ラスボス系の悪役として死にたい主人公君のロールプレイ (醜すぎる獣の集合体)
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悪役への道:入り口

 ネタを思いついたので


 悪役として死にたい。常々そう思っていた。

 

 いつからなのか定かではないが、たぶん、子供の頃からの夢だ。

 ちゃちなチンピラじゃない。ただの屑な極悪人でもない。自分にとっての『いかした』かっこいい悪役。

 

 でも、普通に悪役になるだけじゃいけない。悪役になるための『動機』が欲しかった。なるべく周囲を、世界を憎めるような動機。男女のもつれとかじゃない、もっと納得のできる『動機』だ。

 しかし、普通に生きていく上で、このような動機は容易く手に入るものではない。自分から見つけようとも思わなかった。それだけの努力をする気がなかったのだ。なんというか、美徳というか、固持というか。『ある日唐突に』をはじまりにしたかった。

 

 まあ、そんな贅沢を言っていたものだから、当然ながら悪役になれる訳でもなく。

 朝起きて、出社して、帰って。そんな毎日の繰り返しだ。

 

――そんな平凡な日常に終止符が打たれた。

 

 休日だった。なんとなく散歩に出かけて、歩道橋の途中で止まり、欄干に寄り掛かって下を見下ろす。

 歩道橋が崩れた。何の脈絡もなく、唐突に、ぼろぼろと勢いよく崩れ去ったのだ。落ちていく最中に思ったことは、ああ、つまらない人生だったな――と。そして俺は死んだ。

 

――そして俺はどこかにいた。

 

 混乱した。死んだと思ったらどこか別の場所にいたのだから。恐らく路地裏。自分の格好を見る。ボロボロの半袖に、膝丈より上の半ズボン。

 ボウフラの湧いた水たまりをのぞき込むと、薄暗いながらも、どんよりと頬の痩せこけた男が映っており、目の下の隈も相まって老けて見える。

 

 これは俺じゃない。だけど、俺だ。これは俺だ。そうだ、俺は覚えている。全部覚えている。

 

 捨てられた。必死に生きた。暴力を振るわれ、蔑まれ、それでも今日まで生きてきた。ああ、憎い。周りが憎い。幸せそうな奴らが憎い。助けてくれないやつらが憎い。

 

――今度は俺の番だ。

 

 思いがけずも願いが叶った。これこそが『動機』だ。少なくとも、死んだ俺にとっては降って湧いた幸運である。

 次に知識だ。正確には記憶だ。この青年の――前の俺の記憶が必要だった。必死に思い出した。そして理解した。この世界のことについて理解した。

 

――ポケモン。

 

 知ってる。どっちの俺も知ってる。死んだ俺はサブカルチャーのネタとして。前の俺は馴染み深い隣人であり、仲間であり、そして敵として。

 

 さあ、記憶は探った。知識もそれなりにある。いや、知識はまだ足りない。しかし行動するには元手がない。前の俺は何も持っていない。金もない。学もない。身分を証明する手立てもない。幸い、死んだ俺と前の俺の知識を照らし合わせたおかげで、多少の知識は補える。なら、次は金だ。金がいる。金があれば大抵の物は買える。

 今の俺は何がある? リュックサックを背負っている。下ろして中を確認する。汚らしい着替え、生活用品……空っぽのモンスターボール。

 

――そうだ、ポケモンを捕まえよう。

 

 この世界、ポケモンがいれば大抵のことはどうにかなる。金も手に入れられる。路地裏から表に出る。途端、通行人から蔑んだ目で見られた。もっと蔑め。動機が増える。

 町の入り口付近に叢があった。ここで捕まえよう――いた、見つけた。のんきに毛づくろいをしている。犬だ。黒い犬。ヘルガー? いや、進化前のデルビルだ。いいぞ、悪役が使いそうなポケモンだ。犬だから忠義心も高いに違いない。

 

 飛び掛かったら気づかれて火を噴かれた。熱い。鼻先を全力で殴り、怯んだところで蹴りを入れる。ひたすら蹴った。足の感覚がなくなるまで蹴った。そのうち動かなくなったので、生死を確認する。……よかった、生きてる。無駄にならずに済んだ。

 モンスターボールを押し付けると、赤い光となってボールの中に入っていく。揺れる。しばらくしてカチリと音が鳴り、静かになった。やったぞ、初めて捕まえたポケモンだ。

 

 たぶん、死んではいないだろう。ポケモンセンターに連れて行きたいが、身分を証明するものがないし、俺はこの近辺だと悪い意味で有名らしい。悔しいが、自然回復に任せる。……いや、待てよ?

 少し遠いが、シオンタウンという町なら大丈夫かもしれない。

 タマムシシティにサヨナラバイバイ。いつかお前らを恐怖のどん底に陥れてやる。

 

 関所だと間違いなく通行止めを食らうので、地下通路を通っていくことに。薄暗いから俺の格好を見られることもあまりない。隅っこの方で、何度か寝泊まりしたことがある。途中で小銭を幾つか手に入れた。ポケットに仕舞う。

 

 地上に上がる。もう少しでシオンタウンだ。道中で暴走族に絡まれた。自棄になってぶん殴る。顎に良いのが入ったらしい。仰向けに引っくり返った。

 そのまま気絶するまで暴行を加え、動かなくなったところで金と財布だけを頂いていく。他の物は地面に捨てた。臨時収入だ。

 

 道中のポケモントレーナーに嫌な顔をされつつも、シオンタウンに到着。ポケモンセンターに直行。入ると他のトレーナーに嫌な顔をされたが、構わずジョーイさんのところまで向かう。こちらを見て一瞬だけ顔を顰めたが、すぐに営業スマイルになった。

 

「あの、ポケモンがぼろぼろで……」

「身分を証明できるものはございますか?」

「すいません、こんな身なりなものですから……」

「……申し訳ございません、規則ですので」

「どうしても駄目でしょうか? 本当にひどい怪我を負っていて……」

「……わかりました。ボールをこちらに」

 

 情けに訴える作戦は成功した。俺は兎も角、ポケモンは放っておけないらしい。治療されたデルビルの入ったボールを手渡された。大袈裟に感謝しておく。こうすれば、自分より格下の相手に対して優越感で浸れるだろう。運が良ければ次も治してくれる。

 

 しつこいくらい何度も礼を言い、頭を下げ、ポケモンセンターを出る。そのまま来た道を戻り、隅っこの方でデルビルを出してやると、怯えた表情で伏せながらこちらを見上げていた。躾の時間だ。

 

「いいか、俺が上で、お前が下だ。わかるな?」

 

 渋々といった様子で頷いた。

 

「いい子だ。今は無理だが、金さえ入れば贅沢をさせてやる。だから強くなれ。俺と、お前のために強くなれ」

 

 そうやって撫でながら言い聞かせると、デルビルは最初よりも幾分か和らいだ雰囲気で返事をした。とりあえず、巻き上げた金で身なりを整えるところからはじめる。シオンタウンに服屋は……さっき張り倒した暴走族から金だけじゃなくて衣類も巻き上げておけばよかった。いや、まだいるんじゃないか? 駆け足君で向かうと――いた。

 ズボンと革ジャンを貰う。なんでこいつ半裸の上に革ジャンなんだ。まあ、初期装備の服でも誤魔化せるか。

 髪の毛は定期的に切っているが、それでもざんばらだ。床屋へ向かうべきだろう。幸い金は幾分かある。

 シオンタウンに戻り、床屋で髪の毛を整え、追加で頭も洗ってもらう。これだけでもだいぶ見違えた。これなら今までいた町――タマムシシティでもある程度は誤魔化せるはずだ。必要最低限の物をシオンタウンで買い揃えて、他に欲しいものはタマムシシティで買おう。

 

 

 

 

――タマムシシティに戻ってきた。

 町に入ると、特に誰も気に留めていない様子だ。時おり嫌な目で見られることもあるが、たぶん暴走族みたいな格好だからだろう。品がないだとか思われているのかもしれない。

 リュックサックは町の入り口に置いてきた。見張り役としてデルビルを置いて。ちゃんと見張れたらご褒美を与えるつもりだ。

 デパートに行き、服屋に向かう。安くて丈夫な服とズボンをひとつずつ。下着を数枚。それから、ポケモンの餌売り場で犬型のポケモンが喜びそうなジャーキーとガム。ポケモンフード。

 

 デパートを出て荷物の場所に戻ってみると、ちゃんと番犬としての役割を果たしていたデルビルがどや顔で鳴いた。頭を撫でてやり、それからジャーキーを与える。……気に入ったらしい。全部やる。骨ガムはあとだ。

 

 リュックを背負って再び町に入る。何人かに訝しげな顔をされたが、前の俺だと気づかれなかった。次は風呂を浴びたい。デパートへ行く前に入らなかった理由は衣類の問題だ。風呂を浴びたあとに、他人が着ていた革ジャンとズボンを着ていたくなかった。前の俺は水浴びで済ませていたようで、例えば公園の蛇口とかどこかの池で済ませていたらしい。

 民衆向けの銭湯へと向かう。ポケモンの同伴も可能らしい。ただし、蚤やダニが付いている場合はお断りだそうだ。たぶん、まあ、大丈夫だろう。石鹸も買って男湯へと向かう。

 

 

――さっぱりした。

 

 暴走族から剥いだ衣類はゴミ箱に突っ込んでおいた。あれはもう用済みだ。今は安物の長袖とジーパンを身に着けている。

 

 最後の締めとして、宿泊施設へと向かう。なるべく安いところがいい。カードがあればポケモンセンターに無料で泊まれるのだが、生憎と持っていない。前の俺の記憶を必死に探り、観光客から盗み聞きした安い場所へと向かう。素泊まりで四千円らしい。……なんとか足りる。情報の記載、名前は……オトギリブドウ。植物の名前でそれっぽくする。

 

 鍵を受け取り宛がわれた部屋へと向かう。――思っていたより狭い。部屋の半分がベッドだ。ただ、狭いながらも小さなソファーとテレビはあるし、トイレ、洗面台、シャワーまでついている。ポケモン用のトイレまである。

 ボールからデルビルを出すと、主人を差し置いて真っ先にベッドに飛び込んだ。ふてぶてしい犬だ。今回は見逃す。下ろしたリュックから骨ガムを出して放り投げると、嬉しそうに噛り付く。俺も疲れたので、ベッドに倒れこんだ。

 

 勢いのままに行動しておいてなんだが、さすがに無茶があったのかもしれない。冷静になった今、そう思う。

 しかしあまりにも幸先のいいシチュエーションだったので、たぶん相当に興奮していた。暴走族相手に殴りかかるなんて、死ぬ前の自分にはとてもじゃないが想像できない。勝てるとも思わなかったし。完璧に偶然だが、案外、勢いでどうにかなるものだ。

 

 さて、これからどうしようか。目標がいる。世界滅亡とかで良いだろ。悪役としての動機はあるし。

 あと必要なものは……正義の味方。そうか、そうだな、主人公を見つけよう。タマムシシティにいると言う事は、ここはカントーだ。なら、初代か?

 

――レッドさんがいるじゃないか!

 

 原点にして頂点、レジェンドオブレジェンド、レッド。いいね、悪くない。正義感に溢れる少年に倒される悪役なんて鉄板だ。あ、いや待てよ。今何世代目だ? レッドさんはいるのか? ……まあ、いざとなったら適当な子供を捕まえて洗脳でもなんでもすればいいか。こんなチャンスはたぶんもう二度とない。妥協も必要だ。一応、レッドさんの所在を確認しておこう。産まれてないなら産まれるまで待つさ。

 

 正義の味方はこれでいいとして……最期も考えておかなくては。どんなシチュエーションでやられよう。どんな風に死のう(・・・)か。

 生きて改心して主人公側に付く? ナンセンス。本物の悪役に死は必然である。まあ、死なない悪役もいるけど、俺はできれば死にたい。ラスボスになりたい。主人公を見下しつつ笑いながら死にたい。

 

 楽しみだ。とても楽しみだ。ああ、早く悪役として暗躍したい。歴史に名を刻みたい。早く――

 

 

――疲れたから今日は寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回はちょっとだけ書き方を変えました。主人公の心情の勢いを強くした感じ。読みづらい。

 以下登場人物


 主人公君

 ちょっと背が高い以外は、サラリーマンとして平々凡々な日常を送っていた主人公君が、何らかの要員でポケモン世界の主人公君の魂と融合し、新・主人公君に目覚めた。
 幼少の頃より悪役に憧れていたらしく、家にもダークヒーローだとか敵役のフィギュアが幾つか飾ってあるらしい。特に好みなのは裏ボスだとか真のボスだとか。
 本来はもう少し慎重派な人間だが、転生、憑依した体の持ち主の、暗い過去があるという、悪役道真っ盛りの最高なシチュエーションにアドレナリンどばどば状態だった。今なら子供を保護する施設とかがあったと思うんですけどね。まあ異世界ですから。良くも悪くも寛容と言う事で。
 ちなみに今時めずらしいポケモンをやってないにわか勢で、ネットや雑誌の情報を頼りにしているらしい。ただし、妙なサブカルチャーを拾っているため、下手すると原作を既プレイした者よりも変な方向で博識だったりする。




 デルビル

 悪役っぽいポケモンってなんだろうなと思った挙句出てきたのがこいつ。毛づくろいしてたら興奮状態の主人公にぼこぼこにされて捕獲。やや恐怖心があるものの上下関係は理解したらしく、元々の性質もあって無事手持ちに収まった。決め手はジャーキー。
 なお、初代だと登場しないが、のちの作品で七番道路に夜に出てくるようになる。日向ぼっこしようとしたはぐれが捕まったってことにしておこう。
 



 ジョーイさん

 全国共通の見た目をした謎の人物。ポケモンセンターって誰でも使えるんですかね? 個人的には犯罪者とか身分の証明ができない人は基本的に使えないことにしたんですけど。その辺は各担当のジョーイさんのさじ加減なんですかね? 今回はそんな感じにしました。ゲストキャラ枠。



 一話だけの短編っていいですよね。後先考えないでその時のことだけ考えればいいわけですから。まあ、明らかに続きがあるくせに一話だけとか、読者からするとやきもきするんですけね。ポケモンは五世代までやってたから、連載できたらいいなぁ(願望)



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悪役への道:一歩目

 つづいたんやで


 この体になって数日が経った。

 ポケモンバトルで金銭を巻き上げつつ、情報収集をし、それを自分なりに纏めたりして分かったことが幾つか。

 

 まず、俺自身について気づいたこと。

 以前まで満足に食事もできず、栄養状態が悪かったため老けて見えていた俺の顔だが、最近は人並みの物を食えているお陰で肉付きがよくなった。そのため、老け顔が改善されつつある。

 で、前の俺の記憶を色々と思い出して照らし合わせてみた結果、俺の年齢は恐らく十代後半くらい。思っていたよりも若い。

 ただ、前の俺は学がなく、その日を生きるのに精一杯だったため、この十代後半というのも非常にあやふやな予想だ。もう少しすればもっと顔全体がはっきりとしてくるかもしれない。

 

 次に、チャンピオンリーグのこと。

 どうやら現チャンピオンはワタルだそうで、今のところ代替わりはしていないとのこと。

 ポケモンジムが怒涛の勢いで制覇されてるなんて噂も聞かないから、たぶんレッドさんはまだ旅立っていないはず。せめて俺が悪役としての地盤を固め終えてから旅立ってほしい。

 

 それと、気になっていた『ロケット団』についても調べてみた。

 同じ悪役、しかも向こうは先輩だ。調べない訳にもいかないだろう。以前からちらほらとタマムシでも見かけていた。

 前の記憶は当然として、図書館だとか、備え付けのパソコンだとか、そういった方法で片っ端から情報を集めてみた結果。

 

 それなりの知名度で存在している。

 

 ただ、俺が知っているほど幅を利かせていないというか、まだそこまで表に出ていないようだ。

 それでも他人のポケモンを奪ったり、野生ポケモンの乱獲行為を働いているので、要注意団体程度のレベルはある。

 

 

 さて、この辺りで当面の目標を決めよう。

 

 身分証が欲しい。

 身分を証明する手立てがないため、公共の施設の大半が使えないのだ。

 ポケモン世界に肖って『オトギリ』や『ブドウ』だとかの植物関連の偽名を使ってるが、結局のところ偽名であるため、殆ど詐称に近い。

 それならさっさと作れと言われそうだが、考えてみてほしい。

 

 学歴なし住所不定の無職で自分の年齢どころか名前などの個人情報ですら持っていないような輩が、易々と地域で使える身分証を発行してもらえるだろうか?

 

 無理。

 

 記憶喪失になって生活保護を受けることも考えたが、未来の大悪党を目指す身としてはそこまで堕ちたくない。

 他にも就籍という非常にまだるっこしい方法で戸籍を得られるものの、別にそんな国にきっちり管理されているような身分が欲しいわけではなく。

 こう、手っ取り早く、都合の良い、いつでも捨てられるようなものが好ましい。念のため複数あれば文句なしだ。

 

 高望みしすぎ? いやいや、そんなことはない。当てはある。

 ここで重要なのが『ロケット団』という組織だ。表に出てこれない組織と言うのは、得てして独自の伝手やコネを持っているものだ。

 

 有体に言えば、ロケット団に力を借りようかと思っている。彼らなら身分の偽造くらい簡単にやってくれるだろう。

 犯罪者? 将来年端もいかない子供に殺人をさせようとするような輩が善人な訳がない。

 

 別に裏で取引できる伝手があるのなら他の組織や個人でもいいのだが、皆目見当がつかない。その点、ロケット団の事はある程度知っている。

 

 ちなみに、力を借りると言っても下っ端になるのはNGだ。

 いずれ作られるであろうwikiに『嘗てはロケット団の下っ端だった模様』とか書かれたくない。せめて『嘗てロケット団とはなんらかの繋がりがあった模様』とかの方がカッコいい。

 

 閑話休題。

 

 ともあれ、今後の課題は、ロケット団とできる限り対等な条件で雇用関係を結ぶ、もしくは同盟を組む、といったところか。……意外ときついな。

 手土産も考えておかなくては。いや、まず俺の事を印象付けることが大事か。なるべく知ってもらうためには……よし、あれでいこう。

 

 

――そんな訳でロケット団員を闇討ちすることにした。

 

 いや、手っ取り早く自分の存在をアピールするならこれが一番かなと。

 したっぱとは言え、数を熟せばそれなりに実力も示せるし。あくまで『アピール』が目的なため、団員にはなるべく傷を負わせない。

 去り際に『ミュウツ―』『赤い髪』『トキワジム』みたいな言葉を意味深に呟いておく。全部ロケット団のボスに関連する事柄だ。たぶん釣れる。

 

 というか釣れた。

 

 毎日何人かのしたっぱを張り倒して一週間くらい。昼時、オムライスを食い終わって食堂を出た辺りで話しかけられた。

 声を掛けてきたしたっぱは、したっぱの割には豪く丁寧で柔らかな物腰だった。

 少なくとも、チンピラみたいなやつに相手をさせない程度には、俺のことを無視できない存在だと思っているらしい。

 その結果に安堵しつつ、同行する旨を伝えれば「ついて来て下さい」と言われた。断る理由はないため、大人しくに後に続く。

 

 はてさて。鬼が出るか蛇が出るか……

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はじめまして、と言うべきかな」

 

 サカキ様キタコレ。

 下っ端に案内された場所は謎の部屋だった。ざらざらとしたマットが敷かれ、向かい合うように置かれたソファーと、間に挟まれたテーブル。洒落た観葉植物や何かが飾られた棚。全体的にシンプルな造りの応接間と言ったところか。清潔感がある。

 

 それなりに広い部屋の壁際には複数のロケット団員がこちらを監視するように控えており、何人かは、明らかに苛立った様子で俺のことを見ている。

 たぶん、仲間がやられたのに報復すらさせてもらえないのが気に食わないのだろう。

 

「早速で悪いが」

 

 気づかれない程度に室内をチラ見して把握していると、サカキが緩慢な動きでこちらの顔に視線を固定させる。

 

「――どこで知った? いや、どこまで知っている?」

 

 瞳が、言葉が、雰囲気が。まるで刃のような、或いは重々しい威圧感を携えていた。先ほどまで余裕な対面していた時とはまるで違う。

……なるほど、と。

 腐っても悪の組織をしているだけはある。認めたくはないが、確かに恐縮してしまいそうだ。

 

「……はてさて、なんのことやら」

 

 しかし、こちらとて将来は悪役である。仮に今は木端な存在でなんの後ろ盾がないとしても、それを表に出してはいけない。虚勢で乗り切るのだ。

 

「あなたのお子さんのことですか? それともミュウツー? あるいは表の立場? すいませんねぇ、何分、残飯漁りと小銭稼ぎしか能がないものでして」

「……まさしくそれだよ」

 

 サカキがそういうと同時に、控えていたひとりがサカキに一枚の紙を手渡す。

 

「誠に勝手ながら、君の事は調べさせてもらった。この町に来たのは凡そ十年ほど前か? 少し前までは随分と不便な生活を送って来たらしいじゃないか。禄にコネも伝手もない。仲間もいない。そんな君が、私の事を知る機会があるとは、到底思えない」

「よくお調べで」

「悪い意味で有名だったからな、君は。タマムシシティにいる部下の殆どは君の事を知っていたよ。生きているのが不思議なくらいに役立たずの臆病者としてね」

 

 前の俺、随分と悪く言われているじゃないか。まあ昔は子供にすら石ころ投げられてたくらいだし。しかもやり返さないんだよな、ほんと無能。俺も連中の事は反吐が出るほど嫌いだけど。

 

「さて、今のを踏まえて改めて聞かせてもらおうか。どこで知って、どれだけ知っている?」

 

 先ほどと同じ問いかけだ。この威圧感にも幾分か慣れてきた。

 ちなみに、調べられるのも突っ込まれるのも想定済みだ。幾ら屑どもの寄せ集めとは言え、組織自体はそれなりに大きな規模をしているのだから。出来るならタマムシに来る前の俺の事も調べておいてほしかったが……まあ、いいか。

 そしてこの場合の秘策も用意してある。

 

「――どうでもいいことだと思いませんか?」

 

 秘技、とぼける。

 いや別にふざけているわけじゃない。寧ろ至って真面目だ。

 原作知識なんて話せないし、先ほど言われたように仲間がいる訳でもないので人づてに聞いたとも言えない。

 そうなると、そんな事どうでもいいじゃないかと誤魔化すのが一番だ。……場の空気が一気に悪くなってしまったが。特にしたっぱどもの敵意が半端ない。

 

「……ふざけているのか?」

 

……さて、ここからは俺の演技力が試される。賭け事は好きじゃないが、まあ、人生経験豊富な方が、悪役としての地位も価値も上がるだろう。

 

「いいや。まったく、これっぽっちも。ねえサカキ様。私ね、あなたを知っているんです。ああ、安心してください。別にあなたの部下が情報を漏らしたとかじゃないですから。本当ですよ? 本当に。嘘じゃないんです。だからね、ええ、そこは心配しなくてもいいんです。だからあなたはなにも気にする必要はありません。ただ、知っているだけなんです」

 

 それっぽい態度とそれっぽい言葉で畳みかける。早口だから耳を傾けざるを得ないし、吟味する必要もあるだろう。できればもう幾つか俺にとって都合の良いことがあれば……

 

「――! あ、あなた――っ」

 

 団員の一人がはっと我に返り、我慢できないという様子で声を荒げた。ちょうどいい。

 

 デルビルの入ったモンスターボールを上に投げる。視線が集まったところで、たったいま声を出した団員――女の下っ端団員に詰め寄り、右手で相手の顔を掴み、後頭部を壁に叩き付ける。女の手からモンスターボールが転がり落ちた。脅しを掛けようとしていたらしい。

