このすばクエスト マァムの大冒険 (Mk-5)
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第01話 どうしてこうなった

ドラクエ×このすばシリーズです。
※あくまでこのお話は、本当に書きたいシリーズのための伏線的な役目を担うものです。そのため、途中で更新がストップする可能性も考えられますのであしからず。
引き続き以下の注意事項があります。
①オリジナルキャラ多数追加
②キャラ崩壊
③設定ブレイカー
④パクリ要素
等といった可能性を大いに秘めています。それでも大丈夫という方のみ
ゆっくり読んでいってね~( -∀-)”ノ


「………どういうことなの?」

 

いやホントにどういうことなのよ!?

何で私、こんな世界に来ちゃってるわけ!?

私はマァム……物の試しにと、覚えたての移動魔法「ルーラ」を使ってみたら、着いた先は何故か別世界っていうね。

冗談抜きで、何をどうしたらこんなことが起こるわけ!?

…って言っても始まらないわね。

取り敢えず、ここがどんな世界なのかを把握しなきゃ。

 

「…アクセル……駆け出し冒険者の街…ねぇ」

 

街の人はそう言ってたけど…個人的にはそんな感じがしないのよね。

一目で熟練者だと分かるような人もいるくらいだし…案外いい加減なのかしら、この街の人は。

とは言え、この世界のことはある程度把握できたから、よしとしましょうか。

どうやらこの世界では、モンスターを倒すことが職業の一種として認識されてるみたい。

でもって、その職業…冒険者ってのになるためには、「冒険者ギルド」とかいう場所で登録しないとダメだとか…。

街に1つは必ずあるものらしいから、元居た世界に比べたらお手軽ね。

しばらく歩いていると、私と似た感じの服装をした人達のたまり場みたいな建物を見つけた。

もしかしなくても、あそこで合ってるわね。

確認も兼ねて、私は受付らしきところへ向かった。

何故か1列だけ混んでるから何事かと思ったけど……納得したわ。

異性に興味を惹かれるのはお互い様……別品さんとあれば尚更ね。

同性同士なら話がスムーズになるんじゃないかと思って、私はその受付嬢にコンタクトを取った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あの~、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「はい、どういったご用件でしょう?」

「『冒険者ギルド』ってのは、ここでいいの?」

「そうです。あ、もしかして、冒険者希望の方ですか?」

「それも確認したいんだけど、冒険者ってのはモンスターと戦う人達のことで合ってるのかしら?悪いんだけど私、ここらに来たのは初めてで、勝手がよく分からないのよ」

「そ、そうなんですか……」

 

まぁこの世界の人達からすれば常識なんだろうけど、私にとっては何もかもが初めてのこと。

“日夜モンスターと戦ってる”って意味では同じだし、まぁ大丈夫でしょう……なんて考えは甘かったわ。

取り敢えず現時点で把握できた共通点としては、“スキルポイントを消費してスキルを獲得する”“経験値でレベルが上がる”というものがある。

でも相違点は多く、“魔法とスキルが混同している”“レベルに関係なくスキルを獲得できる”“どの街にもギルドはあり、そこに行けば何時でも転職できる”等々。

取り敢えず難しいことは後回しにして、書類への記入に専念することにした。

…ていうか今更だけど、この世界の文字って私の所と全然違うじゃない。

なのにどうして普通に読めてるわけ?

……まさかとは思うけど、これも全部“アイツ”の仕業!?

もしそうなら何が何でも1発ぶん殴ってやる…!

 

「…なるほど、マァムさんですね。それでは、こちらの『冒険者カード』に手を触れてください」

 

またしても聞き慣れない単語が出てきた。

なるほど、モンスター討伐を職業とする人はこのカードを持っている必要があるらしい。

私が言われるままに手を置くと……

 

「な、何ですかこれは!?」

 

何だか分からないけど、物凄くビックリされた。

 

「腕力と敏捷性、それに防御力が桁違いに高く、幸運もそれらに次いで高い!知力と魔力はそこそこ…ってそれよりも、一体何ですかこの大量のスキルは!?それも見たことないものばかり!」

「あら、見たことないの?1つも?」

「はい!1つもありません!」

 

…もうここまで来ると“ガワだけ同じで中身は大違い”ってところね。

逆に何処が共通しているのやら……もうやめちゃおう、こんなあら捜しは時間の無駄だわ。

 

「ところで、私はどんな職業が適任なのかしら?」

「え…あ、はい!こちらが職業の一覧となっておりまして…そうですね、このステータスですと、こちらの『ソードマスター』がオススメです」

「ソードマスター?確認だけどそれ、剣をメインに扱う職業なのよね?」

「はい、そうですが…」

「なら却下ね。私、基本的に拳でモンスターと渡り合ってきたから、剣なんて触ったことすら無いのよ」

「こ、拳でですか!?」

「そうよ。強いて扱ったことがあるとすれば槍くらいのもの。それにしても…こう言ったら失礼かもしれないけど、何というかパッとしない職業ばかりね…」

「……因みになんですけど…マァムさんって、以前はどんな職業を?」

「以前?それなら『武闘家』と『僧侶』よ」

「…初めて聞く職業ですが、どういったものなのでしょう?」

 

そう言いながらこの受付嬢は、ロクに下も見ず器用に紙とペンを取り出して、メモを取る態勢に。

…重度のメモ魔なのかしら?

 

「え~と、まず『武闘家』は格闘技でモンスターと戦う職業よ。前衛職の一種ね。『クルセイダー』とかいう鎧と盾でガッチガチに固めるタイプじゃなくて、攻撃力と素早さで先制攻撃を担う…所謂“攻撃的前衛職”って感じかしら」

「ふむふむ…」

「そして『僧侶』だけど、一言で言えば攻撃もできるアークプリーストよ」

「攻撃もできる?」

「そう。ホラ、アークプリーストって悪魔かアンデッド系にしかマトモに攻撃できないでしょ?でも僧侶は武器を手にして、普通のモンスターとも戦えるわけ」

「なるほど…それで、最後に就いていた職業はどちらなのでしょうか?」

「最後に?別にどっちか一方だけってわけじゃ…強いて言えば両方ともよ」

「りょ、両方ともって………ちょっと待ってください。ということはあの~、マァムさんのところでは職業が兼任できるということでしょうか?」

「そうだけど……もしかして兼任できない感じ?」

「はい…」

「あらら、となると結構ヤバいわねこりゃ…」

 

複数選べるならば、幾らか妥協点を見つけられたんだけど…1つしか選べないとなるとねぇ…。

槍を扱う「ランサー」は大したスキルが無いし、アークプリーストは魔力が心もとないから除外。

魔法を多用するアークウィザードも当然除外ね。

形式的に兼任してるっぽい感じの「ルーンナイト」も、ソードマスターとアークウィザードの相の子だから、剣がマトモに扱えず魔力の少ない私には向かない。

さて…どうしたものかしら。

 

「あ、あの……どうしても兼任されたいというのであれば、もうこちらしか残っていませんが…」

 

そう言って受付嬢が指さしたのは、職業欄の一番下にあった職業…「冒険者」だった。

基本職ないし最弱職と称される職業で、固有のスキルが存在せず、スキルを習得するには必ず他の人から教わらないといけない。

しかも習得に必要なスキルポイントが他の職より多いんだとか。

 

「何これ…いいとこなしじゃないの」

「い、いえ、そんなことはありません!基本職にも強みはちゃんとありますから!」

「ま、そりゃ1つぐらいは有ってもらわなくっちゃね。じゃなきゃ無意識のうちに誰かしら殴ってるかも……それは置いといて、強みは何なの?」

「……!え、え~とまず、スキルの習得に多くのスキルポイントと、スキルを教えてくれる人が必要になることはご理解いただけたと思いますが」

「えぇ、その辺は一応ね」

「ですが『冒険者』にとってはそれが強みでもあります。要するに、スキルポイントと教え手さえ確保できれば、あらゆる魔法・スキルを習得可能…もっと言えばどの職業よりも手数が多いのです。…まぁ本職と違って職業補正が得られませんから、結果的に器用貧乏になってしまうのですけどね…」

「なるほど………ってちょっと待った。あなたさっき、スキルポイントが他の職業より多く消費するとか言ってたじゃない?ってことはさ…『手数が多い』って状態にするのはほぼ無理なんじゃなくって?」

「へ?」

「あなたまさか…私をいいように唆して適当に誤魔化そうとしたんじゃ…?」

 

まぁ悪い意味で成り手が少ないから十分に把握してない的な感じなんだろうとは思うけど、確認を兼ねて軽く一睨みしてみた。

すると受付嬢は…泡拭きそうなほど慌て出した。

まるで借金取りに脅されて後が無くなったみたいに。

そこまで本腰入れて圧力掛けたつもりはないんだけど…。

 

「い、い、い、いえいえとんでもございません!個人差とかはあれど、他の職業に比べたらレベルの上がりやすい職業ですから、その辺は大丈夫だと思います。それに最悪『スキルアップポーション』もありますし…」

「スキルアップ……ポーション?」

「はい。1本飲めばスキルポイントが1、必ず増える優れものです。ただ作るのが非常に難しいようで、滅多に出回っていませんし、それなりにお値段も張るものではあります」

「……この世界はとことん私にやさしくないのね」

「あはは……あ!そうそう、忘れてました。えっとですね、冒険者登録にあたって登録料が必要になるんですが、大丈夫ですか?因みに、支払いはこちらとなっております」

 

彼女はそう言うと、丸い金属片を1枚見せてきた。

銀でできているように見える。

 

「……何これ?」

「やはり知りませんでしたか…。エリス銀貨といいまして、これ1枚で1エリスです」

「ふ~ん。というかあなた、さっきより対応が柔軟になったわね」

「ええ、マァムさんとお話する際には、こちらの常識を全て除外して対応すべきだと判断しましたので」

「…賢明な判断ね。ところでこの銀貨、女の顔が彫られてるけど…誰?」

「ただの女性ではありませんよ。彼女は女神エリス、幸運を司る女神様なのです!ご存じないですか?」

「全くの初耳だわ。私はド田舎の生まれだからね…一般庶民が王様の顔を知らないのと同じようなものよ」

「は、はあ……」

「でもって、私のとこでのお金はっと……これよ!」

 

私は背負っているリュックから金貨を1枚指で弾き、受付の少し飛び出た台の上に置いた。

受付嬢はそれを物珍しそうに見つめている。

 

「……これが?」

「ゴールド硬貨よ。これが私のとこの通貨なの。1枚1ゴールドね」

「そう…ですか…………弱りましたね。この様な通貨は見たことがありませんから、換金のしようが…」

「…要するに、ここじゃ文無しってわけか」

「……分かりました、ではこうしましょう。まずマァムさんには登録を先に済ませて、そちらの掲示板にある討伐依頼を請けて頂き、その報酬から差し引く形で登録料を支払ってもらいます」

「討伐依頼?勝手に倒しちゃダメなの?」

「ダメですよ!ここではそういうルールなんです。他の冒険者が請けた依頼の対象モンスターかもしれないんですから!」

「分かった分かった。それじゃ冒険者で登録をお願いするわ」

 

というわけで、冒険者登録を済ませた私は受付嬢(名前はルナというらしい)の勧めで「ジャイアントトード」なるモンスターを討伐することに。

名前の通り巨大なカエルで、アクセル周辺にいっぱいいるらしい。

食欲旺盛で動くものは何でも飲み込もうとするため、住民への被害が絶えないんだとか。

ついでに皮膚が柔軟で、打撃によりダメージは見込めないらしい。

とは言え、私も元居た世界でだてに鍛え上げたわけじゃないから、多少は効果があると思う。

確かめる意味も兼ねて、私は早速討伐に出かけた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…思ったよりデカいのね」

 

それが感想。

見上げるほど大きいのに、雑魚モンスターに属してると思うと…まさに見掛け倒しね。

取り敢えず近くをうろついていた1匹に狙いを定めて、1発かましてみた。

 

「『猛虎破砕拳』!」

 

両腕の「魔甲拳」と左肩の「メタルフィスト」、この2つの装備の力を借りての全力パンチ……といっても、今は両方とも“誰の目にも”見えてない状態なんだけどね。

それもこれも全部“アイツ”のせいなのよ。

何だか知らないけど勝手に改造して、私の身体と同化している状態なわけ。

勿論、私の意思で実体化させることもできるけど…ハッキリ言って実体化させる意味ってあんまり無い。

ていうかむしろ、脱着しなくて済むから便利なんだけど………それをやってのけたのが“アイツ”だからね……。

まぁそれは置いといて、肝心の結果はというと……圧勝した。

拳が当たった瞬間、ジャイアントトードの身体が木っ端微塵………一瞬自爆したのかと思っちゃったわ。

てかこれってジャイアントトードが思ったより脆かったの?それとも私のバカ力のせい?

