《プロローグ先行公開》GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者 第二楽章-LUNAFALL (フォレス・ノースウッド)
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序曲 - PRELUDE

第一部執筆の傍ら、第二部の全体プロットと設定諸々を考えてたら、胸の歌の赴くまま、プロローグパート(核心的なネタバレは避けてます)が書けちゃいました。後半の朱音の新技は……完全に音撃ですね、歌含めた音楽要素としっかり向き合おうとしたらこうなった……朱音がギター弾ける設定は初期からあったのですが、やっと出せましたよ。
そしてもうどうせならと、龍騎劇場版方式で先行公開致します、さすがに龍騎みたいに別物になることはないので安心を(ナニヲ?
でも原作XVの方が……また翼と適合者にトラウマを(戦慄


 先史文明の亡霊の巫女――フィーネが引き起こし。

 そのフィーネの子孫であり、巫女が現世に転生する為の器とされてしまった天才科学者にして考古学者である櫻井了子博士が、先史文明の聖遺物を使い生み出した……〝歌〟を力の源として戦い、この次元(せかい)の人類に於いて最大の災厄たる特異災害――《ノイズ》に唯一対抗できる兵器。

 FG式回天特機装束――シンフォギア。

 この〝チカラ〟と適合できる担い手――装者たちが、フィーネとの激闘も含めた事件の数々を総称して――。

 

《ルナアタック》

 

 ――と呼称された出来事から、四か月後の十一月上旬の某日の夜。

 

 

 

 

 

 この日の夜の東京を中心とした大都市圏の数々は、災害程ではないにしても、それなりに本降りの雨に見舞われていた。

 そんな日本経済の中心な摩天楼を覆う雨雲より高く、ルナアタックでその姿を変えられた月の光が注ぐ上空にて、陸自制式汎用ヘリ《UH1J》が一機、宙を駆けていた。

 機内に乗っているのは操縦士ら二名の自衛官の他に、機内席に腰かけるリディアン音楽院高等科の制服を着た、年相応以上に大人びた美貌を持ち、特に本物と見紛う透明感を誇る翡翠色の瞳が特徴的な少女一人。

 名は草凪朱音。異端のシンフォギアの担い手たる、特異災害対策機動部二課所属の装者の一人。

 

「こちら朱音、再度状況の説明をお願いします」

 

 朱音は腕に嵌めている二課専用の端末が投影した3Dタッチパネルを操作し、凛然と澄んだ声音で二課本部と通信を繋いだ。

 

『依然、ノイズは横浜港山下埠頭エリア内に滞留中、付近一帯の避難誘導は完了しているわ』

 

 二課のオペレーターの一人である友里あおいが、ヘリが向かう先の状況を朱音に伝える。

 

『ただ――』

「例の〝未確認反応〟が検知された場所に近い、ですよね?」

『ええ、一応特異災害以外の不測の事態にも気をつけて』

「はい、通信終わり」

 

 朱音は通信を切り、制服の内側に忍ばせていた自身のギアの待機形態である勾玉のペンダントを引き出し。

 

「ここからは自力で現場に急行します!」

「了解しました」

 

 パイロットの了承を得て、朱音はヘリのスライドドアを開け、風が機内に入り込む中地上を見渡す、横浜市街は雨が止み、地上と空の狭間を覆う雲の密度は大分減っていた。

 

「行きます!」

 

 この一声と発して、朱音はヘリから飛び降りる。

 地上へ頭を向けた体勢でかの特撮怪獣映画では〝宝石の様に美しい〟と表せられたた夜天下の横浜の夜景へと、垂直に落下していく中。

 

〝Valdura~airluoues~giaea~~♪(我、ガイアの力を纏いて、悪しき魂と戦わん)〟

 

 朱音は、前世の自身の力の結晶体たる勾玉へ――目覚めの〝聖詠(うた)〟を注ぎ込み。

 

「ガメラァァァァァァァーーーーッ!」

 

