やはり俺の猫生活はまちがっている。 (マクロ経済大回転)
しおりを挟む

はじめまして、猫

 目が覚める。昨日の夜に夜更かししたせいか、あまり頭が回らない。寝ぼけ眼のまま毛布から這い出し、洗面台へと向かう。ぬぼっとしながら歯を磨き、朝食を食べにリビングへ行く。

 

「ふあぁ、小町おはよう」

 

「んー?どしたのカマ、クラ?…え?」

 

 小町が何か騒いでるな…。朝から元気で何よりだ。ただもうちょっとお淑やかさを思い出してほしいぞ、小町よ。そんな事を考えながらトーストに齧り付いた。

 小町の騒々しい声を背に受けながら食器類を片付け、いざ学校へ行かんと家を出発する。因みに昨日自転車のタイヤがパンクしたので今日はバス通学だ。愛しの小町を後ろに自転車でゴーが出来ないから朝から気分はだだ下がりである。

 

「ふあぁ、…そんなことよりねみぃ」

 

×  ×  ×

 

 何故かちらほら通行人からの視線を感じたものの無事にバス停に着いた。バス通学とか久しぶり過ぎてバス停どこだっけと道に迷ったのは内緒だ。

 数分と経たずにバスはやってきた。整理券を取り、出来るだけ真ん中に立つ。混んでる時は中央付近がベストポジションだ。降車する時にそんなに労力を掛けずに済むし、他の人が降りる時に避ける必要もあまりない。つまりは立ち寝ができるということだ。睡眠大事だからねっ!こんなことなら昨日夜更かししなけりゃよかったな…、…zzz。

 

×  ×  ×

 

 未だ寝ぼけ眼のままバスを降車する。周囲から奇異の目で見られた。解せぬ。まさか寝ている間に涎を垂らしていたのか…!?もしそうだったら今すぐ帰宅して毛布に(くる)まって悶え死ぬまである。…死んじゃうのかよ。次に立ち寝する時は気をつけよう。

 バスを降り、程なくして総武高校の制服がちらほら見え始める。あと少しで俺の通っている総武高校だ。今日は確か1時間目から現国だったな。…憂鬱だ。

 

 学校に着き、いよいよ眠気がマッハになった為机に突っ伏して寝ることにする。無機質な机はひんやりとしており、俺を心地よい眠りへと(いざな)った。

 

×  ×  ×

 

ザワ…ザワ…

 

 何だか教室が騒がしい。朝の小町といい道端ですれ違った人といい、バスに乗り合わせた人といい、今日は違和感の多い日だ。世界が俺を中心に回っているのではないかと勘違いしてしまいそうなくらいだ。

 

ガララ

 

「よーし、今日も授業はじめ、る、ぞ……?」

 

 1時間目の現国の授業をしに教室にやってきた平塚先生が此方をみて固まっている。あれ?俺なんかやらかしちゃった?また涎垂らしてた?悶え案件ですね。

 

「だ、誰だ?猫を教室に連れてきた奴は!こんな可愛い猫なんぞけしからん!私が丁重にお持ち帰り…ゲフンゲフン」

 

ああ、独り身だと癒しが足りなくな…

 

「…なんだかそこの猫が良からぬ事を考えているような気がするのだが何故だろう」

 

 怖ぇ。こっちの思考を読み取るとかあなたどんなエスパーですか。…ん?猫?

 

「クシュン!…先生、さっさとそこの猫を連れ出してください」

 

 川…川…川越?さんが嫌そうな顔で此方を見ながら先生に促す。まてよ、確か川島は猫アレルギーだったはず…。それに加えてさっきの平塚先生の発言。これらから導き出される答えは…。

 

「おっと、すまんな。そこの猫ちゃん、ここは君の席じゃなくて比企谷の席なんだ。居心地がいいのはわかるが野良に帰りな」

 

 猫だった。アイエエエ!?ナンデ!?ナンデネコ!?そういえば朝からの違和感はこれだったのか!?寝ぼけてて気付かないとか俺由比ヶ浜のことバカとか言えないじゃねぇか!

 平塚先生の胸に抱きかかえられ教室を後にする。背中に感じる柔らかさをもっと感じていたい…。ふ、不可抗力だから仕方ないよねっ!

 

「…私も猫飼おうかな」

 

 そんな呟きと共に俺はグラウンドへと放り投げられた。

 

×  ×  ×

 

「あちぃ…」

 

 あれからよくよく考えてみた結果、自分の馬鹿さ加減に辟易させられることになった。

 暑いからといって裸でベッドから起き上がる時点でもうアウト。毛布だと思っていたものは猫化する前に着ていたパジャマであった。歯磨きしに洗面所の鏡を覗いているのに気付かないし、まともに歯磨きできていたかも不明だ。小町の言動がおかしかったのもこの状況であれば納得だ。それに…

 

「何処の猫が整理券受け取ってバスに乗るんだよ…」

 

 そりゃ奇異の目で見られるわけだ。さぞ運転手も吃驚したものだろう。だが一番の問題は教室まで来て“比企谷八幡”の席で寝てしまった事だ。私は比企谷八幡ですと公言しているようなものだ。いつバレてもおかしくない。バレたが最後、肉体的いじめに繋がりかねん。

 

「はぁ…」

 

 まぁ、学校に来なければいい話だ。そう深刻な問題でもない、筈だ。ただなぁ…、言葉が通じないって意外と辛いものなんだな。

 

×  ×  ×

 

キーンコーンカーンコーン

 

 いつのまにか寝てしまったようだ。太陽が南に高く昇っている。と、誰かが目の前にいることに気付く。

 

「んあ?」

 

「…ニャー」

 

 …雪ノ下だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレた、猫

「ニャー?」

 

 あの雪ノ下がいつも俺に向ける冷酷な表情とは程遠い柔和な笑みを浮かべながらニャーニャー言っておられる。可愛い…。

 

「あら、起きたのね…。…野良っぽいからちょっとくらい連れて行ってもいいわよね?」

 

 そっと、俺を持ち上げる。優しい手つきで何だか安心するニャー…。再びウトウトとし始める俺。猫になったから寝る時間が増えたのか…?

 

×  ×  ×

 

ガララ

 

「ここは奉仕部よ。暫く一緒にいましょうね、猫ちゃん♪」

 

 お、おう。やばい、俺に対して向けられている笑顔ではない事はわかっているのだが勘違いしてしまいそうになるくらいやばい。どうした俺の語彙力。

 陽の満ちる部屋、満面の笑みの雪ノ下、頭を撫でられ…。あれだけ寝たのにもかかわらず襲ってくる睡魔に負けた。

 

×  ×  ×

 

「やっはろー!ゆきのん!」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

 

「あれ?どしたの、その猫」

 

「拾ってきたわ」

 

「なんか自慢気だ?!大丈夫なの?勝手に拾ってきて」

 

「う…、た、多分大丈夫よ」

 

「やっぱゆきのんって猫のことになるとバカだっ?!」

 

 …また、寝ていたらしい。由比ヶ浜のけたたましい声によって起きたのだが、雪ノ下の膝の上なうだ。吃驚して飛び退くと残念そうな雪ノ下の顔が見えた。申し訳ない気分になってしまうのは何故だろうか。

 

「あ、そういえば今日ヒッキー来てなかったんだよね…」

 

 そう言いながらゆきのんのすぐ横に座る由比ヶ浜。今日も今日とてゆるゆりしてますなぁ。

 

「あら、ヒキガエル君は遂に冬眠する時期すら間違えてしまったのね。夏休みを目前に浮かれてしまったのね」

 

 今はカエルじゃなくて猫なんだよなぁ…。と、最早コミュニケーションの一環となった毒舌を聞き流す。今日は少しマイルドな気がするな。

 

「もぉ〜、ゆきのん素直じゃないんだから」

 

「な、なんのことかしら」

 

「ふーん?ま、いっか。それでね、朝教室着いたらヒッキーの席で猫が寝てたんだよねー」

 

「猫…」

 

「その猫が丁度そこにいる猫とほぼ同じ…って、あー!」

 

「ど、どうしたの由比ヶ浜さん?」

 

「どうもなにもおんなじ猫だよ!」

 

「…へー、同じ、ね」

 

 …何だか嫌な予感がするな。しれっと立ち去りたい所だがここで立ち去ればこの猫が比企谷八幡だと予想するに難くない理由となってしまう。ここは、自然体な猫を装うのが吉…!

 

「にゃ、にゃー」

 

「…緊迫した場面、自分が劣勢に立たされた時に噛んだりするのは比企谷くんの十八番」

 

「そ、それってつまり…?」

 

「その猫は比企谷くんである可能性が高いってことよ」

 

 なん…だと!?ま、まずい。いや、ここで焦って逃げ出したら人語を理解しているということがバレて益々ややこしい事態に陥る。八幡、ここは一旦冷静になるんだ。ひっひっふー。…全然冷静になれねぇ!

 

「まさかぁ、ヒッキーが猫になるなんてあり得ないよ?」

 

 ナイスだ、由比ヶ浜。常識的に考えて人間が猫になるなんてあり得ない事なんだ。そのまま押し切ってくれ。

 

「この猫の事を聞きに行くのと休んでいるらしい(・・・)比企谷くんの様子を見に小町さんに会いに行きましょう」

 

「だね!ヒッキーも心配だし」

 

 此方を直視しながらそう言い放つ雪ノ下。貴女もうわかってるんじゃないですかね…。半ば諦めモードに入った俺は従うことにする。

 

「それじゃ、れっつらごー!」

 

 お前はどこの人だ…。

 

×  ×  ×

 

ピンポーン

 

「あ、お兄ちゃん!?どこほっつき歩いてたのさ!小町心配したんだか…

 

「お、落ち着いてちょうだい、小町さん。私よ、雪ノ下雪乃」

 

「…はっ!雪乃さんでしたか〜。玄関で立ち話もなんですしどうぞ入っちゃってください」

 

「お邪魔しまーす」

 

「…にゃ」

 

 現在、雪ノ下の両腕にすっぽりと収まっている状態である。着いて行こうとしたが、もしあなたが比企谷くんだった場合私達を厭らしい目で見上げるでしょう?と言われ抱っこされた次第だ。そんな状態で学校から家まで来たもので俺の背中が幸せな状況です。断崖絶壁でも柔らかいんだなぁ…。

 

「ささっ、どーぞどーぞ」

 

「ありがとう、小町さん」

 

「お茶出しますねー…ってあー!?その猫!」

 

 あ、終わった。朝の珍事を小町が覚えていない筈がない。これから俺どうされるんだろう…。煮るなり焼くなり好きにされるのかな…。

 

「…!やっぱり、この猫は比企谷くんなのね?」

 

「朝食の準備してお兄ちゃん待ってたんですけど、いきなり聞き覚えのない猫の鳴き声が聞こえたと思ったらその猫がお兄ちゃんのトーストを食べたんですよ!」

 

「それって、やっぱりこの猫がヒッキーだってことだよね…?」

 

 三人全員の視線が一匹の猫__俺に集まる。俺は、首肯した。ああ、さらば、日常よ。猫になった時点でサヨナラしている気もするが。

 

「お兄ちゃん…」「ヒッキー…」「比企谷くん…」

 

「「「可愛いっ!」」」

 

 へ…?あれ?なんで?キモいとか貴方が猫になるとか寒気がするわ、とか罵倒されるものだと思っていたんだが。全身を撫で回されている。というか由比ヶ浜、お前猫苦手じゃなかったっけ。

 

「だぁぁ!うざってぇ!」

 

 八幡は 逃げ出した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お散歩、猫

「はぁっ、はぁっ…」

 

 久々に全力で走ったから体力の限界だ。猫になっても身体能力がぐんと上がるわけでもないらしい。かなり遠くまで来てしまったようで、迷子の子猫ちゃん状態だ。いや、名前も家の場所もわかるからそこまで重症ではないのだが。

 「可愛い」先程の言葉を思い出す。まさか撫で回されるとは思わなかった。俺ってば可愛いんだ!と自惚れながらふと気付く。

 

「…そういえば自分の姿見たことないな」

 

 とぼとぼと歩きながら自身を映し出す物を探す。朝は寝惚け過ぎて気付かなかったがこの低い視点から物を見るのもまた新鮮だ。ちょっとした段差でも高く感じるし排水溝なんて超危険地帯である。少し見上げればスカートの中が…なんでもないですすいません。

 

 そんなこんなで丁度良い物を見つけた。公園のステンレス製の滑り台だ。そこに映っていたのは灰色にやや濃い灰色のストライプが入った色合いのふわふわな毛並み、小さめの垂れ耳に紺色の眼、極め付けのアホ毛。スコティッシュフォールドだった。但し眼はやや濁っている。そこは再現しなくてよかったよ…。

 なんとはなしに滑り台を滑ってみる。…楽しい。低姿勢で繰り広げられるスピード感。童心にかえるのもまた一興だ。気が付けば本能に逆らうことが出来ず、滑り台を何度も周回した後だった。

 

「やべぇ、ちょっと目が回った…」

 

 運動の後は水分補給と塩分補給だ。熱中症で倒れかねないからな。さて、俺が愛してると言っても過言ではないマッカンを買いに行くとするか。

 

×  ×  ×

 

「なん…だと」

 

 自販機前に着いたはいいものの、マッカンのボタンが一番上だった。まだ猫になって一日も経っていないのでジャンプの仕方など知るはずもない。だがしかし。諦めてなるものか。

 まず普通にジャンプしてみる。が、小銭投入口にすら届かない。次に助走を付けてジャンプ。小銭投入口にはなんとか届いたがまだ半分以上の高さがある。今度は自販機横のゴミ箱を足場にジャンプ。そしてめでたく自販機の側面とごっつんこ☆

 

「いてぇ…」

 

 涙目になりながらも再度挑戦する。ゴミ箱からおつりのレバーに飛び移り、最大ジャンプ。すると、ギリギリ届きそうだ。

 

「…よし、これならいける」

 

 自販機の下に丁度落ちていた百円玉を口に咥え、助走を付けてジャンプ。小銭の投入に成功だ。これまた自販機の下に落ちていた十円玉も同じようにして投入。最後に転がってきた十円玉を投入。

 さぁ、ここからが勝負だ。ゴミ箱によじ登り自販機目掛けてジャンプ、空中で身体を捻りながらおつりのレバーに着地、そして最大ジャンプで両手を伸ばして__

 

ガコン

 

 無事、マッカンゲットである。器用にプルタブを開けて飲む。甘さが身体全体に染み渡り、肉体的疲労を和らげていく。やはり普段飲むマッカンよりもこうして苦労して手に入れたマッカンの方が美味しく感じるものなんだな。その場で勢いよくマッカンを飲み干すとゴミ箱へ捨て、その場を去った。

 

「…すごいものを見ちゃったわ」

 

 小銭をぶちまけてしまった買い物帰りのお母さんだ。そのお母さんの左手には「いろはの欲しいものリスト〜☆」と書かれたメモが握られていた。

 

×  ×  ×

 

 勢いで家を飛び出したもののもう他にする事が無くなってしまった。…やっぱ戻らなきゃいけないよな。と、突然尻尾を掴まれ身体が後ろへ引っ張られる。

 

「さーちゃん!ねこ!」

 

「こら、京華、いきなり尻尾掴んじゃ猫がびっくりするでしょ!」

 

「はぁい、ごめんなさい」

 

「わかったらいいのさ。…へくちっ」

 

 …未だに尻尾掴まれてるんですがお宅妹に甘くないですかね。え?俺もだって?やだなぁ、そんなわけないじゃないですか。

 

「えーっと、川…川…川村?さんよ、尻尾離すように言ってくれませんかね…。地味に痛いんだよ…」

 

「川崎だけど、あんたぶつよ!?」

 

 っ!?話が通じた、だと?何故わかった!?テレパシーでも使える(たぐい)の人なのかっ!?いかん、取り乱しすぎだ。冷静にならねば。

 

「…あれ?あたしなんでこんな事言ったんだろ。比企谷でもないのに」

 

 なんだ、エスパーか。なら安心だ。いや、よくねぇだろ。女子は察することができるというがここまでとは。恐るべき生き物だ…。

 …あと尻尾痛いからぶんぶん振り回さないでぇ!

 暫く尻尾ぶんぶんは続いたのだった。

 

「ほら、京華帰るよ」

 

「えー、まだ猫さんと遊びたい!」

 

「だーめ、もう晩御飯食べる時間なんだから」

 

「うー、わかった。またね、猫さん!」

 

 守りたい、その笑顔。心が温かくなるのを感じた。尻尾は犠牲となったのだ。存外、一人旅もいいものだなと笑みを漏らす。陽は高度を下げ、空を赤く染めていた。…そろそろ、帰るか。

 遠くで俺を呼ぶ声が聞こえた。




調子に乗って3連投。もうこんな日はないと思います。更新頻度は夏休み中は2日に1回できたらいいなぁ、と画策中です。
無計画すぎて話が広がり過ぎた感。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

考える、猫

「はい、すいませんでした」

 

 現在、俺は小町に説教をくらっている真っ最中だ。まぁ、勝手に逃げ出したのは悪いとは思っている。だが誰だっていきなりわしゃわしゃされたら吃驚するだろう。因みに二人はもう帰ったらしい。

 

「んー、にゃーにゃー言われてもあんまり反省してる感じがしないんだよねぇ」

 

 理不尽だ…。助けて、サキえもーん!ただ意思疎通が出来ないのは問題だ。ホワイトボードとマジックペンを持ち歩くか…?自分より大きいものを持ち歩くのもまた大変だな。

 

「ま、いいよ。小町たちもちょっと興奮し過ぎたからね。明日結衣さんと雪乃さんに謝っときなよ?」

 

「え?明日?」

 

「うん!お兄ちゃんは明日も学校に行ってくること!」

 

 もう学校へ行くまいと決めたのに早々に打ち崩されたぜ…。仕方ない、妹からのお願いを蔑ろにする事も出来んからな。シスコン?どうとでも言え。

 

「じゃ、小町晩御飯作ってくるからソファでゆっくりしててね!」

 

 エプロンを着けながらそう言って台所へ行く小町。うん、やはり小町は天使でまちがっていないな。ここに戸塚が居れば天使と天使の夢のコラボレーションで昇天してもいいレベルで天国になるのにな。今日は戸塚ニウムを摂取していないから悪い意味で頭の中がお花畑状態だ。ああ、戸塚会いたいよ…。

 

「おい」

 

「…ひゃいっ!?」

 

 人語ではない言葉が俺に届く。え、なに?俺幽霊とかと話せるようになっちゃったのん?若しくは捻くれを拗らせて幻聴まで聞こえるようになったか。後者の方があり得そうだ。

 

「あんたなんで猫になっとんねん?」

 

 訂正、カマクラだった。成る程、猫同士だと言葉は普通に伝わるのか。しかしこうして改めて見るとカマクラって以外とイケメンなんだな…。

 

「いや、朝起きたら猫になってた」

 

「んなあほな」

 

「…さっきから思ってましたけどカマクラさん、何故関西弁なんです?」

 

「ん?ああ、生まれは関西やからな!流れに流れて千葉の動物イベントで小町殿に気に入られたんや」

 

「お前…、そんなにキャラ濃かったんだな」

 

 そんな経緯があるとは思わなかったな。長いこと千葉にいるはずなのに関西弁が抜けないって相当だと思うが。何かあったのかしらん?