 衝撃で怯んで膝をついたところで顔面に此方の膝を打ち込み、カーペットに倒れ伏したところで体を蹴る。ひたすら蹴り続ける。

 

「なあ、おい、あんたな、君。いま俺があんたらのボスと話してるだろ? わからんのかい? ん? 何様だよお前。自分のボスの顔に泥つけようとしてんじゃねえよ。死ねよ。殺すぞ」

 

 横っ腹に衝撃が走り、吹き飛ばされた。痛みを見せないようにスクっと立ち上がる。……何匹かポケモンが出ている。デルビルは……ああ、凄いな。あのなりで殆ど牽制している。それでも駄目だったのか。クソが。でもいい。痛いのは慣れてる。

 

「そこまでにしてもらおうか」

 

 サカキが言った。不思議なことに、怒りは見られない。何を考えているのわからない。

 

「あー……ええ、すいませんね。話を邪魔されるのが嫌いでして。立派な忠義心を持った部下をお持ちだ」

 

 言いつつ、できるだけ満面の笑みを浮かべ、威嚇しているデルビルを宥めてから席に戻る。……あのヤミカラスだな。

 ヤミカラスに特攻を掛けさせた団員に微笑みかけておく。睨み付けられた。

 

「さて、取引を始めましょうか」

 

 

 

 

 

――成し遂げたぜ。

 

 上手くいくかどうかは不安だったが、案外どうにかなるものだ。

 死ぬ前の記憶だが、大百科にサカキが『高潔な武人肌』と書かれているのを思い出した。つまりサカキは根が真面目な人間。向こうの不手際を見つけて、それにケチをつけて無理やり同盟を組んだというわけだ。

 

 それとあれ、したっぱに暴行を加えたとき。一見すると理不尽だが、俺がサカキの地位を重んじる言葉を口にしたのも追加点だったと思う。

 どれだけ相手が失礼な態度でも、上司よりも先に部下が切れちゃいけないよ。ああいう場面だと、上が責任を取らされるから。

 しかもあの部屋にいたってことは、少なくとも、サカキにある程度は信頼されてた証拠だ。エリートに近い。エリートかどうか知らないけど。

 とはいえ、私情を呑み込んで立ち振る舞えるのだから、普通に優秀なんじゃなかろうか。

 

 俺だってね、本当はこんなチンピラみたいなことしたくなかったんだよ。ミステリアスな男の体で行きたかったんだ。でも妥協した。後ろ盾も何もないし、何よりずっとあんな状態が続くとボロが出そうだったから。たぶん俺のガバガバ作戦ばれてたな。

 

 ちなみに、取引の内容を大まかに説明すると

 

・こちらからは情報の提供と必要な時に手を貸すこと

・向こうは身分証明書の偽造と伝手やコネによる表に出せない取引相手の提供

 

 と言ったところか。かなり破格。文字通りの協力者だ。下に付いたわけじゃないからセーフ。

 取引相手に関しては、恐らく切り捨てられる程度の小規模なものかもしれないが、それでも裏の売買が出来るなら構わない。自分でパイプを広げていけばいいだけだ。

 

 今回はかなり満足のいく結果だった。ただ、サカキは割かし部下想いだったはずなので、いつの日か仕返しされるかもしれない。怖い。どうしよう。強くならなきゃ。

 

 どうでもいいけど、今日かなり頑張ったデルビルには、アホみたいに高い肉をトッピングしたポケモンフーズを出した。

 俺? コンビニで買ったカツサンド。美味い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――よろしかったのですか、サカキ様」

 

 報告書を流し読みしていたサカキの傍に立っていた部下が、ぽつりと呟くように言った。恐らく、昼頃にやって来た件の男のことだろう。

 

 

「何か問題でもあるか?」

「なっ――大ありです! あのような身分もなく、情緒不安定な男を協力者として迎え入れるなどっ! 万が一にもサカキ様に何かあれば……」

 

 確かに、部下が言うように、サカキのところに来た男はおかしかった。

 痩せぎすで、背が高く、安物の衣類を着た男だ。終始ずっと笑みを浮かべていたが、瞳はどんよりと濁っていた。怪しさの塊と言った風貌だ。

 しかし、礼儀はあった。慇懃無礼だが、口調は基本的に丁寧だったし、サカキの話を遮らずに、最後まで姿勢よく聞いていた。

 あの後の凶行にはやや驚いたものの、あれは逸った部下の方にも少しばかり問題があるし、後遺症の残るような怪我も負っていない。

 

 そして何よりもあの動き。無力化するまでの動きは素晴らしかった。

 

 モンスターボールで気を逸らし、敵意を向けてきた団員に詰め寄って鎮圧し、止めようとした部下を投げたモンスターボールから出てきた男の手持ち……デルビルが足止めをする。

 部下がポケモンで応戦しようとすれば、容赦なく小さな火でモンスターボールを持つ手を攻撃されて無力化されていた。

 

「ククッ……」

 

 つぶさに観察していたサカキにはわかる。話すときも、暴れるときも、動きの一つ一つに理性があった。情緒不安定? とんでもない。あれにとって、全ては織り込み済みなのだ。そうやって見せているだけだ。

 

 実力はある。頭の回転も悪くはない。

 

 つまるところ、サカキは先程の男を気に入ったのだ。

 しかし、傘下として扱うには中々癖が強そうだと思い、それなら言われた通り協力者として迎え入れようと思った次第である。

 部下からは多少の不満はあるだろうが、元々ロケット団は実力主義で、しかも流されやすい傾向にある。あれだけの実力があるのなら、そのうち文句もなくなるだろう。こちらは不都合が起きない程度に見張っていればいい。

 

 情報の真偽に関しては、調べ直して裏をとればいい。尤も、サカキとしては一定の信頼はあると思っている。何せあの男はサカキの名を口にしたのだから。

 サカキは自分の存在を秘匿している。これだけは部下にも徹底させていた。外で口外することはまずない。あの時の会話を思い浮かべるに、サカキの立場もある程度知っているのだろう。

 どのような方法であれ、それを知り、また確信してあの場に赴いたと言う事は、多少なりとも情報の価値や使い方を分かっていると言う事だ。

 

 悪くない。悪くない駒だ。精々利用させてもらうとしよう。

 

 そう思いつつ、サカキは小さく笑った。

 

 

 

 




 地盤固めの時期です。連載ってむつかしい。

 いや、正直続ける気はなかったんだけど、結構いろんな人が読んでてお気に入り登録なんかもされてて嬉しかったというか。

 日間にランクインしてるのを見たときは目を疑いましたよ。やっぱみんな悪役が好きなんやなって。意外に恋姫の方も見てもらってたんですね。

 察していると思いますが、この小説、主人公が悪役するだけあって普通に残酷な描写とかありますからね。基本的に行き当たりばったりだし馬鹿っぽいけどちゃんとやらせますから。

 ところで、ロケット団ってどれくらい昔から活動してるんでしょうか? 調べてもよくわかんないから適当な設定にしてますけど。 
 あ、サカキ様の設定は半分以上妄想の産物です。これくらいちょろくしないと私の頭ではとてもついていけないので。馬鹿でごめんね。



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悪役への道:二歩目

 あついんやで


※半年から二ヶ月に修正。戻すかも。


 白昼堂々と胸を張って公共施設を使えるって素晴らしい。

 ロケット団との熱い戦闘を繰り広げてから二ヶ月近くが経った。彼らのお陰で偽造した身分証――今回はトレーナーカードを数枚入手できた。

 ポケモントレーナーなら、これがあれば基本的にどの施設でも利用できるようになる。

 普段は『オトギリ』の名前を使っているが、都合が悪くなれば捨てて別の名前を使うことも可能だ。強いて言うのなら顔写真の映りが悪いというか……まあ、態となのだが。これでサングラスや眼鏡をかけて別人だと言い張るのだ。狡い。髪を伸ばしたり切ったりしてもいいらしい。どうでもいいけど身分証の年齢は主に十八から二十くらい。

 

 ああ、そうだ。顔写真で思い出したが、俺の顔つきがよくなった。前よりくっきりとしたと言うべきかもしれない。

 で、その感想。なんか老け顔寄り。なんでや。美味い物食って健康にも気を使い始めてるのに。これはもうイケメン路線は無理そうだ。

 ただ、幸いと言うか悪人面ではあった。めっちゃ嬉しい。神様が悪役として殺されろって啓示してるレベルの好待遇。オトギリさんはしっかりと悪役をやりますよ。

 

 身分証だか顔だかはこれくらいにして、次は新しい収入源だが、これはロケット団のコネや伝手で紹介された相手との取引が大元になった。

 

 何を売るかって? ポケモン。

 

 いや、別に毛皮とか骨とかを売るんじゃない。少なくとも、直接殺生に関する売買はまだやらない。俺が売るのは生きたポケモンだ。

 

 実はロケット団の主な収入源にポケモンの売買がある。

 

 彼らは人海戦術で乱獲したレアなポケモンを高額な値段で売りつけるのだが、乱暴な団員が多いためどうしても扱いが雑になってしまうのだ。

 そうすると、ストレスで弱ったり人間不信に陥ったりするポケモンが出る。結果、商品の価値が落ちる。これは専門職でもどうにかするのは難しいらしい。

 

 とはいえ、ロケット団からポケモンを買うのは、ただ飾っておきたいだけの富豪だったり実験に使いたい研究者だったりが殆どなので、あまり問題はなく、寧ろ他の事業にも手を付けている彼らは結果的に黒字続きだ。

 

 そして、俺はそんなロケット団とは逆。大口ではなく、小口の客を相手にポケモンを売り捌くことにした。

 

 近辺で捕まえる、もしくは購入者負担でロケット団から仕入れ、それを顧客の要望に合わせて適切な躾と育成を行い、最終的に高い値段で買ってもらう。

 同じポケモンを条件として、ロケット団が捕まえただけのポケモンと俺の育てたポケモンを売った時の値段を比較した場合、凡そ二倍~三倍ほどの差がある。

 

 お陰で懐が温かい。以前よりも上等な服を着れて、高くて美味い物も食える。

 まあ、服は組み合わせればそれっぽく見せられるし、安くても美味い物の方が舌に馴染んでるんだけど。死んだ俺も前の俺も貧乏性だった。

 

 なお、ポケモンの売買そのものは合法だ。

 保護区で捕まえるとか、珍しいポケモンを売るだとか、あと詐欺をすると捕まる。ボールで捕獲しないで野生産をそのまま売るのも処罰対象。生態系の崩壊するような事も駄目。乱獲なんて以ての外。

 尤も、ポケモンを売るなんて世間的には良い目はされないし、かなりグレーゾーンだ。国連が初心者に配布する用のポケモンを育成しているのは聞いたことがある。そうなると、コイキング売りはかなり冒険してるなと思う。

 俺の場合は完全に違法。捕まえずに野生産のものを使用しているので。

 躾けたポケモンを客にボールで捕まえさせた方が懐きやすいのだ。

 

 ちなみに、最近一番高く売れたのはエーフィ。

 主人の事をべろべろに甘やかしてくれて、自分の事よりも持ち主のことを優先させるくらいのご主人様至上主義にさせた。

 料理もできるようにしてくれと言われたときは正気を疑った。やったけど。エスパータイプで助かった。今頃はラブラブな生活を送っているのではなかろうか。三百万前後だったはず。

 いまは安アパートに住んでいるが、もう少し貯めて地下室付きの一軒家を買いたい。

 

 

 そういう訳で、晴れてロケット団の協力者として迎え入れられたお陰でなんとか蓄えも、仕事も、住む場所も手に入れられた。そろそろ仕事を休もうと思う。

 こういうのは時期が大切なのだ。通常ガチャよりも限定ガチャの方が財布が緩む理論。つまりそういうこと。

 

――で、休みの使い道だが、レッドさんに会いに行こうかなと。

 

 やはり未来の好宿敵という存在は、悪役からすると心躍る存在なのである。今のうちに顔合わせを済ませておきたい。観察日記をつけねば。握手せねば。サインを貰っておかねば。

 

「じゃあよろしく」

「え?」

 

 部屋の隅でじっとしていた女にそう言ってから、最低限の荷物が入ったリュックサックを背負う。前に使っていたやつは捨てた。

 

「――ちょちょちょちょちょ、待って、待ってください! よろしくってなに!? どこに行くのか教えてくださいよ!」

 

 部屋を出たら追いかけてきた女がしがみついてきた。騒がしいな。見下ろしてやると、視線に気づいた女がびくびくと怯えながら距離を取った。

 

 実はこの女、俺が以前サカキと取引をしているときにイキっていたあのしたっぱ団員だ。俺がボコったあの女。

 

 このアパートと契約して三日後くらいに玄関先に立っており

 

『連絡係として来ました、今日からよろしくお願いします』

 

 と、豪く気合の入った凛とした感じで頭を下げていた。

 顔を上げて俺のことを誰だか認識できた途端、倒れそうなくらい膝を震わせて涙目になっていた。笑える。

 仕方がないので家に招き入れ、緑茶と饅頭を出して落ち着くまで何もせずに待ってやった。手間かけさせやがって。

 

 ちなみに、白と赤の入り混じった髪と金目が特徴なので、俺はこの女を密かに鶏と呼んでいる。本名も知らないし。

 

「マサラタウンに行ってくる。そのうち帰ってくるから、そう伝えておいて。あ、帰るなら大家さんに鍵を閉めるように頼んでから帰って」

「えぇ……?」

 

 何やら困惑しているしたっぱ女を置いて今度こそ出かける。出来ればこの旅で手持ちも増やしておきたい。

 

 

 タマムシを出る。関所で偽造したトレーナーカードを見せると特に何の問題もなく通れた。

 道中、トレーナーに絡まれながらもヤマブキからクチバ、それから11番道路方面へ。

 オニスズメがいたが、捕まえるのをやめた。悪っぽくない。そのうち飛べる奴と泳げるやつも欲しい。

 現実世界で秘伝技なんてわざわざ覚えさせる必要ないんだよ。飛べる奴は飛べるし、泳げるやつは泳げる。手っ取り早く人間を運ぶ手段を覚えるのが秘伝マシンだ。

 

 時おり道草を食いつつ、ようやく本命のディグダの穴へと入る。

 思っていた以上に暗い。小型の懐中電灯を持ってきていたので、その明かりを頼りに洞窟を歩く。

 念のため、ヘルガーを出しておく。気が付いたら進化していた。弱点突かれたら一発で瀕死にされそう。

 そういった懸念があったものの、一切と言っていいほど絡まれなかった。ヘルガーの方が強いのかもしれない。

 多少煩わしい視線を感じたが、数の暴力で特攻をされると面倒なので、手を出されないのは正直助かった。

 

 そんなこんなで、降りた時とは逆に梯子を登って地上へ上がる。

 今回、ニビシティに用事はないため、真っ直ぐゲートに向か――いあいぎりの木だ。忘れてた。ナイフなんて持ってきていない。

 

 でもなんか普通に横から通れそう。そう言えばこれと似たような木が、ここに来る前にぽつんと建ててあった家の横に積み重ねてあった気がする。もしや切ってもすぐに生えてくるのか? 生命力強すぎだろ。

 

 馬鹿げたことを考えつつ、なんとか隙間に体をねじり込ませ、今度こそゲートを通ってトキワに。

 

 

 

 トキワに着いた。

 歩きっぱなしだった所為で、流石に疲労を感じる。近くの自販機で水を買ってベンチに座った。

 タマムシほどの喧騒はなく、個人的にはこちらの方が好きかもしれない。引っ越そうかな。

 

「――ん?」

 

 ぼんやりと辺りを眺めていると、今しがたフレンドリーショップから出てきた老人が目についた。……あれ、オーキド博士じゃね?

 何やらダンボール箱を重そうに抱えて出てきた博士は、よたよたと今にも転んでしまいそうな足取りだ。……これは僥倖だ。顔見知りになっておけば後々役に立ちそうだ。

 

「おじいさん、お手伝いしますよ」

 

 近づいて話しかけると、オーキド博士はいま気づいたと言わんばかりに此方を見た。

 

「――おお、そりゃ大助かりですな! しかし忙しくはありませんか?」

「ええ、問題ありませんよ」

 

 荷物を受け取る。なるほど、確かに重い。子供や老人には辛そうだ。まあ、今の俺には余裕だが。

 

「どこまで?」

「申し訳ないが、マサラタウンまでお付き合いいただいてもよろしいかな」

「わかりました。では行きましょう」

 

 軽く言葉を交わしてからマサラタウンに出発。

 途中、お互い自己紹介も挟んだ。オーキド・ユキナリと名乗られたとき、一応驚いた振りをしておいた。

 有名人が困っているから助けたと言うよりも、知らないおじいさんが困っているから助けたという体の方が印象が良さそうだから。

 

 小型のポケモンにやられるほど弱くはないが、流石に蹴って瀕死にさせるのは好感度パラメーターが下がりそうなので、仕方なくヘルガーを護衛として歩かせる。

 

「ヘルガーですか。こりゃまた随分と珍しい……もしやジョウト地方出身で?」

「いえいえ、実は半年ほど前にデルビルを見つけましてね。そこで捕まえたんですよ」

「ほほー……はぐれ、と言うやつですかな」

「恐らくは」

 

 意外と会話に花が咲いた。

 博士自身が気さくで、それでいて空気の読み方も上手なため、つい不要なことまで喋ってしまいそうになる。気をつけねば。

 それなりに調子よく歩き、無事マサラタウンに到着。

 

「そうじゃ、どうせなら茶でも飲んで行かれませんかね。ここまで来てくれた礼をしないのもわしが落ち着かない」

「では、喜んで」

 

 さて、レッドさんに会えるかな。

 

 

 

 

 

 

 

――マサラタウンは結構な田舎で、駄菓子屋などの子供心に心動くものもあるのだが、如何せん娯楽が少ない。

 そうなると、子供らしい遊びの他にやれることは、オーキド博士が使っている研究所くらいしかない。実際、研究所の庭に放たれたポケモンとの触れ合いは楽しい。

 

 そんな理由もあって、グリーンと、レッド、それからリーフの三人は、いつものように祖父の使っている研究所に向かっていた。

 

「お邪魔しまーす」

 

 ドアを開け放ったグリーンの後に続いて、幼馴染の二人も「お邪魔します」と言って研究所に入る。

 

「あ、みんないらっしゃい。オーキド博士なら奥の方でお客さんとお話してるよ」

「あれ、今日お客さんがくる予定ってあったっけ」

 

 すっかり顔なじみの研究員に言われたことに、グリーンは必死になって記憶を探るものの、どうにも思い出せない。

 

「ううん、違うよ。オーキド博士がトキワシティに荷物を取りに行ったんだけど、途中でばてちゃったらしくてね。代わりにここまで運んでくれた人にお礼としてお茶を振る舞ってるんだ」

「なんでそんな無茶したの?」

「若いもんには負けん。儂の勇姿を孫に見せつけるときじゃ、だって」

「えぇ……?」

 

 グリーンが呆れると、研究員が苦笑した。恐らく、同意しているのだろう。孫大好きおじいちゃんもここまで極まったか。

 

「じゃあ、今日は遊べない?」

「えー」

「やだー」

 

 すかさず他の幼馴染達から不満が出るも、しかし研究員は首を横に振った。

 

「大丈夫だと思うよ。博士も、君たちが来たら通してもいいって言ってるから。あ、でも挨拶くらいはした方がいいかも」

「ん、わかった」

 

 じゃあね、と手を振るグリーン達を微笑ましい目で見送る研究員を横目に、三人はオーキドがいるであろう場所まで歩を進める。

 

「あ、いた。ほんとに誰かとお話してる」

 

 行ってみれば、確かに向かい合うように座った男性が二人。片方はグリーンも良く知っている見慣れた白衣姿の祖父、オーキド・ユキナリ。

 もう片方は知らないし、見たこともない。

 茶色いズボンと、黒い長袖。丸めた上着とリュックを膝の上に置き、何やらお互い楽しそうに話をしている。

 

「……ねぇ、挨拶しなくていいの?」

「……ぁ、うん。そうだね。じいちゃーん」

「ん――? おお、お前たちか。ちょうどいい、こちらのご客人に挨拶をしなさい」

 

 どうやらじっと見ていたらしい。リーフに袖を引かれてようやく気が付いたグリーンは祖父を呼んだ。

 こちらの呼びかけに気づくや否や、オーキドが三人に自己紹介するように促した。

 

「はーい。グリーンです。じいちゃんの孫してます。よろしくお兄さん」

 

 こういう時、真っ先に挨拶をするのはグリーンの仕事だ。

 よく祖父の仕事を手伝っているのもあって大人たちに囲まれることが多く、初対面の相手にも物怖じない。

 他の幼馴染たちは少しばかり人見知りなので、グリーンが挨拶をしないといつまで経っても声を出そうとしないのだ。

 

「えっと……リーフ、です。孫じゃないです。よろしくお願いします」

「レッドです」

 

 こんな調子。

 おどおどとするリーフは兎も角、レッドに関してはもう色々と駄目だ。思わず頭を抱えそうになるグリーンが男の方を見ると、何やら自分たちを見てひどく驚いたような表情をしている。

 

「あのー……」

「――ん、あぁ、うん。大丈夫。ちょっと眩暈がね。俺はね、オトギリって名乗ってるんだ。よろしく、三人とも」

 

 どうやら怒っている訳ではないらしい。ひとまず安心した。

 

「そうじゃ、お前たちポケモンと遊びに来たんじゃだろう? どうかねオトギリ君。キミのポケモンをこの娘たちに見せてやってはくれないか?」

「え、ポケモン持ってるの?」

 

 真っ先に食いついたのがグリーンだ。祖父が研究者なだけあって、ポケモン関連には目がない。

 

「ははは。ええ、構いませんよ」

 

 言って、男がベルトに下げたモンスターボールを取り出し、かちりと音を鳴らした。

 次の瞬間、赤い光と共に飛び出したのは、しなやかな体を覆う骨のようなものと、後ろ向きに湾曲した角。先端が針のようになっている尻尾。

 まだグリーンも見たことがないポケモンだった。

 

「ヘルガーと言ってな、カントーじゃ滅多に見れんぞ」

「え、じゃあどこにいるの?」

「ジョウト地方じゃな。中々どうして珍しいポケモンじゃ」

「へー……お兄さん、触っても大丈夫?」

「もちろんだとも。構わないね?」

 

 オトギリがヘルガーに問いかけると、ヘルガーは特に不平不満を漏らすことなくその場に伏せた。

 わっと群がる三人の少女。

 

「すまんのぉ、こういう機会は中々ないもので」

「どうぞどうぞ。しかし元気な子たちですねぇ」

「うむ、自慢の子たちじゃよ」

 

 嬉しそうに三人の少女たちを見つめるオーキドを横目に、オトギリは誰にも聞こえない声で小さく呟いた。

 

「――予想外だなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

――未来の好宿敵たちが性転換してた件。

 

 なんだかなぁ……複雑な気分だ。

 初代は男主人公だけだが、GBのリメイク版なら男女どちらも選べる仕様だったはず。選ばれなかった方は本編に出てこない。

 しかし、今回は両方とも出てきて、しかもどっちも女。その上ライバルまで女になってるなんて想定外すぎる。

 

 ちなみにレッドさんは黒髪ショートの少女。

 ライバルのグリーンは前髪をちょとトゲトゲさせた茶髪の少女。

 女主人公のリーフが原作のをまんま小さくした感じ。

 

 年齢を聞いてみたところ、全員が七歳とのこと。

 あと四年くらいで地盤を固める必要があるのか……まあ、大丈夫だろう。やりようはある。

 

 なお、もう遅いからと言う理由でオーキド博士の孫娘たちの家に泊めてもらうことになった。もちろん、オーキド博士同伴で。

 さすがに女子供のいる家に赤の他人だけ泊めるのはどうかと思われたのだろう。それにしても豪く気に入られたな俺。お礼として、信頼されている恩師枠として抜粋してあげよう。

