こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) (勇樹のぞみ)
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紅魔館大図書館より~キャラメイクへ

「書かれている物語世界に読み手を引きずり込む魔導書?」

 

 紅魔館大図書館の管理者であり自身も『動かない大図書館』と呼ばれる七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジは自分の使い魔、小悪魔の持ってきた本をジト目で見る。

 ついでに小悪魔自身のことも同じ目で見たり。

 

「いえ、そういう危ないのではなくて、娯楽用の仮想体験(VR)型ゲームブック、でしょうか。外の世界のゲームが体験できるようですよ」

 

 と、にこやかに笑う小悪魔が追加で本を積み上げる。

 こちらは普通の外の世界の本、ゲーム攻略本と言われるもの。

 

「ドラゴンクエスト3?」

 

 そういう名前のコンピューターを使ったロールプレイングゲームらしい。

 手に取ってパラパラとめくると、なかなかに練りこまれた世界と設定が目に飛び込んでくる。

 

「ふぅん? これは…… でもこうしたら……」

 

 本の虫の彼女にも興味深い内容らしい。

 実際、面白いのだろう。

 自分なりに情報を集め、整理し、攻略法を検討、構築していく作業は。

 だからこそ外の世界でもロールプレイングゲームは多くの人々に楽しまれているのだ。

 そしてそんな主人の様子を見て、小悪魔は内心クスクスと笑う。

 

(パチュリー様なら興味を持っていただけると思いました)

 

 だからこそ、この大図書館の司書権限を使って娯楽用魔導書を解析し、外の世界のゲームの内容を組み込んだのだ。

 そして……

 

「うーん」

 

 ちらりと件の魔導書を見るパチュリー。

 迷っているのが分かる。

 小悪魔が持ってきた魔導書。

 怪しいと理解してはいるものの、興味は尽きないのだろう。

 そして、

 

「検証が必要ね」

 

 と自分に言い訳するようにつぶやいて手に取る。

 

 小悪魔の用意した罠に薄々気づきながらも……

 パチュリーは主従契約があるからという安心感と、ちょっとした好奇心からその身を委ねてしまうのだった。

 

(この子…… 小悪魔も普段よく働いて仕えてくれているし、まぁ、たまには少しぐらい火遊びに付き合ってあげてもいいでしょう)

 

 そんな風に考えて。

 実際、パチュリーの実力からすればこんな無力な小悪魔など、本気になっても幼児にじゃれつかれているようなものだから。

 

 

 

 後にしてみれば、どうしてこの時、こうすることを選んでしまったのか、と彼女は思うことになるのだが。

 

「パチュリー様の心の奥底に、そういう願望があったからですよ? 私はそのお願いを忠実にかなえただけです」

 

 と小悪魔はあくまでも優しく答えるのだった。

 

 

 

 そして舞台は物語世界、ドラゴンクエスト3のスタート地点、アリアハンへ。

 

「それで、どうしてあなたが勇者で私が商人なのかしら?」

 

 冒険者が集うルイーダの酒場、呆れた様子でパチュリーは小悪魔に問う。

 

「ええっ? だって矢面に立って戦う肉体労働は私に任せるってパチュリー様、言ったじゃないですかー」

 

 まぁ確かにそうだから小悪魔が勇者なのはいいとして、問題はどうして自分が魔法使いでなく商人なのかということ。

 しかし小悪魔はこう説明する。

 

「そしてドラゴンクエスト3は勇者一人ではクリアーできないのはご存知ですよね」

 

 そう、縛りプレイで定番の『勇者一人旅』だが、正確にはドラクエ3は勇者一人だけではクリアーできない。

 街づくりイベントのための商人が必須なのだ。

 

 他に人を雇って、というのも考えられるが、パチュリーは人見知りの引きこもりだからそういうのも遠慮したい。

 そもそも魔導書が用意した怪しいキャラ、しかも人間など今一つ信用できないし。

 それにレベル1の商人を作って預けるなんて「それどう考えても人身売買だろ」な真似、VRというか実体験型のゲームでは抵抗がありすぎる。

 というわけでパチュリーは、

 

「……そうね。このパーティ構成で検証してみたいこともあるし」

 

 と自分を納得させてしまう。

「使えない」「あなほりwwwww」「商人とかお前の存在意義がわからんのだけど」「イエローオーブ引換券」などと言われる商人だが、実際にはそう悪くないとパチュリーには思える。

 勇者との二人旅は、勇者と単純に比較できるため検証するには都合が良かった。

 

 一方、小悪魔はというと、

 

(街の有力者にまで登りつめてクーデター起こされて牢獄ですよ。何も起きないはずもなく…… ああ、なんてかわいそうな私のパチュリー様)

 

 と、歪んだ主従逆転愛に悶えていた。

 この魔導書の管理者権限を密かに握っている小悪魔にとって、クーデターを起こすNPC(ノンプレーヤーキャラクター)も自分の分身のようなものなので……

 

 

 

「まぁ、ともかく冒険者登録ね」

 

 パチュリーを冒険に連れて歩けるよう登録を行うべく、二人はルイーダの酒場の二階に向かう。

 

「勇者様のお仲間には王様から特別に激励の品が贈られます。力の種、素早さの種等、五種類の種の内、いくつかを使う事ができます」

 

 勇者以外のキャラメイク担当の男性が説明してくれる。

 

「どの種にするかはパチェさんが決めてもいいし、私にお任せして下さっても結構です」

 

(パチェさんって……)

(このゲーム、キャラクターに付けられる名前は四文字までなんです)

 

 と、主人と使い魔間のパスを使った声なき会話を他所に、

 

「パチェさんが決める場合はもちろんお好きな種を使って頂きますが、私にお任せの場合は……」

「場合は?」

「とにかく、その時の私の気分でやらせてもらいます」

「気分って……」

 

 思わず突っ込んでしまうパチュリー。

 

「では、パチェさんへの種の使い方はどうしますか?」

「ああ、自分で選ぶわ」

 

 パチュリーは手を上げる。

 

「使えるのは五回までです。ではどうぞ」

 

 そして考え込むパチュリー。

 

「商人は力と体力の伸びが良い性格『タフガイ』との相性が良かったはず」

「パチュリー様がタフガイですか!?」

 

 小悪魔が驚くとおり、病弱で持病の喘息を持ち、魔力は膨大だが詠唱し切れないなど、身体能力は人間にも劣るパチュリーとは真逆の性格だったが、

 

「この世界では設定された能力値が反映されるようだし」

「それはそうですが……」

 

 ということだ。

 

「勇者と違って性格判断の質問は無くて、能力値を伸ばすタネの投入による能力値の変化量から決まるんですよね?」

「商人は体力を10以上伸ばせばてつじんかタフガイになれるはずよ」

 

 パチュリーはスタミナの種を手に取ろうとするのだが、それを小悪魔がひょいっと取り上げる。

 

「こあ……」

「それにしてもこれ、どういう理屈で体力が付くんでしょうね?」

 

 手のひらの上の種をしげしげと見つめながら言う小悪魔に、パチュリーは好奇心を刺激される。

 

「そうね『見せ』て」

「ああ、商人の鑑定能力ですね」

 

 忘れられがちだがドラゴンクエスト3の商人はアイテムの鑑定能力を持っている。

 

「それに私の知識をリンクさせてね」

 

 そうしてパチュリーが鑑定してみて分かったのは、魔術的に肉体強化を促進する力が宿っているということ。

 現実ではトレーニングをすると筋肉の一部が損傷して、次に超回復という現象でトレーニング前を上回る筋力、体力が付く。

 普通は超回復に二、三日かかるが、スタミナの種や力の種などの身体能力アップ系の種は筋肉の破壊から超回復を短期間に行うものになっているのだ。

 

「それって筋肉痛を濃縮した激しい痛みが襲うってことじゃ?」

「……まぁ、そうなるわね」

 

 ということだった。

 それでもパチュリーは恐れることなく口の中に放り込んで噛み砕くのだが、

 

「いたたたた!?」

「あー、普段運動しないから余計に……」

 

 小悪魔はそんなパチュリーをマッサージでなだめる。

 

「そ、そこダメっ!」

「まぁまぁ、私こういうの得意ですから。身体のツボ、パチュリー様の身体に眠ってる、とっても気持ちよくなるところを優しく掘り起こしてですね」

「ひっ!」

「だんだん気持ちよくなって来たでしょう?」

(こ、このっ!)

 

 エロ小悪魔、と叱ろうとしたパチュリーは、

 

「パチュリー様が今感じているのは運動した人間が味わえる悦びなんですよ」

 

 という言葉と、実は危ない所には一切触れずに奉仕していた小悪魔のマッサージに戸惑う。

 

「よろこ、び?」

「はい。運動すると気持ちいい、体を鍛えると気持ちいい、そういう悦びです」

「………」

 

 ソレは生粋の魔女、生まれた時から魔法使いであり、引きこもりでもある彼女には、今まで縁が無かったもの。

 未知の、初めての感覚だった。

 

「そう考えるとだんだん痛気持ち良くなってくるでしょう?」

 

 そう言って少し強めにツボを押す小悪魔。

 

「あ、あああ!」

 

 そうやってまるで楽器を奏でるかのようにパチュリーの身体を操り、その悲鳴を自在に引き出して見せる。

 そうして小悪魔は、

 

(ああ、いい! 私の仕掛けた罠に涙目になって悶えるパチュリー様。そのお身体をもみほぐして快楽に染めていく悦び! いつもなら許されないボディタッチもやりたい放題です!)

 

 と歓喜に打ち震えていた。

 普通なら主従契約の抑止力によって、主人であるパチュリーをいたぶるような真似などできないが、小悪魔はあらかじめスタミナの種が持つ副作用について警告していた。

 そしてパチュリーは自分の意思で種を口にしたのだから問題ない。

 また、主人が痛みに苦しまないように手助けするのも従者の役目。

 それがたとえ『痛み』を『気持ちいいこと』としてすり替え、身体と精神に覚え込ませるようなことであったとしても……

 

(ウソは言ってませんしねー。運動すると体に負担がかかって苦しいはずなのに気持ちがいいのは、苦しさを紛らわせるため脳内麻薬が分泌されるからですけど)

 

 俗に言うランナーズハイというやつだ。

 この辺の知識は本の虫であるパチュリーも知っているはずなのだが、周囲から「役に立たない知識人」「知識人はもう間に合っている、これ以上要らない」「使えない奴」呼ばわりされているように知識ばかりが先行して今一つ実体験に結び付けられずにいるのもまた彼女である。

 だから幻想郷でも上位に位置する強者のくせに、こんな風にろくな魔術も使えないような使い魔にいいようにされてしまうのだが。

 

(まぁ、ムチ打ちとか、スパンキングとか、痛みを与えることでも同様の現象を引き起こすことができて、今のパチュリー様がまさしくそんな状態なんですけどね)

 

 痛みに耐えるために多量の脳内麻薬が分泌され、ランナーズハイを遙かに上回る多幸状態を造り出してしまう。

 ムチ打ちに耽溺するマゾヒストができあがってしまうのは、そういった仕組みがあるからだ。

 

 脳内麻薬に常習性はないが、そもそも薬物への依存には『身体的依存』だけでなく『精神的依存』があり、『身体的依存』が無いから大丈夫というのは危険な考えだ。

 

(それにこれでパチュリー様が身体を虐める、つまり身体を鍛える悦びに目覚めてくれれば日ごろの運動不足も解消され健康的に! これは従者として頑張らなくちゃ(使命感)!)

 

 というわけで、無駄に熱心にご奉仕する小悪魔。

 

(本の中、ゲームの中のコトとタカをくくっているのでしょうけど、ここで身体を鍛える痛みに悦びを覚えるよう堕とされてしまえば、現実のパチュリー様も立派な筋トレマニアの健康狂いです!)

 

「かはっ!」

 

(そして同時に私のマッサージの虜になったパチュリー様は現実でも激しい運動でガタガタになった、生まれたての小鹿のようにプルプル震える無防備な身体を自ら望んで私に差し出すようになるんです!)

 

 小悪魔は陶然とした様子でパチュリーの身体を揉みこんで、

 

(こんな風に!)

 

「……っ!?」

 

(堕ちるんです、パチュリー様! 堕ちてしまうんです!)

 

 必死に耐えるパチュリーを悪魔の…… 捕食者の目で見下ろす小悪魔。

 

(……啼きなさい)

 

 ツボに添えた指を、パチュリーの柔らかな身体にぐりりとねじり込む。

 

「ああああああああ!」

 

「悪魔に身体を許すというのはこういうことです!」とばかりに全力でパチュリーを肉体調教、もとい健康に目覚めさせようと徹底的に快楽を刷り込む。

 まぁ、やっていることは筋肉痛に悩む患者へのまっとうなマッサージであるのだし、だからこそ主従契約の抑止力には引っかからないのだが。

 そうして息も絶え絶えになって倒れ込むパチュリーの耳元に小悪魔はささやきかける。

 

「さぁ、パチュリー様、スタミナの種はまだありますけど、いかがされますか?」

 

 慈愛に満ちた悪魔の微笑を浮かべ、種を差し出す小悪魔。

 

「う、ぁ……」

 

 パチュリーはぞくりと背筋を震わせながら口を開け……

 

 

 

To be continued




 小悪魔×パチュリーのカップリングが大好きなので書いてみた作品です。
 あくまでも主従関係は崩さず、でもパチュリー様にベタ惚れな小悪魔が一生懸命アタックするというお話になります。
 楽しんでいただけると良いのですが。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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キャラメイク続き~〇ップルへの熱い風評被害!

 そして五つのスタミナの種をつぎ込み無理やり体力を付けたパチュリーを見て、受付の男性はこう言った。

 

「なかなか、てつじんのようですね」

「くっ……」

 

 狙っていたタフガイにはなれなかった。

 てつじんもそう悪くない性格ではあるのだが。

 仕方がないと、あきらめようとしたパチュリーだったが、

 

「ではパチェさんを登録します。よろしいですか?」

「あ……」

 

 パチュリーは気付いてしまった。

 これは仮想体験型とはいえゲームなのだ。

 ここで「はい」と答えなかった場合、キャラメイクはやり直しになる。

 つまり先ほどまでのことを繰り返すことに……

 納得がいくまで、何度でも。

 こくんと唾を飲み込んで、パチュリーは震えそうになる声を無理に絞り出し、

 

「いいえ」

 

 と答えた。

 

 

 

(あはははは、最高です! 最高ですよパチュリー様!)

 

 小悪魔は内心、笑いが止まらない。

 ゲーマーにありがちな、納得がいくステータスが得られるまでキャラメイクをやり直すというプレイ。

 

(どちらかというと凝り性な面のあるパチュリー様ならはまってくれそうだと思っていましたが、あれだけ私に啼かされたっていうのに本当に選んじゃうんですね)

 

 愉悦に歪みそうになる口元を意識して引き締め、小悪魔は決意する。

 

(いいでしょう、この際、徹底的に堕として差し上げます! どこまで耐えられるか見物ですね)

 

 

 

 そして何度繰り返したことか……

 パチュリーには幸いなことにスタミナの種を4つ使った時点で10ポイントアップを達成。

 今回は運がいい。

 

(でも11以上アップさせると今度は他の性格も候補に上がるようになるからやめておいた方が良いのね)

 

 ガタガタにされてしまった身体にぼうっとしながら、しかし醒めた意識の一角で思考するパチュリー。

 この辺はさすが七曜の魔女といったところか。

 だから最後の一個は一番役に立つだろう力の種にしようとするが、

 

「いいんですか、パチュリー様」

(こあ?)

 

 小悪魔のささやきが彼女を止める。

 

「スタミナ…… 体力というのは持久力、耐久力ですが、力というのはもっと直接的な筋力のことですよね」

(あ……)

「そう、気づかれましたね」

 

 小悪魔は残酷なほど優しい笑顔を浮かべて言う。

 

「力の種を使ったら、これまでよりずっと凄いことになりますよ」

 

 と。

 

(これまでよりずっと凄いこと……)

 

 パチュリーの身体がぶるりと震え、背筋にゾクゾクとしたものが走るのは恐怖によるものだろうか?

 いや、生粋の魔法使いである彼女にとって感情を制御し恐怖を克服することなど容易いはずのこと。

 それならこれは……

 

「問題、ないわ」

 

 パチュリーは『それ』、つまり『自分の望み』を自覚しながら、自らの選択で力の種に手を伸ばす。

 

 そして彼女の望みはほとんど完全にかなえられた。

 頭脳の片隅で魔法使いとしての冷静な意識が見守る中、彼女の身体とそれに根付く部分は感覚と感情のオーバーフローに翻弄され、小悪魔の手管により啼かされ、そして幸福な眠りの中に堕ちて行った。

 

「どうしたらもっとパチュリー様によろこんで頂けるか、いつだって私はそう考えていますよ」

 

 そんな小悪魔のささやきが、意識を失う寸前のパチュリーの耳朶に届いていた。

 

 

 

「パチュリー様?」

 

 パチュリーは小悪魔に優しく揺り動かされ、意識を浮上させる。

 もっとも魔法使いとしての彼女の意識は途切れることなく周囲を認識していたが。

 そんな自分自身と意識統合。

 そうして身体に走る痛みに、

 

「いたた、これで力もアップ、と」

 

 そう状況を理解する。

 意識を失ってから、さほど時は流れていない。

 そして体力と力のついたパチュリーを見て、受付の男性はこう言った。

 

「なかなか、タフガイのようですね」

 

 目標クリアーである。

 できあがったのは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:4

たいりょく:17

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:11

最大MP:16

こうげき力:12

しゅび力:6

 

ぶき:なし

よろい:ぬののふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 というステータスだった。

 

「ではパチェさんを登録します。よろしいですか?」

 

 という問いに、今度こそ、

 

「はい」

 

 と答える。

 これでキャラメイクは終了である。

 そしてパチュリーは気づく。

 

「そう言えば、あなたのステータスをまだ見ていなかったわね」

「あっ、それなら……」

 

 そして小悪魔に案内されたのはアリアハン城の謁見の間。

 

「さぁ、あの兵士さんに聞いてみてください!」

「何でそんなに興奮しているのかしら?」

 

 まぁ、何を言っても聞き入れそうになかったので、素直に兵士に話を聞いてみる。

 

「戦いでは、前にいる者ほどダメージを受けやすい。仲間たちの並び方にも気をお使いなさい」

 

 ここまでは良い。

 

「こあくま殿は、みなの期待をになう勇者なのですから、ほどほどにたのみますぞ」

「はぁ?」

 

 言ってることがよく分からず小悪魔を見るが、

 

「なっ、何でですか!?」

 

 と、こちらも驚いている様子。

 

「そこは「エッチはほどほどにたのみますぞ」でしょう!? どうして素直に言えないんですか! 男なんでしょう!? ぐずぐずしないでください!」

 

 そうして魂の叫びの本音を漏らす。

 

「人間の男性にセクハラされて顔を赤らめるパチュリー様が見たかったのにーっ!」

「ああ……」

 

 この子、バカだ……

 パチュリーが事前に読み込んだドラゴンクエスト3に関する書籍の記事を思い起こしてみると、この兵士のセリフは勇者の性格で変化するらしい。

 そして先ほどのセリフは勇者が男性専用の性格『むっつりスケベ』か女性専用の性格『セクシーギャル』だった場合のものだった。

 つまり小悪魔の性格はセクシーギャル。

 タフガイなパチュリーと違って意外性の欠片も無い性格であるが、それを伝えるという建前でセクハラしたかったのだろう。

 しかし見事な空振りに終わっていた。

 

「これが噂のアッ〇ルチェック!? 許せません、絶対にです!」

「言っとくけどスマートフォン版の元になってる携帯電話版の時点で消されているそうよ」

「ド〇モの仕業だった!?」

 

 〇ップルへの熱い風評被害!

 

「くぅーっ、これだから「事なかれ主義」の「臭いものにフタ」な日本企業はダメなんです!「言葉狩り」絶対反対です!!」

 

 まぁ、そんな小悪魔は放っておいて、だ。

 この兵士のセリフからすると、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしい。

 スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版にあったすごろく場が無くなっていたりとか、ゲーム内容に変化があるわけだ。

 

「それはそれで面白そうだけど」

 

 と、パチュリーは思う。

 変化があるということはゲームバランスが変わっているということ。

 スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版の情報は多く、攻略法についても語り尽くされている感がある。

 それに対してスマートフォン版等の情報は少なく、まだまだ検証の余地があった。

 

 なお、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:11

すばやさ:17

たいりょく:8

かしこさ:9

うんのよさ:8

最大HP:15

最大MP:18

こうげき力:23

しゅび力:16

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 これが小悪魔のステータス。

 

「……商人の私の方が、力が強い?」

「しょうがないじゃないですか。ひたすらキャラメイクをやり直したパチュリー様と、万能型と言えば聞こえがいいんでしょうけど尖ったところの無いセクシーギャルな私と比べたら、そうなりますって!」

 

 まぁ、それもそうか。

 

「悪い選択ではないですよね? 勇者は力と体力に優れ、それを伸ばした方が強いとはいえ、今回は商人のパチュリー様との二人旅です」

 

 小悪魔は主張する。

 

「魔法を使えるのは勇者の私だけですから、MP(マジックパワー)を伸ばすためにも賢さは必要。それに二人とも行動不能となった時点で全滅ですから、状態異常を防ぐ運の良さも無視できないと思いますし」

 

 そういう意味ではセクシーギャルは悪い選択ではない。

 ないが……

 

「勇者の性格診断で、何も考えずに素で答えていたら自然とこうなった?」

「………」

「図星、ね」

 

 そういうことらしい。

 

「まぁ、それはいいから王様からもらったお金と装備を全部渡しなさい」

「うわっ、カツアゲですかっ! わたし勇者なのにっ!!」

 

 ほら、と手を差し出すパチュリーにドン引きな小悪魔。

 

「あなたは何を言っているの?」

「そ、そこで心底不思議そうな顔をされても…… まさか『使い魔のものは主人(わたし)のもの』とでも言うおつもりですか? 酷すぎますっ!?」

「……酷いのはあなたの頭でしょう」

 

 と言ってパチュリーは小悪魔の頭をがっしりと両手でつかむと、

 

「思い出しなさい」

 

 と、静謐な色を宿す瞳でじっと小悪魔の目をのぞき込みながら命じる。

 しかし……

 

「あれ? 勇者の特技『おもいだす』が無い? レベル1から持っているはずなのに?」

「それはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だけのものだから」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、これらの特技は省略されているのだ。

 

「知っているなら無茶を言わないで下さいよ!」

 

 抗議する小悪魔だったが、パチュリーは意に介さない。

 

「もっと思い出しなさい」

「いえ、だから『もっとおもいだす』もないですから!」

 

 そもそも最速でもレベル8にならないと習得できない『おもいだす』の上位版技能だし。

 

「深く思い出しなさい」

「『ふかくおもいだす』もです!」

 

 こちらはさらにレベル20以上にならないと習得できない最上位バージョンだ。

 パチュリーの瞳がすぅっ、と細められる。

 

「《使役される者》よ、《繋がれた者》よ、《付き従う者》よ、我が忠実なるしもべ、鉤と鎖に繋がれた小者よ」

 

 パチュリーが舌の上で転がす詠唱に、小悪魔を縛る主従契約が鉤と鎖による緊縛というなにげにエロい形を取って視覚化される。

 このドラクエ世界でのパチュリーは商人だが、元の世界の主従契約が失効するわけではないのでこのように小悪魔に対しては術式を行使することができる。

 

 なお悪魔との契約は真名で括る西洋魔道の術だが、パチュリーの根本は属性魔法にある。

 属性魔法は精霊魔法とも言い、文字通り大自然に存在する精霊の力を借りて行使する力。

 そしてこの精霊(スピリット)という存在は、直截に名を呼ばれることを嫌う。

 真名などもってのほかで、『お隣さん(ネイバー)』『良い友達(グッドフェロー)』などなど婉曲な呼びかけを好むのだ。

 これは魔法使いや魔術師など、力ある者が直接、名を口にすると召喚や命令となってしまうことがあるからでもある。

 

 だからパチュリーも小悪魔の真名を握ってはいるものの、口に出したりはしない。

 それは優しさのようにも感じられるが、小悪魔ごとき小者、真名を口にせずとも圧倒的な力量差で押し切りねじ伏せることができるという傲慢さでもあるのかもしれない。

 

 そんなパチュリーの詠唱は続く。

 

「己の主の言葉がわからぬか。己の記憶はそれほどに儚いか」

 

 そして主人と従者の間に繋がれた魔術的なつながり、パスを通じて魔法が行使される。

 

「土符『スクリーンショット』」

 

 五行の『土』は五神の『意』に対応し、思考、記憶をつかさどる。

 そうして宙に映し出されたのは、小悪魔の過去の記憶。

 

 

 

To be continued




 キャラメイクの続き。
 なんだかエッチい感じがしますが、心のピュアな方ならそんなことはないと分かってくれますよね?
 そしてもちろんパチュリー様はカツアゲしているわけではないのです、というのは次回更新で。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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なぜ王様は勇者に最下級クラスの武具や小銭しか渡さないのか

 玉座の間でアリアハンの王様に会う小悪魔。

 

「よくぞ来た! 勇敢なるオルテガの息子…… いや娘じゃったか…… しかし男に勝るとも劣らぬその精悍さ。こあくまはさすがオルテガの子供じゃな」

 

 中略(スキップ)

 

「しかし一人ではそなたの父、オルテガの不運を再びたどるやも知れぬ。町の酒場で仲間を見つけ、これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」

 

 こあくまは50ゴールドと武器防具を受け取り袋に入れた。

 

「ではまた会おう、勇者こあくまよ」

 

 

 

「分かったかしら?」

 

 強引に記憶を吸い出され、そのショックにビックンビックンと痙攣している小悪魔にパチュリーは問う。

 

「な、何がですか?」

「分からないならもう一度……」

「やめてください、しんでしまいます」

 

 そう懇願するのでパチュリーは仕方なしに言葉で説明する。

 

「アリアハンの王様はお金と武器防具を渡す時「これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」と言ったでしょう?」

「あっ!?」

 

 それでようやく小悪魔は理解する。

 つまり、

 

「王様から渡されたお金と装備って仲間のためのものであって、私自身には1ゴールドたりとも渡されていないってことですか!?」

 

 そういうことだった。

 

「魔王を倒す勇者に50ゴールドとあれっぽっちの装備しか渡さないなんてどういうこと、って思っていたのに、それすら勇者自身のためのものじゃなかったなんて……」

 

 乾いた声で笑う小悪魔。

 

「せめて衛兵さんの持ってる槍とか鎧兜を……」

「ああ、あれは儀礼用の飾りよ」

「はい?」

「パレードアーマーと呼ばれるハリボテ。軽量化のために実用性とか耐久性は考慮されていないものなの。槍も同様ね」

「そ、そんなもので……」

「この国って鎖国中だから問題ないんじゃない?」

 

 江戸時代の甲冑みたいなものだ。

 各大名の象徴のようなもので実際に使用されることはなく、実用性より装飾性に重きが置かれていたという。

 

「そ、それじゃあ勇者がソロで魔王バラモスを倒した場合にくれるバスタードソードとか……」

「このアリアハンは弱いモンスターしか出ない死の危険が少ない場所。ここでの戦闘は練習モード、チュートリアルに相当するわ」

 

 パチュリーは説明する。

 

「実戦における立ち回りを学ぶためにあるんだから、最初から強力な武具をもらって済ませてしまったら練習にならないでしょう?」

 

 死ぬ危険の少ないここで基本的な立ち回りを覚えないで武器の性能に頼った戦いをしていると、後でそれが通用しない強敵に出会った時点で詰む。

 

 また身の丈に合わない強い武器を持ったせいで、それを自分の実力と勘違いしてしまう。

 そのせいで無謀にも強力なモンスターに挑んで、あっけなく死ぬというパターンもありえる。

 

 ネット小説でも、普通の人間が勇者の剣を手に入れて「俺TUEEE (おれつえええ)」しているだけの話にはツッコミが来るだろう。

 そういうことだ。

 

「ちなみにバスタードソードは『激しい怒りが込められた剣』と説明されているけど」

 

 公式ガイドブックの記述だ。

 それを聞いて小悪魔はうなずく。

 

「ああ、やっぱり「あるなら最初から渡せ」っていう勇者の怒りが込められているんですね。それともソロでバラモスを苦労して撃破した末にもらえるこれが、入手後すぐに下の世界で手に入ることに対する怒りでしょうか?」

 

 パチュリーは薄く笑ってこう答える。

 

「こういう説もあるわ。込められた怒りの正体は「一人旅をするつもりだったのなら軍資金と装備を返せ」と恨む王様のものだった、という……」

「済みませんでした!」

 

 即座に王様から渡された50ゴールドと装備、棍棒二本にひのきの棒、旅人の服を差し出す小悪魔。

 

「サイズ調整をお願いね」

 

 受け取られずに突き返される旅人の服に小悪魔は、

 

「使い魔使いが荒いです。ブラック労働反対です!」

 

 そう主張するが、

 

「……一度これを鉄槌として振り下ろすか、その口にねじ込まないとダメかしら?」

 

 と棍棒を装備するパチュリーに恐怖する。

 虚弱体質なパチュリーだったが、身体強化により持っている本で直接相手を殴る、というワイルドで強力な攻撃法も持つ。

 小悪魔は、パチュリーが魔法による弾幕を潜り抜けてきた鬼、種族の能力として『鬼の力』、すなわち怪力を誇る相手をこれで壁まで吹っ飛ばすところを目にしたことがある。

 つまり打撃攻撃にも(身体能力に何らかのブーストが加われば)十分な適性を持っているのが魔法使いパチュリー・ノーレッジなのだった。

 そして今現在、パチュリーの力はゲームシステムの補正で勇者である小悪魔を上回っている……

 

 城の片隅で涙目でちくちくと針を刺す小悪魔。

 こうしてサイズを合わせると見た目もそうだが、何より動きやすさが違うのだから仕方が無いとパチュリーは思う。

 とあるSF小説の主人公も、

 

「ちょいとばかり賢くしてやろうか、坊や。軍隊にはサイズはふたつしかないんだ…… 大きすぎるか、小さすぎるかだ」

 

 と言われて針と糸を渡され、チャレンジしていたではないか。

 

 

 

「これでいいわね」

 

 小悪魔によりサイズ調整がなされた旅人の服。

 雨風避けや野営の為のクロークを備えた、旅人必携の丈夫な服を着込み、棍棒を手にしたパチュリーはうなずく。

 

「要らないものは売り払って、武器を買い替えましょうか」

 

 パチュリーは武器屋に向かい棍棒二本とひのきの棒、そして最初に着ていた布の服を売り払うことにする。

 結局、棍棒は小悪魔を脅すためにしか使わなかったという……

 

「パチュリー様の匂いが染みついた服…… それを売るなんてとんでもない!」

「人の着ていた服に顔をうずめないでちょうだい」

 

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

 

「ちなみに私は素でパチュリー様に魅了されているので、即座に恍惚・朦朧状態にされてしまいます」

「どうしてそこで胸を張ることができるのか本気で分からないし、そもそも人の着ていた服に勝手に変な特殊効果を設定しないでくれる?」

「いえ、犬にとって主人の匂いの付いた衣服がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるように、私たち使い魔には主人の魔力の残り香が付いた服はごちそう……」

「嗅ぐな!」

 

 さすがにそれはパチュリーでも恥ずかしい。

 小悪魔から取り上げるとさっさと売ってしまうことにする。

 そんなパチュリーに小悪魔は真顔で、

 

「服についてはパチュリー様の写真…… この世界だと姿絵と一緒に売れば、高値で買い取ってくれそうですが」

「主の尊厳を切り売りするような発想は止めてもらいたいのだけれど」

 

 口ではそう言いつつもゾクリとした戦慄を、そして下腹部に甘い疼きを覚え、戸惑うパチュリー。

 自身が絶対的ともいえる強者ゆえに、現実ではかなえられることのない『自らの尊厳を売り渡す』という未知の背徳の悦びが彼女を魅了し、パチュリーの精神と肉体は被虐願望に蝕まれてゆく……

 

「おかしなナレーションを付けてまでセクハラするのは止めなさい!」

 

 真っ赤な顔をして小悪魔の戯言を否定するパチュリー。

 こうして外の世界の『ぶるせら』と呼ばれる商売に着想を得た小悪魔の提案は却下されたのだった。

 

 

 

 ぷりぷりと怒るパチュリーの背中を見守る小悪魔。

 口の端がきゅっと吊り上がり、その瞳が愉悦にけぶる。

 

(ふふふ、パチュリー様、えっちな欲求や欲望というのは蓄積していくものなんですよ)

 

 主従契約の抑止力に触れない程度のセクハラでも……

 たえず繰り返すことで少しずつ、死に至る毒を流し込むかのようにパチュリーの心と身体を媚毒で満たしていくことは可能なのだ。

 最後にはコップいっぱいに張られた水があふれんばかりになるのを表面張力によりかろうじて保っている、そんな具合になる。

 そうしてふとした拍子に零れ落ちる……

 それを味わう瞬間を、どんな美酒にも勝る甘露な雫の味を夢想して、小悪魔はブルルと身体を震わせる。

 

(今、想像だけで達しちゃいました……)

 

 そして先ほど小悪魔が語った、

 

> さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで墜とされてしまう。

 

 状態異常の効果が蓄積して重症化していくという話。

 これはセクハラであると同時に、警告でもある。

 パチュリーが自らの欲望に負け、堕ちたその時に、

 

「だからあの時言ったじゃないですかパチュリー様。それなのにどうして『こうなること』を選んじゃったんですか?」

「気付くはずが無い? いいえ、パチュリー様ほどの方が気づかないはずがないじゃないですかー」

「つまりパチュリー様は心の奥底に私にぐつぐつ煮込まれて、とろとろに蕩かされてしまいたいという願望を持っていた。だからこそ無意識に気づかなかったことにしちゃってたんですよ」

 

 と嬲るための、そして事前に警告したにもかかわらずこうなってしまったのは、パチュリーが自ら望んだからなのだと刷り込むためのもの。

 

(愛していますよ、パチュリー様。ですからどこまでも甘く、優しく、ていねいに堕落の悦びに沈めて差し上げます)

 

 慈愛に満ちた表情でほほ笑む小悪魔。

 

(だから安心して堕とされてくださいね)

 

 小悪魔が謀る、パチュリーを至上の悦楽と被虐の奈落へ堕とすためのゲームは、始まったばかりなのだ。

 

 

 

 一方、パチュリーは気を取り直して……

 装備の売却で手に入ったお金と王様からもらった軍資金を合わせた104ゴールド。

 それを使って100ゴールドで売られているアリアハンの城下町で一番強力な武器、青銅製の小剣を買うことにする。

 

 

どうのつるぎ

 主人公が冒険の最初に持っている両刃の剣。

 青銅製で、切るよりも叩いて攻撃する。

(『SFC版公式ガイドブック』より引用)

 

 

「切るより叩いて、というのがポイントね」

「そうなんですか?」

 

 よくわかっていない様子の小悪魔にパチュリーは説明する。

 

「剣というのはただ振るだけではダメで、しっかりと刃筋を立てないと斬ることができないものなの。だから、叩いてもダメージが与えられるというのは初心者にとっては使いやすいでしょうね」

「なるほどー」

 

 小悪魔は感心するが、

 

「あれっ? それじゃあ棍棒やメイスなんかの打撃武器の方が良いのでは?」

「確かに、振って当たればダメージになる打撃武器は扱いやすいけど、それじゃあいつまで経っても剣の扱いを覚えることができないでしょう?」

「ああ、そうですね」

「剣の扱いが練習できて、刃筋を立てることに成功しても失敗しても与えるダメージに大きな違いは出ない。そんな銅の剣は初心者にぴったりなのよ」

 

 そういうことだった。

 

「そもそも初心者に重く、刃渡りが長く、切れ味が鋭い立派な剣なんて持たせたら、剣に振り回されて自分の足を斬りかねないしね」

 

 剣は重いのだ。

 外の世界の時代劇なんかだと刀を軽々と振っているが、真剣はそんな真似などできないほどにずっしりと重く、西洋剣はさらに重い。

 そして日本刀は両手を使って操るが、ドラクエの剣は、盾を使うことからも分かるとおり片手で扱わなければならない。

 これは容易なことではない。

 振り回す力はもちろん要るが、安全のためには止める力が絶対に要る。

 そうでないと勢い余って自分の足を斬ってしまうのだ。

 そういう意味でも、銅の剣なら割と安全なのだった。

 

「それにしても……」

 

 と小悪魔は店に並べられた銅の剣を眺めながら言う。

 

「銅の剣って、青銅剣なんですね」

「まぁ、そうなるでしょうね」

 

 この辺は諸説あるが、パチュリーが読んだ公式攻略本では青銅の剣、という解説が記載されていた。

 もっとも同時に英語表記では『Copper sword』とされていたが(青銅はBronze)

 

「銅は単体では柔らかすぎるから、道具に使うなら合金にするのが普通ね」

 

 コンコン、と剣の平を叩き、品を確認するパチュリー。

 

「何をしているんですか?」

 

 小悪魔が訊ねると、パチュリーは笑って答えた。

 

「青銅の剣は型に溶かした金属を流し込んで造られる鋳造品よ。スが入ってたり、細かいヒビが入ってたりしたら大変だから、こうやって確かめるわけ。魔物に遭って、剣で叩いて折れました。ハイこの世からさようならは嫌でしょう」

「確かにそれはシャレになりませんね……」

 

 実際、外の世界の銃剣など軍用の刃物類は柔らかめの刃を持つことが多い。

 素人でも研ぎやすいように硬度を落としているというのもあるが、本質的には「硬くて折れるよりは、柔らかくても曲がってしまう方がマシ」という思想からくるものだ。

 そうしてパチュリーは一本の青銅製の小剣を選び出し、自分のために購入する。

 

「しかし、どうして青銅の剣なんでしょうね?」

「アリアハンでは石炭が取れないから、という説があるみたいね」

「石炭? 鉄鉱石じゃなくて?」

「鉄を精錬するには青銅に比べ高温が必要なのよ。でも石炭が無いし鎖国で輸入もできないとなると……」

「炭を使うしか無くなりますね」

 

 昔の日本のたたら製鉄みたいに。

 

「ええ、そして木を伐採して炭を大量に使うとなると、今度は自然破壊が問題になる」

 

 閉じた世界での自然破壊はかなりまずい。

 中世の日本でも製鉄のため、多くの森林が消失し大変なことになったという。

 

「だからアリアハンでは鉄より少ない燃料で造れる青銅器が一般的になったんでしょうね」

 

 レーベの村で売っているブロンズナイフは公式ガイドブックにて、

 

 

ブロンズナイフ

 刃を欠けにくく加工してある青銅製のナイフ。

 料理などにも使われる軽いナイフだ。

 

 

 とされている。

 つまり青銅器が調理にも使われるほど浸透している、普段使いされているということだろう。

 

 逆にアリアハン大陸で売っている武具で、確実に鉄が使われているらしいのは鎖鎌だけ。

 これは農具からの転用品で、しかも刃は小さい。

 国内で希少な鉄は食料生産のための農具に優先して使用され、その使用量もできるだけ少なく有効に活用できるよう工夫されているということなのだろう。




 王様から渡される50ゴールドと武器防具のお話。

「なぜ王様は勇者に最下級クラスの武具や小銭しか渡さないのか」

 とツッコむ方も多いのですが、それに関わる事柄についてのパチュリー様による考察でした。

 そして元気いっぱい、セクハラに励む小悪魔。
 まぁ、やってることは、

「パチュリー様にえっちなことを意識させ、欲求不満になったところでおこぼれをもらいたい」

 ってだけなんですけどね……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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どうして勇者はツボやタンスを漁っても捕まらないのか

「鞘(さや)の造りは…… まぁ、合格といったところかしら」

 

 パチュリーは剣を納める鞘を手に取って確かめる。

 

「鞘がそんなに重要なんですか?」

 

 小悪魔が疑問を挟むが、

 

「足元が不安定な野外の旅、転んだり足を滑らせたりしたときに、刃先が鞘を突き破ったらどうなるかしら?」

「うっ……」

 

 小悪魔にも分かったようだ。

 

「そんなことが起これば大怪我をするわ。だから剣やナイフなどの刃物類は安全に携行できる鞘、シース無しには使えないの」

 

 幻想郷の外の世界でも落馬の危険があるカウボーイは安全な折り畳みナイフに切り替えてしまっているという話だ。

 ハンターの使う解体用ナイフも。

 

 鞘の他には、タッチアップ、応急的に切れ味を回復させるのに使う小型の携帯砥石が一つ付く。

 そして、

 

「それじゃあ、砥石を借りるわね」

 

 パチュリーは武器店の店主にそう断ると、店先に置いてある砥石を確かめる。

 

「オイルストーン? じゃなくて水砥石ね」

 

 目の粗さが違うものを三本、水を張ったタライに漬ける。

 

「オイルストーン?」

 

 首をかしげる小悪魔に、パチュリーは説明する。

 

「砥石には水砥石のほかに、欧米で使われるオイルストーンがあるわ」

「どう違うんですか?」

「一般的には水砥石は柔らかめで、水をかけて使うわ。炭素鋼は食いつきが良く研ぎやすいから水砥石がいいとされる……」

 

 日本人になじみ深いのはこちら。

 

「対して、オイルストーンは水が貴重な荒野でも使えるよう、オイルをかけて使う物なの。硬めですり減りにくく平面を長く保てるわ。ステンレス鋼は炭素鋼に比べて研ぎにくいから、オイルストーンを使うのがいいとされているわね。水砥石だと柔らかいからステンレス鋼の刃物を研ぐのに使うと減りが早いのよ」

「なるほど」

「まぁ、水砥石に慣れているならそれでステンレス鋼の刃物を研いでも特に問題は無いわ」

「へっ?」

「減らないように使えばいいんだから」

「……それって技術を持っている人にしかできないんじゃ」

「だから言ったでしょ、慣れているならって」

 

 水砥石を水に漬けること10分。

 天然砥石は水を吸わない、とも言われるが実は石材によっては違ったりする。

 だから念のための処置だ。

 

「じゃあ小悪魔、三つの砥石を交互にすり合わせて平面を出して」

「はい?」

「刃物を研ぐコツは、常に一定の角度を保つことだけど」

 

 パチュリーは説明する。

 

「砥石は使っているうちにすり減って真ん中がくぼんで行くの。それじゃあ、角度を保てないでしょ」

 

 だから砥石同士をすり合わせて平面を出してから研ぐのだ。

 

「……結構重労働ですね、これ」

「普段から平面出しをしていればさほど。さぼっていると確かに大変かもね」

 

 それでも何とか、

 

「くぅ~疲れました。これにて完了です!」

 

 平面出しが終わる。

 

「それじゃあ、研ぎましょうか」

 

 パチュリーは砥石に水をかけて銅の剣を研ぎ始める。

 最初は荒研を使って。

 角度を一定に保ち、台上に固定した砥石の上を、刃を一定の角度に保ったまま往復させる。

 

「慣れてますね、パチュリー様」

「まぁ、私は生粋の魔法使いであると同時に魔女でもあるから」

 

 魔法使い、とされるパチュリーだが『花曇の魔女』との二つ名でも呼ばれるとおり、同時に魔女であるとも言われる。

 

「魔女の扱う力は魔術や呪術だけでなく、まじない、占い、薬草(ハーブ)を使った生薬の技術など、魔女と関連付けられる知識、技術、また信仰も含まれる」

 

 この辺は諸説あって論じる者によって主張はまちまちではあるのだが。

 

「そして魔女と言うだけに主体は女性。術や儀式に使われる魔具も、女性、主婦が手に入れられるものが用いられたわ」

 

 包丁(キッチンナイフ)や盃(ゴブレット)、ナベ(アーサー王伝説で有名な『聖杯』の原型はケルト神話の『再生の大釜』にあるとも言われる)、燭台などなど。

 無論、術で使う物はアセイミーナイフ(athame アサメイとも)のように聖別され、普段遣いはしないのだが。

 

「だから道具の手入れ、キッチンナイフを研ぐなんていうのも当たり前にできるわけ」

 

 切れない包丁ほどイライラさせられるものは無いのだから。

 

「これは青銅剣だから欠けないよう、ハマグリ刃に仕上げましょうか」

「ハマグリ刃?」

「刃の断面をハマグリのように曲面を描くようにするものね。出刃包丁とかナタなどに使われる、刃を欠けにくくする研ぎ方よ」

 

 レーベの村で売っているブロンズナイフに施された『刃を欠けにくく加工してある』というのはこのハマグリ刃を意味するのだろう。

 

「ちなみに剣は肉を斬るものだから、使うのは荒研と中研。仕上げ砥まで使うと肉の脂であっという間に切れなくなるから」

 

 これに異を唱える者も居るが、そもそも刃物を研ぐ技術というのは本当に人によって言うことが違う。

 正解など無いと言ってもいいので、パチュリーの主張もまた色々な説のうちの一つと捉えるのが良い。

 しかし、小悪魔には別のことが気にかかったようで、

 

「……あれっ!? だったらなんで砥石を三つも使って平面出しをしたんですか! 二つしか使わないならそれだけをすり合わせれば良かったじゃないですか!」

 

 そう抗議するが、これにはれっきとした理由がある。

 

「二つだと曲面同士が組み合わさって平面が出ない可能性があるからよ」

 

 極端な話、片方が凸で片方が凹な曲線を描いているモノ同士をすり合わせても平面にはならないのだ。

 

「三つを交互にすり合わせれば、それが防げるわけ」

 

 そういうことだった。

 

「あなたの剣も研ぐ?」

「は、はいできれば」

「そうね、素人がやると研ぎの角度が一定に保てず丸刃にしてしまうから」

 

 そしてパチュリーは手を止め、小悪魔を見る。

 

「もっとも磨り上げるなら、その辺は自分でやってちょうだい」

「すりあげ?」

「自分の体格や用途に合わせて剣を縮めることよ」

 

 実用品の日本刀などに見られる加工だ。

 時代の流れや流派、個人の体格に合わせ刀剣の長さを変えることは、別に珍しいことではない。

 ドラクエのようなファンタジー世界の剣であっても有効だろう。

 ダンジョンや屋内など狭いところでは剣が長すぎると振るえないこともあるし。

 

「普通は茎(なかご)側…… 根元の方を削って短くしていくのだけど、この銅の剣は柄まで一体形成の鋳造品だから先端を削ることになるわね」

「大変ですね」

「だからやりたいなら自分でやりなさい」

 

 さすがにそこまではやってやる気はしないパチュリーなのだった。

 

 

 

 次はアリアハンで手に入るアイテムの回収だったが……

 

「それじゃあ小悪魔、よろしくね」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 慌てる小悪魔。

 

「そういう隠されたアイテム探しも冒険の醍醐味なんじゃありませんか! 本の中の物語を体験できる、今だからこそやれることですよ!」

 

 小悪魔の熱心な勧めにより、

 

「……それもそうね」

 

 と納得するパチュリー。

『本の中の物語を体験できる、今だからこそやれること』が決め手となったらしい。

 本の虫の彼女らしい考え方である。

 

 一方、小悪魔はというと、

 

(仮想体験なゲームであれはきついですよ。何の罰ゲームですか……)

 

 と、汚れ仕事を押し付けられなかったことにほっとしていた。

 何しろドラクエの勇者というやつは、

 

 

 民間人らしき女性の悲痛な叫び。

 彼女を押しのけて民家に押し入り、無理矢理クローゼットを開けるのは勇者と呼ばれる者だった。

 

女性「おやめください!」

勇者「あるじゃねえかよ! コインと剣がよ!」

女性「おやめください! 勇者さまっ!」

ナレーション「もう勇者しない」

 

 

 というもの。

 見下ろし式のデフォルメされたゲーム画面なら、まぁゲームだと思って納得できるかも知れないが、登場人物目線でプレイする仮想体験なゲームでこれは無い。

 しかし……

 

 パチュリーはアリアハンの城と街をめぐると、

 アリアハン城1階のタルから、毒消し草、小さなメダル、

 アリアハン城2階のタンスからラックの種を、

 ルイーダの酒場の外に置いてあったタルから25Gを、

 勇者の実家のタンスから力の種とツボから薬草、それから祖父の部屋のタンスから5Gを手に入れた。

 

「はい?」

「どうしたの、小悪魔」

「な、なんで人目を気にせず武装した人間が民家や城に押し入り堂々と窃盗行為を働いているのに、周囲の人間は何も気にしていないんですかー!!」

 

 と、小悪魔が叫ぶとおり、パチュリーの行為はスルーされていた。

 

「それは住居精霊(ヒース・スピリット)や都市精霊(シティ・スピリット)の疎外(エイリアネーション)や隠蔽(コンシールメント)、混乱(コンフュージョン)の力(パワー)が働いているからでしょう?」

「はい?」

「それに私が拾ったものはすべて住人の財産ではなくて、精霊の隠し財宝よ。それをゆずってもらっただけ」

「えっ? えっ? えっ?」

 

 混乱する小悪魔を生徒に、パチュリーによる魔法講座が開かれる。

 

「私が使う魔法がどんなものかは知っているでしょう」

 

 それは質問ではなく断定。

 もちろん小悪魔も理解している。

 

「それはもう、七曜の属性魔法ですよね」

 

『火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力』

 すなわち、木、火、土、金、水の五行に日と月の2属性を加えた属性魔法を使いこなすのが魔法使いパチュリー・ノーレッジである。

 

「属性魔法は精霊魔法とも言い、文字通り世界に遍在する精霊の力を借りて行使する力。じゃあ、この精霊(スピリット)というのは?」

「西洋魔術で言う地水火風の元素精霊(エレメンタル・スピリット)が有名ですけど」

 

 小悪魔が言っているのは、地のノーム、水のウンディーネ、火のサラマンダー、風のシルフ。

 地水風火の四大元素に基づく四大精霊というものだ。

 

「でも、パチュリー様の使われる魔法はまた概念が違うんですよね。五行は東洋魔術の……」

「そうね、だから一口に精霊(スピリット)と言っても魔法様式によってさまざまな捉え方があるわけ」

 

 そして、

 

「この世界で勇者を導いているのが精霊ルビス」

「そうでしたね」

「人格を有し人に似た姿を取ることもできる、この物語世界でも最上位の精霊。一番近いのはシャーマニズム様式の魔法概念における自然精霊(ネイチャー・スピリット)の上位精霊、グレート・スピリットのそのまた上、のようなものね」

「自然精霊(ネイチャー・スピリット)、ですか?」

「自然のあらゆる場所に精霊は息づいているという考え方よ。風が吹く場所には旋風精霊(ストーム・スピリット)が川には河川精霊(リバー・スピリット)が、山には山岳精霊(マウンテン・スピリット)が居て平原には平原精霊(プレイリー・スピリット)が居る」

 

 神道における、あらゆるものに神が宿るとされる八百万の神の概念と同様、もしくはそれに近いものだ。

 

「それじゃあ、人工の街には居ないわけですね」

「それは違うわ。人の住む住居には住居精霊(ヒース・スピリット)が、それ以外の場所は都市精霊(シティ・スピリット)の領分ね」

「住居精霊(ヒース・スピリット)ですか? 先ほども仰っていましたね。どういう存在なんですか?」

「家の精(ブラウニー)とか白い婦人(シルキー)なんて呼ばれるものね」

 

 ドラクエだとブラウニーは後にモンスターになっているが。

 

「紅魔館(うち)にもたくさん居るでしょう?」

「はい?」

「妖精メイドやホフゴブリンたち」

「え、ホフさんが?」

「魔法様式によってさまざまな捉え方がある、そう言ったでしょう? その辺、定義は色々だし境目は曖昧なのよ」

 

 ホフゴブリン…… 一般的にはホブゴブリンと呼ばれる存在は、ゲーム等ではモンスターであるゴブリンの大型種という扱いだが、伝承上では密かに家事を手伝う善良な妖精のことを言う。

 紅魔館で働いているのはそちらである。

 小悪魔は苦笑して、

 

「外見だけ見ると邪妖精のようなんですけどね。紅魔館では土曜の夜に魔女がサバトを行い、ホフゴブリンや妖精たちと交わり、淫らな行いをやっていると評判ですし」

 

 などと言う。

 

「は?」

 

 目を点にするパチュリー。

 紅魔館の魔女といったら自分のことなので当たり前だ。

 小悪魔はそんなパチュリーの表情の動きをおかしそうに見ながら説明を付け足す。

 

「女性しか居なかった紅魔館でホフさんたちを引き取ったのはその用途のためだって……」

「何よ、その熱い風評被害は」

 

 パチュリーはとても嫌そうに顔をしかめる。

 しかし小悪魔はきゅっと頬を吊り上げて、

 

「でも、これも仕方がないことなんですよ。ただでさえパチュリー様は幻想郷に住まう者たちの憧れの的なんですから。神様みたいに崇拝してる者も居ますし。その上パチュリー様は女淫魔(サキュバス)でも嫉妬するぐらい魅力的なお姿……」

 

 などと詭弁じみたことを言い出す。

 

「でも、そのお力故、触れることもできませんからみな、その気がなくても少しおかしくなっているんです。きっと今夜もパートナーを抱きながら、または一人でしながら頭の中でパチュリー様を冒涜する男たちが、いいえ、女たちもいっぱい居ます」

 

 そうささやく小悪魔。

 

「そんなパチュリー様が…… みんなが欲しがってるパチュリー様が、ホフさんたちのような、パチュリー様にとっては取るに足りない、言葉は悪いですけどザコに過ぎない存在に組み敷かれ、いいように汚される。そんな倒錯した淫らなシチュエーション……」

 

 それはつまり、

 

「彼ら、そして彼女たちは妄想の中でパチュリー様をいやしくおとしめることで興奮しているんです」

 

 パチュリーが背筋をぞくりと震わせたのは、嫌悪のため……

 そのはずだったが、小悪魔の深い光をたたえた瞳を見ていると、それだけの単純な感情ではないような気もしてくる。

 魅了眼でも使っているのかともいぶかしむが、そういった働きかけは主従契約の抑止力に止められるはずだし、そもそも小悪魔とパチュリーの間に横たわる圧倒的な力量差から効くはずが無いのだ。

 しかし、小悪魔はそんなパチュリーの内心を見透かしたように、

 

「そしてパチュリー様は、そうやっておとしめられることにぞくぞくしてる」

「なっ!?」

「違い…… ませんよね」

 

 先ほどまでの妄言は、小悪魔の妄想でもある。

 つまりこの娘は主人であるパチュリーを想像の中でのこととはいえ、いやしくおとしめることに興奮しているのだ。

 そしてパチュリーはおとしめられることに……

 

「――いい加減、正気に戻りなさい」

「ふがっ」

 

 小悪魔の鼻をつまんで、彼女を妄想の世界から引きはがすパチュリー。

 

「話を戻すわよ」

「ふぁい」

 

 と涙目になって返事をする小悪魔に説明を再開する。

 

「面倒になったから結論だけ言うけど、大精霊であるルビスが導く勇者の冒険を、ルビスの下に位置する自然精霊(ネイチャー・スピリット)たちが助けてくれているわけ。彼らの疎外(エイリアネーション)や隠蔽(コンシールメント)、混乱(コンフュージョン)といった力(パワー)が働いているから鍵さえ開ければどこにでも入れるし、不審に思う者は居ない」

 

 これら『自然精霊(ネイチャー・スピリット)』が持つ力(パワー)は具体的には、

 

『隠蔽(コンシールメント)』

 対象を周囲に紛れさせ、発見を困難にする。(それゆえ城や家に勇者が進入しても発見されにくい)

 

『混乱(コンフュージョン)』

 対象を混乱させ、術者の領域でさまよわせる。

 家の中だと延々と壁に向かってぶつかり続ける(ドラクエで街の住人が部屋の中でウロウロし、時には壁に向かって足踏みしているアレ)、戸棚の扉を部屋のドアと間違えるなど。

 また、何かしようとしたり決断しようとすることが非常に困難になる。(それゆえ城や家に勇者が踏み込んできても、通報しようとか咎めようという気持ちを持つことがかなり難しくなる)

 

『疎外(エイリアネーション)』

 対象を他者から認識できないようにする。

 ただしこれは妖精のいたずらのように対象をからかうためのものなので、他者に気付かれないことでドアや門を閉められて挟まれる、突き飛ばされる、踏まれる、閉じ込められるなどの危険が降りかかってくる。

 それらを回避するには能力、もしくは運が必要。

 

 などというもの。

 こんな作用が働くために、家屋に浸入されても、それを察知されなかったり、不審に思われたりしないわけである。

 

「そして精霊のかくれんぼに付き合って見つけてあげれば、贈り物(ギフト)として彼らの隠し財宝、アイテムがもらえる」

「精霊の隠し財宝って…… その家の人の物を盗ってるわけじゃないんですね」

「そうね。そして多分、ダンジョンの宝箱なんかは財宝を守る精霊スプリガンのものなんじゃない?」

 

 そう考えれば説明が付くのか。

 

「モンスターがまれに持っている宝箱も本来はその土地の精霊のもので、モンスターを退治してくれたお礼としてくれる…… そういうことなんでしょうね」

 

 とパチュリーは締めくくるのだった。




『どうして勇者はツボやタンスを漁っても捕まらないのか』でした。
 いろいろな説がありますけど、精霊魔法の使い手であるパチュリー様視点な解釈ですね。
 参考にしたのはテーブルトークRPG『シャドウラン第2版(2nd)』のシャーマンが召喚する自然精霊の概念ですが。
(最新の版でもメジャーな魔法様式としてシャーマンのシャーマニズム様式は変わらずありますけど)

 そして相変わらずパチュリー様にせっせとセクハラを働く小悪魔なのでした……


>「もっとも磨り上げるなら、その辺は自分でやってちょうだい」

 ファンタジー作品だとゴブリンスレイヤーさんがやってましたね。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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スライムスレイヤー

「それで得られたアイテムとお金の分配なのだけれど」

「分配、ですか?」

「ええ、ちょっと試したいことがあるからドラゴンクエスト10のようなオンラインゲームで使われる『報酬の公平配分』をしたいと思うの」

 

 MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)などプレーヤー同士でパーティを組む場合に使われる方法だ。

 戦いの貢献度に比例して、などというのは面倒だし不平不満が出やすいので現実的ではない。

 それゆえ人数で単純に均等割りするのだ。

 しかし、

 

「どうしてそんなことを……」

「もちろん検証のためよ」

「検証?」

「ドラクエ3の商人は「使えない」「あなほりwwwww」「商人とかお前の存在意義がわからんのだけど」「イエローオーブ引換券」などと言われているけど」

「酷すぎる言われようですね」

 

 小悪魔は言う。

 

「とても他人事とは思えません」

「そんなところに共感を覚えなくていいから。しかも真顔で」

 

 話を戻して、

 

「でもそれは本当かしら? 例えば戦士は「金食い虫で装備が無ければ弱いから足を引っ張る」と言われているけど、それって勇者も一緒でしょう?」

「ああ、つまり現実的な『報酬の公平配分』をしてみて勇者と商人を比較検証してみたい、ということですか」

「ええ、二人旅なら単純比較が可能でしょ?」

 

 そういうことだった。

 

「宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残りを二人で分けて、買い物はそれぞれの予算の範囲で行うの」

 

 今回は30ゴールドから薬草3つを買って、残り6ゴールドを二人で分け合って3ゴールドずつ。

 

現在の所持金の合計:10G

小悪魔:3G

パチュリー:3G+4G(剣を買った残金)=7G

 

「アイテムについてはどうします?」

「基本は売却して清算するけど、売るのが惜しいものについては、これも公平になるよう分配ね」

 

 ということに。

 

「それじゃあ拾った力の種だけど、あなたに使うわね。これであなたは私に87ゴールドの借金を持っていることになるわ」

「はい?」

「力の種の売却価格は180ゴールド。これは二人に所有権があるものだから、半額の90ゴールドを私に払えば自分のものにできる」

「い、いきなり借金持ちですか!?」

「今のあなたの力だと、この街の周辺に出る大ガラスすら一撃で倒せない可能性があるから仕方ないわね」

 

小悪魔:-87G

パチュリー:7G+3G=10G(+未払い分87G=97G)

 

「それにこういう風に借金の仕組みを作っておかないと「高性能の武具を手に入れて冒険が楽になるはずが、お金が溜まるまで使えない」なんてことになりかねないでしょう?」

 

 それはそのとおりだが。

 

「じゃ、じゃあ残ったラックの種をパチュリー様が使って借金を相殺……」

「ああ、ラックの種って売却価格が40ゴールドだし」

「えっ、そんなに安いんですか?」

「そもそもドラクエ3の運の良さって、因果律に干渉して毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるという効果しかないから」

 

 しか、と言うが、効果はともかく原理は無駄に大掛かりである。

 

「どこかの異能生存体みたいな能力ですね」

「そこはレミィの能力を引き合いに出すところでしょう?」

 

 二人が暮らす紅魔館の主、レミリア・スカーレットは『運命を操る程度の能力』を持つ。

 

「まぁ、つまり状態異常攻撃を行ってくる敵に遭遇する以前の段階だと上げる意味が無いわ」

「ああ、そういう……」

 

 現実でもそうだが、こういう出費は可能な限り後回しにした方がいいのだ。

 特にゲームの場合、開始直後の100ゴールドは大金だが、ちょっと進めばもの凄いインフレで100ゴールドがはした金になるという……

 

 そして小悪魔はふと思い出したように言う。

 

「そう言えば能力値の成長には職業とレベルによって決まるおおよその基準値があって、種によるドーピングによって一時的に上昇させたとしてもその分、次のレベルアップで上昇しなくなってしまう。つまりドーピングは大局的に見てレベルアップによる能力値上昇が見込めなくなった段階でするのが正しいという意見もあるようですが」

「いや、その理屈はおかしい」

 

 即座に否定するパチュリー。

 

「能力の向上に基準値があるのではなくて、実際には職業とレベルに応じた成長上限値と下限値があってレベルアップではその間でしか成長しないというだけよ」

 

 そういうことだった。

 

「レベルアップによる能力上昇は基準値などといった存在しない値に近づくように成長するのではなく、単に職業とレベル、そして性格に応じ修正される上昇率が決まっているだけなの。つまり種によるドーピングで能力値ブーストをしたとしても上限値に引っかからない範囲なら問題ないわ」

 

 つまり、

 

「考えれば分かることだけど、レベルアップの能力上昇が元の能力値とは関係無く決まっているということは、種によるドーピングを行っておけばレベルアップして成長していく値にもずっとその分が上乗せされていくということよ。つまりドーピングを行う時期はその説とは逆、早ければ早いほど得になるわけ」

 

 ということ。

 そして力の種を手にしたパチュリーは、

 

「そういうわけだから食べなさい」

「うぐっ!?」

 

 そのまま小悪魔の口の中に突っ込んだ!

 

「ふふふっ、どうしたの、こあ?」

 

 使い魔を、ごく限られたプライベートな時にしか使わない『こあ』という甘い愛称で呼びながら……

 反射的に吐き出しそうになる小悪魔を押さえ込み、力の種を指ごとねじり込むパチュリー。

 それはもう楽しそうに、満面の笑顔で!

 

 そして小悪魔は逆らえずに力の種を飲み込んでしまい、

 

「……っ!?」

 

 突き抜ける衝撃。

 キャラメイクでパチュリーが体験した、短時間で筋肉の破壊と超回復を行うために生じる筋肉痛を凝縮したような痛みが全身に走り、硬直する小悪魔。

 それに耐えるために思わず歯を噛みしめようとするが、口にはまだパチュリーの指が入れられたままだ。

 そして主従契約の抑止力により、小悪魔はパチュリーを害することができない。

 だからパチュリーの指に伝えられるのはペットが主人にかわいがってもらおうと甘噛みするような、くすぐったい感触だけだった。

 その何とも言えない刺激に、パチュリーは静かにほほ笑む。

 

(し、仕返しですか? 仕返しなんですね! パチュリー様っ!!)

 

 と、主人と使い魔の間につなげられたパスを使った声なき抗議を他所に、パチュリーは痛みから突き出され、ひくひくと震える小悪魔の小さな舌の動きを愉しむ。

 まるで何かを受け入れるかのように口を『O』の形にして開き舌を突き出す小悪魔の表情は何とも官能的だった。

 

「!? ~~っ!! ~~~っ!!!」

 

 小悪魔は身体を突き抜ける痛みと、敏感な口内、舌を弄ばれる快感に身もだえする。

 苦痛と快楽のダブル責めに、あっさりと精神がへし折られてしまう……

 

 生物は激しい痛みを与えられると精神と身体がパニックに陥り、痛みを和らげようと脳内麻薬を分泌させる。

 そしてそこに同時に一滴の心地よさを与えられると、本能的に苦痛から逃れようとそれにすがり付いてしまう。

 今の小悪魔のように、自分に癒しを与えてくれるパチュリーの指先を愛おしげに舌で追うようになってしまう。

 

(うぅ…… パチュリー様ぁ)

 

 乾いた砂漠で与えられた一杯の水のように。

 いや、灼熱地獄で与えられた慈悲の救いのように。

 責め手の、パチュリーの与える快楽が、脳内麻薬でいわば麻薬漬けにされてしまった身体に、精神に染み渡って行く。

 それが癖に…… 依存症になっていくわけである。

 

 一方、激しい痛みと快感を同時に与えられた脳は混乱し、今自分が辛いのか気持ち良いのか分からなくなり……

 ついには痛みを快感に取り違えてしまうようになる。

 これは精神を苦痛から守るための作用で、意志の強さや誇りやプライドなどではどうにもできない。

 

 主人の、パチュリーの与える苦痛に圧倒的な恐怖と、それを上回るほどの興奮を覚えるように脳のシナプスを繋げられてしまう。

 頭の中にそういう回路を焼き付けられてしまうのだ。

 そして、そうされてしまったが最後、もう二度と元には戻れない。

 

 小悪魔はこれらの仕組みを理解していたが、だからこそ型にハメられ、絶対に逃れられない詰んだ状態にされてしまったことに心の底から恐怖する。

 そして逆にパチュリーは自分がやっていることに自覚が無いため、その責めには一切のためらいや遠慮が無い。

 

(堕ちちゃう! 私は最初からパチュリー様の愛の下僕ですけど、もっと下まで、堕ちちゃいけないところまで堕とされちゃうぅ……)

 

 パチュリーのハードな責めに混乱し、壊れていく小悪魔。

 その身体は弓のようにぴんと張られた状態で引き攣り、最後には失神状態へと追い込まれてしまうのだった……

 

 

 

「うう、酷いです、パチュリー様……」

 

 気絶状態から復帰し、さめざめと泣く小悪魔だったが、パチュリーは気にした様子も無く妙にすっきりとした顔でステータスを確認する。

 

「せっかく力の種を使ったっていうのに、最低の1ポイントしか上がっていないのね」

「酷いぃ、酷すぎるぅぅ」

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:17

たいりょく:8

かしこさ:9

うんのよさ:8

最大HP:15

最大MP:18

こうげき力:24

しゅび力:16

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 ちなみにパチュリーはというと、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:4

たいりょく:17

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:11

最大MP:16

こうげき力:24

しゅび力:10

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 だから、小悪魔は力の種を使っても商人のパチュリーと同等の力、攻撃力しか持っていないことになる。

 勇者なのに……

 

「それじゃあ準備もできたしレーベの村に向かいましょうか」

「ええっ、いきなりですか!?」

 

 驚く小悪魔。

 

「最初はアリアハンの街周辺の弱いモンスター、スライムや大ガラスを相手にレベルを上げるんじゃあ……」

「レーベに行くのにそれ以外のモンスターと戦う必要は無いわよ?」

 

 実はルートを最短コースから1マスずらすだけで、他のモンスターとは出会わないようにできるのだ。

 

「戦う回数も少なければ1回。どんなに多くても3回だけでたどり着けるから」

 

 だからさっさとレーベに向かうべきなのだ。

 

「それなら楽勝ですね。大ガラスにさえ気を付ければスライムは最弱のモンスター。問題にもなりません」

 

 と言う小悪魔だったが……

 

「駆け出しが陥る誤り(ミス)ね」

 

 とパチュリーに否定され、瞳を見開く。

 

 よくある話だという。

 新米の勇者一行が初めての冒険としてスライム退治に赴いたことも。

 それがスライムの大群によって追い詰められ死者を出してしまうことも。

 パーティに僧侶が居るからといって薬草、キメラの翼…… そういった備えを十分にしておらず、消耗の末追い詰められ全滅してしまうことも。

 何もかもがこのドラクエ3の世界では日常茶飯事な良くある話なのだ…… と。

 

「どうしてそんな……」

 

 息を飲む小悪魔にパチュリーは語り出す。

 

「簡単な話よ。

 ある日突然、自分たちの住処が怪物に襲われたと考えてみなさい。

 やつらは我が物顔でのし歩き、自分を傷付け、同族を殺し、略奪して廻る。

 

 他にも例えば自分の同族が襲われ、嬲りものにされ玩具にされ殺されたとする。

 連中はげたげたと笑って、好き勝手し放題してその死体を放り捨てたとする。

 そんな光景を後に、自分はただ逃げ出すしかなかったとする。

 

 許せるわけがない。

 

 逃亡した先で群れをつくり、とにかく報復しようと行動に移す。

 

 探して、追い詰め、戦い、襲い掛かり、殺して、殺して、殺して、殺していく。

 

 もちろん上手くやれるときもあれば、失敗するときもあるでしょう。

 ならば増殖した次のスライムがそれに代わって人を襲う。

 何回、何十回と戦い続ける。

 機会さえあれば、そこを片っ端から突いて殺していく。

 そうしているうちに――…

 

 脅威になっていくわけね。

 

 間抜けな『お優しい』者たちが「ぷるぷる。ぼく わるいスライムじゃないよ」と命乞いをするスライムを目にし、見逃してやろうなどとしたり顔でのたまう。

 街の子供たちは「あ、スライムだー。ぷにぷに~」などと言い、脅威とすら認識しない。

 

 でもそのスライムは群れから弾き出されて逃げてきた手合いでしかない。

 そんな半端なスライムを相手に自信を付けた者が勇者に、そして勇者の仲間になる。

 

 一方、生き延びたスライムは増殖し、どんどんと増え、群れを成していく。

 

 ……まぁ、事の起こりはそんなところ。

 

 分からない?

 勇者がモンスターを殺すために仲間を募るのと同じで、スライムもまた勇者を殺すために群れるのよ」

 

 そしてスライムの強みはこの群れを成す、ということ。

 

「数の暴力、それがスライムの強みよ。大ガラスの最大出現数は4羽であるのに対してスライムは倍の8匹。それに対して勇者一行とはいえ駆け出しの1レベルだと後衛職ならヒットポイントが一桁というのもざらよ。油断するとなぶり殺しにされるわ」

 

 しかもレベル1のキャラでスライムを一撃で確実に倒せるのは銅の剣を装備した勇者、戦士、あとは魔法使いのメラの呪文ぐらいしかない。

 一方でスライムから受けるダメージは十分に素早い者が旅人の服を着ている場合を除けば2ポイント以上。

 そして大抵は旅人の服は素早さが低く守備力の低い者に回されるため、ほぼ全員が一撃で2ポイント以上のダメージを受けることになる。

 

「まぁ、これはファミコン版の場合の話で、それ以降はスライムの出現数は6匹以下に制限されたけど……」

 

 しかしスライムの脅威は減らないのだ。

 

「スライムは知能が低くても間抜けじゃないわ」

「それは?」

「スライムはこちらのレベルが高い場合は逃げることもあるけど、レベルが低い場合は決して逃げ出すことはない。それはスライムが敵の強さを認識し判断しているからよ」

 

 勇敢さも群れへの帰属意識も無く、敵が強いようであればあっさりと仲間を捨て逃亡するくせに、弱いようであればいつもの逃走癖を忘れたかのように嵩にかかって責め立ててくる。

 それがスライムだ。

 

 ゲームシステム的には20パーセントの確率で逃げ出すようになっているものを、相手が一定レベル以下の場合はキャンセルするようになっている。

 だから弱い相手には逃げ出さないのだ。

 つまり成長した後に遭遇するなら何もせずともターン毎に二割が攻撃もせず自動的に減るはずのスライムが、駆け出しの勇者パーティ相手だと絶対に逃げ出さず100パーセント攻撃してくるということでもある。

 

「この行動を左右する能力値を判断力というわ。スライムはこれが1。相手を見て行動を変える頭があるわけ」

 

 これが0の場合、こちらの強さが認識できないからレベルと関係なく逃げ出す。

 

「そして判断力0のモンスターはパーティの隊列というものが認識できないから隊列を無視して攻撃をするのだけれど……」

 

 ファミコン版ドラクエ3の公式ガイドブックではフロッガーとポイズントードに関して後列攻撃をしてきやすいとの記述があるが、このからくりは判断力にある。

 判断力が1以上のモンスターは隊列を認識して前列を優先的に狙うが、判断力が0のモンスターは隊列を認識できないため標的が完全にランダム。

 それゆえに判断力が1以上のモンスターと比較して、後列を攻撃する可能性が高くなるというわけである。

 

「スライムの判断力は1だから、その攻撃は先頭から順に43.75%(28/64)、37.5%(24/64)、17.19%(11/64)、1.56%(1/64)となるわ…… ファミコン版なら」

「ファミコン版なら?」

「スーパーファミコン版以降のリメイク作品では、先頭から順に約40%、30%、20%、10%となっているの。つまりヒットポイントが少なく後列に下げているメンバーに攻撃が向かう可能性が高くなっているわけ」

 

 だからスライムの最大出現数が8匹から6匹に減っても決して油断ができないのだった。

 

「スライムは絶えない。数ばかり多く、その力はモンスターの中でも最弱」

 

 パチュリーは語る。

 

「そして駆け出しの勇者パーティでも運が良ければ何とかなってしまう。……運悪く死者が出たとしても成長しレベルさえ上がってしまえば脅威ではなくなってしまう。だからその危険性は決して認識されない」

 

 そういうことだった。




 パチュリー様の無自覚なセクハラ返しで躾けられてしまう小悪魔。
 そしてスライムスレイヤーなパチュリー様の語りでした。
『ゴブリンスレイヤー』を読んでドラクエでスライムスレイヤーに置き換えてみる、というのは結構考える人が居ると思いますが。
 実際、ドラクエ3のスライムの特性と駆け出しの勇者パーティとの力関係について詳しいところを調べてみるとぴたりと当てはまるんですよね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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初戦闘(ようやく)

「隊列は、現状ではヒットポイントが多くて守備力も高い小悪魔、あなたが先で」

「ま、まぁ私、今は勇者ですから?」

 

 小悪魔をポイントマンに、パチュリーをバックアップマンにというツーマンセルでアリアハンを出発。

 戦闘においての最小単位とされるツーマンセルは人数が少ない分、どちらかというと上級者向け扱いされがちだが、スリーマンセル、フォーマンセルより単純で、また動きを把握し、気を配らなければならない味方の数が少ないということから習熟しなくても割と機能するという長所を持つ。

 ドラクエ世界での戦闘、しかも肉弾戦をメインにしたものに不慣れな小悪魔とパチュリーにはちょうど良かった。

 

 二人は慎重に索敵しつつ橋を越え、レーベの村へと向かう。

 

「北上する時に、最短コースから一マス分だけ西にずらすの。それでスライム、大ガラスたち以外との戦闘は避けることができるわ」

 

 モンスターの出現パターンはレーベの村の位置を境に東西で『アリアハン西地方』と『アリアハン北地方』に別れ、『アリアハン西地方』では昼の間はスライムと大ガラスしか現れない。

 だからこそ有効な手段だった。

 

 そして二人は森に差し掛かったところで、

 

「ピキー!」

 

 スライムの群れ、それも出現数の上限である6体に襲われる。

 小刻みに跳ねながら突っ込んできたスライムは、そのままパチュリーの腹部に体当たりする!

 

「かはっ……」

 

 肺から空気を搾り取られるパチュリー。

 2ポイントのダメージ。

 パチュリーのヒットポイントは11だから、6匹すべてから攻撃を受けたら死んでしまうわけだ。

 たかがスライム、たかが2ポイントとは決して言えない重いダメージだ。

 スライムの身体は弾力を持つが、これはボクサーの拳がグローブを付けた時と同じように衝撃が逃げずに浸透してしまうということでもある。

 

「パチュリー様!」

 

 慌てて小悪魔は青銅の剣でパチュリーを襲ったスライムを斬り倒す。

 勇者の力なら一撃だ。

 しかし、

 

(行動を終えたモンスターを倒されても……)

 

 パチュリーは顔をしかめる。

 できるならまだ攻撃をしていないスライムを倒して欲しかった。

 そうでないとこのターンで攻撃してくるスライムの数は減らないのだ。

 

 そして剣を振り下ろして隙ができた小悪魔に、次のスライムが体当たりする。

 

「くっ!?」

 

 小悪魔は攻撃を食らったものの、素早い動きでダメージを軽減することに成功する。

 ドラクエ3では素早さの半分が守備力に加算される。

 その恩恵であり、受けたダメージは1ポイントのみ。

 

 そしてパチュリーもまた剣を振るい一撃でスライムを斬り倒すが、そこに残ったスライムたちが殺到した!

 イノシシのように突進し、体当たりを仕掛けてくる。

 猪突猛進と言う言葉もあるが実際にはイノシシは、いや野生動物は突進を開始してからも、相手の動きに合わせ機敏に方向転換をするものだ。

 そしてイノシシがインパクトの瞬間、牙でかち上げるようにして攻撃するのと同様、足元まで迫ったスライムがパチュリーの体幹、みぞおちを狙って跳ね上がる!

 

「こふっ!?」

 

 一匹目が最初に受けたダメージが回復しきっていない腹をさらに痛めつけ。

 

「ぐっ!」

 

 続けざまに突っ込んできた二匹目が腹筋を完全破壊する。

 

「くはぁっ!!」

 

 そして防御力を失った柔らかな下腹に、止めを刺すかのように三匹目の体当たりが突き刺さる!!

 

「う、かはっ……」

 

 三体のスライムから続けざまに一方的に体当たりを受け、パチュリーはヒットポイントを危険なまでに削られてしまう。

 

「パチュリー様っ!? 今回復を!」

 

 小悪魔は慌てて買っておいた薬草を取り出すが……

 今のパチュリーにそのまま与えてもうまく呑み込めないと見て、それを自分の口に入れると噛み締め、主人の唇へ自分の唇を重ね合わせる。

 

「う……」

 

 パチュリーの喉が『こくん』と上下し、口移しに与えられた小悪魔の唾液交じりの薬草の汁が飲み込まれた。

 苦いはずなのにどこか甘く感じられる薬草の力により、パチュリーの体力が回復する!

 

「ふぅ、ありがとう、こあ」

 

 力を取り戻したパチュリーは再び剣を振るい、スライムを斬り払う。

 これで、

 

「三つ」

 

 三体倒し、あと半分だ。

 そして……

 

 

 

「ぷるぷる。ぼく わるいスライムじゃないよ」

 

 命乞いをする最後の一匹を前にして、戸惑う小悪魔。

 

「こ、降伏したスライムも…… 殺すんですか?」

 

 小悪魔がパチュリーに問う。

 怯えたようにぷるぷると震えるスライムに、罪悪感を覚えたようだ。

 パチュリーはあっさりと答える。

 

「当たり前よ」

「ぜ、善良なスライムが居たとしても……?」

「善良なスライム、探せばいるかもしれない。けど……」

「ピキー!」

 

 隙を突いてスライムが飛び掛かってくる!

 先ほどの命乞いは油断を誘うための演技だったのだ!

 

「きゃっ!」

 

 小悪魔を襲ったスライムは……

 

「この世界では、人前に出てこないスライムだけが良いスライムよ」

 

 パチュリーの剣に斬り捨てられる。

 

「生かしておく理由なんて一つもない」

 

 スライムが動かなくなったことを確認。

 

「これで六つ」

 

 戦闘は終了。

 パチュリーはほっと息をつくと、

 

「戦闘中に回復を受ける羽目になるなんて、ね」

 

 とつぶやく。

 小悪魔も、それには同意する。

 

「本当にスライムは油断できませんね。パチュリー様が言われたとおりでした」

「それでもレベルは上がってくれたから、今後は楽になるわ」

 

 パチュリーはもっとも成長の早い商人なので、この1回の戦闘だけでレベルが上がっていた。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:2

 

ちから:13

すばやさ:6

たいりょく:22

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:44

最大MP:16

こうげき力:25

しゅび力:11

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 最大ヒットポイントが大幅に上昇。

 もう一度薬草を使うことでそれをフルに満たせば、この辺ではまず死ぬことはない。

 しかし、

 

「使うと痛みも疲れも忘れ元気になるハッパねぇ……」

 

 しげしげと薬草を見るパチュリーに、小悪魔は、

 

「そういう言い方をされると、もの凄くいかがわしいんですけど」

 

 と乾いた笑いを漏らす。

 ハッパやクサ、グラスなどといった言い方は、麻薬、大麻を示す隠語だったりするのだ。

 

「実はそういう説もあるらしいわ。ドラクエでは宿で一晩休めばヒットポイントは完全に回復するわよね」

「そうですね」

 

 不思議と言えば不思議だ。

 

「だからヒットポイントというのはスタミナのことで、ヒットポイントが減るのは傷を受けるわけではなく単に戦闘でスタミナが削られていくことだというもの。だから宿で一晩休むだけでフル回復する」

「なるほど」

 

 そう考えれば説明がつくのか。

 

「それで薬草なんだけど、作中のグラフィックや公式ガイドブックのイラストでは葉の上に赤や黄色の薬の粒か小さな果実のようなものが盛られた絵になっていて、つまり葉巻のように葉で巻いて火をつけて吸うという使い方が」

「んんん?」

 

 話が怪しくなってきた。

 

「つまり吸うと、痛みも疲れも感じなくなり元気になれるハッパ……」

「アウトですーっ!!」

「ただの栄養剤よ。みんなやってるわ」

「それ、麻薬を使わせるときの常套句!」

「1回だけなら平気」

「ダメ。ゼッタイ」

「……悪魔なのに変に良識的ね」

 

 不思議そうに言うパチュリー。

 中世の魔女が麻薬成分を持った植物を原料とした薬でトリップしていたと言われるように。

 魔法と薬物は割と密接につながっているもの。

 また悪魔とは概念的には悪徳の塊であり、人を堕落へと誘惑する者なのだが……

 しかし小悪魔は、

 

「悪魔だからです!」

 

 と言い放つ。

 

「好きな人には自分が与える快楽に、自分に溺れて欲しいじゃないですか! それがクスリなんて安易なものに侵され溺れられるなんて、寝取られじゃないですか! やだー!」

「……ほんっっっっとうに、ブレないわね、あなたって子は」

 

 呆れ果てるパチュリー。

 紅魔館大図書館へ不定期に本を盗みにやって来る窃盗常習犯の黒白、つまり霧雨魔理沙あたりなら、

 

「歪みねぇな」

 

 とでも評しただろうか。

 

 

 

 なお、薬草の使い方については食べる、煎じて飲む、傷口に当てるなどと諸説あるが『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、

 

・どこででも栽培できる植物の葉を特殊な薬品に浸して乾燥させた後、ホイミの魔法が使える人間が呪文をかけて作る。

・葉の繊維の中に沁み込んだ薬品にホイミの呪文が反応して使ったときに体力が回復する。

 

 とされていた。

 要するに1回限りの使い切り、使い捨てのマジックアイテムであり、込められたホイミの効果を引き出して使うというもの。

 実際の魔法ではこういった呪物(フェティッシュ)や秘薬等、触媒を消費して行使されるものが多く、ある意味リアルであるとも言える。

 そういった代償無しに自在に魔法を行使できるのは、それこそパチュリーのような力の持ち主ぐらいのものなのだから。

 

 そしてつまり……

 小悪魔がパチュリーに対して行ったように経口で摂取させる必要は、必ずしも無かったりする。

 実際、その後のシリーズでは他のアイテムを使った時と同様のモーションで使用され、食べたりはされていないし。

 しかし、

 

(まぁ、面白いから黙っておこうかしら)

 

 真剣な表情で自分を心配し、口移しで薬草を与えてくれた小悪魔。

 その柔らかな唇の感触を思い出しながら、パチュリーは、

 

「それじゃあ、小悪魔。回復をお願い」

 

 と頼む。

 

「えっ、ああ……」

 

 手持ちの薬草はパチュリーに渡された非常用の一つを除いて、素早さが高く敵に先んじて治療を行える小悪魔が持っている。

 だから小悪魔の持つストック分から使うのかとパチュリーに差し出すが、彼女は無言で首を振り……

 悪戯っぽい、小悪魔の理性を根こそぎさらっていくような蠱惑的な仕草で自分の唇を指先でトントン、と触れる。

 つまり……

 

「苦いのは嫌いだから」

 

 喘息持ちのパチュリーは酷く苦い薬湯が欠かせず、いつも渋い顔をしながら飲んでいた。

 

「甘く…… してくれるんでしょう?」

 

 小首をかしげ、小悪魔の脳と理性をとろけさせるようなことを言うパチュリー。

 

(あああ、卑怯です! 卑怯すぎですパチュリー様!!)

 

 小悪魔の理性は一瞬で蒸発させられ、

 

「よ、喜んで!」

 

 顔を真っ赤にのぼせ上らせながらうなずく。

 そして、小悪魔はクスクスとおかしそうに笑うパチュリーの瑞々しい唇を、己の唇で塞ぐのだった。

 

 

 

 なお…… 実際、小悪魔の体液は、唾液も、汗も、涙も、血液もすべてがクラクラするほどに甘い。

 何故なら種族特有の媚毒、相手を性的に魅惑し、堕落させるための催淫成分が含まれているからだ。

 

 ただし『生粋の魔法使い』であるパチュリーは生まれつきそういったものに高い耐性を持っている上、喘息を抑える強い薬湯の常飲、魔法薬の作成、試飲を行っているため薬物には強い耐性ができている。

 薬は刺激に弱い者ほど効くし、慣れている者には効きにくい。

 コーヒー中毒の者が、カフェインに耐性を持っているように。

 だからこそ、パチュリーには小悪魔の催淫成分が含まれた体液も、ちょっと刺激的なエッセンスで済んでいる……

 完全に効かないわけでも無いのだが、だからこそ、それがかえって良いスパイスになっている。

 

 そういうことだった。

 

 

 

「それはそれとして……」

 

 ヒットポイントをフルに満たし終わったパチュリーは、スライムの残骸が散らばる周囲を見渡して言う。

 

「お金、つまりゴールドが手に入らないんだけど」

 

 ドラゴンクエスト3では戦闘終了後、自動的にゴールドが手に入った。

 

 書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、ゴールドは魔族の通貨であるとされ、これが全世界で普遍的に通用している理由だと説明されていた。

 だからモンスターたちも、ゴールドを持っているのだと。

 

 アニメ『ドラゴンクエスト~勇者アベル伝説~』ではモンスターは宝石から作られており、倒すと元の宝石に戻るということになっていた。

 その関係かゲーム本編でも『ドラゴンクエスト8』以降はモンスターはそんな消え方をするようになった。

 

 それでこの世界。

 読者に物語を仮想体験させる魔導書に、小悪魔の司書権限による改編で用意されたドラクエ3世界ではどうなっているのかというと……

 

「あっ!」

 

 と小悪魔が声を上げたように、何らかの問題が発生しているらしい。

 

「えーと、怒らないで聞いて下さいね、パチュリー様」

「それはもちろん、聞いた話の内容によるわね」

「その……」

 

 冷や汗をかく小悪魔。

 

「そもそもドラクエシリーズは全年齢対象なので残酷な表現などは一切入ってません。モンスターを倒すと死体を残さず消え、ゴールドが手に入るというのもそういう大人の事情があるからで……」

「残酷描写の規制ってやつね」

「ええ、でもそれじゃあ大人の女性なパチュリー様には物足りないですよね? だから倫理コードを解除したんですけど、これをすると同時にゴールド・ドロップが無効になって、代わりに収入はリアルな剥ぎ取り、つまりモンスターを解体して得られる素材や所持品をゴールドに換金しなくちゃならないっていう……」

 

 ハンティングアクション、いわゆる狩りゲーの『モンスターハンター』みたいな感じである。

 

「はぁ……」

 

 呆れるパチュリー。

 実は小悪魔が倫理コードを解除したのは残酷描写の解除のためではなく、エッチ関係の制限を解除するためだったのは彼女だけの秘密だ。

 

「パチュリー様にセクハラするために倫理コードを解除したら、同時に残酷描写の制限も解除されてモンスターの解体をしなくちゃならない羽目になりました」

 

 とはさすがに言えない。

 

「で、スライムからは何が取れるの?」

「スライムだと身体に取り込んだ金属類や水晶などの半貴石ですね」

「なるほど」

 

 そして二人は青銅の剣の切っ先を使って半透明なスライムの身体を切り裂き、中に見えていたそれを取り出していく。

 パチュリーは小悪魔が価値が無いと見て捨てた小石をふと見て、

 

「これ、メノウじゃない」

 

 と拾い直す。

 その小石には縞のような模様が入っており、

 

「磨くと宝石としての価値が出るものよ」

 

 というものだ。

 まぁ、磨くのが大変なので原石にはそれほどの価値は無いが。

 

「それが見分けられるのはパチュリー様の職業、商人くらいじゃないですか?」

 

 そう小悪魔に言われ……

 

「ああ、商人の能力として戦闘終了後に通常のゴールドに加えて、1/4の確率で約1/8のゴールドを追加で見つけることがあるのって、このため?」

 

 なお期待値は3%程度の収入増となる。

 

「パチュリー様、例の公平配分ですけど、商人のお金を拾う能力は……」

「戦闘しないと得られないものだし、別計算するのは面倒だから、共通の収入でいいでしょ」

「いいんですか?」

「そうね…… その代わりというわけじゃないけどこの先覚える『あなほり』で得られるお金やアイテムの方は私個人の収入にするってことで」

「それは当然ですよ。私、『あなほり』なんて手伝えませんから」

 

 そういうことになった。




 ようやく初戦闘。
 剥ぎ取り、解体もあるよ、小悪魔のせいで、という。

 薬草の使い方については諸説ありまして。
 しかし飲むとか食べるとか、自分に使う場合はいいけど、仲間に使う場合どうするの、という問題が。
 幸い、このお話だと女の子同士ですからいいんですけどね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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レーベの村で初めてのお泊り

 今度はレベルアップしてヒットポイントが激増したパチュリーを先に森の中を進んでいくと、

 

「パチュリー様、またスライムです!」

「上にも気を付けなさい、大ガラスが狙っているわ」

 

 二匹のスライム、そして上空から二羽の大ガラスが襲ってきた!

 このカラスは足で骸骨を持ち上げて飛ぶと、それを空から爆撃のように落としてくる。

 小悪魔は避けるが、続けざまに落とされる骸骨に全部は避けきれず、

 

「痛っ!」

 

 と頭に受け涙目になる。

 1ポイント程度しかダメージは受けていないのだが、しかし常人なら数発で死んでしまう威力ではある。

 

 一方、パチュリーは、

 

「カラスは道具を使う知能を持つというけど、このモンスターは骸骨を使うのね。そしてこの威力、道具と言うより呪物(フェティッシュ)? 興味深いわ」

 

 そう分析するが、

 

「見てないで戦ってください、パチュリー様!」

 

 と涙目になる小悪魔に、しょうがないと攻撃のため接近していた大ガラスに向け青銅の剣をふるう。

 青銅の剣は刃で切り裂くというより、叩くようにして使う初心者向きの剣。

 それによって大ガラスを殴り倒す。

 現状では小悪魔より力のあるパチュリーなので、大ガラスは一撃で墜とされた。

『動かない大図書館』と呼ばれる彼女だが、現実でも魔法による弾幕を掻い潜って接近してきた相手に対し物理(本)で殴る、カウンターを取る程度の能力はあるのだし。

 そして、

 

「私もお返しです!」

 

 と小悪魔も青銅の剣をふるって大ガラスを打ち落とす。

 彼女も力の種を使ってドーピングしたおかげで確実に一撃で倒すことができていた。

 残されたのは大ガラスの獲物のおこぼれを狙って同行していたスライム二匹で、これもまたあっさりと斬り倒す。

 こうしてモンスターの群れを全滅させた二人だが、

 

「大ガラスの血抜きと腸抜きだけはしておいてちょうだい」

 

 スライムを切り裂き、体内に取り込まれた金属、半貴石などの有価物を回収しながら小悪魔に指示するパチュリー。

 

「ええー、食べられるんですか、これ」

「カラスはフランス料理でも野生肉(ジビエ)として使われているものよ」

 

 フランス以外でもヨーロッパでは古くから食べられていたという記録が残っている。

 日本でも明治時代には専門の捕獲業者が居たり、農家の副業としてカラス獲りがされていたほど人気のある肉だったし、幻想郷の人里では今でも食べられている。

 普通に焼き鳥にして食べるもよし、醤油漬けにして保存食にしてもよし、鍋料理にしてもよし。

 

「……そう言われると、急に美味しそうなお肉に見えてきました」

 

 げんきんな小悪魔はいそいそと草のツルで大ガラスの足を結ぶと木の枝に下げる。

 青銅の剣の刃で頸動脈を切って血抜き。

 悪魔への生贄にはウサギやニワトリなどが捧げられることが多く、小悪魔もこの辺は手慣れている。

 だって解体ができないとせっかくのお肉が美味しく頂けないから。

 

「パチュリー様がていねいに刃を付けてくださったおかげでスムーズに切れますね」

 

 小悪魔は青銅の剣の切れ味に改めて感心する。

 

「悪魔の爪なら首の鎖骨の間から指を胸腔内に突っ込んで、心臓につながっている動脈をぷちりと切ることだってできるでしょうに」

 

 パチュリーが言っているのは、カモ猟などで行われる刃物無しに血抜きを行う方法。

 別に悪魔でなくとも爪さえ適度に伸ばしていれば人間にもできる技だったりする。

 

「後は腸抜きですけど……」

 

 尻の穴、というか鳥なので総排出腔の周囲を切って腸を抜くか、

 

「これがいいですね」

 

 適当な小枝を拾って腸抜きフック(バードフック)にして尻から突っ込み適当に腸をかき出し、砂肝の所でぷちっと切れたらお終い。

 

「さっさとレーベの街に入って売り払いましょう」

 

 とパチュリーに急かされるままに二羽の大ガラスを剣の鞘にぶら下げ、レーベの村へと入ったのだった。

 入った後で、

 

「インベントリ…… 魔法の『ふくろ』に入れて運べば良かったんじゃ」

 

 と気づくことになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 レーベの村へたどり着いたパチュリーたち。

 普通のゲームならば街の中を探索したり、武器屋に行ったりするところだが、体験型VRだと、

 

「まずは宿の確保かしら。部屋が取れなかったら困るもの」

 

 と、リアリティに沿った発想となる。

 小悪魔も、

 

「大ガラスも新鮮なうちに売り払ってしまいたいですしね。宿なら引き取ってもらえるでしょうか」

 

 とうなずく。

 血抜き、腸抜きといった最低限の処置はしたが、美味しく食べるなら、一刻も早く捌いてしまうべき。

 幸い、倒してすぐにこの村へ駆け込んだので鮮度は落ちていない。

 この村唯一の宿屋に倒した大ガラスを持ち込み、おかみさんに売り込む。

 

「これは良いものですね。一羽3ゴールドで引き取りましょう」

 

 という具合に、倒した際に得られるゴールドと同額で処分できた。

 しかし、

 

「お部屋の方は生憎、相部屋になってしまうんですけど」

 

 と、申し訳なさそうに言われる。

 この宿屋、一階の鍵がかかった部屋と二階の客室、二部屋しかなく、しかもどちらも客が入っているのだ。

 

「毛布はお貸しますので」

 

 つまり、余分のベッドも無いので床に毛布を敷いて雑魚寝しろ、ということだった。

 

「その分、食事はサービスしますから。新鮮なお肉も手に入ったことですし」

 

 宿のおかみさんがそう薦めてくれたので、カラス料理で夕食を取ることにした。

 カウンター越しに調理の方法を見せてもらう。

 おかみさんは羽根を丁寧にむしって行くが、

 

「手が黒くなるのが難でねぇ」

 

 黒く染まった手を見せ、そう苦笑する。

 そうしてカラスを丸裸にすると、青銅製の包丁(キッチンナイフ)で器用に解体して見せる。

 

「あのナイフ……」

「この村で売っているブロンズナイフのようね」

 

 

ブロンズナイフ

 刃を欠けにくく加工してある青銅製のナイフ。

 料理などにも使われる軽いナイフだ。

(公式ガイドブックより)

 

 

 砂肝に肝臓や心臓といった鳥もつ。

 そしてモモや手羽、胸肉、ササミを取って串焼きに。

 食べきれない肉は煙で燻し薫製にして日持ちするようにする。

 残った骨、ガラは石皿の上に載せた磨石で骨を細かくなるまで砕く。

 そうすると中から骨髄が出て来て、つなぎになるので骨団子が出来上がる。

 これを出汁に、村で採れた新鮮な野菜を入れてスープを作るのだ。

 他にも、砂肝、肝臓、心臓はまとめて煮物に。

 こうしてできた豪勢と言ってもいい食事を取る。

 

「う…… 美味しいです。味の濃いニワトリの肉って感じで」

 

 串焼き、要するに洋風焼き鳥だが、とても大きくボリュームたっぷりであつあつなそれを、はふはふ言いながら口にした小悪魔は目を丸くする。

 パチュリーも同じく口にして、

 

「そうね、若干固めで何度も噛まないといけないけど、噛んでいるとじゅわっとあふれてくる肉汁の旨味が何とも言えないわね」

 

 とうなずく。

 

「シンプルな岩塩、そして擦り込まれた香草(ハーブ)の風味が一際肉の味を引き立たせてくれますし」

「スープも出汁が効いてていいわよ。骨団子も滑らかになるまでていねいにすり潰されていて食感もいいし」

 

 仮想体験型ゲームはこんな風に味覚を楽しめるのが良かった。

 

 

 

 食事を終えた二人は、渡された毛布を手に二階の客室に行ってみる。

 そこには男の子が居て、

 

「うわ~、こあくまさまって女の人だったんだ」

 

 目を輝かせながら小悪魔を見上げる。

 

「はい?」

「やっぱり! 女の人なのに魔物をやっつけながら 旅してるなんてえらいなあ!

 いっぱいいっぱい 魔物をやっつけてね! あいつらがボクのパパとママを…… ぐすん」

 

 涙ぐむ男の子。

 この子と相部屋になるらしい。

 そして小悪魔は一人ほくそ笑む。

 

 

 

 深夜……

 床の上でパチュリーを組み敷く小悪魔。

 

「んっ、こぁ……」

「ふふふ、パチュリー様、静かにしないとあの男の子が目を覚ましちゃいますよ」

「っ!?」

 

 息を飲み、硬直するパチュリー。

 声を封じられ、身動きも取れなくなったパチュリーの身体を、小悪魔は好きなように嬲りながら、その耳元に向かってささやく。

 

「本当はあの子、起きてますよ。寝たふりをしながら必死に聞き耳を立ててます」

「――!?」

 

 小悪魔の言葉が耳から脳に届き、その意味を認識した瞬間、パチュリーの身体が弓のように反り、そして二度、三度と跳ねた。

 荒く息をつくパチュリーに、小悪魔小悪魔はくすりと笑うと、

 

「嘘ですよ」

 

 とささやく。

 

「こぁ、あなた……」

「でも聞かれてるって思ったら、パチュリー様……」

 

 感じちゃったんですよね?

 

 唇の隙間だけで告げられる言葉に、パチュリーは絶句し、

 

「私はそんな、えっちなパチュリー様も大好きですよ?」

 

 とろけそうな笑顔を浮かべる小悪魔に、再び逃げ出そうともがくが、

 

「駄目ですよ、暴れると本当に目を覚ましちゃいますよ」

 

 とささやかれて動きを封じられ、

 

「でも…… あの子、本当は私にも分からないように寝たふりをしているのかも?」

 

 という言葉にぎくん、と身体を硬直させ、

 

「頭からかぶった毛布の隙間から、パチュリー様の痴態を目を凝らしながら見つめて…… いるのかも」

 

 その言葉に羞恥の極みに墜とされる。

 七曜の魔法を極めた魔法使い、あのパチュリーが取るに足りない小悪魔に、自分の支配する使い魔の言葉に縛られ、本当か嘘かも分からないギャラリーの耳目に心身を昂らせ、恥辱に悶える。

 その痴態に小悪魔の瞳は愉悦にけぶり――

 

 

 

(ベッドで必死に寝たふりをする男の子を観客に、パチュリー様と床の上で繰り広げる夜の饗宴…… ああ、宿を原作ゲームに忠実に、空き部屋が無いよう再現した甲斐がありました)

 

 一人妄想に興奮する小悪魔だったが、パチュリーは、

 

「……この子とならベッドを一緒にしても大丈夫かしら」

 

 とつぶやく。

 男の子は小さいので小柄なパチュリーとなら一緒に寝ても良さそうだ。

 

「ええっ!? 私と隣り合わせで寝てくれるんじゃ……」

「嫌よ、私はベッドを愛しているの」

「ベッドに寝取られた!」

 

 などという主従漫才をしつつ、パチュリーは男の子とベッドに入る。

 主従契約の縛りにより呪的な力でがんじがらめに拘束された小悪魔を床に転がして……

 このゲーム世界ではパチュリーは商人に過ぎないが、現実の主従契約が失効するわけでも無いので小悪魔に対してはこんな風に働きかけることができる。

 霊的視野を持つ者には、小悪魔を縛り上げる、呪力により形作られる黒革の拘束具の数々が見えただろう。

 

「ひっ、酷い、パチュリー様!」

「あなたと一緒の部屋で無防備に寝るなんてできるわけないでしょ」

 

 主従契約の抑止力もあるし、そもそも隔絶した力量差があるため危険なことなどないが、エッチな悪戯をされるのは御免だった。

 前科もあることだし。

 

「寒い…… 凍えてしまいます」

「私の分の毛布も使っていいから」

「心が寒いんです!」

「ならこれも貸してあげるわ」

 

 小悪魔に投げ渡されたのは……

 パチュリーの着込んでいた旅人の服に付属のマント。

 雨風避けや野営の為のクロークだった。

 しかしパチュリーは過去の、あのやり取りを忘れていないだろうか。

 

 

 

「パチュリー様の匂いが染みついた服…… それを売るなんてとんでもない!」

「人の着ていた服に顔をうずめないでちょうだい」

 

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

 

「ちなみに私は素でパチュリー様に魅了されているので、即座に恍惚・朦朧状態にされてしまいます」

「どうしてそこで胸を張ることができるのか本気で分からないし、そもそも人の着ていた服に勝手に変な特殊効果を設定しないでくれる?」

「いえ、犬にとって主人の匂いの付いた衣服がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるように、私たち使い魔には主人の魔力の残り香が付いた服はごちそう……」

「嗅ぐな!」

 

 

 

 小悪魔は自分の身体にかけられたパチュリーのクロークに顔を埋めた瞬間、即座に恍惚・朦朧状態に堕とされてしまう。

 そして、

 

「あ、ああ……」

 

 これはまずい。

 まずいのだ。

 

 幼い少年とベッドを共にするパチュリー。

 

「軽いわね、ちゃんとご飯を食べてるの?」

 

 などと言って少年をその豊満な胸に抱え…… 抱きしめる。

 その姿を、拘束され、芋虫のように床に這いつくばり見上げるしかない哀れな小悪魔。

 羨望の視線を向けながら、パチュリーの香りが染みついた衣服を犬のように嗅いで自分を慰める、あさましくもみじめな代償行為。

 それなのに、いつにも増して興奮している自分が居る……

 

(これって寝取られでは?)

 

 ずくん、と身体に、いや精神に衝撃が走る。

 

(まずいまずいまずい……)

 

 そう焦っても、すでに心身はクロークに沁み込んだパチュリーの香りに包まれ、恍惚・朦朧状態に堕ちてしまっている。

 

(……う、ウソ……ウソぉッ! だ、だって…… 触れられても、触れてもいないのに、ね、寝取られ…… 寝取られなんかで……)

 

 ガクンガクンと、ギリギリの痙攣が身体を走った。

 あと少し、ほんの一押し。

 それで…… それで踏み超えてしまう。

 寝取られで興奮し、達してしまうというアブノーマルな性癖を、その身に焼き付けられてしまう……

 

「ふふふ、そんなに揉んでもおっぱいは出ないわよ」

 

 パチュリーのささやき。

 そして涙に滲んだ視野に映る、無邪気に、不思議そうにパチュリーの胸に触れる少年のモミジのような手と、もちろんその小さな手ではつかみきれない、零れ落ちるような大きなバスト。

 

「あんっ……」

 

 パチュリーの吐息が、やけになまめかしく小悪魔の耳に、いや頭に響いた。

 瞬間、

 

(……っ! ……っ! ~~~っ?!)

 

 びくびくと脈動して、ちょっとでも気をゆるめれば暴発しそうになる身体。

 この被虐に満ちた倒錯のシチュエーションは、小悪魔を生まれて初めての異常な事態に陥らせた。

 無理やりにこらえることにより、いつもなら数秒で終わるはずの絶頂直前の状態が、長く長く引き伸ばされていく。

 パチュリーの悩ましい吐息に突き上げられて達した苦しいホワイトノイズが、もう十秒以上、小悪魔の中で続いていた。

 意識が真っ白に中断している。

 その中で、自分の心身に異常性癖を刻まんとする被弄の感覚だけは、針のように鋭く小悪魔の意識を犯し続けていた。

 

(パチュリーさま……)

 

 小悪魔はパチュリーの、いつもの怜悧で不愛想な、しかし小悪魔が好きなご主人様の顔を脳裏に思い浮かべることで耐える、耐える、耐える……

 えっちなことばかり考えているみたいに思われる小悪魔だったが、一方で純粋にパチュリーのことを慕っている、ピュアな部分もあるのだ。

 それを支えに小悪魔は耐えた。

 けなげに、心の中で敬愛するご主人様の名前を何度も何度も唱えながら。

 無限にも思える一時の後、何とかこらえ切った小悪魔は、

 

「はぁっ……」

 

 と息をつく。

 そうして、ジンとしびれる身体を、

 

「むきゅ?」

 

 踏みにじられた。

 パチュリーに。

 

(うむあむああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!)

 

 目の前にあったパチュリーのクロークに顔をうずめることで悲鳴を上げることだけは耐えたが、それだけだ。

 意識が透き通り、そのまま白く、真っ白に塗りつぶされていく。

 新規開発されてしまった性癖に、身体と精神が染め上げられる――

 

 

 

 翌朝……

 暗い中、水を飲むために立ったパチュリーに誤って踏まれたのだと知る小悪魔だったが、その時にはもちろん手遅れになっているのだった。




 戦闘と剥ぎ取りの続き。
 実際、カラスって美味しいのでフランス料理はもちろん、現代日本でも食べさせてくれるお店があるのです。

 そしてパチュリー様との初めての外泊に興奮する小悪魔でしたが……
 親を亡くした男の子と一緒に寝てあげる聖母のようなパチュリー様を前に、不純なことを(勝手に)考えて自滅してしまうのでした。
 どうしてこうなった。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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レーベの村を探索

 顔を洗い、身支度を整えたパチュリーたちは宿のおかみさんが出してくれた朝食を取る。

 スライスされた茶色のライ麦パンに、キイチゴのジャムを塗って食べるわけだが、

 

「普通の白パンがスカスカに思えるほど、ずっしりと重いパンですね。これこそ主食、一日の活力源といった感じですね、パチュリー様」

「ええ、かすかにスパイスが効かせてあるのがまた独特ね」

 

 と、二人には好評だった。

 そして裂いた鳥肉と、朝採りの新鮮野菜で作られたサラダ。

 

「うーん、このシャキシャキした歯ごたえ、瑞々しい風味。採れたての野菜って、こんなに美味しいんですね」

「それにこの鳥肉、香味豊かで深い味わいはスモーク仕立てね?」

 

 パチュリーが気づいたとおり、昨日、大ガラスの肉を煙で燻し薫製にして日持ちするようにしていたものだ。

 

「この香り、オニグルミのチップで燻しているのかしら? 一晩置いたおかげで味が落ち着いて食べごろになってるわね」

「ううー、昨日の夕食もそうでしたが、こんなの食べちゃったらモンスターが襲ってきても、お肉が向こうからやって来るようにしか見れなくなっちゃいますよー」

 

 と、小悪魔は落ちそうになるほっぺたを押さえながら嬉しい悲鳴を上げる。

 そしてホワイトシチューだが、

 

「ホワイトソースで品を変えていますけど、昨日の骨団子のスープのリメイク品ですか?」

「でも昨日より野菜が更に溶け込んでいて、旨味が増しているわ」

「ああ、凝縮された野菜のエッセンスが身体に染み渡って行くようですね」

 

 ということで、満足のいく仕上がりとなっていた。

 食後の香草茶(ハーブティー)で口の中をすっきりとリセットし、おかみさんに礼を言って宿を出る。

 

 村の中を捜索するが、前にパチュリーが話したとおり各家屋に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)家の精(ブラウニー)白い婦人(シルキー)が使う疎外(エイリアネーション)隠蔽(コンシールメント)混乱(コンフュージョン)といった(パワー)が作用するため、勝手に家屋に入っても咎められることは無い。

 

「本当に気付かれないんですね」

隠蔽(コンシールメント)の効果よ。対象を周囲に紛れさせ、発見を困難にするから、城や家に勇者が進入しても発見されにくくなるわ」

「あの人、壁に向かって足踏みしてますけど」

混乱(コンフュージョン)(パワー)が作用しているのよ。対象をぼんやりさせ、術者の領域でさまよわせるものね。また、何かしようとしたり決断しようとすることがとても難しくなるから、侵入者を通報しようとか咎めようという気持ちを持つこともかなり難しくなるわね。試しに話しかけてごらんなさい」

「ええ……」

 

 小悪魔が家人に話しかけると、一瞬戸惑ったようだがスルーして普通に答えてくれる。

 

「盗賊のカギは手に入れましたか?」

「はい?」

「……そう、それは良かったですね」

 

 もう一度、今度はパチュリーが話しかけると、

 

「盗賊のカギは手に入れましたか?」

 

 再び繰り返される問い。

 

「いいえ」

「この村の南の森にも、ナジミの塔に通じる洞窟があるとか。噂では、その塔に住む老人が、その鍵を持っているらしいですよ」

 

 反復される、しかし回答の違う会話。

 それを聞いて小悪魔も、

 

「ああ、つまり混乱して夢うつつの状態だから何度話しかけても繰り返し同じことしか言わない。前の受け答えも覚えていない、ということでもあるんですね」

 

 そう納得するが、

 

「ふぎゅっ!?」

 

 歩いてきた住人にぶつかられ、驚く。

 

「ぶつかったのに気づいていない? これも隠蔽(コンシールメント)(パワー)なんですか?」

 

 涙目の小悪魔にパチュリーは答える。

 

「これは疎外(エイリアネーション)(パワー)ね。対象を他者から認識できないようにするのよ」

 

 幻想郷で言うなら古明地こいしの『無意識を操る程度の能力』が近いか。

 彼女は相手の無意識を操ることで、他人にまったく認識されずに行動することができる。

 たとえこいしが目の前に立っていたとしても、その存在を認識することはできないという。

 

「凄い便利な力ですね」

 

 感心する小悪魔だったが、パチュリーはゆるゆると首を振る。

 

「逆よ。これは妖精のいたずら、対象をからかうためのものだから」

「はい?」

「他者に気付かれないことでドアや門を閉められて挟まれる、突き飛ばされる、踏まれる、閉じ込められるなどの危険が降りかかってくるわ。さっき、ぶつかられたあなたのように」

「ああ!」

「それらを回避するには能力、もしくは運が必要となるわ」

 

 一方的に便利なものではないということだ。

 

「そしてこの(パワー)は物に対してもかけられる。『ないないの神様』とも言われる民間伝承(フォークロア)ね」

「ないないの神様?」

 

 

 

 探してるものがどうしても見つからない時は、あせらずに、

 

「ないないの神様、ないないの神様」

 

 ――と何回か唱えると、

 

”ないないの神様”が現れてそっと返しておいてくれるんだって、

 

 今までさんざん探した場所に。

 

 

 

「ヤな存在ですね。神のくせに」

「精霊や妖精は幸運の運び手であると同時に不幸の撒き手でもあるということよ」

 

 生粋の魔法使いであり精霊魔法の使い手であるパチュリーには、彼らの気まぐれのような力を御すのはたやすいことではあるが。

 

「妖精は自然現象その物であり、魔法では妖精を操る事もしばしばある。つまり奴隷」

 

 湖上の氷精、チルノとの勝負に勝利した時にパチュリーが残した言葉だ。

 つまりはそういうこと。

 

「そして疎外(エイリアネーション)(パワー)が物に対して働くというのは……」

 

 パチュリーは本棚から一冊の本を取り出した。

 

「つまりはこんな風に」

「あ、あれ? さっきまでこんな本無かったですよね?」

 

 小悪魔が職業病で本棚を目にした瞬間にタイトルをチェックした中には見当たらなかった、はず。

 

「ないないの神様というのは住居精霊(ヒース・スピリット)のちょっとした悪戯なの。物に疎外(エイリアネーション)をかけたり解除したりすることで、それが見つけられなくなったり、探したはずの場所からひょっこりと出てきたりする。そういった現象を人間が説明するために生み出された民間伝承(フォークロア)なのよ」

 

 世界各地に形を変え、伝わっている話だった。

 そしてパチュリーが見つけた、この家に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)白い婦人(シルキー)の隠し財宝である本は、

 

「『力の秘密』という本ね。「カラダを鍛えよ! キンニクを磨け! パワーこそすべてだっ……?」 読むと性格を『力自慢』に変える使い切りのマジックアイテムだけど、使ってみる?」

「怖っ! 洗脳じゃないですか、それ!」

「大丈夫、呪いはかかっていないわ」

「ぜんぜん大丈夫じゃありません! 呪いじゃないってことは、教会でも解呪できないってことじゃないですか!」

「教会に頼る悪魔……」

 

 パチュリーは呆れながらも本を手に、怯える小悪魔に迫る。

 

「『セクシーギャル』なんて性格にしているから、いやらしいことばかり考えてしまうのよ。さぁ、この本で新しいあなたに生まれ変わらせてあげる」

「いやぁあ! やめてくださいー、人の心はそんなに単純じゃありません!」

「……悪魔でしょう、あなたは」

 

 パチュリーも本気ではなかったのか、やれやれとばかりに首を振りながらも引き下がる。

 

「お店に持っていけば52ゴールドで売れるわね」

 

 という具合に。

 しかし探索を続けると……

 

「よいしょ、よいしょ。だめだ…… 重くて押してもビクともしないや」

 

 野原で大きな岩を押そうとしている村人が居たため、

 

「小悪魔?」

「力仕事は苦手なんですが……」

 

 手伝ってやる。

 小悪魔が。

 

「やや、すごい! そのチカラがいつかきっと役に立ちましょう!」

 

 そう話す村人をよそに、パチュリーは石の下に隠されていた小さなメダルを拾う。

 

「これが欲しかったのよ」

「うう、使い魔使いが荒過ぎですよー」

 

 恨めしそうに言う小悪魔に、パチュリーは力の秘密を手に再び迫る。

 

「ならやっぱりこれを使う? そうすればあなたも身体を使う悦びに目覚めるでしょう?」

「それが必要なのは引きこもりなパチュリー様ですよ!」

「私はもうタフガイだし」

「そうでしたー!?」

 

 迫るパチュリーに怯えすくみ、命乞いをする小悪魔だった……

 

 

 

 二人は道具屋に向かうとスライムから得られた金属や半貴石、そして力の秘密を売却して換金。

 

「良かったです……」

 

 小悪魔に束の間の平和がきた。

 だが、この世界に性格を変える本があるかぎり油断はできないのだ。

 

 そして消費した薬草の補充と、帰還アイテムであるキメラの翼を購入する。

 

「次はナジミの塔だけど」

「ええっ、大丈夫なんですか? いやらしい毒を身体に注ぎ込み泡の海に沈めようとするスライムに、妖しい夢幻の世界に引きずり込み離そうとしない蝶、そして男女の別なく『後ろ(バック)』を狙ってくるカエルが出るって話ですよ」

「どうして一々いかがわしい言い回しをするの」

 

 呆れるパチュリー。

 

 小悪魔が言っているのはバブルスライムに人面蝶、フロッガーだ。

 バブルスライムは毒攻撃をするし、人面蝶は幻を見せて攻撃を外させる魔法『マヌーサ』を使う。

 マヌーサは戦闘中に解除する方法が無いので「妖しい夢幻の世界に引きずり込み離そうとしない」というのは間違いではないが……

 

 フロッガーは前にもパチュリーが話したとおり、ファミコン版ドラクエ3の公式ガイドブックで後列攻撃をしてきやすいとの記述があったもの。

 判断力が1以上のモンスターは隊列を認識して前列を優先的に狙うが、判断力が0のモンスターは隊列を認識できないため標的が完全にランダム。

 それゆえに判断力が1以上のモンスターと比較して、後列を攻撃する可能性が高くなるというものだった。

 

「だから「男女の別なく『後ろ(バック)』を狙ってくる」というのは間違いじゃないけど、そういういやらしい意味じゃなくて……」

「いやらしい意味って、どういうことですか?」

 

 身を乗り出して食いついて来る小悪魔。

 

「は?」

「どんな想像をされたのか、私にも教えてください!」

「近い近い、顔が近い!」

 

 真っ赤になってのけ反り、小悪魔から離れようとするパチュリー。

 

「っていうか、意味が分かっていて言ってるでしょう!」

Yes I Do(はいそのとおりです)

「こっ、この使い魔は……」

「あれはいつのことだったでしょう。本棚を前に上側の書籍を見ようと後ずさりをして、何もないところでつまずき転びそうになったパチュリー様は、失敗を見られた羞恥に頬を桜色に染め、私にこう仰ったのです」

 

 

「私、バックに弱いから」

 

 

「――っ!」

「あのころのパチュリー様は純真でした。きょとんとしているパチュリー様に、自分が口にした言葉の意味を教えて差し上げる悦びを何と表現したら良いでしょう。孤高の、高い知性を持った、でも無垢な少女の心をいやらしい知識で染めていく快楽。初めて知る性の知識に凄まじい羞恥心を感じながら訳も分からず混乱するパチュリー様の放つ、恥辱にまみれた負の感情、そしてその内に見え隠れする性に目覚めたばかりの少年のような好奇心…… 大変おいしゅうございました」

 

 これでも小悪魔は悪魔の端くれ、他者から漏れ出る欲望や負の感情を糧とすることが、味わうことができるのだ。

 

「というわけで、その意味を教えたのは私ですし、だからパチュリー様も分かっていますよね」

 

 無駄にいい笑顔を浮かべる小悪魔。

 そしてパチュリーは……

 

「殺ス……」

 

 とても冷たい目で小悪魔を見ていた。

 

「えーと、パチュリー様?」

「そんなことを他人に言いふらされたら、公開処刑もいいところだわ」

 

 普段なら、

 

「取るに足りないはずの使い魔の手で、性的に処刑されてしまうパチュリー様!? 想像しただけで……」

 

 などとふざけたことを言いかねない小悪魔だったが、さすがに目がマジなパチュリー相手には無理だった。

 

「だから社会的に殺される前に殺ス」

「ひぅっ!」

 

 そもそも存在としての格が違うので、本気になられたら逆らえないし、指先一つで塵とされてしまうのだから。

 

 

 

「……ヒドイ目に遭いました」

 

 どったんばったん大騒ぎの末、何とか命をつないだ小悪魔。

 

「誰のせいよ、誰の」

 

 ジトっとした半眼でにらみつけるパチュリーはまだ機嫌が悪そうだ。

 

「そ、そうです、お話を戻して……」

「まだ続ける気?」

「ひぃ!」

 

 ぎろりと睨まれ、悲鳴を上げる小悪魔。

 ふるふると首を振って、こう答える。

 

「そうじゃなくて、ナジミの塔に行くなら状態異常攻撃をしてくるモンスターを相手にしなければならないってことです!」

「ああ……」

 

 そう言えば、とパチュリーは『ふくろ』、勇者一行が持つ莫大な収納力を持つ魔法の袋、ゲーム的にはインベントリに該当するものからラックの種を取り出す。

 

「これを使っておかないといけないわね」

 

 ドラゴンクエスト3においては、運の良さは毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるという効果を持つ。

 

「それじゃあ、あなたに」

 

 というわけで小悪魔に渡されるカシューナッツに似た種。

 

 なお、実際にイベント等で出されるメニュー『ふしぎなきのみの盛り合わせ』では、

 

・ラックのたね(カシューナッツ)

・すばやさのたね(柿の種)

・ふしぎなきのみ(マカデミアナッツ)

・きようさのたね(ピスタチオ)

・スタミナのたね(アーモンド)

 

 となっていたりする。

 

 しかし、

 

「はい? パチュリー様が使うんじゃ?」

「それも考えたのだけれど、どうも私の場合、このままだと成長下限値に引っかかりそうなのよ」

 

 ドラクエ3のキャラクターは職業とレベルに応じた成長上限値と下限値があってレベルアップではその間でしか成長しない。

 上限に引っかかった場合、それ以上は上がらないか、上がっても1ポイントしか上がらない。

 一方で、下限に引っかかった場合は、最低でも下限値まで引き上げられる。

 

「現在の私の運の良さは4。商人の低レベル帯での運の良さの上昇率はそれほど高くない上、私の性格が『タフガイ』だから、その成長に30パーセントの大幅なマイナス補正が加わるわ」

 

 つまり下限値に引っかかる可能性があり、そこで引き上げられるなら種によるドーピングは無駄となる。

 

「一方で、小人数プレイにおける状態異常で何が一番困ると言えば、延々と眠らされ続け何もできずに死亡する、マヒを受ける、即死呪文を受けるなどをしての全滅ね」

 

 全滅は所持金が半分になるのできついのだ。

 

「でも私かあなた、どちらか一方が無事ならキメラの翼を使って緊急脱出、逃げるなどの選択ができる」

 

 つまり現状で運が高く『セクシーギャル』の性格により運の良さの上昇補正が大きい小悪魔に集中投与した方がいいだろうという判断だ。

 しかし、

 

「私、パチュリー様に借金がありましたよね」

 

 顔を引きつらせる小悪魔。

 

「それじゃあ、清算してみましょうか」

 

 前回の清算時の計算が、

 

小悪魔:-87G

パチュリー:10G(+未払い分87G=97G)

 

「現時点での宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残金が40ゴールド。つまり、30ゴールドの収入があったので、一人当たり15ゴールドの配当ね」

 

 そしてさらに、

 

「ラックの種の売却価格は40ゴールド。これは二人に所有権があるものだから、半額の20ゴールドを私に払えば自分のものにできる」

 

 つまり、

 

「最終的にはこうなるわ」

 

小悪魔:-92G

パチュリー:40G(+未払い分92G=132G)

 

「借金が…… 借金が増えてる」

「まぁ、そうなるわね」

 

 そういうことになった。




 分かりづらいとご指摘のあった住居精霊(ヒース・スピリット)(パワー)を改めて紹介させていただきました。
(元の部分も加筆修正していましたが)
 あと1話に1回は必ずセクハラを働かないといけない様子の小悪魔は相変わらずで。
 なお、

>「私、バックに弱いから」

 は、現実に私の友人女性が口にしてしまったネタだったり。

 今回はレーベの村の探索だけで終わってしまいましたが、次はナジミの塔への道行の予定です。
 そして塔の宿でベッドを共にするパチュリー様と小悪魔……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ナジミの塔へ、そして初めてのベッドイン

 パチュリーを先頭に、二人はレーベの村から南下した森の中にあるというナジミの塔に通じる洞窟を目指す。

 ちょっとした空き地に入り口があり、階段を降りると石造りの地下通路に出ることができた。

 太古の魔術か、燃え尽きない燭台が等間隔に灯され内部を照らし出している。

 

「凄いですね」

 

 感心する小悪魔。

 そして二人はモンスターと遭遇する。

 

「スライムと…… 冒険者の『後ろ(バック)』をつけ狙うやらしいカエルさんです!」

 

 スライムと突然変異で巨大化したと言われるカエル、フロッガーが一匹ずつだ。

 

「そのネタ、まだ引きずるの……」

 

 嘆息するパチュリー。

 そもそも二人旅ではフロッガーの「後列攻撃をしてきやすい」という特性は、ほぼ意味が無いのだ。

 

「くっ」

 

 先に立つパチュリーにスライムが突っかかって来るが、レベルが上がったパチュリーのヒットポイントは44。

 スライムの与えるダメージ程度では少しも揺るがない。

 

「先手必勝です!」

 

 小悪魔は青銅の剣でフロッガーに斬りつけるが、粘液に包まれたゴムのような手ごたえの表皮に阻まれ、

 

「ええっ! た、たったこれだけしかダメージが与えられない!?」

 

 数ポイントほどのダメージしか与えられない。

 

 パチュリーが青銅の剣で突き込むが、同様。

 二人がかりでも倒しきれない。

 

「や、やっぱりこのレベルじゃ無理だったんですよ」

 

 と弱気になる小悪魔。

 何しろ彼女はいまだにレベル1。

 パチュリーとてレベル2に過ぎない。

 公式ガイドブックに記載されたナジミの塔の到達レベル、つまり推奨のレベルは4、当然四人フルパーティで、になっていたので無理はないとも言える。

 しかし、

 

「あれっ?」

 

 小悪魔はフロッガーからの反撃が来ないことに戸惑う。

 

「フロッガーは時々『身を守る』ことがあるのよ」

 

 防御に徹することによりダメージを半減させるのだ。

 

「な、何でそんな無駄なことを」

 

 1ターン無駄に叩かれるだけでは、と考える小悪魔だったが、

 

「……そうでも無いわよ」

 

 と、パチュリーは瞳を細めながら分析する。

 ともあれ、フロッガーが防御姿勢を解いて反撃に移ろうとした瞬間を捉えて小悪魔が斬り捨て。

 残ったスライムをパチュリーが倒して戦闘はお終い。

 

「剥ぎ取りだけど、フロッガーからはモモ肉が取れるようね」

「ええー、コレ食べるんですか?」

「食用ガエルという言葉があるようにカエルは世界各地で食用にされているし、フランス料理でも珍重されているものよ」

「……なるほど」

 

 納得した小悪魔は、パチュリーの指導を受けながら青銅の剣でフロッガーの解体を行う。。

 

「これだけ大きなカエルも後ろ足だけしか食材にならないんですね」

 

 他ではともかく、フランス料理で食べるのもそこだけだ。

 

「解体は関節で切り離すのが基本よ。関節は軟骨と軟骨を筋でつないでいる部分ね」

「うーん」

「そんなに慎重にならなくとも、ニワトリもカエルも足を切る要領は同じよ」

「そうなんですか?」

「というか、チキンの丸焼きを切り分けるのと変わりないわ」

 

 欧米では安息日のディナーの時に家長、普通は父親が七面鳥(ターキー)やカモ、チキンなどをナイフで切り分けて家族に分け与える風習があったりする。

 そうでなくとも丸ごとのチキンが店で売られている地域では、魚を三枚におろすのと同レベルでチキンをばらし調理するものだった。

 

 足を開くと皮が伸びる部分があるので、そこから関節が見えるまで皮を切る。

 そうしたら足を広げて関節を外す。

 ゴリッという手応えがあるので関節を広げて筋を探し、筋を切って軟骨の間に刃を入れていく。

 うまくはまるとすっと切れるはずだが、慣れていない小悪魔ゆえ、どうしても力ずくになってしまう。

 青銅製の小ぶりな剣は力任せの作業には向いているが、それでも強引に解体を続けると切れ味が鈍ってくる。

 

「よく「刀の切れ味が付着した血や脂で鈍くなる」って聞きますけど……」

「ええ、一方でそれはデマって話もあるけど」

「ええっ!? でも実際に切れ味が鈍ってますけど」

「そうね、厳密に言うと関係ないとは言えないんだけど」

 

 パチュリーは説明する。

 

「要するに血や脂が付いても刃先、エッジの切れ味は鈍らないけど、側面に溜まると肉を切り分けていくのに抵抗になる。包丁でも食材が側面にべったり張り付くと抵抗になって切りにくいでしょう?」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

「でもまぁハンターが用いる解体用ナイフの話では、刃もちのする鋼材で作ったカスタムナイフでも骨などを切るなら鹿など大物で4体が限界とか。これは血脂とは関係なしに、エッジの切れ味の話ね」

「名刀だと四人斬っても切れ味が変わらないって話がありましたけど、逆に言うと血脂関係なしに刃先が持つのがそれが限界ということですか……」

 

 そして小悪魔の青銅の剣は扱いが荒いのでエッジの切れ味が落ちてきたということ。

 

「刃の切れ味が落ちたら、剣を買った時に付いてきたタッチアップ用砥石で軽く磨いてやると復活するわ。あくまでも応急処置だから何度も使える訳じゃないけど」

 

 と、こちらは手慣れた様子でスライムから金属や半貴石といった有価物を取り出すパチュリー。

 魔法使い、とされるパチュリーだが『花曇の魔女』との二つ名でも呼ばれるとおり、同時に魔女であるとも言われる。

 魔女と言うだけに主体は女性、魔女の持つ技術には主婦としての業もまた含まれるということで、その包丁さばきならぬ青銅の剣さばきは小悪魔が見たところ、レーベの村の宿で大ガラスをさばいて料理してくれたおかみさんと同じくらい無駄が無かった。

 

 ともあれ、小悪魔は砥石を取り出して剣の刃先を整えようとする。

 しかし小さな砥石では上手く磨くことができない。

 

「そういう応急処置用の小さな砥石じゃあ普通の大きさの砥石と同じようには使えないわ。貸してみなさい」

 

 パチュリーは小悪魔から剣と砥石を受け取ると、砥石を固定して剣を動かすのではなく剣を固定して砥石の方を刃に滑らせた。

 

「刃が動かないようにしっかり固定して砥石を刃先に当てる。砥石の角度を一定に保ちながら先端の曲面の入り口まで軽く擦るの。そして曲面の部分はそれに合わせて砥石の角度を調整しながら切っ先までやり切るのよ」

 

 はい、と渡されたので小悪魔はパチュリーを真似して反対側をやってみる。

 

「切っ先の曲がっている所が難しいですね」

「そこは曲面に合わせて砥石を立てて行くといいわ。まぁ、どっちにしろ応急処置だけどその場をしのぐのには十分ね。慣れた人は包丁なんかを陶器の底でやるって話よ」

 

 果たして、小悪魔が応急処置後に青銅の剣を使ってみると見事に切れ味は復活していた。

 

「凄いです」

「一々きちんと研いでいられない野外生活の知恵ね」

 

 こうしてフロッガーのモモ肉を剥ぎ取っていく。

 残るのは後ろ足を失ったカエルだが。

 

「放したら、また足が生えてきますかね?」

「さすがに無理でしょう」

「オタマジャクシは生えてくるのに……」

 

 無茶を言う。

 

 

 

「ようやく抜けましたね」

 

 通路を進んで最初に出くわした階段を上ってみると、そこは確かにアリアハンの街からも海上の小島に建っているのが見えるナジミの塔だった。

 

「ここに盗賊の鍵を持っているっていう、おじいさんが居るんですね」

 

 小悪魔が言う、そのおじいさんを探して奥へ。

 そこに大ガラスとフロッガーが1匹ずつ現れる!

 

「あなたは大ガラスを先に仕留めなさい」

「はいっ?」

 

 ジャンプからプレスしてくるフロッガーの攻撃を高いヒットポイントで受け止めるパチュリー。

 小悪魔はそれを横目に見つつ大ガラスを打ち落とす。

 

「いつまでのしかかっているの!」

 

 パチュリーはフロッガーを斬り払い、

 

「止めです!」

 

 そこに小悪魔が斬りつけて止めを刺す。

 

「なるほど、二人がかりでしか倒せないフロッガーからはどうしても1回は攻撃を受けてしまう。なら大ガラスを先制で沈めてしまった方が、被ダメは減らせるということですか」

「そういうことね。付け加えるならフロッガーは前回の戦闘のように防御姿勢を取る場合もあって、それだと二人がかりでも倒しきれず戦闘が長引いて、その間に大ガラスから受けるダメージが蓄積する可能性があったし」

 

 前回の戦闘で学んだ結果を反映した、ということでもあった。

 そしてこの戦闘で、

 

「やっとレベルが上がりましたー」

 

 小悪魔がレベル2に。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:2

 

ちから:14

すばやさ:18

たいりょく:10

かしこさ:9

うんのよさ:11

最大HP:20

最大MP:18

こうげき力:26

しゅび力:17

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「力も最大ヒットポイントも増えました。これで勇者らしく……」

「あら私も上がったようね。レベルが」

 

 パチュリーは3レベルに。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:3

 

ちから:14

すばやさ:7

たいりょく:27

かしこさ:9

うんのよさ:5

最大HP:52

最大MP:18

こうげき力:26

しゅび力:11

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「なっ、追い越したと思った力が並んで…… っていうか、最大ヒットポイントが52って何ですかー!!」

「実は低レベル帯だと戦士を超えて一番ヒットポイントの伸びがいいのが商人なのよね」

 

 その上、パチュリーは体力の値に最大の成長補正がかかる『タフガイ』である。

 これぐらいは当然と言えた。

 

「やっとレベル2になったっていうのに、成長の早い商人はそれ以上ですかぁ……」

「この先もずっとそうね」

 

 そういうことだ。

 

「うう……」

 

 

 

 二人がさらに塔の中を進むと椅子とテーブルが置いてあって、そのすぐそばに地下への階段があるのが見つかった。

 

「何ですか、ここ」

 

 首をひねる小悪魔。

 階段を下りると、そこには商人風の男性が居た。

 

「おお、しばらくぶりのお客さんだ! 嬉しいなあ。こんにちは。旅人の宿屋へようこそ。一晩四ゴールドですが、お泊りになりますか?」

「こんな所で宿屋……」

 

 呆れる小悪魔だったが、それも当然だ。

 こんな場所で商売になるのか、という話。

 

「国に委託を受けた業者じゃないかしら。宿泊料がアリアハン内の宿屋と同額だし」

 

 つまりこの主人の給料は国から支給され、その代わり宿泊料金は国に指定された固定の金額となっているのだろう。

 

 二人は今まで仕留めたカエルの足やカラスの肉、スライムから得られた金属や半貴石も引き取ってもらって換金。

 ここで休むことにする。

 

「食事はみなさんが持ち込んでくれたカエルの足と大ガラスの肉がありますけど、どちらにします?」

「そうね、じゃあカエルのモモ肉で」

「ええっ!?」

 

 パチュリーの選択に、小悪魔は驚きの声を上げた。

 しかしパチュリーは軽く微笑むとこう答える。

 

「フランスではカエルのモモ肉は立派な郷土料理なのよ。冷凍では無いフレッシュで、しかも野生のものともなると更に希少ね」

「な、なるほど……」

 

 彼女ならではの感情を棚上げしたうえで知識を基にした判断というものらしかった。

 

「そ、それなら私も試してみます」

「無理に食べることは無いのよ」

「女は度胸、何でも試してみるものです」

「……そう?」

「で、でも何だかドキドキしちゃいますね」

 

 そんな訳で、二人でカエルのモモ肉料理を試してみることに。

 

「お料理しちゃうと見た目は普通に鳥のモモ肉みたいですね」

「味の方も鳥肉に近いものよ。冷めるとおいしくなくなるから熱いうちに食べましょう」

「はい」

 

 小麦粉をまぶしたカエルのモモ肉をオイルでカラッと炒めてバターソースをからめてある。

 

「ふうん、鶏肉って感じの肉ですね」

 

 ニンニクとパセリ、そしてバターの味付け。

 

「うん、美味しい」

「生の牛乳に漬けこんで身を柔らかくするのが秘訣です」

 

 と、宿屋のご主人。

 

「悪くない、悪くないですね、カエルのモモ肉」

 

 小悪魔はそう言ってぱくつく。

 そして彼女はパチュリーに向き直って礼を言う。

 

「ありがとうございます、パチュリー様」

「な、何なの唐突に」

 

 パチュリーは素直に礼を言う小悪魔に、驚いた様子で瞳を瞬かせた。

 

「いえ、カエルのモモ肉なんて、パチュリー様が勧めて下さらなかったらこんな風に味わう機会も無かったでしょうから」

 

 だから感謝してるのだと小悪魔は言う。

 

「べっ、別にあなたの為に選んだわけじゃないから!」

 

 かすかに頬を染めて照れるパチュリー。

 

(ツンデレだ、ツンデレです。なんてレアな。ポイント高いですよパチュリー様!)

 

 二人で夕食を味わって。

 あとはお湯をもらって身体を拭くと、清潔なベッドで寝るだけだ。

 この宿にはベッドが二つしか無い。

 宿のご主人が自分のベッドを空けてくれようとしたが、パチュリーは遠慮して小悪魔と一緒のベッドで寝ることにした。

 

「は?」

「何を呆けてるの、さっさとベッドに入りなさい」

「ははは、はい!」

 

 慌てて旅人の服を脱ぎ去り、肌着姿になってベッドにもぐりこむ。

 これは夢じゃなかろうかと自分の頬をつねってみるが、

 

「痛い……」

 

 夢じゃない!

 

「こぁ……」

 

 甘くささやき、小悪魔の頬に手を差し伸べるパチュリー。

 そして、

 

「拘束制御術式展開。悪魔罠(デーモントラップ)第3号、第2号、第1号発動」

 

 使い魔としてパチュリーと繋がっているパスを通じて、三重の封魔捕縛式が作動。

 これにより小悪魔は指一本動かせない状態に陥る。

 なお悪魔との契約に関する魔法は西洋魔道の類。

 パチュリーが得意とする七曜の魔法、属性魔法とはまた異なるものだが、彼女はその豊富な知識を基に難なくこなしてしまう。

 

 愕然とする小悪魔に、パチュリーはささやく。

 

「ベッドがあるとはいえ、ここは地下。寝床を温める Hot water bottle …… 湯たんぽが欲しいのだけれど」

 

 湯たんぽはしゃべらないし動かない。

 セクハラなんてもってのほかだ。

 

「だから朝まで黙って私の湯たんぽになりなさい」

 

 パチュリーは自分の服に指をかけた。

 彼女が旅人の服を脱ぐと、大人な感じのする上品な肌着が露出する。

 豊かな胸を持つパチュリーにそれは良く似合っていて、小悪魔はその魅力に圧倒される。

 もちろん普段外出しないが故の、白く透き通るような肌を持つ肢体にも……

 

「さぁ、寝ましょう」

 

 そう言ってパチュリーはベッドに横になる。

 かちこちに固まっている小悪魔と一緒に。

 

(わぷっ!?)

 

 パチュリーの、その形の良い胸の谷間に鼻先を突っ込まれる小悪魔。

 

(柔らかすぎるっ! 顔が沈んじゃう、埋もれちゃうぅぅっ!)

 

 運動をしない者特有の柔らかさに、豊かさが合わさったそれに包まれ、小悪魔の頭は一気に沸騰してしまう。

 

(お、溺れちゃうぅぅ…… ダメになっちゃうぅぅ……)

 

 断末魔のような心の悲鳴。

 身動き一つできない今の状態は、生殺しもいいところだった。

 圧倒的な心地よさに駄目にされてしまうことへの恐怖と戦慄。

 そして、それと表裏一体のとろけるような快楽と安心感。

 この感触に依存して、これだけを感じていたいようになってしまう。

 もうパチュリーのベッドを温める湯たんぽ、肉布団に存在を改変されてしまってもいい、いやそうして欲しくてたまらなくなってしまう小悪魔。

 そこまで、そこまで堕とされてしまう。

 せつなくて、せつなくて、涙があふれそうだった。

 

「鼻息がくすぐったいわね」

 

 そう言う割には小悪魔の頭に回した腕を解かないパチュリー。

 その口調は何だか嬉しそうだった。

 母性本能というのだろうか。

 自分より弱い、保護の対象となる者を胸に抱いて、その息吹を感じながら眠るのは女性にとってはとても良いものなのだろう。

 

 しかし、される小悪魔は子供ではない。

 大体、息をする度にパチュリーの身体からたち昇る女性の匂いが、肺いっぱいに吸い込まれるのだ。

 それは次第に小悪魔の体の中に染み込んでいくような気がして。

 呼吸が浅くなっていくのは、これ以上パチュリーの香りで満たされてしまうことに危機感を抱いた身体の働きか、逆に興奮しすぎて過呼吸に近い症状に陥ってしまったのか。

 しかし、

 

(むーっ! むむーっ!!)

 

 きゅっとパチュリーの腕に力が籠められ、顔がその豊かな胸に沈められてしまう。

 酸欠に近い状態だったところに呼吸を封じられ、もがこうとするが、しかしそんなことでパチュリーの拘束制御術式が緩むはずも無く、指一本動かせない小悪魔。

 すぐに体力、気力が限界を迎え……

 しかし苦しいのに、苦しいはずなのに気持ちがいい。

 

(こ、こんなの覚えさせられてしまっちゃダメ! 苦しいのに気持ちいいのが忘れられなくなっちゃう! 堕とされちゃう!)

 

 つま先から頭まで、真っ白に染め上げられていく。

 チカチカしているのが目なのか頭なのか、それすら分からない。

 小悪魔の精神は快楽にのたうち回った。

 

(カヒュッ!)

 

 小悪魔はそのままパチュリーの胸の中で果ててしまう。

 がっくりと身体から力が抜ける。

 それを慣れてくれたと誤解したパチュリーが嬉しそうに手を動かして、身体を撫で、髪を梳いてくれた。

 練り絹のような肌を持つすべらかなパチュリーの指と指の間を、自分の髪が流れる感触が小悪魔にはなんともいえず心地良い。

 二度、三度とパチュリーの手がゆっくり往復するにつれて気持良さに体の力が抜け、反対に苦しいほど胸が高鳴って行くのが分かる。

 まるで、ゆっくりとした後戯を受けて、達した状態が深く長く引き伸ばされているかのような快楽。

 

(……うう、気持ちいい)

 

 暖かくて、気持ちいい。

 ふわふわしてとろけそうなのは、パチュリーの胸のことなのか、自分の意識、頭の中身なのか。

 このまま浄化されて悪魔ではなくなってしまうのでは、存在が消滅してしまうのではないかという怖れとは裏腹に、その心地よさにまったく抵抗できない小悪魔。

 こうしてパチュリーの柔らかな身体に抱きしめられた小悪魔は、そのまま昇天するかのように気絶し、寝入ったのだった。




 カラスでもカエルでも、はたまたカタツムリでもフランス料理というだけで受け入れられる感じがしますよね。
 イメージに騙されてるような気もしますが。

 そして初めてのベッドイン、というかパチュリーの母性に浄化されてしまう小悪魔。
 とってもハートフルなお話でしたよね?
 心がピュアな方ならわかってもらえるはず。


>「刃の切れ味が落ちたら、剣を買った時に付いてきたタッチアップ用砥石で軽く磨いてやると復活するわ。あくまでも応急処置だから何度も使える訳じゃないけど」

 現代ではさらにダイヤモンドシャープナーがあり、数秒で切れ味がよみがえるので解体用ナイフも量産品のファクトリーナイフで十分だったり。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ナジミの塔の探索、そして小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!

 そして翌朝、朝食を取った後、二人はナジミの塔の探索に入る。

 

「まずは小さなメダルの確保ね」

 

 塔の中を進む二人に、バブルスライム3体が襲い掛かってくる。

 

「痛っ!?」

 

 バブルスライムはパチュリーに5ダメージを与える。

 今のパチュリーにしてみれば10発食らってもまだ生きている程度の打撃だが、それでも、

 

「フロッガーより強い?」

 

 実際、毒攻撃のイメージばかりが先行するバブルスライムだが、その攻撃力は高い。

 ファミコン版では最大7体、それ以降のリメイク版でも6体まで出現するため、毒攻撃以前に通常の攻撃ダメージで殴り殺されかねない強さを持つのだ。

 ただし、

 

「でもヒットポイントは低いようですね」

 

 小悪魔はバブルスライムに斬りつけ、一撃で倒す。

 

「それが救いね」

 

 と、パチュリーも同様に斬り捨てる。

 小悪魔は最後に残った一匹にも止めを刺そうとして、

 

「ごめ…… さい……

 わた…… シタちがまちが……っていました。

 もう…… にどとしませン。

 もう…… 森…… のオク…… にもどって、ひっそりと…… 暮らシ…… マ…… す。

 ごめんなさ…… あい……」

 

 泣きながら許しを請うバブルスライムに戸惑う。

 

 

 

(ゆる)す……!! 自分が強者だと思いこんでいる人間…… 特に女は)

 

 最後の一匹となったバブルスライムは、小悪魔を前に命乞いをして見せながら考える。

 

 バブルスライムはスライムの変異種だ。

 旧エニックス社から出版された『ドラゴンクエスト モンスター物語』では、毒の沼地を温泉代わりにしていた腐った死体に誘われ、入ったスライムが瘴気を吸い込みすぎて破裂してしまった姿だとされる。

 だが破裂しても死なず、それどころか毒に慣れてしまい、その姿のまま子孫を作って行ったのだと。

 

 実際にはそんなユーモラスな伝承とは違い、他者との熾烈な生存競争に負け生息圏を追われて毒の沼地に追いやられたスライムが毒に侵され苦しみ、文字どおりに身を崩しながらも環境に適応し毒を身に着けた存在だ。

 毒に慣れる、と言うが、実際には後のシリーズ作でそうだったようにバブルスライムに毒耐性など無い。

 その身は毒に侵され、姿かたちも崩れかけ、それでも辛うじて生き延びることができている、そんな存在だ。

 

 だからこそバブルスライムは他者に劣等感を裏返しにした強い敵愾心と残虐性を持つ。

 

 自分は虐げられた弱者だった。

 だから強者には何をやっても良いのだ。

 だって弱いのだから。

 

 バブルスライムは表面上は怯えるふりで小悪魔たちの同情を請いつつ、内心では過去、騙し討ちにした相手を思い浮かべながら毒に侵す機をうかがう。

 

(あの女も)

 

 序盤の冒険者は毒などの異常状態に対する抵抗力も弱い。

 

(あの女も)

 

 解毒呪文のキアリーを覚えておらず、毒消しの備えも十分でない場合が多い。

 

(あの女も)

 

 一瞬の油断をついて毒に侵せばそれで勝ちなのだ。

 

(自分を憐み赦し…… そして泣き喚きながら死んでいった)

 

 バブルスライムは相手が強ければ、こうして命乞いも、逃げることもためらわない。

 それこそ通常のスライムと変わらぬほど逃げ足は速い。

 生きてさえいれば次がある。

 己の種族が逃げ込んだ先の毒の沼地で、毒という武器を手に入れたように。

 

 そしてまた強い相手でも不意を突いて毒に侵し、すかさず逃げることで消耗させることができる。

 解毒手段を十分に用意していない迂闊な相手なら、それだけでハメ殺すことも可能だ。

 

 だから命乞いをしてでも逃げのび、そして再び毒に侵すべく襲い掛かり、また逃げ出し……

 そうして何度も何度も報復を、リベンジを果たしてきた。

 

(さあ赦せ…… 赦せ……!!)

