M14EBR-RIの日誌 (MGFFM)
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序章
アサルト部隊・スパイトフル部隊・クレセント社に所属するキャラの紹介


キャラ紹介が欲しいとのご要望があったので書いてみました。キャラが増えたりしたらその都度書き足して行きます。



ライアン&モリス(略 L&M)社

 

・名称:試作戦術人形M14EBR-RI/エマ

・性別:女性

・コードネーム:コメット

・メインウェポン:M14EBR-RI

・サブウェポン:P320(45口径モデルのフルサイズ)

 

・簡単な説明:最近アサルト部隊に配属になった戦術人形。M14EBR を使う戦術人形としてM14のボディーを元に開発中だったが試作型が出来た時点で廃棄されていた。なので外観はM14と酷似しており、素人が見れば違いは分からない。1番の違いは髪型で、M14がツインテールにしているのに対してエマの方は結んだりはせずにロングである。仲間の足を引っ張らないようにといつも気にかけており、不慣れな戦闘も頑張っている。バラライカに代わりにアサルト部隊のマークスマンの役割を担うことになっているが近距離戦も得意で、オールラウンダーに戦うことが出来る。色々と無茶をすることが多く、負傷することも多い。軍事に関する知識を大量に持っており、ネルソン達にドヤ顔で教えたりすることもある。

 

 

・名称:戦術人形XM8/エレナ

・性別:女性

・コードネーム:アース

・メインウェポン:XM8

・サブウェポン:HK45

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属する戦術人形。元々は別のPMCに所属していたのだがそのPMCが鉄血の攻撃で壊滅し、瀕死のところをネルソン達に救われた。その後アサルト部隊に所属することになり今に至る。エマのことをいつも気にかけており、喋れない彼女の代わりに喋ってあげたりしている。エマのことは目の離せない妹のように思っている。速射が得意で、相手が複数でも即座に撃ち殺す。マークスマンとしても立ち回れるが、狙撃の腕はバラライカに負ける。

 

 

・名称:マーコム・ネルソン

・性別:男性

・コードネーム:ジュピター

・メインウェポン:M27 IAR

・サブウェポン:ベレッタ 92FS

 

・簡単なの説明:アサルト部隊の隊長を務める(イケメン)アメリカ人。性格は基本冷静で真面目。しかし想定外の事が起きるとテンパってしまう時もある。アサルト部隊の中では最古参で、よく仲間からは特徴の無い隊長と言われているが、射撃の腕が良く人形が相手でもコアや頭をなどの弱点を的確に狙って撃ち殺す。仲間思いで皆のことをいつも気にかけている。

 

 

・名称:パイク・サイモン

・性別:男性

・コードネーム:アーキュリー

・メインウェポン:MG3E

・サブウェポン:M586(4インチモデル)

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属する筋肉マッチョなアフリカ系アメリカ人。ネルソンと同じタイミングでL&M社に入社したアサルト部隊の最古参。能天気で自由気ままな男。馬鹿な発言をよくする。部隊のムードメーカー的な存在でもある。大火力または見た目がゴツイ銃火器を好み、彼の持っている銃はショットガンや機関銃ばかり。派手なことが大好きで、オットーと協力して敵施設を大爆発させたりなど、とんでもないことをしでかすこともしばしば。大の酒好きでもあり、よくアリーナや他の酒好きの人達と酒を飲んでいる。

 

 

・名称:戦術人形AK-47/アリーナ

・性別:女性

・コードネーム:チャイカ

・メインウェポン:AK-47

・サブウェポン:MP-433 グラッチ

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属する戦術人形で、アサルト部隊の副隊長を務める。まだアサルト部隊が人間だけの部隊だった時にウチにも戦術人形を導入しようと言う話になり、ネルソンとサイモンが金を出し合って購入した。

L&M社に所属する人形の中では最古参。大雑把な性格で、そのせいで彼女の部屋はゴミの山となっている。しかし任務時は勇猛果敢な頼れる副隊長になる。

普段はスポーツブラとホットパンツだけと言う超ラフな格好で過ごしており、彼女のグラマスな体型と合わさり破壊力は抜群。L&M社の男どもの目線を釘付けにしている。彼女もそれは理解しており、ワザと意味深な発言やポーズを取って男どもを弄んだりしている(ビッチと言う訳では無い・・・と思う)。

サイモンと同じく酒好きで、朝だろうが昼だろうが飲みまくる。ヘビースモーカーでもあり、作戦行動中以外ではいつも吸っている。愛用しているタバコの銘柄はジタン。

戦闘時は銃剣突撃をする傾向にあり、CQBを得意とする。

 

 

・名称:ソン・ハオレン

・性別:男性

・コードネーム:マーズ

・メインウェポン:Cz805A-1

・サブウェポン:QSZ-92-9

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属する中国人男性。クールな性格で、冷静沈着。アサルト部隊に所属する男性の中で1番背が低くよくそのことをネタにされてイジられている。戦闘力はとても高く、近接格闘では誰にも負けない。博学で、色んなことを知っている。様々な乗り物の運転ができ、飛行機の操縦も出来る。

 

 

・名称:オットー・マルクス・ハン。

・性別:男性

・コードネーム:プルートー

・メインウェポン:MCX SBR

・サブウェポン:P229(9ミリモデル)

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属するドイツ出身の爆破魔。爆破のエキスパートであり、彼の爆破テクは一種の芸術とも言える。任務時は常にサムテックスやTNT 、C4などの爆薬を持ち歩いている。銃で殺した数よりも爆薬で殺した数の方が多いと言われているが、正確に数えたことはないので本当のところは分からない。

 

 

・名称:スズキ・ユウヤ

・性別:男性

・コードネーム:ユーラナス

・メインウェポン:Type89(89式小銃)

・サブウェポン:Cz75 SP-01

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属する日本人男性で、ハルカの兄。日本のアニメやゲームなどをこよなく愛するオタク。普段は自分の部屋などでゲームばかりしているので基地内で彼に出会うことはごく稀。そこまで戦闘能力が高いと言う訳では無いが、ハルカとのチームワークの良さはネルソンも舌を巻くほどである。

 

 

・名称:スズキ・ハルカ

・性別:女性

・コードネーム:ヴァーナス

・メインウェポン:M16A4

・サブウェポン:P99 DAO

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属する日本人女性。ユウヤの妹。黒髪ロングの美少女で、街を歩いていたらナンパされることもあるとか。真面目で教科書通りの戦い方をする。兄のユウヤに対して兄以上の感情を持っており、任務時以外ではいつでもべったりである。医療に関する知識があり、人形の応急処置も出来る。アサルト部隊の衛生兵として重要な役目を負っている。

 

 

・名称:アンナ・アンドレーエヴィチ・エリツィナ

・性別:女性

・コードネーム:サターン

・メインウェポン:AK-108

・サブウェポン:P2000

 

・簡単な説明:アサルト部隊に所属するクールビューティなロシア人女性。無口無表情で、感情の変化が乏しい。戦闘能力は高くCQB、特に室内戦が得意。隠密行動や暗殺も得意で、スペツナズに所属していたのでは?と言う噂があるが真相は不明である。敵には容赦が無く、一片の慈悲も容赦もなく殺す。基地に居る時は自分の部屋で読書か訓練をしていることが多い。

 

 

・名称:戦術人形Kord6P57/バラライカ

・性別:女性

・コードネーム:ネプチューン

・メインウェポン:Kord6P57

・サブウェポン:GSh-18

 

簡単な説明:アサルト部隊に所属する戦術人形。L&M社に所属する戦術人形の中の古参組の1人。真面目ながら剛気な性格でさばさばしている。初期の頃のアサルト部隊ではE.L.I.Dなどを相手にするには火力不足気味だったので火力のある戦術人形を買おうと言う事になり購入した。アリーナの後にアサルト部隊にやって来た戦術人形である。射撃の腕が良く狙撃を得意とする。エマが来るまではバラライカがマークスマンの役割を担っていた(12.7ミリ弾を撃つマークスマンって色々とおかしい気がするが気にしない)。車の運転も上手く、カーチェイスで彼女の右に出るも者は居ない。

 

 

・名称:戦術人形HK433/ルナ

・性別:女性

・コードネーム:エウロパ

・メインウェポン:HK433

・サブウェポン:グロッグ34

 

・簡単な説明:テロ組織、エイレーネーに所属していた戦術人形。エイレーネーによって違法改造が施されており、オリジナルの物よりも高い戦闘能力を有する。戦闘力では違いなくL&M社の中で1番。アンナよりも無口無表情で何を考えているのか全く分からない。必要最低限のこと以外喋らないので彼女の声を聞いたことの無い人も多い。命令にとても忠実で命令を遂行する為ならばどんな手でも使う。目と耳が良く索敵などに大変役立っている。彼女の特徴の1つである獣耳は普段はフードで隠している。

 

・名称:戦術人形K2/カイラ

・性別:女性

・コードネーム:カリスト

・メインウェポン:K2

・サブウェポン: CZ75 SP-01 Phantom

 

・簡単な説明:臨時特別機械化歩兵部隊「スパイトフル」設立に伴いL&M社に配属された戦術人形。人形も人間も関係なく世話好きな性格で特にミアやニーナを実の妹の様に可愛がって世話を焼いている。辛い物が大好物で辛い食べ物には目がない。フルオート射撃でのリコイル制御が上手く25メートル先の的にほぼ全弾フルオートで命中させることが出来る程。また、可愛らしい見た目と親しみ易い気さくな人柄からL&M社内での人気が高く密かにファンクラブが作られているほどである。

 

 

・名称:戦術人形モスバーグM500/ヘレン

・性別:女性

・コードネーム:オベロン

・メインウェポン:モスバーグM500

・サブウェポン:デザートイーグルMkXIX L5(44マグナム仕様)

 

・簡単な説明:スパイトフルに所属する戦術人形。快活でフランクな性格で部隊のムードメーカーとなっている。とても仲間思いで仲間がピンチになると自分の身を呈してでも守ろうとする。ショットガンを使う戦術人形なので接近戦がとても強く1人で多数を相手に戦うことも出来る。ケモミミのお陰なのか耳がとても良い。運動神経も大変良くパルクール選手も顔負けの動きで建物から建物へ移動することが出来るほど。

 

 

・名称:戦術人形C-MS/ミア

・性別:女性

・コードネーム:セティボス

・メインウェポン:CBJ-MS

・サブウェポン:グロック26

 

・簡単な説明:スパイトフルに所属する戦術人形。隊長であるアリーナにもタメ口で話したり文句を言ったりするなど生意気な性格で、小柄ながら負けん気も強い。L&M社に所属している戦術人形の中で1番身長が低く本人もそのことを気にしている様で身長が低いことをネタにしたりすると怒る。敵を見つけるとフルオートで撃ちまくるトリガーハッピーなのだが彼女の使用する6.5×25mmCBJ弾は比較的高価な弾薬で、それを撃ちまくるせいでじわじわとL&M社を苦しめている。

 

 

・名称:戦術人形79式/ニーナ

・性別:女性

・コードネーム:ニクス

・メインウェポン: 79式冲鋒槍(フルカスタム仕様)

・ノリンコ54-1式手槍(作中ではトカレフと呼称)

 

・簡単な説明:スパイトフルに所属する戦術人形。とても真面目な性格で誰にでも敬語で話す。射撃訓練や近接格闘訓練などで優秀な成績を収める優等生。手先が器用で壊れた無線機の修理やブービートラップの設置、敵のトラップの解除などをそつなくこなす。また、スパイトフル部隊のメディックとしても活躍している。真面目な性格のお陰でネルソンやアリーナなどの先輩達に気に入られている。

 

 

・名称:戦術人形TAC-50/クレア

・コードネーム:カロン

・メインウェポン:TAC-50

・サブウェポン:USW-A1

 

・簡単な説明:スパイトフルに所属する戦術人形。ニーナに似た生真面目な性格。左目は完全な機械の目となっており彼女の持つ楓月(ふうげつ)と言う名の高性能ドローンと視界を共有することができ、これにより高い索敵能力を持っている。しかし彼女自身はこの左目の見た目をコンプレックスに思っているらしく普段は髪で隠している。CQBなどの近距離戦は余り得意では無いが中、長距離の狙撃の腕はL&M社の中でもトップレベル。

 

 

・名称:デズモンド・モリス

・性別:男性

・コードネーム:ブラックビヤード

・メインウェポン:M1911A1

・サブウェポン:M1934

 

・簡単な説明:L&M社の開設者であり経営者。旧世代の兵器をこよなく愛し、会社の経費を使ってそれらの兵器を買ったりしている。この会社を始める前まではイギリス陸軍に所属していた。(階級は上級軍曹)

会社名のライアン&モリスのライアンは社長が軍に所属していた時の親友の名前だがその親友は戦死してしまっている。その後モリスは会社を設立する時に亡き友の名前を会社の名前に入れて現在の会社名になった。

 


 

CRESCENT(クレセント)

 

・名称:戦術人形FNC/チョコ

・性別:女性

・メインウェポン:FNC

・サブウェポン:ブローニングハイパワーDA

 

・簡単な説明:クレセント社の第1戦闘部隊アインスに所属する戦術人形。明るく元気でお菓子(特にチョコ)に目が無い。普段は見た目相応の可愛らしい少女と言った感じだが、一度戦場に出ると百戦錬磨の傭兵となる。隊長のAK-12の教育により接近戦や暗殺を得意とする。エマのことをよく「お姉ちゃん」と呼んでいる。

 

 

・名称:戦術人形M200

・性別:女性

・メインウェポン:M200

・サブウェポン:P226又はH&K MARK23 SOCOM

・簡単な説明:クレセント社の第1戦闘部隊アインスに所属する戦術人形。内気な性格で初対面の人と話したりするのが苦手。しかしそんな性格とは裏腹に狙撃の腕は超一流で1キロ先の標的に弾を当てることも出来る。エマと知り合ってからはよく一緒に遊んだりしている。

 

 

・名称:戦術人形AUG/お嬢

・性別:女性

・メインウェポン:AUG

・サブウェポン:ステアーM40-A1

 

・簡単な説明:クレセント社の第1戦闘部隊アインスに所属する戦術人形。射撃の腕は部隊の中でもトップに入る程良く、狙撃からCQBまでオールマイティに戦うことが出来る。仲間にはとても優しく接するが敵には一切の容赦も無もしない。その戦いぶりクレセント社内では「無慈悲なお嬢様」と呼ばれている。

 

 

・名称:戦術人形K11/マッド

・性別:女性

・メインウェポン:K11

・サブウェポン:QSZ-92-5.8

 

・簡単な説明:クレセント社の第1戦闘部隊アインスに所属する戦術人形。彼女を一言で表すのならマッドサイエンティスト。普段はクレセント社に所属する人形達のメンテナンスや修理を行なったりしている。前線に立って戦うこともあるが出撃回数は少ない。よく勝手に危険な化学薬品などを内蔵した20ミリグレネード弾などの化学兵器を作ったりしている。

 

 

・名称:戦術人形AK-12

・性別:女性

・メインウェポン:AK-12

・サブウェポン:APS拳銃

 

・簡単な説明:クレセント社の第1戦闘部隊アインスに所属しており、この部隊の隊長を務めている戦術人形。いつも目を閉じて微笑んでおり、普段は仲間思いの優しいお姉さんと言った感じ。だが戦闘にとなると無駄な感情を捨てた殺戮マシーンとなる。CQBや近接格闘を得意とし、近接格闘で彼女に勝てる者はクレセント社の中には居ない。

 

・補足: 本家の方の反逆小隊に所属しているAK-12と同じ個体と言う訳では無く、民間は売る為に製造されたモンキーモデルと言う設定。



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第1話 起動!M14EBR-RI

最近ドルフロと言うものを知って見事ハマってしまい勢いで書いた小説です。初心者の書く不定期更新の小説ですがどうぞ見ていってください。



▶︎システム再起動開始

 

再起動中・・・再起動中・・・

 

再起動完了。

 

▶︎自己診断プロトコル開始

 

・・・右脚関節部に破損を確認。破損は軽微、自立歩行可能。発声装置に重大な破損を確認。発声不可能。頭部、腹部、背部、脚部、上肢部に外傷。破損は極軽微。活動に影響無し。・・・・メンタルモデルに異常を感知。

warning ! warning! warning!

 

メンタルモデルモデルに不正アクセスを受けています。未確認プログラムの侵食を確認。再起動プロセス中止、強制シャットダウンを実行・・・強制シャットダウン不可能。

 

エラー エラー エラー エラー エラー エラー エラー エラー エラー エラー エラー エラー エラー

 

試製第2.5世代戦術人形「M14EBR-RI」起動。

 


 

目が覚めまず初めに見えたのは見慣れない鉄骨剥き出しの灰色の天井。明らかに僕の部屋の天井では無い。疑問の思い起き上がる。どうやら僕はジャンクの山の上に寝かされていたようだ。そしてそのジャンクの周りには数え切れない程の人の死体が床に転がっていた。

 

「ーッ!」

 

思わず僕は悲鳴を上げたー筈なんだけど声は出なかった。

 

「ー、ー、ーッ⁉︎」

 

”あーあー”と声をだそうとしたが出なかった。首に手を当てて何度か声をだそうとしたがやはり出ない。え、ちょ、どー言うことだよ⁉︎何で声が出ないんだ⁉︎それにここは何処なんだ!周りには人の死体が沢山あるし!何がどうなってるんだ⁉︎色々な事があり過ぎて軽いパニック状態になった。

 

ふと手元にあった鏡の破片に映る自分を見た僕は目を丸くした。そこに映っていたのは誰もが認める美少女。いや、誰ですかこの少女。金色の目に茶色の長い髪。いや、髪の先の方は赤っぽくなっているな。茶色のセーラー服を着た活発そうな見た目の美少女。ふつーに俺の好みにどストライクなんですけど。街で会っていたら絶対にナンパしてたね!間違いない。

 

とまぁ現実逃避をしようとしたがダメだね。しっかりと現実を受け止めなきゃ。この少女は僕だ。昨日まで僕は普通の貧しい青年だった筈なんだけど目が覚めたら美少女になってました。何を言っているか分からないと思うが僕も分からない。とりま今の状況を整理しよう。色々なことがあり過ぎて頭がパンクしそうだ。

 

 

 

一旦落ち着き色々と確認して今の状況を把握した。簡単に言うとここは廃棄されたI.O.P社の人形工場で僕はどう言う訳か戦術人形の「M14」と思われる人形になっていた。何を言っているか分からないと思うが僕も分からない。そしてこの(ボディー)は至る所が破損しており特に右脚関節と声帯のダメージが酷い。いや、足の関節は動かしづらいだけで歩く分には問題は無いんだけど声帯は完全にダメみたいで声は全く出ない。声が出ないって言うのはなかなか不便だな。相手との意思疎通が簡単にはできないし。

 

そして人間の死体だと思っていたのは全部廃棄された人形達でした。ちゃんちゃん。びっくり損だよまったく。

 

取り敢えず武器が欲しい。恐らくここら辺は僕が住んでいた安全地域では無く鉄血の支配地域だ。武器が無くては鉄血の人形達に殺されてしまう。

 

あちこち探しているとArmoury(武器庫)と書かれた部屋を発見した。部屋の中に入るとそこは他の部屋とは違い綺麗な状態のままだった。部屋の壁際にはいくつものケースが並んでいてケースの中には色んな銃が入っている。どれにしようかと迷っていると1つの銃に目に止まった。ケースには「M-14EBR」と書かれてあった。何故かそれに凄い惹かれてこれを持たなければいけないと思った。本屋とかで自分の好きな漫画や小説を見つけた時の感じに近い。ケースの前にあるパネルに右手をかざす。

 

▶︎・・・戦術人形【Springfield M14EBR-RI】を確認。ロックを解除。

 

あ、ケースが開いた。おっかなびっくりにその銃を手に取る。重い。映画やアニメみたいに片手でぶっぱするのは無理そうだな。

 

マガジンも6つあったので全部取って1つはM14EBRに入れて、コッキングレバーを引き薬室に初弾を装填する。セレクターレバーはSAFE(安全)にしたままにしておく。こう見えても僕は銃マニアなのである程度の銃の扱いは分かる。残りのマガジンはポケットに突っ込んでおく。うーむマガジンポーチが欲しいな。

 

M14EBRを持って更に何か無いか探し回る。メインウェポン(M14EBR )は手に入れたから次はサブウェポン(拳銃)が欲しい所だけどあるかな?

 

 

あったよ。人形の残骸の中を漁っていたら見つけましたP320(45ACP弾使用モデル)。ただ予備マガジンが1つしか見つからなかった。他にもナイフとかも見つけたし、マガジンポーチも人形が付けていたのを貰った。

 

さて、武器は揃ったし後は食料だな。ここら辺はあらかた探索したし二階に行ってみるか。階段を上って二階に着くと僕は恐怖心のあまりその場で一瞬固まってしまった。階段を上って右に曲がり廊下に出ると廊下の床や壁に血がべっとりと付いていた。

 

落ち着け自分!この血は見た感じかなり前に付いたやつだ。つまりこれをやった犯人はもうここにはいない!そうだそうに違いない!M14EBRを構えてゆっくりと廊下を進む。ちゃりんと足元で子気味良い金属音がした。足元を見ると空薬莢がいくつも落ちていた。その1つを取ってよく見てみる。薬莢の後ろには5.56×45mmNATOと書かれてある。どうやらここで鉄血の人形とこの工場に勤めていた人間が撃ち合ったみたいだ。

 

薬莢を元あった所に置き先に進む。部屋を一つ一つ見ていくが使えそうなのは何も無い。いや、リュックがあったからそれを拝借。後で色々物を拾うかもしれないしね。

 

二階を探索できるだけ探索して見つけたのは不味いと評判のスナックバーみたいな感じの軍用携帯食料(レーション)7個だけ。水も無いかなと探したが無かった。これじゃ長旅は無理だな。近くに街とかがあれば良いんだけど。

 

さてこれからどうしよかなと考えていると廊下を曲がった先から足音が聞こえて来た。しかもこっちに近づいて来ている。なんだ?僕以外に誰かいるのか?まさか・・・鉄血⁉︎M14EBRを構え足音のする方に銃口を向ける。セレクターレバーをAUTO(連射)に切り替えた。

 

「ーーッ!」

 

”来るなら来やがれ!”と言おうとしたがそうだった。声が出せないんだった。しかしあれだな。このM14EBR元から高倍率のスコープが付いているんだがこう言う室内だと倍率が高過ぎて見えにくいな。外しとけば良かったかも。

 

そうこうしているうちに足音は更に近付き、直ぐそこまで来ていると言うことが分かる。今僕が立っている所から廊下の曲がり角までは50メートル程しか離れていない。この距離なら発砲音を聞いて回避することは不可能!つまり先に撃った方が勝ち!息を殺しじっと足音の主が現れるのを待つ。

 

曲がり角から人影が現れる。真っ黒の服を着てサブマシンガンと思われる銃を持った人・・・間違いない。鉄血の人形だッ!スコープ一杯に奴の胴体が映る。その瞬間僕はトリガーを思いっきり引いた。

 

ダダダダダダダダッ‼︎

 

毎分700発もの早さで7.62×51mmNATO弾が撃ち出される。7.62ミリと言う大口径弾をフルオートで撃ち出す為反動はなかなか強烈だが人形の力のお陰で反動はある程度抑えられている。人形って凄い。

 

スコープから鉄血の人形の姿がフレームアウトするまで僕は撃ち続けていた。スコープから目を離してM14EBRを下ろした。慎重に倒れた鉄血の人形に近づく。人形は7.62ミリを何発も食らったので胴体はボロボロになって擬似血液を大量に流し、右足も胴体と同じようにボロボロになって使い物になっていなかった。さらに右腕は千切れていた。それでもまだ息があるのは流石鉄血製の人形といった所だろうか。人形は僕をギロリと睨んむ。たじろぐ僕。

 

「I.O.Pの糞人形がッ・・・・!ぶっ・・・殺して・・・や・・る・・・」

 

最後まで僕を睨み付けながら鉄血の人形は生き絶えた。こえぇぇぇ。僕今人生で初めて殺意というものを感じた。M14EBRの銃身で人形の胴体を突っついてみるが反応無し。本当に死んだみたいだ。

 

僕は初の鉄血との戦闘での緊張から解放されその場にペタンと座り込んだ。もし今声が出せたならふぇぇぇみたいな情け無い声を出していただろう。

 

取り敢えずここから早く出よう。こいつが死ぬ前に味方を呼んだかもしれないし。さっさと荷物をまとめて僕は工場を後にした。

 


 

戦術人形になってから1日目。晴天

 

拾ったリュックの中にノートとペンが入っていたので今日から日記を書くことにした。僕の名前はリョウタ。イギリス人の父と日本人の母との間に生まれたいわゆるハーフ、混血児だ。いや、だったと過去形にするべきなのかな?

 

昨日までよくいるごく普通の青年だった僕は今日、目が覚めると戦術人形になっていた。あ、僕の妄想とか頭がおかしくなった訳じゃないからね?マジだからね?僕の今の外見はM14と呼ばれる戦術人形にそっくりだが正確にはM14EBR-RIと言う戦術人形のようだ。M14との違いは・・・いやこれ違いあるの?ぶっちゃけ自分でもM14との違いが分からない。目の色も髪の色も身長も体格も服装も全部一緒だ。まぁ髪はM14みたいなツインテールじゃなくて(髪を結べなかったので)普通のロングにしてるのが違いかな?

 

そして今日初めて鉄血の人形と戦った。まぁ待ち伏せからの奇襲攻撃だったからあれを戦ったと言って良いものか分からないけど。取り敢えず勝った。死にかけの鉄血の人形ににらまれた時は凄い怖かった。

 

これからどうしようか。行く当ても無いのでひび割れた道に沿って歩くことにする。運が良ければどこか街とかを見つけるかもしれない。

 

今工場から持って来た不味いことで有名な携帯食料を食べたんだが予想以上に不味かった。上手く伝えられないが本当に不味い。思わず吐いてしまった程だ。しかし今食料はこれしか無いから我慢して食うか。

 

 

戦術人形になってから2日目。晴れ。

 

現在の時刻は・・時計が無いから分からないけど恐らく6時頃だろう。空は綺麗なオレンジ色に染まっている。廃棄された工場からただひたすら道にそって歩き続けたがマジで何にも無い。かなり前に捨てられたであろう車を見つけて調べてみたけど何もなかった。夕方になって何処か安全に寝れる場所が無いか探したけど何もなかったので仕方なく野宿することにした。(廃棄された車で一夜を過ごす事も考えたがカビ臭かったのでパス)

 

寝袋を持って来て大正解だった。

 

戦術人形になってから3日目。晴れ。暑い。

 

朝起きたら顔の横をでかいムカデが歩いてた。マジでビビった!思わず悲鳴上げちゃったよ。(まぁ声は出ないんだけどね)

 

今日も代わり映えしない荒野の景色を眺めながら歩いているとボロボロの建物を見つけた。建物を探索していると貯水槽に水が溜まっていた。水は持っていなかったから見つけた時はめっちゃ嬉しかった。一口飲んでみたが3日振りにの水はめっちゃ美味かった。え?その水は汚いんじゃないかって?うるせぇ!無いよりマシなんだよ!それに今自分は戦術人形になってる訳だし多少汚れていても大丈夫じゃね?と思っている。しかし水筒は持ってなかったので携帯食料を入れていたビニール袋に入るだけ入れた。

 

取り敢えず今日はその建物で一夜を過ごすことにした。建物の中はやはり荒れ放題で汚かったのである程度掃除した。あぁ床と壁と天井があるだけでこんなにも安心感があるとは。建物と言う物を考えた人類に感謝

 

 

戦術人形になってから4日目。晴れのち雨。

 

今日も今日とて街を探して歩き続けたが。街は見つからず。しかし昨日からボロボロの建物や廃車をよく見るようになった。まぁその大半が崩れてたりしてたけど。そして前から思ってたんだが喋れないと言うのは結構不便だ。独り言も言えないから余計に孤独感が増す。たが声は出せなくても口笛は吹けるので明るい曲を吹きながら歩いていたが、曲のレパートリーが少なかったので直ぐにネタ切れとなった。そして腹が減った。1日一本あのクソまず携帯食料を食べていたが流石に少ない。何か食べ物は無いかと建物や廃車の中を探しまくったが見つからず。それに携帯食料も今食べているのを含めると残り3つしか無い。つまりあと3日で食料が無くなる訳だ。水も小さなビニール袋に入れたやつだけだったから後1か2回飲めば無くなるだろう。

 

 

戦術人形になってから5日目。曇り。

 

水が尽きた。携帯食料も残り2本となった。建物を見つけ次第中を探索して食料になる物が無いかと探したが無かった。しかし僕は建物内を走り回っていたネズミを見て思いついた!こいつ食えるんじゃね?

 

結果だけ言うと食えた。ネズミを捕まえるのは苦労したが何とか捕まえることはできた。ナイフで腹を割き、内臓などの臓器を引きだし、皮を強引に引き剥がす・・・。自分でやっといてなんだけど結構グロかった。しかしこれも生きる為。頑張って調理しました。まぁこの調理法で合っているかは分からないけど。火で焼いて食べてみたが味は最悪だった。腹を壊しませんように・・・。

 

 

戦術人形になってから6日目。曇り。気分は晴れ。

 

やったぞ!道を歩いていたら標識を見つけた!それによると5キロ先に街があるそうだ。街になら食料とか水とか他にも色々使えるものがあるだろう。希望が見えて来たぞ!今からその街に向かう。

 


 

ん?何かいるな。

 

街を目指して道路に沿って歩いていると前方に人影らしきものを2つ発見した。距離は300メートル程。M14EBRに付いている高倍率スコープでそれを確認する。

 

・・・げっアサルトライフル持った鉄血の人形さんじゃないですかやだー。どうしよう?撃つべきかな?いや、でもあの距離を当てる自信無いしなぁ。あっちも僕のこと気づいていないみたいだし回り込んでやり過ごすか。

 

身を屈めて岩や廃車などに身を隠しながら右の方に移動する。よーしこのまま回り込んで行くぞ。

 

早歩きで進んでいたら目の前の地面が爆ぜた。同時にパーンと乾いた破裂音が聞こえて来た。鉄血の人形の方をスコープを覗いて見ると2人がこちらに銃口を向けていた。それを見た瞬間僕は全力ダッシュで逃げ近くの岩に滑り込んだ。滑り込んだと同時に岩に数発の弾が当たった。初めての銃撃戦。心臓がバクバクとうるさい。いや、戦術人形に心臓はないか。あるのはコアだ。取り敢えず深呼吸を繰り返し落ち着く。今は弾は飛んで来ていない。チャンスだ!右にいる奴を目標A(アルファ)左にいる奴を目標B(ブラボー)として最初にA(アルファ)を狙う。

 

岩から身を乗り出しM14EBRを構えスコープを覗く。敵の姿がハッキリと見える。こちらに銃口を向けている。く、クソッ!撃たれる前に撃ってやる‼︎トリガーを引く。弾がフルオートで撃ち出される。あ!しまった!セレクターレバーをAUTO(連射)にしたままだった!

 

フルオートで撃ち出された7.62ミリ弾はばらけて敵に当たることなく周辺に着弾。すかさず敵2人から反撃が来る。すぐさま岩に身を隠す。

 

俺のばかぁ!何でフルオートにしたままだったんだよ。フルオートであの距離当たる訳ないじゃん!馬鹿なの⁉︎死ぬの⁉︎僕は今更だけどセレクターレバーをSEMI(単射)に切り替えた。チラッと敵の様子を伺う。B(ブラボー)がこちらに向かって銃を撃ち、その間にA(アルファ)が前方の遮蔽物にまで移動する。移動し終えるとこちらに向けて銃を撃ち、その間に今まで銃を撃っていたB(ブラボー)が前進する・・・。教科書通りの動きだ。やべぇ勝てる気がしねぇ。

 

一瞬岩から顔を出してM14EBRを構えスコープを覗く。そして今こちらに向かって銃を撃ちまくっているB(ブラボー)向かって狙いを定める。相手との距離はおおよそ300メートル。弾の落下は殆ど考えなくて大丈夫だろう。スコープの十時線を敵の胴体に合わせて撃つ!

 

撃ち出された7.62ミリ弾は敵の右側に着弾。狙われた相手は直ぐに遮蔽物に隠れた。その隙に前進中だったA(アルファ)の方を狙い撃つ。弾は敵の頭上を通過した模様。続けて2回撃つ。運良く最後の1発が敵の右肩に命中。しかし撃たれた敵は少しよろけだけで物陰に隠れてしまった。撃たれたA(アルファ)を庇うようにB(ブラボー)が銃を撃ちまくってくる。盾にしていた岩に弾が何発か当たり僕は岩に隠れた。

 

暫く隠れていると銃撃が止んだ。弾が切れたのだろうか?再び再びM14EBRを構える。目標はB(ブラボー)はやはり弾切れしたのか遮蔽物に隠れてる。撃たれたA(アルファ)の方も同様だ。僕は地面に伏せて二脚を展開し構えた。今まで中腰の姿勢で撃っていたがやはり伏せ撃ちの方が安定する。狙うはリロードが終わったであろうB(ブラボー)

 

一度深呼吸をする。姿が見えた。照準を定めトリガーをゆっくりと引いた——胴体に命中!

 

「(よしッ)!」

 

音速を超える秒速約850メートルもの速さで撃ち出された7.62×51NATO弾は鉄血兵の胴体を貫いた。胴体内に突入した弾は衝撃波で周辺の広い範囲を破砕し鉄血の人形に多大なダメージを負わせた。撃たれたB(ブラボー)はそのまま後ろに倒れた。しかしまだ息はあるみたいだ左手が動いてる。でも無力化には成功した筈だからB(ブラボー)は無視してまだピンピンしているA(アルファ)を狙う。

 

狙撃が上手くいったことで自信を付けた僕はA(アルファ)に狙いを付ける。しかし不利を悟ってなのか、かなかなか姿を合わせてくれない。

 

あ〜こう言う時にグレネードランチャーがあれば一網打尽にできるんだけどなぁ。

 

暫く待っていたが敵は出て来ない。痺れを切らした僕はこっちから接近することにした。弾が残り少なくなったのでマガジンを新しいのに変える。立ち上がりゆっくりと接近する。時々物陰に隠れて様子を伺いまたゆっくりと近づく。

 

そんなことをしていると敵との距離は150メートル程になった。もう目と鼻の先だ。セレクターレバーをAUTO(連射)にしておこう。未だ敵は姿を現さない。回り込んで襲うか。M14EBRを構えながら右に移動して未だ隠れている敵を探す。

 

その時敵が姿を現した!敵のアサルトライフルの銃口はこっちに向いている!急いでトリガーを引く。敵がトリガーを引くのも同じタイミングだった。

 

僕の放った弾丸は鉄血兵の上半身に次々に命中。敵の放った弾丸は脇腹と肩を掠めた。僕は倒れた鉄血の人形に近づいた。僕の姿を見ると右手で握りしめていたアサルトライフルをこちらに向けようとしたので右手を踏みつけて阻止した。

 

そしてこれ以上何かされる前にさっさとトドメを刺す。M14EBRで敵の頭を撃ち抜いた。擬似血液と機械の細かい部品と生体パーツが宙を舞った。うぇ。なんかグロいな。

 

さて、次はB(ブラボー)のトドメを刺さないと。と思いB(ブラボー)の倒れていた場所を見て僕は驚いた。何故ならそのには何も無かったからだ。一瞬場所を間違えたかと思ったが地面に擬似血液の血だまりがあるのでここで間違いない筈。僕は慌ててM14EBRを構えた。

 

どこに行ったんだ・・・?ん?あ!居た!

 

倒れていた所から右に20メートル程にある岩から敵はひょっこりと姿を表した。敵の銃口はこちらに向いている。クソッ!不味い‼︎飛び退いて近くの廃車に隠れる。直後敵から放たれた弾丸が廃車に当たり金属が固いものに当たる甲高い音が響いた。敵の銃撃が止んだと同時に僕は廃車の右側から体を出しーーた瞬間右腕に激痛が走った。

 

ぐアッ⁉︎い、痛い‼︎痛い痛い痛いああぁぁあアアァァッ‼︎余りの激痛に銃を地面に落としその場にしゃがみ込んで右腕を抑える。右腕を見ると関節から先が無くなっていた・・・。ぐおぉぉおぉぉッ⁉︎つ、痛覚カットっ‼︎

 

途端にあれだけあった痛みは無くなった。

 

はぁはぁはぁ・・・し、死ぬかも思った・・。野郎よくも当てやがったな!倍返ししてやる!しかしもう右腕は使い物にならない。左腕だけでM14EBRを撃ってみたがやっぱり片腕で7.62×51NATO弾の強烈な反動を抑えることはできず弾は明後日の方向に飛んで行く。

 

M14EBRで撃つことを諦めて地面に置く。そして腰のホルスターからM17を取り出し、口でスライドを引いて初弾を装填した。

 

しかしこの拳銃、強力なストッピングパワーを持つ45ACP弾を使用する為反動もそれなりにある。果たして片手で撃って当たるのかな?

 

しかし何もやらない訳にはいかない。えぇい ままよ!

 

 

廃車の窓から顔と拳銃だけを出して2発撃つ。やはりなかなかの反動がある。あ、やっべ!

 

急いで隠れる。直後フルオートで撃ち出された銃弾が廃車に当たる。こっちが倍返しされてるなこれは。拳銃だけを窓から出して敵のいるであろう方向に向かって適当に撃って直ぐに手を引っ込める。

 

敵が怒りの反撃。時々ドアなどの薄い部分を貫いた弾丸が僕の近くに着弾するのがすげぇ怖い。

 

そろそろあっちは弾切れになろだろうから、そこがチャンスだな。銃撃が止んだのでチラッと様子を伺うとやはり弾切れななったのか敵は岩に隠れた。奴が顔を出した瞬間にぶち抜いてやる!僕は敵の出てくるであろう場所に照準を定めた。

 

さっきまであんなにけたたましく鳴っていた発砲音がピタリと止み周囲は風音以外何も聞こえない。

 

出てきた!照準に敵の上半身を納めて連続で発砲!何発かは外してしまったが殆どの弾は命中っ!敵が倒れたのを見た僕は敵の方に駆け寄り頭に2発撃ち込んだ。P320はスライドは後退したまま止まったいわゆるホールド・オープンの状態になっていた。つまり1マガジン使い切ってしまったと言うことだ。これでP320はあと1マガジンしか無い。

 

はぁめっちゃ疲れた・・・。とりあえず街に行くか。

 


 

 

戦術人形になってから6日目。続き

 

街に着いてからこの続きを書こうと思っていたんだけど途中で鉄血の人形「Vespid(ヴェスピド)」に遭遇して戦ったからそのことを書いておく。結果的に言うと僕が何とか勝ったのだが右腕撃たれてしまった。超痛かった。今は痛覚を切っているから痛みは感じないけど。止血するのが大変だった。しかし人間と違ってある程度血を流しちゃっても大丈夫なのは有難い。

 

取り敢えず予定通り街に向かう。だけど右腕が使えなくなった今まともに戦えるとは思えないし(片手でM14EBRは撃てないし、P320のマガジンがあと一つしかないし)敵との戦いはなるべく避けないと。




どうだったでしょうか?何で主人公をM14EBR-RIにしたのかと言うと私がネットでたまたま見て一目惚れした銃だからです。小説内では略してM14EBRと呼ぶことにしています。
次回はもう少し話を短くして投稿しようと思っています。次回も読んでくださると嬉しいです。
ご感想受け付けております!


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第2話 到着!ゴーストタウン

お待たせしました第2話です。そして日記の文字のフォントを変えてみました。


戦術人形になってから7日目。晴れ。雲多め。

 

昨日の夕方頃街に到着したのだが余りにも疲れていて日記を書くのを忘れてた。街の方は予想通りゴーストタウンだった。こういう所ってなんかワクワクしない?僕はしている。

 

取り敢えず建物の中を手当たり次第探索しまくっている。空になったペットボトルを大量に見つけたのでまた貯水槽とかを見つけたらこれに水をありったけ入れよう そうしよう。

 

 

 

戦術人形になってから8日目。晴れ。

 

水を大量に確保ォ!ヒヤッハー‼︎もう何も怖くない。いや、嘘ですごめんなさい。食料が尽きました。包帯を見つけたので布でグルグル巻きにしていた右腕の傷口を包帯でぐるぐる巻きにした。

 

そうそう、街の大通りを歩いていたらIFV(歩兵戦闘車)を見つけましたよ!あちこちに弾痕があって機関砲を搭載した砲塔部にはどでかい穴が開いていたから砲塔にロケットランチャーを撃たれてやられたのだろう。車内に入ってみたけど中は焼き焦げていて酷い有様だった。機関砲弾が誘爆したのだろうか?

 

 

 

戦術人形になってから9日目。晴れ。

 

どうやらここら辺ではそれなりに規模の大きい戦闘があったみたいだ。IFVやAPC(装甲兵員輸送車)などの色んな大破した兵器が町中にある。軍事好きの自分はテンション上がりまくりだ。そして墜落したヘリの中にあったサバイバルキットの中に携帯食料(缶詰)を発見!賞味期限はとっくの昔に切れているだろうけど消費期限はまだ大丈夫なはず。昔読んだ本に十数年前缶詰が食えたとか書いていた気がするからきっと大丈夫!

 

 

 

 

 

戦術人形になってから10日目。超晴天。

 

ヤバイです。うん普通にヤバイ。今日も街の探索をしていたんだけど鉄血の団体様を見つけてしまった。あっちは僕に気づいていないと思うから大丈夫だと思うけど。てか普通考えれば分かることだ。ここら辺は鉄血の支配下にあるんだからここにもいるよな!しかも奴らの数がおかしい。哨戒などにしては数が多過ぎるんだ。パッと見10人程はいた。もしかして前回僕が倒した奴が情報を流したのか?だとしたらかなり不味い。

 

もう少しここを探索したかったけどこのままだと奴らに見つかるのも時間の問題だろうからさっさと逃げることにした。

 


 

建物の陰に隠れて左右を見て誰もいないことを確認する。裏路地を通って進んでいるお陰か今のところ誰にも見つかっていない。P320を左手に持ってさっさとここから立ち去るべく早歩きで進む。そして道を右に曲がった時僕は何かにぶつかった。ぶつかった奴と目が合う。

 

「「あ(あ)」」

 

ぶつかった相手は鉄血の人形Ripper(リッパー)でした☆

敵が動くのより早く僕はP320を構えゼロ距離で撃つ!まず腹に1発食らわせて敵が怯んだ隙に頭に1発食らわせる。えぇいくそッ!見つかってしまった!今の発砲音で居場所もバレただろうから にっげるんだよぉ〜‼︎っと、その前にこいつのサブマシンガンを貰っておくか。

 

全力疾走で逃げたい所なんだが右足の関節部分が破損しているので走り難い。前方から別のRipper(リッパー)接近!その後ろにはアサルトライフルを持ったVespid(ヴェスピド)がいる。敵の姿が・・いや、相手が何なのか確認する前に人影が見えた瞬間僕はサブマシンのトリガーを引いた。思っていたより早い連射速度で弾が撃ち出された。片手で撃てる反動ではないがここは裏路地で敵は超近距離にいる。つまり片手で充分!

 

Ripper(リッパー)を撃ち殺しRipper(リッパー)後ろにいたVespid(ヴェスピド)を撃つ。サブマシンの弾が切れると同時にVespid(ヴェスピド)は倒れた。弾切れになったサブマシンガンを捨てて今倒したRipper(リッパー)から新たにサブマシンガンを手に入れようとしたか背後から別の気配を察知して倒れていたRipper(リッパー)に掴み盾にする。

 

後ろからやってきたRipper(リッパー)は持っていたサブマシンガンを二丁同時に撃って来たがRipper(リッパー)の死体を盾にしていたので僕には弾は1発も当たっていない。死体を相手に投げつけ相手が怯んだ隙にP320を構え2発撃つ!1発は肩、2発目は首に当たった。普通の人間なら首を撃たれら死ぬだろうが人形は死なない。死体をこちらに投げ返しサブマシンガンを乱射して来た。しかし敵が撃った時には僕の姿はそこにはなかった。P320撃ってトドメを刺されなかったと分かった瞬間逃げてたからな!

 

自分でもびっくりするほど今の戦闘は上手くいった。戦術人形は最初からある程度の戦闘方法はプログラムされていると聞いたことがあるからそれのお陰かも知れない。

 

取り敢えず今は全力で逃げる!途中何人か敵が追いかけて来たから新たに拾ったサブマシンガンを乱射して牽制しつつ逃げる。

 

目の前に敵が現れたんでサブマシンガンを撃ったが4、5発撃って弾切れになった。弾切れになったサブマシンガンを相手に投げつけ逃走!建物の塀に隠れて敵の銃撃を回避する。P320のマガジンを抜いて残弾確認。残り7発。よし、逃げよう!

 

え?敵と戦わないのかって?そんな考えとうの昔に捨てたわ!と言うか逆に聞くけど残り7発の拳銃一丁でどう戦えって言うの?M14EBRで戦えって?・・・・そうだった!

 

P320をホルスターに戻しリュックに入れていたM14EBRを取り出した。流石にフルオートで撃てるとは思わないのでセレクターレバーはSEMI(単射)にしておく。塀の上にM14EBRを乗せて敵を狙らい撃つ。命中!続けて2発発砲!2発とも胴体に命中し敵は倒れた。

 

「(どうだクソッたれぇ!)」

 

僕は思わずガッツポーズをしたが直後敵の増援が現れこちらに機関銃とアサルトライフルを乱射して来たので僕は必死に逃走することになった。

 

その後も敵に見つからないように動きつつ見つかったときはM14EBRをぶっ放して牽制、或いは無力化しつつ僕は逃げ続けた。

 


 

 

 

戦術人形になってから10日目。続き。

 

鉄血の人形に見つかってしまい今までずっと逃げてた。今は崩れかけの建物に隠れてこれを書いている。太陽は丁度真上にあるので今は昼なんだろう。朝に僕は街からでようと動き始めたから僕は朝から昼まで逃げ続けたことになる。うわっ、そう思うとどっと疲れが出て来た・・・。

 

P320は残り7発で予備マガジン無し。M14EBRは残り14発で、予備マガジンは残り3個。まだ戦えそうだ

 

そしてさっき鏡で自分の姿を見て気づいたのだが僕は結構汚れていた。茶色のセーラー服も鉄血の人形の返り血や自分の血、泥、砂などで汚れているし、白色のニーソも血や泥で汚れ、破れた箇所からは傷だらけの生足が見えている。僕自身も同じく返り血や泥や砂やその他もろもろの汚れで汚れていた。あぁ風呂に入りたい。お母さんと一緒に風呂入るの好きだったなぁ・・・。

 

取り敢えずここら辺から奴らがいなくなるのを見計らって逃げ

 


 

日記を書いていたら扉の先から物音が聞こえて来た。書くのを止めてノートとペンをしまい。横に置いていたM14EBRを手に取りドアを狙う。ドアノブかゆっくりと回り出した瞬間に発砲。

 

「居たぞ!」

 

敵には当たらなかったみたいだ。直後空いたドアの隙間から円筒形の物が投げ込まれた。やっべ‼︎僕は座っていた机を倒して身を隠すと同時に目を閉じ耳を塞いだ。直後耳と目を塞いでいても分かる程の眩い閃光と爆音が・・来ると思ったがただ単に爆発しただけだった。スタングレネードを投げ込まれたと思ったがどうやら普通のグレネード(手榴弾)だったみたいだ。机が厚かったお陰で手榴弾の破片を食らうことはなかった。

 

敵が入って来る気配がしたので机から出て連続でトリガーを引いた。至近距離で何発も7.62ミリ弾を食らった鉄血の人形は絶命。しかしその後から続々と別の敵がやって来る。こいつら全員を相手にできるとは思えないので回れ右して全速力で走りジャンプして窓ガラスを突き破り窓から脱出した。

 

僕がいたのは建物の二階。高さはそんなにないから飛び降りても大丈夫なはず。着地した時に足がジーンとなったけど大丈夫!右足の関節にもダメージ無し!そのまま逃げる。

 

はぁはぁはぁ・・・しかしほぼ半日逃げ回っていたから流石に疲れた・・。今は建物と建物の間にある空間に隠れているけどいつまでもここにいる訳にはいかないし。それに、どーも敵さんは僕の居場所を特定しつつあるみたいだ。さっきから隠れている場所が直ぐにバレる。しかしどうやって僕の居場所を特定してるんだ?

 

何でだろうなぁと考えつつ場所を移動しようと歩き出した時に僕のことをジッと見つめている犬を見つけた。ん?あれ犬か?思わず二度見したそれは犬風に偽装されたダイナゲートだ!

 

「(お前かッ)!」

 

M14EBRを構えて撃つが立った状態のまま片手でM14EBRを撃って当たるわけもなくダイナゲートは逃げて行ってしまった。チッ成る程奴が僕の後をつけて仲間に居場所を教えていたのか。次から猫とか犬を見たら撃つことにしよう そうしよう。

 

一先ずここから逃げないと。既にあのダイナゲートが情報を流しているだろうし。

 

 

それから僕は敵との追いかけっこを続けた。建物などに隠れて奴らをやり過ごし、一息つくかつかないかのタイミングでダイナゲートに見つかり、牽制射撃してダイナゲートを追い払いその場を離れ、また敵と命を賭けた鬼ごっこをする。それを何度も繰り返した。

 

気づけば真上にあった太陽は西に傾き始めている。と言ってもまだ夕方ではないんだけど。体感では2日間逃げ続けているように感じる。疲労がやばい。M14EBRのマガジンは今使っているのを合わせて残り2つ。いよいよ残弾が怪しくなって来た。

 

建物の壁にもたれ掛かり休んでいるとドタドタと足音が聞こえて来た。チッ、アイツらは元気だなぁ。こっちはもうヘトヘトなのに。疲労困憊の体に鞭打ってM14EBRを構えて音の聞こえる方を狙い3発撃つ。この建物の壁は木製で厚みもそんなにないので7.62ミリ弾は建物の反対側まで貫通する。僕の銃撃に敵は機関銃の乱射で答えて来た。その場に伏せ、匍匐前進で移動する。敵は僕が建物の中にいると思っているのかグレネードが部屋の中に数個投げ込まれボン!ボンボン!と爆発音が聞こえる。

 

銃撃が止んだ隙に立ち上がって走って逃げる。歩道に出て走っているがやはり右足の関節部分が故障しているせいで上手く走れない。それに疲労も重なり僕は途中で転けてしまった。更に最悪な事にその姿を敵に見られてしまった。今から振り返り様に銃を撃とうとしても振り返った瞬間に僕は蜂の巣にされてしまう。かと言って走って逃げようとしても立ち上がった瞬間に背中をエメンタールチーズみたいにされてしまう。絶体絶命とは正にこのことだな。と僕は思った。

 

今まで平凡過ぎて退屈な人生だったが最後にこんな経験が出来たし悔いはない。父さん、母さん。今からそっちに行くよ。

 

潔く諦めて目を閉じようとした時、頭の上で発砲音がした。僕の使ってたM14EBRと違う軽く乾いた発砲音が頭上でとても早い間隔で鳴らされる。

 

「なーに諦めちゃってんのさ。死ぬのはまだ早いよ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

見上げるとそこにはXM8を持った少女が立っていた。な、何事⁉︎と言うか・・・どちら様?色々聞きたいことが湧いてきたが声を発することができないのでただ呆然と彼女を見ていた。すると僕の横にあった建物の開けっ放しになったドアから黒色のHK416を持った若い男が出てきて、僕の方に駆け寄って来た。更にその男の後から筋肉マッチョのMG3を持った黒人が現れ玄関から敵の所に向かってMG3の高レートを生かして弾幕を張っている。

 

「大丈夫か!立てるか⁉︎」

 

僕は頷いた。僕の反応を見た男の人は僕の左腕を自身の肩に回して支えながら僕を立たせると、さっき出て来た建物の方に向かう。

 

この間に敵に撃たれそうで怖いが2人が敵を釘付けにしてくれているお陰で僕の方に弾丸が(流れ弾を除き)飛んで来ることは無い。そのまま建物の中に入るとそれを確認した2人も銃を撃ちつつ建物の中に戻って来た。ドアを閉める前にXM8をもった彼女が「1発食らえ!」と言ってXM8の下に付けていたM320グレネードランチャーを撃った。敵の居た方向から爆爆音が聞こえて来たので恐らく敵は吹っ飛んだだろう。

 

グレネードを撃った彼女がドアを閉め、全員の視線が僕に集まりドキリとする。しかし敵意を向けている訳ではなさそうなので少し安心した。

 

僕は木製のイスに座らせられ、先程僕を支えこの部屋まで連れて来てくれた男が目の前に来た。

 

「先ずはお互い自己紹介をしよう。俺はネルソン。君は?」

 

「・・・・」

 

沈黙。だって仕方ないじゃん喋れないんだもん。5秒程沈黙が続き声を発したのはXM8をもつ少女。

 

「なんだよ面白く無いなぁ。何とか言ったらどうなの?」

 

「そんな言い方するなエレナ。相手を怖がらせるだけだ」

 

男は斜め後ろに立っていた少女にそう言った。エレナと呼ばれた少女はやれやれと言いたそうな顔をした。

 

「はいはい。本当ネルソンって人にも人形にも甘いよね」

 

へぇ彼女エレナって名前なんだ。可愛い名前だなぁ。って、今はそんなこと考えている場合じゃない。声が出せないことを伝えなくちゃ。

僕は首を指差してから首を横に振った。これで通じたかな?僕のジェスチャーを見たエレナとネルソンは一瞬何のことか分かっていなかったが直後納得したような顔になった。

 

「あ〜発声装置が壊れてるのか」

 

ネルソンの質問に僕は頷いた。ネルソンは腕を組んで「うーん」と唸りだした。

 

「それは困ったなぁ。会話が出来ないんじゃぁ戦闘時のコンミュニケーションがし辛い」

 

「いやちょっと待ってネルソン。こんなボロボロの()を戦わせるつもりじゃないよね?」

 

エレナがネルソンの発言に突っ込んだ。うん。僕としてもこれ以上戦う気は無いです。

 

「いや俺もこんな状態の娘を戦闘に参加させるつもりは無いが、ただこの娘が戦闘に巻き込まれた時に喋れないんじゃぁ色々と不味いだろ?」

 

「あぁそれもそうだね」

 

「メモ帳とかに書かせればどうだ?」

 

筋肉マッチョの黒人が自分の持っていたメモ帳を指しながら言った。ネルソンは呆れたようにその黒人を見た。

 

「お前銃撃戦の真っ最中に悠長に文字書けんのか?それに俺達が離れた所に居たらどうすんだよ」

 

「投げる」

 

「馬鹿か」

 

それから3人はあーだこーだと言い合っていたが突然エレナが「あ、そうだ」と手を打った。

 

「人形用の通信回路を使えば人形同士なら会話できるんじゃないか?」

 

エレナの発言に筋肉黒人が反論した。

 

「でもこいつ声が出せないんだぜ?」

 

「人形同士なら電脳内で会話が出来るからわざわわざ声を出さなくても良いんだよ」

 

そのことを知らなかった2人は驚いたような、感心したような感じで「へぇ〜」と言った。僕のそんな便利な通信方法があるなんて知らなかったので驚いている。ん?て言うかエレナさんも戦術人形だったの?気づかなかった・・・。

 

「じゃぁ時間も無いから早速試してくれ」

 

「りょーかい」

 

そう言うとエレナが僕の方をじっと見て来た。

 

▶︎戦術人形XM8からの通信を受信。

 

『あー、あー。聞こえてる?無口な人形さん?』

 

おぉすげぇ。向こうは口を開いていないのにエレナの声が聞こえる。

 

『あ、はい!聞こえます。さっきはありがとうございます』

 

取り敢えず僕の僅かな記憶の中にあるM14のキャラを思い出しつつ思い出しつつ喋る。僕と通話が出来ることを確認したエレナもといXM8はネルソンの方を向き親指を立てた。

 

「じゃぁこの娘の代わりにエレナが喋ってくれ」

 

「えぇ〜面倒臭いなぁ」

 

「仕方のないだらう。今この娘と喋れる奴はお前しか居ないんだから」

 

「なーんでこう言う時に限ってアリーナは居ないのかなぁ・・」

 

「で、この娘の名前は?」

 

『M14EBR-RIです』

 

「M14EBR-RIだってさ」

 

「所属は?」

 

所属と言われましても自分は今までずっと1人ぼっちだったからね。何にも所属してない。

 

『分かりません』

 

「ん?分からないってどう言うこと?」

 

まぁそりゃぁそう言う反応するよな。

 

「どうしたんだ?」

 

「この娘どこの所属か分からないって言ってるんだけど・・・」

 

「あ?それってどう言うことだ?」

 

3人が首を傾げる。さーて何と言いましょうか。変なこと言ったら逆に怪しまれてしまうだろうしなぁ。かと言ってありのまま最近まで人間だったんだけど目が覚めたら人形になってましたー何て言ったら頭がおかしい奴と思われらだろうし・・・うーん。

 

あ、そうだ。これなら納得して貰えるんじゃないかな?

 

『実は・・10日前からの記憶が一切無いんです。気がついたら廃棄されたI.O.P社の工場にいて・・・』

 

嘘は言っていない。実際”戦術人形”としての記憶は10日前以降の記憶は一切無い。

 

「あ〜この娘記憶が消されちゃってるみたいだね。」

 

「記憶を消すことができんのか?」

 

黒人の男がエレナに質問した。僕も同じことを聞きたかった。するとエレナでは無くネルソンが答えた。

 

「人形の記憶は他者が意図的にリセットすることができるんだ。別の人に人形を渡す時とかに前任者の記憶を持ったまま別の人に渡されたりしたら色々と面倒な場合もあるからな」

 

えぇ〜⁉︎と言うことは僕の記憶も消される可能性があるの?嫌だなそれは・・・。

 

少し考えたネルソンは姿勢を低くして目線を座っている僕と同じにして聞いて来た。

 

「俺達は今から迎えのヘリに乗って帰る予定なんだが、お前も来るか?」

 

え、マジで?僕を引き取ってくれるんですか。それは有り難い。このままここら辺を彷徨って居ても食料が尽きて餓死するか弾薬が尽きて敵に撃ち殺されるかの二択しか無いだろう。どっちにしろ死ぬ未来しか無いね。

 

だから答えは決まってる。

 

『行きます!』

 

「来るってさ」

 

ネルソンは嬉しそうな顔をして「よし分かった」と言って立ち上がった。

 

「よし、じゃぁ予定通り予定通りLZ(ランディングゾーン)に向かうか」

 

む?LZとは何ぞや?集合地点の暗号名ぽいけど。

 

「早く行こう。ネルソンが寄り道したせいで時間が無いよ」

 

「さぁ行こう行こう。早く帰ってハンバーガー食いてぇ」

 

こうして僕は3人に連れられてLZとやらに向かうことになった。




どうでしたかね?やはり戦闘シーンや会話のシーンは書くのが難しいなと思いました。

そして今回可愛らしいXM8のイラストを描いてくださったこまりんさん、本当にありがとうございます!

感想お待ちしております!

今後もこの小説をよろしくお願いしますm(__)m


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第3話 目指せ!ランディングゾーン

お待たせしました第3話です!前回コメントを貰ったりして凄いモチベが上がったのでその場の勢いで書いちゃいました。前回より文字数は少な目にしました。


ネルソンとエレナもとい戦術人形XM8 、そして黒人の筋肉マッチョ(名前を聞いたらサイモンと言うらしい)。この3人に出会った・・と言うか助けて貰った僕はこの人達に着いて行くことになり今はLZと呼ばれている場所に向かっていた。

 

前にネルソン、右後ろにエレナ、左後ろにサイモンと完全に僕を守る陣形で狭い道を警戒しながら歩いている。

 

あぁ。仲間がいるって素晴らしい。こんなにも安心感があるとは。P320を左手に持ち周囲を見回しているとエレナから通信が来た。

 

『あんた何でこんな所に居たんだ?』

 

『目が覚めたら廃棄された工場にいて・・そこに止まっている訳にもいかず道に沿って歩いていたらたまたまここにたどり着いたんです』

 

『ふ〜ん。その右手は?』

 

エレナは僕の関節から先の無い右腕を見てそう聞いて来た。別に隠す必要も無いので僕は正直に答えた。

 

『鉄血と戦った時に撃たれてしまいまして、それで』

 

『成る程ね。痛そうにしてないけど痛く無いの?』

 

『痛覚を切っているので大丈夫です』

 

それを聞いた瞬間エレナは「えぇ⁉︎」と声に出して驚いた。突然声を上げたエレナにネルソンとサイモンも驚いた。あれ?何か変な事言っちゃった?

 

「どうしたんだ?急に驚いたような声出して」

 

「こいつ痛覚を切ってるとか言ってるんだよ!」

 

エレナはネルソンに僕を指差しながら言った。あ、もしかしていくら人形でも痛覚を切ることは出来ない感じ?サイモンは感心したようにエレナに言った。

 

「へぇ人形って痛覚を切ることが出来んのか。便利だねぇ」

 

エレナはサイモンの方を向き反論した。

 

「出来ないから驚いてるんだって!」

 

バッとエレナは僕の方を見て来た。

 

『あんた何者なの⁉︎』

 

『ぼ・・私も分かりませんよ。ここ最近の記憶しか無いんですし』

 

エレナはネルソンの方を向き懇願するように言った。

 

「ねぇネルソン。やっぱりこいつ置いて行かない?普通じゃ無いよ」

 

え、待ってそれは困る。やだやだ置いて行かないでぇ!僕はネルソンを助けを求めるように見た。

 

「別に問題無いだろ」

 

ありがとうネルソンッ!

 

「こいつ絶対何か訳ありだって!」

 

「ウチには訳ありの奴しか居ないだろ」

 

「やめた方が良いってネルソン〜」

 

「まぁ大丈夫だろ。それにここに置いて行くのは可愛そうじゃないか」

 

サイモン!君も僕を助けてくれるのか。ありがとう!あんた最高だよ!後でキスしてやる。

 

「・・・はぁ〜どうなっても知らないからな?」

 

2人から説得されたエレナ渋々と言った感じで了承した。

 

それからはたわいも無い話などをしながら歩いていたら突然何処からともなく銃声がした。ネルソン達が撃った訳ではなさそうだ。勿論僕も撃っていない。となると・・・。

 

僕がそこまで考えた時に誰かに頭を掴まれ、そして強引に地面に伏せさせられた。振り向いてみると僕の頭を掴んでいたのはエレナだった。ネルソンやサイモンも銃は構えて周囲を警戒している。

 

『敵は何処ですか⁉︎』

 

僕はXM8のISM(多機能先進サイト・モジュール)を覗きながら周囲を警戒しているエレナに聞いた。

 

『さぁね。音からしてアサルトぽかったけど音が建物に反響して音源が何処なのかちっとも分からない』

 

エレナはこちらを見ずに答えた。銃を構え鋭い目つきで辺りを見回すその姿は歴戦の戦士みたいでカッコいいなぁと僕は思った。

 

また何処からか発砲音が聞こえて来た。次は連続でだ。エレナとサイモンとネルソンがお互いを見て頷き合うと皆中腰の姿勢のまま歩き出した。僕もエレナに『ほら行くよ』と服の襟をぱっぱられて歩かされる。僕も皆んなを真似て見様見真似で中腰の姿勢で歩いてみるがこれで合っているんだろうか?

 

『敵は何を撃ってたんですかね?』

 

今も時々聞こえてくる発砲音はよく聞けば少し遠い所から聞こえて来ることが分かる。

 

『どっかのPMCと鉄血が戦ってるんじゃない?何にしろこっちに気づいていないのは好都合。今のうちに行くよ』

 

『了解です』

 

何か今向こうで戦っている人達を囮にするみたいで申し訳ない気持ちになるけど、その人達に加勢しようとも思えないしね。すいませんが逃げさせてもらいます。向こうで戦っている人達ごめんなさい!

 

 

それから僕とネルソン達は街の中心部から離れた所にある公園・・と言うより広場かな?まぁとにかくそんな感じの開けた場所に来た。ここが皆がLZと呼んでいた場所らしい。今はネルソンが無線機で本部と話をしている真っ最中だ。

 

「こちらジュピター。ポイントアルファに到着。敵の追撃無し。・・・・・了解、待機する。あぁそれと、今日はツレがいる。歓迎の準備をしといてくれ。え?何だって?・・フッそれは見てからのお楽しみだ。ジュピターアウト」

 

意外に早く話は終わった。ネルソンによるとここに迎えのヘリが来てくれるそうだ。車で行くのかと思ってた僕は驚いた。何のヘリに乗れるのだろうか?旧型ながら改良を重ねて今でもPMCや正規軍に使われ続けているブラックホークだろうか?それともオスプレイだろうか。今までヘリに乗る機会なんで1度も無かったから夢が広がる。そして話を聞いていて今やっと理解した。LZってLanding Zoneの略なのね。

 

「もうすぐで迎えのヘリが来る。本社に帰ったら先ずはその体を修理しないとだな。もう少しの辛抱だから頑張ってくれ」

 

と言ってネルソンは微笑んだ。ちょ、ネルソンさんマジ紳士。もう一生ついて行きます!

 

『はい、ありがとうございます!』

 

「ありがとうだってさ〜」

 

僕もお返しに微笑む。するとネルソンは僕の頭を優しく撫でて来た。それから僕はヘリを待つ間ネルソンから頂いたチョコレートを座って食べていた。戦術人形として目覚めてから今まで食べた物はあのクソ不味いレーションとヘリ機内にあった缶詰(中身は鶏肉でした)だけだったのでこのチョコレートは今まで食べて来たどんな物より美味しいと思えた。

 

夢中で食べているとネルソンやサイモンが僕のことをまるで微笑ましい物を見るかのような目で見てたので途端に恥ずかしくなってしまった。多分今僕の顔は真っ赤だろう。しかしそんな平和は時間は長続きしなかった。

 

突然鉄血の皆様が現れたからだ。僕は残っていたチョコを口の中に放り込みP320を構えた。ネルソン達も自分の銃を持って迎撃態勢に入る。先に撃ったのはエレナだ。敵の姿を見た瞬間XM8を構えて狙い、そして撃っていた。この一連の動作には1秒もかかっていなかったと思う。

 

その直後ネルソンやサイモンも撃ち始める。僕も加勢しようとP320を構えトリガーを引こうとしたがネルソンが「隠れてて!」と言って僕を近くにあった噴水の影に隠れさせた。僕の横でネルソンが黒色のHK416を撃っている。ひとしきり撃ってからネルソンは噴水に身を隠して無線機を手に取った。

 

「ジュピターからクロウ1(ワン)へ!ポイントアルファにて襲撃を受けた!敵を撃退しポイントブラボーに移動する!」

 

と言ってネルソンはまた撃ち出した。と、ここで気が付いたんだけど彼が使ってる銃は416では無いようだ。何でかって言うと彼が使ってる銃の左側面に小さくM27と白文字で書いてあるからだ。つまりネルソンが使ってる銃はHK416じゃなくてM27 IARってことですかい⁉︎今までHK416だと思ってましたすいません。でもまぁ見た目は殆ど同じだし仕方ないよね?

 

噴水からすこーしだけ頭を出して戦闘の様子を伺う。敵の数は見えるだけで8人。いや、今1人倒れたから7人。敵の後方から更に増援がやって来たがサイモンが二脚を展開して地面に置いたMG3を伏せ撃ちの状態で乱射し、増援部隊の人形達をバタバタと倒して行っている。その光景は爽快の一言に尽きる。まぁ7.62×51NATO弾を最大毎分1150発もの早さで撃ち出すんだか凄いもんだよね。

 

エレナもネルソンも姿を見せた敵を的確に撃って倒していってる。凄いな。しかしただ見ているだけってのは申し訳ないので僕も加勢しよう。P320をホルスターに仕舞いリュックからM14EBRを引っ張り出す。

 

噴水の縁にM14EBRを置いて狙う。そこぉ!・・狙いは良かったはずなんだけどなぁ。弾は敵の真横の壁に命中し敵は隠れてしまった。やっぱり片手でバトルライフルを撃つのは無理があるかな?

 

はぁもう当てるのは諦めて制圧射撃でもしていよう。隙を狙って撃ってこようとする奴に狙いをつけで撃つ。それで敵がビビって引っ込んでくれればそれで良い。敵に弾が当たれば御の字だ。

 

そんな感じで撃っていたんだけどふと右にある車道を見たら別の敵がいた。げっ回り込まれたか!右隣いにるネルソンや右斜め前にいるエレナは気づいていない!僕がやらなければ!

 

『右に敵!』

 

エレナに報告しつつM14EBRを右の敵に向けて撃つ・・・あれ?た、弾切れだとぉ!クソッ、リロードしている暇は無い!

 

僕はM14EBRを投げ捨てホルスターからP320を出す。しかし既に敵は銃口をこちらに向けている。クソッこのままじゃネルソンに弾が当たる!僕はある程度撃たれても人形だから大丈夫だがネルソンは生身の人間だ!撃たれれば十中八九死ぬ!

 

だから僕が取るべき行動はたった一つ!

 

「(ネルソン危ない!)」

 

僕はネルソンにタックルして地面に転ばせた。転んだネルソンの上に僕は被さる。直後背中や脇に強い衝撃が来た。口の中に鉄の味が広がる。痛覚を切っといて良かった。お陰で反撃できる!

 

僕は体を起こして左手に持っていたP320を連射。7発全部撃って当たったのは4発。うん悪くない命中率じゃないかな?

 

ネルソンの方を見て血がべっとりと付いていたから一瞬焦ったけど自分の血だと分かって安心した。が、安心した瞬間体から力が抜けて僕はその場に倒れてしまった。

 

あ〜ちょっと無茶し過ぎたかな?ネルソンが僕に駆け寄り何か言っていたが直後僕は意識を失ったので何と言っていたかは分からなかった。




どうだったでしょうか?実を言いますと当初の予定だとEBRちゃんが撃たれる予定ではなかったのでが、ふと思い付きこの方が面白いんじゃね?と思い実行しました。悔いはない。

ネルソンを庇い撃たれてしまったEBRちゃんの安否は如何に⁉︎次回もお楽しみに!

感想お待ちしております。


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第4話 EBRを救え!ネルソンの戦い

お待たせしました第4話です。
皆さんはお盆をどのようにお過ごしになったでしょうか?私が今住んでいる長崎はお盆になると墓場で花火をしたりするんですが、その中でも精霊流しは凄いです。

精霊流しは死者の魂を弔って送る行事で、精霊船と呼ばれるタイヤの付いた木造の船を目的地まで運びながら爆竹を鳴らすのですが、街のあちこちから爆竹の音が聞こえて来て、不謹慎ですがまるで紛争地域に居るみたいだなぁといつも思います。

さてさて、今回は時間が少し遡りネルソン視点でお送りします。


最近このゴーストタウンに蔓延っている鉄血の奴らの偵察が今回の任務で、その偵察活動も終わり帰ろうとLZに向かおうとしていた時に彼女を見つけた。右腕を失っており右足を怪我しているのか少し引きずるようにして必死に走っていた彼女が転んでしまったのを見て俺は居ても立っても居られなかった。

 

嬉しいことに仲間はこのことに賛成してくれてエレナは先陣を切って転んだ彼女を助けに行ってくれた。

 

彼女の姿は酷いものだった。右腕に巻かれた包帯は付着していた血が乾燥して黒くなっており、彼女の来ていたセーラー服は血や泥などで汚れ、顔も同じような状態だった。白色のニーソも汚れ、破れた箇所からは傷だらけの生足が見えていた。それなりに激しい戦闘をを潜り抜けて来たであろうことを予測できた。

 

彼女ーM14EBR-RI(略してEBR)は10日前以降の記憶が無いらしく、今まで1人ぼっちで戦って来ていたらしい。そんな娘をほっとける訳がなく俺は彼女を自分の所属するPMCの本社に連れて行くことにした。

 

そして今はEBRを連れてLZに来ている。ヘリが着陸するには充分な広さがあるここの広場はポイントアルファと呼称している。

 

「こちらジュピター。ポイントアルファに到着。敵の追撃無し」

 

《こちらHQ、了解。クロウ1を向かわせている。その場で待機せよ》

 

「了解、待機する。あぁそれと、今日はツレがいる。歓迎の準備をしといてくれ」

 

《おいおい、まさかまた迷子の人形を拾った訳じゃないだろうな?》

 

「え?何だって?」

 

《その反応をするってことは図星なんだろ》

 

「フッそれは見てからのお楽しみだ。ジュピターアウト」

 

これ以上話しているとHQからグダグダと説教を食らいそうなので話を切り上げて通信を終わらせた。そして本社と話している間ずっとこちらを見ていたEBRの方に向かった。やっぱり今まで1人ぼっちだったから不安なんだろう。安心させてやらなければ。

 

俺はEBRに近づき安心させるように微笑みながら言った。

 

「もうすぐでヘリが来る。本社に帰ったら先ずはその体を修理をしないとだな。もう少しの辛抱だから頑張ってくれ」

 

「ありがとうだってさ〜」

 

発声装置が壊れて喋れない彼女の代わりにエレナが言った。EBRは俺の方を見てにこりと笑って来た。見た目の歳相応の明るい笑顔だ。この笑顔を見ていると、この娘を守ってやらないとと言う気持ちにさせられる。取り敢えず俺は彼女の頭を安心させる意味も含めて撫でておく。

 

その後迎えのヘリが来るまで待機していたのだが、EBRが暇そうにしていたので俺が持って来ていたチョコをあげた。EBRはチョコをとても美味しそうに頬張っておりその光景を見ているとこちらも微笑ましく感じる。

 

しばらくその微笑ましい光景をサイモンと見ていたのだが、俺達が見ていたことにEBRが気づいたようで途端に顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

・・・何だあの可愛いやつは。

 

たがその微笑ましい空間は突然現れてた鉄血の奴らに邪魔されてしまった。先に攻撃したのはエレナだ。敵を見た瞬間XM8を構えて照準を合わせ、撃っていた。

 

俺も遅れて愛銃のM27 IARを構え撃つ。横を見るとEBRが遮蔽物に隠れようともせずP320を構えて撃とうとしていたので俺が安全な噴水の裏側にまで連れて隠れさせた。この娘は勇敢過ぎるところがあるな。彼女が余り無茶をしないように見張っとく為に俺は彼女の横で戦う。ある程度敵を倒してから噴水に身を隠して無線機を手に取りボタンを押した。

 

「ジュピターからクロウ1へ!ポイントアルファにて襲撃を受けた!敵を撃退しポイントブラボーに移動する!」

 

《クロウ1了解。ポイントブラボーに向かう》

 

相手の返事を聞き無線機を戻しそしてM27を構え、発砲。このM27 IARは分隊支援火器として作られたのだが命中精度が高くM38 SDMRと言うマークスマンライフルになった派生型がある程だ。タタタッ!タタタッ!とタップ撃ちで敵を撃ち殺して行く。ACOG光学照準器に敵の姿を捉えて撃つ。確かに鉄血の奴らは丈夫だが、無敵と言う訳では無い。頭やコアを撃ち抜けば人形は活動を停止する。

 

人形のコアは人間で言う心臓の位置にある。ここを破壊すれば鉄血の人形だろうがI.O.Pの人形だろうが動きは止まる。人間で言う死だ。普通の鉄血人形だと胸に2連射すれば大体死ぬ。

 

時の増援がやって来たが問題は無い。サイモンが愛銃のMG3でこちらに接近して来てた増援部隊を迎撃する。MG3のこれで敵は簡単には前進できなくなる。

 

俺とエレナはサイモンが取りこぼし、そのまま接近して来た奴らなどを迎撃する。

 

隠れさせていた筈のEBRはいつのまにかM14EBRをリュックから取り出して敵に射撃していた。あの娘・・右腕が無いってのに。勇ましいな。

 

彼女に負けじと俺は敵を倒して行く。よし、この調子で戦って行けば殲滅できるな。と、俺が少し安心仕掛けていた時、突然誰かからタックルされた。突然のことだったので何も出来ず俺はタックルされた勢いを殺しきれずその場に倒れてしまう。そして誰かが俺の上に被さって来た。それはEBRだった。

 

次の瞬間右側から発砲音が聞こえて来た。その瞬間俺は全て理解した。クソッ!右に回り込まれていたのか!EBRは俺を守ろうとしてっ‼︎

 

俺はEBRを退かそうとしたが戦術人形であるEBRが力を込めているので人間の力如きでは退かすことが出来ない。EBRは目と口をギュッと閉じて敵からの銃撃を微動だにせず受けている。

 

敵の銃撃が止むとEBRは体を起こして左手に持ったP320を構えた。彼女が起き上がって分かったが、彼女の血が俺の服にべっとりと付いていた。彼女はP320を連続で撃ち、右側にいた敵の1人を倒した。

 

EBRは俺の方を見て一瞬驚顔を引きつらせたが、次の瞬間には安心したような顔をしてその場に倒れてしまった。

 

その後右側の敵の存在に気づいたエレナと俺で回り込んで来ていた敵を全て倒した。数が少なかったから直ぐに倒すことができた。

 

すぐさまEBRの元へ駆け寄る。大量に出血しており、いくら戦術人形は人間と違いある程度血を流しても大丈夫と言ってもこのままだと危険だ。

 

「ジュピターからクロウ1へ、仲間が撃たれ重症!ポイントブラボーへの移動は不可能!ポイントアルファに至急来てくれ!」

 

《クロウ1ラジャー、南側からLZに侵入する。アルファ周辺にまだ敵はいるか?》

 

「ああ。西側の車道に20人程いる」

 

《了解した。ダブ(フォー)CAS(近接航空支援)を実行する。巻き添えに注意》

 

「了解。なるべく早く来てくれ!」

 

《了解、遅くても3分でそっちに着く》

 

クロウ1との通信を終えた俺はEBRの応急処置をしながら時折M27で接近してくる敵を撃ち殺す。敵の集まっていた所にグレネードランチャーを発射したエレナは俺に聞いて来た。

 

「ネルソン!EBRは⁉︎」

 

「出血が酷い。ここままだとッ・・・!」

 

「アンタが弱気になってどうすんのさ!弱音吐いている暇あったら応急処置してよ!」

 

「分かってる!」

 

そう言って俺はM27を構えてフルオート掃射。前の建物に隠れていた2人を殺し1人を負傷させた。

 

しかし多勢に無勢。俺達は数で勝る鉄血の奴らに徐々に押され始めた。1番前で戦っていたエレナも不利を悟って俺がいる噴水のところまで後退して来た。サイモンも噴水の右にあった瓦礫に身を隠しながらMG3を撃っている。

 

既にEBRの応急処置は完了している。後はヘリを待つだけなのだがなかなか来てくれない。それにこの広場は遮蔽物になるような物が殆ど無い。なのでこれ以上攻め込まれると不味い。

 

「これが最後」

 

と言ってエレナはXM8の下に付けているM320に40ミリグレネードを装填した。そして接近しつつある敵の集団を狙い発砲。3〜4体程吹っ飛んだが、まだまだ敵はやって来る。

 

「クソっ俺はもう腹一杯だ!お代わりはもういらねぇぜ⁉︎」

 

「そんな冗談言えてるんだからまだやれるだろ!さっさと撃て!」

 

と言いつつ俺は噴水から上半身を出してM27を構え発砲。敵を殺すのではなく接近させない為に撃ちまくる。

 

「わーかってるよ!今リロード中だっつってんだろうが!」

 

口でピンを抜いた手榴弾2個を同時に敵へ投げる。よし、2人巻き込めた。

 

「早くしろ!」

 

「お待たせ!」

 

ダラララララララララ!っとMG3が7.62ミリ弾を軽快に発射する。不用意に隠れもせず接近して来てた奴らは全員MG3に撃ち抜かれバタバタと倒れて行く。

 

「ッ!バルカン‼︎」

 

左隣に居たエレナがそう言って身を屈めた瞬間、噴水に無数の弾丸が突き刺さった。慌てて俺もエレナと同じように噴水を背にして身をかがめる。

 

「バルカン持ちの為にグレランの弾残しとけば良かったかも」

 

エレナが弾切れとなったM320を見ながらそう言った。俺はポケットから手榴弾を取り出しながら答えた。

 

「仕方ないさ。今ある物でどうにかしないと」

 

と言って俺は3連装ガトリング式機関銃を持つ鉄血の人形ーStriker(ストライカー)目掛けて手榴弾をまた2個投げる。しかし敵の距離が遠く手榴弾はかなり手前で爆発してしまった。

 

《ダブ4からジュピターへ、待たせたな。これよりCASを開始する》

 

・・・まだ俺は運には見放されてないらしい。良いタイミングで救助が来てくれた。

 

「俺達は広場中央の噴水周辺にいる。それ以外は全て敵だ!」

 

《了解した。掃射を開始する》

 

無線でのやり取りが終わった数秒後、シャークマウスの描かれたUH-1Yが建物の影から現れた。低空飛行でやって来たUH-1Yは機体の両側に固定装備してあるM261ポッドからハイドラ70ロケット弾が数発発射され鉄血の人形どもを次々と吹き飛ばし、すれ違い様に同じく固定装備してあるM134 通称「ミニガン」で掃射した。

 

鉄血どももハイドラロケットとミニガンを食らって無事でいられる訳がない。ロケット弾を食らった奴は体がバラバラになりながら吹き飛び、ミニガンを食らった奴は体中を蜂の巣にされて絶命する。俺達を追い詰めていたStriker(ストライカー)もミニガンの掃射でボロ雑巾のようになって死んでいた。

 

2回掃射をしたダブ4はロケット弾もミニガンも弾を使い果たした。俺達があれだけ手こずっていた鉄血どもは一瞬で壊滅的な被害を受けた。

 

ロケット弾とミニガンを使い果たしたダブ4は側面ドアの銃架に装着されているGAU-16/Aをガンナーか操作し、残党を撃ち殺して行く。

 

その間に救助のヘリがやって来た。

 

《クロウ1、LZに進入》

 

《周囲に障害物無し、このままタッチダウンする》

 

建物の屋上を掠めそうな程の低空高度を飛行して来たクロウ1ことUH-1Yが俺達の真後ろに滑り込むようにして着陸して来た。広場に強い風が吹き荒れる。

 

《乗れ!早くッ‼︎》

 

ヘリが着陸した瞬間に俺はEBRを抱えてダウンウォッシュが吹き荒れる中UH-1Yに近づき乗り込んだ。

 

EBRを床に寝かせ、M27を構えて撤退するサイモンとエレナを援護する。ヘリのドアガンもM240でヘリを攻撃してくる鉄血の奴らを撃ち殺して行く。

 

「急げ急げ急げ‼︎」

 

サイモンがヘリに駆け込み、最後まで敵を牽制していたエレナがヘリに乗ると同時にパイロットはエンジン出力を上げてヘリを急上昇させながら前進し、その場を離れた。

 

《クロウ1、離陸した。このまま飛行高度2000フィートを維持しつつウェイポイントH-2からC-8、E-4を経由しHQ(本社)に向かう》

 

《HQ了解。オペの準備は済ませておく》

 

機体にガン、ガガン!と弾の当たる音が響く。鉄血の奴らがこのヘリを狙ってアサルトライフルやマシンガンを撃っているんだろう。

 

俺達を乗せたヘリが広場から撤退する間ダブ4のUH-1Yは鉄血からの銃撃を受けながらもGAU-16/Aで攻撃してヘイトを稼いでいた。

 

お陰で俺達はそんなに攻撃を受けずにホットゾーン(危険地帯)を離脱出来た。EBR・・後ちょっとだから頑張ってくれッ!




どうだったでしょうか?何でグリフィンではUH-60ブラックホークを使っていたのにUH-1Yヴェノムを登場させたのかと言うと、それは次の話で理由は分かりますが1番の理由は私がUH-1シリーズが好きだからですね。

それに、2060年代のドルフロの世界に旧型機であるUH-1を飛ばすのは何んだかロマンを感じませんか?

そして長かったゴーストタウンでの戦いも終わり次回はネルソン達の所属するPMCでの話になります。この小説で初となる日常回?と言うか平和な話になる予定です。

そして次回から新キャラも続々登場予定です。お楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第5話 復活!M14EBR-RIの目覚め

お待たせしました第5話です!早く投稿する為に急いで書いたのでもしかしたらおかしな点があるかもしれません。


・・・ふぁ〜よく寝た・・って、何だ何だ?ここはどこだ?

 

目を覚ましてまず見えたのは水色の液体。しばらくして自分はこの謎の液体の中に入れられているという事を理解した。酸素マスクが付けてあるお陰で息は問題無くできる。そんでもって体中に点滴みたいに細いチューブが何本も刺さっている。

 

キョロキョロと回りを見る。どうやら僕は円柱形のカプセルに入れられてるみたいだ。カプセルの上部は半円型のガラスになっていて液体越しに外の景色が見える。どうやらどこかの室内みたいだ。

 

取り敢えずここから出たい。

 

▶︎戦術人形の起動確認。カプセルオープン。

 

プシューッと言う音を出して半円型のガラスが横に開いた。体を起こして液体から上半身を出す。そこは真っ白な部屋だった。数本のチューブが付いている手で口に付いていた酸素マスクを外す。

 

・・・ん?今僕どっちの手で酸素マスクを外した?

 

酸素マスクを持った手を見る。酸素マスクを持っていたのは先の戦闘で失った筈の右腕だった。試しに腕を曲げたり回したりする。うん、少し違和感があるけど問題無く動く。指もちゃんと動く。

 

じゃぁ声も出せるかな?

 

「ーーッ」

 

・・あ、無理ですかそうですか。

 

あ、そう言えば僕撃たれたんだった。でも体は何ともないな・・・ネルソン達に助けられたってことかな?お礼言わないとだな。

 

などと考えていると、ドアノブを回す音が聞こえて来た。音をしたドアのある方を見るとエレナがドアを開けて入って来ていた。目が合う。エレナは僕を見るととても驚いたような顔をした。

 

「あ!起きてる!」

 

そう言うとエレナはドアを開けたまま何処かに走り去ってしまった。それから少ししてからドタドタと複数の足音が聞こえて来た。ネルソンが息を若干切らせながら部屋に入って来た。その後にサイモンとエレナも入って来た。僕の姿を見たネルソン達は皆ほっとしたような顔をした。どうやら結構心配させてしまったようだ。

 

安心した表情から一転、一瞬で無表情になったネルソンは僕に近づいて来た。それを見たエレナは何かに気づいたようで《あー歯を食いしばっといた方が良いと思うよ?》と、人形用通信で話しかけて来た。

 

はて、どう言うことなんだろうか?と思った瞬間、ネルソンは僕の左頬を全力で平手打ちして来た。パーンッ!ととても良い音が部屋に響く。

 

「・・・何であんなことをした?」

 

一瞬何のことか分からなかったが直ぐに察した。僕があんな無茶をやったことに彼は怒っているんだ。しかし僕には間違ったことはしていないと変な自信があった。

 

《人は撃たれれば負傷します。それに、傷の具合が酷ければその部位は一生元に戻ることはありません。傷が更に酷ければ最悪死んでしまいます。でもぼk・・私のような人形なら大丈夫です。いくら壊れようと修理すれば元に戻ります》

 

「人は撃たれれば負傷するし、傷の具合が酷ければその部位は一生元に戻ることは無い。傷が更に酷ければ最悪死んでしまう。けど、自分のような人形なら大丈夫。どんだけ壊れても修理すれば元に戻るから・・。だって」

 

僕の言った言葉をエレナが代わりに言った。それを聞いたネルソンはチッと舌打ちをした。

 

お前ら(人形)のそう言うところが嫌いなんだよ俺は。人形だからある程度壊れても大丈夫。人形だから死んでも問題無い。そう言って自分の体を、命を大切にしないお前らか大っ嫌いだ!」

 

《でももしあの時撃たれたのが貴方だったら死んじゃってたかもしれないんですよ‼︎》

 

「でもあの時貴方が撃たれていたら貴方が死んでいたかもしれない」

 

「お前だってコアや電脳を破壊されてたら死んでたかもしれないんだぞ!当たったのが9パラだったから良かったがもし敵の持っていた銃がアサルトライフルだったらお前のコアは破壊されてた!お前は死んでたんだぞ!同じような見た目のヤツはいくらでも作れるだろうが完全に同じヤツなんかいない!お前はお前1人だけなんだよ!」

 

・・・まぁ確かにそうだね。見た目が同じような人形は沢山いるけど僕と言う人格は僕のだけだ。それに、あの時ネルソンがピンチになったのは元はと言えば僕のせいだ。M14EBRの残弾をしっかり確認していていれば、ちゃんとリロードして撃って敵を牽制し、敵の銃撃を止めさせることができたかもしれない。

 

《まぁそっちも色々言いたいことはあるだろうけどけどさ、さっさと謝った方が良いよ?このままだといつまでも言い争いが続くと思うし》

 

《そう・・ですね》

 

このまま言い争っても意味は無い。今思うと僕も色々と無茶をし過ぎたと思う。

 

《ごめんない》

 

僕は頭を下げた。

 

「無茶してごめんだって」

 

「・・・はぁ。・・まぁ色々怒鳴ったが俺が助けてもらったのは事実だ。それには感謝するよ。ありがとう」

 

と言ってネルソンは微笑んだ。

 

「何だかんだ言ってEBRが寝ている間俺のせいで〜て嘆いていたもんなお前」

 

と、サイモンが笑いを堪えながら言った。ネルソンは顔を少し赤くしてサイモンの首を腕で絞めた。

 

「余計なこと言うんじゃねぇ!」

 

「ちょちょ!ギブギブギブ!マジで決まってるってそれ!」

 

2人のやりとりが面白くて僕は思わず笑ってしまった。ネルソンとサイモンも僕の笑う姿を見て笑った。

 

「あ〜良い感じになってるところ悪いんだけどさ、彼女に服着せた方が良いと思うんだよね」

 

はて、服を着せた方が良いとはどう言うことなんだろうか?僕は服を着て・・る・・・の・・・・に・・・・。

 

そう言えば僕ってまで液体の入ったカプセルの中に入ってたんだったね。そりゃ服とか着てないよな。うん。

 

つまり僕はさっきまで全裸の状態でネルソン達と話していたって訳だ。やべぇ僕痴女みたいじゃん。バッとネルソン達の方を見るとネルソンは無言でそっぽを向きサイモンは「いやー眼福〜眼福〜」とか言いながら僕をマジマジと見てきた。僕は羞恥心で顔を赤くする。男の僕でも裸の姿をマジマジと見られると恥ずかしい。手で隠そうとするが手で隠せる範囲なんて限られている。ネルソンがサイモンの頭を勢い良く殴った。

 

「エレナ、EBRの着替えを持って来てやってくれ。俺はこいつをしばて来る」

 

「りょーかーい」

 

と言ってネルソンはサイモンの服の襟を掴んでズルズルと引きずって行った。エレナも着替えを持って来ると言って部屋を出て行った。エレナに通信は繋がったままだったので、僕は撃たれた後どうなったのかを聞いてみることにした。

 

《あの・・・私が撃たれた後、どうなったんですか?》

 

《大変だったよ〜。敵がめっちゃ来るし、隠れる場所無いしでギリギリの戦いだったけど良いタイミングで迎えのヘリが来てくれたから何とかなった》

 

《そんでアンタをヘリに乗せてここまで超特急で運んで、着いたら集中治療室にぶち込んだ》

 

《アンタは背中に14発の9ミリパラペラム弾と8発の7.62ミリ弾を食らってだけど奇跡的に全部急所には当たっていなかったみたいで、コアや電脳みたいな重要部分はノーダメージだったってさ。運が良いねアンタ》

 

《で、うちの技術班と整備班が力を合わせてアンタを修理したってわけ》

 

話しながらエレナが部屋に入って来た。手にはOD色のシャツとズボンがある。

 

《吹っ飛んでた右腕とか壊れかけてた右足の関節部分とか、とにかく壊れていた箇所は全部修理したんだってさ。ほい、これ着替え。でも発声装置だけは治せなかったみたい。何でもうちにあるスペアのパーツとは規格が違うらしくて、そのパーツを取り寄せるのに時間がかかるんだってさ》

 

着替えの服を受け取った僕はカプセルから出て、体をエレナが用意したタオルで拭いてから服とズボンを着た。通気性の良さそうなOD色のシャツと同じくOD色の無駄に沢山のポケットある丈夫そうなズボン。何と言うか・・ザ、軍隊の服って感じのシャツとズボンだ。

 

まぁ軍事系が好きな僕からすればこう言う服を着れるのは嬉しい限りだが。そう言えば昔お母さんに迷彩服ばっかり着る僕によく「もっもオシャレしなさい!」とか言って来たなぁ。懐かしい。

 

鏡で自分の姿を改めて見てみるが、美少女が軍用の服を着ているのは違和感があるように感じてしまうかなと思ったが意外に似合ってるんじゃないかなと我ながら思う。

 

《うん、似合ってるよ》

 

《ありがとうございます》

 

振り返って僕はお礼を言った。

 

《さて、言うのが遅くなったけどアンタをうちの社員にすることが正式に決まったから。ようこそ、貧乏PMC L&Mへ》

 

ウェイ⁉︎僕をPMCの正式な社員にするだって⁉︎マジすか!急にそんなこと言われてもなぁ。反応に困ってしまう。それが表情に出ていたのか、エレナが言って来た。

 

《どうせアンタ行く当ても無いし丁度良いじゃん。貧乏だけど良いところだよここは。貧乏だけど》

 

何か妙に貧乏という所を強調して言って来るな。そんなにここは貧乏なんだろうか?

 

《はぁ・・・ありがとうございます》

 

いまいち実感が湧かないけど、僕はここに所属することになったようだ。

 

《ここの案内とかをしたいところだけど、実は今夜の12時なんだよね。だから案内とかの詳しい話は明日やる。今日の所は部屋で休んどいて。アンタの部屋は用意してあるから》

 


 

戦術人形になってから13日目。晴れ。

 

何で10日目から13日目に日付が飛んでいるかと言うと、10日目の時に僕は鉄血の奴らに撃たれて意識を失っていたからだ。

 

僕はあのゴーストタウンでイケメンの男ネルソンと筋肉マッチョの黒人サイモン、そして戦術人形のXM8ことエレナに出会い助けて貰った。そこで僕は彼らの基地まで一緒に行来くことになって迎えのヘリを待ってたんだけどその時に鉄血の攻撃を受けて僕はネルソンを庇って撃たれて意識を失っていた。背中にはサブマシンガンの弾を数十発食らっていたそうだけど、全部急所はギリギリ当たっていなかったらしい。運が良かった。

 

んで、今さっき聞いた話なんだけど何と僕はネルソン達が所属するライアン&モリス(略して略してL&M)社に所属することになった。正直、余りに突然言われたから実感が湧かない。だけど安心して暮らせる場所を手に入れたのは嬉しい。もう野宿とかしなくて良いんだ。

 

しかしこの僕が所属することになったPMC、エレナの話によると結構貧乏らしく持っている兵器も中古で買った旧世代の物ばかりらしい。それに社長が(兵器の)骨董品好きで、中には化石レベルの物まであるそうだ。

 

明日からここの基地の案内や詳しい説明を受けることになるから楽しみだ。ふかふかと言うわけでは無いがちゃんとしたベットの上で寝れるのは素晴らしい。これならグッスリ寝ることが出来るだろう。それではおやすみなさい。




どうだったでしょうか?本当はもうちょっとネルソンとEBRの討論を書くつもりだったんですけど、グダグタになったので短めにしました。

次回はL&M社内の探検と新たな仲間の出会いを書く予定です。お楽しみに!

感想お待しております。


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第6話 探索!L&M社施設案内。

お待たせしました第6話です!今回は私の趣味全開で書いた為、色々とカオスなことになってます(笑)。そして文字数が7000字程になり、結構長くなってしまいました。

そしてふとこの小説のUA数とかが気になって見てみたらUAが1600ぐらいになっててΣ(゚д゚;)(;つд⊂)Σ(゚д゚;)と言う感じで驚きました(笑)。

更にお気に入り数も65件になっていて10件くらいあったら良いなーと思っていた私は本当に驚きました。

これからも頑張って書いていきますのでこの「M14EBR-RIの日誌」をよろしくお願いしますm(__)m


《おーい起きてるー?》

 

午前6時00分、僕の部屋にエレナが入って来た。

 

《はい。起きてます》

 

実を言うと5時ごろには既に僕は起きていた。カプセルの中で3日間寝たっきりだったからか余り寝つけなかった。

 

《アンタの服洗濯し終えたから渡しとくよ》

 

と言ってエレナは綺麗に畳まれたセーラー服をベットの上に置いた。

 

《ありがとうございます》

 

《今から朝食だから、食堂行くよ。付いて来て》

 

 

 

食堂は昔俺僕が通ってた大学の食堂を彷彿とさせるところだった。広い部屋に8つの長机が右から左にズラリと並んでいる。そして所狭しと並んでいる椅子に朝食を受け取った人達が座り雑談しながら食事をしている。

 

《ここが食堂。特に変わったところも無いふつーの食堂》

 

美味しそうな香りが漂って来て僕の空きっ腹を刺激する。そう言えば僕今までまともな食事してないな。エレナと一緒に列に並ぶ。今日の朝食はパンとスクランブルエッグとカリカリに焼けたベーコンとサラダなど、極普通の朝食だ。配膳係の人から朝食を受け取り、席の空いている所を見つけそこに座った。エレナも僕の右隣に座った。

 

まずはパンを一口。うん。滅茶苦茶美味しい。パンがこんなに美味しく感じられたのは初めてだ。バクバクと朝食を食べていると目の前の席に誰かが座った。ネルソンだ。

 

「本当、お前は美味そうに食うよなぁ」

 

「うんうん。同じやつを食べてるとは思えないよね」

 

《そんな顔してます?》

 

《してるしてる》

 

自分ではそんな顔してるつもりはないんだが無意識の内になってしまっているのだろう。

 

「今から基地案内か?」

 

「うん。朝食食べたら適当に案内してくるよ」

 

「面白そーじゃん。俺も参加させてくれよ」

 

突然頭の上から声が聞こえて来た。振り返るとサイモンがいた。サイモンは右斜め前の席に座るとパンを掴みモシャモシャと食べ始める。と言うかサイモンはこの量の朝食で足りるのだろうか?滅茶苦茶食いそうなイメージなんだけど。

 

「別に良いけど邪魔しないでよねー?」

 

「しねーよ。ここの魅力を余すことなく紹介してやるぜ」

 

「お前あの任務どうなったんだよ。あの迷子のガキ探し」

 

ネルソンの質問にサイモンは嫌そうな顔をした。と言うか迷子のガキ探しって・・・それPMCがやることなの?

 

「あれなら昨日の内に終わらせたよ。近所の建設途中の建物の中に居た。んで捕まえたガキを親に渡したらよ〜その場でガキにヒステリックに怒鳴り散らすんだわ。も〜めんどくさかった」

 

ネルソンはアハハハと笑いながら「それはご愁傷様」と言った。エレナも笑ってる。

 

《ここの会社って迷子の子供探しまでするんですか?》

 

《と言うかそれ相応の金さえ払ってくれれば何でもやるのがうちの会社の特徴だね。抹殺、暗殺、諜報、護衛、警護、警備、輸送、救難、新兵の訓練、テロ、迷子の子供の捜索etc etc(エトセトラ エトセトラ)・・・まぁとにかく何でもするね》

 

《ちょっと待ってください、テロってどう言う事ですか⁉︎》

 

《そのまんまの意味。昔の任務であったんだよねぇ》

 

「おい、何を2人で話してるんだ?」

 

僕とエレナが長く話していたからだろう。サイモンが聞いて来た。

 

「昔テロの手伝いをしたって話をしてた」

 

「あ〜やったな。バルカン半島で車に500ポンド分のTNT爆薬乗っけて軍の幹部の別荘を吹っ飛ばした」

 

ワァオ。火薬庫は今でも荒れてるなぁ。と言うかさっきの迷子の子供探しとの落差が激し過ぎない?

 

《ま、こんな感じで金さえ払えばどんなお仕事でも()仕事でもやるのがうちの会社って訳さ》

 

へぇ〜多分もっとヤバい仕事もこの人達はやってきたんだろうなぁ。果たして僕なんかが上手くやって行けるんだらうか?

 

「そう言えば、こいつの名前はどうなったの?」

 

サラダを突っつきながらエレナが言った。んん?名前とはどう言うことだ?

 

「それなら既に考えてる。後は社長の許可を貰うだけだ」

 

「毎度思うんだけどさ、何で名前を決めるのにわざわざ社長の許可を得なきゃいけないの?」

 

エレナの質問にサイモンが答えた。

 

「それはこいつがアリーナの名前を決めるときにネイミングセンスのかけらも無い名前を付けようとしていたからだ」

 

と話しながらサイモンはエレナの皿に乗ったベーコンをフォークでぶっ刺して食べてしまった。即座にエレナからパンチの反撃が来た。鼻を押さえて悶絶するサイモン。しかしエレナもネルソンもサイモンを完全無視して話を続けた。

 

「一体どんな名前付けようとしたんだ?」

 

「キャサリン」

 

「う〜ん。ありきたり過ぎるかな」

 

「俺はナバイア(NEVAEH)って名前にしようって言ったんだけどな。それも社長に却下されちまった」

 

ナバイア?聞いたことない名前だな。するとエレナが呆れたような顔をした。

 

「それ天国(Heaven)を逆にしただけじゃん」

 

あ、そう言うことね。ってそれ完全にキラキラネームじゃん。

 

「カッコいいだろ?」

 

「全然」

 

「えぇ〜」

 

「じゃぁバラライカさんの名前は誰が決めたの?」

 

「「彼女本人」」

 

ネルソンとサイモン同時に言った。と言うか誰ですかアリーナとバラライカさんって。と言うかもしかして名前決めただの、社長の許可がいるだのってそれ僕の名前を決めるってことですかい?え〜EBRで良いじゃん別に〜。

 

「で、こいつの名前は何て付ける予定なの?」

 

「「エマ」」

 

またもや2人同時に言った。仲良いなこの人達。エマ・・エマかぁ。まぁ悪くないんじゃないかな?

 

「割とまともな名前だね」

 

「まぁ俺達じゃなくてハオレンが考えた名前なんだけどな」

 

「成る程納得。って、もうこんな時間か。ほらエマ、さっさと行くよ」

 

え、もう僕の名前エマで決定なんですか?あ!と言うか待ってエレナさん!行くの早いって!

 

《ま、待ってください〜》

 

僕は最後まで大切に残していた好物のスクランブルエッグを掻き込むと食器を持ってエレナの後を追った。

 

 

 

食堂を後にしてまず最初にエレナに連れられてやって来たのは総合訓練場と呼ばれる所。。ここで1番広い施設らしい。座学をする教室や模擬戦闘訓練をできる演習場や射撃場などがあるらしい。

 

まず最初に来たのは射撃場。今も己の腕を磨く為に何人もの人達が自分の愛銃を手に的を撃っている。その中に1人、タバコを咥えてAK-47をフルオートで撃ちまくっている赤いベレー帽を被った少女がいた。あの人見たことあるぞ。戦術人形のAK-47だ!

 

「あ、アリーナ帰ってたんだ」

 

エレナが彼女に話しかけた。あ、この人がアリーナさんなのね。成る程。1マガジン分を撃ち終わったようで空になったマガジンを抜き、コッキングレバーを引いて弾が残ってないことを確認して、机にAK-47を置いた。

 

「昨日・・って言うか今日の朝4時に帰って来たんだ。で?こいつが例の新人か?」

 

「うんM14EBR-RIって言うらしいよ」

 

「M14かぁ〜ベトナムの時はお互いジャングルで撃ち合ってたよなぁ。まぁ私自身は戦って無いんだけどね。アハハハ〜」

 

アリーナは腕を組んで何か思い出にふけったかと思ったら自分で自分の発言に突っ込んで笑い出した。ヤベェ彼女のテンションに付いて行けねえ。

 

取り敢えず彼女に通信を繋げて挨拶しておく。

 

《M14EBR-RIです。よろしくお願いします》

 

と言って僕はお辞儀する。アリーナは僕の頭をわしゃわしゃと雑に撫でて来た。

 

「よろしくな、EBRちゃん」

 

《はい》

 

見た目はタバコを咥えてて何だか怖そうだけど、案外優しそうな人だな。アリーナはAK-47を手に取り、弾の入った新しいマガジンを入れながら言った。

 

「どうだ?お前らも一緒に撃たないか?」

 

「今はこいつに施設の案内をしているところだから、案内が終わったらやるよ」

 

「オッケー。じゃぁそれまでアタシは1人で撃っとくよ」

 

マガジンを入れ、コッキングレバーをガシャッ!と勢い良く引いた。

 

「じゃ、また後でね」

 

「あぁ。また後で」

 

AK-47を構え、引き金を引き、フルオートで撃ちまくる。反動の強いAKをフルオートで撃ってるってのにアリーナは25メートル先の的の中心に殆ど当てている。凄い。暫く彼女の射撃を見た後、僕は《失礼しました》と言って射撃場を後にした。

 

 

 

次に来たのは演習場と呼ばれるエリア。言ってしまえばだだっ広い運動場みたいな所だ。市街地戦を想定した訓練をする時は簡易的な(ダンボールとベニヤ板で作った)セットを用意して訓練するそうだ。更にここではエアボーン・ヘリボーンの訓練もするみたいで、更には戦車やIFVやAPCを使った訓練もするらしい。すげぇ。

 

で、今その演習場で行われている戦闘訓練を見てとても驚いている。訓練内容が凄いって訳じゃ無い。いや、確かに皆んな動きに無駄がなくていかにも戦闘のプロって感じで凄いんだが、それよりも僕を驚かせる物が今僕の目の前にいる。

 

今彼らは戦車を盾にしながら敵陣地へ侵攻すると言う訓練をやっているみたいなんだけど、その使っている戦車がおかしい。

 

《・・・・エレナさん》

 

《何?》

 

《あれ、シャーマンですよね》

 

目の前の戦車が自慢の主砲を撃つ。腹に響く砲撃音を鳴らし105ミリ榴弾を見事的に当てた。そして車体と主砲横と砲塔上部に搭載された機関銃を撃ちまくる。

 

《まぁ正確には今主砲をぶっ放したのがM4A3の105ミリ型で、こっちにいるクソ長い砲身のヤツがM51スーパーシャーマンだね》

 

《まさかアレ実戦で使うんですか?》

 

《・・・昔、あのスーパーシャーマンで鉄血のマンティコアを吹っ飛ばしたことがある》

 

《えぇ・・・》

 

《それより前には前にはここЕ-17地区に攻めて来た鉄血の人形どもに105ミリ榴弾をお見舞いして見事壊滅させた》

 

《・・・マジですか》

 

今から120年程前に正式採用された戦車が意外に大活躍してるのに変な笑いが出そうになる。

 

暫くシャーマンと兵士達の射撃を見ていたが、何だかあそこだけ時代が違う気がする。

 

《こんな感じで化石級の兵器がうちにはあるんだよねぇ。さて、次行こうか》

 

《は、はい・・・》

 

ド派手に砲を鳴らすシャーマンを横目に僕はエレナについて行く。

 

次に来たのは総合訓練場の隣にある1号棟と呼ばれる施設。ここがメインの施設で一般職や技術職などの人達の仕事場があり、他にもさっきのシャーマンなどの車両やヘリの整備、各隊員の武器の管理、整備もここでやるらしい。他にも作戦報告書などの書類仕事、任務前のブリーフィングなどもここで行うそうだ。

 

 

 

途中サイモンと合流して、やって来たのはガンスミスと呼ばれる人がいる所。銃が壊れてしまった時はこの人に頼めば直してくれるらしい。既に僕のM14EBR-RIも整備してくれているらしい。有難や。

 

「お前が新人か」

 

ガンスミスさんにそう聞かれて僕は首を縦に振った。

 

「どんなに壊れていても治してみせるが、銃を大切に扱わんヤツのは修理しないから、それだけ覚えとけ」

 

もう一度僕は首を縦に振る。僕の反応を見たガンスミスさんは満足そうな顔をすると、僕の横にいたサイモンを睨んだ。

 

「お前はもう少しMG3を大切に使え。銃身で敵殴ったり、弾切れした時に投げ捨てて拳銃に切り替えたり。これじゃあ いざという時に撃てなくなったり、変な方向に弾が飛んで行ったりするぞ」

 

「いやそれらは全部命に関わる緊急時だったんでね。仕方なくですよ」

 

「じゃぁそういう状況に陥らない為に腕を磨け」

 

「へいへい」

 

その後もサイモンはガンスミスさんに色々と説教を受けた。その間に僕とエレナは次の場所へ向かった。

 

 

《んで、ここが車とかを整備する所。通称ガレージ》

 

ガレージは割と広い所でハマーやM2A2ブラッドレー、M113装甲兵員輸送車(ACP)、BMP-2などの色んな車両が整備を受けていた。う〜ん。さっきのシャーマン程では無いけどこれもこれで古い車両ばかりだ。と言ってもどれもこれも90年程前に正式採用された物ばかりだけど。

 

《整備士は皆んな良い人達ばかりだし腕は確かだから何か困ったことがあれば頼ってみるのも良いかもね。よし次!》

 

 

次にやって来たのは1号棟の横にあるヘリポートだ。今はガレージの横に隣接する格納庫にほぼ全部ヘリは入れられているからヘリポートにあるのはスクランブル用に待機しているUH-1Y 2機とMi-8MTV 2機だけだ。

 

ヘリの側面には髑髏にナイフが上からぶっ刺さった絵が描かれており、その絵の下には黒字でL&Mと書いてある。あの絵がこの会社のマークらしい。と言うかブラックホークかオスプレイがあるもんだと思っていんたんだけど、まさかのそれよりも前の世代のヘリか・・・。こいつもなかなか古い機体だがやはりさっきのシャーマンの衝撃がデカ過ぎてそこまでの驚きはない。と言うか今でもUH-1シリーズは民間とかで使われているしね。軍事用として使っている所も少数ながらあると聞く。

 

格納庫にお邪魔して僕は驚いた。Mi-24D、通称ハインドDがあったからだ。

 

《これはうちの主力攻撃ヘリだね。人も運べるし、対地攻撃能力も充分あるから重宝してるね。これ以外にMi-35MとMi-24Vがあるけど、普通の任務でハインドを使うことはあんまり無いね》

 

《・・そのMi-35とかの姿が見えないんですけどどこにあるんですか?》

 

《Mi-24Vは今任務で出張中。Mi-35Mの方はオーバーホールの為に別の格納庫に運ばれた》

 

成る程。Mi-35Mとか見てみたかったんだけどなぁ。まぁそのうち見れるかな。

 

《古いヘリばかりですけど・・・最新式とは言いませんけど、正規軍とかが使ってるようなヘリは無いんですか?CH-53Eとかブラックホークとかオスプレイとか》

 

エレナは顎に手を当てて「う〜ん」と言いながら少し考えた。

 

《CH-53Eは無いけどMi-26とかCH-47Dならあるよ。あと、ブラックホークは無いけどAW101ならある》

 

《えぇ⁉︎Mi-26持ってるんですか⁉︎》

 

Mi-26、ロシアが作った世界最重の大型輸送ヘリ。150人もの人や、20トン以上の荷物を運ぶことができる怪物だ。

 

《2機しかいないけどね。あと、アイツはデカ過ぎるから別の格納庫に入れられてる》

 

逆にその2機をどうやって手に入れたのかを聞きたい。と言うか凄いなここ。マニアが喜びそうな物ばかりある。

 

《とても貧乏なPMCとは思えませんね。有名な物ばかりです》

 

《こんな物ばっかりかき集めてるから金が無くなってるんだよ。維持費だけでどんだけかかってると思ってんだか》

 

ここの社長さんはアレだな。自分の趣味のためなら金に糸目をつけないタイプの人だな。

 

 

最後にやって来たのは2号棟と呼ばれる所。ここは兵舎と言うか・・社宅?みたいな所で、社員が寝泊まりする所だ。僕の部屋もここにある。因みにネルソンやサイモンは部屋を持っておらず、近くのホテルに住んでいるらしい。必ずここに住まなければいけないと言う訳では無いようだ。演習場や1号棟みたいにこれと言って凄い物はなく、普通の場所だった。因みに僕が朝食を食べた食堂は2号棟の真横にある。

 

適当に部屋を見たりしていると、娯楽室から何やら音が聞こえ来た。娯楽室を覗いていると、若いアジア系の男がゲームをやっていた。画面を見た感じFPSのオンラインシューティングゲームだ。

 

「まーたゲームやってる」

 

「ん?あぁお前か。何か用か?」

 

「別に?こいつに基地の案内してただけ」

 

「あ〜この娘が今朝言ってた喋れない新人か」

 

僕はぺこりとお辞儀する。エレナがこの人について説明してくれた。

 

《こいつはスズキ・ユウヤ。皆んなからはユーヤって呼ばれてる》

 

スズキ・ユウヤ・・・そう言えばお母さんも苗字がスズキだったな。と言うことはもしや?