 

「おにいさーん。ねえちゃんが晩御飯の支度できたってー」

「今から行くよー」

 

 原作登場人物が性転換してても関係ない。俺のために精々頑張ってもらうとしよう。

 

 

 




 ハーメルンで結構色々な小説を読むんですよ。当然ポケモンも。

 そういうの読んでると、レッドさんがTSする小説とかリーフ(ブルー)が出てくる小説とかも結構あるんです。ただ、グリーンが女の子になる小説って少ないんですよね。
 でも、一人だけ男の子なのも可愛そうじゃないですか。だから、いっそみんな女の子として出してあげようと思いまして。女三人寄れば姦しいってね。両手に花なんて許さねぇからな。

 ちなみにレッドさん、原作だと物まね娘相手にちゃんと喋ってるんですよね。
 懐いた相手とか同世代、もしくは、年下相手だと饒舌になるんじゃないかなとか思ったりしてます。主人公に対する好感度は十くらいです。

 それと、ポケモン売買について。
 殆どオリジナルな設定です。調べれば調べるほどわからない。
 ただ、原作のゲームだと、ポケモンの売買自体は合法らしいです。大百科に書いてた。
 とりあえず、主人公には非合法なブリーダーになっていただきました。彼ならきっと殆どのポケモンをお客さんの望むように育ててくれるでしょう。


PS・ペーパーバック法は良くないらしいので、それっぽく差し替えました。申し訳ありませんでした。
 


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悪役への道:三歩目

 りんごすのどりんくのんだらむせたで


 レッドさん含めた三人衆に会いに行ってから一週間近く経った。

 

 一泊した次の日に帰ろうと思っていたのだが、オーキド博士が『もう一日くらい泊まっていけ』と言うのを何度も繰り返した所為で予定より少し長く滞在してしまった。

 

 もちろん、そのときの宿はお孫さんの家。

 

 お陰様で、オーキド家の長女と次女の懐き具合と言うか、好感度が高い。もうなんか家族の一員にされてる気分。

 その証拠に、当初はどことなく距離を取って『お兄さん』呼びだったグリーンが、今では『兄ちゃん』呼びになって一緒の風呂で寛ぐくらいには懐いた。腹筋をさわさわするのをやめてほしい。興奮はしないものの、こそばゆくて妙な気分になる。

 

 長女のナナミに、こんな男を信用していいのかと聞けば、曰く

 

「おじいちゃんの連れてきた人が悪い人とは思えないから」

 

 とのこと。

 すいません、将来カントー地方に災厄をばらまく予定なんですよ。あなたの妹さんの幼馴染に人殺しをさせようとしているんです。言わないけど。

 

 それと、グリーン以外の幼馴染の反応だが、最初よりは随分と懐いてくれた。

 

 鬼ごっことか、かくれんぼとか、全員纏めて担ぎ上げるとか。菓子も買ってやった。

 他にも、トキワシティやトキワの森、ニビシティの博物館に連れて行ってやったのもよかったのだろう。ニビシティなんかは三日連続くらい連れて行ってくれとごねられた。

 

 子供だけで行くのは些か不安だが、俺のようにある程度戦える大人が同伴なら問題ない。オーキド博士のお墨付きだ。

 そんなオーキド博士が言うのならと、周囲の親御さんも納得している様子。娘をよろしくとかなり良くして貰った。

 

 オーキド博士の人望が半端ない。そんでもって、なんで自分があの博士にここまで気に入られたのかもわからない。

 

 とはいえ、好感度はそこそこに稼いだだろう。

 その証拠に、帰るときにはみんなして別れを惜しんでくれた。

 さらに餞別として、三人からはそれぞれの小遣いを少しずつ出し合って作ったと言うペンダントを貰った。原作主人公たちの繋がりだと思えば悪くない。

 

「じゃあ、またね。にいちゃん」

「お兄さんまた遊ぼうね」

「ばいばいオトギリさん」

 

 順にグリーン、リーフ、レッドさん。

 見送りに来た三人の少女たちに手を振り、マサラタウンを後にする。さて、帰ったら仕事用のメール確認しなくちゃなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 何事もなく帰宅――とはならず。

 

 何をとち狂ったのか『ちょっと冒険でもしようかな』などという思考に陥り、トキワの森からニビシティ、お月見山の洞窟、ハナダシティ、トキワシティ経由でタマムシに帰ってきた。くっそ疲れた。

 

 ただ、幸いと言うべきか、骨折り損のくたびれ儲けとはならなかった。トキワの森ではビードルを捕まえ、お月見山で幾つかの化石を手に入れた。

 復元するかどうかは別として、手元に置いておこうと思う。オークションで高く売れそう。なんの化石かは今一よくわからない。

 

 

――それはそれとして、俺が安アパートに帰って来た時の事だ。

 

「あ、おかえりなさい。随分長い事家を空けていましたね」

 

 鍵を開けて中に入ってみると、鶏こと連絡係のしたっぱがエプロン姿で出迎えてくれた。

 はて、俺はこいつに合鍵を渡しただろうか。そう尋ねれば否定され、ならば何故ここにいるのかと聞くと

 

「最近、あなたにやられた他の団員がどうも仕返しをしようとしているらしくてですね。あなたの帰りが遅いと報告したところ、空き巣にくるかもしれないから留守番をしておけと」

 

 本来なら俺が帰ってくると同時に出ていくつもりだったらしいのだが、何日経っても戻ってこず、仕方なく今日までここで暮らしていたらしい。なお、合鍵は大家のマスターキーを借りていたと。

 

 生活用品等は経費で落とせるのだが、冷蔵庫の中身に賞味期限が切れそうな物があり、さすがにそれは使わせて貰ったとのこと。まあ、余らすよりはマシなので特に言う事はないのだが。

 

 なんとなく嫌な予感がして戸棚の中を確認する。……俺の買ってきた高い缶詰が幾つかなくなっているのだが。あと、冷凍していたヘルガー用の高い肉も。

 

「美味しかったです」

 

 とりあえず、逆さまにしたバケツの上で爪先立ちさせ、天井から下げた縄で輪っかを作って首を括らせる罰を受けさせることに。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! 出来心だったんです! 食べた後に気が付いたんです!」

 

 騒いでいる鶏を横目に、ノートパソコンを立ち上げて仕事用のメールを確認する。

 レッドさんたちに会いに行っている間は当然仕事をしておらず、整理していない所為もあり、思っていたよりも依頼メールが溜まっていた。

 

 ところで、俺の営業だが、基本的に一般はお断りである。

 ロケット団の仲介、もしくは一度受けた依頼人の紹介でもない限りは受け付けていない。

 違法行為だから慎重にならざるを得ないし、何よりも、人手が俺だけしかいないと言うのが一番の理由だ。やはり一人だと何をやるにしても限度がある。

 

 

 鶏の方を見ると、何やら未だに言い訳染みた言葉を喚き散らしていた。なんとなく、勝手に食べた缶詰と肉の感想を聞いてみる。

 

「正直ウニは普通に買うのと大差ないし、お肉はちょっと脂身が多くてくどいと思いました」

 

 トキワの森で捕まえたビードルを召喚。踏み台となっているバケツを突かせて嫌がらせをしておく。

 

「死んじゃう! 死んじゃう!」

 

 まだ大丈夫そうだ。

 実は普通に立ってもぎりぎり締まらない程度には緩めてある。よほどの事がない限りは死なない。

 

 仕事の話に戻ろう。

 

 メールで送られてきた依頼の内容を確認し、その中から出来そうなものをピックアップ。

 捕まえられるポケモンは自分で捕獲、無理そうならロケット団の在庫を確認して直接買い取りだ。弱っていたり、孵化したて、もしくは孵化寸前の卵が手に入れば仕事はぐっと楽になる。

 

 ちなみに、以前なつき度を最大にしたエーフィは、進化前であるイーブイを買って調教した。

 イーブイの事をよく知らない団員が雑に扱い、衰弱状態に陥らせていたお陰で安く買えたのだ。こういう時、ロケット団の粗暴さも役に立つ。

 

 なお、躾のやり方は……まあ、企業秘密だ。人間の観点で見れば、道徳的に褒められた行為ではないことは確かである。しかし、それでもなついてエーフィにはなるのだ。

 

「う、ぅ、ヴぉえ……」

 

 なんか不味い声が聞こえてきた。

 鶏の方を確認すると、顔を青くしながら今にも吐きそうな表情を晒している。揺らされすぎて具合が悪くなった感じか。

 もう本人も反省してる頃合いだろうし、そろそろ助けてやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

――吾輩オトギリ。いま噴水広場にいるの。

 

 したっぱ団員をおろしてやった後、メールから読み取った幾つかの依頼を選別。基準は楽そうで報酬がそれなりに高いものを選んだ。

 そこまでやったのなら仕事をしろよと言われそうだが、今は在庫がないかロケット団の連中に確認している最中で、つまりは待機中である。

 

 一応、メールのひとつを例として挙げる。

 

『はじめまして。

 わたしは俗にいう(自主規制)でして、しかし人相手には(自主規制)の方が勝ってしまい未だに(自主規制)できません。

 しかしながら昔から(自主規制)が(自主規制)ので、雄のラルトス二体を(自主規制)のように、それでいて(自主規制)に育てていただけませんか? お願いします。

 報酬は前払いで二百万、成功したあかつきには、後払いで四百万円を払わせていただきます。さらに、追加で幾らか出す予定です。

 どうかよろしくお願いします 』

 

 こんな感じ。

 報酬が高いのは別の地方のポケモンなのと、あとはまあ雄固定の手間賃だろう。こんな俺に頼むくらい切実な願いのようだ。是非とも叶えてやりたい。

 

 さて。本格的にやる事がなくなった。

 

 家に帰れ? まだ無理。

 

 あの鶏が命の危機が去ったことに安堵し、その安心感から盛大に吐瀉物をぶちまけてくれたため、部屋中に饐えた臭いが充満しているのだ。

 

 お仕置きを施した俺が言うのもなんだが、あいつ結構間抜けと言うか、アホキャラなんじゃなかろうか。

 ああ、でもあれだ、悪役の部下って、必ず何かをやらかす間抜けがひとりはいる印象だ。そう思うと、途端にあの鶏が欲しくなってきた。サカキに言ったらくれないかなあの鶏。

 

「――もし、そこのお方」

 

 割とマジでそんな事を考えていると声を掛けられた。

 ちらりと視線を向ければ、そこには黒い短髪を綺麗に揃えた女性が、気遣うようにこちらを窺っている。

 

「大丈夫ですか? 具合が悪いのなら日陰のある場所で休んではいかがでしょうか?」

「……ああ、いえ。少し悩み事があっただけです。ありがとう。ところであなたは?」

「そうでしたか、失礼しました。わたくし、エリカと申します」

 

――エリカ?

 

「……ああ。はい。いえ、これはどうも。オトギリと言います」

 

 そうか、エリカか。そういえば原作だとタマムシシティのジムリーダーだった。今はどうか知らないけど。サカキの印象が強すぎてそちらの方を覚えていた。

 でも、ちゃんと思い出せたよ。

 

「はい、よろしくおねがいいたします。ところで、お悩み、と仰っていましたね? どうでしょう、よろしければわたくしに打ち明けてみませんか? お話しするだけでも気が楽になると思うのですが……」

「ははは、いやいや。実は気に入った人材がいましてね。引き抜きたいのですが、どうしようかと」

「まあ、立派じゃありませんこと。それなら、まずはその方にお話をしてみては?」

「ええ、時期を見てそうしますよ。ところで……あー、エリカさん? エリカ嬢? なんとお呼びすれば?」

「エリカ、で構いませんわ。敬語もおよしになって。きっとあなたの方が年上でしょう?」

「……ありがとう。そうするよ。エリカはどうしてここにいるんだい?」

「はい、とても良いお散歩日和だと思いまして、こっそり抜け出してきたんです」

 

 くすくすと。エリカが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 それからしばらくどうでもいいような話を駄弁り、十分ほどする彼女は晴れやかな表情で立ち上がった。

 

「それでは、わたくし、そろそろお暇せていただきますね」

 

 引き留める理由はない。愛想笑いで会釈を返し、エリカを見送りつつ自分も自宅へと帰る。

 去り際に、ちらとエリカを見れば、優し気な表情で見知らぬ老婆の手を引いていた。

 

――偽善者が。

 

 反吐が出そうだ。

 

 

 

 

 

 




 がわ゛い゛い゛な゛ぁ゛み゛ん゛な゛

 今回は全体的に甘ったるい回ですね。
 これで多少ヒロインたちをおろそかにしてもいい訳が立つ。
 レッドさんたちが懐いているのは、主人公が『いいお兄さん』を演じているから。

 ちなみに、手紙の依頼主が欲しいのは自分の事を本当の親のように慕ってくれる子供だそうです。双子のおとこのこが欲しいらしいです。
 なんで自主規制したかって? クイズ形式ってやつですよ。心の中で文字を当てはめるタイプ。楽しんでもらえたら嬉しいです。まって、行かないで。


 感想を見ていると、みなさんこの主人公の事を色々と見てくれているようで、とても嬉しいです。好き。
 評価、誤字報告等、本当にありがとうございます。とても嬉しいです。いっぱいちゅき。



キーアイテム:少女たちの手作りペンダント

 オトギリ(偽名)が他の町に連れて行ってくれた際、自分たちの貯めた小遣で買ったものと、自分たちの家にあるもので作った簡素なペンダント。
 小指の爪程度の黒っぽい石と、それから黄土色のひも、それから僅かばかりの細工が施されている。感謝と信頼の証。



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悪役への道:四歩目

 

 ねこをなんぱしたらふられたで


――メタモンはミュウツー作成の過程においてのミュウの失敗作。

 

 こんな都市伝説をご存じだろうか。

 死ぬ前の俺は、それはもうネット中を泳ぎ回ってこういったサブカルネタを探し回ったものである。

 

 基本的にどんな技でも覚えることができ、すべてのポケモンの遺伝子情報を持つとされ、一説には、こいつこそが全ポケモンの先祖なのではと考えられる説もあるらしい。

 で、メタモンはその逆。専用技のへんしんしか覚えない。そして自分の身体の細胞を作り変えて他の生物に変身できる。

 

 詳しい詳細は面倒なのでこれ以上は省くが、もし仮にメタモンがミュウの失敗作だとしたら、メタモンにもミュウの遺伝子が入っているのではないかと。つまり何が言いたいのかと言えばだ。

 

――メタモンを沢山くっつければミュウができるのでは?

 

 こう言う事である。

 非常に頭の悪いことを言っている自覚はあるが、しかし考えて見てほしい。スライムだって合体すればキングになるのだ。それなら、失敗作が合体してオリジナルになれない道理はないのではなかろうか。

 

 ちなみに、こんな事を考えているのは深夜帯。俺にとっては久方ぶりの、しかし第二の人生で初の飲酒をしていた。酔ってた。深酒だ。

 ついでに言うと、俺がこれを思い出したのはなんとなく掲示板を巡回していた時。意外と面白いことが書かれてたりするんだ。

 確か金に困っている連中がいるスレだったかな。どこぞの研究員が、仕事がなくて金に困っていると書いていた。

 

 そのとき俺は思った。

 そうだ、こいつらにメタモンの研究をさせよう。

 何故そこまで拘るかと聞かれれば、その時の俺は『悪役にとって神話、伝説、幻って必須科目じゃない』等と考えていたからだ。

 

 

 適当にメアドを作り、掲示板に載せ、金に困っている研究者連中に今の生活の状況を説明するように送って来いと記載。その際、研究の分野も聞いておく。

 藁にも縋る思いなのか、結構な数のメールが来た。本当に切羽詰まっている奴だけに返信メールを送り、気が付いたら顔合わせの状況まで持って行けた。酔った時の勢いって怖い。

 

 なお、ロケット団には報告する気はない。

 万が一ミュウが出来た時に横から掻っ攫われるのは嫌だし、これ以上あいつらの組織規模が大きくなると追いつけなくなる。

 

 現在、俺の立場はロケット団と協力関係のある違法ブリーダーである。

 協力関係と言えば聞こえはいいが、実際は俺がロケット団の後ろ盾を得ているのが現状で、この関係は決して対等ではない。破綻すれば真っ先に俺が食われるか、消される。

 原作知識やネタを小出し小出しにして何とか凌いでいるものの、搾りかすのようになるまではあと一年……いや、二年持てばいい方だろう。

 出来る限り情報は隠しておきたい。ばれそうになったら適当に誤魔化しておく。

 

 

 閑話休題。

 

 

 そんなこんなありつつ、顔合わせをすることに。場所はヤマブキだ。一番信頼が厚く、客人の情報の漏洩がないことで有名な高い料理店の個室を予約した。念のため、ヘルガーとビードルに何かないか探らせておく。警戒も怠らない。

 

「――さあ、どうぞ。座って座って」

 

 座るように促す。

 やって来た研究職は五人。パッとしない奴らだった。なんといえばいいのか……陰キャども。たぶん、別の地方の人間も混じってる。

 ただ、金がないと言っても常識はあるらしく、全員が全員、精一杯身なりに気を使っていた。それだけ今回の集まりに真剣だと言う事だろう。

 

「さて、みなさん。はじめまして。私があなた方の依頼者です。Aさんとでも呼んでください」

 

 偽名である。反応は良くない。

 

「まずは皆さん、私のために集まってくれてありがとう。とても嬉しく思いますよ。あなた方は自分が選ばれた理由をお分かりですか?」

 

 微笑みながら問いかけると、数人が手を挙げた。眼鏡の男に話すように視線で言う。

 

「その……後のない、余裕のない研究職ですか?」

「素晴らしい。その通り。借金だったり、生活費だったり、入院費用……まあ、そんなところです。つまり、逃げるに逃げられない状況の方々だ」

 

 何人かが気まずそうに視線を逸らしたのを確認し、話を続ける。

 

「私が求めているのは、あなた方の持っている頭脳です。報酬はそれなりに出せます。……そちらの方、何か質問があるようですね。どうぞ」

「その……内容を教えていただけますか?」

 

 焦れてたらしい眼鏡の女がおずおずと問うてきた。

 

「そうですね、気になるでしょう。しかし、何人かの方はお気づきでしょう。この実験はとても、ええ、非常に秘匿性の高いものです。あなた方の知人、友人、家族。誰にも教えてはいけません。実験期間中でも、実験を終えてもです。きっと非人道的な事も行うでしょう。五分だけ待ちます。自信のないお方は、申し訳ないが今すぐに帰ってほしい」

 

 そう言ってから少し待つ。……誰も席を立たない。第一関門はクリアか。

 

「……結構。よろしい。では話しましょう。ミュウと言うポケモンはご存知ですか?」

「出会った人がいないと言われるポケモンでしょうか?」

「そうです。正確には殆どいない、ですが、まあ些細な事でしょう。あなた達には、人工的にミュウを作ってほしい」

 

 反応は千差万別だ。

 唖然とする者、息を呑む者、困惑する者。不思議なことに、笑いだす者はいなかった。

 

「ああ、安心してください。ミュウのベースになるポケモンは用意しておきます。どこにいるかも教えましょう」

 

 研究職の連中がひどく困惑した表情だった。本当にいいのかと悩んでいるようにも見える。

 少し発破でもかけよう。

 

「自覚しなさい。これを知った時点であなた達に拒否権はありません。共犯者です。今更逃げだせるとお思いですか? なあに、別段誰かが死ぬわけじゃない。それにね、あなた達の手で幻を作り上げるんだ。研究職として名誉ある行為だと思いませんか?」

 

――ねえ、みなさん。

 

 問いかけると、全員が覚悟を決めたような目をした。

 

 

 

 

 

 

 

――プロジェクト始動ならず。

 

 あの後、無事、あの場にいた全員と契約を交わしたのだが、根本的な事を忘れていた。

 

 実験をする場所と器具、あと支払うための金だ。

 場所の候補は幾つかあり、金も……まあ少し無茶してフル稼働させればなんとかなる。報酬を吊り上げて数を熟そう。

 実験器具は……これに関しては今までの取引相手と、念のため雇用した連中の伝手にも頼ることにした。

 

 実験は凡そ半年後を予定している。

 その間にも雇用関係は続いているので、なるべく気づかれないようにこっそりと給料は払うつもりだ。俺本人が払いに行くこともあるが、旅をしているトレーナーにお使いと称して頼むこともある。行って渡して帰ってこい。これだけ。

 鶏は気づいた素振りすら見せない。なので大した報告もしていないようだ。馬鹿で助かった。

 

「――大丈夫ですか?」

 

 ある日、雇った研究職の一人が金を受け取りながら言った。一番の年長者と言う理由だけで代表にされた哀れな男だ。俺はこいつはリーダー(仮)と呼んでいる。

 しかし、何故呼び止められたのだろう。

 

「いえ、どうにも顔色が良くないように見えまして……」

 

 そう言えば近くロクに休んでいない。まあ、問題ないだろう。ここ最近は働き詰めのお陰でガンガンと金が入ってくる。予定よりもかなり早い段階で研究が出来そうだ。

 

「お聞きしたいのですが……」

 

 さて帰ろうかと思い席を立つと、呼び止められるように声を掛けられる。

 

「何故そうまでして研究を行おうと?」

 

 心底不思議そう、というよりも、どこか心配そうな気持を含んだ言葉だ。何故、何故か……

 

「……夢のため、ですかねぇ。その過程にこの研究が役に立つとわかった。だから走ってる。止まる気なんてないんですよ。死ぬまでね」

 

 笑って言ってやると、リーダー(仮)は考え込むように沈黙した。思考に没頭している様子なので、置いて行ってさっさと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

――それから二か月ほど。予定よりもかなり早い段階で金が貯まった。

 

 依頼料を吊り上げ、並行してポケモンを躾け、しかし決して手を抜かず客の満足のいく出来に仕上げる。慣れたものだ。

 

 研究施設はグレンタウンより少し離れた小島に建てた。名目上は『ポケモン遺伝子関連』の研究を行っていることにし、器具は俺よりも研究職の奴らのほうが安く買えたので、そいつらに揃えさせた。その際、島に移動するためのクルーザーも必要だったので購入。

 なお、ここまで俺の名義は一切使っていない。ばれたら困るから各々の名前を使って買わせた。

 

「これほど立派な研究施設になるとは思いませんでした。これも投資して頂いたあなたのお陰です。必ずや、満足のいく結果を出して御覧に入れましょう」

 

 なんか知らんがリーダー(仮)が豪い張り切ってる。他の研究員も、研究所を見て少なからずやる気を見せているようだ。士気が高いのはいい事だ。

 

 じゃあ君たち、後は全部任せたよ――とはならいない。

 

 ここまでで結構な金を使ったが、これ以降も研究所の維持費、職員たちに渡す給金、捕獲したポケモンたちの餌代等々……最初から最後まで隙のない金食い虫だ。

 でもおいら。負けないよ。立派な悪役になるよ。

 

 一応、それっぽいことを誤魔化せるように、以前お月見山で拾った化石やら何やらも渡しておく。他の奴らにも色々と頑張ってもらう。えらい喜んでるのもいるな。

 

 俺はもちろん金稼ぎ。なんか家族のために稼ぐお父さんみたいな気分になってきた。結婚願望とかないですけど。ああ、恋人くらいは作った方がいいかも。世間の目を騙しやすそうだ。

 

 

 そんな感じではじまったプロジェクトだが、研究職の連中は中々に優秀だった。

 

 メタモンを使った実験の副産物として面白い結果が。

 

 メタモンを使うと、普通より傷の治りが早くなるそうだ。

 これは傷薬による自然治癒を促す方法とは違うものらしく、そのポケモンに合うメタモンであれば傷口を塞いでくれる。

 惜しむらくは、相性の悪いメタモンを使っても傷の治りは早くならず傷口に異物を捩じり込まれてる状態が続くと言う事。こっわ。

 たぶん、自分の細胞を作り変えられることから、分裂、独立した組織が、無理やり寄生先の細胞に合わせようとしたのかもしれない。

 

 次に、メタモンでミュウを作ることだが……あまり芳しくはない。何かが足りないと言っていた。まあ、何かが足りなくて失敗作になった訳だから、仕方ないと言えば仕方ない。その辺はもう少し気長に待とう。

 

 

 

――そう思ってたんだけどなぁ。

 

 

 ある日、維持費込みの金を渡そうと、ふらりと小島に寄った時のことだ。研究所の周囲を何かが飛び回っていた。はて、鳥ポケモンだろうか。捕まえてあいつも被検体になってもらおうと目を凝らしてみる。

 

 妙に伸びた足と、先端に丸みを帯びた尻尾。小動物のような外見のそれは、円らな瞳を彷徨わせて何かを探しているように見えた。

 

「うっそだろおい」

 

 思わず呟き声が漏れる。

 いや待て、もしやあれはメタモンなのでは? とりあえず、急いで研究所に入ってメタモン実験の結果を報告してもらう。

 

 なに? 実験で使ったメタモンの頭がやたらと良くなっている? そんな事はどうでもいい。ミュウができたのかどうかだ。……そうか、できてないのか。

 

 実験を続けるように言って外に出る。先ほどのポケモンはいなくなっていた。

 

――偽物を造っていたら本物が来た件。

 

 さて、これはどういうことだ。本来なら幻島にいるはずだ。別固体か? ここにミュウの気になる何かがあった? メタモンくらいしか思いつかない。

 

……待てよ?