 雨雲の中で、かつての自分の〝名前〟にして、自身のギアの名を、叫び上げた瞬間。

 夜天に、太陽の様にして地球(ほし)から齎されし力であることの証でもある紅緋色の閃光が、先程まで雨を降らしていた周囲の雲海を、まるで畏敬の念を以て引き下がらせるかの如く、円状で払いのけるほどの豪風と眩い輝きを以て――解き放たれた。

 

 

 

 

 

 一方、横浜の摩天楼にて、東京湾の一角を埋め立てて増設された人工大地な地区の一つ、かの横浜観光地の一つである赤レンガ倉庫からもそう離れていない横浜港山下埠頭。

 一時期このエリアは日本初のカジノの候補地の一つだったが、二度目の東京五輪から何年も経った今でも様々かつ絡み合う〝大人の事情〟で現在もカジノ含めた再開発計画は遅々として進まないまま、それでも日本経済の流通を支える主力物流拠点としての地位に現在でもあり続けている地域。

 そんな倉庫やらコンテナやら、物流関連企業の営業所やらが立ち並び中、すっかり雨でぬれ切ったアスファルトの上を、この場どころか日本のあらゆる風景にも浮いてしまう風体と容姿をした、日本人の子どもなら小学生低学年くらいの少女が走っていた。

 どこか〝魔女〟に見えなくもない黒く飾り気のないワンピースの上に紫のラインが入ったローブを着こみ、被るフードの内側には緑色が微かに混じった色合いの金髪に、淡い水色の瞳の目元には泣きぼくろが付いており、成人すればさぞ絶世の北欧美人となる片鱗が見える整った顔立ちは、ある人物に親子くらいよく似ていた。

 アメリカ有数の大企業――《ディーンハイム・コーポレーション》の若きCEOにして、デビューから三か月で世界を席巻するトップアーティストへとなった。

 

〝マリア・カデンツァヴナ・イヴ〟

 

 歌手としての彼女の育ての親と言っても過言ではない、プロデューサーでもある……女性に。

 そんな少女は、切羽詰まった様子で何かを腰に抱えたまま、水たまりに踏み込んで飛び散った水滴がローブに着いても一切構わずに、何から追われて逃げ、かつある目的地へ何としても辿り着こうする様相で、必死に走り続けている。

 少女は途中で倉庫の角に隠れる形で立ち止まり、乱れた呼吸と心臓音を抑え込みながら、息を潜めて角の先を覗き込む。

 

「こっちにも……」

 

 そこには、人型のCタイプとオタマジャクシ型のAタイプらで主に構成された小型ノイズの群れが、生きた屍そのもの同然なふらつく足つきで、埠頭内をわらわらと彷徨っていた。

 特機一課と陸自の尽力で、避難は完了しており、連中の獲物である人間は最早、この少女一人だけ。

 見つからぬ内に、忍び足で引き返すも、今度は綺麗に積み重ねられて立ち並ぶコンテナたちの隙間へと隠れ潜む。

 

「あのタイプもいるなんて……」

 

 視力が無い代わりに聴覚に優れ、音に反応して人間を襲いつつ閉所へと追い込み、自爆して諸共屠る多脚型――タイプEの個体が、コンテナエリアを徘徊していた。

 

 

 

 

 

 否、正確にはもう一人。

 

「私に〝地味〟は似合わない………だがマスターからの命令ゆえ、今は慎ましく彼女を追い立てるとしよう、我が主の〝分身(うつしみ)〟――エルフナインよ」

 

 建物の屋上から、月光をバックに、黄色いメッシュとウェーブが掛かったショートヘア、長身かつスレンダーな容姿と、中性的で鋭角的な人形にも見える美貌をした女性が、少女を見下ろして独り、低くハスキーに大気を響かす声で呟いた直後――東京湾上空の夜天に、紅緋色の眩い光が煌めき、女性の視線はそちらへと移る。

 

「〝ドクター〟の予測(けいさん)よりお早い到着、しかも………〝紅蓮の戦乙女〟とはな」

 

 

 

 

 

「あれは……」

 

 かの女性から〝エルフナイン〟と呼ばれた少女も、夜空を照らす紅緋色の光を目にした。その光の正体も、存じている。

 実時間でほんの数舜ながら、少女は逡巡する。

 今走り出せば、その音に反応して多脚型は間違いなく自分を襲い、どうにか初撃を逃れたとしても自分を狙う様〝指示〟を受けている筈な他の個体たちも一斉に押し寄せるだろう………しかし、このまま連中が自然消滅するのを待ってもいられない。