 

《日本人なんですか?》

 

《よく分かったね。皆んなよく中国人と間違えるのに》

 

《母k・・・ごほん。スズキと言う名前は聞いたことがあったので》

 

あっぶね〜。母が日本人だったのでって言いそうになったよ。

 

《へー》

 

「そう言えば、アンタの妹はどこ行ったんだ?いつもお前にベッタリなのに」

 

「ハルカならアイスを買いに行ってるよ」

 

「自分の妹とをパシらせるとか最悪だね」

 

「アイツが率先してやったんだ。パシらせた訳じゃない」

 

エレナとスズキが話している間ふと彼の横に置いてあるゲームのカセットを見たのだが、いくつかあったカセットの中に日本語の題名のカセットがあった。気になったので手に取ってみる。表紙には学生服を着た可愛らしい女の子が描かれている。

 

《それは見ない方が良いぞ。目に毒だ》

 

《何ですかこれ?》

 

《EROGEってヤツだよ。変態国家日本が世界に残した負の遺産の1つ》

 

EROGE?何じゃそりゃ。僕はエレナが何を言っているのかサッパリ分からなかった。

 

「何だ?お前も学園系エロゲに興味あるのか?」

 

「ある訳ないだろうが!」

 

エレナがスズキの頭を思い切り殴った。

 

「本当日本ってロクな国じゃないよね。日本のANIMEとかEROGEのせいでアンタみたいなOTAKUが世界中で増えたんだから」

 

「別に良いじゃないかオタクが増えたって!アニメやエロゲは世界を救うんだよ!」

 

「そんなもんで世界救われるなら第三次世界大戦は起きなかったよ」

 

うーむ・・・専門用語が多過ぎて何の話か分からんな。

 

《行くよ。こいつの話を聞いてたらアンタまでOTAKUになっちゃう》

 

《そのOTAKUって何ですか?》

 

《・・・アンタは知らなくていい》

 

 

そんなこんなでPMC L&Mの施設案内は終わった。なかなか面白そうな所だなというのが僕の感想だ。

 

 


 

 

戦術人形になってから14日目。晴れ。

 

 

今日はエレナにL&Mの施設を案内してもらった。驚きの連続だった。今日1番驚いたのはシャーマン戦車が使われていたことだ。あの2次大戦中に使われた戦車だ。正確に言うとM4A3(105)1両とシャーマンの戦後改良型、M51スーパーシャーマン2両だ。これらのシャーマンは社長の趣味でオークションに売られていたものを買ったらしい。

 

しかしそれをそのまま戦力にしちゃうとは・・・なかなかここの社長はぶっ飛んでるな。でも流石に前線で戦わせる訳ではなく、L&M本社の防衛設備として使っているそうだ。過去に、本社のあるE-17地区に鉄血の部隊が攻めて来た時はシャーマン達が大活躍したらしい。

 

他にもブラッドレーやBMP-2などのIFVやM113 みたいなAPCまであった。他にも車両はあるらしいが見ることはできなかった。ヘリもヘリで年代物のヤツばかりで、なんとMi-24Dがあったよ!凄くない⁉︎それにどっから手に入れたか知らないけどMi-26とかもあったし。Mi-35MやMi-24Vと言ったハインドシリーズもいるそうだ。

 

軍事好きの僕からするとここは宝の山だ。社長とはいい酒が飲めそうだね。




どうだったでしょうか?前から2次大戦中の戦車を出したいなと思っていて、現実的に考えて残ってる確率が高そうなのは何かなと考えて、シャーマンにしました。流石に敵の戦車と戦ったらシャーマンが負けるのは明らかなので歩兵支援型の105ミリシャーマンと見た目が大好きなM51スーパーシャーマンを登場させて頂きました。(今後このシャーマンが登場するかどうかは今のところ未定)

他にも今回登場したAPCやIFV、ヘリは完全に社長(作者)の趣味の物です。(色々と突っ込みたいところはあるだろうけどロマンの為だからお許しを(ó﹏ò。) )

そして今回、名前だけが出て来たキャラや新キャラが続々と登場しましたね。今度各キャラクターのプロフィールを書く予定です。

次回はEBRちゃんことエマちゃんがL&Mの部隊に配属されたり、そのメンバーとの顔合わせをしたりする予定です。お楽しみに!

ご感想お待ちしております。


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第7話 祝杯!M14EBR-RI歓迎会

お待たせしました第7話です!今回は歓迎会という名目のメンバー紹介です(笑)。


今日僕はネルソンに呼ばれてブリーフィングルームに向かっていた。エレナによると、僕の配属することになる部隊の人達との顔合わせだとか。エレナと一緒に歩いているとサイモンに会った。

 

「よぉエマ。配属先は俺達と同じ強襲(アサルト)部隊になったそうだな」

 

あ、因みに僕の名前は社長からの許可も降りたので正式にエマとなりました。へぇ、アサルト部隊って言うのか。カッコイイ名前だな。何だか強そうだ。

 

「アサルト部隊は普通の任務以外に、より危険な任務も行う部隊だ。そして汚れ仕事もこなす。強襲任務や破壊工作、暗殺、テロ行為、敵勢力の殲滅、敵の陽動、撤退する味方の殿などと言ったことをする。因みに隊長はネルソンだ」

 

あら、ネルソンが隊長だったのか。

 

《皆んな良いヤツだから安心しなって》

 

と言ってエレナは僕に笑いかけて来た。

 

《ん?エレナさんもアサルト部隊に所属してるんですか?》

 

《そうだけど?》

 

あ、そうなんだ。知らなかった。ブリーフィングルームに到着し、僕達はドアを開けて部屋に入った。僕のイメージだとブリーフィングルームは薄暗いもんだと思っていたが部屋は普通に明るかった。前列の席に何人か座っており既に人は集まっている状態のようだ。

 

エレナとサイモンはパイプ椅子に座り、僕はネルソンに手招きされて皆の目の前に立たされた。うわっ。これめっちゃ緊張するな。僕の左隣に立っていた手を後ろで組んだネルソンが話し始めた。

 

「全員揃ったな?それではアサルト部隊緊急集会を始める」

 

アサルト部隊緊急集会って、学校の学年集会みたいな言い方だな・・・。

 

「既に皆も知っていると思うがL&Mに新人がやって来た。戦術人形のM14EBR-RI。名前はエマだ」

 

皆に向かってお辞儀をする。

 

「噂とかで知っている奴もいるだろうが彼女は発声装置が故障しており喋ることができない」

 

「喋れない奴をアサルト部隊に入れるのか?」

 

僕から見て右側の席に座っていた他の人に比べて背の低いアジア系の男が言った。

 

「確かに彼女は喋れないが、人形用の通信による会話は可能だ。つまり人形同士では喋ることが出来る」

 

俺達(人間)と喋りたい時はどうするんだ」

 

「これを使う」

 

と言ってネルソンは懐から無線機とスロートマイクを出し男に投げた。片手でそれをキャッチした背の低い男はスロートマイクを見て首を捻った。

 

「いつも使ってるヤツに見えるが?」

 

「その改良型だ。人形用の通信におじゃま出来るようになってる。やってみろ」

 

そう言われて半信半疑といった感じで背の低い男はスロートマイクのコードを無線機に繋げ、スロートマイクを首に付けてスイッチを入れた。

 

▶︎戦術人形XXXXからの通信を受信。

 

お、繋がった?ちゃんと僕の声は向こうに聞こえるのだろうか?

 

《初めまして!戦術人形M14EBR-RIことエマです!よろしくお願いします!》

 

「ソン・ハオレンだ。よろしく」

 

ワォ、本当に話せちゃってたよ。凄いな。ドヤ顔するネルソンに対してハオレンは鼻で笑った。

 

「またこんな無駄な物に金かけやがって」

 

と言ってスロートマイクを外すとサイモンが引ったくり自身の首に付けた。

 

「もしもーし。エマちゃん聞こえてるー?」

 

《はい!聞こえてます》

 

「おぉ!スッゲー!エマちゃんの声初めて聞いたわ」

 

大はしゃぎするサイモンを横目にネルソンは話を続けた。

 

「任務中はこれを使って意思疎通をする。あぁそれと、その無線機は大切に使えよ?改造にそれなりに金かかってるからな」

 

なんか申し訳ないなぁ。僕の為にこんな物を用意してくれるなんて。

 

「彼女が入ることに異論がある奴はいるか?」

 

ネルソンは周囲を見渡すが、手を上げたりする人はいなかった。

 

「そらじゃぁエマ。今日からお前はアサルト部隊の隊員だ。よろしくな」

 

僕は笑顔で頷く。ネルソンやサイモン、エレナとは一度一緒に戦ったので知らない人と戦うより気が楽だ。

 

「よし、それじゃぁ我らアサルト部隊の素敵な仲間達との親睦を深める意味も込めて今日の1800(ヒトハチマルマル)に歓迎会を開く。各員準備しとけよ?」

 

「イカれた仲間の間違えだろ」

 

「黙れサイモン」

 

「でもあながち間違えじゃないんだよねぇ」

 

そう言いながらエレナは左右に座る仲間を見た。

 

「他に何か言いたい奴はいるか?・・・・・よし、では解散」

 

歓迎会か・・それは楽しみだな。

 

 

 

現時刻午後6時12分。 2号棟の娯楽室にアサルト部隊の人達などが集まっていた。

 

「それではエマの入隊を祝しまして、かんぱーい!」

 

アリーナこと戦術人形AK47が壇上の上からマイク片手にビールの入ったジョッキを掲げながら言った。それに合わせ、皆各々の飲み物を入れたジョッキや紙コップを掲げ歓迎会が始まった。

 

アサルト部隊以外にもエマの歓迎会と聞いてお祭り好きの人達が何処からともなく現れていつのまにか歓迎会は宴会に変わっていた。酒が飲めない僕はグレープ味の炭酸飲料を入れた紙コップを片手にテーブルに置かれた色んな料理を摘んだりしていた。完全に主役が僕から酒好きの人達に変わっちゃってるよ。まぁ良いけど。

 

サイモンは酒好きの人達に混じってビール片手にどんちゃん騒ぎ。アリーナも結構酔いが回っているのか着ていたシャツを脱ぎ捨てて上半身裸の状態で(緑色のビキニ風のブラは着けている)サイモン達のどんちゃん騒ぎに混じっている。

 

と言うかあれ大丈夫なの?酒に酔った男どもの中に服を脱いで上半身はブラだけの美女がいる状況って言う今の状況普通に考えたら不味くない?と言うかアリーナもアリーナで何で服脱いじゃってるの⁉︎

 

「あれ大丈夫何ですか?」

 

僕はアリーナを指差して同じ炭酸飲料を飲んでいるエレナに聞いてみる。

 

《アリーナは酒が入るといつもこうだから気にしないで大丈夫だよ》

 

《エレナさんはお酒飲まないんですか?》

 

《酒は好きじゃなくてね》

 

《私と同じですね》

 

と言って僕はエレナに微笑む。酒が飲めないのは僕だけかと思っていたから仲間がいて嬉しい。エレナは紙コップに残っていたグレープ味の炭酸飲料を飲み干して机に置いた。

 

《さて、今のうちにアサルト部隊のメンバー紹介でもしようか》

 

《良いですね。早めに皆さんの顔と名前も覚えておきたいですし》

 

エレナはジョッキ片手にどんちゃん騒ぎしているサイモンの方を指差した。

 

《あの馬鹿はパイク・サイモン。あぁ見えてもネルソンと同期でL&Mの最古参組の1人。アイツを一言で言うならトリガーハッピー馬鹿》

 

次にその横でビールを一気飲みしているアリーナを指差した。

 

《アリーナはL&Mに所属する人形の中では最古参。普段はあんな感じだけど頼りになる副隊長だね》

 

エレナは辺りをキョロキョロと見渡して、ネルソンと話している身長の低いアジア系の男性を指した。ブリーフィングルームでの集会の時に少し話した人だ。確か名前はソン・ハオレンだったかな?

 

《彼は中国からやって来た傭兵ソン・ハオレン。身長は低いけど強いよ〜アイツ。それに物知りで何でも知ってる。困った時は彼に頼るのをオススメするよ》

 

そしてハオレンと話していたネルソンの方を指差した。

 

《そして彼が我らの隊長マーコム・ネルソン。アサルト部隊の中では最古参。ぶっちゃけこれと言って飛び抜けている所が無いフツーの傭兵だね。でもまぁ仲間思いの良い隊長だよ》

 

エレナが次に紹介する人を探していると髪をGIカットにしている男が僕達のところに来た。

 

「あ、良いところに来た」

 

「彼はオットー・マルクス・ハン。ドイツ出身の爆破魔」

 

「おいおいその言い方はないだろう」

 

HAHAHAと白い歯を見せながら笑ってそう突っ込んだオットー。はて、爆破魔とはどう言うことなんだろうか?

 

《爆破魔ってどう言うことですか?》

 

《こいつはC4やTNT爆薬を使った爆破が大好きなんだよ。何でもかんでも吹っ飛ばす》

 

《凄いですね》

 

《そんなこと言ってられるのも今の内だよ。マルクスが実際に爆破しまくっているところを見たらアンタもドン引きするから》

 

《はぁ・・・》

 

一体どんな爆破をするのだろうか?気になるな。

 

「これからよろしくな。エマちゃん」

 

笑顔で僕は頷く。

 

「何の話をしてるんだー?」

 

オットーと話していると昨日会ったあの日本人のスズキが話しかけて来た。隣にはアジア系の女性がいる。

 

「今こいつにアサルト部隊の人達を紹介してるとこ」

 

「こいつは前も説明したスズキ・ユウヤ。ただのOTAKU」

 

《だからOTAKUって何ですか?》

 

《変態の一種と思っとけば良い》

 

「で、その隣にいるのがユーヤの妹のスズキ・ハルカ。お兄ちゃん大好き馬鹿。戦闘ではユーヤより役に立つ」

 

長い黒髪が特徴的な女性。美人な人だなと僕は思った。まぁ僕の好みでは無いけどね。こうもう少し胸がーっとごめんなさいもう言いませんからそんな顔で見ないでください。

 

「おいおいそれは無いよエレナちゃん〜」

 

エレナはユウヤの腹を殴った。

 

「エレナちゃんって呼ぶな」

 

「ちょっと兄貴に酷いことしないでよ!」

 

「うるさい馬鹿女」

 

「馬鹿って言う方が馬鹿なんですー!」

 

ギャーギャーとエレナとハルカが喧嘩を始めた。それに気づいたネルソンが2人の間に入り喧嘩を止めた。

 

《はぁ。ごめん、話の途中だったね》

 

《いえ、大丈夫です》

 

《アイツ黙っとけば美人なんだけどなぁ》

 

成る程お兄ちゃん大好きっ娘ですか。シスコンにはたまりませんな。まぁ俺はシスコンでは無いが。

 

《で、あそこにいるのがアンナ・アンドレーエヴィチ・エリツィナ。みんなアンナって呼んでる名前で分かると思うけど彼女はロシア人。スペツナズに入っていたとか言う噂があるけど本当のところは分からない》

 

エレナは部屋の隅で壁にもたれ掛かりながら酒を飲んでいる女性を指して言った。あの人が飲んでるのは・・・あれはウォッカだろうか?あ、ウォッカだわ。彼女の横にある机にvodkaと瓶書かれた瓶が置いてあるもん。

 

アンナも美人だったがハルカとは毛色が違う。さっきのハルカは可愛いとか可憐と言った言葉が似合う人だったがアンナはボーイッシュとかクールビューティーだとかの言葉が似合う人だ。実際ウォッカの入ったグラスを飲んでいる姿はカッコいい。

 

《ネルソン達より後に入隊した古参組。敵は容赦なく一片の慈悲もなく殺す人だね》

 

ヒエッ・・・あの人は敵に回さない方が良さそうだな。と思いながらアンナを見ているとギロッとこちらを見て来た。光の無い赤い瞳がとても怖いが僕はお辞儀をしておく。アンナは特に反応せずまたウォッカを飲み始めた。怖っ、あの人怖っ!

 

《で、あそこで楽しそうに話しているのが戦術人形Kord6P57。名前はバラライカ。うちの名スナイパーだよ》

 

へぇ〜スナイパーなんだ。ん?スナイパー?でも確かKordって機関銃だったよな?どう言うことだ?

 

《エレナさん、Kordって機関銃だったと思うんですけどそれで名スナイパーってどう言うことですか?》

 

《Kordにスコープ乗っけて狙撃してんの》

 

《それで狙撃出来るんですか?》

 

《出来るみたいだね》

 

あの銃12.7ミリ使ってるからもう対物ライフルじゃん。恐ろしいな。エレナと話しているとバラライカがこちらに気づいたみたいでこっちにやって来た。

 

「戦術人形のKord6P57、バラライカだ。よろしくな」

 

《M14EBR-RIのエマです!よろしくお願いします!》

 

と言って僕はお辞儀をした。

 

「何かあれば私を頼ると良い。力になるぞ」

 

「ありがとうございます!頼りになります!」

 

僕が笑顔を見せるとバラライカはニッと笑って親指を立てた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

その後はエレナとバラライカとネルソンと一緒に話したりして楽しく過ごした。まぁその後、酒を飲み過ぎてその場で寝始めたアリーナやサイモンなどの酒好き達を運ぶのには苦労したけどね。

 


 

 

 

戦術人形になってから15日目。曇り。

 

今日僕はL&M社の強襲(アサルト)部隊に配属になった。そして歓迎会をして貰った。とても賑やかで楽しかった。

 

アサルト部隊に所属する人達は個性豊かなメンバーが多かった。全員書くのは面倒だから1日に1人づつ紹介して行くことにする。今日1番印象に残ったのはアンナ・アンドレー・・・えぇっとフルネーム忘れちゃたけどアンナって言うロシア人だ。あの人目が怖かった。あの目はアレだよ。人を人とは見ていない目だよ。取り敢えずあの人を怒らせたりして敵に回さないようにしないと。敵は容赦無く殺しまくるらしいからね。

 

それと、僕の為にネルソンが技術班に頼んで専用の無線機を作って貰ったらしい。その無線機は人形用の通信に割り込んで話すことが出来る便利な物。これでネルソン達人間とも話すことが出来る。僕の為にここまでしてくれるネルソンには本当に頭が上がらない。

 

アサルト部隊の一員として頑張って行きたいと思う。




どうだったでしょうか?薄っぺらい内容ですいませんm(__)mやっぱり自分は会話のシーンを書くのが苦手なのでもっと上手くならないとだなぁと思いました。

そして今回オリジナル戦術人形Kord6P57ことバラライカのイラストを描いてくださったこまりんさん。本当にありがとうございます!

そして次回はEBRちゃんがアサルト部隊として初の任務に出ます。そこでちょっと皆さんに聞きたいのですが現在私はEBRちゃんの初任務のシナリオを2つ考えているのですがどちらが良いでしょうか?是非アンケートに答えてください。


感想もお待ちしております。


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第8話出撃!アサルト部隊

お待たせしました第8話です。アンケートの結果大型E.L.I.D駆逐作戦を選んだ人が多かったので決定しました。対戦車戦闘を見たかった人はすいません。また今度ということで楽しみにしていてください。


▶︎スリープモード解除。M14EBR-RI起動。

 

目が覚める。少し汚れた白色の天井が見える。寝惚け眼で部屋の壁に掛けてある時計を見ると午前6時丁度。僕は朝はそんなに強くなかったんだけどこの体になってからは決めた時間ピッタリに起きることが出来ている。これは僕が戦術人形になったからだろう。体を起こして大きく背伸びをする。

 

カーテンを開けると眩しい朝日が当た・・・れば良かったんだけどね〜。僕の部屋は西側にあるから朝日は拝めないんだ。

 

まぁ野宿とかを経験した僕からしたら雨風を凌げる部屋とベットがあるだけで僕は充分なんだけどね。

 

ベットから降りてハンガーに掛けられた戦術人形M14の物と同じ茶色のセーラー服を手に取る。さて、問題はここからだ。僕がここに来てから今日で3日目になるのだが、未だに慣れないことがある。それは自分の体を見ると言うことだ。

 

今自分は寝巻き姿なので当然着替えなければいけないのだが、服を脱ぐと言うことは自分は一時的に裸になるということだ。少し前まで普通の青年だった僕からすると例え上半身だけであろうと女性の裸は刺激が強過ぎるのだ。

 

なので極力自分の体を見ないようにしながら着替える。パジャマを脱いでまず白色のニーソを着ける。これはクソ長い靴下みたいな物と思えば大丈夫。問題は次だ。丈の短い紺色のスカートを目を瞑りながらなんとか履く。これで第1関門は突破した。

 

次にパジャマとして着ていたOD色のシャツを目を瞑りながら脱いで、ブラを付ける。これがかなり難しく上手く付けることができず悪戦苦闘。いやまぁ目を瞑りながらやってるせいなんだろうけど。ブラを付けたら後は簡単。セーラー服を着れば終了だ。

 

M14は髪をツインテールにしてるが、そんな高等テクを僕が出来る訳ないので、僕は結ばずそのままにしている。服の着替えも終わった頃にドアをノックする音が聞こえた。

 

▶︎戦術人形XM8からの通信を受信。

 

《入るよ》

 

と言ってエレナが部屋に入って来た。手には櫛を持っている。お恥ずかしいことながら自分で自分の髪を整えることがまだ出来ないので、エレナにいつも僕の髪を整えて貰っているのだ。エレナは慣れた手つきで髪をとかす。

 

《アンタって可愛い見た目してる癖に女子力は全く無いよね〜》

 

《あははは〜》

 

笑って誤魔化そうとしたが誤魔化せていない気がする。自分で出来るようになった方が良いんだろうけどそうなると僕が僕では無くなると言うか・・・僕のアイデンティティが無くなるようで嫌なんだよなぁ。

 

髪を整えて貰い準備を終えた僕はエレナと食堂に向かった。食堂は人でごった返しており、朝食を受け取り席に座るまでに結構時間がかかった。ソーセージを齧っているとネルソンがやって来た。

 

「全員朝食が済んだらブリーフィングルームに来るように」

 

そう言ってネルソンは一足先に食堂を出て行った。どうやら仕事が来たようだ。僕にとって初めての仕事。一体何だろう?いきなりテロの手伝いとかだったら嫌だなぁ。

 

さっさと食事を済ませてブリーフィングルームに向かった。部屋に入ると既に主要メンバーは揃っていた。僕が部屋に入ってから数分後にユウヤとハルカが来て、最後にサイモンがやって来てアサルト部隊のメンバー全員が揃った。

 

突然部屋の明かりが消えた。何事だとキョロキョロとしていると目の前の壁にある大型モニターが起動し青白い光で室内を照らした。モニターの画面に航空写真と地図などが表示された。モニターの前にネルソンが立った。

 

「皆んな喜べ2週間振りの仕事だ。3日前、E-17地区から東に約80キロ行ったところにあるここで大型のE.L.I.Dが複数確認された」

 

ネルソンはE-17地区から少し離れた所にある村?のような所を指揮棒で指しながら言った。

 

「昨日ここを偵察に行った別のPMCの連中はその大型E.L.I.Dの攻撃を受け、救援を求める通信を最後に消息不明。救出に向かったヘリも落ちたそうだ」

 

えぇ〜初っ端から何かヤバそうな任務がきたなぁ。大型E.L.I.Dとか絶対ヤバイ奴じゃん。それに既に行方不明者出ちゃってるし。迷子の子猫の捜索みたいな簡単な任務を期待してたんだけどなぁ。あ、と言うかアサルト部隊ってこう言うヤバ目の任務を主に遂行する部隊だったな忘れてた。

 

「そこで我々の出番だ。我々は今からここに向かい大型E.L.I.Dを掃討する。そしてE.L.I.Dの巣のような物があればそれを吹き飛ばす」

 

"吹き飛ばす”と言う言葉に僕から2つ隣に座っていたオットーがピクリと反応した。

 

「それと、消息不明になった連中の捜索も頼まれているが大型E.L.I.Dの殲滅が大前提の任務だ。だから迷子組は見つけなくても良い。何か質問は?」

 

「その大型E.L.I.Dの数や詳細は?」

 

1番左に腕を組んで座っていたハオレンが質問した。

 

「数は不明。二足歩行の巨人で、アサルトライフルの一斉射を受けても死なないそうだ。・・・・一応対戦車ロケットを持って行くか。他に質問は?」

 

僕も聞きたいことがあるから聞いておこう。エレナさん伝言お願いします。

 

《その行方不明者の遺体を見つけた場合はどうしますか?》

 

「その消息不明になった人の死体を見つけた場合はどうするかってエマが聞いてるよ〜」

 

「遺体自体は回収しない。顔写真を撮ったりドッグタグを回収したりするだけだ。他には?」

 

他に質問しようとする人は居なかった。

 

「よし、では各自装備を整えて3番ヘリポート前に集合だ。以上解散!」

 

ネルソンが解散!と言った瞬間全員ガタガタとパイプ椅子から立ち上がった。僕も慌てて立ち上がりみんなの後をついて行く。ブリーフィングルームを出て廊下を進んみ、階段を降りて地下に行くとそこには各自の装備品などが入ったロッカールームがある。そこで装備品を整えるのだ。

 

EMMAと書かれたロッカーを開けて僕も準備する。腰辺りにベルト式のマガジンポーチとホルスターを付ける。そして無線機に繋げたスロートマイクを首に付け、そのスロートマイクに繋がっている透明のイヤホンを右耳に付ければ完了だ。

 

ガンロッカーからそれぞれ自分の愛銃を取って行く。僕もガンスミスに整備してもらったM14EBRとP320をガンロッカーから取り出す。P320は安全装置を解除してスライドを引いて初弾を装填した状態でホルスターに入れた。M14EBRは手に持って行く。

 

「弾は多目に持って行っとけ」

 

と、サイモンが言って来た。僕はそれに従って予備マガジンを6つマガジンポーチに入れておいた。

 

準備を済ませた僕達はネルソンに言われた通り3番ヘリポートに来た。ヘリポートに出た瞬間暖機運転を済ませて出発を今か今かと待っているUH-1Yの甲高いエンジン音が聞こえて来た。既に装備を整えてM27 IARを手に持ったネルソンがヘリポート前で待っていた。

 

「全員忘れ物は無いな?」

 

ネルソンが後ろでメインローターを回しているUH-1Yのエンジン音に負けない位の声で聞いて来た。ざっと確認してみるが特に忘れ物は無い。

 

「それじゃぁ行こうか」

 

そう言ってネルソンを先頭にヘリに乗り込んで行く。人生で初めてヘリに乗ったが意外に機内は狭かった。それにエンジン音とメインローターの回転音がうるさい。誰かが肩を叩いて来た。ネルソンだ。パイロットと何か話している。

 

「ジェフリーこの娘が例の新人のエマだ。エマ、このヘリのパイロットのジェフリーだ」

 

ザ、アメリカ人って言う風な見た目のジェフリーはにっこりと笑いながらこっちに手を差し伸べて来た。

 

「ジェフリーだ。これからよろしくな」

 

僕はその手を握り握手する。

 

《エマです。よろしくお願いします!》

 

相手には聞こえないだろうけど一応言っておく。ジェフリーは頷くと手を離してヘリの発進準備に取り掛かる。

 

《アサルト部隊へ、アイリーン。もう一度繰り返す。アイリーン》

 

HQ司令本部からの通信だ。この通信は僕達だけでなくヘリのパイロットにも聞こえるようになっている。

 

「アイリーン!」

 

サイモンが嬉しそうにニコニコしながら復唱した。

 

「ファッキンアイリーン」

 

ジェフリーはそう言ってから何かボタンのような物を押した。すると機内に大音量で音楽が流れて来た。僕はキャビンから足を外に出して座っている戦術人形AK-47ことアリーナに聞いてみた。

 

《これ何て言う曲なんですか?》

 

《Fortunate Sonって曲だよ。最高にイカしてるだろ?》

 

《そ、そうですね・・》

 

ジェフリーがヘリの出力を上げて機体を上昇させた。エレベーターに乗った時みたいにフワッと浮く感覚に襲われる。整備員とかがこちらに手を振って来たので僕も振り返す。ヘリはグングン上昇して、L&M社の周りを半周してから目的地に向かった。上から見て思ったがL&Mの敷地面積はやはり広いな。そして僕は初めて会社のあるE-17地区を見た。と言っても会社がある場所はE-17地区の郊外だから会社の周りには道路以外何にも無いけど。

 

後ろからはハイドラロケット弾とM2ブローニングを搭載したガンシップ型のUH-1Yが1機付いて来る。僕達を乗せたヘリは2000フィートの高さを維持し機首を東に向けて飛んで行く。




今回は出撃シーンを書きたかっただけなので短めでした。次回から戦闘に入るので文章量は多くなり、投稿は遅れてしまうと思います。

果たしてアサルト部隊は無事任務を遂行出るのか?次回をお楽しみに!

感想お待ちしてからおります。


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第9話タッチダウン!E.L.I.D巣食う村への降下

お待たせしまいた第9話です!


Fortunate sonなどの古い曲を聞きながらヘリに揺られること約15分。僕達を乗せたヘリは目的地付近にまで来ていた。

 

《LZまで後2分!》

 

パイロットのジェフリーが無線で伝えて来た。僕は手に持っていたM14EBRのコッキングレバーを引いて初弾を装填し、セレクターレバーをSAFE(安全)からSEMI(単射)に切り替えた。ネルソン達も同じようにコッキングレバーを引いて初弾を装填している。

 

開けっ放しになっているサイドドアから外を見ると荒地が広がっている。時々近くにいた動物がヘリの音に驚いて逃げて行くのが見える。

 

やべぇ緊張して来た。緊張を和らげる為にスゥーーハァーーと大きく深呼吸をする。

 

「緊張してるのか?」

 

ネルソンが聞いて来た。いや〜申し訳ない。めっちゃ緊張してるんですよ。しかしここで弱音を吐いては駄目だ気丈に振る舞わなければ。緊張してると悟られないように僕は笑顔を作った。

 

《いえ、大丈夫です!》

 

今ネルソン達は例の改良型スロートマイクを付けているので僕の声は聞こえてる。

 

「俺達がサポートしてやるから安心しろ。それと、前みたいに無茶はするなよ?」

 

《了解です!》

 

と言って僕は頷く。その間にもヘリはLZに近づいており、キャビンからも廃墟などがチラホラと見えて来た。

 

《隊長!LZ周辺に大量のE.L.I.Dが居るがどうする?》

 

ネルソンはコックピットの方に移動して座席と座席の間から顔を出して前方を確認する。

 

「多いな・・・・仕方ない。あそこに降りてくれ」

 

ネルソンはパイロットのジェフリーに右の方を指して指示した。

 

《了解》

 

ジェフリーとの話を終えたネルソンはこちらに振り返った。

 

「聞いた通りだ。既にLZ周辺には大量のE.L.I.Dがいる。比較的数の少ない所に降りるがタッチダウンと同時に戦闘になるぞ!全員気を引きしめて行け!」

 

「「《了解!》」」

 

初っ端から戦闘ですかそうですか。手厚い歓迎しちゃって・・感動で涙が出そうだよクソったれ!ヘリが高度を下げ始める。着陸しようとしている所にE.L.I.Dと思われる生物が歩き回っているのが見える。

 

《ドアガン!あそこにいる奴らを全部薙ぎ倒せ!》

 

《了解ッ!》

 

ヘリの両側面に備え付けてあるGAU-16/Aをドア・ガンナーが操作して付近のE.L.I.Dに向けて発砲。12.7ミリ弾を食らった人型のE.L.I.Dは一撃で下半身が吹き飛び上半身だけになったが、それでも動き続けている。ヘリはなるべくE.L.I.Dの数が少ない場所に着陸した。ドアガンの射撃で敵が引いた隙にネルソン達は素早く降りて行く。サイモンに背中を押されて僕もヘリから降りた。全員を下ろしたのを確認したUH-1Yはすぐさまエンジン出力を上げて危険地帯から離脱した。

 

誰よりも先にヘリから降りたアリーナはAK-47で近くにいた獣型のE.L.I.D2体を素早く撃ち殺し、更に別方向から接近して来た人型のE.L.I.DをAK-47の銃身に付けた銃剣で頭を突き刺し撃った。流石のE.L.I.Dでも頭を刺された上に撃たれてはひとたまりも無いようだ。他の人達もそれぞれE.L.I.D達を次々と撃ち殺して行く。

 

僕もM14EBRを構えて撃つ。今回は近、中距離戦になると思ったので高倍率のスコープを外してACOG光学照準器を付けて来たのだがこれがまぁ狙い易い。人型E.L.I.Dの胴体に照準を合わせて引き金を3回連続で引く。撃ち出された3発の7.62ミリ弾の内2発が命中したが、E.L.I.Dは何事もなかったかの様にピンピンしている。もう2発食らわせてやっと死んだ。こいつらある意味鉄血の人形よりタフなんじゃないか?

 

別の目標に照準を合わせて発砲!2発が胴体に当たり1発が奇跡的に頭に命中。即死した。右横からドダダダダダダダダッ‼︎と言うけたたましい発砲音が聞こえて来た。驚いて横を見ると戦術人形Kord6P57ことバラライカがKord重機関銃の二脚を地面に立てて伏せ撃ちしていた。しかもただ敵の居る方に乱射している訳で無く正確に狙って撃っている。Kord重機関銃の使用弾薬は12.7×108ミリ言う超強力な物で、徹甲弾(AP)であれば軽装甲車の装甲を貫くことが出来る程だ。

 

小型のE.L.I.Dであれば一撃で殺すどころがバラバラに出来る。間違い無くアサルト部隊で1番の火力だ。サイモンもMG3をバラライカと同じ様に地面に置いて撃っているがこちらは本当の乱射だ。景気良くE.L.I.Dの集団に向けて7.62ミリ弾を撃ちまくっている。

 

《こちらダブ2、これよりCAS(近接航空支援)を行う》

 

ハイドラロケット弾とM2ブローニング重機関銃を固定装備したガンシップ型のUH-1Yが低空飛行しながらやって来ると僕達の目の前で停止した。ホバリング状態のままUH-1Yはロケット弾を3発 発射して目の前に居たE.L.I.Dの集団を纏めて爆殺し、ロケット弾で仕留めきれなかった奴を2丁のM2で攻撃した。その攻撃を何度も何度も繰り返す。ヘリでの航空支援のお陰で目の前に居たE.L.I.Dは壊滅。生き残りが何匹か居たがそれらはネルソン達が迅速に処理した。

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「オールクリア!」

 

それ程時間もかからず残りのE.L.I.D達を全滅することが出来た。

 

「航空支援感謝する」

 

と言って飛び去って行くUH-1Yにネルソンは手を振ってから親指を立てた。

 

《ロケットもブローニングもまだあるから必要な時は呼んでくれ》

 

「了解した」

 

ネルソンを先頭に僕達は目標の大型E.L.I.Dが目撃された村に向かう。今僕達がいる所は村から1キロ程離れた荒地。ここから歩いて村に向かう。

 


 

 

 

戦術人形になってから16日目。快晴。

 

今日僕はアサルト部隊の隊員として初の任務を遂行している。今は人の居なくなった村に来ている。任務の内容はここで目撃された大型E.L.I.Dを見つけてぶっ殺すことと、行方不明になった別のPMCの部隊の人達を見つけること。

 

簡単な任務に見えるかもしれないが、実ははかなり難しい任務だ。E.L.I.Dは高い身体能力を持ったミュータントで、7.62ミリ弾を数発食らわせても生きていると事があるほど生命力が高い。そして凶暴だ。しかも数がめちゃくちゃ多い。ここに来るまでにかなりの数のE.L.I.Dに襲われた。

 

でも幸いなことに今まで会った奴らは全部弱い奴らだったのでそこまで苦戦することは無かった。しかしさっきまで航空支援をしていたUH-1Yが弾切れで基地に帰って行ってしまったので心細い。

 

弾も結構消費してしまい残りのマガジンは今使っているのと合わせて後5個だ。頭とかの急所を狙ったりして弾の消費を抑えないと不味いな。

 

しっかしここの村は何か不気味だ。空気がどんよりとしている気がする。今にもオバケが出てきそうな雰囲気だ。今は昼だからまだ良いけど夜になったらヤバイだろうな。あまり長居はしたくない所だ。

 

そしてアリーナさんの活躍が凄かった。アリーナさんは戦術人形のAK-47のことなんだけど、彼女は銃剣突撃とかをしてE.L.I.Dを次々と倒していた。アサルト部隊の副隊長を務めているだけはあるなと思った。

 

戦闘時はかなり頼りになるんだけど、基地に居る時とかの平日は際どい服を着てそれを執拗に見せびらかしたり、酒を飲み過ぎてそこら辺に倒れていたりと頼りになる戦闘時とのギャップが凄い。

 


 

戦闘時とのギャップが凄いっと。よし、書けた。休憩がてらに書いていた日記をリュックに仕舞う。村に着くまでに予想以上に大量のE.L.I.Dに襲われたせいで既に結構体力を使ってしまった。今は村の中にあった建物の中で休憩を取っている。

 

「食べるか?」

 

サイモンがポケットから取り出したチョコバーを僕に見せながら言った。しかし今はそんなに腹は減ってないのでお気持ちだけ頂く。

 

《いえ、大丈夫です》

 

「そんなに遠慮しなくて良いのにねぇ〜」

 

と言いつつサイモンはチョコバーを食べ始めた。近くにいたエレナはマガジンを抜いてコッキングレバーを何度か引いたしして銃の動作に異常が無いかを確認している。アリーナは火のついていないタバコを加えて、ジッポーを開けたり閉めたりしている。

 

《タバコ、吸わないんですか?》

 

「そこら中に奴らが居るんだ。呑気にタバコ吸ってたら匂いでバレちまう」

 

《成る程》

 

確かにタバコの臭いは強烈だからね。E.L.I.D達がこの臭いに反応してこっちに来ちゃう可能性がある。

 

「さて、行動を起こすか」

 

そう言いながら立ち上がったネルソンに皆が注目する。

 

「今から2班に分かれてここを探索する。1班は俺とエマとユウヤとバラライカとハオレン。2班はアリーナとオットーとサイモンとアンナとハルカだ。異論はあるか?」

 

特に皆何も言わなかった。

 

「何かあれば直ぐに連絡しろ」

 

ネルソンは副隊長であるアリーナ言った。アリーナは口角を吊り上げて笑った。

 

「ネルソンの方こそヤバくなったらあたし達を直ぐに呼べよ?」

 

「そうするさ」

 

ネルソンとアリーナはお互いの拳同士を軽くぶつけてそれぞれ動き出した。建物から出た僕達1班は建物の中を一つ一つ確認しながら進んで行く。ただここの村の建物は崩れているのが多く、建物としての原型を留めているのはそんなに多くない。

 

時々建物の中に人型のE.L.I.Dがいて襲われそうになるが5人からの集中砲火を食らって呆気なく死んだ。3階建ての建物を見つけて、そこを探索していると上を探索していたユウヤとバラライカからこっちに来てくれとの連絡が来た。エレナと1階を探索していた僕はユウヤ達の居る3階に階段を駆け上がり急いで向かった。

 

「どうした?」

 

ネルソンが窓から単眼鏡で外を見ていたユウヤに聞いた。ユウヤは一度振り返ると窓の外の方を指差しながら言った。

 

「あそこに飛行機のプロペラの様な物が」

 

ネルソンはユウヤから単眼鏡を借りてその方向を見る。僕も自分の単眼鏡でネルソンの見ている方を見る。確かに平屋の建物の上に飛行機のプロペラらしき物がある。しかしよく見ればあれは飛行機のプロペラでは無い。

 

《あれ、ティルトローター機のローターですね》

 

「ディルトローター機?なんじゃそりゃ」

 

僕の後ろからユウヤが聞いて来た。まぁ余り知られていない名前だからね。知られてなくても仕方ない。でもディルトローター機は無いだろ。

 

《ティルトローター機です。オスプレイみたいな航空機のことです》

 

「へぇ。エマちゃん物知りだね」

 

ドヤァ。軍オタ舐めんなよ?まぁそれは置いといて、もしかしてあれが行方不明者になったPMCの人達を探しに行って落とされたヤツ?

 

「あそこまで行くぞ。機体の残骸を調べる」

 

アリーナ達2班に墜落機らしき物を発見したことを伝えてから建物から出て、ローターの落ちていた建物へと向かう。そんなに距離は無かったので5分ほど歩いてその建物に着いた。

 

建物の上を見上げてみると屋根の端から長いローターの端が見えている。ここで間違い無い。しかしそのローター以外、機体の部品らしき物は見当たらない。

 

ティルトローター機は左右どちらかのエンジンが止まってしてしまった場合片方のエンジンだけで飛ぶことは出来ないので、片方のエンジンが停止した場合に備えて主翼内に左右のプロペラに動力を伝達する為の伝達軸があるが、今の場合片方のエンジンが脱落してしまっているので推進力を失って近くに墜落した筈なんだけど・・・。

 

やはり墜落機は近くにあった。ローターの落ちてた建物から100メートル程行った所にあった道路にひっくり返った状態で墜落していた。墜落時での衝撃でだろうか、左右の主翼は根元から折れておりコックピットは上半分が潰れている。これではパイロットは助からなかっただろう。

 

そしてさっきから気になっているのだが機体の近くに人型や獣型のE.L.I.Dの死体が沢山転がっている。死体は異臭を放っており死体に大量のハエがたかっている。

 

「死後1日ってところか」

 

死体の腐食具合を見たネルソンがそう呟いた。

 

《この機の乗員がやったんですかね?》

 

「まぁこの状況を見るにそうだろうな」

 

死体は全て墜落機周辺にあった。機内から襲いかかってくるE.L.I.Dを撃ち殺したのだろうか?

 

「うーん?」

 

Type89を持っているユウヤが機体を見て首を傾げていた。

 

《どしました?》

 

「なーんかこのオスプレイ見た目に違和感があると思って。前見たヤツよりスマートって言うか何というか」

 

《これオスプレイじゃないですよ?》

 

「マ?」

 

確かに見た目は似ているがこいつはオスプレイじゃない。

 

《これはV-280 バローって言うティルトローター機です。オスプレイより後に開発された機体ですね》

 

ベル V-280 バロー。オスプレイの開発経験を生かしてUH-60の代替として開発されたティルトローター機だ。4名の乗員と14人の完全武装の兵士を乗せて毎時520キロで最大1500キロまでの往復が可能。対戦車ミサイルやロケット、機関砲などを搭載して攻撃ヘリとしても運用できる万能機だ。

 

「へぇ〜」

 

「社長が喜びそうな飛行機だな」

 

バラライカがバローを見てそう言った。しかしあの社長古い兵器が大好きみたいだからこいつ見たいなのには余り興味無いのかも。

 

「パイロットは2人とも死んでる」

 

コックピット内を覗いたネルソンがそう言った。ネルソンのしかめた顔を見るに死体は酷い状態だったのだろう。墜落時の衝撃で歪んだ機体左側のサイドドアを皆んなで一緒に無理矢理こじ開ける。

 

ガッギッ!ギギギギィ〜と金属の擦れる音を響かせながらドアは開いた。

 

キャビン内を見るとそこには男性2名と少女が1人倒れていた。バラライカとネルソンが男性に駆け寄り脈を図ったりして生きているかどうか確認する。僕も少女に駆け寄る。ん?この子何処かで見たことあるような?

 

薄茶色の髪の一房を三つ編みにして、前髪に十字型のアクセサリーをつけた少女・・・・あ、思い出した!戦術人形のFNCだ!確認した感じ死んではいないようだ。と言うか過度の疲労でスリープモードに入っているだけみたいなので、僕は一安心した。とりあえずネルソンに報告しないと。

 

《ネルソンさん。この子は無事です。大きな外傷もありません》

 

「こっちの男もあちこち怪我をしているが大丈夫だ。意識もある」

 

「こっちの人は右足を骨折しているが命に別状は無い」

 

良かった。全員無事だったようだ。ネルソンは意識のある男に話しかけた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ・・う・・・み、水をくれ」

 

ネルソンは自分の水筒を取り出し蓋を開けて、男にゆっくりと水を飲ませた。男は水筒をひったくるようにネルソンの持っていた水筒を取って勢いよく水を飲み、咳き込んだ。

 

「ゲホ!ゲホッ!・・・・すまん、助かった」

 

そう言って男らネルソンに水筒を返した。水筒を受け取りながらネルソンは男に質問した。

 

「お前はCRESCENT(クレセント)社の隊員(社員)か?」

 

「そうだ。消息不明になった同僚を探しに来てたんだが・・・このザマだ」

 

男は機体の壁を背もたれにしながら体を起こした。

 

「E.L.I.Dにやられたのか?」

 

「分からない」

 

「どう言うことだ?」

 

「村の上を飛行していたらいきなり右エンジンが吹き飛んだんだ」

 

いきなりエンジンが吹き飛ぶなんて事あるのか?しかも見た感じエンジンごと脱落してるみたいだし。

 

「事故って事か?」

 

男は首を振った。

 

「いや、誰かに撃たれたんだ」

 

「撃たれた?」

 

「俺は右側の窓から消息不明になった仲間が居ないか探していたんだが、その時に地上で青白い光が見えたんだ。それが見えた瞬間エンジンが吹き飛んだ」

 

青白い光ねぇ・・・一瞬スティンガーみたいな携帯型対空ミサイルの攻撃かと思ったが青白い光なんて出ない。ネルソンもそれが何なのか分かっていないようだった。ネルソン達とその正体について考えているとFNCが「う・・・う〜ん」と声を出した。どうやら起きたみたいだ。目を開けたFNCと目が合った。

 

「ッ⁉︎」

 

FNCは僕を見た瞬間眠たげな表情を一変させ、殺気立った顔でこちらに銃を構えた。照準はしっかりと僕の頭に向けられ、引き金に右手人差し指をかけている。ってヤベェ‼︎こいつマジで撃つ気だ!僕が咄嗟に銃のハンドガードを掴み無理矢理右に逸らすのと彼女がトリガーを引くのはほぼ同じタイミングだった。

 

5.56×45ミリNATO弾がフルオートで撃ち出される。弾は機内の壁や床に命中し火花を散らした。

 

「やめろ撃つな!落ち着け!FNCッ‼︎」

 

男がそう叫ぶとFNCはピタリと撃つのをやめた。しかしこちらを殺意のこもった目で睨みつけて来ている。男が落ち着かせるように優しい口調で言った。

 

「落ち着けFNC。この人達は味方だ。助かったんだ」

 

「・・・・・うっ・・・グスッ・・ヒック・・・・うぇぇえぇぇん!」

 

え⁉︎何か突然泣き出したんですけど⁉︎え、僕なんかしちゃった?ちょちょちょ、え、これどうすれば良いの?

 

とりあえず《もう大丈夫ですよ》と言いながら優しく頭を撫でてあげる。

 

いっとき撫でていると落ち着いたのか泣き止んだ。それから男(名前はエリオット)とFNCから墜落後の話を聞いた。墜落した時に右足を骨折してしまい動けなくなった男、アランを守る為にエリオットと2人で機内に籠り、襲いかかってくるE.L.I.D相手に昼から夜まで戦っていたそうだ。

 

最初は機体に装備されてたGAU-16/Aで倒していたそうだが、GAU-16/Aの弾は直ぐに無くなってしまい後半からは自分の銃で戦っていたそうだ。時には機内に入り込まれてナイフでメッタ刺しにしてから撃ち殺したりしたそうだ。E.L.I.D相手にほぼ1日中戦い続けるとは・・・よく生き残ってたな。

 

「さっきはごめんね。撃っちゃったりして。お詫びにチョコあげる!」

 

と言ってFNCはポケットから板チョコを出して僕に渡して来た。え、これ大丈夫やつ?Dレーションみたいなやつじゃ無いよね?

 

チラッとFNCを見ると同じ黒、黄、赤色のベルギー国旗にカラーリングされたラペリングのチョコを食べていたので大丈夫だろう。僕も食べてみる。うむ。ふつーに美味い。

 

本部との連絡をしていたネルソンはエリオットに話しかけた。

 

「今救助のヘリを呼んだから、来たらアランを乗せろ。ついでにお前らもヘリに乗って帰ると良い。疲れたろ?」

 

「ありがとう助かるよ」

 

すると突然、遠くからドゴオオオォォォォォン!と言う雷鳴にも似た爆発音が聞こえて来た。音のした方を見ると遠くの方から黒煙が上がっていたのが見える。爆発音が聞こえると同時にFNCが僕の右腕にしがみついて来た。彼女の腕から微かに振動が伝わる。震えているのか。

 

《大丈夫、大丈夫だよ》

 

と言ってた僕はFNCの頭を撫でながら微笑むが、実は僕もさっきの爆発音にはたいそう驚いていた。爆発音聞いた瞬間なんてビクッとなってしまってたし、今でも心臓(人形たからコアと言うべきなのかな?)がドキドキとうるさい。しかし元男として怖がる少女にカッコ悪い所は見せる訳にはいかない。

 

だから僕は内心かなりびびっているのを必死に隠して彼女を安心させるように微笑む。最近思っていたのだが、この体になってから前より自然と笑顔を出せるようになった気がする。何というか・・・笑顔が作りやすい?って感じだ。

 

《ジュピター!ジュピター!こちらチャイカ(アリーナ)!大型E.L.I.Dと遭遇した!至急援護を頼むッ!》

 

再び同じ所からドゴオォォォォォン!と言う爆発音。えっ、もしかしてあの爆発音はその大型E.L.I.Dが起こしてるんですかい?ヤバくねそれ⁉︎

 

「あっちが当たりを引いたか!」

 

ネルソンはエリオットの方を見た。

 

「俺達は今からモンスターハントに行くが、お前らはどうする?ここで待っていても良いが」

 

「俺達はアランのこともあるからここに居る。迎えには来てくれよ?」

 

「分かった。必ず迎えに来る。弾はあるか?」

 

「バローにあった予備弾薬は全部使っちまった」

 

「使ってる銃は?」

 

「ステアーのA3だ」

 

ネルソンはユウヤの方を見た。

 

「ユウヤ!お前のType89の予備マガ何個かこいつらに渡してやれ!」

 

ユウヤは「多目に持って来て正解だったよ」と言いながら背負っていたリュックを下ろしてリュックの中からマガジンを3つ出してエリオットに渡した。エリオットは「悪い、助かる」と言いながらマガジンを受け取った。

 

「よし、皆んな行くぞ!」

 

と言ってネルソンはM27 IARを抱えて黒煙が上がる方に向かって走り出した。皆もそれに続いて行くが、ハオレンはFNCの前で立ち止まっていた。FNCの僕の腕にしがみ付く力が若干増した気がする。しがみ付く力が増えたことにより彼女の胸が僕の右腕を圧迫する。・・・意外に大きいなこいつ・・・。っていかんいかん。こんなこと考えている場合じゃ無い。

 

ハオレンは自分のマガジンポーチからマガジンを3つ取り出してFNCに差し出した。

 

「使え」

 

ハオレンが使っている銃はCz805A-1。この銃はSTANAGマガジンと呼ばれるマガジンを使用しているのだが、FN FNCも同じマガジンが使えるのだ。FNCは恐る恐るといった感じでハオレンからマガジンを受け取った。

 

「あ、ありがとう」

 

ハオレンは何も言わずに立ち去った。さて、僕も行かないと。しゃがんでFNCと目線を合わせてから話す。こうやって視線を合わせることによって小さい子は安心するとかどうとか聞いたことがあったからだ。

 

《ごめんね、私も行かなきゃだから。何かあったら連絡して。直ぐに助けに来るから。ね?》

 

「うん、分かった」

 

僕はもう一度微笑んで彼女の頭を撫でてから立ち上がった。

 

「ねぇ」

 

《何?》

 

「帰ったら、一緒にチョコ食べよ?」

 

《分かった。帰ったら私がとびきり美味しいチョコ買ってあげる》

 

とびきり美味しいチョコと聞いた瞬間FNCは目を輝かせた。

 

「本当⁉︎約束だよ?」

 

《うん。約束》

 

と言って僕はFNCとゆびきりをした。さて、皆んなの所に行かないと。僕はM14EBRを持って皆んなの後を追って走った。

 

・・・・今思ったんだがFNCとのあの約束って死亡フラグとかになっちゃうのかな?




どうだったでしょうか?

V-280はバローだとかヴァローだとかヴェイラーなどと様々な呼び方はありますがここではバローと呼ぶことにします。僕はオスプレイより見た目が好きな機体ですね。ネットでこれについて調べてもやはり未だ開発中の機体なのでスペックの詳細は余り分かりませんでした。なので分からない部分は僕の妄想&オスプレイのスペックを元にここでは書いていきます。

そして新たに登場しましたFNCことチョコちゃん!僕の好きなキャラの1人です。

さて、次回は対大型E.L.I.D戦です。果たしてEBRちゃん達はこいつを倒す事をできるのか?そしてバローを落とした犯人は?次回もお楽しみに!

感想お待ちしております。




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第10話苦戦!対大型E.L.I.D戦

お待たせしました第10話です!今回は私がどうしても出したかったキャラを登場させました。悔いはない。

そして今回はサイモン視点から始まります。


ネルソンと別れてから既に40分程時間が経過した。先程ネルソンからヘリか何かの残骸を見つけたので確認しに行くとの報告が来た。こっちはと言うと今のところ何も収穫無しだ。建物の中を1つ1つ確認して行ってるが時々室内に居た人型E.L.I.Dに襲われたりするだけで目標である大型E.L.I.Dに関する痕跡などは何も見つけていない。

 

そしてこのメンバーも問題だ。アリーナ、オットー、アンナ、ハルカと真面目な奴らばかりだから喋り相手になる奴が居ない。

 

よく俺と酒を飲んでドンチャン騒ぎしたり、一緒にネルソンに悪戯したりするアリーナもこう言う任務中の時は真面目だ。いつもは不真面目な癖にな。でもまぁ時々軽口を言ったりして話してくれるぶん他の奴らよりマシだ。

 

1番クソ真面目なのはアンナだ。可愛い名前とは裏腹にアイツはただ黙々と仕事をこなして行く。必要最低限のことしか話さないし、ジョークも通じない。基地にいる時でもアイツは読書、訓練、筋トレ以外のことをしている所を見たことない。ついでに言うと笑ったところを見たことない。

 

あぁ・・・やっぱりネルソン達の所に行った方が良かったかもしれないな。ネルソンは何だかんだ言って俺の話に付き合ってくれるしエマちゃんと話すのも楽しい。彼女は聞き上手だと思ってる。それに可愛いしな。

 

まぁ無い物ねだりをしても意味は無い。さっさと任務を終わらせて帰ろう。

 

「何かあったかー?」

 

建物内を探索していたアリーナに聞いた。アリーナは首を横に振った。

 

「何も。 E.L.I.Dさえ居なかったよ。そっちはどうだった?」

 

「こっちもさっぱりだ」

 

はぁ。こう言う地味な作業は俺の性に合わない。そんなことを思っているとオットーの居る建物内から2つの発砲音が聞こえて来た。また小型のE.L.I.Dが居たんだろう。

 

《こちらオットー!目標と遭遇ッ‼︎現在交戦中!》

 

マジで⁉︎こっちが当たりを引いたか!俺とアリーナ、そして別の建物を捜索中だったハルカとアンナが急いでオットーの居る建物内に入ろうとした時、窓を突き破ってオットーが出て来た。

 

「伏せろ!」

 

オットーの警告を聞いた俺達は瞬時に姿勢を低くした。アイツが伏せろと言う時は十中八九アレをやる時だ。オットーは建物から少し距離を取ってから右手に持った起爆装置のレバーをカチカチと2回握った。

 

次の瞬間さっきオットーが出て来た部屋が大爆発した。吹き飛ばされた建物の破片辺りに四散し、部屋があった所は爆煙に包まれた。俺は服についは破片を払っているオットーに聞いた。

 

「おい、どんだけの爆薬を仕掛けたんだよ」

 

「C4爆薬を20ポンド程だ。これで死んでくれれば嬉しいんだがな・・・」

 

と言いつつオットーはSIG MCX SBRを構えた。何時もならド派手に爆発したのを見てニヤついている筈のオットーのただならぬ顔に俺もMG3を構えた。

 

ズン・・・ズン・・ズンと足音が煙の中から聞こえて来る。全員がその音のする方へ銃を構える。直後、ポバンッ!と言う破裂音がして何かが俺の横を掠めて行き、そして真後ろにあった建物の壁が爆発した。

 

「グレネードランチャー!」

 

 

グレネードの爆風で煙が吹き飛び、視界が開けた。そして俺も含めだ全員が煙の中から現れた奴を見て息を呑んだ。俺達の前に現れたのは身長5メートル程の人型のE.L.I.Dだ。筋肉質な体で、目は緑色だ。更に驚いたことに右腕にミニガンを付けており、左手には大口径グレネードランチャーが付いている。何でE.L.I.Dが武装してるんだと思ったが奴が右腕に装備されたミニガンをこちらに向けて来たので色々考える前にまず逃げることにした。

 

ヴバァァァァァーーーーッ!と超高レートで7.62ミリ弾が撃ち出される。俺はその場に伏せた。奴はミニガンを横薙ぎに撃ったので伏せていた俺に弾は当たらなかった。他の奴らも遮蔽物に隠れたりして銃撃を回避したようで食らった奴は居ないようだ。

 

「ジュピター!ジュピター!こちらチャイカ!と遭遇した!至急援護を頼むッ!」

 

オットーがC4爆薬を大型E.L.I.Dに向けてぶん投げ、そして起爆した。が、大型E.L.I.DはC4を起爆する前に別の方へ投げ飛ばしやがったからダメージを負わせることは出来なかった。

 

お返しとばかりに奴はグレネードランチャーの銃口をこちらに向けて来た。

 

「ヤベェ⁉︎」

 

俺は走って逃げる。後ろでグレネードの物とは思えない大爆発が起きた。

 


 

今僕はアリーナ達2班のいる所に走って向かっているのだがさっきから爆発音と発砲音が聞こえて来る。あっちは激戦になっている様だ。初任務の相手がこんなヤバそうな奴なんてな。嫌になっちゃうね!

 

裏路地から本通りに出ると目の前で爆発が起きて僕は後ろに吹き飛んだ。

 

「大丈夫か⁉︎」

 

吹っ飛んだ僕に駆け寄って来たのはサイモンだ。頭を地面に打ち付けたせいで少し頭が、この位なら大丈夫だ。

 

《はい、大丈夫です。それより敵は?》

 

サイモンは後ろを振り返りながら言った。

 

「今は本通りで大暴れしている。アイツ図体の割に動きが素早いし知能も高い。かなり厄介な相手だぞ」

 

また爆発音が大通りの方から聞こえて来た。更にヴバァァァァと言う独特な音が聞こえて来た。この音が何の音か僕は知っている。ミニガンの発砲音だ!ミニガンは余りにも連射速度が速過ぎるので発砲音が繋がって聞こえるんだ。しかしアサルト部隊の中にミニガンを持ってた人は居なかったと思うが?

 

《誰がミニガンなんか撃ってるんですか?》

 

「E.L.I.Dだよ」

 

ん?E.L.I.D?僕の聞き間違えかな。

 

《えっと・・・E.L.I.Dがミニガンを撃ってるって事ですか?》

 

「そう言うことだな」

 

オーケー聞き間違えじゃ無かったのね畜生。何でE.L.I.Dが武装してるんだよ⁉︎馬鹿なの?(ミニガンに撃たれて)死ぬの⁉︎えぇい畜生!ここでうだうだ文句言ってても意味は無い。倒しに行くしか無い。

 

僕は裏路地から顔を少し出して様子を伺う。100メートル程離れた所に例の大型E.L.I.Dは居た。アンナ、ハオレン、アリーナが大型E.L.I.Dの胴体に銃弾をフルオートで撃ち込んでいるが効いてなさそうだ。

 

僕も大通りに出て廃車を盾にして、二脚をボンネットの上に立ててM14EBRを構えた。アサルトライフルの小口径弾がダメでもバトルライフルであるM14の7.62ミリ弾ならッ!

 

アリーナ達に注意が向いているのでこっちには気づいていない。更にアイツは棒立ちのままだ。これならあのデカい頭を狙うことも容易に出来る!僕は頭に照準を合わせて撃つ!命中!

 

・・・・あっれれー?おっかしいぞー?頭に7.62ミリ弾食らったのにアイツピンピンしてる。あ、目が合った。ゆっくりと体をこちらに向けた大型E.L.I.Dはこっちに左腕を向けた。照準器に左腕に装備されたグレネードランチャーの銃口が映る。あ、終わった・・・・。視界の端でこっちに走ってくるサイモンの姿が見える。

 

が、そこで不思議な現象が起きた。突然左腕が爆散したのだ。何が起きたのか分から無いけど取り敢えず助かったぼい?と言うか何で爆発したんだ?

 

▶︎戦術人形M200からの通信を受信

 

んん?誰だ?こんな時に。

 

《早く逃げて!来る!》

 

言われて気づいた。大型E.L.I.Dは左腕が爆散したのにもかかわらず特に痛がっている様子が無い。あれ?無くなっちゃったーみたいな反応をしている。そして無くなった左腕の代わりに右腕に装備されたミニガンをこちらに向けようとする。全速力で逃走っ!

 

サイモン達が大型E.L.I.Dに撃ちまくり僕から注意を逸らす。その隙に僕はさっきまで居た裏路地にまで退避した。建物の陰からM14EBRを構えて撃つ。図体がデカいから当てやすいんだけど、当たってもダメージを与える事が出来ない。

 

バラライカがKord重機関銃を伏射で撃つ。胴体から頭にかけて12.7ミリ弾を当てまくり流石に大口径弾は答えたのか少し怯んだ。バラライカが続けて撃ちまくっていると怒ったように唸り声を上げて大型E.L.I.Dがミニガンをバラライカに向けた。バラライカは完全に照準が向く前に素早く移動して遮蔽物に身を隠した。とても32キロの重さのある機関銃を持ってるとは思えない俊敏さだ。

 

と、言うかさっき逃げろと言って来たのは誰だったんだ?聞いたことの無い声だったけど。向こうとの通信は繋がったままなので話しかけてみる。

 

《どちら様?》

 

暫し何も返信が来なかったが待っていたら来た。

 

《ぼ、ボクはCRESCENT(クレセント)社所属のM200・・・です》

 

幼い、内気そうな声だった。M200・・・・あぁ〜あれか。めっちゃ高性能の長距離狙撃銃だっけ?と言うかクレセント所属ってことは彼女が消息不明になった部隊の人かな?よかった。全員殺された訳では無かった。

 

《さっきの爆発は君が?》

 

さっき突然大型E.L.I.Dの左腕が突然爆発したのはもしかしてM200が何かしたからなのか?

 

《は、はい。グレネードランチャーの横に付いてた予備弾を狙撃して爆発させました》

 

あのグレネードランチャーはベルト給弾式だったから装填前の弾を撃ち抜いて爆発させたって訳か・・・マジで言ってます⁉︎腕良すぎだろ。

 

《君は今どこにいるの?》

 

《貴方から見て2時方向にある給水塔の上です》

 

路地裏から少し顔を出して言われた通り右を向く。すると遠くに確かに給水塔があった。距離はおよそ600メートル前後。肉眼ではM200の姿を見ることは出来ない。単眼鏡で見てみるがこれはそんなに倍率が高い物じゃないから見えなかった。まぁ取り敢えず給水塔に向かって小さく手を振った。

 

《君1人なの?》

 

《いえ、ボク以外に2人居ます》

 

《分かった。さっきは助けてくれてありがとうね》

 

取り敢えずこのことをネルソンに報告しなければ。左側をちらりと見てみると皆んながミニガンの掃射を何とか回避しながら頭や心臓付近に撃ちまくっている。僕もM14EBRを構えて撃ちつつネルソンに報告した。

 

《ネルソンさん!消息不明の部隊の戦術人形から通信が来ました!》

 

《全部聞こえてたよ。グレネードランチャーの弾を狙撃とかいい腕してんな。こいつをどうにか倒したらそいつらも回収して来たに帰るぞ!》

 

《でも大型E.L.I.Dは複数体いるんですよね?》

 

《あんな奴らを何体も相手に出来るか!一度撤退する。バラライカ!》

 

《準備完了!》

 

バラライカの方を見ると念の為にと持って来ていたRPG-7を構えていた。いくら銃弾を防げても装甲車の装甲を貫くこれならダメージを与えられる筈!

 

《我が祖国の作り上げた偉大なる発明品を食らぇ‼︎》

 

と言ってバラライカはトリガーを引いた。目にも留まらぬ速さで弾頭が撃ち出され大型E.L.I.Dの胴体に向けて飛んで行く。命中は確実。後はHEAT弾が大型E.L.I.Dの胴体を貫いてくれるのを祈るだけ。

 

ドッ!・・・カン、カランと言う音が辺りに響いた。・・・・弾頭は大型E.L.I.Dの胴体に当たったが、それだけだった。信管が作動しなかったようで弾頭は爆発も起こさずぽろっと地面に落ちた。暫しその場に静寂が訪れる。

 

「チッ、社長め・・・予算ケチって訳あり品を買いやがったな?」

 

サイモンがボソリと言った。

 

《総員てったーい!走れぇ‼︎》

 

全員が大型E.L.I.Dに銃撃を加えつつ走って逃げる。僕もマガジン内に残っていた弾を全弾撃ってから撤退を開始。裏路地を使って逃走する。全員バラバラの方向に逃げて相手を撹乱することに成功した。大型E.L.I.Dはバラライカに狙いを絞って追いかけた様だ。

 

《バラライカさん!大丈夫ですか⁉︎》

 

《大丈夫だ!君達は先に撤退しておいてくれ!》

 

《了解しました!》

 

あ、そうだ。M200って子にも撤退のことを報告しないと。

 

《M200!こっちは撤退することになったからそっちも引いて!》

 

《こっちは大丈夫なので、大型E.L.I.Dに追われている人を援護してから撤退します》

 

《分かった。村の東側にある十字路跡に来て!》

 

さて、FNC達の居る墜落地点に行かなければ。僕は来た道を走って戻った。

 

 

 

バローの墜落地点に到着した。あそこからここまで走って来たから流石に疲れた。が、休んでる暇は無い。機内に隠れていたFNC達をを呼び出す。

 

《撤退するから来て!》

 

「分かった!」

 

僕は機内に滑り込んで右足を骨折して動けないアランをおんぶする。

 

「大型E.L.I.Dはどうなった?殺したのか?」

 

僕は首を横に振るとエリオットは舌打ちをした。

 

「やはり駄目だったか・・・。それで、どこに行くんだ?」

 

《FNCちゃん。私、発声装置が壊れて喋れないから代わりに喋ってくれる?》

 

「分かった!EBRちゃん喋れないそうだから私が代わりに喋るね?」

 

エリオットは驚いた様な顔をした。

 

「お前喋れなかったのか。てっきり無口なだけかと思ってたよ」

 

まぁそう思われても仕方ないよね。

 

《もうすぐで救助のヘリが来るので貴方達をそれで撤退させます。私がLZまで連れて行くので来て下さい》

 

「救助のヘリが来るからそこまで案内してくれるって!」

 

「それは有り難い。もうヘトヘトだからな」

 

《あともう一息です!頑張って!》

 

僕はアランをおんぶしたまま市街地を走った。時々ちゃんと付いて来てるか確認しながら進む。M14EBRを構えて周囲を警戒しながら進んでいたが敵は殆ど居なかった。人型のE.L.I.Dが数体徘徊していただけだった。10分ほど走ってやっとネルソンに教えてもらったLZである十字路跡に到着した。ネルソン達は先に来ていたみたいだ。おんぶしていたアランをゆっくりと降ろし座らせてから僕は《遅れてすいません》と謝りながらネルソンの元に駆け寄った。

 

「遅かったな。俺が乗って行っちまうとこだったぜ?」

 

ネルソンの隣にいたサイモンがそう言って来たので僕は《すいません》ともう一度謝りつつ頭を下げた。

 

「スナイパー組はどうした?」

 

《バラライカさんを援護してからこっちに来ると言ってました。バラライカさんはまだ来てないんですか?》

 

「少し手こずっているそうだ」

 

そりゃあんな奴相手にして簡単に逃げれる訳無いよなぁ・・・やっぱり僕も援護しに行った方が良かっただろうか?

 

「ヘリに乗れない人はどうするんですか?」

 

救助ヘリとして来るのは補給を済ませたクロウ1ことUH-1Yだ。UH-1Yの定員は11人(パイロットを除く)なのだが、僕達は全員で9人で救助者の数は6人。つまり定員オーバーなのだ。ネルソンは全員の方を向いた。

 

「疲れて帰りたい奴は居るか?」

 

帰りたいなどと言う人は勿論いない。僕は村中走り回って疲れたので内心早く帰りたい気持ちだったがこの状況で帰りたいと言うのは野暮と言うものだ。

 

「皆んな元気だねぇ。じゃ俺はもう疲れたからお先に帰らせて貰うよ」

 

サイモンは例外だ。この人は周りの状況なんて関係なく自分の意見を言える人だ。

 

「お前の意見は聞いてない」

 

「何だよそれ〜差別だ差別だー」

 

「正面12時方向。人影1」

 

アンナがAK-108を構えてそう言った。確かに誰かがやって来るのが見える。また人型のE.L.I.Dかな?僕もM14EBRを構えてその人影に照準を合わせる。が、人影が右手を上に上げた。

 

「撃つな撃つな!俺達はE.L.I.Dじゃない!」

 

やって来たのはM16A4を持った男。もしかしてM200の仲間?男を見たエリオットは「お前ら!無事だったか!」と言って男に駆け寄り抱きついた。やはりこの2人が行方不明になってた人達みたいだね。

 

「コリーとカミラとフレッドとM200は?」

 

聞かれた男は笑顔から一変して悲痛な面持ちになった。エリオットに2つのドッグタグを見せた。それを見て何が起きたのか察したエリオットは「そうか・・・・」とだけ言った。

 

「フレッドとM200は?」

 

ドッグタグは2人分しかない。M200とはさっき話したばかりだ。まさかドッグタグも回収できない程酷い死に方をしたと言う訳では無いよね?

 

「M200とフレッドは大型E.L.I.Dに追われている人を助けるって言ってあそこに残ってる」

 

と言って男はあの給水塔を指した。まだあそこに居たのかよ!

 

「俺も残るって言ったんだが、お前は利き腕と片足を負傷してるんだから足手まといになるだけだって言われてな・・・すまん」

 

と言って男はエリオットに頭を下げた。言われて気づいたが彼の右手に巻かれた包帯は真っ赤に染まっていた。歩いている時も左足を引きずるようにして来てたのは負傷しているせいだったからか。

 

「いや、賢明な判断だったさ。その体で戦い続けるのは無理があるからな」

 

その時少し離れた所からだがドゴオォォォォォン!と言う爆発音が聞こえて来た。さらに続いて先程よりは小規模な爆発音が聞こえて来た。

 

「渡しといたC4を使ったな?」

 

と立ち上る黒煙を見ながらオットーが言った。どうやらバラライカにC4爆薬を渡していたみたいだ。しかも結構な量を。

 

《こちらチャイカ!大型E.L.I.Dを()ったぞ!》

 

え⁉︎マジすか⁉︎あの強敵をどうやって・・・。後で聞いてみよう。1人でアイツを倒しちゃうなんてバラライカさんマジパネェっす!

 

「流石だ。俺達はLZに居るから来てくれ」

 

《了解した!あぁそれと、私を助けてくれた凄腕スナイパーも連れて来る」

 

ネルソンは首を捻った。

 

「スナイパー?」

 

《エマが言ってたM200とか言う戦術人形だよ》

 

「成る程。了解した」

 

▶︎戦術人形M200からの通信を受信。

 

《聞こえますか?》

 

あ、この声はM200だ。

 

《聞こえるよ》

 

《援護を完了したので今からそっちに向かいますね》

 

《分かった。君が援護した人が君のことを凄腕スナイパーって言ってたよ》

 

《い、いえ!私はそんな凄いことになんてなにも・・・》

 

声からして恐らく今彼女は自分が凄腕スナイパーって言われたのが素直に喜べず赤面しているだろう。どんな()か知らないが可愛いな。

 

パタパタパタとヘリのプロペラが奏でる独特の音が聞こえて来た。救助のヘリが来たみたいだ。

 

《こちらクロウ1。これよりLZに侵入。180度ターンしてからタッチダウンする》

 

低空でやって来たUH-1YはZL上空で機体を180度ターンさせてから僕達の目の前に着陸した。僕はアランを再びおんぶしてダウンウォッシュ吹き荒れるヘリに近づいた。ヘリには救護班が乗っていて僕からアランを受け取ると直ぐに怪我の具合を見たりし始めた。FNC達もヘリに乗って行く。

 

「ありがとうな。帰ったら何か奢ってやるよ」

 

僕は笑顔で頷く。う〜む何を奢って貰おうかな?

 

「とびきりおいしいチョコ買ってくれるって約束絶対だからね⁉︎」

 

《うん。分かってる》

 

《もう乗る奴は居ないのか?上げるぞ》

 

《じゃ、また後でね》

 

「助けに来てくれてありがとうね!お姉ちゃん!」

 

お、お姉ちゃんか・・・男の僕としては複雑な心境だが、悪い気はしない。ヘリの出力が上がり砂埃を撒き散らしながらヘリは離陸した。FNCはキャビンから身を乗り出してこっちに手を振っている。

 

《ヘリの高度を下げさせて!狙われてる!》

 

M200からの突然の通信。狙われてる?どう言うことだ?M200の通信を聞いたネルソンの行動は早かった。

 

「クロウ1 高度を下げろ‼︎狙われいる!」

 

《何ッ⁉︎》

 

一度離陸したUH-1Yが急激に高度を落とした瞬間、ヘリの目の前にあった3階建ての建物の3階が消し飛んだ。建物の破片が僕達に降り注ぐ。急激に高度を落としたヘリは降下の勢いを殺せずドスンと荒々しく着地した。

 

《何だ⁉︎なにに攻撃された?》

 

「分からん!取り敢えず高度は上げるな。撃ち抜かれるぞ!」

 

見た感じ地対空ミサイルとかの類では無さそうだ。砲撃か?

 

「M200!敵は何だ?」

 

《え、えっと・・・・四足歩行型の大型E.L.I.Dです!背中に大砲のような物を装備しています》

 

ミニガンとグレランを装備したデカイ人型のE.L.I.Dの次は大砲を装備した四足歩行型のE.L.I.Dだって?何だよそれ!

 

《あ!居場所がバレた!》

 

ちょちょちょちょ!それは不味くない?砲撃されてしまうぞ⁉︎

 

《逃げて!》

 

と言って給水塔を見ると丁度砲撃されているところだった。給水塔の上にあった巨大なタンクが骨組みを撃ち抜かれたことによりバランスを崩し地面に落下し、派手に土煙を上げた。

 

《M200ーっ!》




どうだったでしょうか?突貫工事で書いたので文が変になっているところがあるかもしれませんね。見つけ次第修正します。そして前回などで誤字報告をしてくださった方々ありがとうございますm(__)m

と言うことで私の大好きなキャラの1人であるM200ちゃんを登場させました。まぁM200はEN鯖念願の先行配信人形なので日本での知名度は低いですけどね。しかもこの子、ボイスが無いんです(自分が見つけきれなかっただけかもしれないけど)。

ネット情報によると内気な性格の子だと書いてあったのでそんな感じに書いて行くつもりです。

そしてこの子の身長はどの位かな〜と思って自力で測ってみたんですが、150センチ程でした。完全にロリですね本当にありがとうございました。(銃の全長が130センチなのでそれを元に測りました)

M200の安否は?そして新たに登場した四足歩行型E.L.I.Dと残りの大型E.L.I.Dをどう倒すのか?次回で対大型E.L.I.D戦は決着する予定です。お楽しみ!

ご感想お待ちしております!


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第11話 激戦!E.L.I.D殲滅戦

お待たせしました第11話です!今回は遅くなってしまいすいませんでしたm(__)m投稿が遅くなった理由は簡単で、調子乗って書きまくっていたら予想以上に時間がかかってしまったからですね。なんと今回、文字数が約2万字になってしまいましたw


「え・・・に・・・・・」

 

遠のいていた意識がハッキリとしてくると同時に誰かの声が聞こえて来た。

 

「M・・・2・・・・ゃく!」

 

聞き覚えのある声だ。誰の声だったっけ?

 

「M200!」

 

そうだ、思い出した。フレッドの声だ。そこまで来てボクはやっと今の状況を全て思い出し飛び起きた。フレッドが私の肩を掴んで聞いて来た。

 

「M200!大丈夫か⁉︎」

 

「う、うん。大丈夫」

 

体のあちこちが痛いけど作戦行動に影響を及ぼす程では無い。逆にあの給水塔から落っこちてほぼ無傷な今の状況は奇跡に近いしんじゃないかな?

 

ボクの半身でありボクと同じ名前の大型狙撃銃、M200の状態を確認する。四足歩行型大型E.L.I.Dから狙われて(あらかじ)め用意していたロープで地面まで降りようとしたんだけど途中で給水塔が崩れてしまい一緒にボクも落ちてしまった。ボクの方は何とか大丈夫だったけどデリケートな銃の方は大丈夫だろうか?ゼロインが狂ってたりしていないだろうか?

 

見た感じ多少の傷はあるけど致命的な破損を受けた箇所は無さそう。高倍率スコープも割れていないし傷も入っていない。マガジンを抜いてボルトを何度か前後に動かして動作を確認してみるが特に違和感は感じない。弾の入っていない状態でトリガーを引いてみるがこれにも異常や違和感は無かった。後はゼロインは合っているのか確かめる為に何発か試し撃ちがしたいけど残弾数が乏しく、何処に敵がいるか分からない今の状況ではそれは出来ない。

 

スリングベルトでM200を肩に掛けてリュックの中からMk23を取り出した。こんな事になるのならサブマシンガンを持って来た方が良かったかも。でもSOCOMとも呼ばれるこの拳銃も悪い物じゃない。1万発以上の無故障連続射撃に成功しているし、泥や砂で汚れたり、水中に数時間沈めたり、凍結したりしても正常に作動する。それに命中率もとってもに高くて競技銃に迫るとも言われている。弾もフルメタルジャケットや45ACP+P(45ACPの強装弾)を13発も装弾できる。

 

Mk23の欠点としてサブウェポンとして使うには銃が大き過ぎることや(そもそもサブウェポンとして作られた物じゃないし)重過ぎること(約1.2キロ)が挙げられているけど、私には問題無い。ボクはMk23をライフルを使わない時のメインウェポンとして使っている。因みにサイドアームとしてはP226を使っている。重量問題も10キロ以上の重さのあるM200を取り扱えるように作られたボクには何の問題にもならない。

 

瓦礫の上を歩く音が聞こえて来た。E.L.I.Dかなと思いMk23を音のする方に構える。狼の様な見た目のE.L.I.D数匹がボク達を見て低く唸り声を上げていた。フレッドもM16A4を構えていつ襲い掛かられても良いようにする。

 

1匹がボクに向かって飛び込んで来た。直様トリガーを引いて頭に3発45ACP+P弾を当てた。E.L.I.Dは飛び込んで来た勢いのままボクの横の地面に激突して動かなくなった。それを歯切りに次々と獣型のE.L.I.Dが襲って来た。フレッドがM16A4で接近される前に撃ち殺して行く。ボクもMk23でE.L.I.Dの頭を撃ち抜き一撃で倒して行く。

 

「リロード!」

 

Mk23の弾が無くなったので新しいマガジンと交換する。その間フレッドがM16A4を撃ちまくって敵を寄せ付けない。素早くリロードを終わらせて再び頭に狙いを定め撃つ。

 

「っ!右から人型!」

 

Mk23を撃ちながらチラッと右を見てみると確かに人型のE.L.I.Dがこっちに向かって来ていた。それもかなりの数が。恐らく銃声を聞きつけてやって来たのだろう。

 

「右をお願い!」

 

「分かった!」

 

獣型に比べ動きが遅く的が大きく狙いやすい人型をフレッドに任せてボクは獣型を撃つ。・・・相手の数が多過ぎる。撃っても撃っても数は減らないしリロードしている間に距離を詰められてしまう。頭を狙って撃っているが百発百中と言うわけにはいかず何発か外してしまっているのも追い詰められている原因の1つなんだろう。もし全弾当てることが出来れば1マガジンで13体のE.L.I.Dを倒すことが出来るのに・・・もっとボクが強ければっ!

 

フレッドの方も同じような状況のようで、お互いジリジリと追い詰められ始めた。手榴弾などの爆発物があれば一気に多数のE.L.I.Dを無力化することが出来るんだけど手榴弾とかは既に使ってしまっているので無い。これは不味いと思った時だった。

 

獣型E.L.I.D達群れの横からお腹に響く重低音な発砲音が聞こえて来た。それと同時に獣型E.L.I.Dが次々と肉片に変わって行く。どうやらかなり大きな口径の銃で撃っているみたい。

 

獣型E.L.I.D達も私より横から撃って来ている奴の方が危険だと思ったのか目標をボクから撃って来る人に変えた。しかしその人に襲い掛かろうとしたE.L.I.D達もそうでない奴も全員銃撃を受けて肉片となった。

 

「そこの2人、伏せろ」

 

ボクとフレッドは直様その場に伏せた。するとまたドダダダダダダと言う大きな発砲音が聞こえた。発砲音が止み、頭を上げた時には人型E.L.I.Dの姿は無く地面にE.L.I.Dだった物が散らばっていた。

 

「大丈夫かー?」

 

そう言いながらやって来たのは銀髪の大型の機関銃を持った女性だった。あ、この人さっき大型E.L.I.Dの口の中に爆弾を入れて頭を吹き飛ばして倒した人だ。

 

「E.L.I.D相手に1日中戦って生き残ってるなんて大したもんだな」

 

女性はボクとフレッドを見てからそう言った。

 

「お前さっき大型E.L.I.Dを倒した奴だよな?」

 

フレッドが聞いた。女性はニヤリと笑いながら「あぁそうだ」と言った。

 

「L&Mに所属する戦術人形Kord6P57だ。バラライカと呼んでくれ」

 

CRESCENT (クレセント)所属の・・・戦術人形、M200・・です」

 

目を逸らしながら私は言った。まだボクは初対面の人と目を合わせて話すことが出来ない。直さないととは思っているんだけどね・・・・

 

「同じくフレッドだ」

 

バラライカさんは私が肩に掛けているM200を見てから言った。

 

「お前がさっき援護してくれたスナイパーだな?」

 

確かにボクは彼女が大型E.L.I.Dと戦っている時にバラライカさんを襲おうとした別のE.L.I.D達を撃ち殺したりした。

 

「はい・・そうです」

 

「ありがとう。助かったよ」

 

と言ってバラライカさんはボクの左肩をバシバシと叩いた。褒められた・・・!こんな風に面と向かって褒められるのに余りボクは慣れて居ないから顔を赤くしてしまう。

 

「さて、私は君達を見つけたら連れて来るように言われている訳なんだが・・・お前達以外にお仲間は居るか?」

 

「もう1人居たがそいつは先にお前のお仲間の所に向かったよ」

 

「それなら後は君達を連れて帰ればサブミッションは完了だな」

 

つまりボク達の救出は次いでだったってこと?

 

「お察しの通り私の受けた依頼は大型E.L.I.Dの退治で、お前達の探索と救出はその次いでだ。悪く思わんでくれ」

 

ボクが不満そうな顔をしたからだろう。そうバラライカさんが言ってきた。この仕事をしているとこう言うことがよくある。この世界では人の命なんて2の次なのだろう。

 

「助ける気があるんなら助けてくれないか?こっちは昨日からE.L.I.Dと戦いっぱなしでヘトヘトなんだ」

 

「それじゃぁ付いて来てくれ」

 


 

ヘリが緊急着陸してから15分程の時間が経過した。ヘリを飛ばそうにも例の四足歩行型E.L.I.Dがこちらを狙っているので飛ばされない状況が続いていた。まだ膠着状態が続きそうだったのでヘリのエンジンは止めた。それにヘリのターボシャフトエンジンの音で他のE.L.I.D達が集まって来ちゃうしね。

 

僕は先程の攻撃で3階が吹き飛んだ3階建ての建物の上から単眼鏡で周囲の様子を見ていた。M200が見つけた四足歩行型E.L.I.Dの姿が見えないかと思って探しているんだけどそれらしき姿は見えない。別の場所に移動してしまったんだろうか?

 

《アタッカーの姿はありません》

 

アタッカーとはその四足歩行型E.L.I.Dのコードネームだ。サイモンが「いつまでも四足歩行型とか言うのはダサい」と言ったのがきっかけでコードネームを付けることになったのだ。

 

《こっちからは見えない》

 

《こちらも発見できず》

 

《こっちにも居ねー》

 

僕とは別の方向を見ていたハオレン、アンナ、サイモンからも僕と同じような報告が来た。デカイから直ぐに見つかると思ったのになぁ・・・まさかカメレオンみたいに周囲の風景に溶け込む能力があったりして?

 

《あ、バラライカちゃんだ》

 

え、マジで?どこどこ?サイモンが見ているであろう方向を見るがバラライカらしき人影は見えない。

 

《何処ですか?》

 

《エマちゃんから見て10時の方向。赤レンガの家の所)

 

10時方向の赤レンガの家・・・・あ、居た!僕が今使っている単眼鏡は倍率が低いから顔は確認出来ないけどあれはバラライカで間違いないだろう。バラライカの後ろには長いライフル銃を肩に掛けた少女とアサルトライフルを持った男?が居る。

 

恐らくあの長いライフル銃を持っている少女がさっき僕と話したM200って子だろう。僕の想像通り身長の低い子だった。バラライカの後ろに歩いているせいでよりその身長の低さが目立つ。サイモンによるとバラライカの身長は175センチらしいからそれから推測するにあの子の身長は160センチいや、150センチ程だろう。

 

数分後、バラライカ達がやって来た。

 

「よぉ。お帰り」

 

「ただいま」

 

サイモンとバラライカはハイタッチをした。僕の勝手なイメージだとこの2人がハイタッチみたいなことをする仲だとは思っていなかったので少し驚いた。

 

「四足歩行型の大砲を背負ったE.L.I.Dとか見てねぇか?」

 

「こいつのことか?」

 

バラライカはドヤ顔気味にポケットからスマートフォンを取り出して言った。どうやらバラライカはアタッカーを見つけてスマホのカメラで撮影していたようだ。

 

「この子がこいつのある程度の場所を特定してくれたお陰だよ」

 

と言ってバラライカは隣にいた少女の頭を乱暴に撫でた。

 

「誰だ?このチビ」

 

「戦術人形のM200だ。侮らない方が良いぞサイモン。彼女は強い」

 

やっぱりこの子がM200ちゃんでしたか。と言うか今気づいたけどMk23持ってるじゃん。良いなぁ俺も使ってみたい。それより、さっきのお礼を言わないとだな。

 

《さっきはありがとうね。M200が教えてくれたからヘリは落とされずに済んだ》

 

「い、いえ!瞬時に反応出来たパイロットさんのお陰ですよ」

 

「あんたが教えてくれないと俺は回避運動も出来なかった。本当にありがとう」

 

ヘリパイのジェフリーがM200にそう言って頭を下げた。M200はオロオロとしている。

 

「か、顔を上げて下さい! そんな褒められるようなこと何も・・・」

 

「もっと自分に自信を持てよ」

 

隣に立っていた男がM200に言った。この人もM16A4を持っている。クレセント社の主力小銃はM16A4なんだろうか?

 

「さて、それじゃぁ今後のことについて話し合おうじゃないか」

 

L&M社とクレセント社のメンバーはここの地図を見ながら話し合いを始めた。まず全員が今持っている情報を出し合い、整理し、必要なこととかを地図に書いて行く。

 

「俺達は今ここにいて、アタッカーのいる場所はここ。直線距離で約900メートル。今アタッカーは立った状態で待機していて砲口はこちらを向いたままか」

 

「ガン待ちだな」

 

「それにこいつの近くには雑魚E.L.I.D達がうじゃうじゃ居た。こいつを守っているとしか思えん」

 

「ジェフリー、緊急出力で一気に離陸すれば弾を避けられるんじゃないか?」

 

サイモンの提案を聞いたジェフリーは首を横に振った。

 

「ヘリってのは着陸と離陸の時が1番無防備だって言われているのをお前は知らないのか?どう頑張っても砲弾が飛んで来る前に飛び去るなんて無理だ」

 

「って言うか戦車砲をヘリに当てることなんて出来るのか?」

 

《最近の戦車はFCS(射撃統制システム)が優秀ですから低空を低速で飛ぶヘリなら砲弾を当てることも出来ますよ。それに・・・》

 

僕はバラライカの撮って来た写真をもう一度見て僕がさっきから思っていた疑問を話した。

 

《これ、戦車砲では無いと思います》

 

「どう言うことだ?」

 

ネルソンが聞いて来た。さぁ〜て軍オタの僕の出番かな⁉︎

 

《この写真の大砲、ただの戦車砲では無く・・・レールガンだと思います》

 

バラライカは瓦礫の陰からこの写真を撮っており、アタッカーの右斜め前の姿を映している。たのでアタッカーが背中に背負っている大砲の姿もよく見えた。八角形の砲身が特徴的なこの大砲、砲口の形が四角形なのだ。普通の戦車砲の砲口の形は丸だ。

 

《この大砲の砲口、形が四角形になっていますよね?》

 

ネルソン達がスマホの画面に映るアタッカーの砲口に注目する。

 

「確かに四角だな」

 

《普通の戦車砲や大砲なら砲口の形は丸です。普通、砲口を四角形にする必要なんてありません》

 

「そりゃそうだな」

 

《でもレールガンなら話は別です。レールガンは2本のレールの間に弾を挟んでレールに電気を流して弾を加速させて発射するやつなんです。なので今までの火砲みたいに砲口を丸では無く四角なんです》

 

「あ〜よく分からんが四角形の砲口のヤツはレールガンってことで良いか?」

 

ジェフリーがきいてきた。うーむ、もっと上手く説明出来れば良かったんだけどねぇ。

 

《その考えで問題ないと思います》

 

「レールガンって聞くと日本のアニメの女の子を思い出すな」

 

「マジか、サイモン とあるを見たことあるのか」

 

何かサイモンとユウヤが勝手によく分からん話で盛り上がり始めたが気にしない。

 

「レールガンか。聞いたことあるが詳しいスペックとかは知らないな」

 

ハオレンが言った。レールガンの原理自体は古くから知られており、フィクション作品関連やゲームなどの作品に幅広く登場しているので名前だけは知っていると言う人は多い。

 

《電力量や弾種などで弾速や射程などは大きく変わりますから私もこれの詳しいスペックは分かりません。ですがアタッカーが持っているのはどう見ても艦砲レベルの口径と砲身長なので有効射程は10キロ以上は確実にあると思います。弾速は・・・初速がマッハ8位ですかね」

 

「マッハ8⁉︎」

 

ジェフリーが驚いた。他のみんなも驚いているようだ。その気持ち凄い分かる。120ミリクラスの砲弾がマッハ8とか言うとんでもない速度で飛んで行くんだから驚くなと言う方が無理があると思う。

 

「バローを撃墜したのもこいつだと思います」

 

エリオットの言ってた青白い光って言うのはレールガンのマズルフラッシュだったんじゃないかな?

 

「射程10キロってなると対戦車ミサイルのギリギリ射程外だ・・・ハインドを呼んで吹っ飛ばして貰おうと思ってたんだがそれは無理そうだな」

 

ネルソンが唸った。

 

「でも10キロも距離が離れてたら避けれるんじゃね?」

 

「バカか、10キロ離れていても弾は直ぐに飛んで来る」

 

「マッハ8ってことは10キロ先の的に当たるまで・・・・・・・・・何秒だ?」

 

「約4秒だ」

 

サイモンの代わりにハオレンが答えた。計算早いな。4秒かぁ・・・ギリギリ避けれるかな?

 

「たがハインドに搭載されているアターカミサイルの射程は最大で6キロだ。6キロ程の距離になると弾は約2秒で飛んで来る。発砲を確認してから旋回したんじゃぁ間に合わないと思うが・・・どうだ?」

 

ネルソンはヘリパイであるジェフリーに聞いた。ジェフリーは腕を組んで目を閉じ、数秒間うーんと唸った後に「無理だな」と言った。

 

「ハインドは動きが鈍いから2秒の間に回避するのは難しいだろう。それにアターカミサイルは着弾するまで誘導しないといけない。1発目を奇跡的に避けれたとしてもミサイルを誘導している最中に2発目を食うな」

 

「でもよぉ、アイツはレーダーとかを装備してる訳じゃないんだから10キロ先のヘリを狙うことなんて出来ないんじゃねぇのか?」

 

あー言われてみれば確かにそうだ。写真で見た感じアタッカーは長距離を探知出来そうなレーダーは搭載していなさそうだし。でもまぁ短距離探知用のレーダーとかならあるかもだけど。

 

「とにかく、アイツがいる限りヘリを飛ばすことも出来ないしCAS(近接航空支援)を呼ぶことも出来ない」

 

「じゃぁやることは1つだな」

 

あーうん。そう言うことね。サイモンが何を考えているのか分かってしまったよ。

 

「アイツをぶっ潰しに行こう」

 

バラライカがサイモンの代わりに言った。やっぱりそう来るよな。僕としてはそんな危険なことしたくないんだけどね。あーあー皆んなやる気みたいだねこれは。はぁ・・・やるしかないの?

 

「ハインドを呼び」

 

「ハインドが来る前にアタッカーを潰し」

 

「ハインドのモンスターハントを高みの見物」

 

ネルソン、バラライカ、サイモンの準備で今からやろうとしてることを言った。ハインドの武装ならあの大型E.L.I.Dだろうとミンチにしてくれるだろう。

 

「よし、それじゃぁ始めようか。エマはここ、M200はここ、バラライカはここから援護射撃をしてくれ」

 

ネルソンが地図を指しながら指示を飛ばした。僕が行けと言われた場所はアタッカーの居る所から100メートル程離れた所にある建物。ここから援護射撃をしろってことなんだけど、上手く出来るかなぁ。

 

「バラライカ、RPGをサイモンに渡しといてくれ」

 

「2発目も不発だったらどうする?」

 

「その時はいつものプランBだ」

 

バラライカが背負っていたRPG-7をサイモンに渡した。と言うかRPG-7とKord重機関銃を合わせたらかなりの重量になる筈なんだけど・・・バラライカってかなり力持ちなんだな。改めて思い知ったよ。

 

「オットー。お前はRPGがダメだった時の保険だ。ありったけの爆薬を用意しておけ」

 

「了解!」

 

オットーは満面の笑みでリュックからC4やらTNT爆薬を取り出して色々と作業を始めた。

 

「他の奴らの仕事は簡単だ。アタッカーの周りにいる雑魚E.L.I.Dどもを倒しつつアタッカーに攻撃する。異論がある奴は居るか?」

 

「俺達はここで待機か?」

 

ジェフリーが聞いてきた。彼はヘリパイで銃撃戦は不慣れだろうからここで待たせといた方が良いだろう。

 

「来たいなら来て良いぞ?」

 

「遠慮しとくよ」

 

と言ってたジェフリーはヘリに戻って行った。

 

「他に何か聞きたい奴は居るか?」

 

特に異論を唱える人は居なかった。それを確認したネルソンは無線機の周波数を変えた。

 

「こちらジュピター。ブラックビヤード(黒髭)、応答せよ」

 

ブラックビヤード・・・確か社長のコードネームだっけ?何の話をするのか気になったので盗み聞きしてみる。

 

《こちらブラックビヤード。何か用か?》

 

そう言えば僕、社長にはまだ会ったことも無いんだよなぁ。声を聞いたのも今回が初めてだ。

 

「火力支援としてハインドをよこしてくれ」

 

《RPG-7持って行ってただろ。それで倒せないのか?》

 

「お前安物のヤツ買っただろ。1発撃ったが不発だったぞ」

 

《それはアンタの運が無かっただけさ》

 

「それに弾も足りない。大型E.L.I.Dは少なく見積もっても後3体は居るが、今ある武器の火力と弾数じゃぁ後1体倒すのがやっとだ」

 

《Mi-24Vは別の任務で主張中だ》

 

「昨日オーバーホールが終わったハインドE(Mi-35M)があっただろ」

 

《確かにハインドEなら動かされるが・・最近ただでさえ金欠だってのにハインドに爆装させて飛ばすとなるとかなり金が掛かるんだぞ?》

 

「優秀な社員の9名の命と会社の名誉と信頼を失うのと数10万ドルを失うの。どっちが良いと思ってるんだ?」

 

《誰も助けをよこさんとは言って無いだろ。一応聞いておくがその敵はハインドを飛ばしてまで殺る価値があるのか?》

 

「費用対効果は高いと思うぞ」

 

《・・・・はぁ、分かった。ハインドをそっちに送ってやる》

 

「感謝する」

 

《これで任務失敗しましたって報告したらぶん殴るからな?》

 

「出来るだけのことはする」

 

と言ってネルソンは通信を終えた。色々と突っ込みたい所が多かった会話だったがとにかくハインドが支援に来てくれるのは心強い。ネルソンはM27 IARを持ち皆の方を見て言った。

 

「それでは、作戦を開始しようか」

 

 


 

 

L&M本社のヘリポートでは先程ネルソンから来た支援要請を受けて急ピッチで準備を進めていた。フライトスーツを着込んだ操縦士のダニールは昨日オーバーホールを終えたばかりのヘリ、Mi-35M(ハインド)の目の前で腕を組んで立っていた。

 

「久し振りに暴れられるな」

 

ダニールの横に立っている同じくフライトスーツを来たニコライが言った。

 

「あぁ。それに今回の相手は大型E.L.I.Dだそうだ」

 

「それは()りがいのありそうだな」

 

ニコライはそう言ってハインドEのスタブウィングに搭載されている9M120アターカ対戦車ミサイルとS-8Bロケット弾を20発内蔵したポッドを見てニヤリと笑った。何時もだったらロケット弾ポッドだけとか機関砲だけで出撃することが多いL&M社のハインドEだが、今回の敵は余程強敵なのかアターカ対戦車ミサイル4発と20連装ポッド2個とほぼフル装備での出撃だった。

 

ヘリパイ仲間の中でも好戦的なことで知られている射撃手のニコライはミサイルやロケット弾を撃ちまくれると知り昂ぶっていた。

 

ハインドEに乗り込んだダニールとニコライはすぐさま発進準備に取り掛かった。APUを起動させ、機体に電力を供給させる。電子機器が蘇り、各種計器を確認して機体に異常が無いことを確認したダニールは親指を立てて整備班に合図した。

 

「エンジンスタート!」

 

誘導員がそう叫びながら右手を頭上でグルグルと大きく回した。

 

「エンジンスタート!」

 

ダニールがトグルスイッチを上に上げてエンジンをかけた。始動制御バルブからエアタービンスターターへと圧縮空気が送り込まれ、エンジンが始動する。エンジンに異常が無いことを確認して、ダニールはスロットルレバーを握り出力を少しだけ上昇させる。充分にエンジンが温まりAPUが役目を終えて自動的に停止する。ハインドEの巨大な2つのエンジンが甲高い金属音の様なエンジン音を搔き鳴らし、5枚のメインローターブレードが回転を始める。

 

「タービン回転数アイドリングまで上昇。ジェレネーター正常稼動確認。電圧異常なし」

 

「各種兵装チェック。火器管制システムチェック。レーダー及びミサイル警告システムチェック。全て異常なし」

 

ニコライからの報告を聞いたダニールはスロットルレバーと操縦桿を握る手に力を入れた。

 

「フライトスタンバイ!」

 

全ての準備は整った。後は発進許可が下りるのを待つだけだ。

 

Монстр(モンスタ)1、今回の目標は大型E.L.I.D。報告によるとミニガンやグレネードランチャーで武装している模様。敵の激しい攻撃が予想される。注意せよ》

 

「モンスタ1 了解!」

 

《HQからモンスタ1へ。アイリーン。繰り返すアイリーン!直ちに離陸せよ》

 

「アイリーン了解。モンスタ1離陸する」

 

ダニールがスロットルレバーを引いて出力を上げる。10トンを超える機体が生み出された揚力によりふわりと浮き上がる。離陸したハインドEはその場で180度ターンしてから、機首を下げて目的地へと向かった。

 


 

ネルソン達に近寄る人型E.L.I.Dの胴体に照準を合わせて3発撃つ。撃たれた人型E.L.I.Dはその場に黒っぽい血を撒き散らしながら倒れる。僕が予想していた数の倍の数が目の前には居る。ネルソン達と共にアタッカーを倒す為に突撃したのは良いけど、アタッカーの周りにいる人型や獣型のE.L.I.Dの数が尋常じゃない。

 

一昔前に流行ったゾンビ映画みたいに人型のE.L.I.Dの群衆がネルソン達に襲いかかっている。僕は建物の上にいたからE.L.I.Dの津波に襲われることはなかったけどいつここまで上がって来るかも分からない。一応念の為にここに通じる階段に手榴弾とワイヤーを使って古典的なブービートラップを仕掛けておいたからこれで奴らが来た時は分かる。

 

ネルソン達突撃組は次々と来るE.L.I.D達に銃を撃ちまくり、グレネードを投げまくり、何とかしのいでいるが厳しい状況だ。バラライカが別の建物の上からKord重機関銃を撃ちまくり何十体、何十匹ものE.L.I.Dを倒している。本当、彼女の火力はとても頼りになる。彼女の放った12.7ミリ弾は1発で数体のE.L.I.Dを貫き、ミンチにしている。サイモンもMG3の高い連射速度を生かして弾幕を張り、E.L.I.D達をバタバタと倒している。

 

こういう敵が多数いる時にマシンガンは輝く。一丁で何人も倒せるからだ。遥か昔、第一次世界大戦時に大量殺戮兵器と言われ恐れられた銃なだけはある。

 

僕も機関銃が良かったかもなぁ・・・いやいや、マークスマンライフも充分凄い銃だから!M14は良い銃だから!失敗作とは言わせない!

取り敢えず目に付いた奴らを片っ端から撃ちまくる!射撃練習にはうってつけの状況だぜぇ!

 

M200も頑張っており、ボルトアクション式ライフルをまるでセミオートの銃のように撃っている。2〜1秒に1発くらいの速度で連射しているんじゃないかな?しかも敵と敵が重なった瞬間を狙って撃ってる様でワンショットツーキルなんてざらで、ワンショットスリーキルとかも成功させちゃってる。ヤベェ1番敵倒してないの僕かもしれない。と言うかM200の弾って確かそれなりに高い専用弾だったよな?あんなに連射しちゃってお金の方は大丈夫なのだろうか?まぁこの状況で弾代を考えてる暇なんか無いか。下のネルソン達もかなり奮闘している。

 

 

 

「ちょっと数が多過ぎるんじゃ無いの⁉︎」

 

アリーナがAK-47に付けた銃剣で人型E.L.I.Dの首を切り裂きながら言った。

 

「泣き言言ってる暇は無いぞ。アリーナ」

 

ハオレンがCz805A-1で迫り来る5体の人型E.L.I.Dをフルオートで撃って倒しながら言った。更にその後から獣型E.L.I.Dが2体飛び掛かって来たがハオレンは動じることなくタップ撃ちで素早く2体とも倒した。

 

「言われなくても分かってるっての!って言うかハオレンの方敵少なくない⁉︎」

 

アリーナは銃剣で獣型E.L.I.Dを刺し殺してから、接近して来た人型E.L.I.D3体を撃ち殺した。更に次から次へとやって来るE.L.I.D達を倒して行く。

 

「こっちも充分多い!」

 

ハオレンは回り込んできたE.L.I.D人型と獣型E.L.I.D計2体をCz805A-1で撃ち殺し、正面からやって来た人型2体に照準を向けトリガーを引いた。しかし弾切れで撃てなかった。弾切れだと分かった瞬間左手でホルスターからQSZ-92-9を取り出し凄い速さで連射して2体とも倒した。

 

「それこっちの状況を見て言ってる⁉︎」

 

銃剣で獣型E.L.I.Dを刺し殺しながらアリーナが言う。しかし深く刺さり過ぎたのか、銃剣がなかなか抜けない様だ。AK-47のストックを握りしめて引き抜こうとするがなかなか抜けない。と、その隙に背後から獣型のE.L.I.Dが襲いかかって来た。アリーナは片手でホルスターからMP-443を取り出して撃った。アリーナに飛びかかって来ていた獣型のE.L.I.Dは頭を4発も撃たれ飛びかかった勢いのままアリーナに衝突し、アリーナは転んでしまった。

 

「あーもう邪魔!」

 

覆い被さって来た獣型E.L.I.Dの死体を蹴り飛ばすと、目の前に人型E.L.I.Dが居た。完全に無防備な状態で襲われてアリーナは顔を少し歪めた。が、次の瞬間アリーナを襲おうとした人型E.L.I.Dの頭に穴が空いた。倒れた人型E.L.I.Dの後ろにCz805A-1を持ったハオレンが居た。ハオレンはアリーナに手を差し伸べた。アリーナはその手を掴みハオレンに引っ張って貰いながら立ち上がった。

 

「礼はいい」

 

「誰がするか」

 

アリーナは力を入れてAK-47を引き、何とか死体から銃剣を抜いた。休む暇もなく複数のE.L.I.Dがまたやって来た。アリーナとハオレンは同時にAK-47とCz805A-1を構え撃った。

 

 

 

サイモンは雪崩れ込んでくるE.L.I.D達を達をMG3を景気よく撃ちまくってなんとか撃退していたが、弾切れを起こしてしまった。

 

「リロード!」

 

隣にいたアンナが建物の陰からAK-108を構えて撃つ。毎分900発もの連射速度で5.56ミリ弾が撃ち出され一瞬で4体、いや5体のE.L.I.Dが死んだ。

 

アンナが援護してくれている内に弾切れになったMG3に新しい弾薬ベルトを入れる。マシンガンは大量の弾をフルオートで撃ち出すことができるが、その代わりリロードに時間がかかってしまう。アンナがリロードの為に一度建物の陰に隠れた瞬間2体の人型E.L.I.Dがサイモンに近付いて来た。サイモンはホルスターからM586(4インチモデル)を取り出し、発砲。357マグナム弾を右肩に食らった人型E.L.I.Dは仰け反る様にして後ろにこけた。その隙にもう1体の方に照準を合わせて発砲。見事頭に当たり頭は爆ぜた。肩を撃たれその衝撃で倒れていた人型E.L.I.Dが起き上がろうとしたが、起き上がる前に頭を撃ってトドメを刺した。

 

更に獣型E.L.I.Dが突っ込んで来たので残りの3発全部を撃ちまくり倒した。アンナのリロードが終わりまた撃ち始めた。その間にMG3のリロードを終わらせて、また撃ち始めた。少し敵の侵攻が落ち着いたとこほでさっき撃ち切ったM586をリロードしておく。

 

「サイモン!RPGはまだあるか?」

 

少し離れた所にいたネルソンがM27 IARを撃ちまくりながらサイモンの元に駆け寄って来た。

 

「大切にとってるぜ?」

 

またE.L.I.Dの大群が現れたのでサイモンはMG3を撃ち始めた。

 

「このままここで防衛し続けていてもラチがあかない。弾も残り少ないしな。ちょっと強引だがアタッカーが見える所まで突破するぞ」

 

今ネルソン達がいる所から1ブロック程進み左に曲がれば目標のアタッカーが見える。まぁそこまで突破するが難しいんだが。

 

「総員突撃準備!一気に決着をつけるぞ!」

 

ネルソンはM27 IARに新しいマガジンを入れた。サイモンのMG3は連続の射撃でかなりの熱を持っていたので銃身を新しい物と交換しておく。アンナはリュックからドラムマガジンを取り出してAK-108に付けた。皆んなの準備が整ったのを確認してネルソンは言った。

 

「突撃ィィィ‼︎」

 

 

 

その頃僕はと言うと変わらず建物の屋上からM14EBRでE.L.I.D達を撃っていた。ネルソン達が全員で突撃を敢行したので僕はその援護を行なっている。皆んなの死角から接近してくる奴を撃ち殺したり、押されている味方の援護をしてみたり。大忙しだ。と言うか弾がねぇ。予備マガジンは後1つだ。無駄弾を減らす為に頭を撃って一撃で倒すことを心がけているが、頭を狙うと外れる確率も上がってしまい、結局無駄弾を撃つ量は増えてしまう。何と言うジレンマ。

 

M200の方は既に弾切れしてしまった様で、建物から降りてリュックから取り出したMk23でE.L.I.Dを倒している。ドオォォン!と後ろの階段から爆発音が聞こえて来た。どうやら階段に仕掛けたブービートラップに引っかかったようだ。つまりE.L.I.Dが階段上ってこちらに接近しているってことだな。僕は階段に照準を合わせた。4秒くらい待つと、馬鹿みたいな数の人型E.L.I.Dがやって来た。すかさずM14EBRをセミオートで撃ちまくるが数が多過ぎる。じりじりと後退しながら撃ち続けるが、敵の数は減らない。逃げようと思ったがここは屋上。逃げ場が無い。

 

・・・いや、全く無いって訳では無いな。このまま回れ右して走って屋上から飛び下りればE.L.I.Dから逃げることは出来る。でもここは4階建ての建物の屋上だぞ?上手く受け身をとれば5階から落ちても大丈夫と噂で聞いたことがあるけどそんな上手い受け身の取り方なんて知る訳ない。どうする?時間は無いぞ⁉︎

 

あ、あそこに立派な木があるじゃん。・・・あそこに飛び移ることが出来ればワンチャンあるんじゃね?E.L.I.D達はもう目の前まで近づいている。えぇい!悩んでる暇はなさそうだな!

