ゲルドの男は魔王を繰り返す (KARIGAILE)
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時のオカリナ編ー0

砂嵐が吹き荒れ、太陽はその身を雲の奥へと隠し、砂に晒された何らかの生物の骨に不気味な虫が這い回っている。

幻影の砂漠と呼ばれるその地は絶えず砂嵐が起こり、()()()に発生した魔力によって迷い込んだ者を逃がすことはないと言われている。運良く砂漠を抜けたとしてもそこに待つのは巨大で堅牢な砦だ。食料や人などの物資に飢えているこの砂漠で、迷い込む者がどうなるかは想像に難くない。

 

 

砦の一室からは太い声と激しい打撃音が聞こえる。中を覗いてみると様々な武器や木偶が揃えられており、その中心では一人の男が鍛錬に勤しんでいる。長剣に始まり大剣、双剣、三叉槍から手斧まで、男の扱う武器の種類は多岐にわたり、その鍛錬は異様である。そこに仇敵がいるかのような殺気を撒き散らし、巧みとは言えないものの風切り音を立てながら武器を振り回すその様に大抵の生物は近づく事は無いだろう。

 

血錆びのような赤茶色の髪を後ろで束ね、褐色の肌には汗一つ無い。

上着は着ておらず、一目で分かる程鍛え上げられたその肉体を惜しげも無く晒している。刃で刻まれ、槍で貫かれ、幾度も骨折と打撲を繰り返した男の肉体は見ただけでその人生が戦いに満ちていることを思わせる。

 

 

男の名はガノンドロフ。ゲルド一族唯一の男であり、王である。

 

 

彼はこれからハイラル王城へ謁見に向かい、表向きには王国へと忠誠を誓いに行くのだ。

真の目的は聖地へと赴き、トライフォースを手に入れる事。

 

黄金の大三角とも呼ばれるそれは単に黄金としての価値があるわけでは無く、触れた者の願いを叶える力があると言われている。

 

その力を以って闇の世界を作り上げ、支配する事こそが彼の最終的な目的である。

 

 

謁見の儀は滞りなく進んでいき、ガノンドロフが忠誠を誓う。

 

(従ってやろう、聖地への入り口を見つけるまではな……)

 

すると、不意に視線を感じ、窓の外を見てみると緑衣の少年とゼルダ姫がこちらを窺っていた。何故ここに部外者のガキが......?というガノンの思考は突如断ち切られる事になる。幼き頃より戦いに身を捧げて来た戦士の研ぎ澄まされた直感が遠くない未来を見せる。

そこにいるのは成長した緑衣の少年、ゼルダ姫、そして横たわる自分であった。

 

「ぬあっ!?」

 

「っ!?......どうかしたかね?」

 

「い、いえ、少し古傷が......」

 

苦しいが誤魔化せた事だろう。心の内まで読める訳では無いのだから。

それにしても恐ろしくリアルで写実的な予知だった。いや、恐らく心のどこかであの少年はガノンにとって鍵となり得るのだという確信があったのだ。

 

戦いに明け暮れた日々、誰も自分を殺す事は叶わなかった。戦士として、より強者と戦いたいというのは当然といえよう。自分が倒される未来を見て喜ぶのは狂っているだろうか。

楽しみが一つ増えたと邪悪に微笑む男が1人。




初投稿で処女作です。世界観に関しては全て自分の頭の中で考えただけなので、設定と違う所がしばしばあると思います。許せない方はブラウザバック推奨です。


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時のオカリナ編ー1

数少ない勇者視点


〜side リンク〜

 

 

緑衣の少年の1日は波乱に満ちたものだった。今まで付かなかった妖精が自分にも付き、自分は皆と同じコキリ族ではなくハイリア人と聞かされた。その後デクの樹サマの体内に巣食う魔物を倒すものの、デクの樹サマは助からず、ハイラルの命運を託された。子供に課されるにはあまりにも酷な運命を背負っていると言えるだろう。

その少年は今、警備の目をかいくぐりハイラル城の中庭へとやってきた。そこに居たのは1人の少女であった。

 

「夢のとおりですね.....。お待ちしていました、森の使者よ。私はハイラルの王女、ゼルダです。あなたの名前を聞かせてくれますか?」

 

「おっ、オレはリンク!コキリの森から来た!」

 

リンクは戸惑いつつも名乗り、ゼルダは一つ微笑むとすぐに真面目な顔をし、話を続けた。

 