 

 小悪魔の構える剣の切っ先がゆらぎ、

 

(赦……)

 

「させるわけが無いでしょう」

 

 パチュリーの剣が、バブルスライムの身体に突き刺さる。

 

「報復者(リベンジャー)を気取るモンスター? バカバカしい。お前はスライムよ。ただの薄汚いスライムに過ぎないわ」

 

 そしてぐりりとねじ斬った。

 

「そして私たちは勇者…… いいえ、魔法使いパチュリー・ノーレッジとその使い魔よ」

 

 こうしてバブルスライムの群れは倒された。

 

 

 

 バブルスライムからは薬液を採取することができる。

 

「大丈夫なんですか、ソレ」

 

 顔をしかめる小悪魔に、パチュリーは、

 

「毒と薬は同じものよ。使い方によって毒は薬に、薬は毒になる」

 

 そう答えるのだった。

 

 

 

 3階の小部屋に安置された宝箱から、小さなメダルをゲット。

 

「なにげに初めての宝箱ですね」

「そう言えば、そうね」

 

 魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには財宝を守る精霊スプリガンの姿が捉えられていた。

 パチュリーはわずかな微笑で謝意を伝える。

 するとスプリガンは満足したように消えて行った。

 また別の場所で眠る財宝を守って行くのだろう。

 

 

 

 そして今度こそ、盗賊のカギを持つという老人の元に向かおうとするが、

 

「モンスターの大群です!」

 

 大ガラス2羽、フロッガー2匹、おおありくい2匹というモンスターの群れが襲い掛かって来た。

 

「まずは、大ガラスを沈めて」

「了解です!」

 

 まずは敵の手数を減らす。

 二人がかりでないと倒せないフロッガー、おおありくいは後回しにして二羽の大ガラスを打ち落とす。

 

「ぐっ」

 

 続けざまにパチュリーに襲い掛かってくるモンスターたち。

 高いヒットポイントを持っている彼女だからこそ耐えられるのだが、

 

「おおありくいの攻撃力がやっかいね」

 

 後ろ足で立ち上がって威嚇のポーズを取るおおありくい。

 どこか可愛らしい姿だが、その爪は鋭い。

 現実にも居る動物だが、腕力が強く10センチもの長く鋭い爪を持つため人が襲われると内蔵を引き裂かれるなどして死にかねないものだ。

 ジャガーもおおありくいには近寄らないという。

 

「次は一番攻撃力の高いおおありくいを減らすわね」

 

 二人がかりで、と思ったのだが、

 

「やりました、一撃です!」

「えっ、倒しきってしまったの?」

 

 小悪魔は一太刀でおおありくいを倒してしまった。

 会心の一撃、というわけではなく、たまたまヒットポイントの低い個体に、たまたま今の攻撃力で出せる最大ダメージが入ったというところらしく、パチュリーが斬りつけた個体の方は生き残る。

 

「それじゃあ、止めを……」

「後回しにしてフロッガーを倒して」

「はい?」

「アイテムドロップは最後に倒したモンスターのものが手に入るから」

「じゃあ、おおありくいの?」

「革の帽子を狙いましょう」

 

 そうしてフロッガーを倒し、最後に残ったおおありくいを倒すが、

 

「残念、そう簡単にアイテムドロップはしない、か……」

 

 おおありくいが革の帽子を落とす確率は1/64だ。

 

「でも苦労したおかげでレベルが上がりましたー」

 

 小悪魔がレベル3に。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:3

 

ちから:16

すばやさ:19

たいりょく:13

かしこさ:10

うんのよさ:12

最大HP:25

最大MP:19

こうげき力:28

しゅび力:17

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「力も最大ヒットポイントも増えました。呪文も覚えましたが、メラじゃあ剣で攻撃するより低いダメージしか出せないから無意味ですよね」

「そうでもないと思うけど……」

 

 使い道はあるのだ。

 

「ま、まぁ、これで私も勇者らしく……」

「あら私も上がったようね。レベルが」

「えっ?」

 

 パチュリーは4レベルに。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:4

 

ちから:15

すばやさ:8

たいりょく:32

かしこさ:10

うんのよさ:5

最大HP:63

最大MP:20

こうげき力:27

しゅび力:12

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「なっ、最大ヒットポイントが63……」

 

 絶句する小悪魔。

 彼女が勇者らしく先頭に立って歩く日は遠そうだ。

 

「素早さが上がったおかげで守備力が12になったのが結構大きいかも知れないわね。守備力は4ポイントごとに1ポイントのダメージを減らす効果があるから」

「んん? それだとパチュリー様は3ポイント。私の守備力17でも4ポイントしか減らないから、たった1ポイントしか変わらない?」

 

 そういうことだった。

 

 

 

 そして解体だが、おおありくいからは毛皮と肉、爪が手に入る。

 

「爪なんてどうするんでしょうか?」

「削って薬にするそうよ。現実のおおありくいの爪も同じように取引されてるって言うし」

 

 まぁ、そういう地域もある、という程度で効能は確かではないが。

 

「あとは薬草で傷の治療ね」

 

 最大ヒットポイントも増えたことだし、お互いに薬草で治療。

 小悪魔はフル回復したが、パチュリーは薬草一つでは満タンにならないという……

 

「まぁ、それでも50越えならよっぽどのことが無い限り大丈夫でしょう」

 

 そういうことで探索を続ける。

 途中、大ガラスとフロッガーに遭遇するが、

 

「一撃でフロッガーを倒せました!」

 

 小悪魔はようやくパチュリーより1ポイントだけ上回った力と攻撃力でフロッガーを斬り捨て、

 

「大ガラスからも1ポイントしかダメージを受けなくなったわね」

 

 パチュリーは守備力が上がった効果を確認して、大ガラスを倒す。

 そして3階に上がったところ、

 

「サソリバチの群れです!」

 

 三体のサソリバチだったが、

 

「サソリバチは仲間を呼ぶから気を付けなさい!」

 

 とはいえ気を付けたところでどうしようもない。

 というのもパチュリーたちは、ひたすら斬りつけるしか有効な攻撃手段を持ち合わせていないのだ。

 そして、

 

「こいつ、バブルスライムより強い!?」

 

 アリアハン大陸でも有数の強さを持っているのだ。

 またヒットポイントもバブルスライムより高く、

 

「今の私たちの力で一撃で倒せるか倒せないか。微妙なところね」

 

 ということで苦戦する。

 しかも、

 

「ああっ、倒したと思ったら仲間を呼ばれちゃいました!」

 

 となかなかに厳しい。

 

「落ち着きなさい。仲間を呼んでいるということはそのターンは攻撃できないってことなんだから」

 

 パチュリーはそう小悪魔をなだめながら攻撃を続ける。

 そして、

 

「な、何とか勝ちましたけど、勝ちましたけど……」

 

 小悪魔はヒットポイントを半分以下に削られていた。

 薬草で治療が必要だ。

 

「剥ぎ取りは、はさみと針ね」

 

 道具の材料になる素材だった。

 

 そして一行はさらに進み、フロッガー3匹とおおありくい2匹の群れに遭遇する。

 

「しくじったわね……」

 

 レベルが上がり攻撃力も上がったということでパチュリーはフロッガーを、小悪魔はおおありくいを攻撃したが、一撃で倒せないわ打撃が分散するわで戦闘が長引き被ダメージが蓄積する。

 何とか死なない範囲に収めたが、

 

「あ、あと一撃受けたら終わりでした……」

 

 小悪魔は再びボロボロになっていた。

 そして、

 

「ああ、レベルが上がったわ」

「ええっ!? 私上がってないですよ!」

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:16

すばやさ:9

たいりょく:35

かしこさ:10

うんのよさ:6

最大HP:68

最大MP:20

こうげき力:28

しゅび力:12

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「2レベル差…… 追い越したはずの力、攻撃力もまた並ばれちゃいました。しかもヒットポイント68って……」

「そんなことより薬草がもう尽きるわよ」

 

 最後の薬草を使って治療を行う。

 そして4階への階段を上り、

 

「ふぅ、最後の治療は要らなかったかもね」

「でも、もしモンスターに遭遇してたら死んでますから必要な出費ですよ」

 

 噂に聞く老人の部屋へとたどり着く。

 そこは人が住めるようになっていて、居眠りをして船をこいでいる老人の姿があった。

 小悪魔たちが近付くと目を覚ます。

 

「おお、やっと来たようじゃな」

「はい? 私たちのことを知ってるんですか?」

「うむ、勇者が旅立ったということは、わしも聞いておる。お前さん、名前は?」

「……こあくまと言います」

 

 一瞬考えた後、小悪魔は名乗った。

 小悪魔は種族名だが真名を名乗るわけにもいかないし、そもそもゲーム上の登録名を使うべきだし。

 

「そうかこあくまというのか。わしはいく度となく、おまえにカギをわたす夢を見ていた。だからおまえに、この盗賊のカギを渡そう。受けとってくれるな?」

「はい」

 

 老人から鍵を受け取る。

 その名の通り盗賊が錠前を破る時に使う鍵だ。

 

「ところでこあくまよ。この世界には、そなたの性格を変えてしまうほど、影響力のある本が存在する。もし、そのような本を見つけたら気をつけて読むことじゃな」

「ええっ、まだあんなのがあるんですか!?」

 

 小悪魔はレーベの村でパチュリーから力の秘密を使った洗脳調教を施されそうになった恐怖体験を思い出し、震えるが、

 

「ああ、ここにもあるわね」

 

 パチュリーが部屋の本棚から取り出した本に腰を抜かす。

 

「はわわ……」

 

 パチュリーはその本、『おてんば辞典』を手に取って見定めた。

 

「天真爛漫、元気な娘! おてんばイタズラ大好きっ娘、集まれ! ……? やっぱり使い切りの性格を変えるマジックアイテムね。この内容だと男性が読んでも役に立たなそう……」

「本来の目的とは違う意味で性癖を目覚めさせる男性もいるかも知れませんね」

 

 小悪魔は現実逃避かスカートを履いた女性が何かにキックをかましている様子が描かれている本の表紙を見ながら言う。

 

「そもそも魔導書でなくとも、一冊の本でそれまで無かった属性に目覚めちゃうってこともありますから、そーゆー本かも。パチュ×こあ派だった人が、こあ×パチュ本を読んで主従逆転に目覚めちゃうとか……」

 

 掛け算の順番は大事、などと主張し始めるその相変わらずのセクハラトークに、パチュリーの瞳がすっと細められる。

 

「……ずいぶん余裕ね。やっぱり『セクシーギャル』なんて性格をしているからそんななのよ」

「ひぅっ!」

 

 パチュリーはやれやれと首を振りながら本を片手に、こちらはいやいやと首を振り怯える小悪魔に詰め寄る。

 

「大体最初の性格判断で「あなたはエッチですね」「自分でもうっすらエッチであることにきづいている」「ひといちばい男の子がすき」「あなたはエッチです。それもかなりです」なんて連呼されても恥じないでいられるのがおかしな証拠」

 

 小悪魔に突きつけられる事実。

 

「小悪魔、あなたすでに洗脳されてるのよ」

「はい?」

「お前はエッチだとしつこいまでに連呼して刷り込んだ後、「でも心配はいりません。それはそれほどあなたが健康ということなのですから」と救いの手を差し伸べ肯定する。この手口、覚えがあるでしょう?」

「あ、ああ……」

 

 小悪魔は気づいてしまった。

 確かに…… それは妖しい宗教の入門体験や、現代で言うならブラック企業の新入社員研修などで散々人格否定をした末に救いの手に偽装した都合のいい価値観を刷り込む洗脳の常套手段、そのものだ。

 

 卑劣! 性格判断に仕組まれた罠!!

 

 などといったセンセーショナルな言葉が小悪魔の脳裏を過る。

 

「わたし……」

 

 呆然とする小悪魔に、パチュリーはふっと表情を緩めると、

 

「可哀想に」

 

 そう言って小悪魔の頬に手を添える。

 

「神魔の類は精神(こころ)が純粋だから、こういうことに影響を受けやすいわ。そこに付け込まれちゃったのね」

「パチュリー、さ、ま……」

「でも大丈夫」

 

 パチュリーは慈愛に満ちた表情で小悪魔にささやく。

 

「私がこの本で、歪められてしまったあなたを救い出してあげる」

「あ、ああ……」

「さぁ、その手に取って読んでみて。読書により幸福を感じることは義務。そうよね」

「読書により幸福を感じることは義務……」

 

 おてんば辞典を持たされる小悪魔。

 そして……




 スライムスレイヤーなパチュリー様再びでした。
 そして小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!
 というところで次回に続きます。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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アリアハンへの帰還、そして放置プレイへ

 パチュリーから手渡されたおてんば辞典。

 小悪魔の震える指先が、読んだ者を洗脳調教してしまう危険な本を開かんとする、まさにその時、

 

「だからこあくまよ。そのような本を見つけたら気をつけて読むことじゃと」

 

 部屋の主である老人に邪魔される。

 

「はっ!?」

 

 我に返る小悪魔。

 

「あっぶなぁっ!」

 

 手の内にあるおてんば辞典に気付き、慌ててパチュリーに突き返す。

 そしてパチュリーは、ひくりと頬を動かし、

 

「今、舌打ちしそうにしました! しましたよね、パチュリー様!」

「なんのことかしら?」

 

 一瞬、歪みかけた表情を即座に取り繕ってみせる。

 しかしさすがに小悪魔も騙されない。

 

「だいたい『おてんば』って『セクシーギャル』の完全下位互換なんですから、攻略上、変更する意味がありませんから!」

 

 そう主張する。

 仕方なしにパチュリーは肩をすくめ、

 

「お店に持っていけば60ゴールドで売れるわね」

 

 と売却の算段をし、老人の部屋を後にする。

 

「それじゃあリレミトで塔を出て、キメラの翼を使ってアリアハンに帰りましょう」

「えっ? 私がダンジョン脱出呪文のリレミトを覚えるのはまだまだ先ですよ」

 

 勇者がリレミトを習得するのはレベル14以降だ。

 

「だから『飛び降リレミト』よ」

 

 そう言って、トン、と塔から小悪魔を突き落とすパチュリー。

 

「ひあああああーっ!」

 

 塔から飛び降りることで一気に外へ。

 ドラクエの冒険者たちは、ヒモ無しバンジーに耐えられる勇気と強靭な足腰の持ち主でないと勤まらないのだ。

 しかし、

 

「こあ、あなた飛べるでしょう?」

 

 一緒に落ちながらパチュリーは言う。

 

「そ、そうでした。デビルウィーング!」

 

 背から黒き翼を伸ばし……

 

「楽ねぇ」

「ちょっ、パチュリー様!?」

 

 その手をつかんだパチュリーをぶら下げながら懸命にパタパタと羽ばたく。

 

「重い重い―!」

「むっ、そんなに重くは無いわよ」

「そうじゃなくて、私の翼は貧弱なんです。ご自分で飛んでくださいよう!」

「ここではただの商人の私に何を言っているのかしら?」

 

 そんなやり取りをしながらも、なんとか着地。

 

「さぁ、キメラの翼を使いなさい」

「はいぃ……」

 

 小悪魔が帰還アイテムであるキメラの翼を宙に放り投げると、二人はアリアハンの街へ向けひとっ飛びに飛ばされる。

 まずは今まで手に入れたカエルのモモ肉、アリクイの毛皮などを換金して、おてんば事典を売り払うと、まとまった額の金が出来た。

 さらに今まで行けなかった場所を、盗賊の鍵を使って確かめる。

 城の学者の部屋に突入。

 タンスから小さなメダルが手に入った。

 

「あとは夜にしか入れない民家の二階ね」

 

 アリアハンの街から出てちょっと歩いて街に戻る、ということを繰り返しゲーム的に時刻を進める。

 

「キメラの翼やルーラを使うと強制的に朝になってしまうのが面倒ねぇ」

「あっ、大ガラスですよ!」

 

 少ししか歩いていないのに大ガラスに遭遇する。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしいが、スーパーファミコン版よりエンカウント率が上がっているように感じられる。

 街を出た直後や階段を昇り降りした直後の遭遇までの歩数も割と短い場合があるようだった。

 

 ともあれ、いまさら大ガラスに苦戦する二人ではなく難なく撃破。

 そして時刻は夜に。

 民家に忍び込み、タンスから小さなメダルをゲットする。

 

「これで小さなメダルが五枚集まったわね」

「でもコレ、どうするんですか?」

「それじゃあメダルの館にご案内、ってところね」

 

 パチュリーは小悪魔をアリアハンの街の端にある井戸に連れて行く。

 ロープを伝って降りて行った先には家が建っていて、

 

「よくぞ来た! わしは世界中の小さなメダルを集めているおじさんじゃ。もしメダルを見つけてきた者には、わしのなけなしのほうびをとらせよう!」

 

 中には小さなメダルを景品と交換してくれるっていうメダルおじさんが待っていた。

 今までに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりにトゲの鞭をくれる。

 

「小悪魔からは現在五枚メダルを預かっておる。これが十枚になった時はガーターベルトを与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」

「ガーターベルト!?」

 

 ちょっとエッチな感じのする大人の装身具に、小悪魔は前のめりに。

 

「確か身に着けると性格を『セクシーギャル』に変えてくれる装備ですよね」

 

 パチュリーが身に着けている様子を思い浮かべたのか、だらしなく笑み崩れる。

 

「変なこと考えてないで、もう今日は休みましょう」

「ええっ、私のベッドでパチュリー様と!?」

 

 勇者の家にはタダで泊まることができるのだ。

 

「……宿に泊まるわね」

 

 二人は宿に向かうが、

 

「生憎満室で、他のお客様と相部屋になりますが」

 

 アリアハンの宿は満室、ベッドはすべて塞がっているという状況。

 レーベの村と違って部屋を取っているのはすべて大人の男性で、一番穏やかで問題なさそうな吟遊詩人風の男に話しかけるも、

 

「おや? あなたもここにお泊りなのですか?」

「はい」

「そ、そんな、いけませんよ」

 

 ポッと頬を染める男に、パチュリーは顔を引きつらせる。

 

「……仕方ないわね」

 

 ここは連れ込み宿か、という状況にパチュリーは渋々、宿に泊まるのをあきらめ勇者の実家へと向かう。

 その背後で、

 

(計画通り)

 

 と小悪魔は悪い顔をして笑っていたが。

 そう、ゲームでもアリアハンの宿は夜に訪れると満室であり。

 小悪魔はそれを忠実に再現することでパチュリーの行動を巧妙に誘導したのだッ!!

 

 

 

「まあ、遅かったのねっ。でも無事で本当に良かったわ!」

 

 勇者の実家では、夜遅くだというのに勇者の母が玄関で我が子の帰りを待っていた。

 

「さあ、早く家の中に入りましょう」

 

 そして二人は小悪魔の部屋で休むことに。

 

「パチュリー様、ベッドが一つしかないので……」

「拘束制御術式展開。悪魔罠(デーモントラップ)第3号、第2号、第1号発動」

 

 使い魔としてパチュリーと繋がっているパスを通じて、三重の封魔捕縛式が作動。

 指一本動かせない状態で床に転がされる小悪魔。

 まぁ、そうなるな、という展開だった。

 

「それじゃあ、お休みなさい」

 

 少しばかりの情けか、パチュリーは自分の旅人の服に付属のマント。

 雨風避けや野営の為のクロークを小悪魔に被せ、ベッドにもぐりこむ。

 しかし…… パチュリーはやはり忘れている。

 

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

 

 小悪魔は自分の身体にかけられたパチュリーのクロークに顔を埋めた瞬間、即座に恍惚・朦朧状態に堕とされてしまう。

 

(うあぁぁぁっ、これはぁ、これはぁ……)

 

 指一本動かせない状態で床に転がされ、みじめにパチュリーの身に着けていた衣類に顔をうずめ匂いを嗅がされ興奮する。

 

(だっ、ダメですパチュリー様、こんなことされたら私、わたしぃぃっ!)

 

 レーベの村の宿では寝取られ属性をこの身に刻まれた。

 そうして目覚めた被虐の血は、更なる淫靡な性癖を小悪魔に植え込もうとする。

 それは、

 

(こっ、これって放置プレイってやつじゃないですかっ!)

 

 懸命に欲情の火を鎮めようとする小悪魔だったが、鼻先に被せられたクロークの、パチュリーの匂いが彼女を捕らえて離さない。

 一呼吸ごとに身体が、心が、いや魂が絶対に達してはいけない頂に、淫らに吊し上げられていく。

 それが分かった。

 分かってしまった。

 

(だっ、ダメぇ。だって指一本動かせないようにされて放置されているだけなのに、それだけなのに達しちゃったら!)

 

 そうなればまた一段階、小悪魔の魂は堕ちて行ってしまう。

 もう堕ちたと思ったのにもっと下まで、堕ちてはいけないところまで堕とされてしまう。

 底なしの快楽の沼にどこまでも堕とされてしまう。

 最後に行きつくところはパチュリーになら何をされてもよだれを垂らして悦んでしまう雌犬。

 いや、意思など存在しない下僕人形にまで堕とされてしまうだろう。

 

 だから小悪魔はこらえた。

 

「どうしたらもっとパチュリー様によろこんで頂けるか、いつだって私はそう考えていますよ」

 

 そう言った言葉は嘘ではないのだ。

 命じられたことをするだけの、与えられるだけで満足する人形にはなりたくないのだ。

 パチュリーのために考えて、行動する。

 そして喜んでもらう。

 そういう存在になりたいのだ。

 

 だから小悪魔は耐えた。

 自らのパチュリーへの想いを守るために、いじらしいまでに必死でこらえ、そして、

 

(かはっ……!!)

 

 限界を超え、死んだように気を失うことでこの悪夢じみた状況から退避した。

 だが、ただの悪夢なら目を覚ませば終わるが、この状況は夢ではない。

 今、小悪魔の意識は逃避しているが、その身体はこの場に取り残されたままだ。

 そして呼吸する度に被せられたパチュリーのクロークから主人の香気を吸い続け、その匂いと心地よさをまったくの無防備となった身体に覚え込まされてしまうのだ。

 明けの明星が輝くまで……

 

 

To be continued




 おてんば辞典に洗脳され、荒木飛呂彦風(≒ジョジョ風)「キャンディ キャンディ」を歌い出す小悪魔、とかしようと思ったのですが。
 歌詞の語尾に「ッ!」や「YYYYYYYYYYーーーッ!」とか付けるのがハーメルンの歌詞使用のガイドラインにおける「歌詞を訳詞・替え歌など改変して掲載」に当たるか当たらないか分からず自粛しました。
 運営様にはお世話になってますからご迷惑はかけられない……
 なお荒木飛呂彦風「キャンディ キャンディ」はカラオケで歌うと、とても笑えるので興味のある方はお試しください。
(元々は雑誌「ファンロード」の読者コーナーに投稿されたネタでした)

 それはともかく、策をめぐらしパチュリーの行動を誘導する小悪魔でしたが、逆にギッチギチに拘束された上、放置プレイで新たな性癖をその身に埋め込まれてしまうのでした。
 そして次回は一転して、


「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 小悪魔のトゲの鞭が唸り、打ち据える!
 ゾクゾクと背筋を走る嗜虐の快楽に、その瞳が愉悦にけぶる……


 というような小悪魔の新たな魅力にご期待ください。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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小悪魔とトゲのムチ

 翌朝、起床したパチュリーは小悪魔の拘束を解くと、顔を洗って身支度を整え、1階のダイニングキッチンへと向かう。

 

「健康的な生活よねぇ……」

 

 起き抜けなのに食欲があり、勇者母が昨晩買い取ってくれたカラスの肉でどんな朝食を作ってくれるか楽しみにしている自分が居る。

 引きこもりで本の虫な彼女には、とても新鮮な体験であった。

 

 

 

 一方、小悪魔はというと、

 

 すぅうううっ……

 

「はぁああぁぁぁ」

 

 すぅうううっ……

 

「はぁああぁぁぁ」

 

 昨晩パチュリーが眠り、その残り香と、元々の自分の匂いが染みついたベッドにうつぶせに横たわり、枕に顔をうずめ思いっきり深呼吸。

 

「いぃぃいなぁぁぁ、これっ! いぃぃいなぁぁぁ、これぇ!」

 

 ムフー、スーハー、グーリ、グーリ。

 柔らかな枕に顔を押し付け、その香りを楽しむ。

 

「はぁぁ~っ! パチュリー様の匂いはたまりませんねぇ」

 

 小悪魔はパチュリーの使い魔ではあるのだけれど、紅魔館での役目は大図書館の司書。

 寝室のベッドメイクは『完全で瀟洒な従者』にして『紅魔館のメイド』十六夜咲夜か、妖精メイド(あまり役に立たないが)の仕事。

 つまり現実世界では触れることもできなかったパチュリーの寝起きしたベッドの残り香を、この世界なら存分に楽しめるのだ。

 しかもこのベッドは本来、小悪魔のもの。

 自分と愛しい主の匂いが入り混じり、あたかも「ゆうべはおたのしみでしたね」したかのような錯覚を覚えてしまう。

 

「あふ……」

 

 昨晩、パチュリーからギッチギチに施された拘束による放置プレイ責めにより小悪魔の心身は散々に啼かされ、高まっていた。

 だから太ももをすり合わせ、もじもじして我慢しようとするも、己の身体を苛む欲望には逆らえず。

 

「ぱ、パチュリー様が、パチュリー様が悪いんですよ。私、私こんなになるまで我慢したんですから」

 

 小悪魔は自分と主にそう言い訳しながらそろそろと、興奮で震える指を自分の身体に這わせ……

 

 

 

「おはようございます、パチュリー様!」

「ええ、おはよう」

 

 食卓で出されたハーブティーを楽しんでいたパチュリーは、妙にすっきり、つやつやとした様子で現れた小悪魔に、

 

(この子は朝から元気ねぇ……)

 

 と呆れる。

 まぁ、自分の残り香が付いたベッドを小悪魔が何に使ったかを知ったら、そんな呑気にはしていられなかっただろうが。

 そこにタイミングよく勇者母が、

 

「さぁ、朝食ですよ。新鮮なお肉を譲って頂いたので、麦酒(アンバーエール)でマリネしたカラス肉のハーフグリルに仕立ててみたわ」

 

 朝からガッツリ系なのは勇者の家、つまりファミコン版ではカンダタなどと同じ覆面パンツの筋肉男だった勇者の父、オルテガの家だからか。

 こんなの食べきれない、と思うパチュリーだったが、勧められるままに口にしてみて驚く。

 

「これは……」

 

 琥珀色をした麦酒を使用したマリネ液に漬け込んだお陰だろう肉が軟らかくなっており、香り高く味わい深く仕上がっている。

 添えられたのは今朝、沢から摘んできたという新鮮なクレソンにナッツをまぶして作られたサラダだったが、

 

「このサラダのドレッシングはオリーブオイルと粒マスタードでしょうか? ほのかに柑橘の風味もあっていいですね。シャキシャキした歯ごたえがたまりません」

 

 と小悪魔も満足げだ。

 パチュリーも、

 

「その緑が彩りとなって一層食欲をそそるように思えるわね」

 

 そううなずく。

 パンではなくクラッカーが出されていることも相まって、メインの肉料理の重さを上手く軽減しているように感じられる。

 クラッカーは日持ちするのでパンのように毎日焼かなくて良く手軽で美味。

 ……まぁ、酒飲みなら確実に朝からビールが欲しくなるメニューなのだが、パチュリーたちには関係ない。

 そして金色に澄んだ、暖かなスープも胃に優しいあっさり系。

 

 パチュリーには珍しく、食が進む朝食となったのだった。

 さすがにメインの肉料理は食べきれず小悪魔と分け合ったのだが、

 

「パチュリー様と半分こ! ああ、生きていて良かったです」

 

 と小悪魔にも好評なのだった。

 

「何も、涙ぐまなくても……」

 

 こんなことでそこまで、と呆れるパチュリーだったが、

 

(これからは、もう少し優しくしてあげるべきかしら?)

 

 などと考えるのだった。

 

 

 

「昨晩、小さなコインと引き換えにもらったトゲのムチだけど」

 

 商人の鑑定能力と、自分の知識を合わせて調べるパチュリー。

 トゲのムチを手に取って見定める。

 

「『イバラのトゲを編み込んだしなやかなムチ』ね。呪術的にもこれはモンスターに効くでしょうね」

「イバラというと、野薔薇とか、トゲのあるバラ族の植物ですよね。魔物除け、特に吸血鬼避けに使われる」

「そうね、そして広義にはサンザシなんかを含む場合もあるわ」

「……それも吸血鬼に効くやつですよね」

「ええ、そして古代ケルトのドルイドはサンザシを神聖視していて、それを受けてか英国の妖精物語では魔力ある植物とされた。その影響もあるのでしょう。サンザシは生薬としても使われるし……」

「なるほど」

 

 つまり、この武器は彼女たちが住む紅魔館の主である吸血鬼の少女、レミリア・スカーレットにも効くのかもしれない。

 当人が聞いたら、

 

「吸血鬼だろうとなかろうと、そんなのでぶたれたら痛いに決まってるでしょっ!!」

 

 と主張するかもしれないが。

 心臓にサンザシで造った白木の杭を打ち込まれて死なない存在の方がマレなのだし。

 

「ファミコン版では『鉄のトゲでモンスターの肉を引き裂き、骨を断つ強靭なムチ』とされていたけれど、その攻撃力は鎖鎌以下で攻撃できるのも単体に限られた」

「それに対してこれは同時に複数のモンスターへの攻撃が可能で、威力も鎖鎌以上、ですか」

「そうね、だからこれは呪的武器で、モンスターには鉄のトゲ以上にイバラのトゲが効く。そういうことなんでしょうね」

 

 そう分析するパチュリー。

 

「だから、これで攻撃すれば1グループの敵にダメージを与えることができそうよ」

「「できそう」って、そこは「できる」と言い切ってもいいんじゃないですか?」

 

 パチュリーの頭の中には攻略本の知識も入っているのだし、と思う小悪魔だったが、

 

「そこ、厳密に言うとメタルスライム、はぐれメタルには1体だけにしかダメージを与えることができないから」

 

 と正確性にこだわる主人に、なるほどと納得する。

 

「これを装備できるのは、あなただけみたいね」

 

 トゲのムチを装備できるのは勇者、盗賊、魔法使い、遊び人。

 商人のパチュリーは装備できない。

 

「お店に持っていけば240ゴールドで売れるわね。大丈夫、呪いはかかっていないわ」

 

 という話だが、

 

「つまり私が使わなければならないけど、そうするとパチュリー様に半額分、120ゴールド払わないといけない。借金っていう呪いがかかるってことじゃないですかぁ!」

 

 そういうことだった。

 

「でも今、あなたが装備している銅の剣は、お店に持っていけば75ゴールドで売れるわね。それを差し引けば45ゴールドで手に入るわよ」

 

 だからパチュリーたちは道具屋に行って薬草を補充してから、

 

「それじゃあ、清算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回の清算時の計算が、

 

小悪魔:-92G

パチュリー:40G(+未払い分92G=132G)

 

「現時点での宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残金が186ゴールド。つまり、146ゴールドの収入があったので、一人当たり73ゴールドの配当ね」

 

 そしてさらに、

 

「さっき話したとおり、あなたの銅の剣を売ると75ゴールドがあなたに手に入る一方で、トゲのムチを手に入れるには私に120ゴールド払わないといけないから」

 

 つまり、

 

「最終的にはこうなるわ」

 

小悪魔:-64G

パチュリー:261G(+未払い分64G=325G)

 

「借金が…… 借金が無くならない」

「まぁ、そうなるわね」

 

 そういうことになった。

 

「まずはレーベの村に行って、私も武器の新調、鎖鎌を買うわね」

 

 パチュリー用の武器を購入するため、レーベに向かって出発する。

 平野にて大ガラス3羽の群れに遭遇。

 

「ふふふ、それじゃあ、お仕置きを始めましょうか」

 

 小悪魔の手に持たれたイバラのトゲを編み込んだしなやかなムチは、この草原の上をヘビのように這っていた。

 彼女が手首をしごくと地面を幾重にもしなり、のたくる。

 そして、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔のトゲのムチが唸り、大ガラスを打ち据える!

 その先端は音速すら超えるというムチの範囲攻撃、触れれば皮膚が裂け、肉が爆ぜるトゲのムチの攻撃フィールドに痛打され、即座に全滅する大ガラス。

 今まで一体一体倒していたことが馬鹿らしくなるような爽快さと……

 ゾクゾクと背筋を走る嗜虐の快楽に、小悪魔はその瞳を愉悦にけぶらせる。

 

「パチュリー様、アルミラージと戦いましょう! 今すぐにでもっ!!」

「はぁ?」

 

 アルミラージは催眠呪文ラリホーを唱え、こちらを眠らせてくる有角ウサギのモンスター。

 アリアハンでも東部やいざないの洞窟で出現するが……

 

 

 

To be continued




 ちょっと短めですが、初っ端で小悪魔が暴走して、このままでは最初から最後までセクハラ祭りになってしまうため、いったん切らせていただきました。
 ……でもこれって、問題の先送りに過ぎないという話もありますが。
 小悪魔がアルミラージを使って何をする気なのかは次回、

『おちる恐怖、パチュリーを苛む催眠とムチの二重奏!』

 で。
 ご期待ください。


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おちる恐怖、パチュリーを苛む催眠とムチの二重奏!

「あはっ、本当なら催眠呪文なんて効くはずもないパチュリー様ですけど、この世界では効いちゃうんですねぇ……」

 

 アルミラージの催眠呪文、ラリホーを受け洞窟の床に倒れ伏すパチュリーを見下ろす小悪魔。

 

「フフ…… その床に這いつくばった格好も素敵ですよ、パチュリー様。とてもよくお似合いです」

 

 小悪魔はそう言って瞳を細めると、トゲのムチを振り上げた。

 

「それじゃあ、ご奉仕を始めましょうか」

 

 小悪魔がそれを使って打ち据えたのはモンスターではなく……

 

「ひぐうぅぅぅぅっ!?」

 

 意識を失い、完全に無防備だったパチュリーの背を、イバラのトゲを編み込まれたムチがしたたかに打ち据えた!

 

(フフフ、いい声で鳴くんですね、パチュリー様。ゾクゾクしますよ)

 

 小悪魔は声に出さずに笑う。

 そして目を覚ましはしたものの、あまりの痛みにビクンビクンと震えるだけで動けないパチュリーに小悪魔は、

 

「物理ザメハ(パーティアタック)は睡眠状態を100パーセントの確率で解除させる。そうですよね、パチュリー様」

 

 残酷なまでに優しい声で告げる。

 そう、ドラゴンクエスト3では睡眠状態の者を仲間が叩くことで起こすことができる。

 つまり、これは治療行為なので主従契約の抑止力には引っかからないのだ。

 しかし、そうやって叩き起こされたパチュリーを、再びアルミラージの群れの放つラリホーが襲う!

 

「う、ぐ……」

 

 必死に睡魔に抵抗するも、この世界でのパチュリーの能力では抗えない。

 彼女の性格『タフガイ』は運の良さの成長にマイナス30パーセントもの補正を受ける。

 つまり状態異常に陥る危険を運の良さで回避するこのドラクエ世界では、アルミラージのラリホーに抗うのは困難なのだ。

 

 そして逆に小悪魔の性格『セクシーギャル』は運の良さの成長にプラス20パーセントの補正がかかり、すなわちラリホーを受けても小悪魔だけが起きているという状況が作り出せることになる。

 さらに素早さに対する成長補正は『タフガイ』がマイナス10パーセント、『セクシーギャル』がプラス20パーセント。

 これが何を意味するかというと、

 

「それっ!!」

「ひぎっ!」

 

 再び小悪魔のムチがパチュリーを叩き起こし、

 

「あ、かはっ……」

 

 訳も分からず覚醒し混乱するパチュリーを、アルミラージのラリホーが襲う!

 

「パチュリー様、負けないで下さい。絶対に眠ったりしないように頑張って下さい!」

 

 催眠呪文に抗おうとするパチュリーに、小悪魔の励ましが届く。

 セリフだけ聞くとパチュリーを応援しているように思える。

 だが、今にも落ちようとする意識にささやくそれは、しかし逆に落ちてしまって楽になりたいと主張する身体を責め苛むもの、言葉責めとして認識される。

 そして、

 

「くっ、ふ……」

 

 抵抗むなしく、ふっと崩れ落ちるパチュリー。

 そこにすかさず振るわれるムチ!

 

「ひ、ひいいんっ!」

 

 落ちた意識を無理やり覚醒させる鋭い痛み。

 そしてカッと見開かれたその瞳には、ラリホーを唱えようとするアルミラージの姿が……

 

「やっ、やめ……」

 

 

 

 ドラクエにおいて、素早さが高いということは必ずしもいいことばかりであるとは言えない。

 逆に低い方、行動順位が遅い方が有利な場合もある。

 

 例えば攻撃能力上昇呪文バイキルト。

 行動順が早い者は、呪文をかけてもらう前に攻撃してしまう。

 その点、行動順が遅ければ確実にバイキルトをかけてもらってからの攻撃ができるのだ。

 

 そして一番の利点と言われるのは後攻回復。

 つまり敵の攻撃が終わった後に回復呪文を唱えたり回復アイテムなどを使うことで無駄なく回復ができ、次のターンを万全な体勢で臨むことができるというもの。

 全体回復アイテムである賢者の石を使ったボスキャラ戦などに威力を発揮する戦法である。

 

 逆に言うと……

 小悪魔のような素早い者に回復を担当させると、回復した後に再び敵の攻撃を受けることになる。

 特にラリホーを使って眠らせてくる敵に対しては、素早いキャラがパーティーアタックで仲間を叩き起こしても、そのターンのうちに再びラリホーを受けて眠らされてしまう可能性が高いのだ。

 起きたターンは何もできないため、これにより一方的に責められる、ハマリのような形になってしまう。

 ドラゴンクエスト3における、いざないの洞窟突破時にはよく見られる光景ではある。

 

 

 

「あ、あっ……」

 

 小悪魔のムチの痛みで強制的に意識を戻され。

 アルミラージのラリホーで再び落とされる。

 繰り返し、繰り返し、何度も、何度も……

 

「眠りに落ちる瞬間、吸い込まれるように意識を失うって『きもちいい』ですよね、パチュリー様?」

 

 意図的に気絶状態に陥らせる、そういう『プレイ』は、コカインと同程度に強力で非常に強い習慣性がある、などという意見もある。

 場合によっては命にかかわることも有る危険なものなのだが、今のパチュリーは魔法の力で肉体には損傷の危険を与えず安全に、しかしものすごい短時間に繰り返し意識を落とされている状態。

 

「ムチ打たれる痛みと」

 

 小悪魔の手によって振るわれるムチ!

 

「落とされる快楽」

 

 アルミラージの魔法で落とされる意識。

 

「ムチ打たれる痛みと」

 

 小悪魔の手によって振るわれるムチ!

 

「落とされる快楽」

 

 アルミラージの魔法で落とされる意識……

 

 格闘技の訓練で頻繁に締め落とされると『落ち癖』が付き、少しの圧迫でも落ちる体質になってしまうというが、今のパチュリーはまさに、そのような激しい責めを受け、身体と精神を躾けられているようなもの。

 

「仕上げです」

 

 パチュリーがすっかり『できあがってしまった』ところで、トゲのムチのグループ攻撃により不要となったアルミラージを一掃。

 

「あ、ぐ……」

「大丈夫ですか、パチュリー様。今お助けします」

 

 小悪魔はパチュリーを助け起こすと、その唇に自身の唇を重ねた。

 口移しに、小悪魔の唾液交じりの薬草の汁を与える。

 反射的に吐き出そうとするパチュリーの口内を己の舌先でなだめ、飲み込ませる。

 

 生物は激しい痛みを与えられると精神と身体がパニックに陥り、痛みを和らげようと脳内麻薬を分泌させる。

 そしてそこにこうやってほんの少しの快楽を与え、後押してあげれば、通常ではありえない深い悦びを感じることができる。

 それゆえ、パチュリーの喉が『こくん』と上下し、薬草による回復と、小悪魔の体液による媚毒、そして口内をそよぐ舌先の刺激が止めとなり、

 

「んんーっ!?」

 

 ビクンビクンとひときわ大きく腰を、身体を跳ねさせるパチュリー。

 ほんの少しの軽い気持ち、刺激を楽しもうと薬草の口移しによる治療を小悪魔に許していた彼女だったが、脳内麻薬でグシャグシャになった頭と身体では、そのほんの少しが命取りになる。

 悪魔に唇を、身体を許すというのはこういうことだと言わんばかりに、迂闊にも与えた隙を無理やりに広げられ、こじ開けられてしまう屈辱。

 それとは裏腹に高い頂に押し上げられ、そして堕ちていく身体。

 そうして小悪魔は満足げにほほ笑むとパチュリーの耳元に濡れた唇を寄せ、さらに淫靡な毒を流し込む。

 

「幻術士や鬼面道士との戦い、メダパニを受けてしまったら、もっと凄いことになりますよ」

「もっと……?」

 

 実は睡眠状態に対してのパーティーアタックは手加減が効き、痛みはともかくダメージが抑えられるうえ、100パーセント回復する。

 しかしメダパニの呪文を受け混乱状態に陥った場合は、全力で殴らなくてはいけない上、回復する確率は低い。

 

「心苦しいのですが、パチュリー様を正気に戻すためには本気で叩かなくちゃいけません。何度も、何度も……」

「あ……」

 

 小悪魔に本気で何度もムチ打たれる。

 その様を想像してパチュリーは、ぶるっ、と身体を震わせる。

 背筋を走るゾクゾクとした感覚は、恐怖のためか、それとも……

 

 

 

「あなたねぇ……」

 

 頭痛を抑えるかのように、額に手を当てるパチュリー。

 トゲのムチを手に妄想にふける小悪魔に、何とも言えない悪寒を感じた彼女は、

 

「そのトゲのムチで何をするつもりだったか、言え!」

 

 とばかりに詰問したのだが……

 まさか自分を被虐ヒロインとした主従逆転調教劇を延々と垂れ流されるとは思わなかったのだ。

 酷いセクハラである。

 しかし小悪魔の、

 

「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。つまりパーティアタックはできない仕様なんですけどね」

 

 という言葉に、それもそうかと安心する。

 だが、

 

(――今、ほんの少しですけど残念そうな顔をしませんでしたか、パチュリー様?)

 

 小悪魔はパチュリーの表情をうかがい、内心ほくそ笑む。

 魔法使い、魔女であり、幻想郷でも上位に位置する圧倒的強者であるとはいえ、パチュリーも生きている、生物なのだ。

 小悪魔から受けるセクハラに、わずかでもそういった欲望を呼び起されることはない、とは言い切れない。

 その小さなほころび、被虐願望に至る芽を今、ここで植え付けることに成功した、小悪魔はそう確信する。

 

(でもパチュリー様、パーティーアタックが無くても、私自身がメダパニを受けて混乱してしまえば、パチュリー様をムチでぶつことができるんですよ)

 

 転職を執り行うダーマ神殿周辺で現れるモンスター、幻術士が普通にプレイしていて初めて受けるメダパニの洗礼か。

 混乱状態の小悪魔にムチ打たれるパチュリーの反応を想像し、ぶるっと、身体を震わせる小悪魔。

 

(そのためには、私は豪傑の腕輪を装備して性格を『ごうけつ』にして運の良さをマイナス30パーセントの成長補正で抑え、状態異常を受けやすくする)

 

 同時に、

 

(パチュリー様にはガーターベルトを身に着けて『セクシーギャル』になってもらい、プラス20パーセントの成長補正で運の良さを上げてもらう)

 

 それが小悪魔の計画。

 

(セクシーな装身具を身に着けるパチュリー様のお姿も楽しめる一石二鳥のアイディア、本当にわくわく、いいえ、ゾクゾクしちゃいますね)

 

 そう考え、口の端を笑みの形に吊り上げる小悪魔だった。




 小悪魔……
 徹頭徹尾、セクハラ回でした。
 とはいえ実際にはパーティアタックによる睡眠状態の回復と薬草による治療行為しかしていない、しかもそれすら小悪魔の妄想なんですけどね。
 なお、

> 実は睡眠状態に対してのパーティーアタックは手加減が効き、痛みはともかくダメージが抑えられるうえ、100パーセント回復する。
> しかしメダパニの呪文を受け混乱状態に陥った場合は、全力で殴らなくてはいけない上、回復する確率は低い。

 これ、ファミコン版のお話で、スーパーファミコン版ではメダパニを回復させるためのパーティアタックでも手加減されるように変更されています。
 まぁ、

>「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。つまりパーティアタックはできない仕様なんですけどね」

 なので、どのみちパチュリー様たちには関係ありませんが。


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ところでこのタマを見てくれ。こいつをどう思う?

 小悪魔のセクハラもあったが、それ以外は何の問題もなくレーベの村にたどり着くパチュリーたち一行。

 

「それじゃあ、さっそく武器のお店に行くわね」

 

 武器店に行って、まずはパチュリーが使っていた銅の剣を売却。

 買値100ゴールドの7割5分、75ゴールドで売却できた。

 

「破格の買い取り額ですよね」

「そう?」

 

 その辺疎いパチュリーに小悪魔が説明する。

 

「はい、故買品の買い取りは基本が三割ですよ。足下を見られるともっと安く買い叩かれるのが普通ですから」

 

 そうしてパチュリーの手持ちの資金と合わせて購入したのは、鎌の柄に分銅付きの鎖がつなげられた武器。

 アリアハン大陸、店売りのものの中で最強の攻撃力を持つ鎖鎌だった。

 

「珍しい武器ですよね」

「そうね、鎖国中で鉄が貴重なアリアハンでは、食糧を自給するための農具に優先的に鉄器が使われる。それを流用して武器としたのでしょう、きっと」

 

 鎖鎌。

 日本では武芸十八般の一つとされた他、隠し武器、そして帯刀を許されない身分の農民、商人、職人の護身用の武器として用いられていたものだ。

 とはいえ特殊な武器ゆえ、店主の親父が扱い方を教えてくれる。

 

「分銅で打つ、鎖を絡めたところを鎌で止めを刺す」

 

 鎌の刃を示して、

 

「命を刈り取る形をしてるだろ? 鎌刃は引っ掛けただけで大きく傷を広げる。動きを封じた上での組討ちにはもってこいだ」

 

 と言う。

 また元々は農具の鎌であるのだから、普通に山菜、ハーブなどの収集にも役に立つ。

 幻想郷でも里の人間たちは鎌を片手に山に入って山菜採りに励んでいた。

 

「この鎖の取り付け部分は、鎌の頭端部にも鎌の柄尻にも付け替えが可能でね」

「どうしてまた?」

 

 首を傾げるパチュリーに、店主は実際に片手に鎌、もう一方の手に鎖付き分銅を持って振り回して見せる。

 

「鎌の柄尻に鎖分銅を付けた形態では、こんな風に操るのに両手が必要だ。今のところ盾を持ってないようだからいいが、この先盾を買って片手が塞がったら困るだろう?」

「そうね」

「でもこうして鎌の頭端部に付け替えれば」

 

 そう言って取り付け部を変更すると、なるほど、ムチやフレイルに近い操作感で、

 

「片手でも扱える。そのための仕掛けだよ」

 

 そういうこと。

 

「どこかのバンパイア・ハンターが使う鎖のムチみたいですね」

 

 と言うのは小悪魔。

 彼女はこの『読者に物語を仮想体験させる魔導書』に外の世界のコンピューターゲームを組み込むに際し、様々な資料を取り寄せ試行錯誤した訳であるが、その中にはアクションゲーム『悪魔城ドラキュラ』シリーズに関するものも存在した。

 鎖のムチはこのゲームの主人公が使う武器であり、その柄に鎌刃を付けたと思えばイメージがしやすいのか。

 

「そして…… 鎌の刃の付け方も工夫してあるぞ。根元は取り付け金具で刃が付いていない」

「それは?」

「想像して見な、鎌の柄尻に鎖分銅を付けた形態で使用した場合に、投げた時の反動や敵に鎖を捕まれて引っ張られたら……」

 

 それで手が滑ったら?

 

「鎌の刃で自分の指が――」

 

 想像して青ざめるパチュリーと、

 

「ポポポポ~ン!?」

 

 まったくためらうそぶりも無く結論を口にする小悪魔。

 

 指がなくては鎖鎌も持ちようがないか……

 

 ということになるのだ。

 

「手入れのための鎌砥も付けよう」

 

 小型で細長い棒状の砥石をくれる。

 内側に反った鎌刃を研ぐには普通のサイズの砥石は向かないのだ。

 店主は砥石を固定して刃を滑らせるのではなく、逆に鎌を固定して鎌砥を滑らせて刃を研いでみせる。

 また鎌砥は小さくて携帯できるので、屋外で刃物を酷使する場合にタッチアップと言って応急的に切れ味を蘇らせる用途にも使えて便利である。

 

 

 

「盗賊の鍵で入ることのできるようになった場所の確認もしないといけないわね」

 

 パチュリーたちは盗賊の鍵を使って鍵のかかった家へと入る。

 

「でも、やってることは不法侵入の泥棒ですよね」

「その辺は住居精霊(ヒース・スピリット)(パワー)でどうにでも誤魔化せるわ」

 

 以前、パチュリーが話したとおり。

 勇者一行には精霊ルビスの加護により、各家屋に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)家の精(ブラウニー)白い婦人(シルキー)が使う疎外(エイリアネーション)隠蔽(コンシールメント)混乱(コンフュージョン)といった(パワー)が作用するため、勝手に家屋に入っても咎められることは無い。

 というより、住居精霊(ヒース・スピリット)に招かれて家に入っていると言うべきか。

 実際、魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには、この家付きの家事妖精(ホブゴブリン)の姿が映っていた。

 紅魔館で働いているホフゴブリンと同一種だが、ここに居るのはアストラル体であるので、常人の目には見えないのだ。

 

「これ何でしょうね、パチュリー様?」

 

 一階は無人で、部屋の中心に据えられた大きな釜の中には何やら不思議な液体が煮え立っている。

 

「大体予想は付くわ。古民家の床下の土を集め温湯と混ぜた上澄みに、草木灰に含まれる炭酸カリウムを加えて、硝酸カリウム塩溶液を作り煮詰めているのね」

「???」

「古土法による硝石造りよ。この液体を冷ませば結晶が析出するから、その結晶をもう一度溶解して再結晶化すると精製された硝石ができあがるの」

「どうしてそんなものを……」

「この家の主人に会えば分かるんじゃないかしら」

 

 その家の二階には一人の老人が居た。

 

「ん? なんじゃお前さんは? どうやって入ってきた? わしの家にはカギをかけておいたはずじゃったが」

「入口で呼んでも、返事がなかったので……」

 

 と、小悪魔が慌てて誤魔化す。

 まぁ、家事妖精(ホブゴブリン)混乱(コンフュージョン)(パワー)が作用しているので、そんなことをしなくとも通報されたりはしないわけだが。

 

「なんと! それは盗賊の鍵! するとお前さんが、あの勇者オルテガの……! そうじゃったか…… であればこれをお前さんに渡さねばなるまい」

 

 勝手に一人で納得し、興奮している老人。

 そして……

 

 突然その老人はパチュリーの見ている目の前で着込んでいたローブの前を広げ始めたのだ……!

 

 

 

 大きく開けられた服の下から現れたのは、

 

「ところでこのタマを見てくれ。こいつをどう思う?」

「すごく…… 大きいです……」

 

 魅せられたように手を伸ばすパチュリー。

 その練り絹のように滑らかな繊手で、中身が詰まった、ずしりと重い"タマ"を確かめるように触れる。

 そしてパチュリーは顔を寄せると、ゆっくりと深呼吸するように匂いをかぐ。

 

「ああぁ…… は……ぅぉあああ……」

 

 途端に頭がくらくらするほどの暴力的な匂いが彼女の嗅覚を犯した。

 

「うあっ……うあああああ…………」

 

 ぶるぶると身体と、真っ赤に紅潮した顔を震わせるパチュリー。

 むせかえるような、生々しくも強烈な臭いに、ガーンと殴られたように頭が真っ白になる。

 これがパチュリーの求めているもの。

 

「どうじゃ? わしのモノの匂いは」

「臭い……」

 

 ゾクゾクと背中を駆け抜ける悪寒と快楽に小さな声が上がる。

 息を吸い込むたびに鼻腔を満たす匂いが吸い込まれ、パチュリーの肺と精神を征服していく。

 男が差し出したモノには、濃縮されきったエキスがため込まれていた。

 そこからほとばしる凶悪な匂いはムンムンと狂おしいほど鼻に香り、パチュリーの女を目覚めさせる。

 パチュリーは激しい羞恥に悶えていたが、同時に彼女が性的にひどく興奮していることは何より確かなことだった……

 

 

 

 魔法の玉を手に入れた!

 

 

 

「またおかしなことを考えているでしょう……」

 

 ジトっとした半眼で妄想にふける小悪魔をにらむパチュリー。

 彼女は老人が懐から出してきた魔法の玉を手に、商人の鑑定能力と自分の知識を合わせて匂いも含め調べていたのだが。

 

「何なんです、ソレ」

 

 誤魔化すように聞く小悪魔に、小さくため息をつき、

 

「これはかなり珍しいものだわ。どんな効果があるのかよくわからないわ。ためしに使ってみたらどう?」

 

 と芝居めいた平坦な口調で言って小悪魔の顔にそれをぐりぐりと押し付ける。

 

「い、いえ、私は借金があるので、これはパチュリー様にお任せします」

 

 そう遠慮する小悪魔だったが、パチュリーは退かない。

 

「お店に持っていってもこれに値段は付けられないでしょうね。だいじょうぶ。呪いはかかっていないわ」

「呪い以前に、それどう見ても爆弾じゃないですか。やだー」

 

 まぁ、丸い玉に導火線が付いていたら分かるか。

 アリアハンの宿屋にはこれを作ろうとして爆発事故を起こし大けがをして寝込んでいる男も居たし、小悪魔がビビるのも無理はない。

 

「分かっているじゃない」

 

 とパチュリーはすん、と魔法の玉の匂いを改めて確かめる。

 火薬の匂い。

 黒色火薬は木炭と硫黄、そして階下の大釜で精製されていた硝石を混合して造られるものだ。

 魔法の玉と言いつつも、全然魔法じゃないという。

 

「その玉を使えば、旅の扉への封印がとけるはずじゃ。気をつけてゆくのじゃぞ」

 

 と告げる老人。

 この家からは他に精霊の隠し財宝、賢さの種と毒消し草を見つけて、家付きの家事妖精(ホブゴブリン)から譲ってもらった。

 

 

 

「それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回、アリアハン出発前の精算時の計算が、

 

小悪魔:-64G

パチュリー:261G(+未払い分64G=325G)

 

「それでレーベに来るまでの戦いで得た収入が10ゴールドで、一人当たり5ゴールドの配当だけど、あなたの分は借金の返却に充てられるから」

 

小悪魔:-59G

パチュリー:271G(+未払い分59G=330G)

 

「うう、収入があっても手元にお金が残らないなんて……」

 

 肩を落とす小悪魔。

 

「借金が減っているのだからいいじゃない」

 

 パチュリーはそう言ってなだめると、

 

「私の銅の剣を75ゴールドで売って、320ゴールドの鎖鎌を購入」

 

小悪魔:-59G

パチュリー:26G(+未払い分59G=85G)

 

「そして賢さの種の売却価格は120ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の60ゴールドを払えば自分のものにして使うことができる」

「そうですね、だからお金のあるパチュリー様が使って……」

 

 しかし、パチュリーは首を振るとこう言う。

 

「商人に賢さのパラメーターの恩恵はあまり無いわ。一方でマジックパワーを伸ばすためにも早期の呪文習得のためにも勇者であるあなたの賢さを上げることは重要よ。二人旅で呪文を使えるのがあなただけってこともあるしね」

「そんなぁ……」

 

 そうして、さらに借金を増やし賢さの種をポリポリ齧るハメになる小悪魔。

 

小悪魔:-119G

パチュリー:26G(+未払い分119G=145G)

 

「人のお金で食べる賢さの種は美味しいかしら?」

「涙の味がします……」

 

 そういうことであった。

 

「いいのよ、泣いても。たまには涙腺の洗浄も必要だわ」

 

 そう言って微笑むパチュリー。

 まぁ、種で上がる最大値の3ポイント、かしこさが上がったので良しとすべきか……

 

 なお、この光景を見た村人たちからは、

 

「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」

 

 などと噂されることになったという。




 久しぶりの更新ですが、相変わらずと言うべきか、寝かせ過ぎたせいと言うべきか、小悪魔のセクハラ妄想が酷すぎる……

「腐ってやがる。遅すぎたんだ!」

 借金体質も変わりませんしね。

> なお、この光景を見た村人たちからは、
>「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」
> などと噂されることになったという。

 カプコンのRPG『ブレス オブ ファイアII 使命の子』では選択次第で主人公たちが『タンスを調べた回数』や『全滅した回数』が噂されているという、大変にイヤな酒場(パブ)ができたりしますが。
 そこまで行かなくとも、プレーヤーの行動次第で住人の評価が変わるというのはありますよね。

 ともあれ、もう一つの連載がようやく完結しましたので、今後は気楽にこちらの続きを書きたいと思っています。
 どうかよろしくお願いいたしますね。

 次回は、

『苦痛と快楽!? 繰り返す時の中で小悪魔に苦鳴を搾りとられることを選ぶパチュリー!!』

 をお届けする予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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苦痛と快楽!? 繰り返す時の中で小悪魔に苦鳴を搾りとられることを選ぶパチュリー!!

「それで、これからどうするんですか?」

 

 小悪魔からの問いかけに、パチュリーは少し考えて答える。

 

「そうね、ナジミの塔は駆け足で通り過ぎただけだったから、今度はじっくり調べてアイテムを回収しましょうか」

「それなら前に使った、レーベの村の南の森からナジミの塔に通じている地下道から行けばいいんじゃないですか? 途中、鍵がかかっていた扉もありましたよね?」

 

 そういうわけでレーベの村から南下し、森の中にある入り口から地下道へと入るパチュリーたち。

 盗賊の鍵が必要な扉があるので入ってみると、宝箱があった。

 

「中身は素早さの種と、カシの木をくりぬいて作った木の帽子ね」

 

 木の帽子は金属製のヘルメットに比べ守備力は低いが、それでも低位の魔物の爪や牙程度では貫通できないし、軽量でぶつけても大きな音を立てないため隠密行動(ステルス・エントリー)には向く。

 

「それじゃあ、両方ともあなたに……」

「ちょ、ちょっと待ってください! これはどう考えてもパチュリー様が使うやつですよね?」

 

 元々そんなに素早さが高くならない商人で、さらに素早さの成長に10パーセントのマイナス補正があるタフガイのパチュリー。

 また素早さの半分が守備力にプラスされる、つまり素早い身のこなしでダメージは減らせるとしたドラゴンクエスト3のシステムではその影響で守備力も低くなっている。

 しかし、

 

「私はヒットポイントが高いから敵の攻撃にあなたより耐えられるわ。だから守備力が低くても私が攻撃を受けやすい先頭に立っているのでしょう?」

「うぐ、た、確かにその方が安全ですけど、それだったらパチュリー様の守備力を上げて受けるダメージを減らした方が、治療代が安く上がりますよね?」

「将来的には、そういうこともあるでしょうね」

「将来的?」

 

 どういうことかというと、

 

「今のあなたのヒットポイントは薬草の回復量を大きく下回っているでしょう? 危ないから小まめに回復させないといけない、治療に無駄が多くなるあなたの守備力を高めて被ダメと治療の回数を減らした方が、多少、被ダメが増えても大量のヒットポイントで薬草の回復量以上に負傷するまで耐えて、1回の治療で済ますことができる私の守備力を高めるより優先されるべきなのよ」

 

 ということだった。

 

「うぐぐ……」

 

 とはいえ、

 

「まぁ、これは勇者と商人の比較検証だから、無制限に借金を許してもダメよね。攻略上、不利になるとしても」

 

 そういうわけで、素早さの種と木の帽子はパチュリーのものに。

 

「素早さの種の売値は60ゴールド、木の帽子の売値は105ゴールド。これらは二人に所有権があるから、半額の82.5ゴールド…… このドラクエ世界だとお店での売買も端数は切り捨てなのが慣例だから82ゴールドをあなたに支払えばいいわけね」

 

 そうして精算した結果が、

 

小悪魔:-37G

パチュリー:26G(+未払い分37G=63G)

 

「借金が減ってくれましたが、ゼロにはならないんですね……」

「ちなみに商人はコスパが良くて守備力が高いターバンを買えるから、そうしたらこの木の帽子はあなたがまた買い取らなくてはダメよ」

「そんな殺生な!」

 

 そうして、素早さの種を口にするパチュリーだったが、

 

「いたたたた!?」

「あー、もしかしてパチュリー様、忘れてました?」

 

 能力値を上げる種には、魔術的に肉体強化を促進する力が宿っている。

 現実ではトレーニングをすると筋肉の一部が損傷して、次に超回復という現象でトレーニング前を上回る筋力、体力が付く。

 普通は超回復に二、三日かかるが、スタミナの種や力の種、そして素早さの種などの身体能力アップ系の種は筋肉の破壊から超回復を短期間に行うものになっている。

 つまり筋肉痛を凝縮した激しい痛みが襲うということだった。

 無論、パチュリーも例外ではなく……

 小悪魔はそんなパチュリーをマッサージでなだめるが、

 

「くぁっ!? そ、そこは」

「それとも――」

 

 つい、と口の端を吊り上げてこうささやく。

 

「また私に鳴かされたくて、こんな風に無防備に種を使ったんですか?」

「っ!?」

 

 瞳を見開くパチュリーの反論を、言い訳を封じるかのように少し強めにツボを押す小悪魔。

 

「あ、あああ!」

 

 そうして必死に耐えるパチュリーを悪魔の…… 捕食者の目で見下ろす。

 

(……鳴け)

 

 ツボに添えた指を、パチュリーの柔らかな身体にぐりりとねじり込む!

 

「ああああああああ!」

 

 まるで絶頂したかのようにのけ反り叫ぶパチュリーの姿に、欲情しきった小悪魔の瞳が笑う。

 

(パチュリー様、イク時は足ピン派なんですね。ふふっ、覚えました)

 

 などと考えながら。

 そうして倒れ込むパチュリーの耳元に、小悪魔はささやきかける。

 

「あー、残念ですねーパチュリー様。素早さが1ポイントしか上がりませんでしたー」

 

 能力値を上げる種は1~3ポイントの間で能力値を上昇させる。

 これは完全にランダムなので試してみる他無いのだが、

 

「ところでパチュリー様。私、さっき『中断の書』にプレイデータをセーブしておいたんですけど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしい。

 ということは、システム的にフィールドのどこでもセーブできる『中断の書』が利用できるのだろう。

 

「あ……」

 

 パチュリーは気付いてしまった。

 これは仮想体験型とはいえゲームなのだ。

 つまり『中断の書』によるやり直しもまた可能。

 納得がいくまで、何度でも。

 

「さぁ、パチュリー様、いかがされますか?」

 

 慈愛に満ちた悪魔の微笑を浮かべ、危険な選択肢を差し出す小悪魔。

 

「う、ぁ……」

 

 パチュリーはぞくりと背筋を震わせながら口を開け、

 

「も…… もう一度……」

 

 と先ほどの体験を繰り返すことを選択するのだった。

 

 

 

(くふふふ、さすがです! さすがですよパチュリー様!)

 

 小悪魔は内心、笑いが止まらない。

 ゲーマーにありがちな、納得がいくステータスが得られるまでリセットしやり直すというプレイ。

 

(凝り性なパチュリー様なら、はまってくれそうだと思いましたが、これだけ私に鳴かされたっていうのに本当に選んじゃうんですね)

 

 愉悦に歪みそうになる口元を意識して引き締め、小悪魔は決意する。

 

(いいですよパチュリー様。その期待、応えて差し上げます!)

 

 再び素早さの種を食べ、全身を襲う筋肉痛に耐えるパチュリー。

 その身体に、今度は最初から全力で苦痛と快楽を叩き込んでいく。

 

「あ゙ーっ! あっ、あっ!」

 

『前回』の体験により高められていたパチュリーの意識は、すぐさまその強すぎる刺激、痛みの中にない交ぜになった裏返しの気持ちよさ、快感を見つけて身体をビクンビクンと跳ねさせる。

 リセットにより時を戻せばパチュリーの身体は元に戻る。

 それなのに反応に変化があるのは、パチュリーの記憶まで元に戻るわけでは無いからだ。

 継続している意識には、マッサージという『建前』で、自分の支配下にある使い魔であり、取るに足りない存在であるはずの小悪魔に組み敷かれ、いいように苦鳴を搾り取られるという、主従が逆転した倒錯の異常経験が刻み付けられ蓄積されていくのだ。

 

(そうれっ!)

「あおおおおおおっ!」

 

 身体が元に戻っても、感じ方に変化があるのはこのため……

 身体ではなく、心が小悪魔に躾けられていっているからなのだ。

 

(こうして私のこの手でお身体をさすって、こすって、快楽のツボをほじって、弄って、弄って弄って弄って、弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄――)

 

 小悪魔の瞳が狂気に染まり、そして――

 

(悪魔の手管で、苦痛と快感を魂にまで刻み込んであげます。快楽の沼に突き落とし、深く深く、二度と這い上がれない所まで沈めて差し上げます)

 

 ずぶりという表現がぴったりくるような、そんな手つきで小悪魔の五指がパチュリーの豊満で柔らかな肉体に沈められていく。

 

「あ゙ーーーーーーーーーっ!!」

 

 一瞬でも忘れてはいけないのだ。

 彼女はドジで力も弱い小者だが、人から快楽と苦鳴を搾り取る人外の存在。

 捕食者である悪魔だということを。

 

「あ…… か、は……」

 

 息も絶え絶えな様子のパチュリー。

 持病の喘息が心配されるような状況だが、これは仮想体験であり、この本の中の世界のパチュリーは現時点でヒットポイントが勇者である小悪魔の倍以上あるほどの強靭さを持つ存在。

 

(つまり現実ではできない過激なプレイも可能なのです)

 

 だからこそ小悪魔も遠慮せずに全力で責め立てているのだ。

 そして、

 

「あー、今度は2ポイントアップですかー」

 

 小悪魔は…… 悪魔は狡猾である。

 

 主従契約の抑止力。

 そして隔絶した実力差によって、小悪魔は主人であるパチュリーを害することなどできはしない。

 だが、そのことこそが逆にパチュリーの危機感を萎えさせていた。

 本気になれば小悪魔のことなどいつでも跳ねのけることができる……

 このちょっと調子に乗りすぎでしょう、という調教じみた行為の影響だって、排除することができる。

 魔法使いなら己の精神を律するなど当たり前の行為なのだから。

 しかしその余裕が…… 反対にパチュリーの抵抗力を弱めているのだ。

 

 その上で小悪魔は『建前』、つまり、

 

(これはゲームのため、攻略のために必要なこと)

 

 という『言い訳』をパチュリーに用意した上で選択を任せる。

 フラフラと揺れるパチュリーの心の天秤。

 それを傾けるべく言葉を紡ぐ小悪魔。

 

「どうせ今回限りの仮想体験なんです…… 納得がいくように楽しまれればいいんですよ」

 

 小悪魔が差し出した甘い言葉の罠に、パチュリーが押さえ続けていた衝動が溢れ出す。

 そして……

 

 

 

 そして何度やり直したことか……

 繰り返す時の中でさんざんに小悪魔に鳴かされた末、ようやく素早さの3ポイントアップを達成するパチュリー。

 

「……力の種は酸素の他、糖質や脂質を燃焼させエネルギー源として使う有酸素運動向けの遅筋を鍛えるのだけれど、素早さの種は瞬発力に特化した無酸素運動に適している速筋を鍛えてくれるわけね」

 

 脱力しながらも彼女の中の、魔法使いである冷静な部分がそう分析する。

 なお現在の二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:16

すばやさ:12

たいりょく:35

かしこさ:10

うんのよさ:6

最大HP:68

最大MP:20

こうげき力:32

しゅび力:20

 

ぶき:くさりがま

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:3

 

ちから:16

すばやさ:19

たいりょく:13

かしこさ:13

うんのよさ:12

最大HP:25

最大MP:19

こうげき力:34

しゅび力:17

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「勇者なのに、ヒットポイントでも守備力でも商人のパチュリー様に負けてます。と言いますか、ヒットポイントが勇者の倍以上っておかしいですよね!?」

 

 叫ぶ小悪魔。

 一方、パチュリーは冷静に分析。

 

「商人はタンク、壁役に向いているってことかしら? これじゃあ、この先もしばらくは私が一番攻撃の集中する先頭に立たなきゃダメね」

「攻撃力は武器の差で辛うじて勝ってますが、それもたった2ポイントだけです」

「力の能力値が一緒だもの。でもあなたのトゲのムチはグループ攻撃武器だから、数値以上に敵に与えるダメージは大きくなるわ」

 

 そういうことだった。




 このお話は健全、いいね?

 納得がいく数値が出るまでリセットするプレイって多くの人がやりますよね?
 小悪魔も筋肉痛に苦しむ主人にマッサージしているだけですし、なにも、問題、ありません。
 心がピュアな方なら、きっとわかって頂けるはず。

 みなさまのご意見、ご感想、そして、

「嘘を言うなっ!」

 などというツッコミ等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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パチュリーが鎖鎌を握った!!

 二人は奥に進み、前回通過時はスルーした宝箱から32ゴールドを回収。

 さらに進んでいくと、モンスターと遭遇した。

 

「一角ウサギね」

「でも何だか驚いている様子ですよ」

 

 モンスターは驚き、戸惑っている。

 先制攻撃のチャンスだ。

 

 カマこうげき!!

 

 とばかりにパチュリーの鎖鎌が一角ウサギの喉笛を掻き切り一撃で絶命させ、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔のトゲのムチが唸り、残り3羽の一角ウサギを打ち据える!

 その先端は音速すら超えるというムチの範囲攻撃、触れれば皮膚が裂け、肉が爆ぜるトゲのムチの攻撃フィールドに痛打され、即座に全滅する一角ウサギ。

 しかし、

 

「やっぱり素早さは上げるべきでは無かったのかしら? 後攻攻撃のパターンが崩れているわね」

 

 パチュリーはつぶやく。

 

 ドラクエにおいて、素早さが高いということは必ずしもいいことばかりであるとは言えない。

 逆に低い方、行動順位が遅い方が有利な場合もある。

 今回は問題なかったが、本来なら小悪魔がグループ攻撃をかけた後に、倒しきれなかった敵に対しパチュリーが止めを刺す、とした方が効率的に敵を倒せるのだ。

 

 一方、小悪魔は、

 

「レベルが上がりましたー」

 

 この戦闘の結果、レベルが上がっていた。

 ヒットポイントやマジックパワー、各能力値が上昇したが、さらに、

 

「ヒットポイント回復呪文、ホイミを習得しました!」

 

 これが大きい。

 

「これまでメラだけしか使えなくて使い道のなかったマジックパワーがようやく役立つようになりましたー」

 

 ということ。

 そして小悪魔は思い出す。

 

「そういえばパチュリー様、前に勇者のメラにも使い道があるって仰ってましたけど」

 

 普通であれば物理攻撃していた方がダメージが高くなる勇者で、一番攻撃力の低い単体攻撃呪文メラの使い道はというと、

 

「人面蝶は幻惑呪文マヌーサで、こちらの物理攻撃の命中率を半分に引き下げるけど、そうしたら確実に当てられるメラによる呪文攻撃に切り替えるといいってわけ。人面蝶はそのままでも通常攻撃を回避することがあるモンスターだし」

 

 半分の確率で攻撃を外すよりは、ダメージは多少減っても必ずヒットする呪文攻撃の方が速く敵を倒せるというわけである。

 

 しかし、

 

「それもホイミを習得する前までの話だけれど」

「ホイミを使えるようになりさえすれば、多少攻撃を外して戦闘が長引いたとしても、回復のためにマジックパワーを温存させておいた方が良いという話ですね」

「ええ、マジックパワーをケチって戦闘を長引かせた結果、かえって治療に必要なマジックパワーが増える、というケースもあるけど、序盤の戦いでは考えなくても大丈夫でしょう?」

 

 まぁ、今後冒険を進めて行くとそういったことも起こり得るので気を付けねばならないが。

 

「あと考えられるのは、味方にヒットポイントが危険なまでに削られている者が居て、攻撃を外したら死亡する可能性があるっていう場合かしら」

 

 その場合も確実に当たるメラで倒してしまった方が良いだろう。

 

「逆にホイミを覚えていない段階でも、グループ攻撃が可能なトゲのムチを装備させた場合に敵が大人数のグループなら、命中率が半分になっても全体で見れば当たる確率は上がり、与えられるダメージもメラより上になるケースも考えられるわね」

 

 そういうパターンも有り得るか。

 それら考察はさておき、倒したモンスターの処理である。

 

「一角ウサギから採れる肉と毛皮だけれども、これぐらいなら解体せずにインベントリ…… 魔法の『ふくろ』に入れて持ち帰ればいいわね」

 

 パチュリーの鎖鎌の鉄の刃で解体してしまうという手もあるが、ここは先を急ぐため『ふくろ』に入れて持ち運ぶことにする。

 

「次は、前回は通らなかった岬の洞窟だけれども」

 

 普通は岬の洞窟を経由して、ナジミの塔へと向かうものだが、パチュリーたちはこの地下通路を利用してパスしてしまったため、まだ行っていなかった場所だ。

 しかし、

 

「パチュリー様? そっちはナジミの塔に上がるための階段ですよ?」

「そうね、でも私たちの気配を察知して近づきつつあるモンスターをやり過ごすには、一度階段を昇り降りするのが一番よ。モンスターたちの縄張りは階ごとに分かれていて、階段を使って移動すると、もう追いかけては来ないから」

 

 ドラクエのモンスターは歩いた歩数で遭遇する。

 これは勇者たちに反応して引き寄せられたモンスターが接触するまでそれぐらいの時間がかかるということ。

 一方、モンスターたちはフロアごとに出現する種類が異なる。

 つまりモンスターたちの縄張りは階ごとで、階段を使った移動はしないということ。

 だから階段を上ったり下りたりしてやり過ごすことが可能。

 システム的に言えばフロアを移動すれば遭遇までの歩数のカウントがリセットされるということ。

 それを利用した遭遇回数軽減策である。

 これを使えば、

 

「なるほど、敵に会わずに岬の洞窟への階段にたどり着きましたね」

「それじゃあ、宝箱の中のアイテムとゴールドを回収しましょう」

 

 途中、大ガラス4羽に襲われ、パチュリーは攻撃されるが、

 

「大ガラスの攻撃が外れた? 守備力を上げたおかげね」

 

 ということでノーダメージ。

 そして、

 

「そこです!」

 

 レベルが上がって攻撃力が上昇したせいか、小悪魔のトゲのムチによるグループ攻撃で敵は一掃。

 そうして宝箱までたどり着く。

 中身はというと、

 

「56ゴールド。この時点で革の鎧が一つ買えるわけだけど、ここは一気に攻略してしまうわね」

「了解です」

 

 次に現れたのはスライム5匹。

 グループ攻撃が可能な鞭は、最初はフルにダメージを与えることができるが、後に攻撃を受けるモンスターほど与ダメージが低くなる。

 ここまで数が出ると小悪魔のムチでも1匹は倒し損ねるが、

 

「止め」

 

 パチュリーが鎖鎌で止めを刺し戦闘は終了。

 そしてたどり着いた宝箱には、

 

「旅人の服ですね。私たちには不要ですけど」

 

 二人とも旅人の服を着込んでいるわけであるし。

 だが、

 

「でも売れば52ゴールドになるわ」

 

 パチュリーが言うとおり資金源にはなる。

 そして最後の宝箱に向かうが、

 

「またスライムが5匹ですか」

「既に敵じゃないわね」

 

 ということで前回同様あっという間に戦闘終了。

 

「宝箱の中身は薬草ね」

 

 これで宝箱の中身の回収は終了。

 

「ところで、どうしてこんな風に宝箱にものが入っているんでしょう?」

 

 首を傾げる小悪魔にパチュリーはこう答える。

 

「これは精霊の隠し財宝…… ダンジョンの宝箱は財宝を守る精霊スプリガンのものでしょうけど」

 

 実際、魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには財宝を守る精霊スプリガンの姿が捉えられていた。

 パチュリーはわずかな微笑で謝意を伝える。

 するとスプリガンは満足したように消えて行った。

 また別の場所で眠る財宝を守って行くのだろう。

 

「じゃあ、これらのアイテムはどこから来たものなの、という話もあるわね」

 

 そういうこともある。

 まさか精霊が買ってきたり作ったりしたものではあるまい。

 

「まず考えられるのは、この洞窟でモンスターの犠牲者となった者の持ち物」

「そ、それは…… 確かに死体や棺桶が宝箱扱いのゲームもあるようですけど」

 

 顔を引きつらせる小悪魔。

 

「後は、このダンジョンへの挑戦者がデポしていった物とか」

「デポ?」

「登山ではね、登山ルートにあらかじめ荷物を置いておくこと、または登山中にいらなくなった荷物を置いて行くことをデポって言うらしいわ」

 

 そうすることでルート上に物資を備蓄しておく訳だ。

 補給が必要になった時には、そこから取り出して使う。

 パチュリーが読んだ本から得た知識ではあるが、そういうこともあるらしい。

 

「こういった品々も、このダンジョンを攻略しようとした人たちが置いて行った物かも知れないわね」

 

 

 

 そして帰り道、大ガラスの群れ4羽を倒すと、

 

「レベルが上がったわ」

「また私と2レベル差が付いちゃったんですか!?」

 

 パチュリーがレベル6に。

 最大ヒットポイントが13上がり、81に。

 

「私の3倍じゃないですかー!!」

 

 勇者の3倍のヒットポイントを持つ商人。

 小悪魔はオールマイティな成長補正を持つセクシーギャルであり、そのヒットポイントは決して低いわけではないのだが……

 こうしてひたすらスライムと大ガラスの群れを駆逐しながら帰還する。

 その他の成果としては、

 

「後攻攻撃のパターンは崩れていなかったわ。最初の一戦がたまたま運悪く攻撃順が崩れただけね」

 

 ということが分かった。

 しかし、

 

「おおありくいと一角ウサギです!」

 

 ナジミの塔に戻って遭遇したモンスターに対し、

 

「おおありくいが落とす革の帽子を手に入れたいから、先に一角ウサギを倒して。その後に私がおおありくいを」

 

 と指示するパチュリー。

 戦闘後に得られるアイテムは、最後に倒したモンスターのものだけだからだ。

 しかし小悪魔の攻撃より先に、

 

「あ、ら?」

 

 イネカリぎり!!

 

 とばかりにパチュリーの鎖鎌があっさりとおおありくいを倒してしまっていた。

 失敗である。

 

「どうして肝心なところで……」

 

 まぁ、嘆いても仕方がない。

 元々おおありくいが革の帽子を落とす確率は1/64。

 それほど高くは無いのだ。

 

「ともかく、宿に泊まって休みましょう」

 

 このまま塔の中を探索しても大丈夫なような気もするが、たかだか宿泊代4ゴールドをケチってもしょうがない。

 そういうわけで今晩はここに泊まることにする。

『ふくろ』の中のウサギやカラスの肉を引き取って換金してもらえることでもあるし。

 

「食事はみなさんが持ち込んでくれたウサギの肉とカラスの肉がありますけど、どちらにします?」

「そういえば、ウサギの肉ってまだ食べたことが無かったかしら」

「そうですね。前にここに来たときはカエルの足を食べましたし」

「なら今回はウサギの肉ね」

 

 というわけで、夕食はウサギ肉を調理してもらうことに。

 

「うわ、なんですかこの大きなお肉!」

 

 小悪魔が驚いたように叫ぶ。

 フライパンにたっぷりとバターを引いて岩塩とハーブで下味をつけた肉を焼いただけだが、鳥肉に似た風味のウサギ肉にバターがしみ込んでいて最高に美味しそうだった。

 バターは真夏でもない限り融けないので、どんなに栓で密封しても容器からとめどなく染み出してくる食用油を運ぶよりは便利だし、何より美味なので、こういった辺境の宿では使いやすいのだろう。

 さらには水場から摘んできたクレソンに、ボリュームを増すために干しエビを水で戻しトッピングしたサラダが添えられている。

 干しエビは軽く保存が効く上、水で戻すと驚くほど大きくなり食べ堪えがあるし、生のものより身が締まって旨みが凝縮されているという優れた食材だ。

 

 そうしてウサギの塊肉を一口食べた小悪魔が目の色を変える。

 

「うーん、火傷しそうなアツアツのお肉からたっぷりと染み出る肉汁とバターの旨味のハーモニー! 口にした瞬間に鼻に抜ける、ハーブの独特の風味がまた何とも言えないですね。紅魔館の食堂で食べるお肉と全然違いますっ!」

「そうね、紅魔館だとこういう野趣あふれる料理は出てこないものね」

 

 微笑むパチュリー。

 彼女もまた、

 

「疲れた身体に肉の塩気が沁みとおるようね。食べると身体が喜んでいるのが分かるわ」

 

 と、運動をしたせいか珍しく食が進んでいた。

 そこに宿の主人が追加の皿を持ってくる。

 

「ふかしたてのジャガイモもありますよ。熱い内にバターを乗せてとろけさせるのもよし、シンプルに岩塩をふって食べるのもよし」

「食べますっ!」

「私もいただくわ」

 

 そうして食事を満喫するが、

 

「蒸し器も持たれているのかしら?」

 

 このような場所で焼く、煮る以外の料理が出てくることに疑問を持つパチュリーだったが、

 

「普通の鍋でも蒸し料理は可能ですよ。石ころを鍋の中に敷き詰めて少量の水を注げばいい。これに食材を入れて蓋をして火にかければ蒸し料理ができます。ついでに蓋の上に重石を乗せれば内部が高温高圧になって短時間に調理が仕上がりますし」

 

 宿の亭主が答えたのは意外な手だった。

 

「なるほど、石ならどこでも手に入るわね」

 

 感心するパチュリー。

 横で聞いていた小悪魔も、

 

「蒸し料理は食材の旨みと栄養を逃さない調理法ですものね」

 

 カリフラワーなんかは茹でると水を吸って甘みが残らないし、とつぶやく。

 

「湧き水にビンを漬けてキンキンに冷やした白ワインもありますが」

「疲れて火照った喉を通るキリリと冷やした白ワイン…… ああ、反則。いえ犯罪的です。身体が欲しいって言ってます」

 

 小悪魔が即座に反応する。

 そして……

 

 

 

「あれっ?」

 

 ベッドで目を覚ます小悪魔。

 

「ああ、起きたのね。顔を洗って来なさい。良い攻略は早起きからよ」

「えっ、えっ? 夕食……」

「何言ってるの? しっかり食べてたじゃない」

 

 疲れた体に満腹、そして酒が入ったら寝落ちするに決まっていた。

 お蔭で慣れない外泊でも十分回復できただろうし、早寝したから早くから活動できる。

 

「えっ? えっ?」

「何よ、時を飛ばされたような顔をして」

「ようなじゃなくて、そのものです! せっかくパチュリー様とベッドを共にする機会だったのに!?」

「だったのにって、昨日は一緒に寝たわよ?」

「それなのに記憶が無いのがダメなんですっ!」

 

 相変わらずな小悪魔だった。

 

「……逆に考えれば、パチュリー様を記憶が飛ぶほど酔わせれば」

「物騒なことを考えるのは止めなさい」

 

 喘息持ちのひ弱な主人に何をするつもりだ、この使い魔は。

 

「いえ、これは仮想体験で、この本の中の世界ではパチュリー様は現時点でヒットポイントが勇者である私の3倍もあるほどの強靭さを持つ存在。つまり現実ではできない過激なプレイも安全に行えますから、お酒も…… いいえ、そんなものに頼らずとも悪魔の手管でご奉仕し、休むことなく快楽を浴びせかけ脳を酔わせれば、あるいは? そうやって記憶を飛ばされたパチュリー様の意識の裏で、身体の方は着々と快楽に順応し……」

「夢見る乙女のような表情をして、言ってることがエグすぎるでしょう! 記憶を失うまで責めるって、なに!?」

 

 相変わらずな小悪魔だった。




 この世の時間は消し飛び…… そして全ての人間はこの時間の中で動いた足跡を覚えていない。

 というわけで宿泊時のセクハラ行動を強制スキップさせられてしまった小悪魔でした。
 が…… 駄目っ……! 小悪魔のセクハラ妄想は尽きないっ!

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ナジミの塔の探索と、小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖再び!

 朝食はカラス肉を使った野菜たっぷりのスープにクラッカー、新鮮な野菜サラダに香草茶(ハーブティー)という内容。

 宿の主人が器に盛りつけながら説明してくれる。

 

「このような辺境の地では栄養を無駄に流さず、さらには身体を温めてくれるスープが基本です。そこに腹持ちの良い具材を沢山入れるのです」

 

 このスープは汁物であり、同時に主菜でもあるということ、

 

「身体を動かすのですから味付けは濃い目で。食欲も増進しますしね」

 

 汗を流す分、塩分も摂らなくてはならないという話だった。

 そんな朝食を取った後、ナジミの塔攻略に向かうことにしたが、

 

「一角ウサギのお肉で良ければお弁当をお包みしますけど」

「ぜひ!」

 

 という具合で、小悪魔は宿の主人が作ってくれたライ麦パンに一角ウサギの肉と野菜を挟んだ物をほくほく顔で受け取って宿を出る。

 

「まずは二階にある宝箱ね」

 

 階段を上がり、宝箱を目指す。

 モンスターに遭遇することも無く無事到着し、40ゴールドを入手。

 

「次は3階の宝箱だけど」

 

 階段に向かう途中、モンスターに襲われる。

 大ガラス4羽の群れだ。

 悪いがこの程度、瞬殺で終わる。

 しかし、3階までの階段は遠い位置にあるため再びモンスターの群れに遭遇。

 今度はフロッガーとおおありくい。

 

「今度こそ!」

 

 と意気込むが、

 

「あら?」

 

 今度もまたパチュリーの鎖鎌がおおありくいの喉笛を掻き切るのが先だった。

 何だか運が悪い。

 というか、おおありくいが持つという革の帽子には縁が無いということだろうか。

 

「それにしても、上に行く階段にたどり着くには塔の外周をぐるりと回らないと駄目ですけど、壁も手すりも何も無いって怖いですよね」

 

 と小悪魔。

 足を踏み外せば真っ逆さまなので、恐れもするか。

 ゲーム的に言ってもまた1階からやり直しになるということでもあるし。

 しかし、

 

「これには利点もあるのよ」

 

 そうパチュリーが言い含める。

 

「利点ですか?」

 

 首を傾げる小悪魔だったが、そこに人面蝶一体と一角ウサギ二羽の群れが襲い掛かって来る。

 

「くっ……」

 

 ここで初めて人面蝶の攻撃でパチュリーがダメージを受ける。

 人面蝶はすばやいのでこちらより先に攻撃することができるのだ。

 

「と言ってもかすり傷だけれども」

 

 たった1ポイントのダメージでは何の問題にもならない。

 反撃により一撃で沈めて撃破。

 そして3階へ。

 

「フロッガーとまた人面蝶です!」

 

 それぞれ1匹ずつが出現。

 今度は人面蝶の素早さに対抗してこちらも素早さの高い小悪魔を当てて先制し撃破。

 そして宝箱へ。

 

「これが最後の宝箱ね」

「中身はキメラの翼ですか」

 

 そして後は帰るだけ、というところでフロッガーとおおありくい、それぞれ二匹ずつの群れと遭遇。

 

「これなら!」

 

 小悪魔をフロッガーに、パチュリーをおおありくいに当て勝負する。

 数が多いゆえに殴り合いになるが、敵からは1~2ポイントのダメージしか受けない。

 危なげなく撃破。

 

「レベルアップしましたよ、パチュリー様!」

 

 連戦していただけに小悪魔がレベル5にレベルアップ。

 

「これで……」

「宝箱だわ!」

 

 おおありくいは宝箱を落としていった!

 パチュリーたちが宝箱を開けると、革の帽子が入っていた。

 なめした獣の革を、にかわで固めたヘルメット。

 昔から旅人に愛用されてきたもので、武闘家以外、どの職業の者でも身に着けることができる。

 

「最後の最後で運が良かったわね」

 

 パチュリーは、革の帽子を小悪魔に差し出す。

 

「これはあなたが使いなさい」

「いいんですか?」

「もちろんよ」

「ありがとうございます!」

 

 主人からの贈り物に喜ぶ小悪魔。

 そのため続くパチュリーの、

 

「精算は街に帰ってからするし」

 

 という言葉を聞き逃してしまうのだった。

 そして、

 

「そう言えばあなた、さっき塔の外周に壁も手すりも無いことを嘆いてたけど」

「はい。利点もあるって話でしたよね、パチュリー様?」

「そうね」

 

 パチュリーはうなずくと、

 

「こういうことよ」

 

 そう言って、トン、と塔から小悪魔を突き落とす!

 

「ひあああああーっ!」

「『飛び降リレミト』つまり、危なくなったらいつでも飛び降りて外に出ることができるというわけ」

 

 一緒に落ちながら解説するパチュリー。

 迷宮脱出呪文、リレミトを覚えていない序盤には、こういう建物の方が脱出しやすく安全だということだった。

 まぁ、小悪魔もこうして突き落とされるのも二度目なので、

 

「で、デビルウィーング!」

 

 背から黒き翼を伸ばし……

 

「楽ねぇ」

「ぱ、パチュリー様!」

 

 その手をつかんだパチュリーをぶら下げながら懸命にパタパタと羽ばたくのだった。

 

「し、心臓に悪いです。早くダンジョン脱出呪文のリレミトを覚えないとダメです」

「勇者がリレミトを覚えるのはレベル14以降、まだまだ先よ」

 

 そんなやり取りをしながらも、なんとか着地。

 

「さぁ、キメラの翼を使いなさい」

「はいぃ……」

 

 小悪魔が帰還アイテムであるキメラの翼を宙に放り投げると、二人はレーベの村へ向けひとっ飛びに飛ばされる。

 まずは今まで手に入れたカエルのモモ肉、アリクイの毛皮などを換金して、旅人の服を売り払うとまとまった額の金が出来た。

 

「それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:-37G

パチュリー:26G(+未払い分37G=63G)

 

「それでここまでの戦いで得た収入が318ゴールドで、今晩の宿代を差し引いて一人当たり157ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:120G

パチュリー:220G

 

「良かったです。ようやく借金が返済できました! これで旅人の服を下取りに出して売れば革の鎧が買えます!」

 

 と喜ぶ小悪魔だったが、しかし……

 

「そしてあなたが使っている革の帽子の売却価格は60ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の30ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」

「はい?」

「つまり、こういうこと」

 

小悪魔:90G

パチュリー:250G

 

「え、ええっ?」

 

 革の鎧の購入価格は150ゴールド。

 旅人の服の売却価格は52ゴールド。

 

「か、革の鎧が買えない……」

 

 ということに。

 

「仕方が無いわね。あなたには木の帽子を回してあげるわ」

「あ、ありがとうございます、パチュリー様!」

「木の帽子の売却価格が105ゴールド、あなたが革の帽子を60ゴールドで売れば差額、45ゴールドで入手できる」

 

小悪魔:45G

パチュリー:355G

 

「私は旅人の服を52ゴールドで下取りに出して売り払って、150ゴールドの革の鎧と道具屋に売っている160ゴールドのターバンを買うわ」

 

小悪魔:45G

パチュリー:97G

 

「……アリアハンで革の盾も買えるわね」

 

 そういうことになった。

 アリアハンに行くなら、レーベの村に泊まることもない。

 装備の売買を済ませたらそのまま村を発つことに。

 途中、モンスターを蹴散らしながらアリアハンに到着。

 革の盾を買うことができた。

 これで二人の所持金は、

 

小悪魔:51G

パチュリー:13G

 

 また現在の二人のパラメーターは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:6

 

ちから:17

すばやさ:15

たいりょく:40

かしこさ:11

うんのよさ:7

最大HP:81

最大MP:21

こうげき力:33

しゅび力:31

 

ぶき:くさりがま

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:22

すばやさ:23

たいりょく:17

かしこさ:15

うんのよさ:13

最大HP:34

最大MP:30

こうげき力:40

しゅび力:25

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

 

「おかえりなさい。私のかわいいこあくま。さぞや疲れたでしょう。さあ、もうお休み」

 

 勇者の実家では、勇者の母が迎えてくれた。

 話しかけると問答無用で寝かしつけられてしまう。

 しかし、

 

「お友だちもご一緒に…… ゆっくり休むのですよ」

「その意味深げな間は何!?」

 

 パチュリーが突っ込む。

 そんな風に言われると『ゆっくり休む』が別の意味に聞こえてしまうのだが。

 

「さぁ、パチュリー様。お母さんもああ言っていることですし『ゆっくり休み』ましょう?」

「ほら、やっぱりそういう意味で受け止めているし!」

 

 パチュリーを自室に連れ込み、ねっとりとした欲情しきった眼で見つめる小悪魔。

 それ、使い魔が主人に向けて良い視線じゃないから!

 ということだがパチュリーは忘れている。

 以前、

 

 

「パチュリー様の匂いが染みついた服…… それを売るなんてとんでもない!」

「人の着ていた服に顔をうずめないでちょうだい」

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

「ちなみに私は素でパチュリー様に魅了されているので、即座に恍惚・朦朧状態にされてしまいます」

「どうしてそこで胸を張ることができるのか本気で分からないし、そもそも人の着ていた服に勝手に変な特殊効果を設定しないでくれる?」

「いえ、犬にとって主人の匂いの付いた衣服がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるように、私たち使い魔には主人の魔力の残り香が付いた服はごちそう……」

「嗅ぐな!」

 

 

 このようなやり取りがあったわけであるが、今の小悪魔はパチュリーが被っていた木の帽子をゆずってもらい装備している。

 つまりパチュリーの髪から移った甘い残り香に常時包まれているわけで、

 

「何その、もう我慢できないって顔は?」

「はい、パチュリー様の匂いがこもったヘルメット…… しっかり堪能させていただいています」

 

 ふうわりと漂い鼻腔を優しくくすぐる香りに、小悪魔は心地よい陶酔感を覚え、頭には桃色の霧がかかっていた。

 魅了、恍惚、朦朧状態が常態化しており、体内で湧きたつ欲情をこらえきれない……!

 

「堪能って……」

 

 ドン引きするパチュリーだったが、

 

「さすがパチュリー様です。自分の匂いが付いたヘルメットを下僕に被せ、魅了、洗脳してしまうなんてヒドイこと、平然となさるのですから」

「勝手に人が被っていたヘルメットを洗脳道具にしないでちょうだい!!」

 

 酷い言いがかりである。

 とにかく、このままではまずいと小悪魔から木の帽子を取り上げようとするが、魅了されている小悪魔は激しく抵抗する。

 

「本当に呪いのアイテムみたいになってるし!」

 

 外せない……

 が、もみ合った結果、ベッドに倒れ込んだ二人。

 パチュリーの胸元に顔をうずめる形になった小悪魔の動きが止まる。

 

「あら?」

 

 発情しきっていたところに、パチュリーの身体から漂う甘い体臭を密着したまま直に吸い込んでしまったことで、ビクンビクンと痙攣する小悪魔。

 結果、魅了、恍惚、朦朧、興奮、発情に、さらに匂い中毒、屈服、堕落、etc.……と状態異常まみれにされ、パチュリーに対する抵抗力がとめどなく下げられて行ってしまう。

 そうやってろくに抗うこともできなくなった小悪魔から、パチュリーは木の帽子を取り上げることに成功する。

 

「ハーブを使って消臭するしかないわね」

 

 持っていたタイムを詰めたサシェ、香り袋を使い一晩かけて消臭することにする。

 タイムは爽やかな芳香で魚料理の香りづけなど料理に使われるものだが、アロマやハーブティーにも活用できる。

 防腐、抗菌の効能の他、殺菌消臭、リラックス効果もあるものだ。

 

「パチュリー様ぁ」

 

 小悪魔がすがりついてくる。

 状態異常が蓄積しまくった結果、赤ん坊のように弱体化しきっているその様子にパチュリーはため息をつくと、

 

「今晩だけよ。消臭が終わる前に木の帽子を取り戻そうとされても困るし」

 

 小悪魔の耳元にそうささやくと、ベッドを共にし眠りにつくのだった。




>「お友だちもご一緒に…… ゆっくり休むのですよ」
>「その意味深げな間は何!?」

 これ、ゲームのセリフそのままなんですよね。
 男勇者が男の仲間を連れ込んだ場合でも同じです。
 勇者母……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ホイミスライムは女僧侶の胎を苗床にして生まれるという説

「おはよう! もう朝ですよ、こあくま。さあ、行ってらっしゃい」

 

 勇者母に起こされ、二人はアリアハンの街から出発する。

 目指すはいざないの洞窟。

 アリアハンからの脱出である。

 

 途中、大ガラスを蹴散らしながらレーベの村へ。

 そこからアリアハン東部へと足を踏み入れる。

 

「フロッガーの群れです!」

「今さら!」

 

 これも瞬殺。

 そして、

 

「レベルが7に上がったわ」

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:18

すばやさ:17

たいりょく:45

かしこさ:12

うんのよさ:8

最大HP:90

最大MP:24

こうげき力:34

しゅび力:32

 

ぶき:くさりがま

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

「また私と2レベル差に…… って言いますか、ヒットポイント90って何ですか!」

 

 叫ぶ小悪魔。

 彼女のパラメーターは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:22

すばやさ:23

たいりょく:17

かしこさ:15

うんのよさ:13

最大HP:34

最大MP:30

こうげき力:40

しゅび力:25

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

 なのだから、その差は歴然としている。

 

「素早さが上がったおかげで守備力が上がってくれたのも嬉しいところね」

「守備力? 1ポイントだけですよね、上がったの」

「守備力は4ポイント毎にダメージを1ポイント減らしてくれるの」

「ああ、32だと、ちょうど四の倍数、8ポイントまで防いでくれるってことですね。私は25だから…… 6ポイントだけですか」

 

 たった2ポイントの差だが、ダメージが蓄積していくと馬鹿にならない違いが出るものだ。

 特にいざないの洞窟には催眠呪文ラリホーを使う有角ウサギ、アルミラージが集団で出るものだから、眠らされ続けて延々と攻撃を受ける、という可能性もあるのだし。

 

「次は山地越えね」

 

 ドラクエのフィールドマップでは、地形が険しくなるにつれ、モンスターの出現頻度がアップする。

 

「パチュリー様、覆面を被った変質者が!」

 

 黒いローブと覆面で身体を覆った人型のモンスターが襲って来る。

 

「魔法使いね。単体攻撃呪文メラの使い手よ」

 

 ナジミの塔の上層部でも出現するモンスターだったが、パチュリーたちは今まで遭遇したことが無かった。

 それが二体現れ、戦闘を仕掛けて来る。

 

「魔法使いであるパチュリー様が商人で、魔法使いって呼ばれるモンスターに襲われる……」

 

 というメタ視すると複雑な状況。

 しかしパチュリーは、

 

「この程度で魔法使いを名乗られてもね……」

 

 と気にも留めない。

 ただ、

 

「……指が増えてる?」

 

 諸般の事情で近年のリメイク作ではその辺、デザインが修正されていることに気付ければ、立派なレトロゲーマーである。

 

「私のムチは痛いですよっ!」

 

 そう叫びつつ小悪魔はトゲのムチを振るう!

 

「誰のムチだって痛いでしょ」

 

 と突っ込むのはパチュリー。

 しかし、

 

「あいたっ!」

 

 小悪魔は魔法使いの反撃のパンチを受け、驚く。

 

「倒しきれてない!?」

 

 割とヒットポイントがある魔法使いは、小悪魔のムチでも一撃では倒せないのだ。

 まぁ、呪文使いの素手のパンチなど大したことも無く、ダメージは1ポイントと効いていないのだが。

 

「油断してるから……」

 

 呆れたようにつぶやくパチュリーの鎖鎌が魔法使いに止めを刺す。

 そのパチュリーにも生き残りが殴りかかるが、やはり1ポイントのダメージで済む。

 

「もう一度!」

 

 再び小悪魔がトゲのムチを振るうことで、魔法使いは全滅。

 

「メラ、使ってこなかったですね?」

 

 首を傾げる小悪魔だったが、これには理由がある。

 

「ファミコン版だと通常攻撃と逃走が1/8ずつ、こちらのレベルが高くないと逃走することは無いから残り6/7の高確率でメラを撃ってくる。マジックパワーは10で5発まで連発が可能よ。そして隊列を無視して完全ランダムな目標に撃ち込んでくるから、ヒットポイントの低い後列に向けられるとかなり危険なのだけれど」

 

 だからファミコン版では強敵だったのだが、

 

「スーパーファミコン版以降のリメイク作品だとメラを使う確立は4/8に落ちているの。こちらのレベルが高くないとやはり逃走しないから実質的には4/7だけど、そもそもマジックパワーも4まで落ちているから2発しか撃てなくなっているし」

「もの凄い弱体化ですね」

 

 リメイク以降はプレイヤー側も強化されていることもあり、危険度はかなり下がっているのだ。

 そして、

 

「人型のモンスターのせいか、普通にお金持ってましたね」

「そうね、制作元のエニックスから出版された書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、ゴールドは魔族の通貨であるとされ、これが全世界で普遍的に通用している理由だと説明されていたものね」

 

 だからモンスターたちがゴールドを持っているのだと。

 さらにそれだけではなく、

 

「宝箱だわ!」

 

 魔法使いは宝箱を落としていった!

 パチュリーたちが宝箱を開けると聖水が入っていた。

 

「魔法使いは1/64の確率で聖水を落としていくのだけれど」

 

 初回で引き当てるとは運がいい。

 パチュリーは聖水を手に取って見定めた。

 

「これを使うと自分より弱い魔物をしばらくの間寄せ付けなくできるようね」

 

 通常時に使用するとトヘロスの呪文と同様の効果。

 128歩の間、フィールド上で弱いモンスターと遭遇しなくなる。

 具体的には、

 

 先頭キャラのレベル≧現在のエリアレベル+5

 

「大元のファミコン版では、

 

 先頭キャラのレベル≧モンスターパーティ内の最も高いモンスターレベル+5

 

 だったから、これを使って特定のモンスターだけしか現れなくする方法もあったけど、スーパーファミコン版以降のリメイクでは、エリアレベルと比較して低ければそのエリアではモンスターは一切出なくなっているの」

「それじゃあリメイク版の方が効き目が強いということですね」

「ところがこのエリアレベル、その地域に出現するモンスターの中で最もモンスターレベルの高いモンスターを基準に設定されているから、聖水やトヘロスで完全に封殺できるレベル自体はファミコン版と変わらないし、逆にファミコン版では出現を防ぐことができた低レベルモンスターもエリアレベルが高いと防げなくなっているの」

「ダメじゃないですか」

 

 そういうことだった。

 そして、

 

「私たちだと先頭に立っているパチュリー様が7レベルなので……」

「防げるのはエリアレベル2まで。つまりモンスターレベル2の一角ウサギより弱いモンスターしか出ない地域、アリアハンの街周辺と西アリアハンだけね」

「役に立たないじゃないですか」

 

 スライム、大ガラス、一角ウサギ程度が今さら防げても意味は無い。

 今となってはそんなザコ、蹴散らして経験値と資金源にして終わりである。

 

「あとは聖なる水、と言うだけあって生意気に教会で祝福儀礼を施されているから、戦闘中に使用すると邪悪な魔物にダメージを与えることもできるわね」

「ああ……」

 

 嫌そうに眉をひそめる小悪魔。

 

「ダメージ幅は15~32。試しに飲んでみる?」

「やめてください。しんでしまいます」

 

 小悪魔にはよく効きそうである。

 

「パチュリー様の聖水なら喜んで飲みますが」

 

 小悪魔にはよく効きそうである。

 逆の意味で。

 一方、

 

「私の?」

 

 パチュリーは少し首をかしげた後でこううなずく。

 

「魔法使いの体液には当人の力が含まれているものね、涙とか」

「純真すぎます!!」

 

 セクハラをスルーされた小悪魔が、主人の思考と知識の純粋さに気圧されたかのようにのけ反る。

 

「で、でもそんなパチュリー様だからこそ、私の手でいやらしい知識を教え込む、染め上げるって楽しみが……」

「何をぶつぶつ言っているの?」

 

 ともあれ、パチュリーはこの世界の聖水と呼ばれるアイテムに話を戻す。

 

「ファミコン版だと退魔の呪文二フラムへの耐性で命中率が決まったけど、リメイク版以降ではニフラム耐性に応じてダメージが軽減される仕様に変わっているわ。つまりニフラム無効の敵に効果がないのは変わらずだけど、その他の敵には必中というわけ」

「それは使いやすい、んですかね?」

「難敵には二フラムが効きやすかったりするから、それを倒したい場合には使える、のかも?」

 

 まぁ、そういう場合は経験値は得られないが二フラムで消し飛ばした方が早そうではあるが。

 

「ピラミッドで出るお金持ちモンスター、わらいぶくろを倒したい場合にはいいかも知れないわね。あれは二フラム耐性がゼロだし、こちらの攻撃を避けるわ、マヌーサで命中率を下げて来るわ、こちらからの攻撃呪文や補助呪文はマホトーン以外ほぼ効かないわでどうしようもないから」

 

 そんな使い道はあるか。

 あとは、

 

「お店に持って行けば15ゴールドで売れるわね」

 

 何事も無ければ換金アイテムで良いのかもしれない。

 そして二人がさらに進んでいくと、

 

「ホイミスライム!」

 

 宙に浮いたクラゲのようなスライムが襲って来る。

 

「触手ですよ、触手!」

「反応するのがそこ!?」

「やめて! 私に乱暴する気でしょう? 官能小説みたいに! 官能小説みたいに!」

「……図書館の蔵書に、そういう卑猥な本を混ぜるのは止めてくれる?」

 

 この前は間違って手に取って、危うく紅茶を噴水のように吹き出しそうになったし。

 

「ええっ?『理性崩壊! 使い魔の触手に身体を差し出す魔女!!』とか名作ですよね。「無害化したのだから大丈夫、ちょっとだけ」とか言って下僕にした触手を欲求不満の解消に……」

「止めなさい! と言うか、さっさと戦って!」

 

 このエロ使い魔は!

 そうしてようやく戦い始める小悪魔だったが、ホイミスライムの最大ヒットポイントは30と、アリアハンのフィールド上で現れるモンスターの中では一番高い上、

 

「ダメージを与えてもホイミの呪文で回復してしまいます!」

 

 ということでなかなか倒せない。

 

「持久戦に持ち込めばあるいは?」

 

 そう考える小悪魔。

 しかし、

 

「参考までにこれからあなたが魔力切れを狙おうとしているホイミスライムのマジックパワーを教えておきましょうか」

 

 とパチュリーからツッコミが入る。

 

「ホイミスライムのマジックパワーは255よ」

「なっ!?」

「実際には255という数値は無限扱いになっているから、この値が設定されているモンスターはマジックパワーが減らないの」

「ダメじゃないですかー! 負けたら苗床にされちゃうぅっ!!」

 

 などと色ボケ発言をする小悪魔だったが、パチュリーは戦いながらも妙に真剣な表情でつぶやく。

 

「……それ、実は本当なんじゃないかって話が」

「はい?」

「制作元のエニックスが出版した書籍『ドラゴンクエスト モンスター物語』では、スライムの起源はアレフガルドの大きな湖の中。そこで分裂を繰り返して増殖し、雌雄を獲得した後に生息環境が過密になったため陸へと上ってそのまま陸上生活を始めたって言うわ」

「はぁ、でもその本って昔話風というか、そのように語る存在が居る、っていうモンスターに関する民話集みたいなものですよね?」

「なら、より資料寄りの書籍『ドラゴンクエスト25thアニバーサリー モンスター大図鑑』ではどうかっていうとスライムベスがオレンジ色なのは、肉食であるからという説と併記して、メスだからという説が載せられていたわ。ドラクエ8、ドラクエ10のモンスターリストでも「噂」「真相不明」としながらもスライムベスはスライムのメス説が唱えられていたわ」

「んん?」

「だったらスライムベスの居ないこの上の世界でスライムがどうやって増えるのかっていうと」

 

 ここで小悪魔も話の不穏な流れに気付く。

 

「同種属のメスが居ず、身体のほとんどは水分でできているスライムがここ、水気の無いはげ山、荒野にも出没し増殖する。つまり、こんな場所でも増殖に適した温かく湿った場所、他種属の胎(はら)を『孕み袋』にして増えるってことですか!?」

「そういう説もあるってこと。ホイミスライムはホイミが使える女僧侶の胎を使ってスライムが産ませた亜種ってことね」

 

 まぁ俗説だし、うちのパーティーには僧侶は居ないし、とパチュリーは言うが、小悪魔ははたと気づく。

 

「……あの、私もホイミ使えるんですけど」

 

 ホイミスライムの小さな眼がキョロっと小悪魔を、その下腹部を見た、ような気がした。

 そして常にアルカイックな、微笑むような形を取っている口が、

 

 オマエガ ママニ ナルンダヨ!

 

 そう言っている、ような気がした……

 

「っきゃーっ!!」

 

 思わずムチを振るう小悪魔。

 

「あなたでもそういう反応するのね?」

 

 感心したように言うパチュリーに、小悪魔は、

 

「今の一瞬の脳内の化学変化と言いますか、反射的な反応は、パチュリー様のような無垢な乙女めいた方には実感できないというか、説明しづらいものがあるというか」

 

 と妙に早口で答える。

 そうやってムチを振るい続けるも、ホイミスライムは無限のマジックパワーで回復し続けるため当然倒せない。

 

「ど、どうするんですかパチュリー様っ!」

 

 と小悪魔は焦った声を上げるが、パチュリーはあっさりと、

 

「こちらの攻撃が3回連続で通れば倒せるでしょう?」

「くっ、でも相手も早いです。先制で回復されては」

「いいえ、それがチャンスよ」

 

 先制で回復されれば、そのターンは小悪魔とパチュリーが後からダメージを入れることができ、

 

「あ、勝てました」

 

 次のターンで回復に先んじて小悪魔が攻撃できれば勝ちである。

 

「ドラクエにおいて、素早さが高いということは必ずしもいいことばかりであるとは言えないわ。逆に低い方、行動順位が遅い方が有利な場合もあるってわけ」

 

 パチュリーが言うとおり、後攻攻撃によるダメージ蓄積が役立った形だった。

 

「ホイミスライムからは滋養強壮剤の原料になる薬液が採取できるわ」

「そうなんですか?」

「制作元のエニックスが出版した書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、回復アイテム『賢者の石』にはホイミスライムが多数封じ込められているとされていたし、それぐらい生命力にあふれているということなんじゃない?」

 

 何しろマジックパワーが無限であるし、賢者の石が壊れず何度も使えるのはそういうことなのかもしれない。

 そうしてパチュリーは、その生命力故か、それとも不定形生物であるためのしぶとさ故か、致命傷を与えられてもまだうごめき続けるホイミスライムの触手を見詰める。

 それは女を苗床に、雌にするためのもの……

 パチュリーが持つ知識には小悪魔によりもたらされた触手姦といういやらしい概念が、不本意ながら入っている。

 知識だけだが――

 しかし同時に彼女の知性は目の前の触手を持つモンスターにはもう戦闘力は無い、その気になれば即座に排除できる無害なものだということも知らせていた。

 

 だからだろうか、魔が差したのは。

 

 これを使って自らを慰めたらどうなるだろうか?

 小悪魔のセクハラにより日々、蓄積されていく性的ストレスを発散させてしまえば良いのでは?

 

 普段の彼女なら考えもしないことだったが、この世界では常に小悪魔と一緒の部屋、場合によっては一緒のベッドで寝ているため、要するに自分を慰める行為ができない、欲求不満が溜まっていたことが災いした。

 バカバカしいと頭では否定するものの、しかし彼女の手は解体してしまうべきモンスターに少しずつ伸ばされていき、

 

(問題ないわ…… 少しだけ、少しだけだから……)

 

 そう自分に言い訳しインベントリ…… 魔法の『ふくろ』に仕舞い込む。

 

 

 

「パチュリー様?」

 

 倒したホイミスライムを『ふくろ』に突っ込むパチュリーに小悪魔は小さく首を傾げるが、

 

「先を急ぐから、後で解体することにするわ」

 

 パチュリーはそう答える。

 そして眉をひそめ、こう問う。

 

「また変なこと、想像してない?」

 

 小悪魔の妄想は尽きない……

 

 

 

To be continued?




 最後のは小悪魔の妄想…… だよね?
 というところで次回に。
 小悪魔が一々セクハラを入れるおかげで話が進まない進まない。
 というか、これでも削ってあるんですけどね。

 次回はいざないの洞窟に挑戦、そして突破したい、と思っています。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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バキバキに硬くなってますっ! いざないの洞窟突破

「ほこらがあるわね」

 

 さらに進むと小さなほこらがあるので入ってみると、そこには老人が一人で暮らしていた。

 

「お若いの、魔法の玉はお持ちかな?」

「はい」

「ならば、いざないの洞窟にお行きなされ。泉のそばのはずじゃ」

 

 そう勧められる。

 このほこらからは、住居精霊(ヒース・スピリット)たちが持っていた精霊の隠し財宝、小さなメダルとキメラの翼が手に入った。

 あとは本棚からムチやブーメランについて書かれた本を見つけた。

 

 ムチ、ブーメランは1度に多くの敵を攻撃できる武器だ。

 ムチはグループに。

 ブーメランは敵すべてにダメージを与えるであろう。

 たとえ今より攻撃力が落ちようともそちらの方が得という場合もある。

 考えて使うべし。

 

「ブーメランは商人のパチュリー様でも使えるんですよね?」

「そうだけど、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものでしょう? すごろく場が廃止されて入手タイミングが遅れるから」

 

 その辺、ゲームバランスもまた変わってくるわけだ。

 

 老人の勧めに従って北に見える泉に向かうと、言われたとおり、そのそばに入口があった。

 しかし階段は石壁で封じられている。

 

「ここで魔法の玉を使えばいいのね」

 

 パチュリーは魔法の玉を壁に取り付け、導火線に火を付ける。

 そして安全のために遠くへ離れた。

 魔法の玉は大爆発を起こして壁を吹き飛ばしてしまった。

 

「び、びっくりしました」

 

 目を瞬かせる小悪魔。

 パチュリーもまた、

 

「……火薬多過ぎ」

 

 と、こんな危険物を何の注意もせずに渡した老人に恐怖を覚える。

 

「そう言えばアリアハンの宿屋には、魔法の玉を作ろうとして大けがをした男の人が寝ていましたね」

 

 そう言って小悪魔もぶるっと身体を震わせる。

 ともあれ、破られた壁の先にあった宝箱を開けてみる。

 蓋の裏には、何やら文字が刻まれていた。

 

『アリアハンより旅立つ者へ。この地図を与えん! 汝の旅立ちに栄光あれ!』

 

 中には世界地図が入っていた。

 

「これさえあれば、どこへでも行けそうですね」

 

 小悪魔がそれを見て言った。

 そして階段からいざないの洞窟内に潜入する。

 通路には裂け目がいくつも広がっており、ぐるりと回り道をしないといけない。

 

「最初の宝箱は毒消し草だから取りに行かずに無視して進みましょう」

 

 この先、階段を降りるか、地面の裂け目から飛び降りるかして地下三階に行くと毒持ちのバブルスライムが出るし、旅の扉から転送された先のロマリアのフィールドでは毒ガエル、ポイズントードが出るため役立つものだが、毒消し草のストックはあるのでここはスルーする。

 

「床に穴が開いてますね、間違って落ちたら……」

 

 ぶるりと身体を震わせる小悪魔。

 

「どの穴から落ちても、その先はひとつながりのフロアになっていて、そこから出るための唯一の階段は、最初に降りてきた階段のそばにつながっているから」

「また最初からやり直しってわけですか、意地が悪いですね」

「……そうとばかりも言えないんだけど。逆に救済措置みたいなものよ、これ」

「それは?」

「途中で死人が出たり、マジックパワーや薬草が切れたりして、にっちもさっちも行かなくなった場合、それまで進んできた道を延々と歩いて引き返さなくても、地面の裂け目から飛び降りればショートカットして入り口まで戻ることができるの」

「ああ、ナジミの塔でも使った『飛び降リレミト』ってやつですね」

 

 これに気付くと、いざないの洞窟への挑戦の難易度は格段に下がるのだった。

 小悪魔がなるほどと感心したところに、モンスターが現れる。

 

「おばけありくいとアルミラージです!」

「とにかくアルミラージを倒して!」

 

 幸い一匹ずつの群れだったので、アルミラージに集中攻撃をかけることにする。

 パチュリーは鎖鎌で斬りつけるが、

 

「さすがに一発では倒せない!?」

「ならこれで!」

 

 小悪魔の追い打ちで倒しきることに成功!

 しかし、

 

「うぐっ!」

 

 小悪魔はおばけありくいの攻撃で3ポイントのダメージを受ける。

 

「連続で受けると痛そうね」

 

 おばけありくいは狙いを一人に集中させ、対象を死ぬまで攻撃し続ける集中攻撃の習性を持ち合わせており、多数現れた場合にはかなりの脅威となるのだ。

 ターゲットになった者は次のターンから防御すると良いのだが、最悪アルミラージに眠らされて、何もできないまま集中砲火に沈むという場合も……

 

「しかもヒットポイントが高いです!」

 

 小悪魔の攻撃だけでは倒しきれず、

 

「ファミコン版だと最大ヒットポイントが17、魔法使いの初級グループ攻撃魔法ギラで一掃できる程度だったけど、スーパーファミコン版以降のリメイク作品だと21に増強されているから」

 

 パチュリーが追い打ちをかけることでようやく倒す。

 

「アルミラージからは肉と毛皮、お化けアリクイからは、おおありくいと同じく、毛皮と肉、爪が採れるわね」

 

 鎖鎌の刃で手早く解体する。

 

 さらに奥に進むと、

 

「キャタピラーよ!」

「芋虫さんって、おち〇ちんに似てますよね」

 

 小悪魔、いきなりのセクハラ発言。

 

「それは芋虫はそういったものの暗喩、メタファーに使われることも有るけど、直に言ってしまっては身も蓋もないでしょう!?」

 

 ストレート過ぎるという話である。

 そして二人の目の前で、

 

「いきり勃つー!?」

 

 ぐぐっと身体を伸ばし守備力を元の値の50%上昇させる防御力アップ呪文、スクルトを唱えるキャタピラー!

 小悪魔はトゲのムチを振るうが、

 

「硬ぁい……」

 

 10ポイント以下のダメージしか出せないことにため息をつく。

 

「バキバキに硬くなってますっ! パチュリー様も試してみて下さい」

「一々エッチな言い回しで報告しなくていいから!」

 

 パチュリーは顔をしかめて鎖鎌で斬りつけつつ、

 

「どうしてこの子は……」

 

 と嘆く。

 まぁ、以前ライチを食べていた時に、

 

「ライチの食感って、おち〇ちんの先っちょに似てるって話、どう思われます?」

 

 と聞かれて盛大にむせたことに比べれば今回はマシな方か……

 

 それはさておき、

 

「リメイク版以降だと使うのよね、スクルト」

 

 と状況を分析する。

 ファミコン版でもデータ上は設定されていたが実際には使われなかったというもの。

 リメイク版以降ではそれがアクティブになっているのだ。

 

「まぁ、地獄のハサミが使うインチキスクルトよりはマシだけど」

 

 モンスターが使って来るスクルトには二種類あり、地獄のハサミのスクルトは敵全体の守備力を元の値と同じだけアップさせるというぶっ壊れ性能なものなのだから。

 

「唱えるのは1回だけ。1回で増えるのは12ポイントで実ダメージで3しか減らない。むしろ一回攻撃を休んでくれるからサービス行動に近いんだけど」

 

 ただし、

 

「ヒットポイントも増強されてるからしぶといのよね」

 

 ファミコン版の40から10ポイント上がって50が最大ヒットポイントだ。

 次のターン、小悪魔が先制するが、

 

「何とか10ポイント越えのダメージを叩き出しましたが……」

 

 当然のように倒しきれない。

 さらにはパチュリーの追撃にも耐える。

 そしてキャタピラーの反撃だが、

 

「ぐっ!?」

 

 パチュリーは9ポイントのダメージを受ける。

 

「わ、私より固いはずのパチュリー様でそれですか!?」

 

 小悪魔なら二桁ダメージを食らっているところである。

 3、4発もらったら死亡だ。

 

「ファミコン版より攻撃力もアップしてるのよ」

 

 ということだった。

 

「それでも次の攻撃で!」

 

 小悪魔のトゲのムチが唸り、何とか倒しきる。

 

「この芋虫は、絹糸腺が高く売れるのよね」

 

 また鎖鎌を使って絹糸腺を剥ぎ取るパチュリー。

 

「絹糸腺?」

「何でも、それから特殊な糸が作れるみたいよ」

 

 現実でもテグス糸はそうやってクスサンの幼虫の絹糸腺から作られるものだったが、この世界では虫型モンスターから取った素材で作るらしい。

 

「次の宝箱は聖なるナイフだから資金源にするために取りに行くわね」

 

 ということで寄り道するが、宝箱まであと少しというところで、

 

「人面蝶とアルミラージです!」

「一匹ずつなのは幸いね。アルミラージから倒すわよ」

 

 集中攻撃でアルミラージを撃破する。

 しかし、

 

 人面蝶はマヌーサを唱えた!

 パチュリーは幻に包まれた!

 小悪魔には効かなかった!

 

「くっ、当てられない!」

 

 パチュリーの攻撃はミス。

 

「人面蝶に誑かされた人は現実と妄想の区別が付かなくなってしまうって話ですからね。妖しい夢幻の世界に引きずり込まれたパチュリー様にはもう逃れるすべもなく……」

「その言い方は語弊があると思うのだけれど」

 

 確かにマヌーサは深い幻で包みこんで通常攻撃の空振りを誘う、命中率を半分にする呪文であり、戦闘中に解除する方法は無いので「逃れるすべもなく」というのもそこだけ切り取れば間違いではないが……

 そして、

 

「ここは任せてください!」

 

 マヌーサの効果を回避できていた小悪魔の攻撃が、人面蝶を倒した。

 

「まぁ、素早さの高いあなたが一撃で倒せるのだから、ここは無理せず防御しておくのが正しかったのかもね」

 

 ということか。

 そしてようやく宝箱に手をかけるが、

 

「これが聖なるナイフですか」

 

 邪悪を退ける純銀で作られているという呪的装備。

 

「咲夜さんが使っているやつですよね」

 

 紅魔館のメイド、完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜は銀の投げナイフを多用する。

 彼女は二十間(約36メートル)離れた場所に居る、頭上にリンゴを載せた妖精メイドの『額』に当てることができるほどの腕前を持つ上、時を止める能力を持つ。

 

「銀は滅菌と浄化作用を併せ持ち、銀の武具に傷つけられた者は同時に魔術的な力を奪われるためダメージを受けることになると言われているわ。また別の説では銀は月神の金属であるが故に夜の生き物に効くのだとも」

「だからナイフなのに攻撃力が高いわけですか」

 

 聖なるナイフの攻撃力は14。

 鎖鎌の16よりは低いが、銅の剣の12より高いのだ。

 ただ、

 

「魔法使いも装備できるこれが、ここにあるのは意味深いわね」

 

 何よりの特徴は全職業で使えること。

 まぁ、武闘家はこれら普通の武器を身に着けると攻撃力が下がってしまうのだが。

 

「いざないの洞窟はアリアハン脱出の道で、それなりに長い。つまり魔法使いは後半、マジックパワー切れを起こしやすいけど、ここで聖なるナイフが手に入れば、それを使って援護の攻撃ができるようになるってわけね」

「私たちのパーティみたいに魔法使いが居ない場合は?」

「次のロマリアの街で売り払って買い物の資金源にするのにいいわね」

 

 そういうことだった。

 そしてさらに進むと、

 

「階段です!」

 

 ようやく階段にたどり着く。

 それを降りて進むと、旅人の扉が。

 

「これが他の場所へと続いているという旅の扉ね」

 

 運が良いのか、あっけなく到着。

 

「ホイミも薬草も1回も使うことなくあっさりと突破できたわね……」

 

 普通、いざないの洞窟というとアルミラージやおばけありくいの群れと当たってボッコボコに殴られ、治療を繰り返しながら突破するというものなのだが。

 

「難易度が下げられてるのかしら? それとも運がいいだけ?」

 

 首を傾げるパチュリーだったが、

 

「さっそく行ってみましょう、パチュリー様!」

「あっ、こら、押すな!」

 

 小悪魔に押され旅の扉に入ると、うにょーんと世界が歪んで、パチュリーたちはロマリア近くのほこらへと飛ばされていた。

 

「ううっ、何か酔っちゃいました」

「私でも少しくるものがあったわ……」

 

 ともあれ、これでアリアハンは脱出。

 ほこらを出て北上すればロマリアの街である。




 本当、こんな簡単に突破できてしまうなんて私にも想定外なんですけどスマホ版って難易度下がってます?
 逆に言えば経験値もお金も稼げていない状態でロマリアの敵と戦えるのか不安だったり。
 まぁ、次回ロマリアの街を探索してみて、どれだけお金が溜まっていて装備を追加購入できるかがポイントなんでしょうかね?
 こんな調子だったら、ピラミッド直行で魔法の鍵を取ってしまえそうでもあるのですが……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ロマリアの夜 いぬとパチュリー

 ロマリアに到着したパチュリーと小悪魔。

 まずは城でロマリアの王に謁見する。

 

「カンダタという者が、この城から金のかんむりをうばって逃げたのじゃ。もしそれを取り戻せたなら、そなたを勇者と認めよう! さあ、行け! こあくまよ!」

「いや別に認めてもらう必要も無いのだけれど」

 

 思わず突っ込みを入れるパチュリー。

 王と並ぶ王妃からは、

 

「アリアハンは美しいところと聞きます。きっと、人々の心も美しいのでしょうね」

 

 などと言われるが、

 

「心が、美しい……?」

 

 隣に立つ小悪魔をまじまじと見つめ首をひねるパチュリー。

『これ』を前にして、そういう感想が出て来るという王妃の眼か頭の心配をしてしまう。

 一方、

 

「そこでどうして私を見て首を傾げるんですか、パチュリー様?」

 

 本気で不思議そうにパチュリーを見返す小悪魔。

 実際、彼女は敬愛している主人に誠実に仕えているつもりなのだ。

 誠実だからこそパチュリー自身が気付いていない隠された被虐願望を察して、それを満たしてあげたい、性の奴隷に堕としメチャクチャにしてあげたいと願っているだけで。

 

(パチュリー様の理性は否定するでしょうけど、魔法使いであっても生きている、生者である限り心のどこかには生の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)に基づく、性への欲求とか破滅願望などが微量でも無いとは言えないわけで。

 それがパチュリー様の隠れた一面であり、本性であり、そして私はどんなパチュリー様であっても肯定する存在です。だって私はパチュリー様のすべてを愛しているのですから。

 ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ)

 

 という具合に。

 パチュリーが知ったら、

 

「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

 

 と呆れ声で言っただろうが。

 また、パチュリーにセクハラ行為を怒られても止めないのも、

 

("いや"っていうのは、"いい"ってことですよね?)

 

 というように、単に素直になれない主人、パチュリーのミエを通すため自分が悪役になっているだけ。

 主従逆転快楽調教を施すという体裁を取っているが、実際には純粋に主人のために奉仕しているだけ。

 小悪魔は何の矛盾も感じること無く、本気でそう思っているのだ。

 ……タチが悪いことに。

 

「……それじゃあ、小さなメダルでも探しましょうか」

 

 諦めたようにため息をつきながらそう言うパチュリー。

 城の花壇や篝火の脇から、小さなメダル二枚を探し出す。

 

「一々調べなくても、アイテムが隠されている場所に行くと分かるようになってますね」

 

 感心する小悪魔に、

 

「スマホ版の仕様かしら?」

 

 と返すパチュリー。

 スマホ版ではアイテムが隠されている場所に行くとエクスクラメーションマーク、俗に言うビックリマークが出て知らせてくれる親切仕様となっているのだ。

 さらに城の中を散策すると、王の父親の部屋にたどり着いた。

 

「わしの息子は遊び好きでな。王様になってもその癖が抜けん困った奴だ」

「それじゃあ御隠居様は遊び、嫌いなんですか?」

 

 首を傾げる小悪魔に、

 

「スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版だと部屋のタンスには、すごろく券が入っていたのだけれどね」

 

 とパチュリー。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されている。

 だから残念ながらタンスは空だったが。

 そして王の父親の部屋には本棚があった。

 

「もしかして、性格を変える本が!?」

 

 洗脳調教の恐怖に震える小悪魔。

 あった。

 ずるっこの本。

 パチュリーはそれを手に取って見定めた。

 

「正直者はバカを見る! 世の中、ズルイヤツが生き残るのさ! ……何コレ?」

 

 まぁ、国王ともなるときれいごとだけでは済まないということだろうか。

 

「お店に持って行けば60ゴールドで売れるわね」

 

 小悪魔に読ませてもろくなことにならないだろうから、これは道具屋に持ち込んで売り払ってやることにする。

 そのためにも城を出て、街に向かう。

 

「街の方にも何かありそうだけど」

 

 街を回り、建物つきの住居精霊(ヒース・スピリット)が隠し持っている財宝を見つけ譲り受ける。

 城下の教会の本棚からは、頭が冴える本が見つかった。

 

「驚異の大脳発達術! 頭の良くなる食品リスト! 超思考法! ……ねぇ」

「あ、あやしーっ! あやしさ大爆発ですっ!」

「お店に持って行けば、75ゴールドで売れるわね」

 

 さすがに怪しすぎて、小悪魔で試してみる気にもなれない。

 またタンスからはくじけぬ心というアクセサリーが見つかったが。

 

「くじけぬ心…… これは装飾品のようね。どんな苦労にも負けない心が、逆にその人を苦労人にしてしまうわね」

「パチュリー様、そんなのしかないんですか?」

「そんなのだからタダでくれるんでしょうね。でもこれ、お店に持って行けば187ゴールドで売れるわね」

 

 その他にも民家からは革の帽子、小さなメダルを入手。

 そして、

 

「あら、かわいい犬ね」

「うーっ、わん、わん!」

 

 町外れの木陰には、ボビーという犬が居るが、近づくと吠えるだけで動こうとしない。

 

「な、何よ、そんなに吠えることないでしょ……」

 

 結局近寄れないため、すごすごと引き下がるしかないパチュリー。

 諦めきれず夜になって行ってみるとボビーの姿はそこにはなく、代わりにひのきの棒を手に入れることができた。

 

「犬は宝物を埋めておく習性があるから、これを埋めて守っていたのかしら?」

「夜も遅いですし宿屋に泊まりませんか、パチュリー様」

 

 宿屋に泊まり、一晩を明かすパチュリーたち。

 そうして翌日、ボビーに会いに行くが、ひのきの棒を持ち去っても昼になるとまた吠えられる。

 

「嫌われているのかしら……」

「パチュリー様、犬にそんなに執着するなんて、まさかバター犬プレイをお望みで?」

 

 昨晩は空いている客室が無く仕方なしに先客の母子と相部屋になった結果、当然エッチなのは禁止になって欲求不満を貯め込んでいる小悪魔の頭は少しおかしくなっている。

(元々こんなものという説もあり)

 しかし、それに対するパチュリーの答えは、

 

「バター?」

 

 よく分かっていない様子。

 それどころか、

 

「そうね、バターをあげたら喜んでくれるかしら? 手ずから与えたら、ゆ、指先を舐めてくれたりして」

 

 などと言い出す始末。

 

「ああ、バターは無塩のものじゃないと犬の身体に悪いわね」

 

 いそいそと買いに行く様子を見せる、その姿に小悪魔は、

 

「ピュアすぎますっ!」

 

 と叫ぶのだった。

 なお宿屋では住居精霊(ヒース・スピリット)たちが持っていた精霊の隠し財宝、毒消し草、満月草を譲ってもらっていたが。

 

「パチュリー様、満月草って?」

「これは麻痺を治してくれる薬のようね」

 

 不用品を売り払うため道具屋に行くと、取扱いの品の中にもあった。

 

「パチュリー様、ここで満月草が手に入るってことは、麻痺攻撃をしてくる魔物がこの先現れるということですよね?」

「そうね、念のため追加で買っておいた方が良さそうね」

 

 ドラゴンクエストのマヒはしばらく歩くと自然に解除される、そんなに重い症状では無いのだが、全員がマヒした場合、パーティは全滅となる。

 少人数プレイの場合、これが怖いのだ。

 そういうことで満月草を買って、お互い一つずつお守り代わりに持つことに。

 またモンスターを解体して手に入れていた毛皮や爪など、そして不用品を売り払うと、まとまった額のお金が手に入った。

 

「精算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:51G

パチュリー:13G

 

「それでその後に得た収入が592ゴールドで、一人当たり296ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:347G

パチュリー:309G

 

「凄い、こんな大金持ったの初めてです!」

 

 喜ぶ小悪魔にパチュリーは苦笑して、

 

「それじゃあ、武器屋の品ぞろえを見てみましょうか」

 

 次いで武器店に顔を出す。

 

「鉄の槍が売っているわね」

「防具の類も充実していますよ?」

 

 そう言う小悪魔に、

 

「ドラクエではまず武器を優先して揃えるべきなの。防具を買っても守備力4ポイント毎にダメージが1ポイント減らせるだけだから」

 

 ということ。

 

「そして私たちが買う意味のある武器は、ここでは650ゴールドの鉄の槍だけね」

「でも、それだと二人とも手持ちのお金では買えませんよ」

「そうね、私も今使っている鎖鎌を下取りに出しても手が届かないわ」

 

 考え込むパチュリー。

 

「あとはあなたと私、どちらかが借金して買うならぎりぎり何とかなるのだけれど」

「いっ、嫌ですよそんなのっ!」

 

 というわけで武器の新規購入はお流れに。

 

「それじゃあ、少し不安だけれど北のカザーブの村まで行ってみましょうか」

 

 ロマリアの街を出て北上していくと、ポイズントード四匹と遭遇する。

 

「毒ガエルですね」

「さっさと蹴散らすわよ」

 

 戦闘を開始。

 

「行くわよ」

 

 パチュリーの鎖鎌がポイズントードを斬りつけ、

 

「これで!」

 

 小悪魔のトゲのムチが群れ全体を薙ぎ払い、パチュリーがヒットポイントを削っておいた一体を倒しきる。

 パチュリーは反撃を受けるものの、

 

「この程度なら」

 

 3ポイントでは問題ない。

 しかし、

 

「逃げ出した!?」

 

 驚く小悪魔。

 ポイズントードは立て続けに逃げ出したのだ。

 

「ああ、カエルは基本、バカだから」

 

 とパチュリー。

 判断力が0のモンスターは敵の強さを推し量るような知能は無いから、こちらのレベルが低くても逃亡するのだ。

 ともあれ、残るは小悪魔のムチで弱っている一体だけ。

 その一体が今度は小悪魔に口から毒液の泡を吹きながら攻撃。

 ダメージを与えるが、

 

「毒を受けるのは免れました。そしてこれでお終いです!」

 

 小悪魔のムチが止めを刺した。

 

「肉は毒で食べられないから。皮ぐらいしか剥ぎ取る物が無いわね」

 

 パチュリーは鎖鎌の刃でポイズントードを解体しながらぼやく。

 現実でも駆除した毒ガエルの皮を使った革細工があったが。

 

「毒腺は……」

 

 小悪魔が言いかけるが、パチュリーはそれを否定する。

 

「毒も薬も同じもの。使い方によって毒は薬に、薬も毒になるとは言うけれど、これは売るには危険すぎね。幻覚作用があって中毒になる者も居るって話だから」

「麻薬(ドラッグ)ですか?」

「そのような物よ。舐めるとクラクラして楽しい、とも聞くけど」

 

 現実でも毒ガエルにハマって、その背をベロベロ舐めてラリってる犬なんてものが居るらしい。

 まぁ、そういった生物毒などを利用してトリップしたりするのは魔女の業(ウィッチ・クラフト)の内だからパチュリー自身は扱いに精通しているわけだが、一方で魔女の薬のレシピに『ヒキガエル』などが入っている場合、それはオオバコ科の植物、ホソバウンラン(Toadflax)のことだったりするのでややこしい。

 

 さらに北上を続けると、アルミラージとキャタピラーが襲って来る。

 

「ラリホーが怖いからアルミラージを先に倒すわね」

「はい、睡眠姦なんてされたら、太くて硬ぁい芋虫さんに暴れっぱなしにされてしまいますからね」

 

 使い魔が何を言っているかわからない件。

 アルミラージの攻撃を受けながらも二人がかりで倒しきる。

 しかし、

 

「痛っ!」

 

 やはり強力なキャタピラーの攻撃を受け、9ポイントものダメージを受ける小悪魔。

 

「大丈夫?」

「はい、まだ平気です」

 

 今度はキャタピラーに攻撃を仕掛ける二人だったが、

 

「あっ!」

 

 再び攻撃を受ける小悪魔。

 もう一撃食らえば小悪魔はアウトだ。

 

「安全策で行くわ」

 

 小悪魔には防御させる。

 これで先制されても耐えられる。

 そしてパチュリーが薬草で小悪魔を回復。

 

「ぐっ」

 

 キャタピラーの攻撃が、今度はパチュリーに。

 しかし彼女のヒットポイントならまだまだ耐えられる。

 

「畳みかけるわよ!」

 

 二人がかりで追撃。

 パチュリーが反撃を受けるが、それでも何とか倒しきる。

 倒したモンスターを解体しつつ、パチュリーは状況を分析。

 

「これ以上北上するとカザーブ周辺のモンスターが現れるわね。マジックパワーに余裕があることだし、フル回復させて臨みましょう」

 

 小悪魔のホイミでパチュリーを治療し、山間部に足を踏み入れる。

 そして現れたのは、さまようよろい!

 

「硬いっ!」

「5ポイント程度しかダメージを与えられない!?」

 

 しかもさまようよろいはホイミスライムを呼び出してしまう。

 

「無理無理、逃げるわよ」

 

 ということで逃走する二人。

 幸い、回り込まれることも無く逃げることができた。

 そうしてさらに北上し、

 

「カザーブの村が見えてきました!」

 

 というところでモンスターに遭遇。

 

「腐ってる、この犬は腐っているわ!」

 

 腐った犬、アニマルゾンビ二匹とキラービー二匹の群れだ。

 

「キラービーのマヒが怖いから優先して倒して!」

「はい!」

 

 二人がかりでキラービーに挑む。

 パチュリーの鎖鎌が切り裂き、小悪魔のトゲのムチが唸る!

 

「まずは一体!」

「反撃が来ます!」

 

 キラービーの攻撃が小悪魔を捉えるが、

 

「大丈夫、マヒはしてません」

 

 少人数プレイでは怖いマヒは受けなかった模様。

 そして、

 

「来る!?」

 

 アニマルゾンビの攻撃を受けるが、

 

「この程度なら」

 

 問題なく耐えきる。

 

「キラービーに止めを!」

 

 次のターンも二人はキラービーを狙い、パチュリーは先制して止めを刺すことに成功!

 それを見て小悪魔は攻撃先をアニマルゾンビに変更しムチ打つ。

 

「くっ!」

 

 アニマルゾンビからの攻撃を受けるパチュリー。

 ダメージは割と高いが、彼女なら耐えられる。

 

「畳みかけるわよ」

「はい」

 

 二人がかりで攻撃。

 さすがに腐った犬、守備力は低く、パチュリーの鎖鎌による反撃も十分通じる。

 しかし怯まずに攻撃を仕掛けて来るアニマルゾンビ。

 それにも耐え、一体を倒しきる。

 そして、

 

「土へと還りなさい」

 

 次のターン、最後の反撃を受けつつも止めを刺すパチュリーだった。

 

「レベルが上がりました!」

 

 ここで小悪魔がレベルアップ!

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:6

 

ちから:25

すばやさ:26

たいりょく:18

かしこさ:16

うんのよさ:14

最大HP:35

最大MP:31

こうげき力:43

しゅび力:27

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

「ニフラムを覚えました!」

 

 退魔の呪文、二フラムが使えるようになった。

 

 そうして二人は手早くモンスターの解体を済ませると、カザーブの村へと駆け込むのだった。




 ロマリアに着き、初めての大金に喜ぶ小悪魔でしたが、武器のインフレはそれ以上でお買い物はおあずけという切ない状況。
 そんな装備で大丈夫か? とも思うのですが、何とかカザーブまで着きましたね。
 さまよう鎧からは逃げるしか無かったのですが、あれはここで出るモンスターとしては異常なくらい強いので。

 次回はカザーブの村の探索からですが、貧乏で物が買えない勇者こあくまは、とうとうオッサンのパンツにまで手を出してしまうという……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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カザーブの夜「お止めくださいませ! 主人が見ていますわ!」

「ここはカザーブ。山にかこまれた小さな村です」

 

 たどり着いたパチュリーたちを村の女性が迎えてくれる。

 

「まずは武器屋ですねっ」

「ちょ、ちょっと、そんなに焦らないで」

 

 初めての買い物を今度こそしたい小悪魔は、パチュリーの背を押すようにして武器屋に向かう。

 ロマリアからここまでの戦闘で、多少なりともお金は溜まっているはずなのだ。

 モンスターから剥ぎ取った肉や毛皮、皮などを売り換金すると、確かにまとまった額にはなったが、しかし……

 

「た、高くて手が出ません……」

 

 ということに。

 

「ううっ、お金が溜まるペースより、武器の値段がインフレして上がって行く方が速いなんて、世知辛すぎます」

 

 RPGの世界の物価なんてそんなものではあるが、それだけではなく、

 

「まぁ、そうなるわね。スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ならロマリアとカザーブの間にある第一すごろく場をクリアしさえすれば報酬として鋼の剣と500ゴールドが手に入るのだけれど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されている。

 ゆえに装備的にも金銭的にもファミコン版ほどではないにしろ厳しいのだ。

 また、

 

「すごろく場が無くなった代わりに、ここカザーブの武器店で鋼の剣が売られているのね」

 

 品ぞろえを見て感心するパチュリー。

 鋼の剣は元々のファミコン版ではカザーブはもちろん、ロマリアでも店売りされていた武器。

 しかしスーパーファミコン版以降のリメイク作では第一すごろく場のクリア報酬アイテムになり、さらに盤上のマスに止まった場合に使えるよろず屋でも買えるためか、アッサラームまで行くか、眠りからの解放イベント後のノアニールでしか買えなくなっていたのだが。

 スマホ版以降ではすごろく場が削除されたためだろう、カザーブで店売りするようになっていた。

 

「そしてやはり第一すごろく場で商人も使える全体攻撃武器、ブーメランが拾えなくなっているのだからチェーンクロスを買いたいところよね」

 

 チェーンクロスは敵1グループにダメージを与えるムチ。

 鎖でできており、先端に分銅が付けられているものだ。

 賢者、盗賊、商人、遊び人が使用できる。

 

 一方小悪魔は、

 

「そうです! このカザーブで拾えるアイテムで金策をすれば!!」

「なるほど、ドラクエの勇者らしく民家のタンスからアイテムを…… 本当の勇者に目覚める日が来たというのね」

「なんですか、その勇者のイメージ!」

 

 もちろん、

 

 

 民間人らしき女性の悲痛な叫び。

 彼女を押しのけて民家に押し入り、無理矢理クローゼットを開けるのは勇者と呼ばれる者だった。

 

女性「おやめください!」

勇者「あるじゃねえかよ! コインと剣がよ!」

女性「おやめください! 勇者さまっ!」

ナレーション「もう勇者しない」

 

 

 というやつである。

 

「そんな風にして周りから向けられる冷たい視線に耐えることができるからこそ勇者って言われるんでしょう?」

「それって『ある意味勇者』っていう蔑称じゃないですか!」

「勇者には変わりないわよね」

「そんな勇者、嫌すぎます!」

 

 まぁ、そうなるわけだが。

 

「せっかくだから隊列変更をして。さぁ、手始めに盗賊の鍵で道具屋の施錠された勝手口を開けて中に潜入するのよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。心の準備が!」

 

 実際には勇者一行には精霊ルビスの加護により、各家屋に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)家の精(ブラウニー)白い婦人(シルキー)が使う疎外(エイリアネーション)隠蔽(コンシールメント)混乱(コンフュージョン)といった(パワー)が作用するため、勝手に家屋に入っても咎められることはほぼ無い。

 というより、住居精霊(ヒース・スピリット)に招かれて家に入っていると言うべきか。

 魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには、この家付きの家事妖精(ホブゴブリン)の姿が映っているし。

 紅魔館で働いているホフゴブリンと同一種だが、ここに居るのはアストラル体であるので常人の目には見えないのだ。

 

 そして小悪魔もこの世ならぬ存在、悪魔であるがゆえに本来なら家事妖精(ホブゴブリン)の姿が見えるはずなのだが、如何せん能力が低い彼女はパチュリーによる使い魔契約で物質空間に縛られ実体化している現状では霊視、アストラル・サイトが働かない。

 つまり、

 

(パチュリー様がああ仰っていますから、本当なんでしょうけど……)

 

 目に見えない、感じることができない存在に頼って、堂々と民家に不法侵入するのはためらわれる。

 故に、

 

「ぱ、パチュリー様。その辺で時間を潰して夜を待ちましょう」

 

 せめて夜中こっそり入りたいと、へたれることになる。

 

「そう?」

「よ、夜だけに得られるアイテムとか情報とかあるかも知れないじゃないですか!」

 

 そういうことで村の周辺で時間を潰し、夜になったところで民家への侵入を開始する。

 道具屋の裏手から施錠されたドアを盗賊の鍵を使って開けて中に入り……

 

「な、何か、かえって悪いことをしている気分になります」

 

 などとぼやきつつも、住居精霊(ヒース・スピリット)がタンスに隠していた精霊の隠し財宝を手に入れるのだが、

 

「何でしょう、コレ?」

 

 手に取った布の装備をパチュリーに見せる小悪魔。

 パチュリーはそれには手を触れずに見て、こう言う。

 

「……こぁ、あなた男の子だったら良かったのにね」

「なっ、何ですか急に! あっ、もしかして愛の告白ですか? パチュリー様が望むのなら私、男の娘になって結ばれるっていうのもやぶさかでは……」

 

 頭の中ではウェディングベルが鳴り響き、花嫁衣裳を着たパチュリーと共にバージンロードを歩む未来を幻視する小悪魔。

 私ちょっと男勇者でプレイし直してきます、と宣言しそうになるが、

 

「あなたが今着ている旅人の服より守備力が高いのよ、それ」

「はい?」

 

 小悪魔は妄想を浮かべながら両手で握りしめていたものを、改めてびろーんと広げてみる。

 

 ステテコパンツ。

 

「うえぇぇっ!?」

 

 店主の、オッサンのタンスから出て来たそれ。

 パチュリーが言うとおり、小悪魔が今着ている守備力8の旅人の服より上の、守備力10を誇る防具である。

 ただし男性専用。

 

「レミリアお嬢様や妹様でしたら性別そのままでも、男水着チャレンジみたいにトップレスにこれ一つでもばれないかもしれませんが……」

 

 男水着チャレンジとは、胸の小さな、性的特徴の乏しい女の子が男性用の水着を着用し、トップレスの状態で女性だと気づかれないようにプールや海水浴場など公共の場へ出るという無駄に高度な男装露出羞恥プレイのことである。

 

「身近な存在でそういう想像しないでくれる?」

 

 パチュリーはげんなりした表情で使い魔に命じる。

 それはそれとして、

 

「そもそも男勇者でも着れないですよ、これ!」

 

 と小悪魔は叫ぶ。

 そう、このステテコパンツを着用できるのは男性の戦士、僧侶、商人、遊び人、盗賊のみである。

 さすがに勇者をパンツ一丁でうろつかせる訳には行かなかった模様。

 

「同じく勇者である父親は覆面パンツなのにね……」

 

 つぶやくパチュリー。

 

「た、確かにファミコン版ではカンダタや殺人鬼なんかと同じ覆面パンツなグラフィックが使われていた勇者の父、先代勇者オルテガですが……」

 

 小悪魔は言う。

 

「でもスーパーファミコン版以降のリメイク作では専用のグラフィックが与えられて、その汚名は返上されましたよね?」

 

 厳密に言うと北米で発売されたNES版の時点で既にグラフィックは変わっていたが。

 しかしパチュリーは首を振って、

 

「そう思えたのだけれどね。さらに後の作品『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』では、初代ドラゴンクエストで竜王の問いかけに「はい」と答えてしまったロトの血を引く者の成れの果てとして覆面パンツの『やみのせんし』が登場するわ」

 

 つまり、

 

「子孫がこれということは先祖のオルテガもお察しという話よね」

 

 メタな話をすれば、公式作品中でオルテガ覆面パンツ説を肯定しているということである。

 

「そ、そんなぁ……」

 

 がっくりと膝をつく小悪魔。

 

 なお、この時点で男盗賊が使えるのは守備力12の革の鎧が最上だから、資金を節約する場合はこのステテコパンツで行くという手もアリである。

 さらにその場合、男盗賊の次の防具はノアニールを眠りから解き放って使えるようになった道具屋からみかわしの服を購入するか、ポルトガまで行って黒装束を購入するかまで待たねばならず、ずいぶんと長い間ステテコパンツ一丁の姿が続くことになる……

 

 気を取り直し、

 

「道具屋の主人の両脇にあった宝箱、一つは棍棒だったけど……」

 

 探索を続ける二人。

 

「もう一つの宝箱は毒針ですね」

 

 パチュリーは毒針を手に取って見定めた。

 

「毒針は武器のようね。これで急所を狙えばどんな強い魔物もいちころでしょうね」

「どんな武器でも急所を刺されたら死ぬと思いますが……」

 

 かんざしとか、先を研いだ自転車のスポークとか。

 しかし、

 

「あら? 私たちの中にこれを装備できる人は、一人も居ないみたいね」

 

 毒針は魔法使いと盗賊にしか使えない。

 

「お店に持って行けば7ゴールドで売れるわね」

 

 ということで換金して資金源にするしかなかった。

 

 次いで向かった酒場の二階の寝室、小悪魔はまだ起きているマスターを気にしつつも樽の中にあった命の木の実を。

 タンスから毛皮のフードを手に入れる。

 

「ふわふわですねっ、守備力もパチュリー様が身に着けているターバンより上ですし」

 

 ケープと一体になった、可愛らしい物だ。

 こちらは女性専用品。

 そのまま出ようとするが、ふとベッドで息子と共に寝ている女性が何か寝言を言っているのに気付く。

 

「お止めくださいませ! 主人が見ていますわ!」

 

 いきなり叫ぶ女性にびっくり。

 女性も自分の声で目が覚めたらしく、顔を赤らめ呟いていた。

 

「あらいやだ。寝ぼけちゃったみたい……」

 

 そしてパチュリーは、

 

「今の聞きました、パチュリー様。あの人、村の入り口で私たちに声をかけてくれた女性ですよ。いわばこの村の顔、代表のような一般女性じゃないですか。その人が実は夫が居て、子供が隣で寝ている寝室で熟れた身体を持て余す人妻だったなんて。しかも見ている夢、つまり内に秘められている願望は夫の目の前で寝取られるという内容! 昭和の時代に作られた、小学生もプレイする全年齢ゲームにこんな濃い性癖を突っ込んで、その後もアッ〇ルチェックがあろうとも自粛して削除したりせずに頑として残し続ける……」

 

 などと早口で言いまくる小悪魔を慌てて外に連れ出す。

 

「全国一億五千万人のドラクエファンの皆さんに寝取られ性癖を埋め込む。だからなんですね、幼少の頃、ドラクエ3をプレイしてこんなことで性の目覚めを感じた人たちが大人になり、自分がクリエイターに、作る側に立つことで、寝取られものというジャンルが花開いた」

「そんなわけ無いでしょう! そういうのはもっと古くから、ギリシャ神話や源氏物語なんかで触れられてるから!」

 

 嫌々ながら、頭の中の書籍データベースからそういう事例を拾ってきて反論するパチュリーだったが、小悪魔の興奮は収まらず、逆に燃料を投下されたとでも言うようにまくしたてる。

 

「そう、寝取られは歴史ある文化です! 恋愛の国フランスでは「寝取られ男」の事を「コキュ(cocu)」と言い、コキュを主題とした文学や芝居などが昔から盛んに発表される「コキュ文化」というものがあって……」

「うるさい、黙れ」

 

 真夜中の村、興奮する小悪魔を落ち着かせるのに、パチュリーは人気のない場所に向かう。

 具体的には墓地。

 そこには……

 

「パチュリー様? な、何だかお墓に骸骨が居るように見えるんですけど」

「頭は冷えたかしら?」

「この場合、冷えるのは頭じゃなくて肝だと思います……」

 

 小悪魔が勇気を出して骸骨に声をかけてみると、彼は素手で熊を倒したと伝えられている昔の武闘家だった。

 しかし実は鉄の爪を使って熊を倒していたのだということを話してくれた。

 

「道具屋さんが毒針を隠し持っていましたから、てっきり盗賊あたりが「地獄へおちろー!」とか言いながら、ぷすっ、てやっちゃったかと思ったのですが……」

「まぁ、そう考えても不思議は無いわよね」

 

 ともあれ墓の前の地面から小さなメダルを回収。

 

「これで10枚目ね」

「良かったですね、パチュリー様」

「ええ、これでようやくガーターベルトがもらえるわ」

「パチュリー様のがーたーべると……」

「こぁ?」

「今すぐアリアハンに帰って交換しましょう!」

 

 パチュリーが止める暇も無く、キメラの翼を使ってしまう小悪魔。

 アリアハンに跳ぶと街の端にある井戸に。

 ロープを伝って降りて行った先の建物では、小さなメダルを景品と交換してくれるメダルおじさんが待っている。

 

「よし! これでこあくまはメダルを10枚集めたので、ほうびにガーターベルトを与えよう!」

 

 前回以降、新たに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりにガーターベルトを渡してくれた。

 

「こあくまからは現在10枚メダルを預かっておる。これが15枚になった時は刃のブーメランを与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」

 

 そしてまた勇者の実家で身体を休めることにした二人だったが、

 

「何でガーターベルトを持って、にじり寄って来るの!」

「もちろんパチュリー様にガーターベルトの付け方を教えて差し上げるためですよ。知ってました? ガーターベルトのベルトは、下着の下を通すんですよ」

「それぐらい知ってるわ! でないとトイレの時に下ろすことができなくなるじゃない!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶパチュリー。

 

「その反応…… 実はトイレで困って間に合わず、おもら……」

「うるさい、黙れ」

 

 冷え冷えとした視線を小悪魔に向けるパチュリー。

 そう、養豚場のブタでも見るかのように冷たい目である。

 しかし、そんな仕打ちであっても、

 

「ああっ、そんな目で見られたら、濡れちゃいますっ!」

 

 小悪魔にとってはご褒美にしかならない……

 

「……それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 パチュリーは諦めた様子でそう言うと、棍棒、毒針などを処分し、小悪魔が勝手に使ってしまったキメラの翼を買い足したりした上で、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:347G

パチュリー:309G

 

「それでここまでに戦い等で得た収入が156ゴールドで、一人当たり78ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:425G

パチュリー:387G

 

「そしてあなたに使ってもらう毛皮のフードの売却価格は187ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の93ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」

「あ……」

「でも今まで使っていた木の帽子は105ゴールドで売れるから」

「12ゴールドの黒字ですね、良かった……」

「つまり、こういうこと」

 

小悪魔:437G

パチュリー:480G

 

「そして装飾品のガーターベルトだけれど」

「これはもちろんパチュリー様のものですよね!」

 

 ガーターベルトは、守備力を+3する上、装備中は性格を『セクシーギャル』に変える効果を持つ。

 これでパチュリーを淫乱セクシーギャルにした上で主従逆転、借金奴隷に……

 と小悪魔が妄想したところでパチュリーがあっさりと言う。

 

「私は使わないわよ」

「はい?」

「商人は、1に体力、次に力が何より必要。ガーターベルトを装備して性格をセクシーギャルに変更してしまうと、そこが伸びなくなるし」

 

 ということ。

 

「それにカザーブへの移動でも、あなた危なくて安全策を取って戦闘中に防御して治療とか必要だったでしょう。レベルアップしてもヒットポイントはちっとも伸びないし」

「パチュリー様の、商人のヒットポイントの伸びがおかしいだけですよ! 私は普通、いえヒットポイントはある方ですよ」

「そうかも知れないけど、あなたの守備力の強化を優先的にしないといけないのは確かでしょう?」

「そ、それはそうですけど……」

 

 そんなわけでガーターベルトは小悪魔が身に着けることに。

 

「ガーターベルトの売却価格は975ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の487ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」

「高っ!?」

「これで清算すると」

 

小悪魔:-50G

パチュリー:917G(+未払い分50G=967G)

 

「あ、ああ…… 買い物ができないどころかまた借金が……」

 

 がっくりと膝をつく小悪魔。

 パチュリーはというと、

 

「鎖鎌を下取りに出せば、カザーブでチェーンクロスが買えるわね」

 

 というわけで翌朝にはキメラの翼でカザーブに行き、チェーンクロスを購入することに。

 最終的に二人の装備とパラメーターは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:18

すばやさ:17

たいりょく:45

かしこさ:12

うんのよさ:8

最大HP:90

最大MP:24

こうげき力:45

しゅび力:32

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:6

 

ちから:25

すばやさ:26

たいりょく:18

かしこさ:16

うんのよさ:14

最大HP:35

最大MP:31

こうげき力:43

しゅび力:34

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ガーターベルト

 

 

 という具合に。

 

「私、勇者のはずなのに、ヒットポイントだけでなく、とうとう攻撃力まで商人のパチュリー様に抜かれてしまいました」

「リメイク版だとムチやブーメランなんかの複数攻撃できる武器を優先して入手するべきなのだけれど、チェーンクロスは勇者には扱えない武器だものね」

 

 だからこの辺で逆転が起こるのだ。

 

「スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版だと、すごろく場でブーメランが手に入っているから攻撃力は低くとも全体攻撃ができるということでまた違った優位性が主張できたのでしょうけど」

「すごろく場が無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむこの世界では?」

「ブーメランの入手はノアニールの村を目覚めさせた後。多分、小さなメダルをあと五枚集めて刃のブーメランを入手する方が早いわ」

 

 ともあれ、これで所持金は、

 

小悪魔:-50G

パチュリー:157G(+未払い分50G=207G)

 

 ということになるのだった。




 カザーブって山間の小さな村なんですが、これだけネタが膨らむとは、相変わらずの小悪魔でした。
 主従逆転を狙うどころか、勇者でありながら商人にヒットポイントだけではなく強さまで逆転されているというのが現実なんですけどね。

 次回は眠りの村、ノアニール行きですけど、この分だとお金が無くて装備が買えずに商人の足を引っ張る勇者などといった展開があり得そうですね……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ノアニールの村は睡眠姦プレイスポット?(小悪魔談)

「それじゃあノアニールの村に行きましょうか」

 

 カザーブの村を出て北上する二人だったが、

 

「カニさんです!」

 

 軍隊ガニ4体の群れに遭遇する。

 

「今夜はカニ料理かしら? ロースト? いえワイン蒸しもいいわね」

 

 ということで戦闘を開始。

 まずは小悪魔がトゲのムチで先制するが、

 

「か、硬ぁい」

 

 彼女の攻撃力では数ポイントしかダメージを与えられない。

 しかも、

 

「くっ!」

「パチュリー様!?」

 

 先頭に立つパチュリーに連続で入る攻撃はキャタピラー並み。

 ヒットポイントが多いパチュリーだからこそ耐えているが、小悪魔なら四発当たったこの時点で死んでいる……

 そしてパチュリーの反撃。

 

「買っておいてよかったわね、チェーンクロス」

 

 分銅付き鎖でシバキ回るパチュリー。

 このような硬いモンスターと戦うと、小悪魔より攻撃力が高いことが露骨な差となって現れるのだった。

 そして次のターンだが、

 

「倒せ、ない」

 

 硬い甲羅に苦戦する小悪魔に、

 

「カフッ、カハッ!」

 

 とうとう軍隊ガニからの反撃が入ってしまう。

 

「次のターンで自分を回復させなさい」

「で、でも……」

 

 回復をするということは攻撃できないということだが、

 

「今のあなたが与えられるダメージだと、1ターン攻撃を休んでもそんなに影響は出ないわ」

 

 とパチュリーは冷静に分析する。

 そんなわけで小悪魔は回復呪文ホイミで自分を治療。

 そうして殴り合い、とうとう四匹とも倒すことに成功する。

 このような格上との激戦故、

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーがレベルアップ。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:8

 

ちから:19

すばやさ:18

たいりょく:48

かしこさ:13

うんのよさ:8

最大HP:96

最大MP:26

こうげき力:46

しゅび力:33

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

「ああ、パチュリー様との差がさらに開いていきます……」

「いいからホイミで治療して。これからはノアニール地方の敵が出るのだから、あなた自身もヒットポイントはフル回復させるのよ」

 

 回復なしで戦闘に耐えきったパチュリーだったが、さすがにダメージは大きくフル回復にはホイミ2回を必要とした。

 また小悪魔自身もホイミを使ってヒットポイントをフルまで上げておく。

 しかし……

 

「どうしました、パチュリー様」

「この先、出没するカラス、デスフラッターだけれど最大4羽で現れて2回攻撃してくるのよね。しかも攻撃力は今戦った軍隊ガニ以上」

 

 つまり受けるダメージも二倍以上?

