私は、何故か海軍に居る (うどん麺)
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1.シア

 

私は、転生者で、今は海軍本部准将の位を拝命している。

名前はシア。前世は男だったけどこの世界では女として産まれた。

気付いたときにはこの世界に生まれていたので、前世の最後は覚えていない。が、せっかくONE PIECEの世界に来たのだから海賊か賞金稼ぎにでもなって自由に生きようかなぁ、なんて思ってたんだけど······

 

気付いたら何故か海軍に入隊していた。

 

うん。よく分からなかった。よりにもよって海賊とは正反対の海軍に何故入隊していたのかと聞かれると、本当にいつの間にかって事しか言えない。無意識って怖いよね。

で、辞めようにも「辞めたいです!!」って教官に言い出せる勇気なんてなくて、そのままズルズル海軍やってたらなんか本部の准将まで上り詰めてたんだ。

て言うか、当時の教官が海軍本部“元”大将ゼファーなんだから、言い出せなくても仕方ないじゃないか。

 

で、将校になったら自分の正義を掲げないといけないんだけど、私は『曖昧な正義』を掲げている。

そのままの意味、私は完全に正義に着いているわけではない。必要悪は許容する。どう考えても正義が絶対的に正しいなんて事は無かったし、悪が正しいときだってあった。

でも、この世界は海軍=正義で海賊=悪の等式が成り立っている。例外的に七武海や四皇とか居るけど、それはただの例外なのであって、海軍からは疎まれる存在だった。

改めてこの世界に来てみてその歪さが良く解った。天竜人何て言う傲慢な絶対権力者が民に権力を振りかざし、民を守る筈の海軍は黙ってそれを見ているしかない。世界政府も天竜人には強く出れないし、CP0と言う、私から見たらどう考えても天竜人の味方としか言い様の無い諜報組織すら存在する。

 

でも、私は我慢しなければならない。それが海軍に入ってしまった私の運命なのだから······

 

 

 

さて、ここまで長々と語ってしまったけど、実は私はちゃっかりとこの世界を楽しんでいる。

だって、漫画の中の世界に来てみて楽しまないのは損だと思うし、そもそももうもとの世界には戻れないのだからやりたいようにやる、と言うのが私の心意気だ。

 

だから、その通りやりたい放題させてもらった。ああ、ちなみに言っとくと、既に私は人殺しも躊躇なく行える。とは言ってもそれは犯罪者や悪人に対してだけだけどね。

そうやって割り切っていないとこの世界ではやっていけないから。私が海賊と戦闘するときはなるべく捕縛するようにはしているけど、本当にやむを得ない時はその命を絶つ。

 

後はコング元帥に昇進祝いに“悪魔の実”を貰ったりした。コング元帥曰く、「将来有望な海兵に期待するのは上官として当然の事」らしい。

で、私がそうやってコング元帥に貰ったのは何と!!“ヤミヤミの実”

 

それを聞いたとき私は恥ずかしながら固まってしまいましたよ。ヤミヤミの実って、確か、白ひげ海賊団のサッチが見つけたんじゃなかったっけ?そんで、ティーチが奪って食べた筈なんだけど······

それがどういうわけか、コング元帥の手元にあった。

どこでそれを手に入れたのか聞くと、「とある四皇からの売却品」とのことだった。

そのとある四皇とは間違いなく白ひげの事だろう。

ともあれ、完全にその時点で原作と乖離したことは間違いない。ヤミヤミの実を食べなかったティーチが今後どうなるのかはその時分からなかったけど、意外にも今でも白ひげ海賊団の船員だ。

現在はルフィの船出の8年前。周りの海軍の原作キャラの年齢から差し引き計算した。

私は今は26だから、原作には既に34のいい歳をしていることになる。

と言うか、今日も今日で海軍本部に居るとクザン中将に絡まれて面倒くさい。

 

「お、いたいた!シアちゃん!ねぇ、今から俺とお茶しない?」

 

クザンはそう言いながら私のお尻に手を伸ばしてくる。

 

「何度も言いますけど、しませんから。それと、さりげなく私のお尻を触ってくるの止めてくれませんか?クザン中将」

 

「つれないこと言うじゃないの~」

 

「はぁー。そんなことより、ちゃんと書類は片付けましたか?」

 

「うげっ!シアちゃんまでそんなこと言っちゃうのかぁ~······」

 

「もう、センゴクさんにどやされても庇いませんよ!」

 

本当に、何時もこの人は······原作ではなかなか格好いい人物だと思ってたんだけど、実際こんなのが上司だと苦労しかしないわぁ······

 

「ちょっ!それは勘弁してくれ!」

 

こいつをどうしようかと思案していると、クザンの背後からセンゴクさんが歩いてくるのを発見した。どうやらクザンはまだ気付いていないようだ。

 

「あっ、センゴクさん!丁度良いところに!実はまたクザン中将が仕事サボってて······」

 

「何だと!この問題児は!?」

 

「うわっ!こりゃおっかねぇ、さっさととんずらさせてもらうわ!」

 

「そうは問屋が卸しませんよ~」

 

そう言いながら武装色の覇気を纏った手でクザンの手首を掴む。

 

「イテッ!痛い痛い!ちょっとシアちゃん!放してくれないか!?」

 

「そう言うわけにはいきません!!センゴクさん、はいこれ」

 

そう言ってクザンをセンゴクに投げ渡す。

 

「すまんな、シア准将。さて、クザン!お前には椅子に縛り付けてでも仕事を終わらせてもらうからなぁ!!」

 

「そんなぁ、勘弁してくださいよ!」

 

そんなクザンの泣き言を完全に無視するセンゴクはそのままクザンを引き摺って奥に消えていった。

 

まあ、こんな光景が日常で見られるのだから平和なものだろう。

こう見えても私は見聞色と武装色の覇気をどちらも習得している。残念ながら覇王色の覇気は私には備わっていなかったが、あとの二つの覇気の才能はこれでもかと言うほどあったので、武装色はゼファー先生程、見聞色は冥王シルバーズ・レイリーに少し劣るくらいにまでなった。

後は、ヤミヤミの実の能力であるが、覚醒したことにより他人の能力を吸い取れるようになった。闇の根本はあらゆるものの吸収であるから、普通はブラックホールのような性質をしている。でも、覚醒してからは本当の闇の能力を使えるようになった。それがありとあらゆるものの吸収。

それなりの覇気の乗った攻撃程度ならば完全に吸収できるし、海楼石も銃弾程度の大きさならば吸収できる。あまりにも大きかったら吸収しきれないが······覇気の乗っていない攻撃など論外だ。それならばどんなに大規模で威力の大きい攻撃でも吸収できる。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

「で、センゴクさん。何で私を呼んだんですか?」

 

私は今、センゴク元帥の執務室でセンゴクに呼ばれたので来ていた。

 

「それはだな······シア准将。君の中将昇進についてだ」

 

そして、センゴクさんの口から出たのは私の想像もしていなかった言葉だった。

 

 



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2.いきなり昇進

 

 

 

「えっと、はい?私が中将にですか?」

 

「うむ。その通りだ」

 

私の問いに対してセンゴク元帥はさも当然とばかりに頷く。

 

「そうですか······参考までにどうして私が昇進するのか聞かせてもらっても?」

 

「それなら構わない。君の昇進理由は以前任務で行ったガルドの捕縛作戦の功績を鑑みてだ」

 

「ああ、ガルドですか······」

 

ガルド、とは私が以前、と言うか一ヶ月ほど前にあった任務で捕縛した海賊の名前だ。二つ名は“千爪”。その二つ名の通り、爪を使った戦闘をする海賊だが、クロと被るかもしれない。しかし、クロとは圧倒的に戦闘力に差がありガルドは新世界の海賊だ。懸賞金も5億ベリーもある。

 

「そうだ。奴は並大抵の中将よりも実力がある。それを倒した君ならば中将の昇進にも他からの文句は無いだろう。事実、私もシア准将を中将に推薦しているし、他、大将、中将の大多数に承諾と支持を得ているし、何より五老星からの後押しもあるのでな。逆に昇進をしないと言う方に問題があるのだ。さて、ここまで言ったが君は中将昇進を受けるか?」

 

「はぁ、分かりました。謹んで拝命いたしますよ。全く、面倒なくらいに根回ししてしまうなんて······」

 

本当に喰えない人だと思う。しかも少しニヤニヤしているのがうざい。

 

「君ならばそう言ってくれると思っていた。早速だがここに君を中将に任命することを証明する書類が出来ている。勿論受け取ってくれるな?」

 

満面の笑みを浮かべてこちらにその書類を渡そうとしてくるセンゴク元帥の顔は、失礼ながら物凄く気持ち悪いと言わざるを得ない。

 

「受けとりますよ······それよりもセンゴクさん。お顔が緩んでいて、正直気持ち悪いです」

 

「おっと、それはいかんな」

 

と、気付いていたのかいなかったのか、私が注意した途端に顔を引き締めるセンゴクさん。遅い。

 

「全く······まさか私がガープさんの位に追い付くなんて思っても見ませんでしたね。まあ、あの人には到底及ばないですが」

 

「あいつか。確かにな、あいつは実力だけならば大将並みだが······はぁ、仕事のサボり癖さえなければいいやつなんだがなぁ」

 

とこのように愚痴をこぼす元帥の相手をするのは私だ。ともあれ、これで私も中将になってしまったので、同時にクザンの部下という立場も解任された。これからは自分で独立するか、それとも大将の下に就くかどちらかなのだが······

 

「それで、シア准将改め中将はどうする?君が独立すると言うのならば私が軍艦一隻と部下位は見繕ってやれるが······」

 

「ええ、では独立させてもらいます。それと、部下に関してですが副官は私自ら選んでも構いませんか?前、訓練生を見に行ったとき気になる人が居ましたので」

 

「おおっ!君のお眼鏡に叶う奴がおったとはな!分かった、それについてはそう手配しておこう」

 

「ありがとうございます。何から何まで」

 

「構わんよ。シア中将ならば将来は大将まで上り詰められるだろうからな。少なくとも私はそう見込んでいる」

 

「過分な評価、ありがとうございます。それでは私は副官となる訓練生を見てきますのでこれで失礼します」

 

「うむ、わざわざすまんかったな。私も明日までには君が乗る軍艦と要員は用意しておこう」

 

「本当にありがとうございます」

 

私はそう言い残して執務室を後にした。

 

 

 

■■■■

 

 

 

場所は変わって海軍本部の訓練施設。

 

「ゼファー教官、お久し振りです」

 

「ん、おお!シアか、久し振りだな!お前、中将になったそうじゃないか、出世しやがったな!!」

 

「ありがとうございます。これも教官のご指導あっての事だと思っていますので」

 

「ハッハッハ!相も変わらず謙虚な奴だな、お前は。で、今日は何しにここに来たんだ?」

 

「ええ、今日は私の副官になる訓練生を見に来ました」

 

「副官って、お前、独立するのか」

 

「ええ、それで、訓練生の“セリカ”って居たでしょう。その人を呼んできて貰えませんか?」

 

私が探し人の訓練生の名前を出すと、ゼファー先生はめんどくさそうに髪をむしって口を開いた。

 

「あぁ、あいつか······それなら飛び級にさせたよ。今頃海軍本部少尉になってるだろうな。あいつを副官にするならあいつはフリーだから大丈夫だ」

 

「そうでしたか······それほどまでに優秀だったとは」

 

「ハッ、お前が言うんじゃねぇよ。お前だって飛び級しやがったじゃねぇか」

 

「?そうでしたっけ、記憶にありませんね」

 

「はぁ、何で俺んとこばっかに問題児が来るのかねぇ」

 

「でも、その問題児に感謝する教官も教官ですけどね」

 

「まぁ、な。あん時はホントに感謝してるぜ。なんたって俺の宝モン守ってくれたんだからな」

 

ゼファー先生のあの時と言うのは、ゼファー先生が率いていた訓練艦がドフラミンゴに襲われた時の事だ。あの時私はまだ少佐だったが、特別教官として同乗していたときに偶然ドフラミンゴが襲ってきたのだ。その時、私が時間稼ぎして、ゼファー先生が何とか撃退することに成功したのだが無茶をしたせいで私は一ヶ月近く治療に専念する羽目になった。

訓練生の人達にはなんとか死人は出なかったものの重傷者は出てしまったのは悔やまれる所です。

 

ともかく、そのお陰でゼファー先生は今も海軍で教官として新兵を訓練している。

 

「あの時は流石の私も死んだかと思いましたよ」

 

「はっ、良く言うぜ。退院してすぐにドフラミンゴに仕返ししに行こうとした馬鹿が」

 

「なっ、馬鹿とは聞き捨てなりませんね!?いかにゼファー先生が恩師とはいえ、言って良いことと悪いことはありますよ!?」

 

「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い。あの時俺が止めなかったら確実にお前、死んでたぞ」

 

「むー。確かに、あの時の私はどうかしていたとしか言いようがないですが······」

 

「そうだろ。·····と、それはそうだが、お前、そろそろセリカに会いに行けばどうだ?」

 

「おおっと、そうでした。すいません、では私は行きますね」

 

「おう、たまにはまた顔出しに来い」

 

「ええ、それではまた」

 

 

 

■■■■

 

 

 

「私をお探しとの事ですが、シア中将殿。私にどのような用でしょうか?」

 

