真剣で鉄の乙女に恋をした (ナマクラ)
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第一話 そして私は恋をする
夕焼けに染まった空の下、夕日の光で朱く染まった多馬川と多馬大橋を背景に収めながら、彼女の目を見て己の胸の内を打ち明けた。
「――貴女に、恋をした。恋人として、お付き合い願いたい」
「――――」
この日、私は生まれて初めて好きになった女の子に、生まれて初めて愛の告白をした。
◆ ◆ ◆
幼稚園時代、どこか大人びた子どもで、子どもっぽくないと先生に言われながらも特に何もなく過ごした。
小学校時代、やはり子どもっぽくないという印象があったようだが、高学年あたりになるとクラス委員などに推薦されて纏め役として過ごした。
中学時代、勉学に鍛錬など、様々な事に力を入れつつ、やはり推薦されたクラス委員長や生徒会役員などをして過ごしていた。
どの時代も、イジメにあっていたとか、優秀すぎたとか、友達がいなかったなどという事はなく、別段特筆することもない学生生活を送っていた。
しかし今までの人生を振り返ってみると、彼は欲求らしい欲求を持ったことがなかった。
例えば幼稚園時代。「将来の夢は?」と聞かれて、周りがヒーローとかお姫様とかメルヘンな回答も多かった頃に、「堅実に生きていける公務員、警察官」と答えていた。今になって考えると、子どもが答えるにしてはおかしな夢のように感じる。主に理由部分が。
例えば小学校低学年時代。給食の時間に周りの友達が嫌いな食べ物は食べたくないと駄々を捏ねている時、彼は別に嫌いな食べ物もなく、綺麗に残さずに食べきっていた。好き嫌いがないのはいい事だが、彼の場合は嫌いな物がなければ、好きな物もなかった。
例えば小学校高学年時代。誰もやりたがらなかった委員長という面倒な役を、彼は推薦されたからという理由だけで特に嫌がりもせずに引き受けた。面倒ではあったが、やりたいともやりたくないとも思ってなかった。
例えば中学校時代。周りの友達は性に目覚め、男子は彼女を作ろうと躍起になり、女子は自らを着飾るのに夢中になっていた頃、彼は別にそういう色恋沙汰に興味を抱かなかった。それらの何がいいのか、全く理解できなかった。
親によれば赤ん坊の頃からあまり世話の掛からなかったらしく、夜泣きなども数えるほどしかしない子どもだったらしい。
そもそも将来の夢も、親が警察官だったから自分もそうなるのが自然だろうと感じただけの話で、別にどうしてもなりたいわけではなかった。
年齢を重ねるごとに周囲との違いを感じていた彼は、自分が人間として致命的な欠陥を持って生まれたのだと明確に思うようになった。
多少中二病っぽいが、しかしここまで欲求がない事を認識するとそう思わざるを得なくなるものだろう。
そこまで自己認識した際、彼は自然とこう思うようになった。
『自分のやりたい事を見つけたい』
それが彼の初めて抱いた、欲求らしい欲求だった。
◆ ◆ ◆
やりたい事を見つける。言葉にすれば簡単だが、しかし彼にとってそれは難しいことであった。
何せ、それを探す為に何をするべきなのかが全くわからなかったからだ。
誰かに聞こうにも、普通なら自然と湧き上がってくるはずのモノをどうやって見つければいいと聞かれても答えられるわけがない。
どうしたものかと悩んでいた時に、自由人な兄がある話を持ってきてくれた。
「何か神奈川の方にこういう学校があんだとさ。堅物のお前にはいい刺激になんじゃね?」
川神学園……神奈川県の川神市にある学園で、今の時代珍しい『闘争』『競争』を売りにしている学園だ。何やら『決闘』という合法的な喧嘩のシステムもあるとかで、切磋琢磨と己を磨く若者が自然と集う場所でもあるらしい。
「コケツに入らずんばコジを得ずっていうだろ?……コケツって何だか知らんし孤児を得てどうなるわけでもねぇけど」
己の兄の頭の悪さを再認識しつつも、彼は川神学園に進学することに決めた。
そして、川神学園に入学し、安いアパートに一人暮らしを始め、生活費を稼ぐ為のバイトも始め、一年が経った。
新たな土地で新たな友人も出来た。一人暮らしにも慣れたし、バイト先での交友関係も良好だ。
だがしかし、満たされない。
彼がしたいことは一向に見つからない。
