もう一人の勇者 (大和)
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プロローグ

すばん。とミットの心地いい音が聞こえ俺は声を出す

「ナイスボール。瀬川。ラスト一球。」

キャッチャーミットをかぶる俺にとって最後の夏が控えているので俺はただミットを動かさず。ただ一点だけを見る

そして構えたコースに一直線で投げられるボールに俺は心地よさを感じボールの感触が伝わる

「オッケー。今日の朝練はここまで。上がっていいぞ。」

「すいません。大久保先輩。付き合わせてしまって。」

というのも放課後の練習では俺たちの学年が使ってしまい

「いいってそれよりもお前もうちょっと体重増やせ。これからも夏になると試合も増えるんだから。」

俺がそういうそしてブラシを取り出したところで

「あっ。先輩。片付けなら僕達がやりますよ。」

「へ?」

「僕達の練習に付き合ってもらっているお礼だと思ってください。」

「先輩はいいですから。」

「でも悪いし。」

俺はためらうけど俺は整備用のブラシを取られる。

「それに速水先輩怒ってましたよ。今日ノースローだったんですよね?」

「げっ。そうだったけ?」

ノースローデーと呼ばれる練習をランニングとストレッチだけにして疲労を抜くためのものなのだが、完全に忘れていた。

というのも去年野球部は甲子園に出場し、ベスト8、今年の春は選抜優勝という好成績を起こしたのがきっかけだった

俺ともう一人に一年生隣のクラスの野島で一年バッテリーで出場したのだが野島が少し肩に違和感を感じ秋大会に休むということがあり、俺と野島が注目選手ということで特別扱いすることになったのだ

なので監督は俺と野島にストレッチの日を決めていたのだが

……忘れてたよすっかり。

「悪い。ちょっと片付けお願いしていいか?今度焼肉奢るから。」

「えっ?いいんですか?」

「食べ放題にしろよ。来月の小遣い全部まで使う羽目になるんだから。」

そして急いで部室に向かう

というのも俺と速水芽衣ことメイは幼馴染で、かなり古い付き合いがあり、親友と呼べる仲でもある。

そして急いで部室から出ると俺は急いで教室へと向かう。

やばいやばい。

さっさと機嫌取らないと監督に告げ口される。

てか試合があった次の日は休みって監督に言われていたんだった。

正直根っからの野球人間だけあってこういうことを覚えるのは苦手で結構問題児として通っている

一番は去年の文化祭の日程をすっかり忘れ通常事業だと思ったのをクラス全員から大笑いされたり、メイとの約束を忘れていたり色々散々のことにあった

そして着替え終わり消臭スプレーをかけると俺は全力疾走で走る。

キャッチャーとはいえ俺は結構足が速いのもあり、一番バッターを任されるほどであった。

そしてドアを思っ切り開けるとそこには俺のもう一人の幼馴染とも言える南雲がいつも通りの5人に囲まれているのが問題なのだ

始業前ギリギリの野球部の俺にとってその風景はもう見あきている

「おはよう。ハジメとメイ。」

「あっ。おはよう。球児。」

「……おはよう。」

と相変わらずご立腹のメイとポニーテールをした女子がこっちに気付く

「あらおはよう。今日も部活?」

「八重樫おはようさん。そっちは朝練ないんだっけ?」

「ないわよ。しかしそっちも練習試合明けで今日は休みって言ってなかった?」

「忘れて一年の練習付き合っていたんだよ。あいつら今年にベンチ入りは難しそうだけど結構才能あるからつい。」

「あっ。一年生の相手をしてたの?」

するとメイがちょっと悪そうに顔を背ける。

「そうだぞ。一応キャッチャーで30球ほどブルペンに入っただけ。アップもキャッチボールとランニングくらいだったし。」

「……はぁ、それで整備は。」

「一年全員に焼肉一回で手を打った。」

「……今度私もだすよ。うぅ、欲しい漫画あったのに。」

と少し涙目になっている

「また、漫画買うの?」

「お前はもう少しお金の使い方考えような。」

「いや、ゲームをかなり買っている球児には言われたくないと思うんだけど。前もアドベンチャーゲームの復刻版買っていたよね?」

「……いやだってストーリーがみしろ先生だぞ。買うに決まっているんだろ。」

「……僕も次貸して。」

「了解。まぁストーリーに春ちゃんルートと秋ちゃんルートが追加されたくらいだったし。ロリっ子と巨乳が好きなハジメには結構好みだと思うぞ。」

「ロリコンじゃないから。」

「相変わらず仲いいね。」

すると学年一可愛いと噂の白崎が話しかけてくるが

「いや、この雰囲気だったら八重樫の胃痛がマッハで進んでいくからな。お前とそこの……えっとてがわだっけ?」

「天之河だよ。」

「悪い悪い。武道をやっているにも関わらず相変わらず嫉妬で弱いものいじめをしている雑魚には興味なくて。」

すると顔が青くなり目を逸らす。

俺がどういう意味を言っているのかはこの3人、八重樫と天乃河しかしらないのだろう

俺も土日の部活動終わりやノースローデーに未だに剣道、いや、俺と八重樫には剣道だけではなく、本当の剣術という型のないこと上級教わっていることが多いのだ

「あぁ。そうだ今日丁度道場いく日だったし、久しぶりに手合わせでもするか?全国レベルなんだし最近練習試合で練習休みがちだったから十分相手になるだろ。素振りだけは毎日欠かしてないけど」

「……やめておくよ。さすがに負けるってわかっていて挑むほど馬鹿ではないんだし。」

「あっそ。ならさっさと失せろ。」

俺は少し呆れたように突き放す。

「……はぁ。せめてもうちょっと穏便に済ませなさいよ。」

「あぁいう自分の話していることが全て正しいみたいな奴は突きはねるのが一番くるだろ。てかあいつ全くこりねぇな。」

と俺と八重樫は少し苦笑を帯びながらため息を吐く。

というのも今有名なグループというのは二つ存在しており、天之川達が貫くリア充組と、俺と八重樫、白崎が形成しているグループである。というのも最初は俺とハジメ、メイで形成していたのがいつの間にか八重樫と白崎が入ってきて、そして谷口が入った

天之川は多分白崎狙いだろうけど、影のリーダーと呼ばれているだけあってこのクラスでの発言権はかなり強い。

「正義感が強すぎるのよ。自分に酔っているって感じだし。」

「お前も辛辣だな。」

「まぁ悪気があるわけじゃないけどね。」

「本当に悪気がないから問題なんだよ。」

俺はさらにため息を吐く

「はい。席について出席とるわよ。」

と愛子先生と呼ばれるドジっ子先生が入ってきて今日も日常が始まった

 

「んで、あそこでコンボ決められて負けた。」

「メイちゃんにまた負けたんだ。」

と俺とハジメでゆっくり飯を食べている。これは俺とハジメの日常であって、そして唯一あらゆる視線から離れる唯一のやすらぎの時である

というのもメイは読書モデル、八重樫は剣道部のホープ、白崎は学校一の美女として通っているからな。

野球部としても同じことで世間の評価は俺よりもエースの野島の方が注目を浴びていて、俺はそのキャッチャーとしての認識を浴びている。

といっても世間の評価だけだが

「……そういえば今日の放課後結局剣道に行かないの?」

「兵庫の方のスカウトが会いたいって言ってきているんだよ。だから今日は挨拶回りかな。」

「……凄いね。球児は。」

「凄くねぇよ。たく。過大評価すぎなんだよ。」

俺はため息を吐くと苦笑するハジメ。

俺から見たら弱さを受け止めていてそれに立ち向かっているお前の方がすげぇと思う

弱いからこそ俺は強さを求めた

だから俺はこいつを尊敬しているのだ。

まぁ気づいてないだろうけど。それでも俺にとってこいつは憧れでもあるのだ

とそう思った矢先だった

下に円環幾何学模様の魔方陣が急に描かれ始める

俺たちは下を見ながら硬直してしまう

「皆教室から出て。」

という愛子先生の声も虚しく魔方陣の輝きがカッと光り俺たちはその世界から消えたのであった



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異世界召喚

光が治ったと思えば俺は急に体の感覚が研ぎ澄まされた様に感じそして何かにお祈りしている人が目の前に見える

……うわぁ召喚系か

ライトノベル好きの俺にとってこの展開は見覚えがあるんだけど巻き込まれるとはな

隣には南雲がいるし、奥にはさっきまで天之川と一緒に飯を食べていた八重樫とメイもいる

「……あっ球児。」

するととことこと俺の方にかけてくるメイ。

「これって。異世界召喚だよね?」

「あぁ、たくシャレになってねぇぞ。」

「……そう?私は結構ワクワクしているけど。」

「ワクワクってお前な。」

俺は呆れたようにメイを見るとかすかに震えているのが分かる。

……こいつ、

「とりあえず話を聞かないと始まらないだろ。先生全員いるかまず点呼取らないでいいのか?」

「えっ?」

「今の状況で必要なのは安否確認と誰がいて誰がいないのか確認することだろ?昼休み中だったのもあるし、まだこっちに来ていない奴もいるかもしれない。」

「いえ。全員いるわよ。」

すると八重樫が俺に告げる。

「……誰一人かけることなく全員いるわ。」

「……ん。サンキュー。」

俺はそして思考を研ぎすませようとした時だった。

とある老人がは手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音で俺達に話しかけた。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

俺たちは落ち着けないだろうからと別の部屋に移され他の部屋に移されたんだが、その場所は明らかに豪華な部屋で漫画やゲームで王族が食事をするような部屋だった。

逆に落ち着けないと思うんだけど妙に冷静な自分に気づく

……おそらくスキルとかが関係しているんだろうけど、それでも妙に思考がはっきりしている

どうやら話を聞くに3行でまとめると

この世界はトータスと呼ばれておりエヒトという神に召喚された

魔人族に人間族の滅ぶ可能性があるので力の与えた俺たちに戦ってほしい

この世界にいる人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める

ってことだけども

それってただの言いなりってことだよな?

俺はそれに従っているこの全ての人類に軽く不気味に覚える

そして、それに反応するのも当然いて

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

と愛子先生が怒り俺たちはいつものことなのでほんわかとその人をみているが

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

愛子先生が叫ぶけど

「いや、喚ぶと還すじゃ多分術式が違う。それに俺たちを喚んだのはエヒトっていう神だろ?人間に異世界に干渉するような魔法は使えないってことだ。」

「……そこの少年のいうとおりです。あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな。」

「そんな……」

愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

帰れないとかそんなことを言い出しパニックになりだすが

「とりあえず今は従っておくしかないんじゃないのか?戦争に参加するとかしないとかは別にして、とりあえずはこの世界を生きなければ帰る手段もなくなる。」

「そうだな。、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。」

するとやっぱり天之川は乗って来やがった。これには俺も少しだけホッとする。

とりあえず今は恐怖を取り外すことが必要だ

「……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

計画通り。とりあえずここは従っておくってことがまずは大事だ

俺はニヤリと笑うとするとメイが呆れたようにしている

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

と感激を受けているところ悪いがそれは全部操られていることをしらないのだろう。八重樫なんか俺をジト目で見ているし

「性格悪。」

「うっせ。まぁ物事の本質を気づかないうちに意識を逸らした方がいいだろうよ。」

「……球児は気づいたの?」

「戦争ってことは多分そうだろうよ。ただ一旦現実逃避も口実を作っただけだ。」

ハジメの言葉に俺は否定をしない

俺とハジメは気がついていた。イシュタルが事情説明をする間、それとなく天之川を観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのか確かめていたことを。

そして話のやり方をイシュタルは表のリーダーである天之川に狙いを定め影響力のあるものを探していたんだろう。

俺の要チェックリストにイシュタルが加わるのは、言うまでもない



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ステータス

俺たちが戦争参加を決めるとまず王宮に来て晩餐会を行なった後

「……ふぅ」

自分の部屋で一息入れていると

コンコンとノックの音がする

「ん。空いているぞ。」

俺がそうやって声を掛けるとするとやはりと言うべきかパジャマ八重樫が扉を開けていた

「よっ。」

「あんた相変わらずお気楽ね。」

「お前らが怯えているのを見るとさすがに冷静にもなるさ。まぁスキル関連に状態効果無効化とかあるんだろうけど、この世界に入ってから結構考えることが多いんだよ。相変わらず扱いやすい駒は簡単に動いてくれたし。」

「……ほんといい性格しているわね。」

八重樫は少し苦笑したけど

「でも色々腑に落ちないことは多かったけどな。でも常識とかさっぱりの俺らは今は従うしかないだろ?例え人を殺せって言われているとしても。」

俺は本質を見抜いていた。戦争とは何か利害があり進行しているので何かを求めて戦争をしているわけであり、

そしてそこには人が死んでいるのも確かだ

「……やっぱり。そういうことなの?」

「戦争って言われた時に魔人族だけじゃなくて亜人族については説明はなかっただろ?多分魔人族程度の戦争じゃないけど多分戦時中だろうな。それに元々ここは国だ。他の国がないってわけじゃない。八重樫も気づいていたのはちょっと驚いたけどな。」

「……今は二人しかいないしいつも通りでいいけど。」

まぁそれなら

「了解。まぁシズは気づいているかもしれないけど、今はあいつに依存させているだけ。それだけで自殺志願者が出ないだけマシだろ。」

俺は声を崩しているが結構真剣な話をしていることに気づいているんだろう

「依存って。」

「愛子先生の案を通してもいいんだけど、俺のラノベ読んでいるシズなら少しはわかるだろ?……今日1日で犠牲者が出る可能性があったってことも。」

戦争に参加しなかったから誰かを犠牲にし脅して俺たちを屈服させるってことは十分ありえたはずだ。

「…しかもそれに気づいているのが南雲、メイ、お前の3人いたことが奇跡だよ。」

「南雲くんも?」

「あぁ、あいつと俺だけは最初から警戒していたからな。やっぱりこういうお約束には強いんだよ。」

と一息入れてから

「とりあえずまずは自分の実力を確かめなくちゃいけないし、俺はしばらく従う方向性で。シズは?」

「私もそうするつもり。少しどうするかは考えるけど。」

「……まぁ、とりあえず考えろよ。それと、ちょっとこっちに来い。」

「……」

すると首を捻りながらもこっちに来るシズに俺は少しだけ笑い

「頑張ったな。」

俺は軽く頭を撫でる

「えっ?ちょっと。」

明らかに動揺を見せるシズに俺は呆れてしまう

「無理しているの丸わかりだっつの。今は二人っきりだし、少しくらい泣いとけや。」

俺はある事情により家にあんまり未練はないんだけど、こいつは家族などの大切に思っている人がいるはずだ。

「……気づいていたの?」

「家同士の付き合いがあったからもう13年間お前といることになるんだぞ。幼馴染のことは大体は分かるって。」

「……そう。」

「知っているからな。精神的にも強いってことも知っているけど。それでもいつかは限界がくる。辛くなったら俺の部屋にこい。泣き止むまで黙っておくから。」

「……ありがとう。でもできれば。」

「泣き顔は見ないでほしいだろ?背中貸してやるから。」

といい俺は背中を向ける

「ありがと。」

と小さな声が聞こえた後やがて泣き始めたのか背中に小さな雫が落ちる

……せめて君だけは雫を守ってやってくれ。

一度そんなことをシズの父親から頼まれたことがある

そんなこと言われなくても分かってますよ

俺は

 

翌日から訓練と座学が始まった

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。

なんだこれ

不思議そうに配られたプレートを見る俺達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

気楽に話しかけてくるメルドさんが伝えるとステータスプレートについて説明が始まる

魔方陣に血を垂らすと自分のステータスが登録されるらしくレベルは人間族は100が限界

レベルがあがるとステータスがあがり魔力んや日頃の鍛錬でレベルは上昇するらしい。

そして天職というものがあり、いわゆる才能と呼ばれるものでその天職を見るとその天職においては無粋の才能を発揮するらしい

俺は聴きながら早速やってみようと思い針を手に当てステータスをみると勇者と書かれた文字が

「……」

バンと大きな音を立て俺はそのステータス欄を閉じてしまう

「ん?どうした。」

「い、いえなんでもありません。」

俺は内心冷や汗を垂らしながら俺はもう一度ステータスをみる

 

大久保球児 17歳 男 レベル:1

天職 勇者

筋力 100

体力 1000

耐性 500

敏捷 300

魔力 100

魔耐 500

技能 全属性適性・全属性耐性・状態効果無効・物理耐性・魔法耐性・痛覚耐性・魔力操作・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

固有技能 上限突破 影の支配者 天才肌

 

なんでやねん

心の中でそう呟く。いやこれさすがにおかしいとしかいいようがない

これ攻撃通るのか?

魔耐と耐性がひどい数値になっており多分これタンクよりの数値。それもかなりの数値がいかれている

てかパニック状態にならなかったのって状態効果無効が関わっているのか?

平均が10ってことなので最低値である筋力や魔力にかんしては通常の人の10倍。体力においては多分野球で増やした体力が異世界補正で高くなっているのだろう。

問題は固有スキルの方なんだけど

上限突破は多分ステータスの限界、つまり俺に関してはレベル100以上に上げられるということ

影の支配者は……まぁ今の状態のことを指しているだろう。

問題はこの天才肌ってことである

天才肌ってどう言う効果なんだ?

何かと疑問は多いがわけがわからず俺は首をかしげると

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや〜あはは。」

と天之川も勇者が天職だったらしく試験官の賞賛に照れたようにしているのだが

……レベル1で4桁あるんですけど。

俺これ見せたらやばいことになるんじゃないのか

と内心冷や汗だった。

「……球児どうかしたの?」

メイが俺の方を向く。さっきからおかしいのは分かっているだろうしメイにはいいか

「……ステータスがチートなんだよ。」

「えっ?」

「ほら。」

俺は少しメイにステータスを見せると一瞬でメイの表情が固まる

「……うわぁ。天職勇者にステータスも勇者(笑)よりずっと高い」

「お前今天之川のこと勇者(笑)っていっただろ?」

「いやこのステータス見たら……そう思うでしょ。」

確かにである

「そういや、お前は。」

するとステータスを見せてくると

 

速水芽衣 17歳 女 レベル1

天職 弓手

 

筋力 30

体力 40

耐性 30

敏捷 80

魔力 80

魔防 50

 

技能 弓術 短剣術 魔法弓生成 罠感知 製薬 家事 

 

「……普通だな。」

「普通でいいよ。軽く球児のステータス人間やめているし。」

「俺もそう思う。せめて隠蔽があれば多少はごまかせるけど。」

「…これじゃあ無理そうだね。」

席の順番からいくとハジメの次は俺である

そして地獄の時間はどんどん進んでいくと

するとハジメの番になると試験官の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

「……あぁ、あいつ非戦闘職当たったのか。」

俺はなんとなくだが察してしまう

ここで戦争するのに対して非戦闘職はかなりいらない子扱いされているんだけど

ステータスも多分かなり低いなこれ

俺はさすがに同情してしまうがただ鍛治師ってことだけは本当に良かったと思う

まだフォローできそうだし

 その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。

檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤っている。

「バカかお前らは。」

俺は呆れたように呟くとそれが聞こえていたのか

「は?」

「前線に行って戦わなければいいだけだろ。鍛治師なんだし。戦い方は色々ある。」

「……どういうこと?」

ハジメは首を傾げているのでここからはずっと俺のターンだろう

「……ハジメお前って結構現代日本における武器やゲームに出てくる武器とか結構詳しかったよな?」

「うん。ゲームをやっていたから詳しいけど。」

俺はニヤリと笑い

「それを作ることってできるか?」

「「「……」」」

するとハッとしたようにする王宮の教官たち

異世界の武器というのはかなり魅力的でもしかしたらこの世界にない武器の可能性だってある

「えっとスキルによるけど。材料さえあれば大体のものは。」

「そうだな。それに武器を作らなかったって飛行機や車など、山から降りた時は全くなかったここは科学については地球より発達してないと見た。もしかしたら電気という代わりに魔力という優れた文化が発達しているせいだろうな。だから電子機器のエネルギーを魔力と変換した場合。」

「あっち側の生活用品が作れるってこと?」

「あぁ。そういうこと。つまりお前は文明として一歩先の道具を作れる可能性があるってこと。」

するとおぉと一気に教官の心を鷲掴みしたらしい。

戦闘職だけが全てじゃない

「非戦闘職にも十分活用方法はあるだろ?戦闘ばっかに気を取られていると非戦闘職のありがたみが分からなくなるぞ。」

「……ちっ。」

舌打ちして居心地が悪そうにさっきまでニヤニヤしていた男子は下を向く

一応ステータスが低かった奴の言い訳を考えていたんだけど、こんなに簡単に片付けられるとは思わなかったな

「そういえば俺のステータス見せてなかったよな。」

「あぁ。お前で最後だ。」

「ん。了解。」

俺はまぁこの空気だったらいいかと思いステータスを出すと

「「「「……」」」」

教官たちは声を失っている。というよりも俺とステータスを何度も見直しそして息を呑む

「あっステータスについて何も言わないで。……話したら協力しねぇぞ。」

最後の部分は人には聞かれないように小さな声で軽く殺気をだしながら俺は警告する

「あ、あぁ。」

さすがにこのステータスを失うわけにはいかないのであろう

俺にステータスを返すと俺は自分の席に戻る

そして講義が始まりその間俺はのんびりと授業に明け暮れるのだった



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異世界転生者

そして転生してから二週間が経った後

「あめぇよ。」

「えっきゃっ。」

といいシズの右足足を引っ掛けに木刀を首筋に当てる

剣道部に所属していたシズと基本は朝と夜中に特訓をしているのだが

やはり剣道の癖が抜ききっていないのか型をしっかりと守っているシズに対し俺は昼間に王国の兵士と打ち合っているために実践の剣筋を覚えてるためにやはり俺の方が強くなっていた。

「はい。これで8勝2敗っと。」

「球児強すぎ。これでまだ身体強化も使えるんでしょ?」

「いや、ステータス抑えているとはいえお前もだいぶ取れるようになってきているよな。」

「でもまだ勝ち越せてないでしょ?もう一度お願いできるかしら。」

「了解。」

そしてまた木刀を構える。

俺は未だにクラスの一部しかステータスを公開しておらず、知っているのはハジメ、シズ、メイの3人だけである

ステータスの成長も本当に勇者補正なのかめちゃくちゃ上がるし

というのも現在のステータスは

 

大久保球児 17歳 男 レベル:10

天職 勇者

筋力 200

体力 2000

耐性 1000

敏捷 600

魔力 200

魔耐 1000

技能 全属性適性・全属性耐性・状態効果無効・物理耐性・魔法耐性・痛覚耐性・魔力操作・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解 体術

固有技能 上限突破 影の支配者 天才肌

 

明らかに成長速度、および耐久性のあるせいでガチで人間をやめているだろうこれ

しかも生えにくいと言われている後天的なスキルも一つ手に入れたし

「んじゃ、もう10本な。」

「えぇ。」

そして俺とシズは剣をぶつけ合う。それは朝食が始まるギリギリまで続いたのだった。

 

「……はぁ、勝てる気がしないわ。」

「また、朝練してたのかい。」

俺とシズ、んでなぜかいる天之河の3人で飯を食っていた。

「仕方ないだろ。剣筋は1日振らないだけで全然変わる。それになんでもありの試合をやるのには俺は最適だろ?光の魔法適正もあり尚且つ敏捷もそこそこある俺が一番相手になるってし……八重樫が判断したんだし。なによりお前じゃ限界突破使わないとこいつに勝てないじゃん。」

「うっ。」

八重樫流を持った3人グループなので剣だけならば多分俺、シズ、天之河の順で強く、今の剣の腕前は俺が圧倒的に優れている

というのも俺が八重樫流を始めたのが3歳の時であり、両親のせいで裏の八重樫流に入れられたのでこう言った戦闘はかなり慣れているとしか言いようがない。

そしてそれは全員が自覚していることであり、今でもその序列は変わっていない。

「そういえば、メイは?」

「今日は甘える日なんだって。初日も随分甘えていたし、……今日、白崎が怖かったし。」

「あぁ、だから機嫌が悪かったのね。」

メイはハジメのことが好きらしくて理由は聞いてないが俺がいない時は基本的にハジメの側から動かない。

元々ライトノベルとかも読まなかったがハジメがハマったということによって読み始めるほどだ

ついでに二人が気があるのは俺とシズは知っており、天之川は……まぁメイが優しいとでも思っているんだろう

「そういえば、あんたはいいの?メイのこと?」

「いや、俺がどうこういうつもりはないし、ハジメなら大丈夫だろ。」

「あんたにしろ香織にしろなんであんなに南雲くんのことを信頼しているのか分からないけど。」

「ステータス上に浮かばない隠しコマンドみたいなものがあるんだよ。話していると結構面白い奴だぞ。空気読めるからあんま気を使わないでいいし。」

「あんたは少しは気を使いなさいよ。」

「気を使う時と使わないくらいの判別はつくと思うんだけど。」

「……そうね。」

意外にも頷くシズに俺は少し驚いてシズのほうを見る

すると視線を逸らし少し赤ずんでいる頰を見て俺は少しだけ息を吐く

照れるんならいうんじゃねーよ。

「はぁ、そういえば明日迷宮入るらしいぞ。」

俺は急いで話を変える為に明日の話をする

「迷宮?」

「【オルクス大迷宮】未だに65層しか到達したことのない迷宮らしい。とりあえずレベルが上がってきたから20層くらいまでいくらしいんだけど。なんというか早すぎるような気がするなぁ。親父と母さんがトレジャーハンターだから結構ダンジョン系は危ないのはしっているし。」

「トレジャーハンター?」

「財宝とかを集めるこっちの世界での冒険者みたいなものだよ。実際考古学者もかじって大学で教授をしながら夏休みとか使って財宝を探しにいっているんだよ。」

「あぁだからあなたの家って鉱石とか古びたものとかおいてあるのね。」

実際宝物を掘り当ててきたこともあるし、化石とか珍しいものが置いてあるんだけど

……まさかなぁ。

俺は少しだけ思うことがあって首を傾げてしまう。そして親父から昔聞いたことについて話し始めた

「……親父曰くダンジョン系はトラップで死ぬ可能性が高い。……特にモンスター寄せ付けたり地形を変化させるトラップは攻略難易度を数倍に押し上げると。」

「……モンスター?」

「……日本にモンスターなんかいるわけないだろ。馬鹿馬鹿しい。」

天之河がそういうけど、俺は少し気になっていることがあった

……こりゃ最悪国を出ていかないといけないかもなぁ

「……ねぇ。もしかして。あなたの家にある、見たことない機械や鉱石って。」

「だろうな。俺のステータスから言うならばそっちの方が妥当だろうな。」

元々勇者は一人だけのものであるだろう

馬鹿げている。馬鹿げているけどでも、実際俺たちだって今体験しているのに両親がそうでない理由にはならない

俺の両親は多分異世界転生者だ

 

俺は今休憩中にも関わらず、シズと剣を打ち合っていた

ぱ〜んという木刀に軽く乾いた音が聞こえる

いつも自主練を行なっている庭園は模擬戦を行うにはうってつけなんだけども

「……はぁ、はぁ。」

「……やめるぞ。さすがにこれ以上は後に響く。」

俺はある程度の打ち合うと俺はそこらで一旦終わる

「……なんでそんなに体力あるのよ。」

「いや、野球部で冬場はかなり走りこまないといけないしな。クリエイトウオーター。」

俺は簡単に何も詠唱なく水をコップに二杯入れるとシズに一杯渡す

「ありがと。」

「……でも野球はもうやめだな。」

「えっ?」

「……俺のスピードだと今のままじゃ160kmの球を見ても遅いって感じるだろうし、なによりもステータスがな。魔法で身体強化もできるだろうし、それに世間じゃ多分俺たちは行方不明の一人だ。世間の人間が囃し立てるだろうよ。」

俺が少しだけ苦笑する

元々野球とは身体能力と頭脳、反射神経のスポーツだ。

……さすがにこの体で甲子園を目指そうとは思わないしブランクだって取り戻せないだろう。

17歳の俺にとってまさかこんなところで夢が絶たれるとは思わなかったけど

「そっか。もし帰れてもまだ問題はあるのね。」

「学校だってそうだし、授業だって一年間は遅れる。それに異世界に飛ばされたって言っても誰も信用されないだろうし、愛子先生は最悪クビになっている可能性だってあるんだぞ。」

「……なんで普段の成績悪いのにこういうところだけ頭がまわるのよ。」

「考えればすぐに気がつくと思うけど。……逆をいうのであれば誰も帰ることは考える暇もないってことだけどな。」

「あっ。」

するとシズは気づいたようだ。ここからは結構踏み込むので教会側に伝わらないように気配感知を全力で広範囲に動かす

「多分みんなそんな余裕がないし、今の現状を受け止められていない。新しいことを入れてばっかりで考える暇さえ与えられていないしな。……だからダンジョンでも多分気楽に皆は入っていくだろうけど、……多分次のダンジョンけが人。いや最悪死亡者が出る可能性があるぞ。」

「……」

俺の言葉にシズは黙りこむ。

「……今のところ他のやつに言っても無駄だろうし、お前には忠告しておく。……ダンジョンは多分そんなに甘くないぞ。」

「えぇ。覚えておくわ。」

すると一気に気を引き締める

明日のダンジョン何事もなく終わればいいんだけど

そう思わざるを得なかった



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迷宮

翌日俺とハジメ、そしてメイは後方の方を歩いていた

というのも俺は気配感知、メイは罠感知スキルを使い周囲を警戒しているからだ

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

その中でも俺たちは戦闘組でもなく後衛、それも

「すいません。右曲がったところにトラップです。」

「あぁ、それなら左から行こうか。」

とか

「左サイドからおよそ5匹ほどの敵気配があります。」

「うむ。それじゃあ次の組み準備しろ。」

などと情報伝達係として仕事をしている

というのも簡単にいうならばメイとハジメはステータスが普通の転生者よりも低く、そして弱いのが特長だからだ。

弓よりも魔法の方が使いやすく、それも威力が高いせいで弓術はあまり慕われていない職業であり、

そして何より、唯一アーティファクトがない職業だったのだ

弓は古代から使われていたらしいがここは科学より魔法が優れているので弓は基本は使わないらしいのでメイは王宮の人から迫害されていたんだが

「お前らえげつない戦い方するな。」

俺はメイとハジメの連携がすごくえげつない戦い方をしていたのに気づいていた

というのもメイが麻痺属性の弓を撃ち動きを止めそれを確実に錬成で穴に埋め二人でタコ殴りにするという

……モンスターが可愛そうな戦い方をしていた

「……はぁ。」

俺は近づいてきた敵を切り捨てながらの警戒を怠らず進む

「……言っとくけど球児の方が可哀想だからね。」

「バインドからのアーティファクトの斬撃の組み合わせは卑怯だよ。」

光属性初級魔法で普通の魔力だったらあんまり効果のないバインドは俺が使うと本当に鉄の網ほどの束縛効果を与えることができる。

なおこれをシズに一度やったところガチで怒られ1時間正座のまま俺の部屋で説教をくらうことになった

詠唱時間短いし、一番扱いやすい束縛魔法だったしな

「はぁ。階段からおりると擬態したモンスターが3いや4体ほどいますね。」

「ほう。気配感知だと擬態したとかはわからないはずだが。」

「気配が動くことがないモンスターはこの階層ではロックマウントしか出現してないですよね?」

「そうだな。マッピングデータにはそう書いてあるし間違いはないだろう。」

「ロックマウントは壁に擬態して冒険者を襲うってハジメが言っていたんで。それなら擬態しているって考えても不思議ではないと。」

「ほう。」

すると感心したようにハジメと俺の方を見るメルド隊長。

ダンジョンを考えるとトラップやモンスターの予習をするのは当たり前だろう

「……弱点は。」

「ロックていいながらも比較的柔らかいモンスターで直接攻撃に弱い。そのぶん体力が高いし正直見た目は気持ち悪いけど、油断さえなければ一人でも勝てる相手です。」

「……」

するとふっと笑い

「次から、キュウジが前衛につけ。気配感知は光輝と交代だ。」

「えっ?」

すると天之河が驚いたようにメルド隊長を見る

「ちょ、何でですか?」

「今までの戦闘を見ていると派手さはあるが周囲のことを全く考えていない戦闘と敵と接近したら確実に殺し、前衛職にも関わらず後方、それも周辺の警護を自分から頼みでたキュウジの方がダンジョン探索に向いている。」

「なっ?」

「……俺はやめておいた方がいいと思いますよ。」

冷淡に答えながらも気配感知は続けてる。

とりあえずラストの20層くらいなら前衛を任されても大丈夫だろう

「うむなぜだ?」

「前衛の連携については俺はこのメンバーであれば八重樫としか連携練習をとっていません。前衛の連携はかなりシビアで一つ間違えても致命傷になる可能性があります。」

「……ほう。しかしそれを試すのが訓練だと思うが。」

「悪いですけどここはダンジョンだ。決して訓練ではなくどこから襲われてもおかしくはないし命がけで来ている。……俺も連携練習ではなく、王国兵士を相手に実践練習を多くとっていたのは悪いですが、それでもダンジョン内での戦闘はソロでない限り今は役立たずなんで。」

……するとメルドは苦笑する

「分かった。そのまま気配感知を続けろ。俺の負けだ。」

すると全員が首をひねっているが俺は大体意味がわかって軽く舌打ちをしてしまう

簡単にいうならば試したのだ

本当に冷静に対応できるか、ちゃんと実践で使えるかを

「……はぁ。」

そしてロックマウント討伐も危なげながらというより一部の生徒のおかげで危険に犯されながらも倒すととある綺麗な鉱石がある

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

「そうなのか?」

「うん。グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入んだって。」

「へぇ〜。」

なるほどな。確かに綺麗だな

「……まぁ、興味ないけど。」

「だろうと思った。」

呆れているハジメに、少しだけ引っかかることがある

「……罠感知に引っかからないのか?」

「ううん。引っかかっているけど多分あんな露骨な罠誰も引っかからないと思って。」

「おま。それ。」

フラグと言おうと思った時だった

唐突に壁をよじ登りある男子生徒がグランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。

「おい。それはトラップだ。早く降りろ。」

大声で俺が叫ぶとみんなが俺の方を見る

しかし反応していないところを見るに聞こえないのかその振りをしているのか。

「チッ。野郎。ハジメ、メイ絶対に離れるな。シールド。」

俺は無詠唱で効果時間30分間魔耐と耐久をあげる魔法を二人にかける

男子生徒がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、俺達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

俺達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

俺はすぐさま気配感知を使うと

「……やばい。囲まれている。魔力感知に下からの魔力の反応があります。」

「なんだと。」

「階段側に多数。橋側に一体の敵感知です。多分橋側は強い魔力がかなり濃いので強い個体だと。」

「……くそっ。」

ここはなん層なのかもわからずただ俺は立ち上がり警戒する

「とりあえず俺は階段側に行って道を開きます。ハジメ、メイ。」

「うん。気をつけて。」

「僕たちは大丈夫だから行ってきて。」

すると笑顔で送り出してくれる二人に小さくありがとと呟く

「シズ。悪いけど。」

「えぇ。手伝うわ。」

「あぁ、よろしく頼む。」

そして目の前に多数の魔法陣が浮かびあがり、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けている。

「こりゃ全力を出すしかないな。ガーディアン。」

すると薄い光を俺とシズの周りを浮かび吸い込んでいく。

「どういう効果の魔法なの。」

「被ダメージを1時間半減させる奥義魔法だよ。図書館で伝記があったからついでにできるか研究していただけ。結構魔力持っていかれたからこれ以上はさすがに魔法を使えないけど。」

俺が一番優れているのは身体強化魔法であり、大抵のものは使える

「……とりあえずやるぞ。」

その声を皮切りにトラウムソルジャーは突っ込んできた



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撤退戦

「チッ。」

戦闘が始まって1分くらいが経過したのだが。

トラウムソルジャーに二人だけではさすがに無理があるのか俺とシズは少しずつ後退していく。

「……さすがにきりがないな。」

「えぇ、いくら斬っても本当に嫌っていうほど出てくるわね。」

俺は少し間が空いたのを見過ごさず魔力回復薬を煽る

そして魔剣と呼ばれる俺の剣に魔力を注ぎ込むと

「魔力撃。」

俺は斬撃をトラウムソルジャーに放つ。

魔力の力によって増強された衝撃派はおよそ30体ほどのトライムソルジャーを吹き飛ば俺が声をあげる

「手が空いて奴は俺とシズのフォローに回ってくれ。俺とシズが階段までの道を切り開く。」

俺の声が届いたのかすると少しの生徒はこっちを見る

「前衛職は後衛職のガード上級魔法が使える奴は左サイドをそれ以外は前衛職と俺らを支援してくれ。」

「わ、分かった。」

すると少しずつだが行動を始めていくんだが

「シズあぶねぇ。」

「きゃ」

死角からトライムソルジャーに気づいてなかったシズに対して俺はシズを軽く押し出すとその瞬間肩を鎧越しだが切られ痛みに襲われる。いくら痛覚体制があるものの剣で切られた衝撃は