 

 そういえば、メタモンの頭が妙に良くなったと言っていたな。もしやミュウに近づいたのでは?

 ということは、オリジナルは失敗作を探しにここへ? なんのために? 縄張りから追い出す? それとも同族への仲間意識? いや、そもそも明日も来るのか?

 

 念のため、急遽、並行して作ってほしい物を伝える。伝手でもなんでも使ってくれ。報酬は払う。

 それから数日間、研究所の外に張り込んでミュウを見張る。毎日来た。何度か目を合わせることもあった。しかし不思議なことに、ミュウは逃げず、毎回この研究所にきては何かを探している素振りを見せる。

 

「Aさん。以前仰っていた物を作らせました」

 

 リーダー(仮)が話しかけてきた。注文していた物がようやくできたらしい。詳細な説明をするように求める。

 

「理論上は、この首輪でどのポケモンでも弱らせることが出来るはずです。また、エスパーポケモンのテレポートによる影響を受けません。このリモコン操作で即座に意識をシャットダウンさせることが出来ます。欠点として、これを着けている間はモンスターボールに入れません。

 この外套に関しては、エスパータイプに対して気づかれにくくなるというものです。思考を読み取られそうになっても特殊な磁場で阻止することが出来ます。どちらも少々高くついてしまいましたが」

 

 確か同じ研究員のフーディン相手にも使って成功した事例があると聞いたが。それなら機能はしているのだろう。

 

「ところで、ここ最近は研究所の外で何かをなさっているようですが……」

「お気になさらず。あなた達はいつものように実験をしていてください。そうだ、明日を含めて数日間は、何があっても研究所の外に出てはいけませんよ。いいですね? 命の保障を出来かねますので」

「……わかりました。なにをやるのかは分かりませんが、どうかお気をつけて」

 

 心配そうな声に笑って返す。なんの問題もない。俺は神に愛された未来の大悪党だ。

 

 

 

 研究所の屋上にて待機。

 

 身の丈を超える外套で身体を覆い、地べたに体を着けてじっと待つ。屋上の床と限りなく近い色合いにして貰った。少し離れた場所には、実験で使ったメタモンから切り取った細胞の一部を置いている。

 引っかかっても、引っかからなくても、どちらでもいい。あれは予備だ。獲物を待つ狩人にでもなった気分だ。

 

――来た。

 

 テレポートでもしたのか、一瞬でミュウが現れた。はじめからその場にいたかのような登場の仕方だ。

 ちらちらと辺りを見渡していたミュウが、ふとメタモンの肉片に目を向けた。ふらふらと、興味深そうに、まる電灯に引き寄せられる蛾のように肉片に近寄る。

 

 まだ、まだだ。もう少し待て。チャンスは一回だ。

 

「――行け」

 

 ヘルガーの入ったボールを投げると同時に駆け出す。

 ミュウがこちらに気づいて振り向くよりも早く、ヘルガーがミュウの身体に食らいついた。獲物をこちらに向かって放り投げる。手を伸ばし――駄目だ、距離が足りない。このままでは逃げられてしまう。

 

――しかし、やはり神は俺の味方だ。

 

 ベルトに下げていたモンスターボールからビードルが飛び出したかと思えば、糸を吐いてミュウに絡ませ、こちらに向けて引っ張った。

 素晴らしい。今だけはビードルを愛せそうだ。

 左手でミュウの身体を掴み、地面に押し付ける。

 

「――はじめまして、そしてどうぞよろしく」

 

 目を白黒させて困惑しているミュウにそう言いながら素早く首輪を着け、リモコンのボタンを押して意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――結局、研究は中止になった。と言うよりも、俺が止めさせた。本物がいるのなら、別にクローンに拘る必要もなくなったからだ。

 

 もちろん、雇った連中からは少しばかり不満の声が上がったものの、寝る間を惜しんで働いた金を出したのは俺だ。文句は言わせない。

 

 研究所は取り壊し。残しておくとあとが怖い。実験器具は伝手で売らせ、その金は連中に分配させる。俺はいらない。研究資料だけは貰うことにした。

 

 研究に使ったポケモンは大半を野生に逃がしたが、何匹かは研究員たちと一緒に居たがり、また研究員も少なからず愛着が湧いていたようなので引き取らせた。

 

 ところで、報酬についてだが、きちんと払う。

 メタモンの実験も別方面で役に立ったし、ミュウを捕らえる道具の準備もしてもらった。彼らのお陰だ。感謝が絶えない。

 ただ、金に関しては、しばらくは定期的に振り込むつもりだ。色々と使いすぎて一括で払えない。懐が寒い。久しぶりに節制を心掛ける必要がありそうだ。それに関しての文句はなさそうだった。

 

「あの」

 

 クルーザーでクチバシティに戻り、じゃあみんな自分の家に帰ろうかと言うとき、リーダー(仮)に呼び止められた。

 

「私は――いえ、我々は、あなたの目指す夢の手助けを出来ましたか?」

 

 随分と真剣な表情だ。何とも言えない熱意が伝わってくる。

 

「……ええ、大いに、とても素晴らしい助けになりましたよ。この御恩を忘れる事はないでしょう」

 

 そう言って、今度こそ、その場を後にする。

 ふと、肩に背負った麻袋の中が気になり、少しだけ口を開けて中を見る。

 

――役に立ってくれよ

 

 

 体を丸めて眠っているミュウを見てそう思いながら、再びそれを背負って帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 ちなみに、頑張ってくれた二体には無駄に高いポケモンフーズを買い、それぞれの分類に調整されたトッピング用の餌を食わせてやった。

 俺? コンビニのツナマヨおにぎり。

 

 

 




 都市伝説ネタ。実際あれに気が付いた人はすごいと思う。
 メタモンをこねくり回してミュウとかミュウツ―って作れないのかな? と疑問に思ったためにこんな内容に。まあ、無理でしょうけどね。

 あと、研究組にも一応名前があります。

 リーダーを任された年長者の男→ツリガネ
 研究員A→トメギ
 研究員B→パニュラ
 研究員C→フウリン
 研究員D→ラベル

 覚えなくてもいいです。たぶんもうメインで出演することはない。

 この人たちはみんな優秀で馬鹿な秀才といったところ。
 根がお人好しで他人を見捨てられず、人助けをしてたら首が回らなくなり、掲示板で愚痴っていたところ主人公の手伝いをさせられる羽目になった。つまりスレ民。
 良くも悪くも誠実な人たち。

 あと、度々主人公と会っていたツリガネさんが急にやる気になったのは、若者の夢を叶える手助けをしてあげたいという純粋な想いから。知らないうちに災厄の片棒を担いでしまった模様。やっちまったなぁ……。



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悪役への道:五歩目

 むぎちゃがくさってたんやで


――ミュウを捕獲して一ヶ月近く経った。

 

 未だ調教は上手くいかず、悶々とした日々を過ごしている。別に敵対関係を結んでいるわけではない。

 

 どうもミュウ自身は俺に拉致られた事よりも周囲への関心が強いようで、我が家の電化製品を弄り回したり勝手に布団を占領したりと、かなり自由気ままに振る舞っている。

 

 ただ、俺が止めろと言えば不満そうな表情でやめてくれる辺り、上下関係は理解しているらしい。その証拠に逃げないし、勝手に家を出る様子もない。

 

 以前、何度かこの家から逃げ出そうとしたことがあるのだが、その時は首輪機能で即座に気絶させた。

 強制的に気絶させられることはミュウにとっても中々の負担になるらしく、何度か繰り返してやったら諦めて家で大人しくするようになった。

 しかしストレスを貯めこみすぎると何を仕出かすかわからないので、時おり能力で姿隠しをさせて外に連れて行っている。

 

 こいつの透明化はほぼ完璧で、なんならポケモンの嗅覚ですら誤魔化せるのだが、極端に興奮状態に陥ったりすると解けそうになるようだ。

 恐らく、研究所で俺に見つかっていたのはそれが理由だろう。仲間を見つけられたと思って興奮したのかもしれない。いたのはメタモンだが。

 でも研究員たちには見えてなかったしな……見る側の素質だろうか? 

 

 なお、どこにいても俺だけには見えるようにさせている。首輪が付いている限りはある程度のコントロールが効く。

 透明化の有無については、なんとなくわかるのだ。伝わってくると言うべきか。表現しがたい。

 

 最近は、以前仕事を頼んだ研究者連中の伝手を辿り、報酬を払って首輪の機能を拡張させている。

 追加したのは、身体に痛みが走るお仕置きパッチ。モンスターボール収納機能はまだつけていない。というか、この首輪だとつけられないので、新しく作った方が早いとのこと。また金が飛ぶ。

 

 それと、首輪の機能を追加する際、強制的に気絶させてから首輪を外すのだが、起きたミュウが体を抱えてよよよと嘘泣きをするようになった。

 

 鶏が俺のパソコン使って勝手に見てた昼ドラのワンシーンだ。帰った時その画面だったから気まずくなったわ。あいつもあいつで「おほー」とか興奮しながら見てたし。なんか最近あいつの私物がやたらと増えてるんだよなぁ。

 ちなみにミュウの存在はまだばれていない。

 

――さて。

 

 そろそろ悪役として活動をしようと思う。専ら違法ブリーダーの仕事しかやってなかったからな俺。

 近ごろは俺と同じような事をする連中も増えたそうなので、別の儲けも考えなくてはいけない。まあ、オトギリブランド(自称)はまだまだ健在だが。

 

 悪役としてどうするかと考えた結果、とりあえず、事業を立ち上げようかなと。ロケット団だって色々な方面で一枚噛んでるし。

 それなら研究を続けていればよかった? 殆ど利益が出ない自転車営業だから無理。あれ、俺の金だけで維持してたからなぁ。

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、さも当然のように我が家に入り浸り、パソコンで何か見ながら寛いでいる鶏である。

 最近この安アパートの大家さんと仲良くなったらしく、図々しいことに俺の部屋の合鍵まで受け取ってやがった。親戚設定らしい。

 

「新しい事業? よくわからないですけど、サーカスが見てみたいです」

 

 土産物の煎餅をぽりぽりと齧りながら適当な返答をする鶏にイラッとしながらも却下。いや、調べてみたら建築基準法やら何やらで面倒だったからやめた。それと芸の出来る人員も必要だ。そういうのまだ早いと思うの。

 

 じゃあどうするかと考えた時、ふと思いついた。

 

「鶏」

「え、なんですか。んー。り、り……リングマ!」

 

 違うそうじゃない。

 段々と馬鹿になりつつある鶏に、ロケット団の行っている主な事業について尋ねてみる。……大体俺の知っている内容と大差ない。主に裏よりも表の方で金を稼いでいるようだ。……よし。

 

 

 闘技場を作ろう。

 

 

 ポケモンバトルと言うのは間近で見ると確かに激しいのだが、スポーツ感覚で行うためどうにも生温い印象だ。

 ないと言う訳ではないが、ポケモンが死んだ事例と言うのも非常に少なく、瀕死と言う状態もどちらかと言うと気絶、あるいは失神しているだけの状態に近い。

 

 きっとスリリングな激しい試合を観戦したい連中もいるはずだ。というか絶対にいる。必ず屑どもは潜んでいる。

 

 俗深い奴らのために金も用意しておく。賞金はもちろんのことだが、賭け事要素を入れて駄目な大人を生産してやろう。秩序を荒らせ。

 

 

 

 

 

 

――とりあえず、まずは小規模なものから始めることにした。

 

 規模を大きくし過ぎると賞金やかけ金で出すものが足りなくなる。

 地面を深く掘ってヤマブキに繋げ、地下に作ることにした。いや、タマムシだとロケット団のアジトが邪魔だったから。ヤマブキならまだなんとかなる。入り口は複数、人の目が見えない場所に作っておく。

 当然、ディグダの穴には気を付ける。

 

 事前調査の段階で結構かかったが、違法建築なので幾らかは抜いてほんの少しだけ安くなった。

 当然、腕の確かな職人だ。少なくとも裏では。金にがめついが、口が堅いと評判である。

 

 ポケモンの力を借り、機材やら何やらを運び、それでいて人様にばれないようにするには凡そ半年ほど掛かるそうだ。

 上乗せするからもう少し早くしてくれと頼めば、他の地方にいる部下や弟子、知人に声を掛けて三ヶ月ほどで仕上げると言っていた。ちょろいぜ。金は偉大。

 

 その間、俺は違法ブリーダーやってポケモン売買をしつつ、工事がある程度進んだところで社会のはみ出し者たちを金で釣って雇う。主に禿とモヒカン。

 

 町を徘徊して治安を悪くするように伝える。こうすれば住民は怖がってしばらく外に出づらくなるだろう。職人たちの姿も視認されにくくなるはずだ。

 職質されることもあったそうだが、出歩いているだけなので文句の謂れはない。逆にロケット団を捕まえろと言い返してやったらしい。まあ、無理だろうな。警察関連にも紛れ込んでるみたいだし。やりたい放題である。

 

――そういえばヤマブキシティってナツメがいたな。今はいるかどうかわからないけど、将来的にジムリーダーになって透視とかされたら面倒だ。

 銭ゲバ職人に透視の対策はないかと聞けば、一応、個人のプライベートを守るためのコンクリ素材があり、それで外側を覆えばある程度エスパーポケモンに対する牽制になると言う。サイキック能力を使う変質者は結構いるらしい。エロ同人のネタだしな。

 

 思いがけぬ出費に懐が寒くなるが、珍しくドラゴンポケモンの依頼が来ていたため、それを成功させれば補填できそうだ。やたらと額が高い。二千五百万か。

 ミニリュウからカイリューにするの初めてだ。しかも期間が一ヶ月もない。金持ちの道楽だなこりゃ。あまり私を舐めない方がいい。後日しっかりと育てたカイリューをくれてやった。

 そうそう、躾は禄にしていない。俺はなんとか大丈夫だったけど、運が悪ければ噛まれて死ぬかもな。

 

 あと、ピクシーを常時発情状態にしてくれませんかとかいう闇深い系の依頼ほんとにやめてほしい。一千万も出すんじゃないよ、無理だから。

 

 いまは周りを警戒して、自分でポケモンを渡すときは顔を隠すように心がけている。悪役って身バレしたら駄目じゃんと思って。

 幸い、今までの取引相手には名無しとか偽名で通してるから大丈夫大丈夫、まだばれてない。

 

 

 

 

――てんやわんやしつつ、無事に地下闘技場が完成。諸々の法律をぶっちして作られた裏の闘技場である。

 

 防音はたぶん完璧。サイキッカーやエスパータイプの対策もたぶんばっちり。耐久面もたぶん優秀。観客の入場可能数は凡そ二百人。リングは中々大きめに作った。

 入り口は少しわかりづらいところに、それでいて客が詰まらないように複数拵えたので、滅多な事では気づかれない。

 諸々の設備と合わせて頭を抱えたくなるような額を使ったが……まあ、まだ大丈夫なはずだ。

 

 客引きは世紀末どもに任せた。基本的に駄目そうな奴、金の使い道が下手な奴がターゲット。

 あの禿ども、裏社会にどっぷりと嵌っているわけではないのだが、妙な伝手やコネ、土地勘を持っているお陰で、たまにロケット団よりも優秀なんじゃないかと疑いそうになる。

 

 ちなみに制限時間つきのトーナメント方式である。制限時間が過ぎると引き分け。シンプルイズベスト。

 

 戦わせるのは、世紀末の禿どもが拾ってきた底辺トレーナーども。上は五十代、下は十代前半まで選り取り見取りだ。

 こいつら借金があったり諸事情により働けなくなった連中なので、金をちらつかせればある程度は言う事を聞いてくれる。裏切りそうになったら、万が一のために付けた機能で闘技場を爆破させて観客諸共生き埋めにしてやればいい。爆発はロマン。

 

 営業時間は深夜帯。二時間前後。多く見積もって三時間ほどとっている。

 

 初日は客がやや少なめで、トレーナーもおっかなびっくりだったが、進行役のレフェリーが豪く盛り上げてくれたお陰で後半は文字通り熱気に包まれていた。リングの上がポケモンで血まみれだ。

 金は入ったのだが、賭けに勝った連中にも幾らか配ったため、稼ぎは心もとない。それでも程々に満足できる結果だった。

 

 ああ、そう言えばロケット団に伝えるのを忘れていた。

 

 プライベート用の携帯に掛ける。もしもし? ああなってこうなってそうなったんだけど、一枚噛んどく? みたいな内容を伝える。

 

「……いや、私は遠慮しておく。ただ、他の企業にも呼び掛けてみよう」

 

 断ったのは様子見だろうか。

 それよりも、スポンサーを募るのを忘れていた。さすが悪役歴が俺より長いだけの事はある。こういう所は素直に見習いたい。

 

 世紀末どもの働きが予想以上に大きいので、これからもどうだろうと尋ねてみると、殆どの奴が頷いてくれた。残りの連中は……ああ、血が駄目なのか。去る者は追わず。ただし、口止めをしておく。初めての殺人は、出来れば特別なものがいい。

 

 そうそう、試しに鶏とミュウを連れてきたのだが、鶏の方は血を吹き出すポケモンを見て一瞬でダウンした。なんでコイツロケット団やってるんだろう。

 意外だったのはミュウで、最初は食い入るように見ていたが、途中から観客にあてられて「ミ゛ギュ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛」と腕を振り上げながら非常に汚らしい鳴き声でコールしていた。エイリアンかな。

 

 専用のマイルーム作ってよかったと安心している。ほら、よくアニメとかで地下施設に登場する支配人が立ってる、少し高い位置にあるガラス張りの部屋。憧れだ。

 透明化が解けかかっていたので、すかさず気絶させて窓から離す。見られてないよな、たぶん。此奴はしばらく出禁だ。

 

 

 

 

 一週間ほど続けたところ、投資をしてくれるらしい企業が何社かついた。スポンサーゲット。なんと警察のお偉いさんもいる。組織の腐敗は鉄板。

 彼らからの紹介で、闇落ちした武道家や格闘家の武術派トレーナーを引き込むことが出来た。試合がさらに過激になり、血に飢えた屑どもも大喜びだ。そのうち犯罪人もくれるらしい。

 

 サカキには感謝している。嬉しいからメタモンの研究結果を少しだけ流してあげよう。

 くれてやったのは医療関連のやつなので問題はない。向こうがでかくなるのなら、こちらもでかくなればいい。金さえあればもっと色々できる。

 

 

 実入りが良くなったお陰で、他の所にも施設を造ることを検討中。どのあたりに作ろうか。規模も考えなくてはいけない。いま稼働している場所の設備を充実させるのもありだろう。

 

 あとは、この闘技場をどれだけ長く保たせることが出来るかだ。

 他の企業も自分が噛んでいた事をばれたくないだろうし、たぶんきっと全力で誤魔化してくれる。その分、優先的に甘い汁を吸わせてやればいい。ブラック企業だって、法律や人権よりも儲けを重視するのだから。

 

 

 

 

――俺たちの悪役は、これからだ!

 

 

 

 いや、まだ終わらないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ちょっと急だけど本格的に地盤固めに出始めた主人公君です。もう少し色々な方面に手を出していただきたいと思います。
 なお、設定は基本的にガバガバな模様。タマムシはロケット団の天下なため、今はまだ警察関連の組織が腐っているとかそんな設定。捕まえてもすぐに釈放されちゃね。
 これ闇闘技場なんて作ったら治安一気に悪くなるんじゃないかな。エリカ様とナツメさん可哀想。まあ、こっそりやるから。こっそり。


 ※トーナメント戦であるという文章が抜けていました。色々修正。


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悪役への道:六歩目

 じんじゃのでみせにいったらあしくじいたで

 半年を三ヶ月に変えました。元に戻すかも


――三ヶ月以上経った。

 

 闘技場の評判は上々だ。

 流石に初期のように誰でもwelcomeとはならず、今では特殊なルートで手に入れられるチケットを見せない限り闘技場には入れない。

 

 闘技場自体は、増改築を繰り返し、新しい催し物も増えた。

 タッグ戦とか、トリプルバトルとか。それと、人間対ポケモンの戦いはかなり人気がある。弱い奴が踏み潰されるのも、強い奴に弱い奴が下剋上する展開も楽しまれている。今のところ死者はまだ出ていない。

 

 腐敗組織と化した警察組織から送られてきた見張りをつけているお陰で、一般人や野生のポケモンが迷い込むことはなく、それなりに安心して経営できるようになった。稼ぎも悪くない。

 

 ちなみにチケットだが闇オークションでも手に入る。

 もちろん、そのオークションを運営しているのも俺――というか、うちとロケット団。前々からやりたいとは思っていたらしい。司会進行役は禿。

 

 俺の育てた珍しいポケモン達も結構な値段で売れる。前より値段は不安定だが、馬鹿な金持ち連中が大金を叩いて買ってくれるため、いい稼ぎになっている。見栄っ張りは馬鹿で扱いやすい。

 

 世紀末との雇用関係は未だに続いており、なんかもう大半の奴らは俺の部下みたいな扱いになってきた。はみ出し者故の仲間意識だろうか。まあ、あいつらも底辺みたいなもんだからね。

 言う事をよく聞く奴らには上等なスーツで着飾らせ、俺の代理として色々な場面に立たせている。

 腐っても俺の代理なので、乱暴な口調は控えさせ、髪形も整えさせた。毛根が死滅した奴は知らん。大切なものは帰ってこないのだ。

 

 図らずとも組織の体をなしているが、ロケット団には遠く及ばない。いつ崩壊するのかもわからないため、出来ればもっとちゃんとした奴らを引き入れたい。

 

 それと、前まで住処にしていた安アパートは引き払い、ちょっといいマンションに引っ越した。

 大家が随分と寂しそうにしており、鶏は何かに感化されたのか大泣きしていた。妙に仲良しだったからな、この二人。孫とお婆ちゃんみたいな関係だろうか。

 

 ただ、新居についてきた際、部屋を見た鶏は嬉しそうに燥いでおり、前の大家の事はすっかり忘れていたが。程々に屑なのか、それともただの馬鹿なのか。さも当然のように自室を要求してくるんじゃない。

 

 そして誰もが気になるミュウであるが、なんと文字が書けるようになった。

 

 ひらがな、カタカナ、簡単な漢字ならもう書ける。読む方に関してはほぼ完璧だ。何が凄いって、独学で覚えたことに驚きを隠せない。

 さすが何でもできると言われているだけはあるなと感心する。

 

――動機は闘技場のくじを買うためだけどな。

 

 しかも変身まで覚えて人間に化ける用意周到振り。なんだお前そのピンクロリ姿。ご丁寧に服まで用意しやがって。清純派あざとい枠か? 無駄に可愛いから困る。

 チケットの有無に関しては、俺の部屋から勝手に持って行って使っているらしい。一応オーナーだし予備は持っている。いや、俺もヘルガーが教えてくれるまで減ってることに気づかなかった。

 

 そうそう、首輪は新しく作った物をさらに改良したお陰である程度大きさを変えられるようになった。前のだと少し苦しかったと思う。

 一応、つけたポケモンをモンスターボールに収納できる機能も備わっている。ほぼ全ての機能を細かくオン/オフ可能。出来るなら最初からやってほしい。

 

 ちなみにミュウが一番最初に書いて俺に見せた文章は『とうきじゅうつれててくだちい』だった。たぶん、闘技場に連れてってくださいかな? 殺伐と不健全が肩組んで意気投合してるわ。フジ老人が泣くぞ。

 

 流石にあれなので、子供用の変身ステッキを買ってやったら喜んで振り回していた。ここだけ純粋無垢に見える。

 あとアニメとかゲームのサブカルチャーも見せたらどっぷり嵌り、闘技場に行く頻度が減った。減っただけで普通に行くけど。寧ろ闘技場で稼いだ金を使って自分で買ってくる始末。

 

 最初の軍資金は鶏の財布からちょろまかしていた模様。

 幾ら相手が鶏とは言え哀れなので、使った分を俺がこっそり返してやり、今ミュウは俺から支給される月一の小遣いでやり繰りしている。……なんだろう、なんか、ねえ?