私は現在、本部の一室を借りてセリカ少尉に会っていた。セリカ少尉は金髪碧眼のいかにもお嬢様然とした外見をしていて、赤色のスーツが非常に似合っている。

かくいう私も、客観的に見れば白銀の長髪に整った可愛らしい顔と非常に均整の取れたプロポーションと体型に恵まれている。ちなみに私は白いスーツです。

 

「単刀直入に言いますが、私はあなたを副官に任命します」

 

「私を、で御座いますか?」

 

「ええ、私はあなたが良いのです」

 

そうですわね、としばし思案顔で何事かを考えたあと、何かを決めたような顔をしてセリカが口を開く。

 

「分かりましたわ。中将のご指名とあらば是非もありませんね。私、セリカ少尉はシア中将殿の副官を謹んで拝命致しますわ」

 

「ふふ、あなたならそう言ってくれると思ってた」

 

そうして私に初めての副官ができた。

 

 



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3.“死神”シア

 

 

 

セリカ少佐(・・)を副官にして一年が経った。

セリカを副官に任命した翌日、センゴク元帥は約束通り、私の乗艦と人員を用意してくれていた。

 

それからの事だ。私はまず、貰い受けた軍艦をベガパンクに協力してもらって改装して蒸気機関とスクリューを取り付けた。外輪を取り付けなかったのは単に速度が落ちるからだ。

それにしても、ベガパンクは本物の天才だった。会ってみて分かる。この世界にほとんど浸透していないスクリューの概念を、私がほんの少し説明しただけで理解して見せた。

まぁ、そのお陰でスクリューを取り付けることができたのだけど。

 

で、スクリューを取り付けたとは言っても常時使っているわけではない。使う場面としては主に凪の帯(カームベルト)を航行する時だ。

 

まあそれはともかく、私の部隊を創設した後は半年くらいはひたすらに訓練と習熟の日々を重ねた。ほとんど新兵だらけの戦闘要員に私とセリカが指導をして、それ以外の非戦闘員の船医やコックはそちらの方面の技術を磨いてもらったが、最低限自衛を十分に行える位には鍛え上げた。

 

センゴク元帥が配慮してくれたのか私の部隊には女性海兵が多い。

まあ、多いと言っても元々女性が少ない海軍だから部隊の1/3といった位の割合だけれど。

 

で、私はその新兵の中でも優秀な人物をもう一人見繕って副官に任命した。名前は“ディフェンス”で男だ。

とにかくその男は硬い。名前が身体を表していると言えるほどガチガチの防御力だ。

その代わりスピードはそれほどでもないが、それでも私の隊の平均以上はある。

しかも、曹長という地位にも関わらず、六式の一つ、鉄塊をも習得している。

私は全てを習得しているし、セリカは月歩、剃、嵐脚の三つを習得しているので、三式使いだ。

 

私の隊で六式の何れかを使えるのは私を含めて三人だけで、最終的には戦闘員は全員六式の内の一つは習得させたい。

 

「シア中将殿、前方に海賊船です。確認したところ、懸賞金5000万ベリー、爆音海賊団の“爆音”ウィリスですわ」

 

「ふーん、そう。なら捕縛するよ。停船警告を出したあと、指示を無視したなら砲撃を開始するように」

 

「了解しましたわ」

 

「さーてと、久しぶりの海賊だけど、その程度じゃ楽しめそうもないか······」

 

 

 

 

■■■■

 

 

俺は爆音海賊団船長のウィリスだ。俺はオトオトの実を食べた音人間だ。俺は主に爆音を出して敵を倒すが、実は超音波とかも出せたりする。

 

「船長!前に海軍です!!」

 

で、なんか部下によると海軍が居るらしい、最悪だぜ、全く。

 

「くそが、何時も通り俺が沈める」

 

そう言って俺は立ち上がる。俺の爆音は軍艦すら沈める威力を持つが、やはりそれ相応に体力を削る、が、やらねぇ訳にはいかねぇ。

 

「船長、海軍が停船しろと言ってますけど?」

 

「はぁ?そんなもん無視に決まってんだろ!」

 

なにバカなこと宣ってやがる!俺たちゃ海賊だぞ!!海軍なんぞの言うことなんて聞くわけないだろ。

 

······ほら、案の定撃ってきやがった。まあ、無駄だがな。

 

「スゥゥゥゥゥ─────ガアァァァァァァァァァ!!!!!」

 

俺の声は衝撃波となって軍艦に向かう。

 

「はっ、終わったな······何だと!!?」

 

俺は、あり得ねぇ光景を見た。衝撃波の波紋すら見える、誰がどう見ても高威力な攻撃が何の予兆もなく終息した。

 

「は?······何だ、何しやがったぁ!?」

 

その時、俺はあまりにもの怒りで回りを見ていなかった、だから、気付かなかったんだ。

 

「はあ、さっきから君は五月蝿いなぁ····私の鼓膜が破れてしまったらどう責任を取ってくるんだ?」

 

突然俺の背後から女の声がした。

 

「っ!?誰だ!!?」

 

「はぁ、一応名乗っておいてやろう、私は海軍本部中将シアだ」

 

「────!?」

 

その名前を聞いて、声すら出なかった。海軍本部中将シア。その名前を聞けば大抵の海賊は震え上がる。それほどに海賊の間では有名な女海兵だからだ。

奴は、海賊の間で“死神”として恐れられている。死神の由来は奴の戦闘スタイルにある。

俺は、伝聞でしか聞いたことはねぇが、どうも黒い鎌を使って戦うらしい。

そうして圧倒的な強さで海賊を捕まえてくから今の異名が付いたらしい。

 

「随分怖じ気づいてる様だな。最近、私に会う海賊は皆そうだ、面白味もない」

 

「くそっ!?」

 

奴がいきなり鎌を現したから思わず仰け反っちまった。

 

「くっ、ガアァァァァ!!!!」

 

俺は先手必勝とばかりに奴に音の衝撃波を放つ。

 

「くどい、あまりにも単調で単純すぎる」

 

そう言って、奴は鎌を前に構えて、衝撃波が奴の鎌に当たって、消滅した。

 

「はぁ?」

 

あまりにも間抜けな声が俺の口から出た。何だ?何なんだ?何をしやがった?

何も分からねぇ。奴が鎌を構えたと思ったら衝撃波が消えていた。意味が分からねぇ。

 

「フフフ、訳が分からないとでも言いたげな顔をしているな。貴様には永遠に分かることは無いだろう。さらばだ、『闇の泉』!」

 

奴がそう言った瞬間、奴が持っていた鎌が形を崩して、何か黒い円形の場所が甲板に出来た。俺はその上に立っている。

 

「あ?」

 

は!?何だよ、ホントに何なんだよ!!?足が、沈んでいく!!?

 

「抜けねぇ!!?」

 

しかもどれだけ力を入れても全く微動だにしない。

 

「フフフ、貴様は私に大人しく捕まることしか出来ないのだよ。」

 

その言葉を最後に俺の視界は暗転した······

 

 

 

■■■■

 

 

 

目の前で頭まで完全に沈んだウィリスを見届けて、能力を解除した。するとそこには無傷で気絶しているウィリスの姿があった。

彼の海賊団の船員は、彼が自分の大技を打ち消されて混乱している間に私が能力で全員捕まえておいた。

ホント、捕まえるときにこの能力は楽だ。

闇の中に落とすだけで大抵の海賊は気絶してくれるから本当に簡単な仕事だった。

そして、私は捕縛が終わったことを伝えるために電伝虫をポケットから取り出してセリカに掛ける。

 

「セリカか、今捕縛が完了した。私がそちらに戻り次第砲撃でこの船を沈めろ」

 

『了解しましたわ』

 

「ではな」

 

そんな短いやり取りだけして電伝虫をもう一度ポケットに仕舞い直した。

それからすぐに捕縛した海賊全員を縛り上げて、能力者のウィリスだけは海楼石の手錠をして私の闇の中に放り込んで月歩で軍艦まで戻ってきた。

 

「お疲れ様ですわ。後は私達が処理しますのでシア中将殿はお休み下さいませ」

 

「そうか、じゃあ頼んだ」

 

こうして、また一つの海賊団の旗が下ろされた。

 

 



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4.センゴクさんとサカズキさん

 

 

 

何時も通り海賊討伐の任務を終えて本部に報告のために帰ってきた。

偉大なる航路(グランドライン)に存在する海軍本部、通称マリンフォードは多くの海兵が住めるだけの住宅施設なども豊富である。

特に私としては日本風の建築物が多く見られるのはとても良いポイントだと個人的に思っている。

 

だから、今まで貯めたお金を使ってこの本部に自分の日本風建築の屋敷を建ててしまった。

その為に貯めた金の大半は消し飛んじゃったけどかなり良い出来の屋敷が出来たと思う。若干サカズキさんの家とイメージが被らなくもないけど、私は非常に気に入っている。

 

と、話は逸れてしまったけど実は中将って思ってたより忙しかった。確かに申請すれば休暇はちゃんともらえるけど、おそらく前世よりハードに働いている。そりゃあ、勿論海賊と実際に戦うわけだから命の危険もあるし······だけど、それを除いてもデスクワークも前世より大変だった。

中将だって中間管理職だ。下から持ち上がってくる報告は非常に多いし、酷いときは一日中書類整理に費やしていたりする。

 

あれだ、ガープさんが楽してるのは“海軍の英雄”なんて大層な称号を持っているからに違いない。ある意味あの人は特別だ。なんか、そう。どう言ったらいいのか分からないけど、一言で言えば自由人。

それはそれは、ガープさんの思いのままに動いて思いのままに休む。

センゴク元帥とはたまに追っ掛けっこしている風景を見られるのは本部の名物だ。まあ、それに巻き添えにされたら堪ったものじゃないけど。

 

そうだ、サカズキさんと言えば大多数の人にとても怖い、厳しいという印象を持たれがちだけど、私はそうは思わない。確かにあの人の掲げる正義と行動に思うところはあるけど、ちゃんと真面目に職務に取り組んでいる人には何かと便宜を図ってくれるし、私の時もそうだった。

私が家を建てたときにも、和風建築の設計士の人を紹介してくれたのがサカズキさんだった。

 

「セリカ少佐、それでは私はここで。今日の仕事は以上です」

 

「はい。お疲れ様ですわ、シア中将殿」

 

セリカには一端の別れを告げて私は一人センゴク元帥の執務室に向かった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

センゴク元帥の執務室

 

「失礼します」

 

「おお、シア中将か、早速報告を頼む」

 

「わかりました、先ず、今回の任務では爆音海賊団船長ウィリスを含む団員全員を捕縛しました。また、今回の任務で哨戒した海域においてはそれ以外の海賊は見られなかったので、しばらくは安全かと───」

 

「ご苦労だった、ああ、それとこれは直接君に関係することではないが····セリカ少佐に関することだ。この度の任務の功績を以て、セリカ少佐をセリカ中佐に任命することが決まった。この事はセリカ中佐の上官であるシア中将にも報告する必要があると判断しての事だ」

 

「それはそれは、ありがとございます。セリカも喜ぶでしょう」

 

「それと、これは確定した予定だが······サカズキ、クザン、ボルサリーノの大将就任と同時にシア中将も大将就任となる。少なくともこれは二年以内の事になるだろうから心して置くように」

 

うげっ!何で私が大将になることが確定してるんだ!?普通大将って三人じゃないのか!?

 

「待ってください!センゴクさん。大将って三人までじゃないんですか?」

 

「そうなんだがな······五老星がその制度を無効にしたんだよ。だから、制度上は何人大将がいても良いことになった。ただ、大将への昇進は以前よりも厳しいものになるそうだ」

 

成る程、納得······昇進が難しくなるのならばまあ、そんなに増えることは無いだろうからね。

 

「そうですか、それならばまあ納得は出来ますね······あ、そうそう。もう一つ報告しておきたいことが。ある意味こちらの方がウィリスの捕縛よりも大切ですね。えーと、これです」

 

そう言いながら私は能力を発動させて闇の中に手を突っ込む。

 

「何だ────それは!?」

 

センゴクさんが驚愕する。それもそのはず、私が闇の中から取り出したのは紛れもなく、悪魔の実だった。

 

「そうです、悪魔の実ですね。少なくともこの模様が私の記憶には無かったのでセンゴクさんに見せようと思って持ってきたんです」

 

「ううむ·········この模様の悪魔の実は私も知らないな。それはそうと、それはどこで?」

 

「その悪魔の実ならば爆音海賊団の船で見つけましたよ。沈める前に回収しておきました」

 

「何はともあれ、お手柄だったな。何の能力かは不明だが海賊の手に渡れば驚異になるやも知れなかった」

 

「ええ、ですから私が持ってきたのです。」

 

「そうだな、能力が分からないのなら私の方から科学班に調査を手配しておこうか?」

 

「ええ、是非ともお願いします。報告は終わりましたのでこれで失礼しますね」

 

「ああ、それではな」

 

そうして私は執務室を退室した。

 

 

 

■■■■

 

 

 

「あっ、サカズキ中将。お久し振りです」

 

私が本部の廊下を歩いているとたまたまサカズキさんに遭遇した。

 

「ああ、シア中将か、久し振りじゃのう儂に何か用があるんか?」

 

「いえ、特には。たまたま見掛けたものですから、久しく会っていなかったので声を掛けました。もしかして迷惑でした?」

 

「いや、儂も丁度時間が空いとったところじゃけぇ、少し話し相手になれぃ」

 

「ええ、私でよければ是非とも」

 

「そう言えばシア、任務で海賊討伐に行った言うとったが、どうやった?」

 

「ええ、勿論捕縛しましたよ」

 