「キュウジ。」

「大丈夫だ。」

俺は前を向くと回復魔法がちょうど俺のところに降り注ぐ

「……サンキュー。辻。」

「うん。支援は任せて。」

「ごめん。」

「死角からだったから仕方がないさ、支援魔法をかけていたからダメージはそんなにないさ。」

俺は声を出しそして

「ここが正念場だ。気合をいれろ。絶対ここから脱出して生きて帰るぞ。」

「「「「おう。」」」」

と声が響き俺はもう一度魔力を剣に込める

死ぬのが怖いのは当たり前。

俺だって前線に出るのが怖いし、今だって少し怖いけど

「限界突破。」

勇者しか使えない、全てのステータスを3倍にするけど10分もしないうちに動けなくなるがそれでもここで使うしかない

「……魔力撃。」

一振りは広範囲の敵を蹴散らし右サイドの敵を蹴散らす。

「なっ。」

「すげぇ。」

となぎ倒される敵をみて驚き、そして撃ち漏らした敵をシズが機敏に殺していく。

それに連れられ俺たちは攻勢を開始した

 

「……はぁ、はぁ。」

俺は8分を過ぎたあたり俺は息バテをし始める

やばい。限界突破の効果が切れ始めて来やがった

暑くもないのに俺は汗を大量にかいており、そして目の前のトライムソルジャーをみる

残り数十匹くらいになるのだがそれでもまだ敵の方が多く

そして俺とシズに限ってはかなり限界に近かった

重い体を引き絞って俺は剣を振ると

「坊主。一旦下がれ。」

と頼りになる声が聞こえる

「……遅いっすよ。もう魔力も体力もからっけつだし。」

「あぁ、あとは俺たちに任せろ。そこの嬢ちゃんも今日の主役の一人を負ぶって後退してくれ。」

「えぇ。」

「いや、歩くくらいならなんとか。」

フラフラになった体を俺は持ち直す

「それに俺が離脱したら士気に関わります。俺が指揮を取るので。それに従ってください。」

「……やれるのか?」

「やります。悪いヒールかけてくれ。」

「あっ。うん。天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

傷だらけの体と少量の魔力を回復する魔法を白河はかける

「あっちはどうなってますか?」

「今は錬成師の坊主と弓師の嬢ちゃんがベビモスを抑えてくれている。」

「……。」

俺は目を見開く。助けに行きたいのもあるのだが、俺は声を大に叫ぶ。

「いいかラストスパートだ。魔法師は支援、近接攻撃で残りの敵を片付けろ。」

すると俺の声に合わせて近接職が前に出る。そして俺もラスト一撃

「魔力撃。」

右サイドから敵を倒す。そして

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

左サイドも天之河のスキルにより、全滅させた。

すると歓声が湧いた瞬間

「あっ。やべ。」

力が抜け完全に俺は動けなくなってしまい倒れこんでしまう

「「球児(坊主)!!」

「いいからさっさとハジメとメイを助けに行って。」

するとざわざわと騒ぎ始めるでも構わずメルド団長に話す

「頼むよ。親友と妹分なんだ。報酬も何もいらないから、あいつらを助けて。」

俺は涙が出そうなのを堪えて声を出す。

あいつらから離れて逃げ場を作らなければ俺たちは死んでいただろう。

それについては後悔も反省もしてない

……でも、あいつらは俺の支えだったんだ

「……そんなの分かっている。嬢ちゃん。」

「言われるもなく」

そして俺を目の前でシズは剣を抜く

多分俺の護衛をしようとしているんだろう

「なんだよあれ、何してんだ?」

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

「メイちゃんはバインドで足を封じているの」

「あの坊主と嬢ちゃんがあの化け物を抑えているから撤退できたんだ!後衛組は遠距離魔法準備!前衛組はこの坊主の護衛だ。もうすぐ坊主たちの魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

メルド団長が指示を出す。すると一斉に動き出すクラスメイト達。

「……ありがとう。また助けてくれて。」

動き始めてすぐにシズはそんなことを言い出す

「別に。耐久が俺の方が高かったからな。俺が受けた方がダメージは少ないしお前が死んだらお前のおやっさんに会う顔がねぇってだけだ。」

「……まぁ、そういうことにしてあげるわ。」

するとクスッと笑い戦況を見始めるシズにつられて反対方向の方を見たときだった

火の魔法が軌道を変えハジメに向かおうとした奴をかばったメイに直撃した

「……えっ?」

メイをかばったせいかもう二発同じ魔法が飛んでいくがハジメがメイ今度は庇いそして地中の中に落ちていく

「……メイ?ハジメ?」

俺はただ呆然と見るだけしかできなかった

力も入らないし動けやしない

そして最後に目に入ったのは

薄気味悪い笑みで笑っているトラップにかけた男子と白崎を抑えるシズの姿だった。



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誓い

……目が覚めるとそこは闇の中だった

「……ん?ここは?」

「えっ?球児?」

「大久保くん?」

するとシズと白崎の声が聞こえ、そっちを見ると涙を浮かべたシズの姿があった

「……どうしたんだよ。っていてて。」

と俺の肩を見ると肩から切り傷ができているのが分かった

「……」

夢じゃない。

落下して行く二人の姿が思い出されるけど

「……悪い。心配かけたな。」

俺はかばった方の手を向け、シズの頭を撫でるとシズが俺に抱きついてくる

「お、おいシズ。」

「……バカ。本当にバカ!!なんでいつもあんたは私を庇って。心配をかけて。」

……これ完全に10年前と同じようなことか

「悪いって。生きているだけマシだろうが。」

「……雫ちゃん私と大久保くんをずっと寝ずにつきっきりで看病してたらしいから。」

「だろうな。こいつが俺以外の前で泣き出すって結構珍しいからな。今迷宮から何日目。」

「今日で一週間だって。私は大丈夫だったんだけど、大久保くんは一度心肺停止状態になったから。」

「……マジで?」

俺は首を傾げると白崎は頷く。

「それに前に一度だけ起きたらしいんだけど、どうも発狂していたらしくて。すぐに数人ばかりで眠らせないといけないことになったらしいよ。」

「……なるほど。ストレスに耐え切らなくてオーバーヒート起こしたのか。」

俺は少しだけため息を吐く

そしてしばらく頭を撫でていると泣きつかれたのかシズはスースーの寝息をたて始める

「……そういえば雫ちゃんと仲よかったんだ。」

「仲がいいっていうより同じ道場仲間なんだよ。3歳の時にこいつの家の裏道場に入門したから。天之河とかも俺はよく知っているな。あいつとももう12年くらいか。小学校同じだったし。ついでにメイも。」

「えっ?」

「お前とも同じ学校だったんだぞ。まぁ同じクラスに高校まで一度もなったことはないし、俺は野球ばっかりだったから。」

中学は別の中学に進学し、ハジメと出会ったんだけども

「お前のことはよく話してくれていたんだぞ。こいつを天之河といつも一緒にいたから一時期ちょっかいかけられていたことも知っているしそれを陰ながら少し噂を流して自体を消息させたりしてたから。お前がいつもいてくれたおかげでこいつにとっては救われていたんだってさ。」

少し苦笑してしまう。

「……ぶっちゃけお前が知らないだけで俺は結構知っているんだよ。白崎が中学くらいからハジメのことを気になり出したのも知っていたしな。こいつから知っている。てかお前に貸した本俺がハジメから仕入れてそれをお前に流していたんだからな。」

「……そうなんだ。」

「……気にすることないと思うぞ。こいつ甘えること俺にしかみせないから。」

俺は少しだけため息を吐く

「こいつ、剣術を習っているせいか弱みを他に見せたがらないんだよ、こいつかなり繊細で傷つきやすいし。普通ならもっと甘えさせるべきなんだけど……それでも一番弱みは俺にしか見せたがらない。というより俺はこいつが弱いところが普通だからな。だから気にしているんだよ。」

「もしかして普段苗字で呼んでいるのも。」

「それっていうよりも天之河が原因かな。……こいつが他の男子と仲がいいところを見るとこいつが二股かけているとか散々なこと言われるだろうしな。」

「……もしかして大久保くんって雫ちゃんのこと。」

多分こいつは気づいているだろう

だから本心で俺は笑って

「好きだよ。10年以上ずっと片想いが続いているな。けっこう露骨だと思うんだけど全くこいつ気付かないし。」

「……」

「……生きているさ。ハジメなら。」

「えっ?」

俺は不安そうな少し震えている

「生きているさ。あいつ頭がいいし地下にもぐれば潜るほどいい鉱石が取れる。現代武器さえ作れたら迷宮攻略も夢ではないし、一応俺がかけた耐久アップのバフがついていたしな。」

「……」

「不安なのは分かるけど。俺たちもできることからやっていこうぜ。少しずつでもいいから強くならないといけないし、かなり強くなっているはずだ。ついていけるように、俺たちは俺たちなりに強くなろう。今度は絶対に守れるように。」

もう二度とあんな目はしないように

何もできないのはもういやだから

「……うん。」

すると白崎も頷く。

「……はぁ、俺も明日から訓練に参加するから連絡したいんだけど。」

「……でも動けないよね?」

「動けないし。……流石に寝させてやるか。多分こいつほとんど寝てないだろうし。……そういや、あれからどうなったんだ?近況とか。」

「私も雫ちゃんもあまり。でもしばらくはお休みしているらしい。」

「そういえばあいつらを襲った火球の原因ってどうなっている?」

「……一応クラスメイトの誰かが放った流れ弾ってことになっているけど。」

「……流れ弾か。なるほどな。」

俺は少しため息を吐く

こいつに話したら多分壊れるのは明確だろうし、これに関しては俺は何もできないか

……はぁ。頭がいてぇよ。

「……どうしたの?」

「いや、なんでもない。とりあえず明日からの策を考えるか。どうやってバカたちを動かそうか考えなければいけないし。」

「……雫ちゃんから聞いていたけど本当に性格悪かったんだ。」

「…素直だったら飯をくっていけんからな。それに慣れとかないといけないのかもな。もうそろそろ。」

俺は息を吐きそして決意する

そして

「人を殺すことにも慣れておかないとな。」

俺の言葉に白崎は驚くが静かに頷く

これからのことに思うと俺と白崎は息を呑むのだった



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リベンジ

「……」

こっちに来て一ヶ月が経とうとしようとした時だった

「ふぅ。この層も懐かしいな。」

「あんた相変わらず呑気ね。」

「まぁ、それが大久保くんだから仕方ないと思うけど。」

と俺たちは勇者パーティーの後ろをちびちびついていた。

というのもさっきまでは俺とシズがメイン前衛として最前線を戦っていたのが原因だろう。

……あれからというものの俺は冒険者ギルドにも所属しており盗賊倒しなどの人殺しも始めている

というのも完全に裏切り者がいるのは当たり前なことであり

いつかは殺さないといけない相手だ

俺たちは最近は王宮のみじゃなく街にもでられてそして訓練にも自由参加なので俺たちは行動範囲が広がっている。

俺は軽くため息を吐きのんびりと進んで行く

ウルはここからはそう遠くはないのだが王都からするとやはり時間がかかるしな

「まぁとりあえず下降りるまでは罠はどうか知らないけど魔力感知と気配感知に反応はねぇよ。」

「……ならいいけど。」

と少し前線に走って行くシズ

「というよりも前の攻略とは違って大久保くん気楽だね。」

「当たり前だ。気が緩みすぎても、逆に緊張しすぎても体は硬直しやすくなりやすい。それがスポーツの基本だからな。ここまで緊張していたら本来の力も出せねぇよ。」

「……あぁ、雫ちゃんのためか。」

「……否定しねぇけど。お前に話したのやっぱ失敗だったかもな。」

「何が!!」

と白崎は驚いているのだが

「……お前もいい具合に緊張とれただろ?」

「……あっ。」

白崎はやっと気づいたそうだ。そしてもう一つ魔力感知に引っかかたものがある

「……次の階層に大きな気配が一つある。個体は違うけど多分同じ魔法陣だ。」

「……それ本当?」

「どうする?」

俺は白崎に聞いてみる

「……戦いたい。あの時の私じゃないことをここで証明したい。」

俺は少し苦笑する

「……ん。まぁこのルートじゃ戦うことになるから準備しとけよ。」

「……どうした?」

「いや、なんでもないですよ。」

俺は笑顔を作る。

「……本当に性格悪いね。」

白崎のジト目に耐えながら俺はただ優等生を演じきっていた。

 

しばらく進んでいると、大きな広間に出た。

「ここだな。」

「うん?どうしたの。」

「……雫ちゃん構えて。」

広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

「ま、まさか……アイツなのか!?」

天之河が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

誰もが驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、天之河がそれに不満そうに言葉を返した。

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び現れたかのように見えた

「魔力撃」

「グゥガァアアア!!!」

俺は無詠唱で剣に魔力を入れきりつけるとベビモスは叫び声が響きわたる

「おい。大久保。」

「戦いによーいドンも何もない。ただの殺しあいだろ?先手必勝ってな。思い出にふけている暇があるんだったら一発でも多くの攻撃をいれろよ。魔法組詠唱準備」

俺はそうやって後ろポケットから買っておいたピンを取り出しベビモスの目をめがけて投げるとステータスと投擲スキルを覚えているので避ける暇なく

「グゥガァアア。」

「かかってこいや。牛野郎。デコイ。」

と俺は挑発スキルを使いベビモスのタグをとると俺は手を下げる

すると一斉に火の魔法がベビモスを襲う。

俺は魔法組に先にぶっぱなすのをみるとベビモスに接近し

「バーサーク。」

攻撃力増加防御力低下のエンチャントをかけると同時に支援職からのパフが乗っかる

反対側にいるシズと同時攻撃をする。

「「全てを切り裂く至上の一閃 〝絶断〟!」」

その剣技によりベビモスの命は尽きることになった

 

「……悪い白崎出番なかった。」

「いや、いいよ全然。」

と終わってみたら俺と白崎はクラスメイトが喜んでいる合間に謝る。

多分一番こいつを倒しておきたかったのは白崎だろうし、俺はあんまり手出しを出すつもりはなかったのだが

「珍しく頭に血が上っていたわね。」

「……悪い。先走った。」

シズの指摘に俺は素直に謝る。

「……はぁ、言いたいことはあるけど。怪我は。」

「ねぇよ。魔法の発動も起動も完璧だったし。支援組も支援が完璧に近かったしな。」

「そう。よかった。」

すると笑顔になるシズに俺は顔を背けてしまう

……その(笑顔は)反則だろ

「まぁ、今回は俺が悪い。てかよく俺のスピードに合わせられたよな。お前。」

「あんたステータス全開でやるから合わせるの苦労したわよ。」

というのも今の俺のステータスは

大久保球児 17歳 男 レベル:50

天職 勇者

筋力 600

体力 6000

耐性 2500

敏捷 1500

魔力 600

魔耐 2500

技能 全属性適性・全属性耐性・状態効果無効・物理耐性・魔法耐性・痛覚耐性・魔力操作・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解 体術 投擲 回避 統率 庇う

固有技能 上限突破 真の支配者 天才肌 

 

となっており、明らかに飛び抜けているのが現状だ。

……防御系にもう突っ込んでいたら負けだと思っているけど

てかこの防御力絶対あの人たちのせいだろうな

何回も子供の頃から死にかけていたし

正直今の俺の防御力フルエンチャントしたら10000超えるんですが

まぁ俺はアーティファクトの特性上体力を削っての攻撃が多いから十分ありがたいんだが

なお、このステータスはさすがに見せるわけもいかず、俺は未だに王宮の証明書を使うことが多い。

すると小さな声で何か聞こえたような気がする

「ん?何か言ったか?」

「何も言ってないわよ。」

気のせいか。そんなことを思っていると

「さてと、ハジメとメイを探しに行くか。」

「そうだね。気配感知は。」

「反応ねぇよ。……人間はだけど。多分モンスターハウスが一つあるな。魔力の塊が一つある。」

「うむ。それならそこを避けて次の階層をマッピングする。案内頼んでいいか?」

「了解です。」

「それじゃあ先に進むぞ。」

といい俺が先頭に立ち歩き始める。

……二人とも頼むから生きていてくれ

そんなことを思わずにはいられなかった



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苦労人

66層をマッピングしたあたりで俺たちは一度疲労回復を兼ね王宮へ戻っていた

というのも帝国の使者がどうやらこっちに向かってくるらしくその対応するために戻って今はその報告会の最中なんだけど

「ふぁ〜〜。」

俺はついあくびをしてしまう

「こら球児。なんであくびをするのよ。一応国王と王女様の前なのよ。」

「いやだってあんなの見せられて眠くならない方が無理だろ。」

「……気持ちは分かるけど。」

というのも王宮に呼ばれてから10歳くらいの次期国王とされる奴に猛アプローチを受けている白崎を俺たちはずっと見せられているのをただひたすらに耐えなければならなかった

「……はぁ。野球してぇ。」

「私も、こんなことなら身体動かしたい。」

俺とシズは必死に耐えていると

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

とどこかのバカがそんなことを言い出す。

どうやらランデル陛下の恋心なんてさっぱりで年下の少年を安心させるつもりで善意全開に言ったのだが、この場においては不適切な発言だった。

そして始まるくだらない話に

「やばい。頭が痛い。」

「奇遇ね。私もよ。」

俺とシズはもう限界だった

もうちょっとシズのいうことを素直に聞こうとそう思った矢先だった。

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

するとこの国の王女リリアーナがようやく口を挟む

「あ、姉上!? ……し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ……で、ですが……」

「ランデル?」

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

ランデル殿下はどうしても自分の非を認めたくなかったのか、いきなり踵を返し駆けていってしまった。その背を見送りながら、王女リリアーナは溜息を吐く。

なんだろう。あの王女シズと同じタイプの気がする

「はぁ、話していいか?」

俺がそして声を上げる。

「一応報告会だったはずだ。とりあえず成果を発表したいんだけど。」

「えぇ。すいません。時間を取らしてもらって。」

「全く待つ方の気持ちも考えてくれると嬉しいんだけど。天之河も白崎も話をややこしくするな。面倒臭いんだよ。」

「なっ、何を。」

「いいから黙れ。」

俺は軽く殺気をだし、怯ませる

「とりあえず。報告から始めさせてもらう。とりあえず今回進出した階層は66層まで。そして。」

俺はそうやって簡潔に、さらに詳しく説明していく

「とまぁこういうわけだけど、俺の報告に何か違があるやつはいるか?」

俺がそうやって後ろをみると首を振るクラスメイト。

シズのほうを見ると首をふる

「以上。報告終わりっと。」

「ありがとうございます。大久保様。それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

この人はきっと本心から言っているのであろう。

俺も結構話したことがあり、毎回反応が面白いのでからかったり、俺たちがいた世界について白崎とシズと一緒に話したりしているので一番異世界に来て信頼している人と言っていいだろう

「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

隣からため息が聞こえる。

「えっ、そ、そうですか? え、えっと」

リリアーナがオロオロし始めると

「えっと、とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

といい少し赤く染めた頰を隠しながら出ていった

……とりあえず俺ができることは

「愚痴どこで聞けばいい?」

幼馴染の八つ当たりをする場所を提供することだった

なお、日がずれこむまでシズの八つ当たりは続いたのだった



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皇帝

それから三日、遂に帝国の使者が訪れた。

現在、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

という声で天之河は一歩前にでる。

俺はそれを見ると軽く腰にある剣をすぐ抜けるようにする

やばいなあの男

俺は平凡そうな顔に背もそんなに高くない

でもそれ以上にこの中で俺と同じくらいの剣の腕がある。

隙のない体に背はきちんと伸びており、

面白いほどこっちを見ている

それも多分変装。かすかに耳から魔力が流れている。

……よくも悪くも明らかに敵意を持っている

それは確実だし、多分隙を見せない方がいいだろう

「……次、大久保球児。」

「……」

俺は無言で一礼する。その時先読と殺気から俺は剣を取り出しすぐに防御に回る

するとかーんという音が流れすぐさま金属音が流れる

「ほう〜これを防ぐか。」

「…そっちこそ随分派手な挨拶じゃねーか。」

俺はバックステップを踏み相手を睨む

「球児。」

「シズ来るんじゃねーよ。このおっさんお前より強いから。明らかに殺す気できたし俺でさえこのステータスで勝算は6割くらいしかないからな。」

「……ほう坊主。お前だけはやり甲斐がありそうじゃねーか。」

「うっせ〜よ。皇帝陛下。さっさと死ね。」

俺はピンを取り出しそして足元に投擲すると限界突破を初手から使う

虹色のオーラが流れ、俺はいかにも隙だらけのように見えるように誘導するが

「……ちっ。降参だ。」

舌打ちして両手を上げる皇帝陛下。限界突破使った時点で負けることが確定したからだろう

「……」

俺は未だに警戒を取っていると肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

すると驚くが俺は未だに剣を出し限界突破を続ける

「お前どこで俺が皇帝陛下だと気付いた。」

「座り方だ。明らかに護衛のはずなのに座り方に隙がなく姿勢や視線が俺を向いていた。皇帝陛下は王女から戦闘好きで強い奴を従えたいそれも実力主義であるなら一番強い俺に喧嘩を売ってくるのは当たり前だろうが。」

「一番強い?そこの勇者よりもか?」

「当たり前だ。あいつはただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口で、実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだ。勇者を試しにきたんだろうから先に伝えておくよ。」

するとざわざわと声が王宮内に広がる

「……ほう、その心は。」

「一つは年齢、二つ目は宗教問題、三つ目は戦争の立ち回り方って言ったところか?」

「おおむねあっているな。やめだ。こいつはバケモンだ。どうせ奥にいる3人もきづいていたんだろ?」

「いや左に3人。右に2人もいるから合計8人だろ?皇帝陛下の護衛がそんなに少ないはずないからな。」

「……」

すると驚いたように俺を見る。どうやら図星らしい

「ちっ。こいつだけは認めてやる。お前名前は?」

「大久保球児。」

「お前帝国にこないか?優遇するぞ。」

敵意がなくなったことで俺は限界突破や武装を解除する。

「まぁ俺はそっちの方がやりやすそうだし、そうでもいいけどやめとくよ。生憎誰かを殺してまでも守りたい奴がいるからな。」

「ほう。女か?」

「……否定はしない。片想いなだけだけど。」

なんとなくだけど嘘はつきたくなかった。すると目を見開いてそして笑い始める

「……やっぱお前欲しいな。側近としておいときてぇ。多分実力まだ隠してやがったし。忠誠心の塊みたいな奴だしな。」

「案外馬は合いそうだけどな。あんたみたいな上がいたら面白そうだしこんどは俺がそっちに行かせてもらうさ。ちゃんと客として。」

「ほう。それなら楽しみに待っておくとするか。」

すると俺と皇帝陛下の笑い声がこだまする

それにただ呆然と他の人は首を傾げる

結局腹黒い奴同士の戦いなんて分からないものである

 

「……随分攻めたね。」

「思いっきり雷が落ちた後に話す言葉かそれ。」

俺は翌日の朝食前に思いっきりシズから絞られてそして泣かれて。かなり精神的にボコボコになった俺はぐったりとしてしまう。

「はぁ、たく過保護すぎるんだよ。あいつオカンかよ。」

「まぁ、雫ちゃんも意識している証拠だと。」

「意識してんのか?あいつ。俺から見たら俺が弟分としか見られてないと思うんだが。」

……すると否定できないと思っているんだろうか白崎は気まずそうに目線を逸らす

「はぁ、まぁゆっくり焦らず頑張るさ。俺と結ばれなくてもあいつが幸せになってくれれば俺はそれでいいし。」

俺はそうやって黒パンを食べようとすると白崎がクスって笑う

「……なんだよ。」

「なんかいいなって思って。大切にされているんだね。雫ちゃん。」

「なっ。」

白崎は笑い続けると俺は言い返そうとしたが

「…好きなんだから仕方ないだろうが。」

俺は照れたほおを隠しながら朝食をかきこむ

「んじゃ部屋戻っている。シズにもそう伝えておいて。」

「うん。それじゃあ後で。」

「あぁ。」

俺はため息を吐きそして外を見る

……しかしその二ヶ月後

俺たちは目をそらし続けていた現実を突きつけられることになる



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最悪の出会い

とあるいつも通りの攻略をしていた

俺が気配探知で気配を探し勇者パーティーが仕留める

シズも白崎もとりあえず勇者パーティーとして行っているのもあり、俺は基本ソロで迷宮に入ることが多かった

俺は魔力感知や素材集めに取り組んでいた

というのも俺が帝国時言った勇者を雑魚呼ばわりしたことによって教会の立場が一気に危うくなったのが原因だったのか俺と天之河が決闘することになったのが原因だった

まぁ、結果は素の俺でも剣に差がある奴だったし結果的にボコボコにした結果さらにそれが加速して言った

教会からはわざと負けるようにと言われたが逆にボコボコにしたことによって俺は事実上の左遷ホルアドに行くことになった

ぶっちゃけ教会からの敵とみなされるのも近いだろう

とは言えダンジョン攻略で今までも俺の気配感知と魔力感知のおかげでダンジョンを攻略していたのもあり久しぶりに勇者パーティーとして行動していたのだが

俺は89層に入るとあることに気づいていた

「下の層のモンスターが少な過ぎる。」

俺が気配探知で発したことはかなり重要なことだった

「……どういう事だ?」

天之河は俺にそう聞いてくる

気配感知は俺は普段フル回転するのもあるのだが次第に範囲が大きくなり、下層のモンスターを調べることすらできるくらいに気配感知の範囲が広がっていた

「明らかに少なすぎるんだよ。多分一回戦闘が起こればいい程度。」

「……それ本当?」

シズの言葉に俺は頷く

というのも今の俺のステータスはレベル140を優に超えており、スキルもかなり増えている

大久保球児 17歳 男 レベル:140

天職 勇者

筋力 1500

体力 14000

耐性 7500

敏捷 5550

魔力 1500

魔耐 7500

 

技能 全属性適性[+全属性効果上昇][+威力上昇][+消費魔力低下]・全属性耐性[+全属性効果上昇]・状態効果無効・物理耐性〔身体強化〕・魔法耐性・痛覚耐性・魔力操作[+身体強化Ⅱ][+部分強化Ⅱ][+変換効率上昇Ⅳ][+集中強化Ⅲ][+時間拡大Ⅶ]・複合魔法・剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子][+ラストアクション]・剛力・縮地・先読+投影]・高速魔力回復・気配感知[+特定感知][+範囲拡大]・魔力感知[+特定感知]・限界突破[+覇潰][起死回生]・言語理解 体術〔+反撃〕 投擲〔+必中〕 回避 統率 庇う〔+全員守護] 増強 不眠

固有技能 上限突破 真の支配者 天才肌〔+熟練度増加][+討伐経験値]

ということもあり、かなり派生スキルを加わっている

「……どういうことだ?」

天之河がそんなことを言い出すので俺は付け加える

「多分俺を欺くほどの危険感知をもっているか、それともこの階層の奥に90階層のモンスターを全滅できる敵がいるかだろうな。」

「……」

「どちらにしても俺はここで引き返したいな。安全管理もこの層じゃできないし。多分待ち受けている可能性が高いし。」

「…俺も賛成だな。」

俺と永岡が発言するすると考え始める天之河。

そして

「いや、進もう。何らかの障碍があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならないだろうし。それにこの階層を乗り越えないと次の階層にいつまでたってもいけないだろう。」

「……」

俺は少し考え

「分かった。でも悪いけど次の階層は俺を主軸としてやってほしい。耐久や戦闘力に限ればお前らよりずっと高い。気配感知と魔力感知を行える別のメンバーを出してくれ。トラップは俺が受けた方が生存率はかなり上がるからな」

「……」

すると頷く天之河に警戒をしながら歩いていく

そして90層に降り探索を始めるとやはり可笑しい

「……」

既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。ワンフロアを半分ほど探索するのに平均二日はかかるのが常であったのだ。にもかかわらず、俺達がこの九十層に降りて探索を開始してから、未だ一度もこのフロアの魔物と遭遇していない

自然に沸いた形跡もないということなんだけど

そうやって警戒しながら歩いていけばなんとかなる

そう思ったのが運のなさだった

「……止まれ。」

俺がそういうと全員が止まる

「やっぱり、これ血か。」

壁と同化していたのでわからなかったがじっくりすると壁を覆うほどの血がアッチコッチについている

「天之河……八重樫の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

というけど俺は気配感知を使いこの層をもう一度確かめようとしたのが幸いだった

「戦闘準備。物凄いスピードで2体の敵勢力を確認。」

すると俺の声に合わせ戦闘準備を行うクラスメイト。

……というよりもこの気配結構まずい気が

「あら、そんな物騒な格好をして、もしかしてそっちにはいい気配感知を持った人がいるのかしら。」

そうやって出てくるコツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

同じような特徴を持っており、さらに3人の女性がそこにはたっている。

「……魔人族。」

誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。



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化け物になる覚悟

「勇者はあんたでいいんだよね? そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

「あ、アホ……う、煩い! 魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ! それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

と話始めると俺はこっそりと作っていたクナイに手を添える

そして一番弱い反応速度が弱いデブに狙いを定める

目線を逸らした瞬間を狙いそして

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

「な、なに? 来ないかって……どう言う意味だ!」

「呑み込みが悪いね。君。そのまんまの意味だ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇してやるよ。」

「断る! 人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな! やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ! わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、2人でやって来るなんて愚かだったな! 多勢に無勢だ。投降しろ!」

「……一旦落ち着け。」

俺は一回天之河の頭を叩く

「いつ。」

「冷静じゃなくなるだけ相手の思う壺だ。少し頭を冷やせアホ。」

俺はそうやって緊張感を少し解除すると

「……あんたは気楽そうね。」

「いや、一応警戒しているけどな。例えば。」

俺は何も見えないような空間にクナイを投げる。すると

「グゥァァァ。」

「キメラか。」

ライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物が叫びごえを上げる

「なんだこの固有魔法動いたら空間が揺らめいてしまうなど意味がなさすぎるだろ。もうちょっとちゃんとした隠密とれや。魔力だってただ漏れ出し。遠藤の方がいい隠密するだろ。」

「ちょっと近づいてきているよ。」

「知っている後ろだろ。」

そして身体強化を使って攻撃力特化にするとすると

グシャと音を立てキメラの頭を切り捨て

キメラが絶命した

「そんだけ?」

「……」

すると苦い顔をして1人の魔人族は怯む

「……待て。そいつが特別なんだ。お前はそいつを狙え。私が勇者を殺す。」

チッ。さすがに引いてくれないか。

「シズ、天之河。ここは俺が1人が引き受ける。お前らは一旦下がって体勢整えろ。」

「ちょ、球児。」

「ま、待ってくれ全員でかかった方が。いいんじゃ。」

「……キメラが見えないのに?」

俺がそういうと天之河が顔を歪める

「……この敵は相性がいいし、逆にお前らじゃ苦戦するだろ?ここは戦力を分散して弱い方から確実に叩け。生憎死ぬような真似はないだろうしな。」

「……私も残ろうか?」

「白崎は悪いけどあっちにいけ。その代わりポーションだけくれないか?普通の。生憎俺はシズとは違って耐久お化けだし限界突破使わないから体力の消費は結構抑えられるから。」

「……」

シズは少し悲しそうにするがそれが最善の策だと分かったらしい。

「それなら私のポーション。」

「アホか。前衛がポーション手放してどうする。」

「……それなら私のも少しだけど使って。」

すると辻が俺にポーションを渡してくる。

「いいのか?」

「うん。私の分もあるから半分しか渡せないけど。」

「それじゃあ私も半分。」

すると白崎も俺にポーションを半分渡してくる

俺は今まで取ってきた魔石を全部捨てるとポーションを入れ替える

「ん。それじゃあまた後で。」

「……ちょっと待て俺は納得。」

「お前はみんなを殺す気か?」

俺はまだ文句があるような天之河の強制的に発言をやめさせる

「俺が支えている間お前はこっちにいるのか?てめぇがやることはクラスメイトをまとめることだろうが。」

「……」

「いいかこれからは一手間違っただけで誰かが死ぬぞ。……ここは日本じゃないんだよ。いい加減そのことを理解しろや。」

「……分かった。」

すると渋々ながら俺たちの方針が決まったしちょうどいいか

「あら話し合いは終わったかしら。」

律儀にも待ってくれたらしく俺は苦笑してしまう

……チッ踏まなかったか

設置型の魔法トラップを無詠唱で唱えていたんだがひっかからないか

「……まぁな。」

「それじゃあ。」

「始めようか。」

武装をしき俺が剣を構えた瞬間

俺の仕掛けたトラップを発動させたのだった

トラップを発動させるともくもくと煙が出てくる。その隙にクラスメイトはこの部屋から出ていくのを俺は確認していた

「なんだ?」

「俺特性の煙玉トラップ。あんたらが踏まなかったのはこれだよ。まぁ多少痺れ毒が入っているけど俺には効かないしな。」

ついでに風魔法でクラスメイトにかからないように調整している

「……ちっ時間稼ぎってことかい。」

「生憎ここで戦うには彼奴らは早すぎるんでね。それに。」

俺は笑いそして

「やっと本気で暴れられるしな。」

「……」

すると殺気を全開にし俺は限界突破を使用しない限りでの最大の強化を行う

さっきの話し合いの時間にクリアマインドという約10分は身体強化を使う時にコストをなくなるの身体強化を使っていた

1日一回という制限はあるものの俺の最上位の扱いに当たる魔法だ

そして同じく効果時間拡大Ⅶでおよそ7倍のコストを払えば7倍発動時間を持つのでコンボとしてかなり凶悪なコンボとなる

なお、この時の最大ステータスは

筋力 1500+800

体力 14000+65000

耐性 7500+21000

敏捷 5550+5000

魔力 1500+800

魔耐 7500+21000

と馬鹿げたものになっている

まぁほとんどが元にステータス依存の物が多いせいかこうなっている

しかし筋力が低いのは察しの通りだけど

「……さてとまずはそいつらからだな。」

俺は剣を魔力撃を込みで切り捨てると三体の魔物の首が飛ぶ

声もたてずに絶命していく

「……なっ。」

「悪いけど経験値稼ぎに付き合ってもらうぞ。どうせ魔法陣にも魔物がいるんだろ?生憎ここにいる奴が全滅するまで付き合ってやるから少しは楽しませろよ。」

「……化け物め。」

「悪いけどあいつを守る為に化け物になる覚悟も人殺しになる覚悟もとっくの前にしているもんで。」

そして魔力を込め

「さぁ、殺し合いをしようじゃないか。」

俺は笑いながら剣を構える

煙が途切れて後ろに誰もいない

すると1人の魔人族が動き出しクラスメイトの方へ向かう

「追わないのかい?」

「いや、追ったらどうせモンスターを魔力の限り召喚するだろうし。それなら全滅させてから殺した方がいいだろうな。」

「……」

すると諦めたように魔人族は俺の方を見る

「お主本当に人間か?」

「人間じゃねーよ。お前もさっき言っていただろうが。」

俺は笑って

「元人間の化け物だ。」

といい俺は剣を振るい始めた

 

そして開戦からもう何時間たっただろうか

「……はぁ。やっと終わった。」

魔物がいなくなると俺はさすがに座り込んでしまう

さすがにくたびれ、ポーションも元から持ってきたやつは全部使い果たしもらったものもほとんどがから瓶となっている

魔人族は思ったよりも簡単に殺せたのは良かったもののなぜかそいつを殺した時にモンスターが大量発生してしまったのだ

……流石に少し思うことはあったのだが

「……さすがに疲れたな。」

俺はあくびをすると少しフラフラとしてしまう

魔力が身体強化のために大半を費やし、火力と魔力撃にかなり費やすものとなったからである

レベルアップとともに体力と魔力が全回復とはいかないか。

「……」

さてどうするか。

これからクラスメイトを助けに行くか、一度睡眠をとり魔力を回復させるか

どちらも利点があり、どちらもリスクがともなう

「……まぁ、やることは決まっているんだけどな。」

助けに行かないという選択肢は俺にはない

俺はそうやって気配感知を使うと

「……なっ。」

思ったよりも最悪だった

「……ちっ。」

上層への階段へ急いで走る

気配の色が小さく死にかけているものが多すぎる

……あいつほっといたのは悪いけど普通なら倒せるくらいの強さだぞ。

「……」

いや、だからか

……少しだけ走るスピードを上げる

俺みたいに覚悟を決められるはずないか

ちょっとだけ後悔する

人をいきなり殺せって言っても無理難題か

ほんとクソ甘いよなお前ら

 

 

 

甘すぎて本当に使えない

 

 

 

そう思いながらも俺は上層へ走る

階段も一段飛ばしで急ぎ足で走っていくと反応が近づいていくのが分かる

というのも俺たちが作戦会議を使った洞穴付近ってことが確認できただけでも十分だった

そして俺が走っていくとそこには

死にかけていて肩越しに振り返り背後で寄り添い合うシズと白崎がいた

「……ちっ。」

今日何度目の舌打ちだろうか。

今日何度目の後悔だろうか

知っていたはずだ

あいつが弱いことは

それでも責任感が強く自分よりも他人を優先することも

怖がりの癖に

近くにモンスターが近づいてきている

そして後少しというところで

「助けて球児。」

シズがそんなことを言い出す

確かに聞こえた声に俺はこんな危機的状況であるけど笑ってしまった

「了解。雫。」

俺はそして魔力撃を飛ばすと斬撃がモンスターに直撃する

「……えっ?」

「よう。助けに来てやったぞ。」

「……球児?」

ドォゴオオン!!と音が響くと上から岩が落ちてくる。

するとさっきまでシズを襲っていたモンスターに落石が降り注ぐ

「……相変わらず仲がいいな、お前等」

そこに現れた白髮、義手の男性はただ微笑ましそうに見てる

俺はあっけにとられてしまう

声も姿も全く違うが分かってしまう

「……アホ。登場がオセェよ。」

俺がそう呟くとすると白崎も分かったのか涙目になっている

「ハジメくん!!」



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共闘

「へ?ハジメくん?って南雲くん?えっ?なに?どういうこと?」

「いや。ハジメだろ。しかし派手な登場方法だなぁ。」

「……何で香織も球児もあれが南雲くんって分かるの!!」

いや、何でって言われても分かるものは分かるし

「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

「そうだなシズ。お茶でも飲んでゆっくりしてろ」

「無償にあんたたちを殴りたいんだけど。」

少しイラっときているシズに苦笑しそうやって軽口を言い合う。

というのも

こいつかなり強いぞ。

力の差がかなりあることは見ただけで分かるし何よりも

視線が全く魔族から離れてないし

「……やっぱかなわねぇやお前には。」

「あっ?」

「別に。とりあえずそこにいる2人下ろしてやれよ。」

「……2人?」

するとハジメも気配に気づいたのか落下してきた金髪の女の子をお姫様抱っこで受け止めると恭しく脇に降ろし、ついで飛び降りてきたウサミミ少女も同じように抱きとめて脇に降ろす。

「あれ?メイは?」

「上で待たせてる。あいつ戦闘あんまり強くないからな。」

「……そっか。よかった。」

俺は少しだけ頰を緩む

そっかメイも生きているのか

「……あんがと。あいつも助けてくれて。」

「……その話は後でいいか?」

「別にいい。どっちみち借りはかなり作ってあるんだ。日本に帰ってからゆっくり聞かせてもらうさ。」

俺はそうやってわらうと

「な、南雲ぉ! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」

「えっ?遠藤いたの?……気配感知に引っかからなかったんだけど。」

俺がそういうと全員が少し遠藤に引いているけど

「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」

〝助けを呼んできた〟その言葉に反応して、魔人族の女もようやく我を取り戻した。そして、改めて俺とハジメと二人の少女を凝視する。だが、そんな周囲の者達の視線などはお構いなしといった様子で、ハジメは少し面倒臭そうな表情をしながら、2人の少女に手早く指示を出した。

「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」

「ん……任せて」

「了解ですぅ!」

あぁ、あの人たちもいたのか

俺は少しため息を吐くと

「そこの赤毛の女。今すぐ去るなら追いはしない。死にたくなければ、さっさと消えろ」

「……何だって?」

ハジメが魔人族の女性に忠告する

「魔法陣のモンスターは全員殺したし、もう一人の魔人族も殺したからな。てめぇに援護はねぇぞ。」

「……あんた。」

「戦場での判断は迅速にな。死にたくなければ消えろと言ったんだ。わかったか?」

改めて、聞き間違いではないとわかり、魔人族の女はスっと表情を消すと「殺れ」と俺たちを指差し魔物に命令を下した。

「……はぁ、めんど。せめて経験値にはなってくれよ。限界突破。」

すると俺は虹色のオーラを纏いそして全ステータスを3倍に上げる

「後ろは任せろ。いらないかもしれないけど。」

「まぁ頼むわ」

「……魔力撃。」

俺は有無を言わせず剣撃を放つ

相変わらずの威力で放たれる剣撃は周辺の隠れているモンスターを殺していく

「……左。」

「分かっているさ。」

ハジメは左側から襲いかかってきたキメラを意にも介さず左手の義手で鷲掴みにすると苦もなく宙に持ち上げた。

「……うわぁ。えげつな。」

「おいおい、何だ? この半端な固有魔法は。大道芸か?」

「それ思っていても言うなよ。勇者(笑)が傷つくから。」

「……お前の方が毒吐いてないか?てか、お前切れてないか?」

そんな生々しい音を立てて、地面にクレーターを作りながらキメラの頭部が粉砕される。そして、ついでにとばかりにドンナーを抜いたハジメは、一見、何もない空間に向かってレールガンを続けざまに撃ち放った。

ドパンッ! ドパンッ!

