修行中の身。だから仕方がないんだよ!」

「修行だからこそそーゆーのはしっかりしなきゃいけねぇんじゃねえの?絶対お前神から見捨てられてるよ?」

「いちいちうるさいなぁ。そんなことばっか言ってると友達出来ないよ?」

「うっ、うるせえ!友達とかめっちゃいるしィー!本当はこの後も友達と遊びに行く予定だったんだしィー!」

「おかわりお願いしまーす!」

「人の話を聞けェェ!」

ぞろぞろと運ばれてくる料理たち。

やばいっこの前大金使ったばっかだってのに!

いくら高い支給金が貰ってるからってこのペースだとこいつが満足する頃にはマジで全財産が無くなっちまう!

「いや、今日のところはほんとに勘弁してくれ!」

「むう〜。そこまで言うならしょうがないかも…」

「分かってくれたか…。まぁ食後のデザートぐらいなら頼んでもいいから」

「ほんとっ!?」

「まぁそれくらいなら」

「すいませぇーんっ!チーズたっぷりトマトピザ4つ!それと鮭雑炊3つにカルボナーラ2つ!あとそれとカレードリアとカツカレーを2つずつで!あっ、あと…」

「すいませェェんッ!今の全部なしでお願いしますゥッ!」

この人全く日本語通じてないよっ!

こんな時だけ外国人キャラ引っ張ってくんじゃねぇっ!

「どういうつもりなのかなぁ…?」

「それはこっちのセリフだボケッ!さっきデザートだけって言ったじゃねぇかっ!」

「だからそのデザートを注文してたんだけどっ!」

「デザートにカレーとか雑炊とかは含まれません!」

とうまってやつには同情するぜ。

今度会った時はこいつが食った分全部全額請求しとかねぇとなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうキフネ!そろそろとうまが帰ってくるから私は帰るね!」

結局好き勝手食いやがって今月どうやって生活していけばいいんだちくしょう。

「あーそのとうまってやつに伝えといてくれぇ。今度飯奢れって」

「うん分かった!またね!」

「おー。またはねぇけどなー」

よーしそのまま帰れ二度と振り返るな。

「ついに本性を現しましたわね。このロリコン」

「ロリコンじゃねえよ」

またこいついきなり現れやがって。

いい加減慣れたけどそれでもちょっとはひびんだよ。

「小さな女の子を連れ回している変質者がいるという通報を受けて見れば…、まさかまたあなたでしたとは」

「違っげーよバカやろぉ!人の苦労も知らないでよぉ」

「人助けも結構ですが、せめて勘違いされないように気をつけてみては?」

「なんだ?お前にしては優しいじゃねぇか」

ちょっと意外。

きっとまた罵倒されると思ってたからなんか変な感じだ。

これがギャップ萌え?

「通報云々は嘘ですので安心して下さいまし。用があってあなたを探していたのですわ。私の能力は人探しには便利なので」

「お前が俺に用事?珍しいなぁ」

「この前お話した風紀委員の件ですわ。あくまで自主的に行うべきですので強制しないと言いましたが、入るとなると色々と手続きがいりますので、やるなら早いに越したことはないですわ」

「あぁ言ってたなぁそんなこと」

「それで、今の時点ではどうお考えになって?」

「んー、微妙だなぁ。確かに退屈しなさそうだけど面倒くさそうだし」

「はぁ、ハッキリしない方ですわね」

「まぁ夏休みが終わる頃には決めとく」

風紀委員かぁ。

実際別に入っていいんだけどなぁ。

でもあれだけは嫌だ、あの決めポーズ。

なんかちょっと恥ずかしいよな、あれ。

白井がやるとカッコつくけどなぁ。

「用ってのはそれだけか?」

「えぇ。では、夏休みだからといって羽目を外し過ぎないように!」

あぁ、行っちまった。

んー、今度近くの支部にでも寄ってみっかなぁ。

 

 




今回も読んで頂きありがとうございます!
そういえば自分とあるシリーズは禁書目録しか読んでないんですよねぇ。
設定がおかしかったりしたら心配なので今度漫画全巻買って読もうと思います!
感想を書いてくれたら作者のモチベも上がるので良かったらコメントしてやって下さい!


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きっかけ

やっと本編に貴船が関わります!


8月19日。

俺は今、第2学区にやって来ている。

学園都市には全23の学区があり、第2学区ってのは兵器や爆発物、自動車関連学校の実験サーキットなど、とにかく騒音が多い施設が集まっている学区だ。

基本的に俺は第7学区から出ることは少ないので、必然的に他の学区にはあまり行ったことがないが、その中でも滅多に来たことがない学区である。

今日はこの第2学区にある風紀委員の訓練施設に行くためにやって来た。

白井によると、一応あいつと現場は体験してるから、訓練の見学でもして来いってことらしい。

あいつは用事で着いて来れないらしいけど話は通してあるから俺でも問題なく入れるらしい。

しかしここどこだ?

さらっと聞いた話じゃあここら辺にある筈なんだけどなぁ。

とりあえず目の前にある工場にでも入ってみるか。

「誰もいねぇ」

なんとなく入ってみた工場には誰もいねぇし、休憩時間だからみんな出払ってるってわけでもなさそうだ。

工場内にある機械はどれもボロボロでちゃんと整備されたのもだいぶ前のことだろう。

あたりには何かの部品と見られる物が中途半端な数散らばっていた。

きっと随分昔に使われなくなった工場なんだろうな。

しかし汚ねぇなぁここ。

使わねぇなら使わねぇでちゃんと片付けて行けよなー。

ちっ、こんな所に用はねぇ、早くしねぇと集合時間に遅れちまう。

ガサガサ…。

あれ、今なんか物音がしたような。

「あのー、もしかして誰かいたりしますー?」

返答はなし。

ただの偶然かぁ。

でも風も全く吹いてねぇしなぁ。

こんなとこだしネズミでもいんのか?

「がはっ…」

「ッ!?」

お、おい今明らかに人間の声らしき物音が聞こえたんだが!?

はっ、ははっ!幽霊くんこんな時間から張り切ってんなぁ。そんなんだったら1番忙しい時に調子出ないよぉ?そんなんだから腐った人間なんかに人気取られちゃうんだってぇー!

………。

まさか本当に幽霊とか?

い、いやぁ有り得ねぇ。

ここは科学の街学園都市だぜ?

でも気になるなぁ。

なんか分かんない?

俺はホラーとグロいのが大嫌いなんだけどさぁ。

スマホとかでよく検索しちまうんだよなぁ。

であとちょっと下にスクロールしちまうと見えちまうってとこでめちゃくちゃ迷って結局見ちまう。

結果めちゃくちゃ後悔しちまうが…。

とりあえず音がした方に行ってみるか。

怪しいやつが隠れてるってことも有り得るし。

確かあっちら辺だったよな。

この工場にある機械の中でも一際でかい機械。

なんの機械かはわからねぇが確かにあの方向から声がした。

誰か隠れてるとするならあの機械の裏とかだろう。

「おい!やましいことがあるなら出て来なさいそこの変質者!全くこんなことしてお母さん泣いて…」

「嘘…だろ…」

これなら幽霊や変質者の方が100倍マシだったぜ。

機械の裏にいたのは幽霊でも変質者でもなかった。

そこに転がってたのは死体。

いや、正確にはあと少しで死体になるであろうボロボロの少女だ。

しかしこの際そんなことはどうでもいい。

その少女の顔を見て俺は驚愕した。

「御坂さん!?一体何があったんだ!」

「はぁ…はぁ…」

「しっかりしろ!…くそっ!」

御坂さんの体の状況を確認する。

出血量は絶望的で、身につけているシャツ、茅色のベストでさえもが赤黒い血に染まっていた。

大量の濃ゆい血の匂いに吐き気が込み上げる。

「くそ何してんだ俺は…」

残った理性でなんとか衝動を抑え込む。

これは御坂さんなんだぞ。

御坂さんを見て気持ち悪いと思った自分。

そんな自分にとんでもなく腹が立った。

しかし、俺は見てしまった。

御坂さんの肘から先。

本来そこにあるものはあるべき場所を離れ、数十センチ先の地面に捨てられたように転がっていた。

切断なんて綺麗なもんじゃない。

その断面はとてつもない力で無理やり引っ張られたようにぐしゃぐしゃになっていた。

肉は飛び散り、ちぎれ損ねた筋肉は飛び出している。

我慢の限界だった。

1度せり上がってきた胃液はもう止まらない。

「おえぇ…」

鼻の奥に酸っぱい匂いが広がったと思った瞬間、俺は吐いていた。

吐瀉物はボトボトと地面に落ち、血と混ざり合い奇妙な模様を作り上げる。

そこで冷静さを取り戻した俺はあることに気づく。

血が乾いていない。

血液が乾ききる時間ははその場の状況で変わるがここまで全く乾いていないとすると、まだ犯人は近くにいるはずだ。

「御坂さん…」

御坂さんの息は止まっていた。

白井が知ったらどうなっちまうんだろうなぁ。

自分も死ぬなんで言い出さなきゃいいが。

いや、ないか。

あいつなら犯人をぶっ殺すまで死なねぇか。

でも、そんなの似合わねぇよなぁ。

こりゃあ集合時間に間に合いそうにない。

「もしもし、白井か?」

「「はいもしもし。あなたから連絡なんて珍しいですわね」」

「いきなりで悪りぃが今日の予定は無しだ」

「「はぁっ!そんなの困りましすわ!今日だって無理言ってお願いしたんですってのに!」」

「ちょっと外せない用事が入っちまった」

「「こら!待ちなさっ…」」

悪ぃなぁ白井。

よし。

待ってろよクソ野郎。

 




今日も読んで頂きありがとうございます!
レベル6シフト計画の所は自分でも好きなところなので書くのが楽しみです!
貴船の活躍を期待しといて下さい!


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妹達

初めての方は初めまして!
続けて読んでくれている方はありがとうございます!
では皆さん楽しんで行ってください!



「遅かったですか…」

人が来た…!

まずい、この状況を第三者が見たら俺が犯人だと誤解されちまう。

そうなったら通報されて最悪、風紀委員から白井にまで伝わっちまうかもしれない。

この件は出来るだけ大きくなる前に片付けたい。

「ちょっと待ってくれ…て、え…?」

どういうことだ?

「御坂さん…、でいいんだよな?」

なんで俺の目の前には御坂さんが立ってるんだ?

後ろを向いても死体はちゃんとある。

しかし、前を向けば御坂さんは生きていた。

訳が分からない。

「何をとぼけてるんですか?」

「いや、とぼけてるって。普通に混乱すんだろこの状況は」

「しらばっくれてんじゃねえよっ!このクソ野郎がぁ!」

「うおぉっ!」

こいつ、いきなり電撃ぶっ放してきやがった。

「どうして避けるんです?お得意の反射はどうしたんですかぁ?」

「反射?何訳わかんないこと言ってやがる!」

「はぁ…。いちいち腹立つなぁあんた」

「こっちはいきなりこんな状況で訳わかんねぇんだよ!お前が生きてんなら、そっちで死んでるあの子は一体なんなんだよ!」

「お前が殺したんだろうがよおっ!」

彼女の絶叫共に数多電撃の槍が、もの凄いスピードで迫ってくる。

手加減は一切なしかよ。

完全に俺を殺しに来てやがる。

槍の速度はほとんど光速。

俺は体を深く沈める。

まるで、縮められたバネが一気に元の状態に戻るように俺の体は跳ねた。

能力で加速した俺は、ギリギリのところで槍がない方向へと飛び出し回避した。

「ぐはっ」

物凄い速さでコンクリートの壁に叩きつけられ、体からは嫌な音がする。

「知り合いにあんなののぶっ放すなんて酷いじゃねぇか」

「あんた本気で言ってんの?」

こいつは多分俺の知ってる御坂さんじゃない。

容姿だけを見れば本人と違いなんてどこにも見当たらない。

しかし、俺に対して放つ剥き出しの殺意を感じて、こいつが本物の御坂さんだとは到底思えなかった。

つーことはやっぱり死んじまってんのが本物ってことかよクソが…。

「頼むから話を聞いてくれ!俺はお前に狙われしかしる理由なんてない!」

「へぇ、クローンだから殺しても構わないとか思ってるのかしら?」

クローン?

クローンってあのクローンか?