どっちにしろ惜しいことしちゃった…何しろルナが言うには、ジャイアントトードは食材になるらしい。

こんなに粉々じゃ、引き取ってはもらえないわよね。

取り敢えず、次からはもう少し加減してみようっと。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『ドブチュウウウゥゥゥゥゥゥ……………!』

 

取り敢えずノルマの5匹は討伐出来た。

それにしても、手加減って結構難しいわ。

モンスターが食材になるなんて今まで無かったし……仕方ないか。

私は残った4匹を引きずりながら冒険者ギルドに戻った。

 

「す、凄いですね。この短時間で…いや、このステータスならば或いは……それよりも、ジャイアントトードの腹に開いている謎の穴は一体?」

「ああ、これ?私の拳の跡よ」

「こっ!!??」

「ホラ、あなたさっき言ってたじゃない『ジャイアントトードは食材になる』って。だから必要最小限のダメージで倒さなきゃいけないでしょ?ところが私、今までそういう加減ってやったことなかったから、これが難しくてね~。最初の1匹は粉々にしちゃったし」

「粉々!?」

「いやあれは私の方がビックリよ。殴った瞬間自爆したのかと思っちゃった」

「は、はあ………」

「それはそうと、報酬はいくらなの?」

「あ、少々お待ちを…………ではこちら、討伐報酬にジャイアントトード4匹の引き取り料、そこから登録料1000エリスを差し引いて、12万4千エリスになります」

「ありがとね。ジャイアントトードは沢山いるみたいだし、取り敢えずこれで食費と宿代は大丈夫っと。あとはレベルアップをどうするか……」

「……ではこれなどいかがでしょう?本来は低レベル冒険者には向かないものですが、マァムさんの実力なら或いは…」

 

そう言ってルナが見せてきたのは…「初心者殺し」というモンスターの討伐依頼だった。

名前の通り駆け出し冒険者の天敵のようなモンスターで、主に森に棲む雑魚モンスターの近くを徘徊するらしい。

とはいえ、特殊な能力等は持っていないようなので、もしかしたらやれるかも。

というわけで請けてみたんだけど……ルナは半分冗談のつもりだったらしく、結構動揺してたわね。

ま、請けると言ったからには行かせてもらうけど。

その道中でゴブリンの群れを見つけた。

ゴブリンは下級モンスターの仲間だけど知能はそれなりにあって、弓が扱える者もいるらしい。

本来は10匹程度の群れだと聞いたんだけど…軽く30匹はいるんじゃないかしら。

それに、何となく危険な香りがするのよね……これはひょっとして?

 

『ヴルルルルルルルルル……………』

 

私の勘は大当たり。

それらしき唸り声が響いたかと思えば、直後に茂みの中から黒い毛に覆われた獣が姿を現した。

パッと見は狼に似てるけど、熊よりも大きくて見るからに狂暴そう。

だけど……不足はない。

私は初心者殺しを仁王立ちで睨みつけ、そしてゆっくりと歩み寄る。

自分を見て逃げるどころか、むしろ近づいてくる…初心者殺しにとっては予想外のことのようで、明らかに動揺してる。

 

『………ガアアアアアアアァァァァァァァァァ!!』

 

そして明らかに破れかぶれな突進。

自分で言うのも何だけど、明らかに体格の違う相手に初見でビビるってどうなの?

ま、倒すことに変わりないんだけどね。

私は初心者殺しの攻撃を躱して懐へ潜り込み、全力のアッパーを食らわせた。

 

『ベキャアア!!』

 

骨が折れる生々しい音と共に、初心者殺しは天高く舞い上がり、そのまま地面に激突。

息絶えてはいるようだけど、念のためにカードを見て討伐できたことを確認。

そういえば、この獣が食材になるかどうか聞いてなかったわね………まぁ大した手間でもないし、問題無いか。

初心者殺しを引きずりながら街へ戻る途中、ジャイアントトードがいる平原に出た直後……不意に謎の爆発音が響いてきた。

音の発生源はかなり遠かったが、聞こえた瞬間には全身に緊張が走り、私は思わず初心者殺しを手放して身構えてしまった。

何故こんな事になったのかと聞かれれば…間違いなく例の“爆裂呪文”のせい…。

自信過剰だった当時の私は………今の旦那の助けがなかったら、今の私は生きてなどいなかった。

以来、私は爆発音に過敏に反応するようになったというわけ……流石に小規模な爆発は問題ないけどね。

兎に角、この世界にも似たような魔法ないしスキルが存在すると分かった以上、注意しとかなきゃ。

その後は何事もなくギルドに戻ってこれた。

 

「またあっさりと……というか、持って来ちゃったんですか!?」

「えぇ、これが食用に使えるかどうか聞くの忘れてて…」

「あ、なるほど……残念ですが、初心者殺しは食用になりませんので」

「あら残念」

「あ、でも毛皮は利用できるかもしれません。衣類販売店に相談してみては?」

「う~ん、じゃあそうしようかしら。折角運んできたんだし」

「それとこちら、討伐報酬の200万エリスです」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

結論から言うと、初心者殺しの毛皮は結構な値段で売れた。

何でもそこらの毛皮より遥かに丈夫で防寒性が高いので、冬服にもってこいなんだとか。

それはともかく、これで当分の生活費は確保できたから……おっとそうだ、レベルはどうなったかしら?

と思ってカードを見た…………けど、現実は厳しい。

レベルは未だに1のまま。

 

「…地道に頑張るしかないわね」

 

今日はもう遅いし、そろそろ宿屋に………そう言えば、ここに来てから何も食べてなかったわ。

というわけで、冒険者ギルドに併設されている小料理屋に立ち寄ることに。

私が到着した時、ギルドの受付で魔法使いらしき服装の少女が何やら言い争いをしていた。

聞き流すつもりではいたんだけど、「爆裂魔法」というワードが聞こえてきたので、何となく耳を傾けてみる。

どうやら大爆発による損害賠償で報酬が天引きされたらしい。

…もしかして、あの時の大爆発は彼女の「爆裂魔法」とやらのせいだったのかしら?

取り敢えず私はテーブルに座り、ジャイアントトードのステーキを注文。

もめていた少女は諦めがついたのか、一番奥の薄暗い席に向かっていった。

よく見ると、女の子がもう1人座ってる。

パッと見は騒いでた子より年上に見えるけど、もしかしたら幼馴染同士で組んで行動しているとか?

そんな感じであれこれ考えを巡らせていると、注文したステーキが運ばれてきた。

取り敢えず今は明日に向けて腹ごしらえ。

これが蛙から作られたとは思えないほど美味しいことよ。

柔らかいし脂っこくないし、それでいてしっかりと味がする。

未だにこれが、あのジャイアントトードの肉だとは信じられないくらい美味しいの。

そんなこんなで、初日は割と充実していた。

 

翌日も強力なモンスターの討伐依頼を請けてみたんだけど、やっぱりレベルアップには至らない。

それにしてもあの「一撃熊」とかいうモンスター…あんなデカい図体で見るからに狂暴そうなのに、何だって畑荒らしなんかしてたのかしら?

パッと見純肉食かと思いきや実は雑食って感じかしらね。

あれだけデカけりゃ小回り利かなそうだし…。

それはともかく、そろそろ効率よくレベルを上げる方法を考えなくちゃ。

序に初期ポイントが結構あるから、誰かにスキルを教えてもらいましょうか。

故あってアーチャーのスキル「狙撃」を習得してみたいのよね。

そんなことを考えながら歩いていると、何やら見慣れない女の子を見かけた。

水色の長髪をおかしな結い方でまとめ、服は全体的に青を基調としてる。

そして何故か知らないけど、紫色の羽衣を纏っている。

何より、何らかの不思議な力を纏ってるような…そんな感じがした。

何をしているのかと思って様子を見ていると、どうやらお年寄りから寄付を募ってるらしい。

その時「アクシズ教」というワードが耳に入ってきたんだけど………あまり良い噂を聞かない宗教なのよね。

にわかには信じられないけど、他の宗教を平気で侮辱し、教会に石を投げ込んだり、貧しい人への配給を当たり前のように盗んだりと、悪行の限りを尽くす………とかなんとか。

どこまで本当なのか分からないけど、警戒はしとくべきかも。

残念ながら声をかけられたお年寄りはエリス教徒だったが……エリス教とアクシズ教の女神は先輩後輩(?)の関係にあるらしく、同情の意味を込めて快く寄付に応じていた。

これが精神的にキタのか、青髪の子は体を引きずるように力なくギルドへ向かう。

そういえば、アクシズ教の信者達はエリス教徒を敵視してるって聞いたけど……敵に情けをかけられるって、時と場合によっては敵に精神的ダメージを与えることになる…のよね。

そう考えると……敵対してるってのは本当かも。

ギルドに戻った青髪の子は、受付にて茶髪の青年と合流した。

でもその青年…ちょっと異様な雰囲気を醸し出してる。

原因は、彼が身につけている緑を基調とした服装なんだけど………何というかこう…完全に浮いてるのよ。

周りの人とは全く違う……そう、まるで全く別の次元の世界から迷い込んだみたいな感じの格好。

一体何者かしら…?

取り敢えず冒険者登録が済んだようで、2人は今後について話しだした。

耳を澄ましてみると、“転生”というワードが時折出てくる……ということはあの茶髪の男、私と同じように別の世界から来たってことかしら?

もしそうだとしたら…何となく気が合うかもしれない。

私は事実確認をするために、それとなく彼らの隣の席につく。

位置的には彼らの真後ろになるわね。

 

「ハァ……どーするかねこれから…」

「それはこっちのセリフよ!何で私がこんなとこに」

「『転生』…ねぇ」

 

印象に残ったワードで会話に割って入ると、テーブルに突っ伏していた青年と青髪の子は凄い勢いで振り返った。

青年の方は「転生」というワードを口にしていた自覚があったらしく、額に一筋の冷や汗が流れる。

 

「ひょっとしてあなた、こことは別の世界の住人なの?」

「い、いや、そういうことは…」

「無理に誤魔化さなくていいわよ、その服装は絶対この世界の住人のソレじゃないもの。それに私も、あなたとは違う方法でこの世界にやってきた存在だし…」

「ええ!?」

 

驚いた様子を見せたのは、意外にも青髪の子の方だった。

それも掴みかかりそうな勢いで…。

 

「ちょっと待ちなさいよ!それどういう意味なの!?私達の力を使わずにどうやって…」

「実は私にもサッパリ。覚えたての移動魔法『ルーラ』を使ったら何故かここに来ちゃったのよね。困ったもんだわ」

「へ!?る、ルーラ!?」

 

今度は青年の方が食いついてくる。

なんか変なこと言ったかしら?

 

「あ、あの~すいません。ちょっと確認したいんですけど……『ホイミ』…って魔法、知ってます?」

「ん?知ってるわよ勿論。初級の回復魔法よ」

「通貨は……ゴールド?」

「そうだけど……何でそこまで知ってるの?その服装を見る限り、私の世界とも違うっぽいのに…」

 

詳しく話を聞いてみると、彼が元居た世界には偶然にも、私がいた世界と非常によく似た世界を題材とした空想物語があるんだとか。

しかもまるっきり同じ魔法やスキルが登場するあたり、偶然って恐ろしいとつくづく思った。

 

「んでもって確か、俺の記憶が正しければ……1ゴールドは大体100エリスくらいだったと思います」

「ふ~ん、もしそうだとすると…この街の宿って相当割高ね」

「でしょうね。そちらじゃ、高くとも1泊1000エリス前後が相場だから…」

「え゛、そうなの!?いやいや逆に元取れんのそんな値段で!?」

「取れなきゃもっと高く設定してるでしょうに。おっと、自己紹介がまだだったわね。私はマァム、ネイル村出身よ」

「俺、佐藤和真っす。ついさっきこの世界に来ました。出身は東京ってとこです」

「そして私は女神アクア。この男に第二の人生をあげた偉大なる女神様よ!称え崇めなさい!」

 

…青髪の子の自己紹介が変だったけど…気にしたら負けよね。

 

「…なるほど、カズマとアクアね。これからよろしく!」

「ん?これからよろしくって…もしかして、仲間になってくれるんで?」

「ええ、そのつもりよ」

「おおお、そりゃメッチャ有り難いっす!」

「うふふ、あなたもようやく私の偉大さに気」

「まぁ出身は違うけど異世界から来た者同士だし、そういう意味じゃ親近感が湧くと思って」

「あ~納得。それじゃどうせですし、マァムさんのステータスとか教えてくれません?」

「いいわよ」

 

こうして私は、異世界からの転生者にして“同じ冒険者”のカズマ君と、お互いの世界その他について語り合った。

私の方は冒険談やスキルのことを中心に話し、カズマ君は私に合わせて空想物語のもろもろを中心に話を進める。

ただ…レベル1で一撃熊や初心者殺しを討伐した話を終えたあたりから、カズマ君が私のことを無意識に「姉さん」と呼ぶようになったのが…何となく気になってはいるのよね。

それはともかく、この世界に来て2日目にして、行動を共にする仲間ができたのは大きいわ。

いくら私が実力者だからといって、1人でやれることには限りがあるからね。

 

「さてと、今日はもう微妙な時間帯だし、明日に備えるとしましょうか。まずは装備関係ね」

「ま~そうでしょうけど、俺らまだ金なんてないし…」

「大丈夫よ。ある程度なら手持ちで何とかなるわ」

「え、姉さんが出してくれるんですか!?」

「私は強いモンスターとか倒してて、予算は幾らかあるのよ。大体その服、これからモンスターを討伐しに行く格好じゃないしね。それに見たところ武器も無いようだし」

「…何から何まですみません、いやマジで。いやそれより、マァムさんのは」

「私?私の武器は基本的にコレだから!」

 

私は自分の腕を叩きながら言った。

実際のところ、アクセル周辺のモンスターなら武器要らずで十分に戦える。

それに武器も幾らか揃ってる………いや、勝手に揃えられたと言った方が良いわねこれは。

昨日の夜リュックの中身を確認してみたら、手に入れた覚えのない装備がいくつか入ってたからね。

うち1つには“アイツ”の直筆と思しきメモがくっ付いていた。

 

「おっと、そういえば武器屋が何処か知らないわ。取り敢えず探しましょうか」

「そうっすね」

「ちょっと!さっきからずっとこっち無視してるでしょ!?私抜きで話進めるのはどうなのよぉ!!」

 

その後も何やかんやあったけど…一応さまにはなったかしら?

取り敢えず他の冒険者と遜色ない格好だとは思う。

けど問題は武器よね。

今の彼が扱えるのは、武器屋曰くショートソードぐらいのものだとか。

それでも一番強力なのが手に入ったし、ジャイアントトードくらいなら問題ないと思う。

この日は夕食後に別れ、私は宿に、2人は馬小屋へ向かった。

ベッドに寝転がりながら、私は今日のことについて考え込む。

何故そんなことをするかといえば……例の青髪の子のことだ。

のっけから自分のことを女神だと自称してたけど……半信半疑だわ。

とはいえ、出会った時から彼女の周りに何か………よく分からないけど、見えない何か…オーラのようなものを纏っている感じがしたのよね。

もしかしたら本当に…いやでも、そうだとして自分でそのことをひけらかしたりするかしら?

