ガンドォ! (brain8bit)
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第1話「入試を頑張れない」

 8割ノリで書いたので過度な期待はしないでネ!


 自分が恵まれていたかと考えたとき、わたしは十分そうだったと答えられる自信がある。そんなことを思いながら、走馬灯って時間を過ごしていた。あぁ、死ぬんだなっていう確信めいた想いが頭の中に浮かんでいた。

 

 そして、暗転。次の瞬間には、天井を眺めていた。あぁ、助かったんだって先ほどとは真逆の思いを抱いていた。そこで手を動かそうと力を入れてみて気付く。

 

 

 

 

 

 全く動かない。いや、どちらかと言えば力の入れ方が分からないと表現するのが慣用だ。動かないのではなく動けない。かと言って、不快感があるわけでもない。寧ろ余計な力が出ない分、水の中にいる様な感覚だ。状況が全く読めないために、困惑していると、わたしの体全てを黒い影が覆った。目を凝らすと、そこには巨大な人の姿が映し出される。それが、女性であるということを認識できた瞬間に事件は起こった。

 

 

 

 その人物は徐に衣服をはだけさせた。

 

 

 

 ちょっと待とう。いや、ほんとに待って。意味が分からん。動けない上に目の前で女性の上半身が露になっている。さらに、混乱するわたしを差し置いてその女性はその上半身をわたしの顔面へと近づけくるときた。抵抗しようにも前述したように体は動かない。わたしは成されるがままに、受け入れるしかなかった。

 

 そこで、ふと思った。

 

 

 

 

 

 

 あれ? 今のわたしって、もしかして赤ん坊じゃね?

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 おっす! オラ萬實黎(ばんみり) (かなで)! どこにでもいる、個性持ちの中学1年生だ! 走馬灯見ながら死んだと思ってたら赤ん坊にトランスフォーム! 訳わかんねーまま生活してたら、3歳のときにマミーと思わしき人物の傷を治してたぜ! そこでピンときちまったんだなぁ! ここは僕ヒデの世界線だってなぁ! 普通ヒロアカって略すって? うるせぇわたしの仲間内では僕ヒデだったんだよホモ好きばっかかよぉ!

 

 

 

 

 はい、落ち着きました。そんなこんなで転生ってやつです。そこはどうでもいい。とにかく、第二の人生を記憶在りきでコンティニューした訳なので、当然ご両親には驚かれました。だって、3歳児の癖にめちゃくちゃ大人びてるんだもの。まあ、このご時世個性のせいって言っとけばいいみたいな風潮あるし。正直十年以上研究してても明らかになっていない事象だからね。仕方ないね。

 

 ともかく、第二の人生でわたしがやるべきことはひとつ。身の安全を守るってやつだ。コミックもびっくりなスーパーパワーが蔓延るこのご時世、犯罪の質もパウァアゥップしてるわけです。いつどこで何が災禍として降りかかるか分かったもんじゃない。幸い、個性持ちとして生を受けたらしいので、それを伸ばして生きていこうと心に決めました。

 

 

 

 なので、わたし雄英高校に入ります!

 

 

 原作ではヴィランの襲撃とかあったと思うけど、それはしゃーない。だって、どこいても結局ヴィランは湧くものだから。そして、そのストーリーはわたしが雄英に入らなくても覆るわけでもじゃない。だったら、間近で状況を確認できていたほうがいいと思うんですよ。それに、雄英はヒーロー育成機関なわけですから? 個性や身体能力が強化されればおのずと安全に近づけるって寸法でして。

 

 そもそも、わたしの原作知識は友人が話してるのを耳にしてたことだけなんで、正直詳しい動きとかさっぱりなんですわ。知ってることと言えば、主人公君が私が来たマンから力受け継いで、四苦八苦しながらも雄英高校で成長していくこと。私が来たマンが途中でヒーローじゃなくなること。そして、雄英高校にヴィランが何度か襲撃してくること。そんなもんです。他にもヒーロー育成する高校はあるっぽいけど、情報が少なすぎるからね。なら、最高峰の教育機関狙ったほうが安全でしょ。

 

 

 

 

 

 え? そもそも入れるのかって?

 

 まあ……試験が筆記と実技があるってのは公式ホームページで知ってる。筆記は前世パワーでどうにかなるだろう。ただ実技がなぁ……。うん、それは実際にわたしの個性を紹介したほうが分かりやすだろうね。

 

 

 

 ――わたしの個性は『魔術礼装』

 

 相手の個性を一時的底上げ、もしくは弱体化する個性。着こむ服によって、その効能は変化する。

 

 

 

 

 

 うぉおおぉぉい!!! なんで別作品が混ざってくるんですかねぇ!!? どこの型月ドル箱ゲームだよぉぉおおおぉ!!!!

 

 

 

 

 

 すまない。取り乱した。

 

 いや、本当に困ります。そっちは知ってるんです色々。でも、この個性が発現したときには、あれだったよね。自分の個性を割り出すのにスゲー時間がかかった。自分も周りも。だって、着てる服によって、効能変わるんだもん。けれども、個性は体の一部。精密検査でなんとか突き止めた。でも、それが相手の個性に影響を与えるっていう点しか医者も分からなかったらしいです。四六時中その個性と付き合わなきゃならないわたしは流石に気付きましたが。5年ぐらいかかったけど。

 

 そんで、この個性だけどその名の通り、TypeMoonが誇る日本屈指のノベルゲーム。Fateシリーズに登場する魔術礼装。そして、その能力はFate作品の1つ。スマートフォンアプリゲーム『Fate/Grand Order』に出てきた魔術礼装に酷似している。ただ、原作通り魔術礼装を着なきゃいけないわけじゃなくて、着た服によってFGOの魔術礼装の魔術のどれかが発動できるって能力に置き換わっている。まあ、決して悪い個性じゃない。寧ろ、強いとも思います。ただですね?

 

 

 

 この個性で発動した魔術は自分には働かないってこと。

 

 

 前述したとおり、相手の個性に影響を与える魔術故に、自分の身体能力や思考能力に影響は一切与えない。故に、自分にバフデバフはできないんですよ。後ろで鯖にバフまいてるマスターも自分に使ったことないでしょ? それと一緒。

 

 試験の内容によっては、かなり難しいかもしれない。けど、実際やってみないと分かんない。なるべく、自分にできることを探して最善を尽くすしかない。とにかく、今やれることは自分の強化。ヒーローは体が資本。身体能力は素のままでしか挑めない以上、普通以上に仕上げる必要がある。だからここから3年間、体を鍛えつつ、個性を伸ばしていくしかない。え、どうやって伸ばすかって?

 

 

 そうだねぇ。個性発動の仕組みを簡単に説明すると、服を着ることによってわたしの体に特殊な回路が浮き上がる。おそらく、Fate世界の魔術回路と同質のものだと思う。そして、その魔術回路1種類ごとに発動できる魔術は3つ。これはFGO準拠の能力だろうね。で、まあ当然発動したらクールダウンが必要になる。それは同じ。FGOのときは大分重いターンが課せられる、連続使用はできない代物だった。ターン制のバトルで10ターン以上かかるものがほとんどだ。ターンという曖昧な表現をこちらの現実では秒単位に変換される。だから、割とクールタイムは短い。

 

 ……訳がないんだなーこれが。

 

 FGOにおけるターン数はおそらく魔術の才能がないマスターがバックアップを受けたときの限界値。このバックアップってのが恐らく超デカい。行使したときの調整も供給される魔力も、想像を遥かに超える代物だったらしい。いやまあ、あの稀代の天才(ダ・ヴィンチちゃん)が仕上げたものだしな。それだけで信憑性は十分だ。

 

 とにかく何が言いたいかって言うとだ。わたしが今、発現できる個性の効能上限はゲームの10分の1以下。クールダウンに所要する時間は10倍以上。詰まる所、使い物にならない!

 

 

 

 

 

 ……字面にすると結構ヤバいかも。

 

 今までは、なんとなく検証で使ってきた力だけど、これからは力を伸ばすために使わなきゃならない。使えるものにしなきゃ、意味がないんだ。とにかく、使い続けて伸ばすしかない。具体的には、魔術回路の強化だ。おそらくこの体組織が個性の根幹。Fate世界で魔術回路の強化ってのは代々で魔術の研鑽を積み、次世代に受け継いで成し得るもの。ということは、最良の状態になるまでには自分は生きていない可能性がある。

 

 

 

 

 

 ま、でもぶっちゃけ強化は無理でも問題ない!

 

 だって、恐らく魔術回路のガワ自体は既に整ってるだろうから。じゃなきゃ、なんの研鑽もなく魔術の発露があるわけないんです。じゃあ、どうすればいいかって? 使い続ければ多分強化されると思う。強化っていうか馴染ませるって言ったほうが正しいかな。某正義の味方を目指していた彼も、自分の魔術の本質を理解したら普通に使えてたでしょ? だから、服装によって得られる魔術を正しく理解した上で、なるたけ使いまくる! 恐らく、これが一番効率がいいと思います(ドヤァ

 

 

 

 

 

 てなわけで、これから3年間死に物狂いでトレーニングして、雄英に入れるよう研鑽しようと思います!その過程はひたすらに地味だから、ダイジェストもびっくりまるまるカットだぁ!

 

 

 

 目指せ! 雄英高校ヒーロー科!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 長いようで短かった……(激寒

 

 

 

 

 はい、3年経ちました。身体測定でなんとかSランク叩き出す程度には仕上げました。で、あんまり関係ないんだけど、この3年間で前の世界との価値観のギャップに戸惑ったよ。公立・私立共々、中学校って個性使って体育とか部活とかしちゃいけないんですよ。だから、前の世界と変わらず、運動出来たらモテんのかなって思ったら、そうでもないのね。もうヒエラルキーかってくらい個性優遇。結局のところ、派手、もしくは強い個性を持った奴がチヤホヤされてた。まあ、でも当たり前だよね。言ってしまえば、個性って身体能力の延長線上なんだから、そりゃ素の身体能力よりそっちの方に目が行くわ。中学生だし、華やかなものに惹かれるのは無理ないですよ。

 

 おっと、話が逸れた。今は仕上げ具合の話だった。

 

 

 

 

 

 

 うーん、まあ、微妙。

 

 

 

 

 

 いや、頑張ったんですけどね? 開始早々に「あ、これちゃんと本質理解して使うのめっちゃムズイしかも衣服の微妙な差異によって個性の振れ幅がやべぇどうしよう」とかなって自暴自棄気味になりながらも3つの衣服の魔術回路に絞って特訓しきったんですよ。そしたらまあ、なんというか……形にはなったけど、そこそこの能力って感じです。それはまあ、お受験のときにお披露目と行きましょ。

 

 うし、じゃあとっと朝ごはん食べて、試験会場行ってみよー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 筆記試験終わり。いやぁ、流石偏差値79のトップ校。知識にブーストがあるとはいえ難しかった。普通に解けないやつあったわ。試験中ふと考えたんだが、常時発動系の思考力向上の個性とかあったら使ってよかったんだろうか。個性を使用して、カンニング等を行わないようにっては言われたけど、割と説明が不明瞭だったし。実は、案外機転を利かせさえすれば何してもオッケーなんですかね。

 

 まあ、終わったことだしうだうだ考えてても意味がないよね。じゃ、次は実技試験だ。なんだろう、先生方に自分ができること披露するんだろうか。まあ、流石に有名校の入試試験が酷い内容とは考えにくい。わたしみたいな個性でも可能性はきっとあるような試験にしてくれるでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受験生のリスナー! 今日は俺のLIVEにようこそぉ!! Everybody Say Hey!?」

 

 

 

 ……シーン。

 

 

 

 

 おう、こいつはイカした入試説明会だぜ。みんなの緊張と真面目な空気をソフトにしようとした人選かもしれんけど、そりゃ悪手だろ雄英。空気がキンキンに冷えてやがる。犯罪的だ、辛すぎる。

 

 司会進行はプロヒーローのプレゼント・マイクです。どうやら、ラジオ番組もやっているらしいが、詳しくは知らないです。何故って? 単純に時間がなかったんですよ。特訓ばかりで青春のせの字もない汗臭い中学校生活だったぜ……。わたし一応女なのに。思い出したらつらくなってきたから、この話はやめよう。ちょうど試験内容の説明に入ったっぽいし、耳を傾けようじゃないですか。

 

 

「入試要項通りにリスナーはこの後、10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜぇ! 持ち込みは自由。プレゼン後は、各自指定の演習会場に向かってくれよな!」

 

 

 ほうほう。

 

 

「演習場には仮想ヴィランを多数配置しており、それぞれの攻略難易度によって、ポイントを設けてある」

 

 

 ……うん?

 

 

「各々なりの個性で、仮想ヴィランを行動不能にし、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だぁ!」

 

 

 あっ終わったわ(白目)

 

 

 

 

 

 ……い、いやでもまだわからんし? 他の人の個性にデバフかければ? ワンチャンまだ何とかなるかもだし?

 

 

「もちろん、他人への攻撃やアンチヒーローな行為はご法度だぜぇ?」

 

 

 デスヨネー。知ってた。だって我々目指すものが平和の象徴だもの。そりゃ、ヴィランを紛いの事したらあきまへん……。もう詰み詰みの詰み。無理ゲーじゃん……。わたしの必死な3年間は水泡に帰したのです……。

 

 プレゼント・マイクに質問が飛んだり、地味目の男の子が笑われてたりするけど、もう何も頭に入ってこないです。でも、定員40名だもんね。より優れた個性の子が選ばれるのは自明の理なのです。ならば、わたしのやることは一つだけ!お、説明終わったな? じゃあ、とっと試験会場に行くんだよオルァン!? 今のわたしは、阿修羅すらも凌駕する存在やでぇ!!

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

「はいスタートォ!! どうしたぁ!? 実戦にカウントダウンなんてねぇんだよぉ! ほらとっとと走れぇ! 賽は投げられてんぞぉ?」

 

 

 ッしゃあやってやらぁ!! 全員が入り口にいる今が好機だぜぇ!

 

 

Load personality(個性起動)......Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続)...!

 

 

 てめぇら全力で試験に挑みやがれぇ! 手ぇ抜いた奴ぁ、始まる前から落ちることが決定しているわたしへの侮辱としれやぁ!!

 

 

 

 

 

 

All complete(魔術発動)Battle codeⅠ: Gaining All(全体強化)!!

 

 

 

 

 お前等全員、死ぬほどサポートしてやるかんなぁ! 覚悟しとけぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、半ばヤケクソになったわたしの実技試験が幕を開けた。

 

 

 




 主人公の名前と詠唱はてきとうでござる。読み方もじっただけです。

 萬實←まじつ
 黎奏←れいそう


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第2話「宴の始まり」

ほぼ、ノータイムと言っても過言ではないのだろうか。


 いぇーい、フランシスコー。ザビちゃんじゃないぜ、わたしは奏ちゃんです。テンションが色々おかしいことになってるけどあまり気にしてはいけない。何故って? 私が(精神的に)来たからな! もう絶望しかないです……。ねえ知ってる? 人間ってあまりにも虚無になると笑いが起こるんだよ? あ? 今何してるのかって?

 

 

 

 

 

「35ポイント! やっべぇ、今日なんか調子いいぞ!!」

 

「ちくしょうマジかよ!? でも負けてねぇぞこれで32ィ!!」

 

「エンジンの調子がいい……これなら、もう少しギアを上げれる……!」

 

「うぅ……気持ち悪……あれ? 吐き気が引いた!?」

 

「うぅん、僕のレーザー、今日は一段と輝いている。どうやら僕がこの受験に受かる運命らしいね!」

 

 

 

 

 絶賛バフぶん投げてんだよ!!(マジギレ)

 

 

 

 ちっくしょう好き勝手解釈しやがって! 今のお前等輝いてるよホント!

 

 あーあ、なんでこんなことしてんだろうなわたし。敵に塩を送るとか意味わかんなすぎでしょ。でも、落ちるって決まっちゃったんだからさ。もう遊んでもいーじゃん。皆生き生きと仮想ヴィランぶっ飛ばしてんの見るの少しは楽しいし。調子がいい事も相まって、ギスギスした感じがみんなから抜けて、空気もうまい。わたしは嬉しいよ。嬉しいけど、最ッッッ高に苛立ってるからな今。話しかけられたら、会話(拳)でバッドコミュニケーションしちゃう自信があるね。

 

 そんな精神状態でかれこれ5分弱経つわけですが。みんなスポーツマンみたいな笑顔で未だばっさばっさと敵をなぎ倒しています。調子がいい人に用はないので、新しいターゲット探しに行きますかね。今のわたしは戦場を笑顔に変える女神(修羅)。誰にも止めることはできんのだぁ!

 

 

 

 

 

 おや?

 

 

 

 

 どうやら困っている人はっけーん。んーでも、ちょっと状況が違うっぽいです? なんかオロオロしながら走ってるな……あ、思い出した。出遅れてたもっさり君じゃん。ははぁ、さては次々と敵が倒されて焦っているんですかね? もしかしたら、戦闘向きの個性じゃなかったのかもしれない。あちゃー悪いことをした。わたしが色んな人間にバフを散々かけまくったからね。敵の破壊に直結する個性じゃなきゃ出遅れるのも無理はないか。でも、弱いものは淘汰される世界なんだ、諦めてくれ少年。わたしみたいに(戒め)。

 

 

「お、おいなんだアレ!?」

 

「嘘だろ……そんなんありかよぉ!?」

 

 

 お、どうしたモブAとモブB。それらしい反応を見せてからに。まったく、わたしのバフが効いていながらそんな情けない声だすんじゃな――

 

 

 

 

 

 おいなんだアレ(輪唱)

 

 

 

 

 アイツだけ仮想ヴィランとしての規模おかしくない? ていうかあんなんいるとか聞いてないんだけど。あ、もしかして説明会後半でなんか言ってたりしましたか、そうですか。いや、シャレになってないですけど。受験生殺す気ですか。あんなん逃げたほうがいいに決まってんじゃん。このまま近づいてくるみたいだし、一時退散しよ――

 

 

「痛ったぁ……!」

 

 

 ……は? ちょっと待てマジか。ホントにシャレになってないからなそれぇ! 誰も気付いてないし!?お前ら尻尾まいて逃げてる場合じゃないぞ!? 女の子が動けなくなってるんだぞ? 助けに行かないのかよ! って聞こえちゃいねぇ!! ちっくしょぉ四の五の言ってらんねぇ!!

 

 

 

 

 

Load personality( 個性起動 ). Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続). All complete(魔術発動)

 

 

 

 

 

 

 

 

Battle codeⅡ:Gandir(ガンドォ)!!

 

 

 

 

 

 うぉおおぉぉお!!! 弱体無効さえなければ神だって拘束して見せるスーパー魔術ぅ!! そんで唯一物理的な衝撃のある魔術だぁ!!! はッはぁ――ッッッ!!! そこで止まってろデカブツ!! あ、でも個性ない相手にはホント効能薄いんです。あんだけデカいなら中に超巨大化とかの個性使っている人間が入ってる着ぐるみなんじゃないかとかそんな淡い期待を微粒子レベルで抱いてたけどそんな訳なかったみたいですねぇ!? やばいやばいやばいぃ! ガンド撃って飛び出したけど、あの女の子助けれる確証なんてないのに、でも助けなきゃ踏まれちゃうしぃ……! だって、あんなのに踏み潰されたりして、仮に生き残ったりしても一生もんの傷を心と体に負うんだよ? そんなんあってたまるかよォ!あ、無理、潰される。終わっちゃうよわたしの人生。さようならお母さんお父さん。次のわたしはもっと上手くやるでしょ――

 

 

 

ドゴォオオォオォォォオッッン!!!

 

 

 

 ……ひょ? 何事? え、なんか仮想ヴィランが火噴いてる。え!? そしてなんか降ってきてます!? あれもっさり君か!? マジか、めちゃくちゃな個性持ってんじゃん……ってなんか着地にできそうにない雰囲気じゃね? うっそだろお前!? わたし生憎そんなことに対応できる魔術は持ってないんですけどぉ!!? 一難去ってまた一難ってレベルじゃ――

 

 

 

パァンッ!!

 

 

 

 OH YAEH!?

 

 命の恩人にまさかの張り手ですか下敷きガール!? メリーゴーランド過ぎる状況に頭が追い付かないです!? あ、触るのが個性の発動条件なんですね。はえー、モノ浮かせられる個性かぁ。便利そう。なにはともあれ助かったっぽいな。いやぁ、一時はどうなるかと思ったわホント……。

 

 あ、試験終了のブザーだ。どうやらわたしの戦いは終わったらしいですな。はぁ~疲れたわ~。こんなんが授業とかで当たり前のように出てくんのかな雄英高校。常軌を逸するって売り文句に書いてあったけど、こんなん一方的な殺戮になりかけんわ。ピンチを覆してこそのヒーロー? それは運がよかっただけって言い換えられますよね? わたし根性論が前世から大嫌いなのでそういうのドン引きです。

 

 

「あ、あの……!」

 

 

 お、話しかけられた。でも安心しろ、今のわたしの脳内は絶賛キャパオーバーなう故に八つ当たりの言葉とか考える余裕一切ないから。で、誰が話しかけてきたのかな?

 

 

「助けてくれて……ありがとう。あのまま誰も来てくれなかったら、私死んでたかもしれへん。だから、本当にありがとうね……!」

 

 

 おう、下敷きガールでしたか。死んでたってのは少し大げさだな。ヒーロー育てる学校が受験で人殺したら大問題でしょ。何かしらの保険はあったんじゃないかな。いや、トラウマを植え付けられたって言われたらどうすんの話だけどさ。少なくともわたしは、今日穏やかに寝れる気がしない。と、脳内で勝手に喋っててもしょうがないな。

 

 

「気にしないで、わたしは何の役にも立ってないから。数秒動き止めただけだし」

 

「ううん! それは違うよ! あなたが動いてくれなかったらヴィラン倒してくれたあの子も間に合わなかったかもしれんし……何より、ウチを助けても何も得にならんかったよね? それなのに助けるために動いて――」

 

「あー、ハイハイ。わかった、気持ちは受け取っておく。怪我治してくれるスタッフが来てるみたいだし一応見てもらってきたほうがいいんじゃない? じゃ、わたしは怪我してないし帰るから」

 

 

 「あ、ちょっと!」って声が聞こえるけど待ちません。あれは、申し訳ないと思ったらとことん謝り倒すタイプと見た。なので、一気に会話を終わらせました。いや、いい子であることは十分伝わったよ? けど、喋ってるうちに自己嫌悪に陥られても困るからさ。あーゆーときは長居しない方がいいんだよ。お互いのためにね。

 

 さて、今のわたしは人助けして気持ちがいいから、帰りにマックでしこたまポテト食べよう。頑張った自分へのご褒美です。試験は落ちちゃっただろうけど、それもまた人生。あーあ、こんなことなら筆記に特化しとくんだったなぁ……。満点とか取れたらまだ分からなかったかもしれないですし。ま、後悔先に立たずってね。今日の思いを明日の糧にして行くっきゃないでそ。普通科にも併願で願書出しといたし、まだ雄英高校に入れないと決まったわけじゃない。

 

 わたしはまだまだ諦めないからな! 絶対に合格してみせるぞぉ!! 待ってろよキャンパスライフぅ!!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、数週間の月日が経ち、合否の通知が来ました。まあ、決まりきった結果なんて見る必要ないんだけどさ。一応現実を受け止める意味で、見てみましょうか。ほんじゃペリペリっとな……ってなんだこれは。ちっこい円盤みたいなのが入ってたんですけど――

 

 

 

『私が投影されたァ!!』

 

 

 うぉびっくりしたぁ!!?

 

 

 

 ボリュームもうちょっと考えなさいよ!? 夜中開ける人とかいるかもしんないでしょうが! て、なんかオールマイト映ってる!? スターウォーズ的な装置に対するツッコミのタイミングが完全に消えたわ。一体これから何が始まるっていうんです……?

 

 

『第三次大せ――ってなんか変な電波受信した気がするな。いや、気にしないでくれ。大丈夫、打ち合わせ通り巻きでやるから……ん"んっ!! やあ、萬實黎少女! 雄英高校ヒーロー科入試お疲れ様! 実技試験は大変だったろう。ん? なんで知っているかって? それは私がこの度、雄英高校で教鞭をとることになったからさ!!』

 

 

 マジかよ。ナンバーワンヒーローなのに大丈夫なんだろうか。って、待てよ。じゃあ、この映像って……。

 

 

『そう! 察しの通り、私が直々に合否の発表を行わせてもらうんだ! 早速で悪いんだが、本題に入らせてもらうよ。少し時間が押しているんでね。君の合否なんだが――』

 

 

 うーむ、ワンチャン奇跡とかー……

 

 

 

『実技でのヴィランポイントゼロ。よって総合ポイントもゼロ。当然、不合格だ』

 

 

 

 まあ、そんな上手くいかないか。しゃーない。分かってたことだ。

 

 

 

『だが! 我々とてプロヒーロー! ヒーローの素質は何も戦闘能力だけが評価される訳じゃない。聞けば君の個性は、個性を持っている人間にしか発現しないらしいじゃないか。その個性じゃあ、仮想ヴィランを倒せなくても無理はない』

 

 

 仰る通りです。

 

 

『しかァーしッ!! キミはそんな状況になったにもかかわらず! 試験を辞退することも無く、周りの受験者に対して、自分の個性を使い続けた! しかも、自棄になってマイナスに作用させるのではなく、全員を手助けするようプラスにだ!!』

 

 

 ん? あ、えっ? いやまあ、確かに手助けはしましたけども、半ばヤケクソでしt

 

 

『自分に全く得にならない。寧ろ、損しかしない……君の自己犠牲の精神には正直痺れたよ。何せ人の本質が現れるピンチのときだけじゃなく、常時それを実行し続けたんだからね!』

 

 

 いやだから、それはもう半分遊んでt

 

 

『映像でも確認していたよ。自分のしてきた努力が報われないと分かっていたはずだ。心底悔しいものだったろう。だというのにキミは! 困っている商売敵を!! 一心に救い続けた!!! その瞬間、自分の人生の大事な岐路だったであろうその時間を! キミは他人に躊躇なく捧げたんだ!!!』

 

 

 えっと、あの……。

 

 

『そんな素晴らしい行動ができる人間を排斥するヒーロー科など……あってたまるかって話だよ! そう、我々が採点していたのヴィランポイントだけじゃあない! レスキューポイント!! しかもこのポイントは審査制……雄英に集うプロヒーローたちがその場で判断した点数を君に与える!!』

 

 

 ホントに待――

 

 

『萬實黎奏、90ポイント!見事トップで合格d』

 

 

 ブツン

 

 

 

 わたしは、何も言わずその投影を切りました。だって、このまま賛辞を贈られていたら、心が壊れて人間ではなくなってしまっていただろうから。しこたま申し訳ないという気持ちが押し寄せる中、わたしは毛布をかぶって、瞼をとじる。あぁ、どうしてくれようかこの気持ち。進みたいと願っていた場所が一転、贖罪の監獄へと変貌してしまいました。誰が悪いのでしょうか。わたしは人として正しい行いをしていたのに、ただ少しだけ邪なる思いを抱いてしまっていただけだというのに……。あぁ神よ、もし叶うのであれば――。

 

 

 

 

 

「……誰にも目立たないように、学校生活が送れますように」

 

 

 

 

 

 わたしは持ちそうにない心臓を抑えつつ、ゆっくりと意識を落した。



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第3話「ホウレンソウは教師側もしっかりしろ」

主人公は普段はですます口調多め。キャパオーバー起こすとなりふり構わなくなります。


 やあやあ皆の衆。春休みに傷心しきっていたわたしだ。奏しゃんだ。とてもじゃないが、傷は癒えるどころか、登校日が近づくにつれて爛れていくような感覚でした。

 

 いやだぁぁああぁあ!!! がっごういぎだぐないでずぅ!! こんなことなら辞退して……いや使えるものは使う主義なんでそれだけはないですねハイ。布団の中で現実逃避してたら麗しのお母様に引っぺがされて、そのまま床にダイブ。そのままフローリングにダイレクトキッスでございます。クッソわたし第二の生のファーストキスが無機物だとは思わなんだ。じゃあ、ノーカンですね(適当)。はいはい、分かりましたよ。行きますよ。ていうか、なんでこんな朝早いんですか。学校まで徒歩30分なのに、なぜわたしは2時間前に起こされている? え、登校が最後になればなるほど注目を集めるから、人が少ない間に教室に入っとけ?

 

 お、お母様ぁ!! そんなことまで考えていらっしゃっていたのですか!? 感激でわたしのやる気がうなぎライジングぅ!! やはり、持つべきは良き両親ですなぁ……。そういうことであれば、この不肖、萬實黎奏、一番乗りで登校させて頂きますぅ!!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、雄英高校に到着したわけですが、早すぎたなこれ。昇降口が閉まってらぁ。1時間近く暇になってしまいました。確か敷地に入れるのはID持ってる人間だけなんですよね? 校門が開いてるってことは、少なくとも先生方はもう来てるってことでしょ。なら、少し待ってりゃ気付かれると思うし、このまま待たせてもらいますかね。

 

 

「おや、こんな朝早くに登校してくる生徒がいるとは」

 

 

 ほら、噂をすれば影ってね。いやー、これで晴れて一番乗りってわけですよ。わたしの未来は明る――。

 

 

「はっはっは! その心意気は実にGoodだ萬實黎少女! やっぱり、他者を思いやるためには厳しく己を律さければならないからね! 流石入試レスキューポイント№1だ!」

 

 

 人違いです失礼しました。

 

 アイエエエ!? ナンデ!? どうして平和の象徴がこんなところにいるんです!? いや雄英で教鞭をとるってのは聞いたけど、それにしてもなんでいま邂逅しちゃう感じなんですかね。しかも、また変な勘違いしてらっしゃるよね。拝啓お母様、お元気ですか。わたしは減気です(白目)。

 

 ……あぁ、違うんですよ。そうだよ思い出してきましたよ……うっ、この心臓に負担のかかる感じはそう! ストレス! 申し訳なさが行動原理の全てを縛ってしまったかのような感覚! そんな、安心するような笑顔で称賛しないでください……わたしの心はぼどぼどですぅ。

 

 

 

 

「むむむっ、どうしたんだいそんなに震えて……はっはぁーん? さては私を生で見るのは初めてなんだね? この恥ずかしがり屋さんめ! でも、安心したまえ! これからは私も授業を受け持つからね。学校に来てさえいれば、何度でも私を拝めるというわけさ! HAHAHA!!!」

 

 

 

 

 めちゃくちゃ自尊心の塊みたいなこと言うなこの人!?

 

 いや、でも確かにヒーローとしての実績はナンバーワンなわけですから、実際に目の前にしたら委縮しちゃう人とかいるでしょうよ。でも、残念! わたしの心には響かないぞオールマイトぉ!! むしろ、ヒビ入れてるからな? おっと心は硝子だぞ(白目)。

 

 

「おっと、ついつい長話してしまったようだ。わたしも色々準備があるからね。これで失礼させてもらうよ。君の今後の活躍に期待している! では、さらばだァ!!」

 

 

 言いたいこと言ってどっか行きやがりました。はあ、どっと疲れた。もう朝から余計な神経擦り減らすことになりましたよ。わたしの個性は神経に関係するものなので、本当にやめて欲しいですハイ。あ、ていうか結局昇降口開けてもらってないじゃないですか。いや、言ってないわたしも悪いし、自業自得なんですけどね? もっとこう、別の先生が来てくれたら良かったと思うんですよ……いや、逆に考えよう。手を借りなくて良かったんだって。これ以上、訳の分からない罪悪感を作りたくないし、寧ろ薄れた気もするから大勝利なのでは? ふっ、やはりこの奏さんに死角はなかっt

 

 

 

 

 

『私が校内放送で戻ってきたァ!!』

 

 

 

 ひぃっ!? 何事ですぅ!!?

 

 

『学校長に頼んで、昇降口のロックは解除しておいたからね! 心置きなくヒーローとしての一歩を踏み出してくれたまえよ! それじゃこれから3年間共に研鑽を積んでいこう!! HAHAHA!!!』

 

 

 わー、しごとはやーい。人が口に出さなくても、抱えてる問題を解決してくれるなんて流石平和の象徴だぁ……。ちくしょう涙で前が見えねぇ。嬉し涙は甘いっていうけど、バリバリにしょっぱいじゃねぇか。ん? 本当に嬉し涙かって? 馬鹿野郎! 人に助けられて恨み節ぶつけるやつがヒーロー科入れるわけないだろいい加減にしろ!! これは嬉し涙だ……誰がなんと言おうと嬉し涙なんだ……!(血涙)

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 教室1-Aに到着しました。音声案内を終了します。

 

 なんかドアデカい。あ、でもそんなに重くないんですね。めっちゃバリアフリー。教室の様子は……割と一般の学校と変わらないデザイン。少し安心しましたよ。でも、外からの様子だと完全に高層ビルだったからね。廊下とかも壁が全部ガラスだったりしたし、最新鋭の学校ってのは間違いないっぽい。敷地も広すぎて下手すりゃ迷子ですよ。まあ、広すぎて寧ろ本能的に「あ、ここ行ったら間違いなく帰れなくなるわ」って察する場所とかあるし、逆に迷子にならない説ありますね。

 

 と、さっさと席について読書でもしてようか。あ、その前に今着ている学校指定の制服で魔術回路を通しておこうか。春休み中に届いて1ヶ月程度しか馴らせてないからさ。ある程度調整しておかないと、発動もままならないし。本当なら1つの礼装に対して1年はかかるんですけどね……。ちょっと前まで一般人だった奴に魔術の本質を理解しろとか無茶ぶりすぎんよぉ。

 

 

 

 

Load personality( 個性起動 )......Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続)...

 

 

 

 

 ……んっ。やっぱりいつになっても通した時の感覚は慣れない。正確にはあまり使ってない魔術回路のときは慣れない、だけどね。馴染んでない証拠です。さてさて、この礼装で使える魔術の再確認をするわけですけど。

 

 

 

 

Landing Circuit:Full Open(回路循環:開始)...ッ

 

 

 

 

 あっづぅ!!? 毎回覚悟してるけどやっぱり馴染んでいない回路に魔術を無理やり流し込むのはキツイ……。でも、学校(ここ)じゃ細かな調整は効かないからしょうがないんだよね。学校指定の服を改造するわけにもいかないから……。イメージの問題なのは分かってるんだよ。わたしの中にFGOの礼装だとあれが使えるっていう明確なイメージがあるからどうしても引っ張られる。服装は言わば土台。そこからイメージされる事象がその時の魔術回路の構成に直結する。だから、制服っていう中途半端なイメージが原作を引っ張ってしまって、その差異が魔術回路のアラに繋がっている。でも、人が抱いた固定観念ってのはそう簡単に払拭できるもんじゃない。わたしが最初に抱いてしまった所感はどれだけ忘れようとしても無理なんです。だって、それがわたしの個性の原点(オリジン)だから。

 

 

 

 

...Cord:Install(概念固定:承認)

 

 

 

 

 ……ふう、なんとかなったぜ。でも、こんなちぐはぐな回路じゃ、大した魔術は発動できないな。一番似てる制服にイメージ引っ張られたけど、これは多分『アトラス院制服』っぽい何かだなぁ。共通点はブレザーっぽさとネクタイだけ。色合いやらヒラヒラとの整合性が低すぎる。発動できる魔術は――。

 

 

 

ガラガラッ

 

 

「む? 一番乗りかと思ったんだが、どうやら先を越されてしまったようだ」

 

 

 っと、誰か来た。お、見覚えある人ですね。実技試験でめっちゃ足が早かった人だ。名前は知らないですけど。うーん、これまた優秀そうな顔立ちでいらっしゃる。絶対、中学では委員長とかやってたタイプと見た。まあ、これから3年を共にするかもしれないクラスメイトのひとりだ。ファーストインプレッションは重要でしょう!

 

 

「おはよう、わたしは萬實黎奏だよ。実技試験で一緒だったの覚えてる? お互い合格できてよかったね」

 

「あの時巨大ヴィランに立ち向かっていた君か……! ぼ――俺は飯田天哉。私立聡明中学の出身だ」

 

「うん、よろしく」

 

 

 うむ、こういう自己紹介も久しぶりだな。フランクな感じでクラスメイトとの自己紹介。中学3年間を特訓に捧げた甲斐があったというものです。わたくし当たり前の日常を享受できて感涙でございます。実際に泣いたりしたら、ドン引きされそうだからしないけどね。

 

 

 

 

 

「不躾なことを聞くようで悪いんだが……君は実技トップだったな。しかもレスキューポイントのみでその成績だったと聞く。君はあの試験の構造に気付いていたのか?」

 

 

 前言撤回。なぁんで人の一番闇な部分に突撃してくるんですか。わたしの貴重な感動を返せ。そもそも何故他人に入試成績が漏れているのか。えぇ、どうしよう。普通に真実を話したらいいのか、それともオールマイトが言ってたようなことで虚偽報告すればいいのか……。でも、飯田君は真面目に入試の結果を聞きたいだけなんだろうし、嘘を吐く理由もないんだよなぁ。しょうがない、正直に話すか。

 

 

「気付いていた訳じゃないよ。ただ、わたしの個性は相手が個性持ってないと効果がほとんどないものなんだ。だから、あの時は自分にできそうなことを手当たり次第にやっていただけだよ。レスキューポイントの存在も後から知ったし……まあ、棚ぼたってやつかな」

 

「なんだって!? 俺はてっきり気付いてやっていたものだと……驚いたな。でも、利己的な考えで人を助けて、雄英が合格させるわけがない……すまない! どうやら俺は君を邪推していたようだ……!!」

 

 

 なんで、ヒーロー科受験者すぐに謝るん? 別に自分悪くないやろ? 試験なんだから他人を蹴落とすのは当たり前でしょ。ん……? てか、ちょっと待てや。君その言い方はもしかして勘違いしてらっしゃいます? おい、キラキラした目でこっち見んな。キラキラしすぎてメガネ発光してるんですけど。唇を震わせながら、どんな言葉を紡ごうというのだね。別に聞きたくないから、何も言わないd

 

 

 

 

 

 

 

「感動したよ萬實黎君! やはり、実技のトップはなるべくしてなったものだったんだな……!! 自分ではなく他者を優先して動くその志!!

 

 

 

 君は僕の理想のヒーロー像に最も近しい人間だ!!」

 

 

 

 やっぱりなぁ!?

 

 だから違うっつってんだろぉ!? わたしはわたしのできる(八つ当たりの)最大限をその場で発揮しただけなんだよ……!やりました……。やったんですよ! 必死に! その結果がこれなんですよ! ヤケクソで個性使って、他人を助けて粋がって、今はこうして雄英の教室にいる! これ以上なにをどうしろって言うんです! 何と戦えって言うんですかぁ!

 

 

「君の様な崇高な人間と、研鑽を積めることを誇りに思うよ。これから3年間、よろしくな!」

 

 

 綺麗な顔してるだろ。コイツ勘違いしてんだぜ?

 

 うわぁぁあああぁあ!! なんでこうなるんですかぁ!! ここまで来たら「ヤケクソでやりました」なんて言えるわけないじゃないぃ!! ていうか、他人の入試の結果勝手に発表するなよ雄英! 個人情報の守秘義務をちゃんと全うしてくださいよぉ……。握手求められてるけど、こんな取りづらい握手久々すぎる。もういいや、握手して本読みたいって言って無心になろう……。

 

 

「おっはよー! あれ? まだまだ人少ないね!」

 

 

 なんか個性の塊みたいな女子来た。見たらわかる、異形系の個性や。なんか角生えてて、肌がピンク色とかめちゃくちゃキャラ立ってますやん。その手の高尚な癖をお持ちの方々からしたら涎もんですね。女子女子してんなぁ……ま、わたしみたいな陰キャには縁のない子でしょう。

 

 

「ねぇねぇ! 私、芦戸三奈! よろしくねー!」

 

 

 めちゃくちゃグイグイ来ますねぇ!? これ最初に登校しても最後に登校しても同じだったのではないか!? ちくしょう計ったな母上ぇ……。話しかけられた以上会話せざるを得ないよこれ。テンションについて行けるか心配なんですが……。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 やぁっと、解放されましたよ。やっぱすげぇよ三奈は。会話のタネが湯水のように湧いてくるんですもん。あれは、男をダメにするタイプですね確実に。そして、勘違いして枕を濡らす男子を大量生産する恐ろしい娘やでぇ……。

 

 話しているうちに、クラスメイトもほぼ全員集まってたみたいです。芦戸ちゃんが賑やかなせいで気付かんかったよ。飯田少年は前の席の人と揉めてるし。ってか、前の男子ガラ悪っ!? よくその素行でヒーロー科入れましたね……。まあ、ヒーロー界隈が実力主義っていうのはずっとそうだったし、多少は見逃されてるんだろうなぁ。

 

 

 

ガラガラッ

 

 

 

 おっと、ドアが開いたぞ? あ、もっさり君やん! はえー、合格してたんですか。実技試験のときはすまなかったね。そして、ありがとう。君のおかげで女子二人が救われたぞ! まあ、わたしのせいで周りが調子がよかったことは言いませんがね!!

 

 てか、あのもっさり君どこかで見たことあるような……あれ? もしかして、僕ヒデの主人公君では!? うわぁお、なんで思い出せなかったか不思議なくらいだよ。ジャンプの見開きにも載ってたこともあるのに。なるほど、だったらあの主人公ムーブも理解できますね。それならきっと、わたしが何もしなくてもあの子を助けてたんだろうなぁ。

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け……」

 

 

 なんだあの芋虫

 

 あ、寝袋か。個性かと思いました。え、クラス担任? マジかよめっちゃ浮浪者みたいな見た目してるじゃなですか。しかも、先生ってことは一応プロヒーローだよね? 大丈夫かこの先生。はい? 着替えて表出ろ? ちょ、わたしさっき魔術回路馴染ませたばっかりなんですけど。って聞いちゃいないしどっか行ったぁ!? 入試のときも思ったけど、事前の説明が雑過ぎんだよ雄英ぃ!!文部科学省に言いつけんぞ!?あ、ここは自由な校風が売りでしたね。くっそ曖昧な売り文句過ぎて涙がちょちょぎれるわ。

 

 

「む? 萬實黎君、他の女子は更衣室に向かったぞ。君も早く追いかけたほうがいいんじゃないか?」

 

 

 はっはっはそんなわけ……あったわ。みんな適応早すぎでしょ。マジかよ……また、回路組み立て直しだよ。だったら、尚更行けないわ。

 

 

「ごめん、ありがとう。でもわたし準備することがあるから……飯田君も先に行ってていいよ」

 

「うむ? ……雄英の生徒としている以上、遅刻は厳禁だからな。なるべく急ぐんだぞ」

 

 

 あいよ。ったく、ここで全く新しい礼装の準備ですか。そういうのは事前に言っておいてくださいよ……うだうだ言っても状況は好転しないか。時間もないしなるべく迅速に仕上げよう。本当はやりたくないんだけど、初日から躓くわけにもいかないしね。今成し得る万全を期して挑むとしよう。

 

 

 

 目的地は女子トイレ! さっさと向かうとしますか!

 

 

 




 キャラの口調とか、正直うろ覚えです。違和感あったらすみません。


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第4話「個性で天を貫く」

Q.容姿設定とかあるんですか。

A.ないです



Q.どうしてですか。

A.ノリ果汁80%だからです


「……づぅ……え"ぁ"……ッ!!」

 

 

 苦しい。体が張り裂けそう。まるで電子レンジに入れられたようだ。体内の水分が沸騰するような感覚。あぁ、なんでこんなにも使い勝手が悪いんだろうか。

 

 

「……ぐッぅ、げぇ……ゲホッ……あぁ」

 

 

 びちゃり、という音が個室に鳴り響く。水の中に落ちた故に、一際大きく反響したようだ。全く、耳障りなことだ。とにかく、もうすぐ終わる。あと少しの辛抱だ。耐えよう。この地獄の様な時間を。そうすることでしか、わたしは強くなれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に、酷い話だ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はーい! みんな元気ぃ!? 雄英高校期待の新入生、奏ちゃんでーっす!! ねえ、シリアスだと思った? 唐突なシリアスに戸惑った?? 残念だったなぁ、(叙述)トリックだよ……。はい、怒らない怒らない。まあ、実際今のわたしは空元気みたいなもんだから。え、じゃあさっきのはなんだって?

 

 

 

 

 あー……あれは個性のデメリットです。わたしの個性はどんな服装でも礼装としてロールアウトして、魔術を行使できる反面、まったく礼装へのイメージがつかないものはあんな風に魔術回路の基本骨子がスッカスカになるわけです。普通なら時間をかけて概念(イメージ)をその服に構築していくところから始めるんだけどさ、そんな時間はなかった訳でして――。

 

 まあ、簡単に言えば、無理やり服にイメージを押し付けたっていうのが正しいですかね。でも、それはあんまりしたくないんだよね。だって、わたしの個性の発動条件はMystic Image(礼装概念)Personal Image(自己概念)の調和。そのどちらか一方でも疎かになれば、個性は暴走する。染色体みたいなもんだよ。配列が片方合致しなかったら、その生物は生物として成し得ない。だから、必ず調和を取る必要がある。じゃあ、イメージを押し付けたところで意味ないんじゃないかって?

 

 うーん、そこがちょっと難しい所なんですよ。っていうのも構成する概念の質の問題なんだよねぇ。前に話したけども、わたしの魔術のイメージっていうのはFGOのモノに縛られている。これを払拭するのは難しい。でも、決して不可能じゃないんだ。今までのイメージを別のものに思い込むことだってできる。例えばこの雄英のジャージ。青を基調に雄英もじったUAという文字が白いラインとして刻まれている。わたしが抱いている礼装のイメージで近しいものはカルデア戦闘服だろう。だけど、色合いや抱いている質感とは全く異なる。ならば、どうするか。

 

 

 

 

 

 

 答えは単純。

 

 橙色を青色と思い込む。それだけです。

 

 

 

 ……そんな事でいいのかって? はっはっは、そんな事と軽んじたそこの貴方。出来るんですか? 今まで培ってきた経験を情報へと変換、形成し固定観念と成り果てた自分の中の概念を、思い込みひとつで完全に棄却できると? そんなことが可能なのは解離性同一症の人間、いわゆる多重人格の人間だけですよ。

 

 そう、完全には無理なんです。強く思い込むことはできても、完全に変換することはできない。だから、魔術回路を構成するときに齟齬が生じる。イメージがついてないんだから、思い込みの部分だけ脆いんですよ。そんなスッカスカの魔術回路に魔力を流し込んだから、女子トイレで血反吐吐いてたっていう寸法です。めっちゃシンドイ。まだ、微妙に全身が震えてる。後は、魔術を行使するときは変換された概念を忘れて行使してはいけない。認識を戻した瞬間、魔術回路の構成しているその部分が消えますし。いや、本当に文字通り消えるんですよ。置き換わんないだけマシです。全く異なった属性に置き換わったりしたら、起源弾喰らった人ぐらいひどい目にあいますので。

 

 とまあ、多少の無茶でこのジャージを礼装として使ってるわけですよ。寿命が縮むわこんなん。でも、時間は待ってはくれないので、とっととグラウンドに行くとしましょう。運動させられんのかな。あのやる気ない感じの先生が何してくるか全然読めねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

「個性把握テスト!?」

 

 

 ほうほう、中学まで禁止だった個性を解禁しての体力テスト。まあ、確かにやる価値はありますわな。クラス全員の能力を把握するためにも、必要なことだと思いますとも。ただ、わたしにはただの体力測定と変わらんな。わたしの個性は他人にしか意味ないですし。自分の最大パワーは単純な身体能力だけですもん。こりゃ血を吐いてまで調整する必要なんてなかったかねぇ。

 

 

 っと、あのガラ悪い少年がボール投げするのか。素で67mでも十分すごいけどな。わたし? 72mだけど? おい誰だ今ゴリラっつった奴ちょっと面貸せや。みんな、投げ方に工夫が足りんのよ。実際わたしはそこまで筋肉ついてる訳じゃないし。あ、でもおなかは少しだけ筋肉が浮き出てるかな。そんなバッキバキに割れてる訳じゃないです。そりゃ花も恥じらう女子高校生だもの、少しは気を遣いますって。

 

 

「そんじゃまあ……

      くたばれぇええぇえええ!!!」

 

 おい掛け声。いいのかそれで。マジでヴィラン側じゃないんかあの不良男子。流石におねーさんびっくりしちゃったよ。はぁ、先生曰くこれがもっとも合理的だと。なるほど、こりゃ全員の個性把握できるチャンスかもですな。わたしは個性は他人を活かす個性。故に他人の個性把握は何よりも大事だ。しっかし、あの不良少年の個性は凄まじいな。700mって勝ち目ないよこれ。まあ、勝ったからどうこうあるわけでもないしな。みんなも個性使えるって意気込んで楽しそうで何よりです。わたしは温かい目でその光景を拝むとしましょう。

 

 

「あ、ちなみに最下位は除籍処分な。じゃ、気張ってやれよ」

 

 

 

 

 ……What's the F〇CK!?

 

 は? ちょ、除籍ぃ!? 除籍ってあの除籍か!? 何でそうなんだよちくしょうめぇ!! わたし他人にしか個性使えんのだが!? なんてデジャヴだよ、入試と状況一緒じゃねぇか!! 天丼は飽きられるって分かってないんですか雄英ぃ!! はっ、もう始まってるぅ!?

 

 

「ふむ、やはり3速が限界か……む、どうした萬實黎君。顔が真っ青だが……調子でも悪いのか?」

 

 

 心身ともに絶不調だよ飯田少年(絶望)。あぁ、なんでこんな試練染みた状況に何度も陥らなきゃならんのですか……。神よ、わたしが何したっていうんだぁ!!!

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

第1種目:50m走

 

 

『6秒12』

 

 

 結局普通に走ってしまった……。周りが素だったなら十分な記録だけど、普通にみんな5秒台叩き出してきやがります。みんな創意工夫をして挑んで来るってか。どうにもならないよこんなの。

 

 

 

第2種目:握力

 

 

『49kg』

 

 

 よっしゃ、何人か抜いたぁ!! 途中観察してたんだけど芦戸ちゃんは酸みたいの手から出してました。結構使える範囲が狭いだろうに、ちらほら常人以上の記録出してるのも見えたんで、彼女なりに頑張ってるらしい。わたしも、どうにかして個性出していかないと……って思ってもどうにもならんのよねぇ。他人にしか個性使えないんだから。人の測定の邪魔したりは流石にしたくないし……あぁーもうどうしよぉおぉぉおおおぉ!!!!

 

 

 

 ん? 他人にしか使えない……?

 

 

 

 

第3種目:立ち幅跳び

 

 

『232cm』

 

 

 また、普通に素でこなした。けれど、さっきとは少し違う。出席番号順だったけど頼み込んで一番最初にしてもらった。みんな不思議そうな顔してたけどね。だけど、今はこれでいい。わたしが今、一番欲しいのは『時間』。さっさと測定して確保しなきゃ。構築に問題は無い。後は負荷をどう軽減するかを考えなきゃ。ちょっとトイレにで調整してこよう……。

 

 

 

第4種目:反復横跳び

 

 

『71回』

 

 

 今までやってきた素の記録で、総合18位ぐらい。ここらでデカい記録叩きだしとかないと一瞬で除籍まで転げ落ちる可能性もある。方法は確立させた。芦戸ちゃんにも検証してもらったから、多分大丈夫。決めるなら次の種目だ。ひとりひとり測定する科目であれば、さらに確実だから。

 

 

 

 やってやろうじゃん。掛かって来いよ国立機構。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

第5種目:ボール投げ

 

 

 順番は戻してもらった。その方が確実性がある。わたしの番号は20番。最後から2番目。これならギリギリまで品定めできる。今のわたしに必要な情報は、最初と変わらず他の人の個性、そしてその使い方。それを理解して、初めてこの策を決行できる。

 

 

「えいっ」

 

 

 ……うん、やっぱり彼女が一番適任っぽいな。少し申し訳ない気もするけど、決して邪魔したりする訳じゃないからセーフだよねきっと。問題は、彼女が承認してくれるかだよね。ダメだったら……まあ、人の嫌がることを無理強いするような趣味はない。縁がなかったと潔く諦めましょうか。

 

 

「ねぇ、ちょっといいかな」

 

「うん? あっ!! 入試のときの!!」

 

「覚えててくれたんだ。今朝は挨拶できなくてごめんね」

 

 

 そう、入試のときの下敷きガール。彼女が一番適任なんだと思う。たった今、記録「∞」とかいう記録を叩き出したみたいだし、見立ては間違ってなかったみたいです。

 

 

「うぅん! わたしが来たときには、もうグラウンド行けって言われてたし時間もなかったからしょうがないよ! むしろ見つけてたらわたしから挨拶に行くべきだったんだけど……更衣室じゃ見かけなかったから分かんなかったよ」

 

「ごめんごめん、ちょっとお花摘みに行ってたからさ。入れ違いになっちゃったみたいだね。わたしは萬實黎奏。こんな状況だけどよろしく」

 

「うん! わたしは麗日お茶子。よろしくね!!」

 

 

 ふむふむ、入試のときのあれでトラウマになったりはしてないようですねぇ。それは重畳重畳。なら、時間も限られてるし、さっそく本題に入らせてもらいますか。

 

 

「あのさ、麗日ちゃんの個性ってもしかして物体を無重力にするの? 使っててどんな感じ?」

 

「へっ? うーんそうだなぁ、どんな感じかって聞かれてもすごく感覚的なものだし……説明するのは難しいよ。あ、でも軽いものに対してならずっと使ってても疲れたりしないかな。重いものを連続とかだとちょっとしんどい……って感じ」

 

 

 そりゃ当然ですよ。わたしだって自分の個性の感覚とか口頭で伝えられる気はしませんから。でも、なるほどね。常時発動でも、軽いものなら問題ないと。それなら当初の予定通りやるだけだから支障はない。正直面倒ごとが省けてよかった。

 

 

 

 

「麗日ちゃん、ひとつお願いがあるんだけど――」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「お、あのスポーツマン女子の出番か。今のところ全然個性使ってないみたいだけど、今回も使わないのか?」

 

「うーん、個性が身体能力向きじゃないのかもな。だとしたら、今回は災難だったろうな」

 

 

 おうおう、好き勝手言ってくれますね。まあ、否定はしないけど。さて、ご紹介に預かった通りわたくしめの出番です。外野はほっといて、わたしはわたしなりに行動させて頂きましょうか。

 

 

 

 

Load personality( 個性起動 )......Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続)...ッ!!」

 

 

 

 ぐぇッ……! 覚悟はしてたけど、やっぱり発動にも一苦労だなこれ。魔術回路が浮き出てる。しかもいつもは碧色なのに、紫っぽい色に変化してる……明らかに異常ですよちくしょう。でも、無理して魔力通してんだから、当たり前の事。この程度のリスクは承知の上ぇ!!

 

 

 

 

「ッぐぅ......All...complete......(魔術発動)

 

 

 

 

 余計な角度はつけない……体に走る痛みを無視しろ……! 籠める魔力は最小限。使い切れる程度! そして、今はボールを真上(・ ・)に投げることだけを考えてればいい……!! いくよ麗日ちゃん、準備はいいか!?

 

 

「……!(コクッ)」

 

 

 サンキュー、受け取ったぜその覚悟ぉ! これが今のわたしにできる全力だぁぁぁあああぁああ!!!

 

 

 

 

Battle code Ⅲ:Order Change(オーダーチェンジ)!!

 

 

 

 

 

 地球の周回軌道までぶっ飛べやぁぁ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萬實黎奏:記録『∞』

 

 

 

 

 

 はーっぁはっはぁ!! どーよこの手腕。アインシュタインもびっくりな手法だぜぇ! ……いや、流石に盛りましたけど。え、何をしたか分かんないって?

 

 

 単純です。個性を使ったんですよ。

 

 オーダーチェンジ。FGO内の礼装魔術。前衛のサーヴァント1人を後衛のサーヴァント1人と切り替えるあれです。プレイヤーなら死ぬほどお世話になってるんじゃないかな? 周回然り、高難易度然り、使える幅が広い魔術(オーダー)ですからねぇ。でも、わたしの個性で発動するオーダーチェンジは少し違ぁう! 何度も言うようですが、わたしの個性は相手の個性にしか発動しません。けれども、逆に個性にならその力はなんでもはたらくんです。ここまで言えばピンとくるでしょう?

 

 

 

 

 そう! 入れ替えたんです! わたしと麗日ちゃんの個性をね! いやー、普通なら他人の個性同士を入れ替えるために使う魔術なんだけど、私が使っているのも当然個性だからね。入れ替えることは原理的に不可能じゃないのではと考えたのですよ。あ、ちなみに、入れ替えられる時間は永続じゃありません。魔力を注ぎ続けている間だけ発動します。精神的に疲弊したり、集中力が切れたら戻る仕様ですねー。

 

 ただ、この作戦にはひとつだけ問題がありました。そう、わたしの個性が麗日ちゃんに映ったときに与える負荷です。お察しの通り、今のわたしの魔術回路はボロボロのスッカスカでございます。なので、魔術を発動しているときには相応のダメージが発生する。それはもう、割と激痛な感じで。そんなものを麗日ちゃんに負担させるわけにはイカンのですよ。

 

 

 

 

 だから、立ち幅跳びの後、トイレで調整してきました!

 

 

 オーダーチェンジを使った直後、回路が閉じるように。そして、注ぐ魔力もちょうど使い切る最小限。なので、麗日ちゃんにわたしの個性が移ったのはほんの一瞬だけ。わたしも麗日ちゃんも感覚ではずっと個性を使い続けてたわけだから、結果的に麗日ちゃんの個性だけが残ってたていう寸法よぉ!