「クローンってのはあれか?提供者の遺伝子をコピーするっていう?」

「いい加減しつこいわよ、あんた」

ちっ、ちょっとは話を聞きやがれ。

しかしこいつが言ってることが本当だとしたら死んでるのは御坂さんのクローン人間ってことか。

「でもよぉ、いくら学園都市でもクローン人間なんてもん作れんのかぁ?」

「……」

どうやら俺はなにか余計なことを言ってしまったらしい。

彼女からは返答の代わりに、さっきの倍以上の数の電撃の槍が飛んできた。

「だから聞けって!」

間一髪のところで避けはしたが、盛大に壁に激突してしまった。

「かはっ」

無防備の背中を強烈な衝撃が襲い、5秒ほどまともに呼吸が出来ない。

「何故さっきから能力を使わないんですか?死にますよ?あなた」

「はあ、はあ…さっきからバリバリ使ってんですけど?」

「はあ?」

なんか話が噛み合ってねぇなぁ?

さっきからあいつが言ってる反射ってのは誰かの能力ってことか?

「あなたの能力なら、あんなの1歩も動かずに防ぐことなんて簡単なはずです」

そんなこと出来たらこんなボロボロになってねぇっての。

しかしまずいなぁ。

後ろは壁でろくに逃げ道なんてねぇし、さっきの槍をもっと増やされたりでもしたらもう避けられねぇ。

「お前なんか勘違いしてねぇかぁ?俺の能力は反射なんてもんじゃねぇよ」

「はぁ…、何故そこまで頑なに能力を使わないかは分かりかねますが。そっちがその気なら私にとっては大チャンスです」

ちっ、こっちが死ぬまでやる気だなぁこいつ。

くそぉ、最近出費がかさんで飯も節約気味だったからなぁ。

一旦戦闘を中止しねぇとエネルギー不足でぶっ倒れちまう。

「俺の能力はこんなことも出来んだぜぇ」

「何をするつもり?」

俺は前方に手をを突き出した。

体内のエネルギーを変換させて光エネルギーを作り出し、それを偽物の顔面に向けて発射。

避けようとしてももう遅い。

光の速さってのは地球から月まで2秒もかからねぇらしい。

まぁそんなこと言われても凄すぎてよく分かんねぇけどよぉ。

発射された時点でもうお前の顔に当たるくらいには速いってわけよ。

「くっ、目くらましか!」

視覚を奪っちまえば近づくなんて簡単なもんだ。

俺は10メートルほどあった距離を1歩で詰め、偽物の背後に回り込んむ。

そして、偽物の首に手を添える。

その首は細く、少し力を込めすぎると折れてしまいそうだった。

「ごめんなぁ、こんな苦しい方法で。けどこれしか思いつかねぇんだ」

「ぐあぁっ…」

首を握る手に力を込めた。

「ッ、ッ!」

俺の圧倒的有利。

このまま首を締め続ければ俺はこの戦闘に勝利する。

そんな状況でも、彼女は抵抗を辞めることはなかった。

しかし、そんな彼女も抵抗を諦めた用で、さっきまで俺の体を殴っていた手足を力なく降ろしていた。

俺の手に、暖かい液体がボロボロこぼれ落ちる。

泣いてんのか、こいつ?

俺は彼女の顔を覗き込んでしまった。

しかし、俺はその瞬間後悔した。

御坂美琴の顔した少女が泣いている。

その顔は悔しさと悲しさ入り交じり、涙と鼻水でぐしゃぐしゃにっていた。

少女の震えが手を伝い、全身に伝わってくる。

無意識に自分が手の力を緩めていくの感じた。

罪悪感が全身を駆け巡る。

こいつは御坂美琴じゃない!

そう必死に自分に言い聞かせるが手に込めた力はどんどん弱くなる一方だ。

「その顔でそんな顔すんじゃねえよな…」

気づいたら、俺は彼女の首から手を離していた。

「けほっけほっ…。はあ、はあ、一体どういうつもり?」

「そんなの自分が聞きてぇよ」

はぁ馬鹿だな、俺も。

こんな距離でいきなり雷撃かまされたら絶対避けられねぇ。

あんなもん食らったら冗談抜きで死んじまう。

「なんですかそれは!あそこで私を解放しなければ確実に殺せたはずです!」

「別にそこまでするつもりはねぇよ。ちょっと気絶させようと思っただけだ」

こうなったらなんとか話聞いて貰うしかねえか。

結局そこで死んでんのが本物の御坂さんなのか、クローンって話は本当なのか。

それに戦闘中に散々言ってた反射ってワードも気になるしよぉ。

「俺はお前に危害を加えるつもりは無い!!さっきので分かっだろ?」

「確かに、私を殺すつもりならあそこで殺すはずです。でもそれだけじゃ信じる訳にはいかない。あなたなら今この瞬間だって私を殺すことは可能ですから」

「俺にそんな力ねえよ。戦闘中も思ったがお前俺と誰かを勘違いしてねえ…え?」

あれ?なんか目の前に拳があるような?

「ごふっ!」

痛ってぇ!

こいつ急に顔面ぶん殴りやがった!

「何すんだよお前!」

「どうやらあなたの言っていることは正しいようです」

くっそなんでこいつは話が通じねぇんだ!

「意味が分かんねえんだけど?」

「あなたが私の目的の人物だった場合、私の拳は砕けていたはずです。私の勘違いだった、ということですね。

自分だけで勝手に解決しやがって。

俺にもちょっとは説明しろっての。

「その反射を使うやつが御坂美琴のクローンを殺したってことか?」

「えぇ」

「じゃあ本物の御坂美琴は無事なんだな?」

「はい。この実験でオリジナルに危害が加わることはありません」

「実験?」

「ここまで派手に巻き込んでしまいましたしね。あなたはお姉様の知り合いのようですし、望むと言うなら全てをお話しましょう。私としては聞かずに今すぐ家に帰ることをおすすめしますが」

忠告してくれてんのはこいつの良心なのか。

俺も正直関わらない方がいいと思う。

これに首を突っ込んでしまったらまた今みたいにわけも分からず命を狙われることになるだろう。

もう、生きて帰ってくることはできないかもしれない。

それでも…。

「聞かせてくれ、全てを」

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んで頂きありがとうございます!
今回出てきた御坂妹の口調や能力がおかしいと感じる方もいらっしゃると思いますが、一応自分なりに理由を考えているので今後わかると思います!
他の御坂妹は原作通りの設定なので安心して下さい!
それではまた次回お会いしましょう!


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実験

落ち着いた彼女から、俺は今学園都市の裏で起きている実験の真相を聞いた。

絶対能力進化計画《レベル6シフト計画》

その名の通り、レベル5を超えたレベル6を生み出すというのがこの実験の目的だ。

候補に選ばれたのは、学園都市に7人しか存在しないレベル5のやつらだった。

しかし、学園都市が誇る世界最高のスーパーコンピューター、樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》で予測演算した結果、レベル6へと到達できるのはレベル5の中でもただ1人ということが分かったらしい。

そいつの名前は一方通行《アクレラレータ》

運動量・熱量・光量・電気量など、能力の効果範囲に触れたあらゆる力の向きを自由に操作することが出来るらしい。

こいつが散々言ってた反射ってのも一方通行の能力の1つらしい。

演算結果によれば、通常の時間割を250年間組み込むことによって一方通行は、レベル6へ進化することが出来るという事だった。

まぁどんなに強力な能力を持っていようと、一方通行は人間であるという大前提があるため、一旦計画は保留となった。

再び樹形図の設計者で演算を行ったところ、超電磁砲、つまり御坂美琴を128回殺害することで、同様の結果が得られることが分かった。

まぁ当然、御坂さんを128人も用意するなんてことは出来ない。

そこで注目されたのが、同時期に学園都市で進められていた量産型能力者計画《レディオノイズ計画》だ。

それから樹形図の設計者で再演算をした結果、量産型能力者計画によって作られた2万人のクローンを利用し、2万通りの戦場を一方通行に提供することによって、一方通行はレベル6へと進化することが出来るという結果になった。

「殺されることが目的の人間を作るなんて、随分とひでえことするなぁ」

「これまでに1万人以上の妹達があいつに殺されてるわ」

こんな計画を思いつき、実行した科学者たちはもちろんだが、その一方通行ってやつも大概だな。

そんだけ強いってのにそこまでレベル6にこだわる理由がそいつにはあるんだろうか。

「クローンってのは何となく無感情キャラってイメージがあったんだけど、お前みたいに実験を止めようとする個体は他にいねえのか?」

「私の場合は少し特別な事情があってね…。もう1人私みたいなのがいるけど、他の子たちは自分たちの扱いに疑問なんて抱かないし、この計画で自分たちが死ぬことにだって躊躇してない」

「御坂さんはこの計画を知ってんだろ?2万人以上のやつらが殺されるのは承知の上でこの実験に協力してんのか?」

もちろんそうは思いたくない。

でも、本当にそうだったら?

たった一人の人間を育てるために2万人もの命を見殺しにするなんて間違っている。

彼女がそんな計画に協力して、何事もなかったようにこの前みたいな笑顔を浮かべているような人間だったとしたら。

俺はどうすればいいんだろうか。

「安心なさい。お姉様はこの実験に反対しているわ。この間もお姉様の手で研究所が1つ潰されている」

「じゃあなんで御坂さんはあいつらに自分のDNAマップを渡しちまったんだ?」

「騙されるたのよ、お姉様は。まだお姉様が小さい子供だった頃、筋ジストロフィーという病気を治すために役立てたいという研究者の嘘に騙され、DNAマップを提供してしまった」

「御坂さん自身が気づいた時にはもう手遅れだったって訳か」

「でもよぉ、この街はいつだって人工衛星で監視されてるんだ。いくらこそこそしようがそんな計画とっくに潰されてなくちゃおかしいだろ」

クローン人間の作成は日本ではれっきとした犯罪だ。

しかも、2万人のクローンを作成し、全てを殺害するような実験なんて、今すぐ中止されてなきゃおかしいはずなのに。

「知ったうえで、理事会はこのことを黙認してんのよ。その手は警備員や風紀委員にだって及んでる」

「そんな馬鹿なことが…」

「ええ、馬鹿げてる。でもあいつらにはそんなの関係ない。たとえどんなリスクを背負ったって計画を成功させる気よ」

間違っている。

下衆な実験に心を痛め、立ち上がった少女がたった一人で戦っているんだ。

まだ中学生だってのに、周りの大人には何も相談出来ず、たった一人で抱え込んでいたのか。

━━━…超電磁砲なんて大層な肩書き背負ってるくせに出ることなんて何も無い…。

俺は、ある日の彼女の言葉を思い出した。

そうだ、いくら人より強い力を持っていたって、中身は中学生の女の子。

そこにレベルの大小は関係ねえ。

たった一人で学園都市の闇を敵に回したんだ。

平気なわけがねえ。

それでも、白井たちの前で笑っていた。

本当は泣きてえはずだ。

「お前はどうするつもりなんだ?」

「この実験を止めるわ。そして、妹達にあなたたちの価値はそんなもんじゃないって教えてあげたい。私たちのために苦しんでいるお姉様を救ってあげたい」

「でもよぉ、どうやって止めんだ?今まで御坂さんが色々やっても効果なしだったんだろ?」

「研究所を破壊したところで次々と研究は引き継がれるし、効果は薄いわ」

「じゃあどーすんだよ」

「一方通行を殺す」

「は、はぁッ!殺すってお前…」

「もうそれしかないの。いくらなんでも柱となる一方通行が消えてしまえばこの実験も中止するしかなくなるわ」

「まぁ確かに、そいつを殺せば全部無くなるんだろうけどよお」

それで全て解決すんならどんなに簡単な話だろうよ。

「それが出来んだったら殺しはしないにしても、御坂さんは真っ先にそいつをぶっ倒してるはずだ。それなのにわざわざ研究所潰すなんて回りくどいことしてるってことは、御坂さんじゃそいつには勝てねえってことなんだろ?」

「ええ。レベル5の1位と3位。たった2つの順位の間にはとんでもない戦力の差がある。あいつとお姉様が戦っても絶対にお姉様は勝てないわ」

御坂さんでもそのレベル。

クローンのこいつが戦っても絶対に勝てない。

「じゃあどうすんだよ?無駄死にするだけじゃねえか」

「私だって考え無しにこんなこと言ってる訳じゃないわ。勝算はある」

「まぁ止めたって無駄だろうけどよ。そんな話聞いちゃぁ無視できねえ。俺にも協力させろ」

「だめよ。この実験であなたまで死んでしまえばお姉様がどう思うか。あれは次元が違う相手なのよ」

死ぬのは自分1人で十分ってか。

妹達に自分の価値を教えるなんて言ってたが、てめぇも分かってねえじゃねえか」

「死ななきゃいいんだろ。俺だって御坂さんをこれ以上追い詰める気はねえよ。死にそうになったらお前を置いとっとと逃げるから安心しろ」

「断ったらどうするの?」

「2人が1人になるだけだ。この実験は気に食わねえ」

「ちっ、いいわ。その代わり自分の命が第1に優先しなさい。失敗したらもうこの実験のことは忘れること」

「あぁ。失敗なんてする気はねえけどな」

「着いてきなさい。時間はないわよ」

待ってろよ一方通行。

そのふざけた計画、俺がぶっ潰してやる。

 

