魔眼のヒーローアカデミア (角キサ)
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出久:プロローグ

プロローグ1


始まりは中国・軽慶市。発光する赤子が生まれたというニュースだった。

以降、世界各地で超常――【個性】が発見される。原因が判然としないまま時は流れ、『超常』は日常に。夢は現実に。そうなっていった。

世界総人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会の現在。混乱渦巻くこの世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴びていた。

その職業とは、『ヒーロー』。

 

人を守り、救い、時に逆境に立ち向かい、希望となる存在である。

 

―――――

 

「わーたーしーが来たっ!わーはっはー!」

 

この少年も、例に漏れずヒーローに憧れていた。

少年の名前は緑谷出久。

『希望の象徴』とも呼ばれるヒーロー【オールマイト】に強い憧れを抱き、自分にも個性が発現したらオールマイトのようなヒーローになるのだと常々母親に語っていた。

 

しかし齢四つにして出久は絶望を味わうことになる。

 

――――――

 

「無個性ですな。諦めた方がいい」

 

個性診断を担当した医者から無情にも告げられた結果は『無個性』。

ヒーローを志す者としての最低限の装備とも言える個性を、出久は持ち合わせていなかったのだ。

 

それからというものの出久は部屋に引きこもり、虚ろな目でオールマイトの活躍を納めたDVDを見続けていた。何度も、何度も。

 

その様子を見て、このままではいけないと思った出久の両親は休日に出久をドライブへと連れ立った。

最初は暗い顔をしていた出久だったが、次第に車から見える景色に気分が高揚していた。

昼食をとり、折り返し、帰り道を走っていた時のこと。

トンネルに差し掛かったその時だ。

『ソレ』が起きたのは。

 

トンネルが崩落したのだ。

 

このトンネル崩落は、ヒーローと対を為す存在である『敵』によるものだった。

この崩落事故には多くの車が巻き込まれた。

が、生き残ったのは『緑谷出久』ただ一人だった。

 

しかも無事に生き残ったわけではない。その後、半年もの間、昏睡状態に陥っていた。

 

―――――――

 

出久が昏睡状態から回復して一日。

担当医師からの軽い問診を受けている時に、出久はおかしなことを言い出した。

 

「せんせー」

 

「ん?どうしたんだい?出久くん」

 

「この線、なぁに?」

 

「線……?」

 

出久には他の人間には見えないものが見えるようになっていた。それが線。

 

「……まさか!」

 

と、医師は「ちょっと待っててね!」と言うと病室から飛び出てすぐに戻ってきた。一枚の画用紙を持って。

 

「出久くん。その線はこの紙にも見えるかい!?」

 

「え?う、うん」

 

「出久くん……この紙に見える線をなぞってもらえるかな?」

 

という医師の言葉に出久は黙って従った。

指で画用紙に見える線をなぞる。

線はプツリと切れた。

 

するとどうしたことだろう。その線と同じように紙が切れたのだ。

 

「まさか……本当に存在するなんて……」

 

医師が狼狽える。

出久はその姿をボーッと眺めているだけだった。

 

―――――――

 

出久が見えるようになった線は出久の個性によるものだった。

以前『無個性』と診断されたのにおかしな話だが個性なのだ。

未だに数例しか確認されていない個性『直死の魔眼』。

あらゆる『モノ』の【死】が見えるというもの。

線がモノの【死】を表しており、その線が切れるとモノは死ぬ、というもの。

 

何故、無個性のはずの出久にこの個性が発現したのか。

この個性は後天的に発現するものなのだ。死に瀕した無個性の人間にのみ発現する個性なのだ。

昏睡状態に陥り、脳が死を理解したからこそこの個性が発現したと言ってもいい。

 

――――――

 

両親の葬儀を終えてから、親戚の家に引き取られた出久は個性と身体を鍛え始めた。

両親の死を乗り越えるために、そして自らの夢を叶えるために、自身を強くする道を選んだのだ。

その結果、小学校に上がるまでの間に個性のオンオフの切り替えを身につけ、小学校に入ってからは近所のキックボクシングのジムに通い始めた。

戦う術を身につけるためだ。

 

 

そして出久は中学三年生になった。



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緑谷出久:オリジンⅠ

――折寺中学校――

 

「よーし、お前ら席に着け〜」

 

担任教師の声でその場にいる全員が席に着く。

全員が着席したことを確認すると教師はこれから配布するであろうプリントを手に持ちながら話し始めた。

 

「お前らも三年生だ。そろそろ進路を、将来を考えなきゃ行けない時期だな。なのでこれから進路希望のプリントを配る!」

 