「そうか」

 

「そうだ、サカズキ中将。サカズキ中将は大将就任の話は既に聞きましたか?」

 

「ああ、儂もセンゴクさんから聞いちょる。流石の儂もちょいとばかし驚いたがのぅ」

 

「そうでしたか······どうやら私もそのようでして。若輩者ですが、これからよろしくお願いしますね」

 

「ああ、大将の任、確と全うせい!」

 

「はい!それでは、サカズキ中将。これで失礼します」

 

「ああ」

 

私はサカズキさんの下から離れて今度は自分の家に向かった。

わりかし本部の建物からは近いので便利だし、私も剃を全力で使ったのでものの十数秒で到着した。

 

そして私はご飯と風呂に入った後に、任務後の疲れを癒すように眠りに入った。

 

 

 



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5.大将任命

 

 

 

その日、世界に一つのビッグニュースが舞い込んで来た。

世界新聞により報じられたその内容は、海軍の新大将四人についての事だった。

 

“赤犬”ことサカズキ大将、“青雉”ことクザン大将、“黄猿”ことボルサリーノ大将、そして、“黒狐”ことシア大将。

 

その四人の大将を迎えて、海軍は新たに四大将の体制を確立することになった。

それと同時に、海賊の間でも悪名高い赤犬と黒狐ことサカズキとシアは海賊からは恐れを以てして迎えられた。

それと同時に、史上初の女性大将となったシアの知名度は民間、海賊問わずに広まっていった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

私が大将になってからはその殆どは遠征任務や書類仕事になった。なので、相対的に海賊を自ら討伐する機会は減ってしまった。

だけど、自由度も高いのが大将だ。ある程度は自分の判断で動けるし、一々元帥に指示を仰がなければならないということも無かった。

それと、私の副官であるセリカ中佐はその実力をメキメキと伸ばし、ついに准将という、将官に至った。

もう一人の副官であるディフェンス軍曹も一気に佐官である少佐に昇進している。

 

その他私の部隊の戦闘員は全員少なくとも伍長以上の位を有している。

大将という立場上、おいそれと本部の外に赴くことは以前よりも難しくなったが、私の場合は未だに積極的に海賊をインペルダウン送りにしている。

殺すのは本当に最低限に止めているけど、それでもどうしても殺さなければならない状況もあった。

 

現在は原作開始まで後二年に迫っているが、私がするべきこと何ていつもの仕事しかない。来るべき頂上戦争もまだ先だし、そもそもルフィが船出して僅か一年で出来事が多すぎる。

どう考えてもそれに一々私が全て対応できるはずがないし、そこまで規模の大きくない出来事に大将たる私が動くことも出来ない。

まあ、シャボンディ諸島でルフィが天竜人を殴り飛ばしたときには動くかもしれないけど、何であんなクズのために動かないといけないのか、毎度そう思うけど、勿論口には出さない。

 

「はぁー、流石に飽きてきたなぁ······」

 

「飽きた、ではありません!シア大将殿!まだ書類はこんなに残っていますわ!」

 

「そうは言ってくれるな、セリカ。私だってやらないといけない事くらい分かっている。分かっているのだが······こうも多いと気が萎えてくるんだよなぁ」

 

「全くもう。私もお手伝いいたしますからもう少しやる気を出してくださいませ。このペースでは何時まで経っても終わりませんわよ」

 

「分かってるよ。それじゃあセリカはそっちの書類をお願い」

 

「了解しましたわ」

 

そういったやり取りから約二時間で書類全てを終わらせることが出来た。

 

「シア大将殿、やれば出来るのですから、面倒臭がらずに毎回やっていただければ良いのですわ」

 

「セリカ······なんだかだんだんと私に対しての当たりが厳しくなってきていないか?」

 

「そうでございますか?私としては何も変えているつもりはないのですが······」

 

「そう······まあいいや。それじゃあセリカは次の遠征のための物資の積み込みの指揮をしてきて」

 

「わかりましたわ。それでは、失礼いたしますわ」

 

と、そう言い残してセリカは私の執務室を退室した。

そう言えば大将は自分の掲げる正義を自分の執務室に張り出しているのだけど、私もその例に漏れず私の掲げる正義である『曖昧な正義』を流麗な文字で額縁に入って飾られている。

勿論、これは私が自分で書いた文字ではない。自分で書いたらこんなに綺麗にバランスよく書けないだろうから。これはその手の専門の人に任せて書いてもらったのだ。

 

大将になって変わったことと言えば勿論給料アップはしたが、それよりも部下が増えた。基本的に四大将の何れかの下に着くことになるのだけれど、何故か私のところに殺到してくるので、なるべく女性を優先させてあげている。この世界はどちらかと言えば男尊女卑の傾向があるので、扱いの悪い女性海兵も多いのだ。勿論、“大参謀”つる中将等の大物も居るが、それはほんの一握りですから、私の所に入れて鍛えているのが現状ですね。

それ以外で採用しなかった人がサカズキさんの所や、ボルサリーノさんの所、クザンさんの所に流れることになっている。

 

個人的におつるさんとは仲が良い。女性同士というのは勿論あるだろう。元々数の少ない女性海兵の中で、飛び抜けているのが私とおつるさんだろうからね。

まだ将来のヒナ少将は階級が少佐だしね。まあ、それでも高いことには間違いはない。

 

仕事が終わったとはいえ、暇になるわけではない。私の所には絶え間なく部下からの報告が来るし、センゴクさんにも報告しなければならない。

たまにサカズキさんの日本庭園で盆栽を眺めていたりするが、忙しい身なので見れるときもそこまで長くはなかった。

 

「ディフェンス少佐、次の遠征は諸事情により私が行くことが出来なくなったので、全指揮権をセリカ准将に委譲すると伝えておいてくれ」

 

「はっ、了解しました、シア大将閣下」

 

目の前のディフェンス少佐はそれはもう巨漢の男だった。身長三メートルは優に越える体躯に、その熊を思わせる毛深さと獰猛そうな顔。筋骨隆々の優に私の三倍近くの太さのある腕。

全てが戦闘に特化しているような男だった。

 

「私からは以上だ。それでは仕事に戻ってくれ」

 

「それでは失礼します」

 

そう言ってディフェンス少佐は退室、一人残された私は深くため息を吐いた。

 

「はぁーー。何で私が“レヴェリー”の護衛に選ばれるんだ······」

 

そう、私はレヴェリーに向かう王族の護衛に指名されてしまった。何故大将の私が護衛に指名されるのかは疑問に思ったが、今回護衛する王族はネフェルタリ家だった。

そう、この世界で名君と名高いネフェルタリ・コブラに指名されたのだ。流石に王族の指名とあらばさしもの大将でも断るのは難しい。それこそ、バスターコールレベルの大事でもなければ断ることは出来ない。

それに、私としても作中屈指の名キャラであるコブラ王に会いたかったので二つ返事で承諾した。

原作から二年前なので、今年が丁度四年に一度の世界会議(レヴェリー)だったのだ。

 

だが、何でコブラ王が私を指名したのかは、私がどれだけ考えてもついぞ分かる事なく、護衛当日を迎えた。

 

 



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6.護衛任務

 

 

 

無事、アラバスタ王国へ到着した。しかし、問題が幾つかある。それはアラバスタ王であるコブラ王にかけられたダンスパウダー持ち込みの疑惑だ。

まあ、これは後に事実ではなかったと発覚するのだけれど、現状はアラバスタの情勢は不安定だ。

王国各地では反乱軍が結成されて、ビビ王女と護衛隊長のイガラムがバロックワークスに潜入。

 

バロックワークスへの潜入は兎も角として、反乱軍に関しては全てがクロコダイルの掌の上だとは誰も気付かずにいる。それも後二年間もの間続くのだから。

だからこそ今回のレヴェリーではコブラ王のダンスパウダー使用の疑惑についての審議が行われるのだ。まあ、現状は証拠が不十分なので処罰は先送りにされるだろうが。

実は私が部下の一人をバロックワークスに潜入させていたりする。特に今のところはなにもするつもりもないが、まさかとは思うが、万が一にでもコブラ王が処罰されるならば、それを無罪だと証明できるだけの証拠は既に揃っている。流石に無実の人が罪を背負うのは間違っているのでね。

 

それはともかく、情勢不安定なアラバスタ王家は今回船は世界政府の船で向かうらしく、港には軍艦より一回り位大きな帆船が停泊していた。

既にコブラ王は乗船しているらしい。

 

船に横付けされているタラップを登ると、コブラ王が数人の側近と護衛を従えて居たので、取り敢えず敬礼をした。

 

「初めまして、コブラ王。私は海軍本部大将のシアです。今回はコブラ王の要請に応じ、護衛の任に着く次第であります」

 

「ああ、よろしく頼む。海軍の最高戦力と名高い大将に護衛をしてもらえるとは······限りなく心強い」

 

「そう言っていただけるとありがたい······さて、そろそろ時間ですから出港致しましょう」

 

そうして船が出港すると私たちは船室に入り、コブラ王は専用の部屋で休息を取ることになった。

そして今私は、私に与えられた部屋で休んでいる。

 

「ふぅ、これからずっと見聞色を発動していなければな」

 

そう言い見聞色を発動させる。常時発動していると練度も上昇するし、持続時間も長くなる。まあ、私以外にも軍艦が護衛しているからそうそう私の出番は無いだろうけどね。

 

しばらく私がベッドで横になって休んでいると、ドアがノックされる音が聞こえた。

 

「誰ですか?」

 

「私だ。ネフェルタリ・コブラだ」

 

「おっと、失礼しました、どうぞ」

 

まさか、国王が一人で直接私の部屋に来たものだから咄嗟の事で驚いたが、直ぐにドアを開いた。

 

「失礼するよ。突然訪れて申し訳ない」

 

コブラ王は謝罪の言葉を述べてから頭を下げた。こういう様子を見るに、やはりコブラ王は良き王だと思う。こうして、海軍本部大将とはいえ、平民に頭を下げられる国王はコブラ王の他に、元ドレスローザ国王のリク王と他に数える程度だろう。

 

「頭をお上げ下さい。それで、私の所に訪れたと言うことは何か私に話でもあるのですか?」

 

「左様······率直に聞くが、シア大将殿は今、私に掛けられているダンスパウダー使用の疑惑についてどう考える」

 

「本当に率直ですね······そうですね。私はそれは事実ではないと確信します。理由としてはそうですね、先ほどコブラ王は私に頭を下げられました。ダンスパウダーの使用も所持も認められていないのにも関わらず、持ち込みどころか使用するような輩がたかが海兵に頭を下げるとは思いませんしね」

 

「ふふ····そうか。だが、私がそういう演技をしているだけかもしれないぞ」

 

「それはあり得ませんね。演技を本当にしている人ならば、演技をしている事を仄めかす様なことは言わない筈ですから。それに、コブラ王の功績は私の耳にも及んでおります。とても良き国王だとか」

 

「ははは、お見通しというわけか。シア大将殿にそう評価して貰えるとは、光栄だな」

 

「勿体無いお言葉です。さて、話は変わりますがバロックワークスという組織を聞いたことはありますか?」

 

私がコブラ王にそう問い掛けると、先ほどの嬉しそうな顔から、一気に真剣な顔付きに変化した。

 

「聞いたことはある。これはシア大将殿であるから言うが、私の娘····ビビと護衛隊長のイガラムが潜入している。このことは他言無用で頼む」

 

「勿論。誰にも言いませんよ。私からも追加の情報です。実は私の部下数人にもそのバロックワークスに潜入させているのですが、その部下からの報告によれば、クロコダイルは反乱軍とアラバスタ正規軍が戦う内戦の混乱に乗じて、アラバスタ王国を乗っ取るつもりです。なまじ、相手が七武海の一人なのでその地位から引き摺り下ろすのに時間がどうしてもかかってしまいますし····それに、今のままでは証拠も不十分です。私の強権で下ろせるかもしれませんが、賭け事はあまりしたくありません。どうかそれまで耐えてほしいのです」

 

「なんと!······そうだったか。分かった、バロックワークスに対しては最大限警戒をするようにしておこう」

 

「ええ、そうしてください。私としてもなるべく早く証拠を揃えるよう努力しますので」

 

「そちらもよろしく頼んだぞ。それでは私はそろそろ戻らせて貰うよ。護衛には内緒で出てきてしまったからね。心配させる訳にはいかない。有意義な話ができて良かったよ」

 

そう言い残してコブラ王は私の部屋を出ていった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

その後、特に海賊が襲ってくることもなく、無事に聖地マリージョアの港に入港した。

主に世界貴族関係の仕事をしているボルサリーノさんにも会うことが出来た。

 

流石に私がレヴェリーに乗り込むことはしなかったが、コブラ王は証拠不十分で追及を免れていた。

アラバスタ王国に関しては原作通りルフィ達にお願いすることになりそうだ。

 

レヴェリーが終わったら次は帰りの護衛任務がある。元々護衛とはそう言うものだし、帰りは行きと違って幾つかの海賊団と遭遇したが、護衛の軍艦だけで無事に撃退出来たので、今回は何の被害もなく任務を終えることが出来た。

コブラ王からはこれでもかと言うほどのお礼の言葉を貰った。

 

 



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7.赤髪との遭遇

 

あれです。ちょっと一言言わせて頂いても宜しいでしょうか?

何で、何で、どうして、目の前に“赤髪のシャンクス”が居るのですか!?