 とりあえず盗み癖を治すためによく言って聞かせた。やっぱこいつに首輪は必須だな。

 

 

 

 そんな感じでそれなりに平穏であり多忙な日々を過ごし、そろそろ休暇でもとろうかと悩んでいる折に、サカキから自宅に一本の電話が掛かってきた。

 

「はいはい、こちらオトギリです。何がご用事で?」

「ああ、出てくれたか。以前伝えた頼み事は引き受けてくれるかね?」

「……何の事でしょう?」

「……君の所に寄越した連絡係に聞いていないのか?」

「少々お待ちを」

 

 電話を置いて鶏を見に行く。リビングで優雅に紅茶を飲んでいた。

 サカキから電話が掛かってきた件を話すと、ぼけーっとアホ面を晒した後、満面の笑みを浮かべて思い出したように手を叩く。

 

「――伝える事がありました!」

 

 縄で簀巻きにして吊るす。ヘルガーといつの間にか進化していたビードル改めスピアーを召喚。

 

「違うんです! 話を聞いてください!」

 

 聞いてやろう。

 

「本当は一週間くらい前から連絡があったんです! でも最近すごく忙しそうで家に帰る時間も減ってたから、今度と思ってたら今日になっちゃったんです!」

 

 なるほど、俺を気遣っての事か。で、本当は?

 

「帰ってこないのなら別にいいやと思ってイベント周回してました。そしたら途中で伝える事を忘れました」

 

 スピアー、シャドーボクシングの時間だ。グローブはない。当てないように気を付けろ。ヘルガー、そのサンドバッグを押して揺らせ。

 

「待ってください! お願いおろして! ヘルガーちゃん揺らさ――ひぃ! 掠った、針が掠った!」

 

 後ろから聞こえる叫び声を無視して電話機に戻る。

 

「……その、なんだ、あまりいじめてやるな」

「何故あれを採用したのですか?」

「ポケモンバトルの実技で教官の手持ちを数分で全滅させたからだと聞いている」

 

 うっそだろおい。

 三歩歩けば何か忘れるようなあれが?

 ジャガイモを買って来いって言ったらニンジンを買ってくるようなあの女が?

 風邪ひくとドヤ顔で長ネギを首に巻き付けるあの珍生物が!?

 

「他の実技は?」

「……用件は最近のタマムシシティについてだ」

 

 露骨に話題を変えてきたな。まあいい。

 

「何かありましたか?」

「治安が良くなっている」

「いい事ですね」

「本気で言っているのか?」

「冗談です。原因は?」

「後任のジムリーダーだ。新しく入ってきた小娘――エリカと言ったか。そいつが本格的に取り締まりに出たらしい」

 

 そうか、ジムリーダーが新しくなったのか。出来れば聞きたくない名前だった。

 

「それでどうしろと?」

「厄介な警察連中はこちらで抑える。ジムリーダー本人を穏便に説得してくれ」

「随分と面倒な頼み事だ」

「そうだ、とても面倒だ。潔癖で賄賂を受け取らない。実力もある。部下を使った接触も上手くいかない。私は公に出られない」

「私なら顔がばれても構わないと?」

「違う、君ならもっとうまくやれると思っているからだ」

 

 はてさて、これはサカキの本音なのか。それとも、俺を煽てているだけなのか。どちらにしても、今の自分にそれだけの価値があると思うと少しばかりうれしく思う。ちょろいな。

 

「……メリットは?」

「報酬は払う。他にも欲しい物があれば言え」

「そうですねぇ……まあ、いいでしょう。受けますよ。報酬は要相談ということで」

「わかった。感謝する」

「持ちつ持たれですよ。……お互いにね」

 

 受話器を置き、通話を切る。

 そうか、タマムシシティはそんな事になっていたのか。正直、ここ最近は外の情報に疎かったからよくわかっていなかった。

 

 鶏を見に行くと、白目を剥きながら口の端から涎を垂らしていた。……こう見ると、とても実技で高い評価を受けるようには見えない。ちょっと試してみよう。

 おい鶏。

 

「りんぐまぁ……」

 

 まだそのネタ引きずってるのか。トレーナーカードを持っているかどうか尋ねる。

 

「あります。もってます。おろしてください」

 

 縄を解きながら使いを頼みたいと言うと、ふっと黒目が戻って自分の足で床に立った。いつもと何ら変わりない様子に見える。復活が早い。

 

「わかりました。どこに行けばいいですか?」

「タマムシシティのポケモンジムでジムリーダーとやりあって来い。勝ち負けは気にしない。勝負が終わったら誰にも見られないようにこっそりと渡してほしい物がある」

「はーい」

 

 返事の仕方に不安しか覚えない。

 心配なので、ミュウに監視をさせる。もちろん透明化をさせてだ。

 

――しかし、大人しく生け花教室だけしていればいいものを……少し、話し合いで懲らしめてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――子供の頃の話だ。

 

 お忍びでタマムシシティを歩き回ったことがある。なんとなく一人になりたくて、一緒に来ていた使用人の目を盗んで逃げた。

 ふと途中の路地裏を見てみると、体格的に、自分より幾分か年上であろう少年が襤褸切れのような格好で倒れ伏していた。ずりずりと、ナメクジのような速度で地べたを這いずって移動しようとしている。

 じっと見つめていると、ふと少年が顔を上げた。

 

 口の端は切れ、瞼や頬の腫れあがっていた。瞳は黒く濁りはて、顔の至る所から血が滲み出ている。

 風貌も相まって、生理的な嫌悪感を抱いた。

 

――だからエリカは見て見ぬふりをした。

 

 自分は何も見なかった。

 そう思い込み、途中で見つかった使用人と合流し、気分が優れないからと家に帰った。しかし、夜になって布団に潜っても、あの少年の事が忘れられない。

 

『人として正しくありなさい。困っている人がいたら助けてあげなさい。善行をなしなさい』

 

 両親に教わっていた言葉が脳裏をよぎる。

 見捨てたことへの罪悪感が胸中を募り、腹部の辺りに不安が溜まっているような気がした。彼女はあまりにも幼く、潔癖過ぎた。他人にも、自分にも。

 一時期は情緒不安定に陥っていたものの、なんとか立ち直ったエリカは思った。彼のような人を助けられる人間になろう、と。

 

 

 それからすっかり時が経ち、愛らしい幼子から可憐な少女へと変貌を遂げたエリカは、勉学でもポケモンバトルでも優秀な成績を残せる文武両道な才女となった。

 

 何を目指しているのかと問われた彼女は、子供の頃から夢見ていたジムリーダーになりたいという想いを両親に打ち解けた。

 はじめこそ渋ったものの、エリカの父母はその願いを聞き入れた。娘の意思を尊重したのだ。

 

 そうしてジムリーダーとなったエリカが赴任することになったのが、忌まわしくも決意を固めた切っ掛けとなったタマムシシティであった。

 前任がどうしてジムリーダーの任を解かれたのかは謎だが、エリカにとってさほど気にすることではなかった。ジムリーダーになるや否や、エリカは即治安を保つための行動に出た。

 

 警察署とともに、タマムシシティで起きる軽犯罪から重犯罪を調査し、現場を押さえ、片っ端から逮捕して回った。金でその場を見逃して貰おうとした者たちもいたが、エリカは徹底してそれを受け取らせなかった。

 お陰でタマムシシティは過去類をみないほど治安が向上し、住民が安心して出歩けるようになったのだ。

 ああ、よかったと。これでまたあんな嫌な思いをするものが減る。エリカは自分が正しい行いをしたと信じて疑わず、そう思った。

 

――ある日の事。

 

 挑戦者が現れた。

 エリカの本業はジムリーダーである。治安維持ばかりしているように見えて、何度かこうして現れた挑戦者たちの相手をしていた。

 

 今回の挑戦者は少女だった。

 年の頃はエリカと同じ、もしくは幾分か下と言ったところか。はきはきとした少女で、白と赤の入り混じった長髪をアップヘアーにしている。

 

――結論だけ言えば、エリカは負けた。

 

 負ける事自体に不満はなく、どちらかと言うと少女のその後の行動が気になった。ジムを出る前に、少女はエリカに封筒を手渡した。

 

「すいません、これ、渡してって言われてるんです。誰にも気づかれない場所で読んでくださいね」

 

 そう言ってポケモンジムを去っていく少女を見送り、後でエリカはその封筒の中身を読んでみた。予想通り、入っていたのは一通の手紙だった。開いて、読んでみる。そこには――

 

 

 

――時間は飛んで深夜。

 

 エリカは余所行きの服を着て、手紙に書いてあった待ち合わせ場所――ポケモンセンターの近くまで来ていた。

 こんな時間まで起きたのは生まれて初めてかもしれない。少なくとも、いい子ちゃんのエリカからはとても想像できない。

 

「――エリカ様でございますね?」

 

 唐突に話しかけられる。見れば、黒いスーツ姿の出で立ちをした男がエリカを見下ろしていた。

 

「は、はい。エリカです。あの……」

「案内人を仰せつかった者です。失礼ですが、チケットはお持ちで? 拝見させていただきたいのですが」

「あ、はい。これです」

 

 ごそごそと懐を漁り、チケットを手渡す。真黒な型紙に赤い文字の書かれたものだ。手紙と一緒に封筒に入っていた。

 案内人と名乗った男はそれを本物かどうか確認するととエリカに返却し、ついてくるように促した。

……どうするべきか。普通に考えたらあり得ない。どう見ても堅気の男には見えないし、どこに連れていくかも言われていないのだ。

 しかし、こんな時間に出歩いたことのないエリカに妙な好奇心が湧いて出た。

 悩んだ挙句、ついて行くことにした。万が一があっても書置きを残している。

 何かあればすぐに対処できるようにと、モンスターボールをいつでも取り出せるようにする。

 

 無言で案内人の背を追いかける。路地裏に入り、マンションの裏手の林を抜けると、やがて妙に開けた場所で男が立ち止まった。

 すると、唐突に案内人が立ち止まり、屈んだ。かと思えば、ぎぃっと鈍い音がして地面が捲れ――違う、あれは地下への入り口だ。

 

「どうぞお入りを。足元にご注意ください」

 

 おずおずと進むと、案内人がエリカを追い越して先導してくれる。薄暗いが、壁にあるランプのお陰で見えないほどではない。洞窟を歩いている気分だ。

 そうして歩くと両開きの扉が現れ、案内人がそれを開ける。途端、眩しくなるような光に目を覆いたくなった。

 

「これは一体……?」

 

 人だ。人の群れだ。

 恐らく百は下らない人々が、興奮を抑えるように長椅子に座っている。彼らが視線を向ける場所を視れば、何やら広いステージ、あるいはリングが。スポットライトも相まって、スポーツ観戦を沸騰とさせる施設だ。

 

「如何なさいましたか?」

 

 案内人が声を掛けてくる。エリカは疑問に思ったことを問いかけた。

 

「あの、ここは一体……?」

「ここは闘技場です。主にバトルが行われます。あまり時間をかける訳にもいきませんので、付いて来て下さい」

 

 テキパキと最低限の答えのみ口にし、男は再び歩き出した。逸れないように追いかける。

 

 しばらく歩き続けると、鉄製の扉が目につく。男が躊躇なくそれを開ける。ギィ――と重々しい音は響いた。

 

「私の案内はここまでです。ここからはどうかお一人で」

「え、あ、わかりましたわ。ありがとうございました」

「お気になさらず」

 

 事務的に受け答えする男に別れを告げ、エリカは開かれた扉を潜る。中には緩やかな階段と、その横にはエレベーターが。

 少し悩んだが、エレベーターに乗り込んだ。ちん、と軽快な音が鳴り、開かれたエレベーターの個室に入る。一瞬の浮遊感と共に浮上。少しして再び軽快な音が鳴り、エレベーターを出る。

 

 部屋だ。

 

 少し大きめに作られたその部屋は随分と殺風景で薄暗い。

 乱雑に置かれた幾つものパイプ椅子の向こう側には、一面だけガラス張りで作られた壁があり、この施設内の風景をある程度見下ろせそうだ。

 そのガラス張りの壁の前に、ひとつだけ、こちらに背を向ける形で椅子と、サイドテーブルが置かれている。そこに誰かが座っていた。

 

「あの」

 

 エリカが呼びかけると、背中が僅かに動いた。次いで、それがのっそりと立ち上がり、こちらに向かって近づいてくる。

 

「――はじめまして、そしてこんばんは。タマムシシティのジムリーダーエリカだね?」

 

 男だ。先ほどの案内人よりも背が高い。

 切りそろえた一般的な黒髪。やや彫の深い顔は、なんとなく、苦労してきたのだろうと思わせる。

 案内された先にいたと言う事はそれなりの地位にいる人物のはずだが、安物の店で買うような衣服を身に纏っている。先ほどの案内人の着ているスーツの方がよほど良い物だ。

 しかし、清潔な身なりと柔らかな雰囲気は、初対面でも好印象だった。

 

「はじめまして、ご存じのようですが自己紹介を。タマムシシティのジムリーダーを務めさせていただいております。エリカです。あなたは?」

「はい、よろしく。オトギリと名乗らせていただいているよ。何か飲むかい? 酒は……未成年だから無理だろうね。ジュースでも出そう」

 

 男の言葉に、どこからともなくブゥンと羽音を震わせたスピアーが、グラスの乗ったトレイを器用に運んでエリカに持ってきた。

 

「おかしなものは入れていない。好きなものを選ぶといい」

 

 言われ、エリカは改めてこの男と初対面であることを思い出した。思案するも、出されるものを飲まないのは失礼なのではと考え、恐る恐る飲料の入ったグラスをひとつ手に取った。

 

 匂いを嗅ぐ。甘い匂いだ。潤す感覚で一口だけ含むと、程よい甘さが広がった。思わず頬が緩む。

 

「美味しいです」

「それはよかった。――ああ、もう始まってるな。来るといい。見せたいものがある」

 

 そう言い、オトギリと名乗った男はエリカに背を向けてガラス張りの方面へ歩き出した。

 手に持ったグラスをどうしようか悩んでいると、スピアーがその場に待機していたので、少々はしたないが一気に飲み干してからグラスを預かってもらう。

 

 早足でオトギリに追いつく。彼の視線の先を見る。

 

「――え」

 

 目に飛び込んだのは湧き上がる観客席と、リング場で相対するモノ達。

 返り血で赤く染めたハサミを鳴らすカイロス。蟲ポケモンの見下ろす先には、へたり込んで片腕から血を垂れ流している少年。

 

――なんだ、これは。

 

 あの怪我を見るに軽傷とは言えない。どうして誰も助けようとしない。どうしてみな興奮気味に笑っているんだ。

 

「――どこに行くのかな?」

 

 走りだそうとしたら腕を掴まれた。

 

「っ! 離してください! あの子を助けないと――」

「助けてどうする?」

「どうする、って……」

 

 エリカは信じられないような目でオトギリを見上げた。その表情は最初と変わらず笑みを浮かべている。

 唖然とするエリカに、オトギリは静かに口を開いた。

 

「あそこにいる子供は親が借金をしているらしくてね。一朝一夕で返せるものじゃない。だからここに連れてきたんだ。ここなら負けてもある程度は金を稼げるからね」

「そんなのっ――」

「子供のために借金をしたそうだよ」

 

 親の借金を子供が返すのはおかしい。そう返そうとしたエリカの言葉を遮るようにオトギリが声を重ねた。

 

「あの子供は、ある日なんの脈絡もなく重い病を抱えてしまったらしい。医者が匙を投げたくなるレベルのね。なんとか見つけた医者は、腕はいいが金を多く貰う闇医者でね。早急な手術と入院が必要だろうと言われて、金額を提示された。額は目を見張る大金だったそうだよ。

 あの子の両親は仕事を続けながら、まず家にあるものをすべて売り払った。それでも足りなかったから方々に頭を下げて少しずつ金を借りた。足りないからまた借りた。借りて、借りて、兎に角借りた。そのうち見向きもされなくなって、仕方ないから今度は裏から借りた。何度かの手術で晴れてあの子は元気になった」

 

 感動的だろ? と。オトギリが目を細めて言う。

 だけど、と続けた。

 

「現実はハッピーエンドにはなれないのさ。残ったのは一時的な幸福と多額の借金。会社の評判に傷がつくと僅かな手切れ金を渡されてさようなら。そんな厄介な奴とは会いたくもないと、身内からも縁を切られた。表も裏も借金の催促。一家心中をしようとする寸前、連中が目をつけてスカウトしたのさ」

 

 エリカは無言だ。男は気にした様子もなく次の話に移った。

 

「あそこのカイロス。あれは元々トレーナーの手持ちだよ。身勝手な理由で捕まえておいて粗相を仕出かすと何かと乱暴を働くトレーナーに嫌気をさしたらしい。よく見ると角の長さが違うだろう? 折られたみたいだよ。言う事を聞けば角を治して野生に帰してやるって約束をしていてね。よく言う事を聞いてくれるよ」

 

 そんな事はあるのか? 

 だって、それは正しい事じゃない。そんなのは正義じゃない。

 

「だって、そんなの、子供にそんなこと――そうだ、手助けしてくれる人もっ」

「駄目なんだよ、エリカ。一人だけ助けてもまたすぐに誰かが来る。ここはそういう場所なんだ。表社会から切り離された奴しかいない。そしてエリカ、それを正すには、君はあまりにも小さすぎて、ここはあまりにも大きすぎる」

 

 語り終えたオトギリを、エリカはぼんやりと見つめた。

 そしてふと、気が付かなかったが、どこかで見たことがあるような気がしたのだ。

 

「……実はね、君と顔を合わせるのは三度目なんだ」

「……もしかして……前に噴水広場で会った……」

 

 だいぶ前の話だが、一人の男がベンチに座って深刻そうな表情をしていた男と話したことがある。正直、内容はあまり覚えていないが、エリカはその男を励すような旨の言葉を伝えたはずだ。

 

「正解。でもね、その前に一度、君がもっと幼いころに会ったことがあるんだ」

 

 オトギリの言葉で必死に思い出そうとするも、わからない。思い出せない。子供の頃の思い出なんてそうそう覚えているものじゃない。

 エリカの態度に察したオトギリは、しばらく考えるそぶりを見せると、それからエリカに微笑みかけた。

 

「じゃあ、こうしよう」

 

 言って、オトギリが右腕を持ち上げた。訝し気に見るエリカの目の前で――彼は唐突に自分の顔を殴りつけた。

 何度も、何度も、何度も。

 殴打の音が響き渡る。血が飛び散る。

 

 突然の奇行に恐怖したエリカは、気が付けばじりじりと後ずさっていた。背中が壁にぶつかる。それとほぼ同時に、オトギリの奇行が終わり、勢いよくエリカに詰め寄ってきた。

 ダンっ、とオトギリの両手がエリカの逃げ道を防ぐように壁を叩いた。

 

「――これで思い出してくれるかな?」

 

 腫れあがった瞼。切れた唇。鼻から、口の端から、出来上がった傷口から血が滲み出ている。

 

――気づいた、気づいてしまった、気づいてはいけないことだった。

 

「実は俺は無戸籍でね。昔いつも死ぬかどうかの瀬戸際だった」

 

――やめて。

 

「あるとき――まあ、チンピラに絡まれたんだ。体の良いサンドバッグとして殴られて蹴られた」

 

――聞きたくない。

 

「ただ、たぶんとても嫌な事があったんだろうね。いつまで経ってもやめなかったんだ。俺が気絶するまで」

 

――言わないで。

 

「起きたら体中が震えるくらいに寒くてさ。上手く動けないから地べたを這って移動しようとしたんだ」

 

――もう喋らないで。

 

「おまけに雨にも降られるし。最悪だったよ。苦しい思いをして、本当に死ぬかと思った」

 

――その目で見ないで。

 

「きっと誰かが助けてくれたら違ったのかもしれないね」

 

――知りたくないの。

 

 瞳が、澱んだ黒い瞳がエリカの目とかち合う。目を逸らせない。身体が恐怖で動かない。震える。怖い。不安で呼吸が荒くなる。目から水が零れ落ちる。

 そんなエリカを視界に収めながら、オトギリは低い声で言った。彼女の聞きたくない言葉を、囁くように口にした。

 

「――よくも見捨ててくれたな」

 

 ぺたり、と。エリカはその場に座り込んだ。

 それは罪だ。それは戒めだ。それは罰だ。封じ込めていた罪悪感。逃れるように没頭した正義。嘗て見捨てた因縁が目の前にいる。

 

「……エリカ」

 

 座り込んだエリカの目線に合わせるようにオトギリが屈みこんだ。かと思えば、エリカの両手を取って包み込むように握る。

 

「俺と君は今日からトモダチだ。いや、大親友だ」

 

 顔中から流れる血をそのままに、オトギリは語り掛けるように言った。何を言っているのか理解できない。

 浮かべた微笑みは、この場に似つくわしくない程に優し気で、それがより一層の恐怖を引き立てる。

 

「それで、あー、なんといえばいいのか……これは強制じゃないんだ。俺はあくまで君にお願いをする立場で、聞くかどうかの意思は君にある。それでも、どうか俺の、君の親友である俺の頼みを聞いてほしい――どうだろう、エリカ。俺の頼みを聞いてくれるかい?」

 

――エリカは、虚ろな目で静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

――クッソイテェ!

