休止 鋼鉄のレクイエム -双胴戦艦播磨出撃する!- (紅の1233)
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序章

序章

 

気付くと私は水の中に沈んでいた。

私の目の先は瑠璃色の水に包まれ、その先には白く輝く海面が見える。視界外から長い髪の毛が視界に入ってくる。右へ左へ、目の前を遮ぎる。

自分の髪なのに邪魔に思えてくる。

髪の間からまれに泡が一つ、二つと現れて海面に上がっていく。自分を嘲笑うかのようにひらりひらりと上に行く。

 

もう動きたくないです

 

そう彼女は思った。体は鉄のように重く、節々が痛い、まったく動かせそうにない。

 

私はこのまま幾つもの海流に当たり魚に弄ばれ砂に埋もれ一生を終えるのですか

それもいいかも知れないです

 

彼女は目を閉じ視界を無にする。

 

今までの苦痛からしたら幸せです

 

でも、過去に何を私はしたのでしょう?

もう過去の事は忘れてしまいました。今はこの時間を楽しむことに徹することにします。

彼女は安堵し永遠の眠りに入ろうとした。

 

 

『いけませんねそれでは』

 

 

突如頭の中に声が響く

 

なに?

 

彼女は突然の事に驚くが体は動かない、唯一動く目だけを動かして周りを見るがさっきと変わらない瑠璃色の世界だ。

 

『貴女には守る物があったんじゃなかったの?』

 

いきなりなんですか?

 

『なんの為に戦っていたか忘れたの?』

 

別に良いじゃないですか?私はこのまま一生を終えるんですから

 

すると視界が黒に覆われる。影からして向こうも女性だ。ちょうど私の上から誰かが私の顔を覗いてるような感じの影だ。その黒の中から赤の瞳が光っていた。

 

『それではよくないの、まったく世話が焼ける娘ね』

 

そう言って赤色の瞳が近付いてくる。

 

ヒッ!

 

私は一瞬怖く思ってしまい目を瞑ってしまった。

 

チュッ

 

その影は私の額にキスをした。

 

ッッ!!?

 

私の頭の中になにかが流れ混んでくる感覚が襲う、高熱の溶岩が流れるようなグツグツとした暑い感覚、猛毒を流しこんだような溶けるような苦しい感覚が来る。それと同時に私の脳に何かが形作られて、色々な物がフラッシュバックしてくる。

 

痛い思い出、暑い思い出、苦しい思い出、憎しみの思い出、怒りの思い出

 

思い出してくるのは艦船の記憶だ。

 

でも、なんで艦船の記憶なんですか?

 

その影は私からゆっくり離れる。

 

『それは貴女が“艦娘”になるからよ』

 

私には理解出来ない言葉だった。

 

艦娘?なんですそれは?

 

『ハァー』

 

ため息と共に目の前の瞳が目をつむる

 

『やはり今のでは駄目みたいね未完全すぎるでも、こうすれば』

 

目の前の瞳がゆっくり開かれる

 

『知識としての記憶から血肉となった記憶になる!』

 

開かれた瞳が紫色に変化し不気味に光始める。

 

自分の中でなにかが構成され始める。意識が飲まれる、そして私は思考が停止した。

 

気付くと私は海の上に立っていた。そして、私の体には艤装が装着されていた。

背中から展開される船体を模した装備、肩甲骨や腰に付けられた基盤、そこに取り付けられた50.8cm三連装の大型の砲塔六基とその隙間を埋めるように各所に設けられた20.8cm三連装砲。黒色の士官服と白地に赤と黒の線が入ったミニスカート、頭には電探と測距儀を模したカチューシャが付いていた。

 

これが私の体ですか

 

そう思っていると周りが騒がしくなり始めた。空を異形な航空機が飛び回り、異形の生き物達が現れる。

あれは?

『あれは深海棲艦、貴女の敵ね』

またあの声が頭に響く。

敵、じゃあ全て沈めなくちゃいけないですね。

『いえ、近くに味方がいるから誤爆されたらまずいわ。IFFを起動させて...』

私が一回瞬きすると見えている敵の横に説明書きのような物が表示され始めた。

おぉ、これは便利ですね。

『これから貴方は色んな仲間に会うわ、その時これが多いに役立つはずよ。それじゃあ私はこれで...』

声は聞こえなくなった。

周りを見ると敵はまだ状況が解らないのか様子を伺っている。

さぁて戦闘を前に見得を切らなくちゃ、えぇと私の名前はなんでしたっけ?