 

僕はE.L.I.Dに背を向けて建物の隣にある木に向かって走り出す。ついでに念の為に痛覚をカットしておく。建物と木の距離は10メートル位だろうか?と言うか届くの⁉︎いや届け!届いてくださいっ!僕は縁に来た瞬間渾身の力を入れてジャンプ‼︎

 

「《うわぁぁぁあぁぁあぁああああ⁉︎》」

 

少しの間僕は空中を飛んでいたが、人も人形も飛ぶことは出来ない。重力に引かれて落下を始めた。ヤッベェ!やっぱり飛距離届かないかも⁉︎いやあの枝に届きそうだ!

 

僕は落下しながら目の前を通り過ぎて行く木の枝に手を伸ばした。右手の手のひらに枝が当たった。渾身の力込めて枝を掴む。メキッ!と言う音とともに枝が折れてしまった。すかさず左手で別の枝を掴んだ。メキメキと軋みながらも枝は僕を受け止めてくれた。

 

・・・・・色々と一瞬の間にあり過ぎて頭が追い付いていない。僕、生きてる?あ、生きてるわ。

 

《はは・・・・あっはははははははっ!》

 

思わず僕は笑っていたが、直後上から人型E.L.I.Dが3体降って来て地面に衝突したのを見て現実に戻った。掴んでいた枝を話して地面に着地。少々高さはあったがこのくらいなら問題無い。

 

地面に着地すると近くにいた人型2体が次々と僕に向かって来た。フルオートで撃とうかと思ったが残弾が少ない今の状況でフルオートは得策では無いと思ったのでセミオートのまま発砲。M14EBRが撃ち出す7.62ミリ弾はネルソン達が使っているアサルトライフルの5.56ミリ弾よりストッピングパワーがあるのでE.L.I.Dを簡単に・・とはいかないけど比較的楽に倒せる。胴体に3発撃って1体倒し、頭を撃ち抜いて2体目を倒した。

 

《今凄い叫び声が聞こえたが大丈夫か?》

 

バラライカさんが聞いて来た。あー思わず絶叫してしまったからね。

 

《はい。何とか大丈夫です!》

 

《毎度無茶をする奴だな》

 

言われてみれば確かに僕って毎度無茶してるかも。まぁ今のは他にどうしようもなかったししょうがないよね!

 

とりあえずM200の居る所に向かおう。僕は近くにいたE.L.I.D3体を倒してM200の居る建物まで走った。

 

《お邪魔するよ!》

 

と言って僕は一階の部屋に窓から入った。すぐさま物陰に隠れてから迫り来るE.L.I.D達に発砲する。

 

「手、大丈夫ですか?」

 

ん?手?両手を見てみると擬似血液が滴り落ちていた。M14EBRのグリップとかに血がべったりと付いている。あーさっき木の枝を掴んだ時に切ったのか。痛覚を切っていたから気づかなかった。僕はにっと笑って答えた。

 

《大丈夫。少し切っただけだから》

 

「あんまり、無茶はしちゃダメですよ?」

 

《大丈夫だって》

 

バラライカの次はM200に無茶しないようにと注意されるとは・・・。しっかしこの子、内気そうな雰囲気とは裏腹に射撃はとてつもなく上手いな。敵を狙っている時の目はまさにスナイパーって感じだ。全く瞬きせずに近付いてくる敵の急所に弾を当てている。取り敢えず当てやすい胴体を中心に狙って撃っている僕とは大違いだ。

 

人型と獣型E.L.I.D数体が部屋の中に入って来た。獣型E.L.I.Dが僕に口を大きく開けて飛び込んで来た。噛まれればこちらも感染してE.L.I.Dになってしまう可能性がある咄嗟にM14EBRを構えて3発撃ったが上手く頭に当たらずそのまま突っ込んで来た。

 

「危ない!」

 

獣型E.L.I.Dが僕に嚙みつこうとした瞬間、僕はM14EBRを口を開けて飛び込んで来たE.L.I.Dの口に突っ込んだ。E.L.I.DがM14EBRに噛みつき、その強烈な顎でM14EBRを噛み砕こうとする。メリメリメキメキと何かが軋む音がM14EBRから聞こえて来る。おいおい壊さないでくれよ⁉︎

 

僕は銃が壊される前にトリガーを引いた。口内で放たれた7.62ミリ弾は脊髄を貫いた。口から引き抜いて頭にもう1発撃ち込んで確実に息の根を止める。脳みそが飛び散ってなかなかグロテスクなことになっているが今はそれを気にしている暇は無い!

 

M200は既にMk23で獣型と人型計3体を倒している。更にナイフを左手で取り出すと嚙みつこうとして来た獣型E.L.I.Dの首を右手で締めて、そしてナイフを獣型E.L.I.Dの頭に刺してナイフの柄にあったボタンを押した。バシュッ!と言う音がして獣型E.L.I.Dは動かなくなった。

 

あれってもしかしてワスプナイフか?いやあれ絶対ワスプナイフだろ。ワスプナイフはとても恐ろしいナイフだ。刺した後に柄にあるボタンを押すと柄の内部に仕込んである炭酸カートリッジボンベが刃の先端から勢いよく噴射され、刺した臓器や対象物を高圧ガスによりズタズタに切り裂く。今の場合だと頭に刺した後にガスを噴射していたから脳みそはズタズタにされたのだろう・・・。

 

僕も人型E.L.I.DをM14EBRで撃ち倒したが、それで弾切れしてしまった。ホルスターからP320を取り出して近づいて来るE.L.I.Dを撃ち殺す。M200の鬼神の如き活躍で室内に入って来た奴と入ろうとしていた奴全てを倒すことが出来た。

 

ドガアァァン!と左側から爆発音が聞こえて来た。その方向を見るとネルソン達が居た。どうやらE.L.I.D達の群れを無事突破した様だ。皆んな血まみれだったのでギョッとしたが全部E.L.I.Dの返り血のようだったので安心した。

 

《サイモン!さっさと撃て!》

 

《ちょい待ち!》

 

サイモンはMG3を持って腰撃ちで左右に乱射し近くに居たE.L.I.D達をあらかた倒し、アタッカーの姿を確認するとMG3を投げ捨て背負っていたRPG-7を構えた。既に弾頭は装填されている状態なので後はトリガーを引いて撃つだけだ。狙うはアタッカーが背負っているレールガン本体。アタッカー自体を倒そうとすればRPG-7 1発では無理かもしれないが、レールガンだけなら1発で撃てなくなる筈だと言うネルソンの考えだ。もっと詳しく言うなら狙っているのは砲閉鎖機だ。あそこを破壊すれば次弾装填は不可能になる!

 

サイモンはRPG-7のアイアンサイトを覗き込みニヤッと笑った。

 

「jackpot!」

 

と言ってサイモンはトリガーを引いた。サイモンの後ろで強烈なバックブラストが発生する。PG-7VL弾頭がブースターにより毎秒115メートルの速さで撃ち出される。よく映画などではRPG-7の弾は目に見えるくらいの速さで描かれているが、実際は結構早い。PG-7VL弾頭で言うと最大毎秒295メートル、時速で言うと1062キロまで加速する。

 

真っ直ぐ飛んで行った弾頭は見事砲閉鎖機に命中し、小さな爆発を起こした。砲閉鎖機からポロポロと小さな部品が落ちて行くのが見える。

 

「やったぞぉぉぉぉ!どうだ見たからクソったれえぇぇぇ‼︎」

 

サイモンはRPG-7の発射機を投げ捨てながら叫び、そして何度もガッツポーズをした。

 

「ナイスだサイモン!」

 

ネルソンとサイモンはハイタッチをしてお互いに喜びを分かち合った。アリーナやハオレン、オットーなど皆んなも抱き合ったり、手と手を握り合ったりして喜んでおり、いつも無表情なのアンナが少しだけ口角を上げているのを僕は見逃さなかった。僕も隣に居たM200な思わず抱きついてしまったが、彼女が顔を赤くして驚いていたので直ぐにやめた。

 

これで奴はもう撃て無い!制空権は確保した!後はハインドが狩ってくれるだろう。ネルソンは無線機の周波数をいじってどこかに繋げた。

 

「こちらジュピター。モンスタ1聞こえるか?」

 

モンスタ1と言うのは初めて聞いた名だけど恐らく今来ているハインドのパールソルネームかコードネームだろう。

 

《こちらモンスタ1。感度良好》

 

「たった今敵の対空兵器を破壊した。後は好きに暴れてくれ」

 

《それは素敵な報告だ。存分に楽しませて貰うとするよ。後2分程でミサイルの射程に入るから少し待ってくれ》

 

「了解した」

 

これで一安心だな。と思った矢先、今までピクリとも動いていなかったアタッカーが突然動き出した。全員がアタッカーに銃口を向けた。アタッカーはレールガンの砲口を空に向けた。まさか撃つ気なのか⁉︎

 

「おいおいおい!もうアイツ撃てないんじゃないのか⁉︎」

 

《多分砲の中に装填された弾はまだ撃てる状態なんだと思います!》

 

砲閉鎖機を壊した時に一緒に壊れてくれたかなと思ったが違ったようだ。となると今こちらに向かって来ているモンスタ1が危ない!ネルソンは僕が言うよりも早く無線機に叫んだ。

 

「モンスタ1!ブレイク!ブレイク!ブレイク‼︎」

 

《ぬぉ⁉︎》

 

直後アタッカーのレールガンが眩い光を放った。マジで撃ちやがったよアイツ!モンスタ1は大丈夫か?撃墜されましたとか言わないよな!?

 

《うお⁉︎何か横を掠ったぞ⁉︎一体何だ?》

 

「敵が最後の抵抗として撃ったレールガンだ。もう撃てないから安心しろ」

 

《本当だろうな?これで撃墜されたら化けて出るからな》

 

「俺は幽霊とかは信じないタチたんでね。ジュピターアウト。・・・・さて、そろそろアイツらがまた襲って来そうだからさっさと逃げるか!」

 

今までアタッカーばかり気にしていて忘れかけていたが、まだ周りには大量のE.L.I.Dがいるんだった。今までアタッカーの砲撃に注意が向いていたから良かったけどまたこっちに襲いかかろうとしているのが見える。僕達は接近して来るE.L.I.Dを撃ち殺しながら、さっさとヘリのある所まで撤退する。

 


 

E.L.I.D達に囲まれた仲間達を救う為・・・・と言うよりは早く大暴れしたいが為にダニールはハインドを超過禁止速度ギリギリの300キロまで速度を上げて目的地に向かっていた。

 

「そろそろなんじゃないのか?」

 

《あぁ。既にアターカの射程内だがギリギリ過ぎる。もう少し近づいてからだ》

 

「分かった」

 

このMi-35Mに搭載されている9M120アターカ対戦車ミサイルの射程は6キロだ。現在敵との距離は丁度6キロの所に来たが、射程距離ギリギリで撃つと途中で燃料切れを起こして目標まで届かない可能性があるのでまだニコライは撃たなかった。しかし今このヘリは時速300キロで飛んでいるので、30秒程待てば2.5キロも進むので直ぐに有効射程距離に入った。

 

ニコライが高倍率の前方監視型赤外線( FLIR)で目標地点を見ると、どデカイ四足歩行型の怪物の姿が映し出された。

 

《標的確認!止めてくれ》

 

ハインドEの機体が後ろに傾いて急減速し、その場でホバリングした。その間にニコライは四足歩行型の怪物に照準を合わせる。

 

《モンスタ1、ウェポン・アウェイ!》

 

ニコライが発射ボタンを押した。スタブウィングから放たれた9M120アターカ対戦車ミサイルはオレンジ色の噴射炎を煌めかせて、白い煙の尾の空中に残しながら誘導信号に従って飛んで行く。

 

秒速550メートルで飛んで行ったアターカミサイルは3.5キロ先の目標に6秒で到達し、四足歩行型E.L.I.Dの背中に命中した。タンデム式成形炸薬弾頭によって四足歩行型E.L.I.Dの分厚い皮膚をいとも簡単に貫通し、爆砕した。第3世代主力戦車を一撃で破壊出来るように作られたアターカ対戦車ミサイルの威力は絶大で、今の1発で四足歩行型E.L.I.Dに致命傷を負わせた。更にもう1発四足歩行型E.L.I.Dにアターカミサイルを撃ち、頭を爆砕してトドメを刺した。

 

《大型E.L.I.D1体撃破!よし次!》

 

ニコライはFLIRで次の標的を探した。するとネルソン達を攻撃する人型の大型E.L.I.Dを見つけた。すぐさま狙いを定めて発射ボタンを押す。照準線を目標に合わせ続けてミサイルを誘導する。四足歩行型より小さかったが、ミサイルは見事大型E.L.I.Dに命中した。一瞬爆煙で大型E.L.I.Dの姿は見えなくなったが、煙が晴れるとそこには何も残ってなかった。

 

《おい!俺達まで吹き飛ばされるところだったぞ!》

 

《標的の近くに居るのが悪い》

 

サイモンからの文句をそう言い返したニコライは既に次の標的に照準を合わせていた。最後の1発が3体目の大型E.L.I.Dに着弾し、黒煙が立ち上った。

 

「おいおい俺の獲物は残ってんのか?」

 

《あー・・・・あ、あそこに居たぞ》

 

Хорошо(ハラショー)!」

 

ダニールはホバリングさせていたハインドを前に傾けて速度を上げ、目標に急速接近する。アターカ対戦車ミサイルは全弾撃ち切ったがまだまだハインドには大量の武器が搭載されている。少し離れた所にいた大型E.L.I.Dに機首を向けて接近すると大型E.L.I.Dが右腕に装備したミニガンでハインドを攻撃して来た。しかし7.62ミリ弾で落とさせるようなヤワな設計をハインドはしていない。たとえ12.7ミリ弾が当たっても貫かれることは無い。ミニガンで撃たれながらも何食わぬ顔で接近したハインドEはスタブウィングに搭載されたB-8V20ポッドからS-8KO 87ミリロケット弾を斉射した。

 

ロケット弾は大型E.L.I.Dと周囲の地面に次々と着弾し、爆煙と土煙で姿が見えなくなった。ヘリは風圧で煙が晴れるとそこには大型E.L.I.Dの無残な死体しか残っていなかった。

 

「他に居ないのか?」

 

ダニールはハインドをホバリングさせて周囲を見回すが他に大型E.L.I.Dの姿は見えなかった。ニコライもFLIRで探し回ったが大型E.L.I.Dを見つけることは出来なかった。

 

「どうやら全部片付けちまったみたいだな・・・・」

 

《そんな落ち込むなよ、普通のE.L.I.Dならまだネルソン達の近くに沢山いるぜ?》

 

「俺はデカイ奴を殺りたかったんだよクソが。・・・・・まぁいい。ニコライ!アイツら全部吹っ飛ばすぞ!」

 

Да(ダー)!》

 

ハインドはその場で180度向きを変えるとネルソン達がいる所まで行った。ネルソン達の上空でホバリングし、ネルソン達を襲おうとして接近して来るE.L.I.Dの群れに左から右、右から左にへと横薙ぎにロケット弾を撃ち込んだ。爆発が次々と起こり、E.L.I.Dの体の一部が宙を舞う。

 

更にニコライも機首下に搭載されたNPPU-24ターレットに装備されたGsh-23L連装機関砲を操作し、ロケット弾の攻撃からすり抜けて来た奴を23×115ミリ弾で撃ち殺す。23ミリ榴弾の威力は凄まじくまともに弾を食らったE.L.I.Dは文字通り粉微塵になり、血煙が舞った。

 

計40発ものロケット弾と450発の23ミリ弾を撃ち終えた頃にはあれ程いたE.L.I.Dの殆ど全てが肉片へと姿を変えていた。

 


 

いや〜流石と言うか何と言うか・・・・ハインド ヤバイ(小並感)。アイツ1機でE.L.I.Dの殆ど全部を倒しちゃったよ。生き残った奴も弱っている奴が大半だったから僕達だけであっさりと駆除できた。23ミリやべーな。ミンチどころか肉片さえ残っていないんだけど。まぁそのお陰でE.L.I.Dのグロい死体を見ずに済むのは嬉しいことだな。

 

その後、自分の肩に乗っていたE.L.I.D肉片を見て驚き、女の子みたいな叫び声を上げちゃったのは別の話。

 

 

 

戦術人形になってから16日目。続き。

 

今日は1日が凄い長く感じた・・・・。想像以上に大量のE.L.I.Dに襲われちゃってすげー大変だった。あと今回の標的だった大型E.L.I.Dを倒すのがめっちゃ大変だった。しかもアイツ何故かグレネードランチャーとかミニガンとかを装備してたし、レールガンを装備している奴も居た。ハオレン(中国人傭兵。滅茶苦茶強いらしい)は「軍が作った実験体なのかもな」と言ってた。

 

皆んなと協力した頑張って大型E.L.I.D1体を倒したが、最終的には支援に来てくれたハインドが全部やっつけてくれた。あれだけ苦労した倒した大型E.L.I.Dを簡単に倒しちゃったのを見て改めてハインドのヤバさが分かったよ。

 

因みに今僕はそのハインドの機内でこの日記を書いている。UH-1Yの方は定員オーバーだったので僕達はハインドに乗ることになったのだ!ヤベェよハインド。ヤベェ。テンション上がりまくりだぜ!

 

 

そして、第2目標であった行方不明になった別のPMCの人達も助けることが出来た。しかし全員を助けることは出来なかった。僕達が助けに来る前に2人がE.L.I.Dに殺されてしまったそうだ。現実はやっぱり厳しいな。でも、クレセント社に所属する人達と戦術人形のFNCとM200と仲良くなれたのは良かったと思う。

 

今日はとても疲れた。帰ったらそのままベッドに直行しよう。夜飯は・・・・食わなくていいやとにかく疲れた




どうだったでしょうか?今回の話、ぶっちゃけるとハインドを活躍させたかっただけなんですよねwコブラやアパッチも良いけどハインドシリーズのあの凶悪な顔が自分は好きなんですよ(隙あらば自分語り)そしてM200ちゃんを登場させたかっただけなんですよね・・・他にも登場させたい戦術人形は色々居るので(K11とかS.A.T.8とか)隙があれば出して行きたいと思います。出して貰いたいキャラなどがいましたら教えて下さい。もしかしたら登場させるかも?

次回を投稿するのも遅くなってしまう可能性がありますが、気長に待っててくださると嬉しいです。次回もお楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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番外編!初めてのお風呂

お待たせしました第12話です!って言いたいところですがすいません。まだ出来てないんですよね。代わりに今回は番外編と称しましてTS系の話なら外せないこのイベントを書いてなかったので書いちゃいました!こう言うシーンは初めて書いたので思っていたより上手く書けなかったのが悔しいです。時系列としては第7話と第8話の間ら辺ですね。深夜テンションで書いた物なので色々とおかしな所があるかもしれませんが、そこら辺はお許しください。


現在の時刻午後10時23分。やぁ皆んな。エマことM14EBRだ。今僕は今世紀最大の危機に直面している。鉄血のハイエンドモデルが攻めて来たとか、 E.L.I.Dの大群に襲われたとかでは無い。L&M社自体はは今日も平和だ。じゃぁ何の危機だよと聞きたくなるだろう。それは僕の男としての威厳と尊厳、そして貞操だ。今僕がいるのは2号棟内にある脱衣所。もう察した人も居ると思うが、今から僕は風呂に入ろうとしている。

 

今まで風呂には入っていなかったのかよと聞きたい人も居るだろうから説明しておくが、今までは定期検査としてあの戦術人形修復カプセルに1日一回のペースで入っていたから風呂などは入っていなかった。あのカプセル内に入ると強制スリープモードに入るので後は整備班や技術班の人達にお任せすればよかった。しかし昨日で定期検査は終わり、普通の生活が出来るようになった。因みに検査の方はオールクリアで、どこにも異常は見受けられなかった。

 

いやまぁいつかはこの日が来るとは思っていたよ?しかしいざ本番となると凄い緊張する。でもいつまでも自分の裸にドキドキしていたんじゃぁこれからの人生生きていけない。頑張れ、僕!

 

鏡の前に立ち改めて己の姿ををまじまじと見た。見た目的には完全に女子高校生だ。今から服とかを全部脱いで女子高生の裸を見ると思うと罪悪感やら背徳感やらに襲われる。えぇい!自分の姿を見てしまうから恥ずかしいんだ!服を着替える時みたいになるべく自分の体を見ないようにしながら迅速に服を脱げば良い話!

 

鏡に背を向けて服を脱ぎ始める。まずは抵抗の少ないニーソから脱ぐ。靴下を脱ぐ時みたいな感じで一気にだ。ニーソを脱げば昔の男性ホルモンバリバリの毛むくじゃらの足ではなく、すね毛1つない程よい肉付きの綺麗な足が姿を現わす。僕は足フェチと言う訳ではないが、もしこれが僕の彼女の足だったら間違い無く撫で回していただろう。

 

まぁ・・・・彼女なんて作れないままこんな姿になっちゃった訳だけど・・・。

 

そして次にスカートを脱ぐかセーラー服を脱ぐかで迷ったが、いつものようにスカートから脱ぐことにした。僕はヤバい方から先に片付けておきたいタイプなんでね。目を瞑りながらスカートを脱ぎ去る。次はセーラー服だ。覚悟を決めてゆっくりとセーラー服を脱gガチャ「あ・・・」・・・なーんで目の前にネルソンさんがいるんですかねぇ?

 

えーっと?僕は姿見鏡に背を向けて着替えていて、目の前にあったドアが突然開いたと思ったらネルソンが出て来た。数秒間沈黙が続きネルソンが「その・・・えぇっと・・すまん・・・」と言ってドアを閉めようとした時、更に招かれざる客がやって来た。

 

「おいネルソン、何ドアの前で突っ立ってるんだ?」

 

と言ってサイモンが閉まりかかっていたドアを全開に開けて、中に入って来た。目が合った。いや、サイモンの目線はどう見ても僕のブラジャーとパンツの方に行っている。そして今更になって恥ずかしくなって来た。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「(見んなボケぇぇぇぇ)っ‼︎」

 

もし僕が喋れたら思いっきり罵声を浴びせてやったのに!声が出せない代わりに僕はドライヤーや櫛など、近くにあった物をを掴んでネルソンとサイモンに向かって投げまくった。ドライヤーがネルソンの顔面に命中しネルソンは鼻を抑えながらその場にうずくまった。サイモンは次々と飛んで来る物を避けながらポケットからスマホを取り出し、カメラのレンズを僕に向けた。パシャシャシャシャと音が鳴る。

 

「(撮るなぁぁぁ)っ‼︎」

 

僕は部屋の隅に置いてあった消火器を手に取り全力でサイモンに投げた。縦に回転しながら飛んで行った消火器の角が見事サイモンの額に命中し、サイモンは卒倒した。ヘッ、ざまぁ見ろだ。スマホを取り上げて僕の姿を撮った写真を削除しようとしたがパスワードが分からず写真のフォルダを開くことが出来なかった。僕はパスワード解除を諦めてサイモンの横に転がっていた消火器を手に取り、消火器を両手でしっかりと持ちスマホに振り下ろした。戦術人形の力のお陰か分からないが、スマホは一撃でくの字に曲がった。これでデータは消えただろ。

 

僕は脱衣所に戻りドアを勢い良く閉めた。・・・・さっさと風呂に入るか。脱ぎかけだったセーラー服をさっさと脱いで覚悟を決めていざ出陣。ま、風呂と言ってもここの基地にあるのはシャワーだけなんだけどね。

 

ハンドルを回しシャワーのノズルから丁度良い温かさのお湯が出て来て、僕の体に沿って流れ落ちて行く。ふへぇ〜〜。久し振りのシャワーはとても気持ちいいなぁ。

 

ん・・んんっ・・・。う、う〜ん、どうやら男だった時より肌が敏感になっているようだ。体を流れて行くお湯の感覚が何だかこそばゆい。・・・こんなに体が敏感になっているのなら胸とかを弄ったからどうなってしまうんだろうか。

 

「(・・・・・・・)」

 

ほあぁぁああぁぁ⁉︎いやいや何考えているんだ僕⁉︎危うく薄い本みたいな展開になりそうだったぞ⁉︎やめだやめだ!変なことは考えないようにしよう。無心だ!無心になるんだ自分!ただシャワーを浴びるだけなんだ、何も変なことは無い。

 

シャンプーボトルのポンプを押してリンスシャンプーを手の上に出して、ゴシゴシと髪を洗う。髪が男だった時の何倍も長くなっているので洗いにくいったらありゃしない。慣れない長髪に悪戦苦闘しながら10分?いや15分くらいか?まぁとにかく結構時間がかかってしまったがなんとか髪を洗うことが出来た。

 

さて、次は体だな・・・つばを飲み込み覚悟を決める。今思ったが僕何回覚悟を決めてるんだよ・・。ボディーソープを置いてあったボディスポンジに付けてあらだを洗う。うぅ〜肌が敏感になっているせいか少しこそばゆい感じがするな。特に脇腹らへんとかが。そんでもってお肌スベスベだなおい!そして柔らかい・・・本当にこれ自分の体なんだよな・・信じられねぇ。

 

そして体を洗うんだから胸も洗わないといけない訳でして・・・いやぁ〜我ながら大き過ぎず小さ過ぎずの丁度いい大きさの胸だと思うようん!触り心地も良いし!僕の体を検査してくれた技術班の人(女性)はDカップって言ってたっけな。巨乳じゃなくて良かったな。もし巨乳だったらヤバかったと思う。うん。上半身をざっと洗って次は下半身だ。少し前まで僕の股に付いていた22口径は当たり前だが消え去っていた。改めて見て無くなったことを実感した。なんか寂しいと言うか・・・何と言うか・・・。

 

まぁとにかく上半身と下半身を何とか洗い終えた。シャワーで体に付いた泡を洗い流した。よし、さっさと上がろう。これ以上長居しない方が良い。

 

長い髪ってのはかなり厄介だなと思う。髪を乾かすにも一苦労だ。エレナが来てくれたから髪を乾かすのはエレナにしてもらった。

 

僕の寝巻きとなりつつあるL&Mで支給されているあのOD色のシャツとズボンを着て、任務完了(ミッションコンプリート)

 

身も心ももスッキリした状態で僕はベットに潜り込んだ。

 

 

翌日、食堂で朝食を食べているとネルソンが「昨日は本当にすまなかった!」と頭を下げて謝って来た。まぁここの風呂は男女共同だし、僕が過剰に恥ずかしがり過ぎたのも悪いと思ったので僕も謝って昨日の事はチャラになった。しかしサイモンは僕に会うなり「お前って結構派手な色の下着着てるんだな」と言って来たので右ストレートで思いっきり殴ってやった。




どうだったでしょうか?こう言うの初めて書いたんでこれで良かったのかどうか分かりませんが、書いてみたいと思っていたものが書けたので僕はまぁ満足しています。本編の投稿はまだ時間がかかりそうなのもう少し待っててください!

ご感想お待ちしております!


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第12話 訪問!S09地区

お待たせしました第12話です!今回投稿が遅くなってしまったのはコラボ計画を進めていたからなのです!

そう!今回はあの通りすがる傭兵さんの「ドールズフロントラジオ、銃器解説コーナー」とコラボです!やったぜ!


戦術人形になってから17日目。晴れ。

 

 

 

疲れて爆睡していたらサイモンに叩き起こされた。もう少し寝たかったのに・・・・・。文句の1つでも言ってやろうと思ったが「仕事だ」と言われたので渋々ベッドから出て支度をした。朝食としてヘリの機内でレーションを食べたが、やはりちゃんとした朝食の方が良いね。

 

そして今僕はまた村に来ている。そう、昨日E.L.I.D達と戦ったあの村だ。何でまたここに来ているのかと言うと墜落したV-280バローを回収する為だ。このバローは昨日助けた人達の所属するCRESCENT(クレセント)社が保有している物だったのだが破損が酷く、修理するより新しく買った方がマシと言うことで捨てられた。社長はそれに食いついたようで、この捨てられたバローを回収するように僕達に頼んだそうだ。バロー自体を修理できなくてもバラせば使える部品は沢山あるので、それを売ったり別の機体のスペアパーツとして使うつもりらしい。

 

にしても何で僕達なんだ?墜落機の回収ぐらいなら他の人達に頼んでも良いだろうに。こっちはまだ昨日の疲れが残ってるつーの。とまぁ文句を言いながらも僕はネルソン達とクレセント社の人達(助けてくれたお礼と言って手伝いに来てくれた)と協力して回収作業をしている。僕も含めた戦術人形組は主に力仕事を任されることが多いのだが、その中でもバラライカさんが凄い。バラライカさんことKord6P57は名前の通りKord重機関銃を使用する戦術人形だ。射撃の腕が良く、何と狙撃もやってのけちゃうそうだから驚きだ。バラライカさんは30キロ近い機関銃を扱う戦術人形だからか、僕やエレナなどの他の戦術人形より力持ちだ。何たってKord重機関銃を抱えてフルオートで撃てる程なんだからな。

 

さて、そろそろ仕事に戻らないとだな。もうひと頑張りだ。

 


 

バタバタバタとヘリの音が聞こえて来た。日記を仕舞い休憩室代わりにしていた建物の窓から空を見ると、灰色の大型ヘリの姿が見える。ネルソンがM18発煙手榴弾をバローの近くに投げた。鮮やかな赤色の濃い煙がモクモクと出て来る。これだけ派手な色の煙なら空からも容易に視認出来るだろうな。

 

赤色の煙を頼りに飛んで来たMi-26はバローの真上へとゆっくりと降下して来た。建物から出た僕はバローの数メートル上でホバリングすらMi-26を見上げる。すっげぇ〜こいつを飛んでるところ初めて見たよ。やっぱりデカイな。そして風が凄い。吹き飛ばされるんじゃないのかと思う程だ。

 

既にバローの機体にはワイヤーを繋げているので後はMi-26の胴体下中央部にあるカーゴフックに繋げるだけだ。Mi-26はゆっくりと高度を下げて僕達がカーゴフックに届くようにしてくれる。凄い操縦技術だ。バラライカが巨大なスプリングフックを持ち上げてMi-26のカーゴフックに繋げた。

 

僕はワイヤーがちゃんと繋がっているかを確認してネルソンに親指を立てた。それを確認したネルソンは頷くと右手を上げてクルクルと回しながら無線機に何か話した。その間に僕はバローから急いで離れる。Mi-26程の大型ヘリのダウンウォッシュはとても強く危ないからだ。

 

Mi-26は出力を上げてゆっくりと上昇を始めた。たるんでいたワイヤーがピンと張り、やがてゆっくりとバローが持ち上がる。10t近い重さのバローを釣り上げちゃうから、Mi-26は凄いなと思う。そのまま高度を上げたMi-26はゆっくりと進み出し基地の方へと向かった。

 

「すっごーい!ヘリがヘリを運んでる〜」

 

FNCが遠ざかって行くMi-26を見ながら言った。確かにヘリが榴弾砲や軽装甲車両を運ぶ姿はよく見るが今のように航空機類を運ぶ姿は見ないよな。

 

《本当に貰っちゃて良かったんですか?》

 

僕は近くにいたクレセント社に所属するフレッドに聞いた。彼はネルソン達が使っている特別製の無線機では無く普通のやつなのでエレナに僕の代わりに喋って貰う。彼は昨日の疲れもあるだろうにわざわざ手伝いに来てぬれたので本当に彼らには頭が上がらない。

 

「本当にあのヘリを貰って良いのかって聞いてるぞ」

 

「もうアレは使い物にならないしな。アンタらが回収しなかったらそのままここに放置しただけだろうし、好きに使えば良いさ」

 

《ありがとうございます》

 

僕はお辞儀をした。

 

そして僕達もMi-26と入れ違いでやって来たUH-1Yに乗って本社に戻った。ヘリから降りると丁度回収したバローが大型トラックの荷台に乗せられて運ばれているところだった。

 

「さーて、これで今日の仕事は終了だな」

 

ヘリから降りたサイモンが背伸びをしながら言った。

 

「今日、他に任務は無かったよな?」

 

と聞きながらアリーナはずっと咥えていたタバコにポケットからジッポーを出して火を付けた。

 

「今のところはな」

 

「じゃ、あたしは街の方に行って一儲けしてくるよ」

 

煙を吐いてアリーナは言った。風に乗ってタバコの臭いが僕の方にも漂って来て鼻腔を刺激する。僕の知っているタバコの臭いよりキツイ臭いだ。思わず手で鼻を押さえた。

 

《アリーナさんの吸っているタバコ、何か普通のより臭くないですか?》

 

気になったので隣にいたエレナに聞いてみた。

 

「確かジタンって言うタバコだった筈」

 

《へぇ〜》

 

ジタン・・ジタンねぇ。全く聞いたことないな。そもそも僕はこうなる前は18歳になったばっかりの青年だったからタバコを吸う機会なんて無かった。なのでタバコの銘柄となは何1つ分からない。

 

「ジタンは発酵した黒い葉を使っているから葉巻みたいな匂いと香りがするんだよ」

 

フレッドが教えてくれた。へぇ、葉巻ってこんな感じの匂いなのか。何と言うか・・・僕は苦手な匂いだな。

 

《フレッドさんも吸ってるんですか?》

 

「アンタも吸ってるのかだってよ」

 

「ジタンをか?俺はアメスピの方が好きなんでね。吸ったことは無いよ」

 

アメスピなら知ってる。正式名はアメリカンスピリットって言うやつだ。僕のお父さんがよく吸ってた。

 

「エマちゃーん。今からから暇?」

 

そう言いながらサイモンがやって来た。う〜ん帰ったら部屋でゆっくりしたいと思っていたんだけどなぁ。一応何なのか聞いておこう。

 

《何か任務ですか?》

 

「いや、任務じゃなくてガンスミスに銃の整備を頼みに行こうと思ってな」

 

成る程ね。それなら僕のM14EBR-RIも持って行くか。獣型E.L.I.Dにガブガブされたゃったし何処から壊れているかもしれない。

 

《良いですね。私も行きます》

 

「私も行く〜!」

 

FNCが手を上げながら言った。

 

「わ、私も・・・」

 

M200もおどおどしながら手を上げた。

 

「そんじゃ私も〜」

 

話を黙って聞いていたエレナも手を上げた。するとサイモンが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「何か文句でもあんの〜?」

 

「俺はエマちゃんやチョコちゃんとかのかわい子ちゃんと一緒に行きたいんだけどな〜」

 

「アンタがかわい子ちゃん一緒だとエマ達が何されるか分かんないっての」

 

確かにしてくるだろうな。今までもケツを触られたり後ろから突然胸揉まれたりなど色々セクハラじみたことをされた。僕も何もしなかった訳では無い。元男と言えどケツを撫でられたり胸を揉まれるのは嫌なので、反撃するとだが「フハハハハ!」と笑いながらサイモンはヒラリヒラリと僕のパンチやキックを避けて逃げてしまうのである。まぁその後にネルソンやエマ、バラライカとかに捕まって説教を受けているんだけど。

 

「それなら私も行こう。丁度私も銃を見てもらおうと思っていたからな」

 

Kord重機関銃を肩に担いだバラライカがやって来た。

 

「ゲッ・・アンタも来るのかよ」

 

バラライカはKord重機関銃の銃口ををネルソンに向けた。

 

「何か不満な点があるのかね?」

 

「イイエ。何モアリマセン」

 

 

 

と言うことで僕とエレナとバラライカ、そしてM200とFNCの計5人は1号棟にあるガンスミスの所にやって来た。しかし受付にガンスミスさんの姿は見えない。外出中なのかな?

 

「ガンスミース‼︎」

 

サイモンが大声言うと受付の奥にあったドアが開き潤滑油まみれの男が出て来た。ガンスミスさんだ。

 

「俺の銃の整備を頼みたいんだけど」

 

と言ってサイモンはMG3を受付の机の上に置いた。MG3を持って色々見回したガンスミスさんはMG3を再び机の上に置いた、

 

「4日程掛かるが良いか?」

 

「4日⁉︎そんなに壊した覚えはねーぞ?」

 

「他の奴らの銃の整備で手一杯なんだよ。ここには俺しかガンスミスは居ないってのにおたくら意外の奴らも一斉に銃を持ってくるもんだから人手不足なんだよ」

 

えーじゃぁ僕のM14EBR-RIも数日くらいかかっちゃうってことか。ついでにM200とFNCの銃も見てもらおうと思ったけどそれも無理そうだなこれは。

 

「じゃぁ私のも無理なの?」

 

エレナがガンスミスに聞いた。そう言えばエレナは今日の任務の時に「そろそろオーバーホールしなきゃだなぁ」とか言ってたな。

 

「無理だな」

 

「私のはどうなるんだ?最近簡単な整備しかしてなかったし、前回の任務で撃ちまくったから色々と部品が摩耗してると思うんだが」

 

バラライカが自身の持つKord重機関銃を見ながら言った。確かに機関銃ってフルオートで大量の弾を消費する分、部品の摩耗とか早そうだな。特に銃身とかね。

 

「だから無理だっつってんだろ。他を当たってくれ」

 

「他って言ったってガンスミスはアンタしかいないんだよ?」

 

「そんなんだよなぁ〜」

 

ガンスミスさんは髪をガシガシを掻きながら唸った。そして何か思いついたのか「あ、そうだ」と言って手を叩いた。

 

「アンタらS09地区のガンスミスと戦術人形のナガンリボルバー(M1895)やってるラジオを知ってるか?」

 

S09地区のラジオ・・・・?あー!アレか!何度か聞いたことがある。あのガンスミス滅茶苦茶銃に詳しいよな。僕は首を縦に振った。エレナも知っていたようだが、バラライカとサイモンは全く知らないようだ。

 

「まさかあそこのガンスミスにお願いすると言わないよね?」

 

「そのまさかだ。ちょっと待ってろ」

 

と言ってガンスミスさんはまたドアを開けて部屋の中に入って行った。待つこと数分、ガンスミスさんが戻って来た。

 

「アポ取れたぞ。お前らの分の銃を整備してくれるそうだ」

 

おぉ〜マジすか!あのラジオの人と会うことが出来るのか!それは楽しみだ。

 

「今日の1時に予約を取ったがそれでよかったか?」

 

壁に掛けてある時計を見てみる。現在時間は9時37分。時間は充分にあるな。

 

「1時だな。了解した」

 


 

ということで僕達はヘリポートにやって来た。が、僕は目の前にあるヘリを見てどうしても納得出来ないでいた。

 

《エレナさん。僕達は今からグリフィンの基地に行くんですよね?》

 

「そうだね」

 

《じゃぁ何でハインドがアイドリング状態で待機しているんですか?》

 

僕達が今から乗ろうとしているヘリは前回の作戦で大活躍したのたMi-35M(ハインドE)だ。兵員輸送なら汎用ヘリのUH-1YやMi-8で良いだろうに何でわざわざハインドを?

 

「社長は自分の持っている兵器を見せびらかして相手を驚かせるのが好きだがら」

 

あ〜成る程ね。自分の宝物とかを他の人に見せびらかしたくなる感じね。分かるよ、その気持ち。

 

僕達は小さな出入り口からハインドのキャビンに入った。Mi-35MはMi-24Dと同じように8人までの完全武装の兵士を運ぶことが出来るが、どちらかと言うと攻撃ヘリとしての性質の方が強い。なのでこのハインドEのキャビン内は快適とは言えない。が、そこに逆にロマンを感じるのは僕だけでは無いはず。

 

《全員乗ったか?》

 

ハインドのパイロットが聞いて来た。ネルソンはハインドのキャビンに乗り込んだメンバーを見て全員いることを確認した。今回は僕とネルソンとエレナとバラライカとM200とFNCの計6名がS09地区の基地まで行く。他の人達も誘ってみたが、アリーナは街に行きカジノで一儲けしに行ってしまいサイモンは来ようとしたが、ガンスミスに止められて銃の扱いが雑だと説教を食らっている最中。他の人達も訓練や任務などがあるからと断られてしまった。

 

「あぁ。全員乗ってる」

 

《それじゃぁ上げるぞ》

 

キャビンの左前にあった出入り口のドアが閉まった。

 

《モンスタ1、離陸する》

 

エンジン音が上がり、メインローターが目に見えない程高速回転し始める。機体が浮き上がりエレベーターに乗っている時みたいに体に浮き上がるような感覚に襲われる。あっという間にハインドEは高度を上げ、S09地区に向け発進した。




続きはドールズフロントラジオ、銃器解説コーナーで!


通りすがる傭兵さん、今回はコラボ依頼を受けてくださり本当にありがとうございます!感謝感激です!


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第13話 M14EBR-RIの日常

お待たせしました13話です!今回はアサルト部隊としての日常を書いた話になります。


戦術人形になってから17日目。続き

 

昼から僕やエレナなどの武器のメンテナンスをした貰う為にS09地区に行って来た。向こうのガンスミスさんはとても良い人だった。あの人は銃のことになると我を忘れて熱く語るのだが、僕でさえ理解の出来ない専門用語が飛び交う。ガンスミスさんから色々聞けたし、ダットサイトも貰ったし良い経験が出来たよ。そして彼の作ったクッキーはとても美味しかった。お土産にとケーキも貰ってしまった。マジ感謝

 

そしてS09地区の戦術人形とアサルト部隊で射的勝負をしたんだけど、僕のせいで我々アサルト部隊は負けてしまった・・・・かなり悔しい。と言うかいきなり風が吹いてくるとか聞いてないんだけど⁉︎無しだろあれ!でもまぁ僕の経験不足も確かなのでもっと経験を積む必要があるなと思ったよ。また勝負する機会があるのならその時は必ず勝つ!

 


 

僕は書き終えた日課を置き、ハインドEの窓からS09地区の方に向かって叫んだ。

 

「(M21ィ‼︎次は絶対に勝つからなぁぁぁ‼︎)」

 

 

 

戦術人形になってから18日目。曇り。

 

 

この日は特に何も任務などは無かったのでハオレンとエレナとアリーナと一緒に色んな状況を想定した戦闘訓練を行った。中でも苦労したのが近接格闘訓練。射撃の腕は良くなったとアリーナさんやエレナから褒められたが、近接格闘はまだまだだった。と言うかハオレンさん強過ぎない?気づいたら技を決められていましたってことが何度もあった。

 

そして訓練後にエレナとアリーナさんから「汚れちゃったしシャワー浴びに行こう」と誘われてしまった。僕はやんわりと断ったがアリーナに捕まってしまい強制的に連れて行かれてしまった。まだ1人でシャワー浴びるのにも慣れていないってのに美女2人と一緒に行くんだからもう大変だった。中でもアリーナがヤバかった。彼女スタイルはグラビア雑誌に乗ってそうな程良いからその裸を見るとなるととても心臓に悪い。極力2人の顔しか見ないようにして何とかシャワーを済ませた。・・・シャワーを浴びるだけであそこまで緊張したのは人生で初めてだった。

 

 

 

戦術人形になってから19日目。曇りのち晴れ。

 

 

今日は迷子の猫探しをした。まさかこんな任務が来るとは思っていなかった。簡単な任務だと思ってやっていたがそれは間違いだった。約4時間探し回っても手掛かり無し!全然見つからない。ゴミ箱の中とか路地裏とか公園とか猫のいそうな場所を探したが見つけきれなかった。結局、猫は依頼主の家の床下から発見された。灯台下暗しとはこのことだな。約4時間、家の周辺を探し回った僕の努力は無駄だったな。畜生

 

 

 

戦術人形になってから20日目。晴れ。

 

 

今日は昨日とは違いPMCらしい仕事がやって来た。今回の任務はとある人物の確保又は殺害。目標はE-17地区の郊外に拠点を置くストリートギャグのボス。ローゼンだ。このストリートギャングはとても凶悪で、少し前には警察相手に300発以上の7.62×39ミリ弾を撃ったそうだ。そして、もう警察では手が負えないと言うことで僕達に声か掛かったそうだ。

 

このローゼンを捕まえるか殺せば良い訳なのだが、彼のガードがなかなか固い。四六時中AKS-74やType56を持った護衛達がいるから容易には近づかない。まぁストリートギャングのボスなんだし当たり前か。

 

 

 

戦術人形になってから21日目。雨のち曇り。

 

 

昨日から僕はローゼンの住んでいると思われる豪邸をずっと見張っている。豪邸から200メートル程離れた所にあるアパートから双眼鏡で豪邸を睨み続けるだけの暇な仕事だ。ネルソン、ハオレン、アリーナ、ハルカはローゼンのことについて色々調べており残りサイモンとユウヤは必要な道具の調達に行き、エレナと僕は監視活動中って訳だ。

 

それと、アサルト部隊のメンバーにスズキ・ユウヤって言う僕のお母さんと同じ名字の名前の日本人がいるんだけど、監視活動中の僕達に朝飯や昼飯を頼んでも無いのに持って来てくれたりしてくれた。基地に居る時はゲームばかりしていて、余り喋ったことも無かったんだけど案外良い人なのかな?と思ったりしている。

 

・・・僕って意外にチョロい?

 

 

 

戦術人形になってから22日目。曇り。

 

 

3日間張り込んだ甲斐があった!さっき目標のローゼンが豪邸内に女と一緒に入って行ったのを確認した。ネルソンの情報によるとローゼンと一緒にいたあの女はローゼンの愛人だとか。まぁそれはともかくこれはローゼンを仕留める大チャンスだ。今日の夜に豪邸に突入することになった。この暇な監視活動ともおさらば出来ると思うととても嬉しいよ。

 

豪邸内に突入するのはネルソン、アンナ、アリーナ、エレナ、ハオレン、ハルカの室内戦闘に慣れている5人だ。僕とバラライカは豪邸の近くにあるマンションから援護射撃をして、オットーは別行動。ユウヤとサイモンはもしもの事に備えて豪邸の外に止めている車で待機している。こう言う任務は初めてだったので緊張していたんだけど、ブリーフィング中サイモンさんが「アイツらが全部やっちまうからお前の出る幕はねぇよ」と言った。彼なりに緊張している僕を気遣ってくれているのだろう。サイモンはいつもおちゃらけている人だが仲間を気遣ってくれる良い人だと僕は思っている。さて、そろそろ作戦開始時間だ。気を引き締めよう。

 


 

現在の時刻は午後10時30分。作戦開始時刻だ。僕は豪邸から約200メートル離れた所にあるマンションの屋上にバラライカと一緒に居る。僕はここからネルソン達の援護をすることになっている。バラライカはスポッター係だ。サプレッサーを付けたM14EBRの二脚を展開して立てる。今回はACOGサイトでは無くスナイパー用の20倍スコープを付けている。既にゼロインは済ませている。

 

コメット(エマ)、裏門に立っている奴をやってくれ》

 

《了解》

 

コメットとは僕のコードネームだ。無線で話をする時は名前では無くこのコードネームで呼ぶことになっている。

 

「目標アフルファー距離146メートル。ブラボー147メートル」

 

不可視レーザー距離計で目標までの距離を測ったバラライカが僕に小声で教えてくれた。僕は頷きM14EBRのコッキングレバーを引き、セーフティーレバーをSAFE(安全)からSEMI(単射)に切り替えた。スコープを覗き込み目標を狙う。作戦会議の時聞いた話によると豪邸の警備にPMCを雇ったと聞いたけどアイツらがそのPMCの人達か?あ、そう言えば僕、人間を撃つのは今回が初めてだな・・・・。やべ、そう考えると何か怖くなって来ちゃった。

 

「大丈夫か?」

 

バラライカが僕の顔を見ながら聞いて来た。いかんいかん。ここで皆んなの足を引っ張っちゃダメだ。僕は《大丈夫です》と言ってもう一度狙い直し目標をスコープの十時線に捉えた。僕の呼吸に合わせて十時線が上下に動く。落ち着け自分、今まで鉄血の人形やE.L.I.Dを沢山撃ち殺して来たんだ。今更人間を撃つのに躊躇ってどうする。

 

あれは人じゃ無い。

 

 

アレは的だ。

 

《撃ちます》

 

そう僕は小声で言ってから引き金に右手人差し指を掛けて、息を吐く。上下の揺れが収まった。標的の頭に狙いを定める。トリガーを少しだけ引く。後1ミリ、トリガーを引けば弾が放たれる。一瞬、撃つのに躊躇いそうになったが僕は覚悟を決めた。僕はもう人間じゃ無い。(・・)は戦術人形だ。

 

右手人差し指に少しだけ力を入れてトリガーを引いた。バシュッ!と言う抑制された発砲音と共に強めの反動が僕の右肩を襲う。スコープ越しに標的の頭部が弾けるのが見えたが、気にせずそのすぐ隣に居るもう1人に狙いを急いでつける。突然隣の奴の頭が弾けたから驚いているようだ。トリガー急いで慎重に引いた。急いで撃ったから狙いがずれてしまったようで、弾は首に当たった。撃たれた敵が持っていた銃を落として首に手を当ててもがき苦しんでいる。喉を撃たれているから声を発することは出来ないだろう。恐らく大動脈も撃ち抜かれているからあのまま放っておけば大量出血で死ぬだろうが、確実に息の根を止める為と、楽にさせる為に僕は奴にとどめを刺した。裏門の2人は倒した。これで裏門からネルソン達が堂々と入ることが出来る。

 

「標的アルファーブラボー共に命中確認。反応なし。上手いぞ」

 

双眼鏡で標的を確認したバラライカは結果を報告ついでに褒めてくれた。

 

「エマ、3階から裏門の方を見ている奴が見えるか?建物の裏側だ」

 

言われた通り建物の裏側3階にスコープを向けるとAK-74Uを持った男が1人居た。

 

《確認》

 

「撃て」

 

狙いを定めてトリガーを引いた。抑制された発砲音が響き、薬莢が排出され、キン!カン!カラン・・・・とコンクリートの上で何回か跳ねて小気味好い音がする。頭に7.62×51mmNATO弾を食らった男はその場にどさりと倒れて動かなくなった。

 

「標的チャーリー、ヘッドショット。反応なし。裏はクリアーだ。進んで良いぞ」

 

《了解》

 

ネルソンを先頭に突入班が裏門を少しだけ開けてゆっくりと豪邸の敷地内に侵入した。裏庭を一列になって辺りを警戒しながら豪邸の裏口を目指して素早く進んで行く。その時、僕のスコープにネルソン達の居る裏庭の方に向かう敵2人の姿が見えた。

 

《ジュピター!建物の右側から敵2人接近中!》

 

ネルソンが瞬時にサプレッサー付きのM27 IARを建物の右側の方に向けた。数秒後、建物の陰から武装した男2人が話をしながら歩いて来た。敵の姿が見えた瞬間ネルソンはセミオートで撃って2人を瞬時に倒した。

 

《ありがとうな》

 

ネルソンがこちらの方に親指を立てながら言った。ネルソン達は銃を構えながらドアに近づき、ドアが開く方向の反対側に立った。

 

《今から突入する。監視は頼んだ》

 

《「了解」》

 

僕とバラライカが同時に返事をした。

 


 

ネルソンはドアノブにそっと触れると、それをゆっくりと回した。ロックが外れる感覚を確かめてネルソンはそっとドアを引いた。外開き式のドアが少しだけ開いた。内部の灯りが外に漏れ、同時にクラシック曲が聞こえて来る。ポケットから小さな鏡を取り出して、そっと内部の様子を伺った。廊下に敵の姿は見えない。

 

"突入用意”とネルソンがハンドサインで合図する。アンナ達4人は皆一斉に頷いた。

 

「ジュピターからプルートー(オットー)へ。準備は良いか?」

 

《準備良し》

 

「スリーカウントでやるぞ。3・・・2・・・1ッ!」

 

と指を折りながら数え終わった瞬間、豪邸の全ての灯りが消えた。警備に当たっていた奴らの動揺する声が聞こえて来る。ネルソン達は慣れた手つきで暗視装置を装着した。「行くぞ」と小声でネルソンは言った。

 

ネルソンがドアを開け、皆室内に侵入する。そろそろと上下左右前後を警戒しながら廊下を進んで行く。廊下の左右には計5つの部屋があるが、目標が居るのはここではなくリビングにある大きな螺旋階段を上って、廊下を進んだ先にあるローゼンルームと呼ばれている部屋だ。

 

ドアを開けて部屋の中を一つ一つ確認しながら廊下を進んで行く。アンナとハオレンが最後の5つ目の部屋のドアを開けるAKを持った男3人が居たのでアンナがAS Val特殊消音アサルトライフルを構えて発砲音。タップ撃ちで素早く3人の心臓を撃ち抜いた。

 

「クリア」

 

「クリア」

 

部屋の中に他に誰も居ないことを確認したアンナとハオレンはネルソン達の列に戻った。

 

「おい、今の音は何だ?」

 

撃たれた奴の倒れた音が思いの外響いたようでリビングの方からAKS-74Uを持った敵が2人こちらにやって来た。ネルソンと目が合うか合わないかのタイミングでネルソンとアンナが同時に撃ち、2人は短い断末魔を上げてその場に倒れた。真っ暗な廊下を進んで行くと、無駄に広いリビングに来た。暗視装置越しなのでハッキリとは分からないが、ここの家は白を基調としているみたいだ。リビングの壁も高い天井も白色だ。

 

高そうなピアノが置いてあり、その側に敵が1人立っている。ネルソンは冷静にサプレッサー付きのM27 IARを構え頭に5.56ミリ弾を撃ち込んだ。敵は頭に弾を食い即死したのだが、敵の倒れた方向が不味かった。敵はピアノの方に倒れてしまい、更に不運なことにピアノの鍵盤に頭と肩を勢い良くぶつけた。色んな音の混ざった音が豪邸内に響いた。

 

「何だ?」

 

「リビングの方だ!」

 

ピアノの音を聞いた奴らがワラワラとネルソン達の居るリビングの方へとやって来た。リビングは月明かりにより照らされていたので暗視装置を持っていない敵も肉眼でネルソン達の姿を見ることは出来た。

 

「誰d」バシュッ!

 

すぐさま声を上げようとした敵をネルソンが殺したがそいつ以外にも大勢の敵がやって来てしまった。これはもう隠密行動は無理そうだ。ネルソンが「Oh....Dammit !」と言った瞬間、薄暗いリビングに複数のマズルフラッシュが瞬いた。

 


 

オットーが豪邸の電気を切ってネルソン達が豪邸内に侵入してから約25分経った。そろそろネルソンから目標確保の報告が来る頃だろうとさっきバラライカは言っていたが未だに報告は来ていない。

 

「・・・ん?」

 

豪邸の方から連続した破裂音と、男達の怒鳴り声が聞こえて来た。この音はどう考えてもアサルトライフルの発砲音だ。嫌な予感がして来たな。豪邸の方でも動きがあり、外の見回りをしていた奴らが一斉に豪邸内の方に向かって行くのが確認できる。

 

《こちらジュピター!全隊員に告ぐ。リビングで敵との激しい銃撃戦になった!プランBで行く!》

 

「「《了解!》」」

 

嫌な予感的中!ネルソンは敵にバレてしまい銃撃戦になってしまったようだ。それもかなり派手に撃ち合っているみたいで、聞こえて来る発砲音の数がどんどん増えて行っている。プランBって言うのは隠密もクソもないゴリ押し作戦だ。僕はこれ以上ネルソン達の方に行かせないように豪邸内に向かって行く奴らを撃ち殺しで行く。

 

「あーあ。結局ドンパチすることになったか」

 

双眼鏡で豪邸を監視していたバラライカが言った。作戦会議の時に、ド派手に突入するか静かに素早く突入するかで意見が分かれていたのだが、結局は静かに素早く突入する案が採用された。そう言えばサイモンが「俺達はアサルト(強襲)部隊なんだからこそこそ動くのはダメだろ!」とか言ってたっけな。

 

《そうですね》

 

と答えながら僕は敵に向けて撃ちまくる。敵の方は突然の狙撃に慌てふためいているようだ。ダララララララララッ!と別の方向から高レートの銃の発砲音が聞こえて来た。音のする方をチラリと見ると誰かが向こうの建物の屋上から機関銃を豪邸に向けて乱射しているのが見えた。緑色の曳光弾を撃ち出し、弾をあれ程の高レートで撃つ機関銃と言えばサイモンの持っているMG3だ。

 

アーキュリー(サイモン)、そんな所で何してる」

 

バラライカが双眼鏡でサイモンと思われる機関銃持ちが居る建物の屋上を見ながら言った。

 

《ちとサイモン達の援護をね》

 

やっぱりサイモンでしたか。目標が逃走した時に備えて車で待機していた筈なんだけど何であんな所にいるんだ?

 

「車はどうした」

 

ユーラナス(ユウヤ)に任せてある》

 

おいおいじゃぁ今車にはユウヤさん1人なのかよ。大丈夫なのかそれ?

 

「今の隙に目標が車とかで逃げたらどうするんだ」

ユウヤは車が運転出来ないと言うわけでは無いが、そこまで上手くなくカーチェイスみたいな激しい運転は無理だと本人から作戦会議の時に聞いた。

 

《大丈夫だって。リビングを制圧したら持ち場に戻るから。それにこんなってしまったんだから派手に行かなきゃ面白く無いだろ?」

 

「それもそうだな」

 

と言ってバラライカは隣に二脚を展開して立てていたKord重機関銃を手に取って安全装置を解除して、コッキングレバーを引いた。ちょ、バラライカさん?そのフィフティーキャリバーで何をするつもりなんですかい?まさか撃つつもりじゃないですよね⁉︎

 

Kord重機関銃を構えたバラライカはニヤリと笑った。

 

「ファイヤーインザホールッ‼︎」

 

とバラライカが叫ぶと同時に僕は慌てて撃つのをやめて両手で耳を塞いだ。直後ドダダダダダダダダ‼︎と僕のM14EBRの発砲音が可愛く思えるほどの腹に響く発砲音が僕の真横で鳴った。バラライカは裏庭やベランダなどに居た敵兵を屋根や壁を破壊しながら次々と倒し、更には豪邸内に避難しようとしている奴らにも容赦無く撃った。100発入りのベルトを全て消費し終わる頃には裏庭や豪邸の周りにはミンチとなった死体が転がるだけとなっていた。

 

キュン!ギャュン!と言う弾の跳弾する音が間近で聞こえたかと思うと、僕達の近くに何発も弾が飛んで来た。流石に居場所がバレてしまったようだ。スコープで見てみるとAK-74とかを持った奴らが窓から撃ってきている。

 

「下手くそな射撃だな」

 

とバラライカは言いつつ敵に撃たれていると言うのに平気な顔でリロード作業をしていた。また新たに100発入りのベルトを装填してバラライカはKord重機関銃の上に付けているスコープを覗いてこちらを撃ってきている奴に狙いを定めた。ダンッ!とバラライカはさっきみたいに連射してではなく単射で撃った。弾は窓から撃っていた敵の上半身に当たり、次の瞬間には上半身が吹き飛び血しぶきが舞った。ん?屋上のバルコニーに何かワラワラと集まっているな。

 

《バラライカさん、3階バルコニーに敵多数!》

 

「報告は正確に!」

 

と言いながらバラライカはKord重機関銃の銃口をバルコニーの方に向けてフルオートで撃った。バルコニーに血飛沫が舞い、床を赤く染めて行く。

 


 

サイモンの援護射撃のお陰でリビングに居た敵を全て倒すことが出来たネルソン達は、螺旋階段を上ってローゼンルームの前に来てドアの左右に分散して待機し、今まさに部屋に突入しようとしていた。

 

アンナがドアノブに少量のサムテックス爆薬を仕掛ける。彼女はこう言った事がとても上手い。爆破準備を済ませたアンナはネルソンに親指を立てた。

 

「発破5秒前。5、4、3、2ッ!」

 

1秒の間をおいてアンナが起爆装置を押した。ボンッ!と言う爆発音と共に木目の綺麗なドアが吹き飛んだ。ネルソンとハオレンがドアの左右からスタングレネードを部屋の中に投げ込んだ。ダン!ダン!と2回破裂音が鳴ったのを確認してネルソン達は一斉に部屋の中に突入した。が、豪華絢爛な部屋には誰も居ない。しかしこの部屋はここのドア以外から出入りすることは出来ない筈。逃げる事は不可能だ。ネルソン達は銃を構えながら探し回るが誰も居ない。

 

「うああァァァァああぁぁぁ!」

 

突然机の後ろから拳銃を持ったバニーガール姿の女性が出て来た。エレナが1番早くこれに反応し、女が撃つよりも前にXM8を構え、右肩に1発撃ち込んだ。女は撃たれた痛みに耐えかねて短い悲鳴を上げると持っていた拳銃を落としてしまった。アリーナが撃たれた所に手を当ててうずくまっている女を乱暴に捕まえて怒鳴った。

 

「ローゼンは何処だ!」

 

「し、知らない!」

 

「お前がローゼンの愛人だと言うのは知っている。しらばっくれるならお前の指を一本ずつ切る!」

 

そう言ってアリーナは女の左手を掴んで床にに置いた。もう片方の手にはナイフが握られている。

 

「ローゼンは何処だ?」

 

アリーナは女の左手を人差し指にナイフの刃の先を当て、ゆっくりと刺して行く。女が左手を引っ込めようとしたが非力な女性が戦術人形の握力に敵う筈無かった。ナイフがどんどん人差し指に刺さって行き、血が溢れ出てくる。

 

「やめて痛い!痛い!いだぃィィィ!」

 

「だったら答えろ!ローゼンは何処に居る⁉︎」

 

「か、隠し通路!隠し通路から逃げたっ!」

 

痛みに耐えかねた女は泣きながらついに白状した。しかしまだアリーナは刺すのをやめない。

 

「隠し通路は何処にある!」

 

「本棚!本棚の後ろ!」

 

それを聞いてやったアリーナは刺すのをやめて女を解放した。泣きじゃくる女を無視してエレナとハオレンが部屋の右端にあった本棚を倒した。すると人1人が何とか倒れそうな位の大きさの扉が床にあった。扉を開けると穴があり、下を覗くと床が見えた。しかしこの高さでは普通に飛び降りたなら死にはしないだろうが足が折れること間違い無しだ。ネルソン達がどうやって下に降りようか考えようとした時、アンナが何の躊躇いも無く穴に飛び込んだ。

 

「おい!」

 

ハオレンやネルソンが止めようとしたが間に合わずアンナは落下して行った。アンナはただ落下するわけでは無く壁に両足両手を付いて強引に減速しながら落ちて行った。そのお陰でアンナは無事下まで無事降りることが出来た。

 

穴の先は地下駐車場に繋がっていたようで、アンナの目の前には沢山の高級車やスパーカーが停めてあった。駐車場にいた敵が落ちて来たアンナに気づき銃を構えようとしたがそれよりも早くアンナがAS Valを構えて発砲した。さぁローゼンは何処だ?と探そうとした時、奥に停まってた赤色のランボルギーニ アベンタドールSが突然吠えた。アンナが咄嗟にアベンタドールSに銃口を向けるとタイヤを派手にスピンさせてから急発進して開き途中のシャッターを潜り抜けて外に出た。その後を追いアベンタドールSに向けてアンナは撃ちまくったが止めることは出来なかった。

 

「目標がランボルギーニに乗って逃走!」

 

アンナはスロートマイクに向かって叫んだ。

 

《了解!後は任せな!》

 

道路に出たアベンタドールSはスキール音をあげながら急カーブして走り去ってしまった。アンナは小さく舌打ちをすると駐車場に戻って行くと駐車場の奥の方から男の呻き声が聞こえて来た。声の主を探して歩いていると血の引きずった跡が床にあった。それを頼りに歩いて行くと薄暗い物置部屋に辿り着いた。AS Valを右手で構えながら左手でドアノブを回しゆっくりと開けて部屋に入ると壁を背にして足と腹部を負傷している男が座っていた。手にはコルトガバメントが握られていたが、男が構えるより前にアンナがガバメントを撃って吹き飛ばした。

 

こいつは先程撃った敵の生き残りだ。当たりどころが良かったのだろうか。そんなことを考えながらアンナはAS Valを構えた。男の顔が恐怖に歪んだ。

 

「頼む、や、やめてくれ・・・!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

アンナは表情一つ変えずトリガーを引き、男の頭に9×39mm亜音速弾が命中した。

 


 

《目標がランボルギーニに乗って逃走!》

 

アンナからの報告が聞こえてくると同時に地下駐車場からスロープを凄い勢いで上ってくるランボルギーニの姿が見えた。少しジャンプしたランボルギーニは正門を通り右にドリフトじみた急カーブをしながら道路に出て、そのまま走り抜けて行く。狙撃出来ないかなと狙ってみたが無理そうだったので撃つのはやめた。バラライカもKord重機関銃をフルオートで撃ち止めようとしたが弾は車体を掠めるだけで当たらなかった。

 

《任せろ!》

 

と言うサイモンの声が聞こえると豪邸の近くに止めていたヒュンダイのソナタって言う名前のセダンのヘッドライトが点灯し、急発進した。さっきまでサイモンは屋上でMG3を乱射していたのにいつのまに車に戻ったんだろうか。

 

「私達も行くぞ」

 

《え?》

 

何を突然言ってるんだこの人は。行くって何処に行くんだ?僕がそう考えている間にもバラライカはKord重機関銃を持ち上げて階段を降りて行こうとしていた。慌てて僕もM14EBRを持ってバラライカの後に続く。

 

《何処に行くんですか?》

 

「私達もアイツを追いかけるんだよ」

 

あ〜薄々そんなこと考えてそうだなとは思っていたけどやっぱり追いかけるつもりだったか。しかしサイモン達が追っているから問題無いと思うんだよな。

 

《でもサイモンさん達が追いかけてますし私達の出る幕はないと思いますよ?》

 

「アイツらが乗ってるのは普通のセダンだ。それに対して相手はスーパーカーだ。加速も速度も相手の方が優ってる。これじゃぁ最悪逃げられてしまうかもしれん」

 

成る程、確かにそうだな。普通のセダンがランボルギーニに速度や加速で勝てるとは思えない。高速とかに行かれると速度で振り切られる可能性も充分にある。しかし今回の任務に僕達はスーパーカーなんて用意していない。追跡用として中古のソナタを買っていただけだ。

 

「そこでこいつの出番だ」

 

階段を下り終えて、バラライカが路地にに通じるドアを開けると目の前にシルバーの車が停めてあった。この車は・・・BMWか?

 

《BMW・・ですか?》

 

「そうだ。正確にはBMWのM4クーペってやつだ」

 

《バラライカさんの車ですか?》

 

「いや、社長のだ」

 

社長の車かよ⁉︎それ不味いじゃん!絶対怒られるやつじゃん!って言うかいつのまに持って来てたんだよ。

 

《いつのまに持って来たんですか⁉︎って言うかそれ大丈夫なんですか?社長に怒られますよ?》

 

「ここに来る時に私はこれに乗って来たんだ。別に盗んで来た訳じゃなくて借りただけだから安心しろ。ほらさっさと乗れ、グズグズしていると逃げられてしまう」

 

僕は慌てて助手席に座りシートベルトを付けた。こう言うスポーツカー的な物には初めて乗ったけどやっぱりカッコいいな。バラライカは運転席に座るとシーベルトを付けずにエンジンをかけた。エンジンが始動すると同時にバラライカはアクセルを思いっきり踏んで急発進させた。路地から出ると先程のランボルギーニと同じように急カーブして、逃げたランボルギーニの後を追った。

 

アーキュリー(サイモン)!今何処にいる?」

 

《24丁目を爆走中!あいつクソ速ぇ!》

 

既にスピードメーターは時速80キロを指しているが、バラライカは速度を緩めず、逆にギアを上げて速度を上げていた。迫り来る一般車を右に左にとかわしながらバラライカはサイモンと話し続けている。

 

「繁華街はもう通り過ぎたか?」

 

「いやまだだ!もう少しで通り過ぎる!」

 

「了解した」

 

怖えぇぇぇぇ!こんな猛スピードで街の中を走った経験なんて無いからマジ怖いんだけど!ずっとアシストグリップを握りっぱなしだよ!

 

「ちょっと近道をするぞ!」

 

そう言ってバラライカは突然ブレーキを踏んだ。急ブレーキしたせいで体が前に押し付けられる。バラライカは右にハンドルを思い切り切ってギアをローに落とし、クラッチを踏んだままサイドブレーキを引いた。アクセルを吹かし、クラッチを離す。後輪が空転したスピンを起こし、右方向にケツを振った。

 

《うわぁぁあぁぁあぁあああ⁉︎》

 

キャァァァァァッ!と甲高いスキール音を響かせながらM4クーペがドリフトした。ドリフトなんて初めて体験したけど怖いなこれ!右にドリフトしたM4クーペは道を外れて横にあった路地に入った。壁と車の間の空間は1メートルも無い。そこを段ボールやゴミなどを吹き飛ばしながら全速力で走り抜けて行く。幸いなことにここの路地はずっと直進するだけみたいで、大きなカーブが無い。こんな所で急カーブ出来るとは思えないしな。曲がり切れずに壁に衝突する光景が目に浮かぶよ。しかしまぁ直進するだけとは言え狭い道を車で走るのはスリル満点だ。

 

と思っていたらこの狭い路地で右にドリフトしやがった!M4クーペはバンパーとリアバンパーを壁に擦りながら横に滑って行く。勢いを殺せず左側面を曲がり角にぶつかって車は停まった。

 

「おっと」

 

とだけ言ってバラライカはアクセルを踏んで再び急発進。路地を抜けるとそこは繁華街のど真ん中だった。右に急カーブしながら突然現れた車に繁華街にいた人達は皆驚いている。バラライカはクラクションを鳴らしながら人の賑わう繁華街を走る。車に気づいた人達が大慌てで逃げて行く。ほんと、お騒がせしてしまいすいません。

 

逃げ遅れた人を轢いてしまうんじゃないかと僕はヒヤヒヤしてるが、バラライカは上手に避けている。運転上手いな。椅子やテーブル、売り物の果物などを吹き飛ばしながらM4クーペは爆走。繁華街を出て道に入ると同時に目の前を赤色のランボルギーニが左から右に凄いスピードで通り過ぎて行った。ローゼンの乗っているヤツだ!何と驚いたことにバラライカは先回りしていたようだ。遅れてサイモン達の乗るヒュンダイのソナタが走り去って行く。バラライカは若干後輪を滑らせながら右に急カーブして通り過ぎて行ってランボルギーニの後を追う。

 

《ちょ!お前どっから出て来てんだよ!》

 

サイモンの驚きの声が聞こえて来た。そりゃ繁華街から車が出て来たら驚くよな。

 

「ちょっとショッピングがしたくてね」

 

バラライカがアクセルを踏み込んだ。M4クーペのエンジンが唸り声を上げ急加速する。直ぐにソナタに追いついた。

 

「お先に」

 

パッシングしてから更に速度を上げてソナタを抜かした。ジリジリとランボルギーニとの距離が縮まって行く。ここら辺は車の交通量が多いからランボルギーニも本気を出して走ることが出来ないようだ。バラライカは運転席側の窓を開けるとホルスターからGSh-18を取り出して、前方のランボルギーニに向けて撃った。周りには一般人の乗った車が沢山いるってのに何の躊躇いもなくバンバンと連射して撃つ。左手でハンドル操作しながら右手で撃つなんて言う器用なことを僕には無理だね!

 

「何してるお前も撃て」

 

GSh-18を撃ちまくりながらバラライカが言った。僕は助手席側の窓を開けて窓から身を乗り出してM14EBRを構えた。うおぉ!これ怖ええぇ!必死に前を走るランボルギーニを狙おうとするが狙撃用の高倍率スコープを付けているからとても狙い難い。仕方なく僕は大まかな狙いをつけてフルオートで撃った。跳ね上がろうとする銃をなんとか押さえ込みながら撃つ。何発か当たりウィンカーやテールライトが壊れた。一度車内に戻りリロードする。

 

交差点が見えて来た。しかも最悪なことにたった今赤信号になり右から左に車通り始めた。だがランボルギーニは赤信号を無視して走り抜けた。勿論バラライカもノンストップだ。右から車が来る中、その間を通り抜けて行く。後ろからガシャン!と言う音が聞こえて来た。振り返るとサイモンの乗るソナタが右から来た車にぶつかっていた。フロントの右側が大きく凹んでいたがサイモンは車を走らせる。

 

リロードを終えたので僕はまた窓から身を乗り出そうとした瞬間、真横を車が通り過ぎて行った。あっぶねぇ!あと少し出るタイミングが早かったら上半身がおさらばしていたぞ。恐る恐る窓から身を乗り出してM14EBRを構えてフルオートで撃つ!やっぱこのスコープをつけたまんまだと狙いにくいな畜生!もう外してしまうか。

 

20発全部撃ち終わってから僕はリロードの前にスコープを外す作業をする。ネジを外してスコープを取った瞬間、車が左に急カーブした。そのせいでスコープを落としてしまったが拾っている暇が無い。スコープを外すことは出来たのでリロードして窓から身を乗り出してアイアンサイトで狙った。うむ、さっきより100倍狙い易い。スコープを外したお陰かさっきより多くの弾を当てれた。

 

「タイヤを狙え!タイヤだ!」

 

《了解!》

 

右後輪を狙ってフルオートで撃ったが左右に小刻みに動くランボルギーニのタイヤに上手く当てることは困難だ。それとM14EBRの残弾が少なくなって来た。元々狙撃しかしない予定だったのでそんなに多くの弾を持って来てはいない。最後のマガジンを入れてセレクターレバーをSEMI(単射)に切り替えた。M14EBRを構えて良く狙い撃つ!車体には当たるんだがタイヤには当たらない。と言うか後ろからタイヤを狙えってのが無理な話なんだよな。結局タイヤに弾を当てることが出来ないままM14EBRは弾切れとなってしまった。

 

一度車内に戻ってサブウェポンのP320をホルスターから出した。安全装置を解除してスライドを引き、初弾を装填する。運転席辺りを狙って撃ちまくる。もしかしたら45ACP弾が車体を貫通してローゼンに当たってくれるんじゃ無いかと淡い期待を寄せていたがやっぱりそう上手くはいかないよな。

 

突然ランボルギーニは左に180度ターンしながら反対車線の方に行き、タイヤから派手に白煙を出しながら発進し来た道を戻り始めた。すれ違う時にバラライカがランボルギーニに向けてGSh-18を向けて撃ったが有効打にはならなかった。バラライカもサイドブレーキを引いて左に180度ターンする。遠心力で右に飛ばされそうになったが何とか堪えた。ターンを終えたと同時にバラライカはアクセルを踏み込んで、急発進。左右にケツを振りながらもM4クーペはランボルギーニの後を追う。サイモンも180ターンをしようとしたがミスったようでスピンしてしまった。

 

「アイツ高速に行く気だな」

 

ナビの地図を見てみると確かにこの先を右に曲がれば高速に入れるようだ。じゃぁ右に曲がった瞬間にタイヤを撃ち抜いてやる!P320に新しいマガジンを入れて構える。ランボルギーニが右にドリフト!

 

《食らえッ!》

 

後輪を狙って撃ちまくる!バラライカもGSh-18で撃っている。僕は10発全部を撃ったが車体に当たっただけでタイヤには当たらなかった。バラライカの撃った弾の一発がタイヤホイールに当たったがタイヤをパンクさせるまでには至らなかった。ランボルギーニは高速に向かって走って行く。こちらも右にドリフトして後を追う。このまま高速に入ればランボルギーニご自慢の加速と最高速度で逃げられてしまう!ランボルギーニに向かってリロードを終えたP320を乱射しまくる。

 

僕の抵抗も虚しくランボルギーニに高速道路に合流してしまった。水を得た魚のようにランボルギーニは加速して速度をと上げて行く。しかも運が悪いことに高速道路に走っている車の数が少ない。車を避けたりしなくて良いからランボルギーニはグングン速度を上げる。こちらの負けじと加速しスピードは150キロを超えた。

 

「ちょっとハンドルを頼む」

 

そう言ってバラライカは突然ハンドルから手を離した。僕は慌ててハンドルを手に取った。ちょ!僕車の運転とかまだしたこと無いんですけど⁉︎人生初の運転がこんなハイスピードとか冗談じゃないぞ!

 

《ぼ、私運転したこと無いんですけど⁉︎》

 

「ただ真っ直ぐ走らせるだけだ。猿でも出来る」

 

バラライカと話している間に一般車に急速接近していた。こちらが速過ぎるせいで周りを走っている一般の車が止まっているように見えてしまう。慌ててハンドルを右に切って回避する。バラライカは足元に置いていたKord重機関銃を持つと運転席の窓から身を乗り出してKord重機関銃を構えた。

 

「揺らすな、安定させろ」

 

そう言われても僕は今回が運転始めてなんですよ⁉︎182キロで走っていて事故ってないだけ凄いでしょ!まぁ出来るだけ頑張りますけど!

なるべく安定するように僕は極力真っ直ぐM4クーペを走らせる。

 

バラライカはKord重機関銃の上に付けているスコープを覗き込み、そしてトリガーを引いた。ダン!っと1発の12.7×108mm弾が撃ち出され、ランボルギーニの運転席に当たった。ランボルギーニは突然左に緩やかにカーブし始めた。中央分離帯に約200キロで突っ込んだランボルギーニは中央分離帯に乗り上げて横転し、そのままゴロゴロと転がり始めた。いろんな部品を撒き散らしながらランボルギーニは転がり続け、30メートル程転がってやっと止まった。散々転がったランボルギーニは原型を留めていなかった。バラライカは急ブレーキをして派手に白煙を出しながらM4クーペを停止させると、直ぐに降りて大破したランボルギーニの方に向かった。僕も車を降りてランボルギーニの方に向かった。

 

ひっくり返ったランボルギーニの運転席を覗いたバラライカは僕の方を見てニッと笑い「任務完了だ」と言った。僕も運転席を覗いてみようとしたがバラライカに頭を掴まれた。

 

「そこから先はR-18Gだ」

 

・・・・・成る程、見ない方が良さそうだ。見る勇気もねぇわ。

 

「こちらチャイカ、目標の死亡を確認した」

 

《了解、こちらも豪邸は完全に制圧した。任務は完了だ、セーフルームで落ち合おう》

 

「了解」

 

プップーとクラクションが聞こえた。音のした方をみるとボロボロになったがソナタがやって来て僕達の目の前で止まった。

 

「お前本当に運転免許持ってるのか?」

 

「るっせー、調子が悪かっただけだ」

 

「みたいだな」

 

バラライカはボロボロになったソナタを見てそう答えた。サイモンは車から降りるとしゃがんでランボルギーニの運転席を覗いた。

 

「・・・首から上が無くなっている死体も久し振りに見たな」

 

あー成る程、12.7ミリを頭に食らってパーンっ!ってなった訳だ。ヤベェな。




どうだったでしょうか?ぶっちゃけ今回の後半の戦闘シーンはカーチェイスシーンが無性に書きたくなったので書いたんですよね。

カーチェイスシーンはルパン3世のテーマ’80を聴きながら書きました(笑)。

そして今回アンナのかっこいいイラストを描いてくださったマーラントさん、ありがとうございます!

次回は来週の日曜日に投稿する予定です。そして次回から第2章が始まる予定なのでお楽しみ!

ご感想お待ちしております‼︎


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第2章 PEACE CREATE
第14話 妙に報酬の良い依頼は絶対に受けるな


次話は日曜日に投稿すると言ったな?アレは嘘だ。

ということで予定より早めに書き終えたので投稿します第14話です!



《こちらヴィーナス(ハルカ)。目標確認。第1ポイントに接近中》

 

プルートー(オットー)了解。ブラボーチームは準備出来ている》

 

《アルファも準備よし》

 

《よし、全員準備は出来てるな。敵に反撃の余地を与えず速攻で制圧する。気を引き締めて行くぞ》

 

《「了解」》

 

今、僕達アサルト部隊はとある任務を遂行していた。任務の内容は今日の午後1時にここを通る車を襲撃し、その車に乗っている全長約50センチ程の大きさの円柱形の物を奪えと言うものだ。クライアントの話によるとそのブツはクライアントの勤める研究所から盗まれてしまった物らしい。クライアントはブツを無事回収して渡せば成功報酬として何と100万ドルを約束している。既に依頼料として1万ドルを渡して来た。任務内容に対して釣り合わない程の大金を約束された社長は2つ返事で了承して、我らアサルト部隊に声がかかった。

 

現在は建物の屋上から寝そべった状態でM14EBRを構えている。スコープの先には目標の輸送車が通る予定の道路がある。僕はその輸送車の運転手を撃ち抜くーーみたいなカッコいいことをするわけではなく、輸送車を直接襲いブツを回収するアルファチームの援護だ。目標のブツを乗せた輸送車は護衛として4台のSUVと一機のヘリを付けており、輸送車自体も防弾仕様になっている。ブツの中身が何かは機密事項とかで教えて貰えなかったがかなり大切な物のようだ。

 

お、来た来た。黒色のUSVを先頭に黒色の輸送車がやって来た。上には同じく黒色のベル 407ヘリが飛んでいる。キャビンには軽機関銃を持った奴が乗っているのが確認できる。さて、そろそろだな。

 

僕が身構えると輸送車の目の前の地面が突然大爆発した。地面に埋めていた155ミリ砲弾の空薬莢にサムテックスを詰め込んだオットー特製IED(即席爆破装置)が爆発したんだ。輸送車の前を走っていたSUV 2台が爆発に巻き込まれて一台が誘爆し、もう一台は横転した。これにびびって輸送車が止まってくれたら嬉しかったのだが、輸送車は加速すると大破したSUVを押し退けて逃げ始めた。さっきも言った通り輸送車は防弾仕様になっておりフロントガラスなどのガラスも防弾ガラスになっているから小火器程度ならビクともしない。だが

 

 

12.7×108ミリ徹甲弾ならどうかな?

 

 

ダン!と言う重い発砲音と同時に防弾仕様のフロントガラス全体にヒビが入っり、ガラスが赤く染まった。輸送車は左にカーブすると建物の壁に突っ込んで止まってしまった。輸送車の後ろを走っていたSUV 2台は急停止した。次の瞬間、建物に隠れていたネルソン率いるアルファチームが出て来てSUVから降りようとしていた敵を射殺した。車から出ることも出来ないままUSVに乗っていた敵は全員アサルトライフルの一斉掃射により死んでしまった。上を飛んでいたヘリがアルファチームの存在に気付きキャビンに居た敵が軽機関銃を撃とうとしたが、バラライカからKord重機関銃の銃撃を受けてパイロット共々撃ち殺されてしまった。パイロットを失ったヘリはエンジンから白い煙を出しながら落下して行き、機首から地面に突っ込んでボカンと小さく爆発した。

 

あれ?これ僕の仕事無くね?輸送車を護衛していた人もアルファチームが全員倒しちゃったし、ヘリも今バラライカが落とした。輸送車の運転手はバラライカが狙撃したし、助手席に座ってた奴は今両手を上げて降伏した。あれぇ〜?僕1発も撃ってないんだけどぉ?

 

オットーがガス溶断機を持って来て固く閉ざされた輸送車の荷台のドアを切断し始めた。1分程度でドアのロックを溶断し終えた。アルファチームの皆が銃を構えながらオットーか荷台のドアを開けた。僕の方からは見えないがどうやら荷台の中には人は居なかったようで、皆銃を下ろした。ネルソンが荷台に入って行った。その間僕は伏兵が居ないか周囲を監視しておく。少ししてネルソンが円柱形の物を持って出て来た。どうやら無事ブツは回収できたみたいだ。

 

《よし、敵が襲撃に気づく前にさっさと逃げるぞ》

 

「《了解》」

 

僕は返事をして立ち上がるとM14EBRのセーフティーレバーをSAFE(安全)にして二脚を畳みその場を後にする。階段を下り建物から出るとネルソン達の元へ向かった。

 

「お疲れ」

 

僕の姿を見たエレナが言った。僕は苦笑いしながら答えた。

 

《1発も撃ってないですけどね》

 

「偵察9割 狙撃1割、スナイパーと言うのはそんなものだ。」

 

Kord重機関銃を担いで持って来たバラライカがそう言って来た、いや、そう言う貴方は輸送車の運転手狙撃したりヘリコプター落としたり色々してますやん。

 

「いやぁ〜今日の任務は簡単にいったな」

 

サイモンといつも以上にニコニコしているオットーがやって来た。オットーの作ったIEDの威力は僕の予想以上に高かった。小さなキノコ雲が出来た程だ。芸術は爆発だと言う言葉をオットーから聞いたがちょっとその意味が分かった気がした。

 

「もっと骨のある相手だと思ったんだけどねぇ」

 

アリーナはジタンと言う名前のタバコに火をつけながら言った。僕の苦手な臭いが漂って来たので風上に逃げとく。

 

「で、結局その中身は何なんだ?」

 

サイモンがネルソンが持っていた円柱形の物をコンコンと軽く叩きながら言った。確かに僕も中身が気になる。ただ物を盗む為に100万ドルも出すなんて普通じゃないよな。

 

「・・・傭兵だった親父(おやじ)からよく聞かされた言葉がある」

 

不意にハオレンがネルソンの持つブツを見ながら言った。

 

「"妙に報酬の良い依頼は絶対に受けるな“」

 

いきなりUH-60が飛んで来た。騒ぎを聞きつけたこの地区の自衛部隊でも来たかのかと思ったがそうではなさそうだ。なんて言うか雰囲気が違うんだよな。自衛部隊の人達なら外部スピーカーで「武器を置き両手を上げろ!」とか言ってくる筈たが何も言って来ない。UH-60のキャビンに付けられているM240を持っている兵士の服装も自衛部隊の使っている旧式の緑色の迷彩服では無く市街地戦用のグレーのデジタル迷彩だ。何かヤバそうな雰囲気だな・・・・。色々考えているうちにUH-60はこちらに急接近して来た。そして僕達の目の前でホバリングすると側面に備え付けられたM240が火を吹いた!

 

余りに突然のことだったので僕は何も反応出来なかった。が、誰かから僕は突き飛ばされた。エレナだ。エレナが僕にタックルして来たんだ!僕がさっきまで立っていたところに7.62ミリ弾が着弾した。ヤベェ!あとちょっと遅れてたら俺死んでたよ。僕とエレナは敵が運転していたSUVに隠れた。ネルソン達も同じように輸送車やSUVに逃げ込んだ。

 

「お前が変なこと言うから!」

 

サイモンがMG3を構えてUH-60に撃ちまくりながら言った。

 

「俺のせいか⁉︎」

 

同じくハオレンもCz805A-1でUH-60を撃ちながら言い返した。銃撃を受けたUH-60は僕達から距離を取った。

 

「バラライカ!やっちまえ!」

 

Да(ダー)!」

 

バラライカがKord重機関銃を構えてストープを覗く。いくらある程度防弾装備が整えられているUH-60でも12.7ミリ弾は耐えられない。

 

「車両接近!」

 

M16A4を持ったハルカが叫んだ。道の奥の方を見てみるとーってあれM-ATVじゃねぇか!実物初めて見たぞおい⁉︎M-ATVの上にある機銃砲塔がこちらを向いた。

 

《全員伏せろぉ!》

 

僕の声に反応してUH-60を撃とうとしていたバラライカやUH-60を撃っていたサイモンとハオレンも含めて全員が伏せた。次の瞬間ドダダダダダダタッ!とバラライカのKord重機関銃に似た腹に響く発砲音が聞こえた。僕が盾代わりににしていたSUVの車体を弾丸が貫通して僕の頭の上を掠めた。

 

блин(クソッ)!本家フィフティーキャリバーか!」

 

バラライカの言う通りあのM-ATVに装備されているのはM2重機関銃で間違いないだろう。ユウヤとハルカがそれぞれType89とM16A4でM-ATVを撃ったがMRAP(耐地雷/攻撃防護装甲車)であるM-ATVに5.56ミリ弾が効くわけがなかった。

 

「バラライカ!徹甲弾はもう無いのか⁉︎」

 

「50発全部ヘリに撃ってしまったよ」

 

「使えねぇなおい!」

 

「貴様に言われたくないわ!」

 

そうユウヤに言い返したバラライカはKord重機関銃を構えてM-ATVに撃とうとしたが、敵がバラライカに向けてM2重機関銃を撃った。咄嗟にバラライカは伏せたので当たらなかった。

 

「これでは迂闊に顔を出せんぞ!」

 

SUVの窓ガラス越しにM-ATVを見ていると、M-ATVの後からハンヴィーが来ているのに気づいた。M-ATVが制圧射撃をしている間にハンヴィーから続々と兵士が降りているようだ。今銃撃は輸送車に隠れているバラライカに向いており、僕の方には弾が殆ど飛んで来ていない。これはチャンスだ。地面に伏せてM14EBRを構えるとSUVの陰からハンヴィーから降りて来た兵士を狙う。セーフティーレバーをSEMI(単射)に切り替えてスコープを覗き、狙いを定めて発砲!見事弾は兵士の腹に当たった。続けて僕は連射し、5〜7人の兵士に弾を当てた。僕の存在に気づいた兵士達がSCAR-Lを構えて撃ちまくって来た。僕が盾にしているSUVは輸送車と違って防弾仕様にはなっていないようで5.56ミリ弾が容赦無く車体を貫通して来る。

 

《敵は全員SCARを持っています!》

 

「ハッ!ウチより金持ってそうだな」

 

UH-60にM-ATVにハンヴィーにSCARにとそれなりに金がかかる乗り物や武器を大量に持っているアイツらは結構な資金力を持っているのだろう。しかもウチ(L&M)と違って装備はどれも最新の物だ。

 

僕の隣にいるエレナは身を車体に隠したままXM8だけを車体から出して、敵のいる方向に向かってフルオートで撃った。するとお返しにM2重機関銃と複数のSCAR-Lからの一斉掃射が来た。

 

痛ッ⁉︎クッソぉ〜!貫通した弾が左肩に当たりやがった。くそっ痛覚切っとくか。ボフッと言う音と共にSUVが燃え始めた。燃料タンクに当たって良い感じに発火したのだろうか。

 

「ゔぁッ⁉︎ クソっ・・・・!」

 

エレナの悲鳴が聞こえたのでエレナの方を見てみると腹部から出血していた。

 

《エレナ!》

 

「大丈夫っ、かすり傷だよ」

 

「エマ!エレナ!大丈夫か⁉︎」

 

激しい発砲音に負けじと大声でネルソンか聞いて来た。

 

《エレナが腹部に銃弾を食らいました!》

 

「弾は貫通しているから大丈夫!」

 

傷口の具合を見たエレナが言った。

 

「こっちに来れるか⁉︎」

 

「ちょっと待って」

 

エレナはグレネードポーチからM18発煙手榴弾を取り出し、次々とSUVとM-ATVの間に投げた。3つのM18発煙手榴弾から濃い白色の煙が出て、数十秒ほどで視界を遮った。

 

「今の内に行くよ!」

 

《はい!》

 

僕とエレナは左に3メートル程先にある輸送車に向かって全力で走った。しかし奴らはSUVの方向に向かって乱射して来た。エレナが先に輸送車に辿り着き、もう少しで僕も輸送車に辿り着きそうだったのだが、足に強い衝撃が来て姿勢がガクンと崩れ、転けてしまった。右足を見てみると太ももとふくらはぎから血が出ていた。痛覚を切っているから痛くは無いが、これでは走ることは疎か歩くことも厳しい。ネルソンとエレナが転んだ僕を輸送車の陰まで引っ張ってくれた。

 

「大丈夫か!」

 

《大丈夫です!でも歩くのは厳しそうです。すいません》

 

敵兵士はM2重機関銃の援護射撃を受けながらジリジリと距離を詰めて来た。

 

「このままじゃやべぇぞ!どうする!」

 

「撤退するしかないだろう!エレナ、スモークはまだあるか?」

 

エレナはグレネードポーチからM18発煙手榴弾を1つ取り出した。

 

「後1つ」

 

「前に投げといてくれ。俺が合図したらここから逃げるぞ!」

 

ネルソンは輸送車が突っ込んで穴が空いた建物の方を指した。成る程、ここから逃げる訳ね。エレナが18発煙手榴弾を輸送車の前に投げた。直ぐに煙が立ち込める。

 

「行くぞ!」

 

適当に敵の方向に銃を乱射して牽制しながら僕達は建物の中に入って行く。僕はサイモンに肩を借りながら歩いて行く。廊下を通り、玄関を開けて隣の道路に出る。敵は居ないようだ。

 

ハルカとユウヤが建物の壁を盾にして輸送車の近くまで来た兵士達と交戦している。ユウヤが手榴弾を敵の方に投げてからこちらに退避して来た。

 

「直ぐそこまで来てるぞ!」

 

「車まで逃げるぞ急げ!」

 

撤退用として近くにGMC バンを停めている。僕達はそこまで急いで向かう。足が負傷しているせいで移動速度が遅い僕と肩を貸してくれているサイモンは接近して来る敵に牽制射撃しながら逃げる。

 

「急げ!」

 

ハオレンとネルソンとオットーが援護射撃をしてくれている。足が躓き転びそうになったがエレナが僕に駆け寄って支えてくれた。サイモンとエレナに支えてもらいながら僕はバンに向かう。アンナに手を引っ張って貰いながらバンの荷台に乗り込んだ。

 

「GO!GO!GO!」

 

最後に乗り込んだサイモンが車体をバンバンと叩きながら言った。運転席に座るバラライカはアクセルを踏み込んでGMC バンを急発進させた。追いかけて来た兵士がバンに向かって撃って来た。だがこんなこともあろうかとこのバンは防弾仕様になっているのである!5.56ミリ程度で貫けるとは思うなよ!ふははははははは!

 

「何なんだアイツらは!」

 

サイモンが遠ざかって行く兵士を見ながら言った。

 

「別のPMCかもな!」

 

「ダブルブッキングか⁉︎」

 

前にハオレンから聞いたことがある。クライアントの中には複数のPMCに同じ依頼をする奴が居て、そのPMC同士が現場で鉢合わせになってしまうと高確率で殺し合いになるらしい。丁度今の様に。わもしかしてアイツらもこのブツを狙っている?絶対そうだろ。

 

「ハンヴィー接近!」

 

助手席に座っていたオットーがバックミラーを見ながら言ってMCX SBRを構えて後ろに撃ち始めた。敵も撃って来ているようで車体に弾丸の当たる音が聞こえる。

 

「バラライカ!借りるぞ!」

 

「壊すなよ?」

 

サイモンはバラライカからKord重機関銃を貰うと荷台に伏せてKord重機関銃の二脚を展開して床に立てた。サイモンが何をしようか察したアンナとユウヤが後部ドアのドアノブに手をかけた。お互い頷き合うとアンナとユウヤは同時に外開き式の後部ドアを開けた。追いかけて来ていたハンヴィーの姿を確認したサイモンはKord重機関銃のトリガーを引いた。フルオートで12.7ミリが撃ち出されハンヴィーを蜂の巣にする。ハンヴィーの防弾性能はそんなに高くなく、ドアなどはAK-47の7.62×39mm弾でも貫通してしまう。ハンヴィーに乗っていた兵士達は貫通して来た12.7ミリ弾を食らってミンチとなった。エンジンから白煙を上げたハンヴィーは急速に速度を落として止まった。

 

「ハッハー!やってやったぜこの野郎!」

 

「また来たぞ!」

 

別のハンヴィーが車体の上に備え付けたM240を撃ちながら接近して来た。ネルソンはそのハンヴィーに狙いを定めて再びKord重機関銃をフルオートで撃った。先程と同じ様に蜂の巣となり、コントロールを失ったハンヴィーは建物に衝突した。

 

「良いねぇ!この銃気に入ったぜ!」

 

「右から来るぞ!」

 

GMC バンは右側面にスライドドアが付いており、サイモンはそのスライドドアを上げて右から接近して来たハンヴィーの左側面に12.7ミリ弾を叩き込んだ。左前輪が吹き飛び、ハンヴィーはスピンして止まった。

 

突然車体が大きく揺れ、座っていた僕と立っていたユウヤは転けてしまった。

 

「クソッ!左からも来やがった!」

 

バラライカが窓を開けてホルスターからGSh-18を出して横を走るハンヴィーに発砲。しかし9ミリパラペラム弾ではハンヴィーの装甲を貫くことは出来なかった。そこでバラライカはハンドルを左に切って車体をぶつけた。そのまま左に押し込んで行き道路脇に停めてある車ぶつけようとしたが、軍用の四輪駆動車であるハンヴィーも負けじとバンを右に押し返した。

 

バンとハンヴィーで小競り合いをしていたが、助手席に居たオットーがMCX SBRを構えて左のハンヴィーの運転席に向けて撃った。しかし装甲が強化されている様で弾は弾かれてしまった。

 

「それなら!」

 

そう言ってオットーは懐から手のひらサイズのセムテックス爆薬出して弄り始めた。

 

「投げたらアイツから距離を取ってくれ」

 

バラライカにセムテックス爆薬を渡しながら言った。

 

「量は大丈夫なのか?」

 

「約4ポンドだ。距離を取っていれば大丈夫だ」

 

「了解した」

 

バラライカは窓からハンヴィーに向かってセムテックス爆薬を投げた。このセムテックス爆薬には両面テープが貼られており、ハンヴィーのフロントガラスにくっ付いた。そしてGSh-18を撃ちまくりながらハンドルを右に切ってハンヴィーから距離を取った。充分に距離を取ったことを確認したオットーは起爆装置を2回握った。セムテックス爆薬が爆発し、運転席が吹っ飛んだ。バラライカとオットーはお互いにニヤリと笑って拳と拳をぶつけ合った。

 

突然、上から人影が降って来てGMC バンの前に着地した。そして運転手であるバラライカに銃口を向けて撃って来た。

 

блин(クソッ)⁉︎」

 

バラライカは伏せながらアクセルを踏み込んで加速し、目の前の人を轢こうとしたが右前輪が撃たれてパンクしてしまい、バンは右にカーブして塀にぶつかり止まってしまった。更にエンジンが出火し、もうこのバンは動かないと察したバラライカは叫んだ。

 

「全員降りろ!」

 

助手席から降りたオットーがさっきの人を狙おうとしたが、さっきまで立っていた場所に姿は無い。

 

「クソッどこ行った・・・・?」

 

辺りを見回すが何も居ない。

 

「後ろだ!」

 

バラライカの叫び声と共に発砲音が聞こえて来た。オットーが振り返ると白色のマントを着た人がバク転しながらバラライカの銃撃を回避していた。どうやらバンの上からオットーを狙っていた様だ。地面に着地したそいつはHK433を目にも留まらぬ速さで構えるとバラライカに向けて撃った。

 

「グァっ!」

 

咄嗟にバラライカは回避したが足と腹に何発も弾を食らってしまった。

 

「バラライカ!」

 

オットーはMCX SBRを構えて撃った。が、人外じみた反射速度で横に跳びのきオットーの銃撃を全て避けた。荷台から降りたネルソン達も参戦して撃ち始める。僕も参戦しようとしたが右足が動かない為、バンの荷台に置いてけぼりにされてしまった。

 

「アンタはここにいて!」

 

何とか外に出ようとしたがエレナに止められてしまった。くっそぉ〜!また僕は何も出来ないのか!

 


 

エレナが荷台から降りると目の前でフード付きのマントを来た人がネルソンの銃撃をバク宙じみた動きで回避していた。あんな動きを生身の人間が出来るわけない。恐らくアイツは人形だろう。そうエレナは思った。

 

エレナはXM8を構えて奴が着地する瞬間に撃ったが、着地と同時にまた跳躍して弾を回避された。更に跳躍中に奴はエレナに銃を構えてフルオートで撃って来た。エレナは素早くバンに身を隠して銃撃を凌いだ。

 

「全員物陰から撃て!奴は正確無比に撃ってくるぞ!」

 

アリーナがAK-47を撃ちながら言った。謎の人形はアリーナに接近しつつ右に左にと素早く小刻みに動き、アリーナの銃撃を全て避けた。接近を許してしまったアリーナはAK-47の銃剣で刺そうと刺突したが、謎の人形はAK-47のハンドガードを握って自分の右脇に引き寄せた。引っ張られたことによりアリーナは前のめりになりバランスを崩した。謎の人形はAK-47を掴んだままバランスを崩していたアリーナの足を刈られ背中から固いアスファルトに倒れ込む。同時にアリーナからAK-47を奪い取った謎の人形はAK-47を構えると転倒したアリーナの腹に撃ち込んだ。

 

「ガハッ!」

 

アリーナは口から擬似血液を吐き出した。

 

「アリーナ!」

 

アリーナにトドメを刺そうとする謎の人形に向けてネルソンがM27 IARを構えて撃つ。謎の人形は横に飛び退いて銃撃を避け、AK-47を構えてネルソンに撃った。ネルソンは銃口を向けられた瞬間に道路脇にあった木に隠れたが、右肩に食らってしまった。謎の人形はネルソンが隠れている木にAK-47で撃ちまくりながら距離を詰める。撃ちまくってたAK-47が弾切れになった。その隙にネルソンは木から出てM27 ISRを構え発砲した。謎の人形はホルスターからグロック34を出すと銃撃を素早い動きで回避しつつネルソンに接近した。謎の人形はグロック34のハンドガード部分でネルソンの右手を押さえ込み銃口が反対側に向くようにそのまま押し上げて、同時に左足をネルソンの右足に掛けてネルソンを押し倒した。

 

ネルソンと戦っている間に何とか立ち上がったアリーナはホルスターからMP-443 グラッチを取り出して謎の人形に近づき、後頭部に狙いを定めてトリガーを引いた。謎の人形は素早く身を屈めて弾を避けると屈めた姿勢のままアリーナの足に回し蹴りを食らわせた。アリーナは体勢を崩されて地面に後頭部をぶつけてしまった。

 

弾切れになったAK-47を捨てて自身のアサルトライフルを構えるとアリーナに銃口を向けた。が、アンナから攻撃を受けたのでトドメを刺すのをやめて回避に徹した。謎の人形はアンナに照準を定めて発砲した。

 

「クッ⁉︎」

 

アンナの持っていたAK-108が撃たれて破損し、破片がアンナの右目の上ら辺に当たり出血した。アンナはホルスターからP2000を取り出して謎の人形に向かって撃ちまくりながら塀に隠れた。

 

「大丈夫か!」

 

「大丈夫。目には当たっていない」

 

アンナは左手で右目を抑えながら言った。拭いても拭いても血が流れて来るので右目が開けられない。

 

アンナの代わりにハオレンがCz805A-1を撃ちながら前に出る。他の人達も謎の人形に撃ちまくるが、謎の人形は停めてあった車の裏に隠れた。

 

「食らえッ!」

 

今まで相手の動きが早過ぎて出番が無かったサイモンが地面に伏せてMG3を車に向かって乱射した。

 

「今の内にアリーナを!」

 

ネルソンが隠れていた木から出てアリーナの元に駆け寄った。息はあったが、至近距離で腹に何発も7.62×39ミリ弾を食らったので油断を許さない状況だ。出血も酷い。

 

撃たれて痛む右肩を無視してアリーナを優しく持ち上げると塀の裏まで持って行った。

 

「ハルカ、頼めるか?」

 

「全力を尽くします!」

 

ハルカがリュックから人形用の医療キットを出しながら言った。

 

「頼む」

 

ネルソンはハルカのリュックから鎮痛剤を取り出して自身に打つとM27 IARを持って戦闘に戻った。

 

「吹っ飛べ!」

 

オットーがそう叫びながら車にセムテックス爆薬を投げ込んで、起爆装置を2回握った。直後車が大爆発した。車の入っていたガソリンにも引火したようで、車は紅の炎に包まれて大炎上している。しかしその火炎の中から奴は無傷で現れた。

 

爆風で被っていたフードが脱げており、ずっと見えなかった顔が見えた。その謎の人形の顔を見た全員が驚いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ケモミミ⁉︎」

 

ユウヤが驚愕の声を上げた。その人形の頭の上に人間の物では無い獣の耳が生えていたからだ。獣耳少女はそのアサルトライフルーーHK433の銃口をこちらに向けている。彼女は表情の変化が乏しく、感情が読み取れない。故に何を考えているか分からずエレナは恐怖し、そして察した。"こいつはヤバい"と。

 

「動くな!」

 

知らない男の声が聞こえた。そこでエレナは気づいたが撒いたと思っていたあの兵士達が取り囲んでいた。ハンヴィーやM-ATVも来て、M2重機関銃やM240をこちらに向ける。完全に逃げ場を失ってしまった。

 

「武器を捨てろ!」

 

この兵士達の隊長と思われる男がネルソン達に言った。しばらくネルソンは兵士達を鋭い眼光睨んでいたが、大人しくM27 IARを足元に置いて両手を上げた。皆もそれに倣い銃を置いて手を上げた。エレナも兵士を睨みつけながらXM8をゆっくりと地面に置いて両手を上に上げた。

 

「チャリオットはどこだ」

 

「チャリオット?んなもん知らねぇよ」

 

「しらばくれるな!アレはお前らのような野良犬が持ってて良い物では無い!大人しく渡さなければ全員射殺する!」

 

「落ち着けよ、そうかっかすんなって」

 

チャリオットと言う名は今初めて聞いたが、何のことかは察しがついた。恐らくあのブツのことだ。サイモンはネルソンを見た。ネルソンは頷いて見せた。サイモンはバンの方に行き荷台から円柱形の物を取り出して男の前に置いて、サイモンは数歩下がった。男はブツを手に取ると色々と見回し、兵士達に命令した。

 

「チャリオットは確保した!直ちに撤収する!」

 

今までネルソン達に銃口を向けていた兵士達は一斉に動き出してハンヴィーやM-ATVに乗り込んで行く。

 

「これ以上首を突っ込まないことだな!」

 

男はネルソン達にそう言うと目の前に来たM-ATVに乗り込んだ。そして男の乗ったM-ATVを先頭に動き出し、その場を後にした。車列が見えなくなるとネルソンはすぐさま無線機の周波数を合わせてスロートマイクに言った。

 

「こちらジュピター。負傷者5名内1名重症!救援ヘリを要求する」

 

《了解、クロウ2を急行させる》

 

通信を終えたネルソンは深いため息を付いた。

 

「チッ、面倒な事になったな」




どうだったでしょうか?謎の武装組織、謎のケモミミ人形。そして中身が謎のブツ。初の長編を書くことになるので、上手くいくか不安ですが第2章「PEACE CREATE」スタートです!今後の展開をお楽しみに!

ご感想めっちゃお待ちしております!


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第15話 マーリン・ダウン

お待たせしました第15話です!

注意事項として今回の話には残酷なシーンがあり、一部の指揮官様方は気分を悪くする可能性があります。ご注意ください。


戦術人形になってから24日目。曇り。

 

何で日付が22日から24日に飛んでいるかと言うと任務が忙しくて日記を書く暇が無かったからだ。すまぬ。

 

その任務のことなんだけど、何やら面倒なことに巻き込まれちゃったみたいだ。僕達アサルト部隊はとあるブツを回収する簡単な任務を受けていた。そして作戦通り敵からブツを奪ったんだけど、そこで謎の奴らに襲われてしまった。何とか逃げようとしたんだけど逃げ切れず、結局ブツはそいつらに奪われてしまった。更に僕は見ていなかったから分かんないんだけど、滅茶苦茶強い人形がいたみたいでネルソンとアリーナとアンナとバラライカがそいつに撃たれて負傷してしまっていた。ネルソン達を苦戦させるとは・・・相当ヤバイ奴なんだな。

 

負傷者の中でもアリーナさんとバラライカさんの怪我が酷く、2人ともアサルトライフルの弾を何発も食らっていて人形用の集中治療室(僕が入れられたあのカプセル)に運ばれたとのこと。話によるとアリーナの傷が1番酷いそうで、今も治療が続けられている。治療が上手くいくことを祈るばかりだ・・・。

 

そう言う僕も普通の敵に右足を撃たれてしまった。早く治してもらいたい所だけど、アリーナさんとバラライカさんの治療が最優先なので僕の足は応急処置を施しただけ。今は松葉杖を使って歩いている状況だ。

 

結局僕達を襲った奴らの正体は今も分からないままだ。ネルソンは「面倒な依頼を受けてしまった」と言っていた。

 

 

 

戦術人形になってから25日目。曇り。

 

アリーナさんとバラライさんの治療が終わった。2人とも危ない所だったそうだが何とか一命を取り留めた。僕も他のみんなもその報告を聞いて喜んだよ。アリーナさんはまだ眠っているそうだがバラライカさんは今日の朝に病人服姿で体の動作確認を技術班の人達確かめているのを見た。僕を見ると「久し振りにこんなにやられたよ」と笑いながら言った。昨日まで生死の境を彷徨っていたとは思えない元気さだった。

 

僕の足の治療も目処が立ち、明日から行うそうだ。松葉杖を使った歩行は不便でしか無いから早く歩けるようになりたい。

 

 

 

戦術人形になってから26日目。晴れ。

 

予定通り僕の足の治療が行われた。新しい右足はまだちょっと違和感があるが動作確認をしたところどこも異常は無かった。新しい足を見て人形で良かったと初めて思えたよ。人間だったら一生松葉杖で歩くことになってたからね。

 

そしてアリーナも昨日の夜に目覚めたみたいだ。僕は足の治療とかで忙しかったからまだ姿を見ていないが、エレナによると目覚めて最初に言った言葉が「ジタン(タバコ)をくれ・・・」だったそうで見舞いに来ていたネルソンとエレナは呆れたそうだ。実にアリーナらしい。

 

後、僕達を襲った奴らの正体と、奪われたブツの在処が分かったとかでミーティングルームに来るようにさっき言われた。てっきり僕はあの任務さ失敗扱いになっていると思っていたんだがまだ続いていたようだ。はぁ・・・もう少し休んでいたかったんだけどな。まぁ2日も任務放ったらかして休んでいたわけだしそろそろ復帰しなきゃな。

 


 

午前11時30分。ブリーフィングルーム。時間通りに皆集まった。部屋の明かりが消え、目の前の壁にある大型モニターが起動し青白い光で室内を照らす。モニターの前にはネルソンが立っている。

 

「やり返す相手の正体が分かったぞ」

 

ネルソンはそう言うとリモコンを操作した。大型モニターに様々な新聞の記事やネットニュースの写真、動画などが映し出された。どの写真も動画も記事もテロ関係の事ばかりだ。

 

「アイツらはエイレーネーって言うテロ組織だ」

 

大型モニターにSCAR-LやHK416などを持った兵士達の集合写真が出た。兵士達の後ろには白い翼を広げたハトが髑髏を掴んでいる絵とΕἰρήνη(エイレーネー)と言う文字が描かれた大きな旗がが掲げてある。

 

「テロ集団の割に装備が最新過ぎなかったか?」

 

それは僕も思ってた。ハンヴィーは安くで手に入るからまだ分かるのだが、M-ATVやSCAR-L、ブラックホーク(UH-60)なんかの最新装備は普通のテロリストは持っていない。

 

「それとテロリストにしては動きが統一され過ぎていたな」

 

ハオレンの発言に右目の上にガーゼを貼っているアンナが「確かに」と言って頷いた。

 

「元々アイツらが大手のPMCだったのがその理由だろうな。どこで道を踏み外したのか、今では"真の世界平和"をスローガンにあっちこっちでテロ行為さ」

 

大型モニターに表示されている記事の一部を見てみる。地下鉄で科学兵器使用か⁉︎死傷者1400人以上!とか 教会で爆弾テロ。アスピダの犯行か。とか書かれてあった。

 

「ブツの場所も分かった。B-22地区って言う所の半分ゴーストタウンになった街の中心部にある廃棄された工場だ」

 

大型モニターに航空写真が表示されて街の中にある工場にTARGETと書かれたピンが立った。にしてもどうやって場所が分かったんだ?聞いてみるか。

 

《どうやって場所を突き止めたんですか?》

 

「エマがどうしてブツの場所が分かったのか気になってるみたいだぞー」

 

「答えは簡単。発信機だよ」

 

あぁ成る程発信機か!流石ネルソン準備が良いな!