 

 

 いやー、これで気が楽になりましたわ。少なくとも、最下位はないでしょ。あ、麗日ちゃんにお礼言ってこないと。おーい。

 

 

「あ、萬實黎ちゃん! 上手くいったみたいでよかったよー! これで、入試のときのお礼ができたかな?」

 

「十分だよ……ごめんね、力を利用するようなお願いしちゃって」

 

「あ、ううん! だって、萬實黎ちゃんはその個性でわたしを救ってくれたんだもん! 今度はわたしの個性が助けになったのなら全然気にしてないよ! それにさ、萬實黎ちゃんとお揃いの記録嬉しいから!」

 

 

 あかん、この子お嫁さんにしたい。めっちゃええ子やでホンマ……わたしが男だったら確実に惚れてたね。いや、女でも惚れそうなんだけど。だが、残念だったな諸君。わたしは至ってノーマルなのだよ。でも、女子とくんずほぐれつで絡むのは大好きだからそこは期待しといてクレメンス。修学旅行とかお泊り会とかあった日には必ずや成し遂げて見せるからよ……ぐへへ(にちゃあ)。

 

 

「あ、そうだ! 萬實黎ちゃんのこと名前で呼んでもいいかな? 奏ちゃんって、響きすごく可愛いし!!」

 

「うん、いいよ。じゃあ、わたしもお茶子ちゃんって呼ぶね?」

 

「いいの!? わぁい、ありがとう!!」

 

 

 ぬわぁああぁあああん!! いい子過ぎるぅぅううぅうう!! 3年間ずっと一緒に居ようねぇぇえぇぇぇええ!!!これは本格的に入れ込みそうな子です……わたしには分かります。容姿といい、可愛げな名前といい、その性格といい……すべてがヒロインムーブ! きっと、主人公君と結ばれる感じの子なんだろう……だがそんなことは関係ねぇ!! お茶子ちゃんが欲しくばわたしを倒してから行くんだなぁ!!

 

 

 

 

 ……って、あれ? みんなの空気が死んでる? なんだどうした……ファッ!? 先生の髪がゴンさんみたいになってます!? え、主人公君がなんか布みたいなので捕縛されてんですけどぉ!? なんか指導受けてるみたいだけど何やったのよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、主人公だしなんとかするやろ!(適当)

 

 

 




没ネタ



Battle code Ⅲ:Order Change(オーダーチェンジ)!!」





 地球の周回軌道までぶっ飛べやぁぁ!!!!




「ぐぅうううぅぅーーーッッ!!!??」


 外野の方から悲鳴が聞こえる。その声の主を、わたしは当然知っている。こんな役回りを押し付けて本当にごめん。そして、心からの感謝を。そして早く個性を解除するように促さないと……って、マジかよオイ!? 痛みに悶えててもしっかり意識を保ってるのか。なんて精神力してんだよ……。ともかく、ここからはタイミングが重要。麗日ちゃんに確認を取らなければ。心配してみんなが群がってるけどそんなことは気にしない。


「どいて! 麗日ちゃん聞こえる!? 3つ数えたら力を抜いて! いくよ、1...2...3!」


「……か、解除ぉ!!」


 ……ッうぁ!! 痛みが戻ってきた……ってことは少なくとも成功……。後の結果は、麗日ちゃん次第――






「……え、えへへ、ちゃんと……発動し続けてるよ。大、丈夫だから……安心して」






 馬鹿か、わたしは。





 ふざけんな。こんないい子に何させてんだよ。なんなんだよ……ひとりじゃ何もできない役立たずが。馬鹿だろ。馬鹿すぎる。さっき自分でなんて言った? 何が「後は了承してくれるか」だよ。ヒーロー目指す人間だろうが。それがこんな……こんな……!




 そんな人間が……女の子にこんな辛そうな笑顔させてんじゃねぇよ!!!




「ご、めん……わたし、大きな声上げちゃった……」




 違う……。




「大丈夫って言ったのに……足引っぱっちゃったよね?」




 違う。悪いのは私だ。君は悪くない。わたしが無理をさせたから――。




「大丈夫……もう、平気だから……。そんな辛そうな顔しないで……ね?」



 ……ごめ、ん……なさい! わたしなんか……わたしなんか……ッ!







 ――ヒーローになる資格なんて、ないんだ。





・没理由

 唐突かつ過度なシリアス。ぶっちゃけ白けるだけだから。




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第5話「上げて落とす」

なるべくサクサク進めていきたい

後、主人公の見た目はまんまぐだ子ってことに決定しました。
その方がFGOプレイヤーなら想像しやすそうだったので。


 かっべっはー(ハイハイハイ!)

 

 こわせーるもーのさー(ハイハイハイ!)

 

 たおせーるもーのさー

 

 じーぶーんーかーらもぉっとー

 

 ちーかーらーをー……

 

 

 

 

 出せてたら苦労するかってんだよ

 

 

 

 

 はい、個性把握テストが無事終わりました。他人の力を借りないと、どうにもならん奏ちゃんです。順位はやはりボール投げの記録が効いたのか7位でした。しかも協力プレイにより、お茶子ちゃんにフレ申、そして承認が成されました。やったぜ。いやーこれで、3年間ぼっち生活の線は完全に消えましたね。誰とでも仲良くなれる芦戸ちゃん、クラスをまとめそうな飯田君、そして、友達言質とれてるお茶子ちゃん。正直もう無敵なのでは? 今のわたしに死角ゼロなのでは? へっへへ、楽しくなってきたぜ……。

 

 ん? 冒頭のあれはなんだよって?あー、あれは皮肉ですよ、わたしと雄英に対する。ほら、なんかみんな口揃えてPlus Ultraって言ってますやん? ここ最近、ずっと思ってんですけど、仲間と協力して「更に向こうへ」を実践しちゃいけないってルールでもあるんですかね。だって、めっちゃ個人戦やらせてくるじゃん。他人にしか個性はたらかないっていってるやんけ! 

 

 お察しの方もおられるかと思いますが、テンションがやばいです。はいそこ、いつもと変わんないとか言わない。わたしだって何も無いところから怒りは生産できません。うむ、実際に見てもらった方が早いな。それではVTRどうぞぉ!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「あ、除籍は嘘な」

 

 

 

 

 は?

 

 

 

「君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽(ニヤニヤ)」

 

 

 

 

 

 

 ほーん、なるほどぉ……そういうこと言っちゃうんだぁ……。へぇー……ほぉー……ふーん。

 

 

 

 

 

 

 ザッケンナヨオルァァアアァアン!!?

 

 お前お前お前お前ぇぇぇ!!! そんなんで、済まされるかぁ!! 人の覚悟を何だと思ってんだよァァァ!!! いい加減にしろよ雄英関係者特にプロヒーロー共ぉぉ!!? クラスの主導権は担任に一任されているとはいえ理不尽すぎる……あまりにも身勝手……!!

 

 

 

 

 

 やってられるっかてんだコンチクショー!!!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 はい。これが事の顛末でございます。

 

 

 はぁ……あ、もう怒りは静まってますからね? とりあえず運がよかったのも大きいけど、何とか学校には通えてますし。一旦家に帰って布団で熟睡すれば、大抵のことは落ち着いて判断できるってもんです。そこ、単純とか言わない。

 

 最近の授業もそんなぶっ飛んだ内容のものはなく、通常の高校らしい座学一般。授業のレベルもいたって普通。食堂のごはんはプロヒーローが作ってくれてどちゃくそ美味しい。自由時間も割と何してもいいって許されてる。基本充実した生活を送れているので、何もケチはつけないよ。

 

 だがなぁ!! わたしは分かっているのですよ! 毎度毎度、困難に立たされてもいれば危機察知能力も高まるってもんです。そろそろやべーのが来るって、わたしの勘がビンビンに来てます。耳を澄ませてみましょう。ほら、すぐそこまでその足音が聞こえてくる――

 

 

 

 

 

「わ~た~し~がぁ~~~普通にドアから来たァ!!!」

 

 

 

 

 

 ほらね?(絶望)

 

 現在昼休みが終了して5分後。ヒーロー基礎学のお時間でございます。内容としてはヒーローとしての素地を作るために様々な訓練を行う授業。しかも担当はもうお察しの通り。ナンバーワンヒーローに育ててもらえるのだから喜ぶべきではあるんでしょうけど、この人も常識というか、思想が一般人とはどっかズレてる節があるからなぁ……。あまり、こういうことは言いたくないんだけど、人間の行動原理を美化しすぎてるがする。良くも悪くも人を信じ過ぎって感じ。綺麗事を実践するのがヒーローの本懐なのかもしれないけどさ、最終的に直視すべきは現実なわけで、前者一辺倒に考える訳にもいかないのよ。

 

 何が言いたいかっていうとね? わたしはこの人や他のプロヒーローの勘違いによってこの学校に入れたわけじゃん? しかもかなりの好評を買って。感謝こそすれど、恨む理由なんてない訳なんですよ。けどだからってさ。

 

 

「おっ……(ニカッ)」

 

 

 

 

 

 こっち意識しながらヒーロースマイルすんな。

 

 やめてよぉおぉおおぉ……。何人かこっち気付いてんじゃんんんん………。目を合わせないのは恥ずかしいからじゃないからな? 目立ちたくないからだからな? なんでこんな細やかな願いすら叶えてくれないんですかぁ……!! これ以上悪目立ちしたくない。ずっと顔伏せてようそうしよう。あ、話は一応聞いておこう。

 

 ……ほう、戦闘訓練とな。嫌かって? もう流石に慣れましたそういうの。入試の時点でそんな授業があることぐらい大体察してましたし。で、事前に要望を取ったヒーローコスチュームが届いているから、着替えてグラウンドに集合ですか。わー、前の不良男子めっちゃ嬉しそう。午前中クッソ暇そうにしてたのに、血気盛んなことで……。

 

 

「戦闘訓練かぁ……何するんだろうね?」

 

 

 さあね。そして割と物怖じとかしないよねお茶子ちゃん。顔が6:4でワクワクが勝ってるよ。この子は将来大物になりますね間違いない。ん? 更衣室行こうって? そうだねー、今回は礼装を準備できる……ってか、コスチュームとして使える礼装を要望で出しといたんでね。個性把握テストのときよりは心に余裕があります。

 

 しかもなんとですよ! 特注で2着用意してくれたんですって。いやぁ、流石日本最大級の国立機関。太っ腹だぜ! その後、調子乗ってもう何着か作ってくれないか催促してみたんだけど、流石に間に合わないって言われました。後、わたしが送ったものが要望じゃなくてほぼ設計図なのはメーカー側も驚いてたみたいです。少しでも概念(イメージ)と違ったりしたら、わたしが血を吐くことになるからな! 絶対に余計なことをするなっていう注文も付けといたぜ! 嫌な客とか思われたかもしれんけど、これだけは譲れんのです。諦めてくれ(にっこり)。

 

 よし、さっさと更衣室で着替えて、グラウンドに向かうとしましょう。あ、でもお茶子ちゃんのスタイルチェックは逃さん! ちょっとお姉さんに抱き着いてもらおうかぁ! それで大体スタイルわかるからな……あ、ちょっと! 大丈夫逃げないで! 何もしないから!!(大嘘)

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 さあ、やって参りました。グラウンドとは言いますがその実、目の前に広がっているのは一つの市街地でございます。てか、入試のときの場所じゃねーか。わたしの胃痛がマッハなんですけどオールマイト先生意図してやってませんか? 思い出すだけで鳥肌立ってるんですけど。え? そんなことよりお茶子ちゃんがどうだったかって? そんなことってなんだよお前らぁ!! 血も涙もないんか!? はぁ……だがそうだな、とりあえずDはあったと言っておこう。しかも成長の余地ありだ。これ以上の詳細は沽券に関わるからな。黙秘権を行使する。

 

 

「む? 萬實黎君、それが君のコスチュームか……? 何というか……普通の服なのだな」

 

 

 お、飯田少年。そういう君はだいぶそれっぽいね。まるで新幹線が擬人化したようですよ。しかしまあ、色んな格好してんなみんな。コミケ会場を思い出すぜ。それはさておき、どう返答したものかな。正直、自分の個性の都合とは言いたくない。手札を晒すのは戦うときか、信頼が置けるようになったときかの二択だからな。

 

 

「わぁ~! 奏ちゃん可愛い!! 何それどこの制服~?」

 

 

 おうふ、そういう芦戸ちゃんは大胆な格好してるね。肌から酸を出すから布面積が少ない方がいいのかな? でもちょっとえっちが過ぎるんじゃない? 人前に出るときは気を付けるんだぞ。ん? あんまり気にしないって? じゃあ、もう少し近くに来てみようか(ワキワキ)

 

 ゲフンゲフン。さて、わたしのコスチュームについて説明しようか。芦戸ちゃんの言う通り、わたしは今、制服の見た目をした礼装を着ております。さて、どの礼装でしょーか! 正解はぁ~……これだぁ!!

 

 

 

 

――『月の海の記憶』

 

 とある並行世界にあるという、ある学園の制服を模した魔術礼装。これがわたしの選んだ魔術礼装です。入試までにある程度、使用可能にしたという礼装のひとつでもあります。選んだ理由は、まあ単純にイメージが付きやすかったこと。後、魔術の使い勝手がよかったことかな。特にアレはわたしにとって自衛であり、強い個性もちへの対抗手段になりうる。使いどころを見極めていくとしよう。さてさて、今回の訓練形式は?

 

 

「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう」

 

 

 勝ったな(確信)

 

 ひゃっほう! ようやくわたしの個性がまともに発揮できるときが来たぁ! 苦節1ヶ月……己に使えない個性で個人戦を強いられてきたが……ここで! ここで満を持しての協力プレイ!! はぁ、いいじゃないですか。こういうのでいいんだよこういうので。孤独な戦いは終わったんだ……!

 

 さて、協力していいことは分かったけど、具体的なことはまだ明かされてないな。どうやらこれから説明されるようだけど……むー、なるほど。屋外より屋内の方が強力なヴィランと戦闘になる傾向にあると。だから、ヒーローチームとヴィランチームに分かれての屋内演習か。ルールはサーチ&デストロイみたいなもんと。ヒーロー側は制限時間内にヴィランの捕縛もしくは核の回収。ヴィラン側はヒーローの捕縛もしくは制限時間のタイムアップ。実戦を考慮した訓練だから、お互いが屋内戦で不利になるような行為は減点対象に。また、双方に危険な攻撃を加えようとした場合は即刻中止。加害者チームの自動敗北。

 

 うーん、思っていたよりルールが明白でまともじゃん。なんか安心するわ。で、肝心のチームは? えっ、くじ引きですか? そんな適当でいいのかっとうぉ!? すごい勢いで挙手をしないでよ飯田少年! となりにいる人の身にもなって!? あ、でもわたしの思ってたこと質問してくれた。そんで答えたのはもっさり君。確かに理には適っているけど、くじ引きかぁ。誰が一緒になるんだろ。あれ?てか待てよ? クラスの人数って奇数だよね? どう頑張っても1人あぶれる――。

 

 

「ち・な・み・に! 最後まで残った子は、この私と組んでもらう! 相手チームにはこの訓練で最も成績の良かった生徒3人がチームを組んで挑んでもらうよ!!」

 

「マジかよ!? そんなんありか!?」

 

 

 ホントですよ(白目)。

 

 えぇ……オールマイトが相手とか勝ち目あるのかそれ。いや、流石に手加減してくれるだろうけどさ。屋内戦で、どうやら狭いみたいだし、あのスーパーパワーをふんだんに使えるわけでもなかろう。まあ、私は補助がメインなので、そこまで点数の高いような戦いはできませんし、悪しからず。それなりの結果を残せるよう、微力を尽くすとしますか。

 

 

「組み合わせはぁ~……こんな感じだ!!」

 

 

 えーっと……わたしのチームは……ん? なくね? オールマイト先生これなんか間違ってませんかこれ。

 

 

「発表されなかったのは萬實黎少女か! うむ、それではよろしく頼むよ!」

 

 

 は? よろしく? 何言ってんだこの平和の象徴。っておい、まさかそんなわけあるかよ嘘に決まって――

 

 

「私とのタッグ、つまり間近で私の戦いを見ることができる、またとないBIG CHANCE! 存分にヒーローとは何かを学ぶといいさ! HAHAHA!」

 

 

 はぁ~~~~!? ふざけんなよマジでぇ!? アンタと組むとか絶対に注目の的でしょうがぁ!? 嫌です、絶対にやりたくない。ん、なんだお前ら。羨ましそうな目でこっち見んな。できるなら譲る気まんまんだぞこちとら。

 

 

「プロヒーローナンバーワンと入試1位のタッグ……なんて高い壁なんだ……! 萬實黎君、俺が君と戦える資格を得たら、本気で挑ませてもらうからな!!」

 

 

 なに余計なことカミングアウトしてんだ眼鏡ぇぇぇええぇえええ!!!??

 

 おま、ちょ、お前ぇ!! マジで空気読めよ!? よりによってなんで今なんだよ! 狙ってんのか? それは狙ってやってんのか!? 真面目も過ぎるとただの馬鹿だからな!? 少なくとも今のわたしにとって、お前は馬鹿としてしか映ってないからな!!?

 

 

「入試1位だぁ……? デクも含めて全員ぶっ潰せば関係ねぇ……!!」

 

 

 ひぃ!? 殺意剥き出し過ぎじゃないですかぁ!? 早速一番関わっちゃいけないタイプの奴に目ぇ付けられてますよね!? もうやだ! 他にも教室でこっち見てた人たちの目の色が変わってんじゃん! 確実にわたしを獲りに来る目をしてるよぉ!! 助けてよオールマイト! 平和の象徴でしょ!? わたしの心の平穏を守ってよぉ!!

 

 

「さて! 組み合わせが決まったのなら早速始めようじゃないか!! 最初に選ばれた以外のチームはモニタールームに向かってくれ。君たちの奮闘を期待しているぞ! 萬實黎少女、共に頑張ろうな!!」

 

 

 HOLY S〇IT(頑張ろうなじゃねぇよ)!!

 

 ダメだ聞いちゃいねぇ! このままだと、屋内戦最強チームと戦うハメになってしまう……何か策を講じないと……! でも、ぶっちゃけオールマイトがいるんだから負ける理由はないし、もういっそのことオールマイトに全部ぶん投げて――

 

 

「ちなみに、私は君の指揮下に入るからな。君は上手く私を使って、相手チームの攻略していくんだ。これは授業。君たちの判断能力を養う機会だからね! 君が何も指示しなければ、私は動かないぞ?」

 

 

 訳にはいきませんよねー!! ちくしょう知ってたよ! でも、ぶっちゃけ望むところだよ! 結局やること変わんないからな!! 味方がオールマイトだろうが、クラスメイトだろうがわたしは後方支援に回るだけ。どうせもう逃げも隠れもできないんだからやってやるよ!! いっその事最近起きている理不尽に対する怒りを、相手チームにぶつけてやんよぉ!!

 

 

 

 

 このときわたしの脳内に、入試がフラッシュバックしたのは言うまでもなかった。




・没ネタ(把握テスト回想分岐)

 


「……納得いかない」


 全員がこっちをみた。え、なんで? あ、もしかしてわたしじゃなくて後ろ……って誰もいないわ。んん? あっ、もしかして声に出てましたかそうですか。やっべどうしようこの凍てつくような視線とフィンキ。朝まで目立ちたくないとか言ってたやつが注目の的だよ。はぁーい、雄英のアイドル奏ちゃんだよぉ~! とかふざけてる場合じゃないわ。血の気が引いて、怒りもどこかにフライアウェイ。冷やし頭始めました。まだ、春だけど。


「萬實黎奏……確か、実技入試は1位だったな。納得できないってのはどういう意味だ?」


 相沢先生、自己紹介代弁ご苦労様です。でも、前半部分の情報いりませんよね? みんなの空気が無言からざわつきにグレードアップしやがりましたよ。アンタらそんなにわたしの成績ひけらかしたいんですか。わたしは秘匿したいのに。わたしたち……もうお終いね……!

 はい、そうは言っても口に出した言葉は戻せません。何かしらの反応しないとただのやべー奴に成り下がります。クッソこうなりゃ言いたいこと全部言ってやるわ。


「別に……思ったことを言ったまでですよ。合理的虚偽? なるほど、先生は自分の価値観で合理的ならどんな酷い嘘でもついていいって言うんですね。いやはやこれは素晴らしい」

「ちょ、ちょっと奏ちゃん……!?」


 わぁお、おったまげー(白目)。

 自覚してなかったけど以外とストレス溜まってたんですねわたし。すげー流暢にボロクソ言いますやん。うん、大丈夫お茶子ちゃん、わたし自身もめちゃくちゃビックリしてるから。だから安心してくれ(?)。

 もぉおおぉおおやだぁああぁぁあああぁ……。これで後には引けなくなっちまったよぉおおぉぉぉお……。さらば、わたしの平穏な高校生活。わたしはこれから問題児扱いされ、肩身の狭い思いをして生きていくのです。歩くたびにプロ相手に粋って反抗した痛い奴として後ろ指を指される生活が待ってるぜ。いや、ぶっちゃけ何も間違ってないんですけどね……ふふふっ。どうせ失うのなら盛大に行こうじゃないですか……もう、何も怖くない……!!


「合理性、それすなわち目的への最善の近道。実際に最大限を引き出すことには成功している。お前もそのひとりだ。発破かけなかったら腑抜けた記録で満足していた、違うか?」

「それは正しい。えぇ、そうでしょうとも……ヒーローとしてのスタートラインに立ててすらいない未熟者の癇癪です。どうかお気になさらず、その方が合理的でしょうから」

「要領を得んな。要点をまとめて話せ」


 イラついてんだよ察しろ(逆ギレ)

 わたしのなかにある行き場のない怒りが暴走してるだけです。女子は男子より早く成熟するっていうけど、わたしは違う! 穢れを知らないピュアピュアはちみつ天使だからな! 思ったことをすぐ言っちゃうんですぅ~!! 先生もこんなことに付き合ってないで無視すりゃいいのに(責任転嫁)。そもそもなんで、こんなことになってんだっけ? いや、わたしが原因なのは百も承知なんですけど、それでもここまで拗れるってのは何かしら理由があるはずで――



 あ、そうか分かったわ。わたしがヒーローの器じゃないんだこれ。

 危険な目に会いたくないっていう自分本位な理由で雄英受験したもんな。いやーなるほどなるほど。そりゃここにいるのは、仲間のために頑張れる超いい奴らの集まりだもんな。自分が不利を被っても多少のことなら笑って流せるでしょ。はぁー……やっぱり落とされるべき人間だったんだなわたし。勘違いで入学させられちゃったもん、そりゃ耐えられなくもなりますわな。いや、1周回って申し訳ないよこれ……てか今朝からずっと罪悪感背負ったままでずっといましたね。いずれ爆発すんのは自明の理だったってわけか。なら言うことは決まったよ。



「――わたしを除籍してください」


・没理由

 唐突すぎる。そして、タイガー道場一直線だから。


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第6話「通せる無茶は無茶じゃない」

 

 主人公の本当の武器は個性ではなく考える力。つまり、わたし自身がつまらない考えを文字にすると主人公もつまらない奴になってしまうという辛さ。





 振動がすごい(唐突)

 

 

 

 はい。モニタールームでもっさり君……もとい緑谷君の個性を目の当たりにしてガクブルが止まらない奏でございます。

 

 やべぇよ。改めて見て思ったけど、パワーが段違いだよ。そりゃ入試のときにあの仮想ヴィランぶっ飛ばした個性なんだから覚悟していたけど、それでも相手をするかもしれないと思うと怖いです。あ、でもなんか戦闘不能みたいですね。リカバリーガールの所へ運ばれていくようです。どうやら彼は続行不可能みたい。不謹慎かもですが、少し安心しました。

 

 でも、例の彼が残ってるんですよね(絶望)。ほら、めっちゃヴィランっぽい彼ですよ。確か爆豪君でしたっけ? モニターで見た限り、めちゃくちゃ個性強い上に、格闘も割と様になってた。あれは、昔から喧嘩してた人間の動きですね。実際に、緑谷君のこと個性を交えて捕縛せずボッコボコにしてたし。ビルを倒壊させかねない個性って何だよマジで。ちょっと初っ端から飛ばし過ぎじゃないです? さて、講評するっぽいし、さっさと意見をまとめますかね……。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その後は順調に番が回り、いよいよ私たちの番が来た。とりあえず、みんなの個性を観察してたけど、的は絞れた。相手にしたくない個性持ちは3人。

 

 まず1人目は轟焦凍。半冷半燃の個性。単純に出力が他と比べて段違い。どうやらビル全体を凍らせるぐらい、わけないようだ。炎の方は未知数。でも、ビル全体の氷を数秒で溶かしていたのをみると、氷と同等の力を持っていると考えられる。敵にまわせば近接だろうが遠距離だろうが対応してくるだろう。ドラクエにいたよこんなキャラ。

 

 次に2人目。八百万百。個性は創造。体から何でも作れる個性。ただし、規模の大きいものや、複雑な構造をしたものは時間がかかる模様。何故選ばれたかは、動きの読めなさと、その汎用性、そしてそれを十全に駆使する八百万の知性。彼女が加われば、どんなチームでも変則的な動きが可能だと思う。弱点があるとすれば八百万自身の身体能力はそこまで高くないことぐらい。後、発育がいい。素晴らしいと思う。

 

 最後の3人目。障子目蔵。個性が複製腕。両腕にもう2本ずつ、体の一部を複製できる触手を持っている。触手自体は常時発動型で、器官複製は適時発動型。耳や鼻を使って索敵も可能なうえに、6本の腕で壁や天井にも張り付ける。狭い場所であれば奇襲をかけることも可能かつ、素の身体能力もそこそこ高い。憶測になるが、足回りは普通と見た。後、無口だけど触手に生やした口ではめっちゃ喋る。割とシュール。

 

 この3人のうち、ひとりでも敵にいたらだいぶキツイと思います。勝機があるとすれば、オールマイトがいること。わたしの個性が割れていないこと。そして、まだわたしに奥の手(・ ・ ・)があることですかね。 状況に応じて、最善の一手を打てれば後は流れでいけるはず。まあ、後はヒーロー側かヴィラン側かなんですけど、出来ればヴィラン側がいいですね。その辺は運です。

 

 

「うむ! では、残り時間も少ない。わたしたちに挑むメンバーを決めようじゃないか!」

 

 

 始まりますか。さて、誰が相手になることやら。

 

 

「1人目は轟少年だ! 敵を追い詰めてしまい、最後の手段に出ることを考慮しなかったことは減点だが、それを抜きにしても一瞬で無力化したのは事実だ! 是非挑んでもらいたい!」

 

 

 やはり轟少年ですか。まあ、まだ想定の範囲内。むしろ彼が来なかったら今まで立てた算段の半分以上が無意味になります。いや、それでも選ばれなかった方が楽だったけどさ。

 

 

「2人目は蛙吹少女! パートナーの常闇少年のサポート、および個性を生かした奇襲に成功。見事、核を回収してくれた! その手腕をもう一度披露してくれることを期待している!」

 

 

 おっと、ここで予想外な人が来ましたね。蛙吹梅雨ちゃん……んー、個性は蛙でしたっけ。蛙ができることは大体できるっぽいけど、どうなんでしょ。屋内だと四方八方に張り付けそうだし、舌を使っての奇襲もあり得る。異形型の部類に入るだろうから、わたしの個性の効き目も低そうなのがネック。ちょっと、頭から抜けてたかも。

 

 

「そして最後は君だ! 瀬呂少年! ヴィラン側として存分に個性を生かしたトラップを仕掛け、時間稼ぎで敵を焦燥させたのはもちろん、戦闘でピンチとなった切島少年を前線から撤退させた手腕は見事だった! 結果こそ核を回収されてしまい敗北となったが、ヴィラン側を想定した戦い方ではもっとも模範的だったぞ!」

 

 

 うわ、マジで想定外な人ばかり来るわ。瀬呂少年かぁ……個性はテープね。地味に見えるけど汎用性はクッソ高い個性ですよね? テープの強度も人ひとりぐらいは持ち上げても平気みたいだし、割とキツイかも。これ、考える中でも割と最高の組み合わせかもしれない。蛙吹ちゃんと瀬呂少年は強襲をやってのける機動力と汎用性。轟少年はゴリ押しともいえるその強力無比な個性で前線を押し上げるタイプ。できることなら、わたしたちがヴィラン側をやりたいところですよこれ。

 

 

「よし、じゃあ所属チームだが決め方はコイントスにする。表になったチームがヒーロー、裏がヴィランだ。公平を期して観戦側の人……切島少年にコイントスをしてもらおう」

 

「おう! ひいきなんて男らしくない事は絶対ェしねェから安心してくれ!」

 

 

 おお、熱いな。昔のヤンキーみたい。瀬呂少年とタッグ組んでた切島少年か。硬化が個性だったかな。爆豪少年とおんなじぐらい厳つい見た目してるけど、めちゃくちゃ誠実そうですな。良きかな良きかな。ちなみに良きかなの語源は良き哉で、いい弟子だと褒める仏法用語です。なんで解説したかは不明。おいおい、心を落ち着かせるためのちょっとしたジョークですよ。何が面白いかって聞かれると閉口しながら弾丸籠めた焼酎持って来ざるをえない。緊張しててホントに冗談言ってないと心労で死にそうなんで大目に見てください……。

 

 

「組み合わせは……轟チームがヒーローサイド! 萬實黎チームがヴィランサイドだぜ!」

 

 

 ひゅーっ! 運気はまだあるみたいだぜぇ! それならやりようはある。早速オールマイトと作戦会議と行きましょうか! さ、準備準備。オールマイト先生ー、早く行きましょー。

 

 

「HAHAHA! 随分とやる気じゃないか萬實黎少女! 君の策には期待しているよ!」

 

 

 ハイハイ任せてくださいな。和洋折衷クソマンチバフ盛り、確とご照覧あれ!

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「しっかし、オールマイトが相手かぁ……正面突破は無理だよなぁ」

 

「私もそう思うわ。それに奏ちゃんがいることも忘れちゃダメよ?」

 

「萬實黎の個性ってぶっちゃけ誰も知らないんだよな……あ、麗日なら知ってるのかもしれないか。でも、みんなモニタールームに行っちゃったし遅いよなぁ」

 

 

 俺、瀬呂範太はチームの蛙吹と唸っていた。正直俺と蛙吹の個性は補助向きだ。だから、戦闘は轟に依存しちまうかもしれない。そこのところはどうなのか轟にも聞いてみたいところなんだが……ん?

 

 

「おーい轟? なにかいい策あるかー?」

 

 

 なんかビル眺めて上の空だな……もしかしたらと思って声を掛けてみたけど、どうにも返事がねぇ。そんなに集中してんのか? でも、今回ばかりはちゃんと協力して、策を練らないと駄目だろ。なんせ相手はオールマイトなんだから。

 

 

「……もう一度、俺の個性でビル全体を凍らせることも考えたが、愚策だな。仮にそれでオールマイトが行動不能にならなかったら、お前らの動きを制限しただけになっちまう」

 

 

 まあ、確かにそうだな。足場が凍ってたら蛙吹はともかく、俺が全く動けなくなる。

 

 

「だが、今回は室内戦だ。オールマイトも派手に壁を壊したり、床をぶち抜いたりはしてこないはずだ。だから、俺なりの見解でいいのなら策はある」

 

「ケロッ、何かしら?」

 

「今回俺は陽動にまわる。適時個性で屋内を凍らせて、オールマイトに俺たちの場所をかく乱させる役割だ。そして、瀬呂。お前は俺について廻りながら廊下中にテープを張れ。機動力を削ぐ意味合いじゃない。テープを切らせるアクションを誘発させて、オールマイトの位置を割り出すために個性を使え。そして、蛙吹は――」

 

「梅雨ちゃんと呼んで、轟ちゃん」

 

「……梅雨は、屋外の壁に張り付いて、核の位置を探ってくれ。無線で階層ごとに部屋の様子を適時知らせてほしい。見当たらなかった場合は、各階どれかの中央部屋にあるってことになる。そのまま窓から侵入して、俺たちが陽動をしている階層以外の部屋を調べて回るんだ。俺たちもなるべく、陽動しながら中央部屋を確認するように動く。ただし、萬實黎が何をしてくるかわからねぇ以上油断は出来ねぇけどな。これが俺たちの持つ情報と手段で打てる策だと思うんだが……意見があるなら言ってくれ」

 

「いや、異論なんてねーよ。てか、お前一瞬でよくそんなこと思いつけんな」

 

 

 素直に感心したわ。個性だけじゃなくて頭もいいんだな轟は。上鳴も騒いでたけどなんつーか、推薦入学なだけあって才能の塊だよなぁ。正直、俺がこの場にいるの場違い感ヤバい気がするわ。って、卑屈になってても何も始まらないよな! せっかくいい案出してくれてんだ。感謝しなくてどうすんだよ。

 

 

「ありがとな、轟! お前のおかげでなんとか突破口が見えてきた気がするわ!」

 

「そうか、ならいい。蛙す……梅雨はどうだ?」

 

「自分のペースでいいのよ轟ちゃん。私も異論はないわ。せっかくプロの胸を借りるのだから、妥協無く取り組まないと失礼よね」

 

 

 よっしゃ、まとまったな! 後は、開始のブザーを待つだけだ。俺も本気で陽動やるぜぇ。張り切って行くとしようか!

 

 

 

Boooo!!!

 

 

 

「お、鳴ったな! じゃあ勝ちに行こうぜ! なぁ、轟! 蛙吹!」

 

「あぁ」

 

「ケロケロッ」

 

 

 お、蛙吹がビルの壁へと飛んだ。割と素早い動きで確認してる。まあ、タイムアップが迫ってるんだ、当然だな。俺たちもさっさと行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ細心の注意をはらっ……て?」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 意気揚々とはビルの中に足を踏み入れた俺たちは、刹那的に茫然と立ち尽くす。まるで、時間が停止してしまったようだ。言いようのない虚無感のようなものが胸の内に残った。本当にこれが現実なのかとさえ目を疑った。だって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も、なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 文字通り、そこには何もなかったからだ。いや、何もなかったというより、あるはずものが消えていた。俺たちはドアから屋内に入り、廊下を歩こうとしたのだ。だが、その歩くべき廊下がなかった。ただ広い空間が俺たちを包みこんでいた。

 

 

 

 

「突っ立っているとはずいぶんと余裕だなァ!」

 

 

 

 

 何も無い空間で、それは俺たちの真上(・ ・)から聞こえてきた。面食らっていた俺は一瞬反応が遅れた。

 

「ッ!? 瀬呂、前に飛べ!!」

 

「へ? ってうぉああぁあああ!!?」

 

 

 轟の声で我に返った。瞬間、先ほどまで自分がいた場所の地面が抉れる。そして、数秒の後に、外から指す光が逆光のようにそれをやってのけた犯人を照らし出した。そこには、ヒーローを夢見る少年少女の夢そのもの(今一番相手にしたくない奴)が佇んでいた。

 

 

 

 

「逃げ隠れはさせない……ここで全員潰させてもらおう」

 

 

 

 

 

 

「辞世の句は読んだか、ヒーロー共ォ!!!」

 

 

 

 

 

 

 そこでようやく悟った。俺たちの策は、数秒で崩れ去ったのだと。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

「オールマイト先生。音立てずに1階から3階までの床全部ぶち抜いてひとつのフロアにできませんか?」

 

「いきなり凄い無茶ぶりするね萬實黎少女!? 多分出来るけどッ!!!」

 

 

 あ、出来るんだ。いや、音を出しちゃうのは覚悟してたんだけど、まさかできるとは思わなんだ。え、なんでこんなアホなこと言ってんのかって? いやいや、歴とした作戦ですから。ただすこーし工事するだけですよー。某特殊部隊ゲームでも工事するでしょ? それとおんなじですよ。

 

 

「いや、しかしどうするんだ。そうなれば核を置く部屋も減ってしまい籠城のアドバンテージを失うだけではないのかい? 正直、私には愚策としか思えないぞ」

 

「大丈夫です、これは『策を潰すための策』ですので問題ありません。これが通れば相手の練った策を土台から破壊できますから」

 

「策を潰すための策……かい?」

 

 

 そう。わたしが発案したのは外でもない、相手チームに無理にでも戦闘させる策。この戦い、わたしがオールマイトをいかに上手く動かすかで勝敗が決まる。絶対にあってはならないのはオールマイトを相手チームにぶつけずに終わること。それなら、否が応でも初っ端から戦わせ、逃げられなくする状況を作り上げる。それが可能なら手段は問わない。てなわけで、オールマイト先生。工事の方よろしくお願いしますね。

 

 

「Oh my god......君、意外と鬼だね。まあ、採点抜きにして従うと言ったからやるんだけど、さぁッ!!」

 

「やれることは全部やる質なだけですよ」

 

 

 お、床に拳を徐々に押し付け始めた。ちなみに今階段の吹き抜けから様子を伺っています。徐々に小さなヒビが入っていって少しずつ崩壊してるようです。そんで下の階で崩落した瓦礫を超スピードで着地する前に回収して音を最小限に抑えてるらしい。人間やめてますね。まあ、平和の象徴なんだからこのぐらい当然か(感覚麻痺)。

 

 ちなみに、入り口の扉はヴィラン側の準備をばらさないために、マジックミラー仕様らしいので相手チームからは何が起きているか分かりません。やったぜ。

 

 

「あ、終わったら入り口前の天井にスタンバってください。入ってきた瞬間に奇襲をお願いします」

 

「本当に容赦ないね君!! くぅ~ッ! 敵を全力で叩き潰そうとするその心構え、流石入試1位だぜ!!」

 

 

 おっとその話はわたしに効く(白目)。

 

 てか、大体アンタらのせいだからな? 雄英は入れたのはありがたいけど、こんな入り方予想していなかったよ。死ぬほど胃が痛んだこと当分は根に持つからなぁ? 覚悟の準備をしておいてくださいよぉ!?

 

 さて、始まる前に行く場所があるんですな。屋上にさっさと登らないといけない。轟少年がまたビルを丸ごと凍らせてきたら面倒くさい事この上ないんで。マジでやろうとしたら、容赦なくわたしの『切り札』を切りますので。

 

 

 

Boooo!!!

 

 

 

 さて、相手はどうするか……っと、蛙吹ちゃんが壁に張り付いた。てことは凍らせるのは愚策と踏んだみたいだね。よろしい、では次の配置へと向かいますか。オールマイトに頑張ってもらうのはもちろんだけど、この作戦はそれだけじゃ成り立たない。

 

 

 

 ――轟少年(・ ・ ・)にも頑張ってもらう必要があるんだから。




 


 進む様で進んでなくてごめんなさいね……。





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第7話「覚悟はできてるか?俺たちは――」

 主人公がピンチを乗り越えるときのワクワクがジャンプ作品の要。逆説的に言えば俺つえーするなろう系の主人公はジャンプの敵役として最も最適な素材である。中ボス的なポジで。

 後、何故この日に投稿したかは、数日前に某ゲームで水着ガチャ爆死して凹み、今日も爆死してヤケクソで書き上げたから。


 瀬呂が俺に礼を言ってきた。だが、正直そんなことに構っている余裕はない。俺たちが今相手にしてんのはオールマイトだ。油断なんて微塵も出来ねぇ。けど、どうすんだ……!? 俺たちの戦略は見ての通りの既に崩されちまってる。俺たちの勝利条件は、ヴィラン側を拘束か核の回収だ。オールマイトが相手の時点で正面からかかる選択肢はねえ。ここで打てる最善の策は……!

 

 

「……瀬呂! プラン通りだ! 俺らでオールマイトの相手すんぞ!」

 

「は、はぁッ!? 正気かよ轟ィ!!?」

 

 

 至って正気だ。確かに状況は圧倒的に不利かもしれない。けど、俺たちが見つかることも計画の内だったはずだ。オールマイト相手に15分間逃げ続けるなんて不可能に近いことは最初から分かりきっていたこと。なら俺たちはそのときに出来る最大限を発揮するだけだ。

 

 

「行くぞ……当たんじゃねえぞ瀬呂!」

 

「クッソやるっきゃねぇのか!!」

 

 

 瞬時に氷を部屋全体に這わせる。そして、合わせるように瀬呂がテープを巡らせた。まるでジャングルジムだな。これで一応の準備は整った。

 

 

「ふむ……それで、どうするのかな? まさか、これで私を封じれたとは思っていないよね?」

 

 

 訝しみながら辺りを見回すオールマイト。だが、もう遅い。俺たちは既に準備を終えている……!

 

 

「……! なるほど、考えたね」

 

 

 遮蔽物を壊されたのなら、また作り直せばいい(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。俺ひとりでは無理だが、瀬呂の個性があれば話は別だ。本来なら、俺の個性は出力を変えられるだけで、局所的に凍らせたりは出来ねぇ。けど、瀬呂のテープを使えば、這わせた冷気の方向ぐらいは決められる。瀬呂の裁量次第にはなるが、擬似的な氷の通路ぐらいは即席でも十分作り出せるはずだ。

 

 

「いい個性の使い方だ! けどそれだけで身を隠せたつもりなら……大間違いさッッ!!!」

 

 

 轟音、それにともなって、一部の氷の壁が吹き飛ばされる。オールマイトが氷を破砕したことは明確だろう。あの人も茶目っ気こそ大いにあるがバカじゃない。俺たちがそこにいると予測がついての行動だろう。

 

 

「壁を作ろうと結局は氷の塊! 透明で位置も丸見え…………ってあれ?」

 

 

 そこに俺たちはいない。氷越しに見えたソレは幾重にも重なった氷が見せた幻。周囲の氷で光が屈折し合って、あたかもその氷越しに俺たちがそこにいるように見せただけだ。

 

 

「なら手当たり次第に行くしかないね!!」

 

 

 そう言って本当にバカスカ破壊し始めやがった。けど、問題はねぇ。その時の対処法も確立済みだ。

 

 

「ストップ。オールマイト、あんたが今壊そうとした氷の裏にはすぐこのビルの壁がある。自分で言ったように牙城の損壊を招く。それでもいいんですか?」

 

「HAHAHA! そんなハッタリに脅かされる私じゃないさ! 体感でどの程度までなら吹き飛ばしていいか分かるからね!!」

 

「へぇ……じゃあ、仮に壁を吹っ飛ばしたときのペナルティを聞かせて貰おうか。俺たちには点数のマイナスっていうデメリット背負わせて、自分は何も無しじゃ通らないでしょう!」

 

「えぇ!? あー、そうだね……確かに公平じゃあないし……ヤッバどうしよう考えてなかった

 

 

 ……なんか、割りと効いてるな。とりあえず今はそれで十分だ。決めた通り俺たちが時間を稼いで、娃吹が核を見つければ十分どうにかなる。先手こそ取られたが……持ち直せた。

 

 

「……よぅし! 仮に私が壁を破壊してしまったら、君たちの誘導勝ちということで評価に加点するとしよう! まぁ、そう易々とは行かないと思うけ、どぉ……ッッ!!?」

 

「誰が逃げるだけって言いましたか。アンタと言えど、体が凍ればただじゃすまないはずだ……!!」

 

「なるほどね、そりゃそうだよ!」

 

 

 避けられた。だが、時間稼ぎにさえなればこっちのアドバンテージだ。瀬呂に指示出しつつ、場所の移動、障壁の修復、そして適度に反撃を繰り返す。後は核発見の報告が入り次第、瀬呂は入口から脱出して外で蛙吹と合流だ。あいつらの個性なら外壁を登って窓から侵入できる。俺はオールマイトの相手をしつつ、注意を引き続ける。そうすりゃ、情報ほぼ皆無の萬實黎にも人数差で保険をかけられるはずだ。必然的にこの作戦の要は俺になっちまうが、オールマイトを止められる現実的な策はこれしかねえ。今は耐えて、状況が好転するのを待つ。

 

 

 

 蛙吹、後は頼んだ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 さすが推薦組。個性や身体能力だけが抜きんでているだけじゃ、学校も推薦なんてしないよね。そりゃ、状況への対応力を推進させる頭脳だって持ち合わせてるでしょ。上手くオールマイトを凌いでる。素の身体能力も案外馬鹿にできないみたいだし、昔から鍛えた……もしくは鍛えられてきたんだろうなぁ。こんな強い人と対戦することになるなんて、わたしもよくよく運がないよ。認めよう、お前がナンバーワン(暫定)だ。

 

 

 

 

 

 

 って違ぁう!! 敵褒めてる場合じゃないでしょ! 確かに、わたしの作戦には彼がオールマイトと対面することが必須だけどー……そうじゃないんですよ! 実際に戦ってもらわないと意味ないんですよ! 正面切っての殴り合いじゃないと意味がないんですよ!!

 

 はぁ……でもまあ、そのうち隠れきれなくなるでしょ。逃げの一手じゃないだけマシというものです。幸い、ちょくちょく凍らせようと攻撃してるようですし、隙はいくらでもできるはず。とりあえず今、問題があるとすれば……。

 

 

「あぶなっ」

 

「よく避けるわね、奏ちゃん」

 

 

 蛙吹ちゃんに速攻で見つかったことかな!!

 

 ひぇーーッ!! やっぱり、身体能力が人間様のそれじゃないですぅ!? 蛙をそのまま人間大にしたらこんな感じなんですね! 舌の速度とかもはや目で追えんよこれ! 壁に張り付くし、自由自在にあらゆる方向から舌が飛んでくるしで、とんでもねぇぜ!! これが核部屋だったら速攻でケリがついてましたね。今は避ける事に全振りしてるからともかく、あんなの止めるってなったらわたしの力じゃどうしようもありませんでした。はい。

 

 

「あなたがここで守っていたってことは、核も近くにあるって事かしら? 教えてくれたら嬉しいわ」

 

「聞かれて答えるとでも?」

 

「いいえ。でも、個性を使わないで私と戦うのは不利になるだけよ。それとも、使えない理由があるのかしら」

 

 

 めっちゃ問答するね蛙吹ちゃん!? どうして絶え間なく質疑応答を求めてくるのかな!? あ、もしかして余裕ない事にかこつけてボロ出すの待ってる? あらやだいやらしい! お姉さん大分困っちゃうわぁって、うぉッ掠ったぁ!? ふざけてるとマジで捕まりますね。かれこれ数分経つけど動きっぱなしでだいぶ息もあがりかけてる。かと言って突破口があるようにも見えない。くぅ~キツイわぁ!!

 

 

「……わたしを捕まえたところでオールマイトがいる。捕縛なんて現実的じゃないし、早く核を探しに行った方が有意義だと思うのだけど?」

 

「ケロッ……確かにそうね。でも、奏ちゃんの個性が分からない以上、リスクが計り知れないのも事実よ。それに、あんな索敵を見せられて、放っておくわけにもいかないわ」

 

 

ちぃがぁうぅのぉぉぉぉ!!!

 

 クッソ、個性明かしてないのが裏目に出てらぁ!! 仰る通りですよそりゃ! ぬぅ、予定ではもう少し後に戦うつもりだったのに……え? なんで戦闘になってるかって? いや、あの……窓際で頭についた埃を払ったら手の甲でおもっくそ窓ぶっ叩いちゃいましてね……そのとき、たまたま蛙吹ちゃんが近辺の壁を登っていたというかなんというか(滝汗)。わたしも蛙吹ちゃんも一瞬固まちゃったよね。なんとも言えない間ができた後、蛙吹ちゃんが無言で舌で拘束しようとした事を口火に戦闘が始まりましたとさ! 全く以てめでたくねぇわ!!!

 

 ともかく、アレが発動するまでは何としても耐えねばならん。伸るか反るかあっちの裁量次第だけども。なんか上から目線で戦ってて凄く引け目を感じる。オールマイトとかいうチート要素があるからかな。言い表すなら適度にヒーロー側に試練を与えてる的な感じ? 気分はバグまみれの小悪魔系後輩だぜ。

 

 萬實黎ぃぃ~~チャンネルぅぅぅ~~~!! イィィ~~ン……雄英ぃぃ~~~ッ!!! グレートデビルな(プロヒーローを従えた)奏ちゃんは、屋内でも無敵なのでした! でも今はそのヒーローさんとは別行動中なので、だ~~いピ~~~ンチ!! 1on1戦闘を強いられたわたしはどうなってしまうのでしょう~~~!!?

 

 

 

 

 

 

……あの、切実に限界近いんですけど。後、何分凌げばいいですか? え? 後1分弱? キツすぎワロタ。

 

 

「奏ちゃん、どうしたの? 心なしか百面相してるように見えるのはなぜ?」

 

 

 うん、不思議だね。わたしも分かんない。でも娃吹ちゃんもその原因の片棒を担いでると思うよ? さも関係ありませんみたいな顔してるけど、あなたの猛攻が今一番の元凶だからね???

 

 

「言い忘れてたわ。私、言いたいことや聞きたいことは何でも言ってしまうの」

 

 

 知っとるわァ!!

 

 もー、なんなのこの子ぉ!? 天然なのか策士なのかどっちぃ!? なんとなく良い子なのは伝わってくるんだけど今はソレがつらい! 主に集中力的な部分がすこぶるつらい!! あ? そんぐらい無視しろ? 誰だって避けゲーやってる横でぶつくさ質問責めされたらキレるでしょうがぁ!!? ホントに娃吹ちゃんが妨害目的でやってるとしたらベストチョイスでぐうの音も――あ。

 

 

「ケロッ! 隙が出来たわね奏ちゃん……チェックメイトよ!」

 

 

 し、しまったあぁああぁぁあ!! 足もってかれたぁあああぁあ! 巻き取られる!? やっべテープ巻き付けらたら行動不能で詰み案件だぞこれぇ!? 時間は!? 後、10秒って……あーもー、誤差の範囲だ!! 四の五の言ってらんねぇ!!

 

 

Load personality( 個性起動 )......Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続)...!

 

 

 後は、あなたの演技次第(・ ・ ・ ・)ですよ。ハマれば100点外せば0点。オールオアナッシングってやつです。手筈通りに頼みますよ……!

 

 

 

 

 

All reboot(凍結展開)......Lunatic cord:Full Open(全魔術発動)!!

 

 

 

 

「ケ……ロッ……!?」

 

 

 緩んだぁ!! けど、流石異形系。Punishment(パニッシュメント)の効果が薄すぎる……! 抜け出せんというのならやることはひとぉつ! 娃吹ちゃんにコイツ(確保テープ)を使うように見せつけるんだよぉ! おっ、あっちも確保テープ構えてきた。行動不能にはなるけど、相討ちなら上等よ!

 

 

 

 さあ、往生せぇい!! 捕まって引き寄せられてるわたしが言っても締まんな過ぎて滑稽だけどなァ!!(やけくそ)

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『娃吹さんと萬實黎さん、同時に互いを確保! 両者共に行動不能ですわ!』

 

 

 

 

 何ぃ!? それはマジで言ってんのか!? 個性でテープを射出しながらも、俺は叫ばずにはいられなかった。まあ、マジで叫ぶとオールマイトに場所が割れるから心の中に留めたけど。

 

 あ、ちなみにさっきの声は八百万な。オールマイトが講評で発揮した観察力に目をつけて、ジャッジを任せたらしい。

 

 そんで状況だが……ふたりが相討ちか。未知数な相手と戦りあって、五分に持ち込めただけマシなんだろうが、正直ヤバイ状況ってのは流石にわかる。どうすんだよ、このままだと時間切れになっちま……

 

 

「そこかァ!?」

 

 

 バキィイィィン!!

 

 

 うぉおおぉい!!? こっちも見つかったぁ!? やべぇどうすんだよ状況が悪化一辺倒だぞ!?

 

 

「チィッ……!!」

 

 

 轟!? まあ、応戦しなきゃ負けるからしゃあねぇけど氷で直接攻撃すんのは愚策……うおぉ!? さっきとは比じゃねぇ勢いで凍ってんぞ!? まだこんな余力残してたのかよ……ってこっちまで凍ってきてるぅ!? あっぶねぇなオイ!!

 

 

「なっ……!? 悪ィ、やり過ぎた……」

 

「お、おう。へーきだから気にすんな」

 

 

 え、なんですげぇ驚いた顔でこっち見てんの? 避けるのが意外だったから? イヤイヤイヤそんな唐突な裏切りは流石にねぇだろ! つーことは氷の威力に驚いたのか? 個性をあんだけ使いこなしてるコイツが? それこそありえねぇと思うんだが……ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ!

 

 

「おい轟! 視線を切ったなら引くぞ! とにかく今は策を考えねぇと……おいどうした?」

 

 

 振り向けば見たこともねぇような表情をした轟が立っていた。驚いている……いや動揺してんのか? 何を見たらそんな表情になるってんだ。

 

 

 

 

「くっ……やるじゃないか。有精卵共ォ……!!」

 

 

 

 

 凍ってるぅ!? オールマイトの腕がァ!!?

 

 

 ナンバーワンヒーローを捉えたってのか!? 本気出した轟強すぎんだろ!!? いやでも、それならなおさら好都合だぜ! これなら安全に体勢を立て直せる!そうすりゃ、まだ勝ち目は……。

 

 

「瀬呂、動けるか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。早く壁を作って隠れようぜ」

 

「いや――」

 

 

 

 

 

 

「俺たちで、オールマイトを倒すぞ」

 

 

 

 

 

 

 ……は? なに言ってんだコイツ?

 

 え、ちょっと待て、倒す? 何を? オイ……オイオイオイ冗談だろォ!!? オールマイトを倒すって言ったのか!? 流石に無理があるだろ!? 何を! どうしたら!! その結論に至ったァ!!?

 

 

「核を見つけるにも、娃吹が捕まっちまった。かと言って、ここで二手に別れるのも良策とも思えねぇ。なら――」

 

「待て待て待て!! 言わんとする事は分かるが、無茶過ぎんだろ!! 相手はオールマイトだぞ!? ヒーローひよっこどころか、まだ卵の俺たちに勝てる道理はねぇだろ!!?」

 

「いや……原因は分からねぇけど、俺の冷気の出力が上がってる。現にオールマイトを凍らせて、危うくお前も凍らせかけた。調整をミスったような感覚はなかったはずなんだが……」

 

「は、はぁ? どういうことだよ?」

 

 

 仮にそうだとしても危険すぎるだろ。オールマイト相手に攻めるなんて。いやでも、腕を凍らせのは事実であって、可能性はあるかもしれねぇけどさ……いやでも……。

 

 

「それに――」

 

 

 

 

 

 

 

「いずれ越えなきゃなんねぇ壁だ……尻込みしてる暇はねぇ……!」

 

 

 

 

 

 

 

「…………だぁーーーーッッ!! 分かったよ!! やってやるよ!!!」

 

 

 なんで唐突に熱いキャラになってんだよ!! 訳が分かんねぇ!! 分かんねぇけど……分かっちまう部分もあるのが悔しいよチキショー!! くっそ今日ほど男に生まれてきた事を後悔したことはないぜまったく……!!

 

 

「俺は隙をみてテープで確保を狙う! 前線は任せたぞ轟ィ!!」

 

「……あぁ」

 

 

 

 授業前まではこんな事になるなんて予想すらしてなかった。正直、今も現実感が薄くて実感しきれてない部分が多い。けれど……けれども――

 

 

 

 この瞬間、俺たちが最強(オールマイト)に挑む覚悟を決めたことだけは、否定しようのない現実だった。

 

 

 




体育祭のやり取りが早まったのは書いてから気づいた。


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第8話「超人社会だからって中二病が許されるのはおかしい」 

 難産オブ難産。さっさと話し進めたいのに進まない呪い。人はそれをスランプと呼ぶ(絶望)。


「いやぁ……危なかったよ轟少年。両足を凍らされた時は結構ヒヤッとしたね!」

 

 

 自分を称賛する声が屋内に反響して聞こえる。部屋は広かったはずだ。ヤツの声が相当大きいのか、それとも俺の頭がぼーっとしているせいなのか……どの道、判断のしようが無い。倒れ伏しながら回らない頭で事実確認してはいるが、それが正常なモノかは分からず、ただ薄れ行く視界で眺め続けた。

 

 

「……ッ……ろ、……どろ……きィ!」

 

 

 また、別の声が聞こえた。意識が遠のき続けてるせいか、酷く聞き取りづらい。恐らく瀬呂であることは認識できるが何を言っているかが分からねぇ……。く、そ……こんなに、遠いの、かよ……ちょ…う、て……は――。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 イエーイ、奏さん大勝利ィィーーッ!!

 

 いやぁ、ドジ踏んで捕まったときはどうなるかと思ったけど、なんとかなりましたね。まあ大体全部オールマイトにぶん投げただけなんですけど。個性が個性だからね。許してクレメンス。てか、オールマイトいて負けるとか末代までの恥になりかねん。ズルいとか思わないで欲しい。

 

 ちなみに、オールマイトに気絶させられた轟少年は隅っこで横になっています。保健室に担ぎ込まれなかったのは、外傷はない上にすぐ目を覚ますだろうという、オールマイト自身の判断だそうです。いや、連れてけよ。

 

 

「さて、講評の時間だが……誰が一番評価が高いと思う?」

 

「「「「そりゃオールマイトでしょ」」」」

 

「私抜きでの話だよッ!!?」

 

 

 何で漫才してんの? いや別にいいんだけど。まあ、ダイレクトに通信も聞いてた八百万ちゃんが今回もマシンガントークで解説してくれるでしょう。何聞いても的確な回答をしてくれるから、途中から講評は全部彼女にぶん投げてる感がある。途中からオールマイトも流し目で「言ってどうぞ」みたいな雰囲気を醸し出してたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さきの戦闘訓練にて、最も適切な行動を取っていた人物ですが……正直、未だに決めかねています」

 

 

 

 

 ってあれぇ!? なんかスッゴクしおらしいです!? 推薦組の頭脳でも分からないって一体何があったのよ……。

 

 

「轟さん、娃吹さん、瀬呂さん……お三方もオールマイト先生という格上の相手によく立ち回ったと思いますわ。轟さんによって考案された陽動と索敵の策。その策を潰されても対応しきった状況判断能力。それに追従し、的確なサポートを行った瀬呂さん。単騎ながらも、不確定要素である萬實黎さんを行動不能にした娃吹さん。全員がMVPとして、選ばれる要素を兼ね備えておりました。ですが、唯一……萬實黎さんだけはどのように評価すべきか分かりませんでした。理由は圧倒的に判断材料が不足していること……ですから、解説を行う前に明らかにしたいことがあります。萬實黎さん、少しお伺い致します」

 

 

 ん? なんです? そんなに畏まって。メチャクチャ聞きづらそうな顔しますやん。え、もしかしてすこぶるプライベートなこと聞かれんのわたし?

 

 

 

 

 

「貴女の個性が一体どのようなものか……お聞かせ頂けませんか?」

 

 

 

 

 

 あ、そっちか(素)

 

 でも、確かにお茶子ちゃんにしか説明してなかったわ。しかも、めっちゃ大雑把に「わたしの個性でスキルスワップするから貸してくれない?」って感じで。だって、全部話そうとすると長くなるんだもん。それに、あのときは割りと切羽詰まってたし、しゃーないでそ?