 

 マゾでもない限り、自分の顔なんぞ殴るものじゃない。歯は折れていないだろうか。

 仕事に便乗して悪役の自分語りをしてみたが、どうにも上手くいかなかった印象。仕事は上手く行ったけど。

 

 あの後、穏便に説得を済ませてエリカを家まで送り届け、誰にも見つからないように帰宅し、サカキに仕事が成功した旨を伝えた。念のため、しばらくはロケット団の活動を控える事も添えて。

 

 正義面した潔癖な小娘は扱いやすい。自分が否定されるとすぐに見失ってくれる。これなら違法ブリーダーをする方がずっと大変だ。

 ちょっと熱が籠ったことは認めるし、家に送るときも色々と吹き込んだけど。たぶん、立ち直らない限りはかなり長く持つんじゃなかろうか。

 

 別段、前の俺はあの少女を恨んじゃいなかった。恨む余裕すらなかった。ただ、死んだ俺が原作知識を持っていたことが原因で、あれが嫌いになっただけだ。

 知っちまうとね、もう不特定多数として扱えないんだ。良くも悪くも特別な存在だから。……そう言えば俺、友達いなかったな。初めての友達……いや、大親友だ。

 

 とても嬉しいから、末永く付き合わせてもらおう。

 

 

 

 




 都市伝説で、ロケット団がタマムシで好き勝手できるのはエリカ様がロケット団の一員だからとって言うのがあるんです。

 でもなんかエリカ様がロケット団に入るのはなぁ……なんとかしてロケット団に入らないで悪行を見逃してくれないかなぁと考えた結果、若いうちに裏社会の闇を見せればトラウマになって必要以上に関わらないでいてくれるんじゃねってなりました。結果は御覧の通りですが。
 エリカ様の過去話はもちろん捏造です。原作開始が十八歳だとして、まあ十五くらいが妥当でしょ、と。もっと若くても良かったけど出すのが遅かった。箱入りお嬢様だからメンタルを下げてだいぶちょろくした。みんなジムリーダーっていつからやってるの?

 ちなみに主人公君がやたらとエリカ様を嫌っているのは前世の記憶が原因で

・死ぬ前→原作でエリカがタマムシシティのジムリーダーだと知っている
・元の身体の持ち主→見捨てられたこと自体忘れてて不特定多数の存在だったけど、知識の所為で思い出して強く認識するようになった。
・今の主人公→記憶と思いが合わさってエリカアンチへ

 こんな感じ。
 可愛い子が罪悪感とか不安とかに押しつぶされそうになってるのを見ると興奮する。それで不定の狂気に陥ると捗る。hshs。堕ちろ! 堕ちたな。堕ちてないの?


 あと鶏ちゃん。この子の名前が出ていないのは作者がこの子の名前を忘れたからです。ごめんよ。あとでよさげなの付けるから許して。
 自由奔放な弄られキャラっていると便利。オリキャラなら後付け設定もできるし。




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悪役への道:七歩目

 あおたがいやで


 タマムシシティでの仕事関連が非常にやりやすくなった。

 何せ事実上のトップにいる親友にお願いすれば火消し等は手伝ってくれるし、手伝ってくれなくとも静観を決め込んでくれるのだ。親友っていいものだね。

 

 もちろん、あくまで親しくしているのは俺であり、ロケット団は立ち位置的にただの協力者なため、彼らからは俺に仲介料、エリカに賄賂を払っていただいている。ただで甘い汁なんて吸わせねえよ? ポケモンジムの維持にもお金は掛かるから、エリカもきっと喜んでくれることだろう。

 サカキも今回の件で多少は思う事があったのか、前よりかは大人しく行動するようになった。

 一応、俺からもそういう特別なお菓子を用意した方がいいかと尋ねたことはあるが

 

「だって、わたくしと貴方は親しい間柄でしょう?」

 

 と清楚な笑みで言われた。目はどろどろに死んでたけど。親友って素晴らしい。今度お返しでもしよう。

 基本的に連絡手段は電話か、鶏に代理として行かせるか、偶に俺が直接会いに行くことだ。

 はじめの内は雇われのジムトレーナーに妙な視線を向けられることがあったものの、今では極々当たり前のように挨拶をしてくれる。

 ジムリーダーが親しくしてる奴なら口出ししないだろう。何人かはまだ疑ってるけど。だからと言って連中に何かできる訳でもない。

 

 

 それと、今回の一件でサカキから受け取った報酬だが、ひとつはサカキ本人も言っていた金。穏便に話し合いでケリをつけたと思えば悪くない額だ。

 ふたつ目はポリゴン。ゲームコーナーの景品のあれ。

 俺の手持ちは未だにヘルガーとスピアーだけだ。あと一応ミュウも。

 そろそろ原作に向けて新しい戦力が欲しいなと感じ、そういえばポリゴンの最終形態って挙動キチってるし悪役の手持ちっぽいなと思い、進化前のポリゴンを貰ったのだ。何故か二体。一匹売り払おうかな。

 

 そして三つ目だが――鶏である。

 

 前々から間抜けポジの部下が欲しかったし、ちょうどいい機会かと。

 サカキに聞いてみたら、本人の意思さえあれば止める理由はないとのことだったので、鶏が家にいるときに

 

「ロケット団をやめて俺の部下になれ」

 

 そう言ったところ

 

「あ、はい」

 

 と、豪く簡単に承諾し、二日後に荷物を纏めてやって来た。

 やめた際、ロケット団にて宛がわれていた個室を使えなくなってしまったらしく、俺のマンションの部屋をひとつ貸してやった。家賃? とらないよ。スカウトしたの俺だし。

 入団テストと称してポケモンバトルをさせてみたところ、スピアーが倒されて、本当に強かったことを身をもって知った。ヘルガーには手も足も出なかったみたいだけど。

 

 馬鹿だけど頭が悪いわけではないし、運動神経は壊滅的だけどなんか知らんが料理も作れた。良い拾い物かな、これは。短所が強すぎて長所が埋もれるけど。

 

 なお、ロケット団との縁が切れているかわからないので、まだミュウの事は紹介していない。

 しばらくあいつの自室に監視カメラと盗聴器を仕掛けて様子見をしようと思う。いや、変な意味じゃないから。あれの裸を見たところで興奮することはないだろうし。

 

 さらっと出てきたミュウだが、相変わらず闘技場の常連だ。結構儲かっているらしく、そろそろあいつ名義の口座を作ってやった方がいいかもしれない。

 

 最近の流行りは日記帳に書くことと、それから募金箱に万札を入れてテレポートでこっそり財布に戻すというしょうもない遊び。前者と後者の落差が酷い。

 

 

――で、ここからが本題。

 

 ヤマブキの地下に造った闘技場の席が足りない。

 増改築を繰り返して色々と設備を整え、その際に席も少し増やしているのだが、それでも足りない。もう立ち見をさせるレベル。

 これ以上規模を大きくするのは色々と都合が悪い。じゃあどうしようかと悩んでいた所、前々から考えた例のアレ、あの企画。新しい闘技場を別の町に造ろうと相なった。

 

 普通に作るのも面白くないと思い、その場所でしか楽しめない特別を作ることを目標にした。ゲーム業界で言うアミューズメント性である。

 

 ちなみに、今回は幾つかの候補があるのだが、そのうちの一つはもう既に決めている。どこかって? トキワシティ。

 ロケット団のボスが知り合いだからね、スムーズにいくかなと。もちろんサカキも了承済み。トキワシティに造る場合は幾らか取り分を渡すことを条件に、全面的に協力してくれる約束だ。

 作る際の出入り口だが、俺が下見に行って調べてくることになっている。

 

――本当は成長したレッドさんたちに会いに行きたいだけなんだけどね。

 

 前まではちょくちょく交流していたのだが、研究所の辺りから一気に忙しくなって会う機会がめっきり減り、闘技場の時期からはもう電話すら掛けてない。

 如何せん携帯を持っていないものだから、そうだ電話を掛けようと思っても設置してあるタイプの物しか使えないのも拍車を掛けた。

 よくよく考えて見たらすごく不便だ。エリカの時もその所為で情報の齟齬があったし。今度契約しよう。

 

 さて、じゃあ早速――待てよ?

 

 このまま歩いてマサラタウンに行くのは正直すこし、いやかなり面倒ではなかろうか。しかし、飛べるような手持ちを持っておらず、そらとびタクシーを呼ぶのも面倒くさい。

 

――そうだ、ミュウに頼もう。

 

 考えて見れば全技マシンが使えるポケモンだし、俺を乗せて運ぶこともできるだろう。そんな訳でミュウに宛がった部屋に向かう。

 このマンション、俺の部屋も含めて四つも寝室がある。ミュウには一番小さな子供部屋を与えた。最初はリビングで籠に布を敷き詰めた簡易的なベッドで寝かせていたのだが、本人が一人部屋を欲しがった結果だ。

 ちなみに、鶏には開かずの間として決して入るなと言い聞かせているので問題ない。仮に入ってもミュウにはあいつが来たら速攻で姿を隠せと教え込んでいる。

 

 ミュウの部屋に入ると、案の定人型になってコントローラーを両手にゲームをしていた。何、ホラーゲーム? それゴア表現が強すぎて発売禁止になったやつじゃない?

 なんにしろ少し間が悪い。一段落するまで待たせてもらう事に。ゲームをしている時に邪魔をされる何とも言えない不快感はよくわかる。

 

 部屋を見渡す。いま俺が座っているベッドの他に、俺の買ってやった勉強机とテレビ。

 ゲームやソフト、パソコン等は殆ど自分で買い揃えたものばかりだ。……こいつに闘技場の管理任せたら上手くいきそうな気がする。やらせてみようか。

 

 割と本気でどうしようか考えていると、区切りがついたらしいミュウが俺の目の前に立っていた。んー、相変わらず見た目だけは美少女。

 

 耳のような突起物を模る桃色のショートヘア―。色白の肌。幼い容姿には不釣り合いなメカメカしい首輪。青い瞳。基本的な見た目はこれだ。

 服は以前まで自前の物だったが、最近はお洒落を覚えたらしく、偶に買うようになった。

 壁と一体化されたクローゼットには予備の着替えが幾つか仕舞いこんである。色々と俗世に染まり過ぎではなかろうか。

 

 そんな風にしみじみと思っていると、焦れたらしいミュウが不機嫌そうにぺチぺチと腕を軽く叩いてくる。そうだった、そうだった。

 

 目的――とある場所まで運んでほしい事の旨を告げると、しばし考え込んだ後、ぐっと身を乗り出して額をこつんと合わせてくる。……ああ、そうか。記憶を読み取っているのか。余計なものを見るんじゃないぞと念を押す。

 

 そうやって、しばらく額を突き合わせていたミュウがパッと離れた。

 

「行けるか?」

 

 問うてみれば、こくんと頷いた。移動手段の問題はなさそうだ。

 手ぶらで行くのも何なので、行く前にタマムシで色々と買っておこう。

 

 

 

 

――空飛ぶっつーかテレポートだった。

 

 確かに運んでくれとは言ったけど方法は指定しておらず、羽をもっている訳もないエスパータイプのミュウからすればワープさせる方が手っ取り早いのかもしれない。

 運び方はミュウが俺に触れて数秒したら部屋から別の場所に移動した感じだ。場所はゲートを通った先。人目のつかない角っこ。これは本人なりの気遣いだと思われる。

 

 送ってもらった後に帰るかどうか聞いてみたところ付いて行く意思表示を見せたので、小動物の姿で透明化をさせて連れ歩いている。

 いや、首輪嵌めたロリの状態で万が一透明化が解けたらさ、ほら、やばいじゃん? 幼女愛好家だったとか流されるとイメージダウンが凄まじいことになりそうだし。

 

 トキワシティを通り過ぎて一番道路へと向かう。仕事なんて後でいい。今はレッドさんたちと会いたい。

 道中のポケモンは襲ってこず、寧ろこちらを見るとそそくさと逃げていく。不思議に思ったが、肩の上を陣取っていたミュウが鼻で笑っていたため、恐らくこいつが何かしたのだろう。

 

 そうやって悠々とマサラタウンに辿り着いた。清々しい気分だ。

 ミュウも俺の目的地であるマサラタウンに多少の興味があるらしく、周囲をキョロキョロと見渡している。

 

「あれ、お兄さん?」

 

 ぼんやりと飛び回るミュウを眺めていると、聞き覚えのある声が耳に響いてきた。見る。ダボついた服を着たリーフだった。

 

「やっぱりお兄さんだ。久しぶりだねぇ」

 

 のんびりとした口調でとてとてと走り寄ってきたリーフの脇に素早く両手を差し込み、持ち上げる。

 きゃ、と小さく可愛らしい悲鳴が上がった。

 

「もー、急にそんなことされたら吃驚しちゃうでしょ!」

「ははは、ごめんよ。久しぶり、リーフ。元気かい? それとみんなは?」

「レッドとグリーンはわたしの家にいるよ。オーキド博士は研究所かな? ナナミさんは出かけてる」

「ん? リーフはどうして外にいるんだい?」

「ゲームで負けたから罰としてお菓子買って来いって」

 

 あー、あったあった。子供特有の罰ゲーム。

 大抵は何々を買って来いとかなんだけど、たまに告白して来いとか女子のスカート捲ってこいとかあったな。俺は関わったことないけど、一番きついやつに校長のカツラ外してこいとかがあったらしい。

 その所為で一時期、絶対にカツラを取らせようとしない校長と、絶対にカツラを取りたい生徒の攻防が流行ったとか。教頭の一喝で廃止になった。

 

「それならちょうどいい物があるよ」

 

 不思議そうな表情をしているリーフを地面に立たせ、背負っていたリュックを抱えて中身を見せる。

 

「なんか入ってる」

「手ぶらで来るのもあれだからね、来る前に買ったんだ。これで罰ゲームは終わり。親御さんはいるかい?」

「他の家でお茶会してるからいないよ。でも、お兄さんなら大歓迎じゃないかな。わたしの家、くる?」

「もちろん寄らせてもらうよ」

「おっけー」

 

 純粋無垢って可愛いよね。うちのは変な方面に穢れちまった。

 

 時おり会話を交えつつ、リーフの歩調に合わせながら彼女の家へと向かう。

 玄関、リビング、そして二階への階段を上る。

 

「リーフ早かったじゃ――にいちゃん!?」

 

 床の上にだらしなく寝転がっていたグリーンが、一度リーフを見て、それから後ろにいる俺を認識するや否やぱっと起き上がった。

 

「なになに、なんでいんの? え、アポは? アポは取ってないの?」

「落ち着きなよグリーン。オトギリさん久しぶり」

 

 近くでテレビゲームをピコピコとさせていたレッドさんが冷静な様子で言う傍らに、いつの間にかいた我が家のミュウが興味津々で画面を見つめている。次はレトロげーかな。

 

「仕事が一段落ついてね。みんなに会いたくなったのさ」

「そっかー。にいちゃん最近はちっとも構ってくんなかったから、てっきり忘れられてるのかと思ったよ」

「グリーンなんてちょっと前までオトギリさんが会いに来てくれなくて不貞腐れてたもんね」

「レッドはにいちゃんの似顔絵クッションに貼ってぶん殴ってたよね」

「なんでそんなこと知ってるの?」

 

 なんでそんなことしたの?

 

 憧れの人から呪いの儀式めいたことをされていたことに驚きと恐怖を隠せない。え、なに、レッドさん俺の事嫌いだったの? 俺の方はこんなに愛してるのに。

 

「待って、違うから。オトギリさんの事が嫌いな訳じゃないから。あの似顔絵だってグリーンだし」

「それはそれで怖くない?」

「うっさい」

 

 和気藹々とした少女たちのやり取りに頬を緩める。さり気なくミュウがポーズ画面を解いて勝手にゲームをプレイしているが、まあばれなけれ大丈夫だろう。たぶん。

 

「――お兄さん、飲み物」

 

 今の今まで会話に参加していなかったリーフが言った。どうやら態々茶の用意をしていてくれたらしい。湯呑と、急須を持っていた。

 

「悪いね、態々」

「ううん、いいよ別に。ちょうどなくなりそうだったから。それよりほら、一緒にあそぼ?」

「それじゃあ、混ざらせてもらおうかな。二人とも、仲がいいのはわかったから喧嘩はそこまでにしなさい」

「ちょっと、私の物使って殴り合わないでよ!」

 

 

 

 

 

 

 

――色々あって夜になった。

 

 俺が買ってきたゲーム機はもちろん、ポケモンを入れてのかくれんぼ、鬼ごっこ。

 いつの間にか混ざっていたオーキド博士が腰を痛めたりとちょっとしたアクシデントがあったが、とても有意義な時間を過ごせた。童心に帰った気分だ。

 人前に出せないミュウをどうしようか悩んでいたが、レトロゲーに夢中になっていたので問題はなかった。テレポートでいつでも我が家と行き来できるし。

 

 帰り際、俺の買ってきた土産を各々に持ち帰らせ、その日は解散。

 帰ろうとしたら案の定泊って行けと言われ、今回はリーフの家にお邪魔することになった。奥方の旦那さんの部屋を使えとのこと。田舎の人って勢いがすごい。タジタジになる。

 

 夕食を終え、寝るまでの暇つぶしに軽く散歩に出かける事に。ミュウは置いてきた。結局あいつ、携帯ゲームを取りに行った以外はずっと俺の傍にいたな。いいんだけどさ、別に。

 

 気の向くままに歩き回っていると、海の方面、原作でグレンタウンへ行くための海辺付近に誰かが座り込んでいるのが見えた。

 

「やあ、リーフ。どうしたのかな? 眠れない?」

「あ、お兄さん。うん、ちょっと涼みに」

 

 近づいてみればリーフだった。膝を抱えて海を眺めていたらしい彼女は、後ろから話しかけると声を弾ませて返答してくれる。

 隣に座らせてもらう。

 

「……悩み事かい?」

「……なんで?」

「なんとなく、そんな気がしてね。言ってみなさい」

「でも……」

「大丈夫、誰にも言わないよ。それに、別の町に住んでる相手の方が言いやすいかもしれないだろ?」

 

 狼狽える素振りを見せていたリーフだが、観念したように口を開いた。

 

「あのね、わたしってドジでしょ?」

「そうなのかい?」

「うん、レッドとグリーンみたいに勉強もできないし、運動もできないんだ。お母さんもよく『あなたもあの二人を見習いなさい』とか『本当にドジなんだから』とか。わたしがお料理できても『女の子なんだからできて当たり前だ』って」

 

 声に憂鬱さが滲み出ている。

 

「……それで?」

「それで……なんだろうね、なんか嫌だなぁって。だって、確かにレッドもグリーンもお料理できるよ? でも、わたしの方が上手なの。お母さんはわたしのことも褒めてくれるんだけど『レッドちゃんならこれが』『グリーンちゃんならこれも』って。マサラタウンのみんなも、わたしよりレッドとグリーンによく頼るし」

 

 喋り疲れたのか、リーフが口を閉じた。……なるほど。

 つまり、得意な事への否定、比較、求められないことに対しての劣等感を抱いている訳か。

 恐らく親に悪気はない。想像だが、娘に自分の中での標準を押し付けているのだ。頼ってもらえないのは、レッドやグリーンの方が頼みやすいとかなのかもしれない。

 

 それは兎も角、よくあるよね。お前はパパの子だから、ママの子だから絶対できるって。本人じゃないんだから出来るかどうかわからないのに。

 

「……辛い?」

「……」

「嫌い?」

「……」

「二人に置いて行かれたくない?」

「……うん」

 

 参ったな、軽い気持ちで相談に乗ったら割と重い内容だった。どうすんだ、俺、親どころか家族もいないぞ。――あ、そうだ。

 

「ねえリーフ。君にプレゼントを上げよう」

「……え、なに急に」

「まあ、まあ、そう言わずに。ちょっと待ってね……はい」

 

 ベルトに引っ提げていたモンスターボールをリーフに手渡す。

 

「ポケモン……?」

「そう、ポケモン。ポリゴンって言ってね。珍しいポケモンだよ」

「そんな、貰えないよっ」

「気にすることはないさ。ほら、もう一体持ってるから。お揃いだ」

「お揃い……」

 

 ちょっと嬉しそう。やっぱ子供はなんかプレゼントすれば喜ぶんやなって。

 

「リーフ、これはね、俺と君の絆だ」

「絆?」

「そう、ずっと仲良くしようねって言う大切な絆。君が困った時、俺は君を助けてあげる。でも、もしも俺が困っている時、君は俺を助けてほしいんだ」

「約束……でも、そんなの、人を助けるのは当たり前だから……」

「……いい子だね、リーフ。じゃあ、リーフはどうしたい?」

「え、わたし……?」

 

 問いかけると、リーフはしばらく悩んだ様子を見せたが、じゃあ、と小さく呟くように囁いてから続きを口にした。

 

「わたし、いつかお兄さんが困ってたら助ける。それで、なんでもひとつだけ言う事聞いてあげる」

「なんでも?」

「うん。わたしに出来る事ならなんでも」

「そっか。じゃあ、そうしよう。でも、他の人相手になんでもなんて言っちゃいけないよ? いいね?」

「言わないよ、お兄さんだから言ったんだよ。信じてるもん」

「そっか、嬉しいよ。ありがとう。さ、あんまり外にいると冷えるから帰ろうか」

「うん。……おてて繋いでもいい?」

「いいよ、おいで」

 

 立ち上がり、嬉しそうに手を繋いでくるリーフと並んで家に向かう。……なんでも、ね。

 

 

 

 

――いつか役に立ってくれると嬉しいんだけどな、リーフ。

 

 

 

 

 

 

 




 なんでも。

 今回は何一つ不穏な要素のない平和な回でした。いやほら、ずっと悪役ムーヴさせるより、合間合間に挟んだ方が輝く気がしませんか?