 今の戦いぶりから見て、そんなものに当たったらパチュリーはともかく小悪魔は、

 

「やめてください。死んでしまいます」

 

 ということに。

 

「仕方ないわね、脱ぎなさい」

 

 パチュリーは小悪魔の着込んでいる旅人の服を脱がせにかかる。

 

「ぱ、パチュリー様、こんな屋外でスルんですか?」

「いいからさっさと脱いで渡しなさい」

「そ、そんなぁ、突如としてサドに目覚めたパチュリー様に野外露出プレイで調教されてしまうなんて……」

 

 嘆くような口ぶりだが、もちろんその表情はまったく正反対で、

 

(いい……)

 

 蕩け切っていた。

 パチュリーはというと、一人変な勘違いをしている小悪魔から旅人の服を剥いで着込むと、代わりに自分が着ていた革の鎧と盾を押し付ける。

 

「これで何とかなるかしら?」

 

 小悪魔の守備力は42までアップ。

 反対にパチュリーの守備力は17まで大幅に下がってしまったが。

 

「ああっ、パチュリー様の香りが移った革の鎧を着せられてしまうなんてっ!」

 

 野外露出調教に胸を高鳴らせたものの空振りし、しかしパチュリーの匂いに包まれたおかげで恍惚状態の小悪魔は、

 

「行くわよ」

「はいぃぃ……」

 

 死への恐怖も忘れてふらふらとパチュリーについて行くのだった。

 そして現れたのは、恐れていたデスフラッター4羽にアニマルゾンビが二匹という大集団。

 素早いデスフラッター4羽の連続攻撃が次々に二人を襲う!

 

「こ、これパチュリー様に防具を貸してもらっていなかったら、確実に死んでいましたよ……」

 

 革の盾で必死に攻撃を受け流しながらトゲのムチを振るう小悪魔。

 そしてパチュリーのチェーンクロスがデスフラッターの群れを薙ぎ払う!

 

「3羽まで倒せたわね」

 

 これもパチュリーがチェーンクロスを買っておいたからの戦果。

 一方で小悪魔のヒットポイントも次のターンで攻撃が集中するようなことがあったら耐えきれないところまですり減らされており、

 

「自分を回復させなさい。私は最後のデスフラッターに止めを刺すわ」

「は、はい」

 

 小悪魔がホイミで自分を回復させ、パチュリーの攻撃がデスフラッターを仕留める。

 あとは二匹のアニマルゾンビのみだが、

 

「来る!?」

 

 アニマルゾンビの咆哮!

 大音量のハウリングに射すくめられてしまう二人。

 

「素早さをゼロに下げられちゃいました!」

 

 素早さを下げるボミオスの呪文効果だ。

 

「回復させた後で良かったです。そうでなければ間に合わずにやられていたかも」

 

 背筋を震わせる小悪魔だったが、

 

「大丈夫よ。ボミオスで素早さが下がっても、そのターンの行動順序に影響は無いの。効果は次のターンから出るようになっているから」

 

 とパチュリー。

 

「そうでなければ安全策を取って、あなたに防御をさせて私が薬草で回復させているところよ」

 

 そうすれば戦闘が長引くことにはなるが安全に回復をさせることができるのだから。

 その上で、

 

「アニマルゾンビはヒットポイントが高いから、素早さが下がってもそんなに大きな影響は出ないし」

 

 次のターン、二人がかりで攻撃するが倒しきれない。

 つまり先制してもしなくても反撃を受ける真っ向からの殴り合いなら、大して違いはないということでもあった。

 一方小悪魔は、

 

「素早さがゼロ、これ以上下がらなくなったんですから、ボミオスを無駄撃ちしてくれればいいのに」

 

 ムチを振りつつ、ぼやくが、

 

「アニマルゾンビって頭がいいからそういう行動はしないわ。こちらがピオリムで素早さを上げたりするとまた使って来るといった具合に、相手の状態を見て行動を変える賢さがあるの」

「腐っているのに!?」

 

 アニマルゾンビの判断力は2、これはモンスターにおける最大値である。

 

「止め!」

 

 その次のターンで、アニマルゾンビを倒すことに成功する。

 

「か、勝てたんですね……」

「ええ、もうノアニールも目の前だし、念のため回復をしたら駆け込みましょう」

 

 小悪魔にホイミで治療をさせたらノアニールの村に足を踏み入れる。

 しかし、

 

「みなさん立ったまま寝ていますね」

 

 村人の様子がおかしい。

 

「試しに起こしてみましょうか?」

 

 小悪魔は女性に近づくと、その耳元にしっとりと濡れた声でささやきかける。

 

「おきて、ください。ねぇ、もう、ゆめのじかんはおわりですよ……」

 

 ぴくん、と寝ているはずの女性の身体が反応した、ような気がした。

 

「そろそろ起きないと…… 目を覚まさないとダメだと、思います」

 

 くすりと笑って、

 

「起きないと…… 大変なことになって、しまう。かも?」

 

 その手が女性の胸元へ伸び……

 

「止めなさい」

 

 背後から伸びた鎖付き分銅、チェーンクロスに巻き付かれ、止められる。

 

「凄い腕前ですね、パチュリー様」

 

 感心する小悪魔にパチュリーは、

 

「それはレーベからずっと鎖鎌を使い続けていれば、このチェーンクロスだって無理なく扱えるようになるわよ」

 

 と肩をすくめる。

 そうして小悪魔に、

 

「その手で何をするつもりだったか、言え!」

 

 とばかりに詰問すると……

 

「睡眠姦ってドキドキしますよね」

「はぁ?」

「無防備になった女性の身体を好き放題に調教する。意識は無いのに確かに身体に刻まれていく加虐。そうして心は無垢のまま、身体は取り返しのつかないマゾメスに……」

「止めなさい」

 

 聞くのではなかったと、嘆息するパチュリー。

 一方小悪魔は辺りを見回すと、

 

「と言うかこの村、よくこんな無防備でいられますよね? 睡眠姦プレイできるスポットとして有名になりそうなものですけど」

「あなたの言動を聞いていると、その危険性が本当に実感できるわね」

「褒められちゃいました」

「褒めてない」

 

 そんなわけで、

 

「村の様子を探ってみましょう」

 

 村中を見て回るついでに、力の種、革の腰巻き、満月草を手に入れた。

 そして村外れの一軒の家に向かうと、その玄関にはようやく起きている村人の姿が。

 離れているこの家だけが助かったらしい。

 

「どうかエルフたちに夢見るルビーをかえしてやってくだされ! 夢見るルビーをさがしてエルフにかえさなければ、この村にかけられた呪いがとけませぬのじゃ。エルフのかくれ里は西の洞くつのそば。森の中にあるそうじゃ」

 

 と頼み込まれるが、

 

「今の私たちの強さではね……」

 

 という話である。

 

「それじゃあ、ロマリアに帰って精算してみましょうか」

 

 パチュリーはそう言うと、キメラの翼を使ってロマリアへ戻ることにする。

 

「今夜はカニ料理にしてもらうことにして」

 

 倒した軍隊ガニを宿屋に卸すなどして金策をし、使ってしまったキメラの翼も補充。

 それから今晩の分の宿代を差し引いた上で、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:-50G

パチュリー:157G(+未払い分50G=207G)

 

「それでここまでに戦い等で得た収入が135ゴールドで、一人当たり67ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:17G

パチュリー:274G

 

「はっきり言うわね。次はアッサラームに向かうけど、今回以上に厳しい戦いになるのは目に見えているわ」

「はい?」

「だからあなたの守備力向上は必須。革の盾はそのまま使ってもらって、新たに手に入れた革の腰巻もあなたに使ってもらうわ。革の盾の売値は67ゴールド、革の腰巻の売値は600ゴールドで、こちらは二人に所有権があるから、半額の300ゴールドを私に払えば自分の物にできる。あ、そうそう、あなたが使っていた旅人の服を52ゴールドで売り払えばその分は差し引けるわね」

 

小悪魔:-298G

パチュリー:291G(+未払い分298G=589G)

 

「あ、ああ…… こんなに借金がぁ……」

 

 またもや借金を負うことになりがっくりと肩を落とす小悪魔。

 あまりに酷いその様子に、パチュリーは、仕方が無いと息をついて、

 

「あとはノアニールで手に入れた力の種だけど、これは売値が180ゴールド。あなたに半額の90ゴールドを払って、私が使わせてもらうわね」

 

小悪魔:-208G

パチュリー:291G(+未払い分208G=499G)

 

 焼け石に水ではあるが、しかしパチュリーは未だ放心状態の小悪魔の耳元にこうささやく。

 

「マッサージ、してくれるんでしょう?」

「ハイヨロコンデー!!」

 

 即座に復活する小悪魔だった。




 お金が無くて装備が買えずに足を引っ張る勇者などといった展開があり得そう、と思っていたら本当にそんな具合に。
 パチュリー様が緊急回避的に自分の装備と交換して窮地を脱しましたが、ノアニールの次はアッサラーム。
 今回以上に危険場所なんですけど、大丈夫なんでしょうかね?
 最悪、死亡した小悪魔を棺桶に入れてパチュリー様単独でたどり着くということになるかも?

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


 あ、次回はロマリアの宿で毎度おなじみ小悪魔によるセクハラマッサージから始まる予定です。

「どうです、パチュリー様、気持ちいいでしょう?」
(ダメ、相部屋になった母子が見てる、見られてるっ……)

 という具合に。
 悪魔に情けなんてかけるから……


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宿で母子に見られながら…… そしてアッサラームへ

 ロマリアの宿でカニのワイン蒸しを満喫した後……

 またセーブを利用して力の種で力の能力値が最大の3ポイント上がるまで筋力強化と、その痛みを和らげる小悪魔のマッサージを受けるパチュリー。

 

「どうですパチュリー様、気持ちいいでしょう?」

(ダメ、相部屋になった母子が見てる、見られてるっ……)

 

 両手を口に当て、漏れ出そうになる嬌声を必死にこらえるパチュリー。

 その背に覆いかぶさりマッサージを続ける小悪魔は、真っ赤になっているパチュリーの耳元にこうささやく。

 

「見られることに興奮していらっしゃるんですね?」

 

 ズクン、とパチュリーの身体の芯に衝撃にも似た何かが走った。

 背筋がゾクゾクと震え、そして、

 

「今、イッちゃいました?」

 

 笑う、小悪魔。

 

「ほら、何とか言ってくださいパチュリー様!」

 

 そう言いながら、指先をパチュリーの身体のツボにぐりりとねじり込み、

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!」

 

 その口から悲鳴を搾り取る。

 そこに、

 

「あらっ?」

 

 小悪魔を止める小さな手。

 

「勇者様、お姉ちゃんをいじめたらダメだよ」

 

 と、相部屋になった子供。

 彼を抱きしめて動きを止めていた母親は、パチュリーの痴態にあてられたのか放心状態で。

 

(こちらはこちらで見ているだけで、ですか。しかも幼い自分の息子を抱きしめながら、ですね)

 

 背徳的に過ぎる淫らなシチュエーションに内心、にんまりと笑いながら、しかしそれをおくびにも出さず、小悪魔は優しいお姉さんの笑みを浮かべて男の子に説明する。

 

「いじめてなんかいないですよ、ほら」

 

 小悪魔は先ほどから隠しているパチュリーの顔をぐいと上げさせ、

 

「あうっ!」

「こんなに気持ちよさそうにしているでしょう?」

 

 そんなわけ無いでしょう、と反論しようとしたパチュリーは、

 

「う、うん……」

 

 と分からないなりにオスの本能が感じているのか顔を真っ赤にした少年にそれを肯定され、羞恥の極みに落とされる。

 

「ふふふっ、パチュリー様、どうです? 思春期も迎えていない男の子にエッチな本性を暴かれ、見られてしまうというのは? 興奮しますよね? 気持ちいいですよね?」

「やめ、なさい……」

 

 これ以上は悪ふざけが過ぎる、と主従契約に基づく強制力で小悪魔を拘束しようとするが、

 

「気付いていないんですか、パチュリー様。今回は力が1ポイントしか上がってませんよね?」

 

 そう言われて気付く。

 力の種による筋力アップが定着し終わっていることに。

 

「つまり、やり直すんですよね? リセットで全部無かったことにされるんですよね?」

(無かった、ことに……?)

 

 パチュリーは脳内麻薬でハイになっている頭脳でぼんやりと考える。

 背筋を走る悪寒、それに気付いてはいけないという警告を同時に感じながら。

 そうして小悪魔は主人の耳へと致命的な媚毒を流し込む。

 

「どうせ無かったことになるのですから、ここは存分に楽しまれた方がいいですよね?」

「ぁ…… ぅ……」

「現実でのように体裁を気にすることなく、思いのまま貪って……

 ほら、想像できるでしょう?

 今、ここでならパチュリー様は望むまま、欲しいだけ、好きなだけ楽しめるんですよ」

 

 そうしてパチュリーは震える声で……

 

 

 

 悪魔に身体を預けるというのはこういうことです!

 

 とばかりに弄ばれてしまったパチュリー。

 

「悪魔に情けなんてかけるんじゃなかったわ……」

 

 げんなりしながら起床し、出発の準備をする。

 そして、

 

「パチュリー様、この革の腰巻、本当に女性でも着られる防具なんですかぁ?」

 

 と全裸に腰巻だけ、トップレスで現れる小悪魔に吹き出しそうになる。

 

「何て格好をしているの、普段着の上に巻くものよ、それ」

 

 アマゾネスじゃないんだからという話。

 元々ドラクエ5のパパスの一張羅だったそれをドラクエ3のリメイク作を作る際に取り入れたものだが、そのパパスだってズボン、胸当て、肩当てを身に着けた上から巻いているのだし。

 

 そういうわけで勇者の普段着、つまり橙色の全身タイツの上に腰巻を巻く小悪魔。

 ドラクエ3で全身タイツというと僧侶が思い浮かぶが、実は勇者も服の下に身に着けているのだった。

 しかし、

 

「全身タイツに革の腰巻っていうのも……」

 

 かなりちぐはぐな格好。

 勇者のタイツは僧侶のものに似ているが、あれより色味が薄くより肌色に近いものだったりするので。

 

「なるほど、ドラクエ6では『かっこよさ』が20も下がってしまうもの。ハッサンのかっこよさの初期値が0である元凶だものね……」

 

 などと感心するパチュリー。

 とはいえ他のシリーズ作品と違って守備力が倍の24もあって、カザーブで買える鉄の鎧ともわずか1ポイント差しかない優秀な防具である。

 小悪魔の命を守るには絶対に必要な装備だった。

 

 そして二人は一路アッサラームへと。

 途中、例によってアルミラージとキャタピラーに遭遇し蹴散らす。

 

「ああ、本当にパチュリー様が強くなってます」

 

 小悪魔の攻撃ダメージが十数ポイントなら、パチュリーの攻撃は20ポイントを超える。

 

「昨晩、力の種も使ったし」

「そ、それもありました……」

 

 セクハラに勤しんだおかげでそこを忘れている小悪魔だった。

 そしてパチュリーは橋を渡る前にその辺りをウロウロしてモンスターとの遭遇を待つ。

 

「パチュリー様?」

「この橋の少し手前が、アッサラームのモンスターが出る境目なのよ。だからここでロマリア周辺に出るモンスターに遭遇しておけば」

「アッサラーム周辺の強力なモンスターと出合う回数を減らすことができる?」

「ええ、上手く行けば1回だけしか出合わずアッサラームにたどり着けるわ」

 

 ということで現れたのは、

 

「キャタピラーと魔法使いです! 確かにここはまだロマリア周辺のモンスターが出る位置ですね」

 

 これもまたサクっと倒し、

 

「ヒットポイントをフル回復させておいて」

「はい、ホイミですね」

 

 ヒットポイントを満タンにした上で橋を渡る二人。

 そうして南下していくとアッサラームの街が見えてくるが、

 

「バンパイアとキャットフライです!」

 

 とうとうモンスターと遭遇。

 

「良かった、まだマシな方で」

 

 幸い相手は一体ずつだし、何とかなる範疇だ。

 まぁ、パチュリーも小悪魔もグループ攻撃武器なのだから、欲を言えば1種類、1グループのみで出てくれるのが理想なのだが贅沢は言えない。

 

「バンパイアのヒャドが怖いから、先に沈めるわよ」

「はい」

 

 攻撃を仕掛ける二人だったが、二人がかりでも倒しきれず手痛い反撃を食らう。

 

「バンパイアが昼間から青空を飛び回って…… 不謹慎ですよっ、あなた!!」

 

 と小悪魔が言うとおり、

 

「ファミコン版では夜しか出なかったんだけど、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと昼間でも出るようになっているのよねぇ……」

 

 特にスーパーファミコン版では青空をバックにギュンギュン飛び回るため、違和感が酷いものになっていた。

 

「こうなったらニフラムで光にな……」

「バンパイアは二フラムに完全耐性だから!」

 

 邪悪な魂を聖なる力で光の彼方へと消し去る退魔の呪文、ニフラムを使おうとする小悪魔を止めるパチュリー。

 

「昼間から出るだけあって効かないのよ、こいつ。こんなのでも高位の吸血鬼なのかしらね?」

「こんなのがレミリアお嬢様と一緒ですか!?」

 

 パチュリーたちが住んでいる紅魔館の主、レミリア・スカーレットは十字架など効かない高位の吸血鬼である。

 そんなわけで真っ正面から殴り合うしかない。

 幸いバンパイアの氷結呪文ヒャドの使用率は半分以下の3/8。

 しかし、

 

「くっ、守備力を高めてもらっていなかったら死んでますよ、コレ!」

 

 物理の攻撃力もさまようよろい以上。

 一緒に出たキャットフライの攻撃力も似たようなものであり、ヒットポイントの低い小悪魔は、パチュリーに借金をして防具を揃えていなかったら確実に死んでいたところだった。

 

「次のターンで薬草を使って自分を回復させなさい!」

「は、はい!」

 

 ホイミではなく、薬草。

 何故パチュリーがそう指示したのかというと、

 

「マホトーン!?」

 

 素早いキャットフライは先制して魔法を封じるマホトーンの呪文を唱えて来たのだ!

 幸い二人とも効かずに済んだのだが、

 

「危ないところでした」

 

 薬草で自分のヒットポイントを回復させながら冷や汗をかく小悪魔。

 

「回復にホイミを選んでいて、もしマホトーンで呪文を封じられていたら……」

 

 そう、その可能性を考えてパチュリーは最初から薬草で回復するよう指示したのだ。

 そして、

 

「これでとどめよ!」

 

 パチュリーのチェーンクロスがバンパイアのヒットポイントを削り切る。

 後はキャットフライだが、

 

「ぐっ!」

 

 通常より多く羽ばたくと急降下爆撃のような渾身の攻撃、つまり痛恨の一撃を放ってくる。

 幸い不発だったが、その場合でも受ける通常ダメージもまたシャレにならない強さだ。

 

「こっちは魔法に頼っていないんですから、マホトーンを唱えてくれればいいのに」

 

 ぼやく小悪魔だったが、

 

「キャットフライはマジックパワーが低いから、マホトーンは一回しか唱えられないのよ」

 

 一見、それは弱さにつながるように思えるがそうではない。

 マホトーンを無駄撃ちせずに即座に物理攻撃に切り替えて来るというのは思い切りが良く脅威である。

 

 キャットフライの行動パターンはマホトーン(200/256)、通常攻撃(26/256)、逃げる(14/256)、痛恨の一撃(12/256)、防御(4/256)。

 かなりの高確率で、まずは素早さを生かした先制マホトーンで魔法を封じる手に出るが、問題はその後。

 マホトーンを選べなくなった分、痛恨の一撃を選択する確率が一気に上がるのだ。

 こちらが低レベルだと逃げるという行動を選ばないこともあり、痛恨の一撃を選ぶ確率は実に12/42、3割近くにもなる。

 これはこの周辺で最も脅威とされるあばれざる以上であり、それどころか決められたローテーションで行動をするモンスターを除けば単独トップの数値である。

 

「私はともかく、あなたが守備力無視の痛恨攻撃を受けたら一撃死しかねないわ」

「ええええっ!?」

 

 だからさっさと倒したいが、

 

「このモンスター、妙にしぶとくありませんか?」

「見かけによらず守備力が高くて、さまようよろい並みに硬いのよ!」

「ええっ!?」

「最大ヒットポイントもファミコン版の35ポイントから、40ポイントに地味に増えているしね」

 

 もうここから先は、小悪魔が痛恨を食らうのが先か、キャットフライのヒットポイントを削り切るのが先かという勝負。

 そして……

 

「か、勝ちました……」

 

 ようやく倒しきる。

 

「ぬいぐるみはさすがに手に入らなかったわね」

 

 キャットフライは1/256の確率でぬいぐるみを落とす。

 これはネコの着ぐるみだが、鋼の鎧以上の守備力を持つ防具である上、全職業で装備可能という破格の代物である。

 一方、

 

「レベルが上がりました!」

 

 小悪魔はレベルアップ。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:29

すばやさ:28

たいりょく:20

かしこさ:17

うんのよさ:14

最大HP:39

最大MP:33

こうげき力:47

しゅび力:55

 

ぶき:とげのむち

よろい:かわのこしまき

たて:かわのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ガーターベルト

 

 

「だいぶ攻撃力が上がりましたが、それでもパチュリー様に負けてます。それにヒットポイントが相変わらず低い……」

 

 嘆く小悪魔だが、しかし彼女はヒットポイントが低いわけでは無い。

 パチュリーと比べるからそう感じるのであって普通以上にあるし、通常なら逆に他のメンバーのヒットポイントの低さを気にしているような状況なのだが……

 

「とにかく、治療したらアッサラームに駆け込むわよ」

 

 これ以上のエンカウントは無いとは思うが、念のため治療しヒットポイントを満タンにして、アッサラームの街へと向かうのだった。




 相変わらずの小悪魔によるセクハラから始まるこのお話。
 まぁ、マッサージなんですけどね!

 そしてアッサラームへ。
 この周辺で出るモンスターは恐ろしく強いんですよね。
 低レベルで進む場合、薬草を大量に持って逃げては治療し、逃げては治療し、まぁ、一人や二人死んでも教会で生き返らせればいいや、という感じで駆け込むのが普通なんですけどね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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アッサラームの昼と夜

 何とかアッサラームにたどり着くパチュリーと小悪魔。

 そこは交易の街。

 多数の商店が建ち並ぶが、

 

「先立つ物が無いとね……」

 

 財布が寂しいパチュリーたち…… 特に借金持ちの小悪魔には目の毒というものだった。

 しかし、

 

「それでも! 試着だけでも!!」

 

 と妙にテンションの高い小悪魔に押されるようにして武器・防具の店に入るが、

 

「ここは防具しか売っていないのね」

 

 コストパフォーマンスの良い鎖かたびらぐらい買っておくべきかと悩むパチュリー。

 一方、小悪魔はというと、

 

「なっ、何で無いんですか……」

 

 と愕然とした様子でつぶやいていた。

 

「何が?」

 

 と、たずねるパチュリーに、

 

「もちろん危ない水着に決まってるじゃないですかーっ!!」

 

 そう叫ぶ小悪魔。

 

「ああ……」

 

 パチュリーは事前に読み込んでいた攻略本等のドラゴンクエストに関係する書籍データ、頭の片隅にあるそれらから、小悪魔が口にしたアイテムに関する情報を嫌々ながら引っ張って来る。

 危ない水着とは、

 

「守備力たった1の布切れ、セクハラ装備ね。最初に登場したドラゴンクエスト2のMSX版では、これを着込んだムーンブルクの王女のグラフィックを目にすることができたっていう」

「そう!『ちきゅうはあおかった』で有名なアレです!!」

「……何ですって?」

 

 何を言われたのか分からないといった様子のパチュリーに対し、小悪魔は熱く語り出す。

 

「MSXの能力的なもののせいかモノクロというか青黒な荒いグラフィックですけど、スリングショット、紐水着に近いデザインの、おへそや腰、胸の谷間が大胆に露出した全身の絵に加え、胸と股間のアップまで用意されているという、当時としてはかなり過激なもの。しかも……」

 

 小悪魔の瞳が妖しくきらめき、

 

「股間に食い込むハイレグ部分は恥丘の盛り上がりがはっきり見て取れる上、クロッチの真ん中に縫い目の筋がくっきり走っているという素敵仕様。さすがアダルト向けのゲームソフトも作っていたエニックスさんです!」

 

 おれたちにできないことを平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!

 みたいに言うが、もちろんパチュリーには、

 

「そんなもので偉人の名言を汚さないでちょうだい。というか「ちきゅう」違いでしょう!?」

 

 といった具合にその感動はまったく伝わっていない。

 

「お金が無くて買えないなら、せめてパチュリー様に試着してもらって楽しもうと思っていたのにっ!」

「待ちなさい、そんなのを私に着せようとしていたの!?」

「買うことができるのなら、裏地を取り去った上で、ぎゅうって縫い目を食い込ませてあげて……」

 

 どこに!?

 

「衝撃にふるふると震えるパチュリー様に、後ろの方は逆にゆっくりと…… Tバックの下着のように深い股の切れ目の更に奥へと消えていく、お尻の切れ目にゆっくりと飲み込まれてゆく、深~く食い込んでいく、あの感覚をじっくりと味わっていただくというのもいいですよね」

 

 じわじわと、じらすように。

 笑う小悪魔に、たまらずパチュリーは顔を真っ赤にして、

 

「今すぐその腐りきった妄想を捨てなさい!!」

 

 そう叫ぶ。

 

(主人に対して公言するような内容ではないというか、人として口にしてしまったらダメな類の妄想……

 ああ、人じゃなくて悪魔だったわね。

 力が弱いし妙に人間くさいから忘れがちになるのだけれど)

 

 そうしてパチュリーは深くため息をつくと、あきらめて話を進める。

 

「アッサラームで危ない水着が買えたのは最初に出たファミコン版だけよ。スーパーファミコン版以降のリメイク作だとアレフガルドのドムドーラまで行って買うか、ジパングのすごろく場でマス目に止まって手に入れるか……」

「ちょっと待って下さい。ジパングのすごろく場ってゾーマを倒した後にしんりゅうを所定のターン以内に撃破して願いをかなえてもらわないと開かないやつですよね。そもそも、この世界って携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場はありませんし」

「ええ、だからドムドーラ以外では手に入らないわ」

「そんなぁ……」

 

 一気に意気消沈し、うなだれる小悪魔。

 

「まったく……」

 

 そんな使い魔に呆れつつも街の探索を続けるパチュリー。

 街を歩く荒くれ男から、

 

「何年くらい前だったか、あの勇者オルテガがカギを求めて南へ向かったらしい。しかしオルテガならたとえ魔法のカギがなくても道を切り開いたであろう。オレもあの男のようになりたいものだ」

 

 などといった話を聞くが、

 

「勇者父、オルテガって虹のしずくも取らずに魔の島へ渡りゾーマの城にたどり着いていたことから『泳いで渡った』って言われているけど、それ以前に鍵とかキーアイテム全部無しで進んでいるのよね」

 

 と、改めて呆れることに。

 さすが覆面パンツ、行動が脳筋(マッチョ)に過ぎる力業である。

 そうして、とある店を覗いてみると、

 

「おお! 私の友達! お待ちしておりました。売っているものを見ますか」

 

 とやけにフレンドリーな商人に声をかけられる。

 戸惑いながらも品を見ると、値札がまったく付けられておらず……

 

「魔導士の杖もここで売られているのね」

「魔導士の杖は私もパチュリー様も装備できませんよね?」

「杖の大半は装備できない職業でも戦闘中に使うと込められた力を引き出せるの。魔導士の杖はメラの呪文効果ね」

「それは…… 微妙ですね」

「そうね、スーパーファミコン版以降のリメイク作だとサマンオサやラダトームでは買えなくなっていて、ノアニールを眠りの呪いから解放していない場合はここでしか買えないのだけれど」

 

 それはさておき、

 

「私たちが買って意味があるのは鉄の斧かしら? 単体攻撃武器なのだけれど、それでも鋼の剣の攻撃力+33を超える+38は魅力よね」

「それは確かに欲しいですね」

 

 小悪魔は未だにアリアハンで手に入れたトゲのムチを使っているのだし。

 物欲し気に鉄の斧を見る小悪魔に、店主が声をかける。

 

「おお! お目が高い! 40000ゴールドですが、お買いになりますよね」

「なっ、何ですか、そのお値段!」

 

 叫ぶ小悪魔。

 

「おお、お客さん、とても買い物上手。私、参ってしまいます。では、20000ゴールドにいたしましょう。これならいいでしょう?」

「いきなり半額って、先ほどのお値段は何だったんですか?」

 

 アッサラームでは、アリアハンやロマリアなどの常識はまったく通用しない。

 ……というのは、値段が凄くいい加減なのだ。

 日常の値打ちを知らない初めての外国人は一体いくらなのか見当もつかず、凄くカモられてしまう。

 しかし、ここの世界ではカモることは悪いことではない。

 騙されて買ってしまったヤツがマヌケなのである!

 

「そんなお金ありませんよ!」

 

 値段交渉開始ーッ。

 

「おお、これ以上負けると私、大損します! でも、あなた友達! では10000ゴールドにいたしましょう。これならいいですか?」

「それでも足りません」

「おお、あなた酷い人! 私に首吊れと言いますか? 分かりました。では、5000ゴールドにいたしましょう。これならいいでしょう?」

「無理です」

「そうですか。残念です。またきっと来て下さいね」

 

 がっくりと肩を落とす小悪魔。

 

「八分の一まで負けさせたと思っても、手が出せるような金額じゃありません……」

「まぁ、それでも市価の倍額なのだけれど」

「ええっ!? ボッタクリじゃないですか!」

 

 しかし、

 

「それでもこのお店、まったく使えないわけでも無いのよ」

 

 と笑うパチュリー。

 

「そうなんですか?」

 

 首を傾げる小悪魔に説明する。

 

「例えばファミコン版では鉄兜はここでしか売っていなかったけど、倍額でも買う価値があったの」

 

 利用可能なキャラが多く使い回しができるうえ、僧侶と賢者にとっては最強の兜であり、ここで買わなければガルナの塔で一つ拾うか、ガメゴンからのドロップを期待するしかないという品。

 ファミコン版では防具の種類も貧弱で、特に後衛の守備力に不安があったので、高いとはいえこの時点で買って僧侶に使わせれば、それだけで打たれ強くなり生存率がアップするものだった。

 

「まぁ、スーパーファミコン版以降のリメイク作だとイシスで定価で買えるようになったから、ここで買う意味は無くなったのだけれど」

「それじゃあ、リメイク作で買う意味のある品は?」

「マジカルスカートね。魔法のダメージを3/4に軽減する特殊効果が備わっている上、守備力も鉄の鎧と同じ25ポイントもあるし、女性なら誰でも着られるという優秀なものよ」

 

 女尊男卑を代表する装備の1つ。

 

「ここ以外だと、すごろく場で運任せでよろず屋のマスに止まることを祈って購入するか、ピラミッドで一着手に入れるか、だいぶ後、船を入手した後にテドンまで行って買うかしかないから」

「……この世界って携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は無いんですよね?」

「ええ、だからさらに重要性が高まっているわね。まぁ、次に向かうイシス、そしてピラミッドでは魔法で攻撃してくる敵は居ないから急がなくともいい…… 逆に言えば、ピラミッドで魔法の鍵を手に入れた後で得られる多額のアイテム売却金で購入しておけば、それ以降がとても楽になるって感じね」

 

 要するに、

 

「入手のための手間暇や今はここぐらいでしか買えないっていう希少性の分が上乗せされていると考えれば倍額でも買う価値はあるものなのよ。それに気付かず「さっさと首吊れサギ野郎」なんて言い捨てて終わらせてしまうのは、もったいないわよね」

 

 ということ。

 ドラゴンクエストが制作、販売された日本ではチップを払う習慣が無い、サービスを受けるには金が必要という意識が希薄(サービス=無料と誤解しがち)であるがゆえに、プレーヤーもこういった形の無い価値に金を払うのは不慣れで苦手なのかもしれないが……

 

 同じような売り方をする店には道具屋もあって、

 

「薬草ですら値切っても倍……」

「この街の普通の道具屋では毒消し草と満月草しか売っていないから、薬草の補充を怠っているとここで買うしかなくなるわよね」

「ええっ!?」

「まぁ、キメラの翼を使って他の街まで戻って買うというのもアリかしら? アリアハンに行ってついでに勇者の実家で休むなら、この街の宿代、一人7ゴールドの分も浮くし」

「ええと、キメラの翼が一つ25ゴールド、往復で50ゴールド」

「普通の四人パーティなら宿代は28ゴールドよね」

「8ゴールドの薬草を倍額で買わされると損失も8ゴールド。つまり薬草をここで3個以上買うのなら、キメラの翼を使ってでもアリアハンに戻った方がお得ってことですか」

 

 そういうことだが他にも、

 

「このお店では、ここでしか手に入らない金のネックレスを売ってくれるわ」

「いやみなくらい太いゴールドのチェーンですね、これ男性用ですか?」

「ええ、着用者の性格を『むっつりスケベ』に変えてくれるものよ」

「むっつりスケベと言えば、セクシーギャルの男性版ですよね。結構いいものだったかと」

「そうね、だからあまり良い性格をしていない男性がパーティに居るのなら、買う価値もあるかしら」

 

 それと、

 

「まだら蜘蛛糸って初めて見ましたが、これはどういうアイテムなんですか?」

 

 そう尋ねる小悪魔に、パチュリーは説明する。

 

「投げつけると放射状に広がって絡みつき、敵1グループの素早さをゼロにする魔法の糸玉ね」

「ボミオスの呪文と同じ効果を持つ使い切りのアイテムですか」

「スーパーファミコン版以降のリメイク作だとそのとおりだから、あまり価値は無いわね。ファミコン版では固定エンカウントでは絶対に効かないけど、通常エンカウントではすべての敵に100パーセント効くようになっていたから結構使えたのだけれど」

「必ず効くボミオスですか?」

 

 ボミオス自体、あまり有効とは思えない呪文なので小悪魔は首をひねるが、

 

「素早く、逃げ出しやすいメタル系スライムの素早さを必ずゼロにできるのよ。しかもグループ全体を一発で」

「ああ、それは便利ですね」

 

 攻撃前に逃げられてしまった、ということが無くなるのは大きい。

 

「ただ、眠りから解放したノアニールかバハラタでも買えるし、メタルスライムが本格的に出るようになるのはダーマ以降だから、ここで買う意味はあまり無いかも知れないわね。そもそも、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと判定がボミオスの呪文と同じになってメタル系には効かなくなっているし」

 

 ということだった。

 

 こうして街を散策したが、アッサラームは昼と夜で別の顔を持つ街。

 街の外で時間を潰し、夜を待って再び訪れてみることにするが、

 

「毒イモムシさんです!」

「街を出てすぐに遭遇って何!?」

 

 システム的に言えば2マス、2歩でエンカウントである。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしいが、スーパーファミコン版よりエンカウント率が上がっているように感じられる。

 特に街を出た直後や階段を昇り降りした直後の遭遇までの歩数も割と短い場合があるようだったがこれは……

 もしかしてエンカウントリセット、街に出入りすることで歩数カウントがリセットされるはずが、機能していない?

 

 ともあれ現れたのは一匹だけ。

 

「くっ!」

 

 攻撃力と素早さは下位種であるキャタピラー以上でパチュリーはそれなりなダメージを受けるが、それでもこの周辺で現れるモンスターとしては低威力であり問題とはならない。

 そして二人がかりで殴ると、

 

「あれ? あっさりと倒せました?」

 

 1ターンキルで終わる。

 

「攻撃力と素早さはキャタピラーより上でも、守備力とヒットポイントは低い相手だから」

 

 特に最大ヒットポイントはキャタピラーがファミコン版で45、リメイク以降で50に増強されているのに対して、35しかない。

 

「問題はパーティ全体を侵そうとする毒の息だけだし、それも毒消しを用意してあれば問題にはならないし」

 

 毒を受けても戦闘中ヒットポイントは減らない。

 つまり治療は後で行えば十分なので戦闘に影響は出ないものだし。

 そして、

 

「あら、レベルが上がったわね」

「ええっ!?」

 

 思わぬところでパチュリーがレベルアップ。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:9

 

ちから:26

すばやさ:20

たいりょく:54

かしこさ:13

うんのよさ:9

最大HP:107

最大MP:26

こうげき力:53

しゅび力:30

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:なし

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

「レベル一桁でヒットポイントが100越えって何ですかーっ!」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 

「力も上がって攻撃力もアップしてますし、私との差が付きすぎですよ……」

「攻撃力については、あなたがいい武器を買ったら逆転できるでしょう?」

「借金持ちなのに買えませんよぉ」

 

 それもそうだが。

 ともあれ日が落ちて夜だけ開いている武器屋に行ってみると、鉄の斧が2500Gで売られていた。

 つまり、

 

「鉄の斧ってボッタクリのお店で買う必要無いじゃないですかー」

「そうね」

 

 ということ。

 一方、小悪魔は街に立つ女性、かの有名な『ぱふぱふむすめ』を目にするといそいそと隊列変更で先頭につき声をかけるが、

 

「今晩はお嬢さん。星がとっても奇麗な夜ね」

 

 とはぐらかされ、相手にされない。

 

「どうしてですか!? 勇者なら男性と見誤ってぱふぱふしてくれるはずでは!? 危ない水着を着てグラフィックが水着姿になっても誤認してくれるんですよねっ!?」

 

 水着姿になっても男と思われる女勇者……

 やたらシュールな光景ではあるが、しかし、

 

「それはファミコン版の話でしょう? スーパーファミコン版以降のリメイク作だと女勇者は男性に誤認されないようになっているから無理よ」

 

 そういうことである。

 

「大体これ、夜の歓楽街で客引きの女性に連れられ真っ暗な部屋で気持ちいい行為を受ける、と見せかけて……」

 

「どうだ、坊主。わしのぱふぱふはいいだろう」

 

 という具合に実は気持ちいい行為とは、あらくれオヤジのマッサージだった、というオチがつくものなのだが。

 しかし小悪魔は、

 

「だからいいんじゃないですか。妙齢の女性がむくつけきオッサンに「き、気持ち良い……」って喘ぎ声を上げさせられるシチュエーション! ぜひパチュリー様に体験して頂いて……」

 

 と語るが、パチュリーは、

 

「ああ、勇者や男性キャラで話しかけて女性に連れられた後、建物に入る直前に先頭を女性キャラにすれば女性キャラでもぱふぱふしてもらえるって技も、リメイク版だと使えなくなっているわよ」

「神は死にました……」

「悪魔が神を頼ってどうするの」

 

 という話。

 

「そう言えば、スーパーファミコン版以降のリメイク作だとレベルを上げれば遊び人が戦闘中の遊びでぱふぱふをするのよね。女性がすると敵一体の行動が一回止まるけど、男性がするとダメージを与えるっていう」

「つまり、アッサラームのオッサンにぱふぱふされた人って、ダメージを受けながら「き、気持ち良い……」とかよがってるんですか? 変態じゃないですか、やだー!!」

 

 小悪魔にかかると、何でもエッチな方に結び付けられてしまう。

 そうして、せっかくだからと夜しかやっていないというアッサラーム名物ベリーダンスの舞台にも行ってみると……

 

「ベリーダンスは、いつ見ても最高ですね! さぁ、あなたもどうぞ座って。私の友達!」

「私の友達って……」

「ボッタクリのお店の人じゃないですかー!」

 

 オチが付いたところで宿へ。

 この世界では珍しく風呂が用意されている。

 これまではお湯をもらって身体を拭いたり、水浴びをしたりだったので助かるが、

 

「ここのお風呂、男女混浴ですって。いや~ね」

 

 と先客の女性が言うとおり男女共通だったりする。

 しかし小悪魔は、

 

「混浴を非難するなんてとんでもない! これがいいんですよ! 宿が用意してくれたこの混浴が「いい」んじゃあないですかッ!」

 

 と絶賛。

 だが、

 

「混浴も何もこの浴槽、一人用でしょう。順番に入るしかないじゃない」

 

 とパチュリー。

 

「そんなぁ『ドキッ! 少女だらけの痴情混浴。ポロリもあるよ』な展開がぁ」

「無いわよ」

 

 無いが、意気消沈する小悪魔にため息をつき、

 

「湯浴みを手伝ってくれるんでしょう」

 

 と誘う。

 

「ハイヨロコンデー!!」

 

 もちろん即時復活する小悪魔だった。




 アッサラームの街、お金が無いなりに楽しむ小悪魔とパチュリー様でした。
 次回はイシスへ。
 しかしその途中で、このアッサラーム周辺での最大の脅威、あばれザルに遭遇する二人をお届けします。
「は、はぁ? そんな拳を突き付けて、私に勝つつもりですか……? いや、冗談ですよね……? そんなの私入らな……」
 小悪魔はあばれザルのわからせフィストをぶち込まれ、強制的にわからせられてしまうのか……


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イシスへの道 あばれザルによるわからせ!?

 アッサラームの宿に泊まり一夜を明かしたパチュリーたち。

 宿のタンスからは毒蛾の粉が回収できた。

 

「それってどういうアイテムなんですか?」

「これを使うとモンスターが混乱して同士討ちを始めるのよ」

 

 メダパニの呪文と同じ効果を持つアイテムだ。

 普通では打撃ダメージが1しか通らないメタルスライムだが、モンスターからの打撃は何故か通るため、メタル狩りのためにも取って置いた方が良いだろう。

 

「じゃあ、これをパチュリー様に使えば……」

「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、パーティアタックは禁止だから!」

 

 冗談じゃないと釘をさすパチュリーだったが、小悪魔は能天気に、

 

「確かに、勇者一行が粉を吸ってキメちゃって混乱とかマズ過ぎますもんね」

 

 言い方ァ!!

 

 そんなこんなで、朝から絶好調な小悪魔にため息をつくパチュリー。

 やはり昨晩、入浴の手伝いをさせたのはサービスが過ぎたか。

 元気になったのは良いが、興奮しきって大変だったので、術式で縛って朝まで部屋に転がしておいたのだが、それでもこれである。

 

「次はイシスね」

 

 南西の砂漠を超えた場所にあるイシスに向け出発をする。

 そしてモンスターと遭遇するが、

 

「キャットフライと…… しっぽの付いたゴリラさん? 大き過ぎません?」

「い、いけない!」

「でも、一匹ずつなら何とか!」

「あ、こら!」

 

 勝手に戦いを選択してしまった小悪魔に、慌てるパチュリー。

 

「おさるさんはタフそうなので、先にコウモリねこさんを…… マホトーンで呪文を封じられるのも嫌ですし、痛恨も怖いし」

「ダメ、先にあばれザルを倒すのよ!」

「はい?」

 

 そして、しっぽの付いたゴリラ、つまりあばれザルは先制で……

 

「おさるさんが増えました!?」

「あばれザルは仲間を呼ぶ習性があるのよ」

 

 ということ。

 仲間を呼んだモンスターも呼ばれたモンスターもどちらもこのターンはこれ以上動けないため、後はキャットフライだが、

 

「マホトーンで呪文が封じられちゃいました!」

「これで回復は薬草頼りになったわね。まぁ、薬草の蓄えは十分なのだけれど」

 

 トゲのムチを振るう小悪魔。

 トゲのムチはグループ攻撃武器であるがゆえに、このターンに呼ばれたあばれザルにもダメージが入る。

 

「こちらの武器が二人ともグループ攻撃できるもので良かったわ」

 

 と言いながらチェーンクロスで攻撃するパチュリー。

 そして次のターン、あばれザルの攻撃がパチュリーに連続で命中!

 

「ぐっ」

 

 20ポイント前後のダメージを二発という恐ろしいまでの攻撃力。

 

「ヒットポイントが100越えのパチュリー様ですから耐えられましたけど、最大ヒットポイントが39の自分ならこれだけで死んでますよ!」

 

 と背筋を震わせる小悪魔。

 実際にはパチュリーが借金を許してまで防具をガチガチに固めさせているので、もう少しダメージは減るのだが。

 その小悪魔にもキャットフライからの攻撃があり、

 

「これぐらいなら……」

「薬草でヒットポイントをフルに回復させて!」

「はい?」

「そっちに攻撃が集中したら危ないでしょう!」

「は、はい!」

 

 なお、あえてパチュリーは語らなかったが、あばれザルもキャットフライも痛恨の一撃がある。

 モンスターが繰り出すこの痛恨の一撃は守備力無視で攻撃力の約0.9倍程度のダメージを与えるもの。

 攻撃力48のキャットフライなら43ポイント前後。

 あばれザルはキャットフライより痛恨の一撃を繰り出す確率が低いとはいえ、攻撃力は55なので50ポイント前後のダメージを叩き出す。

 つまり小悪魔の39という最大ヒットポイントではいずれにせよフル回復状態でも一撃死するのだが……

 

 次のターン、

 

「ま、また増えた……」

 

 さらに増殖するあばれザル。

 小悪魔は自分を薬草で回復。

 そして残ったあばれザルが仲間を呼ぶ。

 

「や、止めてくださーい!!」

 

 が、失敗。

 

「と言うか、あばれザルが出現できる枠って3匹が上限なのよ」

「ああ、なるほど」

 

 ゲーム的に言えば、キャラクターグラフィックが大き過ぎて表示できるスペースがそれ以上無いということ。

 今回のように他のモンスターとの混合出現で表示位置がずれると4体まで表示できそうに見えるが、そこはシステム的に制限が成されているらしく、やはり上限は3体である。

 そして、ここからは殴り合いだが、

 

「は、はぁ? そんな拳を突き付けて、私に勝つつもりですか……? いや、冗談ですよね……? そんなの私入らな……」

 

 あばれザルのわからせフィストにブチ抜かれ、

 

「ひぐぅぅぅっ!!(ビクンビクン)」

 

 強制的にわからせられてしまう小悪魔!

 

「ふざけてる場合じゃないでしょうっ! 次のターンで回復させなさい!」

 

 そう言いつつパチュリー、そして小悪魔も反撃するが、

 

「全然倒せません!」

「あばれザルの最大ヒットポイントは、最初のファミコン版で50」

「ええっ!?」

「スーパーファミコン版以降のリメイク作だと10ポイント増えて60よ。守備力も25から40にまで強化されてるし!」

「な、何ですかそれー!!」

「それが群れを成し、仲間を呼ぶ……」

「ぜ、絶望的じゃないですか」

「だから逃げようとしたのに勝手に戦い始めるから」

 

 そうして壮絶な殴り合いの末、パチュリーの攻撃が先頭のあばれザルを倒す。

 

「やりましたね!」

 

 しかし次のターンであばれザルが仲間を呼ぶ。

 

「減らないじゃないですかー!」

「泣き言言わない」

 

 そうして一進一退の攻防を繰り広げるが、

 

「最初の一回以外、仲間を呼ぶ行動を空振りしませんね。してくれると楽になるのに」

「仲間を呼ぶ行為は枠が埋まっていない限り必ず成功するから。最初に失敗したのは、枠が一つしか無いのにたまたま二匹が両方とも仲間を呼ぶという選択をしたので、後から行動した側が失敗になったわけね。あばれザルの頭の良さ、判断力は1。これはターン開始時に状況を見て行動を決めるものだから」

 

 判断力が0、バカなら状況に関係なく行動し、最高の2なら行動直前に、状況に対応した行動を取る。

 そして、

 

「満塁策よ」

「満塁策? 野球のですか?」

「あばれザルが出現できる枠は三匹分。それ以上は増えないわ。つまりヒットポイント総計は最大180ポイント。仲間を呼ぶという回復行動で1ターンに最大60ポイントのヒットポイントが回復できる」

 

 一匹倒されれば次のターンで呼べるのは一匹。

 二匹倒されて枠が二つ空いても、残りの一匹が1ターンに呼べるのは1匹という計算である。

 1匹倒され、次のターンで残り二匹とも仲間を呼ぶ選択をして、そのターン中に仲間を呼んだ1匹が倒され、残り一匹も仲間を呼ぶ、というパターンも無いではないがレアケース過ぎるので考慮しなくともよいだろう。

 ともあれ、

 

「絶望的じゃないですかー!」

 

 ということ。

 しかし、

 

「でも、こちらはグループ攻撃武器だから、二人で3匹に攻撃すれば合計ダメージは60ポイントを超えるわ」

「あ……」

 

 ということは、戦い続ければ敵はじり貧になっていくはずということ。

 これが、複数攻撃武器が存在するドラクエ3のリメイク版における満塁策と呼ばれる手法。

 まぁ、こちらもダメージを受けるので回復するターンは攻撃力不足になってしまうが。

 

「後はタイミングよ。ダメージを蓄積し、弱ったところにこちらの攻撃を畳みかければ倒しきれるわ!」

 

 ただ、そう簡単に上手く行くわけもなく、倒してもまた仲間を呼ばれるということを繰り返す。

 そして、

 

「ダメです。このターン、一匹も倒せませんでした。逃げましょうパチュリー様!」

 

 キメラの翼を使おうとする小悪魔。

 戦闘中に使えば、行先はアリアハン固定だが必ず逃亡が可能なのだ。

 

「いいえ、そんなことはしないで! これがいいんじゃないの! こぁ!」

「え?」

「三匹のあばれザルにダメージを蓄積させたはずなのに一匹も倒せない状況。逃げるなんてとんでもない! これがいいのよ! この状況が「いい」んじゃないの!」

 

 つまり、あばれザルのヒットポイントをもう少しで倒せるほどにまで削ってあるということ。

 そしてあばれザルの判断力は1で、ターン開始時に状況を見て行動を決める。

 3匹の枠が埋まっているこの状況、次のターンではあばれザルは仲間を呼ぶという行動を取らない。

 そして小悪魔とパチュリーの攻撃があばれザルに叩き込まれ、

 

「このターン、二匹まで倒したわ。残りの一匹ももう少しのところまでヒットポイントを削ってある!」

「あとは?」

「祈りなさい」

「はい?」

「次のターン、あばれザルが仲間を呼ぶ前に倒せることを祈りなさい」

 

 そして次のターン、あばれザルはパチュリーを攻撃!

 さすがのパチュリーも、ここまでの攻防でヒットポイントを危険なまでに削られていたが、

 

「勝ったわ!」

 

 それこそ望む状況。

 小悪魔のトゲのムチが、パチュリーのチェーンクロスが唸りを上げ、最後に残ったあばれザルを倒しきる!

 

「やりましたね、あとはキャットフライを!」

「ちょっと待って、さすがに回復しないと」

 

 パチュリーは小悪魔に薬草で治療してもらい、そして、

 

「これで終わりよ!」

 

 キャットフライへ攻撃。

 殴り合いの末、倒す。

 終わってみれば、

 

「結局、5匹のあばれザルと戦う羽目になったのね」

 

 ということ。

 戦闘中に薬草を三つ使い、戦闘後の治療でホイミ三回を消費した。

 

「だから逃げたかったのに」

 

 ということだが。

 そうやってようやく砂漠に。

 ただし、

 

「そのまま南下するとアッサラーム地方のモンスターが出る領域だから少し西に進んでから南下した方がいいわ」

 

 ゲーム的に言えば、一マス西にずらしてから南下するということ。

 そして、

 

「カニさんです!」

「地獄のハサミ!? 逃げる逃げる」

 

 何しろ守備力が110もあって、こちらの攻撃はほぼ通らないのだ。

 しかも、

 

「回り込まれたわ!」

「ただでさえ固いカニのモンスターなのに、スクルトで守備力を上げてますよ!? というか+110って何ですか!」

 

 モンスターが使って来るスクルトには二種類あり、地獄のハサミのものは敵全体の守備力を元の値と同じだけアップさせるというぶっ壊れ性能を誇る。

 

「こうなったらニフラムで光にな……」

「地獄のハサミはニフラムに完全耐性だから!」

 

 邪悪な魂を聖なる力で光の彼方へと消し去る退魔の呪文、ニフラムを使おうとする小悪魔を止めるパチュリー。

 

「こちらから通じるのはあなたのメラだけよ」

「倒しきれないじゃないですかー」

「そうね、全部倒す前にマジックパワー切れになるのがオチね。使用することで何度でもメラを撃てる魔導士の杖でも買ってあれば、地道に削るとかできるかもしれないけど」

 

 そういうわけで、敵から殴られながらも3回目の逃走で何とか逃げ切る。

 小悪魔のホイミで回復し、さらに南下するが、

 

「またカニさんです! 今度は火炎ムカデさんと一緒ですよ!」

「ああ、もう逃げる」

 

 どうしようもないのだった。

 そして、

 

「またまたカニさんと火炎ムカデさんです!」

「逃げる逃げる」

 

 一回逃げ損ね、パチュリーが一発殴られた後、逃亡。

 

「全然戦えませんね。アッサラーム周辺のモンスターの方がまだ戦えていましたか?」

「そうねぇ。でも、ただ逃げながら進むだけなら、アッサラーム周辺の問答無用で大ダメージを与えて来るモンスターよりは怖くないのだけれど」

 

 逃げ損ねても受けるダメージが小さいので安全なのだ。

 

 そうして南の、毒の沼地に囲まれたほこらへとたどり着く。

 いつものように、住居精霊(ヒース・スピリット)がツボや本棚に隠していた精霊の隠し財宝を手に入れるのだが、小さなメダル、そしておてんば事典が手に入る。

 

「また、おてんば事典? 本当にあなたに使えるような性格へと変える本は無いのかしら」

 

 ため息をつくパチュリー。

 

「そんな気軽にひとを洗脳調教しようとしないでください!」

 

 プルプルと震える小悪魔。

 そしてほこらの住人から話を聞いてみる。

 

「魔法の鍵をお探しか?」

「はい」

「鍵は砂漠の北、ピラミッドに眠ると聞く。しかし、その前にまずイシスの城を訪ねなされ。確かオアシスの近くにあるはずじゃ」

 

 その助言に従って、今度は砂漠を西へ、イシスを目指す二人。

 途中、また地獄のハサミが現れたので、逃げるとオアシスが見えてくる。

 

「よ、ようやくイシスです」

「砂漠に入ってからカニから逃げてばかりって感じなんだけど……」

 

 それでも何とか、無事イシスに到着する二人だった。




 イシスに向かう二人でしたが、とうとうアッサラーム周辺の恐ろしさを象徴するモンスター、あばれザルと遭遇。
 アッサラームはロマリアに着いた時点でも行ける、つまり一本道ではない自由度の高いゲームだよ、としつつも、街の住人の忠告を聞くことの重要性を演出するためもあって、これほど強いモンスターが出るのだと言われていますね。
 そして砂漠では攻撃魔法の重要性を教えてくれる地獄のハサミの登場。
 複数攻撃武器があれば魔法なんて要らない、としてきたパーティーは、ここで絶対に勝てない相手に遭遇するのでした。
 まぁ、パチュリー様たちみたいに逃げればいいんですけどね。
 次回はイシスの城と街。
 色々と装備が整えられますね。


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イシスの『女王様』

 砂漠の街イシスに到着するパチュリーと小悪魔。

 まずは女王様に謁見するため城へ。

 

「左右に並んでいる石像は何でしょう?」

「スフィンクスみたいね。エジプトのルクソール神殿にはこんな風にスフィンクスが並んだ参道があるという話だけれど」

「スフィンクス……」

 

 そうして入った城では女官に、

 

「ああ、たくましい人たち! 女王さまもきっと気に入ってくださることでしょう」

 

 などと言われ、パチュリーは、

 

「私がたくましい…… 現実ではありえない評価ね」

 

 と微妙な表情をする。

 一方、小悪魔はというと、

 

「たくましい女性を気に入る女王様? それってつまり……」

 

 

 

「そうれ、お鳴きっ!」

 

 拘束されたパチュリーの柔肌に女王のムチが振り下ろされた!

 

「あひいぃぃぃっ!?」

 

 経験したことのない激しい痛みにパチュリーの思考が一気に吹き飛ぶ。

 まるで絶頂したかのように身体をのけぞらせ、瞳を見開き叫ぶパチュリー!

 

「ホホホ、強い女の悲鳴は、いつ聞いても心地良いわ」

「くぅっ……」

 

 痺れるような痛みに呻きながらも、しかし折れないパチュリーの顔を覗き込み、女王はいやらしく笑う。

 

「あの勇者の小娘を人質に取られてさえいなければ、こんな汚い手を使う相手に負けないのに、そう言いたいのかしら?」

 

 その場には意識を失いぐったりとした小悪魔が、女王の下僕に押さえつけられ、喉元に刃物を押し当てられていた。

 

「嘘をお言いでないよっ! 本当は嬉しいくせにっ!」

 

 再び振り下ろされるムチ!

 

「ああーっ!!」

「フフ…… 私にはお見通しよ。お前が虐められて喜ぶ変態だってことはね!」

 

 何を、と戸惑うパチュリーに、女王は語る。

 

「強い女、賢い女はみんなそう。実力に見合った、常人ならナルシストとしか思えないような自信と高いプライドを持ち…… だからこそ、その裏返しのマゾの快楽は底なしに深くなる」

 

 笑いながらムチを振るう女王。

 

「お前は心の内でこうなることを望んでいたのよ! 強く美しい自分自身を徹底的に辱め、痴態をさらけ出さざるを得ない状況に追い込まれることをね!!」

「そっ、そんなはず……」

 

 反論はひときわ強く振り下ろされるムチに遮られた!

 

「あ゛ぁぁああああっ!!」

「当然、お前はそれを認めないわ。強いが故のプライドや立場が邪魔をするし…… 何より自分から認めてしまっては興覚め。辱め、貶め、汚し甲斐のある強く美しい自分ではなくなってしまうものね」

 

 そうしてパチュリーの髪の毛をつかみ顔を上げさせると、耳元にささやく女王。

 

「でも…… 相手が人質を取るなんて卑怯な手で脅して来たらどうかしら? 抵抗できなくてもそれは『仕方がないこと』よねぇ?」

 

 ぞくり、とパチュリーの背筋に何かが走った。

 女王はこう言っているのだ。

 

 人質を取られているのだ、反撃を許されないまま一方的に嬲られたとしても、それはパチュリーの名を傷付けることにはならないのだと。

 

 そうして行きつく先は…… パチュリーは想像してしまう。

 

 相手の卑怯で陰湿な責めにボロボロにされ、まるで公開処刑を受けるかのように、公衆の面前で辱められる、この七曜の魔法を極めた魔法使い、パチュリー・ノーレッジが!

 

 瞬間、ぶるりと身体が震え、腰が砕けそうになった。

 その姿に女王の瞳が満足そうに細められたが、パチュリーは……

 

(挑発に乗ってはいけないわ。ここは耐えて、相手の油断を誘うのよ)

 

 パチュリーの力ならいつでも逆転は可能。

 小悪魔の完全な安全を確保するために敢えて今は耐え忍び、大きな隙を見せるまで待つのだ。

 だからそれまでは……

 

 痛みから分泌される脳内麻薬に酔ったパチュリーは気付かない。

 女王が差し出した「人質が居るから仕方が無い」という言葉は、パチュリーがこの被虐のシチュエーションを甘んじて受ける、そして楽しむことに対する許し。

 パチュリーが自分自身に言い訳できる理由をくれてやったのだということを。

 そして、自分がまんまとそれに乗せられているということを。

 

 パチュリーを被虐と快楽がいざなう奈落へと堕とすための責めは、始まったばかりだった。

 砂漠の夜にムチ打つ音と、パチュリーの苦鳴が響き続ける。

 明けの明星が輝き、パチュリーが取り返しのつかないほどのマゾ性癖を精神と身体に刻み込まれてしまう、そのときまで……

 

 

 

「……って、感じですかね?」

「そんなわけ無いでしょう!?」

 

 それは違う女王様だし、そもそも自分を主人公とした官能調教劇という妄想を垂れ流しにするなという話。

 そして、もちろんイシスの女王は、兵には、

 

「女王さまをおまもりするのがわたしの役目。ああ、わたしはなんて幸せな男だ!」

「オレは女王さまのためなら死ねる! ああ女王さま……」

 

 と慕われ、女官たちには、

 

「私たちは女王さまにおつかえする女たちです。イシスに住む女なら、だれもがあこがれる役目ですわ」

「わが女王さまには、こわいものなどありませぬ。たとえ魔王といえども、その美しさの前にひざまずくでしょう……」

 

 と讃えられる存在。

 そして実際、謁見を果たした女王様は、

 

「皆が私を褒め称える。でも、一時の美しさなど、何になりましょう。姿形ではなく、美しい心をお持ちなさい。心にはシワはできませんわ」

 

 誰もが憧れる美しさ…… 幻想郷に居る文字どおり人外の美貌を誇る存在を見慣れているパチュリーたちでも美人と思える風貌に、それを鼻にかけたりはしない人格者だったりする。

 

「ロマリアの王族が微妙だっただけに、人柄が際だつわね」

 

 とパチュリー。

 なお、パーティが全滅した際には最後にセーブした場所の王様から、

 

「しんでしまうとは ふがいない!」

 

 などと叱咤されながら再開することになるが、イシスの女王の場合は、

 

「しんでしまうとは かわいそう」

 

 と言ってくれるという違いがあったりする。

 またここの女官の一人から、

 

「子どもが歌う、わらべ歌にはピラミッドの秘密がかくされているそうですわ。でもあたしには、なんのことやらさっぱり」

 

 という話を聞けたので、子供たちの歌を確かめる。

 

「ねえ いっしょにうたおうよ!」

「まんまるボタンはふしぎなボタン。ちいさなボタンでとびらがひらく。東の東から西の西」

 

 それを聞いて、パチュリーはうなずく。

 

「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものだから、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版の「東の西から西の東へ。西の西から東の東」という手順よりは簡略化されているわね」

「それは助かりますね」

「ファミコン版だと「まんまるボタンは、おひさまボタン。はじめは東。次は西。」つまり太陽が東から上って西に沈むように、東、西の順に押すという分かりやすく覚えやすい歌詞になっていたのだけれど」

「太陽ですか」

「この地域のモデルになっている古代エジプトでは、日々変わることなく繰り返される太陽の運行を永遠の秩序ととらえ、太陽神ラーとして信仰していたわ。そしてこの太陽神は、昼の間は「マアンジェト」という名の船に乗り天空を航行し、夜は「メスケテト」という船で冥界を移動すると考えられていたの」

 

 しかし、リメイクで仕掛けを複雑化させた結果、当てはまらなくなったため『おひさまボタン』は『ふしぎなボタン』に差し替えられたのだった。

 

「このピラミッドの仕掛けはそんな風に変化しているものだから、確認は必要なの。ファミコン版の経験者が確認せずにスーパーファミコン版ではまったり、スーパーファミコン版の経験者が同様にスマホ版ではまったり、ということが実際あるみたいだし」

 

 と締めくくる。

 そうしてさらに城内を探索。

 学者の部屋の本棚からは、性格を変える本が手に入る。

 

「ひぃっ!?」

 

 洗脳調教の恐怖に怯える小悪魔と、手に取って見定めるパチュリー。

 

「まけたら、あかん…… あきらめたら、あかん…… 勝つまでやるんや! ……なにこれ」

「何で、ナニワ風なんですかね?」

「読んだ者の性格を『まけずぎらい』に変えるものね」

 

 負けたらあかんの本である。

 

「『まけずぎらい』は『セクシーギャル』の完全下位互換ですから!」

 

 懸命に予防線を張る小悪魔に、パチュリーはため息をつき、

 

「お店に持って行けば22ゴールドで売れるわね」

 

 と売却することにするのだった。

 実際『まけずぎらい』は良い性格では無いから変える意味は無い。

 この本の値段も相応ということだろうか。

 

 そうして城の外に出ると、城の外周で、

 

「俺はこの城にあるという、星降る腕輪を探している」

 

 という武人に出会った。

 ならば、ということで城の地下へと行ってみる。

 安置されている宝箱を開けると、星降る腕輪が手に入った。

 

「それが素早さを上げるという伝説の腕輪ですか」

 

 感心してパチュリーの手元を覗き込む小悪魔だったが、

 

「ひぃっ!?」

 

 星降る腕輪を手に入れると亡霊が現れる。

 

「私の眠りを覚ましたのはお前たちか?」

 

 そう問われ、パチュリーは素直に「はい」と答えておく。

 

「お前は正直者だな。よろしい。どうせもうわたしには用のないもの。お前たちにくれてやろう。では……」

 

 そのまますっと消えて行く亡霊。

 

「び、びっくりしました……」

「そう? びっくりついでに言うけど、ここって勇者…… あなた一人で来てもさっきの亡霊に「私の眠りを覚ましたのはお前たちか?」と言われるのよ」

 

 それが何か、と言いかけて小悪魔も気づく。

 

「一人でも……「お前たち」?」

 

 顔を引きつらせる小悪魔に、パチュリーはこくりとうなずいて、

 

「亡霊には勇者の後ろに何が見えているのかしらね? 殺されたモンスターたちの亡霊? それとも……」

「止めてください、怖すぎます!」

「……悪魔なのに?」

「悪魔でも怖いものは怖いんですよっ!」

 

 こうして星降る腕輪を手に入れたパチュリーたちは、今度はイシスの街に繰り出す。

 いつものように、住居精霊(ヒース・スピリット)都市精霊(シティ・スピリット)が隠していた精霊の隠し財宝を手に入れて行く。

 武器屋、そして墓の前から小さなメダルを、武器屋の主人の家からステテコパンツを、井戸のそばから素早さの種を、井戸の中からは読んだ者の性格を『いのちしらず』に変える勇気100倍の本を発見した。

 手に取って本を確かめるパチュリーだったが、

 

「さあ、今こそその一歩を踏み出す時! この本を読めば、その勇気が君の手に! ……ねぇ」

「ダメですパチュリー様!」

 

 パチュリーを強く引き止め、語る小悪魔。

 

「本を読んだだけで勇気が手に入るはずがありません。そもそも『勇気100倍』とはア〇パンマンの最強状態を指す言葉!」

「ちょっと、何を言い出すの!」

 

 非常に嫌な予感がして制止しようとするパチュリーだったが、小悪魔は止まらない。

 

「そして『ア〇パン』とはシンナー吸引を指す隠語! つまりアサシンと呼ばれる死を恐れぬ暗殺者が大麻の投与で作られたという伝説のように、きっとその本にはシンナーのような薬物を吸わせて恐怖心を失わせ、勇気100倍にしてしまおうという方法が書かれているに違いありません! CERO年齢区分が全年齢対象のA区分、幼児もプレイするゲームに何て恐ろしい暗喩を込めるのでしょう、エニックスさんは!!」

「そんなわけないでしょう! というか危なすぎる発言は止めなさい!!」

 

 そもそもアサシンと大麻の関係性は、現代では否定されている……

 まぁ、それで小悪魔も『伝説』と言っているのだろうが。

 

「でも最初の性格診断で『いのちしらず』になれるのは砂漠での選択。『勇気100倍』を入手できる場所はここイシスとドムドーラ。すべて砂漠地方ばかりと縁がある性格です。そしてアサシン伝説の発端となった中東も砂漠の存在する土地柄。エニックスさんがそれを意識していないとは思えませんよね」

「いいから!」

 

 危ないからこれ以上、深く突っ込むなという話。

 ともあれ、

 

「この本を読むとなれる『いのちしらず』って、城で手に入れた負けたらあかんの本を読むとなれる性格『まけずぎらい』の上位互換なのね」

「あああ、止めてくださいパチュリー様」

 

 一転して恐怖の表情でイヤイヤをする小悪魔。

 

「そして今のあなたに足りないヒットポイントを決める体力の成長補正が+15パーセント。つまりこの性格に変えれば、あなたの生存率が高まるということ」

 

 守備力を高める素早さの成長補正もセクシーギャルと同じ+20パーセントであり、『いのちしらず』はそういう無謀とも思える性格でも生き残ることができる力を秘めているのだとも言える。

 

「あ、あああ……」

 

 小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!

 これがあったから小悪魔は無茶苦茶なことを言って話をうやむやにしようとしたのか。

 しかしパチュリーには通じない。

 そうして絶望に震える小悪魔に、

 

「でも、力の補正が-5パーセントというのが痛いわよね」

 

 と言う。

 

「そう、そうなんです!」

 

 弾かれるように顔を上げ、希望に縋りつくように言う小悪魔。

 

 実際、『いのちしらず』はそのイメージと違い魔法使いや僧侶、賢者といった後衛向きの性格だった。

 体力への補正は後衛職に足りないヒットポイントを上げるうえ、素早さアップによる守備力強化でさらに耐久性が高まる。

 素早さの向上は魔法による先制攻撃を可能とするものでもあるし。

 力の上昇にわずかにマイナス補正が加わるが、後衛職は元々力が上がりにくく、打撃によるダメージがそれほど期待されるわけでも無い。

 ゆえに許容範囲と言えるものだった。

 

 パチュリーはため息をつき、

 

「お店に持って行けば67ゴールドで売れるわね」

 

 と売り払うことにするのだった。

 そんなパチュリーは、ある人物と出会う。

 

「私はソクラス。こうして夜になるのを待っています。でも夜になると、なぜか朝が待ち遠しくなってしまうのです」

「は?」

 

 言っていることが良く分からない。

 それでは、と思い街の外に出たり入ったりで時間を潰し、夜を待ってみる。

 

 イシスの街と城は他とは違いワールドマップには表示されず、砂漠に存在するオアシスの森のマスに入ることで『街と城が表示される中間マップ』に切り替わり、そこから街か城を選んで入ることができる。

 

 スーパーファミコン版では外に出たら、いったん砂漠に出ないと『街と城が表示される中間マップ』に遷移しない仕組みになっていた。

 オアシス周囲の森から『街と城が表示されるマップ』が表示されるマスに移動しても普通にワールドマップの森を移動しているだけ。

 敵も普通に出るという処理だった。

 一般的な平地の場合1~49歩目にエンカウントするが、平地に比べ砂漠は1.5倍、森は1.8倍に歩数がカウントされるため、小まめに出たり入ったりを繰り返さないと敵にエンカウントする率が高まるのだった。

 

 一方、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 イシス周辺、オアシスの処理がスーパーファミコン版とは異なっている。

 この世界では『街と城が表示されるマップ』から出て『ワールドマップ』へ遷移した後、上方向に一歩移動するだけで『街と城が表示されるマップ』に戻ることができる。

 つまり『街と城が表示されるマップ』から下方向キーでワールドマップへ、そこで上方向キーを押して『街と城が表示されるマップ』へ、と移動を繰り返すと絶対にエンカウントすること無く時間を進めることができるのだ。

 

 そうやって安全に時間を夜に進めて訊ねてみると。

 

「私はソクラス。こうして夜が明けるのを待っています。ああ…… 早く朝にならないかなあ」

 

 と働きもせず朝を待ち続けている。

 このソクラスの家からは頭が冴える本が見つかる。

 

「『頭が冴える本』って、読むと眠れなくなる本なんでしょうか?」

「それを言うなら『目が冴える本』でしょう」

 

 小悪魔の物言いに呆れるパチュリー。

 

「でも働きもせずに家に引きこもっているというのは良くないですよ。とにかく、この本はこの人から取り上げて置いた方が良さそうですね」

 

 しかし、それでもソクラスの暮らしぶりには変化が無かった。

 昼に会った神父曰く、

 

「誰もソクラスのことを笑えまい。人生とはああしたものかも知れぬ……」

 

 とのことなので、このイシスでも引きこもりの問題は深刻なものになっているらしい。

 だが、

 

「引きこもっていられるだけの力、財力や権力、立場があるのなら、好きにすればいいと思うのだけれど」

 

 と、こちらも生粋の引きこもりであるパチュリーには、何ら問題とは思えないらしい。

 

「えぇー?」

「例えば、引きこもっても問題なく暮らせるほど家が裕福というのも先天的な『才能』よ。私のように魔法を志す者なら、それだけで学習の向上率や魔法の習得速度が違ってくるわ」

 

 というわけで、

 

「誤魔化してないで『頭が冴える本』を渡しなさい」

「うぐっ!?」

 

 小悪魔が後ろ手に隠していた性格を変える本を取り上げるパチュリー。

 

「日ごろの行いというものね。いつもがアレなあなたがまともなことを言い出すなんて、何かあるって言っているようなものよ」

 

 まぁ、

 

「頭が冴える本はロマリアでも得られて、売りに出したものだけど」

 

 商人の能力で鑑定した内容、

 

「驚異の大脳発達術! 頭の良くなる食品リスト! 超思考法!」

 

 というキャッチコピーが怪し過ぎるというのもあるが、根本的にはこの性格の体力-20パーセント補正というのが辛すぎるということである。

 長所である賢さ+40パーセント補正というのは僧侶や魔法使いに使うとマジックパワー切れがまず起きないというほどに賢さが伸びてくれるのだが……

 

 一方勇者はマジックパワーが少ないので、この性格は良さそうと思うかも知れないが、パーセント、割合での補正というものは元々低い値への効果は薄い。

 逆に元々高い体力が大幅なマイナス補正の影響を受けてかなり下がってしまうので、使い勝手が悪いのだ。

 

 そういうわけで、

 

「まぁ、売るしか無いわね」

 

 ということで洗脳調教を免れる小悪魔だった。




 相変わらずな小悪魔のセクハラ妄想。
 そして違う意味で危ない主張。
 いえ、彼女の暴走に書いてる私も冷や汗ものなんですけどね……

 次回はイシスの夜の続きに、逆襲のパチュリー様。
 そして刃のブーメランゲットからの装備の更新、各人の所持金の精算。
 つまり『借金奴隷小悪魔』の巻となります。

「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」

 再びということですね。
 いや、そうしないと小悪魔が次のピラミッドで死にかねないし……


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借金奴隷勇者、小悪魔

 引き続き夜のイシスの街を歩くパチュリーと小悪魔だったが、

 

「パチュリー様、あそこの水場に裸の女性が!」

 

 というわけで駆け出す小悪魔。

 

「待ちなさい! ……そういうのは目ざとく見つけるのねぇ」

 

 呆れて後を追うパチュリーだったが、

 

「いやん、近づかないでっ! こっそり水浴びしてるんだから」

 

 などと小悪魔は拒絶されていた。

 一方、パチュリーに対しては、

 

「身体が砂だらけで気持ちわるいから水浴びしてるの。でも砂漠の夜って案外冷えるのよね。……クシュン!」

 

 ときちんと答えてくれる。

 この対応の違い……

 

「やっぱり一般人にも、あなたから滲み出るいやらしさが分かるのね」

「ヒドイ言いがかりです!?」

 

 実際にはファミコン版で女勇者が周囲から男性と見間違えられていたことの名残。

 スーパーファミコン版以降のリメイク作ではきちんと女性と認識されるようになったものの、このように所々そのままの部分も残っているので、女勇者は同性である女性にも性的な視線を向けているのでは、という疑惑が生じるのだった。

 

 そうしてパチュリーは、

 

「そんなことはどうでもいいとして……」

「良くないですよ!」

「いいとして、夜の城も調べてみた方がいいかしら」

 

 ということで行ってみる。

 昼と変わらずに居るネコたちを横目に、兵士の寝室に入ってみるが、

 

「うわ~、化けネコだぁ~。助けてくれ~。ぐうぐう……」

 

 などとうなされている兵が居る。

 

「化けネコねぇ……」

「そういえば魔法使い…… 魔女のペットってネコが定番ですけど、パチュリー様は飼われていませんね」

 

 ふと小悪魔はつぶやくが、

 

「そうね……」

 

 とパチュリーは城の玄関ホールに戻ると、壁に向かって、その場から動かないネコに気づいて話しかけてみる。

 するとそのネコはくるりと振り向いて、

 

「ケケケ。オレさまは魔王さまの使い魔よ」

「しゃ、しゃべった!?」

 

 驚く小悪魔を他所に話し始める。

 

「魔王さまにたてつこうなどと、大それた考えは改めアリアハンに帰るがよい。でないと、お前らは無残な最後を遂げるだろうよ。ケケケケ……」

 

 という言葉を残し、その場から消え失せるネコ。

 

「び、びっくりしました……」

「あんな風に、かしら?」

 

 くすりと笑うパチュリー。

 

「魔女の使い魔は、契約した悪魔から貸し出されたインプが化けているもの、とも言われているわ」

 

 パチュリーはつい、と人差し指を小悪魔の顎に伸ばし、

 

「あなたもネコになってみる?」

 

 と聞く。

 小悪魔は冷や汗をかきつつ、こう答える。

 

「いえ、私はネコではなく攻める方ですから」

「あなたが何を言っているのか分からないわ」

 

 そんなこんなで謁見の間に。

 

「女王様はすでにお休みです。また昼間にでも来られるが良いでしょう」

 

 と兵士が言うが、パチュリーは玉座へと進み、そこから小さなメダルを拾い上げる。

 

「これで小さなメダルは15枚。刃のブーメランがもらえるわね」

 

 ということで、キメラの翼を使いアリアハンへと飛ぶ。

 街の端にある井戸、ロープを伝って降りて行った先の建物では、小さなメダルを景品と交換してくれるメダルおじさんが待っている。

 

「よし! これでパチェはメダルを15枚集めたので、ほうびに刃のブーメランを与えよう!」

 

 前回以降、新たに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりに刃のブーメランを渡してくれた。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではメダル20枚が必要なアイテムで、入手は最速でもピラミッドの魔法の鍵入手後という武器だったが、この世界の元となっている携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では15枚、イシス到着時点で入手が可能となっていた。

 通常のブーメランはというとノアニールを眠りから覚ました後の入手になっているので、パチュリーたちのように先にイシスに向かうことにすると入手順が逆転することになる。

 

「これが30枚になった時は力の指輪を与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」

 

 パチュリーは次に道具屋に向かうと不要品を売却し、資金調達するとキメラの翼を補充し、さらには薬草を大量に買い込み『ふくろ』に入れる。

 そうしてまた勇者の実家で身体を休めることにした二人だったが……

 

「何でガーターベルトを持って、にじり寄って来るの!」

「もちろんパチュリー様にガーターベルトを付けて差し上げるためですよ。星降る腕輪は素早さを二倍に引き上げる装飾品です」

「ああ、つまり素早さが高いあなたに付けた方が効果がある、するとガーターベルトが私に回って来るということね」

「ですから私がパチュリー様に付けて差し上げて……」

 

 そう言いつつ、じりじりとパチュリーに迫る小悪魔。

 

(ガーター留めのバンドって、下着の下を通すんですよね、つまり……)

 

 ということだが、しかし、

 

「……それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 パチュリーは諦めた様子でそう言うと、アイテムを分配し、それぞれの所持金を計算することに。

 

「アイテム分配が先なんですか?」

「次はピラミッド突入だから、借金が生じようとも装備の有利さ優先で行くわ。お金の計算はその後でね」

 

 そういうわけで、

 

「あなたに使ってもらうのは刃のブーメランと、星降る腕輪、そして星降る腕輪の効果をさらに高めるための素早さの種ね」

「ううっ」

 

 いかにも高そうな装備ばかりで怯む小悪魔。

 

「刃のブーメランの売却価格は900ゴールドという、このクラスの武器としては格安の値段。そして素早さの種は60ゴールド。これらは二人に所有権があるから、合計の半額の480ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができるわ」

「そ、そんなお金……」

「今まで使っていたトゲのムチが売却できるでしょう? 240ゴールドで売れるから、差額の240ゴールドで大丈夫よ」

「そ、それなら何とか払える…… んですかね? ここまで戦いやアイテム回収で稼いできたはずですし?」

「そして星降る腕輪だけど、これ、価値が高過ぎて値段なんか付けられない売却不可のアイテムなのよね」

「ええっ!?」

「それで考えたのだけれど、勇者と商人だけの二人旅だと星降る腕輪と、ピラミッドで魔法の鍵を取ったら入手できる豪傑の腕輪、どちらかをこの先、状況に合わせて付けて行くでしょう?」

「それはそうですね」

「付け替えるたびに計算なんて面倒だから、この際、星降る腕輪の売却価格を仮に、豪傑の腕輪と一緒として計算したらいいんじゃないかって」

「なるほど……」

「豪傑の腕輪の売却価格は3375ゴールドだから、半額の1687ゴールドを私に払えばいいわけだけど、代わりにガーターベルトを私に渡すわけだからその分の売却価格975ゴールドを引いた、712ゴールドを払ってもらえばいいわ」

「そ、それって……」

「そうして清算すると」

 

小悪魔:-1129G

パチュリー:322G(+未払い分1129G=1451G)

 

「という具合になるわね」

「ぐふっ……」

 

 とんでもない借金持ちになってしまい、その重みに耐えかねたかのように膝をつく小悪魔。

 フルフル震える手で、

 

「そ、それでもガーターベルトを、ガーターベルトをパチュリー様に付けてもらえるなら、私はそれだけで……」

 

 と気力を振り絞るが、

 

「ああ、ガーターベルトは売却するわよ」

「はい?」

「性格をタフガイからセクシーギャルに変えたくは無いし、どうせピラミッドで魔法の鍵を取ったら星降る腕輪か豪傑の腕輪の二択になるのだし、取っておく意味は無いわね」

「で、でも守備力が上がりますし、少なくとも魔法の鍵を取るまでは身に着けた方が……」

「それなら売却したお金で防具を揃えた方がよっぽど守備力を上げられるわよ」

 

 ということ。

 小悪魔はこの世の終わりかと思えるほど絶望的な表情をし、がっくりとうなだれ、両手を床につける。

 そうして、しかし最後の希望に縋るように膝をついたまま、震える指先をパチュリーに伸ばし、にじり寄る。

 

「な、ならせめて売り払う前に、一度だけ、一度だけでもいいんです、付けてみて……」

「ああ、あなたはこれね」

「もがっ!?」

 

 小悪魔の口に突っ込まれるパチュリーの指。

 そうして小悪魔は、

 

「あひィッ……!? あ、あはあぁぁぁぁぁ……」

 

 全身を襲う筋肉痛を凝縮したような痛みに叫ぶ。

 そう、パチュリーが小悪魔の口の中に突っ込んで飲み込ませたのは、先ほど言っていた素早さの種だった。

 その場に倒れ伏し、ビックンビックンと震える小悪魔を見下ろし、パチュリーは言う。

 

「あら、素早さが1しか上がっていないわ。ここはリセットしてやり直すしか無いわね」

 

 そうして……

 

「あッおうッ!」

 

「あむあむあううぅッ!」

 

「くはああぁぁぁッ……」

 

 繰り返す時の中、小悪魔の悲鳴が延々と続くのだった。

 

 

 

「ひ、ヒドイ目に遭いました」

 

 何度もリセットを繰り返した末、摩耗しきり、精神が焼き切れたかのように眠りに落ちた小悪魔。

 そのまま一夜を明かしてしまっていた。

 せっかくパチュリーと同じベッドで寝たというのに、その間の記憶がまったく無いという実にもったいない話だった。

 

「それじゃあ、イシスに跳ぶわよ」

 

 身だしなみを整え朝食を取ったら、キメラの翼を使ってイシスへと跳ぶ。

 パチュリーは結局一度も身に着けることなくガーターベルトを売却して、所持金と合わせて1100ゴールドの鉄の盾を買い込んだ。

 

「鉄の盾、ですか? もっとコストパフォーマンスの良い防具もあると思うんですけど」

 

 不思議そうに首を傾げる小悪魔。

 

 防具の買値を守備力で割って並べてみると分かるが、通常は鎧→盾→兜の順でコストパフォーマンスは悪くなる。

 つまり買いそろえるならまずは鎧。

 盾がその次。

 兜は一番優先順が低くなるという具合になる。

 

 同時に守備力が高くなれば高くなるほど、コストパフォーマンスは悪化する傾向にある。

 

 そして鉄の盾はコストパフォーマンスが悪いと言われる鉄の鎧よりさらに費用対効果が劣悪な防具である。

 

「そうね、防具の品ぞろえが豊富なアッサラームのお店に行って、もっとコスパの良い防具類を予算内で揃えるという手もあるのだけれど」

 

 例えば鉄のエプロン、青銅の盾、毛皮のフードを買うというもの。

 小悪魔は比較のため試しに計算してみるが、

 

「あ、あれ? コストパフォーマンスが良い防具ばかりなのに、総額は1200ゴールドで鉄の盾の1100ゴールドより高くなります? それでいて守備力は1ポイント低くなるって?」

「その購入パターンだと今、私が使っているターバンと革の鎧の売却金額の下取り価格を差し引かないと」

「ああ、232ゴールドを差し引くんですね」

「あとはキメラの翼を1つ余分に使う25ゴールド分が仕入れのための交通費としてかかるわけだけど」

「すると守備力が1ポイント低い代わりに、107ゴールド安く上がるわけですね。でも……」

「まぁ、両者にそれほど差は生じないということね」

「んん? 鉄の盾は圧倒的にコスパが悪い、しかも高額な商品なのに結果はほぼ変わらない? あれ? 私騙されてます?」

「騙す必要がどこにあるのかしら?」

 

 答えは、

 

「鉄のエプロン、毛皮のフードは確かに悪くないコストパフォーマンスを持つ装備だけれど、それを言うなら革の鎧、ターバンの方がもっと上よ。つまりそれらを買い替える損失分で、鉄の盾と青銅の盾のコスパ差が相殺されてしまうのよ」

 

 ということ。

 

「さらに言うなら鉄のエプロンと青銅の盾は魔法の鍵を手に入れたらもっと良いものに交換、買い替えになるわ。毛皮のフードも、あなたが今使っているものを使いまわすことになるだろうし。でも鉄の盾ならバハラタで魔法の盾を買うまで使い続けることができる」

 

 まぁ、

 

「気分的にも砂漠で鉄製の鎧は着たくないし、毛皮のフードよりはターバンの方が過ごしやすいしね」

 

 ということでもある。

 そういうことで、鉄の盾を装備するパチュリー。

 

「これで一気に守備力が上がったわね」

 

 最終的に二人の装備とパラメーターは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:9

 

ちから:26

すばやさ:20

たいりょく:54

かしこさ:13

うんのよさ:9

最大HP:107

最大MP:26

こうげき力:53

しゅび力:50

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:てつのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:29

すばやさ:62

たいりょく:20

かしこさ:17

うんのよさ:14

最大HP:39

最大MP:33

こうげき力:53

しゅび力:69

 

ぶき:やいばのブーメラン

よろい:かわのこしまき

たて:かわのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

 という具合に。

 

「よ、ようやく攻撃力がパチュリー様と並びましたが……」

「どうしたの?」

「これ、攻撃力も、そもそも守備力が高いことでさえ、パチュリー様から借金して身に着けている装備類のおかげなんですよね?」

「ああ……」

 

 最終的な所持金も、

 

小悪魔:-1129G

パチュリー:97G(+未払い分1129G=1226G)

 

 ということになっており、確かにそのとおりだったりする。

 

「……ハリボテ感がとっても強いです」

 

 商人が融資しなくては戦えないハリボテ勇者……

 なお、この光景を目にした人々からは、やはり、

 

「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」

 

 などと噂されることになったという。




 イシスの夜の続き、および装備変更でした。
 次回はピラミッドですので、小悪魔に借金を負わせてでも守備力を上げさせたのですが。
 と言いますか、パチュリー様が買った鉄の盾もできるなら小悪魔に装備させたいところなんですけどね。


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ピラミッドへ ミイラ緊縛、マミフィケーションへの誘い

 装備を整えたパチュリーたちは砂漠を北上し、ピラミッドを目指す。

 

「見えて来たわね、あれがピラミッド」

 

 というところで、

 

「モンスターです! やたらと派手(サイケデリック)な蝶、いえ、蛾でしょうか?」

「人食い蛾ね」

 

 四匹の人食い蛾と遭遇。

 しかし魔物の群れは驚き戸惑っている!

 

「チャーンス!」

 

 先制攻撃を仕掛ける小悪魔!

 

「刃のォォォオ、ブゥゥゥメラン!!」

 

 ブーメランは敵全体に攻撃できる武器だ!

 回転しながら飛翔するくの字型の刃が敵を切り裂いていく!!

 攻撃力もパチュリーと同等にまで上がっているため、結構なダメージを敵に与える。

 そしてパチュリーのチェーンクロスによる追撃!

 しかし、

 

「パチュリー様の攻撃をかわしました!?」

 

 一匹が攻撃を回避したため、二匹を倒すに留まる。

 

「人面蝶と同じく攻撃を回避することがあるのよ。その上このモンスター、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと回避率が地味に上がっているの」

 

 ということ。

 

「ならもう一度!」

 

 小悪魔は星降る腕輪の効果で素早さが倍になっているので先手を取り攻撃することが可能。

 敵に何もさせないまま倒しきり、戦闘を終わらせる。

 

「良かったわ。見た目に反して、さまようよろい以上の攻撃力を持つ上、マヌーサやら毒攻撃やら仲間を呼ぶやらで、いやらしいモンスターだったから」

 

 ほっと息を吐くパチュリー。

 なお、彼女たちは前衛タイプのキャラ二人旅なのであまり影響は無いが、人食い蛾の判断力は0。

 馬鹿なので勇者パーティの隊列が認識できず完全ランダムで攻撃対象を襲うため、平気で後衛に攻撃を飛ばしてくる…… それもさまようよろい以上の攻撃力で、という厄介者でもあったりする。

 

 一方小悪魔は初めて使用した刃のブーメランをまじまじと見て、

 

「投げても戻って来る武器ですか。北欧神話のオーディンの槍、グングニルや雷神トールのハンマー、ミョルニルみたいですね」

 

 神話や伝説における投擲武器において、必中と共に付与されることの多い能力だ。

 

「そうね、そういった魔法の武器なんでしょう。発祥の地のオーストラリアでも戻って来るブーメランは遊戯用で、狩猟に使われるのは真っすぐに飛んで帰って来ないカイリーと呼ばれるタイプだし、そもそも当たればどっち道、戻って来ないものなのだから」

 

 そうしてピラミッドに到着する二人。

 日陰に入り、

 

「ふぅ、明け方とはいえ、砂漠を歩くのはきつかったわね」

 

 と一息つく。

 パチュリーは肩ひもで吊り下げた鉄の盾に視線を走らせて、

 

「鏡面仕上げの金属防具は光を反射するから温度上昇が抑えられるとは言うけれど、布でカバーしておいた方が良かったかしら?」

 

 ドラゴンクエスト10には盾カバーという装備があった。

 これはエンブレムを付けるなど装飾と識別が目的のものだったが、十字軍の頃に多用された鎧の上に着込むサーコートも装飾以外に金属鎧の温度上昇を防ぐ狙いがあったという説がある。

 同様に厳しい砂漠の日光による温度上昇を緩和することができるだろう。

 また、

 

「金属などの固くて他の物と当たって音が出るような装備は、布で覆っておくといいということもあるし」

「音ですか?」

「そう、消音が目的ね。ハンター、または軍隊なんかだと武器にカモフラージュのための布テープを巻く場合があるそうだけれど、これは同時に音を立てないための処置でもあるという話よ」

 

 野外、そして今回挑むピラミッドのようなダンジョンでは、かすかな音でも思いがけないほど遠くまで届いてしまうものだ。

 音の進む速度は常に一定。

 聴覚に優れた相手なら音の大きさと方角でこちらの位置をつかんでしまう。

 だから何かに当たると音を立ててしまいそうなものには消音対策を施しておいた方がいい。

 

 特にピラミッドは強敵が現れる場所。

 少しでもモンスターとの遭遇を避ける努力が必要だった。

 

「私たちの持っている装備は革や布のものがほとんどですから、そんなに気にしなくても大丈夫だと思いますけど」

 

 そう答える小悪魔に、パチュリーは首を振って言う。

 

「布の戦闘服で戦うようになった近代以降の軍隊でも、隠密行動が必要な場合は軍服の袖、裾、股などをヒモで縛って衣擦れの音すら立てないよう気を配るって話もあるくらいよ」

「ヒモですか?」

 

 戸惑う小悪魔にパチュリーは告げる。

 

「旅人の服を仕立て直した時に出た余りの布があるでしょ」

 

 アリアハン国王が渡した旅人の服は男女関係なく大抵の人間が着ることのできるフリーサイズ。

 そこから少女の姿をしたパチュリーの体格に合わせてきっちりとサイズ調整をしたので、余った布は多い。

 

「それを帯状に切って巻いておけばいいわ」

 

 カモフラージュと消音になる。

 小悪魔はパチュリーの指示のもと包帯状に裁断した布を装備に、刃のブーメランのサヤにきつく巻き付けていく。

 木製の打撃武器である普通のブーメランならともかく、刃のブーメランはその名のとおり刃が付いているのでサヤ無しには安全に携行できない。

 それゆえに付属していたものだが、強度はともかく造りが今一つなのか、力をかけるとギシギシ鳴るという不具合があった。

 布をきつく巻き付ければそれが防げるし、石造りの壁など固いものに当たっても音を立てないという利点もある。

 

 しかし小悪魔は不意に瞳を輝かせながら顔を上げると、

 

「聞いて下さい、パチュリー様」

「聞かないわ。どうせ下らないことでしょう」

「何を勘違いなされているのか分かりませんが包帯緊縛、マミフィケーションの話です」

「何も勘違いなんてしていないじゃない!」

 

 マミフィケーションというのはその名のとおりミイラ(マミー)のように全身を包帯その他でぐるぐる巻きに拘束する緊縛プレイの一種。

 一般にはこのピラミッドでも登場するモンスター、ミイラ男のイメージが強いため理解しづらい面があるが、イメージの根源となるエジプトのミイラは手足を身体と一緒にまとめて身動きできない形で包帯に縛られている。

 寝袋の一種にマミー型シュラフがあるが、その名のとおりあのような形をしているものだ。

 つまりマミフィケーションとは包帯により身体を芋虫のように一つに縛り上げられてしまう全身緊縛を意味するのだった。

 性的嗜好に基づいた愉しみ方の一つ、というのはパチュリーも知識としては知っているが、

 

「武器のサヤに布を巻きつけるだけでそういう話に結び付ける、その頭の仕組みが分からないし、そんな特殊なシュミの話をされても……」

 

 という話。

 しかし、

 

「特殊? 本当にそうでしょうか?」

 

 と小悪魔は笑ってみせる。

 その嫣然とした笑みに、パチュリーは思わず息を飲む。

 そんなパチュリーに、小悪魔はささやくように言い募る。

 

「想像してみてください、パチュリー様」

 

 小悪魔はその形の良い指先を……

 そう、これまで種を使って能力値を上げる際のマッサージで散々にパチュリーの身体を弄び、啼かせた己の指を見せつけるかのように作業を続けながら語る。

 器用に、まるで蜘蛛のように動きサヤに布地を巻きつけていくその指に、パチュリーの瞳は我知らず吸い付けられ、

 

「自分がこんな風に、蜘蛛の糸に巻かれるように全身を、手足までまとめて縛り上げられ芋虫のように転がり這いつくばるしかない、完全に無力化させられる拘束感を」

「っ!?」

 

 ぐいと引っ張り、きつく、硬く布を食い込ませ、その下のサヤ本体のカタチを浮き立たせて見せて、

 

「ギチギチに、くっきりと体のラインが出るくらいに締め上げられ緊縛され、身動きもできないままに肺の中の空気を、いいえ、被虐の快楽が入り混じった吐息を、苦鳴を搾りとられるさまを……」

 

 間。

 

「今、即座に否定できませんでしたね?」

「ちっ、ちが……」

「パチュリー様、占いや口説きのテクニックには「あなたはおおらかな人だけど、実は繊細なところもあるよね」というように『正反対のことを言う』というものがあります」

 

 一見、何の関係もないように思えることを語り出す小悪魔。

 

「人間は単純ではないので「おおらかなだけな人」「繊細なだけな人」などは居ず、こんな風に言っておけば必ず当てはまり、相手は自分の隠れた一面をわかってもらえているような気持ちになるのです」

「詐欺の手口ね」

 

 パチュリーは形の良い眉をひそめて吐き捨てるように言うが、しかし小悪魔は意に介さず、

 

「でも、真実を突いているからこその方法だとも言えますよね?」

 

 と笑顔で言ってのける。

 

「お判りでしょう? パチュリー様の理性は否定するでしょうけど、魔法使いであっても生きている、生者である限り心のどこかには生の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)に基づく、性への欲求とか破滅願望などが微量でも無いとは言えないわけで」

 

 見つめあう、両者。

 

「それがパチュリー様の隠れた一面であり、本性であり、そして私はどんなパチュリー様であっても肯定する存在です。だって私はパチュリー様のすべてを愛しているのですから」

 

 だから小悪魔は慈愛に満ちた表情で言う。

 

「ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ」

「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

 

 心底呆れた、といった表情と声で言葉を返すパチュリーに、

 

「……そうでなくてはいけません」

 

 と、小悪魔は笑う。

 

「例え始めから結末が決まっていようとも。例えパチュリー様が心の奥底で堕とされることを渇望していようとも。最初から悪魔に狂わされ、被虐の快楽を甘んじて受けるようではパチュリー様も私も興が削がれてしまいますものね」

「言ってなさい」

 

 パチュリーはいつもどおり、ため息交じりに言い捨てるが、小悪魔の笑みは消えない。

 

「この先出てくるミイラ男というモンスターですけど、ドラゴンクエストの派生作品『ドラゴンクエスト モンスターバトルロードIIレジェンド』では特殊攻撃に『バンテージホールド』という拘束技が追加されてまして……」

 

 敵一体を包帯で縛り上げ、身動きできなくする技だ。

 

「体験、してみますか? 司書権限でこの世界を改変することも可能ですよ。のちの作品の要素を旧作リメイクで取り入れる。ドラクエシリーズでは珍しいことではありません」

「何ですって?」

「本来のパチュリー様の力なら歯牙にもかけないモンスターの攻撃を、あえてその身で受けてみる、状態異常に捕らわれ、自由を奪われてみるんです。ゾクゾクしませんか?」

 

 戦闘中に状態異常を受けてしまう……

『避けられなかった運命』という大義名分の下に、モンスターからの拘束を受け、がんじがらめに縛られてみる。

 本来のパチュリーならば通用する余地などないくらい、隔絶した実力差のある格下からの攻撃に自ら望んで拘束されてみる。

 

 小悪魔の誘いに身を委ねたら、一体どんな風にされてしまうのだろう?

 

 そんな好奇心も無いではない。

 パチュリーは生まれながらの人外、生粋の魔法使いではあるが、少女の形を取る以上、その思考は外見に引きずられる。

 性的なことに目覚めつつある思春期の少女特有の戸惑い。

 だが、しかし大人ではないからそれに対する処し方が分からない。

 このパチュリーの脳裏に浮かんだ戸惑いも、そんな思春期特有の、一時の気の迷いと言って良いもの。

 程度や方向性は違えど、誰にだって似たような経験はするものだ。

 

 だが…… 普通の少女が弱さゆえ、恐怖から踏みとどまってしまうこの手の迷いを、しかしパチュリーは実行に移したとしても害されない強さを持っていた。

 だからこそ迷う。

 

 わざと拘束を受け、がんじがらめにされ自由を奪われる。

 それはどのような感覚を、感情を自分にもたらすのだろうか?

 

 パチュリーの迷いは尽きない。

 ずぶずぶと、泥沼に沈んでいくように思考の淵に囚われてしまう……

 

「いいじゃないですか、これはゲームなんですから」

 

 小悪魔は言う。

 そう、ゲームなのだからちょっと試してみるだけ。

 パチュリーに小悪魔が主張するようなおかしな願望が無ければ、ちょっと自由を奪われ、拘束されるだけで終わることだ。

 そのはずなのに……

 

 どうして呼吸が浅くなるのだろうか?

 どうして鼓動が早まるのだろうか?

 どうして、どうして……

 

「………」

 

 考え込むパチュリーからは見えない位置で、小悪魔は笑う。

 そう、これはゲーム。

 ドラクエ3の世界を楽しむと同時に……

 小悪魔が謀る、パチュリーを至上の悦楽と被虐の奈落へ堕とすためのゲームでもあるのだ。

 

(パチュリー様には酔って頂かなくてはいけません、このシチュエーションに)

 

 それこそがパチュリーの精神を侵す、最高の媚薬となるのだから……

 

 

 

「でもそういう意味じゃあ、霊夢さんも凄いですよね」

 

 先ほどまでとはうって変わった能天気な口調で小悪魔は言う。

 パチュリーはそれに毒気を抜かれて、

 

「博麗の巫女がどうしたって言うのよ」

 

 と聞く。

 幻想郷の博麗大結界の要となる博麗神社の巫女。

 

「私見ちゃったんです、霊夢さんが女性の性の象徴である胸をぐるぐる巻きにすることで、その拘束、緊縛感を味わっているのを!」

 

 小悪魔によって包帯緊縛、マミフィケーションについて散々語られた後だと妖しく感じるかも知れないが、それは、

 

「……ああ、サラシってやつ」

「しかもあのいやらしい脇の開いた巫女服で周囲にそれをちらちらと見せつけながら日常生活を送るという難易度高すぎな露出羞恥プレイ!」

「………」

 

 酷すぎる、酷すぎる言いがかりだった。

 

「霊夢が聞いたらあなた、ちりも残さず退魔されるわよ」

「大丈夫です! ここは本の中の世界ですから! 霊夢さんが来たらジパングの巫女、ヒミコ役を演じてもらいます!」

「やまたのおろちに変化して襲い掛かってくるわけね」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 ちょっとシャレにならなかった。

 だから小悪魔はこう言う。

 

「じゃあ、おろちが化けているニセモノではなく、第5のすごろく場に出てくるホンモノの方で」

 

 ファミコン版では住民のセリフから死んだものとされていた本当のヒミコだったが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではしんりゅうの願い事で行けるようになる第五のすごろく場に何気にひょっこり居たりする。

 

「わらわは ヒミコと申す者。

 ここは どこじゃ?

 このような まがまがしき所は…

 おお そうかっ!

 おろちの 腹の中じゃなっ。

 あな くちおしや……。」

 

 などと言って。

 第五のすごろく場への入り口はジパングの井戸の底にあったりするので、すぐに帰ることができるはずなのだが……

 すごろく場は『まがまがしき所』なのか…… いや、ギャンブル場というのは人の情念と欲望が入り混じる場所ではあるのだが。

 

 ただし、

 

「それはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だけのものだから」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されているのだった。




 相変わらず絶好調でパチュリー様にセクハラを働く小悪魔。
 そして唐突に始まる霊夢への熱い風評被害。
 おかげで話が進まない進まない。


>「ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ」
>「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

『超人機メタルダー』の主題歌『君の青春は輝いているか』が思い浮かぶ私。
(興味のある方は歌詞を検索するなり聞いてみるなりしてください)


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ピラミッド 魔法の鍵とマジカルなスカート

「途中のモンスターは無視して逃げる。まっすぐ3階を目指して魔法の鍵を取るわよ」

 

 ということにするパチュリーだったが、しかし、

 

「でも本当に真っすぐ進むと、落とし穴で地下に落とされるから注意するのよ」

「財宝を秘めた王、ファラオの墓ですから盗賊除けの仕掛けがあって当然ですか……」

「ピラミッドの地下では魔法が使えないようになっているしね」

 

 つまり、

 

「これがピラミッドパワーなんですねっ」

「……そうなの?」

 

 そんな小悪魔の戯言はともかく、通路を進んでいくと、立派な像があった。

 このピラミッドに眠っている王だろうか……

 そうして、

 

「ええっ、1回もモンスターに遭遇することなく上の階への階段に到着できましたよ!?」

 

 驚く小悪魔だったが、しかし次の階でも、

 

「このフロアも敵との遭遇無しでクリアーできましたね……」

 

 と敵に遭遇しないまま、魔法の鍵が隠されたピラミッド3階へたどり着いてしまう。

 

「スーパーファミコン版以降のリメイク作では遭遇率が下がっているとは聞くけど、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。つまりそれよりさらに下がっているということかしら?」

 

 首を傾げるパチュリー。

 

「いいんですか、それ? ボタンの謎解きも簡単になっているっていうのに」

「あるいは笑い袋による資金稼ぎを防止するためかも知れないわね」

「はい?」

「笑い袋は色々と面倒な相手なのだけれど、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと、ピラミッドの1階、2階での出現率が異常なくらい上がっていて、5割前後の確率で現れることになるわ」

「うーん? 遭遇率を下げてプレイヤーのストレスを緩和した代わりに、厄介なモンスターの出現率を上げることで難易度を調節したってことですか?」

「そうかも知れないわ。そして笑い袋はニフラムに耐性を持たず100パーセント効くから簡単に排除できるはずなのだけれど、350ゴールドという破格のお金を持っている」

「それは…… 迷いますね」

 

 退魔の呪文、ニフラムで吹き飛ばすと経験値とゴールドが手に入らないのだ。

 

「そう、お金の誘惑に負けて倒そうとするととんでもない損害を被り最悪、全滅しかねない。存在自体がピラミッドの財宝を狙う欲深い墓荒しを破滅に導く罠ということね」

 

 しかし、

 

「でも逆に言えば、倒せるなら資金稼ぎに最適ということでもあるわ。同じお金持ちモンスターの踊る宝石やゴールドマンと違って絶対に逃げないし、これを乱獲すれば、あっという間に万単位のお金がたまるの。リメイク版のゲームバランスを破壊した要因の1つとも言われているものね」

「ああ、それで携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では、ピラミッドの1階、2階でのモンスターとの遭遇率をさらに下げた?」

「そもそもモンスターが現れなければ稼ぎの効率は下がるものね」

 

 そういうことだった。

 そして、

 

「まずは東の東ね」

 

 イシスで聞いた童謡のとおりにボタンを押していく。

 間違うと足元の床が開いて下の階に落とされるので慎重に。

 

「次は西の西と」

 

 階段を下りたりしてフロアを離れると、最初からやり直しになる。

 東に行ったり西に行ったりする通路の途中にはこの階へ昇って来るのに使った階段がある。

 直進してうっかり階段を踏んでしまったり、慣れた人間だとエンカウントまでの歩数カウントをリセットしようとつい昇り降りしてしまいがちなため注意が必要。

 

 そうして向かう途中でようやく敵と遭遇!

 

「ミイラ男さん?」

「それに笑い袋よ!」

 

 逃げ出すパチュリーたちだったが、回り込まれてしまった。

 笑い袋はマホトーンを唱える。

 が、

 

「効かないですよ!」

 

 パチュリーも小悪魔も抵抗(レジスト)に成功。

 そしてミイラ男の攻撃。

 ミイラ男の攻撃力はあばれザルと同じ55ポイント。

 小悪魔は星降る腕輪で守備力をかなりのところまで高めているのだが、

 

「かふっ!?」

 

 それでもヒットポイントが1/4近く削られてしまう。

 つまり4体すべての攻撃が偏って小悪魔に集中したら、それだけで死亡するかも、という相手である。

 そして、

 

「うぐううう…っ、なんでわたしだけぇぇぇぇぇ…」

 

 先頭に立つパチュリーをスルーして、小悪魔にミイラ男からの攻撃が次々に命中。

 

「ミイラ男は判断力が0、つまりバカだから勇者パーティの隊列が認識できず、攻撃対象は完全ランダムなのよ」

 

 ゆえにこんな風に運次第で先頭に立つパチュリーに攻撃が行かず、後ろに居るはずの小悪魔に集中するということもありうるのだ。

 

「バカな方が危険って、そんなのアリですか?」

 

 と嘆く小悪魔だったが、実際ドラゴンクエストでは判断力が低い方が厄介というパターンは多い。

 しかしミイラ男の場合は、

 

「でもバカなおかげで設定されているはずの『集中攻撃』の特性が機能していないのよ」

「集中攻撃!?」

 

 おばけありくいなど集中攻撃の習性を持つモンスターは狙いを一人に集中させ、対象を死ぬまで攻撃し続けるという行動パターンを取る。

 あばれザルと同じ攻撃力でそれをされたら、とんでもないことになりそうだが、ミイラ男はデータ上は集中攻撃持ちなのにそれを使えない。

 つまり判断力が0でバカなので狙いを絞れないというモンスターである。

 

 ともあれ、危険なまでにヒットポイントを減らされ、逃げ損ねたら死んでしまうだろう小悪魔のために次のターンは逃亡を断念。

 

「身を守って!」

 

 小悪魔には防御を選択させ、パチュリーは薬草による治療を試みる。

 そして笑い袋はマヌーサを唱え、パチュリーと小悪魔は幻に包まれてしまう。

 

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 身を守る小悪魔にミイラ男の攻撃が続く。

 一発、二発、そして残りあと2ポイント、次に攻撃を受けたら死亡というところで、パチュリーの治療が間に合う。

 そんなパチュリーにも攻撃が加えられるが、こちらは高いヒットポイントで問題なく耐えられる。

 そして、

 

「次のターンで逃げるわよ」

 

 ということで再び逃亡を選択。

 しかし回り込まれる。

 今度は笑い袋はボミオスを唱え、パチュリーには効かなかったが、小悪魔は、

 

「すぅばぁやぁさぁがぁ、さぁげぇらぁれぇちゃいまぁしぃたぁ~」

 

 と素早さが下げられてしまう。

 ストップモーションのようにカクカクした動きで、

 

「コ・マ・オ・ク・リ・モ・デ・キ・マ・ス・ヨ」

 

 などという真似も。

 

「そんな風に遊べるなんて余裕ね。まぁ『装備技』で無効化できるから問題は無いけど」

 

 システム的に言えば、ドラクエでは戦闘中に装備を変えられる、装備を変えると能力値が変化する可能性があるので再計算される(実際に装備しなおす必要は無く、現在装備中のものを選ぶだけでも良い)、すると魔法で変化していた攻撃力、守備力、素早さが元の値に戻ってしまうというもの。

 これでスクルト、スカラ、ルカナン、ルカニ、ピオリム、ボミオス、モシャスの効果が解除される。

 不利な魔法を受けた場合に使えるが、同時に味方からの有利な呪文効果も消えてしまうのが難点。

 一般には『装備技』と呼ばれるもので、スーパーファミコン版で使えるようになり、次のゲームボーイカラー版では使えなくなったものだが、スーパーファミコン版を元に制作された携帯電話版以降ではまた使えるようになっているというもの。

 

 一方、魔法使いであるパチュリーからすると現実にも、邪視から身を守る動作として拳から人差し指と小指だけを立てるコルナというジェスチャーがあるように、一定の仕草で相手の呪詛を無効化するというのは魔術的にもあり。

 すなわち、ドラクエ世界ではそれが装備技となっているのだろうという認識だった。

 

 そして数発、ミイラ男から殴られるが、次のターンに逃亡が成功。

 

「し、死ぬかと思いましたー」

「笑い袋は色々と面倒な相手よ。ホイミスライムと同じ無限のマジックパワーで素早さを下げるボミオス、魔法を封じるマホトーン、深い幻に包み込み、攻撃の半分を外れさせるマヌーサを唱える他、ふしぎなおどりを使ってマジックパワーを減らしてくる厄介者。攻撃力は極端に低いけど、そこは一緒に出現するモンスターが補ってしまうし」

「ええー……」

 

 想像しただけで嫌になったのか、げんなりとした顔をする小悪魔に、パチュリーは、

 

「さらにはスーパーファミコン版以降のリメイク作では、ファミコン版ではデータ上設定されているだけで使えなかったスクルトを唱えるわ」

「はい!?」

「しかも地獄のハサミと同じ、敵全体を元の守備力と同じ値だけ上昇させる壊れ性能の方よ」

「ダメじゃないですかー」

「素早さはこの時点では破格の64で、星降る腕輪をもってしても先手を取るのは困難。仮に先手を取れたとしてもモンスター中最高の回避率で攻撃をかわすこともあるし、ダメージを与えても判断力が最高の2だから、そのターン中に行動を切り替えて自分自身をホイミで回復したりする」

「ええっ、そんなずるいことしていいんですか!?」

「プレイヤー側も、戦闘をAIに任せれば同じことをしてくれるわよ」

 

 ドラゴンクエスト3でも、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版ではAI戦闘が取り入れられているから利用が可能だ。

 この場合AIはターン開始時ではなく、自分が動ける番になった時点で、もっとも有効な行動を選ぶようになっている。

 

「薬草で治療して進みましょう」

 

 マジックパワーの節約のため大量購入して『ふくろ』に詰め込まれた薬草で治療をする。

 

「……考えたんですが、パチュリー様」

「何かしら?」

「さっきの戦闘で私、ぎりぎり死にませんでしたけど、逆に言うとこれ、パチュリー様からの借金で防具を固めていなかったら確実に死亡していたってことですよね」

「そうなるわね」

「文字どおりの借り物の力ってやつじゃないですかー。やっぱり勇者の強さって、パーティの収入を吸い上げて優先的に装備を整えているが故って話ですよね」

 

 現状を鑑みると実際、そんな感じではある。

 しかも、

 

「そもそもの話で言ってしまうと、さっきの戦いであなたが死んでいても、私一人で魔法の鍵の取得は可能よ」

 

 だから今の段階で取りに来たという話でもある。

 

「うぐっ!?」

「勇者がパーティから外せないから連れて来てるけど、ひたすら逃亡と薬草による治療を繰り返して進むだけなら、私のヒットポイント頼りで十分というか」

 

 という割と身も蓋も無い話であった。

 

 ともあれ、西の西のボタンを押すと、重い岩が動く音がして魔法の鍵への扉が開いた。

 そして祭壇の宝箱からスタミナの種と魔法の鍵を入手。

 

「これでもう、最悪デスルーラをすればいいから気が楽になったわね」

「デスルーラ?」

「死に戻りを利用した脱出、移動法ね。持ち金が半分になってしまう上、仲間の蘇生費用がかかるけど、今はちょうどお金の持ち合わせは少なくなっているし、仲間の蘇生と言っても私一人分だけだし使っても痛くないわ」

 

 それでふと、小悪魔は思い出す。

 

「ピラミッドの1階、2階のエンカウント率を下げることで笑い袋による資金稼ぎを防止するっていうお話ですけど」

「ええ」

「このピラミッドの地下にはモンスターのエンカウント率を強制的に上げる黄金の爪が眠っているんですよね? そのデスルーラを使って取れば……」

「ああ、それは無理よ。スーパーファミコン版以降のリメイク作だと黄金の爪だけは死に戻りをすると、元の安置場所に戻されるっていう特別な処理がされるようになっているから」

「ええっ!?」

「その上で、入手した際に上昇するエンカウント率もファミコン版より強烈に上げられていて持ち出すのは大変。レベルを上げてから来れば、というのもピラミッドの地下には先頭キャラのレベルに合わせて中身が変わる『あやしいかげ』が出る。しかもリメイク作ではファミコン版より中身のモンスターが手強くなっているから、ピラミッド地下の呪文が封じられた状態でブレスを使って来る敵なんかに遭遇するとヒドイ目に遭う。だから制作陣は、ピラミッドの1階、2階のエンカウント率を下げるだけで笑い袋による資金稼ぎは防止できると考えたんじゃないかしら?」

 

 実際には複数攻撃武器の威力と、薬草を大量に買い込んでふくろに詰めるという技で無理やり突破し黄金の爪を持ち帰るというのは可能であるが。

 

 いったん下の階への階段を降りて歩数カウントリセットをするなど小技を使い、上の階まで敵に遭遇せずに到着。

 そして魔法の鍵で扉を開け、四階の宝物庫へ。

 

「これを取ろうとすると呪われるんでしたっけ?」

「そうね、だからここのアイテムは後で取りに来るけど、マジカルスカートだけは先に入手しましょうか。ニフラムを使えば、経験値やゴールドはもらえないけど比較的安全に敵を倒せるわ」

「なるほど、それでマジックパワーを温存してヒットポイントは薬草で回復させてきたってわけですね」

 

 王の財宝に手をつけると、どこからともなく不気味な声が聞こえる……

 

「……王様の財宝を荒らすのは誰だ。我らの眠りを妨げる者は誰だ」

 

 四階に安置されている十二個の宝箱は、ファミコン版、そしてリメイクのスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では開けると四体のミイラ男が襲ってくるというものだった。

 呪いのため、このミイラ男たちからは逃げることができない。

 しかし、

 

「はい? マミーとミイラ男の混成!?」

 

 小悪魔が驚愕の声を上げたとおり、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では、マミー2体、ミイラ男3体に増強されているのだ!

 ミイラ男の上級モンスター、マミーの攻撃力は、あばれザルの55ポイントを上回る60ポイント。

 守備力を高めている今の小悪魔でも3発殴られたら死にかねないし、一撃死する痛恨もある。

 ゆえに最優先で小悪魔の退魔の呪文ニフラムが光を放つ!

 出合い頭にこれを食らったマミーたちと、

 

「うわっ、とてもまばゆいっ! どんな姿をした誰だっ!?」

「我は小悪魔なり!」

「あ、悪魔が光につつまれて…… 不謹慎だぞ君っ!!」

「ほっといてください!! ぶしつけですが特に意味もなくあなたがたを光の中へ消し去ります」

「うそ─────────っ!!!」

 

 などといったコントじみたやり取りをしつつも、その存在を抹消する。

 そして残ったミイラ男の反撃だが、パチュリーに一発、しかし、

 

「防御していれば、問題ないわ」

 

 敵の排除は小悪魔のニフラムに任せ、こちらは防御で敵の攻撃を受けることに専念。

 続けて小悪魔に一発、そして最後の一発を小悪魔は素早く身をかわし回避!

 

 次のターン、今度はパチュリーがミイラ男の攻撃を回避。

 そしてパチュリーは薬草で小悪魔の治療。

 さすがに続くミイラ男の攻撃は当たるが。

 

「残り全部! 光になぁれぇぇぇぇっ!!」

 

 小悪魔のニフラムが今度はミイラ男たちに炸裂。

 全部は無理だったが、二体を光の中に消し去る。

 そして攻撃を受ける小悪魔。

 

 最後に残ったミイラ男はしぶとくさらに2回、ニフラムに耐えきった後、ようやく消え去った。

 

「結果論だけれども、最後の一体は殴った方が早く倒せたわね」

 

 ということだが。

 こうして二人はマジカルスカートを入手。

 魔力を込めた生地で作られた女性用の服。

 機能性だけでなく見た目にもこだわった、オシャレな女性冒険者のためのスカート状の法衣である。

 

「女性なら誰でも着れるし、武闘家、盗賊、遊び人にとっては、光のドレスとゲームボーイカラー版の魔法のビキニを除くと耐性持ちの鎧がこれしかない。特に光のドレスが一着しか手に入らなくなり、魔法のビキニから耐性が消えた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では重要性が増しているものね」

 

 ドラクエ3では後半は守備力より耐性持ちの防具を優先した方が有利なこともあって、武闘家と盗賊両方がパーティに居たり、武闘家が二人、盗賊が二人など、それぞれが複数居たりすると最後までこれを使うことになる。

 

「こぁ、あなたこれを……」

「これ以上の借金は無理です!」

 

 お許しくださいパチュリー様! とばかりに悲鳴を上げる小悪魔。

 パチュリーは考え込む。

 

「……まぁ、ピラミッドもこの周辺も攻撃呪文を使う敵が出ないから呪文ダメージ軽減効果は役に立たないし、マジカルスカートの守備力は+25で、今あなたが使っている革の腰巻の+24とわずか1ポイント差。守備力は4ポイントごとにダメージを1ポイント下げるものだから、今のあなたの守備力、69ポイントが、70ポイントになってもダメージ軽減量は減らない」

 

 となると、とりあえずはパチュリーが装備した方が良いのか。

 パチュリーはこれまで使っていた革の鎧に替わって、マジカルスカートを着込むことにするが、

 

「どこに顔を突っ込んでいるの!!」

 

 パチュリーが穿いたマジカルスカートの中に頭を入れてしまっている小悪魔。

 

「パチュリー様、このマジカルスカート不良品じゃないですふぁ?」

「くすぐったいから下着に顔を埋めながら話さないでっ!」

 

 と叫んだタイミングで、すぅっ、と大きく息を吸う小悪魔。

 それでパチュリーの羞恥心が天元突破、その白皙の頬が真っ赤に染まる!

 

「犬じゃないんだから嗅ぐなっ!」

「あいたっ!」

 

 パチュリーにスカートの上から頭を殴られ、ようやく離れる小悪魔。

 下着越しに嗅いだパチュリーの匂い。

 そして両手で自分の身体を守るかのようにかき抱いて、ふるふると震えながら、まるで見た目どおりの普通の少女のように涙目でにらんでくるパチュリーに萌えるのだったが、パチュリーの手がお仕置きだとばかりにチェーンクロスを握ったところで正気に戻る。

 

「待って下さいパチュリー様! 私はマジカルスカートの機能を確かめただけです!」

「は?」

「説明しましょう、『マジカルスカート』とは、スカートの中身が見えてもおかしくない状況なのにも関わらず、不自然にスカートに妨害されて中が見られない現象、そしてそのスカートそのものを指す言葉。別名『鉄壁スカート』と言い、どんな強風が吹いてもめくれず、逆さづりにされようとも重力に逆らい、物理法則を乗り越えて乙女の秘密を隠し続けるマジックアイテムなのです!!」

 

 そんな馬鹿な。

 

「でも、そのマジカルスカートは私のような小者にも突破できてしまった、鉄壁とは言えない不良品でし…… んん? でも真っ暗で何も見えなかったから触覚と嗅覚で『ぱんつはいてない』でないことを確認したのですが」

「そんな理由で人の下着に鼻先をうずめて匂いを嗅いだって言うの!?」

「はい、そのままだと『シュレディンガーのパンツ』状態だったので」

 

 何だそれは。

 

「話を戻しますと、スカートの中は真っ暗で見えなかった、ということはやはりマジカルな力が働いているのでしょうか?」

 

 真面目に考察を始める小悪魔。

 

「………」

 

 阿呆らし過ぎる……

 これ以上話しても、まぬけ時空に引きずり込まれるだけと悟ったパチュリーは、小悪魔と他の宝箱はスルーして五階へ。

 そこに安置されている宝箱を開ける。

 

「何かしら、これ?」

 

 こちらは呪われておらず、『派手な服』が手に入る。

『公式ガイドブック』記載の英訳では「Punk Fashion」。

 守備力は鉄の鎧の+25以上、驚きの+28であるが、

 

「王の財宝にふさわしく、きらびやかだけれども……」

 

 遊び人専用の防具であった。

 

「つまりイシスの王、ファラオは遊び人だったということですか?」

「……まぁ、この先エジンベアのお城、王族の部屋で手に入る『おしゃれなスーツ』や『パーティードレス』も遊び人、もしくは盗賊しか着れないものだったけど」

「王族は労働をしないから遊び人ということなんでしょうか……?」

「そんなわけ無いでしょう?」

「でも紅魔館(うち)でも、主であるレミリアお嬢様は働いたりしないですよね?」

「レミィは、まぁ……」

 

 吸血鬼と人間の王を一緒にしない方が、という話だが、ファラオもその存在は人ではない、神の地上における化身とされているので在り方は近いのか。

 ともかく後は階段を上がって外へ、ピラミッドの頂上近くに出て床から小さなメダルを拾い終了。

 

「高いですねぇ」

「そうね」

 

 と下を眺めて足をすくませる小悪魔を後ろからトン、と突き落として、

 

「ひあぁぁぁぁっ!?」

 

 飛び降リレミトで脱出。

 

「デビルウィーング!!」

 

 ピラミッドの外壁を転げ落ちるところを、悪魔の翼を背から伸ばして空気をつかむことで何とか免れる小悪魔と、それにつかまって滑空、無事砂漠に着地するパチュリー。

 

「イシスで夜を待たなくてはいけないこともあるし、ここは歩いて帰りましょうか」

 

 キメラの翼を使えばすぐに帰ることもできるが、キメラの翼やルーラは使用後、強制的に朝になってしまうため時間短縮のためにも歩いて帰ることにする。

 しかしその場合はイシスのオアシスを前に、

 

「敵よ!」

 

 という具合にモンスターと遭遇することになる。

 

「攻撃色で真っ赤です!!」

 

 二体の真紅の芋虫、火炎ムカデだ。

 小悪魔とパチュリーが攻撃するが倒しきれず、

 

「火を吐いてきました!?」

「火の息ね」

 

 全体ダメージの火を吐かれ、二人とも10ポイント弱のダメージを二回。

 しかし次のターンで先制して止めを刺すことができた。

 

「火炎ムカデからは火炎の液袋が採れるのね」

 

 歩く油田と言えるのかも知れない。

 そうしてホイミで治療を行い、無事イシスに到着する二人だった。




 マジカルスカートは意味が違う……
 いや、テレ東規制とかを受けてるアニメヒロインなんかは、みな穿いてますけど。

 魔法の鍵をゲットできましたから、次はこれを使ったアイテム取得のボーナスタイム。
 あと深夜の百合ハーレム、イシスの女王様の寝室での密会とか。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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魔法の鍵でアイテム回収 イシス編

 イシスの街へと帰ってきたパチュリーと小悪魔。

 

「まずは旅の記録を取らないとね」

 

 というわけで城に上がり女王様と謁見。

 それでパチュリーは、

 

「あら、こぁ。あなた、あと一回戦ったらレベルアップできるわね」

 

 ということに気付く。

 あとは城に来たついでに魔法の鍵で入ることのできる場所を見て回るが、

 

「パチュリー様、女王様の寝室に入れますよ!」

「そういうのは目ざといのねぇ」

 

 宝物庫よりそちらに気を取られる小悪魔に、パチュリーはため息をつく。

 まぁ、宝物庫は守衛が頑張っているので今は入れないわけではあるが。

 また、魔法の鍵を使って入ることのできる中庭では、

 

「私の兄上もこうして清き水を眺めるのが好きだった。だが東の国へ行くとアッサラームの町に向かったまままだ帰らぬのだ」

 

 という話を聞くことができる。

 

「でも、アッサラームにはそんな人居ませんでしたよね?」

「アッサラームにも魔法の鍵が無いと入れない場所があったでしょう?」

「ああ、そこに手がかりがあるということですか」

 

 そして、

 

「まずは、ここまでの精算をしましょう」

 

 とピラミッドで手に入れた派手な服や、倒したモンスターから剥ぎ取った人食い蛾の羽、火炎ムカデの火炎の液袋などといった素材を売って資金を調達し、整理することにする。

 ピラミッド出発前の所持金が、

 

小悪魔:-1129G

パチュリー:97G(+未払い分1129G=1226G)

 

「それでここまでに戦い等で得た収入が1114ゴールドで、一人当たり557ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:-572G

パチュリー:1211G(+未払い分572G=1783G)

 

「そしてピラミッドで手に入れたマジカルスカートの売値は1125ゴールド。これは二人に所有権があるから、あなたには半額の562ゴールドを払うわね。あとは、今まで使っていた革の鎧を112ゴールドで売り払って」

 

小悪魔:-10G

パチュリー:1323G(+未払い分10G=1333G)

 

「……これだけ収入があっても微妙に借金が残るんですね」

「スタミナの種も手に入っていたわね。売値が90ゴールドだから、半額の45ゴールドを私に払えばあなたの物にできるのだけれど……」

「もう借金はたくさんです!」

 

 まぁ、そうなるだろう。

 

「仕方が無いわねぇ。本当ならヒットポイントが低いあなたに使いたいし、私の方はそろそろ体力の能力値が成長上限値に引っかかりそうで嫌なのだけれど」

 

 ということで仕方なしにスタミナの種はパチュリーの物に。

 すると最終的な所持金は、

 

小悪魔:35G

パチュリー:1288G

 

 ということに。

 

「ひ、久しぶりのお金です。ほら、パチュリー様。私のお金です!」

 

 嬉しそうに、本当に嬉しそうに35ゴールドという小銭を手のひらの上に差し出して見せる小悪魔。

 いじましいというか、痛々しいというか、

 

「長く借金生活をさせ過ぎたせいかしら……」

 

 と顔を引きつらせるパチュリーだった。

 

「さて、夜を待ってイシスの城に入るから街の外で時間を潰すのだけれど」

「どうしました、パチュリー様」

「あなた、あと少しでレベルが上がるでしょ。この際だから上げてしまいましょう」

 

 そういうわけで敵を求めて砂漠を歩く。

 

「火炎ムカデさんと、人食い蛾さんです!」

 

 火炎ムカデ2匹と人食い蛾3匹の群れに遭遇。

 

「地獄のハサミが出なくて良かったわね」

 

 というわけで戦闘を開始。

 

「刃のォォォオ、ブゥゥゥメラン!!」

 

 小悪魔の刃のブーメランによる先制攻撃。

 モンスターの群れ全体にダメージを与える!

 

「来る!」

 

 火炎ムカデの火の息の攻撃。

 それに耐えたパチュリーのチェーンクロスが人食い蛾に炸裂!

 

「一匹しか倒せなかったわね。まぁ、回避されなかったのは幸いだけれど」

 

 そして残った火炎ムカデの火の息、人食い蛾の攻撃が続く。

 人食い蛾の攻撃力はさまようよろい以上だが、パチュリーの守備力も上がってきているため耐えられるし、

 

「人食い蛾にマヌーサを使われたり仲間を呼ばれたりしなかっただけマシかしら」

 

 ということでもある。

 しかし、

 

「パチュリー様ぁ……」

 

 小悪魔のヒットポイントは半分以下に削られており、このままでは危険だ。

 

「次のターン、回復させてあげるから」

「はい」

 

 小悪魔は引き続きブーメランで敵を攻撃。

 人食い蛾の残り二匹がこれで沈んだ。

 そして火炎ムカデの攻撃がパチュリーに当たるが、

 

「これで安心ね」

 

 パチュリーにはこの程度どうということはないし、これで残った火炎ムカデが何をしようとも小悪魔は耐えられるという状況でもある。

 パチュリーは薬草を使い、小悪魔を回復。

 そこに火炎ムカデが火の息を吐くが、ヒットポイントの豊富なパチュリーはもちろん、小悪魔もヒットポイントをフル回復させてあるため問題なく耐える。

 そして、

 

「これでお終いです!」

 

 次のターン、小悪魔の刃のブーメランによる先制で、火炎ムカデ二匹も倒されたのだった。

 そして小悪魔のレベルが上がるが、

 

「あ、ら? 私までレベルが上がってしまったわね。先にスタミナの種を使っておくべきだったかしら」

 

 失敗だったかと思いつつも、パチュリーは笑う。

 二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:10

 

ちから:30

すばやさ:22

たいりょく:56

かしこさ:14

うんのよさ:10

最大HP:113

最大MP:27

こうげき力:57

しゅび力:64

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:8

 

ちから:31

すばやさ:66

たいりょく:21

かしこさ:18

うんのよさ:15

最大HP:42

最大MP:36

こうげき力:55

しゅび力:71

 

ぶき:やいばのブーメラン

よろい:かわのこしまき

たて:かわのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

 という具合に。

 

「せ、せっかくレベルが上がったのに、ヒットポイントにはますます差が付いていますし、攻撃力もまた上回られてしまいました……」

 

 がっくりとうなだれる小悪魔。

 

「わ、私本当に勇者なんですよね? セクシーギャルなんですからステータスの伸びはいいはずなのに、商人のパチュリー様にこれだけ負けてしまうって一体……」

「それよりルーラを覚えたことを喜びなさい」

「は、はい」

「まぁ、勇者って賢さが一定値以上なら、レベル7でルーラを確実に覚えてくれるのだけれど」

「うぐっ!?」

 

 それはつまりレベル7にレベルアップした時点で覚えなかったのは、

 

「私に足りないものは、それは―― 力、攻撃力、体力、ヒットポイント、賢さ(New!)」

 

 ということで、足りないもの尽くしだった小悪魔に、新たに足りない項目が判明した訳である。

 もっとも、

 

「賢さが足りなくとも1/2の確率、運次第で覚えるのだけれど」

 

 とパチュリーが言うように、

 

「そして何よりも―― リアルラックが足りない……?」

 

 ということでもあった。

 まぁ、

 

「レベル8になったら無条件で確実に覚えるんだからいいんじゃない?」

「……それは慰めになるんですか、パチュリー様?」

 

 それはともかく、

 

「というか、ルーラが目的でレベルアップを図ったのよ。この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものだから、ルーラの消費マジックパワーは1ポイント」

 

 つまり、

 

「タダで泊まれる私の、勇者の実家と併せれば使いたい放題ってことですか?」

「そうね、元々の消費マジックパワーは8ポイント。これだとアリアハンから攻略中の現地へと跳ぶ分の消費を考えると現地の宿を使った方が有利だったのだけれど」

「1ポイントに減ってしまえば、もうそれも誤差範囲内ですね」

「ええ、お金を節約するなら、他の街の宿はルーラで行けない場所ぐらいしか利用しなくても良いということになるわね」

 

 まぁ、宿代ぐらいケチらなくともという話であるが、35ゴールドという小銭を握りしめて喜んでいる小悪魔を見ると、それも言いにくいパチュリーだったりする。

 

「魔法の鍵を使って各地に眠るアイテムを入手し、それらを売却したお金で武具類を購入するとなると、ルーラ無しではキメラの翼がいくつも必要。その費用を最少化しようとすると、あらかじめ手に入るアイテムの売却価格を計算すると共に、購入リストを作成して各地を訪れた際に同時に装備を購入しておかなければならない。さらには回収の順番も考えなくてはいけないわ」

「め、面倒すぎますね……」

「それゆえのルーラ習得よ」

 

 そんなわけで、

 

「それじゃあ、さっさと魔法の鍵で手に入れられるアイテムを回収するわよ」

 

 夜を待ってイシスの城へ。

 魔法の鍵で入ることのできるここの宝物庫には警備の兵が立ち塞がっていて昼間は入れないのだが、夜ならその兵も寝ている。

 そのため夜を待って中に入り、アイテムを回収するのだ。

 

「さ、さすがにこれは明確に泥棒と呼べるのでは……」

「もう既に墓荒らしをやったでしょう」

「い、言われてみればそうでした」

 

 宝箱からはルビーの腕輪、絹のローブ、小さなメダル、賢さの種、命の木の実、黄金のティアラ、あとはお金が手に入った。

 

「本当にお宝ばかりですね」

「そうね、これなんて……」

 

 商人の鑑定能力で調べてみるパチュリー。

 

「ルビーの腕輪は装飾品のようね。きれいな腕輪だけど見栄っ張りに見えてしまうかも知れないわね」

 

 という具合に身に着けた者の性格を『みえっぱり』に変える品。

 

「お店に持っていけば7350ゴールドで売れるわね」

「役に立たない、換金用アイテムということですか?」

「そうね。一応『みえっぱり』の成長補正はバランス型でそんなに悪くない、特に男性だと力と素早さの両方にプラス補正がかかる唯一の性格ではあるのだけれど」

 

 とはいえ、

 

「女性だとセクシーギャルの完全下位互換になるから」

 

 ということである。

 そして次は、

 

「黄金のティアラは装飾品のようね。これをかぶっていればお嬢様気分が味わえそうね」

「レミリアお嬢様のようにですか?」

「……言われてみれば何だか関係がありそうよね」

 

 小悪魔の何気ない思い付きに過ぎない言葉に、しかし考え込むパチュリー。

 

「黄金のティアラを身に着けているとなれる性格『おじょうさま』は女性がなれる性格の中では最も運の良さが伸びやすいというもの」

 

 男性専用の性格『ラッキーマン』に次ぐものだ。

 

「さらには黄金のティアラには、運の良さを13ポイント引き上げる効果もある」

 

 そして、

 

「ドラクエ3の運の良さは、因果律に干渉して毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるというものよね。つまり……」

「ああ」

 

 それで小悪魔もパチュリーが言わんとしているところを察する。

 二人が暮らす紅魔館の主、レミリア・スカーレットは『運命を操る程度の能力』を持つのだ。

 

「そう、効果の大小はともかくとして、レミィの『運命を操る程度の能力』と類似した、運命に干渉する効果を持つということね」

 

 そういうことだった。

 

「だから状態異常を防ぐ目的で運の良さを伸ばしたいなら使えるアイテムだけれど、私たちには不要かしら?」

 

 小悪魔の性格『セクシーギャル』も運の良さに+20パーセントと高めの成長補正を持っていることでもあるし。

 

「お店に持っていけば3750ゴールドで売れるわね」

 

 ということで、これも換金用アイテムか。

 

「あとはイシスの街でも売っていた絹のローブ。女性なら誰でも着られる装備だから、タダで手に入るこれを使うのもありよね」

 

 しかしパチュリーたちはすでにそれ以上の防具を使っているので不要。

 

「お店に持っていけば1125ゴールドで売れるわね」

 

 売却して資金源にする。

 

「でもシルクの衣服が鎖かたびらと同じ守備力+20ポイントというのも凄いですよね」

 

 と小悪魔が言うが、

 

「絹糸は同じ太さの鋼鉄より強度があって、それを特殊な四層織りにした生地は防弾チョッキに使用されていた歴史もあるわ。刃物を食い止めるのにも役立つから、これを使った服は防御力がとても高くなるの」

 

 そういうことだった。

 

 

 

 魔法の鍵があれば、女王の寝室へも入ることができる。

 周囲を囲む花々から香る、むせ返るような匂い。

 豪奢な絨毯が敷き詰められ、女王に従う女たちが侍る。

 

「きゃー! 男よー! 男がこのお部屋にっ! きゃー きゃー! と思ったら、あなた女の人なのね。騒いでごめんなさい」

「確かにパチュリー様は男性以上に格好良くて凛々しいですけど、男の人には見えないと思いますが?」

「こぁ? 彼女が言っているのはあなたのことよ」

 

 これはファミコン版で女勇者が男と見間違えられていた名残だ。

 その証拠に、

 

「勇者が死亡してパーティに女性しか居ない場合には、彼女のセリフは「あたし、男の人って何だか怖くて…… 一生ここで暮らしたいわ」に変化するの」

「そ、それって……」

 

 

 

 寝室の奥にはひときわ大きなベッドと、その主であるイシスの女王の姿があった。

 

「お引き取り下さいませ。あらぬ噂が立ちますわ」

 

 女王に付き添う女官にそう言われるものの……

 

「噂?」

 

 そしてその意味するところに気付き、女同士でまさか、と混乱するパチュリーに、女王はベッドの上からそっと語りかけた。

 

「人目を忍んで私に会いに来てくれたことを嬉しく思いますわ」

 

 匂い立つような色香が感じられる言葉。

 まるで自分が女王に懸想して密かに寝所を訪れたかのような言い回しになっていることに、パチュリーの頬が火照る。

 そんな彼女に女王は、

 

「何もしてあげられませんが、贈り物を差し上げましょう。私のベッドのまわりを調べてごらんなさい」

 

 と、妖しく微笑みかける。

 これは一定の確率で壊れるまでは何度でもマジックパワーを回復できるアイテム、祈りの指輪をもらうイベント。

 女王の言葉に従い、床を探してそこに落ちている指輪を拾うパチュリー。

 そうして自分の足元に膝まずくような形になった姿を、女王は腰掛けたベッドの上から見下ろす。

 その瞳が細まり――

 愉悦の輝きが浮かぶのを、小悪魔は見た!

 さらに、大胆に組み替えられる女王の足。

 うつむいているパチュリーが顔を上げたらその奥に秘められた部分を目にしてしまうのでは、という際どい動きで、その形の良いつま先が、パチュリーの頭の上を過る。

 まるで、いつでも踏み下ろすことができるのだと、パチュリーを床に這いつくばらせ、その頭を踏むことができるのだとでもいうように……

 

 そう、この寝室に集う女は、

 

「あたし、男の人って何だか怖くて…… 一生ここで暮らしたいわ」

 

 などと言い出す真性の同性愛者たち。

 そして、この城を訪れたパチュリーたちに対し女官の一人は、

 

「ああ、たくましい人たち! 女王さまもきっと気に入ってくださることでしょう」

 

 などと漏らしていた。

 寝室に女たちを侍らす女王は、たくましい女性を気に入る……

 それはつまり、

 

「自分好みの強い女性をひざまずかせ、這いつくばらせる。その姿を見るためにこそ、わざわざ床に指輪を落として拾わせた?」

 

 ということではないか。

 

「わが女王さまには、こわいものなどありませぬ。たとえ魔王といえども、その美しさの前にひざまずくでしょう……」

 

 小悪魔は昼間に聞いた女官たちの言葉を思い出す。

 それは、

 

「私たちは女王さまにおつかえする女たちです。イシスに住む女なら、だれもがあこがれる役目ですわ」

 

 そう心酔する彼女たちの気持ちが言わせた大げさな言葉かと思われたが、しかし実際に生粋の魔法使いであり、七曜の魔法を使いこなすパチュリー・ノーレッジが、女王の前にひれ伏し、下賜された指輪を床から拾わされているという現実。

 どんな経緯があろうとも、パチュリーが自らそうしてしまった以上、この事実は変えられない。

 通常ではありえない恥辱にまみれたこの光景に、小悪魔は己が主人をじわじわと絡め取り、最後には屈服させんとする女王の、この花園を支配する女主人の一手……

 その手管を感じ取り、戦慄するのだった。

 

 

 

「そんなわけないでしょう!?」

 

 いつもの小悪魔の妄想を垂れ流され、パチュリーは顔を赤らめ抗議する。

 

「このシーンは、女王自ら指輪を渡すのは問題だから、わざわざ床に置き、調べて拾わせることで譲渡した、という説が有力よ。そんな腐り切った妄想は今すぐ捨てなさい!!」

 

 ということだった。




 魔法の鍵を手に入れたらお楽しみのアイテム回収祭りの始まりです。
 このために早期にピラミッドにチャレンジした訳で、これで強力な装備を整えてカンダタ1回目とか、ノアニールの目覚ましイベントを楽に済ませる手ですね。
 そして、

>「勇者が死亡してパーティに女性しか居ない場合には、彼女のセリフは「あたし、男の人って何だか怖くて…… 一生ここで暮らしたいわ」に変化するの」

 という具合に通常のプレイでは目にすることのない隠し(に近い)セリフの存在もあって、百合ハーレム疑惑があるイシスの女王様。
 真実はどこに……

 次回はアイテム回収の続きと装備の購入ですね。
 お金さえかければ勇者小悪魔も商人を上回る強さを身に着けることができる…… のでしょうか?(ヒント:無理です)

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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魔法の鍵でアイテム回収 残りと買い物

「とにかく、次に行くわよ次に」

 

 小悪魔のルーラで跳んだ先は、アッサラーム。

 魔法の鍵で入ることのできた館の二階に行くと、

 

「おや、旅の人ですな。私もいつか東へ行ってみたいと思っているのだが……」

 

 と、話す男性が居て、

 

「東の国へゆくにはホビットだけが知っているというぬけ道を通るしかない。しかしホビットのノルドはとぼけているのかぬけ道を教えてくれないのだ。やはりノルドの友だちのポルトガの王に頼むしかないのであろうか……」

 

 そう事情を教えてくれる。

 

「パチュリー様、この人……」

「そうね、イシスの城で魔法の鍵を使って入ることのできた中庭に居た人のお兄さんね」

 

 ということ。

 このフロアでは床に落ちていた小さなメダルを拾える他、本棚からユーモアの本を見つけることができる。

 パチュリーはユーモアの本を手に取って見定めた。

 

「笑うカドには福来る! ケッ作ユーモア100選! ……面白そうね」

「どうして私を見て笑うんですか! その「面白そう」という言葉は内容に対するものですよね!?」

 

 洗脳調教に怯える小悪魔と、

 

「ふふ、分かっているくせに」

 

 そう、妖しく微笑むパチュリー。

 

「このユーモアの本を使うとなれる性格、『おちょうしもの』は意外なことに能力補正は悪くないの。素早さと賢さがかなり高く、運の良さもプラス。以前に手に入れた『頭が冴える本』でなれる『きれもの』と比べると体力がそれほど低くならないのも好材料ね」

「あ、ああ……」

 

 そう、『きれもの』はあまりに体力へのマイナス成長補正がきつすぎたがゆえに『頭が冴える本』は売り払ったのだが。

『おちょうしもの』はほとんどマイナス補正が無い、悪くない性格になっている。

 ただし、

 

「まぁ、セクシーギャルの下位互換だから、あなたには不要なのだけれどね」

 

 という話だったりする。

 

「お、脅かさないでくださいよ、パチュリー様ぁ」

「紅魔ジョークよ。面白くなかったかしら?」

「ユーモアの本が必要なのは、パチュリー様なんじゃ……」

「何か言った?」

 

 とユーモアの本をちらつかせながら瞳を細めるパチュリー。

 

「一度これを鉄槌として振り下ろすか、ねじ込んであげないとダメかしら?」

「どこに!?」

 

 もちろんパチュリーは、

 

 頭にこの本の内容をねじ込んで、自分の高尚なジョークが理解できるよう性格矯正してあげる。

 そうしたら、ついでにエッチなことばかり考えることも無くなるでしょう?