そんな考えが頭の中で駆けまわり、私はいつの間にか夢の世界へ旅立っていた。




次回予告
新たな仲間を募集することにしたカズマ一行
マトモな人が来てくれることを願うものの、
やってきたのは…何とも言えない凸凹魔法使いコンビ
果たして彼らの明日はどう転ぶ?
次回「三バカトリオ 悪い子良い子 普通の子(じゃない)」


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第02話 三バカトリオ 悪い子良い子 普通の子(じゃない)

最近やりたいことが多すぎて、なかなか話を進められない状態が続いています。
兎に角いそがねば。
引き続き以下の注意事項があります。
①オリジナルキャラ多数追加
②キャラ崩壊
③設定ブレイカー
④パクリ要素
等といった可能性を大いに秘めています。それでも大丈夫という方のみ
ゆっくり読んでいってね~( -∀-)”ノ


翌朝、私は早起きして身支度を整える。

今日はパーティを組んでのモンスター討伐の日だから、遅れないようにしないと。

それに…何だか嫌な予感がするのよね。

カズマ君はいいとして、問題は例の青髪の子。

そういえばカズマ君から彼女のことを聞くの忘れてたわ。

取り敢えずウォーミングアップを兼ねて軽くランニングしながら、2人が泊まっている馬小屋へ向かう。

私が到着するのとほぼ同時に、2人が馬小屋から出てきた。

……青髪の子を引っ張りながら。

 

「ホラ、急げアクア!遅れるぞ!」

「う~ん、あと5分だけ~…」

「いつまで寝ぼけてんだよ全くぅ!」

 

彼女は朝に弱いのかしら?それとも

 

「だるい~面倒い~」

 

………ただの怠け者らしいわね。

 

「なら、元気が出る方法教えてあげましょうか?」

「ん?あ、マァム姉さん、おはようございます!」

「誰が姉さんよ、ったく」

「そんなことより~、あなた元気が出る方法知ってるんだってね。この偉大なるアクア様に働いてほしいなら、その方法とやらを教えなさい、今すぐにね!」

「それが人にモノを頼む態度かよ!!」

 

カズマ君の言う通り…何だってこの子は、こんな露骨に上から目線で喋れるのかしら。

後でカズマ君から詳しく聞いてみましょうか。

 

「……教えてあげるからこっちに来なさい。そう、そのまま動かないでね」

 

そう言って私はアクアの顔面を両手で掴み、思い切り頭突きを食らわせた。

 

『ガァァァァンン!!』

「いっだああああぁぁぁぁぁぁい!!」

 

青髪の子は頭を押さえて転げまわる。

けどすぐに起き上がって私に迫って来た。

 

「ちょっと!いきなり何すんのよ!!」

「ほらね、バッチリ目が覚めたでしょ?」

 

そう言って私は青髪の子、もといアクアを肩に担いだ。

 

「ちょ、今度は何!?」

「今日はパーティでのモンスター討伐する日でしょ。ほら急いだ急いだ!」

「待ちなさいよ!まさかこの私をこの状態でギルドまで連れて行くつもり!?」

「時間が勿体ないもの。さてとカズマ君、ギルドまで軽く走りましょうか」

「へ?走っていくんですか?」

「これからモンスター討伐でしょ?体を温めとかないと思うように動けないわ。それにあなた、見るからにあんまり運動していないようだしね」

「返す言葉も無いですはい……」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

というわけで、今回請けた討伐依頼はジャイアントトードを10匹倒すこと。

平原に向かう途中、カズマ君から質問が。

 

「ジャイアントトードって、具体的にどんなモンスターなんですかね?」

「見上げるほど大きな蛙よ」

「っ、み、見上げるほど!?」

「そうよ。それに柔軟な体のせいで打撃でのダメージは期待できない。だから剣とかが必須なわけ」

「何か足が重くなったような気が…」

「今更何言ってるの。もう着いたんだから、男なら覚悟決めなさい。というか、今回の討伐依頼はカズマ君のためのものなんだからね?」

「俺のため?」

「そう。私は前の世界で色々と極めすぎてるから、よっぽど強い敵でない限りレベルアップは期待できないのよ。むしろレベルアップが必要なのはカズマ君の方。この世界では、自分の身ぐらいは自分である程度守れるだけの腕がなきゃ生き残れないわよ?大丈夫、もしもの時は私がカバーするから。ほらアクアちゃん……でよかったっけ?アークプリーストらしくキチンと役目を果たしなさいね!」

「…ういっす」

「ちょっとあんた、人の名前ぐらいちゃんと覚えなさいよ!!」

 

とにもかくにも、ジャイアントトード討伐が始まったんだけど…………思った通り、カズマ君は苦戦を強いられてる。

 

「うおおおお!!わっちょぉ!ちょっちょい、ちょっとすいません!これ、さっきから何度も攻撃してるんスけど、全然効いてなさそうなんですが!?」

「いや、若干だけど最初より動きが鈍いわ。ダメージは入ってるはずよ!」

「それ聞いてチョットだけ安心した!てかダメージナシじゃ困る!」

「とにかく落ち着いて、相手の出方を見るの!なるべくなら背後に回った方が良いけど、それがダメなら長い舌の軌道を読んで、躱しながら確実に攻撃すること。結果を急いじゃダメよ!」

「そうは言っても、こちとらそんなこと考える余裕無いです!!」

「それとアクアちゃん、まさかどさくさに紛れてサボってないでしょうね!?」

「やってるわよちゃんと!!そう言うあんたこそ、さっきからサボってばかりじゃない!!」

「…あなた、話聞いてなかったの?今回のモンスター討伐は、あくまでカズマ君のためのもの。彼がある程度戦えるようになるには、何より実戦経験が欠かせないから……っと、早速邪魔者が来たわね」

 

カズマ君が戦っているすぐ横で、チャンスをうかがう1匹のジャイアントトード。

私は一目散に駆け出し、どてっぱらに一撃を食らわせた。

 

『ドブチュウウウゥゥゥゥゥゥ……………!』

 

素手スキル『正拳突き』

力をこめて、敵1体を殴りつける

 

こんなスキルが数多くあったというのに、何で1つも習得しなかったのかしら?

あの頃の私に説教してやりたい…もし習得していれば…………

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…………………………………………無益な情け…………仲間を危………………………………仲間を売る………………………………………………………………

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「……………………っ!」

 

全く…何だってこのタイミングで“アイツ”の言葉が脳裏をよぎるのかしら?

確かにあの頃の私だったら……ひょっとしたらそうかもしれないけど……。

ってそんなこと言ってる場合じゃなかった!

今度は2匹同時に迫ってきてる。

…でもまぁ、最初の1匹は討伐できたようだし、初戦にしては上出来ね。

もしかしたら、カズマ君って意外と才能アリ…だったりするのかしら?

 

『ドゴッ!!』

「ああ、マァム姉さん!」

「マァムでいいってば。左の蛙は私が引き受けるから、カズマ君は右の…」

 

ここまで言った時、私の目の前を左から右へ走り抜ける青い影。

……そう、青髪の子が何故か私達より前に出たの。

 

「ちょ、ちょっと何してるの!?後方支援のアークプリーストが前に出ちゃダメじゃない!」

「冗談じゃないわ!さっきからあんた達ばかり目立って、こっちは商売あがったりよ!!どーせあんた、私のことを無能だと思ってるんでしょ!?」

 

…いや待って、何をどう考えたらそういう結論に至るの?

アークプリーストはアンデッドと悪魔にしか攻撃できないから、仲間の補助に回るのは普通のこと。

ダメージを負って倒れたりしないように、パーティの後方で構えるのも当然のこと。

ごくごく当たり前のことしかやっていないはずなんだけど……どういうこと?

 

「いいわ!いくらアークプリーストだといっても、この女神アクア様には関係ない!さあそこのバカガエル、今こそ審判の時よ!『ゴッドブロー』!!」

 

そう言うと、私が殴った方のジャイアントトード目掛けて突進する。

…技名は神々しい感じだけど、まかせて大丈夫かしら?

いやでも、両手から何かオレンジ色のオーラみたいなものを纏ってるし、あるいは………。

意識を戻してジャイアントトードの方を見ると……ジャイアントトードしかいない?

ってよく見たら…ジャイアントトードの口から何か出てる?

あれは…足かしら?

 

「…………って食べられてるんじゃないの!!」

 

私は大急ぎで、ジャイアントトードと戦っているカズマ君を引き剥がしにかかった。

 

「カズマ君、作戦変更よ。アクアが食べられたの。私があっちの相手をするから、救出頼むわね!」

「へぇ!?ちょっと待った!急すぎて付いて行けないんですが!?てか何でそのまま倒さないんですか?」

「何言ってるの、あなたも男なんだから女一人くらい助けられるようになりなさいな。パーティ組んでる以上、出来の悪い子を引っ張っていくのもデキる人の勤めよ。それにホラ見て。ジャイアントトードは食事する時、全く動かず無防備な状態なの。だから…」

「…あ、何となく分かりました!要するに~、今のカエルは動かないし、姉さんが一撃入れてるから倒しやすいと!」

「まぁ、そんなとこよ」

 

カズマ君って、私が思った以上に適応力が高いみたいね。

これならパーティーのリーダーも務まるんじゃないかしら。

取り敢えずアクアちゃんは救出できたみたいけど、さっきからずっと泣きじゃくってる。

それを見た私は……何を思ったのか、リュックからとある装備を取り出して、両腕に装着した。

 

ベアークロー

何故かリュックの中に入っていたツヤのある黒いツメ装備。

いや、入れたのは間違いなく“アイツ”だわ。

だって、この装備にだけメモが張り付けてあったんだもの。

『ツメ装備は武闘家の基本だってのに、いつまで経っても入手しねぇから勝手に入れとくぜ。コイツは魔甲拳実体化時、そのオプションとして機能するように形状が変化する優れもんだ。当然ながらオメーの魔甲拳メタルフィストその他諸々より遥かに丈夫で長持ち。ザマァm9(^Д^)』

 

“アイツ”………実力は確かだけど、それ以上に人をイライラさせる才能が抜きん出てるわ間違いなく。

それはともかく、装着を終えた私はアクアに向けて一言。

 

「……女神を名乗りたいなら、これくらいやりなさい」

 

私はそう言って、残る1匹に向けてスキルを発動した。

 

「『ゴッドスマッシュ』!」

 

爪スキル『ゴッドスマッシュ』

敵単体の全てを切り裂く神の雷

 

見るからに超強力な雷属性の斬撃を食らったジャイアントトードは、スライスどころか粉々になって燃え尽きた。

いくら一時的にテンションがおかしくなったとしても、流石にこれはやりすぎたわ。

ふと後ろを見れば、2人は抱き合ったまま固まっていた……カエルの粘液のことをすっかり忘れて。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

私達がギルドに戻ったのは昼頃のこと。

当然ながら“働かざる者食うべからず”のもと、皆でジャイアントトードを運んだわ。

でもって私はカズマ君達が銭湯に行ってる間に報酬を受け取り、小料理屋の席でくつろいでいる。

特に何をするわけでもない。

暫くすると、2人が銭湯から戻ってきた。

 

「お待たせしました」

「そんなに待ってないって。むしろお昼ピッタリじゃない」

 

そんな訳で、昼食を取り始めたんだけど……途中でアクアが急に口を開いた。

 

「仲間を募集しましょう!」

「「は?」」

「パーティー3人じゃ少なすぎるわ!強いモンスターと対峙するかもしれないってのに!そうよ、直ぐに行動に移しましょう!それがいい!!」

「おいちょっと待て!勝手に1人で話を進めるな!!」

 

カズマ君の話も聞かずにギルドへ向かう青髪の子…何をする気かしら?

暫くすると、掲示板に1枚の張り紙を張り出した。

内容は一緒に戦ってくれる仲間を募集するものだったんだけど………内容が…ね。

特にカズマ君への誹謗中傷が半端なかったのよ。

当然、即書き直させたわ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……来ねぇな」

「何でよぉ!!」

 

翌朝にそんな会話が聞こえてくる。

そりゃそうでしょうね…一応私達は駆け出しなんだから、そう都合よく強い人が仲間に加わるわけもない。

と思いきや、私達の目の前に2人の人影が。

 

「仲間募集の張り紙を出した方ですね?」

 

そう言ってマントを翻すのは……以前受付で言い争いをしていた眼帯の子。

その隣には、何故か恥ずかしそうにもじもじしている女の子。

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操りし者!」

「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、中級魔法を操りし者!」

「…あぁ、やっぱりあなただったのね。噂に聞く“最強の魔法と引き換えに本能以外の全てをなくしたお騒がせ者”ってのは」

 

そして眼帯じゃない方の子…ゆんゆんが恥ずかしそうにしてたのは、この名乗りを強制的にやらされると知ってたからだったのね。

 

「ちょ、何ですかいきなり!?それが初対面の人にかける言葉ですか!?」

「仕方ないでしょ、そういう噂が立つようなことをした結果じゃない。私3、4日前にギルドの受付で、あなたが爆裂魔法の影響で報酬が差し引かれた件で、受付の人と言い争ってたのを見たのよ」

 

私がそう言うと、眼帯の子もといめぐみんは言葉に詰まり、ゆんゆんは右手で顔を覆った。

序にと、私はゆんゆんに質問を投げかける。

 

「ねえ、因みになんだけど…彼女はどんな依頼を請けたの?」

「え~と、確かゴブリン討伐だったと思います。それで爆裂魔法でまとめて倒せたものの、近くの採掘場で落盤が発生してケガ人が出たらしいんです。それで討伐報酬から治療代が差し引かれて」

「ゆんゆん!余計なことは言わないでください!!」

「めぐみん、無駄なことは止めなさいよもう。彼女が言わなくたって、遅かれ早かれ他の人が噂で流すでしょう。“本能以外の全てをなくした”なんて噂が出るってことは、事情はどうあれ、それだけあなたは悪い意味で注目されてるわけ。となれば、今回のことが噂で流れるのも時間の問題…そう思わない?」

「誰ですか!そんな噂流したのは誰なんですか!今から我が爆裂魔法でぶっ飛ばしに行きますから教えてくださいよ!!」

「何をサラッと物騒なことを言ってるの?それに、伝え聞いただけなんだから誰が最初に噂したのかなんて知らないわよ。大体ねぇ、注目すべきところはそこじゃないでしょう!…要するに、そういう噂が広まるような口実を周りに与えないように努めなさいってことが言いたいの私は!」

「おい、それじゃあまるで私が迷惑ばかりかけているみたいじゃないか!」

「そのことに関してはさっきも言ったじゃない!四六時中ではないにしろ、周りの人がそう考えるくらいに迷惑をかけてるって感じでもない限り、そんな噂が立つわけはないのよ。ワザと相手の評価を下げるのが目的なら、ここまで具体的な内容の噂を流す必要は無いしね!」

「………黙って聞いていれば、好き放題言ってくれましたね!よろしい、そっちがその気なら、あなたにも我が爆裂魔法の力をたっぷり味わってもらおうじゃないか!!」

 

…いつ“黙って聞いてた”の?