「リンク、こちらへ。私は今この男を監視していたのです。あなたも見て下さい。」

 

言われた通りにすると、そこに居たのは誰かに跪いている褐色の偉丈夫の姿であった。ゼルダは一層声を低くして説明をする。

 

「彼の名は、ガノンドロフ。西の果ての砂漠に住まうゲルド族の首領です。今はお父様に忠誠を誓っているようですが、今だけです。彼の目的は恐らく.....」

 

ゼルダの話の途中であったがリンクには聞こえていなかった。男と目が合ってしまったのだ。不味いと思ったが目を離すことが出来なかった。すると男は目を見開き、一瞬驚いた表情をするがすぐに好戦的な笑みを浮かべ、元の状態に戻っていった。

 

「気付かれたのですか?大丈夫、何も出来はしません。」

 

ゼルダの問いかけに現実へ意識を戻したリンクは、忘れていた本題へと取り掛かる。

 

「あ、そうだ。デクの樹サマからこの石を預かってきたんだった。ハイラルの王女に渡せば分かるだろうって。」

 

リンクが懐からコキリの翡翠を取り出すと、ゼルダは意を決したように話し始めた。

 

「リンク、これから話すことを笑わないで聞いて下さいね?……私は夢を見たのです。ハイラルを覆う真っ黒な雲とそれを切り裂く一筋の光の夢を。その中には妖精と翠の石が見えました。恐らくあの男が真っ黒な雲で間違い無いでしょう。そしてリンク、あなたが光に違いありません。」

 

「お願いですリンク!ハイラルの運命はあなたに掛かっているのです!どうか、ハイラルのために一緒に戦ってくれませんか?」

 

ゼルダはリンクの手を握り、真剣な眼差しで頼み込む。立場を忘れ、必死に頼み込む美少女の事を無碍にすることなど、少年には出来なかった。それに、到底嘘をついているとは思えなかった。リンクは自然と優しい笑顔を浮かべ、手を握り返した。

 

「わかった。その話、信じるよ。オレに出来ることなら、力になる!オレは、これから何をすればいい?」

 

「リンク.....ありがとう。」

 

父親にも話したが信じてはくれなかった。こんな荒唐無稽な話、信じてもらえるとも思っていなかった。ましてや初対面の同い年くらいの少年が親身に話を聞いてくれるとも思っていなかったが。少ない言葉の中に彼なりの気遣いを感じた。それは生来ハイラル王女がもつ能力のようなもので、人の心の内がぼんやりと分かるというものだ。少年の心はこれまでに見た誰よりも強く、暖かいものだった。

 

「リンク、あの男は魔力を扱います。それに対抗するには退魔の剣、マスターソードが必要です。マスターソードは我がハイラルの時の神殿に封印されていますが、それを解く鍵は3つの精霊石とこの『時のオカリナ』です。あなたには精霊石をあと2つ集めてきて欲しいのです。」

 

「セーレーセキ?」

 

「コキリのヒスイ、ゴロンのルビー、ゾーラのサファイアと呼ばれる3つの石で、それぞれコキリの森のコキリ族、デスマウンテンのゴロン族、ゾーラの里のゾーラ族が守っています。」

 

「まずはデスマウンテンに行くのがいいだろう、少年」

 

「インパ!」

 

急に現れた女性の名はインパ。ゼルダの乳母であり、夢の話を信じている数少ない協力者の一人だ。

 

「最近魔物の活動が活発化してきているようです。すでにガノンドロフが動き出している可能性が高く、早急に手を打つべきかと。」

 

「そのような事が.....分かりました。リンク!お願いできますか?」

 

話についていけていないリンクには首を縦に振る以外選択肢は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

コキリ族のリンクは、ハイリア人のリンクとなり、いずれ時の勇者リンクと成る。それはきっと生まれた時から定められた運命で、間違いなく来る未来で、逃れることはできない現実なのだ。それに気付かされるのは、もう遠くない。




夏風邪拗らせてだいぶ更新遅れてしまいました。申し訳ありません。
会話って難しい


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時のオカリナ編ー2

戦闘回
手探りです


〜side ガノンドロフ〜

(あの小僧から精霊石の気配を感じた.....。まさかゴーマがあんな小僧に負けるとはな。ガキばかりと思って侮っていたか。)

 