 




今回もお読み頂きありがとうございました。
自分はどちらかと言うと、ラノベはラブコメの方が好きなので、何となく一人称で描き始めましたが、とあるとかのジャンルだったら三人称の方が絶対良かったですよね…凄い後悔してます笑


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決意

俺は、作戦の打ち合わせのために、こいつらのアジトへと連れてこられた。

「私の仲間は少し変わってるって言うか…とにかく!扱いには気をつけるように」

「変わってるっつったって…、お前も大概だけどな」

まぁ最近変なやつによく会うしな。特に目の前のやつとかどっかの変態とか。

「はぁ?まあいいわ。ちゃんと靴揃えなさいよ」

「へいへい。おじゃましまーす」

随分ボロいアパートだなぁ。

「ただいまー」

「おかえりなさぁーい、ってヒイィ!誰ですかその人!?」

「ちょっ、落ち着きなさいって。協力者を連れてきたのよ」

「協力者、ですか?」

あぁ、確か私みたいなのがもう1人いるって言ってたなぁ。

「貴船海翔です」

「はっ、はい!よろしくお願いします…」

「あー、いいのよこんな奴に敬語なんて使わなくても」

なんだよ私みたいな子って。

全然こっちの方がいい子じゃん。

「それで?次の実験ってのはいつあるんだ?」

「次の実験開始時刻は8月21日の午後8時30分ジャスト…だっかしら?」

「え、ええ…合ってます」

「時間はねえが、勝てそうなのか?」

「分からないわ…。でも、私たちは力をつけた。これ以上妹達を死なせる訳にはいかないし、絶対に実験は止めてみせる」

残り2日。

時間はねえが、散々待ったこいつらがやるってんなら異論はない。

それに、実験を知ってしまった以上、これ以上1人も死なせる訳にはいかねえ。

「へっ、俺も付き合うんだ。失敗なんてさせねえよ」

「そのつもりよ。でも万が一ってこともあるわ。私はあなたを死なせるつもりはないけど、あいつが黙ってそうされてくれるとは思えない。さっきは死ぬななんて言っけどそれも状況によるしね。実験まで2日ある。明日は大事な人に挨拶でもしてきなさい」

「だから、大丈夫だっ…」

「あ、あの!」

さっきからずっと静かだった子が急に大声を出した。

「行ってきてください…挨拶に。じゃないとあなたもあなたとお知り合いさんたちも、絶対に後悔すると思います……」

まるでその子はその哀しみを知っているようで、俺はいつもみたいに冗談っぽく返せなかった。

「あぁ、分かった」

「よし、じゃあ今日は解散!明後日の6時半にここに来ること!」

「了解」

「ちょっとあんた」

「何だ?」

「さっきは悪かったわねこれでもあんたには感謝してんのよ。ずっと味方なんていなかったから。でも、引き返すなら今のうちよ。今逃げ出したって誰もあんたを責めないわ」

これは最後の警告だろう。

彼女の不器用ながらの優しさ。

これで俺は再確認した。

クローンなんて関係ない。

こいつらは心を持った1人の人間なんだと。

他の奴らだって心がないって訳じゃないんだ。

だってこいつら2人は、勝てるかも分からない勝負に、他の誰かのために命をかけられるようなやつなんだから。

それなら俺がやるべきことはただ一つ。

理不尽な虐殺からこいつら全員を救い出すこと。

「ばーか」

 

 

第7学区に帰って来たけど、ここは相変わらず騒がしいなぁ。

さっきまでのことが嘘みてえだぜ。

挨拶って言われてもなぁ。 

俺、友達そんないねえんだよなぁ。

ていうか親の顔だって知らねえし。

俺が死んだら悲しむやつって言ったらたぶん0だし。

……

あいつは、俺が死んだらどんな顔すんだろうなぁ。

というかあいつと俺の関係って何なんだろう。

気づいたら、俺は白井に電話を掛けていた。

あんなに自分から連絡するのを嫌がってたっていうのに。

「もしもし」

「「あなた!一体何をやっていましたの!?あなたのせいで先輩方にネチネチネチネチ……気が狂いそうでしたわ!」」

「悪かったって。それより明日暇か?」

「「突然ですのね…。一応明日は風紀委員の方は非番になっていますが」」

「じゃあどっか行こうぜ」

「「はぁ…。あなた一体どうしましたの?」」

「別にどうもしてねえよ。それよりいいの?ダメなの?」

「「別にいいですの。今は仕事中ですので一旦切りますわよ」」

「おう。怪我すんなよー」

「「余計なお世話ですの」」

なんで白井に電話なんかしたんだろ?

分かんねえが、あいつと会っとかないと後悔しそうって思ったんだよなぁ。

それぐらいには、俺もあいつの事を大事に思ってんのかな。

はぁ。

死、か。

今までそんなのとは無縁の世界で生きてきたからなぁ。

戦うっても精々ガキの喧嘩止まりだったし、本当にやばい事には関わってこなかった。

でも今回は違う。

2万人を殺すのだって躊躇はしねえようなやつを相手にするんだ。

おまけに学園都市の闇まで敵に回すような真似するんだから、運良く生き残れたとしても、きっと今みたいな生活は送れないだろう。

そうなると、今みたいに会うのだって出来ないだろうしなぁ。

「あ、貴船さん!」

げっ!今1番会いたくない人が来やがった。

「お、おう御坂さん。どうしたんだ1人で」

「することもないんでぶらついてたんですよ。今日は風紀委員の見学言ってたんですよね?黒子が言ってましたよ?」

「あぁ、ちょっと用事でなしになっちまった」

「えー。黒子必死に先輩たち頼んでたんですよー!」

「さっきしっかり怒られちまったよ」

 しかし全部知った上で絡んでみるとすげえな。

 相手に全く不安を感じさせねえ。

 白井のやつもそうだが、俺の周りのガキはみんな年不相応にしっかりし過ぎてやがる。

 大変結構なことだがよぉ。

 そういえば、御坂さんは次の実験のこと知っているんだろうか。

「なぁ御坂さんたちの学校って門限厳しいの?」

「8時20分ってことになってます。守らないとうちの寮監が怖いのなんのって。私や黒子が本気でやっても勝てないんですよー」

「へ、へえ。そりゃあ恐ろしいやつだな」

 実験開始の10分前か。

 ここはその寮監に免じて大人しく門限を守ってもらいてえが。

 まぁ、守るわけねえよなぁ。

「じゃあ無理っぽいなー」

「どうしたんですか?」

「いやぁ明後日によー。夜の8時半におすすめの店がキャンペーンやってるっていうから御坂さんたちもどうかって思ったんだが」

「8時半……ですか」

 ここまで露骨に反応するってことは、やっぱ知ってんだな。

だいたいそんな時間になったら学生向けの店なんて全部閉まっちまう。

「てか普通に中学生をそんな時間に連れ回す訳にもいかねえもんな。気にしないでくれ」

「い、いえ。また今度誘って下さい!この前はみんなも楽しかったみたいなんで」

「あぁ。じゃあ俺行くから」

はぁ、なるべく御坂さんには俺が関わってるってことは黙っときたいしなぁ。

どうしたもんかな。

 




今回もお読み頂きありがとうございます!
ちょっと記憶が曖昧になってきたので、原作を読み返してるんですが、いつの間にか手が止まらないんで困ってます笑
鎌池先生と自分の文章力の差には絶望的な壁がありますが、勉強になる所もあるので皆さんが少しでも読みやすいと感じられるように日々精進します!


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日常

「おーっす」

「こういう時は殿方が先に来るものだと思うのですが」

「そりゃ悪かったな」

 まだ待ち合わせの15分前なんですけどよー。

 そういえば昨日の御坂さんもだけど、なんでこいつら夏休みだってのに毎回制服なんだ?

「思ったんだけど、なんでお前いっつも制服なの?」

「うちの学校の校則ですの。というか、あなただって制服ではありませんか」

 

 

 

なんか御坂さんと白井って会った時いっつも制服だからな。 

 今日だって俺だけ私服ってのもなんか嫌だし。

しかしなんだぁ?その意味のなさそうな校則。

「厳しいんだな、お前のとこ」

「それはまあ。私もそれを承知で常盤台に行ったので」

 常盤台って言ったら超お嬢様学校だしな。

 確か在学条件がレベル3以上っていうくらいだから、能力開発に結構力入れてんだろうな。

 その証拠に、常盤台にはレベル5が二人いる。

 超電磁砲の御坂美琴と心理掌握《メンタルアウト》の食蜂操祈。

 心理掌握の方は会ったこともねえし、あんまり詳しくは知らねえが、なんでも記憶の読心やら人格の洗脳やら、精神に関することならなんでも出来るらしいって噂だ。

 一体どうゆう原理でそんなこと出来んのかは知らねえが、そんなの絶対に相手したくねえな。

「それより今日どこいく?」

「は……?」 

「え……?」

なんだ、この空気。

「今日はあなたからのお誘いを受けて、こうして集まったわけですが」

「あぁ」 

「それなら、今日の流れくらいは考えてくるものでしょう。普通」

「いや違うんだ白井。今日はあ、え、て、お前の意志を尊重したいと思う」

 決して、そんな発想が浮かばなかったとかそんな訳じゃない。

「絶対何も考えてなかっただけですの!」

「悪かったって。もう昼飯食った?」

「いや、まだ食べてないですの」

「お、ちょうどいいな。じゃあラーメン食い行こうぜ」

「ばっかじゃないですの?こんな暑い日にラーメンなんて食べてられないですの」

「バカはお前だ。暑い日に汗かきながら食うってのもいいじゃねえか」

「意志を尊重したいってのはどうしたんですの?」

「分かったって。何食いたいの?」

「そうですわね……。じゃあ、ラーメン以外で」

「どんだけラーメン嫌なんだよ。じゃあカレーは?」

「却下」

「お前よー、夏はカレーっていうだろ。あのインド人だって毎日汗水垂らしながらカレー食ってんだよ?失礼だと思わないの?」

「別にインド人だからってカレーを毎日食べてるわけではありませんの。とんでもない偏見ですわ」

「そうめんなんてどうですの?」

「おっ、悪くねえな」

 本当は俺が今食いたいもんってラーメンやらカレーやら、全部熱々だし。

 なんなら、今だって焼肉食いたいとか考えてたし。

 まあそんなこと言ったら永遠に決まらなさそうだしなぁ。

 

 

「いやー。美味かった」

 確かにこんな日にはそうめんってのも悪くねえな。

 今まで麺類の下級戦士って呼んでてごめんなさい。

「さて飯も食ったし、白井。どっか行きたいところある?」

「服を見たいですの」

「はぁ?でもお前校則で制服以外着れねえんだろ?」

「ただ見るだけというのも、楽しいものなんですのよ」

 うーん。何となくわかるような気がする。

 俺もガキのころは親の買い物について行った時は必ずおもちゃ屋のショーケースに張り付いてたもんだ。

 買ってもらえないってのは分かってたが、見るだけでも楽しいってんのは確かに分かる。

「まぁ、お前がそう言うなら行くか」

「はいですの!」

 

 

 

 

 

 そうして俺たちは駅前のデパートにある、女性服売り場へとやって来た。

 なんかめっちゃ恥ずかしい。 

 この階は女性服専門の店しかないから当然といえば当然なんだが、周りに男が一人もいねえ。

 しかもこの階には男子トイレすらねえ!

 なんだこの男を完全に拒絶しか空間は!

 あ、やばいあのお姉さん絶対俺の事を馬鹿にしてるよ。 

「何をそわそわしているんですの?」

「い、いや。なんでもない。何か気になるのあったか?」

「んー、どれもイマイチですわねー」

 おい!そーゆーのは小さい声で言え。 

 店員さんの目が怖いから。 

「あっ!あれは!」

「おい!走るなよ」

 あんだけ走って……そんなに良いもん見つけたのか?

 ってなんだあそこ!?

 置いてる服どれもこれもが水着並に布面積が異常に少ない……。

 なんであんな店がデパートにあんだよ。

「素敵なお店ですわぁ〜」

「まじで言ってる?」 

 ここ、俺たち以外誰も客いないんだけど。

「お客様ァ!ご来店ありがとうございますゥ!」

 店員さんめっちゃ必死じゃん。

 このままだと絶対死ぬほど買わされる。

「ここ出るぞ!」

「あ、ちょっと!せめてこれだけでもお姉様にぃ!」

 そんなもん買ってたらお前殺されるわ!