そして何故か目が紅く光っている。

後で知ったことだけど、彼女達「紅魔族」は生まれつき魔法に長けた種族で、感情が高ぶると目が紅く光るらしい。

 

「私は本気ですよ?」

 

本気かどうかはさておき、ゆんゆんの制止も聞かないし、他の冒険者達もざわつきだしたし……仕方ないわね、取り敢えず彼女には大人しくして貰わないと…………

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…………………正義の…………冷酷さ…………………………………………………………値しない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

………またか。

私は再度、めぐみんを見る。

魔法発動のためなのか、長々と呪文の詠唱をしている。

……何というか、今まさにとどめを刺そうとする悪役みたい。

“冷たくするのも優しさ”…当時は血迷っただけだと正当化してたけど……今考えてみると、これも時と場合によってはアリのような気がする。

そして、今がまさにその時のように思えてくる。

な~んて考えた直後、私の体は動き始めた。

ゆっくりと席を立ち、ゆっくりとめぐみんに近づく。

そして……………………

 

「さあ、気は満ちた!我が中で眠りし最強の力よ、今ここに目覚めよ!!『エクスプロ」

『ビシッ!』

「おお゛あだああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

あ、いけない…チョップの角度を間違えた!

おでこにだけ当てるはずが、鼻にも当たっちゃった…。

ま、取り敢えず魔法発動は中止できたし、よしとしましょうか。

しかしながら、めぐみんは尚も魔法を放とうとする。

 

「うぐううぅぅぅぅぅ……や、やってくれましたね!今度こそっ『エクスプ」

『ゴスッ』

 

今度は左の頬に右フック。

個人的には結構加減したつもりだったんだけど、思ったより重い感じの音がしたわね。

それよりも…………気のせいかしら?

ほぼ同時に、私の中で何かが割れるような音がした気がしたんだけど………。

 

「お、おのれ…1度ならず2度までも!!もう勘弁なりません!!『エクス」

『ゴスッ』

 

右の頬に左フック。

……何というか、ある意味感心するわ。

だって普通なら、遅くともこの時点で実力差を悟って自ら手を引くものなのに………この子は未だに諦めていない。

自分の力に絶対の自信を持っているのか、それとも実力差を図るのが下手なのか…。

 

「ぐ………このォ」

「め、めぐみん…そろそろやめにしようよ」

「何を言うのですかゆんゆん!ここまで来て逃げるなんて正気ですか!?」

「だってほら……見てよ」

「はあ!?何ですか!?何を見ろという……の………で………」

 

流石にこのまま長く続けられると面倒くさいので、私はめぐみんを「軽く」睨んだ。

……いや、彼女達にとっては軽くなかったみたい。

既に冷や汗ダラダラな上に、腰が抜けていないのが不思議というほど足が震えている。

 

「ば、な、ななな舐められてはここ困りますよ!こ、こ、紅魔族はこんなことでおおお怖気づいたりしませんからね!!」

「………………………………」

「お願いだからもうやめて、めぐみん!!このままじゃ殴り殺されちゃうよ!!」

 

いや別にそこまでするつもりはないんだけど………そんなに迫力あるのかしら、今の私の顔。

後でカズマ君にでも聞いてみようかしら?

そんなことを考えていたら、ゆんゆんが私の前に立ちはだかる。

 

「あ、あの………わ、私の連れが、め、迷惑をかけてしまってすみません…。わ、私の方から言っておきますので、どうかこの件はなかったことに…」

「ゆんゆん、あなたここにきて裏切るつもりですか!?よろしい、これは益々ただで済ませるわけにはいきませんね!!!『エク」

 

ここまでの流れをどう解釈したら、裏切ったことになるのよ!

というかこの子……ゆんゆんも巻き込むつもり!?

そう考えた瞬間………ほんの一瞬だけ、私は怒りで我を忘れた。

でもそれは、めぐみんの背後に回るには十分すぎる時間だった。

気がついた時には、私は既にめぐみんに一撃食らわせる態勢に!

何とかギリギリ踏みとどまって、どうしようかと少しだけ考える。

そして……こめかみを拳でぐりぐりした。

 

「あ゛あああああだだだだだだだだだだだだあだだだだだ!!!」

 

私はそのまま、めぐみんを持ち上げる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!わ、分かりました分かりました!私の負けで、負けでいいですからもうやめてくださあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「…分かればいいのよ」

 

私が拳を離すと、めぐみんは盛大に尻もちをついた。

 

「あうっ!」

「ったく。こんな人が大勢いる中で大爆発起こそうとか、何を考えてるの!私だけが狙いなら、せめてもっと効果範囲の狭い魔法を使えばいいじゃないの!!」

「あ、あの~、それなんですが…」

 

ゆんゆんが、如何にも申し訳なさそうな様子で口を開いた。

 

「何?」

「その…実はめぐみん、爆裂魔法しか使えないんです」

「…………へ?」

「何か『爆裂魔法を極める』とかいう約束を誰かと交わしたらしくて、以来他の魔法には目もくれず……」

「…なるほどね」

 

とここで、カズマ君が声をかけてきた。

青髪の子が口を開けたままボーっとしているところを見る限り、彼もさっきまで同じ状態だったのかしら?

 

「…で、結局どうするんスか?結構危ない感じの連中みたいですけど……」

「そうね…私としてはお試しで入れるって感じでいいと思うわ。どっちにしても、後方からの支援攻撃ってやつは必要になってくるからね。カズマ君はどう思う?」

「お、俺?ま、まぁいいと思います。というか、まだその辺の勝手がよく分かんないので…」

『ぐうううぅぅぅぅぅ………』

 

お試し加入が決定した瞬間、紅魔族2人のお腹が鳴った。

聞けば報酬の天引き等の影響で、3日間まともな食事ができていなかったんだとか。

そんなわけで、彼女達に奢るついでに私達も早めの昼食をとることに。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「『エクスプロージョン』!!」

 

めぐみんの爆裂魔法が発動し、爆心地から半径20m以内のジャイアントトードがいっぺんに消滅。

と同時にめぐみんはその場に倒れこんだ。

爆裂魔法は純粋な破壊力だけでいえば確かに最強だけど、その分魔力消費も激しいから1日1発だけ…。

2人とも仲間にして正解だったわね。

弱いモンスターは集団行動することが多いから小技を連続で繰り出せるタイプが、強いモンスターは大抵単独行動するから一撃で大ダメージを与えられるタイプが向いている。

少なくともジャイアントトード討伐なら、ゆんゆんの方が役に立つわ。

食材になる以上、中級魔法で倒した方が実入りが多くなるからね。

な~んて考えていたら、めぐみんのすぐ近くまでジャイアントトードが迫ってきてる!

 

「だから後方支援役が前に出るなってのおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

カズマ君の叫ぶ方を見れば、またしてもアクアがジャイアントトードに食べられていた。

そして結局、めぐみんも……。

でもって、その結末に動揺を隠せないゆんゆん。

 

「…ゆんゆん、取り敢えずめぐみんを助けてあげて。私は他の蛙を相手するから!」

「は、はい!」

 

ふと見れば、カズマ君が自主的にアクアの救出に取り掛かってる。

…カズマ君ってやっぱりリーダーとしての才能があるんじゃないかしら?

もしそうなら私的にありがたいわ。

前衛職である私がリーダーなんかしていたら、パーティー崩壊のリスクが高いからね。

そもそも私自身、まともにリーダーシップが取れるとも思えない。

まぁそれは置いといて、2人とも無事だったわけで、あとは残ったジャイアントトードをギルドで換金してもらうだけね。

 

「…てかマァムさん、俺達ってまだこの2人に自己紹介してないような…」

「「あ!」」

 

というわけで、紅魔族2人に自己紹介することに。

 

「俺は佐藤和真。カズマって呼んでくれ。どこにでもいる平凡な冒険者だ」

「私はマァム。切り込み役兼カズマ君の用心棒…みたいな?」

「へあっ!?」

「よ、用心棒!?………それってつまりその……彼女?」

「ゆんゆん、何をどう考えたらそんな風に飛躍するのよ。そんなことがあるわけないでしょ?私、既婚者なんだから」

『既婚者!!??』

「そうよ。私これでも23歳だし…」

「23だったんスか!?どう見ても15、6にしか…」

「いろいろ事情があるの!あ、因みに私のステータスはこんな感じよ」

 

冒険者カードを見せたら、2人は目が今にも飛び出そうなほどに凝視し始めた。

 

「…れ、レベル1で一撃熊に初心者殺しまで討伐してる…!しかも何ですか、この見たこともないスキルは!?」

「元いた世界で習得したものよ」

「元いた世界って…………まさか、張り紙にあった『異次元世界から来た冒険者』って…」

「私のことよ。とは言ったものの、就いてた職業が特殊なものだったせいで、こっちの世界の職業とはすこぶる相性が悪くて……それで基本職しか当てが無かったのよ」

「「は、はあ………」」

 

微妙な空気になっちゃったけど、今はそんなことどうでもいいわ。

明日からは、本格的にカズマ君のスキル習得をどうにかしないとね。

因みにアクアの自己紹介は………もはや語るまい。




次回予告
カズマにリーダーとしての才能を垣間見て、スキル習得のために動き出すマァム
スキルポイントを稼げるイベントが発生するが、
その一方で、新たな問題児の影が忍び寄る!!
次回「キャベツとクルセイダーっぽい何か」


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第03話 キャベツとクルセイダーっぽい何か

明けましておめでとうございます。
2019年に間に合わなかったけどやっとこさ更新完了!
資格取得の勉強で忙しいことよ…………
㊟読めばわかりますが、この話におけるマァムの世界観は、某エロ同人サークルのそれに近いものです!
引き続き以下の注意事項があります。
①オリジナルキャラ多数追加
②キャラ崩壊
③設定ブレイカー
④パクリ要素
等といった可能性を大いに秘めています。それでも大丈夫という方のみ
ゆっくり読んでいってね~( -∀-)”ノ


「オッケー、無力化成功!カズマ君、後はよろしく」

「はい、喜んで!」

 

そう言って、カズマ君が思い切りショートソードを振るう…初心者殺しに向けて。

因みに彼の今の格好は以前の奇妙な緑色の服じゃなく、白と茶色を基調とした服装に黒マントよ。

私は最近、強力なモンスターを無力化してカズマ君に倒させるという方法で彼のレベルアップを促している。

彼の強化…は勿論のこと、パーティのバランスをとるためにも重要なことだと思う。

………思うんだけど、これもそろそろキリの良いところでやめた方が良いかもね。

ずっとこんなことを続けてたら、カズマ君が単なる死体回収専門主任(?)になっちゃうわ。

格下でもいいから、素でモンスターと対峙すべきね。

その日の昼、私はカズマ君にそのことを話した。

 

「まぁそうなりますよね。なんだかんだ言っても、マトモな討伐ってジャイアントトードぐらいっスから。俺もそろそろ、ちゃんと討伐してみたいな~と思い始めてたところなんで」

 

本人はやる気あるみたいでひと安心。

問題は……

 

「えぇ~何でよぉ、楽に倒せるんならそれでいいじゃない」

 

と気だるさ全開の彼女………え~と、アクアだったわね。

 

「私の話聞いてた?魔王を倒したいなら今のままじゃダメなのよ!私以外でまともに攻撃できるのはカズマ君だけ。大体、強くなりたいなら実戦で経験を積むしかないのよ!?」

「それならあんた1人でも十分じゃないの!」

「あのね、1人じゃやれることには限りがあるでしょうが!いくらなんでも私1人で4人を守り切るなんて無理な話。非戦闘員を除く全員が戦える状態じゃないと、いざって時に動けなくなるでしょうし」

 

全く…呆れてものも言えないわ。

以前カズマ君から「魔王を倒すという使命を帯びて来た」と聞かされたけど……本当なのかしら?

少なくとも、アクアちゃんの言動からは全く説得力が無いのよね。

もしカズマ君の方が正しいなら……尚更彼女の考えが読めない。

一体全体、どういうことなの?