 

 あ、でも個性届の登録を元に書かれた願書を見てる雄英関係者、つまるところオールマイトはわたしの個性を知ってるのだろうか。新米教師といえどそのくらいは確認してるとは思うんですが。でも、以外とうっかりとかやらかしそうだしなこの人……知らなくてもワンチャンありますね。

 

 ん? じゃあ誰もわたしの個性知らないのでは? なるほどぉ、誰も正確なことは分からないと。ふむ。

 

 

 

 

 

 

 え、じゃあ言いたくないんだけど。

 

 

 

 いやほら、個性ってこの超人社会における元凶兼対抗策なわけじゃない? 個性を個性で捩じ伏せるって脳筋すぎて嫌気が刺すけど、そこらへんの所感はとりあえず割愛。

 

 何が言いたいかっていうと「個性を晒すのは悪手じゃん?」ってこと。良くも悪くも個性が注目されてる社会で、それらが色んな手段に使われてる現状。そんな中、多人数に個性を知られようものならあっという間に広まっちゃうでしょ? 別にクラスメイトを信用してないってことじゃない。ただ、「強い個性」や「特異な個性」を晒すって行為が危険だって言ってるだけ。

 

 でもまあ、一切合切情報がないってのもそれはそれで不自然だよね。火のないところに煙は立たない、それは逆に火種さえあれば煙は隠せないってこと。故に、多少は炎が見えていた方が安全なんですね。例えそれが、偽りの炎だとしても。

 

 

「――いいよ、別に」

 

 

 よって、一部だけ開示するのが得策。見える真実に適度な嘘を……そう考えて5年ほど前に対策を打ち出した。当時は幸か不幸か、わたしの個性に医者が匙を投げていた。なら個性がどのようなものであるかは、わたしが勝手に判断できる。故に「わたしがそう思い込んでしまった」個性の概要を世間に受け入れさせることは簡単だった。

 

 これを一番個性に寄り添ってきた本人が言うのだ。疑う方が不自然だろう。ましてや個性は超常現象。科学で証明できないからこそ、周りは納得せざるを得ない。

 

 けれど、1つ……たった1つだけ、わたしが納得いかない事がある。それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わたしの個性は『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』。他者の個性に呼応して様々な作用を与える個性です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 は――

 

 

 

 

 

 

 恥ずかし過ぎるぅうううぅぅうぅうう!!!!??

 

 

 

 だれだこんな名前つけた奴はァ!? 後から個性届見て思わず固まっちまったよ! そんな御大層なルビ振り型月でしか映えないんだよ!! そもそもこちとら目立たないように虚偽個性登録したんですが!? なんでそんな名前にしたのよ!? お願いやめて見ないで沈黙しながらこっちを凝視しないでいっそ殺せぇえええぇぇえぇ!!!!

 

 

「サポート系か……!」

 

「へぇ~珍しい個性だねぇ!」

 

「名前カッコイイ!」

 

 

 ぬ"っ!!!

 

 すっごいキラキラした視線が精神的にアラサーのわたしにはツライ。冒頭でいつもハッチャケてる? あれは無理やりテンション上げてんだよ。じゃないと高校生のノリについて行けないんですぅ~! 言わせんな恥ずかしい。

 

 

「その様な個性でしたか。なるほど……ええ、それなら繋がりましたわ」

 

 

 聞いた張本人なのに淡白すぎん? 真面目っ子なのね八百万ちゃん……して、その心は?

 

 

「1~3フロアを一部屋にしてしまうという、轟さんたちを足止めをするために張った奇策。あまりにも大胆すぎるもの故に、そちらにばかり意識が向いてしまいがちでしたが……本命は別にあったという事ですわ」

 

「本命? フロアぶち抜いて、無理にでもオールマイト先生と戦わせる事じゃないのかよ?」

 

「ええ。おおよそ、それは正しいのでしょう。あの状況下で萬實黎さん側が優位に立つならば、相手にそうさせることが最善手です。ですが、あくまでそれは意識を反らすための手段でもあった……違いますか、萬實黎さん?」

 

 

 

 

 唐突な推理パートは心臓に悪いからNG。

 

 えぇ……いきなり話振られても着いていけないんだけど。しかも、立場的に容疑者やんけ。トリック暴かれる犯人ってこんな気持ちなんですかね。複雑な心境過ぎてどう反応すればいいか分かんないや……よし、とりあえず頷いとこ!(脳死)

 

 

「訓練開始と同時に萬實黎さんが屋上から轟さんたちへ向けて、何かしらの仕掛けを行ったのは確認しました。恐らく萬實黎さんの個性によって、その時から既に個性に細工をされていたのでしょう。その後の状況から鑑みるに、轟さんに個性の増強を強いる効果を付与したのだと思われますわ」

 

「じゃあ、あの時オールマイトがダメージを負ったのって……!」

 

「今までの調節で発露させた冷気が増強によって、当人が思った以上の出力を発揮したでしょう。現に、コントロールしきれずに、後方の瀬呂さんまで巻き込みかけていましたから」

 

 

 凍ったってマジ? 確かに予め「霊子向上」と「完勝への布石」仕掛けて、時間差で発動させたけどさ。そんな威力になってるとは思わんやん。どんだけ素の威力高かったんだよ怖すぎだろ。

 

 あ、何気に新技術お披露目ですね、はい。魔術の時間差発動。原理的にはルーン魔術みたいな感じ。某術ニキみたいに文字書いて任意のタイミングで発動できないかなぁって思って、フード被って魔術行使したら、発動方式がルーンを刻む魔術に変容しました。

 

 いや、我ながら思うけど単純すぎん? 確かに元々服のイメージが主体で制御する個性だったけどさ。フード被っている=術ニキで魔術を成り立たせてしまった短絡的思考にへこむわ。変身ベルト着けて仮面ライダーごっこする子供と同レベルだぞ。あ、今仮面ライダーを愛する大人たちを敵に回した気がする。怖いからこれ以上は何も言わんとこ。

 

 

「でも、何のためにそんなことしたの? 敵の個性を増強させてもメリットなんてないよね?」

 

「……いいえ、ありますわ。萬實黎さんにとって最良の状況とは何か。そもそも何のために1~3フロアを一部屋にしてしまったのか。今までの行動を踏まえた上で考えれば答えは自ずと見えてきます。個性を増強させた理由、それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどな。その気にさせたかっただろ?」

 

 

 あ、轟少年が起きた。その様子だとちょっと前から意識があったなお主。八百万ちゃんの答えを横取りしていったからには説明を引き継いでくれるってことでよろしい?

 

 

「あのときは、娃吹が確保されて核の回収は困難だった。かといって、プロ……ましてやNo.1を相手取って確保するなんざ夢のまた夢だ。正直、俺たちはどうすべきか分からなかった……。そんなとき、格上相手に自分の攻撃が通じたなんて希望をちらつかせられたら、誰だって食い付く。たとえ罠だと気付いたとしても……俺たちには縋る以外に選択肢はなかっただろうな」

 

「轟さん……」

 

 

 待 て や (迫真)

 

 その言い方にはちょっと悪意を感じるんですが。なにその悪役にしてやられたみたいな……いや、確かに悪役(ヴィラン)側だったけどもね!? そんな風に意気消沈しながら話されたら、申し訳なくなってくるやん!ちょ、わたしを擁護してよオールマイト! 一緒に戦った共犯者でしょ!!

 

 

「……うん、確かに容赦なかったなぁ」

 

 

 なんで感慨に耽ってんだァ!!

 

 新米教師にアフターケア期待したわたしが馬鹿だったよ! お得意のジョークでこのしんみりした空気をぶち壊せよ! 笑ってフォローしてくれよ!! アカン、このままだと患者(自分)が死ぬぅ! いや待て落ち着くのよ奏、まだ卍解のチャンスはあるわ。そのまま月牙天衝してゴールにラストストロークよ。多分最終的には月島さんのおかげで何とかなるはずや。

 

 ん? お茶子ちゃん? どうしたのそんな顔して。え、なに今の本当なのって? いや、そもそもその質問の意味が分からんのだけど。え、わたしが本当に意図して功策したのか? あー、うーん……間違っちゃないけど、というか大体全部正解だけども……。確かに念には念をかけて、轟少年の魔術の発動と同時にオールマイトにかけたパニッシュメント発動させたよ? 個性の発動を弱くする魔術で、オールマイトが劣勢になりやすいように仕向けたりもしたけどさ……あの、もっと言いやすい雰囲気ってあると思うのわたし。ボコられた当人が未熟さを戒めるように吐露して頭抱えてる途中よ? そんな中「そうなの~! 凄くないわたしぃ~?」とか流石に言えないわ。

 

 ちょ、全員でこっち見んな! 何そのとんでもねぇヤツと同じクラスになっちまった的なsomethingの視線はァ! ただ逆算で動き読んだら棚ぼたの結果拾っただけなんですけど!? ハイそこのチャラい系ビリビリ男子ィ! 「さっすが入試1位の考えることは違うぜ……」って呟いたの聞こえてんだかんな!? なんでお前らわたしの事そんなにヨイショすんの!? 回を重ねるごとにわたしの安住の居場所が無くなっていくのは何故!!?

 

 

「……あの、もういいですかね? オールマイト、時間も押してるしそろそろ終わりませんか?」

 

 

 もう無理この場にいるのもツライ……流れぶった切って悪いけど、そう口にするのは無理もないと思うのです……。早くシャワー浴びて帰りたいよホントに(切実)。というか実際に後数分で授業時間も終わるから。ね、早く終わりましょうオールマイト。ほらほら早く早く。ハリー! アップ!! モア!!!

 

 

「え……ッ!? あ、あぁ……そうだね。じゃあ、みんなお疲れさん! 緑谷少年以外は大きな怪我も無くて良かったよ! それから、轟少年たちもそう落ち込むことはない! 何故ならまだスタートラインに立ったばかりなのだから! 結果はどうあれ、君たちは諦めずに希望に向かって突き進もうと足を踏み出した。ならば、今度は今回のことを糧に自分の成長へ繋げるだけさ! 違うかい?」

 

「……はい」

 

「うむ! ヒーローを目指す者は挫折や絶望を乗り越えて一人前になっていく……感じた悔しさや不甲斐なさをバネにして自分のレベルアップに繋げていこう! Plus Ultraさ! それじゃあ、私は緑谷少年に講評を聞かせねばならないからね。着替えて教室に……お戻りぃいいぃぃぃいいぃぃーーーーーー!!!!

 

 

すげぇ勢いで走ってったよ。え、何であんなに急いでんの? 帰りたかったわたし差し置いてそのスピードはなんか納得いかないんだけど。それに時間を指摘されて妙に焦ってたのは何故? あれかな。時間外労働とか厳しいのかな。今の時代残業は怒られるもんね。ヒーローなんだから人助けに残業もへったくれも無いかもしれないけど、超人社会の規律をヒーローが破ってたら元も子もないもんな。そう考えれば自然か。よし、わたしも着替えてさっさと帰りましょ!

 

 

「あ、奏ちゃん待ってよー!」

 

 

 ぐふぅ!? せ、背中に素晴らしき双丘の感触が……あんなアウェー(?)な空気にした元凶によく話しかけられるねお茶子ちゃん。え、轟少年を完封するなんて凄い? いや、わたしはオールマイトにおんぶにだっこしてただけだし何も凄い事はしてないよ? そもそも、策を講じただけで蛙吹ちゃんにはボッコボコにされてたし。ちょ、褒めんの止まらないんだけどこの子!? しかも皮肉ならない真摯な称賛だから妙に心地が良いとかいう褒め上手っぷり。1人で速攻帰るつもりだったのに……こ、これは無下には出来ねぇ……!

 

 

 わ、分かったから! 一緒に行くから褒めちぎらないで罪悪感で胃がああぁぁああぁ……!!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ッ!!」

 

 

 Shit! 授業を一度受け持っただけで時間ギリギリ……キツイぜ……! だが、果たして授業と並行してヒーロー活動を行えるのかと問われれば快諾はできない。生徒たちと直接触れ合って授業をすることが最も好ましいんだが……対策も考えねばな。

 

 

「しかし……萬實黎少女のあの目は……」

 

 

 

 

 

 

 

『オールマイト、時間も押してるし(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)そろそろ終わりませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 シャイであまり話さない子かと思ってたけど……試験の仕組みを読み切った上で得た結果と考えるならばあるいは――。

 

 

 

 

 

 

「……ハハハ……考えすぎ、かな」

 

 

 

 

 

 何を考えているんだ。生徒を疑うなんて……私にそんな資格はないだろう? そもそも隠し事をしながら対応しているのは私の方だ。申し訳ないという気持ちこそあれど、気付かれたかもしれないから不都合などといった雑念を抱くなど言語道断だ! 人を信じずして何が平和の象徴か……!!

 

 

 

 

 

『攻撃が効いてるフリがバレないよう、保険としてオールマイトの個性も調整しやすい様にしておきますね……ん? 思ったよりも……いえ、何でもありません。気にしないでください』

 

 

 

 

 

 

「……だと、いいけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 また、妙なところで誤解が生まれていた。

 

 




 何日かに分けて書いたから、イミフな点があったらすまない。

 因みに轟vsオールマイト戦を丸々カットした理由は、魔術の効果が数十秒で切れたので正面から食って掛かった轟は一瞬で制圧された……ということで書く必要がないかなって思ったからです。手抜きと罵ってくれてもOK!(ズドン)むしろ正しいので反論の余地もねぇ……!

 

※投稿後、小説整理してたら間違って1回消しました。すみません。


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第9話「奏のグルメ」

 好きなジャンプ作品は『レベルE』



 どうも奏です。相も変わらず授業を受けねばならぬ。学生だからね。仕方ないね。けど、こと普通の授業に関しては平和で気が楽だよ。午前中と放課後だけがわたしの心の安らぎ。ビバ普通の学生生活。雄英に覚悟の無い一般人が入るとこういうことになるって身を持って体現していくスタイルですよ。マジ自己犠牲の精神。わたしやっぱりヒーロー向いてるのでは?ハハッ(嘲笑)。

 

 けど、刺激のある日常ってのも悪くはない。入試然り、個性把握テスト然り、昨日の実技授業然り……。生前はあり得ないとも思えるほどの非日常感。たまにはそんな空気が吸いたくもなるのも事実。けどさぁ……。

 

 

 

 

「あのぉーー!! オールマイトの授業について何か一言いただけますか!?」

 

 

 

 

 流石にこれはない(真顔)。

 

 

 

 この世界でも商魂たくましいと来たか。いや、むしろネタには困らない世界になったから余計に活発になってんのかな。そんで手段を問わないマスゴ……んんっ、マスコミのことだから、見えないところで個性の不正使用とかも……なんて邪推しちゃうよね。コミックもびっくりな超人社会でも悲しいけどこれは不変の因果らしい。うむ、厄介極まりない事で候う。

 

 

「あの! そこのあなた!! オールマイトの授業について一言お願いします!!」

 

「(相澤先生に比べたら)割とまともです。失礼します」

 

 

 いやぁ、いざ追っかけられる当事者になって尚更感じるけどマジで不快っす。なんで人のパーソナルスペースにそんなずけずけと踏み込んでこれるのよ。良心は犬にでも食わせとけって感じ? わーお俺たちにできないことを平然とやってのけるその黄金(メッキ)の精神! そこに痺れぬ反吐が出るぅ!

 

 はあ……朝から謎に神経使わされた。さっさと撒いて登校しよう。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「今日は学級委員長決めとけ……終わったら起きる」

 

 

 いや先生やる気なさすぎでしょ!? あ、でも最後に「合理的にやれよ」って付け足して芋虫と化した。そこは譲らないんですね……ってうっるさ!? お前ら貪欲っつーか節操なさすぎだろ! 小学生か!! いや、実質的なクラスのリーダーに憧れるのは分かるけど、そこまで見境なくなります? 誰かが収集付けないと……お、飯田少年。ふむ、投票にしようって? 自分に全員が入れる最中にある票の差こそ価値があると。なるほど、流石規律を重んじると公言してる奴の意見だ。みんなも納得したみたいだし、わたしもいいよそれで。

 

 あ、でも待って? 多数決って不確定要素が多いのはちょっと見過ごせないな。おねーさんなーんか嫌な予感がするんだけど――。

 

 

 

 

 

 

 緑谷 出久 3票

 

 萬實黎 奏 2票

 

 

 

 

 

 

 

 セ、セェェェーーーフ!!

 

 

 

 あ、危なかった……! 考えうる最悪の結果だけは免れた……のかな? お上はまだわたしを見放していなかったのね……!

 

 だが、それでも納得いかない! 誰ですかわたしに票を入れた物好きたちは。手を挙げなさい、先生怒らないから。お茶子ちゃんと飯田少年には予めわたしには入れんなって忠告したから違うとして……え、マジで誰が入れたのか分からん。わたし? わたしは八百万ちゃんに入れたよ。だから彼女は2票になってるはずって1票!? わたしに入れたのお前だな!? なんで!? どう考えても八百万ちゃんの方が委員長って感じじゃんか!!

 

 

「お、揃ったか。ならこれで委員長と副委員長決定な。じゃあさっさと授業の用意しろよー」

 

 

 ちょ、タンマ!? そんな本人の意思関係なく決めちゃうの!? わたしやるとは一言も言ってないんだけどぉ! そもそもわたしに入れた犯人まだ分かってな……ちょっと待てぇええぇぇえええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 もっきゅもっきゅ。

 

 気分は良くないが飯はウメェ。料理系プロヒーローが作るご飯が不味いわけがないよね。「最終的には白米に落ち着く」という至言を残したランチラッシュ先生は個人的に雄英で一番好きなプロヒーローです。美味しいご飯が食べさせてくれる人は万国共通の救世主。出来ることなら一生この人のご飯食べたい……。

 

 

 

「はぁ……僕が学級委員長なんて務まるかなぁ」

 

 

 あー、落ち込んでるけど緑谷少年? 自分に一票入れておいてそりゃないでしょ……いや待てよ。入れてなかったらわたしが委員長だったのかな。他に緑谷少年に票をいれそうな人は……いないか。うん、よく自分に入れた!(掌のドリル)

 

 てか、今さらだけど副委員長って何するの? 仕事って言っても多分諸々の雑務とかかな? プリントを職員室まで取りに来いとか、資料整理手伝ってとか。それなら、そこまで肩肘張る理由もない……んだろうけど、ここ雄英だしなぁ。何が起こっても不思議じゃない夢のヒーロー育成機関。面倒事の受け皿になることは、ほぼ確定なんじゃないかな。

 

 

「……面倒だから八百万ちゃんに任せてしまおう」

 

「む、それはいけないぞ萬實黎君! 忠告されて俺や麗日君も君に票を入れていれなかったが、それでも君は選ばれた。勝ち取った信頼に報いる努力はすべきだろう!」

 

 

 言いたいことは分かるけど、要らぬ善意の押し付けは勘弁。勝手な理想抱かれて、失望されてもわたし責任取れない。マッチポンプ過ぎて笑えないぜ……いやマッチポンプはちと違うか。あー、もう考えるのも億劫になってきたよ。終わったら相澤先生に相談して……いや、あの人まともに取り合ってくれるんかな? 今のところゴウリテキキョギーと毎日眠そうなこと以外印象に無いから不安しかないんですけど。あ、除籍もあったわ。

 

 

「でも、奏ちゃんってなんだかんだ面倒見いいよね? なんか困った人とか見つけるとふらふら~って近付いて手を貸すイメージある」

 

 

 そう思うかお茶子ちゃん。否定はしないけど、それは見て見ぬふりの罪悪感に耐えきれないからだよ。なんならお人好しとかじゃなくて自分のためですし。え、ズレてるって言われないか? 無関心よりは良いと思うんですが、違うんですかね。『知ってて何もしない』はバレたとき印象最悪だと思いますよ? 偽善者って罵られるかもしれないけど、それでも対外的に見れば善なんだからさ。それなら、何か行動を起こした方が良いと思うんです。

 

 

「……むむむ、不思議な考え方だね」

 

 

「そう?」

 

 

「せやせや」

 

 

 うぬぅ……割り切ってるだけなんだけどね。世渡りを考えたとき、必然的にそう成らざるを得なかったっていうか。擦れた社会人の考え方は夢見る少年少女には想像しにくかったかな。

 

 でも、いつかは現実を見なきゃいけない。わたしたちがヒーローとして助けなきゃいけないのは、『現実』の人々なんだもの。夢ばかり見てちゃ、本当に救いたいものも見えなくなっちゃうよ?

 

 

「ハハ……萬實黎さんは現実主義者(リアリスト)なんだね。あ、悪いって意味じゃないよ!?」

 

 

 いーよ、気にしてない。緑谷少年は低姿勢が過ぎるよ。謙遜は日本の美徳だけど、引き過ぎは侮蔑と捉えられるからお気を付けて。性分なのかもしれないけど、助けに来たヒーローがビクビクしてたら、助けられる人も不安になっちゃうぞ。ほら、オールマイトだって大胆不敵に笑ってるでしょ。いや、流石にあそこまでやれとは言わないけどさ。委員長に選ばれたんだし、もう少し自信持ちなって。

 

 

「そっちだって入試と言い、個性把握テストと言い、大事なところでは根性見せてる。だから少しは胸張ってもいいと思う」

 

「……! あ、ありがとう!」

 

「うん、いい話なんだけどね? 奏ちゃんそれ自分に刺さっとらん?」

 

 

 ……君のような勘のいい子は嫌いだよ。

 

 

 わたしは信条として目立たないことを優先してるだーけーなーのー! 今朝みたいな取材陣に取り囲まれる人生なんぞいらぬ! 毎度言いますけど、わたしは静かに暮らしたいだけだから。人に恨まれたり疎まれたりされたくないし、脚光を浴びることも嫌です。それこそ相澤先生みたいにアングラ系ヒーローでも全然いいよ。

 

 自分で決めれる活動時間に、公務員の立場でありながらも給料は一定の基本給プラス活躍に比例した歩合(ボーナス)制。働きたいときに働ける公務員とか理想的過ぎる。やることと言えば、活動している他ヒーローの個性をわたしの個性でブーストして稼ぐこと。勿論、自分の手で届く範囲であれば体張って人命救助するよ? そのために中学で体鍛えたんだから。

 

 

「ぐ、具体的な将来設計があるのは良いことだな……うむ……」

 

「アハハ……」

 

 

 何若干引いてんですかメガネ&もっさりマン。悪かったですね、幻滅させて。

 

 

「ち、違うよ! ただちょっと、意外だっただけだって! 僕、萬實黎さんって基本的に何でもこなせる人なんだなと思っててさ……昨日もオールマイトが講評で萬實黎さんが推薦入学者を完封してたって聞いて、やっぱりすごい人だって思ったんだ。けど、実際は努力で培ってきた結果なんだって分かって凄く申し訳なくて……ええと……だから、その――」

 

 

 オーケー分かった分かった。一旦落ち着け。言いたいことは何となく伝わったから。

 

 

「つまり、意外と俗っぽいから接しやすくなったって事?」

 

「身も蓋もない言い方だよ!? いやでも、それはそれで間違っていないけ、うぇっほゲッホォ!!?」

 

「だ、大丈夫か!? そして落ち着きたまえ緑谷君!!?」

 

 

 あ、気管に入ったか。地味に辛いよねあれ。うん、分かる分かる。うんうん(他人事)。

 

 でも、本当に素直な子だよ緑谷少年は。やはりジャンプの主人公は愚直で真っ直ぐなのが王道。友情・努力・勝利を地で行けるからこそ務まる。是非とも頑張ってスーパーヒーローとして巨悪から世界を守ってほしい。そして、出来ることならわたしの平和も守ってほしい(本音)。私情こそ大いにあるけど、応援してる心には嘘はないから。さてと――。

 

 

「あれ? 奏ちゃんどこにいくの?」

 

「ご飯おかわり。後3杯はいけるから」

 

「食いしん坊キャラだったん!?」

 

 

 ランチラッシュ先生のご飯が美味しすぎるのが悪い。わ、わたしは悪くねぇ! なんと言われようが髪切って出直したりしないからな! いやこれ本当マジで。この昼食のために午前の退屈を乗り切れて、この昼食があるからこそ午後の地獄を乗り切れるんですよ。満腹中枢が悲鳴を上げない限り食べ続けねばならぬ! まだだ。もっと……もっと……もっと寄越せランチラッシュ……!

 

 

「どうしたの奏ちゃん!? 片眼が真っ赤だよ!!?」

 

 

 おっと、これは失敬。あまりに白米が美味しすぎて心の阿頼耶(式)が暴走したようだ。思わず某魔神柱並みに狩り尽くしたくなってしまったよ。

 

 さて、冗談は置いといてさっさと並ぼう。早くご飯食べて、相澤先生にも相談せにゃならんのです。美味さを噛み締めつつも迅速に食事を完遂するとしよう。

 

 いざ、最高の昼食をこの手に――!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 その後の、マスコミが敷地内に流れ込んだり、飯田少年が非常口になったり、委員長と副委員長が原作通りになったりする。マスコミは警察に連行され、飯田少年のあだ名が非常口飯田となり、クラス全員は勿論指名された飯田少年と八百万ちゃんが推薦を承諾し、万事丸く収まったのだった。

 

 

 なお、その頃のわたしと言えば、相澤先生に副委員長を変えられるか聞くために職員室に向かってました。その道中外が騒がしいな~とか思ってたけど、雄英だから何が起きても不思議じゃないよねって感じでスルー。そんでもって、職員室前まで来た訳なんですが――。

 

 

「失礼しま――」

 

「あ?」

 

「はい?」

 

 

 入ったらやべぇファッションした奴がいました。

 

 

 え、なにそれ。なんだろう。うん、めっちゃ手って感じ。それがあなたのナチュラルファッションセンスだというのなら、仲良くなるのはと絶望的だと思って頂きたい。つーか「あ?」って何ですか「あ?」って。ここに居るってことは少なからず教職員か関係者でしょ? 人に教える立場の人間以前に社会人としてどうなんですか。

 

 それと、もう1人いた。なんか、要石から出てきそうな見た目してますね。おんみょーん的な鳴き声出しそう。ていうか先生全然おらんやんけ。会議中だったりします? だったら出直しますけども。

 

 

「おい黒霧……なんでガキがいるんだ。マスコミに釣られてヒーロー共といるはずだろうが」

 

「どうやら渦中からあぶれた生徒がいたようですね……死柄木弔、増援を呼ばれては面倒です。さっさと退散してしまいましょう」

 

 

 このミカルゲめっちゃ礼節ある喋り方しますやん(驚愕)。それに比べてガキってこの手だらけマンは。ビックリするぐらい口悪いな。つか撤退? どゆこと? 本当に教職員か? あれ? でも、どっかで見たことある気がするあの手男。どこで見たっけか……あんな特徴的な容姿忘れる方が難しいと思うんですけど……うーん、もう少し、ここまで出かかってるのに。

 

 

 

 

「こんなガキ一人のために引けだぁ? そんなダサい真似できるかよ。もっと簡単な方法がある」

 

 

 あ、そうだ。たしかコイツ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――殺せば、喋れないだろ?」

 

 

 

 

 

 (ヴィラン)やんけ。

 

 

 

 

 

 

 

 これがわたしにとって、本物の悪意との邂逅だった。

 

 

 




 アニメ1話分の内、半分しか進んでないという事実に震えるといい……。


 私は震えてる。



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第10話「自分だけが気付けない自分の事」

 割とすんなり書けたけど、文字数死ぬほど増えた件について。



 最近切に思うのだけど、今世におけるわたしの人生は波乱万丈を免れないらしい。現に、今も死にかけてる。首の皮一枚とはよく言ったもんだよ。毎日毎日、全力で乗り越えなきゃいけない面倒事が自分から首突っ込んでくる。ストレスで倒れてないのが不思議でなりません。いや、それ以前に物理的な衝撃で倒れてない方が奇跡なんですけども。もっとこぼす愚痴は死ぬほどあるわけですが、今回はここまでにしておきましょう。理由はまあ……お察しでしょう?

 

 

「……チッ、避けれるのかよ。雑魚キャラなんだから大人しく狩られるべきだろ?なぁオイ」

 

 

 雑魚て。まあ否定はしないけど。単独のわたしはちょっと運動の出来る一般人だから。今更だけど、単独行動してるところでピンチになるの多くないか? そんでもって素人目にも解りやすいくらいの敵意ぶつけてくるね彼。いや、あれは敵意っていうより……イラついてんの?

 

 

「ッ……! 雑魚キャラなら見逃しても問題ありませんよね?」

 

 

 はっはっは、なにその余裕のない声。キャラぶれてるよ奏ちゃん。いつだって心中爆笑で乗りきってきたじゃないか。初動の攻撃が掠って礼装(せいふく)が使い物にならなくなったからって、動揺しすぎじゃない? もっと上手くやろうよ。怖じけづいてるのが諸バレだから。

 

 

「は? 逃がすわけないじゃん。スニーキングミッションで見られたら口封じするのは当たり前だろ」

 

 

 

 

 

 

 

――ヒュン

 

 

 

 

 

 

 

「……っぶな……!?」

 

 

 まただ。今度は本気で跳んだ(よけた)。でも、足りてない。さっきより服がボロボロと崩れてる。触れられたらヤバい個性なのは分かるよ。分かるからこそ、動きも鈍くなってる。死ぬかもしれないから。どうしようもなく怖いから。正しく脳が理解しているから。ダメだ考えるな。余計動けなくなる。今がある意味最良だ。恐怖を抱きながらも、冷静に分析できるだけの(あたま)が残っている。全部を受け止めてはいないからだろう。

 

 

「オイオイいい加減にしろよ」

 

 

 うん、こっちの台詞なんだが? わたしだって出来ることなら動きたくなかったよ。基本、面倒くさい事はしたくないし。けど、命を天秤に掛けられてんだから避けるに決まってんじゃん。それに、さっきからダセェだのミッションだの……子供みたいな論理で人殺そうとしてる奴が「いい加減にしろ」て。ちょっとおイタが過ぎるんじゃない? まあ、だからと言って反撃する手段なんて持ち合わせて無い訳ですが。

 

 

「ハァ、もういい面倒だ。黒霧、押さえろ」

 

 

 何を言って……あれ? なんか手だらけマン身長伸びてない? 成長期か? いや違うわこれわたしが縮んでるんだわ。いつの間にか足元にもやもやが広がってて、徐々に足が沈んでる。どう考えても抜け出さないと不味いよね……え、やばい。ちょっと待て。踏ん張りが効かないんだが!? 手だらけ野郎も近づいてくるしこれ本格的に死――!?

 

 

「じゃあな、ヒーロー見習い。来世は一般人で出直せ」

 

「ちょ、ふざけ――!!」

 

 

 前世より短命の幕引きとか認められる訳ないだろ!? クッソ、やるしか無いのか!? 状況を打開できる一手って奴……今わたしが取れる個性(しゅだん)……背に腹は代えられない!!

 

 

Omitted Aria(個性強制発動)......! Restriction cord Ⅰ:Arbitrage of Osiris(  オシリスの裁定  )......ぁあああ!?」

 

 

 脈打つ様に魔力が廻る。マジ無理痛すぎて泣きそう。てかもう泣いてる。何をしたか? 早い話が詠唱破棄。個性を起動して魔術回路を構築後の魔術行使が通常の流れだが、今は個性起動後に魔力を無理矢理流して魔術回路を駆動させつつ魔術発動。鍛練で無意識に染み付いただけの不安定な金型に魔力を注ぎ込むのだから、当然それ相応の負担が生じる。

 

 

「……ッんだこれ? 体が動かな……!?」

 

「どうしました死柄木弔!?」

 

 

 間に合ったけど……いよいよ万策尽きたかな。この魔術の効果は約30秒しか続かない。ただでさえ、服がボロボロで魔術の効果は落ちてるだろうし、どうにか状況を打開できなきゃ今度こそ殺される。今回行使した魔術はアトラス院の『オシリスの塵』からイメージを構築した魔術だ。オシリスの塵の効果は味方単体に無敵状態を付与するもの。非常に強力な魔術故に本礼装の魔術のコンセプトとして選択したんだけど……いざ研究しようした際にある疑問が浮かんだ。

 

 

 

 『無敵』とは一体なんぞや?

 

 

 

 相手の通常攻撃・宝具のダメージを無効化する。スキルによる状態異常などは無効化できない。無敵貫通が付与された攻撃等には発揮しない。FGOにおいて強力かつ便利ではあるが原理が曖昧な効果の1つ。回避状態でダメージが0になるのはまだ分かるのだけど、無敵でダメージを0にしたと言われれば「どうやって?」という疑問が浮かぶのは至極自然なことだとわたしは思う。無理に説明するのであれば、攻撃を受けても、ダメージを無効化してしまう『何か』が発生していると推測できる。

 

 例えば、サーヴァントのスキルによる無敵状態を見てみよう。プロフィール欄に書かれているスキル詳細を確認すれば、理解できるキャラクターがいくつか存在しているはずだ。有名どころで言えばマーリンの『幻術』かな。味方全員に無敵を付与かつスター発生率を上昇。おまけに相手のクリティカル発生率を低下。これは非常に想像しやすい。あたかも攻撃がヒットしているように見せるが、実はそれらは認識を阻害させ発露した幻術だった……そんな感じだろうね。他のスキル効果の説明も簡単だ。幻術に惑わされた相手は決定打(クリティカル)が出しにくく、動きに無駄があり隙をつくこと(スターを稼ぐこと)が容易。ほらね?

 

 何が言いたいかといえば、要するに無敵には無敵なりの理由があるって事。「なんか攻撃が効きませんでしたー」じゃ済まされない。魔術を構築するためには明確なイメージが必要なのだから。そこでわたしなりにエジプト神話について調べることにした。

 

 まあ、分かったことを簡潔にまとめるとこんな感じ

 

 

1.オシリスは生産を司る神であり、エジプトの王であった

 

2.兄弟であるセトから妬みを買い、バラバラにされて王権を奪われる

 

3.イシスのおかげでミイラとして復活を遂げ、セトから王権を取り戻す

 

4.その後、息子のホルスに王位を継承し、死者を裁く冥界の王になる

 

 

 さて、ここで改めてオシリスの塵が何故無敵に繋がるのかを考えてみる。わたしは最後の「冥界の王」の部分が関係していると判断した。死者を裁く……それすなわち魂を司ることと同義。そんでもってサーヴァントっていうのは実在不在は問わない座へと召し上げられた魂を記録媒体とし、その一部を聖杯という魔力リソースを使って現世に召喚させたもの。つまり実体化した霊だ。故に、魂を司るというオシリスはそれらに対して直接的な干渉を及ぼせるのではなかろうかと考えた。

 

 

 

 

 オシリスの一部の塵を触媒としたときに発露する魔術。それはサーヴァントの霊基(たましい)に外界からの干渉を無効化する効果を付与する効果。

 

 

 

 ……これが、わたしの行きついた結論。わたし自身が納得できる理由付けだ。そんな無茶苦茶な理論があるのかよって思うかもしれないけど、これでいい。要はわたしが自分で納得すればいいだけの話なんだから。言ったよね? わたしの個性はイメージが大事って。「きっとこうだから、そうなるのだろう」という骨格(フレーム)があるのとないのとでは完成度が段違いなんですよ。

 

 そして、雄英高校指定制服で出来上がった魔術が『オシリスの裁定』。前にも言ったけど、魔術回路はアトラス院から引っ張ってきてるけど、実際は割と違う制服なので、大元の魔術礼装の魔術とは異なった魔術内容を考えなきゃいけない。だから、原理だけは限りなく似たような魔術(モノ)をわたしは考案した。

 

 オシリスは冥界にて死者の心臓と心理の象徴であるマァト神の羽を天秤にかけ、心臓の方が重かったものは悪行を生前に犯してきたとし、審判を行った。羽より軽い者は楽園であるアアルへ行くことが叶い、重い者はその心臓を神獣により貪り食われるという。その審判のイメージを魔術に落とし込んだもので完成したのがこの礼装魔術だ。

 

 この魔術で物理的に心臓が食われる訳じゃない。ただ、それらの解釈を魂という観点から生者に移し替えてみたのだ。わたしが思いついた効果……それは以下のような内容になった。

 

 

 

・相手の抱いている悪意が多ければ多いほどに、その効能は魂に罪の重さとしてその体に物理的な重圧として影響を与える。言わば、行動不能。逆に言ってしまえば悪意が無ければ効果はない。

 

・悪意がない人間には、魂を庇護する効果が与えられる。現世における死を魂の貪り(第二の死)と仮定して、それらから守る者を付与する加護。つまり、すこぶる体調がよくなり、精神状態を常時安定させる効果が現れる。いわば、無敵ではなく精神的なモノに対する弱体無効である。

 

 

 

 誠意に対してバフを、悪意に対してデバフを。これがわたしが開発した魔術『オシリスの裁定』だ。

 

 

 

「何しやがった……元に戻せ……!!」

 

「ハッ……答えるわけ、無いじゃないですか……! あなたが誰だか知りませんけど……どう考えてもまともな立場の人間じゃないですよね。さっさと身を引いた方がいいんじゃないですか?」

 

「このクソガキ……言わせておけばァ!!」

 

 

 煽ってどうにかなるわけじゃない。けど、冷静さを欠くことは無駄にはならない。わたしは制服の内ポケットに手を突っ込んでなるべく早く指を走らせる。すると、案の定モヤモヤの方がぎょっとした表情を浮かべてこっちを見た。様子を伺うのに集中して凝視しすぎたのがバレた。割とホントに焦ってんだなわたし。余裕があるときに俯瞰して見たら必死過ぎる自分に笑うかもしれん。

 

 

「死柄木弔、恐らく増援を呼ばれました。程なくしてプロヒーローが駆けつけるでしょう……オールマイトにでも来られたら厄介です。目的は達成したのですからここは退きましょう!」

 

 

 やっぱり諭すのね。このもやもや手だらけマンの保護者か。指示には従うけど、明らかに一歩引いて状況を見てる。参謀ポジ……とは違うな。それなら自軍の巣から指示飛ばしてるはずだし。お目付け役ってところなのかもしれん。

 

 

「黒霧ィ……勝手に決めんな――ぐッ……オイ!? クソが……クソがクソがクソがァ!!」

 

 

 あ、もやもやが手だらけマンを勝手に沈めていった。ざまぁ。あ、でも待って? 退くってそういう感じの撤退方法? じゃあわたしヤバくない!? 口封じするならそのまま連れて行けばいいじゃんか!? どうにか抜け出し……って、ふおっ!? え、抜け出せたっつーかもやもやに吐き出された。どゆこと?

 

 

「貴女は置いて行きます。彼の命令であなたを拘束しましたが、本来ならばここで殺す気はありませんでしたのでご安心を」

 

「……貴方たちは、一体何なんですか」

 

「ご想像にお任せします。それでは」

 

 

 消えた。無駄に真摯なのがムカつく。なんなのホント。

 

 はぁ……これが原作の襲撃イベントって奴? 知識がないのが痛手過ぎる。そもそも正規のイベントなのかすら判断できんぞ。本来ならわたし以外がアイツらと鉢合わせてたのかな……考えようにも材料が少なすぎる。憶測だけでは何も語れない。ともかく、この事を先生方に伝えて判断を教師たちに丸投げしようそうしよう。さっさと職員室から出――。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 立てない」

 

 

 

 

 え? なんで? もしかして知らない内に何かされた? 外傷とかないけど……あ、個性か!? 無理に魔術使った反動でこんなことに……いやでも、今までそんな事あったかなぁ。血反吐は吐くけど力が入らん事は記憶にないぞ。あ、今は吐いてないって事じゃないよ? 今も絶賛鼻と口と目から出てます出てます。これがホントの出血大サービスってハッハッハ……いや全然おもんないわ。

 

 

 

 

 

 

 

「――ったく、普通出来ても踏み込まないだろマスコミ連中……犯罪だろう……が!?」

 

 

 あ、相澤先生だ。

 

 よかったー。渡りに船とはまさにこの事。どうやらわたしは幸運A+だったようですな! ハッハッハ……うん。ホントに幸運A+だったら、こんな散々な目に遭ってないよね。しかも割と毎日胃痛に悩まされてるし。もしかしたら、幸運E(ランサー以下)かもしれん(自害)。

 

 

「萬實黎か!? どうした、何があった!?」

 

 

 おーおー。驚いておる。そりゃ顔面血だらけの美少女(自称)がいたらそりゃビックリするわな。

 

 

「先生、ヴィランと思わしき人物と接触しました。相手には明確な敵意があり、攻撃を仕掛けてきたため、やむを得ず個性を無許可で行使してしまいました。申し訳ありません」

 

「ヴィランだと? 萬實黎、その人物の外見や個性は……ッ!? いや、いい……それは後だ」

 

 

 血塗れだしネ! 普通に考えて病院行き確定です。でも雄英には傷を何でも直せるおばーちゃんいるから平気平気。治るとき全然痛くないのはすっごく有り難い。わたし注射とか大嫌いですので。

 

 まあそれはそうと、手を貸してもらえませんかね? なんか知らんけど、足に力が入らんのですよ。あ、近づいてきた。いや、血で汚れてて申し訳な――。

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫だ、安心しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふぁっ!?

 

 は!? ちょ、ハア!? え、なにこれ!? ナニコレェ!!? どうしたんですか先生!? 脈絡なさ過ぎて困……いや、脈絡的には正しいんですけども!! だとしてもちょっと分かんないよ!?なんで、なんで――。

 

 

 

 

 なんでわたし相澤先生に抱きしめられてんの(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)!?

 

 

 

 

「もう、ここに敵はいない……よく頑張ったな」

 

 

 え、いやそんな事は知ってますよ!? 真っ先に撤退を確認したのはわたしですからね! てか、そんなキャラでした!? 何がどうなってそんなソフティな声出せるようになった!? 死ぬほどダルそうな顔して授業してる相澤先生は何処に行ったんですか!?

 

 

 

「大丈夫、大丈夫だ。だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう、泣くな(・ ・ ・)

 

 

 

 

 

 

「…………ぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 職員室のドアを開けた瞬間、まるでハンマーで殴られたような衝撃に見舞われた。

 

 

 そこには見覚えのある顔が部屋で一人、その場にへたり込んでいた。口元と鼻から出血の跡が見られる。得体の知れない状況に怯んだ。そして思考が数巡した後、俺の脚はようやくソイツの元へと駆け出した。

 

 

「萬實黎か!? どうした、何があった!?」

 

 

 合理的かつ速やかに。聞きたいことを矢継ぎ早に口に出した。焦燥に駆られているのが目に見えている。だが、校内で……しかも一人で生徒が流血していたことに頭が周っていなかったのだろう。なんせ、今までに無い事例だったからな。正当化する気はないが、事実を述べればそういうことになる。しかも、その人物がまた問題だった。

 

 

「先生、ヴィランと思わしき人物と接触しました。相手には明確な敵意があり――」

 

 

 淡々とした口調で彼女……萬實黎奏は報告を行った。

 

 彼女は実技入試1位だった。さらにはレスキューポイントのみでその結果を得た異質な生徒でもある。受験結果を鑑みて、彼女には注意を払っていた。個人的な見解になるが、何かが胡散臭かったからだ。受験を捨ててまで、競争相手を助ける? お節介焼きがヒーローの本質だとしても、状況的に非合理的すぎる。試験が終わってみれば、結果的に理に敵った行動をしていたと言えるが、その実態は何なのか……。俺は、個性把握テストでその真相を探ろうと動いた。

 

 個性が個性なために他人に頼らざるを得ないのは分かるが、ヒーローとして活動する以上、その身ひとつで状況の対処を強いられることも少なくない。よって、この個人技という枠の中で如何にして障害を乗り越えていくのかを注視した。観察の結果、彼女自身は高い身体能力を有し、個性の使い方も悪くはなく、考える頭もそれなりにあることが判明。他人を使いこそはしたものの、状況を打開するように個性を使っていた。まあ、及第点といったところか。人命救助にせよ、対ヴィランにせよ、必ずそこには自分以外の人間が存在する。彼女であればそんな存在も、良い意味で利用して乗り越えていくのだろう。ひとまず俺は、除籍枠から彼女を外すことにした。

 

 そして後日、ヒーロー基礎学の戦闘記録を閲覧。その内容に俺は少なからず驚嘆した。自身が優位に立てるような策を講じる審美眼、実行できるだけの判断力、そして自分を犠牲にして後続に託す覚悟。どれもヒーローとして必要になるファクターだ。それをこの訓練の中で全て出し切っている。このまま成長すれば、優秀なヒーローになることは目に見えていた。

 

 

 

 

 だからこそ、俺は警戒を強めた。

 

 あまりにも出来過ぎている(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。彼女はその年齢(とし)には不相応な力を持ち過ぎた。何故これだけ短い期間にここまでの成長を遂げることができたのか。彼女の出生や個性届を調べてみたが、特に該当しそうな原因は見当たらなかった。そして実技訓練以来、授業を担当したオールマイトも彼女に対して何かを察したような様子だったこともある。それらの事実が余計に疑念を加速させた。

 

 そして、今回の事態に繋がる。怪我を負ってこうも冷静にいられることが不思議でならない。そもそも、警報が鳴っているのにも関わらず、何故ここにいるのか。疑念が疑念を呼び、ヴィランと接敵したという報告さえも信憑性に欠ける……もしや、今回の騒動はコイツがやったのではないか? 可能性は0ではない。俺は質問を増やして、話に荒がないか探ることに決める。

 

 

「ヴィラン……だと? 萬實黎、その人物の外見や個性……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 ――刹那、そんな邪念は一瞬で吹き飛んだ。

 

 

 萬實黎の頬に、一筋の雫が伝った。そして、それを皮切りに止めどなく両目から涙が溢れ出す。最初は俺を信用させる演技なのかという考えが()ぎった。だが、ある事実に認識した途端それは誤りだと気付かされる。

 

 

 

 

 

 ――彼女は今、自身の(かんじょう)を認識していない。

 

 

 息を飲んだ。矢継ぎ早に状況報告を行う彼女は感情が薄く無表情。だというのにも関わらず涙は止まらずに、拭う様子も皆無だ。その異様な光景に俺は、呆気に取られた。刹那、今まで行ってきた推測が外れていたことを察した。

 

 萬實黎は、決して異常な人間では訳ではなかった。成長が異常だったのではなく、彼女自身が異常なまでに成長を望んだんだ。そうしなくてはならない何かがあったのだろう。その実態が何なのか、俺には知る術がない。だが、現に彼女は雄英入学までにその身に余る力を身につけた。思考と感情は相互に作用するが別物だ。彼女は後者を無視することで、能力を引き延ばしたのだろう。究極まで俯瞰して考えを実行するために感情を封じたのだ。だからこそ、今まで良心の呵責や失敗への恐怖を無視して、異様なまでな実行力で課題をこなせた。

 

 だが、それは諸刃の剣に他ならない。いくら精神に蓋をしようが、人間である以上何処かで限界が来る。それが今だったということだ。本物の悪との対峙。他者から受ける敵意と殺意。恐らく、先ほどまではそれら対する恐怖を押さえつけて対応していたんだろうが、ヴィランを退けた事実と身の安全が確保されたことを理解したがために緩んでしまった。押さえつけていた精神が恐怖によって決壊。身体が涙腺を緩ませるという行動を無意識に取らせた。だが、思考はそれを無視し続けているが故に、自身の涙に気付かないという乖離的な行動を引き起こしてしまったというわけか。

 

 

「……いやいい。それは後だ」

 

 

 俺の問いに応えようとする彼女を遮る。そして俺は、彼女を正面から自分の胸へと抱き寄せた。

 

 

 

 

「……大丈夫だ、安心しろ。もう、ここに敵はいない……よく頑張ったな」

 

 

 

 

 黙って抱擁を享受するのは、戸惑っているからだろう。恐らく俺の言った事も理解できていないはずだ。対する俺は後悔、罪悪感、贖罪……様々なマイナスの感情が渦巻いていた。今すぐにでも、自分を殴り飛ばしてやりたい。彼女に「すまなかった」と謝罪を述べたい。だが、俺はプロヒーローであり、教師だ。自分がやりたいことをするために居るんじゃない。未来ある少年少女を、間違った道へ歩ませないために雄英(ここ)に居る。だから――。

 

 

 

 

「大丈夫、大丈夫だ。だから――」

 

 

 

 

 月並みな言葉しか吐けない。お前が苦しんでいる理由も分かってやれない。あろうことか疑うことさえした。教師失格もいいところだ。だがこれは、これだけは……今のお前に伝えさせて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう、泣くな(無理するな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、自身が泣いている事を認識した萬實黎は、以降も戸惑った様子を見せていた。だが、数秒と経たない内に、堰を切ったように泣き始める。そんな彼女にかける言葉も無く、俺はただその背中をさすることしかできない。それが正しい判断かどうかも分からなかった。けれどその時、俺は確かに――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――合理性という考えを、確かに忘れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 いやーめっちゃ泣いたわ(スッキリ)

 

 

 

 いや、人肌って死ぬほど安心するんですね。あ、ヤマシイ意味じゃないよ? ただやっぱり体温を感じると人間って安心するんだなーって。まさか、相澤先生があんな事してくるとは思いませんでしたわ。てか、泣くなって諭されてんだから泣くなよわたし。ダチョウじゃないんだから。ん? なんで泣いてたのかって?

 

 そりゃまあ、えーっと……あれですよ。うん、怖かったからですよ? 安心すると泣くってマジだねあれ。迷子の子供がお母さん見つけたとき安心感で泣くのはあんな感じなんだろうか。え? なんで気付かなかったのかって?

 

 

 

 

 

 

 いや、目から血出てるんだから気付く訳ないだろ!

 

 

 いつの間にか血涙が普通の涙にジョブチェンジしてるとは思わないやん。わたしだってびっくらこいたわ。いやまあ、泣いてるって分かった後は、普段のストレスも相まってそのまま普通に泣いちゃったんだけどさ。寧ろ、よく今まで泣かずにやってこれたよ。中1のときに覚悟は固めたと思ってたけど、やっぱりどこか現実感なかったんだろうね。死と隣り合わせって状況をを体感して、頭が追い付かなくなったってとこでしょ。

 

 でも、先生相手とはいえ、大泣きしたのは結構恥ずかしいわ。なんなら、精神年齢で言ったら相澤先生より年上な訳だしね。あ、けど泣き終わった後はなんかよく分かんない事言われた。「自分を追い込むな」とか「もう少し素直になれ」とか。

 

 いやわたしだってゆる~く生きていきたいし、なんならこれ以上ないくらい自分に正直に生きてますよ? ヒーロー目指したいからじゃなくて、死にたくないからこの学校に来た訳だし。そういう意味を込めて「大丈夫ですから」って返したら、なんかすごく物悲しい顔で「……そうか」って言って保健室に連れてってもらった。そんで放課後にヴィランについて事情聴取したいけど頼めるかって聞かれて普通に頷いたら「無理だけはさせない。だから安心しろ」だとさ。マジでどうしたの相澤先生? めちゃんこ優しくなりすぎじゃん?? そろそろ優しすぎて逆に不安になってくるよ???

 

 そんなこんなで保健室でばーちゃんに治療されて、さっさと午後の授業のために教室に戻った訳なんだけど。なんか緑谷少年が飯田少年を委員長にするって公言してた。そんで、職員室に行った本来の目的を思い出したから、わたしも便乗して八百万ちゃんを推しといた。断られそうになるけど、わたしより講評上手だったからって説明(いいわけ)してゴリ押す。そしたら感激されて、めっちゃお礼言われた。わたしも八百万ちゃんも満足できるすーぱーうぃんうぃんな関係になれて非常に満足。うんうん。

 

 

 

 そんで、それを眺める相澤先生の視線が妙に穏やかだった。すっげぇ寒気がしたのは気のせい……だと思いたい(アイデアロール)。

 

 

 




相澤先生「そんな自主的に頑張り過ぎなくてええんやで」

奏ちゃん「状況が強制的に頑張らせてくるんだよなぁ……」


 
勝手に相澤先生がシリアスになる話。そんで半分くらいあってるのが質が悪い。

後、魔術の説明せいで死ぬほど文字数増えたのは遺憾。型月らしいといえば型月らしいんだけども。




【オリジナル魔術のFGOでの性能】


『オシリスの裁定』

・善属性の味方もしくは敵単体に、弱体無効を付与(1回)・精神異常耐性UP(3ターン) または、悪属性の味方もしくは敵単体に、スタンを付与(1ターン)


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第11話「USJ ~私と飯田と時々緑谷~ 」



 コメント返す暇なくて申し訳ない。ちゃんと読んではいるから安心して欲しい。


「奏ちゃん……奏ちゃん……!」

 

「んぅ……?」

 

「もうすぐ着くよ! 起きて奏ちゃん!」

 

 

 むぅ、後3分……この絶妙な揺れをもう少しだけ……ぶぇ!? く、空気の供給が死んだ!? うぇあーずまいおーつー!!? 何が起こって……あの、お茶子ちゃん? なんでわたしの鼻を摘まんでるのかな? ふむふむ、全然起きないから荒療治したと。なるほど悪くない。相澤先生的に言わせれば、実に合理的ですな。うんうん、実に素晴らしい。

 

 なんて言うと思ったかぁ! 乙女の体の一部(色気0)を摘まんだからには、そっちも摘ままれる覚悟をあるって事だなぁ!? ちょっと面貸せぇい!!

 

 

「ふみゅ~……?」

 

 

 なにその反応。可愛い過ぎかよ。

 

 どーゆー状況なのかって? 無言のわたしに為されるがまま頬っぺたむにむにされてるお茶子ちゃんが横にいます。目を細めて「やめてや~」なんて言ってるけど、撫でられて喉鳴らしてる猫にしか見えん。家で飼えないかなこの子。心の広い母上なら許してくれ……る訳ないですね。バックドロップからの説教が目に見えてる(白目)。

 

 

「奏ちゃん、バスに乗った瞬間に寝ちゃったわね。そんなに眠かったの?」

 

 

 いや別に? ただこれは習慣というか(前世から)ずっとやって来たことだし、癖みたいなもんだから。寝れるときに場所を選ばず寝ること。貫徹した後の登校、通勤間における必須スキル。人間、過剰な睡眠不足に陥ると血の気が引いて、寒気がしてくるからね。そんな時は10分でも20分でもいいから仮眠をとろう。血液が循環して、少しはマシになるぞい。なんのステマだこれは(迷走)。

 

 まあ、今はそんなこんなで蛙吹ちゃ「梅雨ちゃんと呼んで?」……梅雨ちゃんの言うとおりバスに乗っております。今回のヒーロー基礎学は災害救助訓練。その訓練会場にバスで移動中ってなわけですよ。そんでもって、いつもの癖で揺れの少ない後方の座席を真っ先に陣取り、爆即睡眠をかましてたところを鼻摘み食らって今に至る。

 

 あ、なんか今のわたしがアウェー食らったみたいに聞こえるな。え、あながち間違ってない? やだなぁ、平々凡々なわたしがクラスメイトからそんな事されるわけないじゃないですかぁ。あっはっは……なんですか、その冷めた視線は。やめて下さいメンタルクソ雑魚にその無言は効くから。

 

 

「……で、どうして鼻摘まんだの?」

 

「全く話聞いてへん!? もうすぐ着くんやって!」

 

 

 おぉう、さいですか。眠りが浅かったゆえに、時間感覚がさよならばいばいしてたわ。そっかー、もう着くのかー。まあ、災害救助訓練だから、いつもよりは気が楽なんだけどさ。個人技になるとキツいのは相変わらずですが。それでも、直接的な戦闘がないのはありがたいよ。

 

 

「もうまもなくで到着だ。降りる準備しとけよ」

 

 

 あらほらさっさー。今日は平和な日でありますように……。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

「全員一塊になって動くな……

 

         あれは、ヴィランだ!

 

 

 

 

 グッバイ心の安寧。

 

 

 

 はい、割と本気でふざけてる場合じゃないんでこれだけにしときます。只今、演習地のウソの災害や事故ルーム(U S J)なる場所で訓練前の講習を、プロヒーローの13号先生から聞いてたところなんですが……いよいよ来てしまったか襲撃イベント。先日のヴィラン職員室事件(奏命名)の時点で嫌な予感はしてましたけど、誰がこんなに早いと思うのよ。賊はひい、ふう、みい、よお……うん、めっちゃいるわ。そもそも何が目的で攻めてきたんだろうこの人たち。

 

 え、なんですか相澤先生。アイツに見覚えあるかって……あ"!? 手だらけマンともやもや紳士じゃん! そーですそーです! あの2人が職員室にいたヴィランですよ! たしか、手だらけマンがシガラキで、もやもや紳士がクロギリってお互いに呼び合っていました。本名なのかは知りませんけど。

 

 

「なんでアイツら雄英に……バカなのか!?」

 

 

 バカって。切島少年がド直球過ぎる。いや、確かにその通りなんだけどさ。わざわざプロヒーローが屯ってる場所に襲撃かますとか正気の沙汰じゃない。捕まえてくれって言ってるよーなもんですよ。余程の考えなし、あるいはそうするだけの意味があるのか。

 

 まあ、なんにせよわたしたち学生は避難だ避難。電波障害が起きてる……いや、起こされてるみたいだし、他の先生方を呼ぼうにも一度学校に戻る必要があるしね。

 

 

「相澤先生、迅速な演習場からの離脱を提案します。指示を」

 

「……ああ。お前たちは13号の指示に従え。俺は殿をやる」

 

「え……はい? 残るの……ですか?」

 

 

 

 マジで言ってんの? 思わず素の口調戻りかけたわ。残る? 少なく見積もっても50人以上はいるのに? 個性を封じれるとはいえ、流石に無理がありますよね? 相手の戦力が分からない以上、相澤先生も一緒に退いた方がいいと思うんですけど。

 

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。生徒は任せた13号」

 

 

 飛んでった!? え、強すぎィ!? なにその身体能力!? 時代劇並みに一騎当千するじゃん!? あ、アングラヒーローってバカにできないね……。目立たないだけで実力が……いや、実力がありすぎるからこそ目立たないようにしてるのか。考えてみれば当たり前だよね。『個性を消す個性』って最強の初見殺しだもの。殆どの個性持ちに対抗出来得るジョーカー的存在……わたしと同じだ。手札を晒したくない合理主義者(捻くれ者)

 

 

「皆さん、避難します! こちらへ!」

 

 

 ……っとと。考え込みすぎた。そうだよ、早くここを離れなきゃ。状況への対処はプロに任せるしかない。未熟者は邪魔にならないよう退避せねば――。

 

 

 

 

 

 

「――そうはさせません」

 

 

 ……あぁ、もうなんか、うん。そんな事だろうと思った。そう易々と増援なんて呼ばせてもらえる訳がない。寧ろ、そんな事を許すぐらい見通しの甘い連中だったら、どんだけ良かったことか。

 

 

「多くの方にはお初にお目にかかります、雄英高校の皆様。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度はヒーローの巣窟、雄英高校に侵入させて頂いたのは――」

 

 

 

 で、あなた1人でわたしたちの足止めするんですか。学生相手とはいえ、随分大きく出ましたね。モヤモヤ紳士、改め――

 

 

「――平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂く為です」

 

 

 ――ヴィラン連合の保護者(クロギリ)さん。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 どどど、どうしようどうしようどうしよう!?