 

 という意味で言っているのだが、頭の中身がピンクに染まっている小悪魔はというと、

 

 映画『エイリアン』においてヒロインが男性型アンドロイドに押さえ込まれ、丸めた雑誌を口にねじ込まれていたシーンのように、自分がパチュリーに疑似レイプじみた仕打ちを受けるのではという妄想を思い浮かべ……

 

 瞳と秘められた部分を熱く潤ませるのだった。

 

 

 

 小悪魔のおかしな様子はさておき、ユーモアの本は売り払うことにして魔法の鍵で入ることができるようになったもう一つの場所、ベリーダンスの劇場の楽屋裏へと向かうパチュリー。

 その廊下の突き当りで、小さなメダルを拾う。

 

「これはすごろく場が無くなって、すごろく場から拾えなくなった小さなメダルを別の場所から拾えるようにしたものね。スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では無かったものよ」

 

 ということ。

 この他にも相違点は多いので、忘れずに集めなくてはいけない。

 

 

 

 キメラの翼でアリアハンまで跳ぶ。

 アリアハンには、魔法の鍵で開けられる城の宝物庫がある。

 警備していた兵士からは、

 

「勇者オルテガには、いろいろと世話になった…… おまえがなにをしようと、私は見て見ぬふりをしよう」

 

 などと言われるが、

 

「それでいいんですか?」

 

 と悩む勇者、小悪魔だった。

 しかし、

 

「この先、魔法の鍵を使って行くポルトガでは、魔王の呪いを受けた恋人たちが居るという話よ」

「はい?」

 

 唐突なパチュリーの話に目を白黒させる。

 

「魔王に目を付けられるような行動は…… 例えば大々的に勇者を支援するようなことは危険。なら、どうするか?」

「ああ、だから「見て見ぬふり」なんですか」

 

 支援したのではなく、盗まれただけ、とすれば良いという考え方だ。

 最初にはした金と最下級クラスの武具や小銭しか渡さないのも。

 勇者がソロで魔王バラモスを倒した『後に』にくれるバスタードソードを渡さなかったのも。

 これらが魔王からの報復を恐れた国王からの指示だとすれば合点がいく。

 まぁ、その理屈が魔王に通じるかは分からないが。

 

「それなら遠慮なく」

 

 ということで中の宝箱からはルーンスタッフ、力の種、素早さの種、128G、336G、豪傑の腕輪が手に入る。

 

「ルーンスタッフは鋼の剣どころか鉄の斧以上の攻撃力を持つ武器ね。ただ魔法使い、僧侶、賢者にしか使えないから私たちだと売り払うしかないのだけれど」

 

 複数攻撃武器と迷うところではあるが、攻撃力の低い複数攻撃武器に力が弱い後衛職の組み合わせでは、モンスターの守備力が高い場合、ほとんどダメージを出せないということにもなりかねない。

 その点、単体攻撃武器であっても攻撃力が高いルーンスタッフなら、何とか実用レベルのダメージを叩き出せるということだった。

 一方、豪傑の腕輪はというと、

 

「これを身に着けていれば攻撃力が+15。さらにその人の性格まで『ごうけつ』にしてしまうわ」

 

 という、攻撃力特化の装飾品。

 

「『ごうけつ』は力がもっとも伸びやすい性格。ただし体力への成長補正は無いし、素早さ、賢さ、運の良さに猛烈なマイナス補正が加わるから……」

「それは厳しいですね……」

 

 例えば小悪魔の場合、ヒットポイントがパチュリーの半分以下で足を引っ張る最大の要因になっている現状では、体力に成長補正が付かない性格は避けたいし、素早さが低ければ守備力が下がるからさらに生存率は低くなるという問題もある。

 賢さが低ければマジックパワーが伸びないから、呪文の使い手が小悪魔一人というこのパーティではきつい。

 運の良さが低ければ状態異常にかかる可能性が高まるため、マヒで全滅しかねない少人数プレイでは怖い。

 

 物理攻撃能力だけ担当で、あとは他のパーティメンバー任せというのであれば良いのだが、そういう意味ではパチュリー向けか。

 ただしヒットポイントの高さが最大の強みである商人、

 

「タフガイのままでも力には成長補正が付いているのだし、できれば豪傑の腕輪はあなたに渡して、私は性格が変わらない星降る腕輪を付けたいのだけれど……」

 

 とパチュリーは考えるのだが、そうも行かないのが現状だった。

 

「それじゃあ不用品を売り払って精算しましょうか」

 

 前回精算時の所持金が、

 

小悪魔:35G

パチュリー:1288G

 

「それでここまでに得た収入が18101ゴールドで、一人当たり9050ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:9085G

パチュリー:10338G

 

「すっ、凄い大金です!」

「そうね、お金で苦労しないのがスーパーファミコン版以降のリメイク作。特に低レベル攻略などで先にピラミッドから魔法の鍵を取ろうとするのは、この収入があるからこそよ」

 

 そして、

 

「アリアハンで手に入れた豪傑の腕輪の売却価格は3375ゴールドだから、半額の1687ゴールドをあなたに払うわね」

 

小悪魔:10772G

パチュリー:8651G

 

「凄いっ、凄いお金ですっ! このお金さえあれば、パチュリー様に逆転されてしまった攻撃力も、半分以下のヒットポイントを補えるだけの守備力も手に入れることができるかも」

「マネーイズパワーね」

 

 というわけで、

 

「まずはアッサラームでマジカルスカートを買うのよ」

「はい?」

 

 アッサラームで買えるマジカルスカートと言えば、アレである。

 

「もしかしてボッタクリのお店ですかーッ!?」

 

 YES! YES! YES! "OH MY GOD"

 

 なぜ購入する必要があるのかというと、

 

「装備を揃えたらポルトガに行ってあなたに鋼のムチを、バハラタまで行って魔法の盾と、できればあなたに鋼の鎧を買いたいの」

「はい」

「そしてポルトガに行く途中ではドルイドが僧侶の初級グループ攻撃呪文バギを、バハラタに行く途中ではハンターフライが魔法使いの初級グループ攻撃呪文ギラを、集団で唱えて来るわ」

「それは……」

「あなたのヒットポイントでは1ターンで死にかねない。だから魔法のダメージを低減できるマジカルスカートは必須なのよ」

 

 ということ。

 

「仕方がないから私も購入金額の1/4を出してあげるわ」

 

 つまりボッタクリの店で通常の店の倍額で購入する、余計に支払う金の半分を負担すると言っているのである。

 

「あ、ありがとうございます、パチュリー様ぁ」

 

 そうしてパチュリーから受け取ったお金を握りしめ、ボッタクリのお店に向かう小悪魔。

 お目当てのマジカルスカートを見る彼女に、店主が声をかける。

 

「おお! お目が高い! 24000ゴールドですが、お買いになりますよね」

「あ、相変わらず無茶苦茶なお値段を付けていますね!」

 

 叫ぶ小悪魔。

 

「おお、お客さん、とても買い物上手。私、参ってしまいます。では、12000ゴールドにいたしましょう。これならいいでしょう?」

「いいも何も、いきなり半額って先ほどのお値段は何だったんですか?」

 

 アッサラームでは、アリアハンやロマリアなどの常識はまったく通用しない。

 ……というのは、値段が凄くいい加減なのだ。

 日常の値打ちを知らない初めての外国人は一体いくらなのか見当もつかず、凄くカモられてしまう。

 しかし、ここの世界ではカモることは悪いことではない。

 騙されて買ってしまったヤツがマヌケなのである!

 

「そんなお金、またパチュリー様に借金でもしないとありませんよ!」

 

 値段交渉開始ーッ。

 

「おお、これ以上負けると私、大損します! でも、あなた友達! では6000ゴールドにいたしましょう。これならいいですか?」

「それでも高過ぎです!」

「おお、あなた酷い人! 私に首吊れと言いますか? 分かりました。では、3000ゴールドにいたしましょう。これならいいでしょう?」

「くぅぅぅっ、仕方ないですね」

「おお! 買ってくれますか? 私たちいつまでも友達! またきっと来てくださいね」

 

 というわけでマジカルスカートを購入。

 

「私が出した補助が750ゴールドで、今まであなたが使っていた革の腰巻を600ゴールドで処分するから現在の所持金は……」

 

小悪魔:9122G

パチュリー:7901G

 

「まだまだ大丈夫ですね。それじゃあイシスに行って他の装備も整えましょう」

 

 お金があると気も大きくなるのか、小悪魔は率先してイシスにルーラを使って跳ぶ。

 

「単体攻撃武器ですけど鉄の斧を2500ゴールドで買いますね」

 

 鉄の斧の攻撃力は+38、鋼の剣の+33以上の攻撃力を持つ単体攻撃武器。

『公式ガイドブック』記載の英訳では「Hand Axe」。

 つまり手斧である。

 

「手斧が鋼の剣以上の攻撃力を持つんですか?」

「モンスターの持つ皮膚や筋肉といった天然の鎧を割ってダメージを与えるには、重さでかち割る斧の方が効果があるということかしら」

 

 実際、高い守備力を持つ相手には効果が高いものだから、説得力もある話か。

 

「あとは防具。鉄の盾を1200ゴールドで、鉄兜を1000ゴールドで買います」

「なら、あなたが使わなくなった毛皮のフードは私が使うわね。売値の187ゴールドをあなたに渡して、今まで使ってきたターバンは120ゴールドで売り払う」

 

 小悪魔の甘い移り香が残る毛皮のフードを被り、少しばかりくらりとくるパチュリー。

 小悪魔の身体が纏う体臭は天然の香水とも言うべきもので、種族特有の媚毒、相手を性的に魅惑し堕落させるための催淫成分が含まれているからだ。

 

 まぁ『生粋の魔法使い』であるパチュリーは生まれつきそういったものに高い耐性を持っている上、喘息を抑える強い薬湯の常飲、魔法薬の作成、試飲を行っているため薬物には強い耐性ができている。

 薬は刺激に弱い者ほど効くし、慣れている者には効きにくい。

 コーヒー中毒の者が、カフェインに耐性を持っているように。

 だからこそ、パチュリーには小悪魔の催淫成分が含まれた体臭も、ちょっと刺激的なエッセンスで済んでいる……

 完全に効かないわけでも無いのだが、だからこそ、それがかえって良いスパイスになっている。

 しかし……

 

(いくら耐性を持っているにせよ、休むことなく悪魔の媚毒が含まれた香りを吸わせ続けていくと興味深いことが起こるんですよ、パチュリー様)

 

 小悪魔はパチュリーからは見えない位置で、一人ほくそ笑む。

 

(お酒を飲むと、それが適量であっても気分が良く、気が大きくなりますよね? 同様に媚毒で脳と身体を酔わせれば、気付かぬ程度の微酔状態であっても、エッチなことに対し気が大きくなる、ガードが緩むことになります)

 

 それはつまり、

 

(そこに私が悪魔の手管で誘惑をすれば、いかに気位が高いパチュリー様でも自制は難しくなります。けれどパチュリー様は媚毒への耐性を自覚しているがゆえに、自分が誘導されていることに気付かない)

 

 それが何よりのポイント。

 

(つまりパチュリー様の主観では自らの意思で、自らの選択でこの私に身体を許すことになる。自分の意思なら主従契約による抑止力も働きません)

 

 そうすれば……

 小悪魔は期待に身体を熱くするのだった。

 

 

 

 小悪魔からとてつもなくいやらしい気配がしたが、パチュリーが振り向くとそれは霧散し、

 

「私も今まで使っていた革の盾を売ります。えーと」

 

 などと取り繕うように言われる。

 パチュリーは少しばかり彼女をにらむが、しかしいつものこととため息をつき、

 

「……革の盾の売却価格は67ゴールドよ」

 

 と答える。

 そうして結果として、

 

小悪魔:4676G

パチュリー:7834G

 

「あとは、力の種、素早さの種、賢さの種だけれど」

「どう分けましょうか?」

「賢さの種は私には不要だからあなたに。素早さの種も星降る腕輪を付けているあなたに使いたいわね」

「効果が倍ですからね。でも腕輪はこのままですか?」

「入れ替えるのもアリだけれど、あなたのヒットポイントで攻撃力に振るために守備力を下げるのは不安よね」

「……そうですね」

 

 結局、ヒットポイントの低さはどうしようもなく、それが足を引っ張ることになる小悪魔。

 

「賢さの種の売却価格は120ゴールド、素早さの種の売却価格は60ゴールド、そして力の種の売却価格は180ゴールド。つまり……」

「私が賢さの種と素早さの種を、パチュリー様が力の種を使えば金額的にはちょうど相殺になりますね」

「そうしましょうか」

 

 そういうわけでアリアハンに跳んで、勇者の実家で休むと同時に種を使うことにしようとするパチュリーだったが、

 

「パチュリー様、お金に余裕が出たことですし、次の出発地のロマリアで宿を取ることにしませんか? 私の最大マジックパワーも低いことですし、例え1ポイントでも出発前に使ってしまうのは避けた方がいいですよね」

 

 小悪魔からそう提案され、

 

「そうね、ロマリアで魔法の鍵を使って拾える小さなメダルも取っておきたいし」

 

 ということでルーラでロマリアに跳ぶ。

 ロマリアの城の、魔法の鍵を使って入ることのできる中庭の池。

 その右の茂みから小さなメダルをゲット。

 この中庭では、

 

「西の国ポルトガでは船というものを造っているそうだな。船はいいぞ船は。船があれば世界の果てにでもいけるからな」

 

 という話を聞くことができる。

 

「なるほど、イシス、アッサラーム、ロマリアと魔法の鍵を使って入れる場所を辿って行くと、ポルトガに導かれるということですね」

「そうね。まぁ、最初のファミコン版だとここでどこに行っていいか分からなくなって迷う人も多く出たみたいだけど、こんな風にヒント自体は出されているのよね」

 

 ということだった。

 ともあれ、

 

「それじゃあ宿に行って休みましょうか、パチュリー様」

「そうね、あとは種を使って能力値を伸ばして…… 使い損ねていたスタミナの種も使っておかないとね」

 

 そういうわけで宿で休むと共に、セーブとロードを使い能力値が最大の3ポイント上がるまで繰り返すことにするパチュリーだったが、彼女は忘れている。

 以前、この宿では相部屋になった母子の前で、種の副作用による筋肉痛と、その痛みを和らげる小悪魔のマッサージにより延々と鳴かされるという痴態を繰り広げたことを……

 それに気付かなかったのは、小悪魔の媚毒を含む残り香を毛皮のフードから吸い続けたせいであったのかも知れない。

 

 

 

「あひぃぃぃぃっ! か、かはっ……」

「パチュリー様、今回は力の能力値の上昇具合はどうですか?」

 

 セーブ&ロード。

 何度も繰り返される苦痛と、その裏返しの快楽。

 使い魔である小悪魔に組み伏せられ、散々に嬌声を搾り取られたパチュリーは朦朧とする意識の中、考える。

 

(こ、今度は3ポイント上がった、けど……)

 

 小悪魔はこう言っているのだ、

 

『私はパチュリー様のお言葉を信じ従うだけです。たとえ、この快楽を楽しみ続けたいがために過少申告されようとも……』

 

 と。

 そんな使い魔の要らない気遣いに反発しようとしたパチュリーは、しかし、

 

「でも、今回は結果に関係なくリセットした方がいいかもしれませんね」

 

 と意味ありげに言う小悪魔の視線の先。

 パチュリーの痴態を前に腰砕けになった母親とその腕の中、まだ理解できないなりに、しかしすっかりと魅入られている様子の男の子に気付く。

 

「仲の良い母子さんですけど、パチュリー様のせいで性癖をめちゃくちゃにされちゃっていますね」

 

 そう小悪魔が言うとおり、この快楽地獄を切り上げるには、小悪魔からの責めに耐えきった上で、上昇値の上限3ポイントを達成しなければならない。

 さもなくば、この記憶が母子に残ってしまうのだ。

 

「さぁ、いかがされますか?」

 

 小悪魔が謀る、パチュリーを至上の悦楽と被虐の奈落へ堕とすためのゲームは、始まったばかりだった……

 

 

 

「……ヒドイ目に遭ったわ」

 

 翌朝、能力値アップは図れたものの、散々な目に遭ったパチュリーはしかし、足元に転がる小悪魔を見下ろし、満足げに笑う。

 そう、小悪魔だって素早さの種で能力値アップを図らなければならないのだから、逆襲されても当然であり……

 目が座り、本気になったパチュリーに容赦なく責められた結果、小悪魔は嵐の中の小舟のように翻弄され、失神することで精神を逃げ出させていたのだった。

 そんな小悪魔を叩き起こし、身づくろいと朝食を済ませるパチュリー。

 

 結局二人のステータスと装備は、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:10

 

ちから:33

すばやさ:22

たいりょく:59

かしこさ:14

うんのよさ:10

最大HP:113

最大MP:27

こうげき力:75

しゅび力:66

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:8

 

ちから:31

すばやさ:72

たいりょく:21

かしこさ:21

うんのよさ:15

最大HP:42

最大MP:36

こうげき力:69/55

しゅび力:97

 

ぶき:てつのオノ/やいばのブーメラン

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

 という具合に。

 

「……お金の力をもってしてもダメなんですか? 勇者なのに攻撃力が、攻撃力が低すぎます」

 

 これまでのプレイで勇者の強さはパーティのお金を吸い上げることで維持されていることを知った小悪魔だったが、逆に言えば、お金さえあれば強くなれるのだ、そう思って頑張って、ようやく大金を手にして装備を整えたのに……

 それでも負けている強さに、がっくりとひざをつくのだった。




 エッチでいい匂いのする小悪魔は好きですか?

 アイテム回収の続きと装備の購入でした。
 お金さえかければ勇者小悪魔も商人を上回る強さを身に着けることができるかと思ったのですが……
 やっぱり無理でしたね。

 適正レベルより先に進み早期に強力なアイテムをゲットし強化して、というプレイスタイルだと、攻撃力、守備力はそのアイテムで補えるので、一番問題になるのはヒットポイントの高低なんですよね。
 小悪魔も勇者ですし低くないヒットポイントを持ってはいるのですが、比較対象が低レベル帯でのヒットポイント上昇率ナンバーワンの商人に性格タフガイという組み合わせなので……

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ポルトガへ 絶叫!ダメージ床を引きずり回される小悪魔!!

 ロマリアを出発し、ポルトガへと向かうパチュリーたち。

 まずは西にあるロマリアの関所を目指す。

 

 途中、キャタピラー二匹と魔法使い三体が現れるが、

 

「今さら苦戦などしないわね」

 

 パチュリーのチェーンクロスがキャタピラーたちをしばく。

 豪傑の腕輪による攻撃力の底上げを受け、1匹目には32ポイントのダメージ、二匹目にも27ポイントのダメージを与える!

 魔法使いが次々にメラを唱え、パチュリーに命中するが、

 

「マジカルスカートの呪文ダメージ3/4が効いているわね」

 

 8ポイント、次は5ポイントのダメージで済む。

 

「行きます!」

 

 次いで小悪魔の刃のブーメランによる追撃。

 全体攻撃がモンスターの群れを襲い、キャタピラー1体を倒す。

 残ったキャタピラーは小悪魔を攻撃するが、

 

「い、1ポイントのダメージで済みました!?」

 

 ガチガチに固めてある守備力のおかげで、この程度で済んでしまう。

 そして、魔法使いのメラがパチュリーを攻撃。

 6ポイントダメージ。

 

 次のターンは、まず小悪魔の刃のブーメランが炸裂し、残りのキャタピラーと魔法使い2体を倒す。

 

「これで終わりよ!」

 

 そして最後にパチュリーが残った魔法使い一体にチェーンクロスを叩き込み、戦闘を終了。

 

 そうしてたどり着いたロマリアの関所。

 詰めている兵士からは、

 

「トビラを開けばその先はポルトガの国だ。魔法の鍵を持っているなら通るがよい」

 

 と伝えられ、通過することができる。

 地下通路を抜け、出た先はポルトガだ。

 

「南下していくと、ポルトガの街と城ね」

 

 そういうわけで歩いて行くと案の定、ドルイド4体に遭遇。

 

「バギが来るわよ」

 

 ドルイドの範囲攻撃呪文、バギが炸裂する。

 

「ま、マジカルスカートを買っておいてよかったです」

 

 と小悪魔が言うとおり。

 マジカルスカートの呪文ダメージ3/4の効果でダメージを10ポイント以下に抑えているが、そうでなければ危なかっただろう。

 

「刃のォォォオ、ブゥゥゥメラン!!」

 

 小悪魔の攻撃が入るが、

 

「一番初めのヒットでもダメージが16ポイントしか入らない!?」

「何気に守備力が同系統で一番高いのよ」

 

 一番の下位種で上位種より高い守備力とは一体……

 それでもパチュリーのチェーンクロスで追加ダメージを入れれば、一体は倒すことが可能。

 

「ヒットポイントはそれほどでも無いのが救いね」

 

 ということ。

 そしてドルイドがパチュリーを殴り、10ポイントのダメージを叩き出す。

 

「守備力を高めた今のパチュリー様にそのダメージですか!?」

「攻撃力も55ポイント。つまりあばれザルやミイラ男と同等よ」

「それもう、呪文使いじゃないですよね!?」

 

 そこに二発目のバギが炸裂!

 

「くっ、ヒットポイントが半分近くまで削られました!『バギも積もればバギクロス』ですかっ!!」

「誰が上手いことを言えと…… でもボッタクリのお店であってもマジカルスカートを買っておいて良かったでしょう?」

「まったくです」

 

 RTA(Real Time Attack、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競う)など低レベルプレイでは、なぶり殺しにされるため絶対に出してはいけないのがこのドルイド4体という取り合わせだった。

 

「もっともドルイドの最大マジックパワーは10で、バギの消費マジックパワーは4。つまり二発唱えたらお終いだから、防御で耐えるなり、回復させ続けるなりして戦闘開始時のラッシュを乗り切ることができれば大丈夫かしら。勇者がレベル12から13で覚えるアストロンを使えば無傷で使い切らせることも可能でしょうし」

「それでもあばれザルと同じ攻撃力ですよね? 普通のパーティには守備力もヒットポイントも低い後衛職が居るんですから脅威では?」

「それもそうね」

 

 そして次のターン、小悪魔の刃のブーメランが先制。

 

「与ダメージがたった12ポイントって勇者の出す攻撃じゃないですよね、これ!?」

 

 しかしそれでも2体倒し、残り一体が小悪魔を殴る!

 

「ぐっ! これだけガチガチに守備力を上げていても抜いて来る!?」

「それでも4ポイントだけ。私が受けるダメージの半分じゃない」

「それはそうですけどヒットポイントが20を切っちゃいましたよ。先頭に立って攻撃を防いでいるパチュリー様はまだまだ余裕なのに、勇者である私が後ろに下がった上で、星降る腕輪装備の守備力優先、現状でできる最高の防備を固めても危機に追い込まれるって何なんですか?」

「そうね、でも終わりよ」

 

 あとはパチュリーのチェーンクロスが止めを刺して戦闘は終了。

 

「さぁ、治療したらポルトガの街に駆け込むわよ」

 

 というわけで小悪魔のホイミで傷を治し、ポルトガの街へとたどり着く。

 

「ここがポルトガ……」

 

 まずはポルトガの城へ。

 ここの城の宝物庫だが、

 

「ビリっときましたあああああ!!」

 

 床には泥棒よけの障壁、ダメージ床であるバリアーが張られていた。

 しかしパチュリーは小悪魔の悲鳴を無視し、宝箱からのアイテム回収を優先。

 ダメージにヒクヒクと痙攣する小悪魔を無理矢理曳き回す。

 

「ひあああぁあぁッ!? あぁっひ、くひいいぃいぃぃ!! ああぁあぁぁッ!!」

 

 連続して加えられるダメージに悶絶する小悪魔!

 

(死んじゃう、これ以上は本当に死んじゃいますぅぅぅっ! 許してっ、許してくださいパチュリー様ぁぁぁぁっ!!)

 

 ということだったが、

 

「はい、お終い」

 

 アイテム回収を終え、バリアー地帯を抜ける二人。

 

「し、死ぬかと思いましたよ。ほら、もうヒットポイントがぎりぎり1しか残っていません!」

 

 そう抗議する小悪魔だったが、パチュリーは小さく首をかしげると、その様子を不思議そうに見て、

 

「あら、知らなかったの? スーパーファミコン版以降のリメイク作ではバリアーダメージでは死ななくなっているのよ」

 

 偶然、ぎりぎり1ポイント残ったため助かったのではなく、1ポイント以下には減らなくなっているということだった。

 だからパチュリーは何も考えずにバリアーに突っ込んだのだ。

 

「最初に言ってください……」

 

 涙目の小悪魔だった。

 この宝物庫にある宝箱からは、いかりのタトゥー、スタミナの種の他、一本の杖が手に入るが……

 

「はい、これはあなたに」

 

 と小悪魔に手渡される。

 

「何です、このいかにも呪われそうな不気味な杖は!?」

 

 小悪魔が悲鳴を上げるとおり、邪悪な神官の姿をかたどったと言われる胸像が先端に付いた不気味な杖だ。

 

「魔封じの杖ね。不気味とは言っても、呪われているわけではないわ」

「本当に?」

「内部には魔界に住む邪悪な神官の魂が封じ込まれているとも言われているけど」

「やっぱり呪われてるんじゃないですかっ!」

 

 叫んで杖を突き返そうとする小悪魔。

 

「そうは言ってもドラクエ4で初登場して以降、『内部に封じられた邪悪な神官の魂が敵の魔力を欲するため』とか『振りかざすことで神官の像の口から呪いの言葉が発せられるため』とか作品によって理由は違えど、戦闘中に使用すると「あやしいきりが てきを つつみこむ!」ことでマホトーンと同じく呪文封じ状態にすることができる杖だから」

 

 死後、水分を失ってカラカラのミイラになったかのように落ちくぼんでいる眼窩。

 カッと開かれた口は唇を失ったかのように並んだ歯がむき出しになっている。

 怖すぎる、怖すぎる造形をもった杖だった。

 こんなもの、出来れば持ちたくはない小悪魔だったが、

 

「モンスターから呪文を使われるより前に、この杖を使って呪文を封じるなら星降る腕輪で素早さを高めているあなたが適任だから」

 

 と言われれば、持たざるを得ない。

 杖の大半は、装備できない職業でも戦闘中に使用して力を引き出すだけなら誰にでもできるものなのだから。

 

「あとは怒りのタトゥーだけれど」

 

 パチュリーは手に取ってそれを調べてみる。

 

「怒りのタトゥーは装飾品のようね。これを張り付けていれば攻撃力が上がるようね」

 

 という具合に、攻撃力を+8するもの。

 

「でもその凄い力はその人を乱暴者にしてしまうと思うわ」

 

 という具合に装備中は性格を『らんぼうもの』に変えてしまうもの。

 

「すでに実質的な上位アイテムである豪傑の腕輪が手に入っているし、私たちは二人旅だからもう装飾品の枠は星降る腕輪と豪傑の腕輪の二択で埋まっているし、『らんぼうもの』の性格は力以外に凶悪なマイナス成長補正が入るし……」

「売却アイテムですね?」

「そうね、お店に持っていけば825ゴールドで売れるわね」

 

 ということで処分することに。

 そして、この国の王に謁見。

 

「遙か東の国では、黒胡椒が多く取れるという。東に旅立ち、東方で見聞したことを報告せよ。胡椒を持ち帰った時、そなたらを勇者と認め、わしの船を与えよう。この手紙を東の洞窟に住むノルドに見せれば、導いてくれるはずじゃ。では、ゆけこあくまよ!」

 

 次いで、ポルトガの街を探索するパチュリーと小悪魔。

 牧場のしげみからは、小さなメダル。

 民家の2階からは力の種が手に入る。

 そして武器屋を覗いてみると、そこには鉄の斧以上の攻撃力を持ち、複数の敵1グループを一度にしばき倒せる武器、鋼のムチが売られていた。

 

「それじゃあ、不用品を売って清算した後、改めて鋼のムチを買いましょうか」

 

 ということで、怒りのタトゥーや倒したモンスターを解体して剥ぎ取った素材などを売り払って資金とし、それぞれの所持金を再計算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:4676G

パチュリー:7834G

 

「それでここまでに得た収入が1039ゴールドで、一人当たり519ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:5195G

パチュリー:8353G

 

「そして魔封じの杖の売却価格は2475ゴールド。これは二人に所有権があるから、あなたは半額の1237ゴールドを私に払う必要がある」

「うっ…… そ、そうですね」

 

小悪魔:3958G

パチュリー:9590G

 

「それで、このポルトガの武器店で買える鋼のムチの買値は3100ゴールド」

「うぐっ!」

「でもこれを買えばあなたが持っている刃のブーメランと鉄の斧は不要になるでしょう? そこは私が譲り受けることにするわ。刃のブーメランの売却価格は900ゴールド、鉄の斧の売却価格は1875ゴールド。これで再計算すると……」

 

小悪魔:3633G

パチュリー:6815G

 

「あれ? ほとんどお金が減りませんね」

「……この後、バハラタで魔法の盾2000ゴールドと鋼の鎧2400ゴールドっていう買い物があるのだけれど? 今あなたが使っている鉄の盾を下取りに出しても、3500ゴールドが必要よ」

「そ、それって実質133ゴールドしか残らないってことじゃないですかー!」

「あとは、このポルトガで手に入った力の種とスタミナの種。少なくともスタミナの種はあなたに使ってほしいのだけれど……」

「無理無理無理です。これ以上、お金は使えませんっ! また借金はイヤ、イヤなんですぅぅぅっ!」

 

 ということで、力の種とスタミナの種はパチュリーが使うことに。

 その半額を小悪魔に対して支払うので最終的な所持金は、

 

小悪魔:3768G

パチュリー:6680G

 

 という具合になった。

 二人のステータスと装備は、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:10

 

ちから:33

すばやさ:22

たいりょく:59

かしこさ:14

うんのよさ:10

最大HP:113

最大MP:27

こうげき力:86/75/72

しゅび力:66

 

ぶき:てつのオノ/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:8

 

ちから:31

すばやさ:72

たいりょく:21

かしこさ:21

うんのよさ:15

最大HP:42

最大MP:36

こうげき力:71

しゅび力:97

 

ぶき:はがねのむち

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

 という具合に。

 

「鋼のムチはグループ攻撃武器なのに、この時期では単体攻撃武器の攻撃力を上回り一番強いという反則武器。早めに魔法の鍵を取ったらポルトガに行って手に入れると大変楽になるのだけれど……」

「そ、それだけ優秀な武器を買って装備できてもパチュリー様の攻撃力を超えることができません。勇者って一体……」

 

 ということだった。

 

 

 

 目的の買い物も済み、海岸沿いを歩く二人。

 堤防のように張り出した先にはイスとテーブルが置かれ、

 

「ここは恋人たちの語らいの場所」

 

 と吟遊詩人が竪琴をかき鳴らす。

 そんなムーディな場所。

 

「こ、これってデデデ……」

 

 デートみたいですね、と言おうとする小悪魔だったが、なかなか口にすることができない。

 一方、パチュリーはというと、吟遊詩人の、

 

「かつて愛し合う二人がよくここに来ていたのですが、あの二人は今どこに……?」

 

 という言葉から、

 

「探してみましょうか?」

 

 と小悪魔をスルーして再び町の探索に。

 そうして、

 

「パチュリー様、ここですよ」

 

 と小悪魔に民家の二階、力の種を入手した部屋の隣へと案内される。

 

「何で分かるのよ」

「ベッドをくっつけあっているお部屋のレイアウトを見れば一目瞭然ですよ?」

「ああ……」

 

 確かにその部屋では二つのベッドをくっつけて使っていた。

 これまでに無い配置である。

 

「そして奥のベッドは部屋の隅、壁にくっつけてある、攻め手が受けを絶対に逃がさないといういやらしい構図」

「……あなたが何を言っているのか分からないわ」

「丸テーブルと椅子の配置もです。受けはキッチンの方の椅子に座るとして、攻めはその正面ではなく左隣に席があります。つまり、くつろぎながらも手を出せる配置……」

「そ、そういうものなの?」

「しかもですよ、普通なら部屋の奥に配するはずの攻めの椅子は部屋の入り口側に配置されています。これもベッド同様、受け側を絶対に逃がさないという粘着質な意思の表れかと」

「はぁ……?」

 

 パチュリーには理解が及ばない領域の話である。

 そしてその部屋には一人の女性の姿があり、

 

「わたしはサブリナ。こうして恋人のことを思っています。でも夜になれば…… 夜がこわい。ああ、わたしのカルロス……」

 

 さらには街外れの地下室には神父が居て、一組の恋人たちの話をしてくれる。

 

「かつて、勇敢なる剣士と愛しあう美しい女性が居た。二人はいつも海をながめて、平和な世界を夢見ておった…… しかし、怖ろしいことに魔王バラモスが、その二人に呪いをかけてしもうたのじゃ。そのため二人は…… かわいそうな話じゃて」

「……悲しいお話ね」

 

 この地下室からは、小さなメダルと、悲しい物語という本が手に入る。

 神父の話と、あのサブリナの怖がりよう。

 気になったパチュリーたちは、夜を待ってみる。

 すると昼間、馬が居た牧場には一人の男性が佇んでいた。

 

「ああ、愛しのサブリナ。今はもう、会うことも話すことすらできない…… サブリナを知っていますか?」

「はい」

「では伝えて下さい。カルロスは今もお前を愛していると!」

 

 何か事情があって会えないのかと、昼間サブリナと会った民家に行ってみる。

 しかし、そこにはサブリナの姿は無く一匹の猫が居るだけだった。

 

「にゃん……」

「サブリナさんは一体どこへ……」

 

 結局そのまま夜を明かす二人。

 朝になるとカルロスの居た牧場には馬の姿があり、サブリナはちゃんと民家の2階に居た。

 

「これが魔王の呪い? 朝になるとカルロスさんが馬に、夜になるとサブリナさんは猫に姿を変えられてしまうってことですか?」

 

 昼と夜に分かたれてしまった恋人たちの悲劇。

 つまり……

 

「サブリナさんはパチュリー様と同じでネコ!」

「はぁ?」

「そしてカルロスさんは馬並み!」

「何の話よ!!」

 

 使い魔が何を言っているかわからない件。




 パチュリー様にバリアー床を引きずり回され苦鳴を搾り取られる小悪魔でした。
 これでは死なないんですけど、私もそれを知ったのはかなり後でしたね。

 次回は毎度の種を使った強化と小悪魔のマッサージですが、おや!? パチュリー様のようすが……!
 そして防具を整えるためにバハラタへと向かいます。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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バハラタへ

 アリアハンに戻り勇者の家で休息を取ると共に、力の種とスタミナの種をパチュリーに使うことにする二人。

 種の副作用による筋肉痛を凝縮させたような痛みと、その痛みを和らげる小悪魔のマッサージにより延々と鳴かされるパチュリー!

 

(どうですパチュリー様! 痛みと快楽! 今夜は徹底的にマゾの性癖をそのお身体に刻み込んで差し上げます!)

 

 セーブ&ロード。

 何度も繰り返される苦痛と、その裏返しの快楽。

 使い魔である小悪魔にベッドに組み伏せられ、散々に嬌声を搾り取られたパチュリー。

 そうして涙がにじんだ瞳で小悪魔を見上げ……

 

「これ以上、酷いことするなら、ポルトガに行ってバリアー床を引きずりまわす」

 

 と上目遣いににらみ返す。

 

「ぐはっ!?」

 

 のけ反り、胸を押さえる小悪魔。

 お仕置きのあまりの恐ろしさに怯んだ、という面もあるが、本当のところは常に冷静なパチュリーが、まるで見た目どおりの少女のようにフルフルと震えながら絞り出した声、そしていじけたような、すねたような瞳に心臓を射抜かれキュン死しそうになったのである。

 その直後、土下座でパチュリーに謝り、許しを請う小悪魔だった。

 

 

 

 翌朝、二人はアッサラームに跳ぶ。

 ポルトガ王の手紙を持ち、アッサラームの東の洞窟に住むノルドに会いに行くのだ。

 洞窟内の井戸から命の木の実を。

 宝箱から、こんぼうと稽古着を回収してノルドに王の手紙を見せると洞窟の抜け道を案内してくれる。

 

「行き止まり?」

「ふむ! そこで待っていなされ」

 

「私のパンチを受けてみろ!」とばかりに、三発殴って壁に穴を開けるノルド。

 稽古着を持っていたことからして武闘家なのだろうか。

 その様子を目にした小悪魔は、

 

「凄っ。魔法の玉にも驚きましたが、同じことを素手でやってしまうっていうのも…… この人が魔王を退治してしまえばいいんじゃないですか?」

 

 と呆れかえる。

 そして破壊された壁からバーンの抜け道を通って、抜け出た所から南下。

 胡椒の街バハラタを目指す。

 魔物が頻繁に現れる山岳地帯を避け、森の中を行くのだが、それにしても距離がある。

 

「また腐った犬さんです!」

「デスジャッカルね。腐った犬の最上位種よ。それに……」

「スクルトを唱える固ぁいカニさんですよ!?」

 

 デスジャッカル二匹と地獄のハサミ二匹の群れに遭遇。

 

「とりあえず地獄のハサミのスクルトを封じて!」

「はい!」

 

 守備力110を誇る地獄のハサミが魔物全体の守備力を元の値と同じだけ上げる壊れ性能のスクルトを唱えた場合、その時点で魔法による攻撃手段が小悪魔のメラのみという二人には倒せなくなってしまう。

 先にそれを封じるのは必須だった。

 

 小悪魔は魔封じの杖を振りかざした!

 あやしい霧が敵を包みこむ!

 

 ……邪悪な神官の姿をかたどったと言われる胸像が先端に付いた不気味な杖を振りかざし、あやしい霧を振り撒くその姿はどう見ても呪術師か邪神の使い。

 着込んでいる魔法少女じみたデザインのマジカルスカートとのギャップが酷いということもあり、とても勇者とは思えないものだった。

 

「二匹とも呪文を封じました!」

 

 地獄のハサミは呪文を封じるマホトーンに対して弱耐性を持っているため、まれに効かない場合もあるのだ。

 ともあれ効いたなら一安心。

 そしてモンスターの反撃。

 デスジャッカルが小悪魔を殴るが、

 

「この程度なら!」

 

 防具を揃えて守備力を上げているため7ポイントのダメージで済む。

 まぁ、それでも小悪魔のヒットポイントでは6発食らったらアウトではあるのだが。

 そしてデスジャッカルは豪快なハウリングで吠え掛かる。

 アニマルゾンビの咆哮は身をすくませ、素早さをゼロにするボミオスの効果を。

 バリイドドッグの咆哮は守備力を下げるルカナンの効果を持っていたが。

 

「くっ」

 

 デスジャッカルは恐怖による幻覚を与える。

 こちらからの攻撃の半分を外すようにしてしまうマヌーサの効果を持つもの。

 これにパチュリーが影響を受けてしまう。

 

「それでも!」

 

 パチュリーは刃のブーメランで攻撃。

 しかしデスジャッカルへの攻撃を一匹目は外し、二匹目は当て、あとは地獄のハサミだが、

 

「何とかダメージが通った!?」

 

 7ポイントのダメージ。

 複数攻撃武器は後半になるにつれダメージが減少していくものだが、それでも地獄のハサミに効いたというのは心強い。

 次の地獄のハサミには当てられず、確かに攻撃の半分が外れてしまっていたが。

 地獄のハサミはパチュリーに10ポイントのダメージを与え、そしてもう一匹がスクルトを唱える。

 無論、呪文は封じ込められている。

 

「次はデスジャッカルのマヌーサを封じて!」

「はい!」

 

 次のターン、小悪魔は魔封じの杖をデスジャッカルに向け振りかざした!

 あやしい霧が敵を包みこむ!

 

「二匹とも呪文を封じることができました!」

「よくやったわ」

 

 デスジャッカルもまた呪文を封じるマホトーンに対して弱耐性を持っているため、まれに効かない場合もあるのだ。

 そして地獄のハサミが小悪魔を攻撃するが、

 

「1ポイントしかダメージを受けません?」

 

 守備力が極まっているのでそんなものか。

 一方、デスジャッカルの攻撃を受けたパチュリーは17ポイントのダメージ。

 

「パチュリー様!?」

「デスジャッカルの攻撃力はマミーの60ポイントを大きく上回る67ポイントよ」

 

 次いで攻撃を受けた小悪魔も、今度は11ポイントのダメージ。

 

「た、確かに強いっ!」

 

 最初のターンに受けた攻撃が一桁に納まったのはたまたまダメージが低かっただけか。

 最後に残った地獄のハサミはスクルトを無駄撃ち。

 

「あれ? 呪文が封じられていることが分かってないんですか?」

「そうね、地獄のハサミの判断力は1。ドラクエ3では判断力が最高の2でないと呪文を封じられたことが認識できないのよ」

 

 ということだった。

 そしてパチュリーの刃のブーメランが炸裂する。

 

「デスジャッカルを一匹倒したわ」

 

 最大ヒットポイントは42と、この周辺で出現するモンスターとしては低めなので、今のパチュリーたちなら二発当てれば確実に倒せるのだ。

 しかしパチュリーはマヌーサの影響を受けているので、

 

「地獄のハサミには当てられず、ね」

 

 ということで外す。

 次のターンだが、

 

「デスジャッカルをまず倒して!」

 

 とパチュリーは小悪魔に指示。

 自身は武器を、単体攻撃武器だが攻撃力の高い鉄の斧に持ち替え、地獄のハサミの甲羅を割る体勢に入る。

 

「行きます!」

 

 小悪魔の鋼のムチが唸り、デスジャッカルを倒す!

 そしてパチュリーは鉄の斧を地獄のハサミの甲羅に叩きつける!

 

「これでも18ポイントしかダメージが与えられない?」

 

 地獄のハサミからの反撃はスクルトの無駄撃ち、そして小悪魔には3ポイントダメージ。

 小悪魔のヒットポイントが半分を切ったが、残り二匹の地獄のハサミが相手なら治療するまでも無い。

 次のターン、小悪魔は鋼のムチを地獄のハサミに叩きつけるが、

 

「かっ、固ぁい!」

 

 それぞれ6ポイントと3ポイントしかダメージを与えられず。

 そこにパチュリーが鉄の斧を振り下ろして、

 

「ようやく1匹ね」

 

 止めを刺す。

 地獄のハサミの反撃で小悪魔は5ポイントのダメージを受けるが、あと1匹である。

 

「次のターンで何とか」

 

 しかし、倒しきれない。

 敵もスクルトの無駄撃ちで終わるが。

 そして次のターンで、

 

「止め!」

 

 パチュリーの鉄の斧が唸り、ようやく倒しきる。

 

「鉄の斧、あなたから譲ってもらっておいて良かったわ」

 

 とパチュリー。

 一方小悪魔は、

 

「やっぱり攻撃力不足が響いています…… 私が使っている鋼のムチは鉄の斧以上の攻撃力があるんですから、豪傑の腕輪を付ければ……」

「昨日の晩に使った種で私の力が上がっているから、それでも攻撃力の逆転は無理よ? 鋼のムチはグループ攻撃武器だから総合ダメージは上になるかも知れないけど、地獄のハサミのような固い相手だと、そのアドバンテージも無くなってしまうし」

「ううっ!?」

「魔封じの杖で先制して敵の呪文を封じることができたのは、素早いあなたに星降る腕輪を付けて素早さを倍にしていたお陰だし」

「そ、それは……」

「もしスクルトを唱えられていたら逃げる他なくなっていたし、二人ともマヌーサの効果を受けていたら、これもまた逃げた方が良いことになっていただろうし」

 

 ということ。

 

「そもそも素早さが半減して守備力が下がったあなたにデスジャッカルの攻撃が集中したら、そのヒットポイントじゃあ死にかねないわよ」

 

 ということもある。

 とにかく、

 

「治療して進みましょう」

 

 ということになった。

 そうして山地を抜け森林地帯を進んでいくと、

 

「ハンターフライとヒートギズモよ!」

 

 魔法使いの初級範囲攻撃呪文ギラを唱えてくるハンターフライと、火の息で全体攻撃をかけてくる雲状のモンスター、ヒートギズモ。

 それぞれ二匹ずつの群れだ。

 ハンターフライの呪文を封じるかだが、

 

「ここは押し切りましょう」

 

 小悪魔の鋼のムチがハンターフライを薙ぎ払い、それだけで1匹を倒しきる。

 次いでパチュリーの刃のブーメランが残りのハンターフライを倒しきり、ヒートギズモにもダメージを与える。

 

「来る!」

 

 ヒートギズモの火の息がパチュリーたちを舐めて行く。

 もう一匹は固い小悪魔を殴ることを選んだので4ポイントのダメージで済んだが。

 

「次で止めね」

「はい」

 

 小悪魔の鋼のムチが唸り、ヒートギズモたちにダメージを与える。

 ヒートギズモは小悪魔に反撃するが、ミス!

 小悪魔はダメージを受けない!

 

「これで終わりよ!」

 

 そしてパチュリーのチェーンクロスがヒートギズモに止めを刺した。

 チェーンクロスは刃のブーメランより3ポイントだけ攻撃力が高い。

 守備力の高いヒートギズモにはその3ポイントが大きな意味を持つのだ。

 

 そして、

 

「レベルが上がりました!?」

 

 ここで小悪魔がレベルアップ。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:9

 

ちから:34

すばやさ:76

たいりょく:24

かしこさ:22

うんのよさ:16

最大HP:48

最大MP:43

こうげき力:74

しゅび力:99

 

ぶき:はがねのむち

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「これで少しはパチュリー様に近づけました。鋼のムチという武器の強さもありますから装飾品を豪傑の腕輪に交換すれば……」

「でもやっぱり数回の戦闘でレベルアップするような強いモンスターが出る場所では守りを重視しないとダメでしょう?」

「……そうなりますよね」

 

 実際、今回の戦闘でもパチュリーは治療しなくとも問題は無いが、小悪魔は治療が必要だった。

 

 そして次に現れたのは、

 

「ヒートギズモの大群です!」

 

 5匹のヒートギズモ。

 これはもう、全力で攻撃して押し切るしかない。

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔の鋼のムチが唸り、ヒートギズモを打ち据える!

 しかし、

 

「一匹も倒せない!? レベルアップで攻撃力も上がっているのに!」

「ヒートギズモの最大ヒットポイントは37と低めだから甘く見られがちなんだけど、守備力はこの周辺で現れるモンスターの中では頭一つ抜き出ている60ポイント。だから意外と生き残ることが多いのよ」

 

 その上、炎の攻撃呪文、そして退魔の呪文ニフラムには完全耐性持ち。

 風系のバギや氷系のヒャドは効くが、ヒャド一発では微妙に削り切れないヒットポイントと、絶妙にいやらしい能力持ちとなっている上、

 

「反撃が来るわよ」

 

 ヒートギズモが火の息を吐く。

 素早さも24ポイントと、やはり微妙に高いため武闘家や盗賊、あるいは星降る腕輪で素早さを強化した者以外は先手を取られてしまいがち。

 地味に厄介なのが、このヒートギズモというモンスターだった。

 

「くっ」

 

 火の息は最下級のブレスでダメージも一桁と低いが、パーティ全体に確実にダメージを与えてくるのでいやらしい。

 連続で食らって行くと、あっという間に小悪魔のヒットポイントが危険領域に近づいて行く。

 

「これで!」

 

 パチュリーのチェーンクロスが薙ぎ払い、二匹のヒートギズモに止めを刺す。

 

「ぱ、パチュリー様」

 

 小悪魔はあと二発、攻撃を受けたらお終いと言うところまで追い詰められていたが、

 

「このまま押し切るわよ」

 

 星降る腕輪で素早さを上げた小悪魔は確実に先制でき、

 

「二匹まで倒せました!」

 

 ということで、残り一匹なら攻撃されようとも死ぬことは無い。

 

「これで最後!」

 

 パチュリーの攻撃が炸裂し、ヒートギズモの群れは全滅した。

 そして、

 

「ああ、やっぱりレベルが上がったわね」

「ええっ!?」

 

 ということに。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:11

 

ちから:41

すばやさ:23

たいりょく:65

かしこさ:15

うんのよさ:11

最大HP:129

最大MP:30

こうげき力:94/83/80

しゅび力:66

 

ぶき:てつのオノ/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

 

 

「さすが豪傑、力が5ポイントも増えたわ」

「40ポイント越え!? せっかく近づいたのにまた差を付けられました」

「体力の方は補正が無くなったから普通にしか上がらないけど」

「それでもヒットポイントは私の2.7倍ですよ……」

 

 という具合。

 ホイミで治療して進むと、

 

「またハンターフライとヒートギズモです!」

 

 ハンターフライ二匹と、ヒートギズモ二匹の群れだ。

 ハンターフライの呪文を封じるかだが、

 

「前回と同じく、速攻で倒すことで押し切りましょう」

 

 ということにしたが、しかし、

 

「あばばばば!」

 

 今回は小悪魔が絶不調。

 攻撃順が遅れに遅れ、それまでにハンターフライのギラを食らったり、炎の息を受けたり。

 あっという間にヒットポイントを半分まで削られてしまう。

 

「やっぱりボッタクリのお店で倍額であっても呪文のダメージを減らせるマジカルスカートを買っておいて良かったわね」

 

 とパチュリーが言うとおり、それが無ければ危ないところだった。

 それでも遅れて放たれた小悪魔の攻撃によりハンターフライを倒すことはでき、

 

「……この攻撃順だと魔封じの杖を使ってもギラを受けていたわけだし、攻撃を選んでいて正解ということかしらね」

 

 ということで、選択に間違いは無かったようだった。

 次のターン、ヒートギズモに止めを刺し戦闘は終了。

 傷を小悪魔のホイミで治療して先を急ぐ。

 

「今度はハンターフライとデスジャッカルの群れです!」

 

 小悪魔の魔封じの杖がハンターフライの呪文を封じるが、

 

「ダメです、先頭の1匹が効果を逃れました」

「任せて!」

 

 次の瞬間、パチュリーの刃のブーメランがモンスターの群れを薙ぎ払い、呪文を封じることができなかったハンターフライを倒す!

 さらに、

 

「あら?」

 

 もう一匹も倒されていた。

 レベルアップによる攻撃力上昇が効いたようだ。

 デスジャッカルは小悪魔に攻撃。

 そしてもう一匹のマヌーサの効果を持つ咆哮が二人を襲う。

 パチュリーは抵抗に成功したが、

 

「ひっ!? 呪文の効果を受けちゃいました!!」

 

 小悪魔が幻に包まれる。

 

「なら魔封じの杖で呪文を封じて」

 

 マヌーサを受けても物理攻撃以外の行動には影響しないし、またパチュリーにまで呪文の効果が及ぶのも避けたい。

 

「行きます!」

 

 小悪魔は魔封じの杖を振りかざした!

 あやしい霧が敵を包みこむ!

 

 これでデスジャッカルの呪文が封じられた。

 デスジャッカルは物理攻撃で反撃するが、問題ない。

 パチュリーのチェーンクロスで一匹が倒される。

 

「止めです!」

 

 次のターン、意気揚々と最後のデスジャッカルに止めを刺そうとする小悪魔だったが、

 

「あれっ?」

 

 ミス。

 彼女は自分がマヌーサにかかっていることを忘れていた。

 そしてデスジャッカルは……

 仲間を呼んだ。

 

「そんなのアリですか!?」

「アリなんでしょ」

 

 デスジャッカルはマヌーサでこちらの物理攻撃を減じさせたうえで仲間を呼ぶため、戦闘が長期化しやすい相手である。

 攻撃力が高いのもまた厄介であるし。

 

 パチュリーはチェーンクロスで攻撃。

 仲間を呼んだデスジャッカルに止めを刺し、呼び出されたもう一匹にもダメージを与える。

 そして次のターン、

 

「今度こそ!」

 

 と意気込む小悪魔の攻撃が、デスジャッカルに止めを刺した。

 治療して進む二人は、

 

「次が最後でしょうね」

「凄い群れです!?」

 

 ハンターフライ3匹にアントベア3匹という群れに遭遇する。

 

「アントベア?」

「アリクイの英名ね。オオアリクイやお化けアリクイの仲間の最上位種よ」

 

 それはともかく、

 

「ハンターフライの呪文を封じて!」

 

 小悪魔は魔封じの杖でハンターフライの呪文を封じきる。

 これでハンターフライは木偶の坊だ。

 そしてパチュリーの刃のブーメランが敵を薙ぎ払い、ハンターフライ一匹を倒しきる。

 しかし、

 

「痛っ」

 

 アントベアの攻撃力はデスジャッカルを上回る75。

 守備力が高められた小悪魔でも15ポイント、パチュリーなら20ポイントものダメージを受ける。

 

「あと二発受けたら死んじゃいます!?」

「アントベアの最大ヒットポイントは50と高め。安全策で行きましょうか」

 

 幸いアントベアは素早さが低い。

 次のターン、小悪魔は先制ホイミでフル回復。

 

 パチュリーは武器をチェーンクロスに持ち替え、アントベアを集中攻撃する策に出る。

 刃のブーメランは敵全体を攻撃してくれるが、複数攻撃武器は最初に当たったモンスター以降は与ダメージが低くなっていく。

 優先して倒したいモンスターが居る場合はチェーンクロスに切り替えてそのモンスターを集中攻撃した方が良い。

 それゆえパチュリーは3種類の武器を使い分けているのだった。

 

 これでアントベア1匹を倒すことに成功。

 アントベアの反撃がパチュリーに大ダメージを与えるが、しかしパチュリーのヒットポイントならまだまだ安全。

 

 ハンターフライの方は呪文が封じられてもギラを空打ちしてくれる。

 これは2回分のマジックパワーが尽きて、あと1回、マジックパワー不足で唱えられない、という行動を取るまでは変わらないのでしばらくは放っておいても問題ない。

 

「これで!」

 

 次のターン、小悪魔はアントベアを攻撃するが、

 

「倒しきれない!?」

 

 一匹は倒すがもう一匹は倒しきれず反撃を受ける。

 しかし、

 

「そこまでよ!」

 

 パチュリーの攻撃が止めを刺す。

 あとは呪文を空打ちし続けるハンターフライだが、

 

「もうお終いです!」

 

 次のターン、小悪魔に止めを刺されて戦闘は終了だった。

 そして、

 

「レベルが上がりましたよ!?」

 

 小悪魔のレベルが上がるが、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:10

 

ちから:37

すばやさ:78

たいりょく:25

かしこさ:22

うんのよさ:16

最大HP:48

最大MP:44

こうげき力:77

しゅび力:100

 

ぶき:はがねのむち

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「力が上がって攻撃力は増えて、ギラの呪文も覚えました。覚えましたが……」

「ヒットポイント、そのままね」

 

 小悪魔の一番のネックになっているヒットポイントが据え置きである。

 

 そうして何とかバハラタに駆け込む二人だった。




 相変わらずのセクハラから始まるお話でしたが、すねすねパチュリー様の魅力にやられてしまう小悪魔なのでした。

 そしてバハラタの街へと向かう二人でしたが、ここの道中って本当、長いんですよね。
 モンスターも手強いのですが装備も固めてあるし、低守備力、低ヒットポイントの後衛職が居ないため、割と危険は少ないので何とかなってます。
 経験値も多いので、パチュリー様たちみたいに低レベルで進むとガンガンレベルが上がったりしますし。

 次回はバハラタの街。
 そしてパチュリー様にはネコになってもらう予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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バハラタの街 そしてあなほり

 いつものように街の中を探索。

 宿屋では小さなメダルが見つかるほか、泊り客から耳寄りな情報を聞くことができる。

 

「北の山脈には転職をおこなうダーマの神殿があるそうだ。オレもいつかは遊び人…… じゃなくてりっぱな賢者になってみたいものだな」

 

 そして、

 

「私もいつかは遊び人になって、パチュリー様のお尻を触りたいです」

「何言ってるの、この勇者」

「遊び人が戦闘中にやってしまう遊びなんですから不可抗力ですよね? 悟りの書無しに賢者になるためには必要なこと、つまりこれも修行です!」

 

 すべてはチャンス、とばかりに叫ぶ小悪魔だったが、

 

「それ以前に勇者は転職できないでしょう?」

 

 とあっさりとパチュリーにひっくり返されて絶望する。

 

「そっ、そんなの差別ですっ! 職業選択の自由は、救いはないんですか?」

「勇者にそんなものは存在しないわ。勇者は生まれた時から勇者で、死ぬまで勇者よ」

 

 救いはないね、とでもいう風な返答。

 なお『勇者』は『悪魔』と置き換えても話は成り立つものだったり。

 

「私の一生をそこまで要約しなくても……」

「人もうらやむシンプルライフというものね」

 

 しかし小悪魔はせっかくのパチュリーの言葉にも喜ぼうとしない。

 その場に膝をつくと血を吐くような叫びを上げる。

 

「神は私を見捨てたんですかっ!」

「悪魔が神を語るの?」

 

 うだうだとぐずる小悪魔に、いっそ、

 

「家畜(使い魔)に神はいないッ!!」

 

 とでも言ってやった方が諦めも付くのかしら、とため息をつくパチュリーだった。

 

 

 

 更に胡椒の店に向かうが、店員が居ない。

 2階を探してみるが、タンスから旅装束が見つかっただけだった。

 

「どこに行ったのかしら?」

 

 結局、店主は店の裏手に居た。

 

「旅の人、まあ聞いてくだされ。わしの可愛い孫娘タニアが悪党どもにさらわれてしまったのじゃ。そこにおる若者がタニアの恋人のグプタ。わしは2人を結婚させ、店を任せようと思ったのに…… あんたらは強そうじゃな。どうかタニアを助け……」

「いや、ちょっと待って下さい!」

 

 慌てる小悪魔。

 いきなり話を振られるのは『通りすがりの勇者一行』のお約束なのか。

 だが小悪魔が答える前に、グプタが切れた。

 

「僕が行きます! 見ず知らずの旅の人に頼むなんて…… 待っててください。きっとタニアを助け出してきます!」

「グプタ!」

 

 店主の制止も聞かず、グプタは行ってしまった。

 

「無謀ね……」

 

 呆れるパチュリーに、小悪魔は、

 

「『恋はマヌーサ』って言いますから」

 

 などと答える。

 

「妄想と現実の区別が付かなくなるっていうのも問題ね。自分の実力も把握できないなんて」

「でもパチュリー様、助けてあげないと」

「分かってるわ。それにはまず装備を調えないと」

 

 ということで武器と防具の店に。

 

「それじゃあ、ここまでの収入を精算して武具屋で装備を買いましょうか」

 

 不要なアイテムや倒したモンスターを解体して剥ぎ取った素材などを売り払って資金とし、それぞれの所持金を再計算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:3768G

パチュリー:6680G

 

「それでここまでに得た収入が881ゴールドで、一人当たり440ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:4208G

パチュリー:7120G

 

「ここでは魔力を秘めた銀で造られているという魔法の盾を売っているわ。守備力は鉄の盾の20ポイントを上回る25ポイントで、さらに呪文ダメージを3/4に軽減する効果を持つのに、お値段は2000ゴールドと控えめ。コストパフォーマンスに優れた一品よ」

「呪文ダメージ軽減なら、マジカルスカートを既に持ってますけど」

「装備の耐性は累積するの。足し算じゃなく掛け算だけど」

「掛け算ですか?」

「マジカルスカートの効果で3/4、75パーセントに軽減されたダメージを、さらに3/4に減らすというものね」

 

 3/4×3/4=9/16、約56パーセントまでダメージが減るわけである。

 

「武闘家以外の全職業で使用できる、魔法使いにとっては最強の盾よ。僧侶、商人、遊び人、賢者にも耐性有りの盾はこれしかないから最後までこれで通してもいい。また勇者や戦士、盗賊にしてみても、ブレス耐性のあるドラゴンシールドと両方持って敵によって切り替えるという使い方もアリね。特にローテーションで行動が決まっているバラモス戦」

 

 ということだった。

 

「あとはあなたが使える装備として鋼の鎧が買えるわ。今使っているマジカルスカートと違って耐性は無いけれど、守備力は32ポイント。この後、ピラミッドの残りの宝箱を回収したり、カンダタを二回倒さなければならないわけだけど……」

「どれも呪文耐性は要らない、純粋に守備力が欲しい相手ですね」

 

 普通はピラミッド、カンダタ1回目をクリアしてからこの街に来る。

 それならあとはカンダタ二回目を倒せば船がもらえて魔法の鎧が買えるという状況なので買わずに済ませるプレイヤーも多いのだが、パチュリーたちは先に買いに来ているため、活用できる場面も多いということだった。

 

「私たちには魔法使いが居ないから、スクルトで守備力を上げるということができないしね」

 

 ということでもあるし。

 そして代金だが、

 

「魔法の盾は2000ゴールドだけど、今まで使ってきた鉄の盾を900ゴールドで下取りに出すから1100ゴールドで購入が可能。あなたはこれに鋼の鎧の2400ゴールドが加わって3500ゴールドの支出ね」

 

小悪魔:708G

パチュリー:6020G

 

「……借金は、借金にはなりませんでしたけど」

 

 ここまで来ると、3ケタのゴールド程度では装備は何も買えない。

 

「守備力は私が71ポイント。あなたは鋼の鎧を着た時が112ポイント、マジカルスカートを着た時が105ポイントね」

「かなり固くなりましたけど、パチュリー様は大丈夫なんですか?」

「そうねぇ、私もあと10ポイントぐらいは上げようかしら」

「10ポイント?」

 

 首をかしげる小悪魔だが、パチュリーは微笑むだけで答えを口にしようとはしなかった。

 

 それでグプタがどこに行ったのかだが、西の家に住む荒くれ男から、

 

「橋のむこうの洞くつには人さらいが住んでいるそうだ。近づかないほうが身のためだぜ」

 

 という話が聞ける。

 人さらいのアジト、バハラタ東の洞窟とも呼ばれる、実際には北東の森の中にあるダンジョンである。

 そんなわけでアリアハンにルーラで戻って勇者の実家で回復。

 またルーラでバハラタに戻って、そこを目指す。

 そして途中で現れたのは、

 

「デスジャッカルにマージマタンゴ、ハンターフライの群れ!?」

 

 それぞれが二匹ずつの大群だ。

 

「ここはもう、魔法への耐性を信じて押し通すしか無いわね」

 

 というわけでパチュリーは武器を刃のブーメランに持ち替え。

 小悪魔は、

 

「キャストオフ!」

 

 と鋼の鎧を脱ぎ捨て、

 

「チェンジ! マジカルフォーム!!」

 

 その下に着込んでいたマジカルスカート姿となる。

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔の鋼のムチが唸り、デスジャッカルを打ち据える!

 初めて目にするマージマタンゴはその名のとおり呪文、ヒャドを唱えパチュリーを攻撃してくるが、ダメージは56パーセントまで減じられ12ポイントで済む。

 その他にホイミで自分を回復したりするモンスターだが、一方で下位種のおばけキノコやマタンゴが使ってくる甘い息などの催眠攻撃が無いため逆に安心である。

 デスジャッカルの攻撃がパチュリーを襲うが、

 

「これでどう?」

 

 パチュリーの刃のブーメランがモンスターの群れ全体を薙ぎ払い、デスジャッカル二匹を倒しきる。

 これによりマヌーサでこちらの攻撃が外れるようにされることが防がれた。

 後はハンターフライのギラだが、こちらも防具のダメージ減が効いて8ポイント程度のダメージで済む。

 そして残りのマージマタンゴとハンターフライは打撃攻撃を選ぶが、守備力を上げている二人にマジックユーザーの攻撃力では、そう大きなダメージを与えることはできない。

 

「止めです!」

 

 小悪魔の鋼のムチがハンターフライ二匹を倒し、パチュリーの刃のブーメランがマージマタンゴのうち一匹を倒す。

 

「二匹とも倒すまでは行かなかったわね」

 

 と、残りの一匹からヒャドを受けるが、そこまでだ。

 次のターン、小悪魔の先制で最後のマージマタンゴが倒され、決着がつく。

 そして、

 

「狙いどおりレベルが上がったわね」

 

 と微笑むパチュリー。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:12

 

ちから:47

すばやさ:24

たいりょく:67

かしこさ:16

うんのよさ:11

最大HP:132

最大MP:31

こうげき力:100/89/86

しゅび力:66

 

ぶき:てつのオノ/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

 

 

「力が6ポイントも上がったのも嬉しいけど……」

「攻撃力が3ケタ!? 私、まだ77ですよ」

 

 と驚愕する小悪魔だったが、パチュリーはというと、

 

「攻撃力? そんなことより『あなほり』よ!」

 

 商人の特技『あなほり』を使えるようになったことに瞳を輝かせていた。

 小悪魔のホイミで治療をした二人は橋を越えバハラタ東の洞窟に到着。

 そして洞窟に入ったら、すぐに出てフィールドをエンカウントしない程度にうろつきまわって、また中に入るを繰り返す。

 

「パチュリー様、何をしてるんですか?」

「時刻を進めて夜にしているのよ。中に居る間は時刻が進まないし、言及している書籍も見当たらない、ファミコン版の公式ガイドブックには『夜にフィールドを歩くと』と書かれているので、影響のあるのはフィールド上だけでダンジョン内は変化が無いと思われがちなんだけれど、ダンジョン内でも夜になると出現するモンスターに変化が出るの」

「……初耳なんですが」

 

 驚く小悪魔に、パチュリーは説明する。

 

「一番わかりやすいのはガルナの塔の一階に出るハンターフライかしら? このモンスターは夜のみ出現に指定されているから、昼間行っても絶対に会えないの」

「なるほど? じゃあ、このバハラタ東の洞窟にも夜限定のモンスターが?」

「そうね、指定されているモンスターが居るので出現するモンスターの種類は変わらなくとも、出現パターンが変化するわ」

 

 それはどういうことなのか、という話だが、パチュリーはその辺に言及することなく、

 

「それじゃあ、ここまでの収入を精算しておきましょうか」

「はい? こんなところでですか?」

 

 戸惑う小悪魔を他所に、それぞれの所持金を再計算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:708G

パチュリー:6020G

 

「それでここまでに得た収入が175ゴールドで、一人当たり87ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:795G

パチュリー:6107G

 

「はい。でもどうして今?」

「それはもちろん、ここであなほりを始めるからよ」

 

 というわけでパチュリーは夜のバハラタ東の洞窟であなほりを始める。

 あなほりは連続5回まで試すことができるが、それ以降は町に出入りするなり階段を上り下りするなりして場所を切り替えることが必要になる。

 だから洞窟に入ったり出たりすることで切り替え、掘り続けるのだ。

 

「それじゃあ、始め!」

 

 猛然とあなほりを始めるパチュリー。

 大抵は何も出てこない。

 もしくは出てきても、1~2ゴールド程度だが、

 

「毒針が出たわ」

 

 まれに、その場所に出現するモンスターが落とすアイテムが手に入るのだ。

 これは殺人鬼を倒した場合に1/64の確率で入手できるドロップアイテム。

 パチュリーたちには使えないが、もし使い手である魔術師や盗賊が二人以上居るのなら、カザーブで入手したもののほかにここで二本目を手に入れることができる。

 船を手に入れる前にガルナの塔でメタルスライム狩りをやりたいという場合などには有効だろう。

 

「あとは毒蛾の粉が手に入るわね」

 

 毒蛾の粉は幻術士を倒した場合に入手できるドロップアイテム。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券に差し替えられたのだが、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなっているためファミコン版と同様のものに差し戻されている。

 入手確率はファミコン版では1/128であったが…… 妙に数が出る。

 こちらもメタル狩りには必須のアイテムであり、船入手前だと歩いてムオルの村まで買い付けに行くしか無く、しかもムオルはルーラには登録されない場所なので、買い足すにもまた歩いて行かなければならないというもの。

 ゆえに、追加の毒針も得られることから、

 

「船入手前にメタル狩りをやりたい場合、商人が居ればここで準備ができるわね」

 

 ということになる。

 さらには、

 

「な、何ですかそのお金は!」

「所持金の半分のゴールドが(1/4)×(1/128)=1/512の確率で手に入るの」

「ええっ!?」

「あ、また出たわ」

 

 所持金の半額のゴールドが出て金が1.5倍に増えたところに、その半額がさらに入るという倍々ゲームである。

 その他にも、

 

「命の木の実が出たわ」

 

 これは少々特殊な例。

 この洞窟には命の木の実をドロップするモンスターは出ないのだから。

 

「あなほりってまず1/2の確率で外れかどうかを判断して、当たりなら1/2の確率でお金かアイテムを拾う判定をする。つまり1/4の確率でその場に出るモンスターのリストを上から順に、倒した場合のドロップ率を使って判定する訳だけれど」

 

 と説明するパチュリー。

 

「このとき参照するリストは『混成モンスター用(×5枠)』『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』『単一種出現モンスター用(×4枠)』『夜のみモンスター用』『1体のみ出現用』『固定パーティ用(×2枠)』というものなの」

 

 ただし、

 

「このリストの内、『固定パーティ用(×2枠)』の数値はモンスターIDではなく、16進数で00~13(10進数で0~19)までの固定パーティIDなのだけれど、あなほりではモンスターIDとして処理してしまうから、モンスターIDが1のスライムから19のギズモまでのドロップアイテムが混ざってしまう場合があるのよ」

「つまり?」

「ここでならハンターフライとキャットフライは必ず『ハンターフライ3体とキャットフライ2体』でしか現れないから、その固定パーティIDと同じ数値に当たるモンスターIDを持つアニマルゾンビが1/128の確率で落とす命の木の実、それがあなほりで出るようになっていると考えられるわ」

 

 ということだった。

 

「逆に言えば、固定パーティでしか出現しないモンスターのドロップアイテムは、あなほりでは拾えないということになるのだけれどね」

 

 実際、この洞窟では、ハンターフライのドロップアイテムである身かわしの服は、あなほりでは出ないようになっている。

 そうして開始11分の時点で、

 

「出たわ、ぬいぐるみ!」

 

 ということで目的のものが出たのでここで終了。

 所持金の半分のゴールドが2回、毒蛾の粉が3つ、命の木の実が3つ、毒針1つ、ぬいぐるみが1つ。

 これがたった11分のあなほりで得られた成果である。

 

「……これ、ゲームバランスが崩壊してませんか?」

「そうね、一般には「使えない」「あなほりwwwww」「商人とかお前の存在意義がわからんのだけど」などと言われるし、ドロップアイテム狙いなら盗賊に盗んでもらった方が早いっていう意見もあるけれど」

 

 パチュリーは言う。

 

「実際には盗賊に盗んでもらいアイテムを稼ぐというのは高レベルの盗賊を複数人用意しての話だし、戦闘を素早く終わらせるだけの強さも必要。つまり『ゲームクリア後のやり込みなら』という話であって、攻略途中でドロップアイテムを狙うなら、あなほりの方が圧倒的に早いのよ」

「戦って勝つ必要も無いんですものね」

 

 ということだった。

 ともあれ、

 

「ぬいぐるみ、ですか?」

「ネコの着ぐるみね。着るとグラフィックがネコになってくれるのだけれど、守備力が+35とあなたがバハラタで買った鋼の鎧の+32よりも高いのよ」

 

 とモコモコの着ぐるみを着て、ネコの格好になるパチュリー。

 かわいい。

 

 そして、

 

「全職装備可能で着回しが効くから、後々まで役立つものよ」

 

 なお…… スマホ版以降ではダーマの神殿で転職をすると、手持ちの武具で一番いいものが自動的に装備されるようになっている。

 全職装備可能で守備力が高いぬいぐるみはこの時に選択されやすく、転職したらキャラがいきなりネコの姿になって驚くという光景が展開されるのだった。

 

「これはキャットバットを倒した場合に1/128の確率で入手できるドロップアイテムよ。キャットフライも落とすからアッサラームに着いた時点でも拾えるけど、そちらは1/256と半分の確率になっているわ」

 

 もっとも、

 

「さっきの、あなほりの処理の話、大抵のモンスターは単一種でも出現するし混成でも出現するから判定が2回ある。出現パターンのバリエーションが豊富なモンスターなら3回判定する場合もあるってことなのだけれど」

「それって……」

「結構、拾える確率は上がるわね。ちなみに、これがこの場所の遭遇モンスターテーブルデータよ。スーパーファミコン版のものだけれど、この世界はそれを元に作られた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の世界のようだから変わってはいないと思うわ」

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: あやしいかげ

01: さつじんき

02: ----------------

03: げんじゅつし

04: キャットバット

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: わらいぶくろ

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: あやしいかげ

07: さつじんき

08: ----------------

09: げんじゅつし

 

『夜のみモンスター用』

10: キャットバット

 

『1体のみ出現用』

11: ----------------

 

「さっきも言ったようにこれを上から順にチェックするわけだけれども」

「キャットバットは混成、つまり別のモンスターと一緒に出ることはあっても、単一種で出ることは無い、ということですけど、夜のみにも指定されている……?」

「そうね、単純にその分、キャットバットが出現する率が上がることもあるけれど、誰にでも分かる違いとしては、夜のみに指定されているモンスターは、単一種でも混成でも出るから、夜だけにキャットバットが単一種で出るようになる、というのが見て取れるわね」

 

 そして、

 

「あなほりのチェック前にはエンカウントできるかどうかのチェックが入るから、夜のみに指定されているモンスターのドロップアイテムは、夜にだけしか取得できないわ。分かりやすいのは、さっき言ったガルナの塔の1階で夜のみ出現するハンターフライが落とす身かわしの服ね。これ、昼間だと何度あなほりをしても出てこないものだから」

 

 それで小悪魔も理解する。

 

「ああ、それで夜にしてからあなほりをしたわけですね」

 

 そういうことだ。

 一度に行われるチェックの回数が2倍になれば、その分、ドロップするまでにかかる時間は短縮される。

 パチュリーは11分で、ぬいぐるみをゲットしたが、別にこれはリアルラックゆえのものではない。

 大抵、10分も要らずにゲットできるし、パーティ全員分、4つ集めるのにも18分程度、一つ平均5分以下でゲットできるのだから。

 

「逆にこれを知らないで、昼間にあなほりをすると少し大変よ」

 

 キャットバットはダーマの神殿の北のフィールドでも出るのだが、そちらはそちらで単一種でしか出ないので、

 

「その場合、判定は1回だけ?」

「そう、さらに、この洞窟で出るキャットフライは固定パーティでしか出現しないから、そちらの判定も無いし」

 

 キャットフライも落とすし、その分も確率は上がるはず、と期待すると裏切られることに。

 そしてドロップ率が同じであっても、単一種でも出現するし混成でも出現するような、つまりあなほりの判定が一度に二回あるモンスターのものに比べ単純に言って二倍の時間がかかるわけだ。

 

「まぁ、それでも戦ってドロップを狙うよりは遥かに短期間に得られるのだけれど」

 

 ということではあるが。

 一方で、

 

「同じぬいぐるみを落とすキャットフライのドロップ率は1/256なのだけれど、そちらで狙うプレイヤーも居るようね。実際、計算をしてみると昼のここと比べれば、常時、単一種でも混成でも出現するアッサラームあたりであなほりをすれば判定が2回あり、しかも遭遇モンスターテーブルデータの上位にキャットフライが居ることから取得率が逆転することになるし」

 

 アッサラームの遭遇モンスターテーブルデータは、

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: ----------------

01: あばれザル

02: キャットフライ

03: バリイドドッグ

04: バンパイア

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: ----------------

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: ギズモ

07: キャットフライ

08: あばれザル

09: あばれザル

 

『夜のみモンスター用』

10: さまようよろい

 

『1体のみ出現用』

11: どくイモムシ

 

 アイテムの取得は判定が出た時点で終了する。

 ここ、バハラタ東の洞窟ではキャットバットの判定前に、あやしい影の1/64、殺人鬼の1/64、幻術士の1/16(注:スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版は元より、スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版でもこの確率と後に判明)のチェックがあり、そこまでで約1割のドロップ確率があり、その分、ぬいぐるみのドロップ率は下がることになる。

 一方、アッサラームではキャットフライの1回目のチェック前には、あばれざるが1/128の確率で力の種を落とす確率があるだけなので、ドロップ率の低下はほとんど無い。

 その上、さらに2回目の判定がある。

 ゆえに、昼のバハラタ東の洞窟と比べれば、アッサラームの方が取得確率が上がってしまうのだった。




 前回あとがきの予告どおり、パチュリー様にネコになってもらうお話でした。
 あなほりは楽しいですね。
 次回はこのあなほりの更なる可能性、そして……

>「私の匂いがしみ込んだキャミソールはそんなに興奮しますか? うっとりとした目でスンスン鼻を鳴らして堪能しちゃって」

 という具合に小悪魔の媚毒を含んだ甘い匂い責めにされてしまうパチュリー様のお話をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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アンリミテッドブレイドワークス ~無制限に課せられる剣を使った労働~

「それじゃあ、次のあなほりスポットに行きましょう」

「えっ? さらわれた人を助けるんじゃないんですか?」

「ファミコン版と違って、スーパーファミコン版以降のリメイクだと、先にシャンパーニの塔で1回目のカンダタを倒しておかないと、2回目の対戦ができなくなっているのよ」

「ええっ、それじゃあ……」

「ここにはあなほりのために来ただけよ」

 

 ということだった。

 

 小悪魔のルーラでカザーブの村へと跳んで、モンスターから剥ぎ取った素材や毒針を売って清算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:795G

パチュリー:6107G

 

「それで、あなほりによる収入は8694ゴールド。これは私個人の収入という取り決めだったから」

 

小悪魔:795G

パチュリー:14801G

 

「な、なんていう経済格差……」

「そして毒蛾の粉はメタルスライムを使ったレベル上げに使用する共用の消耗品だから、売値232ゴールドの半額をあなたに払ってもらうことになるわ」

「は、い?」

「買値の半額ではないだけ、あなたも得をしているのよ。良心的よね」

 

 毒蛾の粉の売値の半額、116ゴールドを3個分、合計348ゴールドを小悪魔から受け取って、最終的な所持金は、

 

小悪魔:447G

パチュリー:15149G

 

 ということに。

 

「パ、パチュリー様が穴を掘ると私のお金が減る?」

「次はあなたの装備を狙ってみるわね」

「はい?」

 

 カザーブの村を出たら西に。

 途中、アニマルゾンビやキャタピラーなどが襲ってきたが、精算が面倒なので逃亡でスルーして、西の端へ。

 

「それじゃあ始めるわよ」

 

 と、あなほりを始めていきなり、

 

「消え去り草が出たわ」

「へっ?」

「これは魔法おばばを倒した場合に1/64の確率で入手できるドロップアイテムね」

「魔法、おばば?」

「ずっと先のサマンオサ辺りで出てくる、ベギラマやバシルーラ、ベホイミの使い手よ」

「そ、そんなの出るんですか、ここ!」

 

 下位種の魔女すら出ていないこの時期にそんなのあり?

 という話であるが、

 

「このカザーブの西の端には竜の女王の城周辺のモンスターが出るエリアがはみ出ていて戦うことができるの。まぁ、この時期だとまず勝てないんだけれど」

 

 ということだった。

 

「でも勝てなくても、あなほりならドロップアイテムが得られるから」

 

 だから狙い目なのだ。

 

「でも5回掘ったら、街に出入りするなりしてカウントをリセットしなきゃいけないんですよね? ルーラでカザーブに帰って、またここまで歩いて来てですか? まぁ、途中、敵は出ても1、2回。先ほどのように逃げて済ませれば何とかなりますか?」

「そうね、でもこの世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。ということは、フィールドのどこでもセーブできる『中断の書』が利用できるのだけれど、これでセーブとロード、ゲーム的に言えば『タイトルに戻る』をして、それから再開すると、あなほりのカウントがリセットされてしまうの」

 

 そうすれば、また掘ることができるわけである。

 そんなわけで掘り続けていると、

 

「力の種が手に入ったわね」

 

 これはグリズリーを倒した場合に1/64の確率で入手できるドロップアイテムである。

 そうして消え去り草と力の種がそれぞれもう一つずつ出た後、開始9分の時点で、

 

「出たわ、諸刃の剣!」

「……もろはのつるぎ?」

「これは極楽鳥を倒した場合に入手できるドロップアイテムよ。スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券に差し替えられたのだけれど、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなっているためファミコン版と同様のものに差し戻されているの。そしてファミコン版での入手確率は1/256だったのだけれど……」

「1/256!? 低確率入手のアイテムがあっさりと出ましたね」

 

 驚く小悪魔にパチュリーは難しい顔をして、

 

「これが目的だったから、ここで止めてもいいんだけど……」

 

 と口ごもり、

 

「気になるからもう少し掘ってみるわね」

 

 ということで掘り続けてみる。

 最終的に計30分間で掘ることができたのは、

 

 諸刃の剣7(1/256?)

 消え去り草6(1/64)

 力の種5(1/64)

 命の石1(1/128)

 所持金の半分のゴールド2(1/512)

 

「明らかに結果が偏ってますよね!? 特に諸刃の剣……」

 

 と小悪魔が言うとおりの結果になった。

 

「そうね。アイテム取得のルーチンは、ここで出現するモンスターのリストを上から順に設定されたドロップ率でチェックしていって、出たらそこで終了というものだからリストの先に設定してあるモンスターの方が優先されるとはいえ、これは……」

 

 思案するパチュリー。

 

「実はスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版においては、極楽鳥が諸刃の剣をドロップする確率は1/32とも言われているわ」

「はい?」

「これはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版で極楽鳥がすごろく券をドロップする確率と同じ。つまり、すごろく場が無くなったために、すごろく券をドロップするモンスターはドロップ品をファミコン版と同様のものに差し戻したのだけれど、ドロップ率を戻すことを忘れていたってことね」

「そんなこと、あるんですか?」

「この結果を見る限りはあり得るんじゃない? バハラタ東の洞窟では幻術師のドロップ品、毒蛾の粉を拾えたけど、これもファミコン版の1/128ではなく1/16の可能性が……」

 

 実際、スマホ版では幻術師出現エリアで穴を掘ると毒蛾の粉がたくさん拾えるという話が上がっている。

 他にもヘルコンドル出現場所で穴を掘れば身躱しの服がガンガン拾えるという報告も上がっているし。

 ファミコン版でヘルコンドルが身躱しの服をドロップする確率は1/256であるから、やはりスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ですごろく券をドロップする確率、1/16のままになっている可能性が高かった。

 

「まぁ、とりあえずは街に戻って休憩ね」

 

 というわけで小悪魔のルーラでアリアハンに跳ぶ。

 

「溜まった力の種も使わないといけないし」

「そ、そうですね……」

 

 つぶやくパチュリーの背後、小悪魔は抑えきれない欲望にプルプルと震えていた。

 何故って、

 

(力の種を5個連続でですよ…… 今夜こそ!)

 

 

 

 アリアハンに戻り勇者の家で休息を取ると共に、力の種をパチュリーに使うことにする二人。

 種の副作用による筋肉痛を凝縮させたような痛みと、その痛みを和らげる小悪魔のマッサージにより延々と鳴かされるパチュリー。

 セーブ&ロード。

 何度も繰り返される苦痛と、その裏返しの快楽。

 使い魔である小悪魔にベッドに組み伏せられ、散々に嬌声を搾り取られるパチュリーだったが……

 5個目の力の種を使った時にそれは起こった。

 

「かふっ、かはっ!」

 

 急にパチュリーが咳き込むと、苦しそうに喉をヒュウヒュウと鳴らし始める。

 それで興奮の絶頂にあった小悪魔も我に返り、その顔が蒼褪めた。

 

「そんな、喘息の発作!? ここは本の中の世界でパチュリー様は勇者を上回る体力の持ち主。現実と違って……」

 

 言いかけて気付いた。

 

「心因性のものですか!? 私が興奮させ過ぎてしまったから?」

 

 喘息の発作が起こることには複数の要因がある。

 そして喘息を慢性的に患っていた場合、身体的には問題なくとも心理的要因でも起こすことがある。

 その場合、実は逆に過呼吸だったりと対応が難しいのだ。

 

「パチュリー様!」

 

 慌てて伸ばした手は、しかし振り払われる。

 小悪魔は拒絶されたことに、それこそ死にそうな顔をするが、

 

(だい、じょう、ぶ、すこ、し…… 放って、おい、て……)

 

 パチュリーは使い魔である小悪魔との間に繋がれている魔術的なパスを通じて思念により途切れ途切れにそう伝えると、ベッドの上で身体を胎児のように丸める。

 まるで野生動物のように、傷など自分一人で癒すものだとでも言いたげに。

 

「パチュリ、さ、ま……」

 

 その気高くも孤独な姿に、小悪魔は心臓に氷のナイフを突き込まれたかのような冷たい痛みを感じ、ぶるりと体を震わせる。

 そして気づいた。

 

「いつの間にか冷え込んで…… それにこの中世ヨーロッパ風のドラクエ世界、幻想郷と違って空気が乾燥しています」

 

 冷たく乾燥した空気、これが喉を刺激し、喘息の発作を起こすこともある。

 防止するにはマスクで保護すると良いが、

 

「失礼します、パチュリー様っ!」

 

 小悪魔はパチュリーを抱きしめ、シルクの下着、キャミソールに包まれた自分の胸に、パチュリーの顔をうずめさせる。

 

「んんー……」

 

 小悪魔のキャミソールの布越しに、息をつくパチュリー。

 

「冷たく乾燥した空気が喉に悪いのなら、温かく湿った空気は逆にいいはずです」

 

 というマスクに代わる発想だ。

 

「私の下着、温かくて、いい匂いがするでしょう?」

 

 そして他人のぬくもりが与える安心感。

 それらが良い方向に働いたのか、パチュリーの様態は徐々に落ち着き始めるが、

 

「んふぅ……」

 

 同時に小悪魔の催淫成分が含まれた濃密な体臭を吸わされていることに、パチュリーの身体が反応し始めていた……

 

(これは……)

 

 自分の胸の中で弱々しく身をよじるパチュリーに、小悪魔はごくりと喉を鳴らすと、

 

「さっき、差し伸べた手を振り払われた時、もの凄く悲しかったです」

 

 真摯な声。

 

「んん?」

「パチュリー様は私になど手の届かないところにある孤高の存在。ですが、苦しい時ぐらい、この下僕を頼って欲しいのです……」

 

 そう言って小悪魔はパチュリーを抱く両腕に、そっと力を込める。

 パチュリーの身体はそれにピクリと反応したが、縋るような、それでいて壊れ物を抱くかのような小悪魔の様子に、ゆっくりと身体のこわばりを解き、そのまま力を抜いていく。

 だが、

 

(だから、この機会にわからせてあげます)

 

 小悪魔は決意する。

 もう、こんな哀しい意地を張ったりしないよう、パチュリーの精神を屈服させて、その身体を、心を自分に頼るように…… 依存させて見せる、と。

 

(いくら耐性を持っているにせよ、休むことなく悪魔の媚毒が含まれた香りを吸わせ続けていくと興味深いことが起こるんですよ、パチュリー様)

 

 パチュリーの背を優しくなでながら、小悪魔は笑う。

 

(この状態のまま睡眠や気絶で意識を失うと記憶が欠落してしまうんです)

 

 発作後の身体をなだめるようにさする小悪魔の手。

 その中に織り交ぜられる悪魔の手管に、ゆるやかに快感を与えられ高められていくパチュリー。

 ピクリと反応するその身体に、小悪魔は瞳を細め、

 

(飲酒が過ぎると翌朝、記憶が無くなっていることがありますよね? 同様に媚毒で脳と身体を酔わせれば、記憶が欠落…… 保存されずに消えてしまうんです)

 

 こうやって赤ん坊をあやすように胸に抱き、自分の媚毒にまみれた体臭で脳髄まで犯してあげたことも忘れてしまう。

 

(ほうら、喘息の発作による酸欠と疲労で意識が薄れて…… 弱り、空気を求めたところで吸わされる私の、悪魔の媚毒が含まれた匂い。時刻も深夜、身体も睡眠を求めていますからまさに夢見心地でしょう?)

 

 ゆっくりと酸素に紛れて肺から吸収され、血液に運ばれパチュリーの全身を犯していく小悪魔の媚毒。

 

(こうなればもう夢と同じで、抵抗しようという考えを持つことすらできませんよねぇ……)

 

 このように意識を半覚醒状態に、夢うつつの状態に保たれているのでは、抵抗するという選択肢を選ぶこともできない。

 アルコールに酔ったように顔を朱に染め、深く息を吸い続けるパチュリーに、小悪魔は満足げに微笑んだ。

 

「私の匂いがしみ込んだキャミソールはそんなに興奮しますか? うっとりとした目でスンスン鼻を鳴らして堪能しちゃって」

 

 パチュリーの意識がもうろうとしており、もう抵抗は不可能と見た小悪魔は、言葉責めを織り交ぜ始める。

 そのパチュリーの身体をなだめる両腕が、次第に妖しい動きを取っていき、

 

「こうして快感を与えながら私の匂いを覚えさせて…… どうやら効果はてきめんのようですね」

 

 じっくりじわじわと高められ、許容量を超えた瞬間に若鮎のように跳ねるパチュリーの身体。

 

「こんな屈辱的なマーキング。自分の使い魔に匂いを嗅がされながら快感に負け、身体を自由にされるマゾ犬快楽を覚えてしまったら…… もうパチュリー様は普通の行為では満足できない、取り返しのつかないマゾメスにされてしまいますよ」

 

 でも、

 

「そうなればパチュリー様も私に意地を張ったりしない。苦しい時に一人で耐えたりしない。私を頼るようになってくれますよね?」

 

 だからこの機会に、徹底的に躾けてあげるのだ。

 主従逆転の快楽を。

 

 与えられる快感に屈服させられることの気持ちよさ、悦びをその身体と精神に深く刻ませ……

 最終的には自分の匂いを嗅いだだけで、どうしようもなく発情し抵抗できなくなるよう、精神に負け癖を付け、ただのマゾに留まらず敗北マゾに仕立て上げる。

 パチュリーが正常な状態なら抵抗もできようが、しかし、

 

「朝になればすべて忘れていますから、そもそも『抵抗しなければ』という考えを持つことからしてできません」

 

 それに、

 

「まぁ、たとえ覚えていても夢と区別はつきませんしね、フフフ……」

 

 そう言って妖しく微笑む小悪魔。

 

「覚えていたなら覚えていたで、そんな『夢』を見てしまった自分への驚きと嫌悪、そして裏腹に感じる『夢』で見た淫らな行為への強い欲求に苛まれることでしょう。気高い心を持ちながら、その身体と心は被虐の性感を極限まで高められていますから、さぞやもてあますことでしょうね」

 

 そうなってしまえば、いかに気位の高いパチュリーであっても、小悪魔からの誘惑に耐えることなど無理。

 自分から操を明け渡し、そして、

 

「ご自身の淫乱さに驚き、それはそれは愛らしく鳴いて下さることでしょう」

 

 

 

 そして翌朝。

 

「なっ!?」

 

 ベッドに手足を縛りつけられ、大の字に拘束されている小悪魔。

 

「気分はどうかしら、こぁ?」

 

 そしてその姿を見下ろし、口の端を吊り上げるパチュリー。

 

「は、え?」

「たとえ覚えていても夢と区別はつかない? 精神のコントロールは魔法使いの基本。夢の操作すら可能である私を誤魔化せるとでも思っていたの?」

 

 熟達の魔法使いであれば、自分の夢ぐらい自由にできる。

 夢の中での魔法の使用、イメージの具現化など、当たり前のこと。

 であるからして、小悪魔の謀は見事に露見していた。

 だから罰として……

 

「あなたにはこの諸刃の剣を使ってもらうわ」

 

 そう言ってパチュリーがふくろから取り出したのは、曲がりくねった刃が組み合わさったような特異な形状をした武器。

 飛び出た刃の一部が握った指や手首に刺さりそうな位置にあり、使い手が怪我をしてしまいそうな、そんな禍々しさがある。

 

「諸刃の剣は勇者と戦士にしか使えないけど、その攻撃力は+115。破壊の鉄球、王者の剣に次ぐこの世界で3番目に強い武器よ」

「はい?」

 

 そんなものがこの時点で手に入る?

 

「ただし、与えたダメージの1/4を自分も受ける呪われた武器なのだけれど」

「ダメじゃないですかーっ!」

 

 絶叫する小悪魔だったが、しかし、

 

「ヒットポイントさえ高ければ、十分に運用が可能よ」

 

 ということ。

 実際にタフガイの戦士二人に早期に渡し、僧侶に治療を担当させながら使わせる、という攻略法もあるのだ。

 だから次にパチュリーが取り出したのは、

 

「命の木の実、ですか?」

「そう、食べることで最大ヒットポイントを2~5上げるものよ。あなほりで3つ手に入れたから、これまでに拾っていた分と合わせて6個、つまり30ポイントのヒットポイントが上げられるわ」

 

 しかし、

 

「ただ、ドラクエ3のリメイク版ではヒットポイントは体力の能力値の2倍と決まっているから、これで上げても次のレベルアップで上がらなくなる。つまり、この先の成長を前借りするだけの話なのだけれど」

 

 だから体力が255より小さいうちは、その効果は一時的なものであり、レベルや体力が上昇しない状況か、もしくはラスボスに挑む際、レベルアップしても意味が無い状況で使うのが基本と言われているものだった。

 

「あなたの所持金は447ゴールドだったわね。命の木の実は売値が150ゴールド。これまでに拾っていた三つはあなたと私、両方に所有権があるから半額を私に払うことになるわ。そして私があなほりで得た売値が3750ゴールドの諸刃の剣と3個の命の木の実は私個人の収入だから、全額払ってもらう必要がある」

「いっ、いやあああああっ!」

 

 ドーピングにより身体を改造され、諸刃の剣という呪われたアイテムで自らを傷付けながら戦うことになる。

 それも多額の借金を負わされて、という未来に絶望の声を上げる小悪魔。

 それを見下ろすパチュリーは、あくまでも優しい声で告げる。

 

「諸刃の剣は教会で呪いを解けば外せるから」

 

 その言葉に、一筋の光明を得る小悪魔。

 

「な、なら……」

 

 しかしパチュリーは彼女が掴んだかのように見えた救いの蜘蛛の糸を、

 

「自分のレベルの30倍のゴールドを払えたら、の話だけれど」

 

 と即座に切って見せる。

 

「あ…… ああ……」

「そして教会で呪いを解くと、呪われた装備は消え去ってしまう」

 

 でも、とパチュリーはにっこりと笑って止めを刺す。

 

「諸刃の剣はまだ6本あるし、あなほりをすれば短期間に何本も拾えるわ。まぁ、その度にあなたには代金3750ゴールドを払ってもらうことになるのだけれど」

 

 無制限に課せられる剣を使った労働(アンリミテッドブレイドワークス)であった。

 

「主人に対する礼節を忘れた不忠者…… 散々使い倒して、ボロ雑巾の様に捨ててあげるわ!」

「いやあああああっ!!」




 孤高の存在であるパチュリー様に、苦しい時ぐらい自分に頼って欲しい、その想いを『わからせ』ようとする小悪魔のいじましいまでの努力でした。
 健気な子なんですよね、小悪魔は。
 いつかそれがパチュリー様に分かってもらえる日が来ると良いのですが(その予定はありません)

 一方、あなほりですが、スマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では今回の内容どおり、特に使えるようになっているようですね。
 すごろく券から差し戻されたモンスターのアイテムドロップ確率が、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版のすごろく券のドロップ確率のままらしい、という。
 この辺、あなほりが軽視されているためかネット上でも語られている方が見受けられないのですが……

 次回はカンダタ戦1回目です。
 公式ガイドブック推奨の到達レベルは13。
 現在パチュリー様はレベル12商人、小悪魔はレベル10勇者でしかも二人だけのパーティですが、どうなんでしょうね?

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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小悪魔は勇者である カンダタ退治1回目

「止めてー! パチュリー様ーっ!」

 

 小悪魔は改造勇者である。

 彼女を改造したのはパチュリーである。

 世界平和を守るため、小悪魔は悪の魔王と戦うのだ!

 

 

 

 という具合に危うくなりかけた小悪魔だったが、泣いて謝って何とか許してもらっていた。

 

「でも打撃力不足に陥った時に使うため、諸刃の剣は渡しておくわね」

「えぇー……」

「特に魔王バラモスは1ターンごとにヒットポイントが100自動回復するわ。つまりそれ以上のダメージを与え続けない限り、いつまで経っても倒せないのよ」

 

 という話である。

 

「それでここまでの収入の整理だけれど」

 

 あなほりで得た収入の精算だ。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:447G

パチュリー:15149G

 

 そしてカザーブの東の端で行ったあなほりで得られたものは、

 

 諸刃の剣×7

 消え去り草×6

 力の種×5

 命の石×1

 所持金の半分のゴールド×2

 

 力の種は昨晩すべて使用済み。

 諸刃の剣はすべてプール。

 あとは、

 

「一つだけ手に入った命の石はザキやザラキ、メガンテなど死の呪文を受けて即死しそうになった時、身代わりに砕けてくれることで1度だけ命を助けてくれるもの」

 

 だから運が低く呪文の効果を受けやすいパチュリーが持つことにする。

 

「それから消え去り草だけど、これはイベントアイテムで1つあれば十分だから、残り5つを一つ225ゴールドで売って、1125ゴールドの収入ね」

 

 これは問題ない。

 

「まぁ、残った一つはパーティ全体のために使う経費。つまり半額の112ゴールドをあなたに払ってもらうことになるんだけどね」

「ひぃ!」

「買値の半額ではないだけ、あなたも得をしているのよ。良心的よね」

 

 それから所持金の半分のゴールドを2回拾っているので最終的には、

 

小悪魔:335G

パチュリー:35929G

 

 ということになる。

 

「こ、この貧富の差は一体……」

 

 絶句する小悪魔。

 さらに言えば、二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:12

 

ちから:62

すばやさ:24

たいりょく:67

かしこさ:16

うんのよさ:11

最大HP:132

最大MP:31

こうげき力:115/104/101

しゅび力:82/72

 

ぶき:てつのオノ/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:10

 

ちから:37

すばやさ:78

たいりょく:25

かしこさ:22

うんのよさ:16

最大HP:48

最大MP:44

こうげき力:77(152)

しゅび力:112/105

 

ぶき:はがねのむち(もろはのつるぎ)

よろい:はがねのよろい/マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「な、何ですかこれ」

「あなほりで拾った力の種5個が効いているわね」

 

 3×5=15ポイント。

 これは豪傑の腕輪の攻撃力上昇と同じだけの効果を発揮する。

 30分穴を掘っただけで豪傑の腕輪が拾える、と言っても良いものだ。

 しかもこれは、それ以外の物を掘るついでに得られたものである。

 また、中断の書によるカウントリセットを利用したものだから、街やダンジョンへの出入り、階段の昇り降りでリセットした場合ではもっと短期間で集められるはずでもあるし。

 

 商人のあなほりは規格外。

 道理でMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)の『ドラゴンクエストX オンライン』に商人もあなほりの特技も登場しないわけである。

 

「勇者なのに…… これじゃあ本当に諸刃の剣を使わないと立場が無いって話に……」

 

 そういうことだった。

 

 

 

「それじゃあ、カンダタ1回目を倒しにシャンパーニの塔へ向かいましょう」

 

 小悪魔のルーラでカザーブの村に跳んだら、西へと向かう。

 

「大丈夫、諸刃の剣ならカンダタ子分は1発で。カンダタも数発で沈むわ」

「全然大丈夫じゃありませんよ! そんなに私に諸刃の剣を使わせたいんですか!?」

 

 恐怖に震える小悪魔だった。

 

「腐った犬さんです!」

 

 途中、アニマルゾンビと遭遇する。

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔の鋼のムチが唸り、アニマルゾンビを打ち据える!

 しかし、

 

「一匹も倒せない!? レベルアップで攻撃力も上がっているのに!」

「なら!」

 

 同様にパチュリーがチェーンクロスを振るう。

 

「なっ!」

 

 自分とは比べ物にならないほど強力なダメージに小悪魔は驚く。

 

「こっ、これが攻撃力3ケタの力!」

 

 これによりアニマルゾンビが3匹まで倒される。

 残った1匹が小悪魔を攻撃するが、ミス!

 ダメージを与えられない!

 

 次のターン、小悪魔の先制で最後の一匹も倒され、二人はまったくの無傷で戦闘を終えるのだった。

 そして草原に出て橋を越え歩いて行くと、

 

「モンスターの群れです!」

 

 軍隊ガニに人面蝶、キラービー、それぞれが一匹ずつという組み合わせ。

 小悪魔は軍隊ガニを叩くが、

 

「ぐっ、固い!」

 

 相手はカニ型モンスターとはいえ最下級。

 だが、こちらは装備を整えているのだから一撃で、と意気込んだものの倒しきれず。

 しかし、

 

「ならこれで!」

 

 と放たれたパチュリーの刃のブーメランが、敵を全滅させる!

 

「……勇者なのに全然いいところがありません」

 

 凹む小悪魔を連れ、シャンパーニの塔に無事到着。

 試しにあなほりを5回だけやってみるパチュリーだったが、

 

「満月草を手に入れたわ!」

 

 あっさりとマヒを治療する満月草を入手。

 これはキラービーを倒すと入手できるドロップアイテムだが、入手確率が1/8と非常に高いため、あなほりでも手に入れやすいわけである。

 

「まぁ、マヒには気を付けましょうということね」

 

 実際、塔の中を進んでいくと、キラービーの群れに遭遇する。

 キラービー4匹にコウモリ男1体という構成。

 

「マヒしたくないからキラービーから攻撃して!」

「はい!」

 

 と答える小悪魔だったが、

 

「やっ!」

 

 と今回はパチュリーが刃のブーメランを繰り出す方が早かった。

 あっという間にキラービー3体を倒し、残りにも大ダメージを与えて行く。

 

「なら止めです!」

 

 小悪魔の鋼のムチが残ったキラービーに止めを刺す。

 コウモリ男がパチュリーに反撃するが、

 

「2ポイントのダメージ? やっぱりあなほりでぬいぐるみを拾ったのが効いているのかしらね?」

 

 次のターン、小悪魔が鋼のムチを振るいコウモリ男を倒して戦闘を終わらせる。

 

「とても簡単ですね?」

「公式ガイドブックの推奨する到達レベルは13。もちろん4人パーティでの話なのだけれど」

「私、レベル10ですよ。成長の早い商人のパチュリー様はレベル12ですけど……」

 

 とはいえ、実際歯ごたえが無い。

 

「……まぁ、装備を整えたらこんなものなのかしらね?」

 

 ということらしかった。

 次いでキラービーと軍隊ガニ1匹ずつが現れるが、

 

「今度は倒せました!」

 

 小悪魔は一撃で軍隊ガニを撃破。

 そうしてパチュリーの刃のブーメランが残りのキラービーを倒し決着。

 その先には、

 

「宝箱ね」

「お金が入ってました!」

 

 宝箱から430ゴールドを入手。

 あとは階段を目指すが、

 

「カニさんがいっぱいです!」

「今日の夕食はこれで決まりね」

 

 小悪魔の鋼のムチが打ち据えるが、今度は一匹も倒しきれず。

 軍隊ガニの反撃!

 しかし、

 

「効きませんね?」

 

 小悪魔もパチュリーも、攻撃を受けてもミスで終わるか当たっても1ポイントしかダメージを受けないという。

 

「これで終わりよ」

 

 そしてパチュリーのチェーンクロスが薙ぎ払い、群れを全滅させる。

 階段に着いたので、二階へと上がる。

 

「フロアが切り替わったからあなほりをしてみましょうか」

 

 とパチュリーは穴を掘るが、

 

「また満月草?」

 

 ドロップ確率1/8は伊達では無いらしく、5回掘っただけで出てくる。

 そして2階を進むわけだが、

 

「ギズモさんです!」

 

 バハラタへ向かう途中で出てきたヒートギズモの下位種、ただのギズモだ。

 

「メラの使い手なんだけれど、2匹なら呪文を封じるまでもなく倒した方が早いわね」

「はい、call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 ということで小悪魔の鋼のムチが光って唸り、さくっと倒しきる。

 

「このギズモが呪文使いだから、後でヒートギズモに出会った時に魔封じの杖やマホトーンで呪文を封じようとして失敗する冒険者も多いという話よ」

 

 ヒートギズモが使うのは火の息であって呪文ではないのだから無駄に終わるのだ。

 

 そして階段に到着し3階へ。

 あなほりをするが、

 

「さすがに今回は何も出なかったわね」

 

 という結果に終わる。

 さらに上への階段には直行せず、遠回りして宝箱を回収するが、

 

「青銅の盾ですね」

「まぁ、今なら売り払って終了ね」

 

 換金アイテムにしかならない。

 今のパチュリーなら、

 

「無視しても良いものだけれど……」

「お金、大事です」

「ああ、あなたには必要ね」

 

 金欠の小悪魔のためには寄り道してでも回収せざるを得ない。

 そして次の階への階段を目指し引き返す二人の前に現れたのは、

 

「お化けキノコと毒イモムシさんです!?」

「甘く見ないで。お化けキノコは甘い息でこちらを眠らせてくるわ。魔封じの杖で封じることができない分、これまで戦ってきた最上位種のマージマタンゴより厄介な相手よ」

 

 毒イモムシは毒の息でパーティ全体に毒を負わせようとするモンスターだし、これはいやらしい組み合わせだ。

 ゆえに、

 

「倒しました!」

 

 星降る腕輪で素早さを倍にしてある小悪魔の先制攻撃でお化けキノコを倒す。

 毒イモムシからは反撃を受けるが、物理攻撃なら今の二人には1ポイントのダメージで済む。

 そしてパチュリーの刃のブーメランが毒イモムシを一撃で葬った。

 倒したモンスターを解体するが、

 

「そう言えばキノコ型モンスターって何の役に立つんでしょうね? 魔法薬の素材?」

「焼くとパンのように食べられるって話よ」

「ええっ!?」

 

 パンノキと呼ばれる植物があるが、それのキノコ版である。

 

「普通のキノコと同様、食べられる種類とそうでないものがあるから注意が必要なのだけれど」

 

 食べられない種類は普通に毒なのだ。

 さらに、

 

「今度はお化けキノコさんの群れです!」

 

 お化けキノコが二匹で登場。

 

 じゅるり……

 

 垂れそうになるよだれをこらえる小悪魔。

 食べられると分かったとたんにこれである。

 鋼のムチで全滅させ、解体。

 

 そしてこの階へと昇ってきた階段のところまで戻り、ついでに昇り降りしてエンカウントまでの歩数をリセットする。

 また5回だけ、あなほりをするが、

 

「毒消し草が手に入ったわね」

 

 これは毒イモムシが1/8の確率でドロップするアイテム。

 さらには、

 

「スタミナの種も手に入ったわ」

 

 たった5回のチャレンジで入手できるとは運が良かった。

 これはギズモが1/128の確率でドロップするアイテムなのだ。

 

「それじゃあ、この場で使ってしまいましょうか」

「ええっ、ここでですか?」

「カンダタを倒したら確実にレベルアップするでしょうからその前にね」

 

 というわけでパチュリーはスタミナの種を使用するが、

 

「くひぃっ!」

 

 種の副作用による筋肉痛を凝縮させたような痛みと、その痛みを和らげるための小悪魔のマッサージにより鳴かされるパチュリー。

 最高の3ポイント上昇を達成するまで続くセーブ&ロード。

 繰り返される苦痛と、その裏返しの快楽。

 使い魔である小悪魔に組み伏せられ、散々に嬌声を搾り取られるパチュリーだったが……

 

「こんな場所で自ら痴態をさらけ出すことを選ぶなんて、パチュリー様には屋外プレイへの願望があったんですね?」

「なっ……」

「分かります。真面目でプライドが高いパチュリー様だからこそ、日々の生活で蓄積していくストレス。それを開放する、本当の自分をさらけ出す行為で得られる、背徳感にまみれた快楽……」

 

 小悪魔のとんでもない言いがかりに反論しようとするパチュリーだったが、

 

「ああああっ!?」

 

 ぐりりと身体のツボにねじ込まれる指先に、言葉を封じられてしまう。

 

「ふふふ、いいお顔ですよ、パチュリー様」

 

 痛みとない交ぜになった快楽。

 舌を突き出して喘ぐパチュリーの顔を覗き込み、小悪魔は深く笑うのだった……

 

 

 

「いい加減にしないとチェンジするわよ。世界には『赤ちゃんはキャベツ畑で生まれて来る』とか『コウノトリが運んで来るもの』とか信じている純真な小悪魔も居るって話だし」

「お許しを、お許しを~」

 

 ぷりぷりと怒りながらずんずんと先に進むパチュリーと、それに泣いてすがって許しを請う小悪魔。

 そんな主従の前に立ちふさがったのは、

 

「四種混合モンスターパーティですか!?」

 

 と小悪魔が叫んだとおり。

 コウモリ男に毒イモムシ、ギズモにお化けキノコ、それぞれ1体ずつといういやらしいモンスターパーティだった。

 

「とにかく眠らせられないよう、お化けキノコを先に沈めて」

「はい」

 

 小悪魔は即座にお化けキノコを潰す。

 しかし次の瞬間、毒イモムシは毒の息を吐いた!

 だが!

 

「くっ!」

 

 パチュリーと小悪魔は毒を跳ね返した!

 

「何とか耐えきったわね」

 

 パチュリーが放った刃のブーメランが残りのモンスターの群れをなぎ倒し、戦いは終了する。

 そして階段を昇って、あなほり。

 

「また毒消し草ね」

 

 何というか異様に高い拾得率である。

 そして、

 

「コウモリ男とお化けキノコさんです!」

 

 モンスターに遭遇。

 一匹ずつだったのでサクっと倒し、次の階段へ到着。

 それを上がると盗賊たちのアジト。

 なお、試しに5回だけあなほりをしてみると、

 

「毒消し草が得られたわ」

「つまり?」

「このシャンパーニの塔3F~4Fの出現モンスターと同じリストが参照されているようね」

 

 そういうことらしかった。

 実際、この5階では歩き回ると普通にモンスターとエンカウントする。

 ファミコン版では5、6階はエンカウント無しとされていたのだが…… スーパーファミコン版以降のリメイクでは、エンカウント無しは6階だけになっている模様。

 そして盗賊たちのアジトへ踏み込む二人だったが、

 

「おいっ! 変な奴らがきたぞ!」

「モヒカンに言われたくないわね」

 

 カンダタ子分たちの言いようにぼやくパチュリー。

 しかし、

 

「いえ、猫の恰好をしたパチュリー様が居る時点で否定できないと思いますが……」

 

 と小悪魔がツッコむように、彼女は自分がネコの着ぐるみを着ていることを忘れている……

 

「よしっ! お頭に知らせに行こう!」

 

 階段を上がって行くモヒカンたちを、パチュリーは追う。

 遅れてそれに続く小悪魔だったが、階段を上がったところで立ち尽くしている主に、どうしたのかと名を呼びかける途中で、

 

「パチュリー、ウッ!」

 

 と絶句する……

 そう、その場で待ち受けていたのは「俺を見てくれーっ!」とばかりに覆面マントに、ぴっちりと張ったビキニパンツだけを身に付けた筋肉男、カンダタだったのだ!

 

「変態だー!!!!」

 

 である。

 

(変態!! 変態!! 変態!! 変態!!)

 

 混乱する小悪魔は、

 

「なんで裸の男の人なんですか!? なんで!?」

 

 とパチュリーに聞くが、そんなことパチュリーにだって分からない。

 まぁ、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)には、下着同然のブラやミニスカート系の防具しか着れないアマゾネスは、そのセックスアピールが効く男性人型の敵に対してイニシアチブを取ることが、先に攻撃できるとしたルールを課しているものもあったが。

 男女逆でもそういう効果が有り得るのだろうか……?

 ともあれ、

 

「あれを相手にするんですかぁ、パチュリー様ぁ」

 

 泣いて縋りつく小悪魔に、

 

「励みなさい、勇者なんだから」

 

 と冷たく言い捨てるパチュリー。

 そもそも勇者父も同じ覆面パンツ男だろうに……

 

「よくここまで来られたな。褒めてやるぜ! だが、俺様を捕まえることは誰にも出来ん。さらばだ! わっははは!」

 

 胸を反らせて突き出し、笑いに合わせて鍛え上げられた大胸筋をぴくぴくと見せつけるように動かすカンダタ!

 上下する筋肉!

 そして乳首……

 

 あまりの気持ち悪さに二人が固まってしまったところで、落とし穴で階下に落とされてしまう。

 そうして嫌々ながらカンダタを追いかけると、

 

「しつこい奴らめ! やっつけてやる!」

「覆面パンツ男に、しつこい奴呼ばわりされました!」

 

 顔を引きつらせ、ショックを受ける小悪魔。

 

「こっちも好きで変態マスクを追いかけてるわけじゃないんですよっ!!」

 

 と叫ぶ。

 そのやり取りにパチュリーは、

 

「カンダタが捕まらないのって、こうなるのが嫌で誰も追いかけたりしないからだったり?」

 

 そう、つぶやくが。

 

 ともあれ、カンダタとその子分三人との戦闘である。

 面倒なのは子分たちが1グループではなく、散開戦術を取っていて一人一人別になっていること。

 つまり、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔の鋼のムチが唸りカンダタ子分を打ち据えるが、このような敵1グループを攻撃する手段を用いても、一度に一人にしか攻撃できないということだった。

 

 一方、カンダタ子分がパチュリーに反撃するが、ミス、パチュリーにダメージを与えられない!

 そして、

 

「これなら!」

 

 例え敵が散開戦術を取って1体ずつバラバラに襲って来ようとも、敵全体を薙ぎ払うパチュリーの刃のブーメランなら問題ない。

 これで小悪魔がダメージを与えていたカンダタ子分1体を倒しきる。

 あとはカンダタたちの反撃だが、子分たちは数ポイントのダメージしか出せないし、カンダタの攻撃も守備力の低いパチュリーが受けても15ポイント以下のダメージ。

 そして次のターンには子分たちが全滅する。

 

「簡単ですね?」

「油断しないで。カンダタは守備力無視の貫通攻撃、痛恨の一撃を放ってくるわ。私ならともかく、あなたが受けたら一撃で終わりよ」

 

 小悪魔に注意しながら、パチュリーは武器を単体攻撃武器だが手持ちの中では一番攻撃力が高い鉄の斧に切り替えて攻撃。

 

 一方カンダタは全身の筋肉を見せ付けるかのように手に持った斧をゆっくりと振り上げ、渾身の力を込めた痛恨攻撃をしてくる。

 パンパンに張った、脈動する肉体!

 カンダタの動きに合わせ、その筋肉をしたたる汗が、無駄に輝きながら辺りに飛び散る!

 

「いっやーっ!」

 

 衝動のままに鋼のムチを振るう小悪魔。

 しかし、彼女は気付いてしまった。

 ムチでぶたれたカンダタの、覆面からのぞく目が恍惚に輝いていることを!

 さらには、もっとだ、もっとぶって来い、とばかりに一人になったら意味が無い、無駄であるはずの防御、身を守るという行動で、自らの鍛え上げた肉体にあえて小悪魔のムチを受けて見せるカンダタ!

 

「ひぃっ!」

 

 怯える小悪魔に、筋肉の壁が迫る!

 

 ……プツン!!

 

 き…… 切れた。

 小悪魔の頭の中で、何かが切れた……

 決定的な何かが……!

 

 

 

「はぁ……」

 

 プッツンしてカンダタとシバキ合う小悪魔に、ため息をつくパチュリー。

 小悪魔は守備力を高めているので一桁しかダメージを受けないが、それでも何発も受けるとさすがにヒットポイントが削られていく……

 しかしパチュリーは考えるのをやめた。

 

「治療はしなくていいわ。どうせこの子はフルに回復させても痛恨の一撃を受けたら終わりなんだし」

 

 カンダタが何を策していようと……

 どんな攻撃をしてこようと……

 もらった『小悪魔が痛恨の一撃を受けて倒されるまで』という時間だけ、攻撃をブチかますだけなのだ。

 

 ということで攻撃を続け、

 

「止め!」

 

 無事カンダタを倒す。

 二人で倒したため、それぞれ1220ポイントもの経験値が得られる。

 当然、

 

「レベルアップしたわね、二人とも」

 

 ということに。

 二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:13

 

ちから:65

すばやさ:25

たいりょく:73

かしこさ:17

うんのよさ:13

最大HP:146

最大MP:34

こうげき力:118/107/104

しゅび力:82/72

 

ぶき:てつのオノ/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:11

 

ちから:38

すばやさ:80

たいりょく:26

かしこさ:23

うんのよさ:17

最大HP:52

最大MP:46

こうげき力:78(153)

しゅび力:113/106

 

ぶき:はがねのむち(もろはのつるぎ)

よろい:はがねのよろい/マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「ようやくヒットポイントが50を超えましたけど……」

 

 と小悪魔。

 しかしパチュリーのヒットポイントはそれ以上に上がっている。

 

「しかも能力値がすべて1ポイントしか増えないってどうなってるんですか!? 攻撃力も置いて行かれてますよ!! 私、本当に勇者なんですよね?」

 

 ということだった。

 

 一方、裸に覆面パンツ、あとはグローブとブーツのみという筋肉男……

 全身に小悪魔によるムチの跡を刻まれ、激しい戦闘により汗まみれになり、力尽きてはぁはぁ喘いでいるカンダタが、

 

「まいった! 金の冠を返すから、許してくれよ。な! な!」

 

 そう、命乞いをする。

 まぁこれで「くっ、殺せ!」とか言われたら、思わず本当に殺してしまいそうになるくらいヒドイ絵面であり、これ以上関わり合いたくないとばかりに許してやると、

 

「ありがてえ! あんたのことはわすれないよ。じゃあな!」

 

 と礼を言って去って行った。

 

「どこまで本気で言ってるのか分からないんですけど……」

「確かに。あれは、どう見ても懲りないようなタイプよね。……あなたと同じで」

 

 じろりと小悪魔をにらむパチュリー。

 

「で、この冠って、何でしたっけ?」

 

 と誤魔化す小悪魔にため息をついて説明する。

 

「ロマリアの王様から取り戻すよう頼まれていたでしょう」

 

 小悪魔は瞬きをしてしばらく考え込んだ後、

 

「ああ、あれですか」

 

 とようやく思い出す。

 

「まぁ、持ち逃げするという選択肢もあるのだけれど、ファミコン版と違って防具には困っていないしね」

 

 とパチュリー。

 金の冠の守備力は6で武闘家を除くすべての職業で装備できる。

 ファミコン版ではモンスターのドロップでしか手に入らない不思議な帽子か、呪われている般若の面を除けば魔法使い最強の兜だったので、返さないプレイヤーも多かった。

 だが、スーパーファミコン版以降のリメイク作では頭の防具も充実しているので返しても問題は無い。

 

「それじゃあ、こぁ」

「はい?」

 

 パチュリーは小悪魔を塔から突き落とす。

 

「ひあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 不意を突かれた小悪魔は、

 

「デビルウィーング!」

 

 慌てて背に悪魔の翼を広げ、

 

「楽ねぇ」

 

 と自分にぶら下がるパチュリーを支えながら軟着陸。

 

「い、いくら私が飛べるからって、いきなりは止めてください。心臓に悪過ぎます」

 

 そう抗議する小悪魔だったが、パチュリーは取り合わず、

 

「いいからルーラでロマリアに跳んで」

 

 と命令。

 

「はぁ、もう」

 

 小悪魔はため息をつきつつもルーラを使う。

 そうして二人はロマリアへ。




 カンダタ1回目撃破!
 ちょっと強くなりすぎたのか、楽勝でしたが。
 まぁ、それでもカンダタの痛恨食らったら小悪魔はヒットポイントフルでも即死しているところなんですけどね。

 次回はロマリア国王の『王妃寝取らせプレイ』に巻き込まれる小悪魔をお届けする予定です。
 ロマリア王、業が深すぎ……

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ロマリア国王の『王妃寝取らせプレイ』

 ロマリアの城に行って、国王に謁見する。

 

「おお! こあくまよ! よくぞ金のかんむりを取りもどしてきてくれた! そなたこそまことの勇者! 一国の国王としてもふさわしい人物じゃ!」

 

 一国の国王?

 

「とういうわけでどうじゃ? わしにかわってこの国をおさめてみる気はないか? そなたがはいと答えるだけで、すぐにでも王位をゆずろうぞ! どうじゃ?」

「はい?」

 

 何が「というわけ」なのか?

 いきなり何を言い出すのだと面食らう小悪魔に、王は言質は取ったとばかりに畳みかける。

 

「おお、やってくれるか! よろしい! ではこれより、こあくまがこの城の…… と思ったがそなた、よく見れば女ではないか」

 

 と、今さらそのことに気付くロマリア王。

 しかし、

 

「これはおどろきじゃ! ここロマリアの歴史に女性が王になった前例はないのだが…… いやしかし女のかよわきウデでカンダタをたおしたその実力は王としてふさわしいものじゃ。よろしい! 今こそこの国はじめての女王の誕生じゃ!!」

 

 そういうわけで、

 

「この国はじめての女王さまの誕生じゃ! こあくま女王ばんざい!」

 

 という具合に着飾らされ、玉座に据えられてしまう。

 

「い、いいんですか、こんなの!?」

 

 と、戸惑う小悪魔だったが、それに答えてくれるはずのパチュリーは既に下がってこの場には居ない。

 隣に立つ王族の女性に話しかけると、

 

「ごりっぱですわ、こあくまさま!」

 

 などと囃し立てられる。

 

「私、マーラ様じゃないんですけど……」

 

 ご立派扱いされる悪魔というと、釈迦が悟りを開く禅定に入った時、その瞑想を妨げる為に現れた天魔マーラ様。

 天に向かってそそり立つ、ご立派な煩悩そのものの象徴であるが、それはともかく、

 

「わたくしの夫、つまり前の王もよくやってはいたのですけれど……」

「はい?」

 

 この人、王様のお妃さま?

 

「やはり男性では気がつかない、こまかな仕事もございますの。期待していますわ、こあくまさま」

「期待ってどんな!?」

 

 女勇者も男と間違えられるファミコン版、そしてスーパーファミコン版以降のリメイク作でも勇者が男の場合は、

 

「ごりっぱですわ (勇者)さま! どうか このひめとともに すえながく くらしましょうね」

 

 と言って来るので王の娘、王女が宛がわれたかと思われたのだが、リメイク作の女勇者でプレイした場合はこのとおり、王女ではなく王妃だったということが明かされるのだ。

 

「つまり王様、いや、前国王は自分の妻を他の男に抱かせることで悦びを感じる『寝取らせ』好き!? 王妃様もご立派な勇者と末永くナニをする気なんですか!?」

 

 という話。

 

「CERO年齢区分が全年齢対象のA区分、幼児もプレイするゲームに何て性癖をブッ込むんですかエニックスさん!!」

 

 そう叫ばずには居られない小悪魔。

 以前会ったロマリア王の父親に、

 

「わしの息子は遊びずきでな、王様になっても、そのくせが抜けん。困ったやつじゃ」

 

 などと言われていたが、その遊びというのに自分の妻である王妃の『寝取らせプレイ』が含まれているとは、この小悪魔の目をもってしても見抜けなかったのである……

 

「と、とにかくこの衝撃の事実をパチュリー様と分かち合いましょう」

 

 パチュリーが聞いたら、

 

「そんなおかしな気遣い要らないわよ!」

 

 と叫んでいただろう、戯けたことを考えながらパチュリーの姿を求めて周囲の人々に聞き込む小悪魔だったが、

 

「こあくま女王さまに、けいれい!」

「ロマリアは美しい国。こあくまさまのような方にこそ、この国の女王にふさわしいのです」

 

 などと皆、話を聞こうとしない。

 挙句、

 

「ラララ…… ロマリアの地に立つー 美しき姿よー われらをすくわんとー 神が与えし女王よー ラララ」

 

 と歌い出す始末。

 皆、ノリが良すぎ。

 

「城の塔には先代の王…… いえ、今は先々代の王様が居るんですよね?」

 

 そう思いだし、たずねてみると、

 

「なんと! 女王さまにされたのか…… やれやれ、あいつはまだ悪いクセがなおらんらしいのう」

 

 と驚かれる。

 

「悪いクセ…… 女王様にされた……」

 

 小悪魔は鋼のムチを持っているし、つまり……

 

「王様は16歳の若い娘を女王様に仕立て上げて悦に入るマゾ!?」

 

 パチュリーが聞いていたら「そういう女王様じゃないでしょう!」とツッコんでいるところだが、あいにく今この場に彼女は居ない。

 

 次に赴いた衛兵の詰め所では、

 

「あ~あ、家ではカミさんのシリにしかれて、仕事でまで女王さまにつかえるとはなあ………」

 

 とぼやき、小悪魔に気付いて慌てて、

 

「はっ! これは、こあくま女王さま! いえ、なんでもありません!」

 

 そう恐縮する兵にも、妖しく微笑んで、

 

「私も主人(パチュリー様)をお尻の下に敷くのは嫌ではありませんよ」

 

 顔面騎乗的な意味で、という頭のネジが外れまくっているに違いない腐った反応を返す。

 己の股間に主人であるパチュリーの顔をうずめさせ、下着越しにその喘ぎを、吐息を感じてみたい、という強烈な主従逆転凌辱願望である。

 

 一方、その場に居たもう一人の兵からは、

 

「こあくまさまがカンダタをこらしめた武勇伝。しかと聞いています。あなたこそこの国の女王にふさわしいおかたでございます」

 

 と褒めたたえられるが……

『カンダタをこらしめた武勇伝』と言えば聞こえがいいが、実際には、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 などと叫びながらカンダタとその子分を鋼のムチでシバキ上げ、その身体にムチの跡を刻み込んで屈服させた小悪魔である。

 先々代王の「女王様にされたのか……」発言もあって、益々そういう意味での『女王様』にされたのだと確信する。

 しかも王一人の考えではなく、このように末端の兵に至るまで讃えられるという、

 

 わからない……! この国の人ってほんとに頭大丈夫なの!?

 

 な状況。

 城の外に出ると、

 

「わん、わん、わん!」

 

 以前は唸っていたというのに、ご機嫌に挨拶してくれる犬。

 犬でさえも、女王様には尻尾を振るのか……!

 

「パチュリー様が居てくれたら喜んでくれたんでしょうけど……」

 

 そうつぶやきつつも、一件の民家を訪ねてみると、

 

「まあまあ、女王さまがこんなばあさまの所に……。ありがたやありがたや」

 

 と拝まれるが、

 

「ありがたいついでに女王さま。このばあさまのねがいを聞いてはくださりませぬか?」

「いいえ、私はパチュリー様を探さないと」

 

 そう断っても、

 

「えっ? なんですと? すみませんが耳が遠くて聞こえませなんだ」

 

 とスルーされ、

 

「ありがたいついでに女王さま。このばあさまのねがいを聞いてはくださりませぬか?」

「いいえ、ですから……」

「えっ? なんですと? すみませんが耳が遠くて聞こえませなんだ」

 

 無限ループって怖くね?

 

「ありがたいついでに女王さま。このばあさまのねがいを聞いてはくださりませぬか?」

「……はい」

「じつはお城の中庭の花畑を手入れする男が最近仕事をさぼってばかりおりますのじゃ。

 あの花畑は先代の王妃の思い出の場所……

 なのに、このままでは雑草におおわれてしまいまする。

 どうか中庭の花畑にいる男に草むしりをするよう女王さまから、いいつけてくださいまし」

 

 ということだったが……

 小悪魔の中では先代王と言えば、王妃である妻を差し出し他人に寝取らせた上、自分のような若い娘を女王様に仕立て上げて悦に入るマゾ!

 そんな王の妻である王妃思い出の場所が城の中庭の花畑ということは……

 

「まさかそんな場所で露出プレイを!? いやらし過ぎますっ!!」

 

 ツッコミ不在でどこまでも暴走する小悪魔。

 幻想郷の人間がこの場に居たら、

 

「パチュリーー!!!! はやくきてくれーっ!!!!」

「はやくしろっ!!!! (ツッコミが)間にあわなくなってもしらんぞーーーー!!!!」

 

 と叫んでいることだろう。

 そんな小悪魔はパチュリーの姿を求め、

 

「ああ、宿にいらっしゃるかもしれませんね」

 

 と宿屋を訪ねる。

 

「やや、女王さま、おさんぽですか?」

「いえ……」

「おや? ここに泊まりたいとおっしゃるのですか? はっはっは。これはごじょうだんを」

「いえ、そうじゃなくてパチュリー様が泊まっているなら……」

「え? 本当にお泊りに…… ひゃー! す、すこしお待ちを! 急いで二階のお部屋をしたくしてまいります!」

「あ……」

 

 引き止めようと手を伸ばしかけた小悪魔を残して二階へと駆け上がる宿の主人。

 上の階からはどったんばったん大騒ぎしている物音が聞こえ、降りて来たかと思うと、

 

「はあ、はあ…… し、したくがととのいました。どうぞこちらへ!」

 

 と案内されてしまう。

 

「こ、こちらでございます。ではどうぞ、ごゆっくり……」

「ええー」

 

 引き止める間もなく行ってしまう宿の主人。

 ベッドを見ると、フカフカの布団がかけてある。

 少し休むかと思った小悪魔は……

 

「おはようございます女王さま。

 私が宿屋を初めて20年…… これほど嬉しかったことはありません!

 ありがとうございました!」

 

 という具合に寝過ごしてしまう。

 まぁ、シャンパーニの塔を攻略してそのまま休むことなくカンダタを退治していたのだから、疲れが出たのだろう。

 

 なお、この宿泊は無料だったりする……

 

 そして改めてパチュリーを探す小悪魔だったが、

 

「やや、これは女王さま、ごきげんうるわしゅうございます。ところでついさきほど前の王が嬉しそうに地下におりて行ったそうですが……」

 

 という話を聞き、地下のモンスター闘技場へと行ってみる。

 そこはモンスター同士を戦わせ、それに観客が金を賭けるギャンブル場だったが、

 

「あ~らリッチそうなお客さま。どんどんお金を使っていってね」

 

 と扇情的な格好をしたバニーガールが妖しく微笑みかけ、

 貴婦人からは、

 

「まあ女王さま。どうしてこのようないかがわしい所へ……」

 

 と揶揄される。

 お互い様だろうと思いつつ誤魔化すと、

 

「まあっ、後学のために? 私もですのよ。おほほほほ」

 

 とするりと躱され、この場に出入りしている怪しい商人からは、

 

「わかりますよ。女王さまだって人の子だし! いけないって言われたら、よけいにやりたくなることってありますもんね」

 

 と舐めるような目つきでそう言われる。

 

「ようガス! オレはかよわき女性のヒミツを他人に話すようなヤボな男じゃございません。ここで女王さまを見たってことはナイショにしておきましょう! わっはっはっ」

 

 そう請け負われるが……

 

(私知ってます。そんな風に言って、ずるずるとなし崩しに悪い道へと引き込んで、そうして型に嵌められエッチな沼に沈められてしまう、ファンタジー官能小説ではありがちな女王様転落パターンですよね、これ!)

 

 と一人で納得している小悪魔。

 

(市井に降りた女王様には陥落の罠と誘惑がいっぱいってやつですね)

 

 などと考えてゾクゾクしている。

 そうしてようやく、

 

「わっはっはっ、わしじゃよ。前の王さまじゃ。

 しかし、庶民はええのう。賭け事がこんなに面白いとは思わんかったわい!

 そなた、がんばってこの国をおさめてくれよ」

 

 という具合に前の王様と出合う。

 なお、小悪魔の中で相手は、

 

 王妃である妻を差し出し寝取らせた上、自分を女王様に仕立て上げて悦に入るマゾ!

 さらには王妃と城の中庭でプレイするような露出狂!!

 

 であったが、そこに、

 

 王様はデブでハゲ!!!

 

 という情報が新たに加わった。

 そう、この場で国王は大臣など裕福な貴人と同じ格好、グラフィックで表示されているが、これが恰幅の良い禿頭の中年男なのだ。

 ごくりと喉を鳴らす小悪魔。

 王という虚飾を剥ぎ落せば、こんなデブハゲな中年に過ぎない男に、王妃はエロいプレイをさせられているわけなのだから……

 

 ともあれ、

 

「なんと女王さまになってるのは、もういやじゃと申すのか?」

「はい」

 

 小悪魔はパチュリーが居ないと駄目なのだ。

 

「そうか……。いやなものを続けさすわけにもゆくまい。

 わしもしばらくではあるが、少しは息抜きができたしな。

 あいわかった! こあくまよ! そなたはやはり旅を続けるがよかろう!」

 

 というわけで、小悪魔の女王様は終了。

 城に戻り国王から、

 

「ふむ…… わしはあまり見ておらなかったが、こあくまの女王ぶりは見事だったようじゃの

 まぁ、何事も経験じゃ。

 この先もさまざまな出来事がそなたらを待っておるであろう。

 そなたらの更なる活躍を期待しているぞよ。

 ではゆくがよい」

 

 と送り出され、王妃からは、

 

「あなたのような女性が治める国を見て見たかったですわ」

 

 とどこか色気を感じさせる声で告げられ、

 

「でも、仕方ありませんわね。

 あなたにはやらなくてはいけないことがあるのですものね」

 

 と見送られる。

 なお、その場に控える大臣からは、

 

「ここだけの話だが、実は私も5回ほど王様にされたことがあるのだ」

 

 と衝撃の告白が……

 

(国王様は寝取らせプレイの常習犯っ!? こんな剥げ上がった頭と太った身体を持つ中年な大臣にまで自分の妻を、王妃を抱かせて喜ぶ変態性癖の持ち主っ!?)

 

「そなたもまた王様をやりたくなったらいつでもこの城に立ち寄ってくれよ」

 

 と、大臣。

 

 

 

 なお後日、ロマリアの宿を訪ねた小悪魔たちは、

 

「何これ?」

 

 と、これまで無かった張り紙に気付くことになる。

 

“ロマリア王族御用達の宿

 ホテル・ロマリア城へようこそ!”

 

 女王になった小悪魔が宿泊したことから、このように名乗ることにしたらしい……

 

「『ホテル・ロマリア城』って、連れ込み宿(ラブホテル)みたいな名前ですよね」

「知らないわよ、そんなこと!」

 

 相変わらず、パチュリーにセクハラを働き続ける小悪魔だった。




 ロマリア国王の『王妃寝取らせプレイ』に巻き込まれる小悪魔でした。
 ロマリア王、業が深すぎ……

 次はカンダタ二回戦目のため、盗賊のアジトへと向かうのですが、

「覆面パンツが増えました!?」

「あなたって、本当に最低の屑だわっ!」

「こ、これ以上魅了させるようなこと言わないでくださいっ! 悪魔なのにっ、私、悪魔なのに温かい気持ちで満たされちゃうっ! 存在が、存在が浄化されちゃうぅぅぅっ!!」

 みたいな話になる予定です(どんな話だ)

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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人さらいのアジトへ

「次はカンダタと二回目の戦いをして、さっさと船を得たいのだけれど」

「連戦ですか!?」

「1回目が考えていたより歯ごたえが無かったしね。まぁ、まずは収入を整理しましょう」

 

 モンスターから剥ぎ取った素材や青銅の盾を売って清算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:335G

パチュリー:35929G

 

「それでここまでの戦いで得た収入が1158ゴールドで、一人当たり579ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:914G

パチュリー:36508G

 

「あなほりについては私個人の収入という取り決めだったわね。シャンパーニの塔で得られたのは満月草が2つと毒消し草が3つ。共用の消耗品だから、売値の半額をあなたに払ってもらうことになるわ」

「あ……」

 

 買値の半額ではないだけ、小悪魔も得をしているのだが。

 満月草の売値の半額、11ゴールドを2個分、毒消し草売値の半額、3ゴールドを3個分、合計31ゴールドを小悪魔から受け取って、最終的な所持金は、

 

小悪魔:883G

パチュリー:36539G

 

 ということに。

 

「うう、でも借金が、借金が無いだけ……」

「こぁ、船が手に入ったらあなたにはまず、5800ゴールドの魔法の鎧を買ってもらわないといけないわ」

「うぐっ!?」

「兜はオルテガの兜がタダで手に入るにしても、サマンオサまで行ったら9800ゴールドのゾンビキラー、3500ゴールドのドラゴンシールドを買わないといけないし」

「あ…… ああ……」

「あと、現状、私の方が攻撃力が高くなっているからには、雷の杖はあなたに回すから、その売値の半額、937ゴールドを私に払う必要があるし、メタルスライムでレベル上げをする際に必要な使いきりのアイテム、毒蛾の粉の代金はもちろん半額を出してもらわないといけないし」

「うぐ……」

 

 がっくりと膝をつく小悪魔だった。

 

 

 

「さぁ、行くわよ」

 

 小悪魔のルーラでバハラタに跳び、そこから人さらいのアジト、バハラタ東の洞窟を目指す。

 途中、橋を越えたところでハンターフライとデスジャッカルが現れるが、

 

「邪魔!」

 

 無傷で蹴散らす。

 さらに森に入り、デスジャッカル4匹の群れに遭遇。

 

「長引くと面倒だから、マヌーサを封じて」

「はい!」

 

 小悪魔は魔封じの杖を振りかざした!

 あやしい霧が敵を包みこむ!

 

 これでデスジャッカル4匹の内、3匹の呪文が封じられた。

 しかし残った一体が豪快なハウリングで吠え掛かる。

 

「くっ」

 

 デスジャッカルの咆哮は、恐怖による幻覚を与える。

 こちらからの攻撃の半分を外すようにしてしまうマヌーサの効果を持つもの。

 これにパチュリーと小悪魔、二人とも影響を受けてしまう。

 

「運が悪かったわね……」

 

 小悪魔の行動が完全に無駄になってしまった。

 あとは、ひたすら殴り合い。

 こちらの攻撃の半分が外れるとは言え、グループ攻撃武器のチェーンクロス、鋼の鞭でしばき上げて行けば半分は当たるということ。

 デスジャッカルの攻撃はそれなりに強力だが、守備力を高めている二人なら、危険にならない範囲のダメージしか受けない。

 そして数ターン後に決着。

 

「私は治療するまでも無いとして、こぁ、あなたは無駄になってもいいから薬草でヒットポイントをフル回復させておいて」

「はい、私のマジックパワーはカンダタ戦に向けて温存ですね」

 

 そうして小悪魔の治療をした後に、バハラタ東の洞窟に到着。

 

「同じような小さな部屋がいっぱい繋がってますね。今どこに居るのか分からなくなりそうです」

「そうね。正方形の小部屋を東西南北に連結した碁盤の目のような造りだから、マッピングしていないと確実に迷うわね。まぁ、マッピング自体はしやすいのだけれど」

 

 二人は確実に地図を描きながら下層を目指す。

 

「宝箱です!」

「人食い箱が混ざっているから注意しなさい」

 

 人食い箱は宝箱の形をしたモンスターで、開けようとした者を攻撃力200を誇る打撃で襲って来る。

 しかも、

 

「痛恨の一撃まで使って来るんですか!?」

 

 というもの。

 

「そこは心配しなくてもいいわ、こぁ」

「パチュリー様……」

 

 パチュリーは微笑みかけながらこう言う。

 

「あなたのヒットポイントだと、普通の攻撃でも一撃で終わるから」

「そういう意味ですか!」

「開けちゃダメよ。絶対に開けちゃダメよ」

「開けちゃうやつじゃないですか、そのフリは!」

 

 そういう冗談はともかく。

 攻撃力200に痛恨の一撃。

 判断力は0、つまりバカなので勇者パーティの隊列を認識できず、平気で後列のヒットポイント、守備力が低いキャラを襲って来る。

 素早さも67と高く、先制するなら武闘家など、素早い職業の者に星降る腕輪を付けさせて素早さを倍にするなどといった対策を取らない限りこの時期では無理。

 しかもヒットポイントは120で守備力もこの辺で出現するモンスターとしては高く55。

 一人や二人、先制攻撃をしたところで倒しきれない。

 そして甘い息を吐いて眠らせてくることも有るという強敵である。

 

「魔法使いがLv18で習得するインパスなら開ける前に知ることができるのだけれど」

 

 魔法使いが居ないパーティでは使えないし、またレベルがそこまで上がっていなくとも遭遇する機会だってある。

 

「まぁ、出現位置は覚えているから無視すればいいわ」

 

 ということではあったが。

 

「ただしファミコン版とは配置が変わっているから、それを知らないとはまるけど」

 

 もちろんパチュリーは間違わずに人食い箱を避けて宝箱を開けて行く。

 小さなメダル、ゴールドの入った宝箱2つが見つかる。

 そうして、この洞窟で何年も迷っているという兵士と出合う。

 

「南に真っ直ぐ突き当たりの暗闇の壁の中に男が入って行くのを見た!  そして暗闇の向こうから鍵をかけるような音が聞こえたのだ」

 

 その話を聞いて、南下する二人。

 

「さっきの人、水や食料はどうしてるんでしょうね?」

 

 首をかしげる小悪魔に、パチュリーは足を止め、

 

「あら、あなた気付いてなかったの?」

「はい?」

「ただの人間が、こんな場所で外に出ず何年も生きていられるはずが…… いえ、何でも無いわ」

「最後まで言ってくださいよ! 変なところで話を止められると、余計怖いですっ!」

 

 騒ぐ小悪魔を無視して進むパチュリーだが……

 先ほどの兵士のセリフに「何年も迷っている」ということが追加されたのは、スーパーファミコン版以降のリメイク作になってからである。

 このようにリメイクされて情報が追加された結果、よく考えるとヤバいのだけれど、という話がそこかしこに増えたのがドラクエ3というゲームだったりする。

 

 そして到着した南の突きあたり、魔法の鍵を使って扉を開く。

 と同時に中から絶叫が響きわたる。

 

「「「俺を見てくれーっ!」」」

 

 扉の向こうから現れたのは、ぴっちりと張ったブーメランパンツと覆面マント、それ以外はグローブとブーツのみという脳筋(マッチョ)な男が三人だった。

 全員、覆面に空いた穴越しに見える瞳にうっすらと笑みを浮かべており、その筋肉を汗がしたたっていた。

 

「覆面パンツが増えました!?」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 カンダタと同じ裸に覆面パンツの筋肉男。

 殺人鬼と呼ばれるモンスター、それが3体である。

 全身の毛を剃ったような無駄につるっつるな肌をした男たちが、ひねりの効いたキレッキレな動きで、いちいち筋肉を見せつけるポーズを取りながらこちらに迫って来るのだ。

 

 飛び散る汗!

 脈動する筋肉!

 

 あ…… 怪しいーっ!

 怪しさ大爆発だっ!

 来るんじゃなかったと後悔するが、後の祭りと言うものだった。

 

「なんでそんな格好をしてるんですか!」

「好きな服を着てるだけ、悪いことしてないよ」

 

 思わず叫ぶ小悪魔に、殺人鬼は当然といった風に答える。

 

「どこからツッコめば!」

 

 という話だったが、しかし、

 

「な……」

 

 小悪魔の叫びに驚き、片手を額に当てながら大げさにのけ反って見せる殺人鬼。

 まぁ、そうするとブーメランパンツにもっこりと盛り上がる股間が突き出されるわけだが……

 そうしてポーズを取り、こう叫ぶ。

 

「なんと卑猥な!」

 

 やめろ、それはマジでやばい!

 

「我らの肉体美を前に、どこから突っ込もうかなどと」

「なんと、いやらしき少女か……」

 

 違う違う、そうじゃ、そうじゃない。

 

「まぁ、この子がいやらしいと言うのには同意せざるを得ないけど」

「パチュリー様!?」

 

 真面目な顔をして味方を後ろから撃つようなことを言う主人に、もう小悪魔の精神は崩壊寸前だ。

 

「うぁーっ!」

 

 叫び、突進する。

 

「あ、壊れた」

 

 とため息をつくパチュリーは、

 

「一緒に居る笑い袋のことも忘れないであげて!」

 

 と殺人鬼たちの余りの濃さで忘れ去られていた、同時に出現していた笑い袋に対する注意を促す。

 無限のマジックパワーでボミオス、マホトーン、マヌーサを唱える他、ふしぎなおどりを使ってマジックパワーを吸い取る。

 先に倒そうにも素早いため先手を取りにくいし、借りに先手を取ってダメージを与えても、自分の攻撃手順が来た時点でヒットポイントが減っていれば優先行動でホイミを唱え回復する。

 その上、こちらの攻撃を回避することも有るといういやらしいモンスターである。

 しかし、

 

「こぁ、魔封じの杖よ!」

 

 小悪魔は魔封じの杖を振りかざした!

 あやしい霧が敵を包みこむ!

 

「呪文を封じました!」

 

 実はマホトーンへの耐性がゼロなので、種で素早さを上げ、星降る腕輪でその値を倍にした勇者に魔封じの杖を持たせている今のパチュリーたちなら問題なく倒せるものだったりする。

 そしてさらに、パチュリーの刃のブーメランが敵全体を薙ぎ払う!

 何の因果かマッチョの手先になっていた笑い袋を一撃で仕留め、さらには殺人鬼たちにダメージを与えて行く!

 そして殺人鬼たちの反撃!

 

「さすがに攻撃力は高いけれど」

 

 守備力を高めてある小悪魔でも二桁ダメージを受ける。

 受けるがそれだけだ。

 まぁ、痛恨の一撃があるので油断はできないが。

 次のターンで倒しきる。

 

 そして薬草で治療後、その先にあった宝箱でスタミナの種を手に入れる。

 ネコの着ぐるみのフード状になっている頭部を跳ね上げて品を確かめ喜ぶパチュリーだが、しかしそこに、フーフーと息を荒げながら抱き着いて来る小悪魔!

 

「ちょっと、こぁ?」

「パチュリー様成分を補給させてください!」

「ええ? 使い魔の魔力譲渡ならパスを通じてやってるでしょう?」

 

 この世界ではパチュリーは商人だが、だからと言って小悪魔との契約が失効するわけでは無いので、変わらずパスは結ばれ、必要な魔力は供給されている。

 

「そうだけどそうじゃなくて!」

 

 むさくるしい漢の筋肉祭りを目の前で繰り広げられたおかげで、小悪魔の精神がヤバい。

 癒しが、癒しが欲しいのだ。

 

「あ……」

 

 パチュリーの手からスタミナの種を奪い、自分の口に放り込み…… 何事か言いかけた主人の唇を自分の唇で塞ぐ小悪魔。

 口移しに渡される、スタミナの種を飲み込んでしまったパチュリーは、

 

「むぐっ!」

 

 襲って来る体力の能力値上昇に伴う筋肉痛を凝縮したような痛み!

 小悪魔の腕の中、その身体が絶頂したかのように跳ねる!

 そのわななきを身体で直接受け止める小悪魔は、

 

「女の子ってお砂糖にスパイスに、素敵なものぜんぶで出来てるって本当ですね」

 

 パチュリーの唾液に濡れた自分の唇をぺろりと舐め取り、

 

「唾液も」

 

 肉食獣が味見をするように、目の前のパチュリーの頬にぺろん、と舌を這わせて、

 

「汗も」

 

 そしてパチュリーの唇に再び口づけ、そこから漏れる苦鳴を吸い取る。

 

(……悲鳴でさえも)

 

 とにかく甘い。

 自分の腕の中、マッサージという名目で撫でさすられビクビクと震える、そんなパチュリーのすべてを貪るように感じ取り、微笑む小悪魔。

 

(ああ、食べてしまいたい…… パチュリー様の全部)

 

 そうして小悪魔は……

 

 

 

「あなたって、本当に最低の屑だわっ!」

 

 パチュリーに叱られることになる。

 しかしクズ呼ばわりされて頬が緩んでいる小悪魔。

 救いようがない……

 

 まぁ、いずれにせよパチュリーの体力が3ポイント上がったところで先を急ぐ。

 地下2階への階段を降りればそこは盗賊たちのアジトである。

 

「でも、ここであなほりをしたら何が出るのかしらね?」

 

 と思ってあなほりをしてみたが、

 

「何も出ない……」

 

 この階ではモンスターのエンカウントが無いため、あなほりでもドロップアイテムの収集はできない様子だった。

 しかし、

 

「それでも所持金の半額を掘り当てましたよね。19259ゴールド……」

 

 今、パチュリーの所持金はえらいことになっている。

 

 気を取り直して先に進むと賊の宝物庫らしきものがある。

 

「力の種に、素早さの種、賢さの種、命の木の実。取り放題ね」

「悪人のものだからって、遠慮がないですね」

 

 まぁ、

 

「賢さの種は私には不要だから、あなたに。素早さの種もヒットポイントの低いあなたに使って守備力を高めたいわね。星降る腕輪を付けているから効果も二倍だし」

「なら、力の種はパチュリー様ですね」

「そうね、でもこれは後でね」

「はい?」

「そろそろ力の能力値が成長上限値に引っかかりそうなの。性格も力が一番上がりやすい豪傑だし」

「ええっ、そんなに上がっているんですか!?」

「もちろん成長にはランダムの要素が入って来るから、レベルアップしてもそんなに上がらないで上限値との差が開くかもしれない。使うのはその時ね」

 

 というわけで、

 

「さぁ、素早さの種を使いなさい」

「もがっ!」

 

 パチュリーによって、その指ごと小悪魔の口の中に突っ込まれる素早さの種!