待ってください!私が何かしましたか!?いいえ、してない筈です!いつもとは気分を変えて、一人で月歩で空中散歩しながらパトロールしていただけで何で赤髪と遭遇しちゃってるんですか!?

もしかしなくても私、物凄く運が悪い!?

 

「あのー、シャンクスさん?私にそのとてつもない覇気をぶつけてくるの止めてくれませんか?」

 

しかもなんか本気っぽい覇王色の覇気を私に向けてぶつけてくるし。

正直、言葉はあれですがチビっちゃいそうなくらい怖いです。四皇、格が違いすぎます。どうやっても私が勝てるビジョンが浮かびませんし。

まあそれは相手がシャンクスだからかもしれませんが。

 

「ハッハッハ、何言ってるんだ?俺の本気の覇気をぶつけてるのにピンピンしてやがる奴が。流石に大将は違うってやつか?」

 

「本当に、冗談はそれくらいにしてくださいよ。私は、あなたと戦うためにここに来たわけではないんですから······て言うかなんでこんな無人島に居るんですか······」

 

「何でって、休憩がてら上陸しただけなんだが····俺たちがいちゃ悪いか?」

 

「いえ、そうではありません。が、いい加減私に覇気を当てるの止めてくれませんか」

 

「·····分かったよ」

 

やっと覇王色を消してくれた。それと共に私を襲っていた半端ない重圧も霧散した。

 

「それで、何で私に覇王色を向けてきたんですか?先程も言いましたが私はあなたと事を構えるつもりはありませんよ」

 

「いや、なんとなくだ。俺だって海軍と事を構えるつもりは今はねぇ」

 

······なんとなくで私はあんなに怖い思いをしたんですか······

 

「はぁ、そうですか。それじゃあ私は行きますよ。これでも私は忙しい身ですからね」

 

そう言い、踵をかえそうとしたらシャンクスに引き留められた

 

「おぃ、ちょっと待ってくれ」

 

「まだ、何か?」

 

「ちょいと俺と一戦交えてくれないか?その腰のモンは飾りじゃないだろう?」

 

はぁ?何言ってやがんですか、この赤髪(バカ)は。

 

「赤髪······あなたはそれ、本気で言ってますか?」

 

「あぁ、本気だ」

 

そう言って真剣な目付きでこちらを睨んでくるシャンクス。······だから怖いんですって!!

 

「······分かりました。良いでしょう。ですが、先程も言いましたけど私はこれでも海軍本部大将なんですよ。ですから、当然忙しいので時間が来たら止める。その条件さえ呑んでくれるのなら構いません」

 

「そうか、分かった。もとより無理矢理やらせるつもりはなかったしな。それじゃ、始めるぞ」

 

シャンクスがそう言うと同時に、どちらからともなく相手に向かって駆け出した。

 

と、私に向かって急接近してきたシャンクスは、先ずは小手調べとばかりに、覇気を纏っていないサーベルを私に向かって横凪ぎにしてきた。

 

それを私はヤミヤミの実の能力で、その威力を完全に吸収することで防いだ。その為に、武装色も纏っていない私の脇腹に、不自然な程にシャンクスのサーベルがピタリと止まった。

 

「お前、何かの能力者か······」

 

「ええ、そうです。何のかは教えませんが」

 

「そうか。だが、次の攻撃は今のように無防備で受け止めるのは不可能だ」

 

そう言いながらシャンクスは今度は遠距離から覇気の纏った斬撃を飛ばしてきた。本気ではないのか、この斬撃は私が余裕をもってかわせる速度だったので、剃で真横に避ける。

が、その先にも既にシャンクスからの斬撃が飛んできていた。

流石にそれをかわす事は無理があるので、咄嗟に、左腰に提げている鞘から日本刀を抜刀し、武装色を纏って斬撃を受け止めた。

 

「グッ!」

 

流石に重い。今まで受け止めてきた覇気の比ではない。少しでも力を抜けば後ろに弾き飛ばされそうだ。

原作ではサカズキさんの流星火山ですら、サーベル一本で受け止めてしまっている。

 

「ほう、これを止めるか。少々強め(・・・・)に放ったんだがな。流石は大将と言うことか」

 

はは、この威力で少々強めとは······これはシャンクスを侮りすぎていたとしか言いようがないですね。しかし、私だってやられているだけではないのですよ!!

 

恐らく、シャンクス相手に能力オンリーで立ち向かっても意味はないでしょう。どうせ覇気を纏った攻撃に全て打ち消されるだけでしょうし。

だから!今回は近接武器で戦う!

 

「せやあぁぁぁぁぁっっ!!」

 

ありったけの掛け声と共に、武装色で黒色に染まった刀を大上段からシャンクスの頭上に振り上げる。

この際、攻守均等なんて芸当は不可能です。シャンクス相手にそんなことをすれば圧倒的な力量差の前に敗北するのは必死ですからね。

だから、私は防御を捨てて、攻撃にすべてのエネルギーを回す。

 

大上段からの攻撃は、呆気なくシャンクスのサーベルで受け止められる。

 

「ほう、中々のパワーだな」

 

完全に遊ばれている。その事実が私を更に奮い立たせる。もとより、この攻撃が受け止められるなんてことは想定済みだ。シャンクスがこの程度の技を受け止められない筈がない。

 

だが、シャンクスの注目は今ので完全に刀を持つ右腕(・・)に行った。

 

私はシャンクスのがら空きな鳩尾に武装色を纏った左腕を思いっきり振るった。

 

「なにっ!?」

 

しかし、その攻撃はいつの間にか、サーベルによって受け止められていた。

 

「確かに、いい作戦だが、ちょいとばかし甘いな。確かに、並みの海賊なら今の攻撃どころか最初の攻撃だけで沈むだろう。が、何か忘れていないか?」

 

そのシャンクスの問いかけにわたしは思考を巡らせて考える。

 

「見聞色かっ!?」

 

「ご明察だ」

 

本当に厄介極まりない。あまりにもの突然の状況に失念していたようだ。相手····赤髪のシャンクスは全ての覇気を習熟している化け物だってことをすっかり忘れていたのだ。なんたる失敗か。

 

この最初の駆け引きが終わっても戦闘は続く。

 

が、相手は四皇でも最強の実力者のシャンクス。体力的にも技術的にもこちらが不利だ。唯一能力者であることが私の利点だけど、そちらはシャンクスの前ではあまり意味を成さない。

 

やがて、時間が経つにつれて私の方に浅い傷が付いてくる。体力が減っていくので、シャンクスの速度に追い付けなくなってくるのだ。

それでも、何とか能力を使ってカバーしている状態だった。

 

「ハァ、ハァ······すいませんが、そろそろ時間なのです」

 

「そうか······なら仕方がない。今回はここまでにするか。だが、また何れ再戦しよう」

 

「ええ、望むところです。今度は今よりも強くなってきますからね!!」

 

なんだか負け惜しみを言っているような気もしないが、時間が押しているのは本当なので、さっさとこの無人島から出発すべく、月歩で空に飛び立った。

 

 



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8.叱責

 

 

 

どうもー、海軍本部大将のシアですぅ。私は今ぁー、センゴクさんにぃー、叱責を受けておりますぅー。

 

「おいシア!!目が明後日の方向を向いておるぞ!!ちゃんと真面目に話を聞いておるのか!?」

 

いやぁ、センゴクさんマジギレ。

まあこうなった原因は私だから一切反論の余地も無いんですけどね。原因は、先日私が四皇の赤髪のシャンクスと戦ったこと。

いやぁ、あの赤髪(クソ海賊)が私とバトったことをチクりやがりましてですよ?わざわざご丁寧に元帥たるセンゴクさんに電伝虫をかけてくる徹底っぷりと来たら······そりゃもうキレました。今世紀最大級にキレました。

私、今怒ってるんです。絶対赤髪と次会った時はインペルダウン送りにしてくれるわ!!

 

「シア!!聞いておるのか!?また目が明後日の方向に向いているぞ!!」

 

「あーー!!!センゴクさん!!そんなに言わなくても良いじゃないですか!!?私だって戦いたくて戦ったんじゃ無いんですよ!?それに、赤髪とは死合いをしたんじゃなくて試合をしたんです!!お互い本気じゃ無かったし!!」

 

あーあ。ついかっとなって反論しちゃったよ。センゴクさん、さっきまでも十分に赤くなってたのに、今じゃもはやマグマが煮えたぎってると錯覚しそうなくらいに赤黒いし熱い。

 

「そうであってもだ!!そもそも、どこの海軍本部大将がふらっとパトロールに出掛けたら四皇と戦うことになるのだ!!!?それに、赤髪からはあくまでも頼んだだけと聞いている。お前が断ればそんな事態にはならなかったんじゃないのか!!?」

 

「はははぁー。確かにその通りです······」

 

「全く······まさかお前まで問題を起こすなんて夢にも思っていなかったのだがなぁ。まあいい。お前のことだしこんなことは滅多にないだろうから、今回は特別にお咎め無しとするが、今後このようなことが無いように」

 

「はい!勿論です。それじゃあ失礼します!!」

 

説教が終わった瞬間私は脱兎の如くセンゴクさんの執務室から逃げ出した。

その時センゴクさんが呆れたような眼差しで此方を見ていた気がするが、気のせいだろう。

 

そんで、前もちゃんと見ずに廊下を疾走していたからだろう、誰かとぶつかってそのまま押し倒してしまった。

 

「あ痛たたぁー······すいません、前も見ずに走っていたものですから」

 

我ながら前を見ずに走っていたとはかなりの苦しい言い訳だが、私はぶつかった相手に取り敢えず謝った。

 

「大丈夫だよぉ······それにしても、君がこれほど急ぐなんて、何かあったのかい?」

 

「いえ、特には何も。ボルサリーノさん、本当にすみませんでした。完全にこちらの不注意でしたので」

 

「問題無いよぉ。あっしも特に怪我はしてないからねぇ」

 

と、そこまで会話をしてようやく気付いた。私がボルサリーノさんを床に押し倒したまま話をしていたことに。

 

「はっ!!?すいません、すぐに退きますから!!」

 

私はボルサリーノさんの上から退くとすぐに立ち上がった。

 

「うーん、あっしとしてはもう少しそのままでも良かったんだけどねぇ」

 

「もう、ボルサリーノさん!冗談は言わなくて良いんです!!」

 

「···········冗談だよぉ。まさかあっしがそんなことを言うはずが無いよねぇ?」

 

「今の間は何だったんですか?······まあ良いです。私はこれから仕事しなければならないので失礼します。ボルサリーノさんもお仕事頑張って下さい」

 

「分かったよぉ。それじゃあねぇ」

 

ボルサリーノさんとも別れて私はセリカ准将の所まで来た。

 

「あっ!!シア大将殿!!何処に行ってたんでありますの!?丸一日も空けて!!」

 

セリカも私に会うなり説教をかましてきた。

 

「あー、それについてはあとで話すから、先ずは仕事を先にしないと······」

 

「······まぁ良いでしょう。ただし!仕事が終わればその一日間、シア大将殿が何をしていたのから隅から隅まで話して頂きますわ。御覚悟下さいませ」

 

「分かったよ······」

 

「それでは、シア大将殿が不在でした一日間で溜まったこちらの書類と、今日の分の書類全て目を通して判子をお願いしますわ。途中でサボらないで下さいね」

 

「············」

 

そして、仕事が終わる頃には私は真っ白に燃え尽きた。まさか、書類仕事がこんなにも辛いなんて······少しはガープさんの気持ちも分かりましたよ。

これは、逃げ出してでもサボりたくなる仕事量です。もう少し、労働環境の改善を世界政府に要求したいですね。働き方改革ですよ!!

 

でね、さっきから本部を歩いてると、どの海兵も私の方を見るなり小さく悲鳴を上げて、敬礼してるんですよね。私ってそんなに怖い顔してましたっけ?