 

 ヴィランが雄英に侵入って……どうすればいいんだ!? いや、そもそもなんでそんな事を!? か、考えるんだ緑谷出久……! オールマイトに息絶えてって……そんな無鉄砲な事が本気で出来るなんて思ってるのか? そんな訳ない。本当の目的を隠すブラフ……だとしたら、何が当てはまる? 雄英に入ることでしか得られないメリットがあるはずだ。彼ら(ヴィラン)が動く原動力……だ、ダメだ分からない。まさか、本当にオールマイトを――。

 

 

 

 

 

 

『――私のヒーローとしての活動時間は、今や1日3時間程度なのさ』

 

 

 

 

 

 ……ッ!?

 

 真実を知ってる人物が……ヒーローだけとは限らない? ヴィランの中にオールマイトが弱っている事を知っている奴がいるのか? ヴィランの誰かが情報をリークして、大勢を焚き付けた。そして、オールマイトの活動限界時間の隙を狙っての襲撃……辻褄は合う。だとしたら、彼らが本当の目的って――。

 

 

 

 

「てめぇが死ねやァ!!」

 

 

 

 

 えぇっ!? か、かっちゃんがいきなり仕掛けたぁ!? って、切島君まで!? この状況下で躊躇なく動けるのは流石だけど……これでやられるような敵なのか!?早く離れた方が――。

 

 

 

 

 

「……ふぅ、危ない危ない。流石は金の卵と言ったところでしょうか」

 

「……ッ!? 2人共どきなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 13号先生の声が聞こえた瞬間、目の前が闇に包まれた。その異質さから思わず目を瞑り、数秒の後に、眼前に広がったその光景は――。

 

 

 

 

 影ひとつ無い、青一色の世界だった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 靄が、晴れた……!何をされ……なっ、緑谷君がいない!? いや、他にも人が消えている!? 萬實黎君は……ほっ、良かった無事か。

 

 いったい何が……いや、仕掛けた本人が「散らしてなぶり殺す」と言っていた。みんなどこかに飛ばされたのが妥当だろう。分散させて各個撃破が狙いか! くっ……靄が広がった瞬間にレシプロを駆動させ、麗日君と芦戸君は救出できたが……。すまないみんな、俺に力があればッ……!

 

 いや、切り替えろ飯田天哉……今は悲観こそすれども、そこで足踏みをしている場合ではない! 奴が仮にワープの様な個性だとして、みんなの安否を確認する必要がある。確認を出来そうな個性を持っているのは――。

 

 

「障子君! みんなの様子を個性で分からないか!?」

 

「……屋外に設営されているゾーンなら確認できる。視認できる限り、他のゾーンに飛ばされているようだ」

 

 

 良かった……ひとまず無事か……! であれば、少なくとも外に飛ばされてる奴はいないようだな。楽観はできないが、これでハッキリしたこともある。

 

 

 

 ――ヴィランが襲撃しているのはこのUSJの中だけだ。

 

 そもそも、オールマイトがこの演習場にいると踏んでこれだけの戦力を集めた連中だ。学校全体を襲撃してるなら、わざわざ生徒が何人か逃げたところで些細な問題のはず。大体、他に襲撃地があるなら、我々が援軍を呼ぼうと無駄なのは知っているだろう。

 

 よし……不安だが、それだけ分かれば充分に動ける。今はとにかく、状況の立て直しを――。

 

 

「委員長、君に託します。学校まで走ってこの事を伝えてください」

 

「……なっ!?」

 

 

 曰く、赤外線式の警報器が鳴らないのは、そういう事が出来る個性がいる。相澤先生が個性を消して回っているのにも関わらず、未だに反応はみられない。恐らく今は何処かに隠れている。故に、この状況なら俺が走った方が早い。

 

 り、理屈こそ理解は出来る……だが、みんなを置いて脱出するなど委員長の所業ではない!! そんな事が許されるはずが――。

 

 

「行けって非常口! 外に出れば警報がある。だから、こいつらこん中だけで事を起こしてるんだろ?」

 

「お前の足でこのモヤを振り切れ!」

 

「食堂のときみたくサポートなら私超できるから!する!から!!」

 

「うんうん! お願いね委員長!」

 

「……(コクッ)」

 

 

 せ、瀬呂君に、佐藤君!? 麗日君に芦戸君、それに障子君まで……!? みんな、俺を信じてくれるのか……? まだ、委員長になって日が浅く、未熟者であるこの俺を? 振り切れる確証もないのにどうしてそこまで――。

 

 

 

 

 

――ポンッ

 

 

 

 

 

 

 肩を……ば、萬實黎君!? キミも、キミさえも『僕』を……? 入試1位かつ、現状同級生として最も尊敬しているキミですら、『僕』に託すと言ってくれるのか――?

 

 

 

 

「覚悟決めなよ。男の子でしょ」

 

 

 

 

 ……ああ、そうか。今、理解できたよ。心の内にのし掛かるモノの正体が。それに対して燻り逸る焦燥の理由が――。

 

 

 

 

 ――これが『信頼』……託された者が背負う重みなのか。みんなを纏める者が、背負わなければならない重み……!

 

 

 

 

「……あぁ! みんな俺に任せてくれ!」

 

 

 

 

 踏み出すんだ、ここで! ヒーローになるための、第一歩を――!!

 

 

「敵の前で策を語るとは……舐められたものですね!!」

 

「聞かれても問題ないから言ったんでしょうが! ブラックホール!」

 

 

 モヤが……吸い込まれている! やはり、13号先生の個性は強力だ……人には過ぎたる力と言われても頷けてしまうほどに。

 

 いや、今は俺がどうすべきかを考えよう。先生が敵を無力化するまで待機するのが最善か? それともこの隙に脇を通り抜けるべき……それはダメだ。切島君や爆豪君の二の舞になってしまう。彼らも決し悪意があった訳じゃないのは知っている。だが、結果として13号先生の対応を遅らせてしまったのも事実なんだ。ここは、確実に成功するタイミングを測って――。

 

 

「いやはや強力な個性です。が、戦闘方法が大雑把かつ、やや稚拙に過ぎる……!」

 

 

 わ、ワープホールが先生の後方に!? ブラックホールが13号先生自身を吸い込んで……あぁッ!? コスチュームが剥がれていく!?

 

 

「委員長何してんだ! 行けって!!」

 

「完全に先生がやられちまったら手が無くなる! 早く!」

 

「ぐッ……くそぉぉおぉおおお!!」

 

 

 悔しさで奥歯に力がかかる。エンジンを駆動させ地を蹴った。今はとにかく走るしかない!

 

 こうなるのであれば、少しでもこちらに意識が分散するよう走っていればよかった……! 雄英に来てから考えや行動が裏目ばかりに出る。立ち止まって考え過ぎだ……! 天晴兄さんだったら、こんなときも瞬時に判断して――

 

 

『天哉は真面目だからなぁ。俺みたいに何でもかんでも突っ込んでっちまう奴にはならねぇから安心だな!』

 

 

 憧れたんだろう!? 兄さんの愚直に人を助ける姿に……一瞬で人を助けるその『速さ』に! 思考で行動が停滞するなど言語道断! 飯田家の名を継いだ者としてあってはならない!! この失敗を払拭するために、そしてみんなを必ず助けるために……なんとしても、救援を呼んで見せる!!

 

 

「そう易々と……逃がすと思いますか!」

 

 

 目の前に!? クソッ、速度が関係のないワープ相手ではすぐに対処される……! カーブで振り切れ……ない!

 

 

「ぬぅ!!」

 

 

 障子君!? 複製腕で丸ごと包み込んで……いや、考えるのは後だ!! ありがとう、助かった! 扉まで後半分、このまま走りきれれば――!!

 

 

 

 

 

「……ッ! 調子に乗るなよ眼鏡ェ!!」

 

 

 

 

 な、後ろから声が!? まさか追ってきて……振り向いて迎撃をすべきか!? いやダメだ、爆豪君たちで物理攻撃の一切が通らないことは割れている! ここまでか? ここまでなのか!? 俺は結局、何も出来ずに終わってしまうのか!? そんな……そんな事は――!

 

 

「そのまま走って! 飯田君!!」

 

 

 な、なんだ!? 靄が遠退いて……麗日君か!? いったいどうやって……「大丈夫だから! 前だけ見てて!!」あ、ああ! 分かった! 本当にありがとう!! 状況は分からないが、君がそう言うのなら信じよう!

 

 みんなが俺を信じて戦っているんだ。なら俺も皆を纏める者としての責務を果たす! 待っていてくれみんな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君に託すよ、委員長」

 

 

 

 

 

 ――声が聞こえた様な気がした。

 

 

 

 扉を開け、トルクの回転数を上げようとしたときだった。それはとても柔らかく、何処か親しみを覚える身近さを感じさせた。刹那、エンジンが唸りをあげ推進力を生み出す。そして感じる。今までにないほど、力の奔流がエンジンに流れている。俺はその感覚に、確かな覚えがあった。

 

 

 

 

 

「……そうか。俺は入試の時(あのとき)も、君に救われていたんだな」

 

 

 

 

 

 俺は走る。最も危険な場所に身を投じた師のために。信じてくれた仲間のために。託してくれた彼女のために。みんなの期待に応えるために、俺はギアを引き上げ突き進む。

 

 

 

 肩に残る、確かな温かさを感じながら――。

 

 

 

 

 






 スマホとパソコンそれぞれ書いたから、おかしな部分あったらすまぬ。


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第12話「心の叫び」

 もう、相澤先生でいいんじゃないかな? 何とは言わんけど。



 ふう、肩に触れたとき『全体強化』を仕掛けておいて正解でしたね。今は体操服に自前でフードを付けた服を着ているから、ほぼ無詠唱で魔術の出力をルーン文字に切り替えられるんですよ。アニメで活躍したキャスニキ様様です。おかげでイメージがすっごく楽。

 

 あの魔術、クロギリさんに対しての対策だったんだけど、みんなからのサポートが予想以上に手厚かったね。結果、単純なスピードアップに使わせてもらいましたよ。これが功を奏して、早めに救援が到着することを祈りませう。

 

 さて、お茶子ちゃんの個性で、クロギリさんの本体部分と思わしきところを無重力にして、瀬呂少年がテープで固定。その後、佐藤少年のパワーで吹っ飛ばしたわけですけども。クロギリさん、あれでどうにかなるわけないよなぁ……。気絶ぐらいしてくれてたら有難いんだけど、そう簡単にいきませんよねぇ。

 

 

「奏ちゃん……わたしたち、どうするべきかな?」

 

 

 ん、何も余計なことはしなくていいんじゃないかな? とにかく今は周囲を警戒しつつ、13号先生の介抱を優先すべきでしょ。多分、背中の皮が剥がれてる。正直あんまりグロ耐性ないから見たくないんだけど、やれることはやらせてもらおう。はいじゃあ、よっこらせっと。

 

 

 

 

「……はぁッ!? ちょちょちょ萬實黎ィ!? 何してんのォ!?」

 

 

「う、うぉおおぉおお!? 見てない! 俺は見てないからなァ!!?」

 

 

「……!? ……ッ……!?(ガン見)」

 

 

 

 うっさいわこの童貞共ォ!!

 

 

 人が一枚服脱いだぐらいでいちいち鼻息荒くするんじゃありません! ギャーギャー騒がしいんだよ発情期ですかコノヤロー!

 

 あ、女子2人が鉄壁のディフェンスに入った。え、乙女が気安く異性に肌を晒すな? ええやん別に減るもんじゃないし。てか、脱がないと意味ないんですがそれは。ズボンも脱ぐからちょっとどいて……ん? 何してんの芦戸ちゃん? え、あの手を離してく貰えます!? ちょ、出てる! 出ちゃってる!!弱酸性のナニカが手から出ちゃってるからぁああぁぁあ!!?

 

 

「……離して?」

 

「絶対離さないよ!? 脱ごうとしたら、もっと強めのヤツ出すからね!」

 

 

 ガチの脅しだコレ!?

 

 なんでよ! 上着類脱ごうとしただけじゃん! え、それがダメ? いやいや、別に脱いだからって下着を見られる訳じゃないし。これ? 下着じゃないよ水着だよ? ほら、布の生地見てみなさいって。ね?

 

 

「……いや、そうだとしても何で脱いだん? 今はふざけとる場合とちゃうよ?」

 

 

 個性を使うためだよ!? 至極真面目なんですが!? はい? なんで個性使うために脱ぐの……? え、えっとー……その、あれなんですよ。や、やべぇ! 個性に服が関連すること隠してるんだった……!! 確かに理由を知らなかったら、ただの痴女だよコレ!? むむむ、何か上手い言い訳を考えなければ……ダメだそう簡単に思いつかぬぅ!? え、ええい! こんなときは――!

 

 

「……今回使う個性は脱いでいた方が効率的なの。だから離して」

 

 

 へ、下手に誤魔化さないようにするべし! 嘘は言っていないからね! 取り繕ってボロ出すより、開き直って堂々とした方が怪しまれない……はずだよね? これで見逃してくれたり――。

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ。なんやもう、ちゃんと事前に説明してや? そしたら男子だって後ろ向いたりできたんよ?」

 

 

 

 

 勝ったァ!!

 

 やはり信頼こそ最大の武器なりィ! いやぁ、この場にいたのがお茶子ちゃんで助かったわ。またもやあられもない誤解を招いて学校生活に支障を来すところだったよ。「おいアイツ人目憚らず脱ぐ変態だぜ」とか言われたら号泣するわ。シモ系統の噂って一生付いてまわるから洒落にならんし。まあ、そんなこと言うやつが雄英にいたら、一番被害大きいの言った本人だろうけどね。ヒーロー目指すやつが陰口とかする訳ないよなぁ?(ゲス顔)

 

 

「水着かよ……安心したぜ。いやホント安心したわ、うんうん」

 

「そ、そうだな。下着じゃなくてよかった……な?」

 

 

 欲望に素直かよ。そこまで分かりやすいと逆に面白いわ。まあ、先月まで男子中学生だったもんね。そういう妄想は一番膨らむ時期でしょうし大目に見ますよ。

 

 さて、着替え終わった訳ですし、早速打てる手は打っとこうか。

 

 

 

 

Load personality( 個性起動 )......Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続)...

 

 

 

 

 うぅむ、今日も今日とて魔術回路が激熱だぜ。今回はちゃんと段階踏んでゆっくり構築できるからマシではあるけども。毎度普通にやってるけど、魔術回路をその都度構築するってイミフすぎるよね。感覚? なんだろう……こう、頭の中で服のイメージを浮かべて、そこから発動する魔術のイメージを浮き上がらせるんですよ。イメージが固まって前者と後者が一致したら、今着ている服から魔力の奔流みたいなものが流れ込んでくる感じ……かな。

 

 元から魔術回路があって、それに魔力を通している訳じゃないんです。そもそも、わたしがこの個性で生成される力を『魔力』と仮定して使ってるだけなので、正確には何が起こっているかは知りません。医者も匙を投げたってことは、科学では証明できない何かが起きてるって事だと思うんですよ。それで、都合のよかった事象が魔術礼装だっただけのことで、わたし自身もこの個性の全貌は詳しくは知らないのです。イメージっていう感覚的なモノに頼る以上、説明にも人間の理解が及ばないものを使用した方が丸く収まる。なんとも歯切れの悪い話ですな。

 

 

「奏ちゃんそれは……?」

 

「なんか幻想的で綺麗~!」

 

 

 はい? なんのこっちゃ……OH YEAH!? 肌の露出が多いから魔術回路が見えちゃってるぅ!? 全身に巡ってるのが丸分かりだこれぇ……ええ、原作通り碧色に光り輝いてますとも。元からなのか、それともわたしがそうイメージしたからこの色なのか気になる。あー、まあ、うん。個性発動するとこんな感じになるよ。恥ずかしいからあんまり見ないで貰えます?

 

 

「堂々と脱ごうとしてた人が言うセリフじゃないよ!?」

 

 

 ソウダネ。マッタクモッテソノトオリダヨ。

 

 細かい事は気にしないの! さ、二人ともどいたどいた! 13号先生に手当てするから周囲の警戒は任せますよ。そこな男子3人も階段下とか死角になりそうなとこ見ときなさい。わたしのぱーふぇくとぼでーを見たい気持ちは分かるけど非常事態なんだから我慢しなさい。おい、誰だ今鼻で笑ったやつ。お前らきょぬーが全員八百万ちゃんクラスだと思うなよぉ!? あの歳であれは育ち過ぎだかんなぁ!!?

 

 ……はぁ。昨今の女の子は発育が良過ぎるよ……これも超人社会の影響か(違う)。まあ、いいや。とりあえず今は魔術に集中しよ。

 

 

Setting "Image"(概念承認)......All complete(魔術発動)......

 

 

 

 

 

Summer cord Ⅲ: Sea House Shower(   シーハウス・シャワー   )

 

 

 

 

 

 

 これ効いてんのかなぁ……? お察しだとは思いますけど、今の礼装は水着型礼装の『ブリリアント・サマー』。そんでもって、使ってるのは回復スキルの『シーハウス・シャワー』。手からシャワーみたいに治癒力がある魔力を放出する感じの魔術……なんですけどね? 如何せん傷が癒えるというより、鎮痛の効果の方が強いんですよ。というのも、わたしがこのスキルに抱いたイメージがですね、名前的に「夏の海で遊んだ後に風情あるシーハウスで体に突いた潮を洗い流す心地よいひととき」……的な? うん、いやすごくイメージしやすいから良いんだけどね? でもちょっと待って欲しいかなーって思うわけでして。

 

 

 

 

「……えっ、傷が少しずつ綺麗になってる! スゴい! スゴいよ奏ちゃん! 」

 

 

 

 

 

 うん、そうだよね?わたし今治療してんだよね?

 

 

 

 

 

 

 ……なんでこんな風流な事イメージしながら魔術行使してんのぉ!?

 

 

 傍目から見たら真面目に治療しているように見えるかもしんないけど、目の前の事象と想像のギャップ&違和感で死にそうだからね!? 主に表情筋の崩壊的な意味で!! シュール過ぎて笑い堪えるのに必死すぎてヤバい。腹筋がつりそう。 早く、早く全体に行き届いて……そろそろ限界来るから! 治療しながら笑うサイコパス認定されちゃうからぁ!! 頼むからホントマジで……(切実)。

 

 

 

 

「……ぅう? 皆さん……無事、ですか?」

 

「13号先生! よ、良かったぁ……意識が戻ったんですね!?」

 

 

 

 お、起きたぁ! 個性解除ぉ……!

 

 ちゃ、ちゃんと効果あったみたいですね(震え声)。手応えとか全く感じないし、なんなら別の事に必死すぎて本当に良くなってるか不安だったよ。てか、今個性がまともに人の役に立つ初めての瞬間じゃないですか? 嬉しい……嬉しいけど、わたしの心情は今それどころじゃない事が死ぬほど悔やまれる……。

 

 ……はぁ。うん、まあとりあえず治癒は終了。応急処置程度だけど、マシにはなったかな。うむ、そしたら服着よう。春先とはいえこんな格好でずっといたら風邪引いちゃうし。え、お茶子ちゃんジャージ持ってくれてたの? しかも畳んで? 嫁力が高ぇ……うん、着替えさせて頂きます。ありがとね。あ、男子帰ってきた。

 

 

 

「……悪い、やっぱつれぇわ(水着拝めず)」

 

「そりゃつれぇでしょ」

 

「ちゃんと言えたじゃねぇか」

 

 

 

 聞けて良かった(大嘘)

 

 

 引きずり過ぎだろぉ!? どんだけ見たかったんだよ!?

 

 まったく……ヒーロー目指す卵がそんなんでいいのかねぇ? まあ、男子高校生の日常ってそんなもんだよね。変な方向に突っ走って、色々歪まないといいけど。

 

 ……というか、女子なのに割りと筋肉質なわたしの体を見たところで大して面白くもないでしょうに。男ってスレンダーとかより、少しお肉あった方が好きなんでしょ? 偏見じゃなくて統計的なデータで見てさ。どーじんしにはそーゆー女の子が一杯描かれてるの知ってんだかんな。

 

 

 

「萬實黎さん……治療、本当に助かりました。プロが真っ先に倒れるなんて……相当な不安で辛かったことしょう。心配をお掛けして申し訳ありません」

 

 

 あぁ、いえいえ。大したことはしてませんので。まだ、起きずに安静にしてた方がいいですい。完全に直した訳じゃないですし、なんなら沈痛の作用で痛みが鈍くなってるだけですので。それに動きすぎると、また傷が開きますから。

 

 

「そうですか……様子を見る限り、委員長は無事脱出できたんですね?」

 

 

「は、はい! 皆で力を合わせて、なんとかあのモヤモヤした人を撃退できました!」

 

 

 おう、めっちゃ前のめりだねお茶子ちゃん。そういえば、13号先生のファンなんだっけ? あー……だからあんな過剰にわたしの行為に反応してたのね。憧れの人がが重症負ってる横で、脈絡もなく脱ぎ出すバカがいたそりゃキレるよ。軽率な行動を取っちゃったな。すまぬ。

 

 

「……流石先輩が認めた生徒たちですね。それに比べて僕は……不甲斐ないばかりです」

 

 

 ちょっとぉ! まーたネガティブ思考だよ!? そんなショボくれたところで雰囲気悪くなるだけだから! 周りも気をもむんですから控えて下さい! あっ、あっ、ほらぁ!! みんな困ってるじゃないですかぁ! なんでヒーロー目指す人ってすぐ卑屈になるん!?

 

 あっ、またお茶子ちゃんが前のめりに。生徒に励まされるプロってどうなのよ……しっかりしてクレメンス。

 

 

 

 

 

「……ッ!? あれは!?」

 

 

 

 

 

 今度はなんだぁ!? どうした障子少年唐突に驚いて……え、ヴィランに押されてる? まさか他の皆がやれてるんです!? それは流石にまずいのでは!? 誰かしら救援に向かわせ……え、違う? じゃあ誰が――。

 

 

 

 

 

「相澤先生が……ヴィランに組伏せられて……両腕を――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………は?

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 ――ホント、腹が立ちます。自分の不甲斐なさに。

 

 

 

 プロとして……ヴィラン相手にあれだけの啖呵を切っておいてこの醜態。さらに、今は怪我で動けずに先輩の救護にも行けず……!

 

 

 

「ちょ、奏ちゃん!? 何処にいくの!?」

 

 

 なっ……! 萬實黎さんが階段を!? 瀬呂君! 彼女を止めてください!! まだ、下にはヴィランが残ってます! 迂闊に近づけば殺されてしまう!!

 

 

「え、あ、はい! 止まれ萬實黎ィ!」

 

 

 ま、間に合いましたか……ってこれは!? 瀬呂君ごと引っ張っている!? 身体能力は高いと聞いてはいましたが……さ、佐藤くん、瀬呂君を援護してください!

 

 

「……ッ……!」

 

 

 ふぅ……流石に止まりましたね。ですが、どうしてそこまで……? 確かに人を助けるために動くことは立派ではあります。しかし、これはあまりにも無謀過ぎる。最初の印象から、理知的な人間だと判断していたのですが……現に、未だに下に向かおうともがいている。

 

 

「萬實黎さん……悔しくて仕方ない気持ちは分かります。不甲斐なさで自分に腹が立つ気持ちの分かります。ですが、今すべき事は命を投げ捨てることではありません!」

 

「離して、下さい……!」

 

「無茶をして怪我をして動けなくなった時はどうするつもりですか!? そして、状況も鑑みずに、突っ走った所で状況はよくなりません!! どう考えても今は援軍が来るまで待機するべきです!! 違います――」

 

「ぐ、ぁ……それでも!」

 

「ダメです! 先輩は……イレイザーヘッドは僕に君たちを守ることを託しました!! 死地に飛び込んでいった彼の唯一の望みです……貴方はその思いを踏みにじるんですか!?」

 

 

 

「……あの人は(・ ・ ・ ・)!!」

 

 

 

 

 

 

「……あの人は自分の事なんか犠牲にして……まるでそれが当然のような顔して……自分が一番危険な役目の癖に! それが一番合理的だって言い聞かせて!! ……だけど、それでも……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――もう、泣くな(無理するな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな言い訳なんて認めない!! あの人を助けない理由になんてならない!! わたしは絶対に助ける……救わなきゃいけないんだ――」

 

 

 

 

 

 

 

「――あの人を、相澤先生を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴォォォオオン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 その叫びと同時に、入り口が吹き飛ばされた。それはまるで、彼女の思いが届いたかのように。

 

 

 

 

「――もう大丈夫」

 

 

 

 

 見紛うはずもないその姿を、誰もが望んだそのフレーズを、五感全てで体感する。ここに悪は潰えるのだと、戦いは終わりを迎えるのだと確信を得る。何故なら――

 

 

 

 

「私が来た……!」

 

 

 

 

 ――平和の象徴が、そこに舞い降りたのだから。

 

 




 ギャグ書いてたらいつの間にかシリアスになってた……次の話の冒頭に繋げるためには仕方がなかったのだ。カムバック日常編。オール茶番でやれてた最初の頃が懐かしい。


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第13話「人の振り見て我が振り直せ」

 色々忙しかった(現進)とだけ残す。そして、自分の中で面白さというものが行方不明。どうしてこうなったのか分からない。


 あ、そういえば4期始まるね。


 正直言えばむしゃくしゃしてた。思えば毎度毎度、理不尽に晒されることを許容してた方がおかしかったんだ。唐突に第2の人生を知識ありきで始められたり、勝手に出来た人間だと思われたり、不審者二人組に殺されそうになったり……特にここ数ヶ月はそれらが濃密すぎた。

 

 

 

 

 

「――◼️◼️ってさぁ、マジでいいヤツだよねー」

 

 

 

 

 

 でも、乗り越えるしかなかった。この世界でちょっとだけ知っている物語。その近くにいれば、生き残れると信じる外なかった。全力で苦難を与え続け、ヒーローを育てる雄英高校。そこで強くなれれば死なないんじゃないかなぁ……なんて、浅い考えで受験した。

 

 

 

 

 

「え、やってくれんの? さんきゅ~、助かるわぁ~」

 

 

 

 

 

 そうしたら、何の間違いか本当に入れてしまった。本物にヒーローとしての素質をもった人間しか入れない場所に。予想の斜め上過ぎる合格の仕方に戸惑いこそあったけど、まるで、世界がわたしというイレギュラーを受け入れてくれた見たいで、少しだけ嬉しかった。

 

 

 

 

 

「あ~、それ? 大丈夫だよ、◼️◼️が手伝ってくれるし」

 

 

 

 

 そこから、過酷な日常が始まった。辛かった。だって、当たり前だ。わたしは死にたくないだけ。ヒーローになりたい訳じゃない。けれど、本心を虚勢に隠すことで凌いできた。ヒーローとしての素地を作る実技、高まる周囲からの期待、触れたことのない本物の悪意――。

 

 

 

 

 

「平気だって~! アイツ、絶対嫌がんないし?」

 

 

 

 

 

 特に最後のは酷かった。冗談抜きで、この超人社会に蔓延る闇を見せられた。無意識に内包していた命の単位を改めさせられた。ふとした瞬間に死ぬかもしれない毎日。安全な保証なんて何処にもない。まるで今まで歩いてきた道が、地雷原の上だと認識させられたようだった。どうしようもないくらい怖くなった。ただ死にたくないと膝を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、そうだよね。◼️◼️ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 どうして、わたしがこんな目に合わなくてはならないのだろう? このまま生き続ける? 目に見えない悪意に晒されながら? 流石にしんどいにも程がある。限界だ。こんな事なら、転生(やりなおし)なんてしたくなかった。あぁ、いっそあのとき終わって(・ ・ ・ ・)いられたら良かったのに。そんな考えが脳裏に過った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――もう、泣くな(無理するな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんなとき、わたしを包んでくれた腕があった。

 

 

 

 

 決して柔らかくない、ゴツゴツとした大きな手が、何度も背中を(さす)ってくれた。大丈夫だと、無理するなと、言ってくれた。

 

 わたしはこの世界で物心ついてから今日まで、自分の気持ちを大っぴらにしたことはなかった。だけど、その時だけは、みっともないほどに声を上げて泣いた。支離滅裂に自分の中に渦巻く感情をとにかく喚いた。

 

 

 

 「怖い」「助けて」「嫌だ」「死にたくない」――。

 

 

 

 幾ばくかの言葉を繰り返し、自身の心を裏返す。巣食う不安を捨てようと一心に全てを吐き出した。思い出してみればまるで顔から火が出るように熱くなる。だが、不思議と嫌悪感はなかった。今まで感じたことが無かった心地よさに、随分と当惑させられた。

 

 そんな訳がわからないまま、答えを求めるように顔をあげる。そこにはわたしを抱き締めてくれた人の顔があった。相手もそれに気付いたのか、こちらを見つめ返す。そして、そのときにわたしは初めて――

 

 

 

 

 

『――よく、頑張ったな』

 

 

 

 

 

 

 

 ――ヒーローに、少しだけ憧れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 状況は最悪だった。だが、それはつい先程までの事だ。逆転の一手。そんな思いを抱いた瞬間に、意識が遠退く。そんなとき、一陣の風が頬を撫でた。刹那、それが俺たちにとって追い風であるものだと理解する。

 

 

「随分と遅い登場……ですね」

 

「すまない。無理を通してでも合流すべきだった……ヴィランが一度侵入してきた事を知っていながらこの醜態。活動限界にかこつけて君たちに負担を押し付けた。相澤君、本当にすまない!」

 

 

 皮肉でこそあるものの、決して恨み言ではない。むしろ、感謝すらしている。謝罪をもらう理由などない。ヒーローといえど、所詮は人の身。どれだけ強大な個性を持っていようが、全世界の人間を一度に救うような真似はできないのだから。

 

 

「冗談ですよ……すみませんね、俺が不甲斐ないばかりに」

 

「……何を言ってるんだ。生徒は誰一人として大事には至ってない。君たちの奮闘のおかげさ。間違いなく、13号君と君は生徒を守れたんだよ。だから、もう安心して体を休めてほしい。それにね――」

 

「……?」

 

 

 何故言い淀んだのかと首を傾げる……事は、肩を外されて折られた腕の影響で出来ない。よって、目を細めることに留める。そんな俺の表情に対して目の前の平和の象徴は困ったように眉をひそめた。

 

 

「君を、待っている子がいるんだ。重症なのに酷なことを言うようだけど……是非、君の口から伝えてほしいんだ。『自分は大丈夫』とね」

 

 

 俺を待つヤツ……考えを巡らせるがパッと浮かぶような顔はいない。無茶した後にうるさいのは山田……プレゼント・マイクぐらいだが、既にプロヒーローがこちらに到着しているのだろうか。いや、そうだとすれば激しい戦闘が行われているはず。

 

 

「ハハハ……君は自分の事を過小評価しすぎだよ。少なくとも、彼女(・ ・)は君を心配していたさ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

『……相澤先生を助けて下さい。お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

「それは――」

 

 

 

「我々はヒーロー……悪を打ち倒すのは、過程であって目的じゃない。我々が掲げるのはヴィランの撲滅ではなく、人々の幸福だ。だから、君もヒーローとしての務めを果たしてほしい。これは今、君にしか出来ない事なんだ。相澤君、いや――」

 

 

 

 

 

 

 

「プロヒーロー『イレイザーヘッド』……萬實黎少女のこと、頼んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

『お前のコードネームは……イレイザーヘッドだァ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、まったく酷い話だ。古い鏡を見せられている。だが、そうだ……こういう男たちがいたんだったな。

 

 俺は目を伏せたまま、オールマイトに抱えられる。そして、動かない両腕に意識を向けながら、蛙吹たちの元へと運ばれた。体格差が大きい故に峰田が胴、蛙吹が脚を持つ人間担架の状態となる。酷く情けない限りだが、その状態に身を甘んじた。任された仕事を遂行するためにはそれが一番合理的な手段だったからだ。安寧を求める声がそこにあるというのなら、手を差し伸べる。綺麗事と笑われようとそこに命を懸ける。それが俺たち(ヒーロー)という存在だ。

 

 

 

「まったく……不合理な事だ……」

 

 

 

 この場にはいない表情筋の死んでいるソイツを思い浮かべる。本人にそれを言えば「お互い様です」ぐらいの憎まれ口を叩く事だろう。そんな事を考えながら、俺は眉間の皺を弛ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 …………あ、シリアス終わりました?

 

 

 

 はっはっは、学べよ諸君。天丼だろうが何だろうが知ったこっちゃねぇです。こちとら精神年齢アラサーの独り身女ですし? 日によっては「はぁまぢ生きるのつらみリスカしよ」って鬱々ジメジメするけど、吐き出してしまえばこんなもんよ。

 

 はい、そこで「ダマシタナァァァアアァ!!」って形相をしてる諸君ら。別に騙してはないですよ? 昔から面倒事押し付けられてたのは事実ですし。前世のわたしは責任転嫁だの、セクハラだの、裏切りだのそりゃあもう酷い理不尽被り体質でしたよ……あ、今も変わってねぇや。ハハッ(自虐)。

 

 

 

 まあ、んな事はどうでもいいんです。ただまあ、そーゆー認識はあったほうがいいよって話です。割といるんすよ、理不尽の皺寄せを一身に受けてる人間って。自分の身の周りにいないって思い込んでるだけ。まあ、わたしみたいに内心「てめぇでやれやぶっ飛ばすぞ」ぐらい毒吐けてたら問題はないんですけどね。メンタルクソ雑魚故にちょっとの事で死にたくなるけど、復帰は秒速5センチメートルなので。あ、ちなみに先の暴言はこれでもオブラートに包んでるぐらいです。そのまんま放送しようものなら、規制必至の罵詈雑言のバーゲンセールと化すためお伝え出来ません。爆豪少年? あんなの可愛いもんですわ。

 

 

 ただまあ、そんな中でもわたしのストレスを受け止めてくれた相澤先生が死にそうになってるの見てキレそうにはなったけどね。てか、ちょっとキレた。でもなぁ……。

 

 

 

 

 

『そんな言い訳なんて認めない!! あの人を助けない理由になんてならない!! わたしは絶対に助ける……救わなきゃいけないんだ――』

 

 

 

 

 

 おいカメラ止めろォ!!

 

 

 誰が全セリフ赤裸々に語れと言ったァ!! 止めてホント恥ずかしいから! 何やねん絶対に守るって! 相澤先生が勝てないバケモンにわたしが相手取れる訳がないやん! しかも他の人にめっちゃ見られてた……青臭いセリフを全部聞かれた……そうだ、冥府に行こう(京都並感)。

 

 男子諸君に取り押さえられた衝撃とオールマイトが扉を破壊した轟音で正気に戻ったけど時すでにお寿司。言った後めちゃくちゃ恥ずかしくて顔を上げられんかったよ。めっちゃどもってオールマイトに相澤先生の事頼んだわ。えぇ、それはもうか細い声でしたとも……平和の象徴の視線もどこか生暖かかったような気がする。まったくいつからそんな眼で見るように……あ、初対面からそうでしたね(白目)。

 

 

 

 まあ、閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 オールマイトが到着したことで事態の収拾は着きそうですね。相澤先生を獲ったあの脳ミソマッチョの詳細はわからないけど、少なくともオールマイトが瞬殺される事はないはず。いや、瞬殺でなくとも負けちゃったら困るんだけども。そんなこと起きたらわたしたちの身の安全どころの騒ぎじゃない。下手したら世界が滅んで混沌に堕ちる。モストバッドエンドとか笑えねぇでさぁ……。

 

 ま、まあ、そんなこと無いでしょ。少なくともこんな所で原作が終わるわけないし……ね、ねぇ? そうだよね? 終わったりしないよね? う、打ち切りは悪い文明だよ? 絶対完結させよう!? ねぇっ!?

 

 

 

 

 

 

...少女逃避中

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。落ち着いたぜ。やっぱり気を静めるには甘いものだねぇ。スーパーで売ってるひとくちチョコだったがけどこれはこれで美味。むしろ日常を思い出させてくれる質素さがベネ。かと言って、何個も食べたくはならない甘ったるさが鼻腔を突き抜ける。だが、それすらも懐かしい。うむ、実に食べ堪えがある一品だった……。

 

 あ、待たせたな皆の衆。糖分摂取で冷静沈着と化した奏さんだ。え? チョコの出所? 砂糖少年からぶんどり申しただけですが何か? はい、冗談です。ホントは先のおこタイムの時に落ち着けと言わんばかりに渡されたモノです。イラついた時は糖分とれば良いってどっかの天パ侍も言ってた。古事記にもそう書いてある。多分。

 

 

 

 よし、せっかく落ち着いたんだ。少し状況を見てみよう。

 

 遠目から確認できる限り、1-A屈指の戦闘向き個性持ちが集結したようですね。唸るような爆音と地面の所々に這う氷が目立つ。言わずもがなあのふたりでしょ。後はよく見えないな……障子少年、他にも誰か見える? ほうほう、緑山少年と切島少年もいると。オールマイトに加勢しよう意気込んでる、ねぇ……止めといた方がいいんじゃないかな。邪魔になるだけだと思うし。プロの仕事に青二才が首ツッコむと、大抵足引っ張るのが目に見えてるんだから。

 

  ん? 唐突に土煙があがったんですけど、戦闘再開したのかな……え? オールマイトが吹き飛ばされたの? それは個性で? は? 普通に殴られて? 何その化け物。相澤先生をボコボコにした奴がそうしたんだろうけど、クロギリさんが言ってたオールマイトに息絶えてもらうってのはマジだったのか。

 

 

「おーい!」

 

 

 あ、ブドウ頭が帰って来た。名前は……たしか峰田だっけ。え、少年をつけない理由? うーむ、なんていうか峰田は峰田なんだよね。それ以外にしっくりくる呼び方が無さそうっていうか。

 

 それで? 梅雨ちゃんと一緒に誰かを担いで……あぁ、なるほど……そっかぁ。ボロ雑巾みたいになって、微塵も動かないけど、生きてるんだよね。ならいいよ、さっさと手伝いに行こう。

 

 

「ケロッ、奏ちゃん?」

 

「手伝うよ。個性使うから一気に階段上まで連れてっちゃって」

 

「わかったわ」

 

 

 全体強化を峰田と梅雨ちゃんにかけて……よし、これで蛙としての行動を全て向上したから、舌で持ち上げる力も上がったはず。梅雨ちゃんには腹周りから膝上まで舌で巻いてもらって……わたしが梅雨ちゃんに代わって肩から上を支えよう。よっこいせ……って軽い? あ、まさかこの人……。

 

 

「力抜いてください。体に障ります」

 

 

 怪我人の癖に負担をかけないための体重の掛け方とか実践しやがってますよ。何考えてんだホント。この期に及んで無茶を重ねるとか。

 

 

 

 

 

「……合理的手段を取っているだけだ」

 

 

 

 

 

 

 ……あぁ、そうですか。そういうこと言っちゃいますか。ふーん、なるほどねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いい加減にしろよオルァァン!?

 

 

 

 

 

 

「『合理性の中に自分が入っていなければ』の話ですよね、それ。今すぐ止めてください」

 

 

 

 

 

 

 もう知らん。これだから、ヒーローって人種は嫌なんですよ。余計なお節介が仕事なのは分かる。自己犠牲の精神を持たなければならないのも理解はできる。それが空想上の創作で、リアルじゃないならそういうもんだって割り切れた。

 

 だけどね、この世界で約15年間生きてて常々思ったよ。原理主義を忌避する癖に、個々人の強者(ヒーロー)に庇護を求める国民性。「個性」の存在に振り回されて、自分たちの在り方を歪めてる。原因こそ違えど格差社会への回帰に変わりはない。「個性格差」についての社会学的研究に関する論文はいくつも出ているのがその証拠だよ。夢見る少年少女には無縁のモノだろうけどね。だって、必要ないんだもの。

 

 

 

 結局のところ何が言いたいのかっていうと、この世界の人たちの倫理観は致命的にズレてるってことだ。

 

 

 

 別に結果的な自己犠牲を称える事を総じて悪と糾弾したいわけじゃない。この世界でのヒーローに対する認識が間違っているなんて反論する気もない。個性なんてものが発現しなければ、人は今頃別の惑星に移住していたなんて声も上がるけど、空想ではなく現実に目を向けなくてはいけない。

 

 

 「超常」は「日常」に、「架空(ゆめ)」は「現実」に――。

 

 

 そんな風に銘打つことで、人々は個性を受け入れた。一種の子帰りとも言うべきかな。それで、ぽっと出の超常を形だけは日常として体を成せたのだから、大したものだよ。黎明期こそ犯罪の横行は止まらなかったらしいけど、今では管理体制も発足されて国による管理運営が行き届いている。ヒーローなんて職業まで容認して、国民の思想を強制しないのは、それが都合がいいから。この社会が成り立つのであれば、それに越したことはないんだろう。ヒーローに夢を見れる時代なんて、聞こえだけは良いのだから。

 

 

 

 

 

 

 ――けどね、そんなもんでこの「現状」を納得出来る訳ないでしょうが。

 

 

 

 

 

 

「わたしが助けたいのは国でも民衆でもない。手の届くたった一握りの知人です。それらを守るためならどんな手段だって用います。必要なら何か(・ ・)を犠牲にしてでも助けます。ですから、選んでください」

 

「……何をだ」

 

「今すぐ力を抜いて自身の療養を優先するか、それとも無理を続行してわたしに意識を刈り取られるかのどっちかです」

 

「お、おい萬實黎、何言ってんだよぅ!?」

 

 

 お黙りブドウ頭。わたしは今このアホ教師にキレてんの。この分からずやは合理性とか(のたま)いながら、自分の事を勘定にいれない大馬鹿なんだよ。世の中のヒーロー全般に言えることだけど、綺麗事吐くだけ吐いて勝手に死なれるのはただの迷惑だから。お前ら残された側の気持ち考えたことあんの? ないとは言わせないからな。ヒーローっていうブランドに隠れてるけど同業者で殉職した人とか居ない訳ないもんな? 分かっててなお、自分もそうするとかマジでふざけんな。

 

 

「例外はありません。さっさと選んでください。さもなければ締め落とします」

 

「奏ちゃん、目が本気(マジ)よ。怖い」

 

 

 だってマジだもん。

 

 安心して梅雨ちゃん。わたしはやると言ったらやる女だから。有言実行は大人の常識だから。さて、無言貫いてるけど、だんまりは肯定と受け取る。つまり、わたしの締め技を喰らう覚悟ができたって事だな。よし、待ってろ今おろしてチョークスリーパー奏ちゃんスペシャルをかけてやろう。一瞬で落としてやるから安心して身を委ね――。

 

 

 

 

 

「……はぁ、分かった。後はお前に任せる」

 

 

 

 

 

 

 はぁ…………まったくしょうがないですね。わたしは寛大ですし? 許してやろうじゃないか。勝手にひとりで飛び出して言った挙句にボコボコにされて、散々心配かけたことぐらい水に流してやりますよ。まあ、プロヒーローかつ担任の責務もあったことでしょうし? その辺も考えれば当然の対応だったと割り切ってあげますか! あらあらあら、わたしってばなんて優しい~!

 

 

 

 

 

「心配、かけたな……すまなかった」

 

 

 

 

 

 

 …………分かればいいんですよ、分かれば。

 

 

 

 

 

 

「わたしに『無理するな』と言ったのは貴方です。自分にできないことを他人に押し付けないでください……迷惑ですから」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

 

 

 

 だらんとした腕から力が抜けて、わたしの肩に重みがかかる。先程よりも呼吸が穏やかになった気もする。どうやら本当に無理をやめたようだ。短い嘆息の後に、階段を上るべく一層足腰に力を入れた。その後すぐに、お茶子ちゃんが駆けつけてくれて彼を無重力にしてくれたことで、何の苦労もなく運ぶことができて、勝手に徒労したのかと少し意気消沈したけど、楽ができたと思えばすぐに立ち直れた。

 

 そして、ふと最初から言おうと思っていた事を言っていないことに気が付き、横になっている彼の方へと向き直った。色々言いたいことはあったけど、それだけは伝えなきゃいけないと思った。振り返った時には既に、気を失っていたから伝わってないのだけど……それでも、言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「――わたしたちを守ってくれたこと、感謝します」

 

 

 

 

 

 口早にそう紡ぎ、彼の腕の治療に専念することにした。ジャージを脱いで個性を起動する。今度は予め女子たちの鉄壁のガードが展開されたようだ。ブドウ頭が血涙流して悔しがっていたけど、治療に集中していたから気にも留めなかった。

 

 

 

 そして、治療中に自分の口元が弧を描いていたのも気のせいだ。どうせ、イメージと現実のギャップがちょっと表情に出ただけなのだろう。うん、きっとそれだけの事。

 

 

 

 

 

「……ありがとう、相澤先生」

 

 

 

 

 

 自分の声が、そんな言葉を紡いだのも――

 

 

 

 

 

 

 多分、気のせいだから。

 

 

 

 

 

 




 主人公の会話で「」なっているのはつっけんどん口調のフィルターがかかった喋り方。なので「」に無い会話が地の文で展開されたときは「あ、また勘違いされる喋り方でそんな風に伝えたんだろうな」と思っていただきたい。

 そして、ここに来て主人公に新要素追加。もとい、作者が勝手に脳内補完で書いてなかったことを執筆。



・主人公は表情筋が死んでいて基本無表情



 同じ属性? 轟焦斗? 主人公は内心ハジケリストなので、住み分けできてるから……(震え声


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第14話「思惑ダブルブッキング」

 みんな勘違いを求めてたよね。大丈夫、私も書きたくてウズウズしてた。

 なので、雑にカットしたよ。


 月日は流れ、ヴィラン襲撃から早3日。事態はオールマイトが「脳無」と呼ばれる怪人の撃退及び、雄英専属プロヒーロー達の到着により収拾がついた。戦闘不能となったヴィランの回収は警察に任せ、わたしたちは短い取り調べの後に本校舎へと帰還。教師陣の怪我や生徒たちの傷心を理由に、雄英高校は2日間の休校を実施した。

 

 そして、短い休息の時間を終え、望んで止まないありふれた日常が帰ってくる――。

 

 

 

 

「萬實黎さん……君が必要なんだ!」

 

 

 

 

 ……はずだったんだけどなぁ。

 

 

 

 まーた、急展開ですか。一体なんでこうなった。目まぐるしい日常を半ば強制的に享受させられている今日この頃。皆さまはいかがお過ごしでしょうか。わたしは現在、目の前に緑色のもじゃもじゃを突き付けられて絶賛困惑中でございます。こんな時はにこやかな表情をしておくのが社会人としての礼節ですかね。俗に言う営業スマイルなんですけど、わたし今笑えてるかな? え、マグロ? あっそう。

 

 

 事の発端はシンプルなものだった。

 

 今朝はクッソ重い瞼と格闘しつつ、にぼしを牛乳で流し込んで、登校してみたわけなんですけども。教室に入るや否や三奈ちゃんとお茶子ちゃんにグリーティングタイムと洒落込み、姦しくキャッキャウフフしていたんですよ。そしたら、めちゃくちゃキョドりながら緑谷少年に話しかけられ、少し話がしたいから放課後に校舎裏に来いとのお達し。素で「……カツアゲ?」と返してしまった私は悪くない。

 

 

 

 

 で、なんか知らんが唐突に愛(?)の告白を頂きました。

 

 

 

 

 あっれ~? いつの間に好感度上がってたのぉ? そんなアオハライド求めてないんだが。てか、ホントに脈絡無さすぎん? 今までのこと振り返っても、惚れた腫れたの「ほ」の字すら無かったと思うんですけど。そんでもって、突然あいにーぢゅーとか言われても困るんやが。

 

 

「……えっと、ダメですか?」

 

 

 いや、ダメとかダメじゃないとかの問題じゃないと思うの。えぇ、とりあえずどうしてわたしなのか理由を聞きたいんですが。

 

 

「それは……萬實黎さんが頼りになるからだよ。僕はこんなだし、支えてくれるなら君が一番だと思って――」

 

 

 思ったより軟弱思考だったよ!? そんなナヨナヨした考えで女が振り向く訳ないだろ!! そもそも、わたしが付いてくメリットゼロじゃないですかソレぇ!? もう少し気遣いできる男子だと思ってたんだけど、建前とか実は知らない系だったのかァ!?

 

 

 

 

 うへぇ……と、ともかくですよ。こんなの原作には無い展開なんでしょうね……この世界において異物であるわたしに対するイベントなんだから、どう考えてもバタフライエフェクトってやつです。そもそも、原作がどんなだったかさっぱり分かんないのに話がどう転ぶか一喜一憂する意味ってあるんですかね。今更なことですけど。

 

 でも、仮にわたしがこの告白を受けて、今後の動きが原作から大きく離れることがあれば、この子たちの未来がどうなるか分かんないだろうし……主人公だから緑谷少年は死なないっていう確信も無くなる。寧ろ原作で今後亡くなる事が決定している人たちが生き残って、そちらに付いて行く方が安全かもしれない。

 

 

 

 

 ……あー、ごめん。やっぱり今のなしで。

 

 

 確かにわたしは死にたくありませんけど、原作だったら○○だから××しようとかいう考え方で生きたくはない。そんな意味不明な指標で安全マージン取って動くのはちょっと無理。確かに知ってることは活用したいけど、それはあくまでただの知識として扱いたいってのが信条かな。知識は使われるもの。知識がわたしを動かすんじゃない。わたしが知識を使って動くんだ。

 

 あれ? 何の話だっけ? あ、そうそう返事だったね。うーん、緑谷少年は根はいい子だと思うし、オールマイトが認めてる程度には展望があるんだろうな。真面目で頭も悪くないし、咄嗟に柔軟な思考と判断もできる。将来性とか加味しても結構な優良物件じゃないでしょうか。

 

 

 

 だがしかあぁああぁぁし!!

       好感度が足りない!!!

 

 

 残念ながらわたしにその気は全くと言っていいほどない! 出会って数話で即落ちる昨今のチョロイン共とは訳が違うのだよォ! 確かに、緑谷少年はいい子なのに違いはない。だが、そこ止まりなのですよ。いいか恋を夢見る少年少女! 異性の印象で「いい人だよねぇ~」は当てにしないことをお勧めする! 十中八九、現時点で脈はないからネ! 人間なんだから馬鹿正直に「アイツだけはない」とか言うわけないでしょ。まあ、その人柄によるけど大体建前を使うもんですよ。

 

 というわけで、申し訳ないが緑谷少年。その気持ちには応えられません。ですが、決して嫌いなわけではありませんので、これからも同じクラスメイトとして3年間切磋琢磨出来たら嬉しい。

 

 

「……申し訳ないけど、わたしにその気はないんだ。だから……ごめんなさい」

 

「ッ! そんな――」

 

 

 うっ……本当に辛そうな表情。割と本気の気持ちだったのかな。だとしても、こればかりはどうにもならない……かなぁ。陳腐な言い方になるけど、タイミングがちょっと早すぎたんだよ。もう少し一緒に学生生活送ってたら気持ちも違ったかもしれないしさ。フッた本人が言うのもあれだけど、人生これからだしあんまり気を落さない方がいいよ。友達としては十分良い関係が築いていける……と思うから。

 

 

「ど、どうしても……ダメかな? あっ! でも、確かに僕だけ君に頼むってのもフェアじゃないよね。萬實黎さんが望む事……僕に出来る事なら何でもするからさ。だから、その……」

 

 

 

 ん? 今何でも言うこと聞いてくれるっていったよね?

 

 

 

 まあ、冗談ですけど。しかし、思った以上に食い下がりますね……というかフェア? 恋愛って損得勘定でするもんじゃなくない? そりゃ自分の将来にも関わるかもしれない事柄だし、多少はあっても不思議じゃないけどさ。いやでも、最近の子はサバサバしてるからそれが普通なのかな? おい誰だ今ちょっとおばさんっぽいとか思ったやつ表出ろ。

 

 うーん、何度考え直したところでわたしの考えは変わらないしなぁ。しかも、これだけ本気な感じ出されたら、余計に中途半端な温情でOK出したくないよ。変な優しさが人を傷つける事だってあるんだからさ。だから、本当に申し訳ないんだけど――。

 

 

 

「どうか、僕の『自主トレ(・ ・ ・ ・)』に付き合って頂けないでしょうか!! お願いします!!!」

 

 

 

うんうん、気持ちは伝わったから。必死にもなるよね、何せ自主トレ…………ん?

 

 

 …………は? 自主トレ???

 

 

 

「え、あ、うん。オールマイト……ぁ、先生に! 個性を使いこなすためには何をしたらいいかって聞いたら、とにかく今は何度も使って馴染ませるしかないって言われたんだ。でも、馴染ませようも体の方が保たなくてさ。それで解決策を考えてみたんだけど、萬實黎さんの個性は他の人を増強したり弱体化させたりできるでしょ? それなら、もしかして僕の体を強化……延いては個性を弱体化させて僕がコントロールすることができるかなと思ったんだ。だから、萬實黎さんの都合が付く日でいいから協力してほしくて……あっ! 負担が萬實黎さんに掛かったり、萬實黎さんが本気で体育祭に勝ちに行きたいんだったら断ってくれても全然構わないんだよ!? もしかして、そうだった!? ごごごごめん無神経なお願いして――!!」

 

 

 

 

 ちょ、落ち着けぇ!!

 

 

 

 いきなりマシンガントークすんなし! 言葉足らずの部分にツッコミたかったのにタイミング完全に見失ったでしょーがァ!! あぁもう、なんか……わたしの何分かの葛藤を返せ!! 色恋沙汰と勘違いした挙句、真面目に男女の関係についてのうのうと語っちゃったじゃん!! 何が中途半端な優しさは傷付け……うがあぁああぁあ!! クッソこれが中学時代を鍛錬に打ち込んだ脳筋喪女の弊害かよォ!! 殺せ! いっそ殺してぇ!! あ? 前世? この反応の時点でお察しでしょうがぁあぁああぁぁ!!!

 

 

「……帰る」

 

「え? あの……返事は!?」

 

 

 主人公でしょ! 個性の制御ぐらいひとりで乗り越えなんし!! 後は、あー、うー……ダメだ思考が纏まらん! 今日はもうホントに帰る! え、恥ずかしいのか? は、はぁあぁぁあ!? 別に恥ずかしくなんかねぇですしィ!? ちょっとした聞き間違いのアクシデントでアンジャッシュしただけじゃん!? わたし何とも思ってませんからぁ!! 頭がはたらかないのはちょっと昼ご飯食べ過ぎて眠かっただけですぅ。いつも死ぬほど食ってる? あーあー! 何も聞こえませーん!!

 

 

「気が向いたらね」

 

 

 とにかく、マジで帰るからな! さっさとお風呂入って録画した朝ドラ見てイベント周回したら寝るからな!! 緑谷少年も暗くならない内に帰れよ! じゃあの!!

 

 

 

 

 

 

「あっ……行っちゃった」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「……チッ」 

 

 

 この舌打ちに意味がないことぐらい分かってる。だが、自身の不甲斐なさにどうしようもなく苛立つ。比較対象にアイツを持ってきてる事実が余計に腹立たしい。ここ最近は気分の悪いまま帰路に着かされてやがる。

 

 井の中の蛙だった事実は認めた。

 

 あのとき、脳無とかいうクソヴィランをオールマイトがぶっ倒して……俺は少なくとも安心しちまった。トップとして戦う背中を見て「もう大丈夫だ」って思っちまったんだ。それは守られる人間の発想だ。勝てないから誰かに縋ろうとする弱い心だ。そのとき、そんなことに俺は気付きすらしなかった。

 

 だが、その後だ。オールマイトにあの手だらけヤロ―が突進したときにアレは起きた。デクのヤローが無謀にも突進しやがったんだ。アイツはあろうことかオールマイトを「守ろう」と動いた。そんときに、俺は気付いちまったんだ。

 

 

 

 俺の心は、未だヒーローになりきれていない。

 

 

 

 自分の信条を曲げるつもりはねぇ。俺の正義は悪を徹底的に潰すヒーローだ。だが、それ以前に未だ自分が守られる人間の発想をしている時点で話にならねぇんだ。トップになるってことは、誰も自分より強くねぇってことだ。俺が勝てない奴に他のヤツは勝てねぇ。守られるなんてことがあったときは、少なくとも他の誰かを犠牲にする事になる。そんなゴミみてぇなトップなんざいらねぇ。俺が目指すのは完膚なきまで1位だ。俺が全てをぶっ倒して手に入れるモンだ。

 

 

 

 

 

『大丈夫……かっちゃん?』

 

 

 

 

「……クソがァ!!」

 

 

 今一度、腹は括った。誰の施しも受けねぇ。俺は俺だけの力でトップヒーローになる。これだけは絶対に譲らねぇ。自分の牙を研ぐために出し惜しみもしねぇ。雑魚だろうが格上だろうが容赦なくぶっ潰す。そうすりゃ……そうしてれば必ずオールマイトを――。

 

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 ふと、それが視界に留まった。

 

 見覚えはある。というより、ある意味忘れられないヤツだった。デクとは違ったベクトルで気に食わねぇ存在。ソイツが直接俺に何かしたわけじゃねぇが、入学直後は少なくなとも潰すことだけを考えてた。会話したことは一度もねぇ。他の奴らはそれなりに関わってるみてぇだが……正直、今となっては気味が悪ィ。

 

 

「……能面女」

 

 

 名前は……萬實黎とか言ったか。あいつが実技入試1位って事以外情報がねぇ。貼り付けたみてぇな無表情で何考えてるかもわからねぇ。口数の少ねぇ奴は他にもいた気がするが、なんつーか……そいつらとは別物の気がする。雄英に入って浮足立つ連中とは一歩身を引いた場所にいる……そういった雰囲気を醸し出してるって言うべきなのか。気に食わねぇことに変わりはねぇが、絡む理由もねぇ。とりあえず、様子見……。

 

 

 

「……って、何で俺がこんな事考えなきゃなんねぇんだァ!?」

 

 

 アホくせぇ! あんな女個人の事なんざどうでもいいだろうが! 今は俺の力を磨くこと、そして、体育祭で俺という存在を世間に知らしめることだけを考てりゃいい。全員平等に全力で返り討ちにしてやる。アイツもそのひとりってだけの話だ。

 

 そうだ、他人の事うだうだ考える暇があったら自分を鍛えるべきだろうが。とっとと帰ってトレーニングでもしてる方が有意義に決まってる。チッ、無駄な時間使った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……体育祭、バックレようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな言葉を聞こえたときには、俺はアイツに食って掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイコラ能面女ァ!! テメェどういうつもりだ! ア"ァ!!?」

 

 

 

 

 何なんですか今日はぁあぁあああぁあ!!!?