 

「あ、あの~…こんにちは」

「あらこんにちは、ゆんゆん。背中の子、今日は何処で爆裂魔法を?」

「森の中にちょうどよさげ」

「おい、何故私に直接問わなかったのか聞こうじゃないか」

「ゆんゆんの方が話が分かるから、以上よ。じゃあゆんゆん、続けて」

「……ちょうどよさげな開けた場所があったので、そこに撃ち込んでました」

「なるほど、一応聞いておくけどさ…人的被害は出てないわよね?」

「勿論出てないですよ。近くに人が住んでないことは何度も確認しましたから!」

「そう…ならいっか」

 

ゆんゆんに背負われている少女、めぐみんは1日1回“爆裂魔法”を撃たないと気が済まない性分らしく、最近はゆんゆんに背負われてる姿しか見ていない気がする。

そもそも、爆裂魔法はどんなに腕のある魔法使いでも1日1発が限度。

仮に撃てたとしても、魔力と体力を極限まで消費するため、動くことすらままならなくなるんだとか。

まぁその代わり、純粋な破壊力だけは他を寄せ付けない……それが唯一の利点。

何故めぐみんがそのような魔法を使うことにこだわるのかは、未だに明かしてくれないのだけど、少なくともこの生き方を変えるつもりは無いらしいので、私個人としては正直言って扱いに困ってるのよ。

ギルドで雑談をしつつ、今後の方針を筋肉バカの私なりに考えていた、丁度その時

 

「ちょっとお訪ねしたいのだが」

 

そう言って現れたのは、青い目に長い金髪をポニーテールでまとめた女性騎士。

ポニーテールか…そういえば私、髪のまとめ方をポニーテールから元の団子頭(?)に戻したのって何時頃だったかしら?

まぁどうにしろ私個人としては、あの髪型そんなに好きじゃなかったしね。

激しく動くと、ポニーテールのせいで視界が遮られることが多々あったし……。

それはそうと、とりあえず応対しないとね。

 

「はいはい、何かしら?」

「このパーティメンバー募集の件は、まだ有効なのか?」

 

そう言って差し出したのは、以前アクアちゃんが張り出したもの。

カズマ君以外は何かを期待する目を向けてるけど、話をややこしくしてほしくなかったので、カズマ君と共に“無言の圧”で制止させた。

私は張り紙を確認した後、再度彼女に視線を戻す。

一見すると、性格的には私と同じく男勝りな感じでマトモそうだけど……経験則から言わせてもらえば、見た目は綺麗だけど中身は壊滅的…って感じの可能性が高いわね。

今はかろうじてマトモなメンバーの方が多いけど、もし彼女がそうじゃない場合…。

ともかく、確認は怠らないようにしなきゃ。

 

「ええ、一応ね。見た感じ上級職みたいだけど、職業は?」

「ああ、察しの通り私はクルセイダー、上級職だ」

「クルセイダー…確か前衛職だったわね」

 

私も元の世界じゃ前衛職だったから、ちょっとだけ親近感が湧くニュースだわ。

………っと、それでもやっぱり念押しはしないとね。

少なくともここでは…ね。

 

「え~と…一応聞いておきたいんだけど、私達のパーティに入ろうと思った理由は?」

「理由か?それは勿論、誰かの役に立ちたいからだ」

「いやそれはそうだけど…何故このパーティに?」

「それはだな…」

「ああ、こんなところにいた!ダクネス、勝手にいなくならないでよ!随分探したんだから」

 

そう言って突如割り込んできたのは、銀髪の少年。

そういえば金髪の彼女の名前を聞いてなかったわね…ダクネスというらしい。

一方銀髪の子は結構華奢な体つきだけど、大丈夫かしら?

 

「なるほど、あなたダクネスって名前なのね?」

「う、うむ…」

「おっと、こっちも名乗ってなかったわね。私はマァムっていうの。でもって、そっちの子は?」

「あたしはクリス。一応言っとくと、職業は『盗賊』だよ!」

「…盗賊ねぇ」

「ん?どうかした?」

「いや、私がいた世界の盗賊とどう違うのか気になってね…」

「『私がいた世界』?…ってことは、あなたが例の異世界から来たって言う冒険者なのかな?」

「ええ、そうよ。それにしても偶然ってあるもんなのね。こっちの世界にも同じ『盗賊』って職業があるなんて」

「偶然?あ、そういえばさっき、そんなこと言ってたね!」

 

そんな雑談をしつつ、何気なく見えていた「彼」の冒険者カードを見てみたら……

 

「…あら?意外と能力的には平凡なのね。敏捷性はちょっと高めみたいだけど…何か『測定不能』とか出てる運の良さでカバーしてる感じかしら?」

「…何かさらっと流したね。自分で言うのも変だけど、運の良さには触れないの?」

「その辺はもう『異世界だから』ってことで片付けることに決めてるの。元居た世界とは違いが多すぎるから」

「………まぁいいや。それで一応聞いときたいんだけど、君がいた世界の盗賊ってどんな感じなの?」

「そうね、簡単に言っちゃえば素早さと器用さが群を抜いてるわ。特性上、あまり好かれない職業だけどね」

「そ、そう……」

「ああ、一旦話は変わるけど、クリス“君”はダクネスとどんな関係なの?彼氏だったりする?」

「!!??」

「……あ~、断っておくがクリスはこう見えても女だ。間違えないでくれ」

「えっそうだったの!?……ごめんなさいね、全然気付かなくて…」

「…そんなに男っぽいかなぁ………」

 

そう言いながら、クリスちゃんはしきりに胸の辺りを手をやる。

 

「いや、そこだけじゃなくて全体的に男らしいのよ、あなたは」

「全体的ぃ!?」

「まずその服装…どう見ても女性のする格好じゃないし、髪型だって少なくとも女性だと判別できるものじゃないしね…」

「……………………」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

私の意見が予想外だったのか、そのままテーブルに突っ伏してしまった。

その様子を見かねてか、ダクネスが口を開く。

 

「…初対面でこんなことは言いたくないのだが、もう少し言葉を選んだ方が良いと思うぞ。それと、あまりクリスをいじめないでくれ。私の友達なんだからな!」

「私は事実をありのまま言っただけであって、いじめに該当する要素なんて何1つ無いわよ?それに大体、もし私が指摘しなかったら、この子は一生恥をさらし続けるかもしれない…それが友達のすることなの、ダクネス?」

「んん…………!」

「そもそも、何時か言おうとは思ってたことだけど、彼女に限らず世の女性って大体、自分を良くしようなんて口では言うのに全然自分の欠点に向き合わないじゃない?大概は『乙女の秘密~♪』なんて言い訳して…。同じ女として、見ちゃいられないわ!本当に自分を変えたいなら、ちゃんと自分に向き合えって話よ、全く!!」

 

何だかんだで久しぶりに語りが熱くなった私。

ふと周りに目をやると、女性の冒険者達は皆一様に私から顔を背け、何やら物思いにふけってる様子。

一方の男性冒険者達は、私の発言に同調するかの如く女性冒険者を睨んだり、私に向けて『よく言ってくれた』的なジェスチャーをしてくる。

そして視線を戻せば、クリスはいつの間にか突っ伏すのを止めて、ダクネスと一緒になって複雑な顔をしてる。

流石にこれ以上続けるのは精神衛生上良くない…のかな?

 

「……まぁそれはともかく話を戻すけど、この世界の盗賊ってどんなスキルを持ってるのかしら?」

 

話の戻し方が強引だったけど、クリスはこれ幸いと話に乗っかってきた。

この世界の盗賊は、元の世界のそれと比べると割とバランスが取れてる印象を受ける感じなのよね。

敵の接近を感知したり、存在感を消して隠れたり、魔力が続く限り相手を縛り続けるとか……割と戦闘向けなスキルが多い。

対してこっちのは、オリジナルスキルが“お宝スキル”と呼ばれるほど、宝探し関係にバランスが寄ってるの。

 

「…なるほど。でも言うほど悪くないと思うな。特にその『お宝さがし』ってスキル、地図上に場所を表示できるのは便利だと思うし、ダンジョンや洞窟の入り口まで一発で戻ってこられる…『リレミト』だっけ?その魔法もこっちの世界の『逃走スキル』より有用そうじゃん」

「言われてみればそうかもね。おっと、そういえばまだ私達スキルの習得とかしてなかったわ」

 

てなわけで、せっかくの機会だから盗賊スキルを習得してみることに。

まぁ勿論、警戒は怠らないけどね。

どさくさに紛れて窃盗されたんじゃたまらないから。

事前にそのことは言っておいたし、多分大丈夫…よね?

兎にも角にも、私達は場所を移して盗賊スキルのレクチャーを受ける。

手始めは『スティール』、相手の装備品をランダムに盗むというもの。

彼女曰く、ランダムに盗むという特性上、持ち物が大量にある人からは上手く盗めなくなるとのこと。

習得までは問題なかったんだけど…ここで何故か調子に乗ったクリスが実戦も兼ねて勝負しようなんて言い出した。

…まさかとは思うけど、気が大きくなりすぎて私の言ったこと忘れてたりしないでしょうね?

ま、結論だけ言えば窃盗する気満々だったわ。

無言の圧で引き下がったから不問にしたけど…。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「じ、じゃあ早速実践、やってみようか~…」

「う~す」

「………………………………」

「さっきも言ったけど、成功させるコツは“手に入れたいものを強く思い浮かべる”だよ。こんな感じに『スティール』!」

 

クリスの手には、割と見慣れたきんちゃく袋……カズマ君のお財布だ。

 

「あ、俺の財布!」

「とまぁこんな感じで、必ずとは言えないけど目当てのものを盗める可能性が高くなるんだ」

「……なるほどねぇ」

「さて、それじゃ実践してみよう。今と同じようにやれば、この財布を盗めるはずだよ」

「…よし!」

 

本番ということで、気合を入れ直すカズマ君。

そして、陰ながら私も準備する。

財布の持ち逃げを防ぐために、念を入れて…ね。

そして、私達は同時にスキルを発動した。

 

「「『スティール』!」」

 

………初スティールの感想は?と尋ねられたら…答えは1つ。

“思ってたのと違う”

だって感触が…絶対に財布じゃないもの。

嫌な予感がしながらも恐る恐る確認してみると………………予想以上にヤバいものだった。

私の手中に収まったのは……まさかのパンツ。

でもってカズマ君は………何かしらアレ?

肌色をした2枚の丸い布地。

………アレってまさか、俗に言う“パット”ってやつかしら?

クリスに視線を向けると…彼女は自分を強く抱きしめ、女座りで呆然としていた。

そして…私とカズマ君は偶然にも同じことを考えた。

“どうしてこうなった”と……………

 

「あ、帰ってきましたよ……って何ですかこの状況は?」

「窃盗未遂のお仕置きだから、気にしないでいいわよ」

「窃盗…未遂…だと!?マァム、すまないがその話詳しく聞かせてくれ」

 

私から事情を聞いたダクネスは、有無を言わさずクリスにアイアンクローのお仕置きを実行。

思ったより正義感が強いみたいね。

 

「うう……脳みそ飛び出すかと思った」

「まぁ、初犯ということでこれまでとする。但し、次はないと思え!」

「はい………」

「それで、具体的にどんなお仕置きをしたんだ、お前達は?」

「お仕置きというよりか、偶然そうなった感じなのよ」

「偶然?」

「ええ、何となくだけど…スキル云々には個人の相性……的なものがある気がするのよね」

「相性?一体何のことだ?」

「え~と…多分だけど、私とカズマ君が盗賊スキルの『スティール』を使うと…その~…盗む対象がね、女性に対して使った場合だと思うんだけど……下着に限定されちゃうっぽいのよ。因みに私はその子のパンツ、カズマ君が胸パット」

「「「「!!??」」」」

 

なるべく角が立たないようにと努力はしてみたけど……結局どストレートに言っちゃった…。

…もうこうなったら仕方ない。

 

「……ねぇカズマ君、すごく悪いんだけど念のため、この場でもう1回試さない?」

「ええ!?またですか!!?」

「大丈夫、私もやるから」

「何が大丈夫なのか分からないんですが……」

 

などと言いつつ、半ばヤケクソでスキルを発動したカズマ君。

結果はというと……………………今度は私か……。

 

「……姉さんの予想通りかよチクショウ…!」

「………な、なるほど。確かに相性最悪のようですね」

「とゆーか誰のよ、その可哀想なほど飾り気のないパンツは?」

「悪かったわね、飾り気なくて」

『!!!!????』

 

私の言葉にメンバー全員が冷や汗ダラダラで私の方へ一斉に振り返る。

特にカズマ君は、金属が軋むような音が聞こえてきそうな動きでゆっくりとこっちを見た。

それも、この世の終わりみたいな顔で。

 

「あ…………あの~」

「何?」

「……これがあなたのだとして…さっきから見えてる青いそれは…?」

「ん?今履いてるやつ?これもパンツよ。所謂“2重履き”ってやつかしら?」

『えええええ!!?』

「な、何故そんなことを?」

「そりゃ勿論、破れた時のためよ。……何を皆してそんな顔してるわけ?」

「…マァム…さん。今更ですが言わせてもらいますけど、何故にわざわざパンツを見せつけるような座り方を?」

「これが楽な座り方だからよ。というかめぐみん、あなたこそ今更何を言ってるの?たかがパンツぐらいで騒いじゃって。私に言わせれば、その程度のことで騒ぐのはド素人か“もぐり”だけよ?」

 

言った瞬間、ギルド中の時が止まったみたいに全員が固まった……何故?