 気づいたんですけど、これ主人公がラスボスとして頑張るには戦力不足なんですよね。もう一人か二人ほしいなぁ、なんて。

 それはそうと、前回のエリカ様の回が好評だったようで嬉しいです。じゃあ、また近いうちに。


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悪役への道:八歩目

 ありさんこないで


 凡そ二ヶ月前後の製作期間を経て、これと言った問題もなく闘技場が完成した。

 

 場所はふたつ。トキワシティと十六番道路付近だ。

 

 トキワシティはロケット団……というより、トキワの有力者であるサカキの管理下なため、色々と融通が利くから。

 

 十六番道路なのはなんとなくと立地上。

 

 本当は観光客がそこそこ多いセキチクシティでも良かったのだが、あそこは色々と怖い。主にジムリーダーが怖い。隠し通路とか簡単にばれそうだ。

 町の有力者たちは買収すればなんとか行けそうな気もするのだが……。

 

 それはそれとして、上記ふたつの闘技場の概要について説明しようと思う。

 

 まずはトキワシティ。

 

 一番最初に造られたヤマブキシティの闘技場は、リングの関係上、小型から中型のポケモン達が多く選出される。

 大型は巨体さ故に選出されない、というより出来ないポケモンが多く、無理に出させたいならリングの関係上どうしても一度壊して作り直す必要があったのだ。

 でも、その間は金も時間も掛かるし収入も減る。客が離れる。お給料が渡せない。

 それでも観客から大型のポケモン達が戦う場を望まれ、じゃあ他の場所に造ればいいじゃんと相成った結果、トキワシティの地下に造られることになった。

 

 そんな観客の強い要望に応えて作られた闘技場。ぶっちゃけた話、高い観客席に囲まれたグラウンドだ。サッカーとか野球とかがイメージしやすいだろうか。

 トキワシティって意外と広いんだよね。中々の規模で出来上がった。底はあるが、土を敷き詰め、物理的に不可能だった地面技の幾つかを実現可能に。

 なお、取り分は俺が六で向こうが四。

 目玉はグラウンド全体をフルに使った鬼ごっこ。鬼から頑張って逃げ切れ。

 

 

 次に十六番道路。近くの森に手を加えて地面に掘った闘技場だ。

 

 観客席に囲まれた中央には、対ポケ性加工硝子がドーム状に張られてあり、その中にはジャングルと見間違うほど草木が密集している。

 

 支給された殺傷能力の低い武器と、自前、もしくは配られたポケモンをお共に、密林地帯で物資を補給しながら他のプレイヤーとサバゲー的なバトルロワイヤルを繰り広げてもらう場所で、最後に残った一人が賞金を獲得できる。

 武器はペイント弾を改良した痺れ弾が入ったもので、当たると数分で痺れて動けなくなる。痺れるだけで死ぬことはないだろう。倒れると回収員に連れて行かれて失格扱いに。

 ただ、偶にどこからともなく現れるお邪魔要員が容赦なく痺れ玉を投げつけてくる。それで倒れて回収されても失格。これの所為で優勝者がいないと言う状況も。

 ああ、別に痺れさせなくても気絶させればOKだ。要は動けなくさせろと。

 

 正直、ここに一番力を入れた。理由? 俺が作りたかったから。惜しむらくは、密集した草木が邪魔で非常に見えづらい事か。

 やむをえずカメラ付きのドローンを飛ばしたり耐久性の高いカメラを設置し、スクリーン画面に映し出された動画を観てもらっている。

 物珍しさから人気は高い。ついでに言うと、維持費もトップレベル。赤字が出ないように気をつけなくては。

 

 ちなみに、十六番道路に作った理由はロケット団が近くにあるから。何かあったら押し付けて逃げようかと。というか、全ての闘技場がロケット団に縁のある場所に作られている。

 

 ああ、それと、当然エスパーポケモンの対策はばっちりでだ。耐久性もしっかりとさせた。

 密林エリアに関しては水分を多く含んだ草木で炎タイプの対策をし、駄目だったら上部に設置してあるスプリンクラーの水で何とかするつもりだ。

 ついでなのでエリカにもチケットを二十枚くらいプレゼント。自然が好きらしいからね、きっと喜んでくれるでしょう。

 

 そしてここでひとつ。

 実はこの闘技場、目玉として稀に乱入者が出没することで有名である。

 

――あのゲスロリ小動物だよ。

 

 いつかやるんじゃないかと思ってました。

 闘技場が出来上がってすぐにミュウを連れて行ったのが原因だろうか。

 最初はトキワシティの闘技場を見せて上々な反応を楽しみ、次にメインデッシュの十六番道路の闘技場を見せたのだが……

 

 無言だった。

 

 始まりから終わりまで終始無言。しかも真顔。困惑した。

 しかし、その日以降は別に変わった様子もなく、ああ、単純に気に食わなかっただけかと謎の敗北感を味わいつつ平穏な日々を過ごしていたわけだ。

 

――本日、闘技場に子どもが乱入してきました。

 

 世紀末からこんな報告が来るまでは。

 この時点でだいぶ嫌な予感はしていたものの、とりあえず、カメラで録画された動画を一人で再生――ミュウ断定。

 

 なんか顔全体をフルフェイスのヘルメットで隠していたが、見慣れた服装と背丈で簡単に特定できた。せめて縮むか伸びるくらいしろ。容姿を変えろ。

 

 とりあえず、世紀末たちには何があっても手を出すな、全てこちらに任せろと伝え、ミュウの部屋の鍵を開けて突撃。

 眠っていたらしいミュウが飛び起きるや否や、詰め寄って問いただすことに。

 

 はじめの方こそ色々と誤魔化すように口笛を吹いたり目を逸らしたりしていたが、ゲーム機を叩き壊そうとしたら観念した。

 

――要約すると好奇心と本能が抑えきれなくなり、ついつい乱入し、鬼ごっこをしてしまった。

 その際、ポケモンとしてバレなければいいだろうと考えて人型になっていたと。

 

 俺がなんのためにお前の存在を秘匿し続けていると思っているんだ。お前を狙っている連中がいるからだぞ。照れるんじゃない。人気者だったとしても悪い方面での人気だ。

 

 しかし、自分よりも体格のいい人間の手足を圧し折り、ポケモン達の部位破壊を行う小さな狼藉者の姿は大変に好評であり、たった一回の乱入でファンが出来てしまった。……出来てしまった。

 

 上記のとおり、暴力の嵐とでもいうべきか、その姿をもう一度見たいと考える観客は非常に多く、闘技場への問い合わせは勿論のこと、個人で探そうとする連中もいる。

 ていうか、何人かは既に勘付いていると思う。だってこいつ闘技場の常連だし。賭け事で稼いだ金で私物買い揃えてるんだぜ?

 基本的にチケットさえあれば老若男女問わないため、こいつ以外にも子どもは多数いるのだが、しかし本格的にばれるのはいつになるか……

 

――仕方ない。

 

 数日考えた結果、不定期にゲスト枠として出場させることにした。抑え込んでまた勝手に出場されるくらいなら、こっちが譲歩してやろう。

 

 ただし、ポケモンのミュウだと気づかれないよう常に人型を保つことを条件に。

 ついでに闘技場に出る際は諸々の能力を大幅ダウン。あの勢いだと殺しかねない。

 幾らロケット団からメタモン遺伝子(改)を優先的に受け取れるとは言え、商品、あるいは未来の部下候補を使い物にならなくすることをやめてほしい。

 

 それと、プレイヤー側への配慮として、ミュウが乱入する際はカウントダウンで告知し、事前に配られた腕時計型レーダーでミュウの居場所だけをわかるようにした。あと支援物資の中に対ミュウ専用のアイテムを幾つか。

 

 そんな訳で、ピンクのガスマスク、ピンクの迷彩服という出で立ちで有象無象に跳ね回る狂った桃色珍獣、キラーピンクの爆誕である。通称ハンター。

 

 デバフを食らっても異常に強いので、こいつが出場するときだけは賞金やくじの倍率を上げている。そうでもしなきゃこちらが勝ちすぎて釣り合いが取れない。

 念のため、本人にも偶には勝たせるように言い聞かせており、それで生き残った奴は英雄と呼ばれるようになった。八百長なんだけどな。

 たまにトキワの闘技場にも出張させている。その時の役割は当然のことながら鬼だ。追いつかれたら痛いぞ。何されるのかは言わないけど。

 

 

 

 

 

――さて、闘技場とミュウのお話はここまでにしておこう。

 実は闘技場が半ば出来上がった頃より手を出していた施設がある。なんだと思う?

 

 正解は水族館だ。

 

 切っ掛けは鶏が読んでいた雑誌で、有名人の評価やらポケモンバトルの信条を載せていたものなのだが、どうも鶏はその中に書かれたとあるトレーナーのファンらしい。

 

「あー、やっぱりカンナさん綺麗だなぁ……」

 

――そう言えば、リーグの関係者はいなかったな、と。

 

 つまりはそう言う事である。

 とりあえず、水族館となる建物を急ピッチでセキチクシティに作り上げ、ロケット団や裏の伝手で入手した水系のポケモンを買って密輸入。

 もちろん、今回はちゃんとあの町のジムリーダーにも話を通した。裏のない真っ白な施設だから怖くないし、本人も町が栄えると喜んでくれた。念のため他の有力者たちに幾らか包んで渡しておいた。

 飼育員を何人か雇い、しばらく代理として鶏を立たせ、俺は仕入れたポケモンに色々と仕込むことに。違法ブリーダー時代の腕が試される。

 

 ところで、カントーで珍しい水ポケモンとして真っ先に挙げられるのはラプラスであるが、今回は仕入れていない。何故か。これから行って捕まえるからだ。そのために秘密道具を急いで作らせた。

 

 じゃ、久しぶりに悪役として頑張ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――カントーリーグ四天王のカンナ。

 

 知的な眼鏡、一つに纏めた橙色の髪が特徴の女性で、眼鏡から覗く瞳は自信に溢れている。四天王なだけあって実力は当然のように高く、その美貌も相まってファンになるトレーナーは多い。

 

「あのー、すいません」

 

 ある日、個室で休もうと思い立ったカンナが廊下を歩いていると、不意に横から話しかけられた。どうやら突き当りの通路に人がいたらしく、通り過ぎようとしたカンナを呼び止めたらしい。マスクをつけた清掃員だ。酷く猫背で、暗くて陰鬱な声音だ。新しく入った清掃員だろうか。

 

「え、ええ、なにご用かしら?」

 

 不気味さというか、妙な圧迫感に慄きながらも用件を尋ねると、男はポケットをガサガサと漁って手紙を取り出した。

 

「先ほどトレーナーの方からこれを受け取りまして……カンナさんに渡していただきたい、と」

 

 スッ――と差し出されたのは一枚の便箋。デフォルメされたラプラスの顔がプリントされた便箋はなんとも愛らしく、カンナの心を擽った。

 元来、こう言った贈り物の類は、一度リーグの職員が不審なものがないかを確認してから送り主であるカンナに届けるのだが、どうにも目の前の男の雰囲気に呑まれて受け取ってしまう。

 

「……では、これで」

 

 言って、清掃員の男はそそくさとカンナの進行方向とは別の道を歩いてその場を去る。

 残されたカンナは一度その便箋を眺めてからポケットに仕舞うと、当初の予定通り休憩のために個室へと向かった。

 この後、どこか弾んだ気持ちで便箋を開いた彼女の期待は大いに裏切られる事となる。

 

 

 

――カントー地方の海を南に進むと、ナナシマと呼ばれる小島がある。名前の通り複数の小島が並んでおり、カンナは四ノ島の出身だった。

 

――あなたのご友人をお預かりしております。いてだきのどうくつまでお越しください。

 

 昨晩、あの清掃員に貰った便箋には、上記のような内容の手紙と、一枚の写真が入っていた。

 四ノ島には『いてだきのどうくつ』と呼ばれる氷に覆われた洞窟があり、その中には氷タイプのポケモン達が多数存在する。

 特に、洞窟の奥深くにはカントー地方でも非常に珍しい『ラプラス』というポケモンが存在しており、カンナは幼少期からこのラプラスと共に育った思い出がある。家族と言っても過言ではない。

 

 写真には、そんな家族のように育ったラプラスが、湖の上で虚ろな目をしながら横並びに整列する姿と、そのラプラスたちの手前、麻袋で顔を隠してこちらに向かって手を振る人物が映っていた。

 

――正気じゃない、と。カンナはその時のラプラスの表情を見てそう思い、同時に元凶であろうその麻袋の人物に対して強い怒りが込み上げていた。

 

 同僚に説明する間もなく飛び出すようにクチバシティに止めてある個人用のボートを使い、そのまま四の島へと向かっている最中。焦りが、不安が、カンナの心を占める。

 相手の目的がわからない。故郷に住む住民に、ポケモン達に、もしもの事があれば――。

 

「――着くわね」

 

 見慣れた小島がはっきりと視界に映ると同時に、カンナは無意識にそう呟いた。確認のためか、気合を入れ直すためか。手紙の通りなら、あそこにいるのだろう。

 

 島に上陸すると、懐かしい面々に声を掛けられた。育て屋の老夫婦、近所の子供、駄菓子屋のお婆さん、エトセトラ。

 カンナはそんな住民たちに対して流すように二言三言交わしつつ、いてだきのどうくつに向かった。

 氷に覆われているだけあって、洞窟内は酷く寒い。しかし、幼少期より通い慣れた彼女には然したる問題はなく、彼女はしっかりとした足取りで洞窟の奥地へを歩みを進める。

 

「――ちょっとそこのあんたっ!」

 

 ポケモンで滝を登り、上層の奥深くに辿り着くと、そこにはひとりの人間ががこちらに背を向けて地べたに座りこんでいた。

 大声で呼ぶと、そいつがこちらを振り向く。

 

 写真で見た通り、麻袋を被っている。

 子どもの落書きのような、笑い顔の刺繍が施されており、どことなく不気味だ。遠目からでもはっきりとわかるくらいには背が高い。コートで厚着をしている所為で体型が今一わからない。が、なんとなく男のような気がする。

 

「――やあ、カンナ。遅かったね」

 

 親し気に話しかける声は異様に高かった。いや、違う。地の声じゃない。恐らく、ボイスチェンジャーを使っているのだ。

 

「随分と馴れ馴れしいじゃない。ひょっとして知り合い?」

「いいや、初めましてだよ。君の姿を雑誌で見たことはあるけどね」

「そう、まあどうでもいいわ。それよりあの子たちはどこ?」

 

 苛立ち交じりにカンナが問いかけると、男は数度、自分の手を叩いた。洞窟に男の鳴らした音が響く。

 しばらくすると、湖からざぶん、とラプラスの群れが現れる。無事だったことに安堵するのもつかの間、数が異様に少ないことに気が付いた。

 

「……他の子たちはどこ?」

「手紙に書いた通りさ、預かっているよ」

「――ラプラス、冷凍ビーム」

 

 カンナの掛け声とともにボールから飛び出して来るや否や、ラプラスが男に向かって青白く光る光線を吐き出す。

 

「冷凍ビーム」

「なっ――!」

 

 対して、男は慌てた様子もなく、静かに、しかしはっきりとした声で命令を下した。

 命令を聞いたのは湖にいたラプラス達。素早く口を開いて向かい来る光線へと同じ技を繰り出す。カンナのラプラスは長年の修行によって非常に鍛え上げられた非常に優秀なポケモンだが、しかして複数の野生のポケモン達の攻撃を一度に凌げるほどではない。

 

 押し負けた冷凍ビームが割れるように散り、助けようとしたはずのラプラスたちの冷凍ビームがすぐ傍らに落ちてくる。

 ぱらり、ぱらりと砕け散った氷の破片が辺りを舞う。

 

「どうだい、数が集まると中々厄介だろう?」

「……なんで……なにしたのよあんたっ!」

 

 軽薄な口調で自慢げに言う男に対し、カンナの怒号がぶつかる。

 

「ふふ、ふはっ。いやね、実は前まで違法ブリーダーをやっていてね。得意なのさ、こういうのは。今回は……あんまりスマートな方法じゃあないがね」

「……洗脳ってわけ。屑がっ」

「……そうだね、実はこう言う事も出来るんだ。見せておこう」

 

 男が懐から何かを取り出した。リモコンのようだ。親指がボタンを押して沈む。

 

『――――っ!!』

 

 途端、何体かのラプラスが声にならない悲鳴を上げた。

 もがき、苦しみ、ぐりんと白目を剥き、口から泡を吹く個体までいる。男がボタンから手を放すと、ぐったりとした様子でその場に浮かぶ。

 

「体のどこかに取り付けた機械が、傷口に異物を捩じりこんだような痛みを延々と流し続ける。試作品だから不安定だけどね」

「――っ、この……いいわ、わかった。もう攻撃しないからあの子たちを苦しめないで」

「よろしい。それと、君の家族はこの子たちだけじゃない。他の所にもいるんだ。わかったね?」

「……ええ、理解したわ」

 

 先ほどの行動はあまりにも迂闊だった。虫唾が走りたくなるような衝動を無理やり抑え込む。

 

「……それで、私を呼び出した用件は?」

「ああ、簡単だ。四天王としての君の力だよ」

「四天王として……?」

「そうともさ。四天王という肩書は何かと便利だからね。俺も肖らせてもらおうかと」

「……仲間を裏切れってこと?」

 

 剣呑な声で問うも、男は無言でカンナの方向を見ている。右手には先ほどのリモコンがゆらゆらと。

 

「……それであの子たちが助かるなら言う事を聞いてあげる。足でもなんでも舐めてやるわよ」

「素直な人は好きだよ。これからよろしく、カンナ。……一応、警告だけはしておこう。別に俺がいなくてもラプラスに取り付けた装置は作動する。妙な事を考えてはいけないよ」

「ふんっ……」

「連絡手段は……定期的に手紙でも届けるとしよう。文通は友達の第一歩だ」

「はっ、こんな友達ができるなんて、嬉しすぎて涙が出るわね」

 

 腸が煮えくり返りそうだ。

 最後に虚ろな瞳を向けるラプラスを悲し気に見つめてから、カンナはその場を去る。

 ただでは置かない。必ずあの男に報いを受けさせるのだ。

 

 唇を噛みながら、カンナは怒りと憎悪を煮え滾らせた。

 

 

 

――ポケモンリーグに戻る。

 

 他の四天王たちからは急にどうしたのかと問われたが、故郷の知り合いが危篤に陥ったという報せを聞いて慌ててしまったと誤魔化しておいた。

 大丈夫なのかを聞かれ、ぎっくり腰だったと伝えれば、呆れたような苦笑を返された。

 

「あんたたち、ぎっくり腰を舐めちゃいけないよ」

 

 と、四天王でも最も年配のキクコが真剣な表情で言うものだから、少しだけ笑ってしまった。

 それぞれが各々の責務に戻った頃、カンナはあの男に一矢報い、そして家族を助けるためにと早速行動を開始した。

 まずは他のラプラスたちの行方だ。これは存外と早く見つかった。というのも、セキチクシティで新しく水族館が出来たらしく、そこでは沢山の水ポケモンたちが芸を披露してくれると噂されているのだ。もちろん、ラプラスもいる。というより、メインショーのひとつとして数えられている。

 

 安否の確認はできた。

 様子を見に行きたいが、怪しまれるのは嫌だし、何よりもラプラスが全員虚ろな目をしていたらカンナは勢いに任せて行動してしまいそうだと思ったのだ。片方、だけではいけない。全員を助けなくては。

 

 まずは情報収集だろうと思い、複数の探偵職を雇ってみることにした。しっかりとした会社を経営しているものから、フリーとして活動している者までを複数選んだ。

 当然、連絡はネットカフェやビジネスホテル等の機密性の高めな場所で、周囲に誰もいない状態でこっそりと行う。どこに何があるのかわからない。

 

 探偵たちが情報収集を行っている間、件の男からの命令も来た。

 四天王の個別情報、人脈、資金源、管理体制、またはポケモンリーグ全体の造り等々。所々曖昧に誤魔化しつつ不利にならない程度の情報を流す。

 手紙の受け渡しは直接はしない。

 向こうからの手紙はいつの間にか部屋に置かれており、こちらからの手紙は叢や茂みに放り捨てるように指示されている。

 カメラを設置してみたこともあるが、何も映らなかった。

 

 薄気味悪く思いながらも数日が過ぎ、探偵たちから受け取った情報を纏めてみたところ、次のような事がわかった。

 

 本来の責任者は不明だが、今は一人の少女が代理を任されている。

 少女が住んでいるのはタマムシシティのマンション。

 町の有力者たちがタマムシシティの誰かから話を持ち掛けられて作られた。

 

 大まかに使えそうな情報はこれくらいである。他のは殆ど使えそうにないものばかりだ。

 代理の少女はなんとなくあの男に関わりがありそうな気がするし、もしもそうならタマムシシティを少し深く調べれば何かしらの関連性が見えてくるかもしれない。

 

 続けて少女を尾行、タマムシシティを中心に調べるように追加の依頼をする。

 

「――申し訳ありません。この依頼は破棄させていただけないでしょうか?」

 

 しかし、向こうから断りの電話が掛けられた。理由を求めても只管に平謝りされた。

 他の探偵たちも似たようなもので、何人かの探偵は受けてくれるのだが、やはり破棄されたり、それっきり連絡が途絶えてしまう者まで出てしまう。

 苛立ちを積もらせながら、新しく部屋に置かれた手紙を見る。

 

――明後日、もう一度、あの洞窟に来てほしい。昼食は抜くように。

 

 今回は別にあれをしろ、これをしろ、といった指示ではなかった。が、なんとも訝しんでしまうような文面だ。

 流石に以前のように行き成り飛び出すことはせず、今度はしっかり指定日に休めるように調整しながら有休申請を行う。

 

 そうして指定日、ボートで四ノ島へと向かう。

 故郷の顔馴染たちがわらわらと集まってカンナを歓迎してくれる。急いで来いとも書かれていなかったため、少しゆっくりと全員と会話を交える。やはり、同郷のものとの会話は良い。何と言えばいいのか、張り詰めていた肩の力が抜ける気がする。

 もちろん、ラプラスたちの事は忘れていないが、だからこそ冷静であるべきなのだ。多少心に余裕を持ち、いてだきのどうくつに入る。

 

「――やあ、カンナ。最近ぶりだね」

 

 あの時と同じように、男は気楽そうにカンナに話しかけた。

 ただ、あの時と違うのは、男の近くにやたらと大きな木の箱がある点と、キャンプ用の調理器具を使って料理を作っていることか。

 

「なにしてんのよ」

「カレー作ってる。君の分もあるからそっち座りなよ」

 

 言われた通り向かい側に座る。片手鍋には、なるほど男の言った通りカレーがぐつぐつと煮え立っている。言われた通りに昼食を抜いたこともあり、悔しいが美味しそうだ。

 手慣れた様子で飯盒で炊いたご飯を紙皿に乗せ、カレーをたっぷりと掛け、それをずいっとカンナに差し出した。

 

「はいどうぞ。拒否権はないよ。おかしな物は入ってないから」

 

 受け取らないと言う選択肢を無慈悲に切り捨てる男の言葉に歯噛みしながらも、カンナはそれを受け取り、恐る恐るスプーンで掬って口に含んだ。

 

……美味しい。

 

 特別不味いわけでもなく、かといって舌が唸る程でもない。無難に美味しい中辛のカレーライスだ。

 向かいに座った男を見れば、覆面をずらして無言でカレーライスを口に運んでいる。

 

 それから二人して黙々とカレーライスを頬ばると言う非常にシュールな絵面を繰り広げていたが、鍋の中も飯盒の中もすっかり綺麗になり、なんなら後片付けも全て終えた頃になって、男がようやく口を開いた。

 

「さて、カンナ。今日は君の今後を左右するサプライズがあるんだ」

 

 立ち上がり、懐を漁りながらカンナに近寄ると、男は取り出したそれをカンナに手渡した。

 

「……なによこれ」

「リモコン。あ、この水場のラプラスを痛めつける奴じゃないからね。安心するといいよ」

「どうしろってのよ」

「立って、その箱から少し離れた場所で押して」

「は? なんで私が……」

「いいから、ほらさっさと立つ。言っておくけど、今ならチャンスだとか思って俺に攻撃しかけてこないでね。どうなるかわからないから」

「しないわよ」

 

 ぶつぶつと言いながらもカンナは男の言う通り立ち上がると、二人して少し離れた位置に移動した。男の方に目配せすれば、どうぞと言わんばかりに掌を向けてきた。

 不平不満を覚えながらもスイッチを押す。

 

――箱が爆発した。

 

 突風が吹き抜け、木片が辺りに散らばる。

 風がある程度収まると、カンナは半ギレで男の方を向こうとして、気が付いた。自分の足元に何かが転がっている。

 

 はじめはサッカーボール程の大きさのそれがなんなのか理解できなかった。

 

 上が青み掛かっていて、下の部分は白い。ぐるりと巻貝のようなモノが二つあり、その間に突起物が一つ。開かれた部分からは舌が垂れ下がり、瞳は虚空を見つめていた。たらたらと流れる赤黒い液体が、小さな川を描いている。

 

「言ったろ」

 

 とん、と両肩に重みが乗る。むずがゆくなるような囁き声が耳朶をうった。

 

「妙な事を考えてはいけないよ、って」

 

 何が、どうして、こうなった。

 身体中から力が抜ける。上手く立てない。その場に座り込む。目が、死んだような目が、こちらを見ている。

 

「――ああ、そうだ」

 

 呆然とする思考の最中、声が聞こえてきた。ボイスチェンジャーの甲高い声ではない。低い、どこかで聞き覚えのある声だ。

 そう、確か、あのときに手紙を渡してくれた……

 

「それ、美味しかったでしょ?」

 

 

 

 

――どうやって帰ったのか覚えていない。ふらふらとした足取りで四ノ島を出て、それからクチバシティに。

 そうだ、ラプラスの様子を見たくて……だからセキチクまで向かった。

 

 それで、そう、いまは水族館にいる。ラプラスが芸をしている。観客がそれを見て盛り上がる。

 あの子も、あそこにいる子も、知っている。前まで洞窟にいた子だ。あの洞窟で見たような目じゃない。キラキラとしていて、まるで心の底から誇らしげな目をしている。あれは操られてなんかいない。あ、あの子私に気づいた。嬉しそうに手を振ってくれてる。凄く楽しそう――あれ?