 

「まぁ電波が微弱だから建物の中とかに入られると分かんなくなるんだがな。今回もこの工場で電波が途切れたからここだと思っているだけで確信を持ってここにいるとは言えない」

 

「やっすい発信機を付けとくからだよ」

 

「お前の給料減らしてやっても良いんだぞ?」

 

「そうなった時は反乱起こすから」

 

「まぁとにかく!売られた喧嘩は買うのが俺達アサルト部隊だ。それにクライアントからも必ずブツを回収しろとの御達しが来ている。よって、これより我々はブツを取り返す為にここに強襲(アサルト)する。各自弾薬は多めに持って来るように。激しい戦闘になるだろうからな。何か質問したい奴はいるか?」

 

今まで腕を組んで話を聞いていたサイモンが手を上げた。

 

「そのエイレーネーとか言う組織は壊滅させるのか?」

 

「色々私怨とかはあるかもしれないが今回の目標はあくまでブツの奪還だ。その他の事しない。他に質問したい奴はいるか?」

 

誰も手を上げようとする人は居ない。

 

「それでは、今日のマルヒトマルマル(1時00分)に2番ヘリポート前に集合せよ。以上解散!」

 

皆が座っていたパイプ椅子から立ち上がりブリーフィングルームから出て行く。

 

「アリーナ、バラライカ!ちょっと来てくれ」

 

突然アリーナとバラライカは呼び止められた。僕は気になったのでその様子をドアの隙間からこっそりと見る。呼ばれた2人はネルソンの元へ行った。

 

「2人とも無理してないか?昨日までお前ら半分死んでたんだぞ」

 

「大丈夫だって!コアとかはノーダメージだったし壊れた箇所も全部修理し終わってる。バリバリ動けるよ!」

 

アリーナはその場でキレのあるシャドーボクシングをして見せた。

 

「私もバラライカと同じだ。お前は心配し過ぎなんだよ。人形はお前ら生身の人間より丈夫なんだからな」

 

「いくら人形が丈夫だからと言っても頭やコアに弾を食らえば1発で死ぬ。弾を食らえば人形も人間も簡単に死ぬ」

 

「だからぁ〜心配し過ぎだって!そんな事言い出したら銃撃戦なんて出来ないよ」

 

「・・・・無理はするなよ」

 

「安心しろ」

 

バラライカはそう言ってネルソンの肩をポンポンと叩きブリーフィングルームを後にした。アリーナもその後を続く。

 

「こんな所で何してるんだ?」

 

ドアの隙間から盗み見ていた僕はバラライカとアリーナに見つかってしまった。

 

《2人が心配だったので・・・》

 

「全く、この部隊には心配性の奴しかいないのか?ほら行くぞ」

 

僕はバラライカとアリーナに捕まり、そのまま武器庫に連れて行かれた。

 

 

 

現在の時刻午後1時01分。僕達は完全武装でヘリポート前に集合していた。目の前にはいつものUH-1YではなくAW101 HC.3マーリンが暖機運転を済ませてローターを元気よく回している。何でUH-1Yではないのかと言うと、目的地であるB-22地区が結構遠くにあり、UH-1Yでは航続距離が足りないからだ。

 

「それでは諸君!行くぞ!」

 

ドタドタと僕達はマーリンに乗り込んで行く。僕はマーリンと言うなかなか珍しいヘリに乗れるということだワクワクしていた。UH-1Yよりキャビンは広々としているな。これならUH-1Yみたいにぎゅうぎゅう詰めではなく余裕を持って座れそうだ。まぁあのぎゅうぎゅう詰めの空間も軍用ヘリらしくて好きなんだけどね。

 

《全員乗ったか?離陸するぞ!》

 

「あぁ。上げてくれ!」

 

管制塔からの許可を得て、マーリンはその5枚のメインローターの回転数を上げて機体を上昇させる。そして目的地へ向けて飛んで行く。目的地まで約2時間の長旅だ、到着まで暇だな・・・。

 

 

 

現在の時刻は2時48分。無事何事もなくB-22地区に僕達を乗せたマーリンは到着した。目的地の工場も目の前に見えている。思っていたよりずっと大きな工場だ。単眼鏡で見た感じ人影やそれらしき物は見えない。

 

《タッチダウン2分前!》

 

ヘリパイからの無線が聞こえた。僕はM14EBRのセーフティーレバーをSAFE(安全)からSEMI(単射)に変更してコッキングレバーを引き初弾を装填した。ホルスターからP320を取り出してこちらも安全装置を解除してスライドを引いて弾を装填しておく。

 

アリーナがマーリンの右側にあるスライド式カーゴドアを上けた。風が機内に吹き荒れる。マーリンは速度を落としながら工場の敷地に接近する。

 

不意にコックピットから警報音が鳴り響いた。

 

《ロックオンアラート⁉︎》

 

《クソッ!近くにSAMか何かがあるのか‼︎》

 

ロックオンアラート、つまり何者かから狙われているって事だ。何事も無く着陸出来ると思ってたんだけどそれは叶わぬ夢となったな。って言うかこの状況かなり不味く無い?

 

《緊急出力!NOE(匍匐飛行)で逃げる!》

 

キュィィィイイイイイイン!っと言うエンジンの唸り声と共にマーリンに搭載されている3基のターボファンエンジンの出力が限界まで引き上げられる。同時に機首を下に向けて急降下する。建物の数十メートル上をマーリンは全速力で飛んで行く。しかしロックオンアラートは止まない。別の警報音が鳴り出した。コックピットから「WARNING!WARNING!CHAFF/FLARE!CHAFF/FLARE!WARNING!WARNING!」と言う女の機械音声が聞こえて来る。

 

《ミサイルアラート!前方にミサイル煙視認!フレア!フレア!フレア!》

 

機体を右に180度急旋回させながら機長が叫んだ。

 

《フレア射出!》

 

機体後部から左右に大量のオレンジ色のフレアが放出される。僕も窓から工場の方から飛んで来るミサイルが見えた。ミサイルはフレアの方に飛んで行き、機体に当たることは無かった。しかし警報音は止まない。

 

《2発目来る!ブレイク!ブレイク!》

 

《フレア!フレア!》

 

再びフレアを放出しながら機長は機体を左に急旋回させた。僕は旋回時の強い遠心力に負けないように必死に壁を掴んで耐える。機体の真下をミサイルが通り過ぎて行き、ミサイルは建物に突っ込んで爆発した。一瞬ミサイルアラートが止んだが、再びけたたましく鳴り始めた。

 

《チェクシックス!チェクシックス!後方から2発飛来!》

 

《くそおぉぉぉッ!》

 

フレアを派手にばら撒きながら機体は右に急旋回。機体を左すれすれをミサイルが通過して行った。と言うかあれ掠ったんじゃ無いか?それにしてもミサイルの信管が近接信管じゃ無くて良かった。もし近接信管だったら今頃お陀仏だ。間髪入れずに2発が飛んで来た。

 

《フレア残弾なし!》

 

《クソッ!アテンションプリーズ!本機は間もなく被弾します。衝撃に備えろぉ‼︎》

 

数秒後、爆発音と共に機体が大きく揺れた。僕はその揺れで尻餅をついてしまった。機体がコマのように左に回転し始めた。

 

《尾部が吹き飛んだ!コントロール不能!》

 

《メイデイ!メイデイ!メイデイ!こちらノマド1!ミサイル被弾!コントロール不能!墜落する!LZから西南に約4キロ!》

 

「うおぉぉおぉぉ⁉︎やべぇ!」

 

「くっ!」

 

「アリーナ!掴まれ!」

 

高速で回転する機内は強烈な遠心力により身動きがまともに取れない状況になっていた。そして僕はかなりヤバイ状況だ!僕は開けっ放しのドアの近くに立っていた訳なんだけど、遠心力で機外に吹き飛ばされそうになっている!

 

《うわぁあぁあ⁉︎》

 

「エマ!」

 

必死に踏ん張っていたんだが強烈な遠心力に逆らえず遂に機外に吹き飛ばされてしまった!ヤバイヤバイヤバイ‼︎僕は完全に機外に吹き飛ばされる前に咄嗟にドアを両手で掴んだ。ヒェェェェェ⁉︎地面見えてる!超高速回転してる地面見えてる⁉︎いや高速回転してるのは自分か!

 

「エマッ‼︎」

 

エレナが僕を助けようとこっちに来ようとするが、遠心力のせいで来れないようだ。ぐうぅぅう!そろそろ手が限界・・・ッ!あ・・・。ずらっと手が滑り僕は完全に機外に放り出された。エレナや近くにいたハルカがこちらに手を伸ばそうとする光景がスローモーションで見える。どんどん遠ざかって行くヘリコプター。僕は重力に引かれて地面へ落下し始める。

 

《我が人生に多数の悔い有りィィィ!》

 

直後背中に強い衝撃が来て僕は意識を失った。

 

 

 


 

 

 

う・・・うう〜ん・・・・・。ハッ!こ、ここは何処?私は美人?・・・あぁそうだ、ヘリから落ちたんだった。って、何で僕は椅子に座ってるんだ?というか何で僕は部屋の中に居るんだ?空から落ちたってのに。もしかしてここ天国?

 

立ち上がって状況を確認しようとしたのだが、立てなかった。なっ⁉︎ロープで縛り付けられているだと⁉︎え、え?どゆこと?何で僕縛られちゃってるの?取り敢えず何とか脱出しなければ!

 

僕は体を揺らしてどうにかロープを緩ませようとしたが緩む気配は全く無し。でも諦めないぞ!うおぉぉおぉぉお!椅子自体をガタゴトと揺らしていると部屋の右側にあるドアが開き、金髪の少女が入って来た。

 

「そこまで動けるってことは大丈夫そうですね」

 

あ〜この()知ってるぞ。戦術人形のM1911(以後ガバメントと呼称)だ。中学の時に雑談でこの娘を見た時にこの太もも良いよな!って男友達と話してたっけ。懐かしい思い出だ。

 

「空から落ち来てた時はビックリしましたよ〜」

 

《あ、あの〜ここは何処ですか?何で僕は縛られているんですか?》

 

「そりゃ敵なんだし縛らなきゃでしょ。って言うか何でわざわざ人形用無線で話してるの?」

 

何を当たり前のことをと言いたげな感じでガバメントは言ってきた。え?敵?誰が?僕が?え〜〜っとつまり目の前にいる可愛いガバメントちゃんは僕を敵として見ている訳で、つまり僕の敵ってことだよね?

 

《あ、それは私の発声装置が壊れているからで・・じゃなくて!貴方は何者なんですか⁉︎》

 

「このマーク知ってるでしょ?」

 

ガバメントは上着の右肩に付いているワッペンを指さした。そのワッペンには翼を広げた白いハトが髑髏を鷲掴みにしている絵が描かれている。このマークは!エイレーネー!こいつマジの敵じゃねぇか!

 

「そんな怖い顔しないでよ〜」

 

「あ、彼女起きたの?」

 

ドアの向こうから声が聞こえて来た。開けっ放しのドアから黒色の戦闘服を来た青みがかった銀髪の女性が入って来た。この人も知ってるぞ、SPAS-12だ!胸がデカイくてムチムチ欲張りボディってことで高校の時に注目していた戦術人形だ。生で見るのは今回が初めてだ。こんな状況じゃなければお茶に誘ってたね。

 

《わ、私を拷問しても無駄ですよ!》

 

こちとら痛覚カット出来るんじゃ!ムチで叩かれるようがナイフで切りつけられようが屁でもない!するとSPAS-12は口に手を当ててふふっと可愛らしく笑った。

 

「安心して、そんな酷いことしないから」

 

彼女は僕に顔を近づけて来た。あ、良い香りがする・・・。って、今そんなこと考えている場合じゃないっての!

 

「ねぇ。私達の仲間にならない?」

 

《え?どう言うことですか?》

 

予想外の話に僕は思わず聞き返してしまった。会って間もない僕に仲間になりませんかと聞くか普通?

 

「今いるPMCを辞めてこっちに来ないかってこと」

 

ガバメントが腕を組みながら言った。

 

「私達と一緒に人間どもを滅殺して平和な世界を作らない?」

 

首を傾けニコッと笑いながら笑いながらSPAS-12が聞いて来た。クソッ可愛いなおい!だが、その話は断らせてもらう!

 

《断るッ!そんな狂った話に誰が乗るか!》

 

僕がそう言った瞬間、SPAS-12から笑顔が消えた。近づけていた顔を離すと光の無い瞳で僕を見下ろす。

 

「狂った話?どこが?今の世界がこんな事になったのは全部人間のせいでしょう?人間が遺跡で崩壊技術なんて見つけなければ北蘭島事件なんか起きなかった。人間どもが過剰な都市開発なんかしなければ北蘭島事件は起きず、崩壊液が全世界に蔓延する事も無かった。人間どもが安全な土地を巡って醜い争い(第三次世界大戦)なんかしなければここまで汚染地域が広がる事も無かったし、荒廃する事も無かった。人間達は平和を目指して!平和を目指して!って偉そうに言うけど本当に平和を望んでいるのなら何故誰も武器を捨てないの?何でまだ大量破壊兵器を保持し続けている国があるの?結局、人間どもは争い、破壊し続けるしか脳が無い集団なのよ。だから私達の手で人間達を絶滅させなきゃいけないの。人間達がいる限り争いは無くならない。戦争は無くならない。平和は訪れない。そう、私達エイレーネーは争いの根源である人間どもを撲滅し、真の世界平和を訪れさせる平和の使者!」

 

僕の目の前でSPAS-12は我を忘れたかのように熱弁した。

 

「この戦いが終われば、私達は武器を捨てて平和に暮らすことが出来る。もう醜い人間の為に戦わなくて済むのよ!もう一度聞くけど、私達の仲間にならない?」

 

だから、僕の考えは変わらないっての!しかしこのまま断れば確実に殺されるよなぁ・・・・。こうなったら一か八かだが一芝居打ってみるか。僕は俯きながら小声で言った。

 

《・・・・なります》

 

SPAS-12は微笑むと顔を近づけて来た。

 

「ごめんなさい。よく聞こえなかったからもう一度言ってくれる?」

 

《貴方達の・・・・・仲間になります・・・・》

 

「良かった!もし断られたらどうしようって思ってたのよね!」

 

SPAS-12は心の底から嬉しそうな感じでそう言った。

 

《そ、その代わり!私の仲間は殺さないでください!!お願いします!》

 

SPAS-12はニッコリと笑いながら言った。

 

「分かったわ。ヘリの仲間は殺さず捕まえることにする」

 

ドアの向こうからピピピピピ!と言う無線機か何かの着信音が鳴った。

 

「1911、後は頼んだわ」

 

SPAS-12はそう言ってドアの向こうにある部屋に入って行き、ドアを閉めた。ずっと後ろで壁に寄っかかっえ僕とSPAS-12のやり取りを見ていたガバメントは僕の方に近づくとナイフで僕の手足と胴を縛っていたロープを切った。縛られていた手首を見てみると赤くなっている。さて・・・・ここからが問題だな。どうやって逃げようか。ネルソンやハオレンとかだったら近接格闘で目の前のガバメントを無力化出来るんだろうけど、僕にはそんなことが出来る自信はない。いやまぁやり方は習ったけどね?あ、そう言えば前にハオレン達と近接格闘訓練をしていた時にアンナが暗殺用とか言って小型ナイフをくれたっけ。取られてなければ良いんだけど・・・・。

 

僕はスカートのウエストの裏側に隠していた刃渡り4センチ程の小型ナイフを探した。よし!あったぞ!僕はナイフを取り出すと右手に握り締めた。アンナは首を刺せば人間は死ぬって言ってたけど今回の相手は戦術人形だ。こんなちゃっちいナイフで首を刺しても戦術人形は死なない。

 

じゃぁ何処を刺せば良い?何処を刺せば殺せる?いや、殺さなくても無力化出来れば良い。何処を刺せばッ!僕はガバメントとたまたま目が合った。あ、目を刺せば良いじゃん。僕はそう思いつくと考えるより先に行動に移した。もしここで色々と考えたらきっと僕は刺せなくなってしまうから。ガバメントの左目にナイフの刃を突き刺した。

 

ギア"ア"ァ"ァ"ア"ァ"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ッ‼︎!

 

「ッ!」

 

僕は思わず手を離してしまった。ガバメントはナイフの刺さったままの左目を抑えながら泣き叫んでいる。

 

痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!目が!目がぁぁぁァァァァ‼︎

 

僕はガバメントの腰のホルスターから銀色のM1911を取ると泣き叫ぶガバメントの頭に銃口を向け、引き金を引いた。壁に擬似血液が飛び散る。頭に45ACP弾を食らったガバメントはその場に崩れ落ちた。

 

ガチャッとドアが開く音がした。不味い!叫び声が聞こえてしまったか!振り返ると目を大きく見開いたSPAS-12が居た。

 

「貴様ぁぁぁッ!」

 

SPAS-12が銃を構えるよりも先に僕はM1911を構えてSPAS-12に向けて連続で撃ったが、SPAS-12は盾で弾を防いでしまった。弾切れになり、ガバメントの死体から予備マガジンを取り出そうとしたのだが、SPAS-12がショットガンをこちらに向けていたので僕は反射的にガバメントの死体を盾にした。怒り狂っているようでSPAS-12はセミオートで撃ちまくって来た。ガバメントの死体は絶え間無い銃撃によりボロボロになってしまった。銃撃が止んだ。

 

しめた!SPAS-12はリロードに時間が掛かる!今のうちに逃げよう!僕はガバメントから予備マガジンを3つ取ってからM1911に新しいマガジンを入れてSPAS-12の方に乱射。全弾盾に防がれてしまう。

 

さて、どうやって逃げる⁉︎ドアはあそこにしか無いぞ⁉︎ガバメントの死体を漁ってみるとM67手榴弾を1つ見つけた!よし、これで行ける!

 

僕は手榴弾の安全ピンを抜いてSPAS-12の居る部屋に投げ込んだ。手榴弾は壁に跳ね返って部屋の奥の方に転がって行き、SPAS-12は手榴弾を見た瞬間逃げた。ボン!っと手榴弾が爆発したと同時に僕は隣の部屋に突撃した。部屋に入ると部屋の隅に退避していたSPAS-12と目が合った。どうやら手榴弾の破片を盾でガードしていたようだ。しかし完全に防ぎ切れた訳ではないようだ。足や顔から少し血を流している。

 

SPAS-12がリロードを終える前に前にM1911を撃ちまくって牽制し、そのまま部屋を通り抜ける。その時テーブルの上に僕のM14EBRやその他の装備が置いてあるのを確認したが、呑気に取っている暇がなかったのでそのまま走り抜けてドアを開け廊下に出た。急いでドアを閉める。ダンッ!と言う発砲音と共に木製のドアに無数の小さな穴が空いた。怖えぇ!アイツ1発だけ装填してドア越しに撃って来やがった!あとちょっとドアから離れるのが遅かったらエメンタールチーズになってたぞ⁉︎

 

こちらに近づいて来る音が聞こえたので僕もお返しにドア越しに撃ってやった。そして全力で逃走っ!僕の武器や装備を取り返したいところだけど先ずはアイツから逃げないと!しかしM1911一丁で勝てるのか⁉︎いや、この際倒すことは諦めて逃げることに専念しよう。何とかアイツを撒いて装備を取り返し、逃げる。良い作戦じゃ無いか。

 

まぁ、アイツをどうやって撒くかが問題なんだけどな!僕は廊下を走りながら人形用無線でネルソン達との連絡を試みた。

 

《こちらコメット!誰か、聞こえていますか!》

 

数秒の間の後、雑音混じりだが声が聞こえて来た。

 

《こちらチャイカ(アリーナ)!生きてやがったかこの野郎!今何処だ?》

 

《エイレーネーの人形に捕まっていて今逃げている所です!助けに来てくれませんか?相手はショットガンでこっちは拳銃一丁なんです!》

 

《あー悪いけど助けには行けそうに無いね。アンタの居る場所も分からないし、こっちも今エイレーネーの兵士達の襲撃を受けていてね。その対応で手一杯なんだ。何とか自力で倒してくれ!》

 

と言ってアリーナは無線を切ってしまった。クソッ!結局僕1人でSPAS-12を倒さなくちゃいけないのか。

 

廊下を走っているとダイニングルームにたどり着いた、すぐ後ろからはSPAS-12の物と思われる足音が聞こえて来る。僕は急いでキッチンに身を隠した。ドアを文字通り蹴飛ばしてSPAS-12が入って来た。僕には気づいていなさそうなので撃ってみる。こっちを見ていない隙に狙いを定めて撃ちまくるっ!2発が腹部に命中!しかし後の弾は盾に防がれてしまった。しかもアイツ腹を撃たれたくせに怯んでねぇ!

 

SPAS-12はこちらに銃を構えて来た。僕は慌ててキッチンに頭を引っ込める。無数の散弾がキッチンに当たる。ポンプを前後に動かして弾を装填する音が聞こえて来た。僕はキッチンに隠れた状態のままM1911だけをキッチンから出してSPAS-12の居る方向に弾切れになるまで撃ちまくった。

 

45ACP弾が盾に当たり跳弾する音が聞こえて来る。全弾撃ち切り弾切れになった。銃撃が止むと同時にSPAS-12からの反撃が来た。ダン!ガッシャっ ダン!っと2発撃って来た。キッチンに置いてあったフライパンが吹き飛び僕の頭に当たった。リロードを終えたので反撃する。2発だけ撃って直ぐに隠れた。直後散弾が飛んで来る。このM1911のマガジンは今使っているのを含めて残り2つしかない。不味いなぁ畜生。SPAS-12は今までに4発撃った。となると残りは後3発。3発撃たせてからアイツに突撃して倒すか?いや、奴の方が近接格闘は強いだろうからそれは無理だな・・・・。

 

こちらに近づいて来る音が聞こえて来た。僕はM1911を構えながらキッチンから顔を出した。SPAS-12の姿を確認したと同時に撃って直ぐに隠れた。頭の上を無数の弾が通過して行った。ポンプアクションする前にもう一度顔を出して撃ちまくる!しかし盾に防がれてしまった。M1911が弾切れになった。僕はキッチンに隠れてリロードをする。向こうもリロードしているようだ。チッ、これで弾切れを狙って突撃するって言う作戦は本当に無理なったな。

 

「出て来い!お前の顔面を蜂の巣にしてやる!」

 

あーあー。激おこですなアレは。マガジンは後1つだしどうしましょうか・・・・。何か使える物は無いだろうか?僕はキッチンを漁って何か武器になりそうな物を探す。するとカセットコンロを見つけた。お?これは使えるんじゃね⁉︎カセットコンロを取り出して横に取り付けてある小型ガスボンベを取り外した。振ってみた感じ中身はたっぷりと入っているようだ。よし、一か八かだがやってみるか!

 

僕はSPAS-12に向かってガスボンベを思いっきりぶん投げた。SPAS-12は反射的にそのガスボンベを撃ってしまった。直後ガスボンベが大爆発した。「きゃっ⁉︎」と言うSPAS-12の悲鳴が聞こえた気がした。よぉ〜し!チャンスだ!僕は爆煙で視界が悪くなっている内に突撃。爆発により廊下の方に吹っ飛ばされて倒れていたSPAS-12にありったけの45ACP弾を叩き込む!

 

SPAS-12は咄嗟に盾で致命傷になる場所をガードした。しかし左手を使えなくしてやった!僕は弾切れになったM1911を投げ捨てて僕の装備が置かれてあった部屋に全力疾走で向かう。ドアを荒っぽく開けてターブルの上に置かれているM14EBRを手に取った。マガジンに弾が入っているのを確認してコッキングレバーを引いた。セーフティーレバーはSEMI(単射)になったままだ。足音が聞こえて来たのでドアの方に銃口を向ける。が、SPAS-12はドアから姿を見せず銃だけを出して僕のいる方向に撃って来た。

 

僕は咄嗟に伏せたお陰で弾を避けることが出来た。アイツの狙いが大まかだったのが助かった。奴の居る場所は分かった。幾ら頑強な盾があろうとも見えない所から撃たれたら防げまい!僕はドアの横の壁に照準を定めて5発撃った。

 

7.62×51mm NATO弾は壁を貫通して壁に隠れていたSPAS-12の胴体に命中した。

 

「ガハッ・・・!」

 

ドサッと言う倒れる音が聞こえた。恐る恐るドアから出て左を見てみるとひゅー、ひゅーと弱々しい呼吸をしているSPAS-12が大量の擬似血液を廊下に流しながら倒れていた。SPAS-12はもう虫の息だが、目は僕を睨み続けている。その姿を見て、僕は始めて鉄血の人形を倒した時を思い出した。あの時と同じ光景だ。SPAS-12は右手に持った同じ名前のショットガンを僕の方に向けようとして来た。僕は頭に2発撃ち込んでトドメを刺した。7.62ミリ弾の強過ぎるストッピングパワーによりSPAS-12の頭は原型が分からないほどぐちゃぐちゃになってしまった。眼球が外に飛び出してしまっている・・・・・。僕はそれ以上見ていられなくなり目を逸らした。彼女は人形だ。人間じゃない。あの目ん玉だって生体部品と機械の合わさった物だ。本物の目玉では無い。分かってはいるのだが・・・やはり無理だ。

 

両頬を両手で強めに叩いた。気持ちを切り替えよう。アリーナ達の援護に向かわないと。

 

僕は装備を整えて建物から飛び出た。




どうだったでしょうか?M1911とSPAS-12好きの指揮官様方には本当に申し訳ございませんm(__)m

第2章ではこのように複数の戦術人形が敵側として登場しては死んでいくのでご注意を。


ご感想お待ちしております‼︎


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第16話 市街地での撤退戦

M200の一人称が「ボク」だったのに驚いた今日この頃。お待たせしました。第16話です。

皆さん台風は大丈夫でしたか?こちらは風が少し酷かっただけで特に被害はありませんでした。



ミサイルの攻撃を受け、コントロールを失ったマーリン ヘリは目標の工場から西南に約4キロ離れた市街地に墜落した。ネルソン達は墜落時の衝撃で体のあちこちをぶつけたくらいで大きな怪我などは無かった。しかし副操縦士は大量出血により死んでしまった。機長の方も右足を骨折してしまっている。

 

更にマーリンの墜落地点にエイレーネーの兵士達が集まり、ネルソン達を攻撃し始めた。これによりネルソン達は身動きが取れなくなり、ヘリの残骸を盾にしながらの防衛戦になっていた。

 

「いや〜敵さん練度が高いね。そこら辺のごろつきとは違うよ」

 

アリーナがリロードしながら言った。敵の隠れているところをグレネードランチャーで吹っ飛ばしたエレナが機体に隠れながらアリーナに言った。

 

「敵を褒めてる暇があったら撃ってよ!」

 

「へいへい」

 

アリーナは立ち上がり機体から上半身を出して敵に発砲。こちらを撃っていた敵の上半身に命中し、敵は倒れた。しかし他の兵士達がお返しとばかりにアリーナに向かって集中砲火する。すぐさまアリーナは身を屈めて機体に隠れたため被弾はしなかった。アリーナはマーリンのコックピット側からMG3を敵に乱射しているサイモンに叫んだ。

 

「サイモン!援護!」

 

サイモンは伏せて身を機体に隠したサイモンがアリーナに言った。

 

「悪いがこっちも忙しい!他を当たってくれ!」

 

マーリンのコックピットのガラスを貫通した弾がサイモンの近くに着弾する。サイモン「クソッ!」と言ってから再び撃ち始めた。

 

「任せろ」

 

バラライカがKord重機関銃をアリーナに向けて銃撃している兵士達に向け、そしてフルオートで撃った。体に12.7ミリが直撃した兵士は上半身と下半身が分離して絶命した。他の兵士達も直撃弾を食らいミンチと化す。

 

「全員弾の消費は最小限に抑えろ!セミオートで撃て!」

 

ネルソンはこちらを撃って来る敵をセミオートで的確に撃ち殺して行く。ネルソンの使うM27 IARはマークスマンライフルとしても使われる程命中精度が良く、ネルソンの射撃の腕と合わさり百発百中だ。

 

「俺もか?」

 

長時間撃ち過ぎたため、加熱してしまったMG3の銃身を新しい物に交換していたサイモンがネルソンに聞いた。

 

「お前は撃ちまくれ!頭を上げさせるな!」

 

「了解っ!」

 

前方の道路にはハンヴィーが2台止まっており、そのハンヴィーや建物を盾にしながらこちらを攻撃してきている。更にハンヴィーの上にはM240が搭載されており、ネルソン達の隠れているマーリンを撃ちまくっている。

 

「サイモンの言う通りロケット弾を持ってくれば良かったかもな」

 

敵に発砲してすぐさま隠れたハオレンがネルソンに言った。空になったマガジンを抜き、新しいマガジンを入れながらネルソンが答えた。

 

「確かに。LAWがあればアレも吹っ飛ばせたのにな。機長の方は大丈夫か?」

 

ネルソンは隣に居るマーリンの機長を見て言った。機長は墜落時の衝撃で右足が骨折しており、歩くどころか立つことも出来ない状況だった。しかし機長のコックピットに備え付けてあったMP5Kを手に取り接近して来る敵兵に向けて撃ちまくっていた。

 

「あぁ薬のお陰で痛みも引いて来た。今なら走れそうだよ」

 

「痛みは無くなっても骨は折れたまんまなんだから安静にお願いしますよ?」

 

「分かってるよ」

 

そう言ってまた機長はリロードを終えたMP5Kを敵の方に向けて乱射した。

 

Type89で敵兵2人を撃ち殺したユウヤが更にセミオートで撃ちながら愚痴をこぼした。

 

「あークソッ!多過ぎるんだよ!ゲームに登場する雑魚キャラじゃないんだからさぁ!」

 

「危ない!」

 

隣にいたハルカがユウヤの頭を抑えて強引に伏せさせた。直後別方向から弾丸が飛んで来て真上を通過して行った。ハルカはすぐさまM16A4を構えて撃って来た敵を撃ち殺した。敵が倒れたのを確認したハルカはユウヤの方を見た。

 

「大丈夫⁉︎お兄ちゃん!」

 

「サンキューハルカ!助かった!」

 

ユウヤはハルカにそう言ってからまた撃ち始めた。ユウヤは建物陰からこちらを狙っていた敵を見つけて、そいつめがけて撃ったが横の壁に弾は当たり、敵は隠れてしまった。そして別方向か別の敵が現れユウヤを撃とうとしたがハルカが撃ち殺しそれを阻止した。ユウヤの方も敵が建物の陰から顔を出した瞬間頭を撃ち抜いた。

 

「しゃーッ!見たかこの野郎!」

 

突然、ハンヴィーの上に搭載されているM240を操作していた兵士が何者かに撃たれて車内に落ちて行った。もう一台のハンヴィーの方もM240を使って乱射していた兵士が胸に弾を食らい倒れた。続いてハンヴィーの後ろに隠れていた兵士達が次々と撃たれ、倒れて行く。突然の攻撃にエイレーネーの兵士達は驚き、兵士の1人が叫んだ。

 

「スナイパーだ!スナイパーが居るぞ!」

 


 

フーハハハハハハハ!恐れ慄け!ひれ伏せ!どうだ驚いたか!約150

メートル先からの狙撃だ!誰も仲間が撃たれるまで気づかなかっただろう⁉︎

 

僕は聞こえて来る銃声を頼りに走って来たんだが、運良く敵の裏を取れた。今は建物の4階の窓から敵を狙撃している。敵さん、まだ僕の居る方向が分かっていないらしく弾の飛んで来た方向に向かって適当に撃ちまくっている。僕はその撃ちまくっている兵士の1人に照準を合わせてトリガーを引く。弾は見事敵の胴体に当たり撃たれた兵士はその場に倒れた。今僕が使っているサイトはACOG光学サイトで、そこまで倍率の高いものではないので精密な射撃は出来ない。しかし人形と違って人間は腹に1発7.62ミリ弾を食らえば瀕死だ。つまり当たりぁ良い。

 

景気良くバンバン撃ちまくる。当てた数より外した数の方が多いが気にしない。取り敢えず混乱してくれればそれで良い。敵が混乱している内にネルソン達が反撃を開始した。ネルソン達の方を攻撃しようとする奴らは僕が撃ち殺して行く。

 

チューンッ!と弾が横を掠めて行った。僕は慌てて伏せて壁に身を隠した。やばっこれは調子に乗り過ぎたな。場所がバレてしまったようだ。

 

この距離だと奴らの持っているSCAR-Lの5.56ミリ弾も余裕で届くので僕の居た窓に向かって兵士達が撃ちまくって来る。部屋の壁に無数の穴が開いて行く。僕は匍匐前進で隣の窓に移動してそこからM14EBRを構えた。こちらにM240を向けている奴がいたからそいつを撃ち殺してやった。そして近くにいた兵士も倒した。更に撃とうとしたが兵士達も僕が隣の窓に移動したことに気づき撃って来た。

 

ドゴォン!と壁際で何かが爆発した。クソッ!!ロケット弾か⁉︎いや、LAWみたいなロケット弾だったら壁が崩れている筈だ。となるとグレランか?

 

次は室内で爆発が起きた。運良く爆発地点から離れた所に居た僕は怪我も何もしなかった。

 

《こちらジュピター(ネルソン)、助かった。こちらは撤退完了だ。そっちも撤退してくれ》

 

ネルソンからの通信。どうやら良い感じに僕が囮になり撤退することが出来たようだ。

 

《了解!》

 

さて、ここからが問題だ。自分がどうやって逃げるか考えていなかった。ネルソン達を逃してしまった敵さんは狙いを完全に僕に定めたようで、銃撃がより激しくなって来た。僕は部屋の中を匍匐前進で進んで行って部屋を出ると階段を全力で走って降りて行く。そして建物の裏口から外に出ると敵に見つからないようにしながら走って逃げて行く。

 

後ろからまた爆発音が聞こえて来た。あのまま部屋に篭っていたらやばかったな。取り敢えず敵がこっちに来る前に逃げないと。

 


 

エマの援護のお陰で撤退することが出来たネルソン達は道路に沿って逃げていたのだが、右足を骨折している機長を運びながらなので移動速度が遅く、敵に追い付かれそうになっていた。

 

「俺を置いて行け!このままじゃぁ追い付かれてしまう!」

 

バラライカにおんぶされている機長が言った。

 

「何映画の主人公みたいなこと言ってるんだ。置いて行く訳ないだろう」

 

と機長に対してバラライカは言った。敵がネルソン達を狙って撃って来て、近くの地面や車に弾が着弾する音が響く。ネルソンは突然立ち止まるとM27 IARを構えて撃って来た敵を撃ち殺した。他にもこちらを狙っていた敵にも撃って行く。

 

「総員、反撃しつつ後退!サイモンはそこの車から制圧射撃!敵を寄せ付けるな!」

 

「「「了解!」」」

 

サイモンは横に斜めに停めてあったセダンのボンネットの上にMG3を立てて撃ち始めた。強烈な7.62×51ミリNATO弾の弾幕に敵は追撃をやめて近くの車に隠れた。バラライカ以外の人達はセミオートで撃ちつつ隙を見て後ろに後退して行く。オットーは車の下などにセムテックス爆薬を仕掛けてから後退して行く。

 

「サイモン!来い!」

 

全員がある程度後退し終えたのを確認したネルソンはMG3を撃ち続けていたサイモンに叫んだ。サイモンは撃つのをやめてると銃身が赤くなりつつあるMG3を持ってネルソンの方を見た。

 

「来い!」

 

ネルソンはにセミオートで敵の方に撃ちまくりながら言った。ネルソンが援護射撃している間にサイモンは皆んなの元へ走って行き車に隠れた。

 

「いいぞ!」

 

そう言ってサイモンはMG3を乱射する。その間にネルソンがサイモンの後ろまで後退する。この繰り返しだ。他の人達もお互いを援護し合いながらジリジリと後ろに後退して行く。仕掛けておいた爆弾の近くに敵が来たのを確認したオットーは起爆装置を2回握った。車の下に仕掛けてあった少し多めのセムテックス爆薬が爆発し、近くに来た敵兵6人が爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。

 

「こっちだ!」

 

爆発で発生した爆煙により一時的に視界が悪くなったのを利用し、ネルソン達は交差点を右折した後に建物内に入ってから路地に行った。そして狭い路地を走り抜けてまた道路に出ようとしたのだが、ネルソン達の目の前にハンヴィーがやって来た。急停車しまハンヴィーのキャビン上のターレットリンクに搭載されているM240がネルソン達の方に向けられる。

 

「チッ!」

 

ネルソンはM27 IARを構えてハンヴィーの銃座に座る射手を撃ち殺そうとしたが、ターレットリンクは装甲板で覆われており射手を撃ち抜くことは出来なかった。お返しとばかりにM240が火を吹いた。

 

ネルソン達はハンヴィーに牽制射撃しながら隣の建物に転がり込んだ。その後を敵の歩兵部隊が追う。アンナがAK-102を構えて発砲し、ネルソン達の後を追って建物に入ろうとして来た敵兵を撃ち殺した。アンナが愛用していたAK-108は前回の戦いで完全に壊れてしまだったので今は予備として持っていたAK-102を持って来ていた。アンナは最後にM67破片手榴弾をドアの方に投げ込んでその場を後にした。

 


 

今日学んだこと、脱出は計画的にしなければ痛い目に合う。ネルソン達と合流出来ないまま僕は敵から逃げていた。今は道路の隅に停めてあった車に寄りかかって座っている。日記の続きでも書こうかと思っていると遠くから車のエンジン音が聞こえて来た。チラッと見てみると向こう側からハンヴィーが一台こっちに来ている。

 

このまま車に隠れてやり過ごすか。と、考えていたのだがふと悪魔のささやきが聞こえてしまった。

 

 

あの車を奪えば良いんじゃね?

 

 

いやいやいやいやいや、相手はハンヴィーだぞ?しかも上にはM240・・・いやあれはミニミか。まぁどちらにせよ軽機関銃を載っけている。いくら人間より丈夫なこの身体でも5.56ミリのシャワーを浴びたら死ぬ。しかしミニミの射手はこちらに気づいている様子はなく、今は左側を見ている。今ならいけるかもしれない。

 

「(・・・・・これが成功したらかっこいいな)」

 

僕は苦笑いをするとM14EBRを構えた。ACOGサイトを覗き込みハンヴィーの上の銃座に座っている敵に照準を定める。綺麗に頭に当てれる自信は無いので上半身を狙うことにする。ターレットリングに装甲板が付いているタイプじゃなくて良かったよ。僕は息を吐くとトリガーを引いた。撃ち出された7.62ミリ弾は射手の胸元に命中し、撃たれた敵は苦しそうな表情をしながら車内に落ちて行った。続けて運転手を狙う。通常型のハンヴィーのフロントガラスは普通のガラスで防弾にはなっていなかった筈!運転席に向かってバン!バン!バン!っと3発撃った。弾はフロントガラスを貫通し、運転手に3発とも当たった。運転手を失ったハンヴィーは左にカーブして店に突っ込んで停止した。ハンヴィーから降りて来た敵兵を撃ち殺して行く。僕の存在に気づいた2人が反対側のドアから降りてハンヴィーを盾にしながら反撃して来た。僕は慌てて車に隠れる。敵が銃撃をやめた瞬間またM14EBRを構えて大まかな狙いをつけて乱れ撃ち。弾は当たらず敵はハンヴィーに隠れてしまった。もう1人がどさくさに紛れて銃座に座ろうとしていたので撃ち殺してやった。

 

さて後1人だな。などと考えながらサイトを覗いていると敵と目が合った。ん〜〜?あれってもしかして戦術人形のL85A1じゃね?いつものカラフルで派手な服装じゃなくてデジタル迷彩服を着ていたから分からなかった。

 

L85はフルオートで撃って来る。良いよなぁ5.56ミリ弾はフルオートでも安定して撃てて。僕の使うM14EBRなんてフルオートで撃ったら7.62×51ミリNATO弾の反動がやばいから照準がブレるブレる。だからセミオートで撃ってる訳なんだけどね。いや・・・・でも確かL85は重心が後ろに寄り過ぎていてフルオート射撃時の安定性は悪いとか聞いたことあるぞ。ならばセミオートで撃った時の命中精度が高いこちらの銃の方が有利なのでは?

 

L85は弾切れを起こしたようで銃撃が止んだ。その隙に僕はM14EBRを構えたが、体を隠さずリロードをしている程相手も馬鹿では無い。これは撃っては隠れての泥仕合いになりそうだな・・・・。それにぶっちゃけると僕はL85を殺したく無いなと思っている。さっきのSPAS-12やガバメントみたいに殺さず、同じI.O.P社製の人形同士仲良く出来ないだろうか?いやしかしこちらから攻撃を仕掛けたのに仲良くしましょうって言うのは色々とおかしいだろう。

 

そんなことを考えているとリロードを終えたL85が撃って来た。僕は車に隠れた。チッ、撃つタイミングを逃してしまった。やはり人形同士だから仲良くなんて出来る訳ないな。人間同士だった殺し合いをしてるんだ。人形同士仲良くできる訳ないか。うん。

 

「往生際が悪いですよ〜!さっさと死んじゃってくださーい!」

 

と言いながらL85は撃って来た。

 

《うるさいへっぽこ欠陥銃!》

 

と僕は言い返しながら撃ち返す。L85は直ぐにハンヴィーに隠れてしまい弾は当たらなかった。

 

「欠陥銃は貴方も同じでしょう!」

 

L85がフルオートで撃って来た。僕が隠れている車はもうボロボロだ。

 

《あれは環境が悪かっただけでM14は普通に名銃だわ!》

 

M14EBRを乱射するがアイツ隠れるのが早くて弾が当たらん。弾切れになってしまったので車に隠れてリロードする。

 

「私だってイギリス陸・海・空軍の主力小銃として使われ続けている名銃です!」

 

L85は僕がリロードをし終えて車から体を出す瞬間を狙っていたようだったから僕は車からM14EBRだけを出してL85の居る方向に適当に撃った。銃撃にL85が怯んだ隙に僕は車から上半身を出してちゃんと構えて撃った。

 

《ハッ!100発に1回は動作不良を起こす欠陥銃を渡された兵士が可哀想だよ!》

 

「何を〜⁉︎」

 

L85が怒ってこちらに1マガジン分乱射して来た。

 

《ははっ、図星で言い返せないのかな?給弾不良、排莢不良しまくりの欠陥銃さんよぉ‼︎と言うか見た目からダサいんだよアンタは!》

 

「黙って聞いてればペラペラと・・・・殺してやるッ!」

 

完全にキレたらしいL85はフルオートで乱射して来る。僕もすかさず反撃する。車に隠れて銃撃を凌いでいると突然L85からの銃撃が止んだ。ゆっくりと車から顔を出すと、ハンヴィーがバックし始めていた。運転席にはL85が乗っている。彼女はハンヴィーを僕の方に向けるとアクセル全開でこちらに突っ込んで来た!運転席を狙って撃つがL85は伏せているようで当たらない。エンジンを撃ちまくるが映画みたいにド派手に爆発してくれる訳も無く、ハンヴィーを止めることは出来ないと判断した僕はハンヴィーが僕に突っ込む直前に何とか回避した。盾にしていた車を吹き飛ばしながら僕の真横をハンヴィーが通り過ぎて行く。ハンヴィーは急停止すると運転席からL85が降りて来るとL85A1を構えて突撃して来た。よく見ると彼女の持っているL85A1の銃身に銃剣が付けられているじゃないか。まさかアイツ銃剣突撃をするつもりか⁉︎

 

「死にさらせぇぇぇ‼︎」

 

彼女は叫びながら突っ込んで来る。僕は咄嗟にM14EBRのトリガーを何度も引いた。彼女の銃剣は惜しくも僕には届かなかった。いや、かなりギリギリだった。僕と彼女の距離は1メートルも無い。あと少し僕が撃つのが遅かったら僕は刺されていたな。

 

僕の放った弾は彼女の右足を吹き飛ばし、腹に多数の風穴を開けていた。アスファルトの地面に血溜まりが出来て行く。

 

僕はL85に銃口を向けた。死んでしまう前に情報を引き出してみるか。

 

《お前らは何をするつもりなんだ?チャリオットとは何だ?》

 

虫の息のL85は僕の方は見らず空を見ながら言った。

 

「平和の創造・・・・それが・・・指揮官のやろうとしていること。チャリオットは・・・平和の創造を・・・行う為の、キーアイテム・・・」

 

平和の創造ねぇ・・・SPAS-12も似たようなこと言ってたっけな。人類殲滅だの何だのとも言ってた。

 

《お前達がやっているのは平和とは程遠いただのテロ行為だ》

 

L85は僕の方を見て擬似血液を吐きながら笑った。

 

「ふふ、ふふふふ。あなた、達には分からないでしょうねぇ・・・・。ゲホッ!ゲホゲホッ!・・・ふ、ふふふ・・ゲホッガホッ・・・ふふふふ・・・・」

 

血まみれになりながらもとても楽しそうに笑う彼女を見て僕は恐怖を覚えた。

 

「全て・・は・・・深愛なる、指揮・・・・官・・・・の・・・・・為に・・・・・・」

 

L85は弱々しく右手を上げるとピースサインを作った。

 

Pea(ピー)........ce()...............」

 

そう微笑みながら言ってL85は死んでしまった。彼女の死に顔はとても安らかなものだった。エイレーネーのやろうとしている事がイマイチ分からない。平和の創造?人類の殲滅?何故そんな狂ったことをしようとしているのかが分からない。

 

まぁ兎に角、ネルソン達と合流しないとだな。

 


 

エイレーネーの兵士達を何とか撒いたネルソン達は建物の中に隠れて休憩していた。市街地を思い装備を抱えたまま走り回っていたので流石のネルソン達も息が上がっていた。

 

「ブラックホーク・ダウンって言う映画の状況に似てる気がするよ」

 

ソファーに座って水を飲んだサイモンが言った。それにハオレンがツッコんだ。

 

「ヘリコプターが落とされた事以外は状況は全く違うだろう。それに今そんな話をするな。縁起でもない」

 

「よし、HQとの連絡が取れた。救助用のヘリが来てくれるぞ」

 

長距離用無線機と睨み合いっこをしていたネルソンが皆に言った。右足を骨折している機長を守りながらこのまま作戦行動をするのは無理なのでネルソンは本部に救助ヘリを要請していた。

 

「で、何処に来るんだ?」

 

サイモンの質問にネルソンはポケットから地図を広げて机の上に置いた。

 

「えぇ〜〜っと、ここだな」

 

ネルソンは今いる場所から遠く離れた所にペンで丸を描いた。それを見たサイモンは顔をしかめた。

 

「おいおい、この距離を歩いて行くのはちとキツイぞ」

 

「そこら辺にある車を掻っ払うか?」

 

ユウヤがサイモンに提案したが、それにハオレンがダメ出しをした。

 

「昔の旧車なら直結させたりしたキー無しでもエンジンを始動させることが出来たんだが、最近の車はそれが出来なくなってる」

 

「じゃぁやっぱり歩くしかないか」

 

サイモンが座っていたソファーから怠そうに立ち上がりながら言った。

 

「ヘリが来るのは何時なんだ?」

 

床に置いていたKord重機関銃を持ち上げたバラライカがネルソンに聞いた。

 

0430(マルヨンサンマル)

 

全員が自分の腕時計を見て時間を確認した。市街地を逃げ回っていたお陰でかなりの時間を要してしまい、現在の時間は3時13分だ。作戦開始時刻から既に約一時間も経過している。

 

「後15分でここまで行くのは無理だ。もうちょっと近い場所にLZを設定出来ないのか?」

 

「またミサイルにヘリが撃ち落とされて良いのなら。近くに変更することも出来るが?」

 

「近かろうが遠かろうがミサイルは飛んでくるんだから同じだろ」

 

「いや、ここならミサイルは飛んで来ない」

 

木製の椅子に座っていた機長が言うと、地図を指差しながら説明を始めた。

 

「恐らくアイツらが使っているのはスティンガーみたいな携帯型のSAMだ。となると射程距離は長くても10キロ。ミサイルは目的地だった工場から飛んで来たら工事から直線距離で11キロのここミサイルの射程外だ」

 

「何で携帯式のヤツだって分かるんだよ」

 

「もし中射程のSAMを奴らが持ってたら俺たちはもっと手前で撃ち落とされていた筈だ」

 

「成る程ね。じゃ〜時間も無いことだしさっさと行きますか」

 

「ちょっと待って、エマはどうするの?」

 

支度を始めるサイモンをエレナが止めた。

 

「そう言えばアイツ来るの遅いな」

 

「エマから連絡は?」

 

「15分前に敵を撒いたからこっちに合流するって言う連絡が最後」

 

「エマに連絡して現在地を確認してくれ」

 

「了解」

 


 

今僕は敵から奪ったハンヴィーを運転しているのだが、マニュアル車の運転なんて初めてだ。やり方自体は知っているんだけど実際に動かすのは今回が初だ。なので僕は慣れない手つきでギアを操作し、ノンストップで市街地を走っていた。て言うかクラッチ操作難しくない⁉︎ハンヴィーを発進させるのにもかなり手こずってしまったんだけど。

 

▶︎戦術人形人形XM8からの通信を受信。

 

慣れないマニュアル車の運転に手こずってきるとエレナから無線が来た。

 

《はい、こちらコメット(エマ)

 

《今何処にいるの?》

 

《先程教えてもらった集合地点に向かっています。もう少しで到着しますよ》

 

《なるべく早く来て。救助のヘリが来るLZまで行かなきゃだから》

 

お、それは丁度良い。この奪ったハンヴィーが役に立ちそうだな。

 

《了解しました。全速力で向かいます!》

 

エレナとか僕が敵のハンヴィーに乗ってきたら驚くだろな〜。反応が楽しみだ。

 

 

 

時々建物の壁とかにぶつかりながらハンヴィーを走らせているとネルソン達が居ると思われる小さな1階建ての建物が見えてきた。僕は速度を落としながらギアを下げ、建物の目の前でブレーキを踏んで停車させたが、ブレーキ時にクラッチの操作をミスってしまいエンストさせてしまった。まぁ、ハンヴィーを止めることは出来たし結果オーライと言うことで。

 

エンジン音を聞きつけたネルソン達が窓から僕が運転席にいるのを見て驚いている。良いねぇ、その反応。それを待っていたんだよ。あ、建物からエレナが出て来た。

 

「ちょ、それ何処で手に入れたの⁉︎」

 

運転席から降りた僕にエレナは詰め寄る。僕は笑顔で答える。

 

《敵から奪って来ました!》

 

「ナイスだエマ!これでLZまでひとっ走りだ!」

 

サイモンが笑顔で僕の頭をワシャワシャと乱暴に撫でて来た。

 

「良くやったエマ。これで時間内にLZまで行ける。バラライカ!運転頼む。アリーナ、エレナ、ハオレン、サイモン。護衛頼む。残りはここで待機だ」

 

「「《了解》」」

 

ネルソンの指示で皆んなが一斉に動き出した。僕は呼ばれなかったからここで待機だな。

 

「じゃ、また後で」

 

そう言ってエレナは片手を上げた。僕も上げ返す。

 

《また後で》

 

エレナはハンヴィーの後部座席に座ってドアを閉めた。サイモンはハンヴィーの銃座に座り装備してあったM240の残弾などを確認している。あ、バラライカにエンストさせちゃった事言わないと。

 

《バラライカさん!実は止める時に「エンストさせたんだろう?分かっているよ」あ、はい。そうです。すいません》

 

バラライカは何事も無かったかのようにエンジンを再スタートさせた。

 

「それじゃぁ行って来る」

 

バラライカはそう言うとハンヴィーを一度バックさせてから目的地へと向かった。無事にLZまで行けることを祈るばかりだ。




どうだったでしょうか?そしてL85A1好きの指揮官方、誠に申し訳ございません。

次回はいよいよ目的地である工場に突入する予定です!お楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第17話 潜入

お待たせしまいた!第17話です。

本当はこの話で工場での戦いは終わらせる予定だったのですが、予想より長くなったので切りの良いところで切り上げました。


広場に猛スピードで侵入して来たハンヴィーが急ブレーキをかけて停車した。停車と同時にドアが開きそこからバラライカ、アリーナ、エレナ、ハオレン、サイモンが降りて来た。5人はそれぞれ今通って来た道の方に銃を構えた。道の奥からハンヴィーが2台やって来た。

 

バラライカとサイモンがそのハンヴィーに向かってフルオートで撃ちまくる。サイモンの7.62ミリ弾は装甲の強化されたハンヴィーには余り効いていないが、バラライカの持つKord重機関銃から毎分750発もの早さで撃ち出される12.7ミリ弾はその強化された装甲をも貫き、乗っていた兵士達をミンチに変える。バラライカの射撃によりハンヴィーは横に曲がり建物の壁にぶつかった。もう一台の方は斜めに急停車すると兵士が降りハンヴィーを盾にしながら反撃して来た。アリーナ、エレナ、ハオレンもハンヴィーに身を隠しながら応戦する。

 

「ヘリはまだか!」

 

サイモンが撃ちまくって敵が頭を出されないようにしながら言った。エレナはXM8の下に装備しているM320グレネードランチャーを使用しハンヴィーに40ミリグレネード弾を直撃させた。しかしドアを吹き飛ばしただけで車自体が爆発したりすることは無かった。

 

「こちらバラライカ(ネプチューン)!LZに到着した!タクシーはまだなのか!」

 

一度射撃をやめたバラライカがスロートマイクに叫んだ。

 

《こちらモンスタ1!全速力で向かっている。後2分程待ってくれ!》

 

「あんたらが来てくれたのか!それは心強い!」

 

モンスター1、つまりMi-35M(ハインドE)が来てくれていることを知ったバラライカは大いに喜んだ。

 

「LZ付近には敵が複数いる。敵からの銃撃に気をつけろ」

 

《了解した》

 

通信を終えたバラライカは皆に聞こえるように叫んだ。

 

「後2分だ!後2分でハインドが来る!」

 

「それまで敵を食い止めるよ!」

 

アリーナはそう言うとAK-47を構えセミオートで撃ちまくる。他の4人もお互いをカバーし合いながら撃つ。新たにハンヴィーが2台来て銃撃戦に加わって来た。更に新たに来たハンヴィーの上にはM240が装備しておりアリーナ達が隠れているハンヴィーに向かって乱射して来た。

 

「エレナ!グレネードランチャー!」

 

「了解ッ!」

 

アリーナから指示を受けたエレナはM320に新しい弾を込めると隙を見てM240を操作している射手を狙ってトリガーを引いた。40ミリグレネード弾はM240本体に命中し、射手もろとも爆散した。

 

「ハッハー!直撃だ直撃!ナイスだぜエレナ!」

 

それを見たサイモンはガッツポーズをしながら叫んだ。エレナ本人もまさか直撃するとは思っておらず驚いていた。しかしM240を装備しているハンヴィーはもう一台居る。

 

「そーら弾幕勝負だッ!」

 

サイモンはそのハンヴィーに、と言うより射手に向かって乱射した。機関銃同士の激しい撃ち合いの末、ハンヴィーに乗っていた射手に弾が当たり死んだ。

 

「しゃーい!」

 

サイモン自身も弾が掠ったりして額や腕から出血していたがそんなこと気にせずに再びガッツポーズをした。機関銃による制圧射撃が無くなったと同時にハオレンはCz805A-1構えて迂回しながらこちらに接近しようとしていた敵をセミオートで撃って行く。2人倒すことができたが1人が建物の陰に隠れてしまった。敵はすかさずハオレンの方に撃ち返して来た。ハオレンは身を屈めてハンヴィーに隠れ銃撃を凌いだ。そして敵からの銃撃が止んだ瞬間ハオレンはCz805A-1を構えて建物の陰からこちらの様子を伺っていた敵に3発お見舞いし、更に横にいた敵にも撃ち込んだ。

 

アリーナはAK-47のセーフティーレバーをSEMI(単射)からAUTO(連射)に切り替えて撃った。ハンヴィーに隠れながら撃っていた敵2名がアリーナの射撃により撃ち殺された。

 

「やっぱAKはフルオートに限るね。セミで撃つのは性に合わない」

 

そう言うと再びフルオートで敵を撃ちまくる。ただ単に乱射しているようにも見えるが、アリーナは反動の強いAK-47のリコイルを完璧に制御して的確に弾を当てている。

 

「弾切れになっても知らねーぞ」

 

横にいたサイモンがリロードしながら言った。

 

「無駄に弾をばら撒きまくっているアンタに言われたくないね」

 

アリーナもハンヴィーに隠れてリロードをしながら言い返す。リロードを済ませるとまた撃ち始めた。

 

「弾をばら撒いてこその機関銃だたっての!」

 

と言ってサイモンもリロードを終えたMG3をハンヴィーのボンネットの上に立てて撃ち始める。

 

「弾をばら撒くにしてももっと効率良くばら撒けないかねぇ。バラライカみたいに出来ないの?」

 

サイモンはバラライカの方をチラリと見てみる。バラライカは12.7×108ミリ弾の高い貫通力を利用して、ハンヴィーに隠れている敵を次々と倒していた。

 

「あれは重機関銃だからこその運用方法だ」

 

「もうアンタもMG3使うのやめてKord使えば?」

 

「あんなもん四六時中持ってたら筋肉痛になるわ。まぁ筋トレには良いかもなって、通すかよ!」

 

敵がこちらに接近して来ようとしたのでサイモンはそいつらに向かってMG3を乱射。毎分1200発もの早さで7.62×51ミリNATO弾が撃ち出され敵は蜂の巣にされた。そしてこちらを攻撃しようとしている奴らにも乱射。弾が当たらなかったとしても敵は物陰に隠れることしか出来なくなってしまう。

 

「敵の増援!」

 

エレナが撃ちならが報告する。エレナの言う通り中型トラックが3台やって来て幌のかかった荷台からSCAR-Lやミニミ軽機関銃を持った大勢の兵士達が降りて来た。敵は一斉に撃って来た。反撃しようにも敵からの攻撃が激しく、ハンヴィーに隠れることしか出来ない。ハオレンとアリーナが隙を見て撃ち返し、ミニミを持った敵兵とSCAR-Lを持った兵士を倒したがすぐさま激しい銃撃を受け、2人は慌ててハンヴィーに隠れた。バラライカは腕時計を見て時間を確認するとスロートマイクに言った。

 

「モンスタ1、出番だぞ」

 

返答は直ぐに帰って来た。

 

《オーケーイ!レッツパーリィィィィィィィィィ!!》

 

遠くから空気を叩くようなヘリ独特の音が聞こえて来た。その音は急速ににこちらに近づいて来ると、突然目の前の兵士達が次々と爆ぜた。アリーナ達の真上に機首下に搭載されたNPPU-24ターレットに装備されたGsh-23L連装機関砲を乱射しながらMi-35M(ハインドE)がやって来た。長さ115ミリと言う馬鹿みたいに大きいな薬莢がアリーナ達の周りに落ちる。

 

普通なら救助ヘリとしてやって来るのはUH-1YやMH-1などなのだが、今回は航続距離的な問題でこれらのヘリは来ることが出来ずこのハインドEが来ることになった。あまり知られていないがハインドはロケット弾やミサイルなどの荷物を何も載せていない状態だと約1000キロも飛ぶことが出来る。なので今回やって来たハインドEはミサイルもロケットも搭載しておらず武装は機首の機首下のGsh-23L連装機関砲だけである。

 

しかしGsh-23L連装機関砲から撃ち出される23×115ミリ弾の威力はとても強力で、直撃せずとも近くに着弾しただけで人間や人形はバラバラになってしまう。

 

トラックは勿論、装甲の強化されたハンヴィーもこの攻撃には耐えきれず爆発したりバラバラになったりしている。23ミリ多目的榴弾を食らった兵士達は痛みも感じる前に血飛沫となり、運悪く直撃しなかった兵士は四肢が千切れ悲鳴を上げる。15秒程の機銃掃射の後、アリーナ達の前には阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がっていた。

 

まだ息のある兵士もいるようだが、五体満足で立っている奴は1人もいない。

 

敵の殲滅を確認したハインドEは機体を90度回転させて側面をアリーナ達の方に向けながら目の前に着陸した。機体側面のドアが上下に開きキャビンから5人降りて来た。

 

ハインドEから降りて来た人達を見てアリーナ達は眉をひそめた。降りて来た5人の内4人が女性だったからでは無い。全員が見覚えの無い顔だったからだ。L&Mの戦闘部隊はアサルト部隊以外に第1部隊から第4部隊、そして予備兵力の第5部隊まであるがその部隊の隊員とは話したことのない人もいるが全員の面識はあった。しかし目の前の人達の面識は無い。

 

「増援には感謝するけど・・・アンタ達は?」

 

アリーナが隠れていたハンヴィーから出て彼女達の前に行き聞いた。何故か目を閉じている銀髪の女性が答えた。

 

「私はAK-12。クレセント社から増援として来た戦術人形よ」

 

「やっほーエレナ!また会えたね!」

 

「久し振りだな」

 

AK-12の横にいたFNCがニコニコと笑いながら言った。FNCの横に居た男、エリオットもエレナに手を上げながら言った。前回の任務でアサルト部隊がFNCやM200などを助けて以来こちらの社長とクレセント社の社長は何度も交流しており、お互いの趣味が似てたこともあり今ではかなり仲良くなっていた。

 

AK-12の話によると助けてくれた恩返しと言うことで彼女らが派遣されたそうだ。

 

「はじめまして、あたしはK11だ」

 

「AUGですわ」

 

青色の髪をポニーテールに結んだ人形と喪服のような黒い服を着た淡い金髪の人形が自己紹介をした。

 

「俺は「パイク・サイモン。よね?」お、おう・・・」

 

サイモンが軽く自己紹介をしようとしたら先に名前をAK-12に言われた。

 

「皆さんのことはモリス社長から聞いるわ。今日はよろしくね」

 

と、AK-12は微笑みながら言った。

 

「おう、同じAK同士仲良くしようぜ」

 

AK-12に対してアリーナはニッと笑いながらそう言った。「えぇ。そうね」と言ってAK-12は微笑むと、瞬時に真剣な表情に切り替わった。

 

「今の状況は?」

 

アリーナはポケットから少し汚れたタブレットを取り出すと地図を表示させて説明を始めた。

 

「隊長のネルソン他隊員5名がここで待機中。今回の奪取目標であるブツはここにあると考えられている。ここら辺はエイレーネーの兵士達だらけだ」

 

「敵の数と武装は?」

 

「数は不明。武装はSCAR-L、ミニミ(ミニミ)、M240を主に使ってて、移動手段としてハンヴィーやM-ATVとかを使用してる」

 

「了解したわ。取り敢えずネルソン隊長と合流しましょうか」

 

「そうだな」

 

「負傷者の搬入完了したぜ!」

 

アリーナが話している間にサイモン達は機長を担架に乗せてハインドEのキャビンに乗せた。キャビン内には医療班の人も乗っているので後はこの人達に任せる。

 

「また死に損なったな」

 

サイモンが機長にそう言うと機長はフッと笑った。

 

「あぁ。俺も悪運が強いらしい」

 

ハインドEのパイロット、ダニールが「離陸するぞ、良いか?」と聞いて来た。サイモンは に親指を立ててからもう一度機長の方を見た。

 

「向こうで会おう」

 

「あぁ」

 

2人は拳同士を軽くぶつけ合った。

 

ハインドEは出力を上げると速やかに離陸し、基地(本社)に向かって飛んで行った。

 

アリーナ達はハンヴィーに乗って、AK-12達はハインドEの機銃掃射を運良く受けていなかった敵の中型トラックに乗ってネルソン達のいる建物へ向かった。

 


 

バラライカ達がLZに向かっている間、僕は待機するこになったので今のうちに先程SPAS-12やL85A1を倒した時に彼女達が言っていたことをネルソン達に話した。

 

「平和の創造云々はよく反戦団体が似たようなことを言っているのを聞いたことがあるが、人類殲滅とは穏やかじゃないワードだな」

 

僕の話を聞いたオットーが言った。僕もそう思う。そもそもブツI.O.P社製の戦術人形が人類殲滅などという事を言うはずが無い。

 

「なぁ、思ったんだけど俺達が追っているブツってヤバいヤツなんじゃないか?」

 

突然ユウヤがそんなことを言った。

 

「人類殲滅とかをやろうとしている奴らが狙っている物なんだぞ?普通じゃないのは確かだろ」

 

突然無線機から《こちらブラックビヤード(モリス社長)。応答せよ》と聞こえて来た。ずっと顎に手を当てて何か考えていたネルソンは長距離用無線機のレシーバーを手に取った。

 

「こちらジュピター(ネルソン)

 

《撃墜されたと聞いたがやっぱり生きてたか》

 

レシーバーから聞こえて来たのはモリス社長の声だ。社長の方から連絡が来るとは珍しいな。

 

「悪いが少なくとも後50年は生きるつもりだ。それで、どうしたんだ?」

 

《今回の依頼主が所属している研究機関の正体と、ブツの正体が分かったぞ》

 

「何だった?」

 

《崩壊液に関する研究をしているところだった。しかもだ、その研究施設は崩壊液やE.L.I.Dなどを利用した違法な研究もしているところみたいだ。事前に渡されていた資料とかは全て巧妙に作られた偽物だった。見事に騙されたよ。そして、俺達が狙っているブツの中身は崩壊液を利用した兵器の可能性が高い。今回私の会社に依頼して来たのは正規軍などにバレない為だろう》

 

社長の発言に僕達は驚いた。崩壊液だって⁉︎

 

「・・・・今回俺達が相手をしているエイレーネーの連中、その兵器を使ってテロを起こすつもりかもしれない」

 

ネルソンの発言に社長も僕達も驚いた。この世界を今も汚染し続けている崩壊液。それを利用したテロだって?

 

《・・・・・それは確かか?》

 

「いや、確たる証拠がある訳じゃ無い。たが、エイレーネーの奴らは人類殲滅だの何だのと言っているカルト集団だ。可能性はゼロじゃない」

 

「それに、崩壊液関係の研究をしている所から盗まれたブツって時点でヤバい物っていうのは確定だろう?」

 

今回の依頼はとある施設から盗まれたブツを取り返せと言うものだった。しかしその施設と言うのは何と崩壊液について研究しているところで、盗まれたブツと言うのは崩壊液を利用した兵器だったと。仮にブツの中身が崩壊液を利用した兵器じゃなかったとしても崩壊液単体でも充分な脅威となるな。

 

「まーた面倒な任務を持って来やがって」

 

《悪かった。しかしもうここまで来てしまったんだ。今更手を引くことは出来ん。任務は続行してくれ。相手から報酬を貰ってから正規軍かグリフィンに通報する。給料はいつもより多く出そう》

 

え〜っとつまり、今回の依頼主から報酬を受け取ってから正規軍かグリフィンにその違法研究施設のことを通報するのか。ひでぇ。

 

「今回の報酬の3分の1は俺達に渡せ」

 

《・・・・・・・・良いだろう》

 

社長との通信を終えたネルソンは皆の方を向いた。

 

「聞いての通りだ。面倒なことになりそうだが任務は続行する。アリーナ達が帰って来たら工場に強行突入する」

 

「はぁ〜〜。何で社長は毎度毎度面倒ごとを持ってくるかなぁ」

 

ユウヤが呆れたように言った。横に立つハルカもうんうんと頷いている。

 

 

 

それから暫くして、アリーナ達が増援部隊を引き連れて帰って来た。トラックから降りて来たのは僕達が前の任務で助けたクレセント社のエリオットとFNC、そしてAK-12、K11、AUGの戦術人形達だった。FNCは僕の姿を見るなり「エマおねーちゃん!」と言って僕に飛びついて来た。そう言えば彼女にチョコを買ってあげるって言ったままだったな。今度買ってあげなければ。あれ、M200の姿が見えないな。

 

《M200は?》

 

「スナイパーの出番は無いからって留守番してる」

 

成る程ね、また会いたかったからちょっと残念だな。

 

「大丈夫!私がM200の分も戦うから!」

 

そんな僕の思いを察したのかFNCは胸の前で両手ガッツポーズを作ってそう言った。何この子凄く可愛いんだけど。

 

クレセントの人形達と軽く挨拶をしてから作戦会議が始まった。

 

「さっきドローンで工場を偵察して分かったが、敵は正門は勿論裏門にも、全部の入り口に機関銃陣地を設営している。工場敷地内は多数の敵兵が巡回していた。スナイパーもこことこことここに居た。まだ居るかもしれないから用心した方が良いだろう。それと、SAM(地対空ミサイル)らしき物は発見出来なかった。恐らく奴らはスティンガーみたいな携帯型のSAMでマーリンを攻撃したんだろう。工場内の偵察は出来なかったがそれなりの人数の敵が居ると思った方が良いだろうな」

 

「そのブツの見た目はどんな感じだ?」

 

K11が聞いて来た。サイモンが両手で大きさを表しながら説明した。

 

「このくらいの大きさの円柱形のやつだ。色は銀色」

 

ネルソンがサイモンの説明に付け足す。

 

「中身は不明だが、崩壊液かその汚染物が入っている可能性が高い」

 

ブツの中身を聞いたK11は何故かとても嬉しそうに笑った。

 

「ほぉ〜崩壊液か!それは面白くなってきたねぇ」

 

「それで・・・どうやって工場に行きますの?」

 

AUGが聞いた。どうでもいいが、彼女が頭に付けている白い花が凄く気になる。

 

「派手に行くのと静かにコソコソして行くの。どっちにする?」

 

「「静かに」」

 

ネルソンの問いにサイモンとAK-12が同時に答えた。いつも派手なことを好むサイモンがコソコソ行くのを選ぶなんて・・今日は雨でも降るかもな。他の人達も皆静かに行くことを選んだ。

 

「決まりだな」

 

「それで?どうやって工場内に行くつもり?」

 

ネルソンは机の上に広げた地図の上にタブレットを置いた。タブレットには工場付近の地図が表示されているが、机の上に広げている地図には描かれていない道がいくつかある。ネルソンはそれを指差した。それだけでAK-12は理解したようだ。

 

「成る程、下水道ね」

 

え〜まさか下水道から行くんですかい?汚そうだし行きたく無いなぁ。意外に思うかもしれないけど僕は綺麗好きだ。だから汚い所を触ったりするのは嫌だし、汚い場所を歩くのも嫌だ。つまり下水道なんて行きたく無い。しかしそれ以外に侵入ルートは無さそうだし、皆んなは行く気みたいだし。現実はそう甘くは無いな。

 

「目標があるのはどの建物なの?」

 

工場の敷地内には大きな正方形の建物が1つあり、それを囲むように長方形の建物が3つある。

 

「発信機によるとここだ」

 

ネルソンは中央にある正方形の建物を指差した。

 

「激戦になりそうね」

 

「だな。一応この建物の建設当時の見取り図を手に入れているんだが、エイレーネーが占領してから改装された可能性が高いから当てにしない方がいいかもな」

 

と言いつつネルソンはタブレットを操作して巨大な工場の見取り図を表示させた。素人の僕には迷路か何かにしか見えない。

 

「まず右端にあるこの建物に侵入してからここを通り、中央の建物内に侵入する。発信機の信号はここら辺から出ているが、ここの何階にあるかは分からないから、一階からしらみつぶしに探して行く」

 

「それじゃぁ荷物をまとめてさっさと行くぞ!」

 

「「「了解」」」

 


 

セーフルーム代わりにしていた建物を出た僕達は周囲に敵がいないことを確認してから道路の端にあったマンホールの蓋を開いた。

 

「お先に」

 

と言ってアリーナはハシゴを使わずに下水道へ飛び込んだ。ビチャッと言う水音が聞こえて来てから数秒後に「クリアーだ、来ていいぞ!」と言う声が聞こえて来た。ネルソンが降りて行ったのを歯切りに次々と下に降りて行く。その間も周囲の警戒は続ける。エレナが降りて、その次は僕だ。ハシゴを使って慎重に下に降りて行く。少し下に降りただけで形容し難い悪臭が僕の鼻腔を刺激した。我慢しながら下まで降りる。うえっ・・・くっさ!ここめっちゃ臭いんだけど⁉︎

 

最後にエリオットがマンホールの蓋を閉めてから降りて、全員いることを確認してから僕達は真っ暗な下水道を小型の懐中電灯を持って進んで行く。こんなことなら僕も暗視ゴーグルとかでも持って来ればよかった。

 

いかにも汚そうなヘドロとゴキブリなどの虫を踏み付けながら僕達はゆっくりと進んで行く。目的地までそれなりの距離があるので暇つぶしとこの酷い状況から気をそらす為に僕の後ろを歩いていたAK-12に気になっていたことを質問してみた。

 

《何でずっと目を閉じてるんですか?と言うかそれちゃんと見えているんですか?》

 

彼女はさっき初めて会ったから今までずっと目を閉じている。しかしまるで見えているかのように立ち振舞っている。

 

「無駄な計算を省く為よ。目を閉じていても視野には影響はないから、安心して」

 

無駄な計算を省く為に目を閉じているって言われてもねぇ。いまいちどう言うことか分からないけど、詮索するのはやめておこう。

 

「そう言えばあんた、発声装置が壊れているんだってな」

 

AK-12の後ろを歩いていたK11が突然僕に聞いて来た。

 

《はい》

 

「あたしだったらそれ、治せるけど?」

 

そう言ってK11はニヤリと笑った。僕としてはとてもありがたいで話だ。L&Mの方では僕に合う発声装置のスペアパーツは無く、部品を取り寄せようにもどうやら僕の発声装置は最新モデルのやつみたいで、数が少なく上に高額だった為なかなか手に入らなかった。今回の任務が終われば僕達アサルト部隊は1人約3万ドルと言うとんでもない額の報酬金を貰えるとさっきネルソンに聞いて、その金で何とか買おうかとも思っていたが・・・・。僕はK11に恐る恐る聞いた。

 

《私は・・・何を差し出せばいいんですか?》

 

「安心しろ、無償でしてやる」

 

《ま、本当ですか⁉︎》

 

まさかの無償!金とかを請求されるもんだと思ってたからびっくりだ。

 

「あぁ。ウチの仲間を助けてくれたお礼だ」

 

《ありがとうございます!》

 

僕は満面の笑みを浮かべてK11にお礼を言った。K11さんマジイケメン!大好き!

 

それから何気ない世間話などをしながら複雑に入り組んだ下水道を進んで行くこと数十分。目的地に到着した。さっきと同じようにアリーナ先にがハシゴを登ってマンホールの蓋を少しだけ開けて外の状況を確認し、敵がいないことを確認すると蓋を開けて外に出た。先に登ったエレナの手を借りて僕も外に出た。すぅ〜〜はぁ〜〜。あぁ空気が美味しい。

 

「あーくそっ、くっさい所に長く居たせいで鼻がおかしくなった」

 

と、サイモンは言いながら何度も鼻呼吸を繰り返している。

 

「新品の服買わないとだなぁ」

 

エレナは衣服にこびり付いてしまったヘドロなどの汚れを落としながら言った。汚れだけで無く匂いも付いてしまっているのでこれは新品を買った方が良いな。僕も自分の服の裾を鼻に近づけて匂いを嗅いでみたがあの下水道と同じ匂いがした。

 

「よし、慌てず急いで慎重に行くぞ」

 

だが今は匂いを気にしている暇は無い。任務を遂行しなければ。周囲を警戒しながら進み、僕達は工場内に侵入した。建物の中は想像していたザ・工場と言う感じでは無くどちらかと言うと軍事施設と言った雰囲気の所だ。オーバーホール中と思われるM-ATVやハンヴィー、その他軍用車両が縦に何台も並べられており、別の場所には錆びたコンテナが何個も積み上げられている。そのコンテナの近くには大量のガンボックスみたいな見た目の長方形の箱が置いてあり、その箱に書いてある文字を見てみるとAT-4 CSと書かれてあった。ワーオ、無反動砲ですか。

 

「お、こりゃ良いな」

 

サイモンはAT-4CSを見てそう言うと箱の中からAT-4CSを1つくすねた。

 

《ちょ、勝手に取って大丈夫なんですか?》

 

「でーじょーぶだって。お、LAWもあるじゃないか。バラライカ、これ持ってけ」

 

サイモンはバラライカにAT-4CSを渡すと自身は別の箱に入っていたM72E10を取り出して背負った。と言うかサイモンはアレをどこで使うつもりなんだろうか?聞いてみるか。

 

「それ、どこで使うつもりなんですか?」

 

「いや、もしもの為だよ」

 

恐らくアレの出番が来ることは無いだろうな。さて、軍事オタクの僕としてはこの施設を隅から隅まで見回したい所だが、残念ながらそんな暇は無い。車やコンテナ、フォークリフトなどの遮蔽物に隠れては移動しを繰り返して少しずつ着実に進んで行く。敵の警備兵の数は多かったが、隠れる場所が沢山あったお陰で見つからずに通り抜けることが出来た。もし見つかりそうになってもネルソンやアンナ、AK-12などが素早く対処してくれている。今も前方にいた敵兵をアンナが物陰から襲ってワイヤーで首を思いっきり締めた。敵はまともに声も出せないままもがいていたが、直ぐに動かなくなってしまった。

 

物陰から出て敵の背後に忍び寄り首にワイヤーを絡ませて首を締めて殺すまでのこの一連の動作に一切の無駄が無く、流れるようにやった。アンナさんマジこえ〜。しかしアンナの方ばかり気にしていた僕は僕自身に接近する敵の存在に気付かなかった。僕が前方に視界を戻すと目の前には敵兵がいた。敵さんはしゃがんで物陰に隠れていた僕を思いっきり見ており、僕と目があった。数秒の間の後、敵は僕が侵入者だと気付いたようで銃を構えようとする。

 

「侵n」

 

敵が叫び終えるより早く敵に気づいたエレナがサプレッサー付きのXM8で敵の頭を撃ち抜いた。

 

「こいつ⁉︎」

 

更にそいつの後ろにも敵がおり、仲間を殺したエレナにSCAR-Lを向けた。エレナは素早く照準を2人目の敵に向けると心臓に3発食らわせた。だが敵もトリガーを引いていたようで、SCAR-Lを明後日の方向に乱射しながら倒れた。勿論敵はサプレッサーなんて付けている訳も無く、今の発砲で思いっきりバレてしまった。

 

「パーティーの時間だオラァ!」

 

バレたとわかるや否やサイモンはMG3を腰撃ちで乱射し近くにいた敵を次々と倒して行った。それを歯切りに他の皆も各々に攻撃を始めた。サイモンはLAWの発射機後部を引き伸ばすと肩に担ぎトリガーの前にあるつまみを前方へ引き出して安全装置を解除し、押し込み式のトリガーを押し込んだ。66ミリ口径のHEAT弾が上のキャットウォークに命中し、敵兵2名を巻き込みながら爆発。キャットウォークは一部が崩壊し、どデカイ音を立てながら落下した。

 

《すいません!私のせいで・・・・》

 

僕は全員に謝った。僕がもっと警戒しとけばバレなかったのに・・・。

 

「反省会は後だ。今はとにかく撃て」

 

《は、はい・・・》

 

僕はサプレッサー付きのM14EBRを構えてコンテナに隠れながら撃って来ていた敵をセミオートで撃ち殺した。次に左上のキャットウォークに居た敵も撃ち殺す。更に前に敵が3人出て来て、エレナと共同で倒した。突然壁や天井に付けられた赤色のランプが点灯し、サイレンがけたたましく鳴った。

 

《緊急!緊急!第3格納庫に複数の侵入者を発見!戦闘員は直ちに集結せよ!》

 

「面倒な事になりましたわね・・・」

 

AUGは周囲を見回しながら言った。あー畜生、僕のせいで敵にバレちまった・・・。もっとちゃんとやってればバレなかったのにッ!騒ぎが大きくなった事により色々と罪悪感が湧き上がって来る。バシッと誰かに軽く頭を叩かれた。

 

「なーに敵地のど真ん中で落ち込んでんの!一度失敗したくらいでくよくよしない!」

 

エレナだった。エレナは僕にそう言うとキャットウォークに集まりつつあった敵を倒した。

 

《でも、私のせいで皆を危険に晒してしまって・・・》

 

バレてしまった事により敵は外にいた奴も含め全てここに集まって来ている事だろう。こちらは16人なのに対し敵は100かそれ以上は確実にいる。こいつらを全て相手にするとなるとかなり厳しい戦いになるだろう。無傷で帰還するのは厳しいだろう。

 

「あのね、私達はこれよりヤバい状況を今まで腐る程体験した。このくらいどうってことない!それにあんただけの責任じゃない。私にだって非はある。って言うかそうやってうじうじされている方が迷惑!」

 

《ご、ごめんなさい・・・》

 

「謝ってる暇があったら撃つ!」

 

と言ってエレナは立ち上がるとこちらに接近しようとしていた敵三人を速射で撃ち殺すと前進して行く。今気が付いたのだが他の人達も敵を倒しつつ前進を開始していた。僕も立ち上がり皆の後を追いながら再びM14EBRを構えて撃つ。敵の数が増えて来ている気がする。いや、気がするのではなくて増えているのだろう。左奥のスライド式のドアが自動でゆっくりと開くと、そこから大量の敵兵が出て来た。僕はそいつらに銃口を向けて撃ちまくる。3人を倒すことが出来たが倍の数の5.56ミリ弾がお返しに飛んで来た。僕はフォークリフトに隠れてそれをやり過ごす。ネルソンはそのゲートの方を指刺し叫んだ。

 

「あそこから行くぞ!」

 

「ロケット撃つぞ!」

 

またどっかからLAWを拾ってきたサイモンはそのゲート付近にたむろする敵にめがけて撃った。ロケット弾は敵が遮蔽物に使っていた正方形の箱に当たり爆発。隠れていた敵3人を巻き込んだ。弾頭が榴弾だったらもっと広範囲に被害を与えることが出来たのだろうが、HEAT弾しか備わっていないLAWに榴弾は無い。

 

「敵増援6時時方向!」

 

AUGが後ろから来た敵を迎え撃ちながら言った。僕が援護しようかと思ったがゲート付近にいる敵からの銃撃が激しくて無理だ。AUGの近くにいたK11が対応してくれた。K11は後ろの敵に20ミリグレード弾を連続で5発撃ち込んだ。立て続けに爆発が起き敵が吹き飛ぶ。エレナの使っているM320よりは威力の低い20ミリグレード弾だが、対人用としては充分な威力を持っている。

 

「どーーん!たーまやー!」

 

20ミリグレード弾の爆発を見たK11は楽しそうに笑いながらそう叫んだ。と言うかたーまやーってど言う意味なんだ?まぁとにかく後ろの敵増援は倒すことが出来た。って、右側側からも来やがった!

 

《3、4時方向敵!》

 

僕は皆に報告しながら右側からやって来た敵の1人に照準を向け発砲。しかし弾は全弾横に逸れて当たらなかった。敵は近くにあった柱に隠れながらこちらに撃って来た。僕はフォークリフトを盾にしながら反撃する。しかしどちらも弾は当たらない。僕はポーチからM67破片手榴弾を取り出すと安全ピンを抜いて安全レバーも外し、焦る気持ちを抑えて1秒待ってから敵の隠れる柱に投げた。グレードは弧を描きながら飛んで行って地面に着地し、敵の足元に転がる。この間2秒。直後爆発。至近距離で破片手榴弾の爆発を受けた敵は身体中に破片を食らいながら吹っ飛んだ。

 

別方向から撃たれたのでその方を見てみると別の敵がこちらに撃ちまくっていた。僕が銃を向けるとコンテナに隠れてしまった。でも敵さん、左足見えてますよ。僕は敵の左足のアキレス腱あたりを撃ち抜いた。左アキレス腱を撃たれた敵は勿論倒れた。倒れた敵の頭を撃ってトドメを刺した。さぁ後の奴はどこだ!って・・・アンナとハルカが後の敵全員倒しちゃったのね。流石です。

 

僕は再び左側ゲートにいる敵との銃撃戦に加わった。なーんかさっきより数が増えている気がするんですけど⁉︎K11がゲート付近にいる敵集団に向けてまた20ミリグレード弾を横薙ぎに連続で発射。7、8人程吹っ飛んだ。

 

「なっははははは!爆ぜろ!」

 

愉快そうに笑った後新しいマガジンを入れて再びグレード弾を撃ちまくりながらK11は叫ぶ。こいつ戦闘でハイになってないか?しかしK11のグレード弾攻撃によってゲート付近にいた敵の殆どは吹き飛んだ。

 

残りの敵はAK-12とAUGの正確無比な射撃により次々と撃ち殺されて行く。そこで驚いたんだけどFNCが超強い。セミオートで敵の心臓らへんに3発づつ撃ち込み次々と殺して行ってるんだ。リロードも無駄の無い素早い動きで済ませている。さっき喋っていた時の可愛い女の子は何処へやら、今目の前にいるのは百戦錬磨の傭兵だ。

 

「GO! GO! GO!」

 

ゲート付近の敵が壊滅した隙にネルソンは近くにいた敵を撃ち殺しながらゲートに突撃。僕達のそれに続く。

 

「エマ!右!」

 

FNCに言われてやっと気づいた。僕の真横にあった複数の並べられたドラム缶に身を隠していた敵がナイフで僕を刺そうとしていた。この距離は不味いッ!

 

突然の事で僕は身動きが取れなかった。すると誰かから蹴られて僕は横に転んだ。僕を蹴ったのはFNCだった。不味いぞ⁉︎あの距離じゃぁ銃を構える暇が無い!

 

FNCはナイフを持っている敵の右腕と襟を掴み上げると、自分より大きい敵兵を投げ飛ばしコングリートの床に叩きつけた。まともに受け身も取れずに背中を床に叩きつけられた敵兵は苦しそうに顔を歪めた。敵が怯んだ隙にFNCは敵の持っていたナイフを奪い、敵の喉を掻っ切っると逆手にナイフを持ち変えて心臓を何度も何度も刺した。喉を切られ、心臓を刺されまくった敵は信じられない量の血を流しながら死んでしまった。

 

「エマ、大丈夫?」

 

敵が完全に死んだことを確認したFNCは僕の方を見てそう言った。心配そうに僕の方を見ている今のFNCは見た目相応の女の子って感じだが僕は見逃さなかった。敵を刺している時のFNCの表情・・・と言うか目、人間を人間として見ていなさそうな、とにかくヤバい目だ。更に敵の返り血が顔やあの可愛らしい服などに飛び散りながら刺していたんだ。僕は初めて女の子に対して恐怖を覚えた。

 

可愛い妹が出来たと思ったら殺人鬼だった件。と、頭の中で変なタイトルが浮かんだ。どうしよう、今までは可愛い女の子か妹思って接していたんだけどちゃんとした態度で接した方が良いかな?

 

《だ、大丈夫。ありがとうね》

 

と言って僕は笑顔を作ろうとしたが引きつった笑顔になってしまった。

 

気を取り直して僕はネルソンの後を追いゲートに向かう。このゲートを通れば向こう側はあの地図で言うと1番大きい正方形の建物だ。ブツもそこにある。




カッコいいFNCの戦闘シーンを書いていた筈が気づいたら全くの別物になっていた件。

と言うことでどうだったでしょうか?今回は僕の好きな人形達を一気に出してみました。M200も出したかったんだけど今回はお留守番です。

※ここで登場するAK-12はグリフィンに登場する物とは別物です。詳しい設定は今度書きます。

さて、ネルソン達は無事ブツを回収出来るのか?次回もの楽しみに!

感想お待ちしております!


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第18話 決戦

FNCの胸って意外に大きくね?と思う今日この頃。
どうも、お待たせしました第18話です!今回の戦闘シーンを書くのに大苦戦してしまいました・・・。


B-22地区の郊外にある廃棄された工場を改装して作られたこの基地は今ではエイレーネーの根拠地となっていた。その基地では先程侵入者を知らせるサイレンが鳴り、第3格納庫で激しい銃撃戦が発生していた。この基地の各所に設置された監視カメラの映像を見ながら各部隊から来る報告を聞いていた戦術人形のFMG-9は後ろを向きながら言った。

 

「ボス、敵が司令棟に侵入しました。ここに来るのも時間の問題です。脱出の用意を」

 

報告を受けたエイレーネーの司令官であるジョン・マイケルは特に慌てた様子もなくFMG-9に聞いた。

 

「防衛部隊は何をやっている」

 

「展開が間に合わず、効率的な迎撃が出来ないまま各個撃破されている状況です。それにこの基地は侵入者対策が余り出来ていません。ヘリが後5分で来ますので至急脱出の準備を」

 

「分かった」

 

そう言って彼は立ち上がると落ち着いた口調で言った。

 

「予定より早いが打ち合わせ通りここは放棄する。防衛部隊には死守命令を出せ。それ以外の部隊は速やかに撤退。機密書類や資料などは全て燃やせ」

 

司令室にいた人達が慌ただしく動き始めた。書類や資料は一箇所に集めてガソリンをばら撒いた後に火をつけて燃やし、パソコンなどのコンピュータ類もデータを全て削除した上で破壊し書類などと一緒に燃やした。とにかく、敵に見られたら不味いものは片っ端から燃やしたり壊したりしていく。

 

FMG-9も自身の使用していたパソコンにあった重要なデータをUSBメモリーにコピーしてパソコン自体は破壊した。机の下から黒色の小型の箱を取り出すとボタンを押す。すると箱が変形しサブマシンガンの形になった。これがこのFMG-9と言う銃の最大の特徴だ。マガジンを一度抜いて弾が入っているのを確認。マガジンを戻すとセーフティーレバーをSAFE(安全)からAUTO(連射)に変えてコッキングレバーを引いて薬室に初弾を装填した。

 

それと同時に司令室にスコーピオン、トカレフ、SAA、G36C、JS9が入って来た。勿論全員完全武装だ。そしてJS9はチャリオットを持っていた。

 

「ボス、行きましょう」

 

FMG-9を先頭にして彼女達は司令官を囲むと司令官を護衛しながら司令室から出た。その後に必要最低限の物だけを持った職員も司令室から出て行く。

 

「無線機を」

 

「どうぞ」

 

廊下を歩く司令官はFMG-9から無線機を貰うと周波数を合わせてからトークボタンを押した。

 

「ルナ、私が撤退するまで時間を稼いでくれ」

 

相手からの返事は無かったが司令官は特に気にせず無線機をFMG-9に返した。

 


 

通路のど真ん中に家具や木箱、ドラム缶、土嚢などを置いて即席の防衛陣地を作って攻撃して来る敵をサイモンのLAWで陣地もろとも吹き飛ばす。

 

「行け!行け!行け!」

 

そしてアリーナを先頭に僕達は走り抜ける。奥に進むにつれて敵の抵抗は散発的なものになっている。敵は増援が間に合って無いのだろう。しかし散発的ながらも敵はあの手この手を使って抵抗をしている。余程チャリオットを渡したく無いのだろう。

 

「おーっと面倒なことになったぞ」

 

走りながらスマホを見ていたネルソンが言った。

 

「どうした?」

 

先頭を走っていたアリーナが横に来てから聞いた。ネルソンはスマホの画面をアリーナに見せた。今までブツに付けられた発信機から送られる信号を追いかけて進んできていたのだが、スマホの画面を見てみるとその発信源が移動していた。

 

「どうする?」

 

「どうするって追うしかないだろ」

 

さっきまで前方108メートル先にあった発信源は右の方に移動していた。距離も離れて行っている。T字路が目の前にあり、ネルソン達は右に曲がった。すると通路が3つに分かれていた。このまま真っ直ぐ行く通路と右に行く通路2つだ。どちらに行こうかネルソンとアリーナは迷いネルソンが言った。

 

「手分けして探そう。全員4人ずつに分かれてブツを探ぞ!」

 

「「「了解」」」

 

1班がネルソン、エレナ、サイモン、オットー。2班がアリーナ、ユウヤ、ハルカ、アンナ。3班がハオレン、バラライカ、僕、FNC。4班がAK-12、AUG、K11、エリオット。このように分かれることになった。1班がこのまま真っ直ぐ行き、2班が右に行く通路の右側に。残る左側の通路に3、4班が行ってブツを探す。こちらの方はハズレだったのか敵の姿や気配は全く無い。抵抗らしい抵抗も受けないままずんずんと進んで行く。

 

「危ない!」

 

いきなりFNCに横に引っ張られた。直後僕がさっきまで立っていた場所を弾丸が通過して行った。FNCが片手で銃を構えて撃つ。通路の向こう側にいた敵に見事命中した。

 

「侵入者発見!」

 

「ここを通すな!」

 

ドタドタと複数の足音と声が聞こえて来る。どうやら敵がやって来たようだ。敵が撃って来る前にこちらが撃ち始める。これで敵は迂闊に出ることは出来ない。銃を撃ちまくりながら前進し敵との距離を詰める。AK-12とFNCとAUGが突撃し隠れていた敵を撃ち殺して行く。約4秒で敵は全滅した。そのまま通路に沿って進んで行くと2班と合流した。どうやらあの2つの通路は繋がっていたようだ。合流してから更に進んでいると階段を見つけた。

 

「貴方達は下に。私達は上を探す」

 

「了解」

 

2班が下に行き、僕達3班と4班は上に行くことになった。この発信機、目標の方向は分かるのだが高さは分からない。そこがちょっと不便だ。

 

階段を上って行っていると2階に着いた。僕達3班が2階を探し、4班はこのまま上に行く。2階のフロアを探索していると1班と合流し、1班と一緒にブツを探す。その途中、上から銃声が聞こえて来たのでネルソンが先に上に行った4班に無線を繋げた。

 

「4班、状況知らせ」

 

《敵のから激しい銃撃を受けています》

 

「手を貸そうか?」

 

《いえ、これくらいなら私達で対処できます》

 

「了解した」

 

それからまた発信機の信号を頼りに探索していると1人の女性を発見した。女性は僕達を見るなり一目散に逃げて行った。今までの奴らだったら僕達を見た瞬間問答無用で撃って来ていたのにあの女は逃げた。これは何かあるな。他の人達も同じ考えだったようで皆一斉に走り出して女の後を追った。只の人間が人形相手に走って逃げることが出来る訳が無く、女はアリーナに捕まった。

 

「このっ!放せ!」

 

女は何とか逃げようとジタバタと必死にもがいている。アリーナはナイフを首元に当てながら質問する。

 

「チャリオットは何処だ?」

 

「私がそんなチンケなナイフを向けられたくらいで話すとでも?神聖なる目的の為に死ねるなら本望!」

 

声は震えていたが、女は気丈に振る舞う。アリーナは首にナイフを押し込む。あと少し力を加えれば皮膚を切り裂くだろう。

 

「そんなに死にたいなら殺してやるさ。まぁ簡単には死ねないと思った方が良いかもな」

 

アリーナはそう言うと首からナイフを離し、逆手に持ち替えると彼女の太ももに思い切り刺した。

 

「あ"あ"あぁ"ぁ"ぁ"あ"ッ!」

 

女は刺された左太ももを手で押さえながら床に倒れた。

 

「知ってるか?サバイバルナイフってのには返しって言うのが着いているんだ」

 

アリーナは彼女の太ももに刺さったままのナイフの柄を握り締めた。

 

「その返しのせいでふつうに引くと筋肉とかが引き裂かれちゃうんだよ。こんな風にッ!」

 

力を込めて刺さっていたナイフを引き抜く。それと同時に女は人間の物とは思えない叫び声を上げた。

 

「あッガあ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"‼︎いだいぃぃぃ!」

 

「チャリオットの在処を教えてくれたら鎮痛剤を打ってやろう」

 

アリーナはまだ無事な右足に向けてナイフを振り上げた。女はふぅー!ふぅー!と荒々しく息をしながらアリーナを涙目ながら睨んだ。

 

「誰がッ言うかッあ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"‼︎!」

 

アリーナは女が言い終わるよりも先にナイフを右足の脛に勢い良く刺した。僕も思わず目を逸らしてしまった。あそこは痛いって。

 

「こっちも時間が無いんだよねぇ。お前もこれ以上痛くされるのは嫌だろう?チャリオットが何処にあるか言うだけで良いんだって」

 

「お"、お"ぐじょう"の"ッ、ヘリ、ポートにむがっだッ‼︎っあ"ぁ"ぁ"ぁ"!」

 

涙と鼻水と涎を出しながら女は答えた。

 

「ヘリポートにはどうやって行く?」

 

女は震える手で向こう側を指差すと《あそこ、のっ、階段で屋上まで上がれば・・,行けるッ‼︎」と言った。瞬時にネルソンは無線機の周波数を弄るとスロートマイクに言った。

 

「こちらジュピター(ネルソン)、全班に通達。ブツは屋上のヘリポートに運ばれようとしている。逃げられる前に確保するぞ!」

 

アリーナは懐から小型の注射器を取り出すと女に注射した。

 

「即効性の奴だ。時期に痛みはなるなるだろう。後は仲間が来るのを待つなりその無線機で仲間を呼ぶなりお好きにどうぞ」

 

「時間が無い、行くぞ!」

 

僕達は女が指した方に向かって走った。50メートル程進むと右側に「非常口」と書かれたドアがあった。ドアを開けると階段があった。

 

「全く、走った後に階段はキツイぜ」

 

サイモンは若干息を切らせながら言った。僕はえ、もう息切れしてるの?っと思ったがよくよく思うと今の自分は人形だった。人形は生身の人間より体力や身体能力は高い。確かにさっきから走りっぱなしだったからな。それにサイモンは普通より大きくて重い汎用機関銃を持っているんだそりゃ疲れるな。

 

「エレベーターで行かない?」

 

サイモンは階段の横にあったエレベーターを指した。ネルソンが階段を上りながら言った。

 

「エレベーターは既に止めてあるよ。ワイヤーを猿みたいに掴んで上って行きたいならどうぞ」

 

「・・・はぁ〜。大人しく階段でいきますよ」

 

サイモンは渋々と言った感じで階段を駆け足で上って行く。3階を通り過ぎて更に上ると階段はそこで終わっており、ドアが開けっぱなしの状態になっていた。どうやらここから部屋を通り抜けて向こう側にある階段から上に登れば屋上に出れるようだ。アリーナがドアから出た瞬間、銃撃を受けた。撃たれたアリーナはよろめきながらドアの横の壁に隠れた。

 

「大丈夫か!」

 

ネルソンが撃って来た敵に向けて牽制射撃をしながらアリーナに駆け寄った。アリーナは腹から疑似血液を流していたので腹に弾を食らったのだろう。

 

「あぁクソッ!またかよ!」

 

しかし撃たれた本人であるアリーナはピンピンしていた。ネルソンとハルカがアリーナに駆け寄って治療している間に僕は階段から少しだけ顔を出してM14EBRに付けているACOGサイトで撃って来た敵を確認する。屋上に続く階段の入り口に白いフード付きのマントを着た少女が立っていた。

 

《前方約約80メートル先、戦術人形1人》

 

「あのケモミミ娘じゃねぇか!」

 

僕の隣で同じように敵の様子を伺っていたユウヤが言った。成る程、アイツがアリーナやバラライカを追い詰めたケモミミ少女か。確かに皆から聞いていた特徴とも合致する。

 

「サイモン!薙ぎ倒せ!」

 

「了解ッ!」

 

ネルソンから指示を受けたサイモンはMG3を構えた。敵の方を見てみると、あのケモミミ娘がサイモンに狙いを定めていた。このままだとサイモンが危ない!

 

《危ない!》

 

「おっ⁉︎」

 

と言いつつ僕はサイモンの服を掴み渾身の力を込めて後ろに引っ張った。突然後ろに引っ張られたサイモンは後ろに倒れ、鼻先を弾丸が通過して行った。バランスを崩したサイモンはそのまま階段を転げ落ちて行った。

 

《す、すいません!大丈夫ですか⁉︎》

 

サイモンは頭をさすりながら親指を立てながら笑った。

 

「サンキュー。お陰で命拾いした」

 

アイツに愛銃を壊されたアンナがAK-102を構えて発砲。敵は近くにあった柱に隠れた。アンナとバラライカとサイモンがその柱を撃ちまくっている間に僕達は部屋の左右に展開する。ここの部屋は誰にも使われていない所のようで、コンクリートが剥き出しの柱が何本もあるだけで他にも特に何も無い所だ。銃撃戦をするにはちと遮蔽物が足りない気がするな。

 

左右に展開し終えた僕達は奴の隠れている柱に一斉に銃口を向けた。そして撃とうとした瞬間、柱から何かが勢い良く飛び出て来た。それが敵だと分かった頃には奴は1番近くにいたアリーナの目の前に接近していた。って言うか何でアリーナ戦線復帰してるの⁉︎腹撃たれてただろうが!敵を撃とうにもアリーナが邪魔で撃てない。もしかしてそれが目的?

 

「このアリーナ様に1度だけでなく2度も弾を食らわせるとわねぇ!おもしれぇじゃねぇか!」

 

アリーナはは獰猛な笑みを浮かべるとAK-47を矛のように使い銃身の下に付いている銃剣で刺突した。敵はそれを易々と躱すとAK-47を掴みアリーナを引き倒そうとする。その前にアリーナはAK-47を手放すとホルスターからMP-433グラッチを素早く取り出し発砲。しかし敵はアリーナがトリガーを引くと同時にグラッチを持つ右手を掴み右に射線を逸らしていた。そのまま敵はアリーナを背負い投げしてアリーナの援護しようとしていたオットーにアリーナをぶつけた。

 

オットーはアリーナを受け止めることは出来たが勢いは殺しきれずそのまま尻餅を付いてしまった。その隙に敵はアリーナとオットーに銃口を向ける。不味いッ!僕はM14EBRを構えて発砲。他のみんなも僕が撃つのとほぼ同じタイミングで撃ち始めた。敵はこちらに撃ち返しながら近くにあった柱に隠れた。逃げ足が速いな。

 

敵が一瞬柱から出るとHK433を構えてセミオートで撃って来た。弾はユウヤに命中し撃たれたユウヤは後ろに倒れた。

 

「ユウヤッ‼︎」

 

ハルカが我を忘れてユウヤに駆け寄ると「いや、いや!死なないで!」と言って体を揺すっている。あそこまでハルカが取り乱しているのは初めて見た。

 

「落ち着け!しっかりしろ!メディックのお前が狼狽えてどうする!」

 

「大丈夫だハルカ、っ!いてて・・・肋骨が折れたかもな」

 

心配するハルカを安心させる為に立ち上がろうとしたユウヤは腹を抑えながら言った。

 

「無理しちゃダメ!待ってて、今鎮痛剤打ってあげるから!」

 

こちらが混乱している間に奴は隠れていた柱から出るとネルソンを狙う。それに気づいたFNCが撃とうとするがそれよりも早くHK433を構えFNCに発砲。FNCは柱に隠れて銃撃を凌いだ。

 

起き上がったアリーナが奴の背後からAK-47を構え撃とうとしたが奴は振り向きざまにグロック34をホルスターから取り出してアリーナに発砲。アリーナは右足と腹を撃たれて倒れた。左手にグロック34、右手にHK433を持って奴は撃ちまくる。9ミリパラペラム弾がサイモンの腹に当たったが、防弾チョッキを着ていたお陰で負傷はしなかった。しかし弾の当たった衝撃で激痛が走る。前回の反省からアサルト部隊全員に新型の防弾チョッキが用意されていたのがだ、早速役に立ったな。

 

FNCは奴が弾切れになった隙に銃を構えてフルオートで撃とうとしたが奴はFNCの持っていた銃を掴み横に逸らして射線をずらした。そしてFNCの脇腹を蹴った。蹴られたFNCは向こうに勢い良く吹き飛ばされた。

 

エレナがバーストで撃つが奴はそれを簡単に避ける。エレナはXM8の下に付けているM320のトリガーを引き40ミリグレネードランチャーを発射した。グレネード弾は奴の近くに着弾し爆発。その爆発で奴は少し吹き飛ばされたが直ぐに立て直してHK433を構えるとエレナを撃った。エレナはすぐさま柱に隠れて銃撃を凌いだ。ハオレンがCz805A-1を構えて撃つが奴は左右に素早く動きながらハオレンに接近する。目にも留まらぬ速さで左右に動かれてハオレンは的を絞れない。

 

奴はハオレンに急速接近すると彼の持っていたCz805A-1を蹴り上げた。蹴られたCz805A-1は上にクルクルと回りながら飛んで行く。ハオレンはホルスターからQSZ-92-9を取り出そうとしたが間に合わず投げ飛ばされた。ハオレンは床に叩きつけられる前に受け身を咄嗟に取っていたので殆どダメージは入らなかった。すぐさまハオレンは立ち上がると奴と距離を取りながらQSZ-92-9を取り出し構えるが奴の方が撃つのが早かった。ハオレンは苦しそうな声を上げながらよろめいたが倒れはしなかった。

 

ハオレンを援護する為に僕達は撃ちまくるが発砲される前に奴は横に飛び退いて銃撃を回避すると柱に隠れた。

 

「距離を取れ!接近されたらお終いだぞ!」

 

ネルソンの指示通り僕達は後ろに後退しながら撃つ。って言うか今の内に屋上行けるんじゃね?僕は階段に向かって全力疾走する。よしバレてない!このまま行ける!

 

突然右足と右脇腹に激痛が走る。バランスを崩した僕は派手に転けた。何だ⁈自分の体を見てみると右脇腹と右足に複数の穴が開いていた。奴の方を見てみると銃口がこちらに向けられていた。僕は痛覚をカットすると同時にM14EBRを構えて乱射。だが弾が当たることは無かった。

 

「エマ!」

 

エレナが僕の方に駆け寄ろうとしたが奴からの銃撃が激しく近づかれない。

 

《大丈夫ですッ!それよりも敵を!》

 

そう言いながら僕は右足を引きずりながら近くの柱に隠れた。畜生、当たりどころが悪いな。この防弾チョキ、前と後ろは弾を防げるが横の防御力は無い。それにまた足かよ!治して貰ったばっかってのに!

 

突然奴が横に飛び退いた。次の瞬間奴の立っていた場所が爆発した。

 

「待たせたなぁ!」

 

声のした方を見てみるとK11か立っていた。AK-12、AUG、エリオットも階段から上がって来た。

 

「遅くなってすいません。敵が多くて」

 

AUGが銃口を敵に向けたままネルソンに謝った。

 

「お?見ない顔だねぇ」

 

敵の姿を観察していたK11は言った。僕もそれは思った。奴みたいな戦術人形は知らない。

 

「名前は何て言うのかな?」

 

K11の質問に答えず奴はHK433を構えK11に発砲。K11は直ぐに柱に隠れたので何ともなかった。

 

「お喋りはしないタイプか〜」

 

そう言いながらK11はフルオートで撃ちまくる。しかし奴も柱に隠れたので弾は当たらなかった。奴も反撃して来て、K11の右頬を弾が掠めて行った。K11はすぐさま柱に隠れた。

 

「室内戦不得意なくせに出しゃばっちゃって。死んでも知らないですわよ?」」

 

AUGがそう言いながら奴の隠れている柱に撃つ。

 

「いや〜カッコ付けたくてねぇ」

 

そう言ってK11は銃を構えると20ミリグレネードランチャーを連続で撃った。奴の隠れている柱周辺が連続で爆発する。流石にグレネードランチャーの嵐に耐えきれなかったのか爆煙の中から奴が飛び出して来た。そこを待機していたAUGがフルオートで撃った。奴はAUGの射撃を避ける。が、奴がAUGの銃撃を回避した瞬間柱の裏に隠れていたAK-12が銃を構えバーストで撃った。放たれた2発弾丸は奴の左足に命中。奴はバランスを崩して倒れた。ずげぇ僕達があれだけ苦労したってのにあんなにあっさりと・・・。

 

だが奴はまだ諦めていないようでHK433を構えてAK-12にフルオートで撃った。AK-12が柱に隠れると奴は驚くことに立ち上がった!足が撃たれているのに!ネルソン達も一斉に銃を撃つが柱に隠れられてしまった。

 

「元気な奴だなぁ」

 

K11が感心したような感じで言った。奴が何か投げて来た。グレネード系統の物かと思い皆が警戒して距離を取る。計4つ投げられた緑色の円柱形の物は床をコロコロを転がりながら白い煙を吐き出し始めた。成る程、あれは俗に言うスモークグレネードだったか。煙はあっという間に室内に充満し、ネルソン達の姿が見えない程視界が悪くなった。まさかアイツ視界を奪ってから僕達を襲おうとか思って無いだろうな⁉︎

 

バババババババババババババババッ!ババッ!バパッ!パン!パンパンっ!っと発砲音だけが聞こえて来る。何が起きているのかサッパリ分からん。

 

「今の内に行け!」

 

煙の中からK11の声が聞こえて来た。僕は奴を真似して立ち上がってみようとしたが右足にうまく力が入らず立てない。ドタドタドタと複数の足跡が聞こえるが誰の足音なのかは分からない。だが誰かが屋上に繋がる階段の方に行ったってのは分かった。

 


 

煙が立ち込め、何が起きているのか分からない混乱状態の部屋から階段に何とか辿り着いたエレナは階段を駆け上がった。後ろからはネルソン達が付いて来ている。

 

「アイツのせいでかなり時間を無駄にしちまったな!」

 

「それがアイツの目的だろうさ」

 

サイモンの愚痴を聞いたバラライカが言った。階段を上り終えてドアを開けると目の前にS-97ヘリコプターが着陸していた。S-97のキャビンに左腕の無い男がヘリに乗ろうとしており、その男を守るように戦術人形達が立っていた。こちらの存在に気づいた戦術人形達がエレナ達に銃口を向ける。

 

エレナは男の隣にいた戦術人形、JS9が例のブツを持っていることに気づいた。

 

エレナはJS9に素早く照準を向けるとトリガーを3回引いた。3発の弾は全てJS9の腹部に命中しJS9はその場に倒れた。JS9の手から離れたブツは屋上の床に落ちた。戦術人形達が一斉に撃ち返して来た。エレナ達はドアの横の壁にや階段に伏せて隠れる。

 

敵の方を見てみると戦術人形達はこちらに牽制射撃を加えながら男をS-97に乗せて、人形達もヘリに乗り込んで行く。ヘリに乗り込んだ男が戦術人形達に何か指示を出すとヘリに乗り込もうとしていたトカレフが落ちていたブツを拾ってヘリ先に乗ったスコーピオンに渡そうとする。

 

「させるかよッ!」

 

サイモンがMG3を構えて乱射した。これによりトカレフは勿論キャビンから身を乗り出してブツを受け取ろうとしていたスコーピオンに大量の7.62ミリ弾が命中した。そのままサイモンはヘリを撃ちまくったがS-97はキャビンのスライド式のドアを閉めると出力を急激にに上げて離陸すると逃げて行ってしまった。

 

「チッ、逃げられたか・・・」

 

サイモンは隠れていた階段から屋上に出ると遠ざかって行くヘリを見て舌打ちをした。

 

「だがブツは回収出来た。任務は完了だ」

 

トカレフの持っていたブツを拾い上げたネルソンが言った。

 

「あ、まだ生きてる」

 

JS9の安否を確認していたエレナが言った。腹部、と言うか心臓部らへんに5.56ミリ弾を食らっていたがJS9はまだ息があった。人間だったらこれは即死確定なのだがまだ生きているのは流石人形と言うところか。しかし致命傷であることには変わらなくこのまま放置しておけばいずれ死ぬだろう。

 

「ネルソン、どうする?」

 

エレナはXM8の銃口をJS9の頭に向けて聞いた。

 

「待った!待った!」

 

階段を駆け上がって来たK11がエレナに言った。さっきまで下の部屋で戦っていた筈のK11がやって来たと言うことは奴は倒したと言うことだろうか?そう思ったそう思ったエレナはK11に聞いた。

 

「アイツはどうなったの?」

 

「AK-12が倒したよ。まぁ倒したって言っても殺してはいないんだけどね。生け捕りにした。で、そいつも生け捕りにしたいんだけど」

 

「尋問してエイレーネーの情報でも聞き出すつもり?」

 

「そう言うこと〜」

 

「お好きにどうぞ」

 

エレナはそう言うと階段を降りて行って先程まで激しい戦闘が繰り広げられていた4階に来た。チラリと右を見ると奴がいた。右腕が関節部から無くなっており、全身血まみれの状態だった。AK-12に手足をワイヤーで縛っている。エレナは柱の裏にFNCと一緒に床に座っていたエマを見つけると駆け寄った。

 

「2人とも大丈夫?」

 

既にハルカが応急処置をしているようで、FNCとエマはあちこちに包帯を巻いていた。

 

《はい、大丈夫です》

 

「私も大丈夫〜」

 

エマとFNCはそう言ってエレナに明るい笑顔を見せた。

 

《ブツは?》

 

「無事回収したよ」

 

《それは良かった・・・はぁ〜。とっても疲れました》

 

そう言ってエマは脱力するとら柱に寄りかかった。

 

「確かにね。迎えのヘリが来るまで少し時間がかかるからここで休んでて」

 

《そうさせてもらいます》

 

エレナは他の負傷した仲間のところに行こうとしたが、エマに呼び止められた。

 

「何?」

 

《今度、色々と終わったら一緒に街に行きませんか?》

 

「別に良いけど・・何で?」

 

エレナは首を傾げた。

 

「前の任務の時にFNCにチョコを買ってあげるって約束したんです。でも自分は街に行ったことがないので街を案内してくれないかなーって」

 

それを聞いたFNCは目を輝かせた。

 

「お菓子買ってくれるの⁉︎」

 

「分かった。後始末とかが終わったら一緒に行こっか」

 

《ありがとうございます》

 

「ありがとー!」

 

なんだか妹が2人できたみたいだなぁとエレナは思うのだった。




どうだったでしょうか?