 今夜開かれるライブ、『QUEENS of MUSIC』で引き起こされようとしている惨劇(テロ)まで、時間がないのだ。

 一か八か………少女は現状の選択肢から博打を〝賭ける〟方に選び………静かに深く深呼吸を挟んで、一気にその場から駆け出した。

 少女の足音に、多脚型は反応、コンテナたちを盛大に鞭で弾き飛ばしながら少女の走って行った方角へ飛ぶ。他の個体たちの少女の存在に気づき、次々追走。

 脅威はノイズそのものだけでなく、宙を舞ったコンテナやら、建物の破片やら等のノイズ特有の〝二次災害〟が小さな体躯で全力疾走する少女の周囲へ牙を向いてくる。

 脳内でコンテナが地上まで落下するまでの時間と位置、そしてノイズらが突進を始めてから対象に衝突するまでのタイムラグ、リアルタイムで計算(よそく)しながら、逃げる自身を襲う猛威の数々をやり過ごして………山下公園の芝生広場まで、生きて走ってこられた。

 しかし、お世辞にも体力をそう多く持っていない少女の華奢な肉体は悲鳴を上げ、荒々しく肩で息をして心臓の鼓動が慌ただしく反復運動しているのがはっきり聞こえてくる。

 少女はそれでも走り続けようとしたが………彼女の意志に応じ、付いてこられるだけの体力はもう残っていなく。

 まず両膝が芝生に付き、そのまま前屈み倒れ、抱えていた………〝聖遺物〟の入った箱(ケース)が草の上に落ちた。

 どうにか手を踏ん張らせ、四つん這いになって完全に崩れ落ちるのを防いだ少女だったが。

 

「っ……」

 

 顔を上げた瞬間、言葉を失う。

 もう既に自分は、ノイズたちに四方八方を囲まれていた。じわり、またじわりと………特異災害は忍び寄る様に、少女へと近づいてくる。立つ気力すら、最早彼女には残されていない……両腕で地面に踏ん張るだけで精一杯。

 迫る……炭素分解と言う名の、ノイズからの心中による――死。

 それに対する恐怖は、少女の中で今にも暴れ出しそうに渦巻く。

 

〝死ねない………こんなところで、死ぬわけにはいかない……〝キャロル〟と……父さんの為にも〟

 

 一方でそれ以上に少女の胸の内――心には、死と言う名の理不尽と、それが齎す恐怖の感情以上に……運命に〝抗おうとする〟想いも込みで、強い意志が確かに在った。

 少女の――〝諦めない意志(おもい)〟。

 そんなものを抱き続けても無駄だと、嘲笑うかのように……ノイズたちが迫る中。

 

〝~~~♪〟

 

 少女の耳に、歌が聞こえた。

 大地の躍動さと、水の流麗さが共存する伴奏(ねいろ)をバックに………独特の言語な詩を唄う………世界や時の流れと言った儚さを表しながら、それでもと前進しようとする逞しさをも併せ持った、力強く澄んだ美しい歌声。

 段々〝歌〟が近づいてくる感覚が押し寄せる最中。

 

『Get downッ!』

 

 電子的なエコーがかかった声が轟き、咄嗟に少女は頭を抱えて地に伏せる。

 

〝小さき命を蹂躙する災禍~~お前たちの好きには~~させないッ!〟

 

 少女も知らない言語だと言うのに、歌詞が理解できる。

 ルナアタックの置き土産で、月から発せられていた〝呪詛〟が解けたことによる恩恵のものではないと。少女は自分でも疑念に思いつつも、確信があった。

 うつぶせになったまま、少女はそっと目を開く。

 いつの間にか自分は、巨大な獣の両手が、優しく包み、祈る様に握られた形でできた、橙色の結界(エネルギーフィールド)の内部にいた。

 

〝生きとし生けるもの~~その命奪うと言うなら与えよう~~命が持ちうる~~災厄を穿つ豪火を~♪〟

 