 思わず飲み込んでしまった小悪魔は、

 

「かっ、かはっ!?」

 

 能力値上昇に伴い身体を襲う筋肉痛を凝縮させたような痛みにのけ反り、床を転げまわる!

 

「さっきはよくもやってくれたわね」

 

 小悪魔へのお仕置きタイムの始まりである。

 

「ふふふふ」

 

 パチュリーは妖しく笑うと、ネコの着ぐるみにつつまれた腕、前足で小悪魔の身体をふみふみとマッサージしてやる。

 

「あ、あ、あ、そっ、そんなぁ、そんなあああああぁぁ!」

 

 感じられる、肉球による絶妙なタッチ。

 

(こんな、エッチな要素なんかまるで無いことで、こんなにまで気持ちよくされてしまうなんて信じられないっ!)

 

 ぶんぶんと首を振り、小悪魔はもだえる。

 

「ちなみにネコが柔らかいものを前脚で揉むのは、母ネコのお腹を揉むことで母乳を出やすくするため。仔ネコのころ母ネコと一緒に居る時間が短かったネコに見られる行動だと言われているわ」

「あ…… あひぃぃぃぃっ!?」

 

 新たな、未知の感覚に撃たれ、絶叫する小悪魔。

 こ、これが、可愛い者への保護欲?

 いえ、親愛の情!?

 

「こ、これ以上魅了させるようなこと言わないでくださいっ! 悪魔なのにっ、私、悪魔なのに温かい気持ちで満たされちゃうっ! 存在が、存在が浄化されちゃうぅぅぅっ!!」

 

 真っ赤になって悲鳴を上げ、もだえる小悪魔を見下ろし、パチュリーは片方の手、前足を口元に当て、

 

「前脚をくわえるのは、母ネコの母乳を飲む時に揉みながら飲むので、その時に付いた母乳を舐めていた名残だって」

「あ゙ーーーーーーーーーっ!?!?!?」

 

(はっ、弾けるっ! 意識が、心が弾けちゃう!)

 

 可愛らしい者に対する、見守りたい、側に居てあげたいというような、疚しさののかけらも無い純粋な気持ちがあふれてきて止まらないっ!

 

(ダメっ、こんなの知ったら悪魔としての私が終わっちゃう! 私の悪魔としての生にトドメ、刺されちゃうっ!)

 

「いいのよ、我慢しなくて。私があなたを許してあげる」

 

 パチュリーの甘いささやきが、熱い吐息とともに小悪魔の耳に吹き込まれた。

 鼓膜と一緒に、敏感な感覚器である頭の羽を震わせる!

 未知の世界へのいざないが耳を、羽を通じて脳に、いや、魂にしみ込んでいき……

 

「逝っちゃいなさい」

 

 はみっ、て。

 頭の羽、甘噛みされて。

 

 あーっ! あーっ! あーっ!




 ふみふみするネコってかわいいですよね。
 小悪魔が浄化されてしまいそうになるのも無理は無いと思います。

 次回はカンダタ戦2回目をお届けする予定です。
 まぁ、小悪魔にはいざとなれば奥の手、諸刃の剣がありますし(注:呪われる)
 何とかなるでしょう。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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カンダタ退治2回目

 盗賊のアジトへと踏み込むパチュリーと小悪魔。

 

「なんだ、おめえらは? ひょっとして俺たちの仲間になりてえのか?」

 

 何だか勘違いしているモヒカンの悪党共に否と告げる。

 

「じゃ通すわけにはいかねえな…… やっちまえ!」

 

 カンダタ子分たち四人と戦闘に入る。

 前回と違って単体ずつではなく1グループで現れるのでその点については対処が楽。

 しかしカンダタ子分たちはルカナンの呪文で守備力を下げて攻撃してくる。

 

「痛っ!」

 

 下げられた後に攻撃を食らうと20ポイント超えのダメージを受ける。

 最大ヒットポイントが146というパチュリーならともかく、52しかない小悪魔だときつい。

 

「魔封じの杖で先に呪文を封じるべきでしたか?」

「マホトーンに強耐性を持っているから殴った方が早いわ。下がった守備力は次のターンには『装備技』で戻せるから問題は少ないし」

 

 システム的に言えば、ドラクエでは戦闘中に装備を変えられる、装備を変えると能力値が変化する可能性があるので再計算される(実際に装備しなおす必要は無く、現在装備中のものを選ぶだけでも良い)、すると魔法で変化していた攻撃力、守備力、素早さが元の値に戻ってしまうというもの。

 これでスクルト、スカラ、ルカナン、ルカニ、ピオリム、ボミオス、モシャスの効果が解除される。

 不利な魔法を受けた場合に使えるが、同時に味方からの有利な呪文効果も消えてしまうのが難点。

 一般には『装備技』と呼ばれるもので、スーパーファミコン版で使えるようになり、次のゲームボーイカラー版では使えなくなったものだが、スーパーファミコン版を元に制作された携帯電話版以降ではまた使えるようになっているというもの。

 

 一方、魔法使いであるパチュリーからすると現実にも、邪視から身を守る動作として拳から人差し指と小指だけを立てるコルナというジェスチャーがあるように、一定の仕草で相手の呪詛を無効化するというのは魔術的にもあり。

 すなわち、ドラクエ世界ではそれが装備技となっているのだろうという認識だった。

 

「とはいえターンの最初に下げられて攻撃されると痛いし、何度も唱えられると鬱陶しいわね」

「『ルカナン去って、またルカナン』ですね」

「誰が上手いことを言えと!?」

 

 小悪魔の軽口に突っ込みつつチェーンクロスを振るうパチュリーだったが、

 

「こちらの攻撃を回避するのも忌々しいし!」

 

 するりとかわされ苛立つ。

 このカンダタ子分、能力値が強化され、ルカナンとベホイミの呪文を使えるようになっているのが目立った違いだが、地味にこちらの攻撃を回避することができるようになっている。

 回避率はデスフラッターやリメイク版の人食い蛾並みで、感覚的に目に見えて避けられることが分かる程度には煩わしい。

 ともあれ、

 

「そこまでよ!」

 

 殴り、倒しきる。

 

「戦闘中に回復するまでもなく倒せたわね」

 

 ふくろの薬草を使って回復。

 

「そういえばスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではこの部屋の壁にかかった袋からはすごろく券が手に入ったのだけれど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 すごろく場が無くなっているためすごろく券も無く、調べても空になっていた。

 

「他の物を入れてくれれば良いのに……」

 

 奥の牢に進み、バハラタからさらわれた娘、タニアとそれを助けに来て捕まった恋人のグプタを開放。

 それぞれが閉じこめられていた部屋からは、ラックの種、不思議な木の実が手に入るが……

 

「回ってる場合じゃないですよーっ」

 

 小悪魔がツッコんでいるとおり、さっさと逃げれば良いものを再会の喜びに、その場でクルクル回り出す恋人たち……

 

「迷惑だから、どこかよそでやって下さい、よそで!!」

 

 続くカンダタ戦、子分のルカナン対策のため、ラックの種を齧りながらツッコむ小悪魔。

 そして案の定、逃げ出そうとする二人はカンダタたちに逃げ道を塞がれていた。

 

「ふっふっふっ。オレさまが帰ってきたからには、逃がしやしねえぜっ!」

「助けて! 勇者さん!」

「面倒見切れないわね。はぁ……」

 

 ぼやきつつも、助けに入るパチュリーたち。

 敵はカンダタとその子分2人。

 

「うん? なんだこんなヤツをさらってきた覚えは……」

 

 と、言いかけて気付くカンダタ。

 

「うぬぬ! 誰かと思えばまたうぬらかっ! しつこいヤツらめ。だが今度は負けはせんぞっ!」

「覆面パンツ男にまた、しつこいヤツ呼ばわりされました!」

 

 顔を引きつらせ、ショックを受ける小悪魔。

 

「大体、何で肌の色が青黒く変色してるんですかっ、気持ち悪っ!」

「あれ内出血じゃない? あなたがムチで全身シバキまくるから……」

「私のせいですか!?」

「ちなみに二戦目では、その能力値は大幅に強化されているわ」

「ムチで叩かれて強化されるって何ですか、マゾなんですか?」

 

 言いたい放題な小悪魔に、カンダタが叫ぶ。

 

「何を言う! 己の肉体を虐め抜き、鍛え上げる! それこそが漢の本懐、悦びだろう!!」

 

 その肉体を誇示するかのようにポーズを取り、

 

「叫べ! オレの上腕二頭筋!!」

「いやあああああーっ!?!?!?」

 

 こうしてグダグダになりつつも戦闘に入るが、

 

「先に子分を倒すのよ!」

「了解です!」

 

 鋼のムチをカンダタ子分に叩き込む小悪魔。

 そしてパチュリーの刃のブーメランが敵全体を切り払う!

 カンダタの反撃だが、

 

「さすがに攻撃力95は痛いわね」

 

 パチュリーが受けると25ポイント前後のダメージを負う。

 最悪の場合、カンダタ子分のルカナンを受けて守備力を落とされたところに食らうとまずいことに。

 2回戦目のカンダタの能力は、ファミコン版に比べスーパーファミコン版以降のリメイク作では毎ターン50ポイントの自動回復が無くなっている以外は軒並み強化されているが。

 素早さだけは35から23へと下げられており、つまり素早さ37のカンダタ子分が先制でルカナンを使った後にカンダタの攻撃が入る、という可能性が高くなっているのだ。

 特にヒットポイントの低い小悪魔が食らうとまずい、という話だが、

 

「まぁ、第1戦目では判断力がゼロ、つまり隊列に関係なく攻撃してきた相手だけれども、2戦目では判断力が1に強化されていて、ちゃんと前に立つキャラを狙ってくれるからマシかしら」

 

 ヒットポイントの高いパチュリーが攻撃を多めに受けてくれるので、小悪魔は多少楽になる。

 そうして殴り合うが、

 

「これで!」

 

 早々に子分たちを倒しきる。

 

「ルカナン、使いませんでしたね」

「2/8の確率だから、最初に出た四人組だと1ターンに一人は唱える計算だけれども、今回は二人しか居ないから」

 

 他にもベホイミを唱えたが、無駄に終わっている。

 ここで現れるカンダタ子分の判断力はカンダタ2回目と同じ1。

 つまりターン開始時に行動を決めるので、そのターン中に、先に治療対象が倒されてしまうと空振りしてしまうのだ。

 

「後はカンダタだけれども!」

 

 パチュリーは武器を単体攻撃武器だが一番攻撃力の高い鉄の斧に切り替えて殴り合うが、

 

「さすがに守備力70は固いわね」

 

 これでもダメージは35ポイント前後しか通らない。

 攻撃力が落ちる小悪魔だとそれ以下である。

 

「ヒットポイントも700あるし」

 

 ずいぶん長い間殴り合うことになる。

 

「痛恨の一撃が怖いですよね」

「そうね、あなたが受けたらヒットポイントフルでも即死だし」

「ひっ!? そ、そう言えば1戦目にあった防御をしませんけど……」

「ああ、8つある行動オプションの内、1戦目のカンダタは痛恨攻撃、防御に1枠ずつ割り振られていたけれど、2戦目のカンダタでは防御の代わりに痛恨攻撃が割り振られて痛恨攻撃枠が2つになっているわ」

「はい?」

 

 つまりは、小悪魔が受けたら即死する痛恨攻撃の確率が1/8から2/8に上がっている?

 ちょうどその時、カンダタは全身の筋肉を弓のように引き絞り、小悪魔に向け痛恨攻撃を放つ!

 

「っ!」

 

 結果は通常ダメージに終わったが、それはあくまでも運。

 こんなことが続けばいつかはやられてしまうだろう。

 恐怖にかられた小悪魔は、

 

「っ、わあああああっ!」

 

 抜いた。

 諸刃の剣を!

 諸刃の剣は呪われている!

 

「やぁっ!!」

 

 攻撃力153ポイントは伊達ではなく、カンダタの70ポイントもの守備力を抜いて、60ポイント前後のダメージを与える!

 

「っ!?」

 

 まぁ、与ダメージの1/4の傷を自分も追うことになるのだが。

 

「まったく……」

 

 パチュリーは薬草による治療を行う。

 小悪魔には素早さの種を集中投与した上で、星降る腕輪で素早さを倍に。

 パチュリーはあえて素早さを上げず、としている。

 これには後攻治療、諸刃の剣の反射によるダメージを必ず後から治すことができるという利点があるのだ。

 そうして戦闘を続け、パチュリーの手持ちの薬草もあと一つというところで、

 

「勝ちました!」

 

 勝利が確定する。

 なお、

 

「実際には2戦目のカンダタは8つある行動オプションの内、通常攻撃の1枠が優先行動に設定されていて高確率でそれが選ばれてしまう……」

 

 キャットフライの行動パターンにおける8つある行動オプションの内の一つであるマホトーンが200/256、約8割の確率で選ばれてしまうのと一緒。

 

「そういう偏向型の行動パターンを持つものだから1戦目より2戦目の方が痛恨攻撃を選ぶ確率は下がり、それほど警戒しなくても良いのだけれど」

 

 話を聞かない小悪魔が悪い。

 

「えっ、パチュリー様、何か言いました?」

「……何でも無いわ」

 

 パチュリーは優しいので、今さらな話を小悪魔にすることは無かった……

 一方、二人でカンダタたちを倒したので、多量の経験値が入るが、

 

「レベルアップしました!」

「そうね、私も一気に2レベル上がったわ」

「は?」

 

 パチュリーの言っていることが理解できない小悪魔。

 

「あ、れ? パチュリー様、私より二つもレベルが上でしたよね?」

「そうね、だからこれで3レベル差がついたことになるわね」

 

 そんなわけで二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:15

 

ちから:72

すばやさ:27

たいりょく:83

かしこさ:19

うんのよさ:14

最大HP:169

最大MP:38

こうげき力:125/114/111

しゅび力:83/73

 

ぶき:てつのオノ/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:12

 

ちから:41

すばやさ:90

たいりょく:28

かしこさ:26

うんのよさ:24

最大HP:55

最大MP:52

こうげき力:156/81

しゅび力:118/111

 

ぶき:もろはのつるぎ/はがねのむち

よろい:はがねのよろい/マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「3レベル差…… その上、とうとうヒットポイントの差が3倍を超えました……」

「まぁ、あなたもあと少しでレベルアップするでしょう?」

 

 そう告げるパチュリーだったが。

 

「ああ、力の成長上限が上がって余裕ができたから力の種を使っておくわね」

「これ以上の差がーっ!?」

 

 叫ぶ、小悪魔だった。




 カンダタ2回目攻略でした。
 とうとう諸刃の剣を抜く小悪魔。
 まぁ、この先は船を得るのでだいおうイカやテンタクルス対策にはいいんでしょうかね?
 集団攻撃は雷の杖を使えばいいし。

 次回は渇きのツボを手に入れるためエジンベアへ。

「きれいなメスガキでした!?」

 というお話をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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船を入手しエジンベアへ ブタのような悲鳴を上げるパチュリー!?

「まいった! やっぱりあんたにゃ、かなわねえや…… 頼む! これっきり心を入れ替えるから 許してくれよな! な! な!」

 

 再び命乞いをするカンダタを、またあっさりと許すパチュリー。

 

「いいんですかパチュリー様? この人、絶対に懲りないタイプですよ」

 

 人のこと言えると思ってるの?

 そう感じるパチュリーだったが、言っても無駄なので口にはせず、

 

「かの軍師は、敵将を心服させるために七回捕らえ七回許したって言うしね」

 

 と別のことを語る。

 三国志、孔明のエピソードであるが、実際にはパンツ一丁、覆面マントの変質者の相手をこれ以上したく無いからという話でもある。

 この問答、どうせ無限ループするだけだし、それに彼の末路は……

 あれを目にすれば小悪魔も洗脳調教の恐怖に心を入れ替えるかもしれないし(注:無理です)

 

「ありがてえ! じゃあんたも元気でな! あばよ!」

 

 そう言って立ち去る筋肉、カンダタ。

 

 バハラタの街まで戻ると、店に戻ったグプタが黒コショウをタダで渡してくれる。

 それを手にポルトガの王の所へ行くと、

 

「おお、そなたは確か東の地にコショウを求めて旅に出たパチェじゃったな。して、どうじゃったのじゃ? やはりだめであったであろう」

「ダメ元の依頼だったんですかっ!?」

 

 思わず叫ぶ小悪魔。

 一方、パチュリーはというと、

 

(ファミコン版だと「おお、○○○○(勇者の名前)! よくぞコショウを持ち帰った! 約束じゃ。船を与えよう! 表に出てみるがよい」というセリフだったのだけれど)

 

 と首をかしげる。

 先のポルトガ王の言葉はスーパーファミコン版以降のリメイク作で追加されたもの。

 それにより『実はポルトガ王は勇者たちに期待などしていなかった』ということが分かったのだった。

 さらには、

 

「な、なんと!? 持ち帰ったじゃとっ!? おお! これはまさしく黒コショウ!」

 

 ポルトガ王は差し出された黒コショウに大喜び。

 

「よくやったぞパチェ! さぞやキケンな旅であったろう! よくぞなしとげた! その勇気こそまことの勇者そのものじゃ!」

(あ、あれ?)

 

 その言葉に戸惑う小悪魔。

 

「約束どおり、そなたに船をあたえよう! 表に出てみるがよい」

 

 黒コショウと引き替えに船をくれるのだが……

 

「パチュリー様が勇者扱いされていませんでしたか!?」

 

 退席後に叫ぶ小悪魔。

 そう、ファミコン版と違い、リメイク版ではポルトガ王はパーティの先頭の人物を勇者として認めてしまうのだ。

 ロマリア王などはオルテガの息子としての勇者を知っているから勇者を勇者として認識しているが、ポルトガの王にはそういう前提が無いということだろうか。

 

「そうね、王の友人、ホビットのノルド曰く「あれほど純粋な心を持つ人間は珍しいからの」っていうことらしいから……」

 

 パチュリーはそう言うが、

 

「私は純粋に勇者として見られていないってことなんですが、それは!」

 

 小悪魔は嘆く。

 まぁ、ネコの着ぐるみを着て先頭に立つパチュリーもアレだが、

 

「私の後ろに隠れてムチを振り上げ「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」なんて叫びながら敵をしばき上げていた者が勇者だなんて、誰も思わないでしょう?」

 

 ということだった。

 しかし小悪魔は、

 

「「ブ、ブタさんになってください!」の方が良かったですか?」

 

 などとアホなことを言い出す。

 セリフが違えば良いというものではないし、そもそも方向性は変わらないだろうに。

 一方、

 

「豚化の状態異常はこのドラクエ世界には無いのだけれど?」

 

 キョトンとした表情で突っ込むパチュリーは意味が分かっていない。

 そんな純真な主人に、興奮する使い魔。

 

「意味を―― 教えて差し上げますね」

 

 高い知性を備えた、しかし無垢な少女の心をいやらしい知識で染めていく快楽。

 それを知った時にパチュリーが浮かべるだろう、羞恥にまみれた表情を想像して、軽く達してしまう。

 

「こぁ……」

 

 不穏なものを感じたのか、眉根を寄せるパチュリーの反応をスルーして、

 

「いいえ、ここはパチュリー様に身をもって体験してもらい、理解して頂くべきでしょうか?」

 

 

 

「さぁ、パチュリー様、ブタのように鳴いて下さい!」

「ブ、ひいいぃぃぃん!?」

 

「ブタですって!?」と言おうとしたパチュリーに図ったかのようにムチを入れ、鳴かせる小悪魔。

 ひとつながりになった悲鳴は、まさしくブタの鳴き声のようで、パチュリーに羞恥と屈辱と―― そして奇妙な解放感を与えていた。

 それを見通したかのように小悪魔は、

 

「七曜の魔法を極めた魔法使いとしてのプライド、それから解放されるのは気持ちいいですよね?」

 

 再び振るわれるムチ!

 

「ぐひぃっ!」

「矜持とか、体裁とか、世間体とか、自分を縛り付けているものをかなぐり捨ててブタのような悲鳴を上げるのは気持ちいいことですよね?」

「そ、そん、ひいいっ!」

 

 容赦なく振るわれるムチの連打に反論を封じられ、肌を焼く痛みに混乱するパチュリー。

 

「そんなことない、と言うならもう一度試してみて下さい。ムチ打たれ、マゾブタのように鳴いても、パチュリー様は気持ちよくなったりしないって、下僕である私、小悪魔の前で証明して見せてください!」

 

 そしてついにパチュリーは、

 

「ぶ、ひいいぃぃッ!」

 

 鳴いて、しまった。

 

「あはは、何ですそのトロ顔は。やっぱり気持ちいいんじゃないですか」

「んひぃッ」

「もっとです! もっと鳴いて下さい!」

「ぶッ、ひッ」

 

 さらに激しく振るわれるムチ。

 

「強ければ強いほど、賢ければ賢いほど、プライドが高ければ高いほど、それを脱ぎ捨てる解放感は大きくなり、裏返しの、背徳感にまみれた快楽は深く深く、どこまでも大きくなる」

 

 痛みと快楽と共に小悪魔の声が、言葉がパチュリーの精神に刻み込まれていく。

 

 実は、これは怪しい宗教や自己啓発セミナーなどで心身を追い込んだ末に、自分の人格を否定するようなことを叫ばせたりするのと同じ効果をもたらす。

 そんな馬鹿な、と平静な状態の人間は思うだろうが、実際には多くの人間がこれを、

『それまでの自分を縛っていた殻を打ち破る素晴らしい体験だ』

 と誤認し洗脳されてしまう、そんな危険なものなのだ。

 

 ただ……

 小悪魔はあくまでも敬愛している主人、パチュリーに誠実に仕えているつもり。

 誠実だからこそパチュリー自身が気付いていない隠された被虐願望を察して、それを満たしてあげたい、性の奴隷に堕としメチャクチャにしてあげたいと願っているだけで。

 

 それを「理解できないわね」と思いつつも薄々察しているパチュリーと小悪魔の間には、SMプレイに興じるサディストとマゾヒストの関係性にも似た奇妙な信頼感と安心感がある。

 SMプレイには安全のため「これ以上は本当にダメ」という場合に使われるセーフワードが設定されるが、小悪魔と主従契約を交わしているパチュリーもまた、本来なら一言「止めなさい」と言うだけで小悪魔を止めることができる。

 故に心のどこかで安心して主従逆転調教プレイを許しているという面がある。

 

 そして逆に言うならば、パチュリーが簡単に止められるはずの小悪魔を止めない、明確に「止めろ」と命令しないというのは……

 どんなに否定的な言葉や態度を取ったとしてもそれはSMプレイで『誘い受け』をしているのと同じ。

 プレイの一環として嫌がって見せて、責め手の小悪魔を挑発しているのと同じことなのだ。

 

(パチュリー様自身には自覚が無い様子ですけどね)

 

 いびつに歪む、小悪魔の口元。

 ゆえに…… 主人から『許されている』小悪魔はムチを握る手に力を込め、主の望むままに責め続け、そして、

 

「ぶひいぃぃッんッ!」

 

 止めの一撃とばかりに振り下ろされたムチに、パチュリーは絶叫する。

 それで、最後のタガが外された。

 自らを家畜と同等の存在に貶める、自分で自分の尊厳を破壊しトドメを刺すという行為に、目もくらむような解放感を、快感を覚える。

 

「ぶひぃっ」

 

 振るわれるムチと、

 

「ぶひひぃん!」

 

 嫋々と響くメスブタの悲鳴。

 

「ぶひッひいいぃぃッ!!」

 

 無様に鳴くたびにゾクゾクと高ぶり、肥大化していく興奮。

 それがどこまでも、どこまでも続いて行った……

 

 

 

 などと妄想にふける小悪魔の頭を主人からのツッコミ(物理)が襲う!

 

「あいたっ!」

「な、なんて話を聞かせるのっ!?」

 

 まさか自分を被虐ヒロインとした主従逆転SM調教劇を延々と垂れ流されるとは思わなかったパチュリーは、羞恥のあまり真っ赤になって叫ぶ。

 そんな主人の様子に、小悪魔はますます興奮するわけであるが。

 

「正座」

「はい?」

「正座」

「はい……(あああ、主従契約があるから逆らえませんっ!(ビクンビクン!))」

 

 

 

「小悪魔です…… 悪魔なのに正座させられて、ご主人様から慎みと常識の欠如について、こんこんと説教されました」

 

 解せぬ…… とばかりに首をひねる小悪魔に、パチュリーはため息をつき首を振った。

 あきらめた、とも言う。

 

「まずはエジンベアで渇きのツボを手に入れないとね」

 

 ポルトガから出港、北上してエジンベアを目指すが、

 

「海は痺れクラゲが怖いから、満月草を渡しておくわね」

 

 マヒ対策に、それぞれ回復アイテムの満月草を持つ。

 そうして出合ったのが、

 

「半魚人とクラゲさんっ!?」

 

 マーマンと痺れクラゲである。

 

「一匹ずつなら楽ね」

 

 小悪魔の諸刃の剣ならマーマンも一撃。

 まれに倒し損ねる場合もあるが、そこはパチュリーが刃のブーメランの全体攻撃でフォローすればよい。

 痺れクラゲがパチュリーの攻撃前に仲間を呼ぶなどというアクシデントもあったが、無事攻撃を受けないまま倒しきる。

 ただし小悪魔は諸刃の剣の与ダメージの1/4の傷を自分も負う、という効果で負傷していたが、

 

 

 

「う~~ホイミホイミ」

 

 今、ホイミを求めてうめいている私はパチュリー様に従うごく一般的な使い魔。

 強いて違うところをあげるとすれば主従逆転快楽調教に興味があるってことかナ。名前は『こあくま』

 

 そんなわけで海を越えたところにあるエジンベアの城にやって来たのだ。

 

 ふと見ると門に一人の若い兵士が立っていた。

 

 ウホッ! いい門番……(居眠りしていないところが)

 

 ハッ

 

 そう思っていると突然その男は私の見ている目の前で……

 

 

 

「通せんぼしてきましたよ、この人っ!」

 

 ホイホイと城内に侵入しようとした小悪魔は、門を守る衛兵に邪魔される。

 

「ここは由緒正しきエジンベアのお城。いなか者は帰れ帰れ!」

 

 などと言われて。

 そのため、消え去り草を身体に振りかけて姿を消し、潜入することにする。

 

「カザーブの東の端であなほりをして手に入れた魔法おばばのドロップ品ね。この周辺でも、その下位モンスターである魔女からドロップするから、ここであなほりをしても手に入るのだけれど」

 

 ただし魔法おばばのアイテムドロップ率が1/64なのに対し、魔女は1/256だから非効率か。

 

「あれ? アイテムドロップで手に入れないといけないんですか?」

「いいえ、ランシールの街やスーの村なんかでも買えるわ。まぁ、私たちはそこまで行く手間をあなほりのおかげで省けたってわけね」

 

 そういうことでエジンベアの城へ入るのだが、

 

「わが王は心の広いお方だ。おぬしのようないなか者でも話をしてくださるだろう」

 

「わしは心の広い王さまじゃ。いなか者とて、そなたをばかにせぬぞ」

 

「おや? あなたがうわさのいなか者ですか? ふむ…… なるほど、たしかにいなか者ですね」

 

「おっ、あんた見かけん顔だな。旅の人かい? はっはっは、そのカッコを見ればすぐわかるよ。しかもちょっといなか者だろ」

 

 とバカにされ、神父にまで、

 

「こんにちは、いなかの人!」

 

 と言われる。

 

「ここの人たちって『いなか者』って言葉が挨拶だとでも思っているんですかっ!?」

 

 あたまおかしい。

 

「……そう言えば「いなかからはるばるようおこしやす」というのが歓迎の言葉だという土地もあるって話だったわね」

 

 そう考えると、この国の人間の言動も、あながちあり得ないものでは無いということだろうか?

 しかし、

 

「そもそも本当に栄えている場所なら、彼らの言う『いなか』からどんどん人が集まって来るはずなんだから、人をいなか者呼ばわりなんてしないはずなのよ」

 

 とパチュリーは肩をすくめ、

 

「まぁ、この国の現状から言って、過去の栄光に縛られている人たちって感じよね」

 

 そういうことだった。

 一方、庭から小さなメダルを2枚回収したりしながら、それ以外の人間の話を聞いていくと、

 

「その昔、海に沈んだほこらがあるそうです。今は浅瀬になってるとか。なにか宝物が眠っていそうでわくわくしますな」

 

「この世界のどこかに海の水をひあがらせるつぼがあるそうです。え? この城に? そんなまさか……」

 

「ぼく知ってるよ。最後のカギってどこかのほこらにあるんだよね」

 

 という具合に、

 

「要するに、海に沈んだほこらに最後の鍵があって、この城には海の水を干上がらせるツボが隠されている、というお話ですよね、パチュリー様」

 

 有用な情報を得ることができる。

 つまり、この国ではよそ者をいなか者呼ばわりしない人間の方がはるかに役立つ、有能であるということなのだろうか。

 そして、

 

「城の地下にある3つの石を青い床にうまく並べると、なにかが起こるらしいぜ。失敗したときは1度地下から出ると、やりなおせるって話だ」

 

 と促され、向かった地下には3つの岩を並べる謎かけが。

 

「……バカにしてるのかしら? この程度なら、はい、この通りね」

「さすがパチュリー様ですっ!」

 

 岩を3つ並べると、隠し部屋への通路が開く。

 その奥には渇きの壺があった。

 

「浅瀬でこれを使えばいいわけね」

「それじゃあ、今度はそれを探しに行くんですね」

 

 それはこの後の話として、さらに探索を続けると1階の王族の寝室からは、おしゃれなスーツ、パーティードレス、『淑女への道』が手に入った。

 

「凄いです。ドレスですよ、ドレス!」

「テロでも警戒してるのかしら? これ魔法の鎧と同じだけの守備力を持ってるわよ。それに……」

「どうかしましたか?」

「これって、装備できるのが盗賊と遊び人だけなのよね」

「はい?」

「王族なんて、一皮剥けばそのどちらかってことね」

「ろ、ロマンがありませんね……」

 

 パチュリーは淑女への道を手に取って見定めた。

 

「おしとやかな女性を目指せ! テーブルマナーを極めよう…… ね」

 

 淑女への道は読んだ者の性格を『おじょうさま』に変える本である。

 しかし黄金のティアラ入手時にも検討したが、パチュリーたちにはこの性格に変えるメリットは無い。

 まぁ、このエロ使い魔の性格をまともなものに変えてしまいたいのは山々なのだが。

 

 そして中庭でこの国の王女、マーゴッド姫と出会う。

 

「あたし、聞いちゃった。あなたいなか者なんですってね。うふふ。今度、いなかの話を聞かせて欲しいわ」

 

 御多分に漏れずこの姫もパチュリーたちを、いなか者扱いする。

 

「強烈なメスガキ臭がします……」

「仮にも王女をメスガキって……」

 

 その物言いに呆れかえるパチュリーだったが、小悪魔は真剣な表情で語る。

 

「さっきの寝室、この王女様と王様のものなんですよね? この歳にもなって父親と一緒の寝室? 王様だって、王女一人しか後継者が居ない様子なのに、妃を迎えている様子もなく、娘と寝室を共にする……」

 

 

「ほぅら、早くもっと逃げるのだ。さもないとつかまえてしまうぞー」

「やぁーっ!」

 

 

「みたいな?」

「……ただの追いかけっこよね? 父親と娘の微笑ましい親子の触れ合いよね?」

「しかも読んだ者を洗脳調教し、従順な『おじょうさま』に仕立て上げる『淑女への道』まで用意しています。つまり実の娘を……」

 

 

「クッ…このメスガキ……ッ、大人を舐めやがって…… わからせてやるッ!! 大人のやり方(アイテムに頼った洗脳調教による性格改変)を思い知らせてやる……ッッ!」

 

 

「っていう具合に都合のいい愛奴人形に仕立て上げようって魂胆ですね!」

「やっぱりそういう意味で言ってたのね……」

 

 そんなはずあるか、と思いたいが、小悪魔の言うとおりだったら怖すぎるため『淑女への道』は持ち去った方が良いのだろう。

 

 まぁ、夜中に忍び込んでみると、この王女様は寝言で、

 

「いなか者…… いなか者…… って、なに? ……むにゃむにゃ……」

 

 などとつぶやいているので、そもそも『いなか者』という言葉の意味を知らないで使っている様子なのだが。

 

「きれいなメスガキでした!?」

「その言い方から離れない?」

 

 小悪魔の発言に、呆れ顔のパチュリーだった。




 きれいなメスガキって……
 でも、一見生意気な女の子が実は無垢な存在だったっていうパターンはギャップ萌えしますよね。

>「「ブ、ブタさんになってください!」の方が良かったですか?」

 これは『FINAL FANTASY IV THE AFTER -月の帰還-』の特技『コールミークイーン』使用時のセリフだったり。
 ムチを装備した女性四人のバンド技で最後にこのセリフと共にしばかれた相手は状態異常『豚』になります。
 なお、

> 実は、これは怪しい宗教や自己啓発セミナーなどで心身を追い込んだ末に、自分の人格を否定するようなことを叫ばせたりするのと同じ効果をもたらす。

 というわけで、ブラック企業の新入社員研修などにありがちな洗脳手段について注意喚起も兼ねて書かせていただきました。
 このようにこのお話は健全な精神を持ちましょう、という意図で書かれています。
 ですから、

 このお話は健全、いいね?

 ということでひとつ。

 次回は最後の鍵を取って、そしてあなほり祭りの開催です。
 まぁ、開始5分で目的のアイテムをゲットできちゃうんですけどね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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最後の鍵 パチュリー様のたわわ その302 「パァン」

 アリアハンから船に乗って南下。

 

「目的の浅瀬が見えて来たわね」

 

 というところでモンスターに襲われる。

 

「おっきなイカさんです!? 触手プレイが捗りますね!」

「あなたが何を言っているのか分からないわ……」

 

 頭が痛いとでもいうように、額を押さえるパチュリー。

 ともあれ、

 

「だいおうイカが一匹というのは運がいいわね」

「はい?」

「最大3匹で出現するモンスターだし、この浅瀬の周辺は上位種であるテンタクルスの出現ポイントでもあるのよ」

 

 そういうわけで、

 

「イカリングにしてあげます!」

 

 諸刃の剣で斬りかかる小悪魔だったが、

 

「倒しきれない!?」

 

 60ポイント近いダメージを与えても、だいおうイカは倒せない。

 

「くっ!?」

 

 同時に諸刃の剣の自傷ダメージ、与ダメージの1/4の傷を負う小悪魔。

 

「だいおうイカの最大ヒットポイントは135よ」

 

 鉄の斧で斬りかかりながらパチュリーが説明する。

 50ポイント越えのダメージを与えるが、それでもだいおうイカは倒れずに、

 

「ゲッソ~! われのイカりを受けてみよ!」

 

 とばかりに反撃してくる。

 極太触手による横殴りの打撃を、ボクシングのスウェーのようにのけ反り気味に回避行動を取ることでダメージを減らそうとするパチュリーだったが、

 

「いっ……、た」

 

 攻撃力85が繰り出す一撃に24ポイントものダメージを受け、その場にうずくまる。

 

「パチュリー様!?」

 

 慌ててだいおうイカに止めを刺す小悪魔。

 今度こそ倒せた。

 無論、諸刃の剣の自傷ダメージは受けるが、それどころではない。

 

「逃げ遅れた胸を、思いっきり横からぶたれた……」

 

 涙目のパチュリー。

 彼女が着ているのはネコの着ぐるみ。

 モコモコでだぶついているこれのせいで分からなかったが、胴体が避けられても、その動きに続く胸のふくらみが避けきれず横殴りにビンタされた模様。

 これは痛い……

 

「大変ですっ、治療しなくては!」

「着ぐるみの前を開けるな! 中に手を入れるな!」

 

 しゃがみ込むパチュリーの背から覆いかぶさるようにして小悪魔は、

 

「何言ってるんですか、クーパー靭帯が損傷でもしてたらどうするんですかっ!」

 

 と言いつつ、胸の付け根や周囲をやわやわとマッサージしながらホイミで治療する。

 

「ふっ、くっ……」

 

 漏れそうになる、熱く湿った吐息をこらえるパチュリー。

 小悪魔は胸の先端に触れたりしてはいない。

 純粋な治療行為のはず。

 それなのに身体が痺れ、火照るのは何故、と混乱するが、

 

(ふふふ、気持ち良くなる胸のツボって色々あるんですよパチュリー様。例えばアンダーバスト)

 

 パチュリーの胸を下から持ち上げるようにしてやわやわとマッサージする小悪魔。

 

「くふっ!?」

 

 どうしてこんなことで、と驚くパチュリーだったが、

 

(もちろん、種による能力値上昇に伴う筋肉痛を和らげるマッサージの時に、少しずつ、少しずつ開発してきた結果ですね)

 

 その成果が、今花開こうとしている。

 

(あとはここ)

 

 胸のサイド、付け根の部分。

 

「あ…… かはっ!」

 

 そこにあるのは、

 

(スペンス乳腺。乳房のGスポット、とか言われてますけど。厳密には性的刺激とは関係無いんですよ)

 

 リンパマッサージと同じ。

 もしくは、そもそもその近傍にあるリンパ節への刺激による心地良さを誤認しているだけ、という説もあるものだが、

 

(普通に身体を揉み解すマッサージとして気持ちがいいだけなんですけど、実はその辺って当人の意識次第で誤って認識されちゃうんですよねー)

 

 キスだって気持ちがいいけれど、親愛のキスと、愛欲のキスでは意味と共に感じ方がまったく異なるように。

 ならば、さんざんセクハラを働いてきた小悪魔のマッサージは?

 その答えが、

 

「っ!? ~~っ!?!?!?!?!?」

 

 ビクンビクンと跳ねそうになるパチュリーの身体。

 それを背後から抱えつつ、小悪魔は残酷なほど優しく微笑む。

 

(手に取るように分かりますよ、パチュリー様の混乱、羞恥、そして、自分はどうなってしまったのかという未知に対する…… 恐怖)

 

 バックから抱え込まれているせいで、パチュリーの顔は小悪魔からは見えない。

 だからこそ、余裕が無いパチュリーは表情を取り繕えず、ある意味安心して素の表情を晒してしまう。

『動かない大図書館』の名にふさわしい、静謐で整った表情を浮かべる常の彼女にはありえない、切羽詰まった、ギリギリの表情。

 その瞳は見た目どおりのか弱い少女のように混乱と恐怖により大きく見開かれ、目じりには惰弱な涙さえにじんでいる。

 口元には歪んだ笑みにも、この状況を喜んでいるようにも見える奇妙な引き攣りがあるが、これは本当に追い詰められた者が精神のバランスを取るべく表情だけでもと無意識に浮かべる笑顔、泣き笑いの表情に近いものがある。

 

(ただのマッサージのはずなのに、性感帯とはまったく思えない場所を刺激されているだけなのに、気持ちよくなってしまう自分はどうなってしまったんだろう、という驚愕。そしてこれから自分は一体どうなってしまうの、という怖れ)

 

 追い詰められ、様々な感情がない交ぜになった素顔を晒すパチュリーと、それとは対照的に主人を見守るように慈母のような表情を浮かべる小悪魔。

 優しい笑顔、それは余裕があるからこそのものであり、相手に対し優越感を持つが故のもの、と言い換えることができるのかもしれない。

 つまり小悪魔は今この瞬間だけはパチュリーを見下している、それゆえの微笑。

 

(せつないですよね、パチュリー様)

 

 小悪魔は彼女が敬愛する主人にだけ向ける慈愛の表情で、

 

(だから止めを刺して、楽にしてあげます。完堕ちさせてあげます)

 

 そうして……

 

 

 

「くっ、殺す!」

 

 治療完了後、自らの痴態を見てしまった小悪魔を物理で口封じしようとするパチュリー。

 

「そこは「くっ、殺せ!」じゃないんですか!?」

 

 腰を抜かしていやいやと首を振りながら後ずさる小悪魔。

 まぁ、ネコの着ぐるみが鉄の斧を持って迫って来たらホラーではある。

 

「KEN☆ZEN…… どう見ても健全なマッサージをしてパチュリー様の手当てをしただけじゃないですかぁ!」

「本当のことを言いなさい」

「正直、興奮しました」

 

「テヘッ」と笑って「ペロッ」と舌を出す。

 いわゆる『てへぺろ』をする小悪魔にイラッときて斧を振り上げるパチュリー。

 

「あああ、でもKENZENなマッサージしかしていないのは確かなんです! その辺、情状酌量の余地はありますよね、ねっ!?」

「……仕方ないわね」

 

 と、斧を下ろすパチュリー。

 ため息をつきつつ、

 

「自分の理性が憎いわ」

 

 とぼやく。

 よくあるセリフだが、この小悪魔を使い魔とするパチュリーの口から出ると、本家本元の哀愁が漂う……

 一方、

 

「イカさん、手強かったですね。私の諸刃の剣と、パチュリー様の攻撃、これを合わせても倒せないというのも凄いです」

 

 小悪魔は話題を変えようとそう語るが、

 

「うーん、でもヒットポイントと攻撃力が高いだけで特殊な攻撃はしてこないのだから、残りのヒットポイントの管理にさえ気をつけていれば、事故を起こさない限りは大丈夫よ」

「事故? 痛恨の一撃も持ってないんですよね?」

「ええ、でもこちらには会心の一撃があるでしょう?」

「はい?」

 

 言われた意味が分からない小悪魔。

 パチュリーは、

 

「……諸刃の剣を装備した状態で会心の一撃を出したらどうなるか、考えていないのね」

 

 そう、小声でつぶやく。

 会心の一撃は敵の守備力を無視して攻撃力の9割程度のダメージを敵に与える。

 今の小悪魔の156ポイントの攻撃力があれば、約140ポイントのダメージを与えることができ、だいおうイカも一撃で沈めることができるが、諸刃の剣による自傷ダメージも35ポイント前後受けることになる。

 つまり小悪魔は、敵の攻撃を受けるなどしてヒットポイントの残量が35ポイントを割っていたら、その自傷ダメージで自分が死ぬという羽目に陥るのだ!

 

「まぁ、武闘家以外が会心の一撃を出す確率は1/64固定。約1.6パーセントだから無視してもいいのかしら」

 

 ということだったが。

 ……決して健全なはずの治療で悶えさせられた意趣返しではない。

 

 そしてこの戦いで、

 

「そうそう、私、レベルが上がってましたよ、パチュリー様」

 

 小悪魔がレベルアップしている。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:13

 

ちから:43

すばやさ:96

たいりょく:34

かしこさ:27

うんのよさ:28

最大HP:67

最大MP:53

こうげき力:158/83

しゅび力:121/114

 

ぶき:もろはのつるぎ/はがねのむち

よろい:はがねのよろい/マジカルスカート

たて:まほうのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「最大ヒットポイントが12ポイントも増えました!」

「良かったわね、これで諸刃の剣も使いやすくなったでしょう」

「うぐぅ…… それはそうですけど」

 

 そして目的の浅瀬に到達する二人。

 

「ここで渇きのツボを使うのね」

 

 浅瀬の前で渇きのツボを使うと、海が干上がりほこらが現れる。

 

「おおー」

「ファミコン版と違ってリメイクではここに平原が1マス追加されていて、スーの村がある大陸の敵が出る…… あなほりもそのモンスターのものが得られるのだけれど」

「けれど?」

「出るモンスターからしてスー周辺そのものではなく、北部か東海岸のモンスターではないか、と言われているわね」

 

 そしてほこらに置かれた宝箱から最後の鍵を入手。

 床から小さなメダルを拾う。

 

「それじゃあ、アリアハンに帰りましょうか」

 

 小悪魔のルーラでアリアハンへ戻る。

 

「城の地下牢からアイテムを回収するわよ」

 

 盗賊の鍵を作ったバコタの牢を最後の鍵で開けると彼は、

 

「くそっ、このバコタ様がこのまま牢の中で終わると思うなよ! でもお前さんの施しは受けないぜ。きっと自力で脱走してやる!」

 

 と宣言する。

 

「それなら遠慮なく」

 

 と中にあったツボから容赦なく500ゴールドを取り上げる小悪魔。

 まさに外道。

 

 また、隣の牢のツボからは力の種が手に入る。

 これについてはパチュリーが、

 

「まぁ、また力の能力値の成長限界に近づいているから使うのは後で、ということになるのだけれど」

 

 と、取っておくことになる。

 

「次はロマリアよ」

 

 小悪魔のルーラでロマリアへ。

 城の地下、最後の鍵を開けて入った場所の宝箱からは風神の盾とアサシンダガーが手に入る。

 

「風神の盾、ですか?」

 

 丸い盾の中央に魔除けのような強面の顔のレリーフがあり、その周囲には雲のような形状の羽根が8枚付いている。

 

「武闘家、商人、遊び人にとっては+35という最高の守備力を持つ盾よ。耐性が付いて無いから商人、遊び人だと守備力は落ちても魔法の盾を使った方が有利な場合は多いけど」

 

 他のドラクエシリーズ作品に登場するものと違って、特殊な力は持っていない。

 それでも武闘家の場合はこれとお鍋のフタしか装備できる盾は無いので文句なしに最強装備となるが。

 

「アサシンダガーは、毒針の強化版みたいな感じですか……」

 

 使用できるのも魔法使いと盗賊のみと、毒針と一緒。

 しかし、

 

「毒針は強制1ダメージが入るから、メタル狩りにはそっちの方が向いてるようよ」

 

 攻撃力に関係なくダメージは1に固定、ということは逆に必ず1ダメージは入るということでもあるのだから。

 

「じゃあ、アサシンダガーは使えない?」

「普通にダメージは出せるんだから、メタル系以外には有効でしょう。これを持ってモシャスの呪文で攻撃力の高い仲間に変身すれば、高火力に即死効果が追加されるわけだし」

 

 ともあれ、

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だと第3すごろく場の宝箱マスでもう一本手に入るのだけれど、すごろく場の無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版だと、本当にここでしか手に入らない一品ものになるわね」

 

 しかし、

 

「使えないのだから売るしかないのだけれど」

 

 ということだが。

 

「次はロマリアの関所ね」

「はい? あそこに何かありましたっけ?」

 

 アニマルゾンビを蹴散らしながらロマリアの関所へとたどり着く。

 

「ここ、最後の鍵でしか開かない扉があったでしょ」

 

 そこを開けて進むと、旅の扉がある。

 床に落ちていた小さなメダルを拾って旅の扉に進むと、うにょーんと世界が歪んでパチュリーたちは別の場所にあるほこらへと飛ばされていた。

 

「ここは?」

「旅の扉のほこら。ファミコン版の公式ガイドブックでは『グリンラッド南のほこら』と呼ばれていたところね」

 

 中央の池の周囲から小さなメダルを二つ拾う。

 うち一つはすごろく場の無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版のみ入手できるもの。

 すごろく場で拾えなくなった分である。

 

「これで小さなメダルは30枚。力の指輪が手に入るわね」

 

 とはいえパチュリーたちの役には立たないので、売るしかないのだが。

 

「それじゃあ、外に出てあなほりをしましょう」

 

 パチュリーはそう言って、あなほりを開始するが、

 

「ラックの種ね」

 

 さっそくアイテムを掘り当てる。

 

「あれ? グリンラッドというと出るモンスターはビッグホーンと氷河魔人……」

「あと夜にはスノードラゴンが出るわね」

 

 と言う間にもう一つ、ラックの種が出る。

 

「ええと、何でラックの種が拾えるんですか?」

 

 ドロップアイテムはそれぞれ、ビッグホーンが聖水、氷河魔人が不思議な帽子、スノードラゴンが命の木の実となっているはず。

 

「てっきり、不思議な帽子狙いかと思ったんですけど」

 

 呪文の消費マジックパワーをMP軽減率が3/4+1(端数切捨)に抑えてくれる不思議な帽子。

 勇者は装備できないが、商人は装備可能。

 商人にはレベル17で使えるようになる消費マジックパワー15の『おおごえ』があるのでそのためかとも思われたのだが、

 

「ここ、正確に言うとグリンラッドの南に位置する島に建つほこらよ」

「え、ああ、そうみたいですね」

 

 名前で勘違いされやすいが。

 

「そして、ここで出るのはスーの村のある大陸の西海岸、アープの塔周辺と同じモンスターなの」

 

 だからシャーマンが1/32という確率で戦闘後にドロップするアイテムである、ラックの種が拾えるのだ。

 そして、

 

「来たわ、幸せの靴」

 

 開始5分で幸せの靴をゲット。

 

「はい?」

「アープの塔周辺では低確率だけれども、はぐれメタルが出るのよ」

 

 そのドロップアイテムである。

 出現率が低くとも出る以上、あなほりには関係ないしドロップ率は1/64と割と普通なので、簡単に掘り当てることができるのだ。

 

「えええええーっ!?」

 

 ただし、

 

「そんないいアイテムでも無いのよ。確かにフィールドを1歩歩くごとに経験値は1上昇するけれど、経験値を得るなら普通に戦った方が早いじゃない」

 

 そういうこと。

 

「レベルが低ければ効果が実感できるかも知れないわ。4人パーティなら私たちより低レベルで進めることができるでしょうから、商人がレベル12に上がってあなほりを使えるようになった時点で取れば」

 

 4人パーティだと戦闘で得られる経験値は2人パーティのパチュリーたちの半分になってしまうことでもあるし。

 ともあれ、

 

「まぁ、そうでなくとも通常よりははるかに早い段階での入手よね、これ。どの程度効果があるか試してみるのも面白いでしょう?」

 

 というわけでパチュリーが使うことにする。

 戦闘に入ったら豪傑の腕輪に付け替えれば良いのだし、またダンジョンでは効果が無いのだから元から付け替えておけばいいのだし。

 

「どうかしら?」

 

 履いて見せるパチュリー。

 金色で優雅な装飾が施されている、先端がくるっと丸まった可愛らしい靴だ。

 リメイク作では身に着けると運の良さが+50される。

 つまり状態異常を回避する確率を上げてくれるのだ。

 モンスターに驚かされて先制を許した場合には有効だ。

 豪傑の腕輪は先制攻撃に対しては何の効力も持たないのだし。

 

「お似合いですよ、パチュリー様。あ、そうだ、貸してみて下さい」

「いいけど……?」

 

 首を傾げながら靴を脱いで小悪魔に渡すパチュリー。

 幸せの靴は戦闘中以外に使うと、

 

 こあくまは幸せの靴を抱きかかえた!

 ちょっと幸せな気分になった。

 

 という具合になるのだが、

 

「パチュリー様の、脱ぎたての靴……」

 

 小悪魔は抱きしめた靴を前に、思いっきり鼻から息を吸った!

 

「はぁああ、たまりません」

 

 おかしな意味で幸せになっている小悪魔……

 

「人の履いた靴を嗅ぐんじゃないわよ!?」

 

 真っ赤になって小悪魔から靴を奪い返すパチュリーだった。




 通常のプレイでは入手できる頃にはレベルアップに必要な経験値が膨大になっていて価値が無くなっている幸せの靴ですが。
 このようにあなほりを使えば、割と早期に入手が可能です。
 これがどの程度効いてくるのか、今後が楽しみですね。

 なお、

>「あああ、でもKENZENなマッサージしかしていないのは確かなんです! その辺、情状酌量の余地はありますよね、ねっ!?」

 だからこのお話は健全、いいね!

 ということでひとつ。

 次回は、ここまで来たついでに他をすっ飛ばしてサマンオサに行きたいと思います。
 普通に考えて勇者のレベルが13、しかも二人パーティで行けるような場所ではありませんが、ちょっとしたテクニックで比較的安全にたどり着けますから。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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オリビアvs幽霊船「化け物には化け物をぶつけんだよ」 そしてサマンオサへ

 旅の扉のほこらにある3つの旅の扉の内、中央の一つをくぐると、その先は、

 

「オリビアの岬のほこらね」

 

 ノルドの洞窟のバハラタ側の出口から北上すれば到達できるので、一応、船入手前でも来ることはできるのだが、最後の鍵が無ければ利用できるのは宿屋だけで、旅の扉は使えない。

 床に落ちていた小さなメダルを拾い、そして宿屋の北の鉄格子を最後の鍵で開けば、そこには一人の吟遊詩人の姿があって、

 

「ここはオリビアの岬。嵐で死んだ恋人を思いオリビアは身を投げました。しかし死に切れぬのか通りゆく船を呼び戻すそうです」

 

 と、この地にあった悲劇を語ってくれる。

 しかしそれを聞いた小悪魔は、

 

「なるほど、アンデッドに、GHOSTLY SHE-HAG(幽霊ババア)になってしまったというわけですね」

「言い方ァ!!」

 

 ……まぁ、女の妄執と言えばそのとおりなのだが。

 

「もし恋人エリックとの思い出の品でも捧げれば…… オリビアの魂も天に召されましょうに」

 

 そして、

 

「噂ではエリックの乗った船もまた幽霊船として海をさまよっているそうな」

 

 ということであった。

 

「つまり、その幽霊船をこの岬に突っ込ませて二大アンデッド大決戦をやらかせばいいんですね!」

「その発想は無かったわ…… じゃなくて「恋人エリックとの思い出の品」って言ってるでしょう!」

 

 とんでもないことを言い出す小悪魔にツッコむパチュリーだったが、

 

「そもそもそういうB級ホラーとか、怪獣映画じみた話じゃなくて」

 

 ため息をつきつつ説明する。

 

「幽霊船、そして愛のため海に身投げするヒロインと、その恋人のエリック…… これ、ワーグナー作曲のオペラ『さまよえるオランダ人(フライング・ダッチマン)』の翻案でしょう?」

 

 幽霊船の船長、さまよえるオランダ人は永遠にさまよう運命にあるが、7年に一度上陸でき、そのとき船長を愛す女性に出会えれば、呪いから解放される。

 ヒロインは船長を救おうとするが、それを恋人のエリックが引き止める。

 その姿を見た船長は失望して去ろうとするが、ヒロインは貞節を証明するために海に身を投げる。

 ヒロインの純愛を得た幽霊船は呪いを解かれ、死を得て沈没する。

 そしてオランダ人とヒロインは浄化され昇天していく。

 

 というもの。

 

「配役と言うか、お話の筋がだいぶ変わっていますね」

「だから翻案、それも頭に『大胆な』という枕詞が付くものなんでしょう」

 

 ということ。

 

 そしてここにあったもう一つの旅の扉をくぐれば、そこはサマンオサの東にある旅人の教会。

 神父に話を聞けば、

 

「うわさではサマンオサの王が人変わりしたらしい。勇者サイモンが右の旅の扉より追放されたのも王の命令と聞く」

 

 つまり、そのサイモンはオリビアの岬の方へ行ったということだが。

 そして、

 

「サマンオサはこのほこらの西。山沿いをぐるりと西に進まれるがよかろう」

 

 ということだった。

 

「この時点でサマンオサへ行くのは無謀かしらね?」

「はい? 行く気なんですか!?」

「サマンオサへ行く途中には、守備力200の甲羅でこちらの攻撃を阻みつつも甘い息で眠らせてくるガメゴン、素早さ85で先手を取りつつベギラマ、バシルーラを放ってくる魔法おばば、攻撃力140で殴殺してくるグリズリー、守備力150とやっぱり硬いキラーアーマーは痛恨攻撃をしてこないのが救いだけど……」

「けど?」

「ルカナンでこちらの守備力を下げてくるから、結果的に守備力無視の痛恨攻撃に近い話に…… いえ、痛恨よりこちらの方が確率的には受けやすいから」

「やめてください。しんでしまいます」

 

 しかしパチュリーは状態異常対策にあなほりで得た二つのラックの種を口にして運の良さを上げつつ、こう説明する。

 

「大丈夫よ。サマンオサまでの道は4つのモンスターエリアにまたがっていて、最初と3番目のエリアについては、今挙げたモンスターは出てこないの」

「それは……」

 

 旅人の教会からサマンオサまでは反時計回りにぐるりと回って行くことになる。

 最初のモンスターエリアは、サマンオサ縁辺、海賊の家地方などと呼ばれているもの。

 ここで出るのは、

 

「頭に足が生えた変な鳥さん? と緑のゴリラさんです!」

 

 アカイライとコング、各一匹が不意を突き襲って来る!

 

 アカイライはパチュリーに2回連続攻撃!

 アカイライはランダムで1~2回行動を取ることができるのだ。

 しかし、

 

「一桁ダメージじゃあね……」

 

 小悪魔に比べ守備力が低いパチュリーでも、特に効いていない。

 コングはというと、

 

「仲間を呼んだ!? やめてくださーい!!」

 

 最下位種でもあれだけ強かった、あばれザルの恐怖が身体に染みついている小悪魔は叫ぶが、

 

「鳥さん?」

 

 呼ばれて飛び出たモンスターに首をひねる。

 

「極楽鳥よ。素早さ60、2回行動でベホマラーを使って仲間1グループのヒットポイントをベホイミ並みの回復量で治して即逃げて行くの」

 

 1ターン遅れで発動するグループ回復魔法みたいなものだ。

 さて、どうするかだが。

 小悪魔の素早さは星降る腕輪の効果で倍化され、96ポイントまで上がっている。

 先制できるかも知れないし、できないかもしれない。

 ここは、

 

「先制で無駄行動してくれることを祈って殴りましょう」

 

 ということで、パチュリーは装飾品を幸せの靴から豪傑の腕輪に切り替え、刃のブーメランを握る。

 そして、その狙い通り極楽鳥は先制でベホマラーを唱えると逃げ出した!

 もちろんモンスターたちはまだ傷を負っていなかったのでこれは完全な無駄行動になる。

 続いてコングが小悪魔に殴りかかるが、

 

「くっ、この程度!」

 

 15ダメージ。

 コングの攻撃力は105と強力だが、小悪魔の守備力もまた高まっているのだ。

 

「反撃、ですっ!」

 

 小悪魔は諸刃の剣でコングに斬りかかり57ダメージ。

 

「くっ」

 

 諸刃の剣の自傷ダメージで15ポイントの傷を負うが。

 

「これでどう!?」

 

 パチュリーの放った刃のブーメランがモンスターたちを薙ぎ払うが、倒すまでには至らない。

 残ったアカイライは、

 

「バギを唱えてきました!?」

 

 僧侶のグループ攻撃呪文、バギで攻撃してくるが、しかし、

 

「魔法の盾の耐性でダメージは軽減できるわ!」

 

 ということ。

 鎧もマジカルスカートに切り替えれば更なる軽減が可能だが、半面守備力が落ちて物理攻撃が効くようになってしまうので、こちらはそのままだったが。

 アカイライはさらに小悪魔をくちばしでつついて来るが、これは軽傷で終わる。

 そして次のターンだが、

 

「こぁ、あなたホイミ…… いいえ、薬草で回復しなさい」

 

 安全策で小悪魔を回復させることにする。

 また、回復量はホイミより薬草の方が上なので、薬草を使わせることにした。

 

「はい!」

 

 素早い小悪魔は先制で治療を行い回復。

 

 アカイライのバギ、そして物理攻撃。

 またコングの攻撃がパチュリーに炸裂するが、

 

「そこまでよ!」

 

 パチュリーの放った刃のブーメランがモンスターたちを薙ぎ払い、止めを刺す。

 

「緑のゴリラさんが出てきたときにはどうなるかと思いましたが、割とあっさり倒せましたね?」

 

 首をひねる小悪魔だったが、

 

「そうね。コングは、あばれザルの系統の最上位モンスターなのだけれど、痛恨の一撃は出さなくなっているし、仲間を呼ぶ対象が同種ではなく回復役の極楽鳥になっているしで、ただ攻撃力が高くしぶといだけ、怖くないモンスターに成り下がってるの」

 

 一応、ファミコン版の攻撃力85(下位種のキラーエイプから10増えただけ)ではあんまりと考えられたのか、スーパーファミコン版以降のリメイク作では105まで強化されたが、焼け石に水といった様子。

 一方、

 

「アカイライもこの系統では最上位種なのだけれど、使うのがバギ、しかも使用頻度が3/8だと、せっかくの2回攻撃も生かせない。集団で現れたら鬱陶しいってだけのモンスターね」

 

 だから1匹で現れた程度では問題にもならないのだ。

 そして、小悪魔はふと思い出した様子で、

 

「……そう言えば、アカイライは賢者への転職を可能とする悟りの書を落とすとか落とさないとか聞きますけど……」

 

 とパチュリーに聞くが、

 

「最初のファミコン版では、1/2048という低確率で落とすと言われていたわね。あんまり低確率過ぎて、狩っている内にクリアレベルを超えるとか、先に転職で僧侶と魔法使い両方の呪文をすべて覚えたキャラが作れてしまうとかしかねないものよ」

 

 素直に遊び人を育てて賢者に転職させた方が遥かに早いというものだった。

 

「そしてスーパーファミコン版以降のリメイク作では、アカイライのような1/2048という低確率でアイテムドロップするモンスターは一律で何も落とさないようにされたの。まぁ、この確率が設定されているのはボスモンスターばかりで、それ以外の雑魚敵としてはアカイライが唯一のドロップアイテム無しのモンスターとなっているのだけれど」

「それ、知らないでファミコン版で落とすからってチャレンジすると……」

「気が狂いかねないほど繰り返して挫折することになるわね」

 

 恐ろしい話である。

 

「まぁ、それはともかく、ここ、サマンオサ縁辺、海賊の家地方などと呼ばれているモンスターエリアでは、こんな風にそれほど手強いモンスターは出ないわけ。だから次のモンスターエリアとの境界線でこうして戦闘をしておけば……」

 

 ガメゴン、魔法おばば、グリズリーなどが出る2番目のエリアを素通りすることができるのだ。

 そして3番目のエリアはまたサマンオサ縁辺、海賊の家地方などと呼ばれているものなので、日も傾き暗くなってきたところで、

 

「変な仮面の人たちがいっぱい出て来ましたよ!?」

「シャーマンね」

 

 シャーマン4体と遭遇。

 ニューギニアのマサライ、盾のような仮面状の精霊像がモチーフなのか。

 

「面倒な相手なのよねぇ……」

 

 サポートタイプで攻撃力こそ低いものの、地味にヒットポイントが高く、腐った死体を呼んだりベホイミを唱えたりする。

 判断力が最高の2で優先行動にベホイミが指定されているため、自分に行動順が回って来た時点でヒットポイントが半分を切った仲間が居ると治療してしまう。

 マジックパワーが18なので3回しか唱えられないとはいえ、4体なら12回。

 しかも判断力が高いということは無駄撃ちしないということなのでマジックパワー切れを狙うのも手間。

 

 逃げることもあるが、先頭キャラのレベルとモンスターレベルを比較し、その差が6以上でないと逃げることは無い。

 現在、パチュリーがレベル15、シャーマンのモンスターレベルが22なので、逃走はしない。

 

「逃げましょう」

 

 面倒なので、逃げることにする。

 3回失敗し回り込まれ、攻撃を受ける。

 攻撃力は低いので大したダメージにはならず危険はないが。

 必ず成功する4回目にしてようやく逃げ切る。

 

「腐った死体、呼びませんでしたね」

 

 首をひねる小悪魔だったが、

 

「機種によって違うようだけど、4体現れた時点で出現枠を使い切ってしまうらしいわ」

 

 ゲーム的に言えば画面にそれ以上、表示する余地が無いということ。

 シャーマンは痩せ細った体格に反して、手足を振り上げ長い杖を構えているので割と表示幅を取るのだ。

 

 かくして、少々の傷を小悪魔のホイミで治療した後に最後の、強敵が出現するモンスターエリアを素通りし、サマンオサにたどり着く。

 

「すっかり日が暮れてしまったわね」

 

 夜は敵が強くなる。

 安全策を考えるなら、オリビアの岬のほこらの宿屋で一泊してから来るべきだったか。

 

「パチュリー様、この街ではゾンビキラーが売られているんですよね?」

「え、ええ」

「だとしたら、諸刃の剣を使わずともそこそこのダメージは出せるはず。教会で呪いを解いてもらって……」

「あ、待ちなさい!」

 

 教会は24時間営業ではあるのだが、

 

「あれ、神父様が居ませんよ」

「神父に頼る悪魔……」

 

 呆れるパチュリーだったが、そこには神前で祈る老婆の姿があるのみだった。

 彼女からは、

 

「わしは若いころからの王を知っておるが…… 今の王と同じ人物とは思えんのじゃ」

 

 という具合に旅人の教会の神父から聞いた、人が変わってしまったという王の情報を確かめることができる。

 そしてこの教会の神父がどこに行ってしまったのかだが、近くの墓地で、

 

「天にめします我らが神よ。戦士ブレナンの冥福を祈りたまえ。アーメン……」

 

 と葬儀を行っていた。

 

「王様の悪口を言っただけで死刑なんて、あんまりですよ! これじゃおちおち商売もできませんよ!」

「ねえ、もう父ちゃんは帰ってこないの? どこかへ行ったの?」

「おーい、おいおい……」

「ブレナンよおー。おまえはいいヤツだったのにな~」

「あんたあ~、なんで死んだのよお~? うっうっ……」

「坊やだからさ」

 

 という具合に王の悪口を言って処刑されたらしいが、

 

「何しれっと最後に混ざって変なことつぶやいてるの」

「早苗さんが、どうして死んだのかって問われたらこう答えるものだって言ってましたよ」

「守矢の巫女が?」

 

 小悪魔が言っているのは守矢神社の風祝、東風谷早苗のことである。

 最近まで外の世界にいた現代人ゆえの、若さゆえのあやまちか……

 

「まぁ、それはともかく不穏よねぇ……」

「これは調査が必要ですね、パチュリー様」

「そうね。だけど聞き込みをするなら昼の方がいいかしら」

「お泊りですね?」

 

 小悪魔は期待に目を輝かせるが、

 

「あなたは何を言っているの?」

 

 と首をひねるパチュリー。

 

「さっさとルーラを唱えなさい」

「はい?」

 

 そんなわけで、ルーラの呪文で『サマンオサ』に跳ぶ二人。

 

「ああ、ルーラを使うと朝になりますもんね」

「ついでに街の外まで戻してくれるから、街や城の奥まった場所から出たい場合なんかには時間短縮になるわよ」

 

 RTA(Real Time Attack)、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競うプレイではよく使われる技である。

 

「でもどういう仕組みで時間が経過するんですかね?」

「そうね、弾道飛行により地球上のどの地域へも短時間に到達するサブオービタル機というものが考案されているけれど、それの発展形、魔法版といったところかしら」

「はい?」

「高空に打ち上げられ周回軌道上に待機した後に、タイミングを計って降下、暁の帰還を果たす」

 

 そして、

 

「高空を周回飛行する成層圏プラットフォーム的な交通ハブがあって、いったんそこに待機した後に、各地へと降下させるという説もあるわ。これなら利用者同士のニアミスも起きない。必ず朝になるのはその航空交通システムの仕様で、危険な夜間の降下着陸を避けるため明朝になるのだということね」

 

 さらには、

 

「そんな高空では呼吸ができないなど人体が耐えられないため、魔力による障壁を張ると共に一時的に仮死状態にしてやり過ごす。それで使用者たちには時間の経過が体感できず、即朝になったように感じられるという話が……」

「無駄に凝りすぎですよ!?」

「まぁ、そんな説もあるということよ」

 

 そういうことだった。




 思い切ってサマンオサまで行ってみました。
 やり方さえ工夫すれば、このように割と安全にたどり着けますので。
 先にここでゾンビキラーやドラゴンシールドを買ってしまうと後が楽ですしね。

 次回は、

「女勇者と仲間が捕らえられて地下牢に監禁ですよ! だったらもっとこう、ありますよね? やらなきゃいけないことが!!」

 となる予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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サマンオサの街と城 地下牢に繋がれパチュリーに責められる小悪魔

 改めてサマンオサの街を探索するパチュリーたち。

 宿屋の脇のタルからは小さなメダルが手に入った。

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではこのタルからはすごろく券が手に入ったのだけれど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 すごろく場が無くなっているためすごろく券も無く、小さなメダルに差し替えられていた。

 これは本来、すごろく場で拾える分だ。

 

 そして昨晩、葬儀を行っていた墓地の敷地内に立つ建物を訪れると、覆面の男がそこには居た。

 

「墓地に覆面の荒くれ者?」

「墓守ってやつね」

 

 中世ヨーロッパ風に言うと『墓掘り』もしくは『墓掘人』

 宗教上の理由から火葬ではなく土葬を望んだキリスト教徒が埋葬される地下墓地(カタコンベ)を掘り、管理することから付いた名だ。

 そんな彼は、

 

「ここだけの話、王さまがおかしくなったのは変化のつえのせいだ。オレはそう思うんだが、あんたどう思う?」

「はい?」

「う~ん やっぱりなあ。あんたはそういうと思ったよ」

 

 そう、王様の心変わりと変化の杖について語ってくれるが、

 

「ところでバシルーラされた仲間は、ルイーダの酒場にもどっているって話だぜ」

「何で唐突にそんな話に!?」

「ここに来るまでに出合う魔法おばばがバシルーラを使って来るからでしょう。発売当初は仲間が居なくなったってメーカーに問い合わせが来たそうだし、このセリフはリメイクで追加されたものらしいわ」

 

 まぁ、それより先に海上等でヘルコンドルに飛ばされている可能性もあるわけだが。

 そして墓場では昨晩の葬式の喪主を務めていた女性が、

 

「どうしてこんなことに…… 夫もさぞや無念だったと思いますわ。うっうっ……」

 

 と泣いている。

 この墓地からは小さなメダル、素早さの種を拾えるが、他にも、

 

「何か反応がありましたけど、見つけられませんでしたね。何でしょうこれ」

 

 スマホ版ではアイテムが隠されている場所に行くとエクスクラメーションマーク、俗に言うビックリマークが出て知らせてくれる親切仕様となっているのだが……

 

「発見には何か条件があるってことでしょうね」

 

 あとはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券が拾えたのだが、これは無しになっていた。

 街を歩けば女性が、

 

「多くの人たちが毎日牢に入れられたり、死刑になっているんです。昔はおやさしい王さまだったのに……」

 

 と嘆いていて、パチュリーは、

 

「盗賊カンダタは芥川龍之介の『蜘蛛の糸』から、そしてオリビアの岬と海賊船がワーグナー作曲のオペラ『さまよえるオランダ人(フライング・ダッチマン)』からなら、こちらは太宰治の『走れメロス』よね」

 

 と考察する。

 しかし、

 

「勇者が全裸で赤面するお話ですね」

「どうしてそんなところだけ!?」

「感動のラストシーンですよね?」

「それはラストのオチであって、感動するのはそこじゃないでしょう!!」

 

 小悪魔のボケにツッコミが追い付かない。

 民家のツボからは力の種を入手。

 そして「圧政の不満から目をそらすために王が設立した」などと批判される格闘場の建物の裏手に回ると老婆が居て、

 

「王さまは夜になると2階でひとりで寝ているそうじゃ。城内とはいえ無用心だと思うがのう」

 

 などと言って来る。

 この老婆は、昨晩教会で「わしは若いころからの王を知っておるが…… 今の王と同じ人物とは思えんのじゃ」と言っていた人物。

 つまり、こんな人目に付かない場所で武装したよそ者に、王の身辺の警護情報を漏らすのは、

 

「これはアレですね。夜中に忍び込んで殺ってしまえって暗に言ってるんですね」

「……まぁ、そうなるのかしら?」

 

 そんなわけで、サマンオサの城へと向かうパチュリーたちだったが、途中で、

 

「私はサイモンの息子。ゆくえ知れずになった親父をさがして旅をしている。うわさでは、どこかの牢屋に入れられたと聞いたのだが……」

 

 とサマンオサの東にある旅人の教会で追放されたと聞いた勇者サイモンの子供と出会う。

 

「旅の扉からオリビア岬の方に追放されたって聞きましたけど……」

「その先にある牢獄に入れられた、ってことね」

 

 オリビア岬から船で進んだ場所にあるほこらの牢獄。

 そこにサイモンは投獄されたのだ。

 

「城に入る前に、庭から小さなメダルを拾って」

 

 正面入り口は警備の兵に昼夜を問わず塞がれているので、勝手口から入るのだが、

 

「ここはお城の台所。殿方の入ってくるところではありませんわ」

 

 と言われてしまう。

 

「そういうのは今時流行らないと思うんだけど…… って言うか、お城だったら普通逆、男性のコックを雇ってるわよね?」

 

 ドラクエが作られた日本でも、またモデルとなっているであろう中世ヨーロッパでも通常、料理人と言ったら男であり、女性が進出したのは比較的新しい時代であるが、この国では事情が違うらしい。

 この台所のツボから小さなメダルが見つかる。

 

 中庭では王女が、

 

「あんなにやさしかったお父さまなのに…… 姫にはお父さまが別人のように思えてなりませんわ」

 

 と嘆いている。

 

「まぁ、実際別人、いえ別トロールなのだけれど……」

 

 という話だが。

 この中庭では、草花に紛れ落ちていた命の木の実をゲットできる。

 またこの王女の寝室の向かい、警備の兵の控室では衛兵が、

 

「うわさでは魔王という者が 世界をほろぼそうとしているらしい。もしかして王さまは魔王に 心を売ってしまわれたのであろうか……」

 

 と本音を漏らしている。

 

「まぁ、欲望に負け、良心を売り渡すような者も確かに居るわよね」

 

 と小悪魔を冷たい目で見るパチュリーだったが、小悪魔は、いきり立って反駁した。

 

「ひとの心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳ですよっ! パチュリー様は、私の忠誠さえも疑って居られるんですか!?」

「疑うのが正当の心構えなのだと、私に教えてくれたのはあなた自身よ。悪魔の忠誠は、あてにならない。悪魔はもともと私慾のかたまり。信じては、ならないわ」

 

 パチュリーは落着いて呟き、ほっと溜息をついた。

 

「私だって、平和な日常を望んでいるのだけれど」

「なんの為の平和ですか。自分の貞操を守る為ですか」

 

 こんどは小悪魔が嘲笑した。

 

「罪の無い私を疑って、何が平和です!」

「だまれ、下賤の者―― って、何で私があなたと暴君とメロスごっこをしなければならないの!」

 

 一連の会話は太宰治の『走れメロス』の一節から。

 紅魔館大図書館の主であるパチュリーと司書の小悪魔らしいインテリな言葉遊びだったが……

 

 パチュリーは当たり前の真実しか言っていないが、小悪魔の方はまったくの虚偽…… いや、自覚が無いのか?

 面の皮が厚すぎる主張である。

 大体、自分の貞操を守ることを非難される筋合いなど無いのだし。

 

 パチュリーはやれやれとため息をつきながら階段を昇り、尖塔の上に出た後、

 

「行くわよ」

「行くって……」

 

 小悪魔を引っ張って共に飛び降りる!

 

「で、デビルウィーングっ!」

 

 小悪魔は慌てて悪魔の翼を広げて滑空。

 パチュリーを支えながら軟着陸を決める。

 そこは二階のテラスで、

 

「ここの扉から中に入れるわね」

 

 そこは王の寝室。

 部屋の中を物色すると、本棚からはずるっこの本、タンスからは棍棒が手に入る。

 

「ずるっこの本は、ロマリア王の父親の部屋にもあったものね。王族には必要なものなのかしら?」

「棍棒って、何で……」

 

 首をひねる小悪魔だったが、まぁ、その答えは後でということ。

 そうして探索を終えたら、改めて王との対面。

 謁見の間では踊り子たちが、

 

「王さまは、とってもりっぱなかたですわ。おほほほ」

「王さまのためだったら、私たちなんでもいたしますわ。おほほほほ」

 

 などと媚びを売りながら踊り続けている。

 そして王の前に進むと、

 

「うぬらはどこから入ってきたのじゃ? あやしいヤツめ! この者らを牢にぶちこんでおけい!」

「ハッ! さあ来るんだっ!」

 

 と、一方的に「怪しい奴」呼ばわりされ、捕らえられる。

 まぁ、よくよく考えると武装した集団をあっさりと王の前に通してしまう他国の警備の方が異常。

 この偽サマンオサ王の対応の方が普通だったりするのだが……

 

「やめて! 私に乱暴する気でしょう? 官能小説みたいに! 官能小説みたいに!」

 

 と叫ぶ小悪魔だったが、

 

 しねーよ。とっとと入れ。

 

 とばかりに地下牢に投獄されてしまう。

 そして、

 

「小悪魔は激怒した。必ず、かの無知暴虐の王を除かなければならぬと決意した」

「は?」

「小悪魔には政治がわからぬ。けれどもエッチなネタに対しては、人一倍に敏感であった」

 

 小悪魔はまた太宰治の『走れメロス』の一節を元にした主張を始めるが、しかしその話の焦点はまったく別なところにあって、

 

「女勇者と仲間が捕らえられて地下牢に監禁ですよ! だったらもっとこう、ありますよね? やらなきゃいけないことが!!」

「そんなものはない」

 

 思わず真顔で言い切るパチュリーだったが、興奮している小悪魔には届かない。

 

「パチュリー様に迫る凌辱調教の魔の手。そこで従者たる私が健気にも「私が身代わりになりますからパチュリー様に手を出さないで!」と言って身体を張ってお守りするんです!」

「自分で健気って言う?」

 

 まぁ、ここで終われば、イイハナシダナー、で済んだかもしれないが、

 

「ところがパチュリー様はボロボロにされる私を見ながら、性的に興奮してしまうんです」

「妄想の中であっても私を汚すのは止めてくれる?」

「自己嫌悪に陥るパチュリー様、それを私が身体を使ってお慰め……」

「それが本音!?」

「全部本音です!!」

 

 小悪魔、魂の叫びに頭痛を覚え、額に手を当てるパチュリー。

 そして、

 

「ボディチェックも無しなんだから、甘いわね」

 

 最後の鍵があるのだから、牢から出るのは容易い。

 小悪魔をスルーして脱獄の開始である。

 パチュリーたちが閉じ込められていた牢の向かいには吟遊詩人が捕らえられていて、

 

「私は旅の詩人です。はるかロマリアの北東、湖のほこらの牢獄でくちはてたサイモンのように、わたしもここで一生を終えるのでしょうか? ああ!」

 

 と、サイモンの行方を教えてくれる。

 この牢のツボから小さなメダルを回収し、更に奥へ。

 隣の牢には白骨化した遺体がある。

 その壁には吊り下げられた鎖とその先に付けられた手かせがあり、囚人を繋ぐことができるようになっているのだが、それを見た小悪魔は、

 

「こういう拘束、調教道具を見ると濡れちゃいますよね」

「どこが!?」

 

 思わず突っ込むパチュリーだったが、はっと気づき、

 

「いい、説明しなくてもいいから!」

 

 とセクハラ妄言を吐き出そうとする小悪魔を止める。

 しかし、

 

「そう言えば……」

 

 とふと思い直し、小悪魔の両手にその手枷を嵌め壁に固定する。

 

「パチュリー様?」

 

 主が拘束調教プレイに目覚めたか!? とドキドキする小悪魔。

 

「パチュリー様になら、私、責められても……」

「はい、素早さの種」

「もがっ!?」

 

 口の中に、サマンオサの街で拾った素早さの種を突っ込まれてしまう。

 

「あひいいいっっっ!」

 

 小悪魔の身体を能力値上昇に伴う筋肉痛を凝縮したような痛みが襲い、鎖をジャラジャラと鳴らしながら激しく身悶えする。

 

「あら、1ポイントしか上がっていないわね」

 

 と、パチュリーは小悪魔のステータスを確かめてつぶやく。

 その目は患者を診る医師のような……

 いや、実験動物の経過観察を続ける学者のように冷徹で。

 

「さぁ、中断の書で時間を巻き戻してもう一度試しましょう?」

「あ…… ああ……」

 

 小悪魔の悲鳴と、鎖の鳴く音が、何度も何度も繰り返し地下牢に響き、その石組みの中へと吸い込まれていくのだった……




 地下牢の壁に鎖と枷があるのはリメイク作からですが、クリエイターはどんな意図で追加したんですかね……

 次回は地下牢からの脱出、そしてサマンオサの街でお買い物の予定です。
 小悪魔はゾンビキラーを買って、呪われた諸刃の剣から逃れることができるのか!?(注:無理です)

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サマンオサでゾンビキラーが買えない程度の財力

「ひぐぅああぁぁぁッ! あーっ! あーっ!」

 

 地下牢に響く小悪魔の苦鳴と、ジャラジャラと鎖が鳴る音。

 そうして、

 

「ようやく3ポイント越えを達成。星降る腕輪で倍化された素早さが100ポイントを超えたわね」

 

 というところでパチュリーは最後の鍵を使って小悪魔を拘束から解放。

 

「……あなたの喘ぎ声がうるさかったから、次は口枷を追加ね」

「ひどいぃぃ…… ひどすぎるうぅぅぅ……」

 

 小悪魔の抗議を他所に、パチュリーは探索を再開する。

 まぁ、どれだけ騒ごうと、脱走しようと、牢番の兵士は、

 

「私は眠っている。だからこれは私の寝言だ。確かに最近の王様はおかしい。だが王様にはさからえぬ。私はここから動けぬが噂ではこの地下牢には抜穴があるそうだ……」

 

 とヒントまで出して見逃してくれるのだが。

 隣の牢の剣士からは、

 

「真実の姿をうつすラーの鏡というものが南の洞くつにあるそうだな。そしてこの話を人にしたとたん、オレは牢に入れられたのだ。くそっ! どうなっているのだ!」

 

 という話を聞くことができる。

 

「つまり、それを使って王の正体を暴けってことね」

 

 ということ。

 そしてパチュリーたちの隣の牢には踊り子が捕らえられており、

 

「きっと魔物たちが人にとりつきはじめたのですわ。おおこわい……」

 

 と嘆いている。

 おそらく彼女は謁見の間で舞い続けていた踊り子たちの同僚。

 それは仲間が投獄されたら、

 

「王さまは、とってもりっぱなかたですわ。おほほほ」

「王さまのためだったら、私たちなんでもいたしますわ。おほほほほ」

 

 などと媚びを売るわけである。

 そして突き当りの階段を降りたその先には、

 

「だれかそこにおるのか? わしはこの国の王じゃ。なに者かが、わしから変化のつえをうばい、わしに化けおった。おお、くちおしや……」

 

 閉じこめられ、伏せっている本物の王の姿があった。

 変化の杖を奪われ、偽物に取って代わられてしまったらしい。

 

「そんな危険物を最高権力者の手元に置いておく、盗んですぐに使えるようになっているなんて、危機管理がなってないわね」

 

 この国のセキュリティって一体…… という話だが。

 王の枕元、床下には命の石が落ちているので回収して、反対側の牢獄の壁にある抜け道から脱出。

 こういった城にありがちな抜け道は、城下の墓地へと続いていた。

 そう、何かあると反応が出ていたのに、何も見つけることができなかったあの場所である。

 こうやって一度地下通路を抜けてしまえば、次からはこの階段を発見できるようになるのだ。

 

「だからこの墓場には墓掘人が居るわけね」

「はい?」

「ローマの地下墓地、カタコンベには地下道の長さが20キロに渡るものもあって、墓掘人はそれを掘削する専門の労働者であり技術者、職人でもあったわ」

 

 つまり、

 

「その技術を用いて、城からの地下脱出通路を掘り抜いたのではないかしら」

 

 そういうことなのだろう。

 

「さて、それじゃあ買い物をしましょうか」

 

 街と城の探索も終えたところで、お楽しみの買い物である。

 まずはモンスターから剥ぎ取った素材や不要になったアイテムを売って清算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:883G

パチュリー:36539G

 

「これに私があなほりで掘り当てた所持金の半額を足すと」

 

小悪魔:883G

パチュリー:55798G

 

「それでここまでに得た収入が24884ゴールドで、一人当たり12442ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:13325G

パチュリー:68240G

 

「す、凄い。凄いお金ですね、パチュリー様!」

「エジンベアで得たスーツにドレス、あとはアサシンダガーなんかの売却で得られた収入が大きかったわね」

 

 ということだが、

 

「ここからあなたは諸刃の剣の売却価格3750ゴールドと、さっき拾った命の石の売却価格600ゴールドの半額300ゴールド、あなたに使った素早さの種二つに、賢さの種、ラックの種の売却価格の半額142ゴールドを私に払う必要があるわ」

「そうでしたー!」

 

小悪魔:9133G

パチュリー:72432G

 

「逆に私はスタミナの種、力の種二個、風神の盾の売却価格の半額、合計513ゴールドをあなたに払う」

「え? たったそれだけなんですか?」

 

 呆然とする小悪魔に、パチュリーは告げる。

 

「風神の盾の売却価格は577ゴールドよ」

「何ですそのお値段ーっ!」

 

 風神の盾はメチャクチャ安いのだ。

 ともあれ、そうやって精算をすると、

 

小悪魔:9646G

パチュリー:71919G

 

「お互いこの所持金の範囲内でお買い物ね」

 

 サマンオサの武器店ではゾンビキラー、魔法の鎧、ドラゴンシールド、鉄仮面などが売られている。

 

「私は鉄の斧を下取りに出して、ゾンビキラーを買うとして」

 

 商人であるパチュリーに使えるのはこれだけなのだ。

 一方小悪魔は、

 

「あ、ああ…… ゾンビキラーが、ゾンビキラーが買えません」

 

 ゾンビキラーの売値は9800ゴールド。

 小悪魔の所持金では手に入らない。

 そもそも教会にレベル×30ゴールドを払って諸刃の剣の呪いを解いてもらわないと装備できないのだし。

 

「あなたが購入すべきは、まずブレス耐性のあるドラゴンシールド、次に魔法耐性のある魔法の鎧、その次がゾンビキラーで、鉄仮面はムオルに行けばオルテガのかぶとが手に入るから要らないわ」

 

 と、購入の優先順を教えるパチュリー。

 

「ドラゴンの角、鱗、革を張り合わせて作ってあるというドラゴンシールドは守備力32。炎、吹雪両方のブレスのダメージを3/4に軽減するものよ」

「装備できるのは勇者、戦士、盗賊ですか」

「そうね、そしてオーガシールドなど、これ以上の守備力を持つ盾も多くあるのだけれども、耐性の面でドラゴンシールドの方が有利であって、戦士、盗賊には最強の盾となるわ」

「私は……」

「勇者にしても、勇者の盾入手前はこれが一番よ」

 

 ということ。

 価格は3500ゴールドである。

 

「ミスリルで造られているという魔法の鎧は守備力40、攻撃呪文のダメージを2/3に軽減するわ」

「これに魔法の盾の耐性を合わせれば……」

「2/3×3/4=6/12=1/2。つまり攻撃呪文のダメージを半分に減らせることになるわね」

「ダメージ半減ですか!?」

 

 これはかなりのもの。

 

「勇者、戦士、僧侶、賢者が装備可能なんですね」

「ええ、そしてこれ以上に硬い大地の鎧や刃の鎧には耐性が付いていないから、バラモス戦まではこの鎧が最強となるわ」

 

 ただし、

 

「まぁ、攻撃呪文を使ってこないボストロールに対して大地の鎧を使う、同様にヤマタノオロチに大地の鎧、もしくはボストロールを先に撃破して進めてしまえば入手できる刃の鎧を使うというのはアリでしょうけど」

「価格は5800ゴールドですか……」

 

 さすがに高いが、それでも、

 

「あなただと、これで不要となる鋼の鎧とマジカルスカートをそれぞれ1800ゴールドと1125ゴールドで売れば差し引き2875ゴールドで入手できるわ」

 

 以上から、

 

小悪魔:3271G

パチュリー:63994G

 

 ということになる。

 二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:15

 

ちから:75

すばやさ:27

たいりょく:83

かしこさ:19

うんのよさ:20/70

最大HP:169

最大MP:38

こうげき力:157/117/114

しゅび力:93/83/73

 

ぶき:ゾンビキラー/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:13

 

ちから:43

すばやさ:102

たいりょく:34

かしこさ:27

うんのよさ:28

最大HP:67

最大MP:53

こうげき力:158/83

しゅび力:139/132

 

ぶき:もろはのつるぎ/はがねのむち

よろい:まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:てつかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「はい? 諸刃の剣を装備した私の攻撃力と、パチュリー様の攻撃力が1ポイントしか違わないんですか!?」

 

 愕然とする小悪魔。

 しかしパチュリーは二本の指を立てて顔前にかざして見せると、

 

「このドラクエ3の世界では力の種を使うたびに攻撃力が3ポイント増すわ…… その力の種をあと二つ私は残している…… その意味がわかるわね?」

「っ!!」

 

 パチュリーには力の能力値の成長上限に引っかかる可能性があるため、使用を控えてストックしている種があるということ。

 さらに言えば、

 

「ゾンビキラーってアンデッドに効くって言われているけど、実際には二フラム耐性に合わせて追加ダメージが与えられる、というものなの」

 

 ボスキャラは大抵ニフラムに完全耐性を持っているので、追加ダメージはゼロになるが。

 一般のモンスターの内、手強い相手に関してはニフラムが効くものが多く、有利となるわけである。

 

「この追加ダメージは聖水を戦闘中に道具として使った場合のダメージとほぼ同じ。ファミコン版とリメイク以降では聖水のダメージも処理が違って来るのだけれど」

 

 ファミコン版ではニフラムに耐性を持たない敵には100パーセントの確率で16~32ポイントの追加ダメージが発生し、ニフラム耐性が高くなるごとに追加ダメージの発生率が下がる。

 スーパーファミコン版以降のリメイク作では、完全耐性を持つモンスター以外には必ず追加ダメージが発生するが、耐性が強まるごとにダメージが減る。

 どちらも耐性を持たない敵には100パーセント効き、完全耐性持ちにはまったく効かない、というのは同じである。

 また、この追加ダメージは敵の守備力では減らないため、相対的に硬いモンスターには大きな効果を持つとも言える。

 

 ゆえに、現状でもニフラムに完全耐性を持っている敵以外には、パチュリーの方が強くなっているということだった。




 地下牢からの脱出、そしてサマンオサの街で待望のお買い物でした。
 まぁ、お金が無い小悪魔には酷なことになっていますが。

 次回は小さなメダルが溜まったのでインテリメガネなどと引き換えて売却……

「あー、待って下さい。一晩、一晩で良いんです。そのメガネを付けたまま私を虐めてください! 眼鏡越しの視線で私を蔑んで下さい!」

 それから雷の杖を回収するためにスーの村に行って、

「TS、性転換ですか!? それとも男の娘キャラがドラクエ3に!?」

 となる予定です。
 ……小悪魔の妄言は気にしないでください。

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スーの村へ「男の娘キャラがドラクエ3に!?」

「そう言えば、小さなメダルが貯まっていたわね」

 

 休息も兼ねてアリアハンに帰り、メダルの館で景品と引き替える。

 力の指輪、インテリ眼鏡が手に入った。

 

「力の指輪は豪傑の腕輪の『ちからもち』バージョンね。効果もそれなりだから、豪傑の腕輪さえあれば、売ってしまって構わないわ」

「インテリ眼鏡は、性格が『ずのうめいせき』になって、賢さがアップするんですね。……と言いますか、パチュリー様、似合い過ぎです。その美しさを見慣れている私でも、眼鏡越しに微笑まれるとゾクゾクしちゃいます」

「……売るしか無いわね」

 

 性格変更の効果はまた別として、賢さや体力の値が上がるアイテムを装備しても、レベルアップ時にマジックパワーやヒットポイントの最大値がその分上昇するわけではないので無意味。

 体力と違って賢さの方は呪文習得の判定に影響するので完全に無駄というわけでもないが。

 いずれにせよ、パチュリーたちは豪傑の腕輪と星降る腕輪を使うため、これらは売るしかないのだが。

 

「あー、待って下さい。一晩、一晩で良いんです。そのメガネを付けたまま私を虐めてください! 眼鏡越しの視線で私を蔑んで下さい!」

「………」

「ああ、その目。汚らしいモノでも見るかのような、見下すような視線がたまりません!」

 

 身悶えする小悪魔に、パチュリーは嫌悪を通り越して恐怖を覚える。

 そして勇者の家で休むのだが、

 

「むぐー! むぐぐぐぐー!!」

 

 身の危険を感じたパチュリーは使い魔として繋げているパスを通じて、小悪魔に三重の封魔捕縛式をかける。

 パチュリーのような術者が持つ魔術的視野、セカンド・サイトを通じて見たならば、小悪魔をギチギチに縛り上げる拘束具の数々が視覚的にも見て取れただろう。

 そうやって指一本動かせない、声も出せない状態で床に転がされる小悪魔。

 

「お休みなさい」

 

 パチュリーは一人、ベッドで眠るのだった……

 

 

 

「一晩床の上で過ごして、しっかり頭を冷やして反省したかしら?」

 

 翌朝、拘束を解くパチュリーだったが、

 

「はぁはぁ、パチュリー様に拘束放置プレイされたぁ、それだけでも興奮して逝っちゃうマゾメスにされたぁ」

 

 脳内麻薬がキマっているのか、小悪魔はうつろな笑顔でぶつぶつとつぶやく。

 もしパチュリーが小悪魔を調教しているなら「良い具合に壊れてきたわね」と満足の笑みを浮かべるところなのだろうが、もちろんそんなつもりは毛頭無い。

 ドン引きするだけである。

 

「小悪魔はぁ…… きちんと対価を決めて雇用契約を交わした使い魔、悪魔だったのに…… 今ではもう…… パチュリー様のぉ…… メス奴隷、です」

 

 うっとりとした目でパチュリーを見上げる小悪魔。

 

「性の奴隷として、メス犬として仕えること…… その素晴らしさと快楽を骨の髄まで…… いえ、魂にまで刻んで頂いて…… もう…… 主従契約が無かったとしても絶対逆らえない…… です」

 

 と告白する。

 

「こんな…… こんなこと言ってはダメって分かっているのに…… もう…… もう……」

 

 切羽詰まった、そんな表情で、

 

「躾けて…… ください…… パチュリー様の手で…… 止めを刺してください……!」

 

 そう懇願する。

 

「もう…… 気持ちいいことに逆らえない…… ダメで淫らな小悪魔にぃ……」

 

 途切れ途切れに告げられるのは、

 

「お慈悲をください…… 完全に…… 屈服させてくださいぃ……」

 

 という祈りにも似た哀願。

 

 

 

(怖すぎるでしょう!?)

 

 もちろん、パチュリーは恐怖に顔を引きつらせるだけである。

 何をやっても死なずににじり寄って来る不死身のゾンビに迫られているようなもの。

 

(変態!! 変態!! 変態!! 変態!!)

 

 である。

 

 まぁ……

 散々セクハラを働いている小悪魔だったが、実際にはパチュリーが少し本気に…… いや、本気になるまでも無くちょっと加減を間違えただけで、このように精神を根本からへし折られかねない、隔絶した実力差がある。

 そんな高みにある存在だからこそ小悪魔は、まるで誘蛾灯に引き寄せられるかのように惹かれ……

 そして、そんな格差のある相手だからこそ主従逆転の、背徳的な行為が生じさせる淫靡さは目も眩むほどのものとなり心を、魂を捉え離さないのだが。

 

(もう、こうなったら……)

 

 パチュリーは袋の中から一冊の本、読んだ者の性格を『おじょうさま』に変更する『淑女への道』を取り出す。

 

(性格を変える本による洗脳調教で強引に上書きするしか)

 

 そうして小悪魔は……

 

 

 

「美味しいですねパチュリー様」

 

 メガネをかけた小悪魔は、済まし顔でそう言いながら勇者母の用意した朝食をとる。

 

「そうね……」

 

 と安堵の息をつきながら香草茶(ハーブティー)を口にするパチュリー。

 

(本で性格を変えなくても、装備品で一時的に性格を変えれば良かったんだわ)

 

 そう、小悪魔はインテリメガネをかけて一時的に性格を『セクシーギャル』から『ずのうめいせき』に変更されているのだ。

 賢さが+15されたこともあって思考がクリアになったのか、変態的な衝動も治まったらしい。

 

「それじゃあ、あなたにはそのメガネの売却価格1275ゴールドの半額を私に払ってもらって……」

「えええっ!?」

 

 その上で出費をちらつかせ、小悪魔にインテリメガネの売却を納得させるパチュリーだった。

 

 

 

「雷の杖を回収するため、スーの村に行くわ」

 

 インテリメガネと力の指輪の売却を済ませたら、ルーラでポルトガに跳び、船で西へと向かう。

 大陸にぶつかったら南下。

 大河を遡り内陸を目指すが……

 

「敵、出ませんね」

「海は出現率が低いとはいえ、確かに異常ね」

 

 そして、スーの村が見えてきたところでようやく、

 

「半魚人さんです!」

「マーマンが3体ね。ルカナンでこちらの守備力を下げてくる程度で対処しやすい相手だわ」

 

 小悪魔は諸刃の剣により一撃のもとに切り捨てる!

 マーマンの最大ヒットポイントが54なのに対して75ダメージと20ポイント超過のオーバーキルである。

 

「くっ!」

 

 そして諸刃の剣の自傷ダメージはオーバーキルがあっても減らない。

 小悪魔は19ポイントものダメージを受ける。

 諸刃の剣は、ザコ相手には向かないのだ。

 そこに装飾品を幸せの靴から豪傑の腕輪に切り替え攻撃力を高めたパチュリーのチェーンクロスが唸るが、

 

「さすがに倒しきれない? ゾンビキラーで一体を確実に倒しきった方が良かったわね」

 

 ということに。

 マーマンはルカナンを唱えパチュリーたちの守備力を半分に落としてしまう。

 そこに、もう一匹が尻尾でビタンと小悪魔を殴りつける!

 

「効いてませんよ!」

 

 しかし小悪魔は防具をガチガチに固めているので、守備力を落とされてもなお、11ポイントのダメージで済む。

 

「装備技で守備力を回復させて」

「はい」

 

 下がった守備力は次のターンには『装備技』で戻せるから問題は少ない。

 システム的に言えば、ドラクエでは戦闘中に装備を変えられる、装備を変えると能力値が変化する可能性があるので再計算される(実際に装備しなおす必要は無く、現在装備中のものを選ぶだけでも良い)、すると魔法で変化していた攻撃力、守備力、素早さが元の値に戻ってしまうというもの。

 これでスクルト、スカラ、ルカナン、ルカニ、ピオリム、ボミオス、モシャスの効果が解除される。

 不利な魔法を受けた場合に使えるが、同時に味方からの有利な呪文効果も消えてしまうのが難点。

 一般には『装備技』と呼ばれるもので、スーパーファミコン版で使えるようになり、次のゲームボーイカラー版では使えなくなったものだが、スーパーファミコン版を元に制作された携帯電話版以降ではまた使えるようになっているというもの。

 

 そして小悪魔はまたマーマンを切り捨てるが、

 

「がっ!?」

 

 今度は21ポイントの自傷ダメージ。

 ヒットポイントが残り16ポイントというところまで追い込まれる。

 

「まぁ、それでも問題無いわ」

 

 とパチュリーが言うとおり、ルカナンで守備力を半減させたところに殴りかかっても11ポイントのダメージだったのだ。

『装備技』で守備力を回復させていればまったく怖くないし、

 

「ルカナンを唱えました!?」

 

 と小悪魔が言うとおりルカナンを唱えてくれれば、

 

「そこまでよ!」

 

 と止めを刺すだけである。

 

「うぐううう…っ、なんでわたしだけぇぇぇぇぇ…」

 

 まったくの無傷のパチュリーに対し、ボロボロになっている小悪魔。

 まぁ、大半が諸刃の剣による自傷ダメージなのだが。

 

「だから雑魚敵対策に雷の杖を取りに来たのでしょう。早くホイミで治療しなさい」

 

 パチュリーはそうなだめると、自身は装飾品を幸せの靴に戻す。

 そして小悪魔の治療を待って、スーの村へ。

 

「ああ、日が暮れてしまったわね」

 

 本当にギリギリのところで間に合わず、夜になってしまう。

 

「まぁ、ここは夜にイベントがある場所でもないから、朝にしてしまいましょう」

「ルーラですね」

 

 小悪魔のルーラで『スー』に跳び、時刻を朝にしてしまう。

 そうして南東の民家から素早さの種を回収。

 北の民家のツボからは小さなメダルが手に入るが……

 

「オーブのあるところ 山彦の笛 吹く。そうすると 山彦 かえってくる」

 

 少女が助詞を省いた独特の口調で話しかけてくる。

 が……

 

「性別が変わってる……?」

 

 首をひねるパチュリー。

 

「パチュリー様?」

「いえ、ドラゴンクエスト3のファミコン版にはそもそも女の子、女の子供は登場していなかったの」

「はい?」

「この子も男の子で「オーブのある所で山彦の笛を吹くと山彦が返ってくるんだよ」と、普通に話していたって言うわ」

 

 つまり……

 

「TS、性転換ですか!? それとも男の娘キャラがドラクエ3に!?」

 

 異様に興奮する小悪魔。

 しかし、

 

「うるさい」

「もがっ!?」

 

 パチュリーに先ほど見つけた素早さの種を口に突っ込まれ、口を塞がれる。

 

「あっ…… かはっ……」

 

 筋肉強化の副作用である筋肉痛を凝縮したような痛みにビクンビクンと跳ね回る小悪魔。

 

「ぐひぃぃぃぃっ!!」

 

 悲鳴を上げる下僕を冷めた目で見下ろしながら、パチュリーは考察する。

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではスーの村の住人は、ネイティブアメリカン風の衣装を着た独自グラフィックに差し替えられ、特徴的な助詞を省いた話し方をするキャラも増やされた。この子もその影響を受けて民族衣装に髪を縛ったキャラクターグラフィックに代わり、話し方も変わった」

 

 そして、

 

「この世界はスーパーファミコン版を元に作られた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。容量節約のためかスーの村人は一般の人間の色違いにされたのだけれど」

 

 ファミコン版でこの子供が男の子だったという事実を知らず、スーパーファミコン版のグラフィックとセリフだけを見てスタッフはこの子を女の子と誤解し、グラフィックをそれにしてしまった、ということらしい。

 

「やはり男の娘……」

「もう復活した!?」

 

 いつの間にか蘇って深くうなずいている小悪魔に呆れるパチュリー。

 しかし、

 

「まぁ、でもドラクエ3では珍しくないことなのかしら?」

「はい?」

「ドラクエ3のファミコン版ではカセットの容量不足のせいか、商人の町づくりイベントで預けた女商人が男に性転換してしまうっていう現象があったの」

 

 こちらの方が有名だろう。

 

「まぁ、TS、性転換ではなく女商人は女装した男の子だった、という説もあるのだけれど」

 

 キャラが性転換しました、というよりは、

 

「つまり女商人の正体は女装していた男! 最初から男性だったんだよ!!」

「な、なんだってー!?」

 

 といった方がまだ説明がつく、ということらしい。

 

「つまりパチュリー様は今まで隠していたけど男の娘だった……?」

「ファミコン版の話だって言ってるでしょう!?」

「これはぜひとも確かめないと!」

「何を!?」

 

 どったんばったん大騒ぎするパチュリーと小悪魔。

 そうして、

 

「私はしゃべる馬のエド」

 

 口をきく馬と出合うが、

 

「リメイク以降では彼だけ白馬になっているのよね」

「しゃべる白馬…… ああ、ドラクエ5からの逆輸入ですね」

 

 と小悪魔。

 ドラゴンクエストシリーズでは、リメイクの際に後発作品の要素を取り入れるというのは珍しいことではないが、

 

「んん?」

 

 思い当たる節が無く首をかしげるパチュリーに、小悪魔は言う。

 

「メインヒロインであり主人公の妻である王妃を誘拐! 文字どおり馬並みな彼が、久美沙織先生が書いた小説版では好意を寄せているとされた彼女をさらって、何もしないはずもなく……」

「はぁ!?」

 

 ジャミのことかーっ!!!!!

 

 という話。

 ドラクエ5で主人公の父パパスの殺害にも関与した憎むべき敵キャラ。

 多くのプレーヤーに、

 

「ジャミ!! きさまには地獄すらなまぬるい!!」

 

 と言わしめたモンスターである。

 

 確かに白い馬型モンスターでしゃべることもできるが……

 

「『ジャミ×主人公の嫁』のカップリングを指す『馬嫁』って言葉が生まれたぐらいの人気キャラですよ」

「どこの世界の話よ!」

 

 もちろん薄い本(スリムブック)……

 しんりゅうを規定ターン以内に倒すともらえるエッチな本界隈の話である。

 

「だいたいジャミは馬型モンスターとはいえ、ウロコの生えた……」

「パチュリー様、このスーの村近辺では陸地でも半魚人、マーマンダインが出るんですよ」

 

 しゃべる馬のエド×マーマンダイン!?

 

「ドラクエ3で竜の女王が産んだ卵が初代ドラクエの竜王になったとも言われますし、そういうことも……」

「いや、ロトシリーズ三部作と天空シリーズ三部作では世界が違うでしょう!?」

「でも、共通するモンスターが出たりしますし、どこかでつながっているのでは?」

 

 ということ。

 

「ドラクエ8でもメインヒロインはエンディングまでずっと馬のままの馬姫様(ミーティア姫)ですし、特殊性癖のバーゲンセールですよね、ドラクエシリーズって」

「無茶苦茶言わないで頂戴!!」

 

 絶叫するパチュリーだった……

 

 

 

 気を取り直して井戸を調べてみると、

 

「中に人が住んでます!?」

 

 どうやら、この村にあった渇きの壺を持ち出したエジンベアの兵士の内一人が取り残され、ここに隠れ住んでいたらしい。

 

「なるほど、エジンベアのモデルになった英国は『文明国を自称し他国の工芸品を保護の名目で強奪している泥棒の国』と皮肉られていたわね」

 

 まぁ、文化財があっても保存技術や修復技術が無い、あるいは保護するという意識が無くてダメにしてしまう国。

 紛争等で、酷い時には意図的に破壊される文化財もあったりするので、一概にその建前を非難するわけにもいかないのだが。

 また、

 

「そもそも……」

「「お前それドラクエプレーヤーの前でも同じこと言えんの?」ですね」

 

 小悪魔の言うとおり、城の宝物庫を漁り、家探ししてツボやタンスからアイテムを持ち出すことを是とするゲームで英国を泥棒と当てこすっても…… という話。

 

「いえ、この場合、ウィットを効かせたジョークなのかしら?」

「……ああ、なるほど。逆にドラクエの勇者たちを犯罪者呼ばわりする人々に「お前それ大英博物館でも同じこと言えんの?」と言っているのかも知れませんね」

 

 そういう見方もある。

 

 なお、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではここのタンスからすごろく券を得られたが、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 すごろく場が無くなっているためタンスも空だった。

 

 やはりドラクエの勇者は犯罪者。

 

 井戸から上がって更に周囲を探ると小さなメダル、そして雷の杖が手に入った。

 雷の杖は雷を落とすことによりグループ攻撃呪文ベギラマ相当の攻撃ができる魔法の杖だ。

 

「これはあなたに」

 

 パチュリーは諸刃の剣に呪われているせいで、集団攻撃手段を取れなかった小悪魔に渡す。

 次いで武具屋を訪ねてみるが、

 

「武器店の品ぞろえはこの村の特色が出ていて面白いわね。私たちには…… いえ、多くのプレイヤーには役に立たないでしょうけど」

 

 このスーの村で売られているのは、棍棒、毒針、バトルアックス、革の腰巻、派手な服、魔法の盾。

 これら独特の品揃えは自然と共に生きる者の文化が感じられるようになっており、ある意味新鮮にも感じられる。

 また、毒針はここでしか買えないものだ。

 カザーブで泥棒したくない、とか使い手である魔術師や盗賊が二人以上居てメタル狩りで使わせたい場合などには有効だろう。

 

 後は道具屋だが、

 

「エジンベアへの潜入に使った消え去り草が売ってますね」

「そうね、あなほりで得た私たちには不要だったけど、こことランシールで売られているわ。だから船を得たらまずこのスーの村を目指して海の雑魚モンスターを蹴散らすための雷の杖を拾い、消え去り草を買ってエジンベア、浅瀬のほこらで最後の鍵を入手、というのが手慣れた人の攻略チャートかしら」

 

 ということ。

 また、

 

「メタル狩りに使う毒蛾の粉が買えるのも便利よ。ムオルでも買えるけど、あそこはルーラでは行けないし」

 

 その代わりムオルは船取得前に歩いて行くことができるので、ガルナの塔に行く前に買ってメタル狩り、というのもできるのだが。

 

「私たちだと先に行ったサマンオサでも毒蛾の粉は買えるから、そんなに恩恵は無いのだけれど」

 

 公式ガイドブックの推奨するサマンオサの到達レベルは25だから、普通はスーの村に来るのが先である。

 

「『モヒカンのケ』なんてものもありますね」

「そうね、一説によればネイティブアメリカンの部族では、弓を射る場合に邪魔になる側頭部の髪の毛を刈っていた。それ故に英国ではモヒカン族にちなんでモヒカン刈りと呼ばれるようになったというわ」

 

 と、ここで気付くパチュリー。

 

「ああ、だから武器のお店に派手な服が置いてあるのね」

「パチュリー様?」

「派手な服は『公式ガイドブック』では「Punk Fashion」と英訳されていたわ。そしてパンクスの髪型と言えば、モヒカン」

「ああ……」

「土地柄を感じさせる武器店の品ぞろえの中で、これだけが場違いだと思っていたのだけれど、そういうつながりで置かれたものだったのね」

 

 ということだった。

 そして『モヒカンのケ』という装飾品だが、

 

「守備力の上昇は+3と微々たるものだけれど、性格を『おちょうしもの』に変えてくれるわ」

 

 性格、『おちょうしもの』は意外なことに能力補正は悪くない。

 素早さと賢さがかなり高く、運の良さもプラス。

『きれもの』と比べると体力がそれほど低くならないのも好材料。

『きれもの』はあまりに体力へのマイナス成長補正がきつすぎるのだが、『おちょうしもの』はほとんどマイナス補正が無い、悪くない性格になっている。

 ただし、セクシーギャルの下位互換だからパチュリーたちには不要なのだが。

 

「まぁ、何より使えるのは頭の防具、銀の髪飾りかしら。守備力+20でお値段は760ゴールドとコストパフォーマンスに優れ、女性なら全職業で利用が可能。女武闘家の最強の頭部防具でもあるわ」

 

 女尊男卑を象徴するかのような防具である。

 小悪魔は、

 

「今まで使ってきた鉄兜の売却価格は750ゴールド。差額10ゴールドを払うだけで手に入りますが……」

 

 次はムオルに行ってオルテガの兜を手に入れる予定である。

 

「でも、船で向かうにしろ結構距離があります。戦闘も複数回起こるはず」

 

 そう悩むが、

 

「うぐぐ…… 我慢。ここは我慢です」

 

 と断腸の思いで手に取って見ていた銀の髪飾りを戻す。

 一方、パチュリーはというと、

 

「ガルナの塔でも一つ拾えるから買うまでも無いんだけれど」

 

 と言いつつも、

 

「でもお金に困っているわけでも無いからここで買ってしまうわね」

 

 ガルナの塔で見つけたものは売ってしまえばいいのだ。

 安いのだから、購入価格と売却価格の差もたった190ゴールドである。

 と、小悪魔の目の前でさっさと購入してしまう。

 

「………」

 

 それを死んだ目で見ている、見ていることしかできない小悪魔。

 

「お金が無いって、辛いです……」

 

 というわけで、モンスターから剥ぎ取った素材や不要になったアイテムを売って清算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:3271G

パチュリー:63994G

 

「それでここまでに得た収入が1681ゴールドで、一人当たり840ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:4111G

パチュリー:64834G

 

「ここからあなたは雷の杖の売却価格1875ゴールドと、さっき拾って使った素早さの種の売却価格60ゴールドの半額、合計967ゴールドを私に払う必要があるわ」

「ひいっ!」

 

小悪魔:3144G

パチュリー:65801G

 

「それで、私は毛皮のフードを187ゴールドで下取りに出して、銀の髪飾りを760ゴールドで買うとして」

 

小悪魔:3144G

パチュリー:65228G

 

 ということになる。

 

「これで私もようやく守備力が100を超えたわ」

 

 と銀の髪飾りを身に着け微笑むパチュリーだった。




 いきなり完堕ちしかかる小悪魔でしたが、パチュリー様は彼女を縛って転がし反省を促しただけ。
 だからこのお話は健全。
 ピュアな読者の方々にはきっと分かってもらえるはず。

 そしてようやくスーの村で雷の杖を拾うことに。
 作中でも挙げていますが、本来なら船を入手したら真っ先に来るべき場所なんですけどね。

 次回はジパング経由でムオルを目指します。
「覆面パンツの筋肉男だった勇者の父、オルテガと間違えられる女勇者……」
 その秘密に迫る予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ジパング、ムオルへ 勇者が覆面パンツの父と間違われる訳

 小悪魔のルーラでレーベの村へ跳び、船で北上すれば、そこは島国ジパングである。

 

「一回も戦闘せずにたどり着けましたね」

「そうね、いくら海は遭遇率が低いといっても、これは…… やっぱりエンカウント率が下げられているのかしらね」

 

 正確に言うとエンカウントするまでの歩数が伸びているということか。

 

「ここがヒミコが支配するっていうジパングの国ですか」

「様子が変ね」

 

 とりあえず街の中を探索してみる。

 どうやら支配者であるヒミコが、ヤマタノオロチへの生け贄として、若い娘たちを捧げているらしい。

 

「酷いですねー」

 

 ヒミコに対する噂を聞きつつ、民家から木の帽子、布の服、不思議な木の実、毒蛾の粉を回収。

 なお、民家の床にはクッションがあって調べてみると、

 

 なにやらふわふわしている。

 おざぶとんというものらしい。

 

 ということ。

 

 次はヒミコの屋敷に向かう。

 ヒミコに会う前に屋敷の探索。

 不思議な木の実、力の種、小さなメダル、鱗の盾、稽古着を見つけることができた。

 そしてヒミコに対面。

 

「わらわは外人を好まぬ。早々に立ち去るのじゃ。よいな! くれぐれも要らぬ事をせぬが身のためじゃぞ」

 

 即座に追い返されるパチュリーたち。

 

「わざわざ念を押すっていうことは、されたくないこと、疚しいことがあるということよね」

 

 ヒミコの屋敷を出ると、その裏手には男性が居て呟きを漏らしているのが聞こえた。

 

「やよいは逃げてくれただろうか…… 祭壇に縛りつける縄をゆるめておいたのだが……」

 

 まだ調べていなかった地下倉庫へ。

 たくさん並んでいるツボからは、小さなメダル、力の種、そして……

 

「人の頭!?」

「お願いでございます! どうかお見逃しを! せめてもう一時、生まれ育った故郷に別れを告げさせて下さいませ」

「パチュリー様、ツボから人が!」

「生け贄に選ばれた女性のようね」

 

 先ほどの男性の手引もあって、上手いこと逃げ出していたらしい。

 もちろん他の人に告げることなく、その場を去る。

 

「私たちがオロチを倒すことのできる力を身に付けられるまで、どうか見つからないでいて下さいねー」

 

 と小悪魔。

 

 ジパングを出ると、海を渡ってすぐ近く、大陸側にある旅人の宿屋に行ってみる。

 ジパングには宿泊施設が無いので、ここを使えということか。

 また、陸路を使ってムオルに向かう場合も、途中ここで回復ができる。

 

「あとは力の種目当てに熊狩りをする場合には便利かも?」

「はい?」

「ジパングは本州北端と北海道を除けば、豪傑熊と大王ガマしか出ないようになっているの」

「大王ガマって、確かピラミッドで出現するんですよね? 今さらこんなところで?」

「そう、大王ガマのモンスターレベルはたった11。ドラクエ3では先頭のキャラよりも10以上レベルの低い敵からは確実に逃げることができるから」

「種を稼ぎたい場合、それ以上のレベルの場合が大半でしょうね」

「ええ、だからここでは力の種を最高の1/64の確率で落とす豪傑熊とだけ連続で戦うことができるの」

「しかもジパングは山ばかりでモンスターと遭遇しやすいですしね」

「力の種は他にも豪傑熊の上位種、グリズリーやヤギのモンスターの中位種ゴートドンが同率で落とすわ。ゴートドンは豪傑熊より弱いけれど同じ地域に出る敵が厄介。だから豪傑熊を倒せるだけの強さがあったら、ひたすらジパングで熊狩りを続けた方が早いのよ」

 

 この旅人の宿屋にはジパングの住人の一人がヤマタノオロチの脅威から避難しているほか、ひのきの棒と小さなメダルが手に入る。

 また、最後の鍵を使って鉄格子を開けるとそこには旅の扉があって、跳んだ先ではシスターが、

 

「ここはさまよえる船人たちが立ち寄る小さな教会」

 

 と迎えてくれる。

 

「昔はテドンの村人たちもよく来ていました。でも、今は……」

 

 そう、言葉を濁すシスター。

 ポルトガから南下してテドンを目指した場合に、途中にあるのがこの教会なのだ。

 

「ここであなほりをしても面白そうね」

 

 とパチュリー。

 

「さっき言った力の種を最高の1/64の確率で落とすゴートドンの出現エリアだわ、ここ」

 

 それに、

 

「素早さの種を最高の1/16の確率で落とすデッドペッカーと、1/32で落とすメタルスライムの出現エリアでもあるから、そちらも同時に稼げるし」

 

 魔女や地獄の鎧などといった厄介な敵も居るが、あなほりならば関係ない。

 

「まぁ、今はムオルね」

 

 というわけで旅の扉で旅人の宿屋に戻り、船でさらに北上。

 ムオルの村へとたどり着く。

 

「またモンスターとの遭遇無しでたどり着けましたよ!?」

 

 ということだが。

 しかし、

 

「夜になってしまったわね。ここも夜にイベントがある場所でもないから、朝にしてしまうべきなんでしょうけど……」

「またルーラですか?」

「ムオルってルーラには登録されない村なのよ」

 

 それゆえルーラで朝にする、という技は使えない。

 

「宿に泊まってもいいのだけれど……」

「けれど?」

「あなほりで朝を待つ、というのもいいのかも知れないわね」

 

 そんなわけで5回掘ったら街に出入りしてカウントをリセットしつつあなほりを続け、朝を待つことにする。

 

「素早さの種がどんどん出てくるわね。あと所持金の半額。あ、また出たわ」

「こ、この金額は……」

 

 そうして朝になるまで、実プレイ時間にして13分で、

 

「素早さの種が11個、所持金の半額が二回というのが主なものかしら。ひのきの棒とか売るしかないものは処分して、合わせて86483ゴールドの収入ね」

「ほぼ一分間に1回のペースで拾えているんですが、それは……」

「ここも素早さの種を最高の1/16の確率で落とすデッドペッカーの出現エリアだから」

 

 あなほりで得られるスピードも半端では無いということ。

 

「それから祈りの指輪が一つ」

「はい? 拾えるんですか? 祈りの指輪」

「ファミコン版では1/256の低確率で水鉄砲をドロップしたベビーサタンだけれど、リメイクでは水鉄砲が無くなったから祈りの指輪を1/1024という超低確率で落とすよう変更されたの。それでも30分も掘れば1個か2個は拾えるという話よ。13分で拾えたのはまずまずの成果かしら?」

「1/1024でもそんな簡単に拾えちゃうんですか!?」

「ええ、でもまぁ所持金の半額を掘り出して、そのお金でエルフの里で買った方が早いでしょうし、ゾーマを倒した後なら1/32の確率で落とすデビルウィザードを狙った方がいいでしょうね」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版なら、しんりゅうを規定ターン以内で倒し願い事をかなえてもらうことで開かれるジパングのすごろく場のよろず屋の1つで買えたりもするのだし。

 それはそれとして、

 

「村の探索を始めましょうパチュリー様。オルテガの兜が手に入るんですよね?」

 

 そうしてパチュリーを押すようにして歩き出す小悪魔だったが、

 

「いよう! ポカパマズ! ポカパマズじゃないか!」

 

「ポカパマズさんじゃありませんかっ! おかえりなさいポカパマズさんっ!」

 

「あらポカパマズさん、おひさしぶり。ポポタがあなたに会いたがっていたわよ」

 

 という具合に、住人たちから声をかけられる。

 

「誰かと間違われているんでしょうか?」

 

 と首をひねる小悪魔だったが、その疑問は市場の裏手、二階に上がって氷解する。

 この部屋のツボからは小さなメダル、そしてスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券が手に入るのだが、

 

「あなたたちはもしやアリアハンのお方では?」

 

 そうたずねる吟遊詩人に、はいと答えると、

 

「やはりそうでしたか。ポカパマズさまも、そこからきたと申しておりました。たしかアリアハンでの名前はオルテガ……」

 

 と教えてくれるのだ。

 

「ここの人、どれだけ節穴アイなんですかぁ!?」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 そんな彼女をパチュリーは冷めた目で見つつ、

 

「覆面パンツの筋肉男だった勇者の父、オルテガと間違えられる女勇者……」

 

 そうつぶやく。

 

「ちょっ、パチュリー様!?」

 

 小悪魔は悲鳴を上げるようにして抗議しようとするが、

 

「勇者とオルテガには外見上の共通点があるというわ」

「はい?」

 

 パチュリーはいつもの静謐なまでに怜悧な表情で語りかける。

 

「同じ肌色の全身タイツを着込んでいること」

 

 ドラクエ3で全身タイツというと僧侶が思い浮かぶが、実は勇者も服の下に身に着けているのだ。

 しかし、

 

「え、ええー? いえ、ファミコン版のオルテガって裸に覆面パンツですよね? 勇者のタイツは僧侶のものより色味が薄くて、より肌色に近いものですけど、そこまでは……」

 

 と小悪魔は言いかけてはっとする。

 それを見て取り、冷笑するパチュリー。

 

「青ざめたわね…… 勘のいいあなたは悟ったようね…… 自分の着ているタイツを父親であるオルテガが着ていたらどうなるかを想像して、恐ろしい結論になることに気付いたようね!」

(パチュリー様、()()()()()()()()()()()()()…… それは…… 危なすぎ…… です)

 

 どっと冷や汗をかく小悪魔。

 もう、これ以上何も考えたくなかったが、逃れることはできない。

 彼女はチェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまったのだッ!

 

 小悪魔のタイツは勇者母が買って来たもの。

 とすれば、勇者母の夫であるオルテガも、

 

「まさか!『同じタイツ』……『同じタイツのブランド』……」

 

 つまり、

 

「オルテガも息子、または娘である勇者と同じく裸ではなく全身タイツだった。ただ筋肉でパツンパツンに引き延ばされているからタイツの色味が薄く…… いいえ、乳首が見てわかるくらいです、素肌が透けてより肌色に見えるって話ですかッ!?」

 

 ということ。

 故にパチュリーは言う。

 

「そう、そしてそんな変態じみた全身タイツを着込むような人間が他に居るわけがない。だからこのムオルの住民は、あなたをオルテガと間違えてしまった」

 

 そういうことであった。

 

「誇りなさい。あなたは父オルテガと並ぶ勇者として見られているのよ」

「それって『ある意味勇者』ってやつじゃないですかー!!」

 

 常人では恥ずかしくてできないことを平然とやってのける変態。

 そう蔑まれながらも、一方では強ぇ、奴はある意味勇者だな、などといった、『歪みねぇという、賛美の心』が産み出す英雄。

 それが『ある意味勇者』と呼ばれる者である。

 

 まぁ、それはともかく、

 

「なんでまた、偽名なんか……」

 

 という話だったが、

 

「そういえば、さっき広場であなたを「ポカパマズさん」と呼んで迎えてくれた女性だけれど、勇者が死んだ状態でこの街に来た場合は「あの人が村を出て行ってから、もう、ずいぶん経つのね。会いたいなぁ。ポカパマズさん……」とつぶやいたりしているのよ」

「お母さんと私を放っておいて、一体何をしているんですか?」

 

 そう言わざるを得ない小悪魔。

 まぁ、何だかんだあって、その父オルテガが忘れて行ったという『オルテガの兜』を手に入れることができたが、

 

「守備力+30で呪われていない兜では上の世界で最強。装備していると特別な効果がある…… と言われていたけど、実際には効果は無く、ゲームボーイカラー版のみラリホー・マヌーサ・ルカニ系の呪文成功率を半減させるという特殊効果が付いていたわ」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 そして携帯電話版はスーパーファミコン版が元になっているためやはりこのオルテガの兜にも特殊効果は付いていない。

 

「ところで、どうしてこの兜が勇者専用なのか、ということだけれど」

「えっ? 勇者の父親のものだからじゃないんですか?」

 

 首をかしげる小悪魔。

 遺品らしき物なら他にも、ノアニールの村でも宿屋に残されていた皮の腰巻きがここの宿屋でも手に入るのだが。

 ……行く先々で、皮の腰巻きを残していく父親。

 気付かない方が幸せだろう。

 

 そうしてパチュリーは首を振る。

 

「他のメンバーから「肌色の乳首透け全身タイツを着込むような変態パンツマスク男の被っていた兜なんて身に付けられるか! 同じ全身タイツを着込んでいる変態、勇者が使えばいいだろう」と拒絶されたからっていう話が……」

「何ですかそれー!」

 

 まあ、そうなるな。

 という話である。

 

 

 

 後は商店街を回ってみるが、

 

「裁きの杖が売っていますね」

「僧侶と賢者が使える武器で、戦闘中に使用すると僧侶の初級集団攻撃魔法バギの効果があるものね」

「うーん、今さらバギですか?」

 

 首をひねる小悪魔に、パチュリーもうなずく。

 

「そうね、さらにリメイクだともっと前にグループ攻撃ができる僧侶向けの武器、モーニングスターが手に入るし評価は微妙なのよね」

 

 だが、

 

「ただ、僧侶って力の伸びがイメージされているよりかなり低いものなの。だから少しでも硬い相手と戦う場合、モーニングスターの+30の攻撃力と、だんだんとダメージが減って行くグループ攻撃では、ろくに攻撃が通らないということも多いわ。そういう場合のダメージソースとしては有効かしら」

 

 リメイクだと性格による成長補正があるため、力を捨てて他に振り、ダメージソースは裁きの杖に頼る、という選択もアリだろう。

 船入手前でも歩いて来て買えるということもあるし。

 

 また、

 

「パチュリー様、これ何です?」

 

 蛇腹に折られた扇状の武器。

 

「鋼のハリセンね。商人、遊び人のみが使える攻撃力+31の単体攻撃武器で、ここでしか売られていないものよ」

「それは…… でもこの性能だと船入手前に歩いてやって来たとしても使えないのでは?」

「そうね、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だと第2すごろく場の宝箱から拾えたから意外と使う人は多かったのだけれど」

「えっ? 第2すごろく場ってアッサラームの近くですよね? 攻撃力+38の鉄の斧があれば……」

「あなただって、鉄の斧が買えたのはピラミッドで魔法の鍵を取ってからでしょう?」

「そう言われてみれば……」

「そもそも普通のパーティなら商人、遊び人の武器なんて後回しにされるものだし、すごろく場で拾えるハリセンで間に合わせるというのは普通にありよ」

 

 とパチュリー。

 実際に手に取ってみて、こうつぶやく。

 

「私もあなたへのツッコミが追いつかない場合のために、一つ買っておこうかしら」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 何しろ『鋼の』ハリセンである。

 公式ガイドブックには「敵の顔面をたたいてダメージを与える」などと書かれているものだが、それをやられたら本当に死にかねない。

 しかしパチュリーは薄く笑って、

 

「「"ボケ殺し"とは犯罪行為の一種であり、漫才のボケ役を殺害することである!」とも言うじゃない」

 

 などと言い出す。

 

「違いますよ! 漫才で相方のボケを潰すことであって、そんな血なまぐさい話じゃないですよね!?」

「紅魔ジョークよ。面白くなかったかしら?」

「命の危険しか感じませんよ!?」

 

 そう悲鳴を上げるしかない小悪魔だが、それが紅魔ジョークというものなのだから仕方がない。

 

 

 

「後は道具屋でメタル狩りに使う毒蛾の粉が売っているわ」

 

 船取得前でも歩いて行くことができるので、ガルナの塔に行く前に買ってメタル狩り、というのもできる。

 そういった場合には便利だろう。

 

 あとは、最後の鍵を使って入ることができる市場の中庭では小さなメダルを拾うことができた。

 

 

 

「ここは神に導かれし迷える子羊たちの訪れる場所。わが教会にどんな御用でしょう?」

 

 そして最後に訪れた、この村の教会には女神像が置かれ、珍しいことにシスターが対応してくれる。

 

「の、呪いを…… 優しいシスターさんの手で諸刃の剣の呪いを解いてもらいたいです……」

「はいはい、お金を溜めてゾンビキラーが買えるぐらいになったらの話ね」

 

 と、パチュリー。

 まぁ、その場合でもこのムオルにはルーラで来ることができないため、利用することは無いだろうが。

 

 床には十字架を模した模様が描かれ、その中心からは、命の木の実を拾うことが出来た。

 

「神様は、いつも私たちを見守ってくれています。またおいで下さいね」

「はい」

 

 シスターに見送られ、教会を出るパチュリーたちだった。




>「まさか!『同じタイツ』……『同じタイツのブランド』……」

 多分、勇者母は『しまむら』から買って来てますね。
『東方Project』× ファッションセンター『しまむら』コラボとかやってますし。

 次回はあなほりで11個も掘り出してしまった素早さの種のパチュリー様への投与。
 あと精算で、再び借金奴隷に陥る小悪魔をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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あなほりによる種集めの成果 小悪魔の匂い中毒奴隷に貶められるパチュリー

 いったん小悪魔のルーラでアリアハンへと戻るパチュリーたち。

 

「それじゃあ、私の寝室にこもってパチュリー様に素早さの種を使って頂きましょうか」

 

 そう告げる小悪魔をパチュリーはジトっとした目つきで睨むが、

 

「パチュリー様、私だって自制すべきところとそうでない場合の区別ぐらいつきます。今回、連続11個の素早さの種を使うんですよね」

「ええ、そうね」

「すると副作用による筋肉痛も大変なことになります。そんな時にパチュリー様のご負担になるようなこと、するわけが無いじゃないですか」

 

 真面目な顔をして主張する小悪魔。

 

「ですから、まずは楽な体勢作りからですね。ベッドにうつ伏せに寝転んでください」

「………」

「苦しくないですか? お顔のところに枕を抱き込むようにすると楽になりますよ」

 

 まっとうな指示であり、そうすると確かに姿勢が楽になる。

 

「それじゃあ、始めますねー」

 

 というわけで、パチュリーに対する素早さの種による強化が始まった。

 

 

 

「ッ!」

 

 胸元に抱え込んだ枕を抱く腕に力を込め、素早さの種による速筋の強化、それによってもたらされる筋肉痛を凝縮したような痛みに耐えるパチュリー。

 

「ふっ、くっ!」

 

 漏れそうになる悲鳴を、枕に顔をうずめることでこらえる。

 マッサージのため、パチュリーの背にまたがった小悪魔は、その姿を見下ろし、

 

(パチュリー様ならそうやって悲鳴を押し殺すと思いました。でもそうしていただければ、冷たく乾燥した空気を直接吸うことがないので、刺激を抑えることができます)

 

 以前、五つ連続で力の種を投与した際には、心因性のものか喘息の発作を起こしたパチュリー。

 その再発を防ぐためにも講じた策だったが、

 

「それじゃあ、お身体に触りますね」

 

 そう言って、パチュリーの肩、上腕、背中をゆっくりと揉む。

 その手つきは至って健全で、何の問題も無い。

 壊れ物を扱うかのように丁寧に、筋肉と筋、関節にリンパを揉み込んでいく。

 だが……

 

 

 

「くふっ!? む、ぐぅ……!?!?!?!?」

 

 ビクビクと反応するパチュリーの身体。

 

(ど、どうして? た、ただのマッサージよ? それなのにどうして?)

 

 ゾクゾクとした背筋を走る快楽は、ただマッサージが心地良いというだけではなく下腹部、お腹の奥に熱が溜まって行く。

 

(こ、こんなぁ…… こんなぁ……)

 

 パチュリーには己の身体が信じられなかった。

 ただ普通にマッサージを受けているだけなのに、それだけのはずなのに感じてしまう。

 

「くっ、ふうぅぅぅっ……」

 

 パチュリーはただ、枕に顔をうずめて喘ぎ声をこらえるしかなかった。

 

 

 

(ふふふ、そんなことをしたら、ますます興奮して取り返しのつかないことになってしまいますよ)

 

 懸命に快楽をこらえるパチュリーを見下ろし、ほくそ笑む小悪魔。

 

(このベッドは私のものですから、私の、悪魔の媚毒交じりの体臭が染みついています)

 

 悪魔の体臭は他者を誘惑するためのもの、フェロモンのような効果をもたらすものであり。

 その匂いは好ましい、天然の香水のようなものなので気付かれていないようだが、

 

(特にパチュリー様が顔を埋めていらっしゃる枕には、髪から移った濃厚な残り香が……)

 

 興奮により高まるパチュリーの胸の鼓動、荒くなる息。

 それをこらえるため枕に顔を押し付けて誤魔化そうとするが、それでますます小悪魔の媚毒交じりの体臭を吸い込んでしまうという悪循環。

 

(そんな濃いのを自分から吸っちゃうなんてパチュリー様、本当に堕ちてしまいたくって仕方が無いんですね?)

 

 くすくすと、小悪魔の口元から漏れる笑い。

 もうすでにパチュリーは呼吸が上がっていて、酸素を求めていると同時に一時的な匂い中毒に、小悪魔の体臭を求めるようになってしまっていて。

 そうやって酸素と共に肺に送られた小悪魔の媚毒は血液に吸収され、パチュリーの全身をますます侵していく。

 

 無論『生粋の魔法使い』であるパチュリーは生まれつきそういったものに高い耐性を持っている上、喘息を抑える強い薬湯の常飲、魔法薬の作成、試飲を行っているため薬物には強い耐性ができている。

 薬は刺激に弱い者ほど効くし、慣れている者には効きにくい。

 コーヒー中毒の者が、カフェインに耐性を持っているように。

 今のこの状態も、過剰な連続摂取により一時的に押し切られているようなもので、供給を絶てば治まる程度のことでしかない。

 

 だがそれゆえに、パチュリーには小悪魔の媚毒に犯されているという自覚が無い。

 無防備に媚毒を吸い込み続け、その効果にただひたすらに混乱する。

 

 自分は小悪魔の媚毒に耐性を持っている、というパチュリーの認識こそが大きな隙なのだ。

 薬物への依存には『身体的依存』だけでなく『精神的依存』があり、『身体的依存』が無いから大丈夫というのは危険な考え。

 肉体的には問題なく、薬物的な効果が残らなかったとしても、パチュリーの精神自体が小悪魔の匂い好きに躾けられてしまえば……

 そしてこのように肉体の快楽と紐づけて、脳のシナプスを繋げられてしまえば……

 

 パチュリーは小悪魔の体臭を求め、その匂いを嗅いだだけでどうしようもなく発情してしまう立派な匂い中毒者、いや、匂い奴隷に仕立て上げられてしまうのだ。

 

(でも……)

 

 小悪魔はあくまでもやさしくパチュリーの身体をもみ込むだけで、性的な場所には一切触れない。

 故にパチュリーには切なさだけが蓄積されていき……

 

「お背中の方に移りますね」

 

 と、パチュリーの背にまたがっていた小悪魔はその腰の置き場を、パチュリーの腰の上へと移す。

 

「っ!?」

 

 瞬間、パチュリーの腰が跳ねて小悪魔も一緒に跳ね飛ばされそうになる。

 

(ふふ、軽く乗っただけなのに。腰に体重を掛けられて、熱くなったそこをベッドに押し付けられて逝きそうになりましたか?)

 

 なら、

 

「上半身、起こしますねー」

 

 背中への施術、上半身を引き起こせば、益々圧迫が強くなり……

 

「あああっ!?」

 

 強制的にエビ反りにされ、悲鳴を上げるパチュリー。

 

(床やベッドに押し付けて、というのはクセになってしまう人も居るやり方ですからね。こうして!)

 

 パチュリーの上半身を引き上げる腕に力を込め!

 

(ふふふ、病み付きにして差し上げましょうか?)

 

 相対的にパチュリーの腰へと落としている自分の尻、臀部にはますます荷重をかけ、パチュリーの秘められたそこをベッドとのサンドイッチで圧迫、いや押し潰す!

 

「かふっ!? かは、ぁ……」

 

 たらり、と一筋の唾液がパチュリーの口元から滴り、極まりそうになった瞬間、

 

「すみません、痛かったですか?」

 

 小悪魔は体勢を戻し、腰を浮かして前かがみになりパチュリーの耳元に済まなそうに謝る。

 

「く…… ふ……」

 

 それで、ぎりぎり暴発せずに済むパチュリーの身体。

 

(何せ11個ですからね。夜はまだまだ長いんです)

 

 ただのマッサージ、パチュリーにそう認識される範疇だけの刺激で、その身体を徹底的に溶かし尽くし追い込む。

 そうして知性も思考も奪い取り、快楽の沼に沈め込むのだ。

 そうすれば……

 

 小悪魔はにんまりと微笑むのだった。

 

 

 

 チャラララ、チャッチャッチャーン♪

 

 小悪魔のベッドの上、宿泊時の効果音と共に爽快な目覚めを迎えるパチュリー。

 素早さの種の効果か「もう何も恐くない」と思えるくらい身体が軽い。

 

「むきゅ?」

 

 そうして思い出す、昨晩の自分の痴態を……

 

「うう……」

 

 

 

 本当に、ただのマッサージの域を出ないはずの小悪魔の手管に翻弄され、その心地よさと同時に感じてしまった快楽に屈し、否応なしに何度も極めそうになる身体を汗みずくにのたうちまわらせて。

 命じればいつでも止めさせることができるはずのパチュリーも、女体のすべてを知り尽くした小悪魔によって気力の限界まで快楽漬けにされ、身体のコントロールを奪われ、失神寸前まで追いつめられて屈服してしまう。

 そうやって抵抗するすべを奪われた無防備な肉体に加えられる悪魔の施術。

 自らの下僕、使い魔である小悪魔の前に涙と唾液と汗を体中にまみれさせて完膚なきまでに崩壊してしまった肉体を晒し、思考力さえも奪い去られ……

 

 放心状態になったパチュリーに対し、小悪魔は病人を献身的にケアする看護婦のように、いや、赤ん坊を世話する子守女中(ナースメイド)のように甲斐甲斐しく尽くす。

 完全に抵抗不能のパチュリーは自らのもっとも恥ずかしい部分まで広げられて蒸しタオルで丁寧に拭かれてしまう。

 すっかり無抵抗なのを良いことに、人形に服を着せる様にネグリジェに着替えさせられて……

 惚けるような意識の中で「病人みたいなものだから仕方がない」「赤ちゃんみたいですね」「お人形さんのようです」と囁いて精神的に追い詰めていく。

 

 そうして性も根も尽き果て、言いなりの肉人形と化したパチュリー……

 小悪魔はそのまま、その身体を望むがままに抱きしめ、就寝。

 パチュリーの頭を胸に抱え込み、その胸の谷間に溜まった濃厚な小悪魔の体臭、媚毒に酔わせながら髪をすき寝かしつける。

 明けの明星が輝くまで……

 

 

 

「おはようございますパチュリー様。アーリーモーニングティーの用意ができていますよ」

 

 と、自身は既に身づくろいを終え、そうしてとっておきの紅茶を差し出す小悪魔。

 アーリーモーニングティーとはその言葉通り、早朝起き抜けに楽しむ紅茶のこと。

 別名ベッドティーとも呼ばれるように、ベッドの中で紅茶を飲むこともある。

 古くから英国に伝わる習慣で、19世紀の頃、中産階級以上の裕福な人々が、メイドに紅茶を運ばせていたのが始まり。

 その後、レディファーストの習慣のある英国では、夫が妻にアーリーモーニングティーをサービスするというように変わっていった。

 

「美味し……」

 

 ベッドの上で紅茶を受取り、その香りと味を楽しむパチュリーだったが……

 まぁ、小悪魔はパチュリーの使い魔であるからそのサービスを受けるのは当たり前か?

 とも思うが、現代風に夫が妻に、というなら小悪魔が夫で自分は妻?

 その考えに至り、思わず頬が熱くなる。

 

「パチュリー様? お顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「な、何でもないわ」

 

 そう誤魔化すパチュリー。

その姿を微笑ましそうに、そして満足そうに満面の笑顔で見下ろす小悪魔だった。

 

 

 

「そう言えば、小さなメダルが溜まっていたわね」

 

 メダルの館で小さなメダル40枚と引き換えられる景品『はやてのリング』を受け取る。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では第3すごろく場のよろず屋で買えたが、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなっているため、メダルの景品とされたもの。

 あとはサマンオサ南の洞窟でしか入手できない数量限定品となっている。

 

「装備すると素早さが+15され、性格が『すばしっこい』になるものね」

「守備力も+7されるってことですよね」

 

 ドラクエ3は素早さの半分が守備力に加算されるため、小悪魔の言うとおりになる。

 しかし、

 

「星降る腕輪と豪傑の腕輪を身に着けている私たちに、その他の装飾品は必要無いわ。それに力、体力、運の良さにマイナスの成長補正を持つ『すばしっこい』の性格はどう考えても不利よ」

 

 というわけで売るしかない。

 売却価格は2325ゴールドとそこそこ稼ぐことができるし。

 

「それじゃあ精算しましょうか」

 

 不要なアイテムを売って清算する。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:3144G

パチュリー:65228G

 

「これに私があなほりで掘り当てた所持金の半額、それに掘り出した不用品の売却価格を足すと」

 

小悪魔:3144G

パチュリー:151711G

 

「な、なんていう経済格差……」

「それでここまでに得た収入が3550ゴールドで、一人あたり1775ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:4919G

パチュリー:153486G

 

「ここからあなたはオルテガの兜の売却価格6150ゴールドの半額3075ゴールドを私に払う必要があるわ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。これ勇者の、私のお父さんの形見ですよね?」

「まぁ、そうなんだけれど勇者だからって手に入る装備をすべて特別扱いというのも不公平でしょう? 売り払ってそのお金でパーティ全員の装備を整えるのに使うというプレイヤーも居るという話だし、それに……」

「それに?」

「そういうことを言い出すと、例えば商人ならイエローオーブや商人の街を発展させたことで得られるアイテムは商人個人の収入か? なんてことになってきりが無いでしょう」

「それは、そうかも知れませんが……」

「まぁ、今まで使っていた鉄兜を売り払えば750ゴールドの収入になるでしょう?」

 

 ということで差し引き、

 

小悪魔:1657G

パチュリー:157498G

 

 となった。

 

「お、お金が…… ゾンビキラーを買って、諸刃の剣の呪いを解いてもらうために必要なお金が減って行きます……」

 

 愕然とし、酷すぎると言おうと口を開く小悪魔だったが、

 

「何を勘違いしているの?」

「へ?」

 

 機先を制され、思わず変な声を漏らす小悪魔に、パチュリーは告げる。

 

「まだ精算は終了していないわ」

 

 話は終わっていなかったのだ。

 

「祈りの指輪って、これまで薬草などと同じパーティ共通の回復アイテム扱いにしていたけれど、よく考えてみると勇者と商人の二人パーティだと勇者しか使わないものじゃない」

「……そうですね? あなほりはマジックパワーを使いませんし、商人がレベル17で覚えるっていう『おおごえ』のために貴重な祈りの指輪を使うかというと、まずあり得ませんから」

 

 そうなると、このパーティでは祈りの指輪は勇者専用アイテムになる。

 勇者のマジックパワーの外部タンクとも言えるものになるだろう。

 

「祈りの指輪の売却価格は1875ゴールド。イシスの女王様からもらったものは二人に所有権があるものだから、あなたしか使わないアイテムで、あなただけのものになるというのなら半額の937ゴールドを私に払う必要があるわ」

 

 そうなると二人の所持金は、

 

小悪魔:720G

パチュリー:158435G

 

「ヒッ、嫌ああぁぁぁぁっ!?」

 

 ズンと減った所持金に悲鳴を上げる小悪魔!

 さらに2つ目、

 

「そしてあなほりで得たものは私個人の収入だから、ムオルで掘った分は全額の1875ゴールドを払ってもらうことに……」

 

小悪魔:-1155G

パチュリー:159155G(+未払い分1155G=160310G)

 

「ひぃ、やぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 絶叫する小悪魔にパチュリーはこう告げる。

 

「買値ではないだけ、あなたも得をしているのよ。良心的よね」

 

 2回の連続攻撃、もとい精算行為で小悪魔の所持金を削りきりマイナスに。

 そう、パチュリーはこの時点で小悪魔を借金奴隷に墜としていた。

 だがしかし……

 

「あとはジパングで拾った力の種二つ。私にはストックしているものがまだ二つあるから、これはあなたに。売却価格180ゴールドの半額90ゴールド、これを二つ分私に払ってもらえば……」

 

小悪魔:-1335G

パチュリー:159155G(+未払い分1335G=160409G)

 

「くぅ、あああぁぁぁぁあ!!」

 

 ダメ押しの借金追加に、悲鳴を上げるしかない小悪魔。

 

「さらに言えば、ボストロールを倒して変化の杖を手に入れた段階で、エルフの里で祈りの指輪をまとめ買いしてもらわないといけないのだけれど……」

 

 と、ダメ押しの追撃がかけられ、

 

「あ…… ああ……」

 

 もう、小悪魔はズタボロだ。

 第三者が見ていたなら、

 

「もうやめて、パチュリー様!」

「とっくに小悪魔の所持金はマイナスよ! もう買うことはできないのよ!」

 

 と言っていただろう、怒涛の連続攻撃、もとい精算フェイズである。

 がっくりと膝をつき、その場にくずおれた小悪魔は、しかし気力を振り絞って顔を上げると叫ぶ!

 

「これは不条理です! 夢であってくださいぃ、この先ずーっと、こんな目に遭うんですか? 冗談じゃないです! 誰か何とかしてくださーい!!」

 

 その叫びはアリアハンの空へと吸い込まれていくのだった……

 

 

 

「仕方ないわね……」

 

 ということでパチュリーが何とかすることにする。

 

「力の種は私のストック分に入れるとして、エルフの里では他にも同時に眠りの杖を買っておきたいところ。もし、その時にあなたのお財布に余裕が無かったら、祈りの指輪は私のお金で買っておいて必要時に都度、私からあなたに売るということにしてあげるわ」

 

 そういうことになった。

 それにより二人の所持金は、

 

小悪魔:-975G

パチュリー:159155G(+未払い分-975G=160130G)

 

「それでも借金は無くならないんですね……」

 

 なお、二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:15

 

ちから:75

すばやさ:60

たいりょく:83

かしこさ:19

うんのよさ:20/70

最大HP:169

最大MP:38

こうげき力:157/117/114

しゅび力:120/110/100

 

ぶき:ゾンビキラー/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:13

 

ちから:43

すばやさ:108

たいりょく:34

かしこさ:27

うんのよさ:28

最大HP:67

最大MP:53

こうげき力:158/83

しゅび力:156/149

 

ぶき:もろはのつるぎ/はがねのむち

よろい:まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

「お互い守備力が高まって来たわね」

「素の素早さが、たった13分の種集めで逆転されてしまっています……」

 

 星降る腕輪を入れ替えれば、守備力も逆転されてしまうだろう。

 

「私だってこれまで素早さの種を投入してきましたし、セクシーギャルは素早さの成長補正が全性格中二番目に高い+20パーセントもあるんですよ!」

 

 そう叫ぶ小悪魔だったが、

 

「素早さの種を1/16という高確率で落とすデッドペッカーのおかげね」

 

 と、パチュリーは言う。

 あなほりをすればたった13分で11個もの種が得られる。

 

「次いで高いのは、ラックの種を1/32の確率で落とすシャーマン」

 

 こちらも実際、幸せの靴を掘り当てるまでの5分足らずの間に2個拾えている。

 

「他の力、賢さ、スタミナの種はいずれも最高でも1/64の確率でしか落とさないから、その差は歴然よね」

「それって……」

「もちろん普通に攻略するなら、盗賊が盗むことを考えても種集めはゾーマ打倒後のやり込み要素なのだけれど」

「商人のあなほりは、それを覆してしまう?」

 

 ということであり、

 

「そうね、素早さ、次いで運の良さについては、性格による成長補正を考慮せずとも良くなるわ。そこを削って力、賢さ、体力に割り振った方がいいことになるわね」

 

 とパチュリーもうなずく。

 商人の彼女なら賢さも捨てて良いので、力と体力が上げられる性格が良く、つまりはタフガイが一番ということになる。

 

 そういう意味では小悪魔の性格『セクシーギャル』の、

 

ちから+10%

すばやさ+20%

たいりょく+5%

かしこさ+15%

うんのよさ+20%

 

 という成長補正は、種集めが容易な素早さ、運の良さに多く補正が分配されているという意味ではあまりよろしくない。

『ひっこみじあん』の、

 

ちから+10%

すばやさ-40%

たいりょく+20%

かしこさ+10%

うんのよさ-10%

 

 の方が有利だったりする。

 ……まぁ、種集めができるようになるまでの苦労や、各職業の元々の成長率との兼ね合いで変わって来るので一概には言えないのだが。




 小悪魔は本当にちゃんとしたマッサージ、そして病人にするような献身的なお世話をパチュリー様にしているだけ。
 だからこのお話は健全、いいね!