 

――じゃあ私、なんで頑張ってるんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――六十点かなぁ……」

 

 ミュウのテレポートで帰宅し、自室でぼそりと呟く。今回の悪役としての評価である。

 俺、自分からこいつにしようって明確に決めて引きずりこんだことないんだよ。エリカの時は場の流れでそうなっただけだし。だから今回はよし決めた、って感じで自分から選んだ相手な訳だけど……なんだかなぁ。

 

 ちなみにポケモンリーグに潜り込めたのはミュウのお陰。

 連日ハンターしてるわけじゃないし、ちょっと散歩がてらに道を覚えてこいと二日ほどかけて送り込んだ。お陰でテレポートもばっちりだ。

 所々エスパー対策をしている場所もあったのだが、逆に言えば幾つもエスパー対策されていない場所もあり、そこからテレポートをさせた。清掃員の格好で潜り込むのは中々にスリリングであった。

 今更だが、透明化はエスパー技ではなく固有の能力だ。

 

 ラプラスの躾に関しては……いささか外道だが、薬を使わせてもらった。催眠剤? 意識が混濁するタイプのやつ。機械の方は数が足りなかったので、頑固な奴にだけつけてあの場に残している。いつかは堕ちてくれるだろう。

 他の連中は水族館で芸を仕込んだらすぐに馴染んだ。寧ろ楽しんでる。好意的な目で見られるのが嬉しいらしい。

 

 そしてカンナだが、腐っても四天王と言うべきか。

 まさかあんなに早い段階でタマムシにいる事を嗅ぎつけられるなんて思わなかった。

 何人かは買収して、何人かは伝手で脅しを掛けて、なんとか引かせた感じだ。高くついた。幾つか潰しておかないといけない。

 

 それと、箱の中に入れていたラプラスだが、当然ながら作り物だ。ロケット団と裏関係の研究者連中に作らせたよくできた偽物。本物と見わけがつかないくらいにはよくできてるんだけど、微妙に小さいんだよね、あれ。

 散らばった肉片はカンナが居なくなった時に全部掃除して水底に流した。小型のポケモンやバクテリアの餌になる。火薬の量間違えてちょっと弱かったから焦ったけど、存外なんとかなった。

 

 当然、カンナが食べたのはラプラス肉じゃなくてうちの家の冷蔵庫にあった賞味期限すれすれの食用肉。それを分厚く切ったもの。カレーにすると案外わからないものだ。それなりに高い肉だったわけだが……全部ぶちまけてくれた。もったいない。

 

 本物は……なんというか、まだ殺せないと言うか。どうもまだ手を汚したくないというか、これは逃げだな。早く慣れないといけない。

 

 総評は……まあ、楽しかったかな? たぶん。しばらくはすっきりと気持ちよく過ごせそうだ。

 

 

 

 




 俺は悪くない。ミュウが、ミュウが悪いんだ。俺は無実だ!

 本当はここで原作の男キャラを出すために頑張ってたんですけど、動機がへぼすぎて八千文字くらい書いて消した。貴重なガチムチ枠だったのに……期待に応えられず申し訳ありません。

 仕方がないのでカンナさんに来てもらいました。wikiとか見ると悪役ムーヴをする際に非常に便利な設定のキャラだったので。
 四『ノ』島は誤字ではありません。いや、なんか変換すると真っ先にこれが出るからこれでいいかなって。雰囲気出てるやろ?
 今回はあれですね、悪党と言うかただの下衆。エロいことし放題やんけ! とか考えた人はあれね、反省。


 あとなんか感想欄でこのポケモンどうよって勧められるんですよ。あれ大丈夫? 利用規約に違反してない?
 いや、あとがきでも前書きでもポケモンの募集してないのに急に感想欄がそんな感じになったからちょっと吃驚した。感想自体は嬉しいです。励みになってます。使いたいと思うポケモンもいるし。

 あ、そうそう。原作開始までしばらく平和な回が続きます。


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悪役への道:九歩目

 ごめんやで


――欲求不満を悪役ムーブで解消してから十数日。

 

 ミュウは相変わらず不定期でのハンター稼業を楽しんでおり、それがない日は家で積んだゲームを進めている。

 最近は読書にも嵌り始めたらしく、よく辞典を愛読している。ネット通販で買っていた官能小説はこっそり捨てておいた。なんか、こう、絵面的に。

 

 

 鶏は代理としての仕事をよくやってくれている。

 年齢が年齢なだけに舐められると思っていたがそんな事はなく、持ち前のコミュニケーション能力でアルバイトや飼育員、捕らえたポケモン達にいい感じに馴染んでいた。

 天職かもしれません! と興奮しながら言っていたので、後日セキチクの奴らから責任者を出して引き継がせた。事務処理も出来ないやつが己惚れるな。いや、本当はコイツ経由で身バレしそうだったのが理由だけど。

 

 ちなみに今年で十三になるとのこと。初めて知った時は年齢詐称を疑った。

 あの時の身長は平均よりやや低い程度だし、ロケット団には成人した大人しかいないと言う偏見もあって気づきすらしなかった。俺と会う少し前から急に身長が伸び始めたらしい。

 というか、殆どの連中は俺より背が低いので、どうにも同じに見えてしまう。ただ、意識してみればこいつの顔は確かに年相応だ。

 

 つまり、俺が蹴り倒したときは十か十一だったと言う事か。謎の罪悪感。

 

 

 エリカはよくお茶会に誘ってくれている。本人と言うよりも、周りに居る取り巻きが余計な気を利かせて俺とエリカを二人っきりにしたがる。

 明らかに勘違いされているのだが、エリカ自身が特に何も言わない所為もあって勘違いが加速している。それとなく訂正しても照れ隠しだと思われるだけなので諦めた。

 まあ、本人が否定しないのならそれでもいい。都合よく使わせてもらおう。

 

 でもなんか最近エリカの俺を見る目が怖いんだよね。中途半端に光が戻ってきてる。何かを探っているような……大丈夫だとは思うが、近いうちに対策をしておかなくては。

 

 

 そしてカンナ。

 あの時に食った肉を未だに洞窟内のラプラスのものだと思っているらしく、気づいた様子はない。

 ただ、頻繁に休みを取り、その際は必ずセキチク水族館に足を運ぶため、他の四天王が少し怪しんでいる。キクコと一緒に来たこともあるらしい。鶏が二人のサインが入った色紙を見せびらかしながら報告していた。

 これはしばらくあそこの水族館から離れた方がいいな。また新しい肩書が必要になりそうだ。

 なお、四天王も頻繁に足を運ぶくらい楽しい場所として有名スポットになりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

――悪役の教養としてネットでグロ画像を漁るという行為に疲れ果て、何か飲もうと思ってリビングに赴くと、ソファーに寝そべって項垂れている鶏が。

 どうしたのかと尋ねてみれば

 

「……お気に入りのソシャゲが昨日サービス終了しちゃいました……」

 

 とのこと。ああ、まあ、気持ちは分かる。

 俺も死ぬ前はそんな事があってなんとも胸に穴が開いた気分になった。どれくらい続いた?

 

「三ヶ月。……あ、ありがとうミュウちゃん」

 

 多分クソゲーだなそれは。

 台所から現れたミュウがジュースを注いだコップを両手にリビングに現れ、鶏が礼を言いながらそれを受け取る。

 そして俺の存在に気づくと、しばらく唖然とし、散々悩んだ挙句に悲しそうな顔で自分の分であろうコップを差し出してきた。いやいいよ別に。自分で持ってくるから。

 

 

――実はつい最近、ミュウの正体をばらしてみた。

 

 引き抜いたときから今日まで部屋に仕込んだカメラと盗聴器で家での生活態度を監視。

 外での行動も怪しみ、その筋の連中に動向を見張らせ、ついでなのでこいつの使っている全ての電子器具や端末に細工をし、何をしているのかと逐一わかるようにもしていた。

 

 そうして毎日の動きを吟味した結果、こいつにスパイは無理だなという結果に至った訳である。

 合わせる前にミュウに信用できそうか聞いたら頷いていたので、大丈夫だろう。

 

 まあ、一番の理由は、俺が早く解放されたかったからだが。

 初めて迎え入れた部下のプライバシーを見続けるって相当な苦痛だぞ。途中からは半分くらい心が死んでたからな。俺にはストーカーの気持ちは分かりそうもない。

 

「うぇーい……」

 

 残りが少なくなっていた烏龍茶をラッパ飲み。

 監視を続けていた件もあって、どうにもコイツが弱っている姿を見るのは忍びない。

 どれ、たまにはゲームに付き合ってやるから元気を出せ。

 

「え、ホントですか? じゃあ三人で対戦しましょうよ」

 

 どれがいいかなー、これにしようかなー、と楽し気にテレビを置いているローボードからゲーム機を引っ張り出す鶏を横目に、どかりとソファーに腰を下ろす。

 ところで、さも当然のように数に入れられているミュウだがいいのだろうか。……構わないらしい。寧ろどんと来いと言わんばかりに胸を叩いている。

 

「――はいどうぞ」

 

 コントローラーを受け取り、ミュウを挟んで向こう側に鶏が座る。年上の威厳を見せてやろう。

 

 

 

 

――負けたわ。そういえば俺、この体になってから一度もゲームしてなかった。

 

「……ふっ――いたたたたっ! 言ってない! 私何も言ってない!」

 

 顔を鷲掴みにされた鶏が喚き声を上げる。お前、いま鼻で笑おうとしたろ? 誤魔化せると思うなよ。

 

「んぉぉ……ミュウちゃんは知らないけど、私はこのゲームそこそこやってますからね。ベテランですよもう」

 

 ぐにぐにと自分の顔を揉みながら、鶏がそんな事を言う。実際強かった。ちなみにやったのはカーレースゲームである。あれだ、配管工のやつを全部ポケモンにしたやつ。

 とりあえず、自分のクソ雑魚っぷりを披露して感じたことは、やっぱり娯楽品なだけあって負けても面白いなということ。

 思わず自分でゲーム作りたくなる。……いや、作ればいいのか。金に物を言わせれば出来る気が……。

 

「あ、そうだ」

 

 頭の中で天平にかけていると、ミュウと仲良く煎餅を齧っていた鶏が思い出したように口を開いた。

 

「ボス、最近ポケモンバトルしてます?」

 

 突然の質問も気になるのだが、それ以上にそのボスという呼び名に違和感しかない。なんだお前と怪訝な表情を向ける。

 

「いや、昨日見たミッション・イン・ポケトラベルが面白かったから私もボス呼びにしようかなと。いままで『あなた』とか『オトギリさん』とかだったし」

 

 外でその呼び方は止めてくれよと釘を刺しつつ、ポケモンバトルについて考えて見る。……してないな、そう言えば。

 

「やっぱり。あんまりおざなりだと鈍っちゃいますよ。ポリゴンとか未だに進化もさせてないじゃないですか。水族館で引き取った子も育ててないし」

 

 水族館から引き取ったと言うのは『ミズゴロウ』のことである。

 どうも手違いか何かで一匹紛れこんでしまったらしく、元の場所に戻そうにも場所を覚えていないと言われてしまい、色々あって俺の手持ちになった。

 

 別に俺が引き取る必要はない。ないのだが、最終進化のラグラージがどことなく悪っぽい見た目なので採用することに。水タイプのポケモンいなかったしちょうど良いかなって。当初は警戒心を迸らせていたものも、今はすっかり馴染み、適当に家で自由にさせている。

 

「ミズゴロウは兎も角、ポリゴンはそこそこ経ってますよね? なんで進化させないんですか?」

 

 小首を傾げて問いかける鶏にどう返答するか迷う。

 忙しかった、手が回らなかった、面倒くさかった、というのもあるのだが、実はポリゴンに関して非常に重要な問題が浮上した。

 

 

――ポリゴンZまだ存在しない説。

 

 少し前、サカキにアップグレードと怪しいパッチを融通して貰おうと思って電話を掛けた。

 すると前者は兎も角、後者に関しては逆に聞き返されたくらいだ。試しにポリゴンZについて聞いてみてもよくわかっていない様子。

 

 ネットで検索してもヒットしない。

 もしかして:ポリゴン2。違う、ポリゴンZだ。

 

 掲示板を巡ってみた所、破棄されてもういないだとか、都市伝説レベルでいるかどうかの噂はあるのだが、果たして俺の知っているポリゴンZなのかどうか。ポリゴン3とか書いてあったし、信憑性は薄い。

 

 あのキチった目と挙動を手元に置いておきたかっただけに、存在しているかどうかも怪しいと知った時はショックを受けた。

 ひょっとすると、そのうちシンオウ地方辺りから徐々に広がってくるかもしれないが、どうにもモチベーションが出ない。

 コンプ目指してるゲームで、丁寧にイベントとかフラグとか回収してたのに、うっかり途中のCGを取り忘れたままやる気なくすみたいな感じ。

 

 ただ、鶏に指摘されたままなのは気に食わない。

 

――仕方ない、自分でつくるか。

 

 どうせなので、先ほどまでやりたいと思っていたゲーム制作のためにオフィスも購入しておこう。場所はヤマブキシティで良いかな。

 オフィス内に何かしら地下に行ける方法を作って研究所――今更ながら、メタモン遺伝子の研究所を取り壊したのは早計だったかもしれない。

 

 嘆いていても仕方がない。行動開始。

 

 コネで中くらいのオフィスを購入。なるべく安い場所を選んだ。それでも高いけど。

 それを顔馴染になりつつある奴らに短期で改装をお願いする。中身はしっかりとしていると言われたので、主に外観を綺麗にし、それと、オフィス内のどこかに地下の闘技場に繋がる隠し通路もつくってもらう。隠し通路って憧れるじゃん?

 内装はコーディネーターにお任せ。最低限それっぽくしてくれればいいから。

 

 

 数日かけてそれっぽくしたオフィスの次は社員を集める。履歴書は不要で面接だけ受けてもらう。ただし、齟齬を合わせるために過去、現在に至るまでの勤務態度、素行を徹底的に洗い出す。

 才能がありそうなのに恵まれなかったり、こいつちょろそうだなと思う奴を採用する。無能な風見鶏や腰巾着は除外である。

 面接に受かった奴らの伝手で使えそうな連中を紹介して貰う。もちろん、紹介された人材もしっかり調査。どうしても足りないとなったら、また随時募集すればいい。

 

 書類など面倒な点は多々あれど、そこは調べたりサカキに聞いたりしつつ進行。

 

 多少なりとも裏から手を回したお陰もあって、三週間ほどでほぼ全て終えた。研究所も完成。予定通り、闘技場の一角を削り取って造った。中々悪くない出来である。

 職員も既に確保済みだ。裏から優秀だったり口が堅い奴だったりを集めた。あと念のためにプログラマも雇った。どちらかというと後者がメインになるのか。

 

 

 ゲーム制作陣には、金はなくならない限りどれだけ使ってもいいから、この中から比較的早く出来そうな物を作ってくれと案を出して丸投げ。どれも有名なゲームが元ネタである。

 

 

 研究員たちには、サカキから買い取ったポリゴンと、予め進化させた俺のポリゴン改めポリゴン2を引き渡し、プログラムを弄って強化するように無茶ぶりする。

 確か死ぬ前に見た大百科の説明には、異次元空間がどうのこうの書かれていたので、その辺に手を加える方向でお願い。そしたら不具合が出てポリZになるでしょ。知らんけど。

 

 ちゃんと給料は払うし、成功報酬も用意しておくから頑張れ。

 

――ここまでの感想。色々あってめっちゃ疲れた。主に精神的に。でもまだミズゴロウの件が。

 

 

 言うまでもなくミズゴロウの育成も進めている。

 このミズゴロウは中々に悪くない個体のようで、ヘルガーやスピアー相手にもよく食らいつく。

 もちろん、未進化のポケモンが勝てるほど我が家の手持ちは弱くないのだが、それでもまあよく粘る方だ。気が付いたらヌマクローになってるし。弱点が少ないって便利でいいな。草飛んで来たら終わるけど。

 

 そんな訳で、ミズゴロウ改めにヌマクロー君には苦手なタイプを克服して貰うことに。

 

「ええ、構いませんわよ。切磋琢磨してこそのポケモントレーナーですもの」

 

 草タイプのスペシャリストであるエリカに協力を仰いでみたところ、嫌な顔一つせずに承諾してくれた。こういう所は流石現役のポケモントレーナーだと感心する。ポケモンバトルに対する姿勢が俺とは違う。

 

 とりあえず、打たれ強さと的確な回避能力を身に着けてもらうために、タマムシジムのポケモン相手に全力で鬼ごっこをさせる。しばらくはこの方針で行こう。

 

 

 

 

 

 数週間後。進捗状況について。

 

 ゲーム会社は滑り出しから好調だ。

 具体的というほどでもないが、最低限想像できる程度の案を出しているのでそれを基に各方面から足りない技能を再雇用している。なんかもう既に発注したモデリングが幾つか出来上がっているらしい。早すぎる。

 みんな豪い張り切ってるなと思ってディレクターに話を聞いてみたら、金も人材も使い放題で最終目標も出ているため、昔いた職場よりずっと働きやすいとのこと。

 目の下に隈できてるけど、ちゃんと休んでるのかね。

 

「安心してください。最低でも一日に一回、三十分は休んでますよ」

 

 疲労で倒れたりしないようにしっかりとした休憩を取るよう言い聞かせておく。

 

 

 次に順当な進化を迎えたラグラージ。

 思ってたよか小さいのは兎も角、能力面では非常に優秀だった。

 

 苦手な草タイプを相手にさせ続けてきたお陰で不利属性でも決して臆することはなく、寧ろ逆に刈り取ってやると言わんばかりの威圧感と気概を示してくれる。もうジムトレーナーじゃ相手にもならんな。

 

 試しに本気のエリカの手持ちと戦わせてみたところ、二体目を倒す寸前で力尽きた。苦手なタイプを使うプロ相手だと考えれば十分すぎる結果ではなかろうか。おめでとう、今日から君も悪役だ。

 なんとなく、鶏の手持ちと戦わせてみたら全抜き一歩手前まで行った。ポテンシャルが高すぎる。流石御三家。期待の新人だ。

 

 

 

――最後にポリゴンの研究だが、少しずつ解析が進んでいる。

 

 ポリゴン、もしくは進化後のポリゴン2に何かしらの手間を加えようとすると、その全てが悉くレジストされてしまう――というより、正式な手順を踏まないと途中でロックが掛かり、強制的にシャットダウンするらしい。

 これはポリゴン達の意思とは関係なく備わっている自動の防衛機能と言っていた。だから、既存のアップグレードなしだと進化させることも出来ない。なお、万が一の事も考えて怪しいパッチも捜索中である。

 

 

 ただまったくの無駄と言う訳ではなく、ポリゴン達のデータには所々防御面の弱い……なんといえばいいのか、マインスイーパーで言う安全地帯があるらしく、そこを取っ掛かりにして鍵穴を合わせるように試行錯誤した結果、いい感じに嵌って侵入成功。

 

 異次元空間の機能追加をする際、セーフモードを見つけたので解除しておいたと報告された。

 他生物に対する殺傷能力があーだこーだ。報告書は流し読み、声に関しては聞き流していたのでよくわからない。無学歴に面倒な話を聞かせないでくれ。

 

 まあ、なんだ。頑張れとしか言いようがない。どうせ一朝一夕に出来るモノではない――そう思っていたら翌日に電話で呼び出された。

 

 

「――誠に申し訳ありません」

 

 雇った研究員とプログラマが頭を下げてくる。

 俺の提供したポリゴン2に変化が起きたらしいと告げられて足を運んでみれば、何やらぼろぼろの研究施設とこのような状況に。

 

「プログラムとは別の行動をすると言いますか、脈絡のない動きをすると言いますか、姿形が変わったと言いますか」

 

 うだうだ言われても仕方がないので、実際に見せてもらった。

 ゲームとかアニメでお馴染の培養槽と、体中におかしな管を刺されてよくわからん液体に浸るポリゴン2――じゃないな。ポリZじゃないかあれ。

 え、実験成功? 念のためどんな問題があるのか聞いてみた。

 

「命令を無視します。セーフモードを解除してしまったため、他者、主に生命に対する攻撃性が極めて強く、先ほどまで暴走しておりました」

 

 どうやって鎮圧を?

 

「念のために書き加えていたプログラミングの機能で強制的に意識を飛ばしました。定期的にデータを送り込んで再起動を防止しております」

 

 よくそんな技術があったものだと感心する。

 つまりあれか、暴走する生物兵器。なにそれかっこいい。量産は?

 

「現状、ほぼ不可能です」

 

 作ったのならデータは残っているはずだが、何故できないのだろうか。

 

「プログラムに関しては基本的に我々研究職ではなくプログラマが担当しているのですが……その、バックアップに使った器具の殆どが壊されてしまい、残ったのも、かなり初期段階の物ばかりでして……」

 

 気が緩み過ぎではなかろうか。

 まあ確かに、大変だったんだなと思う程度には色々と壊れたりしているが。暴走したポリZが入ってるあの培養槽、ガムテープみたいなの貼ってあるけど大丈夫?

 

「防水加工を施したテープなので問題ありません」

 

 ああそう。

 何はともあれ、施設内の補修を行う意味も込めて、実験はしばらく中止した方が良さそうだ。少ないが給金も出そう。

 休んでいる間、思い出せる範囲でデータを修復するように言っておく。

 それから培養槽のあれはボールに戻せるだろうか?

 

「可能です。持ち帰るのですか? 確かに元々は貴方の手持ちですが……」

 

 無免許とは言え元ブリーダーだ。カイリューだって育てたことあるし、まあ大丈夫だろう。

 

 

 

 

 楽観視したまま、昼間は使われていないヤマブキの闘技場に移動。

 

 リングの上にポリゴンZを運ばせ、世紀末と鶏、いざという時のため透明化させたミュウを待機させて包囲網を敷くも、しばらくして目に光を宿したポリゴンZは特に暴れることなく俺の周りをうろうろと飛び回っていた。

 

――え、なにこれは。

 

 研究者たちに意見を聞いたところ、恐らく、元々あった俺とのトレーナー関係が刷り込まれたままで、研究所で暴れようとしたのは、俺の安否を気にしての行動ではと仮説を立てていた。

 

 拍子抜けである。

 

 なんだか馬鹿らしくなったのでモンスターボールに戻し、部下を帰らせてから鶏、ミュウと共に帰路に就く。性能の検証はまた今度だ。色々と手を出している真っ只中なので、いささか疲れが溜まっている。

 

「どんなゲームができるんですかねー」

 

 呑気でいいなこいつ。

 

 

 

 

 

 




 表企業に食い込む下準備ですかね? そんな回。

 ポリZさんはどこぞの地方のおかっぱ団が作ったんじゃないの? とかさんざん言われてたし、ピカブイでも出てこなかったらしいのでこうなりました。
 たぶんロケット団が壊滅するか、もしくはそのちょっと前くらいに改めて広まったんじゃないかなと。こじつけですけどね。

 鶏については、こいつ大人っぽくないしなぁ、どうすっかなーと悩んだ結果、何故だかこの年齢で纏まりました。
 私が10歳のとき、担任と同じくらいの背の高い女子生徒がおりまして、まあ背の高い女子もいるでしょと。確かぎりぎり160センチ行かないくらい。その後は殆ど身長が変わっていませんでした。

 もしかしたら修正をするかもしれません。その時は活動報告か前書き、後書きで報告します。

 更新が遅れた件は申し訳ありません。単純に悩んでいました。調べたけどよくわからないところはそのまま出しました。ガバガバ。

 次回もよろしくお願いします。


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