 

「ねぇ、君」

 

私はそこらにいた海兵に話しかける。

 

「ひっ、あ、シア大将閣下!私に何かご用でございますか!?」

 

「うーん、まあ用と言えばそうだね。ねぇ君、私の顔って怖い?」

 

「い、いえ、決してそのようなことはございませんが······強いて言うならば、失礼ですが幽霊のように見えます。はい。」

 

なんか気まずい。相手に言わせといてあれだけど、うん。ちょっと傷つく。それに、頑張って行ってくれた海兵もなんかいけないことを言ってしまった雰囲気を出してるし。震えてるし。

 

「正直に言ってくれてありがとう。それじゃあ仕事、頑張ってね」

 

「は、はい!!」

 

と、見知らぬ海兵との一幕を終えて私は更に気を落としている。

 

「はは、は·······幽霊みたいな顔······」

 

多分、私は今、世界の終わりのような顔をしているのだろう。

 

「ひっ、た、大将閣下、どうされました!?」

 

そんな私を見かねたのか、時折私を心配して話し掛けてくる海兵もいるが、私は「何でもない、大丈夫だ」とだけ言っておつるさんの所に向かっている。おつるさんならきっと私を慰めてくれる。そう信じて。

 

 

 



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過去話.ガルド討伐任務

 

 

海軍本部准将シア。その肩書きは私がガルドを討伐したときのものですね。

今でこそ大将という、海軍でも元帥の次に高い位に据わっていますけど、6年前までは准将だったんですよ?それが今では大将。

我ながらとんでもない出世をしたものだと思います。

それで、私が中将に昇進するきっかけとなったのが先のガルド討伐任務です。

その当時、ガルドの悪名は新世界中に轟いていたと言っても過言ではありませんでした。

 

誰に聞いてもその性格は残虐で暴虐、最低最悪の人柄だったと言えます。

いろんな町を襲っては略奪と破壊の限りを尽くす、幾ら私でもこれは死んだ方が良いだろうと思った数少ない海賊の一人ですからね。

で、当時新進気鋭で尚且つセンゴク元帥に妙に気に入られていた私に白羽の矢が立った訳でして、何故か准将の私が懸賞金五億の超大物のしかも悪名高い海賊を討伐することになってしまったのですよ。

 

 

 

■■■■

 

 

 

新世界のとある島

 

 

「おい!!てめぇら!!さっさと取るもん盗ったらさっさと町に火ぃ着けてずらかるぞ!!」

 

あちこちから悲鳴の上がるこの町で一際目立つ野太い怒号が聞こえる。

その声は黒爪海賊団船長の千爪のガルドの声だった。

 

その声に反応した船員達は、町から略奪した家財や金品、食糧から果ては奴隷商に売り飛ばすために連れ去った見た目の良い女や、男の姿もあった。それ以外の町民は老若男女問わず虐殺されている、地獄以外に形容する言葉がないくらいの惨状であった。

 

連れ去られた男女以外の町民は既に殆ど息絶えて、何とか隠れてやり過ごそうとした町民も家ごと焼かれる寸前、地獄に一筋の希望の光が差した。

 

「貴様が黒爪海賊団船長のガルドだな」

 

「俺がそのガルドだが、貴様海兵か?」

 

「そうだ。海軍本部准将シアだ」

 

「はっ、准将ごときが俺を倒しに来たか?笑わせてくれる。俺を倒したきゃそれこそ大将でも連れてきやがるべきだったな」

 

ガハハハハハ!!!と汚く笑うガルドをシアは冷たく見ていた。

それもそのはず、シアがこちらの世界に転生してきて以来、最低最悪の惨状を産み出していたのが目の前の男だったからだ。

心の底から沸き上がる怒りと殺意を何とか己の自制心を働かせて押し留める。

 

「クズが······」

 

シアはそう吐き捨てる。己の我慢の限界を越えた怒りをガルドへの罵倒と変えたのだ。

 

「けっ、何とでも言うが良い。どのみち貴様もこの俺が殺すんだからな······ほぅ、良く見れば貴様、中々良い見た目してんじゃねぇか。どうだ?俺の性奴隷になるってんなら殺しはしないでやるが?」

 

「その薄汚れた汚い口を閉じろ、クズが!!よくもまあこの地獄のような有り様を作り出しておいてそのような減らず口が言えたものだな!!?当初は捕縛だけにするつもりだったが、もう許すことは出来ん。貴様は私自ら首を落としてやることにしよう。喜べ、私をここまで怒らせた奴は貴様が初めてだぞガルド」

 

「ハハハハハハ!!とんだ大言壮語を吐く海兵も居たもんだな!!准将ごときが俺を殺すだと!?冗談も大概にしとけよ?······奴隷にするのはやめだ。貴様が無様に命乞いをするまで地獄を味合わせてやるからな·····!!」

 

「遺言は言い終えたか?それでは行くぞ!!」

 

シアがそう言ってガルドの元まで剃を使って一気に近付くと、ヤミヤミの実の能力の吸収を使ってガルドを自らの元まで引き寄せると、納刀していた刀を抜刀してガルドの腹に打ちつけた。

 

「ぐぇ!!」

 

ガルドはカエルの鳴くような悲鳴を上げて後方の民家までぶっ飛んで、民家を数軒壊して漸く勢いが止まった。

 

刀を諸に受けたガルドの腹は見事に血で染まっており、ガルドが咄嗟に武装色で腹を防御しなければ今頃上半身と下半身がお別れしていただろう。

 

「くっ、貴様ぁ!!」

 

ガルドが瓦礫から抜け出し、シアに向かって吠える。口から腹から血を流して吠えるその様はまるで負け犬の遠吠えのようだとシアは感じていた。

それだけガルドの武装色が弱かったのだ。普通、五億ともなれば准将程度の武装色では通用しない。だが、シアという規格外であったとは言え、あまりにもガルドの武装色は弱かったのだ。ガルド程度が五億もの賞金首になったのは他でもないガルドの所業のせいだった。

 

「ふ、無様だな。貴様程度の二流····いや、三流以下の海賊にお似合いの姿だ」

 

「何だとぉ!?貴様、絶対にただで殺してやると思うなよ!!」

 

「全く、弱い犬ほど良く吠えるとは言ったものだな。今の貴様がどれだけ吠えたところで意味はない。貴様が私に勝てないのは既に自明の理だからな」

 

そう言いきると今度は月歩で空中に飛び上がり、ヤミヤミの実の吸収能力を発動させる。すると、空中に月歩で留まっているシアの元にガルドが浮かび上がった。

そうやって空中に放り出されれば、空中で戦う術の無いガルドはあまりにも無力で、防御することすら叶わない。

ガルドの武装色はまるで無いかのように、シアが振るう刀はガルドの身体の隅々まで刻み、その度に血飛沫が宙を舞った。

やがて、地面にはガルドの血で出来た池が広がり、ガルドはピクリとも動かなくなった。

 

「おっと、やり過ぎてしまいましたか······まぁ良いでしょう。首は原型を留めていますからこれで討伐したことの証明は出来るでしょう」

 

シアはそう言い残すと、用が無くなったのかその場を離れて、ガルドが乗っていた海賊船に向かった。

そこには連れ去られた町民が居り、中には抵抗したのか暴力を振るわれた痕の残る町民も居た。

シアはそれを一人一人丁寧に解放すると、自ら簡易的な応急処置を施した。

 

 



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9.新しい能力

 

 

「そりゃあ、あんたが悪いね」

 

私は、おつるさんに叱責されたことを慰めてもらおうと行ったら、結局おつるさんにも叱責される羽目になってしまった。

 

「そんなぁー·······おつるさんまで······」

 

多分、今の私の顔は全てに絶望したような顔をしているのだろう。

そんな私の様子を見かねてか、おつるさんは盛大に溜め息を吐いてから言った。

 

「はぁぁー、いいかい····今回はあんたのこれまでの功績を鑑みて処分を免除されたんだろう?そもそも、四皇と戦うようなイカれた精神をしているあんたもどうかと思うけどね。まあそれは置いておくとして、良く四皇と戦っておいて無傷で帰ってきたものだね」

 

「ええ、その事でしたらご心配なく。センゴク元帥にはお話ししましたが、シャンクスとしたのは死合いじゃなくて試合ですので」

 

「全く、そういう問題じゃ無いんだけどね。大体、四皇と戦う時点で自分がどうかしていると思うべきだね」

 

「そんなにボロクソ言わなくても良いじゃないですかぁ······私、おつるさんにまでそんなこと言われたら精神的に死にそうです。ですから、なでなでしてください」

 

私がそう言っておつるさんが私の頭を撫でやすいように、姿勢を低くすると拳骨を落とされた。

 

「良い歳した大人が何言ってんだい······そもそもあんたは大将だろう?そんなので大将がよく務まるものだね。私が上司ならとっとと解任してるよ、こんな部下だったら」

 

「嫌ぁー!!それ以上言わないで!!ホントに死んじゃうから!」

 

「はぁー。仕方の無い子だね。こっちにおいで」

 

おつるさんに呼ばれたので、素直におつるさんの下まで近寄った。

 

「ほら、撫でてあげるから機嫌を直しとくれ」

 

そう言いながら、細い手で私の頭を優しく撫でてくれるおつるさん。

 

うへへ、作戦成功。おつるさんは大体こうして手間をかけさせたら撫でてくれる。まあ、女の子限定だけど。

 

「全く、どうしてこんな子になったのかねぇ······昔は真面目で元気な子だったんだけどねぇ。そのあんたは何処に行ったんだい」

 

「初めから私は甘えん坊ですよー。私はおつるさんにこうして撫でられるのが好きなんです」

 

「猫みたいな子だね、あんたは」

 

「猫じゃなくて狐ですけどねー」

 

そうして、そのまましばらくしておつるさんに頭を撫でてもらう至福の時は過ぎ去った。

 

「はい、これでお仕舞い。あんたもそろそろ仕事に戻りなよ。これ以上無断休暇は誰も許してはくれないと思うけどね」

 

「ああ、そうでしたね······名残惜しいですが私はこれから仕事に戻るとしましょう」

 

 

 

■■■■

 

 

 

「シア大将殿。良ければお茶をお入れしますわ」

 

現在私は書類を相手に地獄の執務中。そんな中唯一の癒しはセリカ准将が時々こうしてお茶を淹れてくれたり、マッサージをしてくれること。

多分、セリカじゃなかったら癒しにはならなかっただろう。

 

「ああ、宜しく頼んだ」

 

それだけ返事をしてまた書類に目を向ける。

こうして私に上がってくる書類は一旦私が目を通してからセンゴク元帥の元に上がる。それが他の大将全員分なのだから、元帥の仕事量は想像を絶する。

 

「こちらに置いておきますわよ」

 

「ありがとう」

 

一言お礼を言ってから私はセリカの淹れてくれたお茶───今回は紅茶───を口に含む。

 

「ふふ、相も変わらずセリカの淹れてくれるお茶はとても美味いな。これに菓子があればもっと良いのだが······」

 

「そう言われると思いまして、既に用意していますわ。今回はこちら、チーズケーキを用意いたしましたわ」

 

「流石だ······」

 

そうしてセリカが用意してくれた茶菓子を一口食べる。

 

「手作り、だな」

 

「お分かりですか。流石はシア大将殿ですわ」

 

何を誉めてくれているのか。私はただセリカの作ってくれたチーズケーキを食べているだけなのだが。

 

「一体何を誉めてくれているんだ?私がセリカの作ってくれたチーズケーキを美味しいと評価しているが、私が誉められるようなことは何もしていないのだが」

 

「わわ、私の作ったケーキが美味しいと······私、とても嬉しいですわ」

 

私に誉められたことが嬉しいのか、顔をほんのり赤らめて喜ぶ様子を見せるセリカ。

 

まあ、そんな一幕もありながら私が書類と格闘を始めて三時間程度で全ての書類が片付いた。

 

「お疲れ様ですわ、シア大将殿。この後はどうされるんですの?」

 

「この後、か。この後は数年前に科学班に解析を任せた能力不明の悪魔の実の解析がついに終了したらしいからな。私はそれを確認しに行く」

 

 

 

■■■■

 

 

 

「これはシア大将閣下。今日はようこそいらっしゃいました。以前から続けていた悪魔の実の能力解析がつい先程終わったのですよ。ご確認されますか?」

 

科学班研究員の一人が私に話し掛けてくる。

 

「勿論だ。今から確認させてもらう」

 

「分かりました。それではこちらにどうぞ」

 

そうして案内された先は、ひとつの研究室で、そこには手に入れたときそのままの悪魔の実の姿があった。

 

「えー、それではご報告致します。端的に申しまして、この悪魔の実の能力は自身をあらゆる面で倍加させる、通称バイバイの実と名付けました。その名の通り、自身の身体能力から精神面に至るまで全て倍加できます。倍率は不明です」

 

研究員からもたらされた悪魔の実の能力は私の想像の遥か上をいく代物だった。バイバイの実は食べた者の力量によって効果が大きく変わる。元々身体能力の低い人がこれを食べても意味がないが、これをガープさん等の実力者が食べたら目も当てられない状況になる。

なんせ、素で元々高い身体能力がさらに倍加されるのだ。そうなればもう悪夢でしかない。

取り敢えず、ヤミヤミの実の能力でこのバイバイの実の能力を吸収しておいた。

 

まあ、バイバイの実よりもヤミヤミの実の方が圧倒的にチートなんだけどね。何せ、通常は一個しか手に入れられない悪魔の実の能力を、上限は不明だが複数もの能力を有することが出来るのだ。

 

「大将閣下、何を······?」

 

「この悪魔の実は破棄してくれ。元々私に全てが任せられていた悪魔の実だ。破棄は問題ないだろう?」

 

「ええ、それは勿論ですが、宜しいのですか?」

 

「ああ、構わない。破棄してくれ」

 

「分かりました」

 

まあ、能力を抜き取った悪魔の実はただのクソ不味い果物でしかないからな。

万が一誰かが食べても能力を得られずに食べ損するだけだ。

 

 



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10.新しい家族

 

 

 

今日も今日とて新しく手に入れた能力とヤミヤミの実の力を用いて海賊共を蹂躙する。

バイバイの実の能力は実に便利なものだった。単純に身体能力を強化できるのも純粋な強さがあるけど、私の場合は能力が二つ有るのでもう一方、この場合はヤミヤミの実の能力にもバイバイの実の効果があったことが非常に強力だった。

基本的な私の戦い方はヤミヤミの実の能力をフルに用いて、闇の基本属性である吸収を利用して海賊を捕縛している。

これにバイバイの実の能力が加算され、倍加されると単純に吸収力、吸引力が増す。そうなればより遠距離から海賊を吸収出来るようになる。まあ、そもそもそんなに射程のある技でもないからあまり意味はないけれど、ヤミヤミの実の能力としてもうひとつ、吸収以外にブラックホールの性質も持っている非常に危険な能力だ。

ブラックホールと言えばとてつもない密度の質量を持ち、光すら抜け出せない程の重力を持つ天体として現代世界に存在している。

だから、ブラックホールに飲み込まれれば跡形もなく消滅するのだが······まあそこは人が扱える程度のブラックホールなので、天体のブラックホール程は威力はないけどそれでも普通の海賊程度なら消滅させられる。

流石にこの世界は人外共の魔境なので消滅させられない奴もそれなりに存在するが、それでも破格の能力だ。

 

で、結局何が言いたいのかと言えば、このバイバイの実の能力でヤミヤミの実の能力のひとつであるブラックホールを倍加するととんでもないことになるということだ。

そもそも、今の時点でもどうしようもない程には危険なブラックホールの能力。それが二倍、三倍、それ以上になればもはやどうなるのか分からない。

もう一度言っておくが、素の時点でも並みの海賊ならば消滅させられるのだ。

それを二倍、三倍にするとまあどうなるのかは容易く想像できるものだろう。

 

話は全く別の話題に変わるが、普通、大将ともなれば基本的にはデスクワークなのだが、何故だか私はデスクワークよりも実戦····つまり遠征任務で海賊を捕縛することが他の大将に比べて非常に多い気がする。

まあお陰で海賊共からの知名度は非常に高くて、一般市民からの認知度も高い。海軍内からも称賛の声が大きく、特に女性海兵からは慕われている節がある。そのところはおつるさんと同じく。

更にシアだけ他の大将と比べ非常に若く、その容貌も年齢の割には非常に幼く(美少女のように)見えるため男性からも人気のあるのは当然のことだったのかもしれない。

········一部の海兵によるファンクラブも存在するとかしないとか、そんな噂もあるが真相は定かではない。

 

 

 

■■■■

 

 

 

「うげぇ!!?“悪魔の天使”ぃ!!?」

 

目の前の海賊にそう呼ばれた。非常に心外だ。なぜ私にそんな二つ名が付いているのか。非常にダサい。

 

「私にそんなにダサい二つ名が海賊共の間では流行っているのか?であるならばそんな二つ名ごとこの世から海賊という存在を消し去ってやろうか?」

 

まあ、嘘なんだけどね。だってほら、四皇とかに勝てる気しないし?そもそも、ルフィと敵対するつもりは無いし?て言うか、原作主人公様のルフィに勝てる気しないし?