口元に手を当て考え思い出す。

「思い出しました!よおーし!!」

私は全砲口を敵に向けいい放つ

 

「双胴戦艦ハリマ!これより戦闘開始します!!」



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第壱章『俊足の覚醒』前編

もう日がすっかり傾き辺りがオレンジ色に染まる中播磨は無人島にいた。

「よいしょ」

艤装を外し砂浜に降ろすと、ドスンと重い音と共に砂にめり込みその横に播磨も腰を降ろした。

「ふぅ...突然とはいえ、つい逃げてきてしまいました。」

播磨は体育座りになり水平線を膝越しに見る。

「どうしましょう...」

それは数時間前に遡る

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

まだ青空が見えるなかそれを遮るように突発的に起きた大きな雨雲が現れる。その下には十二人の艦娘が隊列を組んで航行していた。その隊列の前を行く四隻の艦娘、片方二人は弓道袴を着た赤と青の空母、もう片方は同じ艤装をまとった戦艦、赤城と加賀、長門と陸奥だ。

「雲を出るぞ、これから敵との激しい戦闘が起こる。覚悟しろ!」

『はい!』

長門の渇に皆気を引き締める。

「索敵隊出ます!」

「こちらも発艦します!」

彼女達が雲の下から出て行くと赤城と加賀は急いで艦載機を発艦し始める。

索敵機の彩雲と護衛の紫電改が空を突き進む。

赤城と加賀は目を閉じ、彩雲から送られる景色を見ていた。だが、

「あら...」

「どうした赤城?」

「いえそれが...」

赤城は長門にどう返答しようか迷った。

「敵がいません」

加賀が先に言ってしまった。

「敵がいない?そんな事あるのか?」

赤城と加賀に送られた光景、それは敵の航跡によって白くかき混ぜられた海ではない、残骸やそこから漏れだした重油で黒く濁った海だった。

「あっ!」

加賀がなにかに気付いた。

「なにか見えたか?」

「二式水戦が見えます。」

加賀に送られてくる景色、それは彩雲の前をふらふらと飛ぶフロートを付けた零戦、二式水戦だ。二式水戦は彩雲の前を遮るかのように飛び回る。まるでこっちへ来るなと言ってるような光景だった。

「邪魔よ...」

そう呟くと彩雲は持ち前の大馬力を生かして二式水戦の前に出て一気に引き離した。飛んでいくと段々敵の残骸が増え始める。その残害の中央に人影が見えた。

「あれは...艦娘?」

 

「ふぅこれで作戦終了?当海域を脱出しないと」

ハリマは周りの深海棲艦の艤装の残骸を見ながら呟く。

「あれレーダーに反応...」

それは五感とは違う感覚

「ヤバいかなりの数!逃げなきゃ!」

播磨は反対方向に一目散に逃げ出した。

ド派手に水しぶきをあげながらその速度は40ノットを軽く越え、いや50ノットも越え始める。

頭に送られるレーダーの反応がどんどん小さくなっていく、だが航空機の反応は段々強くなって近付いてくる。

「どうしよ、あっ」

目線を先には雨雲が広がっていた。その下の海では雨が降っていた。

「仕方ないあそこに急げ!」

 