乾いた破裂音を響かせながら、二条の閃光が空を切り裂き目標を違わず問答無用に貫く。すると、空間が一瞬揺ぎ、そこから頭部を爆散させたキメラと心臓を撃ち抜かれたブルタールモドキが現れ、僅かな停滞のあとぐらりと揺れて地面に崩れ落ちた。

俺は単純作業で遠くにいる敵も近くにいる敵も切り捨てていく

もはや魔物たちは蹂躙されるしかないのであった

そして

「……こんだけ?つまんねーの。経験値稼ぎにもなりやしない。」

魔物はすでに全滅し後は魔人族1人だけになっていた

「ホントに……なんなのさ」

力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女に俺はため息を吐く

「あんたたちから襲って来てそれも大切な人に手をかけたんだ。本当ならもっと絶望を与えたいんだけど……ここでてめぇは殺す。」

そして剣を構えた瞬間俺とハジメに向かって最後の奥義とばかりと魔法を放つ

悪あがきといえる魔法だが

「アラウンドカバー。」

と俺が唱えるとハジメの方へ向かっていた魔法が俺にターゲットを変え襲いかかってくる

「ガーディアン。」

「球児!!」

そんな声が聞こえるが俺は痛みやどこか傷ついたようにも見せず何も変化なく立っていた

「はは……既に詰みだったわけだ」

「その通り」

そしてハジメは魔人族の女の目の前、通路の奥に十字架が浮遊しておりその暗い銃口を標的へと向けていた。乾いた笑いと共に、ずっと前、きっとハジメに攻撃を仕掛けてしまった時から既にチェックメイトをかけられていたことに今更ながらに気がつき、思わず乾いた笑い声を上げる魔人族の女。そんな彼女に背後から憎たらしいほど平静な声がかかる。

「……この化け物達め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」

「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

「俺はとっくに人間をやめている自覚はあるけど、さすがに化け物扱いは結構くるものがあるなぁ。」

俺は剣をハジメはドンナーの銃口をスっと魔人族の女に照準する

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは? と聞くんだろうが……生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」

「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」

嘲笑するように鼻を鳴らした魔人族の女に、ハジメは冷めた眼差しを返した。そして、何の躊躇いもなくドンナーを発砲し魔人族の女の両足を撃ち抜いた。

「あがぁあ!!」

悲鳴を上げて崩れ落ちる魔人族の女。魔物が息絶え静寂が戻った部屋に悲鳴が響き渡る。情け容赦ないハジメの行為に、背後でクラスメイト達が息を呑むのがわかった。

「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」

「……」

痛みに歯を食いしばりながらも、ハジメを睨みつける魔人族の女。その瞳を見て、話すことはないだろうと悟ったハジメは、勝手に推測を話し始めた。

「ま、大体の予想はつく。ここに来たのは、〝本当の大迷宮〟を攻略するためだろ?」

魔人族の女が、ハジメの言葉に眉をピクリと動かした。その様子をつぶさに観察しながらハジメが言葉を続ける。

「あの魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」

「どうして……まさか……」

俺はその話を聞きながら少し違和感を覚える

「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」

「あの方……ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか……」

「……多分使役じゃないな。作り出しているっていうのが正解じゃないか?」

「……どういうことだ?」

「魔人族の操っているモンスターって魔石の大きさが結構幅があるんだよ。俺は魔力感知でそこを狙って切り捨てているんだけど時々魔石がないモンスターが存在している。こんなに高レベルモンスターがだぞ?」

基本回収素材に魔石を集めることが多いのだが

「それに魔石が小さすぎるっていうのもあるしな。」

「なるほど。」

そうやって考察を話すと

「いつか、あたしの恋人があんたらを殺すよ」

負け惜しみだろうかそんなことを言い出す魔人族に

「俺は大切な奴を守る為なら国でも神でも容赦なく潰す。」

「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かない」

すると偶然にも一致する

そしてハジメが引き金を引くという瞬間、大声で制止がかかる。

「待て! 待つんだ、南雲! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

すると一瞬時が止まるが

「俺がやろうか?」

「いや。いい。」

ハジメは首を横にふると引き金を引いた。

ドパンッ!

乾いた破裂音が室内に木霊する。解き放たれた殺意は、狙い違わず魔人族の女の額を撃ち抜き、彼女を一瞬で絶命させた。



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殺す

「……討伐完了。っと。あぁ疲れた〜。」

限界突破の疲労感が体を支配する

「……お前はのんきだな。」

「こう言ったときこそ自然体にいねぇと。それに俺も魔人1人殺しているからお互い様だろうが。それよりもメイに会いたいな。あいつ元気にしてるかな?」

「心配してたぞ。どうせまた無茶して魔人族相手に突っ込んだって言っていたけど。」

「なめんな。あんな雑魚にやられるほど柔くはねぇよ。」

「だろうな。」

そして軽く軽口を言った後

「あんがと。助かった。」

俺は少しだけ照れ隠しをしながらハジメにいう

「借りは返しに来ただけだ。」

「それでもだよ。まぁ言いたいことはたくさんあるけど一つだけ。」

俺は笑うと久しぶりに見る笑顔の友人を嬉しく思う

「久しぶり。ハジメ。生きててくれてありがとう。」

「うん。会えて嬉しいよ。球児。」

少し見合った後少し照れ臭くてお互いに笑ってしまう

すると次に近づいてきたのはうさ耳娘と金髪の少女だった

「シア、メルドの容態はどうだ?」

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。……指示通り〝神水〟を使って置きましたけど……良かったのですか?」

「ああ、この人には、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は、色んな意味で大きすぎる。特に、勇者パーティーの教育係に変なのがついても困るしな。まぁ、あの様子を見る限り、メルドもきちんと教育しきれていないようだが……人格者であることに違いはない。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」

「……神水って本当にあったのかよ。」

俺は図書館で伝わる伝記を読んでいたときに聞いたのを知っていたがまさかハジメが持っていたとは知らなかった

「……悪いな。クラスメイトを助けてもらって。」

「いえ、ハジメさんの頼みですから。」

「……ふ〜ん。まぁお礼は今度ゆっくり話せたときにハジメの昔話でも聞かせてやるよ。……こっちの世界のこととかもな。」

「いいんですか!!」

「メイも知らない俺しか知らないこともあるしな。もちろんいえる範疇のことだけど。」

「……私も聞きたい。」

「おいおい。」

「大丈夫。TPOは弁えるから。」

「……たく。」

すると諦めたようにハジメは苦笑する

すると次にきたのはシズと白崎だった

「……色々聞きたいことがあるんだけど、あんた怪我は。最後の魔法直撃してたでしょ?」

「大丈夫。殺傷能力はないけど全員を石化させる魔法だった。生憎状態異常は効かないからな。てかお前の方が怪我ひどいじゃねーか。」

両腕が別の方向に向いていることから多分両手が折れているのだろう

ポーションより、……回復魔法の方がいいな。

「悪いけど応急処置だけするぞ。たく。無茶しすぎ。」

「それを言うならあんたの方でしょ?」

「アホか。あれくらいどうってことないの。つーか、てめぇはステータス見せてただろうが。」

「そう言うことじゃないわよ!!」

すると珍しく大きな声でそして涙を浮かべるシズ

震えていて、そしてどれだけ心配してくれたのかが分かってしまう

「……悪ぃ。」

自然と出た言葉に俺は少しため息を吐く

本当に俺はこいつだけには弱い

昔からそうだった

小学3年の時に俺は一度暴行事件の被害者として上級生13人から怪我を負った経歴がある

その元になったのはこいつが虐められていたからであって、俺は実際に虐められているところをみるのは初めてのことだった

でもその瞬間に自分の中の何かが飛んで上級生数十人をに突っ込んだ

元々体術は八重樫道場で鍛えられたのもありかなりの腕前があったのも加わったのが災いし俺は受け流す行為についてはかなりの腕前があったので数人をカウンターで潰していった。

しかし近接戦では勝てないと思ったのかとあるバカがシズの顔目掛け石を投げてきたのがきっかけだった。

俺はそれをいち早く気づいたのはいいものの数人の相手をしている俺には……庇うことしかできなかった

すると運悪く頭に石が当たり、投げた石がさらにかなり大きかったのが原因だろう

頭を4針縫う大怪我を負い。さらにそれを聞きつけた両親が学校に抗議したのがきっかけで何人かの私立中学入試の推薦がなくなるなど色々あったらしい。

……その時病室で見たのと全く同じ顔をしている

自分が良かれと思ってやったことなのに結果はシズが一番傷ついている

「…いいわよ。反省しているんなら。それと……助けにきてくれてありがとう。」

すると笑顔になるシズに俺は顔を背けてしまう

……その笑顔は反則だろ

「おう。」

と至近距離からの笑顔に照れ臭くなり顔に熱がこもる

「……あの、すみませんお二人の空気の中悪いんですがハジメさんから魔力回復ポーションを。」

「……」

「……」

すると兎耳の少女が瓶を二つ取り出し持ってきてくれたらしい

俺もシズも顔を見合わせると同時に顔を熱くなっていく。

そして瓶を開け魔力回復ポーションを一気飲みする

酸っぱい味が口の中に広がると俺は少しだけ頭が冷えたように感じた

「……はぁ。はず。」

「私もよ。なんであんなことを。」

「……言うな。」

俺とシズが恥ずかしさで悶絶してしまう。

「……ふぅ、香織も雫も本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲と大久保は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、2人から離れた方がいい」

すると天之河がそんなことを言い出す

「ちょっと、光輝!球児は、私達を助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう?」

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲達がしたことは許されることじゃない」

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」

すると騒ぎ出すクラスメイトに俺はため息をつく

「シズほっとけ。もう面倒臭い。というよりさっさと地上に行ってメイに会いたい。」

「……ん。その男の言うとうり……くだらない連中。ハジメ、もう行こう?」

「あー、うん、そうだな。」

「てかそこの男っていうな。球児だ。大久保球児。……確かユエだっけ?」

「うん。よろしく。球児。」

「よろしくな。」

めんどくさいものは無視に限る

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」

「……はぁ。」

俺はため息を吐く

いかにも面倒臭いんだけど

「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」

「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」

「……本当ここまで行くと病気だろ。」

俺は聞こえない声でボソッと呟いてしまう

するとユエという少女は頷くとため息を吐く

「誤魔化すなよ」

「いきなり何を……」

「お前は、俺があの女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」

「ち、違う! 勝手なこと言うな! お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

「敵を殺す、それの何が悪い?」

「なっ!? 何がって、人殺しだぞ! 悪いに決まってるだろ!」

「はぁ、お前と議論するつもりはないから、もうこれで終いな?――――俺は、敵対した者には一切容赦するつもりはない。敵対した時点で、明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪だの抵抗の有無だのは関係ない。甘さを見せた瞬間、死ぬということは嫌ってくらい理解したからな。これは、俺が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。が、それを気に食わないと言って俺の前に立ちはだかるなら……」

ハジメが一瞬で距離を詰めて光輝の額に銃口を押し付ける。同時に、ハジメからすごいプレッシャーが放たれ俺も少し驚いてしまう。

威圧かそれ系統か?

俺は脳内で考えいうのをやめる

本当規格外だなお前

「例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」

「お、おまえ……」

「勘違いするなよ? 俺は、戻って来たわけじゃないし、まして、お前等の仲間でもない。白崎と球児に義理を果たしに来ただけ。ここを出たらお別れだ。俺には俺の道がある」

まぁだろうな

俺は黙って聞いていると

「球児も殺したんだよね?」

「うん。まぁな。襲ってきて流石に助けるって選択肢はねぇよ。……まぁさすがにこいつみたいに何も思わないことはないけど、それももう覚悟してたからな。」

「……そう。」

するとシズは俺の手を掴んでくる

「シズ?」

俺が聞いてもシズは何も答えない

何も答えない分ずっと手を握っている

……結局地上に着くまでシズは一言も話さずずっと俺の手を握りしめたままだった

 

俺たちが地上に出ると

「パパぁー!! おかえりなのー!!」

「球児!!」

【オルクス大迷宮】の入場ゲートがある広場に、そんな幼女と懐かしい元気な声が響き渡る。

そしてとことこと歩いていきそのままの勢いでハジメと俺に飛びつく。

少し変わっているところもあるがこっちはほとんど見た目を声もほとんど変わっていない

「メイ。久しぶり。」

「会いたかったよ。」

すると俺に抱きつきわんわん泣き始めるメイに俺は少し笑顔が溢れる

でもメイよりも衝撃がでかかったのはそっちだ

さすがに驚いたが俺は冷静になりさすがに四ヶ月で子供ができるのはできないと判断し直す

「ミュウ、迎えに来たのか? ティオはどうした?」

「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは……」

「妾は、ここじゃよ」

人混みをかき分けて、妙齢の黒髪金眼の美女が現れる。多分ティオという人だろうけど。

こいつ本当にハーレム人生満喫してやがるな

「おいおい、ティオ。こんな場所でミュウから離れるなよ」

「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」

「なるほど。それならしゃあないか……で? その自殺志願者は何処だ?」

「いや、ご主人様よ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」

「……チッ、まぁいいだろう」

「……ホントに子離れ出来るのかの?」

「こいつは甘やかすと決めたらとことん甘やかすから子離れできないと思うぞ。」

「ふむ。やはりか。」

「おいこら球児余計なことをいうな。」

俺はそんなことをいうと

「ハジメくん!どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!?メイちゃん!?ユエさん!?シアさん!?それとも、そっちの黒髪の人!?まさか、他にもいるの!?一体、何人孕ませたの!?答えて!ハジメくん!」

「「……」」

白崎が壊れた

ハジメの襟首を掴みガクガクと揺さぶりながら錯乱する白崎を見ている。ハジメは誤解だと言いながら引き離そうとするが、白崎は、何処からそんな力が出ているのかとツッコミたくなるくらいガッチリ掴んで離さない。

「香織、落ち着きなさい! 彼の子なわけないでしょ!」

とシズが羽交い締めにしても聞こえていないらしい

「……カオスだなぁ。」

「そうですね。」

と遠い目をしながら俺とシアと呼ばれるウサ耳娘は遠い目をしてしまった。

 

「……やっぱりオカン。」

「ちょっと球児後から覚えてなさい。香織大丈夫だからね。よしよし。」

「うぅ、もうお嫁に行けない。」

と俺たちは冒険者ギルドでハジメたちが報告している間2人をからかいつつ俺は百合百合した姿を見ていた

「はぁ、しかし人生面白いなぁまさかハジメがハーレムしているとは思いもしてなかった。もともと女たらしのそしつがあるとは思っていたけど。」

「本当ね。」

とため息を吐くが

「んで、白崎はどうするんだ?」

「……えっ?」

「ついていくのか。ついていかないのか。俺とシズは一度王宮に戻ろうと思っているんだけど。」

「……それは。」

「……ぶっちゃけ時間はないぞ。多分あいつらはすぐにでも国から出るつもりだし。」

すると俺の言葉に白崎も分かっているのか少し沈むが

「……やっぱり球児は行かないの?」

するとメイが少し落ち込んでいる。

「というより役たたずじゃないのか?」

「ううん。というよりも私たち前衛で耐久力があるのはティオだけだから。耐久がある球児が行くのなら多分ハジメは連れて行くと思う。」

あぁなるほど。

ついでに今のステータスを見た瞬間ハジメが

「なんでやねん。」

と突っ込んだのが驚いたのが特徴だった

なお防御を固めるともっと防御力が高くなると言ったら遠い目をしていたことからかなりショックを受けていたのだが

 

ついでにメイは

 

速水芽衣 17歳 女 レベル???

天職 弓手

 

筋力 3230

体力 3240

耐性 3730

敏捷 3280

魔力 5380

魔防 2350

 

技能 弓術 短剣術 魔法弓生成(麻痺・毒・石化・即死) 罠感知 製薬 家事・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・重力魔法・言語理解

となっている

どうやら迷宮時に食べるものが魔物しかなかったらしく神水を使用しながら毒を分解しメイは少食なのもあり余りハジメのようにステータスは増えてないらしい。

即死スキルとか怖いんだけど

「……う〜ん。やっぱ俺はいいかな。俺は王宮内にいた方が多分何かとハジメにとっては利益が多いだろうし。」

「えっ?王宮に戻るの?」

「あぁ、魔人族討伐という大きなことを成し遂げたからしばらくは王宮や教会も手出しはできないだろうしな。」

するとシズが首をブンブン首を横に振る

「お前どうした?」

「な、なんでもないわよ!!バカ。」

「何で罵倒されたんだよ。」

よく分かんねぇなこいつ

「まぁ、でも答えは出たぽいな。」

「うん。」

するといい顔をしている白崎がいる

よかった。自爆をしてまでもやったかいがあった。それよりも

「……いいのか?」

俺はメイに聞いてみるとメイは頷く

「私は時間があったからね。それにライバルがいても……一番は私だから。」

すると余裕の笑みで白崎を見る。

「……メイってこんな子だっけ?」

「……俺が知っている限りでは違うんだけど。まぁ強くはなっているよな。」

俺は少し遠い目をしてしまう

……なんか色々ツッコミどころがあるんだけど基本は無視するのが一番いいしな

すると冒険者ギルドからハジメが出てくると俺とシズは軽く押し出す

頑張れよ。

こいつがどんだけ想っていたのも知っている

だから少しだけ応援くらいさせてくれ

例えそれがどんなに辛い道でも

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

「………………は?」

目が点になるハジメに俺は少し笑ってしまう。案外あいつの驚いた顔は初めて見るかもしれない

「……お前にそんな資格はない」

「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと? だったら、誰にも負けないよ?」

白崎は揺るぎない眼差しを向け両手を胸の前で組み頬を真っ赤に染めて、深呼吸を一回すると、震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと……告げた。

「貴方が好きです」

「……白崎」

覚悟を決めた言葉に、純粋な瞳がハジメを捉える

「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

はっきり返答したハジメに、白崎は、一瞬泣きそうになりながら唇を噛んで俯くものの、しかし、一拍後には、零れ落ちそうだった涙を引っ込め目に力を宿して顔を上げた。そして、わかっているとでも言うようにコクリと頷いた。

「……うん、わかってる。メイさんとユエさんのことだよね?」

「ああ、だから……」

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

「なに?」

「だって、シアさんも、少し微妙だけどティオさんもハジメくんのこと好きだよね? 特に、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」

「……それは……」

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」

……うん。やっぱりお前かっこいいよ本当に。

「……なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」

「お前じゃなくて、香織だよ」

「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」

「……ふ、ふふふふふ」

「あは、あははははは」

「……女って怖いなぁ。」

俺はポツリ呟く

多分男子全員の気持ちを代弁しているだろう

しかし意義を唱える奴がいるのは目に見えていた

「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が南雲を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 南雲! お前、いったい香織に何をしたんだ!」

「……何でやねん」

天之河の言葉にハジメが突っ込む。俺はシズの方を見るとため息をついていた

本当お疲れ様です

「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか。」

あいつ本気で言っていることがわかると俺は頭を抱える

「……はぁ、頭がいたい。」

「……こっちも頭がいたいわ。」

俺とシズが頭を抱えるとハジメから同情の目が向けられる

「白崎。」

俺は呆れた様子で天之河を指差す。

すると苦笑し

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

すると女子はエールを、男子の一部も香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った。

しかしこれを認められないのがこのバカだ

「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」

「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」

「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

さすがオカンと思いながら見ていると

すると、メイがこっそりミュウちゃんを連れてどこかに行こうとしていた。

……うん。さすがに子供がこんな醜い争いを見せたらいけないだろうし

するとメイと目があうと俺は見逃すからさっさと行けと小さなジェスチャーを送る

これを貸しを返したことにしてもらおう

「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

……これはひどい

「……なんつーか。お前の幼馴染いろんな意味で終わっているな。」

「今日だけは否定できないわ。」

ここまで行くともう末期だろう。ちょうど必要魔力も回復したし

「…スリープ。」

俺は魔法を唱えそしてガタンと反応し落ちていく

「……見苦しかったから眠らせたぞ。魔力回復するまで時間かかったけど。後はなんとかするよ。」

「あぁ。後は八重樫でも任せたら。」

「えっ?私?」

「……困ったときのシズって謎のクラスの暗黙あったしな。」

俺は苦笑する

「そういえば白崎。こいつ起きる前にさっさと荷造りして出立準備しろ。俺魔力に関してはもうないから。」

「えっ。うん。」

「それと白崎を止める行為は禁止するから。……ハジメを敵に回したら王国や帝国でさえ多分終わるし。」

「……おい。お前。」

「事実だろ。お前今ステータス見ないでもかなりの実力だって分かるし最低でも人類トップお前だ。……絶対敵に回さないようにしないと命が何個あってもたりねぇよ。」

事実多分人類で軍隊を率いても今のハジメには叶わない。

それほどまでに差があることは感じていた

「後何というか……いろいろごめんなさい。それと、改めて礼をいうわ。ありがとう。助けてくれたことも、生きて香織に会いに来てくれたことも……」

「それについてはこっちからもお礼を言わせてもらう。さすがに天之河に関しては。思ったより痛かった。」

「……お前ら苦労しているんだな。」

同情したように俺たちをみる

「そっちは随分と変わったわね。あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで……日本にいた頃のあなたからは想像出来ないわ……」

「惚れているのは二人なんだがなぁ……」

「……私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど……出来るだけ香織のことも見てあげて。お願いよ」

「……」

するとあんまり聞いてなさそうなハジメにたいし

「〝白髪眼帯の処刑人〟なんてどうだ?」

俺は少しニヤリと笑いシズにふる

「……なに?」

「それとも、〝破壊巡回〟と書いて〝アウトブレイク〟と読む、なんてどう?」

「ちょっと待て、お前ら、一体何を……」

「他にも〝漆黒の暴虐〟とか〝紅き雷の錬成師〟なんてのもあるわよ?」

「お、おま、お前ら、まさか……」

俺とシズは笑いニヤニヤと笑う。ストレスの発散場所としてちょうどいいだろうな

「ふふふ、今の私は〝神の使徒〟で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら……随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」

「まて、ちょっと、まて! なぜ、お前がそんなダメージの与え方を知っている!?」

「俺の幼馴染だぞ。最近じゃ純愛小説もライトノベルででてくるし漫画とかアニメとか白崎の後追いもあり俺よりもぶっちゃけハマっているんじゃないかと思われるくらいこいつもそういうの読むぞ。」

「あなたほどではないけど。でも……知識だけなら相応に身につけてしまったわ。確か、今の南雲君みたいな人を〝ちゅうに……〟」

「やめろぉー! やめてくれぇ!」

「あ、あら、想像以上に効果てきめん……自覚があるのね」

「こ、この悪魔めぇ……」

「……自分で振っといてなんだけど、これお前に関しては効果抜群だな。」

既に、生まれたての小鹿のようにガクブルしながら膝を突いているハジメ。

「ふふ、じゃあ、香織のことお願いね?」

「……」

「ふぅ、破滅挽歌、復活災厄……」

「わかった! わかったから、そんなイタすぎる二つ名を付けないでくれ」

俺のつぶやきにハジメが慌て始める

「香織のことお願いね?」

「……少なくとも、邪険にはしないと約束する」

「これくらいでいいだろ。」

「ええ、それでも十分よ。これ以上、追い詰めると発狂しそうだし……約束破ったら、この世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出すから覚悟してね?」

「おまえら、ホントはラスボスだろ? そうなんだろ?」

「一緒にするな。てかシズは容赦なさすぎるだろ。」

さすがに俺でさえ引いてしまう、これかなりのオーバーキルだな

「そういえばお前らにはこれ渡しとく。」

すると二つの鞘に入っている剣を渡される

一つは赤色の、もう一つは黒塗りの鞘に入った剣を手渡しされる

この重さは

「刀か。」

「あぁ。お前剣をふると多少違和感があるとか言っていただろ?」

「……覚えていたのかよ。」

こいつが落ちる前昼飯を一緒に食べている時に呟いた言葉だ

俺は鞘から抜く軽く一回振る。

するとやはりこっちの方が手に馴染む

「世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは折り紙付きだし、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは……八重樫や球児にいうことじゃないだろうが、気を付けてくれ」

「……こんなすごいもの……流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」

「同じくいい刀だな。あんがと。」

その後白崎が戻ってくると俺とシズに挨拶を言ってハジメパーティーはホルアドの街を後にした



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おこぼれ

宿屋に戻りみんながぐっすり眠った後の夜中

俺は夜の散歩というなの鍛錬ということで俺は街から出て、魔物相手に軽く刀を振っていた

いつもなら屋台や冒険者で賑わっているのだが夜中ではそんなに多くはないのであまり外にも出る人がいない

また魔物は夜が一番活発なためちょうどいいストレスの発散とレベリングになるのだ

俺は昼間に睡眠をとったからか知らないが早く起きそして剣を振る

刀とは面白いもので剣道と違い正しい振り方でないとその効果は正常には発動しない

その一つの原因に刃が片面しかないことが原因なのだが

この何がただ硬くて切れるだけだよ。歴とした国宝級じゃねーか。

俺の武器は魔力を流し込むことによって切れ味の増加と火のエンチャントがつき、尚且つ一番やばいのは

これ魔力の流れさえちゃんとすれば刃を無限に伸ばすことができ

「旋空。」

俺は切り捨てる一瞬だけ魔力を込めると射程が50mにもなり、敵を一閃しながら地面がえぐれる。

「……こりゃチーターだろ。」

俺は剣をしまうとため息を吐く

そして街に帰ると未だに薄暗い明かりが照らしている

「ん?」

「……」

そうして街の中に入ると見られたポニーテールの少女が何かぶつぶつ話しながらすれ違う

珍しいな。何か考え事か?

怖がっているわけでもないし、長年見ているけど初めて見るような感じだな

「お〜いシズ何しているんだ。」

「ひゃ。」

と俺が声をかけると刀を構え俺の方に向けてくる

「おいおい。俺だっつーの。」

「……あっ。ごめんなさい。急に話掛けられたから。」

「いや思いっきりすれ違ったんだけど……というよりもブツブツなにか呟いていたし。そっち街の外に繋がるから危ないぞ。いくら勇者パーティーとはいえ紙耐久のお前なら結構体力削れるだろうし。」

「紙耐久ってあなたからみれば確かに紙耐久だけど。」

「お前紙耐久が通じる時点で結構なオタクまじっていると思うんだが。まぁいいや悩みがあるんなら聞いてやるけど。」

「……」

するとジト目で俺の方を見てくると

「……はぁ。」

「おい何でため息をつく。」

「……何でもないわよ。ただ少し香織と南雲くんのことを光輝と話してきただけ。」

あぁ、なるほどだからか

「聞いてもいいか?」

「えぇ。」

するとシズは少しずつ話していく。

というのも多分だけどいつもの愚痴とは違いどこか本当に心配し、そして少し悲しそうに天之河のことを思うようになった

「……やっぱり、天之河も白崎のことを好きだったんだな。まぁ嫉妬する気は分かるし、ハジメを憎む気持ちも分かるけど、まぁ俺も結構経験あるなぁ。そういう嫉妬は。」

「嫉妬?」

「あぁ、やっぱり好きな人に頼られるだったり、見てもらうって結構嬉しいんだよ。俺はずっと初恋が続いているんだけど。それでもやっぱり気持ちに気付いたのは嫉妬からだったし。好きな人にやっぱり相手にないとか身近な人が恋人同士になっているとやっぱり思うところがあるんだと思う。」

実際俺がシズに恋心を抱いていたことに気づいたのはシズが虐められ始めた時に俺ではなく、最初に天之河に頼ったということだった。その当時は今のポニーテールも、クラスの二大女神と呼ばれるほどの認識はなかった

まぁ、当時はショートカットで地味な子というよりも男の子と勘違いされることも多々あったのだ

俺は昔からシズは女友達として可愛い動物やぬいぐるみを集めていたことも知っていたし、剣を握っている時にかっこいいと思えるほどでいつしか意識はしていたのだ

それと天之河と初めて剣を打ち合ったのもこの時だった。

というものの表の剣道場にでることはあまりなかったので同学年の人としては強いと思う程度でぶっちゃけ俺よりは弱かったしあまり気にはしてなかった。

でもシズが困ったとき頼ったのは天之河だった

そして、それを知った時の俺は、メイ曰くかなり辛そうだったということだった。

胸が苦しく、初めて知った時は泣いたり、剣道もシズがいない時間に取り組んだり、なるべく会わないようにしていた

野球を始めたのもこの時で、醜い自分を、悔しい自分を変えたかったんだと思う

「……特に天之河はずっと同じグループでそれも告白されたり、ずっと幼い時から一緒にいたから尚更憎いって思っているんだろうな。そういった意味でも俺の昔と今のあいつはそっくりなんだよ。俺が皇帝に言っただろ?『あいつはただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口で、実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだ。』って。」

「……私から見たらそう思わないけど。」

「そりゃ、お前は外面しか知らなかったし、小学校のとき少し付き合い悪い時もなるべく悟られないようにしてたからな。……だからだろうなぁ。だからあの時俺は自分が嫌いだった。」

頼ってもらえなかったことから目を逸らし、ただ友達が傷ついているのに何もできない無力な俺が大嫌いだった。

「……なんかだからかばうわけじゃないし余計な御世話かもしれないけどあいつの気持ちが分からないわけでもないかな。多分、あいつ今自分が無力っていうのを再認識していると思うぞ。まぁ、それからどうするのかはあいつ次第だけど、できればちゃんと地に足をつけて……少しずつ成長してほしいな。失敗や悔しさだって成長する一つのタネだ。いつかは育ち大きくなっていく。」

俺だってそうやって一つずつ成長してきた

野球も絶対に勝てる勝負なんてない

中学はいいとこ県大会で敗退するようなチームだったし、高校に行って選抜優勝なんてできたのも奇跡みたいなもんだろう

「……あなたそれ慰めているの?」

「慰めているって思うか?ただの理想だよ。現実じゃない。ただこうやって雑談した方がいいってこと。あいつがどうなるかはあいつ次第だし俺には関係ないことだろ?理想を話すことしかできないさ。」

するとキョトンとしてそしてため息を吐くシズ

「球児らしいっていえば球児らしいわね。」

呆れたようにこちらを見ている

「……球児はこれからどうするの?」

「ん?」

「しばらく王宮で過ごすんでしょ?」

「別にお前らと変わんねーよ。訓練して飯を食ってねるだけだろ。俺は教会の動きを監視するだけだし。」

「教会?なんで?」

「……元々教会を監視するために俺は一応王宮側にとどまっているんだよ。多分ハジメの一件で教会は確実に動く。たとえ俺を利用してでもな。」

そういうと

「もしかして。」

「あぁ、俺も少し動き始めようと思う。悪いけど俺はこの世界がどうなってもいい。……一応この世界で信用できるこっちの世界のやつは姫さんくらいだからな。」

「姫さんってあぁリリィのこと?」

「あいつ面白いしな。いじりがいあるし、なにより……一番俺たちのことを心配してくれているしな。あいつも俺らより年下なのに大人だよなぁ。」

「……何よ。私が子供みたいじゃない。」

「子供だよ。」

俺は断言する

「俺もお前も。子供だよ。怖くて少しも前に進めないただの子供だ。白崎みたいに動くわけでも、……ハジメみたいに変わったりもしない。ただ臆病で……このままでいいって思ってしまう。」

多分お互いの気持ちも知っている

俺がシズをどう思っているのかシズは知っているようはずだ

シズが俺のことをどう思っているのか俺は知っているように

「そうね。」

「否定しないんだな。」

「否定しても隠せる気がしないわよ。」

「それもそうか。」

俺は少しシズに苦笑してしまう

そしてそれがお互いに変わろうとしていることも

「月が綺麗ですね。」

「地球じゃないけどね。」

「ムードもお前が望む展開でもないけどな。」

だけど

「好きだ。」

俺は直球に突っ込む

「俺は雫のことが好きです。俺と付き合ってくれませんか。」

「……」

怖くてずっと言えなかった

そして今も昔も変わらずに怖いのは変わらない

でも、あいつが力を振り絞ったんだ

俺だって少しくらいおこぼれを残してくれてもいいだろ

シズは涙を流しそして首を縦に動かす

そして抱きついてくるシズに俺は何も言わず抱きしめる

俺たちは一歩関係を変化させた

 