 

「そう、あれはわいが生まれた頃の話や」

 

 あ、貴方もエスパーなんですね…。

 

×  ×  ×

 

 わいは元々捨て猫やった。拾ってくださいの文字が書かれた紙が貼っつけてある段ボールに入れられてた。その時の季節は冬や。毛布なんて入ってる筈もなくて寒ぅて寒ぅて凍え死んでしまいそうやった。そこを偶然通りかかった怖そうな(あん)ちゃんが拾ってくれたんや。

 見た目とは裏腹に兄ちゃんは優しかった。毎日身体を拭いてくれた。毎日美味しいご飯を食べさせてくれた。毎日遊んでくれた。わいもそんな幸せな日がずっと続くと思ってた。

 その日は秋、曇りやった。

 

「ずっと部屋に篭っててもおもろないし久し振りに公園行こか」

 

 そう言ってわいを抱えて公園に向かってくれた。道中、道路の向かいに猫じゃらしが生えてた。風に揺られてピコピコしてる奴はわいを夢中にさせた。気付けば兄ちゃんの腕の中から飛び出した後やった。

 

ガッ

 

 そんな音が響いた。猫じゃらしにはまだ到達しておらず、視界はぐるぐる回ってた。けど兄ちゃんの腕の中やった。一瞬、なにが起こったかわからへんかった。けど、アレを見ただけでわかってもうた。ひしゃげたトラックのバンパー、転がったまま動かない兄ちゃん。丁度、雨が降り出した頃やった。

 

 あれからわいは動物保護団体に引き取られた。そん時は自己嫌悪で潰れそうやった。あの時飛び出していなければ、時間帯がずれていれば。そういう“たられば”が頭からこびりついて離れへんかった。いつまでもくよくよしてたって何も変わらへん、そう割り切ることが出来た頃が動物イベントが千葉で開催された時やった。

 暫くして小町殿に引き取られ、ここで暮らすことになった。割り切ることが出来ても未だに兄ちゃんの事を忘れられなかったわいは、形見として兄ちゃんが使ってた関西弁を使うようになった。そんな時や、あんたが車に撥ねられたって情報がきた。わいは兄ちゃんとあんたを重ねて見てしまった。だからあんたのような自己犠牲の元に成り立っている人助けを見ると嫌気が差す。でも、心の何処かで安心もしていた。

 __猫になったあんたなら何となくわかるやろ?

 

 

 先程のカマクラの話を思い出す。

 

「はぁ…」

 

 俺のやってきたことは間違っていたのか…?そう思うと心がキュッと締め付けられるような感覚に陥る。でも、それでも、己の過去を認めてまた前を向くことが出来るのであれば。俺は、変わらないに固執する必要もないのかもしれない。

 

×  ×  ×

 

 晩御飯を食べた後、小町が笑顔でやってきた。

 

「ねね、お兄ちゃん。ネコリンガル、使ってみよ!」

 

 そんなものが果たしてちゃんと機能するのか甚だ疑問だがやってみるに越したことはない。以前カマクラにも使ったことがあるような気もするがかなりまともな返答が返ってきた気がする。あれ?もしかしてネコリンガル有能?

 

「ほい!じゃあお兄ちゃん、なんか言って!」

 

「…小町可愛いっ!」

 

『小町、可愛い』

 

「ふぇっ?お、お兄ちゃん、これ合ってるの?」

 

 まさかここまで有能だったとは。固有名詞までしっかり翻訳してやがる。おう、合ってるぞ、と首を縦に振り肯定する。

 

「じゃ、じゃあ小町以外でっ」

 

「とつかわいい」

 

『凸可愛い』

 

 少しばかりの変換ミスもあるようだがかなりの高精度だ。大体合ってるぞ、と両手で丸を作って見せる。

 

「いやー、ここまで凄いとは思わなかったね。お兄ちゃん、これ明日持って行きなよ」

 

 コミュニケーションに必要な道具もこれで揃った。大きさもちょっと頑張れば持ち運べる程度の大きさだ。流石愛しの小町である。

 

「んじゃ、平塚先生に連絡しとくからー。また明日ね、お兄ちゃん」

 

「おう」

 

 そうして毛布に包まり、俺の色々あった猫生活の初日は終わった。って平塚先生だと!?嫌な予感しかしないぞ…。玩具にされる未来しか見えない。早々に、明日が憂鬱になった。




若干長くなった第4話でございます。
勝手な独自設定を盛り込んでしまいました。すいませんm(_ _)m
内容が内容なので一応R-15付けときますね。

高評価ありがとうございます!まさかまさかの真っ逆さまです。
励みにもなるので嬉しいです。
それでは、また次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

まさかの、猫

 目が覚める。昨日の出来事が夢だったら、と思ったが生憎現実だったらしい。手を見れば肉球が、後ろを振り返るとピコピコ揺れる尻尾が、頭に触れるとアホ毛が。最後は変わらないな。さぁ、猫生活二日目頑張りますか。

 

「おはよう、小町」

 

「おー、おはよお兄ちゃん。待ってたよ」

 

「ん?なんだそれ」

 

「じゃじゃーん!猫になったお兄ちゃん用に作りました、ミニリュック!ネコリンガル入れるのに最適だよ!あっ、これ小町的にポイント高ーい!」

 

「はいはい高い高い。…まぁ、ありがとな小町」

 

 するっと手を通すと身体にフィットする。おお、生地も柔らかくて背中が蒸れないとは…ポイントカンストだよ小町ちゃん。四足歩行する時にリュックが前方にずれないように尻尾を通す穴まで完備してある。売りに出せちゃうレベル。

 

「そういえばお兄ちゃん、キャットフード食べる?」

 

 人間だった時はなんとも思わなかったが猫になってからキャットフードが美味しそうに見えて堪らなかったのだ。興味本位で頷く。

 

カリカリ…

 

 柔らかな食感と芳しい香り、口の中で広がるジューシーな肉…。うまい。ただその一言に尽きる。

 

「でも毎日これ食べてたら飽きてくんねんな」

 

 隣で一緒に食べていたカマクラがそう言った。確かに…、今度違うキャットフードでも買ってこようかな。小町に連れて行ってもらおう。

 

「あ、食べ終わった?じゃあ学校行こっか。平塚先生が正門の前で待ってるってさ」

 

 …おかしいな、急にお腹がギュルギュル言い始めたぞ。最早逃げる術は無くなったのか…。

 小町が俺を肩に乗せて家を出発する。大丈夫か?どこぞのサトシくんの相棒と同じ重さだぞ、俺。

 

×  ×  ×

 

 小町の中学校に着くと優しく地面に降ろされた。一回も降ろさなかったけど肩大丈夫なのかしらん?

 

「あー、肩凝った。帰りは小町が迎えに行くから待っててね!じゃねっ」

 

 そんなおじさんみたいな声を出すんじゃありません、小町よ。そこまでして肩に乗せること無かったのに、と考えながら歩を進める。

 暫く歩くと正門前に平塚先生が立っているのが見えた。あと人まさかずっと待ってたんじゃないだろうな、と思わせるほどそわそわしていた。…ちょっと驚かせてみるか。

 

 

 学校の正門には行かずに少し遠回りして平塚先生の横顔が見える位置に移動し、消化器ボックスを足場に学校の塀に登る。肉球を上手く使いながら平塚先生へと迫って行く。そして…

 

「首は貰ったぁぁ!」

 

ひしっ

 

「…衝撃ノォ…ファース、ト…」

 

 平塚先生が此方を向いて固まっている。因みに既に先生の前に飛び降りている。

 

「猫を殴れるわけないだろォォ!」

 

 登校していた生徒の視線が一気に集まった。あ、やべ。これ端から見たら動物虐待してるように見えるな。大事にならない事を祈っておこう。

 

×  ×  ×

 

 首根っこを掴まれてぶーらぶーら。どうも、八幡です。掴んでいる張本人は頭を抱えている。

 

「はぁ…、お前という奴は。いつからそんな悪戯小僧になったんだ?」

 

 恐らく猫になったからでしょうね。行動が単純化してますから。理性の化け物から本能の化け物へとジョブチェンジだ。

 

「まぁいい。折角だ、授業でも受けてきなさい」

 

「え゛」

 

「なんだ?嫌なのか?」

 

 今度は平塚先生が悪戯な顔を浮かべている。攻守交代だと言わんばかりのオーラ。ふえぇ、怖いよおぉ。

 まぁ、嫌がっても連れて行くけどな、と言い放ち俺を掴んだまま教室へと向かっていった。俺の拒否権は何処。

 

×  ×  ×

 

ザワ…ザワ…

なんで猫がいるの?

しかもあれ?誰だっけ、あの本読んでる時にキモい顔してる人の席に座ってるよ?

えーっと、確かヒキ、ヒキ…ヒキタニくんだっけ

あー、そんな人居たなぁ

でもやっぱ猫可愛いよね!

ね!

触ってもいいのかな…?

うーん、いいんじゃない?

 

 やっぱり超目立ってる。ぼっちは注目を浴びることに慣れていないから萎縮しちまうんだよ。みんなの目線が怖いよぉ…。

 

「あ、やっはろー、ヒッキー!」

 

 !?いきなり爆弾投下しやがったぞ、こいつ。何やってくれてんだ、と目線で訴えかけるも首を傾げるだけだ。ちょっと可愛いのが余計に腹が立つ。

 

ザワ…ザワ…

え?ヒッキーって言ったよ?結衣

えっと、ヒッキーってあのヒキタニくんの事だよね

で、でも猫に向かって言ったよ?

ヒキタニくん居ないもんね…

どゆーこと?

 

 漸く自分の失態に気付いたのか由比ヶ浜がこっちに向かって手を合わせてくる。そんな事したら余計にバレそうなんだが…。はぁ、もうどうとでもなーれ☆

 

キーンコーンカーンコーン

 

 一時間目の開始を知らせるチャイムが鳴り、由比ヶ浜はいそいそと自分の席に戻る。暫くした後数学の先生が教室に入ってきた。生徒に遅刻するなよと言っておきながら先生って大体授業に遅刻するよな。と、忌々しい目で先生を見ていると此方に目を移してきた。

 

「授業始めるぞー……は?」

 

 テンプレ、ありがとうございます。




午後になって気付きました…。今日は八幡の誕生日じゃないかっ!
という事で第5話を執筆した次第です。
結局今日も二話投稿するという…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

認められる、猫

ザワ…ザワ…

猫が喋った!?

シャベッタァァ!

ヒキタニくんまじっべーわ!

徹夜のしすぎで幻聴がぁ…

へくちっ

我の同志が猫ニィィ!?

み、みんな、少し落ち着くんだ!

キイエエエエ!

ヒキオのこと、みんな気にしすぎだし

ぐ腐腐…新しいはやはちキマシタワー!

耳がぁ、耳がぁ!

可愛いヒキタニくんとかレアじゃね!?

お前ちょっとどいてろ、俺が動画撮るんだ!

 

 カオス。混沌なるカオスとか言いたくなるくらいカオス。いかん、少し俺の中の闇の力が……中二病が再発仕掛けたぞ。こうなったのにもマリアナ海溝よりも深い理由があるわけでして。

 

「なんでこんなところに猫がいるんだっ」

 

「あっ、はい。すんません」

 

「喋る猫っ!?…お、お前は誰だ!」

 

「ひ、比企谷八幡でしゅ…」

 

 浅かった。波打ち際より浅かった。後先考えずにネコリンガルをオンにしたままつい反射で答えてしまったからなぁ…。まぁ、これで数学の授業は潰れるだろう、と思いながら微睡みに落ちた。

 

「ヒッキーよく寝るなぁ…」

 

×  ×  ×

 

 撫でられている感覚がある。その手つきはどこまでも優しく、それでいて少しばかりの豪快さも持ち合わせていた。心地いいんじゃぁ〜。

 

「と、戸塚じゃないか!」

 

 一日ぶりの戸塚だ!戸塚ニウムが摂取出来るぞ!ああ、もっと撫でてもらいたい…。はっ!俺は今猫だから戸塚にスリスリ出来るのではっ!?そうとなったら行動あるのみだ。理性?そんなもの知りませんね。

 

「わっ。もう、びっくりさせないでよ八幡」

 

 …っは!戸塚が可愛すぎて一瞬昇天してしまったぞ。もうずっとこうしてスリスリしていたい。

 

「あははっ。くすぐったいよぉ…。もうっ、あんまり悪戯しちゃダメだよ?」

 

 はぁい…。ややシュンとしながら戸塚の言葉を受け止める。欲望に忠実過ぎたかもしれないと少し反省だ。

 と、クラスメートがわんさか集まってきた。え?集団リンチでも始まるの?やめてくださいお願いします。

 

「戸塚、触って大丈夫だった?」

 

「うん!人当たりが良くなってるよ!」

 

「じゃあ私ももふもふする!」

 

私も私も!

俺だってもふりたいぜぇ

ああ!?俺が先だっての

 

「みんな、喧嘩はダメだよ…?」

 

「「「あっはい」」」

 

 おお、流石戸塚。影の総司令官と呼んでも差し支えないレベルで統括できている。もふりたい人は一列に並んでねーと戸塚が仕切っている。戸塚すげぇ…。

 

「わぁ!もふもふだぁ!可愛い〜」

 

 女子から触られる日が来ようとは思いもしなかったな…。恥ずかしさがかなり強いが受け入れられているという安心感がそれを上回っていた。なんだか、嬉しいかも…。

 

「わ、私も並ぶんだっ!」

 

 平塚先生…、列に並んでないで早く二時間目を始めましょうよ。

 

×  ×  ×

 

 午前中の授業が終わり、昼休みに突入する。俺は机の上で溶けるように横たわっていた。最早溶けた方が楽なのでは…?

 

「疲れた…」

 

「あはは…、ヒッキー超人気だったもんね。でも満更でもなさそうだったね」

 

 む、由比ヶ浜に心を読まれたぞ…。流石は奉仕部のコミュニケーション担当だな。だが由比ヶ浜にやられっぱなしというのも俺の沽券に関わる。返り討ちに合わせなければ。

 

「お前…、満更なんて言葉知ってたんだな…」

 

「そりゃあたしだって受験生だよ?!それくらい知ってるからっ」

 

「ほーん?じゃあ表六玉の意味を言ってみろよ」

 

「えっ!?えっとね、…あ、わかった!ドラゴンボー…

 

「お前が相当表六玉なのはわかったから黙ろうな」

 

 表六玉を聞いて六つの玉だと認識したのは間違ってるがまぁいいとしよう。そこからオレンジ色の玉を思い浮かべるのがダメだ。そもそもアレは七つの玉だ。聞いていて頭が痛くなってきたぞ。オラに元気を分けてくれ!

 

「むー、じゃあなんなんだし、そのひょーろくだまっての」

 

「要するに間抜けって意味だ」

 

「誰が間抜けだし?!」

 

「昨日の俺だ…」

 

 そんな話を交わしながらキャットフードを食べ、昼休みは過ぎていった。ちょっと息抜きになったな、ありがとな由比ヶ浜。

 

×  ×  ×

 

キーンコーンカーンコーン

 

 放課の開始を知らせるチャイムが鳴る。こんなに疲れた日は初めてだ。早く家に帰りたいが二人に謝らねばならないので奉仕部へ行くことにする。小町も迎えに来てくれるらしいしね!

 

「ヒッキー、一緒に行こ?」

 

 こうやって二人で部室に向かうのも慣れたものだ。最初は嫌々だったが次第に気にならなくなっていった。慣れって怖い。

 

ガララ

 

「やっはろー、ゆきのん」

 

「…うす」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん…と誰だったかしら」

 

 キョトンとしながらそう言い放つ。猫になって2日目だからわからんでもないが傷つくからやめようね?

 

「…冗談よ」

 

 しれっと俺の心を読むのはやめてくれませんかね…。そんなに俺わかりやすい?おい雪ノ下、首を縦に振るんじゃない。

 由比ヶ浜は雪ノ下の隣に座り、俺は二人の前の机の上に置かれた。ふぇぇ、なんか距離近いよぉ…。

 

「あー、その、ちょっと話すことがありまして…」

 

「なんなのかにゃー?」

 

 …突っ込まないぞ、突っ込んだら負けだ。無意識な言動を意識させると碌な事にならん。

 

「…その、なに?昨日は急に逃げてすまなかった」

 

「ヒッキーが悪いわけじゃないよ、あたしもちょっと興奮しちゃったから…」

 

「そうね…、私も悪かったわ。お互い様という事でいいかしら」

 

「ああ、助かる」

 

 これでミッションコンプリートだ。あとは小町の迎えを待つのみ。暇を潰そうとするが生憎本は持ってきていない。どうすっかな…。

 

「そういえばそのネコリンガル、便利よね」

 

「あ!それ、あたしも思った!」

 

「文字の表示だけではなく、読み上げ機能まで付いているものね」

 

 そう、昨日の夜にネコリンガルをアップデートさせておいたのだ。読み上げ機能をつけたネコリンガルに最早隙無し。そこらの英訳アプリなんか目じゃないのだ。

 

「いいなぁ、あたしもイヌリンガル買おっかな…」

 

「やめておいた方が良いわよ、由比ヶ浜さん」

 

「え?なんで?サブレと会話できるんだよ?」

 

「言葉が通じないからこそペットと飼い主の愛情が育まれるのよ。比企谷くんは元人間だから特別なのよ」

 

「ほえー、なるほど」

 

 アホそうな声を上げながら由比ヶ浜は納得の表情を浮かべる。何かこう、特別と言われると身体がムズムズするのは男の性なのだろうか。

 

ガララ

 

「やっはろーです、雪乃さん、結衣さん!」

 

「いらっしゃい、小町さん」「やっはろー、小町ちゃん!」

 

 と、小町が迎えに来てくれた。よし、そろそろお暇しますかね。そう思っていたのだが。

 

「ささっ、いろはさんたち(・・)も入っちゃってください!」

 

 ん?なんで一色に平塚先生、葉山に材木()に戸塚が入ってきたんだ?

 

「では始めます!第一回、お兄ちゃん貸し出しキャンペーン!」

 

 待って小町ちゃん、俺そんな話聞いてないよ?




徐々に増えていく文字数…。
何文字くらいが丁度いいのでしょうか?

では、また次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人気者、猫

「その前に、です!先輩の貸し出しって言ってますけど先輩どこにいるんですか?」

 

「んっふっふー、聞いて驚くなかれ、そこの猫が小町のお兄ちゃんなのです!」

 

「またまたぁ〜、そんな冗談はよして下さいよ。みんなで私をからかってるんですか?」

 

「ふむぅ、じゃあお兄ちゃん、証拠見せてやって!」

 

 全員の視線が俺に集まる。えぇ、いきなり証拠みせろって言われてもな…。俺と一色しか知り得ない事とか…?いや、そんな事この場で言ったら後で一色にバラされかねん。となると…

 

「あざとい」

 

「ぶぅ〜、あざとくなんかないですよぉ〜」

 

 頰を膨らませながら一色が返答する。ほらあざとい。仕草から言葉の伸ばし方まで全てが計算され尽くされているようだ。この場でこのあざとさにやられる奴なんて…あ、木材屋くらいか。というか何故お前がここに居る。

 

「ホントだ、先輩ですね!」

 

「です!お兄ちゃん可愛くないですか!」

 

「眼が濁っている辺りがキュートポイントかしら?」

 

 …この眼はデフォルトだ。本当にキュートポイントだと思っているならそいつの眼は節穴決定である。

 

「あ、そういえばお母さんから聞いたんですけどー。もしかして昨日マッカン買ってたりします?」

 

「…何故知っている」

 

 あの場には俺しかいなかったはず…。いやまてよ、最後に投入した十円玉、転がってきたような…。まさか!

 

「やっぱり先輩だったんですね!お母さんがちゃっかり動画撮ってたんで楽しんで見させてもらいました♪」

 

 …後で一色の母に十円玉を返さなければならなくなったな。下手したら貸しを作られるやもしれん。

 

「えっ、お兄ちゃんマッカン飲んじゃったの?」

 

「お、おう。喉乾いたからな。…なんかダメだったか?」

 

「お兄ちゃん…マッカン飲んじゃダメだよ?」

 

「え゛」

 

 何故だ…!ソウルドリンクを飲んではならない理由を聞かせてもらおうじゃないかっ!