「ぜぇ...ぜぇ、なんで、追い付かないの...ぜぇ」

播磨を追い掛けようと派遣してきた駆逐艦娘達、息を切らしながら追い掛けるが、播磨との距離はどんどん離れていく。

播磨の速力はすでに50ノットにまで到達している。現状播磨に追い付ける能力を持った艦はいない。

駆逐艦達の遥か先では播磨は雨雲の下に入り見えなくなっていった。

「雲下に入られると流石に追跡は無理ね」

加賀は艦載機から送られてくる光景からそう判断した。

「周囲の残骸から判断するにかなりの数の深海棲艦がいた筈ですね。それを一隻で退けられる能力を持つ、もし味方になってくれればとても心強いです!」

赤城は目を輝かせていたが、陸奥は不審そうな顔をした。

「でも、逃げるってことは敵である可能性も捨てきれないわね。どうする長門?」

陸奥が長門の方を向く。

長門は不明艦が逃げていった方向を見ながら、各艦へ指示を出す。

「機動部隊と支援艦隊は帰投させろ、軽巡と駆逐で偵察部隊を作くり不明艦の捜索に向かわせろ。組み合わせは陸奥、頼めるか」

「ふふ、了解。」

陸奥は無線で軽巡洋艦と駆逐艦に召集命令を出す。

「赤城、あの二式水戦を此方に呼び寄せられるか?」

長門は上空を指差しながら言う。赤城か指差した先を見上げると、先程の不明艦から発艦したと思われる二式水戦が、紫電改に追いかけ回されていた。

「あれは不明艦追跡の鍵になるかもしれないからな」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

辺りがすっかり暗くなっているなか播磨は雨風を凌げそうな場所がないか、無人島内を歩き回っていた。

「やっぱり洞窟なんてそう簡単に見付からないですね。」

播磨は腕組ながら、その場で唸る

「むっー、やっぱりそこらの木を斬り倒して小屋を作るしかないですか。」

何を思ったのかその場で決めポーズをして、カメラがあるはずない場所にカメラ目線で

「播磨の突撃無人島生活ー!!なんつってる場合じゃないですね。とりあえず艤装を森の中に隠さないと...」

我にかえって播磨が艤装が置いてある砂浜方面へ向くと、目に様々な情報が送られてきた。

「艤装周辺に反応多数?数は四つ...」

木の影からこっそり顔を出すと私の艤装の周りをぐるっと囲む形で、四人の艦娘がいた。

「反応からして軽巡と駆逐艦が二席づつ...あれ?」

視覚に表示される情報に播磨は不思議に思った。

「艦名が付いてる?」

播磨は不思議に思った。

播磨のいた世界では超兵器といった代表的な艦には固有の名称が付いていた、だが大量生産された艦には特に名称がない。

殆どが何級の何番艦、といった感じで呼ばれていたからだ。

「天龍型に球磨型、暁型...天龍に木曾に雷と電、へぇ面白いですね」

「動かないで下さい!」

後ろから不意に声がかかる。

「振り向くくらいなら許して下さいね?」

ゆっくりと播磨は振り返る。

セーラー服を吹雪が手に持った12.7センチ連装砲を播磨に向けていた。

(兵装は12.7センチ砲と魚雷、いや今は陸上だから使えるのは砲のみ...)

播磨は冷静に吹雪の兵装を調べ、格闘すれば勝てなくない相手だと分析した。

だが、今の播磨は丸腰で出来ることなら無益な戦闘は避けたかった。

「貴方の指示に従います。それよりその砲を下ろしてくれますか?」

吹雪は砲を下へ向け

「やっぱり戦艦でも駆逐艦の砲は怖いのですか?」

播磨は少し笑って

「こんな近距離で狙われたらね、それに今は丸腰だから余計にね♪」

播磨の様子に緊張感が解けたのか吹雪の顔にも笑みが現れた。

敵意がないと読み取ってくれたようだ。

「じゃあ皆さんの所に一緒に来て貰いますけど」

「えぇ案内お願いしますね。」

「そういえば名前を聞いていませんでしたね、私は吹雪です!」

「私は播磨、宜しくね♪」

 

 