 

 

 

 

 

 

 「せっかく良い雰囲気のお店でしたのに」

「お前がどういう趣味を持とうが俺には関係ねえのかもしれねえが。あーゆう服はせめてあと10年くらい年取ってからにしろ」

「失礼ですわね。だいたいあなたに私の趣味を否定する権利はないんですの」

「いや、まぁそりゃそうなんだが。それでも言う!お前にはまだ早い」

「早いですって!?」

「早いの。そーだなぁ。お前なら……あっ、あそこの店なんていいんじゃねえの?」

 選んだのは清楚系のお淑やかな女の子が着てそうな服が並んであった店。

 一応服装には気を使ってるが、女物なんて選んだことは無い。

 ただ何となく白井に似合いそうなジャンルを自分なりに選んでみただけだ。

 見た目は悪くねえし、あーゆうの来た方がこいつにも似合うだろ。

「ふーん」

 ん?なんか不味かったか?

 こいつのことだから……。 

(ふん!人に偉そうに言うのでどうかと思いましたが……。大したことないですわね) 

 とか言われそう。

 お前には言われたくねーが。

「あなたはこういうのが好きなのですわね。まあ、せっかくなので見るくらいならいいですわよ」

 お?

 なんだなんだ?この満更でもないような感じ。

 へっ、やっぱりお前もこういうの好きなんじゃねーか。

「ふんふふーっん」

 しかしこいつ楽しそうだなぁ。

 まぁこいつくらいだとやっぱりお洒落とかしたい年頃だろうしなぁ。

 校則のせいで私服着る機会がない分、見るだけでも相当楽しいんだろうなぁ。

「なんか良いのあったか?」

「うーん、あなたはどれが似合うと思いますか?」

「え?」

「大体、このお店を選んだのはあなたですの。私に似合うと思ってこのお店を選んだのならば、是非あなたの意見も伺いたいですわ」

「いきなり言われてもなぁ」

「それともまさか……、適当に選んだのということはありませんわよね?」

「違えよバカ。テキトーになんか選んでねえ」

「では別に問題ないですの」

 まあ元々こいつに似合いそうな服が置いてあったからここを選んだわけだし。

 うーん、そうだなぁ。

 俺は、シンプルなロゴが胸の部分に入った白のビックTシャツに、ベージュのタイトスカートを手に取って白井に渡した。

 ぶっちゃけ俺の好みで選んだが、白井なら似合うだろ。

「これちょっと試着してみてくれ」

「わ、分かりましたわ」

 白井は俺が持ってきた服を持って試着室へと入っていった。

 なんかちょっと緊張するな。

 早く出て来ねえかなぁ。

少し待つと、試着室から声がした。

「あの……。一応着替えましたの」

「お、おう。出てきてくれ」

 白井は、少し恥ずかしそうに試着室から出てきた。

「ど、どうですの?」 

 こ、これは……。

「すいませぇぇぇん!これ下さーい!」

「ちょっ、ちょっと!やめなさい!」

 似合いすぎだろ……。

 特にTシャツのブカブカ感が最高だ。

 彼氏のTシャツを着たような、まさに俺のイメージ通り。

 そしてキレイめなイメージのベージュのスカートがめっちゃ良い。

 靴が制服のローファーだから若干違和感があるが、それでも充分過ぎるほどに似合っている。

 今月厳しいってのに思わず買っちまいそうになったぜ。 

「絶対こっちの方が良い!」

「そ、そうですか……」

 ち、今ここで顔赤くして照れられるのは不味い。

 こいつが変態ってこと忘れてうっかりプロポーズしちまいそうになる。

「なんかちょっと照れますわね」

 くそ可愛い。

「でも勿体ねえなぁ。こんなに似合ってんのに校則で私服禁止なんて」

「まあこればっかりは仕方がないですわね」

 なんかちょっと可哀想だな。

 あんだけ楽しそうに服見てたんだしどうにか出来ねえか。

 校則に引っかからない物……、髪飾りとかか?

「それでは着替えて来ますわ」

「おう」

 出来れば白井が試着室で着替えているうちに探さねえと。

 俺は辺りを見回すと、シュシュやヘアゴムなどが沢山置いてあるコーナーを見つけた。

 あいついっつもツインテールだし、こーゆうのも悪くねえな。

 俺はたくさんあるものから割と真剣にあいつに似合いそうなものを1つ選び、急いでレジに持っていた。

 

 

 

 

 

 

 買い物を終えてデパートを出ると、空はすっかり赤く染まっていた。

「もうこんな時間か」

 確か常盤台の門限は20時20分だったか。

 今は18時54分。

 もうちょっとくらい連れ回しても大丈夫かな。

「おい白井」

「なんですの?」

「お前まだ門限大丈夫だろ?夜飯でも一緒にどうだ?」

「別にいいですわよ」

「おっし!何食いたい?」

「ラーメン」

「え?」

「ラーメンが食べたかったんじゃありませんの?」

「いや、そうだけど、あんなに嫌がってたじゃん?」

「お昼はそういう気分じゃなかっただけですの。早くしないと気が変わってしまいますわよ?」

 なんだぁ?

 まあ、俺はラーメン大歓迎だけど。

「よし!なら取っておきの所に連れてってやるよ!」

「期待しておきますわ」

 

 

 

 

 

「うえぇ。もう当分ラーメンは食いたくねえ」

 て言っても明日になればまた食いたくなるんだよなぁ。

「それはあれだけ食べれば……。見てるこっちまで気持ち悪くなってしまいましたわ」

 いや、2杯目までは結構余裕なんだよ。

 でも3杯目を少し食ったところで、さっきまであんなに美味かったラーメンが不思議に思えるくらい不味くなっちまう。 

「でも美味かっただろ?」

「まあ。正直あんなボロッボロのお店に連れてこられた時は殺してやろうかと思いましたが」

「分かってねえなぁ。あのボロさが良いんだよ」

「たまにならああいう所も悪くないですわね。気が向いたらまた誘って下さいな」

「毎日でも誘ってやるよ」

「それは遠慮しておきますの」

「ははっ!それじゃあそろそろ帰るか」

 楽しい時間はすぐに終わるって言うけど、俺はそれを今日、初めて体感した気がした。

 こんなに時間が経つのが早いと感じたのは今日が初めてだ。

 第一印象はめんどくさくてウザイ変態って思ってたやつと、1ヶ月後にへこうして仲良くやってんだから、人間ってのはどうなるか分かんねえなぁ。

「では、私はこっちですので」

 あれ、もうそんな所まで来てたのか。

 ただ、並んで歩いてただけだってのに、何がそんなに楽しいんだか。

 自分でも分からなかった。

「白井!」

「はい?なんですの?」

「これ、受け取ってくれ!」

 俺は、デパートで買ったものを白井に渡した。

「開けてよろしいですの?」

「ああ」

 白井の手で小さな紙袋が開けられていく。

 袋の中に白井の手が近づいていくほど、俺は自分の心臓の音が速くなっていくのを感じた。

 恥ずかしいな、この状況。

 綺麗な夕焼けの空に、帰り道の別れ際。

 まるで学校の帰り道に告白してるみてえだ。

「シュシュ?」

「あ、あぁ。服見てた時楽しそうだったし。お前だってやっぱりお洒落とかしたいんじゃねーの?やっぱり。お前いっつも髪結んでるし、こうゆうのなら校則違反にもならねえだろ?」

「ありがとうございます……」

 夕焼けのせいか、白井の頬は赤く染まって見えた。

「付けてみてもよろしいですか?」

「あぁ。勿論」

 俺が答えるのを待ってから、白井は髪をほどいた。

 女ってのは髪型1つで印象がごろっと変わる。

 いつも結んでる女が髪を下ろした時は最高って話はよく聞くが、俺も今その気持ちが分かったぜ。

「どうですの?」

「可愛い……」

「ちょっ、何言ってますの!」

「いや、本当、マジで似合ってるよ」

 髪型自体はいつもと変わらないはずなのに。

 自分が選んだのはシュシュを嬉しそうに付けてくれていると言うだけで、いつもの数倍も白井が可愛く見えた。

 俺じゃなかったら惚れちまうね。

「えへへっ……」

 今その顔は卑怯過ぎるぜ。

 明日になってしまえば、命懸けの戦いが始まり、自分は死んでしまうかもしれない。

生き残ったとしても、今日みたいに自由に会ったりすることは許させれないかもしれない。

 ただ、今この瞬間。

 またこの笑顔を見たいと思った。

 今はこの気持ちがどうゆうものかなんて、分からなくていい。

 ただ、今みたいな平和な日常を過ごしたい。

 それだけで俺は、絶対に生きて帰って来れるような気がした。

ちょっと格好悪いかもしれねえが、それで良いじゃねえか。

「白井、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回もお読み頂きありがとうございます!
少し間が空いてしまって申し訳ないです!


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作戦

「時間、ぴったりね」

 8月21日、18時半。

 俺は、例のボロアパートへとやって来ていた。

「今日、御坂さんも来るらしいぞ」

「お姉様が?それは確かなの?」

「ああ。ほぼ確実だ。実験の開始時刻も知ってる様子だった」

「はぁ、あいつと戦っても勝てないことはお姉様が1番分かってる筈じゃない」

「死ぬつもりなのかもな」

「え?」

「そもそも、お前らが作られた理由ってのは、御坂さんを128回殺すのと同様の結果を得るためだろ」

「そうだけど?」

「なら、超電磁砲にそんな価値がないって思わせれば良いんだよ。科学者たちに分からない程度に手を抜いてさっさと殺されちまえば、科学者たちだって本当にこんなやつを128回殺したとしても一方通行はレベル6になれるのか?そう思うはずだ」

「はぁっ!?意味分かんない!私たちを助けるためにお姉様が死ぬなんて、そんなのダメに決まってるじゃない!」

「そんなのおかしいです……」

「ああ。それにやつらには樹形図の設計者がある。今御坂さんが死んでも、また再演算されたら犬死にだ。まあ、さすがに考えなしってわけじゃねえだろうけど」

 本当に馬鹿だよなぁ。

 妹達が死んで御坂さんが哀しむように、あんたが死んだら哀しむやつだらは周りに沢山いるだろ。

「お前らに御坂さんの足止めを頼みたい」

「じゃああんたはどうすんのよ?まさか1人で一方通行に挑むっての?」

「そのつもりだ」

「死ぬのが分かってるのにそんなことはさせるわけないでしょ!?」

「そ、そうですよ。危険すぎます……」

「俺は絶対に死なない。絶対に、だ。こんなことお前たちにしか頼めない。頼む!」

「ったく。しょうがないわねぇ」

「はぁ……。でも、足止めって一体どうやって?」 

「ありがとう。お前たちには妹達の真似をして、今日の実験は中止になったと御坂さんに伝えて貰いたい」

 2人の容姿は御坂さんとそっくりだし、きっと妹達との違いも無いはずだ。

 実験の直前に戦場にいるはずの妹達と遭遇したら御坂さんも不思議に思うだろうし、そこでこいつらが今日の実験は中止になりましたと伝えれば、大丈夫だろう。

 これなら御坂さんは大人しく寮に帰るだろうし、万が一にバレたとしても、しばらく時間は稼げるはずだ。

「確かに、それならお姉様の足止めは出来るわね」

「御坂さんがどういうルートを通って実験がある場所に行くかは分からねえが、そいつはお前らで何とかしてくれ」

「今回の実験は第7学区で行われるので、多分そこを探せば何とかなるかと思います」

「頼む」

 これで、御坂さんとこいつらはしばらく実験場には来ないだろう。

 あとは、俺が一方通行を倒せば全て解決だ。

 学園都市第1位とサシで戦えるなんて光栄なもんだ。

 現在19時12分。

 そろそろ動き出すか。

「じゃあ御坂さんを探さなきゃいけねえし、そろそろ行くか」

「お姉様を見つけたら私たちも行くから。それまでにあんなやつ倒しちゃいなさい!」

「きっと勝てるって信じてます!」 

「よし!こんな実験は今日で終わらせるぞ!」

 

 

 




今日もお読み頂きありがとうございます!
あまり詳しくはないのですが、しおりという機能を3人に使って頂いているみたいでとても嬉しかったです!


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激突

「はぁっ、はぁっ……」

 結局御坂さん見つからなかったなぁ。

 まあ、あとはあいつらに任せて俺は一方通行のとこに向かうだけだ。

 普段は学生たちで溢れている学園都市も、夜になればその姿を変える。

 完全下校時刻を過ぎた今、ほとんどの住人が学生のこの第7学区は、昼間とは打って変わって静寂に包まれていた。

 繁華街を駆け抜けていたはずだったが、気付けば街の中心部からとっくに離れていた。

 肺が痛い。 

 自分がどれほどの時間走っているのかも分からなかった。

 けれどその脚に篭った力を弱めることはしない。

 早くしねえと!