 

 

 緑谷少年からは告白(偽)受けて、今度は爆発三太郎に因縁付けられたんだけどぉ!? とんでもねぇぐらい厄憑き日和だねぇ!!? そして、なんで初っ端からブチギレてらっしゃるのこの不良!? あ、でもいつもこんな感じだったよーな気が……い、いえ何でもないですぅ!!

 

 あ、あの、そもそも何故そんなにお怒りなのでしょうか……? え、体育祭をバックレるとかふざけてんのか? お前も捻じ伏せなきゃ完全なる勝利を得られない? いや、何言ってんのこの人!? わたし不在でもいいじゃん! どうせ他人しか強化できない後衛職だよ!? 見るもの全てが敵なの!? わたしもう分かんないよぉ!!

 

 

「別に……興味がなかっただけで」

 

 

 ホンットそういうバトって勝ち抜くみたいなイベントそこまで好きじゃないから! まったりできればそれでいいんです! なので爆豪少年が歯牙にかける価値なんてわたしにはないんですよぉ!!

 

 

「テメェ腐っても主席入学だろォが! 入試1位の雄英生がサボるなんざ許される訳がねぇ!ちったぁ自分の立場ぐらい自覚しろやァ!!」

 

 

 デジマ!? 何それめっちゃ困りますぅ!? は、計ったな国立機構……そんなトラップがあるだなんて……! むぬぅ、お茶子ちゃんにも頑張ろうね体育祭とか言われてるし、サボったときのダメージ考えたら胃が重くなってきた……。

 

 うん、しょーがない。適当にやってぱぱっと終わらせよう。そんで目立たない内に退場しよう。出される科目とかさっぱり分からんけど、1年生全員でやるバトロワみたいなもんでしょ? なら脱落しちゃえばオッケーじゃないか。うん、それなら平和的に万事解決する。そうと決まれば話は早い……あれ? でも待って? 結局、なんでわたしはこの不良少年に絡まれてるんですかね??

 

 

「俺はテメェをぶっ倒して更なる高みへと昇る。本気で来なかったらぶっ殺すからな」

 

 

 どの道わたしが死んでますよねソレ(絶望)。

 

 まあ、それはさておき……うん、結局分からんわ。不運なことに変な注目を集めてしまっているのは、遺憾ながらも自覚してますけどね? それにしても、直接戦闘で一切役に立ってないわたしに食いつく意図が読めないよ。全力で来いっていうけどわたし適当にやるつもりだし……あー、でもこの子結構目敏いんだよねぇ……。授業とかでも周りをしっかり観察しながら細かく行動を決めてる節があるし、誤魔化すのはちょっと難しそうだなぁ。あぁもう、ホントなんでわたしなんかに――。

 

 

 

 

 

俺の全てをかけて(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ねじ伏せてやる……忘れんじゃねぇぞ」

 

 

 

 

 

 ……あぁ、そーゆーこと。自分も全力出すから、お前も全力で来いってことですか。なんか最初の印象と違うなぁ。刺々しいのに変わりはない。でも、無差別攻撃みたいな事はしなくなったっていうか。関わった事ないから偏見オンリーだったのは否めないけど。もしかしたら、爆豪少年なりの気遣い……な訳ないですね。だって、人殺しそうな目してるもん(白目)。

 

 致し方ない。こうなったら腹括りますか。モノホンのヴィランと戦うとか危険度の凝り固まった様な催しじゃないんだし。学生は学生なりにじゃれあって見せますよ。

 

 

「あっそ。それじゃ死なない程度にやればいい?」

 

「んなッ……!?」

 

 

 おっと、驚いていらっしゃる。やる気だしたことがそんなに以外だったかな? まあ、人前で前向きな意思表明なんてしたことないし当たり前か。ふっふっふ、そんな面食らった顔も出来るんじゃないですか。少しスッキリ。

 

 

「もういい? じゃ、わたし帰るから」

 

 

 言うこと言ったし、後は帰路に着くだけですよ。わたしには朝ドラ見る使命がありますので。疲れを癒して明日という理不尽に立ち向かう膂力を蓄えるんだ……がんばえー。かなでしゃんかんばえー。そんじゃ、またな少年! 良い夢見ろよ!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ただ、立ち尽くす。それでいて握られた拳には確かな熱が籠っていた。目を凝らせばそこに意思を宿すように小刻みに揺れていたことが見てとれたはずだろう。

 

 

 

 

 

『あっそ。それじゃ《君が》死なない程度にやればいい――?』

 

 

 

 

 

 

「……上等だよ、能面女」

 

 

 

 

 

 呪詛を吐くように呟く。切ったメンチをそれ以上の啖呵で切り返された。言わずもがな屈辱感が全身に駆け巡る。まるで苦虫を噛み潰したように眉間にはかつて無いほどの皺が刻まれていることだろう。

 

 

 

 

 

 それでいて己の口角が吊り上がっていたことに、繊細な少年でも気付くことはなかった。

 

 

 




 主人公を自爆させたい人生だった……。


 ずっと勘違いさせっぱなしもいいけど悶絶もさせたかったので執筆。

 コメントはホントに待って……今度まとめて返すから……。


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第15話「陰キャでも祭が好きな奴はいる」

 8割の時間を茶番に割き、ルビ振りに文字数上限ある事を初めて知った今日この頃。




Oh, him(あいつのことか)...?

 

Yeah, I know him(ああ 知ってる).

 

It's going to take a while(  話せば長い  ).

 

It happened years ago(  そう 古い話だ  ).

 

 

Did you know(知ってるか?)... there are three kind of hero(ヒーローは3つに分けられる)?

 

 

――Those who seek strength(強さを求める奴)

 

――Those who live for pride(プライドに生きる奴)

 

――And those who can read the tide of battle(  戦況を読める奴  ).

 

 

...Those are the three( この3つだ ).

 

 

 

And him( あいつは )...

 

 

He was a hero they called(彼は『第二の平和の象徴』) Symbol of Peace Second(と呼ばれたヒーロー).

This man was his heir(『彼』の後継だった男).

 

 

"Yo boy(やあ少年), just look at the view(  いい眺めだ  ).

There’s not much difference(ここから見ればどんな) between those heroes from up here (ヒーローも変わりはないさ)."

 

 

 

 

――He is the man I seek(私は『彼』を追っている).

 

It was a warm and clear sky day(あれは温かく晴天の日だった)...

 

 

 

"There’s a large-scale lump( 第一エリアで) of peace taking place near first area(大規模な氷塊を確認!)!"

 

"Our disturbance’s here?( 妨害か? ) Who did they send us?(何処のクラスだ!)"

 

"1-A, we cannot authorize a drop out(1-Aに脱落は許されない)."

 

"I figured you’d say that(   だろうな   ). This is gonna strengthen you extra(  バフの上乗せだ  )."

 

 

 

"This is department of support from 10 million( こちらサポート科から1000万の人へ ). I’ll support you any way I can( 可能な限り援護します! )."

 

"If you drop out, crash where I can’t see(脱落するなら俺の見えない所で勝手にしろ)."

 

 

 

―― Yuei Sports Festival is shrouded in mystery( 雄英体育祭には謎が多い  ).

 

 

 

Everyone is a hero and a villain(誰もが正義となり 誰もが悪となる).

 

And no one knows who is the victim(  そして だれが被害者で  ), and who is the aggressor( だれが加害者か ).

 

 

And what is “hero”(一体『ヒーロー』とは何なのか)?

 

 

 

"Bakugo is approaching( 爆豪がこちらに接近! ). Shoot them down and pull away from here( 撃ち落としてこちらから引き離すぞ! )."

 

"They’ve come to greet us at the door(  玄関でお出迎えしよう  ). Time to hunt a mad dog(  狂犬狩りだ  )."

 

 

 

"These are Son of Endeavor( エンデヴァーの息子だ! ). Stay sharp(油断すんな)."

 

"It’s nothing special(推薦入学がなんだってんだ). I'll take care of things(俺がぶっ倒してやる!)!"

 

 

 

No rules in a 3rd event(第3種目にルールはない). You just have to take the enemy out(  ただ相手を倒すだけ  ). This fight will not end until one( この戦いはどちらかが) side is completely knocked down(倒れるまで終わらない ).

 

 

 

"Learn to accept it, boy( 受け入れろ少年 ). This is reality(これが現実だ)."

 

"Rear guard bastards(この後衛クソ女がァ!!)!!"

 

"Use quirk, coward(個性使えよ 臆病者!)!"

 

 

 

 

I WILL survive(わたしは絶対に生き残る)...!

 

 

 

 

 

 

――MY HERO ACADEMIA ZERO

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか変な夢見た気がする(寝ぼけ眼)

 

 

 なんだったんだ今のは……クラスのみんなが戦ってた気がするし、声も何か無線チックなフィルターが掛かってて、何故か言語設定が英語でスタイリッシュな日本語字幕が流れてた気がする。一体何コンバットのプロローグなんだ……。

 

 

 

 

 あ、おはようございます。

 

 

 今日もいい天気になりそうですね。窓から流れてくる空気が美味しくて涙が出そう。こんな日はピクニックにでも行きたくなりますね。ええ、めちゃくちゃ行きたいですとも。それはもう学校をサボってもいいと思えるぐらいに。うん、そうしよっか。だってこんな日なんですもの。うんうん、今日ぐらいは休んでもいい――

 

 

 

 

バタンッ!

 

 

 

 

 ふぁッ!? お、お母様!? どうしたんですかそんな鬼の様な形相で、ってあぁッ!? やめてぇ! 布団を剥がさないでくださいましぃ!! さっさと学校行けって……そんな!? 今日学校行ったら例のアレに参加しなくちゃならな、ひぇっ!? わ、分かりましたぁ行きますよぉ!! 行きますから指を鳴らしながらこちらに詰め寄ってこないでくださいぃ!!

 

 

 

 

 

 

 

...少女準備中...

 

 

 

 

 

 

 朝から酷い目に合ったぜ……はぁ。お察しかも知れんですが、今日は待ちに待った体育祭の日。そして、最も通り過ぎてほしい一日のひとつでございます。

 

 マジかー。ついに来ちゃったよ。オリンピックとほぼ同義のお祭りとか絶対注目の的じゃないですかヤダー。まあ、でも1年生全員でやる地下闘技場トーナメントみたいなもんでしょ? 死なない程度に頑張れば某不良少年も満足してくれる見たいですし、そんなに肩肘張って身構える必要もありませんかね。本当に地下闘技場だったらわたし生きて帰れないけど。

 

 

「奏ちゃん落ち着いてるね。私はドキドキが止まんないよ~」

 

 

 うんうんそっか。わたしも絶賛ドキがムネムネしてますよお茶子ちゃん。このまま心不全で亡くなるんじゃないかな(白目)。

 

 説明するまでもないかもですが、わたしたちは控室で屯ってます。みんないい表情してますね。適度に緊張してるけど尻ごみはしてないっていうか。度胸の塊かよ。いや、自信家が多いだけかな? これは折られた時が大変そうですわぁ。

 

 

「……いや、選手宣誓で何言おうかなと思って」

 

「あ、新入生代表だもんね! 気合入るやつ期待してるから!」

 

 

 あう。ガチで慕ってくれる子の羨望がツライ。直前まで何も考えてない時点でわたしに非があるのは明確なんですけど、こーゆーコミックな雰囲気の場所でウケる語彙力なんて持ち合わせてないんでどうにもならなかったんですよ。気の利いたことも言える自信ないので普通に終わらせることになりそうですがね。それはそれで目立つ? じゃあ、どうしろと(血涙)。みんな頑張ろうとか言えるキャラじゃないですし……ぐぬぬ、マジでどうすれば――。

 

 

「あんまり気負わなくてもいいんじゃなーい? ただの選手宣誓だよー?」

 

 

 三奈ちゃん、普通の選手宣誓は全国のお茶の間に流れたりしないと思うの(白目)。ええ、ご家庭の細やかな鑑賞会に一瞬映るとかだったらわたしも許容しましたとも。下手なこともつまらんことも言えないって難易度インポッシブル過ぎない? トム・クルーズ呼んできてどうぞ。私には無理です。

 

 

 

 

「おい、緑谷……それに萬實黎」

 

 

 

 むむ、男子の声。基本低いけど高音出せそうな雰囲気のこれは轟少年だな。どうしたよ、わたしと緑山少年のセットって。主人公と並び立たせる理由なんて皆目見当もつかないんですが。

 

 

「客観的に見ても、純粋な戦闘能力だけだったら俺の方が上だと思う」

 

 

 おっそうだな。当たり前田のクラッカーってヤツですね。そんな自己顕示欲の塊みたいなこと言うキャラだったん……いや、これ多分ただの天然ですね。しかも、イケメンだから許される的な。どれだけ内面が醜悪だって外見によってはカリスマと捉えられるんだから捻た世の中ですよ。

 

 おっと、話が逸れました。で、その実力差が明確な相手に何の用でしょうか。

 

 

「お前らオールマイトに目ぇ掛けられてるよな。そこ詮索するつもりはねぇが……お前らには勝つぞ」

 

 

 宣戦布告かーい。てか、ちょっと待て。わたしそんなにオールマイトに注目されてたことあった? ただの一般通過女子高生なんですけど。確かに棚ぼたで入試1位もぎ取ったり、クジ運でオールマイトと組んだり……あれ? 結構絡んでるのでは??

 

 いやいやいや! 全部偶然ですから!! 勝手にそうなっちゃっただけで実力も見合って無いし、なんなら個性だってサポート向きですよ? そもそも、なんで注目されるような事をわざわざこの場で言うんですかぁ! ハッ!! もしやあれか、戦闘訓練の時の事まだ根に持ってんのか!? だとすれば、あれはオールマイトがいたから勝てただけで――。

 

 

「――僕も、本気で獲りに行く!」

 

 

 緑谷少年んんんんゥゥ!? 何勝手に覚悟完了しちゃってる顔で啖呵切ってるんですかぁ!!? そんなこと言ったら確実に……ほらぁ! みんなの視線がこっちに向いちゃったよぉ!! 絶対わたしも何か返さないと収まらない雰囲気でしょこれ!! 知らんぞ!? わたしにカッコイイ台詞求めても無理だからな!? 大したことは言えないからな!? 普通の言葉返すからなぁ!!?

 

 

 

 

 

 

「……わたしなんかより他の皆の方が強いよ。もうちょっと視野広げたら?」

 

「は? どういう意味だ」

 

 

 そのまんまの意味なんですが(困惑)。どう考えてもそこの爆豪少年とか切島少年とかの方が強いじゃん。タイマン張ったら私の勝ち目が薄いことぐらい理解できてるでしょうに。そして、ちょっとなんでキレ気味なの? リアルにハイライトない目とか怖いんですけど。カルシウム足りてる? 足りてるなその高身長は。くっそ、わたしなんて158しかないのに。いや、そうじゃない。そもそもなんで怒ってんのこのウルトラマンヘアスタイルは?

 

 

「宣戦布告するのは構わない。逐一他人の行動に文句言う趣味なんてないし、何なら興味なんてないから」

 

「……俺なんて眼中に無いってか」

 

 

 違ぇわ!! いつわたしが一個人に対して興味がないって言ったよ!? なんでそうナチュラルに喧嘩腰で捉えるかなこの子!!? つか、そもそも最初に喧嘩売ってきたのアンタでしょうが!! 相手にされないからキレるって自己中過ぎんだろ!! なんで、何、あぁもう……!!

 

 

「わたしなんかに構うぐらいならもっと優秀な人がいるでしょって話。何に拘ってわたしと緑谷君に目を付けたのか知らないけど、他の人なんて眼中にないのはどっちなんだろうね?」

 

「ば、萬實黎君っ!? それは言い過ぎだろう!? 轟君もやめたまえ!!」

 

 

 ……あ、飯田少年。ん? あれ、わたし今なんて言った? 変な事口走った気がする。普段なら適当にあしらっていたはずなんだけどな。もしかして選手宣誓とか真面目にやらなくちゃいけないその他諸々に対するストレスでやらかしました? うわー……ここ数年、自分の感情コントロールしきれてない気がする。特に中学2年の半ばからそうだった気が……どこぞのAUOも言ってたけど肉体に精神が引っ張られるってマジなのかな?

 

 

「……そうかも。悪かったね、変なこと言って」

 

「あぁ」

 

 

 うん、一時撤退しよう。思考の仕切り直しってやつだ。場の空気を冷やしたまま黙るのもどうかなと思うけど、正直時間がないんだよね。え、何の時間って?

 

 選手宣誓を考える時間に決まってるじゃないですか。

 

 

 

 もちろんマズいとは思ってますよ! でも、日本国の皆様の前で大恥かく方がもっとマズいでしょ! 毎回思うけど何かしらに迫られてるよねわたし。時間とかヴィランとか課題とか……やはりヒーローになれば安定とか安直過ぎましたかねぇ。まあ、今更後悔したところで体育祭は待ってくれないんですけど(絶望)。

 

 ん、どうした飯田少年? え? もう入場だから控室から出よう? 嘘やん……いや、マジで普通の事言おうそうしよう。無難に注目も引くことなく終わらせるのが最善手のはず。て、体裁さえ保ててしまえば何も問題ないきっと。

 

 

『――今年もお前らの大好きな青春暴れ馬ァ! 雄英体育祭が始まり! Everybody! Are you ready!?』

 

 

 あ、マイク先生の実況が始まったってことは……うおお時間がないっつーかマジで我即入じゃねーか!! くっそ行くぞお前らぁ! もうどうにでもなーれ!

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 茹だる様な熱気とはまさにこの事だった。周囲360度見回しても人、人、人……。日輪に照らされたドームはまるで人間が壁となったサウナの様だ。そんな中、俺たち普通科は一際冷めていたと言ってもいい。当然だ。俺たちみたいな3軍生徒は最初から期待などされていないのだから。

 

 

「あーあ、どうせ俺たちは引き立て役だろうよ。心操もそう思うだろ?」

 

 

 後ろからそう声を掛けられた。勿論、その意見には合意する。客観的に見た事実であることに違いは無いのだから。けれど、その問答は俺にとっては倒錯的なモノとなる。何故ならこの大舞台で何もしないという選択肢はなかったからだ。俺以外の奴もそうなのだろう。口上では不平を吐きながらも、その眼には隠し切れない闘志が宿っていた。本当に、その気持ちは痛いほどわかる。分かる故に――。

 

 

「選手宣誓だってよ。代表は1-Aの……萬實黎? 確かA組以外の奴でアイツの個性は誰も知らないんだっけ?」

 

「あ、でもあたし見たことあるよあの子。ヒーロー科の実技試験のとき一緒だった」

 

「マジ? てかヒーロー科の入試受けてたのかよ。何してたかわかんねぇ?」

 

「うーん、正直あたしも試験で必死だったからねぇ。でも、あの広い会場の中で割と何度も見かけたのは覚えてるよ」

 

 

 使えそうな情報が聞けるかと思い耳を澄ませたが、当てが外れたようだ。だが、ヒーロー科に合格できたというのなら相当戦闘に向いた個性を持っていたんだろう。ヒーロー科の入試はロボを倒すといった内容。何かしらダメージを与える個性でなくては厳しい。ましてや、代表になるくらいだからな。

 

 

「……羨ましい限りだよ」

 

 

 それは本心だった。人は生まれながらに平等じゃない。それは個性がこの世界に生まれる以前からも存在していた真理だ。一個人がどうこう出来る様なことじゃない。諦観を背負って生きなきゃいけないのは理解できた。

 

 だが、それでも人は羨望を抱くものだ。それは憧れに繋がり、行動に現れる。ましてや、今は夢が現実になる時代。それなら自分だって、と思えてしまうのは仕方のない事だと思った。現に、俺はこの雄英体育祭に出場しているのだから。

 

 

「宣誓。我々、国立雄英高等学校の生徒は――」

 

 

 まあ、せいぜいA組やB組連中には驕っていてもらおう。俺たちなんて眼中にない方が都合がいい。それが明確な隙を作ることになるのだから。

 

 

 

 

 

「――如何なる手段を用いたとしても(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)、この体育祭に全力で取り組み、自身らのヒーローとしての価値を見出そうと努力する事を誓います」

 

 

 

 

 

「……なんだそりゃ」

 

 

 思わず口に出た。いや、言っていることは至極まともだった。ヒーローを目指す生徒としては正しい事を宣誓したのだろう。けれど、前半部分……そこに妙な違和感を感じた。如何なる手段? 普通に日頃の努力を最大限引き出しとかで良かっただろう。何故、そんな言い回しをしたのか無性に気になった。

 

 

「それじゃさっそく、第一種目の発表と行きましょうか! 今年の第一種目は……これよ!!」

 

 

 主審を務めるミッドナイト先生が声を上げる。意識は未だに引っかかったままだが、説明を聞き逃す訳にもいかない。そちらの方へと耳を傾けることにする。どうやら、今回は競技場外周を一周する障害物競走の様だが――。

 

 

「雄英の用意する障害物って……うわ、想像するだけで嫌気がさしてきた」

 

「言うなよ……俺らはトップの奴らが退けた障害にありつければなんとなるだろ」

 

 

 それは正しい判断だろう。最初から全力を出す必要はない。恐らく俺らみたいな普通科連中やB組の賢い奴らは徒党を組んで障害を乗り越えようとするだろう。無論、俺もそうするつもりだ。まあ、少し(・ ・)意味合いが異なるかもしれないが、他の奴らは俺を手伝ってくれることに違いはない。

 

 

「さぁさぁ! 位置に付きまくりなさい! とっとと始めるとしましょう!!」

 

 

 さて、あらかじめ有用そうな奴に目をかけておくか。A・B組連中は無しだ。アイツらの『個性』を使えれば有利に進められるかもしれないが、終わった後に十中八九自分の『個性』が他の連中にバレる。なら、隣のD組かサポート科を狙うのが定石だ。死人に口無し。落ちた奴は喋らないだろうからな。

 

 

 

 

「スタート!」

 

 

 

 よし、じゃあ後ろに下がるとするか。どの道、入り口付近は渋滞するだろう。最初からトップに追いつけるわけがないのだから、何人か使えるように取り入ろう。

 

 

「なあ」

 

「あぁ!? なんだお、まえ……」

 

 

 ……よし、何人か確保できたか。そうだな、なるべく今は体力を使いたくない。とりあえずコイツらには担いでもらうか。よっこいせ……ん?

 

 

「おい、お前らなるべく高くジャンプしろ」

 

 

 やはり、後ろから見ていて正解だった。あの個性は……エンデヴァーの息子か。冷気関連の個性とは聞いていたが、さっそく使ってきたな。地面に霜が下ろされたタイミングが見えて助かった。まあ、分からなくても問題は無かったんだが、体力温存が継続できると考えれれば得だろう。

 

 

「……第1エリアが見えてきた。アレは……見たことあるやつだな」

 

 

 

『さぁ! いきなり障害物だァ!! まずは手始め……第一関門"ロボ・インフェルノ"ォ!!!』

 

 

 

 あれか。まあ、面倒なもんだが、そこまで大したことはないか。周りがある程度倒してくれるだろうし……ほら、またデカい冷気が起きた。A組やB組連中で機動力のあるやつは避けていくだろうが、大半は撃墜してくれるはずだ。変わらずこのまま傍観させてもらおうか。

 

 分かっていたことだが……実用性がありつつも、華のある個性ばかりだな。間違いなくあーゆー奴らがヒーローに向いてるんだろう。見栄えも気にしなきゃいけない客商売だから仕方のない事なのは理解してる。不公平な世の中だよ全く。

 

 

 

 

『オイオイオーイィ!! 第一関門は全員余裕かよォ!? なら、第二関門はどうだぁ……?』

 

 

 

 

 どうやら大半が抜けてきたらしい。斯く言う俺も、既に第二関門へと向かっている。ここまでは順調だが、それも第二関門次第ではあることは否めない。

 

 

 

 

『落ちればアウトォ!! それが嫌なら這いずりなァ!! "ザ・フォール"!!!』

 

 

 

 これはまた……個性次第というかなんというか。何人か飛行能力のある異形系は確認したし、そっちの方で残ってる奴に声かけるか。

 

 

 

『先頭は難なく一抜けして……ってちょっと待てェ!!? これはどんなイリュージョンだァ!!?

 

 

 

 先頭でアクシデントか? なら都合がいい。そろそろコースも終盤に差し掛かる。第3関門がなんであれ俺も予選落ちしないよう動く時間だ。申し訳ないが、少し人使いが荒くさせてもら――。

 

 

 

『先頭を走り続けていたはずの轟の目の前に、人影が立ちはだかったァ!! 今の今まで姿かたちすら見せなかったソイツの正体は――』

 

 

 

 

 

 

『1年A組、萬實黎奏ェェーーーーーッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「さっきぶりだね。どう? ちゃんと周り見えてる?」

 

 

 

 

 

 普通科の少年が虎視眈々と勝ちを狙う最中、とある少女も意外とやる気だったりする。ただ、それだけの話。

 

 

 

 

 



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第16話「焼き増しクライマックス」

 前回に心操をだした理由は、この体育祭編におけるもう一人の主人公だと思ったから。本家の方でも他の普通科のキャラとかも出してほしい。



 いい加減自分の無能さに嫌気が指す。何度同じことを繰り返すつもりだ。戦闘訓練から何も学べてねぇ。今の今まで宣戦布告した奴の顔さえ忘れていた。コイツが俺たちの常識の範疇を超えた何かを仕掛けてくるのは読めてたことだろうが。クソ親父に気を取られ過ぎだ。

 

 

『ここに来てトップ入れ替えだァ!! だが、いつの間に追い越したんだァ!? 皆目見当もつかねぇぞォ!!』

 

 

 プレゼント・マイクの言う通りだ。今は後悔なんざどうでもいい。コイツがどんな手段で先回りしたのかなんて考えてる場合じゃねぇ。何を仕掛けてくるかだけ見極めろ。レースはまだ終わっちゃいないんだからな。

 

 

「不機嫌そうな顔。楽しくないの?」

 

「……楽しい、だと?」

 

 

 意味がわからねぇ。楽しい? 無為に個性を晒し上げられるレースの何処が楽しいってんだ。こんなのクソ親父を見返すだけの機会としての体の良い手段に過ぎない。1位になる事以外に興味はねぇ。

 

 

「まあ、わたしには関係ないけどね」

 

「! おい――」

 

 

 その姿を呆然と眺めている事に気づいたのは数秒経ってからだった。あろうことかアイツは脇目も降らず走り出したんだ。その姿を俺は目の前を通り過ぎるまでただただ傍観していた。

 

 

 

『なんだどうした何があったァ!? 萬實黎が走っていく先は第二関門……コースは逆だぞォ!!』

 

『姿が見えないと思ったが……初めからそのつもりだったのか』

 

『どういうことだミイラマン! 解説してくれプリーズ!?』

 

 

 盛り上がる実況が耳に入り意識が覚醒する。目で追っていた萬實黎の後ろ……いや正面から影がもう一つ躍り出た。いよいよ追い付いてきやがった。スロースターター、この競技じゃあ持ってこいな訳か。

 

 

「待てや半分野郎ォ!! そんでテメェは何してんだ能面女ァ!!?」

 

 

 爆豪……個性の相性は良いとも悪いとも言えねぇ。萬實黎に気を取られている今のうちにさっさと退散するべきだ。萬實黎の行動は意味不明なままだが、これ以上足を止めるのは愚策だろう。今までのレベルを鑑みてこの先の障害物の難易度もそこまで高くはないはずだが、用心に越したことはない。

 

 

「テメェ本気出すって言ったじゃねぇか! 騙しやがったのかコラァ!!」

 

「騙してない。わたしはわたしで本気出してる。だからホラ――」

 

 

 

 

 

 

Battle codeⅡ:Gandir(はい、ふたりともガンド)

 

 

 

 

 

 

「ぐッ!?」

 

「がぁ……っんだコレ!?」

 

 

 

 体が重い……!? 他人に対して何かしらの効果を与えるっつー萬實黎の個性か!? 厄介なもん押し付けやがって……! だが、辛うじて動く程度の重さだ。問題は――。

 

 

 

『アイツはこの競技で勝つ事に拘っていない。それは単純に、アイツにとっての勝利条件が他の奴らと異なっているだけの話だ』

 

『そいつぁ……じゃあ、萬實黎にとっての勝利条件って何なんだYO』

 

『見てれば分かるさ……そろそろ頃合いだろう』

 

『おぉ? おぉぉ?? OH YEAH!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

『萬實黎の横を通りすぎたヤツらの勢いが増してるぜェ!? 喜べマスメディア! お前ら好みの展開だァ!!』

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 やっほー。奏だよー。時間的には轟少年が入り口付近の人たち軒並み凍らせた辺りですね。キンッキンに冷えてやがる。あ、これ言ったの試験会場ぶりだわ。

 

 やっぱり正面突破じゃ上位にはいけないですね。生身であんな大怪獣バトルみたいな現場に突っ込むとか自殺行為に決まってます。お、3人ぐらいが人混みの上を飛んでった。空中でも機動力ある人たちは楽でいいですね。

 

 あ、やる気あるのが珍しいと思います? そりゃあ、ずっ友マイワイフ(候補)のお茶子ちゃんと約束しましたから。「頑張ろうね!」って言われましたし、それなりに誠意を見せようと思いまして。でも、正直難しいよね。外周4㎞を走るだけだったら余裕なんですけど、バリバリ妨害とかされるのは辛い。なんとか人目に着かないで完走する方法ないかなぁ。

 

 

 

 

 

 お?

 

 

 

 

 

 閃いた気がする。けど、これ絶対わたし脱落するよね。屁理屈の塊みたいな理論で駄々こねる事はできるかもしれないけど……いや、待てよ。最大のメリットは実はそこにあったりもするのではなかろうか――。

 

 

 

 

「……行きますか」

 

 

 

 

 最初だけ運が絡むけど、それくらいは我慢しないとね。そろそろ氷が溶けて全員動き始めたし、これにわたしも乗じるとしましょう。この策を講じる上で一番めんどくさいのがカメラですよカメラ。目立った行動はすぐさま上映されるからね。ある意味斥候の動き方を鍛えられるいい機会かもしれないですけど、今じゃなくて良くない? わたしは悲しい。

 

 ちょっと見回すだけでも結構な数仕掛けてあるのが見える。死角とかあったりするかな? あんま無さそうですね。でも、こんだけあるって事は一片に監視するのも大変だろうから、本当に目立たなければって感じする。候補としては壁際か。一応コースの端は高さ数十センチの板で舗装されてるっぽいし。半分以上のカメラから身を隠せるなら御の字でしょう。

 

 

 

 

 よし、じゃあみんなと移動しつつちょっと足並み遅らせて……ここを右に曲がります(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。ここまで言えばもう読めたって人いますよね。

 

 

 

 

 

 そう、わたし今から『逆走』をします。

 

 

 

 

 

 利点は競争相手がいなくなる事、欠点は予選落ちする事。以上。

 

 まあ、正直なところわたしにとっては早く終われる口実になるんで欠点らしい欠点ではないんですけどね。元々は予選落ちして退場するつもりだったので。爪痕を残せたら特に順位に興味はないよ。その爪痕も後付けの産物だからわたしの意志はまったく介在してないのだけども。

 

 

 

 さーて、壁に沿ってスニーキングして数分。開けてる場所が見えてきたけど、あれが障害物なのかな? なんも無いように見えるけど。

 

 

 

 おい何だこのドクロマークは(迫真)。

 

 

 

 

 どう考えてもオシオキだべぇ的なヤツじゃないですかコレ。マジで言ってるのこの学校。わたしってか生徒の何人かが死ぬのでは? 流石に致死性は無いと信じたいけど……怒りのデスロードとかマジ勘弁して。

 

 あぁ~、うっすら地面に跡は見えますね。見た感じこのエリアは200~300mぐらい……這って行けば何とかなりそうかな。目を凝らせるし、カメラの視線は切れるからそれが最適解な気がする。

 

 

 

 よーし、やってみよう。後、なんかに使えそうだから何個か持っていってしまえ。地雷ならスイッチ式だから取り扱いは注意しなきゃなんないけど、最悪押したら押しっぱなしにしとけば爆発はしないだろうしね。ひぇ~、恐ろしや恐ろしや……あれ?

 

 

 

 

 

 

 ...10分後...

 

 

 

 

 

 

 総評:『クッソ簡単だった』

 

 

 

 

 見掛け倒しにもほどがあるよ……製作者の想定された状況ではなかったのが功を奏しましたね。そんなに敷き詰められてるわけじゃなかったから助かりましたわ。等間隔に約50cm。周りからの妨害があるわけでもないので意外と楽勝でした。確かに、後半向きの障害物なのは納得。先頭ほど不利になるわけですし、順位総入れ替えのどんでん返しも起こりうる。まさに、メディアを意識する上では十分なエンターテインメント性と言えるでしょう。なんかスマンな雄英高校……。

 

 

 

 さて、気を取り直しまして走っていきましょう。ここ通り抜ける間のマイク先生の実況を聞いた限り、早くも先頭は第二関門を終えるっぽい。しかも、トップは相変わらず轟少年のままだそうで。しかも、一度も追い抜かれたりしてないみたいです。分かってたことだけど、凄いね轟少年。個性自体の性能もそうだけど、それを制御できるだけの技量も凄まじい。流石、推薦入学者ってだけはありますわ。まあ、その鼻っ柱を叩き折るために逆走してきた訳なんですけどね。

 

 

 

 あ、見えてきた。どうやらあっちもこちら気付いたご様子。とりあえず挨拶は大事だな。ドーモ、トドロキ=サン、バフモリウーマンです。

 

 

「…………」

 

 

 ……無言は悲しいから止めちくりー。物凄くムスッとした顔してますやん。ずっとトップで走ってきたのにどうしたんですか。さぞ気持ち良かったでしょうに。わたしがマ○オカートで同じ状況だったら笑いが止まらんぞ。

 

 

 

 

 

「……楽しい、だと?」

 

 

 えぇ、なにその某メモ帳付きポエム集みたいな反応……(困惑)。そんなに衝撃受けるポイントだったか? なんなら、わたし個性も使ってもないし、月牙天衝だって受け止めてないよ? まだ完全虚化には早いと思うの。え、違うかな? わたし何か間違ってるかな??

 

 

「…………」

 

 

 と、とにかく、ここはスルーしようか。振ったのはわたしだけど、轟少年なんも答えないし気まずいし。あんまり古いこと引きずるのは良くないよね! わたしはわたしが今成すべきと思ったことを信じましょう!

 

 

「! おい――」

 

 

 「そっちは逆だ」って言うんでしょう? ふっふっふ、そんな在り来たりな台詞を掛けられて止まるわたしじゃありませんよ。口数が少ないんだから、もうちょっとユーモアのある語彙を覚えて出直してきな! じゃないと女の子は振り向いてくれないぞっ☆

 

 

「何してんだ能面女ァ!!? テメェ本気出すって言ったじゃねぇか! 騙しやがったのかコラァ!!」

 

 

 ぎゃああぁああぁぁあ!!?

 

 

 

 アイエエエバクゴウ!? バクゴウナンデ!? え、追い付いてきたんですかそうですかおめでとうございますぅうううぅぅ!?

 

 い、いや、騙してませんって! わたしなりに考えた結果なんです! だから怒らないでお願いします!信じてください何でもはしません!! あ、ダメだこれ。絶対に納得せぇへんヤツや(悟り)。クッソこうなったらさっさと退散してくれるわぁ! 食らえ約10話分(当社比)開けて久方ぶりの例のヤツ! 御唱和下さい、せーの――!

 

 

 

 

 

All reboot. Battle codeⅡ:Gandir!!(はい、ふたりともガンドォ!!)

 

 

 

 

 

「ぐッ!?」

 

「がぁ……っんだコレ!?」

 

 

 

 

 逃~げるんだよぉおぉぉぉ!! お前たちはそこで奏特性改良型ガンドを堪能してなぁ! まあ、改良っていうか殆どオリジナルに戻しただけの魔術ですけどね! 以前試験で使ったヤツはイメージを某うっかりさん仕様にしてたから物理的なダメージもあったんだけど、今回のは少し違います。

 

 ほら、ガンドってFGOだと数秒間完璧に動き止める魔術でしょ? 前にわたしが使うスペックだとかなり型落ちするって言いましたよね? ですので、数秒どころかコンマ数秒しか止められん訳でして、どうしよっかなーってずっと悩んでたんですよ。そしたら、天恵が降りて来ちゃったんですね。

 

 

 

 

 逆に考えるんだ。(性能が)落ちちゃってもいいさと。

 

 

 

 

 つまりですよ。完全に動きを止められなくても、ある程度の荷重があれば動きを鈍らせることはできるんです。なので、行動不能の精度を落して、効果時間を引き延ばそうと試みたのが今回の事例になります。いやぁ、割とすんなり形に出来ましたよ。というのも、これに関しては早々にわたしのイメージが固まりましてね。お風呂で頭洗ってたらビビッて来ちゃいました。ほら、シャンプーって少なくなったら水足して薄めて使いますよね? あれと同じです。いや、しょーもない例えで悪いとは思ってるんですけど、死ぬほど納得がいってしまったので致し方なし。庶民の発想なんてこんなもんでしょ。本物の型月魔術師が聞いたらブチギレるやろなぁ……主にMs.うっかりとか借金背負った時計塔のロードとか。

 

 まあ、結果的に棚ぼたで性能は本来の北欧の呪いみたいな感じ仕上がって、イメージもばちばちに固められたって寸法です。寧ろ、試験の時の奴の方がイメージ固めるの大変でしたよ。なんですか、指から撃つって。霊丸撃ってはしゃいでたのは一世代前だっつーの。ガンドって普通は風邪引かせるショボい呪術だからね? 改めて言うけど、銃弾みたいにぶっ放したり、神性持ってる英霊を止められるような代物じゃないからね?? 映像のついてる使用例がオカシイだけだからね???

 

 

 

 よぉーし、そんなこんなで解説終了! そして、走り続けたおかげで見た事あるやつらに遭遇です! A組の皆、元気しとぉや!!

 

 

「萬實黎……!?」

 

「か、奏ちゃん!? なんで前から走ってきてんの!?」

 

 

 いい反応しますねぇ。そうそう、こういうので良いんだよこういうので。

 

 さて、君らには今から仕事をしてもらいます。何が何でもあの2トップを叩き落としてきなさい。今、彼らの足止めしてきたから頑張ればイケるはずですよ。今なら予選トップ入賞も夢じゃないのです。

 

 

「え、えぇええぇ!? でも奏ちゃんは!? 思いっきり逆走しとるやん!!?」

 

 

 えーっと、それは……ほら、わたし後衛職な上に自分にバフ掛けられませんので、この競技だと死ぬほど厳しいというかなんというか。デバフも単体系ばっかりな上に、今回はこのカルデア戦闘服に見立てた体操服と、下着代わりの水着礼装しかないのでどう考えても負けは明白なんですよ。え? 素の身体能力だけでも十分いける? うん、言いたいことは分かるよ。最初から勝ちを捨てに行くなんて、そんなの認めないよね。そうかもしれないけどさー、言われちゃったんですよわたし。

 

 

 

 

 

 

『――お前らには、勝つぞ』

 

 

『俺の全てをかけてねじ伏せてやる……忘れんじゃねぇぞ』

 

 

 

 

 

 今のわたしじゃ逆立ちしたって彼らには勝てない。この予選で1位は疎か突破すら怪しい。そんなことは分かりきった事実なんですよ。だったら答えは決まってるじゃないですか。

 

 

 

 

 

「――棄権上等。彼らに勝てるなら、わたしは体育祭を捨てる」

 

 

 

 

 

 ……まあ、これが最低限の義理ってもんでしょう。爆豪少年には死なない程度にやってやるって言っただけで、正直やりすぎな気もするけどね。ふたり同時にトップから引きずり下ろすためには、こんぐらいしないと不可能だと思うし勘弁してほしいな。他力本願の極みだけど、わたしはわたしのポリシーを貫くだけです。

 

 

 

 ――怠惰も極めれば勤勉なり

 

 

 

 何処の誰が言った言葉かは忘れたけど、ずっとわたしの座右の銘として刻まれている言葉。怠けようとするのは楽がしたいから。楽をするために人は効率化を図ろうとする。効率化は対象を深く知らなければ不可能なもの。故に、本当の怠惰を求める人間はいずれ勤勉に至るのだ。

 

 でも、それって当たり前のことだよね。だって人間は楽を求めて生きるものだもの。愛楽、快楽、慰楽、娯楽……それらを得るために、必死にはたらいている。人がはたらくのは外でもない、その先にある『楽』を求めているんだよ。だとすれば、ほら。わたしの行為は至極自然でしょ? 自らの「安楽」のために、この苦労(はたらき)は必要なものと考えて行動しているんですから。

 

 

「……さ、行って。良い順位を勝ち取ってきてよ」

 

 

 持論の説法はここでお終い。そんなわけですから、皆さんには是非とも頑張ってもらいましょうや? ほらほら、良い順位になりたいでしょ? ゲスい? はっはっは、何とでも言うがいいさ! 動き出した歯車は自ら止まることは出来ぬ! それはこの体育祭自体が中止にでもならん限りあり得ぬ未来なのだよぉ!! うぁっはっはっはっは!! 是非もないのぉ!!(cv.釘宮理恵) お前たちはわたしの体のいい駒となるのだァ!!

 

 

 

 

「…………うん、わかったよ。奏ちゃんの覚悟、ちゃんと受け取ったから」

 

 

 

「あぁ、そうだな……勝つぞ。お前が託した想い、絶対無駄にはしねぇ!!」

 

 

 

「お前らァ!! 全員最後まで諦めんじゃねぇぞ!! 学年主席の果たせなかった勝利を俺たちで勝ち取るんだァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 …………んんん?

 

 

 

 あ、あれれ? 皆さん随分やる気じゃないですか?? あの、こういう言い方するのアレなんですけど、あなた達は利用されようとしてるんですよ? わたしの勝手な私利私欲……基い自己満足の道具にされるんですが……。お、怒ってもらっても全然構わないんですよ!? てか、ちょっと待って!? 最後の別のクラスの人だよねぇ!!? なんか辺り一帯が感化されてるんですけど!?

 

 

 

 

『クレェエェエエバァァアアァァァ!!! 脱落確定なのになんて熱さだよ萬實黎ぃいいぃぃい!!!!』

 

 

『青臭すぎ……ッ! 久方ぶりの特大青春のかほり……ブフッ(鼻押さえ)』

 

 

 

 

 増 え な い で 頂 け ま す ぅ ! ?

 

 

 

 

 さてはお前ら全員天然だなぁ!? そんな都合の良い解釈があってたまるかってんですよ! お花畑通り越して桃源郷が見えてくるわ!! い、いや、まだ希望はある! 相澤先生!! 貴方ならわたしの目論見ぐらいお見通しですよね!? 相手をキチンと分析して戦闘を構築する個性殺しのスペシャリストの貴方なら――。

 

 

 

 

『名が体を成すように、個性は当人の在り方を示すものだ。『己が栄光のためでなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』……持つべくして持った個性なのかもな』

 

 

 

 

 

 なんでさァアァァァアアアァァァ!!???

 

 

 

 

 

 頼みの綱があっさり切れたよぉおおぉぉ!!! 一切目立たたないのは無理だと思ったから評判下げる方向で調節しようと頑張ってんのになんでアゲるんですかぁあぁぁぁ!!? 我、盤外戦術でしか勝てない後衛職ぞ!? どう考えてもヒーロー目指す人が使う手段じゃないのに何故称賛される!?

 

 どどどどうしよう!? なんか気が付けばやる気出して走っていく人がどんどん増えて収拾がつかないですぅ!? この光景、前にも見たことある様な気がするのは気のせいじゃないですよねぇ!?

 

 

 

 

『御膳立ては済ませた。アイツの一声でこの第一競技……全てがひっくり返るぞ』

 

 

 

 

 わざとやってんのかホント!!? アンタらわたしをどうしたいんですかぁ!? 本人の意向お構いなしで草も生えないどころか焼け野原なんですけどぉ!!? え、なんで唐突に無言になるんですか。一声って何。あ、もしかしてこれ何か言うの待ってる感じ? いや、そんな馬鹿な……ファッ!? カメラが全部こっち向いてるゥ!!?

 

 

 

『さぁいよいよこの予選もクライマァァァッックス!! 熱血少女萬實黎の奇想天外な逆転劇が始まってしまうのかァ!? 打倒トップだけのために自分を捨てた女の目論見は、果たして成就となるのかァ!? 今、全ての1年生がアイツの想いを受け継いで突っ走ってくゥ!! 』

 

 

 

 え、ちょ、無理無理無理!!? わたし少年漫画みたいなボキャブラリしてないって、選手宣誓のときから言ってるじゃん!? いや、でもこれ以上は間が持たないし……あぁ、もうこうなりゃ自棄じゃあ!! いっつも自棄にさせる神様なんて大っ嫌い!!!

 

 

 

 

 

 

Load personality(個性起動)......Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続)...!」

 

 

 

 

 

Battle codeⅠ: Gaining All(わたしの個性、全員持っていって)!!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 正直、意味が分からなかった。順位を捨てて勝ちを取る。大衆から得られる名声を捨て、自分のやりたい事をまっすぐに追える彼女が心底理解できなかった。だが、結果的に周りからの注目を得ている彼女のやり方は効果的なものとしか言いようがなかった。

 

 だが、そもそもそんな事する必要があるのだろうか。普通科にいる自分とは違う、恵まれた個性を持っているはずのA組が、順位を捨ててまで動く必要性なんてあるはずがない。

 

 

「あ、もしかしてあの子……」

 

 

 隣の同期が思い出したように口を開いた。自分はどうしたと、その続きを促す。なんとなくだが、その答えが俺にとって必要なものになると思えたんだ。この疑問に、そしてこの体に帯びる確かな熱に。

 

 

「いやね? 実は入試の時さ、私めっちゃ調子が良かったんだよね。なんていうか、自分の限界を超えた力を引き出せてる感じ? あの時は日頃の成果が出てるのかもーって思ってたんだけど……今もそれと同じ感覚なんだよね。だからもしかしてって思ってさ」

 

「……なんだよ、それ」

 

 

 まだ、彼女の全貌が分かった訳ではない。今の言葉だって推測に過ぎない。だが、仮にそうだとしたらだ。入試の時、彼女は誰もが蹴落とし合う中で、自分を捨てたという事だろう。聞けば、後になってからその行いが加点される評価があると発表されたらしい。彼女はそれを知っていたのだろうか? 仮にそうだとしても今回の事には説明がつかない。例え、ここで衆人に多少のインパクトを与えたとしても、この後の競技に残ることはないのだ。それに何の意味がある?

 

 

「まさか、いや……そんな訳――」

 

 

 脳裏に過ぎる一つの仮説。認めたくなかった。だって、それを認めてしまったら自分は何なのだ。同じ土俵(・ ・ ・ ・)に立っているはずなのに、クラスも、目立ち方も、在り方さえも……自分が勝てる場所なんてないじゃないか。そんな聖人君子がいるはずがない。ヒーロー活動をしているプロでさえ、同業者を蹴落とし合っているのが現状だ。そんな風に思わないヒーローなんてもう彼しか、平和の象徴ぐらいしか――。

 

 

 

 

 

「……確かめてやるさ」

 

 

 

 

 

 もう一度、ありえないと心の中で締めくくる。ありえるはずが無いんだ。A組の連中が、戦闘に向かない個性を持っているなんて。

 

 

 

 




 書いてるキャラがどんどん卑屈になってるのは気のせいじゃないはず。そもそも心操が言う恵まれてる奴の範囲ってどこまでなんですかね?



心操「良いよなぁ恵まれた奴らはァ!!」

筆者「…………葉隠ちゃんは?」



 誤解しないでいただきたい。私は葉隠ちゃん大好きです。


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第17話「揺れる回るブレるさもないわたし」


 今話にて多数のご意見が寄せられましたので、修正した上で再投稿させていただきます。感想にて進言してくださった皆様には感謝しております。


 涙は拭かない。だってもう流れていないもの。理由? 枯れ果てたんですよそれくらい察してください。

 

 いや、真面目な話意気消沈している場合じゃないんですホント。テンション上がってみんなが突っ込んで行くのはもう勝手にしやがれって感じで割とどうでもいい。問題はさっきから上空に飛んでるアレですよアレ。

 

 

 

 

『『『ブブブブブブ……』』』

 

 

 

 

 親方空からドローン(群れ)が!!

 

 

 

 進めど進めど上からカメラが追って来るぅううぅぅ!? いや、薄々予感はしてたけど! みんなの解釈がPlus Ultla!!しちゃった時点でこうなることは読めてたけども!! 延々と駆り立てるように追ってこられると手が抜けねぇでしょうや!!?

 

 

『ツートップに今までの疾走感は見る影もないぜェ!?死ぬほど体調が悪そうだァ!! ホラホラホラ追いつかれちまうぞォ!?』

 

 

 あ、そうなんだ。一体誰のせいなんでしょうねぇ(すっとぼけ)。

 

 

 とまあ、冗談はさておき。あっちは大方予想通りの状況っぽいですな。まあ、わたしも悠長に足踏みしている訳にもいかないので頑張りますが。というか頑張らざるを得ない状況ですので(上方確認)。妨害されないなら、地雷エリアと同じでただの綱渡りですし。雲梯(うんてい)と同じ要領で渡れば大したことない。というかお茶子ちゃんとあった時点で半分終わってたしね。

 

 さーて残り半分、対面で渡ってくる人を避けるのは骨が折れそうですけどやるっきゃない。というかですよ、跳躍とか飛べる個性持ちの人たちズルくないです? だってめっちゃ楽じゃんあんなの。梅雨ちゃんとか余裕綽々だったしマジうらやま。飯田少年見たときは吹きそうになったけど。あ、平等に全体強化はかけときました。

 

 まあ、文句言っててもしゃーないしとりあえず進みましょう。こちとらか弱い後衛職だからお手柔らかに頼みま――。

 

 

 

 

「……ふっふっふ。そこの貴女、よろしいですかぁ?」

 

 

 

 

 

 ふぉう!?

 

 

 

 なんだこのゴーグル!? 死ぬほどビックリした……っておっぱいでっか!!? 何その欲張りバスト!? 高1でその大きさは大事件です!? 八百万ちゃんを越える逸材かもしれんぞこれ……はっ!? いかんいかん、我を忘れてガン見してた。えっと、何かご用件でしょうか?

 

 

「貴女、すごく目立ってますよねぇ。それでいて、この第二関門を素の力のみで突破しようとしているご様子……ここでひとつ、良い話があるのですがっ!」

 

 

 い、良い話? それは一体……あ、すっごい悪寒がする。これは早めに断るべきだと本能がアラートしますね間違いない。すみませんが、結構で――。

 

 

 

 

「そんな貴女に私のどっ可愛いベイビーをお貸し致しましょう! この子があればこの第二関門も楽々突破できることをお約束します!!」

 

 

 

 

 間に合わなかったよコンチクショー(遺憾の意)。

 

 

 

 え、てか何このマシーン。なになに……腰のそれがワイヤー射出装置で、その靴はホバークラフト搭載のスーパーシューズ、そいで背中にあるのは補助用のブースター。崖に目掛けてワイヤーをジップラインの如く撃ち込んだ後に、巻き取って壁をホバーで昇る? 後はこのヌンチャクみたいなコントローラーだけで操作できると。ふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ア ホ か。

 

 

 

 

 え、端的にわたしに死ねと言ってるのか? そんな危険な登り方普通やります? 壁に激突するとか、機械の不具合とか不安要素しかないですよね? いや無理無理無理。やらないよ? 例え、この場のベストアンサーだとしてもやらないからな?

 

 

 

「……別にいらないけど」

 

 

「ふふふ、良いですねぇ……ひと昔の芸人もやる時は必ず否定から入ったのだとか。素晴らしい返事が聞けて嬉しいですよ!」

 

 

 いやダチョウじゃねぇよ!? 何この子ストレートで投げた球をナックルって言い張るんですけど怖すぎィ!? ちょ、何で腰に手を回すんですか! ベルトの採寸ってやらないって言ってますよね止めてくださ、おぉふ……お腹に発育の暴力がぁ……!?

 

 

「ふむふむ、なるほど。計測は終了ですので、後は取り付けるだけですね! ちょーっと失礼します!」

 

 

 あ、はい……お構いな……くねぇ!? 何かもう腰につけられてるぅ!? 片足も既にシューズ装着済みだし準備ほぼ完了です!? ストップ! ストーッップ!!

 

 

「むむっ、どうしました? あ、登り方のコツですね!? ご安心ください!!このベイビーには装着者の重心に合わせて最適な姿勢制御状態を保たせるブースト量を計算する高性能AIを搭載してますから初心者でも安全な使用を可能として――!」

 

 

 懇切丁寧な説明痛み入りますけど、そうじゃねぇんですよ!! 怖いからヤダって言ってんの! ちょ、ホント無理だから履かせないで! わたしは普通に行くからいらないんですってぇ!!

 

 

 

『おっとぉ! ここでサポート科からの支援を受ける萬實黎ィ!! どうやら逆走するにも全力をかけるらしいぜぇ!! コイツは見物だァ!!!』

 

 

 

 

 オォイ山田ァァァ!!!??

 

 

 

 お、おまっ……お前ぇ!! どうしてそんな血も涙もないことが言えるんだよぉ!!? 殺す気か!? 殺す気なんだな!!? わたしみたいにルールを破るようなヒーロー見習いを早々に消そうって魂胆なんだなチキショー!!

 

 

予行演習(デモンストレーション)は私が済ませてますのでご安心を! それでは快適なマウンティング・タイムをお楽しみください!」

 

 

 

 ――ドンッ

 

 

 

 …………へ? あれ? 地面がない――。

 

 

 

 いぃいいやぁぁあああぁあぁぁ!!!? 押しやがったァァ!? 押しやがったよあのおっぱい女ァァ!!? ちょ、死ぬ! マジで死ぬぅ!! 死にたくない!! これッ、使い方わかんな、あぁもうこのボタンか!?

 

 

 

 バシュッ!!

 

 

 

 アタリ引いた!? 次は巻き取りしなきゃならんのか、巻き取り、取り、トリガー! これかな……ってぅおわ!? すっごい勢いで巻き取……りィ!? 壁!? 近っ!? ホバー起動&着壁準備ィイィィ!! とっととぉ……! バランス結構、難っ……ほ? え、空中? あ、そっか勢いが死んでないからそのまま上に投げ出され……着地点は!? 真下ってオォイ!? 高さ的に流石に死なないにしても骨折するだろ絶対……あっ、このためのブースターーーッッ!!!

 

 

 

 

 ――スタッ

 

 

 

 

 はぁはぁ……し、死にかけた。マジで走馬灯が見える寸前だった。どうしてわたしがこんな命張った曲芸せにゃならんの……あの女マジ許さん。妨害でもなんでもありのコースだからお咎め無しだろうけど、限度があるでしょ!? 説明を聞き流したわたしも悪いけどさぁ!? 行きますよの一言ぐらいあってもいいでしょ!!

 

 

「素晴らしいです! 百点満点の使い方ですよぉ! その調子でどんどん目立って下さいねぇ!! あ、ベイビーたちは競技後に回収致しますのでお気になさらなくて結構ですよ。それでは、頑張って下さい!!」

 

 

 あ、ちょっと!! 話は終わってないんですけどぉ!! おーい!?

 

 ……と、取り残された。マジで押し付けるだけ押し付けて行っちゃったよ。えぇ……どうしようこれ……。使ってみた感じ理に敵った装置ではあったと思うけど、結局のところ怖いものは怖いしなぁ。正直、脱落が決定してる以上急ぐ意味もないし使う意味が見出だせな――(ちらっ)。

 

 

 

 

 

『『『ブブブブブブ……』』』

 

 

 

 

 

 ………………分かったよ!! やればいいんでしょ!!? 会場の皆様だけは失望させたくないですもんねぇ!? 選択権が無かったことぐらい分かってましたとも!! こうなったら使い潰す勢いで利用してやんよぉ!! ボロボロになるまで使って「壊れたから競技場に置いて来ちゃった☆」ってしいたけ目で報告するかんなぁ!! デバッグなんて取れると思うなよバーーーーカ!!!