それなら強くなる前に倒せば良いじゃんって思うかもしれないけどさ、私としてはそんな卑怯な真似はしたくないんだよね。それに、別にルフィが極悪人って訳じゃないんだし。今はまだ一人の少年でしかない。

 

「ひいぃぃぃぃ!!!!ゆ、許してくれっ!!」

 

「許してくれ、だと?冗談も大概にするべきだと思うがな。貴様の罪はインペルダウンで死ぬまで償ってもらうとしよう」

 

とうとう目の前の海賊は私の気迫に圧されてかは知らないがプツリと事切れてしまったようだ。

なので、さっさと縄で縛り上げて軍艦に放り込んでおいた。

 

「それにしても何なのだ、“悪魔の天使”とは。そんなにダサい二つ名が海賊の中で流行っているだって?考えるだけで身震いがする。何だってそんなダサい二つ名になったのだ」

 

「お考えのところ失礼します、シア大将閣下」

 

私が二つ名について考えているとディフェンス中佐が声を掛けてきた。

ディフェンスは最近少佐から中佐へと昇進した。

 

「何かあったか?」

 

「はい、少々困ったことが。この子なんですけど······」

 

ディフェンスはそう言って、今までディフェンスの巨体で隠れていて見えなかったが、ディフェンスの背後から見た感じ15~6歳の少女が歩み出てきた。

その様子は酷く怯えたもので、私が心配して近付くだけで小さく悲鳴をあげる有り様だった。

服装もボロボロで、所々破れており肌が露出しているし、その肌も土で汚れている。しかも裸足だった。

 

「大丈夫だ、私は海兵だ」

 

私はなるべく少女を怖がらせないように優しく声をかけて、目線も少女の位置に合わせた。と、言っても私と少女の目の位置は殆ど変わらなかったが。

 

「·········」

 

私を海兵だと認識してくれたのか、少女はこくりと首肯すると黙り込んでしまった。

このままでは埒が明かないので、ディフェンスに事情を聞くことにした。

 

「それで、ディフェンス中佐、この少女は一体誰なんだ」

 

「はい。今回の海賊の襲撃によって両親を亡くしてしまった、謂わば戦災孤児です·······」

 

そう言ってディフェンスは目を伏せた。

 

「そうか······」

 

斯く言う私も思わず目を明後日の方向に逸らしてしまった。

 

「あの······」

 

そんな状況が暫く続いていると、少女の方から話し掛けてきた。

 

「どうした」

 

「これから私はどうなるんですか?」

 

心底不安そうな目で私のことを見てきた。なまじ、年齢が年齢だけに精神がそれ相応に発達しているが故に、両親の死を受け止め、自分のこれからを憂いているのだろう。

 

「主には二つ道がある。ひとつ目はこの国の孤児院に入ることだ。もう一つは海軍の孤児院に入ることだ。私としては後者の海軍の孤児院に入ることをおすすめしたいが······こればっかりは君が自分自身で決めることだ」

 

実際、この世界の孤児院とは非常に名ばかりな存在だ。現代日本のようにきちんと食事も出なければ満足な教育も受けられない。施設の職員による暴行など日常茶飯事だった。

一方、海軍の孤児院も食事と教育は受けられるが、訓練を求められるし、体罰という名の暴力もある。どちらにしろ良いものでは無かった。

少女もその事は理解しているようで、どうしたら良いのか迷っているようなので、私が第三の案を出すことにした。

 

「もし、君さえ良ければだが······私の養子にならないか? 私はシア、こう見えて海軍本部大将だ」

 

私がそう名乗り出れば少女の目が大きく見開かれた。おおよそ、自分と殆ど身長の変わらない目の前の(見た目だけは)少女がまさか海軍でも限られたほんの一握りの実力者に与えられる、大将という地位にあったとは、少女は夢にも思わなかったのだ。

 

「分かりました····これから宜しくお願いします」

 

「よし、これから君は私の娘だ。早速だが君の名前を教えてくれないか?」

 

「私は、ノエル、です」

 

「そうか、ノエルか。いい名前だ」

 

「·······えへへ」

 

僅かに少女───ノエル───が笑った。

 

 

 



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11.ノエル、海兵を志す

 

 

「ここが私の家だ」

 

私は現在、新しく家族に養子にとったノエルに自分の家を案内していた。

私の家は時々部下を数十名招いて宴会をする程には広く、私はそんな家にたった一人で住んでいるので、部屋を持て余している。

そんな状況で同居人······家族であるノエルが加わる。それだけで家は賑やかになるだろう。

 

「うわぁ······とても広いです!」

 

と、ノエルはそんな私の家を見てとても大きいと至極当たり前な感想を述べていた。

まあ、そうだろう。私の家は恐らくだがマリンフォードでも最も大きい。前世では見たこともないような豪邸も超豪邸だった。

 

「そうだろう。だが中はもっと凄いからな。楽しみにしておくといい」

 

超豪邸の外観は平安時代の京の貴族のような屋敷が最も当てはまるだろう。尤も、大きさは全然違うが。

屋敷のあまりの広さから使用人を雇っているが、別に住み込みではない。

 

「そうなんですか!?楽しみです!!」

 

つくづく仕草の可愛い女の子だ。それと表情はどれも可愛い。

出会ったばかりではあんなに怯えていたのに数日間一緒に居ただけでこの変わり様だ。

そんな大はしゃぎなノエルを門をくぐって玄関に通す。

 

「とっても綺麗······」

 

ノエルが感嘆の声をもらす。

私が仕事で居ない時も使用人の人が掃除してくれているので清潔に保たれている。

それに廊下は基本的にフローリングで、玄関は石畳になっている。部屋は基本的に畳を敷いている。

 

「着いてこい。こっちが台所だ」

 

そう言って私はノエルを引き連れて案外玄関から近い台所をまず始めに案内する。台所から案内するのもどうかと思ったのだがこれから住むのなら何処から案内しても結局は同じと思い直し、取り敢えず台所を説明する。

 

基本的に電気設備は繋がっているが、この台所に関しては水道以外は電気だけだ。ガスはこの世界には普及していない。

その代わりの代用できる燃料はあるが、希少でおいそれと手が出るものでもない。それは石炭であり、石油である。どこの世界でも化石燃料は高いものなのだ。

なのでいつもはマッチで可燃物に火をつけて調理する。

 

私が料理を出来るのかと言われれば、人並みには出来るだろう。だが、決して料理人のように作ることはできない。あくまでもまともな料理を作れるというだけの話だ。

 

そのつぎは各部屋を案内した。あまりにも室数が多いので、これから使うことの多いだろう居間と寝室を案内した他には、恐らくこれは私の屋敷にしか無いだろうが囲炉裏を案内した。

ノエルも流石に囲炉裏は初めて見たのか、不思議そうに見ていたが、私が囲炉裏がどういったものなのかを説明すると、成る程、と納得していた。物分かりの良い子でもあるようだ。

居間に関しては現代の家庭とそう変わるものはない。強いて言うのならば現代日本には少ない和造りであるが。

その他は普通にテレビもある。ソファーは無いが、代わりにちゃぶ台と座布団が用意されている。

 

寝室はこれと言って特にはない普通の寝室だ。布団なので昼間は押し入れに閉まってある。

あとは日本庭園を案内した。この世界では珍しいから、ノエルも大はしゃぎだったのはご愛嬌だろう。

 

取り敢えずノエルには一通り自宅を案内し終えたので私は仕事に戻ろうとしたのだが、そこで一悶着あった。なんと、ノエルがいきなり海軍を見に行きたいと言ったのだ。

恐らく何かあっての事なのだろうとは思ったが、その時はあまり何も気にせずに、ノエルが見たいんだしまあ良いかと軽い気持ちで承諾した。一応センゴクさんにも連絡して許可を取り付けた。私が養子をとったことに非常に驚いていたが。

 

「ノエル、急に海軍を見たいだなんて、一体どうしたんだ?」

 

ノエルには海軍の施設を見せた後にそう聞いてみた。因みにこの後は新兵の訓練の様子を見せる予定だ。

 

「えっとね、私、お母さんみたいな立派な海兵になりたいの」

 

と、ノエル口からは私が全く予想もしていなかった事が吐き出された。

まさか、ノエルが自ら海兵に志願するとは思わなかったのだ。志願理由が何であれ、海兵になる以上は一般人よりも遥かに死が近くなる。当然海賊と最前線で戦うのだから当たり前のことだ。

しかし、海賊にトラウマを抱えているノエルが海兵になりたい等と、私にはその志願理由が復讐以外に何があるのかと思った。

 

だから私はノエルに、「何を理由に志願する」と聞いた。

 

「私、正直に言えば海賊と戦うのは怖い。でも、私みたいに親を失う子が居るのに、海賊はのうのうと生きてるなんて許せない!だから、私は私みたいな子をこれ以上出さないために強くなりたい!」

 

聞いてみれば復讐なんかよりも遥かに立派な答えが返ってきた。

それに、ノエルは自分が今言ったことが所詮は綺麗事だと諦めてはいない。ちゃんと意志がノエルの瞳の奥で確かに燃えている。

 

「本当にそれで良いのか?海兵になれば今よりも遥かに危険に晒される。それに、普通の人よりも何倍も辛くて苦しい事をしなければならないんだ」

 

「それも覚悟の上です!」

 

どうしてもノエルの意志は曲がらないようだ。これでは海兵になるまで梃子でも己の意見を撤回しそうにない。

 

結局、私が折れることになった。

センゴクさんにまた連絡してノエルの海軍入隊を認めてもらい(別に元帥である必要はない)、ゼファー教官の所に行ってノエルの訓練をお願いしたり、その他の手続き諸々をした。

次の日からは早速訓練だった。

私は心配になって見に行った。

 

ノエルは人一倍身体能力があるわけでもなければ体力も人並みだった。武器を扱う技術は文字通り素人。

 

しかし、ノエルは人一倍強く芯が通った心を持っていて、決して曲がることのない意志を持っている。

厳しい訓練の中で、何度失敗して怪我をして、教官に怒られても、それで泣いても、決して諦めることは無かった。初日はそんな感じだった。これが今後の日常となるのだ。

私は、ノエルが、自分の(養子であるとはいえ)娘が毎日傷だらけで帰ってくるのは心苦しいものがあったが、ノエル自身が決めたことだし、何よりもノエルは諦めていない。私に泣きついてきても、弱音を吐いても。

最後にはその心を叩き直し立ち直る。

 

───私よりもよっぽど強いじゃないか───

 

私は単にそう思った。私は未だにこの世界でも前世の日本人の感性を引き摺っている。

痛みには勿論人一倍弱いし、心も弱い。ちゃんとした志があるわけでもなく、ただ時代に流されて生きているだけだ。

確かにこの世界でも有数の実力者であるが、結局モノを言うのは心の強さだ。

諦めなければ必ず報われる。なんてことは言わないが諦めないことが重要なのは分かる。少なくとも諦めなければ可能性は幾らでもあるから。

但し、諦めればその時点で可能性は潰える。

私は強者(じゃくしゃ)だ。ただ己の能力を振り回しているだけの。能力がなければもしかしたら私は弱い。

いや、確実に弱いだろう。確かに、能力も自分の力だが、あくまでも外から貰った力だ。最後に頼りになるのは結局、己の身体と技術。

 

私はこれを機に心を入れ替えようと思った。少なくとも、日本人の心は忘れずに、自分の弱い心を叩き直そうと思った。

 

 



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12.練習航海前



微百合成分?あり




 

 

 