 小町曰く「マッカンには練乳が含まれててね、その練乳は牛乳から作られてるの。でも猫は牛乳に含まれる乳糖を消化するのが苦手で、お腹を痛めたり下痢を引き起こす原因になるんだよ!だから飲んじゃダメ!」だそうだ。子どもに諭すように言われたがそんなに信用ないのん?俺。

 至極真っ当な理由だったな…。どうしよう、これからマッカン無しで生きていけるかな…。

 

「ほぉ、小町くんはちゃんと猫の事を知っているんだな。感心感心」

 

「それが飼い主の務めですから!」

 

「へぇ〜、ゆきのん知ってた?」

 

「勿論よ。これは常識よ」

 

「あれ?なんかまずい事言っちゃった系ですかね…。まぁ先輩ですし大丈夫ですね!」

 

「…で、ヒキタニくんの貸し出しキャンペーンだと聞いて来たんだがいつ始まるんだい?」

 

「あっ、忘れてました!それでは、気を取り直して…」

 

 …ちっ。マッカンを犠牲に有耶無耶にできると思ったんだが…。葉山、お前は許さねぇ…!

 …え?お前俺をレンタルしたいの?まさかそっちの趣味の人だったのか?何処からか「ぐ腐腐腐」と聞こえてきそうなので急いでこの思考は捨て去ったが不安は拭い切れなかった。

 

「では改めて…お兄ちゃんをレンタルしたい人!」

 

シュバッ!

 

 おお、シンクロ率百パーセントだ。オリンピックで金メダルも夢じゃないな。地上でのシンクロ競技とか生まれないかな…。

 

「では、その心はっ?」

 

「比企谷くんと一緒ににゃーにゃーしたいにゃー…」

 雪ノ下…、聞きようによってはすごく卑猥に聞こえるぞ。もうちょっと具体的な内容を言ってもらえればレンタルされてもいいんだけどな。

 

「ヒッキーとサブレとあたしで遊ぶんだっ!」

 まぁ、由比ヶ浜はその辺りが妥当か。レンタルいいぞー。

 

「先輩をいじめるのも楽しそうですよねー」

 性格悪っ。この後輩、先輩を敬うってこと知らないんじゃないの?ああ、俺は(しもべ)ですか、そうですね。…拒否権はないんでしょう?

 

「癒しが、欲しいんだ…」

 先生…。強く生きてください。俺が慰めますから。

 

「今度猫を飼いたいからその練習かな?」

 けっ、俺を練習台代わりにするんじゃねぇよ。却下だ、却下。

 

「八幡と一緒に過ごしたい、じゃダメかな…?」

 戸塚可愛いよ、とつかわいい。毎朝俺に味噌汁を作ってくれ!逆にこっちが戸塚をレンタルしたいまである。

 

「我の原稿を読んで貰うのだっ!」

 お前のラノベは読むのが疲れるんだ、大人しく消えてくれ。レンタル?却下に決まってるだろう。

 

「うわぁ、小町にはお兄ちゃんの好感度が透けて見えるよ…」

 

「わ、我は諦めぬぞ!頼む、八幡!」

 …はぁ、仕方ない。半日だけだからな。

 

「ははは、ヒキタニくんなら信頼できると思って来たんだけどな…」

 ぼっ、ぼっちがそんな言葉に騙されるわけないだろう?別に嬉しいとか思ってないんだからねっ!

 

「ひ、比企谷くん。あれは言葉の綾と言うか…そ、そう!私の本心よ!」

 …墓穴掘りまくりだぞ、雪ノ下。黒歴史はそうやって次々と生成されていくんだ。だんだん不憫に思えてきたな…。レンタルされたら慰めてやろう。

 

「…ちょろいね、お兄ちゃん」

 

×  ×  ×

 

 なし崩し的に決まったが俺の出勤日数がとんでもないことになりそうで今から憂鬱である。

 

「…働きたくないでござる」

 

「…実はちょっぴり嬉しいくせにぃ」

 

 定位置になったのか俺を肩に乗せて歩く小町が反撃してくる。ぐぬぅ、なぜバレるのだ…。

 

「小町が何年お兄ちゃんの妹やってると思ってんのさ」

 

 そう言って、笑う小町。ああ、小町もみんなもちゃんと俺の事見てくれてたんだな…。そう思うと視界が淡く滲んだ。

 

「ありがとう、小町」

 

「ん、小町にお任せあれ!」

 

×  ×  ×

 

 無事家に着くと仕事が早く終わったのか母親が出迎えてくれた。

 

「おかえりー、ん?小町、その猫どうしたの?」

 

「あれ、言ってなかったっけ」

 

 …そういえばまだ両親に俺が猫になった事伝えてなかったな。今朝も両親共々五時に家を出て行ったから一回も俺の姿を見ていないことになる。

 

「__お兄ちゃんだよ?」

 

 その日の夕方、母親の絶叫が木霊した。その声は総武高校まで届いたとか届いていないとか。




暇な時に書いてたらいつの間にか一話分出来上がってました。
UAも5000突破で嬉しい限りです。
もっと評価とかつけちゃっていいのよ?(チラッ
すいません、自惚れが過ぎましたね。

では、また次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フライング、猫

問題:俺は今どこにいるでしょうか。

 

答:空。

 

 

 あ…ありまま今起こったことを話すぜ!日向ぼっこをしに屋根の上で昼寝していたと思ったらいつの間にか空を飛んでいた。な…何を言ってるかわからねぇと思うが俺も何をされたのかわからなかった…。夢だとか妄想だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。

 

 そう、鷲に捕まったのだ。普通、鷲は千葉に生息しておらず山岳地帯を住処としている。こいつの両翼は目測でも二メートルを超える大きさだ。かなり大きい、即ち強い種である事がわかる。レンタルされる事が決定された翌日からこれだ。面倒事が増えるなぁ…。

 

×  ×  ×

 

 案外寝心地が良かった鷲に揺られる事約一時間半。漸く地面に降ろされる。…もう少し揺られていたかった。

 

「お願い!わたしじゃ面倒見切れないからあの子たちの面倒見てくれない?」

 

 ちょっと待て。色々突っ込みたい事があるんだが。まず第一に、何故鷲の声が聞き取れるんだ。もしかして動物全般と会話できるのかしらん?第二に、面倒が見切れないとは何ぞ。多頭飼育崩壊でもしちゃったの?

 

「んー、ちょっと多いんだよね…。四羽」

 

 俺の周りエスパー多過ぎないっすかね…。呆れ過ぎて大志の口癖が伝染(うつ)ってしまったじゃないか。それにしても四羽ねぇ、鷲にしては多い部類だがまだ育児可能な範囲内だろう。何かしらの理由があるんでしょう?

 

「巣に引き篭もってて、捻くれてて、虚勢を張ってる、そんな子達なのよ…。ああ!私の育て方が間違っていたのかしらっ!」

 

 予想していた物と真逆だった。俺みたいな奴が四羽もいるとか今まで精神崩壊しないでよく耐えられたな…。まぁ育児、元い世話が大変な事は分かった。だが何故そこで猫である俺を連れてきたんだ。猫は幼鳥を食べる事もあると言うのに。

 

「んー、なんでかしらね。うちの子たちと同じ匂いがしたから、かしら」

 

 動物の本能凄ぇ。まさか鷲に見抜かれるとは思いもしなかったぞ。不審猫物(ふしんびょうぶつ)(?)に任せて大丈夫だと判断した貴女も大概なんですけどね。

 

「お願い、うちの子を何とかして!二日経ったら貴方の住処に帰すから!」

 

 そんな鬼気迫った表情で詰め寄られたら頷くしか無いじゃないか。断った後にその四羽に死なれたら後味が悪いからな。うん、仕方ない事なんだ。

 

「…はぁ、まぁいいですけど期待しないでくださいね。それと俺の家に二日後に帰るから安心してくれって伝言してくれると助かるんですが」

 

「本当?助かるわぁ〜。伝言なんて軽い物よ、私に任せなさいっ」

 

 こうして、俺の二日間限定の世話係が決まった。

 

×  ×  ×

 

 沈黙。それがこの場を支配していた。現在母鳥は伝言を伝える序でに餌を探しに出掛けている。軽くこの依頼を受けてしまったが早々に後悔し始めた。全員が全員他人に不干渉なのだが、俺という名の異物が混ざっているお陰でチラチラと視線が交差する。つまり何が言いたいかと言うと、…気まずい。

 

「はぁ…」

 

 俺が溜息をついただけで四羽全員の肩がビクッとなる。君ら案外仲良いのね…。因みに引き篭もり隊のメンバーは雄雌それぞれ二羽ずつで、オセロの初期配置状態で、風車のように互いが背を向けて座っている。俺はその中心にいる。

 渋々、頃合いを見計らって話し始める。

 

「これは俺の友達の友達の話なんだが…」

 

 毎度お馴染みの断りを先に言っておく。決して俺に友達がいないわけではない。…ほんとだよ?

 

「そいつは周りのみんなからの憧れの対象だそうだ。みんなから求められる発言や行動、即ちみんなの理想。それに応える事がそいつが選んだ道だったわけなんだが、そいつには友達と言える存在が皆無と言っても差支えないレベルだった」

 

 俺はそこで一旦区切る。四羽はそれこそ顔は外に向けているが、しっかり聞いているようで耳と思しき部分はヒクヒク動いている。これで聞かれていなかったら即座に帰宅を希望した事だろう。

 

「だがそいつにも友達…らしき人物はいる。よく皮肉を使った口喧嘩もするそうだ。…あとは自分達で考えろ」

 

 途中からめんどくさくなったので適当に投げる。なんか、らしくねぇな、俺。

__俺は君が思っているほどいい奴じゃない。

 ふと、奴の言葉を思い出す。ああ、俺だってそうだ。お前が思っているほど捻くれて(・・・・)いない。

 

×  ×  ×

 

 少し、前進したのだろうか。オセロ配置は変わらないが各々の座っていた向きが反転した。こう座られると俺が神への生贄として捧げられているみたいだ。若しくは新手の宗教団体。…変に言及するのはやめておこう。

 

「戻ったわよー。…あら?ふふふ、上手いこといきそうね」

 

 仕事の早い母鳥が戻ってきた。お宅まだ二時間しか経ってませんぜ、どんな超速で飛んだんすか。俺は数学が苦手だから分からないがユキペディアに聞けば一発だろう。

 

__貴方の家から鷲の巣までの距離をxとすると行きに掛かった時間:1.5時間と鷲の飛行速度:y(km/h)から次の式が立てられるわ。x÷y=1.5これを計算すればx=1.5yという事がわかるわ。次に往復に掛かった時間は2時間。往復だから距離は2倍よ。往復した時の鷲の飛行速度をzとすると3y÷z=2となってz=1.5yとなるわ。つまり貴方が最初に連れ去られた速度の1.5倍のスピードで往復してきたのよ!

 

 …っは!何か知らんが数学の授業を受けていた気がする。そしてドヤ顔の雪ノ下が一瞬見えた。だが寝ていたから分からんな。まぁ気のせいだろうと思い、頭の中のゴミ箱へとシュートした。

 

×  ×  ×

 

 お昼から日向ぼっこをしに屋根に登っていったお兄ちゃんが見当たらない。でも屋根の上に登るなんて事は怖くて出来ない。うーん、カマクラに見に行ってもらう?…ダメだ、私動きたくないですオーラをぷんぷん放ってる。あー、もう!どうしたらいいのさ!

 

ピンポーン

 

 ん?小町何かネットショッピングしてたっけ。…してないなぁ。じゃあ結衣さんたち?でも基本あの人たちは事前にメールを送ってくれる。となると…、中二さんくらいかなぁ?

 

「はいはーい、どちら様ですかー?……ん?」

 

 小町の目がおかしくなったのかな、目の前に鷲が居るんだけど。手の甲を抓ってみても痛いだけ。どうやら夢でもないらしい。

 

「え…えっと、何の用…ですか…?」

 

 鷲が咥えていた手紙を此方に差し出してくる。…読めってこと?恐る恐る手紙の封を開け、目を通す。

 

 

小町へ

 

 お兄ちゃん鷲に攫われちゃいましたっ。てへっ☆

 なんか知らんが世話係に任命されちゃったから帰ってくるのは明日の夕方になると思う。

 まぁ、そういうことだから。後はよろしく。

 

八幡

 

 

 今日は、小町の絶叫が木霊した。その声は総武高校の校内で反響したとかしていないとか。




多機能フォームで少し遊んでみた回。
何だかんだで4日連続で投稿してますが果たしていつまで続くのだろうか。

ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鷲と共に、猫

 幼鳥たちが準備を始めた夜。俺は母鳥の元へ足を運ぶ。

 

「あら、いらっしゃい」

 

「どうも」

 

「一つ、聞きたいことがあるんですが…」

 

「私の答えられる範囲なら何でもいいわよ」

 

「いつも子どもたちと一緒に寝てるんですか?」

 

「…ええ、あの子たちから聞いたの?」

 

「いえ…。ちょっと気になってたんで」

 

 短い間だが幼鳥たちと暮らしたことで分かったことがある。俺があの小っ恥ずかしい台詞(せりふ)を吐いた後の事。俺の言いたい事が伝わったのか本音暴露大会が開催されたのである。一体どんな恐ろしい本音が出てくるのだろうと内心ビクビクしていたのだが、一切そんな事は無かった。

 通常、鷲の雛が孵るのは春。そして梅雨時に巣立ち、夏の本番になれば自立し始める。秋になると親鳥に追い出され、自律する。だが彼らはこれらのどれにも()()()()()()()

 

 そう、彼等は一年遅れの「じりつ」をしようとしているのだ。

 

「…構い過ぎだったのね」

 

「俺じゃ無理なんであと一押し、お願いします」

 

 

 母親の想いが子どもたちに通じたのだろうか、母鳥の一声で四羽はあっさりと巣立っていった。様々な要因が複雑に絡み合って出来た家族愛は案外単純らしい。

 

「ところで何て言って送り出したんです?」

 

「ここに戻ってきたら容赦なくバラすわよって言って送り出したわ」

 

 訂正、超過激だった。

 

×  ×  ×

 

 陽が昇り、辺りが明るくなる。ふあぁ、よく寝た。あとは愛しの我が家に帰るだけだと思うと幾分心が軽くなる。

 

「暇になった事だしちょっと空散歩しない?」

 

 既に起きていた母鳥が話しかけてくる。空散歩か、昨日は寝てしまったから今日は景色を楽しむとするか。

 

「じゃ、背中に乗って頂戴」

 

「おお…、背中広い。逞しい…」

 

「行くわよぉ!」

 

ビュォッ

 

 風を切り、空を翔ける。まるで小型飛行機でも運転しているかのような疾走感に高揚した。地表は遥か下、家々がミニチュアに見える程の高度だ。

 

「どう?私のお気に入りの飛行ルートなのよ!」

 

「ええ!最高です!」

 

 風の音に消えてしまわないように大声で返す。

 …ちょっと、目が乾いてきたな。

 

「ストレス発散に最高速で行くわよ!しっかり掴まってな!」

 

 そう言った途端、今迄の比じゃないスピードで飛び始めた。一瞬、掴まるのが遅かったのか俺は宙に浮いた。理解が追いついて数秒後。

 

「落ちる落ちる!助けてぇ!」

 

 ミニチュアのように見えていた家々が段々と近づいてくる。ああ…、ここで俺は死んでしまうのか?一瞬の内に、走馬灯が頭の中を()ぎった。短いようで濃かった猫生活ももう終わりなのか…。そう、考えを巡らせて一つの答えを見つける。

やはり、俺の猫生活はまちがってい__

 

ポスッ

 

 地面に落ちたにしては軽い音だ。更に身体の所々が()()。あれ?俺生きてる?ふと下を見ると、見覚えのある鷲の背中があった。

 

「間に合った…。お母さん、一旦暴走すると周りが見えなくなるんだ」

 

 昨日の夜に飛び立った四羽の内の一羽だった。なんでも俺の事が気になって追いかけてきたらしい。…もしやこれが噂のモテ期とやらなのか!?と、益体も無い事を考えながら幼鳥が地面に降り立つのを待っていると、俺に話しかけてきた。

 

「お母さんのことお願いね、あの人ああ見えて寂しがりやさんだから」

 

「お、おう。任された」

 

 

__…という事があってだな、あれよあれよと言う間にこうなった」

 

 現在、愛しの我が家のソファの上で毛繕いをしながら小町に話しかけている。俺の隣では母鷲がカマクラを突っついて遊んでいる。当の小町はお口あんぐり状態だ。…何か物を突っ込みてぇ。

 

「お、お兄ちゃん。…家を動物園にするつもり?」

 

 成る程…。親父にチケット販売を担当してもらって俺は寝る。これぞ究極の働かずしてお金が手に入る一例だな。うん、動物園目指そう!

 

「大丈夫だ、小町に危害を加えるような奴は連れてこないから安心しろ」

 

「…お兄ちゃんを心配した小町が馬鹿だったよ」

 

×  ×  ×

 

 その日の夜、親父が東京の出張から帰ってきたらしい。仕事詰の三泊四日の出張とは親父の社畜魂に吃驚だ。バタバタと玄関から此方へ音を立てながら向かって走ってくる。

 

「は、八幡が猫になったと聞いて飛んで帰って来た、んだ…が…」

 

「ん?どうした親父」

 

「家の中を鷲が飛び回っている幻覚が見えるぞ…。俺はもう限界らしい」

 

 そう言って口から泡を吐いて倒れた。親父ぃ!現実だから目を覚ませぇ!

 

 今日も、比企谷家は、平和でした。

 

 

×  ×  ×

 

 

 目が覚める。今日は最も嫌いな曜日ランキング堂々の一位、月曜日だ。今日もちゃんと授業を受けるよな?と平塚先生からの有難いメール(脅迫状)が届いたので学校に行かなければならない。はぁ…、憂鬱だ。

 

×  ×  ×

 

ザワ…ザワ…

ファッ!?

キャー!

む、遂に我の半身が現れたか!

か…かっけぇ!

君は…大道芸人でも目指しているのかい?

へくちっ

目が…目がぁ!

八幡はすごいなぁ…!

 

「何故…、何故君は出会う毎に此方の頭を痛くさせるんだっ!」

 

「連れてきちゃダメですかね」

 

「はぁ…、もういい。いい加減授業を始めるぞ」

 

 鷲と共に現国の授業を受けてるなう。どうも、八幡です。あの脅迫文にイラっと来たので連れてきちゃいましたっ☆因みに周りの視線は初日にキャパオーバーしてからもう慣れた。これでもう怖いもの無しだね!