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『さぁさぁさぁ!! 地雷原でのタップダンスもそろそろ終幕だぜェ! 選手入り乱れるこの地獄を生き抜いたヤツの姿が! 今!! 入場口に見えてきたァ!!!』

 

 

 マイクの実況に熱が入る。まったく、何故こんな所に座っていなければならないのか。そもそも、ミッドナイトが主審を勤めたいなんて言い出さなければこんな事にはならなかったものを……まあ、怪我をした自業自得と言われれば反論は出来ないがな。情けない話だ。

 

 

『おぉっと!? 二人分の影が見えるって事は相も変わらず轟と爆豪かァ!? 今年はエンターテイメント性に力を入れて、カメラは生徒たちの顔をドアップにして順位を伏せてるぞォ! ワクワクが止まんねーぜ! YEAH!!』

 

 

 本当にそれエンターテイメント性があるのか? それじゃ順位に至った仮定が分からん故に、人を選ぶだろう。合理的じゃない。後の選手の休憩時間に映像を流して間を繋ぐらしいが、他に詰め込める物があっただろうが。計画書の段階で、どう考えても予定を詰めすぎなのは明白だったというのに……毎年起こるイレギュラーを念頭に置いたら、終了時間ギリギリもいい所なことぐらい察せないのか雄英(ウチ)の教師陣は。

 

 ……あぁ、愚痴を言い出したらキリがない。ここらで止めておくか。競技に意識を戻そう。とはいえ、結果は大体予想がつく。あからさまにスピードの落ちたトップ周辺と勢いを増した3位以降、そして第三関門の障害物……良くも悪くも全員の足が止まる要素が揃っている。なら、導き出される解答は自ずと絞られてくるはずだ。

 

 

 

『見えたァ!! ゴールに向かって全力疾走するのは――』

 

 

 

 

『すべてを巻き込んだ女ァ! 逆走して脱落確定だが、その根性は男顔負けェ!! A組、萬實黎奏だぁ!! そんで、こっちは意外や意外ィ!! 今まで音沙汰が一切無かった男ォ!!』

 

 

 

 より多くの環境を利用できたヤツがトップに立てる。それ以外の可能性は低い。

 

 

 

 

『同じくA組ィ!! 緑谷出久ぅうううぅぅ!!!』

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 思えば、運が味方しただけだったんだ。

 

 最初に仮想ヴィランの装甲を手に入れられて、その装甲が最後の障害物を使うのに相性が良かった。もし、装甲で仮想ヴィランを倒せなかったら? 最後の障害物で使えなかったら? 本当に、全部運が良かっただけの結果論。偶然から得られた産物だった。

 

 発想の勝利って言葉があるけど、実際は発想だけで勝つことは難しい。多くの場合、状況の変化や当人たちにセンスや地力が物を言う。努力9割9分、閃き1分。かの天才発明家もそう言った。今回はその1分にありつけただけの話だ。現に――。

 

 

「くっ……! 足早すぎ――」

 

 

 全然、萬實黎さんを引き離せてないじゃないか。第三関門をひとっ飛びして、あからさまに距離的なアドバンテージを取ったはずなのに……。最初にゲートに足を踏み入れたのにも関わらず、追いつかれて今は並走している。入試前までのトレーニングや日々の訓練で少しはマシになったと思ってたけど……全然足りない! 素の身体能力じゃ完敗だ……!

 

 

「……頑張るね。わざわざ張り合わなくても1位になれるのに」

 

 

 話す余裕まであるの!? 体力測定や他の授業で理解はしてたけど、底が知れな過ぎるよ!

 

 

「……っだって……他のみんな、よりも……! 僕は、努力しなきゃ……いけないか、ら……!」

 

「そっか。頑張れ」

 

 

 話振って来たのにめちゃくちゃ応答が淡白!? なんで聞いたの!? って、スピード上げたぁ!? このままじゃホントに置いていかれてて……何か策はないか!? 一瞬でいい。萬實黎さんの足を止める方法を考えるんだ! 後の競技を踏まえたら、OFA(ワンフォーオール)はまだ使えないし一体どうすれば……はっ、そ、そうだ!

 

 

 

 

「ば……萬實黎さんは!! どうしてそこまで頑張れるの!?」

 

 

 

 

 咄嗟にそう問いかけた。もしかしたら、ずっと心の中にあった疑問だったのかもしれない。会話を続ければスピードを緩めてくれるかもしれないという相手依存の薄い確率。我ながら破れかぶれもいいところだと思うけど、それぐらいに余裕がないのは一目瞭然なのだ。今さら、形振り構ってはいられない……!

 

 

「大した理由なんてないよ」

 

「え、うわっ!?」

 

 

 緩めたっていうか完全に足を止めたぁ!? え、このまま追い抜いちゃうけど!? どうして急に――!?

 

 

 

 

 

 

 

「わたしは――ない。ただ、それだけだから」

 

 

 

 

 

 

 その言葉の肝心な部分を聞き取ることが出来なかった。会場の熱気と歓声が、僕を包んだからだ。直ぐ様、彼女の方へと振り向くが、後ろに居たであろう彼女の姿はない。見渡せば、選手入場口付近で赤銅色の髪が揺れていた。

 

 その後、結局僕は1位を譲るように止まった理由、そして最後の言葉をもう一度聞き直すことは出来なかった。何故なら――。

 

 

 

 

 

 

 

 言い表せないほどに高い壁が、僕の目の前に立ち塞がったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ば……萬實黎さんは!! どうしてそこまで頑張れるの!?」

 

 

 

 

 

 緑谷少年に問いかけられて、ふと思考がクリアになった。今のわたしが達成すべきプロット……確かに、深く考えたことはなかった。今一度、整理してみるのも良いかもしれない。

 

 

 

①選手宣誓における有言実行

 

 

 ルールこそ無視したが、周囲に迷惑はかけていない。むしろ、大いに競技を盛り上げた……達成済み。

 

 

 

②お茶子ちゃんに頑張ろうねって言われたから

 

 

 友達と約束したんだから最低限の義理を果たすのは当然。現に目論見である逆走が成功している……達成済み。

 

 

 

③轟少年と爆豪少年に因縁つけられたから

 

 

 逆走&デバフ付与で緑谷少年を追い抜かせてる時点で、実質的な勝利を勝ち取っている……達成済み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………おろ?

 

 

 

 え、確かにもう頑張る理由がないでござるよ。なんで、わたしこのまま一番乗りしようとしてるんですかね? 絶対目立つよね?? バカなんですかね??? 好意的な視線向けられて収拾つかないのに、どう考えても火に油でしょうが。あ、あっぶね~……やり場のない怒りに身を任せすぎた~……! どうやら、やらかし一歩手前で踏みとどまれたみたいですね。緑谷少年マジ救世主。

 

 よし、そう決まれば急ブレーキ。急ぐ理由も無くなったっていうか、たった今止まらなくてはならん理由ができた。それと、気づかせてくれた恩人に礼をせねばなるまい。うむ、君にはこの競技で紛れもない1位になる権利をやりませう。遠慮せずに持っていって欲しい。マッチポンプ? ナンノコトカワカラナイナー(口笛)。

 

 おっといけません、テンションを元に戻さねば。また、痛い目に合いたくはありませんからね。陰キャのテンションすら上げてしまう体育祭……あな恐ろしや。このまま走ってたら間違いなくストレスで胃に穴が空くどころか、心筋梗塞でリカバリーガール案件でしたよ。賢者モードにしてくれて本っ当に助かりましたよ緑谷少年! いやはや、またも自然にウィンウィンな関係を気付いてしまった自分の手腕が怖いわ。フハハハハハハッ!!(慢心)

 

 

 

 それはそうとて、あのマシーンのお陰でだいぶ楽できたなぁ。微妙なカーブとかは重心移動とワイヤーでなんとかなるし、誰もいないからぶつかる心配も無かったからね。ブースターとホバークラフトで競輪みたいなスピード出るのは、正直気持ちよかった。ただ、常時ホバー移動されることを想定してなかったのか、途中で機能停止したんですけども。急に止まったからつんのめって地面とお顔が急接近したときには、恋が始まるかと思いましたよ(顔面蒼白)。

 

 肝心のマシーン? 重かったんで外して置いてきましたよ。荷物背負って走るとか軍隊じゃないんですし。たまたま、第一関門でロボの残骸に隠すように置いて来ちゃったけど……特に他意はない!(キリッ)

 

 

 

 

 というか最近、ヒーローを目指す環境に慣れ過ぎて本来の目的を忘れてましたね。割とマジで正気を取り戻せて良かったというかなんというか。当初の思いを思い出せわたし。何のためにヒーローになったのかを。

 

 

 

 

 

「わたしは死にたくない(・ ・ ・ ・ ・ ・)。ただ、それだけだから」

 

 

 

 

 

 この世界で、わたしひとりでは生きて行けない。だけど、他人に迷惑はかけたくない。だから、お互いに利のある関係を作りたい。だったら、どうしようか。考えるまでもなくやれることは一つだけでした。自分の『個性』を活かすしかなかったんです。この超人社会で個性を余すことなく使える環境といえばもう簡単に想像がつくでしょう。リスク回避するために新たなリスクを背負っているけど、それは取捨選択と割り切るしかない。

 

 正しいかどうか考えるなんて無意味なんですよ。自分が許せる後悔を選んでいくのが人生なんですから、深く掘り下げるほど沼ってもんです。全ての我を突き通そうにも、どこかしらが反発するのが世の中。どこかで許容しないと潰れるのがオチだよ。

 

 

 さて、小難しい人生観ばかり話してても面白くないでしょ。試合的にも勝負的にも確かなトップ入賞を譲ったことですし、そろそろお暇させて頂きますかね。いずれ、面倒くさいメンツがやって来るのは目に見えてますからね。選手入場口へすたこらさっさですよ。クライマックスはもう見たんです。残すはエンディングだけ。もう泣いてもいいかな。

 

 

「奏ちゃ~ん! 待ってーー!」

 

 

 あ、天使の声が聞こえる。お疲れさまお茶子ちゃん。早かったね。わたしと緑谷少年がゴールインした後、秒読みで皆追い付いたのかな? それは何より……あれ、ちょっと待って? 後ろに誰もいないじゃん。なんで? どうしたのお茶子ちゃん壁抜けワープでもしてきたの?

 

 

 

「デク君が地雷の爆風で飛んだの見て、私も地雷と個性使って飛んで来たんよ! パクりとか思われそうだけど、奏ちゃん見てたら形振り構っていられないって思えたし!」

 

 

 

 びっくりするぐらいダイハードしてんねぇ(白目)

 

 

 おふたりさんの辞書に撤退の2文字はないんですか。スパルタ軍かな? え、というかですよ。お茶子ちゃんまさかの予選2位通過です?? ほ、ホントに大逆転かましてくるとは思わなんだぜ……流石わたしの未来のお嫁さん候補。これは子供を持ったら肝っ玉母ちゃんの称号を得ますね間違いない。

 

 

 

 

「私……心のどこかで諦めてたんだと思う。頑張ろうなんて言って、奮い立たせてさ。『やれるところまでやってやるー!』なんて意気込んでたけど……実際は自分の限界を自分で縛ってたんだ」

 

 

 

 

 うん。

 

 

 

 

「でも、奏ちゃんが託してくれたから……トップのふたりに勝つために全部を擲ってくれたから……! 私は目を覚ますことができたんだよ」

 

 

 

 

 なるほど。

 

 

 

 

「だから、奏ちゃん。奏ちゃんは私の……ううん! あの競技に諦めを抱いていた人たち全員のヒーローだよ。ホンマに……ホンマにっ……ありがとうね!!」

 

 

 

 

 大丈夫だ、問題ない(吐血)

 

 

 

 

 アカン。めっちゃ良い子なの忘れてた。さよなら安寧(クラッシュ)、お帰り胃痛(パートナー)。前向きな善意の全力投球もわたしにとっては死球も同然なのでNG。

 

 だが、それお茶子ちゃんからの試練だというのなら耐えきって見せよう! 数多のストレスを経験してきたわたしからすれば、この程度の胃痛なんぞ安いもんでさぁ!! 口元から垂れてる赤い何かを拭け? バカ野郎! どっかのご意見番も鼻水はダイヤモンドって言ってたでしょうがぁ! だからこれは血じゃなくてルビーなんだよ!!(意味不)

 

 

「……借りは返せたかな」

 

「ふえ? 借りって?」

 

「お茶子ちゃんがいなかったら、わたしは此処にいなかったから」

 

 

 これはマジ。体力測定のときに、お茶子ちゃんから個性を借りてなかったらわたしは確実除籍されてた。

 

 ヴィランとの一件があってから相沢先生本人から色々聞いたんですよ。去年のクラスを全員除籍にしたとか、受け持っていない生徒を除籍にして責任を問われ数年間クラスを受け持たなかった時期があったとか。当初はドン引きするような事件もいくつか聞かされたけど、相沢先生が本気でヒーロー育てようとしてるのは分かった。結果的に、あのときの除籍宣言が本気なのも察せれた。

 

 だからきっと、お茶子ちゃんに会えてなかったら、この場に立つことさえ出来なかった。ヒーローに成ることが正しいかどうかなんてまだ分からないけど、少なくともわたしは後悔していない。寧ろ、今回だって本気でトップを潰しに行ったり、テンションが上がった自分に気付かなかったりした。そう思えるぐらいには楽しいって感じてるんだと思う。口下手だからあんまり伝えれてないけど、わたしこそお茶子ちゃんに言いたかったことがあるんだよ。

 

 

 

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 すっごく似合わぬぇ台詞言ってる気がする。でも、紛れもない本心ですので悔いはない。冷ましたテンションが再度沸騰してきた感あるけど、なんていうか『まあ、いっか』って思えてるんですよ。青春の味ってやつなんでしょうな。甘酸っぱくて美味しくないけど飲み干せはする。これが若さか。おねーさん感激です。

 

 ん? てか、お茶子ちゃん固まってるよ。顔も赤いしどうしたんですかね? わたしまたなんかやっちゃいました?? あ、今の言い回しはなんかムカつく。主に転生味を感じる的な意味で。訂正、わたしまたアホなことやらかしました???

 

 

 

「……あ、えぇ!? いや、その……ううん! 何でもないよ! こっちこそ、ありがとうね!!」

 

 

 

 お、おう……? そうですね、いつもの調子に戻ったようで何よりですよ。お互い言いたいことも言えたし、絆も確認できたしでわたしは満足です。というか、そろそろ時間ヤバイのでは? みんな帰ってきちゃうし、なんならランキング発表あるかもだし。お茶子ちゃんは行った方が良いんじゃないですかね。わたし? わたしは、ほら……その、今はちょっとほとぼりが冷めるまで控え室に居ようかなぁと思いまして。なんだか絶対顔も知らない同期に囲まれる気がするんですよ。えぇ、絶対です。なので、早々に引っ込もうと思うんです。

 

 

「あ、そういえば奏ちゃん目立ちたくないんだっけ……でも、逆走した時点でこうなるのは大体察しがつくと思うんやけど……」

 

 

 言わんといて(涙目)。

 

 

 わたしだって多少は覚悟してたけど、ここまで大事になるとは思ってませんでしたよ……勝手に皆がよいしょするんだもん……分かってたらやらなかったですし……ブツブツ。

 

 

「だ、大丈夫だよ! えっと……ちょっと時間が経てばほとぼり冷めると思うし……あ、ほらっ、本選になればみんなそっちに気が向くはず!!」

 

 

 

 

 ……ホンマに?

 

 

 

 

「うん、ホンマに!」

 

 

 

 

 そ、そっか……うん、お茶子ちゃんがそう言うなら信じましょう。そうと決まれば観客席の隅っこで皆のこと応援してますわ。第二種目はわたしにはもう関係のない事だし、このまま控え室に帰るね。

 

 

「うん、お疲れさま! お昼休みにまた会おうね!」

 

 

 あいあいさー。健闘を祈ってますよー。

 

 さて、自販機で飲み物でも買ってから戻ろうか。あ、でも貴重品は置いてけって言われたから財布ロッカーの中じゃん。どのみち控え室に直行する必要がありますね……って、値段高ァ!? 飲み物1本200円超って足元見すぎでは!? 絶対、今日だけ値上がりしてるヤツだろコレ!? クッソ、今月は結構ピンチなのに……しゃーない、食堂の水で我慢するかぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『助けてくれて、ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 着飾りなんてない、素直な謝辞。普段だったら容易に受け入れたのだろう。けれど、付随するように私の視界に飛び込んできたソレが、決して忘れ難い代物にしてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……アカン、次の競技に集中せんと」

 

 

 

 

 

 

 目を瞑り、雄英で過ごした日々を想起する。端的に言って無表情、仏頂面、能面……女性に掛けるような表現ではない。だが、そう揶揄されても仕方のないほどに、数ヶ月間眺めてきた彼女の表情筋が動くことはなかった。

 

 

 

 だからこそ。そうであるからこそ――。

 

 

 

 

 

 

「……すっごい破壊力やったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 どう頑張っても、彼女の微笑みが頭から離れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





 発目ちゃんの力を借りて、緑谷とほぼ同着とさせていただきました。なお、緑谷はその事を知らないので素の身体能力と勘違いしている模様。


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第18話「目は口ほどに誤解を生む」

 宣言。全く進まん。


 やっはろー。

 

 

 度し難い不運を切り抜けて、安住の地を手に入れた勝者。どうも奏です。どうやら次の種目は騎馬戦だそうでねす。マラソンといい、騎馬戦といい、名目はすごく体育祭っぽいんだけど……。学生のお遊びでは終わらせないのが雄英高校。アホみたいなルールを強いてきます。

 

 

 

『1位通過した緑谷は1000万ポイントォ!! アイツのハチマキさえとっちまえば勝ち組確定だぜェ!!』

 

 

 

 はいはい、理不尽理不尽(慣れ)。

 

 具体的なルールは普通の騎馬戦と変わらないっぽいですね。相手騎馬の主将が身に付けているハチマキをとったら、そのチームの総合ポイントを得られる。ただし、試合終了までに取り返されたらポイントは入らない。最もポイントを多く有してた上位4チームが決勝に進める。実にシンプルで分かりやすい。

 

 まあ、その代わり1位だけぶっ飛んだポイントだし、騎馬から落ちなきゃ何しても構わないとかいう、ほぼルール無用の残虐ファイトなので参加したいとは微塵も思いませんけどねぇ! 大人しく観客席でA組の活躍を眺めておきましょう。いやー、早々に予選落ちしてて本当に良かっ――

 

 

 

 

「……ねぇ、あれって逆走した学年首席だよね」

 

 

「俺たちにチャンスをくれた人……か」

 

 

「お、お礼とか言った方がいいのかな?」

 

 

「そこまでの義理あるか? チャンスをくれたって言っても勝手にだろ?」

 

 

「お前めちゃくちゃ張り切ってたじゃねーか。意固地かよ」

 

 

 

 

 …………良かった、と思う……多分……めいびぃ。うぅ……遠目から刺さる視線がツラい。

 

 そうだよ、第一予選で落ちる人の方が多いんだからこうなるに決まってんじゃん。世間の目を勝手に観客オンリーでしか考えてなかったとか間抜けすぎる。一時的とはいえお祭りテンションに身を任せたツケがこれですか。救いは何処へ……わたしの神は死んだのでしょうか?(絶望)

 

 

 

 

 

 

 

「ただの自己満足だろ。自分が出来るからって調子乗ってんのかよアホらしい」

 

 

 

 

 

 

 ………………へ?

 

 

 

 

 

 

「どうせ、腹の中じゃ笑ってるに決まってる。手を貸さなきゃ何にもできない奴らだってな」

 

 

「お、おい。よせよ……」

 

 

「ハッ、善人ぶるなよ。お前らだって実際は損得勘定で動いたんだろ? なら、答えは見えてるじゃねーか。なぁ?」

 

 

「うっ……それは……」

 

 

 

 

 お、おぉう……マジか。雄英高校にもこーゆーのがいるんか。おねーさんちょっとビックリ。

 

 うーむ、確かにネットとかだったら滅茶苦茶に悪評したり、叩きまくったりする輩はいるだろうなって考えてはいたんですよ。ただ、ヒーロー目指していてももこんな風に捻くれてる少年少女がいるとは思わなんだ。

 

 あ、いや、別にダメージ受けてる訳じゃないですからね? ただ、意外だっただけで、個人の見解にとやかく言うつもりありませんし。むしろ、逆走した当初は「利用してやんよぉ! ヒャッハァーー!!」と相違ないぐらいの心境だったので、名も知らぬ彼の言い分も割りと当たってたりする。

 

 

 

「ほらな、聞こえてるのに何も言い返してこない。図星だったんだろうな。結局はA組でひとりだけ二回戦に進めなかったんだ。滑稽過ぎて笑えるよ」

 

 

 

 まあ、敵愾心100%の発言なのは明白ですけどね! 思春期ですもん。何にでも噛み付きたくなるお年頃なので、致し方なしたかし。生暖かい目で見守っておきましょう。ついでに、挨拶の意味も込めてお辞儀でもしておきますかポッター。

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 ふっ、華麗に決まりましたね。貴族も顔負けな優雅な会釈。控えめに言って1億万点。強い。これが大人の余裕というものだ少年。人の弱味につけこむには年期が足りない。というか、そんなヒーローとか売れないから止めきなさい。人気商売的なところでは我々アイドルと変わんないんだから。わたし? もとから壊滅的な性格してますんで関係ないっす。

 

 はい、そこのあなた。穏やかな生活したいなら、反応しない方がいいのにと思ったでしょう? 逆ですよ逆。あーゆー手合いは、無視すればするほど勝手に増長していくものです。かといって、過剰反応しても相手の思う壺。なら、どうすべきか。導かれる答えはひとつ。認知していることをちらつかせつつ、過度には触れないでおくのが吉。一時的な感情の発露であれば鎮火して、これ以上反応しないでしょうし、根っからのものだったとしても、少しは鳴を潜めるってもんでさぁ……と考えましたが、実際はどうなんでしょうね?(チラッ)

 

 

「……ッ」

 

 

 ありゃりゃ、そっぽ向かれちゃいましたよ。嫌われましたかね。まあ、仕方ないでしょう。万人から愛される人は居ても、全人類から愛される人は居ませんから。むしろ、過度な期待を抱かれるよりマシですしおすし。なんなら、A組の親しい何人かがいれば問題ないのです。薄情だと思いますか? まあ、寛容ではないのには違いはありませんが、残念ながらわたしは一般ぴーぷる。ヒーローとは縁遠い器ですので諦めてくんなまし。

 

 

 

『轟チームが緑谷チームのハチマキを奪取だァアァ!! なんてスピードだよォ!! クレバァァアァアア!!!』

 

 

 

 おっ、試合が動きましたか。どれどれ巨大スクリーンのリプレイを拝ませてもら……ふぁっ!? 飯田少年速すぎィ!? 何その超スピード!? あ、でも足から煙吹いてる。しかも機動力も目に見えて落ちましたね。一回限りの大技ってやつですか。だから、トラ○ザムは使うなとあれほど(ry。

 

 んんっ、さて、そろそろ第二予選も終わりそうですね。午後の予定としては、お昼食べてレクリエーションへの自由参加でしたか。そして、満を持して本選が開始と。

 

 なるほど。でしたらこの後はフードコートに向かうとしますか。今朝は限界まで布団で粘ってたので、ご飯2杯と味噌汁とシーチキンサラダと豚のしょうが焼きしか食べれず、ずっとお腹が空きっぱなしで……ん? どうしたんですか皆さん? そんなUMAでも見たような顔をして。

 

 

 

 まあ、気にすることでもありませんね。わたしのお腹も「そんな事よりお腹が空きました士郎」と言っている。ゴーマイウェイ。レッツイートマイランチ。さっさと食堂に行きましょう!

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「――……そう」

 

 

 

 

 その日、絶対零度の瞳を見た。

 

 靡くことも、流されることも許さない。凍て刺すような視線が自身を貫いた。何よりも、年端もいかない少女がその様な目を出来ている事に驚愕を隠せない。

 

 

「……何か言ったか?」

 

 

 元より実の息子から恨まれ、憎悪の感情を突きつけられて我が身。周囲の有象無象から負の感情を引き受けることも少なくない。故に、そのような視線など今更思うものなど無かったはずだった。

 

 

 

 だが、自身を写すその瞳は、未知の……否。自身が最も忌み嫌う(かんじょう)で染まっている事を悟った。

 

 

 

「貴様ッ……! なんだその目はァ!!」

 

「……ッ!? 止めるんだエンデヴァー!!」

 

 

 少女と自身の間にこの世で最も気に食わない男が割って入った。途端に別の感情が入り雑じり、より強い皺が眉間に刻まれるのを感じた。だが、直ぐにもそれを払拭し、少女を目で追う。赤銅色のサイドテールが線を残す光景を幻視する刹那、曲がり角へ吸い込まれていくのを見送った。

 

 

「くっ、オールマイトぉ!! 貴様、一体どういう教育をしている!?」

 

 

 行き場のない怒りは、目の前の男へと牙を剥く。彼女が何をした訳でもない。ただ、含むような視線を向けられただけだ。だが、その意味が自身の思うものであると考えたら、堪らなく神経が逆撫でされた。

 

 

 

「彼女は……クラスの中でも優秀で、人を労わることの出来る優しい生徒だよ。意味もなく人を怒らせるような()じゃないさ。エンデヴァー、君は何をそんなに憤っているんだい……?」

 

「何をだと!? 貴様本気で言っているのか!? あれは――」

 

 

 そこまで口に出し、言葉に詰まった。

 

これ以上話してはならない。この男だけには悟られてはならない。プライドや誇りというものが、声を縛った。急激に感情が冷めていく……いや、違う。押し止められ煮え滾っていくのを感じる。つまりは、普段通りに戻れたということだ。

 

 

「……えぇい!! もういい!!」

 

 

 認めてなるものか。他人がどう思おうと関係ない。自分は自分の道……覇道を突き進むのみだ。No.1ヒーローであるオールマイトを越える。自分が越えなくとも、息子が越える。変えようもない、これは決定事項だ。しかし、そう息巻けば息巻くほどに……。

 

 

 

 

「年端もいかない学生が俺を『可哀想』だと……? おのれぇ……!」

 

 

 

 

 憐憫を思わせる少女の瞳が、脳裏に焼き付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 唐突ですが、問題です。

 

 目の前に要素としては全身大火事の筋肉だるま大男がいたとしたらどうなるでしょう?

 

 

 

 

 答えは――

 

 

 

『おっ、萬實黎少女じゃないか! 第一予選はお疲れ様だったね! 試合を捨てて勝負を取りに行くその姿勢……くぅ~~! 年甲斐もなくワクワクしてしまったよ! おっと、君も(・ ・)久しぶり! 良かったらお茶しないかい?』

 

 

 

 

 増 え ま す(わかめ感)

 

 

 

 筋肉モリモリバーニングマッチョマンな人とぶつかって唖然としていたら、No.1ヒーロー筋肉だるまが増えたの巻。訳がわかりません。筋肉に板挟みにされて『嬲』って漢字の成り立ちを、ひしひしと実感しております最中……皆様、如何お過ごしでしょうか。どうも、奏です。

 

 

 世間は第二予選の騎馬戦で盛り上がっていますが、当のわたしは出ることも無いので、お昼ご飯の準備をしようと思ってたんですよ。そしたら、曲がり角からとんでもない体積の持ち主が現れたんですよね。避けられなくてぶつかってしまったので、謝罪してその相手を見た訳なんですが……。

 

 結果はご覧のとおり。冒頭に至ります。その容姿に唖然としてたら、何故かオールマイトが増えた。以上です。そんで、オールマイトはフレンドリーに話しかけてるし……知り合いですかね? 筋肉繋がりでジム仲間とかそんな感じかな? だとすれば、わたしはこの辺でお暇させて――。

 

 

 

 

 

「……むっ。君、待ちたまえ」

 

 

 

 

 

 ……くれないですかそうですか(絶望)。何なんですかホント。わたしみたいな小娘に平和の象徴のご友人が話すことなんて見当もつかないんですが。うわ、改めて見ると人相ヤバイよこの人。軽く人殺しそうな目してるんだけど。

 

 

「逆走していた女子生徒だったな。価値のある勝利を掴むために手段を選ばぬその姿勢……称賛に値する」

 

 

 アッハイドーモ。

 

 えぇ、なんで誉められてんの……? 散々引っ掻き回した挙げ句脱落したのに見ず知らずの人がわたし個人に称賛を送るってどゆこと?

 

 

「確か焦凍と同じクラスだったか。今後とも、存分に息子と切磋琢磨してくれたまえ。よろしく頼む」

 

 

 へぇ~、あの轟少年が息子……息子ォ!?

 

 え、あっ、あぁ!? もしかして、ヒーローランキングNo.2のエンデヴァーですか貴方!? 基礎知識としてヒーローランキング上位10名の名前は押さえてたけど、全然分かんなかったぞ!? てか、その顔でヒーローは無理があるだろ! あ、いやでもうちのクラスにも飛び切りのヴィラン顔……いや、素行も全部ヴィラン寄りの不良少年いましたね……うん、もう何も言うまい。今の時代、実力さえあればどんな人でもヒーローになれる夢の社会だもんね。悪人面とか些細な事なんだな、きっと。うん、そうに違いない(思考放棄)。

 

 

 

 

 

「あぁ、ただ……節度を持って接するように。君の個性は、轟家には不要だからな」

 

 

 

 

 ……はい? 何言ってんのこの人?

 

 

 ごめん、本格的に分からん。轟家にはいらんってなんです? それもわたしじゃなくてのわたしの個性って? うーむ……相澤先生曰く、こーゆー時は大人を頼れでしたか。手近な大人はー……この人(オールマイト)しかいませんけど大丈夫ですかね? ぶっちゃけ、ヴィランを倒すこと以外だとちょーっと頼りないんですが。

 

 

「エンデヴァー……君は……」

 

 

 え、何か愕然としてらっしゃる。正直笑ってる姿しか見たことなかったんで新鮮……じゃなくて。どうしたんですかオールマイト先生。心なしか騎士王ですら無し得なかった『AHOGE TWINS』が萎びてますよ? というか、貴方のメチャクチャな動きにも耐えうるソレ何で固めてるんです?

 

 

「……貴様を越えるのは俺ではない。だが、あやつは絶対に貴様を越える。そうすべく、つくった子だ……」

 

 

 おいおい。まるで道具みたいな言い方しますね。ヒーローやってるんだから冗談でもそんな言い方は――

 

 

 

 

 

 あぁ、そういうことか(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 これはダメだわ。うん、こればかりは誰がどう言おうと変わらない。口が悪いと諌めた所で意味がない。だって、根本からずれてるもん。だってこの人――。

 

 

 

 

 

 ――『冗談』なんて言ってないし。

 

 

 

 

 今のでこれまでのやり取りの全部に合点がいった。というか、何でピンと来なかったのか不思議なくらい。個性婚ですよ個性婚。強力な2つの個性をひとりに持たせるために、個性だけで婚姻を結ぶ社会問題。轟少年が普段あまり使わないから気付かなかったけど、間違いなくこのエンデヴァー氏の個性を受け継いでる。と、すれば氷の方は母親のものですかね。

 

 それを踏まえてエンデヴァー氏が何を言いたかったっていうと……。

 

 

「息子を蹴落としてくれてありがとう。今後も切磋琢磨して息子を鍛えてくれ。ただし、恋仲になるようなことは認めない。君の個性では、引き継いだ世代が強くなるとは思えない。後、息子はオールマイト、お前を越える存在に育てるからな」

 

 

 ……ってところかなぁ。

 

 まあ、言いたいことは分かる。恐らく、この人はヴィラン撲滅が平和に繋がると思っている質の輩でしょうね。正直、この人に関する記事を思い返してみても、全面的な「救命活動」は殆ど無かったと記憶している。孤高を貫き、己だけが強ければいい。有象無象は下がっていればいい。そんな風に考えてる時代遅れの人種。

 

 でも、それはその時代を生きてきたからこそ、積み上がってしまった価値観。別にそれをどうこう揶揄するつもりはない。自分の信念として持つだけなら、そこに罪なんてないのだから。存分に力を振るってヴィランを掃除してほしい。けどまあ、それはそれで――

 

 

 

 

 

 

 

「……生き辛そう」

 

 

 

 

 

 

 妄執に囚われた憐れなエゴイスト。諦めた人間の醜い往生際。そんなもの捨ててしまえばいいのに。No.1ヒーローを越えることにどれだけの価値があるのか。果たしてひとりの人間の人生を縛ってでも叶えるべき目標なのか。

 

 

「……何か言ったか?」

 

 

 敢えて言わせてもらうなら「分からない」が正しい。この問いかけに答えられるのは背負わされた本人だけ。その名声を是とするか否か。最後まで結果は分からない。だから、止めはしない。今はまだ、正しいかどうかなんて分からないのだから。嗚呼、だからこそ、それが正しいと。自分のしている事の愚かさに気付けずに邁進する人類は、本当に――

 

 

 

 

 …………虚しい、本当に。

 

 

 

 

「貴様ッ……! なんだその目はァ!!」

 

 

 

 ぇ……? あ……あれ? やば、お腹減ってボーッとしてたから表情とか気にしてなかっ……うわっ、激おこ!? なんで!? いや、儘ならない世の中してんなぁとは思ってたけど、貴方個人を蔑んだ訳じゃないですが!? わたしは純粋に社会問題として……あ、止まんねぇヤツですわこれ。だってめっちゃ距離詰めてきたし憤怒の形相だもんあーわたしの人生もここで終わっ――。

 

 

 

「……ッ!? 止めるんだエンデヴァー!!」

 

 

 

 ナイス筋肉ッ!!

 

 

 

 初めてヒーローらしいとこ見たぞオールマイト! 学校では授業前に配る資料が無かったり、実習でやり過ぎて機材壊したり、カリキュラム間違えて工芸の時間になったり、色々散々なことばっかりでしたし。最近No.1ヒーローとしての認識が薄くなってきてたけど、杞憂だったみたいですね。

 

 いや、違うそうじゃない。結局ピンチなのに変わりはないでしょ。今は筋肉の壁に阻まれて見えないけど、向こう側では阿修羅みたいな人が怒り狂ってるんですよ。ほら、今もエンジン音みたいな唸り声が聞こえてきますし。わたしが原因なのは百も承知ですけど、怒りすぎじゃないですか? ちょっと考え事しながら顔を見てただけなんですが。世間一般的に考えて、そこまで恨みを買うようなことじゃなかったと思う。

 

 確かに勝手に人のこと見て、若干失礼な事を内心ド直球で吐き出したけど、口には出してないよ? あ、一回口に出してたわ。でも、聞き取れてなかったぽいしノーカンじゃないです? 妄想だけなら自由って偉い人も言ってたし。

 

 

 

 

 

 ……よし! ここは退散しましょう! あっちが勝手にキレて襲いかかってきたって事で! ぶっちゃけ間違ってないし! そう考えれば罪悪感とか薄れるし、なんなら、わたし用事あったのに引き留められた被害者ですので! わたしは悪くぬぇ!! ヴァン師匠がやれって言ったんだ!(誰だよ)

 

 

 

 という訳でフードコートまで駆け足……は怪しまれるから競歩! グッバイヒーローツートップ!!

 

 

 後、人生で言うかもしれないツートップって言葉、今日だけで半分は消費した気がする。誰がどう言おうと今日は厄日ですね。起床したときから知ってましたけど。

 

 

 

 

 

 あーあ、体育祭早く終わんないかな。

 

 

 

 

 




 意味はあるが、進みはしない。

 悲しいねバナージ。


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第19話「理不尽を問い質す日」

 明けましておめでとうございます。




「この後の予定ってレクリエーションだよね? 何やるんだろう?」

 

 

 時計の針が正午を知らせる最中、お茶子ちゃんがそう聞き返した。テーブルには花も恥じらうJK4名。お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、八百万ちゃん、最後にわたしである。

 

 わたしたちのいる食堂は、多くの生徒で賑わっており、各々が食べたいと思った料理を嬉々として選んでいる。ちなみに、食堂の料理は雄英関係者なら無料(タダ)。臨時でランチラッシュ先生が厨房に入ったらしいので、どの料理もめちゃくちゃ美味しい。学食とはまた違った献立でランチラッシュ先生の至高の逸品を食せて、わたし幸せです。

 

 

「奏ちゃん、一心不乱ね。いつになく真剣な顔立ちだわ」

 

 

 まあ、わたしの数少ない楽しみだからね。心此処に在らずになってしまうのは当然の摂理なのです。口数が少なくなってしまうのは頂けないと自分でも思うけども。ごめんね、梅雨ちゃん。で、何の話でしたっけ?

 

 

 

「例年通りであれば、個性ありの借り物競争や大玉転がしなどの競技が催されるはずですわ。そこまで身構えるようなことも無いかと」

 

 

 

 知っているのか雷電(ヤオモモ)

 

 

 

 変な電波受信した気がする。まあ、スルー安定で。てか、八百万ちゃんがいるだけで自然に解説パートの導入になりますね。いやぁ、考えなくていいから楽だわー。これには世のヒロアカss作家もニッコリ(メタァ)。

 

 それにしても、運動会みたいな競技が目白押しですか。基本自由参加なんですかね? それなら全然文句はありませんよ。やりたい人だけがやるべきだと思います。レクリエーションって本来そーゆーものですし。

 

 

「それはそうと……やはり、本選に奏さんが上がれなかった悔やまれますね。学校でも幾度か機会はありましたけれど、直接試合うことはなかったので是非とも手合わせ願いたかったのですが……」

 

 

 負けるに決まってんじゃん!? 全身四次元ポケット相手に勝てるワケないですよ!? あ、でもガンド決めて寝技か絞め技にもっていければ勝てる気がする。その前に得物生成されたら多分詰みだろうけど。

 

 

「それでも奏ちゃんなら、最終的にはなんとかしちゃいそうだよねー。いざ戦いが始まったら一切容赦しないし」

 

 

 だって怪我したくないもん! わたし痛いの嫌いだもん!!

 

 平和が一番ですけど、身を守るために仕方なく応戦してるだけなんです……。これでも中学3年間は自分なりに対人前提の格闘訓練とかしましたし、それなりには対応できます(相澤先生には「粗が多すぎる」って言われたけど)。

 

 けど、自分からは絶対に手を出さない。だって、正当防衛じゃなくなっちゃうじゃん。先手を取るにしても、まず他人を使いますし。ゲスい? はっはっは、何を今更。最後に生き残っていた者が勝者なんですよ。強武器は使う、有能な味方は肉壁、強ポジは死んでも渡すな。これ現代兵法の基本。

 

 

「でも、レクリエーションかぁ~……私はパスしようかな」

 

「そう……ですね。(わたくし)も遠慮致しますわ」

 

 

 二人とも本選出るもんね。手の内晒したくない気持ちは分かる。お茶子ちゃんの個性はA組以外ならあんまり知られてないはずだし、八百万ちゃんも創造までの時間とか計られたら対策されかねない。トーナメントの相手がA組だったら意味ないんだけどね。

 

 

 というか、前々から聞きたかったんだけどさ――。

 

 

「どうして八百万ちゃんは、対人で銃を使わないの?」

 

「え?」

 

 

 ぶっちゃけチャカ出されたら、大抵の人は降参すると思うんですよね。ヒーロー業で殺しは御法度だから、ゴム弾とか装填する必要はありますし、目とかに当たったら失明の恐れもあるので使い所は難しいと思いますけど。それでも、個性の使用許可がある以上はルール違反じゃないから咎められないはず。

 

 あ、もしかしてやらないんじゃなくて出来ないのかな? 構造が難しすぎて創造は無理?

 

 

「い、いえ……その、なんというか。銃器を生身の人に向けるのは、少し抵抗がありますので」

 

 

 えぇ……そこ怖がるところ? そんならわたしはそんな事を出来てしまう個性を野放しにしてる国の方が怖いよ。だって考えてみ? 差はあれど、簡単に人を殺せてしまう個性が野を蔓延っているんですよ? そんな中で自己防衛の手段で四の五の言ってたら普通にお陀仏案件になりますって。殺す一歩手前の引き際を見極められるのがプロかもしれないけど、わたしたちはまだヒーローの有精卵。今は色々試して知っていく時期だと思うし、失敗が許される歳なんだからトライしていくべきだと思う。

 

 あ、別に未成年で犯罪しても許されることを示唆してる訳じゃないからね! 物騒なことはわたしだって嫌いだし、なるべく避けていくべきだと思うのは全然間違いじゃない。そこは肯定します。ただ――

 

 

 

 

 確実に不殺を実行できる人間って、殺しの経験がある人間だけなんですよね。

 

 

 

 

 まあ、これはさすがに誇張が過ぎましたけど、あながち嘘でもありません。だって、知識だけの加減なんて眉唾だもの。それが本当に加減できているかどうかなんて、実際に一線を越えた人間にしか分からないんですよ。もしくは、自身が生死の境をさ迷うことがあるか否かです。それも、個人差があったりするので確実とまではいきませんけど。

 

 

「個性を人に使うことと、人に銃を向けること。そこにどれだけの差がある?」

 

「……それ、13号先生も言ってたね」

 

 

 そうだね。なんでも塵として分解した上で吸引するブラックホールという個性を持っているからこそ、あの人の言葉には確かな重みがあった。それこそ、過去に失敗をしたことがあるからこそ、忠告してくれたのかもしれない。

 

 手加減云々を考えることよりも、まず自身が相手に向けている個性(モノ)がどれ程危険かを理解した上で。そして、そうすることによって自分が持つべき責任とは何なのかを、常々考えていかなきゃならないと、わたしも思うよ。

 

 

「法ではなく、道徳・倫理……ですか。言われてみれば人を救うことや、ヴィランを退けるために個性を使う事への疑念……正直、そんな所感を抱いた機会なんてありませんでしたわ」

 

「『個性は身体機能の一部』なんて声も聞くけれど、それだけで片付けられる程、単純なものじゃないのよね。だって、それが正しいのなら……無個性の人がもう少し住みやすい世の中になってるはずよ……ケロケロ」

 

「……私、何も考えてへんかった。ううん、考えてはいたけど、全部自分の価値観で判断しとった。あるのが当たり前で、使う事になんの躊躇いも無かった……これじゃあ、目的が違うだけで無闇に個性(ちから)を振りかざすヴィランと変わらへん……!」

 

 

 ん? んん~~?? あ、あれれ? あの、落ち込む必要はないんだよ!? ぶっちゃけこんな世界でこんな七面倒くさい御託をうだうだ並べている人の方が少数派なんだから!! 君たちは善行を生業としているヒーローを目指すために個性を振るってるのは知ってるし、ちゃんと意識さえしてれば問題ないことなんだよ! アカン、これはちゃんとしたフォローをせねば!

 

 

「……この問いには善悪の在り方が絡む。だから、絶対的な正解なんてない。けれど、それはわたしたちが思考停止していい理由にはならない。もし、考えることを止めてしまえば――」

 

 

 

 

 

「それは『人』ではなく『獣』に成り下がる」

 

 

 

 

 

 

 何 言 っ て ん だ コ イ ツ(わたし)

 

 

 やばい、テンパってごちゃごちゃした頭で話してたから自分でも意味わからん結論に行き着いた。しかも、めちゃくちゃ痛い方向に。なんだ獣て。個性と武器の差異についての話してて、なんで人が獣にトランスフォームする結論に至るんですかね。そこんところを何故と小一時間。あ、言い出したのわたしだったわ。うわぁ、3人ともキョトンとしてるじゃん……もぅマヂ無理ガンドしょ……。

 

 

 

 

「おっ、ここにいたか~」

 

 

「なんかえらい空気が死んでんな……4人共どしたよ?」

 

 

 

 

 主よ、御許に近づかん(昇天)

 

 

 お前は峰田! 峰田じゃないか!! そして、後ろにいるのはパツキンビリビリ男子の上鳴少年! 話す機会は少なかったけど、チャラい感じで連絡先を聞かれたのはバッチリ覚えてる! シリアスブレイカーで久しい二人が揃い踏みとはなんたる僥倖……死中に活とはこのことか!! これを逃す手はない。なんとしても、ふたりにはこの重苦しい雰囲気を変えてもらわねば……!

 

 

「何でもない。何か用?」

 

 

 言い方ァ! もう少し愛想良い返答があっただろうがよ! 落ち着くのよわたし……チャンスはまだある筈。次の問答ではもっと朗らかに受け答えするんだ。ごく自然で高校生同士の他愛もないような雑談を心がけ……あれ? 普通の高校生ってどんな話し方するんだろう? そもそも、いつも皆に対してどんな対応してたっけ?

 

 

「おう! 実はな、相澤先生から伝言を預かっててな――」

 

 

 え、相澤先生から? 君たち主体で話題を持ってきたのではなく? もしかしなくてもそれってただの業務連絡ってこと?

 

 

 

 

 

 …………ちょ、ちょっとパンチが足りない!

 

 

 仮にその話題で一時的に彼女らの気が逸れたとしても、後々に引き摺る可能性が高い……しかも、内2人は本選を控えてるんだぞ!? 個性使用時に余計な雑念が入って試合に影響出たりしたら、それこそ責任取れないじゃないですか!! くそっ、どうにか……どうにかこの陰鬱とした雰囲気を払拭できる様な話題をわたしから作らねば――

 

 

 

 

 

 

 

「レクリエーション中、女子は『チアガール』の格好しなきゃなんねーらしいぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 …………………ホワイ?

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『どうしたA組ィ!? どんなサービスだそりゃあ!!?』

 

 

 

 

 

 悪魔に魂を売った結果ですが?

 

 

 

 

 衆人環視の中での突飛な服装……控えめに言って死にたい。だが、これも仕方ないんです。だって、あのふたり(アホども)はわたしの期待を裏切らなかったんですから。

 

 

 

 あの後、衝撃の発言に言葉を失った女子たちは、疑いながらもチアガールの服装について了承した。問題はそうするだけの覚悟、つまり押し寄せる羞恥心に対する気概だけだった。無論、これが普段通りの二人が言ったことであれば、嘘として聞き入れなかっただろう。だが、規律や合理性を重んじる相澤先生の言葉と言うのなら別だ。それを見透かしたように「信じるかはお前らの自由だけどなー(棒)」なんてこと最後に付け加えていった。

 

 

 

 で、当然のことながらそれは大嘘だった。ご覧のとおりプレゼント・マイクはその様子に驚いて声を上げ、他のB組以下のクラスの女子たちは今まで通り体操服のままだ。そんな最中、突如として現れたチアガール集団。そりゃ、注目されないわけがない。誰だってそーする。わたしだってそーする。

 

 

 

 

 だが、敢えて言わせてもらおう。

 

 わたしは自らの意思で今の状況を望んだのだ!

 

 

 

 だって、相澤先生がチアガールの格好をしろなんて戯れ言を宣うわけ無いじゃないですか。その言葉を聞いた瞬間、嘘だってハッキリ分かりましたよ。

 

 そもそも、それが本当の話だとしたら、明らかに服を用意する予算が必要になりますよね? それも1年女子の全員分。そう考えると割りと結構な金額になること明白じゃないですか。それを忘れた上に『服は八百万に任せる』って言ってた? 合理主義の塊みたいなあの人がそんなミスする訳ない。是が非でも、予算が無駄にならない様、服を持ってくるに決まってるでしょうが。

 

 じゃあ、なんでそんな格好してんのって? 簡単なことです。そうと分かっててチアの格好に甘んじているだけのこと。だって、あのヤバ重な状況を打破してくれたんですもん。内容こそアホみたいな虚偽だったけど。だったら、それに報いようと思うのが人情ってヤツじゃないでしょうか。まあ、勝手な自己満足なんですがね。

 

 

「また、峰田さんに騙されましたわ……」

 

「あぁ!? 百ちゃん気をしっかり持って!」

 

 

 尊い犠牲だった……ごめんよヤオモモ。別の意味で沈んだ空気になってるけど、さっきよりは幾分かマシなはずだから……おのれ峰田と上鳴めぇ!(責任転嫁)

 

 

『ま、まあ、予想斜め上のサプライズもあったが気を取り直していこうぜぇ! ここからはレクリエーション!! 楽しんだもん勝ちのピースフル・タイム……と言いたいところなんだが――』

 

 

 

 

 

 ぬ?

 

 

 

 

 

『予定変更ォ!! 脱落者も本選出場者も関係ナッシング!! 誰でも参加可能な前哨戦……血沸き肉踊る"エキシビションマッチ"を開催するぜぇ!!』

 

 

 

 

 

 ……………………え"っ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 エキシビションマッチ。その言葉を聞いた瞬間に、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。だがそれは、決して嫌なもんじゃねぇ。むしろ、天啓を得た――濁っていた視界がクリアになったような感覚だった。

 

 

『先ほどプレゼント・マイクも言ったが誰にでも参戦権はある。参加希望者は名乗りをあげた上で、対戦相手を指名しろ。本選出場者でも脱落者でも構わない。だが、注意しろ。指名された選手には勝敗条件の決定権が与えられる。例えそれが指名された側が有利な条件だとしても受理されるからな。ただし、あからさまに勝負にならないような条件の場合は改編するように促すから安心しろ。また、指名された選手は参加するのも降りるのも自由だ。まあ、各々がよく考えて参加するといい』

 

 

 普通のレクリエーションであれば、参加するつもりなんて無かった。馴れ合いをするために、この体育祭に挑んだ訳じゃねぇ。他の全てを潰した上で、頂上(てっぺん)を獲る。改めて認識を深めるが、それが俺が掲げる目標だ。

 

 そんで、俺には勝たなきゃなんねぇ奴がいる。予選で俺より高順位で通過したデクや半分野郎は言わずもがなだが……もう一人だ。俺を蹴落とすだけ蹴落とした挙げ句、尻尾巻いて脱落したアイツには何がなんでも戦って分からせる必要がある。この体育祭じゃ、もうその機会は訪れねぇと思っていたが――。

 

 

 

 

『《君が》死なない程度に頑張ればいい――?』

 

 

「能面女ァ……!」

 

 

 

 勝つ、今度こそ。勝負でも、試合でも。俺が上であることを証明する。だから――

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 いつにも増して頭の中に影が差す。何をしようにも裏目に出る。もはや自分が何をしたいのか分からない。それでも脳裏に浮かぶのは忌み嫌う父親の顔だった。それが、それだけが自身を突き動かしていると言っていい。そうだ。そいつを見返してやることだけを考えてここまで来たんだ。何を迷うことがある。

 

 

 

『――のよ、お前は』

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 思考の隅に途切れながらもその光景がちらつく。摩耗した幼少の記憶の欠片。全貌は掴めず、過去の事象としてそこにあるものとしか認識できない。今の目的を果たすためには不要の産物。だというのに、競技を重ねるごとにフラッシュバックの頻度は増えていく。無視を決め込もうとすれば、不定形な疑念が靄となって心に広がり、その道筋を阻む。そして、当初の疑問へと帰結し、全ては振出しに戻る。

 

 

 

 

「俺は……何がしたいんだよ」

 

 

 

 

 握る拳に込められている想いは父への憎悪か、それとも己に対する苛立ちか。曇った思考に引っ張られるように鈍重となった体に鞭を打つ。

 

 行かなくてはならない。どれだけ考えようと、後戻りという選択肢だけはないのだから。今は目の前の障害を取り除く事だけ視野に入れていればいい。前へ進むために全力を尽くせ。そうすればきっと辿り着ける。きっとそのはずだ。

 

 

 

『――ちゃんと周り見えてる?』

 

 

「……ッ! やめろ……!」

 

 

 

 

 いい加減にしろ……! 勝手に人の事情に土足で入ってくんじゃねぇ!! 俺は必ず母さんだけの力で親父を見返す! その邪魔を……!!

 

 

 

 …………勝てばいい。そうだ、お前に勝てば道が正しい事の証明になる。この鬱陶しい靄も晴れるはずだ。だとすれば選択肢はひとつだ。今から――

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「俺と戦いやがれ! 能面女ァ!!」

 

 

 

「俺と戦え……萬實黎……!」

 

 

 

 

 

 

 理由は違えど、明確な意思は鬨の声を上げた。偶然か必然か……想いは重なり競技場に木霊す――。

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 最も、ひとりの少女にとって晴天の霹靂だったことは、言うまでもない。

 

 




 意味深なことは言うだけ言って、何も回収しないスタイル。まあ、後々で回収します。


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第20話「廻り廻ってhere now」



 余裕が出てきたので、再度浮上。




 人生を歩む上で、わたしたちには「断りにくいお願い」を聞く機会が訪れる。そう感じる理由は多種あれど、そこに断ることで不利になる「条件」があることは確かだ。その内容が断りたいものであれば、尚更悩ましい。どちらを選んでも、何かを切り捨てる事になる。そうなってしまっては、もう比重で考えるしかない。いわゆる妥協だが、今のわたしなら間違いなく断ることを選ぶだろう。

 

 だが、どうしようもない事実がひとつ。どう断るべきか皆目検討もつかない点だ。ただでさえ背負い難いデメリットを負うのに、これ以上胃痛の種が増えてもらっては困る。だから、なるべく穏便克つ平和的に――

 

 

 

 

 

 

 

 

『何? 学校のツートップに宣戦布告されてるけど断り方が分からない? それは君が周りの視線を気にしすぎてるからだよ。逆に考えるんだ。受けちゃってもいいさと(挑戦を)』

 

 

 

 …………出来てればより円滑な世の中になっているだろうに。葛藤で茹だる(あたま)をなんとか廻すが、答えは出ない。むしろ、変な幻聴すら聞こえてくる始末。幻聴とは分かってはいるのだが、無視を決め込むのも収まりが悪い。敢えてそれに答えてやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 いいわけないだろ(迫真)

 

 

 

 

 

 

 

 実戦形式のタイマンとかわたしガンメタじゃねーか。断っても良いって前置きがある以上、手を抜くわけにもいかないし八方塞がりも良いところだよ。てか、そもそも今の幻聴は何です? なんか、青空をバックにしてうっすらと知らないおっさんの顔が浮かんできた気がしたんだけど……絵面怖っ。怖くない?

 

 

 

 はぁ……。否応なしに予感的中。しかも二人同時に食って掛かってくるとかなんなん? お前ら実はわたしのこと大好きだろ。その愛情表現が肉体言語とかチョットイミガワカラナイ。末恐ろしいとかいうレベルじゃねぇや。

 

 

 

『いきなりか……二人以上に指名されて受けたい場合はどちらかに絞れ。このレクリエーションの目的は他クラスとの交流を深めることだ。同じクラスでも悪いとは言わないが、建設的に行動しろ』

 

 

 

 おっ、ええこと言いますやん。

 

 そーだぞー。二人とも日常的に顔会わせるんだから控えなさいな。栄えある推薦組と筆記試験1位の実績持ちなんだから分からないはずないでしょ? A組だからとかいう贔屓じゃなくて、機会は平等に与えられるべきだと思うんです。

 

 え、却下してる割にはどこか達観してる? そこまで焦っているようには見えない? いやぁ、うん……最近は諦めることも大事かなぁって思い始めてまして。そりゃあ、やりたくないことは勿論やりたくないんだけど、ワガママが全部通るようなことって滅多にないじゃん? だから、とりあえず気乗りしないようならそれなりに手を抜いた方が楽かなって……ね?

 

 あ、今しょーもないって思ったでしょ。ちーがーいーまーすー。これは自分の精神状態を踏まえた上での自己防衛なんですぅー。ホント割り切らないとやってらんないよ。ただでさえ胃痛が止まらんのに、これ以上の面倒事は勘弁してほしい。

 

 

「とはいえ、最終的な決定権は萬實黎さんにあるわ。受けるも断るも好きになさい!」

 

 

 ミッドナイト先生。その判断を丸投げするスタンスは一番困るんですが。なんならさっきまで断れそうな雰囲気があったのに、見事に霧散したんですが。わざとやってます? ねぇ、楽しいの? サポートキャラに火力キャラをぶつける事がそんなに? あ、本当にワクワクしてる表情張り付けてら。悪気なんて一切無い純粋な気持ちなんですね理解しました(やけくそ)。

 

 

 

 

 

 

「いえ、受ける理由がありません」

 

 

「あ"ぁ!?」

 

 

「おい……!」

 

 

 

 凄むんじゃねぇ。気絶すんぞオラァ。

 

 

 やだよ。受けるわけないじゃんエキシビションマッチなんて。酷い結果になるの目に見えてるでしょ。何が楽しくて真正面からの戦いなんてするんですか。あん? 妥協して受ける流れじゃないのかよって? バッカ、お前さん方一旦ふたりの顔見てみ?

 

 

 

「…………ッ!!」

 

 

 

 どう見ても中指突き立てながら「屋上」って言ってる表情だよネ! 冷静さを失ってる奴らの相手なんかしたら間違いなくヤバいに決まってらぁ! ふたりともその辺のヴィラン程度だったら悠々と制圧するような実力持ってるし、バトったら絶対に怪我するじゃんよ!? リカバリーガール緊急出動からのザオラルとか洒落にならんし!! 妥協するとは言ったけどそこに自分の命が関わるなら、世間体かなぐり捨てても尻尾巻いて逃げますからねっ!!

 

 

 

 

「なんだ、受けないのか?」

 

 

「A組のトップなのに……まあ、オレも断るけどな」

 

 

「試合って言ってもレクリエーションだろ? ビビりすぎじゃね?」

 

 

 

 

 ぐぬぬ……好き放題言いよってからに……だが、山は越えた! 後は何も言わないで耐えていればいいんだ! 参加は自由なんだから、わたしは何も悪いことしてないし! 空気読めとか言われても背に腹……命に雰囲気は変えられないでしょ!!

 

 

 

「あら残念ね。でも、受けない理由もないんじゃない?」

 

 

 

 が、ダメ!!

 

 

 痛いところしか突いてこないなホント! そういうとこだぞミッドナイト先生!! ドSキャラが売りなのは分かるけど、無神経なのはちと違うんじゃないかなぁ! あーたさっきは受けるも断るも自由にしろっつったじゃぁん!! そんなだから三十路手前でいきおくr「今、失礼なこと考えたかしら?」いいえなんでもございません(滝汗)。

 

 と、とにかく! こうなった以上、今はどうにか状況を打開する言い訳を考えねば! いや、言い訳も何も本当ならする必要がないんだろうけども! 流石にやりたくないってだけで断っちゃったら雄英の面目が立たんし! けど、あるのか!? わたしがダメージを負わないでこの場を諌める方法が!? んな都合の良い策があったら苦労しないんだよぉ!!(ヤケクソ)

 

 

 

 

「ば、萬實黎さん……どうしたの?」

 

 

 

 

 どうしたも何もちょっと絶体絶命な感じなんですよ。どうしようね……うん、心配してくれてサンキューな緑谷少年。直感的に困った人に寄り添おうとするその行動力。さすがヒーロー志望の主人公だよ。まったくこんないい子だっているってのになんでわたしはやべぇ奴に目をつけられているんですかね? ふたりとも少しは緑谷少年を見習っていくべき……いくべき………………あ。

 

 

 

「えっと……大丈夫?」

 

 

 

 閃いた。閃いちゃったけどこれは流石に人としての何かを失いそうな気がする。そんな善意につけこむようなことヒーローの卵がやったら絶対イカンことだと思うんだが。いやでも待て実際に言質あるし? なんならあっちから頼んできたことだし?? むしろ問題ないのでは??? そう思えばなんか感謝されるべきな事な気すらしてきたそうすべきうんうんよぉし覚悟(いいわけ)完了!