ここからは一気に展開が変わっていきますので原作との変更点が多数存在します


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異端者

あれから三週間が経ち俺とシズは訓練に早上がりして先生の部屋で先生を待っていた

というのも俺はしばらくあっていない愛子先生に会いに行く予定だったのだがシズがついて行くということになっていた

クラスメイト数人がニヤニヤしていたので数人を磔にした後に理由を聞くとどうやら情報交換がしたいということだった。

まぁウルの街にハジメがいたこともあり多分ハジメが生きていたことは知っているが先生から見てハジメをどう思っているのかがぶっちゃけの聞いてみたいというのもあるんだけど

「「「キャ〜キュウジ様。」」」

「「「キャ〜お姉様。」」」

「「……」」

俺とシズはため息を浮かべる。シズは元々令嬢やメイドに人気なのだが、俺はダンジョンで魔人族を撃破した英雄として今や王国で知らない人がいないほどだ。

まぁそうなるとこうやってミーハーが出来るわけで

…はぁ。なんかいつも観察されているようで落ち着かない

何と言うかみられているという脅迫概念に取られて休みの中までもみられているという

さらに色仕掛けを仕掛けくるやつや貴族だったり、パーティーに参加させられたり。

まぁ面倒臭いから抜け出して外で飯を食ったり、近くの冒険者ギルドで依頼を受けてそこで飲み会をやっている現状で姫さん(リリアーナ)に迷惑をかけているらしいが知っちゃこっちゃない。

なおそうやった場合シズに連絡が行き正座で説教されるんだがじゃあ参加してもいいのかというと膨れて拗ねる。

「……はぁ。」

とはいえそうやっているのもあり、シズに話かける機会が減っている

「どうしたのよ。」

「別に。なんか落ち着かないだけ。」

「あんた甲子園でプレーしてたことがあるんだから人に見られるのは慣れているでしょ?」

「そうでもないだろ。基本ピッチャーが目立つし俺はキャッチャーで色々考えながらプレーしてたからなあんまり視線を感じることはないし。野島がイケメンピッチャーとして全国区だったしな。自然と薄くなるんだよ。ホームランが打てるバッターでもないし地道にコツコツ嫌がらせをするタイプだったから。」

「……あなたらしいわね。」

「お前は俺をなんだと思っているんだよ。」

と少し雑談をしていると小さな見知った顔がトボトボ歩きながら通り過ぎた

「先生呼び出しといて気づかないって酷くね?」

「先生……先生!」

「ほえっ!?」

奇妙な声をあげビクリと反応する先生に少し首を傾げる

なんかまたあいつが関わっているような気がする

俺は背中から落ちる汗が冷たく感じた

「八重樫さん!大久保くん!お久しぶりですね。元気でしたか?怪我はしていませんか?他の皆も無事ですか?」

沈んでいたのにこの先生は生徒の心配ばかりだな。

内心苦笑してしまうのと同時に俺は少しばかり頰を緩ませた

 

「そう、ですか……清水君が……」

可愛らしい猫脚テーブルを挟んでお茶を飲みながら互いに何があったのか情報を交換する。

「まぁ、でも生きていただけマシだと思いますよ。ハジメがいなければ……皆殺しされててもおかしくないですし。」

「そうね。清水君のことは残念です……でも、それでも先生が生きていてくれて本当よかったです。南雲君には本当に感謝ですね」

俺がフォローするとそれに乗っかる。

「そうですね。再会した当初は、私達の事も、この世界の事も全部興味がないといった素振りだったのですが……八重樫さん達を助けに行ってくれたのですね。それに小さな子の保護まで……ふふ、少しずつ昔の彼を取り戻しているのかもしれませんね。あるいは、変わったまま成長しているのか……頼もしい限りです」

すると先生の頬は何故か薄らと染まっている

「……あの、のろけるのやめてくれませんかね。砂糖吐きそうなんで。」

「の、惚気てません。」

「いや、顔を真っ赤にさせながらあいつの話になると饒舌になっても説得力ないですし。」

「やっぱり?」

「だろうな。あの天然ジゴロが。」

俺はため息を吐く

「……先生? さっき、危ない状態から助けられたと聞きましたけど、具体的にはどのように?」

「えっ!?」

「いえ、死んでいたかもしれないと言われては、やはりどうやって治したのか少し気になりまして……」

「そ、それはですね……」

「多分、神水を口に含んでからの口移しだろ。速攻性のある麻痺毒は基本痙攣からの呼吸困難が死因が多い。それなら無理やり飲ませるような方法をとるしかないだろ?」

「「……」」

俺がそういうと2人が顔を真っ赤にさせる

「えっ?それって。き、キスして。」

「キスっていうな人工呼吸術だ。……一度メイが溺れた時にやったことがあるからその時の名残だろうよ。」

「えっ?メイ?」

「あいつがハジメに惚れたのそれが原因。俺は部活で海に行けなかったけど離岸流ってやつに巻き込まれたのが原因で溺れて人工呼吸して助けたんだって。てかあいつはそういう知識どこから仕入れているのやら。」

俺は苦笑してしまうがそんなん待った無しで2人が悶絶している

まぁシズはウブだしなぁ

俺はゴホンと咳払いすると先ほどのやり取りなど何もなかったように話を続けた。

「それで、先生。陛下への報告の場で何があったのか? 随分と深刻そうだが」

愛子はハッとすると共に、苦虫を噛み潰したような表情で憤りと不信感をあらわにした。

「……正式に、南雲君が異端者認定を受けました」

「!? それは! ……どういうことですか? いえ、何となく予想は出来ますが……それは余りに浅慮な決定では?」

「いや、今までが遅かったくらいだろうな。てか俺が受けなかったのが幸いだろうな。」

事実俺は最近教会に反抗的な行動を取っているしな

「全くその通りです。しかも、いくら教会に従わない大きな力とはいえ、結果的にウルの町を救っている上、私がいくら抗議をしてもまるで取り合ってもらえませんでした。南雲君は、こういう事態も予想して、ウルの町で唯でさえ高い〝豊穣の女神〟の名声を更に格上げしたのに、です。護衛隊の人に聞きましたが〝豊穣の女神〟の名と〝女神の剣〟の名は、既に、相当な広がりを見せているそうです。今、彼を異端者認定することは、自分達を救った〝豊穣の女神〟そのものを否定するに等しい行為です。私の抗議をそう簡単に無視することなど出来ないはずなのです。でも、彼等は、強硬に決定を下しました。明らかにおかしいです……今、思えば、イシュタルさん達はともかく、陛下達王国側の人達の様子が少しおかしかったような……」

「……それは、気になりますね。彼等が何を考えているのか……でも、取り敢えず考えないといけないのは、唯でさえ強い南雲君に〝誰を〟差し向けるつもりなのか? という点ではないでしょうか」

「……そうですね。おそらくは……」

「ええ。私達でしょう……まっぴらゴメンですよ? 私は、まだ死にたくありません。南雲君と敵対するとか……想像するのも嫌です」

「……」

なんとなく2人の話をきいているとなんか引っかかることがある

「でも、最近俺たちは姫さんと会うことは多いけど姫さんはいつも通りつーか。様子はおかしくはないよな?」

「えっ?えぇそうね。リリィはそういえばあまり変わったところがないと思う。」

「……ちょっと姫さんに今日会ってくるか。晩飯時に少し陛下の変わったところとかを聞き出すことが重要だと思うし。ちょっと色々聞いてみたいこともある。」

「リリィに?」

「あぁ、一応俺なら一応ゆっくり会って話してみたいって言われているからな。その時に聞き出すことは可能だろうしな。シズも来るか?」

「……それなんですけど、明日にできませんか?南雲君は、自分が話しても信じないどころか、天之河君辺りから反感を買うだろうと予想して、私にだけ話してくれたことがあります」

「話……ですか?」

「はい。教会が祀る神様の事と、南雲君達の旅の目的です。証拠は何もない話ですが……とても大事な話なので、今晩……いえ、夕方、全員が揃ったら先生からお話したいと思います」

「それは……いえ、分かりました。なんなら今から全員招集しますか?」

「いえ、あまり教会側には知られたくない話なので、自然に皆が集まるとき、夕食の席で話したいと思います。久しぶりに生徒達と水入らずで、といえば私達だけで話せるでしょう」

「なるほど……分かりました。では、夕食の時に」

と締めくくろうとしたら

「俺はシズから聞くから別にいいや。多分全員集まっていると逆に目をつけられるだろうし。まぁ俺たちと行動しないって聞いた時に大体あいつの行動原理は分かるし。」

実際俺は予想はしていて、ハジメの行動の時にほぼ確信に変わった

多分帰れる方法に近いものを見つけたんだと。

「一応間違っていたらまずいからシズに聞くけどでも王宮の様子も少し気になるしここは別れて調査した方がいいんじゃないですか?」

「……私としては大久保くんとも話したいんですが。」

「ここで話せるし、ハジメのことならシズ通して教えることはできるけど。」

「そう……って違いますから!!南雲くんのことをもっと知りたいとか。そういうことじゃなくて。」

「……先生隠せてないです。」

俺たちはそんなことを話しながら比較的楽しく話すことができた

 

夕飯を早めに食い終わり、シズを通して姫さんに事情を話すことにより少しばかり王宮の先生の部屋を借りることになっていた

あいつおせぇな。

そう思いながらしばらく待っていると

すると数分後気配が急に現れるとドアが開く

「大久保さん。大変です。」

すると息を吐きどうやら本当に大変なことが起こったのか息バテをしていた

「どうした?そんなに焦って。」

「愛子さんが攫われました。」

「……は?」

俺は少し呆気にとられてしまう

すると姫さんは少しずつ話しかけてくれた

姫さんの話を要約するとこうだ。

最近、王宮内の空気が何処かおかしく、姫さんはずっと違和感を覚えていたらしい。

国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように〝エヒト様〟を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。

違和感はそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。

そのことを、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、光輝達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう。結局、姫さんは一度もメルドを捕まえることが出来なかった。

有り得ない決議に、当然、姫さんは国王に猛抗議をしたが、何を言ってもハジメを神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議する姫さんに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。

恐ろしくなった姫さんは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出したらしい。そして、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。そしてシズから頼まれた俺にその情報を伝えるところだったらしい

姫さんは、夕刻になり俺のいる部屋に向かおうとしたのだが、その途中、廊下の曲がり角の向こうから先生と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、先生が銀髪の教会修道服を着た女に気絶させられ担がれているところだった。

姫さんは、その銀髪の女に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。

銀髪の女が探しに来たが、結局、隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたこともあり気がつかなかったようで、姫さんを見つけることなく去っていった。姫さんは、銀髪の女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。

「……やってくれたな。」

俺は軽く舌打ちをしてしまう

「教会側がからんでいることは確かだろうし。多分神の使徒って奴なんだろうな。教会からの妨害はなんかしらあるとは考えていたけど。」

さすがに強行突破は考えてなかった。

俺はさすがに悔しさで歯を組み立てる

それでも脳を働かせ策を錬る

「姫さんなるべくこの部屋を荒らしてくれ。」

「えっ?」

「いいから。」

そして近くのあった紙に魔法を使い文字を書いていく

……頼む気づいてくれ。

俺は手紙に姫さんをエリセンまで護衛しに行くと書きそれを魔法の便箋で止め枕の下に隠す

「これくらいでいいですか?」

「あぁ。悪い姫さんちょっと失礼。」

「えっ?」

俺は姫さんを抱えると

「ちょ、ちょっと大久保さん。」

「悪いけど文句は後だ。出口はどこだ?悪いけどすぐにでるぞ。護衛は俺がやるからすぐに白崎のところに向かう。」

「えっ?香織さんのところですか?」

「あぁ、生憎タイミングがいいのもあって多分俺がノーガードで多分あいつらのところにたどり着ける。多分俺が王都から離れるのは都合がいいからな。」

「どういう。」

「とりあえず時間がないから急ぐぞ。」

「このベットの下に一つ隠し通路があります。」

「了解。これは国王もあっち側だ。……なるべく味方は多い方がいいしな。とりあえず彼奴らは迷宮をめぐる旅をしているはずだしとりあえずホルアドから、近いの大迷宮ってどこだっけ?」

「グリューエン大火山ですね。」

「了解。んじゃ行くか。」

俺はベットを持ち上げ小さな隠し穴に入ると全速力で走り出す

抱えている姫さんがひぃーと言っているが完全に無視だ

目的地はハジメのところまでの俺たちの旅が始まった



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すぐに再開

あれからおよそ3日後

「何でこんなトラブルばっかり起こるんだろうな。」

俺たちは商人の護衛を引き受けたんだがその途中に100人規模の大規模の盗賊に俺はため息を吐きそうになる。気配感知で早めに気づいたのもあり、すぐに対応していたんだがそれでも未だ苦戦することになっている

「姫さん後どれだけ結界持つか?」

「後20分くらいです。」

俺は軽く舌打ちしてしまう

一緒に来た冒険者も戦ってくれてはいるのだが矢は結界、魔法は俺が食らっているが人数の差がやはりきつい

「魔力撃。」

刀ではなく普通のアーティファクトを使い数人が血飛沫が舞う

「……ちっ、範囲魔法があれば。もうちょい楽なんだけどなぁ」

「キャっ。」

すると冒険者の1人がついに致命的な傷を負うことになってしまう

「大久保さん。」

「了解。」

と俺は限界突破を使おうとした矢先だった

一台の車が盗賊の後衛に向かって突っ込んだ

 

「「「……」」」

 

俺も冒険者もそして盗賊も意味が分からずただ呆気にとられる

そしてその車から1人が降りてくるとそこには白崎が降りてくる

……あっチャンス

「魔力撃。」

すると一瞬数十人の首が舞い悲鳴が舞い起こる

「助けに来たよ大久保くん。」

「悪い助かる。白崎は姫さんの方に向かって魔力回復してくれ。」

「えっ?リリィがいるの?」

「緊急事態でお前らを探しに来たんだよ。結構ガチで教会側が動き出した。」

俺がそういうと驚いたようにしていたが

「どこ?」

「馬車の中だ。」

すると馬車に向かっていく白崎に俺は少し笑ってしまう

……さて回復役がいることだし

少しばかり暴れるか

 

 

そして10分もしないうちに最後の首刈りを終えたところで

「おう。また会ったな。」

白髮義眼のハジメに俺は手を上げる

「三週間ぶりだけど、お前王宮にいるんじゃなかったのか?」

「悪いけどお前の指名手配よりも面倒な案件が王宮であったし、これで俺もそれともう一人連れがいるんだけどそいつによるとお前にも関係あることだったから伝えに来たんだよ。」

「……どういうことだ?」

「馬車の中で今は白崎と話しているはずだ。多分忘れているとは思うんだけど、重要参考人だから聞いてやってほしい。」

俺がそういうとするとフードを被った姫さんと白崎が出てくる

「姫さん白崎と話はついたか?」

「えぇ。ありがとうございます。大久保さん。」

「……南雲さん……ですね? お久しぶりです。雫達から貴方の生存は聞いていました。貴方の生き抜く強さに心から敬意を。本当によかった。……貴方がいない間の香織は見ていられませんでしたよ?」

「もうっ、リリィ! 今は、そんな事いいでしょ!」

「ふふ、香織の一大告白の話も雫から聞いていますよ? あとで詳しく聞かせて下さいね?それと大久保さんの話も。」

「姫さんその話は後だ。てか、やっぱり忘れていたか。」

「へ?」

すると姫さんはキョトンとしているが

「……悪い誰だ?」

「へ?」

すると姫さんがそんな声を上げるが

「姫さん当たり前だろ。何度もお前を見た人ならともかくハジメはほとんどあんたと話したことはないんだ。しかもほとんど必死で生き抜いてきたのに王女の名前はさすがに覚えられないだろうよ。」

「……ぐすっ、忘れられるって結構心に来るものなのですね、ぐすっ」

「……そういったところはまだ子供なんだな。ほら顔あげろ。」

俺はタオルを使い姫さんの涙を拭いていく

「お久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」

「栄養ドリンクの人……」

「は? 何です? 栄養ドリンク? 確かに、我が商会でも扱っていますが……代名詞になるほど有名では……」

「あ~、いや、何でもない。確か、モットーで良かったよな?」

「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方とは何かと縁がある」

どうやらハジメは商人の方とは会ったことがあるらしい

「たった一回会っただけの人は覚えているのに……私は……王女なのに……」

「あ〜もう。姫さん落ち込むな。」

「……球児。なんでそんなオカンみたいになっているの?」

「誰のせいだ。誰の。」

メイの言葉に俺はため息を吐き、そして姫さんをなだめる

苦労人と笑っているハジメは後から締めると

「申し訳ありません。商人様。彼等の時間は、私が頂きたいのです。ホルアドまでの同乗を許して頂いたにもかかわらず身勝手とは分かっているのですが……」

「おや、もうホルアドまで行かなくても宜しいので?」

「はい、ここまでで結構です。もちろん、ホルアドまでの料金を支払わせて頂きます」

「悪い。俺からもお礼を言わせてもらう。……ありがとう。」

俺と姫さんが頭を下げると

「そうですか……いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」

「えっ? いえ、そういうわけには……」

「…やっぱ気づいていたのか。後払いって聞いた時多分そういうことじゃないのかって思ったけど。」

俺がそういうとモットーと呼ばれた商人は笑う

「二度と、こういう事をなさるとは思いませんが……一応、忠告を。普通、乗合馬車にしろ、同乗にしろ料金は先払いです。それを出発前に請求されないというのは、相手は何か良からぬ事を企んでいるか、または、お金を受け取れない相手という事です。今回は、後者ですな」

「それは、まさか……」

「どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、英雄どもと忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」

彼が最初から自分の正体に気がついていたと悟る。そして、気が付いていながら、敢えて知らないふりをして姫さんの力になろうとしてくれていたのだ。

「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私は、王都を出ることが出来たのです」

「ふむ。……突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」

「え? ……いいえ、わかりません」

「それはですな、〝信頼〟です」

「信頼?」

「ええ、商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな? もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが……」

本当うまい言い回しだと俺は少し感心してしまう。これでは無理に金銭を渡せば、貴方を信頼していないというのと同義だ。お礼をしたい気持ちと反してしまう。

「……それじゃあ俺個人で、友達を救ってくれたお礼ってことでこの剣を渡すってことはダメか?」

「はい?」

するとモットーという商人はキョトンとしてしまう

「生憎俺は王国というわけではなく、姫さんの友達ってことでついて来たんだ。さすがに危険を冒してまであんたは俺たちを運んできてくれた。この剣は俺が昔使っていた剣だ。だから思い出だってあるけど、その剣を友好と信頼の証として受け取ってくれると嬉しいんだが。」

「……そう言われては断れませんな。しかし、武具は。」

「昔のって言っているだろ?」

俺はもう一つの鞘を見せるとにこりと笑う

姫さんもそれを見てフードを取ると

「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう……」

「勿体無いお言葉です」

姫さんに王女としての言葉を賜ったモットーは、部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れた。

その後、俺たちとハジメ達をその場に残し、モットー達は予定通りホルアドへと続く街道を進んでいった。去り際に、ハジメが異端者認定を受けている事を知っている口振りで、何やら王都の雰囲気が悪いと忠告までしてくれたモットーに、ハジメもアンカジ公国が完全に回復したという情報を提供しておいた。それだけで、ハジメが異端者認定を受けた理由やら何やらを色々推測したようで、その上で「今後も縁があれば是非ご贔屓に」と言ってのけるモットーは本当に生粋の商人だ

「んじゃとりあえず姫さん説明を頼む。」

俺たちは魔力駆動四輪という車に近い車内で俺がそう告げる

重苦しい雰囲気の中、姫さんはことを告げた

「愛子さんが……攫われました」

そしてハジメの目が見開くそして説明すると

「あとは知っての通り、ユンケル商会の隊商にお願いして便乗させてもらいました。まさか、最初から気づかれているとは思いもしませんでしたし、その途中で賊の襲撃に遭い、それを香織達に助けられるとは夢にも思いませんでしたが……少し前までなら〝神のご加護だ〟と思うところです。……しかし……私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの銀髪の修道女は……お父様達は……」

自分の体を抱きしめて恐怖に震える姫さんは、才媛と言われる王女というより、ただの女の子にしか見えなかった。だが、無理もないことだ。自分の親しい人達が、知らぬうちに変貌し、奪われていくのだから。

「一応姫さんを連れ出してきたけど、多分俺の感知も全くの無反応だったことを考えると俺よりも多分強い。それも神側の可能性が高い。だから救援を求めに王宮を抜け出してきたんだけど。」

問題はハジメに先生を助けに行くかどうかなんだけど

と俺は心配している中でその心配は奇遇だった

「取り敢えず、先生を助けに行かねぇとな」

「まぁ元はお前のせいだけど。」

「お前容赦ないな。」

「事実だし、お前も理解しているんだろ?」

「……まぁそうだが。」

「んまぁ、よろしく。」

「私も力になるよ!!少しばかりだけど愛ちゃんにはお世話になったし。久しぶりにお兄ちゃんとコンビ組めるし。」

「ん。こっちもよろしく頼む。」

「んじゃ作戦はいつも通り球児が決めろよ。念話石渡しとくから」

「どうやって使うんだよ。」

そうしながらも俺たちは作戦会議を行っていく

真剣にそして先生の救出に向けた作戦が始まろうとしていた



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独断専行

俺と白崎、姫さん、ユエ、シアの5人は夜陰に紛れて王宮の隠し通路を進んでいた。

「むぅ。」

「おい。文句があるんならあいつに言え。あいつが俺に作戦を考えろって言ったんだ。悪いけど作戦には従ってもらうぞ。」

というのも一応先生の安全を確保するため救出後の預け先である天之河達が洗脳の類を受けていないか、彼等が安全と言えるかの確認が必要だった。

「……たく。メイ。そっちは。」

”異常ないよ。作戦は順調に進行中”

「了解。」

そんな俺達が、隠し通路を通って出た場所は、何処かの客室だった。振り返ればアンティークの物置が静かに元の位置に戻り何事もなかったかのように鎮座し直す。

「ここは一階の本館か。」

「この時間なら、皆さん自室で就寝中でしょう。……取り敢えず、雫の部屋に向かおうと思います」

「……そうだな。」

そこで勇者の天之河がでないのはどうなんだろうと思いながらも俺はため息を吐くと

索敵が一番高い俺が前を出ると部屋を出る

そして小走りをしながらシズの部屋に向かう途中に

 

そのことが起こった。

 

ズドォオオン!!

 

パキャァアアン!!

 

砲撃でも受けたかのような轟音が響き渡り、直後、ガラスが砕け散るような破砕音が王都を駆け抜ける。

「わわっ、何ですか一体!?」

「これはっ……まさか!?」

すると姫さんが外を見ると

「そんな……大結界が……砕かれた?」

「なっ。」

俺は絶句してしまう。大結界はかなりの強度を誇るらしい

するともう一度砲撃の音が聞こえると今度は俺でも分かる結界の壊れる音がなり響く

「第二結界も……どうして……こんなに脆くなっているのです? これでは、直ぐに……」

「……内通者や裏切りだろうな。多分俺たち勇者パーティーに裏切り物がいた。」

「えっ?」

「そうじゃねーとさすがにこれはないだろ?実際裏切った奴が1人いたわけだし、何かしらの連絡手段はあるんだろうな。メイ。」

〝聞こえるかの? 妾じゃ、状況説明は必要かの?〟

それぞれの念話石が輝き、そこから声が響いている。王都に残してきたティオの声だ。口振りから、何が起きているのか大体のところを把握しているらしい。

”ん……お願いティオ〟

〝心得た。王都の南方一キロメートル程の位置に魔人族と魔物の大軍じゃ。あの時の白竜もおるぞ。結界を破壊したのはアヤツのブレスじゃ。しかし、主の魔人族は姿が見えんの〟

「まさか本当に敵軍が? そんな、一体どうやってこんなところまで……」

「……神託魔法か?それも空間操作系の。っておいユエ。」

すると勝手に行動し始めるユエに注意をうだなす

「……ここで別れる。貴女は先に行って」

「なっ、ここで? 一体何を……」

一刻も早くシズ達と合流し態勢を整える必要があるのに何を言い出すのかと姫さんは訝しそうに眉をしかめた。ユエは、窓を開けると瞳を剣呑に細めて一段低い声で端的に理由を述べる。

「……白竜使いの魔人族はハジメを傷つけた。……泣くまでボコる」

あぁ、これキレているなぁ

俺はそんなことを思うと

「お、怒ってますね、ユエさん……」

「……シアは? もう忘れた?」

「まさか。泣いて謝ってもボコり続けます」

ユエの発する怒気に思わずツッコミを入れるシアだったが、続くユエの言葉に無表情になると、ユエより過激な事を言い出した。普段から明るく笑顔の絶えないシアだけに、無表情での暴行宣言は非常に迫力がある

「そういうわけで、香織さん、リリィさん。私とユエさんは、ちょっと調子に乗っているトカゲとその飼い主を躾してくるので、ここで失礼します」

「……ん、あと邪魔するならその他大勢も」

そう言うや否や、ユエとシアの二人は、俺達の制止の声も聞かずに窓から王都へ向かって飛び出して行ってしまった。

開けっぱなし窓から夜風と喧騒が入り込んでくる。しばらく、互いに無言のまま佇む俺たちだったが、やがて何事もなかったように二人して進み始めた。

「……南雲さん……愛されていますね……」

「うん……狂的……じゃなかった。強敵なんだ」

「香織……死なない程度に頑張って下さいね。応援しています」

「うん。ありがとう、リリィ……」

こりゃ作戦変更か

「メイ。」

”大丈夫。あの2人には後からお話するから”

あっ。メイもキレているぽいな

白崎がかなり怯えているし

「とりあえずあのバカ2人が勝手に行動したから俺たちはとりあえずシズと勇者(笑)の元に向かう」

”了解。勇者(笑)達のところに行く最中に魔人族が出たらついでに倒して行ってね?」

「了解。」

「なんか大久保くん、メイちゃんコンビニ行ってくる感じで魔人殺そうって言ってない?」

「雑魚に構う暇はない。」

”そうそう。”

「2人もそういえばそっち側だったね。」

「「あいつらと一緒にするな(しないで)」」

といい俺たちはシズ達の方へ進み出したのであった



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失敗

「邪魔。」

フルに身体強化をした俺は一撃で刀を一撃で首を飛ばす

「……ん。後どれくらい?」

「「……」」

「ん?どうした2人とも。」

「あの、大久保さん。えっと。」

「あぁ。俺ステータス隠してきたけどあのバカ2人かかってきても余裕で潰せるくらいには強いから。」

俺はそういうと先に進む

「……あの、それってハジメくん並に強いってことじゃ。」

「限界突破抜きでも体力は4倍と耐久、魔防の最大数値は多分ハジメの2倍はあるぞ。俺。」

「……えっ?」

「……素で半分くらいだし、体力に限ったら同じくらいだろうな。その分攻撃力が低いから。」

「…なんで魔人族と戦った時に大久保くんが無事だったのかよく分かるよ。」

するともう突っ込むのも疲れたのだろう

でも何で気配感知に引っかからないんだ?まるでアンデットを切っているみたいで怖いんだけど。

俺は黙り込むと何か嫌な予感がする

「……いや、これもしかして降霊術か?」

「えっ?」

「こいつら俺が斬っても何も手応えがないし、死者を操るスキルってこれくらいしかなくないか?確か俺たちのクラスにも1人いただろ?勇者パーティーの?確か降霊術が使えないやつだけど。」

「……えっと、確か中村恵里さんですね?確か魔人族との戦い時使えるようになったと。」

……ビンゴか

「裏切り者はそいつか。」

「嘘。」

「嘘じゃなさそうだぞ。これ。よう見たら見覚えがある奴が数人いるわ。」

俺はそういうと切り捨てながら俺は進んでいく

そしてシズ達が見えてくると。

 

 

 

……シズにとどめを刺そうとしている少女の姿だった

それを見た瞬間俺の中の何かが飛んだ

俺はそれを唱えた瞬間俺は瞬間的に移動しそしてメガネの少女の剣を弾き返した

「……えっ?球児?」

「……お前何で俺が毎回きたら死にかけているんだよ。」

俺が呆れるようにいうとメガネをかけた少女は俺を睨む

「お前、南雲のところに。」

するとその内の数枚がシズを刺す少女と中村の眼前に移動しカッ! と光を爆ぜた。バリアバーストモドキとでもいうべきか、障壁に内包された魔力を敢えて暴発させて光と障壁の残骸を撒き散らす技だ。

「サンキュー白崎。」

「うん。雫ちゃん!待ってて!直ぐに助けるから!」

「というわけで暗号の通りハジメ達呼んできた。ハジメは先生が攫われたからそれを助けに行ってる。姫さんは白崎のガードを頼む。」

「はい。」

「アンデットには回復魔法が効くっていうのが定石だ死ぬ気で白崎を守れ。俺はクラスメイトの救出をする。助けたやつから前衛組は後衛職を守って後衛職は1人ずつ魔法で目の前の奴を倒せ。」

俺はとりあえずシズの魔力杭を力任せに外す

「悪いけど痛むぞ。」

俺はシズに刺さった剣を抜きさすとポーションを傷口にかける

すると苦しそうにしながらも俺は次に天之河の魔力杭を外す。

「……動けるか?」

「あぁ。とりあえずどうすればいい?」

「まずはクラスメイトの救出。悪いがこのまま殺されたらかなり厳しいしとりあえず戦力になる奴らを出していく。」

「……あぁ。分かった。」

そう言った矢先だった

「ダメよ! 彼から離れてぇ!」

その言葉に俺と天之河は反射的に飛ぶ。でもシズが発した言葉は俺でも天之河に言った言葉でもなく

「きゃぁあ!?」

「あぐぅ!?」

姫さんの障壁が解け、そこに広がった光景は、殴り飛ばされて地面に横たわる姫さんの姿と背後から抱き締められるようにして胸から刃を突き出す香織の姿だった。

「……しら……さき。」

「香織ぃいいいいーー!!」

檜山は、瞳に狂気を宿しながら、香織を背後から抱き締めて首筋に顔を埋めている。片手は当然、背中から香織の心臓を貫く剣を握っていた。

「クソ。魔力撃。」

俺は2人に対しての道を開くために斬撃を放とうとしたら

癒しの魔法が白崎を中心に発動する

……あいつ死にかけでも結局魔法の詠唱を続けたのか?

俺は熱くなった脳を一旦休ませることに成功する

そして脳をフル回転し

「……わりい。」

俺は魔力撃を使い永山と坂上への道を開く

そして急いで走り坂上のところに行きそして魔力封じの枷を解除する

「えっ?大久保?」

「悪い。助けられなかった。」

俺は一言呟くと他のクラスメイトのところに行き魔力封じの枷を解除していく

白崎が戦うって決めたんだ

俺も戦うって道を選択する

例え後から責められようが、あいつに殺されようがもういい

少しでも多くの人を救う

それがあいつの選択した道だったから

そして最後のクラスメイトの遠藤を救出したところで

「……一体、どうなってやがる?」

ハジメの声がやけに明確に響いた

 その姿を見た瞬間、この世のものとは思えないおぞましい気配が広場を一瞬で侵食した。体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような、怖気を震う気配。圧倒的な死の気配だ。

「……悪い。守れなかった。」

俺の言葉が冷たく響く

その言葉で全てが察したらしく、誰もが認識できない速度で移動したハジメは、轟音と共に白崎の傍に姿を見せる。轟音は、檜山が吹き飛び広場の奥の壁を崩壊させながら叩きつけられた音だった。ハジメは、一瞬で檜山の懐に踏み込むと白崎に影響が出ないように手加減しながら殴り飛ばしたのである。

「メイ! 頼む!」

「うん!」

「し、白崎さんっ!」

するとハジメの呼びかけに応えて、一緒にやって来たメイと龍が我を取り戻したように急いで駆けつけた。

「球児。」

するとメイの言葉が聞こえる

「後は任せて。絶対に死なせないから。」

すると断言するメイの言葉に俺は少し正気を立て直す

「アハハ、無駄だよ。もう既に死んじゃってるしぃ。まさか、君達がここに来てるなんて……いや、香織が来た時点で気付くべきだったね。……うん、檜山はもうダメみたいだし、南雲にあげるよ? 僕と敵対しないなら、魔法で香織を生き返らせてあげる。擬似的だけど、ずっと綺麗なままだよ? 腐るよりいいよね? ね?」

「メイ。助かるんだよな。」

「うん。少し時間はかかると思うけど。」

「ならいい。俺はメイのガードに入る。後は頼む。」

「あぁ、悪かった、俺の仲間が勝手な真似をして。」

「別に。……俺の力が足りなかっただけだ。」

俺はシズの元へ走る

「シズ。メイを守りきるぞ。どうやら白崎を蘇生できる方法があるらしい。」

「……えっ?」

「俺らにはあいつを信じるくらいしかできねぇよ。まだ俺たちは弱い。とりあえずできることをやるしかないんだ。」

俺はそうやってシズの手を握る

「頼む。力を貸してくれ。白崎を救うためにも」

俺はそういうと瞳に光が宿る

「信じていいの?」

「それはお前次第だろ?俺を信じてくれるかってことだ。」

「…当然でしょ。私の彼氏なんだから。」

するとシズは立ち刀を構える

「姫さん動けるか?」

「は、はい。」

「姫さん。メイと白崎を絶対に守りきれ。」

「は、はい。」

「辻は回復魔法を傀儡兵にかけ続けろ。俺とシズで確実に一体ずつ削っていく。前衛陣が防御に専念、遠藤は天之河を救出しろ。」

「「「了解。」」」

俺の声に全員が動きだす。

すると

「みんな伏せなさい。」

シズの言葉で俺たちは全員伏せると 龍太郎や永山が立ち尽くしているクラスメイト達を覆いかぶさる様に引きずり倒した。

直後、独特の回転音と射撃音を響かせながら、破壊の権化が咆哮をあげる。かつて、解放者の操るゴーレム騎士を尽く粉砕し、数万からなる魔物の大群を血の海に沈め、〝神の使徒〟が放つ死の銀羽すら相殺した怪物の牙。そんなものを解き放たれて、たかだか傀儡兵如きが一瞬でも耐えられるわけがなかった。

電磁加速された弾丸は、一人一発など生温いと言わんばかりに全ての障碍を撃ち砕き、広場の壁を紙屑のように吹き飛ばしながら、ハジメを中心に薙ぎ払われる。傀儡兵達は、その貴賎に区別なく体を砕け散らせて原型を留めない唯の肉塊へと成り下がった。

「……うわぁ。何ちゅう兵器作るんだよあいつ。」

「もう驚くのも疲れたわよ。」

「お主。これを。勇者に」

俺は龍から何か試験管みたいなものを渡され透明な液体が入っているのが確認できる

「サンキュー。遠藤。」

俺はそれを軽く投げると必中の能力が発動し遠藤の手にすっぽり収まるとそれを遠藤が天之河に飲ませる

これで多分大丈夫だ

するとハジメに向かって火球を飛ばしてくるやつがいる

「なぁぐぅもぉおおおー!!」

その霧散した火炎弾の奥から、既に人語かどうか怪しい口調でハジメの名を叫びながら飛び出してきたのは満身創痍の檜山だった。手に剣を持ち、口から大量の血を吐きながら、砕けて垂れ下がった右肩をブラブラとさせて飛びかかってくる。もはや、鬼の形相というのもおこがましい、醜い異形の生き物にしか見えなかった。

「…うるせぇよ」

ハジメは、煩わしそうに飛びかかって来た檜山にヤクザキックをかます。

ドゴンッ!