 激しい足音と青息が、ガラリとした夜の街に静かに響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 少し走ると、鉄橋が見えてきた。

 街の中心部から離れた鉄橋には街灯もなく、薄暗い。

 人工物の塊みてえな学園都市にも、こんなとこがあったのか。

 ここで星でも見たら良いもんだろうなぁ。

「ッ!?」

 寂れた鉄橋にはとても似合わない、不自然なほど青白い光ともに、ドゴン!という爆音が鳴り響いた。

「あれは……」

 あれほどの現象が自然に起こるとは思えない。

 しかし、この街ではそれほど不思議な事でもない。

 一般的に非日常と言われることだって、この街では日常なのだ。

 あれほどの現象を引き起こせるほどの力を持った人間を、俺は知っている。

「御坂さんか!」

 俺は爆音の発生源へと向かって全力疾走した。

 御坂さん……と、向こうにいるのは誰だ?

 俺は御坂さんたちから距離を空けて立ち止まった。

 どうやら誰かと戦闘しているようだ。

 さっきのは御坂さんが相手に放った雷撃だろう。

 となるとあのウニ頭が一方通行か?

 でも少し様子がおかしい。

 敵意剥き出しの御坂さんに対し、ウニ頭の方は右手を横に広げているだけだった。

 敵意も殺気も感じられない。

 「ざっけんなぁっ!戦う気があるなら拳を握れ!戦う気が無いなら立ち塞がるな!半端な気持ちで人の願い踏みにじってんじゃないわよ!」

 御坂さんの狂犬のような絶叫が、夜空へ響き渡る。

 近くの鉄骨へと雷撃が放たれるが、ウニ頭はピクリとも動かない。

 ウニ頭は残った右手と対になるように、残った左手を上げた。

 まるで、お前と戦う意思は無い、というように。

 何かの攻撃の予備動作か。

 それとも本当にこいつには戦う意思がないというのか。

「戦えって言ってんのよっ!!」

 ついにウニ頭に向かって電撃が放たれた。

 瞬間、俺は驚愕した。

 ウニ頭はなんの抵抗もせず、雷撃に直撃した。

 しかし、それに驚いた訳では無い。

 一方通行の能力であれば、御坂さんが放った雷撃など、1歩も動かずに反射することが出来るからだ。

 なら何故驚いたのか。

 さっきまで一方通行だと思っていたやつが数メートル吹っ飛ばされていたからだ。

 体は地面へと叩きつけられ、その勢いでゴロゴロと1メートルほど転がり、ぐったりとうつ伏せで倒れ込む。

 こいつは一方通行じゃねえのか?

 じゃあなんで御坂さんはこんなにキレてこいつには攻撃してんだよ。

 それにあいつもあいつだ。

 あの様子だと、御坂さんは本気で電撃を放っていた。

 レベル5の本気なんざ、まともに食らって無事でいられるわけがねえ。

 防ぐ手段もねえくせに、なに無抵抗で突っ立ってやがる。

 最悪死んだな、ありゃ。

 そう思った瞬間。

 ウニ頭は立ち上がった。

「マジかよ……」

 あんなのまともに食らって生きてるだけでもラッキーだってのに、立ち上がるのかよ。

 足はガクガクと震え、腰は曲がっている。

 まるで生まれたての子鹿のようだ。

 自分と同年代に見える男がやるにはあまりにも滑稽な姿。

 しかし、俺にはあの男を笑う気は起きなかった。

「戦いたい理由なんてわかんねえよ。他に良い案があるのかどうかも分っかんねえよ!けど嫌なんだよ、お前が傷付くところなんえ見たくねえんだよ!自分でも何言ってっか分かんねえよ!けど仕方ねえだろ、お前に拳を向けたくねえんだから!」

 男は、今にも崩れ落ちそうな体で必死に叫んでいた。

「もうこれ以外に方法がなくたって、他にどうして良いのか分からなくたって、それでも嫌なんだよ!何でお前が死ななきゃいけねえんだよ!どうして誰かが殺されなくちゃならないんだよ!そんなの納得出来るわけねえだろ!」

 そういう事か。

 この男が何者なのかは知らねえが、どこかで実験のことを知り、自分の命を掛けてまで実験を止めようとしている御坂さんを止めようとしているのか。

 こいつなら引き出せるかもしれない。

 俺は勿論、御坂さんの両親や初春さん、佐天さん、そして白井でさえも引き出せなかったたった一言を。

「私には、今更そんな言葉かけてもらえる資格なんてないのよ!仮に、誰もが笑って過ごせるような幸せな世界があったとしても、そこに私の居場所なんてないのよ!」

 御坂さんはもう大丈夫だろう。  

 そのまま全部吐き出しちまえ。

 ──助けて。

 その一言を聞けば、あの男はどんな奇跡だって引き起こすだろう。

 まあしばらくかかりそうだし、今のうちに俺は一方通行のとこに向かうか。

 橋は御坂さんたちがいるから通れないし。

 となると。

「マジか……」

 結構高ぇなぁおい。

 一方通行と戦う前に死なないかこれ?

 高さによってはコンクリート並の硬さって聞くしなぁ。

 柵から身を乗り出す。

 眼下の川は黒に染まり、底が見えないせいで余計に恐怖を倍増させる。

 行くしかねえか……。

 「くそったれェッ!!」

 一瞬の浮遊感の後、体はどんどん落ちていく。

 勢いよく飛び込んだせいで、空中で体は勢いよく回転していた。

 やばい死ぬ!助けて!マジでこれ死ぬって!

 そんな思いとは裏腹に、容赦無く水面は近づいていく。

 直後、バシャーン!という音ともに、俺は水面に叩きつけられた。

 何とか水中で目を開けるが真っ暗でどっちが水面かも分からない。

 俺が死んだら後は任せたウニ頭……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は展開に悩みましたが、やっぱり御坂さんを救うのは上条さんですよね!
今回お読み頂きありがとうございます!


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一方通行

「着いた……」

 鉄橋を抜け、物静かな工業地帯を過ぎた先にある列車操車場。

 機体の整備や終電を走り終えた電車を保管しておく場所だ。

 一般的な校庭ほどの広さの敷地内には巨大なコンテナや車庫が周りを取り囲むように並んでいる。

 数十分後にはここで実験が行われるはずだが、さっき川へ飛び込んだせいで携帯も故障してしまい、正確な時間までは分からない。

 操車場に人気はない。

 終電は最終下校時刻に合わせられているため、この時間には作業員もみんな帰ってしまっている。

 作業用の照明はすべて消され、辺りには民家などもないためここが学園都市だということを忘れそうになるほど、暗闇に包まれていた。 

「どうしてこンなとこに一般人がいんンだァ?」

「ッ!?!?」

 いきなり声かけられて心臓止まるかと思ったぜ。

 俺は声がした方へとゆっくりと視線を向ける。

 暗闇の中心にそいつはいた。

 そいつの姿は、俺の中の一方通行というイメージからはかけ離れていた。

 痛々しいほど細い体。

 今まで外に出たことがないのかと疑いたくなるほどの白く繊細な肌。   

 その真っ白な髪と赤い瞳はうさぎを連想させるが、彼の雰囲気がそれを塗り潰していく。

 まるで白い闇。

 白い闇なんてのはめちゃくちゃな言葉だが、そんな言葉を真っ先に思い浮かばせるほど、不気味な存在だった。

「一応聞くが、お前が一方通行か?」

「なンだァ、お前?」

「これ以上超電磁砲のクローンは殺させない」

「はァ?どこでンなこと知ったのかは知らねェが、ハンパな正義感なんて捨てちまえ。ガキの遊びじゃねェンだよ」

「うるせえこのクソ野郎!てめえの勝手な理由であいつらを殺してんじゃねえよ!」

「おいおい……。人を人殺しみてェに言うなよォ。だいたいアイツらはボタン1つでいくらでも代わりは作れンだよ。人形をいくら殺そうが俺の勝手だろォがよォ」

「お前……」

 普通に生きてりゃ人間のクローンなんてフィクションの世界でしか見ることはないだろう。

 そんな状況では、そんな考えを持ってしまうのも仕方がないのかもしれない。

 ボタン1つで作れる人間のコピー。

 昔の俺だって、その1文だけを聞かされてもこの実験を止めるためにここまでやっていたかは分からないし、もしかしたら、知らないふりをしていつもの日常へと帰っていたかもしれない。

 しかし今の俺は、彼女たちがただのコピーではないということを知っている。

 俺たちと同じように痛みは感じるし、怪我をしたら血だって出る。

 今はまだ頭の中はインプットされた戦闘スキルや実験のことなんかしかないんだろうけど、こんな実験が終わればきっとあの二人みたいになれるだろう。

 知らないやつがいるなら、知っている人間が教えてやればいい。

間違ったやつがいるなら正しい道へと引っ張ってやればいい。

「あいつらは確かに超電磁砲のコピーだ。けどなぁ。それが2万人だろうと、それぞれはたった一人しかいねえんだよ!」

「はァ、意味わかんねェ。お前がこの実験止めたいってのはァ充分伝わったがどうするよォ?わざわざここに来たってことはまさかお前。俺を倒せるだなンて思ってたねえよなァ?」

「そのつもりって言ったらどうするよ?」

「ハハッ、おもしれェなァお前。お前は今、誰にそんな口きいてンのか分かってんのかァ。学園都市に7人しかいねェレベル5。その中でも第1位の俺にお前なんかが敵うと思ってんのかァ、オイ」

 一方通行の眼が俺を捉えた。

 湧き出した殺意がどんどん膨れ上がる。

 まるで360度から命を狙われるような尋常ではない殺意。

 ここまではっきりとした恐怖を感じたのは初めてだった。

「ごちゃごちゃうるせえぞ。こっちも時間がねえんだ。嫌なら逃げても良いぜ、ヒョロガリ野郎」

「チッ。ちょっと怪我させてやらねェと分かんねェみたいだなァ」

 

 

 




今回もお読み頂きありがとう!
一人称での戦闘シーンは書きにくいんですけど、頑張って皆様の読みやすいようにします!


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最強との激闘

 両者の距離は、およそ10メートルほど開いている。

 俺も一方通行も、詰めようと思えばすぐに詰められる程度の距離だ。

 しかし、相手は触れるだけで敵を殺すことが出来る化け物。

 迂闊に近づくことは出来ない。

 一方通行も動かない。 

 余裕をかましているのだろう。

「オイオイどうしたァ?あんだけ大口叩いといてさっきから1歩も動いてねェじゃねェか」

 無闇に突っ込むのはまずいが一方通行に一方的に攻撃させるのはもっとまずい。

 どうせずっとこのままって訳にもいかねえし、行くしかねえ!

 俺は一気に駆け出した。

 運動エネルギーを操作して、一方通行に一気に接近する。

 一応、反射の攻略法は聞いている。

 一方通行に向かうベクトルはすべて、能力範囲に触れた瞬間操作される。

 普通にぶん殴ったってダメージを与えるどころか、こっちの骨が折れてしまう。

 彼に挑んだ大半の奴らが、勝手に自滅していったそうだ。

 しかしそこまで聞けば、誰でもこんな方法を思いつくんじゃないだろうか? 

 難しいことじゃない。

 単純な話、パンチが当たる直前に腕を引いてしまえばいいんだ。

 前提として、一方通行の能力を完璧に知り尽くし、反射のタイミングを正確に把握していないと到底出来ないことではあるが。

 打ち出した拳が一方通行の体に当たる瞬間、俺は一気に腕を引いた。

「そこだッ!」

「なにィ」

 今まで味わったことのない妙な感覚。

「ッつ、」

 一瞬、骨の奥に鈍い痛みが走った。

 どうやら上手くいかなかったらしい。

 いや、腕はまだ動くし、折れてないだけ成功と言えるかのか。

「ちったァ考えたよォだが、そン簡単に攻略出来るほど、学園都市第1位ってのは甘くねェんだよォ!」

 一方通行が地面を踏みつけると、その足を中心に小さな爆発が起きた。

 周囲に飛散した砂利は、ショットガンのように俺の体へと襲いかかる。

 気づいた時にはもう遅い。

 避けられないと悟った俺は、咄嗟に両腕で顔を庇った。

「ぐおぉっ」

 小石と思って侮っていたのが災いか。

 一方通行の能力でベクトルを操作された小石の威力は想像以上で、俺は勢いよく後ろに吹き飛ばされてしまった。

 どんな攻撃も防げる防御力に、凄まじい攻撃力。

 まったく羨ましい限りだぜ。

「ザコばっか相手にして勘違いしちまったかァ?俺とお前じゃァこんなもンなんだよ」

「てめぇ……。そんなに強いってのになんでレベル6になりてえんだ?超電磁砲のクローンなんて殺さなくても、もう十分じゃねえか!」

 強さを求める気持ちは同じ男として分からなくもない。

 すでに誰にもたどり着けない場所にいるこいつが、こんなことまでしてレベル6になりたがる理由ってのはなんだ?