儀式も終わり、ガノンは砂漠を一人馬を走らせていた。その戦闘能力の高さから護衛は必要ないわけではあるが、首領を一人にするのには訳があった。

ゲルド族は100年に一度しか男が生まれない種族であり、一族の中で総数を増やす事は非常に難しく、他の種族と交わる事で子孫を残している。今回の儀礼は多くの人間が集まるハイラル城下町へ行くという事でゲルドの女にとってはまたとないチャンスであり、外交の真っ最中という訳だ。

 

無論、それだけが理由というわけではない。『目当て』のそれは今正にガノンの前へとやってきた。怒りと憎しみが混ざり重く纏わりつく様な殺意を滾らせた4人の男と、鋭利な刃物の様な殺気を秘めた2人の男。その武器は戦鎚、長剣、大斧、曲剣、円楯にメイス、そして身の丈ほどの特徴的な大剣だ。

 

(ふん、やっと来たか)

「一応、何の用だと聞いておこうか。山賊よ」

 

「俺達が留守にしてる間に部下は皆殺し、宝は奪われて砦は壊滅……!!このままだと山賊としてのプライドがズタズタなんだよ……!!」

「兄弟達の仇だ。ここで死ね、魔盗賊」

 

問いに答えたのはそれぞれ戦鎚と長剣の男だった。頷く様に大斧とメイスの男が得物を構える。

ガノンはハイラル城へ赴く前、目を付けていた山賊の砦が戦力が薄いことに気づき、襲わせた時のことであると確信を持っていた。分かった上で挑発したのである。

 

「何のことかは分からんが、とっととかかってきたらどうだ?先手は譲ってやると言っているんだぞ?虫ケラ共よ」

 

4人の中で何かが切れる音がした。

 

「殺す!!!!」

 

誰が言ったか分からないまま、飛び出しそうな4人を抑えて大剣の男が弾かれるように飛び出した。担いでいた大剣を地面に下ろして引きずるように駆けていく。射程距離に入った途端、走る勢いを殺さずに一瞬背中を向け回転する力へと変換し、首から上を薙ぎ払う。その剣は赤い魔力を帯びており、秘めたる破壊力は絶大だと想起させる。

予想以上の実力にガノンは歯を剥き獰猛な笑みを浮かべると、自身の剣へ魔力を纏わせ正面から受け止めた。

 

ゴッギィィイイン!!!!

 

魔力と魔力がぶつかり弾け、砂を巻き上げる程の衝撃波が全身を叩くが大剣の男は渾身の一撃を容易く防がれた事に驚きを隠すことが出来なかった。その隙を見逃すガノンではない。大剣の腹を拳でかち上げ、空いた腹部に蹴りを叩き込み吹き飛ばした。

 

「げぁっ.......!!」

 

不意を打たれた形になった男は耐えきれず剣を手放してしまった。受け身をとれずに砂漠を転がり、動けなくなる男を尻目に残った者達もまとめて飛び出し、まずは長剣の男が切りかかった。ガノンは自身のやや厚みの長剣を右手でだらりと下げ、左に先ほど手に入れた大剣を担ぐ形で二刀で構えている。

本命は必殺の突き。小回りの効かない左を狙い、崩れたところを一気に突き崩す。それは本来ならば有効な手立てだったのだろう。この男以外には。

 

(こいつ.....!?俺の速度についてきているのか!?相手は片手持ちだぞ!?)

 

鍛え上げられた肉体と魔力での底上げにより、驚くべき回転率で両手の武器を操るガノンに戸惑いつつも剣を振るうが、先ほどまでの勢いはなく逆に大剣に大きく弾かれしまい隙を晒してしまう。ガノンは右手の長剣を右の腿に突き刺し、バランスが崩れた男の胴は魔力を帯びた大剣によりすぐに泣き別れることになった。

(はらわた)を砂漠へぶち撒ける仲間の姿に呆然とする男達をよそに、ガノンは濃密な魔力を大剣へと流し込んでいく。大剣が悲鳴をあげるかの様にガタガタと震え始める程の量が込められた時、もはや大剣ではなく魔力が実体化したかの様な禍々しさを放っていた。

 

「虫が一匹潰れた程度でこの体たらくとは、期待外れだったようだ.....」

 

心底落胆したと言わんばかりの表情と対照的に、迸る魔力が獰猛に笑う巨大な猪頭の怪物を象った様に見えた。

 

 

 

「死ぬがいい、襤褸(ぼろ)切れの様にな」

 

 

 

蹂躙が、始まった。




書いてて楽しかったけど難しいですね、やっぱり


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