さて、心を入れ替えたとはいえ勿論時間をかけなければ自分の考えは一ミリたりとも変化しないことは明白だ。ノエルにも誰にもこの事は話していないが、セリカには「どこか雰囲気が変わりましたわね。何だかいつもより楽しそうに見えますわ」と言われた。

ディフェンスにも「あれ?シア大将閣下、何か変わりましたか?少し前と雰囲気が違いますが······」と、二人ともどこか私が変化したことを見抜いていた。

 

ノエルは相も変わらず努力家で、才能は並みだが人一倍の努力で入隊当初とは見違える程に成長していた。初めの頃のように怪我をつくって帰ってくることも滅多になくなったし、たまに訓練を見に行ってみても他の訓練生を圧倒しているノエルの姿が見られた。

ゼファー先生は誰にも平等に接しているが、勿論その個人の成績によって微妙に訓練メニューを変えている。

そりゃ、海軍の中にも頭脳派は数多く居るし、誰も彼もが脳筋スタイルではない。というかそんなのはごく一部だ。ガープさんが脳筋筆頭だと思うが······

 

 

 

■■■■

 

 

 

「よぉし、集まったなお前ら」

 

海軍の訓練学校のグラウンドのお立ち台にゼファーが堂々と立って、グラウンドに集まった訓練生に向けて話す。

その中には勿論のことノエルも居た。

 

「今回集まって貰ったのは次の練習航海の説明をするためだ。いつもなら説明しないが、今回特別に説明するのはいつもの練習航海といくつか違う点があるからだ。だから良く聞いておけよ」

 

少し間を置いてゼファーは続ける。

 

「今回いつもと違う点はだな、いつもは俺が監督する立場なんだが······今回は俺は別の優先するべき仕事が入っているため悪いが同行はできん。その代わりに、俺の代行が務まる奴は呼んでおいた。お前らも知ってるだろうが、今回代行でお前らを監督するのはシア大将だ」

 

その言葉で訓練生達がどよめく。特にノエルは自分のお母さんが今回の監督だと知って嬉しそうだったが。

まあ、他の訓練生の驚きは分からないでもなかった。シア大将と言えば既に海軍の英雄ガープ中将とも並ぶ知名度はある。実力はこの際兎も角とする。

 

「おい、お前らうるさいぞ」

 

ゼファーが一言そう言うだけで喧騒としていた場は一瞬にして静まり返る。

 

「よし、そう言うことだからシア大将に迷惑のないようにな。今日はこれで解散だ。練習航海に備えておけよ」

 

それだけ言い残してゼファーがこの場を立ち去り、訓練生も後に続いて散っていった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

「すまねぇな、いきなり練習航海の監督何か頼んで」

 

海軍本部の一室ではゼファーとシアが話をして居た。あのあと、ゼファーはすぐに本部に向かい、こうして態々シアに会いに来ていたのだ。

 

「いえ、他でもないゼファー先生の頼みでしたら断るまでもないですよ。丁度私も暫く暇になりそうでしたし」

 

「暇になりそうっつってもお前は大将だろう。ただでさえ書類が大量にあるんじゃないか?」

 

「いえ、そうなんですけども、何か暫く部下が手分けしてやってくれるみたいで····私もそれは自分の仕事だと言ったんですけど、働きすぎですって言われたんですよ!?」

 

「はっ、そんなことは俺の知ったことじゃねぇが····部下がそう言うんだったらそうなんじゃねぇか?」

 

「そんなに働きすぎてることなんてないと思うんですけどね。だからちょっと暇だったのでゼファー先生の頼みを聞いたんですよ」

 

「そうか。何はともあれ助かった。お前なら適任だろう」

 

「お気になさらず」

 

「悪いがそろそろ行かなければな。それじゃあまたゆっくり話そうか」

 

「ええ、それでは」

 

 

 

■■■■

 

 

「お母さん!!」

 

家に帰ってきたらノエルに抱き付かれた。まあいつものことだけどね。

 

「ノエル、どうしたの?」

 

「お母さんが今回の練習航海の監督なんだってね!」

 

「その通りだよ。それがどうかした?」

 

「私、お母さんと一緒に訓練できるのが嬉しい!確かに、ゼファー教官の訓練も厳しくてもやりがいはあるけど、やっぱりお母さんと訓練するのは楽しみ!」

 

「そう······私もノエルがどれだけ成長できたのか楽しみね。私もゼファー先生並みに厳しいから覚悟していること。分かった?」

 

「はい!」

 

「よし、それじゃあ夕飯にしましょうか。今日は私が作るからノエルは先に待っててね。すぐ作るから」

 

「うん」

 

そう言って私は一人で台所に向かう。

 

 

数十分後······

 

「お待たせ」

 

ちゃぶ台の上には私が作った料理が並んでいた。この世界の人は大体どの人も大喰らいなので、私たちもその例に漏れず、前世の少なくとも二倍以上は食べるようになった。

食費は基本的にどの家庭の家計にも上位にはランクインしてくるものだ。

海賊もその例に漏れず、である。

 

「やっぱりお母さんの料理はいつも美味しい♪」

 

「そう言ってくれると作った甲斐があったものだ」

 

ノエルはいつも私の作った料理を美味しいと言いながら食べてくれる。これが際限なく私に幸せをもたらす。

ごくごく平凡の私の料理を美味しいと言ってくれるのだから。

 

その夜、既に風呂にも入って布団を敷いて寝静まった頃。不意に私の隣でモゾモゾ動く物体を感じた。

 

「誰だ?······って、ノエルか。どうしたんだ、こんな夜中に」

 

気になって隣を振り向いてみれば、至近距離にノエルの顔があった。お互いの吐息が感じられる程の距離だ。

 

「ううん、何でもない。ただ、お母さんと一緒に寝たくなっちゃって······」

 

「ハハハ、可愛い娘だ」 

 

全く、本当に可愛い子だな。もう16歳と言うのに、こんなに私に甘えてくるなんて。

 

「それじゃあ、お休み」

 

そう言ってノエルの頬にキスを落として、そっと優しく頭を撫でてやるとノエルは気持ち良さそうに身動ぎしたあと、早くも眠りに再び就いた。

 

 

 



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13.練習航海



1ヶ月も投稿を開けてしまい、申し訳もございません。





 

練習航海······今までにも何度か私が引率したことはあるが、簡単に言ってしまえばそのままの通り、航海の練習が主だ。

そもそも、私には誰かに何かを教えるという行為はとても下手くそだ。まあ、何て言うか理論派ではなく感覚派とでも言ったらいいのか······

 

私に大した指導なんてできないから、いつもゼファー先生の指導を受けている訓練生からすればとても拙い指導になっていると思われる。

私自身、ゼファー先生が教官だったので、ゼファー先生が教官としてどれだけ適切な指導が出来ていたか、それは時間が経った今だからこそ良く分かるというもの。

 

あ、そうそう。私一人では訓練生の指導には不安があったから、セリカに無理を言って着いてきてもらいましたよ。

 

「セリカ准将、態々忙しいのに付き合わせてすみませんね」

 

「いえ、シア大将殿のお願いとあらば断る訳にはいきませんわ。それに、シア大将殿は放っておくといつの間にかどこからか新しい仕事を拾ってきてしまうんですから······私としましてもシア大将殿がいつ過労で倒れるかヒヤヒヤするものですわ」

 

「それはすまなかったな。私としても最近部下に過労だと良く言われるからこれでも仕事量は調節しているつもりなんだけどなぁ」

 

はぁ。と溜め息をするセリカ。

 

「まあ、シア大将殿がそう言うのでしたら私は一向に構わないのですわ」

 

いやぁ、そう言われましても私としてはそんなに働いている自覚なんて無いんですけどねぇ······

ほら、サカズキさんなんてあの人いつ休んでるんでしょうか?ってくらい働き者ですからね。ホントに。いつ行っても書類に追われていたり、遠征任務で留守にしていたり······

あの人こそ海軍の真の働き者と言ってもいいと思うんですけどね。

センゴク元帥はまあ、海軍一の苦労人だ。いつもガープ中将とおいかけっこしているのを見るし、仕事をサボったクザンさんを捕まえて仕事させるのもセンゴクさん。更にその上に膨大な量の書類を捌いているというのだから、あの人の仕事量は考えただけで卒倒しそう。

 

それに、各種会議を取り纏めているのも考えるともう·······

 

まあ、そんな他の人の仕事は置いておいて。

 

いやぁ、本当に訓練生の人達、真面目で助かりますねぇ。

これが既に卒業して正式な海兵になってから数ヵ月も経てば、本当に真面目な一部の海兵を除けば殆どのやつが何処かしらで手抜きを始める。

まあそれは数年もすれば無くなるのだけど·······

その辺私は甘いので3度目までは見逃しているが、仏の顔も3度まで。というわけで4度目を発見したら流石に怒ります。

これがサカズキさんに見つかれば叱責どころか除隊処分にされることも珍しくない。それも一発目でだ。

 

そのように、セリカが指示をして、訓練生が行動する。それを暢気に見ているが、その私の視線は勿論のこと、我が愛しの娘、ノエルに向けている。

 

ああ、なんて可愛いんだ。とりわけノエルは他の訓練生よりも頑張っている。他の訓練生が体力作りで腕立て伏せ100回するなら、他の人よりもそれを早く終わらせて1回でもより多く実行しようとする。

船上での戦闘を想定した戦闘訓練でも、今までの努力の積み重ねによって身に付けてきた身体能力と技術で、年上の訓練生相手に次々と勝利を重ねている。

 

さて、そんな訓練に真摯に取り組んでいる娘を見て保護者(私)がどうなるのか·······

それはもうメロメロである。そう。ハンコックの能力で石化されたような感覚を覚える。

 

だって、本当に可愛すぎてヤバイんですよ!!汗を流しながら辛い訓練に歯を食い縛りながら頑張るノエルちゃんを見ていると······そりゃ応援したくなります!!

 

贔屓はしないと言いましたが、誰も応援しないとは言っていません。

贔屓は、いくら身内だからって、それは不公平だし何よりノエルの為にならない。それに、一人の教育者としてそれはやってはいけないことだ。

でも、たまに居るんですよねぇ。自分の子供だからって色々優遇しちゃう海兵が。

そんなことをもし見つかれば減給や降格されるんですけどねぇ······子供が好きなのは分かりますけど、公私の区別くらいはハッキリつけましょうよ。私はそう思いますね。

 

でもっ!!声を掛けるくらいなら許されるはず!!

 

私はノエルや他の訓練生が鍛練を終えたのを見計らってノエルに話し掛けた。

 

ノエルに近付くと不意に良い香りが漂ってくる。ノエルちゃん凄い!訓練の後で汗だくなのにこんなに良い香りがするなんて!!とても羨ましい!

 

「ノエル」

 

「あっ、おかあ───シア教官、どうされましたか?」

 

流石ノエル。公私の区別はつけているようだ。流石に訓練あとだし気が緩んでるかなとも思ったんだけど、寸でのところで言い直した。まあ、及第点だろう。

だが、私としては不満しかない。

だって、ノエルに教官って言われるとなんだか疎遠な感じがするし、嫌われた感じもするから嫌だ。

だが、今は仕事。嫌でも公私の区別は大事。

 

テキトーにそう暗示して再び口を開く。

 

「ノエル訓練生。君は良く頑張っているな。他の訓練生よりも努力が目立つ」

 

ああ······どうしてこんな上から目線の言い回ししか出来ないのだろう。これ程自分の立場を恨んだことはない!!

 

普段とのギャップにノエルも目を白黒させていたが、そこは持ち前の順応力で即座に返事をして来た。

 

「お褒めいただきありがとうございます。シア教官」

 

とまあ、そんな会話をしていて私が面白いはずもないし、きっとノエルも嫌だろうからそこで切り上げて、後は家に帰ったら全力でノエルを褒めて可愛がってあげるのだと心に決めて、私は他の訓練生にも労いの声を掛けるのだ。

そうした方が訓練生のモチベーションも上がるだろうしね。やっぱり、辛いことをした後には労うのが一番。

取り敢えず各自に短いが休憩を取らせて、私もセリカ准将と練習航海の今後の予定の詳細を決定する。

あくまでも練習航海なので、身体作りよりも航海能力の方の育成をメインとしているので、普段の訓練と比べれば地味だ。

 

だが、海兵としてはこの航海能力は必須なので、訓練生中に何度も行うことになる。たまに海賊に襲われることもあるので、教官として船に乗り込むのはいつも相当の実力者ばかりだ、

ゼファー先生然り、私然りだ。

 

ともあれ、私はノエルを見ているとしよう。

 

ああ、本当に癒される·······

 

 



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14.山賊

 

遂に原作開始一年前。既にルフィの兄エースは白ひげ海賊団の一員として、スーパールーキーとして名を馳せていた。

その事は海軍の中でも話題のひとつで、エースを捕縛しようという話も、既に白ひげ海賊団の一員であることから手出しはやめようという意見もある。

私は手を出すべきではないと思っている。

エースが海賊になってから一度も一般人に対して悪事を働いていないのと、何より四皇の一角で最強と名高い白ひげことエドワード・ニューゲートを敵に回すのは今の海軍にとって些か荷の重いものでもあったからだ。

 

サカズキさんは相も変わらず全ての海賊の殲滅を目標としているようだが·······

まあ、掲げる正義は人それぞれだから私がサカズキさんに何か含むところはないが、思うところはあったりする。でも、サカズキさんを怒らせるのは非常に怖いので特に何も言っていない。

海賊以前に私の身の安全ですよ!!