川神まで来て、今まで体験してこなかった事にも体験できた。今まで会った事のないタイプの人にもたくさん出会った。
それでもダメだった。
やりたい事が見つからない。
見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない
全く持って見つからない。
川神での生活が二年目に入った頃には、彼は既に半ば諦めていた。
このままこれ以上何かを欲することなく生きていくんだろうと、このまま何の目的もなく、ただ生きているだけの、まるで死んでいるような無気力な人生を送っていくのだろうと思うようになっていた。
そしてそれでもいいかと、彼自身心のどこかで思っていた。
そのように諦めていたから、彼自身もう変わることはないだろう、と、そう思っていた。
そんなある日の事だった。
彼は放課後の下校途中、いつものように商店街にて買い物をしようとしていた。もちろん買い食いなどのものではなく、生活に必要なものを買うためにである。
いつものように商店街に入り、既に馴染みとなった店々でいつものように買い物をする。
そんないつも通りの日常の中で、彼は一人の女性と出会った。
出会い自体は、同じ商品を同時に手にとろうという、日常的にあり得る比較的平凡なものだった。
しかし、
その姿を見た瞬間、
その声を聴いた瞬間、
その存在を認識した瞬間、
胸が高鳴り、声が出なくなり、身体が強張り、思考が止まり、自分が自分でなくなったかのような感覚を抱いた。
何より、今まで空虚だった彼の心が温かい何かで満たされているような、そんな感覚すらあった。
――――その時、今までモノクロだった碓氷彼方の世界が、確かに色鮮やかなものへと変貌したのだった。
◆ ◆ ◆
今まで生きてきた『いつも通りの世界』は、彼女の存在を知覚した瞬間に崩れ、新たな世界へと変性した。
今までの世界が灰色であったとしか思えないほど、その世界は私に様々な色彩を与えているように感じた。
彼女を知覚した事によって、私の中で何かが変わった。そうとしか思えなかった。
事実、今も私は彼女から眼が離せないでいる
心臓が早鐘を打ち、精神状態も正常ではない現状で、その原因であるだろう彼女から一度離れるべきなのだろう。
しかし私はそうしない。いや、そうしたくなかった。一分一秒でも長く、彼女の存在を目で、耳で、鼻で、五感で、私の全てで感じたいと
そう、“欲した”のだ。今まで何かをしたいとも欲しいとも思わなかった自分が、今初めてそのように思ったのだ。
「どうやら貴方の方が手にとるのが少し早かったようですね。申し訳ございません。どうぞ」
「あ……えっと……その……」
「……? どうかされたのですか?」
手にした商品をこちらに譲ろうとしているのに、その商品を取ろうともせず、ただ彼女を見て固まっている私を不思議に思ったのか、彼女は私を気遣うように声をかけてきた。
彼女に変な所を見せたくない。何故か私はそう思ったので、急いで弁解の言葉を紡ぐ。
「い、いや、何でもにゃいで……」
「……にゃい?」
……噛んだ。しかも変に噛んだせいで猫言葉みたいになった。
恥ずかしい。顔が熱い。おそらくは今の私の顔は赤くなっているのだろう。
しかし彼女に私が猫言葉で話す人間だと思われるわけにはいかないので、恥ずかしさを無視して言い直した。
「な、何でもないですよ?」
「何故に疑問系なのでしょうか?」
……何故か声が上擦ってしまった。別に疑問系にするつもりは全く持ってなかったというのに、最後のところだけ声が上擦ってしまい、まるで疑問系のような発音になってしまった。
……恥ずかしい。言い直したのにまたこれとは、恥ずかしすぎる。
「……で、ではこれにて失礼!」
「あ……」
その恥ずかしさのあまり、その場から逃げ出してしまった。
……恥ずかしい。今思えば初めての感情だった気がする。
頭が真っ白になるというのも初めてだった。
こんなにも心臓の鼓動が大きく早くなるのも、それが嫌ではなくどこか心地よく感じるのも、運動したわけでもないのに息が上がるのも、どれも初めての経験だった。
今までどんな体験をしてきても、何も変化がなかったのにも関わらず、たった一人の少女と出会っただけでここまで自分に新たな発見が生まれたことに驚きながらも、それ以上に気分が昂揚した。