という爆音じみた衝撃音が響き、檜山の体が宙に浮いた。

そして、ハジメは、宙に浮いた檜山に対して、真っ直ぐ天に向けて片足を上げると、そのまま猛烈な勢いで振り下ろした。まるで薪を割る斧の一撃の如き踵落としは、檜山の頭部を捉えて容赦なく地面に叩きつけた。地面が衝撃でひび割れ、割れた檜山の額から鮮血が飛び散る。勢いよくバウンドした檜山は既に白目を向いて意識を失っていた。

うわぁ。かなりブチギレているよ

既に誰が見ても瀕死の檜山。バウンドして持ち上がった頭を更に蹴り上げ、再び宙に浮かせる。絶妙な手加減がされていたのか、その衝撃で檜山は意識を取り戻した。ハジメは、宙にある檜山の首を片手で掴み掲げるようにして持ち上げる。宙吊りになった檜山が、力のない足蹴りと拳で拘束を解こうと暴れるが、ハジメの人外の膂力は小揺ぎもしない。

「おま゛えぇ! おま゛えぇざえいなきゃ、がおりはぁ、おでのぉ!」

「人間とは、ここまで堕ちる事ができるんだな。」

俺はぽつりと呟く。俺もシズも憐れみの視線を送ってしまう

「俺がいようがいまいが、結果は同じだ。少なくとも、お前が何かを手に入れられる事なんて天地がひっくり返ってもねぇよ」

「きざまぁのせいでぇ」

「人のせいにするな。お前が堕ちたのはお前のせいだ。日本でも、こっちでも、お前は常に敗者だった。〝誰かに〟じゃない。〝自分に〟だ。他者への不満と非難ばかりで、自分で何かを背負うことがない。……お前は、生粋の負け犬だ」

「ころじてやるぅ! ぜっだいに、おま゛えだけはぁ!」

「ころせねぇだろ死ぬからな。」

俺はクナイで喉元を切り裂く

「……いい加減見苦しいんだよ。」

するとハジメは少し驚いていたが

「魔力検知に反応がある。次来るぞ。」

俺がそういうとするとハジメは気づいたらしい

そして俺は一番魔力の濃いところに向かって魔力撃を放つ

ドンビシャ

すると現れた魔物がすぐに一線されさらに魔力の伸び縮みするおかげかおよそ半分の敵を蹴散らすことに成功する

「なっ。」

「おぉ。やっぱよく切れるな。これ。」

「あんた不意打ちとはいえやっていること南雲くんとそこまで変わらないわよ。」

シズからのツッコミに俺は苦笑するが

「まぁ結果オーライだろ。これでしばらくは転移を防ぐことができるし、対処も取れる。」

「貴様。」

すると

「ハジメくん。固定はできたけどしかし、これ以上は……時間がかかるよ……出来ればユエの協力してほしい。固定も半端な状態ではいつまでも保てない!」

「……っ。」

「ほぉ、新たな神代魔法か……もしや【神山】の? ならば場所を教えるがいい。逆らえばきさっ!?」

魔人が、ハジメ達を脅して【神山】大迷宮の場所を聞き出そうとした瞬間、俺が魔力撃を放つ。

今欲しいのは時間であり早くこの戦争を終わらせることだ

あいにくこいつに構ってられる時間がもうないのだ

咄嗟に、亀型の魔物が障壁を張って半ば砕かれながらも何とか耐える。魔人は、視線を険しくして、周囲の魔物達の包囲網を狭めた。

「どういうつもりだ? 同胞の命が惜しくないのか? お前達が抵抗すればするほど、王都の民も傷ついていくのだぞ? それとも、それが理解できないほど愚かなのか? 外壁の外には十万の魔物、そしてゲートの向こう側には更に百万の魔物が控えている。お前達がいくら強くとも、全てを守りながら戦い続けることが……」

すると今度はハジメの〝宝物庫〟から拳大の感応石を取り出した。訝しむ魔人を尻目に感応石は発動し、クロスビットを操る指輪型のそれとは比べ物にならない光を放つ。

猛烈に嫌な予感がした魔族は、咄嗟に、ハジメに向けて極光を放とうとする。しかし、俺の魔力撃の牽制で射線を取れず、結果、それの発動を許してしまった。

――天より降り注ぐ断罪の光。 そう表現する他ない天と地を繋ぐ光の柱。触れたものを、種族も性別も貴賎も区別せず、一切合切消し去る無慈悲なる破壊。大気を灼き焦がし、闇を切り裂いて、まるで昼間のように太陽の光で目標を薙ぎ払う。

キュワァアアアアア!!

「……さすがに引くわ。」

主に高速レーザーが街並みを破壊しえげつない破壊力を見せた

「愚かなのはお前だ、ド阿呆。俺がいつ、王国やらこいつらの味方だなんて言った? てめぇの物差しで勝手なカテゴライズしてんじゃねぇよ。戦争したきゃ、勝手にやってろ。ただし、俺の邪魔をするなら、今みたいに全て消し飛ばす。まぁ、百万もいちいち相手してるほど暇じゃないんでな、今回は見逃してやるから、さっさと残り引き連れて失せろ。お前の地位なら軍に命令できるだろ?」

この時点で俺はハジメがこの規模の攻撃はないことが分かるがさっきから白崎をチラチラと見ていることからそれほど余裕がないことも分かる

「……この借りは必ず返すっ……貴様だけは、我が神の名にかけて、必ず滅ぼす!」

しかしそれを冷静に見れなかった魔族は中村を白龍に乗せると空間魔法らしきなにかでどこかへと消えた瞬間俺も脳内を戦後処理に切り替える。

同時に、ユエとシアが上空から物凄い勢いで飛び降りてきた。

「……ん、ハジメ。あのブ男は?」

「ハジメさん! あの野郎は?」

あっちはあっちでどうにかしてくれるだろう。

「姫さん俺たちは救助に向かおう。」

「えっ?でも疲れているんじゃ」

「一応俺は姫さんにクラスメイトを救ってもらった恩がある。元々俺たちを心配してくれたことも、異世界に来た俺らを何よりも真剣に向き合って来たこと。今回だって先生だって助けてくれたし、ハジメがこっちに来てくれるようになったのも元々は姫さんのお陰だ。返せないくらいの恩がある。……だから少しでも恩を返させてもらえねぇか?」

俺は正直王国で信用できる人物はいないと思っていた

勝手に呼び出し勝手に戦場におくり正直くそったれと最初は思っていたくらいだ

でもこいつは違う

ちゃんと俺たちのことを見て、そして今回も教会という敵を持ってさえ俺たちを救ってくれた

白崎のことは俺には何もできないし、あいつらに任せることしかできないけど姫さんのためなら少しくらいはなんとかなるだろう

すると驚いたようにしていたのだが

「えぇ。それじゃあ南部地区の方をお願いします。」

「了解。」

俺は頷く

「……私も手伝うわ。」

するとシズが俺の方へ歩いていく

「……いいのか?」

俺が言いたいことは分かるのか頷く

変わったな

少しいい意味で変わったような気がする

「それじゃあいくぞ。」

俺はそして真剣味を帯びてそして気配感知を広範囲に使う

復興への道を着々と進んでいくのであった



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球児無双

投稿予約ミスって遅れました


「……はぁ。」

「大丈夫ですか?」

するとさすがに俺は苦笑してしまう

「いや、純粋に疲れが来ただけ。とりあえず大結界は第二結界までは魔力を詰め終わった。行方不明者のリストはそこの書類にまとめてあるし、倒壊した建物のリスト。修繕費は付箋をつけてある。」

「あの、私もお願いしてなんですけどもうほとんど寝てないんじゃ。」

「俺はこの世界に入ってから体力が多すぎて寝れないことが多々あるんだよ。それよりも姫さんもだろうが。」

「今は、寝ている暇なんてありませんからね。……死傷者、遺族への対応、倒壊した建物の処理、行方不明者の確認、外壁と大結界の補修、各方面への連絡と対応、周辺の調査と兵の配備、再編成……大変ですが、やらねばならないことばかりです。泣き言を言っても仕方ありません。お母様も分担して下さってますし、まだまだ大丈夫ですよ。……本当に辛いのは大切な人や財産を失った民なのですから……」

「……姫さんが寝てないのに俺が寝れるわけないだろうが。」

俺はそうやって書類を書きながら王国騎士団の再編成を行うため練兵場にて各隊の隊長職選抜を見ていた

「……大丈夫かい?大久保。」

一区切りをついていると天之河が俺たちに近づいてくる

「……まぁな。そっちこそお疲れ。」

「お疲れ様でした。光輝さん」

選抜試験における模擬戦で、騎士達の相手を務めていた光輝が練兵場の端で汗を拭っていると、そんな労いの言葉が響いた。

「いや、これくらいどうってことないよ。……2人の方こそ、ここ最近ほとんど寝てないんじゃないか? ほんとにお疲れ様だよ」

「いやそれお前もだろうが。」

俺は苦笑すると天之河は俺に真剣そうに聞いてくる

「……雫はどうだい?」

天之河はシズから俺とシズが付き合っていることを聞いたらしく最初は少しは戸惑いや嫉妬の気持ちで睨まれていたのだが……今ではなぜか前よりも少し仲がいいつーか話す頻度が上がってきている

「強がってはいるけど、以前よりもちゃんと不安を俺に自発的に話してきている分精神的な不安はないと思う。ただ少しやっぱり不安なんだろうな。あいつ白崎に支えられてきた節があるから少し目を離すと上を向いているから。」

「そうか。」

「そっちは?」

「あぁ、南雲からもらった神水のお陰で。」

「……そうか。」

「悪い。クラスメイトを助けることに夢中でそっちに毒を盛られていることを気づかなかった。」

「いや。龍太郎や鈴を救ってくれたからな。」

すると気になる名前が出てくる

「……谷口は大丈夫なのか?あいつ一番仲が良かっただろ?」

すると首を横に振る

「……そっか。」

多分シズの元気のなさは谷口や中村のことも少しはあるとは思う

シズのほうを見るとやはりまた上を気にしている

「彼等を……待っているのですね」

「そうだね。……正直、南雲のことは余り…信用できない…雫には会って欲しくないと思ってるんだけどね……」

「信用できないって思うのは勝手だけど、あいつらにしか頼ることができなかった俺らの責任でもあるだろうな。……元々俺の判断ミスが原因であいつを死なせたってこともあるし。」

俺はため息を吐くと少しだけ自分の力不足を感じる

もっと強くなりたい

心の底からそう思う

そう思った矢先のことだった

「えっ?大久保さん。光輝さんあれっ! 何か落ちて来ていませんかぁ!」

俺は上を見ると何やら空に黒い点が複数見え始めた。訝しそうに目を細めたリリアーナだったが、その黒い点が徐々に大きくなっていくことに気がつく

「へ? いきなり何を……っ、皆ぁ! 気をつけろ! 上から何か来るぞぉ!」

「球児!!受け止めて!!」

「へ?」

俺は避けようとした矢先そんな声が聞こえてきてしまって足を止めてしまう

そしてその瞬間

上からくる衝撃に声も出せず押しつぶされる

「球児!!」

するとシズの声が聞こえ俺の元に駆けてくる

「いつぅ。ってメイかよ。」

「ごめん。球児大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。これくらい平気。」

俺はよっと立ち上がると全員驚いたように俺を見る

「お前、どんな耐久力しているんだよ。」

ハジメがドン引きしたように俺を見る

「おう。ハジメ白崎は?」

「南雲君……香織は? なぜ、香織がいないの?」

シズは目の前に白崎がいないという事実に、やはり香織の死を覆すことなど出来なかったのではないかと、既に不安を隠しもせずに震える声で問いかけた。

ハジメは、それに対して、何とも曖昧な表情をする。

「あ~、直ぐに来るぞ? ただなぁ……ちょ~とだけ見た目が変わってるかもしれないが……そこはほら、俺のせいにされても困るっていうか、うん、俺のせいじゃないから怒るなよ?」

「え? ちょっと、待って。なに? 何なの? 物凄く不安なのだけど? どういうことなのよ? あなた、香織に何をしたの? 場合によっては、あなたがくれた黒刀で……」

「いややるとしたら白崎だろ?あいつ強くなりたいからってゴーレムに乗り移ってもおかしくはないぞ。」

俺は冗談でシズを抑えようとすると

「きゃぁああああ!! ハジメく~ん! 受け止めてぇ~!!」

俺達が何事かと上を見ると、何やら銀色の人影が猛スピードで落下して来るところだった。俺から見てもかなりの美しさを持つ銀髪碧眼の女が、そのクールな見た目に反して、情けない表情で目に涙を浮かべながら手足を無様にワタワタ動かしているという奇怪な姿を捉えていた。

「……えっ?白崎?」

「えっ?」

俺の言葉に全員が白崎の方を見る

「えっ?大久保くん私のこと分かるの?」

「いや、ハジメのことをくん付けで呼ぶのお前くらいだろ?いや、俺冗談で行ったんだけどまじで霊体移動させたのか?」

「気づくお前がすげぇよ。」

「禿同。」

するとメイとハジメに突っ込まれるけど

「お前らが大丈夫だって言っているからあいつは生き返せられるって思っていたからな。そう考えるとあれがハジメの好みを知ろうと何を思ったのかアダルドコーナーに突っ込もうとしてたのをシズに必死に止められていた白崎としか考えられないだろう?」

「ちょっと大久保くんなんでそんなこと知っているの!!」

あっやっぱり白崎だ

もちろん情報提供はシズである

「だってさシズ。」

「えっ?」

俺はそういうとシズはポロポロと涙を零しながら銀髪碧眼の女改め新たな体を手に入れた香織に思いっきり抱きついた。

「香織ちゃんが確実に生きていることを雫ちゃんに伝えるためだったんだ。」

「俺が気付いてもあいつが気づかなかったら意味ねぇだろうが。」

「……うん。」

俺がそういうとどこか寂しそうにメイはそういっていたのだが

「心配かけてゴメンね? 大丈夫だよ、大丈夫」

「ひっぐ、ぐすっ、よかったぁ、よがったよぉ~」

お互いの首元に顔を埋め、しっかりお互いの存在を確かめ合うシズと白崎。

誰もが唖然呆然としているなか、しばらくの間、晴れ渡った練兵場に温かさ優しさに満ちた泣き声が響き渡っていた。

 

「んで結局どういうことだ?」

シズが盛大に泣きはらした後俺の後ろに隠れているシズに変わって俺が聞く

シズ曰く恥ずかしくて見られてたくないということらしいのだがすごく今更な気がしたんだけど。

場所は、練兵場から移動して現在は光輝達が普段食事処として使用している大部屋だ。

「そうだな……簡潔にいうと。魔法で香織の魂魄を保護して、ノイントの遺体? 残骸? まぁ、その修復した体に定着させたってことだ」

「なるほど……全然わからないわ」

「……あぁそういうことか。」

「えっ?今ので分かったの?」

「まぁ、俺はメイのステータス見たことはあったからな。……神代魔法だろ?」

俺がそういうとハジメは頷く

「あぁ。やっぱりお前は魔人族との会話を聞いていたから分かるか。」

「そうだな。ダンジョンの突破ボーナスが神代魔法でそれを集めると日本に帰れる可能性があることだけは理解しているかな。魔人族の目的も神代魔法ってことも。」

すると全員が俺の方を見る

「さすが球児がいると話が早いね。」

「さすがに気づくだろ?ヒントはかなりあったし、てか、ハジメの言動は俺と情報を交換しようとしてたからな。」

「…あなたって本当そういうことになると頭いいのにテスト前になると毎回私に泣きついてくるのに。」

「野球と剣道やっていたら勉強する時間がないんだよ。」

「学生の本分は勉強ですよ!!」

すると先生が怒ってますという感じで言っていたが無視をする

「でも、なんでその体なんだよ。まさか俺が言ったように強くなりたいからそうしたってわけじゃ。」

「……お前の冗談ほとんど当たっているんだよなぁ。」

「まじ?」

 最初、ハジメは、香織の傷ついた体を再生魔法で修復し香織の魂魄を戻すことで蘇生させようとした。

しかし、そこで待ったを掛けたのが白崎だ。魂魄状態で固定されていても、〝心導〟という魂魄魔法で意思疎通を図ることは出来る。その魂魄状態の白崎が、話に聞いていたゴーレムに定着させて欲しいと願い出たのだ。ハジメなら、強力なゴーレムを作れるはずだと。

……うん。俺と白崎の思考がほとんど同じだったことが結構ショックだったんだけど

んで敵だったノイントという残骸の白崎の精神を固定させ、日本に帰る時ようにユエの魔法により凍結処理を受けて〝宝物庫〟に保管されているらしい

「……いや、シズから聞いていたからかなり突拍子もないことをしでかすって聞いてたけど。」

「……なるほどね。はぁ~、香織、貴女って昔から突飛もないこと仕出かすことがあったけれど、今回は群を抜いているわ」

俺はさすがに開いた口が塞がらなかったし、シズなんかは頭痛を堪えるように片手を額に添える

「えへへ、心配かけてごめんね、雫ちゃん」

「……いいわよ。生きていてくれたなら、それだけで……」

「ホントだよ。」

俺も少し笑顔が溢れる

「南雲君、ユエさん、シアさん、ティオさん。私の親友を救ってくれて有難うございました。借りは増える一方だし、返せるアテもないのだけど……この恩は一生忘れない。私に出来ることなら何でも言ってちょうだい。全力で応えてみせるから」

「……相変わらず律儀な奴だな。まぁ、あんまり気にすんな。俺達は俺達の仲間を助けただけだ」

「ツンデレ乙。」

「ぶっ飛ばすぞてめぇ。」

悪い悪いと軽く流す

「あの日、先生が攫われた日に、先生が話そうとしていたことを聞いてもいいかしら? それはきっと、南雲君達が神代の魔法なんてものを取得している事と関係があるのよね?」

ハジメは、雫の言葉を受けて先生に視線を向ける。先生は、コホンッと咳払いを一つするとハジメから聞いた狂神の話とハジメ達の旅の目的を話し、そして、自分が攫われた事や王都侵攻時の総本山での出来事を話し出した。そして真剣な目になって

「やっぱりエヒトは俺たちを日本に帰す可能性が低いってことで大丈夫か?」

「……知っていたのか」

天之河の言葉に全員が俺の方を見る

「気づかないのかよ。こいつらは帰ることが目的なんだよ。そう考えるとしたら俺たちのしていることが日本に帰ることになるんだったら多分力を貸しているはずだ。でもこいつらはダンジョン攻略が日本に帰る方法と明言している。だから異端者認定をしてまでもこいつらを殺そうとしたんだろ?エヒトの目的は多分俺たちの世界の侵略だろうからな。」

「「「「えっ?」」」」

「おい、どういうことだ?」

するとハジメも気づいてなかったのか俺の言葉に反応する

「いや、なんというかハジメを排除する理由について考えていたんだよ。元々力をあるのは確かだけどそれでも強制排除をするのにはさすがにおかしいんだよ。魔族との争いを考えるとハジメは何もしてないしな。そう考えるとハジメが元の世界に帰ったら困るんじゃないのかと思ってな。」

「それで考えたのが地球への侵略ってことね。」

「そう。んで召喚っていうのはあっちの世界の一般人がどれ位の力かを確かめる為。つまり生活水準を見極めるためだったと思うのが妥当だろうな。なんのために侵略するのかはわからないが。魔人族を殺せるだけの力がある。だけど侵略しようとしていたら、どこにも所属せずそれも日本に帰ろうとする奴が現れたんだ。それも神代魔法とかいう神に対抗出来るだけの力を持った魔法を手にいれてな。」

「……お前よくそんな発想が取れるな。」

「この三週間何もしてなかった訳じゃないんだぞ。俺も。」

そして俺はハジメの方を見るとするとため息を吐く

「……はぁ。まぁその言葉に上手く乗せられてやる。んでどうすればいい?」

「いや、まずは迷宮を全部クリアすることが先決だ。一応結界を張った後にすぐに攻略向かおうぜ。俺もついていくし。」

「だろうな。まぁお前ならいいよ。どう考えても役たたずってことはないだろうしな。」

「ついでに他の大迷宮の場所も後から教えてくれ。俺もできるだけ戦力アップしておきたい。」

「いいけど、クリアは……お前なら多分問題ないな。ついでに今のレベルは?」

「180。」

「……お主本当に人間なのかのう。」

すると遠い目をし始めるティオに苦笑してしまう

「それなら私も連れて行って。」

するとシズが手を上げる

「南雲君、お願いできないかしら。一度でいいの。一つでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮の攻略に決定的な差ができるわ。一度だけついて行かせてくれない?」

「寄生したところで、魔法は手に入らないぞ? 迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ」

「もちろんよ。神のことはこの際置いておくとして、帰りたいと思う気持ちは私達も一緒よ。死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから、お願いします。何度も救われておいて、恩を返すといったばかりの口で何を言うのかと思うだろうけど、今は、貴方に頼るしかないの。もう一度だけ力を貸して」

「鈴からもお願い、南雲君。もっと強くなって、もう一度恵里と話をしたい。だからお願い! このお礼は必ずするから鈴達も連れて行って!」

するとそれを始めに勇者パーティーの女子が手を上げる

「……やはり、残ってはもらえないのでしょうか? せめて、王都の防衛体制が整うまで滞在して欲しいのですが……」

すると姫さんがそんな声が漏れる

「……神の使徒と本格的に事を構えた以上、先を急ぎたいんだ。香織の蘇生に五日もかかったしな。明日には出発する予定だ」

「いや明後日にした方がいいだろうな。白崎はその体になってからまだ日が浅いし、何よりも蘇生組が疲れがある。明日を完全休日にして疲労を取ることを優先した方がいいだろうな。」

俺が反論する。

「それに明日で結界は完全に回復するはずだ。一応俺と先生が魔力をつぎ込んできたんだし、内通者がいたから壊されただけで普通なら破壊できないってことは前回の進行でよく分かったしな。」

「えっ?」

「内通者がいないと結界を破壊できなかったんだろ?魔人族も被害が少なくはないし当分はおとなしくしているはずだ。動くんなら今しかないんだよ。それにハジメの壊れたアーティファクトを警戒するだろうしな。」

「……〝ヒュベリオン〟壊れていたの気づいていたのかよ。」

「一発しか撃たなかったからな。よく俺がゲームで使うやり方だからすぐ気づいた。」

「お前だけは絶対に敵に回したくねぇよ。」

ハジメは手を挙げる。とシズはそういえばといい思い出したように

「それで、南雲君達はどこへ向かうの? 神代魔法を求めているなら大迷宮を目指すのよね? 西から帰って来たなら……樹海かしら?」

「ああ、そのつもりだ。フューレン経由で向かうつもりだったが、一端南下するのも面倒いからこのまま東に向かおうと思ってる」

「移動手段は?」

「飛行艇を用意している。」

「こりゃまたベタだなぁ。」

俺が苦笑するとすると姫さんが何か思いついたように手を上げる

「では、帝国領を通るのですか?」

「そうなるな……」

「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」

「ん? なんでだ?」

「今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使の方が帝国に向かわれましたが、会談は早ければ早いほうがいい。南雲さんの移動用アーティファクトがあれば帝国まですぐでしょう? それなら、直接私が乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして」

「……姫さんフットワーク軽すぎだろ。」

俺は少し苦笑してしまう

「送るのはいいが、帝都には入らないぞ? 皇帝との会談なんて絶対付き添わないからな?」

「ふふ、そこまで図々しいこと言いませんよ。送って下さるだけで十分です」

「てかそれフラグだろ。絶対めんどくさい事に巻き込まれるだろ?」

用心深い発言に、思わず苦笑いを浮かべるリリアーナだったが、天之河が再び発言する。

「だったら、俺達もついて行くぞ。この世界の事をどうでもいいなんていう奴にリリィは任せられない。道中の護衛は俺達がする。それに、南雲が何もしないなら、俺がこの世界を救う! そのためには力が必要だ! 神代魔法の力が! お前に付いていけば神代魔法が手に入るんだろ!」

「いや、場所くらい教えてやるから勝手に行けよ。ついて来るとか迷惑極まりないっつうの」

「てかその話まだだったな。てか俺はいいんだな。」

「お前があの程度で死ぬとは思えなくてな。」

すると全員が頷く

否定できないのが辛いところだ

「でも、南雲君、今の私達では大迷宮に挑んでも返り討ちだって言ってませんでした?」

「……いや、それは、あれだよ。ほら、〝無能〟の俺でも何とかなったんだから、大丈夫だって。いける、いける。ようは気合だよ」

「無理なんですね?」

「……球児以外な。」

「……俺本当人間やめているなぁ。」

俺は遠い目をしてしまう

「まぁ、俺はどうこう言える立場ではないけど、王国の防衛は。」

「それなら私が指揮をとります。」

すると先生が挙手する

少し意外な人選に少し驚くが

「それなら別にいいんじゃねーの。問題のあることがあればハジメが置いていくだろうし。」

「まぁそうだな。」

すると勇者パーティーは軽く喜び久しぶりの笑顔を溢れる

結局は見捨てない

その姿を見れただけ俺は少しほっとしながらほおを緩ませた



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弟子

翌日俺とシズそしてハジメとユエは王都をフラフラと歩いていた

というのも姫さんに俺が仕事を付き合おうとしたところ姫さんに今日1日くらいゆっくり休んでくださいと言われた後それならちょっと外でフラフラしてこようってことになりシズに声をかけ、ついでに大結界の修復をすることに行こうということになったんだが、偶然ギルドに向かおうとする2人と出会って一緒に行く事になったのだった。

「ギルド本部って……結局、何をしにいくの?」

ホットドッグモドキのチーズ風味をもきゅもきゅと頬張りながらハジメに尋ねるシズ。

「ん? ああ、依頼完了の報告を伝言してもらおうと思ってな。事が事だけに直接するべきなんだろうが、樹海に行くのにフューレンを経由するのは面倒だし。本部なら報告もきちんと対応してくれるだろう……」

「……報告って……もしかしてあのミュウって子のこと? そう言えば、姿が見えないけど……」

「まぁ、人攫いから帝国で奴隷にされるのをハジメが防いだってとこだろうな。……抱っこしたかったのか?」

「うん。」

「……まぁ少し分かるけど。」

俺は少し苦笑してしまう

ちょっと残念そうに眉を下げるシズに、ハジメがミュウが母親と無事再会できたことを伝えると少しだけ元気を取り戻せたようにしていたが続くユエの言葉に驚きで目を丸くした。

「……大丈夫。また会える。ハジメが日本に連れて行くから」

「……………………はい? 南雲君、どういうこと?」

「どういう事もなにも、そのままの意味だ。ミュウと約束したんだよ。俺の故郷に連れて行ってやるってな」

「え…いや…でも……ミュウちゃんは海人族の子よね?」

「アーティファクトで見た目を変化できる者が皇帝陛下が使っていたからアクセサリーとか父親の形見とか言って誤魔化せばなんとかなるだろうな。」

「そこらへんはお願いな。球児。」

「へいへい。分かってるつーの。でもアーティファクトは自分で作れよ。」

もう作戦は全部俺が考える事になりそうだと思うと

「あなたたち本当に仲いいわね。」

「いや、それをいうならお前と球児の方だろ?」

というのもハジメの意見はごもっともで今俺はシズと手を繋ぎながら歩いていた

「まぁ、彼女だしな。てかすげぇ今更感があるし。」

「そうなのよね。」

「……でもお似合い。雫はラスボスになるかと思っていた。」

「……ぶっちゃけそれは思っていたな。:

ユエの意見に俺も肯定する

「なんの?」

「いや。何でも。」

「……うん。」

「案外球児って女子と友達になりやすいよな?」

「そりゃ魔王様の親友ですから。親友の嫁達と仲良くなっておかないと将来大変だからな。」

「ちょっと待て。それ誰から。」

「俺も冒険者登録しているんだぞ。一応ゴールドだし。」

俺は金の冒険者マークを見せる

「……あぁ、納得。」

「そういえば香織のこと見てくれてる?」

「ん~? それは、本人に聞けよ。俺が何を言っても、結局はあいつがどう感じているかだろ? まぁ、俺としては、約束通り邪険にはしてないつもりだよ」

「約束は破らない奴だしそこらへんは心配しないでいいだろ?てか白崎を見てれば分かるだろうが。」

「そうだけど。」

すると意外そうに俺たちを見る2人。

「ん?どうした?」

「……いや、普段とは逆だなって。」

「いや。俺からみたらいつものシズの方がおかしいからな。こいつ結構泣き虫だし、甘えん坊だし。怖がりだし。」

「ちょっと球児。」

「…事実だろうが。てかお前以上に女の子らしい奴俺は見た事ないしな。」

「……へぇ〜。」

するとニヤニヤと笑うハジメにシズはうぅと顔を埋める

「「「……」」」

「な、何よ。」

「…なんかクラスの時の八重樫とは全く違うな。」

「お前がいうなって話だけどな。俺からしたらこっちの方がシズらしいんだけどなぁ、」

そうしながらもギルドの中に入る

すると

「「「「師匠!!!」」」」

「おう。元気だったか?」

「「「えっ?」」」

すると数人俺に向かって敬礼をしているのを俺は手を振る

「師匠。つい最近白ランクまでまで上がれたんですよ!!」

「おっ。よかったじゃん。」

「私たちもついに夢の銀ランクまで上がれたんですよ。」

すると俺の周辺に人が集まってくる

「あの、お前どういう。」

「いや、剣術について教えていたらなんか師匠って呼ばれ始めてな。もともとホルアドにいた冒険者なんだけど、なんか懐いちゃって王都に戻ってもいろいろ付き合いがあるんだよ。」

「師匠にいるところに私たちありです。」

「「「……」」」

「あっ。あまり気にしないでいいぞ。あの件の協力者だし。一応しっかり指導はしているし、それにこいつらソロでも70階層くらいなら普通にクリアできるから。メルドよりも強いぞ。」

「……あの、それ遠回しに光輝より強いって言ってない?」

「当たり前だろ?元々歴戦の戦士に少し剣術について教えただけだ。自分流にアレンジしてスキルに頼らなくても上手くなるのは当たり前のことだろう?元々緑ランクはあったわけだし。少しでもちゃんと自分の形を磨けばすぐに伸びる」

「あっ。ハジメみたいに魔改造じゃないんだ。」

「おい。その一言で心配になったんだけどお前一体何をした。」

するとハジメを見ると目をそらす

「そういえば球児って時々小学生の剣道教室に出ているって言っていたわよね?もしかして教えていたの?」

「あぁ。これでも結構分かりやすいって好評なんだぞ。」

「……意外。」

「元々球児って子供とか好きだから。」

「うっさい。」

俺は少し苦笑してしまう

「それで報告いくんだろ?」

「あぁちょっと待っていてくれ。」

ハジメは受付にたどり着く。そして、ステータスプレートを出しながら、ミュウをエリセンに送り届けた事を証明する書類も取り出して提出した。

依頼の完了報告なんだが、フューレン支部のイルワ支部長に本部から伝えてもらうことは可能か?」

「はい? ……指名依頼……でございますか? すいません、少々お待ち下さい……」

ハジメの言葉に、受付嬢が少し困惑したように首を傾げる。ギルド支部長からの指名依頼など一介の冒険者にあることではないので当然の反応だ。現に、ハジメの両隣りで手続きをしていた冒険者達がギョッとしたようにハジメを見ている。

受付嬢は、ハジメのステータスプレートを受け取り内容を見ると、澄まし顔を崩して冒険者達と同じようにギョッとした顔になった。そして、何度もステータスプレートとハジメの顔を見比べると、慌てて立ち上がる。

「な、南雲ハジメ様で間違いございませんか?」

「? ああ、ステータスプレートに表記されている通りだ」

「申し訳ありませんが、応接室までお越しいただけますか? 南雲様がギルドに訪れた際は、奥に通すようにと通達されておりまして……直ぐにギルドマスターを呼んでまいります」

「は? いや、俺は依頼の完了報告をイルワ支部長宛にして欲しいだけなんだが。それに、これから大結界の修復に行く予定なんだよ。面倒は勘弁してくれ」

こいつ俺たちの用事を面倒臭いとかの理由で使いやがった。

「え、え~、それは私も困るといいますか……すぐ、直ぐにギルドマスターを呼んでまいりますから、少々お待ち下さい!」

なお逃げられなかった模様だったが

俺もシズもため息を吐く。受付嬢は、それだけ言い残すとハジメのステータスプレートと依頼完了の証明書を持ったままピューと音が鳴りそうな勢いでカウンターの奥へと消えていってしまった。憮然とするハジメ。そんなハジメに、

「自業自得。」

と俺は軽くハジメの肩を叩くとシズが頷く

そしてしばらく待つとギルマスが俺の顔を見るなり握手を求めてくるなど色々あったのだが倒事はなく、イルワからハジメの事で連絡が来ていたので一目会っておきたかっただけらしい。

それだけならよかったのだが

「バルス殿、彼等を紹介してくれないか? ギルドマスターが目を掛ける相手なら、是非、僕もお近づきになりたいしね? 特に、そちらの可憐なお嬢さん達には紳士として挨拶しておかないとね?」

すると金髪のイケメンが俺たちに絡んでくる。バルスが、ハジメをアベルと同じ〝金〟ランクだと紹介する。周囲のざわめきが一気に酷くなり、ハジメと俺は心底面倒そうな表情になる。ユエとシズを連れてさっさとギルドを出ようとするハジメだったが、アベルの興味は確実にユエとシズに向いており、簡単に行かせるつもりはないらしい。

「ふ~ん、君らが〝金〟ねぇ~。かなり若いみたいだけど……一体、どんな手を使ったんだい? まともな方法じゃないんだろ? あぁ、まともじゃないんだから、こんなところで言えないか……配慮が足りなくてすまないね?」

「……うわぁ。めんどくさ。」

俺はつい本音を漏らしてしまう

俺たちの実力から見たらそこのゴミくらいの存在なのに

「……なぁ、八重樫。こういう残念なイケメンはお前の担当だろ? 劣化版天之河みたいだし、専門家に任せた」

「誰が何の専門家よ。大体、人の幼馴染相手に何てこと言うの。光輝はここまで残念じゃない……わよ? ……多分、きっと……というか残念通り越して哀れじゃない」

「……雫、意外に言う。でも激しく同意。」

「まぁ、最悪武力行使ってことで。いいな。」

「容赦ねーな。」

そんな事を言いながらもごく自然にスルーしてアベルの横を素通りしていった。おそらく〝金〟となってからここまで適当な扱いを受けたことがないのだろう。侍る女達も険しい眼でユエ達を睨みつけている。

めんどくさと思いながらため息をついた時不意に野太いのに乙女チックな声がハジメ達にかけられた。

「あらぁ~ん、そこにいるのはハジメさんとユエお姉様じゃないのぉ?」

ハジメは、その声に正体不明の悪寒を感じたのか、咄嗟にドンナーに手をかけながら身構えた。そして、ハジメ達が振り向いた先にいたのは……と見開いた眼を向ける筋肉の塊だった。劇画のような濃ゆい顔に二メートル近くある身長と全身を覆う筋肉の鎧。なのに赤毛をツインテールにしていて可愛らしいリボンで纏めている挙句、服装がいわゆる浴衣ドレスだった。フリルがたくさんついている。とってもヒラヒラしている。極太の足が見事に露出している化け物がいた

「「……」」

俺とシズは顔を少し引きつらせる

えっまじでこいつらとお前ら知り合いなのか?