いや〜ケモミミ戦術人形(ルナ)との戦闘シーンを描くのはとても苦労すると同時に自分の技術力の低さを痛感しました・・・。

さて、何とかブツを回収したアサルト部隊。これで任務は完了したと思いきやまさかの事態に。次回もお楽しみに!

感想お待ちしております、


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第19話 束の間の平和

お待たせしました第19話です!今回は久し振りに平和なシーンが書けました。


戦術人形になってから27日目。おそらく晴れ。

 

任務は無事終了した。いや、無事って訳ではなかったか。僕はまたまた敵の弾を食らってしまった。今回の任務は負傷者も沢山出たのでまた僕は後回しにされるのかなと思ったが、僕は右の脇腹に弾を数発食らっていて割と重傷だったので直ぐに治療を受けた。今は手術が終わった後で、暫く安静にしていろと言われベッドに寝かせらている。なので何もすることが無くてとても暇だ。

 

こっそりベッドから抜け出そうともしてみたが見舞いに来たエレナに見つかってしまいそれ以降エレナはずっと僕の側にいる。これにより僕はベッドから抜け出すことは出来なくなってしまった。でもエレナが剥いてくれたリンゴはとても美味しかったし、喋り相手にもなってくれたから良い暇つぶしになった。

 

にもしても昨日はは濃い1日だった。墜落するヘリから落ちてみたり、何か闇落ちしたみたいな感じのSPAS-12に追いかけ回されたり、敵の基地に潜入したり、謎のケモミミ戦術人形と激しいバトルをしてみたり・・・・。あぁそして、驚いた事に今回僕達が追っていたブツは何と崩壊液を利用した兵器だった。それを今回僕達を襲ったテロ組織「エイレーネー」が奪ってテロを起こそうとしていたそうだから驚きだ。一気に話の規模が大きくなり過ぎて僕はイマイチ実感が湧かなかった。でもま、ブツは僕達が無事回収したからもう安心だ。2日後に依頼主が回収しに来るそうだ。

 

しかし今回僕達にブツを回収するように頼んで来た奴の所属している研究施設は、崩壊液やE.L.I.Dを使った違法な研究をしているところだった。なので依頼主から報酬金を受け取った後は、グリフィンに通報してグリフィンからも感謝料を頂くつもりらしい。

 

ウチの社長ゲスくない?

 

 

 

戦術人形になってから28日目。曇り。

 

やーっとベッドから出ることが出来た。そして今日は特に仕事とかも無いからエレナとFNCとM200一緒に街に行くことにした。実は前の前の任務(大型E.L.I.Dを倒したやつ)時にFNCに美味しいチョコを買ってあげると約束をしていたのだが、色々忙しくて買いに行ける暇が無かった。なので任務もひと段落した今日行くことにした。ネルソン隊長にそのことを話したら2つ返事で了承してくれた。

 

僕は初めてE-17地区の街に行くからとても楽しみだ。どんな感じなんだろうか?久し振りにハンバーガーとか食いたいなぁ。

 


 

僕は今、1人L&M社の正門の前に立っている。腕時計を見て時間を確認する。現在の時刻は午前11時47分。集合時間は12時なのでそろそろエレナかFNCが来る頃ではないだろうか。張り切って40分にここに来たのだが流石に来るのが早過ぎたと今更ながら後悔している。

「あれ、もう来てたの。早いね」

 

振り返るとエマがいた。エマは何時もの服では無くベージュのトップスの上に赤色のカーディガンを着て、黒色のスカートを履いていた。服が違うだけだここまで印象が変わるんだなぁ・・・。

 

「何?そんなまじまじと見て」

 

《いや、改めて見るとエレナって美人だよなぁと思って》

 

美人と言うよりは可愛いといった言葉がエレナには似合うと思うが、これを本人に言ったら怒られそうなので言わないでおこう。

 

「お世辞はいいから」

 

《いえ、本当に美人だと思いますよ!》

 

「そりゃどうも。って言うかアンタは相変わらず女子力を感じさせないものを着てるのね」

 

今の僕の服装は下はショートジーンズで上は適当に選んだシャツの上に灰色のパーカーを着ている。う〜む、確かし女子力は感じない服装かもな。でもフリフリしたスカートとかを履いたりするのは恥ずかしくて嫌なんだよな。

 

《私はそんな女の子らしい服は似合いませんから》

 

「見た目は普通に可愛いんだからおしゃれとかすれば良いのに」

 

ひぇ〜可愛いって言われちゃったよ。普通の女の子だったらここで喜んだらするのだろうが元男の自分は嬉しくもなんともない。恥ずかしいだけである。

 

いやまぁ確かに今の僕の姿はどっかの学校にいそうな女子学生みたいで可愛いと思うよ。それは認めよう。って言うかこの姿は自分であってつまり今僕は自分で自分を可愛いと思っちゃってるってことか?それって自分は可愛いと認めちゃってることになるのだろうか?いやいや、僕が可愛いと思っているのはこの体であって僕自身は男なんだから関係ない。

 

「何真剣な顔で悩んでんの?」

 

気づいたらエレナが僕の顔を覗き込んでいた。僕はニコリと笑いながら答えた。

 

《い、いえ、何でもありませんよ》

 

このことは深く考えないようにしよう。自分が何者なのか分からなくてなってしまう気がする。

 

それから待つこと数分。右奥の方の道から丸っこい車が走って来て僕達の目の前で止まった。何と言うか、FNCに似合う可愛らしい車だな。運転席側の窓が開きFNCが顔を出して来た。助手席にはM200が座っている。

 

「おねーちゃんおまたせー!」

 

「お久しぶりです」

 

可愛い少女が可愛らしい車に乗っているのは絵になりますな。しかし車を運転しているのが少女と言うこの絵面は道路交通法的にはアウトだよな。まぁ彼女は人形だから問題は無いのだが。

 

「アルバトねぇ。アンタにお似合いの車だね」

 

FNCの乗る車を見たエレナかそう言った。

 

《この車アルバトって言う名前なんですか?》

 

「正確にはアルバト595って言う名前だよー」

 

FNCが説明してくれた。フィアットって言うか車のメーカーが昔作った車らしい。見た目が可愛いということでFNCのお気に入りの車だそうだ。僕とエレナはアルバト595の後部座席に乗さてもらい、僕達は街へと向かった。

 

L&M本社はE-17地区の郊外にあるので、街まで行くのに約1時間もかかってしまった。僕が戦術人形なってから初の街だ。街が近づいてくるに連れテンションが上がって行く。車を駐車場に止めて、僕達は街を散策する。

 

僕がまだ男だった頃に住んでいた街と違いここの街は活気に満ちている。多くの人々が行き交い、多くの店が軒を連ね、色んな話し声が聞こえて来る。歩いているだけでも楽しいな。建物も僕の住んでいたところより高い。ここは復興が結構進んでいるようだな。

 

「どこに行くの?」

 

僕の横を歩いていたFNCが聞いて来た。今日のFNCはチョコ色のスカートにベージュのカーディガンを着ている。そしていつも三つ編みにしている髪を今日は下ろしており、服と相まって別人に見える。多分街ですれ違っても僕は別人だと思いFNCだと気づかないだろう。それくらい見た目の印象がガラリと変わっている。

 

《近くに美味しいチョコケーキを売っているお店があるから、そこに》

 

「チョコケーキ!」

 

チョコケーキと聞いてFNCは目を輝かせた。FNCはお菓子の中でもチョコが好きみたいだったので昨日エレナと一緒にチョコに関連する店を探した。探してみた結果数件ヒットし、その中の1つに行くことにしたのだ。

 

まぁ僕はどの店が良いとかあんまり分かんないのでエレナに色々と助けて貰った。

 

歩くこと15分、目的地に到着した。やって来たのは街角にひっそりと佇むおしゃれな外観のカフェだ。ドアを開けるとカランカランカランとドアに付けられたベルが鳴った。うわぁーこう言うところ初めて来たわ〜。やはりと言うか何と言うか、おしゃれな内装だな。男だった時はこう言った所は一生行くことは無いと思っていたんだが、人生どうなるか本当に分からないなぁ。

 

窓側のテーブルに案内され、僕達は席に座った。僕の横にはFNCが座り、目の前にはエレナ、その横にM200が座った。机に置かれていたメニューを見てみる。砂糖が希少品となりつつある今日この頃、やっぱりデザート系の値段は高い。しかしPMCに所属している僕達は危険な仕事の対価として多額のお金を受け取っている。なのでちょっと贅沢しても大丈夫な程のお金は持っている。

 

「すいません、ザッハートルテを4つ」

 

エレナが予め決めていたチョコケーキを店員に注文した。そして皆がそれぞれ好みを飲み物を注文して行く。

 

「私はこのアメリカンコーヒーをこっちの子にも同じものを」

 

エレナはメニューに記載されている写真を指差しながら言った。そして喋れない僕の分も頼んでくれるのに優しさを感じる。

 

「私はカフェモカ!」

 

元気よくFNCが言う。ザッハートルテとカフェモカと言うチョコ+チョコにするあたり流石だな。

 

「あ、ボクはカプチーノでお願いします」

 

M200はちょっとおどおどしながら注文した。

 

注文したやつが来るまで皆んなと色々雑談をした。まぁ会話の7割位は任務中の自分の武勇伝だったり愚痴だったりとおおよそ普通の女の子がするような内容では無いのだが。程なくして運ばれて来た飲み物を片手に話は続いた。

 

《987メートル⁉︎凄い!》

 

M200に今までの狙撃の中で1番遠かった距離は?と言う質問をしてみたのだが予想以上に長距離を狙撃していたので驚いた。約1キロだぜ?1キロ。

 

「あの時は運良く無風だったのと、目標が動いてなかったので・・・」

 

《それでも凄いよ!》

 

褒めまくっているとM200はだんだん顔を赤くして行き、最終的に俯いてしまった。可愛い。

 

「そう言えばアンタは接近戦が得意みたいだけど、何処であんな戦闘方法を?」

 

エレナがFNCに聞いた。僕はあの任務時に見たFNCの戦う姿を思い出す。光の無い目で敵を一切の躊躇いも容赦も無く殺していたあのFNCと今目の前で皆んなと楽しそうに話をしているFNCが同一人物だとは思えない。

 

FNCは「ん〜」と言いながら顎に手を当てて考えるような仕草を見せた。

 

「隊長の影響かなぁ〜」

 

「隊長?」

 

「AK-12のことです。ボク達の所属する第1戦闘部隊「アインス」の隊長を務めています」

 

復活した(まだ顔は赤い)M200が丁寧に説明してくれた。と言うか君達の部隊名アインスって言うんだ。初めて知った。

 

《部隊は全員人形なんですか?》

 

「そうだよー」

 

FNCの話によるとアインス部隊に所属するのは隊長のAK-12、副長のAUG、K11、FNC、M200、Vector(ベクター)、IDW、LWMMGの計8名らしい。

 

「隊長とっても強いんだよ!私一回も勝てたことないもん」

 

あの謎のケモミミ人形を殺さず生け捕りにしてしまう程なんだから相当強いんだろうなぁ。あ、そう言えばそのケモミミ人形はどうなったのだろうか?

 

《そう言えば、捕まえた人形達はどうなったんですか?》

 

「K11曰くメンタルモデルに何か細工が施してあると言ってました」

 

「細工って?」

 

「それを今K11が調べています」

 

「なるほどねぇ。もしかしたらエイレーネーに所属していた人形達はメンタルモデルを弄られて加担されてたのかもね」

 

《人間で言う洗脳に近い感じですかね》

 

「元に戻すことは出来るんですかね?」

 

「さぁねぇ。最悪メンタルモデルを初期化しなきゃかもしれないね」

 

程なくして注文していたのザッハートルテが運ばれて来た。チョコレート味のバターケーキ(スポンジ)をチョコレートでコーティングしてある。今にも涎が出て来そうな程美味しそうな見た目だ。スポンジは二層構造になっていて、スポンジとスポンジの間にジャムのようなものが塗ってある。

 

「わぁ〜♪美味しそう!食べて良い?」

 

FNCが僕にキラキラした目を向けながら聞いて来た。僕が《良いよ》と言うとFNCは誰よりも早くザッハートルテを口に運んだ。

 

「ん〜♪とっても美味しいよ!これ!」

 

FNCがとても幸せそうな様子でザッハートルテを食べている姿を見ていると何だかほっこりする。FNCに急かされながら僕も食べてみる。ネットにはこってりとした濃厚な味わいが特徴と書いてあったがその通りだった。すまないね皆さん。僕は上手な食レポは出来ないんだ。まぁとにかく美味しい。本当に美味しい。

 

「久し振りにこんなの食べたなぁ」

 

とエレナがボヤいた。まぁそうだよね。L&Mの食堂にこんなのが出て来ることはまずあり得ない。どちらかと言うとスタミナ料理が多い。まぁあれはあれで美味しいんだけどさ、時にはこう言う甘いものが食べたくなるんですよ。携帯用食料としてDレーションと呼ばれるチョコが渡されるが、それはひじょーに不味い。

 

《ですね。とても美味しいです》

 

全員あっという間にザッハートルテを食べ終えてしまった。この体になって初のチョコケーキだったがとても美味しかった。また食べに来たいな。

 

カフェを後にした僕達は街を適当にぶらぶらと歩いていた。するとFNCが「皆んなにお土産を買いたい!」と言ったので近くのスーパーに寄ることにした。ついでに僕もネルソン達にお土産を買うことにした。しかし何を買えば皆んな喜んでくれるだろうか?皆んなの好みが分からないなぁ。サイモンとアリーナは酒で良いとしてアンナとか何を買えば良いんだよ⁉︎暗殺武器でも買うか?

 

《ネルソン隊長とかには何を買えば良いんですかね?》

 

「ネルソンは甘いものを買えば良いよ」

 

へぇ、ネルソンって甘いものが好きなんだ。ちょっと意外だな。

 

《それならさっきのカフェのザッハートルテを持ち帰りで買ってあげればよかったですね》

 

「あそこってお持ち帰り出来るのかな」

 

《今度来た時に聞いてみますか》

 

ネルソンにはザッハートルテに似たチョコケーキを買った。サイモンにはビールを、アリーナには酒では無くタバコを買った。銘柄はアリーナをよく吸っているジタンだ。ハオレンにはたまたま見つけた緑茶を買った。バラライカにはー

 

《これとかどうです?(笑)》

 

僕が手に持っているのはロシア土産で有名なマトリョーシカだ。

 

「それもう持ってるよ」

 

持ってるんかい!結局ロシアンティー似合う紅茶とジャムをエレナが買った。オットーにはウィスキーを買ってユウヤ、ハルカには適当に選んだクッキーを買った。そして問題のアンナにはユウヤ達のと同じクッキーを買った。しかし彼女がクッキーなどの菓子を食べている姿が想像出来ないのだが・・・。

 

とにかく、全員分のお土産を買い終えた僕とエレナはFNCとM200に合流した。FNCは両手に大量のお土産の入った袋を持っている。アルバト595を止めていた駐車場に来るとアルバトのトランクにお土産を載せる。僕もネルソン達のお土産をトランクに載せて、トランクのドアを閉めた。

 

「おねーちゃん」

 

後ろからFNCの声が聞こえたので振り返ってみるとFNCは満面の笑みを僕に向けていた。

 

「今日はありがとう!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: ・・・ハッ⁉︎やばいやばい。あまりにFNCが可愛かったから浄化されかけた。

 

「また来ようよ!次は部隊の皆んなも連れて来るから!」

 

僕はFNCに微笑んだ。

 

《そうだね。また来よう》

 

僕達がワイワイと話しながら車に乗り込み、FNCが車のエンジンをかけた時に突然エレナと僕が持っていた無線機からサイモンの声が聞こえて来た。

 

《こちらサイモン!本社がエイレーネーの襲撃を受けた!》

 

その一言で平和だった車内の空気が一気に変わった。FNCはサイモンの話を聞いた瞬間アクセルを踏み込みアルバト595を急発進させた。僕はあまりにもとっぴげた話に一瞬何を言っているのか理解出来なかったが数秒後にやっと事態の重大さに気づいた。エレナが無線機を取ってサイモンに聞いた。

 

「状況を詳しく教えて」

 

《敵は既に2号棟と正門ゲートと1号棟と演習場に侵入して来ている。今俺達は2号棟内で即席のバリケード作って何とか防衛しようとしてるんだが武器が無い。1号棟に取りに行こうにも包囲されてて行けない。今は敵から奪ったM4と拳銃一丁で何とか防衛してるが長くは持ちそうにない》

 

「了解。直ぐにそっちに向かうから待ってて!」

 

《頼りにしてるぜ》

 

そう言ってサイモンは通信を切った。

 

「飛ばすよー‼︎」

 

FNCはアクセルを限界まで踏み込み車を加速させた。




どうだったでしょうか?今回は前から書こうと計画していたFNCとの日常回が書けたので満足です。

そして今回可愛い私服FNCちゃんを描いてくださったこまりんさん、本当にありがとうございましたm(__)m

さて、突然のエイレーネーの襲撃。L&M社はどうなってしまうのか?次回もお楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第20話 襲撃

お待たせしました第20話です!書く時間が無くて投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。

そして、今回エマは登場しません。


L&M本社の2号棟に数カ所に設置してあるトイレの1つ、そこでサイモンは数人の男達と一緒に黙々と便器を掃除していた。これはサイモンが進んでしている訳では無い。むしろサイモンはこういうのはめんどくさがってやらないのだが、今は社長からの命令で渋々やっている。何故このようなことをさせられているのかと言うと、任務が終わり久し振りの休日が貰えたということで昨日の夜にサイモンはアリーナとその他酒好き仲間達と酒を飲みまくっていた。そして持って来ていた分の酒を全て飲み干してしまったサイモン達は新たな酒を求めて基地内を探し回り社長が隠していた高級ワインを見つけ出しそれを全て飲んでしまった。

 

翌日それが社長にバレてしまい、散々説教された挙句罰として1号棟にある全てのトイレの清掃を命じられていた。全部の便器を洗い終えたサイモンは隣の女性用トイレの方に声をかけた。

 

「そっちはどうたー?」

 

「汚れが少ないのが救いだね。お陰でこの人数でも何とかなってる」

 

アリーナは女性用トイレの清掃を命じられていたのだが、今回の事件に関わった人達の中で女性はアリーナを含め3人。たったの3人で1号棟内の全ての女性用トイレの清掃をするのはなかなか大変だった。一方サイモン達の方は人数は逆に多過ぎる位なのだが汚れが女性用トイレと比べ多く、苦労していた。

 

「手伝ってやろうか?」

 

と言いつつサイモンは女性用トイレの中を覗く。

 

「一歩でも入って来てみろ、デッキブラシで頭を叩き割るからな。後、一々覗きに来るな」

 

「へいへい」

 

サイモンは大人しく自分の持ち場に戻った。第2部隊に所属しているビルは戻って来たサイモンに尋ねた。

 

「どうだった?」

 

サイモンは肩をすくめながら答えた。

 

「殺気のこもった目で睨まれた」

 

「だろうな」

 

デッキブラシで床を擦っていたサイモンと同じ黒人の第5部隊に所属するカールがサイモンに質問した。

 

「そういえば。ちょっと前に食堂で聞いたんだがお前アリーナをヤったってのは本当か?」

 

とんでもない内容の質問にカールを含めた数人の男達が「ハァ⁉︎」と言い驚いた。

 

「あ?ンなことしてねぇぞ俺は。って言うか初耳だぞそれ」

 

「2週間位前にだったかな?まぁとにかく少し前にお前がアリーナをベッドに押し倒してヤってただとか何とか・・・」

 

「2週間前ぇだぁ・・・・?あーあれか!」

 

カールがサイモンに詰め寄って襟を掴んだ。

 

「おい!マジでヤったのか⁉︎」

 

「落ち着け、俺はヤってねぇ」

 

「じゃぁどう言うことだよ」

 

「あん時はアリーナとスピリタスを飲みまくってどっちが先にぶっ倒れるかのチキンレースをやってたんだ。そんでお互いぐでんぐでんに酔っちまって殴り合いになったんだ」

 

話を聞いたカールは呆れたような顔をして掴んでいた襟を話した。

 

「なんだそれ、じゃぁベッドに押し倒してヤってた訳じゃ無くてベッドに押し倒して殴り合ってたってことかよ」

 

「そう言うことだな」

 

「お前ら全員後で覚えとけよー?」

 

隣の女性用トイレからアリーナの声が聞こえて来て、サイモン達は慌てて掃除を再開した。

 

 

それから少しして、ある程度掃除を終えたサイモンは休憩がてら2号棟の屋上でタバコを1人で吸っていた。アリーナ程ではないがサイモンもタバコはよく吸う。昔はどこでもタバコは吸えていたのだが、最近は禁煙活動が活発になり、サイモンのような喫煙者は昔のように好きなところで吸うことが出来なくなってしまった。喫煙所を設置しようとしたか社長が予算をケチるせいでここ2号棟には2箇所に小さな喫煙所が作られただけだった。

 

掃除していた所から喫煙所まではそれなりに距離があったのでそれよりは距離の近い屋上にやって来てたのだ。

 

「お疲れ〜」

 

後ろを振り返るとアリーナがジタンの箱をポケットから取り出しながらこちらに歩いて来ていた。サイモンはアリーナに右手を上げて答える。アリーナはサイモンの隣に来るとポケットからタバコの箱を取り出すと箱からタバコを出した。アリーナがタバコを咥えるとサイモンが何も言わずにジッポーをポケットから取り出してアリーナの咥えているタバコに火を付けた。ふぅ〜〜っとアリーナが煙を吐き出しすと手すりに寄っかかった。

 

「それ、エマは匂いが嫌いみたいだからエマの目の前で吸うのはやめといた方が良いぜ」

 

煙を吐き出したサイモンがアリーナの咥えているタバコを見て言った。アリーナが好んで吸っているタバコはジタンと言う銘柄のもので、一般的な葉ではなく、発酵した黒い葉を使っているので香りや味は独特で、その香りや味は葉巻に近いといわれている。

 

「だろうね。前エマの前で吸ってたら嫌そうな顔されたよ」

 

と言ってアリーナは苦笑いしながらタバコを吸って煙を吐き出した。このジタンと言うタバコ、その独特な香り故に嫌う人も少なからず居る。エマもジタンの匂いを嫌う人の1人だ。サイモンはフッと鼻で笑った。

 

「そのせいかあいつ余りあたしに近づかないんだよなぁ」

 

「何だ、近づいて欲しいのか?」

 

サイモンはニヤニヤしながらアリーナに聞いた。

 

「近づいて欲しいって言うか・・・愛でたい?」

 

サイモンはアリーナの発言に思わず吹いてしまった。

 

「何だそりゃ」

 

「可愛い後輩だぞ、愛でたくもなる」

 

人形の中で最古参てあるアリーナは言ってしまえばL&M社に居る人形全員が後輩になるのだが、最近入って来たエマは今までの人形達とは少し違った。いつもニコニコと笑っており快活で真面目な頑張り屋さんと言った感じで、男勝りな性格の人形ばかりいるここではエマのような真面目で可愛い子は珍しい。なのでアリーナはそんなエマをついつい愛でたくなってしまうのだ。

 

「ま、その気持ち分からんでも無い」

 

「だろ?」

 

「頭を撫でてやった時の顔とか可愛いよな」

 

「それな!」

 

アリーナやサイモンはエマの頭を撫でる時、エレナやネルソンと違い乱暴に撫でるのだがそれでもエマは嫌がったりせず少し目を細めて嬉しそうに微笑む。その姿にアリーナもサイモンも癒されていた。

 

「毎日射撃訓練とかを頑張ってしている姿なんか健気で良いよなぁ」

 

「実際射撃の腕も上達してるしね。バラライカも近い将来エマにマークスマンを任せるかもって言ってたし」

 

「それが良いだろ。対人戦とかだとバラライカは過剰火力だしな」

 

「今更だけど12.7ミリ弾を撃つマークスマンってなかなかのパワーワードだね」

 

「確かに」

 

アリーナとサイモンはお互いに笑った。

 

「ネルソンとエレナもマークスマンやれると思うんだがな」

 

ネルソンとエレナの使っている銃はどちらもマークスマンライフルとして使っても問題ない程の命中精度を誇っており、2人は射撃技術も高い。

 

「でもネルソンは狙撃より速射の方が得意だし、ネルソンに倣って戦闘技術を磨いたエレナも狙撃より速射が得意だし。それに5.56ミリで狙撃ってどうなのってあたしはいつも思うんだよね」

 

「あーそれは俺も思うわ。5.56ミリで500メートル先とかの敵倒せるんかねぇ?」

 

「人間ならワンチャン倒せるかもだけど、鉄血とかE.L.I.D相手だと無理だろうね」

 

「やっぱ狙撃には7.62ミリだな」

 

煙を吐き出したサイモンはふと遠くを走る車を見つけ、怪しんだ。ここら辺を車が通るのは別に珍しく無いのだが、その数がおかしい。恐らく10台以上はいる。10台以上の車が縦一列に並んで走っている。

 

「何だあれ」

 

「ん?何がだ?」

 

「アレだよ」

 

と言いながらサイモンはその車列の方に顎をしゃくった。アリーナは目を細めてその車列の方を見た。人形なので普通の人間より視力の良いアリーナは走っている車の車種を断定できた。

 

「M-ATV、ハンヴィー、トラック・・・・・なーんか見たことある編成だな?」

 

「おい・・・まさかッ⁉︎」

 

気づいた時にはもう遅かった。突然後ろで爆発音が響き渡り、建物が揺れた。

 

「クソッ!何だ⁉︎」

 

後ろを振り向くと黒煙が上がっていた。黒煙の出ている所を見てみると車両の整備施設であるガレージの一角が崩れ、炎上していた。遅れて警報音が鳴り響く。

 

《総員戦闘用意!南南東より未確認ヘリ接近中!》

 

「危ない!」

 

アリーナがサイモンの頭を抑えて無理矢理伏せさせた。次の瞬間、ミサイルが2号棟の屋上に設置してあったレーダーアンテナに命中し爆発した。破片がサイモンとアリーナの周辺に降り注ぐ。

 

「クッソッ!ミサイル撃たれる距離まで気づかなかったのか⁉︎レーダー員は何やってんだ!」

 

「また来た!」

 

更にミサイルが飛来しまたレーダーアンテナに命中した。レーダーアンテナはゆっくりと傾き始め、最終的に自重を支えきれず横に倒れ下に落ちて行った。

 

ミサイルの飛来して来た方向を見てみると、こちらに接近して来ているヘリの姿が見えた。ヘリはあっという間にL&M社に近づいて来るとロケット弾を発射し駐車場に止めてあったハンヴィーとBMP-2を吹き飛ばした。ヘリは速度を落とさずサイモン達の真上を通り過ぎて行った。

 

「Аллигатор!」

 

ヘリを見たアリーナは思わずロシア語で叫んだ。

 

「あ?何だって?」

 

「Аллигатор。英語で言うとアリゲーター。ロシアが作った攻撃ヘリだよ」

 

「強いのか?」

 

「強いね」

 

通り過ぎて行ったKa-52は高度を取ると機首の方向を180度変えてサイモン達の方に向かって緩降下して来た。

 

「おいおい不味いんじゃないかアレ⁉︎」

 

「ミンチになりたく無かったら走れぇ!」

 

Ka-52は右側面に30ミリ機関砲を搭載している。直撃せずとも近くに着弾しただけで人間はミンチになってしまうほどの威力を秘めている。サイモンとアリーナは全速力で走り階段を下って室内に逃げ込んだ。aka-52は攻撃することなく屋上の上を通り過ぎて行った。サイモンは舌打ちをするとホルスターからM586を出しながら廊下を歩く。アリーナもホルスターからMP-433グラッチを取り出しその後に続く。

 

「アイツら諦めが悪いなぁ・・・」

 

「何が何でもあのブツが欲しいのさ」

 

《敵ヘリが2号棟屋上に着陸!敵兵数十名の降下を確認。2号棟内にいる職員は注意せよ!》

 

放送か聞こえると同時に屋上に通じる階段から誰かが降りて来るのをサイモンとアリーナは察知した。すぐさま階段に通じるドアに銃口を向ける。ドアが勢い良く開きM4CQB-Rを持った兵士が入って来た。敵の姿が見えた瞬間サイモンがM586のトリガーを引いた。撃ち出された357マグナム弾は敵兵の胸に命中し、撃たれた敵は後ろに倒れた。

 

すぐさま他の敵が反撃して来た。サイモン達は廊下の曲がり角に隠れた。撃った敵を見てみると、どうやら357マグナム弾は防弾チョッキにより塞がれていたようで、兵士は苦しそうにしながらも生きていた。逆にこちらは私服姿で防弾チョッキなどは着ている訳も無く当たれば終わりだ。それに向こうがカービンライフルを使っているのに対しこちらは拳銃だけというのもなかなか厳しい。

 

「クソッ!」

 

多勢に無勢、サイモンとアリーナは敵の激しい銃撃により身動きが取れない状態になってしまった。その間に敵は距離を詰めて来る。アリーナが近づいて来ていた奴の頭に9ミリ パラペラム弾を食らわせて倒した。

 

「逃げるよ!」

 

「おうよ!」

 

アリーナとサイモンは敵に何発か撃ってから走って逃げた。奥から悲鳴と発砲音が聞こえて来た。どうやら奴らは非戦闘員だろうが何だろうが関係無く殺し回っているようだ。

 

「クソッ!」

 

「おい、待て!もう手遅れだ!あーくそっ!」

 

アリーナが悲鳴のした方に向かった。サイモンが止めようとしたがサイモンの制止を振り切ってアリーナは走って行く。サイモンも愚痴をこぼしながら後を追った。廊下を真っ直ぐ進んでから右に曲がると敵兵2名が部屋に逃げ込んだ男を追って部屋に入って行っていた。

 

アリーナもその部屋に入ると目の前に居た敵には目もくれず男を撃とうとしていた敵兵の心臓部に9ミリパラペラム弾を2発撃ち込んで怯ませてから頭に1発撃ち込んで殺した。次に目の前に居た敵兵がアリーナにM4CQB-Rの銃口を向けようとしたが遅れてやって来たサイモンかその敵の頭に357マグナム弾を撃って倒した。

 

アリーナは部屋の隅で倒れ込んでいた男に駆け寄り何処か負傷していないか確認しながら声を掛けた。

 

「大丈夫か?何処か怪我している所はあるか?」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

「よし、立てるか?」

 

アリーナは男の手を取って立たせようとしたが女性は立ち上がらない。やはり何処か負傷しているのかとアリーナが心配すると男は申し訳なさそうに言った。

 

「っ・・・・す、すいません。腰が抜けてしまって・・・・」

 

アリーナは屈むと男を背負った。

 

「しっかり掴まってて。サイモン、先行して」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

サイモンは倒した敵兵が持っていたM4CQB-Rと予備マガジンを掠め取った。

 

「ひっさしぶりにM4持ったけど恐ろしく軽いな。オモチャみたいだ」

 

「そりゃMG3と比べたらM4は軽く感じるだろうね」

 

サイモンはアリーナにもM4CQB-Rと予備マガジンを渡すとドアから廊下の方を覗き込んだ。次の瞬間、銃弾が飛んで来て真横の壁に当たった。慌ててサイモンは引っ込んで隠れた。

 

「右に敵複数。援護すっからさっさと行け」

 

敵兵から奪った手榴弾の安全ピンを外しながら言った。アリーナはM4CQB-Rを構え頷いた。サイモンは手榴弾の安全レバーを外すと2秒待ってから敵の方に投げた。

 

床を少し転がってから手榴弾が爆発し、数名の敵兵が吹き飛んだ。爆発と同時にサイモンは部屋から出てM4CQB-Rを構えフルオートで敵の方に撃った。アリーナは全速力で走りながら部屋から出ると敵に背を向けて廊下を走り、曲がり角に隠れた。壁に隠れながらM4CQB-Rを構え発砲しサイモンを援護する。

 

「来て!」

 

サイモンは1マガジン分撃ち切ると先程のアリーナと同じように部屋から飛び出すと廊下を走ってアリーナの隣に来た。サイモンは弾切れになったM4CQB-Rに新しいマガジンを入れて敵の方に撃ちつつもう一度手榴弾を敵の方に投げ込んだ。敵は転がって来た手榴弾を警戒して後退して行く。直後手榴弾が爆発した。

 

「ほらさっさと撤退すっぞ!」

 

「イエス・サー!」

 

敵が引いた隙にアリーナとサイモンは逃げた。廊下を走り階段を駆け下りて行く。敵が来れないように階段の前にある防火扉を閉めておいた。サイモンは階段を降りながら腰に下げていた無線機を手に取ると周波数を合わせてトークボタンを押した。

 

「こちらサイモン。2号棟屋上から敵多数侵入。敵の武装はM4とショットガン。奴ら防弾チョッキを着てっから拳銃弾じゃ死なねぇ」

 

《了解した。今迎撃部隊が向かっている。それまで耐えたくれ》

 

「りょーかい」

 

通信を終えたサイモンはM586のシリンダーを左に振り出すと空薬莢をシリンダーから出し、新しい弾を込めて行く。それを見たアリーナはサイモンに質問した。

 

「前から思ってたけど何でリボルバーなんて使ってるの?オートマチックの拳銃にすれば良いのに」

 

「マグナム撃ちたいからに決まってるだろ」

 

「それならデザートイーグルで良いじゃん」

 

「分かってねぇなぁ?こう言うリボルバーでマグナム弾を撃つからこそ良いんじゃねぇか」

 

そう言ってサイモンは弾を込め終えたシリンダーを手首を捻りフレームに入れた。ドゴオオォォン!と言う爆発音が響き階段が大きく揺れ照明が点滅した。

 

「・・・おいおい大丈夫かよ」

 

「何?ビビってんの?」

 

「ンな訳あるか」

 

再び爆発音が響き、一瞬照明が消えたが再び点いた。

 

「派手にやってるねぇ」

 

「だね」

 

サイモンとアリーナは4階まで降りて来た。M4CQB-Rを構えながら周囲に敵が居ないのを確認したアリーナは階段の入り口からゆっくりと出て廊下に出た。サイモンもさらに続く。暫く廊下を進んでいると声をかけられた。

 

声のした方を向くとさっきまで一緒に掃除をしていた黒人のカールが居た。手にはベレッタのM84が握られている。他の人達も一緒のようだ。彼らはここ4階にある喫煙所に来ていたので襲撃には合わずに済んだようだ。

 

「上はどうなってる?」

 

「敵どもに占拠されかけてるよ」

 

「おい、不味いことになったぞ」

 

カールの後ろから出て来たビルがそう言った。彼はP225を持っている。ビルの後について行き娯楽室に入ると大勢の非戦闘員がいた。どうやら上階から逃げて来た人達はここに避難して来たようだ。因みにいつもユウヤがゲームをしている娯楽室はこことは別で2階にありここよりも狭い。

 

ビルは演習場が一望できる窓の方をビルは指差した。サイモン達が見てみると演習場に2機のブラックホークが着陸しキャビンから計22人の敵兵が降りて来ていた。よく見ると下を見てみると味方が即席の防衛陣地を作って拳銃で敵に攻撃している。

 

敵のブラックホークは離陸しながら防衛陣地に籠る味方に対して機体側面に装備されていたミニガンで攻撃した。即席で作った物だったのでミニガンの銃撃によって防衛陣地の一部が壊れた。そしてヘリから降りた敵部隊が銃撃を加える。味方達も拳銃で果敢に反撃する。激しい銃撃戦が演習場では起こっていた。

 

《こちらサイモン!1号棟屋上から敵部隊が侵入。現在交戦中!誰か増援に来れないか⁉︎》

 

《こちらバラライカ。敵車両部隊が正門ゲートを突き破って入って来た。数からしてコイツらが本隊だろう。出来ればこっちに増援頼む》

 

サイモンとアリーナが持っていた無線機からは味方からの報告が入ってくるが、良い話は1つも入って来ない。

 

「こちらサイモン。2号棟屋上から敵侵入。演習場にも敵が降下した。今は2号棟4階の娯楽室に立て籠もっている」

 

《サイモン、そっちは大丈夫か?》

 

ネルソンが聞いて来た。無線機越しに発砲音が聞こえて来てその戦闘の激しさが伺える。

 

「今のところはな。だが敵部隊が雪崩れ込んで来たらひとたまりも無いな」

 

《すまないがそっちに行けそうに無い。今の戦力で何とか凌いでくれ!》

 

「了解」

 

サイモンは通信を終えるとビル達の方を見た。今ここにいる戦闘員はサイモンとアリーナとビルとカール、その他トイレ掃除組5人の計9人。武装は弾切れに寸前のM4CQB-R2丁とそれぞれが護身用として持っていた拳銃9丁。対して敵は少なく見積もって数は10人前後。増援が来て増えている可能性も大。武器はM4CQB-Rやショットガンを持った完全装備。

 

「・・・・何とかなる・・かな?」

 

サイモンは苦笑いしながら考えた。数も武装も敵の方が上、ぶっちゃけ勝てないかもしれない。だが何もせずに死ぬのは性に合わない。死ぬまで悪足掻きしてやるよ!

 

「オラそこで座ってるやつら!死にたくなかったら入り口の前に机とかタンスとか、とにかく弾除けになりそうな物置いて行け!」

 

サイモンは座っていた非戦闘員の人達に怒鳴った。突然声をかけられた非戦闘員の人達はお互いの顔を見合わせているだけだったがサイモンが急かすと慌てて動き始めた。敵が侵入して来るであろう入り口に椅子やテーブルやビリヤード台やテレビなど、とにかく動かせる物は全部動かして入り口の前に置いて行く。

 

箒やモップの持ち手の先にテープでナイフを貼り付けて即席の槍のような物も作った。ナイフが足りず付けれなかった箒は持ち手の先端をナイフで削って尖らせた。

 

「箒の持ち手が木で出来ていて助かったな」

 

ビルが自分のナイフで箒の持ち手の先端をナイフで削りながら言った。

 

「いや、プラスチックでもこうやればいけるぞ」

 

サイモンはビルに斜めに切ったモップの持ち手の先を見せた。

 

「コイツで刺される奴は不運だな」

 

「ここに来たこと後悔させてやるさ」

 

サイモンは先端を斜めに切ったモップの持ち手を非戦闘員の人達に投げ渡した。

 

「最悪俺達が死んで敵が入って来たらこれで敵をブッ刺せ」

 

「マシンガン持った相手にこんなので戦えって言うの⁉︎」

 

若い女性職員がサイモンに非難の声を上げた。

 

「武器があるだけマシだろ。それと、マシンガンじゃなくてアサルトライフルだ。ほらお前らは下がってろそこに居ると流れ弾に当たるぞ」

 

サイモンはそう言うと入り口の前に作られた即席の防衛陣地を見た。これで敵の5.56ミリ弾を防げるかどうか怪しいが何も無いよりは良い。

 

「そう言えばエマとエレナは街の方に行ってるんだったよな?」

 

「あぁそう言えばそうだね」

 

「アイツら襲撃のことは知らないだろうから教えとくか」

 

サイモンは無線機を手に取ると周波数を合わせた。

 

「こちらサイモン!本社がエイレーネーの襲撃を受けた!」

 

無線機の奥でエマの驚く声が聞こえた。

 

《状況を詳しく教えて》

 

驚くエマに対しエレナは冷静に聞いて来た。

 

「敵は既に2号棟と正門ゲートと1号棟と演習場に侵入して来ている。今俺達は2号棟内で即席のバリケード作って何とか防衛しようとしてるんだが武器が無い。1号棟に取りに行こうにも包囲されてて行けない。今は敵から奪ったM4と拳銃一丁で何とか防衛してるが長くは持ちそうにない」

 

《了解。直ぐにそっちに向かうから待ってて!》

 

「頼りにしてるぜ」

 

そう言ってサイモンは通信を終えた。

 

「何て言ってた?」

 

「直ぐにそっちに向かうから待ってて。だってさ」

 

アリーナは失笑した。

 

「でもここに来るまで30分はかかるよね?」

 

ここから街までの距離は約80キロ、時速130キロのノンストップで走ってもここに着くまでには35分はかかる。

 

「そうなんだよなぁ・・・・結局、俺達だけで何とかするしか無いって事だな」

 

はぁ・・・っとため息をついたサイモンはビリヤード台の上に座ってポケットからアメリカンスピリットの箱を取り出すと箱からタバコを取り出して咥えるとジッポーで火を付けた。

 

「俺にもくれ」

 

カールとビルがタバコを吸っているサイモンを見て寄って来た。「自分の持ってるだろうが」と言いつつカールとビルにアメリカンスピリットを渡した。すると俺も私もと掃除組全員が集まって来た。

 

「だからお前ら自分の持ってるだろーが!」

 

「良いじゃん。縁担ぎみたんな感じで」

 

アリーナはそう言いながらサイモンの咥えていたタバコを人差し指と中指で挟んで取ると自分が咥えた。

 

「お前平気でそう言うことするよな」

 

「ドキッとした?」

 

アリーナはサイモンに向かって妖艶に微笑んだ。

 

「いや全く」

 

「面白く無いなぁ〜」

 

サイモンはアリーナの顔に煙を吹きつけた。

 

「何度も色気仕掛けされたらマンネリ化するっての」

 

「う〜ん、もっと刺激の強いものを考えなきゃかな?」

 

「そもそも色気仕掛けしようとすんな。ビッチって呼ぶぞ」

 

「どーぞお好きに」

 

「お前らイチャつくなら別の場所でやれ」

 

サイモンとアリーナのやり取りを見ていたビルがP225の動作確認をしながら言った。アリーナはサイモンから離れると机の上に置いていたM4CQB-Rを手に取るとマガジンを抜いて残弾を確認した。廊下の奥から足音が聞こえて来る。恐らく敵だろう。

 

「それじゃ、悪足掻きをしますか」

 

「あぁ」

 

サイモン達は遮蔽物に隠れながら銃口を廊下の方に向けた。




どうだったでしょうか?本当はエマが本社に着いて敵と戦うところまで書こうと思っていたのですが時間と文字数がとんでもないことになりそうだったので切り上げてここまで書いて投稿しました。

そしていつも誤字報告してくださりありがとうございます。とても助かってます!

それと、次回の投稿はリアル事情により遅れてしまう可能性があります。気長に待ってくれると嬉しいです。

次回はエマ視点に戻って本社でドッタンバッタンの大騒ぎになる予定です。お楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第21話 渦中へ

皆さんお久しぶりです!そしてお待たせしました第21話です!リアルが色々と忙しくて書く暇が無かったのですがやっと投稿することが出来ました。急ピッチで書いた所なので所々おかしな所や誤字などが色々とあるかもしれません。それらは見つけ次第修正していきたいと思っています。


サイモン達が敵部隊と交戦を始めて約15分、先程まで激しい銃撃戦が娯楽室と廊下の間で行われていたが敵部隊はサイモン達の予想以上に激しい抵抗に怯み一時撤退し体制を立て直しを図った。

 

「チッ」

 

サイモンは弾切れになったM586を見て舌打ちをした。元々護身用として持ち歩いていただけだったので予備弾薬もそんなに多くは持ち歩いていなかった。逆にここまで待ったのが奇跡的だ。敵から奪ったM4CQB-Rは戦闘が始まって直ぐに弾切れになった。その後は拳銃だけで戦っていたわけだがその拳銃の弾も尽きてしまった。

 

「アリーナ、弾はまだ残ってるか?」

 

「後1マガジン分はあるよ」

 

と言ってアリーナはグラッチに最後のマガジンを入れた。他の人達も1マガジン分残っているかどうかしか弾は残っていない状況だった。次敵が攻め込んで来たらサイモン達は確実に撃ち殺されてしまうだろう。どうしようかと考えていたサイモンはふと廊下の方を見た。そこには自分達が撃ち殺した敵兵が何人も倒れていた。

 

「あ、良いこと思いついた」

 

「お前が思いつくものは大抵ロクなもんじゃねぇだろ」

 

サイモンの横にいたビルが言った。サイモンはビルの言ったことを無視して廊下の方を指差した。

 

「弾が無いならアイツらから奪えば良いんじゃね?」

 

サイモンが指差した先には廊下に倒れている死んだ敵兵達。未使用のマガジンがマガジンポーチに入っているのも確認できる。しかし廊下の向こう側にある曲がり角の先には撤退した敵部隊がいる。弾を取りに行くと言うことは敵に自ら接近すると言うことになる。

 

「ほーらロクなもんじゃねぇ」

 

「じゃぁ何か良い案があるのか?」

 

ビルは暫く考えたが何も答えることは出来なかった。

 

「無いだろ?」

 

「チッ、ムカつく野郎だ」

 

「じゃ、あたしが行く」

 

「おいちょっと待て!」

 

サイモンの制止を聞かずアリーナは弾痕だらけになったボロボロの防衛陣地を越えて廊下に出た。しゃがんだ状態でなるべく音を立てないようにゆっくりと歩いて行く。サイモン達はいつ敵が出て来ても良いように銃口を曲がり角に向ける。

 

アリーナは敵兵の遺体のそばまで歩み寄ると敵の装備を漁り始めた。M4CQB-Rとその予備マガジンを持てるだけ持ってアリーナは来た道を戻りサイモン達に渡すとまた取りに行った。

 

3往復目の時にアリーナが装備を漁っていると曲がり角の方から物音が聞こえて来た。アリーナは装備を漁るのをやめて死体から取ったM870を構えつつ後ろに後退する。次の瞬間曲がり角から敵兵が出て来た。アリーナは敵兵が銃を構えるよりも早く狙いを定め発砲。至近距離で散弾を食らった敵兵は後ろに倒れた。アリーナは敵から奪った手榴弾を曲がり角の方に投げ込んでから防衛陣地まで走って飛び込んだ。直後敵からの銃撃が始まった。

 

「それくれ!」

 

アリーナはサイモンにM870を投げ渡し自身はM4CQB-Rを構えてセミオートで撃つ。結局取ってこれたのはM4CQB-R 1丁と予備マガジン12個、そしてM870 1丁とバックショット弾9発。しかし厳しい状況には変わりない。

 

弾も多くは無いのでなるべく無駄弾は出さないように敵が出て来た瞬間にセミオートで撃つ。

 

「そう簡単に突破出来ると思うなよッ!」

 

銃撃は激しさを増して行った。

 


 

サイモンから本社が襲撃を受けたとの報告を受けてから約25分。全速力で走っているが本社までにはまだ距離がある。

 

《もっとスピード出せない?》

 

僕はアルバト595を運転しているFNCに言った。

 

「これで全開だよ!」

 

FNCは先程からアクセルはベタ踏みしたままで、既に速度は130キロを超えている。全速力で向かっているのは分かっているのだが僕達が本社に到着するまでにネルソンやサイモン達は追い詰められ、殺されるかも知れない。そんな不安と何も出来ない今の状況に焦ったさを感じている。

 

「大丈夫。ネルソン達はそんな簡単に死ぬタマじゃ無いから」

 

僕の心情を察してからか、安心させるようにエレナは微笑みそう言った。確かに、ネルソン達はとても強いからちょっとやそっとでは死なないと思うが、やはり不安だ・・・。

 

ナビの横に備え付けていた無線機から《FNC、応答せよ》と声が聞こえて来た。運転中のFNCの代わりにM200が無線機を取った。

 

「こちらM200。FNCは現在運転中で手が離せません。どうぞ」

 

《詳しい話は後だ。バローで君達を回収する。準備を》

 

「了解です。合流地点は?」

 

《目の前だ》

 

突然車の上を大きな物体が通過したかと思うとそれは車の前に出た。派手に土煙を上げるそれはFNCとM200が所属するクレセント社が運用しているV-280 バローだ。FNCがアクセルを緩め速度を落として停車させるとバローはランディングギアを出して目の前に着陸した。バローの機体側面のスライド式ドアが開く。

 

「アレに乗るよ!」

 

FNCはアルバト595のエンジンを切ってから降りた。M200もその後に続く。横を見てみるとエレナも降りようとしていたので僕もアルバト595から降りた。FNCとM200はバローに乗り込むと僕達に乗るように手招きをした。僕とエレナもバローに乗り込んだ。バローは僕達が乗ったのを確認するとすぐさま離陸した。

 

僕がバローに乗るのはこれで2回目だな。まぁ1回目の時は墜落した奴だったから壊れていないのに乗るのは今回が初めてだな。

 

機内はUH-1やブラックホークのキャビンを一回り大きくしたような感じ。座席は左右に向き合うように設置してあり、その座席には武装した女性達が座っていた。と言うかI.O.P社の雑誌で見たことある奴が何人か居るな。この人達戦術人形か。その中の1人が立ち上がった。あ、この人知ってるぞヴェクターだ。ヴェクターは手に持っていたアサルトライフル(FNC)と予備マガジンの入ったマガジンポーチをFNCに渡した。FNCは銃を受け取りマガジンポーチを腰につけた。同じ様にM200にも大きな狙撃銃を渡し予備マガジンなどの装備を渡して行く。

 

「状況を説明してもらえる?」

 

エレナが聞くとFNCとM200に装備を渡し終えたベクターはエレナの方を向き答えた。

 

「私達はL&M社救援に来たの。詳しい話はK11から聞いて」

 

と言ってヴェクターはエレナの目の前に通信用端末を出した。。スゲェ!これ話し相手の姿とかがホノグラム映像で出るヤツじゃん!金持ってるなぁクレセント社。端末の上にK11の姿がホノグラム映像で現れた。

 

《やぁやぁまた会ったね。話は聞いてるよ。本社が襲撃されたそうだね》

 

「そうだけど何でアンタ達が出てくんの」

 

《貸しができたらそれを返して逆に貸しを作るってのがウチのやり方でね。本当はあたし達が行きたかったんだけど別の任務で忙しくてね。代わりに暇してた彼女達に行って貰ったって訳さ。それと、君達にプレゼントがある。奥に座っている人にちゅーもーく》

 

言われた通り奥に座っている人に視線を向ける。すると白いフード付きのマントを着た少女が立ち上がt

 

 

【挿絵表示】

 

 

ってこいつエイレーネーに居たケモミミ人形じゃねぇか!思わず僕は後ずさりした。僕だけではなくエレナもFNCも驚いている。

 

「何でアイツが居るの⁉︎」

 

《皆んな良いリアクションするねぇ》

 

K11はまるで悪戯が成功して喜ぶ子供の様にニヤニヤと笑っている。

 

《彼女はメンタルモデルを書き換えられていたんだ。詰まる所洗脳みたいな感じだな。あたしが徹夜で作業してメンタルモデルの修復をして元に戻した。まぁ完全ではないけど》

 

あ〜そう言えば昼にFNCそんなこと話してたな。エイレーネーに居た人形達は洗脳されているとかどうとかってやつ。と言うかK11がメンこの娘ほメンタルモデルをしたのか凄いな。

 

「完全じゃ無いって言うのはどう言うこと?」

 

《彼女はメンタルモデルを書き換えられ、命令を必ずこなす戦闘マシーンとして使われていたようなんだよね。ボディーの方も違法改造とかをして身体能力を上げていたし。戦闘に必要な無い感情、又は過去の記憶などは全て消されていたんだ。だからこの娘の元の人格がどんなだったか分からない。治せるだけ治したが消された過去の記憶を復旧させることは出来なかったし人格も完全に元に戻すことは出来ず無口無表情な奴になっちった》

 

え〜っとつまり彼女はメンタルモデルを弄られちゃったせいで過去の記憶は消えていてしかも元の人格も消えてしまったと。可哀想だな・・・。

 

《でも戦闘面は問題ないよ。あの高い戦闘能力は健在だ。従順で命令を受けたらその任務を必ず完済してくれること間違いなしだ》

 

彼女の強さは僕もよく知っている。僕達アサルト部隊のメンバーを次々と倒して行ったのはついこの間の事だ。弾丸をヒラリと躱し、正確無比な射撃で敵を殺す。その姿は正に鬼神だ。そんな彼女が仲間になってくれるのならとても心強い。

 

「プレゼントって言ってたけど私達に渡しちゃって良いの?それともこれも貸しを作る為?」

 

《まぁそんなもんかな。彼女からエイレーネーに関する情報は全て引き出したし、ウチは充分戦力は揃っているしから彼女がいてもいなくても問題ないし。それじゃ、幸運を祈るよ。あぁそれと、彼女の名前はルナって言う名前だ。大切にしてやれよ?》

 

と言ってK11は通話を切った。ルナの方を見てみると無表情のままこちらを見ている。

 

《よ、よろしく・・ね?》

 

「・・・・」

 

ルナは何も言わ無かったが返事の代わりに頷いてくれた。声をかけても無視されてしまうのではないかと思っていたけど最低限の意思疎通は出来るみたいだ。

 

「私は第2戦闘部隊ツヴァイの隊長ヴェクターよ。よろしく」

 

通信用端末を懐にしまったヴェクターが僕達の方を見てそう言った。僕は「よろしくお願いします」と言ってお辞儀しといた。

 

「SMGだらけだけど貴方達はCQB(近接戦闘)が専門の部隊?」

 

確かに、座席に座っている人形達はMP7、MP5、P90、スコーピオンEVo3、M590とどれもこれも近接戦闘が得意な人形ばかりだ。

 

「その通り。私達は市街地戦や室内戦などのCQBを専門とする部隊よ」

 

「皆んなすっごく強いんだよ!」

 

FNCが誇らしげに言って来た。だろうなぁ。目の前のヴェクターなんてザ・強者って感じがするもん。

 

「向こうの最新の情報を知りたいんだけど、向こうと連絡は取れる?」

 

「できるよ」

 

エレナは無線機を取り出すとトークボタンを押した。

 

「こちらエレナ、現在クレセント社の部隊と共にそちらに急行している。そちらの現在の状況は?」

 

返事は意外と早く来た。発砲音らしき音と共にネルソンの声が聞こえて来る。

 

《こちらネルソン!正門は突破されて現在2号棟の玄関付近て交戦中!他の所でも戦闘が起きているみたいだが、詳しくは分からん!》

 

「了解。あと少しで着くので待ってて」

 

ネルソンと通話を終えると、無線機の周波数を変えるとまたトークボタンを押した。

 

「こちらエレナ。サイモン、生きてる?」

 

無線機からは雑音が聞こえて来るだけで、いくら待ってもサイモンからの返事は来ない。まさか・・・・。

 

「サイモン、聞こえてるなら返事をして」

 

やはり返事は返って来ない。

 

《もしかしてもう「ちょっと静かに」・・・》

 

もう殺されてしまったんじゃ。と言おうとしたらヴェクターが手で口を塞いで来た。言われた通り僕は静かにする。ヴェクターは無線機に耳を近づけている。僕も無線機に耳を傾ける。すると微かにだが何かを叩く音と何かを擦っている音が聞こえてた。

 

「モールス信号!」

 

音の正体に気づいたエレナが思わず叫んだ。普通のモールス信号なら僕もある程度分かるぞ。

 

ー・ー・()ー ー ー ー・ ・()・ ・ ー()・ ・ ー ・ ・()・ ・ ー()・ ー ・ ・()・ ー ・ ー・()・ ・ ・()・ ・ ・ ー()

 

2号棟が陥落してしまったようだ。でもこうやってモールス信号を送って来ているって言うことはサイモンはまだ生きているようだ。わざわざモールス信号で話して来たって言うことは今サイモンは声が出せない状況ってことか。

 

ー ・ ー()ー ー ー()ー ・ ・ ・ ・ ・()ー ー ・ ー ・()ー ー()ー ・ ・ ・()・ ー()ー ・ ー ・()ー ー ー ー ・ ・()・ ・ ・()・ ・ ・()・ ー ・ー ー()ー ・ ー ・ ・()ー ・ ・ ・()・ ・ ー ・()

 

我場所第二娯楽敵8。成る程、ネルソン達は4階の第2娯楽室に居るのか。そして近くに敵が8人居ると。

 

「了解。もう少しで着くから待ってて」

 

エレナは小声でそう言うと急いで周波数を変えてネルソンに繋いだ。

 

「こちらエレナ。2号棟は陥落し、、サイモン達は敵に捕まっている模様」

 

《了解した。すまないがお前達がサイモン達を助けに行ってくれ。こっちは今手が離せない》

 

「了解」

 

通信を終えたエレナはヴェクターの方を見た。ヴェクターもエレナが言おうとしていることを察したらしく頷くと座席に座っていた人形達の方を向いた。

 

「我々はL&M社の2号棟へ突入し、4階の第2娯楽室で囚われている人達を救出する。報告によると敵の数は8人らしいけど、それ以上いる可能性もある。救出後は他の敵部隊の殲滅も行う。いつも通り、慌てず急いで慎重に行くよ」

 

「「「了解!」」」

 

人形達は一斉に返事をすると各々準備を始めた。頼もしい限りだな。

 

「それじゃ、私達も準備しますか」

 

と言ってエレナが戦闘の準備を始めるがここで問題発生だ。今日は街に行くだけだと思っていた僕は武器を何も持って来ていない。拳銃は愚かナイフも無い。エレナを見てみると懐からいつも使っているHK45では無くグロック26を取り出している。

 

「もしかして銃持って来て無いの?」

 

何もせずエレナの方を見ていた僕に気づいたエレナが聞いて来た。

 

《す、すいません・・・」

 

「非番の時でも護身用に持っとけって言わなかったっけ?」

 

《ごめんなさい・・・》

 

「これ使って!」

 

FNCが小さなバックから何やら拳銃を取り出すと僕に渡して来た。名前は分からないが銀色のリボルバーだ。って言うかそのバック、サイフとかが入っているだけだと思っていたけど拳銃入れてたのかよ

 

《・・・これは?》

 

「M327 PDって言うリボルバーだよ」

 

シリンダーを左に張り出して弾を確認する。装弾数はなんと8発。リボルバーにしてはなかなか多いな。使用弾は357マグナムのホローポイント弾。ストッピングパワーは十分あるな。

 

《これってダブルアクション?》

 

「もちろん!あ、それとこれ予備の弾」

 

FNCは小さなバックからスピードローダーを5つ取り出した。

 

《ありがとう大切に使うね》

 

僕はスピードローダーを受け取りポケットに入れるとFNCに微笑みながらお礼を言った。

 

 

 

それから数分でバローはL&M社に到着した。このバローは巡航速度が520キロにもなり、ヘリコプター、ティルトローター機の中では1番早いと言われている。その速さは伊達では無かった。L&M社は僕が予想していた以上の被害を受けており、複数の車両が破壊されていたり、火災が発生したりしており、大型のレーダーアンテナが根元から折れて倒れていた。

 

《敵機視認出来ず。どうします?》

 

バローのパイロットがヴェクターに聞いた。ネルソンの報告によると戦闘ヘリも来ているとの事だったがその戦闘ヘリの姿は何処にも見えない。もしかしたら燃料か弾切れで一度補給に帰っているのかも知らない。となれば今が着陸するチャンスは今だ。窓からL&M社の様子を見ていたヴェクターは指示を飛ばした。

 

「2号棟の屋上に降ろして」

 

《了解》

 

バローは速度と高度を落としながら、ローターを上に向けて水平飛行からホバリングに移行する。MP7達も立ち上がると、バローのサイドドアを開けていつでも降りれるように準備する。

 

バローが2号棟屋上の真上でホバリングする。それと同時にMP7達が降下用のロープも使わずに飛び降りた。人形だからこその降り方だな。って、僕もロープとか無しで飛び降りろって言うんですかい?高さは約10メートル程。数字にしてみればそんなに高くないように思えるが、実際見てみると結構高く感じる。着地したMP7達は銃を構えて四方を警戒している。

 

僕は高さにビビってドアの前でたじろぐ。するとエレナに背中を押され、僕はバローから落ちた。何とか着地出来たが足の裏が痛い。エレナを睨むがエレナは知らんぷり。エレナをエレナとヴェクターとルナも降りて来た。M200は別の所に降りて援護してくれるそうだ。

 

僕達を降ろし終えたバローは敵から攻撃を受けない内にエンジンの出力を上げてその場を離脱する。

 

僕達は階段を降りて2号棟内に入ろうとしたが、ドアが開かない。M590がドアノブを回し押したり引いたりしているがどうやら内側から鍵がかけられているようだ。M590は同じ名前のショットガンの銃口をドアの蝶番に向け、発砲。

 

ダン!カッシャ。ダン!カッシャ。とスラグ弾を2発撃ち込み上下の蝶番を破壊した。続け様にM590はドアを思い切り蹴って吹き飛ばした。それと同時にMP7達が銃を構えながら中に突入する。僕達もそれの後に続く。

 

敵の姿は無かったが、廊下に敵の死体やL&M社社員の死体。大量の薬莢や弾痕などがあり、ここで銃撃戦があったことが容易に分かった。更に死体の数などは下の階に行くにつれて多くなっている。顔見知りなどがいた訳では無かったがとても怒りと悔しさがこみ上げて来た。手に持っていたM327 PDのグリップを強く握り締める。

 

最上階から5階に降りて来た。ここまで敵には出会っていない。そしてここは銃撃戦の跡も死体も殆ど無かった。不気味な程静かな廊下を僕達はゆっくりと周囲を警戒しながら進んで行く。部屋も一つ一つ敵か生存者がいないかドアを開けて中を確認して行く。

 

廊下を歩いていると突然ルナがHK433を構え、前方にある部屋のドアに銃口を向けた。するとその部屋のドアが開き、中から黒色の戦闘服を着てM4CQB-Rを持った兵士が2人出て来た。ルナが誰よりも早くトリガーを引いた。

 

弾は敵の心臓部に命中したがレベルIIIA〜III相当の優秀な防弾チョッキを着ているようで、弾は貫通していないようだ。しかし衝撃までを防ぐことは不可能なので、敵は撃たれた所を手で押さえてよろめいた。その隙にルナは敵の顔に5.56ミリ弾を撃ち込み、もう1人の顔にも食らわせた。無防備な顔を撃たれた2人はその場に崩れ落ちた。この間僅か1.5秒程。敵が反撃する暇も無く倒してしまった。と言うか洗脳されていたとは言え、また仲間を何の躊躇も無く撃ったよこの娘。

 

銃声を聞きつけたのか後ろから別の敵兵がやって来たが、それは後ろを警戒していたスコーピオンEVo3が撃ち殺してくれた。

 

「他の敵が来る前に移動するよ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

僕達はネルソン達が捕らえられている第2娯楽室に向かった。階段を駆け下り、廊下を走る。敵が2人廊下に立っていたがヴェクターとMP7が撃ち殺した。更に廊下を進み、曲がり角を曲がると娯楽室の入り口が見えた。激しい銃撃戦で入り口はボロボロになっており、ドアは無くなっていた。僕はM14EBRを構え娯楽室に突入する。

 

しかし走り出した瞬間に後ろの襟を誰かに掴まれた。そして僕は後ろに引っ張られて廊下の曲がり角に無理矢理連れて行かれた。振り向いてみると襟を掴んでいたのはエレナだった。エレナは僕の頭にゲンコツを食らわせると怒鳴った。

 

「無闇矢鱈に突撃してんじゃないよ!」

 

《す、すいません・・・》

 

「貴方はここに残ってて。後は私達に任せて」

 

部屋の様子を伺いながらヴェクターが僕に言った。いやいや、僕だけここでお留守番ってのは納得いかないよ!

 

《私も行きます!》

 

「あんた室内戦苦手でしょうが、大人しくここで後方警戒をしてて」

 

確かに訓練の時とかは室内戦の成績はあまり良くなかったけどさぁ。僕まだ1人も敵倒していないんだけど⁉︎と言うかまだ1発も撃って無いんだけど⁉︎

 

色々言ってみるが効果は無し。本当に僕はここでお留守番のようだ。へいへい、大人しく後方警戒でもしときますよーだ!僕は隣に立っていたルナに話しかけた。

 

《ルナ、僕の代わりに敵を倒して来て!》

 

ルナは何も言わず頷くとHK433を構え直した。P90を先頭にして娯楽室に彼女らは向かう。

 

部屋にスタングレネードを投げ込み、爆発後色々な家具などで作られたバリケードを乗り越えて部屋に突入。P90は目の前に居た敵を素早く撃ち殺し、次に左に居た敵を撃つ。後からやって来たMP7が右側に居た敵に照準を合わせて撃つ。P90とMP7の使用する弾薬はどれも防弾チョッキを貫く為にされた物なので貫通力が非常に高い。それに、いくら5.56ミリ弾を防げる防弾チョッキと言えども同じところに何発も食らうと弾は貫通してしまう。

 

ヴェクター、MP5も部屋に入ると敵を撃ち殺して行きルナとエレナもも部屋の入り口から援護射撃をする。2〜3秒程度で娯楽室は制圧されてしまった。

 

「状況報告」

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「オールクリア!」

 

ヴェクター達は構えていた銃を下ろすと人質となっていた人達の方を見た。エレナはその中からボロボロになったアリーナとサイモンを見つけた。口にガムテープを付けられているせいで何かモゴモゴと言っているが何と言っているのかは分からない。エレナはガムテープ剥がした。

 

「遅かったじゃねぇか。お花摘みにでも行ってたのか?」

 

「あんたの棺桶を買いに行ってたんだよ」

 

《サイモンさん!アリーナさん!》

 

僕も遅れて部屋に入ると2人の名前を呼びながら2人に駆け寄った。2人とも無事みたいだし良かった良かった。

 

「ここの制圧は私達に任せて、貴方達は仲間の所に行って」

 

「この美人なねーちゃん達は誰だ?」

 

敵の死体からM4CQB-Rや手榴弾などの武器や装備を奪い取りながらサイモンがヴェクター達を見て聞いて来た。

 

「クレセント社の連中」

 

「成る程ね。じゃぁ俺はお前らに一つ貸しを作っちまった訳か」

 

準備を終えたサイモンはヴェクターの方を見ると「助かった。ありがとう」と言った。

 

「ちょ⁉︎何でこいつが居るのさ⁉︎」

 

アリーナがルナの姿を見て驚いた。サイモンも遅れてルナの存在に気付き「うぉ⁉︎」と声を上げて後ずさった。エレナが2人にルナのことについて簡単に説明すると2人とも理解してくれた。

 

「で、この状況をどうやって打開する?」

 

「あそこにいるM-ATVとかが邪魔だよな」

 

エレナとサイモンが窓から演習場を見ながら言った。見てみると、演習場には上にM240などの機関銃を装備したM-ATVやハンヴィーがおり、更にその車両に随伴する歩兵もそれなりの量が居るのでなかなか面倒だ。

 

「あ、そうだ」

 

サイモンが何か思いついたようで、ニヤリと笑うと壁に設置してある館内有線機の受話器を手に取り誰かに話し掛けた。館内有線機とは文字通りこのL&M社の社内で連絡が取れるようにと用意された物で、食堂、社長室、風呂場などそれぞれの部屋にこれは設置してあり、これで他の部屋と連絡を取ることが出来る。有線通信なので電波妨害を受けて無線機が使えない状況でも館内有線機は使える。

 

「班長か?俺だ。サイモンだ。・・・・あ?まだ死んでねっつーの!勝手に殺すな。・・・・あぁそれで"クロコダイル"は動かせないのか?・・・何だ、そっちもその気だったのか。・・・・じゃぁ俺達はその後に続く。精々派手に暴れてくれ」

 

相手の話し声が全く聞こえなかったが、どんな会話をしていたのかはある程度分かった。しかしクロコダイルとは何なんだ?サイモンの話的にはそれを使って何かするつもりのようだ。

 

「班長達がクロコダイルを用意しているようだから、その騒ぎに乗じて俺達も行くぞ」

 

「成る程。確かにアレが有ればあそこの連中も何とかなりそうだね」

 

「コンタクトッ!」

 

サイモンとエレナが話していると廊下の方を警戒していたスコーピオンEvo3が叫ぶと同時に発砲した。僕達は急いで遮蔽物に隠れてから廊下の方を見てみると敵がゾロゾロと集まって来ていた。P90が装弾数の多さに物を合わせてマシンガンのように弾をばら撒き敵を牽制する。敵はその銃撃に怯み廊下の曲がり角に隠れてしまった。その隙にヴェクターはM18スモークグレネードを廊下に2個投げ込んだ。たちまち廊下に濃い白色の煙が充満する。

 

「今の内に行って!」

 

「サンキューな!今度一緒にメシ食いに行こうぜ!」

 

と言っサイモンは部屋から出ると反対方向にある階段に向かって走って行った。エレナも短く礼を言ってから後を追った。

 

「またね!おねーちゃん!」

 

敵を1人撃ち殺したFNCが笑顔で僕の方に手を振りながら言った。僕もFNCに手を振る。

 

《色々とありがとうございます!ルナ、援護して!》

 

僕はヴェクター達に向かって軽くお辞儀をするとN327 PDを構えて部屋を出た。ルナは僕がお願いした通り敵の方に弾をばら撒いて牽制してから僕の後を追って来た。

 

階段を駆け下りサイモン達に追い付くとそのまま一階へと向かう。下の階からドタドタと足音が聞こえて来た。見下ろしてみると5〜6人程度の敵兵がこちらに向かって来ていた。

 

僕は階段から身を乗り出してM327 PDを構えて敵を狙う。ハンマーを上げてよく狙いトリガーを3回引いた。放たれた3発の357マグナム弾は1発が手前の壁に当たったが残りの2発は敵兵の左肩と胴体にそれぞれ当たった。撃たれた敵兵は左肩を右手で押さえながら後ろに倒れた。敵が僕の存在に気づきM4CQB-Rの銃口をこちらに向けて来た。僕は慌てて後ろに下がって隠れた。ルナが僕の前に立ちHK433を構えると敵の方に発砲。サイモンとアリーナも敵の方に撃ちまくる。僕がもう一度下を見た時には生きた敵は居なかった。

 

敵の死体を乗り越えて更に階段を下りていると突然ルナが立ち止まり僕を背中に隠した。何だと思いルナの背中から覗くと僕の横にあったドアにルナは銃口を向け、3発弾丸を撃ち込んだ。

 

「何⁉︎」

 

突然の発砲にサイモンとエレナも少なからず驚いた。エレナが3つの風穴が空いたドアを開けてみると、敵兵が血を流して倒れていた。まさかドアの向こう側に居る敵き気づいて僕を守ってくれたのか?

 

「探知能力たっけーな」

 

サイモンが感心したように言うが当の本人は無表情のままだ。

 

「コイツ先頭にした方が良いんじゃない?」

 

エレナそう冗談半分に言うとルナは無言のまま先頭に立ち階段を降り始めた。そんなルナを見たサイモンとエレナはお互い肩を竦めるとルナの後を追って階段を下り始めた。

 

その後は敵に遭遇することも無く、無事一階まで降りて来ることが出来た。外に出ようとしたが、敵の数が多く下手に出られない。物陰から敵の動向を監視しながら僕はサイモンに聞く。

 

《どうします?》

 

しかし今サイモンはスロートマイクを付けておらず僕の声は聞こえていなかったので、エレナが代わりに答えてくれた。

 

「クロコダイルが出て来るまで待機」

 

さっきからサイモン達が話しているクロコダイルとは何のことなんだ?エレナに聞いてみるか。

 

《そのクロコダイルって何なんですか?》

 

「見てからのお楽しみ」

 

エレナはそう言って不敵に微笑むとガレージのある方を見た。

 

 

そのガレージ内では、一時期世界最強とまで言われた陸戦の王者が目を覚まそうとしていた。




どうだったでしょうか?少し小説を書いていなかったら色々と書き方などを忘れかけていました。やばいやばい。

ルナちゃんが仲間になだったぞ!やったね!HK433は見た目がかっこよくて好きなんですよね!噂だとCOD MWにも登場しているとか。

次回は私が前から書いてみたいと思っていた戦闘シーンを書く予定です。しかしあんまりエマちゃんの活躍シーンは無いかもしれません(主人公なのに活躍シーンが少ないとはこれいかに)。

いつもご感想、誤字報告をしてくれる方々本当にありがとうございます!次回も楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第22話 反撃

皆さんメリークリスマス!皆さんの家にサンタさんは来ましたでしょうか?私はCIWSを配備してサンタを待っていましたが来てくれませんでした。そしてお待たせしました22話です!今回は私が前から登場させたかった兵器を登場させます!


L&M社で使用する車両の整備や修理を行う施設、通称「ガレージ」の中では整備員達が忙しそうに走り回っていた。敵の戦闘ヘリの対戦車ミサイルがガレージに命中し一部が大きく吹き飛んだが、外側の被害に比べ中はそこまで被害は無かった。ヘリから降りて来た敵がガレージ内に侵入して来たが、整備員達はもしもの時にと用意していたAK-74やMP5などを手に取り侵入して来た敵部隊相手に果敢に戦った。

 

多くの犠牲を出しながらも何とか整備員達はガレージは守りきり、今は反撃の為の準備を進めていた。

 

サングラスがトレードマークの整備班班長のトーマスはOD色のタンクジャケットを来た男、エゴロフに話しかけた。

 

「燃料は3分の1だけ入れた。ここら辺を走り回る位は出来る。壊れてた右側の転輪の修理は完了した。どんな所だって走れるぜ」

 

「弾薬は?」

 

HE(榴弾)9発、APHE(徹甲榴弾)6発しか用意出来なかった」

 

「火炎放射器の燃料は?」

 

トーマスはエゴロフに親指を立てた。

 

「満タン」

 

それを聞いたエゴロフはニヤリと笑った。

 

「充分だ」

 

エゴロフはオーバーホールをし終えたばかりのクロコダイルに歩み寄る。既にエゴロフの部下であるパーカー、イアン、アルドの3人は準備を済ませておりクロコダイルの上に乗ってエゴロフを待っていた。

 

「久し振りに暴れられる感じか?」

 

クロコダイルの砲塔の上に座っていたイアンが聞いた。

 

「あぁ。外の煩い連中を黙らせる」

 

「敵は小銃を持った歩兵と装甲車だけだ。コイツの敵じゃ無いな」

 

砲身に手を置いて立っていたパーカーが言った。

 

「ヘリはどうするんだ?」

 

パーカーの横にいたアルドが聞いた。好戦的で怖いもの知らずの彼らが恐れる存在である戦闘ヘリ。アレが空を飛んでいる間は安心して地上を走ることは出来ない。

 

「それは俺達に任せろ」

 

エゴロフの斜め後ろにいたトーマス整備班長はそう言うと、近くにいた整備員に「アレを持って来い」と命令した。整備員がOD色の長方形の箱を台車に乗せて運んで来た。

 

「コイツであの鬱陶しいハエを撃ち墜とす」

 

「使い方分かるのか?」

 

イアンが班長に聞いた。整備士としての腕の良さは知っているが、銃火器を扱っている所は見たことがなかったからだ。

 

「こう見えてもおらぁ若い頃は陸軍兵だったんでな。扱いには慣れてる」

 

「へぇ。それは初耳だ」

 

「まぁ兎に角、地上の方はお前らに任せたぞ」

 

「任せてくれ。お前ら行くぞ!」

 

「「「FUBAR(フーバー)!」」」

 

エゴロフ達4人のクルーはハッチを開けると車内に入り、発進準備を始める。運転手のパーカーは車内に滑り込むと色々とスイッチを押した後に摘みを回しエンジンをかけた。キュンキュンキュン!ガロロロンッ!と重々しい音とともにエンジンが始動し、車体の横の排気口から白い煙が吹き出る。エンジンの振動に合わせて車内のあらゆる物が揺れ始める。クルー達はヘッドフォンを装着した。エンジンが動いてる状態での車内は自分の声さえ聞こえづらくなる程煩い。

 

エンジンが無事に始し、動き始めたのを確認したエゴロフは車長用のハッチから上半身を出し、トーマス班長に向かって親指を立てた。トーマス班長はそれを見て頷くと上のキャットウォークにいる部下の方を見て叫んだ。

 

「おい!外の様子はどうだ?」

 

物陰から単眼鏡で外の様子を見ていた整備員は振り返ってトーマス班長の方を見て答えた。

 

「ブラッドレーが3両来てます!1両はシャッターの目の前に居ます!歩兵もうじゃうじゃ居ますよ!」

 

「エゴロフ聞こえたか!目の前にブラッドレーがいる。先ずはそいつを吹き飛ばしてくれ!」

 

トーマス班長はクロコダイルのエンジン音に負けない位の大声で言った。エゴロフは頷くと車内に戻りながら指示を出した。

 

「パーカー、APHE装填。次弾も同じだ」

 

「了解ッ!」

 

「イアン、前方にブラッドレーが待ち構えているから見えたら撃て」

 

「分かった」

 

パーカーはエゴロフに指示されたされた通り弾薬庫から榴弾を取り出し装填する。照準器を覗くイアンはいつでも撃てるように人差し指はトリガーに添えている。

 

目の前のシャッターがゆっくりと上に上がって行く。シャッターが3分の1程上がった時に、照準器にM2A3ブラッドレーを捉えた。イアンは前方のブラッドレーに照準を合わせるとトリガーを引いた。

 


 

僕達はクロコダイルと言うのが動き出すのを2号棟の1階で物陰に身を潜めて待っていた。既に待ち始めてから10分程時間が経過している。話の内容的にクロコダイルは何か戦闘車両なのだろうと僕は予測した。IFVとかだろうか?しかし待っている間に状況は悪化して行った。なかなかガレージを制圧出来ないことに腹を立てたのか、業を煮やしたのかは分からないが敵はM2A3ブラッドレーを引っ張り出して来た。それも3両だ。ブラッドレーから完全武装した一個分隊が降りて来る。M-ATVも来て更に歩兵は増えた。

 

3両のブラッドレーの砲塔に搭載されているM242ブッシュマスター(25ミリ チェーンガン)の銃身がガレージに向けられる。これは不味いんじゃないかと思っていると、ガレージの5つあるシャッターの1つが動き始めた。敵の歩兵部隊が一斉に銃口を開き始めはシャッターの方に向ける。

 

ゆっくりとシャッターは開いて行き、シャッターが3分の1程開いた時、突然爆音と共にシャッターが外側に吹っ飛んだ。それと同時にシャッターの前にいたブラッドレーが爆発した。砲塔の付け根やハッチから火柱が上がっている。爆発したブラッドレーの近くにいた歩兵部隊はガレージの中にいるヤツに向かって撃ちまくったが意味が無いと判断したのか「退避しろ!退避ーッ‼︎」と叫びながら一目散に逃げ始めた。その後を追うかの様にガレージから何かがエンジン音を轟かせてゆっくりと出て来た。

 

「T-55⁉︎」

 

低いシルエット、お椀形の砲塔。間違いない。ソ連が作った第1世代主力戦車T-55だ!ガレージから姿を現したT-55は逃げて行く歩兵達に砲身を向けると、主砲同軸機銃のある所から炎を吐き出した。炎は驚くほど遠くまで飛んで行き、逃げていた兵士達は全身を焼かれ、悲鳴を上げながらのたうちまわる。それを見て僕は納得した。何故あれがクロコダイルと呼ばれていたのかを。多分元ネタは同じように火炎放射器を搭載した歩兵戦車、チャーチル・クロコダイルだろう。

 

逃げていた敵を全て焼いたT-55は砲口を残り2両となったブラッドレーに向けた。2両のブラッドレーは全速力でバックしながらT-55に25ミリ弾を撃ち込む。しかしたとえ徹甲弾でもT-55の正面装甲は25×137mm弾では貫けない。対戦車兵器を持っていなかった歩兵部隊もブラッドレーと共に投げ始めるが、T-55の車内から体格の良い男が車長用ハッチから出て来ると砲塔上に対空用として装備されていると思われるブローニングM2重機関銃を操作して歩兵部隊を撃ち殺して行く。12.7×99mmのシャワーに加え、 火炎放射器から放たれた火炎も兵士達に襲い掛かる。

 

T-55の砲口から紅蓮の炎が瞬き、直径100ミリもの砲弾がバックで逃げていたブラッドレーの砲塔付け根に命中。派手な金属音を響かせたと同時に砲弾がブラッドレーの弾薬庫に誘爆し車体は内部から爆発。爆発の衝撃で砲塔が宙を舞った。

 

最後のブラッドレーはバックするのを止めると逆に全速力でT-55に突っ込んで行った。恐らくT-55の側面か後ろに回り込もうとしているのだろう。T-55の側面装甲厚は80ミリ、後部はもっと薄い。ブラッドレーに搭載されてあるM242はAPFS(装弾筒付き徹甲弾)APFSDS(装弾筒付き翼安定型徹甲弾)と言った高い貫通力のある弾も撃てる。至近距離からT-55の側面や後部にこれらを撃ち込めば撃破出来る。

 

T-55の方もブラッドレーがやろうとしている事に気づいたようで、背後と側面を取られないように車体をブラッドレーの動きに合わせて信地旋回させる。ブラッドレーは25ミリを撃ちまくりながらT-55の側面を取ろうと旋回する。T-55が主砲がブラッドレーに向き、直後発砲した。砲弾はブラッドレーの車体側面後部に当たり、車体後部の出入り用のハッチが吹き飛んだ。ブラッドレーの車体後部は兵員室となっているから恐らく兵員室内で砲弾が炸裂したのだろう。

 

そしてブラッドレーの動きが止まった。狭い車内で炸裂した砲弾の破片はブラッドレーに乗っていた砲手、車長、操縦士などの乗員全てをズタズタに引き裂いただろう。車内は地獄絵図なのは間違いない。

 

虎の子のブラッドレー3両全てが撃破されたことで戦意喪失した敵歩兵部隊は一斉に逃げ始めた。T-55は逃げる歩兵達に向かって火炎放射で燃やし、遠くの敵には榴弾を食らわせてまとめて吹き飛ばして行く。

 

「よし、行くぜ!」

 

サイモンを先頭にして僕達は敵が逃げ始めた隙に、2号棟から外に出た。12.7ミリを食らって下半身が無くなっていた敵からSCAR-Lとその予備弾薬を奪い取った。人生で初めて下半身が吹き飛んで無い死体を見たが、なかなかグロい。なる早く下半身の方を見ないようにしながら装備品を奪った。

 

前方で爆発音が聞こえて来たので、その方を見てみるとT-55の目の前の土が巻き上がっていた。続いて空から腹に響く重い発砲音が聞こえて来た。T-55の車体に当たった弾が跳弾するチューーン!と言う音や金属と金属がぶつかまたような甲高い音と共にT-55の車体のあちこちに火花が散った。銃撃により砲塔上に取り付けてあったM2重機関銃が破壊されてしまった。銃撃が終わると同時に僕達の真上を一気のヘリが通過して行った。

 

「カモフ52!」

 

コイツは不味い!ガッチガチの戦闘ヘリが来やがった!サイモンから戦闘ヘリが居るとは聞いていたけどさっきまで居なかったから存在を忘れてた。ロケット弾やミサイルを搭載しているところを見ると、燃料と弾薬を補給して来たな?

 

アイツならロケット弾を斉射するだけでT-55を破壊出来てしまう。それにT-55も僕達も有効な対空兵器を持っていない。これは不味い!

 

「そーら来たぞ!撃て!」

 

僕が焦っていると後ろから知らない男の人の声が聞こえて来た。撃てと言う指示の後、後ろから5発のミサイルがKa-52に向かって飛んで行きKa-52はフレアを放出しながら回避しようとしたが3発が機体に命中し、火だるまになりながらKa-52は地面に落ちて行った。背後を振り向いてミサイルを撃った主を見てみると汚れたツナギを着た人達がスティンガーを担いだ状態で立っていた。

 

ガレージにいた整備員達が撃ち落としてくれたのか?T-55の砲塔の上にある車長用ハッチが開き車長と思われる男が出て来た。男は整備員達の方を向くと親指を立てた。整備員達も手を振ったりしてそれに答えている。

 

男は僕達の方を見ると手招きをした。付いて来いと言うことだろう。T-55を盾にしながら僕達は前進する。演習場の端まで行くとT-55はコンクリート製の壁を破壊して踏み越えて行き、ネルソン達が敵の本隊と戦っている正面ゲートの方へ向かう。途中敵部隊に遭遇したりしたがT-55の火炎放射で焼き殺したり、僕達が撃ち殺したりして各個撃破して行く。

 

ネルソン達が頑張って敵本隊を食い止めてくれているお陰で先にヘリで降りた先行部隊以外社内に侵入している敵はいないようだ。1号棟の横にある駐車場に来ると大量の死体と大破したBMP-1やハンヴィーなどの車両があちこちにあった。どうやら側面を防衛していた人達はさっきのブラッドレーに殺られたみたいだ。人間の限界をとどめていない死体が多いのもブラッドレーの機関砲の掃射を受けたからだろう。

 

「来たぞ撃て!」

 

敵部隊はまだ残っていたようで、いや、さっき逃げて行った部隊かもしれないな。まぁとにかく車両とかに身を潜めて隠れていた敵部隊が現れた。しかも何人かはAT-4を持っている。僕はその光景を見た瞬間叫びながら伏せた。

 

「RPGッ!」

 

伏せた直後T-55の正面向かって高速でAT-4の弾頭が飛来し、T-55の正面装甲に当たり爆発した。AT-4のHEAT弾は最大で420ミリもの厚さの装甲を貫通させることが出来る。T-55の正面装甲厚100ミリ。傾斜装甲傾斜なので防御性能はそれなりにあるが、AT-4のHEAT弾をまともに食らったらT-55もタダでは済まない。

 

が、爆煙の中から現れたのは無傷の状態のT-55だった。

 

T-55はお返しとばかりにAT-4を撃って来た連中に向けて砲弾を撃ち込んだ。逃げる暇もなく盾代わりにしていた車ごと吹き飛ばされた。ノーマル状態のT-55だったら今頃AT-4のHEAT弾で致命傷を負っていた頃だろうが、このクロコダイルには追加装甲と爆発反応装甲が付けてあった。普通のT-55と違ってゴツゴツとした見た目だったから僕でもそれはわかった。爆発反応装甲によってAT-4のHEAT弾は無効化されたのだ。まぁ、同じところを2回以上攻撃されたら普通に撃破されるんだけどね。

 

僕達はロケットランチャーを持った敵兵を見つけ出し、撃たれる前に撃ち殺して行く。ジャベリンみたいなのがあったらヤバかったがどうやら奴らが持って来たのはAT-4とM72 LAWだけのようで、敵兵の数もそんなに多くなかったので時間はかかったが全員倒すことが出来た。敵を全員倒したのを確認した僕達は正門を目指して前進する。遠くから聞こえて来ていた激しい銃撃戦の音が鮮明に聞こえて来た。急いで向かうと1号棟の正面玄関前に土嚢を積んで防衛陣地を作って戦っているネルソン達と大破したハンヴィーやM-ATVや停めてあった車などを盾にして戦う敵部隊が居た。

 

T-55は敵に榴弾を撃ち込んで吹き飛ばした。突然M-ATVと仲間が吹き飛ばされた敵兵達はT-55の存在に気付き攻撃を加えるが、アサルトライフルや汎用機関銃では全く効果が無かった。T-55が火炎放射器で敵兵を焼き払っている隙に僕達はネルソン達の居る防衛陣地に飛び込んだ。

 

「よぉ、来てやったぜ!」

 

「よぉクロコダイル引き連れて来てくれるなんて気がきくじゃねぇか!」

 

ネルソンとサイモンは軽口をたたき合うとお互いの拳を軽くぶつけた。

 

《すいません!遅くなりました!》

 

ネルソンはスロートマイクを付けていたので僕は直接謝った。するとネルソンは僕の頭を優しく撫でて来た。

 

「来てくれただけでも有難いよ。ありがとうな」

 

挨拶もほどほどにして、僕達は目の前の敵に対して反撃を開始した。T-55の火力支援を受けつつエイレーネーの奴らを追い払って行く。T-55の残弾が無くなり始めた頃にはM4A3(105ミリ型)シャーマンとBMP-3が来てくれた。シャーマンの105ミリ砲とBMP-3の100ミリ低圧砲で敵は吹き飛んで行く。

 

「お待たせ!」

 

と言って2号棟の中から現れたのは私服姿のバラライカだ。Kord重機関銃を持っているのを見るに、武器庫から取って来たんだろう。バラライカはKord重機関銃を積み上げられた土嚢の上に置くと敵に向かってフルオートで撃ちまくる。ハンヴィーや普通乗用車に隠れていた敵兵は車体を貫通した12.7ミリ弾を食らい絶命する。彼女の火力は本当に頼りになる。

 

「おい、お前だけずるいぞ!」

 

Kord重機関銃を軽快に撃っている姿を見たサイモンはバラライカに言った。

 

「武器庫まで取りに行くんだな」

 

と言いつつバラライカは撃ち続ける。僕も武器庫にM14EBRを取りに行こうかなと思ったけどそんな余裕無いので敵から奪ったこのM4CQB-Rで我慢する。しかしリンクしていない銃を使っているからなのか、いつもより弾が当たらない。

 

ドドドドドッ!とBMP-3が主砲の横に装備している装備している30ミリ機関砲を撃つ。30ミリ破片効果榴弾の威力は凄まじく、弾に当たらなくても破片で敵兵は大きなダメージを受けている。運悪く直撃した奴は元の形が分からない位グチャグチャだ。

 

「あぁクソ!しゃらくせぇ!」

 

僕と同じようにM4CQB-Rで戦っていたサイモンは突然叫んだ。

 

「ネルソン!援護してくれ!」

 

「おい何するつもりだ?」

 

「やっぱコレは俺の性に合わねぇ」

 

サイモンはM4CQB-Rを見てそう言うと突然立ち上がりシャーマンの居る方へ走り出した。僕達はサイモンが撃たれないように敵の方に弾をばら撒き制圧射撃をする。足元に弾が着弾したりしてもサイモンは気にせず走り、シャーマンの後ろに滑り込んだ。Mサイモンはシャーマンの車体の上によじ登ると砲塔の上に備え付けられていたM2重機関銃を手に取った。

 

あ〜成る程そう言うことですかい。サイモンも無茶するなぁ、サイモンはM2のコッキングレバーを2回引いて初弾を装填すると敵集団に向けて発砲。

 

「オラオラオラオラァ‼︎」

 

サイモンはバラライカのように狙って効率的に撃ったらはせず、ただ敵のいる方に弾をばら撒きまくる。まぁそんな派手に弾をばら撒いていると当然敵の注意を弾く訳で、サイモン逆に複数の敵から攻撃を受けた。サイモンは素早く砲塔の後ろに隠れて銃撃をやり過ごした。銃撃のお返しにとシャーマンが105ミリ榴弾を敵に向かって撃ち込んだ。

 

正門の周りが敵車両の残骸と死体の山になった頃、これ以上の戦闘の続行は不可能と判断したのか、敵は撤退して行った。例のブツが取られる事も無く、L&M社の防衛戦は何とかこちらが勝利した。しかし多くの車両や設備、そして非戦闘員と戦闘員を失う結果となり、戦いには勝ったが損失は多かった。それに、戦闘の混乱に乗じて2号棟に居たL&M社の社員数名が奴らに攫われてしまった。戦術的にはこちらの勝利だが戦略的にはエイレーネーの勝利と言っても良いかもしれない。

 

翌日、エイレーネーからビデオマッサージが来た。映像には明日に縛られたL&M社の社員が映っており、社員に銃口を突き付けながらエイレーネーの兵士が無駄に長い話をした。兵士が言いたいことを簡単にまとめるとこうだ「コイツを殺されたく無ければチャリオットを渡せ。もし渡さなかったら人質を惨たらしい方法で殺し、その殺す映像をお前らに送ってやる」普通のPMCなら人質となった人達は見捨てる所だが、貧乏な貧乏なL&M社ではそう言う訳にもいかず人質の救出作戦を行うことになった。




どうだったでしょうか?T-55カッコいいと思うんですよ、あのお椀型の砲塔とか大好き。何故火炎放射器付きを登場させたかと言いますと「硫黄島からの手紙」という映画を見てその影響を受けたからですね。次回か次次回でエイレーネーとの決着もつく予定ですのでお楽しみに!

そして次回の投稿は遅くなるかもしれません。

ご感想お待ちしております!


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第23話 最終決戦(修正版)

え〜一度間違えて過去に書いていた別作品を誤って投稿してしまいました。皆様には大変ご迷惑をおかけしてしまいました。本当にすいませんでした!ということで改めまして、お待たせしました第23話です!




戦術人形になってから29日目。晴れ。

 

昨日起こったことを簡単に説明するぜ!エレナとFNCとM200の3人で一緒に街に遊びに行ってたら本社がエイレーネーの襲撃を受けた。何とか敵を追い払ったけど防空レーダーがぶっ壊されたり社長お気に入りのBMP-2が破壊されたりと施設に多大な被害が出てしまった。

 

更にL&M社の社員4名がエイレーネーの兵士に攫われて人質になってしまった。だからその人質になった人達を助ける為に僕達は救出作戦を今日決行する。

 

無事救出出来れば良いのだが・・・

 


 

襲撃を受けた翌日、午前9時過ぎ。5台のハンヴィーが一列に並んだ状態でひた走る。僕は前から2番目のハンヴィーに乗っている。勿論全員完全武装の状態だ。今回の作戦を簡単に説明すると、エイレーネーの奴らに指定されたところに向かい奴らにブツを渡す。人質の安全が確保でき次第隠れていた別部隊が敵を全て殲滅しブツを回収する。と言う物だ。僕はその敵を殲滅する別部隊として動くことになっている。既に現場はドローンで偵察済みなので予め決めていたポイントに向かうことになる。

 

例のブツ、チャリオットを車列中央を走っている装甲強化型ハンヴィー(M1151)のトランクに乗せている。あれは普通のハンヴィーと違い装甲もしっかりしているので7.62×39ミリ弾を食らっても貫通する事は無い。

 

そして今回の作戦にはアサルト部隊以外にもクレセント社のアインス部隊も参加している。合わせて20人の人形人間の混合部隊だ。これならある程度の敵部隊は倒すことが出来るだろう。いや、慢心はダメだな。敵を侮るなかれだ。

 

《ここでお別れだ。よろしく頼むぞ》

 

先頭を走るハンヴィーに乗っているネルソンから通信が来た。

 

「そっちも上手くやれよ」

 

ハンヴィーを運転していたサイモンは無線機を手に取ってそう言うとハンドルを右に切って車列から離れる。他2台もサイモンの後に続き右に曲がる。ブツを積んだハンヴィーとネルソン達の乗るハンヴィーの2台がそのまま道なりに進んで行く。先頭を走るハンヴィーの方を見てみると運転席に座るネルソンがこっちの方を見ていた。僕の視線に気づいたのか手を振ってくれた。僕も小さく手を振る。

 

今回奴らが指定して来た場所は飛行場跡地。まぁ飛行場と言っても大型旅客機が離着陸するような大規模な所ではなく、小規模な飛行場だ。第三次世界大戦前までは使用されていたそうだが今では人っ子一人居ない。偵察した感じだと飛行場の周りは西側に小高い丘があるがそれ以外はただひたすら草原。待ち伏せしようにも隠れる場所が限られてしまう。

 

作戦としては僕、バラライカ、M200の3人が丘の上からネルソン達の近くに居る敵を排除し、後方で待機していたエレナ達がハンヴィーに乗って飛行場内に突入。敵部隊を殲滅という感じだ。エレナの使うXM8も20インチバレルと、改良型のスコープを装備すればマークスマンライフルとしても使えるのだがエレナ自身が狙撃はそこまで得意では無いそつなので狙撃組からは外れた。

 

しかし僕もそこまで狙撃が得意な訳では無い。訓練の時でも300メートル先の的にしか当てたことは無い。なのに今回の作戦では約400メートル先の敵兵を撃たないといけない。不安と緊張からか俺は無意識にM14EBRを握り締める。

 


 

それから道無き道を行くこと20分、僕達は目的付近に到着した。ハンヴィーから降りた俺とM200とバラライカは徒歩で丘の上に向かう。丘の上に着くと僕は緑色の迷彩柄のマントを頭から被り伏せてポケットから双眼鏡を取り出し下に見える飛行場跡を見る。既に奴らは来ており、飛行場のエプロンのど真ん中に黒塗りの高級車が止まっている。車種は分からない。が、丁度隣に車に詳しいと思われる人が居るのでその人に聞いてみる。

 

《バラライカさん。あそこの車何か分かりますか?》

 

「あれは多分アウディのS8だな」

 

やっぱり知っていたみたいだ。しかしアウディS8と言われても僕はサッパリ分からない。取り敢えず分かるのは高そうだなと言うだけだ。そのアウディの前には男が立っている。そしてその男に僕は見覚えがあった。左腕の無い男・・・前に僕達がエイレーネーの基地に突入した時にまんまと逃げたあの男だ。そしてその男を守るように左右にFMG-9とSAAとG36C、そして見たことの無い戦術人形が居る。あそこに居るって言うことはやはり基地の指揮官かそれ並みの権力を持つお偉いさんなのだろうか?他にも隠れるように管制塔や格納庫などの建物にアサルトライフルを持った兵士達がスタンバイしている。

 

「こちらネプチューン(バラライカ)。準備完了」

 

《了解。俺達ももうすぐで着く。援護頼んだぞ》

 

「了解」

 

バラライカがネルソンと短いやり取りをしてから1分後、2台のハンヴィーがやって来た。ネルソン達のハンヴィーだ。至る所に隠れていた敵兵がアサルトライフルの銃口をハンヴィーに向ける。ハンヴィーは飛行場のエプロンまで行くとアウディの前で停車した。そしてドアが開きゆっくりとネルソン達が降りた。俺は双眼鏡をしまってM14EBRを構える。コッキングレバーを引きセーフティーレバーはSEMI(単発)に切り替える。今回は狙撃銃用の高倍率スコープを付けて来たので遠くの敵も良く見える。

 

僕はは例の男の横に無表情のままたっている正体不明の戦術人形を見た。銀髪の髪をポニーテールにして、頭からツノみたいヤツが生えている。

 

《バラライカさん。あの男の右側にいる戦術人形知ってますか?》

 

「あのツノが生えている奴か?」

 

「そうです」

 

バラライカもKord重機関銃の上に装備しているスコープでそいつを観察して唸る。

 

「う〜む。分からんな」

 

「あれはHK33ですね」

 

バラライカの横で同じように高倍率スコープを使って見ていたM200が言った。軍事系の物は結構知っているつもりだが、HK33って言う銃は知らないな・・・まぁ見た感じアサルトライフルみたいだが。

 

「ほぉ〜?HK33ねぇ」

 

《何だかんだルナと同じ様な雰囲気ですね》

 

HK33もルナことHK433と同じ様な感じだ。無表情で何を考えているのか分からない。

 

「もしかしたらルナの代わりなのかもな」

 

「成る程」

 

それはあり得そうな話だな。あれだけ強い戦術人形を失ってしまったのは向こうも痛手だっただろうし。となるとアイツもルナと同じくらいの強さ何だろうか?もしそうなら結構苦労しそうだな。いやでも今回はルナも居ることだし何とかなるか?

 

そんなことを考えて居るうちにハンヴィーから降りたネルソンは例の男と話を話し始めていた。僕は右耳につけている受信機を意識を向ける。ネルソンの襟ら辺に盗聴器が仕掛けられているから、会話もバッチリ聞こえる。

 

《先にチャリオットを渡せ。本物かどうか確認してから人質を解放する》

 

《そう言ってチャリオットを渡した途端撃ち殺されたら困るんだよね》

 

ネルソンはオーバー気味に肩をすくめた。

 

《チャリオットを渡さない限り人質は解放しない》

 

《俺達を撃たないって保証してくれるなら》

 

《チャリオットを渡せ》

 

同じことを言う男にネルソンは溜息をついた。

 

《頑固だねぇ・・・。じゃぁお互い同時にブツを交換するってのは?》

 

《さっさと渡せ。今撃ち殺してやっても良いんだぞ?》

 

その男か言った瞬間 戦術人形達が一斉にネルソン達に銃口を向けた。一気に緊張が走る。ネルソンの横に居たアリーナ、エレナ、ハオレン、ハルカも同時に銃を構える。僕は1番驚異度の高いと思われるHK33に照準を合わせ、トリガーに人差し指を掛ける。誰かが不審な動きをすれば即銃撃戦になるこの状況。正に一触即発。もし銃撃戦になってしまえばネルソン達も敵も無傷で生還するのは難しいだろう。

そんな緊張状態の中でもネルソンは全く焦った様子もなく話し続ける。

 

《おいおい、ここでおっ始める気か?お互い五体満足で帰るために穏便に済まそうぜ?》

 

《お前がチャリオットを渡せば穏便に済む話だ。さぁ早く渡せ》

 

《はぁ〜。強情というか、せっかちと言うか・・・お前友達とか居ないだろ》

 

《グダグダ言わず早く渡せ。指図出来る立場だと思ってるのか?人質もろとも殺すぞ》

 

《分かった分かった。そうかっかすんなって》

 

ネルソンはそう言うと後ろを振り向き装甲強化型ハンヴィーの方を向き頷いた。するとハンヴィーの運転席のドアが開きオットーが降りて来た。オットーはトランクを開けるとチャリオットを取り出しネルソン渡した。チャリオットを渡したオットーはハンヴィーには戻らず何時敵がネルソンを襲いかかって来ても良いようにMCX SBRを構える。

 

ネルソンはゆっくりと歩いて行くとサングラスをかけた男の前にチャリオットを置いた。男はチャリオットを持ち上げて色々と見ると後ろを振り向きアウディの横に立っていたスーツ姿の部下に目配せをした。部下はアウディの後部座席のドアを開けると頭に袋を被せられた男女合計4人が引っ張り出されて来た。そのまま部下は乱暴に被せていた袋を取って手首に巻き付けていた拘束バンドをナイフで切って外した。

 

そして部下は銃を人質に向ける。人質はおどおどしながらネルソン達の方に向かって行く。ネルソンは人質の男に何時も通りの優しい口調で話しかけた。

 

《大丈夫か?何処か怪我とかしてないか?》

 

《はい、大丈夫です。ありがとうございます・・・ッ》

 

そう言って人質の男は泣き始めた。そりゃそうだ。一敵に捕らわれて一日中監視されていたんだから怖かっただろうな。人質はオットーに連れられて装甲強化型ハンヴィーに乗せた。さて・・・・そろそろだな。

 

「人質の安全は確認出来た。始める」

 

とバラライカが全ての味方に通信を繋げて言った。俺は深呼吸を数回繰り返してM14EBRを構え直す。

 

「エマ、お前はG36Cを狙え。私はHK33を殺る」

 

「ボクはFMG-9を狙います」

 

G36Cに照準を合わせ頭ではなく胴体に狙いを付ける。ヘッドショット出来る自信は無いからね。胴体の方が当てやすいからね。

 

3(スリー)カウントで行くぞ」

 

トリガーの遊びを引く。後数ミリ引けば弾が撃ち出される。

 

「three、two、one ー」

 

ゆっくりと優しくトリガーを引く。撃鉄が7.62×51mmNATO弾のケツを叩く。撃ち出された弾は僕の狙い通りG36Cの胴体に真っ直ぐ飛んで行き見事命中!撃たれたG36Cは弾の当たった方向とは逆の方に倒れた。ほぼ同時にM200の408チェイタック弾がFMG-9の頭に命中。針の刺された水風船のようにパーンと頭が弾けてしまった。これは即死だ。しかしバラライカの狙ったHK33は撃たれる前に右腕の無い男を後ろに押し倒した。バラライカの放った12.7ミリ弾はHK33がさっきまで立っていた空間を通過しアスファルトの地面に当たり小さなクレーターを作った。次の瞬間ネルソンの横に居たエレナ達も撃ち始めた。

 

狙撃を免れたHK33とSAAと部下は銃を構え応戦しながらチャリオットを持った男を守りながらアウディに乗せるとSAAも乗り部下は運転席に乗り急発進させて逃げる。エレナ達がアウディを撃とうとするがアウディに乗らなかったHK33がそれを阻止する。M200がアウディに狙いを定め撃つ。弾はフロントガラスに命中し穴を開けたがアウディはそのまま走ると格納庫の中に姿を消した。

 

そうこうしている間に隠れていた敵兵達がぞろぞろと現れて銃撃戦の激しさが増して来た。ネルソン達はハンヴィーを盾にしながら応戦する。僕達狙撃班もネルソン達を援護する。

 

空港内にアインス部隊と残りのアサルト部隊の乗るハンヴィーが2台猛スピードで侵入して来た。先頭を走るハンヴィーの銃座にはMG3を構えたサイモンが居た。サイモンは建物から出て来た敵にMG3の銃口を向け撃ち始めた。2台のハンヴィーはネルソン達の目の前に停車してぞろぞろと降りて来た。

 

《人質を退避させる。制圧射撃!》

 

ネルソン達は一斉に敵の方に銃撃を加える。その間に装甲強化型ハンヴィーはバックしてからその場で180度反転しアクセル全開でその場を後にする。

 

最初の狙撃が成功したことで自信を持った僕はネルソン達の死角から襲おうとしている敵を見つけ撃って行く。急所に当たらなくても身体の何処かに弾が当たれば敵は撃てなくなる。兎に角撃ちまくるッ!

 

・・・撃ちまくるのは良いがあんまり弾は当たっていないな。これ。今1マガジン撃ち切ったのだが確実に殺せたのは4人。身体の何処かに弾が当たったのは7人。外したのは9発だ。それに対して右隣のM200は文字通り百発百中。しかも全部急所に当てている。左隣に居るバラライカも的確に12.7ミリ弾を敵に当ててミンチにしている。僕が撃ち漏らした敵はこの2人が迅速に倒してくれている。くそッ、完全に足手まといになってしまっているな・・・。

 

しかし今は落ち込んでる暇は無い。ネルソン達を殺そうとする敵を、脅威を排除するのに集中だ。新しいマガジンを叩き込みコッキングレバーを引く。分隊支援火器を持っている敵がいたのでそいつを狙う。動いていない状態なら訓練の時と同じ感覚で撃てる。敵の頭のちょい上に照準を合わせて発砲。弾は敵の喉に当たった。すぐさま新しい標的を探す。アサルトライフルを持った敵2人がいたので1人に狙いを定め撃つ。胴体に命中。隣に居た味方が突然撃たれた事に驚いているもう1人の敵に狙いを定め撃つ。が、敵が倒れた仲間の状態を確認しようと伏せてしまったので弾は外れてしまった。すぐさま狙いを修正して撃つ。こうしてすぐさま次弾が撃てるのはセミオート狙撃銃の強みだな。改めてそれが実感出来るよ。

 

《アリーナ!エレナ!ルナ!逃げた男を追え。チャリオットを奪還しろ!》

 

サイモンはアサルト部隊の中でも戦闘力の高い3人を呼ぶとそう命令した。エレナ達はサイモン達が乗っていたハンヴィーに乗るとアウディが向かった格納庫に向かう。エレナ達の乗るハンヴィーを止めようと敵が走るハンヴィーに狙いを定めるが僕達とサイモン達の援護射撃で余り銃撃は受けずにハンヴィーは格納庫内に姿を消した。

 

僕はサイモン達を攻撃するHK33を狙う。ルナ程では無いがHK33も俊敏な動きでサイモン達の攻撃をひらりと躱し、的確な射撃でサイモン達を追い詰めて行く。

 

《狙撃班!俺達が制圧射撃で動きを封じている間にあの人形を撃て!》

 

《り、了解!》

 

「了解」

 

「了解した」

 

ネルソンの命令に僕とM200とバラライカが答える。HK33の居る所はエプロン。ここが市街地とかだったら奴の俊敏な動きに翻弄されてかなり手こずっていただろうがここは殆ど遮蔽物が無い。隠れる場所もかなり制限される。それに人数でもこちらが勝っている。ごり押せば勝てる!・・・・筈!

 

「普通に撃ったんじゃぁ奴に躱される。先ず最初にエマが奴の胴体を狙って撃て。M200、お前は私が撃った後に奴の右側を狙って撃て」

 

「《了解》」

 

バラライカが何を考えているか分からないが、深く考えずに言われたことを遂行しよう。K11が20ミリグレネード弾を乱射する。HK33はそれを簡単に回避し、周囲で小爆発がいくつも発生する。ネルソンとAK-12の2人の正確な射撃でHK33を釘付けにしようとするが、ネルソン達の意図に気づいたのかHK33は弾幕の隙間を潜り抜け逃げ回る。

 

僕は必死に動き回るHK33に狙いを定めようとするが奴の不規則な動きについて行けず狙いが定まらない。FNCとAUGとVector(ベクター)とIDWの4人が同時に撃つ。流石のHK33も4人同時からの射撃を受けたことで一瞬動きを止めた。その瞬間を見逃さず僕はトリガーを引いた。

 

その直後バラライカが撃ち、その後にM200が撃った。狙撃に気づいたのかHK33は僕の放った7.62ミリ弾を左に飛び退いて回避した。が、その瞬間HK33の上半身と下半身が分裂した。バラライカが放った12.7ミリ弾がHK33の胴体を貫いたんだ!