「……もう一度、会いたいな」
私は無意識に、そうポツリと呟いていた。
◆ ◆ ◆
そして彼女との再会は意外にも早かった。
「あ」
「え?」
次の日、買う物は特にないが何となく来てしまった商店街にて、昨日出会った彼女がそこにいた。
彼女は私を見つけると早足で此方に向かってきて、こう口にした。
「貴方の事を探していました」
「え……?」
その言葉にドキっとするが、彼女がそれに気付くわけもなく言葉を続ける。
「これを」
そう言って渡してきたのは見覚えのある財布。というかどう見ても私の財布であった。
「これは……私の財布」
「昨日お会いした時に落としていかれましたので」
……財布を落としていた事に全く気付いていなかった。まあ私にとって財布の有無よりも彼女との出会いに浸っている方が重要だったのだから仕方ない事だ。
「探していたとは、わざわざこれを渡すために……?」
「はい。中に結構な額のお金とカードが入っていたようなので」
警察に届けるなりすればいいだけの話だというのに、わざわざ私を探してくれていたという話を聞いて、今までに感じたことのない程の感動が胸を占める。
しかし感動に浸っていられる時間は短かった。
「それでは私はこれにて」
「あ……」
そう言って踵を返し、彼女は立ち去っていく。
――――このまま別れたら、もう二度と彼女と出会うことはなくなる。
気の迷いかもしれないが、不思議とそんな気がしたのだ。
そう感じた瞬間、無意識の内に彼女を呼び止めていた。
「あの!」
「……? どうかされましたか?」
呼び止められる心当たりのない彼女は小首を傾げる。その仕草だけで何故か私の胸が高鳴るが、今は我慢する。
私自身、咄嗟に呼び止めただけなので用件らしい用件はない。しかし呼び止めてしまった以上、何か言わないといけないだろう。
何を言えばいいのかわからないまま、私は無意識に言葉を発していた。
「また……会えますか?」
言葉だけ聞けば訳のわからない問い掛け。話の脈絡も何もない言動。下手をすれば初対面である私に対する彼女の評価は下がってしまうかもしれないが、しかし聞かずにはいられなかった。
「……それは私にはわかりません」
その彼女のその言葉に、昂揚していた心が急激に沈んだ。
見ず知らずの人にまた会えるかどうかなど誰にもわかりはしないのだから彼女の言葉は当然である。
「――ですが」
しかし彼女は言葉を続けた。
「確率だけでいえば、また会える可能性は高いと思われます」
その言葉に、私の沈んだ心は再び浮上し始めた。
我ながら単純だという事を認識しながら、今まで感じた事のなかった己の中の何かに従って、私は言葉を紡いだ。
「貴女の名前を聞かせてもらっても、いいかな?」
その私の言葉に対して彼女は特に戸惑う事もなく、私に名を告げてくれた。
「私の名前は――――」
◆ ◆ ◆
彼女の言った通りというべきか、彼女とよく会うようになった。
何が安いとか、昨日見かけた猫が可愛かったとか、学園での出来事だとか、同居人が素晴らしいとか、そんな他愛のない会話を交わした。買い物の合間とかのほんの少しの時間だけではあったが彼女と交流を深めていった。
連絡先も交換し、連絡を取り合うようになった。
時間にすればほんの短い時間に過ぎないのに、私はその時間がとても楽しく、今までで最も充実した時間であったと言い切れるほどのものであった。
気が付けばいつも彼女の事を考えている。どうでもいいことだが授業中に教師から指摘されることも増えてしまった。他人から見ても私の異常は明らかである。
しかしそれが何なのかを知りたいとは思っても、それをどうかしようとは思わない。何せ初めての気持ちなのだ。今まで求めていた“何か”を手に入れられる可能性なのだ。
しかしわからない。この気持ちが一体どういうものなのかが一向にわからない。
「――ああ、この気持ちは、一体何なのだろうか……?」
「はぁ? そんなモン、俺が知るかよ」
どうやらつい口にしてしまったのを、バイトの同僚でクラスメイトでもあるゲンに聞かれていたようだ。
「……まあ、なんだ。その相手は女でテメェはその女に会ったら嬉しくなるんだろ?」
「まあ、そうだな」
「だったらそれ、恋じゃねぇか」
…………恋?