 こいつにはそこまでしてでも強くならねえといけない理由でもあるのか?

「まァ、自分で言うのもなンだが確かに俺はレベル5の中でも突き抜けた強さも持っている」

「だったら……」

「けどよォ、周りの連中はその事実をどうやって知ったと思う?」 

「そんなもん、学園都市第1位って肩書きだけで十分分かるだろ」

「そーだと良いんだけどさァ」

「どーゆうことだ?」

「世の中にはバカなやつらがいてよォ。度胸試しくらいの気持ちで面白がってケンカ売ってくるやつらがいンだ」

 強いやつには強いやつの苦労があるってことか。

「でもそんなの無視すりゃいいじゃねえか?お前ならとくに何もしなくても相手が勝手に自滅してくれるだろ」

「それじゃァダメなンだよ。全然ダメだ。結局、俺の強さってのはその程度ってことなンだよ。俺が目指してんのはその先、戦おうと思うことが馬鹿らしいと思えるほどの、歯向かうことが許されないほどの絶対的な強さ。そこまでいってようやく俺の目指す最強になれんだ」

 一方通行は赤い瞳を輝かせながら、己の野望を語った。

「こっちから聞いてこんなこと言うのもなんだが、くだらねえ」

 心の奥から愉快そうに笑っていた一方通行の顔が、ぴくりと引きつった。

「あァ?」

「くだらねえって言ってんだよ」

 要するに自分が舐められてるのが許せねえからこいつは2万人の命を奪って強くなろうとしてるってことか。

 くだらねえ。

 どれだけあの3人が苦しんでたと思ってやがる。

 御坂さんなんて、自分の命を捨てようとするほど追い詰められてたってのに。

 あいつらが命を賭けて守ろうとしたものがこんな理由で殺されていたなんて。

 俺は聞くんじゃなかったと後悔した。

 怒りで我を忘れそうだった。

「もともとお前は許さねえつもりだったけどよォ。怒りでどうにかなっちまいそうだぜ」

「はァ?お前に許して貰う気なンてねえよバカが。だいたいなんでそんなにお前がキレてンのか俺には分からねェ」

 落ち着け、と自分に言い聞かせた。

 一方通行のベクトル反射を攻略するためには精密な判断力と反射神経を要する。

 怒りで我を忘れてしまってはただでさえゼロに近い確率がさらに低くなってしまう。

「なァ知ってるか?あいつらたったの18万で作れちまうんだぜ?」

「ッ!」

 気がついたら俺は走り出していた。

 まるでガラクタのようにあいつらを語るこいつが許せなかった。

 ここでキレるのはまずいことは分かっている。

 自分で自分の首を締めているようなものだ。

 今ならまだ間に合う、1度立ち止まって落ち着け。

 そうやって頭のなかで怒りを抑えようとしても、脚は止まらない。

「あいつらの価値はそんなもんじゃねえんだよ!」

「良いぜェ、殴らせてやる」

 俺の拳が一方通行の顔面を捉えた瞬間。

 俺の右腕にはとんでもない激痛が走った。

「ぐああァァがァ!」

 さっきの一撃は運が良かったのか、それとも怒りのせいで精彩を欠いたのか、俺の右腕は普通では考えられない方向に折れ曲がっていた。

「あーあァ、やっちまった。その腕でまだ戦うか?」

「……次は、捉えるさ」

 右腕が使えなくたって左腕、左腕がなくたってまだ2本の足がある。

 今ので頭も冷えた。

 チャンスはあと3回、こっからが勝負だ。

「いいねェヒーローくン」

 一方通行の体が低く沈む。

 まるで砲弾のように、一方通行は俺へと駆け出した。

 すぐそこまで近づいてくる死の象徴のような少年に、不気味な緊張が一気に全身を駆け巡った。

 御坂さんの雷撃に比べれば劣るが、それでも凄まじいスピード。

 触れればそれだけでゲームオーバーの両手が目前まで迫る。

 俺はこれをすんでのところで何とか回避した。

 しかし、一方通行の腕は逃がしはしないとばかりに、俺を追う。

 何か変だ。

 一方通行の攻撃が当たらない。

 もちろん俺は全力で回避に徹している。

 それにしたっておかしい。

 この速度で次々と攻撃されているんだ。

 当たらないにしても、もう少し苦労するかと思っていた。

 それなのに、苦労するどころか一方通行の動きをちゃんと確認して避けられるほどの余裕さえある。

 なんつーか、こいつの動き……。

「なんだァ!ちょこまかと逃げ回ってンじゃねェよクソがッ!」

 まるで喧嘩慣れしてねえような……、まさか!?

「そういう事か」

 こいつ、今まで能力に頼りきりで殴り合いの喧嘩なんてしたことがねえんだ。

 何もしなくても勝てるんだし、そりゃそうか。

 改めて見てみると足運びはめちゃくちゃだし、1発1発の隙がデカい。

 こいつには能力があるからそんなに気にならねえが、一般人が本当のケンカでこんなことしたら相手がよっぽど弱くねえ限り絶対負ける。

 学園都市第1位。

 けど、それは一方通行の能力の話であって、一方通行自身の強さではない。

 その小さな違いが、きっと勝機になるはずだ。

「はァ、はァ……。なんで当たらねェンだ!チクショウ!」

 嵐のような攻撃が止んだ。

 その隙に俺はバックステップで距離を取る。

 反射は全ての攻撃の跳ね返す。

 つまり、一方通行はまともに殴られたこともねえはずだ。

 たった1発。

 痛みに免疫のないあの細い体に拳を叩き込んでやればそれで終わりだ。

 何かないか。

 あいつに大きな隙を作る何か。

「学園都市第1位は、そこらの雑魚に攻撃を当てることも出来ねえのか?」

「なんだ挑発のつもりかァ?何考えてるか知らねェが、そんなことしてもお前は俺には勝てねェよ」

 この一瞬で周囲を見回したが、これといった物はない。

 早くしねえとあいつらが来ちまう。

 俺は勢いよく地面を踏みつけた。

 操作された運動エネルギーで勢いよく巻き上げられた砂利たちが一方通行に襲いかかる。

「おいおいモノマネかァ。そンなンじゃあ第1位には勝てねェぞォッ!」

 物凄い勢いで突進してくる一方通行。

 それを俺は、上空へと飛び出すことで回避した。

「危っね!」

「身体強化系の能力かァ?面白ェ能力だが無駄だァ!」

「やべぇな」

 あまりの迫力に判断を急いでしまった。

 あらゆるベクトルを操作することが出来るなら多分空中でも自由に動けるだろう。

 地面まで約10メートル。

 落下するまでの間は無防備になってしまう。

「オラァッ!」

 一方通行は僅かに身を沈めると、思い切り地面を蹴って飛び上がった。

 貧相な体からは想像出来ない跳躍力で、一気に俺まで到達した。

 まるで自分の巣にも迷い込んだ虫を蹂躙する蜘蛛のように、ゆっくりと一方通行の両手が伸びていく。

「チェックメイトだ」

 このままでは死ぬ。

 体に溜め込んだエネルギーを別のエネルギーに変換して体外に放出出来るこの能力でどうにかするしかない。

 その時ふと、最近読んだ漫画の一コマを思い出した。

 とある漫画のキャラクターが空気そのものを蹴ることで足場とする、という人間離れした技だ。

 自分でも正直馬鹿げてると思うが、もしそれが可能なら、本来身動きが取れないこの状況から脱することが出来る。

 俺の能力なら、可能性は0ではない。

 俺は、能力を限界まで使って前方の空気を蹴り上げた。

「勝手に勝った気になってんじゃねえよ!」

 轟!という爆音と共に、一方通行の姿がどんどん離れていく。

「よっしゃあ!成功だ!」

 これで何とか目前の死期からは逃げ出すことが出来た。

 ……が。

 止まれねぇ!

 後方には積み上げられたコンテナ。

 このままだと背中から叩きつけられてしまう。

 少しでも勢いを落とせるように、咄嗟に後方へと足を蹴り出した。

「がはぁっ……」

 だいぶ速度を落とすことは出来たが、それでも衝撃は中々のものだった。

 振動が右手に響いて、地獄のような痛みにのたうち回りたくなる。

「うおぉ……」

「ハハハハッ!あいつ空気を蹴って移動しやがった!」

 何とか生き延びているが、防戦一方。

 このまま逃げに徹しても、不利な状況は変わらない。

 そこで、おかしな感覚に気を取られた。

 左の手には、コンテナの硬い感覚の他に何か、サラサラとした粉末状のものを触っている感覚があった。

 確認すると、左の手のひらは真っ白に染まっていた。

 どうやらコンテナの中身は小麦粉だったらしい。

 これは……。

 もし、このコンテナの他にも同じような中身のものがあるとしたら、一方通行の動きを一時的に止められるかもしれない。

 俺はコンテナから飛び降り、6つ積み上げられているうちの一番下のコンテナを全力で殴った。

 一番下のコンテナは見事にぐしゃぐしゃになって吹っ飛んでいった。

 まるでだるま落としを失敗した時のように、今まで支えられていた上段のコンテナが、周りのコンテナの塔を巻き込んで次々と崩壊していく。

「おもしれェ。おもしれェよお前!今度は一体何をしようってンだァ!?」

 頭上から降ってくるコンテナに気をつけながら、状況を確認していく。

「すぐに分かるさ」

 コンテナが降ってくる場所をある程度確認してから俺は急いでその場を離れた。

 コンテナの動きが止まると、コンテナの中身が飛び出して目の前にはひたすら白い景色が広がっている。

 粉塵爆発という言葉を聞いたことがあるだろうか?

 ガソリンなどの可燃性気体の発火、爆発に近い。

 まあ簡単に説明すると、物質は微細になればなるほど単位体積あたりの表面積が大きくなり、その物質が燃える時に酸素が提供されやすくなる。

 酸素が提供されやすくなるってことは、高速で燃焼が可能になるってことで、その燃焼がどんどん伝播していって爆発が起きるってわけだ。

 今夜は無風。

 あとは着火源を用意してやれば、辺り一面ドカンだ。 

 俺はシャツの袖をちぎり、体外に放出した熱エネルギーでそれを引火させた。

 俺は、爆発に巻き込まれないほどの距離を取ったことを確認して、それを思い切り粉塵に向かって投げ込んだ。

 直後、小麦粉が撒き散らされていた空間そのものが爆弾と化した。

 巻き起こされた爆風に吹き飛ばされそうになるが、何とか能力を使って踏みとどまる。

 今だ!

 俺は爆発の直前、一方通行が立っていた場所に目掛けて全力で駆け出した。

 もちろん、この爆発で一方通行を倒すつもりだった訳では無い。

 あの化け物なら、この爆発の中心に立っていようと、笑っていられるだろう。

 しかし、粉塵爆発の恐ろしさは他にもある。 

 それは、空気中の酸素を燃料にして燃焼するということだ。

 たとえ一方通行でも人間である以上は、酸素を奪ってしまえば酸欠くらい起こすだろう。

 もちろんそれはこっちも同じだが、ある程度距離を取っていた分いくらかマシなはずだ。

 爆発に中心地であったであろう場所で一方通行は膝をついていた。

 絶好のチャンス。

 この距離なら、一方通行が復活するよりも先に拳を叩き込める!

「うおぉぉッ!」

 能力を使った渾身の左ストレートが、一方通行の顔面に深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます!
前回からだいぶお時間が空いてしまい申し訳ありません!