 

×  ×  ×

 

 昼休み。一昨々日の噂と今朝の噂が広まったのか学校全体の生徒が俺を一目見に押しかけてきた。噂の伝搬って早いよなぁ…。

 

「全員に構ってたらまともに昼飯が食えねぇ…。何故だかベストプレイスの場所も割れてるし…」

 

 恐らく一色の仕業だろう。となると奉仕部部室も安全とは言い難くなる。俺の行きそうにない所、かつ人気が少ない所か…。

 

「いや、待てよ。別に学校内で食べなくてもいいのでは…?」

 

 そうだ、海辺に行こう。




やや難産でした。
色々と不可解な点もあるかと思いますが目を瞑って読んでやってください。

お気に入り100件突破ありがとうございます!
これからものんびりやっていきますのでよろしくお願いします。
ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

振り返る、猫

 ゆっくりと、のんびりと、まったりと、ゆったりと、のほほんと、ゆるりと、のそりと、ゆらりと、のそのそと。

 社会に出た人々が忘れているものだ。偶にはこういった休息も必要なのである。故に、彼を見習ってほしい。

 

「…一歩ずつ、確実に、えっちらおっちら、いきましょうや」

 

 そんな台詞を放ちながら、数秒かけて一歩進む亀。二歩進んでは一分休み、また歩み始める。かれこれ十分程キャットフードを食べながら見守っているがまだ一メートルと進んでいない。ウソップ童話のウサギとカメに出演させても惨敗を喫するレベルで遅い。

 

「私ももう少し大人しくなった方がいいのかしら」

 

「暴走しなけりゃただの面倒見のいい鷲なんですがね」

 

「そんなに褒められると照れるわよ」

 

 遠回しに貴女が暴走したが為に命の危機に晒されて迷惑を(こうむ)ったと言っているのだが通じていないらしい。

 

「仲が良いのは、良きことじゃのう」

 

 今の会話の何処を聞いて仲が良いと判断したんですかねぇ…。いや、まぁ割と仲は良い方だとは思うが。

 

「そういう亀さんは何しているんです?」

 

「…え?なんじゃって?」

 

 この亀は難聴系爺さんでも目指しているのか…?単純に老化で耳が遠くなっただけなのかもしれないな。

 

「ほっほっほ、冗談じゃ。一週間かけて海辺を散歩している途中じゃ」

 

 …この爺さん、意外と現代に染まってやがる。だがやっている事は老後の楽しみ方そのものだ。引き篭もりの俺も老後になれば外に出るようになるのだろうか。…ならないな。老後も引き篭もって寝たきりになってそのまま孤独死しそうである。自分で言ってて悲しくなってきたぞ。

 

「私が胸を貸してやるから泣きな!」

 

「だからあんたはしれっと人の心を読むんじゃねぇ!」

 

「其方たちを見ていると楽しいのう」

 

亀は仲間になりたそうにこちらを見ている…!仲間にしますか?

 

「おっけおっけ、おいで!」

 

「家主の許可なく決めるんじゃない」

 

 俺も小町の許可無く鷲を連れてきたから人の事言えないがな。だがこれで家の動物園化に一歩近付いたな。うん、きっと親父も喜ぶ事だろう。

 

×  ×  ×

 

「…なぁ葉山。俺の目には猫と鷲と亀が仲良く机の上に座っているよに見えるんだがお前はどう見える?」

 

「残念ながらその通りですよ、先生。認めたくない現実から目を逸らさないでください」

 

 昼休みが終わり、五時間目の数学が始まる。葉山にしては珍しい鋭い一言が先生の心に突き刺さった。まぁ、それを引き起こした元凶は眠そうに机に溶けている訳なんだが。やりたい放題って楽しいね!

 

「久々に学校の授業を受けるな…、儂でもまだいけるかもしれんのう」

 

 そう言いながら教科書の微積分を解いていく亀。すげぇ、何がどうなってそうなるのかさっぱりわからんがすげぇ。語彙力?そんな物は猫生(びょうせい)の道中に置いてきたから何の問題もないな。…受験生でこんな状況はまずいのでみんなはしっかり予習復習しましょうね。

 

「なんかヒッキー楽しそうだな…」

 

×  ×  ×

 

 六時間目も亀さんは大活躍だった。俺のノートに大きく答えを書き、教師を驚かせていた。あの葉山隼人でさえ唇を噛んでいた程だ。この亀何者なんだ…。

 

「大体一万年程生きてあるからのぉ…。人間の言葉も完璧じゃわい」

 

 亀さん最強説浮上。

 

×  ×  ×

 

 帰りの会、元いSHR(ショートホームルーム)が終わり部活へ行こうとした所、平塚先生に呼び止められた。俺の脳内危険信号が厳戒体制を敷けと警告を鳴らしている。今すぐ逃げなければと思い鷲に掴まろうとしたが先に平塚先生に捕まった。貴女はワープでも出来る人間なんですかねぇ…。

 

「今、千葉のローカルテレビが君を取材しに来ているんだ。奉仕部で撮影だから一緒に来るといい」

 

「…鷲と亀を連れて行っても?」

 

「…まぁ、構わんだろう。ほれ、さっさと行くぞ」

 

 そう言いながら顔は緩んでいる。あれは…、テレビに出ていい男に迎えに来てもらおう作戦でも企てている顔だ。何かムカついたので亀さんを適当に投げておいた。前方でギャー!という声が聞こえたが俺はそんな小さい事は気にしない主義なのでそのまま素通りした。

 

×  ×  ×

 

「はい、こちら総武高校の奉仕部という部室に来ております!こちらで噂の猫を取材していきたいと思います!」

 

 女性のリポーターが明るい声でカメラに向かって喋っている。この場には平塚先生と雪ノ下、由比ヶ浜に俺と鷲と亀がいる状態だ。平塚先生は俺に忌々しい視線を送り、雪ノ下は凛と澄ましており、由比ヶ浜はおろおろしている。鷲と亀は戯れている。俺?女性リポーターのお尻なんて見てないよ?

 

「まずはこの部活について教えてください!」

 

「ここ奉仕部はボランティア活動と同じような事をしています。ただ魚を与えるのではなく魚の取り方を教えるという理念も掲げています」

 

 雪ノ下が滔々と述べた。ついこないだまでは生徒会の手伝いをバンバンやっていた記憶があるが、それは脳内の片隅に押しやった。

 

「なるほど、ボランティア活動ですか!何かかっこいいですね!」

 

「えへへぇ〜」

 

 おい由比ヶ浜。そこはお前が照れるポイントじゃないぞ。

 

「ではその奉仕部の顧問、平塚先生に少しお話を伺いましょう」

 

「うむ、彼等は実際にいくつもの依頼をこなしています。部長の彼女…雪ノ下は情報収集に長けているし、お団子頭の彼女…由比ヶ浜はこの部のコミュニケーション担当、そしてもう一人…今は猫だが比企谷は問題解決のプロと、バランスが取れていると私は勝手にそう思っています。一時は空中分解寸前だったが今はこうして三人集まれていて顧問としても嬉しい限りです」

 

「そんな時期があったんですね…」

 

 事実を繰り返すだけで意見は述べないリポーター。俺たちにとっては有難い。あのリポーターも俺たちと同じ類の人だったのだろうか。少し親近感が湧いた気がした。

 

「それではお待ちかねの噂の猫に迫っていきたいと思います!」

 

 多分ここでCMとかが入るんだろうなぁと意識が散漫していたからか、直前まで気付かなかった。

 

「ああ、やっぱり可愛いですね!」

 

 リポーターさんに抱きかかえられていた。む、胸がぁ…、当たってますよぉ!敢えてジタバタし、柔らかさを堪能する俺。只の変態小僧である。男子高校生の性欲をなめたらいけませんよ!

 

「比企谷くん、今すぐそこから離れなさい」

 

「ヒッキー、あたしの所来る…?」

 

 冷酷な声が俺を突き刺すが、由比ヶ浜の甘い囁きが俺に届く。どうしよう、リポーターさんを離れた後に由比ヶ浜の所に行こうとしている俺がいる…。

 

「若いっていいもんじゃのう…」

 

 …ありがとう亀さん。お陰で正気に戻って来ることが出来た。感謝感激雨霰である。なんか俺、亀さんに頭が上がらなくなってきた気がするぞ。

 

「で、では気を取り直して。比企谷さんはどうして猫になったんですか?」

 

 あっ、戦犯がはぐらかしに掛かった。雪ノ下の絶対零度の視線を受けても怯まないリポーターさん凄い。尊敬の眼差しを向けておく。

 

「…わかりませんね。夜更かしした次の朝にはもう猫になってました」

 

「そうなんですか…、猫になってみていい事とかありましたか?」

 

 いい事か…。スカートの中…は流石に言えないし、抱きかかえられる事で柔らかさを感じるとかも言う事は憚られる。あれ?他に何かあったっけ。

 

「…あっ、そうですね、他の動物と会話できるようになった事ですかね」

 

「それ初耳だよっ?!ヒッキー!」

 

「そう言えば言ってなかったか」

 

「もしかしてそこの鷲と亀とも会話ができるという事ですか?」

 

「ええ、そうなりますね。鷲とは昨日、亀さんとは今日の昼に出会いました」

 

「お昼ですか…、学校に亀さんが居たんですかねぇ」

 

「海辺に行った時に仲良くなったので連れてきました」

 

「…あ、アグレッシブだね…、君」

 

 引かれた。解せぬ。平塚先生も此方を睨んでいる。昼休みに学校から出てはいけない規則でもありましたっけ。え?第三条の二項?生徒手帳持ってないんで分かりませんね。

 

「じゃ、じゃあ逆に不便になった事とかありましたか?」

 

「マッカンが飲めなくなった事」

 

 即答してやった。本当にマッカンが飲めないって辛い事なんだぞ。小町に言われた通りあれから一切飲んでいない。…本当だよ?

 

「マッカンてあの甘ったるい缶コーヒーですよね…。なんで飲めなくなったんですか?」

 

「マッカンには牛乳が含まれてて猫にはその成分を分解するのが苦手だから飲んじゃダメ、と小町…俺の妹に禁止令を出されまして…。千葉のソウルドリンクが飲めないとか俺の猫生(びょうせい)で一番の苦行なんダァ!」

 

「あ、はは…、かなりの情熱を注いでいたんですね」

 

 また引かれた。解せぬ。




3000文字を超えた今話でございます。
昨日は私用が入った為投稿できませんでしたm(_ _)m
今日投稿したから許してください(震え

UA10000突破、有難き幸せ
これからも本作をよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指導する、猫

「では最後の質問です!猫になったご感想をどうぞ!」

 

「あー、そうですね…、案外猫生活も悪くないんじゃないですかね」

 

 煮え切らない返答をする俺。いや、うん、まだレンタルが終わってないから何とも言えない状態な訳なんだが。少なくとも楽しい…と思える生活は出来ている。

 

「では最後に皆さんで写真を撮って終わりにしましょう!」

 

 そう言って俺を抱きかかえるリポーターさん。…もしかして俺の事好きなのん?

 カメラの左端に映る平塚先生は何処から取り出したのか「彼氏募集中」と書かれたフリップボートを持っていた。何かこう、行き遅れたおばさん臭がすご…すいません、睨みつけないでください平塚先生。

 右端ではゆるゆりフィールドが展開されており、誰も近づく事が出来ない…!

 

「では撮りますよー!三…二…一…」

 

 動きが遅すぎた亀さんをひっ捕まえて鷲がカメラの目の前を通って左端に移動する。ナイスポジショニングだ、鷲よ。

 

パシャッ

 

 満面の笑みを浮かべたリポーターさんと由比ヶ浜と雪ノ下、やや引き攣った表情の俺、楽しそうにフリップボートの前に滞空している鷲と亀さん、平塚先生の哀愁感漂う雰囲気が一枚の写真に収められていた__

 

 

 これが放送されたのは四日後の金曜日のゴールデンタイムだった。噂の伝播は早いのか、放送を見ているとどうも千葉県内で俺は有名猫になっているらしい。これから追っかけとかが出現しそうで心配だ。

 勿論、平塚先生の元に電話がかかってくる事は無かった。

 

「はぁ、小町もあの日は吃驚したよ。お兄ちゃんが帰ってきたら亀がいるし、俺テレビ映るからって言われた時は何かの冗談かと思ったんだからね!」

 

「すまん小町。放課後に平塚先生から取材班が来ているから出るだろう?って一種の脅迫を受けたんだから俺だって被害者だ」

 

「…平塚先生のレンタルの権利剥奪しちゃおっかな…」

 

 平塚先生に今一番ダメージが入る言葉を言ってのける小町。いつからブラックデビル小町になったんだ?お兄ちゃん怖くて夜も眠れないよ。

 

「…やっぱ可哀想だしやめとこっかな」

 

 おお、小町優しい。平塚先生を思いやる心は大事だか…

 

「代わりに中二を紹介してあげよう!」

 

 やめて差し上げろ。

 

 

×  ×  ×

 

 

 目が覚める。今日も今日とて愉快な猫生活の始まりだ。今日はレンタル初日だと小町から聞いているのだが誰に貸し出されるのかまでは聞かされていない。小町曰くその時のお楽しみだよ!だそうだが不安しかない。ま、まぁ俺の可愛さで何とかなるもんね!

 

「おはよう、小町」

 

「ん、おはよーお兄ちゃん」

 

「八幡…、助けてくれや」

 

 朝からカマクラが鷲に(つつ)かれている。鷲の毎朝の日課と化したようだ。心の中でカマクラに両手を合わせておく。俺にはもう、助ける事は出来ないんだ。因みに亀さんは寝ながら廊下を歩いている。器用なこって。

 

「で?何時からレンタルなんだ?」

 

「八時からだよー」

 

 なんだ八時か。それなら何も問題は…ってあと二十分も無いじゃないか!急いでキャットフードを掻き込んで身支度を済ませる。身支度と言っても毛繕いくらいなんだけどね!

 

「あ、迎えに来てくれるらしいからそんなに急がなくても良かったのに」

 

 早よ言えや。おっと、混乱しすぎてカマクラの言い方が伝染ってしまったじゃないか。

 

 暫くした後にピンポーンとチャイムが鳴った。誰が来るかわからない状況で俺の心臓が波打つ脈動が速くなる。何だろうこのドキドキは…、もしかしてこれが恋…?

 

ガチャ

 

「おはよう、ヒキタニくん。今日一日宜しく頼むよ」

 

 なんで初日からお前なんだよ。俺のドキドキを返せ。

 

×  ×  ×

 

「ここが僕の家さ」

 

 別に知りたくもなかった葉山の家が眼前に姿を現す。女子にこの住所を売ったらいい儲けになるんじゃなかろうかとゲスい考えを巡らせているとひょいと身体を持ち上げられた。

 

「ぼーっとそこに突っ立っていないで僕の部屋に行こうか」

 

 何故か、近くで「ぐ腐腐腐…」という声が聞こえた気がした。葉山も何かを察知したのか足早に家の中へと入っていった。気のせいではなかったらしい。海老名さんパネェ…。

 

「…一応準備はしたんだが猫にとってこの環境はどうなんだい?」

 

 葉山の自室に通されて真っ先に目に入ってきたのは壁際に設置されたキャットタワーだ。その直ぐ横に水飲み場とトイレが併設されていた。窓際に設置されている葉山のベッド横に猫用のベッドも見受けられ、床にはカーペットが敷いてあり広々としている。

 

「…なぁ、こういう質問とかって俺じゃなくて雪ノ下に聞いた方が早いんじゃないか?」

 

「僕も一時期はそう思っていたんだが…雪乃ちゃんレベルになってくると猫への配慮の注文が多過ぎて僕には対処出来ないと判断したんだ」

 

 まぁ分からんでもない。適度なアドバイスが欲しいのだろう。雪ノ下に任せたが最後、劇的大改造されて「なんという事でしょう」とナレーションが入る事だろう。匠も吃驚なレベル。

 

「はぁ、わかった。じゃあ文句付けてくぞ」

 

「文句って所が君らしいな」

 

「まぁ先ずは遊んでからだな」

 

 そう言ってキャットタワーによじ登った。先程から登りたくてウズウズしていたんだ。ちょっとくらいいいだろう。それに猫になりきる事で分かる事も有るしな、と開き直って小一時間程遊ばせてもらった。

 

「ふぅ、遊んだ遊んだ」

 

「…楽しんでくれて何よりだよ」

 

 やや渋い顔をしながら返答する葉山。まさか一時間近く遊ぶとは思っていなかったらしい。猫を飼う練習なんだろう?見守る事も練習の内だ。

 

「ちょっと疲れたから寝かせてくれ」

 

 ふむ、ベッドは毛布でふかふかだ。文句なしの寝心地だな。ちょっと寝てから指導といきますかね、と思案しながら微睡みに落ちていった。

 

「君は猫になってから自由奔放になりすぎだ…」

 

 葉山の嘆きが聞こえた気がした。

 

×  ×  ×

 

 結局、三時間ほど寝てしまった。寝心地が良すぎるあのベッドが悪い、と責任転嫁して葉山の元へと向かう。

 

「メシくれ」

 

「…はぁ」

 

 盛大に溜息を吐かれた。解せぬ。

 

「ほら、キャットフードだ」

 

 おお、サンキュな。と目で感謝の意を述べ、少し遅めの昼ご飯を食べる。

 

「柔らかな肉感と魚の味…、穀物ではなく芋を使った香ばしい香り…、カリカリと食べやすい大きさの欠片…。これは美味い」

 

「お気に召してくれたようで何よりだよ」

 

 調子を取り戻したのか葉山が近付いてくる。うん、褒めるポイントその三だな。さぁ、食べ終わったから指導といきますか。

 

「さてと…、大きく分けて問題点は四つある」

 

「そんなにあるのかい…?」

 

「先ず一つ目、水飲み場とトイレを併設するな」

 

 人間でもそうだが、飲食する場の近くにトイレがあればいい気分はしないのだ。こいつは猫の気持ちどころか人間の気持ちも分かっていないのか…?ぎるてぃ!

 

「成る程…、言われてみればそうだ。でもどこに置けばいいかな?」

 

「トイレなんだから臭いもかなりの物になる。だから洗面所辺りにでも設置しておけば換気も出来るし困る事もないだろう。洗面所に置けないというのであれば屋根のあるトイレを買っておけば良い」

 

 俺は猫用トイレではなくちゃんと人間用トイレで用を足しているがな。中々そんな猫はいないだろう。

 

「次に二つ目、水飲み場は複数が鉄則だ」

 

 色んな所に水飲み場があった方が猫としては安心なのだ。因みに部屋の端っこの方にあるとなお良しだ。猫の気持ちを分かろうとしないとは…。ぎるてぃ!

 

「ふむ、また明日買う事にするよ」

 

「では三つ目、危険なものは片付ける事」

 

 猫は基本的に高い所を好む。物を山積みにしていると猫によって崩されたり、棚の上に物を置いたり、埃をこまめに拭き取らないと猫に悪影響を及ぼす。又、倒れやすいものは固定する必要がある。あとガラス系は絶対に露出させては駄目。こんなに物を積むとは…片付け苦手なのか…?ぎるてぃ!

 

「もっと綺麗にしておかないといけないな…」

 

「更に四つ目、爪研ぎ用の何かは買っておく事」

 

 猫は爪研ぎでストレス発散する事が多い。爪研ぎ用の物を買っておかないと家中爪痕だらけになってしまう事も珍しくない。ストレス発散の爪研ぎは葉山の顔でどうぞ。ぎるてぃ!

 

ブチッ

 

「…君は一々僕を攻撃しないと気が済まないのかい?」

 

 葉山が静かにキレた。




果たしてこの情報が正しいのかどうか…。
リアルで猫を飼っている方、もし間違っているところがあればご指摘ください。

評価バーに色が付きました!評価してくださった皆さんありがとうございます!
作者の喜びの舞 ٩( ᐛ )و


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見つけた、猫

「悪かった!悪かったから尻尾ぶんぶんしないでください!お願いします」

 

 誰から教わったのか葉山が俺の尻尾をぶんぶん振ってくる。こいつとけーちゃんに接点なんてあったのか…?はっ、もしやこいつロリコ…

 

「何やら良からぬ事を考えている顔だな。なんならこの場に陽乃さんを連れてきても良いんだぞ」

 

「すいません、何でもありません」

 

 エスパー多過ぎて困っている今日この頃。魔王召喚とか卑怯すぎるだろ。

 

「まぁこれ位で勘弁してあげるよ」

 

 やっと尻尾ぶんぶんから逃れることが出来た。飼おうとしてる猫にこんな事しちゃダメだからな、という視線を向けておく。葉山は笑いながら君にしかしないさと歯をキラッとさせた。…爽やか系イケメンめ、その笑顔を向ける方向間違ってるぞ。外から「ぐ腐腐腐」と聞こえてくるからやめてくれ。海老名さんや、盗聴器でも仕掛けてますのん?