そしていち早く回復したカズマ君が一言。

 

「………何故ですか?」

「そんなの、モンスターの立場で考えれば分かることじゃない。モンスターだってれっきとした生き物なんだから、例え1日でも2日でも長生きしたいと思うのは当然でしょ?想像してみて!もしあなたがモンスターの立場で、偶然にも仕掛けた攻撃が結果として女性冒険者の衣服を破ることになって、それにより女性冒険者が怯んだ。その隙に逃げおおせることができたとする。その後、あなたならどう考える?言っとくけど人としてではなく、あくまでモンスターの立場で考えて」

「……え~と………『同じようにしたらまた逃げられる』…とか?」

「そうよカズマ君!まさにその通り。力はないけどちょっと頭がいいモンスターなら大抵そう考えるわ。これが更に知恵をつけたモンスターなら、人間の性的な分野における知識ってのを持ってたりするからね」

「マジすか」

「えぇ、この世界じゃどうだか知らないけど、少なくとも私がいた世界では『人間の女性はモンスターのメスに比べて性的な刺激に対し非常に敏感』ってことが証明されてるのよ。だから頭のいい奴らからすれば女性冒険者は『“人間の性に関する知識がある”状態で“懐まで近づくのが割と簡単”な状況なら有利に戦いを進められる』と見られて当然なの!」

「ってことは、やっぱり変態プレイ的なことを…」

「そうね。上手くいけば、その冒険者を快楽漬けにして自分の味方にできるでしょう。そうなればモンスターは、今までより確実に自分の身を守れるわけ。どう?モンスター視点で考えれば、ここまで合理的な手段は無いと思わない?」

「た、確かに理にはかなってるな…うん」

 

ふと見渡せば、女性冒険者達は何とも言えない表情のまま目を泳がせ、対する男性陣は目から鱗が落ちたような真剣な顔………中にはメモを取ってる人も。

そしてカズマ君に続いて話に加わったのはダクネス。

こちらは他の女性と違う意味での複雑な顔をしてるのよね…あれは、どんな顔なのかしら?(※自分好みのエロいプレイができるダンジョンの有無をやんわり聞こうとして、真剣な顔とエロい顔が混ざってるだけ)

 

「と、ということはアレか、つまり……ダンジョンとかそういったモンスターの集まりそうな場所の中には……お前が言ったようなモンスターが集まってる場合も……」

「ああ、俗に言う“エロトラップダンジョン”的なヤツ?そりゃあるわよ。かくいう私もそれにぶち当たったことあるし」

「そ、それで…?」

「ま、ハッキリ言っちゃえば女性にとって一番嫌な地獄でしょうね、あの手のダンジョンは。ほとんどは地下に続くタイプのダンジョンでね、潜れば潜るほどに…要は“途中でリタイヤして一生ダンジョン生活確定”ってのに多く出くわすようになるわけよ。それもダンジョンの主の王道手段。あえて見せつけることで、挑戦者の精神不安定化を狙ってるわけ。私だって、何度心が折れそうになったか分からないわ。最下層に着く頃には冗談抜きでギリギリの状態だから、ハッキリ言ってどうやって脱出したかなんてマトモに覚えてないわ。理性を保つので精いっぱいだから」

 

とまぁ…こんな感じのことを結構ガチで演説(?)しちゃったもんだから、当然ながらギルドの空気は何とも言えないものになりました。

ここで私、ハッと気が付いたの。

 

「おっといけない、そういえばまだ試してなかったわね!」

「へ?」

「ほら、私はまだ『スティール』を試してないじゃない」

「…あ~、そういうのありましたね」

「それじゃ適当に…『スティール』!」

 

取り敢えず金目の物が手元に来れば……な~んて淡い希望は脆くも崩れ去る。

 

「……何よこれ?」

 

私の左手には……黒い大きな1枚布。

所謂“全身タイツ”とでもいうべき代物だった。

そもそも誰の衣服なのかしら?

今冒険者ギルドにいる人達の中に、全身タイツを身につけている人なんて………まさか?

私は気付いた、いや気付きたくなかった。

該当する人が1人いたことを…そう、ダクネス。

彼女の鎧の隙間からチラチラ見えていた黒いもの…………夢であってほしいと思ったけど、現実は非情。

いや、これはある意味“魔王との実力差”以上に非情なものだわ、間違いない。

今まさに、目をやったダクネスからは…今まで見えていた黒いものが無くなっている。

 

「嘘でしょう……何でよりにもよってこんなことに……!」

「………んなっ!?」

 

右手で顔を覆う私。

体の違和感から自分の身に起きたことを知り、赤面するダクネス。

残念なことに、この事態を収拾できる人は誰もいなかった。

加えてこの日を境に、ダクネスが事あるごとに私のことを「ご主人様」呼ばわりしようとするようになってしまった……

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ある意味“激動の日”から一夜明けて、アクセルの街に警報が鳴り響いた。

そんなものがあるってことに驚きだったんだけど、内容を聞いて更に驚愕。

キャベツの群れを狩るのだという。

私がいた世界にも植物系のモンスターはいたけれど、食用になるモンスターは存在しない。

そしてカズマ君がいた世界では、そもそも野菜や果物が動くことはあり得ないとのこと。

他にも細かな説明があったけど、兎に角キャベツ狩りは結構なお金になるらしいので、私達も参加することに。

そして何故か、アクアちゃんが「狩ったキャベツの報酬は分配せず、各自で狩った分を換金し、それをそのまま各自の報酬にする」ことを提案してきた。

何を考えてるのか知らないけど、取り敢えず私とカズマ君を筆頭に満場一致。

時間も勿体ないしね!

 

「…思ってたより大規模ね」

 

それが一番の感想。

実際、私の予想以上に大きな群れ…それも空を覆いつくさんばかりにキャベツが飛んでるんだもの。

とは言え、少なくとも私にとっては好都合。

まずはっと………

 

「『爆裂拳』!」

 

素手スキル『爆裂拳』

敵を選ばず、疾風怒濤の4連続攻撃を決める

 

始めのうちはこれでも十分だったけど、次第に群れの密度が上がってきて流石に効率が悪いと思ったので、作戦変更。

……あんまり使いたくはなかったけど、アクアちゃんという名の浪費家の存在を考えると、やはりまとまったお金は持っておくに限る。

何とも言えない罪悪感を噛み締めつつ、私は小さく呟く。

 

「…………『ザラキーマ』」

 

『ザラキーマ』

邪教で生まれた【ザキ系】の最上位呪文

一瞬で体中の血液を凝固させて敵全体を即死させる

 

流石に全部ではなかったものの、群れを構成するキャベツの半分以上が突如として白目をむき、バッタバッタと落ちていく。

……一気に仕留めるったって、何もこんなえげつない方法が一番に浮かばなくてもいいじゃない!

私は心の中で自らを罵倒する。

カズマ君を含め、周りの冒険者達は何が起こったのか分からない様子。

キャベツ狩りが一段落つき、換金に向かったアクアを除くメンバー全員でキャベツのスープを飲みながらお喋りしていると、不意にカズマ君がさっきの“ちょっとした事件”について聞いてきた。

別に隠していたわけじゃないし、隠し通す気も無かったので、私は例の魔法について包み隠さず話したわ。

 

「そ、そんなにえげつない魔法だったんですか!?」

「えぇ、だからあんまり大っぴらには言わないで頂戴ね、ゆんゆん。あの魔法に出会ったのは、私にとって黒歴史以外の何物でもないから」

「言われなくても、そうします……」

「私も同感ですね。ていうか言った瞬間に口封じでキャベツの後を追う未来しか」

「やめて頂戴めぐみん!何で私が殺人鬼みたいな凶行に走らなきゃならないのよ!」

「それぐらい怖いってことです」

 

その後は無理矢理話題を切り替えたり、紅魔族の故郷で「スキルアップポーション」と呼ばれる…飲むだけでスキルポイントが増えるポーションが作られていることが判明したりと……兎に角色々あったわ。

でも……どれもこれも、大して印象に残らなかった。

なにせ………………突然、“アイツ”が現れたのだから…………………………………………………。




次回予告
カズマ一行の前に、突如姿を現した謎の人物
その正体は、かつてマァムがいた世界を引っ掻き回した“アイツ”
この世界に現れた目的は?
そして、マァムがこの世界に紛れ込んだ“真の理由”とは?
次回「明かされる(?)真実」


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第04話 明かされる(?)真実

ようやく次回作の投稿が終わった(汗)
ただ当初の予告通り、あくまで本当に書きたかったシリーズのための伏線的な役目を担うものであり、今回の話がそれに該当します……。
引き続き以下の注意事項があります。
①オリジナルキャラ多数追加
②キャラ崩壊
③設定ブレイカー
④パクリ要素
等といった可能性を大いに秘めています。それでも大丈夫という方のみ
ゆっくり読んでいってね~( -∀-)”ノ


私達の目の前には黒い鍔付きの三角帽に黒装束、多数の怪しげなアクセサリーを身に付け右目に片眼鏡をしている男。

“アイツ”が突然やってきた。

 

「おう、久しぶりだなオイ」

 

それも、まるで親友であるかのような軽いノリで。

 

「ええ、久しぶりね『ネクサス』………出来れば一生会わずに過ごしたかったんだけど」

「グェッヒャハハハハハハ!未だ“箱庭”から抜け出せねぇお前に、んなことができると思ってたのかよ?ついでに、俺がお前のために色々と手引きしてやったってこと忘れたわけじゃあるまい」

「相手の許可なく手荷物に詰め込むことは、手引きとは言わないと思うけど?」

 

私が「例のメモ」を突き出しながら言うと

 

「“俺流の” 手引きだ。“俺流の”な!」

「ハァ…ホントに疲れるわこのやりとり」

「ちょっと待ってちょっと待って!このままだと置いて行かれそうだから一旦ストップ!!」

 

というカズマ君のストップが入り、その後は他の皆が加わる形で、改めて話が進んでいく。

 

「それでマァム、彼は一体何者ですか?」

「彼はネクサス。本人は『異世界を股に掛ける遊び人』を自称してるけど」

「何ですかその情報量が多すぎる通り名は!?」

「んな多くねぇっつ~の。この世界とは異なる次元の世界なんて探しゃいくらでもあんだよ」

「まずあなたの言う“異世界”というものが既にピンとこないんですが…」

「主にパラレルワールドと呼ばれるものだな。早く言えば『もしもこうなっていたら』って世界だ。例えば、もしもマァムがこの世界に紛れ込まなかったら、そこにいるカズマって野郎は今以上に苦労してただろうな。あとは」

「ちょ、ちょっと待った!何で名乗ってもいないはずなのに俺の名前がすんなり出てくるんだよ!?」

「あ?俺はな、知りたいと思ったことは何時でも何でも知ることが出来るからさ。だから一々名乗んなくたって、そいつの素性や半生くらい分かんだよ」

「へえ、それは初耳だわ。てことは、私がこの世界に紛れ込んだ原因も分かるの?」

「当然だ。てゆーか俺はそれをオメーに伝えるために来たんだからな。どうせ自力じゃ答えに辿り着けねぇだろうし」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

‐悪が冷酷なら、正義の執行にも冷酷さは必要 それができないうちは、冒険者を語るに値しない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「最後が若干ムカつくけどいいわ。それで、原因は何だったの?」

「ズバリ、魔王の消失が原因さ」

『魔王の消失??』

「そう。マァム元居た世界における魔王は、討伐されると同時に異空間へと吸い込まれたのさ。ここまでは覚えてるだろう?」

「ええ、まぁ…」

「それにより、人間の社会には一定の平和が訪れたわけだが、同時に大きな代償も発生した」

「代償ですって!?」

「魔王が吸い込まれた異空間、それの影響でお前がいた世界の空間そのものが大きく歪んじまって、今尚その歪みは直ってない状態でよぉ、んなわけで『ルーラ』や『リレミト』といった移動系の魔法を使用すると全く違う場所に移動しちまう、な~んてトラブルがそれなりの頻度で発生してるのさ」

「し、知らなかった……そんなことが起きていたなんて。じ、じゃあ、私みたいに異世界へ移動しちゃったって人は…」

「それは無いな。オメーが移動魔法使った時、たまたま近くでとびっきり大きな歪みが発生してただけのことよ。要するにとことんツイてねぇ状況だったってわけな」

「……それで、私は元に世界に戻れるの?」

「…ブッヒャハハハハハハヒャハヒャハヒャハヒヒヒヒヒ……何言ってやがる!自力で答えにすら辿り着けねぇってのに、自力で帰れるわけねぇだろうがよ。まぁ後でオメーの元パーティメンバーにも同じことは伝えるからよ、運が良ければそいつらがコッチに来るんじゃねーか?」

「そう………」

 

そして話は終わったとばかりに、ネクサスが席を立とうとした時

 

「ちょっと待ってください」

 

今度はめぐみんがストップをかけた。

 

「せっかくの機会です。あなたのことをもう少し教えてくれませんか?」

「んん?」

「できれば、あなたがどんな経緯で今のような“人を超越した力”……とでも言うべき力を手に入れたのか、個人的にはそこが無性に気になってるんですが……」

「…ハッ。妙に改まったかと思えば、んなことか。別にいいぜ、隠してるわけでもねーしな。但し、詳しく言っても理解できねぇだろうから、掻い摘んで話させてもらうぞ」

 

ネクサスはそう言うと、席に戻って自分語りを始めた。

 

「まず俺自身、カズマが元居た世界と割とよく似た感じのパラレルワールドで生まれたんだ。要するに『元』人間ってわけよ」

「割とよく似た感じ…じゃあ街並みとかも同じ感じなのか?」

「勿の論だ。でもって俺にはもともと、ちょっとだけ不思議な才能があったのさ。『ネクロマンサー』って知ってるか?悪霊を使役したりできる黒魔術師に似た存在でな、6歳の頃に気付いたんだ。そんでそこの『眼帯』が聞いてきたことだが…まぁ細かい部分は省かせてもらうが、事の発端は女性関係のもつれだな」

「女性関係?いやそれよりも名前で呼んでくださいよ!何ですか『眼帯』って!!」

「めぐみん、彼にそんなこと言っても無駄よ。世界一の気分屋だから、本名で呼ぶかあだ名で呼ぶかも気分次第なのよ」

「そーゆーこと。んで話を戻すとだな、要するに“良識ある女”ってやつに出会う機会が全くなかったんだ。当時10歳の俺にとっちゃ、『女は裏切りが十八番』ってのが常識だったぜ。ヒデェ人生だと思わないか、カズマぁ?」

「っ………確かに、良い出会いは無かったけど、悪い出会いも無かったって意味じゃ…俺の方がマシだったかも」

「だろう?そんなことがあって、俺はある時1つの結論を見出した。『そうだ、力を手に入れればいいじゃないか。今ある才能をもっともっと強くして、力の差を見せつければ誰も自分を裏切らない。いや裏切れなくなる!他の男に頼ってきても、それらを全て一方的に蹴散らせる力、軍隊さえ自分1人で圧倒できる力!それさえ手に入れば、嫌なこと全部チャラにできる!それどころか大儲けってかぁ!』とまぁこんなことを考え、それからはひたすらに貪欲に『力』を求めて突っ走った」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