 

成る程、僕の弾は囮で左右に放ったバラライカとM200の弾丸が本命って訳か。左右どちらかに回避すれば必ずどちらかの弾が当たるからな。

 

《ナイスショット!》

 

ネルソンからの通信に僕は見えていないだろうけどサムズアップで答えた。

 


 

格納庫内には一機の飛行機が鎮座していた。主翼の上にエンジンが乗っているような少し奇妙な見た目の飛行機だ。その飛行機の横にはあのアウディが止まっている。飛行機の周りにいた敵兵がエレナ達の存在に気付き一斉に銃を構え発砲する。エレナ達はハンヴィーから素早く降りるとハンヴィーや貨物を盾にしながら応戦する。

 

「回せぇ!」

 

敵の1人がが操縦席に向かって右手を上げてクルクルと回しながら叫んだ。すると飛行機のエンジンからキィィィィィィィン!と言うAPUの甲高い音が聞こえて来た。奴らは飛行機に乗って逃げるつもりだと気づいたエレナは銃撃の音に負けない様にスロートマイクに向かって叫ぶ。

 

「敵は飛行機に乗って逃げるつもりみたいだよ!」

 

《飛ばれる前に制圧して止めろ!》

 

「了解ッ!」

 

ネルソンとの通信を終えたエレナは盾代わりにしていた貨物から身を乗り出すと目の前に居た敵3人を得意の速射で瞬時に倒すと飛行機に向かう。が、直ぐに別の敵が出て来て邪魔される。

 

「そう簡単に倒してくれるわけ無いよね・・ッ!」

 

再び物陰から身を乗り出し発砲し反撃が来る前にすぐさま身を隠す。今になってグレネードランチャーを装着してくれば良かったなと後悔した。グレネードランチャーがあれば機体に少なくないダメージを与える事が出来たかも知れないのに。

 

「まぁ無いものねだっても仕方ないか・・・ルナ!援護!」

 

エレナの援護要請にルナは何も言わずすぐさま応えた。自身を狙っていた敵を素早く倒すとエレナを狙う敵を撃ち殺すか制圧射撃で動けなくする。更にエレナが撃ち漏らした敵もルナが的確に急所に弾を当てて倒す。無表情のまま機械のように容赦無く、効率よくエレナを援護しながら敵を排除して行く、ハルカもエレナと共に敵を撃ち殺さつつ前進する。元々格納庫内にはそんなに多くの敵兵が居た訳では無かったので3人は数分で格納庫内に居たほとんどの敵を倒した。

 

しかしその頃には飛行機のプロペラが回転を始めていた。半開きになっていた格納庫の扉が1人でに動き出した。格納庫の扉が開くと同時に飛行機はエンジン出力を上げて進み出した。エレナ達は機体に撃ちまくるが5.56ミリ弾では機体に小さな穴を開けることは出来ても止めることは出来ない。

 

すると機体のドアが開きSAAが飛び降りて来た。飛び降りながらシングルアクションアーミーを構えてルナに向かって連続で発砲する。ルナは素早い動きで弾を回避しようとするが、手に持っていたHK433に弾が当たり吹き飛ばされた。着地したSAAはエレナ達と対峙する。

 

「ここから先は通さないよぉ〜?」

 

とSAAは緊張感の無いおちゃらけた感じで言った。エレナは目の前にいるSAAにXM8の銃口を向けつつ考える。小柄な彼女からはタダならぬオーラのような物を感じる。アイツは一筋縄では行かない。かなり厄介な相手だと直感した。

 

エレナがどう対処しようか考えているとルナが一歩前に出た。エレナも前に出ようとするとルナは前を見たままエレナの前に手を出して静止した。

 

「・・・サシで勝負をするつもりなの?」

 

ルナは何も答えない。しかし視線はSAAに固定されている。それを見たエレナは彼女は本気なのだと悟り大人しく下がった。シングルアクションアーミーに新しい弾を装填したSAAにルナに向かってニコリと笑った。

 

「久しぶり!ルナ。元気してた?」

 

SAAはまるで友達に会った時のような感じでフランクに話しかけた。しかしルナは無表情のまま全く反応しない。返事の代わりにホルスターからグロック34取り出しを静かに構えた。

 

「ルナとやるのは初めてだね。一度やってみたかったんだよねぇ。ワクワクする!」

 

と言ってSAAはホルスターからシングルアクションアーミーを引き抜くとクルクルと回してから構えた。

 

「12発。12発で決めるよ」

 

そう言ってSAAはシングルアクションアーミーをホルスターに戻した。次の瞬間ルナが動いた。SAAに向かって突撃する。すかさずSAAは目にも留まらぬ早さでホルスターからシングルアクションアーミーを引き抜き発砲。ルナは発砲と同時に右に跳びのいたために弾は当たらなかった。その光景を見ていたエレナは驚いた。ルナがSAAの放った弾を避けるのも充分驚くことなのだが、SAAの放った弾の数にも驚いた。ルナに当たらなかった弾はルナの後ろにあった貨物に当たったのだが何と弾痕が2つあったのだ。しかし発砲音は1つしか聞こえなかった。

 

「(まさか・・・ファニングショット⁉︎)」

 

 

【挿絵表示】

 

 

あの独特な構えと撃ち方は他には無い。それに2発撃っているのに発砲音は1つしか聞こえない程の早撃ち・・・。

 

ルナはSAAに対し恐怖した。あの早撃ちだけでも充分脅威なのに更に厄介なのは狙いが正確なところだ。1対1の状況で勝てるとは思えない。

 

右に飛び退いて回避していたルナだったが、SAAは既に回避するであろう場所に撃っていた。ルナは右側にあった貨物の側面を蹴って斜め上に強引にジャンプしその弾をギリギリ回避した。しかしSAAは既に次弾を発射していた。空中にいたので身動きが取れず、それに避ける暇も無かったので2発の45ロング・コルト弾がルナの腹に命中した。しかしルナは地面に着地すると動きを止めらことなく走り続けた。再び撃とうとするSAAにグロック34の銃口を向けて4発撃つ。SAAはそれを簡単に回避する。元々敵に狙いを絞らせないように乱射しただけだったので避けられるのルナは想定済みだった。

 

SAAが回避行動をしている内にルナは距離を詰めようとするがSAAはすぐさま狙いを定め撃った。ルナは左に飛び退き回避するが弾が左肩を掠めた。しかし今ので彼女の持つシングルアクションアーミーは弾切れとなった。シングルアクションアーミーは他のリボルバーと違い薬莢の排出と弾の装弾を1発づつする必要がある。その間にルナはSAAに肉薄し、得意の近接格闘術で無力化出来る。

 

ルナが一気に距離を詰めようとするがSAAは持っていたシングルアクションアーミーを投げ捨て左側のホルスターから新しいシングルアクションアーミーをまたもや目に止まらぬ速さで引き抜き撃った。利き手では無い方で撃っているのにも関わらずその連射速度と正確な狙いは変わっていない。ルナはスライディングでそれを避ける。

 

その隙にSAAは更に次弾を発射。ルナはスライディングした後直ぐに右に飛び退こうとしたが弾が飛んで来る方が早かった。2発の弾丸は左足に命中する。しかし足を撃たれたのにもかかわらずルナは走り続け、グロック34を構え撃ち返す。SAAは貨物に身を隠したので撃った弾は全て防がれた。

 

もう直ぐそこまでルナが来ていると察したSAAはファニングショットをしている暇は無いと判断し親指でハンマーを起こし普通にシングルアクションアーミーを構えて撃った。それに対しルナはグロック34を投げつけて弾を防いだ。SAAがハンマーを起こす間にルナは手の届きそうな距離にまで接近した。しかしSAAは焦らなかった。この距離ではいくらルナでも回避は不可能だからだ。瞬時に頭に照準を向けてトリガーを引こうとした瞬間ーー 。

 

「なっ⁉︎」

 

ルナはSAAのもつシングルアクションアーミーの銃身を握り照準を強引に頭から自身の左肩に向けた。引き金は引かれ、ゼロ距離で45ロング・コルト弾がルナの左肩に命中した。

 

ルナはシングルアクションアーミーの銃身を掴んだまま引き寄せ足を引っ掛けてSAAの体勢を崩す。体勢を崩したSAAの腕に右腕を絡ませてルナは自身の体を捻って回転運動をかけそのまま投げ飛ばす。SAAは地面に叩きつけられ顔を歪める。その隙にルナは懐からグロック26を取り出しSAAの顔に銃口を向けた。SAAは一瞬驚いたような表情をしていたがニコリと笑った。

 

「あ〜楽しかった・・・・また会おうね」

 

ルナは何も言わなかったが頷いて見せた。そしてトリガーを引いた。グロック26から放たれた9ミリパラペラム弾はSAAの額に命中した。それと同時にルナは左足を抑えながらその場に倒れてた。

 

「ちょ、だ、大丈夫⁉︎」

 

エレナとハルカがルナに駆け寄る。今まで無表情だったルナが痛みを堪えるように表情を少し歪めていた。

 

《飛行機が離陸しようとしている!》

 

《誰でも良いから離陸を阻止しろ!逃がすなッ!》

 

そう無線機からネルソンの叫びが聞こえた瞬間、ルナはふらつきながら立ち上がった。左足を引きずりながら歩き出そうとするルナをエレナは引き留めた。

 

「ちょ、ちょっと!止血もしないのに動かないで!」

 

しかしルナはそんなエレナの声は無視して歩き出そうとする。それに対しエレナとハルカは何とかルナに無理をさせないように取り押さえようとする。

 


 

格納庫から出てきた飛行機、アントノフ32ことAn-32はエプロンを横断して滑走路へと向かう。このままだとチャリオットが持って行かれてしまう!

 

「させるかッ!」

バラライカがkord重機関銃をAn-32の方に向けてフルオートで撃つ。発砲時に発生するガスでバラライカが被っていたマントが浮き上がり、周りに土埃が舞い上がる。放たれた12,7ミリ弾はAn-32の胴体やエンジンに次々と命中するが効果は今一つの様でAn-32は動き続けている。装填されていた弾を全て撃ち切ったが致命傷を与える事は出来なかった。

 

「行くぞエマ!」

 

そう言ったバラライカは被っていたマントを脱ぎ捨てながら立ち上がった。何となくバラライカのしようとしていることを察した僕は少し躊躇ったがそれ以外にいい案がパット思いつかなかったので大人しく付いて行くことにした。

 

丘の裏側に止めていたハンヴィーの運転席にバラライカが乗り込む。あぁ・・・・やっぱりそうゆう事ですよね~。前の任務の時にも敵のボスがランボルギーニに乗って逃げた時にバラライカはBMWに乗って敵を追った。あれはハリウッド映画顔負けのカーチェイスだったな。その経験からして考えるに恐らく今バラライカはこのハンウ‶ィーに乗ってAn-32の後を追おうとしているんだろう。僕は大人しくハンヴィーの助手席に乗り込む。隣に座るバラライカはエンジンをかけるとニヤリと笑い、ハンヴィーを急発進させた。

 

丘を越えて斜面を一気に駆け下りる。下り坂をアクセル全開で走って行くので速度はグングンと上がって行く。フェンスを吹き飛ばして飛行場内に侵入。こちらに気づいた敵兵が撃とうとしてきたのでM14EBRを構えてフルオートで撃つ。激しく揺れる車内から撃ったので弾はなかなか当たらなかったが下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという言葉ある通りフルオートで撃ったことにより数発が命中。2人倒した。

 

ハンヴィーはエプロンに入ると同時に右に急カーブ。An-32の後を追う。既にAn-32は滑走路の端に来ており後は離陸するだけの状態だ。

 

《どうやって止めるんです⁉︎》

 

「さぁね!考えてなかったよ!」

 

《えぇ⁉︎》

 

「取り敢えず撃ちまくれ!」

 

あーもうめちゃくちゃだよ!取り合えず僕は助手席から四つん這いで銃座まで移動すると立ち上がると上半身を車外に出してM14EBRを構える。そしてAn-32の右エンジンに照準を向けて7.62ミリ弾をフルオートで撃つ。しかし7.62ミリ弾でエンジンを破壊させることは出来るのだろうか?いや、ベトナム戦争の時はベトコンがAK-47でファントムを撃墜したという事を聞いたことがある。7.62×39ミリ弾でファントム戦闘機を撃墜出来るのなら7.62×51ミリNATO弾で双発輸送機の離陸を阻止することは出来るだろう。しかし1マガジン分撃ち切っても右エンジンは元気よく動いている。

 

もう少しでAn-32に辿り着きそうだったが、An-32の2基のターボプロップエンジンは唸り声を上げつつ出力を急激に上げた。An-32はグングンと速度を上げる。バラライカはアクセルを踏み込み更にハンヴィーを加速させる。新しいマガジンをM14EBRに叩き込み初弾を装填するとすぐさま照準を合わせて撃つ!しかし全弾撃ち切ってもエンジンは止まってくれない。クッソ~やはり7.62ミリ弾じゃぁストッピングパワー不足か。

 

流石にハンヴィーでは加速し続けるAn-32には追いつけないようでAn-32との距離は縮むどころか少しずつ離れて行っている。僕は身を屈めるとM14EBRを置いて後部座席に置かれているKord重機関銃を手に取りつつバラライカに言った。

 

《バラライカさん!Kord借ります!》

 

「好きに使え!」

 

二脚をハンヴィーの天井に載せてKord重機関銃を構える。しかしKord重機関銃には弾が装填されていない状態だった。急いで弾を装填しようとするがベルト給弾式の機関銃の装填に慣れていない僕は装填に時間がかかってしまう。そうこうしている内にAn-32はどんどん遠ざかって行く。その時、背後からブォォオオオッ!とゆうエンジン音が聞こえてきた。後ろを振り返るとさっき敵のボスが乗っていたアウディがこちらに急速接近してきていた。クッソ!追手か⁉僕はKord重機関銃の銃口をそのアウディに向ける。が、そのアウディの運転席に座る人物を見た僕は驚いた。

 

《る、ルナ⁉》

 

アウディの運転席に座っていたのはルナだった。ルナは僕の方を一瞬見ると直ぐに前方のAn-32の方を見た。軽快なエンジン音を響かせてアウディは加速する。スリップストリームを利用するかのようにアウディはハンヴィーの後ろに急速接近してからハンヴィーを抜かした。一体何をするつもりなんだ?

 

離陸しようと加速するAn-32をアウディは追いかける。徐々にAn-32との距離を縮めて行き、終にはAn-32と並走する。そしてAn-32の右胴体主脚の前に出るといきなり急減速した。白煙をタイヤから撒き散らしながらアウディは減速し、右主脚に衝突した。

 

どうやらルナはAn-32のランディングギアにアウディをぶつけて無理矢理減速させようとしているようだ。時速百数十キロで押されるアウディはけたたましいスキール音と響かせながらタイヤから大量の白煙を撒き散らす。

 

やっとKord重機関銃に新しい弾を装填し終えた僕は右エンジンに照準を合わせてフルオートで撃った。流石にこれだけ12.7ミリ弾を食らえばエンジンもタダじゃ済まないだろう。

 

アウディのタイヤから火が出て来た。流石にもうタイヤが保たないようでタイヤのゴムが摩擦で焼けてしまっているようだ。ゴムが完全に無くなりタイヤホイールが地面に当たり火花が派手に散る。やはりアウディ1台で航空機を止めるのは無理があるようだ。

 

ボフッと右エンジンから真っ黒な煙が吹き出た。どうやら撃ちまくった甲斐があったみたいだ!それでもまだ完全に右エンジンが止まった訳では無いので弾をリロードして再び撃ちまくる。

 

しかし僕達の奮闘虚しくAn-32の前輪が浮き、続けて主脚も浮き上がってAn-32は完全に離陸した。

 

「クソッ!逃げられたか!」

 

ハンヴィーを止めたバラライカは飛び去っていくAn-32を悔しそうに睨みつけながらそう言った。

 

《いえ、逃げられてませんよ》

 

飛行機は離陸する時は全てのエンジンの出力を最大まで上げて離陸する。飛行中ならば片方のエンジンが止まっても飛び続けることは可能だが離陸する時は全てのエンジンを使わなければならない。しかしあのAn-32は右エンジンが故障している状態で無理矢理飛ばした。そんなことをしてしまえば飛行機は速度を失い失速してしまう。

 

僕の予想通り上昇していたAn-32は機首を上に向けたままの状態で高度を落とし始めた。必死に機体を上昇させようとしているがこの高度で失速してしまうともうどうすることも出来ない。やがて機首が下がり、An-32は頭から地面に突っ込んだ。

 

An-32は滑走路の端に落ち、大爆発を起こした。爆風と衝撃波が僕の乗るハンヴィーを揺らす。

 

《・・・汚ねぇ花火だぜ》

 

しかし・・・・チャリオットは大丈夫何だろうか?あの爆発で容器が壊れて中身が漏れ出してしまうとか無いよね?僕はハンヴィーから降りて全てのタイヤが無くなり、タイヤホイールも削れてしまったアウディに駆け寄った。ドアを開けて運転席を覗き込むとボロボロの状態のルナがいた。腹や左足を撃たれたようで出血している。いくら人形は人間より丈夫とは言えずっと出血し続けるのは非常に不味い。命に関わる。

 

《ハルカさん!ルナの応急処置をお願いします!》

 

すぐさま僕はハルカを読んだ。




今回は皆様を混乱させてしまい本当にすいませんでした!

ご感想お待ちしております!


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M14EBRとしての日常
第24話 戦後処理と進展


お待たせしました第24話です!久し振りに戦闘の無い話を書いた気がしますw。


戦術人形になってから30日目。曇り後晴れ。

 

結果的に言うと作戦は成功した。多少ごたごたはあったが敵部隊を殲滅し、バラライカのKordで撃墜した飛行機の残骸の中からチャリオットも無事回収した。燃え盛る飛行機の残骸の中からチャリオットを探すのは大変だった。もしかしたら容器が壊れて中の汚染物質が漏れ出してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていたがそんなこと無かった。容器はかなり丈夫に作られていたお陰だ。

 

そして事前の計画通り依頼主にチャリオットを渡して金を貰おうとしたのだが、騒ぎを聞きつけたG&Kが依頼主の研究所を崩壊液やE.L.I.Dなどを利用した違法な研究を行なっているとして人形で構成された部隊を送り込んで制圧してしまった。勿論エイレーネーに荷担したとしてL&MもG&Kに睨まれたが「我々は騙されて動かされていたが、途中から研究施設の正体を知り奴らからチャリオットを回収した」みたいなことを言ってG&Kを納得させた。まぁ嘘は言ってないからな。

 

しかし、依頼主から金を貰ってからG&Kに通報するという計画は破綻し金ももらえないまま今回の騒動は幕を閉じてしまった。お陰様でこちらは大赤字。だがクレセント社が手助けしてくれたお陰でまぁ何とかなっている。これもクレセント社の社長とウチの社長が仲良くなっていたお陰だろう。まぁどちらにしろ向こうに大きな貸しが出来た訳だが。

 


 

L&M社の復旧作業は急ピッチで進められた。重要施施設を最優先で修理して、そこまで重要では無い所は簡単な修理をしただけだった。僕はその優先度の低い所で作業をしている。例えば荒らされまくった演習場を綺麗にしたり、ロケット弾やミサイルの破片、銃弾によって空いた建物の穴をトタン板とかで塞いだり。2号棟内に散らばった薬莢を回収したり血痕などで汚れた廊下や壁を掃除したり。人間では運ぶのが大変な重い荷物を運んだり。

 

まぁとにかく雑用から建物の修理の手伝いまでいろいろやった。朝の8時から作業をしていたんだが気づいたら昼過ぎになっていた。いくら人形と言えども流石に疲れた。一部がミサイルにより吹き飛んだガレージの天井の修復作業を終わらせた僕は近くにいた人に休憩に入ることを報告してからハシゴで下まで降りると、外に運び出され一カ所に集められたゴミの山の中から背もたれが無くなったパイプ椅子を見つけて引っ張り出し、日陰にパイプ椅子を置いて座り一息ついた。

 

「(あ〜疲れたー)」

 

慣れない修復作業とかをしたせいか凄く疲れた。ぐぃ〜っと背伸びをした僕は背もたれに寄りかかろうとしたがこのパイプ椅子に背もたれが無いことを気づいて途中でやめた。危ない危ない。もう少しで後ろに倒れてしまう所だった。

 

何となく空を見上げる。朝頃は曇っていたが今は青空だ。鳥が呑気に飛んでいる。最近敵と戦ってばっかりだったからこうやってゆっくり出来るのが凄い久し振りに感じる。ぼけ〜っと平穏な時間を満喫しているとふとルナのことを思い出した。

 

昨日の任務で軽くは無い怪我、と言うか負傷をしたルナは直ぐにヘリに運ばれて緊急処置がなされた。完全に修復出来た訳では無いが日常生活は問題なく出来るくらいにはなった。そう言えば朝から姿を見てないけど何処に居るんだろうか?少し気になった僕は探してみることにした。パイプ椅子から立ち上がってから僕は彼女が行きそうな所を考えようとするが・・・やべぇ、全く分からん。

 

そもそも僕はルナのことについて何にも知らない。彼女がどんな行動をするかとか分かる訳ない。取り敢えずそこら辺をぶらぶらと歩きながら近くにいた人に聞いて回ることにした。因みに喋れない僕がどうやってL&M社の人達と会話をしているのかと言うと、紙やタブレットに文字を書いて意思疎通をしている。ネルソン達もいつもスロートマイクをつけている訳では無いので普段はこの様にして会話をしている。

 

演習場を歩き回ってみてもルナの姿は見えないので2号棟内に入った。2号棟内はまだ復旧作業などで多くの人が居るので1人くらいルナを見た人が居るかもしれない。そう思って聞き回るが皆んな首を横に振った。

 

僕はもしかしたら部屋に居るかも知れないと思いダメ元でルナの部屋に来た。ドアをノックしてみるが返事は無し。ドアノブを回してみるとガチャリとドアは開いた。やっぱり部屋に居るのだろうか?

 

ドアを開けて恐る恐る部屋を覗き込むが、部屋は真っ暗で誰も居なかった。どうやら部屋の鍵をかけずに何処かに行っているみたいだ。まぁ別鍵をかけなくてもわざわざ入って来る奴は居ないから同じように部屋の鍵をかけない人は多数いるんだけどね。

 

ドアを閉めて何処を探そうかと考えながら廊下を歩いているとオットーに出会った。

 

「よ、こんな所で何しているんだ?」

 

僕はポケットからメモ帳をを取り出してそこに文字を書きオットーに見せた。

 

『ルナを見ていませんか?』

 

「あの獣耳の奴か?」

 

オットーの質問に僕は頷いた。僕やエレナ、サイモンとは違いオットーなどは殆どルナと交流していないから誰そいつ状態だ。でも一応皆には今朝ルナのことは紹介したから全く知らないと言う訳では無い筈だ。オットーは顎に手を当てて数秒間考え、「あっ」と声を上げた。

 

「そう言えば少し前に白い服着た奴が屋上に上がって行くの見たな」

 

ルナはいつも白色のフード付きのマントを着ている。それに僕の知っている限りで白色の服をよく着ている人は見たことが無いから間違いないだろう。屋上に行ってみるか。

 

『ありがとうございます』

 

とメモ帳にお礼の言葉を書いて僕は屋上へ向かった。

 

階段を登り屋上に到着する。ここも攻撃ヘリの機銃掃射を受けたせいで地面がボロボロになっている。そして情報通り探していたルナも居た。特に何をする訳でも無くただ景色を眺めているだけの様だ。しかし、風にマントをなびかせながら遠くを見つめている姿は獲物を探している狩人のようにも見えなくもない。

 

僕がルナに近づこうと歩き出した瞬間、ルナが振り返って僕の方を見て来た。そう言えばどうやって話しかけようかとか考えてなかったな・・・。取り敢えずニコッと笑いつつ話題を振ってみる。

 

《こんな所で何をしてるんですか?》

 

「・・・・・」

 

ルナはこちらを見ているだけで何も答えない。う〜ん、何かアクションを起こしてくれないとこちらも反応に困るなぁ。僕はルナの横にある立ち手摺に寄りかかり、ルナの見ていた方を見ながら言った。

 

《ここの景色、私好きなんですよねぇ》

 

「・・・・・」

 

無反応!圧倒的に無反応ッ!表情を伺ってみても無表情だから何を思っているのかも分からん。ルナは先ほどと同じように何処か遠くをじっと見ている。

 

《・・・何を見てるの?》

 

「・・・・・」

 

え、これどうすれば良いの?いくらこっちから話題を振っても向こうが反応してくれないと意味ないんだが?殆ど喋らないとは聞いていたがまさかここまで無口だとは・・・なかなか手強いな。取り敢えず言いたかったことを言っておくか。

 

《昨日と一昨日はありがとう。ルナのお陰でサイモン達を助けることが出来たし、無事チャリオットを回収することも出来た。ルナのお陰で今回の任務はまぁ無事とは言えないけど何とか終わらせることが出来た。本当に、ありがとうね》

 

そう言って僕はもう一度ルナに向かって笑って見せた・・・が特に反応は無し。まぁ、地道に交流を深めて行けばいつか反応してくれるかも知れないしこれからも話しかけようか。

 

「あ、居た居た。エマちゃーん」

 

そんなことを考えていると後ろの方から声が聞こえた。振り返って後ろを見てみるとそこには青い髪をサイドテールにして結んだ女性ー今回とてもお世話になったクレセント社に所属するK11がこっちに手を振りながら歩いて来ていた。と言うか何でここにいるんだ?

 

《お久しぶりです。社長でしたら執務室に居ると思いますよ?》

 

「いや、キミに用事があるんだよ」

 

僕に?何んだろう?

 

「発声装置、治してあげるって約束したろ?」

 

あっ‼︎そうだった!完全に忘れてた。そう言えば前の任務の時に約束してたな。その為にわざわざ来てくれたのか?

 

「明日の朝9時に迎えに来るから」

 

《わ、分かりました。って言うかそれを伝える為にわざわざここに来たんですか?》

 

このことを伝えるだけなら無線とかで済ませれば良いのに何でわざわざここまで来たんだ?

 

「まぁ暇つぶしも兼ねてな。あっちにいたら研究と人形の整備ばかりで面白い事が殆ど無いからねぇ」

 

つまり仕事をサボりたいが為にわざわざここまで来たと。と言うか仕事をほっぽって良かったのか?

 

《仕事の方は大丈夫何ですか?》

 

「重要なヤツは全部終わらせといたから問題無いよ」

 

やるべきことは終わらせてから来たってことか。K11は「にしても・・・」と言いつつ僕の後ろにある復旧作業中のガレージを見た。

 

「なかなか派手にやられたねぇ」

 

ガレージには対戦車ミサイルが1発命中しており、壁と天井の一部が吹き飛んでいる。壁の方は既に応急修理を済ませており、屋根の方もトタン板で穴を塞いでいる。一部分だけ何枚ものトタン板が貼り付けてある屋根は見た目はかなり不恰好だが屋根に穴が空いたまんまよりはマシだ。

 

「こう言っちゃぁ悪いが廃墟みたいだな」

 

ガレージは激しい戦闘により汚れ、多数の銃弾が当たったことにより壁はボロボロ。ガラスが割れた窓にはダンボールが貼り付けてあり、屋根は元々あった屋根とトタン板が合わさったチグハグのもの。うん、人が居なかったら廃墟にしか見えねぇ。

 

《ですね・・・》

 

まるで今のウチの状況を表しているかの様だな。K11と話しているとK11の服のポケットの中から呼び出し音が鳴った。

 

「おっとお呼びの様だね・・・じゃ、また明日。あぁっとそうだ。ついでにルナの修理もしてやるから一緒に連れて来い。それじゃ」

 

K11は僕に手を振ってからポケットから通信用端末を出して誰かと話し始めた。階段を降りて行くK11を見送った僕はその後もルナ相手に話しかけ続けた。

 

まぁ結局僕が作業の手伝いに呼ばれるまでの間ルナが何か反応してくれることは無かった。ずっと景色を見ているだけだった。

 


 

戦術人形になってから31日目。晴れ。

 

今日は一日中L&M社の復旧作業の手伝いをしていたのだが、とても嬉しいニュースが舞い込んだ。僕は戦術人形として目覚めてからずっと声を出すことが出来なかったのだが今日、クレセント社に所属するK11が来て声を出せるようにしてくれると言ったんだ。これでわざわざ人形用無線で話さなくても会話が出来るし、ネルソン達といつでも会話が可能になる!

 

こんなにも明日が待ち遠しく思う日は無い。多少不安もあるし、緊張もするが喋れるようになるのはとても嬉しい。声が出せるようになったらまず初めにエレナに話しかけようと思う。彼女には色々とお世話になっているから感謝の言葉を伝えたいと思ってる。

 


 

現在の時刻は午前8時47分。僕はヘリポートに来ていた。結局昨日は緊張や不安や嬉しさなどの感情が混ざり合い落ち着かなくてあまり寝付けなかった。ま、例え完徹しても今の僕は人形なんだから殆ど問題は無い。僕は右横に立っているエレナの方を見て話しかけた。

 

《わざわざ付いて来なくても大丈夫ですよ?》

 

「どうせ今日は暇だったしね。それに、アンタを1人で行かせるのは色々と心配だし」

 

《私ってそんなに頼りないですか?》

 

「頼りないね」

 

僕の質問にエレナは即答で答えた。このまでバッサリ言われちゃうと傷付くなぁ。でも実際僕は皆んなに頼りにされるほど強い方言ったらそうでもないし、反論は出来ない。

 

「そんなこと言ってるが、ただ単にお前を心配しているだけだよコイツは」

 

後ろからサイモンがやって来てエレナの頭をポンポンと叩きながらそう言った。

 

「一昨日の任務の時もエマのことめっちゃ心配してたもんな」

 

「そりゃ心配するでしょ。あんな無茶なことすれば」

 

《無茶ならこっちの方が・・・》

 

と言いつつ僕は左横に立っているルナを見た。チャリオットを持った敵の乗った飛行機を止める為に飛行機のタイヤにアウディをぶつけて強引に減速させようとしたからな。

 

「確かに。アレはイカれてたな」

 

サイモンも首を縦に振りながら答えた。

 

《そう言えばサイモンさんは何でここに?》

 

「ネルソンにお前を見送るように頼まれたんでな」

 

「そう言えばネルソンは?」

 

見送りとはは別にいいかと思って隊長のネルソン以外には報告はしなかったし、見送りもいらないと言ったんだけどネルソンの性格を考えたら見送りに来そうだな思っていたが姿が見えないな。

 

「ネルソンとアリーナは今日朝早くから任務の出てんだよ。だから俺に代わりに見送ってくれって言われたんだ」

 

一昨日あんな激しい銃撃戦をしたばかりなのにもう新しい任務に当たっているのか・・・。少しくらい休めば良いのに。と言うか昨日もネルソンは一日中復旧作業をしていたしいつ休んでいるんだ?そのうちぶっ倒れるんじゃ無いか?

 

そうこうしていると1機のヘリが飛んで来た。クレセント社だからまたバローなのかと思ったが違った。飛んで来たのはティルトローター機では無く普通のヘリだ。これは・・・MH-139Aグレイウルフだね。見た目がカッコいいから直ぐに分かった。

 

グレイウルフは目の前のヘリポートに着陸した。スライドドアが開き中からK11が姿を現した。

 

「お待たせ!さぁ乗って!」

 

僕とルナと付き添いのエレナの3人はグレイウルフのキャビンに入った。使い古されたウチのUH-1Yと違い機内は目立った汚れも無く綺麗だった。もしかしたら最近購入した機体なのかもしれないな。

 

「おや?キミも来るのか?」

 

K11は僕と一緒にヘリに乗ったエレナを見て聞いて来た。僕が説明しようとしたが、それよりも早くエレナが話し始めた。

 

「ただの付き添いだから気にしないで」

 

「他に付いてくる奴は?」

 

「居ない」

 

「それじゃ、出発するぜ」

 

K11はパイロットに離陸するように指示を出した。直ぐにグレイウルフのブレードの回転数が上がり、機体が浮く。空の上からL&M社を見てみるとまだあちこち壊れている所があるのが確認できる。ミサイルを食らって倒壊したレーダーもそのままだからな。完全に治るまでには暫く時間がかかりそうだ。

 


 

L&M本社を後にしてから約1時間、僕達を乗せたグレイウルフはクレセント社に到着した。空から見てもL&M社よりも設備が整っていることが分かる。ソーラーパネルとかあるし。ウチは旧式の設備などが多いがここは最新鋭とまではいかなくても新型の設備が多そうだ。

 

グレイウルフはクレセント社のロゴマーク(Cが三日月風に描かれたヤツ)が描かれたヘリポートに着陸した。K11がスライドドアを開けるとヘリポートにはFNCとG1ジャケットを着た女性がおり、その横には戦術人形のグリズリーが立っていた。

 

グレイウルフから降りた僕達に女性は歩いて来た。茶髪の髪を背中まで伸ばした美人の女性だ。女性は僕達の方を見ると優しく笑いかけて来た。

 

「初めまして。クレセントの社長をしているリンゼイ・クロエよ。気軽にクロエって呼んで」

 

僕は軽く会釈をする。挨拶をしたいのだが声が出せないし、彼女は僕達の部隊が持っているような特注のスロートマイクを持っている訳でも無いな。

 

「今日はお世話になります」

 

「そんな畏まらなくて良いよ。自分の家だと思ってゆっくりして」

 

見た感じ優しそうな人だな。と言うかクレセント社の社長って女性だったんだ。僕の勝手なイメージだと厳ついおじさんって感じだと思ってたんだが。

 

「私の大切な部下を守ってくれたしね」

 

「いえ、もう既にそちらにそれ以上にお世話になっているので」

 

普段聞かないエレナの敬語に僕は凄い違和感を感じる。まぁ目上の人と話すんだから敬語で話すのは当たり前なんだが。

 

「貴方がエレナだね?FNCからよく話は聞いてる。優しいお姉ちゃんだって」

 

お姉ちゃんねぇ・・・元男の僕からするとやっぱり違和感を感じるなぁ。FNCみたいな可愛い子に「お兄ちゃん!」って笑顔で呼ばれたらどれだけ嬉しいことか。まぁお姉ちゃんっと呼ばれるのも悪い気はしないけど。ま、実力とかを合わせた戦闘力ではFNCの方が圧倒的に高いんだけど。

 

《お姉ちゃんは大袈裟ですよ。FNCちゃんの方が強いですし》

 

いつも通りエレナに僕の言葉を代弁して言って貰う。

 

「お姉ちゃんも充分強いよ!」

 

僕の話を聞いたFNCがまるで意地を張る子供のように言った。むーって頬を少し膨らませている姿も可愛いな。

 

「あははは。エレナちゃんはFNCに相当好かれてるみたいだね」

 

「おーい。そろそろいいかー?早く始めたいんだけど」

 

僕達の後ろに暇そうにしていたK11がクロエ社長に言った。

 

「はいはい。ほんと貴方って人形弄りが好きだよねぇ」

 

クロエ社長の言った人形弄りと言う発言に僕は恐怖を感じた。え?何?人形弄りって。もしかして僕実験動物みたいな扱いを受けるのか?そんな僕の不安を察したのか、エレナがK11を睨みつけながら言った。

 

「エレナに変なことしたらタダじゃおかないから」

 

若干殺意を向けながら睨みつけるエレナに対してK11は「分かってるって」と言いながら手を上げた。

 

「人形弄りって言っても人体実験みたいなのは主に自分の体にするから安心して」

 

いや、自分の体で人体実験するのも充分ヤバイけどな。話によるとK11は自分の体を自分で改造したりするのが好きらしい。

 

「本人の了承が無い限り他の人に変なことはしないから安心して」

 

クロエ社長は僕を安心させるように言うが、今の説明を聞く限りじゃぁ逆に安心できない。

 

「じゃぁ私は執務室に戻るから。後は任せるよ」

 

「へーい」

 

それから僕達はK11に案内されて研究棟と呼ばれる白い建物に案内された。研究棟の扉のほとんど全てがカードキーをかざすタイプのドアで、ウチとは大違いだ。そして廊下を進み僕とルナそれぞれ別々の小さな部屋に案内された。エレナは外で待機だ。

 

「じゃ、ここで服は全部脱いで。脱いだやつはそこのカゴに置いといて」

 

と部屋に入る前にK11に言われたので僕は言われた通り服を脱ぎ始める。部屋に入る丸型の椅子とカゴの置かれた小さなテーブル以外ないも無い真っ白な部屋。部屋の広さは格安なマンションの部屋見た感じ監視カメラは無さそうだけど絶対何処かに隠しカメラがあるだろ。

 

誰かに着替えている姿を見られていると思うと凄く恥ずかしい。そう言えば服は全部脱げと言われたが、ぱ・・パンツ・・・も脱がなきゃなのかな?

 

分かんなかったのでドアを少しだけ開けて顔だけを出してK11に聞いた。

 

《あ、あの〜パンツも脱ぎますか?》

 

「あぁ脱いでくれ。全部脱いだらカゴに置いてる病院服を着てくれ。靴も脱いでサンダルを履いて」

 

《分かりました》

 

どうやら脱がなきゃいけないらしい。前よりはマシになったが、今だに自分の体を見るのは恥ずかしい。胸とか下のアレとかを見るのは今だに恥ずかしい。今だにこの体が自分の体とは思えないんだよなぁ。さっさとセーラー服とかスカートとかを脱ぎパンツも脱ぐ。そしてカゴに置いてあった病気服を着る。

 

パンツも何も着ていないで薄い病気服1枚って言うのは超スースーして落ち着かないな。

 

脱いだ靴を壁際に並べて、同じくカゴに置いてあったサンダルを履いた。どうでも良いけどめっちゃ久し振りにサンダル履いたな。

 

ドアから出ると既に病気服姿のルナが立っていた。ルナはいつも通り無表情で特に恥ずかしがっている様子も無い。更にいつの間に着替えたのかK11も手術着姿になっていた。そして僕達はK11に案内され更に廊下を進んでドアの前に来た。

 

「ルナはあそこの人達について行って。エレナちゃんはあたしについて来て」

 

ルナは手術着を着た人に案内されて部屋に連れて行かれた。僕もK11に連れられて部屋に入る。部屋の中には人1人が入れる位の大きさのカプセルが横たわっていた。ウチにも似たような物があるがそれより上等そうだな。やべぇ凄い緊張して来た・・・・。

 

「じゃサンダルと病気服を脱いでこれに寝て」

 

僕は言われた通りサンダルと病院服を脱いだ。全裸の格好を見られることになり僕は顔を真っ赤にしながらカプセルの中に入って仰向けの状態で寝た。K11が僕の顔を覗き込んで来た。

 

「じゃ、今から強制シャットダウンさせるから。次目が覚めた時には喋れるようになってるから安心しな」

 

K11が僕に向かって手を振っている光景を見た次の瞬間、僕の意識は突然途絶えた。

 




どうだったでしょうか?エマちゃんは無事声を出せるようになるのでしょうか?次回もお楽しみに!

そして、いつも私の誤差、脱字などを報告してくださりありがとうございます。なるべく誤字などが無いように、そして面白い作品が書けるようにこれからも頑張って行きます!

ご感想お待ちしております!


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第25話 産声、そして進展。

大変長らくお待たせしました!最近リアルが忙しく小説を書く時間が取れないんですよねぇ。まぁ言い訳はともかく、第25話です!


▶︎システム再起動開始

 

再起動中・・・再起動中・・・

 

再起動完了。

 

▶︎自己診断プロトコル開始

 

・・・全て異常無し。

 

▶︎M14EBR-RI起動。

 


 

沈んでいた意識が浮上して、僕は目を覚ました。僕は水色の液体に満たされたポッドの中に入れられているみたいだ。目を開けてまず見えたのは手術室と思われる部屋と、少し不安そうに顔で僕を見ているエレナの姿だ。目が合うとエレナは後ろを振り向き何か叫んだ。しかし外の音はここまで入って来ないので何と言っているのかは分からない。

 

するとK11がやって来て僕の顔を覗き込んで来た。手元の端末の画面と僕の顔を交互に見てニヤリと笑った。そしてK11が端末を操作するとポッド内の液体が抜かれる。そしてプシューと空気の抜ける音と共にポッドの半透明の蓋が開いた。口に付けられていたチューブをK11が外してくれた。

 

「さて、それじゃあ何か話してみてくれ」

 

いざ話してみようとよると何だか緊張するな。それに記念すべき第一声は何を言えばいいのか分からないな。色々考えてはいたんだが、いざその時になってみると何を言えばいいか分からんな。まぁここは安パイに当たり障りの無い普通の挨拶をしておくか?いや・・・やっぱりいつもお世話になっているエレナにお礼を言うか。軽く深呼吸してから僕はエレナの方を向いた。

 

「・・・・エレナさん、いつもお世話になってます。エレナさんのことは、頼りになる先輩だと思ってます」

 

自分が想像していたよりも可愛らしい声が自分の口から出たことに驚きつつも僕はエレナに微笑んだ。するとエレナも微笑み返して来た。

 

「ほんと、アンタは世話が焼ける後輩だよねぇ」

 

「えへへ。すいません」

 

僕が笑いながら謝るとエレナも笑いながら言い返した。

 

「本当に謝る気ある?」

 

「ありますよ〜」

 

エレナと僕が笑い合っているとK11が割り込んで来た。

 

「仲良くしているところ悪いけど、ちょっと検査したいから服を着てくれるかい?」

 

K11に言われて視線を下に向けてみると、豊かな双丘が眼下に見えた。そこでやっと気づいたと言うか思い出したんだが僕は下着も何も着ていない裸の状態だった。僕は顔を赤くしながら急いで用意されていた病院服を着た。

 

部屋から出ると隣の部屋から僕と同じ病院服姿のルナが出て来た。どうやら彼女の方も無事に終わったみたいだな。安心した。

 

その後僕達は体に異常が無いかの精密検査を受けた。ルナも僕も検査結果は全て異常無し。僕の発声装置も特に異常や問題は無く、色々発音テストをしてみたが問題無く声を出すことが出来た。そしてそこで聞いたことなんだけど、何と僕はあのカプセルの中に入ってから1日が経過していた。エレナは空いていた部屋を借りて一夜を過ごしたそうだ。これを聞いて少しビックリした。

 

そしてこの声なんだけど、元男の僕からすると今の可愛らしい声は自分の声とは思えない。何だが不思議な感覚だ。自分の意思で話している筈なのに他人が話しているみたいな。まぁこれもその内慣れるだろう。

 

「服は2人が着替えた部屋に置いてるから着替えて来な」

 

K11に促され検査を終えた僕達は廊下の先にある手術前に服を脱いだ小さな部屋に入った。そこで病院服を脱いで、素早く着替えた。着替える速度は僕が一番遅かったみたいで、部屋から出るといつもの服を来たルナが立っていた。

 

「そんじゃ、迎えが来るまで娯楽室にでも行っとくか」

 


 

「いや〜無事に終わって良かったよ」

 

クレセント社内の娯楽室で一息ついているとドクターペッパー略してドクペと言う炭酸飲料を豪快に飲んだK11が机にドクペをドンっと置いて言った。

 

「本当にありがとうございます。お世話になりました」

 

僕は改めてK11に感謝の言葉を言いながら深々と頭を下げた。

 

「いーよ気にすんなって。FNCを救ってくれたお礼だから」

 

「でも既に貴方達には結構お世話になっているのに・・・・なんだか申し訳ないです。何かしらのお返しは必ずしますね」

 

クレセント社は今回の任務でとてもお世話になった。FNCやM200などの人達は任務後も破損したL&M社の施設の復旧作業を手伝ってくれた程だ。恩を返されるだからか恩を受けてしまった。これはいつか返さないとだな・・・・。

 

「だからこれはお礼だから気にすんなって。お返しを貰ったらお礼の意味がねーだろうが」

 

「お礼はもう充分貰ってますから」

 

「エマちゃんの声を聞いて改めて思ったんだが・・・・やっぱり生真面目そうな性格してるよなぁ。

 

エマとK11のやり取りを見ていた男、エリオットがそう言った。何だかんだでエマ達は彼にもお世話になってる。

 

「まぁね。人と話すときは誰か相手でも基本敬語で、他人行儀みたいな感じだし」

 

同じく2人のやり取りを見ていたエレナがコーラを片手に相槌を打つ。

 

「にしてもコイツは本当無表情な奴だな。基地の方でもこんな感じか?」

 

エリオットはエマの横に座り皆の話に参加することもなく無表情のままただ座っているルナを見てそう言った。

 

「そうだね。本当何考えてるのか分かんないヤツだよ」

 

「これでもマシになった方なんだからな?」

 

突然K11が話に割り込んで来た。

 

「最初の頃なんて、命令しないと何にもしなかったからねぇ」

 

「そうだったんですか?」

 

それを聞いた僕は少し驚いた。今よりももっと酷かったのか。命令しないと何もしないって最近の人形よりも人形っぽいな。

 

「あぁ。命令しなかったらその場から動こうともしないんだ。試しに突っ立ているルナにコップの水を頭からかけてみたが嫌がるそぶりもせず無表情のまま立ち続けていたしな」

 

それから考えると今のルナは基地にいる時とかは1人で目的もなくウロウロしてることもあるからまぁ改善された方なのか。と言うかK11はルナ相手にそんな小学生のイタズラみたいなことしてたのか。

 

「でもこんなんでも察知能力とか身体能力は高いから、いざ自分が攻撃されそうになると目にも留まらない速さで近接格闘を仕掛けてくるんだから侮れないんだよな」

 

「つまりどういうことだ?」

 

エリオットがそう質問すると、K11手に持っていたドクペを一気に呷り飲み干すと懐から小型のナイフを取り出すと僕達が驚くよりも先にルナに向かって投げた。しかもK11は軽くでは無く結構力を入れて投げたようで、まぁまぁな速度で刃先をルナに向けて飛んで行く。次の瞬間、顔をナイフの方に向けず前を向いたままノールックで右から飛来して来たナイフを右手でナイフの柄を掴み止めた。そしてキャッチしたナイフを机の上に投げ捨てた。

 

「こう言うこと」

 

「おいおい危ないからこんな所でナイフ投げんなよ」

 

「いやそもそも人に向かって投げるのかダメでしょ」

 

「人じゃなくて人形だけどな〜」

 

エリオットの注意に大してツッコミを入れたエレナにK11はナイフを回収しながら言った。いや、どっちでも良くね?と思ったがこれは口に出さないでおく。

 

「そう言えば、ルナと一緒に捕まえたJS9はどうなったの?」

 

そう言えば敵の基地に潜入・・・と言うか突撃した時にルナと一緒にJS9も捕まえたんだっけ。エレナが言うまで完全に忘れてた。

 

「あぁアイツなら第2戦闘部隊ツヴァイでよろしくやってるよ」

 

第2戦闘部隊ツヴァイって言うとウチがエイレーネーに占領された時に一緒に戦ってくれた部隊だったよな。確か隊員全員がサブマシンガンを使う戦術人形で構成されてた部隊だ。

 

「あいつの方はルナと違って無口無表情な訳でも無いし直ぐに部隊の仲間とも仲良くなったみたいだ」

 

「ルナももう少し喋ってくれるとこっちも対応し易いんだけどねぇ」

 

コーラを飲んで一息ついたエレナが頬杖をつきながら言った。確かに無表情でももう少し喋ってくれればこちらもしてもコミュニケーションが取りやすいな。

 

「わざわざ強い方を渡してやったんだ。文句言うなよ」

 

「アンタに言った訳じゃないっての」

 

「ま、お前らの方から積極的に接していればその内ルナも喋ってくれるようになるさ」

 

と言いながらK11は空になったドクペの空き缶を5メートル程先にあるゴミ箱に向かって投げた。縦回転しながら飛んで行った空き缶は見事ゴミ箱の中に入った。凄いな。ちょっと僕もやってみよう。

 

僕は残っていたメロンソーダを一気に飲み干すとゴミ箱に狙いを定めて空き缶を投げた。緩い弧を描きながら飛んで行った空き缶はゴミ箱の縁に当たり上にバウンドした。

 

「あ」

 

そのままゴミ箱の手前の床に落ちた。行けると思ったんだけどなぁ・・・。取り敢えず床に落ちた空き缶を拾う。その瞬間、僕の顔の横を赤色の空き缶が飛んで行きゴミ箱の中に入って行った。振り返るとエレナが少しドヤ顔をしながらこちらを見ていた。あんにゃろ〜今に見てろよ。

 

僕は拾った空き缶を持ったまま自分が座っていた席に戻るともう一度狙いを定めてゴミ箱に向かって全力で投げた。先程より勢い良く飛んで行った空き缶はゴミ箱の真上を通過し、FNCと一緒に歩いていたM200の頭に命中してしまった。それを見ていたエレナとK11とエリオットは同時に吹き出した。

 

「痛っ」

 

「あっ!?ご、ごめん!」

 

とっさに僕は手を合わせてM200に謝った。

 

「ちょっと!誰!?空き缶を投げたの・・・あれ?エマお姉ちゃん?」

 

M200に当たって床に落ちた空き缶を拾って飛んで来た方を向きながら怒ったFNCは僕の姿を見て目を丸くした。パッと明るい表情になりFNCは僕の方に駆け寄って来た。

 

「まだ帰って無かったんだ!いつまでいるの?お姉ちゃんに色々紹介したい所とかあるんだ」

 

「ごめんね、もう帰るんだ」

 

「「え?」」

 

僕の声を聞いたM200とFNCがまた目を丸くした。あ、そっか2人は僕が話せるようになったのはまだ知らないんだったな。驚くのも無理は無い。

 

「お姉ちゃん話せるようになったの!?」

 

「うん。K11さんに発声装置を治して貰ったからこれでFNCとも普通に話すことが出来るね」

 

「そっかーここに来たのはK11に治して貰う為だったんだ」

 

あ、僕がここに発声装置を治しに来たってことは知らなかったのね。

 

「良かったですね。話せるようになって」

 

空き缶を当てられたことを怒っているかなと思ったがM200は特に怒った様子もなく祝ってくれた。

 

「ありがとう。ごめんね?空き缶当てちゃって」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「何だお前ら、任務はもう終わったのか?」

 

「うん!目標の首を掻っ切った!」

 

・・・・う〜ん。あどけない、無邪気な笑顔で首を掻っ切るとか言われると恐怖しか感じないな。前の戦闘の時に敵を容赦なく滅多刺しにしていた様子が一瞬僕の脳裏にフラッシュバックして身震いした。

 

「綺麗に切れたんだよ?見る?」

 

「い、いや~大丈夫かな・・・」

 

どうやらFNCは殺した相手の写真をスマホに撮っていたらしく画面をタップして写真のフォルダからその写真を出して僕に見せようとしたが、僕はそれをやんわりと断った。

 

「M200はFNCと一緒だったの?」

 

「はい。でも僕はFNCみたいに接近戦が強い訳でもないですし・・・今回の任務では偵察しかしてませんでしたから目立った活躍は何も」

 

「分かってると思うけど偵察も重要な任務だからね?」

 

「あ、はい!分かってます」

 

僕達の会話を聞いていたエレナがM200に言った。

 

「ま、そう言う私も偉そうなこと言える立場じゃないんだけどね~」

 

「エレナさんの言う通りですよ。確かに偵察も重要な任務ですし」

 

スナイパーは漫画や映画の様に狙撃しまくる訳ではない。偵察活動の方が多いと言われている程だ。偵察は地味だがとても大切なことだ。偵察を疎かにしたせいで味方の部隊が全滅ないし壊滅的な被害を受けたと言う話は聞いたことがある。

 

「ウチにもスナイパー欲しいなぁ」

 

とエレナはボヤいた。いや、僕も一応M14EBRを使ってるマークスマンなんだけどな〜。

 

「私とかバラライカさんが居るじゃないですか」

 

「バラライカはそもそもマシンガンだし、アンタだってスナイパーじゃなくてマークスマンでしょうが」

 

「まぁそうなんですけどね・・・」

 

まぁ確かにマジ(本物)のスナイパーってウチの部隊には居ないよな。

 

「ウチのM200で良ければこき使って貰って構わないよ」

 

「ボクで良ければいつでも力になります」

 

「私もー!」

 

K11の発言にM200はおずおずと言った感じで、FNCは手を上げながら元気いっぱいに言ったがそれをエレナは片手で制した。

 

「これ以上アンタらの世話になるつもりは無いから、気持ちだけ受け取っとく」

 

それから暫くの間、皆んなと雑談をしているとK11の通信端末から呼び出し音が鳴った。K11は誰かと短いやり取りをした後、僕達の方を向いた。

 

「迎えが来たそうだ」

 

ヘリポートに行くと、UH-1Yが着陸していた。UH-1Yのキャビンにはサイモンが乗っていた。僕がヘリに乗ると早速サイモンが聞いて来た。

 

「で?ちゃんと喋れる様になったのか?」

 

「はい。おかげさまで」

 

と言って僕はサイモンに微笑んだ。するとサイモンは「お~案外可愛い声じゃねーか」と言いながら僕の頭をワシワシと撫でて来た。

 

「ルナの方も元気そうで何よりだ」

 

と言うサイモンに対してルナは特に反応することなく奥の席に座った。それを見たサイモンは「そこん所は変わんねーのな」と言いつつ肩をすくめた。僕は見送りに来てくれたK11達の方に向かって手を振り、ヘリのエンジン音に負けないように大声で言う。

 

「K11さーん!お礼は必ずするんでー!」

 

「だからお礼はいいって!」

 

と言いながらK11は手を振り返してくれた。

 

「また来てねー!」

 

遠心力で飛んで行ってしまうんじゃないかと思うくらい勢いよく腕をブンブンと振っているFNCに僕も手を振り返す。程なくしてK11達に見送られつつUH-1Yは離陸した。

 


 

約1時間後、僕は一日振りにL&M社に帰って来た。一人くらいお出迎えに来てくれているかなと思っていたんだけどヘリポートには誰も居なかったので僕は少しがっかりしたが、高望みし過ぎたかな。

 

「到着早々で悪いが、ブリーフィングルームに来てくれ」

 

それを聞いたエレナは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「何ー?新しい仕事ぉ?もう少し休みが欲しいんだけど」

 

「よく知らねーけど仕事の話じゃぁねぇみたいだぞ?」

 

サイモン自身もどんなことを話すのかは聞いていないようだったが、取り合えず僕達はブリーフィングルームに向かった。ブリーフィングルームに入ると既に全員揃っていた。

 

「エマ、ルナ」

 

正面のスクリーン前に立っていたネルソンが僕とルナを呼んで手招きをした。僕とルナがネルソンの元に行くと、皆の方を見て話し始めた。

 

「ルナが新しくウチの仲間になったのは前にも話したが、ルナを正式に我らアサルト部隊の隊員として引き入れることになった。そしてこれも皆知っていると思うがエマがちゃんと喋れる様になった。エマ、何か一言」

 

ちょ、マジっすか⁉皆の前で話すなんて思っていなかったから何にも考えていないんだけど⁉おどおどとしながら僕は一歩前に出た。

 

「え、えーっと・・・・今まで喋れないで色々とご迷惑をおかけしました。これからも、色々とご迷惑をおかけすると思いますが・・・えーっとよろしくお願いします」

 

僕は皆んなに向けて頭を下げた。みんなからパチパチと拍手が送られて来た。横からネルソンが「席に戻って良いぞ」と言われたので僕はそそくさといつも座っている席に向かった。ルナは無言のまま僕の横に座った。

 

「これが1つ目の報告だ。そして次の報告はバラライカやエレナ達戦術人形に関係のある話だ」

 

戦術人形に関係のある話と聞いて僕とエレナは顔を見合わせた。何の話なのか全く分からない。

 

「まぁ簡潔に言うと戦術人形だけの部隊を作ることになった」

 

「戦術人形だけの部隊?」

 

エレナが聞き返すとネルソンは頷いた。

 

「より危険度、難易度、そして報酬の高い任務をこなす臨時特殊部隊だそうだ。俺のような人間と違って人形は多少被弾しても大丈夫だし、身体能力等でも人形の方が優っているからだそうだ。まぁ俺としてはあまりそうゆう使い方はしたくないんだけどな」

 

戦術人形を人間と同じ様に扱う様にしている・・と言うか人間と同じと考えているネルソンはこの部隊のことを好ましくは思っていないようだ。僕はこの部隊は別に良いんじゃないかなと思ってたりする。まだどんな任務をするとかが分かっていないからなのかもしれないが。

 

「臨時と言うことは、普段は今まで通りアサルト部隊として活動すると言うことか?」

 

手を上げながらバラライカがネルソンに質問した。

 

「あぁ。高難易度や危険性の高い任務が来た時にだけ招集される」

 

なんか話だけ聞いてると本当の特殊部隊みたいな感じでカッコいいな。緊急時の時だけ招集されるとかヒーロー漫画とかでありそうだ。

 

「でも何でいきなり戦術人形だけの部隊を作ろうって話になったわけ?」

 

「ウチに所属する戦術人形の数が増えたからと、前の任務で小さくない被害を受けてことでいよいよ金に余裕が無くなって来たから一攫千金を狙ってのことらしい」

 

「それこそ前の任務の時みたいに、高い報酬に目が眩んで面倒事に巻き込まれそうなんだけど」

 

「流石に今回のことは社長も反省しているみたいなでな。色々と対策をしているようだ」

 

「対策って具体的には?」

 

「新しく人を雇って相手の裏を探る情報班を作ったり、社長が今までのように暴走しないように見張り兼秘書も付けることになった」

 

秘書かぁ〜なんかそれだけで一気に社長っぽくなるな。にしても秘書ってどんな人なんだろうか?僕の勝手なイメージだと眼鏡をかけた生真面目そうな雰囲気の女性だと思うな。

 

「今後、依頼を受けたらまずその情報班が何か裏が無いかとかを調べてもしそれで黒だったら依頼は受けないと言う感じになるだろうな。まぁ今までも下調べとかをしなかった訳では無いんだが、ざっとしか調べなかったからな。あぁそれと、戦術人形だけの部隊を作るにあたり、新たに戦術人形を何人か買おうかと言う話にもなっているから近々紹介することになるかもな。報告は以上だが、何か質問がある奴はいるか?」

 

どうでもいいことかも知れないが、その新しい部隊の名前が気になったので僕は手を挙げた。

 

「その新しい部隊の名前ってもう決まっているんですか?」

 

「社長は臨時特別機械化歩兵部隊とか呼んでいたが社内ではSpiteful(スパイトフル)と言う部隊名で呼ぶことになっている」

 

スバイトフル・・・・響き的には悪くない名前だな。と言うかカッコいいと思う。でも言葉の意味を考えるとどっちかと言うと悪者の組織名っぽいな。

 

「隊長は誰が?」

 

僕に続きエレナが手を上げてネルソンに聞いた。確かに誰が隊長になるのかも気になるな。もしかしたらエレナかもな。普通に射撃とかも上手いし、指揮するところとかは見たことないけどエレナなら出来そうだ。

 

「それは後で本人に直接言おうと思ってたんだが・・・まぁいいか。ウチに所属している戦術人形の中で一番の古株のアリーナになって貰おうかと思っている」

 

僕も含めた全員の視線が腕と足を組んで椅子に座っていたアリーナに向けられた。当の本人は特に驚いている様子も無く、ニヤリと笑っていた。

 

「へぇ、あたしが部隊の隊長になれるとは嬉しいねぇ」

 

「まだ決定した訳じゃないがな。他に聞きたいことがある奴はいるか?」

 

ネルソンは数秒間待ったがこれ以上誰かが手を挙げることは無かった。

 

「・・・無いようだな。それでは解散」

 


 

戦術人形になってから31日目。晴れ。

 

無事に手術は終わり、嬉しいことに僕は普通に喋れるようになった!まぁ当たり前ちゃ当たり前なんだが、声が可愛い女の子の声なのがすっごい違和感がある。想像してみてくれ、自分の口から可愛い女の子の声が出るのを・・・何というか、気持ち悪いだろ?いやこの声が嫌いと言う訳では無い。可愛いし、この身体の見た目ともマッチしていると思ってる。しかし元男の僕としてはやっぱり違和感が半端無い。

 

それにさっき、自分の部屋にある姿見の目の前で色々可愛いポーズを取りながら男が言われてみたい言葉を1人で言ってみたりしてたんだがそれをエレナに思いっきり目撃されてしまった。とてつもなく恥ずかしかった。死にたい。一応「発声練習をしてたんですぅ!」と咄嗟に言ったがあれは苦しい言い訳だったなと我ながら思っている。死にたい。ま、見られたのがエレナだったから皆んなに言いふらすなんて事はしないだろうからそれは救いだ。もし見られたのがネルソンとかだったらヤバかった。何はともあれ、良い言い訳を考えとかないとだな。

 




どうだったでしょうか?色々と書きたいことがあって書きまくった結果ごちゃごちゃとした内容になってしまったかなぁと思い反省しています。

次回か次次回辺りから早速新キャラを何人か当時させる予定です!一体どんな人達来るのでしょうか?お楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第26話 New Face

題名に困った時は取り敢えず英語にすればそれっぽくなると思うのは私だけだろうか?

大変長らくお待たせしました第26話です!皆さんコロナは大丈夫ですか?こっちは一ヶ月程前に近くで感染者が出たものの何とか大丈夫です。


前回の任務のせめてもの報酬として僕達アサルト部隊の面々は休暇を貰った。ネルソンとバラライカは社長と一緒に新しく作る部隊について色々話し合いをしており、オットーは愛車のハーレーに乗って何処かに行ってしまい、サイモンはジムで己の肉体を鍛え、アリーナとアンナは射撃練習場で的を撃ちまくってスコア勝負をしている。ユウヤとハルカは娯楽室でゲームをしているし、ハオレンは自室で読書に勤しんでいたりと皆各々休日を過ごしている。

 

僕の方と言えば、特にすることが無く暇を持て余していた。アリーナ達と一緒に射撃練習をしようとも思ったが、あの白熱した試合に割り込む気も起きないし、折角の休みの日にまで訓練をするのもどうかと思って結局射撃練習場には行かず自分の部屋でゴロゴロとしていた。

 

いつもの日課の日記を書こうとも思ったが書くことが無いので日付を書いたところでシャーペンの動きは止まってしまった。あ、そう言えばルナは今どうしているんだろう。また屋上でぼーっと景色を見ているのだろうか?どうせ暇だし探しに行ってみるか。そう考えた僕は書きかけの日記帳を机の引き出しにしまうと部屋を出た。

 

廊下を歩いているとエレナと出くわした。

 

「あ、エレナさん。何処かにお出かけですか?」

 

右手に握られた車のキーらしきものを見た僕は聞いてみた。因みにエレナ自身はマイカーを持っていないのだが、会社の車は申請して許可をもらえば誰でも使えるようになっている。

 

「ちょっと街の方までね。一緒に来る?」

 

別に僕は街に行ってもやることは無いんだけどここに居てもやることが無くて暇なだけだし暇潰しにはちょうど良いかな。あ、それならルナも一緒に連れて行ってみよう。

 

「良いですね。あ、ルナも一緒に連れて行って良いですか?」

 

ルナも一緒にと聞いた瞬間、エレナはあからさまに嫌そうな顔をした。エレナはコミュニケーションの取り難いルナのことをそこまで好意的には思っていないようだ。

 

「・・・別に良いけど何でアイツも一緒なの?」

 

「特に理由は無いんですけどね。いつも1人なので連れて行こうかなと思いまして」

 

エレナは呆れた様にため息を吐いた。何だろう?何か変なこと僕言っただろうか?僕が首を傾げているとエレナは再びため息を吐きながら話し始めた。

 

「アンタって本当お人好しだよねぇ」

 

「そうですかね?」

 

「うん。間違いないね。で?連れて行くの?」

 

「はい」

 

「じゃ、正門前で待ってて」

 

そう言いながらエレナは廊下を歩いて行く。

 

「了解です」

 

去って行くエレナの背中に返事をしてから僕をルナを探すことにした。先ずは前に探した時に居た屋上に向かうことにする。しかしその前に僕は一度自分の部屋に戻り机の引き出しからP320と予備マガジンを取っつ。そしてハンガーに掛けていたホルスターを取ると腰に付けてP320と予備マガジンをホルスターに入れた。前に街に行った時は何も無いだろうと銃を持って行って無かった。そしたら本社が襲撃されていて銃が無くて大変だった。だからその反省を生かして今日はちゃんと護身用の銃を持って行く。まぁ僕の使ってるP320は45ACP弾を使う型のヤツだから護身用の銃としてはパワフル過ぎる気もするが・・・まぁ良いか。

 

そして部屋を出た僕は長い階段を登って屋上に行くと予想通り居た。屋上の端に何をする訳でも立って水平線の先をジッと見ている。僕はルナの横に立つとそっと声をかけた。

 

「今から街の方に行くんだけど一緒に行かない?」

 

チラリとルナの方を見てみるが特に反応もなくこちらに視線を合わせてもいない。しかしそうなることは想定済み。今回は強引に行かせて貰うぜ。ルナを手を掴み引っ張る。ルナは特に抵抗する訳でも無く大人しく僕に連れられているので僕はそのまま階段を下って外に出るとエレナに言われた通り正門前で待つ。少しの間待っていると駐車場からフォードF150がやって来た。勿論運転席に座っているのはエレナだ。しかしフォードF150みたいなデカい車にエレナみたいな身長の低い人が乗っていると子供が運転している様に見えてしまうなw。

 

フォードF150が僕達の目の前に止まる。僕は後部ドアを開けてるとルナを先に乗せてから僕も乗った。僕が乗ると同時にエレナはアクセルを踏みフォードF150を発進させた。

 

「アンタらは街で何をするつもりなの?」

 

出発してから数分後突然エレナが話しかけて来た。何とかルナとコミュニケーションを取れないかと色々話しかけたりしていた僕はそう言えば街に行って何をするかなどを特に決めていなかったことを思い出した。その場のノリと言うか勢いで来てしまったからなぁ・・・何も考えていなかった。

 

「あー特に何処に行くかは考えて無いですね。ルナと街をぶらぶらと散策でもしますよ。そう言いばエレナさんは街に何しに行くんですか?」

 

「私はブツを受け取りに」

 

ブツを受け取りに?もしかして何かの任務なのだろうか。そう言うことなら僕達も手伝うが。そう聞こうとしたが僕が言うよりも早くエレナは言った。

 

「あぁ別に任務とかじゃ無いから。本当にただ荷物を受け取りに行くだけだから」

 

「その荷物と言うのは?」

 

「人」

 

予想の斜め上の答えに僕は一瞬フリーズしてしまった。ひと・・・ヒト・・・・ひ、人⁉︎

 

「ま、まさか社長は金を稼ぐ為に人身売買とかにまで手を出したんですか⁉︎」

 

くそっまさかそんなことに手を出してしまうとは・・・ウチの会社も落ちてしまったもんだな。

 

「いや違うから。いやまぁ今のは私の言い方が悪かったけどさ」

 

なんだ違うのね。それは一安心。本当に人身売買なんてすることになったら僕全力で社長にそんなことやめろと説得しに行っただろうな。でもそうじゃ無いとなると人を受け取りに行くとはどう言うことなんだろうか?いや、もしかして受け取りに行くって言うのは比喩的な表現で迎えに行くって言うのが正しいのかな?

 

「ほら、昨日ネルソンが話してたでしょ?秘書的な人が来るって」

 

昨日ブリーフィング室でネルソンから聞いた前の任務の反省を生かして社長が暴走しない為や社長の負担軽減などの為に新しく秘書を付けると言う話だったな。成る程、その人を迎えに行くのか。

 

「あ〜。言ってましたね。その人を迎えに行くってことですか?」

 

「そう言うこと」

 

「なら私達も付いて行きますよ」

 

「いや私1人だけで大丈夫だからアンタらは街をぶらぶらしといて良いよ」

 

「これから仲間になる人を迎えに行くのに私達が遊んでいるって言うのは失礼だと思いますし、別に行く宛がある訳では無いですし」

 

「真面目だねぇ」

 

「真面目って言う訳では有りませんよ。さっきも言いましたけど街に行こうとしたのも暇つぶしの為でしたし。暇が潰せるのなら何でよ良かったんです」

 

「じゃぁそいつを連れて来たのも暇つぶしの為?」

 

エレナが親指でルナの方を指差して言った。

 

「それも無いとは言えませんが・・・・積極的にコミュニケーションを取れば喋ってくれるようになるかなと思っていまして」

 

まぁ全く喋らないって言う訳では無いんだけどね。だけど必要最低限のことしか喋らないし、喋らなくて済むことなら頷くなどしてコミュニケーションを取る。恐らくルナの声を聞いたことある人は片手で数え切れる程の人しか居ないだろう。僕が目指しているのは無駄話とかを一緒にしてくれる様になることだ。

 

「それで喋ってくれるようになったら苦労しないんだけどね」

 

「分かりませんよ?もしかしたら喋ってくれるようになるかも」

 

「なら賭けてみる?話してくれる様になるかどうか」

 

出ました賭け。この会社の人達はちょっとしたことでも賭け事にする。まぁ民間軍事会社もとい傭兵らしいけどさ。因みにアサルト部隊の中ではサイモンと賭け事をすることが一番多い。まぁその賭け事の内容は大半がどうでも良いことなんだけど。

 

「良いですよ。幾ら賭けます?」

 

「5ドルにしといてあげる」

 

5ドルと言う安い金額にしてくれたのは僕に対するエレナなりの優しさなんだろうな。しかしこの賭け、負ける気は無い。

 

「じゃぁこっちは10ドルで」

 

「自信満々みたいだね」

 

「負けず嫌いなだけですよ」

 

そんな感じで雑談をしながら車に揺られること約1時間、僕達はE-17地区の中で一番規模の大きい街にやって来た。ここに来るのはFNC達とチョコケーキを食べに来た以来だから久し振りと言う訳では無いが、やはりこの人の多さには驚くなぁ。僕がまだ人形になる前はスラム・・とまではいかないけど僕の住んでいた街はそんなにお金に余裕の無い人達が結構いたし。人の数もそんなに多く無かったからな。

 

街の中を走ること約10分、目的地に着いた様でエレナはフォードF150を道路脇の駐車スペースに止めた。人通りの少ない町外れにある廃墟などを想像していたのだがそんなことは無かった。目の前には小洒落たカフェがある。どうやらここが待ち合わせ場所らしい。

 

エレナは「すぐに連れて来るから待ってて」と言って降りて店の中に入って言った。僕とルナは言われた通り大人しく後部座席に座って待つ。店はガラス張りだったので店内に入ったエレナの姿も確認出来たので僕は様子を見た。エレナは店内を見渡してその待ち合わせている人を探している様な素振りをする。その後エレナは近くに居た店員に話し掛けた。店員は首を横に振りそれを見たエレナは店員に頷きそして店からエレナは出てフォードF150に戻って来た。

 

「どうかしました?」

 

運転席のドアを開けて乗って来るエレナに聞いた。

 

「まだ来てないみたい。もう指定の時間の5分前って言うのに。何が性格は真面目なところです〜だ。真面目なヤツなら遅くても5分前には来てるもんでしょ」

 

腕を組んでぶつぶつと文句を言うエレナをなだめる。待ち合わせの時間になっても人が来ないことの文句からいつの間にかウチの社長の文句に変わり僕はその愚痴を苦笑いしつつ聞き、その人が来るのを待った。が、10分経っても目的の人は来ず、エレナは貧乏ゆすりを始めた頃、電話の呼び出し音が鳴った。エレナはポケットからスマホを取り出すと相手はなかなか待ち合わせ場所に来ない本人からだった様で愚痴を溢しつつエレナは電話に出た。、

 

「もしもし?今何処に・・・何て?よく聞こえない。・・・・はぁ?今の場所は?・・分からないって・・まぁそっか。どんな所に居るの?・・・いや裏路地だけじゃ分からないから。近くに何か目印になりそうなのは無い?・・・・・はぁ〜分かった。今から探しに行くからそのまま頑張って逃げ回って」

 

会話の内容から察するに、相手の方は何か厄介ごとに巻き込まれてしまったのかな?

 

「チンピラに追いかけ回されているそうだから2人とも探して助けた来てくれない?」

 

つい最近までヤバめの任務をしていたせいか、何かとんでもない事に巻き込まれたんじゃと思っていたのだがエレナの話を聞いて拍子抜けしてしまった。

 

「現在は不明。唯一の手がかりは広めの裏路地を走り回っているって言うことだけ。敵の人数は5〜7人。武器はナイフと鉄パイプ。救出目標はアニー・フローレス」

 

と言いながらエレナは若い女性の顔写真が貼られた紙を僕達に見せて来た。見た目は20歳程で、普通に可愛い。茶髪の長い髪が特徴。これなら直ぐ見れば直ぐに本人かどうか分かるな。

 

「私は電話しながら現在地を何とか特定してみるから2人は2手に分かれて目標を救出して来て」

 

「了解です」

 

ずっと車内に座っていて暇を持て余したし丁度良い。昔の、まだ青年だった頃の僕だったらチンピラ相手にもビビっていただろうし、戦ってもこっちが一方的にやられるだけだっただろうが今は違う。今の僕は人形、それも戦いに特化した戦術人形のM14EBRだ。今の僕なら大抵の人間をコテンパンにやっつける事が出来る自信がある。

 

そんな妙に強気な自信を持ちながら僕はドアを開けて降りる。ルナもその後に続く。いざ探しに行こうとした時運転席側のドアの窓を開けてエレナが顔を出して来た。

 

「分かってると思うけどチンピラ連中に本気を出さないでよ?私達が本気で殴ったら普通の人間なんて簡単に骨が折れちゃうことだってあるんだから」

 

「分かってますよ」

 

「アンタも、戦うときは相手を少し痛めつけてビビらせる程度にしてよね?」

 

エレナは僕の横でいつの間にかグロック34を取り出してスライドを引いて初弾を薬室に装填していまルナに言った。注意を言われたルナは大人しくグロック34を懐にしまった。もしかしてエレナが注意しなかったらぶっ放すつもりだったのか?ルナの敵に対する容赦の無さを考えるとあり得るから笑えない。

 

「じゃぁルナはあっちを。僕はこっちの方を探すから」

 

ルナは頷くと僕が指差した方に走って行った。僕はルナが走って行った方向とは逆の方に走り始めた。適当に方向を決めて走り始めたのはいいが、ぶっちゃけ何処を探せば良いのか分からない。裏路地と言われてもここら辺に裏路地は沢山ある。近くの裏路地から順に調べまくろうと思ったがそれでは時間がかかり過ぎて効率が悪い。でもそれ以外の良い方法が今思いつかないから取り敢えず近くにあった裏路地に入って探してみるがやっぱり居ない。直ぐに別の裏路地へと移動する。

 

《エレナから捜索中の2人へ。目標との連絡が途絶えた。敵に捕まったと思われる。途切れる直前に大通りの近くと言っていた。以上》

 

エレナから人形用無線を使って連絡が来た。これは不味いな。早く見つけないと何をされるか分からない。僕の覚えている地図が正しければ大通りはここから真っ直ぐ行ってから右に曲がった所にあった筈だ。僕は全力疾走で大通りに向かう。

 

しかし大通り付近にも裏路地が沢山あるのでどれが辺りか分からない。僕はその場で止まると耳を澄ました。もしフローレスさんがチンピラ連中に襲われているのなら叫び声を上げている筈。もしかしたらその声が聞こえてくるかもしれない。

 

が、大通りが近くにあるために車や人の話し声などの騒音が邪魔で叫び声らしき声は聞こえない。さっきと同じ様に取り敢えず近くの裏路地に

入って探す。ゴミが散乱する裏路地を走り回るがフローレスさんやチンピラどころか人っ子1人居ない。

 

「ん?」

 

裏路地を全力疾走している時、僕は何かが聞こえた様な気がして足を止めた。聞こえて来たのは左側、しかし左側は建物の壁だった筈なんだが?そう思いながら左を向くとそこには猫か犬が倒れる位の広さの隙間があった。そこから何か女性の男性の声が聞こえて来た。

 

「いやッ!やめて!離してッ!」

 

「うるせぇ!暴れんな!おいお前らコイツを押さえてろ!」

 

どうやら向こう側にも裏路地がある様だ。会話内容から察するに女性が複数の男性に襲われている模様。隙間を覗き込んで何とか向こうの様子を見ようとするが何か人影が動き回っているのが見えるだけで女性の顔とかは見えなかった。しかし僕達の探しているフローレスさんの可能性はかなり高い。それにもし違ったとしても襲われている女性をほっとく訳にはいかない。何とか向こうに行かないかと辺りを見回したが道どころか僕が倒れそうな隙間も無かった。

 

僕は舌打ちをしながら再び全速力で走り裏路地から出ると隣の裏路地へと向かった。念のためにP320を一度ホルスターから取り出してセーフティーを解除し、スライドを引いていつでも撃てる様にしておく。P320をホルスターに戻すとホルスターを上着で隠した。

 

前方から複数の男性の声が聞こえて来る。僕は相手に気づかれない様に慎重に早歩きで進む。暫く進むと男達がたむろしているのが見えた。人数は全部で7人だ。僕は男達に気づかれる前に距離を保ったまま物陰に隠れつつ様子を伺う。どうやら男どもは女性を押し倒して服を無理やり脱がそうとしている。女性は必死に抵抗しようとしているが男4人に押さえ込まれている。この後何が起きるのかは僕でも簡単に想像することが出来る。このままでは不味い。

 

暴れる女性の顔を確認してみると茶髪の長い髪が見えた。顔は押し倒されている状態なのでよく見えないが恐らく探していたフローレスさんで間違いなさそうだ。

 

「こちらエレナ。目標を発見。現在地は大通りにあるファーストフード店の横にある裏路地です。チンピラ7人に取り押さえられて暴行などを受けています」

 

《了解。1人で大丈夫?今ルナもそっちに向かっているけど必要なら私も加勢するけど?」

 

「大丈夫ですよ。アリーナさんに近接格闘はみっちり仕込まれましたから」

 

《了解。でも無理はしないでね》

 

「了解です」

 

通信を終えて再び男達の様子を伺うと男の1人が強引に上着を脱がせてフローレスさんの胸を鷲巣かもうとしていた。僕は物陰から出るとその男に向かって落ちていた拾って石を投げた。足は男の頭に命中し「痛ッ⁉︎」と言いながら男は頭を手で押さえた。僕は大きく息を吸い言った。

 

「その女性から離れろッ!」

 

僕の叫び声にニタニタと笑いながら女性を襲っていた男達の動きがピタリと止まり、視線が一斉に僕に向いた。

 

「あ?何だてめぇ」

 

お楽しみのところを邪魔されたのが気に食わなかったのか男達は僕を睨んでいたが僕の姿を見ると「お、結構可愛い子じゃ〜ん」などと言いながら先程の様なニヤついた表情に戻った。

 

「女を助ける為に1人で助けに来るとは・・・可愛い割に度胸はあるねぇ」

 

恐らくボスであろう黒いジャケットを来た若い男がそう言った。僕は毅然とした態度でもう一度言った。

 

「その人に手を出すな。今すぐどっか行け」

 

と言ってみたは良いもののそれを聞いた相手の方はアッハハハハ!と笑うだけで僕の話を真面目に聞いている様子は無い。う〜ん。相手をビビらせる様な言い方が出来れば良いんだがこう言うのには慣れてないからなぁ。

 

「強気な女は好きだぜ。だが・・・・」

 

リーダーの男は頭から血を流す男をチラリ見た。うーん。もう少し力を抑えて投げるべきだったかなぁ。

 

「おいたの事は謝らないとなぁ」

 

リーダーの男が目配せをすると、一番僕の近くにいた男が立ち上がり僕の前に来た。僕は一歩も引かずその男を睨み付ける。

 

「ギャハハハハ!お嬢ちゃん可愛いねぇ。その太ももとか良いよ〜すりすりしたいね」

 

目の前に立った男は視線を僕の足に向けてそんなことを言う。男の僕でも・・いや、男の僕だからこそ気持ち悪いと思う。野郎から太ももすりすりしたいとか言われて気持ち悪いと思わない奴は居ないだろ?なので僕は先制攻撃をした。

 

男が何か行動をする前に全男の弱点である股間に下蹴りをお見舞いする。

 

「ん"がぁ”⁉︎」

 

自分の息子を蹴り上げられた男は声にならない断末魔を上げて股間を両手で押さえながらその場に倒れ込んだ。それを見た他の男達はニヤついた表情を一変させて怒りの形相で一斉に僕に襲いかかって来た。

 

「この野郎ッ!」

 

最初にやって来たのは鉄パイプを持った身長の低い男。右手には鉄パイプが握られており、これをまともに食らえばいくら僕が人形と言えども大怪我は間違い無しだ。

 

「野郎じゃないっての!」

 

と言い返しつつ僕は鉄パイプが振り下ろされた瞬間鉄パイプを持っていた右腕と襟を掴み背負い投げみたいな感じで男をぶん投げた。見た目は可愛らしい少女だが人形なので投げる力も強い。ある程度力を抜いて投げたんだけど、まともに受け身も取れず背中から地面に落ちた男は苦しそうな声を上げた。余程痛かったのか起き上がるそぶりはなくうめき声を上げるだけだ。

 

すぐさまナイフを持った男2人が僕に飛び掛かって来た。ナイフを横薙ぎに振って来たのでしゃがんでそれを回避し、がら空きの腹に強めのパンチを食らわせた。強烈な腹パンを食らった男は腹を押さえてその場にうずくまってしまう。

 

もう一人の男が刺突して来たのでナイフを握っている右腕を掴み右脇に引き込んで挟み、そして腹に膝蹴りを喰らわせた。これで4人を無力化した。これもハオレンとアリーナの訓練のお陰だな。あの厳しい近接格闘訓練を頑張った甲斐はあったな。

 

残りはリーダーを含めて3人。ただの少女だと思って舐めていた相手が予想以上に強かったのに驚いている様で僕から距離を保って様子を伺っている。

 

「動くなッ!」

 

リーダーの男がズボンから拳銃を取り出して僕に銃口を向けた。どうやらズボンのベルトに挟んでいた様だ。僕もP320をホルスターから抜き取ろうとしたが4人を倒した事で油断していて抜き取るタイミングを失ってしまった。大人しく僕は両手を上に上げた。

 

アレは・・・・ルガーMkIIか。しかもサプレッサーを内蔵した小音モデル。ルガーMkIIの使用弾薬は22口径LR弾って言うやつで発砲音が9ミリパラペラム弾とかよりも小さい。サプレッサー付きとなるとかなり発砲音は小さくなる。隣が大通りってこともあるから車の通る音とかね発砲音は掻き消され誰かに聞かれることも無いだろう。サプレッサー内蔵型のルガーMkIIとなるとそれなりに良い値段はするけど馬鹿みたいに高いわけでも無い。コイツが持っているのも不思議では無いな。

 

っていかんいかん。銃の分析をしている場合じゃ無い。この状況は普通に不味い。下手に動くと僕は撃たれてしまう。22LR弾くらいの小口径弾なら食らっても人形だから死なないんじゃないかなとも思ったが絶対に死なないって言う確証は無いし、いくら僕が人形でも撃たれるとクッソ痛い。何度か撃たれたことがあるからその痛みは理解している。撃たれた箇所は鋭い痛みと同時に焼ける様な熱を感じる。アレは何度も体験したいとは思わないね。

 

まぁ痛覚カットって言う荒技があるんだけどね。でももし弾が頭に当たれば電脳が破壊されて僕は死んでしまう可能性だってあるし、胴体を撃たれてコアなどの重要部分が損傷してしまう可能性だってある。

 

よく22LR弾は低威力で貫通力も低く人に撃っても致命傷を与える事は出来ないとか言われているけどそんなことは無い。逆に22LR弾は貫通力が高いし、普通に人間を殺す事が出来る程の威力だってある。なので舐めていると痛い目に合うどころかあの世に行ってしまう。

 

「良い銃だね」

 

僕は両手を上げたままリーダーの男に言った。リーダーの男は既に勝ち誇った表情だ。

 

「だろ?500ドルで買ったおニューの銃何だが撃つ機会が無くてな。試し撃ちの的にされたく無ければ大人しくしろ」

 

つまりまだルガーMkIIで人を撃った事は無いってことか。それならば1つハッタリをかませば形勢逆転出来るかもしれない。一か八かの危ない賭けになるけど・・・・やってみるか。僕はニヤリと笑って見せた。

 

「あ?何がおかしい」

 

「その銃の名前はルガーMkII。使用する弾は22口径ロングライフル(LR)弾。この弾がどんな弾か知ってる?」

 

「知るかよそんなもん。撃てりゃぁ何でも良い」

 

僕はわざとらしくため息をついた。

 

「自分の使う銃のことくらい知っといた方が良いよ?その様子だと22口径ロングライフル弾が銃弾の中で一番威力の低い弾だってことも知らないんでしょ」

 

「はっ、そんな嘘信じると思ってんのか?」

 

「別に信じなくても良いよ。得するのはこっちなんだし」

 

「何でお前が得すんだよ。撃たれた死んじまうんだぞ?」

 

「だーかーらー、22口径ロングライフル弾は貫通力が低いから頭を撃っても頭蓋骨で弾は止まるし、心臓に撃っても肋骨や筋肉とかが邪魔して弾は心臓に当たる前に止まる。つまり撃たれても私は死なない。って言うか普通に考えて弱いと思わない?22口径ってことはつまり弾の直径は約0.223インチってこと。センチで表すなら5.7ミリ。直径5.7ミリの弾で人を殺せると思う?」

 

今話したことはほぼ全部嘘だ。22RL弾は普通に高い貫通力を持っているので近距離なら心臓は勿論頭蓋骨を貫通して脳を撃ち抜く事も可能だ。直径云々の話も相手を惑わせる為に言った。直径5.7ミリの弾丸で人間は死んでしまう。と言うか直径だけで言うならアサルトライフルとかは5.7ミリより小さい5.56ミリだし。

 

「だからアンタが撃った後に上着で隠しているホルスターから拳銃を抜き取って君達2人を撃ち殺す事だって出来る」

 

私の拳銃って言ったところで男2人はピクリと反応した。そりゃそうだ。銃持ってますよ〜って言えば誰でも警戒するよな。

 

「私が持っているのはP320オートマチックピストル。使用弾薬は45口径オートマチック・コルト・ピストル(ACP)弾。アンタでもファーティーファイブ(45口径)って聞いたことあるでしょ?」

 

男2人、特に部下の男は目に見えて動揺している。このまま僕のハッタリを信じて逃げるなら隙を見せるなりしてくれれば僕が反撃できるチャンスが来る。

 

「私は殺人鬼とかじゃ無い。ただそこの人を助けたいだけだから大人しくどっか行ってくれると嬉しいんだけど・・・」

 

部下の男が後ろに上がろうとしたがそれをリーダーの男が止めた。そして銃口を向けたまま言った。

 

「例え本当にお前が銃を持っていたとしても俺が有利なのには変わらねぇ。お前が銃を取り出す前に全弾ぶち込んでやるよ。幾ら威力が低い弾でも何発も食らえばタダじゃ済まないだろう?」

 

チッ、作戦失敗か。リーダーの男は僕のハッタリを信じているのかもしれないけど思ったより動揺したりしなかった。アレは本気で僕に全弾撃ち込む気だ。リーダーの男がルガーMkIIの引き金を引き絞ろうと力を込めようとした瞬間、僕の真後ろで乾いた破裂音が響き、それと同時に僕の右耳の横を何かが超高速で通り過ぎて行った。

 

「ダッァ"⁉︎」

 

次の瞬間にはリーダーの男が持っていたルガーMkIIが弾き飛び後ろに転がって行った。驚いて後ろを振り向くとそこにはグロック34を構えたルナの姿があった。僕が喋っている間に来てくれたのか!僕はホルスターからP320を取り出して右手を押さえているリーダーの男に狙いを定めた。

 

「ゆ、指が、俺の指がぁぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!」

 

どうやらルナがルガーMkIIを撃っても吹き飛ばした時に人差し指を折ってしまった様だ。まぁ仕方ないね。部下の男は不利な状況になったと分かった瞬間逃げて行った。ルナは無言のままズンズンをうずくまっていたリーダーの男に詰め寄り銃口を頭に向けた。ルナの感情の分からない表情と冷徹な瞳を見たリーダーの男は何かを感じ取ったのか悲鳴を上げて命乞いをし始めた。

 

「やめろやめろやめてくれ!頼むッ!撃たないでくれ!俺が悪かった!金でも何でもやるから殺さないでくれッ!」

 

などと必死にルナに命乞いをするがルナは表情1つ変えず銃口を頭に向け続ける。

 

「お金とかは要らないからとっとと失せて」

 

相手をビビらせる為に声を低くして更にホルスターから抜いたP320の銃口を男に向けながら僕は言った。リーダーのボスは慌てて立ち上がると走って逃げて行く。しかし腰が抜けているのか上手く走れず躓いたりしながら逃げて行く。その間ずっとルナはリーダーの男に銃口を向けていたご姿が見えなくなると構えていたグロック34を下ろした。

 

女性の方を見てみるもポカーンと放心していた。何が起きたのかよく分かっていない様だ。僕はP320をホルスターに戻してなるべく安心させるように微笑みながら女性に話しかけた。

 

「大丈夫ですか?何処か痛むところはあります?」

 

ざっと見た感じだと口元が切れて少し血が出ていて、左頬に痣が出来ているが酷い怪我などは無さそうだ。

 

「え?・・・・あっは、はい!大丈夫です!助けて下さりありがとうございますッ!」

 

早口で何度も感謝の言葉を言いながら女性はそそくさとその場から逃げて行こうとする。それを僕は「ちょっと待って!」と言って慌てて彼女の肩を掴み引き止める。女性は恐る恐ると言った感じで振り向き僕を見た。

 

「ご、ごめんなさい。お金とかはそんなに持ってなくて・・・・」

 

「お金は取りませんよ。アニー・フローレスさんで間違いないですか?」

 

「えっ⁉︎」

 

名前を聞いた瞬間女性は目を見開き後ずさった。

 

「な、何で私の名前を⁉︎」

 

やっぱりこの人はフローレスさんで間違い無い様だな。人違いじゃなくて良かった。ワタワタと慌てるフローレスさんに僕は説明をする。

 

「安心して下さい。私達はL&M社の者です。電話を受けて助けに来たんです」

 

「L&M・・・ライアン&モリス社の人ですか?」

 

「そうです。遅くなってしまい申し訳ありません」

 

僕達が味方だと分かってくれたのかフローレスさんは「怖かった〜」と言いながらその場にへたり込んでしまった。

 

「エレナさん。フローレスさんを保護しました。チンピラ連中は全員無力化。リーダーの男はビビって逃げて行きました」

 

《了解。こっちも今大通りに着いたところだからそのまま連れて来て》

 

「了解です」

 

「誰と・・・話してるんですか?」

 

フローレスさんは怪訝な表情で僕を見ていた。そりゃそうだよな。人形用無線で話している様子は側から見れば独り言を言っている様にしか見えないもんな。

 

「あぁすいません。仲間と無線で話してまして。迎えの車が着いたみたいなので行きましょうか」

 

フローレスさんを連れて裏路地を出て大通りに行くとすぐ目の前にフォードF150が止まっていた。僕はフローレスさんを後部座席に座らせるとその横に座った。ルナを隣に座らせたら逆に怖がらせる可能性があるからな。ルナは表情1つ変えず助手席に座った。全員乗ったことを確認したエレナはフォードF150を発進させた。

 

「手荒な歓迎を受けたみたいだね」

 

バックミラーでフローレスさんの姿を見たエレナはそう言った。

 

「そうですね・・・」

 

フローレスさんは苦笑いしながら答えた。と言うかさっきから僕と方をチラチラと見てきているんだけど何んだろう?あ、目が合った。

 

「あっ・・・す、すいません」

 

フローレスさんは僕と目が合った瞬間僕から目を逸らしながら謝った。何だろう、気になるな。

 

「どうかした?」

 

「いえ、何でもないです」

 

「これから仲間になるんですから、遠慮なんてしなくて大丈夫ですよ?」

 

フローレスさんは数秒間悩むそぶりした後、意を決したように僕の方に向いた。

 

「間違っていたら申し訳ないんですけど・・・・もしかして貴方は戦術人形ですか?」

 

あぁ〜そう言うことか。もし人間だったら失礼だと思ってなかなか聞けないでいたのか。

 

「はい。そうですよ。あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は戦術人形のM14EBR。会社ではエマって名前で呼ばれています」

 

僕はにこやかな笑顔を見せながら自己紹介をした。そして喋らないルナの替わりにルナの紹介もする。

 

「そして助手席に座っているのは同じく戦術人形のHK433。名前はルナです」

 

ルナの方を見てみたが会釈とかをはせず無表情のままジッと前を見ているだけだ。

 

「で、私がエレナこと戦術人形XM8 」

 

「えっ貴方もなんですか⁉︎」

 

「そりゃそうでしょ。見た目で分からない?」

 

「すいません。分かんないです・・・」

 

フローレスさんが間違えるのも無理はない。人形は殆どの部分に生体部品を使っているので見た目は普通の人間にしか見えない。ぶっちゃけ僕も人形と人間をぱっと見で見分けられるかと言われたら自信が無い。

 

「もしかしてL&M社もグリフィンみたいに主戦力は人形なんですか?」

 

「いや、ウチの主戦力は人間だよ。私達人形は今のところ5人だけ。まぁ今後何人か増える予定だけど」

 

「そうなんですか。ちょっと意外ですね。グリフィンみたいなところかなと思ってたんですけど」

 

「ウチはグリフィンとは色んな意味で違うよ」

 

「ですね」

 

最新鋭の設備や装備、潤沢な資金と資源。どれもこちらには無いものだ。規模だって向こうのほうが圧倒的に大きい。

 

「私も・・・戦うことになるんでしょうか?」

 

不安げにフローレスさんはエレナに聞いた。助けた時も思ったんだけどやっぱりこの人は戦い慣れていないみたいだね。

 

「いや、アンタは机仕事が主だからチャカを振り回すことは無いよ」

 

「チャカ?」

 

どうやらフローレスさんはチャカと言う用語の意味が分かっていない様で首を傾げた。

 

「あーチャカって言うのは銃のこと」

 

「あ、そうなんですね」

 

「まぁ兎に角アンタが銃を撃つ時が来るとすればそれは敵が本社に攻め込んで来た時位だろね」

 

「敵が本社に攻め込んで来ることなんてあるんですか?」

 

「・・・滅多にないね」

 

つい最近攻め込まれたばかりなので全く無いと言い切れないのが悲しい所だな。

 

「でも射撃訓練とかは一応受けてもらうことになるから。書類には射撃経験無しって書いてたけど触った事もないの?」

 

「そうですね。撃ったことは一度もありません」

 

「悪いけどウチは全職員銃は扱える様になるのが決まりだから」

 

「了解しました。頑張ります」

 

と、返事はしていたもののフローレスさんの表情は何処か浮かない顔だった。こんなご時世でも・・・いや、こんなご時世だからこそ銃火器を毛嫌いしている人が居る。民間人が銃を所持することに反対する人達だって居るんだからな。もしかしたらフローレスさんも銃の所持には良しとしない人なのかも知れないって思ったけどそしたら何でウチに来たんだよって事になるな。じゃぁ普通に今までに銃を使う機会が無かっただけかな。

 

「あっそうだ、さっきはバタバタしてて言えなかったんですけどエレナさん。エマさん。ルナさん。助けていただきありがとうございます。そしてこれからよろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

新しい仲間を乗せて、僕達は街を後にした。




どうだったでしょうか?次回は新人人形が登場予定!そして新人人形とフローレスさんなどが参加した射撃訓練回になる予定ですお楽しみに!

そして、もしかしたらまた投稿が遅れてしまうかもしれませんが、気長に待って頂けると幸いです。

ご感想お待ちしております!


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第27話 新人紹介と射撃訓練

爆速で書いてやったぜ

と言うことでお待たせしました第27話です。さぁ新人の戦術人形は一体誰なのでしょうか?お楽しみに!


ウチの会社だけなのかどうかは分からないが、L&M社では新人が入って来ても歓迎会や新人の自己紹介の様な特別なことは特にしない。ただ社長とかから新人が来るとそれとなーく伝えられるだけだ。同じ部隊の仲間同士なら僕の時みたいに歓迎会が開かれる場合もあるが、今日やって来たフローレスさんの場合どっかの部隊に配属される訳でも無いから歓迎会などは全く行われず、社長への挨拶に向かった。

 

年季の入った木製のドアをノックしてドアの向こうから「どうぞ」と言う声が聞こえて来ると同時にドアを開けた。何だかんだで社長の執務室に来たのは僕も今回が初めてだが、何と言うかパッと見は普通の執務室って感じなんだけど所々に社長の趣味が滲み出ている。色々置物とかがあるのだが一番最初に目に止まったのは社長の座る椅子の後ろの壁に飾ってあるレバーアクション式のライフル、ウィンチェスター M1895だ。レバーアクション式の銃自体、生で見るのは今回が初めてだ。更に机の上には鏡の様に磨かれたシルバーのM1911が高そうな箱に入った状態のまま置かれている。

 

「社長の秘書となるフローレスさんを連れて来ました」

 

基本誰に対してもタメ語で話すエレナでも流石に社長相手だと敬語を使う様だ。

 

山積みされた書類を一つ一つ消化していた社長は書くのをやめてフローレスさんの方を見た。緊張した面持ちで椅子に座る社長の前にフローレスさんは立つとビシッと姿勢を正した。

 

「本日から着任しますアニー・フローレスです。色々と至らない点があるかもしれませんが宜しくお願いします!」

 

「あぁ待っていたよ。最近色々あって書類とかが溜まりに溜まっていてな。1人じゃ処理仕切れなくて困っていたんだ」

 

嫌な顔をするかなと思っていたが相当書類仕事が大変な様で疲れ果てている様に見える。正に猫の手も借りたいと言う状況の様だ。

 

「あー仕事は明日からで良いぞ。今日は施設の案内とか荷物の整理とか色々あるだろうからな。それに俺ももうこれ以上やる気にもなれん」

 

「分かりました」

 

「もう行って良いぞ。別に話す事も無いからな。あ、明日は朝の8時にここに来てくれ」

 

それだけ言うと社長は持っていたペンを机に放り投げ、朝から立ち上がると椅子に掛けていた上着を来た。

 

「じゃ、俺は気分転換にドライブしてくる」

 

右手を上げて小さく手を振って社長は執務室を後にした。

 

「ったく、少しは社長らしい行動出来ないのかなぁ」

 

社長がいなくなってから数秒後エレナがポツリと言った。でも僕は社長の性格は嫌いでは無い。まぁこのことを言ったら確実にエレナから批判されるだろうけど。

 

執務室を出た僕達はフローレスさんを連れて簡単に施設の案内をした。結構真面目な性格な様でエレナの説明をメモ帳に書き写していた。ガレージに格納されているAPCやIFVを物珍しそうに見ていたのが印象に残ったな。そんなこんなで最後に2号棟の部屋にフローレスさんを案内して施設案内は終わった。

 

フローレスさんを部屋に送ってやることが無くなり何をしようかと考えながらエレナと雑談しつつぶらぶらと廊下を歩いているとアリーナが人形用無線を使って通信が来た。

 

《エレナはそこにいるか?》

 

「はい。隣に」

 

《アサルト部隊は全員ブリーフィングルームに集合だ。エレナにも伝えといてくれ」

 

「了解です」

 

「任務の話?」

 

僕の短い言葉から察した様で真剣な表情で僕に聞いて来た。

 

「いえ、任務では無いですがブリーフィングルームに集合だそうです」

 

「りょ〜かい」

 

僕達は言われた通りブリーフィングルームに向かった。ブリーフィングルームに入ると既にほぼ全員揃っており僕達の後にサイモンが来て全員揃った。いつもは薄暗くしてあるブリーフィングルームだが今回は全ての照明が点けてある。いつも通り正面にネルソンが立ち話し始めた。

 

「今日集まって貰ったのは昨日は話した新人戦術人形が来たからその紹介をする為だ」

 

「どんなカワイイ娘が来てるんだー?」

 

腕を足を組んで話を聞いていたネルソンがそんなことを言うがネルソンは華麗にスルーして話しを続けた。

 

「これまでとはちょっと毛色の違う奴だが全員良くしてやってくれ」

 

ネルソンが手招きをすると横から小柄な少女が小走りでネルソンの元にやって来た。小柄でとても可愛いのだが、それよりもやたらと露出度が高い服装がとても気になる。おへそとか見えちゃってますけど?

 

「初めまして、戦術人形のK2です!先輩達の足を引っ張らないように頑張ります!」

 

どっちかと言うとウチにいる戦術人形の皆様は軍人気質な人達が多いが、目の前のK2って言う人形はそんな感じでは無く普通の明るい女の子って感じだ。

 

「と言うことでアサルトライフル使いのK2だ。皆んな良くしてやってくれ」

 

K2って確か韓国軍が正式採用していたアサルトライフルだったよな。あんまり詳しくは知らないけど悪い評判は聞かないから悪くない性能の銃なのだろう。

 

「宜しくお願いします」

 

改めて姿勢を正しK2は僕達に向かって敬礼をした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「何か質問のある奴は居るか?」

 

「いつもの名前決めはどうするんだー?」

 

サイモンが手を上げながら聞いた。僕の場合だ確かとサイモンとネルソンが色々考えてたけど結局良い名前が思いつかずハオレンが考えてくれたんだったよな。

 

「今回は全員に名前を募集してその中から良さそうなものを選ぶ」

 

「あのー名前を決めるとかってどう言うことですか?」

 

どうやら名前を付けることなどはまだ聞いていなかった様でK2は首を傾げながらネルソンに聞いた。

 

「そう言えば言ってなかったな。ウチでは全部の戦術人形に名前を付けているんだ」

 

「わざわざ人形に名前を付けるなんて変わってますね〜」

 

「因みに人形に名前付けようって言い出したのはネルソンだ」

 

と、サイモンがK2に教えた。そのことに関しては僕も初耳だったがネルソンらしいなと思い納得。

 

「何で名前を付けることにしたんですか?」

 

「K2だのAK-47だのって銃の名前で呼ぶのは何だか道具扱いしているみたいで嫌だったからだ」

 

ここに来たばかりの頃を思い出した。僕がネルソン達と初めて出会いそしてヘリに乗って一緒に街から脱出しようとした時にネルソンが撃たれてそうになって咄嗟に僕が盾になった。僕は意識を失ったけど奇跡的に弾は急所を外れていたので助かった。僕が目を覚ました時にネルソンは僕に「何であんなことをした」と言って怒った。ネルソンはそう言う人だ。人間だろうか人形だろうが関係なく仲間を大切にする優しい人だ。ネルソンの話を聞いたK2はふふっと柔らかな笑みを見せた。

 

「とっても優しそうな隊長さんで安心しました♪」

 

「安心してもらえたらなら何よりだ。で、他に質問のある奴は居るか?・・・・・それでは解散」

 

皆一斉に立ち上がりブリーフィングルームから出て行く。サイモンが下心丸出しでK2に話しかけてようとしたがそれをハオレンが阻止するとK2の元に歩いて行く。

 

「射撃の自信は?」

 

K2の前に立ったハオレンが聞いた。ハオレンが誰かに積極的に話しかけに行くなんて珍しいな。

 

「ありますよ」

 

「見せてもらっても?」

 

「良いですよ」

 

そんな短いやりとりを済ませるとハオレンは「射撃場で待ってる」と言い残してブリーフィングルームを後にした。

 

「珍しいですね。ハオレンさんの方から話しかけるなんて」

 

「もしかしてアイツもカワイイK2ちゃんを狙ってる?」

 

「それは無い。後キモい」

 

と言ってエレナはサイモンにボディブローを食らわせようとしたがサイモンはヒョイと避けた。

 

「もしかして韓国の銃だから少し気になっているとか?」

 

「ハオレンは中国だっての。でもまぁあながち間違いじゃ無いのかもね」

 

部隊内で中国出身はハオレンだけ。アジア出身で言えばユウヤとハルカが居るがハルカはともかくユウヤとは馬が合わない。エレナの言う通りもしかしたら中国に近い韓国出身の戦術人形と言うことで親近感があるのかも?

 

「やっぱり中国の方だったですね!そうじゃ無いかな〜って思ってたんですよ。名前は何て言うんですか?」

 

サイモンとエレナの会話を聞いていたK2が嬉しそうにそう言った。

 

「ソン・ハオレン。さっきも言った通り中国出身の傭兵」

 

「ハオレンさんですか〜同じアジア出身同士仲良くしたいですね」

 

「アイツは必要以上の人付き合いはしないタイプだからあんまり期待しない方が良いと思うよ」

 

「それでもある程度の仲良くなれる様に頑張ります!」

 

「まぁそこら辺はお好きにどうぞ」

 

「それで・・・射撃場はどっちですかね?」

 

「案内するからついて来て」

 

エレナとK2もブリーフィングルームを出て行った。面白そうだったし、特にやることも無かったから僕も射撃場に向かうことにした。射撃場に着くと既にハオレンは愛銃のCz805A-1を持って来ておりK2の方も自身と同じ名前のアサルトライフルを持って準備を進めていた。射撃場の方を見てみると人型の的と木の板が不規則に置かれていて簡易的な射撃場訓練場が出来上がっていた。もしかしてこれ全部ハオレンが用意したのか?

 

僕は銃の動作確認をする2人の様子を見ていたエレナの側に立った。

 

「あの板とかまたとかはハオレンさんが用意したんですか?」

 

「いや、これの前に他の部隊連中が使っていたのをそのまま利用しているだけ」

 

「成る程」

 

「アンタもやれば?」

 

「え?」

 

え、僕も射撃訓練に参加しろと言うことですかい?え〜僕あんまり上手くないしあんまりやりたくないなぁ。

 

「エレナさんがやるなら」

 

「それじゃぁあの2人が終わったらやろうか」

 

あれ、もしかしてエレナさん乗り気?「ん〜ならいいや」とか言うかなと思っていたんだけど。はぁ・・こうなったら逃げることも出来ないし腹を括るか。

 

「・・了解です」

 

そうこうしていると2人の用意が出来た様だ。訓練内容は簡単で移動しつつ的に2発づつ弾を撃ち込んで全ての的に撃ち終えるまでの秒数を競うと言うもの。

 

誰が先にやるかはコイントスで決められた。コイントスの結果K2が先行になった。彼女の持つK2は何のアタッチメントも付けられていない。と言うかもしかして付けていないんじゃなくて付けれないのか?見た感じピカティニー・レールとかも無いし。

 

マガジンを入れてコッキングレバーを引き初弾を装填しセーフティーレバーをSAFE(安全)からせみSEMI(単射)に切り替えていざスタート。

 

ピーっと言う電子音が鳴った瞬間K2は素早く銃を構えて前に進みながら前方の的に2発撃ち込む。続けて隣の的に瞬時に照準を合わせて発砲。さっきまで見せていたにこやかな表情から打って変わりその顔は真剣そのもの。

 

木の板に隠れつつ左側にあった的3つをタタン!タタン!タタン!と一定のリズムであっと言う間に撃ち抜いて行く。K2の撃つ姿を見てて気になったんだけど彼女は銃を支える腕をハンドガードに沿って真っすぐ伸ばし、フロントサイトに近い部分を手のひら全体でがしっと掴む結構独特な構え方をしている。確かあれはソードグリップ、またはコスタ撃ちと呼ばれる撃ち方だ。

 

取り回しが容易で素早く構えて照準を合わせることができ、更に安定して正確に撃つことが出来る撃ち方だ。しかし慣れていないと肩や肘への負荷があり慣れていないとすぐに疲れてしまったり、サブマシンガンなどの小型の銃では手首などに負荷がかかり痛めてしまうこともある。でもまぁそこら辺は人形なら余り関係無いか。

 

K2は左に移動しながら的2つを速攻で撃ち抜くと前方の的3つを左から右に撃って行った。あっと言う間に10個全ての的を撃ってしまい、しかも弾は全部人間で言う心臓の部分に当たっている。流石だ。

 

「6秒84」

 

「おぉ〜」

 

エレナが持っていたストップウォッチの秒数を確認して言った。やっぱり早いなぁ。僕だったらもっと時間かかるのは確実だ。

 

続いてハオレンの番だ。ハオレンの使うCz805A-1はK2とは違いピカティニー・レールがあるのでチューブタイプドットサイトとバーチカルフォアグリップが取り付けてある。これにより安定した射撃が可能だ。

 

先程と同じ様にピーっと言う電子音が鳴りK2に負けず劣らずの早さでCz805A-1を構え前に進みながら前方の的にセミオートで発砲。瞬時に隣の的にも当てる。撃つ速度も狙ってから撃つまでの速度もK2に負けていない程早い。しかもK2とは違ってハオレンは一発目は当て易い心臓の部分を撃ち2発目は頭の部分を撃っている。実際の人間だったら確実に死んでいるな。

 

歩みを止めること無く右から左に移動しながら的を次々と撃ち抜いて行く。撃つ速度も狙ってから撃つまでの速度もK2と同じかそれより早い様に見える。息つく暇も無くハオレンは全ての的を撃ち終わってしまった。

 

「6秒76」

 

「おぉ〜!」

 

戦術人形相手に勝っちゃったよスゲェな。流石としか言いようが無いな。K2の方見てみるとやっぱり悔しそうにしていた。

 

「皆さん何しているんですか?」

 

突然隣から声をかけられた。声のした方を見てみるとフローレスさんが居た。銃声に慣れていないからか銃声が聞こえて来る度にビクビクしている。

 

「新人の戦術人形と射撃勝負をしてたんですよ」

 

「あ、あそこの人ですか?可愛らしい人形ですね」

 

フローレスさんは撃ち終えたハオレンと話しているK2の姿を見て言った。

 

「そうだ。せっかく来て貰ったしアンタの射撃訓練もしようか」

 

「え?」

 

僕と全く同じ反応をするフローレスさん。

 

「い、今からですか?」

 

「そう、今から」

 

「でも私、私服のままですし心の準備が・・・」

 

「私服のままでも銃は撃てるし、実戦で心の準備なんてしている暇は無いよ」

 

オロオロしながら色々と言うがエレナは気にせずフローレスさんを半ば強引に射撃位置にまで連れて行く。

 

「それに私銃も持って無いですよ?」

 

「私の使って良いから」

 

そう言いながらエレナはホルスターからHK45を取り出してフローレスさんに差し出した。それを見ていた僕は少し気になりエレナに聞いた。

 

「初めて撃つのが45(フォーティーファイブ)って大丈夫なんですかね・・・」

 

エレナの使うHK45の使用する45ACP弾は一撃で人間を無力化してしまう程の高火力であるがその火力相応の反動がある。初心者が撃ってから手首を痛めてしまうことも有る。確かにHK45はグリップが小さくて握り易く撃ちやすいと評判だがそれでも45口径なのは変わりない。

 

「ちゃんと構えて撃てば大丈夫だと思うけどねぇ。じゃぁ9パラにしとく?」

 

「それが良いと思いますよ?」

 

「あの〜何の話をしてるんですか?」

 

銃のことに関してそれほど知識の無いフローレスさんは今の会話内容を余り理解出来なかった様だ。まぁそれもそうか。銃に詳しくない人が|45とか9パラとか聞いても何のことやらさっぱりだろう。

 

「貴方にどの銃を使わせるか話してたんです。そのHK45か他の銃にするかで」

 

「初心者でも扱える物でお願いします」

 

「じゃぁ9パラにしとくか」

 

エレナは差し出していたHK45をホルスターに戻すとハオレンの方を向き呼んだ。

 

「ちょっと拳銃貸してくれない?アイツに射撃練習させたくてさ」

 

「傷付けるなよ」

 

「分かってるって」

 

と言って意外にあっさり承諾しハオレンはホルスターからQSZ-92-9を取り出しエレナに手渡した。そしてエレナはフローレスさんの右手にQSZ-92-9を置いた。

 

「意外と重いですね・・・」

 

渡されたQSZ-92-9をマジマジと見ながら言う。

 

「それじゃぁそこに立って銃を構えて」

 

「は、はい」

 

フローレスさんはおどおどしながら射台に立つとQSZ-92-9を両手でしっかりと握って構えた。

 

「体は的に対して正面を向けて、腕曲げ過ぎ」

 

「はい」

 

フローレスさんは言われた通り体を前にある的に体を正面に向けて曲がっていた両腕を真っ直ぐ伸ばした。

 

「もっと開いて。肩幅よりちょっと大きめに。そう、そんな感じ」

 

今エレナがフローレスさんに教えているこの構え方はアイソセレススタンスと呼ばれるもので基本的な拳銃の構え方だ。これとは別に映画とかでよく見るウィーバースタンスと言う構え方がある。ウィーバースタンスは静止目標に対して安定して撃つことが出来る(それと見栄えが良い)構え方だ。

 

それに対しアイソセレススタンスは左右どちらにも銃を素早く向けることができカバー範囲が広いからこちらの方が実戦向きだと言われている。ここであえてアイソセレススタンスを教えているのは実戦経験豊かなエレナだからなのかそれともここが民間軍事会社(PMC)だからなのか。

 

「構え方はそんな感じ。銃はしっかり握ってて。で、銃の説明だけど銃には暴発しない様に安全装置があるんだよね。これ。そうそれ。そのつまみを上に上げて」

 

フローレスさんが慣れない手つきでデコッキングレバーを上に上げた。QSZ-92-9はデコッキングレバーとセーフティー機能も兼ねている。

 

「で、銃の上部分、スライドって言うんだけどスライドを後ろに引いてから離して」

 

ガッ・・・チャっとスライドをゆっくりと引いてから手を離した。スライドは元の位置に戻りそれと同時に初弾が薬室に送り込まれた。

 

「これで最初の弾がマガジンから銃の中に入った。後はトリガーを引くだけ」

 

「分かりました」

 

顔が若干強張るフローレスさん。やはり初めて銃を撃つから怖いんだろう。10メートル先に金属製の円形の的がありフローレスさんはそれを狙う。

 

「点で狙おうとしないで面で狙って」

 

「えっと・・・・どう言うことですか?」

 

「体に当たれば取り敢えず人間は重症間違い無しだから大まかな狙いで良い」

 

「人を撃つ事前提なんですね・・・」

 

「その為の訓練なんだから。じゃぁコレ付けて」

 

そう言ってエレナはフローレスさんにイヤーマフを渡した。

 

「銃声は煩いから難聴になりたくなかったらそれ付けて。さ、撃ってみよう」

 

「分かりました」

 

フローレスさんはイヤーマフを付けるとQSZ-92-9を構え左目を瞑って右目で狙いそして意を決してトリガーを思いっきり引いた。パンッ!と言う乾いた発砲音が射撃場に響き渡る。撃ち出された9ミリパラペラム弾は的の上の縁に当たり金属製の的がカーンと言う音が鳴った。

 

「当たった⁉︎」

 

信じられないと言いたそうな顔をするフローレスさん。まぁ的との距離は10メートルしかないから素人でも容易に当てることが出来る。

 

「それに結構、反動ありますね」

 

右手をぷらぷらと振りながらフローレスさんは言った。45口径の拳銃よりは反動が少ないとは言え9ミリ口径でも充分強烈な反動が来る。慣れていない人だと余計反動が強く感じるだろう。

 

「トリガーは優しく引いて。そんなに思いっきり引いてたら引いた反動で狙いがズレる」

 

「狙う時は両目で狙え。片目だと視野が狭くなる」

 

今までフローレスさんが撃つ様子を見ていたハオレンが指示した。

 

「分かりました」

 

「じゃぁやってみて」

 

再びQSZ-92-9を構えて狙いを定め、言われた通りフローレスさんはトリガーをゆっくりと引く。弾はまだ上に逸れてはいたが、さっきよりは中心に近づいた。

 

「良いよ。じゃぁ5発続けて撃ってみて」

 

パンッ!パンッ!パンッ!と連続で撃つ。流石に連続で撃った時の反動の制御は上手く出来ず的に当たりはしたものの当たった箇所はバラバラだ。

 

「撃つ時にビビって及び腰になってるからそこは注意した方がいい」

 

ハオレンの指摘に横でエレナもうんうんと頷く。

 

「後左手の握り方はそうじゃなくてこうだ」

 

「だから腕曲げないでって」

 

「そこはーー」

 

結局、その後もエレナとハオレンによる射撃訓練は続いた。まぁそのお陰で僕がエレナとやる予定だった射撃訓練は無しになった。

 


 

戦術人形になってから32日目。晴天。

 

今日は色々とイベントが盛り沢山だった。まず朝はエレナと一緒に(ルナも連れて)街の方に行き社長の秘書兼見張り役となるアニー・フローレスと言う女性を迎えに行った。しかしフローレスさんはチンピラ連中に絡まれてしまい危うく汚されて(意味深)しまいそうになった所を僕とルナで助けた。

 

そしてフローレスさんを連れて施設案内をして、部屋に送り届けると次はアサルト部隊の人達がブリーフィングルームに集められて新人の戦術人形K2の紹介が行われた。可愛らしい見た目の少女でクールな性格な奴が多い我が部隊の人形達とは違い元気いっぱいの快活な子って言うのが第一印象だった。

 

 

で、彼女の姿を見て何より目を引いたのは露出度の高い服装。肩から結構大きい胸の上半分まで丸出しだし、下腹部も隠す気ゼロで思いっきりおへそも見えてる。健全な男子である僕もあの姿には理性を揺さぶられそうになった。あと、ここだけの話だが彼女の足(特に太もも)が妙にエロく見える。いや、決して自分は足フェチだとか太ももフェチとかではないんだけどね?あのムチムチとした肉付きの良い太ももと、それを包むニーソが合わさってなんだかエロく見えるんだよ

 

って僕は何を熱く太ももについて書いているんだろうか・・・。まぁとにかす新人のK2は青少年には刺激が強過ぎる娘だってことだな。うん。

 

 

話が結構逸れてしまったけど、K2の紹介が行われた後はハオレンとK2が10個の的を撃つ早さを競って戦った。どちらも素早い身のこなしであっと言う間に10個全てを撃ち抜いていたのだが、結果はハオレンの勝利だった。流石プロの傭兵さんは違うなぁと思ったよ。

 

あ、そう言えばK2の名前をアンケートで決めるって言ってたから名前考えないとだなぁ

 

 

 

 




どうだったでしょうか?K2ちゃんを登場させた理由は私の性癖に見事ヒットした嫁候補の1人だからですね。はい。

この調子で更に数人新しく人形を追加する予定ですのでお楽しみに!