 

×  ×  ×

 

「そろそろ押し込んでもいいかい?」

 

「…ああ、一思いにやってくれ」

 

「いくぞっ…!」

 

「んああ…」

 

 …思い返してみたらかなりアレな会話だった。決して海老名さんが喜ぶような物ではない。…決して。大事な事だから二回言ったから勘違いするなよ!

 事の発端は葉山の発言からだ。

 

 

「少し猫との生活を疑似体験してみたいからネコリンガルを切ってもらっていいかい?」

 

「構わんが…、リュックの中にあるからお前が切ってくれ」

 

 リュックを部屋の入り口付近に置いてきてしまったので取りに行く距離が長くなっている。面倒だったので葉山に投げる事にした。

 

「じゃあ押す…どうしたんだ比企谷」

 

 自然、身体が震え始めた。何故、ネコリンガルを切ろうとするだけでこんなにも身体が震えるんだ?俺はそんなにソレに依存していたのか?…いや、それもあるがもう一つの説が濃厚かもしれない。

 

「猫生活で得た物が否定されてしまいそうで不安なんだ…」

 

 そう零した。何気ない一言。されど葉山は聴き漏らさなかったのか返答してきた。

 

「…君の得た物は簡単に否定されてしまう物なのかい?そうだとしたらそれは、本物では無いんじゃないかい?」

 

 その言葉にハッとさせられた。今迄の一週間の記憶がパズルのピースのように嵌っていき、俺の気持ちが浮かび上がってきた。

 

「…本物は、壊れないな」

 

 さぁ、覚悟は出来た。どんと来い、葉山よ。

 

 

 という事があって先程の状況に繋がる訳だ。一応葉山に感謝はしている。下手すれば負のループに陥る所だったからな。

 

 その後は久し振りに本能で動いて葉山を困らせてみたり、可愛さをふんだんに使って葉山を悶死させてみたり、ツンデレを使って葉山をデレさせてみたり…。あれ、これこそカップルみたいじゃねぇか。別に葉山の事は好きでもない筈なんだが、少しずつ毒されている気がする。これがイケメンパワーなのか…!?

 

×  ×  ×

 

「今日は助かったよ、ありがとう」

 

「…そうだな、いつでも呼んでくれていいぞ」

 

「お、また明日も呼んでやろうか?」

 

「それは勘弁してくれ…。後が詰まってんだ」

 

「ははは、冗談さ」

 

 案外コイツといるのも楽しいもんだな、と認識を改めながら葉山の家を出ようとドアを開ける。だが俺は恐ろしいものを目の当たりにする。

 眼前に鼻血を垂らしながら倒れている海老名さんがヒクヒクしていた。

 

「…なぁ、海老名さん遂にストーカー始めたのか?」

 

「…二年生の頃から付けられているかな?」

 

 知りたくもなかった事実が葉山の口から放たれた。意外と気配察知出来るのな…。

 

×  ×  ×

 

ガチャ

 

「あ、お兄ちゃんおかえりー!どうだった?」

 

「ん、ただいま。まぁまぁだったぞ」

 

 楽しかったが、やはり家が一番安心する。由比ヶ浜に命名されたヒッキーも伊達ではないという事だ。引き篭もり万歳!

 

「ゴミいちゃんな考えをしてるのは小町にはお見通しなんだからね」

 

 と小町がジト目で見てくる。そんなジト目ですら可愛く思えてしまうあたりシスコン度が振り切れている事が自分でもわかる。これは小町ルート突入のサインなのか…!?千葉の兄妹は仲良しだからな、別におかしい事は無いな。

 

「ひっ、なんかゴミいちゃん度が増した気がする…」

 

 おおう、バレテーラ。

 

 

×  ×  ×

 

 

 目覚ましのけたたましい音で目が覚める。今日も出勤らしく、誰が来るかはお楽しみだよ!と小町に言われた。その時はまたかと思ったが、あのドキドキが交友の広さによって出来ていると思うと妙に嬉しくなる。頼むから今日は癒し系が来て欲しい。材木座が来た日には急所を蹴り上げてやろう。…あれ?これフラグ?

 

「おはよ、小町」

 

「あ、おはよーお兄ちゃん」

 

「やっはろー、ヒッキー!」

 

「ふあぁ、おはよう小町、結衣」

 

「ふぇっ!?」

 

 うん?何やら女子たちが騒がしいな。どうしたのだろうか、虫さんでも出た?

 

「八幡は無自覚系男子やったんか…」

 

 カマクラが遠い目をしながら呟いた。失礼な、俺はかなり自覚しているという自負があるぞ。多分…。

 

「なぁ爺さんや、あれが最近流行りの無自覚系主人公なんですか?」

 

「ふむ、あれでいて変な所は自覚してあるからの…。一概にそう言えないじゃろう。だがまぁ…、かなりの重症じゃ」

 

「私にはわからないわねぇ」

 

 鷲と亀さんも無自覚系ウンタラカンタラと喋っている。え、何か無自覚でやらかしたっけ俺。そうやってウンウン唸っていると由比ヶ浜が近づいて来た。

 

「おおおお、おはよう!は…八幡」

 

 ・・・え?何だって?いや待て、こいつ今俺の事八幡って呼んだか?聞き間違いだったら恥ずかしいんだが、もしそうだとすると俺の発言も絞られてくる。

 

「おお、…ちょっと死んでくるわ俺」

 

「えっ、ちょっ、待って!ヒッキー!あたしが悪かったなら謝るから!」

 

 誰だよ、寝惚けて下の名前で呼ぶ奴。…俺でしたね。




あまり筆が乗らなくて二日間も放置してしまいました…。
以上言い訳でした。すいませんm(_ _)m

少し見難かった為、場面転換に下の記号を入れることにしました。特に内容の変更はしていません。
×  ×  ×


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

忠犬と、猫

「八幡様が猫になられている!?」

 

「そうなんだよねー、どうも以前の彼とは違うらしいよ?」

 

「本当ですか姉御!八幡様に甘えに行ってもよろしいのでしょうかっ!」

 

「良いと思うわよ。というか寧ろ今行っとかないと損だと思うよ?」

 

「喜んで甘えさせていただきますワン!」

 

 ベッドに包まって悶えようとしたんだがそう叫んで飛び付いてきたワンコに捕まった。サブレよ、俺よりご主人様を構ってやれ。由比ヶ浜が途轍も無く寂しがっているぞ。…おいこら小町、GOサインを出すな。

 

「あたしも混ざるっ!」

 

サブレは 八幡に 甘えた!

八幡は 甘えるの ダメージを受けた!

結衣は 八幡に 甘えた!

八幡は 甘えるの ダメージを受けた!

 

「遅ればせながら小町も混ざりますねっ!」

 

 この戯れを暫し動画に収めてから小町も参戦する。やめて!俺のライフはもうゼロよ!

 

×  ×  ×

 

「ここがあたしの部屋だよ!」

 

 あれから何やかんや戯れた後に由比ヶ浜の家に訪問する運びとなった。日曜出勤の由比ヶ浜父は家に居らず、由比ヶ浜母は雪ノ下母と談笑しているらしくこちらも家に居ない。つまり一人と二匹きりである。…三という数が集まると甘い雰囲気にならないから大丈夫だな。お互いが自制し合うし。

 

「じゃあ…、まずぎゅーってする!」

 

「ほえ?」

 

「あっ、結衣狡い!ボクも八幡様をぎゅーってするんだ!」

 

 彼女等の辞書に自制という文字は載っていなかったらしい。

 

「やっぱりヒッキー可愛いなぁ…。ずっとこうしていたいなぁ」

 

 由比ヶ浜のメロンが柔らかに形を変え、俺の全身を包み込む。おお、今まで体感した三人よりも遥かに気持ちいい。…八幡の八幡がやっはろーしそうで怖いです。

 

「ふあぁ、なんだか眠くなってきたかも…」

 

 猫から伝わる体温が心地よくさせたのか由比ヶ浜がうつらうつらし始める。ちょっと待ってくれ、本格的にやばくなってきたから離してください。

 

すーすー

 

「寝るの早っ」

 

 のび太くんに勝るとも劣らないスピードで眠りに落ちやがった。しかもその両手は俺を離すまいとがっちりホールドされている。逃げるに逃げられない状況の完成だ。心地良いんだがアレがアレでアレなんだよなぁ…。遠い目をしているとサブレが此方に回り込んで来た。

 

「八幡様、ご愁傷様です。こうなった結衣は起きるまで絶対にその手は離しませんので変に暴れない方が身の為ですよ」

 

 サブレも何度か経験しているのだろう、同じく遠い目をしながら注意してくれた。お前も苦労してるんだな…。

 

×  ×  ×

 

「いくよ!それっ」

 

「キャンキャン!」

 

 あれから一時間程幸福に拘束された後、近所の公園に遊びに来た。現在由比ヶ浜とサブレの日常が繰り広げられている真っ最中だ。ああ…、だんだん俺もあのフリスビーを追いかけたくなってきたぞ。

 

「ねね、ヒッキー。こっちおいで」

 

 猫じゃらしを片手に俺を呼ぶ由比ヶ浜。顔には優しい笑顔を湛えている。猫になって最初に見た雪ノ下と同等レベルの眩しさが俺を襲う。やだ、勘違いしちゃうじゃない!しかし身体は素直なようで、自然と由比ヶ浜の方に吸い寄せられていった。

 

「えいっ」

 

 目の前にあった猫じゃらしが視界の左に移動する。ピコピコ動きながら俺を誘惑しているようだ。思わず両手をそちらへ伸ばすがその瞬間には既に右に移動していた。ぬぅ、悔しいのだ。

 右、左、右、右、上、右、左、上、下…。気付けば超夢中になって遊んでいた。サブレが構ってもらえなくて寂しそうにしているあたり相当な時間熱中していたのだろう。ちらと時計を見ると軽く二時間は超えていた。…カマクラの気持ち、今はとてもよくわかるぜ。猫じゃらしは危険、そう思うことにした。

 

「はっ、もう一時じゃん!家帰ってご飯作らないと!」

 

 …うん?ダークマターを生成して世界征服をすると聞こえたんだが俺の聞き間違いか?

 

×  ×  ×

 

「よし!お昼ご飯張り切って豪華なハンバーグ作るからヒッキーとサブレは仲良く待っててね」

 

 どうやらさっきのは聞き間違いではなかったようだ。世界征服どころか宇宙征服できそうな物がきっと出来上がるに違いない。それだけは阻止しなければ。俺はまだこんな所で死にたくないんだ!

 

「「ちょっと待ったぁ!」」

 

 サブレと意見が全会一致する。二十以上も集まっていないから非常に一致しやすいのが利点だな。

 

「ん?どしたのヒッキー。そんなに慌てて」

 

「お前の気持ちは有難いが頼むから犠牲者を生み出さないでくれ」

 

「結衣の暗黒物質で何回死にかけたと思ってるんだ…。ボクを毒殺するつもりなのか?」

 

 言葉が通じないからと、かなり言いたい放題のサブレ。だが俺の言いたい事を代弁してくれた。暗黒物質の所為で飼い主なのにあまり懐かれないんだね、八幡今の出来事で察したよ…。

 

「帰ってきて開口一番に酷い!?あたしだって練習してるんだからね!ママに食べてもらったけど美味しさの余り気絶したんだよ!だから安心安全だよ!」

 

 確かにダークマター生成の腕は上達したようだが何一つ安心出来ない。寧ろ危険度が増している。…何を入れたらジョイフル本田で売ってそうな木炭みたくなるんだ?私、気になります!

 

「…そこまで言うなら任せるわ。だが問題があったら躊躇なく指摘するからな?」

 

「は、八幡様…。宜しいのですか?」

 

「…まぁなるようになるだろ」

 

×  ×  ×

 

「…何故そこで砂糖を大量に入れようとする?」

 

「え?だってヒッキー甘いの好きでしょ?だから甘くしようかと思って」

 

 ハンバーグを作るのに少量の砂糖は必要だが一袋分入れようとしないで欲しい。というか常識的に考えて分かるだろうが…。

 

「ダメだ、入れるのは大匙二分の一程度にしろ」

 

「えー、美味しくなると思ったんだけどなぁ」

 

 

「なぁ、桃缶って必要か?」

 

「え?必須じゃないの?」

 

「違うな。桃缶を料理に使うことは無いと思っておけ」

 

 桃缶美味しいのになー、と呟かれながら桃缶は冷蔵庫に仕舞われた。別々に美味しいものを組み合わせても絶対に美味しくなるとは限らないんだぞ、由比ヶ浜。それは肝に命じておけ。

 

 

「なぁ、凄い今更なんだが何故バラ肉なんだ?」

 

「え?お肉だったら何でもいいんじゃないの?」

 

「…こいつ手遅れだ」

 

 いや、うん。わかってたんだけどね。…何事も再確認って大事だね!




深夜テンションで書いたものなのでクオリティーはあまり良くないかと思われます。
ちゃんと脳が起きてる時に書いた方がいいですね…

大変私事で申し訳ないのですがこの先一週間程忙しくなりそうなので投稿出来ないかと思われます。予めご了承くださいm(_ _)m

ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お風呂、猫

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 あの後俺が全力で手直ししてどうにかこうにか他人丼を作る事に成功した。一時はどうなることかとヒヤヒヤしたものだ。猫の姿でもしっかりと料理ができる事がわかっただけ良しとするか。猫の手はデフォルト装備だからいつもより楽だったかもしれない。

 

「やっぱヒッキー凄いね!あたしもこれだけ作れたらなぁ…」

 

「専業主夫を目指していただけの事はあるからな。…一応言っておくが由比ヶ浜の料理下手は努力でどうにかなるレベルを超えているから諦めろ」

 

「酷い?!」

 

「至極真っ当な意見です八幡様!ボクだってもう残飯処理班にはなりたくないんだ!」

 

 犬って何だかんだ人間の残飯処理班に当てられるよな…。少し可哀想な気がしないでもないが大半の犬は普段食べているドックフードより美味しいものが食べられるからwin-winの構図が出来上がるのだ。但し暗黒物質は除く。

 

「世界の平和の為なんだ。仕方ない」

 

「フォローになってないからね?!」

 

 …何気にこのやり取り楽しいんだよなぁ。

 

×  ×  ×

 

「ふにゃっ!?」

 

 突如そんな声が聞こえた。決して俺の声ではない。とすると由比ヶ浜になるな、とそちらを見やると顔を真っ赤にしながら携帯の画面を見ていた。もしかして如何わしい画像か何かが送られて来たのかしらん?

 

「そんな恥ずかしい事…、出来ないよ小町ちゃん…。で、でもっ!距離を縮めるチャンスかも…?」

 

 何だ、小町の仕業か。なら何の問題も…、大アリだよ。一体何を由比ヶ浜に吹き込んだんだ?というかそんな知識何処で身に付けたんだ、毒虫なら営業スマイルで社会的に抹殺してやろう。等とどうでもいい事に耽っていると由比ヶ浜が茹で蛸も吃驚な赤さで話しかけてきた。

 

「…お、おおおお、オフロ…、いいい一緒に入らない…?」

 

「…ん?なんだって?」

 

 ここは全力で難聴系主人公を模倣する時だろう。聞こえてはならない言葉が耳に届いた気がするがもう一度聞けば聞き間違いだという事が分か…

 

「だから一緒にお風呂入ろって言ったの!」

 

 …るだろう、って聞き間違いじゃないだと!?俺の心の中は天地がひっくり返って地面から空が降ってくるくらいの大パニック状態である。うん、意味わかんないね!

 

「…え?本気で言ってるのか?」

 

 このまま行けば同級生、しかも異性と風呂に入ったという事実が爆誕してしまう。そうすれば俺に変態という烙印が押されてしまう事になる。それだけは避けたいのだが…。

 

「あたしは一緒に入りたいの!…ね?いいでしょ?」

 

 吹っ切れた由比ヶ浜は強かった。困ったような顔で俺を見つめてくる。あざとさではなく天然だから尚更タチが悪い。…簡単に折れてしまうだろうが。

 

「…そこまで言うなら少しだけならいいぞ」

 

「やたっ!」

 

 だが彼女はまだ気付かなかったのだ…。彼女の人生で特大の黒歴史を作ることになるとは。

 

×  ×  ×

 

「あー、あったけぇ…。やっぱ風呂はいいなぁ」

 

 どうも、猫なのにお風呂が大好きな八幡です。現在風呂桶に溜まった温水に浸かっている状態である。猫的には丁度いい深さだ。ベッドもいいが風呂もいいよなぁ…。

 

「ふんふんふふ〜ん♪」

 

 由比ヶ浜がご機嫌に髪を洗っている。見えるのは彼女の後ろ姿だけ。お団子は下げると髪は肩にかかる長さで、水に濡れた扇情的な様は俺の心を揺さぶってくる。何というかこう、背徳感を覚えるような…ゲフンゲフン。…(よこしま)な考えは止めよう。

 

「ヒッキー、おいでっ」

 

「ぶっ!?」

 

 由比ヶ浜がくるっと此方を振り向いたかと思うと両手を広げながらおいでおいでと呼んでくる。…両手を広げながらだ。大事な事なので二回言いました。つまりあれだ、見てはいけない部分がもろに見えている状態な訳で。俺の少ない理性の欠片がゴリゴリ削られていく。これはもしや由比ヶ浜ルートが(ひら)けたのか?

 

「ほらっ」

 

 誘惑に勝つことが出来ずふらふらと由比ヶ浜へ向かって行く俺。うん、これは色々アウトですね。

 

×  ×  ×

 

「んあああぁぁ〜…!」

 

 風呂から上がって約三十分。由比ヶ浜がベッドで毛布に包まりながら悶えている。かなりの黒歴史を作ってしまったからな。かくいう俺もタオルケットに包まりながら悶えている。…特別変な事はやってないから安心してよね!…誰に向かって弁明しているんだ俺は。

 

「先程はお楽しみでしたね、八幡様」

 

 ここぞとばかりにサブレが話しかけてくる。意外と性格悪いのなお前。

 

「ひ、ヒッキー!さっきのは忘れて!お願い!」

 

「おおおおおう、何のことだかサッパリダナー…」

 

 テンパりすぎだろ、俺。最後の方とか棒読みにも程があるレベル。データ消去とか簡単に出来たらいいんだけどな…。何だかんだ覚えていそうで怖いでござる。

 

「そ、そっかぁ…。なら仕方ないねっ」

 

 何故そこで残念そうな顔をするんだ…。忘れて欲しくないのか?女子の心はよくわからんな。

 

「流石八幡様!鈍感に定評があるだけの事はありますね!」

 

 貶されているようにしか聞こえないんだが気のせいか?

 

×  ×  ×

 

「ただいま…」

 

「おー、おかえり、お兄ちゃん。どうでしたかな?」

 

 ややニヤけた表情を隠しきれないまま小町が尋ねてくる。

 

「いや、うん、何も無かったぞ」

 

「…お風呂」

 

「ひゃいっ!?」

 

「やっぱり何かあったんだー?結衣さんやるぅ!流石お義姉ちゃん候補の筆頭だね!」

 

 小町め。絶対楽しんでるだろ…。お兄ちゃん怒ったゾ。激おこぷんぷん丸なんだからねっ!