 そして、

「何勘違いしているんだ……!!」
「ひょ?」
「まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ!!」

 とばかりに怒涛の精算行為により借金を背負わされる小悪魔でした。

 次回は、とばして進めていたノアニールの村の解放イベントの予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ランシールへ 1回約8万ゴールドの死に戻り(デスルーラ)を許容する程度の財力

「次はランシールの地球のへそに潜って大地の鎧を手に入れることにしましょうか」

 

 そう提案するパチュリー。

 しかし小悪魔は、

 

「はい? 大地の鎧よりも耐性が付いている魔法の鎧の方が有利なんですよね?」

 

 と自分が着こんでいる魔法の鎧を見下ろしながら聞く。

 パチュリーはうなずいて、

 

「そうね。ただ守備力だけを見れば魔法の鎧の+40に対して大地の鎧は+50と高いから、攻撃呪文を使ってこないボストロールやヤマタノオロチに対して大地の鎧を使うというのはアリでしょう?」

 

 ということ。

 ヤマタノオロチに対しては、ボストロールを先に撃破して進めてしまえば入手できる刃の鎧を使うというのもアリだが。

 

 そんなわけでアリアハンから船で西へ。

 しかし、

 

「パチュリー様?」

 

 途中、パチュリーは上陸してアリアハン大陸の西にある岬の洞窟へ入る。

 すぐに出て再び海へ。

 

「モンスターに遭遇するまでの歩数カウントをリセットしたのよ」

「ああ、なるほど」

 

 といったような小技を使い、エンカウント無しでランシールの村へと到着。

 

「ここはランシール。小さな村よ」

 

 と迎えてくれる女性。

 そして青年が、

 

「村は小さいけど神殿は大きいよ。だからおとずれる人は、けっこう多いんだ」

 

 そう教えてくれる。

 まぁ、宿では、

 

「くそっ! 大きな神殿などどこにも無いではないかっ! この村のどこかにあるはずだが、私の探し方がまだ甘いのであろうかっ!」

 

 と神殿を見つけられずにいる男が居るのだが……

 

「とりあえずは武器屋ですね」

「あなたには買うお金が無いでしょう?」

「うぐっ!?」

 

 それでも見るだけでも、とパチュリーの背を押すようにして店を訪れる小悪魔だったが、

 

「……買うものがありませんね」

 

 と言うとおり。

 この村の武器店で売っているのは、鋼のムチ、大金槌、パワーナックル、身躱しの服、魔法の法衣、魔法の鎧、鉄仮面だが、

 

「鋼のムチはポルトガで買えますし、戦士専用の大金槌はスーで買えるバトルアックスの方が強いですよね」

「そうね、パワーナックルは武闘家と盗賊が使える武器だけれど、リメイクならピラミッドから持ち出しさえすれば呪いが働かない黄金の爪があるし、盗賊なら同じ攻撃力でグループ攻撃が可能な鋼のムチの方が有利だわ」

「魔法の鎧は私たちのように先にサマンオサで買っていないなら買う価値はありますか?」

「そうね、テドンでも買えるのだけれど……」

 

 と考え込むパチュリーだったが、

 

「私たちがそうだったように歩数リセットを使って上手くすればエンカウント無しで到達できる近場にある村だから、船を得て先に訪れていれば役立ったのでしょうね」

 

 そう、同意する。

 

「魔法の法衣は魔法の鎧の5800ゴールドより1400ゴールド安い4400ゴールドですが……」

「ああ、でもそれ守備力が魔法の鎧の+40に対して+30と10ポイントも低くなるし、何より僧侶、賢者しか使えないものよ」

 

 とパチュリー。

 

「ファミコン版だと、ここランシールでは魔法の鎧が売られていなかったからテドンに行く前なら買う価値もあったかも知れないけど……」

 

 ということ。

 そして鉄仮面も、サマンオサにまだ行っていないなら買う価値があるが、パチュリーたちは既にサマンオサを訪れているし、勇者にはオルテガの兜があるので不要というものだった。

 

 一方、道具屋で売っているのは、

 

「聖水とキメラの翼、あとは消え去り草だけですか?」

「そうね。ここ、神殿はあっても教会が無いから毒の治療ができないのは結構痛いかも知れないわね。まぁ、この周辺だとランシール縁辺部で出る『あやしいかげ』の中身が毒を使うモンスターだった、という場合以外には毒を受ける恐れが無いのだけれど」

 

 そして、

 

「ファミコン版だと先頭キャラがレベル15以上で聖水を使えば『あやしいかげ』は中身に関係なくモンスターレベルが10扱いで固定だから、出現を完封できたのだし」

「そのための聖水でしょうか?」

「さぁ? リメイクでは聖水やトヘロスの呪文の判定がエリアレベルとの比較に変わったから、ランシール周辺ではレベル27以上になるまで封じることができなくなっているしね」

 

 最悪、不足があればキメラの翼を使って他の街へ行って買って来いということだろうか。

 

「あとは消え去り草ですが……」

 

 この店を出ると、

 

「私は道具屋の娘。消え去り草を買っていってくださいな。消え去り草はあなたの姿を見えなくしちゃう不思議な草よ。持ってると便利なんだから」

 

 と使い方を教えてくれる女性が居る。

 その言葉にしばらく考え込んでいたパチュリーは、

 

「自分を見失う、つまり自失状態になってしまう不思議なクサ、それはつまり……」

「ダメ。ゼッタイ」

 

 と、危ないことを言おうとして小悪魔に止められる。

 なお『クサ』は麻薬を意味する隠語だったりする。

 ともあれ、

 

「スーの村でも買えるけど、先にこちらに来たのなら買っておいた方がいいということでしょうね」

 

 そういうことだった。

 そして西の民家ではツボから5ゴールド、タンスからは小さなメダルが見つかる。

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではこのタンスからはすごろく券が手に入ったのだけれど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 すごろく場が無くなっているためすごろく券も無く、小さなメダルに差し替えられていた。

 これは本来、すごろく場で拾える分だ。

 

「それじゃあ、噂の神殿に行ってみましょうか」

 

 木々の横をすり抜けて村の北へ向かうと、そこには大きな神殿がある。

 左右、両脇の鉄格子を開けて中に入るとそれぞれに貴人が居て、

 

「イエローオーブは人から人へ、世界中をめぐっているそうじゃ。たとえ山びこの笛であっても、それをさがしだすことはむずかしいであろうな」

 

「わしには見える。もし旅先で別れた仲間がいるとすれば、その者が希望をもたらすであろう」

 

 という具合に、イエローオーブ入手のヒントが語られる。

 

 また、神殿脇の右の突き当りでは小さなメダルが拾え、左の突き当りには、

 

「スライムが居ます!?」

 

 スライムの姿があり、

 

「消え去り草を持ってるかい?」

 

 と話しかけてくる。

 

「はい?」

「だったらエジンベアのお城にいきなよ」

 

 という具合に、消え去り草を使ったエジンベアの城への侵入を促してくるのだが……

 

「ヒントをくれるスライムさんですか。なかなか可愛いですね」

 

 と微笑む小悪魔に、パチュリーは眉をひそめ、

 

「可愛い?」

「えっ、そうじゃないですか?」

 

 戸惑う小悪魔に、パチュリーは事実を告げる。

 

「ファミコン版では、そこに居たのはホビットなのよ」

「そうなんですか?」

「そしてスーパーファミコン版以降のリメイクでは、スライムが成り替わった……」

「は……?」

 

 パチュリーの言いように、どうしようもない悪寒を感じ、身体を震わせる小悪魔。

 そんな彼女にパチュリーは語る。

 

「こんな人気のない神殿脇、その奥であった成り替わり劇。目撃者は皆無。叫んでも誰にも気づかれない。遺体もスライムなら……」

 

 つまり、それは、

 

「きあー!!」

 

 叫ぶことでパチュリーの言葉を遮る小悪魔。

 

「あーあー」

 

 頭を抱えるようにして耳を塞いで、パチュリーに背を向けうずくまる。

 

「私はそうゆうスプラったな話わダメです」

 

 とブルブルと震える。

 

「悪魔なのに?」

「悪魔がみんな、そういうお話に耐性を持っていると思ったら大間違いですよっ!?」

 

 涙目で叫ぶ小悪魔だった……

 

 

 

 神殿の前に居る武人からは、

 

「この神殿から、地球のへそと呼ばれる洞くつに行けるらしい。地図で見たときに、ちょうどおなかのあたりにあるから地球のへそと呼ばれているのだ」

 

 という話が聞ける。

 そして、

 

「ここから先は一人で地球のへそに挑むことになるわ」

「はい?」

「公式ガイドブックが推奨する地球のへその到達レベルは25なのだけれど……」

「私、レベル13ですよ!?」

 

 悲鳴を上げる小悪魔。

 

「……仕方ないわね」

 

 そんなわけで、ここはパチュリーが行くことにする。

 

「ファミコン版と違ってリメイクだと『ふくろ』に大量の薬草を詰め込むことができるのだし、私のヒットポイントなら最悪、薬草で回復させながら全逃げでクリアーすることもできるでしょう」

 

 ということ。

 

「アイテムさえ回収できたのなら、デスルーラで帰って来てもいいのだし」

「デスルーラ?」

「死に戻りを利用した迷宮脱出方法ね。デスペナルティが比較的軽いゲームではよく使われる手法のようよ。地球のへそで死んだら、この神殿に戻されるわ。もちろん所持金の半額を失うわけだけれども、別にいいわよね」

 

 現在、二人の所持金は159155ゴールド。

 つまり1回約8万ゴールドのルーラというかリレミトである。

 まぁ、パチュリーがいいのなら小悪魔には問題は無い。

 何しろ彼女の所持金はマイナス。

 パチュリーに借金している状態なのだから、全滅で所持金が半額になろうとも状況に変化は無いわけである、が……

 

「1回8万ゴールドのルーラって何ですか!?!?!?」

 

 小悪魔には精神的に許容できない贅沢である。

 自分に影響が無かったとしても、もったいなさ過ぎる話だった。

 

 一方、

 

「星降る腕輪と魔封じの杖を貸してちょうだい」

 

 と小悪魔から一時的に装備を借り受け、単独行動に備えるパチュリー。

 

「雷の杖は要らないんですか?」

「一度に持てるアイテムには限りがあるのだし、そこはあきらめるわ」

 

 本来なら雷の杖も借りた方が良いのかも知れないが、

 

「ここで出現するモンスターのラインナップを見ると、雷の杖が持つベギラマの効果では微妙に倒しきれなかったり、そもそも耐性を持っていたりというものが多いのよ」

 

 という話。

 

「どうせ一撃で倒しきれないなら、全体攻撃のできる刃のブーメランの方が確実だしダメージ総量は上になるでしょう?」

 

 という考え方である。

 まぁ、これもパチュリーが勇者である小悪魔以上の攻撃力を持っているからこその話で、そうでなければ雷の杖を持った方が良いのだろうが。

 なお、

 

「それともあなたが行ってみる?」

 

 と、豪傑の腕輪を差し出すパチュリー。

 しかし、

 

「!!」

「青ざめたわね…… 勘のいいあなたは悟ったようね…… さっき話した死に戻り、デスルーラについて思い出し、私がそうなった場合より恐ろしい結末になることに気付いたようね!」

 

 どっと冷や汗をかく小悪魔。

 

(パチュリー様、()()()()()()()()()()()()()…… それは…… 危なすぎ…… です)

 

 もう、これ以上何も考えたくなかったが、逃れることはできない。

 彼女はチェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまったのだッ!

 

「パチュリー様? もし私が一人で地球のへそに潜って死に戻り、デスルーラしたら……?」

「もちろん、あなたは私に8万ゴールド近い損害を与えたことになるのだから、その分は借金に加算されるわね」

「ひいいいいいいっ!?!?!?」

 

 あまりの恐ろしさに、思わず失禁しそうになる小悪魔だった……




 次回はとばして進めていたノアニールの村の解放イベントの予定だと言ったな、あれは嘘だ。

 そんなわけで、先に大地の鎧を取りにランシール、そして地球のへそへとやってきました。
 いえ、現状でもパチュリー様の実力なら、行けそうな気がしたので。

 次回はいよいよパチュリー様が単身、地球のへそへと乗り込む模様。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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地球のへそ パチュリーの一人遊び

「よくきたパチェよ! ここは勇気をためされる神殿じゃ。たとえひとりでも戦う勇気が、お前にはあるか?」

 

 そう問う神父にパチュリーは「はい」と答え、

 

「では私についてまいれ!」

 

 と言われ、小悪魔を置いて一人付いて行くが、

 

「真面目なシーンでパチェって呼ばれるのも……」

 

 と微妙な表情でつぶやく。

 ドラクエ3には名前の入力は4文字までという制限があり、そう入力したのだから、という話だが……

 現実でパチュリーのことをそう呼ぶのは友人である紅魔館の主、レミリア・スカーレットだけ、彼女だけが使う愛称のようなものなので、

 

「ではゆけ! パチェよ!」

 

 と、いう具合に真剣な表情で連呼されると、調子が狂うことおびただしい。

 

「まずは小さなメダルの回収よね」

 

 気を取り直し、送り出そうとする神父に逆らって出口とは反対側の突き当りにあった宝箱から小さなメダルを回収する。

 それから改めて山脈に囲まれ外界から隔絶された砂漠、その中心にある洞窟、地球のへそへと足を踏み入れる。

 

「ここからは幸せの靴はふくろにしまって、代わりに星降る腕輪を」

 

 持てるアイテムは12個。

 そのうち装備した刃のブーメラン、ぬいぐるみ、風神の盾、銀の髪飾り、星降る腕輪で5つの枠が埋まるので、残りは7つ。

 

「持っておくのは豪傑の腕輪、ゾンビキラー、魔封じの杖に魔法の盾、そして毒蛾の粉を三つ」

 

 これで持てるアイテムの枠がすべて埋まる。

 ふくろの中のアイテムは戦闘中には使えないのだから厳選する必要があるのだ。

 なお、豪傑の腕輪ではなく星降る腕輪を身に着けているのは驚かされ、先制で一方的に攻撃された場合への保険。

 この場合、豪傑の腕輪には何の恩恵も無いが、星降る腕輪なら素早さ倍増に伴う守備力上昇、被ダメの軽減の効果がある。

 豪傑の腕輪には戦闘に入ってから切り替えればいいのだ。

 

 そうして最初に出会ったのは、

 

「さまよう鎧とキラーエイプ!?」

 

 それぞれ1体ずつの群れ。

 なら、刃のブーメランで攻撃すればいいかというと、

 

「どうせ倒すのに2ターンかかるなら、先に1体を確実に倒せるほうがいいわ」

 

 と判断し、豪傑の腕輪を身に着けた上で、ゾンビキラーを使ってキラーエイプに斬りかかる。

 

「先制できる! 素早さの種11個をつぎ込んだ甲斐があったわね」

 

 尻尾の生えた紫色のゴリラ、キラーエイプをあっさりと斬り捨てるパチュリー。

 このモンスターはアッサラーム近辺で猛威を振るったあばれザルの上位種なのだが、あばれザルの最大ヒットポイントがファミコン版で50、スーパーファミコン版以降のリメイクで60もあったのに対し、たった40と倒しやすいのだ。

 残ったさまよう鎧はホイミスライムを呼ぶが、

 

「もう終わりよ」

 

 次のターン、さまよう鎧をあっさりと斬り倒す。

 残ったホイミスライムの攻撃など、1ポイントのダメージにしかならず。

 そのホイミスライムも次に放った攻撃で倒される。

 

 空間が捻じ曲げられているのか左右がつながっている無限ループの通路を無視しさらに進むと、宝箱を置いた小部屋が左右に4つ配置されるフロアに出る。

 いやらしいことにUの字型の仕切りがあって、真ん中を真っすぐ進むと行き止まり、左右は行き来ができないという構造になっている。

 パチュリーから見て右側に進み、手前の小部屋の宝箱から248ゴールドを回収。

 

「今さらこの程度、無視しても構わないのだけれど」

 

 赤貧にあえぐ小悪魔のため、取ってやる。

 その次の小部屋の宝箱はミミックが化けているものなので無視するとして、少し戻って反対、左側へと回り込むが、

 

「よく考えると、さっきの宝箱は帰りに取れば良かったんじゃあ……」

 

 と気付く。

 行きはこちら、左側の宝箱を取りながら奥に進み、帰りは右側を通って宝箱を取る。

 そうすれば戻る必要は無かった。

 

「私はリレミトが使えないのだし、万が一死に戻り、デスルーラすると所持金も半減するのだからゴールドが入った宝箱は取っても意味が…… いえ、取らない方が良い?」

 

 ということであるし。

 そんな具合に余計な回り道をしたことで、

 

「面倒くさい混成の群れね」

 

 ハンターフライ、さまよう鎧、キラーエイプ、ベビーサタン、各一体ずつの群れに遭遇する。

 

「今度は全体攻撃ができる刃のブーメランで!」

 

 豪傑の腕輪を身に着けたパチュリーが放つ刃のブーメランはハンターフライを倒し、それ以降の敵にも次々にダメージを与えて行く。

 リメイクで攻撃力が75から80まで上がったキラーエイプの反撃だが、

 

「くっ」

 

 11ポイントのダメージ。

 しかし最大ヒットポイントが169もあるパチュリーならまだまだ余裕。

 また、

 

「下位種のあばれザルと違って痛恨の一撃を出さなくなっているから怖くないわ」

 

 ということだった。

 一方、さまよう鎧からの攻撃では、

 

「痛くないわ」

 

 たった3ポイントのダメージ。

 ロマリアに到着した当初は強敵だった相手も、装備を整えレベルを上げればこんなものか。

 こちらは守備力貫通の痛恨の一撃があるが、それが出たとしても42ポイント前後のダメージであり、最大ヒットポイントが67しか無い小悪魔ならともかく、パチュリーなら問題なくしのげる。

 

 そしてベビーサタンはイオナズンを唱えるが、

 

「MPが足りない……」

 

 という出オチな行動。

 

「もう一度!」

 

 パチュリーの刃のブーメランがモンスターの群れを薙ぎ払い、キラーエイプとさまよう鎧を倒す。

 生き残ったベビーサタンはメガンテを唱えるが、もちろんマジックパワーが足りず不発である。

 

「次で終わりね」

 

 パチュリーはレベルアップに備え、装飾品を星降る腕輪に切り替える。

 攻撃力が下がるが、ゾンビキラーの威力なら問題なくベビーサタンを倒すことができた。

 

「レベルが上がったわ」

 

 この戦闘でパチュリーのレベルが16に。

 小悪魔とは実に3レベルの差がついているのだが、ここで単独で経験値を得ているだけではなく、

 

「幸せの靴の効果で積んだ経験値の差が出てきているわね」

 

 ということ。

 これが無ければ今回の戦闘でパチュリーにレベルアップは無かったのだ。

 そして、

 

「最後のターン、装飾品を星降る腕輪に切り替えて元々の性格であるタフガイに戻したのだけれど」

 

 戦闘中は別の装備を選択することで付け替えることはできても、外す、何も付けない状態にはできない。

 ゆえに幸せの靴や星降る腕輪などといった性格が変わらない装飾品は、戦闘中に性格を元のものに戻すためにも有効なのだ。

 そして力の成長上限値に引っかかりそうなので力の種を使わずに4個もストックしているのだから、性格をタフガイに戻して体力の成長の方を優先させた結果はというと、

 

ちから+3

すばやさ+2

たいりょく+4

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となった。

 

「力の成長上限値が上がって、狙い通り余裕が出たからストックしていた力の種を使いましょう」

 

 と、中断の書を利用し、力をさらに種で+3する。

 当然、短時間に筋力を上げるための筋肉痛を凝縮したような痛みには耐える必要があり、

 

「くぅ……っ」

 

 一人なので、小悪魔のマッサージにより痛みを和らげることもできない。

 

「あ、かはぁ…… くふぅ……」

 

 普通なら、普通ならここで小悪魔のありがたみを再認識し、イイハナシダナーとなる流れなのだが、

 

「……痛いことは痛いけれど、何て言うか、あの子のセクハラまがいのマッサージに耐える方がよっぽど大変というか」

 

 ひょっとして小悪魔のマッサージは逆に自分の負担にしかなっていないのでは?

 と根源的なところに立ち返るような疑問を覚えるパチュリーだった。

 最終的に、パチュリーのステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:16

 

ちから:81

すばやさ:62/124

たいりょく:87

かしこさ:21

うんのよさ:21

最大HP:172

最大MP:41

こうげき力:163/120

しゅび力:121/111/152

 

ぶき:ゾンビキラー/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/ほしふるうでわ

 

 

 という具合に。

 

「薬草でフル回復させておきましょうか」

 

 これまでの負傷に加え、最大値が伸びた分も含めてヒットポイントを満タンにした後、宝箱を開けて小さなメダルを回収。

 

「ここの宝箱はファミコン版だとミミックだったのだけれど」

 

 リメイクにあたり、小さなメダルに変更されたものだ。

 それゆえファミコン版と同じと思っていると取り忘れてしまうものだった。

 そして、

 

「ハンターフライとさまよう鎧?」

 

 一体ずつなので、刃のブーメランを放ってハンターフライを倒す。

 さまよう鎧の反撃はミスでノーダメージ。

 二度目の攻撃で止めを刺す。

 

 そうして次の宝箱から賢さの種を回収。

 

「これはあの子の分ね」

 

 と小悪魔に与えることにするが、当の小悪魔は借金で首が回らない状態である。

 

 そしてさらに進むと、さまよう鎧3体とアントベア2匹の群れに遭遇。

 刃のブーメランを放つが、

 

「倒せない、わね」

 

 力、攻撃力も上がったので1体ぐらいは行けるかと思ったが、そんなことは無かった。

 もっともアントベアの反撃は6、または7のダメージ程度で終わるし、さまよう鎧の攻撃は3体とも全ミスという結果に。

 

「これで!」

 

 二回目の刃のブーメランで、アントベア1体を残して倒し、

 

「そこまでよ!」

 

 残る一体も次の攻撃で倒しきる。

 

「地下1、2階のモンスターは問題なく倒すことができるようね……」

 

 公式ガイドブックが推奨する地球のへその到達レベルは25。

 そこにレベル15の商人で踏み込むことに身構えていたが、考えていたよりも悪くは無い。

 薬草でフル回復の後に、階段に到着。

 地下二階へと降りる。

 この階も出現するモンスターは地下1階と同じだが、

 

「これは……」

 

 そこは広大な広間になっており迷いやすいが、階段を目印にして行けばさほど苦労しない。

 

 途中、さまよう鎧4体と遭遇するが、相手は驚き戸惑っており先制の刃のブーメラン、そして次のターンの刃のブーメランで何もさせずに全滅させる。

 

 そして階段を昇って地下1階、ここまで来るために使ったフロアとは別口の独立したフロアへと足を踏み入れる。

 通路を進み、

 

「出たわね」

 

 ハンターフライ2体、ベビーサタン2体、アントベア1体の群れと遭遇。

 

「割と楽勝ね」

 

 豪傑の腕輪を付けて刃のブーメランを放てば、それだけでハンターフライが全滅する。

 しかし、

 

「くっ!?」

 

 生き残ったベビーサタンは冷たい息を吐いた!

 イオナズン、ザラキ、メガンテといった強力な呪文を唱えるもののマジックパワー不足で不発の無駄行動を取ることが多いベビーサタンだが、1/4の確率で繰り出す冷たい息は、パーティ全体に9~20のダメージを与える厄介なもの。

 しかし、

 

「運が良かったわ」

 

 パチュリーが受けたダメージは9ポイントと、最低の効果で終わっていた。

 もう一体はザラキを唱えるが当然、不発。

 アントベアの攻撃も6ダメージで終わり、

 

「これで終わりよ」

 

 次のターンの刃のブーメランで全滅する。

 

「楽勝だったけれども…… 念のためヒットポイントはフル回復させておきましょうか」

 

 パチュリーはふくろに大量にストックしてある薬草を使って治療。

 金は余っているのだから、ケチる必要はない。

 

 そして突き当りの部屋にあった宝箱から大地の鎧を入手した。

 

「これで目的の半分は果たしたわね」

 

 その帰り道、

 

「出たわ、メタルスライムよ!」

 

 メタルスライム1匹にさまよう鎧4体の群れ。

 まずは星降る腕輪を身に着け素早さを上げた状態で、メタルスライムが逃げ出す前に毒蛾の粉を使用。

 

「混乱したわ!」

 

 メタルスライムは混乱に対し弱耐性しか持っていないため、毒蛾の粉を使用すれば7割の確率で効く。

 そして混乱したモンスターは最後の1匹になるまで絶対に逃げなくなるのだ。

 

 混乱したメタルスライムは、さまよう鎧に攻撃。

 さまよう鎧はパチュリーに攻撃し、ミス、3ダメ、3ダメ、1ダメで終了。

 星降る腕輪で素早さを上げれば、守備力も上昇するという話である。

 

 そして次のターンだが、

 

「混乱したモンスターが同士討ちするとメタルスライムにもダメージが通るのだけれど、さまよう鎧は混乱に完全耐性を持っているからその手は使えない」

 

 では、さまよう鎧を攻撃して数を減らし、被ダメを減少させてからメタルスライムを倒すか?

 さまよう鎧には守備力無視の痛恨攻撃もあるし、という話だが、

 

「数を減らすのもダメ。そうして表示枠に空きができたらさまよう鎧はホイミスライムを呼ぶ」

 

 そうなったら、せっかくメタルスライムにダメージを積んでも、ホイミで治療されてしまうだろう。

 となると結局、この状態でさまよう鎧の攻撃に耐えながら自力でメタルスライムにダメージを積んでいくという作業になるが、

 

「当たらない!」

 

 ゾンビキラーで攻撃。

 当てても1ポイントダメージだが、そもそも当たらなければそれも出ない。

 

「装飾品を豪傑の腕輪に切り替えるべき?」

 

 豪傑の腕輪を付ければ攻撃力は上がるが……

 メタルスライムの守備力1023の前には、+15ポイントも焼け石に水だろう。

 確実に効く星降る腕輪による守備力増強の方が有利か。

 

 そうやってミスったり当てたりを繰り返しながら、ようやく、

 

「倒しきったわ!」

 

 メタルスライムを倒す。

 あとは、さまよう鎧を始末するために装飾品を豪傑の腕輪に切り替え、刃のブーメランを放つ。

 

「あ、一体倒せたわね」

 

 レベルアップの恩恵プラス運か。

 そして次のターンだが、

 

「忘れずに装飾品を星降る腕輪に付け替えて、性格をタフガイに戻して」

 

 攻撃。

 残りのさまよう鎧を倒しきる。

 一人でメタルスライム1体を含むモンスターの群れを倒したパチュリーには、実に4412ポイントの経験値が入り、レベル17へとレベルアップ。

 

ちから+3

すばやさ+3

たいりょく+4

かしこさ+1

 

 さらに『おおごえ』を覚えた。

 

「『おおごえ』の特技はマジックパワーを15消費して『旅の商人(品ぞろえは最後に立ち寄った店と同じ)』『旅の宿屋』『旅の神父』の中からランダムに1つを呼び出すことができるけれど」

 

 フィールドマップの他、ダンジョン内でも有効だが、ピラミッドの地下、地球のへそ、サマンオサ南の洞窟、ネクロゴンドの洞窟、バラモスの城、ラダトーム北の洞窟、ルビスの塔、ゾーマの城、天界のダンジョンでは使用不可能。

 

「長めで回復が欲しくなるようなダンジョンではことごとく使えないという微妙な仕様なのよね」

 

 という具合。

 しかし、

 

「最後に立ち寄った店の品が買える『旅の商人』を使って、エルフの隠れ里の商品を後から買う。スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版なら同様にすごろく場のマス目にあるよろず屋の商品を後から買うなんて使い方もできるし」

 

 毒蛾の粉を買ってガルナの塔でメタルスライム狩り、というのもいい。

 途中で毒蛾の粉が切れても『旅の商人』を呼ぶことで買い足せれば延々とメタル狩りが続けられるという寸法だ。

 

 あとは、

 

「力の成長上限値が上がって余裕が出たから、またストックしていた力の種を使いましょう」

 

 と、力をさらに種で+3する。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:17

 

ちから:87

すばやさ:65/130

たいりょく:91

かしこさ:22

うんのよさ:21

最大HP:177

最大MP:44

こうげき力:169/126

しゅび力:122/112/154

 

ぶき:ゾンビキラー/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/ほしふるうでわ

 

 

「ここ、レベル稼ぎには丁度いいのかもしれないわね。一人向けの迷宮だから麻痺などといった致命的な攻撃をしてくる敵が居ない、いえ、毒持ちの敵すら居ないし」

 

 稼ぐならメタルスライムが出る地下1、2階でやるのがいいか。

 最下層の地下3階にはメタルスライムが出ないし、低レベルで一人だとブレスの怖いスカイドラゴン、最大四体で出現し、高い確率で守備力無視で80ポイント前後の痛恨の一撃を放つ地獄の鎧、ベギラマを放ってくる魔女が出現する。

 

「スカイドラゴンはニフラムに無耐性。つまりゾンビキラーの追加ダメージがフルに加わるから、今の私の攻撃力なら一撃で葬れるし、魔女は先制で魔封じの杖を使えば良いのかしら?」

 

 まぁ、魔女はマホトーンに弱耐性を持っているので3割の確率で効かなかったりするから油断できない。

 何ならゾンビキラーで一体ずつ確実に倒した方が良いのかもしれない。

 

「一番まずいのは3/8の高確率で痛恨の攻撃をしてくる地獄の鎧ね」

 

 最大ヒットポイントが60、守備力が100。

 しかも炎の呪文に強耐性を持っているので雷の杖も効きにくいし、二フラムに完全耐性を持っているのでゾンビキラーにも追加ダメージが発生しないという難敵だから、倒しきるまでに時間がかかり、その分だけ痛恨の一撃を受ける率が高くなる。

 小悪魔ならヒットポイントがフルでも、それだけで即死しかねないし、パチュリーにしてもギリギリの戦いになりそうである。

 

 階段まで戻ったら、地下二階の大広間に降り、次は下りの階段を目指す。

 そして見つけた階段からいよいよ地下三階へ。

 

「ひき返せ!」

 

 壁面の不気味な仮面にカエレと言われる。

 

「リメイクだとセリフと同時に目が光るという演出が追加されたのよね」

 

 つぶやくパチュリー。

 

「たった一人でこれを聞いてると、気が滅入って仕方ないのだけれど」

 

 そういう意味でも試練の迷宮なのだろう。

 もっとも、一人で進む心細さにつけ込むような仕掛けに見えて、実際には正解の道では進むに従って仮面の頻度が減るが、不正解の道は逆に仮面が多く奥へ進むほど警告だらけとなる。

 さらに不正解の道は行き止まりになっており、散々仮面に警告された挙句、最奥の仮面に「時には人の言葉に従う勇気も必要だ」と言われてしまう。

 

「顔に似合わず親切な仮面たちだったりするのよね」

 

 そしてパチュリーはモンスターたちに遭遇。

 

「やっぱり地下三階で出るモンスターは毛色が違うわね」

 

 マッドオックス2体、マージマタンゴ2体、キラーエイプ1体の群れだ。

 マッドオックスは凶暴な牡牛、と言われるが、外見は羊に近く、そもそもオックス(ox)は去勢された牡牛のことだったりする。

 

「つまりo(タマ)がx(バツ)にされちゃったってことですかね、可哀想に」

 

 という小悪魔の声が聞こえてきそうだ。

 

 そんな話はともかく、モンスターたちは驚き戸惑っていた。

 ここは一方的に攻撃できるチャンス。

 パチュリーは装飾品を豪傑の腕輪に切り替え、刃のブーメランを放つ。

 

「うーん、やっぱり一体も倒せないわね」

 

 ということだが、次のターンの先制攻撃でモンスターたちはキラーエイプを残して全滅。

 キラーエイプの反撃も12ポイントのダメージで終わる。

 あとは装飾品を星降る腕輪に切り替えてゾンビキラーによりキラーエイプを倒して戦闘終了。

 

「レベルが上がったわ」

 

 前回の戦闘でメタルスライムを倒したため、その時点でレベルアップしただけでなく、一回戦闘をしただけでもう一度レベルが上がるところまで経験値が貯まっていたのだ。

 

ちから+3

すばやさ+1

たいりょく+5

かしこさ+1

 

 といったところ。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:18

 

ちから:90

すばやさ:66/132

たいりょく:96

かしこさ:23

うんのよさ:21

最大HP:192

最大MP:45

こうげき力:172/129

しゅび力:123/113/156

 

ぶき:ゾンビキラー/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/ほしふるうでわ

 

 

 というステータスに。

 

「次のレベル19での力の成長上限値は98。ギリギリ過ぎて、力の種の使用はまたお預けね」

 

 タフガイの性格でもレベルアップ時に力が+5ポイント上昇することがある。

 これが上限という確証も無いので、念を入れての対応だった。

 

「ひき返したほうがいいぞ!」

 

 という仮面の忠告を聞き流しながら先に進むパチュリーは、マッドオックス、キャットフライ、キラーエイプ、マージマタンゴ一体ずつの群れに遭遇。

 

「マージマタンゴに眠らされると厄介ね」

 

 というわけで、先にゾンビキラーでマージマタンゴを倒すことにする。

 マッドオックスのギラに備え、風神の盾から魔法のダメージを軽減する魔法の盾に切り替え。

 守備力が下がる分は、装飾品を星降る腕輪に切り替え、素早さ上昇に伴う守備力上昇で補う。

 

「そこっ!」

 

 豪傑の腕輪を使わない分、攻撃力は下がるが、それでもゾンビキラーならマージマタンゴ程度、一撃で倒せる。

 マッドオックスは運よくギラを使わず角でかち上げて来たので1ポイントのダメージで済む。

 キャットフライはいつもの開幕マホトーンだが効かないし、商人のパチュリーなら呪文を封じられても問題にならない。

 キラーエイプの攻撃もまた6ポイントのダメージに留まる。

 

 次のターン、装飾品を豪傑の腕輪に切り替え素早さが下がったせいか、マッドオックスから先制のギラをもらうが、

 

「問題無いわ」

 

 魔法の盾の効果でダメージは3/4に減少、12ポイントで済む。

 パチュリーは刃のブーメランで反撃し、これだけでキャットフライを倒す。

 キラーエイプの攻撃は、装飾品を付け替え守備力が下がった影響で11ポイントとダメージが上昇するが、

 

「そこまでよ!」

 

 止めの刃のブーメランでモンスターの群れは全滅した。

 

 薬草でヒットポイントを回復させた後、

 

「ひき返せ!」

 

 と言う仮面を尻目に宝箱に到達。

 

「小さなメダルとブルーオーブね」

 

 これで目的は達成。

 しかしパチュリーは迷宮脱出呪文、リレミトを使えないのでここからまた歩いて帰ることになる。

 そんな彼女を襲ったのは、

 

「マミー!? ああ、出るんだったわね」

 

 ミイラ男の上級モンスター、マミー4体が出現。

 パチュリーはすかさず刃のブーメランで攻撃。

 倒しきれずに反撃をもらうものの、

 

「ミスでダメージを受けないか、受けても1、2ポイントのダメージ? まぁ、痛恨があるから油断はできないけれど」

 

 しかし守備力無視の痛恨の一撃を食らったとしても54ポイント前後。

 ヒットポイントの低い小悪魔ならともかく、パチュリーなら問題なく耐えられる。

 ピラミッド到達時には強敵だったが、今ならまず、ろくなダメージも受けず刃のブーメランを二回、つまりあと一度放っただけで倒しきれるだろう。

 

 だが、そこでパチュリーはピラミッドで小悪魔とかわした会話を思い出してしまう。

 

 

 

「包帯緊縛、マミフィケーションの話です」

 

 マミフィケーションというのはその名のとおりミイラ(マミー)のように全身を包帯その他でぐるぐる巻きに拘束する緊縛プレイの一種。

 一般にはドラゴンクエストでも登場するモンスター、ミイラ男のイメージが強いため理解しづらい面があるが、イメージの根源となるエジプトのミイラは手足を身体と一緒にまとめて身動きできない形で包帯に縛られている。

 寝袋の一種にマミー型シュラフがあるが、その名のとおりあのような形をしているものだ。

 つまりマミフィケーションとは包帯により身体を芋虫のように一つに縛り上げられてしまう全身緊縛を意味するのだった。

 性的嗜好に基づいた愉しみ方の一つ、というのはパチュリーも知識としては知っていたが、

 

「想像してみてください、パチュリー様」

 

「自分がこんな風に、蜘蛛の糸に巻かれるように全身を、手足までまとめて縛り上げられ芋虫のように転がり這いつくばるしかない、完全に無力化させられる拘束感を」

 

「ギチギチに、くっきりと体のラインが出るくらいに締め上げられ緊縛され、身動きもできないままに肺の中の空気を、いいえ、被虐の快楽が入り混じった吐息を、苦鳴を搾りとられるさまを……」

 

 そして、

 

「この先出てくるミイラ男というモンスターですけど、ドラゴンクエストの派生作品『ドラゴンクエスト モンスターバトルロードIIレジェンド』では特殊攻撃に『バンテージホールド』という拘束技が追加されてまして……」

 

 敵一体を包帯で縛り上げ、身動きできなくする技だ。

 

「体験、してみますか? 司書権限でこの世界を改変することも可能ですよ。のちの作品の要素を旧作リメイクで取り入れる。ドラクエシリーズでは珍しいことではありません」

 

「本来のパチュリー様の力なら歯牙にもかけないモンスターの攻撃を、あえてその身で受けてみる、状態異常に捕らわれ、自由を奪われてみるんです。ゾクゾクしませんか?」

 

 戦闘中に状態異常を受けてしまう……

『避けられなかった運命』という大義名分の下に、モンスターからの拘束を受け、がんじがらめに縛られてみる。

 本来のパチュリーならば通用する余地などないくらい、隔絶した実力差のある格下からの攻撃に自ら望んで拘束されてみる。

 

 小悪魔の誘いに身を委ねたら、一体どんな風にされてしまうのだろう?

 

 そんな好奇心も無いではない。

 パチュリーは生まれながらの人外、生粋の魔法使いではあるが、少女の形を取る以上、その思考は外見に引きずられる。

 性的なことに目覚めつつある思春期の少女特有の戸惑い。

 だが、しかし大人ではないからそれに対する処し方が分からない。

 このパチュリーの脳裏に浮かんだ戸惑いも、そんな思春期特有の、一時の気の迷いと言って良いもの。

 程度や方向性は違えど、誰にだって似たような経験はするものだ。

 

 だが…… 普通の少女が弱さゆえ、恐怖から踏みとどまってしまうこの手の迷いを、しかしパチュリーは実行に移したとしても害されない強さを持っていた。

 だからこそ迷う。

 

 わざと拘束を受け、がんじがらめにされ自由を奪われる。

 それはどのような感覚を、感情を自分にもたらすのだろうか?

 

「パチュリー様の理性は否定するでしょうけど、魔法使いであっても生きている、生者である限り心のどこかには生の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)に基づく、性への欲求とか破滅願望などが微量でも無いとは言えないわけで」

 

「ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ」

 

 

 

 マミーもまた『ドラゴンクエスト モンスターバトルロードIIレジェンド』では条件付きではあるが『バンテージホールド』を使うことができた。

 

「体験、してみますか? 司書権限でこの世界を改変することも可能ですよ。のちの作品の要素を旧作リメイクで取り入れる。ドラクエシリーズでは珍しいことではありません」

 

 ここには居ない小悪魔の…… 悪魔のささやきがパチュリーの脳裏を何度もリフレインする。

 小悪魔が持つ司書権限はパチュリーが与えたものであり、パチュリー自身は当たり前だがもっと高位の権限を持つ。

 それこそ小悪魔に気付かれることなくこの本の中の世界を改変したり、痕跡も残さないように戻したりしてしまえるほどに。

 

「いいじゃないですか、これはゲームなんですから」

 

 小悪魔は言っていた。

 そう、ゲームなのだからちょっと試してみるだけ。

 パチュリーに小悪魔が主張するようなおかしな願望が無ければ、ちょっと自由を奪われ、拘束されるだけで終わることだ。

 そのはずなのに……

 

 どうして呼吸が浅くなるのだろうか?

 どうして鼓動が早まるのだろうか?

 どうして、どうして……

 

 隔絶した実力差があるので危険は無いという安心感が、他人の目が無い、小悪魔さえもここには居ないという事実が、理性のタガを緩ませ、千々に乱れる思考は衝動に流される。

 そして……




 パチュリー様のソロプレイの様子、愉しんでいただけたでしょうか。
 この続きは次回に……

 しかしレベルが上がりすぎですよね。
 小悪魔が行った方が良いのでしょうが、小悪魔の実力では危険すぎるという問題。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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パチュリーの帰還

「そこまでよ!」

 

 パチュリーの刃のブーメランが空を裂いてマミーたちに止めを刺す。

 

「はぁっ……」

 

 パチュリーの唇から漏れる、余韻のこもった熱い吐息。

 上気した表情で、ふるっ、と身を震わせる。

 そんな彼女の前に現れたのは……

 

「鬼面道士!?」

 

 鬼面道士1体に率いられた、キャットフライ4匹の群れが立ちふさがる!!

 

 鬼面道士はドルイド、幻術士系統の最上位種で人の理性を狂わせる混乱呪文、メダパニの使い手。

 倒したはずの敵の幻影が脳裏に浮かび……

 蘇ってくる、熱に浮かされるような、あの時の火照り。

 戦闘で受けた拘束の体験が、終わった後でもパチュリーを狂わせる!

 敵の手で虜にされる破滅的なイメージが頭の中で何度も蘇り、耐えがたい疼きが胸の奥に蓄積されていく。

 そうやって被虐の性癖を精神に刷り込まれてしまうパチュリー!

 

 

 

 ……などということはなく、

 

「一人パーティだとメダパニって意味が無いのよね」

 

 ということなので、警戒する必要はなく、パチュリーは普通に刃のブーメランで攻撃。

 鬼面道士は様子見の後に、2回行動でメダパニを唱えるが、パチュリーはそれに耐える。

 

 なお、鬼面道士は1ターンに2回行動を取るものの、実は完全固定ローテーション、

 

 様子を見る・メダパニ→様子を見る・自分にべホイミ→様子を見る・メダパニ→様子を見る・打撃→最初に戻る

 

 の繰り返しで実は2回行動の意味が無かったり。

 判断力が1のためターン初めに自分のヒットポイントに余裕があればべホイミをキャンセルし、様子を見ることになるので、そのターンは完全な無駄行動になる。

 

 キャットフライが次々にマホトーンを唱えるが、これも効かない。

 攻撃を受けても数ポイントのダメージで終了。

 

 次のターン、鬼面道士がベホイミで自分を回復させる前にパチュリーの刃のブーメランが唸り、止めを刺す。

 そのままキャットフライ2匹を倒すが、

 

「かわされた!?」

 

 3体目はひらりと回避し、4体目は耐えたものの、そのまま逃走。

 

「ああ、こちらのレベルが上がったから逃げるようになったのね」

 

 キャットフライのモンスターレベルは11。

 判断力は2で敵の強さを察することができ、先頭キャラのレベルとモンスターレベルの差が6以上なら逃げるようになるのだ。

 

 次のターンで、残った一体に止めで終了。

 

 そうして階段が見える所まで戻ったが、そこでマッドオックス3匹とキラーエイプ1匹の群れが襲い掛かって来る。

 

「最初にマッドオックスのギラを封じる手ね」

 

 効かなかった場合に備え魔法の盾を装備。

 星降る腕輪で素早さと守備力を上げた上で、魔封じの杖を振るう。

 

「いいわ、全部封じ込められた」

 

 呪文を封じ込められたマッドオックスは肉弾攻撃で反撃。

 狂っているという割には判断力が最高の2と何気に頭がよく、呪文を封じられても空打ちで無駄行動を取ったりはしないのだ。

 しかし、

 

「痛くないわ」

 

 マッドオックスの攻撃はミス、パチュリーにかわされる、当たっても8ポイントのダメージで終わるというもの。

 キラーエイプも6ポイントのダメージを負わせるに留まる。

 

 次のターンでは豪傑の腕輪で攻撃力を上げ刃のブーメランで攻撃。

 さすがにヒットポイントの高いマッドオックスはそれだけでは倒せない。

 そして星降る腕輪を外したことで守備力が下がったパチュリーに再び反撃が集中するが、

 

「呪文は封じることができたから、風神の盾に切り替えれば守備力は補えるわ」

 

 というパチュリーの対応により、マッドオックスは一桁、キラーエイプも11ポイントのダメージで耐えきる。

 あとは刃のブーメラン連打で全滅である。

 もっとも、

 

「倒しきるまでに結構ダメージを負ったわね」

 

 と薬草で回復しながらパチュリー。

 フル回復に2個の薬草を消費したくらいだから、小悪魔のヒットポイントなら途中で回復させないと死んでいたところだし、回復が追い付かなくて押し切られた可能性もある。

 やはり地下三階の敵は小悪魔にはまだ早いようだ。

 

 そうして階段を昇り、地下二階の広間へ。

 あとは戻るだけだが、途中の階段を昇り降りすることで、エンカウントまでの歩数カウントをリセット。

 敵と遭遇することなく地下1階に戻ることができた。

 

 さまよう鎧やらキラーエイプやらを蹴散らしながら地上へと帰還。

 ランシールの神殿へと戻って来たパチュリーを迎えるのは、

 

「帰ってきてくれたのね? お帰りなさい!」

 

 という小悪魔の声。

 普通なら、普通ならここで小悪魔のその一言でほっとしている自分が居る事に気付く。

 小悪魔のありがたみを再認識し、イイハナシダナーとなる流れなのだが、

 

(帰って来てくれた、って……)

 

 別にパチュリーは小悪魔のために、小悪魔の元に帰ってきたわけでもないのだが。

 自意識過剰過ぎるセリフが痛く感じられるパチュリー。

 まぁ、今のセリフはNPCモードによる固定セリフ。

 イベントムービーなどでプレイヤーキャラが勝手にしゃべり出すアレのようなものなので、小悪魔の意思は介在していないわけではあるが。

 しかし、それを逆に見越した上で、ヒロインっぽく胸前で両手を組んでキラキラと輝く瞳をパチュリーに向けて見せる小悪魔が非常にウザかったりする。

 そこを、

 

「これこれ 仲間うちでさわがぬように。ともかく…… よくぞ無事で戻った!」

 

 と神官になだめられる。

 

(騒いでいるのは、この子だけなんだけど)

 

 一緒にするなと、かすかに眉をひそめるパチュリーだったが、

 

「どうだ? ひとりでさびしくはなかったか?」

 

 と問われる。

 もちろん答えは、

 

 YES! YES! YES! YES!

 

「YES!(はい)」

 

 である。

 

「そうか。お前は強いのだな」

 

 違う違う、そうじゃ、そうじゃない。

 久々に小悪魔から解放されて一人でのんびりできたというだけ。

 そう言いたくて仕方がないパチュリー。

 

「ではお前は勇敢だったか? いや…… それはお前がいちばんよく知っているだろう」

 

 そんな風に次の問いは、答える前に終わる。

 そして、

 

「さあ、ゆくがよい」

 

 と見送られるのだった。

 そうやって小悪魔と合流したパチュリーだったが、立ち止まって、

 

「パチュリー様?」

「そう言えば、この街の夜ってどんな風なのかしら?」

 

 ふと、つぶやく。

 外はもう夕暮れ時。

 わずかな時間で夜になるため、街を出入りし、あなほりをしながら待ってみる。

 結果は、

 

「たった2分でラックの種が二つに銅の剣が二本、革の帽子、キメラの翼、薬草が4つ手に入ったわね」

 

 ラックの種はこの周辺で出るバンパイアが1/64の確率で戦闘後にドロップするアイテムだ。

 そんなわけで、日の落ちたランシールの村を夜廻してみる。

 

 宿屋には昼間、神殿を探して見つけられないでいる男が居たが、彼はベッドに入って横になってもまだ、

 

「くそっ! 大きな神殿などどこにも無いではないかっ! この村のどこかにあるはずだが、私の探し方がまだ甘いのであろうかっ!」

 

 と同じように叫んでいる。

 

「……この宿には泊まりたくないわね」

 

 一室しかないので、相部屋でこの叫んでいる男の隣のベッドに寝ることになるのだから。

 

 一方、その神殿の前に居る武人からは、夜になると酒でも入ったのか、それとも夜間、人恋しくなって本音が出るのか、

 

「この神殿から、地球のへそと呼ばれる洞くつに行けるらしい」

 

 という昼間と同じ前置きの後に、

 

「ここだけの話、実は一度だけ地球のへそへ入ったことがあるのだ。ほうほうのていで逃げ帰ってきたけどな」

 

 そんな本音話が聞ける。

 

 東の、昼は人の居ない民家は道具屋の主人の家だったようで、こっくりこっくりと船をこぐ商人と、ベッドですやすやと眠る娘。

 そして、

 

「ベッドの上でネコが丸くなっているわ」

 

 なんと娘が寝ているベッドの上で、ネコが幸せそうにゴロゴロと喉を鳴らしながら眠っている!

 アンモナイトの渦巻に似ていることから「アンモニャイト」と呼ばれたりもする寝方だ。

 

「か、可愛すぎる……」

 

 自分の上で丸くなって一緒に寝てくれる飼いネコ。

 ネコ好きにはたまらない姿だろう。

 

 イシスでも夜にネコを見かけたことはあるが、昼と同様歩き回っていて、こんな寝姿を見せたりはしてくれなかった。

 このシーン用にわざわざグラフィックが作られたとでもいうのだろうか。

 

「パチュリー様はネコが好き。つまりタチ、抱く側の方なんですね」

「何の話よ」

 

 パチュリーから優しい視線を向けられるネコに嫉妬しているのか、いつものセクハラトークでその場の空気を台無しにしようとする小悪魔だったが、当然パチュリーには訳が分からない。

 そもそも、着ぐるみでネコの格好をしたタチとは一体…… という話もあるし。

 

「私は『どっちでもいける』『合わせられる』“リバ”ですから大丈夫です」

「そんな話はしていないわ」

 

 身近に仕えている使い魔の性的嗜好など、知りたくも無い……

 

「まぁ、それはいいとして、いったんアリアハンに戻って精算しましょう。小さなメダルも貯まっているし」

 

 そんなわけで、小悪魔のルーラでアリアハンに跳ぶ。

 井戸の底に住むメダルおじさんからは、45枚でもらえるパワーベルトを受け取る。

 それを手に取って商人の鑑定能力で見定めるパチュリー。

 

「パワーベルトは装飾品のようね。これを身に着けていれば攻撃力が上がるようよ」

「豪傑の腕輪と同様の効果ですか!」

 

 驚く小悪魔だったが、パチュリーは首を振る。

 

「パワーベルトは体力を+15ポイント上昇させるだけよ」

「はい?」

「そして体力の値が上がるアイテムを装備しても、レベルアップ時にヒットポイントの最大値がその分上昇するわけではないから意味が無いの」

 

 まぁ「これを身に着けていれば攻撃力が上がるようよ」というのは商人の鑑定技能が言わせているセリフ。

 ゆえに、制作中は攻撃力上昇だったのが、完成までに変更。

 しかし商人の鑑定技能のメッセージは元のまま残ってしまったのではないか、とも言われている。

 ただし、

 

「体が引き締まってタフガイって呼ばれてもおかしくない人になれるわ」

 

 というように性格を『タフガイ』に切り替える力を持つ。

 つまり、

 

「一応タフガイの力の成長率は高い方だから、それ以下の成長率の性格から変更したなら間接的に上がると言えるわね」

 

 現実でも幅広のトレーニングベルトをパワーベルトと呼ぶ。

 腹筋に圧がかかることによって力が分散されにくくなるため、力を入れやすくなる。

 それにより負荷の高い筋力トレーニングをやりやすくすると同時に、背骨を真っすぐ支えてくれることでケガの防止にもなるのだ。

 

「もちろんタフガイは体力の伸びが一番高い性格だから、最大ヒットポイントを伸ばすために一時的に性格を変えたい、という場合には有効よ」

 

 例えば勇者はレベル35から45まで、体力が爆発的に伸びる期間がある。

 その間だけパワーベルトを身に着けてヒットポイントを伸ばすというような使い方である。

 

「レベルアップするタイミングで付け替えるとかですか?」

「面倒なら付けっぱなしでもいいわよ。その分、他の有利な装飾品を付けている場合より能力値は下がるけれど」

 

 小悪魔なら星降る腕輪が外されるので素早さが半分になる。

 

「まるで格闘マンガで重りを身に着けてトレーニングをするシーンのような感じですね」

 

 そして強敵と戦う場面になって初めて重りを脱ぎ捨てて戦うやつだ。

 

「お店に持って行けば3375ゴールドで売れるわね。ただし限定品だからもう二度と手に入らなくなるけれど」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では第3のすごろく場の宝箱マス、ジパングの隠しすごろく場のタンスのマスから入手できたが。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されている。

 だから入手できるのはこれだけなのだ。

 

「元よりタフガイの私には不要なアイテムだから必要とするのはあなただけ。つまり取って置くなら売値の半額1687ゴールドを私に払って自分の物にしなければならないわ」

 

 その言葉に愕然とする小悪魔。

 しかし、ここで手放したら二度と手に入らない限定品というのは、心を揺るがされる事実。

 大いに悩むが、

 

「い、いいでしょう! 私は……」

 

 意を決して言いかける小悪魔だったが、

 

「待ちなさい…… まだ精算は済んでいないわ」

 

 と、パチュリーに止められる。

 

「せせせせせせせせせせ、精算ですかッ! まだ上乗せするものがあるって言うんですか!?」

 

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:-975G

パチュリー:159155G(+未払い分975G=160130G)

 

「それで地球のへそで得た収入は2238ゴールド。これは私一人で得たものだけれど……」

 

 泣きそうな顔をして見ている小悪魔にパチュリーはこほん、と咳払いして。

 

「あなたからは、星降る腕輪と魔封じの杖を貸してもらうという助力を受けたのだから、収入はいつもどおり半分こね」

「あ、ありがとうございます、パチュリー様!」

 

 そんなわけで、

 

小悪魔:144G

パチュリー:161249G

 

「しゃ、借金が消えた、借金が消えましたー!」

 

 と喜ぶ小悪魔だったが……

 

「それで、あなたには大地の鎧の売却価格9000ゴールドの半額4500ゴールド、そして賢さの種の売却価格120ゴールドの半額60ゴールドを払ってもらう必要があるわ」

 

 というパチュリーの宣言に、

 

「はいーっ!?」

 

 と絶叫する。

 

「これらはあなたにしか意味の無いものだから、借金してでも引き取ってもらうわ」

 

 ファミコン版では売却不可だった大地の鎧も、スーパーファミコン版以降のリメイクでは売り払えるようになって値段が付いている。

 

「本来なら耐性の付いていない大地の鎧は売って資金源にした方が良いのだけれど……」

「ぜひ、そうしてください」

「勇者と商人だけのパーティだと守備力アップの呪文スクルト、スカラが使えない。つまりボストロール、ヤマタノオロチ戦では素の守備力が高いことが求められるわ」

 

 だから大地の鎧は少なくともボストロールを撃破後に刃の鎧を入手するまでは売却できないのだ。

 それにより二人の所持金は、

 

小悪魔:-4416G

パチュリー:161393G(+未払い分4416G=165809G)

 

「あ、ああ……」

 

 上乗せされた借金に、小悪魔は絶望の表情で立ち尽くす。

 

「それで、パワーベルトだけれども」

 

 と、話を戻すパチュリー。

 

「さぁ、売るか、売らないのか。ハッキリ言葉に出して言ってもらいましょうか」

「う、うう…… うっ、うっ、うううーッ」

 

 じっとりと汗をかく小悪魔。

 わなわなと震える唇で、言葉を吐き出そうとするものの、

 

(だ…… だめです…… 借金が恐くて…… 声が出ません……)

 

「う……」

 

(こ、声が出ない…… い、息がッ! 息が……)

 

 呼吸さえ困難に。

 そうして動きを止めた小悪魔の顔を覗き込み、パチュリーは、

 

「こ…… この子、立ったまま気を失っている」

 

 ということに気付く。

 

「あまりの緊張で気を失ったのね…… そして心の中でこの子は借金を認めた」

 

 そんなわけでパワーベルトの売値の半額1687ゴールドが借金に加算される。

 

小悪魔:-6107G

パチュリー:161393G(+未払い分6107G=167496G)

 

「あとは、あなほりで得たアイテムを売却して精算しておきましょうか」

 

 ラックの種が二つに銅の剣が二本、革の帽子、キメラの翼、薬草が4つ。

 これはパチュリー個人の収入で、小悪魔に所有権は無い。

 ラックの種はパチュリーが自分で使うとして、売り払うのは銅の剣75ゴールドが二本と革の帽子60ゴールド。

 売却価格18ゴールドのキメラの翼、6ゴールドの薬草が4つはパーティ共用の消耗品のためストックするとして、そうするとその半額を小悪魔が出さなければならなくなる。

 

 最終的には、

 

小悪魔:-6137G

パチュリー:161603G(+未払い分6137G=167740G)

 

 ということになった。

 なお、

 

「この子がゾンビキラーを買う前に、私が正義のそろばんを手に入れて不要になった私のゾンビキラーを渡す方が早いんじゃないのかしら?」

 

 借金のショックで抜け殻のようになっている小悪魔を見て、パチュリーは思う。

 そして、

 

「さっさと正気に戻りなさい」

「むぐっ!?」

 

 摘まんだ指ごと賢さの種を小悪魔の口に突っ込んで食べさせてやる。

 小悪魔は目を白黒させながらそれを飲み込み、

 

「あら、1回で3ポイントアップを達成したのね」

 

 賢さが上がったせいもあるのか、我に返る小悪魔。

 そしてパチュリーもまたラックの種、二つを摂取して運の良さを上げる。

 結果、二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:18

 

ちから:90

すばやさ:66

たいりょく:96

かしこさ:23

うんのよさ:27/77

最大HP:192

最大MP:45

こうげき力:172/132/129

しゅび力:123/113/103

 

ぶき:ゾンビキラー/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:13

 

ちから:43

すばやさ:108

たいりょく:34

かしこさ:30

うんのよさ:28

最大HP:67

最大MP:53

こうげき力:158

しゅび力:166/156/149

 

ぶき:もろはのつるぎ

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 となるが、

 

「なっ、レベル18? 私よりも5レベルも上って何ですかぁ!?」

 

 ようやく、そこに気付く小悪魔。

 

「ああ、商人はすべての職業の中で一番成長が早いし、幸せの靴で経験値を伸ばしているし、地球のへそでは一人でメタルスライムも倒しているから」

 

 なお、現在の小悪魔の経験値が9471なのに対して、パチュリーは20087。

 倍以上に開いていたりする。

 まあ、そうなるな、ということだった。




 小悪魔が借金を返してお金を貯め、ゾンビキラーを購入することができる日は果たして来るのでしょうか?(その予定はありません)
 ……まぁ、なんだかんだ言っても今の小悪魔がパチュリー様と並んで強敵と戦っていられるのは諸刃の剣の威力があってこそなので、買えなくても困りはしないんですけどね。

>「ベッドの上でネコが丸くなっているわ」

 かわいい。
 今回のプレイで初めて気づきました。
 このシーンのためだけにグラフィックを作ったんですかね?

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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小さなメダル集めの航海へ

「小さなメダルは現在48枚。あと2枚で忍びの服、そして7枚で炎のブーメランがもらえるわ」

 

 パチュリーは思案する。

 

「ダンジョンに潜らなくても、これまでに行っていない街やほこらを回るだけで手に入るわね」

「そうなんですか?」

 

 そんなわけで、小さなメダル集めの旅に出るパチュリーと小悪魔。

 

「まずは行かずに飛ばして進めていたエルフの隠れ里へ」

 

 パチュリーは小悪魔に命じ、ルーラでエジンベアへと跳ぶ。

 

「ええと、パチュリー様? ノアニールに行くんじゃないんですか?」

「エルフの隠れ里やノアニール西の洞窟に向かう場合、エジンベアから行った方が近いのよ」

 

 ということ。

 さらには、

 

「船で海を行った方が、エンカウント率は下がるのだし」

 

 ということもある。

 そんなわけで海を渡り、魔物との遭遇も無く上陸後に、森の中にぽつんと開けている平地にたどり着く。

 ここがエルフの隠れ里だ。

 

「まぁ、後からまた来るのだし、今は小さなメダルを拾うだけで良いでしょう」

 

 と、地面から小さなメダルを拾って終了。

 

「次はグリンラッドにある変化老人の家へ」

 

 再びルーラでエジンベアへ。

 そこから船で西へと進み、

 

「痺れクラゲよ!」

 

 痺れクラゲ4匹の群れと遭遇。

 

「焼き払え!」

 

 とパチュリーから指示を受けた小悪魔は雷の杖を振りかざした!

 ゲーム上は、

 

 杖から雷がほとばしる!

 

 とメッセージが出るものの、実際にはベギラマ相当の火炎が痺れクラゲを焼き焦がす!

 ……ギラ系の呪文の扱いが電撃系になったり火炎系になったりしたドラクエシリーズ初期の設定のブレの名残だろう。

 だが、

 

「効かない!?」

 

 驚く小悪魔。

 雷の杖は二体の痺れクラゲを一撃で倒していたが、残り二体には効果が無かった。

 

「痺れクラゲは火炎呪文に弱耐性を持っていて、3割の確率で無効化するのよ」

 

 とパチュリー。

 しかし、

 

「それでもこれで!」

 

 豪傑の腕輪を付けてチェーンクロスでしばけば、残り二体も沈黙する。

 そうやってノーダメージで戦闘を終了させると、幸せの靴に履き替えてさらに西へ。

 

「ああ、この靴を拾ったグリンラッド南のほこらが見えて来たわね」

 

 正確にはグリンラッドの南の島にあるほこらに出入りして、モンスターと遭遇するまでの歩数カウントをリセット。

 そこから北にあるグリンラッドへと向かう。

 しかし、

 

「氷河魔人とビッグホーン!?」

 

 グリンラッドに上陸したとたん、モンスターの群れに襲われる。

 

「あと1歩のところでこれですか!?」

 

 と怯える小悪魔を、

 

「まぁ、それぞれ1体ずつならいけるでしょう」

 

 そうなだめるパチュリー。

 

「行きます!」

 

 小悪魔は諸刃の剣でビッグホーンを一刀両断に。

 マッドオックスやゴートドンの系統で最上位のモンスターであり。

 3/8もの高確率で吐いて来る甘い息で眠らされ、そのまま何もできずに永眠というパターンが恐ろしいため真っ先に潰す必要があるのだ。

 

「くっ!」

 

 まぁ、諸刃の剣の自傷ダメージで小悪魔自身も17ポイントのダメージを受けるのだが。

 そしてパチュリーの攻撃。

 ゾンビキラーで74ポイントものダメージを氷河魔人に与えるが、

 

「攻撃力が上がっているとはいえ、氷河魔人はニフラムに完全耐性を持っていて追加ダメージが発生しないからこの程度か……」

「この程度って、勇者である私が王者の剣に次ぐ攻撃力を持つ諸刃の剣を振るって出す以上のダメージを与えていますよね!?」

 

 騒ぐ小悪魔だが、氷河魔人の最大ヒットポイントは120。

 この程度では倒れないのだ。

 そして氷河魔人は冷たい息を吐きだした!

 

「くっ」

 

 小悪魔はブレスのダメージを3/4に減少させるドラゴンシールドをかざすことで耐えるが……

 受けたダメージはパチュリーが12ポイント。

 小悪魔は14ポイントとなっていた。

 

「はい? パチュリー様はブレス耐性のある防具は身に着けていないんですよね?」

 

 それで自分がパチュリーよりダメージを受けていることに納得のいかない小悪魔だが、

 

「冷たい息はパーティ全体に9~20ポイントのダメージを与えるものよ。つまり……」

 

 耐性を持つ装備の無いパチュリーは素で12ポイントダメージ。

 小悪魔はフルに近い19ポイントのダメージを受けるところを3/4に減少(端数切捨て)して14ポイントで済んだということ。

 

「リアルラックが足りない!?」

 

 不幸な小悪魔。

 しかし、

 

「1/8の確率で吐かれる甘い息で眠らされるよりマシでしょう」

 

 ということ。

 ビッグホーンのそれと合わせて、このグリンラッドで氷河魔人のドロップする不思議な帽子を得ようとして全滅する者が多いのはこのためだったりする。

 

「それでも、これでお終いです!」

「あ……」

 

 小悪魔は氷河魔人を切り捨て、

 

「くっ」

 

 諸刃の剣の自傷ダメージで自身も16ポイントのダメージを受ける。

 

(会心の一撃を出したら自傷ダメージで死ぬかもしれないから治療しなさいと言おうとしたのだけれど……)

 

 無事倒せたならいいかと一人納得するパチュリーだった。

 こうやって戦闘を終えると小悪魔のホイミで治療を行い、グリンラッドにある変化老人の家へ。

 

「こうして人に会うのは何年ぶりじゃろう。おお、そうじゃ。いつぞや海賊たちがおかしな骨を置いていって以来じゃな。まあよい。ところでお前さんたち変化の杖を知っておるか?」

「はい」

「なんと真か!? 実はわしはあれが欲しいのじゃ。わっはっはっ」

 

 と言う老人の家のタンスからは、シルクハットと小さなメダルが手に入る。

 

「シルクハットは銀の髪飾りと同等、+20の守備力を誇る頭部の防具ね」

 

 ただし、

 

「商人と遊び人の男性専用だけれど」

 

 と装備できる対象者は非常に少ない。

 

「900ゴールドで売れるから換金向けね」

 

 ここと、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではジパングのすごろく場のタンスのマスからしか入手できない限定品ではあるのだが……

 また、

 

「これで小さなメダル50枚で手に入る忍びの服がもらえるわね」

 

 ということだが、これはもらっても二人には使えない。

 

「このままホビットのほこらに行きましょうか」

 

 ということでさらに船で西へ。

 小島が見えてきたところで、空から二体のモンスターが急襲する。

 

「ヘルコンドル! バシルーラで相手を飛ばしてしまう相手だけれども……」

「魔封じの杖は……」

「マホトーンに強耐性を持っているから70パーセントの確率で無効化されてしまうわ」

 

 そして火炎呪文には弱耐性があり、雷の杖も30パーセントの確率で効かない。

 二フラムには完全耐性を持っているので、ゾンビキラーの追加ダメージも期待できない。

 

「まぁ、バシルーラが効かないことを祈りなさい」

 

 ということで、

 

「薙ぎ払え!」

 

 とパチュリーから指示を受けた小悪魔は雷の杖を振りかざした!

 

「1体にしか効きません!?」

「まあ、そうなるわね」

 

 そしてヘルコンドルはパチュリーを攻撃。

 しかしミス。

 パチュリーはダメージを受けない!

 

「3/8の確率で放たれるバシルーラさえ来なければ恐くないのよね」

 

 そうつぶやきつつもゾンビキラーを振るい、雷の杖でダメージを負っていたヘルコンドルに止めを刺すパチュリー。

 残り一体だが、

 

「あとは確実に行くしか無いわね」

「はい!」

 

 小悪魔は、今度は自傷ダメージ覚悟で諸刃の剣で斬りつけるが、倒しきれない。

 その小悪魔に、ヘルコンドルはバシルーラを唱える!

 しかし、

 

「ゾーマ打倒前だと勇者には絶対にバシルーラは効かないのよね」

 

 とつぶやくパチュリー。

 つまり勇者と商人の二人パーティだと、バシルーラを使われても半分の確率で無駄行動になるということ。

 あとはパチュリーがゾンビキラーで切り捨て、終了だ。

 

「結局、あなたが自傷ダメージを受けただけで終わったわね」

 

 そしてパチュリーは無傷である。

 小悪魔は自分のホイミで治療しヒットポイントを満タンに。

 再び海を西に進むと陸地、半島の先に突き当たる。

 

「あとは真っすぐ南下すればいいわ」

 

 そうして出てきたのが、

 

「マーマン3体にマリンスライムが1体ね」

 

 パチュリーの刃のブーメランが敵全体を薙ぎ払い、小悪魔の雷の杖が生き残ったマーマンに止めを刺す。

 マリンスライムも小悪魔に反撃するが、ミス!

 大地の鎧を身に着け、更に守備力が上がっている小悪魔相手には効かない!

 

「つぼ焼きにしてあげます!」

 

 と言いながら振りかざされる小悪魔の雷の杖からほとばしった炎でじゅわっと焼き上げられる。

 

 そうして、

 

「こんばんはー」

 

 ホビットのほこらに到着。

 そこには二匹のネコと暮すホビットの姿があって、

 

「旅の者か…… そなたらを見ているとわしの若いころを思い出すのう。わしも昔はオルテガという勇者様のお供をして冒険したものじゃ。オルテガさまは火山の火口に落ちて亡くなったそうじゃが、わしにはまだ信じられぬ」

 

 と話してくれる。

 そしてこのホビットの座っている椅子の後ろを調べると、小さなメダルが見つかった。

 また二匹のネコの内一匹に、

 

「にゃ~ん?」

 

 と鳴かれ、

 

「はい」

 

 と答えるパチュリーに、

 

「パチュリー様、いくら着ぐるみでネコの姿をされていると言っても、ネコに話しかけても……」

 

 苦笑しながら言いかける小悪魔だったが、

 

「では、ここから南。4つの岩山の真ん中を調べてください。にゃ~ん」

「ねねね、ネコがしゃべった!?」

 

 といきなり人間の言葉を話してくれるネコに驚く。

 

 なお、「いいえ」と答えると、

 

「にゃ~ん……」

 

 と、何だか意気消沈しているような様子を見せるネコが可哀想だったりする。

 

「それじゃあ、また来るのも面倒だし世界樹の葉を拾いに行きましょうか」

 

 この辺ではメタルスライムが出ることを考え、各自、毒蛾の粉を携えて森の中を南下する。

 ついでにあなほりをすると、

 

「消え去り草が拾えたわ」

 

 ということに。

 

「ええっ、ここで拾えるんですか?」

 

 そう戸惑う小悪魔に、

 

「ここも魔法おばばが出るから、そのドロップ品ね」

 

 と答えるパチュリー。

 

「魔法おばばってベギラマを使って来るんですよね?」

 

 そんなものが出るのかとおののく小悪魔だったが、しかし、

 

「モンスターとの遭遇無しで拾えたわね」

 

 あっけなくゲット。

 

「一々調べなくても、アイテムが隠されている場所に行くとエクスクラメーションマーク、俗に言うビックリマークが出て知らせてくれる親切仕様となっているので楽ですね」

 

 と小悪魔。

 これはスマホ版等で見られる仕様。

 また、スマホ版では画面が縦に長いので、四つの岩山の真ん中というのも上下の岩山が1画面に納まって映って一目瞭然だったりと、様々なハードで出ている分、難易度なども違いが出てくるものだった。

 

「それじゃあ、まずはここまででアリアハンに戻りましょうか」

 

 ということでいったんルーラで帰る。

 

「次は海賊の家ね」

 

 アリアハンから船で出港。

 痺れクラゲの群れを蹴散らしながら進む。

 

 アリアハン大陸を南からまわって東へ。

 いざないの洞窟の手前にあるアリアハン東のほこらに出入りすることでエンカウントまでの歩数カウントをリセットする。

 東の岸に船を止めて西向きに入りに行くのだ。

 

 そこから再び船で西へ。

 またヘルコンドルに出会うが、問題なく倒し……

 

「パチュリー様、最後、どうして豪傑の腕輪から幸せの靴に切り替えたんですか?」

「ええ、レベルが上がるから」

「はい!?」

 

 パチュリーはレベル19に。

 幸せの靴を履くことで性格をタフガイに戻した結果、

 

ちから+4

すばやさ+1

たいりょく+6

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となった。

 そこから、

 

「力の成長上限値が上がって、狙い通り余裕が出たからストックしていた力の種を使いましょう」

 

 と中断の書を利用し、力をさらに種で+3する。

 

 ……小悪魔をチェーンクロスの鎖で船の帆柱に括り付けてから。

 

「くぅ……っ」

「パチュリー様ーっ!」

「あ、かはぁ…… くふぅ……」

 

 筋肉痛を凝縮したような痛みに表情を歪めながら耐えるパチュリーに、見ているだけしかできない小悪魔は、

 

「止めてください、一人で耐えるなんてことしないでください! 何のために私が居ると思ってるんですかー!!」

 

 と叫びながらもがき、驚異的な根性で何とか抜いた片手を伸ばすが……

 パチュリーは膝をつき、ハァハァと喘ぎながらもこう答える。

 

「主人が苦しむ姿に欲情して、鼻の下を伸ばしながら言うことじゃないわね」

「そ、そんなはず……っ」

 

 と言いつつも顔に手を当ててしまうあたり、小悪魔にも自覚があるらしい。

 

 マヌケは見つかったようだな。

 

 そんなドタバタもありながら、結果として、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:19

 

ちから:97

すばやさ:67

たいりょく:102

かしこさ:25

うんのよさ:28/78

最大HP:204

最大MP:50

こうげき力:179/139/136

しゅび力:123/113/103

 

ぶき:ゾンビキラー/チェーンクロス/やいばのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

「れ、レベル19? 私と5つもレベル差があったのに、ますます……」

「何言ってるの、あなたもレベルは上がったでしょう?」

「あ、確かに」

 

 どったんばったん大騒ぎしていたおかげで、それに気づいていなかった小悪魔だった。

 

ちから+3

すばやさ+2

たいりょく+5

かしこさ+1

うんのよさ+4

 

 という結果で、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:14

 

ちから:46

すばやさ:112

たいりょく:39

かしこさ:31

うんのよさ:32

最大HP:78

最大MP:61

こうげき力:161

しゅび力:168/161/158

 

ぶき:もろはのつるぎ

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 さらに小悪魔は迷宮脱出呪文リレミトを覚えていた!

 

 

 そして上陸。

 試しに5回、あなほりをしてみるが、

 

「ラックの種ね」

「あっさりと拾えましたね」

「この辺はラックの種を1/32の高確率で落とすシャーマンの出現地域だから」

 

 パチュリーはラックの種をポリポリ齧りながら答える。

 夕暮れ時、まだ日が落ちる前にたどり着いたそこは、

 

「この先の家は海賊たちの住みか。近づかないほうがいいですよ」

 

 と話す青年が居るとおり、海賊の家である。

 しかし、

 

「もぬけの殻ですね」

 

 海賊たちは出払っているのか、人気は無い。

 倉庫らしき部屋に並んだツボとタル。

 そのタルの一つからは小さなメダルが手に入る。

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だと賭博好きの海賊らしく、この部屋のツボからすごろく券が二枚も手に入ったのだけれど」

 

 残念ながら空だった。

 

 そして首領のものらしいドクロの旗が飾られた部屋のタンスからは、ルーズソックスが手に入った。

 

「女性なら誰でも装備でき守備力が+5される。微々たるものだけれど、それでも直接守備力を上げる装飾品の中では呪われている『いしのかつら』を除外すれば最高の値」

「こんなでも革の盾の+4以上の守備力があるんですね」

 

 というものだ。

 まぁ、足元を守ることは重要だし、元々、頑強な木綿製の厚みとボリューム、長さのある登山用の靴下『ブーツソックス』を加工したのが始まりなので、その守備力も説明が付くか。

 

「装備しても性格が変わらないというのもクセが無く、使いやすい装備ではあるのだけれど……」

 

 しかし現代の、というか90年代ファッションのことなど知らないパチュリーには、

 

「変な靴下ね」

 

 と首を傾げるしかないものだ。

 

「この部屋の人って凄く足が大きいのかしら?」

「いえ、それは……」

 

 小悪魔は、かくかくしかじかと、それがどういうものか説明した上で、

 

「多分、守矢の巫女、早苗さんならご存知…… というか自身も穿いていたのかも」

 

 そう付け加える。

『現代っ子の現人神』とも呼ばれる彼女が幻想郷に来たのは比較的最近なので。

 しかし小悪魔の説明が悪かったのか、ファッションに対し関心が薄いせいか、微妙に理解しきれていないパチュリーはルーズソックスをびろーんと伸ばしてみて、

 

「……こんな靴下じゃないと履けないくらい太い脚してるの、彼女?」

 

 とスゴイ・シツレイな誤解をする。

 

「いえ、それは……」

 

 フォローしようとする小悪魔だったが、パチュリーの関心は他のこと、この部屋の主である海賊の首領のことに移っており、

 

「もしかして、これも戦利品? こんなモノを集める海賊というのもイヤ過ぎるんだけど……」

 

 などとつぶやく。

 このルーズソックス、男性が『使う』と、

 

 ○○○○はルーズソックスを握りしめた!

 ちょっぴり恥ずかしさが込み上げてくる。

 

 というような反応が返って来るものだったりする。

 しかも何故か1650ゴールドという高値で売れる。

 店の店主はこんなものをそんな高額で買い取って、一体ナニをするつもりなのか……

 店売りはされていないし、すごろく場で拾えるスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版とは違い、すごろく場が廃止された携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版ではここでしか手に入らない貴重品となってはいるのだが。

 

 そしてふと顔を上げたパチュリーは、小悪魔をにらみ、

 

「そう言えば、最近私の靴下や下着が無くなっているって、咲夜が教えてくれたのだけれど」

「……うちの図書館には、窃盗常習犯が出入りしてますからね」

 

 黒白、つまり霧雨魔理沙に罪をなすり付ける小悪魔に、呆れるパチュリー。

 でもパチュリーは魔理沙の名誉に興味は無かったので、

 

「そう」

 

 スルーした。

 

 とんでもない、水の羽衣並みの濡れ衣を着せられた魔理沙。

 でもパチュリーはそんなことは早く忘れる。

 

 

 

 地下牢に行くと男が閉じこめられており、夜になったら海賊たちが帰ってくるという。

 この地下牢の床からは小さなメダルが回収できるが。

 

「うーん、もう少しで日も暮れるし、あなほりしながら待ってみる?」

 

 ということで、出入りしながら日が落ちるのを待ってみる。

 実プレイ時間1分の間に、コングが1/64の確率で落とす命の木の実を一つ、拾うことができた。

 

 アジトに帰ってきた海賊たちは、悪いヤツしか狙わない義賊を自称しており、パチュリーたちを歓迎してくれた。

 7つの海を股に掛ける海賊らしく、幽霊船と船乗りの骨など、貴重な情報も色々と聞けた。

 そして海賊のおかしらと対面。

 驚いたことに女性だ。

 

「女のあたいが海賊のお頭なんて、おかしいかい?」

「はい」

(っ、パチュリー様!?)

(だって、普通の大きさの足をしているのに、あんな大きな靴下……)

(いえ、ですからそれは……)

 

 まだルーズソックスについて理解しきれていないパチュリーだった。

 しかし、それが幸いしたのか、

 

「ずいぶんはっきりと言ってくれるじゃないの。でもそこが気に入ったよ。ルザミの島を知ってるかい? ここから南に行って、ちょいと西の方さ」

 

 という情報を教えてくれる。

 そして再会を約しその場を離れた。

 

「それにしても、オーブを見た記憶があるという船員の話が気になるわね」

 

 パチュリーはさらに海賊のアジトの周囲を調べ、横手に大きな岩を発見。

 ずらして下を調べてみると、隠し階段が見つかった。

 

「さすがパチュリー様です」

「ふふ、こんな隠し扉、私には通じないわ」

「凄い力です」

「そっち!?」

 

 確かにこの本の中の世界では、パチュリーは小悪魔の二倍以上の力の能力値を持っているが。

 

 階段を降りた所にある地下室の宝箱から力の種、ヘビメタリング、そしてレッドオーブを見つけた。

 

 パチュリーはヘビメタリングを手に取って見定めた。

 

「ヘビメタリングは装飾品のようね。これを身に付けていれば一匹狼のように生きることができるでしょうね」

 

 という具合に、装備中は性格を『いっぴきおおかみ』に変えてくれる装飾品だ。

 

「『いっぴきおおかみ』は、体力が大きく上昇し、かつ素早さ、賢さも上がるというものよ」

 

 これより体力の成長補正値が高い性格は『タフガイ』と『てつじん』しかなく、これらは素早さ、賢さにマイナス補正が付いている。

 つまり、

 

「僧侶や魔法使い、賢者なんかに向いているってことですね」

 

 と納得する小悪魔だったが、

 

「そう、でも僧侶と魔術師はキャラクター作成時に『いっぴきおおかみ』になることができないの」

 

 性格を『いっぴきおおかみ』に変える本も無く、ヘビメタリングもここか、メルキドのタンスからしか手に入らないというもの。

 

「キャラクター作成時に種を体力につぎ込んでタフガイにして序盤をヒットポイントの高さで乗り越えた後に、ここでヘビメタリングを手に入れて性格を変え改めて素早さ、賢さを伸ばすというのもありね」

 

 もちろん、普通に性格の良くないキャラが居た時に装備させるなど、割と有用なアイテムなのだ。

 

「装備すれば素早さも+10ポイント、アップするしね」

 

 ただ、パチュリーと小悪魔には不要なので、

 

「お店に持って行けば510ゴールドで売れるわね」

 

 という具合に、後で売り払うことにする。

 

 なお、地球のへそから帰って来たときに、

 

「どうだ? ひとりでさびしくはなかったか?」

 

 という神父の問いに、

 

「はい」

 

 と答えると、通常、

 

「そうか。お前は強いのだな」

 

 と言われるのだが『いっぴきおおかみ』の場合は、

 

「なるほど根っからのいっぴきおおかみというわけか。ヤボなことを聞いて済まなかった」

 

 という具合にセリフが変化する。

 例のアリアハンの謁見の間に居る右側の兵士と同じく、性格によってセリフが変わるパターンである。

 

 またダーマ神殿では、この性格のキャラが武闘家や盗賊に転職しようとすると「根っからのいっぴきおおかみじゃのう」と言われ、賢者に転職しようとすると「いっぴきおおかみの○○○○が賢者になりたいとは、ずいぶん成長したものよのう」と言われてしまう。

 

 ささいなことだが、キャラクターの個性に合わせ、相手の対応が変化するというのもプレイヤーにとっては嬉しいことだろう。




 小さなメダル集め前編といった感じですね。
 もちろん「後半へ続く」を次回はお届けしますが。

>「……こんな靴下じゃないと履けないくらい太い脚してるの、彼女?」

> とんでもない、水の羽衣並みの濡れ衣を着せられた魔理沙。

 熱い風評被害が止まりませんね。
 魔理沙は自業自得のところがあるにせよ、何の関係も無い早苗さんは……

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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炎のブーメランをゲット

 次は海賊のおかしらが教えてくれた、忘れられた島ルザミに行ってみる。

 

「イカぁ!?」

「だいおうイカの上位種テンタクルスね」

 

 マーマンダイン二体とテンタクルス一体が現れる。

 

「ここは火力でごり押しよ」

 

 パチュリーの指示の元、小悪魔の雷の杖がマーマンダインに炸裂するが、

 

「一匹だけにしか効きません!?」

「マーマンダインは火炎系呪文に弱抵抗を持つから30パーセントの確率で無効化するのよ」

 

 さらにパチュリーの刃のブーメランが薙ぎ払う。

 雷の杖で負傷していた方のマーマンダインを沈めるが、残った一体が、

 

「くっ、ヒャドを唱えてきました!」

 

 小悪魔は魔法に耐性のある装備を付けていなかったので、そのままのダメージを受ける。

 そしてテンタクルスが繰り出す極太触手による横殴りの打撃を、ボクシングのスウェーのようにのけ反り気味に回避行動を取ることでダメージを減らそうとするパチュリーだったが、

 

「くはっ!?」

 

 避け損ねた胸を横合いから痛打され、ヒャド以上のダメージを受ける!

 

「パチュリー様!?」

「て、テンタクルスの攻撃力はファミコン版で97、スーパーファミコン版以降のリメイクでは強化されて107。ランダムで1、2回の攻撃をしてくるのよ」

 

 痛みに表情を歪めながら言うパチュリー。

 今回は1体が出現、1回の攻撃で終わって幸いだったが、3体同時出現し2回攻撃を連続で食らった日には、シャレにならないことになる。

 この攻撃力を警戒し、守備力を落とすような魔法耐性のある防具には切り替えなかったのだ。

 

 なお、パチュリーが胸を横合いからビンタされたのは、だいおうイカに続き二度目。

 あれだけでかくて長い触手で横殴りにされたら到底避けられないし、パチュリーのバストは豊満であったので、胴体が避けられても、その動きに遅れて続く胸のふくらみが避けきれず痛打されてしまった模様。

 

「二度もぶった! 私だってパチュリー様の胸をスパンキングで責めたこと無いのに!」

 

 などと憤る小悪魔。

 

「主人の胸をぶって、いたぶるような使い魔がどこの世界に居るのよ」

 

 という話であり、パチュリーは殴られてもいない頭を痛める。

 そして次のターン、

 

「イカリングにしてあげます!」

 

 嫉妬に燃える小悪魔は自傷ダメージ覚悟で諸刃の剣によりテンタクルスを輪切りにしようとするが、

 

「これでも倒れない!?」

 

 あらかじめパチュリーの刃のブーメランでヒットポイントが削られていたにもかかわらず、倒しきれないタフさに驚く。

 

「テンタクルスの最大ヒットポイントは200よ!」

「弱点は無いんですか!?」

「ザキ、ザラキなどの即死呪文、ラリホー、マヌーサ、メダパニなんかの補助呪文、そしてバシルーラに対しては弱耐性だから、そこを突けばいいのだけれど」

「私たちにはどれも使えませんね!?」

 

 ラリホーについては勇者である小悪魔が覚えるのはLv16~17なのでまだ使えない。

 僧侶呪文であるザキ、ザラキ、マヌーサ、バシルーラはもちろん、魔法使いの呪文であるメダパニも使えない。

 毒蛾の粉はあるが、ふくろの中では使えない。

 

「まぁ、これで終わるからいいでしょう?」

 

 と言いつつ再び刃のブーメランを放つパチュリー。

 それでようやく生き残っていたマーマンダイン、そしてテンタクルスを倒しきる。

 

「手強いだけあって経験値が900ポイントを超えるのね」

「す、凄いです……」

「イカの系統は僧侶の即死呪文、ザキ、ザラキには弱いから、経験値稼ぎにも使えるという話よ」

 

 パチュリーたち、勇者と商人の二人パーティでは関係の無い話だが。

 

 

 

 忘れられた島ルザミに上陸する二人。

 ここでは魔王バラモスへと至る道の情報を聞くことができる。

 その他に、調べてみると墓の前からはラックの種、花壇の中心からは小さなメダルが見つかった。

 

「ラックの種はまた私が使うとして」

 

 ポリポリと種をかじるパチュリー。

 予言者の家の本棚からは『力の秘密』『開運の本』が手に入る。

 レーベでも見つけた『力の秘密』はともかく、初めて手にする『開運の本』を、パチュリーは調べてみる。

 

「運はやって来るものにあらず! こちらから呼び込むものなり! ……ふーん」

「パチュリー様?」

 

 洗脳調教に怯える小悪魔は、恐る恐る声をかけるのだが、

 

「読むと性格を『しあわせもの』に変える本なのだけれど、勇者の性格診断で言われる内容と、かけ離れているものだったから」

 

 とパチュリーは言葉を濁す。

 性格診断において、隣国の宝石を欲しがる王妃による策略で戦争が始まりそう。

 そしてそれを知るのは主人公のみという時に、なにも考えずフラフラと外に出た、あるいは「自分には関係ないな」とばかりに立ち去った場合になる性格であり、

 

「物事に拘らず、いつも飄々としていて、周りからは何を考えているのか分からないと思われている」

 

 というように、最初はクールな性格かと思わせられるが、

 

「実は何も考えておらず、悩みがあっても、どうにかなるだろうと自分からは何もせず、大抵どうにかなってしまう」

 

 などと言われ、最後には、

 

「その程度の悩みであり、そのままぼんやりと生きていける、あなたはしあわせものですね」

 

 と貶されるような性格である。

 とても、

 

「運はやって来るものにあらず! こちらから呼び込むものなり!」

 

 などと書かれている本を読んでなれる性格とは思えないのだ。

 ……まぁ、あの性格判断をやっている精霊のほこらの妖精がとんでもない根性悪で毒舌なだけ、という話かもしれないが。

 

「売ってしまいましょう」

 

『しあわせもの』は運の良さに高い成長補正があるが、力と体力がマイナスなので使いづらいのだ。

 男性の場合は完全上位互換の『ラッキーマン』という性格があることでもあるし。

 売ってもたった45ゴールドではあるのだが……

 

 

 

 また、ここには天体観測を行っている学者の家がある。

 

「地面は本当は丸くて、ぐるぐる回っているのです。地面が回っているから、お星さまやお日さまが動いているように見えます。でもだれも信じてくれず、私はこの島に流されました。しかし…… それでも地面は回っているのです! そして丸いのです!」

 

 力説する学者。

 

「というわけでこの島より南にすすむと、すぐにある北の氷の大陸には…… おかしな老人の住む小さな草原がありました。今も住んでいるでしょうから、よおくさがしてみなさい」

「は?」

「どうしたんです、パチュリー様?」

「南に進むとすぐある北の氷の大陸って…… 世界が球なら絶対に無いことなんだけど」

 

 しかし学者の言うとおり、南に向かうと本当に北の果て、グリンラッドにたどり着くようになっている。

 変化の杖を欲しがっている老人が居た、あの場所だ。

 

「確かに、よく考えてみるとあり得ませんね」

「ええ、だから北と南、東と西がつながっているこの大地は、ドーナツ型をしているという仮説もあるそうよ」

「……SFですね」

 

 まぁ、この世界にも境界線をいじるような存在が居て、北と南、東と西、それぞれを繋げているのかも知れないが。

 

 

 

「次は西へ」

 

 今度は船で西へと進み、レイアムランドを目指すパチュリーたち。

 途中、痺れクラゲの群れを蹴散らしながら雪に閉ざされた大地に到着。

 その上に建つほこらにたどり着く。

 階段右の角から小さなメダルをゲット。

 階段を上がった場所には祭壇に置かれた卵と、それを守る小柄な二人の巫女が居た。

 

「ロリ巫女、それも双子みたいですよっ!」

 

 彼女たちは、うさ耳みたいな頭飾りを身に着けており…… その分、一般人より背の低いグラフィックとなっているのだ。

 元ネタは映画ゴジラシリーズに登場する、モスラに仕える双子、小美人だとも言われているが……

 話しかけると、一人がくるりと振り向いて、

 

「わたしたちは」

 

 そしてもう一人が振り向き、

 

「わたしたちは」

 

 と繰り返す。

 

「たまごをまもっています」

「たまごをまもっています」

 

 そうして、

 

「世界中にちらばる6つのオーブを きんの台座にささげたとき……」

「伝説の不死鳥ラーミアはよみがえりましょう」

 

 と教えてくれる。

 

 なお、話し終わったとたん、祭壇に向き直り、こちらには背を向けてしまう。

 一般人と大きく違ったグラフィックで、話しかけない限りその場で背を向けたまま移動しない。

 それゆえスーパーファミコン版ではこの2人がそこに居ることに気づかないプレイヤーも多く、ラーミアが復活した際にこの2人に話しかけずに祭壇を降りようとして「お待ちください!」と呼び止められ「この声はどこから!?」と驚くという話があったりする。

 

「今まで手に入れたのはレッドオーブとブルーオーブですね、置いて行かれますか?」

 

 とたずねる小悪魔だったが、

 

「リメイク以降はふくろがあるから持ったままでも邪魔にならないでしょう。それに……」

「それに?」

「実際のゲームだと「このセーブデータ、どこまで進めたものだった?」となった際に、オーブがふくろに入っているなら一目瞭然だけれども、半端にここに置いていると、ここまで来なくては分からないって話が……」

「ああ……」

 

 そんなこんなで、終了。

 

「小さなメダルも目標の7個が集まりましたし、アリアハンに戻られますか?」

 

 とたずねる小悪魔だったが、

 

「あなほり、試してみましょうか」

 

 と言うパチュリーに、

 

「はい?」

 

 と戸惑う。

 ここ、レイアムランドでは氷河魔人、豪傑熊、ヘルコンドル、スノードラゴンが出現する。

 それぞれ氷河魔人は不思議な帽子を1/128、豪傑熊は力の種を1/64、ヘルコンドルは身躱しの服を1/256、スノードラゴンは命の木の実を1/128の確率で落とす。

 闇のランプで時刻を夜にするパチュリー。

 

「不思議な帽子狙いですか?」

 

 と小悪魔。

 ここでは氷河魔人は夜のみのモンスターなので、夜にしておかないとあなほりでも不思議な帽子は出ないのだ。

 

「そうね、私たちだと不思議な帽子は私だけしか装備できないし、私にとっても守備力が低くて意味が無い。ただ、『おおごえ』を使う時に必要なマジックパワーが15ポイントから3/4(端数切捨て)+1されて12ポイントに軽減できるわ」

 

 と、それだけなのだが、

 

「出たわ、不思議な帽子」

 

 開始9分で不思議な帽子をゲット。

 とっても簡単だ。

 

「10分もかからず拾えるって、戦ってドロップを狙うのが本気でバカらしくなりますね」

 

 呆れ顔の小悪魔。

 

「実は不思議な帽子だけならグリンラッドの方が簡単なんだけれどね」

 

 とパチュリー。

 レイアムランドでは夜のみのモンスターなので、あなほりのドロップ判定も一回に付き一度だけだが、グリンラッドの遭遇モンスターテーブルデータは、

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: ----------------

01: ビッグホーン

02: ひょうがまじん

03: ----------------

04: ひょうがまじん

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: ----------------

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: ----------------

07: ビッグホーン

08: ひょうがまじん

09: ----------------

 

『夜のみモンスター用』

10: ひょうがまじん

 

『1体のみ出現用』

11: スノードラゴン

 

 というものなので、昼でも一度に3回のドロップ判定があり、装備できる者が3人居ようとも(勇者は装備不可なので)必要な3個が30分程度で集まるという。

 そして夜ならば…… さらにもう一回、一度に4回のドロップ判定が働くことになり、3個が10分で集まることも珍しくないという話である。

 では、何故パチュリーがここレイアムランドで、あなほりをしたのかというと、

 

「そして力の種が2つに、身躱しの服が5着」

 

 その他のドロップ品について、試してみたかったからだ。

 

「は……? 力の種は豪傑熊が1/64の確率で落とすんですから分かりますが、ヘルコンドルが身躱しの服を落とす確率は1/256ですよね?」

「スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版においては、ヘルコンドルが身躱しの服をドロップする確率は1/16とも言われているわ」

「はい?」

「これはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版でヘルコンドルがすごろく券をドロップする確率と同じ。つまり、すごろく場が無くなったために、すごろく券をドロップするモンスターはドロップ品をファミコン版と同様のものに差し戻したのだけれど、ドロップ率を戻すことを忘れていたってことね」

 

 諸刃の剣を落とす極楽鳥もそうだったが、やはりスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ですごろく券を落としていたモンスター全般が戻し忘れているということらしかった。

 

「今の私たちにはこれも換金アイテムにしかならないけど。一着2175ゴールドで売却できるから5着で10875ゴールドね」

「じゅ、10分にも満たない時間でそれだけ稼げるんですか!?」

 

 この時期ではピラミッドで1体につき350ゴールドを得られる笑い袋を倒しまくるのが一番効率のいいゴールド稼ぎだと言われているが。

 それでも一度に1体しか倒せず、しかもリメイクのピラミッドはエンカウント率が異様に低いため、黄金の爪を拾って呪い状態にするか、遊び人がレベル13で覚える『くちぶえ』を使うかしないと効率が悪い。

 そしてそれだけやっても、17秒に1回以上のペースで倒せなければ勝てないという……

 しかも、

 

「どちらかといえば力の種の方が役立つのだから、そのついでよね」

「ついでで、それ……」

 

 小悪魔も、開いた口が塞がらない。

 

「まぁ、小さなメダルも7枚。つまり炎のブーメランがもらえるからいったんアリアハンに帰って装備を整え、精算しましょう」

 

 ということになる。

 小悪魔のルーラでアリアハンに戻り、メダルおじさんから小さなメダル50枚でもらえる忍びの服、そして55枚でもらえる炎のブーメランを受け取る。

 

「忍びの服の守備力は+58」

「大地の鎧の+50より硬いじゃないですか!」

「刃の鎧でも+55だからそれ以上よ。しかも忍びの服には身躱しの服同様、物理攻撃回避率が1/8に上昇する効果があるわ」

「ええっ!?」

 

 物理防御なら、忍びの服は上の世界にて最強。

 入手時期が早く、ボストロール、やまたのおろち戦に余裕で間に合うのも心強い品だ。

 

「盗賊と武闘家しか使えないものだから、私たちだと売るしかないのだけれど」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では、ジパングのすごろく場の宝箱マスにも入っているほか、何も無いマスを調べても低確率で入手できるものだが。

 すごろく場が廃止された携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、ここでしか手に入らない貴重品となっている。

 なお、

 

「公式ガイドブックに掲載の英訳だと『CLOTHES OF STALKER』よ」

 

『STALKER』は『忍び寄る者』という意味なので合ってはいるのだが、

 

「ストーカーの服!?」

 

 近年ではつきまとい犯罪のイメージが強いため、そう言ってしまうと変態臭い。

 

「そしてとうとう炎のブーメランを手に入れたわ」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では第三すごろく場のよろず屋で6500ゴールドで購入でき、最速では船入手直後に入手可能なもの。

 あとはアレフガルドまで行けばルビスの塔にある宝箱から入手できるものだったが。

 携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、すごろく場が廃止された上、ルビスの塔の宝箱の中身が雷神の剣に変更された結果、ここでしか手に入らない一品ものとなっている。

 

 敵全体を攻撃できるブーメランの中では最強。

 他に全体攻撃ができる武器には破壊の鉄球があるが、それが入手できるのはゾーマ撃破後であるし、商人には使えない。

 また、商人はチェーンクロス以外には敵1グループを攻撃できるムチ系の武器が使えないため、炎のブーメランは商人にとって最強の複数攻撃武器となる。

 攻撃力は+42とこの時期には平凡だが、それでも力の能力値が高い者が、さらに攻撃力を上げる豪傑の腕輪を付けて敵全体にダメージを与えると総ダメージ量は非常に大きくなる。

 

「そして小さなメダルをあと5枚集めれば、正義のそろばんがもらえて商人の武器については最強装備が揃う」

 

 厳密に言うと、力を上げてはやぶさの剣で2回殴るという手もあるが……

 

「ここでいったん精算ね」

 

 とパチュリー。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:-6137G

パチュリー:161603G(+未払い分6137G=167740G)

 

「まずは、忍びの服を含めてここまでに手に入れた不用品を売り払って全部お金に変えて」

 

 あなほりの成果は一緒にすると面倒なので後で換金するとして、前回精算後の収入を取りまとめる。

 結果は、

 

「ここまでに得た収入が7793ゴールドで、一人あたり3896ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:-2241G

パチュリー:169396G(+未払い分2241G=171637G)

 

「炎のブーメランと、力の種とラックの種を私のものにしたから、その半額があなたに支払われる」

 

 炎のブーメランの売却価格は4875ゴールド、力の種は180ゴールド、ラックの種は45ゴールド。

 それぞれの半額であるから、2550ゴールドがパチュリーから小悪魔に支払われる。

 

小悪魔:309G

パチュリー:169087G

 

「しゃ、借金が、借金が消えました!」

「良かったわね。それじゃあ、私の持ち物で不要なものを処分するわ」

 

 チェーンクロスに身躱しの服などなど。

 

「お金は余っているから一点ものの刃のブーメラン、それから身躱しの服も2着残しておきましょうか」

 

 とするが、それでも、

 

小悪魔:309G

パチュリー:176639G

 

 ということになった。

 

「あ、新しい装備が手に入るたびに借金になる私と違って、パチュリー様は……」

 

 恨めしそうにする小悪魔に対し、

 

「お金なんて貯まって行く一方で、もう要らないのだけれど」

 

 と言うパチュリー。

 まぁ、現実でも金持ちはより金持ちになって行くのが必然なので、リアルですね、と言えばいいのだろうか……




>「二度もぶった! 私だってパチュリー様の胸をスパンキングで責めたこと無いのに!」

 酷いセリフ……
 そのうち、スパンキングは血行に良いとか言い出しそうですよね。
「アリスさんは喜んでくれましたよ?」
 などと実行済みだったりとか。

> まぁ、現実でも金持ちはより金持ちになって行くのが必然なので、リアルですね、と言えばいいのだろうか……

 資産運用してると放って置いても勝手に増えますからね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ダーマ神殿、そしてテドンの村へ パチュリー様が私の中に入れたり出したり

「それじゃあ、今度はダーマ神殿にでも行きましょうか。炎のブーメランの威力も確かめておきたいし」

 

 小悪魔のルーラでジパングに跳ぶ。

 

「はい?」

「バハラタから歩くより、ここから船で河を遡った方が早いのよ」

 

 海、河川ではエンカウント頻度が減るのだし。

 そんなわけで船でダーマ神殿へ向かう。

 神殿が見えてきて上陸間際、というところでマーマンと幻術士2体の群れと遭遇。

 小悪魔が雷の杖を使うと、それだけで幻術士は全滅。

 あとはパチュリーが炎のブーメランでマーマンを倒してお終いだが、

 

「歯ごたえが無かったわね」

 

 あっけなさ過ぎて、試し斬りにならない。

 そしてダーマ神殿に到着。

 門の前には貴人の姿があって、

 

「ダーマ神殿によくぞ来た!」

 

 冒険の書に記録をしてくれる。

 

「すぐにセーブできるのは便利ですね」

 

 そう小悪魔は言う。

 確かにルーラで跳んで、すぐセーブできるということでプレイ慣れしている人間だと利用する者も多いという話ではあるが、

 

「セーブだけならね」

 

 とパチュリー。

 

「はい?」

「確かに最速でセーブできるけど、セーブする時って大抵はその前に宿に泊まって回復させるでしょう?」

「ええ、そうですね」

「ここの宿屋は一人一泊2Gでアリアハンと一緒の安い価格で泊まれるのだけれども……」

 

 神殿の付属設備らしくて質素に男も女も一緒の大部屋。

 そのためか非常に安い。

 

「安ければいいんじゃないですか?」

 

 という話だが、

 

「入口、受付まで少し歩かないといけないから、宿泊込みでセーブするならアリアハンで済ます方が早いのよ」

「ああ、そういう……」

 

 うなずく小悪魔。

 

「恋するパチュリー様はせつなくて小悪魔を想うとすぐお泊りできる方を選んじゃうの、ですね」

「何の話よ!?」

 

 そしてこのダーマ神殿の最大の目玉は、転職を行えるということ。

 マッチョな石像が立ち並ぶ広間には、

 

「わたし魔法使いになるの」

 

 という女性。

 

「私は武闘家になろうと思っています」

 

 と武闘家を志す商人。

 その太鼓腹で? という話だが、まぁそういう格闘家も居ないではないのでアリなのだろうか。

 しかし、

 

「わしはぴちぴちのコギャルになりたいのう」

 

 と言い出すお爺さんは、絶対に何か間違っている。

 そして、

 

「ぼくは商人になって お金をもうけたいな!」

 

 と言う青年。

 

「確かにもうかりますよね」

「何、真剣な顔をしてうなずいているの?」

 

 自覚のない商人パチュリーの、素で分かっていない不思議そうな言葉に、

 

(お金が無いのは悔しいよぉ、みじめだよぉ、イギギギギギ……)

 

 と血の涙を流さんばかりになる小悪魔。

 いや、

 

(お金が無いのがみじめなのではなく…… お金持ち自慢しているわけでもない、悪意の無いパチュリー様の素の言動に、嫉妬してしまう自分の心がみじめだっ!!)

 

 ゆえに、

 

()()()()()()()()()ますよ! パチュリー様──ッ!!」

 

 と小悪魔は突進して行くが、

 

「おろか者め! 勇者をやめたいと言うのか? それだけはならんっ!」

 

 と転職の儀式を担当する神官に叱られてしまう。

 

「だから前にも言ったのに……」

 

 勇者に職業選択の自由は無いのだ……

 

 なお、この場に居た転職希望の人々は夜になると宿で寝ているのだが、

 

「すやすや…… ベギラマー!」

 

 と微笑ましいようでいて物騒な寝言を唱える魔法使い志望の女性。

 本当に使えたら、寝言で辺り一面、焼け野原である。

 

「ぐうぐう…… アチョー!」

 

 と寝相が悪いのかベッドに逆さまになって寝ぼける武闘家志望の商人。

 

「むにゃむにゃ…… 何を買うかね?」

 

 と、シーツをはだけたまま夢の中で商人になっている青年。

 

「ぐうぐう…… やだー、だってぇ、あいつってチョベリガンブロンだしい……」

 

 などとギャル語で寝言を言うコギャル志望のお爺さん。

 チョベリガンブロンとは『超ベリー顔面不細工ロン毛野郎』の略らしい……

 ファミコン版ではコギャルではなく、

 

「わしはぴちぴちギャルになりたいのう」

 

 で寝言も、

 

「ぐうぐう…… きゃー! うれぴー!」

 

 だったのだが。

 のりピー語……

 ファミコン版が発売された頃は、某有名少年マンガ作中で主人公が悪役キャラに「い~~かげんにしろっぴ! このクソガキゃあ!!」とか「マンモス哀れなヤツ!!」呼ばわりされたりしていた時代ではある。

 流行を(中途半端に)取り入れるドラクエらしいと言えばそのとおりだが、リメイクでアップデートしたチョベリガンブロンだって既に死語。

「流行ネタはすぐ風化するぞ」「ほら、風化した……」を地で行くセリフであった。

 

 そんな話はともかく……

 

 パチュリーは四体の石像のうち、右手奥のものの前から小さなメダルを回収。

 ダーマ神殿では転職の他、命名神マリナンの神官である老婆がキャラクターの名前を変えてくれる。

 

「『ふくろ』にも名前を付けられるのね。『こぁ』って名付けようかしら」

「むむっ、私を無視して、ふくろに話しかけたりして意地悪するつもりですかっ」

「あら、よく分かってるじゃない」

 

 片頬を吊り上げて見せるパチュリーだったが、それで終わらないのが小悪魔である。

 

「パチュリー様が私の中に入れたり出したりするんですね。卑猥ですっ」

「卑猥なのはどっちよ!」

 

 そんなこんなで、

 

「はぁ、次はテドンに行くわよ」

 

 ということで小悪魔のルーラでポルトガに跳ぶ。

 船で南下するわけだが、ポルトガの対岸には灯台があり、

 

「この灯台に来たのは正解だったぜ。海の男のオレさまが世界のことを教えてやる!」

 

 と荒くれ男が、船を使った旅に関して教えてくれるのだ。

 

「ここから南、陸に沿って船をこげば、やがてテドンの岬をまわるだろう。そしてテドンの岬からずっと東へゆけばランシール。さらにアリアハン大陸が見えるだろう。アリアハン大陸からずっと北へ船で行くと黄金の国ジパング。で、世界のどっかにある6つのオーブを集めた者は船を必要としなくなるって話だ。とにかく南に行ってみな」

 

 という具合に。

 

「おっとそれから今のオレの言葉をよおく心に刻み込んでおけよ」

 

 というのはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版であった『おもいだす』『もっとおもいだす』『ふかくおもいだす』という勇者の特技に関連するものだろうが、それの無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版でもセリフは残っている。

 まぁ、プレイヤー自身の心に刻み込んでおけばいいので、間違いではないが。

 

「ファミコン版より、親切になっているのね」

 

 と、パチュリー。

 ファミコン版では、

 

「ここから南、陸に添って船を漕げばやがてテドンの岬をまわるだろう。 そしてずっと陸ぞいを行くとバハラタ。さらに行けば黄金の国ジパング。 世界のどっかにある6つのオーブを集めた者は船がいらなくなるって話だ。とにかく南だ!」

 

 という情報で、

 

「それは……」

「これはポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマが発見したインド航路であり、ポルトガルの船団が日本(ジパング)に到達したときの航路と同じ。つまり、よりリアルな視点に立った情報だったわけね」

 

 なお、ここの灯台の一階には鉄格子を開けて入ることができる場所に旅の扉があり、

 

「どこに繋がっているんでしょう?」

 

 試しに行ってみると、

 

「ここは……」

「レーベ南の草原。ナジミの塔への地下通路の入り口わきにあった、鉄格子の付いた建物ね」

 

 アリアハンへと行くことができる。

 

「何の役にも立ちそうにないですね」

 

 と小悪魔は言うが……

 

「今の私たちが思いつかないだけで、将来的に誰かが活用方法を思いついてくれるかもしれないわ」

 

 とパチュリー。

 

「最初から切り捨てたりせずに色々な可能性を考えて行った末に見つかった技や攻略法も数多く存在するのだし、ここは未来の誰かに期待といったところね」

 

 そして再び船で出発。

 教えられたとおり南下し、テドンを目指す。

 

「貝殻を背負ったスライムさんがいっぱい!」

「マリンスライムの群れね」

 

 マリンスライムが7匹の大群である。

 殻が付いているだけあって守備力は100と高く、しかも、

 

「リメイク版以降だと使うのよね、スクルト」

 

 とパチュリーは状況を分析する。

 キャタピラーと同じで、ファミコン版でもデータ上は設定されていたが実際には使われなかったというもの。

 リメイク版以降ではそれがアクティブになって、実際に使ってくるのだ。

 

「まぁ、地獄のハサミが使うインチキスクルトよりはマシだけど」

 

 モンスターが使って来るスクルトには二種類あり、地獄のハサミのスクルトは敵全体の守備力を元の値と同じだけアップさせるというぶっ壊れ性能なものなのだから。

 しかし、

 

「つぼ焼きにしてあげます!」

 

 小悪魔は雷の杖を振りかざした!

 杖から雷がほとばしる!

 

「効かないのも居ます!?」

 

 効けば一撃で倒せるのだが、マリンスライムは火炎系呪文に弱耐性があり3割の確率で無効化する。

 四匹までは倒したが、三匹が無傷で生き残り、

 

「これで!」

 

 パチュリーの炎のブーメランが薙ぎ払い、全滅させる。

 

「最大ヒットポイントが38と低いから、炎のブーメランなら倒しきれるのね」

 

 そして再び南下。

 日も傾き始めたところに、陸地にほこらが見える。

 モンスターに遭遇するまでの歩数カウントをリセットするためにも寄ってみるとそこは教会で、シスターが、

 

「ここはさまよえる船人たちが立ち寄る小さな教会」

 

 と迎えてくれる。

 

「昔はテドンの村人たちもよく来ていました。でも、今は……」

 

 表情を曇らせ、そう語るが、

 

「来たことありますよね、ここ?」

「ジパングの対岸にあった旅人の宿屋から旅の扉をくぐって行くことができた旅人のほこらね」

 

 そういうことだった。

 再び船で出て、少し南下した後、河を遡る。

 日が暮れたところでテドンの村が見えてきて上陸。

 ついでにあなほりを5回だけやってみるが、

 

「ラックの種を手に入れたわ」

 

 この周辺は、ラックの種を1/32の高確率でドロップするシャーマンの出現地帯なのだ。

 

「ようこそ。テドンの村へ!」

 

 夜なのにも関わらず元気に迎えてくれる村人には悪いが……

 

「街はボロボロだし、正直不気味ですよね」

 

 おっかなびっくり、朽ち果てた武器屋に入ってみる小悪魔、そしてパチュリー。

 だが、

 

「外見によらず、品揃えは良いですね!」

 

 驚く小悪魔。

 テドンの武器店で売られているのはモーニングスター、鋼のムチ、おおばさみ、マジカルスカート、魔法の法衣、魔法の鎧、とんがり帽子。

 

「そうね、灯台の男性の勧めどおり船を得て最初にここを訪れていれば魔法の鎧が買えていたでしょうね」

 

 その他には、

 

「僧侶、賢者、遊び人が居れば守備力+21のとんがりぼうしを買うのが良いかもしれないわ。遊び人にとってはこれが最強の兜よ」

 

 と、スライムのような形をした帽子を手に取って見せるパチュリー。

 

「えらく頑丈ですね?」

「そうね、ドラクエ5から登場し、リメイクで逆輸入されたアイテムだけど、他のシリーズには無い高い守備力を持っているわ」

 

 これは、

 

「公式ガイドブックのイラストの色からしてメタルスライムに似ているから、つまり後のドラクエ9に登場する守備力+33のメタスラヘルムの簡易版という説もあるわ」

「なるほど、でもどうして僧侶、賢者、遊び人にしか装備できないんですかね?」

「形がティアラ、教皇が被る教皇冠に似ているから、かしらね」

 

 それで僧侶系の僧侶、賢者、そしてそういった縛りに囚われず、さらには悟りの書無しで賢者になれる遊び人のみが身に着けられるということだろうか。

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では、第3のすごろく場のよろず屋でも購入可能だし、第2のすごろく場で何もないマスを調べると拾えることがあるのだけれど」

 

 第2すごろく場は、アッサラームの南西のほこらの中にあるので、この時点で手に入れば破格の性能。

 確率は低いが狙って調べるのも良いかも知れないが、

 

「携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、すごろく場が廃止された結果、ここテドンの武器店でしか手に入らなくなったわ」

 

 とはいえ、

 

「女性なら+20と1ポイントだけ守備力が低いけど、もっと安い銀の髪飾りが買えるので不要かも知れないけど」

 

 ということだが。

 

「同様にすごろく場が廃止された携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、マジカルスカートはアッサラームのボッタクリの店の他は、ここでしか買えなくなっているわ」

 

 とパチュリー。

 

「ピラミッドで1着拾えるようになっているとはいえ、魔法の鎧が着れないメンバーが多くて魔法に抵抗力のある装備が欲しい、という場合はここで買うのも良いでしょうね」

 

 という話だった。

 

 その後、住人たちからは、

 

「魔王は北の山奥ネクロゴンドにいるそうです。近いせいか、ここまで邪悪な空気がただよっているように感じます」

「テドンの岬を東にまわり陸ぞいに、さらに川を上がると左手に火山が見えるだろう。その火山こそが、ネクロゴンドへのカギ」

 

 という具合に、魔王への道筋のヒントが得られるが、

 

「しかし、よほどの強者でもないかぎり火口には近づかぬほうが身のためだろう」

 

 と忠告される。

 

「実際、火山のイベント前でも、ネクロゴンドのモンスター、トロル、フロストギズモ、ミニデーモンたちとは戦えるわけなのだけれど」

 

 フロストギズモは経験値が1070と高い割に、炎の呪文に完全無耐性でイオラとベギラマを重ねるだけで倒せる相手。

 とはいえ、トロルやミニデーモンなども現れる地域なので、こればかりを楽して狩って経験値稼ぎをする、というわけにも行かないのが難だが。

 ドロップアイテムはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券だったが、ファミコン版、そしてすごろく場の無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では諸刃の剣をドロップする。

 ごくらくちょうのドロップをあなほりで狙えるパチュリーには不要であるし、ファミコン版と違って、すごろく券のドロップ率が修正されないまま引き継がれていると思われるのでドロップ率が逆転しているのだろうし、狙う意味は無いが。

 

 一方、

 

「ミニデーモンのドロップアイテム、不幸の兜を狙うのはアリかしら?」

「……何か、名前からして嫌な感じがするんですけど」

 

 と警戒する小悪魔に、パチュリーは言う。

 

「勇者と戦士が使えるもので、守備力はオルテガの兜の+30ポイントを上回る、上の世界最強の+35」

 

 それだけ聞くと良さそうではあるものの、

 

「ただし呪われていて外せなくなるうえ、運の良さがゼロになって呪文への抵抗力が下がるという欠点があるわ」

「やっぱりダメじゃないですか!」

「でも、補助呪文を使ってこないやまたのおろち戦の他、ボストロール戦、バラモス戦で呪文を封じた後に使うなんて生かし方もあるし」

 

 ということ。

 

「ミニデーモンは世界樹縁辺と呼ばれる世界樹の西、南、北に存在するエリアにも出るから、この位置にこだわる必要も無いけど……」

 

 しかし、

 

「あなほりなら、アイテム取得判定の関係で、そちらよりここの方が有利という話もあるわね」

「あなほりのアイテム取得判定ですか?」

「……そうね。その内、機会があったら教えてあげるわ」

 

 意味ありげにほほ笑みながら答えるパチュリーだった。

 

 また、魔王の住処に近いせいか、

 

「ああ空を飛べたら、どんなにステキかしら! そうすれば魔王におびえることもなく、行きたい所へ行けるでしょうね」

 

 と嘆く女性や、

 

「たとえ魔王がせめて来ようとも わしらは自分たちの村を守るぞい!」

 

 と言う老人の姿があった、

 

「パチュリー様、「今日も一日ガン掘るぞい!」って言ってみて下さい」

「何の話よ?」

 

 そして、この村には、

 

「ここは牢獄。立ち去られよ!」

 

 という具合に牢があり、囚人が囚われている。

 最後の鍵で鉄格子を開けて中に入ると、

 

「おお! やっと来て下さいましたね。私はこの時を待っていました。運命の勇者が私のもとをたずねてくださる時を…… さあ、このオーブをお受け取り下さい!」

 

 囚人からグリーンオーブを受け取る。

 

「世界に散らばるオーブを集めてはるか南、レイアムランドの祭壇に捧げるのです。あなた方にならきっと新たなる道が開かれるでしょう」

 

 と、その使い道についても教えてくれる。

 が……

 

「オーブを入手した人々が不幸になる率が異様に高い件について……」

 

 レッドオーブは海賊が昔盗んだと言っているからには、海賊に襲われた人物が持っていたのだろう。

 グリーンオーブはこのとおり、持ち主が投獄。

 イエローオーブも街づくりイベントで商人が大金をはたいて購入した結果、住人のヘイトを稼いでしまった商人が投獄。

 パープルオーブの持ち主だったヒミコはやまたのおろちに……

 例外は地球のへそに安置されていたブルーオーブ、ネクロゴンドのほこらに安置されていたシルバーオーブぐらいか。

 

 また、

 

「ビリっときましたあああああ!!」

 

 村の奥には足を踏み入れた者にダメージを与える毒の沼地が広がっていた。

 しかしパチュリーは小悪魔の悲鳴を無視し、その中に落ちている小さなメダルの捜索を優先。

 ダメージにヒクヒクと痙攣する小悪魔を無理矢理曳き回す。

 

「ひあああぁあぁッ!? あぁっひ、くひいいぃいぃぃ!! ああぁあぁぁッ!!」

 

 連続して加えられるダメージに悶絶する小悪魔!

 

「死ぬ、このままじゃあ本当に死んじゃいますぅぅぅっ! 許してっ、許してくださいパチュリー様ぁぁぁぁっ!!」

 

 ということだったが、パチュリーは取り合わない。

 

「知ってるでしょう、スーパーファミコン版以降のリメイク作では毒の沼地やバリアーのダメージでは死ななくなってるってこと」

「だからと言っても、ヒットポイントが減らない、痛くないわけじゃないんですよ!」

 

 単にヒットポイントが1以下には減らなくなっているというだけである。

 そもそも、

 

「何でパチュリー様は平気なんですか!」

 

 という小悪魔からのツッコミに、ふと考え込むパチュリー。

 

「喘息を抑える強い薬湯を飲み続けているし、魔法薬の作成、試飲で慣れているせいかしら」

 

 つまり、

 

「毒と薬は同じものよ。使い方によって毒は薬に、薬は毒になる」

 

 そして薬には副作用もある。

 パチュリーは常人には毒になりかねない強い薬で喘息を無理矢理抑えているようなものなので、毒の沼地のダメージも、そういった強い薬を飲んで副作用で指先がピリピリしている、その程度にしか感じられないのだ。

 

「それに何より……」

「それに?」

「あなたがヒットポイント1、瀕死の重傷を負うような状況でも、私のヒットポイントなら全然大丈夫なんだし」

「そ、そうでしたー!」

 

 パチュリーのヒットポイントは小悪魔の倍以上あるのだから、そうなるのは当たり前である。

 

「まぁ、ドラクエ1のロトの印の頃から、毒の沼地に落ちているアイテムを探させる、というのは定番の展開なんでしょうね」

 

 そして、小悪魔の悲鳴をBGMにしながら毒の沼地を進み、

 

「あったわ、小さなメダル」

 

 目的のものを発見。

 

「一々調べなくても、アイテムが隠されている場所に行くとエクスクラメーションマーク、俗に言うビックリマークが出て知らせてくれる親切仕様になっているから楽ね」

 

 これはスマホ版等で見られる仕様である。

 なお、

 

「奥にお爺さんが居ます!?」

 

 と気付く小悪魔だったが、

 

「話を聞いてみましょうか」

「痛い痛い、毒ダメージが痛いですパチュリー様!」

 

 と、さらにダメージを受ける。

 毒沼を超えた場所に居る老人から、

 

「よいか旅のお方。まず牢屋の扉をも開く最後の鍵を見つけられよ。バハラタのはるか南の島ランシールに行くがよい」

 

 とのアドバイスをもらう。

 

「今さらですよね!」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 

「まぁ、そうだけれども、ポルトガの対岸にあった灯台の男性の言葉に従えば、船を得て最初に来るのがこの村なんだから、その場合は最後の鍵に続く有用な情報になるでしょう?」

 

 ということ。

 この老人のそばにあるツボからは55ゴールドが手に入るのだが、

 

「毒の沼地のダメージを余計に受けることになるし、この程度、無視しても良いのだけれど」

 

 とスルーしようとするパチュリー。

 しかし、

 

「だ、ダメージは痛いけど、お金のためなら耐えられますっ!」

「そ、そう?」

 

 小悪魔の熱意に押され、ゴールドを回収。

 その後、見つけた階段から地下に降りると、

 

「カンオケです!?」

 

 棺桶が二つ。

 

 パチュリーはそっとカンオケの中をのぞいてみた……

 

「パチュリー様っ!?」

 

 死んでいるような……

 生きているような…… しかしやはりただの、しかばねのようだ……

 

 夜の地下室に置かれた棺桶というホラーな状況にも怯まず調べた結果、その周囲の床からは命の木の実を拾うことができた。

 そうしてまた毒の沼地を渡って戻るのだが、

 

「ひ、ヒットポイントが1/3以下になりました……」

 

 毒の沼地のダメージでヒットポイントを削られてしまった小悪魔。

 パチュリーの方はまだまだ余裕なのだが。

 

「なら宿に泊まってみる? このテドンの村はルーラに登録されないから、ルーラを使って朝にするという技は使えないこともあるし」

 

 それに、

 

「宿泊料金は一人1ゴールドという最安値だし」

 

 ということだが、

 

「安すぎです。怪しすぎます。きっとこの街全てが呪われていて、みんな生ける死者なんです。泊まったら大変なことに……」

「私にはゾンビキラーがあるし」

「私は持ってませんよ!?」

 

 いや、正確に言えばゾンビキラーを買う金が無いのだ。

 

 ああ…… それにしても金が欲しいっ……!!

 

 そんな小悪魔にパチュリーは、

 

「それじゃあ、朝まであなほりして過ごしてみる?」

 

 と提案してみる。

 

「この周辺に現れるのはゴートドン、魔女、地獄の鎧、シャーマン、腐った死体。それぞれゴートドンが1/64の確率で力の種を、魔女が1/256の確率で消え去り草を、地獄の鎧が1/64の確率で鉄の鎧を、シャーマンが1/32の確率でラックの種を、腐った死体が1/64の確率で布の服をドロップするわ」

 

 種はさらにパチュリーの力を押し上げるし、鉄の鎧は825ゴールドで売却できるため資金稼ぎにもなる。

 しかし、

 

「今以上、これ以上、差を付けられたら私の、勇者の存在意義が無くなってしまいます……」

 

 そんなわけで、苦渋の選択であばら家のようになっている宿に泊まることに同意する小悪魔。

 パチュリーもさすがに穴だらけになっている板の間に小悪魔を転がしておくこともできず。

 また、何かあった場合に身動きできなかったら死んじゃいます、とふるふると震える小悪魔の主張を受け入れて、変なことはしないという約束の元、拘束をせずに唯一無事な様子の一つのベッドに入り夜を明かすことにする。

 

「お休みなさい」

「ちょ、ちょっとパチュリー様、そんな簡単に~」

「………」

「ひっ、一人にしないでくださいぃぃぃっ!」

 

 そして翌朝、一緒のベッドで目覚めるパチュリーと小悪魔。

 

「おはよう、こぁ」

「お、おはようございますパチュリー様。……は?」

 

 街はすっかり廃墟に。

 昨夜の人々の姿はどこにも無かった。

 

「グリーンオーブがあるということは、夢や幻覚じゃなかったということね」

 

 パチュリーは荷物を確かめ納得する。

 人影が消えた街を探索。

 武器屋の二階に上がると、

 

「べ、ベッドに白骨死体が~っ!?」

「返事が無い。ただのしかばねのようね……」

 

 昨晩、対応してくれた武器屋の主人のものだろうか?

 なまじ、その生前の姿を見ているだけに、戦慄が走ると同時に憐みを誘った。

 ここのタンスからは黒頭巾が見つかる。

 守備力+18で、武闘家と盗賊が装備可能。

 バハラタとサマンオサでも1200ゴールドで売られていたものだ。

 

 また、宝箱からは闇のランプをゲット。

 

「これは……」

「火を灯すと暗闇が辺りに染み出すという不思議なランプで、強制的に夜にすることができるものよ」

「……どういう理屈なんです?」

「街の住民たちが誰一人として一瞬で夜に変わったことに何の疑問も持たないことを考えると、時の流れを瞬時に進ませているわけではなく、使用者とその仲間に対してのみ作用して半日後に飛ばす一種のタイムスリップをさせるアイテムと推測することもできるわ」

「そんなすごいことできるんですか、これ?」

「もっと安直な説もあるわよ」

「はい?」

「瞬間催眠で立ったまま意識を夜になるまで飛ばすというものよ」

「それは……」

 

 つまり他の人間から見たら、

 

「ママー、あの人たち立ったまま寝てるー」

「しっ、見ちゃいけません」

 

 というやつだ。

 そして、

 

「城、町、村の中で使うと強制的に入り口に戻される……、城、町、村専用のリレミトとしても利用できるし、フィールドで使うとモンスターに遭遇するまでの歩数カウントがリセットされてしまうという話もあるわ」

「ええっ!? それじゃあ、永遠にエンカウント無しで歩ける……」

「一回夜にしたら、次使えないでしょう? 夜を昼にすることもできる魔法使いの呪文ラナルータなら別でしょうけど」

 

 それでもエンカウントまでの歩数を倍にする忍び足に近いことを代償無しに1回はできるということで、盗賊抜きのパーティでは便利なのかもしれない。

 問題は、そのエンカウント直前のタイミングを見切れるかどうかであるが……

 

 グリーンオーブを渡してくれた囚人の所に行って見ると、そこにもまた屍があった。

 しかしよく見てみると壁には落書きが……

 

『生きているうちに、オーブを渡せて良かった……』

 

「ほ、ホラーです」

「………」




> ファミコン版が発売された頃は、某有名少年マンガ作中で主人公が悪役キャラに「い~~かげんにしろっぴ! このクソガキゃあ!!」とか「マンモス哀れなヤツ!!」呼ばわりされたりしていた時代ではある。

『聖闘士星矢』のデスマスクですね。
『ジョジョの奇妙な冒険』は第二部でジョセフ・ジョースターが柱の男サンタナ相手に「ハッピーうれピーよろピくねー」と言っていた時代です。

> 流行を(中途半端に)取り入れるドラクエらしいと言えばそのとおりだが、「流行ネタはすぐ風化するぞ」「ほら、風化した……」を地で行くセリフであった。

 ドラクエ9をリメイクしたらガングロギャル妖精サンディとかも変更があったりするんですかね?
 ドラクエ5のリメイクで追加されたデボラみたいに別タイプの妖精を選べるとか……?

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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「三動作を一瞬で……!!」エルフの隠れ里へ

「これからどうするかだけれども」

 

 テドンで掘り当てたラックの種をかじり、運の良さを上げながら思案するパチュリー。

 小悪魔はというと、

 

「パチュリー様……!!」

 

 地面に両手をついて、

 

「お金を貯めてゾンビキラーが買いたいです……」

 

 そう、震える声で言う。

 パチュリーは、

 

(大げさねぇ)

 

 と持てる者の余裕ゆえに、その小悪魔の心情が理解できないものの、それでも、

 

「そうね、小さなメダル60枚でもらえる正義のソロバンの取得と並行して、あなたのために資金を溜めるのが良さそうね」

 

 と同意する。

 現在までに集めた小さなメダルは57枚。

 あと3枚でもらえるのだ。

 

「まずはやらずに飛ばして進めていたノアニールの村の解放イベントね」

 

 パチュリーは小悪魔に命じて、彼女のルーラでエジンベアへと跳ぶ。

 エルフの隠れ里やノアニール西の洞窟に向かう場合、ここから行った方が近いのだ。

 船で海を行く方が、エンカウント頻度は下がるのだし。

 そんなわけで海を渡り上陸するが、あと一歩というところでモンスターに襲われる。

 

「あ…… あやしいーっ」

 

 影のような正体不明の存在。

 

「あやしさ大爆発ですーッ」

 

 叫ぶ小悪魔。

 パチュリーはというと、

 

「怪しい影? そういえば、この近辺では単体のみだけど出るんだったわね」

 

 何らかのモンスターが正体を隠している状態であり、

 

「正体が分からないけど、1体なら問題ありませんよね」

「あ、こら……」

 

 小悪魔はこの程度と雷の杖を振るうが、

 

「効きません!?」

 

 しかも怪しい影は、

 

「私よりも早い!?」

 

 種で強化して素早さを67まで上げているパチュリーが攻撃するよりも先に、マヌーサをかけてくる。

 

「くっ、幻に包まれてしまったわ」

「こ、こっちもです!?」

 

 さらに怪しい影はパチュリーに攻撃。

 

「二回攻撃!」

 

 これは守備力を高めてあるため5ポイントのダメージで終わるが、安心する間も与えず、

 

「ルカナンを唱えてきました!? さ、3回攻撃ですか!!」

 

 これで小悪魔の守備力が半分に下げられてしまう。

 

「三動作を一瞬で……!!」

 

 そしてパチュリーのゾンビキラーによる攻撃もマヌーサの効果により、外されてしまう。

 

「な、何ですか、何が化けているんです、この怪しい影!」

 

 ファミコン版ではイカ系の最上位種クラーゴンだけが3回攻撃をしてきたのだが、スーパーファミコン版以降のリメイク作ではさらにバラモスブロスともう一体が、3回までの攻撃を可能とされた。

 ゆえに、

 

「ああ、大体わかってしまったわ」

 

 とパチュリー。

 

「ネクロゴンドの洞窟の一部とアレフガルドの岩山の洞窟の2箇所だけにしか出現しない、アレね」

「はい!? そんな先のモンスターがここで出るんですかぁ!!」

 

 驚愕する小悪魔だが、

 

「さ、幸い私たちはこのレベルでは非常識なくらい守備力を高めているので、ルカナンで守備力を下げられたところを攻撃されない限り大ダメージは無いはず。だから装備技で守備力を回復させながら、マジックパワー切れを狙えば……」

 

 そうつぶやいて何とか精神を立て直そうとする。

 しかしパチュリーは無情にも、

 

「マジックパワー切れは無いわ。このモンスターの最大マジックパワーの値は255、すなわち無限!」

 

 と断言。

 しかも、

 

「すべての呪文に完全耐性を持っている相手だから、攻撃は剣に切り替えて」

 

 そう指示を出す。

 

「全部の呪文に完全耐性!?」

 

 どんな敵なのか、という話だが、呪文が効かないモンスターが相手なら、諸刃の剣を使わざるを得ない。

 しかし、

 

「外れた!?」

 

 マヌーサの影響か、小悪魔の攻撃は外れ。

 だが、

 

「今度はこちらが先手を取れた!」

 

 相手の素早さは70ポイント。

 パチュリーを3ポイントほど上回っているが、この程度なら運次第でイニシアティブは取れる。

 

「当たって!」

 

 仮にマヌーサの半分の確率で攻撃を外す効果が効かなかったとしても、全モンスター中最高の回避率で攻撃をかわすこともある敵であり、油断はできないのだ。

 幸いパチュリーのゾンビキラーは敵を捉える。

 もっとも当てたとしても、

 

「硬いっ、さすが守備力100!」

 

 打撃は敵の硬い守備力に阻まれる。

 しかしパチュリーの攻撃力は諸刃の剣を装備した勇者である小悪魔以上。

 ゆえに敵の守備力を超え、一撃で切り伏せることができた。

 そして……

 

「こ、これは宝石?」

 

 驚く小悪魔。

 パチュリーたちは倫理コードの解除に伴いゴールド・ドロップが無効になって、代わりに収入はリアルな剥ぎ取り、つまりモンスターを解体して得られる素材や所持品をゴールドに換金しなくてはならないのだが。

 

「良かったわね、1023ゴールド相当の収入よ」

「はいいぃぃっ!?」

 

 何その大金。

 

「怪しい影の正体は、踊る宝石だったのよ」

 

 ということ。

 笑い袋の上位種で、ゴールドマンと並ぶ超お金持ちモンスターである。

 

「な、何でそんな敵がこんなところで」

 

 という話だが、

 

「ファミコン版の怪しい影は、先頭キャラのレベルに対し2倍までの、大体は1.3倍のモンスターID、モンスターの並び順に振られた番号を持つ相手が化けていたのだけれど」

 

 しかし、

 

「スーパーファミコン版以降のリメイク作では、モンスターレベルが参照されることになったの」

「つまりパチュリー様の現在のレベル19までの敵が出る?」

「そうね、そしてモンスターの中には出現時期の割に、例外的に低いモンスターレベルを持つ者が居るわ。魔法おばばのLv12や、踊る宝石のLv16」

 

 つまり先頭キャラがレベル12でも、魔法おばばが怪しい影に化けてベギラマを撃って来る可能性があるということ。

 

「な、何でそんな……」

「どちらもローテーション行動の最後が『逃げる』になっているから、これを確実にするためと言われているようよ。モンスターは判断力が0でない限り、先頭キャラのレベルとモンスターレベルの差が6以上ないと逃げないから」

「だからモンスターレベルを下げておいた?」

「そうみたいね」

 

 パチュリーはうなずいて、

 

「怪しい影は本来ならまだ戦うことのできない敵と戦える面白いモンスターよ。リメイクではバラモスを倒すまで雷神の剣や吹雪の剣が入手できなくなったけど、先頭キャラのレベルを上げさえすれば、上の世界にLv43の大魔神、Lv45のソードイドを呼び出してドロップを狙うことも理論上は可能だし」

「盗賊に盗ませれば、さらに……」

「それはダメ。その場合、旅人の服しか盗めないわ。ゲームボーイカラー版ではさらに通常のドロップアイテムも旅人の服のみになっているから狙えないわね」

 

 ゆえにやまたのおろち1回目に化けた怪しい影を倒して複数の草薙の剣を入手する、なんて真似もスーパーファミコン版及び、それを基に作られた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では可能だったが、ゲームボーイカラー版では不可能になっている。

(なお、ファミコン版では草薙の剣取得フラグが最初にやまたのおろちを倒した時のみ発生するので、ジパングで戦う前に怪しい影でやまたのおろちを呼び出せば取得は可だが、それ以降、ジパングで戦おうとも再び怪しい影で呼び出そうとも取得は不可)

 

「そんなに上手くいきませんか…… あなほりだと?」

「やっぱり旅人の服だけみたいね」

 

 ならば、

 

「ゴールド目当てに踊る宝石を狩まくれば……」

「そんな狙い通りに出たりしないから無駄よ」

 

 怪しい影の出現率自体低いものだし、出ても目的のモンスターが出るとは限らないのだ。

 

 

 

 そうして森の中にぽつんと開けている平地にたどり着く二人。

 そこは長く尖った耳を持つ少女が、

 

「ここはエルフの隠れ里よ」

 

 と教えてくれるとおりの場所。

 

「あっ、人間と話しちゃいけなかったんだわ。ママに叱られちゃう」

 

 と続く言葉があったが……

 他の住人に話しかけても、

 

「ひーっ、人間だわ! さらわれてしまうわ!」

 

 とブルブル震えるだけで話にならなかったり、店を訪ねても、

 

「あなたがた人間にはものは売れませんわ。お引き取りあそばせ」

 

 と拒絶されたり。

 エルフの女王にも会うが、

 

「あなたがた人間がこのエルフの里に一体何の用です? 何ですって? ノアニールの村の…… そう、そんなこともありましたね」

「そんなこともありましたね、って……」

 

 村一つ眠らせて置いて忘れていたのかと顔を引き攣らせる小悪魔を他所に、エルフの女王は語る。

 

「その昔、娘のアンは一人の人間の男を愛してしまったのです。そしてエルフの宝、夢見るルビーを持って男の所へ行ったまま帰りません。しょせん、エルフと人間。アンは騙されたのに決まっています。多分、夢見るルビーもその男に奪われこの里にも帰れずに辛い思いをしたのでしょう。ああ、人間など、見たくもありません。立ち去りなさい」

 

 そう言って、パチュリーたちは追い返されてしまう。

 

「種族を越えた恋愛ね。でも相手の村全体を眠らせるなんて、やりすぎじゃないかしら?」

 

 そうつぶやくパチュリーだったが、

 

「大丈夫です。種族が違っても、私はパチュリー様のこと愛していますから」

「何の話よ」

 

 小悪魔の妄言にため息をつくパチュリー。

 だいたい、

 

「愛していると言えば何でも許されると思っているでしょう」

 

 と、呆れたようにつぶやくのだが、

 

「………」

 

 口元を押さえてプルプルと震えている小悪魔に眉をひそめる。

 

「何?」

「いえ、カップルが痴話喧嘩しているかのようなセリフですね、って考えたら、気だるげなパチュリー様の表情と口調にダダ洩れの色気を感じてしまいまして」

「はぁ?」

 

 鼻からあふれ出そうになる愛を抑えるために手を当てていたらしい。

 が、それはそれとして、小悪魔は改めて表情を取り繕うと、

 

「All is fair in love and war.戦争と恋愛においては何をやっても許されるって紳士の国の人も言ってますし」

「あなたねぇ……」

 

 どこまで本気なのか。

 

「でも今時『異類婚姻譚は悲劇で終わらないと』なんて考え方は流行りませんよねぇ」

 

 と小悪魔。

 まぁ確かに幻想郷には色々な種族が入り混じって暮しているし、中には異種族同士で愛し合っている者たちも居る。

 外の世界の創作物でもモンスター娘が普通に人間や異種族とラブコメしているのが現代であるが……

 

「そういう物語が認められるようになったのは比較的最近よ。それまではずっと、それこそサブカルチャー、ゲームクリエイター向けの書籍でも『異類婚姻譚は悲劇で終わるのがいい、いや悲劇で終わらせないといけない』という主張がされていたものよ」

「『夕〇』ですね」

「わざわざ伏字にしなくとも『鶴の恩返し』って言えばいいじゃない」

 

 ともあれ、

 

「それが崩れたのは、やっぱりネットっていうものの進歩で、クリエイターが直接、顧客にアリかナシかを問うことができるようになったから。従来の価値観と違い過ぎて出版業者という既存の販売ルートから拒まれた作品であっても、顧客に直接掛け合ってみることが簡単にできるようになったからね」

 

 それ以前の古い事例だとクイーンの名曲『ボヘミアン・ラプソディ』がある。

 レコード会社は当時のシングルの演奏時間が3分程度であることから「5分55秒では長すぎてヒットしないだろう」とリリースに否定的だった。

 そのためメンバーは友人のラジオ番組でかけてもらい直接顧客に届けてみるという方法で宣伝し、大きな反響を得たことでリリースにつなげた。

 

 同じことが個人で手軽にできる時代になり、出版社などといった従来のメディアの常識では「売り物になるはずがない」と門前払いされて日の目を見ることの無かったような作品がネットで好評を博し、実際に出版してみたら売れてしまったりする。

 そういう時代になったということである。

 しかし、

 

「ドラクエ3の発売は西暦1988年。ぎりぎり昭和の時代の作品だから」

 

 その時代に異類婚姻譚でハッピーエンドに、という発想には至れなかったのだろう。

 

 エルフの隠れ里には、エルフの王女と駆け落ちした男の父親が謝りに来ていた。

 話も聞いてもらえないと嘆いていたその父親は、既に老人だった。

 

「一体、何年前からあの村は眠らされているのかしら?」

 

 ともあれ、その駆け落ちした二人はノアニールの村には行っていないらしい。

 となると、エルフの隠れ里の近くにある洞窟が怪しいため行ってみることに。




 怪しい影、正体を知らずに思わぬ敵と戦うと驚きますよね。
 1ターン3回攻撃って、どこの大魔王かと……

> その時代に異類婚姻譚でハッピーエンドに、という発想には至れなかったのだろう。

 私が『ドラクエ2~雌犬王女と雄犬~(現実→雄犬に憑依)』(https://strida.web.fc2.com/t_sugi_ss/ss/dq2dog_00.htm)を書いたのは2009年でしたが、その時でも「異類婚姻譚でハッピーエンドというのは新しい、今までになかった作品」という評価でしたからね。

 なお、異類婚姻譚に限らず、こだわりを持つようになると「○○はこうだからいい。いや、こうでなくてはならない」という「ねばならない思考」にとらわれがちになるんですけど。
 そうなると作品を生み出すのに『苦労』を感じるようになります。
 でも、実際には「そんなの知らない、○○萌え~」と、とにかく作り手が好きで作っている作品の方が受け入れられるんですよね。

「本当に自分の好きなことを楽しそうにやっている所には、自然と人は集まってくるんだよ!」
(『マコちゃんとヒロシさん~マンガ・居酒屋「日本海」物語』より)

 ということなんでしょう。
 どんな理屈も関係なく、ただ「好き」ということは、すべてをしのぎます。
 しかし、「○○はこうでなくてはならない」という「ねばならない思考」にとらわれると、「好き」ということより、後付けで考えた「こうだからいいのだろう」という理屈を優先することになります。
 だから発想から自由さが無くなるし、作品作りが苦しくなる。
 できあがったものは苦労した分だけクオリティは高く、技術的には評価はされるかも知れませんが、人を惹きつける面白さ、という点では外した作品になる。
「好き」だから「こだわり」を持ったはずが、「こだわり」だけが先行して「好き」が置き去りにされている、そのことに気付いていない。
 そういうことなんでしょうね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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目覚めの粉「声を上げたら聞かれてしまいますよ。誰も寝ていないんですからね、この村」

 ノアニール西の洞窟であるが、

 

「焼きキノコにしてあげます!」

 

 と雷の杖を振るい、マタンゴを焼き焦がす小悪魔。

 それだけでキノコのモンスターは香ばしい匂いをさせながら全滅してしまう。

 

「そこまでよ!」

 

 生き残ったモンスターたちを炎のブーメランで薙ぎ払うパチュリー。

 

「公式ガイドブックで推奨されている到達レベルは14。もちろんフルメンバーでという話だけれど……」

「勇者である私がレベル14でちょうどですが、これほど楽なのは雷の杖と星降る腕輪の威力ということでしょうか?」

「そうね。普通にプレイしているならどちらも無く、魔法使いも辛うじてレベル14からベギラマを覚えるけど確実ではなく素早さも低いから先制も困難」

 

 そもそも、

 

「ノアニール西の洞窟の難度を引き上げている最大の要因がマタンゴの群れで、このノアニール西の洞窟では一番怖い敵なのだけれど」

「そうなんですか?」

「マタンゴの行動の選択肢は、攻撃:2/眠り攻撃:2/甘い息:2/逃げる:2よ」

「意外と逃げるんですね。毎ターン1/4が逃げ出すんですか」

「でも判断力が1でバカじゃないから、パーティの先頭に立つメンバーのレベルがマタンゴのモンスターレベル10+6以上でないと『逃げる』という選択肢をキャンセルするの』

「それって……」

「適正レベルでは『逃げる』ことはないから、2/3の確率で睡眠攻撃が来るということよ」

「酷すぎません!? それじゃあ、先制で倒せなかったら一方的に眠らされて何もできずに死亡ってパターンも」

「十分に有り得るわね」

 

 そんなわけでパチュリーは戦闘に合わせて切り替えていた装飾品、豪傑の腕輪を幸せの靴に戻す。

 リメイク以降ではダンジョン内で歩いても経験値を得られない幸せの靴だが、運の良さを+50してくれるという効果は、万が一マタンゴに驚かされて先制で睡眠攻撃を受けた場合の抵抗率を高めてくれるのだ。

 

「まぁ、レベル19の私が先頭に立っているのだから、勝手に逃げてくれるかも知れないのだけれど」

 

 ということではあるが。

 

「宝箱です!」

 

 宝箱を見つけ、288ゴールドを回収。

 パチュリーにしてみれば今さらな金額だったが、

 

「パチュリー様……!!」

 

 地面に両手をついて、

 

「お金が欲しいです……」

 

 と病んだ瞳でつぶやく小悪魔が居るため無視もできない。

 

 また途中、神父と出会い、

 

「この洞窟のどこかに、体力や気力を回復させてくれる聖なる泉があるらしい。しかし、どうしてこんな所に、そんな泉が湧いたのか。私には悲しげな呼び声が聞こえますぞ」

 

 などといった話を聞く。

 

「それじゃあ、まずその回復の泉を目指しましょう」

 

 と言いつつ進む二人。

 無論、モンスターに襲われることになるが、しかし……

 

「これはひどい」

 

 この洞窟で出るモンスターは、バリイドドッグ、マタンゴ、バンパイア。

 あとは地下3、4階になると追加で現れる人食い蛾であるが、

 

「もう全部パチュリー様一人でいいんじゃないですかね」

 

 と小悪魔が言うとおり、基本、パチュリーが炎のブーメランを一閃させただけで終わる。

 だんだんと与えるダメージが減って行くブーメランの仕様上、数が現れるとそうも行かないだろうが、実際にはパチュリーの攻撃より前に、星降る腕輪を付けて素早さを倍にしている小悪魔が雷の杖を使う。

 攻撃呪文に抵抗力をまったく持たないバンパイアはこれだけで全滅するし。

 火炎呪文に弱抵抗を持ち3割の確率で無効化するバリイドドッグ、マタンゴ、人食い蛾も、数を減らされてしまえば、パチュリーの炎のブーメランで狩られてお終い。

 

 唯一の反撃の機会は、パチュリーたちを驚かせた場合。

 このノアニール西の洞窟の難易度を上げる原因にもなっているマタンゴの大群、特にマタンゴ4体とバンパイア2体に驚かされ、マタンゴが高確率で放つ催眠攻撃で眠ってしまい、一方的にバンパイアのヒャドで攻撃されてしまうというパターンだが……

 

 パチュリーはそれに備え、歩行中は装飾品を豪傑の腕輪から幸せの靴に切り替え、運の良さに+50して抵抗率を上げている。

 

 さらにはパチュリーはマジカルスカートと魔法の盾を装備して攻撃呪文のダメージを約56パーセントまで減少。

 小悪魔は魔法の鎧と魔法の盾を装備して攻撃呪文のダメージを50パーセント、半分まで減少させている。

 その分、守備力は落ちるわけだが、

 

「守備力が4ポイント増すごとに、ダメージは1ポイント減るのだけれど、その計算式は(攻撃側の攻撃力-受ける側の守備力/2)/2 × 乱数 = ダメージ値」

 

 つまり、

 

「敵モンスターの打撃は別に攻撃力の0~12%程度の最低ダメージが保障されているので分かりにくいけど、守備力は攻撃力の2倍まで、それ以上はあっても効果が無いということ」

 

 それでもって、この洞窟で現れるモンスターの攻撃力は一番強いバンパイアでも51。

 パチュリーたちは魔法に対する耐性優先で守備力を下げても102ポイントを下回ることが無い。

 

 つまり驚かされ、眠らされて攻撃を受けようとも、バンパイアのヒャドの威力も半減、物理は最低ダメージしか与えられないということ。

 ここのモンスターはパチュリーたちに出会ったが最後、「あきらめたら?」「そこで試合終了ですよ」状態なのであった……

 

 そんな具合にモンスターたちを蹴散らしながら進み、地下1階では宝箱から聖水を回収して、下に降りる階段へ到着。

 階段を降りたり昇ったりしながら奥へ。

 地下三階では小さなメダルを手に入れ、そして回復の泉へとたどり着く。

 

「これは便利ですね」

「経験値稼ぎをするにはちょうどいいかも知れないわね。まぁ、私たちには不要でしょうけど」

 

 泉でヒットポイントとマジックパワーを回復させ、更に奥へ。

 このフロアの宝箱からは、力の種と鉄の槍が回収できる。

 途中、キノコやら、吸血鬼やら、腐った犬やらが襲って来るが、パチュリーの炎のブーメランと小悪魔の雷の杖により次々に倒されて行った。

 

「しかもノーダメージ。全部先制して倒せていますね」

 

 呆れる小悪魔。

 そして小悪魔がレベルアップした。

 

ちから+4

すばやさ+3

たいりょく+5

かしこさ+1

うんのよさ+5

 

 という結果に。

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:15

 

ちから:50

すばやさ:118

たいりょく:44

かしこさ:32

うんのよさ:37

最大HP:86

最大MP:64

こうげき力:165

しゅび力:171/164/161

 

ぶき:もろはのつるぎ

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という具合になった。

 

「こんな楽な敵相手でもレベルが上がるんですね?」

「それは、あなたは適正レベルだったし、2人パーティなら入る経験値も通常の2倍だし」

 

 そうやってモンスターを倒しながら宝箱からアイテムを回収していく。

 次のフロアでは銀のロザリオ、革のドレス、キメラの翼、ゴールドが手に入る。

 

「銀のロザリオは守備力を4上昇させ、性格を『ロマンチスト』に変えてくれるわ。この性格は賢さと素早さが伸びやすく、力と体力にわずかにマイナス補正があるというものよ」

「魔法使いや僧侶、賢者に向いてますね」

「ところが『ロマンチスト』は『セクシーギャル』と『おちょうしもの』の完全下位互換で、しかもこの二つの性格にはそれぞれ知ってのとおり、ガーターベルトとモヒカンの毛という性格を変えてくれる装飾品が用意されているわ。それらは守備力アップが+3で、1ポイントだけ低いのだけれど……」

「性格の良さの方が優先ですよね」

 

 ということだし、そもそもパチュリーたちの場合は豪傑の腕輪と星降る腕輪を身に着けるのでそれ以外の装飾品はわずかな例外を除き売るしかない。

 

 途中、点在する階段を使ってモンスターと遭遇するまでの歩数カウントをリセットすれば、出合うモンスターも最低限に抑えながら進むことができるが、

 

「そうする必要、あるんですか?」

 

 圧倒的な強さで敵を蹴散らしているこの状況で?