「凄い……」

 

 少女は、結界の外で繰り広げられる光景に圧倒される。

 稲妻を纏う、斧、ハンマー、槍、メイスらを組み合わせたと思われる〝多元複合武装(マルチウェポン)〟と、炎を噴射する甲羅状の紋様が刻まれ、側面に鋸状の刃を生やした円形の盾が、それぞれ独立して高速回転しながら、地上のノイズたちを次々と両断していく。真上を見れば、結界を張っていたのは、回転飛行するものと同じ形状な盾だった。

 空中にいる飛行型も、それ以上の速度と機動性で飛び交う無数の火球たちの直撃を受けて撃ち落とされていく。

 あっと言う間に、少女を取り囲んでいたノイズの群体は全て、炭素と果てて殲滅された。

 直後、結界が解かれ、彼女の下へゆっくりと降り立つ――マルチウェポンなアームドギアを手に持ち、紅緋色の鎧(アーマー)を纏った少女――朱音は。

 

「Are you All right? Magical kid(大丈夫かい? 魔法使いの卵さん)」

 

 ユーモアも含めた英語による言い回しで、手を差し伸べてきた。

 

「はい、大丈夫です?」

「なんだ君? 日本語喋れたんだね」

「まあ……」

 

 少女は差し伸べられた朱音の手を握り、彼女の力を借りて立ち上がる。

 スーツとアーマーが纏われている上に、指先にはオレンジ色の鋭い爪も伸びていたが。

 

〝あたたかい……〟

 

 朱音当人の手に流れるものらしき温もりが、伝わってきた。

 

〝草凪……朱音さん……ですよね?〟

 

 そう尋ねようとした直前、朱音の手が待ったを掛けてきた。

 

「まだ新手が来るか?」

 

 朱音が向ける視線の先へ、少女も眼を移すと――確かにノイズが〝バビロニアの宝物庫〟より現実世界に召喚されようとしている前触れである、空間の歪みが広範囲で起きていた。

 このままでは、先程以上の数のノイズが現れる。

 

「連中の狙いは君だろう?」

「え?どうしてそうと?」

「直感さ、話は後回しにして――」

 

 朱音は再び、胸部の勾玉(マイクスピーカー)から流れ出した伴奏に乗って歌い始め。

 

『私の傍から離れるな!』

「は、はい!」

 

 歌で使用中な口に代わり、勾玉からエコーの掛かった声で少女に忠告しながら、持っていたアームドギアを変形させていく。

 斧とハンマーが両端に付随するマルチウェポンは、ボディ部分の側面に刃が走り、まるで槍にも諸刃の剣にも見える斬撃武器の一面を持っているらしい鋭角的な形状のエレクトリックタイプギターへと相変わった。ギターは腰のアーマーから展開された、大型カメラのステディカムに似たサブアームがボディの背面に装着し、ショルダー役となる。

 朱音は右手でネックを握り、左手をボディ中央の弦に添えると、かき鳴らし。

 

〝さあ聞くがいい~~轟き響いて~~災いを浄化する~~旋律の光だ~♪〟

 

 引き続き、勾玉から流れる水がせせらぐイメージを掻きたてる伴奏とともに、歌声と燃え上がる焔の如きギターの調べが重なり合った、弾き語りの二重奏が宙に響き渡ったかと思うと、光を帯びたギター本体より、暁色で波状の光の流れが放たれる。

 津波の如くに広がり行く光の奔流が、実体化したばかりの新たなノイズたち全てに浴びせつけ。

 次の瞬間、ノイズはその場から一切微動だにしないまま……全てその場から炭素化され、粒子状に崩れ落ち、風に流されていった。

 

「これが…………ガメラ」

 

 少女――エルフナインは思わず口にしていた。

 草凪朱音が、今まさにその身へと纏っているシンフォギアの名であり。

 彼女の前世(かつて)……平行世界の地球の超古代文明と地球そのものが生み出し、生体兵器にして、生態系の守護神であった………怪獣の名を。

 

 最後の希望、その名は――《ガメラ》

 

 GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者 第二楽章-LUNAFALL――始まる。

 



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