「これが、恋?」
「多分な」
「恋、というと、恋愛とか、恋物語とかの?」
「そうだ」
「そうか……これが、恋……これが、愛!」
自身でその言葉を呟くと、不思議としっくりときた。
「つまり、これが、誰かを好きになるという事なのか……!」
頭の中でガチリと何かが噛み合うような音が聞こえた気がした。
「ありがとうゲン。おかげで大きな疑問が一つなくなったよ」
「適当に言っただけだ。礼を言われる筋合いはねぇよ」
そうとわかればするべきことは一つ。善は急げ。こんなところにいる場合ではない。
「では急用ができたので失礼するよ」
「ってテメェどこ行く気だ。これから授業だってのに」
授業? そういえば今は学業中だった。だがしかし、そんな事よりもこの想いを彼女に伝える方が重要な事ではないだろうか。
「そんなことより私は彼女に今すぐにでもこの想いを伝えたいのだが」
「ンなもん学校が終わってからにしろ!」
「いや、しかし……」
「ならそれまで告白の仕方でも考えとけ」
「成程。確かにどう告白するかまでは考えていなかった」
ゲンに説得されて仕方なく思い止まる事にした。確かに告白の仕方というのも重要だから考えておかねばなるまい。
◆ ◆ ◆
そうしてようやく長い拘束時間を終えて、すぐさま学園から帰宅し、彼女に連絡を入れて夕日が照らす河原まで来てもらった。
ゲンに言われた通り、彼女にどのように告白をするのか、授業中に色々と考えたのだが、経験不足のためか適切な告白方法が思い浮かばなかった。
それでも考えを纏め実行に移そうと思ったものの、いざ告白するとなると、頭の中が真っ白になってしまった。
「貴女に、恋をした」
故にこのような何の飾り気もない、代わり映えのない言葉になってしまった。
ああ、かつては中学の頃、生徒会長として観衆の前に立って話す事など幾度としてきたのに、彼女一人の前だと勝手が全く違う。
ただ一言だけ言うのにもこれ程精神を磨耗し、心臓は早鐘を打ち、そしてよくわからない高揚感に包まれる。
「恋人として、お付き合い願いたい」
特に捻りもなく簡潔にすぎる告白であったものの、私は彼女に想いを伝えた。
そして彼女の答えは……――
「貴方の好意は大変ありがたいのですが、お付き合いする事は出来ません」
「――――」
断りの言葉……つまりフラれたという事か……。これは……想像していた以上に辛いものである……
「理由を、訊いてもいいかな?」
「はい」
一体どのような理由なのか……それで納得できればいいのだが、しかしこの気持ちを納得させることが出来るのか不安である。今なら少しストーカーの気持ちがわかるような気がする。
「そもそも、前提として私は人間ではありません」
………………何?
「私は九鬼財閥により造られたお仕えロボットであるクッキーの第四形態です」
……ロボット?
「九鬼財閥によるロボット……君が?」
「はい。ちなみに現在のマイスターの名前は風間翔一と言います」
風間翔一……その名を聞いて思い浮かぶのはクラスの知り合いである直江と仲のいい赤いバンダナの彼。その彼と、彼女の言った風間翔一が同一人物なのかどうかはわからないが、無関係というわけではないのだろう。
そしてマイスターという呼称から私の頭に嫌な推測が思い浮かぶ。
「つまり、その……マイスターである風間翔一という人と君は恋仲なのか?」
「いえ、違います。現在、私の所有者として登録されているのがマイスター、風間翔一であり、マイスターと私は恋仲ではありません」
「……ならば他に恋仲の人がいるのか?」
「いえ、私にはそういった恋仲の方はいません」
「……では、好きな人が?」
「恋愛感情として、という事でならまだいません。そもそも私は、より人間の“愛”を知るためにこの形態へ変形したのです」
成程……まだわからない事も多いが大まかには理解した。しかしまだわからない事がある。それも私にとってとても重要な点だ。この疑問が解消されなければ、私はどうしても納得が出来ない。
「……それで?」
「それで、とは?」
私の続きを促す言葉に彼女は疑問の言葉で返してきた。まさか今の話で私への説明が終わりというわけではないと思うが、念のため私が何を催促したのかを説明する事にした。
「いや、それならば私と付き合えない理由がどういうものなのかがわからないのだが……」
「え?」
「え?」
その私の疑問に対して、彼女は驚きの声を上げ、それに対して私も驚きの声を上げてしまった。