 

 

 

 

「緑谷君。この前のアレ、今返答する」

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

「――君に(・ ・)、付き合ってあげる」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 なるほど、と俺は頷いた。

 

 ヒーローという職業柄、我々は他人の期待に応えるという責務を公に背負っている部分がある。俺のようなアングラ系は少々特殊ではあるものの、一度現場に出てしまえばそんなものは些細な問題だ。人を救える、救えない。ヴィランを倒せる、倒せない。当事者にのしかかるのは過程ではなく、その結果だけだ。一部の過程における努力や負担なんぞ明るみにはそう出るものじゃない。

 

 故に、だ。

 

 今の場面、萬實黎がふたりの申し出を断るという選択をしていたなら、俺はアイツに説教をかましていたかもしれない。

 

 自身の力量を鑑みた上での判断はヒーローに必要不可欠だ。そう、不可欠。無くては話にならない。そこまででスタートラインかつ最低限。求められるのはさらにその先なんだ。極論の良し悪しの話だけで片付けられるほどこの世は簡単に出来ちゃいない。相対評価の末に与えられる結果論に委ねられる。無茶苦茶な話かつ矛盾に満ちているがコイツが現実だ。

 

 まあ、口上をグダグダと述べたが要するに「ベスト」ではなく「ベター」な結果を残す必要があるって話だ。結果を先に言うべきだった。合理的じゃなかったな。

 

 最高のパフォーマンスを目指すことは良い。だが、それを実行不可能な場合はどうするか。最高の動きが出来ないから諦めるのか。あぁ、答えは違うとも。ならばこそ「最高」ではなく「最良」の選択をしなければならない。

 

 萬實黎の行動はその最良のうちのひとつだった。自分に出来ないのなら誰かを頼る。俺自身が指南したことでもあるな。評価としては活かせているようで何よりと言ったところだ。自己犠牲の精神がヒーローの本懐であるが、過ぎればただの傲慢に成り下がる。

 

 まあ、その点アイツは元々個性の性質上、人頼みな部分はあった。故に他人を使う事に躊躇はなかったように見える。問題視すべきは自分をも駒として使う冷淡さだ。職員室の一件以来は鳴りを潜めたが、その行動原理がアイツの心に根付いてしまっている以上監視を続ける必要がある。後から聞いた話ではあるが、俺が脳無とやらに取り押さえられている間にやらかしかけたらしいしな。13号曰く「致し方無かったとはいえ、あれは先輩の無茶も原因ですし」との事だが……だとしてもだ。USJ以降には未だアイツを追い詰めるほどの困難は現れちゃいない。その時の判断をこの目で見るまでは、変わらず見守――。

 

 

「……どの口が『肩入れし過ぎ』なんて言えるんだか」

 

「なんか言ったかイレイザー?」

 

「なんでもねぇよ」

 

 

 とにかくだ。判断は今のところ良好と言える。言うほど追い詰められているようには見えないがな。いや、部分的には追い詰められているか。萬實黎という少女を形成している内核の一片。為人(ひととなり)は極僅かながら理解できたことがある。

 

 

 

 

「かなりのものぐさ(・ ・ ・ ・)……お前、実は結構イイ性格してるだろ」

 

 

 

 

 じゃなきゃそんな判断しないだろ。飛び火した緑谷(ソイツ)の顔見てみろよ。読んで字の如く鳩が豆鉄砲を食ったみたいに固まってんじゃねぇか。流石に俺でもどうかと思ったぞ――。

 

 

 

 

 

 てか、ぶっちゃけちょっと引いたわ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その人は、すごい人だった。

 

 

 月並みな表現だけど、その一言に尽きた。僕に持っていないものを沢山持っていたんだ。サポート系の個性を活かしてUSJでは13号先生を治療したし、大局を見渡す判断力と奇想天外な策略で体育祭の予選では試合を放棄して勝負をものにした。嫉妬の類とか、そんなんじゃない。純粋に自分に出来ないことをこなす姿に憧れたんだ。

 

 

 

 でも、どうしてだろう。さっきは声をかけなきゃって思えた。正直、普段は顔色ひとつ変えないから、あんまり何を考えてるのも分からない人だから、僕なんかが何かを手伝えるような余地なんてないと思ってたのに。具体的な将来設計があって、そのためには努力や挑戦を惜しまない。そんな彼女に……萬實黎さんに僕が出来ることがあるとは思えない。だからあんな、中途半端な声の掛け方をしてしまった。

 

 

 

 

 

『えっと……大丈夫?』

 

 

 

 

 

 けれど、それはある意味正解だったのかもしれない。僕自身がたった今置かれている状況。元をたどれば、自分がそう望んだことでもあるんだ。人一倍誰よりも努力を必要とする僕にとってはありがたい事に違いない。オールマイトにも言われたんだ。ここで証明しなくちゃならない。僕が来たって事を、この体育祭で。これから訪れる試練はチャンスと同意義だから、全部乗り越えて証明しなくちゃ……僕が此処にいるってことを! だから――!!

 

 

「萬實黎さん!」

 

「ん」

 

「この機会をくれてありがとう! でも、ひとつだけ言わせて欲しいんだ!!」

 

「ん」

 

 

 

 

 

「なんで僕が此処に立ってるのかna「ぅるっっせぇぞクソデク逃げんじゃねぇカスコラァアア!!!」ひぃいいいぃぃいい!!!?」

 

 

 

 

 

 ファイアインザフォゥ(爆発するよね知ってた)!?

 

 本当に凄いことになってるよ!? なんで僕かっちゃんと戦ってるの!? まだ本選も始まってないのに!?いや、事の発端は分かりきってるんだけどね!? まあ、原因というか元凶という方が正し……んんっ、違う違う。元はと言えば僕が言い出した事なんだ。彼女を責めるのはお門違い……なはず(チラッ)。

 

 

 

「╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ」

 

 

 

 ………………うん! 応援してくれてる気持ちは伝わったかな!!(自棄)

 

 

 

 やっぱり無謀だよぉ!! 何の準備もなく個性の調整練習……しかもいきなり実戦なんてさぁ!!? しかも、相手はあのかっちゃんだよ!? レクリエーションとはいえ流石に無理があると思うなぁ!? 確かに頼んだのは僕だけど、今このタイミングでやろうとは思わないよ! 急拵え過ぎて出来たことと言えば僕の個性に対するイメージを萬實黎さんに伝えただけだし……その肝心の萬實黎さんも――。

 

 

 

 

「…………?」(首かしげ)

 

 

 

 

 何故か! 個性を!! 使う気配がない!!!

 

 てっきり僕の個性発動タイミングで弱体化の効果を着けてくれるのかと思ったんだけど、全く動く素振りとかないんですけど!? どうして不思議そうな顔して見てるの!? 僕がすべき反応だよねソレ!? いや、相変わらずの無表情だけども!!

 

 

 

 

「逃げるばかりかよそ見するたぁ……余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ三下ァ!!!」

 

 

 BOOOM!!!!

 

 

 

 うおっとっと!!? あ、危ない……というより気が抜けない……! センスの塊みたいなかっちゃんを相手にしてるんだから当たり前なんだけど、それはそれで実は他にも問題があって――。

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 

 

 

 

 かっちゃんの爆撃から逃れるためのサイドステップ。けど、嫌な寒さが五感と六感に押し寄せるのを感じた。その勢いのまま側転、手が着くと同時に前方に力を込める。反動に体を委ねると、先程まで後ろに居たはずの萬實黎さんは僕のとなりに来ていた。

 

 

「あ、危な――」

 

 

 顔を上げながら月並みな言葉を口に出そうとして、そこで止まった。視界に先程まで一悶着あった場所が入ったからだ。予想通り、と言えばそれだけなのだろう。けど、それでも、実際に認識してしまえば怖じ気が背中に走った。感覚的なものなのか、精神的なものなのか。それを判断出来るほどの余裕は、今の僕にはない。

 

 

 

 

 

「ッッスゥー………ハァ」

 

 

 

 

 

 

 言い忘れてたけど――

 

 

 

 これは僕が最高にヤバイペア(轟くんとかっちゃん)を相手にする物語だ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 いや、うん、何て言うべきだろうか。目の前で緑色のモジャモジャヘアーが激しく揺れるのを眺めながらただ突っ立ってるのもアレなんで何か喋るべきだと思うんだわたしは。というか、その揺れてる原因もわたしだしな。

 

 はい、という訳で見ての通り緑谷少年を巻き込みました。しかも彼が8割ぐらい負担を受け持つ感じで。しかも、その加負荷を与えてくるのが轟少年と爆豪少年という難易度ルナティックっていうね。文字に起こしてみると我ながら酷過ぎて直視できねぇや(目そらし)。

 

 とまあ、なんでこんな事になったのかというとですね。わたし思ったんですよ。どっちかを選べないんなら、どっちも選んじゃえって。だって、考えてください? 片方選んでももう片方から憎まれそうですし、両方受けないってのも場の空気的に難しい。かといって、相澤先生も尺を考えろって指示してるんですから、もう一辺に引き受けるしかないじゃないですか(怒)。

 

 

 

 そ ん な わ た く し の た め に ぃ。

 

 

 

 流石に2対1は無理ってことで数日前に告白(大嘘)してきた緑谷少年を防御表示で召喚したって寸法です。「お前個性の練習したいって言ってたよなオルァン!?」的な感じで。そんで、ここからが一番重要なところ。そう、試合形態の話です。

 

 

 

ルール:

 

両チーム共に前衛1人と後衛1人に別れて戦うスタイル。基本的に前衛同士が戦いつつ、後衛がソレを援護する。前衛は相手の前衛・後衛どちらにも攻撃可能だが、後衛は自軍前衛の補助及び相手前衛のみにしか直接攻撃できない(相手後衛に対する非直接的な妨害ならば可)。

 

 

勝敗条件:

 

自軍前衛が先に相手前衛を戦闘不能にする、もしくは自軍前衛が相手前衛を掻い潜り相手後衛に攻撃を当てたら勝利。

 

 

 

 うんどう考えても緑谷少年をこき使う気満々ですありがとうございました!(残当)

 

 でも、一応真面目に考えたんですよ? 少し言い訳っぽいけど、ちゃんと緑谷少年が個性を活かせるように且つわたしの個性も十全に使えるようにするためのルールにしたつもりですし。相手? 挑んできた以上はこっちの得意分野でやって貰うのは当たり前だよなぁ!? 盟約に誓って(アッシェンテ)!!

 

 

 

 で、決めた後に思ったんですよね。この形式どこかで見たことあるなーと。なんならわたしの個性とかそこら辺の根幹に位置するナニカなんじゃないかなーと。うん、察しのいい人なら気づくと思う。

 

 

 

 これ、まんまFateの構図じゃん。

 

 

 

 理想の形態を模索したら原作に行き着いたの巻。まあ、当然と言えば当然でしょうな。マスターとサーヴァント。基本が前衛同士のぶつかり合いで、後衛はそれの補助。うむ、惚れ惚れするほどのリスペクト(パクり)具合だよ。なにこの利己的ルールはたまげたなぁ……。

 

 まあ、ルールも決まって、ミッドナイト先生と相澤先生からも許可が降りた上で、役割分担になったんですけどねぇ……こっちはともかくあっちは随分と揉めてましたよ。どっちも闘争意欲丸出しだから前衛にこだわりまくるわまくるわで中々決まらんかった。

 

 結局、個性や戦闘スタイルの都合上爆豪少年に軍配が上がったみたいです。そして、いざ実戦という場面に至っている今現在。わたしは緑谷少年の背中を見つめている。やってることは軽い指示ぐらい。え、個性のサポート? うん、最初はわたしもそのつもりでしたよ。自分への被害が滅茶苦茶軽いっていう役得状況ですし、なんなら普段よりやる気満々でした。でもですね、ひとつだけ失念していたことあるんですよ。

 

 

 

 

 

 

 すまない、緑谷少年。

 

 わたし、個性使えない(チア服着てる)んだわ。

 

 

 

 

 

 

 ………マジでどうしよう。

 

 

 






 すすまねぃ。



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第21話「コマンド→とくぎ→すてみ」



 遅すぎる更新……1万字越えたので許して頂きたい。

 なお、ちゃんと進行するかは(ry




 出来ない訳じゃない。やらないだけ。

 

 

 世の若人たちが口を開けば、そんな声がちらほらと聞こえてくる。無論、大半が体のいい免罪符なのだろう。そもそも、やらなくてはという意気込みなしに行動という事象は起こり得ない。人とは考えてから行動をする生き物だ。これは揺るぎない事実である。

 

 つまるところ、この台詞を吐くこと自体が『絶対に出来ない』と言っているようなものなのだ――。

 

 

 

 ……そんな事を考えながらも、わたしは傍観を続けている。

 

 きっと、今すぐにでも動くべきなんだろう。けど、どうやって? 自分の自己管理不足で、個性を縛られたままのわたしに何が出来るのだろうか。名誉挽回と躍起になるのが人情というものなんだろうけど、自身が課したルールによって直接的な攻撃に出ることも出来ない。正直、八方塞がりだ。

 

 

「うわっ!? ちょ、危なっ!?」

 

 

 はぁ~……我ながら情けない。必死にふたりの猛攻から逃れようと足掻く緑谷少年の姿を見るたびにそう実感させられるわ。なんだよ、自分の着てる服把握してないって。体育祭の出番が終わって気が抜けていたとはいえ、ずぼらにも程がある。USJの襲撃で絶対に安全な場所なんて無いって学んだばかりじゃないのよ……今回ばかりは流石におふざけ抜きで反省しなきゃ。

 

 だとしても、だ。正直なところ打開策が見当たらない。一応ではあるが水着礼装は着ている。けど、それは最終手段にしたいんだよね。だって、目の前で行われている試合はただのレクリエーション。今日に至るまで、あまり交流の無かった他クラスとかと相互理解を図るために催された云わば交流の場。成績に関わる実習や命が掛かってる実戦ならまだしも、名目上のお遊びで……ついで全国放送の晴れ舞台でストリップショーやるとか冗談キツいわ。

 

 この催しは多くのプロヒーローたちの目にも留まる。所謂、ヒーロー路線の暫定。つまり、今後の就職にも関わるってこと。仮に自身の望む印象とは違ったものが世間に浸透したとしよう。当たり前ながら、その情報と自身の趣味嗜好の合う者たちからの視線が集まるわけだ。それがたとえ、自らの意にそぐわないものだったとしても。

 

 嫌だよ! お役所で書類仕事、時々出張(パトロール)ぐらいでいいんだよ! わたしの求めるのはそれだけだよ! え、どのみち個性の都合上、他事務所から要請されまくるって? うん、まあ、それはうれしい悲鳴ってやつでしょ。仕事に困らないってことなんだから選ぶ贅沢とかおこがましいし……。あれ? 今の私、なんか凄くクズい小心者な感じになってる……?

 

 

「う"おぉい!! いい加減にテメェも戦えや!!」

 

 

 キレんなキレんな……(焦)

 

 こうなったら脱ぐしかないのか……。布面積的にはあんま代わらんし、以外と違和感なくてワンチャン? うん、イケるイケる(脳死)。うだうだ言っててもしゃーないし、とりま上から――

 

 

 

「奏ちゃん! また脱いだら怒るからね!!」

 

 

「この観衆のなかで……流石に許容できないよ!!」

 

 

「嫁入り前なのですから、もっとご自愛ください!!」

 

 

 

 ピッチリスーツと露出度高め共が何言ってんだ(真顔)

 

 ダメじゃったか……ここでUSJのとき居合わせた女子3人からストップの声。無視しようものなら後が怖すぎる。少なくとも、本選までお説教は確定。それはちょっとヤダ……。

 

 じゃあ、何か? この場で礼装接続しろと?? 下手したらトップクラスの激痛で死ねるんだが??? 最近ポンコツが過ぎるのは重々承知ですけど、流石にそれは厳罰通り越してもはや拷問じゃないですかね。

 

 そもそも、なんでふたりがガチでわたしを潰しに来てるのか分からんのですが。

 

 男の子のプライドや面子? いや、公式の場に無理矢理引きずり出した時点で、そんなもの無いに等しいし。むしろ、それらをかなぐり捨てでも、わたしに勝たなきゃいけない理由がある?

 

 ……皆目検討もつかないって思うのは現実逃避かな。真面目な話、思い当たる節はある。爆豪少年は言わずもがな『あの日』の啖呵。轟少年は……直接的では無いにしろ要因は恐らくさっきの『あの人』絡み。

 

 うへぇ……爆豪少年はともかく、轟少年の事情は知りたくなかった。いや、勝手に察しちゃっただけなんだけどね。個人的な問題にわたしがとやかく言えることはないし、あっちにとっても余計なお世話な訳だし。基本的にはノータッチで穏便に済ませたかった。

 

 

 

 けどさぁ、それでわたしに突っ掛かって来るのは、話が違ってくるんですよ。

 

 

 

 ぶっちゃけ、ただの迷惑だからね? 緑谷少年を巻き込む原因になったのはあっちが絡んできたからだし。端的にみれば善意に漬け込んだ上に、こっちの落ち度で援護すらしない畜生とか思われるかもだけど、緑谷少年の倍の人数がわたしに迷惑吹っ掛けてきてるんですよ。

 

 確かに、予選で思いっきり妨害したよ? だからって、因縁つけてレクリエーションでどうにか雪辱を晴らしたいって? しかも、形式上は敗退している相手に?

 

 

 

 

 ………………なんですか、それ。

 

 

 

 自己満のための腹いせじゃないですか。なんでわたしが、そんなことに付き合わされるんです? 正統性なんて皆無なのに。わたしの意見なんて無視して。謂れの無い義憤を撒き散らして。必死なのは理解できますよ。それを伏せられるほどふたりが大人じゃないって事も。けどだからって――ああ、もう、違うッ!

 

 違うんですよ、そうじゃなくて……もっとこう、釈然としないというか。怒りをぶつけられるだけなら、踏ん切りよくわたしも憤れるんですけど……だって、気持ちは分からなくもないし。本当にそれだけのことなら「ふざけんなぁ!」って純粋に開き直ったのに。でも、妙に靄つくというか、それだけじゃない感情というか感覚が拭えな――

 

 

 

 

 

『――――だな。――――――くせに』

 

 

 

 

 

 

 は? …………あぁ、なるほど。

 

 

 そっか。そういうことか。なんていうか、怒り通り越して呆れてきましたよ。これじゃあ、考えるだけ無駄なわけですね。確かに、あのふたりが主な原因だけど、それが全てじゃない。もっと質の悪い、腹が立つ相手がいるじゃないですか。

 

 

「…………やってられない」

 

 

 全部放棄してもいいですけど、それだと関係のない緑谷少年が損するだけですね。それは……うん、ダメだ。思う壺っていうか、何の解決にもならない。わたしの価値観による暴走もあるし、だったら、もうそうする(・ ・ ・ ・)しかないですね。やってやりますよ。冷静な判断じゃないことぐらいわかってますけど、ぶっちゃけどうでもいい。どうせ何をしても後悔するんですから、やりたいことをやるだけです。

 

 

 

 勢いに身を任せたヤツは破滅するって言いますけど、それが誰も巻き込まない保証なんて何処にもないんですよ――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続).

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 会場が、騒然となった。

 

 

 

 熱気が一度に冷めるような感覚。味わった事は少なくない。だが、何度経験しようが不快なものは不快だった。教師として、いや、そもそも人として止めるべきだと脳内で遅すぎる警鐘が鳴り響く。後手にまわるのはヒーローの常だが、対策を怠って良い方便ではない。むしろ、受け止めた上で事態を未然に防ぐ努力、延いては結果に結び着けなければならない。それが、俺たちプロヒーローとしての矜持だ。

 

 

「……おいおいイレイザー。洒落になってねぇぞ」

 

「分かっている」

 

 

 努めて冷静に返答しているつもりだが……どうだかな。存外血が昇っているのかもしれん。ともあれ、アイツの状況を鑑みるに、一つの真実が明らかになったのは確かだ。USJ襲撃前に起こったヴィラン侵入騒動だ。

 

 USJを経たからこそ分かる。アイツが満身創痍になっていたのは、外的要因じゃない。緑谷と同じ、個性の反動だったって訳だ。まだ何かを隠している様子はあったが、周囲に頼るようになったことで認識を甘くしすぎていた。

 

 

 

「中止だ中止! ミッドナイトにそう伝えろ! エキシビジョンマッチとはいえ、レクリエーションで生徒が血塗れ(・ ・ ・ ・ ・ ・)になるのはゴアが過ぎるぜ!?」

 

 

 

 ……全面的に同意、なんだがな。それで止まるなら、オレも冷静を欠いちゃいなかったはずだ。厳重注意と反省文で事足りるからな。しかし、それは当てている焦点が違う。問題は――。

 

 

 

 ――――アイツがそうするまでの『覚悟を決める事態』が起きている事だ。

 

 

 

 理由はなんだ。ヴィラン関係か、個人的な問題か。それらが及ぼす被害及び規模は如何ほどか。未だに全貌が掴めん……! アイツは、萬實黎は突っ走る癖こそあるが、バカじゃない。不測の事態に見舞われたとしても、最善策を模索して実行するタイプだ。それを踏まえてこの行動の意味は一体……?

 

 いや、もしくは因果逆転か? これで逆説的に中止に持っていけると判断した? 面倒事を避けようとする節は見られたが、あのデメリットを背負ってまですることじゃないと思うが……。

 

 

「…………はぁ!? 続行!? 何考えてんだミッドナイト!? なに…………本人の意思を尊重しただぁ? 萬實黎はこの状況で続けるって言ってる? オイオイオイ、クレイジー過ぎんだろ!! …………いや『うっさい山田』じゃなくてさ!?」

 

 

 ミッドナイトからの無線。中止の線が潰れたか。とすれば、あの試合にそれほどの意味を見出だしたってことになる。確かにA組上位勢同士が戦う……正直、本選よりも大目玉競技と言っても過言ではないが……。

 

 ……む? 萬實黎が此方を見ている? 口が動いて……何かを伝えようとしているのか。読唇術は専門じゃないんだが……まあ、出来んこともない。

 

 

 

『す が た な き あ く い』

 

 

 

 な、に……ッ!? まさか、またヴィランの襲撃か!? バカな……総勢50名以上のプロヒーローが会場を警備しているんだぞ!? それらをすり抜けでもしたと言うのか!?

 

 ……いや、違うな。だとすれば、この試合を続ける意味がない。正確に情報を伝えたいのなら、ミッドナイトが駆け寄った時点で周囲に悟られないように動く。それがアイツにとっての最善策ではないならば、要因は別にあるはずだ。萬實黎……何がお前をそう動かせる……?

 

 

 

 

「…………!」

 

 

 

 

 今、笑ったか? 此方に対してではなく……然りとて、試合相手にでもない。視線の先は……会場席か? そも、あの表情の微笑はどういった類いのものか? 嘲笑、いや近しい……というかそれもあるが他にも意味も含まれている…………これは憐憫、か?

 

 いかん、一度整理すべきだ。まず、アイツが個性を暴走させてでも使用した結果、会場が騒然となった。そうさせた理由は『姿なき悪意』。これは主に会場席に潜んでいると見る。それに対しての憐憫を込めた嘲笑。そして何より、俺を指定して言伝てる意味……。

 

 

 

「会場席……相手は観客、他クラス生徒……嘲笑……おい、まさか――」

 

 

 

 そんな事は……いや、あり得る。ヒーローもヴィランも元を辿ればひとりの人間だ。差異など価値観による後付けに過ぎない。極論を翳すとすればだがな。少なからず、お前には彼らがそう見えてしまった。そうなんだな、萬實黎。

 

 

 

 

『――わたしが助けたいのは国でも民衆でもない。手の届くたった一握りの知人です。それらを守るためならどんな手段だって用います。必要なら何か(・ ・)を犠牲にしてでも助けます』

 

 

 

 

 お前には英雄願望がない。酷く一般的な感性の持ち主だ。本当であれば、ひとりの命を背負うことすら重すぎると言うだろう。特段、責めたりはできない。それは当たり前の事で、狂い始めているのは世間一般なのだから。

 

 俺がアングラに身を伏しているのは、何も個性の情報漏洩対策のためだけじゃない。ある種の精神的自己防衛とでも言おうか。人の(たが)とは存外、外れやすい。それは一貫して自身に正統性を見出だしたときだ。この個性格差社会とヒーロー制度がさらにそれを増長させている。表立って後ろ指を指されているのはヴィランだが……真に厄介な存在は別にいると、俺は考えている。奇しくもアイツも同じ結論に至ったようだ。

 

 

 

「…………お前が思うよりも『世間』は強大だ。本気で、抗うつもりか?」

 

 

 

 呻くように呟く。それは現世の悪性そのものだからだ。表面上は美しく見えるが、裏では倫理観と価値観に欲望を混ぜ込んだ汚泥の様な世界が広がっている。相対、絶対、私益、公益、尊敬、畏怖……科学技術こそ過度な文明発達を匂わせるが、人が織り成す社会は停滞どころか退行する一方。心の丈に合わない身体機能。まるで虫を踏み潰す幼子だ。

 

 だからこそ、見て見ぬふりをする。或いは、各々が少数を担って責を分散しようとする。それは合理的な事だ。人ひとりが出来ることなどたかが知れているのだから。個性を過信して、無理に背負おうとするものは間違いなく潰れる。それでも現実を受け止め、笑って救おうと奔走する平和の象徴(きかくがい)もいるが……あれはある種の狂人だ。比較の対象にならない

 

 ともかく、世間(ソレ)と対峙しようすれば、一度は必ずその汚泥を認識、延いては浴びなければならなくなる。濁流に揉まれながらも己を律し続け、自己を貫き通す事ができるのはほんの一握り。光の当たる場所で、突き進むと言うのであれば尚の事だ。それでも、その道を行くというのなら――。

 

 

 

 

「――――そこから先は地獄だぞ」

 

 

 

 

 これほどまでに矛盾した存在はいない。それを改めて思い出し、その少女を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 自分の認識は間違ってなかったはずだった。

 

 

 持って生まれた才能は平等じゃない。努力では辿り着けない場所がある。スタートラインの差を覆すためには、余程の幸運がなければ話にならない。

 

 それが、心操人使という人間が抱いてきた偏見(じょうしき)だった。

 

 

「――本気すら出さないんだな。恵まれてるくせに」

 

 

 だから、そんな言葉が出た。妬み……いや、ただの苛立ちからだったのかもしれない。全く微動だにしないその女子生徒に対して、隠しきれない不信を吐露したのは。

 

 けれど、場は一瞬で覆る。

 

 たった今、俺は何が起きているか認識できていなかった。俺だけじゃない、会場全域が同質の感覚を抱いたはずだ。目の前で発生している事象が理解できない。そんな感覚――。

 

 

「え、は……? 血……? え、なんで――」

 

 

 周囲からそんな声が漏れた。この場においては自然な反応だ。悠然と立っていたはずの人間が、膝を折っている。人に幸福感を与えるような黄色は、鈍い赤黒さに染まっていった。足元にはその原因が広がっているが、頭はそれらを認識したくないと拒否反応を起こしている様。何故、こんなことに――。

 

 

「萬實黎さん、聞こえるかしら!? これが何本か分かる!?」

 

 

 ミッドナイト先生の声で、意識が現実へと浮上した。自分ではない怪我人への意識確認で我に帰るとは……中々ない体験だ。そんなことを考えられる程度には、回復したらしい。

 

 そうだ。何故唐突に血塗れになったのか。ただ後ろでふんぞり返っていた首席様が、見るからに重症になったのか。頭を捻るべく、再度思考に脳を沈ませる。相手方の攻撃か何かだろうか、だとしたらやり過ぎにも程がある。きっと、あの爆豪とかいうやつの個性で怪我を――。

 

 

「わたしの個性の問題です。攻撃を受けたわけではありませんのでご安心を。試合を続行しますが、構いませんか?」

 

 

 …………続行? 何を……言っているんだ? 攻撃を受けたわけではない? いや、現に怪我をして……個性の問題? 誰の……相手のに決まって……いや、だったら試合は――。

 

 

 アイツの……アイツ自身の個性? その副作用か何か……? A組の奴らは恵まれている。少なくとも傲っている奴らのはずだ。入場の時点で分かった。持て囃されることに動じない。緊張はあっても、感慨に耽らず糧に勤めようとしている。優秀だから、自信の裏打ちによる無意識的行動。互いを高めようとするからこそ、強敵に視点を当てて戦おうとする向上心の塊。

 

 

 だからこそ、隙があった。

 

 能を隠し、本選で致命の一撃を決めるつもりだった。どんな奴に当たっても、勝てる算段があった。それこそあのエンデヴァーの息子にさえ、だ。少なからず、やりきれる自信と信念が俺にはあったんだ。

 

 

 

 けれど、それら全てが、揺らいでしまった。

 

 

 

 ひとりの生徒の大立ち回りを見せられて、価値観に変調の兆しが現れた。

 

 

 曰く、彼女は入試一位。

 

 

 曰く、入試で他人を救い続けた。

 

 

 曰く、個性はサポート寄り。

 

 

 分からない。先頭に立つべきは優秀なヤツだ。それこそ、圧倒的に恵まれた個性と才能。エンデヴァーの息子やヴィラン顔のアイツのように。

 

 それがどうだろうか。そうであるはずの首席様は試合を捨てて、勝利を拾いに行った。それこそ予選で落ちそうな人間に、希望を与えてまで。

 

 これが力ある者によるご立派な自己犠牲なら、鼻で笑うだけだった。だが、方法がそれしかなかったのであれば? やれることを最大限活かした結果だというのなら?

 

 認めない。そんなこと認めるわけにはいかない。でなきゃ、俺の根幹が揺るぎかねない。圧倒的な相手に対する下克上。今回はそのために、力を振るう予定だった。周囲を俺たちへと意識を向けさせる……だから……!

 

 

「サポート向けの個性なら……今回は独壇場じゃないのかよ……! 何で、どうして……アンタが一番傷ついてんだよ……ッ!?」

 

 

 今度こそ、崩れ落ちるしかなかった。圧倒的な優位状況。それなら、少しぐらい傲慢になるだろう。そんな考えは刹那に打ち砕かれた。何もしないことに苛立つと同時にほくそ笑んでいたんだ。結局、こいつも同じなんだって。

 

 けど、違った。何もしなかったんじゃない、何も出来なかったんだって。出来ない間は考えていたんだ。この状況における打開策を、必死に。

 

 結果、無茶を通した。前哨戦、レクリエーションだからって誰も考えなかった程の無茶を。そこで悟ってしまった。目の前にいる女子生徒が、ずっと全力であったことを。不利な状況だからと諦めずに、戦っていた事を。どうにかして勝利しようと模索する、その強さを。

 

 確かに、努力ではどうにもならない事はある。才能が雌雄を決する事だってある。けれど、それが卑屈になって、相手を不用意に見下げて良い理由にはならない。心の何処かで、相手が悪いと決めつけていた。今思えば、他のヤツだって必死に努力していたはずなんだ。それを「努力しているのは知ってる。だから、結局は才能で差ができる」と歪んだ解釈に貶めていた。皆、自信の最善を尽くしているというのに。

 

 

「…………姿なき悪意、ね」

 

 

 不意に、少女が呟いた。どうして、こちらを見ているのか。何を言っていたのか。まったく分からない。けれど、そこに憐憫が含まれていることだけは理解した。呆然と見つめ返す事しか出来ない俺から視線を外し、今度は別の方向へと向き直った。

 

 そこにあったのは、異質な笑みだった。微笑んでいるのに、優しさは欠片も感じない。いわば、嘲笑だった。逡巡であったと誤認するほどの小さな間。確かな感情が、そこに在った。

 

 そして、気力が回復したのだろうか。折った膝を伸ばし、ゆっくりと立ち上がる。夥しい量の出血なんて、まるで無かったかのように。棒立ちで戦闘を俯瞰していた彼女が、初めて構えを取った。特段、力強さやそういったものは感じない。だが、威風はある。同年代の筈なのに、何十年をも凝縮したカのような佇まいが、そこにはあった。

 

 

「反撃開始」

 

 

 淡々と告げる言葉は、不思議と会場全体に響いた。呼応するかのように、彼女の周囲の大気が揺らぐ……そんな風に錯覚した。そして、気付けば自身が思考を放棄している事に驚く。あれだけ苛んだはずの葛藤が何処かに消えていたのだ。そして、今は――。

 

 

 

 この試合から、眼を反らしてはいけない。そんな気がしていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ビックリするぐらい痛い。当たり前だけどね。

 

 激痛で目がチカチカするし、立っているのもやっとですよ。視界もちょっとボヤけてるし……そもそも何してたんだっけわたし? ボクシング? いや違うよねきっと。

 

 あ、うん。思い出した。試合中だった。そんで個性起動したら御産もビックリな大激痛が来たんでしたね。わたし母親になったことないから分からんですが。

 

 で? 今は手を伸ばして、指先のエイムを緑谷少年に合わせているところですが? 何しようとしてた……とかいう天丼な問答はもういらないですね。魔術行使一歩手前ってヤツなんでしょう。まっっったく記憶にございませんけども。

 

 確かに、好き勝手言う人たちにキレて個性起動したのは覚えてますけど……あっれぇ……? 前後数分の記憶が飛んでる……? 発動した瞬間どんだけ激痛だったんですか。血は止まったみたいだけど、ちょっとした血溜まりできてるし……大丈夫かこれ。後遺症とか残らない……よね?

 

 いや、もうそれは後にしましょう。過ぎた事実ですし。問題は試合が止まっていない以上、続けなきゃいけないことです。幸いな事にあの停滞した状況は脱している。場の空気は最悪ですけど、今回はそう望んだところもありますし、気にしてませんけどね。

 

 

「ば、萬實黎さん? そっ、その怪我……!! 大丈夫なの!?」

 

 

 大丈夫に見えたらヒーローとしての素質を疑うよ緑谷少年んん……。

 

 ……わたしが勝手にやった事だから気にせんでよろし。普通に心配してくれたんですよね。ありがとさん。問題はない……とは言い難いけど、試合は続けなきゃならんから。ほら、前向いて下さい。

 

 

「で、でも……」

 

 

 でももヘチマもありませんよ。多少はさ、他の圧力があったけど、結局はわたしが自分の意思でこうなったんだから。そもそも、君は巻き込まれたひとりなんだし。もっと気楽にいてくれても良いんですよ。

 

 

 

 ――そっちのふたりも、ね。

 

 

 

「……テメェ」

 

「お前……何だ、それは」

 

 

 

 何だってなんですか、何だって。見ての通りなんですがそれは……。

 

 ……って、そっか。なーんか周りとズレてるなーって思ってたけど、皆この副作用知らないのか。なんなら、相澤先生とかにも言ってなかったよ。わたしにとっては当たり前のことだったから、説明するの忘れてたよ。つーか、自分の弱点だからあまり口外したくないって黙ってたんだった。わー……やっちまいましたねクォレヮ。

 

 うーん、じゃあ別に説明もしなくていいか。理由を明確にしなければ、まだ何とかなる。逆に、何かしらのデメリットあることはもう誤魔化せないですし、ここはいっちょ明言しちゃった方がいいですね。

 

 

「個性の副作用だけど? 珍しくもないのは……3人とも(・ ・ ・ ・)よく分かってるんじゃない?」

 

「「「!?」」」

 

 

 うわ。その愕然とした表情で同時にこっちを見んな。寧ろ、お前らの強力な個性にデメリット無いはずが無いでしょうよ。緑谷少年は言わずもがなだし、轟少年は親への反抗精神で冷気しか使わんから寒さで体が動いてないのは丸分かり。爆豪少年はあれだけの爆発を掌で起こして、筋繊維を痛めない方が異常だ。ちょっと観察して頭捻れば出てくることでしょ。緑谷少年以外は上手く隠してるけどね。

 

 さて、戦闘前の口上はもういいよね。さっさと始めましょうか。ん? 妙にやる気出すなって? だって、もう悩みの種が大体吹っ飛んでますし。前半こそ目立つことに忌避感あったけど、一周回ってプロの目につくなら良いかなって思いまして。自己PRってヤツです。

 

 それじゃ、ボーッとしてる3人には悪いけど、勝手に始めさせてもらいますよ。

 

 

Landing Circuit : Full Open(回路循環:開始)

 

 

 この礼装における『概念(イメージ)』を固めなきゃいけない。じゃなきゃ、形もあやふやな魔術回路擬きが解除するまで神経間を行ったり来たりすることになる。簡単に言うと一生激痛が続く(無慈悲)。だから、早急に使い物になる礼装概念に仕立て上げる必要がある。割とマジで。

 

 チア服……そんなのに近しい礼装はありましたっけ? 無くね? まーたこじつけ理論展開か……前途多難にも程がありますよ……。

 

 えっと……色的に橙色の礼装は……戦闘服とキャプテン・カルデアかな。こちらは問題ない。いやでも、そもそも似たような外装の服……軽装かつウエスト周りが無防備でスカート衣装……在るわけないじゃん!? 一番近くてトロピカル・サマーだよ!? チクショウやっぱり水着じゃんかよ脱いだ方がよかったやんけぇ!!?

 

 うぐぐ……ここで水着を選択するのは何か負けた気がする……! けど、これ以上どうにかなる訳でもないし、変なプライドは捨てるべき……時間も限られてるわけだから、早くしないと……。でもなぁ……でもなぁ……!!

 

 何で作ってくれなかったんだよダ・ヴィンチちゃん!!(責任転嫁)

 

 いっそのこと、本当にチア服が在ればどんなに楽だったか……!!

 

 

 

 

 ん? いっそのこと……?

 

 

 いや、待て止めろ。それは危険だ。想像ストップわたし。試したこともないし、無理だって分かってることでしょ。そりゃ、出来たら楽だけど……ってダメダメダメ!! 考えたらそうなって……あ"ーーーッ!! もう遅いよ焼き付いちゃったよ概念(イメージ)にぃいいぃぃぃ!!!

 

 いや、確かに親和性抜群だけども!! こじつけるも何も、チア服まんまだけども!! 流石に出来ないって頭で分かってるじゃん!! そんな事したら間違いなく許容範囲外(キャパオーバー)で何が起きるか分からんのにぃ!!

 

 

 

 ……うっ、興奮すると目眩が……貧血で倒れる。

 

 れ、冷静になるんだ奏。まだ、詰んだわけじゃない……何か、他に打開策があるはずだ。実際に、似たような……焼き付いた概念を行使できる『こじつけ』があったんだ。正直、わたしの個性もそこから取ったし、ぶっちゃけそちらの方が正しい使い方なんだ。

 

 でも……耐えれるかな……? 足りないものが多すぎる。補助器具に成りうるものが一切無い状態でそんな事が本当にやるしかない……? 状況が進む度に、どうして追い詰められるのか。幻聴かな。耳元で「もしや嬢ちゃん、幸運E(お仲間)か?」とか聞こえた気がする(白目)。

 

 

「……後には、引けない。皆が全力なら――」

 

 

 口に出して鼓舞しなきゃ踏ん切りがつかない。それほどに未知過ぎて怖い。けど、もう退路がないのは事実。どうなっても、リカバリーガールの腕を信じるしかないよもう。

 

 って、違う違う。弱気になるな。それこそ悪手だから。イメージが揺らいだら成功しない。それは、わたしの起源(オリジン)の否定だ。それだけは絶対にしちゃいけない。

 

 

 

 

 

 

「忘れない。イメージするのは常に最強の自分。外敵など要らない。わたしにとって戦う相手とは、自身の概念(イメージ)に他ならない」

 

 

 

 

 正義の味方の言葉を借り受けるなら、正しくそれは的を射ている。わたしが勝つためには『勝つというイメージそのもの」が絶対。その前提だけは崩せない。自信を持て。わたしは絶対にやれる。大丈夫、わたしなら、わたしだけが――

 

 

 

 

Cord : Install(概念固定:承認)――

 

 

 

 

 ――その概念を着こなせる(存在そのものに成れる)

 

 

 

 

――Servant role : Set(   夢幻召喚   ).

      Cord : Calamity Jane(カラミティ・ジェーン).

 

 

 

 

 

 





 やっちまった感が死ぬほどある。後悔しかしていない。

 てか、3人分の視点を書いてたらそりゃ進まんわな。でも、心操視点での心境変化はここでしか入れられないし……相澤先生視点と解釈、そしてあの台詞は絶対言わせたかったし……。

 今回の着地点は自分でも何でこうなったのか分からない。えぇ、どうやって収拾着けよう……。

 また更新が遅くなりますねぇ!(申し訳ない)



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第22話「ダブルミーニング氷点下」

 難産だけど道は開けた。


 劇的な変化とは、正しく今の状況を言うんだろう。僕自身、さっきよりも格段に動きは良くなっているし、文句の着けようが無いぐらい相手を圧倒している。

 

 

「こんのッ……クソデクが調子乗るんじゃねェ!!」

 

 

 豪、と爆風が舞う。顔面スレスレの近距離爆破。本気でノックダウンを狙った攻撃だろうけど、副次効果もかなり強い。実際に、避けこそ出来たものの視界は硝煙で不良だ。態勢を立て直す為には打ってつけの一手だと思う。だけど、相手方の思考は見切っている。僕が今すべきことはコレ(・ ・)以外無い。

 

 

「全身で……力を纏って……分散させて……!」

 

 

 全てが充填されたのを機に、一気に回転した。風を切る様な感覚を身に受け、止まる寸前にはたらいていたベクトルが重みとして襲ってくる。そして、それらとは異なる鈍い感覚が足に残っていることを確認し、目論見が成功していることを実感した。

 

 降り向けば、腕をクロスさせて距離を取る……いや、取らされた相手(かっちゃん)がそこにいた。

 

 

「それは、最初の戦闘訓練で見た……だから、対応できる!」

 

「~~~~ッがぁぁあああ!!!」

 

 

 吠える様な悲鳴。キレる一歩寸前。人によっては冷静を欠いている様にも見えるかもしれない。けれど、アレは違う。精神を落ち着かせるための行動だ。威嚇の意味もある。昂った感情をそのままぶつけるような戦い方はしない。狡猾な狼。それが、僕の幼馴染だ。

 

 

「……感謝しなくちゃ、いけないな」

 

 

 才も、個性も、勉学も、何もかも上にいるかっちゃんに、ここまで食らい付けている。

 

 全身に微力なOFAを一瞬だけ纏わせて、身体能力を上げる技……僕が今後、身に付けるべき技の理想系である『フルカウル』の試作品。命名するなら『ハーフカウル』だろうか。

 

 今までは一部にアクセルベタ踏みの力を入れることで、部位を犠牲にした超パワーで戦ってきた。けれど、それじゃあ、何時かは倒れてしまう。それなら、今の器で扱えるだけを全身に纏わせてしまえば良い。扱うのが難しいのであればスイッチのオンオフのように、一瞬だけ使えば問題ない。まあ、急拵えもいいところだから扱える出力なんて3%程度だけどね……それでも、凄まじいパワーだけどさ。

 

 そう気づかせてくれた彼女には謝意を述べたい。今すぐにでも、ありがとうって。でも、こればっかりは難しい。正直なところ、僕がこうして冷静でいられるのも、それが原因だったりする。幸か不幸か、この場において酷く有意義なものになっているんだ。それは――

 

 

 

 

「ワーオ! スゴいよ出久っち!! やればできるじゃーーん!! ガンガン行こうよファイトー!!」

 

 

「うるっっっせぇええええぇえぇんだよ能面女ぁあああぁあ!!!!!」

 

 

 

 この状況に対する指摘(ツッコミ)放棄、及び他人行儀(しらないふり)です(諦観)。

 

 

 

 

 うん、触れちゃいけないと思うんだ。

 

 

 唐突に怪我をしていたクラスメイトが饒舌になったこととか。

 

 口調がバリバリの陽キャパリピになったこととか。

 

 それでいて表情は今までと変わらず無表情なこととか。

 

 

 もう、僕に出来ることはないよ……きっと、明日になれば全てが元通りなんだ。大丈夫、だって人が明るくなることは良いことじゃないか。あんなにピョンピョン跳ねて応援してくれてるんだし、僕は微笑み返すだけで良いんだと思う。うん、そうに違いないよ。

 

 

「わわっ、表情が完全にヴィラン~~! もっと笑わないと損するよかっちゃん??」

 

「だぁれがかっちゃんだコラァ!? おい、デクその女黙らせろ!! テメェの相方だろうがァ!?」

 

「何ヲ言ッテルンダイカッチャン。萬實黎サンハイツモ通リデショ」

 

「なに諦感決め込んでんだテメェエェエエェェェ!!!」

 

 

 爆発が顔面スレスレを掠めるけど避ける。いや、避けれるようになってる。これもニコニコしながら何かを発動させてる萬實黎さんのお陰なんだろうか。いやぁ、流石だなぁ(白目)。

 

 

「とっとと現実と向き合えクソがぁ!!」

 

「僕の目には手のひら爆発させてるヴィラン顔負けのクラスメイトしか写ってないよ? 少し冷静になろうよ」

 

 

 HAHAHA。思わずオールマイトみたいな笑いが出ちゃいそうだ。論点がずれているよかっちゃん。考えるような事態なんて起きてないんだ。イイネ? そんな事より、今は試合に集中しようか。僕たちが優勢なんだから対抗策を練らなくて良いのかい?

 

 

「心なしかデクが毒舌になってやがる!? オイ、能面女ァ! デクに何しやがったァ!!?」

 

「む、そんなダサいアダ名付けないでよー! もっと可愛い感じじゃなきゃNOだからネッ! ほら、Thinking Together!!!」

 

「表情筋鍛えてから出直してこいやぁああぁあああ表情筋壊死女ぁああぁぁあああ!!!!!」

 

 

 あ、スゴい。状況における立場って、誰かが勝手に代役してくれるんだ。良いこと覚えたかもしれない。これは、今後で必要になってくるスキ「ストップそれ以上はいけない緑谷少年ッ!!」ふぁ!? いまオールマイトの声が聞こえた様な気がする……!? ぼ、僕は一体何を……?

 

 そ、そうだ! 試合だよ! 萬實黎さんに言いたいことは山ほど有るけど、今は目の前のレクリエーションに集中すべきだよね! かっちゃんもホラ、えーっと……ぼ、僕が相手だ……?

 

 

「最後まで言い切れや!! クソッ……何だか知らねーが後ろのヤツも本気出したらしいなァ。だったら、文句はねェ。コレで遠慮なく潰せる」

 

「ちょ、本気!? まだ本選が控えてるし、なんならまた戦うかもしれないのに――」

 

「ハッ、決勝まで残るつもりかよテメェ。オイオイオイ随分と舐められてんなぁ、半分野郎はァ?」

 

 

 違うからね!? 仮定の話だから!! なんで味方を煽ってんのかっちゃん!? うわぁ、轟君の目がヤバい! ヒーローの卵がしちゃいけない顔になってる!? かっちゃんと良い勝負出来る……って冗談言ってる場合じゃないし! と、とにかく今は場を取り成さなきゃ――。

 

 

「んー……でもさ、しょーがないじゃん? ドッキーが本気だしてないのは事実なんだし」

 

 

 

 爆 弾 投 下 ぁ!?

 

 

「第一種目が終わった後ね、ドッキーのパパに会ったんだけどさ。ヤバいよあの人。なんていうかこう……自分の事しか頭に無いぜーってかーんじ? もう『手段なんぞ選んどる場合かーーー!!』みたいなオーラが出まくりだったもん」

 

「……! 会ったのか……」

 

 

 

 ちょちょちょちょぉおぉおお!!?

 

 めっちゃ扱き下ろすじゃん!? 人様の親にそんな酷評を本人の前で言う!? 僕も確かに顔合わせしたし、何なら偉そうなこと言ったけどさ! だからって、それを噯にも出さないで、いけしゃあしゃあと進言するかなぁ!?

 

 後、ドッキーて誰!? まさか轟君のこと言ってるんじゃないよね!? センスが独創性の運動会過ぎるでしょ!!?

 

 

「うん。いやもーホントにさ? あーゆー感じの人が親だったとして、あたしだったら絶対反抗しちゃうかなー」

 

「あぁ……。アイツは自分がオールマイトを越える事しか考えちゃいない。自分が限界を感じたのか知らねぇが、今度は息子の俺って事になる。無論、アイツの思惑に乗るつもりはねぇ。だから、俺は右の力だけで――」

 

「ウンウン。けどさ――」

 

 

 

 

 

「それって今必要かなー?」

 

 

 

 

 

 その言葉を折に、萬實黎さんの纏う雰囲気が一変する。見据えているのは、間違いなく同い年の少女。誰よりも堅実で、自分にできる最大限を常に走り続ける……尊敬しているクラスメイトが、そこに居たはずなんだ。認識は決して間違っていない。五感が正常であると、得た情報を脳へと伝達している。

 

 だけど、何故だろう。それ以外の何かが、酷くズレていく。何も変わっていないはずなのに、輪郭がフレームからはみ出していると錯覚してしまう。その正体が何なのか。僕の頭は、漠然と疑問点の周囲を行ったり来たりしていた。

 

 気持ち悪い。歯車が噛み合わないのが、本気に。まるで、コレは――。

 

 

 

 

「ねぇ……ドッキーの目にはさ。何が映ってるの?」

 

 

 

 

 

 蛇に睨まれた、蛙みたいだ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 最後に自分が泣いた日を、俺はもう覚えていない。

 

 

 

 幼い頃は、頻繁に泣いていたと思う。物心がついたときにはもう、親父に血反吐を吐かされていたから。それが普通ではないことは、泣いていた母さんから察せられた。他の兄弟が外で好きに遊ぶ最中、俺だけが『特別』だと言い聞かせられ、自由を奪われていた。

 

 当然、嫌になった。どうして自分が、とも思った。けれど、兄弟を嫌ったりはしなかった。子供ってのは感情の起伏に機敏だ。家から母親が居なくなるような事が起きれば、未熟な思考でも異変には気付く。いつの間にか、上の兄たちと姉は俺を労うようになり、同じく「母を苦しめた存在」を憎むようになっていた。

 

 そしていつしか、俺は自信が正しい事を理解した。父親に反抗することが、自分がすべきことであると。父親の力は、戦闘において使わない。母親から貰った右だけで戦う。そうすれば、親父の目論見は潰せる。

 

 それらを含め、雄英でヒーローを目指すことを、兄弟には話した。無論、応援すると背中を押された。根が優しい姉は複雑そうな顔をしていたが、もう決めたことだった。俺は、親父の手を振り払って、自分で個性のトレーニングを始めた。忌々しい事だが、基礎は全て叩き込まれた後だったために、応用も難なくこなせた。

 

 それに、曲げれない想いもあったから続けられた。絶対に見返してやるっていう強い意思が。片時も忘れたことはない。起きたときも、登校中も、授業中も、昼休みも、下校中も、風呂に浸かっているときも、眠る寸前でさえも。全部、全部、全部――。それが間違っていないから。タダシイコトだから。ずっと、ずっと、ずっと……そう、信じてきた。

 

 

 

 

 ――信じて、きてたんだ。

 

 

 

 

「ねぇ、教えてよ。何を見てるの? 何処に行きたいの? 何時になったら満足するの? すごく、すごーーーく気になっちゃうなー?」

 

 

 

 

 そして、壊された。

 

 

 

 

 亀裂が広がった。崩されそうになっていた。いや、とっくに崩れ去っていたのかもしれない。あの日、最初の実戦訓練で、敗北したあの日から。見抜かれていたのかもしれない。オールマイトと対峙させられた、あの瞬間から。

 

 USJ襲撃事件では、それなりに動けたはずだった。アイツに劣らない成果を出せたと思っていた。

 

 けれど、緑谷を見て、考えを改めた。緑谷はあの瞬間に、ヒーローとして動いていた。救うために、がむしゃらに自分に出来る最大限を惜しみ無く、自分さえ犠牲にして。その瞬間に理解できた。自分の中の何かが、確定的に下であると。

 

 一体ソレは何なのか。いくら悩めど答えは出ない。こんなことでは、見返せるものも見返せない。それは、それだけはダメだ。全部が無駄になる。それじゃ、きっと報われない。

 

 

 

 …………誰が、報われないんだ?

 

 

 

 俺自身? いや、別に俺はどうでもいい。俺がどんな業火に焼かれようが、耐え抜いて見せる。兄弟に飛び火しなければ、俺は焼かれ続けてもいい。じゃあ、誰だ。誰が報われなくなる? そもそも、なんで俺は――。

 

 

 

 

 

『――のよ。――は……』

 

 

 

 

 

 モノクロの記憶が、視界に広がる。

 

 それは母との記憶。殴られる俺を庇い、俺の半身を疎み、俺に『消えない傷』を残した人。

 

 恨んじゃいない。あの人は何も悪くない。全部、親父のせいだから。あの人も被害者だから。だからこそ、俺はこの右側を受け入れている。母さんがくれた、この右側だけを。

 

 そうか。いや、そうなのか? 母さんが、報われないのか? 俺の意地で始めた反抗が。兄弟に正しいと言われたこの思いが。実らなかったら、母さんが報われなくなるのか?

 

 ……違う、違う、違う。何かが、決定的に足りない。この違和感を埋めるには足り得ない。分からない。何が、一体必要なんだ――?

 

 

 

「意味なんてないんだよ。だって、何も見えていないんだから」

 

 

 

 …………止めろ。

 

 

 

「私、聞いたじゃん。ちゃんと周り見えてるかってさ」

 

 

 

 …………黙れ。

 

 

 

「結局、ドッキーの目にはね?」

 

 

 

 …………これ以上、俺に――。

 

 

 

 

 

 

自分(パパ)の事しか、映ってなかったんだよ」

 

 

 

 

「ッッ……勝手に、土足で踏み込んでくるんじゃねぇ!!」

 

 

 

 気付けば、右足を踏みしめていた。それは故意か不意か。大量の冷気が吹き出す。行き場を選ばないソレは、一直線に気化しているはずの水分を一瞬で凝結させる。その動きに淀みは無く、「消し去りたい」と思ったモノへ伸びていった。

 

 

 

 

 彼女は

 

 

 

 それを

 

 

 

 受け入れて

 

 

 

 

 

 

 微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 ――――氷点下に、紅色が飛沫(しぶ)く。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 止めるべきだったと、後悔をした。

 

 

 悔いだけは残すような結果は出さねぇと決めていた。

 

 

 チャンスは今だって、目の前にあった。

 

 

 

 全部を、棒に振った。

 

 

 

「……んのクソがぁ!!」

 

 

 

 こんな状況でも脳だけはフルで回っていた。状況における最善策を実行に移す。目の前の『巨大なソレ』に対して個性を点火させた。

 

 

「かっちゃん何をッ!?」

 

 

 クソデクが目障りだが、説明する時間なんてあったらこんなことしてねぇ。そんでも無理してでも止めようとする姿勢が目に浮かぶから余計に腹が立つ。ぶち殺したろかとさえ思うが、この場は言うべきだ。

 

 

「邪魔だどけやァ!!」

 

「いやだから、なんで爆破しようとしてるの!? 危ないからダメだってば!」

 

 

「出血多量な上に『氷山に閉じ込められた愉快なオブジェ』にされてんだぞ!!!」

 

 

 

 要らねぇ部分削って半分野郎の熱循環促進させ腐って1秒でも早くしねぇとあの女死ぬだろォが!! 分かり殺したらさっさとどけクソデクコラァ!!

 

 

「な、なるほどッ!?」

 

 

 振り切ってそれの目の前へと駆ける。さっきまで動いてた人間が微動だにしやがらねぇ。そんなクソッタレな事実に、嘆息することすらアホらしい。

 

 爆破で体の両脇の掘削から始める。全長10メートルを越える氷塊だ。最初は大雑把で構わねぇ。人体に影響がなきゃスピードだけが今は重視される。ある程度削ったら細かい爆破に切り替えて、体に沿うように形抜けば問題ねぇ。

 

 

「オイ……なんで、笑ってんだテメェ」

 

 

 解答はハナから求めてねぇ。だが、遺憾なく素通り出来るような事でも無かった。最早、自問自答。んなこた分かりきってる。

 

 ――分かった上で聞いてんだよ。

 

 

「死なない程度ってのは何だったんだよ。テメェが死にかけてんじゃねぇか……えぇオイ? あんな啖呵切っといてこのザマとか恥ずかしくねぇのかよ。私はトラブル起こすだけの能無しってか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――ざけんな

 

 

 

 

 

 

 

「ざっけんなよ萬實黎奏(・ ・ ・ ・)ェッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 こんな醜態認めねぇぞ!! テメェは雄英1年の現状トップ(・ ・ ・ ・ ・)だろうが!? 仮にも頭張ってるヤツが体育祭で『事故って死にました』だァ!? 本気すら出してねぇヤツ相手して、自己防衛出来ずにお釈迦なる様なヤツに……俺は、俺は負けた覚えはねぇぞオイ!!

 

 それで本当に死んでみやがれ。そんなクソ相方を止められなかった自分(テメェ)はなんだ!? 結局は大局すら見れねぇゴミと変わらねぇじゃねぇか!!

 

 そんな評価下されるぐらいなら死んだ方がマシだ。だから絶対に赦さねぇ。俺の許可無く勝手に死んでじゃねぇ! 是が非でもブッ生き返すからなァ!?

 

 

「……チッ、これ以上は凍傷に響きやがる。オイデクゥ!! まだか半分野郎はァ!!?」

 

 

 クソが! 何もたついていやがんだ! 戦闘では使わねぇとか舐め腐ったこと抜かしてたが、それ以外だったら使えるんだろォが!! さっさと治せぇ!!

 

 

「い、行こう! 轟君!」

 

「…………」

 

「……! んのクソ舐めプ野郎ォ……!! 遂にただの腰抜けに成り下がったかァ!!? 」

 

 

 爆速ターボを起動させて、半分野郎に詰め寄る。そして――

 

 

 ガァン!!

 

 

 胸ぐらを掴んで『全力』で頭突きをかます。首をしならせる事がない様に襟を内側へと引き寄せる。言わば額を擦り合わせている状態。髪の隙間から焦点が合わねぇ目が見えるが関係ねぇ。

 

 

自分(テメェ)でメンチ切って挑んだ戦いだろォが!! それで『こんなことになるとは思ってなかった』てかァ!? んなもん通る訳ねぇだろ!!」

 

「…………爆……豪」

 

「事情なんざ知らねェ!! ただ、図星突かれてキレ散らかした挙げ句、殺しかけてブルってるチキン野郎のことなんざ知ろうとも思わねェ!! けどなァ!?」

 

 

 

 

 

「少なからず、今のテメェは『ヒーロー』じゃねぇ!!」

 

 

 

 

 

「何のためにテメェは雄英に入った!? 何のためにヒーロー科に来た!? 今のテメェは一体なんだ!!?」

 

 

 

 

 

「 今!!

 

 

   此処で!!