‐真意から逃げることが罪なら、敵に無益な情けをかけて仲間を危機に陥らせることは、敵に仲間を売ることと同義 お前の罪は、アイツの罪より遥かに重い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

皆が彼の語りに注目する。

 

「手始めに『ネクロマンサー』としての力を磨くために、手当たり次第に数多の悪霊共を薙ぎ払いつつ、力に磨きをかけた。そのうち、『相手が持つ力を利用すれば、もっと簡単に倒せるようになるんじゃないか?』という結論に至って、倒した相手の能力を取り込み始めた。そして15歳の時に“不老の呪い”と出会い、それ以来15歳の自分を半永久的に保存した後、時を越えて古今東西の怪物達の能力にも手をつけていった。ついでに陰湿な心のエネルギーが自身を強化する基となることを知り、自分の心を丁寧に汚しあげたり…そんな生活を続けて暫くした後、更なる転機が訪れた」

 

皆が更に注目する。

 

「前々からパラレルワールドに興味を持っていた俺は、別の時間軸に突入できないかと試行錯誤を繰り返してな、結果として予想外の場所…つまりは今の俺が身を置いている世界の存在を『自力で』知っちまったわけ。『自力で』な」

「何か妙に『自力で』を強調したけど、それってそんなに凄いことなの?」

「そうさ。大抵の場合、というかほぼ全部だな。ともかくその世界に行く方法は、“その世界の住人から『片道切符』を貰う”のほぼ1択なわけ」

『片道切符?』

「要は気まぐれにお誘いが来て、それに乗った相手をこっちの世界に引き込むわけ。俺の場合はお誘いナシで辿り着いちまった『特例』のケースなんだな。そんで俺はその世界のルール『生きるために最低限必要なもの以外は全て捨てる』ってのがあることを知り、それに則って文字通り、生存本能以外の全てを捨て去った。ガチで最低限“生きる”ってことをするのにゃぁ、善悪だの、過去だの、心だのと言ったものは一切不要なのさ」

 

この時点で、皆は一転して顔が恐怖に染まり、冷や汗が噴き出る。

 

「こ、心が要らないって…それじゃあただの野獣みたいじゃない!」

「いやいや、それ以上だ。お前の言う野獣が1日生き残れたらマシな方、ってレベルの弱肉強食ぶりだぜ?ま、言ったところでお前らには想像できないだろうが、だからといって怖いもの見たさに見ようなんて考えない方が良いぜ?んな軽い気持ちで見た暁にゃ精神崩壊確定だからな。ウヒェヒャヒャハハハヒャハハハ!」

「ちょっと待って、あなたさっき『心を捨てる』とか言ったわよね?それって…精神崩壊と変わらないんじゃ?」

「勿論そうだぜ。但し違いが1つ、“外的ショックで壊れる”か“自分で壊す”かって違いがあるぜ」

「自分で?」

「ああ、完全に本能のまま動くためにはそれが1番だからな。そうやって過ごすうちに『周りに敵と呼べる存在がいない若しくはあまり見かけない』状態になるほどの力を身につけるとな、自分の中に余裕ができて、それが“穴”という形で本能的に認識するんだ」

「穴?」

「でな、それがあると非常にあ~、とにかく気持ち悪いわけだ。そっから生存本能は『敵を倒す』ことから『“穴”を埋める方法を探る』ことにチェンジすんのさ。そんでもって結局『新たな心の構築』という答えに行きつく。しかもそれが結果的に、必要とあれば元居た世界とを自由に行き来できる『往復切符』代わりになるわけな」

「新たな…心」

「そう、逆に言やぁ俺が身を置く世界じゃ、不動の地位を築けるだけの力を得た者だけが心を持てるってこった。因みに心ってのはな、破壊したとしても身が滅びない限り体内に残り続けるんだよな、丁度ゴミ山みたいな感じで。で相手を倒すと、そいつが持ってる心の“パーツ”…的なものが手に入るんだ。後はまぁ、本能に従い或いは気の向くままにパーツを組み合わせて『仮初の心』を作れば、晴れて新たな自我を得るって感じ。だがあくまで元居た世界にある程度適応するための見せかけ…屑鉄の塊にすぎないからな、例え精神攻撃かなんかで破壊されたって何の問題も無い。俺達に言わせりゃ『いつもの自分に戻る』ってだけだからな。てかむしろ相手からすれば逆効果だろう。何せ“心が壊れる=手加減という概念が消える”って感じだし」

「確かに…」

「それに所詮は屑鉄の寄せ集めだからな、何時でも作り直せる。それに作り上げたもんが必ずしも気に入るとは限らないわけだからな、場合によっちゃ自ら壊して作り直すことだってある。現に俺だって、指折り数えて5回ほど作り直してるぜ。今ある力を可能な限り完璧に制御できるようにな」

「…何かさっきから軽い感じで言いますけど、そんなに心を何度も作り変えて、何か反作用…というか、何かしら弊害の様なものってないんですか?」

「あるっちゃあるぜ。まぁこれは心を壊した時点で必ず生じることだが、過去の記憶ってのがどうしても薄れちまうわけよ。かくいう俺も、以前の記憶は今まで話した通り、かなり断片的にしか残ってねぇんだ。つっても俺達ゃ過去なんざ生き抜くために放り捨てるの前提だから、特に気にも留めねぇがな。あとはそうだな…ごくごく稀に生じるのが、倒した相手の記憶が混ざっちまうってことだな。記憶の中で特に印象に残ってたものが、心を壊した時にバラけずそのまま残ってることがあるわけよ。で知らずにそのまま組み込んじまうと、その他のパーツと衝突を起こして精神的に不安定な状態になるわけだ。まぁその場合はすぐに作り直せば問題ないけど」

「はあ…」

「話が脱線したから俺の話に戻すがなぁ、さっき不動の地位を築けるだけの力を得た者だけが心を持てるっつったろ?でもなぁ、心を持ったからっつって元居た世界に戻ろうなんざそうそう考えないわけだ。何故かっつったら、俺達の世界で不動の地位を得るってのは言い換えれば『力を付け過ぎた』状態である場合がほとんどなのさ。要するに“元居た世界には収まりきらないほどの力を持ってる”状態なわけな。だから元居た世界は今の自分にとって窮屈なだけだし、世界を何時でもどうにでもできる状態ってわけ。だが考えてみてくれよ。今言ったような状態で、何時でも何でもできるってなったら、具体的にどうしたいと思う?」

 

皆は頭をひねるが、誰一人として口を開けなかった。

なにせ………

 

「何となく分かっただろうが、基本的に皆同じように考える『特にすることが見つからない』ってなぁ。そうさ、今や“小さな箱庭”としか認識できなくなった世界で、何時でも何でもできるったって、ちっとも嬉しくないわけだ。だから余程心残りがある、若しくは何かしらの原因で『偶然紛れ込む』な~んてことがない限り、こういった世界に関わろうとは思わないわけ。つまり、そのことを理解したうえで世界に干渉している俺は、仲間内からすりゃ異例中の異例ってわけ」

「だったら、どうしてわざわざ?」

「ん?それが俺の“趣味”と化してるからさ」

「趣味?」

「そ。いくら不動の地位を得てるっつっても、同類との付き合いがなくなるわけじゃあない。そういう類の付き合いってのは、なかなかに疲れるもんでよ。だから俺は、自分より力のない輩と戯れて息抜きしたいわけ。ただその“息抜き”がまぁ、持ちうる力に比例して規模がデカくなるもんでよぉ、結果的にある世界では世界を包む幸福として、またある世界では大いなる災いとして認識されちまうってこった」

「ダメもとで聞いときたいんだけど、幸福だけもたらそうって気は…」

「は?何言ってやがんだお前は?俺の目的はあくまで息抜き。その場で思いついた、やりたいことをただやってるだけだ。幸福も災いも、あくまでその副産物にすぎない。それで悪名が広がる?結構。皆から歓迎されない?結構。出会った瞬間攻撃される?大いに結構。それら全てが『俺』という存在を定義するってだけなんだからな。ウヒャハハハヒャハヒャハヒヒヒヒィィィ…!」

 

とここまで聞いて、大きく溜息を吐いてから周りを見れば、何故かダクネスが安堵したような顔をしていたのが目に留まる。

 

「…どうかしたの、ダクネス?」

「ん?あぁいや、ちょっとな…」

「ちょっとって何よ、余計に気になるじゃない…」

「いやその…彼のことをだな…魔王じゃないかと疑っていたんだ」

「え?」

「も、勿論おかしいとは思ったぞ。人間と敵対している存在が、自分の手の内やら半生やらを軽々しく語るわけはないだろうから……ただ、その身から感じ取る威圧感が尋常じゃなくてな、確認せずにはいられなかったのだ」

「…まぁ、分からなくはないけど」

「ダ~~ッヒャッヒャヒャハハハハハッハハハハ!!俺が魔王だって!?冗談キツイぜ!な~んで俺が今更、こんなちっぽけな世界を支配しなきゃなんねーんだよ。つーかそれ以前に、ここの魔王って碌な支配も何もしてねーじゃん。仮に俺が魔王だったとして、んな甘っちょろいことするわけねぇっつ~の」

「……参考までに聞かせてくれませんか?」

「いいぜ勿論。例えばそうだな~…まず前提条件として、俺自身が魔王であることは隠すな。でもって“一介の悪魔”でも名乗っとこうかね。肝心の作戦はだなぁ、第1段階として『自分にしか解けない呪い』を主要都市に蔓延させる」

「い、いきなりムゴい」

「そうなるとやっぱり大取に控えている王族連中が腰を上げざるを得ないわけだ。王女様辺りがこの役を担っているなら大歓迎さ。でもってそいつが登場したら呪いについて言及した上で『俺を殺せば呪いは永久に解けない。但し一定期間、俺の言う通りに動いてくれたら呪いを解いてやる』とでも持ち掛けて、一時的にでも手中に収めるわけよ。ベタなのはやっぱり、『1週間とか10日とかで平和が訪れる』的なことを国民の前で大々的に宣言させるやつだな」

「で、仮に王女様が来たらどうするわけ?」

「んなもん“快楽責め”一択さ!但し、ここで重要になるのが『住民を巻き込む』ことだ。例えば、売春宿かなんかに“そっくりさん”として送り込んで、それで釣れたチョロインな連中に犯らせるとかな」

「い、一気に耳に聞き入れるのが辛い内容に…」

「何言ってやがんだMs.眼帯、まだ作戦半ばだぜ?兎にも角にも、こういうことを1週間とか10日とか続けて、いよいよ仕上げにかかる。さっきの期間をかけて淫らに堕とした王女をお披露目し、国民の目が裏切り者を見る目になった時、例の『住民を巻き込む』ってのが花開くのさ。具体的には“そっくりさん”などと言われてまんまと騙されて王女にあんなことやこんなことをした奴らをいちいち名指ししたうえで真実を告げ、最後はこう締めくくる『王女を我が手中に収めることが出来たのは、今話した通り我輩だけの力ではない。ひとえに、今名を述べた者達の助力があってこそ、成し遂げられたのである!諸君…我輩の作戦への献身的な協力、心より感謝する(敬礼)』となぁ、ヴァヒャハハハヒャハヒャハヒヒヒヒィィィ…!!んで後は簡単、最初に言った呪いで自分の邪魔にやる奴ら全員殺して首都を制圧。そして周りの町や村も制圧してTheENDって感じだぜぇ!」

 

一通り話し終えて満足するネクサス……の周りでは、私を含めた全員の顔に絶望が浮かんでいる。

いや、正確に言うなら……絶望レベルでドン引きしてると言った方が正しいかしら?

何故なら、その顔からはわずかな安堵が見て取れる……“コイツが魔王じゃなくてよかった”ってね。

 

「あん?どうしたいオメーら、揃いも揃って変顔なんかしてよ」

「変顔じゃないことぐらい分かってるでしょ?皆多分同じことを考えてるのよ…あなたが魔王じゃなくてよかったってね」

「ケッ、甘ちょろいことを…俺に言わせりゃ『利用してから殺す』のが魔王の基本だろうよ」

「魔王の…基本?利用してから殺す?」

「そうだよ。ただ殺すだけなら誰にだってできる。魔王じゃなくたっていいんだ。何も考えずにただ殺すなら単なる殺人鬼であって、魔王ではない。人間は、利用してから殺す…それでこその『魔王』だ…!」

 

そう言うネクサスの顔は、次第に邪悪な笑みを纏い、その邪悪さはどんどん増していく。

最初は気のせいかと思ったけど、気のせいじゃない…………彼の顔、どんどん黒くなっていってる。

※マァムはネクサスの十八番「極悪光線」のことを知りません

 

「人間を殺すなら…まず利用することから始まる。利用して、利用して、利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して利用して……………………とことんまで利用して、利用し終わってから殺す。それが魔王……」

 

ネクサスが一拍おくと

 

「それが………悪魔…!」

 

その顔は一気に真っ黒となり、目と口だけが不気味に黄色く光っている。

その表情はまさに“嫌味のこもった笑み”を、世界一シンプルに表現したと言えよう。

 

「とまぁそういうこった」

 

彼はその一言と重苦しい場の雰囲気を残して去っていった。

翌日もギルドの空気は良いものじゃなかったけど、キャベツ狩りの報酬が出るとのことで多少は皆浮かれていた。

そんな中………

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁぁああ!?ちょっとどういうことなのよ!私、結構な数のキャベツ捕まえたじゃない!!」

「そ、それがですね…アクアさんが捕獲したのは殆どがレタスでして…」

「何でレタスが混じってるのよぉ!!」

「私に言われましても…」

 

ひと際大きな声で喚き散らしてる青髪の子。

話を聞く限り、レタスはキャベツと違って買い取り額が安いらしい。

そして、アクアちゃんが捕獲したのはほとんどレタスだったみたい。

そのせいでアクアちゃんの今回の稼ぎは…たったの5万エリス。

報酬を山分けにしなかったのが、完全に裏目に出たわね。

と突然、彼女は満面の笑みで私とカズマ君のテーブルまで駆けよってきた。

 