 

「…もう寝る」

 

「ちょっ、ごめんって!お兄ちゃん!」

 

 小町の声が後ろから聞こえるが無視だ、無視。お兄ちゃんはちょっと一人になりたいんだ。未だに熱が冷めやらないまま眠りに落ちた。

 

 

×  ×  ×

 

 

「__これにて第一学期終業式を終わります」

 

 思い出すのも恥ずかしい由比ヶ浜とのアレコレがあった翌日、我が総武高校の終業式が行われた。何故月曜日に執り行うのかは甚だ疑問だが事実なので仕方がない。

 

「一学期終わっちゃったね」

 

 ラブリーマイエンジェル戸塚が話しかけてきた。ああ、戸塚ニウムが暫く摂取できなくなるなんて…、夏休みなんか無くなってしまえばいいのに!

 

「そうだな…暫く会えないなんて寂しいぞ」

 

「照れるなぁ、八幡…」

 

 とつかわいいよ、戸塚。もうこのまま戸塚ルートでゴールインしたいまである。この国に異種間結婚を認める法律があれば最高なんだけどな…。

 

「あら、鼻の下伸ばし谷君じゃない。昨日はお楽しみだったようね」

 

 一瞬にして全世界が凍りつく。…まて、その情報はどこで手に入れた。

 

「由比ヶ浜さんから聞いたのよ」

 

 由比ヶ浜ァ、何してくれとんねん!…俺が関西弁とかウケる。

 

「明日のレンタルは私だから覚悟なさい」

 

 ワァ、イイエガオダナー。




遅くなりました第14話でございます。
作風が変わったような気がしますが気にしないでくださいm(_ _)m

暑いですね…。皆さんも熱中症等気を付けてくださいね。
ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Fawn on 、猫

「さて、帰りますか」

 

 猫に塵取りと箒をやらせるという鬼の所業もあったが、かったるい掃除も終わり後は家に帰るだけである。今日は母鷲は同窓会に出席するとか何とかでいない為足が無いのが欠点だ。

 それにしても今日はあれ以降雪ノ下の追求が無かった分余計に怖い。ガクブルものである。由比ヶ浜さんや、何で喋っちゃうんですかねぇ…。

 

「 Hey you ! Help me ! 」

 

 …今変な声が聞こえた気がするんだがここはスルーするのが吉だな。変に絡むと面倒極まりないからな。

 

「 …oh. I’m very sad 」

 

 …気にするな八幡。俺の不屈の精神が試されているんだ!

 

「 Wow ! Your rotten eyes are so cool ! 」

 

 …耐えろ、耐えるんだ八幡。目が腐ってるなんて散々言われてきたじゃないかっ!無駄に流暢な英語が腹立つだけだ。

 

「 And your flizz is cute ! Can I grab it ? 」

 

 おい待て、アホ毛を掴もうとするな。遠慮なさすぎるだろ。お前はリア充なのか?リア充ですか、そうですか。完全スルーに持ち込めばヤツも諦めるだろうと思い逃走を図る。

 

「 Don't ignor me…. I want to interact with you !」

 

 構ってちゃんかよ…。これまた面倒なヤツに当たったもんだ。いい加減諦めて声のする方に振り向くが姿が見当たらない。…え?もしかして幻聴?

 

「 Look down ! Look down ! 」

 

 言われるがままに下を向くと、鼠がいた。…自然に涎が垂れてきたのは本能の所為だから許してくれ。ほんとだよ?食べようだなんて思って無いんだからねっ!

 

「 Thank you ! I love you ! 」

 

 しかしよく喋る鼠だ。夢の国の鼠とは違って低い声の持ち主で無駄にイケメンボイス。恐らく雄の鼠だろう。…なんかゾワっとするな。腐女子が湧きそうだからやめてくれ。

 

「 Then, can you help me ? 」

 

「…そういえばそう言ってたな。まぁ見たらわかるんだが、雨樋から引っ張り出して欲しいのか?」

 

 何を隠そうこの鼠、雨樋に挟まっているのである。肥満体質である事もついでに分かってしまう。…今一番要らない情報だな、これ。

 

「 Yes ! Please pull ! 」

 

 …仕方ない、引っ張らざるを得ない状況に置かれてしまったからには任務は果たさなければならない。一人芝居でおおきなかぶでもやってやろうかと画策していると再び鼠が話しかけてくる。

 

「 Please do as seriously as possible 」

 

 …一々注文が多い奴だ。敢えて放ったらかしにしても良いのよ?というかお前も俺の心の中を読むんじゃない。

 

「…ほれ」

 

スポン

 

 拍子抜けするほど簡単に抜けて吃驚なうだ。…太るって怖いな。俺も適度に運動したほうが良いかもしれん。カマクラみたく引き篭もっててもいいんだがな。

 

「 thank you ! I’ll repay you someday 」

 

「いや、別に借りは返さなくていいぞ」

 

「 Really ? Are you a god ? I call you teacher ! 」

 

「何故そこにたどり着くんだ…」

 

 俺は神でもないし、師匠になるつもりもない。強いて言うならば只のボランティアする猫である。…あれ?いつからそんなに立派な猫になったのかしらん?雪ノ下の調教の賜物だね!

 

「…あー、でも一つ相談があるな」

 

「 What ? 」

 

 明日の最大の悩みをこのデブ鼠に相談してみることにする。敢えて事情よく知らない人に聞くことによって別視点の回答を得ることが出来るのだ。相談なんて生きてきた中で片手で数える程しか無いがな!…自分で言ってて悲しくなってきたわ。

 

「 Then, could you fawn on her at full strength ? 」

 

 …俺が猫じゃなかったら即死レベルの返答だった。fawn on が “猫などが人間に甘える” 、 “人間に媚びへつらう” の二つの意味があるから間違って捉えると事件になる。生存ルートと死亡ルートの二つのみ。なにそれ雪ノ下ルート始める前からから鬼畜すぎない?そもそも甘えたところで生きて帰って来れるかも疑問だが。

 

「…まぁ参考になったわ、サンキュな」

 

「 Sure ! 」

 

 

×  ×  ×

 

 

 さあやって参りました、夏休み初日。学生が喜ぶ期間でもあるのだが俺は全くそうは思わない。

 そもそも夏休みとは暑くて勉学に集中できないから学校を休みにしようと設置された物であり、課題とやらに追われる筋合いは全く以って無いのである。寧ろ最近はエアコンの普及により何処でも快適に過ごせる様になったから夏休みは要らないまである。

 …まぁ高校三年生でこんな持論を持ち出している時点で相当やばい事は自明の理なのだが、生憎俺は猫なので受験勉強とかしなくてもいいのだ。あれ?俺もう勝ち組?

 

 だがしかし、猫である俺にも課せられた課題、八幡レンタルがある。今日は雪ノ下の番で一昨日の出来事を根掘り葉掘り聞かれるというおまけ付き。そういう訳で朝からテンションだだ下がりなのだ。

 

「はぁ…」

 

「溜息つくと幸せが逃げてくよって言われなかったの?お兄ちゃん」

 

「俺は幸せを最初から持ち合わせていないから大丈夫だ」

 

「悲しい事実だねー」

 

 そうやって棒読みで返される方が悲しい事実だよ、小町ちゃん…?でも、少し気分は晴れた気がする。家族との時間はストレス解消にぴったりだからね!

 

「んじゃ、雪乃さん来てるから後はよろしく!小町友達と遊んでくるから!」

 

 おい待て。由比ヶ浜といい雪ノ下といい、俺の家にやってくるの流行ってるの?

 

「よろしくね、比企谷くん♪」

 

 …何故にそんなにテンション高いのでせう?…動揺し過ぎてウニ頭の口癖が伝染っちまったじゃないか。多分そげぶされるのは俺なんだよなぁ…。

 

「ではまずお風呂に入りましょうか」

 

「…ファッ!?」

 

 …え?逆そげぶを食らった気分なんだが。いやこれ普通に困惑ものなんですが…。ゆいゆいに嫉妬でもしましたのん?

 

「…少し、悔しかったのよ」

 

 可愛いかよ。




 遅れに遅れてすみませんでしたぁ!(ジャンピングドゲザー
 英語苦手なのに調子こいてこのようなキャラを生み出してしまった自分を恨みたい…。果たしてこの英語が正しいのかすら不安ですが。なんなら添削して頂けると助かります。…fawn onは間違ってないよね?

 と言うわけで言い訳盛りだくさんの15話でございました。本作はこれからもしっかりと続けるのでお願いします。

 ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝負あった、猫

「若いっていいわねぇ」

 

「わしもこんな日々を過ごしていたいわい」

 

 …どうしよう、この状況。デジャヴ。

 

×  ×  ×

 

 可愛い雪ノ下に見惚れていた為か、気付けば風呂場に連行された後だった。…最近俺の意識が飛び過ぎな気がするな。木材屋に頼んで結界でも張ってもらうか…?

 

「こ、此方を見たら貴方を社会的に抹殺するから振り返らないで頂戴」

 

 そう言って服を脱ぎ出す雪ノ下。慌てて背を向け、抹殺される事を回避する。こういう場面では主人公補正で To loveったりするのだろうが、生憎俺はリトさんでも無いのでそんな事は起こりえない。起こったが最後、待つのは死のみである。

 

「さ、さぁ、入るわよ…!」

 

 どうやら脱ぎ終わったらしい。俺の無駄な思考力が役に立ったのか余計な事を考えずに済んだ。

 

「では私は洗っているから桶にでも浸かっていて頂戴」

 

 何故だろう、ここまで既視感を覚えるのは。一昨日の出来事と非常に酷似している。まさか詳細まで知っているのか?!

 

「あー、あったけぇ。やっぱ風呂は最高だなぁ」

 

 折角だから台詞もあの時に寄せてみる。鼻歌を歌い出したら由比ヶ浜尋問コース確定だ。

 

「…ふんふんふふ〜ん♪」

 

 こいつ…知ってやがる!雪ノ下が此方にドヤ顔で振り返ってくる。腹が立つが可愛いので許す。可愛いは正義だからね!

 だが真似をしているとなると次のシーンが大問題になる訳なんだがどうするんだ?まさか雪ノ下に限ってやる訳…

 

「ひ、比企谷くん、こっちへ来なさぃ…

 

 やった。こいつやりやがったぞ!顔を真っ赤にして両手を広げ彼女なりの誘惑をしてくる。言っている中で恥ずかしくなったのか途中から声が(しぼ)んでいく。

 こんな誘惑に勝てる訳なかろう。そう自分に言い訳をして雪ノ下の元へと向かっていった。

 

×  ×  ×

 

 この先の出来事はとても人に話せる内容では無いので割愛しよう。決してR-18的な事はやっていない。異種間で出来るのかは疑問符が付くが。

 まぁそんな事があった為二人で悶えている訳なのだ。雪ノ下からは「勝利」とか「抹殺」などと物騒な声が聞こえてくる。…はぁ、これどうすっかな。

 

「ひ、ひきぎゃやくん」

 

「…なんでしゅか」

 

 二人とも動揺のしすぎで “かみまみた” 状態だ。このままだとまともに会話が出来ないので大きく深呼吸をする。雪ノ下も同じことを思ったのか同じく深呼吸をしている。

 

「さっきの事は別に忘れなくても結構よ」

 

「はいはいわかりました、忘れま……え?」

 

 顔をフイっと逸らしつつそう言ってのけた。そこは真似しないんですね…。

 

「だからと言って覚えておく必要は無いのだけれど」

 

 照れ隠しのようで隠せてないんだよなぁ…。

 

×  ×  ×

 

 さぁ、お昼ご飯の時間だ。雪ノ下に昼飯どうすると尋ねた所、作ってくれるらしい。冷蔵庫の中余り物しか無かったような気がするが雪ノ下だしなんとかなるだろう。

 

「出来たわよ」

 

 食卓には余り物で作ったとは思えないパスタが置いてある。安定の雪ノ下クオリティ。何処ぞのガハマさんとは大違いだ。

 

「なぁ、カマクラよ」

 

「ん?なんや?」

 

「ご飯が安全に食べられるって幸せだよな」

 

「…何があったんや」

 

 カマクラに訝しまれながらもパスタを食べる。うん、うまい。しっかりと家庭的な面も持っているようで八幡安心です。

 

「そういえば貴方は猫なのにこう言った人間の食事は摂れるのよね?」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

「あまり猫には勧められないとも聞くけれどどうなのかしら」

 

 俺からマッカンに続いて人間食まで取られると、そこらの猫と変わらなくなってしまう。今迄の人間と猫が混ざった生活が楽しいのだ。

 

「今の所人間食を摂っても腹を下したりしていないから大丈夫だと思うぞ」

 

 ので、全力で抵抗しよう。…キャットフードの方が好きだったりもするが。

 

「…猫になっても異端児なのは変わらないようね」

 

 誰が異端児だ、誰が。かなり真っ当に生きてきたはずなんだがな。

 

「まぁそんな事はどうでもいいのだけれど…、撫でてもいいかしら?」

 

「ほどほどにしてくれよ」

 

「…仕方ないわね、五時間で我慢するわ」

 

 雪ノ下の “ほどほど” と俺の “ほどほど” の認識の違いに唖然させられる事となった。

 途中から俺では飽き足らなくなったのか、カマクラも巻き込んで二匹同時に撫で回し始めた。…やはり撫でられるのは気持ちいいにゃー。

 

×  ×  ×

 

「ただいまー!お兄ちゃん、お義姉ちゃん!」

 

「おー、おかえり小町」

 

「おかえりなさい、小町さん」

 

 撫でられる気持ち良さに寝ては起きてを繰り返し、気付けば午後六時。未だ寝ぼけ眼のまま返事をする。

 

「今日はどうでしたか?雪乃さん」

 

「そうね…、勇気を出して愛を注いだ、という感じかしら」

 

「ふむふむ、一緒にお風呂に入ってその後全力でお兄ちゃんを愛でたっていう感じですか!」

 

 (わざ)(ぼか)して言ったのだろうが、小町にはしっかりと事実が伝わっている。どういう思考回路で導き出されたんだ?少しだけ小町に畏敬の念を(いだ)いた。

 

「そ、そういことよ」

 

 あの雪ノ下でさえ(おのの)いている。恐るべきコミュニケーションモンスター小町。

 

「これからも末永くお兄ちゃんを宜しくお願いしますね!」

 

 毎回思うんだけど勝手に話を進めるのやめてくれない?

 

 

×  ×  ×

 

 

__リア充爆発しろやァ!

 

 

「というものを書いたのだがどうであろう!」

 

「なんで俺の猫生活を隅々まで知ってるんだよ、怖ぇよ」

 

 由比ヶ浜を問い詰めた事くらいしかやっていないが、雪ノ下来訪から一週間が経った今日は材木座からのレンタルだ。場所は学生の味方、サイゼ。

 何のパクリを読まされるかと思いきや俺の日常を読まされた。所々に材木座自身の本音がダダ漏れな一言が挿入されている辺り不思議なテイストになっている。

 

「ケプコンケプコン!聞き込みを行い、その家族に了承を取ったのだから当然と言えよう」

 

態々(わざわざ)聞き込みしてたのかよ、…暇だな。受験勉強しなくていいのか?」

 

「我はそのようなものをせずとも名作者として名を馳せ、世界を魅了するのだ!」

 

「お前の駄作品に目をつける輩が居るとはとても思えん」

 

「ぐぬぉ…!我の結界を破るとは、流石我の永久なる好敵手(ライバル)!」

 

 何故だかこいつの中二病具合が悪化しているような気がするのだが気のせいだろうか。

 

「して、八幡よ。この作品を世に出しても良かろうか」

 

「あ?どうせ叩かれるだけだろ、俺には関係ない」

 

「つまり出してもよいと」

 

「ああ」

 

「言質はとったぞ、八幡」

 

「何か言ったか?」

 

「ぬ?遂にお主も我のだす波を感じ取ったのか?」

 

「そんな物感じ取りたくない」

 

「酷いよはちえも〜ん!」

 

 材木座っていじり甲斐があるよな、等と思いながらその日は過ぎていった。思ったよりこいつと居ることが楽しかったのは秘密だ。




書きたいことはあるのに自分の文章力では上手く書けないというもどかしさ。小説を書いたことのある人ならわかってくれるでしょうか…?

ちょこっとお知らせ。
更新速度は8月よりかは落ち、短くても一週間程度間が開くかと思われます。予めご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天使と、猫

 材木座と戯れてからはや五日。俺はこの日が楽しみで楽しみで仕方がなかった。そう、戸塚にレンタルされる日なのだっ!ドキドキワクワクメロメロな俺は中々寝付くことができず、やや寝不足気味だ。遠足前日の小学生かよ。

 襲いくる眠気と戦いながら小町と朝食を食べ、カマクラと雑談し、鷲に(つつ)かれ、亀さんの為になる人生授業を受け、鼠に起きろと叩き起こされ、漸く目が覚めた。亀さんの授業以外は全く覚えていないが、まぁ問題ないだろう。

 

ピンポーン

 

 その音が聞こえた瞬間、玄関先まで猛ダッシュ。ここ二週間ほど戸塚ニウムが摂取できていない為、本能がそうさせるのだ。

 

「こんにちはー、……わっ!びっくりしたぁ、八幡驚かさないでよぉ」

 

 会えたのが嬉しすぎて飛びついたら可愛い反応が見れた。戸塚可愛いよ、とつかわいい。

 

「…小町の苦労はなんなんだろう」

 

「あはは…、僕も手伝おうか?」

 

「ほんとですか!いやぁ、助かります!」

 

 何の話をしているのかは分からないが天使同士の会話を見ていると心が癒される。戸塚になら小町をあげてもいいかもしれんな。

 

×  ×  ×

 

 そんなこんなでやってきました、戸塚の部屋!部屋には「武勇伝」と書かれた謎のポスターや修造カレンダーが置いてある。……少し “男らしさ” を履き違えているような気がするが、敢えて言わないでおく。戸塚は戸塚のままでいいんだ。

 

「八幡、何して遊ぼっか」

 

「戸塚の身体で鬼ごっこ」

 

 そう言うが早く、戸塚の身体によじ登り全身を駆ける。これが俺の編み出した戸塚堪能法である。追ってくるは幸せ、逃げる先も幸せ、夜中に考えた甲斐があったものだ。

 戸塚も「ひゃぁ!」と叫んだものの、乗ってくれたようで俺を捕まえようと手を伸ばしてくる。

 

「そぉい」

 

 しれっと服の内側に滑り込む。ここならば五感全てで戸塚を感じることが出来る。……決して変態ではない。ほんとだよ?

 

「ひゃわっ?!く、くすぐったいよう…」

 

 そんな戸塚の色っぽい声が聞こえる。俺は本能のままに服の中を這い回る。戸塚は立っているのもままならないのか、ぺたんと床に崩れ落ちた。

 

「はちまぁん……、ひゃぅっ!…もう耐えられないよぉ」

 

 エ、エロい…、そこらの女子より女子々々してる感じ様だな。経験ないから分からないが。

 

「も、もう!いい加減にしてよぉ!」

 

 お怒りになられた戸塚も可愛いんじゃぁ。とは言えこれ以上やって怒らせるのも嫌なので素直に()める。一瞬、もっと怒られたい欲が湧き出てきたが心の内に仕舞い込んだ。

 

×  ×  ×

 

__「やった!一番乗り!」

__「戸塚が結婚、戸塚が結婚……

 

__「よし!一位だ!」

__「バナナまじ許すまじ……

 

__「全部僕のになったっ!」

__「黒一点もないぜ……

 

__「勝ったぁ!」

__「エッジにインはないだろう……

 

 それからというもの、遊びに遊んだ。ちょっとした回想でこれだけ出てくるのだから、多種多様なゲームをしたことになる。……この回想だけで四種類のゲームを当てられる人はいるのだろうか。

 

「ちょっと遊び疲れちゃったね…」

 

 そう言いながら満面の笑みを此方に向けてくる。俺のハートが狙い撃ちされてるぅ!ここは俺も満面の笑みで返さねば。

 

「おう、なんなら遊び足りないまであるぞ」

 

 ……普段から笑っていない所為か引き攣った笑みしか出来ない事を忘れてたぜ。表情筋が(しかばね)のようだ。表情筋が鍛えられていないまま老化すると頬が垂れるから鍛えないとな。…あれ?これって猫にも適応されるのん?