「こんなデカい艤装見たのは始めてだ」

「天龍見ろよこの砲の大きさ」

「すごいわ大和さんや武蔵さん以上ね」

「強そうなのです」

天龍、木曾、雷、電が播磨の艤装を見ていると

「天龍さーん、木曾さーん」

吹雪の声だ。

天龍と木曾は吹雪の声がした方へ向くと、吹雪と一緒に見慣れない艦娘が手を繋いで歩いてきた。

「おい吹雪、その隣の人はなんだ?」

「あっ探してた不明艦です」

天龍と木曾は血相を変え自身が装備する刀に手をかけた。

「吹雪そいつから離れろ!」

「敵かも知れないんだ!」

吹雪は播磨の前に立ちはだかって

「待ってください!播磨は敵じゃありません!」

「いやまだ俺は信じられない」

「天龍の言う通りだ、まだ武器を隠し持っているかもしれないからな!」

天龍と木曾の気迫に押され雷と電は横でオロオロするしかなかった。

「吹雪さん私に説得させて」

「えっでも...」

「原因は私なんです。せっかく私を受け入れてくれた吹雪さんの手を煩わせる訳にはいきません。」

播磨は吹雪の前に出る。

「まだ私は敵だと思っていますか?」

『そうだ!』

天龍と木曾は綺麗に声が揃った。

どうやら二人は仲が良さそうですね

「でも、私はもう敵意がある訳ではないですよ。天龍さん、木曾さん」

急に名前を呼ばれたことに一瞬不意をつかれた

「なぜそう言い切れる?」

天龍が念を押して聞いてくる。

「もし本当に敵意があったなら今頃私は吹雪さんを人質に取って、その艤装を付けて逃げていました」

『...』

二人は黙ってしまった

「それか頃合いを見計らって艤装を奪い、貴女方を撃滅することだって出来ました。」

先に口を開いたのは天龍だ

「確かにそれもそうだな」

「おい天龍!」

天龍は刀から手を離した。だが木曾はまだ刀に手を添えている。

「木曾、俺はアイツの言うことを信じるぜ。もしアイツが敵意を持っているなるなら、吹雪と手を繋いで歩いてこないぜ。それに...アンタは昼間に深海棲艦を全滅させたんだろ?」

「えぇそうです。」

あれ全滅?

潜水艦位残ってるかと思ったけど本当に全滅させてしまったようです

「俺達の敵である深海棲艦を滅したんだ、理由はそれだけで十分だろ。」

「ぐっ...」

木曾は刀から手を離しそっぽ向いてしまった。

その様子を見ながら、やれやれといった感じで天龍は頭をかきながら播磨の方へ向かった。

「さっきは刀を抜こうとしてすまなかった」

「良いですよ、敵か味方かよくわからないものを受け入れる時は大体こんな反応をしてしまうものです」

「名前は確か播磨だったよな、宜しく俺は天龍だ、ふふ...怖いか?」

「えぇ、刀を抜きかけた時は少しドキッとしました」

「そ、そうか!」

天龍はちょっとだけ得意気な感じになった。

可愛らしい方です

天龍に後に続いて、雷と電も来た。

「私は雷よ、宜しくね♪」

「電です。宜しくなのです」

「宜しくお願いしますね。雷さん電さん♪」

二人とも同型艦ってだけあってよく似てますね

なんて思っていると播磨の元へ木曾もやって来て

「木曾だ...」

といってまたそっぽ向いてしまった。

「木曾~、ちゃんと挨拶しないと駄目クマよ~」

天龍が球磨の物まねして囃し立てる、すると木曾は

「うるさいな!俺はまだ貴様の事を信じてる訳じゃないんだからな!」

膨れっ面になってまたそっぽ向いてしまった。

天龍と木曾のやり取りに雷と電、吹雪はケタケタと笑った。

播磨もその様子に小さく笑っていた。

 

 

播磨達のいる無人島から遠く離れた海域、水上を進む一隻の深海棲艦がいる。

重巡リ級だ。

だが、普通の重巡リ級と装備が違う。手に持った砲は三連装砲化され足には本来付いてるはずのない五連装魚雷発射を装着している。

さらに特筆するのはその巡航速度だ。今リ級は80ノット近い速度で航行していた。そんな高速で航行できる艦はこの世界にはいない、筈だった。

そして、リ級の目からは“紫色”のオーラが漂っていた。



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後編 作戦名:超高速巡洋戦艦迎撃作戦

鎮守府正面海域

 