 という話だが、

 

「まぁ、フロア切り替えのついでに毎回5回だけあなほりをするし」

 

 そうして賢さの種をゲットする。

 これはバリイドドッグが1/128の確率でドロップするアイテムである。

 バリイドドッグは腐っているはずなのに、判断力が最高の2と頭が良い。

 そのつながりからくるドロップアイテムなのかも知れなかった。

 

「別に何度もフロアを切り替えて繰り返し掘ったわけでもなく、普通にダンジョンを探索するついでに掘っただけでこれですか? やっぱりあなほりって壊れ性能な特技ですよね」

 

 そう、小悪魔の言うとおり。

 パチュリーはうなずいて、

 

「あなほりってまず1/2の確率で外れかどうかを判断して、当たりなら1/2の確率でお金かアイテムを拾う判定をする。つまり1/4の確率でその場に出るモンスターのリストを上から順に、倒した場合のドロップ率を使って判定する訳だけれど」

 

 と説明。

 

「このとき参照するリストは『混成モンスター用(×5枠)』『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』『単一種出現モンスター用(×4枠)』『夜のみモンスター用』『1体のみ出現用』『固定パーティ用(×2枠)』というもので、大抵のモンスターは単一種でも出現するし混成でも出現するから判定が2回ある。出現パターンのバリエーションが豊富なモンスターなら3回判定する場合もあるってことなのよね」

「それって……」

「結構、拾える確率は上がるわね」

 

 ということ。

 

 なお、このリスト内の『固定パーティ用(×2枠)』の数値はモンスターIDではなく、16進数で00~13(10進数で0~19)までの固定パーティID(例えば『大魔神1+マドハンド5』などといった固定された特殊な出現パターン)なのだが、あなほりではモンスターIDとして処理してしまうため、モンスターIDが1のスライムから19のギズモまでのドロップアイテムが混ざってしまう場合がある。

 逆に言えば、固定パーティでしか出現しないモンスターのドロップアイテムは、あなほりでは拾えないということに……

 

「次のレベルアップに備えて食べておきなさい」

 

 小悪魔に賢さの種を渡すパチュリー。

 もちろん、

 

「売却価格120ゴールドは、あなたの借金に加えておくから」

 

 と付け加えることは忘れない。

 

「うぐぅ……」

 

 そして地下四階に降り立ち、とうとう夢見るルビーを発見。

 そこには一緒に書き置きが残されていた。

 

『お母様、先立つ不幸をお許し下さい。私達はエルフと人間。この世で許されぬ愛なら、せめて天国で一緒になります…… アン』

 

「これが愛なんですね」

「でも、何でわざわざ夢見るルビーなんかを持ち出して、こんなエルフの隠れ里に近い発見されやすい所で? ……ああ、もしかして『ロミオとジュリエット』?」

「パチュリー様?」

「シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』では、家同士の争いに引き裂かれた恋人と一緒になるため、ジュリエットは最後に仮死状態になる毒を使って逃れようとしているわ。そして夢見るルビーは同じように覗き込むとマヒしてしまう危険なアイテムよ」

「あ、まさか……」

「親の反対から逃れるために一時的に仮死状態になってやり過ごそうとしたのかもね。そうでないと夢見るルビーを持ち出した理由が見当たらないわ。ここに遺体がないということは、きっとどこか遠くで平和に暮らしているのでしょうね」

「そうなんですか……」

「まぁ、推測に過ぎないけれどね」

 

 そして、小悪魔の迷宮脱出呪文リレミトで地上へ帰還。

 

 

 

 夢見るルビーを携えてエルフの隠れ里に戻ると、エルフの女王から目覚めの粉を渡される。

 ルーラでノアニールに跳んで目覚めの粉を手のひらに載せると、粉はひとりでに宙を舞い、村を眠りの世界から現実へと塗り替えていった……

 

「ザメハ~」

「違うでしょう?」

 

 小悪魔のボケにツッコむパチュリーだったが、ふと考え込み、

 

「人々を眠りから覚醒させる粉薬。つまりこれは覚せいざ……」

 

 逆にボケ返して、

 

「ダメ。ゼッタイ」

 

 とツッコまれるのだった。

 

 眠りを免れていた村はずれの家では、

 

「おお、聞こえる… 聞こえるぞい! ひとびとのざわめきが…… どこのどなたかは知らぬが、なんとお礼をいってよいやら! やれうれしや!」

 

 と老人が喜んでいる。

 玄関先からこのご老人が動いたので、家の中へと入ることができるが、一階のツボからは素早さの種が。

 二階の本棚からは『悲しい物語』が手に入った。

 

 パチュリーは悲しい物語を手に取って見定めた。

 

「この本で泣けない人は人間じゃありません。さあハンカチのご用意を…… か」

 

 ポルトガでも一冊手に入ったが、読んだ者の性格を『なきむし』にするもの。

 あまり良い性格であるとは言えないし、そもそもセクシーギャルの完全下位互換なので、使う意味が無い。

 

「お店に持って行けば37ゴールドで売れるわね」

 

 と売ることにする。

 また、同じく二階にあった宝箱からはブーメランが手に入る。

 

「今さら……」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だと第一すごろく場のマスで得られたもの。

 すごろく場の無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではこのように、ノアニール解放後にしか入手できなくなっており、プレイの進め方次第ではパチュリーたちのように刃のブーメランの方が先に手に入ってしまうものだ。

 

 一方、この村の宿屋では、

 

「何とそなたは、あのアリアハンの勇者オルテガの娘さんか?」

「はい?」

「オルテガは昨日まで隣の部屋に泊まっていたはず。確か魔法の鍵を求めて、アッサラームに向かうと言っておったが」

 

 といった具合に以前、革の腰巻きを見つけた宿屋の部屋には、この村が眠りに包まれる、その前日までオルテガが泊まっていたらしいことが分かる。

 さらに、

 

「ああ、オルテガさま、行ってしまわれたのですね。しくしく……」

「はい?」

「オルテガ様は森で魔物に襲われていた私を、この村まで連れてきて下さったのです。あのたくましい腕…… でもオルテガ様は昨日、お一人で旅立ってしまいました」

 

 という話を聞けるが、

 

「……お父さんも、なかなかやりますね」

「って、感心するのはそこ? あと一日遅かったら死なずに済んだかも、とか思わないわけ?」

 

 突っ込むパチュリー。

 

 村人が起きると、村の道具屋も機能するようになる。

 ここでは鋼の剣、魔導士の杖、身躱しの服、聖水、キメラの翼、満月草、まだら蜘蛛糸を買うことができる。

 

「魔導士の杖はこことアッサラームのボッタクリのお店でしか、身躱しの服は船入手前はここか、ムオルまで歩いて行かないと手に入らないものだから」

 

 割と希少な品である。

 まぁ、身躱しの服はハンターフライが1/128の確率で落とすため、パチュリーのような商人なら最短でアッサラーム到達時に南下、バハラタ北部の敵出現エリアがはみ出した場所で少しあなほりで粘れば得られるものだ。

 

「身躱しの服は物理攻撃回避率が1/8に上昇する効果があるから、守備力以上に役立つわ」

 

 例えば今、パチュリーが着ているぬいぐるみは守備力+35で、身躱しの服+23との差は12ポイント。

 守備力は4ポイント毎にダメージを1ポイント減らすことができるので、被ダメも3ポイント差に。

 ゆえに確率的には8×3=24を上回るダメージを与えてくる敵に対しては、身躱しの服の方が有利ということになる。

 まぁ、リアルラック次第で変わって来るため、安定性を求めるなら使わない方がいいかも知れないが。

 

 そして……

 

「もうちっとも眠くないやいっ」

 

 と男の子が言っているとおり、何年も眠り続けた弊害か、夜になっても誰も寝ない村になってしまう。

 道具屋も夜でも開いているのだった……

 

 その夜の宿屋の一室、ベッドの上では、

 

「ほうら、パチュリー様、声を上げたら聞かれてしまいますよ。誰も寝ていないんですからね、この村」

「っ!? ~~!!」

 

 この村で見つけた素早さの種を投与されたパチュリーが、小悪魔に押し倒されていた。

 速筋を短期間に鍛えるために与えられる筋肉痛を凝縮したかのような痛みと、小悪魔の繊手が与えるマッサージによる心地良さ。

 苦痛と快楽の二重奏が、声も出せずに行き場を失ったパチュリーの体内で荒れ狂う!!

 

「あ、かはっ、かっ……」

 

 口を開くが、眠らぬ村と化したここでは小悪魔が言うとおり嬌声を上げたら起きている人間すべてに聞かれてしまう。

 ゆえに声にならない息を吐くだけ。

 

(ふふふ、いい反応です。とても良いお顔をしていますよ、パチュリー様)

 

 小悪魔はその様子を満足げに見下ろすと、

 

「我慢、しなくてもいいようにお口を塞いであげますね」

 

 とパチュリーの口を、自分の唇で塞ぐ。

 そして、

 

(さぁ、お鳴きなさい!!)

 

 パチュリーの柔らかな身体のツボに、グリリと指先をねじ込んで見せる!

 

「~~っ!! っ!!! っ!!!!」

 

 パチュリーの絶叫、震え。

 それを己が口で受け止め、満喫する小悪魔。

 

(なんて…… 甘美……)

 

 捕食者の光を宿す瞳を愉悦に細め、小悪魔は歓喜に打ち震えるのだった……

 

 

 

 息も絶え絶えにベッドに横たわるパチュリー。

 小悪魔はその頭を愛おしそうに胸元に抱きかかえ、ピロートーク、睦言のごとく耳元に、

 

「でも、おかしい点がいくつかありますよね。まず今回のような手で偽装心中するんだったら、わざわざ夢見るルビーを持ち出さなくても良かったのでは? 偽装心中しようとしていたことがばれかねませんし」

 

 とささやきかける。

 

「それは……」

 

 未だぼうっとしているパチュリーに、小悪魔は、

 

「それと何で遺書がアンさんの分しか無かったんでしょうか? 二人で心中したなら男性の分も無いとおかしいですよね。ここから考えられるのは……」

 

 

 

 アンに洞窟へと呼び出される男。

 夢見るルビーを見せられた彼は直後、マヒしてしまう。

 それを確認して微笑むアン。

 愛おしげに男を見つめるその瞳はどこか壊れていて。

 

「……っ」

 

 マヒしたまま、何故、と問いたげな男に微笑んで答える。

 

「私、――君の恋人ですから」

 

 男の身体を引きずりながら地底の湖に入って行くアン。

 

「この世で許されぬ愛なら、せめて天国で一緒になりましょう?」

 

 湖に身を沈め、男を抱きしめる。

 

 ……やっと、二人きりですね。――君……

 

 

 

「これが真実……」

「止めなさい! 怖すぎるでしょう!」

 

 そんな病み切った結末は、さすがのパチュリーも嫌なようだった。

 怖気を振るい、まるで怖いことから目を背ける子供のように小悪魔の胸に顔を埋めて視界を塞ぐと、頭をぐりぐり押し付け、これ以上は聞かないわよ、とアピールする。

 敬愛する主の、常には無い幼い仕草。

 そしてボディタッチを主の方から受けるという役得に、小悪魔は歓喜するとともに、

 

(誤魔化せたっ!)

 

 百合乱暴めいたマッサージをやってしまったことをうやむやにできたと、非常に悪い顔で「計画通り」とばかりにほくそ笑むのだった……




 Nice boat.

 しかし後回しにし過ぎて、何とも楽勝な攻略になってしまいましたね。
 あなほりも実は高性能すぎますし。

 次回はやはり後回しにしていたピラミッドでアイテム回収。
 そして念願の正義のそろばんをゲットの予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ピラミッドでお宝回収「なるほど、「いい」んですね、パチュリー様」

「次はピラミッドでアイテム回収よ」

 

 とパチュリー。

 魔法の鍵と一部アイテムを取っただけで後回しにしていたピラミッド攻略の再開である。

 小悪魔のルーラで跳んだイシスから北上。

 途中現れた人食い蛾を蹴散らしながらピラミッドに到着する。

 

「ここには攻撃呪文を唱えてくる敵は居ないから、魔法への耐性は無視で、守備力だけ上げていればいいわね」

 

 ということでガチガチに守備力が極まった状態で中へ。

 

「とりあえずあなほり…… って、いきなり賢さの種が見つかったわね」

 

 これは火炎ムカデが1/128の確率でドロップするアイテムである。

 

「次のレベルアップに備えて食べておきなさい」

 

 小悪魔に賢さの種を渡すパチュリー。

 もちろん、

 

「売却価格120ゴールドは、あなたの借金に加えておくから」

 

 と付け加えることは忘れない。

 

「ぐぅ……」

 

 ぐうの音しか出ない小悪魔。

 

「入り口からそのまま行ける一階の宝箱は空か人食い箱ばかりだから無視して二階を目指すわよ」

 

 そして、

 

「エンカウント無しで二階に上がれるって何!?」

 

 二階に上がってあなほり、薬草が手に入る。

 

「戦っても消耗もしていないのに、アイテムだけが増えて行く?」

 

 まずは二階の対角線上、一番遠い位置にある宝箱から回収。

 

「これでもエンカウント無し!?」

 

 賢さの種が得られたので、これも小悪魔に使用。

 

「次は、一階の隠されたエリアに」

 

 と、下り階段に向かうが、それでもエンカウントしないで階段に到着。

 階段を降りたところで、

 

「パチュリー様、宝箱です!」

「待ちなさい、あれは罠よ」

 

 現実のピラミッドでもダミーの宝を置くことで、その奥にある真の宝物を隠すことがあったというが、そういう仕掛けなのだろう。

 階段を降りてすぐに見えるのは空箱と人食い箱だけだ。

 

「真の宝物はその奥にあるわ」

 

 ということで、通路の奥にある宝箱を発見。

 小さなメダルをゲット。

 

「あと一つで正義のそろばんがもらえるわね」

 

 というところで、またあなほりで薬草を拾う。

 

 そうして階段まで戻るが、やはりエンカウントは無い。

 今度は3階への階段へ、これでもエンカウントは無し……

 さらに4階への階段へ、これでもエンカウントは無し……

 そして目的の宝物庫に到着したが、

 

「結局、モンスターにまったく出会わずに、ここまで来れてしまったわね」

 

 呆れ果てるパチュリー。

 やっぱり、おかしいほどエンカウント率が下げられている。

 そして小悪魔はというと、

 

「このピラミッドにはお金持ちモンスター、笑い袋が高確率で出るはずなんですよね!? とっても期待していたのにエンカウントゼロで、手に入ったアイテム分だけ借金が増えるって何なんですか!!」

 

 と半分切れていた。

 しかし、

 

「落ち着きなさい。この宝物庫の収入で補えばいいでしょう」

 

 という主の言葉に納得する。

 

 王の財宝に手をつけると、どこからともなく不気味な声が聞こえる……

 

「……王様の財宝を荒らすのは誰だ。我らの眠りを妨げる者は誰だ」

 

 四階に安置されている十二個の宝箱は、ファミコン版、そしてリメイクのスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では開けると四体のミイラ男が襲ってくるというものだった。

 呪いのため、このミイラ男たちからは逃げることができない。

 さらに、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、マミー2体、ミイラ男2~3体に増強されているのだ!

 

 しかし……

 小悪魔の雷の杖でミイラ男は全滅。

 運よく生き残ってもパチュリーの炎のブーメランによりマミーのついでに倒される。

 ごくまれにマミーが反撃しても、数ポイントの最低ダメージしか入らない。

 

「ふぅ……」

 

 そんな一方的な戦いに、しかしどこか、もどかし気な吐息を漏らすパチュリー。

 倒れ伏すマミーたちを見下ろすその瞳に、常に無い熱と潤みを見て取った小悪魔は、

 

「ご不満ですか? パチュリー様」

「こぁ?」

 

 背後からしなだれかかるように抱き着き、主の耳元にささやく。

 

「火照った身体……」

 

 小悪魔が言うように熱を持った身体は、戦いの余韻か、それとも……

 

「持て余していますね?」

「なっ!?」

「刺激、足りないですよね?」

 

 熱く湿った声でささやかれ、パチュリーは反論しようと振り返るが、

 

「むぐっ!?」

 

 そこを小悪魔の唇で塞がれ、口移しに何かを飲み込まされる。

 そして、

 

「くはっ!?」

 

 小悪魔から投与されたのは、この宝物庫の宝箱から入手できた素早さの種。

 速筋を短時間に鍛えるための、筋肉痛を凝縮したような痛みがパチュリーを襲う!

 

「パチュリー様、包帯緊縛、マミフィケーション、試してみませんか?」

 

 ずくん、とパチュリーの背筋に痺れにも似た何かが走り抜ける。

 

 マミフィケーションというのはその名のとおりミイラ(マミー)のように全身を包帯その他でぐるぐる巻きに拘束する緊縛プレイの一種。

 一般にはドラゴンクエストでも登場するモンスター、ミイラ男のイメージが強いため理解しづらい面があるが、イメージの根源となるエジプトのミイラは手足を身体と一緒にまとめて身動きできない形で包帯に縛られている。

 寝袋の一種にマミー型シュラフがあるが、その名のとおりあのような形をしているものだ。

 つまりマミフィケーションとは包帯により身体を芋虫のように一つに縛り上げられてしまう全身緊縛を意味するのだった。

 性的嗜好に基づいた愉しみ方の一つ。

 

「こんなに実力差が開いた相手、そんなハンデを与えてやらないと愉しめないですよね?」

 

 小悪魔はパチュリーの身体を背後から抱きかかえるようにして両手で愛撫にも似たマッサージを加えて行く。

 

「「いい」って、言ってくださいパチュリー様。そうしたらマミーとミイラ男が『ドラゴンクエスト モンスターバトルロードIIレジェンド』で使った拘束技『バンテージホールド』を司書権限でこの本の中の世界、ドラクエ3の世界に再現して差し上げますから」

 

 小悪魔のマッサージと耳元に吹きかけられる吐息。

 

「い……」

 

 内からあふれ出そうになる、気が狂いそうなせつなさともどかしさに、しかしパチュリーは気力を振り絞って「嫌」と否定しようとするが、

 

「いぃいいいぃん!!」

 

 それを察知したかのように、絶妙のタイミングで身体のツボにねじ込まれる小悪魔の指先に阻まれ、絶叫する。

 自分でも信じられないような、媚びた嬌声で。

 

「なるほど、「いい」んですね、パチュリー様」

 

 優しく微笑みながら念を押す小悪魔。

 

(否定するのは簡単なはずなのに、何故かその気にならない。私…… どうしちゃったのかしら?)

 

 そうしてパチュリーは、かすかに……

 自分でも自覚できないほど小さく頷いてしまったのだった。

 

 

 

 包帯でがんじがらめにされ、なすすべもなく自由を奪われ恥辱にまみれた拘束感と被虐感に悦び震えたい!

 一度は封じたはずの願望だった。

 だが敵の手で虜にされる破滅的なイメージが頭の中で何度も蘇り、胸の奥に蓄積されていく耐えがたい疼きに負けたパチュリーは、自らモンスターに嬲られるだけの玩具にその身を堕としていく……

 恥辱と苦痛の中によみがえる奇妙な陶酔感。

 全身をくまなく締め上げる包帯は、倒錯の快楽にパチュリーを引きずりこみ逃がそうとはしない!

 ただひたすら被弄の快感を求め狂うマゾ奴隷パチュリー!!

 

 

 

 な、訳がなく。

 

「あれぇ?」

 

 と小悪魔が首をひねるとおり。

 司書権限で拘束技『バンテージホールド』を使えるようになったマミーとミイラ男だったが、

 

「そこまでよ!」

 

 技を出す前に完封されてしまえば意味が無い。

 それほどまでに実力差が開いているのだった。

 がっかりする小悪魔と、死屍累々と倒れ伏すマミーたちを見下ろし、

 

「強くなりすぎるのも考えものよね」

 

 そう漏らすパチュリーだったが、

 

「んっ……」

 

 ぶるりと身体を震わせ、密かに湿り気を帯びた吐息を漏らすのだった。

 

 

 

 そうしているうちにパチュリーがレベルアップ。

 

 パチュリーはレベル20に。

 レベルアップ前に幸せの靴を履くことで性格をタフガイに戻した結果、

 

ちから+5

すばやさ+3

たいりょく+5

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となった。

 

「うーん、やっぱりタフガイでも力が+5される場合があるのよね」

 

 これが最大値とも限らないので、次のレベルアップで力の能力値の成長上限に引っかかる可能性を考えると、ストックしてある力の種は使えない。

 結果として、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:20

 

ちから:102

すばやさ:76

たいりょく:107

かしこさ:27

うんのよさ:38/88

最大HP:213

最大MP:53

こうげき力:184/159

しゅび力:128/118/108

 

ぶき:ゾンビキラー/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

「れ、レベル20? また私と5レベル差に……」

 

 そう嘆く小悪魔を他所に、次々とマミーたちを倒しながら宝箱を開けて行く。

 ここで入手できるのは、176ゴールド、キメラのつばさ、力の種、モーニングスター、素早さの種、112ゴールド、マジカルスカート、304ゴールド、ルビーの腕輪、56ゴールド、小さなメダル、石のかつら。

 

 このうちモーニングスターはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では第2すごろく場のクリア景品だったもの。

 携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、すごろく場が無くなったため、80ゴールドが入っていた宝箱に代わりに入れられていた。

 

 また、マジカルスカートについては魔法の鍵を取りに来た際に、既に持ち帰っていた。

 

「石のかつら? 兜の一種ですか?」

「石のかつらは装飾品のようね」

 

 石でできている被り物だけあって鉄兜の+16に近い、+15の守備力上昇をもたらすが、装飾品だ。

 これの上に普通の兜も付けられるので良さそうにも思えるのだが、

 

「これを被っていると、その人の頭の中までカチカチになってしまいそうね」

 

 というわけで、性格を『がんこもの』に変えてしまう。

 

「『がんこもの』は素早さ、賢さ、運の良さの伸びが絶望的に低いくせに、プラス補正は体力が+20%なだけ」

「ええー」

「『タフガイ』『てつじん』『くろうにん』『むっつりスケベ』『いっぴきおおかみ』『なまけもの』『ひっこみじあん』の完全下位互換の性格であり……」

「もはやペナルティとしか思えないものじゃないですかー」

「そうね、勇者だと最初の性格診断で女性を見捨てたり、また母親に連れられて城に向かった際に、かたくなに王に会うことを拒むとこの性格になるわ」

「あれ、王様に会わずに進められるんですか?」

「まぁ、王に会わないとルイーダの酒場が使えず、イエローオーブの取得に必要な商人を仲間にできずに詰むから、結局は会いに行かないといけなくなるんだけど」

「やっぱりダメじゃないですかー」

 

 という具合。

 

「お店に持って行けば150ゴールドで売れるわね」

「やっぱり売るしか無いですよね」

「……転職直前のキャラに使うという手もあるわ。どうせ能力値は1/2にされるし、転職後しばらくは成長上限値に引っかかって伸ばせないからという話ね」

「ああ」

「あとはゾーマ戦で使うとか」

 

 ラスボスとされるゾーマと戦った後は、セーブされることが無いので何を使おうとも問題ない。

 携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、クリア後、セーブできるという話であるが、ゾーマの経験値はリメイクでは0でレベルアップはしないため、やはり問題はない。

 

「まぁ、豪傑の腕輪と星降る腕輪を使っている私たちの役には立たないわね」

 

 ということなので売るしかないが。

 なお、

 

「なにかしら? 嫌な感じがするわ……」

 

 とパチュリーが感じるとおり、石のかつらは呪いの品である。

 

「どくろマークが付いてますし、一目瞭然では?」

 

 公式ガイドブックのイラストではそうなっている上、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版の取扱説明書ではさらに「呪われたカツラです」と明記されている分かりやすいものだ。

 

 すべての宝箱を開けたら、小悪魔の迷宮脱出呪文リレミトでピラミッドを出て、

 

「アリアハンでメダル交換ですか?」

「いえ、その前に……」

 

 そんなわけで、小悪魔のルーラでパチュリーたちはスーにある道具屋にやって来たのだ。

 不用品を売り払って金を作り、その金で、

 

「あああ!!! いけません!!! パチュリー様!!!! 一個310ゴールドの毒蛾の粉を!!! 薬草みたいにまとめ買いで大量購入してはいけませんーー!!! これではここまで稼いできたはずのゴールドが使い切られるどころか、赤字になってしまいますーー!!! あああ!!! パチュリー様ぁぁーー!!!!」

「うるさいわね……」どくがのこな ×9 2790G けってい

「あ、あぁ~ッ!」スッカラカーン!

「はい、今回の消耗品購入は終わり。足が出た分は立て替えておいたわ」

「うぅ…… あ、ありがとうございました……」

 

 つい先ほど、念願の正義のそろばんをゲットできるだけの小さなメダルを入手したパチュリーだが、『次はメタルスライムの出るガルナの塔なのにメタル狩りに必要な毒蛾の粉が5個しか無いのは問題では』という懸念の声が脳裏に浮かび、結果、スーの村で毒蛾の粉を購入しておくことになった。

 

「しかしパチュリー様はなんだか小悪魔のことがキライみたいで、表情を変えず不愛想に毒蛾の粉をガンガンまとめ買いして、私の懐はイタイイタイなのでした」

「何ぶつぶつ言ってるの?」

 

 そして、アリアハンで小さなメダルを正義のそろばんと交換して精算である。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:309G

パチュリー:176639G

 

 だったが、毒蛾の粉を買い込んだ結果、

 

小悪魔:-953G

パチュリー:174423G(+未払い分953G=175376G)

 

「それで私は正義のそろばんの売却価格18750ゴールドと、力の種180ゴールド2個、素早さの種60ゴールド2個のそれぞれ半額をあなたに払って自分の物にするわけだけれど」

 

 とパチュリー。

 

「不要になったゾンビキラー、要る?」

「もちろんですよ!」

 

 そうなると小悪魔はゾンビキラーの売却価格7350ゴールドをパチュリーに払わなければならない。

 自分で店から買う場合は9800ゴールドを払わなければならないため、差額2450ゴールド分、小悪魔は得をするのだが。

 結果、

 

小悪魔:1312G

パチュリー:173111G

 

「あなたが他に払わなくてはいけないのは、宝箱から見つけた賢さの種120ゴールドの半額と、私があなほりで見つけた賢さの種二個の全額。あとは薬草6ゴールド2個だけど、これは共用の消耗品に入れるから、あなたの負担は半額ね」

 

小悪魔:1006G

パチュリー:173417G

 

 ということになった。

 

「こ、これで教会で呪いを解いてもらえばゾンビキラーが……」

「本当にそれでいいの?」

「はい?」

「私が正義のそろばんを装備すると攻撃力は227ポイントまで跳ね上がるわ」

「に、200ポイント越え!?」

「今のあなたの攻撃力は正義のそろばんより5ポイント上である諸刃の剣を身に着けても165ポイントよ」

「うぐっ!?」

「ゾンビキラーの攻撃力は67。諸刃の剣の115より、48ポイントも下なのよ」

 

 つまり小悪魔の攻撃力は、117ポイントまで低下する。

 パチュリーの約半分であり、また敵の守備力に阻まれることを考慮すると、与ダメは実に半分以下となってしまう。

 なお、硬い敵相手ならパチュリーの与ダメは小悪魔の三倍以上。

 三倍剣である……

 プラズマが走ったり、小悪魔も真っ二つになったりするかも知れない。

 

 実際にはゾンビキラーを装備した勇者、小悪魔が普通なのであって、常時バイキルトを受けた勇者状態な攻撃力を持つパチュリーの、いや商人の攻撃力がおかしいのではあるが。

 

「まぁ、好きにすればいいわ。諸刃の剣はまだ6本もあるからいつだって切り替えが効くのだし」

「そんなポンポン切り替えられませんよ!? 呪いを解いたら3750ゴールドも払って自分の物にした諸刃の剣が消えちゃうんですよっ!!」

 

 そんな会話をしながらもアリアハンに帰還し、小悪魔は教会でレベル15×30=450ゴールドを払って呪いを解くことに。

 

「神の力に頼る悪魔……」

「仕方ないでしょう! 魔法使いが居ないんですから!」

 

 魔法使いや賢者がレベル30で覚えるシャナクの呪文なら教会に頼らずに呪いを解くこともできるが、当然パチュリーたちには使えない。

 

「おお神よ、お力を! 忌まわしき呪いを、こあくまより消し去りたまえっ!」

 

 小悪魔が装備していた諸刃の剣が消滅する。

 

「装備ごと消し去られなくて良かったわね」

「シャレになってませんよっ!」

 

 悲鳴を上げる小悪魔に、パチュリーはふと考え込み、

 

「……そうね、複数の装備に呪われていた場合でも、一度に解けるのは一つだけだったわね」

「はい?」

「諸刃の剣より先に解呪の対象にならなくて良かったわね」

「っ!?!?!?」

 

 これで二人の所持金は、

 

小悪魔:556G

パチュリー:173417G

 

 ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:20

 

ちから:102

すばやさ:76

たいりょく:107

かしこさ:27

うんのよさ:38/88

最大HP:213

最大MP:53

こうげき力:227/159

しゅび力:128/118/108

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:15

 

ちから:50

すばやさ:118

たいりょく:44

かしこさ:41

うんのよさ:37

最大HP:86

最大MP:64

こうげき力:117/90

しゅび力:171/164/161

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 となった。

 

「こ、この差は一体……」

 

 覚悟していたとはいえ、あまりの落差に気落ちする小悪魔。

 

「まぁ、諸刃の剣を一本、渡しておくから必要なら使いなさい」

 

 と、パチュリーからまた次の諸刃の剣を差し出され、死んだ目をしながら受け取る小悪魔だった……




 ピラミッドのモンスター出現率の低下、凄いことになっていますね。
 モンスターを呼び寄せる遊び人の特技『くちぶえ』が稼ぎに必要な良スキルと言われるのも分かる気がします。

 そして、とうとう正義のそろばんをゲット!
 次回は、正義のそろばんはなぜ強いのか、に迫る予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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正義のそろばんは何故、最強なのか

 正義のそろばん以上の攻撃力を持つ武器は複数存在する。

 しかし、

 

 王者の剣 → 選ばれし勇者のみが使える剣

 破壊の鉄球 → ゾーマ打倒後にしか手に入らない、しんりゅうの住む謎の塔に隠された武器

 諸刃の剣 → 呪われており使用者は与ダメの1/4のダメージを負う

 破壊の剣 → 会心の一撃を1/8の確率で放つが、呪われており1/4の確率で行動不能

 

 という具合。

 ゲームボーイカラー版ではさらにルビスの剣があったが、あれもモンスターメダルを集めきって隠し裏ボスであるグランドラゴーンに会い25ターン以内に倒すという条件を満たしてようやく入手できるもの。

 

 つまり勇者以外が大魔王ゾーマ打倒前に手にでき、かつ呪いによるデメリットを持たない武器としては、商人の正義のそろばんが最強なのだ。

 その最強武器が上の世界、しかもボストロール、やまたのおろち戦のはるか前に得られるのだ。

 

 

 ──正義のそろばんは何故、最強なのか──

 

 

「人が最も残虐になるときは『悪に染まった』ときではないわ」

 

 パチュリーは語る。

 

「真偽どうあれ『正義の側に立った』と思ったときに人は加虐のブレーキが壊れるのよ! 何せ『自分は正しい』という免罪符を手に入れてしまうのだから! 正義という名の棍棒で、悪と見なした者の頭を打ちのめす快楽に溺れてしまうものよ!」

 

 装備した者を正義とし、残虐な加害者へと変える武器。

 故に、正義のそろばんは最強。

 ただしヒトという枠を超越した、正義そのものとされる勇者の武器である王者の剣にはその概念上、一歩劣るが。

 

「正義は勝つ! ってやつですか」

 

 おののく小悪魔を、パチュリーは透徹した表情でじっと見つめた後、

 

「……紅魔ジョークよ。面白くなかった?」

 

 と問う。

 

「恐怖しか感じられませんよ!?」

 

 そう悲鳴を上げるしかない小悪魔だが、それが紅魔ジョークというものなのだから仕方がない。

 ともあれ、仕切り直しである。

 

 

 ──正義のそろばんは何故、最強なのか──

 

 

 それは「()()」であるからだ──

 正義のそろばんを使って繰り出した攻撃は「()()」に有効打(クリーンヒット)となる!!

 

 有効打を確実に入れるという事は闘いにおいて一番困難なことだ──

 

 例えば格闘技。

 パンチを当てたとしても、相手が腹筋を引き締めることでガードしたら?

 ヒジやヒザ、人体の硬い箇所でブロックして来たら?

 いや、たとえそうでなくても頭蓋骨等に当たって弾かれることもある。

 下手をすれば、それにより手首をくじいたり、指の骨を折ったり、反作用による反動で自分の手を痛めたりすることも。

 また身体が泳ぎ、今度は相手に隙を見せることにもなる。

 

 単にパンチを当てることと、それを弾かれることなく効果のある、ダメージのある有効打とすることには遠い隔たりがあるのだ。

 故に、

 

 敵を倒す為──

 ()()()()()()()()()()

 たったそれだけの事を成功させる為に、幾つもの技が先人によって産み出されてきたのだ!!

 

 だが──正義のそろばんは全ての理論(セオリー)を超えて有効打を与える。

 何故か?

 

 それは相手を守る筋肉に、鎧に、甲羅に、鱗に弾かれることが無いからだ。

 

「正義のそろばんの使い方については議論があるわ。3Dで描かれたPS2版トルネコ3やドラゴンクエストヒーローズIIでは、振り回して算盤部分で殴っているし、リメイク版ドラクエ4では杖系と同じ打撃のエフェクト」

 

 しかし、

 

「リメイクのドラクエ3では、槍と同じ刺突のエフェクト。ドラクエ4より遥かに高い攻撃力があるからには、これが正式な使い方なのでしょう」

 

 そして突いて使う場合、先端に付いたソロバンの珠がその動作に合わせて前後に動く。

 打突、攻撃が当たった際には、後から遅れて動き、叩き込まれることになる。

 まるでショックレスハンマーに内蔵された重り、ワッシャーのように。

 

 ショックレスハンマーはハンマーの中に鉛球やワッシャーの様な可動する重りが入っていて、打撃に対して同等の力で働く反作用を、遅れて叩き込まれるその重りが打ち消し、跳ね返りを防ぐというもの。

 

「つまり正義のそろばんとは、ソロバンの珠を重りとしてショックレスハンマーと同じ、はね返らない無反動構造を実現した槍」

 

 ショックレスハンマーはこの仕組みにより叩いた力のほぼ100%が相手に伝わり、その打撃力は通常のハンマーの1.5倍以上となる、とも言われるが、

 

「物理法則的にどうなんです、それ?」

「そうね、だからその辺に関しては議論しないわ」

 

 幻想郷の外でも、とある漫画家が作中でこれを描いて議論を呼んでいた。

 しかし、

 

「反作用による跳ね返りが無くなる。相手を守る筋肉に、鎧に、甲羅に、鱗に弾かれることが無くなる。そして反動による負担が手首にかからなくなる。それだけで十分なの」

 

 それは……

 

「──その効果だけで使い手は加減することなく全力で打ち込むことができる──」

 

 つまり使い手の技量に関係なく、

 

「絶対に弾かれることのない全力攻撃が完成する」

 

 そういうことである。

 トンカチを握ったことのある人間なら分かるだろう。

 本当に遠慮なしの全力で物を叩けるかというと、反作用で弾かれて変に流れたらケガをする、反動で手を痛めるかも知れない、手がしびれてすっぽ抜けるかも、と思うとできないはずだ。

 その点、ショックレスハンマーなら反動が無いので、素人であろうとも無造作に、全力でガンガン打ち込むことができるわけだ。

 一方で、

 

「硬いものではなく、筋肉の引き締めによるガードに対してはどうなんですか?」

 

 と小悪魔が言うような疑問もあるが、

 

「その場合、筋肉を貫き通して威力が内蔵に「そのまま」浸透する、俗に『徹し』とか『浸透勁』とか呼ばれている打撃になるわ」

「そんなこと、あり得るんですか?」

「いいえ、実際にはこれをもたらす技法は、力積が大きい、つまり作用時間が長いものなの。格闘家は打撃を受ける瞬間、筋肉を引き締めることで打撃に耐えるけど」

「作用時間が長いと、一瞬の防御ではガードしきれない?」

「そうね。なので本人はガードしたつもりでも、腹筋を締めそこなった時のようにダメージを通してしまう」

 

 だから、そのように思えるというだけのこと。

 

「まぁ、これは美鈴の受け売りなのだけれど」

「美鈴さんのですか」

 

 二人が暮す紅魔館の門番、紅美鈴は中国風の妖怪であり、武術をたしなむ。

 

「そしてインパクトの後で遅れて内蔵された重りが作用するショックレスハンマーもまた、その分だけ作用時間が長く力積が大きくなる。ゆえに、当たった瞬間だけの筋肉の引き締めによるガードでは防げないものなのよ」

 

 ということであった。

 

 なお……

 

「だからと言って試しに、やまたのおろちと戦ってみなくてもいいじゃないですかー!!」

 

 今、パチュリーたちはジパングの洞窟、その最奥に居た。

 

「アイテム収集だと信じて送り出したパチュリー様があなほりを5分で切り上げて、やまたのおろちとくんずほぐれつしようとするなんて……」

 

 闇のランプで時刻を夜にした後、地下二階まで潜ってあなほりを始めたので、またアイテム収集かと思っていたら5分で切り上げ、その奥にうずくまる巨大な影、やまたのおろちの元に向かうという暴挙!

 

「まぁまぁ、あなたは回復と防御をしているだけでいいから」

 

 と、薬草と世界樹の葉を渡される小悪魔。

 

「剣も要らないわ。どうせあなたの攻撃力だと30台のダメージしか出せないし」

 

 と取り上げられ、その空いた枠で薬草を持たされる。

 

「ええと、私はホイミが使えますから、ここは祈りの指輪を持った方が?」

「あなたのマジックパワーが切れるより前に倒さないと負けるわよ?」

 

 準備ができたらバトルの開始だ。

 

「最初はひたすら防御して!」

 

 そしてパチュリーはというと、正義のそろばんで突く!

 

「100ポイント近くのダメージ!? 勇者の私が叩いても30台のダメージしか出せないっていう話だったのに!?」

「やまたのおろちの守備力は68! 最大ヒットポイントは1800だから、魔法使いがレベル21で覚えるバイキルトが無いとなかなか倒しきれないけど」

 

 しかし、

 

「正義のそろばんを装備した私の攻撃力は勇者であるあなたの倍! つまり常時バイキルトのかかった勇者の攻撃力を持つということよ!!」

 

 という話。

 なおスーパーファミコン版と、それを元に作られた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、バイキルト使用時、会心の一撃が出ない仕様になっている。

 そしてもちろんパチュリーは会心の一撃を出すことができるため、リアルラックに左右されるとはいえ、バイキルトのかかった勇者を上回るダメージが期待できるというものだった。

 一方、やまたのおろちの反撃だが、

 

「小悪魔バリアー!」

「パチュリー様、酷いっ!!」

 

 今回ばかりは先頭に立たせた小悪魔を盾にするパチュリー。

 小悪魔は剣を取り上げられているので、盾をかざして必死に防御するしかない。

 そこに、やまたのおろちの攻撃力130の打撃が当たるが、

 

「意外と軽い?」

 

 11ポイントのダメージだ。

 正義のそろばんを振るいながらパチュリーが、

 

「今まで手に入った素早さの種の大半を投与したうえで、星降る腕輪の効果で素早さを倍化させているあなたの守備力は171」

 

 と説明。

 それを受けて小悪魔は、

 

「そして防御でダメージを半減させればその程度で納まるということですか?」

 

 再び攻撃をブロックしながら理解する。

 しかし、

 

「でも、治療をするため防御を解いたら22ポイントのダメージよ」

「それでも大したことは……」

「ここまでは1ターンに1回で攻撃が終わったけれども」

 

 やまたのおろちの攻撃が2回連続で小悪魔に命中!

 

「くっ!」

 

 つまり、

 

「やまたのおろちはランダムで1~2回の攻撃をするの。治療のため防御を解いているところに二回当たれば?」

「44ポイント?」

「ホイミの回復量は?」

「30~39、あ、明らかに負けています」

 

 ひたすら防御しながら、そこに気付く小悪魔。

 さらに次のターン、やまたのおろちは火炎の息を吐いた!

 パーティ全体に30~40の炎ダメージを与える攻撃だ。

 

「わ、私はドラゴンシールドでダメージを3/4に、防御でさらに半分にできますけど」

 

 ブレス耐性のある防具を持たないパチュリーはフルにダメージを受けてしまう。

 

「これは……」

「そう、回復量75~94ポイントのベホイミの呪文が無いと、回復が追い付かずにじり貧になるのよ」

 

 ということ。

 

「僧侶、賢者ならLv14~15で覚えますけど、勇者だとLv29~31で習得する呪文ですよね?」

 

 今の小悪魔はレベル15。

 半分しかない。

 

 そして小悪魔がひたすら防御、パチュリーが正義のそろばんで攻撃。

 確かにそれは有効だが、限度と言うものがある。

 

「パチュリー様っ!」

 

 200越えのヒットポイントを持つパチュリーも、とうとう限界を超え、倒れた。

 

「世界樹の葉を!」

 

 小悪魔は慌てて渡されていた世界樹の葉を取り出すが……

 今のパチュリーにそのまま与えてもうまく飲み込めないため、それを自分の口に入れると噛み締めすり潰し、主人の唇へ自分の唇を重ね合わせる。

 

「う……」

 

 口移しに与えられた小悪魔の唾液交じりの世界樹の汁。

 その力により、パチュリーが復活した上、体力がフル回復する!

 

「ふぅ、ありがとう、こぁ」

 

 力を取り戻したパチュリーは再び正義のそろばんを振るい、やまたのおろちに打ちかかる。

 そう、実はベホイミ習得前でもそれ以上の回復手段は得られる。

 それが世界樹の葉だ。

 ヒットポイントが200超えのパチュリーなら、その回復量も200以上。

 それを生かすために、これまでパチュリーは治療してこなかったのだ。

 一方小悪魔も、これまでのダメージの蓄積、そしてパチュリーの治療のために防御を解いたところに攻撃を受け、ヒットポイントが減らされてしまうが、

 

「薬草を使えば!」

 

 例え2回連続で攻撃を受けてもプラスマイナスゼロ程度に納まるので死なない。

 幸いパチュリーに攻撃が行ったので、問題なく回復できた。

 そんなわけでフル近くに回復させたら、あとは防御で耐えつつ、自身のヒットポイントの低下があれば薬草で回復。

 パチュリーも、小悪魔の回復が間に合わない、という場合に薬草で回復を支援する以外は、自分の負傷も顧みずひたすら攻撃。

 そして、

 

「くっ……」

 

 再びパチュリーが倒れる。

 世界樹からは、世界樹の葉は常に一枚しか拾えない。

 ファミコン版であった、バシルーラで持っている仲間を飛ばして拾い直すという裏技も、リメイク以降では使えなくなっている。

 ゆえにここまでか、という話だが、

 

 世界樹の葉は「2枚」あったッ!

 

 このジパングの洞窟では、溶岩魔人が1/128の確率で世界樹の葉をドロップする。

 パチュリーは事前に5分間のあなほりでそれを掘り当て、小悪魔に渡していたのだ!

 

 なお、どうしてわざわざ時刻を夜にして、地下二階であなほりを行ったのかというと、あなほりでチェックされる、この場所の遭遇モンスターテーブルデータが、

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: きめんどうし

01: ようがんまじん

02: くさったしたい

03: ごうけつぐま

04: ----------------

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: ----------------

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: きめんどうし

07: ごうけつぐま

08: ようがんまじん

09: くさったしたい

 

『夜のみモンスター用』

10: ようがんまじん

 

『1体のみ出現用』

11: ようがんまじん

 

 となっているためだ。

 時刻を夜にしておけば、溶岩魔人が落とす世界樹の葉のドロップ判定は一度に4回行われることに。

 1/128の低ドロップ率とはいえ、これだけ判定回数があると、合計のドロップ率はかなりのものになり、パチュリーが5分で拾えたように、30分で7枚程度、つまり平均で1枚4~5分程度の頻度で入手が可能。

 ゾーマ打倒前ならば、これ以上のペースでの入手手段は存在しない(ファミコン版ならバシルーラ利用、ゲームボーイカラー版ならリレミトバグ利用技があるが)

 

 なお、上の地下一階では単一種出現モンスター枠に溶岩魔人が無いため判定が1回減る。

 昼間なら2回分減るので、この情報を知っているのとそうでないのとでは、大きな差が生じる。

 

 また、このジパングの洞窟ではエンカウントまでにかかる歩数が通常の倍に設定されているため、地下二階まで敵との遭遇は1回程度で済むということもあるのだし。

 

 ともあれ……

 こうして入手しておいた二枚目の世界樹の葉により、パチュリーは再びフル回復を果たす。

 

「さぁ、ここからが勝負よ!」

 

 正義のそろばんを振るうパチュリー。

 もう、世界樹の葉は使い切っているので回復は薬草と小悪魔のホイミ頼りである。

 

「私も薬草を持つから、攻撃をあきらめればベホイミ並みの回復量は出せるけど」

 

 そうしたら、そのターンは攻撃ができず戦闘は長引くし。

 最悪、回復中に火炎の息を2回吐かれたら、収支はマイナスである。

 幸い星降る腕輪で素早さを上げている小悪魔は、ほぼ必ず先制で回復できるし、種で素早さを上げているパチュリーも高い確率で先制できるので、薬草があるうちは押し切られることはまず無いが、

 

「薬草が切れました!」

 

 とうとう小悪魔の手持ちの薬草が切れ、あとの回復はホイミ頼りに。

 ダメージの蓄積によるヒットポイントの低下も激しくパチュリーの薬草による回復補助も必要になり、なかなか攻撃できなくなる。

 しかし、

 

「ここまで来たのだから焦ってはダメよ」

 

 パチュリーは冷静に、たとえ火炎の息を2回吐かれても生き残れるだけのヒットポイントを確保できるまで攻撃は控える。

 そしてパチュリーの薬草があと2枚。

 それが切れたらもうじり貧で回復できなくなる、という時点で、

 

「これで!」

 

 とうとう、やまたのおろちを倒しきる!!

 やまたのおろちは草薙の剣を落して行った。

 

「オロチが逃げます!」

「逃がさないわ」

 

 おろちを追って旅の扉に飛び込む。

 出た先は、

 

「ヒミコの屋敷ですねー」

 

 そして、

 

「ヒミコさまっ! 今すぐ傷のお手当てをっ!」

 

 大けがをしているヒミコに慌てている家来。

 

「それにしてもヒミコさまは、いったいどこで、こんなおケガをなさったのやら……」

 

 と不思議がられている。

 

「あ、あやしーっ! あやしさ大爆発ですっ!」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 

「パチュリー様、とどめを?」

「いいえ」

 

 床に臥せっているヒミコを見下ろし、

 

「どうせヒミコは大けがを負って動けない。生け贄を求めたり、悪さをしたりはできないでしょう?」

 

 そもそも、今度はオロチも死に物狂いで抵抗してくるだろうし、

 

「他を回った後で来ればいいわ。そのころにはレベルも上がってさらに倒しやすくなっているでしょう」

 

 ということだった。

 

「あれっ? だったらあんなに苦労しなくても……」

 

 何かに気付きかけた小悪魔からふいと目を逸らすパチュリー。

 ガルナの塔、アープの塔、サマンオサ南の洞窟、もっと言うならジパングの洞窟でも般若の面を回収していないし、おろちのような中ボスに挑む前に行けるところはたくさんあるのだ。

 今回、パチュリーは正義のそろばんの威力を試してみたかっただけで、今、この段階で無理をして戦う必要などどこにも無かったりする。

 

「それより、おろちが落とした草薙の剣なのだけれど」

 

 露骨に話を逸らすパチュリーだったが、小悪魔はそれに気付かず、

 

「あ、そうですパチュリー様。この剣はどんな物なんですか?」

 

 草薙の剣を差し出す。

 パチュリーは、草薙の剣を手に取って見定めた。

 

「戦いの時に役立つ魔力が籠っているわね。しかも何回使っても無くならないみたい」

 

 僧侶と賢者がLv18~20で習得し、敵1グループの守備力を半減させるルカナンと同様の力を持っているのだ。

 パチュリーたちもそうだが、勇者一人旅など僧侶、賢者が居ないパーティではボスキャラ攻略時に威力を発揮するものだった。

 

 しかしアイテムに込められた力は雷の杖のように誰でも使える物と、装備できる職業の者しか使えない物がある。

 草薙の剣は後者で、装備できる勇者、戦士、賢者しか、この力を使うことはできない。

 

「それじゃあ、これはあなたに」

「うっ……」

 

 また借金が増えると警戒する小悪魔だったが、

 

「大丈夫よ、売っても750ゴールドにしかならないものだから」

 

 草薙の剣はお財布に優しい武器なのだ。

 

「武器としての威力はゾンビキラーより少しだけ劣るようだけど」

 

 ゾンビキラーより攻撃力が2ポイント低い上、追加ダメージが無いため威力は下がるが、どうせギリギリの戦いを強いられる、攻撃力が求められるボスキャラはニフラムに対して完全耐性を持っているので、ゾンビキラーの追加ダメージは発生しない。

 だから入手のタイミングとパーティ構成次第だが、ゾンビキラーの代わりにこれを使って、浮いたお金を別に回すというのもアリである。

 小悪魔とて、パチュリーがお下がりで渡したからゾンビキラーを持っているが、そうでなかったらまだ買えていないはずなのだし。

 

 なお、ヒミコの屋敷を出ようとするパチュリーたちは、

 

「外国では、みなそのような奇妙ないでたちをしているのか? なさけないのう」

 

 などと言われてしまうが、

 

「さすがに否定できない……」

 

 ネコの着ぐるみを着込んだパチュリーはそうつぶやくのだった。




 正義のそろばんの謎に迫ってみました。
 イメージがわかない方は、ショックレスハンマーの定番、PB Swiss Toolsの無反動ハンマーあたりを調べてもらえばいいと思いますが、中に入っている重り、ワッシャーと同じ働きをソロバンの珠がするっていう風ですね。
 正義のそろばんの威力を試すためだけに撃破されてしまった、やまたのおろち1回目にはご愁傷さまとしか言えないのですが。

 次はガルナの塔ですが、高所での綱渡りという状況を利用して、


 小悪魔の腕に支えてもらわないと高所から真っ逆さまという恐怖に強張る身体。
 そして全身を襲う筋肉痛と、それを解きほぐす小悪魔のマッサージの心地良さ。

「だめ…… だ……め。そんな、あ……あっ」

 相反する感覚にいっぺんに襲われ混乱するパチュリーに、小悪魔はにんまりと頬を吊り上げる。

「ふふふ、恐怖や不安を恋愛感情や性的興奮と錯覚してしまう心理現象が『吊り橋効果』ですけど、このドラゴンクエスト3の世界の中ではパチュリー様は飛べない。それを利用して、ここぞという場面で仕掛けたのは正解でしたね」


 というようなプレイをお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ガルナの塔 小悪魔が謀る、吊り橋効果の罠

「次はガルナの塔に行ってみましょうか」

 

 賢者への転職に必要な悟りの書があるというガルナの塔だが、

 

「転職しないから、悟りの書は要らないので行かなかったんでしたよね」

 

 そう小悪魔が言うとおり、行かずに飛ばして進めていた場所だ。

 小悪魔のルーラでダーマ神殿に跳んで、

 

「メタルスライムが出るから毒蛾の粉を持ってね」

 

 準備をして北上するが、

 

「紫色のおサルさんです!」

「キラーエイプね」

 

 パチュリーにとっては地球のへそで散々相手にしてきたモンスターだったが、小悪魔にとってはこれが初遭遇だ。

 何より、アッサラーム周辺で出る下位種のあばれザルの怖さを体験しているだけに緊張するが、

 

「あれっ?」

 

 雷の杖を振りかざしただけで、キラーエイプの群れは炎に飲み込まれ全滅する。

 

「このモンスターはアッサラーム近辺で猛威を振るったあばれザルの上位種なのだけれど、あばれザルの最大ヒットポイントがファミコン版で50、スーパーファミコン版以降のリメイクで60もあったのに対し、たった40と倒しやすいのよ」

 

 炎の呪文に弱耐性を持っているため、3割の確率で無効化されなければ、の話ではあるが。

 そして小悪魔がレベルアップした。

 

ちから+4

すばやさ+2

たいりょく+4

かしこさ+1

うんのよさ+3

 

 という結果に。

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:16

 

ちから:54

すばやさ:122

たいりょく:48

かしこさ:42

うんのよさ:40

最大HP:94

最大MP:83

こうげき力:121/94

しゅび力:173/163/156

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 さらに催眠呪文ラリホーを覚えた。

 

 

 そしてガルナの塔に到着。

 

「仏教では慈悲のことを『カルナ』と言うわ。ダーマの神殿といい、何か関係があるのかしらね」

 

 そう語るパチュリーの言うとおり、入り口近くの部屋には、

 

「人生は悟りと救いを求める巡礼の旅。ガルナの塔へようこそ」

 

 と歓迎してくれるシスターと、

 

「この塔のどこかに悟りの書とよばれる物が眠っています。悟りの書があれば、賢者にもなれましょう」

 

 と教えてくれる女性の姿があった。

 そして、奥へと進む二人に忍び寄って来たのは、

 

「鳥さんと…… 怪しい影!?」

 

 鳥の頭に足が付いたような、おおくちばしと、正体不明の怪しい影が襲って来る。

 

「おおくちばしは任せたわ」

「はい!」

 

 1体ずつなので、それぞれに分担する。

 小悪魔はゾンビキラーでおおくちばしに斬りかかるが、鳥相手に出せたダメージはたった38。

 

「私って、こんなに弱かったんですか~?」

 

 おおくちばしはニフラムに完全耐性を持っているのでゾンビキラーの追加ダメージが発生しないということもあるが、これはひどい。

 一応、倒せはしたものの、おおくちばしの最大ヒットポイントは43であるから、たまたま相手のヒットポイントが低かっただけという話だったりする。

 

「こ、こあくまダイーン!! と言いますか、いえ、それよりまるで少年マンガで呪いの装備に洗脳されて主人公たちを苦しめていたライバルキャラが、呪いから解き放たれ、味方になったとたん弱体化して新たなる敵の強さを表現するための噛ませ犬になるっていうパターン……」

「あなたは何を言っているの?」

 

 まぁ、今まで王者の剣に次ぐ攻撃力を持つ諸刃の剣でごり押ししていただけで、実際の小悪魔の実力ではこの程度という話である。

 

 そしてパチュリーの攻撃だが、当然、正義のそろばんは100ポイント近くのダメージを叩き出し、一撃で怪しい影を葬り去る。

 怪しい影の正体は不明だったが、何もさせずに片付けてしまえば問題ない。

 

「何だか分からないけどヨシ、ね」

 

 と言うネコの着ぐるみを着たパチュリー。

 そして、

 

「おおくちばしは、その名のとおりクチバシが素材として売れるのよね」

 

 パチュリーたちは倫理コードの解除に伴いゴールド・ドロップが無効になって、代わりに収入はリアルな剥ぎ取り、つまりモンスターを解体して得られる素材や所持品をゴールドに換金しなくてはならない。

 小悪魔はゾンビキラーの刃を使って、しとめた獲物から豪快に剥ぎ取るが、

 

「金なら1枚、銀なら5枚、送ってね! ってやつですね」

「あなたが何を言っているか分からないわ……」

 

 幻想郷の人間に、外の世界のチョコボールピーナッツの金のエンゼルネタを分かれと言う方が難しいか。

 しかしスーパーファミコン版以降のリメイク作にはそのものずばりの『金のクチバシ』というアイテムがあり、装着者の性格を『ラッキーマン』に変えてくれるのは、これが元ネタだからとも言われている。

 さらに言うなら『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー3』では『ゴールドエンゼル』という金のエンゼルスライムが登場したりする……

 

 その先の小部屋では宝箱から賢さの種が見つかるが、

 

「これはあなたに」

 

 パチュリーから種を渡され、ポリポリとかじる小悪魔。

 そして、次いで現れたのは、

 

「マッドオックスとおおくちばしね」

 

 マッドオックスが3体におおくちばしが2体の大群だ。

 

「どちらも炎の呪文には耐性が無い。なら」

 

 小悪魔の雷の杖がマッドオックスに炸裂し、パチュリーの炎のブーメランが敵全体を薙ぎ払う!

 それでマッドオックスは全滅。

 さすがにおおくちばしに生き残りが出るものの、

 

「おおくちばしの攻撃力は55。こちらの守備力はその倍以上あるから、最低ダメージしか受けないわ」

 

 まぁ、2回攻撃をしてくるので、少しはダメージが蓄積するが、

 

「これで終わりです!」

 

 次のターン、小悪魔が雷の杖を振るうことで戦闘は終了。

 

 その後も、おおくちばしが4体の群れで現れるが、雷の杖と炎のブーメランのコンボで終了である。

 

「おおくちばしは判断力が0で、隊列を無視して後列にも攻撃してくるから普通のパーティだとうっとうしいのだけれど」

「後列の居ない私たちには関係ありませんものね」

 

 そういうことだった。

 またキラーエイプ3体の群れにも襲われるが、

 

「っ!? 雷の杖が効きません!!」

「キラーエイプは炎の呪文に弱耐性を持っていて3割の確率で無効化するから」

 

 運次第で、こういうこともある。

 

「まぁ、3体すべてに無効化されるなんて、珍しいことだけれど」

「リアルラックが足りません!?」

 

 ということ。

 それでもパチュリーの炎のブーメランが一閃すれば全滅させられるが、複数攻撃武器は後になるほどダメージが減って行くので、

 

「3体目はギリギリだったわね。今度からは、あなたも鋼のムチで確実にダメージを入れる方が良いかも?」

 

 そういうことになった。

 

「それにしても、メタルスライム抜きでもなかなかに経験値が入って来ますよね」

「そうね、公式ガイドブックにおけるガルナの塔の到達レベルは21。私たちはそれ以下だし、二人パーティだから経験値は倍入って来るしね」

 

 そうして階段を昇り、空中に張ったロープ上を軽業師のように渡り、階段を下り……

 階段の上り下りでフロアが切り替わる度に、あなほりを5回だけ行うパチュリーだったが、

 

「キメラの翼に賢さの種ね」

「ポンポン出て来ますね」

 

 ついでで、これである。

 

「キメラの翼は、キラーエイプが1/64の確率で、賢さの種は、おおくちばしが1/64の確率で落とすアイテムね」

 

 ということであるが、

 

「はい?」

「どうしたの?」

「いえ、おおくちばしって、バカじゃないですか」

「そうね」

 

 おおくちばしの判断力は最低の0である。

 

「それで、どうして賢さの種が……」

「それを言うなら素早さの種を落とす上位種のデッドペッカーも完全2回行動のため素早いと思われがちだけど、意外にも素早さはたった29しかないわよ」

 

 まぁ、そんなものである。

 

「毒のあるユーカリを食べるコアラは、体内で生体濃縮した毒を鋭い爪で敵の体内に送り込むことで身を守っているわ。すなわち1年間貯蔵しておくと、どんな相手にでも効く毒が……」

「ええっ!?」

「……なんてことは無いでしょう? 食べ物と能力に直接の因果関係は無いこともある、というのが現実的よ」

 

 まぁ、毒を持つ鳥、ピトフーイの仲間たちは自ら毒を生成するわけでなく、捕食した甲虫類から摂取して身に着けるということをするので、完全に無いとも言えないのだが。

 

 小悪魔に賢さの種を食べさせて、先を急ぐパチュリー。

 旅の扉を使って移動するが、

 

「あなほりで毒蛾の粉が拾えたわ」

「パチュリー様?」

「さっきの旅の扉だけれど、同じ階にワープさせているの。つまり旅の扉の移動なら、同じ階であってもあなほりのカウントはリセットされるということよ」

 

 それが実証されたわけである。

 そして階段を昇り降りして、宝箱に入っていた小さなメダルと448ゴールドをゲット。

 先を急ぎ……5階でまた、あなほりにより素早さの種を得る。

 

「これはメタルスライムが1/32の確率でドロップするものね」

 

 というわけで、とうとうメタルスライムが出現する階層にたどり着いたということだった。

 その場には2階にもあった空中を渡るロープが張られているが、今度は5階。

 ロープの中央付近から飛び降りれば、すぐ下の4階のフロアに着地できるが、端のあたりで足を滑らせると2階まで直行ダイブである。

 まぁ、ドラクエの冒険者はどんな高所から落ちようともダメージは負わないのではあるが、それでも足がすくむ。

 この物語を仮想体験させる魔導書の中に構築されたドラクエ3の世界ではパチュリーは商人であり、魔法も使えないし飛べないのだし。

 鳥肌が立つのは、危険を感じた身体がアドレナリンを放出させるためだろう。

 そんなロープの上に一歩足を踏み出したところで、

 

「パチュリー様、さっき拾った素早さの種を忘れず使っておかないと」

 

 パチュリーの背後から抱き着き、その口に素早さの種を放り込む小悪魔。

 自分はまだ床の上に立っているからといって、これは!

 

「っ!?!?!?」

 

 短時間に速筋を鍛えるための、筋肉痛を凝縮したような痛みがパチュリーの全身に走る!

 しかしここは不安定なロープの上、パチュリーは自分の身体に回された小悪魔の腕にすがり付く!

 

「ダメですよパチュリー様、身体の力を抜いてくれないとマッサージできないじゃないですかぁ」

 

 背後から、パチュリーの耳元にささやく小悪魔の声。

 その腕が遠慮なくパチュリーの身体をまさぐり、これまでのマッサージで開発し続けてきたツボを刺激しまくる。

 

「はぁうッ!!」

 

 耳朶をくすぐる小悪魔の吐息に背筋を走るむずがゆさ。

 小悪魔の腕に支えてもらわないと高所から真っ逆さまという恐怖に強張る身体。

 そして全身を襲う筋肉痛と、それを解きほぐす小悪魔のマッサージの心地良さ。

 

「だめ…… だ……め。そんな、あ……あっ」

 

 相反する感覚にいっぺんに襲われ混乱するパチュリーに、小悪魔はにんまりと頬を吊り上げる。

 

(ふふふ、恐怖や不安を恋愛感情や性的興奮と錯覚してしまう心理現象が『吊り橋効果』ですけど、このドラゴンクエスト3の世界の中ではパチュリー様は飛べない。それを利用して、ここぞという場面で仕掛けたのは正解でしたね)

 

 そして、

 

「きゃああああっ!」

 

 くん、と勇者の力をもって、パチュリーの身体を持ち上げる。

 足がロープから離れる、その恐怖にパチュリーの喉から悲鳴が迸った。

 

「しっかり掴まっていてくださいね。でないと落ちちゃうかも」

 

 パチュリーの細い腰に回した腕一本でその身体を支えながら言う小悪魔。

 言われずともパチュリーは全力でその腕にすがりついている。

 

(ああ、パチュリー様から全身全霊で、痛い位に抱き着かれているこの充実感!)

 

 そして、小悪魔のもう一方の手は、逃げることも暴れることもできなくなったパチュリーの身体を好き放題にまさぐる。

 

「私の、身体をっ! モノみたいにっ!!」

 

 持ち上げて……

 

「はげしっっ」

 

 強引に責める。

 

「終わってっ、早く終わってっ!!」

 

 主として『命じれば』いつでも止められるものを、混乱しているのか、それとも無意識に止めないことを望んでいるのか『懇願する』主に、

 

「筋肉痛が、納まるまでっ!? 無理よっ! そんなのむりぃっ!!」

 

 酷いことをささやいて鳴かせてやる。

 

「こ、こんなぁ、こんな風にされてしまうなんてぇぇ」

 

 ああ、その絶望したような表情が……

 

「か、かわいいなんて言うなぁ!」

 

 いつもの怜悧な言葉ではなく、切羽詰まった、ただの女の子のように可愛らしい悲鳴を上げ続けるパチュリーに、ゾクゾクと来るような愉悦を感じる小悪魔。

 

「やめてって、言ってるのに、どうして!?」

 

 それはあなたが『命じて』いないからですよ。

 

「身体が、逆らって、くれないっ!?」

 

 多分、筋肉痛と混乱のせいで上手く動かせないだけだと思いますけど……

 

「こぁ、の、手が、私をおかしく……」

 

 そうそう、私のこと身体と精神(こころ)が受け入れているせいだって錯覚してくれれば、

 

「ダメっ、これはダメっ! ダメに、なっちゃう!!」

 

 ダメになってください。

 

「あ、ふ…… ああっ!」

 

 混乱の余り、見開かれたパチュリーの瞳から涙が散る!

 それを、頬に唇を寄せ、舐め取る小悪魔。

 甘い…… あまりに甘すぎる味。

 

「だめっ、力が入ら、ない……っ」

 

 小悪魔の腕にすがり付くパチュリーの両手がぶるぶると震えだし、

 

「けっこう粘りますね、パチュリー様。果たしてどれだけ持ちますかね……」

 

 クスリと笑う小悪魔は、パチュリーを責め立てる手に一層、力を入れ、

 

「ほーら、パチュリー様。もっと感じてもいいんですよ。ほうら、ほら」

 

 ゆさゆさとパチュリーの肉体を揺すりながら耳元に息を放つ。

 その揺さぶりに胸下に回された小悪魔の手に持ち上げられた乳房と、恐怖のあまりのけ反り、弓なりになった身体…… 突き出された下半身が、揺れ弾んだ。

 

「あ、ひいいっっっ!!」

 

 混乱のあまり涙を流しながら、パチュリーは叫んだ。

 

「ああっ! ああっ!! ああーーーっ!!!」

 

 天上の小鳥がよがり鳴くような、可愛らしくも音楽的な声をあげつつ、パチュリーは少女らしからぬ淫らな動きで絶頂するかのように身体を反らせ、がくがくと腰を突き上げる。

 

「あ、やっ、あ、あうっ、ああっ、あ」

 

 小悪魔の腕の中、揉み絞るように身体を悶えさせるパチュリー。

 そして、とうとう限界に達したのか、

 

「大好きです、パチュリー様」

「っ!?」

 

 小悪魔が耳元に熱くささやいてやると、その身体が硬直し、それでも弱々しく、

 

「す、好きなんて言うなぁ……」

 

 と、抗おうとするところに、

 

「愛していますよ」

 

 被せるように言った言葉が止めとなり、

 

「やっ、やああっっ」

 

 と叫び、ビクンビクンと身体を跳ねさせたあと、一瞬の間を置いて小悪魔の腕の中で、硬く強張っていた肉体が一気に弛緩する。

 

「そんなに良かったですか?」

 

 小悪魔の悪戯めいた問いに、しかし答えは無い。

 失神したのか、力を失いずるりと落ちそうになったパチュリーの身体を、小悪魔はがっしりと抱え直すと笑う。

 

「パチュリー様がこの世界では飛べない事を利用して『吊り橋効果』により、恐怖や不安を恋愛感情や性的興奮と錯覚させて刷り込んであげる。こんなにうまくいくとは思いませんでしたよ」

 

 と……

 しかし、

 

「……この、最っ低の、クズ……ッ」

 

 パチュリーにはまだ意識があったのだ!

 やばいと顔を引き攣らせる小悪魔だったが、

 

「もう少しで、本当に、好きに…… なりそう、だった!!」

 

 と口走るパチュリーに、ずくん、と心臓を、精神を、そして子宮を鷲掴みにされたような衝撃が走り、

 

「パチュリー様ぁ!」

 

 と、力一杯に抱きしめる。

 パチュリーはただ身体を弛緩させ、喘ぎ続けるだけだった。

 

 

 

 そんなこんなで、

 

「メタルスライムの群れだわ!」

 

 ロープを渡るパチュリーたちの前に、メタルスライム3体が出現。

 ぐにょぐにょ動く癖に、打撃を受けた瞬間だけは固まるという謎の外皮のため、攻撃がなかなか通らない上、逃げ足が異様に速いのだ。

 

「毒蛾の粉を使うのよ!」

 

 メタルスライムはメダパニに対し弱耐性しか持っていないため7割の確率で混乱する。

 そして混乱したモンスターは最後の1体になるまで逃げなくなるのだ。

 二人がかりで毒蛾の粉を使い……

 

「あら?」

「パチュリー様?」

「……いえ、ちょっとおかしなことがね。今はいいから戦闘に集中して!」

「は、はい!」

 

 3体とも混乱状態へと導く。

 それまでに敵の攻撃やメラの呪文が飛んで来たが、パチュリーたちは魔法に抵抗力のある防具に切り替えているので問題はない。

 一方で、敵の同士討ちで1体が倒れる。

 

「何でモンスター同士だとダメージが通るんでしょうかね?」

「ダメージの計算式は(攻撃側の攻撃力-受ける側の守備力/2)/2×乱数=ダメージ値なのだけれど」

 

 正義のそろばんを振るいながら説明するパチュリー。

 

「敵モンスターの打撃は別に攻撃力の0~12%程度の最低ダメージが保障されているのよ」

 

 ということ。

 ゆえに混乱したモンスターの同士討ちではその最低ダメージが効いてしまうということだった。

 

「他にもリメイクで遊び人がレベル5で覚える遊び『石を拾ってお手玉』だと失敗して石が当たって自分か敵に10ポイント程度のダメージが入るのだけれど、これもそのまま効くわ」

 

 同士討ちもそうだが、予期しない攻撃には、メタルスライムの打撃を受けた瞬間だけ固まるという防御が働かない、そう考えればいいのだろう。

 そうやって話しながらもこちらの攻撃で1体を倒し、あと1体をもう少しで倒せるというところで逃げられてしまう。

 それでも2人でメタルスライム2体を倒したパチュリーたちには、実に一人4140ポイントの経験値が入り、パチュリーはレベル21へとレベルアップ。

 

ちから+3

すばやさ+1

たいりょく+3

かしこさ+2

 

 さらにメタルスライムは宝箱を落としており、素早さの種が手に入ったので使用することに。

 

「パチュリー様……」

 

 と目の色を変える小悪魔をきっとにらみ、

 

「ロープを渡り切ってからよ!」

 

 と宣言するパチュリー。

 その言葉に小悪魔は、

 

(渡ったらいいってこと!? さっきの強引なマッサージにも特に罰は与えられなかったし、パチュリー様、口ではあんなこと言ってるけど、実はもう堕ちてる!?)

 

 などと、内心盛り上がる。

 そしてパチュリーはロープを渡り切り着地。

 後ろでまだロープ上に居る小悪魔に向かって背中越しに、

 

「拘束制御術式展開。悪魔罠(デーモントラップ)第3号、第2号、第1号発動」

 

 使い魔としてパチュリーと繋がっているパスを通じて、三重の封魔捕縛式を作動。

 小悪魔は指一本動かせない状態で、ロープの上で静止する。

 

「ちょっ、パチュリー様ぁぁぁっ!?」

 

 不安定なロープの上、しかも拘束を受けていたら、落ちても翼を使えないどころか受け身も取れないではないか。

 盛大に慌てる小悪魔を他所に、パチュリーは自分に素早さの種を使用。

 

「くふっ……」

 

 筋肉痛を凝縮したような痛みにも耐え、素早さを上げるが、

 

「くっ、+2ポイント、か。やり直しね」

 

 最大上昇値である+3を達成できず、中断の書を使ったセーブ&ロードで最大値の+3が出るまでやり直すことにする。

 

「こぁ?」

 

 そして振り向くパチュリーだったが、

 

「あ……」

 

 ちょうど、小悪魔がロープの上から落ちるところだった。

 

「ひいいいいいっ!!」

 

 しかし、

 

「は? ……えっ?」

 

 階下に激突する寸前で、パチュリーが中断の書を用い、時を戻すことにより再び小悪魔はロープ上に!

 しかし、

 

「あ、ああ…… ああ……」

 

 小悪魔の顔は恐怖で真っ青だった。

 リセットにより時を戻しても、記憶まで無かったことにはならないのだ。

 継続している意識には、ロープ上から身動きも取れない状態で真っ逆さまに落ちるという恐怖の異常経験が刻み付けられている。

 

「こぁ、セクハラをしてごめんなさいと言ってみなさい」

「っ!?」

 

 そして再び素早さの種を口にするパチュリー。

 小悪魔はそれを前に、再びロープ上から落下するが……

 

「ひ、ひいいいいっ!!」

 

 再び時を戻される。

 

「また+2だったわ」

 

 この恐怖体験は、パチュリーが素早さ+3を達成するまで続くのだ。

 

「何回目で折れるのかしらね?」

 

 あなたの精神(こころ)。

 

 そう言って素早さの種を口にするパチュリーだったが、

 

「もうとっくに折れてますぅ! だから助けてっ! 助けてパチュリー様ぁ!!」

 

 小悪魔は叫び、主に訴えかける。

 

「そう、反省したならいいわ」

 

 うなずくパチュリーは、

 

「素早さが+3されるまでで許してあげる」

 

 と優しく微笑みかける。

 

「ひいいいいっ!!!」

 

 まぁ、素早さの種が発生させる筋肉痛を凝縮させたような痛みに耐えるパチュリーもまた大変なのだが。

 そうして、ようやくのことで素早さ+3ポイントを達成した結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:21

 

ちから:105

すばやさ:83

たいりょく:110

かしこさ:29

うんのよさ:38/88

最大HP:215

最大MP:59

こうげき力:230/162

しゅび力:131/121/111

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 ということに。

 なお、小悪魔もレベルアップしていたので、

 

ちから+3

すばやさ+2

たいりょく+4

かしこさ+2

うんのよさ+3

 

 となり、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:17

 

ちから:57

すばやさ:126

たいりょく:52

かしこさ:50

うんのよさ:43

最大HP:104

最大MP:97

こうげき力:124/97

しゅび力:175/168/165

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という結果に。

 

 パチュリーはネコの着ぐるみ姿で、

 

「ヨシ!」

 

 と自分と小悪魔のステータスを確認するが、

 

「ヨシじゃないですよ! 落ちる落ちる落ちるーっ!!」

 

 ロープ上、拘束状態で叫ぶ小悪魔。

 もう駄目だ、というところで何とか助けてもらうのだった。

 

 

 

「むー、むー」

「ちょっと、何よ、こぁ」

 

 むーむー言いながら、抗議するようにパチュリーの身体に頭をぐりぐり押し当てる小悪魔。

 しかし、その頭に生えている悪魔の翼は、まるで叱られた子犬の耳のようにぺたんと伏せられていて……

 

(ああ、やりすぎだったようね)

 

 パチュリーは理解する。

 先ほどのお仕置きでは小悪魔に傷一つ負わせていない。

 それどころか、パチュリーの方が素早さの種を使った副作用の痛みに何度も晒されていたわけであるが……

 

 しかしパチュリーと小悪魔では、大人と赤ん坊以上の力量差がある。

 例えば、本当にぶたなくても大人が赤ん坊に暴力を振るうようなそぶりを見せれば、それはトラウマじみた傷を心に負わせてしまうだろう。

 それぐらい怖かったのだ、とパチュリーは小悪魔の心情を理解する。

 

「もう怒ってないし、もうしないから」

 

 と言ってなだめようと小悪魔の頭に手を伸ばし、

 

「っ!」

 

 びくっと身をすくめる僕に罪悪感じみた心地悪さを感じ、それを打ち消すためにも、

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 そう言いながら優しく丁寧に撫でてやる。

 そうしてやると徐々に小悪魔の身体のこわばりが解け、安心したかのようにすりすりと頭を、そして身体をパチュリーに擦りつけてくる。

 本当に、叱られた後の子犬のように。

 

(あー、もう……)

 

 邪険にするわけにも行かず、それを甘んじて受け入れるパチュリーだった。

 

 

 

 ロープを渡り切った場所にある階段を上がる。

 そしてそこにあった宝箱から、銀の髪飾りをゲット。

 

「もう買ってあるし、これは売却処分ね」

 

 ということだが。

 そして階段を降りて再び5階、ロープの張られたフロアに戻って来るが、

 

「また素早さの種が手に入ったわ」

 

 あなほりで素早さの種をゲット。

 さて、

 

「反省してる?」

「してます、してます」

 

 先のお仕置きがよほど恐ろしかったのか、コクコクとうなずく小悪魔に、ため息をついて、

 

「だったら誠心誠意、邪念を捨ててマッサージしなさい」

 

 そう、指示を出し素早さの種を口にするパチュリー。

 立て続けに3つも口にするのは大変だったようで、まともなマッサージは欲しかったのだ。

 

「ん…… そこ、そう……」

 

 さすがにお仕置き直後では小悪魔も自粛したのか、まっとうなマッサージに満足するパチュリーだった。

 しかし……

 

「くふっ、は、あ、あぁ…… いい…… んっ!」

 

 今までの小悪魔の仕込みのせいか、妙に色気のある吐息交じりの声。

 そしてマッサージする指が飲み込まれていくような、柔らかな肉体。

 それを前に小悪魔は、

 

(何ですか、このお預けプレイは―っ!!)

 

 と、血の涙を流さんばかりに身悶えするのだった。

 

 

 

 再びロープ上を進み、中央付近から飛び降りて、すぐ下の4階へ。

 あなほりで、

 

「鉄の爪!?」

「ガルーダが1/128の確率でドロップするアイテムね」

 

 という具合に鉄の爪を拾った後に、ひび割れに再度飛び降り、3階へ。

 そこから階段で降りたところには宝箱があって、

 

「悟りの書が手に入ったわ」

 

 賢者への転職を可能とする悟りの書が手に入る。

 ファミコン版の公式ガイドブックでは仏教における経典のような蛇腹状の本の形をしていたが、スーパーファミコン版の方では巻き物(スクロール)になっている。

 

「『まきものはおまえをすくうろうる』ですね」

「『ここはだじゃれのくに』じゃないのよ」

 

『だじゃればかりいってるのはだじゃれ』である。

 

「でも、ずいぶん長い道のりでしたね」

 

 と言う小悪魔だったが、

 

「実を言えば5階に上がったらロープを渡らず即飛び降りることで、このフロアには着くのよ」

「はい?」

 

 4階のフロアに着地できず、2階まで直に落ちてしまう。

 するとここに直行できてしまうのだ。

 

「まぁ、普通は6階の銀の髪飾りを手に入れるでしょうから、その帰りだと、今来たルートを辿った方が早いのでしょうけど」

 

 ということだった。

 ついでにこのフロアで5回、あなほりをすれば命の木の実が二つ手に入った。

 

「これはスカイドラゴンが1/64の確率でドロップするアイテムね」

 

 ともあれ、これでガルナの塔の探索は終了。

 小悪魔のリレミトで脱出した後は、ルーラで帰るだけである。




 叱られわんこな小悪魔と、シュンとされると罪悪感からすぐに許してしまう、ちょっとダメ飼い主なパチュリー様の、心温まるハートフルぴゅあコメディでした。

 次回はアープの塔ですが、その前に世界樹の葉をもう一度拾いに行ったり、ジパングの洞窟から般若の面を拾ったり。
 そしてファミコン版、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版には無かったはずの現象が……

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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兄貴と私 アープの塔!

「次はアープの塔だから、その前に世界樹の葉を取りに行きましょう」

 

 スー北西縁辺部、そしてアープの塔の1、2階でどくどくゾンビに呼び出された場合に現れるゾンビマスターは1/256という低確率でだが世界樹の葉を落とす。

 ホビットのほこらの南、四つの岩山の真ん中の位置にある世界樹からは、手持ちに世界樹の葉が無い場合にしか拾えないため、ここは先に行っていた方が良い。

 

「まぁ、仲間として呼び出される場合にしか登場しないモンスターは、あなほりの対象にはならないし、ゾンビマスターは腐った死体を呼び出したり、ベホイミやザオラルによる回復・蘇生、さらにマホトラでこちらのマジックパワーを奪いに来るから真っ先に倒さなくてはいけない相手。普通に戦ってドロップを狙うのも難しいのだから、そう警戒することも無いのだろうけど」

 

 戦闘後にドロップされるのは、最後に倒したモンスターのものなのだから。

 そういうことだが、いずれにせよ取りに行かなければならないことに変わりはないため、小悪魔のルーラでランシールへ。

 とりあえずそこで5回だけあなほりをすると、

 

「ラックの種が出たわね」

 

 パチュリーはラックの種をポリポリかじりながら船に乗り南下。

 途中、痺れクラゲやらマーマンやらマリンスライムやらを蹴散らしながら進む。

 マリンスライム、ガニラス、だいおうイカの群れは1ターン持ったが、それも次のターンには全滅。

 日も傾いたころに上陸。

 ホビットのほこらでエンカウントまでの歩数カウントをリセットし、森の中を南下する内に、時刻は夜に。

 

「これは逆に闇のランプを使って夜にしてから出発した方が良かったかしら?」

 

 そうすれば、この時点で夜が明けるので、夜の森を歩くなどということをせずに済むだろう。

 もっとも、この周辺で出現するモンスターの顔触れは昼でも夜でも変わらないはずであるので意味は無いか……

 

「クマさんです!?」

 

 グリズリー3体に出合った!

 現実でも北米大陸に生息する灰色熊、身を守るには最低でも.44マグナムが必要という相手であるが、

 

「攻撃力140、1/8の確率で痛恨攻撃を放ってくる相手よ!」

「なら、先に倒せば……」

 

 と思っても、

 

「最大ヒットポイントは110、守備力は90よ」

「無理じゃないですかね」

 

 という話。

 なお、判断力が最低の0で勇者パーティの隊列を認識できず、完全ランダムで後列も襲って来るという難敵である。

 まぁ、二人パーティで前衛職しか居ないパチュリーたちには関係無いが。

 しかし、

 

「あなたはラリホーを覚えたでしょう。グリズリーは弱耐性しか持っていないから」

「なるほど!」

 

 というわけで小悪魔は先制で催眠呪文ラリホーをかけるが、

 

「一匹しか眠りません!?」

 

 そしてパチュリーの炎のブーメランが薙ぎ、大きなダメージを与えるものの、それだけでは倒しきれず、

 

「くっ!」

「あ痛っ!」

 

 25ポイント前後のダメージを受ける。

 

「痛いでしょう!」

 

 次のターン、パチュリーの炎のブーメランが先頭の一体を倒し、

 

「今度こそ!」

 

 再び放たれた小悪魔のラリホーが、ようやく残り二体を眠らせる。

 あとは二人がかりで攻撃して終了である。

 

「結構痛かったですけど、私もヒットポイントが100を超えましたから安心ですね」

 

 とホイミで治療しながら言う小悪魔だったが、

 

「そうであっても、もし痛恨の一撃をもらっていたら、あなただと一撃死していたところよ」

 

 と言うパチュリーに、ゾッとする。

 そう、小悪魔のヒットポイントでは例えフル回復状態であっても、即死の可能性があるのだ。

 そして、

 

「ま、またクマさんです!」

 

 またしてもグリズリー3体に襲われ、悲鳴を上げる小悪魔。

 前回とほぼ同じ展開で倒しきるが、

 

「怖すぎですよっ!!」

 

 心臓に悪過ぎである。

 

「まぁ、これが最後のエンカウントでしょう?」

 

 とパチュリーが言うとおり、世界樹の葉を拾って終了。

 小悪魔のルーラで帰還するのだった。

 

 

 

 アープの塔へ向かうため、小悪魔のルーラでジパングに跳ぶわけだが、

 

「ついでにジパングの洞窟から般若の面を回収しておきましょうか」

 

 ということで、一度はやまたのおろち戦のために潜った洞窟へと足を踏み入れる。

 

「メタルスライムの群れよ!」

 

 メタルスライム、ずらり8体の群れと遭遇。

 ここはガルナの塔より出現頻度は低いが、出た場合にはこのように単独大量出現するのだ。

 

「対魔法防御に切り替えて、毒蛾の粉を!」

 

 パチュリーはマジカルスカートと魔法の盾、小悪魔は魔法の鎧と魔法の盾に切り替えた上で、毒蛾の粉を使用する。

 しかし、

 

「おかしいですよ、パチュリー様!」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 何がおかしいって、

 

「毒蛾の粉を包んだ袋を投げつけても効かなかったり、もう混乱している相手に当たったりして無駄になったりした場合、拾って再使用できますよ!?」

 

 ということ。

 毒蛾の粉は敵一体を混乱させる呪文メダパニの効果を持つ使い切りのアイテムだが、メタルスライムは弱耐性を持っているので効かない場合もあるし、運悪く既に混乱しているモンスターに当たると「ますますこんらんした」と表示されるものの、だからといって変化があるわけでもないので無駄撃ちとなる。

 無論、これらの場合でも、消費されるはずなのだが、

 

「そうね、やっぱりこれ、ちゃんと効果が無い限り再び利用できる。減らないようになっているようね」

 

 とパチュリーが言うとおりのことになっていた。

 やっぱり、というのは前にガルナの塔で三匹のメタルスライム相手に使った時に気付いていたから。

 その時はサンプル数が少なくて『要検証』として保留したのだが……

 

「スーパーファミコン版の公式ガイドブックのイラストでは、ファミコン版の時と違って、包んだ袋から粉が漂っているように描かれ、それをさらに包む布らしきものが下に敷かれているけれど」

 

 パチュリーは考える。

 

「つまり外側の包みを開けたら中の袋のまま投げ、当たったら衝撃で毒の粉が舞うというもので、効果が無ければ再び回収して使用できるんでしょうね」

 

 効果があれば、敵の足元に置きっぱなしで吸わせ続ける。

 だから効果があった場合だけ消費されるとか。

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしいが、特定の機種で見られる現象なのだろうか、事前に様々な書籍で情報を確認していたパチュリーも初めて知る現象だ。

 

 そういうわけで、身に着けていた毒蛾の粉5個を使って5体のメタルスライムを混乱させたパチュリーたち。

 最後の1体も逃げ出す前に倒せたお陰で5体分、一人10350ポイントもの経験値を獲得し、二人は一気に2レベル、レベルを上げた。

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:23

 

ちから:112

すばやさ:91

たいりょく:120

かしこさ:30

うんのよさ:44/94

最大HP:237

最大MP:61

こうげき力:237/169

しゅび力:135/125/115

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:19

 

ちから:65

すばやさ:132

たいりょく:61

かしこさ:54

うんのよさ:47

最大HP:122

最大MP:108

こうげき力:132/105

しゅび力:178/171/168

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 さらに小悪魔は魔法封じのマホトーンと、魔物除けのトヘロスといった呪文を覚えた。

 

 

 という結果に。

 

 そしてそのまま奥まで進み、宝箱から、

 

「般若の面を手に入れたわ!」

「恐っ!」

 

 鬼女の能面であるそれに、小悪魔は思わず声を上げる。

 

「そう? でもこれ変身をあと1回残しているのよ」

「どこのボスキャラですか、それ!」

 

 実際、

 

「『般若』の前段階の面が『生成』、そして『般若』がさらに蛇のような顔つきになった面を『真蛇』と呼ぶみたいよ」

「ヘビ……」

 

 ともあれ、

 

「255という規格外の守備力を誇り、誰もが装備できる頭部防具だけれども……」

 

 しかし、

 

「呪われた上、常時混乱状態になってしまうのよね」

 

 というもの。

 

「使い道がありませんね」

 

 と小悪魔は呆れるが、

 

「そうでもないのよ。混乱していても最後の一人になったら通常どおり行動できるから、一人旅などでは有効活用できる場面があるわ」

 

 特にゲームボーイカラー版ではこの『混乱していても最後の一人になったら通常どおり行動できる』が破壊の剣や地獄の鎧の硬直、ついでに遊び人の遊びより優先されるため、より使い勝手が向上しているとも言える。

 

「ただし移動中も常に混乱しているから、これを装備した者は道具と呪文が一切使えなくなるけど」

 

 そのため付けっぱなしで冒険を続けることはできないし、状況次第では詰んでしまうので注意が必要だ。

 

「でも守備力が255上がるなんて、どんなに硬くても、お面では、そうなりませんよね」

 

 と言う小悪魔。

 

「そうね、だからこのお面は精神と身体、両方に働きかけ、装着者をまさに鬼に変えてしまうもの、とも言われているわ」

 

 仮面をかぶって「おれは人間をやめるぞ!」して「おれは人間を超越するッ!」してしまうような話だ。

 そして、

 

「確かに、お正月、お賽銭の少なさにキレた霊夢さんがこんな……」

「止めなさい!」

 

 鬼巫女…… 厄ネタに触れそうになる小悪魔を止めるパチュリー。

 まぁ、そういう世界線もあるのかも知れないと感じるほど、博麗神社は参拝客が少なく寂れてはいるのだが。

 

 

 

 リレミトで洞窟から出た二人は、今度は船で東へ。

 マリンスライムやマーマンを蹴散らしながら進み、大陸に突き当たったら北へ。

 そうするとアープの塔が見えてくる。

 日も傾いてきたところで到着。

 

「山彦の笛があるってお話でしたよね」

 

 塔の内部は広く、入り組んでいて長い距離を歩かせられるため、敵との遭遇は避けられない。

 やはりパチュリーたちの前にも、2人組の男が、

 

「また覆面パンツですか!?」

 

 悲鳴を上げる小悪魔。

 そう、その場に現れたのは「俺を見てくれーっ!」とばかりに覆面マントに、ぴっちりと張ったビキニパンツだけを身に付けた筋肉男、エリミネーターたちだった。

 

「そう言えば、アープの塔はアメリカ西海岸に相当する位置にあって、命名も西部劇で有名なワイアット・アープに由来すると言われていたけど」

 

 とパチュリー。

 

「アメリカ西海岸にはLA(ロサンゼルス)のベニスビーチ、通称「マッスル・ビーチ」とも呼ばれるボディビルダーのメッカがあるっていう……」

「何ですか、その筋肉地獄な海岸は!」

 

 しかし、このアープの塔での筋肉男、エリミネーターの出現率は非常に高く、同様にひしめき合っていると言っても過言ではなかったりする。

 

「……それとアカイライね」

 

 エリミネーターの濃すぎるインパクトで忘れそうになるが、鳥の頭から直接足が生えているような化け物、アカイライ2体が同時に登場していた。

 

「アカイライのバギが鬱陶しいから先に倒して!」

「はい!」

 

 アカイライは火炎系の攻撃呪文に完全無耐性なので、小悪魔は雷の杖を振り上げ攻撃。

 そこにパチュリーが炎のブーメランを投げれば、アカイライは全滅する。

 

 エリミネーターはのけ反り気味に、左腕で髪をかき上げるかのようなアクションからその手を振り、突き出した手のひらから3/8、パーティの先頭メンバーのレベルが30以上無ければ逃げないため3/7という割と高確率で唱えるマホトーンの呪文を放つ。

 

「わぷっ!?」

 

 魔法の発動と同時に何か飛沫が飛んだようで、それを顔に受けてしまった小悪魔は、呪文を封じられてしまう。

 

「な、何ですかこれ……」

 

 顔をしかめる小悪魔に、パチュリーは説明する。

 

「エリミネーターは暗色の肌をしているけど、これは色を塗っているからって説があって、マホトーンのモーションで腕を振るのは、汗で流れ落ちるそれを相手に向け飛ばしてるって話が……」

 

 現実でもボディビルダーのあの濃い肌の色はカラーリング、皮膚に色付けをすることで再現されているが、専門の業者以外は絶対禁止というルールがある。

 これは、色落ちするようなものを使うと汗と共に飛び散り会場を汚し、出禁になったり高額の清掃費用を請求されたりするからで、皮膚をテカらせる目的で使われていたワセリンもまた同様の理由で現在では使用が禁止されているという。

 リメイクのスーパーファミコン版で攻撃モーションを付けたスタッフは、これを考慮したという説がある。

 そう、『使用禁止』という『概念』を持つ飛沫を触媒、媒介として呪文と共に浴びせることで、相手の呪文を『使用禁止』にするわけである。

 

「~~っ!?!?!?!?!?」

 

 その、あまりの気持ち悪さに七転八倒する小悪魔。

 ……確かに呪文を唱えるどころではなく、封じられていると言っても良いか。

 

 一方、パチュリーはエリミネーターが片手に構えた斧により攻撃を受けるが、

 

「その程度?」

 

 9ポイントのダメージに終わる。

 これでも攻撃力はファミコン版の75から増強されて83まで上がっているのだが、パチュリーの守備力もまた素早さの種の投与により、小悪魔ほどではないにしろ上がっている。

 1/8の確率で痛恨攻撃もしてくるが、パチュリーのヒットポイントなら食らっても問題ないのだし。

 そして小悪魔はというと、

 

「もう怒りました!」

 

 エリミネーターは炎の呪文に弱耐性を持っており3割の確率で無効化するため、鋼の鞭で確実にダメージを積む選択をする。

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 と、覆面パンツの筋肉男をしばき上げる小悪魔!

 CERO年齢区分が全年齢対象のA区分、幼児もプレイするゲームに入れるには酷い、酷すぎる絵面が展開される。

 ゆえに、

 

「そこまでよ!!」

 

 とパチュリーの炎のブーメランがその場を終わらせるのだった。

 

 その後は敵に会わず、階段を昇る。

 3階から上は外周に足場と階段があるだけの吹き抜けになっており、パチュリーたちはそこを一気に最上階である5階まで上り、

 

「あら、命の木の実が掘れたわね」

 

 フロアが切り替わるついでに5回だけやっているあなほりで命の木の実をゲット。

 それから吹き抜けのフロアに、あみだくじのように張り巡らされたロープを伝って宝箱を回収。

 博愛リング、小さなメダルを手に入れる。

 ちなみに南東の宝箱は人食い箱だ。

 

 パチュリーは博愛リングを手に取って見定めた。

 

「博愛リングは装飾品のようね。身に着けている人は博愛精神が宿って優しい気分になれそうよ」

 

 装備すると性格が『やさしいひと』に変わるアイテムだ。

 賢さを+15上昇させる効果もあるが、装飾品による賢さ上昇はマジックパワーに影響せず、呪文の習得にのみ影響する。

 アープの塔とルビスの塔から、計2つ手に入る限定品だ。

 

「『やさしいひと』はダウン補正が少なくて、あまりクセのない使いやすい性格なのだけれど」

 

 と、『やらしいひと』である小悪魔を見るが、

 

「セクシーギャルの完全下位互換の性格ですから、私たちには関係ありませんよね!」

 

 洗脳調教に怯える彼女は虚勢交じりにそう叫ぶ。

 

「そう、関係無いんです。私たちは二人っきりのパーティで、私は最初からパチュリー様を愛しています!」

「何を……」

 

 言い出すのかという話だが、小悪魔は退かずに、

 

「つまり博愛精神が有ろうと無かろうと、唯一のパートナーであるパチュリー様を愛するという気持ちには変化は無いのだから、関係無いのです!!」

 

 そう宣言する。

 何だかよくわからないが、勢いに押されたパチュリーは、

 

「お店に持って行けば495ゴールドで売れるわね」

 

 と、売り払うことにするのだった。

 

 

 

 そしてパチュリーはロープ上から、小悪魔を道連れにダイブ……

 

「ひああぁぁぁぁっ!?」

 

 前回、ガルナの塔にて繰り返された拘束状態でのダイビングでトラウマになっているのか、絶叫する小悪魔!

 

「で、デビルウィーング!!」

 

 それでも何とか悪魔の翼を展開し、自分とその手をつかんでいるパチュリーの身体を支え落下速度を緩める。

 

「お、降りるなら一言、言ってからにして下さい! 怖すぎですっ!!」

 

 3階の僅かな足場にランディングしながら抗議するが、パチュリーは、

 

「ふぅ、何とか無事着地できたわね」

 

 と取り合わずにコメント。

 失敗するとさらに下に落ちて、昇り直しになるのだ。

 

 ここの宝箱から山彦の笛、小さなメダル、命の木の実、552ゴールドを回収。

 小悪魔のリレミトでアープの塔から脱出するのだった。




 毒蛾の粉が効果を上げない限り減らない現象、私はiPhoneつまりiOS版で確認しましたが、みなさんご存知でしたか?
 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では確かに減っていたはず……
 こういう新たな発見があるのが面白いですね。

 次回はサマンオサ南の洞窟へ。
 ここでラーの鏡を拾ったら、いよいよボストロールへの挑戦ができるようになりますね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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サマンオサ南の洞窟(前編)異常経験、MPドレイン

「あと、行けるところといったら、サマンオサ南の洞窟だけね」

 

 真実の姿を映し出すというラーの鏡がある、サマンオサ南の洞窟へ向かうことにする。

 小悪魔のルーラでサマンオサに跳んだら、まずは東に。

 山地を抜けるところで、

 

「またメタルスライムが8匹!?」

 

 メタルスライムの群れに遭遇する。

 

「魔法耐性装備に切り替えて、毒蛾の粉を!」

 

 パチュリーは脱皮でもするかのようにネコの着ぐるみをその場に脱ぎ捨て、下に着込んでいたマジカルスカート姿になる。

 マジカルスカートの魔法的防御力はその上に別の鎧を着ると機能しなくなるため重ね着しても意味が無いのだが、素早く切り替えができるのでパチュリーは常用しているのだった。

 そして改めて魔法の盾を構える。

 

 小悪魔はというと、

 

「キャストオフ!」

 

 がばっと、大地の鎧の脇を開けて脱ぎ捨てると、

 

「プットオン!」

 

 魔法の鎧を着込む。

 

 勇者小悪魔が鎧を着脱するタイムは僅か数秒に過ぎない。では、着脱プロセスをもう一度見てみよう!

 

 というような具合で。

 一人で着用することが前提の冒険者の鎧は、現実世界で騎士が従者の手を借りて着ていたようなものと違って、このように素早い脱ぎ着が可能。

 軍隊が使うボディアーマーは負傷時、治療のため脱がすのが困難ということから着脱がより簡易なものに改められ、さらにはワンタッチで外せるクイックリリース機能が搭載されたが、それに近いものだ。

 こうして小悪魔は鎧を切り替えた後に魔法の盾を構え、準備は完了。

 毒蛾の粉を使用してメタルスライムを混乱させてやった結果、3匹を倒すことに成功する。

 これにより小悪魔のレベルが上がった!

 

ちから+2

すばやさ+1

たいりょく+5

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:20

 

ちから:67

すばやさ:134

たいりょく:66

かしこさ:56

うんのよさ:48

最大HP:133

最大MP:109

こうげき力:134/107

しゅび力:179/172/169

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という結果に。

 消費した毒蛾の粉をふくろから出して補充し、今度は南下。

 目的の洞窟は湖の上、毒の沼地に囲まれた場所にあった。

 しかし、

 

「私たちの船が浮いてますけど……」

 

 湖にはパチュリーたちの船が停泊しているが、しかし乗り込むことができない向こう岸にある。

 

「一応、ラーミアを手に入れたら乗ることもできて、この湖は海洋と同じ、痺れクラゲ、マーマン、マリンスライム、だいおうイカ、ヘルコンドルが出るという話よ」

「どういう理屈なんですか?」

「海水混じりの汽水湖なんじゃない? 汽水湖は開水路を通じて海水と交流がある場合がほとんどだけど、開水路がなく地下水を通じて海水と交流がある場合もあるわ」

 

 ということだった。

 そして橋を渡り洞窟へ。

 まず現れたのは、

 

「カメさん!?」

 

 カメの甲羅を持ったモンスター、ガメゴンが1体だが、

 

「ドラゴンの頭と尻尾が付いてますよ!?」

 

 という相手。

 しかしパチュリーが、

 

「まぁ、後の作品と違って、ドラゴンクエスト3ではドラゴン扱いされてないんだけれど」

 

 と言うとおりで、ドラゴンキラーのドラゴン系特効の効果も通じなかったりする。

 

「それより、シャドーも見逃さないでね」

「えっ? あっ、本当に居た!」

 

 同時に影のようなモンスター、シャドー1体が現れていたのだが、

 

「シャドー、見にくいですね」

 

 小悪魔が見落としそうになったように、その姿は洞窟内の背景に紛れやすく、一見、ガメゴンが単体で現れたかのようにも見える。

 影のモンスターということでトルネコシリーズでは特別な対策をしない限り見えないようにされていたが、リメイクするにあたり戦闘時に背景グラフィックが表示されるようになったスーパーファミコン版で、それを逆輸入したのかも知れない。

 何しろシャドーはこのサマンオサ南の洞窟にしか出ないモンスターなので、常に洞窟内の背景に紛れ込んでしまうからだ。

 

「魔法耐性装備に切り替えて、魔封じの杖を!」

 

 パチュリーはシャドーが3/8の確率で放ってくる氷結魔法ヒャダルコを警戒し、小悪魔に指示を出す。

 小悪魔は魔封じの杖を振りかざすが、

 

「効きません!?」

 

 効果無し。

 一方、パチュリーは、

 

「3/8の高確率で使って来る甘い息で眠らされるのが一番怖いのよね」

 

 と、守備力200を誇るガメゴンに正義のそろばんを繰り出し、一撃で沈める。

 まぁ、常時バイキルトをかけた勇者状態の攻撃力を持つパチュリーだからできることで、そうでなければ弱耐性しか持たないラリホーで眠らせるか、使い手が居るならザキ系で即死を狙うかバシルーラでぶっ飛ばした方が良い。

 草薙の剣や呪文で守備力を下げようにも、ルカナン、ルカニ系には強耐性。

 攻撃呪文を使おうとしても勇者のデイン系に対し弱耐性となっている以外はすべて強耐性持ちだし、ニフラムで光の彼方に消し去ろうとしても完全耐性を持っているし。

 ニフラムに完全耐性を持っているということは、ゾンビキラーの守備力無視の追加ダメージも発生しないしということで、使える手が限られるのだ。

 

 そしてシャドーの攻撃だが、

 

「物理攻撃なら痛くないわ」

 

 殴られてもダメージは小さい。

 そして、

 

「残り一体なら!」

 

 と、ゾンビキラーで斬りかかる小悪魔だったが、

 

「倒しきれない!?」

 

 もし彼女が諸刃の剣を装備していたなら倒せたのかもしれないが……

 しかし、

 

「問題無いわ」

 

 パチュリーが正義のそろばんを振るってお終いである。

 そして下りの階段を発見。

 降りた先、地下二階には、

 

「つづらがつづらっとならんでいる!?」

 

 かねがね金がねえ小悪魔は並ぶ宝箱に目の色を変えるが、

 

「待ちなさい、こぁ」

 

 と、まずはついでに5回だけあなほりをするパチュリーに止められる。

 

「鋼の剣が出たわね」

 

 これは骸骨剣士が1/128の確率でドロップするアイテム。

 975ゴールドで売却できるものだ。

 

「慌てる何とかはもらいが少ないと言うでしょう? まずは……」

 

 南側に見えている落とし穴に向かい、

 

「ほら」

 

 と小悪魔を道連れにダイブするパチュリー。

 

「ひああぁぁぁっ!」

 

 慌てて悪魔の翼を伸ばし、落下速度を落とすことで地下三階に軟着陸。

 そこは地底の泉の中にある島で、目の前には宝箱があり開けてみると、

 

「ら、ラーの鏡です!?」

「目の前の宝箱に惑わされなければ、すぐに手に入れられたってことね」

 

 そしてまた落とし穴に落ちて、そこから階段を上がって元の3階、先ほどの島を目の前にした岸側へと出る。

 

「鉄兜が出たわ」

 

 パチュリーはフロアが切り替わるたびに5回だけついでにあなほりをしているのだが、今度は鉄兜を掘り当てる。

 これはガメゴンが1/64の確率でドロップするアイテム。

 750ゴールドで売却できる。

 

 そして昇りの階段を見つけるが、

 

「宝箱、ありますね」

 

 と、その向こうに小悪魔が宝箱を見つけたので階段を昇り降りしてエンカウントまでの歩数カウントをリセットしてから回収に行く。

 宝箱から得られたのは、

 

「ぬいぐるみです!」

 

 パチュリーが着ているネコの着ぐるみと同じものだ。

 普通にプレイしていたらこの時点でようやく手に入るアイテムで、パチュリーが未だこれに頼っているように優れた守備力を持つ。

 商人のあなほりの有用性が分かるだろう。

 

 そして階段のところまで戻ろうとする二人を、奇妙な仮面をかぶった4つの人影が襲った!

 

「ゾンビマスター! こちらのマジックパワーを奪って、いやらしいことをしてくる相手よ!」

「えっ、エッチな攻撃を!?」

「そういう意味じゃないから!」

 

 シャーマンの上位種であり、サマンオサの周辺とサマンオサ北東部、そしてこのサマンオサ南の洞窟にのみ出現する。

 ファミコン版では一度に2体までしか現れなかったが、スーパーファミコン版以降のリメイクではこのように4体でも現れるようになった。

 通常は打撃攻撃を行わず、マホトラ:2/ベホイミ(自分に)/ベホイミ(他へ)/ザオラル/仲間を呼ぶ(腐った死体)/逃げるという行動を取る。

 ただし仲間が倒されている場合は優先行動でザオラルを使う。

 もっともマジックパワーは20しか無いため、消費マジックパワー10のザオラルは連発できず、切れたらマホトラでマジックパワーを確保して、という具合になるのだが。

 

「でもこれってサポート行動ばっかりですよね? 他のモンスターと一緒に出ず、しかも4体で現れたらこれ以上、出現枠が無いので仲間を呼ぶこともできませんし、大したこと無いのでは?」

 

 と考える小悪魔だったが、

 

「ゾンビマスターの判断力は1、モンスターレベルは29。モンスターは判断力が0でない限り、先頭キャラのレベルとモンスターレベルの差が6以上ないと逃げないから」

 

 そして判断力1ならモンスターの行動はプレイヤーと同じくターン開始時に決定され、最初のターンでは治療対象が居ないため、ベホイミ、ザオラルは選ばれない。

 

「あれっ?」

 

 そうなると残った行動は、

 

「マジックパワーが減ってもいないのにマホトラを唱えてくるんですか? 4体とも?」

 

 吸収量は5~10程度だが、こちらには必ず効くので4発食らえば20~40ものマジックパワーが奪われることになる。

 

「これが判断力が最高の2だったら自分に行動順が回って来た時点で行動を選ぶから、先にこちらの攻撃で傷ついたり倒されたりした仲間の治療を行ってくれるんでしょうけど」

 

 判断力1ではそれが無い。

 判断力の高さと厄介さは比例しないということだった。

 

「幸い炎の呪文には弱耐性だけれども、それでも最大ヒットポイントは120あるから」

 

 弱耐性、と言っても3割の確率で無効化されることを忘れてはいけない。

 またそもそも、パチュリーの炎のブーメランと、雷の杖のベギラマのダメージを足しても、120には届かない。

 小悪魔が鋼のムチを使っても同様。

 ゆえにラリホー、マホトーンといった行動阻害系呪文に強耐性を持っていて、70パーセントの確率で無効化されてしまうと分かっていても、

 

「これしか無いですね!」

 

 小悪魔は魔封じの杖を振るい、運良く2体の呪文を封じる。

 パチュリーは正義のそろばんで確実に1体を倒すことを狙うが、幸運にもその対象は、呪文が封じられなかった相手だった。

 残ったゾンビマスターはマホトラを唱える。

 

「あひぃぃぃぃぃぃ!? す、吸われっ、あぁぁぁああぁっ!? 私の大事な魔力がぁぁぁぁぁっ!? う、奪わないでぇぇぇぇぇっ!?」

 

 ドレイン系の攻撃を受けるヒロインピンチものみたいな媚態を披露する小悪魔に、

 

「……無駄に涙目になって艶めいた仕草を作らなくてもいいから」

 

 頭痛を覚えるパチュリー。

 まぁ、それも呪文を封じられていない1体が小悪魔からマジックパワーを奪えただけで終わる。

 そして次のターン、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔は鋼のムチを振るう。

 ゾンビマスターはザオラルで仲間を蘇らせるが、ザオラルではヒットポイントが最大値の半分しか回復しないため、パチュリーが放った炎のブーメランでまた倒される。

 他のゾンビマスターもザオラルを唱えるが、呪文は封じられている。

 そして小悪魔の鋼のムチが、パチュリーの炎のブーメランが再び唸り、全滅させるのだった。

 

「レベルが上がったわ」

 

 とパチュリー。

 ゾンビマスターはうざったい相手だが、集団で現れ、673ポイントという高い経験値を持つ。

 その上、呪文で復活させられた敵は経験値、ゴールド共に再カウントされるため、5体倒したことになっているのだ。

 

ちから+2

すばやさ+3

たいりょく+6

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となり、さらに、

 

「力の成長上限値が上がって余裕が出たから、ストックしていた力の種を使いましょう」

 

 と、力を種で+3する。

 小悪魔にも、拾ったぬいぐるみを着せて。

 

「あー、そこいい」

 

 筋力を短期間に上げるための、筋肉痛を凝縮したような痛みを、肉球ハンドでモミモミされることで癒されるパチュリー。

 

「違う! これ違いますっ!」

 

 と主張する小悪魔を他所に、肉球マッサージを堪能するのだっだ。

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:24

 

ちから:117

すばやさ:94

たいりょく:126

かしこさ:32

うんのよさ:45/95

最大HP:252

最大MP:64

こうげき力:242/174

しゅび力:137/127/117

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 という結果に。

 

 

 

(魔力を吸われるのって、そんなに気持ちがいいのかしら?)

 

 小悪魔が見せた媚態に、ふと考え込んでしまうパチュリー。

 普通ならそこで終わる話だが、ザオラルで蘇ったゾンビマスターも、ヒットポイントが半分しか無いにも関わらず倒せばまた673ポイントという高めの経験値が再カウントされる。

 それで自身がレベルアップしたことで気付いてしまう。

 

「これ…… 自分たちに吸収されるマジックパワーがある限り、安全に経験値稼ぎができるんじゃないの?」

 

 ゾンビマスターは通常、攻撃はしてこないモンスター。

 そしてパチュリーたちには、マジックパワーを空にされても相手を倒しきれるだけの力がある。

 そう、身の安全を完全に確保しつつ、経験値稼ぎができるか試すという名目で体験してみることができるのだ。

 

 マジックパワーを空になるまで吸い尽くされる。

 自ら望んで魔力を抜かれて絞りカスにされていくという現実ではあり得ない、許されることのない被虐の体験を……

 

「……こぁ」

 

 パチュリーの、自分の使い魔に提案するその声は、かすかな震えと…… 潤みを帯びていた。

 

 

 

 まぁ、実際にはザオラルの無駄撃ち等、ロスが多過ぎて効率が悪いのだが。

 やはり経験値稼ぎならガルナの塔でメタルスライム狩りをした方が早いのだった……




 サマンオサ南の洞窟の攻略ですが、長くなりすぎたので前、後編の二部構成でお届けさせていただきます。
 しかし、普通にプレイしているとガメゴンを倒すのに手間取っている間に眠らされて死亡とか、ゾンビマスターのマホトラでマジックパワーをすっからかんにされ、ヒイヒイ言いながらプレイすることになるのですが、やはり問答無用の一撃死が狙えるパチュリー様の正義のそろばんは正義ですね。

 次回は商人のもう一つの特技『おおごえ』で呼び寄せることができる旅の宿屋を利用したプレイ、
『サマンオサ南の洞窟(後編)旅の宿屋、この場限りの快楽』
 をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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サマンオサ南の洞窟(後編)旅の宿屋、この場限りの快楽

 その後、階段を昇り地下2階へ。

 

「ここは落とし穴に落ちる前のフロア、その最奥よ」

 

 とパチュリーが言うとおりの場所。

 つまり普通にプレイすると宝箱につられてあちらこちらとさんざん探し回った末にフロアの奥までたどり着き、階段を降りるとラーの鏡が入っている宝箱が目に入るが、取れない。

 どうするかというと、この二階に最初に降りた階段のところまで戻って、先ほどパチュリーたちが辿ったとおり、すぐそばの落とし穴から降りる必要があるという意地の悪いもの。

 

 歩き始めると、

 

「宝箱です!」

 

 脇道にある宝箱が目に入るが、

 

「あれはミミックよ」

 

 宝箱に擬態したモンスター。

 人食い箱の上位種である。

 

「ファミコン版では即死グループ呪文のザラキ、スーパーファミコン版以降のリメイクだと単体のザキを優先行動で唱えてくる相手よ」

「怖っ! ザキに弱体化しているのは幸いですけど……」

「でもザキは単体にザラキを2回かけるという処理が行われていて、結果としてザラキよりも成功率が高いのよね」

 

 パチュリーたちのような二人パーティだと、判定回数はほぼザラキと変わらないということに。

 

「やっぱりダメじゃないですか! 先制で倒すしか?」

 

 であるが、

 

「ミミックの最大ヒットポイントは240、守備力は78、素早さは100よ。マホトーンには完全耐性を、ラリホーには強耐性を持っているわ」

「どうあっても無理!?」

「まぁ、安全に倒す方法はあるわよ」

 

 それは、

 

「アストロンを唱えればいいの」

 

 勇者のみが習得できるアストロンの呪文は味方全体を鉄の塊にし、3ターンの間、無敵状態とする呪文だ。

 あらゆる攻撃を受け付けなくなるが、その代わり行動が一切とれなくなる。

 

「この呪文は特殊で、ターンの最初に最優先で発動するから敵も味方もどんなに素早くても先攻はできないようになっているの」

 

 そして、

 

「ミミックのマジックパワーは10。完全2回行動で優先行動のザキを2回唱えるけど、ザキの消費マジックパワーは7で2回目はマジックパワーが切れて不発。次のターンはザキが使えないので優先行動が切れて、マホトラ:3/攻撃:2/メラミ:1/ラリホー:1の行動に切り替わる。大抵はマホトラでこちらのマジックパワーを吸収して、また優先行動のザキを唱えるってことになるのだけれど」

「アストロンが効いている最中は、マホトラも効きませんね」

「そう、そしてミミックの判断力は1。これは私たちと一緒でターン開始時に行動を決定するから、アストロンが解けたターンはマホトラか打撃、マジックパワーが3残っていればラリホーのいずれかしかしてこない」

 

 そしてそのターン攻撃したら、次のターン、またアストロンを唱えてザキを無駄撃ちさせればいいわけである。

 もしくは、ミミックは魔法使いの呪文であるマホトラに耐性を持たないので、唱えられる者が居るなら攻撃のターンで使っておき、ミミックのマジックパワーを空にできていたらそのまま戦い続けるという手もある。

 ミミックの素早さは100もあり、マホトラの使い手が特別素早い場合でない限り、後攻攻撃でマジックパワーを減らしておけるだろう。

 

「こうして攻めればラリホーで勇者が眠らされるというアクシデントが起きない限りは、ザキを受けずに終わらせることができるわ」

 

 ということ。

 

「まぁ、アストロンの消費マジックパワーは6とそれなりに重いし、この戦法でもマジックパワーは取られてしまうし、このサマンオサ南の洞窟だとマホトラでこちらのマジックパワーをどんどん吸い取って来るゾンビマスターが出没するし、無理に戦う必要は無いでしょう」

 

 戦士が居るならミミックが1/256の確率でドロップする魔神の斧を狙ってみるという選択もあるが。

 

 そんなわけでミミックの横を素通りして、突き当りの小部屋へ。

 そこには、

 

「宝箱です!」

「片方はミミックだけれどね」

 

 そんなわけで、ミミックではない方の宝箱を開ける。

 

「命の石ね」

 

 来た道を戻ると途中で3体のシャドーと遭遇。

 

「対魔法防御に切り替えて、物理で押し切るわ!」

 

 パチュリーはシャドーが3/8の確率で放ってくるヒャダルコを警戒し、小悪魔に指示を出す。

 まぁ、食らう前に小悪魔の鋼のムチが唸り、パチュリーの炎のブーメランが薙ぎ払うことで倒しきることができたが。

 

 さらに道を進むと、

 

「宝箱です!」

 

 また脇道に宝箱。

 

「今度は大丈夫ね」

 

 並んでいる宝箱を開けて行く。

 スタミナの種が入っていたが、とりあえず使用は保留。

 

「またシャドーです!?」

 

 再びパチュリーの炎のブーメランが、小悪魔の鋼のムチが唸るが、

 

「一体、生き残った!?」

 

 集団攻撃武器は、後に当たる敵ほどダメージが減って行くので、こういうことも有り得るが、しかしシャドーの攻撃は物理で済む。

 

「セーフね」

 

 あとは止めを刺して終了だが、

 

「やっぱり万が一に備えて防具を魔法耐性優先に切り替えておいて正解ね」

 

 ということだった。

 そして、

 

「レベルが上がりました!?」

 

 小悪魔のレベルが上がる。

 

ちから+5

すばやさ+2

たいりょく+6

かしこさ+2

うんのよさ+2

 

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:21

 

ちから:72

すばやさ:138

たいりょく:72

かしこさ:58

うんのよさ:50

最大HP:146

最大MP:117

こうげき力:139/112

しゅび力:181/174/171

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という結果に。

 

 次の宝箱は24ゴールド。

 そして、

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券が入っていたのだけれど」

 

 という宝箱からは、はやてのリングが手に入った。

 突き当りの小部屋にはまた二つの宝箱が置かれているが、

 

「さてはミミックですね、ミミックに違いないです!」

「正解よ。向かって左側がミミックね」

 

 そんなわけで普通の宝箱を開けると、小さなメダルが手に入る。

 

「こぁ、リレミトを」

「はい? まだ宝箱はあるんですよね? この階で最初に見つけたやつ」

「いいから」

 

 迷宮脱出呪文リレミトで外に出る。

 

「他の宝箱を開けるために歩いて戻るより、リレミトで脱出した後、もう一度潜る方が早いのよ」

 

 ということ。

 そしてパチュリーはふくろから不思議な帽子を出して被ると商人の特技『おおごえ』を使う。

『おおごえ』の消費マジックパワーは15ポイントだが、不思議な帽子の効果で3/4(端数切捨て)+1されて12ポイントに軽減されるのだ。

 

「回復しておきたいけれど、一々街に戻るのも面倒だしね」

 

 この『おおごえ』はフィールドマップの他、基本的にはダンジョン内でも有効だが、ここ、サマンオサ南の洞窟を含む特定のダンジョンでは使用不能。

 だから外に出たこの機会に使っているのである。

 もっとも結果はランダムなので、現れたのは旅の神父。

 

「神の犬に用はありませんよ」

 

 と小悪魔。

 

「またそんな……」

 

 都合がいい時は頼るくせに、という話だが、次に来たのもやっぱり旅の神父。

 用が無いので帰ってもらい、旅の商人が来たので帰ってもらい、ようやく4回目で目的の旅の宿屋が現れる。

 テントを張ってこの場で泊まらせてくれるらしい。

 なお料金は、

 

「一人100ゴールド!?」

 

 と小悪魔が叫ぶぐらい高額ではあるが、

 

「こんな所まで来てくれるのだもの、安いものでしょう?」

 

 とパチュリーは気にも留めず払ってしまう。

 そして……

 

 

 

「やめっ、こぁ……っ」

 

 不意をうたれて口移しにスタミナの種を飲み込まされたパチュリーは、体力を一気に高めるための筋肉痛を凝縮したような痛みに襲われ、テントに置かれたコット、折り畳み式の簡易寝台に押し倒されていた。

 全身をまさぐるようにして与えられる、小悪魔によるマッサージ、その快楽が痛みとない交ぜになってパチュリーを苛む。

 その上、

 

「聞かれ、ちゃう……」

 

 と押し殺した声で言うとおり、ここは普段の宿とは違う。

 テントによる簡易宿泊所なのだ。

 少しでも声を上げれば、この宿を提供した主人に聞かれてしまうだろう。

 その羞恥の感情が、パチュリーをさらに混乱させる!

 しかし……

 

「いいじゃないですか、聞かせてあげれば」

 

 小悪魔は平然と言い放つ。

 

「な……」

「常設の宿じゃないんです。この宿の主人も行きずりの、もう二度と会うことも無い相手ですよ?」

 

 そう熱く濡れた声で耳元にささやく小悪魔の言葉に、パチュリーの瞳が限界まで見開かれ、その身体が硬直する。

 

「だから……」

 

 という言葉とともに、身体のツボにグリリとねじ込まれる小悪魔の指先!

 

「お……っ、おおおっ!」

 

 無理矢理に搾り取られる、自分のものとは信じがたいほど生々しい嬌声。

 身体は絶頂したかのようにぴんと弓なりにのけ反り……

 ひっくり返りそうになる目、口は『O』の字に開かれ、舌を突き出しヒクヒクと痙攣してしまうという無様な姿をさらすことに。

 そうして真っ白になりかけるパチュリーの意識に、

 

「取り繕う必要も無く、ご自分を精一杯さらけ出せる楽しみに……」

 

 小悪魔のささやきが刷り込まれる。

 

「いつもとは違う自分になれる、この場でのみ感じ得ることのできる、この場限りの快楽に……」

 

 溺れたって、いいんですよ。

 

 悪魔の誘惑がパチュリーを苛む。

 そして、

 

「この場、限り?」

 

 そう、おうむ返しにつぶやいてしまったのは、どうしてだろうか?

 小悪魔のマッサージに追い詰められた身体と精神が、この場限りのことだから安心していい、という許しを欲したのか、それとも……

 今、この場限りの機会なのだから、この機会を逃したら、次は無いかも知れないという焦燥感にも似た、チャンスを逃したくないという欲望が言わせたものなのか……

 

「ああっ! ああっ! ああーっ!!」

 

 小悪魔の指先に導かれるまま絶叫するパチュリーには、考え続けることすらできなかった。

 

 

 

 そして翌日、

 

「でも、ただのマッサージですからね。だから健全なんです! 宿のご主人にも分かってもらえますって」

 

 と笑う小悪魔と、それに反発を覚えつつも、そういうことにしないと羞恥で死にそうになるため何も言えないパチュリー。

 いや、まぁ、小悪魔がやっていることは通常のマッサージの範疇なので、確かに健全と言えば健全なのだが。

 しかし、

 

「朝にならないのね」

 

 という点に彼女は気付く。

 旅の宿屋では泊まっても朝にならない。

 ゲーム的に言えば、時間が経過しないのだ。

 

「まぁ、リアリティを考えるなら24時間、翌日の同じ時刻まで休ませてくれてるって思えばいいのかしら?」

 

 そういう解釈もアリか。

 試しに、あなほりをしてみると、

 

「あなほりのカウントのリセットも無さそうだわ」

 

 という結果に。

 

 そしてヒットポイント、マジックパワー共にフル回復した二人は再び洞窟へ。

 シャドーとゾンビマスターが出るが、

 

「まぁ、問題無いわね」

 

 一撃で倒しきれるパチュリーの正義のそろばんでゾンビマスターを最優先で葬るのは確定だが、小悪魔の攻撃力ではシャドーを倒しきれないため魔封じの杖で対処する。

 とはいえ、弱耐性を持つシャドーに効かない場合もあるのでヒャダルコを警戒し魔法耐性のある装備に切り替えるが。

 そうやって危なげなく退け、再び地下二階に。

 今度は最初に小悪魔が見つけ、開けようとしていた宝箱たちから中身を回収していく。

 128ゴールド、力の種、56ゴールド、そして、

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券が入っていたのだけれど」

 

 という宝箱からはキメラの翼が手に入った。

 今さらと思うかも知れないが、万が一にルーラの使い手のマジックパワーが吸い尽くされた場合の救済策だと考えれば良いのか。

 さらに568ゴールド、24ゴールド、命の木の実を手に入れたところでゾンビマスター2体が出現するが、

 

「何ていやらしい!」

 

 一つのグループではなく、バラバラに1体ずつ出るという。

 これでは小悪魔が魔封じの杖を振るっても、1体にしか効果を及ぼせない。

 幸い、その1体に効いたものの、

 

「先を越された!?」

 

 パチュリーが攻撃するより前に、もう一体のゾンビマスターがマホトラを唱えて小悪魔のマジックパワーを奪う!

 ゾンビマスターの素早さは67。

 パチュリーの素早さは種で94まで上げてあるが、リアルラック次第では先制される場合もあるのだ。

 

「あひぃぃぃぃっ!?」

「そういうのもういいから」

 

 パチュリーの正義のそろばんがそのゾンビマスターを打ち倒す。

 あとは魔法を封じられたゾンビマスターが1体。

 小悪魔のゾンビキラーが唸るが倒しきれず、優先行動であるザオラルを唱えてくる。

 もちろん呪文が封じられているので効果は無いが、

 

「魔法が封じられても仲間をザオラルで復活させようとするんですね?」

「ドラクエ3だと判断力1では呪文が封じられたことを認識できないのよ」

 

 ただし、

 

「呪文が封じられている場合でも唱えればマジックパワーは減るわ。そして判断力1の場合は1度だけ「MPがたりない」となってから、その行動はキャンセルされるようになる」

 

 つまり、ずっと無駄行動をするわけでは無いということである。

 まぁ、そうなるより先に、

 

「これで終わりよ」

 

 パチュリーに止めを刺されて終了であるが。

 

 先を進み宝箱を開け、小さなメダル、320ゴールドを回収。

 そして行き止まりの小部屋には、4つの宝箱が。

 

「やっぱりミミックが混じっているんですか?」

「いいえ」

「じゃあ……」

 

 ぱぁっと表情を輝かせ、今にも宝箱に突進しようとする小悪魔だったが、

 

「混じっているんじゃなくて、全部ミミックよ」

「ダメじゃないですかー!」

 

 というか、ここまで来る必要も無かったのだが。

 そんなわけで、オチが付いたところで小悪魔のリレミトで脱出する。




 商人のもう一つの特技『おおごえ』ですけど、使い方を工夫すれば十分便利ですよね。

 次回はいよいよボストロール攻略。
 読者の方に教えて頂いた諏訪子様と早苗さんの勇者と商人二人旅プレイ動画では回復が追い付かないので勇者がベホマを覚えるまでレベルを上げる、という結論でしたが。
 パチュリー様と小悪魔は今のレベル、ベホイミも無いような状況で挑み、運抜きの勝率100パーセント完封攻略をする予定です。
 まぁ、動画とはプレイ条件が違うのでどっちがどうとかいう話では無いのですが。

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ボストロールに完封勝利する方法

「ラーの鏡も手に入れたし、これでボストロールと戦えるようになったわね」

 

 パチュリーは攻略前の下準備のため、小悪魔のルーラでアッサラームに跳ぶ。

 そこから船で南下。

 テドンで聞いた火山を横目に上陸するが、

 

「ここまでエンカウントが無い…… 嫌な予感がするのだけれど」

 

 そのとおり、目的のエリアに一歩足を踏み入れた瞬間に現れる巨体!

 

「トロルです!」

 

 粗末な毛皮をまとい棍棒を手にした、人型と言うには醜悪過ぎる腹の出た褐色の肌の化け物。

 それが2体である。

 

「トロルの最大ヒットポイントは250! 守備力は32と低いけど、それでも先制で倒しきれるものでは無いわ」

 

 このヒットポイントは、ボスキャラを除けば上の世界で爆弾岩に次ぐ二位のものだ。

 ゆえにパチュリーは正義のそろばんではなく、炎のブーメランで削りに行く。

 幸い、トロルはラリホーやメダパニ、マヌーサには弱耐性しか持たないので、

 

「ラリホーで眠らせて」

 

 と小悪魔に指示するが、しかし、

 

「ダメです、寝ません!」

 

 そして反撃で30台、40台のダメージを受ける。

 

「ひぎぃっ! らめぇ、そんな太いの壊れちゃうぅ」

 

 叫ぶ小悪魔。

 確かにトロルはぶっといトゲ付き棍棒を振り回しているのだが、

 

「ファミコン版だと棍棒を持ってなくて素手だったのだけれど」

「えっ、じゃあフィストをぶち込まれて、わからせられてしまうんですか、パチュリー様!?」

「何の話をしているの?」

 

 おそらくスーパーファミコン版でリメイクするにあたり攻撃モーションを付け加えた結果、上位種で棍棒を持っているボストロールやトロルキングと別に素手で殴るモーションを作るのは無駄ということでそれ以降、棍棒を持たされたのだろう。

 そもそもトロルのドロップアイテムは棍棒なのだし。

 

「「武器や防具は装備して身につけるように! 持ってるだけじゃダメですぞ!」ですね」

「えっ、まぁ、うん」

 

 小悪魔が言っているのは、アリアハンの城で兵士がアドバイスしてくれる言葉だ。

 初代ドラクエでは武器を購入するだけで自動的に装備されたが、2以降は身に着けることが必要になり、このように作中でアドバイスしてくれるキャラが出るようになった。

 ファンの間ではトロルの棍棒のように、ドロップするぐらいなら何で自分で使わないの? というモンスターに対してのツッコミの言葉として広まっているのであった。

 

 そして次のターン、

 

「今度こそ!」

 

 小悪魔はラリホーで何とか1体を眠らせるが、やはり残った1体の攻撃が凄まじい。

 

「トロルの攻撃力は155もあって、ボスを除けば上の世界でトップ。ボスや固定キャラを含めてもバラモス、人食い箱、ボストロールに次いで4位」

 

 炎のブーメランを飛ばしながら語るパチュリーだったが、

 

「はい? それじゃあ……」

「中ボスの、やまたのおろちより上なのよ」

 

 ということ。

 

「しかも2/8、つまり1/4の確率で痛恨攻撃を放ち、決まれば守備力無視で約140ポイントの大ダメージを与える」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 現在の小悪魔の最大ヒットポイントは146だが、既に傷ついてそれを割っているようにギリギリ過ぎて戦闘中、常にキープできるものではない。

 特に複数で現れていては。

 

「さらに判断力が0でバカだから勇者パーティの隊列が認識できず、平気で後列を殴ってくる相手よ」

 

 パチュリーたちは前衛職しか居ない二人パーティなので関係無いが。

 

 次のターン、もう一度ラリホーを唱えて、ようやく2体とも眠らせる。

 小悪魔の鋼のムチ、そして放ち続けたパチュリーの炎のブーメランで目覚める前に何とか倒しきり、戦闘は終了。

 経験値が一人1030ポイント入るが、苦労に見合うかというと、疑問だったりする。

 確率の問題なので、ここで経験値稼ぎを続けていたら、いつかは痛恨攻撃を受けて死亡しそうである。

 ……小悪魔が。

 

「それじゃあ、あなほりをしましょう」

 

 パチュリーは中断の書を利用したあなほり回数のリセットを繰り返しながら掘るのだが、

 

「出まくるわねぇ、諸刃の剣」

 

 この周辺に出現するフロストギズモのドロップ品、諸刃の剣がポンポン出てくる。

 ファミコン版では1/128の確率でドロップしたものだが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券を1/32の確率でドロップするよう変更され。

 そしてスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版においては、すごろく場が無くなったために、すごろく券をドロップするモンスターはドロップ品をファミコン版と同様のものに差し戻したのだけれど、ドロップ率を戻すことを忘れていた、というもの。

 極楽鳥もそうだったが、やはりスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ですごろく券を落としていたモンスター全般が戻し忘れているということらしかった。

 

 そして開始7分で、

 

「出たわ不幸の兜」

 

 目的のものを掘り当てたので終了。

 これはこの周辺に現れるミニデーモンが1/128の確率でドロップするアイテムだ。

 

「他にトロルのドロップアイテムの棍棒が一本と、諸刃の剣が5本ね。こんなにあっても要らないから、売り払おうかしら。一本が3750ゴールドで売却できるから、5本で18750ゴールドね」

「な、7分あなほりしただけでそれだけ儲かるんですか!?」

 

 これが商人の能力“いともたやすく掘り出されるえげつない高額アイテム”

 

 とばかりに戦慄する小悪魔。

 この時期ではピラミッドで1体につき350ゴールドを得られる笑い袋を倒しまくるのが一番効率のいいゴールド稼ぎだと言われているが。

 それでも一度に1体しか倒せず、しかもリメイクのピラミッド3~6階はエンカウントまでにかかる歩数が2倍、1、2階は4倍必要なように設定されている、という話もあるため、黄金の爪を拾って呪い状態にするか、遊び人がレベル13で覚えるモンスターを呼び寄せる特技『くちぶえ』を使うかしないと効率が悪い。

 そしてそれだけやっても、7秒に1回以上のペースで倒せなければ勝てないという……

 しかも、

 

「不幸の兜目当てだったんだから、そのついでよ?」

「ついでで、それ……」

 

 小悪魔も、開いた口が塞がらない。

 

「あとはジパングの洞窟でも、あなほりしなくちゃね」

 

 小悪魔のルーラでジパングに跳び、洞窟から出たり入ったりしてカウントをリセットしつつ、あなほり。

 開始から15分で、

 

世界樹の葉 1

キメラの翼 2

毒蛾の粉 16

とげのむち 1

力の種 1

所持金の半額 90,215ゴールド

 

 を掘り出す。

 

「きゅ、きゅうまんごーるど……」

 

 先ほどの諸刃の剣の束が可愛く思える収入に、小悪魔は眩暈すら感じる。

 

「そういえば、小さなメダルも貯まっていたわね」

 

 アリアハンに戻ってメダルおじさんから、小さなメダル65枚で入手できる『疾風のバンダナ』をゲット。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では70枚で手に入ったものだったが、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、65枚に変更され、代わりにドラゴンテイルが70枚で交換できるようにされている。

 パチュリーは疾風のバンダナを手に取って見定めた。

 

「疾風のバンダナは装飾品のようね。これを身に着けていれば素早さが上がるようね」

 

 素早さを+30してくれるというもの。

 

「星降る腕輪の下位互換ですか?」

「そう思われがちだけど、戦士のように素早さが低くて30未満しか無い場合はこっちの方が効果が高くなるわよ」

 

 ということ。

 さらに、

 

「稲妻みたいな動きでみんなから電光石火って呼ばれるようになるわね」

 

 身に着けた者の性格を『でんこうせっか』に変えてくれるというものだ。

『でんこうせっか』は素早さの成長補正が最高の+40される上、他の能力値には補正がかからない、つまりマイナス補正がまったくつかないという性格。

 補正皆無の『ふつう』や『へこたれない』はもちろん、素早さだけが取り柄で他にマイナス補正がかかる『すばしっこい』『おっちょこちょい』『うっかりもの』の完全上位互換で、

 

「僧侶や魔法使い、賢者なんかに向いていそうですね」

 

 と小悪魔の言うとおりなものだった。

 しかし僧侶、魔法使い、ついでに勇者は最初にこの性格にすることはできなかったりするのだが。

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど……」

 

 とパチュリーが言いよどむとおり限定品で、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではこの他にジパングの第5すごろく場の会場内からもう一つ拾えるが、すごろく場の無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では完全な一点ものとなっている。

 それでも星降る腕輪と豪傑の腕輪を持っているパチュリーたちには不要と思えるため、

 

「727ゴールドで売れるわね」

 

 と売却することになる。

 もっとも、後から考えると二人の今の最大のボトルネックは攻撃力ではなく、勇者がベホイミを覚えるのはレベル29以降、ベホマは33以降と回復手段に難があること。

 つまり『ボスキャラ攻略時に二人とも守備力優先で上げた方がいい場合もある』ため、取っておいた方が良かったのかも知れないが。

 

 

 

 アリアハンの勇者の実家で休憩後、キメラの翼でサマンオサへと跳ぶ。

 

「どうしてルーラを使わないんですか?」

「今のあなたのマジックパワーは117。作戦上必要とされる呪文の消費マジックパワーは6で、薬草が切れた場合に必要になるホイミの消費マジックパワーは3。つまり……」

「ああ、ルーラの消費マジックパワーが1だとしても、116に減ったらホイミ1回分が使えなくなるってことですか」

「そう。そしてサマンオサの宿屋の料金は一人20ゴールド。キメラの翼は25ゴールドだから」

「二人で泊まって40ゴールド払うより、キメラの翼を使った方が安いですね」

 

 そんなはした金、パチュリーにとってはどうでもいいのだが、赤貧にあえぐ小悪魔が居ることだし、ボストロールを倒せば今度はエルフの里での買い物があるのだし。

 それに、

 

「キメラの翼も、あなほりでついでに拾えていて貯まる一方だし」

 

 ということもある。

 

「今使わずして、いつ使うのだ! ですね」

 

 サマンオサの城は、昼間では問答無用に兵士に牢へ入れられてしまうため、闇のランプを使って夜に忍び込むことに。

 そして王の寝室で最後の戦闘準備。

 

「あなたは補助と回復さえしていればいいから武器は要らないわ」

 

 ゾンビキラーを取り上げられる小悪魔。

 

「またですか~」

「草薙の剣で敵の守備力を下げてもらうから、不安なら装備しておけば?」

 

 どうせボストロールはニフラムに完全耐性を持っているので、ゾンビキラーの追加ダメージは発生しない。

 ゾンビキラーと草薙の剣の攻撃力は2ポイントしか違わず、これは実ダメージにおいて約1ポイント差、誤差範囲であるとも言えるし。

 

「そして不幸の兜を装備して守備力を上げてもらうわ」

 

 不幸の兜は、この上の世界で最高の守備力+35を誇る。

 今小悪魔が被っているオルテガの兜が守備力+30であるから、5ポイントの上昇だ。

 ただし、

 

「ええっ、不幸の兜って呪われて外せなくなるうえ、運の良さがゼロになるんですよね!? ボストロールってルカナンで守備力下げてくるってお話ですけど、魔封じの杖やマホトーンなんかで呪文を封じた後に切り替えるならともかく最初から?」

「それだと薬草を持てる数が一つ減るでしょう? 問題ないから被りなさい」

 

 と、無理矢理不幸の兜を被らされてしまう。

 これで小悪魔の守備力は+5され、186ポイントに。

 

「あとは世界樹の葉を2枚と、保険のための祈りの指輪、それから薬草を持てるだけ持って。私も念のため薬草を持つわ」

 

 最終的に、二人のステータスと装備は、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:24

 

ちから:117

すばやさ:94

たいりょく:129

かしこさ:32

うんのよさ:45

最大HP:252

最大MP:64

こうげき力:242

しゅび力:137

 

ぶき:せいぎのそろばん

よろい:ぬいぐるみ

たて:ふうじんのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

その他:やくそう×7

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:21

 

ちから:72

すばやさ:138

たいりょく:72

かしこさ:58

うんのよさ:0

最大HP:146

最大MP:117

こうげき力:137

しゅび力:186

 

ぶき:くさなぎのけん

よろい:だいちのよろい

たて:ドラゴンシールド

かぶと:ふこうのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

その他:せかいじゅのは×2、やくそう×4、いのりのゆびわ

 

じゅもん:メラ、ホイミ、ニフラム、ルーラ、ギラ、アストロン、リレミト、ラリホー、マホトーン、トヘロス

 

 

 そしてラーの鏡を使い、映し出された偽の王の正体、それは緑色の肌をした醜い巨体のモンスター、ボストロールだった!

 

「見~た~なあ? けけけけけっ、生きて帰すわけにいかぬぞえ」

 

 小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る。

 

 しかし、

 

「効きません!?」

「ボストロールは草薙の剣の効果やルカナン、ルカニといった守備力を下げる呪文に強耐性を持っているから70パーセントの確率で無効化されてしまうわ」

 

 そしてボストロールの棍棒がパチュリーに振り下ろされる!

 

「早いっ!?」

 

 ボストロールの素早さは80。

 星降る腕輪で素早さを倍の138まで上げている小悪魔はともかく、素早さの種で強化しているとはいえ94ポイントのパチュリーでは、リアルラック次第で先手を取られてしまう。

 

「くっ!」

 

 60ポイント越えの大ダメージを受け、さらにボストロールは2回行動でルカナンを唱える。

 パチュリーは抵抗に成功したが、不幸の兜で運の良さをゼロにされてしまっている小悪魔は、

 

「守備力を下げられちゃいました~」

 

 守備力が半減する。

 

「装備技でリセットすればいいでしょう!」

 

 パチュリーは正義のそろばんで100ポイント近くのダメージを叩き出しながら言う。

 

「そうでした!」

 

 小悪魔は防具を装備し直すことで、下げられた守備力を回復。

 

「でも、ここからが問題ですよ!」

 

 と小悪魔が言うとおり。

 ボストロールは完全ルーチンの2回行動で、

 

 通常攻撃+ルカナン → 痛恨攻撃+通常攻撃 → 通常攻撃+痛恨攻撃 → ルカナン+通常攻撃

 

 を繰り返す。

 最初のターンこそ何とかなったが、第2、第3ターンで繰り出される痛恨の一撃は守備力無視で160ポイント前後のダメージを叩き出し、小悪魔ならヒットポイントフルでも、これだけで即死。

 さらにボストロールの180ポイントの攻撃力は通常攻撃でもパチュリーなら最大60台、小悪魔でも50台のダメージを叩き出す。

 そして最初のターンでは2回行動の後にルカナンだったので装備技で守備力を回復できたが、4番目のターン、ルカナンで守備力を下げた直後の攻撃ではこの方法は取れず、パチュリーで80台、小悪魔で70台ものダメージを受ける。

 

 対してパチュリーたちの回復手段はスーパーファミコン版を元にした携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむこの世界では回復量が30~40に落ちている薬草と、30~39の小悪魔のホイミ、そして2回だけ死亡からフル回復できる世界樹の葉だけ。

 仮に運よく痛恨の一撃が出なくとも、押し切られてしまうのは目に見えていた。

 

 通常のパーティなら、マホトーン、魔封じの杖でルカナンを封じつつ、スクルトで自分たちの守備力を上げ、ダメージを減らそうとする。

 それでも守備力無視の痛恨攻撃は防げないし、ルカナンを封じた場合、ローテーションは、

 

 通常攻撃+痛恨攻撃 → 通常攻撃+通常攻撃 → 痛恨攻撃+通常攻撃

 

 に切り替わり、かえって痛恨攻撃の頻度は上がるため食らう率が高くなる。

 スーパーファミコン版ならバイキルトがかかっていると会心、痛恨が出ないというのを応用して、スクルトで十分に守備力を上げた後に、ボストロールにバイキルトをかけるという奇策で痛恨を封じることもできるが。

 

 そうやって固めるまでに痛恨を受けて負ける可能性もあるし。

 そもそもファミコン版、ゲームボーイカラー版ではバイキルトがかかっても痛恨は出るし、スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では敵に補助呪文をかけるということ自体出来ない。

 

 つまり、いずれにせよ痛恨が出ないよう祈るしかないというもので、ボストロール攻略には、どんなに方法を極めても運が絡むのが避けられない。

 そう言われていた。

 

 だが、それもパチュリーの知略と二人の力の前には過去のものになる。

 

「アストロンよ、こぁ」

「は、え?」

 

 パチュリーの指示により、小悪魔はアストロンの呪文を唱えた。

 味方全体を鉄の塊にし、3ターンの間、無敵状態とする呪文だ。

 ターンの最初に最優先で発動するため、敵も味方もどんなに素早くても先攻はできない。

 しかし、

 

(あらゆる攻撃を受け付けなくなりますが、その代わり行動が一切とれなくなります。これに何の意味が?)

 

 ボストロールは、痛恨攻撃+通常攻撃 → 通常攻撃+痛恨攻撃 → ルカナン+通常攻撃と、完全ルーチンの攻撃を放ち続けるが、すべて徒労で終わる。

 

(マジックパワー切れを狙って?)

 

 そう考える小悪魔だったが、ボストロールの最大マジックパワーは255。

 そして255が指定された場合、マジックパワーは減らず無限扱いとなるので意味はない。

 

 まぁ、スマートフォン版においては、

「無限のはずのバラモスのマジックパワーが切れるぞ」

 という声も聞かれるので、もしかしたら無限扱いではなく単に255ポイントになっているのかもしれないが。

 ただ、そうだとしても小悪魔の魔力が切れる方が先だろうから意味は無い。

 

 3ターンが終了し、アストロンの効果が解けた。

 小悪魔は再び草薙の剣を振りかざすが、

 

「効きませんっ!」

 

 そして今度は先攻できたパチュリーの攻撃は、80ポイント台のダメージ。

 

「やっぱり守備力120を抜くのは大変ね」

 

 だからこそ7割の確率で無効化されるとはいえ、小悪魔に草薙の剣を使わせ続けているのだが。

 ボストロールの反撃は、パチュリーに命中。

 さらに2回行動のルカナンが小悪魔の守備力を下げるが、

 

「あれっ!?」

「気付いたようね」

 

 そう、ボストロールは完全ルーチンの2回行動で、

 

 通常攻撃+ルカナン → 痛恨攻撃+通常攻撃 → 通常攻撃+痛恨攻撃 → ルカナン+通常攻撃

 

 を繰り返す。

 つまり180ポイントの攻撃力が繰り出す、小悪魔ならヒットポイントフルでも一撃死する160ポイントダメージの痛恨攻撃や、ルカナンで守備力を下げられた直後の攻撃が怖い3ターンをアストロンで飛ばせば、通常攻撃+ルカナンのターンだけ攻撃できる。

 ルカナンの効果は装備技で打ち消すことができるから、実質1回の通常攻撃だけしか受けなくなるということである。

 

 なお、魔封じの杖や呪文でルカナンを封じた場合、ローテーションは、

 

 通常攻撃+痛恨攻撃 → 通常攻撃+通常攻撃 → 痛恨攻撃+通常攻撃

 

 に切り替わる。

 かえって攻撃が激しくなるうえ、アストロンで飛ばすことができなくなるのだ。

 

「アストロンの消費マジックパワーは6ポイントで結構重いんですけど……」

 

 ぼやく小悪魔だったが、

 

「今まで何のために、あなほり分も含めて手に入った賢さの種すべてをあなたに食べさせてあげていたと思うの? あなたのマジックパワーは117。アストロンだけなら19回唱えられるわ」

 

 ボストロールの最大ヒットポイントは1500であり、パチュリーが80~100ポイント台のダメージを与えている以上、最後まで封じきれるだろう。

 万が一に備えて祈りの指輪も持っていることだし。

 

「そして星降る腕輪に加え不幸の兜まで使って守備力を上げた上、私の後ろに配して死なないようにしている、生かしているのは何故か、ということ」

 

 そういうことであるが、

 

「そ…… それじゃ私、アストロンを唱えるために生きてたんですか」

 

 勇者なのに、という話だった。

 そうしてふたたび攻撃の激しい3ターンをアストロンでスキップ。

 装備技で下げられた守備力をリセットし、小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る!

 ボストロールの守備力を60下げた!

 

「効きました!」

 

 今度こそ効果があり、ボストロールの守備力が120ポイントから60ポイントに半減。

 そこにパチュリーの攻撃が炸裂し、120ポイント越えのダメージを与える。

 ボストロールの反撃は、

 

「今度は私っ!?」

 

 やまたのおろち戦の時とは違い、パチュリーの背後に居た小悪魔に炸裂!

 50ポイント近くのダメージを与えた後、ルカナンで守備力を下げてくる。

 

「慌てず装備技で守備力リセット、アストロンで3ターンスキップして!」

「はい!」

 

 治療をするにも、アストロンでスキップしてからだ。

 そうしてパチュリーは常に100ポイント超えのダメージを叩き出し、小悪魔は自分のヒットポイントが削れたら薬草で回復、そうでなければ草薙の剣を使って守備力ダウンを狙う。

 パチュリーへのダメージは平均で55ポイント前後、小悪魔へのダメージは42ポイント前後だろうか。

 それを繰り返していくと、とうとうパチュリーが倒れる。

 

「パチュリー様っ!」

 

 すぐにでも治療したい気持ちをぐっと抑え、小悪魔はアストロンでボストロールの痛恨やルカナンで守備力を下げた直後の攻撃をスキップ。

 装備技で守備力リセット後、パチュリーに世界樹の葉を使って蘇らせる。

 このターンは、攻撃を自分が受ける覚悟をするが……

 

「あれっ?」

 

 ボストロールの攻撃はパチュリーに向けられた。

 

「ボストロールの判断力は最高の2。つまり私たちのようにターン開始時に行動を決定するのではなく、ターン中、行動直前に決められるのよ」

 

 それゆえに、ターン中に復活したパチュリーをターゲットとしたわけである。

 

「賢い方が戦いやすい場合もあるってことね」

 

 小悪魔が死亡すると攻略パターンが崩れる為、攻撃はなるべくパチュリーの方に行って欲しいのだ。

 

 ルカナンで守備力を下げられるが、装備技でリセット、アストロンで3ターンスキップ。

 これを繰り返す。

 

 残念ながら小悪魔の振るう草薙の剣は効かず。

 小悪魔の治療に使う薬草が切れ、ホイミに切り替えたあたり、アストロン14回目で、

 

「ぐげげげ…… お、おのれ…… うぐあーっ!!」

 

 ボストロールが沈む。

 まさに完封、完全勝利にパチュリーは、

 

「パーフェクトね、こぁ」

 

 と指示(オーダー)どおりに役目を果たした従者をねぎらう。

 それに対し小悪魔は恭しく、

 

「感謝の極み」

 

 と一礼するが、

 

「……ですが、せっかくパチュリー様があなほりで手に入れた二枚目の世界樹の葉、出番がありませんでしたね」

「そうね、安全マージンは十分にあった。つまりこの勝利は運によるものではないという証明だと思えばいいんじゃない?」

 

 まぁ、痛恨の一撃も、ルカナンで守備力を下げたところに180ポイントの攻撃力で殴る、という機会もそもそも一度も与えていないため、運が介在する余地はほぼ無い。

 よくRTA(Real Time Attack)、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競うプレイや、低レベルクリア、縛りプレイなどで「勝率は6割のところを1度でクリア」などという話も聞くが、この攻略方法では、まず負けることが無いのだ。

 こうして、

 

 

 

 パチェによってニセの王様は倒され、すぐさま本物の王様が助け出された……

 

 

 

「何ですか、このナレーション! まるでパチュリー様だけで倒したようになってますっ!?」

「あなたのサポートと回復は重要だったけれど、1ポイントたりともボストロールにはダメージを与えていないわけだし?」

 

 まあ、そうなるなという話である。

 

 

 

 そして夜が明けた!