 

「ちょっとお散歩に行こっか」

 

 俺にはその笑顔は眩しすぎる……。

 

×  ×  ×

 

「あ!あの時のねこさんだ!」

 

 すいっと後ろから持ち上げられる俺。いきなりだったもので全身の毛が逆立ってしまった。え?誰?もしかして誘拐?

 

「あ、けーちゃん。やっはろー」

 

「やっはろー!」

 

 阿保っぽいと貶していた挨拶だが戸塚が使う分には全く問題はない。寧ろどんどん使って欲しいくらいだ。

 しかして成る程、けーちゃんだったか。あの時と言われると尻尾の件を思い出すが今となってはいい思い出である。何事も経験なり。

 だがしかし、ここで一つの問題が浮上する。けーちゃんは俺を只の野良猫だと思っている。あの時はネコリンガルを持っていなかったからな。故に取れる選択肢は二つだ。

 

一、野良猫のフリをする

二、自身が八幡であると打ち明ける

 

 戸塚なら言わずとも察してくれるだろう。なんなら以心伝心しているまで……

 

「あ、因みにこの猫八幡なんだよ〜」

 

 ……あるな。あの戸塚が此方に悪戯顔を向けている。察した上でその上を行くとは…、恐るべし。いや待てよ、これが所謂友達のやり取りなのかっ!?

 

「はちまん…?うーん、あっ!はーちゃんだ!」

 

「おお、俺覚えられてた」

 

「はーちゃん喋った!」

 

 その後けーちゃんにもよくわかる解説を挟みつつ、二人と一匹で散歩をした。偶にはこんな時間を過ごしたいものだ。亀さんの言い分もなんとなくわかった気がする。

 

「そういえばけーちゃんさっきまで何してたんだ?」

 

「んっとね、さーちゃん探してた!」

 

 そう言えば沙希だからさーちゃんってあだ名だったか。けーちゃんのお陰で川なんとかさんの下の名前を思い出すことが出来た。次に会った時はさーちゃんと呼んで差し上げよう。

 

「探してたんだったら移動しちゃダメだった気がする…」

 

 おお、さすが俺の戸塚。今日も冴え渡っていらっしゃる。散歩もそろそろ切りがいいところまで来たので引き返すことにする。

 

「けーちゃん!」

 

「あ!さーちゃんだ!」

 

 とてとてとて、という擬態語が聞こえてきそうな勢いでさーちゃんの元へ走っていく。

 俺が。

 

「さーちゃんのシスコン!」

 

「……ぶっとばすよ?あとあんまり近づかないでくれる?」

 

 さーちゃん呼ばわりが特に言及されなかったということは問題なしという事だな。今後も優先的に使っていこう。

 

「しすこんってなぁに?」

 

「けーちゃんは知らなくていいからね」

 

「あはは…、あんまり川崎さんをいじめちゃダメだよ?」

 

「イエス、サー!」

 

 そうして、癒しの一日は過ぎていった。

 

×  ×  ×

 

「ただいまー」

 

「おかえりー、お兄ちゃん」

「会えなくて寂しかったわよぉ」

「八幡殿おかえりでごんす」

「楽しめたかの?八幡や」

「おかえりやで、八幡」

 

 玄関を開けたらみんなからおかえりコールを貰った。心がじんわり暖かくなった気がする。因みに母親は今日も残業で居ない。……あれ?一人多くね?

 

「八幡殿!私ですよ!私!me ! 」

 

「日本語…だと?!」

 

「いつから私が日本語を喋れないと錯覚していた?」

 

「言いたかっただけだろお前」

 

 しれっと、鼠が仲間に加わった。

 

今日の朝から居たんだけどなぁ…




遅くなって申し訳ありませんでしたm(_ _)m
毎日200文字くらい書いて100文字消してを繰り返してたらいつの間にかこんな時期になってました。(言い訳

ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

掻き乱される、猫

__朝の陽射しが部屋に満ち

  絶対不変崩壊の報せ

  鈍行列車の如き刻

 

「……お兄ちゃん何黄昏(たそがれ)てるの?」

 

「黄昏なきゃやってられない時だってあるんだよ」

 

×  ×  ×

 

 小町と一緒に鼠の歓迎パーティーをしていた時の出来事だ。

 

「なぁ、鼠。俺と最初に会った時、何故英語で話しかけてきたんだ?」

 

「日本語で話しかけたら大体の奴が無視するからでごんす」

 

「何その悲しい理由」

 

「みんな『ひっ?!幽霊?!』って言って逃げていくでごんす」

 

「……どんまい、鼠」

 

「あとはまぁ、人選の為でごんすかねぇ」

 

「人選?」

 

「英語でも構ってくれる相手が理想なのでごんす」

 

「……何か陽乃さんみたいだな」

 

「呼んだ?」

 

 ぬっと玄関の扉から顔を覗かせて陽乃さんが割り込んで来る。あれ?玄関の鍵閉めてたはずなんだけどなぁ。怖っ。

 

「お呼びじゃないので帰ってください、どうぞ」

 

「またまたぁん♪素直じゃないんだから」

 

「自分には素直なので先の言葉も本音です。ですからどうぞお帰りください」

 

「つれないなぁ〜」

 

 そう言って居間の椅子に座った。……話聞いてました?というかそこは帰る流れでしょう。

 

「で、いきなりどうしたんですか陽乃さん!」

 

 先程まで惚けていた小町が急に復活する。コミュニケーションお化けに切り替わった小町に最早敵なし!……陽乃さん相手じゃ無謀か。

 

「今日はねぇ……比企谷くんに特大のプレゼントを持ってきました!いぇーい!」

 

 そう言いながらパチパチと拍手する陽乃さん。それにつられて小町も「お、おー!」と拍手し始める始末。ノリが良い鷲と鼠も拍手している。亀さんは動作が遅い為、合掌しているかの様に見える。かく言う俺も気付いたら拍手していた。これがリア充の能力(ちから)なのかっ……!

 数瞬の後に面倒くさい事を持ってきたのだと把握するが時既にお寿司(おそし)。一冊の本が手渡されたのだ。

 

「……?何だ、只の文庫本ですか」

 

「表紙を見てからでも言えるかな?」

 

 ご丁寧にラッピングされた文庫本の表紙はまだ見えない。しかし、非常に嫌な予感がする。動物の本能とでも言うのだろうか。

 恐る恐る、包装紙を開けていく。……ちらっと猫の尻尾が見えた様な気がするが只の猫の写真集だろうか。

 

「……『やはり我の同志が猫になるのはまちがっている。』だと?」

 

 いや、薄々感づいていたけれども。材木座、お前かぁ!

 

「あははははっ!やっぱり比企谷君は面白いなぁ……」

 

 余程俺の苦虫を噛み潰したような顔が気に入ったのか大笑いしてくる。亀さんもタイトルの意味がわかったのか「ふぉっふぉっふぉ」とスロー再生の如く笑っている。残りは(おつむ)が弱いので理解できていない様だが。

 

「……で、何でこんな真似を?まさか出版する訳でもないでしょう?」

 

「そこはちゃんと説明してあげるから安心していいよ!」

 

「……」

 

 陽乃さん曰く、丁度十日前の七月二十七日の事。雪ノ下姉妹で百合百合していた所、材木座が小説のネタ探しに取材に来たそうだ。そこで何を思ったのか材木座の書く小説に興味を持ったらしく、ネットにすら載せていない作品を製本化しようという流れになったらしい。雪ノ下家って何でもできるのな……。

 粗方出来た材木座の作品を検閲した後に俺に確認を取らせたと。あの時はネットに上げても叩かれるだけだから良いだろうと思い頷いてしまったが、まさかこんな展開になるとは思いもしなかった。

 

__そう、既に出版が決定されているのだ。

 

 

×  ×  ×

 

 

 気付けば曜日が火曜日に変わっていた。あれからよくよく考えてみたが意外と悪い事ではないという事が判明した。いや、寧ろメリットが大きいかも知れぬ。

 少し考えてみよう。俺の夢は(うち)を動物園にし、楽して金儲けしようというものだ。金儲けをするには客が必要となる訳で、一定以上の興味を持たれなければならない。今の所俺の猫化は有名らしく、この状況下で出版がされれば更に注目されやすくなる。

 しかしデメリットもある。今の所住所などは割れていないが、追っかけ(ストーカー)が確実に増える。外出を控えれば良いのかもしれないがいつかは来る未来だ。そう悠長なことも言ってられないので、対策を練らねばならない。

 ……やっぱめんどくせぇ。全ては材木座のせいだな、うん。

 そう結論付け、漸く襲ってきた眠気に身を委ねた。

 

×  ×  ×

 

 その頃、私達は動物会議を開いていた。

 

「はいはいちゅーもく!これから動物会議を開催しまーす!」

 

「やんややんや、でごんす」

 

「議題はなんじゃね?」

 

「それはズバリ、動物少なくね?!です」

 

「確かに猫二匹と鷲と亀と鼠じゃ少ない気がするでごんすが十分なのでは?」

 

「八幡は家を動物園にするっちゅう夢があるんや。それを叶えるには動物が少ないんと違うか?」

 

「それは知らなかったでごんす……」

 

「今の所水生生物が居ないのよねぇ」

 

「儂はリクガメじゃしのぅ」

 

「かと言ってマグロでも連れてきたら呼吸できずに死んでまうしな」

 

 全員、仲間を増やすために一生懸命知恵を絞っている。四匹寄れば文殊の知恵だね!全ては八幡の為!

 

「よし、閃いたぞ。海豹(あざらし)はどうじゃ」

 

「海豹ねぇ……。哺乳類だし地上で死ぬ事は無いし、サイズも家に収まる大きさ……。完璧じゃない!海豹を狙っていきましょ!」

 

「脇に挟める大きさだと尚良じゃな。持ち運びが便利じゃ」

 

「了解でごんす」

 

「明日…っ言うか今日だけど、起きたら皆で探しに行くわよ!……あ、亀さんは留守番よろしく」

 

「亀さんが仲間に入りたそうに見つめておるぞ!」

 

「だが断る!」

 

「ぐすん」

 

 そうして、夜は更けていった。




毎度遅くなりすいませんm(_ _)m

はるのん書くの結構難しいですね…。他の作者さんの文章力が如何に凄いかよく分かった今日この頃です。

ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

まだ知らぬ、猫

 さぁやってきました九十九里浜!あの後なんだかんだ盛り上がってしまって結局寝ずに探しに来ちゃったZE☆因みに八幡は既に寝ていたから置いてきちゃったけど大丈夫だよね?亀さんいるし。

 

「そんな訳で、海豹(あざらし)探しにれっつらごー!」

 

「誰に説明してるんや…」

 

 時刻は夜が明ける前の午前三時頃。まだ辺りは暗くてあまり見えないけど海豹もきっと油断しているだろうから今がチャンスだと思うの。……誘拐じゃないわよ?勧誘だからねっ!

 

×  ×  ×

 

 海豹を探して三千里……も歩きはしないでごんすが捜索を始めてから大体二時間くらい経ったでごんす。手分けして探そうということになり、浜の北三分の一が担当な訳でごんす。鼠にはちと労働が過ぎると抗議したもののあっさり却下されたので悲しみに暮れているでごんす。……ごんすごんす煩いって?すまないでごんす。

 

「ねぇ、そこの鼠さん」

 

「……Who are you?」

 

「ご、ごめんです。英語わからないです」

 

 そう言うが早く、逃げられた。何か悪いことしたかなぁ……でごんす。

 

×  ×  ×

 

 __此方九十九里浜中央担当カマクラですどうぞ。

 __此方太平洋日本近海担当ナマハゲですどうぞ。

 

「ファッ?!」

 

 ____間違えました、イルカですどうぞ。

 

「どう間違えたらそうなるねん」

 

 一瞬リアルにナマハゲが海から出てきた時は自分の目を疑ったがどうやら見間違いらしい。

 

「あ、それこうやって水を噴射してナマハゲの像を作ってるんだよ」

 

「器用やなおい」

 

 イルカはテレパシーが使えると聞いた事はあったがこれ程だとは思ってへんかった。

 

「そういえばカマクラさんは何でこんな所に?まさか海水浴しに来た訳じゃないですよね?」

 

「ちゃうちゃう。海豹探しに来てるんや」

 

「海豹、ですか……」

 

 むむむ、と唸って考え込むイルカさん。考える仕草にドキッとしたのは気のせいに違いないと思っておく。

 

「海豹さんたちは大体朝の七時頃に房総半島の南の方に来る予定らしいですよ」

 

「情報ありがとうやで。ほなまたな」

 

「頑張ってくださいねー」

 

×  ×  ×

 

 空から探索するのって楽なのよねぇ。下を眺めているだけで仕事が終わるんだもの。これ以上に楽なものはないわね。そんな風に考えていたからバチが当たったのか、上から何かが降ってきて頭にクリーンヒットした。

 

「ぐえっ」

 

 そのまま制御不能状態に陥り、浜に墜落してしまった。(くちばし)から地面に突き刺さったものだから頭がすっぽりと埋まって視界は暗闇の中。ちょっと新鮮でいいかも…?

 

「ああ、すまんすまん。怪我はないかい?驚かせちまって悪いね」

 

 そういう声と共に視界が開ける。何事?と振り返ると其処には錦蛇が。

 

「ピギャッ?!」

 

 夜に見る蛇の眼光の鋭さと言ったらとんでもなかった。思わず飛び上がってしまった。ガクブルものだしなんなら夢に出てきそうで怖い。

 

「ありゃ?怖がらせちまったかな。確かに目付きが悪いとはよく言われるが、そう露骨に反応されるとこっちも辛いんだぜ?」

 

「あっ、はい、すいません」

 

「そこまで畏まらなくてもいいんだがなぁ……」

 

 なんかもう雰囲気が明らかにボス感半端ないんですけどぉ!私只の母鷲だし、こんなプレッシャー感じた事ないし、でもなんか紳士的でかっこいいし、どうしようあばばばば……。

 

「……?おーい、鷲さんよ。おーい。……駄目だこりゃ。意識が飛んでってやがる」

 

×  ×  ×

 

 場面戻りまして鼠サイドでごんす。どうもさっき取り逃がしたのが海豹な気がして堪らなくなってきたでごんす。今更感が半端ないでごんすし、相手の姿すら把握できていない時点で役割が果たせていないでごんす。

 海豹にしては逃げ足が早かった様な気もするでごんすが気にしてる暇はないでごんす。さぁ、捜索開始でごんす!

 

×  ×  ×

 

「あのイルカさん可愛かったなぁ……」

 

 お茶目で活発で可愛くて。これが恋と言うものなんやろか。海豹の捜索なんて止めてしまってずっとイルカさんと話してたいけど、ああ言った手前やっぱり止めましたなんて言おうものならわいの名が廃る。せやからさっさと海豹見つけてイルカさんにアタックするんや!ほんであわよくば連れ帰るんや!

 なんて事を脳内で無限ループする事一時間。ふっとわいに細長い影が差した。

 

「ん?なんや?」

 

「おっ、其処の猫さんや、この鷲さんの連れかい?」

 

「へあっ?!蛇やて?!」

 

「驚かせてすまんな、俺は錦蛇だ。少し訳あって鷲さんと衝突事故を起こしてな…。未だに鷲さんが伸びているので起こしてやって欲しいんだ」

 

「なんやようわからんけど起こしたらええんやろ?任しとき!」

 

 地面に横たわっている鷲さんの耳に向かって小声で呟く。

 

「いつまで伸びとるんや。準備でけへんで?」

 

キュピーン!

 

 そんな効果音と共に鷲さんが立ち上がる。その勢いのまま飛び上がってきりもみ三回転した後、わいの肩に着地した。どこでそんな技習得したんや……かっこいいやんけ!

 

「さっきはすまんな。別の鳥に咥えられてた所を飛行中に落とされたんでね。悪気は無いんだ」

 

「ああ、いえ、私の頭上不注意ですので……」

 

「寧ろ地面に落ちるまでにワンクッション入って助かったから、お礼しなければ失礼にあたるな。感謝する」

 

「イケメン……」

 

 鷲さんがボソっと呟いたのが聞こえた。……わいの肩の上でイヤンイヤンするのは止めてくれんか?

 

×  ×  ×

 

 見つけた、でごんす!あの真丸(まんまる)いフォルムで灰色をした身体を持っているのは海豹しか居ない筈でごんす。捜索開始から三十分と、思ったより早く見つかって良かったでごんす。

 

「Excu……すいませーん、でごんす」

 

「何です?」

 

 一瞬、英語が喉から出かけたでごんすが、何とか踏み留まって日本語で話しかける事が出来たでごんす。お陰で逃げ出されずに済んだでごんす。

 振り返って返事をした動物は、ずんぐりとした図体でいでくりんとした目は可愛らしい、ずばり海豹でごんす。しかし、返事の辿々しさを見るにまだ子どもの海豹だと推測できる。……幼児誘拐の罪に問われたりしないでごんすよね?因みに性別は雄らしいので最悪の称号は免れたでごんす。

 しかし、勧誘すると言っても相手からしたら此方は只の不審者でごんす。ある程度相手の警戒度を下げてからじゃないと話にならないでごんすから、ここは友達作戦で行くでごんす。

 

「さっきはすまなかったでごんす。ちゃんと日本語を喋れるでごんすから、少しお喋りしないかでごんす」

 

「おーけーです。お喋りするです!」

 

 掴みはバッチリでごんす。さぁ、これからが勝負でごんす……!

 

×  ×  ×

 

 鷲さんが()ちてから暫くした後。何だかんだ仲良くなり共に行動することになった。時刻は未だに五時頃で、海豹がやってくるまでにまだ二時間程ある。なので四匹で駄弁りながら南の方角に進んでいる所や。

 

「なぁ、鷲さんや。わいの肩から降りて欲しいんやが……」

 

「いつもは捕まえて運ぶ側なんだから偶にはいいじゃない!」

 

「そう言われると言い返せへんな……」

 

「仲良いですね!ちょっと羨ましいです!」

 

「だなぁ。俺はそういった仲間がいた事ないからな…」

 

 二匹とも仲間に入りたそうに此方を見ている……!

 仲間にしますか?

 はい◀ いいえ

 

 一瞬、そんなコマンドが見えた気がした。

 

「あ、それじゃあ二匹ともうちのグループに入らない?」

 

「グループ、ですか?」

 

「他にどんな奴が居るんだ?」

 

「ここに居る鷲さんとわいは勿論として、今日も一緒に来ている小太りの鼠、家でお留守番の長老の亀さん、そして我らが大将、猫の八幡や」

 

「因みに八幡は人間から猫になった珍しい子だよ!」

 

「へぇ…!そんな事起こり得るんですね」

 

 どうやらイルカさんは興味があるらしく、此方をちらちら見ている。かわええな、こいつ!