「カ~ズマさん♪今回の報酬おいくら万円?」

 

…これはどう見ても何か企んでそうね。

地味に私をスルーしたのにも悪意しか感じられない。

 

「俺はマァムさんと一緒に換金したからな……2人合わせて300万ちょっとだったか」

「さんっ!?」

 

そう、私とカズマ君は捕まえたキャベツをまとめて換金したせいで、どっちが何匹捕まえたか分からなくなっちゃったのよね。

面倒だから山分けで済ませたけど…。

 

「ねぇカズマさん、その~……あれよね、カズマさんって………超凄いわよね」

「あなたさ…今のが明らかに失礼に値する発言なの分かってる?…まさかとは思うけど、そんなことでお金巻き上げようなんて、考えてないわよね?」

 

分かりやすく冷や汗ダラダラで青ざめる青髪の子。

カズマ君も察していたようで、明らかに“そうだと思った”的な顔をしてる。

やがて観念したかのようにカズマ君に縋り付く。

 

「お願いしますカズマ様ぁ!この迷える子羊にお恵みをぉぉ!!」

「迷える子羊……って?」

「何だよカズマ様って!?というか言い出したのはお前だろう。もう使い道は決めてあるんだから」

「そんなこと言わないでよお!私、後でたっぷりお金が入るから大丈夫と思って酒代ツケちゃったのよ!!しかもちょっとした事故でお酒を水に浄化しちゃって弁償しろとか言われてるし」

「…呆れた。お金が手に入るかも分からないうちから借金するなんて」

 

当然、こんなことでカズマ君の説得などできるわけもない。

ましてや説得しようとしてる人が売却額の配当方法を(半ば勝手に)決めた張本人となれば尚更ね…。

にもかかわらず、この子は遂に“許されざる禁じ手”を行使した。

 

「お願ぁい!せめてツケの分だけでもいいからぁ!カズマが時々“夜の営み”やってることにも言及しないからぁ!!」

「な!?ちょっおま」

 

その瞬間、私は青髪の子の後頭部を鷲掴みした。

 

「……あなた今、何しようとしたの?聞く限りじゃ、『思春期によくある行動をネタにお金を巻き上げる』…的なことをしようとしてるように思えたのだけど…気のせいかしら?」

「痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃ!!何よ、ちょっとぐらい助けてくれたっていいじゃない!!そのための仲間でしょ!!」

「仲間と言ったって限度ってものがあるでしょうが。それ以前にね…カズマ君だって思春期なんだから、夜の営みの1つや2つ、誰にだってあることよ。そんなものは黙認するのが当然のこと。なのに、よりにもよってそれをお金欲しさに利用するなんて…………どれだけ腐ってるのあなたは!!!」

「いぎゃああああああああああああああ!!!!誰が腐ってるってのよおおおお!!女神である私が腐ってるわけないでしょうがああああアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」

「まだ言ってるの!?女神らしいことを何一つしてないあなたを、一体何処の誰が女神だと思うわけ?あなたが今までやったことと言えば、サボろうとしたり酒場でお金の無駄遣いしたりワガママ放題好き放題してただけじゃない!!そんなの女神でも何でもない、『人間の底辺』の言動よ!いえ、あなたの場合はそれ以下だわ!!!」

「ぎぃやあああああああアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」

「ちょ、ちょっと姉さん、ストップストップ!もうその辺にしといた方が良い気がする!俺の耳がおかしくないなら、アクアの頭から聞こえちゃいけない音がしてるから!!」

 

確かにミシミシ聞こえてくるけど、見た感じ外傷的なものは見受けられないのよね…以前会話した時に言ってた羽衣の効力かしら?

とはいえ、カズマ君に続き、ゆんゆんも止めに入ってきたので鷲掴みしていた手を離すと、アクアちゃんは頭を抱えて転げまわっていた。

そこへ現れたダクネス。

 

「ん……これは一体?」

「カクカクシカジカで、無駄遣いへのお仕置きよ」

「な、なるほどな……も、もし足りないというなら私で」

「誰がすきでマゾヒストを殴らなきゃいけないわけ?」

「んんっ……あいや、それよりもちょっと聞きたいことがあるのだが」

「聞きたいこと?」

「ああ、報酬で鎧を修理してみたんだが、どう思う?」

 

……どうって言われても、元々小綺麗だった鎧が光沢を増したって印象が強いわね。

後1つあるとしたらそう……小声でカズマ君の意見を聞いてみたんだけど、私と同じだったみたい。

 

「…ねぇダクネス、ひょっとしてあなた…お金持ちのとこのお嬢様とかだったりする?」

「っ……な、何故そう思うんだ?」

 

この反応、間違いなさそうね。

 

「だってその鎧、普通の冒険者が身につけるには綺麗すぎるもの。成金のボンボンでもない限り、ここまではしないわ。そもそも修理前から十分小綺麗だったし」

「……………………そうか」

「あ、あの~…それはそうとマァムさん。そ、その…」

「ん?どうしたの、ゆんゆん?」

「う…うちのめぐみんも、止めてください…」

 

ゆんゆんが指さす先では……

 

「はぁ、はぁ……た、たまらないのです!魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色つや……ふっ、ふっふふ」

 

めぐみんが変なことを呟きながら、一心不乱に杖を体に擦りつけていた。

 

「…何やってんだ、アイツ?」

「あ、新しい杖を買ってからずっとあの調子で…しまいには私にまで強制しようとするんですぅ!」

「……取り敢えず、(ピ―――――)の件だけは注意した方が良いかしら?」

「たっ、(ピ―――――)!!??」

「…何ですか?何か物凄く受け入れ難いことを言われた気がするのですが」

 

急に我に返っためぐみんが寄ってきた。

 

「受け入れ難いも何も、実際に(ピ―――――)してたのはあなたじゃないの」

「(ピ―――――)って何ですか(ピ―――――)って!?」

「文字通り、立ったまま(ピ―――)することよ」

「いや分かりますよ!ワード自体は初めて聞きましたけど、何となく意味は分かりますよ!そうじゃなくて、私はただ念願の杖を手に入れた喜びを噛みしめていただけであって」

「喜びを噛みしめるのはいいけど、流石に杖を股間に擦り付けてたのは見逃せないわよ。それとも何?あなた本当に気付いてなかったの?」

 

気付いていなかったのか、複雑な表情のめぐみん。

カズマ君とゆんゆんは仲間(友人)の痴態に顔を赤らめ、ダクネスはおろおろしながらも何とか場をまとめようと知恵を絞ってる様子。

意外にも、この沈黙を破ったのはめぐみんだった。

 

「そ、それよりもモンスター討伐です!早くこの新しい杖で爆裂魔法を撃ちたいんです!」

 

何か今すぐにでもこの場で爆裂魔法を撃ちそうな雰囲気を感じ取ったので、仕方なく討伐依頼を見に行くことに。

その中から“ゾンビメーカー”なるモンスターの討伐依頼を請けることに。

爆裂魔法を撃つのに不適当だとめぐみんが不満を漏らしていたけど、これには一応理由がある。

 

「仕方ないじゃない、今ある依頼の中には爆裂魔法に合うものが無かったんだから。それに、この世界では回復魔法がアンデッドに対しての攻撃手段になるらしいから、その辺を試してみたいのよ」

「あ~、そういえばマァムさんとこはアンデッドモンスターも普通に回復魔法使ってますからね」

「えぇ!?ちょっとそれ本当なの!?あんな腐れタマゴみたいな体をどうやって回復させるのよ!?」

「それは分からないわ。使えるから使ってる…ただそれだけよ。それ以上のことは知らないわ」

 

確かによく考えてみれば……おかしいと言えばおかしいかもしれない。

とはいえ、今は依頼達成に尽力しないと。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その日の夜、私達はゾンビメーカーが現れるという墓地の近くでキャンプを張っていた。

テントなんていう仮説住居的なものは私が元居た世界にはなかったわね…。

それは置いといて、私がテントの前に陣取っていると、テントの中からダクネスが出てきた。

 

「マァム、そろそろ交代の時間だぞ」

「…悪いわねダクネス、今夜は眠れそうにないの」

「?何か気になることでもあるのか?」

「…感じるのよ。何かが近づいてる感じが」

「ん……それは、掛け持ちしているという例の『職業』の影響か?」

「そうかもね………」

 

ダクネスにはこう言ったけど………こんな事は初めてだわ。

今まで感じたことのある“敵意”とは全く違う、例えるならそう…“亡者の念”みたいな。

兎に角そういう…明らかに『アンデッドの存在』を感じ取っているのが分かる。

でもどうして急に?

今まで、こんな感覚は味わった試しがない。

いや、それよりも………

 

「…ねぇダクネス、今回討伐するのって『ゾンビメーカー』だったわよね?」

「ああ、そうだが?」

「だとしたら…おかしい」

「??」

「アンデッドの気配を感じるのが初めてなことを差し引いても、おかしいわ…………明らかに弱いモンスターの気配じゃない。もっと強力な…そう、強い闇の魔法の使い手だわ」

「『ゾンビメーカー』じゃない……のか?」

「ダクネス、強力な魔法が使えるアンデッドモンスターに心当たりはあるかしら?」

「む……真っ先に思いつくのは、やはり『リッチー』だな」

「リッチー?」

「そう、リッチー…『アンデッドの王』とも称され、大抵の魔法は一切効かん。その上、触れるだけで相手を狂わせることが出来るとも聞く」

「なるほど、かなり骨のある奴なのね…っと、ゾンビがいるわ」

 

目視でゾンビを確認した私は、予定通りに行動を開始した。

 

「…『ホイミ』」

 

『ホイミ』

初級回復呪文

対象1体のHPが30~40程度回復

 

私の回復魔法を食らったゾンビは、悲鳴を上げる間もなく消滅。

 

「……思った以上の効果だわ。この世界で言う『ヒール』と同じ様なものなのに」

「いや、元の世界での功績じゃないのか?相当鍛え上げていたそうじゃないか」

「あ、それもそうね」

 

こんな事を話しつつ、私は1人黙々とゾンビに『ホイミ』をかけてまわる。

……そういえば、カズマ君達を起こし忘れてたわ。

まぁ今は様子見だし、少人数の方が良いかもね…。

そんなことを考えていた矢先、緊張が走った。

 

「…っ、いたわ」

 

視線の先にいたのは、黒いローブを身に纏った人物。

フードを目深にかぶっているせいで、男か女かすら分からない。

いや、そもそも“人”じゃないわね。

何か魔法陣が展開してるし、周りからゾンビが湧いてるし…。

兎にも角にも様子見を兼ねて、回復魔法を放つ。

 

「『ベホイミ』!」

 

『ベホイミ』

【ホイミ】系中級クラスの回復呪文

対象のHPを約80程度回復する

 

「きゃああああああ!?」

 

黒ローブの人物が甲高い悲鳴を上げる。

よく見ると…ほんの少しだけど体が透けているように見える。

ダメージが入ったのかしら?

 

「なっ何ですか今のは!?ただの回復魔法で…こんな…!」

 

透けている自身の身体を見て戦慄する人物。

未だに顔が見えないけど、どうやら女性みたいね。

しかも、特に明確な敵意があるようには見えない。

そんなわけで私は、思い切って彼女(?)と話してみることにした。

 

「私の魔法よ」

「あ、あなたが!?どう見てもアークプリーストじゃないのに……というか誰ですか!?」

「ちょっと落ち着いて。私達は『ゾンビメーカー』討伐のために来てるの。現にあなたの周りからゾンビが湧いてるし」

「こ、これは私の魔力にあてられた死体が勝手にゾンビ化してるだけですよ!」

「十分『ゾンビメーカー』っぽいけどね……」

「というかちょっと待ってください。今あなた『ゾンビメーカー』って言いました?」

「ええ、言ったわよ」

「いや私、『ゾンビメーカー』じゃないんですけど…」

「でしょうね、雑魚モンスターにしては魔力が多すぎるし。となると何者かしら?」

「わ、私はアンデッドの王『リッチー』です!」

 

なるほど、ダクネスの予想は大当たりだったみたいね。

私は動揺しているダクネスを落ち着かせて話を進める。

 

「それで、そのアンデッドの王がこんなところで何を?」

「迷える魂の浄化をしてるんです」

「…随分とアンデッドらしからぬ答えね。何だってリッチーがアークプリーストまがいのことを?」

 

詳しく話を聞いてみれば、私達が今いる墓地はまともに除霊が行われていないらしい。

何でも担当のプリーストが相当な守銭奴で、十分な報酬が出ないという理由で半ば放置されているらしい。

にわかには信じられない話だけど、この世界の女神のことを考えると………ありえなくもないのかも。

 

「…なるほどね、よく分かった。あなたのことは不問としましょう」

「!い、いいんですか?」

「少なくともあなたから悪意の類は感じられないし、嘘も言ってないようだしね。それでいいでしょ、ダクネス?」

「ん………別に構わないが、討伐依頼はどうするんだ?」

「どうもこうもないでしょ。今回は依頼内容が間違ってたんだから、そのことを伝えればいいわ」

 

その後は『アンデッドだから』って理由で討伐しようとした青髪の子をいなしたり、リッチー(名前は『ウィズ』というらしい)がアクセルで店を出してることに驚いたりと色々あったわ(汗)。

兎にも角にも、翌日にはアクセルのギルドにことの次第を報告して、正式に討伐失敗を伝えた。

勿論、ウィズについての詳細は言わずにね!




次回予告
最近になって急激に減るモンスター討伐の依頼
原因はアクセル近くの古城に住み着いた魔王軍幹部のせいだった!
正体がアンデッドだと知ったマァムは
遂にあの技を決行する!
次回「アンデッド特効」
ネクサスの行方が気になる人→やっと判明しました
(https://syosetu.org/novel/233692/1.html)


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