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とあるヒーロー

 夜の操車場には、絶叫が響いていた。

 

「ぐがあぁ!」

 

 俺の左腕は、可動域の真逆の方向へと折れ曲がってしまっている。

 しかし、この絶叫は俺だけのものではない。

 一方通行は、俺の拳を受けて吹っ飛ばされて、砂利の上に倒れ込んでいた。

 

「い、痛ェ……、クソッ」

  

 なんとか俺は一方通行の反射を破ってダメージを与えることに成功した。

  

「いやァ、今のは正直ビビったぜ。まさか俺の反射をパンチで破るとは。この俺をここまで追い詰めたのはお前が初めてなんじゃねェかァ?」

 

 一方通行にダメージを与えることが出来たのは大きな進歩だ。

 しかし、有利か不利かと聞かれれば、圧倒的に後者だった。

 この一撃で決めるはずが、反射を完全に破りきらず思った以上に威力が下がってしまっていて、逆にこっちの左腕が折れてしまった。

 まだまだ全開で戦えるこいつに対してあと足2本で戦わなくちゃならないのはぶっちゃけキツイ。

 いや、移動のことを考えるとあと1本か。

 さっきのような大きな隙はもう作れないだろう。

 

「けど、その体じゃァもう戦えねェンじゃねェの?」

 

「お前なんて足だけで十分だ」

 

「ッ……!?」

 

 気を紛らわすまてにハッタリをかますが、こんなハンデ背負って勝てる相手じゃない。

 

「じゃあやってみろよォッ!」

 

 一方通行は、足元の小石を思いっきり蹴りつけた。

 能力によって弾丸のように加速した小石は、俺の腹へと突き刺さる。

 

「ごほっ、」

 

 衝撃は骨まで響き、激痛が俺の両腕を襲った。

 

 一方通行は俺に休ませる暇を与えまいと、一気に距離を詰めてくる。

 

「遅っせンだよォッ!」

 

 動きは直線的で、避けること自体はそう難しくなかった。

 俺は次々と繰り出される一方通行の攻撃を避けていく。

 

「ぐっ……」

 

 細かいステップで生まれる僅かな振動が折れた骨へと伝わって、その痛みが徐々に集中力を削いでいく。

 実際、一方通行は気付いてないかもしれないが、さっきまである程度の距離を取って避けていた腕が、どんどんとその距離を縮めできている。

 このままでは腕に触れてしまうのも時間の問題だ。

 

「辛そうだなァ。早く楽になっちまえよォ!」

 

 攻撃の激しさが一気に増す。

 一方通行の両腕が、まるで機関銃のように俺を襲った。

 1発1発に対処するのが精一杯で、もう余裕なんて無い。

 左方から、俺の顔面目掛けて一方通行の腕が伸びてきた。

 ギリギリのタイミング。

 俺はそれを右へのステップで回避しようと、右脚へと力を込める。

 しかし。

 

「しまっ……」

 

 風船に空いた穴から空気が抜けていってしまうように、右脚から力が抜けていった。

 回避するどころか、俺は膝をついてしまった。

 当然と言えば当然か。

 空中で自分の体を支えることが出来るほどの空気抵抗を生み出す蹴りを放ったんだ。

 本来なら絶対にありえない事だし、むしろよくここまで耐えたものだ。

 

「ハハァッ!随分しぶとかったが最期は呆気なかったなァッ!」

 

 もう一度体制を立て直すよりも、一方通行の方が速い。

 今度こそ死を覚悟した。

 一方通行の腕に触れるまで、後数秒ほど。

  

 ──ごめん、みんな。

 

「一体何をしているのですか?とミサカは簡単な状況説明を求めます」

 

「あァ?」

 

 どこから声が掛けられ、一方通行の腕が俺の顔の数センチ前でピタリと静止した。

 俺は、声がした方向へと顔を向けた。

 声の主は御坂さんとそっくりの容姿をした少女だった。

 しかし、容姿はそっくりだが雰囲気がまるで違う。

 今日殺されるはずの、妹達の1人だろう。

もう来ちまったのか。

 

「見て分かンねェのか?今からこいつを殺すンだよ。良くあンだろ?秘密を知っちまった一般人を口封じのために殺すって展開。結構楽しいなァこれ」

 

「この実験は統括理事会が動いて隠蔽しています。この方が何をしようとも、特に問題はないのでは?とミサカは当然の疑問を投げかけます」

 

 彼女の乱入で何とか助かった……、が。

 状況的には今の方がまずい。

 正直もう俺には一方通行とやり合うほどの力は残っていなかった。

 どんなに力を出し切ったって、どんなに知恵を振り絞ったって、きっと無様に敗北してしまう。

 このままでは2人ともこいつに殺されてしまう。

 

「はァ、やっぱめンどくせェなァお前」

 

「必要のない殺人は控えた方がいいかと。とミサカは命の大切さをあなたに伝えようとしてみます」

 

「お前それを俺に今更言うかァ?」

 

「本物の人間を殺すのはミサカたちを殺すのとは訳が違います。ここは見逃してあげてみては?とミサカはしつこく説得してみます」

 

 そう言った彼女の顔からは、 理不尽な実験で自分の命が奪われることに対しての疑問や躊躇いが一切感じられなかった。

 まぁあいつらから聞いてた事だが、あいつのそんな態度を見てると腹が立つ。

 

「……良いこと思いついたぜ」

 

「良いこととは?とミサカは具体的な説明を求めます」

 

 そこで、一方通行は今まで彼女に向けられた視線をこちらに向けた。

 

「今からお前に良いもン見せてやるよ」

 

「どういうことだ?」

 

「命懸けてまで守ろうとしたこいつが目の前で何も出来ずに殺される……。一体どんな気分なんだろうなァ?」

 

 一方通行はまるで最高の玩具を見つけた子供のように、興奮して体を震わせていた。

 これは脅しでもなんでもない。

 こいつは俺の反応を楽しむためなら今すぐにでも目の前の少女を殺してみせるだろう。

 

「まァ結果的には今回の実験は失敗になっちまうが。足りねェ分はまた作って足せばいいだけだもンなァ」

 

「やめろ……」

 

「いやなら止めてみなァッ!」

 

 一方通行はそう吐き捨て、猛スピードでクローンへと突進して行った。

 彼女も咄嗟に抵抗を試みたようだが、間に合わない。

 俺は両脚に力を込めた。

 体はもうボロボロで、今にも限界を迎えようとしている。

 けれど、彼女が殺されるという時に、黙って見ている訳にはいかない。

 溜めたエネルギーを一気に放出し、俺は飛び出した。

 ベクトル操作による加速は恐ろしい速さだったが所詮力の向きを操作したに過ぎない。

 細かい動きなら相手に分があるかもしれないが、単純な直線なら大量のエネルギーを放出すれば追いつくことも難しくない。

 俺は彼女の盾になるべく、一方通行の前に背中を向け立ち塞がった。

 直後、彼女に向かって放たれた小石の弾丸たちが、俺の無防備な背中を叩く。

 

「がはっ」

 

 次々と襲いかかる衝撃に肺の酸素を強制的に吐き出された。

 このまま俺が倒れてしまえばこいつを守れない。

 しかし、力めば力むほど体から力が抜けていく。

 

 あ、れ?なんで急に目の前に空が……?

 

「アハハァッ!ついに立つことすら出来なくなったか!お前も馬鹿だよなァ。こんなガラクタ庇うなんてよォ」

 

 あぁ、そうか。

 倒れちまったのか、俺。

 早く立ち上がれ!

 そう必死に命令しても、体は応えてくれない。

 

「こんなガラクタに命賭けれるなンて、ある意味尊敬しちまうぜ全くよォ!」

 

「……」

 

 もう声を出す気力さえ無かった。

 きっとこのまま殺されんだろうなぁ、俺。

 そんな絶望的な状況の中、俺の頭の中にはある男の顔が浮かんでいた。

 死に際に名前も知らない男の顔が浮かんでくるなんておかしいよな。

 御坂さん、ちゃんと助けてって言えたかな。

 その一言を聞けば、きっとあいつは奇跡を起こす。

 あいつの名前は知らないし、もちろんどんな人間なのかも分からない。

 けど、そのたった一言を引き出すためにあんなにボロボロになれるなんて、ただのバカってわけじゃねえよな。

 こんだけ頑張ったのに良いとこ全部持ってかれるのは癪だが、ここは正義のヒーロー様に賭けてやるか。

 俺は、途絶えそうになる意識を何とか保ち、必死に願った。

 早くあの少年が現れることを。

 俺はどうなってもいい。

 せめて彼女だけでも救ってくれ。

 

「ちっ、だンまりかよ。面白くねェな」

 

 さっきから一言を言葉を発っさない俺に、とうとう一方通行は興味を無くしたようだった。

 

「まァ、せいぜいこいつが殺されんのを黙って見とくンだな」

 

 一方通行の狙いがついに彼女に定まった。

 ──その時。

 

「今すぐ御坂妹から離れやがれ!」

 

 夜の操車場に、1人の少年の声が響き渡った。

 ヒーローは遅れてやって来るって話はよく聞くけどよぉ。

 なんなんだよこの狙ったようなタイミングは。

 まあ、色々言いたいことはあるけど。

 あとは任せた。

 俺は心の中でそう告げ、静かに意識を失った。

 

 

 

 




今回もお読み頂きありがとうございました。
くだぐだしてしまった一方通行戦も今回でおしまいです。
本当は海翔さんに勝たせてあげたかったけど、普通に考えて勝てるわけないし、ここは上条さんに任せることにしました。
あとこれは関係ない話ですが、初めて感想を貰いました。
面白いと言っていただいてすごく嬉しかったので、これからも頑張ります!


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とあるヒーロー

 夜の操車場には、絶叫が響いていた。

 

「ぐがあぁ!」

 

 俺の左腕は、可動域の真逆の方向へと折れ曲がってしまっている。

 しかし、この絶叫は俺だけのものではない。

 一方通行は、俺の拳を受けて吹っ飛ばされて、砂利の上に倒れ込んでいた。

 

「い、痛ェ……、クソッ」

  

 なんとか俺は一方通行の反射を破ってダメージを与えることに成功した。

  

「いやァ、今のは正直ビビったぜ。まさか俺の反射をパンチで破るとは。この俺をここまで追い詰めたのはお前が初めてなんじゃねェかァ?」

 

 一方通行にダメージを与えることが出来たのは大きな進歩だ。

 しかし、有利か不利かと聞かれれば、圧倒的に後者だった。

 この一撃で決めるはずが、反射を完全に破りきらず思った以上に威力が下がってしまっていて、逆にこっちの左腕が折れてしまった。

 まだまだ全開で戦えるこいつに対してあと足2本で戦わなくちゃならないのはぶっちゃけキツイ。

 いや、移動のことを考えるとあと1本か。

 さっきのような大きな隙はもう作れないだろう。

 

「けど、その体じゃァもう戦えねェンじゃねェの?」

 

「お前なんて足だけで十分だ」

 

「ッ……!?」

 

 気を紛らわすまてにハッタリをかますが、こんなハンデ背負って勝てる相手じゃない。

 

「じゃあやってみろよォッ!」

 

 一方通行は、足元の小石を思いっきり蹴りつけた。

 能力によって弾丸のように加速した小石は、俺の腹へと突き刺さる。

 

「ごほっ、」

 

 衝撃は骨まで響き、激痛が俺の両腕を襲った。

 

 一方通行は俺に休ませる暇を与えまいと、一気に距離を詰めてくる。

 

「遅っせンだよォッ!」

 

 動きは直線的で、避けること自体はそう難しくなかった。

 俺は次々と繰り出される一方通行の攻撃を避けていく。

 

「ぐっ……」

 

 細かいステップで生まれる僅かな振動が折れた骨へと伝わって、その痛みが徐々に集中力を削いでいく。

 実際、一方通行は気付いてないかもしれないが、さっきまである程度の距離を取って避けていた腕が、どんどんとその距離を縮めできている。

 このままでは腕に触れてしまうのも時間の問題だ。

 

「辛そうだなァ。早く楽になっちまえよォ!」

 

 攻撃の激しさが一気に増す。

 一方通行の両腕が、まるで機関銃のように俺を襲った。

 1発1発に対処するのが精一杯で、もう余裕なんて無い。

 左方から、俺の顔面目掛けて一方通行の腕が伸びてきた。

 ギリギリのタイミング。

 俺はそれを右へのステップで回避しようと、右脚へと力を込める。

 しかし。

 

「しまっ……」

 

 風船に空いた穴から空気が抜けていってしまうように、右脚から力が抜けていった。

 回避するどころか、俺は膝をついてしまった。

 当然と言えば当然か。

 空中で自分の体を支えることが出来るほどの空気抵抗を生み出す蹴りを放ったんだ。

 本来なら絶対にありえない事だし、むしろよくここまで耐えたものだ。

 

「ハハァッ!随分しぶとかったが最期は呆気なかったなァッ!」

 

 もう一度体制を立て直すよりも、一方通行の方が速い。

 今度こそ死を覚悟した。

 一方通行の腕に触れるまで、後数秒ほど。

  

 ──ごめん、みんな。

 

「一体何をしているのですか?とミサカは簡単な状況説明を求めます」

 

「あァ?」

 