 

 

    行動で示せやァ!!! 」

 

 

 

 

 

 そのとこ、微かにだが、雫が落ちた音が響いた。刹那、熱風が頬を撫でる。気が付けば、蒸気が辺りから吹き出す音が木霊していた。その勢いは当然、ソコにも届いているに違いない。

 

 

「助……ける……! 絶対……死なせねぇ!!」

 

 

 ――ゴォォオオオォオオ!!!

 

 

 

 

 ……ハッ。遅ェんだよバカが。

 

 

 

 振り向けば、最も蒸気が覆っている存在が目につく。そこに慌てて飛び込んでいく阿呆(デク)も視界の端に留まった。

 

 なァオイ……テメェは、全部こうなる事が分かってやがったのか? 体育祭の最初(ハナ)っから……いや、顔を合わせたその日から。見抜いた上で、この体育祭っつう舞台で仕掛けた。そォなんだろ……でなきゃ全部天然ってか?

 

 …………だとしたら、これだけフザけた結果もねぇわな。別口で腸が煮えくり返るどころの騒ぎじゃねェ。殺す。絶対ェしばき殺す。今度は爆破で顔面整形の愉快なオブジェにしてやらァ。

 

 

「直ぐに医務室のリカバリーガールの元へ! このまま緊急搬送も視野に入れるべきだ!!」

 

 

 ……まぁ、それは別の機会にしたる。生きてりゃ何度でもブッ潰せんだ。精々死なねェ様に気張るんだな。じゃなきゃ――。

 

 

 

 テメェを、越えられねぇからな。

 

 

 

 




 クライマックスみたいな展開だろ?

 これレクリエーションなんだぜ(絶望)。


 後、誰ですかこの綺麗な爆発三太郎ゎ……。



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第23話「一難去ってまた一難はシングルタスクに優しい」

 半年ROMり掛けた……詳細はあとがきにて。




 夢に、浮かんでいる。

 

 

 

 泡沫の宵に垣間見る夢。

 

 

 

 宙ぶらりんな脱力感。

 

 

 

 確かな感触に、意識が沈む。

 

 

 

 

 ――――。

 

 

 

 

 何だろう。

 

 

 

 とても、冷たい。

 

 

 

 凍えてしまいそう。

 

 

 

 でも、どうして――。

 

 

 

 

 

 

 

 全然、動けない。

 

 

 

 

 

 

 あぁ、眠いのかな。

 

 

 

 ちょっと、可笑しい。

 

 

 

 夢の中で、眠いなんて。

 

 

 

 

 

 

 何時になれば、覚めるんだろう。

 

 

 

 早く、起きたいな。

 

 

 

 お願い、誰か――。

 

 

 

 誰か、私を――――。

 

 

 

 

 

 

 

「――自分で起きなさい。それが出来なければ『捨てられる』だけよ、貴女は」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 体育祭は、終わりを迎えた。

 

 

 無事に、とは口が裂けても表現はできないだろう。前代未聞ではないにしろ、大きな事故が確かに起こったのだから。

 

 事態の収拾は、学校全体の教師陣の謝罪会見という形で成された。そこに意味があったかは、個々人の主観に大きく左右されるだろう。だが、少なくとも反響は大きかったと言える。

 

 メディアは連日その『事故』について取り上げていた。一番の盛り上がりを見せたのは言わずもがな「誰に責任があるのか」だ。引き起こした張本人、防げなかった雄英、USJに襲撃してきたヴィラン、個性社会そのもの、etc……。あちこちに飛び交う火の粉のように議論は白熱していった。

 

 

 

 そして、1週間もすれば熱が覚めた。

 

 

 そんな世の中(・ ・ ・ ・ ・ ・)なのだ。個性の事故なんて、物珍しくもない。あれは、一世一代の大舞台であったから取り上げられた。過去に遡れば、雄英体育祭で怪我人……いや、重危篤者が出ることは1度や2度ではないのだという。ただ「ヒーロー界隈のトップカーストがやらかした」という事実が、社会をざわつかせた。

 

 

 

 ――たったそれだけの『どうでもいい事』が世間にとっての火種だったのだ。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 ため息だって、つきたくもなる。世間は鎮火の一途を辿っているが、僕らにとっては未だに解決していない問題なのだから。

 

 

「オイオイ緑谷よぉ……気持ちは分かるが流石に露骨だぜぇ?」

 

「……うん。ごめん、峰田君」

 

 

 2つ前にある空席から、目を離した。後ろを振り向けばそこには特徴的な髪型が映る。その持ち主に対して、僕は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。それは整理がついていない証拠。そもそも、僕たちはその事に対して一切の情報が開示されていなかった。

 

 

「でも、雄英ってスゲーよ。あんなこと(・ ・ ・ ・ ・)があった後でも、普通に最後まで体育祭やるんだもんな」

 

 

 ――そう。 それは本当の事だ。

 

 不足の事態だったはずなんだ。あんなことが、起こってしまうなんて。それでも、体育祭は予定通りに進んだのだ。強いて言えば、実況解説の席から相澤先生が降りた事ぐらいだろう。鬼気迫る表情とはまさにあの顔のことだった。

 

 

 ……何度も甦るあの光景。

 

 

 ヴィランが襲撃してきた時以上の焦燥。

 

 できる事がないと理解したときのやるせなさ。

 

 ただ、見ているだけの絶望。

 

 

 ある日のオールマイトの言葉が過った。

 

 

 

 

 

『当然、いるんだよ。助けられない人たちが沢山……ね。手の届かない者は、今この瞬間にも世界のどこかにいる。……ははは、そうだね。全ての人を救うなんて事は絶対にできないんだ。だからこそ、私は平和の象徴止まり(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)なのさ』

 

 

 

『だけどね、緑谷少年。それでも、私はヒーローを続けるんだ。何故だか分かるかい? そう、私が助けたいからさ! 無論、エゴだと分かっているとも! 余計なお節介とも言う人も当然いる!』

 

 

 

『だとしてもだ! 私の手が届くのであれば、笑って言い続けよう! "私が来た"とね!! 例えそれが自己満足でも! 偽善に近しいものだとしても――!』

 

 

 

『私は、"平和の象徴"であり続けるのさ!!』

 

 

 

『……緑谷少年。時には壁にぶつかる事もあるだろう。己の無力さを呪う日も来るかもしれない。大いに苦悩し、大いに嘆くはずさ。それでも、忘れないで欲しいんだ。君は確かに、ヒーローとして前に進めている事を。決して道を踏み外していないという事を……ね。なぜなら――』

 

 

 

 

『――君が抱くその想い……誰かを助けたいというその心は、決して間違いなんかじゃないんだから』

 

 

 

 

 

 ……それでもまだ、迷っている。

 

 オールマイトは後継の証として、僕にこの力を渡してくれた。無個性でありながらも、その尊い心を持っているからこそ惹かれたのだと。そのこと事態は非常に嬉しいし、感謝もしている。おかげで、僕はこの場所でヒーローを目指すことができている。

 

 

 

 だからこそ、思ってしまう。この力を、もっと才能のある人に渡していれば、と。

 

 かっちゃんの様な一瞬で物事をものにする才能のある人、轟君の様な凄まじい個性を持っている人、八百万さんの様にずば抜けた頭脳を持っている人……探せば、もっといるはずなんだ。

 

 彼らがもしこの力を扱えたのなら、救えた命があったのかもしれない。体育祭でのあの事件だって、未然に――。

 

 

「えっと……デク君? 大丈夫?」

 

 

 気が付けば、隣に麗日さんがいた。後ろに蛙吹さんと耳郎さんも立っている。3人とも若干、表情が険しい。一体どうしたんだろう?

 

 

「ここ数日は仕方ないと思ってたけど、流石に引き摺りすぎ。自分の顔、鏡で見てみなって」

 

「本当……辛そうな顔してるわ。私たちと違って、あのとき緑谷ちゃんは一番近くにいたのよね。手が届いたかもしれないって、そう思っているんでしょう?」

 

 

 ふと、彼女たちの後ろの窓が視界に入る。授業も終わり放課後となった今、外は薄暗くなっていた。室内灯が窓ガラスに反射して、教室の在り様をそのまま映し出す。皆が一様に不安げな表情を浮かべる最中、その人物だけが酷く目立っていた。それが自分の姿であると認識できたのは、自分と同じ様に眉をひそめたのが窓の中にいる自分自身(マリオネット)だったから。

 

 

「……はは、確かにこれは酷いや」

 

 

 目の下には薄っすらと隈が浮かび、瞳には生気が宿っていない。これで正常と判断するほうがおかしい。ヒーローの卵は疎か、一般人でも気付けるような顔色の険しさ。助けを求める誰かを安心させるために、常に笑顔を絶やさない最高の師。その姿とは対極に位置したような表情がそこにはあった。

 

 

「試合の形式上でも、僕が守らなくちゃいけなかった。でも、助けられてばかりで……ホント、考えれば考えるほど後悔が湧き上がってくる」

 

 

 

 ――君に、付き合ってあげる。

 

 

 そう話す彼女の目は、力強く輝いていた。気が向いたら、僕の練習に付き合ってくれる。その話に嘘偽りはなかった。いきなりのことで困惑はあったけど、正直嬉しくもあった。

 

 でも、最初は個性を使ってくれなかった。ただ、首を傾げたり、頷いたりするだけ。何かに対して疑問を抱いていたのか時折、目を細めたりもしていた。

 

 僕にその真意を測ることはできない。けれど、何となく使ってくれなかった理由も、今なら理解できる気がする。思えば、最初から覚悟があってのことだったのかもしれない。僕がそうであるように、彼女もまた同じだった。個性の反動という枷。使うことすらままならない、超人的な力。彼女の個性もそうだったんだ。

 

 

「『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』……そういう意味も込めて名付けられた個性なのかな」

 

 

 自分を犠牲にしてでも、他者のために振るう個性。普通なら使うことすら躊躇うはず。いや、実際は本当に躊躇っていたんだ。でなければ、僕にすぐ個性を使わなかった事に説明がつかない。僕も使えば無傷では済まないから、それとなく気持ちは理解できる。僕らには個性を使う前に今一度の覚悟が問われるんだ。

 

 

「……先、帰るね。心配してくれてありがとう。気持ちを切り替えてみるよ」

 

「あっ」

 

 

 違う……何してんだよ。彼女たちは本当に心配なだけなんだ。感謝すべきところで、こんな態度取るなんて。なんで止まらないんだ? 足を止めて、振り向いて、笑って言うだけじゃないか。どうしてこんなにも重いのだろう? こんなんじゃ誰かを助けるヒーローには――。

 

 

ドンッ

 

 

「……ッ」

 

 

 開いていたはずのドア。ぶつかるものなんて無かった。そう思っていたのに、僕の前に壁が現れていた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 沈黙。お互いがお互いを認識している。そんな確認なんて必要のないほどに、誰よりも理解できている同士のはずなのに。その沈黙こそが答えだった。どうして今そこにいるのか。そう思うほどに君の姿が僕の瞳の中で揺れた。

 

 

「……情けねぇ面でこっち見んなクソナードが」

 

 

 懐かしい、と思ってしまったのは慣れてしまったからか。あの日以来呼ばれていなかったその蔑称は、不思議なほどすんなりと僕の心に染み入った。嬉しさすらあるのは、どういう風の吹き回しだろう。まるで、その言葉を待ち望んでいたみたいじゃないか。

 

 

「……チッ、さっさと行くぞ」

 

「え……」

 

 

 何処へ。と、声をかける前に壮絶なヴィラン顔で掌を爆破させる彼を見て高速でうなずく。呼び方といい、仕草といい、本当に少し前に戻ったみたいだ。そのまま校舎を抜ける。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 やはり無言だった。

 

 僕としては徐々に早まっていく足が気になるけど、黙って横に着くよう足を早める。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 お互い、長い付き合いだ。半生以上を共にしてきた。家族の次に分かっている。まあ、僕の場合は越えようと一方的に研究してたからだけど。それでも、彼は僕の癖なんて1回見ただけでも見抜けるはずだ。やっぱり天才だよ。彼のほうがよっぽど僕なんかより大成するだろうな。

 

 そんな事を思っていると、早足だった速度が競歩並みに早まった。心なしかもう走っているような……。

 

 

「………………ッ」

 

「………………ッ!?」

 

 

 体育祭の最後も、轟君と凄まじいバトルを繰り広げていた。吹っ切れた様な表情の轟君は、普段なら絶対に使う事のない左の個性も交えて、猛攻を仕掛けていった。途中、傷を負いすぎた彼を見て、竦んだ様に攻撃ができなくなったりしたけど、がむしゃらに放った僕の発破が届いたみたいで、何とか最後まで戦い通せていた。まあ、最後の最後で使えなくなっちゃったみたいなんだけど……。

 

 後、どうしてかな。周りの景色が一瞬で流れるんだけど。んんん? これってもしかしなくても、アレだよね??

 

 

「……ッ……ッア!!」

 

「…………くッ……!」

 

 

 結局、体育祭は彼の1位で終わった。僕は、ハーフカウルも指を使ったスマッシュも出し切ったけれど、勝つことは叶わなかった。本当に凄い個性だし、それを如何なく使いこなせる本人も凄いと思うよ。最後に放った全力の一撃の後に「全力で戦ったのは、お前が初めてだ」っていうのもズルい。きっと、天然なところもあるから建前とかじゃないんだろうな。まあ、それはそうとさ。そろそろキツ――。

 

 

 

「何で走るのかっty「俺の横に並ぶんじゃねェエエエェェエ!!!」えええぇえええぇぇぇぇ!!!??」

 

 

 

 何言ってんのこの人!!?

 

 

 嘘でしょまさかそんな理由でぇ!? 思ってた以上にしょーもないな!? 僕に並ばれるのが嫌だから走るってそんな小学生みたいな理由で……かっちゃんだったらやるか! ごめん僕が間違ってたよ!!(ヤケクソ)

 

 

「き、君が付いてこいって言ったんじゃないか!? そもそも何処に行くすら聞いてないしっ……一緒に行かなきゃ分かんないでしょ!?」

 

「るせぇ!! テメェの価値観で勝手な自己嫌悪に陥るようなメンタルクソ雑魚が近寄んな虫唾が走るわ!!」

 

「ひっどォ!!?」

 

 

 的確すぎるのが尚の事質が悪い……! 後、そう言いながら加速するのやめて貰えるかなぁ!? 駆け引きゼロの持久走じゃどう頑張っても限界がすぐに来る……ってうわッ!?

 

 

「へぶッ」

 

 

 痛ったた……お手本のように顔面からすっこけた……。勢いは抑えたから問題ないけど、痛いものは痛いんだ……っていうか、なんでまた急に止まったんだろう? 雄英の敷地内を全力疾走してきたけど、そもそも何処を目指して走っていたんだ――。

 

 

「オイ、いつまで地面にへばりついてやがる。さっさと入らねぇと背中から爆殺すんぞコラ」

 

「え……ここって――」

 

 

 グラウンドβ……だよね。最初の戦闘訓練以来、何回か来たことあったけど……けど、今は何のために? いやうん、後方から微小な爆発音が徐々にボリュームアップしてるから入らざるを得ないんだけどさ。御託なんぞ知らんの一点張りだろうし、とりあえず今は従う……っていうか待てよ。たしかグラウンドとかの特定施設の個人使用って許可が必要じゃなかった?

 

 …………と、思って振り向いたら右上が炭化している許可証を顔面に押し付けられました。もちろん、張り手で。イタイ。

 

 

 

 結局、レンタル式(無料)のジャージを借りて競技場の大体中心部まで来た。今では特に建物に大きな外傷等は見られない。というか、本当にどうしたんだろう。かっちゃんから僕に用事なんて……。

 

 

「テメェは弱い」

 

 

 ……うん、知ってるよ。いつも、不甲斐ないばかりだ。指摘されるのは当然かもしれない。体育祭だって、本選で1勝はできたけれど、その後に完璧に実力差で負けた。OFAの力を100%、それこそオールマイトみたいに扱えていれば、太刀打ちできたのかもしれない。今の僕には到底無理な話だ。だから、今の僕は弱いのは事実だ。

 

 

「テメェだけじゃねぇ。クラスの連中……どころか、雄英の生徒全員が雑魚と言っていい。あの半分野郎だって例外じゃねぇ。ただ、一人を除いてだ」

 

 

 それは、どうなのかな。今の言葉の意味を、たぶんちゃんと理解できていないんだ。だから、判断に困る。体育祭で1位を勝ち取ったから……じゃないよね。あれはかっちゃん自身が一番納得してないみたいだし。生徒っていう括りがあるから、当然教員のプロヒーローは除いた話だ。オールマイトも当てはまらない。そうなってくると、選択肢として残されているのは――。

 

 

「あの体育祭で、全員が他人を蹴落としてでも勝ち上がる気概があった。有象無象が大半だったが……今、それはどうでもいい」

 

「あの実力至上主義のかっちゃんがロジックから実力を外した……!?」

 

「何処に驚いてんだ首から上更地にすんぞコラ」

 

 

 ご、ごめん。あまりの意外さについ本音が。

 

 でも……うん。かっちゃんが言ってることは正しい。本気で全員が勝ちに行こうって思ってた。雄英っていう狭き門をくぐったからには、絶対にここで目立ってヒーローになってやるって。僕も前日にオールマイトから発破を掛けられたて、そういった心持ちのまま競技に参加したし例外じゃない。

 

 

「……だが、一人だけトチ狂った馬鹿が混じってやがった。自分(テメェ)の勝ちなんざいらねぇと吐き捨てやがった大馬鹿がだ。クソみてェに皮肉なことだが、ソイツが最も体育祭に爪痕を遺していきやがった」

 

「…………うん」

 

「無論、それは栄光だとか名誉とはかけ離れた『ただの衝撃(インパクト)』に過ぎねェ。観衆が騒ぎ立てたがるような火種をまいた。ただ、それだけだ」

 

 

 あんまりな謂れ様だけど、至極それは正しい。世間では英雄奇譚ではなく、不幸な事故として語られている。当事者以外の第三者が、彼女の気持ちなんて知る由もない。

 

 

 

 それで救われた人がいるなんて、尚の事――。

 

 

 

 

 

「それでも、アイツは笑ってやがった」

 

 

 

 

 

 ハッとした。茫然自失、は言いすぎかもしれないけど……とにかく、頭に靄がかかるように思考の渦へと飲まれていった。

 

 そして、同時に困惑した。今でも意図が読めていない事は沢山もある。けれど、また理解ができない事がまた増えた。

 

 笑った? 大怪我、下手をすれば死にかねない様な攻撃を前にした上で? そんなこと自身が助かることが分かっていなくちゃできることじゃない。でも、現に大怪我をして……。

 

 

 

 

『わたしは――ない。ただ、それだけだから』

 

 

 

 

 ――今の今まで忘れていた。

 

 そうだ。あのとき彼女は何を言ったのだろう? どうして僕を前に送り出した? ルール違反でランキングには入れなくても、実質的な1位の栄光を手に入れられたはずなのに。かっちゃんや轟君を出し抜いて他の人を助けたりていた。

 

 目立ちたかった? いや、この数ヶ月で彼女の人となりに触れて、それは有り得ないと分かっている。人目につかない所で計画的に事を進めたがる合理主義。何処と無く相澤先生と似ているんだ。だから、必無策に物事を引っ掻き回す様な事はしないし、必要以上に目立つ理由なんて――。

 

 

 

 

 

 ――――もしや、必要だった……のか?

 

 

 

 

「考えても無駄だ。アイツの考えは、アイツの頭ン中にしか存在しねェ」

 

 

 

 

 ……お見通し、か。本当に……敵わないな。

 

 

 

 そう。結局全てが仮説なんだ。僕も、かっちゃんでさえもそれは一緒のこと。本人から聞く以外に方法は無いんだ。

 

 

 

 けれど、それ願いはひどく空虚だ。

 

 

 

 だって、知らないから。

 

 

 

 彼女の居る場所……まして、どんな状況にあるかさえ、僕らは知らされていない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 

 

「怪我はしてるが死んではいねェし、回復する見込みってのは聞いてんだからそれで十分だ。いつか戦り合えるってんなら文句もねェ。テメェもごちゃごちゃ考えてる暇ねェだろうが」

 

「そうだけど……」

 

 

 授業でヒーロー名も決まった。職場体験だって控えている。着々とヒーローとしての前準備が整っているっていうのに、不安の方が先立ってしまう。それは何故か。

 

 決まっている。何もかもが足りていないからだ。他のみんなと比べても、自分の持つ個性への理解度が圧倒的に不足している。果たして今の使い方が正しいものなのか。8代にも渡って継承されてきたこの力には、今以上の何かがあるのではないか。

 

 足りない、足りない、足りない……。分かりきっていた事だけに歯痒い。だからこそ、今は――。

 

 

 

 

「……強くなりたい。みんなを守れる……ヒーローに」

 

 

 

 

 B O O O O O O M !!!

 

 

 

 

 

「遅ェんだよカスが」

 

 

 

 

 ――――ああ、そうか。

 

 

 

 

「うん…………待たせたね。本当に」

 

 

 

 

 君も、そうだったのか。

 

 

 

 

「手ェ抜いたらコロス。全力で来い」

 

 

「……随分と世話焼きだね。それは彼女の影響かな……かっちゃん(・ ・ ・ ・ ・)?」

 

 

「鏡見て言えやクソデク(・ ・ ・ ・)。捻くれた皮肉なんざ宣うようになったその口……顔ごと矯正(ふっとば)してやらァ!!

 

 

 

 互いに地面を蹴った。

 

 負けるんだろうなぁと頭では理解してた。けれど、諦めた訳じゃない。それを踏み越えて更に前へ、先へ、上へと走り続けるための第一歩。

 

 振り返ったっていい。泣いたって構わない。けれど、足だけは止めちゃいけない。自分以外の誰かを守れるようになったら、その道筋を鑑みればいい。そこまで歩んでやっと、本当に正しいかどうか悩むべき時が来る。

 

 

 

「かっちゃあああぁぁあぁああああん!!!」

 

 

「デェクゥアァァアアアァァァ!!!」

 

 

 

 

 だから今は、ひたすらに前へ――。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「…………ん」

 

 

 

 

 ………………………眠い。

 

 

 

 クッソ眠いのだが。意識は覚醒してるけど、瞼が上がらぬぇ。何でこんな眠いんですか。昨日何時に寝たんだっけ……。

 

 

 

 

 あ。

 

 

 

 

「……知らない、天井」

 

 

 

 転生したら言ってみたいワード堂々の1位発声の実績をここで回収……なんて呑気な事言えるのは現実逃避してるからですお察しください。あははは………は、は……

 

 

 

 

 

 

 

 ア  カ  ン  。

 

 

 

 

 

 

 おはようございます、奏です……。

 

 

 

 うわぁ思い出したぁ……いや、できればそのまま永遠に封印指定案件だったんですがねぇ!? わたくしどうやら酔った後の記憶はソコソコ残るタイプみたいでして!! バッチグー大体覚えてまーッす!!(サマーウォーズ感)

 

 なんですかあの痛々しいモノマネは……ッ!? いやでも、あのときは完全に降りてきてたんですよ! 頭の中に莫大な情報がドバーッと! それが気がついたらあんな大惨事に……ちくせう! アタイ、自分が許せへん!!

 

 

 

 ……まあでも、結果的に退場できたから良くない? あの後絶対起こりうる、マスメディアの玩具から逃れられるんだから実質勝ちでは? さっすが奏ちゃんだな! 試合に負けて勝負に勝つとはまさにこのこと。何も憂うことなんてないな!ガハハ!!

 

 

 え、根本的解決じゃないただの逃避? もっとヤバイ現実が待ち受けてる?

 

 

 

 

 

 …………き、気の所為でしょ! そんなことよりココは何処かなあ!?(墓穴)。ベッドはふかふか(・ ・ ・ ・)だし、めちゃくちゃ内装とか凝ってる部屋(・ ・ ・ ・ ・ ・)ですね!? 見た感じ洋館っぽい(・ ・ ・ ・ ・)雰囲気のオシャレな寝室なんだけど、こんな場所でノンレム睡眠キメれるとか幸せだなぁ!!?

 

 

 

 

 

 ………………アレ? ココ病院じゃなくない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――やっと目が覚めたのね」

 

 

 

 

 

 

 あ、はい…………え、どちら様でしょうか?

 

 

 

 気が抜けて普通に返事しちゃったんですけど。気がついたらドアの近くにめっちゃ美人な女性おるんやけど? マジで存じ上げないんですが、美しいので良しとしま……いや、良いけどそれじゃ何の解決にもならんわ。

 

 とりま今の言い方から察するに、わたしが寝ている間の経過観察してたみたいだし、看病もしてくれたんですかね? 看護師……っていう格好じゃないしなぁ……? そもそも場所も時間も分かんないしお手上げっス。とにかく、自己紹介というかご挨拶を――。

 

 

「貴方のプロフィールは把握してるわ。実習生の事、ましてや指名したんだから当然でしょ。見ず知らずの他人を介護するほど、私はお人好しじゃないから」

 

 

 実習? なんか聞き覚えのあるワードの様な……?

 

 

 

 あ、アレだ。

 

 相澤先生が言ってたヤツ。確か体育祭が終わって間もないうちに、職場実習があるって言ってましたね。なるほど、少しは状況が理解できてきました。

 

 要するに、わたしが気絶してる間に先生方が実習先を決めてくれた感じですか。しかも、わたしが眠って動けない状況でも、対応できる受け入れ先を。マジで有能だな雄英高校。伊達にプロヒーローが揃っていないぜ……。

 

 ということは、もしかして回復専門とか、サポート路線のプロヒーロー事務所に来たのかな? そうでもないと、わたしを介護しながら活動とかできないもんね。例外あるとするなら色んなサイドキックを抱えてる大手の事務所だけど……わたしみたいなルールガン無視で体育祭引っ掻き回した様な厄介者は御免でしょうし、そういう系の路線のプロヒーローだと見ました。

 

 

 …………的なこと眼の前の方に告げてみたり。

 

 

「あら、イイ勘してるじゃない。そうね、私以上に貴方のこと活かせる人は少ないんじゃないかしら。貴方の怪我を治すことにもそれなりに貢献したのよ? だからこそ、指名を勝ち取れたと言っても過言じゃないわね」

 

 

 

 

 命ノ恩人 感謝永遠ニ

 

 

 

 

 いやいやマジです? やってること聖人ってレベル上げじゃないですからねコレ? 感謝してもしきれないですよコレ。話の流れからみて大分長い間眠っていたっぽいし……一学生に対してこの手厚さ、頭が上がらないっス。

 

 けど、ヒーローとしてこんな人は見覚えないんですよねぇ。自分の個性を鑑みて、将来の展望として何人かサポート型の個性持ちのヒーローはピックアップしてたんですけど、こんな美人の方がいたら覚えているはずなんですよ。もしかしてヒーローコスチュームの都合上顔が映らなかったとか? うーん、いずれにしてももう少し話を伺わないことには考えようも無いですね。

 

 

「何から何までお世話になりました。お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

 

 ココは直球で言ってみる。だって、やましいことなんてないからネ! 寧ろ、被害者体質過ぎて全てを愚痴として垂れ流したい。入試と個性把握テストにマスコミ騒動を経て最後に体育祭……緑谷少年並にハードな人生送りすぎじゃない? わたし危険な目に合いたくなくて雄英に入った筈なのにあっれぇ〜〜〜??

 

 

 

 

「――――いいわ。名乗ってあげる」

 

 

 

 

 …………ん? なんか今、雰囲気が変わった様な……微妙な逡巡があったのは気の所為ですかね? 前にも一度……いや、何回か味わった空気――?

 

 

 

 

礼洞瑞香(れいどうみずか)。貴女に興味を持ったひとりにして、この館に住む自由気ままな女主人。そして――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、これってシリア――

 

 

 

 

 

 

 

 

「このF市を統括する【魔術師(・ ・ ・)】よ。

 

よろしくね、見習い魔術師(リトル・メイガス)さん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………はぇ???

 

 

 

 

 

 




 かっちゃんが世話焼いてデクと訓練し始める。実力的には合宿の後ぐらい。

 そんでもって、魔術師のご登場でございます。



 その辺りは、近況のご報告から始めさせていただきます。

 再三申し上げた通り「書いたら面白そう」という気持ちが先立ち、この作品の執筆に至った次第です。言うなれば、ノリだけで書き始めたものでした。SSなんて大抵はそんな気持ちで書き始められるのが大半でして、当時の私もその同類でした。

 しかしながら、予想を遥かに上回る反響を頂いたことに内心驚いていました。あとがきやまえがきで感想や評価について余り触れていませんでしたが、実際は嬉しさと不安が渦巻いてました。

 というのも、この物語の着地点をきちんと見据えずに書いていた事が理由です。その場のアイデアや思い付きを形にしていけば、上手く収まるでしょう……と楽観的な気持ちで続けていました。

 ですが、話数が重なるにつれて、撒きに撒いた伏線モドキや特に考えもせず出した意味ありげな会話が増え、徐々に収拾が付かなくなることが見えてきたのです。当たり前と言えば当たり前ですね。執筆が楽しければそれで良いのスタイルを続けてしまった結果と言えます。どんな分野でもそうですが、最初は良かったのに最後は雑に終わらせてしまったせいで、駄作となってしまうことは珍しくありません。

 無論、自分の書きたいように書いて、途中でやめるのも別に構わないのでしょう。このハーメルンでも完結している作品より、途中で執筆が止まっている作品の方が圧倒的に多いことは紛う事なき事実です。それを鑑みれば、このまま適当に終わらせるか、はたまた途中で投げ出すことも一つの選択肢なのでしょう。それが二次創作の自由性というものです。

 それならば、私もそれに従うこととします。




 原作崩壊を帰しても、この作品を完結させます。



 オリジナル設定を多量混ぜ込んだとしても、撒いた伏線を回収し、投げたものをまとめられるように努めます。結果的にどうなるかと言えば単純なことです。


 作品概要の「申し訳程度の型月要素」が虚偽になります。この話を読んでいただければ理解できると思いますが、この先めっちゃ型月します。「これ本当に原作ヒロアカか?」と言われれば難しいぐらい型月します。なんならオリジナルの魔術やら世界設定もわんさか盛り込まれます。

 ヒロアカ主体のクロスオーバーを望んでいた読者様には、非情に申し訳ありませんが、これが私が出した結論になります。その構成を練るために、この半年近く頭を悩ませておりました。「半年悩んでそのレベルしか出せないの?」と期待外れなと思う部分もあるかもしれません。ヒロアカはともかく、型月に関してはまだまだ造詣が浅い故に、それはおかしいと感じさせてしまうこともあるかもしれません。

 型月ファンとして、この作品を読んでいただけている方のご期待に沿える様、尽力は致します。ですが、満足いただける結果に至らなかった場合、お目汚しにはご容赦ください。

 また、別として感想に置かれた質問等に対する返信は、控えさせていただきます。オリジナル展開が加速する手前、些細な情報でもネタバレに繋がってしまうためです。完結した後、最終話についた感想のみにご返信させていただきます。


 長々と語らせていただきましたが、これまでとこれからに関する反省と展望でした。これからも僕のヒーローアカデミアSS作品「ガンドォ!」をよろしくお願いいたします。



追伸

 更新速度は、週1ぐらいを目安に再開していきたいと考えております。ですが、世間を騒がせている例のウイルスにより少し忙しい状況です。半年も音沙汰無かった理由の半分くらいは大体アイツのせいです……。過度なご期待はお控えなさるようお願いいたします。



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第24話「まるで将棋だな(詰められる側)」



 ダメだぁ、ドク。まったく書けん。


 ごめんなさい、1週間とか無理でした。なんなら1か月ですらしんどい……。かけるだけ書くから許してください。


「即ッ刻ッ! 中止にすべきだッ!」

 

 

 糾弾するような怒声が部屋に響いた。一瞥するにブラドキングによる声だろう。熱血漢である事は決して悪いことではないが、感情論が顔を覗かせるのはよろしくない。プロヒーローという職務を全うする我々が公私混同で動いた結果が、良いものであったことのほうが稀だ。それでいて精神論が運良く良い結果に結びついた結果、美談として語り継がれるのだから尚の事に質が悪い。

 

 さて、俺個人としても生徒にこのまま体育祭続行を強いるのは得策ではないと思っている。だが、あくまで個人的にだ。状況を須らく整理した上で導く最適解は――。

 

 

「確かに生徒の事を思うなら、それが一番なのさ。他の人はどうだい?」

 

 

 話を促すのは、根津校長だ。この場には今5人の教師陣が集まっている。根津校長、ブラドキング、オールマイト、ミッドナイト、そして俺の5人だ。どうやら、校長は全員の意見を聞くつもりらしい。そうでなければ5人集まって協議する意味もないのだから、当然のことだが。

 

 

「怪我とかのレベルではないのだぞ! 重危篤者がいる時点で続行など論外ではないか!!」

 

「ブラド。校長は他の意見を聞いている。一旦落ち着け」

 

「落ち着く暇などあるかァ!!」

 

 

 駄目だな、話を聞かない。完全に血が昇っている。個性が操血の癖に短気が過ぎる。担任教師枠であるから、俺と対になる関係で採用されているんだろうが……こうなると面倒だ。

 

 

「オールマイト! あなたもそう思うでしょう!?」

 

「わ、私かい? むぅ……」

 

 

 オールマイトは難色を示すか。意外……ではないが、少なくとも珍しい。恐らくは天秤に掛けているんだろう。平和の象徴としてか、雄英の一教師としてか。前者であれば止めるべき、後者ならば続行。一生徒の怪我で他の活躍の機会を奪って良いのだろうか。この場の誰もが抱く議題。今回の要となる部分だ。

 

 

「……本来であれば中止にはしたい。けれど、それは――」

 

「言いたい事は分かります。言い淀むのは通ることが難しいからこそでしょう。ですが、この場ではハッキリと発言してください」

 

「相澤君……」

 

 

 ナンバーワンとは難儀な肩書だ。ましてや平和の象徴。下手なことは言えないだろうな。

 

 だが、今は全てを捨て置いてもらう。この状況において一刻を争う事態という言葉は比喩表現じゃない。大勢の生徒の将来と雄英の未来がかかっている。というより、もはや方針は決まっているようなものなのだから関係ない。協議というよりは互いの合意確認。校長も体裁を設けてはいるが、最終的に行き着く先は妥協案(マージンプラン)の確定だ。

 

 

「続けるべき、だと判断します……!」

 

「なっ!?」

 

 

 ブラド。これは緊急事態だが、不測の事態じゃない。前例なんてものは腐るほどある(・ ・ ・ ・ ・ ・)。最初から止まる選択肢なんて用意されていない。いっそ清々しいと思えるほどにな。体育祭と銘打っているが、個性なんてものを許可している時点で、事故が起こり得ないはずがない。

 

 

「……ミッドナイトはどうですか?」

 

「私もオールマイトに賛成よ。元よりそのつもりだったわ。生徒がそう望むのなら、私達はそれに答えるべきよ」

 

「ひとりの生徒を切り捨ててまで掴ませる栄誉に、一体何の価値があるというのだ!? ミッドナイト……お前は最も近くにいたのだろう!? 何故、そうも簡単に――」

 

 

 

 

「――そう望まれたからよ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。他の誰でもない。今も生と死の狭間で戦っている、あの子自身に」

 

 

 

 

 

 

 

『ミッドナイト先生、この試合がどんな結果になろうとも、恐らくわたしは倒れるでしょう。最悪、死ぬかもしれません。けれど、止めないでください。この試合も、その後の本選も……わたしごときのためだけに、皆の輝ける未来を奪わないで。だって、そうじゃなきゃ――』

 

 

 

 

 

 

 

「『割に合わない』……だそうよ」

 

 

 

「なんだ……それは……ッ!?」

 

 

 

 

 

 ……割に合わん、か。

 

 

 

 確定的だな……この会議も、あの言葉も。本気で見世物じゃない事を世間に知らしめようとしている。どう鑑みてもヒーローとして倒錯的なことだ。生徒としても普通じゃない。自己犠牲にしては出来すぎている。出来すぎていているが故に気持ちが悪い(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

「例え本人が望んだとしても論外だろうがァ! ミッドナイト……教師としての矜持はないのか貴様ァ!!」

 

「……言い訳はナシよ。あの子が負ったケガは、止めなかった私の責任。私が全部背負う。痛みも、恨みも……」

 

「止めないか2人とも!! ブラドキングは一旦頭を冷やしなさい!! ミッドナイトも滅多な事を言うんじゃない!!」

 

 

 OFA発動状態に至ったオールマイトがブラドの肩を押さえた。ミッドナイトも「……ごめんなさい」と呻いている。まさに地獄のような空間だな。正義同士が己の価値観による主張で火花を散らせる。まるで戦争だ。

 

 しかし、だ。どれだけ騒ごうが過去が覆る訳でもない。いい加減、話を進めなければ。今、この場に必要とされているのは我々の認識を改めさせる様な……言うなれば会心の一撃。全員の共通認識が「驚愕」に塗り替えてしまう大きな波だ。

 

 

 

 

「……もう直、だな」

 

 

 

 

 

 

 ――――カチャリ

 

 

 

 

 

 来たか……。

 

 

「あんまり騒ぐんじゃないよ。アタシらプロが冷静じゃなくてどうするのさ」

 

「リカバリーガール……!」

 

 

 漸くまともな判断材料の到着か。裏を返せば、彼女が来なければ何も始まらない。さっさと本題に入るとしよう。

 

 

「リカバリーガール。ヒーロー科1年A組、萬實黎奏の状況をお聞かせ願えますか?」

 

 

 結局はそれが全てだ。芳しくなければ中止か、ある程度の事実を伏せて続行。見込みがあるなら全てを告げて続行。私情介在の余地なし。合理的に行こうじゃないか。

 

 

 

 ――――悔やむ事など、後でいくらでも出来る。

 

 

 

「そう事を急かすもんじゃない……と、普段ならそう忠告してる所だよ。けれど、そうも言ってられないのが現状さね」

 

 

「……まさか、彼女は……ッ!?」

 

 

「先に言っとくよ。あたしゃ中止にすべきだと思ってる。別に、あの子を止められなかったのはアンタ達の力量不足と責めやしないよ。こうなっちまった事は仕方がないのさ……」

 

 

 

 

 

 

 

「――治療は出来ない。これが【答え】だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 個性副作用、出血多量、急激な温度変化……治療に残される体力などない。聞けば今も個性発動を維持した状態だという。個性が発動している以上、外科手術は出来ない。かと言って、リカバリーガールの【治癒】に耐えられる余力もなく、体温上昇を強いては内出血しているであろう臓器への負担も計り知れない。今は傷を塞ぎ、栄養投与以外の方法はリスクが高すぎるのだという。

 

 

「あの子の個性発動時に現れる紋様……検査してみれば神経系に親しいものと来た。下手に弄ろうものなら、あの子の体にどれだけの負担が掛かることやら……想像に易いってもんだよ」

 

「そんな……」

 

 

 ミッドナイトが呆然自失としている。あの場で最も責任が重かったのだから、何も不思議なことはない。鈍重な雰囲気が頬を撫でている。何度か吸ったことのある空気の舌触りは、何時になっても不味いまま。そんな所感を脳裏に浮かべながら、リカバリーガールを見据えた。

 

 言ってしまえば、最悪の状況だ。余談なんぞ挟む隙間さえない。すべての場の停滞。完全な手詰まり。誰もが口を開かないまま立ち尽くす。リカバリーガールなら或いは……と、考えていたアテが外れた。

 

 

 

 埒が明かないのなら、抉じ開けるしかない。

 

 

 

 

 

「――――情報は出揃いました。我々に残されているのは決断と実行。意見が無ければ、体育祭を続行することで進めますがよろしいですね?」

 

 

 

 

 

 視線が突き刺さるとは、まさにこの事なのだろう。驚いた様子がないのは根津校長だけ。アルカイックスマイルのような表情を崩していない。初めから理解した上で会議と銘打って開いたのか? だとすれば、本当に茶番だな。

 

 

「な、正気か相澤!?」

 

「無意味な確認だ。足踏みで同じ場所を長居しすぎている。さっさと前に進んだ方が合理的だ。この会議の場を停滞させている本人そうも望んでいる。なら、推し進めるべきだ」

 

「担任としての心は――!」

 

担任だからこそ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)だ。他に責任を取れる人間がいるなら別だが」

 

「責任なら私にだって……ッ!!」

 

「ミッドナイトにはこの後が控えています。仮に無理にそんな強行を押し通した人物が審判(ジャッジ)を務めていたとなれば、後々問題が指摘されるでしょうし許容できません」

 

「相澤君……」

 

 

 無論、代償が発生する。そんなもの掃いて捨てる程に払ってきた。今更、どれだけ泥を被ったところで変わらん。この選択がどう転んだところで、行き着く先は分相応な身分(アングラ)に戻るだけだ。日の目に見られない暗闇に身を伏す事には慣れている。

 

 

 

 

 

『【合理性の中に自分が入っていなければ】の話ですよね、それ。今すぐ止めてください』

 

 

 

 

 

 ……お前が言えたことじゃないだろう。

 

 

 

 

 

『わたしに【無理するな】と言ったのは貴方です。自分にできないことを他人に押し付けないでください……迷惑ですから』

 

 

 

 

 

 ……俺が無理を通したから、お前もそうしたのか? 反面教師になったつもりはないが……まあ、今回ばかりは生徒のやらかしを処理する教師の務めだ。目を瞑ってやるさ。ヒーローとしての道、それも最も茨とも思える道を歩むための覚悟……それを見届けるために、あの瞬間は行く末を見据えることにした。

 

 

 

 だが、お前が『犠牲』になることは話が別だ。

 

 

 

 論外、それ以下の悪手。自分の身も守れない奴がヒーローにはなれん。自己犠牲の精神は求められるが、それを嫌っての行動なら猶更矛盾しているだろう。すべてが自身のエゴであるというなら、それはヒーローではなく偽善を振りまく身勝手な輩(ヴィジランテ)だ。そんなものを夢見るというのならば当然、息を吹き返した後に説教だろう。

 

 

 

 だから、理屈抜きに信じよう。その無謀な心意気を、果たすまでは生きることを、俺は信じる。

 

 

 

「他に、意見はありませんね? では、体育祭は予定通り――」

 

 

 

 だから、頼むぞ。必ず戻って――。

 

 

 

 

 

「なら、改良案を挙げましょうか」

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、よく覚えていない。

 

 

 

 というのも、記憶そのものに靄がかかったかのように酷く曖昧だからだ。後々聞けば、他の教員も同じようなことを述べていて、要領を得ない。部屋に設置された監視カメラを確認しても同様だ。何度見返しても、違和感を感じる所が何処にもない。違和感を感じない事が違和感、と言うべきだろう。

 

 だが、それ以上もそれ以下もなく、そこに何が在るのだろうという、漠然な問い掛けに他ならない。考えるだけ無駄か、と思考を途中で放棄したくなる(・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 

「良い方法があるわ。あなた達が最も望む結果を齎す方法が……ね?」

 

 

 

 

 

 その違和感が日を重ねるごとに、増していく。それが至極自然で、正しいものであると分かる。疑うべきだと、理性が囁いてるんだ。今日も、悩む時間がまた増えていのだから、間違いない。ここから考え始めても、また振り出しに戻されるのかもしれないのは見据えている。

 

 

 

 だが、ひとつだけ鮮明に思い出せる。それが俺の思考を縛り、同時にこの矛盾螺旋へと繋げられる唯一の鍵だ。他の教師陣が放っておく最中、俺のみが馬鹿みたいな苦悩に頭を抱えるための撃鉄。離すものかよ――。

 

 

 

 

 

 

「私に、萬實黎奏を預けなさい。

       貴方の望みは、ここで叶うの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必ず、お前を――――。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけで。貴女は私の元へ来ましたとさ。良かったわね?」

 

 

 

 

 全然良くないが???

 

 

 

 何ナチュラルに良い話みたいに終わらせようとしてんの? 要は魔術による拉致誘拐ですよねソレ。私の意向どころか誰の許可も得てないじゃん? ていうか、魔術って秘匿されるべきものだったのでは? 普通に一般ピープル相手に、魔術行使してるよね?? 白昼堂々通り越してもはや渋谷の駅前で丸裸のダンシングなんだが???

 

 

「あぁ、割と強めの暗示を掛けたから、あと数週間は解けないはずよ。手続きも表上は公的なものだし、心配しないでちょうだい」

 

 

 それバレなきゃ犯罪じゃないんですよっていう名言を言い換えただけなんだよなぁ!? 誰もそのベクトルでの心配はしてねぇですわよ!! 釈明しろっつってのにいけしゃあしゃあと説明しないで頂けますかねぇ!!?

 

 

 

 訳わからんぞこの状況……! 体育祭を無事乗り切ったと思ったら今度はモノホンの魔術師に出食わしましたってマ!? 何この世界ヒロアカ時空じゃなかったの!? 気が付けば型月との邂逅とか冗談キツすぎる……!?

 

 

 

 …………っはあ。待て、落ち着け。本当に、数あるピンチの中で一番ヤバい状況なのは間違いないけど、落ち着かなきゃダメだ。今、やるべき事を正しく認識しないと……!

 

 まず、大前提としてこの人の素性が本当に魔術師かどうか。そもそもこの世界で魔術師である事を自分から開示している以上、魔術絡みな事は確定してる。通常のヒロアカ世界から逸脱していることは確定的だ。

 

 

 

 そして、問題は私の個性に繋がる。

 

 

 

 ご都合主義な個性かと思えば違う、本当の魔術である可能性。基礎論理も理念もない何となく使ってきたモノの正体。こんな危機的状況で糸口が掴めるなんて皮肉にも程がある。

 

 けれど、それはまだ推測だけのもの。あくまで「本当に魔術が関わっているのかもしれない」という仮説だ。丁寧に情報を整理していかなくちゃ見当外れの答えにだって行き着く。魔術ではなく純度100%の個性だって有り得るんだから。

 

 まあ、魔術という存在の有無はもう確定的なんですけどね……。型月産かどうかはともかく、推定ヤベー奴に目を付けられたわけですし、身の安全のために頭働かすのが最優先。

 

 

 

 

 …………でもさ、考える以前にだよ? その悩みのタネ相手に何日も爆睡こいてた時点で詰みじゃない?仮に、モノホンの魔術師だとして異端的なグループに属する相手だとしたら、絶対に寝てる間になんかされてる。初めから打つ手なしの可能性が高い。

 

 

 

 いっそのこと、全部曝け出したほうが楽……かも? 手遅れって言うなら、わたし公衆の面前で魔術使ってたし。はいツーアウト。秘匿されるべき神秘を一般人相手にバカスカ撃った挙げ句、ただの道具として扱っている。時計塔が存在するなら間違いなく私は抹消されるべき存在認定されますよね。スリーアウトで役満確定。わたしの親じゃなくて首が飛ぶ。物理的に。

 

 

「貴女は……わたしにどうさせたいんですか」

 

 

 相手の要求を飲むしかない。少なくとも、今は生かされている。なら、大人しく従っていた方が身の為だろう。魔術師(ひとでなし)の考えることなんて理解できるはずもないし、ヤバそうになってきたら隙をみて逃げる。逃げれるかどうかは分からないけど、今はそうするしか……。

 

 

「あら、随分と早急な物言いね。少し話をしてみたいと思ったから連れてきただけ……なぁに? もしかして怖がってるのかしら?」

 

 

 うん、全然関係ないんだけどさ。ニヤニヤした表情がメッチャ艶めかしいんですよ。顔面偏差値つよつよ過ぎて鼻血出そう。単純に好みの顔立ちなんだろうけど、語彙が溶けそうなぐらいには限界来てる。あっれぇ? わたしそっちの気なんて無かったはずなんだけどおかしいな〜〜???

 

 

「……ふふっ。ホントに表情ひとつ変えないのね、貴女。まあ、そこも私の興味を引いたポイントなのだけれど」

 

 

 変えないんじゃなくて変えられないんですよねコレ……内情悟られないので便利ではあるんですけども。

 

 

 

 ……って、イカンイカン。和やかな雰囲気に気が抜ける。わたしが勝手に見惚れてたのが100パー悪いんですけど、細かいことは気にしない。

 

 さて、ふざけた怪我の功名である程度メンタルが回復したし、冷静さも取り戻しました。後は相手の反応を待ちガイルするだけの簡単なお仕事。じわじわと追い詰められて投げ打たれたら諦めるしかないのでアケコン投げて合掌しましょう。純粋な力量差だけはどうにもならんのです(釈迦如来スマイル)。

 

 

「単純な話よ。何度も言うように、貴女を知りたいの。無理強いはしないけど、少しでも恩を感じてくれてるなら話して欲しいわね」

 

「それは……一体何処までの事(・ ・ ・ ・ ・ ・)をでしょう?」

 

「あらあら、余程警戒されてるのね、私」

 

 

 あ、わたしの返しに対して困ったみたいに笑ってる。カワイイ。美しさと可愛さの両立とか無敵過ぎん? てゆーか、暗示にでもかけられてんのかな? 冗談抜きで一挙一動に見惚れるんだけど。 それになんかこう……悪い人じゃないんだなぁって思えちゃうんですよね。寧ろお節介のお人好しみたいな――。

 

 

 あー……ストップ、待て待て。相手は魔術の秘奥に辿り着くためなら手段を選ばない人種ですよね。なんで根拠もなく絆されそうになってんですか。しかも、あちらの立場からすれば、わたしは重犯罪者みたいな立場なわけでしょ。何もお咎めもない筈がない。

 

 

「でも、それって自分で答えを言ってる様なものじゃない?『私は言えない様な秘密を握ってまーす』って。プロフィール以上――プライベートな部分を見ず知らずの相手に語りたくないと思うのは道理だけど、私の話を聞いて質問が飛んでこない時点で【コチラ側】なのは自明の理だし」

 

 

 う、うわー……殆ど話してないのにどんどん話が核心に伸びてきてる。リアルINT高杉やん。言葉選びだけで全てを察しているのか、或いは初めから掌で転がされてるのか……勝ち目が毛ほどもないんですけどどうすればいいですかねぇ!?(投げやり)

 

 

「問題は舞台裏(バックグラウンド)よ。正直、貴女がどんな魔術を用いて、何を目的にしているかなんて少し探れば見えてくる。けれど、その【起源】だけは暴けない。貴女が語る以外の鍵はないのよ」

 

「起源……」

 

「……ま、一度に沢山言われても飲み込めないでしょうし、そろそろお開きかしらね。回復明けで疲労もあることだし、今日は軽い運動で体を慣らすか、雄英の資料でも眺めていてちょうだい。敷地内を歩くのは自由だから、遠慮はいらないわ」

 

 

 え、あっ……どうも、ご親切に……?

 

 

 

 

 あ、話終わったんかコレ?

 

 

 

 

 なんで? 急に初対面の親戚の挨拶みたいな反応出ちゃったけど違うよね? これからが盛り上がるところだったんじゃないの? いや、個人的には盛り上がらないほうが助かるんだけども。しかも、放心してる間にご本人は退出してるし。突然の釈放……ていうか執行猶予で今まで積み上げてきた思考が弾け飛んだんですけど……えぇ……?

 

 

 

 し、仕方ない。考える時間が出来たわけだし、ここは素直に喜びましょうか! 問題の先送りになるんですけど、どうにもならんものは考えても無駄ですし。気が付いたら体育祭終わってて、とんでもない情報を起き掛けに叩きつけられましたけど、生きてるんだからオールオッケーってもんですよ。とにかく今は、いったん落ち着かせるために一度体でも動かしてみますか。個性の反動で後遺症とか残ってないといいんですけど……よっと。

 

 ――うん、平気みたいですね。手足は動くし、違和感とかもない。ちょっと寝起きの疲労感はありますけど、これも誤差の範囲。この調子で歩行は……問題なしっと。

 

 はぁ~~……ほっとしたぁ。日常生活に支障はなさそう。この調子で部屋の外に出てみますか。あわよくば外部と連絡を……いや、なんか無駄な気がするから今は止そう。日が経って余裕が出てきてからにします。助かりかけた人間が早計に走った末路なんてハリウッドだろうがB級だろうが相場が決まってるもんですよ。

 

 てなわけで早速お散歩開始と行きましょうか。扉開けてれりごーと洒落込もーぜ。はいガチャっと。

 

 

 

 

「えっ、あ……」

 

 

 

 

 …………ほ? キミはだぁれ??

 

 ドアを開けたら可愛い子にお会いし申した。見た感じ5,6歳ぐらいかな? 家主のお子さん……うーん、何となく違う気がする。親戚の子かな? 分かんないけど多分ここに数日は厄介になるはずだから挨拶はしなきゃですよね。

 

 

「こんにちは、わたしは萬實黎奏っていうの。少しの間ここに居させてもらうことになったんだ。えっと、あなたのお名前を教えてくれると嬉しいな?」

 

 

 こんな感じかな。一応目線を下げるためにしゃがんで、と。致命的な欠陥があるなら表情が死んでること。意地でも動かないなこの口角。前世で親でも殺されたんかお前。いや、前世の持ち主もわたしか。じゃあ、どうしようもねぇな!(開き直り)

 

 

「え、えっと……」

 

 

 おぉう、少し警戒しているっぽい。そら目の前にこんな鉄仮面みたいな女いたらビビりますよね。せめて雰囲気を柔らかくできれば良いんだけどなぁ。無理やり指で笑顔作ってみるか。

 

 

「……ふぇ? 何してるの?」

 

「わたし、笑うの下手だからこうするしかなくて。どう? 笑えてる?」

 

「う、あの、ちょっと怖い……と思う」

 

 

 あわよくば緊張とかほぐせたらいいと思ったんですけど、ダメみたいですね……。対人マジで向いてねぇ。今の環境がそういうの気にしないタイプの人間しかいなかったから感覚麻痺してのかもなぁ。やっぱりヒーロー科ってコミュ力オバケの集まりじゃないか。おのれ許さんぞマイフレンドたち。

 

 

「えっと……体、大丈夫?」

 

 

 うん? あ、もしかしてお見舞いのために来てくれたのかな? 来客を知って興味本位で来たにしてはおっかなびっくりだし。大分怖がってる様子だけど、それでも来てくれたってことは――。

 

 

 

「平気。優しいんだね、ありがとう」

 

「――!」

 

 

 すっごく安堵した顔。間違いなく人を思いやれるいい子だ。知らない人相手によく頑張ったよ。節々でわたしの心配してるみたいだったし、ホントに優しい子なんだろうな。どうしよう、わたしの中でこの子の好感度が急上昇なんだが。

 

 

「今度は……お顔、怖くない」

 

「ん?」

 

 

 おろ? 顔が怖くない? あ、もしかして笑えてた? マジ? うっわチョロイン過ぎんかわたし。幼女に心配されて緩む表情筋とかソレどんな不審者だよ。雰囲気いい感じになったし万々歳だけど、素直に喜べねぇ……。

 

 

「な、名前……言うね?」

 

 

 あ、そういやまだ自己紹介終わってないんでした。やれやれ、名前を聞くだけでどんだけ時間使ってるのやら。こんな体たらくじゃ相澤先生に判断が遅いってどやされるかも。今度のヒーロー基礎学で子供の対応マニュアルを頭に入れとこ。いざ現場に出たときのためにね。

 

 

 

 

 

「私……壊理。その、よろしく……お願いします」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 暗峠のような部屋。モニターの明かりがやけに眩しい一室に、大きな影が3つ並ぶ。そのうちの一つが、切り込むように言葉を紡いだ。

 

 

「はてさて、面白い情報だ。人生の中で聞いたこともない単語がこうも拝めるとはね」

 

「情報は与えた。返事を聞かせてもらおうか」

 

 

 手元の資料をから目を離し、ぐるりと見渡す。まるで品定めをするかのようなその挙動に、もう一つの影も淡々とした口調の元、声を発する。

 

 

「興味がないと言えば噓になる。けれど、僕としてはこちらの子の方も魅力的かな。残念なことに、どちらも僕に譲ってくれそうにないようだけどね」

 

「当たり前だ……アレはやらん。一族の悲願を成就するために必要なパーツなのだ。貴様にくれてやる理由などない」

 

「こちらも同じ条件だ。アンタに求めるのはあくまで奪還の手立てのみ。代わりにサンプル(・ ・ ・ ・)ならいくらでもくれてやる」

 

 

 やれやれと首を振る影に、他のふたつが苛立つ。どうにも要領を得ないと言わんばかりに、溜息まで添えてだ。だが、人の敵愾心を煽るようなその様は、反応を見て楽しんでいるようにも見える。再び訪れる短い沈黙の後、第一の影が口を開いた。

 

 

「『秘匿された神秘の開示』と『個性社会を壊す毒のサンプル』。どちらも面白そうな代物だが……残念ながら今の僕たちには信頼関係が無い。要求を飲むだけの信頼が、ね」

 

「信頼だと?」

 

 

 胡乱な目線を送る後者2名。お前が言うなとでも言いたげである。碌でもないことを思案しているのは確定的なのだから、強ち間違いでもない。そんな2名を尻目に影は……巨悪は歪んだ笑みを堕とした。

 

 

 

「まずは君たちが僕を手伝ってほしい。それに応えてくれたのであれば、喜んで僕も力を貸そうじゃないか。それに見合うだけの報酬であることは理解しているからね。安心してほしい、そこまで難しい事じゃないさ」

 

 

 

 何が信頼だろうか。白々しい。そんな思いが奇しくも二つ重なった。相手も感づくこと理解して言っているのだから余計に腹が立つというもの。だが、すぐさま身を翻してこの場を去れるほど余裕が無いのも事実だった。

 

 沈黙は肯定。そんな二つの影に課された要求はシンプルなもの。方法は任せるとだけ言われて終わりである。大雑把と言っても過言ではないが、それだけに自由度は高い。要するにその目で我々の手の内を覗くことが目的なのだ。決行の日時と場所だけを聞くと毛色の違うふたつの足音は遠ざかっていった。

 

 

「予定と違って随分と面白くなってきた。長生きはしてみるものだね」

 

 

 昏い夜明け前。巨悪は独りでに呟いた。無邪気な子供のような嘲笑を携えて、軋む椅子に深く座りなおす。

 

 

 

「もしかしたらここで終わるかもしれない……けれど、壁は高いほど良い。今の『彼』にはそれが必要なのさ――」

 

 

 

 

 

「――弔、他の悪に呑まれないように注意するんだよ」

 

 

 

 

 

 その吊り上がった笑いは、酷く意地悪に見えた。

 

 

 

 

 








 げんさくこわるる~。


 壊れるっていうより加速する感じですかね。もう全部混ぜちゃえ的な感じで。




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