「あれがあの新しい戦艦?」

後ろを振り向いて播磨を見る敷波

「そうだよ、で私が見つけたんだ!あぁ司令官に褒められるかなぁ~♪」

「いいなぁ、私もたまには司令官に褒められてほしいなぁ」

その二人の光景を播磨は微笑ましく見ていた。

播磨達一行は無人島を後にして海鎮守府へ向かっていた。

その途中で輸送船護衛部隊と合流し共に鎮守府へ向かっているところだ。

現在の時刻は明け方に近い、とはいえ辺りはまだ真っ暗だった。

後ろを振り向くと木曽が私の監視役で、少し間隔を空けて追いてくる。

顔はまだ膨れっ面でいる。

珍しく天龍と意見が合わなかったことにまだご立腹の様子だった。

「フフフ♪」

その表情に播磨はつい笑ってしまった。

「おい!何がおかしい!」

木曾は怒ったが播磨はまだ笑っていた。

「フフフ、だってそんな可愛らしい顔をされたら思わず笑ってしまいますよ」

「か、可愛らしい///?!」

播磨の言葉に木曾は動揺し顔が赤くなり始めた。

「貴様おちょくってるのか!!」

「そんなことないですよ、うん?」

明るくなり始めた水平線近くで何か光ったように見えた。

「なにか...ぐっ!!」

播磨に強烈な頭痛がし、頭を押さえその場に座りこんでしまった。

「おい大丈夫か播磨!」

播磨の元へ木曽が駆け寄ろうとしたその時。

輸送船団の回りに複数の爆発と共に、水柱が立つ。

「砲撃、敵襲!敵襲!偵察艦隊は敵迎撃に向かうぞ!輸送船団は急いで湾内へ!」

天龍は急いで各艦に伝達をする。

「クソっこんな時に、おい敷波!」

「はい!」

「播磨は頼んだ!」

「了解!」

木曾と天龍は吹雪と雷、電を引き連れて迎撃に向かった。

うずくまっていた播磨は頭痛に混じって流れ込んでくる波長を感じた。

自分達と同じこの世界では異端で異色で異常な存在。

「この感じ...、“ヴィルべルヴィント”!!」

播磨は天龍達が走っていった方向を睨み付ける。

「播磨退避するよ、播磨?」

敷波が心配して播磨の元に来てくれた。播磨は立ち上がり敷波へ向く。

「敷波さん!私もあの戦闘に加わります!敷波さんは私より被弾した輸送船を心配して下さい!!」

敷波は止めようとしたが遅かった、播磨は水面を蹴り一気に加速して戦闘へ向かっていってしまった。

戦艦とは思えない加速に一瞬唖然としてしまった。

敷波は気を取り直して、被弾して傾き始めていた輸送船の救助に向かった。

 

天龍と木曽はお得意の接近戦でリ級?に一撃を与えようとしたが無駄だった、手に持った刀で斬り込もうと接近しても速力で振り切られる。一撃離脱を狙っても急な加減速で避けられてしまう。

こんな事は二人にとって始めてだった。

『撃てぇー!』

天龍と木曾、各駆逐艦から一斉に砲撃をする。

だがそのリ級?には一発も当たらない、夜間戦闘ってのもあると思われるが兎に角、的が速すぎる。

見越して射撃しても殆どが後ろに着弾してしまう。

向こうもこちらが見えにくくせいか、今の所一発も被弾していない。だが、何時かは当たるかもしれない。

「それにしても、不気味だなあの眼の光は」

「あぁそうだな、俺は始めて見る色だ」

天龍と木曾が言う通り今遠くを疾走するリ級?は紫色に光っている。

赤色や黄色は見たことあったが紫色は見たことがない。

その時リ級が砲をこっちへ向けたように見えた。

「危ない!皆散れ!」

そう天龍が命令しようとした時、リ級の周囲に水柱が立ち上がった。

自分達軽巡洋艦や駆逐艦とは違う大口径の砲弾が生む、大きな水柱。そして、あのリ級?に火が一瞬見えた。一発だが着弾したのだ。

一体だれが、そう思ったとき

「ありゃ、やっぱり20センチ砲じゃあ威力不足ですね」

気の抜けた声がした。

声の主は播磨だった。

「おい播磨!こんな所で何やってるんだ!」

木曾は怒鳴るがそんな事はお構いなしに天龍に寄ると

「天龍さん話があります!後木曾さん達にも!」

「播磨、悪いが今そんな余裕ないと思うが」

「いえそんなことありません。あれを見てください。」

播磨が指差す先では火災が発生したリ級?が、播磨達から離れていくのが見えた。

「あれ?逃げているわ」

「撃退したのですか?」

合流した雷と電の問いに播磨は

「いえあれは火災を消すための一時的な撤退です。」

答える、そこへ吹雪も合流する。

「じゃあまたすぐ戻って来るんですか?!」

「はい、一分もすれば戻ってきますね。」

『一分?!』

駆逐艦達は慌てるが、天龍は播磨の妙な自信ありげな顔に気付いた。

「播磨、さっき作戦って言ったよな?あのバカっ速のリ級を撃退出来るのか?」

「えぇ出来ますとも、作戦は...」

 