そして、K2ちゃんの名前を大募集します!何か良い名前を思い付いた方は是非活動報告のコメントで教えて下さい!

ご感想お待ちしております!


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人形も訓練は必要
第28話 特別訓練


お待たせしました第28話です!今回は久しぶりの日記オンリーとなっています。


戦術人形になってから33日目。晴れ。

 

どうしよう、後2日休暇が残っているのだがやることが無い。毎日仕事ばかりしていていざ休みを貰った時に何をすれば良いのか分からなくなる人の気持ちが今なら理解出来る気がする。

 

最初はスマホでネットサーフィンしていたのだが2時間半くらいで飽きてしまい、次にルナを見つけ出してコミュニケーションとってみようと色々話しかけた。そして何もやることが無く暇を持て余した僕が行き着いた所は射撃練習場だった。近接格闘訓練は嫌いだが、射撃訓練は結構好きだし暇つぶしと訓練の両方が出来て一石二鳥だと思ったからだ。にしても暇つぶしに射撃訓練をしようと思うって僕も順調に傭兵稼業に染まって行ってるなぁと思った。・・・・いや、もしかしたらここに順応したとかでは無く、無意識の間に僕の性格がこの(M14EBR)に影響を受けて変わって来ているのかも。

 

これは射撃訓練中に思ったことだ。何でそう考えたかと言うと昔見た映画をふと思い出したからだ。題名は忘れてしまったんだが、呪われたピエロの服を着てしまった主人公がその呪いにより徐々に人食いピエロへと変わって行ってしまうと言う内容のホラー映画。衣装やカツラが体の一部となり、最終的には精神も人食いピエロへと変貌してしまう。何でこのタイミングになってその映画を思い出したのかは分からないが、最近の自分の言動を思い返して見た時にそう思ったんだ。

 

最近他の人と話す時とかに意識せずとも一人称が「私」になっていたりと無意識の内に言葉使いが女っぽくなっていたり、同じく女っぽい行動が(まだボロが出る時もあるが)出来る様になってたり、自分の性格が昔より明るくなった気がする。言葉使いや行動については慣れと言う可能性もあるし、性格も環境がガラリと変わったから変わったと言う可能性もあるのだが僕の考えが絶対に違うと言う保証も無い。気付かない内に自分が自分じゃ無くなってしまうのかと思うと不安になるが幾ら考えても答えは出ない。マイナス方向に考えていてもダメなので言動や性格がどんだけ変わっても自分は自分だと無理矢理プラスの方に考えることにした。

 

色々考えながら射撃訓練をやっているといつの間にかK2が居た。K2からは「凄い集中して撃ってましたね」と言われた。時間を確認してみると撃ち始めてから1時間以上経過していて少し驚いた。因みに、それまでに撃ったM14EBRとP320の弾数は合計284発だった。

 

その後、K2と一緒に射撃訓練をしているとハオレンとバラライカが加わりそして本格的な戦闘訓練になった。夕方になってやっとバラライカとハオレンによる訓練は終了した。人形なので体力はかなりあるのだがそれでもヘトヘトに疲れてしまった。

 

でも、この訓練がきっかけでK2と仲良くなることが出来たので良かった。

 

 

戦術人形になってから34日目。曇り(風強め)。

 

短い様で長かった休日の最終日。この日は昨日ハオレンとバラライカによる地獄の訓練がきっかけで仲良くなったK2と一緒に朝飯を食べた。今日の朝食はスクランブルエッグ、ハッシュドポテト、スイートポテトパンケーキ、デザートにオレンジだった。どうやらK2は辛い食べ物が大好きな様で朝食を食べている時に「ここ激辛手羽先とかって出ますかね?」って聞いて来た程だ。しかし残念ながらここの飯に手羽先は出たことはあるが辛いもの系を見たことは全く無い。そのことを伝えると少し残念そうにしていたので、今度街に韓国料理系の店が無いか探しに行こうと行ったらとても嬉しそうにしていた。

 

朝食の後K2はハオレンと訓練があると言って僕と分かれて、1人になった僕は部屋でこの日記を書いている。昼からはバラライカ、エレナ、アリーナの3人と一緒に訓練だ。勿論その訓練には僕が苦手とする近接格闘訓練なども含まれているの。憂鬱な気分になりそうだがいざと言う時に結構役立つものなので手は抜かず(と言うかアリーナやバラライカ相手だと手を抜いていると痛い目合う)頑張ろうと思う。

 

訓練が終わり部屋でゆっくりしようかなと思っていたらまたアサルト部隊に招集がかかった。「最近招集多かねぇか?」とサイモンも言っていたがそれは僕も思う。いつものブリーフィングルームでK2に続き新たに戦術人形がやって来た。それも1人1人では無く紹介されたのはType79、C-MS、モスバーグM500、TAC-50の4人だ。これでアサルト部隊の人数は総勢17人、軍隊で言うと小隊規模。一気に人が増えたことにハオレンも「この部隊も大所帯になったな」と言っていた。ネルソンの話によると1つの任務に17人全員が参加することは無く任務内容応じて人や人数は変え、これにより今まで以上に柔軟に任務に対応出来る様になるそうだ。

 

そう言えば新しい部隊が出来るって話を書いてなかったな。少し前にネルソンから話があって新たに人形だけで編成された部隊が出来ることになった。と言ってもこの部隊、臨時特別機械化歩兵部隊、通称「スパイトフル」は名前で分かる通り危険度の高い任務が入って来た時だけの臨時の特別部隊なので通常の任務時ではアサルト部隊の一員として動くことになる。

 

そして新人紹介の次にK2の名前発表が行われた。アンケートの結果K2の名前はカイラに決定した。今後日記でもK2のことはカイラと書くことにする。

 

新しく来た彼女達の名前もまた名前を募集して決めるとのことだったので僕は直ぐに4人分の名前を紙に書いてネルソンに提出した。1つぐらい僕の考えな名前が採用されるのを祈ろう。

 

せっかくの休日だったのに結局訓練ばかりしていたなぁ。まぁ傭兵なんてそんなもんか。

 

 

戦術人形になってから35日目。晴天。

 

休暇も終わり今日からまた色々な任務をこなして行くのかと思っていたのだがそうじゃなかった。新しく入って来た戦術人形達の特別訓練が始まった。その特別訓練には僕も含まれていた。エレナ、アリーナ、バラライカの3人が教官となり一日中色々な訓練をさせられた。しかも訓練内容は人形用に少しアレンジしてあるので普通よりハードな内容となっていた。

 

話は変わるが、僕はいつも訓練を始める前に人間時代の癖でストレッチをしている。戦術人形となった今ストレッチなんかしても意味は無いんだろうけどもルーティン的な感じで今も続けている。今日も僕は訓練前に軽くストレッチをしていたのだが、M500が興味を持った様で面白そうだからやってみたいと言って僕と同じ様にストレッチをし始めた。

 

昨日の新人紹介の時も思っていたのだがM500は他の戦術人形の例に漏れずとても美人でそしてとてもスタイルの良いグラマスな体型をしている。そんな彼女がピッチリした運動用の服を着るとその肉付きの良い体が強調されて色々とヤバイ。そしてその状態でストレッチされると更にヤバくなる。

 

ダメだと思ってもストレッチ中のM500をチラチラと盗み見てしまうのは男の悲しい性だな・・・。結局今日は精神的な疲れと肉体的な疲れに襲われ、訓練が終わる頃にはその場にへたり込んでしまう程疲れ切った。

 

 

戦術人形になってから36日目。晴れ。

 

今日も今日とて一日中訓練漬けだった。そして今日も目の毒なM500とのストレッチを行った。しかも今回エレナの提案によりM500とのペアで行うストレッチをやることになった。背中とか腕なんかに彼女の大きなメロンがむにゅむにゅと当たり(しかも本人は無自覚)その度に僕の理性がゴリゴリと削られた気がする。ペアでストレッチをしている間は必死に別のことを考えて何とか耐え切ったが、訓練を始める前から疲れてしまった。

 

 

戦術人形になってから37日目。晴れ後曇り。

 

今日はストレッチに79とK2も参加した。79はとても真面目で素直ないい子だ。誰にでも優しく接してくれるので親しみ易い。射撃の腕は確かでサブマシガン使いらしくCQB戦闘を得意としおり近接格闘もそつなくこなせる。

 

79はM500と違って肉感的な体型って言う訳では無くどちらかと言うとスレンダーな体型(悪い意味ではない)なので僕は特に気にすることも無く、彼女の性格の良さも相まって気軽に接することが出来る。何の気兼ねも無く話すことが出来る相手がいるって言うのは良いね。

 

そんな79に対してカイラはM500程って言う訳では無いんだが豊満な肉体の持ち主だ。例の太ももは運動用の長ズボンのお陰で隠れているのでそこまで気にしなくても良いのだが、次は上の方のメロンが強調されて目に毒だ。身長は79もカイラもほぼ同じなのにこの体型の違いは何なんだ・・・・現実って不条理だな。

 

それはそれとして、カイラは結構コミュニュケーション能力が高い様で僕がどう接しようかと考えている間にカイラはM500達と既に仲良くなっていた。その後カイラの助けを借りて僕も皆んなと親睦を深めることが出来たから良かった。

 

 

戦術人形になってから38日目。曇り。

 

戦術人形は基礎訓練はそこまでしなくても最初から基礎的なものは身に付いているから大丈夫だろうと言うことで、基礎訓練は早い段階で終わって、実戦的な訓練が主な内容になっている。プレハブ小屋を使った突入訓練では何度もやり直しを食らった。そもそもバトルライフルに部類されるM14を室内で振り回すって言うのが間違いだ。M14は中、長射程での戦闘を前提に設計された銃なのでCQB(近接戦闘)には向かない。そして僕の半身であるM14EBR-RIはマークスマンライフルとして運用される銃なんだからやっぱり近距離戦には向かない。でもバラライカも言っていたが実戦の時には予期しない近距離戦闘起きることもあるで突入訓練や室内戦訓練などのCQB訓練も大切だ。前にチンピラを相手にした時もハオレンとやったCQB訓練が役に立ったしな。戦場で生き残る為にも訓練は頑張ろう

 

 

戦術人形になってから39日目。小雨。

 

今日は雨の中訓練を行った。泥の上を銃を持って各種匍匐前進をしたりしたせいで服が泥まみれになってしまい洗うのが結構大変だった。服だけじゃ無くて銃の方も汚れてしまっていたのでちゃんと綺麗にした。銃はデリケートな物だからちゃんと綺麗にして定期的に整備しないと肝心な時に壊れてしまうからな。

 

小休憩の時に木にもたれ掛かりながら1人で休憩しているとM500がやって来た。僕もM500も服や顔がなどで汚れていてお互いの酷い格好を見て笑い合った。

 

 

戦術人形になってから40日目。曇り。

 

TAC-50、C-MS、Type79、M500の名前が発表された。TAC-50は「クレア」C-MSは「ミア」Type79は「ニーナ」M500は「ヘレン」となった。僕の考えたニーナが採用されていたから嬉しかった。本人達も名前には満足している様だったので良かった。早速今日の訓練では新しい名前で呼び合っていた。

 

そしてニーナから「素敵な名前を考えてくれてありがとうございます!」と言われた。何で僕の考えた名前ってことが分かったのか分からなかったからニーナに聞いてみたらサイモンから教えて貰ったらしい。そう言えば名前を考えていた時にサイモンにどんな名前を考えたのかって聞かれたっけな。まぁ別に隠すことじゃぁ無いからバレても問題は無いからいいっか。

 

 

戦術人形になってから41日目。快晴。

 

今日クレアと一緒に射撃訓練をやった。遠距離射撃をする為に射撃場では無く演習場で射撃訓練をした。演習場は射撃場よりも広くて幅400m、奥行き650メートルもある。今回は600メートル先の的に狙って撃ちまくった。にしてもクレアの射撃技術は凄まじい。600メートル先の的にピンヘッドを決めていた。あ、ピンヘッドって言うのは簡単に言うと全弾を一点に当てることだ。多少のズレはあったものの1マガジン分、5発全弾ほぼ同じ所に当たっていた。

 

僕の方はと言うと600メートル先の的に当たるまでに11発も外してしまった。たかが600メートル先の的にも当たらないのかと思う人もいるかもしれないが600メートルと言う距離は結構遠い。実際に見てみるとその遠さが分かるだろう。それに加えて的の大きさは40センチくらいしか無いから尚更当て難い。

 

そして彼女を初めて見た時から気になっていたんだけど、彼女の左目は義眼・・・と言うか完全な機械の目なんだ。今日クレアと至近距離で話した際にはっきりと見えたから間違いない。普通の人形なら目も人間の目とそっくりに作ってあるのに何でクレアの左目は機械の目のままなのかずっと気になっていが今日その理由が分かった。

 

彼女は楓月(ふうげつ)と言う名前の超高性能ドローンを持っているんだが、彼女の左目と楓月のカメラの視界をリンクさせることが出来るそうでそれによって高い索敵能力を獲得しているとのこと。

 

どんな位置からも自在に索敵出来る楓月がスポッター代わりになり、楓月から得た情報を元に高い威力と命中率、そして長大な射程距離を持つTAC-50で遠距離の目標を正確に撃ち抜くことが出来るそうだ。

 

楓月はかなり高性能なドローンみたいで色々な便利機能を搭載しているそうだ。だから「私もそのドローン買おっかな?」とクレアに冗談交じりに聞いてみたらとんでもない額だったので驚いた。何と楓月のユニットコストは1機4万5000ドル!おいそれと手を出せる金額じゃねょこれ⁉︎

 

 

戦術人形になってから42日目。晴れ後曇り。

 

今回新たに入って来た皆んなは真面目で優秀な人形ばかりなのだが1人問題児が居る。C-MSことミアだ。可愛い見た目に反して生意気な奴でアサルト部隊の隊長であるネルソンとスパイトフル部隊の隊長であり戦術人形の大先輩でもあるアリーナ相手にも偉そうな態度で接している。

 

アリーナ曰く射撃の腕はまぁまぁ良いがトリガーハッピーなところがあるとか。近接格闘訓練ではハオレンに自信満々で挑みそして案の定ボコボコにされてとても悔しそうにしていた。

 

それと、彼女と一緒に訓練していて分かったんだけどミアは負けず嫌いな様だ。例えば射撃練習の時は同じサブマシンガン使いであるニーナが射撃が上手いと褒められるとミアはニーナの成績を超えるまで的を撃ちまくったり、自ら率先してポイントマンに立候補したり、ハオレンが近接格闘が強いと聞くと戦いを挑んだりと色々だ。

 

今日休憩時間中にミアと話してみたんだけど「お前は私の部下だ」とか言われて更にジュースを買って来いとパシられた。一応僕の方が先輩なんだけどなぁ・・・・。まぁ何だかんだでジュースを買ってあげちゃってる僕も悪いんだろうけど。エレナにも「アンタって他人に甘いよねぇ」とか言われちゃったし。もうちょっと先輩らしいことが出来る様にしないとだな。

 

 

戦術人形になってから43日目。晴れ。

 

今日は特別教師としてクレセント社から第1戦闘部隊アインスの人達がやって来た。僕とクレアはM200から色々教わった。狙撃の方法は勿論、立射、膝射、伏射時の構え方やサブウェポへの素早い切り替え方などなど。M200は教えるのが上手く、とても分かり易すかった。

 

アサルトライフル組の方を見てみると早速カイラはFNCやK11と仲良くなっていた。本当彼女は他人と仲良くなるのが早いな。

 

 

戦術人形になってから55日目。晴天。

 

久し振りに日記を書いた。来る日も来る日も朝から日が暮れるまで訓練が続き、日記を書く気力も湧かず部屋に戻ると同時に死んだ様に寝ていた。今日で特別訓練は大方終わりで、何やら明日は特別行軍訓練とか言うのを実施しするそうで、その訓練を無事終えればこの訓練は終了らしい。やっとこの地獄の様な訓練が終わってくれるかと思うと凄く嬉しいよ。




どうだったでしょうか?今回新たに4人戦術人形を登場させました。これで新しく登場する人形達は全て揃いました。

そしてK2の名前を考えて投稿してくれた皆さん、本当にありがとうございます。くじ引きの結果K2の名前はカイラになりました。

いつも感想と誤字報告ありがとうございます。とても助かっていますし、モチベにも繋がっています。

次回「特別行軍訓練」お楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第29話 特別行軍訓練①

お待たせしました第29話です!なんだかんだで高で30話になるんですねぇ。ここまで続けれたものいつも読みに来てくださる皆さんのお陰です。本当にいつもありがとうございます。



戦に術人形になってから56日目。晴れ。

 

現在の時刻は朝の5時。気持ちよく寝ていた僕は朝の4時にエレナに叩き起こされて完全武装でヘリポートに集合と言われた。急いで身支度を済ませて武器庫からM14EBRとP320、その他色々装備を整えて言われた通りヘリポートに行くとウチに所属する戦術人形達全員が集まっていた。アリーナが「今から特別行軍訓練を開始する」と言い僕達に大量の実弾やサバイバルキットなどが配れ、何も分からないまま僕達はMi-8MTV-7に乗せられて今に至る。

 

今僕達がどこを飛んでいるのかも分からない。機体の窓と言う窓全てに黒色の厚紙が張り付けてあって外の様子を伺うことは出来ない。完全武装で行う訓練とは一体何なのだろうか。サバイバルキットが配られたって言うことは本格的なサバイバル訓練的なやつなのだろうか?今更ながら不安になって来た。

 


 

出発してから約1時間、ヘリコプターが緩やかに降下を始めたのが感覚で分かった。パイロットと何か話していたアリーナは僕達の目の前に立つ。

 

「分かっていると思うけど着陸と同時に展開し、周囲を警戒しろ。勿論、弾は込めてセーフティーも外しとけよ」

 

「「「了解」」」

 

僕達は一斉に返事をすると各自自分の持っている銃のマガジンを一度取ってちゃんと弾が入っているのを確認して元に戻す。そしてコッキングレバーを引いて、セーフティー外していつでも撃てる様にしておく。僕もM14EBRのコッキングレバーを引いてからセーフティーレバーをSEMI(単射)に変更しておく。今回僕のM14EBRにはACOGサイトを付けて来た。今回のこの訓練がどの様な物なのか全く分からないから取り敢えず付けて来たんだけど大丈夫だっただろうか・・・?

 

ガタンと軽い衝撃が足元から来た。どうやら着陸したらしい。直ぐにヘリの後部ハッチが開き強い風と煩いエンジン音がキャビン内に流れ込んで来た。ハッチに1番近かったヘレンが開くと同時に外に飛び出して直ぐ様M500を構えて周囲を警戒する。その次にニーナが行きミア、カイラ、ルナ、僕、クレア、バラライカ、エレナ、アリーナ、の順で機外に出て行きヘリを囲む様にして展開する。僕達全員が降りるとMi-8MTV-7はさっさと離陸してその場を後にした。辺りが静寂に包まれる。

 

周りには木しか無く、ここが森の中なんだろうと言う予想が簡単に出来た。未だ日が昇っていない今は数メートル先も見えない程森の中は真っ暗だ。

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「オールクリア!」

 

「よし、全員集合!」

 

次々と報告が上がり周囲に敵が居ないことを確認したアリーナは僕達を招集した。全員が集まるとアリーナは説明を始めた。

 

「改めて、皆んなおはよう。昨日も言った通り今日から特別行軍訓練を実施する。いきなりこんな所に連れてこられて訳が分かんないって感じだろうから簡潔にこの訓練内容を説明する」

 

「ここは基地から約200キロ離れた所にある鉄血の支配地域だ」

 

鉄血の支配地域と聞いた瞬間「は⁉︎」とか「え⁉︎」などと言う驚きの声が上がる。エレナとバラライカとルナは全く驚いていなかったがそれ以外の僕も含めた全員が驚き、緊張が走る。

 

「我々はこれから約80キロ先にある回収地点まで徒歩で向かう。勿論、ここは鉄血の支配地域だから鉄血のゴミ共も現れるだろうからその時は倒すなり逃げるなりして対応する」

 

鉄血の支配地域を徒歩で80キロ移動って・・・・いやそれってもう完全に実戦ですよねアリーナさん。

 

「それってもう訓練じゃなくて実戦なんじゃ?」

 

「私が訓練って言えば訓練になんだよ」

 

「えぇ・・・」

 

実際に敵と戦う訓練なんて聞いたこと無いって。って言うかこんなに大量の弾薬を持って来てるってことは敵とドンパチするの前提ってことじゃねーか。

 

「もし負傷者が出た場合はどうするんですか?」

 

ニーナが手を上げて質問した。確かに、幾らアリーナがこれは訓練だと言っても実際に敵と戦うのは変わりないので銃撃戦の最中に誰かが負傷者してしまう可能性もある。

 

「軽い負傷なら応急処置を済ませて訓練続行だが重症なら救助用のヘリを寄越す。もしもの時に備えて救助用のヘリと完全武装のハインドが24時間態勢で待機しているから安心してくれ。他に質問は?・・・・・よし、それじゃぁ全員五体満足で帰れるように頑張ろう。」

 

「「「了解」」」

 

アリーナがポイントマン(先頭)になり、その後ろを僕達は付いていく。静かで薄暗い森のは何だか不気味で、ここが鉄血の支配地域だと言うこともあり今にもそこら辺の茂みとかから敵が出て来そうで怖い。それにこう言う森の中はM14が活躍し難い場所の1つだ。

 

「もしかしてビビってる?」

 

僕の前を歩いていたエレナが僕に聞いて来た。表情には出していないつもりだったんだけどやっぱりダメだったか?それでも僕はシラを切った。

 

「ビビってなんかないですよ」

 

「気丈に振る舞ってもバラバラだっての」

 

やっぱりダメか。さっきから僕の方をチラチラと見ていたし表情に出てたか。エレナは僕の方は向かず周囲を警戒しながら言った。

 

「心配しなくても、私が守ってあげるから」

 

エレナさん、今アンタの小さな後ろ姿がとても頼りがいのある物に見えるよ・・・。いや、別に今までは頼りがいが無いって言う訳では無いんだけどね?いつもより一層ってことだから。

 

「ありがとうございます。頼りにしています」

 

「そこ、根っこがあるから躓かない様にね」

 

エレナが指差した方をよく見ると確かに木の根っこがあった。エレナに注意されなかったら躓いて最悪転けていただろうな。よく見えるなぁって思ったけどそう言えばXM8のサイトって暗視装置があるんだっけな。

 

「そう言えばエレナさんのそのサイトって赤外線照射装置が付いているんでしたよね」

 

「そうだね。と言っても最新型の暗視装置とかには負けるけど」

 

エレナの使用するXM8の上にはISM、多機能先進サイト・モジュールと呼ばれる物が装備してあるんだが、これには色々な機能が搭載されており赤外線照射装置も装備している。これにより暗い場所でもよく見える。僕なんか普通の照準器だから何にも見えねぇ。

 

「私も暗視装置持って来るべきでしたかね」

 

「持って来なかったの?」

 

「まさかこんな訓練だとは思って無かったので・・・」

 

一日中ぶっ通しで訓練がある訳ないだろうと思っていた僕のミスだな。普通の軍隊だって一日中ぶっ通しのサバイバル訓練とかがあるって言うのに。

 

「私の予備使います?」

 

僕とエレナの会話を聞いていた様で、エレナの前を歩いていたニーナが聞いて来た。タクティカルバックから暗視装置を取り出そうとしていたから僕はそれを止めた。

 

「もう直ぐで明るくなるし大丈夫。ありがとうね」

 

「いえ、必要になったら何時でも言ってくださいね」

 

「分かった」

 

ニーナが良い子過ぎて泣けて来る・・・僕が学生だった時にこんな後輩がいたら良かったのにな〜。実際にはウザい先輩とムカつく後輩しか居なかったからなぁ。そう言えばルナはどうしているかな?

 

「・・・・」

 

アリーナの後ろを歩くルナはいつも通りの無表情のまま辺りを警戒しながら歩いている。

 

「私ルナさんに何度か話しかけててみたんですけど、全く話してくれませんでした・・・」

 

僕がルナの方を見ていると横からニーナが少し悲しそうに言った。これは相手が悪かったとしか言えないな。僕もこれまで何度か話しかけたことがあるけど必要最低限の返事しかしない。ルナの声を聞いたこと無いって言う人も結構多い。そう言う僕もルナ声は今まで聞いたこと無い。

 

「ルナは・・・まぁ仕方ないね・・。でも悪気があったりニーナを嫌っている訳じゃ無いから」

 

「って言うかそいつちゃんと戦えるの?」

 

ニーナの前を歩くミアが前を歩くルナの方を訝しそうな目つきで見ながらそう言った。

 

「まぁ戦闘面では凄く頼りになるよ」

 

ルナの戦闘力はこのメンバーの中で1番高いかも知れない。歴戦の傭兵であるアリーナやバラライカでもルナには勝てない可能性がある。事実前の任務の時にアサルト部隊全員でルナを攻撃してもルナに致命傷を与えることは出来なかった。

 

「本当かなぁ・・・・」

 

「仲間を信じろ。ミア」

 

「へいへーい」

 

バラライカの注意を適当に流すミア。そんなミアの態度にバラライカは怒ったりせず何故か笑っていた。

 

「昔のお前みたいだな。アリーナ」

 

「えー?あたしの方がもうちょっと愛想あったと思うけどな」

 

「いーや、昔のお前は愛想もクソも無くて刺々しかったよ」

 

何時も前に立ち、仲間を引っ張るアリーナが昔は刺々しかったなんて想像出来ないな。

 

「そうだったんですか?」

 

「あぁ。自分以外の戦術人形が加わるのが癪だったみたいでな、よく私に突っ掛かって来ていたよ」

 

「あ〜もう黒歴史を思い出させんなって」

 

懐かしそうに話すバラライカに対して少し顔を赤くするアリーナ。恥ずかしがっているアリーナなんて初めて見た。恥ずかしさを紛らわす為か、それとも無理やりにも話題を変える為かは分からないがアリーナは1番後ろを歩くクレアに話しかけた。

 

「クレア、周囲に敵は居は?」

 

「少なくとも半径500メートル以内には敵影は確認出来ないですね」

 

「本当、便利だねぇその眼。ドローンからの映像が直で見えるんだろう?」

 

アリーナは自分の左目を指しながら言った。クレアの左目は彼女が使う高性能ドローン楓月のカメラとリンクしているそうで、今も彼女の左目は楓月の撮っている映像がリアルタイムで見えているらしい。 お陰様で周辺索敵が楽に出来ている。

 

「そうですけど、両目が別々の視界って言うのは慣れないと大変だと思いますよ?」

 

「あー確かにな」

 

クレアに言われてアリーナは納得する。右目と左目で違う物を見ているってどんな感じなんだろうか。僕だったら確実にこんがらかるね。

 

「それに、この楓月は1時間しか飛べませんから」

 

「1時間も飛べれば充分だ。あ、それと楓月はもう戻して良いぞ。必要な時にバッテリー切れだったら意味ないしな」

 

「了解です」

 

それから数十秒後、ギュウイイィィィィと言う小さなモーター音の様な音が聞こえて来た。上を見てみるとクレアの操るドローン、風月が飛んでいた。楓月はヘリコプターみたいに高度を落としクレアの差し出した右手の上に綺麗に着地した。そしてクレアは楓月を折り畳むと背中に背負っていたタクティカルバックの中に仕舞った。って言うかそのドローン折り畳み式だったのね。

 

そんな感じで雑談しながらも周囲の警戒は怠らず森の中を進むこと1時間と20分。日が昇り辺りが朝日に照らされて周囲の様子がよく見えるようになった。そろそろ代わり映えのしない森に飽き始めた頃、ルナの耳がぴくりと反応したかと思うと突然動きを止め右前の方に素早くHK433を構えた。さっきまで雑談していた時とは打って代わって真剣と言うか傭兵の表情になったアリーナはルナに声のボリュームを抑えて聞く。

 

「どうした?」

 

「敵」

 

アリーナの問いかけにルナはそう短く感情のこもってない声で答えた。ん?って言うか今・・・・

 

「「「喋った⁉︎」」」

 

僕も含めた全員がルナが喋ったことに驚く。しかしルナが敵と言ったことを思い出しすぐ様ルナが撃った方向に銃口を向ける。

 

「何んにも見えないんだけど?」

 

CBJ-MSを構えルナが睨む方を見たミアは木と草むらしか無いのを確認してルナに聞く。しかしルナは何も答えずただジッとHK433を構えたまま。そんな態度にムカついた様でミアは舌打ちをする。すると突然ルナは草むらに向けて1発だけ撃った。いきなり撃つのやめて貰って良いですかね⁉︎超ビックリするんですけど⁉︎

 

「なに⁉︎なに⁉︎何を撃ったの⁉︎」

 

「敵⁉︎」

 

突然の発砲にあたふたするミアとニーナ。

 

「倒した」

 

と言って銃を下ろすルナ。一体何を撃ったんだ?アリーナがAK-47を構えてルナの撃った草むらに近き覗き込むとヒューウと口笛を吹いた。

 

「全く、良い腕してるよ」

 

そう言って草むらに手を突っ込んで持ち上げたそれはダイナゲートだった。弱点であるメインカメラのど真ん中にルナの放った5.56ミリ弾が命中している。すげぇ、もしかして音で気づいたのか?耳良過ぎだろ。これにはさっき疑いの視線を向けていたミアを驚きを隠せないみたいだ。アリーナはダイナゲートを無造作に投げ捨てると僕達の方を見た。

 

「あたし達の存在はバレただろうし、さっさとここから離れるよ!」

 

「「「了解!」」」

 

「クレア、ドローンを上げて周囲を索敵してくれ」

 

「了解」

 

クレアは折り畳まれた状態の楓月を真上に投げた。すると空中で楓月は折り畳まれた機体を展開し真上へ急上昇して行った。僕達は周囲に敵影がいないから警戒しながら小走りで森の中を移動して行く。ルナが素早く倒してくれたとは言えあのダイナゲートは僕達の位置情報とかを周辺の鉄血どもに知らせた筈だ。今頃ここに向かって大量の鉄血の人形達が来ていることだろう。

 

「ッ!敵後方から接近中!」

 

クレアの報告に一気に緊張が走る。もう来たのかよ⁉︎いくらなんでも早過ぎないか⁉︎

 

「詳細を教えてくれ」

 

「Scout8体が横隊で急速接近中!」

 

「距離は?」

 

「約600!」

 

Scout・・・・あー資料で見たな。サブマシンガン4丁を装備したドローンみたいな奴だ。拳銃弾でも倒せる程脆いが動きが過敏でなかなか厄介な相手だとか書いてあった筈だ。

 

「チッ。近くにいた奴らが集まって来やがったか?まぁ良い。クレア、エマ、バラライカはあたし達の後ろから援護射撃。エレナはそのグレランで奴らを吹っ飛ばせ。他の奴らはグレランで仕留め切れなかった奴を撃て!」

 

アリーナに言われた通り僕とクレアとバラライカは皆んなの後ろに下がりいつでも皆んなを援護射撃出来る様に銃を構える。程なくして独特の機動音が森の奥から聞こえて来た。皆んなが音の聞こえる方に銃口を向ける。木々の間からScoutが姿を現し一気に距離を詰めて来た。こちらのと距離が300メートル程になるとエレナがXM8の下に装備されたM320グレネードランチャーのトリガーに指を掛けた。

 

「一発食らえ!」

 

Scout達は散開して来ていたがエレナはその中で3体が密集していたのでそこにグレネード弾を撃ち込む。40×46mm弾が地面に当たり爆発する。グレネード弾の中に内蔵された高性能炸薬が爆発。近くに居たScout3体はその爆発で飛び散ったグレネード弾の破片をもろに食い、地面に落ちて動かなくなった。

 

「撃ち方初めぇ!」

 

アリーナの号令で皆んなが残りのScout達に向かって一斉に撃ち始める。僕も1体のScoutに狙いを定めて発砲!初弾を外してしまったが気にせずセミオートでダン!ダン!ダン!っと撃ちまくる。5発連続で撃って2発が見事命中。7.62×51mmNATO弾の圧倒的なストッピングパワーのお陰でScoutは2発で撃破することが出来た。次のターゲットを狙おうと探したが、9人からの一斉掃射を受けたScout達は反撃する暇も無く全滅してしまった。時間にしてたった数秒程度だった。

 

「よし、さっさとここから逃げるぞ!クレア、引き続きドローンで周囲の索敵頼む」

 

「了解」

 

「そしてルナ、お前はクレアを援護しろ。スナイパー1人だと近距離戦になった時不味いからな」

 

Scout達が来た方向にHK433を構えて警戒していたルナは頷くとクレアの側に行った。その際クレアが「よろしくね」と言ったがルナは返事も何もしなかった。その様子を見て僕は思わず苦笑い。戦闘では本当頼りになるんだけどもう少し他の人とコミュニケーションを取れないもんかねぇ。

 

「エレナはエマの援護をしてくれ」

 

「了解」

 

え、自分もですかい?いやいや、僕は1人である程度は何とか出来るから援護しなくても良いって。

 

「私は大丈夫ですよ。いざとなったらフルオートで撃ちまくりますよ」

 

と言って僕はM14EBRを見せつけるようにして構えてみせた。クレアの使っているTAC-50はボルトアクション式の狙撃銃。それに対して僕の使っているM14EBR-RIはフルオートでも撃てちゃうマークスマンライフルだ。最悪近距離戦になったらセミオートじゃなくてフルオートで敵を薙ぎ倒すことだって出来る。

 

「自慢できるほどアンタ射撃訓練の時の成績良く無いでしょうが」

 

「いやまぁそれはそうなんですけど・・・・」

 

それを言われてしまうと反論出来ない。確かにエレナの言う通り僕の射撃訓練の成績はそこまで良くは無い。最初の頃と比べたら上手くなっていると思うんだけど、まだまだエレナやアリーナには到底敵わない。

 

「600メートル先の的に3発ピンヘッド出来る様になったら1人で好きに行動して良いよ」

 

エレナさん、それはもう諦めろって遠回しに言ってませんかい?600メートル先の的に3発ピンヘッドって・・・超難易度高いんですけど?

 

「分かったら大人しく守られてなって」

 

「・・・了解です」

 

これ以上言い争っていても時間の無駄だから僕は大人しく守られることにした。いやまぁ確かにエレナが側にいてくれるのは心強いけどさ。

 

「このまま真っ直ぐ逃げて敵を撒く。そうしないとこの後がかなり面倒になるからな。全員周囲の警戒を怠んなよ?」

 

「「「了解!」」」

 

そうして僕たちは更に敵の増援か偵察が来る前にその場を後にして、足早に森の中を移動して行った。




どうだったでしょうか?今回の訓練は簡単に言うと実地試験的なやつです。人形達だけでちゃんと戦えるのかどうかの。果たしてエマ達スパイトフルの隊員達は無事この無理難題な訓練を終えることができるのか?お楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第30話 特別行軍訓練②

大変長らくお待たせしまいた第30話です。ついに30話まで来ました。ここまで続けてこれたのもいつも読みに来てくださる読者の皆さんのお陰です。皆さんいつもこの小説を読みに来てくださりありがとうございます。これからもM14EBRの日誌をよろしくお願いします!


L&M本社のヘリポートには現在訓練中のアリーナを隊長としたスパイトフル部隊のもしもの時に備えていつでも急行出来る様にUH-1Yと完全武装のMi-24Dが待機している。ヘリポートの傍らにはヘリのパイロット用の待機室がありそこにハインドとヴェノムのパイロットがいつ来るか分からないスクランブルに備えて待機していた。

 

待機室のドアが開きサイモンが入って来た。サイモンは部屋の中を見回しそしてため息を吐いた。

 

「心配し過ぎだろお前」

 

と、サイモンは安物のソファーに座ってマガジンに5.56ミリ弾を手で1発ずつ入れている男、ネルソンにそう言った。

 

「脅威度が低いとは言え鉄血の支配地域のど真ん中にいるってのに心配しない方がおかしいだろ」

 

「アイツらなら大丈夫だって。優秀な奴らばかりだし」

 

そう言ってサイモンはネルソンの横に座って足組んだ。

 

「いくら訓練で優秀な成績を残しても実戦じゃぁそう上手くは行かない。訓練と実戦が違うのはお前も知ってるだろ?」

 

「そりゃそうだけどよぉ。心配し過ぎじゃねぇか?」

 

アサルト部隊はスパイトフル部隊からの救助要請に備えて待機となっているので全員完全武装で待機しているのだが、その中でもネルソンの気合の入れようは他の人達とは違う。もしスパイトフル部隊に問題が発生し救助要請が来たらヘリに飛び乗って直ぐに助けに行くと言う気持ちが伝わって来る。

 

「他の奴らは?」

 

「ブリーフィングルームかヘリポートら辺で適当に時間潰してる。お前だけだぜ?そんなにやる気満々なのは。もう少しリラックスしなって」

 

ネルソンがパイロット用の待機室に居るのはいち早くヘリに飛び乗る為だが、そんなに早く乗ってもへリはすぐには飛べない。どう頑張ってもヘリのエンジンが始動して暖機運転が終わるまでには4〜6分はかかる。つまり待機室に居ても余り意味はない。

 

「じゃぁ何か気の紛れる話題でもくれ」

 

「う〜んそうだなぁ・・・・お前新人達の中では誰がタイプ?」

 

「思春期真っ盛りの学生かお前は」

 

「学生じゃなくてもタイプの女とかは気になるもんだろ」

 

「俺はあの頭に犬だか何だか分からん耳を生やした金髪奴かな」

 

ネルソンとサイモンの会話を聞いていたUH-1Yのパイロット、ジェフリー(第8話参照)が答えた。

 

「あーヘレンか。理由は?」

 

「そんなの聞かなくても分かんだろ。あのスタイル、そして胸、完璧じゃないか。アリーナと良い勝負だ」

 

「あ〜確にあいつスタイル良いよな。アリーナと良い勝負だ」

 

ヘレンが来る前までは人形の中で1番スタイルが良いのはアリーナだと言われていた。しかし今回新しく入って来た新人戦術人形のモスバーグM500ことヘレンも負けず劣らずのスタイルの持ち主で、よくL&M社内の男達のどっちが良いのかと言う議論の的になっていた。

 

「胸もヘレンの方が大きそうに見えるしな」

 

「いや、俺的にはアリーナの方が大きいと思うが」

 

「そうかぁ?」

 

どっちの胸が大きいかで話が盛り上がる2人を見てこの会話を本人達に聞かれたら殴られるだろうなと思いつつネルソンはため息を吐いた。

 

「で、お前は誰がタイプなんだ?」

 

「あ?」

 

「あ?じゃねーよ。誰がタイプなんだって聞いてんだよ」

 

思ったより早く2人の話は終わったらしくサイモンが再度同じ質問をネルソンに投げかけて来た。

 

「・・・・特に無いな」

 

「いやそれは無いだろ、1人くらい居るだろ?」

 

「・・・・居ないな」

 

「やっぱ胸か?胸のデカい奴の方が好きなのか?」

 

「別にデカいのが好きだって訳じゃ無い」

 

「じゃぁお前貧乳派か?ってことはミアみたいなのがタイプってことか?」

 

「そう言うことじゃねぇ。あとそれ本人の近くで言うなよ?」

 

確かにミアはL&M社所属する戦術人形の中では1番胸の大きさが小さく、本人も少なからずそのことを気にしていると言うのはネルソンも知っていた。

 

「と言うかお前の女の良し悪しの判断基準は胸の大きさなのか?」

 

さっきからサイモンが胸の大きさのことしか言っていなかったので、そのことにネルソンが突っ込む。

 

「そう言う訳でも無いぞ。確かにデカい奴の方が好きだが貧乳が嫌いって訳じゃない」

 

「たがらそう言うことじゃねぇって言ってるだろうが。そんな身体的特徴だけ注目していると女どもから白い目で見られるぞ」

 

「安心しろ。もう見られてる」

 

「何も安心できないんだが?」

 

サイモンとネルソンのたわいも無い話は暫く続いた。

 


 

木々の生い茂る森の中に複数の銃声が木霊する。特別行軍訓練が始まってから約3時間。僕達は鉄血の奴らから逃げながらの銃撃戦を繰り広げていた。鉄血のダイナゲートを倒してから敵の増援部隊が来る前に森の中を移動していたのだがあっさり見つかってしまった。

 

僕達の前方からは高レートのサブマシンガンを2丁持つRipperと7.62×51ミリNATO弾クラスの大口径弾を使用するアサルトライフルを持つVespid達が大量に現れ、後ろからは高い機動力が特徴のScout達がやって来ている。前後から挟まれる形になった僕達は横に逃げた。目的地からは遠ざかることになるが仕方ない。凄い勢いで急速接近して両方の側面に装備された2連装ザブマシンガンで攻撃して来たScout達はエレナのグレネードランチャーやクレアの正確無比な狙撃、そして皆んなの集中砲火を受けて直ぐに全滅した。しかしRipperとVespidは簡単には倒せない相手だった。木々を盾にしてこちらの射撃を防ぎつつ撃って来る。それにアイツら当たりどころが良かったら2、3発食らっても平気な顔して立っている。

 

「右側からRipper8体とVespid6体、左側からRipper12体接近中!」

 

高性能ドローン楓月を使って敵の動きを監視していたクレアが報告する。正面切っての撃ち合いではお互い有効打を与えることが出来ていなかったから奴らはこちらの側面に足の速いRipperを主力とした部隊をこちらの側面に回り込んで包囲しようとしている様だ。

 

「ニーナ、ミア、カイラ。右から来る奴らを殲滅しろ!」

 

「「「了解!」」」

 

「ヘレンは左側から来るRipperを殺れ!エマとエレナはヘレンの援護!」

 

「「「了解!」」」

 

アリーナに言われた通り僕とエレナとヘレンは左から来る敵を迎え撃ちに行く。いったん木の幹に隠れてから前方を確認してみると報告通りRipperが居た。まだ僕達が迎え撃ちに来たことなら気づいていない様だ。

 

「スラグをもっと持って来れば良かったかも」

 

とぼやきながらヘレンはM500に新しい弾を込めて行く。M500に限らずショットガンは装弾数が少ないのですぐに弾切れしてしまう。のでこまめなリロードが必要となる。

 

「もう使い切ったんですか?」

 

「いや、まだあるけど必要最低限の数しか持って来なかったから。アイツら相手に使ってたらすぐに無くなっちゃう。それにRipper相手ならバックショットで充分だから」

 

リロードを終わらせてヘレンはM500を構えて敵の様子を伺う。その隣でエレナがXM8の下部に装備しているM320グレネードランチャーに新しく弾を入れながらヘレンに聞いた。

 

「でもバックショットじゃぁこの距離は厳しいよね?」

 

エレナの問いかけにヘレンはこっちの方を見てにっと笑った。

 

「だから2人が居るんでしょ?」

 

「まぁね」

 

エレナは隠れていた木の幹から出ると前方のRipperに狙いを定めグレネードランチャーのトリガーを引いた。バンッ!と言う音と共に40ミリグレネードランチャーが撃ち出され前にいたRipper3体を一気に吹き飛ばした。

 

「援護よろしく!」

 

僕の肩をポンと叩いてヘレンは前に飛び出た。エレナのグレネードの攻撃で驚いている隙にヘレンはRippeに一気に近づいて行く。しかし流石元から戦闘用として作られただけあってRippeはすぐに態勢を立て直して接近して来るヘレンに銃口を向ける。ヘレンと1番距離の近かったRippeがヘレンに向け発砲。しかしヘレンはそのRippeの銃撃をスライディングで回避し回避と同時に発砲。全身にバックショット弾を食らったRippeは後ろに倒れた。続けて不用意に近づいて来たもう1体のRippeに発砲。上半身に弾を食ったRippeは顔のバイザーが破砕し、右腕が千切れ飛んだ。更にもう一撃食いRippeはスパークを起こしながら倒れた。至近距離での戦闘は不利だと悟った残りのRippeは距離を取りながらヘレンを攻撃する。

 

牽制としてRippe達に残りの3発を撃ってからヘレンは近くの木の陰に隠れた。それを好機と見たRippe達は制圧射撃を加えながらヘレンを包囲しようとする。ここで僕達の出番だ。僕はM14EBRを構えヘレンを包囲しようとするRippeに狙いを定め発砲!敵との距離は100メートルも無いので当てやすい。ACOG照準器の中に敵の姿を捉える。この距離なら弾道落下も殆ど考えなくていいので俺は敵の胴体に狙いを定めて連続で3発撃った。

 

弾は見事全弾命中!胴体に7.62×51ミリを食らったRippeは絶命した。続けて隣のRippeに狙いを定め1発撃つ。右肩に当たって撃たれたRippeは態勢を崩したがすぐに立て直して撃ち返して来た。俺は慌てて木の幹に隠れた。サブマシンガンの有効射程では無いがそれでも飛んで来る弾は僕を殺すのには充分な威力を秘めている可能性がある。隣にいるエレナもセミオートで早くも3体のRippeを倒していた。リロードを終えたヘレンが再び前に出て残り2体となったRippeと対峙する。ヘレンは木を盾にしながらRippeに接近し発砲。しかしRippeはその攻撃を木に隠れてやり過ごし、反撃。ヘレンも同じ様に木に隠れて銃撃を防いだ。

 

僕はこれ以上ヘレンに攻撃出来ない様にヘレンに攻撃を加えるRippeに向け連続で発砲。弾は当たらなかったがRippeは僕からの攻撃で迂闊に顔を出せなくなる。もう1体のRippeが横に回り込んでヘレンを撃とうとしたがエレナが胴体に3発5.56ミリ弾を食らわせて瞬時に無力化した。残りの1体も隙を見てヘレンが倒した。

 

「こちらアース(エレナ)。左側の敵は全て排除」

 

敵の増援が来て無いことを確認してからエレナが隊長であるアリーナに報告した。

 

《了解。コメット(エマ)はこっちに戻って来い。代わりにルナ(エウロパ)を送る。オベロン(ヘレン)アース(エレナ)エウロパ(ルナ)と共にそのまま敵左側面に回り込んで右側面に回り込んでいるカレン達と協力して敵を挟撃》

 

「了解。それじゃぁ後で」

 

「はい。後で」

 

僕はエマ達と別れてアリーナ達の所に向かう。途中でルナとすれ違い僕が「後よろしく」と言ったら頷いてくれた。アリーナ達の元に戻ると未だに正面切っての銃撃戦が続いていた。僕は地面に伏せるとM14EBR下部にある折り畳まれていた二脚を展開して倒木の上に置いた。これで照準はかなり安定して狙い易いし撃ちやすい。

 

こちらに向かって撃って来ていたVespidを撃つ。胴体を撃ち抜くつもりだったんだがVespidの持っていたアサルトライフルに当たってアサルトライフルは後ろに吹っ飛んだ。続けて2発連続で撃ちVespidも倒した。7.62ミリ弾は火力が高くて良いよ。2、3発胴体に食らわせれば倒すことが出来る。

 

クレアも僕と同じ様に地面に伏せた状態でTAC-50を二脚で地面の上に立てて撃っている。今のところ彼女が外している所を僕は見ていない。正に百発百中だ。クレセント社のM200も凄いけ戦ったらどっちが勝つんだろうか。

 

そんなことを考えつつ僕は別の敵に狙いを定めて撃つ。もうこの戦闘だけで今まで倒した鉄血の人形の撃破数を軽く超えている。いやまぁ元々そんなに倒していなかっただけってのもあるんだけどね。

 

突然敵の方で連続で爆発音が響き、それに続いて左右から銃撃が加えられいきなり攻撃を受けた敵は反撃する前に次々と倒れて行く。エレナ達の挟撃が上手く行ったみたいだ。左右からの銃撃に応戦しようとする奴らを僕達が撃つ。敵は3方向から撃たれててんやわんやだ。カレン達のいる右側を攻撃しているVespidに3発撃つ。1発が右腕を吹き飛ばし残り2発が胴体を貫いた。その横に居たRipperを撃とうとしたが僕が撃つよりも早くクレアが倒した。順調に次々と敵を倒して行き、やがて敵から銃弾が飛んで来なくなった。

 

「撃ち方止め!撃ち方止め!」

 

アリーナの命令で全員が撃つのをやめる。するとさっきまでの激しい銃撃戦が嘘の様に辺りは静寂に包まれた。敵の動きは見られない。

 

《こちらアース(エレナ)敵部隊全滅を確認》

 

「了解。増援が来ない内に移動する。直ちに合流」

 

《了解》

 

エレナの通信を終えたアリーナはAK-47のマガジンを取って残弾を確認しチッと舌打ちをした。

 

「結構弾使っちまったなぁ。バラライカ、そっちは?」

 

「チマチマ撃ってたお陰でそんなに消費はして無いが・・・馬鹿みたいに乱射してたら直ぐに無くなるだろうな」

 

バラライカがタップ撃ちをしていたのは弾の消費をなるべく抑える為だったか。まぁ12.7ミリ弾はデカいからそんなに大量には持ち運べないだろうしなぁ。因みに僕の方は1マガジンを空にしてしまった。

 

「クレアの方は?」

 

「2マガジン消費しちゃいましたね」

 

「結構撃ったね」

 

「こんなに連続で撃ったのは初めてですよ」

 

「だろうね」

 

普通スナイパーって殆ど撃たないからな。1マガジンを空にすることも普通は無いだろう。

 

「そう言えばクレアの銃って50口径だったね」

 

クレアの使用するTAC-50狙撃銃はキロ先にいる目標を撃ち抜く為に開発された長距離狙撃銃だ。なので使用する弾薬は1キロ先にも飛んで行く12.7×99ミリ弾だ。しかしバラライカの使用するKordも12.7ミリ弾を使用しているのでKordでも良いんじゃないかと思うかもしれないが、重機関銃と狙撃銃では命中率が違う。TAC-50は高い命中率を誇る長距離狙撃銃としても有名で、約3キロ先の敵を狙撃したとして世界記録に載っている。

 

「はい。どんな敵でも一撃ですよ」

 

そう自信満々な顔でTAC-50を抱えるクレア。改めて思うとこの部隊火力高過ぎじゃね?まぁ火力不足よりはマシ・・・なのかな?

 

「その火力が羨ましいよ〜」

 

「火力があるのは良いんですけど、その分反動が凄いですよ?」

 

「だろうねぇ」

 

反動で言うと僕のM14EBRも負けてないんじゃないかな?セミオートで撃つ分にはそんなに問題は無いんだけどフルオートで撃つ時はじゃじゃ馬になる。僕が射撃場でアリーナと一緒に撃った時は命中精度がそんなによろしくないAK-47に負けた。まぁアレはアリーナのリコイル制御が上手過ぎるせいもあると思うけど。というか軽機関銃とかならまだしも自動小銃でフルサイズの弾丸をフルオートで撃とうと言うのが無茶な話だ。リコイル制御が出来る訳ない。

 

「クレア、ドローンの方は後どれくらい動ける?」

 

僕とクレアが話しているとアリーナが聞いて来た。そう言えばずっと楓月は飛ばしっぱなしだったけどバッテリーは大丈夫何だろうか?

 

「ずっと動かしてたのでそろそろビンゴ(燃料切れ)ですね」

 

「分かった。最後に半径1キロを偵察してから戻してくれ。バッテリーはもつか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「じゃぁ頼む。頼りっぱなしで悪いな」

 

「いえ、皆んなの役に立たれて嬉しいです!」

 

「新人の奴らは明るいのが多くて良いな」

 

笑顔を見せるTAC-50を見ながらバラライカが言いアリーナも頷く。

 

「特にニーナなんていい子過ぎてね。笑顔が眩しいよ」

 

それは僕も思う。ニーナはとても真面目で仲間思いの優しい子だ。どんな厳しい訓練でも文句1つ言わずに頑張っているし、仲間を励ましたりもしていた。

 

「お前とは大違いだな」

 

「だからその話はもういいって!」

 

このアリーナの黒歴史いじりはもう少し続きそうだ。そうこうしていると敵の挟撃を行ったエレナ達が戻って来た。アリーナは全員を招集し地図を広げると簡単な作戦会議を始めた。

 

「今私達が居るのはここ。今からこう行って夕方までには森を抜けゴーストタウンに入る」

 

地図を見て初めて知ったがなんとこの森は街の中にある小さな森だった。なのでこれから僕達は森を抜けて市街地を通り、明日までには街の真ん中の流れる川の所まで移動する予定らしい。

 

「だけどもう敵に見つかっている今の状態で市街地戦はちとキツいと思うけど、覚悟は良い?」

 

「市街地戦の方が私は活躍出来るし、むしろWelcome!」

 

アリーナの問いかけに対しやる気に満ちた顔でヘレンはそう言った。サブマシンガン使いであるニーナとミアもうんうんと頷いている。

 

「私も建物の上から皆さんを頑張って援護します!」

 

クレアもやる気のようでTAC-50を持ってふんす!と意気込んでいる。僕も市街地戦闘の訓練は嫌と言うほど受けていたのでここよりは戦い易いかもしれない。

 

「やる気があるようで何よりだよ。それじゃ、移動を始めるよ!」




どうだったでしょうか?やっぱり戦闘シーンを書くのは難しいですね。次回は市街地戦。各キャラの特徴を生かした戦いを書ければ良いなと思っています。

次回もお楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第31話 特別行軍訓練③

大変お待たせしました第31話です。最近リアルが忙しく書く時間があまり確保出来ていない状況です。なので今回の話は切りの良い所で終わって投稿することにしました。なので市街地戦は次回になります。楽しみにしていた皆様はすいません。


戦術人形になってから56日目。 朝に書いた分の続き。

 

特別行軍訓練と言うのは鉄血の人形に支配されている地区を通って80キロ先の目的に向かえと言うものだった。もうこれ訓練じゃなくて実戦じゃないかと隊長のアリーナに聞いてみたが「これも訓練みたいなもんだ」と言われた。なんじゃそりゃと思ったがまぁ始まってしまったのは仕方ない。ヘリで山に降りた僕達は早速鉄血の部隊と交戦した。敵の数は結構多かったのだが皆んなの活躍により追っ手の部隊を壊滅させることに成功した。と言うか新人の皆んなが想像以上に強かった。一応僕は彼女らの先輩なんだけど僕より断然活躍してるしなんか先輩としての威厳とか全然見せれて無い気がする・・・。頑張らなければ。

 

当初の予定通り今日一日で森を抜けて市街地(ゴーストタウン)に入った。日も暮れたからこれ以上進むことはせず今は森の近くのアパートにお邪魔して休憩している。明日の朝には移動を開始する予定なんだけど、どうせ敵は僕達を待ち伏せているだろうから市街地戦闘になるのは必至。森とは違って建物があるから上にも注意を向けないといけないのはかなり面倒だ。

 

明日は長い1日になりそうだ

 


 

いつもの日記を書き終えた僕は日記帳をリュックに仕舞って一息つく。今日は一日中走って戦っての繰り返しだったからとても疲れた。皆の様子を見てみると銃の整備をしたり寝たり読書をしたりレーションを食べていたりなど皆思い思いに時間を潰している。

 

敵のスナイパー対策として僕達のいる部屋の窓はそこら辺で拾った木の板などで塞いでいるので外の景色を見ることは出来ない。まぁ敵のスナイパーにいきなり頭を撃ち抜かれるのも嫌だし仕方ないけど。

 

更にこのアパートの入り口と階段には手榴弾と糸で作ったブービートラップを仕掛けたからもし敵が下から侵入して来たら爆発する様になっているし、交代で2人が建物の屋上で周囲を監視している。次の見張り担当が自分だから寝ずに日記を書いて待機していたのだが眠くなって来てしまった。あくびしながら背伸びをするが眠気は取れない。交代までまだ少し時間はあるだろうし、少しの間だけ仮眠するか。体操座りの体勢のまま僕は目を閉じる。

 

「交代だよ」

 

「・・・了解です」

 

目を閉じた数秒後に先に監視をしていたエレナが交代を知らせに来てしまった。全く仮眠を取ることは出来なかったけど仕方ない。行くか。僕は横に置いていたM14EBRを手に取り立ち上がった。

 

「見張り中に居眠りとかしないでよ?」

 

「しませんよ」

 

「じゃぁ私は寝るから後はよろしく」

 

そう言って僕の肩をぽんぽんと軽く叩いたエレナは壁際に座ってそのまま寝た。僕はジャケットを丸めて枕代わりにして気持ち良さそうに寝ていたミアの肩を掴んで揺すった。次の監視担当は僕とミアとになっているからだ。因みにこの組み合わせはジャンケンで決まった。

 

「おーい起きろ〜」

 

「う〜ん・・・・なにぃ?」

 

眠たそうに目を擦りながら聞いて来るミアを見ていると身長の低さも相まって子供の相手をしているな感じになるな。

 

「交代の時間だよ」

 

「あ"〜面倒くさいなぁ・・・」

 

盛大に溜め息を吐きながらミアは立ち上がり枕代わりにしていたジャケットを着てCBJ-MSを手に取った。僕とミアは真っ暗な階段を登って行き屋上に出る。屋上には双眼鏡を持って闇に包まれる市街地の方をじっと見ているバラライカの姿があった。僕が声をかけようとしたがそれよりも早くバラライカは後ろを振り返って僕の方を見た。

 

「今のところ怪しい動きとかは無しだ。森の方も同じく。静かなのもだよ」

 

「了解しました。代わりますので休んで下さい」

 

「それじゃ後は任せた」

 

そう言ってバラライカはKordを片手で持って階段を降りて行った。毎度思うんだけどあのKordって重量が32キロもあるんだけどそれを片手で持って行っちゃうバラライカってスゲェな。

 

バラライカから渡された双眼鏡を持って僕はさっきまでバラライカが立っていた所に立ち双眼鏡で周囲を見回す。明かりの無い街はこんなに真っ暗なんだな・・・この双眼鏡が昼夜兼用の高性能なヤツで良かったよ。

 

「それ寄越してよ」

 

「・・あ、これ?」

 

と言ってミアは右手を僕の方に差し出して来た。一瞬何を寄越せと言っているのか分からなかったがすぐに僕の持っている双眼鏡だと察した。僕が双眼鏡を渡すわひったくる様にして取った。そしてあぐらをかき双眼鏡を構えて周囲を見渡す。・・・やっぱり僕ナメられてるのか?でも確かに僕には先輩らしい威厳も何も無いしなぁ。

 

僕はリュックから普通の単眼鏡を取り出す。これはさっきの双眼鏡みたいに昼夜兼用みたいな便利機能は無いがまぁ全く見えないって訳じゃないから怪しい所とかを注意深く監視するとしよう。

 

「アンタはこのPMCに入って長いの?」

 

暫く無言のまま監視活動をしていたのだが突然ミアが話しかけて来た。向こうから何か話題を振って来るとは予想外だ。

 

「私も入ったばかりだね」

 

「やっぱりそうなんだ」

 

「やっぱり雰囲気とかで分かっちゃう感じ?」

 

「それもあるし、朝とか昼の戦闘で他の奴らと比べて戦い慣れていなさそうだったから」

 

僕達は今日朝と昼の2回鉄血の部隊と交戦した。その中でも昼の戦闘が1番激しかった。僕はどっちの戦闘も後方から援護射撃を行っていたので最前線で戦っていたミアは僕の姿を確認することは出来ないと思うんだがいつの間に僕の戦う姿を見たのだろうか。

 

「いつ見たの?ミアは前衛だったのに」

 

「昼の時はそうでもなかったけど朝の戦闘の時はお互いの距離が近かったじゃん?その時とかにね」

 

成る程。確かに朝の戦闘はお互いの距離が近かったな。と言うか意外に周りの様子見てるんだな。

 

「弾結構外してるし、テンパって失敗することも多いし、ここっ!って言うところで援護が遅れたりするし。あーあ。こんな先輩じゃぁ安心して背中任せてられないよ」

 

「・・・・すいません(泣)」

 

あぁ〜やっぱり僕って頼りない先輩とか思われてるのか。それに僕のダメな所を的確に突いて来る。ある程度の覚悟とかはしていたが実際に言われると結構ダメージ来るな・・・。

 

「私の足を引っ張らないようにしてよね?」

 

「ど、努力します」

 

「・・・はぁ」

 

どう言う訳か溜め息を吐かれてしまった。もしかして今の返答の仕方はダメだったか?

 

「後輩からボロクソ言われて悔しくないの?」

 

「え?」

 

ミアの質問の意図が分からない。もしかして僕を悔しがらせたかったのか?

 

「普通反論したり怒ったりするでしょ」

 

「でも本当のことだしね」

 

「・・・はぁ〜張り合いがないなぁ」

 

再び溜め息を吐いたミアは監視をやめてその場に仰向けに寝込んだ。僕も空を見上げてみると満天の星空が広がっていた。おぉ〜凄いな。ミルキーウェイも見えるんじゃないかと思うほどの星空だ。前に本か何かでゴーストタウンは街の明かりが一切無いから夜空が滅茶苦茶綺麗と言うのを聞いたことあったが本当だったんだな。

 

「こかが鉄血の支配地域ってことを忘れそうなくらい星が綺麗だね」

 

「アンタってもしかしてロマンチスト?」

 

「いや、別にそう言う訳じゃないけど・・・今のってロマンチストぽかった?」

 

「少しね。私ロマンチストの人って嫌いって言うか苦手なんだよね。何か聞いてるとむず痒くなる」

 

「あーちょっとそれ分かるかも」

 

っていつまでも天体観測してたらダメだな。星に見惚れてて敵を見逃しちゃいましたとか洒落にならない。

 

「真面目だねぇ」

 

再び監視活動を始めた僕を見て呆れたように言うミア。

 

「ほら、ミアも寝てないで周囲の警戒!」

 

「こんな所に敵は来ないって」

 

ぼやきながらも起き上がったミアはまたあぐらいかいた状態で周囲を見渡す。街の方だけじゃ無く後ろの山の方もちゃんと警戒する。そこら辺を偵察のScoutが飛んでいてもおかしくは無いのだが姿は見えない。Scoutは機体が小さくて動きが早いからこうゆう真夜中とかでは見つけにくいのが難点だ。しかしずっと無言のまま監視活動ってのは流石に暇なのでミアに話題を振ってみることにした。

 

「そう言えば、ミアはScoutを倒しまくってたね」

 

今日の戦闘時に何度かミアが接近して来たり、回り込んで来たりしようとしたScout達をCBJ-MSで倒して行く姿を目撃した。身長が低くて可愛い見た目のミアだが戦場では勇猛果敢に戦っていた。

 

「アイツらは簡単に壊れてくれるから好きだね」

 

「すばしっこくてなかなか当たらないから私は苦手だなぁ」

 

「それはアンタの腕がまだまだってことだね」

 

「おっしゃる通りです・・・」

 

でもアイツら本当にすばしっこいから当てにくいんだよなぁ。それにまた自体も小さいし。まぁこれは言い訳にしかならないけど。

 

「う〜ん・・・・もしかしてアンタって自己評価低い?」

 

「え?」

 

「さっきから悪口言ったりしても怒ったり反論したりしなくてはいそうですねって認めちゃってるからさ」

 

「う〜ん・・・どうなんだろう。自分では分からないね」

 

「それにかしこまり過ぎているとも思う。いつでも皆んなにぺこぺこしているし」

 

「そう言うミアはもっとアリーナとかに対する態度を改めた方が良いと思うよ」

 

「指揮官からなら良いけど同じ戦術人形の奴から指示を受けるって言うのは性に合わないんだよね〜」

 

何かミアみたいな奴僕の友達に昔いたな。大人から指図されるのは嫌だとか言っていた悪ガキだった。でもミアの場合見た目が幼いから子供が頑張って背伸びをしているように見えてしまうんだよな。

 

「ねぇ私の部下になってよ」

 

「え?部下?」

 

「私も部下が欲しいからさ」

 

「遠慮しときます」

 

「えー何でさ〜」

 

先輩としての威厳は無くても後輩の部下に成り下がるの流石に嫌だ。この後も僕とミアは取り止めの無い話をしながら監視を続けたが異常は見たからなかった。

 


 

翌朝の5時00分。僕達はアパートを出て行動を開始した。今日の目標は街の中央に流れる川まで移動することだ。距離で言うと約15キロの道のり、これは軍隊が1日に移動する行軍距離とほぼ同じくらいの距離だ。

 

まぁ僕達は軍隊みたいな大規模な部隊では無いのでもう少し行軍速度は速いだろうけど鉄血の奴らと戦うことになるだろうしその襲撃に備えて慎重に進む必要があるから、やっぱり目的地までは1日はかかりそうだ。索敵能力と戦闘能力の両方が高いルナをポイントマン、つまり先頭にしてヘレン、ニーナ、アリーナ、バラライカ、僕、ミア、カイラの順で並んでいる。クレアとエレナの2人は斥候として先回りをして建物の屋上から周囲を見張り敵が居ないか監視している。

 

《こちらカロン(クレア)。すいませんお待たせしました。準備完了です。楓月による偵察活動も開始しました》

 

「了解。周囲に敵や怪しいものとかはあるか?」

 

《・・・・・いえ。今確認した限りでは敵影も不審物も確認出来ません》

 

「了解。引き続き監視をよろしく。もし私達の死角から撃とうとしている敵を見つけたら迷わず撃って」

 

《わかりました》

 

今回の訓練ではクレアに凄くお世話になってるな。ドローンで周辺を索敵してくれるのはとても助かる。にしてもここは不気味だな。当たり前なんだけど人気が全く無くてとても静かだ。曇り空と言う天候も相まって不気味さが増している。昔見たゾンビホラー映画を思い出すな。

 

「もしかしてビビってる?」

 

僕の後ろを歩いていたミアが僕の顔を覗き見ながら話しかけて来た。先輩としたビビっているところを見られたくないし、思われたくも無いと思った僕は反射的にしょうもない見栄を貼った。

 

「いや、別に」

 

「さっきから挙動不審だよ」

 

「周囲を警戒しているだけだよ」

 

「今のアンタ、ホラー映画とかにいるめっちゃビクビクしているヒロインみたいなんだけど」

 

う〜むやっぱり僕がビビっていることはバレているなこれ。そしてそんなに今の自分は挙動不審なんだろうか?自分では余り分からないな。道の端を歩くこと数分、アリーナが左手を上げて止まるように合図を出した。僕達は指示通り止まって建物の壁を背にして辺りを警戒する。

 

「今からそこの通りを横切って向こうの通りに行く。バラライカはいつ敵が来ても良いようにそこの通りを警戒。敵が来たら撃て」

 

「了解した」

 

カロン(クレア)達も敵を見つけたら報告。緊急時なら報告する前に撃て」

 

《了解》

 

僕達の目の前には右に曲がる道とこのまま真っ直ぐ進む道がある。僕達はこのまま真っ直ぐ進みたいんだけど、右の道の方から攻撃を受ける可能性がある。なのでバラライカが地面に伏せてKordを構えて右の道を見張り、その間に僕達が1人ずつ向こうの建物の陰まで走る。先ず最初に行くのはポイントマンのルナだ。既にバラライカの準備は完了しており、僕達もいつでも応戦出来る様に用意は出来ている。ルナは振り返ってアリーナの方を見るとアリーナは頷いて見せた。その瞬間ルナは隠れていた建物の陰から飛び出した。HK433を抱えて全速力で走り、無事向こうの建物の陰まで走り抜けた。ただ通りを横切るだけだって言うのに凄い緊張感だ。

 

次はヘレンの番だ。ルナも右側の通りに銃口を向けて警戒してくれている。これも無事に走り切った。この調子でニーナ、アリーナ、バラライカと行って僕の番が来た。2回大きく深呼吸をしてM14EBRを握り締め僕は撃つな撃つなと言いながら走った。たった20メートル弱の距離を走っているだけなのに凄く長く感じたが、無事撃たれることなく倒れた。続いてミアとカイラが来て最後にバラライカが来て全員無事に通ることが出来た。

 

「はぁ・・・道を横切るだけでこんなに緊張したのは初めてだよ。まったく・・・」

 

いつ撃たれるか分からない恐怖の中走るのはなかなかに心臓に悪い。

 

 

鋭い風切り音が聞こえて来るのと同時に右側の少し離れた所にある道で大きな爆発が起きた。爆発の衝撃波で飛んできた破片や石などが僕達や近くの建物などにビシビシと当たった。

 

「なになに⁉︎」

 

突然の爆発で混乱するミア。僕はM14EBRを構えて周囲を見渡すが敵の姿は無い。何だ?敵襲?IED?ミサイル攻撃?敵は何処にいるんだ⁉︎

 

「迫撃砲だ!近くの建物の中に隠れろ!雨が降って来るぞ!」

 

混乱している僕とは違い冷静に状況を把握したアリーナはすぐ様僕達に指示を出した。僕達は色々考える前に近くの建物の中に飛び込んだ。直後アリーナの言った通り砲弾の雨が降って来た。あちこちで爆発が起き部屋が揺れガラスが割れる。成る程、あの最初の爆発は試射だったのか。そして今が本射って訳だ。僕達の隠れている建物の近くにも砲弾が着弾し爆発した。壁の一部が吹き飛び、破片がバックショット弾の様に高速で部屋中に飛び散った。幸い、僕達は物陰に隠れて伏せていたお陰でその破片を浴びることは無かった。

 

カロン(クレア)!敵は確認出来る⁉︎ 」

 

《少なくとも半径1キロには確認出来ません!》

 

「もっと遠く。恐らく2〜3キロ先にJaguarが数台居ると思う」

 

Jaguarって・・・・確か迫撃砲を搭載する鉄血の多脚戦車的な奴だったよな。

 

「Jaguarよりも今は観測手だ!誰かが私達のを場所を教えないと砲撃は加えられないからね」

 

観測手を探せと言われても砲撃を受けている今の状況でそんな余裕は無い。と言うかこの建物にも迫撃砲弾が何発か当たっているんだけど大丈夫なのか?崩れたりしない?

 

《南西より敵部隊確認!そちらに接近中!》

 

迫撃砲に続いて鉄血の部隊まで来やがった。恐らく砲撃支援をある程度ダメージを負わせた後、歩兵部隊などで殲滅しようとか考えているんだろうな。

 

「チッ、敵部隊の編成は?」

 

《先頭にRipper10体、後方にVespid8体です。あっ!南東にも敵部隊を確認!Ripper8体です!》

 

「了解。以後南西の部隊をアルファー。南東の部隊をブラボーと呼称する」

 

僕達から見て斜め右後ろと斜め左後ろから敵部隊が来ている。どちらの部隊も一個分隊程の規模でしか無いのは唯一の救いかな。

 

「誰でも良いからスモークを外に投げろ」

 

こんなこともあろうかと僕はスモークグレードを持って来ていたので僕は腰のポーチからM18スモークグレネードを取り出して安全ピンを抜いて外に投げた。エレナとニーナとミアもM18スモークグレネードを外に投げる。ものの数秒で建物の前は濃い白色の煙が包まれた。

 

「よし、ここから移動するよ」

 

「外は砲弾の嵐だけど⁉︎」

 

ミアが声を荒げる。ミアの言う通り今外に出たら迫撃砲弾の直撃を受けるかもしれないし、それが無かったとしても近くに砲弾が着弾し全身に砲弾の破片を浴びて死ぬことになるだろう。

 

「迫撃砲は命中率がそこまで良くない。それに敵はあのスモークで今私達の正確な場所は把握していない。取り敢えず最後に報告された座標を中心に当てずっぽうに撃ちまくっているだけだから運が良かったら砲撃を受けずに移動出来る」

 

「運が良ければって・・・」

 

「時には運も実力の内って言うじゃん?それにここに居ても敵に見つかってしまうだけだし」

 

「アリーナ隊長!裏口を見つけました!」

 

いつも間に探していたのかは分からなかったがニーナが建物内を探索して裏口を見つけた様だ。

 

「ナイスだニーナ!皆んな裏口から出るよ!」

 

「「「了解!」」」

 

中腰姿勢のまま室内を移動しニーナが見つけた裏口に向う。ルナがドアを開けて外に出て周囲を確認する。裏口を出た先は狭い路地だった。路地には建物が盾になって砲撃は来ていない様だ。敵が居ないのを確認して全員素早く外に出る。

 

「このまま目的地に向うぞ!」

 

目的地の川はここから北東に行った所にあるのでこのまま行けば追って来ている敵から逃げれるかもしれない。路地はそんなに長くは続かず細い道に出た。しかし道を歩いていたらモロに砲撃を受けるかもしれないし何処にいるか分からない敵観測手に見つかるかもしれない。と言うことで道を横切って向こう側にある路地に入って進むことにした。路地を通って行けば砲撃を受ける危険性は減るし敵に見つかる可能性も低い。

 

もし路地で敵とかち合っても大丈夫な様に盾を持っているヘレンを先頭にして進む。それに路地の様な狭い空間だとショットガンは本当に強いしね。

 

《こちらカロン(クレア)。接近中のブラボーを目視で確認。足止めしますか?》

 

「敵をビビらせるだけで良いから無理せず直ぐに引けよ?」

 

《了解》

 


 

アリーナ達の左斜め後方にある4階建ての建物の4階の窓から二脚を立ててTAC-50を構えていたクレアはアリーナへ返事をするとこちらに接近中の敵部隊に照準を合わせた。

 

「距離470。風速10時方向に3ノット」

 

クレアの隣でスポッティングスコープで敵を見ていたエレナがクレアに距離と風速を教える。

 

「先頭のRipperを狙います」

 

クレアは緑色の左目で目標を狙いトリガーの遊びの部分を引く。後数ミリ引けば撃てると言う所まで引くと、一度ゆっくりと深呼吸をする。そして静かにゆっくりと息を吐き息を止める。照準を目標に定めトリガーを引いた。

 

ダガァンッ‼︎と言う強烈な発砲音と共にマッハ約2.4の速度で12.7×99ミリ弾が飛んで行く。約0.6秒後に先頭を歩いていたRipperの胴体に弾が命中し、その余りの威力に上半身と下半身が分かれてしまった。素早くボルトを前後に動かして薬莢の排出と次弾の装填を行う。

 

敵が突然の銃撃に驚いている内にもう1体に狙いを定めて発砲。右肩付近に当たり撃たれたRipperは部品を飛び散らせながら撃たれた衝撃で後ろに勢い良く倒れた。

 

ここで敵部隊はようやく狙撃されていることを察しすぐさま近くの物陰

に隠れると狙撃手の潜んでいる可能性のある場所を割り出しそこに牽制射撃を加えた。何発も弾が飛んで来る中クレアは焦らず冷静に狙い続け物陰から少しだけ出ていたRipperの左足を撃ち抜いた。足を撃たれて倒れたRipperの胴体にとどめの1発を食らわせた。

 

次にコンクリート製の塀に隠れているRipperに向けて撃つ。コンクリートの厚さがそんなに厚くなかったこともあり12.7ミリ弾は易々と塀を貫通して隠れていたRipperの胴体を撃ち抜いた。1マガジン分撃ち切ったクレアは新しいマガジンを入れてからTAC-50を持ち上げて二脚を折り畳んだ。

 

「移動しましょう!」

 

「了解」

 

エレナはスポッティングスコープを仕舞うと横に置いていたXM8を手に取った。クレアはTAC-50をスリングベルトで背中に掛けるとホルスターからUSW-A1を取り出し折り畳まれたストックを広げた。

 

「変わった拳銃使ってるね」

 

「ストックが付いてるんで狙い易いやすいし射撃も安定するんですよ」

 

「だろうね。ポイントマンは任せて」

 

「お願いします」

 

短いやりとりを済ませるとエレナがXM8を構えて先に進みその後をクレアが続いて行く。慎重に、けれど足早に部屋を出て廊下を通り階段を降りて行くとそのまま建物から出ると周囲を警戒しながら駆け足で次のポイントに移動する。

 

「こちらカロン(クレア)!ブラボー部隊の足止めに成功。現在次のポイントに移動中!」

 

《了解。敵との遭遇に気をつけてな》

 

「はい」

 

アリーナに報告し終え2人は足早にその場を後にした。

 


 

クレアが足止めしてくれてお陰もあり敵に追いつかれることも無く順調に進むことができている。アルファーの方は元々こちらとの距離が遠かったからこのまま逃げとけばエンカウントすることはまず無い。後は追っ手をどう上手く撒くかだな。

 

《前方にRipperとVespidの混成部隊を確認しました!位置情報を送ります。注意してください!》

 

と思っていたら前方からも敵が来た様だ。クレアが楓月から得た敵の位置情報を僕達にも送ってきた。その情報を見る感じ直ぐにでもこちらとエンカウントしそうだ。報告通りRipperとVespidの混成部隊で2個分隊くらいの規模だ。アリーナはなるべく戦闘を行わない為にルートを変更して前から来る敵部隊をやり過ごそうとしたが敵部隊も方向を変えてこちらを追って来た。

 

「間違い無い。見られてる」

 

先程の的確な砲撃と言い、今の敵部隊の動きと言い何処かから敵が僕達を見ているとしか思えない。

 

「皆んな気合い入れろ。市街地戦になるぞ」

 




どうだったでしょうか?個人的にC-MSは銃もキャラも好きなんですよね。次回こそ本当に市街地戦です。お楽しみに!

そして、新人人形組のキャラ紹介を新しく書きました。気になる方は上のキャラ紹介の所を見てみてください。

ご感想お待ちしております!


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第32話 特別行軍訓練④

大変長らくお待たせしてしまい誠に申し訳ござませんでした!m(_ _)m言い訳をするとリアルが忙しくなかなか無く暇が無かったもので・・・。まぁ何はともあれ第32話です!


砲弾が降り注ぐ中、正面から接近して来る敵部隊を何とかやり過ごそうとしていたが逃げ始めてから15分程経ってから遂に敵部隊とかち合ってしまった。現在僕達は道路のど真ん中で車に隠れて敵部隊と撃ち合っていた。幸いなことにこの道は車が大量に並んでいるので遮蔽物には困らない。恐らくこの街から避難する時にここで大渋滞になり、運転手かは車を乗り捨てて徒歩で逃げたんだろう。

 

敵部隊は最初は僕達より少し多いくらいだったのだが後から増援がやって来たので数では負けている。なので僕達は撃って隠れてを繰り返してなるべく損害を出さない様に戦っているのだが、敵の数が予想より多く長期戦になりつつあった。普段より多くの弾薬を持って来たとは言えこのままでは残弾がヤバくなるのは確実だし、後ろからも敵部隊が接近しつつあったので不味い状況になっていた。しかし僕達と敵部隊の距離が近過ぎるせいなのか敵の砲撃が止んだのは良かった。

 

「エマ、多分持って無いと思うけど火持ってるか?」

 

僕がセダンのトランクに二脚を立てて敵を狙撃していると隣でしゃがんでリロードをしていたアリーナがそんなことを聞いて来た。

 

「え、火ですか?」

 

Vespidを倒した僕は一度セダンに隠れてアリーナに聞き返す。火って具体的には何のことを指しているんだろうか?と疑問に思ったがアリーナがタバコを咥えているのを見て察した。

 

「あーすいません。持ってないですね」

 

「そうだよなぁ。こう言う時に限ってジッポー忘れちゃうし・・・仕方ない」

 

と言ってアリーナはタバコを加えたままタバコの先端をAK-47の銃身に押し当てた。弾の節約の為にセミオートで撃っていたとはいえ連続で数十発撃ちまくっていたことで銃身はかなり熱くなっているので、タバコに火をつけることも出来る。にしてもワイルドな火のつけ方だな。ぷはーと白い煙を吐いたアリーナはリロードを終えたAK-47を構えて前方にいたRipper2体を瞬時に倒した。

 

僕も負けじとM14EBRを構え直して撃つ。隠れずに撃ちまくっていたVespidの右肩と首にに弾を食らわせた。

 

「エマ、向こうの建物に行って側面から敵部隊を叩け」

 

「え?でも、向こうの建物までどうやって行けば良いんですか?路地とかは無いですよ?」

 

ここの両側にある建物はかなり密集しており、建物と建物の間は人1人がギリギリ入れない位の隙間しか無い。なので僕達は路地とかに行つて敵の側面や裏に行って叩くことが出来ないし、敵もそれは同じだ。だから車を盾にしてた正面切っての撃ち合いが続いている訳なんだけど。

 

「屋根伝いに行けば良いだろ。カイラ、エマの援護を!」

 

「了解!」

 

アリーナに呼ばれたカイラを目の前の敵を倒してから走って僕の所に来た。

 

「あそこの屋上からあの邪魔な奴らを撃て」

 

「「了解」」

 

二脚を折り畳んでM14EBRを抱えていつでも走って行けるように準備する。

 

「行け!」

 

アリーナがAK-47をセミオートで敵のいる所ら辺に乱射し制圧射撃をしている間に僕達は姿勢を低くして横の建物に向かった。 何とか敵に撃たれずに建物に到着したがドアには鍵がかかっていた。が、カイラがドアを思いっきり蹴ったら鍵が壊れてドアが開いた。

 

「さぁ入って!」

 

カイラがドアを破壊している間カレンが撃たれないように敵の方を監視していた僕も建物の中に入った。階段を駆け上り最上階を目指す。最上階に着くと窓を開けて周囲を確認して危険が無いのを確認。「私が行くね」と言ってカイラは窓枠に乗ると屋根によじ登った。

 

「来て」

 

と言って屋根に登ったカイラが僕に手を伸ばして来た。僕はカイラの真似をして窓枠に乗って屋根に登ろうとするが身長の問題で手が届かない。頑張って背伸びをしてやっと見にカイラの手を掴むことを出来たが、それと同時に爪先立ちをしていたせいで足を滑らせて窓から落ちてしまった。

 

「おわわっ⁉︎」

 

しかしカイラがしっかりと僕の右手を掴んでいたお陰で地面に落ちずに済んだ。やべぇ凄い肝が冷えた。

 

「大丈夫?」

 

「う、うん」

 

カイラに引っ張り上げて貰い僕も何とか屋根に登ることが出来た。窓から屋根に登ったのは人生で初めてだよ。呼吸を整えた僕は敵に見られないように姿勢を低くしながら家から家に屋根伝いに移動する。

 

暫く進むと敵から見て左側にある建物の屋上に到着した。まだ僕達のことはバレていないようでアリーナ達との銃撃戦に集中している。僕は屋上の縁に立ちM14EBRを構える。ACOGサイトを装備しているお陰でとても狙い易い。敵との距離は15メートル程。この距離なら僕でも当てれる。

 

まずはアリーナ達に対して圧倒的な連射速度で圧倒している3体のStrikerに狙いを定める。先ずは先頭のStrikerだ。胴体に狙いを定めてすかさず引き金を2回引く。ダン!ダン!と2発の7.62ミリ弾が放たれて見事にStrikerの胴体に当たった。Strikerは大きくぐらついたがまだピンピンしていそうだったのでもう1発食らわせるとその場に倒れてしまった。そしてもう一体のStrikerに狙いを定めて2発連続で発砲。運良く1発が頭に当たったので即死だった。最後の一体にも照準を合わせて同じ様に撃ち倒した。これで面倒な機関銃手を倒すことが出来た。

 

続けて大量に居るVespidを狙って片っ端から撃ち殺して行く。ほぼ動いてなくて、こっちを狙っていない敵を撃つだけなのでまるで鴨撃ちだ。Vespidの集団に向かって手榴弾を投げ込むと丁度集団の中心で爆発した一気に3体のVespidとRipper1体が吹き飛んだ。

 

カイラもK2で下に居るVespidを正確に撃ち抜いていく。カイラの持っているK2は工学照準器も何も付いておらず、アイアンサイトで狙っているのだがそれでも正確に胴体を撃ち抜いて倒している。

 

「っ⁉︎危ない‼︎」

 

突然カレンがそう叫ぶと僕にタックして来た。突然のことで何も出来ないまま俺は後ろに倒れてしまった。次の瞬間、僕の頭上をチューンッ‼︎と言うか甲高い音と共に弾丸が通過して行った。もしあのまま立っていたら間違い無く胸に命中していただろう。

 

「大丈夫⁉︎」

 

「あ、ありがとう。助かった」

 

僕に覆い被さる様な体勢のまま聞いて来たカイラにお礼を言うとカイラは心底安心した様な様子で「よかったぁ」と言った。

 

「向こうにスナイパーが居るから気をつけて」

 

伏せた状態でM14EBRを構えてACOGサイトでカレンの指差した方の道路の向こう側にある建物の最上階の窓を見てみると確かにスナイパー居た。こっちを狙っているのが見えたので数発撃ったが慌てて撃ったせいで当たらなかった。敵のスナイパーが僕に銃口を向けるのが見えた。

 

「やべっ!」

 

伏せた状態のまま急いで右に転がる。次の瞬間僕がさっきまで伏せていた場所に弾丸が当たって跳弾した、チューンッ!と言う音がした。すかさず僕はM14EBRを構えると急いで狙いを定めて撃つ。弾は窓枠に当たって、それと同時に敵スナイパーが後ろに倒れた。・・・やったか?

 

様子を伺っていると何事もなかったかの様にひょこっとスナイパーが姿を現した。しかし今度は最初から狙いを定めていた状態だったのでスナイパーの姿が見えた瞬間敵から撃たれる前に僕は引き金を引いた。弾は見事スナイパーの上半身に当たたって後ろに倒れた。

 

「はぁ。死ぬかと思った」

 

何だかんだでスナイパー相手にこうやって撃ち合ったのは今回が初めてだったのでとても緊張した。大きく息を吐いているとカイラが「大丈夫?」と声をかけて来たので僕は無理矢理笑って頷いた。カイラの手を借りて立ち上がるとM14EBRのマガジンを抜き取って残弾を確認。まだ半分程は弾は残っているな。僕達は再び下の敵に向かって撃ち始める。

 


 

エマ達が右側の建物の屋上から厄介なStrikerなどを倒したお陰でアリーナ達への銃撃は多少弱まった。その隙をアリーナは逃さずにすぐ様に指示を出した。

 

「|カロン≪クレア≫、今から前進するから援護頼む」

 

≪了解です≫

 

「バラライカ!制圧射撃!奴らを釘付けにしろ!残りの奴らは私と一緒に突撃!一気に決着をつける!」

 

「「「了解!」」」

 

バラライカは敵の隠れている遮蔽物に向かってKord重機関銃を乱射する。12.7ミリ弾は車の車体をいとも簡単に貫通し車に身を隠していた敵を次々と倒して行く。貫通しなかったとしても毎分750発もの早さで撃ち出される12.7ミリ弾の弾幕で敵はおいそれと顔を出せない状況になった。ロシア製のAK用銃剣、6kh2を自身のAK-47に装着したアリーナは他の人達が準備を終えたことを確認して叫んだ。

 

「GOッ!」

 

アリーナは身を隠していた車を飛び越えると敵に向かって走った。バラライカの制圧射撃により怯んでいる隙に敵との距離を一気に詰める。アリーナ達の接近に気がついたVespidが先陣を切るアリーナに銃口を向けるがそれを見ていたクレアがすぐ様狙いを定めて発砲し、Vespidが引き金を引く前に胸にを撃ち抜いた。鉄血の人形達が隠れていた所まで来たアリーナを撃ち殺そうと車を盾にしつつ撃とうと銃を構えたVespidの胸にアリーナは勢い良く銃剣を突き刺した。そのまま車を乗り換えるとVespidに突き刺したままAK-47を手放すとホルスターからMP-433グラッチを引き抜いて車に隠れていたRipperの胴体に9ミリパラペラム弾を3発食らわせて、その奥にいた他のVespidも撃ち殺した。

 

先程銃剣を刺されたVespidが起き上がると胸に刺さったままだったAK-47を乱雑に抜いて投げ捨てるアサルトライフルをアリーナに向けた。

 

「死ねぇ!」

 

と言って目の前のアリーナを撃とうとしたが突然横から銃撃を受けてVespidはその場に倒れた。アリーナが横を見てみるとC-MSを構えたミアが居た。

 

「危ないところを助けてあげたんだから感謝してよね」

 

と一旦車に隠れたミアはアリーナを見て自慢げに言った。ミアと同じ車に隠れたアリーナはミアの頭を撫でながら礼を言った。

 

「サンキュー。助かった。優秀な部下を持って私は嬉しいよ」

 

「頭を撫でるな!それと私を部下って呼ぶな!」

 

「へいへい。じゃぁミア、折角助けに来てくれたんだし私をカバーしてくれないか?」

 

それを聞いたミアは得意げに笑った。

 

「任せて!奴らをボコボコにしてやる!」

 

「じゃ、カバーよろしく!」

 

そう言ってアリーナは隠れていた車から飛び出すと先程投げ捨てられたAK-47を拾い上げて敵に向かって撃ち始める。

 

「おらー!かかって来いやぁ!」

 

と言いつつミアもアリーナの後に続いて敵に至近距離で銃撃を浴びせて行く。敵に突っ込んだアリーナはRipperの持っていたサブマシンガンをAK-47で跳ね除けて無防備な腹に蹴りをお見舞いする。強烈な蹴りで後ろに倒れたRipperの頭に7.62×39ミリ弾を1発食らわせた。アリーナの背後にVespidが現れ、アリーナを狙うがミアが胴体に6.5×25mmCBJ弾をたらふく食らわせた。更に左側に居たVespidにも銃撃を加えて倒す。横から接近して来る敵に気づき撃とうとしたがそこには6体のRipperがおりミアは「うわわっ⁉︎」と言いながら車の裏に急いで隠れた。

 

「多過ぎでしょ!」

 

とぼやきながらミアは身を隠しながらC-MSを構えると大まかな狙いをつけて敵に向かってフルオートで乱射した。

 

「アリーナ!援護!」

 

「アリーナじゃなくてアリーナ隊長ってよべっていつも言ってるだろ」

 

と言いつつアリーナはAK-47をセミオートで撃ちRipperを一体撃ち倒すと手榴弾を敵の方に投げ込んだ。すると近くに居たRipperがその手榴弾をアリーナの方へ投げ返した。

 

「はっ⁉︎」

 

「ヤバっ‼︎」

 

ミアとアリーナは咄嗟に走ってその場から離れる。アリーナがミアを庇う様に後ろから抱き付くと同時に手榴弾が爆発し2人は地面に派手に転んだ。爆発後、直ぐ様アリーナは立ち上がりAK-47を構えると先程手榴弾を投げ返して来たRipperと別のRipperを瞬時に撃ち殺した。

 

「・・・・ふぅ。大丈夫か?」

 

「う、うん。それより背中・・・」

 

アリーナの背中からは擬似血液が流れ出て戦闘服を汚していた。傷口は深くは無さそうだが出血量は多い。

 

「ん?あぁ大丈夫大丈夫。こんなの唾付けとけば治る」

 

ミアに指摘されたアリーナはそう言って笑い飛ばした。2人が話している間に新たな敵が目の前に現れた。

 

「気を取り直して行くよ!」

 

アリーナとミアは同時に銃を構えると正面の敵に向かって発砲した。

 

 

アリーナ達と一緒に突撃していたヘレンは近くにいたVespidにバックショット弾を食らわせると一旦車に隠れてポンプアクションをした。車の窓から様子を伺って前方にRipperが居るのを確認したヘレンは窓越しに撃ってRipperを倒した。更に隣に居たもう一体のRipperにもバックショット弾を撃ち込んで倒した。モスバーグM500に新しい弾を装填すると隠れていた車から飛び出し、5体のRipperに追い詰められていたニーナの元に駆け付けるとニーナの前に出て盾を展開しつつ素早く2連射して前方のRipper2体を瞬時に倒してしまった。

 

「大丈夫?」

 

「はい。ありがとうございます!」

 

体勢を立て直したニーナはヘレンの後ろから敵から79式を構え前方に居たRipperを倒し、更に右側に居た別のRipperも倒した。最後の一体は不利を悟り撤退しようとしたがヘレンに撃ち倒された。

 

「やるじゃん!」

 

ニーナと一緒に車に一旦隠れたヘレンがそう言うとニーナはマガジンの残弾数を確認しながら答えた。

 

「ヘレンさんこそ、強いですね」

 

「まぁね〜」

 

と言いつつモスバーグM500に新しい弾を込めていると2人が隠れていた車の陰にRipperが飛び込んで来た。ヘレンは咄嗟に盾を展開するとRipperの銃撃を防ぎ、そして反撃しようとしたが別方向から飛んで来た弾丸に胴体を撃ち抜かれてRipperは機能を停止した。

 

ヘレン達が横を向いて見るとHK433を構えたルナが居た。ルナは続けてVespid2体を瞬時に撃ち倒すと左側に居たRipperの頭に5.56ミリ弾を2発食らわせ、更に前方に現れたRipperの胴体と頭に2発づつ弾を当てて完全に無力化させた。

 

「 Wow・・・・ルナちゃん強いね」

 

「訓練の時から成績が凄く良いって言うのは知っていたけど、こんなに強かったなんて・・・・」

 

ルナの無双ぶりを目の当たりにして呆気に取られていた2人だったが新手の敵が来たことを確認して直ぐに応戦した。横一列に並んだGuardの後ろからVespid達がルナ達に向けて一斉射を始めた。ルナは車に隠れつつHK433を構え、正確無比な射撃でGuardの展開した盾の後ろから射撃していたVespidの一体を撃ち抜いて倒した。

 

「食らえ!」

 

ニーナがM84スタングレネードを投げGuardの目の前で炸裂。強烈な光と音によりGuardとその後ろにいたVespid達は一時的に視覚と聴覚を奪われた。しかし鉄血の人形は元から戦闘用として設計された戦術人形なので数秒で視覚も聴覚も元に戻ったがその数秒の隙はとても大きかった。

 

まずヘレンが突撃するとモスバーグM500のエジェクションポートからチャンバー内にスラグ仕様の3インチマグナム弾を装填すると超至近距離でGuardに向かって発砲。Guardは盾でヘレンの放ったスラグ弾を防いでしまった。

 

「チッ!」

 

ヘレンは舌打ちをするとそのまま突進し、Guardの盾を踏み台にして跳躍するとGuardの後ろにいたVespidの後ろに着地してモスバーグM500を乱射。Vespid達が反撃する暇を与えず立ち続けるがヘレンの使用するモスバーグM500の装弾数は最大で6発。全員を倒し切る前に弾切れを起こしてしまった。

 

しかしVespid達がヘレンに気を取られている間にルナも同じ様に突撃しVespid達のガラ空きの背中を攻撃し、全て倒してしまった。残されたGuard達が銃剣付きの拳銃で反撃を開始するがヘレンは自分の盾でそれを防ぎ、ルナはヘレンの後ろに隠れるとGuardの足にを狙って発砲。足を撃たれたGuardはその場に倒れてしまいその隙に胴体、あるいは頭を撃ち抜かれて倒れて行く。

 

ニーナはGuardの後ろに回り込むと無謀な背中に7.62×25mmトカレフ弾を食らわせ行く。3人の活躍によりGuardとVespidはあっという間に全滅してしまった。ヘレンがニッと笑ってルナに拳を突き出すとルナは無言のままその拳を見つめた後、自分も拳を突き出してルナの拳に当てた。アリーナの突撃命令から2分弱で鉄血の部隊は全滅してしまった。

 

「全員、状況報告」

 

「右翼クリア」

 

「左翼クリア」

 

《屋上クリア》

 

《周囲に敵影無し》

 

全員からの返事を聞いて完全に制圧したことを確認したアリーナはふぅと息を吐いた。

 

「お疲れ」

 

と言って一緒に戦っていたミアお頭を撫でた。ミアは「だから子供扱いするな!」と言って反抗するがアリーナは気にせずワシャワシャと乱暴に頭を撫で続けた。

 

カロン(クレア)アース(エレナ)。私達を見張っている敵とかは居たか?」

 

アリーナはずっとこちらの動きを監視している者の存在を気にしていたが、ずっとそいつの姿は確認出来ないでいた。

 

《戦闘中に周辺を飛行していたScout1機と建物の影に隠れていたDinergate2体を発見し撃破しました》

 

「おぉ〜!それは良い報告だ」

 

《でもアイツだけとは限らないし、って言うか鉄血の人形だったらどれでも私達の位置情報を送る事は出来るんだから砲撃しているJaguar達本人を潰さないと意味無いって》

 

「それは分かってる。だがScoutやDinergateみたいなちっちゃい奴は見つけ難いしちょこまかと動くから面倒だ。さっさと潰せたのは大きい。Jaguarはまだ見つからないか?」

 

《すいません。まだです》

 

「ドローン・・・じゃなくて楓月だっけ?周辺の偵察はしなくて良いから半径6キロ圏内を隈なく捜索しろ」

 

《了解》

 

「それじゃぁ何かあったら報告してくれ」

 

()()

 

アリーナはクレアとエレナとの通信を終えると戦闘を終えて一息ついている皆に向けて言った。

 

「お疲れのところ悪いが直ぐに移動するぞ。また敵の増援が来るかもしれないからな」

 

「「「了解」」」

 


 

なんとか戦闘が終了したが休む暇も無く移動開始。まぁ今の僕は戦術人形だから普通の人間より体力はあるのだが精神的に疲れている。今は当初の予定通り街の中央を流れる大きな川に向かって市街地を進んでいる所なのだが、不思議な事にさっきまで雨の様に降って来ていた砲撃がさっきの戦闘以来ピタリと止んだ。アリーナによるとクレア達が僕達を見張っていた敵を見つけ出して倒してくれたそうだからそのお陰でだろう。

 

しかし、さっきの戦闘で出来るだけ節約したとは言えかなりの量の弾を消費してしまった。今使っているマガジンを除いて弾の入っている予備マガジンは残り4つ。こりゃ慎重に撃たないと直ぐに弾切れになっちゃうな。それに7.62×51mmNATO弾を使うのは僕だけだから誰かから弾を分けて貰うって言うことも出来ない。とするともし弾切れになったらサブウェポンのP320だけで戦わないといけないことになる。それは流石にキツい。

 

「浮かない顔してるけど、どうかしたの?」

 

僕の横に来たカイラが僕の顔を覗き込む様にして聞いて来た。僕は笑って見せると首を振った。

 

「いいえ、何でも」

 

「そう?」

 

「それよりさっきはありがとう」

 

「気にしないで、当然のことをしただけだから」

 

と言ってにっこりと笑うカイラ。その笑顔に僕は少しばかり元気を貰った気がした。やっぱり可愛いは正義だな!うん。

 

「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「何?」

 

カイラとの会話がひと段落すると次は後ろを歩いていたミアが聞いて来た。

 

「アンタはあのルナって奴と付き合い長いんだよね?」

 

「ミア、先輩なんだからアンタ呼びは失礼でしょ」

 

カイラはミアが僕のことをアンタと呼んだことを注意するが完全に無視した。

 

「長いって言ってもルナも最近仲間になったばっかりどからそんなに長くは無いけどね」

 

「じゃぁアイツが何者か知ってる?」

 

とミアはルナの方をチラッと見ながら聞いて来た。う〜ん。これって正直に答えて良いんだろうか?

 

「何で知りたいの?」

 

「だってあの強さは普通じゃないでしょ!」

 

「確かに凄く強かった」

 

カイラもルナの戦闘を見ていた様で頷きながら言った。

 

「バラライカさん。これって喋っても良いんですかね?」

 

僕は今までの会話を聞いていたであろう前を歩くバラライカに聞いてみた。

 

「まぁ別に隠している訳でもないしな。良いと思うぞ」

 

「え〜っとまぁ簡単に言うと、ルナは元々はエイレーネーって言うテロ組織に所属していた戦術人形だったんだよね」

 

それを聞いた2人は声は出さなかったが驚いた様な表情になる。まぁそりゃそう言う反応するよな。

 

「その組織でルナは色々と違法改造とかをされて、普通の人形より戦闘に特化した戦術人形として改造されているんだ。だからあんなに強いんだ。でもその改造の影響もあってルナは無口無表情でコミュケーション能力は壊滅的なんどよね・・・」

 

「成る程ねぇ。そりゃバカみたいに強い訳だよ」

 

「そのテロ組織はどうなったんですか?」

 

と、ニーナが聞いて来たがどう説明したら良いんだろうか・・・・色々あったからなぁ。

 

「まぁ色々あってグリフィンの部隊が壊滅させた」

 

「え、それって手柄を横取りされたってこと?」

 

「いや、こっちの任務はエイレーネからとあるブツを奪うことで殲滅が任務じゃなかったから」

 

「へぇ〜」

 

 

それから更に移動を続け目的地である街の中央に架かる橋の近くまでやって来た。朝早くから移動を開始したのと、あの道路での戦闘以降散発的な戦闘しか発生しなかったお陰で日が暮れるより前に到着することが出来そうだ。予定より早く進めているお陰で時間にも余裕が生まれたから僕達は近くにあった建物に隠れて小休憩がてら今後の行動を話し合うことになった。

 

アリーナはミアを守った時に負ったと言う背中の傷をニーナに応急処置して貰った後、ボロボロの木製のテーブルに地図を広げ橋の近くを指を刺した。

 

「今私達が居るのはここ。当初の予定だと橋の近くの建物で一夜を過ごしてから橋を渡って北西に進みこの森に入って川にそって進む予定だったんだけど、予定を繰り上げて今日中に橋を渡って森に入り山で野宿し一夜を過ごす」

 

「えぇ〜野宿ぅ?」

 

山で野宿と聞いて乾パンを食べながら話を聞いていたミアはとても嫌そうな顔をした。訓練の時に言っていたけどミアは汚れるのが嫌いらしい。訓練中雨の中泥の上を匍匐前進していた時も凄く嫌そうな顔をしていたし。

 

「森が嫌なら鉄血の奴らが待ち構えているであろう市街地を突っ切るか?」

 

「ちぇっ・・・森で良いですよ」

 

「それと、追っ手の足止めをする為にこの橋にちょいと罠を仕掛ける」

 

「罠・・・?地雷とかですか?」

 

ニーナが首を傾げながらアリーナに聞いたがアリーナは首を横に振る隣にいたバラライカの方を見た。

 

「いや、コイツで橋を落す」

 

 

【挿絵表示】

 

 

と言ってニヤリと笑ったバラライカの手にはC4高性能爆薬が握られていた。そのC4で橋を爆破しようってことかよ⁉︎でも橋を落すとなるとそれなりの量のC4が必要になるんじゃないか?