俺はハジメにそんな目線を見せると首を横に振る

「ひっ、よ、寄るな!僕を誰だと思っている!〝金〟ランクの冒険者〝閃刃〟のアベルだぞ!それ以上寄ったら、この場で切り捨てるぞ!」

「まぁ、酷いわねん!初対面でいきなり化け物だの殺すだの……同じ〝金〟でも店長とは随分と違うわぁ~。でも……顔は好みよん♡」

思わず悲鳴を上げるアベルに呆れた表情を向ける彼? 彼女? だったが、アベルのルックスについては好みだったようで、ジリジリと近づいて行く。獣のように眼をギラギラ光らせ、ペロリと舌舐りまでしながら。

「来るなと言っているだろう! この化け物がぁ!」

アベルは得体の知れない恐怖に堪え切れず、遂に剣を抜いた。仮にも〝金〟ランク冒険者の攻撃だ。漢女の命は風前の灯かと誰もが思ったが、

「アホか。そいつあんたよりも格上だ。」

俺は小さく呟く

残像すら発生させるスピードでアベルとの距離を一瞬で詰めた漢女は、片手でアベルの剣を弾き、そのまま組み付いたのだ。いわゆるサバ折り体勢だ。

アベルの体からミシッメキッと音が響き、必死に逃れようとしている。しかし、何故か筋肉の拘束を抜け出せないようで、ジタバタともがいている内に、アベルの悲劇タイムが始まってしまった。

「ぬふふ、おイタをする子にはお仕置きよん♡」

「よせぇ! やめっむぐぅう!?」

アベルがビクンッビクンッと痙攣し、しばらくしたあと、その手から剣がカランと音を立てて床に落ちた。その様はまるで、一つの花が手折られたよう。さすがに同情を隠せない

「……この隙に逃げないか?」

俺は小さな声で提案する。

「賛成。」

するとハジメもすぐさま頷くとギルドから出ようとすると

「お、おい、お前! 同じ〝金〟だろう! なら僕を助けろ! どうせ、不正か何かで手に入れたんだろうが、僕が口添えしてやる! お前如きがこの〝閃刃〟の役に立てるんだ! 栄誉だろう! ほら、さっさとこの化け物をなんとかしろよ! このグズが!」

と言った瞬間かなりの数のクナイが飛んでくる

それも一投も外さず綺麗に急所だけを外して

「師匠、あとはお任せください。師匠のことを悪くいうやつは少しお話しないといけないので。」

すると唯一の女性冒険者のマナがそんな物騒な声で殺気を抑えながらいう

「お、おう。」

「それじゃあすいません。おいてめぇ。人の師匠に向かって何してくれとるんじゃ。」

すろとおよそ10人くらいの冒険者がアベルを引きずりギルドの奥に引きずっていく

「……はぁ。やっぱ、弟子は師匠に似るのかな。」

「自分でいうのねそれ。」

裏表があることは自覚しているしな

そこへ先程の漢女が声をかけてきた。

「久しぶりねん? 二人共、変わらないようで嬉しいわん」

「……いや、誰だよ、お前。クリスタベルの知り合いか?」

ウインクする漢女に、ハジメが警戒心もあらわに尋ねる。ブルックの町を出る際にクリスタベルに襲われたのは軽くトラウマなのだ。改めて、近くでその異様を目の当たりにしたシズも、普段の社交性は何処に行ったのか、思わず頬を引き攣らせながら、さりげなく俺を盾にするような位置に下がる。

俺は何とか営業スマイルを作りながら対応していた

「あら、私としたことが挨拶もせずに……この姿じゃわからないわよねん? 以前、ユエお姉様に告白して、文字通り玉砕した男なのだけど……覚えているかしらん?」

「……あ。ホントに?」

「…おい。玉砕ってお前。」

男子の痛みを知る俺にとってかなり残酷な仕打ちにさすがに震えが止まらない

「あの時は、本当に愚かだったわん。ごめんなさいね? ユエお姉様……」

「……ん、立派になった。新しい人生、謳歌するといい」

「うふふ、お姉様ならそう言ってくれると思っていたわん。そう言えば、最近、続々とクリスタベル店長の元に弟子入りを望む子達がやって来てるのよ。確か、元〝黒〟ランクの冒険者や何とかっていう裏組織の子達やホルアドを拠点にしていた元傭兵の子達とか……それもあって、店長が店舗拡大を考えているのよねん。今日は、その下見に来たのよん」

「……」

俺は軽く冷や汗が垂れる

こんな化け物が大量にいる世界なんかさすがに溜まったところじゃない一刻も早く、この世界を脱出するべきだと決意を新たにした。



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めんどくさいやつ

「んでとりあえずここが大結界の魔力を注ぐ場所だな。」

俺が案内すると ほとんどの人が顔見知りなので顔パスで通った先には大理石のような白い石で作られた空間があり、中央に紋様と魔法陣の描かれた円筒形のアーティファクトが安置されていた。そのアーティファクトは本来なら全長二メートルくらいあったのだろうが、今は、半ばからへし折られて残骸が散乱している。

「ウォンベンさん。ちょっとこっちに。」

俺は小さく手を振ると

「おや?球児殿と雫殿ではありませんか。……どうしてこちらに?」

「ちょっと色々あってアーティファクトを修復できる錬成師を連れてきたんだよ」

「なんですと? もしや、そちらの少年が?」

俺がそういうとハジメは睨みつけてくるが目線でさっきの貸しを返せと俺は睨みつける

というのも元々は予備の結界に俺と先生は魔力を込めていたので完全修復は元々は頼まれていない

でも俺は少し王都に貸しを作れるんじゃないかと少し考えていたのだった

「へぇ、なるほど……そりゃあ、強力なはずだ」

「ふん、小僧如きになにがわかる」

錬成〟を始めた。紅いスパークがハジメを中心に広がり、その手元にあるアーティファクトの残骸が次々と元の位置に融合されていく。

その錬成速度と精度に、ウォルペンのみならず彼の部下達が一斉に目を剥いた。ハジメの本格的な〝錬成〟を初めて見た俺とシズ、白い空間に舞い散る鮮やかな紅いスパークに目を奪われてしまう

「綺麗……」

「すげぇ。」

そして数十秒でアーティファクトを修繕し終えると魔力をつぎ込み始める

 円筒形のアーティファクトは、その天辺から光の粒子を天へと登らせていく。直後、外で警備をしていた兵の一人が部屋に駆け込んできて、第三障壁が復活したことを告げた。

「……なんということだ……神代のアーティファクトをこうもあっさりと……」

「まぁ、異世界人で勇者の1人ですから。」

「どうりで。」

「ついでに私の黒刀も球児の赤刀も南雲くんが作ったのよ。」

とハジメの説明を終えるとそれじゃあ次と言おうとした矢先だった。

「待って下されぇーー!! 弟子に! 是非、我等を弟子にして下されぇーー!!」

「うぉ! な、なんだよ、突然。ていうか足にしがみつくな! 気持ち悪ぃてのっ!」

「……あぁ、お前が言っていた職人魂か。確かにこれはすげぇな。」

俺もさすがに苦笑してしまう

足にしがみついてハジメに弟子入りを懇願するウォルペン。更に、次々とウォルペンの部下の錬成師達が逃がしてなるものかとハジメにしがみついていく。毛むくじゃらのオッサン達が密着してくることに心底嫌そうな顔をしながら、足を振り回して振り落とそうとするハジメだが、がっしりしがみつかれているので中々外せない。

仕方ないので〝纏雷〟を発動して全員をアバババババッさせて引き剥がす。それでも、這いずって手を伸ばしてくる職人達に、流石のハジメも無視できず、ドン引きしつつもきちんと断りを入れることになった。

「あのな、俺は直ぐにここを出発するし、王都に戻って来る予定も当分ないんだ。弟子なんてとっても面倒いだけだし、第一、弟子になったところで教えられることなんか何もないんだよ」

「ですが、アーティファクトをあっさり修復し、雫殿の黒刀まで手がけたと。我等にはどうやったらそんなことが出来るのか皆目見当も付きませんぞ。それを教えていただければ……」

「いや、これには〝錬成魔法〟だけじゃなくて〝生成魔法〟っていう、あんたらには使えない魔法が必要なんだよ」

「そんな……」

「あぁ、そういやメイも持っていたな。」

俺は昔見たステータスを覚えていた俺は少し苦笑してしまう

「とりあえず今日のところはこれで。」

と俺が区切ろうとすると

「それでも、貴殿の錬成技能が卓越していることに変わりはない! 是非、弟子にぃー!!」

「しつけぇよ!」

するとどんどん増え始める職人たちに俺たち3人は目線を合わせる

『戦略的撤退だ。いいな。』

『『うん。(えぇ)』』

全員の意識が一緒になった中で俺たちは戦略的撤退で王宮に逃げ込み姫さんにそれを報告する

結局王宮に貸しを作るどころか借りができたことは言うまでもなかった

 

「八重樫、球児……助けてくれても良かったんじゃないか? お前ら、あいつらと知り合いだろ?」

 どこかくたびれた様子で王宮に戻って来たハジメが、先に戻って優雅にお茶と洒落込んでいた俺たちにジト目で文句を言う。

「と言ってもなぁ俺たちも巻き込まれたことがあって。」

「そうね。無茶言わないでよ。……黒刀の件でもお世話になったのだけれど、だからこそ、火のついた彼等を止めるのは無理だってわかっていたのよ……」

「……ハジメ、お疲れ様」

お茶を飲んで一息ついたハジメの頭を抱き寄せて撫で撫でするユエ。ハジメはユエを一度ギュッと抱き締めると、そのままお姫様抱っこしてシズの向かいの席に腰を下ろした。

「……なんなのかしら、この胸に燻るイラっとする気持ち。ユエも行動は同じはずなのに……」

「は? ユエと八重樫が同列なわけないだろ? お前相手なら腹立つことでも、ユエなら問題ない」

「うん、ユエは貴方の恋人なのだし、言っていることはわかるのだけれど……今、無性に貴方を殴りたいわ」

「お前は球児にやってもらえばいいだろ?」

「あのな。こいつハグしただけでも顔を真っ赤にして丸一日俺から顔を背けるくらいにウブな奴なんだぞ。そんなことしたら真面目に気絶するぞ。」

「……お前苦労してるな。」

「いいよ。もう慣れたから。」

なんか居た堪れなくなった雰囲気にそうだと思い少しからかってやろうと少しだけ笑う

「シズ。」

「何?」

「ほれ。」

俺はシズにケーキを一つ食べやすいくらいに掴みそれをシズの口の方に向ける

「えっ?」

「少しくらい恋人らしいことさせろよ。ほら。あ〜ん。」

すると軽くどんな反応をするのか試してみたくなったこともあったし少しやって見たかったことを少しやってみようと思った。

ハジメもユエも俺の意図がわかったのかニヤニヤしているし

するとシズは顔をトマトみたいに真っ赤になりながら口に入れる。

でもさすがに少し恥ずかしいなこれ

「……」

でも照れているシズはなんというか

「……可愛い。」

「これ破壊力高すぎだろ。」

俺たちどころかハジメたちも目線が逸らすくらいの破壊力がありさすがに目を逸らしてしまう

すると突然、ハジメ達のいる部屋の扉がノックもされずにバンッ! と音を立てて開け放たれた。

何事かと、そちらに視線を向けた俺達の目に映ったのは、十歳くらいの金髪碧眼の美少年が、キッ! とハジメを睨む姿だった。しかも、ユエを膝の上に乗せていることが気に食わないのか、一瞬、ユエを見たあと更に目を吊り上げ、怒りを倍増しで滾らせたようだ。

あれこいつって

「お前か! 香織をあんな目に遭わせた下衆はっ! し、しかも、香織というものがありながら、そ、そのような……許さん、絶対に許さんぞ!」

あっこいつバカ王子だ。

俺はちょっと面白そうだし見学することを決めると王子が拳を握り締め「うぉおおおお!」と雄叫びをあげながら勢いよくハジメに向かって駆け出した。殴る気満々である。

するとシズもそのやりとりに少し面白そうに見ている

結局俺とシズが結構似ているのである

ハジメは、訳がわからなかったが、取り敢えずテーブルから紅茶用の角砂糖を手に取ると指弾の要領で弾き飛ばした。ありえない速度で放たれた角砂糖の弾丸は、狙い違わずランデルの額を正面から撃ち抜き、「ひぐぅ!」という奇怪な悲鳴を上げさせて、そのまま床に後頭部から叩きつけた。

額と後頭部の激痛という二重苦に頭を抱えながら転げ回るランデル。しばらくのたうち回った後、起き上がって再び、ハジメをキッ! と睨みつけ突進しようとした。

なので、ハジメは第二射を放つ。バチコンッ!という音と共にランデルの頭が大きく後方に仰け反る。砕けた角砂糖が宙に舞い散り、ランデルは華麗な強制バク転を決めて再び床に沈んだ。

うわぁ大人げない。

「で、殿下ぁ~! 貴様ぁ~、よくも殿下ぉ~!」

「叩き斬ってやる!」

「殿下をお守りしろ!」

ランデルが開け放った扉から、彼を追いかけて来たらしい老人や護衛っぽい男達がいきり立ってハジメに飛びかかった。

バチコンッ! バチコンッ! バチコンッ!

当然、角砂糖の弾丸が全員の額を綺麗に撃ち抜き後方へ一回転させて、ある意味芸術的な土下座を揃って決めさせた。

俺はその姿を見て笑いをこらえてしまうけど、しかし、まだまだ騒動はおさまらずハジメを睨みながら立ち上がろうとする。いい根性だと思いつつも、ハジメは、取り敢えず瓶から角砂糖を鷲掴みにして取り出し全弾撃ち放った。

チュチュチュチュチュチュチュチュイン!

そんな有り得ない音を出して角砂糖の弾丸がマシンガンの如くハジメの手から弾き出され、ランデル達は出来の悪いマリオネットのように床をのたうち回った。

角砂糖なのでダメージは抑えられているのだが、それでも痛いことに変わりはない。口をポカンと開けて呆けていた雫が、ようやく我に返りハジメを制止しようとしたとき、室内にシクシクとすすり泣く声が聞こえ始めた。

ちょうど角砂糖もなくなったので指弾を止めていたハジメがランデルを見ると、彼はまるで暴漢に襲われた女の子のように両足を揃えてしなだれながら、床に顔を埋めてシクシクと泣き声を上げていた。どうやら、ハジメの容赦ない攻撃に心が折れてしまったらしい。

周囲のおっさん達が、「殿下ぁ~! 傷は浅いですぞぉ!」などと叫びながら駆け寄り必死に慰める。

「……これはひどい。」

俺はそういうとシズはため息を吐き俺の隣に座る

そしてケーキを食べ始めたところで姫さんがやってくる

そして状況を理解したのか片手で目元を覆うと天を仰いだ。

「遅かったみたいですね……」

「姫さんか。何か知らんがお宅の弟さん情緒不安定みたいだぞ? さっさと回収してくれないか?」

ハジメは俺が姫さんと呼んでいることから同じく姫さんと呼ぶことになったらしい

「多分白崎のことだろ思うけど俺とシズは何もしてないからな。どうせ止めても無駄だと思ったし。」

「えぇ。分かってます。わかってますけど。」

「姫さん夕食時に愚痴に付き合うからそれで勘弁。」

すると一度頷くと王子をなだめ始める。「姉上ぇ~」と抱きついたランデル。その様を見て、流石のハジメも、少々やりすぎたか? と頬をポリポリと掻いた。シズから、大人気ないという呆れの視線を送っている

そして俺は気配感知からさらに面白そうな気配が近づいてくるのを感じていた

「あっ、ランデル殿下、それにリリィも……って、殿下どうしたんですか!? そんなに泣いて!」

「か、香織!? いや、こ、これは、決して姉上に泣きついていたわけでは……」

姫さんからバッと離れる王子だけどもう遅い。さすがに好きな人の前で家族に慰められているところを見られるなどかなりの屈辱としかいいようがないだろう

 しかし、香織は、王子が泣いている状況とハジメの態度、シズとリリアーナの表情で大体の事情を察し、久しぶりに爆弾を落としていく。

「もう……ハジメくんでしょ? 殿下を泣かしたの。年下の子イジメちゃだめだよ」

「いや、いきなり殴りかかってきたから、ちょっと撫でてやっただけだって……」

「撫でるって……ちゃんと〝手加減〟してあげたの? 殿下はまだ〝子供〟なんだよ?」

これはかなりの致命傷だな。好きな人から子供扱いってさすがにかなりくるものがあるだろう

「ああ、ちょっと角砂糖弾き飛ばしただけだぞ? ダメージなんてほとんどないだろう。流石に、子供相手に銃撃したりしねぇよ」

「でもリリィに〝泣きついて〟いるじゃない……それにほら額が赤くなってる。せっかく〝可愛らしい顔〟なのに……殿下は、ちょっと〝思い込みが激しくて〟〝暴走しがち〟だけど、根は〝いい子〟だから、出来ればきちんと〝相手をしてあげて〟欲しいな……」

「……お前の幼馴染ってかなり容赦ないな。」

俺はさすがに笑顔がひきつり同情してしまう

「あの子悪気はないんだけど。」

「余計にたちが悪いな。」

俺はさすがにかわいそうに王子のことを見てしまう

「殿下、大丈夫ですか? やっぱり打ち所が悪かったんじゃ……」

「……いや、怪我はない。それより……香織……香織は、余のことをどう思っているのだ……」

満身創痍の王子は、思い切って白崎の気持ちを聞く。

「殿下のことですか? そうですね……時々、リリィが羨ましくなりますね。私も、殿下みたいなヤンチャな弟が欲しいなぁ~って」

「ぐふっ…お、弟……」

あいつ刀を思いっきり死んだ王子にさらに切りつけているぞ。

ハジメも白崎にかなり引いているし

「では……あんな奴がいいというのか? あいつの何処がいいというのだ!」

……少しぶん殴りたくなったがでもそれを少し堪えると白崎がついにとどめを刺した

「え? な、何ですか殿下、いきなり……もう~、恥ずかしいですね。でも……ふふ、そうですよ。あの人が私の大好きな人ですよ。何処がって言われたら全部、としか……ふふ」

うわぁ。俺が言えたことではないけど頭の中お花畑だなぁ

再び俯いたランデルは四つん這いのままプルプルと震えだす。それを心配して白崎が手で背中をさすりながら声を掛けるが、ランデルはガバッ! と勢いよく起き上がると白崎の手を跳ね除けて入口へと猛ダッシュした。

そして、一度、扉のところで振り返ると、

「お前等なんか大っ嫌いだぁぁああああああ!!!」

と叫び去ってしまった

「……青春だなぁ」

俺はつい紅茶を飲みながら呟く。

「そうだな。」

「ひ、人事みたいに……貴方が泣かしたんでしょうが」

「いや、まぁ、そうなんだが……止めを刺したのは香織だろ?」

「くっ、反論できない……」

「しかも死体蹴りまで丁寧に決めたからな。初恋は実らないっていうけど……あれはトラウマものだろ。」

さすがに相手が悪かったとしかいいようがない

姫さんの方を見ると苦笑し首を横にふっていることから何か策はあるんだろうが

「そういや、姫さん。1日経った今俺が巻いた噂結構浸透しているらしいぞ。」

俺は話をそらすために街中でのことを説明する

というのも教会を何をトチ狂ったのか知らないが神山にあった教会は先生が爆破してしまったらしくそれについての対応案を俺が考えたのだ

いつまでも隠し立て出来ない以上、王宮から何らかの説明は必要だった。しかし、真実の通り、皆さんが信じていた〝エヒト様〟は人を自分の玩具程度にしか思っていない戦争大好き野郎で、聖教教会の連中も狂信者ばっかりだから総本山ごと全員爆殺しました! 等といっても困惑を通り越してパニックになるだけだ。

 その内容は、曰く、争いを望む悪しき神が教皇達を洗脳し王都侵攻を招いた。曰く、神に遣わされし愛子様が状況を憂いて自ら戦いに赴いた。曰く、教皇達は命を賭して神の使徒と共に戦い、その果てに殉教した。曰く、王都を守るため愛子様の剣が光となって降り注いだ、というものだ。

これをすぐに作り終えた俺はクラスメイト全員からドン引きされるという些細なことがあったんだがそれは割愛しよう

それを〝豊穣の女神〟たる先生が更に、〝悪しき神はエヒト様の名を騙るかも知れない、本当の善なる我らが信じる神のためにも私達は与えられるだけでなく、神のために自ら考え行動を起こせる人間にならなければならない。何が正しいのか、己の頭で判断しなければならない。それが我らの信じる神への、そして殉教した教皇様達への手向けとなる〟という内容のスピーチを後日、追悼式の時にでも行うように先生に伝えたところ先生は嫌嫌だったのだが引き受けた

「そうか。……まぁ、人は信じたいものを信じるものだし、それが劇的で心揺さぶるものなら尚更だからなぁ。問題なく信じられるだろうとは思っていた。あとは、何かあった時どれだけ効果を発揮するかだが……こればっかりは考えても仕方ないしな」

ハジメがそう告げると

「……ですね。でも、未だに信じ難いです。長年信じてきたものが幻想だったなんて……個人ならともかく、集団ではパニックになることは必至。球児さんの提案は王族としても渡りに船でした。有難うございます」

「まぁぶっちゃけやり方は最低だったけどな。あいにく暗躍は昔からの特技なもんで。」

「あんたって本当悪知恵だけは働くわよね。時々ありえない発想を普通に行うし。」

「バカにしているのか?」

「いえ。味方だと頼りになるって言ってるの。褒め言葉として受け取っておいて」

「……あっそ。」

少し照れてしまうけど

「そういやハジメ。先生のフォローしっかりしとけよ。先生結構きているみたいだったし。」

その途中で俺は思い出す

「ん?」

「いや愛子先生のこと。お前ならなんとかできるだろ?」

「お前な。」

呆れたように俺を見るハジメに小さく苦笑してしまう

……理由つけてやったんだからさっさと行けよ。気になっているんだろ?

恋愛がらみじゃなくてもこいつは先生を助けるつもりというのは王都に向かってくるときに確認済みだ

それならちゃんとけりをつけてこいや

「……ありがとな。」

「貸し一つ。」

「了解。」

と言ってハジメは席を立ち走っていく

「……たく。面倒くさい奴。」

俺は紅茶を飲み終えると席を立つ

「……いいのか?」

俺がそういうと

「ん。問題ない。」

「先生のことも心配だから私も。」

「……ならいいや。募る話は色々あるだろうから俺はこれにて失礼するな。あとは女子会でもやってろ。」

俺はそうして部屋をでるそして

そして俺は地を蹴った



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公開処刑

「まったくもう、ホントにもうっ! ですよっ!」

「ハジメくん……少し自重しようね?」

「ふふふ、流石、ご主人様よ、ほんの少し目を離した隙に止めを刺すとは……」

王宮内の食堂にて、夕食をつつきながらシア達のどこか責めるような声が響く。それを向けられている俺たちは、如何にも他人事といった様子で目の前の王宮料理に舌鼓を打っていた。

「あいつら何があったんだ。」

「さぁ?」

「分かりません。」

俺、シズ、姫さんが食堂に入るといつのまにか揃っていたハジメたちに手を振ると俺たちはその隣に座る

と俺とシズは姫さんの愚痴に付き合うってことになっていたんだが

「……それでなんで私ばっかり。」

そして10分後かなりストレスが溜まっていたのか王宮料理を丁寧に食べながらも乱雑な口調で愚痴をこぼす姫さんの姿があった

さすがに王女ということがあり口調とかも丁寧な口調でいたんだがさすがに限界がきたらしく俺たちの方に目線が集まる

姫さんも苦労しているんだよなぁ

俺とシズが遠い目になりながら姫さんの話を聞いていると

不意に堂へ集団がやってきた。光輝達を含むクラスメイトだ。どうやら、愛子も含めて全員いるらしい。

「それでなんですが。」

「姫さん一応クラスのやつきたから抑えて。」

「えっ?あっお疲れ様でした皆様。」

そして光輝たちの方に礼をする姫さんにさすがに苦笑する

「リリィも今日はこっちなんだ。」

「雫さんと球児さんに誘われたんですよ。」

「明日からの予定を確認するためなんだけどな。」

「あっそうなのか。」

さらっと嘘をつく俺と姫さんにハジメたちのパーティーもさすがに驚きを隠せないらしくポカーンとしている

「でも、最近大久保とリリィよく一緒にいるよな。」

「一応護衛ってことになっているからな。騎士団が団長決めとかでゴタゴタしていたぶん騎士団から頼まれたんだよ。もちろんシズから許可はもらっているからな。」

「……そういうところは律儀だよね。」

「うっせ。ずっと長い間片想いしてきてやっと付き合えるようになったんだよ。こんなことで嫌われたらかなり凹むんだから。」

「まぁ、小学生のころからずっと雫ちゃんのこと好きだからね。」

「ちょ、メイ!!」

さすがにメイの告発に俺は顔を真っ赤にしてしまう

「……えっ?まじ?」

「そうなの?」

「……一応語弊があることはあるけど、好きな気持ちを気づいたのは小学校です。」

「……」

「うわぁ、意外な一面を見ちゃったよ。鈴。」

「…お前すごいな。」

……公開処刑もいいとこだろ。

「恋愛ごとになったら球児はかなり苦労しているからな。」

「だまれドンファン。お前いつか後ろから刺されるぞ。」

「それは球児が言えたことじゃないだろ。」

「えっ?なんで。俺みたいな奴好きになるくらいの物好きはこいつくらいだろ?」

「ちょっとどういう意味よ。」

シズがそういうけど

「いや、恥ずかしいんだけど元々はシズの理想の人物を目指してきたから。少し感性がずれている自覚があって。」

「……自覚あったんだ。」

「あるに決まっているだろうが。」

「ちょっと待って香織。球児。それ私が普通の人を好きになれないって遠回しに言ってない。」

「「……」」

「ちょっと2人ともなんで黙るのよ。」

「いや。だって俺かなり腹黒いし、結構ゲスいし。」

「あのね。そういうことする時の球児は誰かを守る時でしょう?」

「……」

俺はキョトンとしてしまう

「それに私のことだって昔から助けてくれるし、さっきも早く抜け出してリリィの書類をやっていたんでしょ?メイちゃんに聞いたわ。」

「…そうなんですか?」

ジト目に俺はさすがに耐えきれず頷く。

メイに姫さんを休ませるようにするために頼み込み女子会という名の親睦会をしていたもらっていたのだが

「……昔から球児は気を使いすぎなのよ。」

「いや、それお前にだけは言われたくないから。」

俺はジト目でシズのほうを見るとすると視線がこちらに向けている

「……なんだよ。」

耐えきれずに俺はクラスメイトの方に向けると

「いや、なんつーか。」

「……甘々だよう。」

「いいなぁ、雫ちゃん。」

「「……」」

俺とシズは意味が分からず首を傾げる

「まぁ、誰がとは言わないけど球児も結構女たらしのそしつがあるからな。」

「……そうね。」

「マジか。」

ちょっとそれはそれで結構くるものがあるんだけど

「でも大久保くんって少し面倒見はいいよね?外面は光輝くんよりも人気あるし。」

「内面で全部台無しにしているけどな。」

「でも大久保、鈴のこととかも気にかけているだろ?よく鈴のことを気に留めてたし。」

「へ?」

すると意外だったのか谷口は驚いたように俺を見る

天之河を少し睨み俺は諦めたように呟く

「悪いかよ。一応結構クラスじゃ交流が多かったし、異世界に来てからはあまり話さなかったけど。それでも仲がよかったやつのことは気になるだろ。」

「……」

するとキョトンとする谷口。すると少し笑い

「ありがとう。大久保くん。」

「ん。」

はぁ、もう今日公開処刑ばっかりじゃねーか。

そんなことと思いながら王宮での食事は賑やかに、そして久しぶりにクラスメイトの笑顔が溢れただけよかったとしかいいようがないか



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罪と宣戦布告

眼下の八雲が流れるように後方へと消えていく。重なる雲の更に下には草原や雑木林、時折小さな村が見えるが、やはりあっと言う間に遥か後方へと置き去りにされてしまう。相当なスピードのはずなのに、何らかの結界が張ってあるのか風は驚く程心地良いそよ風だ。

「……これすごいな。」

「そうだな。」

俺と天之河はハジメ制作の飛行艇に乗りながら少し呆気に取られたようにしてしまう

でも天之河の表情は感心の色はなく、どこか悄然としており、同時に悔しそうでもあった。

「やっぱり俺たちが憎いか。」

俺がそういうと天之河は驚いたようにこっちを見る

「俺も少し言いたいことがあったし、今はあいつらもシズも誰も聞いてない。魔法で音声を遮断してあるし……たまには本音で話そうぜ。」

「……」

すると俺がただならぬ声で話しているのが分かったのか天之河が俺の方を真剣に見る

「……正直いうけど、俺はハジメとメイを殺そうとした犯人を知っていた。」

「……なっ。」

すると天之河は驚いたように俺を見る

俺の告白は誰も知らない

「檜山だよ。気絶する前に俺は見ていたんだよ。あいつ適性は風属性だから確信犯と気づいたのは結構後だったけどな。……まぁ、二つの理由から殺すことも誰かに話す事もしなかった。」

「理由?」

「あぁ、まぁ一つ目は白崎だな。あいつがハジメのことを好きなことも知っていたし、犯人を伝えたらあいつが復讐に走ってもおかしくはなかっただろう?」

「……」

無言だけど複雑な顔をしていることから納得はしたんだろう

「俺はハジメに会うまであいつには壊れてほしくなかった。理想論かもしれないし、いつか経験することだと思っていたけど。ちゃんと前のままの白崎をハジメに送り届けることがあいつへの恩返しってことだと思っていたんだよ。んで二つ目。これはお前のためだな。」

「俺の?」

「……あぁ。檜山のことを許したのがちょっとまずかった。まぁ犯人を知っていなかったから仕方がないといえばそうだけど。俺が寝ている間にトラップの件を許してもらったのがかなり効いている。シズに聞いたところお前に目の前での土下座をして確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれることを目的にしていたからな。」

シズがそのことをかなり批判して俺にずっと愚痴を言っていたのは覚えている

「その矢先に俺がハジメをころしたのは檜山だと言ってみろ。お前は多分許すだろうけど、メイも落下した時点でクラスが半分に割れることが目に見えていた。そしてクラスから殺人者がでたってことは衝撃を与える。さすがにそれだけは阻止するべきだと考えた。」

「……それが俺とどう関係が。」

「白崎とシズと対立関係になり得たってことだよ。」

俺の発言にさすがに天之河が少し驚いたように俺を見る

「……ぶっちゃけ男子と女子。まぁ永井とかは女子についてもおかしくはないけどその二つに別れる可能性があったってことだよ。」

「……」

「ぶっちゃけあいつらが生きていたし、ハジメもメイも気づいていたぽいけど復讐しなかったことを考えると俺が手を出す必要も構う必要もないと思ったんだけど。……このざまだよ。」

ほったらかした奴は白崎を殺して俺はそれを守ることができなかった。

「だから今回白崎が殺されたのは……俺のせいなんだよ。結果的にあいつは生き残ったけど。でも。自分の判断が間違ったせいであいつは殺された。」

「……なんでそれを俺に。」

「お前くらいだろうからな。許してくれないのは。」

すると天之河は驚いた俺を見るけど俺は少し自分を責める

「お前だって白崎を好きだった。というよりも俺は小学校からお前らのことを見ていたからな。ぶっちゃけると俺は小学校のころお前のことが羨ましかったんだよ。」

「…俺が?」

「当たり前だろ。俺はお前よりも剣道が強くてそれも誰よりも長くあいつと付き合いがあったんだよ。シズがいじめられていた時あっただろ?俺も3歳くらいから付き合いがあるし、それなりにも仲がよかった。剣道だってお前より強かった。」

嫌味とも言える言葉に天之河が俺に怒りを覚えたが

「でもあいつはお前を頼った。」

俺の言葉で、天之河の一気に目を見開く

「悔しかった。どんだけ強くても、どんだけ助けられるような自信があっても頼ってもらわなければ意味がないってことに気づいた。……悔しくて嫌になって、野球に逃げたりもした。」

あの時小学生ながらあいつのことが好きなことに気づいて

「でもなによりも何もできない自分が大嫌いだった。」

俺の独白はかなり嫌なものだった

「……だから俺はお前が羨ましかったし、ずっとお前のことが嫌いだった。」

もう一度断言する

「頼られているのに余計に火に油を注ぐ言葉でよりシズが虐められるようになってそれを気づかないお前がうざくて憎くてたまらない。それなのに学校じゃ一番近くて、手に届くところにいて……今でもかなり羨ましいし、嫌いなんだよ。多分俺はお前を好意的に思うことはこの先ない。それは断言できるくらいにな。」

「……」

「んでここからは単なる自分の宣戦布告だから。気にしなくていい。」

そして俺は忠告をする

「俺はずるい。」

それが人を動かすっていうことであり、自分の信念だ。

「汚くて、腹黒くて、あいつが思っているよりもいいやつでもない。時には裏切るし、時にはたとえ親友だって使う。」

事実今回もただの私怨で俺はハジメを使っているし逆にハジメは俺を使ってもいる

でも

「どんなに卑怯でも汚くてもいい。俺は二度とお前にあいつの隣は渡さねぇ。あいつの隣は俺のもんだ。」

俺は宣言する。罪だって黙っていることだって一杯ある。

それでも俺はあいつのとなりにいたい。

あいつを守りたいしあいつを渡す気すらさらさらない

「……」

すると天之河はあっけにとられている

「まぁ、元々はこれが言いたいだけだったからいいけど。俺を憎んでも嫌いでも構わない。」

それがお前が強くなれる理由になるんならな

俺はそういうと一つの個室から出て行く

「それと谷口。俺気配感知で大体の人を確定できるから隠れるんだったら気配遮断のスキル持っているやつ連れてこいや。今日は見逃すけど次はねぇぞ。」

そんなことを言い残して

そして数十秒後その言葉の意味に気づいた谷口のさけび声が飛行船中に響き渡った。



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ハウリア

「ん?どうした?」

俺がブリッジに入ると何故か中央に置かれている水晶のようなものを囲んでいた。

「何があったのか?」

「あっ、球児くん。うん、どうも帝国兵に追われている人がいるみたいなの」

すると香織がそういう。俺がそういやハジメと結婚するんなら苗字が南雲になるから白崎って呼ばない方がいいか?と聞いたところ頷きお互いに名前で呼ぶようになったのだ。

 尋ねた雫に香織が答えた。その香織が指差した立方体型の水晶には、峡谷の合間を走る数人の兎人族と、その後ろから迫る帝国兵のリアル鬼ごっこが映っていた。

確かに、水の流れていない狭い谷間を兎人族の女性が二人、後ろから迫る帝国兵を気にしながら逃げているようだった。追っている帝国兵のずっと後ろには大型の輸送馬車も数台有って、最初から追って来たというより、逃がしたのか、あるいは偶然見つけた兎人族を捕まえようとしているように見えるのだが。

「不味いじゃないか! 直ぐに助けに行かないと!」

少し遅れて谷口と一緒にやってきた天之河がそんなこというが

「へぇ〜少し甘いけどいい陽動じゃん。」

「……へ?」

俺がそういうと全員が俺の方を見る

「いやだってこれ囲まれているの帝国側だろ。地形戦であんな入り組んだところを突っ込んだらそりゃきついだろ。上部に少しだけうさ耳が見えるしこりゃ蹂躙されておわりだろ?」

「……ハジメさん、間違いないです。ラナさんとミナさんです」

「やっぱりか。……豹変具合が凄かったから俺も覚えちまったんだよな。……てかお前はなんでわかるんだよ。」

「いや地形情報をみればな。……ってなると戦場はここだな。先回りして見ようぜ。」

「……お前。楽しんでいるなぁ。」

「こういった戦略げーだけは俺は強かったからな。ついハマってしまって。」

「ゲームじゃないんだけど。」

「ゲームみたいなもんだろ?まぁでも甘いところがあるし一撃だけ俺も攻撃しようかな。伏兵は馬車の中にいること多分気づいてないだろ?最近、気配感知[+範囲拡大特大]覚えたし5kmくらいなら届く。」

「……拡大特大だとあんな範囲まで届くのか。」

ハジメが珍しく遠い目をしているが

「それとさらに気配感知はコンプリートしたからスキル遮断を使っている敵や気配で誰か分かるようになったんだよなぁ。俺異世界召喚されてから王宮でもよほどのことがない限りこのスキル使いっぱなしにしているから。」

「まぁ便利だもんな。」

「さらに天才肌でスキルの熟練度上がるの早いし。」

「……うわぁ。チーターだぁ〜。」

 そうこうしている内に、逃げていた兎人族の女性二人が倒れ込むようにして足を止めてしまった。谷間の中でも少し開けている場所だ。

それを見て、ハッと正気に戻った光輝がブリッジを出て前部の甲板に出て行こうとする。距離はまだあるが、取り敢えず魔法でも撃って帝国兵の注意を引くつもりなのだ。

「まぁ、待て。天之河。大丈夫だ」

「なっ、何を言っているんだ! か弱い女性が今にも襲われそうなんだぞ!」

キッ! と苛立たしげにハジメを睨む光輝に、しかし、ハジメはニヤリと笑うと、水晶ディスプレイを見ながらどこか面白げな様子で呟いた。

「か弱い? まさか。あいつらは……〝ハウリア〟だぞ?」

何を言っているんだ? と天之河が訝しげな表情をした直後、「あっ!」と誰かが驚愕の声を上げた。俺が水晶ディスプレイに視線を向けると、そこには……首を落とされ、あるいは頭部を矢で正確に射貫かれて絶命する帝国兵の死体の山が映っていた。

「……え?」

「だから言ったろ?囲まれているのは帝国側って。」

俺はのんきにそういうと液晶を見ることなくことが終わるのを待つ

姫さんや近衛騎士達は、思わずシアを凝視する。特殊なのはお前だけじゃなかったのか!? と、その目は驚愕に見開かれていた。

「いや、紛れもなく特殊なのは私だけですからね? 私みたいなのがそう何人もいるわけないじゃないですか。彼等のあれは訓練の賜物ですよ。……ハジメさんが施した地獄というのも生温い、魔改造ともいうべき訓練によって、あんな感じになったんです」

「「「「「……」」」」」

「あぁ、あの時の魔改造ってこういうことだったのか。」

俺はさすがに苦笑すると

「そんで馬車の中の1人はどうする?」

「俺がヤル。お前少しの間戦略についてハウリア族に教えることができるか?」

「貸し1な。」

そんなのんきにはなしながらもハジメはシュラーゲンを取り出すと開閉可能な風防の一部を開けて銃口を外に出し立射の姿勢をとった。現場まではまだ五キロメートル程ある。ユエ達以外が目を丸くする中、ハジメは微動だにせずにスッと目を細めた。そして、静かに引き金を引く。

「ナイスショット。」

メイの声が響く。……ぶっちゃけ王都の件で俺もあんまり人殺すのに耐性ができてきたのもまた確かだなんだがその声は違うと俺は内心思っていた

しかしここって樹海から出ているよな。

俺は少しだけ疑問に思っていたことがある

「……なんかきなくせぇな。姫さん帝国の樹海進行ってこんなに活発なのか?」

「いえ。前に帝国に訪れた際はここまでは。」

俺はもう一度考え込む

すると飛行艇が高度を下げ着陸態勢に入る

谷間に降りると、そこにはハウリア族以外の亜人族も数多くいた。百人近くいそうだ。どうやら、輸送馬車の中身は亜人達だったらしい。兎人族以外にも狐人族や犬人族、猫人族、森人族の女子供が大勢いる。みな一様にハジメ達に対して警戒の目を向けると共に、見たことも聞いたこともない空飛ぶ乗り物に驚愕を隠せないようだ。まさに未知との遭遇である。