 どこから声が掛けられ、一方通行の腕が俺の顔の数センチ前でピタリと静止した。

 俺は、声がした方向へと顔を向けた。

 声の主は御坂さんとそっくりの容姿をした少女だった。

 しかし、容姿はそっくりだが雰囲気がまるで違う。

 今日殺されるはずの、妹達の1人だろう。

もう来ちまったのか。

 

「見て分かンねェのか?今からこいつを殺すンだよ。良くあンだろ?秘密を知っちまった一般人を口封じのために殺すって展開。結構楽しいなァこれ」

 

「この実験は統括理事会が動いて隠蔽しています。この方が何をしようとも、特に問題はないのでは?とミサカは当然の疑問を投げかけます」

 

 彼女の乱入で何とか助かった……、が。

 状況的には今の方がまずい。

 正直もう俺には一方通行とやり合うほどの力は残っていなかった。

 どんなに力を出し切ったって、どんなに知恵を振り絞ったって、きっと無様に敗北してしまう。

 このままでは2人ともこいつに殺されてしまう。

 

「はァ、やっぱめンどくせェなァお前」

 

「必要のない殺人は控えた方がいいかと。とミサカは命の大切さをあなたに伝えようとしてみます」

 

「お前それを俺に今更言うかァ?」

 

「本物の人間を殺すのはミサカたちを殺すのとは訳が違います。ここは見逃してあげてみては?とミサカはしつこく説得してみます」

 

 そう言った彼女の顔からは、 理不尽な実験で自分の命が奪われることに対しての疑問や躊躇いが一切感じられなかった。

 まぁあいつらから聞いてた事だが、あいつのそんな態度を見てると腹が立つ。

 

「……良いこと思いついたぜ」

 

「良いこととは?とミサカは具体的な説明を求めます」

 

 そこで、一方通行は今まで彼女に向けられた視線をこちらに向けた。

 

「今からお前に良いもン見せてやるよ」

 

「どういうことだ?」

 

「命懸けてまで守ろうとしたこいつが目の前で何も出来ずに殺される……。一体どんな気分なんだろうなァ?」

 

 一方通行はまるで最高の玩具を見つけた子供のように、興奮して体を震わせていた。

 これは脅しでもなんでもない。

 こいつは俺の反応を楽しむためなら今すぐにでも目の前の少女を殺してみせるだろう。

 

「まァ結果的には今回の実験は失敗になっちまうが。足りねェ分はまた作って足せばいいだけだもンなァ」

 

「やめろ……」

 

「いやなら止めてみなァッ!」

 

 一方通行はそう吐き捨て、猛スピードでクローンへと突進して行った。

 彼女も咄嗟に抵抗を試みたようだが、間に合わない。

 俺は両脚に力を込めた。

 体はもうボロボロで、今にも限界を迎えようとしている。

 けれど、彼女が殺されるという時に、黙って見ている訳にはいかない。

 溜めたエネルギーを一気に放出し、俺は飛び出した。

 ベクトル操作による加速は恐ろしい速さだったが所詮力の向きを操作したに過ぎない。

 細かい動きなら相手に分があるかもしれないが、単純な直線なら大量のエネルギーを放出すれば追いつくことも難しくない。

 俺は彼女の盾になるべく、一方通行の前に背中を向け立ち塞がった。

 直後、彼女に向かって放たれた小石の弾丸たちが、俺の無防備な背中を叩く。

 

「がはっ」

 

 次々と襲いかかる衝撃に肺の酸素を強制的に吐き出された。

 このまま俺が倒れてしまえばこいつを守れない。

 しかし、力めば力むほど体から力が抜けていく。

 

 あ、れ?なんで急に目の前に空が……?

 

「アハハァッ!ついに立つことすら出来なくなったか!お前も馬鹿だよなァ。こんなガラクタ庇うなんてよォ」

 

 あぁ、そうか。

 倒れちまったのか、俺。

 早く立ち上がれ!

 そう必死に命令しても、体は応えてくれない。

 

「こんなガラクタに命賭けれるなンて、ある意味尊敬しちまうぜ全くよォ!」

 

「……」

 

 もう声を出す気力さえ無かった。

 きっとこのまま殺されんだろうなぁ、俺。

 そんな絶望的な状況の中、俺の頭の中にはある男の顔が浮かんでいた。

 死に際に名前も知らない男の顔が浮かんでくるなんておかしいよな。

 御坂さん、ちゃんと助けてって言えたかな。

 その一言を聞けば、きっとあいつは奇跡を起こす。

 あいつの名前は知らないし、もちろんどんな人間なのかも分からない。

 けど、そのたった一言を引き出すためにあんなにボロボロになれるなんて、ただのバカってわけじゃねえよな。

 こんだけ頑張ったのに良いとこ全部持ってかれるのは癪だが、ここは正義のヒーロー様に賭けてやるか。

 俺は、途絶えそうになる意識を何とか保ち、必死に願った。

 早くあの少年が現れることを。

 俺はどうなってもいい。

 せめて彼女だけでも救ってくれ。

 

「ちっ、だンまりかよ。面白くねェな」

 

 さっきから一言を言葉を発っさない俺に、とうとう一方通行は興味を無くしたようだった。

 

「まァ、せいぜいこいつが殺されんのを黙って見とくンだな」

 

 一方通行の狙いがついに彼女に定まった。

 ──その時。

 

「今すぐ御坂妹から離れやがれ!」

 

 夜の操車場に、1人の少年の声が響き渡った。

 ヒーローは遅れてやって来るって話はよく聞くけどよぉ。

 なんなんだよこの狙ったようなタイミングは。

 まあ、色々言いたいことはあるけど。

 あとは任せた。

 俺は心の中でそう告げ、静かに意識を失った。

 

 

 

 




今回もお読み頂きありがとうございました。
くだぐだしてしまった一方通行戦も今回でおしまいです。
本当は海翔さんに勝たせてあげたかったけど、普通に考えて勝てるわけないし、ここは上条さんに任せることにしました。
あとこれは関係ない話ですが、初めて感想を貰いました。
面白いと言っていただいてすごく嬉しかったので、これからも頑張ります!


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その後

 目を覚ますと、見覚えのない病室だった。

 生きてる……。

 

「痛ってぇ……」

 

 そういえば今両腕折れてるんだったな。

 閉ざされたカーテンからは、うっすらと日の光が漏れている。

 壁に掛けられている時計を見ると、時刻は朝の6時だった。

 変な時間に起きちまったなー。

 徐々に目が覚めてきて、もう寝直せそうにない。

 両腕も使えないし、このまま誰かが来るまではぼーっとしてるしかねえのか……。

 いや、結構キツいなそれ。

 何かないかと病室を見回してみる。

 特に何もねえな。

 眠りから覚めていくにつれてだんだんと、頭の中に色々な思考が巡り始めた。

 そういえば、実験はどうなったんだろうか。

 俺がこうして無事に生きているってことは、妹達も無事だと思いたいが。

 だが、実験が再開されれば振り出しに戻ってしまう。

 御坂さんには何か考えがあるみたいだったが……。

 その時、病室の扉がコンコン、と叩かれた。

 こんな朝っぱらから誰だ?

 わざわざこの俺の見舞いなんて。

 誰かは知らんが、別にどうでもいいか。

 どうせこのままだったら暇だし。

 

「入っていいですよー」

  

 俺の返事を聞くと、ゆっくりと扉は開かれた。

 

「調子はどうなの?」

 

「なんだお前か」

 

「なんだとは何よ!」

 

「いや、別にガッカリしたとかそういうこと言ってんじゃねえよ」

 

 俺の見舞いにやって来たのは、実験を止めるために協力した2人のクローンの内の、短気な方だ。

 でも不便だなぁ。

 毎回呼ぶ時に短気の方だのビビりの方だの言

うのはめんどくさいし。

 

「そういえばさー、お前って名前とかないの?」

 

「今更過ぎない!?」

 

「まあ確かに知り合ったのはちょっと前だけどさー。不便じゃね?」

 

「確かにそうね」

 

「だろ?」

 

「はぁ。凛、これが私の名前よ。ちなみにもう一人の方は鈴ね」

 

「凛と鈴か」

 

 外国風の名前をイメージしていたものだから、思ったより和風系の名前が出てきて驚いた。

 

「でもよぉ、見舞いに来てくれるのは嬉しいんだけどさ。何もこんな早くに来なくても良かったんだぜ?」

 

「あまりあの子たちには会いたくないのよ。それにお姉様とも」

 

 あの子たちとは、妹達のことか。

 でも、御坂さんのことだって慕ってる様子だったしなんでわざわざ避けてんだ?

 

「まぁ、別に無理に聞いたりしねえけどよ」

 

「そうしてくれると助かるわ」

 

「でも鈴はなんで来てないんだ?」

 

 まさか嫌われてるとかないよな?

 

「あの子は今バイトよ」

 

「え?バイトとかしてんの?あの性格で出来んのか?」

 

「当たり前でしょ?じゃなきゃどうやって生きてくって言うのよ」

 

 支給金は貰えてないのか。

 鈴の方は知らねえけど、こいつの能力はレベル4に相当する。

 バイトなんかしなくても、結構な金が貰えると思うんだけどなぁ。

 ますますこいつらの立場が分かんなくなってきたな。

 他の奴らと比べて異常に感情豊かだし。

 なんでこの2人だけが実験に対して敵意を表すことになったのだろうか?

 謎だらけだな。

 まぁ、良い奴ってことには変わりないみたいだし、そんなに気にしなくてもいいか。

 こいつらが話す気になってから聞けばいいだろう。

 

「今度は鈴にも来るように言っておくわ」

 

「ああ」

 

「それと……」

 

「どうした?」

 

「ありがとう」

 

「お、おう」

 

 こいつが素直に礼を言ってきたことに少し驚いた。

 いつもツンツンしているせいか、モジモジしている姿は新鮮で少し可愛いと思ってしまう。

 

「まぁ、困ったことがあったらいつでも言ってくれ」

 

「この借りは必ず返すわ。あんたは早く怪我治しなさいよね」

 

「海翔で良いよ」

 

「え?」

 

「俺もお前のこと名前で呼ぶんだし、お前が俺を名前で呼ぶのだって普通だろ?」

 

「はぁ?ちょっと気を許したからって調子に乗らないでくれる?いいからあんたはさっさと退院しなさい!」

 

 凛は乱暴にドアを閉めて行ってしまった。

 俺調子に乗ってたか?

 まぁ多分、照れ隠しだと思うけど。

 てかそうじゃないと、激怒するほど俺の名前呼びたくないみたいじゃねえか。

 照れ隠し……だよね?

 

「はぁー……」

 

 また暇になってしまった。

 さすがにこんな早くに来るやつはもういねえよなぁ。

 何もやることがないので、俺は目を閉じて今までのことを思い返すことにした。

 最初はマジで意味分かんなかったよなー。

 本当に御坂さんが殺されちまったかと思った。

 凛のやつは勝手に勘違いして本気で殺しにかかってくるし。

 何だかんだで和解は出来たけど、まさかあの一方通行と戦うことになるとは。

 度胸試しであいつに挑むやつがいるって言ってたが、正直頭おかしいんじゃねえの?

 この件が絡んでなかったら俺だったら絶対に挑まねえけどな。

 結局惨敗だったし。

 待てよ?

 あの戦いで俺がやったことって、ただ一方通行にボコボコにされただけじゃね?

 多分一方通行はあのウニ頭が倒したんだろうし。

 い、いや俺だって1発入れてやったし。

 その一撃が後々響いて決定的な隙を作った……ことにしとこう!

 でもどうやってあの反射を攻略したんだろうか?

 単純に反射にぶっ刺さる能力を持ってたのか。

 それとも俺も知らない弱点でもあったのか。

 上には上がいるもんだ。

 今までそこまで強さに拘ってきたわけじゃない。

 けど、これから先何があるか分からない。

 またあの実験が再開されるかもしれないし、もしかしたらあの2人を殺す事だって計画の内なのかもしれない。

 どちらにせよ、あの2人の学園都市での立場はあまり良くないだろう。

 それにこれからは俺だってそうなってしまうかもしれない。

 大袈裟にいえば、学園都市に反逆したようなもんだしな。

 最悪命を狙われることだって考えられる。

 自分の身、そしてあいつらを守るためにもこれからもっと強くならないといけない。

 色々考えてるうちに、また眠くなってきたな。

 なんか大事なこと忘れてる気がするけど、今は大人しく寝ておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回もお読み頂きありがとうございました。
だいぶ間が空いてしまって申し訳ありません。
凛と鈴の名前に手間取ってしまいました。
正直外国風の名前にしようと思ったんですが、色々考えて日本風にしました。
2人がなぜこんな風になったのかはちゃんと考えておりますのでいつか皆様にその話もお届けしたいと思います!
ではまた次回!


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