言いながらプリントを配る。

全員にプリントが行き渡ったところで教師は生徒に向き直る。

 

「けど皆、だいたいヒーロー志望だよね〜」

 

クラスの面々の大半が返事をするが如く個性を使った。

それを見た担任は頭を掻きながら、

 

「うんうん、みんないい個性だな。けど、校内での個性使用は原則禁止な!」

 

等と注意しながら話を進めようとした矢先、だ。彼が声を上げたのは、

 

「センセー!」

 

そのよく通る声にみんなの視線が集まる。ふんぞり返り、机に足を置いている彼へと、

 

「みんなとか一緒くたにすんなよ。俺はこんな『没個性』共と仲良く底辺なんざ、行かねーよ」

 

彼の名前は爆豪勝己。出久の幼馴染みであり、個性【爆破】。掌の汗腺からニトロのような汗を出し、それに着火することで爆発を起こすという個性を持っている。

しかし性格に難ありで、今のような発言を繰り返し反感を買うこともしばしば。

今だって、

 

「そりゃねーぜ!勝己!」「そーだそーだ!」「ふざけんなー!」

 

等と周囲から怒号が飛んでいる。

 

「モブがモブらしくうっせー!」

 

等と煽りを入れるものだから火に油を注いでいるようなものだ。

 

「あー、確か爆豪は雄英高だったな。志望校」

 

と、教師が言うと爆豪への怒号は収まり、ざわつきへと変わった。

 

「雄英って国立の?」「今年の偏差値79だぞ!?」「倍率も毎度やっべぇって……」

 

そのざわつきに気分を良くしたのか爆豪は机に飛び乗り、ポーズをつけながら、

 

「模試じゃA判定。俺はウチ唯一の雄英圏内。あのオールマイトをも越えて、俺はトップヒーローとなりッ!必ずや!高額納税者ランキングに名を刻むのだ!」

 

「そういや、緑谷も雄英志望だったな」

 

と、爆豪の勢いの良さを止めるためか、教師が名簿を見ながら言い放つ。

 

「おー、緑谷もか」「緑谷が個性を発動してるところ見た事ないな」「けど緑谷ならいけんだろ!頭もいいし!」

 

と、周りが再度ざわつき出すと出久に向かって爆豪が個性を使いながら殴り掛かる。

出久はそれをすんでで躱す。

 

「コラ、デクゥ!躱してんじゃねぇぞ

 

周囲のクラスメイトは思った。「やべぇ、逃げよう」と。事実教室の外まで退避している者もいた。

 

「没個性かどうかすら怪しいテメェがぁ……なんで俺と同じ土俵に立てるんだァ!?」

 

青筋浮かべながら出久へと構える爆豪。

出久はその爆豪の様子を見て、一つ溜息を吐く。

 

「僕はちゃんと個性持ちだよ、かっちゃん。それに、僕がどこに立つのも僕の自由でしょ」

 

「アァ!?」

 

一触即発。そんな言葉が最も似合う。そんなシーンが教室内では繰り広げられていた。

 

――――――――

 

――放課後。

 

帰ろうと荷物を纏めていたところを爆豪に呼び止められる。二人の男子生徒を引連れて。

 

「……なに?帰りたいんだけど」

 

「まだ今朝の話は終わってねェんだよ」

 

「今朝の話?あれ以上話すことないでしょ」

 

「あるんだよ、ボケ!……一線級のトップヒーローは、大抵学生時から逸話を残してる」

 

「うん、そうだね」

 

爆豪の言う通り、トップヒーローと呼ばれている人間の大半は学生時から何かしらのエピソードを持っている。

 

「俺はこの平凡な私立中学から初めて、唯一の雄英進学者っつーハクをつけてーのさ。まぁ、完璧主義なわけよ」

 

「……それで?」

 

爆豪は一歩出久に近付き、肩に手を置く。

 

「もし万が一、いや、億が一にもお前が雄英に受かったら困るわけ。だから雄英受けるな。な?」

 

「みみっちいね。かっちゃん」

 

「……あ?」

 

爆豪のこめかみに筋が浮かび上がる。

 

「みみっちいって言ったんだよ。意味は……図書室にでも言って調べてきたら?じゃあね」

 

とだけ言い残して出久は教室を出ていった。

 

「緑谷言うなぁ……」「あそこまで言えんのは『幼馴染み』故、なのかねぇ」

 

爆豪は、そう言った男子生徒をギロリと睨みつけ、黙らせる。

 

「あのクソデクゥ……!」

 

忌々しげに爆豪は呟く。



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