 因みに蛇さんと仲良くなった後になんとなく「イルカさんも来てくれた嬉しいんやけどなぁ」と呟いたら、次の瞬間にはイルカさんが来ていた。……どういった方法でテレポートしてきたんやろか。

 

「よっしゃ、俺は乗った。こんな面白そうなグループ、他には無さそうだからな」

 

「わ、私も入りたいです!いいですかね…?」

 

「勿論や。けど一個問題があってな…、うちのグループの拠点が八幡の家なんや。要するにイルカさんが泳げるスペースがないんよ」

 

「そうでしたか…」

 

 そう言うとイルカさんは目に見えて落ち込んだ。わいは慌てて言葉を繋ぐ。

 

「けど策がない訳でもあらへん」

 

「あるんですか?!」

 

 おおう、食いつきが凄いな。その策を伝えた後に月光によって伸びてきた影の持ち主に目を向ける。相手は驚いたような顔をしてたけど了解、と口パクでわいに伝えてから何処かへと消え去った。

 

×  ×  ×

 

「悠久の時を経て現れし我が眷属、此処に参られん!です!」

 

 この海豹、どうやら中二病を患っているらしいでごんす。しかし、言葉の端々に見受けられる丁寧語が外見の愛くるしさと相まって、総合的に “可愛い” に落ち着いているでごんす。

 ……難しい言葉わからないでごんすよぉ!誰か!誰か翻訳 please!

 

「突然の乱入痛み入る。其方の援軍はどの刻に参られようか」

 

 何かいきなりコートを羽織って指抜きグローブを嵌めた暑苦しい人間がやってきたでごんすー!しかも会話通じてるぅ!

 

「未の刻なり。です!」

 

「刻限まで二時間と言った所か。して、そこの鼠は何者なのだ?」

 

「我が好敵手なり!です!」

 

 素直に友達って言えよぉ!でごんすぅ!

 

「これはしたり。八幡の手下か……。うむ、我も其方達の手助けをしてやろう」

 

「協力感謝する、です!」

 

 二人のキャラが濃すぎて全然目立たないでごんす…。な、ならば僕も中二病になるでごんす!

 

「わ、我も感謝する!」

 

「下手だな」「下手、です!」

 

 真顔で返答されたでごんす。しかも綺麗にハモって。くそぅ、今に見てろー、でごんす!

 

×  ×  ×

 

「ふぁぁ、よく寝た……」

 

 どうやら色々考えている間に寝落ちしてしまったらしい。時計の短針はもう直ぐ七を指そうかという時間だ。しかし、今日はやけに静かだな。あいつら起きてないのか?

 そんな疑念を抱きながら一階に降りると既視感を覚えた。大体二週間振りかな?

 

「おはよう、比企谷。今日は私を癒してくれたまえ。因みに小町君は出掛けていったよ」

 

 おのれ小町、帰ってきたらずっと頭の上に乗っかってやる。




 一ヶ月半も遅くなり大変申し訳ございませんでした。こいついつも謝ってんな……。失踪した訳ではないのであしからず。

 では、また次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密の、猫

 夏の日差しがアスファルトを焦がし、俺に跳ね返ってくる。地面と距離が近いから今までよりも暑く感じる。現在、近くの駐車場に停めたらしい平塚先生のスポーツカーに向かっている途中である。

 

「こうも暑いと無性にラーメンが食べたくなるな。そうは思わんかね、比企谷」

 

「それには同意しますが、猫にラーメンはどうかと思いますよ」

 

「……そうか。折角久し振りに比企谷とラーメン食いに行けると思ったんだけどな」

 

 そう目に見えて落ち込まれると罪悪感が芽生えてくるから困る。……ラーメン食いたくなってきたなぁ。

 なんて事を考えていると向かいから一段と冷えた空間を纏って雪ノ下がやってきた。手には何やら大きな荷物が握られている。何処かにお泊まり会でもするのかしらん?

 

「……あら、誰かと思ったら平塚先生とヒキ、ヒキ…ヒキガエルくんじゃない」

 

「おい、ナチュラルに生物間違えるな。俺は猫だぞ」

 

「そうだっかしら?存在を認知されただけ良いのではなくて?」

 

「そうだな…、まだマシだったわ」

 

「相変わらず仲が良いのは良いことだな」

 

「「別に仲なんて良くないですよ」」

 

 見事にハモった。それを聞いた平塚先生はうんうんと頷いていた。や、ほんと、仲良くないですからね?

 

「で、どうしたんだ?その荷物」

 

 刹那、雪ノ下と平塚先生がアイコンタクトをした、ように見えた。なんだ?何を企んでいる?

 

「少し由比ヶ浜さんとお泊まり会するのよ。あまり乙女の事情につっこまないでくれるかしら?」

 

 こいつ自分で乙女とか言いやがった…。まぁ今に始まったことじゃないが、その溢れ出る自信はどこからきているんだ。少しくらい俺にも分けて欲しいものだ。

 

「へいへい、俺が悪ぅございました」

 

「ん?あれは川崎ではないか?」

 

 平塚先生が数メートル先の青みがかったポニーテールを見て言う。向こうも気付いたのかこちらに向かってくる。……やべっ、このまま地面に立ってたらスカートの中を見る気ね?と変態扱いされるから退避しなければ。急いで平塚先生の肩に駆け上った。因みに平塚先生も雪ノ下も長ズボンだ。

 

「こんにちは」

 

 雪ノ下が珍しく笑顔で川崎に挨拶をしている。ここだけ見ると可愛いんだがなぁ。……と、これ以上考えるのは危険だ。雪ノ下ルートが開拓されてしまう。

 

「久しぶりだね、……ん?そこの猫は何か見覚えがあるような…。へくちっ」

 

「これは誠に遺憾なのだけれども比企谷くんよ。……そういえば貴女猫アレルギーだったわね」

 

「おい、遺憾ってなんだ」

 

「あら?そんなことも知らないの?思い通りでなく残念なことよ」

 

「そう言う意味じゃねぇ、何故俺に遺憾を使った……いやいい、何となく察したから言わないでくれ」

 

「貴方が猫であることが遺憾なのよ」

 

 わざわざ言う事ないだろ……。八幡のガラスのメンタルにヒビが入ったので責任取ってくださいね?…はっ、もしかしてハートブレイクした後に優しくする事で俺を堕とす気ですねっ!?でもそんな事で堕ちるほど俺は落ちぶれていないんです。だからもっと技術を磨いてから出直してきてください、ごめんなさい。

 

「あんたなんかキモいね」

 

 現実逃避に一色の思考回路をしてしまったのが表情に出てしまっていたのか追撃を喰らってしまった。やめて!八幡のライフはもうゼロよ!

 

「まぁ、そういじめてやるな。彼もなかなか癒しに丁度いいのだよ」

 

「…そうね、同意するわ」

 

「……わ、私も」

 

 何故か急にサキサキが顔を赤くしてモジモジし始めた。お花を摘みに行きたくなったのかな?

 

「クソッ、爆発すれば良いのに」

 

 …平塚先生?そんな物騒な事言わないでください。通行人が不審者を見る目で俺たちを見てるから。

 

「そうね…、いい方法があるわ」

 

「ホ、ホントか?助かる」

 

「えぇ、とても簡単よ。方法はただ一つ、比企谷菌に罹ることよ」

 

「な、なるほど……?」

 

 何故か俺の預かり知らぬところで勝手に話が進められて勝手に俺が罵倒されたんだが…。解せぬ。

 

「比企谷くんに触って腐った目をじっと見つめることで簡単に感染できるわよ」

 

「…う、うん。やってみる…」

 

 そう言ってサキサキがこちらに向かってくる。軽く黒歴史を思い出しかけたが鋼のメンタルで過去を跳ね返す。さっきと言ってることが逆だって?今に弱いんだよ、俺は。

 

さわさわ…さわさわ…

じーーーー

 

 真面目に撫でられて見つめられると心地良いよりも緊張感が勝ってしまう。…というか猫アレルギーどうした、仕事してないぞ。いや、しないほうが良いんだけど。

 

「……びっくりした、ホントに比企谷菌ってあるんだね。猫アレルギーも反応しなくなったよ」

 

「えぇ、すごいでしょう?」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 …何とも複雑な気分である。俺のメンタルを代償に猫アレルギーが治ったと考えれば問題ない…のか?

 

「ふむ、そんな効力があったとはな。どれ、私もやってみるか」

 

「やめてください、先生まで俺を菌扱いするんですか」

 

「……ふっ、比企谷。菌にも良い効果を齎す菌があるのを知らないのか?」

 

「せ、先生…」

 

 不覚にもうるっときてしまった。かっけぇ、かっけぇよ、先生!俺が先生を貰っちゃう未来が見えた気がする。

 

「では私はこれで。川崎さんも一緒にどう?」

 

「……折角だしいくよ」

 

 どこか嬉しそうなサキサキを連れた雪ノ下と別れる。いつサキサキを仲間に加えたのん?めっちゃ従順なんだけど。

 

「……さて、邪魔者も居なくなった訳だし私の家でたっぷりと癒してもらおうかな」

 

 やだ、なんか怖い。

 

×  ×  ×

 

 雪ノ下達と別れてから実に十五時間半。その間愚痴やら結婚相談やら車の自慢やら、それはもうすごい情報量だった。その甲斐あって、ツヤツヤという擬態語が適切な程の平塚先生に対し、俺はげっそりである。

 

「今日は助かったよ、比企谷。お礼と言ってはなんだがキャットフードをやろう」

 

「ホント疲れましたよ……。俺が寝てる時もずっと喋ってたみたいですし…。あ、ありがとうございます」

 

 正直言うと半分以上寝てたのだが特に問題はなかったらしい。寝ている間撫でられていたような気もするが気持ち良かったので問題ない。存在するだけで癒しになるとか俺は神だったのかッ…!?はい、すいません、深夜テンションなだけです。なんてったって今は二十三時三十分だからな!

 

「さて、では君の家まで送っていくとしよう」

 

「どうも」

 

 片道十分かそこらで着くものを何故か三十分近くかけて送られた。先生曰く人生寄り道だって必要なんだぞ、らしい。八幡ちょっと意味わかんない。お陰で家に着いたのが日付が変わる直前だった。

 

「……なんで先生まで車降りてんすか」

 

「なに、生徒を見届けるまでが教師の役目だからな。ほら、さっさと入りたまえ」

 

 教師も大変だな、と小学生並みの感想を抱きつつ我が家のドアを開ける。

 

「たでーま」

 

 当然、返事もなく真っ暗なままだ。……ん?誰かいるのか?

 

 

 

 

 

カチッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、お兄ちゃん!誕生日おめでとう!」

「ヒッキー、おめでとう!」

「比企谷くん、おめでとう」

「せんぱ〜い!おめでとうございます!」

「ハーッハッハッ八幡、……爆発すれば良いのに」

「…もう、材木座くん素直じゃないなぁ。八幡、おめでとう!」

「はーちゃんおめでと!さーちゃんも喜んでるよ!」

「ちょっ!ひ、比企谷おめでとう」

「おめでとう、比企谷。またうちの猫を連れてくるよ」

「八幡、おめでとうやで!」

「おめでとー、八幡!また空中散歩連れてくわねっ」

「八幡や、おめでとう。また儂にも構っておくれ」

「師匠!おめでとうでごんす」

「初対面だが、八幡殿おめでとう」

「一日中付き合ってくれて有難う、そしておめでとう、比企谷」

 

 短針と長針が重なった瞬間、眩い光と言葉が、クラッカーの如く降り注いだ。一瞬、状況を把握するのが遅れたものの、嬉しさが込み上げてきた。

 

「みんな……、ありがとな」

 

 __そこには確かな、温もりがあった。




お久しぶりです。執筆意欲が戻ってきたので続きを書くことができました。失踪だけは避けたいものです…。

そういえば俺ガイル14巻出ましたね!(遅い
この時期にまだ読んでない方は居ないでしょうが、ネタバレは避けますが…。
読んだ方なら分かる通り、14巻からこの二次小説には人間関係的に繋がらないので、これはパラレルワールドとして認識しておいてください。

ではまた次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

present for 、猫

 プレゼントが飛び交ったり芸が披露されたりと、賑やかだった夜が更け、日が地平線から顔を出している。周りを見渡すと宴会後の様な散乱具合なものの、みんな幸せそうに寝ている。結局、あそこに居た大多数がうちに泊まっていった。帰ったのは妹が心配だからと言ったサキサキと居心地が悪いから帰る!と言った中二、猫の世話があるからねと言った葉山の三人である。

 

「ふぁぁ、……二度寝しよ」

 

 起床からの二度寝は至福の時間である。なんなら一日中惰眠を貪っていたい。毛布最高!

 そんな事を考えているうちに微睡みに落ちていった。

 

×  ×  ×

 

 次に目を覚ました頃にはリビングは綺麗に片付けられた後だった。どうも雪ノ下がやってくれたらしい。嫁度高いよなぁと思いながらノビをする。…いっそ俺を養ってくれないだろうか。

 

「ひゃっはろー」

 

 鶴の一声でみんな起きた。もしかしてはるのんの声って目覚ましの効果があるのん?というか鍵閉めたはずの玄関から入らないでくださいよ…。なにこれデジャヴ。

 

「おはようございます〜、陽乃さん」

 

 そう言って出迎えたのは小町である。うん、寝ぼけてるところとか最高に可愛いぞ。飛び掛かってすりすりしたい衝動に駆られるが、残り少ない理性でなんとか自我を制御する。

 

「んー?なんだ寝坊助さんかー、可愛いなこのっ。うりうり」

 

「んにゃー」

 

 今のは小町の声だ。決して俺は鳴いていない。くっそ、朝からゆるゆりしやがって。小町は嫁に出さんぞ!……雪ノ下家は百合属性でもあるのん?

 

「で、陽乃さん、なんの用事ですか?」

 

「そうそう、今日はちゃんと用事があって来たんだよ?まぁ先ずはお誕生日おめでとう、だね」

 

 …正直、陽乃さんが俺の誕生日を知っているとは思っていなかったので呆気にとられてしまった。その一瞬の隙を陽乃さんが逃さない訳も無く……

 

「お?お?もしかして私に惚れちゃった?でも出来れば雪乃ちゃんとくっついて欲しいかな〜?」

 

 谷間でうりうりされていた。……何処とは言わんぞ、うん。此処は人の視線が多いので、下手に暴れると変態谷くんと不名誉な渾名が付けられてしまう。だから俺はすぐさま飛び降りるッ……!

 

「私がそんな簡単に逃すと思ったら大間違いだよん♪」

 

 ですよねー。

 

「で、姉さんは何をしに来たのかしら?まさか祝いの言葉を告げに来ただけではないでしょう?」

 

「ふっふっふっ…、聞いて驚くなかれ、柄にもなくプレゼントを用意しちゃいました!持ってくることが出来ないやつだからみんな着いておいで!」

 

 脱線していた話をちゃんと本線に着地させるゆきのん最高。…しかし陽乃さんからのプレゼントとか不安要素しか無いんだよなぁ。

 寝坊助さん達を引き連れて大きなバンに乗り込む。総勢七人と六匹である。因みに乗り込む際にラブリーマイエンジェル小町の膝上に退避した。隣席では鷲さんがカマクラを突っついて遊んでいるいつもの光景が見ることができる。平和っていいね!

 

×  ×  ×

 

「着いたよ!」

 

 出発しておよそ一時間半程経っただろうか。一体何処に連れられて行くんだろう、と不安だったがどうやら海岸のようだ。ドナドナされる仔牛の気持ちが少しだけ分かった気がする。

 

「ここって九十九里浜だよね…。どんなプレゼントなんだろ?」

 

 ラブリーマイエンジェル戸塚が可愛く首を傾げながらうんうん唸っている。可愛すぎて昇天しちゃうレベル。ずっと戸塚のそばに居たいでござる。

 

「ではでは、私からのプレゼントはこれでーす!」

 

 じゃーんと言わんばかりに手を広げて見せる陽乃さん。その先には__ロッジがあった。……裏がありまくりな気がしてならないから受け取り拒否しようかな。

 雪ノ下のみ怪訝な顔をしているが、他は皆歓声を上げている。流石、有名人が持ってそうな別荘感なだけある。

 

「実はこの家、海と繋がってるプールがあるんだよ!ね、カマクラちゃん♪」

 

「せやなぁ。そのためだけに建てたようなもんやからなぁ」

 

 なんやて工藤。せやかて工藤。色々と疑問が多すぎて服部君になってしまった。ニンニン。

 

×  ×  ×

 

 結論から言うと裏はなかった。寧ろ超優良物件だった。しかもたった半日で造り上げたとかなんとか。雪ノ下建設まじパネェ。

 今はロッジの集会スペースにみんなで集まっている。小町、由比ヶ浜、雪ノ下、一色、戸塚、陽乃さん、平塚先生、鷲、亀さん、鼠、錦蛇、カマクラ、海豹、イルカに俺である。

 

「実はイルカちゃんも八幡ファミリーに入りたい言うててな、陽乃さんに頼んで建ててもろたんや」

 

「さっきから気になってたんだけどお前ら意思疎通できたの?初耳なんだけど」

 

「というわけで新規メンバーのイルカちゃんや!」

 

 無視ですかそうですか…。

 

「此方太平洋日本近海担当のイルカです!よろしくお願いします!」

 

 海と繋がっているプールから顔を出し、潮でイルカの絵を作り出している。器用過ぎて八幡お口あんぐり!アホクインテットはキャイキャイはしゃいで楽しそうである。因みに面子は小町とガハマと一色と鷲と鼠だ。

 

「お、おぉ…、よろしくな」

 

 リア充並の勢いだったので少し(ども)ってしまった。猫からオットセイに退化したまである。……退化しちゃったよ。

 

「これで設備も整ってきたし動物園の夢も叶いそうだね♪」

 

 いや、まぁそうなんだが、誕生日プレゼントにしては規模が大き過ぎて今後の俺が心配になってくる。

 

「先程から思っていたのだけれど……。姉さん、熱でもあるの?その男に騙されたりしてないわよね」

 

「雪乃ちゃん酷いよぉ…。もしかして嫉妬しちゃった?」

 

「っな!そ、そんなことある訳ないでしょう!」

 

 そこまで全否定されると傷つくんだが…。まぁ聞きたいことを聞いてくれたので手間が省けて良かった。ナイスだ雪ノ下。

 

「でもそうだねぇ、どうせ比企谷くんは施しはウンタラカンタラ〜って言いそうだからあげる条件だけつけとくよ」

 

 そこで一旦切って5秒程度の間を置く陽乃さん。このあとどんな要求をされるのかドキドキしてきたゾ。因みに5秒以上間を開けると空気がダレるから気をつけようね!これ豆知識な。

 

「動物園できたら真っ先に呼んでね♪お姉さんとの約束だぞ♪」

 

「え、そんなことでいいんすか。てか動物園開くと決まったわけでも無……

 

「比企谷くんなら成し遂げるって信じてるからね。ね、いいでしょ?」

 

「あ、はい」

 

 有無を言わせぬ圧で思わず頷いてしまった。心臓に悪いので変な所で魔王の片鱗を見せないでください。あ、エスパーさんは笑顔で此方を睨まないでください。帰って、どうぞ。

 

「じゃ、私は帰るね。みんな戻るならついてきてねん♪」

 

 俺の思いが通じたらしく、内心ほっとする。残りの人々も一緒に帰る様でバンに向かっていく。

 

「ヒッキーは帰らないの?」

 

「あぁ、ちょっとな。鷲タクシーあるし大丈夫だ」

 

 鷲が後ろで喚いている気がするが問題ない。

 

「じゃ、またね、比企谷くん♪」

 

 バンの運転席の窓を下ろして此方に話しかけてくる。……少しこの人の事を勘違いしていたかもしれない。

 

「……ありがとうございました」

 

 少し驚いた顔をしてから微笑んで、バンは走り去って行った。……なんかめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?あの微笑みは反則やでぇ…。

 

「爺さんや、あれはなんだい?」

 

「あれは捻デレというやつじゃよ」

 

 ……解説入れなくていいんだよ?




お久しぶりです。
ガハマちゃんの誕生日という事で止まっていた話を更新しました。まぁガハマちゃんの出番ほぼ無かったんけど……(´・ω・`)

ではまた次回に。

最後にガハマちゃん誕生日おめでとう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。