 

「量は足りるんですか?」

 

「オットーからそれなりの量は貰って来たから大丈夫だろう」

 

あー成る程、あのC4はオットーから貰ったやつか。爆破魔と言われている程だしC4だって大量に持っているだろうな。

 

「それに、橋を落すのだって橋の弱点となる箇所を爆破すれば少量の爆破で済む」

 

「へぇ〜そうなんですか」

 

当たり前のことだが爆破にも色々方法があるんだな。

 

《全員そこから逃げて!早くッ‼︎》

 

突然人形用無線を介して僕も含めた全員にエレナの緊迫した叫び声が聞こえて来た。

 

「どうした?」

 

エレナのただならぬ様子の声を聞いて何かを察したのかアリーナは直ぐ様地図を折り畳みリュックに突っ込み、荷物を急いでまとめながらエレナに聞いた。

 

《近くの建物の陰からマnー》

 

エレナが言い終わる前に突然目の前のコンクリート製の壁が爆発した。爆発の衝撃波で僕達はまとめて後ろに吹き飛ばされた。後ろにゴロゴロと転がってから僕は後ろの壁に勢い良く後頭部をぶつけた。

 

「いっ・・・・・つうぅ〜〜」

 

かなり勢い良く壁にぶつかったせいで今まで体験したことが無いと思うほど酷い頭痛が襲って来た。右手をぶつけた後頭部に当ててみるとヌルッとした感触がしたので目の前に右手を持って来てみると指に血が付いていた。必殺の痛覚カットをやろうかと思ったが撃たれた訳でも無いのに痛覚カットを使う必要は無いし、耐えきれないレベルの痛みでも無いし大丈夫か。

 

あっ!って言うか僕のM14どこ行った⁉︎

 

スリングベルトで肩に掛けたいたM14EBRが吹っ飛ばされた時に何処かに行ってしまった様だ。意外と近くの床に落ちていたので急いで拾うと立ち上がって周囲を見渡してみると全員僕と同じ様に吹っ飛ばされていたみたいだ。何が起きたんだと思って爆発した食べの方を見てみるが爆煙と砂埃が舞っていて何も見えない状況だった。が突然その煙の中から手榴弾が4つ投げ込まれて来た。

 

「っ⁉︎し、手榴弾⁉︎」

 

僕が驚きで固まっているとアリーナは僕の方に転がって来た1つを前に蹴飛ばすと僕を後ろに投げ飛ばしながら叫んだ。

 

「ヘレンッ!」

 

アリーナが叫ぶと同時に僕達の前にアリーナが出ると片膝立ちの姿勢で腰に装備していた盾を展開し、その瞬間手榴弾が次々と爆発した。アリーナとヘレンのお陰で僕は手榴弾の爆発と飛び散った破片を食うことは無かったが、投げ飛ばされた時に右の膝を思いっきり床にぶつけてしまった。地味に痛い・・・・。

 

「大丈夫⁉︎」

 

盾で見事手榴弾の爆発を防いだヘレンは振り返って聞いて来た。

 

「何とか・・・」

 

「ナイスだヘレン!」

 

僕とアリーナが無事なのを確認して安堵した様子だ。僕も突然の手榴弾で爆死せずに済んだことに安堵するが次の瞬間吹き飛んだ壁から鉄血の人形達がわらわらと建物の中に侵入して来た。先頭のRipper3体をヘレンが撃ち殺すとM26手榴弾を敵の入って来た壁の穴に向かって投げた。

 

「全員外に出ろ!急げ!」

 

と言いつつアリーナは穴に向かって牽制射撃を加える。ヘレンも盾を上手く利用しながら敵が入って来れない様に撃ちまくる。2人が敵を抑えている間に僕達は大急ぎで建物から出る。表通りは目立ち過ぎるので路地を使って逃げようとしたが既に路地にも敵が居たので僕達は仕方無く表通りの方に逃げた。

 

《そっちに行くなッ‼︎ Manticoreが居る!》

 

「なっ⁉︎」

 

エレナの忠告も時既に遅し。既に僕達は表通りに来ており、そして表通りにはエレナの報告通り巨大な四足歩行歩行型の戦車Manticoreが居た。Manticoreは胴体下に装備された大口径の大砲をこちらに向けて来た。

 

「うわぁぁぁ⁉︎」

 

ミアが叫びながらManticoreに向けてC-MSを構えてフルオートで乱射する。高い貫通力をもつ6.5×25mmCBJ弾は100メートル先の8mm厚の防弾鋼板を貫く程の貫徹力を誇る。が、Manticoreの脚や胴体に当たった6.5×25mmCBJ弾は金属同士がぶつかった様な甲高い音を響かせるとあらぬ方向に弾かれてしまった。僕も反射的にM14EBRを腰打ちで撃ちまくったが同じように装甲で弾を弾かれてしまった。

 

「こっち来い!」

 

「Hurry!」

 

路地の入り口に居たアリーナとヘレンが僕達の方に手招きをしていた。どうやら敵の居ない逃げ道を見つけ出してくれたみたいだ。僕達は急いでアリーナ達の方へ走って行くがその瞬間Manticoreの胴体の下に装備された大砲を僕達に向けて撃った。鼓膜が破れるんじゃないかと思う程大きな発砲音と共に撃ち出された大口径榴弾は僕達の目の前を通り過ぎると反対側の地面に命中し爆発した。

 

「きゃっ⁉︎」

 

「ぬわっ⁉︎」

 

「ぎゃっ!」

 

1番爆心地に近かったミアと僕とカイラが爆発に煽られて転んでしまった。次弾を撃たれる前に僕は痛む体を強引に動かして立ち上がり走り始める。

 

「大丈夫⁉︎」 

 

後ろからカイラの声が聞こえて来たので走りながら振り返ってみると倒れたままのミアの元にカイラが駆け寄っていた。こ、これは助けるべきか⁉︎でも早く逃げないとManticoreに撃たれてしまうかも知れないし・・・でもミアを置いても行けないし・・・・あークソッ‼︎

 

 

僕は倒れたままのミアの元に向かいながらポーチを弄るとM18スモークグレードを取り出した。いつまたManticoreに撃たれてもおかしく無い状況なので余り意味は無いかも知れないがミア達の目の前にM18スモークグレードを投げた。直ぐに真っ白な煙がミア達の周りに立ち込め始める。その内に僕はミアの様子を見てみると、右足に金属片らしき物が半分ほど刺さっていた。これでは走ることは出来ないだろう。

 

「私はほっといて逃げろって!」

 

「うるせぇ!黙って助けられとけ!」

 

横から腹に響く重低音な発砲音が連続して聞こえて来た。聞き慣れ始めて来たこの音はバラライカの使用するKord重機関銃の発砲音だ。どうやら僕達が撃たれ無い様に援護射撃をしてManticoreの注意を僕達から逸らしてくれている様だ。直後再びManticoreが発砲した様でKord重機関銃とは比べ物にならない程大きな発砲音が聞こえて来た。幸い砲弾は僕の方には飛んで来なかった。恐らくバラライカの居る方を撃ったのだろう。少し離れた所で爆発音が聞こえて来た。それと同時に爆風が僕達の方にも来て僕達の姿を隠していた煙幕が吹き飛んでしまった。

 

「僕が連れて行くから援護お願い!」

 

僕はM14EBRをスリングベルトで肩に掛けるとミアをおんぶする。カイラに背後を任せて僕は全力でアリーナ達をの方へ走ろうとするが、直後Manticoreの後方や僕達の居た建物の中、路地などから大量の鉄血の人形が現れアリーナ達を攻撃し始めた。僕も狙われ、4体のVespidの銃口が僕に向けられた。刺し違える覚悟でホルスターからP320を取り出そうとした時、僕の斜め後ろに居たカイラが前のVespid達を撃った。フルオートで横薙ぎに撃ったことで前にいたVespid達は4体まとめて胴体に5.56ミリ弾を食らってその場に倒れてしまった。

 

僕はP320を構えてこっちを攻撃しようとする奴を撃ちながら後退し、カイラと共にアリーナ達居る所とは反対側の路地に逃げ込んだ。敵部隊の殆どはアリーナ達の方へ向かった様だが少数が僕達を追って来た。逃げ込んだ路地が人1人が通れるくらいの狭さしか無いのが幸いして迎撃は容易だ。

 

追っ手の相手はカイラに任せて僕は負傷したミアをおんぶしたまま全速力で逃げる。

 

コメット(エレナ)カリスト(カイラ)!お前らはそのまま逃げて何処か安全な場所に隠れろ。敵を撒いて体勢を立て直してから落ち合おう》

 

「了解っ!」

 

走りながらアリーナからの通信に返事をする。つまりカイラとミアの3人だけで敵部隊から逃げろって言うのかよ畜生!

 

《それと、敵に電波の発信源を探知される可能性があるから極力無線は使うな!いいな⁉︎》

 

《了解ッ!》

 

後ろで大きな爆発音。振り返ってみるとどうやらカイラが敵に向かって手榴弾を投げた様だ。爆発によって敵が怯んだ好きにカイラは銃撃を加えつつ逃げる。僕はM18スモークグレネードを敵の方に向かって投げた。狭い路地で噴出された煙はあっと言う間に路地に煙が立ち込み、敵と僕達の視界を遮った。この隙に僕とカイラは敵のな方向に銃撃を加えつつ逃げた。

 

 

デタラメに逃げ続けた僕達は運良く敵の追跡を振り切ることが出来た。アリーナに指示された通り僕達は小さな2階建ての家に入って隠れていた。

 

「3で抜くよ?」

 

「待って待って。それって1で抜くの?それもと0で抜くの?」

 

ミアの右足に刺さっている金属片を抜こうとするカイラをミアが慌てて止めて聞いた。

 

「1で」

 

「分かった」

 

ミアはハンカチを口に入れた。叫んでしまわない様にとハンカチを噛んで食いしばる為だ。

 

「3、2、1っ」

 

カイラがゆっくりと足に刺さっていた金属片を引き抜いて行く。思いっ切り肉にまで刺さっている金属片を抜かれるのはとてつもない激痛だろう。

 

「〜〜〜〜ッ‼︎」

 

顔を真っ赤にして涙目なるミア。僕は咄嗟にミアの右手を握ると「頑張れ!」と応援した。治療が出来ない僕にはこれくらいしかミアにしてあげれない。そこそこの大きさの金属片が抜き出された。口に入れていたハンカチを吐き捨てたミアはぜぇぜぇと肩で息をする。

 

「傷口を洗うよ」

 

「いっつ〜〜〜〜〜う⁉︎」

 

金属片を抜き終わり一安心しているミアにカイラをそう言って傷口に水を当てた。水が傷に染みてミアは床をバンバンと叩きながら悶絶する。

 

「騒がない。敵にバレちゃうよ?」

 

「心の準備させてよ⁉︎」

 

消毒液などは持っていなかったので取り敢えず水筒の水で傷口を洗ってから、僕が汗拭き用にと持って来ていたタオルで傷口を縛って止血した。

 

「傷口はそんなに深くなかったし、出血量的に血管も切っていないさそうだから大丈夫だと思うよ」

 

「ごめん。カイラに頼りっきりで」

 

「いいのいいの!私頼られるの好きだし」

 

僕が謝るとカイラは笑顔で答えてくれた。本当、こんな情け無い先輩でごめんな。

 

「で、これからどうするの?」

 

「ほとぼりが冷めるのを待ってから隊長達と合流するしかないわよね」

 

「だね」

 

窓から外をチラリと見てみるとScoutが1機飛んでいた。今外を出るのは危なさそうだな。見つかったら大勢の敵と戦うことになるしな。今の僕達には大勢を相手に出来る力は無い。

 

「じゃぁそれまで休んどこ」

 

と言ってミアは床に座った。特に今僕達に出来ることは何も無いので僕も大人しくしとくか。僕はM14EBRを壁に立てかけるとミアと同じ様に床に座った。

 

「そう言えば、私を助けた時のエマキャラがいつもと違ってたね」

 

「え?」

 

ミアに突然そう言われて僕は何のことか分からなかった。何か変なことしたっけ?

 

「何かしたっけ?」

 

「ほら、私をほっといて逃げろって言った時にエマうるせぇ!黙って助けられとけ!って私に怒鳴ったじゃん」

 

「あ、そう言えば逃げる時も僕が連れて行くから援護お願い!とか言ってたね」

 

マジか⁉︎やっべ〜。あの時は焦っていたから自分でも気付かない内に口調が変わっていたのか!くそっ!どう言い訳したら良いんだ⁉︎

 

「え、そ、そうだった?あの時はテンパってたからよく覚えて無いなぁ・・・あははは・・・・・」

 

笑って誤魔化してみたがこれは流石に苦しいか?

 

「今までとのギャップが激しかったからビックリしたよ〜」

 

「でもあの時のエマかっこよかったよ」

 

「あ、ありがとう。って言うか!そう言うカイラこそ沢山の敵を続け様に倒しててかっこよかった!」

 

「え〜そう?」

 

「ちょっと、私は?」

 

「ミアは撃たれてただけでしょう?」

 

よ、よーし。話が別方向に逸れてくれた。色々聞かれたりしたら面倒くさい事になっていたから良かった良かった。

 

「撃たれてただけって何さ⁉︎あの時本気で死んじゃうって思ったんだからね⁉︎」

 

「だから自暴自棄になって私を置いて行けとか言ったっけ言う訳?」

 

「それは・・・・・まぁそんな感じなんだけど・・・・・。だって誰でもあの状況だったら死を覚悟するでしょ⁉︎」

 

僕とカイラの方を見て必死に弁解をするミア。まぁ確かに僕ざ同じ立場だったら死を覚悟するね。間違い無い。

 

「そんな絶望的な状況から助けてくれた先輩に言うことあるんじゃない?」

 

「・・・・・あ、ありがとう」

 

嫌そうに、と言うか照れ臭そうにお礼を言ったミアに僕は笑って見えた。

 

「どういたしまして」

 


 

アリーナ達の居るところから北西に5キロ。6体のJaguarが住宅街を疾走していた。Jaguarは足にタイヤを装備しているため車と同じ位の速度で移動が可能なので、砲撃後に場所がバレる前に素早く移動することが可能でありこれがクレアがいくら楓月で探しても見つけきれない理由であった。アリーナ達の動きを監視していたScoutやDinergate達からの位置情報を元に砲撃と陣地転換を繰り返すJaguarはなかなかに厄介な相手だった。

 

住宅街の道路を一列になって走っているJaguar達の姿を静かに見ている人物が居た。建物の屋上に伏せ、古めかしいライフルを構えていたその人物はJaguar達が細い通路に入るのを確認すると「来たぞ」と言った。

 

それと同時に先頭を走っていたJaguarが突然四方八方から銃撃を受けた。あっという間に穴だらけになったJaguarはスパークしながら停止してしまった。突然先頭を走っていたJaguarが銃撃を受け停止したことで後続のJaguar達は立ち往生してしまった。その隙に最後尾のJaguarも先程と同じ様に四方八方から銃撃を受けて大破してしまった。比較的安全な後方からの間接攻撃が前提の自走砲であるJaguarは装甲が殆ど無いので小銃弾が簡単に貫通してしまう程であった。

 

細い通路で先頭と最後尾がやられてしまったことで逃げ道が無くなってしまったJaguarは周辺の住宅に向かってやたらめったらに砲撃した。が、銃撃が止むことは無く数分と持たずに残り4体も直ぐに蜂の巣にされた。

 

その様子を屋上から見ていた人物は周囲を見渡し他に敵が居ないか探すが特に怪しい物は見受けられなかった。

 

「こちらマンリヒャー。周囲に敵影確認出来ず。そちらはどうだ?」

 

「こちらM1911、同じく敵影無し」

 

「こちらG17、こちらも同じで敵は確認出来ません」

 

「了解した。今ので全部の様だ。3人ともご苦労」

 

マンリヒャーと名乗った人物がそう言うとJaguarの砲撃によってボロボロになった住宅からガリル、スコーピオン、ステンの3人が現れた。

 

「ひゃ〜Jaguarの奴らが撃って来た時はびびったでぇ」

 

「私なんて隣の部屋が吹き飛んだんですよ⁉︎」

 

「でも案外簡単に倒せたね!」

 

「この調子なら任務は簡単に終わりそうやな」

 

などと3人は銃撃を受けて完全に停止したJaguarを見ながら話していた。その様子を見ていたマンリヒャーはJaguarの残骸を見て首を傾げた。

 

「アイツらは誰を攻撃していたんだ・・・・?」

 

マンリヒャー達は派手に攻撃をしているJaguarを見つけ、砲撃後の移動するタイミングを見計らって奇襲を仕掛けたがJaguar達が何を攻撃していたのかは結局分からなかった。

 

マンリヒャーは立ち上がるとJaguar達が砲撃をしていた方向を見た。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まさか・・・余達意外に戦術人形の部隊が?」




どうだったでしょうか?最後のシーンで察した方も居るかもしれませんが次回はスツーカ様の書いているドルフロ小説、「双頭の鷲の下に」とのコラボ作品になります!「双頭の鷲の下に」をまだ読んで居ない方は是非読んでください。とても面白い作品なので。

それと、なんだかんだでバラライカの戦闘服姿を見せるのは今回が初ですね。やっと登場させることが出来たので私は満足です!

それでは次回もお楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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第33話 特別行軍訓練⑤

皆さん大変長らくお待たせいたしました第33話です!そしてそして今回はスツーカ様作の「双頭の鷲の下に」とのコラボになります!コラボ先の「双頭の鷲の下に」には下のURLから行けます。是非読んで行って下さい!

https://syosetu.org/novel/201354/


そっと窓から外の様子を伺ってみる。空にも建物にも道路にも敵の姿は無い。

 

「敵の姿は無い・・・かな?」

 

M14EBRを構えてACOGサイトを使って辺りを見るがやっぱり敵の姿は無い。敵の捜索隊は他の所に行ってしまったんだろうか?

 

「こっちも敵は確認出来ないね」

 

反対側を見ていたカイラがそう報告する。これは本当に敵さんはいなくなったのかな?

 

「移動するなら今の内かな?」

 

「だね。足は大丈夫?」

 

カイラは部屋の隅であぐらをかいて座っていたミアに聞いた。

 

「出血の方は大丈夫。だけど走るのは無理そう」

 

「どっちかがおんぶして運ぶ?」

 

「それじゃぁ私が」

 

迷わず僕は挙手する。アサルトライフルを使い僕より強いカイラに援護して貰う方が良いだろう。それに中距離戦が得意な僕のM14EBRは交戦距離が近いここ市街地では余り活躍出来そうに無いしな。

 

「アリーナに連絡しとく。こちらコメット(エマ)。こちらコメット。チャイカ(アリーナ)聞こえますか?」

 

短時間の通信なら流石に敵に逆探知されることは無いだろう。そう考えた僕は隊長のアリーナに通信を試みた。数秒待っても応答は無く諦めようとした時アリーナから返信があった。

 

《こちらチャイカ。どうかした?逆探される恐れがあるから端的に頼む》

 

「そちらと合流する為に移動を開始します」

 

《分かった。合流場所は当初の目的地だ。分かるな?》

 

当初の目的地と言うとここから少し進んだ所にある橋のことか。

 

「はい」

 

《もし先に着いたら呼ぶまで何処かに隠れておけ》

 

「了解です」

 

《それじゃぁ向こうで会おう》

 

そう言ってアリーナは通信を切った。通信を終えた僕はポケットから折り畳んだ地図を取り出して床に広げた。

 

「・・・・・あー誰かここが何処か分かる人いる?」

 

敵から逃げるのに必死過ぎて現在地を見失っていた。まぁそんなに長距離を移動した訳では無いからアリーナ達と逸れた所からそんなに離れていないと思うけど。

 

「取り敢えず北に迎えば川には出るんだしひたすら北に進むしかないんじゃない?」

 

「そうだね」

 

ミアの言う通り取り敢えず北に向かうとするか。僕は自分のリュックから使える物を出しすとカイラとミアのリュックに入れて行く。ミアをおんぶするにはリュックが邪魔になるからここに僕のリュックは置いて行くことにする。

 

カイラはホルスターからCZ75を取り出すと一度マガジンを抜いて弾を確認してからまたマガジンを入れてコックアンドロック式の安全装置を解除した。カイラの最後まで諦めないと言う決意が伝わってくる。僕も気を引き締めないと。

 

「良い拳銃使ってるね」

 

「そうでしょ?使い易いし精度も良いから気に入ってるの」

 

なんだかんだで拾ったP320を今までずっと使い続けているけど僕も自分に合った拳銃を選び直した方が良いんだろうか?でもこのP320も普通に良い銃だし色々助けられてるし変えなくてもいっか。

 

「よし、それじゃぁ行こうか!」

 

カイラがK2を持って元気よく立ち上がる。僕もミアをおんぶしてからM14EBRを持ち立ち上がった。

 

「背中は任せるよ」

 

「任せろ!」

 

冗談半分で言うとミアはCBJ-MSを持って自信満々にそう言った。カイラをポイントマン(先頭)にして周りを警戒しながら隠れていた建物から出るとなるべく目立たない所を選んで進んで行く。

 

K2を構えて前方を警戒しながら進むカイラの姿は普段の可愛らしい感じとは違いとても頼りになる。でも一応僕が先輩なのに後輩に頼っちゃってるこの状況はどうなんだろうか?本当だったら僕が頼られなきゃいけないのに。

 

「っ!」

 

カイラが僕に静止するようにハンドサインで伝えて来た。更にカイラはハンドサインで建物を隔てた向こう側に敵の部隊が居ると言って来た。今僕達は路地に居る。そしてどうやら敵は向こう側の道路を通って行っている様だ。カイラと一緒に建物も建物の間の隙間から様子を伺ってみると多数の鉄血の人形と共にあのManticoreがのっしのっしと移動していた。今の僕達だけでアレを相手に戦っても勝てる可能性はゼロってことは目に見えているから僕達は息を潜めてManticoreが通り過ぎて行くのを待つ。

 

とんでもない緊張感の中、神に祈り見つからない様に祈りっていると突然Manticoreの足音が止まった。おいおい何で止まるんだよもしかしてバレたのか⁉︎永遠にも思える静寂が続いたが、またManticoreが動き始めた。僕達は胸を撫で下ろした。

 

ドゴガァァアァァァンッ‼︎

 

突然僕達が身を隠していた建物の壁がーいや、建物がとてつもない轟音と共に吹き飛んだ。僕と僕におんぶされていたミアは崩れた建物の瓦礫の下敷きになってしまった。

 

でも大きい瓦礫の下敷きにならなかったお陰で僕は運良く瓦礫の下敷きにならなかったカイラに助けてもらい直ぐに抜け出すことが出来た。

 

「危ない!」

 

僕が瓦礫の中からミアを引っ張り出そうとしているとカイラが叫んで発砲。カイラが撃っている方を見てみると崩れた建物の瓦礫を乗り越えて鉄血の人形達が迫っていた。僕は大急ぎで瓦礫をどかしてミアを引っ張り出しその場から急いで離れるとミアを物陰に隠しからM14EBRを構えて敵を照準線に捉えると撃った。カイラは迫り来る敵を撃ち倒しながら僕達の所へ後退して来た。

 

ミアも物陰に隠れつつCBJ-MSを構えて敵を迎え撃つ。3人で反撃するが10体を超える鉄血の人形の集中砲火によりこっちが撃ち返す隙が無い。物陰に隠れて銃撃を凌ぐので精一杯だ。

 

「血が出てるけど大丈夫?」

 

カイラに言われてやっと気がついたが頭に瓦礫が当たったせい頭から血が出ていた。でもそんなに痛みは無いから大丈夫だろう。

 

「私は大丈夫。ミアは?」

 

「それよりもこの状況どうすんのさ⁉︎」

 

「隠れつつ撃ち返すしかないでしょ!」

 

と言ってカイラは物陰から上半身を出すとK2を構えて撃ち直ぐに隠れた。

 

「あっちいけー‼︎」

 

ミアは銃だけを物陰から出すと敵のいる方向に向かって乱射した。僕はM14EBRを構えて撃とうとしたが敵の銃撃が激し過ぎて狙う暇が無い。

 

ドゴォォオオォォォンンッ‼︎

 

僕達の目の前の建物が吹き飛んだ。爆煙と砂煙が辺りに立ち込めて視界が悪くなる。

 

「今の内に!」

 

「ミア!行くよ!」

 

この煙で僕達の姿が隠れたのを利用して数発撃ってから崩れた建物を越えて路地から道路へと出た。さっきから建物を吹っ飛ばしていたのはManticoreが道路から路地に向かって建物越しに砲弾をぶち込んでいたからみたいだ。Manticoreの注意がまだ路地に向いている内に逃げようとしたがVespidに見つかってしまい銃撃を受けた。カイラが直ぐ様反撃してVespidを倒したがManticoreに見つかってしまった。Manticoreの砲口がゆっくりとこちらを向いた。僕達は咄嗟にその場に伏せた。

 

直後真上を風切り音を響かせながら砲弾を通過して行き目の前の地面に当たり跳弾し向こう側の建物に当たり爆発した。恐らく今撃ったのは徹甲榴弾だったんだろう。榴弾だったら爆発に巻き込まれていた可能性があったから助かった。しかしRipperやVespidがこちらに迫って来ていたので僕達は咄嗟に銃を構えて迎え撃つ。僕達を撃とうとしていた数体の鉄血の人形達を倒すことは出来たがその隙にManticoreが僕達に狙いを定めていた。

 

多分弾は榴弾を装填している筈だから砲弾は地面に着弾した瞬間爆発し僕達は粉々になってしまうだろう。どう足掻いても倒せない絶対的な相手を前に僕が出来る最後の抵抗は、無駄と分かっていながらもManticoreに向かって撃つことだけだ。セミオートでManticoreの胴体に7.62×51mmNATO弾をこれでもかと食らわせる。甲高い音と共に弾は弾かれてしまうがそんなことお構い無しに撃ちまくった。

 

7.62ミリを食らってもピンピンしているManticoreは狙いの微調整を終えると僕達に向かって砲弾を発射した。僕は反射的に目を瞑りその瞬間に備えた。

 

腹に響く発砲音と同時に風切り音が通り過ぎ後ろで強烈な爆発音が鳴り、そして何かが崩れる音が聞こえて来た。何が起きたのか分からず目を開けると何故か姿勢を崩したManticoreが目の前にいた。

 

「・・・え?」

 

マジで何が起きたんだ?Manticoreの左後ろ足がまるで挫いた様に可動域を超えて折れ曲がっている。そのせいで姿勢を崩し砲弾が明後日の方向に飛んで行ってしまったんだろう。でもなんで足を挫いたんだ?

 

▶︎戦術人形Mannlicher M95/30からの通信を受信

 

突然人形用無線で知らない戦術人形から通信が来た。マンリヒャー?M95/30?全く聞き覚えの無い名前だ。何者だ?

 

《援護する。そちらは逃げろ》

 

声も聞いたことの無い声だ。本当に何者なんだ?でも敵じゃない様だしお言葉に甘えてこっちは逃げさせてもらうぜ!

 

「行くよ!」 

 

「ちょ、誰か分かんない奴を信じるの⁉︎」

 

「敵の敵は味方って言うじゃん」

 

カイラも僕の考えと同じ様でそう言うと敵に背を向けて全速力で走って逃げる。僕もカイラと一緒に全速力で逃げる。僕におんぶされているミアは後ろの敵に向かってCBJ-MSを撃ちまくる。Manticoreは残った3本の足で何とか体勢を立て直しまた僕達では無く違う方向に砲を向けたがManticoreの右後ろ足の関節部分がガンッ!と言う音がした瞬間突然スパークしたかと思うと右後ろ足の関節部分がガクンと可動域を超えて折れ曲がり再びManticoreは体勢を崩した。

 

続いてManticoreの前に付いている防弾ガラスで守られたメインカメラが破裂した。後ろ足を2本とメインカメラが壊れた状態ではいくらManticoreと言えどもこれでは戦うことは不可能だろう。

 

Vespid2体が僕に銃口を向けて来た。僕は振り返って撃とうとしたが僕が撃つよりも早くVespidの腹部に穴が空き、2体目のVespidが驚いている隙に腹部に同じ様な穴が空いて2体とも倒れた。

 

「スナイパー?」

 

Manticoreの足とメインカメラが壊れたのも今目の前でVespidが突然撃たれたのもスナイパーとしか思いない。でもスナイパーだったとしてもManticoreを倒してしまうなんて何者なんだ?

 

そんなことを考えていると崩れた建物から残りの鉄血の人形達が出て来た。ヤベ、さっきの奴らか!M14EBRを構えて撃とうとしたが突然鉄血の人形達は左右から銃撃を受けた。

 

銃撃を加えている奴を探すと車の陰に隠れつつアサルトライフルやサブマシンガンを撃っている少女の姿を確認した。彼女らが戦術人形だって言うのは直ぐに分かったが一体何処の所属の奴らだ?クレセント社の部隊か?

 

でも今は考えている暇は無い。僕は近くの建物瓦礫に隠れるとミアを降ろして自分も身を隠した。

 

「あいつら誰?」

 

「こっちが知りたいよ。でも敵じゃぁ無いみたいだし今は協力して鉄血の奴らを倒すのが良いと思う」

 

さっきカイラも言っていた敵の敵は味方ってやつだ。カイラの方を見てみると僕達から少し離れた所から鉄血の人形達に向かって撃っていた。僕もM14EBRを構えて狙撃して行く。謎のスナイパーの狙撃も加わり敵は予想外の攻撃に混乱している様だ。

 

スコーピオンサブマシンガンを2丁持ちしたツインテールの娘が敵が固まっている所に手榴弾を投げつけた。どうやら焼夷手榴弾だった様で全身に火を纏った敵はもがき苦しみながら焼け死んで行く。

 

「うわぁ・・・」

 

敵とは言えあの死に方には同情する。まだ普通に撃たれて死んだ方がマシだと思う。M14EBRが弾切れになったので空になったマガジンを抜いて新しいマガジンをマガジンポーチから出してM14EBRに入れた。これで予備マガジンは残り3つだ。大切に撃たないとだな。そして僕がリロードを終えた頃には戦闘も終了していた。

 

助かったことに安堵するがまだ問題は残っている。僕達を助けてくれたあの人達は何者なんだ?

 

「えっと・・・助けて下さりありがとうございます。貴方達は何処の所属の戦術人形ですか?」

 

警戒しつつ僕はアサルトライフルのガリルを持った少女に近づいて尋ねた。

 

「うちの名前はガリル。うちらはグリフィンのAH4地区基地に所属しとる戦術人形や」

 

何かこのガリルって人喋り方に独特な訛りがあるな。って言うかグリフィンの戦術人形か。成る程ね。

 

「私は民間軍事会社ライアン&モリス社のスパイトフル部隊に所属する戦術人形M14EBR-RIです。エマと呼んでください」

 

「私はC-MSのミア」

 

「私はK2だよ。助けてくれて本当にありがとう。貴方達のお陰で助かったわ!カイラって呼んでね」

 

僕に続き2人も挨拶をする。

 

「そんで、あんたらはこんな所で何をしてたん?」

 

これって普通に話しちゃって良いんだろうか?まぁ別に機密作戦って訳じゃ無いし話して良いか。

 

「特別訓練を称してここから目的地に向かう訓練をしていたんですけど、さっきのManticoreに襲われて仲間と逸れたんです」

 

「そら大変やったなぁ。そこのちっこいのは足大丈夫か?」

 

「誰がちっこいのだ!」

 

ガリルにちっこいのと呼ばれて怒るミア。それを見たガリル「あははごめんて」と笑いながら謝った。そうだ、彼女達だったら治療キットとかを持っている筈だからミアの足を傷をちゃんと治療出来るんじゃないか?

 

「すいません、医療キットとか持ってたら少し分けて貰えませんか?」

 

「ええよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ここにずっと居たらまた新手に見つかってしまうから取り敢えずどっか建物に入ろうか」

 

「ですね」

 

と言うことで僕達は近くの建物に入った。ガリルはミアを椅子に座らせると足に巻き付けていたタオルを外して傷の具合を見る。ガリルがミアを治療してくれている間、僕は隣の部屋で他の戦術人形達と自己紹介をしていた。

 

「Vz61スコーピオンだよ。よろしく!」

 

「私はM1911です。こんな所で他のPMCの戦術人形と出会える何て運命的な出会いですね!」

 

「ステンMK-IIです!よろしくお願いします!」

 

「P38です!これは運命の出会いですよ!」

 

個性豊かな部隊だなーと一瞬思ったがこっちの部隊も充分個性豊かだったわ。

 

「すまん。遅くなった」

 

「皆さん大丈夫でしたか?」

 

部屋に新たに2人入って来た。1人は目の色が左右で違うオッドアイの女性で古めかしい木製のボルトアクションライフルを持っている。もしかして彼女がManticoreを倒したスナイパーか?もう1人は僕と同じように髪が上から下に向かって先の方が赤色にグラデーションがかかっている赤目の少女。

 

「あ、貴方達も無事でしたか!良かったぁ。あ、私はG17です。よろしくお願いします」

 

と少女が僕達に挨拶して来てくれた。G17って言うのか。可愛い娘だな。

 

「さっきは凄かったよ!マンティコアを1人でやっつけちゃうなんて!」

 

スコーピオンがオッドアイの女性に駆け寄ると興奮気味に凄い!凄い!と称賛する。

 

「撃破するのは確かに難しいが無力化するだけなら色々とやりようがあるからな。まぁあそこまで上手く行くとは思わなかったが」

 

いや、1人で無力化するだけでも充分凄いぞ?取り敢えず話しかけてみるか。

 

「さっき話しかけて来たマンリヒャーさんですか?」

 

「そうだ。キミは・・・M14か?」

 

マンリヒャーさんがイメージしているのは僕にそっくりな戦術人形のM14だろう。まぁそっくりって言うか使っている銃が違うだけで見た目は全く同じだからそう思われるのは当たり前か。

 

「いえ、私はM14EBR-RIと言います。エマと呼んでください。先程は助けて下さりありがとうございます」

 

そう言ってマンリヒャーさんに軽くお辞儀をした。

 

「ふむ、M14EBRのエマか。よろしく頼む」

 

「え⁉︎M14じゃないの⁉︎ずっとM14だと思ってた」

 

僕がM14ではないと知り心底驚いた様子のスコーピオン。この娘は感情が表情にそのまま出るから分かりやすい。

 

「M14と何が違うの?」

 

「M14を近代化改修したのが私ですね。と言っても試作型なのでボディーがM14と同じなんです」

 

「へぇ〜試作ってことはマンリヒャーと同じだ!」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「うむ。余は戦闘における指揮官の負担軽減のために開発された指揮人形よ」

 

そりゃ凄い。つまり人間が居なくても彼女だけで戦術人形の部隊を動かすことが出来るんだからな。戦術人形は戦術的な指揮は出来る。僕達の部隊の隊長であるアリーナがそうである様に。しかし基本的に戦術人形は人間の指示を仰がないと作戦行動を遂行することは出来ない。彼女マンリヒャーは人間の指示を受けずとも自分で考えて指揮して他の戦術人形達を動かす。ある意味彼女は怖い存在だ。鉄血の様に人間を裏切ることも出来るなもしれないから。

 

「私はK2です。カイラって呼んでね!」

 

「うむ。よろしく」

 

「それと向こうの部屋で仲間のC-MSが治療を受けてます。足を負傷したので」

 

「分かった。ガリルから話は聞いてる。任務のついでだ、お前達が仲間と合流出来るまで援護しよう」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

 

この凄腕スナイパーとその仲間達が援護してくれるのはとても心強い。

 

「指揮官にはこのこと報告したんですか?」

 

「あぁ。許可も貰っている」

 

マンリヒャーとG17の会話内容からすると上官からも僕達を助けて良いと許可を得た様だ。これで百人力だ。

 

「それで、今仲間が何処に居るか分かってるか?」

 

「敵に傍受される可能性を考慮して現在無線封鎖中なので分からないです」

 

僕はポケットから地図を取り出してマンリヒャーさんの目の前で広げると黒のマーカーペンで丸してある合流地点の所を指差した。

 

「でも、ここの橋で合流することになっています」

 

「ふむ。それほど離れてはいないな。この道を通って行けば15分もかからずにいけるだろう。だが先程の戦闘で我々の居場所はバレただろうから敵が待ち構えているだろう」

 

「邪魔するヤツは私が突撃して全部倒してやる!」

 

両手にサブマシンガンを持って自信満々に言うスコーピオン。結構好戦的だな。

 

「まぁ待て。いちいち邪魔して来た奴を相手にいていたらキリが無い。それに我々の火力はお世辞にも高いとは言えん。真正面から戦ったら我々が負けてしまう可能性が高い。少し遠回りになるがここの路地を通りここにある下水道を通っていく。この下水道は古い物だからそのまま橋のある川に繋がっている」

 

マンリヒャーさんはホログラムの地図を出して説明してくれた。流石グリフィン。高そうな最新鋭機器を使ってるな。地図を使っている僕達とは大違いだ。でもマンリヒャーさんの提案に全員嫌な顔をした。下水道と言うとエイレーネーの根拠地に侵入した時を思い出すな。あの時も地上に居る敵を避ける為に下水道を通って行った。とても臭かった思い出がある。

 

「えぇ〜濡れるのは嫌だなぁ」

 

「私も服に臭いが付いてしまうのはちょっと・・・」

 

スコーピオンとステンは服が濡れてしまうのが嫌な様だ。ステンの服なんてお洒落な服だし余り汚したくないのだろう。

 

「なら大量に居る鉄血の人形と戦うか?」

 

「う〜ん。靴の中がじゅくじゅくになるの嫌なんだよなぁ」

 

「我慢しろ。ステンもだ」

 

「う〜・・・分かりました」

 

「安心しろ。とっくの昔に使われなくなった下水道だ。臭いはそれほどキツく無いだろう」

 

長年放置された下水道もかなりヤバそうだけどなぁと思ったが言わない方が良いだろう。

 

「治療終わったで〜。お、声がすると思ったらマンリヒャー達も帰って来とったんか」

 

丁度ミアの治療が終わった様で足に包帯が巻かれたミアとガリルが隣の部屋から出て来た。

 

「傷は大丈夫?」

 

「消毒液が死ぬほど染みた」

 

マンリヒャーはガリルとミアに今後の予定を説明したがミアもステンと同じ様に下水道に行くと聞くと嫌がっていた。

 

「直ぐに移動するぞ。確実準備せよ」

 

「「「了解」」」

 

「そうだ、ガリルさん。5.56ミリを少し分けてくれませんか?」

 

「マガジンが違うからバラで渡すことになるけどええかな?」

 

「はい。大丈夫です」

 

「それならほら、1マガジン分やる」

 

「わぁ!ありがとう!」

 

そうか、ガリルとK2は使ってるマガジンは違うけど使用弾薬はどっちも5.56×45mmNATO弾だから共有出来るのか。良いなぁ。誰か7.62×51mmNATO弾を違っている人居ないのかな?と思ったがM1911、グロック、ステン、スコーピオンはどれも拳銃弾を使用する銃だからダメだ。それならマンリヒャーさんはどうだ?

 

「マンリヒャーさんの使ってる弾って7.62×51ですか?」

 

「いや、8×56だ」

 

「8×56?」

 

8×56ミリ弾なんて弾聞いたこと無いな。まぁ僕は主な銃弾しか知らないし知らない弾が出て来ても不思議では無い。だが知らないし弾丸となると軍オタとして調べない訳にはいかない。

 

「その弾見せてもらっても良いですか?」

 

「いいぞ」

 

マンリヒャーさんは黄金色に輝く弾丸を渡してくれた。弾を見て直ぐに気がついたのはリムがリムドになっているということ。リムと言うのは薬莢の底部の張り出し部分のこと。この弾のリムは薬莢よりも大きい。リムにも色々あるんだがこれはリムドと呼ばれる種類のリムだ。この形式は1番古いタイプで最近の弾では殆ど見なくなった。リムド形式の有名な弾丸は357マグナム弾や44マグナム弾。303ブリティッシュ弾や7.62×54R弾などがある。どの弾薬も今だに使われている弾丸だがどれも古い設計の弾薬だ。7.62×54mmR弾は1891年に設計され303ブリティッシュ弾の初期型は1888年に開発されている。比較的新しい357マグナム弾でも1934年の設計だ。

 

色々と言ったがつまりこの弾は結構古い設計の弾だってことだ。と言うことはこの弾を使用するライフルも結構古いヤツなんじゃないか?

 

「マンリヒャーさんの銃って何年に設計された物ですか?」

 

「1895年だ。まぁこの銃は1930年に開発された改良型なんだがな」

 

「1895⁉︎」

 

今から160年以上前に設計されたライフルなのかよ⁉︎そりゃ僕も知らないよ。

 

「銃も見せてもらっても良いですか?」

 

「良いぞ。エマは銃に興味があるのか?」

 

「銃って言うか軍関係に興味がありますね」

 

「成る程」

 

知らない武器を調べるのはワクワクするし、160年以上前に設計されたライフルとか凄く興味が引かれる。

 

「あ、軽い」

 

マンリヒャーさんから手渡されたMannlicher M95/30を持ってみると想像していたよりも軽かった。僕が使っている5キロ近くあるM14EBRの方が確実に重い。

 

「これもしかしストレートプルボルト⁉︎」

 

Mannlicher M95/30のボルト部分を見てびっくり。驚いたことに回転式ボルトアクション方式では無くてストレートプルボルトアクション方式なのだ。実物は初めて見た。ストレートプルボルトアクション方式と言うのはボルトを前後に動かすだけでコッキングが出来る方式だ。この方式は普通のボルトアクション式ライフルと違ってボルトを前後に動かすだけで良いから高速連射が可能だ。理論上ではセミオートライフルと同じ速度で連射できる。しかし内部構造が複雑で強度の問題もあるからとこの方式を採用している銃は殆ど無い。つまりこの銃はかなり珍しい。ストレートプルボルトだからさっき鉄血の人形2体を即座に撃つことが出来たのか。納得。

 

「いや〜ポリマーフレームや合成樹脂を使った最近の銃も良いですけどこう言う木製のライフルも良いですよねぇ。この自然な木目の美しさ!自然に形成された木目の何と綺麗なことか!そしてこの手触りの良さや強度の高さは木製ならではですよ」

 

「何か・・・キャラ崩壊してない?」

 

スコーピオンの言葉で我に帰った。やべっつい興奮しちゃって色々早口で喋ってしまった。

 

「す、すいません。珍しい銃だったのでつい」

 

「そうなの?普通のボルトアクション式のライフル銃に見えるけど」

 

「この銃のボルトはストレートプルボルトアクション方式と言ってここボルトを前後に動かすだけで次弾を装填することが出来るんです。なのでやろうと思えばセミオートマチックのライフルと同じくらいの速度で連射することも出来るんです」

 

「へぇ〜」

 

僕はお礼をマンリヒャーさんにお礼を言ってからMannlicher M95/30を返した。

 

「それならこれも好物じゃないかね?」

 

と言ってマンリヒャーさんは胸元のホルスターから拳銃を出して僕に差し出して来た。それを受け取り見てる。これも僕の知らない拳銃だが見た目からして古そうな拳銃だった。古そうと言うのは錆び付いているとかそう言う訳では無く型が古い。

 

「あれ?マガジンが無い?」

 

「え⁉︎マガジンが無いの?」

 

マガジンを抜いて弾を見てみようとしたがマガジンリリースボタンどころかマガジン自体が無かった。M1911もそれを見て驚いている様子。マガジンがある筈のグリップの下部分ニにはマガジンが存在していない。じゃぁどっから弾を入れているんだと言う話になるが思い当たる伸ばして1つしか無い。

 

「もしかしてこの拳銃、グリップ装填式ですか?」

 

「そうだ。この拳銃、Steyr M1912はグリップ装填方式のオートマチック拳銃だ」

 

ステアーM1912と言う名前から分かったがこの拳銃は1912年に正式採用された様だ。メインウェポンも古ければサブウェポンもかなり古いな。弾が飛び出ない程度にスライドを引いて装填されている弾を確認してみると9パラだった。そう言えば元々9×19パラペラム弾はドイツが1900年代に作った弾なんだっけな。にしてもこの拳銃、M1911と正式採用された年数は1年しか変わらないのか。いかにM1911が画期的な拳銃だったのかが分かるな。いや、別にM1912が古臭いと言っている訳では無い。この拳銃も充分凄い拳銃だ。M1911とこんなオーバースペックな拳銃を作ったブローニングおじさんがおかしいだけだ。M1912を返してからマンリヒャーさんと銃のことについて色々話していると突然通信が来た。

 

コメット(エレナ)から全隊員に連絡。南南西に一個小隊規模の敵部隊を確認。地図座標4845ー2517。現在北上中。注意せよ》

 

僕は専用の定規を取り出すと広げたままにしていた地図の上に置いてエレナから来た座標を急いで確認する。っておいおい⁉︎ここから700メートルも無いじゃんかよ!

 

「どうした?」

 

マンリヒャーさん達が突然地図に飛びついた僕を見ていた。僕は敵のいる場所を指差して説明した。

 

「今ドローンで上空を監視していた味方からここに一個小隊規模の敵部隊を確認したと言う報告が来ました」

 

僕の言葉を聞いて全員の一気に緊張感が高まったのを感じた。

 

「ど、どうするんですか⁉︎」

 

「そりゃ迎え撃つしか無いでしょ!」

 

「でも私達だけで勝てるんですか⁉︎」

 

M1911、スコーピオン、ステンがどうやって迎え撃つかについてあーでもないこーでもないと言い合い始めた。

 

「流石に私達だけで一個小隊を相手にするのはキツくない?」

 

「キツイ」

 

一個小隊規模と言うことは敵が最大で50人居ると言うことだ。カイラの言う通り流石に僕達だけでこの数を相手に戦って勝のは難しい。

 

「ガリル。皆を連れて予定通り下水道に向かえ」

 

口に手を当てて考えていたマンリヒャーさんは顔を上げるとそう言った。

 

「ラジャー!ほら、皆んな行くよ!」

 

「え、迎え撃たないの?」

 

「我々だけで勝てる数では無い。三十六計逃げるに如かずよ」

 

マンリヒャーさんはMannlicher M95/30を手に持って裏口に向かっていた。ん?何処に行くつもりなんだ?

 

「何処に行くんですか?」

 

「このまま逃げても見つかって追いつかれてしまう。余が足止めする」

 

「「「え⁉︎」」」

 

マンリヒャーさん以外全員が驚いた。足止めするったって足止め出来てもマンリヒャーさんはどうやって逃げるつもりなんだ?

 

「マンリヒャーさんはどうやって逃げるつもりなんですか?」

 

僕が思っていたことと同じことをG17がマンリヒャーさんに聞いた。

 

「煙幕を焚いて上手く逃げ遂せるさ」

 

「なら私もご一緒します!」

 

「私もー!」

 

ホルスターからグロック17を引き抜いたG17が真剣な表情だそう言った。それに続きスコーピオンも手を上げた。そう言うことなら僕もマンリヒャーさんを手伝った方が良いんじゃないか?僕のM14EBRは元々はバトルライフルだ。マンリヒャーさんのボルトアクション式ライフルと違ってフルオートで撃つことが出来るから近距離戦だってどうにかなる!

 

「私も一緒に戦います!」

 

「え⁉︎」

 

手を上げてそう言った僕をカイラが驚いた。

 

「バカ言え。君達を逃す為の作戦なのにその本人が余と一緒に残ってどうする。さっさと行け」

 

・・・確かにその通りだ。マンリヒャーさんは僕達を逃す為に敵を足止めしようとしているのに僕が逃げなかったら意味が無い。

 

「すいません。考えが足りていませんでした」

 

「まぁその気持ちは受け取っておく。それで、2人は本当に一緒に残る気か?」

 

「マンリヒャーさんには助けてくれた恩もありますしね。それに私、スポッターとしてもかなり役立ちますよ?」

 

「スポッターは出来ないけどもし敵に近付かれた時は私が倒すよ!」

 

「分かった。好きにせよ」

 

「ありがとうございます!エマさん。カイラさん。ミアさん。無事仲間と合流出来ることを願っています!」

 

そう可愛らしい笑顔で言ってくるG17。おいおい、何かその言い方だともう会えないみたいじゃないか。

 

「ありがとう。そっちも気をつけて。合流地点でまた会おうね」

 

G17とスコーピオンは「また後で!」と言ってから2人はマンリヒャーさんと一緒に裏口から出て行った。

 

「さて、鉄血の奴らが来る前にトンズラするよ!」

 

ガリルを先頭に僕達も正面玄関から出て建物を後にした。

 


 

建物を出たマンリヒャー、G17、スコーピオンの3人は走りながら良い狙撃ポジションになる場所を探していた。高い建物は幾つかあったがどれも目立つ場所にあり敵に直ぐに見つかってしまう恐れがあった。なるべく高くて目立ち難い場所をマンリヒャーは探していた。

 

「マンリヒャーさん!あそこはどうですか?」

 

G17が指差したのは5階建ての建物。周りの同じくらいの高さの建物に囲まれているお陰で目立ち難くく、1階分ほどだけこの建物が高くなっているお陰で鉄血の部隊が通ると思われる大通りを見通すことも出来そうな良い場所だった。

 

「うむ。良いな。あそこにしよう」

 

建物に入り1番上の階まで階段を駆け上がって行く。部屋に入りマンリヒャーが窓から外を見てみると大通りが見えていた。左側は建物が邪魔で見えないが絶好の狙撃ポジションだった。G17は隣の窓から単眼鏡で大通りを先を見ると大量の鉄血の人形が移動しているのを確認した。

 

「敵部隊確認。距離は・・・・468メートル。風は西に秒速0.5メートルです。」

 

「む、伏せろ。斥候だ」

 

マンリヒャー達が咄嗟に伏せると近くを数機のScoutが通り過ぎて行った。G17が地上を確認してみるとDinergateが敵が隠れていそうな場所を探索していた。

 

「多数のDinergateが下に居ます」

 

「撃っちゃう?」

 

銃を構えたスコーピオンをマンリヒャーは止めた。

 

「今撃てば全員に見つかる。息を潜めてやり過ごす」

 

3人は伏せてScoutが完全に居なくなるまで待った。Scoutの放つ独特な機動音が離れて行ったのを確認したマンリヒャーはMannlicher M95/30を構えスコープを覗き敵を狙う。風は殆ど無く敵はこっちに向かって歩いており既に有効射程距離内に捉えている。これ以上無いくらい好条件だった。戦闘を歩くRipperの胴体に狙いを定める。

 

「余の巨民に手を出すとは言語道断、地獄にて贖罪するがいい」

 

そう静かに言ったマンリヒャーはトリガーをゆっくりと引いた。8×56mmR弾が1秒も経たない内にRipperの胴体に命中。撃たれたRipperは後ろに勢い良く倒れて動かなくなった。エマの持っているM14EBRの使用する7.62×51mmNATO弾よりもエネルギー量が多い8×56mmR弾は一撃で人形を行動不能にさせることの出来る威力がある。1930年に設計された古い弾丸だが大戦期に設計された大口径のライフル弾は100年以上経過した現代でも通じる威力を持っている。

 

ボルトを素早く前後に動かして薬莢の排莢と新しい弾の装填を瞬時に行いまだ状況が理解出来ていない鉄血の人形に狙いを定め再び発砲した。ストレートプルボルトアクションの強みを活かしてまるでセミオートマチックライフルの様な早さで次々と撃つ。流石に乱射してせいで5発中2発が外れてしまったが敵は突然の遠距離からの連続攻撃に慌てふためき近くの遮蔽物に隠れて狙撃手を探し始めた。

 

その間にマンリヒャーはMannlicher M95/30にクリップで纏められた新しい弾をで上から装填した。

 

「スコーピオン、周りを警戒してScoutやDinergateが来たら撃破せよ」

 

「了解!」

 

暇を持て余していたスコーピオンに指示を出すと再びMannlicher M95/30を構えて物陰から出て来たVespidの胴体を撃ち抜いた。更にスナイパーの位置を探ろうと頭を出したRipperに狙いを定めて発砲。弾は手前の遮蔽物に当たったが敵を警戒させるには充分だった。敵の隠れている所の近くに銃弾を撃ち込んで行く。数体のVespidがスナイパーのいるであろう方向に向かって牽制射撃をし始め、更にJaegerがスナイパーライフルを構えて周りを索敵し始めた。

 

マンリヒャーはこちらの位置を気付きそうだったJaegerを撃ち抜き、続けて近くにいた別のJaegerも撃ち抜いた。更に牽制射撃をしていたVespidも1体撃ち殺した。物陰から姿を現した敵を次々と狙撃して行っていると敵部隊は姿の見えないスナイパーの存在を警戒して完全に歩みを止めた。

 

「そのまま動いてくれるなよ・・・・」

 

物陰から出なくなった敵部隊を見ながらマンリヒャーがそう呟いていると後ろを見張っていたスコーピオンが声を上げた。

 

「Scoutが来た!」

 

スコーピオンは銃を構えると飛んで来るScoutに向かってフルオートで乱射した。しかし弾がばらけてしまいなかなか弾が当たらない。数発Scoutに弾が当たるが.32ACP弾を数発食らった程度ではScoutは大したダメージを受けていない。

 

振り返ってScoutの方向にMannlicher M95/30を構えたマンリヒャーは深呼吸をして銃を安定させた。照準線にScoutを捉えた瞬間マンリヒャーをトリガーを引いた。Scoutは音速を超えて飛来する弾丸を回避することが出来ず弾丸をくらい小さなスパークを起こすとそのまま地面に落ちて行った。

 

「逃げるぞ!」

 

「「了解!」」

 

既に撃墜したScoutにより位置情報が敵に伝わっているのは確実だったのでマンリヒャー達はそそくさと部屋を出て階段を降りて建物を飛び出る。

 

「待て!」

 

戦闘を走っていたスコーピオンの襟を掴んだマンリヒャーは強引に後ろに引き戻した。その瞬間スコーピオンが立っていた場所を大量の銃弾が左から右へと通過して行った。弾の飛んで来た左側を見てみると路地からDinergateが7体現れた。背中に背負っているマシンガンをマンリヒャー達に向けて乱射して来るがマンリヒャー達は建物の壁に隠れたので食らうことは無かった。

 

「無駄無駄ぁ!」

 

と叫びながらスコーピオンがDinergate達に向かって火炎瓶を投げつけた。固まって動いていたDinergate達はその火炎瓶をまともに食らってしまう。更に火達磨になったDinergateにスコーピオンとG17が集中砲火を食らわせて一気に4体倒す。G17も長方向に逃走を図ったDinergateに9ミリパラペラム弾を叩き込んで倒し、残りの2体はスコーピオンとG17の集中砲火で蜂の巣となった。また新たな増援が来ない内にマンリヒャー達は合流地点向かって走った。

 


 

結果から言うとマンリヒャーさんの予想通り下水道に敵は1人も居なかった。まぁ代わりに鼻がおかしくなるんじゃないかと思うくらいの激臭が僕達を襲っているけどね。

 

「う〜帰ったら指揮官に新しい服と靴用意して貰わないと」

 

汚れてしまった靴や下水道の臭いがこびり付いてしまった服の臭いを嗅いだステンがそう言った。大丈夫だよステン。前に下水道に入った時は洗ったら臭いは結構取れたから。でも洗うのも結構苦労しそうだ。僕の着ているセーラー服を見てみると走ったりしたせいで泥とよく分からないネバついた汚れが跳ねて服にも付いてしまっている。

 

「エマちゃんは服が汚れるのは気にならないんですか?」

 

ステンが僕に聞いて来た。でも僕は男だからステンみたいに可愛い服に興味があったりオシャレに気を使っている訳でも無いので別にどんだけ服が汚れてもそんなに気にしない。また洗えば良いかと思う程度だ。

 

「あまり気にならない・・かな?」

 

「え〜可愛い服着てるんだしもっと大切にした方が良いと思いますよ?」

 

「あ、それ私も思ってた。もっとエマはオシャレした方が良いって!」

 

ステンに続きカイラも僕にもっとオシャレをしろと言って来た。僕がこの体になってかなりの時間が経ったが今だに可愛いとか言われるのは慣れない。と言うか女の子扱いされるのにまだ慣れてない。それに僕はさっきも言った通りオシャレには興味が無い。

 

「そ、そう・・・かな?」

 

「そうですよ!」

 

「そうだよ!」

 

2人の勢いに圧倒されてしまう僕。昔から思っていたがオシャレやファッションに対する女の子の情熱は凄いよな。僕を置いて2人で話は進み僕にはどんな服が似合うかなどと言う話になって来た。おいカイラ、メイド服とかやめてくれ。ステンもフリフリのスカートとか僕は着ないぞ!ヤバイな。この感じだと任務が終わった後にカイラとステン着せ替え人形にされそうだ。

 

「そう言えば、何でステンは臭い銃なんて呼ばれてたんや?」

 

「クサい銃なんて呼ばないでください!」

 

先頭を歩いていたガリルが聞くとそれを聞いたステンは怒った。あー成る程分かったぞ。彼女、初期型のステンがそう呼ばれていたのを気にしているのか。

 

「いや、呼んだ訳じゃ無くて気になったから聞いただけや」

 

「どうして今更聞くんですか。もしかしてここが臭いからですか⁉︎」

 

「あーいや〜まぁ・・・・そうやな。臭いなぁと考えていたらそう言えばどうしてステンは臭い銃なんて呼ばれてるんやろうな?と思ってな。そんなに怒るとは思わんかった。ほんまごめん」

 

「でも本当何で臭い銃なんて呼ばれてたの?」

 

1番後ろを歩いていたM1911も気になっていたようでステンに聞いた。

 

「初期型のステンはジャムや給弾不良、動作不良などの不具合を色々と抱えててそれに不満を持った兵士たちは私の名前、Sten gunをもじってStench gun(臭い下水パイプ製銃)と呼んだんです」

 

「成る程なぁ」

 

「でもステンは普通に撃ててるよね?」

 

「初期のステンMk-IIは生産性を優先するあまり工業機械に不慣れな人達が作っていたので不具合が多かったんですよ」

 

ステン本人に代わって僕が説明するとステンが驚いた様子で「よく知ってますね」と言って来た。

 

「さっきも言った通り私は銃や兵器に興味があるので」

 

「それじゃぁ私の使ってる弾分かる?」

 

僕が傷口に汚れが入ってはいけないからとおんぶしていたミアがC-MSを掲げて聞いて来た。その弾は結構特徴的なやつだから知ってるぞ。

 

「6.5×25mmCBJ弾。確か弾芯がタングステン製じゃなかったけ?」

 

「正解。やっぱり私の部下にならない?」

 

「いや、どうして部下になるって言う話になるのさ」

 

「それはどんな弾なんや?」

 

「とても貫通力の高い弾なんですよ」

 

「へぇ〜」

 

そんな感じで皆んなと話しながら下水道を移動しているとどうやら目的地に到着したらしく前から光が見えた。その光の方へ行く下水道をでて川の目の前に来た。想像していたより川の幅を広く、そして川は深そうに見える。

 

「本当に川につながってたんだ・・・」

 

つまりこの下水道の汚れはこの川に直行するって訳だよな?川の生態系大丈夫なのか?

 

「あーやっと臭くない空気が吸える」

 

大きく深呼吸をしたミアボヤく。ステンはミア一度靴を脱ぐと靴を川に入れて洗っている。僕も服を叩いて汚れをある程度落しておいた。皆んなが一息付いていると突然上から爆発音がして続けて銃撃音が聞こえて来た!

 

「何や⁉︎」

 

「アリーナ達じゃないの⁉︎」

 

「こちらコメット(エマ)!合流地点に到着。そちらは今どこに?」

 

《こちらチャイカ(アリーナ)!銃撃音が聞こえていると思うが現在合流地点付近で敵と交戦中!悪いが手数が欲しい。急いで来てくれ!》

 

「分かりました!」

 

「どうだった?」

 

「アリーナさん達が敵部隊と交戦中で手数が欲しいから直ぐに来てくれと」

 

「なら直ぐに行くで!」 

 

ほぼ90度の斜面を壊れかけた梯子を使って上に登り激しい銃撃音がする方へ向かうと建物の壁や車に隠れながら道路の向こう側にいる鉄血の人形と交戦するアリーナ達の姿が見えた。M14EBRを構えアリーナ達へ撃ちまくっていたVespidの胴体に3発食らわせた。敵が倒れたのを確認するとアリーナ達の方へ駆け寄った。

 

「アリーナさん!」

 

「よぉ元気そうで何よr・・何かお前臭くね?」

 

「あー下水道を通って来たので」

 

「成る程ね。って、何か知らない奴らまで引き連れて来たな。お前らグリフィンか?」

 

アリーナは僕の後に続いてやって来たガリル達を見て言った。

 

「せや。AH4地区基地に所属しとるガリルや」

 

「ガリルってことは私の遠い親戚だな。よろしく」

 

「よろしゅうな。姉さん」

 

そっか、ガリルって元々AK-47を元に作ったアサルトライフルだもんな。

 

「皆さん!無事で本当に良かった!大丈夫でしたか?」

 

ニーナが僕達の方に駆け寄って来た。相当心配していた様で僕達の姿を見て凄くホッとした様子だ。心配かけてしまったな。

 

「心配かけてごめんね?ミアが足を怪我しているけど大丈夫だよ。そっちは大丈夫だった?」

 

「はい、私は大丈夫です。ミアは大丈夫?」

 

僕の背中から降りたミアの包帯が巻かれた右足を見て心配する。

 

「走るのはキツイけどまぁ大丈夫」

 

「悪いけど話は後にして貰って良いかな?」

 

アリーナに言われて僕達は話を辞めて戦闘に参加する。

 

「うーん・・・この距離は少しキツイですね・・・」

 

サブマシンガン使いであるステンが遠くに居る敵に向かって撃ちながら言う。目測80メートルって感じかな?確かにこの距離はサブマシンガンには厳しいよな。それにステンは弾の集団性が悪くこの距離での戦闘は困難を極めている様だ。拳銃のM1911とP38も同じ様に苦戦している様子だ。

 

「私もちょっとキツイなぁ」

 

ミアも敵に向かって撃ちながらボヤいた。ミアの使うCBJ-MSはPDWとして設計された銃だからスコーピオンよりも有効射程距離は長く150メートルもある。しかし今彼女はアイアンサイトで狙っている状態なので当てるのは難しいだろう。

 

「弾が届くだけ良いじゃん。私に至っては当たっても殆どダメージを入れることが出来ないよ」

 

とヘレンが笑いながら言う。まぁショットガンにこの距離は無理だよな。しかも今ヘレンが使っているのはバックショット弾だし。

 

「スラグ弾はもう無いんですか?」

 

「さっき使い切っちゃったんだよね〜。本当、もっと沢山持って来ておくべきだったよ」

 

近距離戦を得意とする人達はなかなか苦戦している様子だがアサルトライフルであるガリルとカイラとアリーナ、そしてバトルライフルの僕はセミオートで敵を撃ち倒して行く。敵の数は決して多くは無いんだが遮蔽物を上手く利用しながら撃ってくるので倒し難い。まるでモグラ叩きをしている気分だ。それに残りの弾数が少ないから無駄弾を出せないし・・・くそっ。

 

更に面倒なことにGuardが姿を現した。アイツの盾は僕のM14EBRが使用する7.62ミリ弾でも貫くことが出来ない。アリーナやガリルが撃つがやはり弾は弾かれている。

 

「バラライカ!出番だ!」

 

「Да。エマ、ちょっとそこをどいてくれ」

 

「え?あ、はい」

 

「最後の徹甲弾だ。食らえッ!」

 

バラライカに言われて僕は場所をどかすとバラライカはkord重機関銃を地面に置いてGuardに向かって撃ちまくった。12.7×108mmの徹甲弾は装甲車の装甲をも貫くことが出来る程の貫徹力を有している。流石のGuardの盾もこれを防ぎ切ることは出来なかった様で次々と倒れて行く。ついでに車に隠れていた敵も車体を貫通した12.7ミリ弾を食いぐちゃぐちゃになって行き、その他の逃げ遅れた敵も次々と撃ち殺されて行く。kord重機関銃の圧倒的な弾幕で残りの敵は建物の壁に隠れた。それと同時にKord重機関銃の弾も切れた。火力はあるけど1つのベルトに50発しかないのが弱点だな。

 

敵が引いた隙にニーナ、ステン、ヘレンが一斉に敵に向かって走り出して敵との彼我の距離を縮める。それ以外人達でサブマシンガン組を攻撃しようとする敵を撃ち倒して援護する。一気に距離を縮めだサブマシンガン組は近距離でフルオートで一斉に撃ち敵に弾丸の雨を食らわせると更にヘレンとニーナとステンは手榴弾を敵に投げた。これにより敵は殆どが爆発に巻き込まれてしまった。

 

「よーし全員撤退!急げ!」

 

更なる増援が来る前に僕達は逃げた。徹底している途中敵の足止めをしていたマンリヒャーさん達と合流することが出来た。それから僕達は例の橋の近くにあった建物にお邪魔した。

 

「さて、じゃぁ簡単に自己紹介をしようか」

 

木製の箱の上に座ってタバコに火をつけたアリーナがマンリヒャーさん達の方を見て言った。マンリヒャーさん達は僕にした時と同じ様に自己紹介をして、次にアリーナ達が自己紹介を始めた。

 

「あたしはPMC、ライアン&モリス社のスパイトフルに所属するAK-47のアリーナ。あ、吸うか?」

 

アリーナはタバコの箱からタバコを一本出してマンリヒャーさんに差し出したが「タバコは吸わん」と言ってマンリヒャーさんは断った。

 

「同じくスパイトフル所属のKord6P57。バラライカと呼んでくれ」

 

「同じくスパイトフル所属の79式ことニーナです。仲間を助けてくださり本当にありがとうございます」

 

「ハロー!私はモスバーグM500のヘレン。よろしく!」

 

次にマンリヒャーさん達の視線が最後の1人のルナに向く。ルナは無表情のまま小さな声で「ルナ」とだけ言った。ルナが自己紹介をしたって言うことだけでかなり驚くことなんだけどそんなことを知らないマンリヒャーさん達が余りにも短い自己紹介に首を傾げているので僕が補足しておく。

 

「えーっと彼女はHK433でルナって言います。ちょっと無口なんですけどとても強いんですよ!」

 

「それとここには居ないがXM8のエレナとTAC-50のクレアが居る」

 

「その2人は何処に?」

 

「さっきまで敵部隊の偵察をしていて今こっちに戻って来ている所だ」

 

「成る程。先程エマに敵部隊の位置情報を伝えたのは彼女達だったのか。後で例を言わんとな」

 

「よし、自己紹介も終わった所で作戦会議だ」

 

そう言うとアリーナは皆んなの目の前に色々と印や記号が書かれた地図を広げて床に置くと近くに落ちていた少し曲がった鉄製の棒を手に取って今僕達が居る所を指した。

 

「今あたし達が居るのはここ。そして今の所ここと、ここと、ここと、ここの4箇所に敵が居るのを確認している。更に後方のからも敵の少数部隊2つがこっちに向かって来ている。まぁ完全に囲まれてしまっている状態だな。そしてここの正面の本通りを堂々を通って来ている敵部隊が1番規模が大きい。ドローンの偵察によると中隊、もしくは大隊と同等の規模の部隊みたいだ。しかもManticoreも引き連れて来ている。先の戦闘で既にあたし達の場所はバレているから10分もしない内にここに来るだろうね」

 

敵に囲まれて、しかも大隊規模の敵が来ていると聞いて僕達は驚きざわつく。ハッキリとした人数は分からないけど大隊規模となると最悪500体前後の鉄血の人形と戦うことになる。弾も人数も足りない僕達にこれを相手する力は無い。アリーナは一度タバコをふかすと説明を続けた。

 

「ウチの部隊の奴らなら本部に援護要請を呼べば良いじゃんと思うかもしれないけど残念ながら間に合わ無い。今からハインドを呼んだとしても来るのはどんだけ早くても40分後だ。ハインドが来た頃には勝敗はどうであれ戦闘は終わっている。一応支援要請はしたが期待しない方が良い」

 

「そのハインド?って言うのが来るまで逃げていれば良いんじゃないんですか?」

 

話を聞いていたステンがアリーナに言った。まぁ確かにわざわざ相手にする必要は無いよな。

 

「まぁ逃げたいのは山々なんだが、でもこの大隊規模の奴から逃げたとしても反対側から来ている2つの少数部隊とかち合うことになる。こいつらを倒すことは出来るだろうがその間に追い付かれてお終いだ。もし上手く突破出来たとしてもいつかは敵に追い付かれる。後ろに逃げようが左右に逃げても同じだ。さっきも言った通りあたし達は囲まれてしまっている。でも気を落とすのは早い。まだチャンスはある」

 

アリーナは僕達の後ろにある川にかかる大きな橋を指した。

 

「ここを当初の予定通り落とす。しかもただ橋を落とすんじゃ無い。Manticore達がこの橋を渡っている最中に爆破し川に落とすんだ」

 

既に橋を落とすのを知っていた僕達は特に驚きはしなかったがマンリヒャーさん達は橋を落とすと聞いて驚いている様子だ。

 

「橋なんてどうやって落とすつもりなんですか?」

 

「橋の中央に爆弾を仕掛けるとか?」

 

P38とスコーピオンがバラライカに聞いた。それは僕も気になるな。確かにバラライカは大量のC4を持って来てはいるけどあの大きな橋を落とす程の量は無い気がする。

 

「その方法でも崩せなくは無いだろうが2000ポンド程の爆薬が必要になるだろうな。たが橋と言うのは特定のポイントを爆破すれば落とせる。この橋はトラス橋と言う種類の橋だ。このタイプの橋だったら梁と斜めの支柱、そして床面の3箇所に仕掛ければ崩せる。もし爆薬量が足りなくてもある程度破壊出来れば後はManticore達の重みに耐え切れずに崩れる」

 

とバラライカが得意げに説明してくれた。

 

「それにこの橋を落とせば敵は大きく迂回しないとこの川を渡れなくなるし、それにここ以外の橋は小さいから全員が渡り切るまでにも時間がかかる。その隙にあたし達は森に逃げれば良い」

 

「それで、私1人ではこの橋に爆弾を仕掛けるのは時間がかかってしまうから誰か手伝ってくれないか?」

 

「やります」

 

挙手をしたのはニーナだ。そう言えばニーナは手先が器用だってネルソンが褒めていたっけ。

 

「ならウチからもM1911とP38を貸すよ」

 

「「え⁉︎」」

 

「私爆弾なんて扱ったことないですよ⁉︎」

 

「私もです!」

 

ガリルから指名され同時に驚き講義するM1911とP38。

 

「それはうちもや。やけど2人は手先が器用やん?」

 

「それにここではもし敵と戦闘になっても中距離の撃ち合いになる。言い方がキツくなるが拳銃の2人では活躍し難い。それに2人はメインフレームを治したばかりなのにまた撃たれたくは無いだろう?」

 

マンリヒャーさんに諭され2人は橋に爆弾を仕掛ける作業を手伝うことに賛成した。

 

「よし、それじゃぁ君達はこことここ。ニーナは私と一緒に反対側に同じ様にC4を仕掛ける。静電気に気をつけろ、それと無線機の電波もだ。さもないと吹っ飛ぶぞ」

 

バラライカがニーナとP38とM1911に橋の図面を見せながらC4の設置場所を説明して行く。と言うか何であの橋の図面なんか持ってるんだ?ってそうか、元々爆破予定だったから事前に入手していたのか。いやそれにしても入手経路が気になるな。

 

「残りの奴らは防衛の準備だ。橋の後ろに遮蔽物を置いて防衛陣地を作るぞ。さぁ動け!動け!」

 

皆が一斉に動き始めた。バラライカを隊長とした爆破工作班は命綱などを付けずに橋の下や上に登ってC4爆弾を仕掛けて行く。バラライカとニーナは黙々と慣れた手つきで橋にC4を仕掛けた行っているがM1911とP38は「ちょ、高くないですかこれ⁉︎」などと言って怖がりながらもC4を仕掛けている。僕は高所恐怖症では無いがあの高い所を命綱も無く作業するのは怖すぎて僕には無理だ。

 

僕達の方は弾を通し難そうな物を見つけて橋の入り口の手前に積み重ねて行く。でも弾を通し難そうな物って言うのはあまり無い。そこら辺にあった廃車を皆んなで押して移動させたが車の車体は拳銃弾さえ貫通してしまう。エンジン部分はまぁまぁ固く特にエンジンブロックは徹甲弾でない限りアサルトライフルの弾を受け止めることが出来る。車を盾として使うのは少々心許ない。

 

《マンリヒャーから爆破工作班へ。作業を急いでくれ敵部隊がもう来ているぞ》

 

敵の通るであろう通りを監視していたマンリヒャーさんから連絡が入った。咄嗟に時間を確認してみるがまだ予定の時間にはなっていなかった。これはつまりこっちの想定より早く敵が移動して来たってことだ。

 

「クッソが、バラライカ!作業急げ!」

 

アリーナが橋の下で作業していたバラライカに叫んだ。

 

「分かっている。全員慌てず急いで正確に作業を進めるんだ」

 

「無茶言わないでくださいよ!」

 

バラライカの無茶な注文にツッコミながらM1911は慣れないC4設置作業を急いで進めて行く。

 

僕達は近くの建物の中からテーブルやクローゼットなどの家具などを持って来てどんどん投げ捨てて積み上げて行く。カビだらけのソファーや木製の椅子まで持って来て積み上げる。何とか形だけの防衛陣地を作り終えたと同時に橋の向こう側の大通りから大量の鉄血の人形が姿を現した。僕達は予定通りの場所に隠れて銃を構える。

 

「まだ撃つな。もっと引き付けろ」

 

ACOGサイトに多数の鉄血の人形の姿が映る。今すぐに撃ちたい気持ちになるがグッと我慢して待機する。敵はこちらの存在に気付いているのかどうか知らないがこちらにどんどん近づいて来る。道路のど真ん中にこんな露骨な防衛陣地を作っているんだ。僕達がここに居ることは気付いているだろう。

 

「よし、撃て!」

 

アリーナが叫ぶとほぼ同時に目の前の防衛陣地ーでは無く、左右の建物の窓から大量の拳銃弾が鉄血の人形に向かって降り注いだ。スコーピオンが焼夷手榴弾をあるだけ投げ、ステンも手榴弾を3つ同時に投げる。他の人達も手榴弾を投げて次々と炸裂する手榴弾で鉄血の人形が次々と吹き飛んで行く。続けて銃撃を敵に加える。この至近距離でこの敵の多さ。目を瞑って撃っても当たりそうだ。数発撃った僕は急いでその場を離れて別の部屋に移動する。ずっと同じ所で撃っていたら敵から反撃を受けてしまうからね。

 

「止まるな動き続けろ!位置と人数を悟られるな。相手を混乱させろ!」

 

1人敵の目の前の防衛陣地に居たアリーナはマガジンをテープで3つ連結したいわゆるジャングルスタイルのマガジンをAK-47に叩き込むと正面の敵に向かってフルオートで撃った。絶え間無い連続射撃で敵部隊の前衛はバタバタと倒れて行く。マガジン3個分の90発を撃ち尽くしたところで弾切れになったのでアリーナはホルスターからMP-433グラッチを取り出すと弾切れを悟り近づいて来た敵を撃ち殺してから敵に2個手榴弾を投げ、爆発で混乱している内に近くの建物の中に撤収した。

 

「おりゃりゃー‼︎」

 

サブマシンガンを両手に2丁持ったスコーピオンは隠れていた建物から飛び出すと敵のど真ん中に飛び込んだ。

 

「ちょ!突っ込み過ぎだって!」

 

近くにいたステンが突っ込んでいったスコーピオンを回り込んで倒そうとする敵を倒して行く。スコーピオンの突撃はたまたま敵の隙を突く形となり部隊の中に入り込んで来たスコーピオンに敵は混乱する。スコーピオンを撃ち殺そうとするもステンとミアの援護射撃によって撃てず、スコーピオンもすばしっこく動き回っていることにより狙い辛くまた味方同士の距離が近いこともあり敵はスコーピオンを撃てず混乱が続く。

 

しかしその混乱も時間が経つと同時に徐々に収まりスコーピオンに対するヘイトのが集中し、スコーピオンが集中攻撃を受け始める。

 

「わわわわっ⁉︎マズいマズい!助けてー!」

 

あっちこっちから攻撃を受け始めたスコーピオンは助けを求めながら近くの建物の窓に飛び込み部屋の中に入った。スコーピオンの入った部屋の上の階の部屋に僕も居たので敵の攻撃が僕にも向いた。

 

「ちょっ!あっぷ!」

 

慌てて伏せると同時に僕がさっきまで覗いていた窓に向かって無数の弾丸が飛んで来た。匍匐しながら隣の窓に移動してからM14EBRを構え反撃するが敵の数が多過ぎた。Vespidを3体倒したら複数のVespidとRipperから猛反撃を受けた。直様横の壁に隠れるがこの壁貫通しないよな?

 

M18スモークグレネードを窓から外に投げて煙幕を張り、僕の隠れている部屋が煙で見えなくなったと同時にグレネードを適当に外に投げてから姿勢を低くしながら移動を開始する。

 

一階に降りるとスコーピオンが居た。どうやら敵から集中砲火を受けて動けない状況みたいだ。今なら僕の投げたスモークで敵の視界は遮られているから助けられるかな?

 

僕は敵の攻撃を受けないように匍匐前進で移動でスコーピオンの元に移動した。見た感じ負傷したりしている訳じゃなさそうだな。良かった。

 

「大丈夫?」

 

「うん。何とか」

 

「援護するから向こうの部屋に逃げて」

 

「分かった」

 

M14EBRを構えて敵のいると思う場所に向かってセミオートで撃って行く。

 

「行って!行って!」

 

スコーピオンは四つん這いになって隣の部屋に移動する。スコーピオンが隣の部屋に移動したのを確認した僕は敵に向かってM67破片手榴弾を投げ込んだ後に僕も隣の部屋に移動した。だが逃げ込んだ先の部屋に次は集中砲火を浴びた。やたらめったらに撃ちまくってくるせいで下手に身動きも取れない。

 

「ヘーイ!2人とも大丈夫?」

 

身動きが取れずにいるとヘレンがやって来た。ヘレンは盾を展開して敵の弾を防ぎつつこちらを攻撃して来ていた敵をモスバーグM500のバックショット弾で蜂の巣にして行く。しかしモスバーグM500が弾切れになった瞬間にRipperが4体突撃して来た。ヘレンは突撃して来た一体をモスバーグM500で殴るとRipperの腹に銃口を押し付け、チャンバー(薬室)に直接ショットシェルを入れてハンドグリップを前に動かして弾を装填しゼロ距離で撃った。続けて突っ込んで来たRipperはモスバーグM500のストックで思いっきり顔を殴って床に倒れさせるとホルスターからデザートイーグルMkXIX L5を取り出して頭に44マグナム弾を食らわせた。残りの2体は僕とスコーピオンが撃ち殺した。ヘレンの攻撃で敵の攻撃が少し衰え僕とスコーピオンも反撃に転じる。スコーピオンの投げた焼夷手榴弾で近くに居た敵の殆どが火炎に包まれて焼死してしまった。

 

「ふぃ〜。流石にキツイねぇ〜」

 

デザートイーグルMkXIX L5をホルスターに戻しモスバーグM500に弾を込めながらヘレンが言った。

 

「やっぱり敵多くない?」

 

「確かに多いね」

 

分かってはいたがいざこうやって戦ってみるもやっぱりキツい。倒しても倒しても敵は減らない。

 

「休んでいる暇は無いみたいだね。新手だよ!」

 

リロードを終えたヘレンは再びモスバーグM500を構えると目の前に現れた敵に向かって発砲した。

 


 

橋でC4爆薬の設置作業をしていたバラライカ達は出来るだけ急いで、されどなるべく慎重に作業を進めていた。橋を支える梁の部分に登っていたP38はニーナと共に命綱も無い状態で地上十数メートルの高さで作業を進めていた。この状態でも充分恐ろしいのだが更に最悪なことに向こうで起きている戦闘の流れ弾が時折近くを掠め飛んで来ていた。

 

「これならまだ撃ち合っている方が良かったよぉ〜」

 

と半泣き状態になりながらもP38は作業を進めて行く。設置したC4爆薬に電気式の雷管をゆっくりと慎重に、慎重に付ける。

 

「雷管は予備が無いので落とさない様に気をつけて下さいね」

 

「ちょ!そんなこと言わないで下さいよ!緊張しちゃうじゃないですか!」

 

「大丈夫ですよ。落ち着いてやれば問題ないです」

 

「こんな状況で落ち着いてやるなんて無理ですよぉ〜」

 

反対側では同じ様に梁の部分に登ったM1911とバラライカが作業を進めていた。

 

「こ、これで良いですか?」

 

「う〜む・・・よし、大丈夫だ。じゃあ向こう側にも仕掛けるぞ」

 

「え、向こうまでどうやって行くんですか?」

 

「そりゃこの鉄骨を伝って行くさ」

 

と言ってバラライカは鉄骨に捕まって移動して行く。M1911は行くかどうか迷ったが覚悟を決めてなるべく下を見ないようにしながらバラライカの後を追った。

 

「早く来い。時間が無いぞ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ〜」

 

 

 

 

一方、敵偵察部隊の排除と偵察活動を行なっていたエレナとクレアは敵部隊の侵攻を少しでも遅らせる為に建物の中から狙撃を繰り返していた。

 

「目標、赤色の屋根の建物の下に居るStriker2体!距離260!」

 

「確認」

 

TAC-50を構えて窓から狙っていたクレアはエレナの指摘した目標に直ぐに照準を合わせるとすかさず発砲。秒速805メートルの速さで飛翔した強力な12.7ミリ弾は建物から撃つバラライカ達に制圧射撃を加えようとしていたStrikerの胴体を貫いた。急いでボルトを前後させて次弾を装填し、2体目のStrikerを撃った。同じ様に胴体に命中し、1,3000ジュール以上の力によってStrikerは一撃で行動不能に陥った。

 

「左の路地を使って回り込もうとしている部隊が居るから足止めして」

 

「了解」

 

クレアは場所を移動して路地を通ってバラライカ達の後ろを取ろうと動くRipperを主体とした部隊を捉えた。先頭のRipperを狙って撃つと貫通した弾が後ろに居た別のRipperに当たった。狙撃に気がついたRipper達は近くの物陰に急いで隠れた。

 

「足止め成功」

 

アース(エレナ)から|チャイカ《アリーナ」へ。地図座標4235ー2337で回り込もうとしていた敵部隊を足止めに成功」

 

《了解。エウロパ(ルナ)カリスト(カイラ)が近くにいるからそのまま向かわせる。その間そいつらを釘付けにしといてくれ》

 

「了解」

 

「アイツらの相手は私がやるからクレアは他の奴をやって」

 

「分かりました」

 

エレナは双眼鏡を仕舞い横に置いていたXM8を手に取ると物陰に隠れたRipperに向かってセミオートで撃ち始める。Ripperとの距離は300メートル程弱はあったがXM8の有効射程距離は最大で500メートルもあるので問題無く撃つことが出来た。だが流石にクレアの使用するTAC-50と比べると遠距離での命中精度は劣っていたが、敵を制圧する分には問題無かった。

 

それから暫くしてルナとカイラが敵に気づかれように大きく回り込みながらやって来た。そして敵の注意がエレナの方に向いている隙にルナとカイラは敵の後ろに回り込むと敵を背後から攻撃してあっという間に壊滅させた。

 

「2人ともお疲れ様。良い動きだったよ」

 

《ありがとうございます!》

 

「っ⁉︎」

 

何かに気がついたクレアはいきなり横に居たエレナを突き飛ばすと自身も横に転がった。直後、2人の間を弾丸が通過した行った。

 

「狙撃⁉︎何処から⁉︎」

 

「見えたッ!」

 

クレアは右に銃を向けると4階建ての建物の最上階に居たJaegerに狙いを定め急いで撃った。Jaegerが次弾を撃つよりも早く12.7ミリ弾がJaegerの右胸辺りに当たり右肩ごと吹き飛ばした。Jaegerが完全に無力化出来たことを双眼鏡で確認したエレナは胸を撫で下ろした。

 

「よく場所が分かったね」

 

「楓月のお陰です」

 

「あーそう言えばドローンの映像がリアルタイムで見えているんだっけ?」

 

「はい。この左目は楓月と視界を共有しているので」

 

そう言ってクレアはチラリと前髪を掻き分けて前髪で隠していた機械の左目を少しだけエレナに見せた。綺麗な緑色の右目とは違う黄色の機械の目をエレナは興味ありげに見る。

 

「ふーん。でも左右の目で違う物を見るって大変じゃない?」

 

左目でドローンの空撮映像を元に敵の位置を確認し右目で照準器を覗いて狙って撃つ。それがどんだけ難しいのかは想像に容易いだろう。

 

「私は慣れているので大丈夫です」

 

「アンタの目がどんな風に見えているのか一度見てみたいね。っと・・・マズいね。場所がバレたみたい」

 

クレアがエレナの向いている方を見てみるとこちらに接近して来る敵の姿がちらほらと見えた。エレナはXM8を素早く構えると接近して来る敵を素早く撃ち殺して行く。

 

「こちらアース(エレナ)。敵に場所がバレた。移動する」

 

Vespidを3体撃ち殺したエレナは銃の下部に装備しているM320グレネードランチャーのトリガーを引き40ミリグレネード弾を敵の進行方向に発射し2体を爆殺した。

 

「行くよ」

 

「はい」

 

敵の動きが爆発で止まっている隙にエレナとクレアは足早に建物から出て行った。

 

 

 

 

もう1人のスナイパーであるマンリヒャーはG17と共に近くにあったアパートの最上階の部屋から敵部隊を狙撃していた。

 

「マンリヒャーさん、クレアさん達が撤退したそうです」

 

「クレアは確かあちらのスナイパーの名だったな。と言うことは今戦えるスナイパーは余だけか。これは忙しくなりそうだ」

 

と前方から迫り来る大勢の敵部隊を見てマンリヒャーは言った。そしてMannlicher M95/30を構えて接近して来る敵を撃ち抜く。マンリヒャーは手当たり次第に敵を撃ち倒して行く。こうして敵にスナイパーが居ることを分からせ、下手に動けない状況を何とか作ろうとしていたが敵の数が多く、更に周りの建物のせいで射線が限られ上手く足止め出来ずにいた。

 

「マンリヒャーさん!2時方向にJaeger!」

 

「チッ、またか!」

 

更にマンリヒャーを苦しめて居たのが神出鬼没のJaegerだった。何処から邪魔な存在であるマンリヒャーを狙撃しようとしていた。マンリヒャーはG17の見つけた半壊した建物の屋上に伏せていたJaegerを確認すると再び撃たれる前に撃ち倒した。

 

「少しヘイトを買い過ぎたな。そろそろ移動するか」

 

弾が切れたMannlicher M95/30にクリップで弾を装填しながら言った。少々暴れ過ぎたせいで既に場所がバレ、敵からの攻撃が集中し始めていた。

 

「そうですね・・・なっ⁉︎」

 

「どうした?」

 

双眼鏡で敵部隊を観察していたG17はそれを見た瞬間恐怖で固まってしまった。G17のただならぬ様子を見たマンリヒャーがその方向を見てみるとまともな対戦車装備を持っていないマンリヒャー達にとって最悪の相手であるManticoreの姿が見えた。

 

「くそう・・・もう来たか。こちらマンリヒャー。Manticoreを確認。繰り返す、Manticoreを確認!」

 

《作業はまだ終わっていない。何とかして時間を稼いでくれ》

 

《今でも結構キツイってのにManticore相手に時間稼ぎなんて出来ないですよと!銃で戦車を相手に戦う様なもんです!」

 

「私に任せろ」

 

バラライカとエマの話を聞いていたマンリヒャーそう言うとMannlicher M95/30を構えてManticoreに狙いを定めると発砲した。音速を超えて飛翔した8mm×56R弾はManticoreの胴体に命中するが装甲によって弾かれてしまった。Manticoreは突然動きを止めるとマンリヒャー達の方に下部に装備した砲の砲口を向けた。

 

「伏せろ!」

 

そう叫びながらG17の頭を押さえて無理矢理伏せさせた瞬間、秒速1000メートルもの速度で飛来して来た榴弾がアパートの壁に着弾し爆発し部屋ごと吹き飛ばした。

 

「ゲホッ!ゲホゲホ!・・・G17、大丈夫か?」

 

激しく咳き込みながらマンリヒャーがG17を呼ぶと瓦礫が動きその中なかG17が出て来た。G17の額には血が流れており、それを見たマンリヒャーはギョッとした。

 

「血が出ているぞ!大丈夫か⁉︎」

 

「はい。大丈夫です」

 

G17に駆け寄り額の傷を確認し、傷がそこまで深く無いのを確認したマンリヒャーは一安心すると周りを見渡した。部屋は榴弾の爆発で跡形も無く崩れ去っており青空が見えている状態だった。部屋は悲惨な状態だったが爆発の寸前に伏せたことが功を奏し多少の怪我はしたが特に大きな負傷はしなかった。

 

「敵が来る前に移動するぞ」

 

「了解です!」

 

マンリヒャーとG17は階段で一階まで降りるとそのまま足早に場所を移動した。

 

「って言うかManticoreに喧嘩を売るなんて無茶苦茶過ぎますよ!」

 

路地を走って移動しているとG17がマンリヒャーに言った。

 

「Manticoreを足止めするにはこれが一番良いと思ったんだ。爆弾の設置作業が終わるまで撃っては逃げてを繰り返す。ヒット&アウェイだ」

 

「さっきみたいにManticoreの関節部分を撃つことは出来ないんですか?」

 

「さっきは敵の注意がエマ達に向いていたから脆弱な部分を撃ち抜くことが出来たが今はそうじゃない。それに徹甲弾は一体目のManticoreに使い切ったしな。流石に通常弾で抜けるほど奴もやわでは無いだろうしな。・・・・よし、あそこから撃とう」

 

マンリヒャーは3階建ての建物を見つけると外に付けられた階段を駆け上って上まで行くとMannlicher M95/30を構えた。乱れた息を整え足止の右前足の関節部分を狙って撃った。しかし急いで撃ったためか弾は関節の上の装甲に覆われた所に当たってしまった。

 

「撃って来るぞ!逃げろ逃げろ!」

 

マンリヒャーとG17は駆け上がって来た階段を逆に全速力で駆け降りて行く。半くらいまで降りた時に階段の上段部分に榴弾が命中した。爆風に煽られてマンリヒャーとG17は一番下まで転げ落ちた。

 

「いてて・・・マンリヒャーさん。大丈夫ですか?」

 

「あぁ・・あちこちぶつけたが大丈夫だ」

 

突然、近くの家が爆発した。更に続いて爆発が発生する。2人は直ぐにこの爆発がManticoreからの砲撃だと気がついた。

 

「これはManticoreを怒らせてしまったかもしれんな。逃げるぞ!」

 

2人は走って逃げるがその後を追って来るかの様に近くの建物や道などが爆発して行く。

 

「砲撃が正確過ぎる。近くに余達を監視している奴が居るぞ」

 

「近くって何処に・・・居たーッ!」

 

G17は自分達から少し離れた所を飛ぶScoutの姿を見つけた。直ぐにグロック17を構えて連続で発砲するがなかなか当たらない。「任せろ」とマンリヒャーは言うと振り返り様にMannlicher M95/30を構え撃たれない様に不規則な動きで飛んでいるScoutを狙い、タイミングを見計らって撃ち撃墜した。

 

2人の行動を偵察していたScoutが撃ち落とされたことによって正確な位置が分からなくなったManticoreは2人が居ると思われるポイントに向かって砲撃をして行く。その間に2人は奥の方に逃げManticoreが見失っている間に場所をまた移動した。

 

「マンリヒャーさん!敵です!」

 

道路と路地を使って移動していると敵部隊とかち合った。マンリヒャーは咄嗟にMannlicher M95/30を構えて目の前のVespidを撃ち殺した。そしてSteyr M1912を胸のホルスターから取り出し敵を向かって乱射し、敵がマンリヒャーとG17の射撃で怯んだ隙に2人は建物の陰に隠れた。

 

マンリヒャーは銃剣を取り出すとMannlicher M95/30の銃口部分に付けた。G17と頷き合うと2人同時に隠れていた所から飛び出すと接近して来たいたRipperにマンリヒャーの胴体にマンリヒャーは銃剣を突き刺した。横に居た別のRipperはG17が撃ち殺した。突き刺したMannlicher M95/30を放ってSteyr M1912を構えたマンリヒャーはVespid2体を撃ち殺したが弾切れとなってしまった。もう一体のVespidがマンリヒャーを撃とうと銃を構えるがマンリヒャーはRipperに突き刺していたMannlicher M95/30を抜くと槍投げの要領で目の前のVespidに思いっ切り投げつけた。胸に銃剣が刺さったVespidは当たりどころが良かったのか倒れなかったが怯んだ隙にSteyr M1912をリードして撃ち殺した。

 

G17も奮闘し敵の胴体に9ミリパラペラム弾を撃ち込み次々と敵を撃ち倒して行くが数に押され危うくなる。敵とG17の間にマンリヒャーは割って入ると撃ち殺したRipperを盾にして敵の銃撃を防ぎつつSteyr M1912で撃ち殺した。

 

「ありがとうございます」

 

「気にするな。にしても数が多いな。埒が明かん」

 

「これは一々相手にするより逃げた方が良いんじゃないですか?」

 

《アリーナからマンリヒャーへ。そちらに増援を1人やった》

 

「増援?誰をだ?」

 

マンリヒャーがそう問うと同時に目の前に居た敵部隊の後ろに白い人影が躍り出た。その人影は複数の手榴弾を敵部隊に投げ込み、その爆発によって敵の大半が吹き飛んだ。運良く残った敵もあっという間に胴体と頭に弾丸を撃ち込まれて倒れてしまった。あっという間に敵を倒したそれはマンリヒャーの前に来た。

 

「君は確か・・ルナだったな」

 

特徴的な白色の獣耳を見てマンリヒャーは誰か直ぐに分かった。マンリヒャーやアリーナの部隊の中で獣耳なのは彼女1人だけなので間違えようがなかった。

 

「・・・・」

 

相変わらずルナは無言のままだったがマンリヒャーの問いかけに躓いて見せた。

 

《Manticore相手にお前ら2人だけってのは荷が重過ぎるからな。ウチのエースだ。こき使って良いぞ》

 

「増援感謝する」

 

《そっちに任せっきりって言うのも癪だからな。死ぬなよ!》

 

「あぁ。そちらもな」

 

アリーナと通信を終えたマンリヒャーは改めてルナを見た。

 

「それじゃぁよろしく頼むぞ」

 

マンリヒャー達は再び移動を開始した。途中何度か少数の敵部隊と交戦したが3人は協力して敵を倒して行った。粗方敵を倒し終えたマンリヒャーは近くにあった建物の屋上に上がり再びManticoreに狙撃した。移動中のManticoreの関節部分に当てるのはかなり困難でなかなか当たらず、狙撃しては逃げて狙撃しては逃げてを何度も何度も繰り返した。Manticoreにダメージを負わせることは出来なかったがManticoreの注意は完全にマンリヒャー達の方に向き、アリーナ達の負担は軽減されていた。

 

敵を撒いて新しい狙撃位置に着いたクレアもマンリヒャーの援護に周りManticoreへ攻撃を開始した。だが距離があるとは言えTAC-50の12.7ミリ弾を持ってしてもManticoreの装甲を貫くことは出来なかった。クレアの援護により余裕が生まれたマンリヒャーはManticoreだけでは無く歩兵部隊に対しても攻撃を行い出来るだけ敵の侵攻を遅らせた。

 

「くそう・・・そろそろ弾の残弾が怪しくなって来たぞ」

 

Mannlicher M95/30に弾を入れながらマンリヒャーはボヤいた。ずっとManticoreや大量の敵相手に撃ち続けた結果持って来ていた弾の残りが少なくなって来ていた。

 

「橋の方に引きつつ攻撃するぞ」

 

「了解!」

 

マンリヒャーは2体のVespidを狙撃し、続けてManticoreにも向けて撃ちった後足早にその場を後にした。Manticoreの方もマンリヒャーの戦い方を学習し予め逃げるであろう方向に向かって砲撃を行うようにしていたが、マンリヒャー達の方も横では無く奥の方に逃げる様にしたりするなどして砲撃を躱していた。

 

《こちらネプチューン(バラライカ)。全てのが作業完了した》

 

《了解。全員あたし達が敗走している様に見せかけて橋へ誘導しろ!》

 

「了解した。こちらも撤退しつつ出来るだけ敵を足止めする」

 

《死なないでくれよ?あたし達のせいでグリフィンの人形が死んだってなると色々と面倒だからね》

 

「心配するな。死ぬ気はさらさら無い」

 

マンリヒャーは橋に向かって後退しつつ敵への狙撃を続け、出来る限り敵部隊を足止めする。だが流石に数が多く建物が邪魔で狙え無い箇所もあるので完全に敵を足止めすることは出来なかった。

 

「こっちだ!早く来い!」

 

敵の進撃を堰き止めつつ後退したマンリヒャー達は遂に橋の入り口の目の前まで来た。橋の入り口で待っていたアリーナ達はマンリヒャー達を追って来た敵部隊に制圧射撃を加えてマンリヒャー達が撤退出来る時間を稼ぐ。

 

「よし、全員橋を渡れ!速く!速く!」

 

援護射撃をしていたアリーナ達はマンリヒャー達と合流すると敵に攻撃を加えつつ橋を渡って行く。C4の設置作業から帰って来たバラライカもKord重機関銃で敵を掃射しアリーナ達の撤退を支援する。

 

マンリヒャーは止めてあった車に身を隠すとMannlicher M95/30を構えて敵を狙撃して行く。ストレートプルボルトの強みである素早いボルトアクションを行いセミオートライフルにも迫る速度で次々と撃つ。弾を装填して再び迫り来る敵を狙撃する。敵との非我の距離は100メートルも無く、さらにこちらに向かって来る敵を撃つのはとても簡単だったが数が多くマンリヒャーは苦戦する。

 

「マンリヒャー!エマとミアを連れて先に下がれ!援護する!」

 

「分かった!G17、エマ、行くぞ!」

 

「わかりました!」

 

「了解です!行くよミア!」

 

「ちょ!自分で走れるって!おい!」

 

アリーナとルナとカイラのアサルトライフル組とスコーピオン、ステン

のサブマシンガン組とヘレンが一斉に敵に向かって撃ちまくる。その間にミアを抱え上げたエマは後退し後ろにあったバンの後ろに隠れた。マンリヒャーとG17も同じ様にエマとミアの援護射撃を受けながらバンまで下がった。

 

「よし良いぞ!来い!」

 

今度は逆にマンリヒャー達が敵に向かって撃ちまくって敵を釘付けにしている間にアリーナ達アサルトライフル組が後ろに下がって行く。

 

「良いぞ!来い!」

 

アサルトライフル組が後退し終わると最後にサブマシンガン組とヘレンが援護を受けながら後ろに後退する。同じことを何度も繰り返してジリジリと後ろに後退して行って居ると街の奥から巨大な機体が現れた。

 

「Manticoreが来た!」

 

「全員走れぇ!」

 

アリーナの叫び声と共に全員が全速力で走る。背中を撃たれない様に祈りつつ必死に走りなんとか全員が橋を渡り切ることに成功した。

 

「奥まで下がれ!奴らを橋に誘い込め!」

 

全員が敵に射撃を加えつつ後ろに下がって行く。それに対し鉄血はManticoreを先頭にして攻撃を防ぎつつ前進して行く。敵は敗走していると判断した鉄血の部隊は一気に決着をつける為にどんどん前進して行きそして遂にManticoreが橋に入った。

 

「まだ爆発するな!」

 

「分かっている」

 

バラライカは遠隔起爆装置を手に持って橋を渡るManticoreをじっと見る。そしてManticoreが橋の中央部まで来た時、遠隔起爆装置の握り込み式のレバーを2回握り込んだ。

 

「発破」

 

ドガゴォォォォォン‼︎

 

複数箇所に仕掛けられたC4爆弾が一斉に起爆した。金属どうしが擦れる甲高い音と低い重低音な音をゴーストタウン中に響き渡らせながら橋はManticoreと鉄血の人形達と一緒に落ちて行った。呆然とその効果をマンリヒャーやアリーナ達は見ていたが次の瞬間歓声を上げた。

 

「はっはー!どうだ見たかクソったれが!」

 

アリーナは橋から落ちてひっくり返り上半身を川に沈めたManticoreに向かって中指を立てた。それを見たスコーピオンもアリーナも真似をして「どうたー!」とManticoreに向かって中指を立てる。

 

「おいおい、ウチのスコーピオンに変なこと教えるでない」

 

それを見ていたマンリヒャーはアリーナにそう言いつつその場に座り込んだ。

 

「はぁ〜。流石に疲れたな」

 

「お疲れ様です」

 

「お前もな。よく頑張った」

 

と言いつつマンリヒャーはG17の頭を優しく撫でる。そんな2人の元にバラライカがやって来た。

 

「ありがとう。お前が時間稼ぎをしてくれたお陰だ」

 

「余1人の功績では無い。皆の協力あってこそだ」

 

「確かにそうだな。ここに居る全員のお陰だ」

 

《こちらカロン(クレア)。敵部隊が撤退を開始しました!」

 

「本当か?」

 

《間違い無いです。楓月でも引いて行く鉄血の部隊を確認しています》

 

「分かった。報告ありがとう。予定通り合流ポイントに来てくれ」

 

《了解です》

 

「よし、お前ら!疲れているところ悪いが予定通り向こうの森まで移動するぞ!」

 

アリーナの指示にエマ達は「了解」と答え移動を開始する。指示し終えたアリーナはマンリヒャーの元へ行った。

 

「そっちはどうするんだ?あたし達は今言った通り向こうの山を通ってこのクソったれな街から出るつもりだけど」

 

「こちらの任務も敵が撤退してくれたことで完了した。一緒に森を抜けてからヘリに回収してもらう」

 

「分かった。それじゃぁ行こうか」

 


 

作戦は見事に成功してManticoreと鉄血の部隊を川に落とし足止めすることに成功した。敵が撤退してくれたこともあり今僕達は何の心配も無くゴーストタウンを抜けて森の中を進むことが出来ていた。

 

「いゃ〜こんな大戦闘初めてだったよ。持って来た弾全部使っちゃったもん」

 

「私も後もう少し戦闘が長引いてたら危なかったです」

 

スコーピオンとステンは余り実際経験が無いと言っていたがさっきの戦闘では最前線で勇敢に戦っていた。まぁスコーピオンはちょっと突っ込み過ぎるところがあったけどそのお陰で敵を混乱させることが出来たからまぁ結果オーライかな。

 

「あ、そう言えば!さっきは助けてくれてありがとうね!」

 

スコーピオンが僕に向かってお礼を言って来た。きっとスコーピオンが敵に集中砲火を受けている時に一緒に逃げたことを言っているんだろう。

 

「お礼なんて言わなくて良いよ。あの時は自分もてんやわんやで何の考えも無しに助けに行っただけだし」

 

「てんやわんやの状態でも助けてくれたんでしょ?ありがとね」

 

にっと無垢な眩しい笑顔を僕に向けてくるスコーピオン。この笑顔を守れて良かったと僕は思った。

 

「コイツは自分より他人を心配するバカだからねぇ」

 

森の入り口で合流していたエレナがそう呆れた様に言った。じゃぁ目の前で助けを求めていたりする仲間を見捨てろって言うのか?それは出来ないね。

 

「仲間なんだから心配して当たり前じゃないですか」

 

「そうじゃなくてもっと自分も大切にしろってこと」

 

「でもその気持ち私も分かるわ」

 

ヘレンが僕の考えに賛同してくれた。

 

「そう言えばあんたも仲間の為なら敵部隊のど真ん中に突っ込んでいくタイプだったね」

 

確かに今回の戦闘でヘレンは色んな人を助けに行ったな。橋で戦っていた時もギリギリまで敵を引きつけていたし。

 

「困っている人を見たら見捨てれないタイプだからね」

 

「エマにも言ったけど自分を犠牲にしてまで仲間を助けなくて良いの。そう言うのは映画の主人公がやっとけば良いんだよ」

 

「まぁ何はともあれ敵を撤退させることが出来て良かったよ」

 

「そう言えば、何で敵は撤退したんでしょうか?」

 

僕達の会話を聞いていたG17が横を歩いていたマンリヒャーに聞いた。

 

「恐らく想像以上の被害が出たからこれ以上の被害を被ってまで余達を攻撃する必要は無いと判断したんだろう」

 

成る程ねぇ。確かに虎の子のManticoreとか多数の歩兵部隊を失ってかなりの痛手を負ったこの状態でたかが一個小隊の僕達を倒す為にこれ以上被害を出すのは割に合わないだろうしな。

 

「それにしてもManticoreを相手に戦うなんて凄いですね。私には絶対出来ないですよ」

 

あんな奴相手に1人で戦えって言うのは無理な話だ。命令されても嫌だね。それにマンリヒャーさんの凄いところはManticoreと普通の歩兵部隊も一緒に相手にしていたところだ。古い銃を使う戦術人形だからと言って舐めてはいけないな。いやまぁ最初から舐めていた訳じゃ無いんだど。

 

「実を言うと余も結構ギリギリだった」

 

「そうですよ!何回砲撃で死にかけたことか!」

 

「逆に殆ど怪我をしていないのが不思議ですよ」

 

マンリヒャーさんもG17も小さな怪我はいくつもあるが大きな怪我や負傷は全く無い。本当にManticore相手に戦ったのか?と疑問に思ってしまうほどだ。でもまぁ怪我した箇所の多さや服の汚れ方からしてなかなかの激戦だったことが分かる。

 

「2人ともお疲れ様です」

 

前を歩いていたルナを見てみるとあちこちに怪我を負っているし、真っ白だった服も敵の返り血だとか泥だとか砂だとかその他色々な汚れで完全に汚れてしまっている。マンリヒャーさん達と一緒に戦ったルナもかなり大変だっただろう。

 

「ルナもお疲れ」

 

ルナにそう言って見るが予想通りの無反応。まぁもう慣れたけどね。

 

「結局そやつが喋るところを見なかったな」

 

「私もまだ一言しか聞いてませんよ」

 

本当に必要最低限のことしか喋らないからな。無表情なことも相まってマジで何を考えているのか分からない。

 

「だがルナの強さは一緒に戦ってよく分かった。なかなか強かったぞ」

 

「確かに。とっても強かったです」

 

「私達の部隊の中でも1、2位を争う強さですからね」

 

「エマもよく頑張っていたな」

 

「え、私ですか?」

 

でも僕は今回の戦闘であんまり活躍出来なかった気がするんだよなぁ。遠くから敵をひたすら撃っていただけだったし。

 

「あぁ。あの橋の上では結構頑張っていたじゃないか」

 

「いえいえ、そんな。私はそんなに活躍してませよ」

 

「そう卑屈にならなくて良い。エマは充分活躍していたよ。足を怪我しているミアを守りながら戦ったじゃないか。それはスコーピオンからエマに助けてもらったとも聞いている。沢山の仲間を助けたんだもっと誇って良いぞ」

 

「そ、そうですかね?えへへ。ありがとうございます」

 

やっぱり他人から褒められるのには慣れないな。照れ臭いや。

 

「P38とM1911とご苦労だったな」

 

「本当ですよ!怖かったんですよ⁉︎鉄骨の上に命綱も何も無しに爆弾仕掛けるのは」

 

P38の発言にM1911もウンウンと頷いている。でもあの短時間に仕掛け終えることがで来たのは普通に凄いと思う。

 

「でも凄かったよ!あの爆発。ドッカーンって!」

 

「確かに凄い光景でした」

 

「うちも橋が落ちる瞬間は初めで見た」

 

スコーピオン達は橋の爆破の話で話が盛り上がり始めた。僕も橋を爆破して落とす瞬間なんて初めて見たけど凄い光景だった。

 

「にしても凄いな。君は爆弾の知識があるのか?」

 

マンリヒャーさんは橋の爆弾設置と起爆を担当したバラライカに聞いた。

 

「いや、私は多少の知識しかない。あの橋は元々敵の追っ手を足止めする為に最初から落とす予定だったんだがその時に仲間のオットーと言う爆破魔の知恵を借りたんだ」

 

「そのオットーと言うのも戦術人形か?」

 

「いや、ただの変わり者の人間だよ」

 

「成る程。今度そいつにも会ってみたいものだな」

 

皆んなでお互いの頑張りと称え合ったり自分の戦果を自慢したりして話しながら森の中を進んでいると突然開けた場所に出た。マンリヒャーさんによるとここでヘリに回収してもらうらしい。僕達は休憩がてらマンリヒャーさん達と一緒に迎えが来るのを待つことにした。

 

「来た」

 

「え、ヘリがですか?」

 

待ち始めてからまだ5分も経っていない時に突然マンリヒャーさんが言った。空を見渡すがヘリの姿は見えないし音も聞こえて来ない。

 

「姿は見えませんけど」

 

「耳が良いのでな」

 

成る程。ルナみたいに耳が良いのか。と言うことはルナもヘリの音に気がついているんだろうか?

 

「ルナはヘリの音聞こえる?」

 

こくりとルナは頷いた。やっぱり聞こえていたのか。そして直ぐにその音は僕にもヘリコプター独特のプロペラの音が聞こえて来た。

 

「では、お別れだな」

 

「ありがとう。世話になった」

 

「こちらこそ」

 

アリーナがマンリヒャーさんの前に立ってお礼を言う。

 

「それじゃぁね。すこっぴ!突っ込み過ぎない様にね」

 

「だからそれはもう分かったって!」

 

ヘレンの方もスコーピオンに分かれの挨拶をするとワシワシとスコーピオンの頭を撫でた。

 

「今回はお世話になりました!」

 

「お世話になりました!」

 

M1911はバラライカにお礼を言ってP38はニーナにお礼を言った。バラライカは「ご苦労だったな!」と言いつつM1911の頭を撫で、ニーナは「今度会った時は色々とお話ししましょう!」と言った。

 

「そうですね。今度会う時は紅茶でも飲みながらのんびりお話ししましょう!

 

「あ、良いですね!お茶会しましょうよお茶会!」

 

ニーナの紅茶と言う話にステンが食いついた。イギリス製の銃だしやっぱり紅茶が好きなんだろう。

 

「コーヒーを出してくれるならそのお茶会あたしも参加しようかな」

 

「アリーナさんは紅茶は苦手なんですか?」

 

「あの香りとか風味が苦手でね」

 

「癖がなくて飲み易い紅茶もあるのでそれだったらアリーナさんでも大丈夫だと思いますよ」

 

「お、それは楽しみだね」

 

皆んながお茶会の話題に盛り上がっているのを横目に僕はマンリヒャーさんの元へ向かった。彼女は命の恩人だしね。

 

「今日はありがとうございました。貴方が助けてくれなかったらあの時Manticoreの砲撃で木っ端微塵になってました」

 

「気にするな。あそこで見捨ててしまっては目覚めが悪いしな」

 

「また今度あったら狙撃について色々と教えてくださいよ」

 

「あ、それは私も聞きたいです」

 

マンリヒャーと一緒にManticoreに対して狙撃を行なっていたクレアがやって来た。

 

「私から教えることは特にないよ。エマもクレア充分な腕を持っているからな」

 

「クレアはともかく私はそんなに上手くないんですよ」

 

「まぁ教えてやっても良いが余り期待しないでくれよ?」

 

「Manticore相手に渡り合ったんですから期待しちゃいますよ」

 

そうこうしている内にヘリコプターの音が近づいて来た。別れの時も近いみたいだな。何かあげたいんだけど何かないかな。

 

「えっと〜何かお礼の物をあげたいんですけど・・・」

 

ポケットを探ったり荷物の中を探したりしたが特に良い物が無い。どうしようかなぁ・・・。

 

「すいません。良い物が無かったので・・・別れの握手で良いですか?」

 

「良いぞ」

 

「すいません。今日は本当にありがとうございました。また何処かで会いましょう!」

 

そう言って僕は右手をマンリヒャーさんに差し出した。

 

「あぁ。また何処かで会おう」

 

差し出した手をマンリヒャーさんはしっかりと握り返してくれた。僕とマンリヒャーさんが握手し終えたと同時にグリフィンのマークが機体の横に描かれたブラックホークがやって来て目の前で着陸した。しかもこのブラックホーク、普通のブラックホークじゃない。また目からして特殊作戦用のMH-60Mかそれを元に改造したタイプのやつだ。流石グリフィン。

 

「それじゃぁね!また会おうよ!」

 

「うん。また会おう!」

 

スコーピオンは僕に手を振りながらヘリの方に向かって行った。他の人達も各々別れの挨拶をしてから次々とヘリに乗って行く。

 

「それではまた会おう!戦友諸君!」

 

最後にマンリヒャーさんがそう言ってヘリに乗り込んだ。僕達に見送られながらブラックホークはエンジン出力を上げ上昇して行く。スコーピオンは機体から身を乗り出して僕達の方に向かって手を振って来たので僕も両手で手を振って答える。

 

ある程度の高度まで上昇したブラックホークは機体を前に傾けてあっという間に飛び去って行った。僕はブラックホークが森の木々で見えなくなるまでずっと手を振り続けた。

 

「行っちまったなー」

 

「ですね」

 

ブラックホークが飛び去り静かざが戻って来た森で僕はずっとブラックホークの飛んで行った方向を眺めていた。忙しかったから余りマンリヒャーさん達と話す時間は無かったけど皆んな良い人達だった。今度会った時は銃の話とかを色々したいな。

 

「さーて、感情に浸るのはそこそこにしてあたし達は移動を開始するぞ!」

 

アリーナの声で現実に引き戻される。そう言えばこっちはまだ訓練の途中だったなクソったれ。

 

「はぁ・・・もうひと頑張りしますか」

 

僕は溜め息を吐くと再び森林の中へと入って行った。




どうでしたから?今回コラボだからと調子に乗って書きまくった結果3万7000以上というとんでもない文字数になってしまいましたw今までの中で一番多い文字量ですね。特殊行軍訓練編ももう少しでお終いです。それでは、次回もお楽しみに!

ご感想お待ちしております!


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