すると首元には奴隷用の首輪がついている奴が多数でときには怪我をしている亜人も見られる。

亜人族達の中からクロスボウを担いだ少年が颯爽と駆け寄り、ハジメの手前でビシッ! と背筋を伸ばすと見事な敬礼をしてみせた。

「お久しぶりです、ボス! 再びお会いできる日を心待ちにしておりました! まさか、このようなものに乗って登場するとは改めて感服致しましたっ! それと先程のご助力、感謝致しますっ!」

「よぉ、久しぶりだな。まぁ、さっきのは気にするな。お前等なら、多少のダメージを食らう程度でどうにでもできただろうしな。……中々、腕を上げたじゃないか」

「「「「「「恐縮でありますっ、Sir!!」」」」」」

「……うわぁ。なんでメイがいながらこんなことになったんだ。」

「ごめん。頭のおかしい練成師には勝てなかったよ。」

涙をこらえ、目が血走り始めているのが非常に怖い。

「えっと、みんな、久しぶりです! 元気そうでなによりですぅ。ところで、父様達はどこですか? パル君達だけですか? あと、なんでこんなところで、帝国兵なんて相手に……」

「落ち着いてくだせぇ、シアの姉御。一度に聞かれても答えられませんぜ? 取り敢えず、今、ここにいるのは俺達六人だけでさぁ。色々、事情があるんで、詳しい話は落ち着ける場所に行ってからにしやしょう。……それと、パル君ではなく〝必滅のバルトフェルド〟です。お間違いのないようお願いしやすぜ?」

「……え? いま、そこをツッコミます? っていうかまだそんな名前を……ラナさん達も注意して下さいよぉ」

俺は少し笑いかけてしまう。やばいこれは痛い。

「……シア。ラナじゃないわ……〝疾影のラナインフェリナ〟よ」

「!? ラナさん!? 何を言って……」

「私は、〝空裂のミナステリア〟!」

「!?」

「俺は、〝幻武のヤオゼリアス〟!」

「!?」

「僕は、〝這斬のヨルガンダル〟!」

「!?」

「ふっ、〝霧雨のリキッドブレイク〟だ」

「!?」

「……シアってハジメパーティーでいう俺たちのポジションだな。」

比較的常識人であるシアにさすがに俺もシズも同情を隠せない

俺はハジメをジト目で見ると目線を逸らしたようにしているがきっちりと罰は受けるものである

「ちなみに、ボスは〝紅き閃光の輪舞曲〟と〝白き爪牙の狂飆〟ならどちらがいいですか?」

「……なに?」

「ボスの二つ名です。一族会議で丸十日の激論の末、どうにかこの二つまで絞り込みました。しかし、結局、どちらがいいか決着がつかず、一族の間で戦争を行っても引き分ける始末でして……こうなったらボスに再会したときに判断を委ねようということに。ちなみに俺は〝紅き閃光の輪舞曲〟派です」

「まて、なぜ最初から二つ名を持つことが前提になってる?」

「ボス、私は断然〝白き爪牙の狂飆〟です」

「いや、話を聞けよ。俺は……」

「何を言っているの疾影のラナインフェリナ。ボスにはどう考えても〝紅き閃光の輪舞曲〟が似合っているじゃない!」

「おい、こら、いい加減に……」

「そうだ! 紅い魔力とスパークを迸らせて、宙を自在に跳び回りながら様々な武器を使いこなす様は、まさに〝紅き閃光の輪舞曲〟! これ一択だろJK」

「よせっ、それ以上小っ恥ずかしい解説はっ――」

「おいおい、這斬のヨルガンダル。それを言ったら、あのトレードマークの白髪をなびかせて、獣王の爪牙とも言うべき強力な武器を両手に暴風の如き怒涛の攻撃を繰り出す様は、〝白き爪牙の狂飆〟以外に表現のしようがないって、どうしてわからない? いつから、そんなに耄碌しちまったんだ?」

「……ぷっ。」

さすがに限界がきてしまう

「やばっ最高!!」

「大久保くん、シズシズ笑っちゃダメだって、ぶふ。」

「す、鈴だって、笑って……くふっ…厨二って感染する……のかしら、ふ、ふふっ」

俺が爆笑してしまいと谷口が肩を震わせて必死に笑いを堪えている。全く堪えられてないけど。

「八重樫、クールなお前には後で強制ツインテールリボン付きをプレゼントしてやる。もちろん映像記録も残してやる」

「!?」

「谷口、お前の身長をあと五センチ縮めてやる」

「!?」

「球児は。」

「俺に何かしようもんならお前の机の奥ぶたの下に入っている美術品の内容を先生に報告する。」

「……」

俺は先手を打つとハジメは冷や汗を垂らす。ついでに先生ものである。

「……いやなんでもないです。」

「……ハジメくん球児に口喧嘩挑むのはさすがに無謀だよ。」

ハジメがメイに慰められていると

「あの……宜しいでしょうか?」

耳がスッと長く尖っているので森人族ということが分かる。

「あなたは、南雲ハジメ殿で間違いありませんか?」

「ん? 確かに、そうだが……」

ハジメが頷くと、金髪碧眼の森人族の美少女はホッとした様子で胸を撫で下ろした。もっとも、細い両手に金属の手枷がはめられており、非常に痛々しい様子だった。足首にも鎖付きの枷がはめられており、歩く度に擦れて白く滑らかな肌が赤くなってしまっている。

「話の前にちょっと失礼。」

魔力を少し流すすると足枷は外れると今度は同じように奴隷紋を解除していく

「これでいいか?」

「えっ?あの。」

「香織。こいつに回復魔法かけてやってくれ。女性がアザ残ったら大変だろうしな。」

「えっうん。」

「というよりもなんで解除できたんだ?」

「俺の固有スキルの一つに契約解除があるんだよ。奴隷紋に通用するかは微妙だったけど。」

「契約解除ですか?」

「あぁ、本来このスキルは召喚獣を呼び出して支配できるらしいんだけど、かなり消費魔力が多くて使えないんだよ。ネクロマンスは死体があれば、それとゴーレムも媒体があれば契約できるんだけど。」

「ネクロマンスならそこの死体があればできるんじゃないのか?」

「できるけど、こんな日が高かったらな。」

俺はさすがに苦笑してしまう

「あぁ。そういうことか。ゴーレムくらいなら媒体があればできるんだけど。」

「作ろうか?」

「いや。発動一度やったことあるけど俺が戦った方が強いからいい。結構難しいし。」

そうやってハジメと話していたから分からなかったのだが女性陣から呆れと鋭さの両方を含んだ眼差しで見られていたことは黙っておこう



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戦争の後

「なるほどな……やっぱ魔人族は帝国と樹海にも手を出していたか」

「肯定です。帝国の詳細は分かりませんが、樹海の方は強力な魔物の群れにやられました。あらかじめ作っておいたトラップ地帯に誘導できなければ、俺達もヤバかったです」

ハウリア族や亜人曰く、樹海にも魔人族が魔物を引き連れてやって来たらしい。【ハルツィナ樹海】は大迷宮の一つとして名が通っているから魔人族が神代魔法の獲得を狙っている以上当たり前と言えば当たり前だ。

「……はぁ、んでハウリア族はその後そいつらを撃退したものの帝国が労働力不足で亜人を奴隷として労働力を捕まえたのか。……悪循環だな。」

「えぇ。しかし、ボス。〝も〟ということは、もしや魔人族は他の場所でも?」

「ああ、あちこちで暗躍してやがるぞ? まぁ、運悪く俺がいたせいで尽く潰えているけどな」

「お前が狙いの一つでもあるのだから当たり前と言ったら当たり前なんだけどな。」

「それもそうか。」

ハジメはため息をはくと

「まぁ、大体の事情はわかった。取り敢えず、お前等は引き続き帝都でカム達の情報を集めるんだな?」

「肯定です。あと、ボスには申し訳ないんですが……」

「わかってる。どうせ道中だ。捕まってた奴等は、樹海までは送り届けてやるよ」

「有難うございます!」

「姫さんもそこで別れるけど気をつけてくれ。一応ハジメが小型のゴーレムを作ってくれたから何かあったら連絡してくれ。一応護衛としても使えるらしいから。」

「大久保さん。ハジメさん本当にありがとうございました。」

「いや。こっちこそお世話になった。」

といい都から少し離れた場所で姫さんたちとパル達を降ろした。そして、一行は【ハルツィナ樹海】に向かって高速飛行に入るのだった。

 

「……これはすげぇな。」

初めてはいる樹海は一寸先を閉ざすような濃霧をもって歓迎を示した。

亜人族がいなければ絶対に感覚を狂わせるようだが亜人達が周囲を囲むようにして先導してくれる。

そうして歩くこと1時間

「ハジメさん、武装した集団が正面から来ますよ」

「あぁ、10人だな。戦意は獣人族がいるからかないみたいだけど」

シアと俺がそう告げると周辺の亜人が驚く

武装した虎耳の集団が現れた。全員、険しい視線で武器に手をかけているが、彼等も亜人族が多数いる気配を掴んでいたらしい

「お前達は、あの時の……」

「知り合いか?」

「あぁ、前に樹海によった時にな。」

「一体、今度は何の……って、アルテナ様!? ご無事だったのですか!?」

「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました」

虎の獣人は、ハジメに目的を尋ねようとして、その傍らにいたアルテナに気がつき素っ頓狂な声を上げた。そして、アルテナの助けてもらったという言葉に、安堵と呆れを含んだ深い溜息をついた。

「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい。……少年。お前は、ここに来るときは亜人を助けてからというポリシーでもあるのか? 傲岸不遜なお前には全く似合わんが……まぁ、礼は言わせてもらう」

「そんなポリシーあるわけ無いだろ。偶然だ、偶然」

シアが、こっそり何があったのかを簡潔に説明すると、

「なんか日本にいた時のハジメみたいだな。」

俺がそう呟くとメイと香織が頷く

「それより、フェアベルゲンにハウリア族の連中はいるか? あるいは、今の集落がある場所を知ってる奴は?」

「む? ハウリア族の者なら数名、フェアベルゲンにいるぞ。聞いているかもしれないが、襲撃があってから、数名常駐するようになったんだ」

「そりゃよかった。じゃあ、さっさとフェアベルゲンに向かうぞ」

「あいよ。ついでにここ俺の気配感知半分くらいエリア削減くらうからシアもお願いしていいか?多分同じくらいのエリアだし。」

「わかりました。」

そして辿り着いた先には巨大な門が崩壊しており、残骸が未だ処理されずに放置されたままだった。

「ひどい……」

誰かがそう呟くが

戦争や進行って基本こういうものだと割り切っている。

俺はぶっちゃけ帝国と考え方が似ていて強い方が正義という考え方だ

「……とんだ再会になったな、南雲ハジメ。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。……ありがとう、心から感謝する」

「俺は送り届けただけだ。感謝するならハウリア族と球児にしてくれ。俺は、ここにハウリア族がいると聞いて来ただけだしな……」

「球児?」

「全員を奴隷紋から解放した俺の親友だ。」

「どうも。」

俺は軽く頭を下げる

「それは本当にありがとう。」

「別に。こちらこそ親友がお世話になったみたいで。」

と俺は頭を下げる

「まぁ、貸し一つってことでお願いします。また力を借りるときがあるかもしれないので。」

「うむ。分かった。」

その後、ハウリア族はタイミング悪くフェアベルゲンの外に出てしまっているが直ぐに戻るはずだと聞き、アルフレリックの家で待たせてもらうことにした。アルフレリックの言う通り、差し出されたお茶を一杯飲み終わる頃、ハウリア族の男女が複数人、慌てたようにバタバタと駆け込んできた。

「ボスゥ!! お久しぶりですっ!!」

「お待ちしておりましたっ! ボスゥ!!」

「お、お会いできて光栄ですっ! Sir!!」

「うぉい! 新入りぃ! ボスのご帰還だぁ! 他の野郎共に伝えてこい! 三十秒でな!」

「りょ、了解でありますっ!!」

「……こいつら見ると弟子を思い出すな。」

「あぁ、なんか既視感があると思ったらそういえばあなたにもそういえばいたわね。」

ここまではひどくないはず

俺はそんなことを思いながら俺はお茶を飲む

「あ~、うん、久しぶりだな。取り敢えず、他の連中がドン引いているから敬礼は止めような」

「「「「「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」」」」」

多分これ止まらないな

俺は苦笑すると

「ここに来るまでにパル達と会って大体の事情は聞いている。中々、活躍したそうだな? 連中を退けるなんて大したもんだ」

「「「「「「きょ、恐縮でありまずっ!!」」」」」」」

 最後が涙声になっているのはご愛嬌。ハジメは、感動に震えるハウリア達にパル達から預かった情報を伝える。すなわち、カム達が帝都へ侵入したらしいという情報を掴んだ事と、自分達も侵入するつもりであること。そして、応援の要請だ。

「ハウリア族以外の奴等も訓練させていたみたいだが、今、どれくらいいるんだ?」

「……確か……ハウリア族と懇意にしていた一族と、バントン族を倒した噂が広まったことで訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので……実戦可能なのは総勢百二十二名になります」

多いな。

帝国ほどではないが亜人は小さな村が多く並び生活していると聞いている

「それならそれを軸に救出作戦の軸を練ればいいか?」

「あぁ。それくらいなら全員一度に運べるな。……イオ、ルニクス。帝都に行く奴等をさっさと集めろ。俺が全員まとめて送り届けてやる」

「は? はっ! 了解であります! 直ちに!」

するとえっってシアが俺たちを見るけどハジメが仲間の家族を見捨てないっていうのを俺は分かっていた

「ハ、ハジメさん……大迷宮に行くんじゃ……」

「カム達のこと気になってんだろ?」

「っ……それは……その……でも……」

ハジメに図星を突かれて口籠るシア。

どうせハジメのことを気遣っていたのはあまりあって時間がたっていない俺でも分かることだ

ハジメは、余計な手間を取らせていると恐縮して口籠るシアの傍に寄り、そっとその頬を両手で挟み込んだ。

「ふぇ?」

突然のハジメの行動に、シアがポカンと口を開けて間抜け顔を晒す。そんなシアに、ハジメは可笑しそうに笑みを浮かべながら、真っ直ぐ目を合わせて言い聞かせるように言葉を紡いだ。

「シア、お前に憂い顔は似合わねぇよ。カム達が心配なら心配だって言えばいいだろう?」

「で、でも……」

「でもじゃない。何を今更、遠慮なんてしてるんだ? いつもみたいに、思ったことを思った通りに言えばいいんだよ。初めて会った時の図々しさはどこにいったんだ? 第一、お前が笑ってないと、俺の……俺達の調子が狂うだろうが」

「ハジメさん……」

ぶっきらぼうではあるが、それは紛れもなくシアを気遣う言葉。シアを想っての言葉だな。それを理解して、シアは自分の頬に添えられたハジメの手に自分のそれを重ねる。

「あまり実感がないかもしれないが……これでも、その、なんだ。結構、お前の事は大切に想ってるんだ。だから、お前の憂いが晴れるなら……俺は、俺の全力を使うことを躊躇わない」

「ハジメさん、私……」

「ほら、言いたいこと言ってみろ。ちゃんと聞いてやるから」

頬に伝わる優しくも熱い感触と、真っ直ぐ見つめてくるハジメの眼差しに、シアは言葉を詰まらせつつも、湧き上がる気持ちのままに思いを言葉にした。

「……私、父様達が心配ですぅ。……一目でいいから、無事な姿を見たいですぅ……」

「全く、最初からそう言えばいいんだ。今更、遠慮なんてするから何事かと思ったぞ?」

「わ、私、そこまで無遠慮じゃないですよぉ! もうっ、ハジメさんったら、ほんとにもうっですよぉ!」

拗ねたように頬を膨らませているが、その瞳はキラキラと星が瞬き、頬はバラ色に染まっていて、恋する乙女を通り越して完全に愛しい男を見る女の顔だった。

シア自身、そこまでハジメに遠慮しているという自覚はなかったのだが、ライバルが増えてきたため、無意識のうちにいい所を見せようと気張ってしまっていたんだけど

「シアちゃんはもっと甘えないとダメだよ。」

「……ん。シア、可愛い」

「ふむ、たまには罵り以外もいいかもしれんのぉ~」

「うぅ~、羨ましいよぉ~」

とハジメの女たちはそんな反応を見せるんだけど

「……おい。なんでお前ら俺を見る。」

谷口とシズ、そしてなぜかアルテナは俺の方を見ていた

「……なんか既視感があるんだけど。親友っていうことも似るのかしら。」

「もうシズシズいいなぁ〜。鈴も言われてみたい。」

「そうですわ。」

なんで修羅場っぽくなっているの?

俺は少し戸惑うとどこかからか自業自得という声が聞こえてきたような気がした

その時、ちょうどいいタイミングでイオがやって来た。どうやらハウリア族の準備が整ったようだ。滅茶苦茶迅速な対応である。

俺達は、アルフレリックとアルテナ達の見送りを受けながら樹海を抜け、帝都に向けて再びフェルニルを飛ばした。



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不思議な弟子

同じ名前で新作投下しました。もしよければそちらもよければ見てください
再び実力至上主義の教室へ
原作ようこそ実力至上主義の教室へ


「おい、おまえ『ドガッ!!』ぐぺっ!?」

当然、美女美少女を引き連れた俺たちが目立たないわけがなく、しきりにちょっかいを掛けられては問答無用に沈めるという事を既に何度も繰り返していた。

「うぅ、話には聞いていましたが……帝国はやっぱり嫌なところですぅ」

「うん、私もあんまり肌に合わないかな。……ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ」

「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」

「そうか?結構俺はこっちの方が好きなんだけど。」

俺の意見にみんなが驚くが

「だってさすがに教皇とかに縛られるよりも少しは自由にしたいだろ?」

「……まぁ、確かになぁ。」

すると坂上には共感を得られたのか頷く

「これはこれで国としてはありだろ?特に軍事国家としては強ければ正義弱者は悪。簡単なルールだがその分全員が平等だ。まぁ人間はな。」

俺がそういうと全員が何が言いたいのかわ分かったのだろう

目に入ってしまうそれは亜人族の奴隷達だ。使えるものは何でも使う主義の帝国は奴隷売買が非常に盛んだ。今も、シアが視線を向けている先には値札付きの檻に入れられた亜人族の子供達がおり、シアの表情を曇らせている。

傍らのユエが心配そうにシアの手を握る。ハジメも、シアのほっぺをムニムニと摘んで不器用な気遣いをする。二人の暖かさが手と頬に伝わり、シアのウサミミが嬉しそうにパタパタと動いた。

「……許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて」

ハジメ達の後ろを歩いていた光輝が、ギリっと歯噛みする。放って置けば、そのまま突撃でもしそうだ。

ハイリヒ王国は、聖教教会の威光が強く、亜人への差別意識も高い。その分、亜人を奴隷として傍に置くという考え自体が忌避されがちな風習なので、王都で奴隷の亜人を見る機会はなかった。だから余計に心に来るものがあるのだろう。

「そう言えば、雫ちゃんって皇帝陛下に求婚されたよね?」

「……そう言えば、そんな事もあったわね」

「……そうなのか?」

俺は初めて聞くことに少し驚いてしまう

「……まぁ好きな人がいるのでお断りしますって言ったけど。」

「……」

「嬉しそうだな。お前。」

「うるせぇ。さっさと冒険者ギルドに行って情報聞き出すぞ。」

俺は照れ隠しに話を逸らす

「……球児は彼等が捕まっていると考えているの?」

「十中八九な。さっきのハウリア族かなり高いステルス能力を持っていた。だから連絡もつかないとなると捕まっているって考えるのは妥当だろ?まぁ皇帝の性格上拷問はされているけど奴隷や殺されはされてないんじゃないか?あいつかなりの戦闘狂だし俺と性格が似ているからちゃんと認められてじゃないと奴隷にはしないと思うけど。」

「そういえば球児ってあの皇帝と息があったわよね?」

「お前んところのおっさんとそっくりだからな。」

「ちょっと待って。あなた私の家族を毎回なんだと思っているの?」

いや本当に似ているんですよ。ハウリア族も皇帝も。

「捕まっているなら取り返せばいいだけだ。安心しろよ、シア。いざとなれば、俺達が帝都を灰燼にしてでも取り戻してやる」

「ん……任せて、シア」

「ハジメさん、ユエさん……」

「いやいやいや、灰燼にしちゃダメでしょう? 目が笑っていないのだけど、冗談よね? そうなのよね?」

「雫ちゃん、帝都はもう……」

「諦めてる!? 既に諦めてるの、香織!?」

「まぁそれをしないために俺が作戦を考えるんだけどな。」

「……お主も苦労人じゃのう。」

「球児くん。頑張って。」

「応援はいいから手伝ってくれよ。」

そんなことをいいながら歩いていると

「……帝国もやっぱ被害は大きいな。」

「そうだね。」

道中、耳に入ってきた話によれば、コロシアムで決闘用に管理されていた魔物が、突然変異し見たこともない強力かつ巨大な魔物となって暴れだしたらしい。都市の中心分に突如出現した巨大な魔物(体長三十メートルはあったようだ)に対して後手に回った帝国は、いい様に蹂躙されたようだ。魔人族がその機に乗じて一気に皇帝陛下に迫ったらしい。その皇帝陛下自らの出陣で何とか魔物も魔人族も退けたらしいが……街の様子を見る限り代償は大きかったようである。

まぁその労働力の確保のために獣人が使われているってことか

その時、俺達から少し離れたところで犬耳犬尻尾の十歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に乗せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。足を打ったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、こん棒を片手に近寄り始めた。何をする気なのかは明白だ。

そして、それを見て黙っているわけのない正義の味方がここに一人。

「おい! やめっ……」

はぁしゃーなし。

ピンを引き抜き帝国兵の足に躓かせて転倒させる

ゴシャ! と何とも痛々しい音が響き、犬耳少年に迫っていた帝国兵はピクリとも動かなくなった。どうやら気絶してしまったようである。同僚の帝国兵が慌てて駆けつけて、容態を見たあと、呆れた表情で頭を振るとどこかへ運び去っていった。犬耳少年のことは放置である。

犬耳少年は、何が起きたのかわからないといった様子でしばらく呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると自分が散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事もなかったように手押し車で運搬を再開した

何事もなかったように俺は歩く。ろくにこいつに言っても無駄ってことはわかりきっているしな

「……」

するとハジメパーティーは気づいたようだが俺の考えていることが分かったのか何も言わずついてくる

辿り着いた帝都の冒険者ギルドを開くと

「「「「師匠!!!」」」」

「「「「……えっ?」」」」

すると王都にいた俺の弟子がなぜか帝都の冒険者ギルドに来ていた

「えっ?師匠?」

「いやなんでお前らここにいるの?三日前にお前ら王都にいたよな?」

俺が軽く冷や汗をかきながら聞く

ここから王都までは歩いて二ヶ月はかかる距離で馬でも15日はかかるはずなのだが

「師匠がいるところに私たちありですから。」

「そんなこと聞いてねぇよ。どうやって王都に来たんだって聞いているんだよ!!」

俺が突っ込むとあっといってプリントを差し出してくる

見ると簡潔な地図が書いてあった

「ん。なんだこれ。」

「シアさんの父上が閉じ込められている地下牢の場所です。」

「「「「「「……」」」」」」」」

全員が絶句で声が出ない

「あの、お前らホント何しているの?」

「師匠のやりたいことなんて私たちにはお見通しなんですよ。」

「…そ、そうか。」

もう突っ込むのも馬鹿らしくなり俺はスルーを決め込む。

「それじゃあ僕たちはこれにて。」

といって冒険者ギルドから出て行く弟子たち

「……。」

しばらく俺たちはその場から動けなくなっていた

 

「……悪い。あまりの弟子の奇行にさすがに戸惑いを隠せなかった。」

俺たちは酒場に来てマスターに情報を求めるために来ているのだが俺の弟子のせいでお通夜モードになっていた。

「あ、あぁ。さすがに俺もあれは驚いたな。」

「どうやって来たのかかなり気になるんですが。」

「冷静に考えたらマジで発狂するから話戻すぞ。んでさっきどこかのバカがテンプレでテンションが高くなってうきうきしながら手にいれた情報だと。」

「……ぐはぁ」

「球児。あんだけ丸わかりで厨二全開だと私も思っていたけどそれでも言わないであげてよ。ハジメくんも左腕が疼く期間があったんだから。」

「ゴフゥ。」

俺とメイの口撃でクリティカルを2度受け一気にHPが減る

「いや、俺そこまで言ってない。」

「ハジメくん!!」

「メイちゃん結構辛辣ね。」

みんなは戦慄を覚えるけど

「……メイ。あんまりキレるなよ。」

「分かってる。でもあんまりいい気持ちになれないでしょ?」

「まぁ女子から見たら奴隷制度ってなしだろうな。まぁマスターから聞いた情報によると多分弟子の情報が認めたくないけど多分本当のことぽいな。牢屋の位置もあっているらしい。一応警邏隊の第四隊にネディルという男がいるらしいから情報収集をハジメ頼めるか?」

「まぁ妥当な人選だな。ああ。詳しい場所を聞いて、今晩にでも侵入するつもりだ。今から、俺とユエで情報を仕入れてくるから、お前等は適当な場所で飯でも食っててくれ。二、三時間で戻るからよ」

ハジメの指示に、疑問顔を向けるシア達。

「? どうして二人だけなんですか? ……ハッ!? まさか、ユエさんとしっぽりねっとりする気ですか!? いつもみたいに! いつもみたいにっ!!」

「なっ!? そうなの、ハジメくん!? ダメ、絶対ダメ! こんな状況で何考えてるの!」

「むっ? ユエばかりずるいのぅ~。……のぅ、ご主人様よ。妾も参戦してよいかの?」

「んなわけあるかっ! 往来で何喚き出してんだよ。俺って、どんだけ空気読めない奴だと思われてんだ」

「……もう心折れそう。坂上進行役変わってくれよ。」

「さすがに嫌に決まっているだろ!!」

俺はため息を吐く。日頃服用している頭痛薬を取り出しそれを水で飲み込む。

「……お外でするの?」

「いや、しないから」

「……じゃあ、何処かに入る?」

「いや、場所の問題じゃねぇから。そこから離れてくれ」

「……むぅ、わかった。夜戦に備える」

「その夜戦は、帝城への侵入のことを言ってるんだよな? そういう意味だよな?」

もう本気で疲れて俺はぐったりしてしまう

「お、大人だぁ! 同級生が凄く大人な会話しているよぉ、シズシズ、どうしよう!」

「……やっぱりそういう事してるのね。……でも、香織はまだ? ……どうしましょう? ここは親友として応援すべき? それともまだ早いと諌めるべき?……」

「おい。そこで2人は俺を見る。」

「いや、球児もそういうこと。」

「……したくないと言ったら嘘になるけど。抑えてるな。……というよりもみんながいる前でそういうことできるかよ。」

「私は別にいいけど。」

「「えっ?」」

俺と谷口が驚く

「……私もそういうことは興味あるし。」

すると照れたようにしているシズに少しだけ苦笑してしまう

「シズシズ変わったね。」

「……ちょっと変わりすぎだけどな。」

そしてその後俺はやることがあったのでそっちの仕事に専念することになったのでシズが顔を真っ赤にして谷口がフォローするという珍しいことが起こったのは少し見てみたかった



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からかう

ツヤツヤなユエにどこかやつれたハジメが戻って来た食事処にどこか冷たい空気が流れていた。

「……お疲れ。んで情報は?」

そんなことを気にせずに俺はハジメに聞く

「お前の弟子通りだった。」

「……あいつら本当に何もんなんだよ。ちょっとした剣術と戦術しか教えてないのに。」

「さ、さぁ?」

俺とハジメは首をかしげるけど

「んで八重樫はなんで体育座りを。」

「恥ずかしくて2時間ほどあんな感じ。」

「……マジ?」

「マジマジ。」

「それで話は続けるけど吸血の影響大丈夫なの?」

「「……へっ?」」

メイがそういうとシアと香織が二人揃って間抜け顔になった。

「少し血を吸われすぎただけで影響はねぇよ。」

「だよね。もしそうなったら二人にお話しないといけなかったから本当によかったよ。……そこのバカ2人は後からしっかりお話するけどね。」

「「「「……」」」」

メイが怒気を含んだ声に俺は寒気を覚える

「……なんというかメイお前らのドンみたいになってない?」

「メイは常識人だからな。俺がやりすぎたりするとストッパーになってくれるんだよ。ホント俺なんかにもったない。いい女だよ。」

「ハジメくん」

「はいはい。のろけるはやめろ。コーヒー欲しくなるから。」

すると顔を真っ赤にするメイ。

「はぁ~、まぁいい。とにかく欲しい情報は得られた。今晩、カム達がいる可能性の高い場所に潜入する。警備は厳重そうだが、カム達を見つけさえすれば、あとは空間転移で逃げればいいから、特に難しくもないな。潜入するのは俺とユエとシアだけだ。万一に備えて、気配遮断や転移が使える方がいいし。香織達は帝都の外にいるパル達のところにいてくれ。直接転移するから」

「……それはわかったけど……そもそも、その情報は正しいの? ネディルって人が嘘を言っている可能性は……」

「そりゃないだろう。自分の股間が目の前ですり潰された挙句、痛みで気を失う前に再生させられて、また潰されて……というのを何度も繰り返したからな。男に耐えられるもんじゃない……洗いざらい吐かされた後、股間を押さえながらホロホロと涙を流すネディル君を見て、流石の俺も同情しちまったよ」

「えっぐ。」

俺は軽く引いてしまう

 そして同時に、男の股間を何度もすり潰しておいて特に何とも思っていなさそうなユエを見て、王都に聞こえていた〝股間スマッシャー〟の二つ名は伊達ではないな。

「漢女増やしてないだろうな。もうあんな化け物に会うのは嫌だぞ、」

「お前結構トラウマに残っているんだな。」

いやだって本当にあれは怖いし

「なぁ、南雲……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか? 今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」

すると天之河がそんなことを言い出すと

「代償に何を出すつもりだよ。」

俺が呆れたように突っ込む。

「え?」

「カム達は不法入国者な上に、帝国兵を殺したんだぞ? しかも、兎人族でありながら包囲されて尚、帝国側にダメージを与えられるという異質な存在だ。それを、まさか頼んだからって無償で引き渡してくれると思うのか?」

するとハジメがそれに続く

「それは……」

「対価を要求するに決まってるさ。それも思いっきり足元を見た、ドでかい対価をな。帝国にだって面子はある。唯で済ますことは出来ないだろう。あるいは、姫さんの交渉にも影響が出るかも知れないぞ? それでもいいのか?」

「それに対価は多分シズだろうな。さっき香織に聞いたらかなり気に入っているらしいし。なによりそうするくらいなら俺が帝国を潰す。」

「「「「……」」」」

「なんか、ハジメくんが球児に似たのか球児がハジメくんに似てきたのか分からなくなってきたね。」

するとメイは笑う

「それでそっちはどうだ?」

「ゴーレムによる無線探知機のオートパイロット状態でも網を貼ることに成功した。一応安全な侵入経路も別ルートで計算済みだ。それと警備の交代時間もな。」

「……有能すぎて後がこえぇよ。」

「こういった暗躍は日本でもよくやってきたからな。これくらい余裕のよっちゃんだ。」

「……突っ込まねぇぞ。」

俺は苦笑し

「それでなんだけど。潜入のために陽動を頼みたいんだけど。」

「必要なのか?」

「作戦の成功を上げるためだ……まぁその作戦をハジメが立ててくれないか?」

「俺がか?」

「あぁ。相手を怒らせるやり方はお前の十八番だろ?誰がとは言わないが。」

「……」

俺の意図が分かったのだろうすると妙に生き生きし始めるハジメ

ユエは俺が何を言いたいのか分かったのか呆れたように俺を見る

「なぁ、天之河。一つお前に頼みがあるんだが……」

「っ!!!? なん……だって? 南雲が俺に頼み? ……有り得ない……」

ハジメからの突然の頼みという言葉に天之河は愕然とした表情で硬直する。それは隣の坂上や谷口も同じだった。まるでUMAと街中でばったり遭遇してしまったかのようだ。それくらいハジメからの〝頼み〟というものは、今までの言動からしてあり得ないしな

「あ~、いや、やっぱりいい。こんな危険な事、お前には頼めない。済まないな、忘れてくれ」

「ま、待てっ、待ってくれ! まずは何をして欲しいのか教えてくれ……」

うまいな。俺はニヤニヤと笑いながらその様子を見つめる

「いやな、帝城に侵入するといっても警備は厳重すぎるくらい厳重だ。だから、少しでも成功率を上げるために陽動役をやって欲しかったんだよ。……例えば、さっきの犬耳少年のような亜人を助けるという建前でひと暴れして帝国兵を引き付ける……とかな。ああ、だが、危険すぎるよな。忘れてくれ」

いや、俺のルートがなくてもお前らが侵入できる訳がないってことはないだろう。基本大半は憂さ晴らし。もう一つは俺達も手伝うぞ! とか言って帝城に潜入してこないようにしたんだろうな。

「陽動……あの子達……やる。やるぞ! 南雲! 陽動は任せてくれ!」

「お、おう、そうか、引き受けてくれるかぁ、流石、勇者だな……うん。そんな素敵な勇者達には、これを贈呈してやろう」

 そう言ってハジメは〝宝物庫〟から鉱石をいくつか取り出すとパパッと錬成して四つの仮面を作り出した。

その仮面はそれぞれ赤、青、黄、ピンクに分かれており、某戦隊もののヒーローを思わせるフルフェイスタイプだった

「……南雲……これは?」

「見ての通り仮面だ」

「………………なぜ?」

「なぜってお前、勇者が帝都で脈絡なく暴れるとか不味いだろ? 正体は隠さないと。そして、正体を隠すと言えば仮面だ。古今東西、ヒーローとは仮面を被るもの。ヒーローとは仮面に始まり仮面に終わるんだ。ちゃんと区別がつくように色分けもしてあるだろ?」

「え? いや、いきなり、そんな力説されても……まぁ、確かに正体は隠しておいた方がいいというのはわかる。リリィの迷惑にもなるだろうし……でも、これは……」

「さっき天之河はやるって言ったろ?男なら一度言ったことなら守るよなぁ?」

俺は笑いながらいうとすると気付いたようだ

はめられたと

「……心配するな勇者(笑)。お前には、ちゃんとリーダーの色、〝赤〟をくれてやる」

「……なぁ、今、勇者の後に何かつけなかったか?」

「坂上、お前は青だ。冷静沈着を示す青。黒とどっちにするか迷ったが、お前のためにも青がいいと判断した。我ながら英断だったと思う」

「お、おう? なんかよくわからんが、くれるってんなら貰っとくぜ」

「そして谷口、お前は……」

「ピ、ピンクかな? かな? ちょっと恥ずかし……」

「黄色だ。あれ? いたの? の黄色だ。お調子者の黄色だ。いろんな意味で微妙の代名詞、黄色だ」

「……ねぇ、南雲君って、もしかして鈴のこと嫌いなの? そうなの?」

「そして最後……八重樫は……」

「待ちなさい、南雲君。もう一つしか残っていないのだけど……まさかよね?」

「八重樫、もちろん、残っているピンク、それがお前のカラーだ」

「嫌よっ! っていうか、仮面以外にも正体を隠す方法なんていくらでもあるでしょう? 布を巻くくらいでいいじゃない! 南雲くん、あなた、確実に遊んでいるでしょ!」

当たり前だよなぁ。俺は笑いを精一杯こらえながらぷるぷると震えている

「いいか? 正体を隠すなら確実に! だ。その仮面はちゃんと留め金が付いていて、ちょっとやそっとでは外れない上に、衝撃緩和もしてくれる。更に、重さを感じさせないほど軽く、並の剣撃じゃあ傷一つ付かない耐久力も併せ持っているんだ」

「あ、あの一瞬でそこまでのものを……なんて無駄に高い技術力……」

「そして八重樫、お前のように普段キリッとしたクールビューティータイプは、実は可愛らしいものが好きというのが定番だ。故に、わざわざ気遣ってピンクにしてやったんだ。感謝しろ」

「な、なんという決めつけ……わ、私、別に可愛いものなんて……」

「あっ、当たってるよ、ハジメくん! 雫ちゃんの部屋ぬいぐるみで一杯だもん」

ハジメの決めつけを咄嗟に否定するシズだったが、そこでまさかの裏切り。香織がシズの趣味を暴露する。

「……そういえば、昔から動物も好きだったよな。特に、ウサギとかネコとか……」

「!」

「ああ、シズシズの携帯の待ち受けもウサちゃんだったよね~」

「!」

「ゲーセンとか寄ったりすると、必ずUFOキャッチャーやるよな。しかも、やたらうめぇし」

「!」

「ついでにこいつのつい最近までの夢お姫様になりたいってことだしな。」

「!」

「なるほど、それで雫さん、私のウサミミをいつもチラ見していたんですね?」

「!!!」

「……八重樫。さぁ、受け取れ。ピンクは……お前のものだ」

いつになく優しげな眼差しでピンクの仮面をそっと差し出すハジメ。何故か、ハジメ以外の全員も、妙に優しげな眼差しで贈呈式を見守っている。いつの間にか、仮面を受け取らないという選択肢がなくなっていることには誰も気がつかない。