 

リ級?は火災を消化しまた輸送船部隊に突撃する準備をしていた。ここで輸送船団を沈め、その後ここから近い忌々しい艦娘共の本拠地、鎮守府を奇襲するのが使命だった。

闇夜に紛れ、与えられた新しい力で艦娘どもに一泡ふかせる。そう思っていたがここで邪魔が入った。

播磨の存在だ。播磨の存在が憎かった。

怒りに満ちたその紫色の眼で播磨がいた方を向く、そこには播磨が単艦でこっちに向かってくるのが見えた。

リ級?はニヤリと笑い、海を蹴り出した。

速度をどんどんあげていき真っ直ぐ播磨へ突っ込んでいく。

その時、播磨の両サイドから駆逐艦達が出てきた。

出てきた駆逐艦達が播磨の横に並ぶ、横隊の状態になると魚雷をばら蒔き反転していく。その発射された多数の魚雷は扇状に綺麗に拡がっていく。

これでは避けることが絶対に出来ない、どの方向に舵を切っても一発は被弾する。

リ級?は奥歯を強く噛み締めた。

今のリ級?の怒りは頂点に達していた。

リ級?は魚雷の当たらない場所、播磨と正面衝突する航路を取って両手に持つ三連装砲を播磨に向けて撃った。

だが播磨はショルダータックルをする体勢をとり、肩に設けた三連装砲を坊楯にしてガードする。

お次に魚雷を、と思ったが播磨の方が先に動いた。

「今!」

播磨は右手に持った20.6センチ三連装砲をリ級?の足に向けて連続で撃つ。

播磨はリ級?の足に設けた魚雷発射管をピンポイントで射撃し、爆発させた。

爆発によってリ級?の動きが止まった。

「今です!天龍さん!!木曾さん!!」

播磨の後ろから刀を抜いた木曾と天龍が最大速力で抜いていく。

行き足が止まったリ級?を挟み込む形で斬りかかる。

「おりゃあ!!」

「うりゃあ!!」

二人はすれ違い様にリ級?の手に持った三連装砲を切り落とす。

そこへ間髪入れずに播磨が止めを指す。

天龍と木曾が射線から外れたことを確認すると、肩に設けた51センチ三連装砲二基を発射する。その内四発がリ級に当たり体内に入り込む。そこで砲弾の時限信菅が作動する。

リ級?は大きな火柱に包まれあっという間に、海に滅した。

 

鎮守府

 

レンガ造りの鎮守府本部、その中央に位置する提督室。

その窓際に白色の士官服をマントのように羽織る人物がいた。

その人物は窓から見える水平線をずっと見ていた。

「失礼します」

ドアを開け中に入って来たのは本日の秘書艦、鳳翔だ。

「提督、気になって眠れなかったのですか?」

「ああ鳳翔さん、輸送船護衛部隊に被害が出たと連絡があっただろ。もう心配で心配で」

「だからって夜更かしはいけませんよ、休むのも大事な仕事なんですから。」

そう言って鳳翔は提督のいる窓際に行く。

目線の先には朝日と共にやってくる護衛部隊と偵察部隊が見えた。

一緒にやってくる輸送船の中には被害を受け傾いた艦もいたが、落伍した艦はいない。

「さぁお迎えに参りましょう。」

「そうだな」

提督と鳳翔はそう言って部屋を出て行く。

艦隊の中で一際眼を引く大きな艤装を持った見慣れない艦、播磨に出会うために。

 

超高速巡洋戦艦ヴィルべルヴィント:撃沈

播磨が倒すべき残りの超兵器の数:不明

 

『俊足の覚醒』ヴィルべルヴィント編 完

 

次回『恐れ知らずな影』



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