「ですからそもそも私は人間ではなくロボットなのですからそういった恋愛対象としてなりえないではないですか」
「いや、ロボットだろうが人でなかろうが君は君である事に何ら変わりはないだろう? ならばそれは問題となりえないのは当然の事ではないか」
彼女の言っている事がよくわからない。いくら彼女がロボットだからといって、私の想いが変わる事は決してない。それは私にとって当然の事だ。問題になるわけがない。
「しかし、他の形態の人格は基本的に男のモノです。私のような女性人格は稀です。しかしそれでも他の形態の人格もまた私なのです」
「それならば私はその他の形態ごと君を愛そう」
「はい?」
私の言葉を聞いて、彼女は聞き返すように疑問の声を上げた。どうやら私の言った事が聞こえたなかったわけではないのだろうが、しかし半ば信じられなかったのだろう。彼女の今まで見せなかった表情の変化に胸を高鳴らせつつも、それを表に出さぬようにしてもう一度口を開いた。
「もう一度言わせてもらおう。私は今のその第四形態の君も、それ以外の形態の君も、君という存在全てを余すことなく愛そう」
「……では――」
私の言葉を聞いた次の瞬間、彼女の身体が崩れ、形が変わっていく。実際に目の当たりにして彼女は本当にロボットなのだなと理解させられた。
「――この第一形態の僕も?」
まずは1mほどの大きさの卵型の形態に……
「――第二形態であるこの私も?」
次に2mほどの人型に近い武器を持った形態に……
「――第三形態のこの僕も?」
さらに掌に乗るサイズの卵型の形態に……
「――変わらずに愛せると?」
そして小型の卵型の形態から再び私が最も見慣れたツインテールの少女の姿をした形態に変形した。
しかし、私の中の彼女を愛する心に揺らぎはなかった。というよりも、彼女の新たな一面を知れたようで嬉しかった。
「ふむ、実際に見て確信したよ。その程度の障害、私の愛の妨げになどなり得ない。というよりも、障害ですらない」
「……そうですか」
少し驚いたような表情をしながら彼女は少し考え込み、そして再び口を開いた。
「……この第四形態は先程も言ったように“絆”や“愛”を知るための形態です。しかし、私自身まだ何が“愛”なのか理解していません。なので貴方の告白に対する適切な返答をする事はやはりできません」
その言葉に私は再び落ち込みかけた。
「――ですが、このまま理解しないままでいるわけにもいきません」
しかし彼女の言葉はまだ終わっていなかった。
「ですので、恋人からではなく、まずは友達から始めませんか? そして、私に“愛”とはどのようなものなのか、教えてください」
……つまり彼女はこう言いたいのだろう。
『私と付き合いたければ惚れさせてみろ』と。
……少々乱暴な解釈の仕方だが、意味は概ね合っているはずだ。
ならば、私の全身全霊を掛けて、君を振り向かせてみせる。そう決意した。
……よく考えれば、今まで心から真剣に何かに取り組むという事をしたことがなかった。ただそのように望まれたからやった。ただそれだけだった。
だがこれからは違う。ただ他人から望まれて、そして言われた事をやるのではない。
私が、私の意志で、私の望みのために、私のやりたい事をやっていく。
……ああ、心が昂ぶる。このような気持ちは生まれてから初めてだ。
そしてここ数日でその初めてを多く経験した事、そしてそれらは全て目の前にいる彼女によって生み出されたものである事に思い至り、思わず顔に笑みが浮かぶ。
「――いいだろう。私が君に愛を教えて見せよう。故にこれからもよろしく、クッキー」
「こちらこそよろしくお願いします、彼方」
――こうして、私の彼女と過ごす彩り溢れた世界での日々が幕を開けたのだった。
という事で、クッキー4ヒロインモノでした。
このお話は、A-2ヒロイン発表前に「もしクッキー4がヒロインだったら書いてやんよww」と心の中で思ってたら、最後のA2ヒロインがクッキー4ISという新キャラだった事で、「ど、どうしよう。一応クッキーだけど別個体だし……」と悩みながら少しずつ設定を考えていた作品です。
まあ次話以降は全くと言っていいほど書けていませんので、次回更新がいつになるのかはわかりあません。
なお、この物語は山もオチも特にないお話なので、お気を付けください。
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