 

実はですね······この間の任務でシャボンディ諸島に寄ったときに偶然にも天竜人に遭遇してしまいましてね。もう最悪以外の言葉が浮かばない。

幸いにも犠牲者こそ居なかったけど、被害者は生んでしまったし、私は腸が煮え繰りそうな思いを天竜人に対して抱いた。

本当に、アレは何なんでしょうかね?容姿は醜悪そのもの。性格は最悪。それに人を殺してもそれを悪いことだとも思わない傲慢な精神力。

ここまで来ると流石に呆れるしかなくなりますね。ホントに。

久し振りに本気で殺意を覚えました。その場で殺してやりたかったのも本心ですが、残念ながら私は無法者の海賊ではなく、命令に従う軍人。それも海軍大将という地位にあるのだから下手に手を出すわけにはいかなかったので、その場はグッと堪えて我慢。それしか出来ませんでした。

その天竜人の護衛には海軍の方々も居たのですが、やはりその面持ちは皆、神妙なものばかり。やはり内心では快く思っていないのでしょうね。

流石に将官にもなると顔には嫌悪を出さないものの内心ではとても怒っている筈です。何せ、本来守るべき筈の市民が虐げられているのに、それを黙って見ているしかないのだから。

かく言う私も、表情にこそ出していなかったと思いますが、本当に歯を食い縛る思いでしたよ。

 

ああ、叶うならば二度と天竜人となんか会いたくありません。あれは比類なき権力を持って暴走した人間の末路なんです。きっと。願わくば、天竜人の中でも良識ある方々が台頭することを願わずにはいられないものですね。

 

 

 

■■■■

 

 

 

はぁー········ガープさんの頼みとはいえ、何故私がこのようなことを。

皆様こんにちは。海軍大将シアです。私は現在東の海はゴア王国辺境、フーシャ村に来ております。

大将である私が何ゆえ最弱の海でも尚、その辺境であるフーシャ村に来ているのかと言えば、ガープさんにルフィに会ってくれと頼まれたからというのが大きい。

て言うか、ガープさんも来ている。

 

「がっはっは、久しぶりじゃのう、村長」

 

「ガープ!!今度はいったい何をしに帰ってきたんだ?」

 

「なあに、ちょいとルフィの様子を見に来ただけじゃ」

 

「そうか······ルフィならまだ海賊になると息巻いておるわ。あの赤髪が帰った後は余計悪化してしまってな。いつも海賊になるなどと言っておる」

 

「何ぃ?ルフィはまだそんなことをぬかしておるのか!!これはまたルフィに愛の拳を叩き込まねばならんな!!」

 

「あの、ガープさん。そろそろ私の方の紹介を。村長さんが気にしています」

 

どうやらガープさんは私の存在を村長さんと話している内にすっかり忘れてしまっていたようなので、しかも村長さんも私のことが気になって仕方がないようなのでガープさんに声を掛けた。

 

「おおっ!そうだったそうだった。すまんなシア。お前のことをすっかり忘れておった。村長、紹介しよう。わしの隣に居るのは海軍本部大将のシアじゃ」

 

「どうも。シアです。若輩ながら海軍本部にて大将の位を預かっております。どうぞよろしくお願いしますね」

 

と、そう挨拶すると、村長さんはあんぐりと口を開いてそのまま気絶してしまった。

 

「あらら······これどうしましょう、ガープさん」

 

「そうじゃな·····取り敢えずマキノの店に寝かせておこうかの」

 

マキノさん、迷惑かけてごめんなさい。

内心で勝手にも迷惑をかけることになってしまったマキノさんに謝りつつ、ガープさんが気絶した村長を背負って意外と近くにあるマキノの店に運び込んだ。

マキノさんは気絶した村長を見ると驚くが、事情を説明すると納得すると共に、私が海軍大将であることに対しても驚いていた。

もう、私が大将だと初めて知った人が驚くのには慣れてきた。まあ、見た目だけは幼さの残る美少女だからね。私は。······って、自分でこんなことを言ってたらナルシストだと勘違いされそうだ。

 

「それで、ガープさん。私に会わせたいというお孫さんは今どちらに?」

 

「それならダダンという山賊の一味の住みかに預けておる」

 

「山賊······」

 

「山賊がどうかしたのか?」

 

「いえ、何でもありませんよ。さ、時間も押していることですし早く向かいましょう」

 

山賊·······ね。

 

ダダンに思うところがあるわけではないが、ルフィが海賊を志す一因として山賊に預けたこともあるのではないかと思う。

まあ、預けなかったとしてもシャンクスと出会う時点でルフィが海賊に憧れるのは確定事項だったのかもしれないが。

 

しばらく森の中を歩くと一つのボロボロの山小屋が目に入った。もしかしなくともアレが山賊のアジトだろう。

そんなボロい小屋のボロいドアをガープさんがドンドンと叩くと、目付きの悪い太った山賊の女がめんどくさそうに出てきた。

その女はガープを見るなり「げぇっ!」と曲がりなりにも女としてどうかと思う奇声を上げながら少々後ずさった。

 

「おう、久しぶりじゃのうダダン。ちょいとルフィに会いに来た」

 

「ガープさん······やっと引き取りに来てくれたか。最後の問題児を」

 

「何を言うとるんじゃ?引き取りに来たのではなく会いに来たと言ってるじゃろう」

 

「ちっ、でも今はルフィはここには居ねぇ······居ないです。今は森に修行に行ってます。はい」

 

ちょっとガープさんに対する態度がなってなかったので私がちょっと殺気を出して一睨みするだけで急に態度を改めてしおらしくなる山賊。

ふ、他愛ない。

 

「で、ガープさん。その隣にいる海兵は誰なんですか?」

 

ガープさんがまた私のことを紹介してくれようとしたが、今回は私が手でそれを制し、自ら自己紹介する旨をガープさんにアイコンタクトで伝えた。

するとガープさんもその意図を理解したのか少し頷くと開きかけた口を閉じた。

 

「どうも初めまして。ガープさんとお知り合いの山賊さん達。私は海軍本部大将のシアです」

 

「何ぃっ!!!!大将だってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!??」

 

と、山賊は絶叫し、その声はこの森に木霊した。

 

 

 

 



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15.邂逅

 

 

 

山賊達の絶叫が深い森に木霊した。

 

「た、た、大将!?」

 

「ええ、その通りですよ」

 

未だに山賊達は動揺と驚きは隠せないようだった。

まあ、無理もないかな。そもそも、イーストブルーに将官が居ることすら滅多にないのに、そこに大将なんて居たら驚くのが普通だよね。

とは言っても、イーストブルーがあまりにも平和すぎるため、まさかの将官の存在を知らない海賊すら存在すると聞いたときはとても驚いたから、少なくとも大将という存在を知っているこの山賊はそれなりの知識はあるようだ。

もっとも、ガープさんと付き合いがあることから、ガープさんを通して知ったのかもしれないが。

 

「で、その大将がここに何の用で来たん····いらっしゃったんですか?」

 

山賊のダダンが慣れない敬語で話し掛けてくる。

 

「別に無理して敬語なんて使わなくて良いです。別に私は無法者にまで礼儀を求めるつもりはありませんしね。それで、私がここに来た理由ですか····。まあ、端的に言えばガープさんがどうしても私をお孫さんに会わせたいとのことで、半ば無理矢理来させられたんですよ」

 

「はぁ······」

 

山賊達はもう何がなんだかという表情で、今にも倒れそうな雰囲気だ。

流石にイーストブルー(最弱の海)の山賊には、『海軍の英雄』ガープと『海軍本部大将』シアの両名に相対する圧力は酷かな、とも思ったので、さっき見聞色で見つけておいたルフィの所に向かうことをガープさんに提案した。

 

「それじゃあな、ダダン。また来る」

 

「もう来ないでくださいよ!!!」

 

背後からそんな山賊の切実なお願いが聞こえたのを最後に私たちは森の奥に姿を消した。

いや、割と山賊達も可哀想だね。まあ、世間一般的に見ればどう言い逃れも出来ない悪党だけど、根はそんなに悪くない人たちだし、だからこそガープさんもお孫さんの面倒をみるという条件のもと捕まえていないんだろうし。

ま、ここはガープさんに免じて私もあの山賊達のことは見逃すことにしましょうか。

 

さて、それはそうと、今はわりかしゆっくりと歩きながらルフィ君の所に向かっている訳ですが······さっきから隣で孫自慢ばかりしてくる親バカ爺ことガープさんが鬱陶しくて堪りません。

口を開けばエースやルフィの自慢ばかりです。

というか、ガープさん······エースくんは海兵じゃなくて海賊ですけど、その懸賞金を自慢してくるのは海兵としてどうかと思いますよ。

 

まあ、そんなこんなもありまして、ガープさんの孫自慢を聞き続けること十数分。ようやくルフィ君が修行している訓練場?にやって来ましたよ。

流石に船出の一年前とだけあって、原作ルフィ君と殆ど差異は無いですね。

 

そんなルフィ君も誰かが近付いてくる気配に気付いたようで、こちらを見るなり引きつった顔になり、あからさまに嫌そうな顔をした。

 

「げぇっ!!じいちゃん!!」

 

「おう、ルフィ!!久しぶりじゃのう!どうじゃ、海兵になる決心は着いたかのう!!」

 

「嫌だ!!俺は海賊になるって決めたんだ!!」

 

「何ぃ!!ルフィ、まだそんなことをぬかしおるか!!?」

 

そう言うなり何なり、ガープさんは武装色の籠った拳骨をルフィの頭上に振り下ろす。

ルフィ君は勿論それを見て避けようとするがいかんせんスピードが違いすぎて話にならない。

片や大将にも匹敵し得る現役の海軍中将。

片や海賊を志すまだ若い少年。

 

これでは話にならないだろう。確かにルフィ君は今でもイーストブルーの雑魚海賊相手ならば勝利できるだけの実力は十分にあるが、相手が本部中将では天地以上の差がある。

 

でも、ルフィ君の頭に出来たまるでアニメのようなお団子たんこぶが出来たのを見ると少し可哀想になってくる。

別に同情した訳じゃない。だって私はガープさんに拳骨を落とされた事は無いからね。

 

でもまあ、今は何処にでも居そうな好青年のルフィ君が今後、スーパールーキーとして名を世界に馳せると想像すると私もなんかウキウキしてくる。

別に私が海賊になるわけではないのに。

でもまあ、前世ではアニメだった世界に産まれて、目の前に主人公がいて、私はその敵側の組織の人間だ。

相容れない事はないが、組織で対立している以上は軋轢もあるだろう。

それにしてもルフィ君がさっきから私に好奇心の目線を送ってくる。もしかしなくても私のことを誰だろうと思っているのだろう。

 

その好奇心に答えるべく、私はガープさんの横に並び自己紹介を始めた。

 

「初めまして。私は海軍本部大将シアだ。そこのガープさんと同じ海軍に居る。今回はガープさんにルフィ君に私を会わせたかったみたいなのでやって来たのだ。どうぞよろしく頼む」

 

「おう!!よろしくな!お前、俺のこと知ってるみたいだけど、俺はルフィ!!海賊を目指してるんだ!」

 

ふふふ。本当に元気な青年だ。

まあ、ガープさんはまたルフィ君の海賊宣言に目くじらを立てているようだけれども······

それにしてもルフィ君は私が大将と知っても全然動揺しないな。確か、天然だったな。

成る程、私のことを······というよりは大将のことを知らなくても当然だな。

 

「ところでよぉ、そっちの白い姉ちゃんがさっき言ってた“大将”ってのは何なんだ?」

 

ガープさんと喧嘩していたルフィ君がふと疑問に思ったのかそんな質問を投げ掛けてきた。

 

て言うか白い姉ちゃんって······確かに髪の毛は白いけども······

 

因みに現在はコードネームの黒狐に合わせてスーツは漆黒にしている。だからまあ、白髪が目立つというのも頷ける事ではある。

ともかく、私がそのルフィ君の質問に答えようとした寸前で、ガープさんが勝手にその質問にペラペラと答えだした。

 

「よくぞ聞いた、ルフィ!!大将と言うのはじゃな、簡単に言えばワシよりも強い!!」

 

·······いくらなんでも暴論過ぎではないか?

と言うか、ガープさんよりも強いのは確かだけど、確実に全盛期のガープさんを相手にしたら負ける。だって、今でさえガープさんは中将でもトップクラスの実力者なんだから。

 

ともあれ、そんなことを聞いたルフィが私に興味を示さない筈もなく、一目散に私の元に駆け寄ってきて前を後ろを観察し始めた。

 

うん。なんだか気恥ずかしいがルフィ君は純粋で下心なんか無いから安心できる。

 

「うーん······めちゃくちゃ細いな!!」

 

ルフィ君からはそんな結論を出された。まあ、確かに私は細い。パワータイプじゃなくてスピード重視だしね。

それでも、大抵の中将に力負けするつもりはない。あくまでも大将という地位に居るということはそう言うことだ。大将は海軍の正義の象徴でなければならない。

 

でも、私から言わせてもらえば、ルフィ君だって今まで見てきた男達に比べれば随分と小柄で細身だ。でも確かに筋肉はしっかり付いてるし、腹筋も割れている。

因みに私も腹筋は少しばかり割れていたりする。流石に女だから見た目も少しだけは気にするというもの。

 

「ふっ、ルフィ君。細くても私は強いぞ」

 

と、私は少し自慢げにそう言い放った。

 

 

 



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