「……なんなのよ、この空気……言っておくけど、私、ホントにピンクが好きなわけじゃないんだからね? 仕方なく受け取っておくけど、喜んでなんかいないから勘違いしないでよ? あと、小動物が嫌いな人なんてそうはいないでしょ? だから、私が特別、そういうのが好きなわけじゃないから……だから、その優しげな眼差しを向けるのは止めてちょうだい!」

「なお、こいつの一番好きな色ピンクだから。」

「球児!!」

すると顔を真っ赤にさせるシズに俺は笑いが堪えきれず爆笑してしまう

恥ずかしいからなのか必死に否定するものの、シアがこっそり「雫さんなら少しくらいウサミミ触ってもいいですよ?」というとデレっと相好を崩したので虚しい努力だった。

 

なお何が起こったのか知らないのだが後に、帝国兵の間で「仮面ピンクの恐怖~奴はいつも君を見ている」という都市伝説が広まり自分だけと……と、仮面ピンクの中の人をなだめるのに時間をかけたのはまた別の話



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恩返し

俺はハウリア達は、お互いに肩を叩き合い、鳩尾を殴り合い、クロスカウンターを決め合って、罵り合いながら無事を喜び合っているのを片手に少し今後のことについて考えていた

というのも帝国側のハウリア族の心象を俺は偶然小型ゴーレムで聞いてしまったことが原因だった

そうすると急に風きり音が聞こえ俺は鞘でそれを受け止める

「シズどうした?」

鞘を収めた状態で殴りかかった襲撃者の正体はシズだった。力を加えられていることがわかるのだがそれでも俺のステータスの関係上効かないことはしっているだろう

「……ストレス発散のために球児に甘えてみただけよ。大丈夫、私は、球児を信じているわ。そのマリアナ海溝より深い度量で受け止めてくれるって……だから大人しく! 私に! タコ殴りに! されなさい!」

「あ〜でも結局お前受け取ったじゃねーか。自業自得だろ?」

「そうだけど。そうだけども一発、殴らずにはいられない、この気持ち! 男なら受け止めなさい!」

「理不尽だなぁ。でも。あめぇよ」

俺は軽く足を引っ掛けるとすると体制をシズは崩し俺は剣を弾きそして倒れそうになったところを抱き寄せる。

「えっ?」

「怒りに任せすぎ。お前の持ち味が死んでいるぞ。」

「……」

すると顔を真っ赤にしているシズ。

俺は少し苦笑し人が集まり始めたのでシズを離すとするとあっと小さく呟くのを聞こえた

すると残念そうにしていたのだが俺の手を握ってくる

まぁしばらくは繋いでいても多分大丈夫だろう。追手もいないことを考えると俺はハジメに伝える

「……思っていたよりも結構ハウリア族は追い詰められている。」

俺がハジメにいうと驚いていたが話を聞くらしく俺の方を見る

「亜人奴隷補充の為に、疲弊した樹海にやって来た帝国兵を、カム達ハウリア族は相当な数、撃破していることはしっているよな。それが、帝国兵をかなり警戒させたらしい。というのも、単なる戦闘の果ての撃破ではなく味方の姿が次々と消えていき、見つけた時には首を落とされているという暗殺に近い形だったからだ。帝国にもいい軍師がいたのか皇帝が考えたのか知らないがハウリア族を帝都におびき寄せ罠にかけたらしい。」

「…それがカムたちってことか?」

「あぁ、予想外ってこともあったのか愛玩奴隷である兎人族に皇帝が興味が湧いたらしい。連日、取り調べを受けていたわけだ。あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と所持していた装備の出所、そして、フェアベルゲンの意図ってところです。どうやら、あいつらをフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようだな。」

「……お前がそれを報告するってことはかなり酷い状況ってことか?」

「あぁ。……多分そこのリーダーは分かっているだろうから自分の口から報告した方がいいだろ?もう意志は固めているらしいからな。」

「……お察しのとうりです。ボス。この方は。」

「勇者の大久保球児だ。」

「「「えっ?」」」

「大久保球児。天職は勇者だ。」

俺はステータスを投げる。

「「「……」」」

俺はステータスを見せると全員が固まる

大久保球児 17歳 男 レベル:200

天職 勇者

筋力 2100

体力 21000

耐性 10500

敏捷 7550

魔力 2100

魔耐 10500

 

技能 全属性適性[+全属性効果上昇][+威力上昇][+消費魔力低下]・全属性耐性[+全属性効果上昇]・状態効果無効・物理耐性〔身体強化〕・魔法耐性・痛覚耐性・魔力操作[+身体強化Ⅲ][+部分強化Ⅲ][+変換効率上昇Ⅳ][+集中強化Ⅲ][+時間拡大Ⅶ]・複合魔法・剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子][+最期の行動]・剛力・縮地・先読[+投影]・高速魔力回復・気配感知[+特定感知][+範囲拡大特大]・魔力感知[+特定感知]・限界突破[+覇潰][起死回生]・言語理解 体術〔+反撃〕 投擲〔+必中〕 回避 統率 庇う〔+全員守護] 増強 不眠 隠蔽 同時思考 暗躍 指導

固有技能 上限突破[覚醒] 真の支配者[+契約] 天才肌〔+熟練度増加][+討伐経験値] 

「……勇者様でしたのですか?」

「あぁ、まぁクラスのやつもシズ以外に知っている奴らはいないけどな。」

「あんたスキルかなり増えているわね。」

「まぁ使う機会最近多いしなぁ。」

すると

「……お前今まで何で。」

「勇者は1人いればいいんだよ。2人いたら混乱を招くだけ。生憎俺は勇者って柄よりも後ろから人を操るのが好きなんだよ。」

「……でも。」

「生憎俺は勇者だけど、王国に協力する気はさらさらなかったしな。今は実質姫さんが実権を持っているだけ協力しているだけだ。俺も正直ハジメと同じ考えだしな。」

俺は少しだけため息吐く

「とりあえず俺のことよりそっちだろ。」

「そうだな。さっさと本題を言え。」

「失礼しました、ボス。では、本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は……帝国に戦争を仕掛けます」

俺とハジメ、カムを含めたハウリア族以外は、一切の動きを止めて硬直していた。理解が追いついていないのか、あるいは驚愕の余り思考停止に陥ったのか。周囲に静寂が満ちて、僅かに虫の奏でる鳴き声が夜の岩石地帯に響く。

その静寂を破ったのはシアだった。

「何を、何を言っているんですか、父様? 私の聞き間違いでしょうか? 今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが……」

「シア、聞き間違いではない。我等ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った」

「ばっ、ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ! 何を考えているのですかっ! 確かに、父様達は強くなりましたけど、たった百人とちょっとなんですよ? それで帝国と戦争? 血迷いましたか! 同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」

「シア、そうではない。我等は正気だ。話を……」

「聞くウサミミを持ちません! 復讐でないなら、調子に乗ってるんですね? だったら、今すぐ武器を手に取って下さい! 帝国の前に私が相手になります。その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます!」

怒りのあまり武器を引き抜き豪風と共に一回転させてビシッ! とカムの眼前に突きつけるシア。その表情は、無謀を通り越して、唯の自殺としか思えない決断を下したカム達への純粋な怒りで満ちていた。

「ちょっと待ってシア。球児も同じ判断ってことでいいの?」

「あぁ。最悪ハウリア族だけではなく亜人まで被害が及ぶ可能性がある。一応こいつらは口であぁこう言ってながら仲間を見捨てないのがハウリア族の特徴だ。そう考えるとなるとやっぱり戦争が最善手になるんだよ。」

「……どういうことですか?」

俺を睨むシアに俺はそれをどう説明しようか考えたところ

「ひゃぁん!? だめぇ、しょこはだめですぅ~! ハジメしゃん、やめれぇ~」

 シアは、早々に崩れ落ちると四つん這い状態になってハァハァと熱い吐息を漏らしつつ、恨めしげにハジメを睨んだ。しかし、その瞳も熱っぽく潤んでいて、艶姿を強調する以外の役割は果たしていない

俺は少しきょとんとしてしまうが

ハジメは、シアのウサミミを撫でた。優しげで労わるような手つきで気持ちよさそうに目を細めた。

多分あいつらなりの落ち着かせるものなんだろう

「どうだ、少しは落ち着いたか? カムの話はまだ終わっていないんだ。ぶっ飛ばすのは全部聞いてからでも遅くはないだろ?」

「うっ……そうですね……すいません。ちょっと頭に血が上りました。もう大丈夫です。父様もごめんなさい」

「家族を心配することの何が悪い? 謝る必要などない。こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったな。……最近どうも、そういう気遣いを忘れがちでなぁ。……それにしても、くっくっくっ」

「な、なんですか、父様、その笑いは……」

「いや、お前が幸せそうで何よりだと思っただけだ。……ボスには随分と可愛がられているようだな? うん? 孫の顔はいつ見られるんだ?」

「なっ、みゃ、みゃごって……何を言ってるんですか、父様! そ、そんなまだ、私は……」

「……はぁ。話進みやしない。」

俺はため息を吐きながらポケットから頭痛薬を飲む

「カム、まさかと思うがその話をしたのは、俺に参戦を促す為じゃないだろうな?」

「ははっ、それこそまさかですよ。ただ、こんな決断が出来たのも、全てはボスに鍛えられたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ」

「理由については俺も情報を集めていたときに集められたから帝国サイドのことを考えて俺が話す。そうしないと話が進みやしないからな。」

「……お前結構根に持つタイプだろ。」

「シアもいいな。」

「はい。すいません。大久保さん。」

そして俺は一息つき

「先程も言った通り、兎人族は皇帝の興味を引いてしまった。それも極めて強い興味をな。帝国は実力至上主義を掲げる強欲な者達が集う国で、皇帝なんかが典型的な例だ。そして、弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観がある。」

「つまり、皇帝が兎人族狩りでも始めるって言いたいのか? 殺すんじゃなくて、自分のものにするために?」

「肯定です。尋問を受けているとき、皇帝自らやって来て、〝飼ってやる〟と言われました。もちろん、その場でツバを吐きかけてやりましたが……」

皇帝の顔にツバを吐いたというカムの言葉に、ハウリア達は「流石、族長だぜ!」と盛り上がり、光輝達は「あの皇帝に!?」と驚愕をあらわにした。

すると最高潮に盛り上がる兎達だが

「「黙れ(って)」」

俺とメイが殺意を出し場を黙らせる。

真剣にまずい話だ。途中で話がそれると大変なことになる

「しかし、皇帝に逆に気に入られた。全ての兎人族を捕らえて調教してみるのも面白そうだなどと、それは強欲そうな顔で笑っていたらしい。まぁあいつの性格なら本当のことだろうな。俺もあったことがあるけど強いものと戦うことに楽しみを覚えている皇帝だ。再び樹海に進撃して、今度はより多くの兎人族を襲うでしょう。また、未だ立て直しきれていないフェアベルゲンでは、次の襲撃には耐え切れない。そこで、もし帝国から見逃す代わりに兎人族の引渡しでも要求されれば……」

「なるほどな。受身に回れば手が回らず、文字通り同族の全てを奪われる……か」

「正解。ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。他の兎人族の未来が奪われるのはハウリア族は見捨てることができない。だから戦争でしかない。自分の不手際は自分で拭う。それがお前が鍛えたハウリア族の信念だろう。先生を助けた時のお前と状況が似ているしな。これが俺が戦争でしかないって答えた理由だ。」

「肯定です。しかし勇者どのそんなことがあったんですか?」

「あぁ。まぁ俺もこいつに借りがあるからなぁ。それと球児でいい。勇者は一応天之河ってことになっているからな。」

俺はそういうと黙りこむ。これは

「だが、まさか本気で百人ちょいなんて数で帝国軍と殺り合えるとは思っていないだろう?」

「もちろんです。平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突など有り得ません。我等は兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません」

そう言って、ニヤリと笑うカム。それでハジメもカムの意図を察する。

「つまり、暗殺か?」

「肯定です。我等に牙を剥けば、気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……それを実践し奴らに恐怖と危機感を植え付けます。いつ、どこから襲われるかわからない、兎人族はそれが出来る種族なのだと力を示します。弱者でも格下でもなく、敵に回すには死を覚悟する必要がある脅威だと認識させさます」

「皇帝の一族が、暗殺者に対する対策をしていないと思うか?」

「もちろんしているでしょうな。しかし、我等が狙うのは皇帝一族ではなく、彼等の周囲の人間です。流石に、周囲の人間全てにまで厳重な守りなどないでしょう。昨日、今日、親しくしていた人間が、一人、また一人と消えていく。我等に出来るのは、今のところこれくらいですが、十分効果的かと思います。最終的に、我等に対する不干渉の方針を取らせることが出来れば十全ですな」

えげつないが悪くはない手だ

「だけどそれじゃあ限界がくる。」

俺がそういうとハウリア族は俺の方をみる

「悪いけど戦争で一番怖いのは数の暴力だ。暗殺っていうのは街中や森の中では確かに有効だ。皇帝が側近や子供を何とも思っていない場合それは意味がない。」

「……」

「……それじゃあどうしろと。」

「……悪いハジメ3日俺にくれないか?」

俺がそういうと全員が俺を見る

「……策があるのか?」

「あぁ、ちょうど姫さんがいるんだ。姫さんに貸しを作ることになるがハウリア族を勝たせる方法が一つだけ思い浮かんでいる。俺はシアにもクラスメイトを助けてもらった恩があるし。生憎暗躍についてはハジメよりも俺の方が向いている。その代わりここの全員の協力が必要になるが、勝算はかなり高い。それもハウリア族以外は戦わなくていい方法だ。」

「……ほう。」

「暗殺は一度牙を剥いたならその場で仕留める。1日だ。1日でケリをつける。それに」

俺は一息つき

「元々助けるつもりなんだろ?」

俺はそういうとハジメははぁとため息を吐く

「お前なんで分かるんだよ。」

「親友だからだろ?お前こそ俺が策があったことに気づいていたくせに。」

「……たく。」

するとハジメがハウリア族の前に立つ

「今回の件は、ハウリア族が強さを示さなきゃならない。容易ならざる相手はハウリア族なのだと思わせなきゃならない。この世界において亜人差別が常識である以上、俺が戦って守ったんじゃあ、俺がいなくなった後に同じことが起きるだけだからな。何より、カム達の意志がある。だから、俺は一切、戦うつもりはない。それでも勝てるのか?」

「当然。ハウリア族がヘマをしないんであればな。」

すると俺の挑発にハウリア族が反応する

「カム、そしてハウリア族。お前等は直接、皇帝の首にその刃を突きつけろ。髪を掴んで引きずり倒し、親族、友人、部下の全てを奴の前で組み伏せろ。帝城を制圧し、助けなど来ないと、一夜で帝国は終わったのだと知らしめてやれ! ハウリア族にはそれが出来るのだと骨の髄に刻み込んでやれ! この世のどこにも、安全な場所などないのだと、ハウリア族を敵に回せば、首刈りの蹂躙劇が始まるのだと、帝国の歴史にその証を立ててやれ!」

辺りに静寂が満ちる。誰もが、ハジメの気勢に呑まれて硬直している。ゴクリッと生唾を飲み込む音がやけに明瞭に響いた。

ハジメは、周囲を睥睨しながら、スッーと息を吸うと雷でも落ちたのかと錯覚するような怒声を上げた。

「返事はどうしたぁ! この〝ピー〟共がぁ!」

「「「「「「「「「ッ!? サッ、Sir,Yes,Sir!!」」」」」」」」」

「聞こえねぇぞ! 貴様等それでよく戦争なんぞとほざけたなぁ! 所詮は〝ピー〟の集まりかぁ!?」

「「「「「「「「「「Sir,No,Sir!!!」」」」」」」」」」

「違うと言うなら、証明しろ! 雑魚ではなく、キングをやれ!!」

「「「「「「「「「「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」」」」」」」」」

「貴様等の研ぎ澄ました復讐と意地の刃で、邪魔する者の尽くを斬り伏せろ!」

「「「「「「「「「「ビヘッド! ビヘッド! ビヘッド!」」」」」」」」」」

「膳立てはするが、主役は貴様等だ! 半端は許さん! わかってるな!」

「「「「「「「「「「Aye,aye,Sir!!!」」」」」」」」」」

「宜しい! 気合を入れろ! 新生ハウリア族、百二十二名で……」

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

「帝城を落とすぞ!」

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」」」」」」」」」

すると熱狂するハウリア族に俺はニヤリと笑う

「……あんたね。」

呆れたように俺を見るシズ。

「恩を作りぱなしじゃダメだろ?俺たちだって恩を返していかないと。」

「そういえば、大久保くんって恩をシズと同じで大切にしているよね?」

「当たり前だろ?俺は1人の人間であると同時に剣士だ。恩は大切にしないとな。」

「意外だな。そんなこと微塵もないと思っていたんだが。」

失礼すぎる坂上だけどまぁ普段の俺からじゃ微塵もないしな

苦笑をしながら俺はニヤリと笑う

俺の本当の目的を達成するために



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詐欺師

ヘルシャー帝国を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅二十メートル近くある深い水路と、魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁で囲まれている。水路の中には水生の魔物すら放たれていて城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

帝城に入れる者も限られており、原則として魔法を併用した入城許可証を提示しなけばならない。跳ね橋の前にはフランスの凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入城検査をクリアしないと、そもそも跳ね橋を渡ることすら出来ないのだ。不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物がはびこる水路にその場で投げ入れられるとか……

詰所での検査も全く容赦がない。たとえ、正規の手続きを経て入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品一つ一つに至るまできっちり検査される。なので、荷物に紛れ込んでの侵入なども、もちろん不可能だ。

つまり、何が言いたいのかというと、帝城に不法侵入することは至難中の至難であるということだ

「シズ。お前くっつきすぎじゃないか?」

というのも腕に抱きつき

「雫よ。今更感あるけど雫って呼んで頂戴。」

「……ん?」

「前にあった時にしつこく言い寄られたって。だから。」

あぁいつもの建前か

「本当に今更だな。これでいいか雫。」

「……えぇ。」

すると笑う雫に少し笑ってしまう

「お前らいちゃつくのは後からにしろ。」

「それお前だけには言われたくない。」

すると数人が頷く。

「次ぃ~……見慣れない顔だな。……許可証を出してくれ」

門番の兵士が俺達を見て訝しげな表情になる。

帝城内に入ることの出来る者が限られている以上、門番からすれば大抵は知っている顔だ。そして、たとえ初めての相手であっても帝城に招かれるような人物は大抵身なりが極めて整っているのが普通である。なので、俺達のように、どこぞの冒険者のような装いの者は珍しいのだ。それこそ胡乱な目を向けてしまうくらいに。

「いや、許可証はないんですけど、代わりにこれを……」

「は? ステータスプレート? 一体……」

当然、ハジメ達は帝城に入るための許可証など持ってはいない。だが、ここで光輝の立場が役に立つ。何せ、彼は〝勇者〟。世間一般では対魔人族戦において神が遣わした人間族の切り札であり〝神の使徒〟なのだ。たとえ、実態が伴っていなくとも。

許可証を持っていない時点で剣呑な目付きになった門番だったが、渡されたステータスプレートに表示された〝勇者〟の文字に目を瞬かせ、何度も天之河の顔とステータスプレートを交互に見る。その門番の様子に、周囲の同僚達が何事かと注目し始めた。

「えっと……勇者……様、ですか? 王国に召喚された神の使徒の?」

「あ、はい、そうです。その勇者です。こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのですが……ちょっと事情があって」

「は、はぁ……」

しかし、相手は自分達が信仰する神の使徒であり、きっと秘密の使命でも帯びていたに違いないと勝手に納得して、取り敢えず、上に取り次いでくれるらしい。

流石に、勇者と言えど、入城者の予定表にない者を下っ端門番の一存で通すような勇気はないので、待たせる失礼に戦々恐々としながら数人の門番が猛ダッシュで帝城の方へ消えていった。

待つこと十五分。

谷口とシズと話ながら待っていると

「こちらに勇者殿一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

「あ、はい、そうです。俺達です。」

そう言って姿を見せたのは、一際大柄な帝国兵で、周囲の兵士の態度からそれなりの地位にいることが窺える。

その過程で、死角の位置にいたシアに気がつくと驚いたように大きく目を見開く。そして、何が面白いのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。いきなり向けられた嫌な視線に、シアが僅かに身じろぐ。

本当にわかりやすい性格だな

「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。既に、勇者御一行が来られたことはリリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。部下に案内させましょう。……ところで、勇者殿、その兎人族は? それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

「え? いや、彼女は……」

そして、彼がなぜシアに注目するのか、その理由を察せられる質問をした。

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ。……俺の部下はどうしたんだ?」

「部下? ……っ…あなたは……」

あぁなるほどそういうことか

大勢の家族を殺し、拉致し、奴隷に落とし、そして、シア達を【ライセン大峡谷】へと追いやった敵。

「おかしいよな? 俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ? あぁ?」

「ぅあ……」

「雑魚だからに決まっているだろ?てか早く案内しろや。いい加減待ちくたびれたんだよ。」

すると俺を睨むグリッド

「……てめぇ。」

「ほれ。招待状。」

俺は前にもらった帝城での招待状を見せる

「……へ?」

「皇帝陛下からもらった招待状だ。……前に皇帝陛下と手合わせした時に戻るときにもらったんだよ。」

すると全員が俺の方を見る

何で持っていたのに黙っていたっていうことだろう

ハジメをちらってみるとするとため息を吐き

「おい、下っ端」

そのタイミングと言い様にグリッドが怒りで頬を引き攣らせながら視線を転じると、そこには鬱陶しそうな眼差しを向けるハジメの姿があった。

「なに……」

「口を開くな、下っ端。お前の役目はもう終わったんだろうが。いつまでもくだらない事で足止めしてんじゃねぇよ。ガタガタ言ってないで、さっさと案内させろ」

「てめ……」

「黙れという言葉の意味すら理解できないのか? 俺達に、お前のために使ってやる時間は微塵もねぇんだ。身の程を弁えろ」

 ハジメの、まるで町中で絡んできたチンピラを相手にするような態度にグリッドの顔が真っ赤に染まる。怒りの余り、眼も血走り始めた。それでも、連隊長として自制を利かせることは出来るようで、まさか〝神の使徒〟一行に切り掛るわけにはいかないのだろう、黙って背後の控えさせていた部下に視線で案内を促す。

俺達は青ざめた表情の案内役に従って巨大な吊り橋を渡っていった。

 

「それで?」

帝城の一室に案内された俺達を待ち構えていた姫さんからの第一声がそれだった。満面の笑みを浮かべているものの、目は笑っておらず声音は冷たい。言外に「事情を説明しろや、ゴラァ!」と言っているのが分かる。

「帝都での茶番といい、一体全体どうして皆さんがここにいるのですか? 納得の出来る説明を求めます。ええ、それはもう強く強く求めます。誤魔化しは許しませんからね! 特に、南雲さん! 絶対、裏で糸を引いているのは貴方でしょう! 他人事みたいにシアさんのウサミミをモフらないで下さい! ユエさんも何でシアさんのほっぺをムニムニしているんですか!」

「姫さんシアは今不安定だから今は許してくれ。」

「不安定ですか?どこか具合でも?」

「違う違う。さっき亜人狩りのリーダーに会ってきてそれを引きずってはないと思うけど。殺したい気持ちを我慢しているんだよ。一応こうなることが分かっていたから帝城の招待券を隠し持っていたのが正解だったな。兎耳の奴隷じゃないなんて今はここではどんな迫害の対象になるか分からなかったし。」

「……お前そんなこと考えていたのか?」

坂上が驚いているが

「当たり前だろ?ただでさえ亜人は迫害の対象なんだ。対策をしないと姫さんと謁見の許可は降りないだろう。ただでさえ教会は亜人を迫害しているのに。」

「……まぁ意味がないことは球児はやらないから。でも先にそれを教えてくれても。」

「言わないから意味があるんだよ。15分も皇帝陛下のお客を待たせたとなるとさすがに相手は即刻行動を移さないといけない。特にそれが勇者パーティーの1人から出されたんだ。自分の部下の心配よりも自分の身を心配するに決まっているだろうが。それまでにあっち側に伝えない必要があった。ここには顔に出やすい奴が何人かいるからな。」

「鈴、大久保くんは勇者より詐欺師の方が合っていると思う。」

「谷口。お前今日開かれるパーティーに出たくないんだな。」

「……ごめんなさい。」

「あれ?知っているのですか?」

「処分を軽くしてやるって脅したからな。」

「…大久保さんが実は一番敵に回したらいけないタイプってことだけは分かりました。」

姫さんがため息を吐く

「それで、なぜこちらに来たのですか? 樹海での用事は? それと、昨夜の仮面騒動は何なのです? もうそろそろ、ガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。口裏を合わせる為にも無理を言って先に会う時間を作ってもらったのですから、最低限のことは教えてもらいたいのですが」

「まぁ、そう慌てるなよ、姫さん。夜になれば全部わかる。俺達のことは……用事が早く片付いたから、遠出する前に立ち寄った……くらいに言っておけばいいさ」

「そ、そんな適当な……夜になればわかるって、まさか、また仮面でも着けて暴れる気ですか? わかっているのですよ! 雫達に恥ずかしい格好をさせたのは南雲さんだって!」

「そうカリカリするなよ。ハゲるぞ、姫さん」

「ハゲませんよ! 女性に向かって何てこと言うのですかっ!」

「……ストレスハゲ」

「ユエさん!?」

「雫元気だせって。悪かったから。」

「恥ずかしい格好……」

と姫さんと雫を慰めた後姫さんから聞き出したところでは、どうやら既にガハルド陛下には、聖教教会の末路や狂った神の話が伝えられたようだ。

しかし、流石は実力至上主義、実利主義の国のトップだ。それなりの衝撃はあったようだが、どちらにしろ今までとやることは変わらないと不敵に笑ったそうだ。すなわち、敵あらば斬る、欲しいものは力で奪う、弱者は強者に従え! というわけだ。

中々肝が座っている

 それよりもガハルドとしては、姫さんがどうやって帝国に来たのか、その方が気になっていたらしい。

つまり、王国襲撃の顛末はわかったが、それから姫さんが帝国にやって来るまでの期間が早すぎるというわけだ。帝国としても王国との連携については直接的な協議の必要性を感じていたので助かりはしたのだが、いくら何でも襲撃の八日後に帝国に到着するのは有り得ない。

……そういえばあいつらどうやって来たんだろう

同時に、王国がどうやって魔人族の軍勢を追い返したのか、その方法にもかなり興味を持たれているようだ。

魔人軍に壊滅的打撃を与えた〝光の柱〟については、ガハルドに神の話をする以上、〝天の裁き〟という言い訳が通用しない。となると、当然、誰かが一撃で軍を滅ぼせる攻撃手段を持っていると判断するのが自然な流れだ。その事実は、ヘルシャー帝国皇帝としても、一個人としても看過できることではない。

調べれば直ぐに分かることなので、事前にハジメから許可を貰っていた姫さんは、特に困ることもなくハジメの事を話したらしいが

姫さんが不憫すぎる

内心かなり同情してしまうけど口には出さなかっただけマシだろう

姫さんから、ある程度、帝国側との協議内容について聞いたところで部屋の扉がノックされた。どうやら時間切れらしい。案内役に従って、俺達はガハルドが待つ応接室に向かうことになった。

 



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皇帝陛下

通された部屋は、三十人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。そのテーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる男――ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーがいた。彼の背後には二人、見るからに〝できる〟とわかる研ぎ澄まされた空気を纏った男が控えている。

そして、部屋の中に姿は見えないが、壁の裏に更に二人、天井裏に四人、そして閉まった扉の外に音もなく二人が控えているのを俺はしっかりと感じ取っていた。ガハルドの背後に控える男二人程ではないが相当の手練である

「久しいな。キュウジ。」

俺らが入ってすぐに勇者やハジメ、王女に挨拶するよりも早く俺に話しかけた

「お久しぶりです。皇帝陛下。」

俺は営業スマイルモードになるとジト目で俺を見るクラスメイトと姫さん。

「お前前の態度はどうしたんだよ?」

「……あんたが急に襲ってきたのが問題だろうが。」

「似合わねぇ喋り方してぇねぇで、普段通り話しな。てか何お前雫を侍られているんだよ。」

「雫は俺の女だから当たり前だろうが。」

すると隣にいたシズが顔を真っ赤にして球児の女ってブツブツ呟いていたが

「……はぁ。まぁ大体それは分かってはいたがしかしお前色々やらかしていたな、さすが形だけの勇者君とは違うな。本物の勇者くん。」

「……チッ。」

相変わらず食えないおっさんだ

「はぁ、俺の正体なんかはどうでもいいだろ?それよりも。」

「いや、それが大きな問題なんだよ。」

すると妙に真剣な顔になるガハルド

「……王宮でも、そこの南雲ハジメほどではないが大いに暴れたらしいじゃないか。生憎そんな奴が敵に回るのは。」

「悪いけどそれなら雫と姫さんに手を出さなければいいだけだろ?」

「……ん?リリアーナ姫も含まれるのか?」

するとガハルドは俺の方を驚いたように見る

「当たり前だろうが。姫さんにどれだけ世話になったんだと思っているんだよ。恩はしっかり返す。それが武人として当然のことだろうが。」

「……さすが忠犬。」

「うっせぇ。ほっとけ。」

俺が少しため息を吐く

「お前が、南雲ハジメか?」

軽く威圧が放たれるが俺とハジメパーティー以外は後退りする

まぁ俺たちはそこの皇帝より強いこともあるだろうけど

そんなハジメ達を見て、ますます面白げに口元を吊り上げるガハルドに、ハジメが返事をする。

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」

「「「「「!?」」」」」

 胸に手を当てて軽くお辞儀しながら、そんな事を言うハジメに天之河達が驚愕の視線を向けた。

一応奈落におちるまではこいつも礼儀はこいつの両親からの指導を受けたと聞いている。まぁいつもTPOなにそれおいしいの状態だしな。

「ククク……思ってもいないことを。普段の傍若無人な態度はどうしたんだ? ん? 何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?」

しかし、ガハルドは笑い声を漏らしながら揶揄する。

「おい、ハジメ自業自得だろうが。一応こいつ本物の王女だぞ?それを忘れたとか迷惑かけまくって、後始末するの俺と姫さんなんだぞ。主に姫さんを慰める的な意味で。」

「……お前本当に苦労しているんだな。」

「どこかの頭のおかしい錬成師と勇者(笑)のせいだけどな。」

すると目線を逸らすハジメに俺はため息を吐く

「なんかキュウジ苦労しているんだな。」

「いい胃薬と頭痛薬があれば欲しいくらいだよ。」

「……後から準備をしておこう。」

「マジで頼む。最近減りがものすごく早いんだよ。」

マジで禿げそうでやばい

「それで本題に入るがお前の異常性についてだ」

今までの覇気を纏いつつもどこかふざけた雰囲気を含ませていたのとは異なり、抜き身の刃のような鋭さを放ち始める。

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前が、大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると……魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

「ああ」

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」

「ああ」

「ふん、一個人が、それだけの力を独占か……そんなことが許されると思っているのか?」

「誰の許しがいるんだ? 許さなかったとして、何が出来るんだ?」

ハジメの簡潔な返しにガハルドが目を細める。

「あっついでに言うけど俺が絶対に勝てない相手がハジメだからあまり刺激しない方がいいぞ。国を思うのであればな。」

俺が軽く忠告する。

「……ほう。」

すると多分色々な駆け引きをしているのだろう。俺はそれをのんびり見ていると

「はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつは正真正銘の化け物だ。今やり合えば皆殺しにされちまうな!」

ガハルドが豪快に笑いながら、覇気を収めた。それに合わせて周囲の者達も剣呑な空気を収めていく。

「なんで、そんな楽しそうなんだよ?」

「おいおい、俺は〝帝国〟の頭だぞ? 強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?そこのキュウジだってそうだ。」

「一緒にするな。」

楽しげなガハルドに呆れたようにツッコミを入れるハジメ。それに対するガハルドの返事は、実に実力至上主義の国の人間らしいものだった。

「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……一人ぐらい寄越せよ、南雲ハジメ」

「馬鹿言うな。ド頭カチ割るぞ…………いや、ティオならいいか」

「っ!? な、なんじゃと……ご、ご主人様め、さり気なく妾を他の男に売りおったな! はぁはぁ、何という仕打ち……たまらん! はぁはぁ」

「ちょっと問題あるが、いい女だろ、外見は」

「すまんが、皇帝にも限界はある。そのヨダレ垂らしている変態は流石に無理だ」

「こ、こやつら、本人を目の前にして好き勝手言いおって! くぅうう、んっ、んっ、きっと、このあと陛下に無理矢理連れて行かれて、ご主人様の目の前で嫌がる妾を無理やりぃ……ハァハァ、んっーー……下着替えねば」

「自重しろ変態。」

妙にスッキリした表情のティオにガハルド達ですらドン引きしている。そして、そんな変態を侍らしているハジメに戦慄の眼差しを向けた。ガハルドは、咳払いをして気を取り直す。

「俺としては、そちらの兎人族の方が気になるがね? そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうよ?」

「……」

結構攻めたな皇帝

多分昨日の騒ぎに気付いているはずだし、誰が攫ったのも知っているはずだ

「玩具なんて言われてもな……」

「心当たりがないってか? 何なら、後で見るか? 実は、何匹かまだいてな、女と子供なんだが、これが中々――」

「興味ないな」

まぁ俺の調査とカムを通じて、捕まった者全員を連れ出したことは確認済みである。カマをかけているのだろう。それに対するハジメの返事は一言だった。

 しかし、ガハルドの口撃は終わらない。

「ほぉ。そいつらは、超一流レベルの特殊なショートソードや装備も持っていたんだが、それでも興味ないか、錬成師?」

「ないな」

「……そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊な魔法は知らないか?」

「知らないな」

「……はぁ……ならいい。聞きたい事はこれで最後だ……神についてどう思う?」

「興味ないな」

「あ~、もう、わかったわかった。ったく、愛想のねぇガキめ」

そこで時間が来たのか、背後に控えていた男の一人が、そっとガハルドに耳打ちすると、ガハルドはおもむろに席を立った。

「まぁ、最低限、聞きたいことは聞けた……というより分かったからよしとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。真実は異なっていても、それを知らないのなら、〝勇者〟や〝神の使徒〟の祝福は外聞がいい。頼んだぞ? 形だけの勇者君?」

ガハルドは、突然落とされた爆弾発言に唖然とする光輝達を尻目に、不敵な笑みを浮かべながら挑発的にハジメを睨むと、そのまま颯爽と部屋から出て行った。

「……やっぱ食えないなあいつ。」

俺は少し苦笑するとその言葉の意味に気づいたのが天之河が姫さんを詰問する。

「リリィ、婚約ってどういうことだ! 一体、何があったんだ!」

「それは……たとえ、狂った神の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざるを得ません。我が国の王が亡くなり、その後継が未だ十歳と若く、国の舵取りが十全でない以上、同盟国との関係強化は必要なことです」

「それが、リリィと皇子の結婚ということなのね?」

「はい。お相手は皇太子様ですね。ずっと以前から皇太子様との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、というわけです」

「王国には? 協議が必要ではないの?」

「事後承諾ではありますが、反対はないでしょう。元々、そういう話だったわけですし。それに、今の王国の実質的なトップは私です。ランデルは未だ形だけですし、お母様も前には出ない人ですから。なので、問題ありません。今は何事も迅速さが必要な時なのです」

決然とした表情でそう話す姫さん。天之河は、苦虫を噛み潰したような表情をしながら口を開いた。

「……リリィは、その人の事が好きなのか?」

「好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりのための結婚ですから。ただ、皇太子様には既に幾人もの愛人がいらっしゃるので、その方達の機嫌を損ねることにならないか胃の痛いところです。私の立場上、他の皇子との結婚というのは釣り合いが取れませんから、仕方がないのですが……」

「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんて、おかしいだろ!」

「光輝さん達から見れば、そうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通のことです」

「普通って……リリィだって、女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」

「天之河。」

俺は軽く睨む。

「これは国と国との政治的な結婚だ。俺たちが勝手に弄って国家間にひびが入ったらどうするんだ?」

「ぐっ、で、でも……」

「それより、今の俺達にはやる事がある。姫さんが決めたことだ。実質的な王国のトップは今は姫さんだから覆る可能性はない。ただ。」

俺は席をたって

「こいつみたいに自分の気持ちに素直にならないと絶対に後悔する時はくるぞ。」

俺はそれだけいうと部屋をでる。さて、準備を始めるか。

……姫さんを助ける準備を



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