 

 

 

「ボストロールを倒した王様の寝室に居るわけですけど……」

 

 と、小悪魔。

 

「ヒットポイント、マジックパワー共にフル回復しています。私たち、この血に染まる惨劇が起こった部屋で寝たってことですか?」

 

 部屋に出現していた宝箱から、この騒動の元となった変化の杖を回収。

 これだけの騒ぎを起こしたアイテム、正直、世界の果てにでも捨ててしまいたいような気がするが……

 

「再びここに座れるとは思わなかった。心から礼をいうぞパチェ!」

 

 と王にも感謝される。

 しかし、

 

「やっぱりパチュリー様が勇者扱いされてるー!」

 

 まあ、そうなるなという話である。

 そんな小悪魔は放って置いて、

 

「もう、コウモリやヤモリを料理しなくてもいいんです! うれしくてうれしくて……」

「その時点で、普通におかしいって気付きなさいよ」

 

 城のメイドの話に突っ込むパチュリーだった……




 ボストロールに完封勝利したパチュリー様たちでした。
 ベホイミも無い状況で二人だけで勝てるんですね、と我ながら感心したり。
 普通のパーティだと小悪魔ほど勇者のマジックパワーは多く無いでしょうけど、祈りの指輪で補えばいけそうですし、応用もできそうですよね。

 次回はエルフの里でお買い物の予定です。
 まぁ、その前に買うものが無かったのでしばらく放って置いた公平配分、精算をしておかないといけないのですが。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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エルフの隠れ里で買物する金が無い そうだ黄金の爪を盗ってきて売ろう!

「エルフの隠れ里でお買い物をするためにも、一度精算をしておかないとね」

 

 最近、装備を購入する機会が無いせいか、ずいぶんと溜まっている状態にある。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:556G

パチュリー:173417G

 

「ここから、それぞれの収入を足すと」

 

小悪魔:5506G

パチュリー:289971G

 

「5000ゴールド! ……ですけど収入にずいぶんな差が?」

「それは私の方は、あなほりで得た個人収入があるから。所持金の半額を掘り当てたり、一振り3750ゴールドの諸刃の剣を5本掘り出したりとか」

「そ、そうでしたね」

「それで、あなたは草薙の剣と賢さの種を得ているから、その売値の半額を私に払う必要がある。それと私があなほりで得た賢さの種と不幸の兜、これは全額を払ってもらう」

 

 草薙の剣の売却価格は750ゴールド、不幸の兜に至っては13ゴールドであるため、大したことにはならないのだが。

 あとは、

 

「あなほりで得た命の木の実3つ、世界樹の葉2枚、キメラの翼4つ、毒蛾の粉22個、これらは共用の消耗品扱いだから半額を負担してもらうわね」

 

 ということで、

 

小悪魔:2122G

パチュリー:293355G

 

「私は穴掘り以外で素早さの種、スタミナの種、力の種をそれぞれ一つずつもらったから、その半額をあなたに払う」

 

小悪魔:2287G

パチュリー:293190G

 

「よ、良かったです。これで不幸の兜の呪いが解けます」

 

 残ったお金で不幸の兜の呪いを教会で解く小悪魔。

 現在のレベル21×30ゴールド=630ゴールドをお布施として渡し、

 

「おお神よ、お力を! 忌まわしき呪いを、こあくまより消し去りたまえっ!」

 

 小悪魔が装備していた不幸の兜が消滅する。

 最終的に、

 

小悪魔:1657G

パチュリー:293190G

 

 となった。

 ただ、

 

「エルフの隠れ里で買い物しようにも、それじゃあ何も買えないのだけれど」

 

 ということに。

 

「うぐっ!」

 

 しかし、

 

「そういえば、まだ取っていない高額アイテムがあったわね」

 

 そんなわけで小悪魔のルーラでイシスへ。

 地獄のハサミや人食い蛾を蹴散らしながら砂漠を北上し、ピラミッドへやってきたのだ。

 中に入って通路を真っすぐ進むと、

 

「ひああぁぁぁっ!?」

 

 小悪魔の悲鳴と共に隠されていた落とし穴に落ちる。

 そこは白骨が散乱する地下で、

 

「あなほりもできないわね」

 

 呪文がかき消されるエリアなので、システム的には呪文扱いのあなほりもまたできなくなっていた。

 

「こ、これがピラミッドパワー……」

「そうなの?」

 

 おののく小悪魔と、首を傾げるパチュリー。

 

「ここからさらに、隠された階段を探して地下二階に降りるわけなんだけれど……」

 

 ミイラ男と怪しい影を倒しながら進む。

 ファミコン版と、スーパーファミコン版以降のリメイク作では隠し階段の位置が変わっているわけだが、

 

「パチュリー様、あそこ、メチャクチャ光ってます!」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしいが、隠されているはずの階段の位置がキラキラと光っているというeasy仕様。

 

「……楽だからいいのでしょうけど」

 

 釈然としない様子でパチュリーはそこを調べ、発見された階段を降りる。

 怪しい影、マミーを倒しながら進むと祭壇があり、古びた棺が祭られている。

 開けてみると、

 

「黄金の爪です!」

 

 光輝く金色の爪が入っていた!

 しかし、

 

 どこからともなく不気味な声が聞こえる……

 

「黄金の爪を奪う者に災いあれっ!」

 

 そんなわけで、帰りは1、2歩毎に敵に襲われるという状態。

 呪文がかき消されるのでリレミトで脱出することもできない。

 現れるのは、ミイラ男、マミー、大王ガマ、怪しい影だけだが、

 

「ドラクエ3では、先頭キャラのレベルが敵のモンスターレベルより10以上あれば必ず逃げることができるのだけれど」

 

 パチュリーのレベルが24、一番モンスターレベルが高いマミーでも13なのだから、必ず逃げられるはずなのだが、

 

「怪しい影が混ざるとね」

 

 怪しい影自体に設定されたモンスターレベルは10だが、逃亡の成否の判定では、中身のモンスターのレベルが参照されるのだ。

 故に、怪しい影が混じるとレベル差を利用して、ひたすら逃げるという手は使えない。

 

「まぁ、普通に倒せばいいのだけれど」

 

 パチュリーたちの実力ならそれができる。

 ほとんど反撃も受けずに一方的に倒し、その合間に小悪魔は、

 

「それにしても何で柔らかな貴金属である金なんでしょうね? ファミコン版だと武闘家の最強武器ですけど」

 

 と疑問を呈するが、

 

「そうね、エニックス公式の『アイテム物語』では金に似た物質でできているとしていたけれど」

 

 パチュリーは、そう答えてから、

 

「実は幻想郷の外の世界では鋼より硬い18金、マジックゴールドが既に作られているわ」

 

 と、自分の考えをまとめるかのように口に出しながら思考にふける。

 

「はい?」

「まぁ、18金というのは重量比で金含有率が75パーセントのものだから、通常は他の金属を混ぜて扱いやすいよう性質を変えるわけなのだけれど、マジックゴールドは発想を変えて炭化ホウ素セラミックスと呼ばれるセラミック素材のなかでも最上級に硬い素材にそれを融着させているわけ」

 

 それでも確かに金含有率が75パーセントあるから18金にはなる。

 魔法を使っているわけでは無いが、魔法でも使ったかのように硬い18金、それがマジックゴールドである。

 

「科学の力だけでも、そんなものができるのよ。それに比べれば、魔法で何とでもできるこのドラクエ世界で「金は柔らかくて武器には向かないはず」という考えに、どれだけの意味があるのか……」

 

 そう語るパチュリーだった。

 

 そして、

 

「レベルが上がったわ」

 

 戦闘を続けた結果、パチュリーはレベル25に。

 

ちから+5

すばやさ+1

たいりょく+5

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となり、さらに、

 

「力の成長上限値が上がって余裕が出たから、ストックしていた力の種を使いましょう」

 

 力を種で+3することにするが、

 

「パチュリー様、これを」

 

 小悪魔は胸元からハンカチを取り出すと、パチュリーに勧める。

 

「砂漠といっても地下はひんやりしているんですね」

「えっ? まぁそうね。砂漠の生き物は昼間、砂の中に潜っているというし、地下の温度は安定しているわ」

 

 全然関係なさそうな話を始める小悪魔に、パチュリーは首を傾げつつも答えるが、

 

「冷たく乾燥した空気でまた喘息の発作を起こされては大変ですし、これをマスク代わりに使ってください」

「ああ、なるほど」

 

 喉の保護のためにね、と納得したパチュリーは、しかし、

 

(これ、こぁの……)

 

 小悪魔の、悪魔の持つ媚毒混じりのフェロモンを鼻腔に感じ、躊躇する。

 おそらく胸元に入れておいたので、移り香となって匂いが残っているのだろう。

 だが、

 

(これを、自分で自分の口元に当てて息をするの?)

 

 問うように小悪魔を見るが、彼女はどうかしたのかときょとんとした表情で見返すだけで。

 

(い、意識し過ぎよね)

 

 そう思うが、しかし、

 

(あ、これ、絶対ダメなやつ……っ)

 

 匂い、濃すぎるっ!

 若き日の豊臣秀吉は、主君、織田信長の草履を懐に入れて温めていたという逸話があるが、同じように小悪魔はパチュリーの喉を守るため、やはり胸元……

 いや小悪魔は、このハンカチを胸の谷間に入れておいたのだ。

 これが人間なら汗臭さも感じただろうが、悪魔の体液はすべて欲情を誘う媚毒混じりのものであり、体臭もまた相手を誘惑するための、天然の香水のようなもの。

 その香り、いや魔香とも言うべきものが、ただのハンカチを、聖女すら欲情に満ちた雌獣に堕とす凶器へと変貌させていた。

 小悪魔が普段使いしているのだろう、清楚で可愛らしく、品の良いハンカチ。

 そのギャップが、

 

(エッチすぎる……)

 

 と、感じさせるものの『生粋の魔法使い』であるパチュリーは生まれつきそういったものに高い耐性を持っている上、喘息を抑える強い薬湯の常飲、魔法薬の作成、試飲を行っているため薬物には強い耐性ができている。

 薬は刺激に弱い者ほど効くし、慣れている者には効きにくい。

 コーヒー中毒の者が、カフェインに耐性を持っているように。

 

 ゆえに、この程度問題無いだろうとパチュリーは判断する、判断してしまう。

 

「それじゃ、パチュリー様」

 

 何か悩んでいた様子の主人が納得した気配を察したか、小悪魔は自分の口に力の種を放り込むと、その細い指先でくい、とパチュリーの形の良い顎を上げさせて、

 

「んっ……」

 

 唇を、そして豊かさゆえに向き合った場合には互いにぶつかる両の胸先を重ね合わせて、口移しに種を飲み込ませる。

 二人の間で、その形の良い互いの胸が押しつぶされ、形を変え……

 

「あくっ!? か、は……ぁ」

 

 遅れてパチュリーの全身に走る、筋力を短期間に増強するための筋肉痛を凝縮したような痛み。

 

「さぁ、パチュリー様、ちゃんとハンカチを口元に当てて」

 

 小悪魔はハンカチを持ったパチュリーの手を取って、その口元にハンカチを押し当てさせると、幼子に向けるような酷く優し気な微笑みを浮かべ、マッサージを始める。

 

「んん゛~!」

 

 パチュリーがくぐもった声を上げたのは痛みのせいか、マッサージの心地よさのせいか、それとも、それらの刺激を受けて小悪魔の、媚毒混じりの香りを思いっきり吸ってしまったせいなのか。

 その呼吸がパチュリーの興奮を示すかのように、フッ、フッ、フッ、と徐々に浅く、そしてせわしなくなっていく。

 それを見下ろす小悪魔は、

 

(確かにパチュリー様は悪魔の媚毒に耐性を持ってますけど、だからといってまったく意味が無いというわけでも無いんですよ)

 

 一つ一つが微弱であっても緩やかに続く快感は、小悪魔のフェロモン混じりの匂いを吸うたびに重複し蓄積していく。

 

(無限に積み重なっていくそれは、こうして連続して与えられている以上、どこまでも強い快楽となって精神(こころ)へと刻まれていくんです)

 

 こうやって小悪魔の匂いと共に快感を刷り込み、

 

(パブロフの犬、条件反射のように肉体の快楽と紐づけて脳のシナプスを繋げられてしまえば…… パチュリー様の精神自体が私の匂い好きに躾けられてしまえば……)

 

 たとえこの後、媚毒の効果が切れたとしても、パチュリーは小悪魔の体臭を求め、その匂いを嗅いだだけでどうしようもなく発情してしまう立派な匂い中毒者、いや、匂い奴隷に仕立て上げられてしまうのだ。

 

(ほらほらもっと吸って、私の匂いで身体を満たして下さいパチュリー様。そうやって、私無しには生きていけないようになってしまいましょうね)

 

 別に……

 小悪魔はパチュリーをどうこうしたくて、下克上したくてこのような主従逆転快楽調教をしているわけではない。

 仮に調教に成功しパチュリーを性奴に堕としたとしても、それが適用されるのはベッドの上でだけ、二人の間の秘め事としておさめ、日常ではちゃんと主人を立てて、あくまでも従者として仕え続けるつもりだ。

 契約を順守する悪魔の、従者としての誇りに賭けて。

 

 ただ…… 魔法の研究に集中して、休むよう進言しても聞き入れてもらえなかったり、喘息の発作を起こしても自分一人で耐えて、他者に頼ろうとはしなかったり。

 そんなパチュリーの凍り付いたように孤独な心を、自分のぬくもりで溶かしてあげたい、自分に少しでも頼るようになってほしい。

 孤高の存在であり、どうしようもなく独りなパチュリーに、従者である自分に頼って欲しくて、でも普通の手段では圧倒的力量差により振り向いてもらえないからこそ、自分の得意分野で主の心を繋ぎとめておきたい。

 そう願うからこそ、熱心に、繰り返し祈りを捧げるかのように奉仕し続けるのだ。

 

 そんなどこかずれた真摯な想いを、卓越したテクニックと共に全力で身体に叩き込まれるのだから、パチュリーもたまったものではない。

 小悪魔から与えられる痛みとない交ぜになったマッサージの快楽。

 そこに肺から吸収され、全身を犯していく小悪魔の媚毒の効果が加わり、

 

(私の匂いと指使い、大好きになるまでたっぷり味あわせてあげますね)

 

 一層激しくパチュリーを責め立てる小悪魔!

 

「フグ~ッ!?」

 

 跳ねる、パチュリーの身体。

 

(ふふふ、眼球がひっくり返りそうになるほど興奮して混乱しちゃって。可愛いですよ、パチュリー様)

 

 パチュリーの様子を、どこまでも優しい顔で見守りながらマッサージを続ける小悪魔。

 

「か…… は……」

 

 力を失うパチュリーの手。

 その口元から小悪魔のハンカチが外れかかるが、

 

「ダメですよ、パチュリー様。冷たく乾いた外気を直接吸ったら、喉に悪いです」

 

 小悪魔がすかさず当て直す。

 

(ほら、私の媚毒混じりの濃~い匂いで、身体中満たしてあげます)

 

 とばかりに再び魔香を吸わされ、

 

「ぐっ、うぐぅ……」

 

 歯を食いしばって耐えるパチュリーに、

 

「そんなに噛み締めたら、歯や顎にダメージが来てしまいますよ」

 

 と、これは真面目に、表情を曇らせながら心配する小悪魔。

 このように小悪魔の根底にはやはり、パチュリーに対する思慮、思いやりがある。

 思考のピントがずれているというか、愛情表現の方向性がおかしなだけであって、彼女は本当に、心の底から主人であるパチュリーを敬愛している。

 愛しているのだ。

 だからこそパチュリーは何だかんだと言いつつも、彼女に気を許してしまうのだが、

 

「そうだ!」

 

 と思いつく小悪魔。

 

「どうせ噛むのなら、これを噛んでいて下さい」

「や…… やめ……」

 

 と、今まで口元に当てていたハンカチをパチュリーの口の中に押し込める。

 

「ん゛む~っ!?」

 

 今まで嗅覚で感じていた小悪魔の媚毒。

 それに舌が、味覚までが犯され始めたかのように感じてしまい、喉を震わせるパチュリー。

 小悪魔は、そんなパチュリーの身体を押さえ込みながら、何を思ったか自分の服をはだけて、自分が着けていたブラを器用に抜き取ると、

 

「今、手元にこれしかないので」

 

 と、ハンカチの代わりにブラのカップをまるでマスクのようにパチュリーの口元に被せようとする!

 

(犬が主人の下着に執着を示したりするのは、主人の匂いの付いた下着がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるからですが)

 

 そう理解している小悪魔が今やろうとしているのは、己の主人であるパチュリーを犬同然に貶めようとする行為!

 

(尊厳を捨てさせてあげます、パチュリー様。無様に犬畜生に堕ちてください)

 

 パチュリーの目の前に差し出される小悪魔の下着。

 

(私が脱いだばかりのぬくもりと匂い。犬の大好物のご主人様の匂いですよ)

 

 こんなことをされてしまうなんて、という驚愕と……

 そしてその陰に在るわずかな、ある種の期待に動けず、ぶるぶると震えるパチュリーに、小悪魔は、

 

(嫌なら命じればいいんですよ。ほらほら、早くしないと)

 

 と苦笑する。

 そして動けないパチュリーの口元を、ぱふっ、と優しくブラのカップが塞いだ!

 

(はい、これでもうお終い。もうパチュリー様は完全に主人の下着をスンスン嗅いで喜ぶ犬と同じ存在に成り果てました)

 

 まぁ、口には出さずにおいてあげますが、と笑う小悪魔は、さらにブラジャーをぐるぐる巻きにして、

 

「外れないよう結んであげますね」

 

 パチュリーの頭の後ろで結ぶことで、外せなくする!

 

「ふぐ~~っ!?」

 

 こうして小悪魔のハンカチとブラジャーで、その呼吸器を塞がれてしまったパチュリー。

 その無様な姿を見下ろす小悪魔は、

 

(さぁ、ここからが本当の『調教』です)

 

 いつでも主従契約の力で小悪魔を止められるはずのパチュリーが止めなかった。

 つまりは、パチュリーは自ら望んで小悪魔の犬に成り下がったのだ!

 

 そのように理解しているから、

 

(まぁ、パチュリー様にとっては喜びの始まりなんでしょうけど……)

 

 と微笑むが、まだ辛うじて堕ちきることに抵抗を続けていたパチュリーは、

 

(ダメ…… 息止めなきゃ……)

 

 とっさに呼吸を止め耐えていた。

 しかし小悪魔は、

 

(あ、息を止めちゃって、可愛らしいけど無駄な抵抗ですね)

 

 とばかりにくすりと笑うと、マッサージを再開しつつパチュリーの耳元にささやく。

 

「今日はピラミッドに来るまで砂漠を渡らなくちゃいけなくて、すっごく暑くって、汗、かいちゃって」

「っ!?」

「その後も戦闘続きで、戦っている間、ずーっと私の胸の谷間や胸下の匂いを吸って、ムレムレだったんですよ、そのブラジャー」

 

 でも、冷たく乾燥した空気が喉に悪いなら、暖かく湿った自分の下着越しの空気は喉に優しいはず。

 そして他者のぬくもりと匂いは精神を落ち着かせ、心因性の喘息の誘発を抑えてくれる。

 そう気遣う小悪魔の言葉に嘘はない。

 しかし、熱く濡れた声と共に耳元に流し込まれた毒に、パチュリーは、

 

(そ、そんなの…… 脳が蕩けそうになるほど、エッチな匂いに決まってるっ)

 

 嗅いでしまったらどうなってしまうのかという未知の恐怖と、裏腹に感じる好奇心にも似た何か。

 ずっと息を止めたままでも居られないし、という自分に対する言い訳。

 そして、ちょっとだけなら、とすぅ、と吸ってしまった瞬間!

 

「~~っ!!!?」

 

 若鮎のようにビクンビクンと勝手に跳ねる身体。

 

(~~ダメ……っ! これ以上吸っちゃっ! でもっ! 酸素がっ! 息が続かないしっ!)

 

 ひたすら混乱するパチュリー。

 それを見下ろす小悪魔は、

 

(自分から吸ってしまったのでは、もう元には戻れませんね)

 

 と満足げに笑う。

 

(これからどんどん恥辱の底に堕としてあげますから……)

 

 そのように考え、パチュリーを仕上げにかかる小悪魔。

 

「匂い好き、匂いフェチは、精神医学においては性的倒錯、パラフィリアに分類される精神疾患とされるんですけど」

 

 もう、自分の話も聞けていないだろうパチュリーに本当に、本当に優しく微笑みながら語りかけ、

 

「パチュリー様のその病気、私が完成させてあげますね」

 

 パチュリーの身体に手足を絡め、その動きを、快感の逃げ場を封じた上で、止めとばかりに快楽のツボに、グリリとその指先をねじ込む。

 

「ふぐぅ~~っ!!!!」

 

 口腔内に押し込められたハンカチと、口元に巻かれた小悪魔のブラジャー越しに、くぐもった絶叫を上げるパチュリー!!

 

「ふふふ、法悦と共に飼い主の匂いを覚えさせる。効果はてきめんのようですね」

 

 その言葉のとおり、飼い犬を見守るかのような微笑みを浮かべる小悪魔だった……

 

 

 

 そしてパチュリーのステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:25

 

ちから:125

すばやさ:95

たいりょく:134

かしこさ:34

うんのよさ:46/96

最大HP:265

最大MP:66

こうげき力:250/182

しゅび力:137/127/117

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

「……主人として、いえ、ヒトとしての尊厳を失った気がするわ」

「そうなんですか?」

 

 ブラジャーを付け直しながら本当に不思議そうに首を傾げる小悪魔に、何言ってんだこいつ、と、拳を握り締めるパチュリーだったが、

 

「でも、パチュリー様のご健康とは引き換えにできないですよね」

 

 そう、邪気の無い笑顔で言われて、

 

「はぁ……」

 

 とため息と共に脱力する。

 そんなパチュリーに、小悪魔は改まった顔をして、

 

「私はパチュリー様の忠実な僕。どうかこれからも、ずっとご健康で、末永く私と共に在って欲しいと願わずには居られません」

 

 と告げる。

 

「まるで求愛、プロポーズの言葉みたいね」

 

 パチュリーはそう茶化してみるが、小悪魔は、

 

「そうですよ」

 

 と真顔で答える。

 それが…… 彼女の愛の形なのだろう。

 表現方法と、手段が酷く歪であったとしても。

 

「はぁ……」

 

 重ねて吐かれたパチュリーのため息には、どうしようもない脱力感と、諦めの気配が混じっていた。

 

 ……そんな風に、何だかんだ言って許してしまうから、甘いからダメなのだが。

 

 

 

 さらに戦闘を続けると、

 

「私もレベルアップです!」

 

 小悪魔のレベルが上がった。

 

ちから+3

すばやさ+2

たいりょく+4

かしこさ+2

うんのよさ+4

 

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:22

 

ちから:75

すばやさ:142

たいりょく:76

かしこさ:60

うんのよさ:54

最大HP:151

最大MP:119

こうげき力:142/115

しゅび力:183/176/173

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という結果に。

 そしてピラミッドを脱出。

 ファミコン版とは違いリメイクでは黄金の爪の呪いはピラミッド限定なので、その後の行動に問題は無く、

 

「それじゃあ、エルフの隠れ里にお買い物に行きましょうか」

 

 小悪魔のルーラでエジンベアに跳んだ後、海を渡ってエルフの隠れ里へ。

 上陸後に現れたさまよう鎧とアニマルゾンビを蹴散らしながら到着。

 

 変化の杖を欲しがっているグリンラッドの老人に渡す前に、ぜひとも訪れたいのがここ、エルフの隠れ里にある道具屋。

 人間は相手にしてくれないのだが、変化の杖を使って変身すれば売ってくれるのだ。

 

「それじゃあ、変化の杖を使って…… スライムに変身したわ」

 

 これでエルフの道具屋が、ものを売ってくれるようになる。

 スライムに……

 

「なんでですか」

 

 と小悪魔がツッコむが、よくわからない。

 他のエルフに話しかけると、

 

「姿を変えても、私たちには分かります」

 

 という風に見破られているのだが、道具屋のエルフだけは違うらしい。

 

「きっとエルフにも色々あるんですね。ふし穴Eyeの持ち主とか」

「どういう言い回しよ、それ」

 

 という話だが、確かにホビットの姿になると油断するのか女王以外には気付かれない様子なので、個人差はあるのか。

 もしくは、

 

「商売のため、気付かないふりをしてくれているだけなのかも知れないわね」

 

 ということ。

 小悪魔は、なるほどとうなずいて、

 

「R指定のエッチな本を買いに来た未成年の少年少女に、見て見ぬふりで売ってくれる優しい店主さんみたいなものですね」

 

 と納得する。

 パチュリーはというと、使い魔の発言に、

 

「何で、例えまで一々そっちの方に結びつけるのよ!」

 

 とツッコまざるを得ない。

 しかし小悪魔は何かを思いついた様子で、そうだとばかりに胸前でぱちんと両手を合わせて、

 

「エルフがスライムに売ってくれるのはエッチな目的があるからなのかも知れません。エルフは繊細な種族。同様に『喘息持ちでデリケートな魔女が、身体に負担をかけないよう、スライムを使ってソフトな刺激で自分を慰める』という本がこの間、入りまして……」

「何その不純な意思を感じさせるピンポイントな内容!? だいたい図書館の蔵書に、そういう卑猥な本を混ぜるのは止めなさいって言ったわよね!!」

 

 悲鳴にも似た声を上げるパチュリーだったが、

 

「使い魔の何気ない発言に色香を感じ、その蠱惑的な肉体を前に滾る気持ちを抑えきれずガッツくように突っ込み続けるパチュリー様、いい……」

 

 うっとりと目を細めながら悦に入る小悪魔(ヘンタイ)

 

「言い方ァ!」

 

 このアホを悦ばすだけだとは知りつつも、しかしツッコまずにはいられないパチュリーなのだった……

 

 ともあれ、ここで売られているのは天使のローブ、祈りの指輪、モーニングスター、眠りの杖、黄金のティアラ、優しくなれる本。

 モーニングスターはバハラタ等でも買えるし、黄金のティアラは性格を『おじょうさま』に変えてくれる装飾品だが、イシスの宝物庫で既出。

 その他の品はと言うと、

 

「天使のローブはファミコン版の公式ガイドブックでは天使の羽で織られた聖なるローブと説明されていたものね。守備力+35、魔法使い、僧侶、賢者が利用できる防具で、ザキ系の死の呪文の命中率を1/2にする効果があると言われているわ」

 

 この後挑むネクロゴンドの洞窟、そしてバラモス城で出現するホロゴーストはザキ、ザラキの使い手であり、時期的にもちょうど役立つものだ。

 ここで買い逃すとファミコン版ならバラモス討伐後、ラダトームに行くまで買えなくなる。

 スーパーファミコン版以降のリメイク作では商人の街を第5段階まで進めると買えるという救済措置があるが、それでもネクロゴンドの洞窟には間に合わなくなるというもの。

 

「魔法使いにとってはマイラで水の羽衣を購入するまでの長い間、最高の守備力を持つものよ」

「なるほど」

 

 もっともリメイクの場合、女魔法使いには、先にドムドーラに行けば魔法のビキニが手に入るが。

 

「僧侶、賢者には守備力+40、魔法のダメージ減の魔法の鎧があるので迷うところだけれど、ファミコン版では公式ガイドブックにも掲載されていた有名な裏技『防御攻撃』があるから」

 

 戦闘時のコマンドで『ぼうぎょ』を選択した後にBボタンでキャンセルする。

 その後『たたかう』や『じゅもん』を選択し直すと、何故か防御状態のまま行動できてしまうというもの。

 これにより、あらゆる攻撃のダメージが半減する。

 

「でもこの裏技もザキ、ザラキには無力だから、その弱点をカバーできる天使のローブをあえて使うというのもアリなの」

 

 何しろ、

 

「ザキ、ザラキが効く確率はリメイクではかなり下げられている…… 逆に言うとファミコン版では結構な率で効くということだから、安心を買うために装備させるというのは悪い選択ではないわ」

 

 という話だし。

 

「スーパーファミコン版以降のリメイク作では『防御攻撃』の技は無くなってしまったけど、戦闘中の装備変更が可能だから相手に合わせて切り替える、という手が使えるし」

 

 だからリメイクでも買ってもいいものではある。

 パチュリーのように資金が潤沢なら、という話ではあるが。

 

 そしてパチュリーは売り物の本を手に取って調べる。

 

「優しくなれる本は、優しさと思いやり、他人へのいたわりの心について書かれた、性格を『やさしいひと』に変えてくれる本よ」

 

 しかし、

 

「この里のエルフは人間に対しては優しくないですよね」

 

 と小悪魔の言うとおり。

 

「売り物にするくらいなら自分たちも読んで欲しいところよね」

 

 そういう話である。

 

「『やさしいひと』はマイナス補正が少なくて、あまりクセのない使いやすい性格だから、性格が良くないメンバー……」

 

 パチュリーは視線を向けると、洗脳調教の恐怖にプルプル震えだす小悪魔を尻目に、

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だとすごろく場で酷い性格に変えられてしまった、などといった場合には安価に、いくらでも手に入るここで変えてしまうのも良いんでしょうね」

 

 と語る。

 ここ以外ではメルキドの街で一冊入手できるのと、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版なら第5のすごろく場でも入手は可能だが。

 

 次は、

 

「眠りの杖はその名の通り、ラリホーの効果を持つ杖よ。攻撃力+30で魔法使い、僧侶、賢者が使える武器だけど、他の職業でも道具として利用が可能」

 

 つまり、

 

「ラリホーの呪文が使えないメンバーに持たせるも良し、マジックパワー節約のためにラリホーが使えるメンバーに持たせても良し。人数分買ってもいいくらいのものね」

 

 ということ。

 ただし、4200ゴールドと値は張るが。

 

「あとは、イシスの女王様からももらった祈りの指輪が2500ゴールドで購入できるわ」

 

 こちらは消耗品なので、できるだけ買っておくべきなのだろうが……

 それゆえ、ピラミッドで手に入れた黄金の爪を売って資金を作る。

 黄金の爪は、

 

「6000ゴールドで売れました!」

 

 ということだが、

 

(ファミコン版だと11250ゴールドで売れたのだけれど)

 

 小悪魔の喜びに水を差すのもアレなので言わないが。

 結果、二人の所持金は、

 

小悪魔:7862G

パチュリー:299395G

 

 小悪魔は眠りの杖と、祈りの指輪を一つだけ購入。

 パチュリーには祈りの指輪は必要無いので眠りの杖を買うだけで済むのだが、この場を逃したらもう買うこともできないのだし、

 

「以前、あなほりで祈りの指輪を拾った時に話したとおり、私のお金で買っておいて必要時に都度、私からあなたに売るということにしてあげるわ」

 

 と、祈りの指輪9個も購入する。

 

 でもそれって根本的な解決にはなりませんよね? という意見もあるが、実はそうでもない。

 

 幻想郷の外の世界…… ドラゴンクエストが生まれた日本ではデフレが長く続いているせいで実感が湧きづらいが、通常はモノの値段は時間の推移と共に上昇する。

 すなわちインフレが進むため、10年後の一万円は、現在の一万円より確実に価値は下がるわけだ。

 そしてドラクエの世界では現実以上にインフレがガンガン進むので、そういう場合は支払いを後回しにできると有利になる。

 序盤の500ゴールドは大金でも、現在では、はした金になっているように。

 

 さらに言えば、使わなければ支払われないので、パチュリーが不良在庫を抱え込むリスクすら負担してくれているわけで、到底釣り合わない取引だったりする。

 こうして眠りの杖と祈りの指輪9個を買い求めるパチュリー。

 それでも所持金は、

 

小悪魔:1162G

パチュリー:272695G

 

 ……パチュリーの懐はまったく痛む気配が無いのだった。




> ただ…… 魔法の研究に集中して、休むよう進言しても聞き入れてもらえなかったり、喘息の発作を起こしても自分一人で耐えて、他者に頼ろうとはしかったり。
> そんなパチュリーの凍り付いたように孤独な心を、自分のぬくもりで溶かしてあげたい、自分に少しでも頼るようになってほしい。

 と健気に、健全でおさまる範囲でのマッサージで、全力を尽くしてご奉仕する小悪魔。
 純愛ですね。

 次回は幽霊船にチャレンジの予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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うるせぇ、愛の思い出ぶつけんぞ

 次はグリンラッドに住んでいる変化老人の家に向かう。

 エジンベアへと小悪魔のルーラで跳んだ後、船で西へ。

 現れたマーマンを蹴散らしながらグリンラッドへ到着。

 上陸すると、雪原上にぽつんと不自然に存在する草原、そこに足を踏み入れる。

 

「一見、何も無いように思える原っぱですし、真っすぐ北に向かうと突き抜けるだけですが……」

「東北方向に向かうとやがて家が見つかるのよね」

 

 そこが変化老人と呼ばれる人物の住まう場所であり訪ねると、

 

「おお! それは変化のつえ! わしも欲しかったのじゃ。ものは相談じゃが、この船乗りの骨とつえをとりかえっこせぬか?」

「はい」

「なんとまことか!? なんでも言ってみるものじゃ。では船乗りの骨をわたそう!」

 

 変化の杖を船乗りの骨と交換した!

 

「いやー! ありがたい! わっはっはっ」

 

 と笑う老人だったが、

 

「……あやしい」

 

 と小悪魔が言うので、いったん出てから戻って様子を見ることに。

 建物の外に出るだけでなく、この草原からいったん世界マップ上まで出ないといけないのが面倒なのだが。

 そうして再び訪れた家には、場違いにもバニーガールの姿が!

 

「あら~ん、いらっしゃ~い。よく来てくれたわねん。待ってたわよ☆」

 

 などとしなだれるが、ボフン、とその姿が変化し、

 

「な~んての。わしじゃよわし。わっはっはっ!」

 

 と元の老人の姿に戻った後に再び変化し、

 

「あら~ん、いらっしゃ~い。よく来てくれたわねん。待ってたわよ☆」

 

 とノリノリで演技を繰り返す。

 

「……いやぁ、キッツいですね」

「あなたが確かめたいなんて言うから」

 

 げんなりする二人。

 なお、老人はバニーガールだけではなく、踊り子、緑服の女性にピンク服のリボンの女性にも化けて、同じセリフを言う。

 

 神父、吟遊詩人、商人、若い男だと、

 

「おやいらっしゃい。こんなところにお客さんとは珍しいですね」

 

 王様、大臣、兵士、囚人、あらくれ、武人だと、

 

「なんだお前らは! 人の家に勝手に入って来るな!」

 

 ……普通、民家に抜身の剣を持った勇者一行が入ってきたら、そういう反応をするよな、というセリフを吐く。

 そして骸骨、スライム、怪物の姿だと、

 

「人間だ! 人間が来たぞ! やっつけろっ、ガオー!!」

 

 と脅すことになる。

 

「……スーの村の住人からは「偉大なる魔法使い」と呼ばれていた人物ですよね?」

 

 確かにパチュリーたちだとランダムに、限られた姿にしか変化できなかったが、この老人はさらに別の姿になれる上、自分の意志で選択できる様子なので能力的には凄いのだろうが、

 

「ルザミに住んでいる学者からは「おかしな老人」扱いされていたから」

 

 性格面では妙なノリの持ち主ということなのだろう。

 

 船乗りの骨を譲り受けたので、小悪魔のルーラで幽霊船の出現場所に近いロマリアへと跳ぶ。

 海に乗り出し、船乗りの骨が指し示す南東の方角を目指すとやがて幽霊船が現れる。

 接舷して乗り込むわけだが、

 

「どんな嵐が来ようと、わしの船はぜったいに沈まないのだ! わはははは!」

 

「確かに沈んではいないけど…… 似たようなものよね」

「が、骸骨が~っ」

 

 幽霊船では、骸骨と亡霊が未だに船を操っているのだ。

 

「船の舵は勝手に動いてますし……」

 

 舵輪がひとりでに動く上甲板を船尾の方に進むと、小部屋の中に魔物の姿があった。

 

「ひひひっ…… 幽霊船にはしかばねがふさわしかろう。おまえも死ぬがいい!」

 

 ミニデーモンが攻撃してくるが、大きな口を叩く割にパチュリーが正義のそろばんで1発殴っただけであっさり昇天。

 部屋のタルからは小さなメダルが手に入った。

 

 さらに進むと、

 

「腐った死体です!」

 

 幽霊船らしく腐った死体が4体の集団で襲い掛かって来る。

 小悪魔の雷の杖、パチュリーの炎のブーメランが唸るが、

 

「さすがに倒しきれない?」

 

 腐った死体の最大ヒットポイントは98。

 ブーメランやムチは最初に命中した敵から順にダメージを減じるものなので、最後の一体が生き残ったが、腐った死体は1/8の確率で行う『様子を見る』でこのターンを終わらせてしまう。

 そして、

 

「止めです!」

 

 小悪魔のゾンビキラーがその力で最後の一体を浄化するのだった。

 そして船尾の船長室らしき部屋に入ると、そこには人影が、

 

「おや? あなたは亡霊ではなさそうだ。さてはあなたも財宝がお目当てですね」

 

 生きた人間が居ると思ったら、トレジャーハンティングのためにこの船に乗り込んだ冒険者らしい。

 しかし、

 

「でも、この船に居るのは亡霊ばかり…… 参りましたよ」

 

 と言うように、思うように成果は上げられていないらしい。

 パチュリーたちは男と別れると階段を降り、船内へ。

 

「船をこぐのは、ドレイか罪人の仕事なのさ」

 

 未だにオールをこぐ白骨が語る。

 骸骨たちは、

 

「つれーよお……」

「おれたちゃドレイよ! ギーコギコ!」

「死んじまってても、船がこげるなんて知らなかったよ。ハハハ……」

 

 そう言いながらも、オールをこぎ続ける。

 中には囚人服を着た男が倒れているが、話しかけても返事が無い。

 ただの屍のようだ……

 

 さらには苦しげに歪む人の顔が写り込んだ青白い人魂たち、

 

「愚者火(イグニス・ファトゥス)、または松明持ちのウィリアム(ウィル・オ・ウィスプ)ね」

 

 生前罪を犯したために昇天しきれず現世を彷徨う魂。

 英国の伝承では天国にも地獄にも行くことを拒まれた男に、哀れんだ悪魔が渡した燃えさしの石炭、その灯だとも言われている。

 それらが、

 

「あ、嵐が来る…… 嵐が… 波が…… ああ!」

 

 と叫び、

 

「おぼれて死ぬのは苦しい……」

 

 そう語る。

 しかし自分が死んだことに気付いていないのだろう、

 

「いやだ! 死にたくねえよお!」

 

 と絶叫する。

 

「呟きから急に大声出すの止めてもらえませんかねぇ! 心臓に悪過ぎます!」

「悪魔なのに?」

「悪魔がみんな、ホラーな展開に耐性を持っていると思ったら大間違いですよっ!?」

 

 涙目で叫ぶ小悪魔だった。

 

 亡霊の中には、囚人の姿を保った者も居て、

 

「おら、人を殺しちまったでな。どんな死にかたしたって、しかたねえって思うだよ。

 でも、そこにいたエリックてやつは無罪の罪だったって… かわいそうになあ……」

 

 と教えてくれるその先には、無実の罪でここに繋がれ息絶えたエリックの姿があった。

 

「オリビア…… もう船が沈んでしまう……

 キミにはもう永遠に会えなくなるんだね……

 でもぼくは永遠に忘れないよ…… キミとの愛の思い出を……

 せめてキミだけは…… 幸せに生きておくれ……」

 

 船内を探すと、エリックと恋人の思い出のペンダント『愛の思い出』が手に入る。

 

「悲恋よね」

 

 そしてガニラスや痺れクラゲといった海モンスターを蹴散らしながら見つけた倉庫の宝箱からは、毒針、ゴールド、それから満月草が手に入った。

 

「この満月草が入っていた宝箱には、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券が入っていたのだけれど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 すごろく場が無いため、代わりにここで出る痺れクラゲ対策か、マヒを治療する満月草が入っているのだった。

 

「パチュリー様、まだ一つ宝箱が残ってますよね」

「ああ、それミミックだから」

 

 ミミックが混じっているので注意が必要だが。

 同じ倉庫内のタルからは小さなメダル、ツボからは力の種を手に入れる。

 また、別の船室のタンスからはガーターベルトが見つかった。

 

「パチュリー様、パチュリー様、ふふ、聞いて下さい」

「聞かないわ。どうせエッチな話でしょう」

「何を勘違いされているか知りませんが、ガーターの話です」

「してないわ、何も勘違いなんかしていないわ」

 

 靴下、ストッキング止めのガーター、日本のサブカルチャー界隈ではドラクエにも登場しているガーターベルトが有名だが、その他に太ももに巻いて押さえるガーターリングなどもある。

 

「英国の最高位の勲章はブルーリボン、ガーター勲章じゃないですか。ガーター騎士団に由来する」

 

 コンピューターRPGの元祖『ウィザードリィ#1』にも、そのブルーリボンという名称で登場する重要アイテムである。

 

「あら、あなたにしてはまとも……」

「それで、そのいわれなんですけど、エドワード3世が舞踏会で後のエドワード黒太子妃とダンスを踊っていたとき、彼女のガーターが外れて落ちた」

 

 これは当時恥ずかしい不作法とされていたので、周囲からは嘲笑された。

 

「でもエドワード3世はそれを拾い上げ「悪意を抱く者に災いあれ(Honi soit qui mal y pense)」と言って自分の左足に付けたという逸話があって……」

 

 さぁ、話が怪しくなってきたぞ、と警戒するパチュリー。

 

「凄いですよね、下着に準じる品であるガーター、それも高貴な女性がスカートの下に身に着けていたものを拾って自分の足に堂々と巻いて見せる王様! それを由来とする騎士団、そして自国の最高位の勲章にしてしまうっていう!」

 

 小悪魔は興奮した様子で告げる。

 見方を変えるとちょっとアレな風にも思えるのは分かるが、全力で英国にケンカを売りかねない発言に冷や汗が止まらないパチュリー。

 

「その逸話は伝説に過ぎないとも言われているから……」

「それじゃあ聖ジョージ、つまり聖ゲオルギウスが竜から姫を助けた、その後、姫の帯を借りて竜の首に巻いて従えたという伝説にちなんで、リチャード獅子心王が十字軍の時に戦場でガーターを付け、部下にもつけさせたっていうパワハラかつセクハラな故事(※個人の感想です)からきたとする説……」

「そこまでよ!」

 

 小悪魔の発言を遮るパチュリー。

 彼女でなければ「やめないか!」と叫んで平手打ちしてしまいそうな状況である。

 

「はぁ…… さっさと帰りましょう」

 

 ため息交じりに言うパチュリー。

 小悪魔のルーラで、ランシールへと跳ぶ。

 

「あれ? ルーラで跳べるんですね」

「そうね、幽霊船のマップはダンジョン扱いになっていないの。だから逆にリレミトは使えないのよ」

 

 ランシールから船に乗り南下。

 途中、海洋のモンスターたちを蹴散らしながら進む。

 ホビットのほこらでエンカウントまでの歩数カウントをリセットし、大河を進み内陸へ。

 山地に囲まれた竜の女王の城を横目に進み、オリビアの岬へ。

 途中、ガメゴン二匹に襲われるが、

 

「眠りの杖です!」

 

 小悪魔は眠りの杖をガメゴンに振りかざした!

 甘い香りが敵を包む。

 

 小悪魔がエルフの里で購入した眠りの杖を使用し、二匹とも睡眠状態に。

 パチュリーは正義のそろばんの一撃で一匹を倒し、次のターンでまだ眠っているガメゴンに止めを刺す。

 

「あら、宝箱を持っていたわね」

 

 鉄兜をゲット。

 これはガメゴンが1/64の確率でドロップするアイテムだ。

 そして、オリビアの岬を通過しようとすると、どこからともなく悲しげな歌声が聞こえる……

 それと共に船が押し戻された。

 

「船乗りを惑わす歌声というとサイレンかしら?」

 

 そう考察するパチュリーと、

 

「恋人を行かせまいとする心が、船を押しとどめるんでしょうか」

 

 わかります、とこちらもねっとりとした執着心がこもった視線をパチュリーに向ける小悪魔。

 しかしパチュリーはというと、

 

「迷惑だから、どこかよそでやって、よそで、って感じね」

 

 と素っ気無い。

 そうして「うるせぇ、愛の思い出ぶつけんぞ」とばかりにエリックの『愛の思い出』をオリビアの亡霊に使用するパチュリー。

 するとエリックとオリビア二人の愛の思い出が辺りを温かく包む。

 死に引き裂かれた二人の魂が再会し、

 

「ああエリック! わたしの愛しき人。あなたをずっと待っていたわ」

「オリビア、ぼくのオリビア。もう君を離さない!」

「エリックーッ!」

 

 光に包まれ、くるくる回りながら昇天する二人。

 

「……バハラタのタニアとグプタもそうだったけど、この世界の恋人たちってくるくる回るのが愛情表現なのかしら?」

「回るな、回るなーっ、ってやつですね」

 

 スーパーファミコン版でリメイクするにあたり追加された演出なので1996年当時は、これがトレンドだったのかもしれない。

 何しろ同年放送された人気ファンタジーラノベのアニメ化作品『スレイヤーズNEXT』では最終回、ヒロインである、()()()()()()()()()()がガウリィと空中で抱き合い、光の中くるくる回り続けるという演出がされ、視聴者からツッコミの嵐を受けていたのだし。

 

 ともあれ……

 

 オリビアの呪いが解けた!

 

 しかし、

 

「素直に感動できず、見てて恥ずかしいって思う私の心がスレてるのかしら?」

「もう、パチュリー様、ロマンが足りないですよっ!」

「足りなくていいから。少なくとも私にはあんな真似、死んでも無理だわ」

「そう言う人に限って、自分の時はバカップルになるんですよね…… しかも自覚無しで」

「何か言った?」

「いいえ、なんにも」

 

 そんなことを言い合う主従。

 

 岬からそう遠くないところにある島に上陸。

 そこにあったほこらに入ると、

 

「また火の玉です!」

「こちらは赤い火ね。幽霊船のものと違って人の顔が浮かんだりしていないし」

 

 そして人魂は告げる。

 

「ここはさびしい、ほこらの牢獄……」

 

「ヒェッ!「ここは○○のまちです」キャラが人魂って何ですか!」

 

 ビビッてパチュリーにすがりつく小悪魔。

 ムニムニと押し付けられる無駄に柔らかな胸を、しかしパチュリーは無視して、

 

「剣士サイモンがここへ幽閉されたって話だったけれど」

 

 と探索する。

 小さなメダルが牢のツボから拾うことができたが、中の人間はすべて死に絶えており、

 

「私はサイモンの魂。私のしかばねのそばを調べよ……」

 

 そう告げられたとおり、サイモンの亡骸のそばを探してガイアの剣を手に入れる。

 

「なんでまた全滅してるんですかね?」

「オリビアの呪いのせいで、食料品を運ぶ船がこの島に来れなくなったせい、とも言われているわね」

「ええー、それって……」

 

 げんなりした様子の小悪魔。

 

「「エリックだかなんだかしらねーが、オレたちゃ迷惑だ!」「どっかよそでやれ、よそで!!」ってお話ですよね」

「……まぁ、そうなるわね」

 

 微妙な顔になる主従だった。




 オリビア撃破!
 亡霊尽くしな回でした。
 小悪魔の危ない発言もありましたが、まぁ(※個人の感想です)ってことで。

 次回はネクロゴンドの洞窟へ向かう船内という密室空間で『監獄戦艦』とか『ヴィクトワール』じみたプレイに耽るパチュリー様と小悪魔の予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ネクロゴンドの洞窟へ 船に隠されていた奴隷調教部屋にて

 ネクロゴンドを目指し、小悪魔のルーラで跳んだアッサラームから船で南下する。

 途中、ヘルコンドルに襲われ撃退すると、

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーはレベル26に。

 

ちから+3

すばやさ+3

たいりょく+5

かしこさ+2

 

 となり、さらに、

 

「力の成長上限値が上がって余裕が出たから、ストックしていた力の種を使いましょう」

 

 と、いうことになったが……

 

 

 

「一体どういうことなの、小悪魔っ! 私を鎖でつなぐなんてっ!」

 

 ジャラジャラとパチュリーの手足を拘束する鎖が鳴る。

 

「ふふふ、怖いですね、パチュリー様。怖いですから……」

 

 小悪魔は嗜虐的な笑みを浮かべながら手錠の鎖を握る手に力を込め、ぐい、とパチュリーを引き寄せる。

 

「っ!?」

 

 使い魔に力づくでいうことを聞かせられる、乱暴に扱われるという想定外のことに不意を突かれたパチュリーは、つんのめるようにして身体を泳がせる。

 意図せず、小悪魔の胸元に飛び込むような形になったパチュリー、その耳元に、

 

「後でお仕置きしようとする気も起きなくなるくらい、徹底的に堕としてあげないといけないですね!」

 

 とささやく小悪魔。

 

「くぅ……」

 

 そうしてパチュリーが連れ込まれたのは、

 

「なっ!?」

 

 木馬、磔台、滑車……

 中世の拷問部屋かとも思えるような、様々な拘束具や責め具が並ぶ船室。

 

「なに、この部屋……」

 

 今までその存在に気付いていなかったパチュリーだったが、

 

「どのような目的で使われたのか、興味深いですよね」

 

 と妖艶に微笑む小悪魔に、ぞくりと背筋を震わせる。

 

 この船はポルトガの王から託されたものだが、現実の歴史に照らし合わせてみれば想像がつく。

 ジパング…… 日本への航路が開かれ、宣教師が派遣されていた時代、ポルトガルは奴隷貿易を行っていて、性的な目的で多数の日本人の奴隷の少女を買い取り自国に連れ帰っていたという記録さえ残されている。

 ここはそういう用途のために作られた調教部屋、いわゆるプレイルームである。

 

「ぁ……こ、これ……」

 

 これからたっぷりと自分の汗と悲鳴を吸うことになるだろう責め具の数々に、圧倒されたように震えるパチュリー。

 

「さぁ、パチュリー様」

「あっ!」

 

 パチュリーは小悪魔に黒革の手錠とそれを繋ぐ鎖に拘束された手を引かれ、数々の淫具の中で場違いに可愛らしく思えるもの、ポニーサイズの革張りの馬に乗せられてしまう。

 両手を戒める手錠の鎖をその首に通され、足首の鎖は馬の胴体に繋ぎ直されて、馬の背にまたがり、その首筋に縋りつきながら無防備に尻を突き出すという姿勢を強要させられる。

 革の感触は悪くなく拘束感は少な目、苦しさも無いが、手足を繋がれているためまったく抵抗できない状況。

 お馬さんに抱きついて、息をするのが精一杯。

 そんな状態になってしまっている。

 

「ふふ……」

 

 ほくそ笑む小悪魔。

 こんなことをされてしまうの!? というような強いショックを与えて頭が真っ白になったところに素早くつけ込み、パチュリーが気付いた時にはどうしようもない状況に追い込んでしまう。

「でもパチュリー様も抵抗しなかったですよね?」という免罪符を同時に手に入れながら。

 それが小悪魔のやり口だ。

 

 パチュリーのように頭の良い者は、そう言われると効果的な反論ができない。

 いや、無茶苦茶な言いがかりに、真面目に、理論的に反論しようとするからこそ、この手の偽計に乗ってしまうのだ。

 

「いい格好ですよ、パチュリー様」

 

 小悪魔はそう笑うと自分の口に力の種を放り込み、その唇をパチュリーに合わせ、口移しに流し込む。

 

「くっ、はぁっ!?」

 

 パチュリーの身体に走る、筋力を短期間に増強させるための、筋肉痛を凝縮したような痛み。

 そこに加えられる、小悪魔の淫猥なマッサージ。

 

 パチュリーの敏感で感じやすい身体の中で、いつ果てるとも知れない被虐と悦楽の宴がおごそかに始まった。

 痛みと、快感。

 二つの性格の違う刺激が加えられる悦虐は、パチュリーの中で一つに混ぜ合わされ、知ってはいけない快楽を生じさせ、意識を真っ白に染め上げて行く。

 

「あ、かはっ、く……っ」

 

 パチュリーは自分が拘束された革張りの馬…… 馬拘束台と呼ばれる責め具、その首筋に自分から抱き着くようにして耐えることになる。

 

「あらあらパチュリー様、そんなにそのお馬さんが気に入りましたか? 自分から胸をすり潰す様に、腰を擦りつけるようにして抱き着いちゃって」

 

 小悪魔はパチュリーを嬲るように、耳元に熱い吐息交じりの言葉を吹き込む。

 人が聴覚などへの刺激によって感じる、心地良い、背筋がゾワゾワするといった反応、感覚をASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)と呼ぶ。

 自律感覚絶頂反応とも訳されるこれを利用した催眠音声作品などが幻想郷の外の世界では作成されている。

 ヘッドフォンやイヤフォンなどで聞くと、あたかもその場に居合わせたかのような臨場感を再現できるというバイノーラル録音を使って、まるで耳元でささやかれているような感覚を与えることから『バイノーラル催眠音声』などと呼ばれているものだが……

 

 小悪魔に、これを直に、生で味あわされてしまったパチュリーは、ぞわぞわと、背筋がむずがゆくなるような刺激にイヤイヤとでもいうように首を振るが、もちろん拘束された身体は逃げられない。

 それゆえ揶揄されようとも小悪魔の責めに耐えるため、ますます馬の首に、背に縋りつくことになってしまう。

 どこかに行ってしまいそうになる意識(こころ)肉体(からだ)

 それを繋ぎとめるために。

 

「ふふふ、安心感が凄いでしょう、この馬拘束台」

 

 子馬、ポニーサイズではあるものの、どっしりとした、自分より大きなものに縋りつくことができる、身体を預けることができる安心感は、今、この瞬間は何物にも代えがたい価値を持っているように感じられる。

 ゆえに、

 

「心置きなくプレイに集中できますものね」

 

 と、小悪魔が言うとおりの効果を与えていた。

 反論しようにも、それを封じるかのように快楽のツボに指を差し込まれ、

 

「お、おお……」

 

 舌を突き出して、痙攣するように喘ぐパチュリー。

 

「それに無様なアヘ顔を晒したとしても私からは見えませんし」

 

 背中越しに言われた言葉に、はっと顔を上げたパチュリーは見た。

 惰弱に、許しを哀願するかのように潤み切った瞳に、無様に引き攣り崩れた口元。

 それが壁面の鏡に映っている様を。

 

「あ、ああ……」

 

 しかし小悪魔はそれに気付いた様子はない。

 そう、偶然か、それとも意図的にそうなっているのか、鏡は拘束され、責められているパチュリーだけにしか見えない位置と角度に固定されていた。

 まるで安心して無様を晒す自分に興奮して良いのだと、精神的な自慰にも等しい自虐にふけって悦ぼうとも、小悪魔にも、いや誰にも知られることはない、見とがめられることは無いのだとでもいうように。

 

(こ、こんなのず、るい……)

 

 ヒトは誘惑に弱いものだ。

 他人にばれないという状況下で、飴を差し出されてぐらつかない者はまれだ。

 そして……

 

「うぁっ、あ、ぁぁぁぁ……」

 

 痛みと快楽に耐えるため、馬に縋りついていたパチュリーだったが、それがいつの間にか快楽を得るためのものにすり替わっていないだろうか?

 胸の先を、下腹部を、自分の身体を慰めるために、押し付けてはいないだろうか?

 それに気づいて思わず腰が、身体が離れようとする瞬間、

 

「あ゛ぅん……」

 

 見澄ましたかのように小悪魔の指先が快楽のツボを抉り、パチュリーの身体はまた馬へと縋りつくことを強制させられる。

 

「どうしました…… 疼くんでしょう?」

「へあぁぁっ、あ、へっ……」

 

 無様な鳴き声が、流れる。

 自分の物とは信じがたいほど、知性のかけらもない、獣のような鳴き声が。

 

「ふふふ、パチュリー様、感じるたびにまるで愛しいものをしめつけるかのように、きゅっ、きゅっ、って太ももと、その奥が絞まっちゃってるのが分かりますよ。自分が縋っているお馬さんの頼りがいのある逞しさに、無意識に身体が媚びている、欲しがっているんですね?」

 

 分かります、とでも言うように小悪魔はしたり顔で主を弄る。

 

「でもパチュリー様、このままお馬さんにしがみついたまま気持ちよくなってしまったら、困った癖が付いてしまいますよ」

「……っ?」

「お馬さんの身体を見ただけで、この快楽を思い出してエッチな気分になってしまうかも」

「な……っ!?」

「どっしりとした筋肉、引き締まった馬の身体に欲情して、その背にまたがっただけで達してしまう身体になってしまうかも」

「い…… いや……」

 

 小悪魔の、普段なら一笑に付して片付けてしまいそうな戯言。

 しかし、既にこの瞬間、パチュリーはこの作り物の馬の背から離れられないようになっている。

 達してしまいそうな身体、屈してしまいそうな精神(こころ)

 それに耐えるため、まるで怖い夢に怯えた幼児がお気に入りのぬいぐるみに抱き着くことで安心感を得ようとするかのようにしがみつき、そのしっかりとした存在感に依存しきってしまっている。

 例え…… 手足の拘束が外されたとしても、縋りついてしまうだろうというくらいに。

 ゆえに今、この瞬間のパチュリーにとって、小悪魔の示唆した可能性はどこまでもリアルな未来の自分であった。

 

(だめ、そんなおかしな癖、付けられたら、付けられたら……)

 

 その先が考えられない。

 ただひたすらに破滅的な予感に全身が総毛立つだけで、何も考えられない。

 

王手詰み(チェックメイト)です、パチュリー様」

 

 ぱちり、とパチュリーの中で不可逆のスイッチが入れられた……

 

 

 

「いかがでしたかパチュリー様。マッサージ、とても楽に受けることができたでしょう?」

 

 パチュリーの拘束を解きながら、小悪魔は邪気無く笑う。

 

「クイックマッサージ専用のマッサージチェアを参考にしたんですけど」

 

 クイックマッサージは寝台に寝そべらなくとも受けられるもので、上半身を預けられる専用の椅子に座って前のめりにもたれ、そのまま首、肩を中心に揉み解していくというもの。

 簡単にできるし、うつ伏せになるのが苦しいという者…… パチュリーのように豊満な胸を持つ者にとっては非常に嬉しいものだ。

 

 この船に付属していたプレイルームで発見した馬拘束台に目を付けた小悪魔は、これで代用できないかとパチュリーに持ち掛けたのだ。

 パチュリーが抵抗感を示した拘束もまた、身体を固定して楽にするためのものであって、それ以上のものではない。

 車のシートベルトは体勢を維持することができるため、付けた方が身体が楽になると言われているが、それと同様の効果を狙ったものだ。

 また、クイックマッサージの専用台は上半身を主にマッサージするためのものだったが、馬拘束台に固定すれば、全身に施術することができるということもある。

 

 というわけでプレイルームに置かれた数々の責め具、そしてその一つに主であるパチュリーを拘束してその身体を揉みたてる……

 そんなシチュエーションに酔ってしまい、パチュリーが晒した痴態のせいもあって悪魔としての種族の本能が抑えきれずに多少、暴走したところもあるが。

 健全なマッサージの範疇から外れたことはしていないし、今この時は、ちゃんと自制しているとおり小悪魔に悪意は無い。

 そして、

 

「確かに体勢は楽だったけど……」

 

 とつぶやくパチュリー。

 SMプレイでは苦しい姿勢、屈辱的な姿勢を取らせたり、それこそ三角木馬のように苦痛を味あわせたりしがちだが、この世界ではともかく、本来は喘息持ちで無理の効かない彼女には不向き。

 その点、受け手が楽で長時間の拘束プレイに向く馬拘束台は、そういうエッチな話抜きにマッサージ台として利用するにもパチュリー向きな器具ではあったのだが。

 そうではあるのだけれど!

 

「また……」

 

 パチュリーはマッサージ中のように背後から耳元に、ささやくように言う小悪魔の呼びかけに、ぞくりと背筋を震えさせ、

 

「やりましょうね、パチュリー様」

 

 そう、言い募る小悪魔の言葉を拒むことが……

 否定することができない。

 できないのだった。

 

 

 

 こうして力を種で+3された結果、パチュリーのステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:26

 

ちから:131

すばやさ:98

たいりょく:139

かしこさ:36

うんのよさ:46/96

最大HP:278

最大MP:73

こうげき力:256/188

しゅび力:139/129/119

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 ということに。

 また、

 

「私もレベルアップしてました!」

 

 小悪魔のレベルも上がっていた。

 

ちから+5

すばやさ+3

たいりょく+6

かしこさ+2

うんのよさ+4

 

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:23

 

ちから:80

すばやさ:148

たいりょく:82

かしこさ:62

うんのよさ:58

最大HP:166

最大MP:124

こうげき力:147/120

しゅび力:186/179/176

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 さらにベギラマの呪文を覚えた。

 

 という結果に。

 そしてオルテガが落ちたとも言われる火口にガイアの剣を投げ入れると火山が噴火し、川が溶岩で覆われて内陸部へと進めるようになった。

 

「……勝手に火山を噴火させたりしていいのかしら?」

 

 周囲に人が住んで居ないのが幸いか。

 また、

 

「なんでこんなものを火口に落とす!? これでは地上が寒くなって人が住めなくなる! 火山の冬が来るぞ!」

 

 と小悪魔が言うように、大規模な噴火では巻き上げられた塵により気候が寒冷化するという問題もある。

 まぁ、その内容はともかく、

 

「また何かのネタ?」

 

 小悪魔のセリフの元ネタを知らないパチュリーには、また変なものに影響を受けてる、としか感じられなかったりする。

 ゆえに聞き流して大陸の奥へと進んでいくと、

 

「ギズモの大群ですけど……」

「フロストギズモよ! 3/8の確率で冷たい息を、同じ確率でヒャダルコを使って来るわ!」

 

 残り2/8が通常攻撃だ。

 それが5体。

 

「ラリホーには弱耐性しか持っていないから7割の確率で効くけど、逆に言えば3割の確率で効かないとも言える」

 

 そして、

 

「最大ヒットポイントは80で守備力47。私の炎のブーメランだけでは倒しきれず、雷の杖のベギラマを重ねても最後の1体は倒しきれない、か……」

 

 それでも小悪魔にラリホーを唱えさせるよりは、攻撃を受ける確率は減るか。

 

「必ず攻撃を受けるはずだから、防具を耐魔法装備に切り替えて!」

 

 ヒャダルコを警戒し、小悪魔には魔法の鎧と魔法の盾を。

 パチュリーはマジカルスカートと魔法の盾を装備して戦いに挑む。

 小悪魔にブレス耐性のあるドラゴンシールドを装備させるという手もあるが、冷たい息はパーティ全体に9~20ポイントのダメージを与えるもの。

 ヒャダルコの全体に55~65のダメージに比べれば、優先順位は低い。

 

「まずはこれです!」

 

 小悪魔が雷の杖を振りかざし、発生した火炎がフロストギズモを包み込む。

 次はパチュリーだが、

 

「先制された!?」

 

 それより先にフロストギズモの一体が冷たい息を吐くのが先だった。

 パチュリーの素早さは98。

 フロストギズモの素早さは51。

 大抵は先攻できるが、リアルラック次第でこういうこともある。

 しかし、

 

「この程度なら!」

 

 十数ポイントのダメージ程度、ヒャダルコを唱えられるよりはマシである。

 しかも、

 

「これでどう!?」

 

 パチュリーの炎のブーメランがフロストギズモの群れを薙ぎ、5体中、4体までを倒しきる。

 そして最後の1体が、先ほど先制で冷たい息を吐いた個体だったので、これ以上の攻撃は無い。

 そう、この勝負、決して運は悪くない。

 そして、

 

「これで止めです!」

 

 といきり立ちゾンビキラーを振り下ろす小悪魔だったが、

 

「あれっ!?」

 

 フロストギズモはそれをひらりとかわす。

 フロストギズモの回避力は1。

 まれにこちらの攻撃をかわすことがあるのだ。

 しかし、

 

「無駄なあがきね」

 

 パチュリーの正義のそろばんにより倒される。

 そして、

 

「一人2675ポイントの経験値!?」

 

 小悪魔が驚くように、フロストギズモは1070ポイントもの経験値を持つ。

 それが5体であるから当然だろう。

 

 さらにフロストギズモは宝箱を持っていた。

 

「諸刃の剣です!」

「売れば3750ゴールドの収入ね」

 

 ファミコン版では1/128の確率でドロップしたものだが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券を1/32の確率でドロップするよう変更され。

 そしてスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版においては、すごろく場が無くなったために、すごろく券をドロップするモンスターはドロップ品をファミコン版と同様のものに差し戻したのだけれど、ドロップ率を戻すことを忘れていた、というもの。

 極楽鳥もそうだったが、やはりスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ですごろく券を落としていたモンスター全般が戻し忘れているということらしかった。

 

 つまり、

 

「お…… おいしーっ! おいしさ大爆発ですーッ」

 

 経験値もお金も美味しいという相手だった。

 しかも、

 

「これで炎の呪文に耐性がまったく無いから、イオラとベギラマを使うだけで確実に倒せるのよね」

「それはいいですね! 私たちにイオラは使えないのが残念ですけど……」

 

 魔法使いがレベル23で覚えるイオラは、勇者の場合レベル31にならないと使えない。

 しかし、

 

「この先のネクロゴンドの洞窟ではイオラが使える稲妻の剣が手に入るから」

 

 つまり稲妻の剣と雷の杖があればマジックパワーの消費ゼロで倒せるのだ。

 

「それさえ得れば、ざぁこ確定ですね」

 

 ざぁこ、ざぁこ、ざこギズモ♪ ざこギズモなんかに負けませんよ。

 

 などと口ずさむ小悪魔を連れ、さらに進むと、

 

「あ、幽霊船でイキってた悪魔です」

 

 と小悪魔が言うとおり、幽霊船でも登場したミニデーモンが現れる。

 あの時は単体だったためパチュリーの正義のそろばんに殴られて終わりだったが、今回は4体の群れである。

 

「半分の確率で撃たれるメラミが厄介だから耐魔法装備で!」

 

 と引き続き魔法に耐性を持つ装備で迎え撃つ。

 その他に1/4の確率でパーティ全体に9~20のダメージを与える冷たい息を吐くが、ここは単体呪文だが52~62のダメージを与えるメラミへの対策が優先だ。

 

「最大ヒットポイント80、守備力45の相手。睡眠、魔封じに対しては強耐性、火炎呪文にも弱耐性」

 

 氷結呪文のヒャド系、風のバギ系、ついでに勇者の雷撃呪文デイン系には無耐性だが、パチュリーたちには使えない。

 

「ならここは確実にダメージを積んだ方が良さそうですね」

 

 そんなわけで小悪魔は、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 鋼の鞭でしばき上げる。

 しかし続くパチュリーは、

 

「先制された!?」

 

 メラミ二連発に、冷たい息。

 ミニデーモンの素早さは55なのだが……

 しかし、

 

「そこまでよ!」

 

 怒りに燃えたパチュリーの炎のブーメランが炸裂し、ミニデーモンは全滅した。

 

「いたたたたた……」

「治療が必要ね」

 

 スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では『さくせん』メニューの中に『まんたん』コマンドがあり、パーティ全員のヒットポイントが全快するまで回復呪文を唱え続けてくれる。

 これを使って小悪魔のホイミで回復する。

 

「まぁ、今回は運が無かったけど、炎のブーメランと鋼の鞭で全滅させられるって分かったのは収穫かしら」

 

 とパチュリー。

 先を急ぐことにする。

 そして、

 

「これは……」

 

 以前にも対戦したトロル2体に、ミニデーモンが2体。

 どうするかだが、

 

「これで!」

 

 小悪魔は眠りの杖をトロルに振りかざした!

 甘い香りが敵を包む。

 しかし、

 

「1体だけしか眠りません!?」

「弱耐性持ちだから、3割の確率で効かないのよ」

 

 パチュリーは正義のそろばんでミニデーモン1体を確実に仕留める。

 残ったトロルの反撃と、ミニデーモンのメラミが痛いが、装備を耐魔法に切り替えているお陰でメラミのダメージは半減している。

 

「くっ、トロルが目を覚ました!?」

 

 眠ったトロルがターン中に回復。

 

 次のターンも同じ作戦で行き、やはり1体しか眠らないトロル。

 パチュリーの攻撃は残ったミニデーモンを仕留める。

 トロルの反撃が痛いが、

 

「いいわ、ここからは守備力重視の装備で!」

 

 ミニデーモンが全滅したので魔法に対する備えから、物理攻撃に対する防御に切り替え。

 

 次のターン、小悪魔の眠りの杖で、もう一体も眠る。

 そこにパチュリーが炎のブーメランを放ちダメージを積む。

 

 後は、炎のブーメランと雷の杖でダメージを与えつつ、トロルが目を覚ましたら眠りの杖で眠らせる。

 これの繰り返しで終了だ。

 しかし、

 

「ホイミで治療するためのマジックパワーがかさみますね」

 

 特に今回使っている『まんたん』コマンドは、ほんの少しのダメージにも回復を行ってしまう無駄の多いものだし、今は小悪魔のホイミしか無いから良いが、この後、他の回復呪文を覚えた場合には、必ずしも最高のマジックパワー効率で回復するわけではないというものでもあるし。

 しかし、

 

「そこは何とでもするからフル回復させておいて」

 

 とパチュリーが言うので、回復させる。

 

 次に現れたのはベホマスライムを先頭にしたフロストギズモ5匹。

 

「これはまずいわねぇ」

 

 とりあえず、前回フロストギズモを相手にした場合と同じ戦法で行くが、

 

「また先制された!?」

 

 フロストギズモのヒャダルコと冷たい息が連続で二人を襲う。

 まぁ、耐魔法装備に切り替えていたお陰でヒャダルコのダメージは半減しているのだが。

 その上、ベホマスライムにまで先制を許してしまい、フロストギズモの一匹をベホマで回復させられてしまう。

 

「ったく!」

 

 パチュリーの炎のブーメランでベホマスライムは倒されたが。

 しかしフロストギズモは3体も生き残ってしまう。

 それでも、

 

「ここまでだけれども」

 

 次のターンで止めを刺して終了するのではあるが。

 

 この辺りの敵は攻撃は強力だが、麻痺や催眠等、いやらしい攻撃をしてくる敵が居ない分、安心できるし、何より倒すと経験値がかなり美味しい。

 経験値稼ぎには向いている場所かも知れない。

 トロルの痛恨の一撃を食らうと危ういが、ラリホーという対抗策もあるし。

 

 治療を施し、そしてとうとうネクロゴンドの洞窟へ到着した。

 そこでパチュリーはふくろから不思議な帽子を出して被ると商人の特技『おおごえ』を使う。

『おおごえ』の消費マジックパワーは15ポイントだが、不思議な帽子の効果で3/4(端数切捨て)+1されて12ポイントに軽減されるのだ。

 

「ネクロゴンドの洞窟では使用不能だから今のうちにね」

 

 この『おおごえ』だが、フィールドマップの他、基本的にはダンジョン内でも有効だが、ここ、ネクロゴンドの洞窟を含む特定のダンジョンでは使用不能。

 それでも洞窟までの道中が長めのここでは、このタイミングで回復できるのは美味しいし、だからこそパチュリーはここまで無駄も多い『まんたん』コマンドでマジックパワーの消費を気にせず全回復させてきたわけである。

 もっとも結果はランダムなので、現れたのは旅の商人。

 用が無いので帰ってもらい、もう一度使用したところで目的の旅の宿屋が現れる。

 宿泊代金200ゴールドを払って休憩。

 フル回復させる。




 ネクロゴンドの洞窟へ向かう船内という密室空間で『監獄戦艦』とか『ヴィクトワール』じみたプレイ(注:健全なマッサージです)に耽るパチュリー様と小悪魔でした。

 次回はこの続きということで。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ネクロゴンドの洞窟 家畜部屋に首輪と鎖でつながれてみる

 託された船にあんな部屋(プレイルーム)があるなんて、と落ち着かなくなったパチュリーは、改めて隅々まで船内を見て回ったのだが、

 

「何、ここ……」

 

 ワラが敷かれ、鎖の付いた首輪が並ぶ船倉に立ち竦む。

 小悪魔はその首輪を手に取ると、弄びながらこう答える。

 

「パチュリー様。先ほどのは、まだヒトが繋がれるお部屋でしたけど……」

 

 おののくパチュリーに、とっておきの毒を流し込む小悪魔。

 

「この船のさらに下層に在るここは飼育室。家畜が逃げ出さないよう、首輪でつないでおく場所なんです」

 

 今は空だったが、大航海時代、大洋を渡る大型船には羊やヤギなどが載せられていたという。

 

「もちろん新鮮な乳や肉を得るためのものですけど、船乗りの男たちの性欲解消にも使われたっていう俗なお話も……」

「なっ!?」

 

 あまりの内容に身をすくませるパチュリーの目の前で、小悪魔は自分の首にそれ、家畜を繋ぐための首輪を巻いて行く。

 

 カチャリ……

 

 金具のかかる、小さな音がやけに耳に響いた。

 

「一緒に繋がれてみませんか、パチュリー様」

「何を……」

「司書権限で船員さんたちに私たちをただの家畜、羊さんやヤギさんだと認識させてあげるんです」

 

 パチュリーたちに大洋を渡る大型帆船の操船ができるはずも無いので、この船も船員込みでポルトガ王から借り受けているものだ。

 彼らの雇用主はポルトガ王であり、またパチュリーたちが行く先々で独自の判断により交易を行い食い扶持を稼いでいるので給料を支払う必要も無く、プレイヤーの目には止まらない存在ではあるのだが……

 しかし小悪魔は言う。

 

「家畜と同じように繋がれ乳を搾られたり…… 海の男たちの欲求不満の解消に使われてみる、今、ここでしかできない体験ですよ」

 

 パチュリーの細い首筋を、指先でなぞりながら言う小悪魔。

 

「今からパチュリー様の首につけてあげますが」

 

 自分が付けているものと同じ、鎖付きの首輪を手に小悪魔は迫る。

 

「ゆっくりとやりますから、もちろんお嫌でしたら拒んでもいいですよ」

「あ、ああ…… ぁ……」

 

 選択の余地を与えられたことが、パチュリーを余計に混乱させる。

 有無を言わさず繋がれるなら小悪魔に無理やりされた、と言い逃れできるのだろうが、この場合、拒まなければパチュリーは小悪魔の淫靡で倒錯した提案に同意したことになってしまうのだ。

 

「さぁパチュリー様、首輪が近づいていきますよ」

「そ、そんなぁ、そんなこと……」

 

 今、ここでしかできない体験……

 確かにそのとおりで、しかもこの本の中の世界での出来事は現実のパチュリーには何の影響も及ぼさない。

 しかし、これはパチュリーの主人としての、いやヒトとしての尊厳の終わりを意味する。

 あまりのことに頭が真っ白になってしまったパチュリーは、うわごとのように意味のなさない呟きをもらしながら震えるだけで。

 

「家畜に堕ちてしまいますよ。自分の欲望に負けちゃうんですか、パチュリー様?」

「だ、だめなはずなのに……」

 

 おののき震えるパチュリーの首筋に、ついに首輪が巻き付けられ始める。

 

「これが完全に巻かれて金具が止められてしまったら、その瞬間からパチュリー様は家畜に成り下がるんですよ。いいんですか?」

「ああ、終わっちゃう…… 私が、私が……」

 

 混乱のあまりに動けない、抵抗できないパチュリーに、小悪魔は最後の言葉をかける。

 

「あと少しでも動かせば鍵がかかって、パチュリー様は家畜として繋がれてしまいます。止めるならこれが最後ですよ」

「も、もう…… だ……」

 

 そしてとうとう、

 

「終わりです、パチュリー様!」

 

 カチャリ、という小さな音と共にパチュリーの心が手折られる。

 今この瞬間、パチュリーは薄暗い船倉、飼育室に繋がれた、船員の欲望を吐き捨てられる家畜へと成り下がったのだ!!

 

 もう、逃げられない。

 

 

 

「あああああっ!」

 

 コット、折り畳み式のアウトドア用ベッドの上で跳ね起きるパチュリー。

 ここは船ではない。

 内陸に離れたネクロゴンドの洞窟の前。

 彼女が商人の特技『おおごえ』で呼び出した旅の宿屋のテント張りの部屋だ。

 つまりは、

 

「ゆ、夢…… なんて夢を……」

「どうしたんです、パチュリー様」

 

 隣で小悪魔が起きる気配。

 

「寝汗でぐっしょりじゃないですか」

 

 そう言いつつ、手にした布で、パチュリーの汗を丁寧にぬぐって行く小悪魔。

 その手が首筋に回され、世話され慣れているパチュリーは、拭きやすいようにと首を差し出すが、

 

 ずくん!

 

 その仕草が、先ほどの夢の内容に重なった。

 すなわち小悪魔に自ら首筋を差し出し、首輪を甘んじて受け入れるという行為に!

 

「あ、ああ……っ」

 

 淫らな夢…… 夢特有の自分で自分の身体が動かせない、自由にできないという現象から、首輪を巻かれてしまったパチュリー。

 その異常経験のせいでパチュリーの身体に灯っていた官能の残り火が、再び赤々と勢いを取り戻す!

 

「こぁ……」

 

 壮絶な色香を放つパチュリーの瞳に射すくめられた小悪魔は、

 

(パチュリー様が発情したっ!!!!)

 

 と歓喜すると同時に、自分の首筋を差し出したままプルプルと震えている主人がどんな行為を望んでいるかを敏感に察する。

 そして、

 

「ふふっ、これ、船から持ち出してきたんです」

 

 彼女がポケットから取り出したのは、飼育室にあった首輪!

 パチュリーが見た夢と違って昼間、現実には拒まれたそれを小悪魔は密かに持ち出していたのだ。

 

「こぁっ、こぁっ……」

 

 首輪を目にし、一層興奮した様子で自分の愛称を呼ぶパチュリーに、

 

「お望みどおり、つないであげますね」

 

 小悪魔は首輪を丁寧に、巻き付けて行く。

 そして、

 

 カチャン……

 

「あっ……」

「お似合いですよ、私の可愛いパチュリー様」

 

 まるで首輪をつけた動物を愛撫するかのように頬を、髪をワシャワシャと撫でる小悪魔。

 その仕草にパチュリーは、本来は主人である自分が、使い魔である小悪魔に愛でられるだけの動物。

 そのように扱われているのだと察し、ぶるりと身体を震わせるのだった……

 

 

 

 十分に休憩を取ったパチュリーたちは、ネクロゴンドの洞窟に挑む。

 

(先刻の、あの小悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ)

 

 ということにして。

 

 実際、体験したことを夢で見るのは誰にでもあること。

 そして身体が思うように動かないという夢は誰だって見る。

 寝ているときに、実際の身体は動かないのだから。

 この二つが偶然にも重なってしまっただけであって、それをもって、

 

(自分にそういった被虐癖があるのでは……)

 

 などと考えるのは深読みが過ぎるというものだ。

 

 パチュリーのように頭の良い人物は、物事の本質や人情の機微をとらえようと思考するあまり、逆に真実からかけ離れてしまうことがある。

 特にヒトの思考や心理に対しては何かしらの意味やつながり、整合性を求めてしまうのだが、それが間違いなのだ。

 

 戦場で、間抜けな敵軍の指揮官が考え無しのバカげた行動を取ったのを見て、

「この常識外れの大胆な行動には何か意味があるはず。やはり罠か……」

 などと考えて絶好のチャンスなのに攻撃を控えて勝ちを逃してしまう理論派軍師みたいな感じで。

 

 世界はもっといい加減で偶然に満ちていて、人の思考も頭脳派の人間が思うほど理論的でも合理的でもなく、衝動や何となく、たまたまで決められていることが大半である。

 

 ともあれ頭を切り替えたパチュリーは、これからについて考える。

 

「ネクロゴンドの洞窟はここまでに出て来たトロル、フロストギズモ、ミニデーモンに加えて、ザキ、ザラキを唱えるホロゴーストと、二回攻撃で焼けつく息を吐きまくってマヒさせてくる地獄の騎士が追加で出現するのが厄介よ」

 

 ゆえに、

 

「即死呪文が効いた場合に身代わりに砕け散ってくれる命の石と、マヒ治療のための満月草を持って行くわよ」

「お店で買える満月草はともかく、ここまでで拾える命の石はサマンオサ城と、サマンオサ南の洞窟で得られる2個だけでしたっけ?」

「そうね、だから通常の4人パーティだとメンバー全員には行き渡らないわね」

「ああ、ですからエルフの隠れ里で買える天使のローブを魔法使いだけでなく僧侶、賢者といった後衛に身に着けさせておくといいんですね」

「天使のローブの効果はザキ、ザラキの命中率を半減させるものだから、確実とは言えないのだけれどね」

 

 それでも、

 

「無いよりはマシでしょう。特に攻略に詳しいプレイヤーだと、他の能力値を優先して運の良さの成長率を犠牲にしている場合が多いから。即死も含めた状態異常攻撃には弱くなっているでしょうし」

 

 使えるとされる有能な、尖った成長補正を持つ性格の多くは運の良さを犠牲にしているため、そのようなことが起こる。

 まぁ、パチュリーたちの場合は、小悪魔は運の良さの成長補正が高いセクシーギャルであるし、パチュリーはあなほりで比較的簡単に得られるラックの種で補正しているから人並み以上に状態異常には強くなっているのだが。

 ともあれ、

 

「その点、二人パーティなら確実に拾える2個の命の石だけで完全防御ができるし、私のような商人なら、あなほりで爆弾岩のドロップを比較的短期間で掘り出すことができる」

 

 とパチュリーは以前、諸刃の剣を掘り出すついでに得られた、もう一つの命の石を見せる。

 このように予備があれば、さらに安全安心だ。

 

「盗賊が居るパーティなら……」

「爆弾岩が命の石をドロップする確率は1/128よ。盗賊が居たとしてもここを攻略する段階のレベルでは人数分の入手は大変だと思うわよ」

 

 そんなわけでパチュリーたち勇者と商人の二人パーティは、ホロゴーストのザキ、ザラキに対しては他のパーティより遥かに楽に、安心して戦えるのだった。

 

 そうやって備えつつ入ったところで、さっそくホロゴースト4体の群れと遭遇。

 もっとも、

 

「まぁ、他の厄介なモンスターと一緒でなければ鋼のムチと炎のブーメランでお終いなのだけれど」

 

 と瞬殺。

 経験値は一人当たり2080ポイントと美味しいし、これで小悪魔はレベルが上がる。

 

ちから+6

すばやさ+2

たいりょく+4

かしこさ+1

うんのよさ+5

 

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:24

 

ちから:86

すばやさ:152

たいりょく:86

かしこさ:63

うんのよさ:63

最大HP:171

最大MP:124

こうげき力:153/126

しゅび力:188/181/178

 

ぶき:ゾンビキラー/はがねのむち

よろい:だいちのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という結果に。

 そして昇りの階段に到達。

 ここは高地に上って行く洞窟。

 入ったところが地下1階で、そこから上に続くのだ。

 ゆえに、階段を昇って1階へ。

 まずはひたすら西へと進み、1つ目の宝箱から小さなメダルをゲット。

 

「あと1枚でドラゴンテイルが手に入るわね」

 

 この洞窟でそれは手に入るのだが、しかし交換のためにアリアハンに戻るのはめんどくさすぎるという問題が。

 そしてまたホロゴースト4体に遭遇し、瞬殺。

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーはレベル27に。

 

「さすがに今回は豪傑の腕輪を外せなかったわね」

 

 というわけで、

 

ちから+5

すばやさ+1

たいりょく+4

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となり、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:27

 

ちから:136

すばやさ:99

たいりょく:143

かしこさ:38

うんのよさ:47/97

最大HP:278

最大MP:73

こうげき力:261/193

しゅび力:139/129/119

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 ということに。

 

 そして次に見つけた宝箱からは、

 

「稲妻の剣です!」

 

 待望の稲妻の剣を入手。

 勇者、戦士が使える武器で、攻撃力は+82。

 そして戦闘中、道具として使うと全体攻撃呪文、イオラの効果があるというもの。

 

「それじゃあ、この剣はあなたに。私は雷の杖をもらうわ」

 

 これでフロストギズモ対策は万全である。

 レベルアップのためにも出てきて欲しいところであった。

 しかし現れたのはミニデーモン。

 先制されて低ダメージな直接攻撃と冷たい息を吐かれたものの、炎のブーメランと鋼の鞭で倒しきる。

 

 そして次の宝箱から出てきたのは刃の鎧。

 勇者、戦士が装備できるもので、守備力は+55。

 さらに受けた物理ダメージの半分を敵にも与える効果を持つ。

 

「これもあなたの装備ね」

 

 これも小悪魔に。

 そして遭遇したのが、ミニデーモン、トロル、地獄の騎士各一体の群れ。

 

「ここは対トロルの物理防御優先で!」

 

 守備力重視の防具に切り替え、小悪魔は稲妻の剣で地獄の騎士を攻撃!

 

「倒しきれません!?」

 

 地獄の騎士の最大ヒットポイントは75。

 小悪魔は74ポイントダメージを出しており、非常に運が無い所で倒しきれないでいた。

 しかし、

 

「まだ!」

 

 パチュリーの炎のブーメランがミニデーモンのついでに地獄の騎士を倒しきる。

 残ったトロルが小悪魔を殴るが、小悪魔の守備力は193と高まっており、苦しいほどのダメージにはならないし、刃の鎧の効果で受けたダメージの半分を返している。

 そして次のターン、

 

「これで!」

「終わりよ!」

 

 小悪魔の稲妻の剣とパチュリーの正義のそろばんが炸裂し、トロルを倒しきった。

 

「それじゃあ、薬草で治療して」

 

 パチュリーの指示で小悪魔は自分を薬草で治療。

 そして昇り階段に到着。

 2階に上がる。

 ここからは踊る宝石、そしてライオンヘッドが出るようになる。

 パチュリーはついでに5回だけあなほりをするが、

 

「不幸の兜が出たわ」

 

 これはミニデーモンが1/128の確率でドロップするアイテムであり、

 

「やまたのおろち2回戦目に使う予定だったからちょうどいいわね」

「ええっ、また私、それを被るんですか!?」

 

 という話だった。

 そしてひたすら南下して行くと、

 

「ライオン、さん?」

 

 小悪魔が途中で首をひねるとおり、ライオンに見えて背にコウモリのような羽が生えており、脚は六本もあるというモンスター、ライオンヘッド二匹がフロストギズモ2体を従えて登場する。

 

「最大ヒットポイント115、守備力80の相手。睡眠、火炎呪文に対しては強耐性、魔封じには弱耐性」

 

 氷結呪文のヒャド系、風のバギ系、ついでに勇者の雷撃呪文デイン系には無耐性だが、パチュリーたちには使えない。

 

「ミニデーモンを強化した感じかしら」

 

 攻撃力は120。

 ベギラマとマホトーンを使うという相手。

 

「とりあえず装備は魔法耐性優先で先にフロストギズモを倒しましょう」

 

 ゆえにパチュリーは炎のブーメラン、小悪魔は稲妻の剣をあえて使う。

 

「強耐性でも通じる3割の確率に期待するのは、さすがに虫が良すぎたかしら」

 

 小悪魔の稲妻の剣はライオンヘッドには通じなかったが、パチュリーの炎のブーメランのダメージと合わせてフロストギズモを倒しきる。

 ライオンヘッドはベギラマを唱えるが、魔法に耐性のある装備を身に着けているのでその効果も半減。

 直接攻撃も小悪魔に当たり、15ポイント程度で済む。

 そしてあとは小悪魔の鋼のムチとパチュリーの炎のブーメランで終わりである。

 薬草で治療し、先に進む。

 賽の目状に並んだ6つの落とし穴を横目に通過し、昇り階段が見えてきたところで、

 

「またライオンさんです!」

 

 ライオンヘッド、ミニデーモン、地獄の騎士の集団だ。

 

「また、面倒な取り合わせを……」

 

 各一体ずつなのでまだマシだが、

 

「防具は魔法耐性主体で、私は炎のブーメラン、こぁには稲妻の剣で地獄の騎士を倒させる?」

 

 ということを狙うが、

 

「地獄の騎士が生き残った!?」

 

 わずかにダメージが足りず、地獄の騎士からの攻撃を許す。

 

「まずい!?」

 

 二回行動、味方全体にマヒを誘発させる焼けつく息を警戒するが、通常攻撃のみしかせず、パチュリーは胸をなで下ろす。

 ライオンヘッドもまた通常攻撃で、ダメージは大したことは無い。

 

「なら次で止め!」

 

 小悪魔は再び稲妻の剣を振るい、地獄の騎士に止め。

 そしてパチュリーの正義のそろばんがライオンヘッドに止めを刺した。

 薬草でパチュリーのヒットポイントを回復させ、3階への階段を昇る。

 ついでに5回だけあなほりをするパチュリーだが、

 

「出たわ、嘆きの盾」

 

 これはライオンヘッドが1/256という低確率でドロップするアイテムだ。

 

「勇者と戦士が装備できる盾で、守備力+42と上の世界では最高の守備力を誇るものね」

「おお!」

 

 感心する小悪魔だったが、

 

「呪われる上、装備者が受ける打撃ダメージを半減し、減少した分のダメージをパーティの誰かに与えるという特殊効果をもたらすわ」

「ダメじゃないですかー!」

 

 という話だが。

 

「そうでもないでしょう? うちのパーティなら私の方がヒットポイントが高いんだから、あなたが使えば痛恨を受けたとしてもあなたが即死する確率が低くなるし、守備力が高いあなたを前に出せるようになるから、その分、パーティ総合のダメージは減るわ」

「なるほど!」

「例えば、このネクロゴンドの洞窟に来るまでのルートは簡単確実に倒せて経験値の多いフロストギズモ相手にレベル上げをするのに使えるのだけれど、下手をすると同じ場所で出るトロルの痛恨で死傷者ばかり出る、なんてことにもなりかねないわ」

 

 トロルの痛恨の一撃は140ポイント前後のダメージを叩き出す。

 小悪魔の最大ヒットポイントも今は171まで上がったとはいえ戦闘中、常にキープできるものではない。

 

「その点、嘆きの盾を装備してあなたが受けるダメージを半減させてやれば、即死の危険も無く安全に経験値稼ぎができるわけ」

 

 ただし、

 

「魔法の盾やドラゴンシールドといった、耐性のある盾を使えなくなるのが問題なのだけれど」

 

 ということはある。

 

「そういう点では、ボストロールとの対戦前に手に入っていれば有用だったんでしょうけどね」

 

 ボストロール戦であれば、呪文耐性もブレス耐性も関係無いため有用だったろうにという話。

 

「ただ、このことに関してはリメイク以降の話よ。ファミコン版なら、そもそも耐性のある盾なんてアレフガルドに行かないと手に入らない勇者の盾だけなんだから」

 

 ということであるし、

 

「それにファミコン版だと刃の鎧と同時に装備すると、反射ダメージだけが処理されて、嘆きの盾は単なる硬い盾になってしまうって話だし」

「ファミコン版だと? リメイクでは……?」

「それは面白い命題ね」

 

 中断の書を用いて試してみる。

 

「……ダメですこれ」

 

 ファミコン版とは逆に、嘆きの盾の味方にダメージを半分与える効果が出るだけで、刃の鎧の反射ダメージが処理されなくなるという具合。

 

「仕方ないわね」

 

 中断の書で時間を巻き戻し、無かったことにするが、

 

「ただ、確かに面白い装備ではあるのよ。だから将来的には誰かが思いもよらない活用方法を編み出すかも知れないわ」

 

 そう語るパチュリーだった。

 そして3階を東へ進み、地割れの先にある昇り階段を目にしつつ身を投げる。

 

「ひあああああっ!」

 

 落ちたところは2階の独立した大広間。

 パチュリーはとりあえず、あなほりを5回だけ行い、

 

「命の石が出たわ」

 

 ホロゴーストのドロップアイテム、命の石を拾う。

 ファミコン版では1/256の低確率でドロップしたものだが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券を1/16の確率でドロップするよう変更され。

 そしてスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版においては、すごろく場が無くなったために、すごろく券をドロップするモンスターはドロップ品をファミコン版と同様のものに差し戻したのだけれど、ドロップ率を戻すことを忘れていた、というもの。

 極楽鳥などもそうだったが、やはりスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ですごろく券を落としていたモンスター全般が戻し忘れているということらしかった。

 

「二個目の予備が手に入って、さらに安心安全ね」

「もう、商人のあなほりがあれば、ホロゴーストのザキ、ザラキは気にしなくてもいいんじゃないかって感じですね」

 

 そういうことになった。

 

 このフロア真ん中、壁にある燭台から真っすぐ南に進んだ床の上には小さなメダルが隠されているが、

 

「一々調べなくても、アイテムが隠されている場所に行くとエクスクラメーションマーク、俗に言うビックリマークが出て知らせてくれる親切仕様になっているので楽ですね」

 

 と小悪魔。

 これはスマホ版等で見られる仕様。

 

「これでメダルは70枚。ドラゴンテイルと交換できるのだけれど」

 

 戻ってまた来るのは非常に面倒なため、このまま行くことにする。

 

 部屋の北側にある階段を昇り3階へ戻ると、そこは先ほどの亀裂を渡った先につながっているので、南下して落ちる前に目にした階段へ。

 それを昇れば最終フロア、4階だ。

 

「この階ではホロゴーストが出ないから命の石は要らないわ。代わりにガメゴンロードが出るから万が一に備えて草薙の剣を持っていて」

「草薙の剣? つまり剣に宿ったルカナンと同じ敵の守備力を下げる力が必要だということですか?」

「ガメゴンロードはガメゴンの上位種で、魔法反射呪文マホカンタの使い手。優先行動に設定されているから大抵最初のターンに唱えてくるわ。素早さが90もあるから、私たちでもリアルラック次第で先制されるし、この時期の普通のパーティだと、まず阻止できないわね」

「そうですね。仮に自分の方が素早かったとしても、万が一先攻された場合を考えると呪文攻撃はできませんね」

 

 物理で倒そうにも、

 

「守備力はガメゴンと同じ200で、最大ヒットポイントは大幅に強化されていて120、それが最大2匹まで出現するわ」

「それは倒しきれませんね」

「倒そうと思うならバイキルトを使うぐらいしか無いのだけれど、長いネクロゴンドの洞窟の最終階、普通ならマジックパワーも枯渇気味でしょうし」

 

 ただ、

 

「ファミコン版だと、笑い袋や踊る宝石と同等の回避率『1/16』が設定されていたから、バイキルトで強化しても攻撃をひらりとかわされる、なんてこともあったのだけれど」

「カメが回避!?」

 

 驚く小悪魔。

 パチュリーは苦笑すると、

 

「実際、カミツキガメなんかはジャンプして噛みついてきたりするし、カメの中にも素早いものは居るのよ」

「言われてみれば素早さ90でしたね……」

 

 これは上の世界では、はぐれメタルの150、ミミックの100に続く第三位のものである。

 

「まぁ、この回避率設定はスーパーファミコン版以降のリメイクでは無くなったものだから、今は気にしないでいいわ」

 

 とはいえ、

 

「厄介な相手だからと言って、逃げてやり過ごそうにもガメゴンロードのモンスターレベルはこのネクロゴンドの洞窟で出現するモンスターの中で一番高い36、レベル差で確実に逃げるなんて方法も使えないから、攻撃力113の打撃と、2/7の確率で吐くパーティ全体に30~40の炎ダメージを与える火炎の息によってヒットポイントをゴリゴリと削られることになるわ」

 

 しかし、

 

「ただ、マホカンタの呪文反射は道具を使用して生じる効果には無効なの。呪文に対して軒並み強耐性持ちなガメゴンロードだけれども、ラリホー、マヌーサに弱耐性、ルカナン、ルカニには完全無耐性だから」

「ああ、だから草薙の剣ですか」

「そう、ファミコン版ではそれしか対抗手段が無かったわ」

 

 故にファミコン版では草薙の剣はガメゴンロードキラーとも呼ばれていた。

 実際、使えば大幅に攻略難易度が下がるものだったし。

 逆に言えば普通のルカナン、ルカニの使い手が居るパーティで草薙の剣の道具使用によるルカナンの効果を生かせる相手が、ガメゴンロードぐらいしか居ないということでもあったが。

 だが、

 

「リメイクだと眠りの杖がありますよね。なら草薙の剣は要らないんじゃ?」

 

 と気付く小悪魔。

 

「そうなんだけれど、リメイク版以降だと1/7の確率で使うのよね、スクルト」

「はい?」

 

 キャタピラー等と同じで、ファミコン版でもデータ上は設定されていたが実際には使われなかったというもの。

 リメイク版以降ではそれがアクティブになって、実際に使ってくるのだ。

 

「まぁ、地獄のハサミが使うインチキスクルトよりはマシだけど」

 

 モンスターが使って来るスクルトには二種類あり、地獄のハサミのスクルトは敵全体の守備力を元の値と同じだけアップさせるというぶっ壊れ性能なものなのだから。

 ともあれ、

 

「スクルトで守備力を上げられてしまったら、さすがにそれを下げることが必要になるでしょう?」

 

 ゆえに草薙の剣はやはり準備しておいた方が良いのだ。

 

 そうして装備を整えて進んでいくと、ライオンヘッドと地獄の騎士二体ずつが登場するが、幸い魔物たちは驚いていて一方的に攻撃することができた。

 次のターンの先制で全滅させる。

 そして次に現れたのは、

 

「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」

「落ち着きなさい」

「ほあああああっ、宝石っ、踊る宝石ですっ!」

 

 お金持ちモンスター。踊る宝石。

 しかも単独出現。

 

「これはもう、倒すしか!」

 

 小悪魔の金銭への渇望が込められた稲妻の剣が一撃で倒す!

 そして、

 

「1023ゴールドをゲットです!」

 

 さらに進むと、

 

「何でしょう、これ、崖?」

 

 と小悪魔が言うような真っ暗な一角があって、そこに足を踏み入れると、

 

「あ、抜けられましたね」

 

 正解の道が開かれる。

 後は分岐も無くまっすぐ外への階段を目指すだけ。

 しかし、

 

「いい目があった分、逆の目もあるのね」

 

 魔物に驚かされた!

 相手はガメゴンロードとフロストギズモ1体ずつ。

 ガメゴンロードはマホカンタを張り、フロストギズモはヒャダルコを唱える。

 しかし、

 

「耐魔法防御装備のまま歩いていて良かったわ」

 

 パチュリーたちは魔法に耐性のある防具を身に着けていたのでダメージは半減。

 

「それじゃあ、行きます!」

 

 小悪魔は眠りの杖を振りかざした!

 敵を甘い香りが包み込む!

 

 事前に二人で話し合ったとおり、魔法反射呪文マホカンタは道具の使用効果には効かない。

 ファミコン版では草薙の剣が唯一の対抗手段だったが、リメイクには眠りの杖があり、それが通じる。

 ……まぁ、ガメゴンロードの弱耐性に阻まれて効かなかったが。

 

 一方パチュリーは正義のそろばんでフロストギズモを倒す。

 ガメゴンロードは燃え盛る火炎を吐いたが、そこまでだ。

 

「下位種のガメゴンが使って来る、眠りを誘う甘い息の方が厄介だったのだけれど」

 

 それに比べれば火炎の息はそこまで怖くはない。

 次のターンで止めを刺す。

 

 そして小悪魔のレベルが上がった。

 

ちから+3

すばやさ+2

たいりょく+3

かしこさ+2

うんのよさ+5

 

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:25

 

ちから:89

すばやさ:156

たいりょく:89

かしこさ:65

うんのよさ:68

最大HP:176

最大MP:126

こうげき力:171/129

しゅび力:195/188/180

 

ぶき:いなずまのけん/はがねのむち

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という結果に。

 そして昇りの階段に到達。

 外へ。

 

「おー」

 

 と小悪魔が感心するとおり、目の前には水と山地に囲まれた魔王バラモスの城が。

 今は行けないので、東に見えるほこらを目指す。

 そのネクロゴンドのほこらには貴人の姿があって、

 

「なんと! ここまでたどりつく者がいたとは! さあ、このシルバーオーブをさずけようぞ!」

 

 とシルバーオーブを渡してくれる。

 

「そなたなら、きっと魔王をうち滅ぼしてくれるであろう! 伝説の不死鳥ラーミアも、そなたらの助けとなってくれるであろう」

 

 そう言い添えて。

 このほこらの北壁にある墓の前からは小さなメダルが見つかる。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では他にすごろく券が2枚手に入ったのだが、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 すごろく場が無いため、ここで出るすごろく券も無くなっているのだった。

 

「それじゃあ、帰りましょうか」

 

 小悪魔のルーラでアリアハンに戻る二人だった。




 ネクロゴンドの洞窟を突破。

> ファミコン版とは逆に、嘆きの盾の味方にダメージを半分与える効果が出るだけで、刃の鎧の反射ダメージが処理されなくなるという具合。

 私はiPhone版で確認しました。
 ゲームボーイカラー版とかはどうなんですかね?

 次回はやまたのおろち2回目にチャレンジする予定です。
 ベホイミが無いと倒すのが難しいと言われていますけど、無しでのチャレンジですね。

 12/30(木)の更新はお休みさせていただきます。
 次回更新は1/6(木)の予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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やまたのおろち2回目

「小さなメダルが貯まっているから景品と引き換えましょう」

 

 アリアハンの井戸に入り、メダルおじさんから小さなメダル70枚の景品、ドラゴンテイルを受け取る。

 

「ドラゴンの尾を加工して作られている鞭ね。攻撃力は+52で、勇者、戦士、盗賊、遊び人、賢者が装備可能。戦士にとっては初めて装備できる複数攻撃武器よ」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では第3すごろく場のクリア景品であり船入手後すぐに手に入れられたが、この世界の元となった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなったため、このようにメダルの景品とされ、入手は最速でもネクロゴンドの洞窟前と遅くなっている。

 パチュリーたちは商人の街イベントを進めていないので、入手は今のタイミングになったが。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではマイラのすごろく場でももう一つ手に入ったが、すごろく場の無い携帯電話版以降では、完全な一品ものとなっている。

 

「これ以上の範囲攻撃武器はグリンガムのムチと破壊の鉄球しかないし、それを別にしても盗賊、遊び人にとってはバラモスを倒しアレフガルドに行くまでは単体攻撃武器を含めてもこれが最強の攻撃力を持つものよ」

「えっ? 盗賊って、これで上の世界では打ち止めなんですか?」

「そうよ、メダル75枚でドラゴンクロウが手に入った携帯電話版という例外はあるけれども、それも以降のスマホ版などでは80枚入手に戻っているし」

 

 それで小悪魔は気づく。

 上の世界ではドラゴンクロウが手に入らない。

 つまり、それ以下の武器しか使えない盗賊、そして武闘家は……

 

「あれっ? 盗賊、それに武闘家って、上の世界のボスキャラ戦では意外と役立たず?」

 

 と。

 

「そうね、盗賊、武闘家が上の世界で装備できる武器の攻撃力は低いわ」

 

 パチュリーはそう言って考え込む。

 

「ドラゴンテイルの攻撃力+52、そして武闘家の黄金の爪の攻撃力+50は、僧侶でも使えるゾンビキラーの攻撃力+67より遥かに下。何なら魔法使いが使える理力の杖の+65より下よ」

 

 ということ。

 

「もちろん前衛職は力の能力値が高いから、総合の攻撃力では後衛職には負けないけれど」

「それでもボストロール、やまたのおろち、バラモスを相手取るには不足がありますよね?」

「そうねぇ、攻略情報が広く知られるようになった結果、中ボスも低レベル攻略が普通にできるようになって」

 

 そうなると、

 

「レベルが低いと素の力の能力値もまた伸びていないから低い。結果として武器の攻撃力の差がより効いてくるようになっているわ」

 

 レベル稼ぎをせずに先に進んで強力なアイテムを手に入れることで強化して、というようなプレイをしていると特に……

 

「大器晩成型と言えば聞こえはいいけれど、だったら早熟なメンバーでパーティを編成してさっさと下の世界、アレフガルドまで進み、はぐれメタル狩りができるようになってから改めてキャラを育成した方が、かかる労力は少なかったりするわね」

 

 これは転職にも言える。

 ダーマの神殿のすぐ近く、ガルナの塔でメタル狩りができるからと早め早めの転職に走りがちだが、実際には転職せずにバラモスを倒してアレフガルドまで進み、はぐれメタル狩りができるようになってからした方が労力的には楽な場合が多い。

 

 ガルナの塔のメタルスライム狩りより、アレフガルドで行うはぐれメタル狩りの方が圧倒的に効率的なのだから。

 レベル上げ作業は、後になればなるほど楽。

 それを忘れてはいけない。

 

「もちろん早解きや効率プレイだけがすべてじゃないんだから、自分が望むとおりにプレイすればいいのだけれど」

 

 ということではある。

 

「そもそもロールプレイングゲームとはその名のとおり、役割を演じるゲームなんだから」

 

 つまり、

 

「例えば僧侶は賢者の完全下位互換だけれども「自分は女僧侶がお気に入りだから転職させずに使い続けるよ」とかでもいいのよ」

 

 多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)の走り、『ラグナロクオンライン』ではそういうコンセプトで、エタアコ(エターナル・アコライト)とかエタプリ(エターナル・プリースト)を楽しんでいた人々も多かった。

 有利不利や効率だけがRPGの楽しさではないのだ。

 

 まぁ、それはそれとして、

 

「あなたの装備も色々変わったし、ここで一度精算をしておかないとね」

 

 小悪魔向けの装備を色々と入手したので、その精算である。

 エルフの隠れ里で買い物をした後の所持金は、

 

小悪魔:1162G

パチュリー:272695G

 

「ここから、それぞれの収入を足すと」

 

小悪魔:7488G

パチュリー:279021G

 

「それで稲妻の剣と刃の鎧、ドラゴンテイルを手に入れたけれど、これらは私にも所有権があるから、あなたのものにするならその半額7725ゴールドを私に払わないといけない」

「ま、また借金ですか!?」

「大丈夫よ、今まで使っていたゾンビキラーと大地の鎧、鋼のムチを売ると18675ゴールドの収入になるから」

 

小悪魔:18438G

パチュリー:286746G

 

「あとは私があなほりで拾った命の石だけれど、これは共用の消耗品として扱おうかしら。売却価格600ゴールドの半額300ゴールドを負担してもらうわ」

「それくらいなら」

 

小悪魔:18138G

パチュリー:287046G

 

 となった。

 

「それじゃあ、やまたのおろち2回戦目をやりましょうか」

 

 小悪魔のルーラでジパングに跳ぶ。

 

「やまたのおろち2回戦目は、1回戦目に比べて能力が強化されているわ」

 

 これから挑む相手に関する情報を提示するパチュリー。

 

「最大ヒットポイントが1800から2000へ、攻撃力も130から140へ。素早さが40から50へ」

 

 守備力は68のまま据え置きだったが。

 

「微増、ってところですか?」

「そうね、ただランダムで1~2回行動だったのが、完全2回行動になっている。ここが大きいわ」

 

 一方、

 

「攻撃オプションが、攻撃:5/火炎の息:3だったのが、息切れしたのか、攻撃:5/火炎の息:2/火の息。一番怖い火炎の息を使う確率が減って、弱い火の息を使うように弱体化しているけれど、やっぱり完全2回行動による与ダメ上昇の方が大きいわね」

 

 あとは、

 

「睡眠に対し強耐性だったのが、完全耐性に切り替わっているからラリホーや眠りの杖は使えないわ」

「強耐性なら、どのみち使えなかったのでは?」

「強耐性でも3割の確率で効くからボストロールを先に攻略していれば、1回戦目に全員に眠りの杖、もしくはラリホーを使わせて眠らせて殴るという戦法もアリだったのよ」

 

 これは同じくラリホーに強耐性を持っているバラモスにも有効な手段だ。

 

勇者ラリホー「オラッ!寝ろッ!眠り死ねッッッ!」

バラモス「オ゛♡ヤッベ♡♡」

僧侶ラリホー「オラいくぞ!寝ぼけマナコにダメ出し睡魔で眠り死ね!!」

バラモス「ほおォォ~♡♡ ヤバいって♡♡寝るッ♡寝るッ♡♡♡」ウトウトウトウト♡♡♡

魔法使い眠りの杖「7割無効化でも全員で眠らせにかかったらな!おら早く寝ろやボケ!死ね!!!」

バラモス「やっべぇぇ~~ッッ♡♡寝る♡♡♡ちょっと寝るッ♡♡♡」ウトウトウトウト♡♡♡♡

 

 起きてもそのターンは何もできないし、素早さが低い戦士の後攻行動を重ねておけば、

 

戦士眠りの杖「何起きてんだボケ!オラまた寝ろッッ!!死ね!!!!」

バラモス「ん゛へぇッ♡♡ あ゛♡♡寝たァ♡睡眠確実ッッッ♡♡」スヤスヤスヤスヤ♡♡

 

 という具合に運良く効けば、そのまま睡眠継続だし、ダメでも次のターン、素早い者がさらに眠らせに行けばよい。

 毎ターン自動回復があるボスキャラの場合はこうやって眠らせている間にバイキルト、スクルト、フバーハ等で自分たちを強化、ルカニ、マヌーサ、マホトーン等で相手を弱体化し固めきったところで一気に攻めればいいし、ゲームボーイカラー版のバラモス等、自動回復が無い相手なら眠らせたままで永眠、倒しきることも可能。

 眠ったらガチで死ぬやつ、である。

 

「でも二戦目では完全耐性になっているから使えないの」

 

 ではどうするか、だが。

 

「私たちも強くなっていますし、前と同じではダメなんですか?」

「前の戦闘で、どこがボトルネックになったか覚えている?」

「あ、回復手段がホイミと薬草しか無いので追いつかない」

「そう。だから、あなほりで世界樹の葉をもう一枚用意して頼った」

 

 そして、

 

「回復手段がそれしかない、というのは変わっていませんものね」

 

 ということだった。

 

「あなたは今、レベル25。ガルナの塔にこもってメタルスライムを30匹ほど狩れば、ベホイミを覚えるレベル29に到達できるわ」

 

 勇者はベホイミを29~31レベルの間で覚えるが、賢さが52あれば必ず覚える。

 今、小悪魔の賢さは65と余裕で超えているので確実に覚えることができるだろう。

 

「30匹というと大変そうに思えるかもしれないけど、ガルナの塔のメタルスライム出現率はかなり高いし、毒蛾の粉を使えばさほど難しくないし、何よりこの世界だと効果があるまで毒蛾の粉は再利用できるし」

 

 割とすぐである。

 だからRTA(Real Time Attack)、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競うプレイでは通常の戦闘を極力避け、ガルナのメタスラ狩りで最低限必要なレベル上げを短時間に済ますのだし。

 

「どうせ、この後バラモスと戦うには最低でもベホイミが必要でしょうから、今ここで上げておくというのもいいんでしょうけど」

 

 だがしかし、

 

「あなたが言うとおり、前と違ってこちらもレベルが上がり、そして草薙の剣もある。これなら……」

 

 と作戦を立てるパチュリー。

 

「被ダメを減らすため、素早さの高い私が星降る腕輪を付けて前に出るわ」

 

 星降る腕輪の効果は素早さ二倍なので、素早さの高いパチュリーが装備した方が、効果は高いわけだ。

 一方、

 

「豪傑の腕輪を外すと攻撃力が下がりますが、それは……」

 

 という心配もあるが、

 

「前より私たちがレベルアップしている分、攻撃力は上がっているし、やまたのおろちはルカナン、ルカニには弱耐性しか持っていないから、草薙の剣の効果で守備力を下げてやればダメージは増やせるわ」

 

 ということ。

 

「私は代わりに豪傑の腕輪ですか」

「あなたに攻撃させようとは思わないから、こんなことなら守備力が上がる装飾品、疾風のバンダナを売らずに残しておけば良かったわね」

 

 と思うものの、今さらだ。

 

「幸い、不幸の兜があるから、これで補って」

「不幸の兜が幸い!?」

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:27

 

ちから:136

すばやさ:198

たいりょく:143

かしこさ:38

うんのよさ:47

最大HP:278

最大MP:73

こうげき力:246

しゅび力:189

 

ぶき:せいぎのそろばん

よろい:ぬいぐるみ

たて:ふうじんのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ほしふるうでわ

やくそう×7

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:25

 

ちから:89

すばやさ:78

たいりょく:89

かしこさ:65

うんのよさ:0

最大HP:176

最大MP:126

こうげき力:186

しゅび力:161

 

ぶき:いなずまのけん

よろい:やいばのよろい

たて:ドラゴンシールド

かぶと:ふこうのかぶと

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

くさなぎのけん、やくそう×5、せかいじゅのは

 

 

 という状態で挑む。

 床に伏したヒミコは、

 

「わらわの本当の姿を見たものは、そなたたちだけじゃ。

 だまっておとなしくしているかぎり、そなたを殺しはせぬ。それでよいな?」

 

 と言うが、Noと答える。

 

「ほほほ、そうかえ。

 ならば生きては帰さぬ! 食い殺してくれるわ!」

 

 やまたのおろちとの戦闘が始まる!

 まずはパチュリーの正義のそろばんによる攻撃だが、豪傑の腕輪の攻撃力補正+15が無くとも1回目に戦った時より攻撃力が上がっているため、100ポイント越えのダメージを与える!

 そして、

 

 小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る。

 

「効きました!」

 

 草薙の剣の効果で、やまたのおろちの守備力が半減!

 やまたのおろちは5/8の確率で繰り出される通常攻撃を先頭に立つパチュリーに叩き込むが、20ポイント前後のダメージにしかならない。

 二回行動なので、1ターン、40ポイントを超えるがそれでも、

 

「まだまだ!」

 

 最大ヒットポイント278のパチュリーには余裕がある。

 次のターン、パチュリーの攻撃は120ポイント越え!

 そして小悪魔の草薙の剣が、さらにおろちの守備力を半減させる。

 これでおろちの守備力は最初の68から1/2の1/2、つまり1/4の17ポイントまで低下。

 おろちはパチュリーに通常攻撃の後、火炎の息を吐く。

 これは全体に30~40の炎ダメージを負わせるもの。

 パチュリーはブレスに耐性のある装備が無いので素でダメージを負うが、小悪魔はドラゴンシールドの耐性で3/4までダメージを減らせる。

 

 次のターン、これ以上守備力を下げる必要も無くなった小悪魔は攻撃する。

 ここまで守備力が下がっていると、小悪魔でも70ポイント越えのダメージを出せるが、

 

「あなたは余計なことしないで、治療でもしてなさい!」

 

 とパチュリーに怒られる。

 実際、またブレスが来たため、小悪魔は自身の治療に追われることに。

 

「そう、自分優先で。余裕があるなら私を」

 

 小悪魔はパチュリーの後ろに居るので、全体攻撃のブレスか、たまに流れてくる通常攻撃でしか負傷しない。

 守備力が下がっているので直接攻撃を受けると30ポイント前後のダメージを受けるが、同時に刃の鎧の効果で、その半分のダメージを返すことになる。

 

「割と、持ちますね」

 

 途中、低ダメージの火の息が1/8の確率ではさまれることもあり、小悪魔が薬草で治療し続けると意外に長く耐えることができる。

 一応、小悪魔の治療が追い付かない場合のためパチュリーも薬草を持っているのだが、出番は無い。

 とはいえ、

 

「さすがに火炎の息二連発はきついです!」

 

 こうなると自身の治療に追われ、パチュリーの方まで手が回らない。

 ゆえにパチュリーのヒットポイントはじりじりと減り続け、

 

「くっ……」

 

 とうとう倒れる。

 

「パチュリー様っ!」

 

 小悪魔は世界樹の葉を使ってパチュリーを蘇生する。

 

「ここからが勝負よ!」

 

 ヒットポイントをフル回復させたパチュリーが勝負を挑む。

 その後ろで、薬草が切れたためホイミを連発させる小悪魔。

 もう世界樹の葉は無いので、二人の内、危ない方を治療するわけだが、

 

「あれっ!?」

 

 意外とあっさり、余裕があるうちに倒しきる。

 

 やまたのおろちをやっつけた!

 

 それぞれ4020ポイントの経験値を獲得!

 1000ゴールドを手に入れた!

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーはレベル28に。

 

 

 

 なんと! ヒミコはおろちだった! そのうわさはまたたく間に国中に広まっていった。

 

 そして夜が明けた。

 

 

 

 しかし、

 

「ボストロールを倒した際はフル回復したのに、今回はそのまま? いえ、いいんだけれど」

 

 誰もおろちと大決戦した部屋で寝たいとは思わないのだし。

 宝箱からパープルオーブを入手する。

 

 この屋敷の者たちはというと、

 

「やまたのおろちが ヒミコさまになりすましておったとは……」

 

 と動揺しており、召使の女性たちも、

 

「あのヒミコさまがおろちだったなんて! あなおそろし!」

「きっと本当のヒミコさまは、おろちのキバにかかって…」

 

 ということで、住民のセリフから死んだものとされている本物のヒミコはというと、

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではしんりゅうの願い事で行けるようになる第五のすごろく場に何気にひょっこり居たりするのよね」

 

 そうパチュリーの言うとおり登場している。

 

「わらわは ヒミコと申す者。

 ここは どこじゃ?

 このような まがまがしき所は…

 おお そうかっ!

 おろちの 腹の中じゃなっ。

 あな くちおしや……。」

 

 などと嘆いているのだが、

 

「『まがまがしき所』って…… いえ、ギャンブル場というのは人の情念と欲望が入り混じる場所ではあるんでしょうけど」

 

 と小悪魔。

 

「それより、第五のすごろく場への入り口はジパングの井戸の底にあるんですよね、すぐに帰ることができるはずなのに」

 

 そう首をひねるが、パチュリーは、

 

「案外、ヒミコの言っていることは本当なのかも」

 

 とつぶやく。

 

「はい?」

「黄泉國(よみのくに)、あるいは根之堅洲國(ねのかたすくに)。黄泉比良坂(よもつひらさか)の先にあるという死者の国だけれども」

 

 神道における死後の国だ。

 古事記にもそう書かれている。

 

「ジパングの地下にあるすごろく場は、その死者の国に在って、だからヒミコの言うとおり『まがまがしき所』で、そこに居る者たちはすべて死者」

「ヒェッ」

「死んだはずのヒミコが居るのも、彼女がジパングに帰れないのも……」

「そこまでです!」

 

 ズキュウウウン

 

 パチュリーの口を自分の唇で塞ぐことで、それ以上の発言を封じる小悪魔!

 そうして、

 

「うぐっ」

 

 うめくパチュリー。

 小悪魔は口移しに力の種を飲み込ませたのだ。

 筋力を短期間に上げるために生じる、筋肉痛を凝縮したような痛みに座り込む。

 そんな主人を見下ろしながら小悪魔は言う。

 

「パチュリー様、おろちとの戦闘でレベルが上がり……」

 

ちから+3

すばやさ+2

たいりょく+5

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となったが、

 

「同時に力の成長上限値も上がって余裕が出たはずですが、ストックしていた力の種はもう使いましたか? まだですよねぇ」

「くぅっ……」

「怖いお話で、か弱い使い魔を怖がらせて喜ぶような悪いご主人様にはお仕置きが、わからせが必要ですよねーーーーッ」

 

 強い恐怖から恐慌状態に陥り、そこから逃れるためにキレてハイになってしまった小悪魔に襲われるパチュリー!

 

 まぁ、パチュリーは理詰めで考えているだけで、小悪魔を怖がらせるために話をでっちあげているわけでは無い。

 ただ、その思考の結果をもって怖がらせてやろうという意識が完全に無かったかというと微妙で。

 そこに負い目を感じてしまうがゆえに、小悪魔の責めを受け入れてしまう。

 この読み手に物語を体験させる本の中に構築されたドラクエ3の世界で起きたことは、現実のパチュリーには何の影響も与えないのだし。

 本気になったら跳ねのけられる程度のものだから、という強者ゆえの余裕が産む隙とでもいうのだろうが、

 

「アヒィィィィッ!?」

 

 しかし、その隙を、

 

(そっ、そんなぁ、人前でここまで、ここまでされてしまうなんてぇ……)

 

 とパチュリーがおののくほどの手加減無しの方法で、小悪魔は無理やりにこじ開けていく。

 パチュリーとは逆に、主の強さ、自分との圧倒的な力量差を知っているがために、全力を出しても絶対に大丈夫という嫌な安心感の基に、一切の遠慮無しで責めてしまうのだ。

 

「どうしました? ただのマッサージなのに、そんなアヘ顔を晒して」

「へあぁぁっ、あ、へっ……」

 

 公衆の面前で悪魔の淫技に翻弄され、凄惨な肉刑に処されるパチュリー。

 プライド、いや人格すら徹底的な淫ら責めで汚され、へし折られる公開処刑が彼女を襲う!

 

「お仕置きも兼ねて少し強めにしているだけ、基本的にはお身体を楽にするためのものなのに……」

 

 これは本当。

 小悪魔は健全な範囲に納まるような揉み解ししかしていない。

 だが、これまでの日々のマッサージで少しずつ肉体を開発され、同時に被虐の芽を精神に埋め込まれていたパチュリーは、自分を弄る小悪魔の指先に抵抗できなかった。

 

「その痛みも、羞恥を感じさせて反省を促すための周囲の目も、パチュリー様にとってはマゾの快楽を愉しむ為のエッセンス、刺激にしかなっていないんですね」

 

 呆れたように、蔑むように言う小悪魔だったが……

 逆である。

 徹底的に追い込まれたパチュリーの身体と精神は痛みと羞恥から逃避するために、その裏返しに存在する被虐の快楽を見つけ縋ることになっているのだ。

 しかし一転して、

 

「でも私、パチュリー様のそういうどうしようもないところも好きですよ」

 

 と本当に、慈愛に満ちた母性すら感じさせる笑顔を見せる小悪魔。

 自作自演なマッチポンプ、パチュリーには頭でそうだと分かっていても、

 

(は、反則ぅぅ、ここまで辱めて、貶めておいて、それを笑顔で受け入れるなんてぇぇ……)

 

 それでも本気で言っているであろう、小悪魔の言葉と笑顔にほっとしてしまう、安心を感じてしまう、惹かれてしまう自分を止められない。

 身体の奥が、甘えるようにきゅんとうずくのを自覚してしまう。

 自分を弄り尽くす相手に依存する、媚びてしまう自分に対する絶望と、同じくらい感じる暗い喜び。

 

 小悪魔の責めの厄介なところは、本当にパチュリーを想い、愛しているが故の行為だということ。

 そこに悪意や害意があるなら被虐の快楽に耽るパチュリーも本気で抵抗し跳ねのけることができるだろうに、善意しかないからその気も萎える。

 根底に絶対的な安心感があるから、自分の身を任せてしまうことに対する心理的ガードも下がってしまう。

 

「あ……♡ あぅ♡♡」

 

 そしてとうとう小悪魔の責めを受け入れてしまうパチュリー。

 どこまでも…… どこまでも堕ちて行く彼女だった。

 

 

 

 そうやって力を種で+3した結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:28

 

ちから:141

すばやさ:101

たいりょく:148

かしこさ:40

うんのよさ:48/98

最大HP:294

最大MP:78

こうげき力:267/199

しゅび力:140/130/120

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:ぬいぐるみ/マジカルスカート

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 ということになったが。

 

 一方、

 

「こうして生きて行けるのは、あなた様のお陰。ありがとうございました」

 

 恋人らしき男と共に礼を言う、やよい…… 生贄となるところを恋人にこっそりと逃がされ、倉庫のツボに隠れていた女性。

 

「何となく悪代官から助けられた町人と黄門様といった風情なのは、ここがジパングだからでしょうか?」

 

 つぶやく小悪魔だったが、

 

「その前に、公衆の面前で乱暴される私、っていうシーンが無かったらうなずくこともできたんでしょうけどねぇ」

 

 とパチュリーににらまれる。

 

「何言ってるんですか、パチュリー様。水戸黄門に意味のない入浴シーンとか、お色気要素は必須ですよ!」

 

 むしろ力を種で強化するという目的、意味がある分、自分たちは健全、と主張する小悪魔。

 パチュリーはあきらめたようにため息をつき、ジパングを出ることにする。

 

「行くわよ、こぁ」

「それじゃあ、お幸せにー」

 

 ジパングの人々の感謝を背に受け、再び旅立つパチュリーたちだった。




 やまたのおろち2回目撃破!
 ベホイミも無しの二人パーティでも倒せるんだなぁ、と感心したり。
 なおパチュリー様に怖い話をされた小悪魔が少々暴走していますが、

> 小悪魔は健全な範囲に納まるような揉み解ししかしていない。

 はいこのお話は健全~~~~(健全なマッサージしかしていないため)
 ということでご理解ください。

 次回はいよいよ商人の町イベントです。

「街の有力者にまで登りつめてクーデター起こされて牢獄ですよ。何も起きないはずもなく…… ああ、なんてかわいそうな私のパチュリー様」

 ってやつですね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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商人の町(前編)寝取られ展開に脳が破壊される小悪魔

 教会で小悪魔の不幸の兜の呪いを解いたら、

 

「いよいよ商人の町づくりイベントだけれども」

 

 準備も整ったので一気に進めることにする。

 

「ところで商人の町の場所に行くのにポルトガとエジンベア、どちらから行った方がいいかという論争があって」

「はい?」

「試してみましょうか?」

 

 そんなわけで小悪魔のルーラでまずはエジンベアへ。

 

「ルーラでは城の南に着くけれど、船に乗るなら城に入って、出て」

 

 すると城の上からの出発になる。

 

「ここで私の経験値をメモしておいて」

 

 船に乗り西へ、マーマンや痺れクラゲを蹴散らしながら、大洋を渡った先にある大陸の森の中に開けた場所へと上陸。

 

「私は幸せの靴を履いているから、今の経験値からモンスターとの戦闘で得た分と出発前の経験値を引けば、歩数が出るわ」

「ああ、幸せの靴ってそういう使い方もできるんですね」

 

 結果は70歩。

 内訳は、平地1、海洋67、森2。

 

「そうしたらルーラで今度はポルトガへ」

 

 跳ぶ。

 

「ポルトガの場合、ルーラで跳んだ位置から直接船に乗れるわね」

 

 出発前に経験値をメモするが、

 

「あら?」

「何ですか?」

「商人の町で記録した結果から経験値が+1されているわ」

「それは……」

「ルーラすることで1歩、歩いたことになるのね」

 

 ということ。

 ここからまた船で西へ。

 大陸に当たったら北へ。

 途中で出ただいおうイカを倒しながら進み、到達する。

 同様に計算した結果は、

 

「71歩ね」

「なるほど、エジンベアの方が1歩だけ近いわけですね」

「でもルーラした位置からなら同じ歩数よ」

 

 さらに言えば、71歩の内訳は海洋69、森2。

 

「モンスターへのエンカウントは、最初にランダムで決まった歩数を歩いた時に発生するわ、そして平地の一歩を1とすれば、森は1.8歩、海洋は0.4歩としてカウントされる。これで換算すると」

 

 エジンベアから:平地1×1+海洋67×0.4+森2×1.8=31.4

 ポルトガから:海洋69×0.4+森2×1.8=31.2

 

「つまりエンカウント率はポルトガの方が低いくらいで、小数点以下0.2ポイント差なのでほぼ変わらず。見かけ上の歩数はエジンベアの方が近いからエジンベアから行った方がいい、と主張する人が居る一方で、ルーラで跳んで行くなら、ポルトガから行った方が城に出入りする必要も無いから時間もかからない。時間短縮にシビアなRTAで、どうしてエジンベアを使わずポルトガを利用するのか分かったような気がするわね」

 

 ということだった。

 そんな小さな疑問を解消しつつもイベントである。

 スーの大陸の東海岸、そこには一人の老人が居て、街を作ろうとしている。

 

「わし ここに 町 つくろう 思う。

 町 あれば きっと みんな よろこぶ。

 商人 いないと 町 できない。

 パチェ ここ 置いていく。

 お願い 聞いてほしい」

 

 という申し出にパチュリーは、

 

「はい」

 

 と答える。

 

「それ ほんと?

 パチェ 旅 あきらめる。

 骨 ここに埋めるかも。

 それで いいか?」

 

 ファミコン版では本当に帰って来なかったので「骨を埋める」だったのが、リメイクでは戻って来るので「埋めるかも」になっている。

 だからパチュリーも、

 

「はい」

 

 と、うなずく。

 

「おお それ ありがたい! わし パチェ ふたり 町づくりはじめる! すぐ!」

 

 というわけで、

 

「じゃあ私はここに残るわね。私が持っていたものは、あなたのふくろにいれておくから」

 

 そう言ってパチュリーが別れる。

 老人は、

 

「お礼に いいこと 教える。

 この大陸のまんなか スーの村 ある。井戸のまわり 調べろ」

 

 というように雷の杖の情報をくれる。

 まぁ、既に取っているのだが。

 そしてパチュリーは輝かんばかりの表情で、

 

「今までほんとに楽しかったわ。ありがとう小悪魔」

 

 と別れを告げる。

 

「ぐふっ、これが寝取られ……」

 

 今のセリフはNPCモードによる固定セリフ。

 イベントムービーなどでプレイヤーキャラが勝手にしゃべり出すアレのようなものなので、パチュリーの意思は介在していないわけではあるが、笑顔で言われるとくるものがある。

 なので、仕方がないわね、みたいな顔をしてパチュリーは、

 

「たまにでいいから、ここに遊びに来てよね」

 

 と言ってやる。

 

「こ、今度はツンデレ! パチュリー様、私を何度、地獄に突き落としたり天国に昇天させたりするつもりなんですかっ!」

 

 叫ぶ小悪魔。

 どっちにしろ死ぬのか…… という話ではあるが。

 

「それで、最初は船に乗って降りることが必要なんでしたっけ?」

 

 商人の町の発展が進む条件については色々な説があるが、とりあえずはこれで進むはずである。

 そうやって小悪魔が再び町を訪れると、池の北側の空き地でパチュリーが働いている。

 

 なおスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では男女ともにこのシーンから専用のイベント限定服を着たグラフィックに切り替わっていたのだが。

 この世界の元となったスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では容量節約のためかそのような着替えは無い。

 ……まぁ、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版でも、この時限りのレベル1の商人を作って人身売買するだけ、というプレイヤーが多いためか、ほぼ気付かれない変化だったりするのだが。

 

 そんな話はともかく、

 

「ああっ、小悪魔! 私よ私。パチェよ。来てくれたのねっ」

 

 そう言って出迎えてくれるパチュリー。

 

「今ここにお店を建てようと思ってるの」

 

 そう語るが、

 

「ニセモノ……?」

 

 首を傾げる小悪魔。

 パチュリー・ノーレッジと言えば『動かない大図書館』とあだ名されるほどのダウナー系美少女魔法使い。

 それが、

 

「信じて送り出したパチュリー様が陽キャラにチェンジしてしまうなんて……」

 

 と嘆く小悪魔だったが、もちろん今のセリフはNPCモードによる固定セリフなので、

 

(セリフ一つでここまで言われるって……)

 

 裏で密かに怒りを覚えているパチュリーだった。

 

「こんなの私のパチュリー様じゃないっ!」

 

 そう言って走り去る小悪魔。

 

(誰があなたのものだと言うのよ……)

 

 呆れ顔で見送るパチュリーだった。

 

 

 

 町の外で頭を冷やした小悪魔が返って来ると、

 

「さっそく 店 できた。

 これ あなたのおかげ。

 ありがとう ありがとう」

 

 と、老人が言うとおり、そこには既にパチュリーの店が完成していた。

 

「早っ!?」

「あっ、小悪魔じゃない! なんだかなつかしいわね」

「いえ、さっき会ったばかりですよね?」

 

 という話だが、やっぱりNPCモードによる固定セリフなので黙殺され、

 

「見ててね小悪魔。私きっとこの町を大きな町にしてみせるから!」

 

 などと言われてしまう。

 なお、この段階で店で扱っているのは薬草と革の帽子だけだったりする。

 

「……夜になったらどうなるんでしょうか?」

 

 と、店の奥に置いてあるパチュリーのベッドに興味を惹かれる小悪魔。

 そうとなれば、闇のランプに火をともして夜にする。

 町の外に運ばれるので再び店に向かうと、パチュリーは既にベッドで眠っており、夢でもあなほりをしているのか、

 

「あっ、ゴールド見っけ…… うーん、むにゃむにゃ……」

 

 などとつぶやく。

 一瞬の後、

 

「イヤイヤイヤイヤイヤ!」

 

 パチュリーの肩に手をかけ揺さぶる小悪魔。

 

「今「うーん、むにゃむにゃ」って言ってましたよね!?」

 

 何そのベタな寝言!

 

「あっ、ゴールド見っけ…… うーん、むにゃむにゃ……」

「いや、もうそれはいいですから!」

 

 しかしNPCモードになっているパチュリーは同じ寝言を繰り返すだけで一向に起きない。

 

「もうこうなったら、朝にしてしまうしか」

 

 という話だが、一人でこの辺をうろつくのもイヤなので、ルーラでポルトガに跳んで朝にして再び訪れることにする。

 これ以降町を出入りするだけで発展することが分かっているパチュリーからすると、何でそんな苦労をわざわざするの? という話だが……

 ポルトガからだと1度はモンスターを一人で退けなければならないのだが、

 

「パチュリー様の豪傑の腕輪と炎のブーメランをお借りして……」

 

 武装を固めれば、レベルが上がっていることもあり問題は無い。

 そして再び町を訪れた小悪魔は、

 

「ずいぶん土地が開けましたね」

 

 驚くことに。

 小悪魔だけでなく、

 

「ほう…こんなところに町ができていたとは…… やはり商売は足でかせぐ! いい取引先が見つかりましたよ」

 

 というように外から商人が訪れていたり、

 一人一泊2ゴールドと、故郷アリアハンを思わせる宿もできていて、

 

「ガイアの剣…… 大地をつかさどるその剣は巨大な山をもゆるがすという…… 手に入れたい! しかしどこにあるのかさっぱりわからぬのだ」

 

 と探索中の戦士が泊まっていたり。

 

(……すみません、その剣、パチュリー様が火口に放り込んでしまいました)

 

 と思うが言えない小悪魔。

 パチュリーの道具屋は、今は代わりの店員が対応していて、品物にも聖水とキメラの翼が加わっていた。

 

 水辺には、

 

「ここはきっと大きな町になるわ! そんな気がするの!」

 

 と笑う女性。

 なお、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では、この段階で池の東側の花が咲いている植木からすごろく券が見つかるのだが。

 そして今を逃すと取れなくなってしまうのだが、この世界の元となった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなったため、すごろく券もまた手に入らなくなっていた。

 そして最初の老人も、

 

「町 どんどん 大きくなる。先 楽しみ! みな あなたのおかげ」

 

 そう言ってくれる。

 そして資材が置かれた工事現場では、

 

「ああっ、小悪魔! 私よ、私。パチェよ」

 

 すっごい違和感のある、肉体労働中のパチュリーの姿が!

 

「今度はここに大きな劇場を作ろうと思ってるの」

 

 と言うパチュリー。

 普段の彼女をよく知る小悪魔にしてみれば、

 

「な、なんて嘘くさい」

 

 ということだが、

 

「じゃあ、夜になれば?」

 

 もう一度、闇のランプを使ってみる。

 夜になると住民はみな、ベッドに入り、老人も、

 

「パチェ なかなかの やりて。

 わし うれしい」

 

 と、寝床から答えてくれる。

 しかしパチュリーはというと、夜空を映し出す池のほとりで、

 

「今の私の生きがいは、ここを世界一の町にすることなの」

 

 と静かに語る。

 

「あなたと旅をしたのはもう、ずいぶん昔のことみたい。楽しい思い出よね……」

 

 などと言って。

 

「この町だけ時の流れがおかしいですよ!?」

 

 と叫ぶ小悪魔。

 通常のプレイだと商人を先に預けておいて、ボストロールややまたのおろち撃破などといった町の発展の条件を満たす毎に訪れるということになるところを、すべての条件を満たしてから一気に進めるということをしているので、おかしな具合になるのだ。

 ともかく、また小悪魔は朝にするためにポルトガにルーラで跳ぶ。

 

 ……小悪魔はバカなので、商人の町にできた宿屋に泊まればいいという、新たな選択肢に気付いていないのだ。

 まぁ、現状では街を出入りするたびに発展段階が進むので、下手に夜中に出入りして昼にしか見られないイベントをスキップしてしまうよりはマシなのだが。

 

 マーマンを倒しながらまた海を渡り、

 

「パチェバークにようこそ。ここはパチェさまがつくった町ですわ」

 

 とんでもない状況に遭遇する。

 

「パチェバーク!? 何ですか、その名前は!!」

 

 という話。

 宿は一晩一人15ゴールドまで値上がりしていて、宿泊客の吟遊詩人が、

 

「うわさではシルバーオーブはネクロゴンドのほこらに…… しかしそのほこらは、あのネクロゴンドの山のいただきにあるといいます。あんなところにたどりつける者がいるとは、思えません」

 

 そう教えてくれる。

 

「すみません、もう取って来ました」

 

 という話だが。

 なお、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では、この部屋のタンスからすごろく券が見つかるのだが。

 この世界の元となった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなったため、すごろく券もまた手に入らなくなっていた。

 

 町を歩く、あらくれ男からは、

 

「ランシールの村には、大きな神殿があるらしいな。

 その神殿なら、ブルーオーブのある洞くつに行けるらしいぜ。

 でもなにか、とてつもない試練がまってるって話だ」

 

 という噂も聞けるが、

 

「それ取って来たのパチュリー様ですよ」

 

 という話。

 また通りがかった商人が、

 

「私はときどき品物をとどけに、ここへ来るんですが…… 見ちがえるほど大きくなりましたなあ」

 

 と言ってくれるとおり発展している。

 パチュリーが開いた道具屋も、今は武器と防具の店に様変わりしており、ゾンビキラー、ウォーハンマー、裁きの杖、魔法のそろばん、魔法の前掛けが売られている。

 道具屋は最初の老人の家に転移していて、薬草に聖水、キメラの翼に毒蛾の粉、まだら蜘蛛糸、消え去り草まで扱うようになっていた。

 店員も老婆に代わっており、専門の薬師を入れたのかもしれない。

 なお、この老婆、裏手に回ると店の客でないと判断するのか、

 

「ん? じいさまなら外へ出とるがのう」

 

 と答えてくれる。

 

「おじいさん、奥さんが居たんですか? いや、新たに結婚した?」

 

 混乱する小悪魔。

 なお、この老婆は本当に最初の老人のつれあいで、この後、話が進むたびに訪れると、

 

「あたしはこの町に来て良かったと思うとるよ。でもこの年になって男に惚れちまうとは思わなんだよ」

 

 とか、

 

「わしも おまえ 好き。

 だから いっしょ くらす

 …って言ってくれたんだよ。

 今までは恥ずかしがって、側に居てくれなかったのに」

 

 と一々本当にラブラブなのろけを聞かせてくれる。

 しかも、このセリフと同時に二階の寝室にはベッドが二つ並ぶようになり、夜に訪れてみると二人で一緒に寝ているのだ!

 

 これらのセリフ、前者は革命後に聞けるが、革命は夜起きるのでそのまま立ち去ってしまい、昼に聞けるこのセリフを見逃してしまうプレイヤーは多い。

 さらに後者はラーミア復活後にこの町を訪れた時に聞けるセリフだが、商人がこの町に別れを告げ、勇者も町の外に出てしまうと、

 

「この町のことも、じいさまのことも心配ないぞ。あたしがめんどうみるからのう」

 

 という、そのままただの世話とも受け取れるセリフに切り替わってしまうし、夜に訪れても寝室に寝ているのはおばあさん一人。

 お爺さんは1階でうつらうつらと船をこいでいるという具合になるので、見落とされがちではあるのだが。

 

 この恋をほのぼのと取るか、何でおばあさんののろけを聞かないといけないのかと取るか、そもそも何で重要でもない名無しのモブNPCにこんなレアセリフが設定されているのかと取るかは人によるが、いずれにせよ、

 

「パチュリー様に街づくりをさせつつも、やることはやってるんですね、お爺さん」

 

 という話。

 そんな老人の恋にあてられた小悪魔がフラフラと歩いていると、

 

「あ、ここ……」

 

 パチュリーが建設していた劇場も完成していた。

 

「どうぞお通りくださいな」

 

 と、何故か入り口にメイドが立っていたのが気になるが。

 まぁ、紅魔館でも妖精メイドを使っているし、何より『完全で瀟洒な従者』十六夜咲夜が居るし、パチュリーが使う者としては違和感は無いが……

 

「ぼくらは ふたり~で~ 手と手 取りあ~って~」

 

 中のステージでは二人組の吟遊詩人がデュエットしており、

 

「キャー! こっち向いてー!」

 

 叫ぶ若い娘。

 そしてうっとりと見入っている主婦。

 二人ともステージに釘付けで、話しかけても小悪魔の方を見ようともしない。

 

「ふ~む…… 私には彼らの歌のどこがいいのか、よくわかりませんな。まあ顔がいいのは認めますがね」

 

 と言う商人の姿もあるが、

 

「来るお店を間違えているだけなのでは?」

 

 という話だった。

 男商人を預けた場合はキャバレーになっているので、そちらの方が良いだろう。

 さらには、

 

「ひっく…… ぼくよっぱらっちゃいました~」

 

 ふらつく男に、

 

「いらっしゃい。お酒ならいっぱいあるよ。ゆっくりしていってくれ」

 

 とカウンターから酒を勧めるバーテン。

 なおステージの詩人は、

 

「なんだいキミたちは ぼくたちのファンかな?

 ステージにはあがらないで。ぼくたちからのお願いだよ」

 

 とステージに上がっても紳士的に対応してくれるが、

 

「キミ…… たち?」

 

 今の小悪魔は一人なのだが、見えない何かが見える人なのだろうか?

 怖くなった小悪魔は、この場から逃げ出そうとするが、入り口に居たメイドさんが、

 

「お帰りですね? それではお代をちょうだいします」

 

 と会計を迫る。

 

「しめて50000ゴールド。払っていただけますね?」

「劇場じゃなくて、ボッタクリバーですこれ!?」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 いや、パチュリーから預かっている金があるので余裕で払える。

 払えるが、払ってしまったら、この先ずっと何も買えない借金奴隷が確定である。

 

「ああ、アリアハンの銀行にお金を預けてから来るべきでした……」

 

 と、今さらながら忘れ去られていた銀行の存在を思い出す小悪魔。

 

 まぁ、幻想郷の外の世界でもかつてはそんな風に、ボッタクリバーでぼったくられても大丈夫なように、ある程度の現金だけ持って夜の繁華街に繰り出し被害をそこまでにする、という手法を取る者が居たが……

 そして被害に遭っても宿泊先のホテルの部屋に帰ってまた金を補充して街へ、という懲りない観光客も居たが……

 

 そんな事前の仕込みは当然していない小悪魔。

 降って沸いたような話だが、しかし契約を重んじる存在、悪魔である彼女はこれを踏み倒すことができない。

 

「は、はい……」

 

 終わった……

 そう覚悟する小悪魔だったが、

 

「あら? パチェさまのお知り合いでしたの? あらら、これはこれは……」

 

 ということで、無かったことになる。

 

「た、助かりましたーっ!!」

 

 と大きく息をつく小悪魔。

 しかし、何だか町の様子がおかしい。

 

「パチェさまは、私たち町の人間を働かせすぎる! このままでは私たちは、たおれてしまいますよ」

 

 と訴えるおじさんが居るし、

 

「おお あなた! わし わし! ここ はじめから いた じい!」

 

 最初の老人をようやく見つけたと思ったら、

 

「パチェ よく やる。しかし やりすぎ…… 町の者 よく 思ってない。

 わし とても 心配」

 

 などと訴えられる。

 そこは大きな屋敷の前で、入り口には門番の姿が。

 

「ここはパチェさまのおやしきだ」

「ええっ! パチュリー様の家!?」

 

 こんな短期間に、こんな立派な家を?

 小悪魔が入ってみると、そこには赤い絨毯が敷かれ、王侯貴族もかくやといった豪奢な椅子に腰掛けたパチュリーの姿が!

 

「よく来てくれたわ。どう? この町もやっとそれらしくなってきたでしょ?」

 

 と、パチュリー。

 

「でもまだまだこれから。まあ見ててちょうだい」

 

 そう語る彼女。

 なお、その両脇には宝箱が置かれているが、今の段階で取っておかないと無くなってしまう。

 取り忘れに加え、この屋敷には昼にしか入れないので、夜に来て進めてしまうとそもそも取る機会すら与えられないという。

 まぁ、この世界の元となったスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では後の段階でも残るようだが。

 

 その夜……

 

「わし パチェ 会って いう。町の者 どう 思ってるか」

 

 パチュリーの屋敷の前で押し問答をしている老人。

 

「わし ここ 通りたい。 あなたも たのんで」

 

 と言うが、

 

「パチェさまはお休みだ。帰れ帰れ!」

 

 と追い返されてしまう。

 そして町の片隅では男たちが集まっており、

 

「……してしまうのはどうだろう?」

「しかしそれでは あまりにも……」

「だがこのままでは……」

 

 などと話し合っている。

 話を聞いてしまった小悪魔に気付く男たちだったが、

 

「パチェのやりかたはあんまりです! ぼくたちはもう、たえられませんよ!」

「こうなったら革命を起こすしかなさそうだ。あんたたち、止めてもムダだぜ。オレたちゃ、やるっていったらやるんだ!」

「この話…… 他言はなりませんぞ!」

 

 と逆にいきり立って事を起こそうとしてしまう。

 それを聞いた小悪魔はしかし、

 

(計画通り)

 

 とばかりに悪い笑みを浮かべる。

 

「街の有力者にまで登りつめてクーデター起こされて牢獄ですよ。何も起きないはずもなく…… ああ、なんてかわいそうな私のパチュリー様」

 

 陶酔した様子でつぶやく小悪魔。

 

「このゲームのNPCは司書権限で掌握できます」

 

 つまり、

 

「そう、パチュリー様は暴徒たち(全部私)に、襲われ、牢獄につながれ調教されてしまうんです!!」

 

 というわけで町を出て革命を起こさせようとする小悪魔だったが……

 

「あれ? 干渉できない? ええっ!?」

 

 不意のトラブルに慌てる。

 

「で、デビルイヤー!!」

 

 悪魔の力で何とか音声だけは捉えるが……

 

 

 

『パチュリーのなく頃に』

 

 

「ここでの監禁生活はいかがでしたかな?」

 

 嘲るように言う男の声。

 

「肉付きの良い身体になってきたじゃねぇか、たまんねぇ」

 

 別の男の下品で粘着質な物言いが追い打ちをかけるが、パチュリーは、

 

「あぁ…… 見ないで……ッ」

 

 と懇願するだけだ。

 

「ジパングやサマンオサを救った勇者殿が、今や快楽を前にしただけでよだれを垂れ流すメスブタだ」

「……やッ、は……ッ、そんなところ……、あッ、つねっちゃ……」

 

 身をよじるパチュリーの衣擦れの音と、切羽詰まったような声。

 

「この様子はいずれ公開することを予定しています。この街の住人のみならず世界からの観客を前にあなたの痴態をご披露していただきます」

「な……ッ!? なんてコトを」

 

 驚愕するパチュリーの唇からは、

 

「こんな恥ずかしい姿を衆目の前に晒される!? ウソよ…… そんなッ」

 

 といううわごとのようなうめきが漏れた。

 

「衆目に晒される中、はしたなく恥を晒しなさい」

「いやぁ゛ぁ゛」

「まぁだ、拒むことができるなんざ、さすがと言えばいいのか」

「それでこそパチェ様だ。しかし精神は耐えても身体はどこまで持つかな? 今からコレをねじ込んで試してやる」

「イヤ……ぁ、やめ……」

「へへっ、今までのアンタなら、こんなの、なんてことなかったんだろうけど、そんなだらしない身体になっちまったらなぁ」

 

 

 

「ぱ、パチュリー様ぁぁぁっ!!」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 

「ここはパチェバークの町。しかしもうパチェだけの町ではないのだ」

 

 そんな言葉を背に、夜の街を走る。

 

「ここは牢屋だ。本当はパチェが悪人をとらえるため、つくったそうだが…… 自分がいれられるとはヒニクなものよな」

 

 などと言う衛兵を押しのけ、

 

「パチュリー様っ!」

 

 息せききって飛び込んだ牢獄で、小悪魔が見たものは、

 

「あ……小悪魔。私よパチェ……」

 

 よどんだ眼をした囚われのパチュリー。

 

「私はみんなのためと思ってやったのに…… やりすぎちゃったのかな……」

 

 そうしゃべる声に、これまで数々の敵を倒してきた覇気は無く。

 

「…… あっ、そうそう。私のおやしきのイスのうしろを調べてみて」

 

 それだけを伝える。

 

「私、しばらくここで反省してるわ。そうすれば…… 町の人たちも、きっと私のことを許してくれると思うの。そうしたらまた私に会いに来て」

 

 小悪魔が最後の鍵で鉄格子を開けても、

 

「ありがとう、小悪魔。でも逃げることはできないわ」

 

 と、逃げようとすらしない。

 

「私、しばらくここで反省してるわ。そうすれば…… 町の人たちも、きっと私のことを許してくれると思うの。そうしたらまた私に会いに来て」

 

 そう繰り返すだけだ。

 

「パチュリー様っ」

 

 監禁調教されて、逃げ出す気力すら奪われてしまうなんてっ!

 壮絶な寝取られ展開に、脳を破壊されるような衝撃を受ける小悪魔!

 

 

 

『パチュリーのなく頃に解』(回答編)

 

 

「ここでの監禁生活はいかがでしたかな?」

 

 からかうように言う男の声。

 しかし監禁と言いつつ、パチュリーには温かそうなドテラとコタツが与えられている。

 石造りの牢は冷えるが、それが逆に天然の冷房のように作用し、暖房とコタツの中で楽しむアイスならぬ、冷房の中で楽しむコタツ生活というような、ぜいたくで自堕落な快楽を与えていた。

 

「肉付きの良い身体になってきたじゃねぇか、たまんねぇ」

 

 別の男の下品で粘着質な物言いが追い打ちをかけるが、この男はコックである。

 効率優先で食べる時間も惜しんで金稼ぎを続けていたパチュリーはやつれていたのだが、革命後はこの男が運んでくる美味しい料理で元のふくよかさを取り戻していた。

 とはいえ、

 

「あぁ…… 見ないで……ッ」

 

 と、肉の付いて来た自分の身体を恥ずかしがるパチュリー。

 女性は過剰に痩せた身体を理想とするところがあるので、健康的な範囲でも肉が付いたら恥じる気持ちがある。

 まだまだ大丈夫なのだが。

 しかし、

 

「ジパングやサマンオサを救った勇者殿が、今や快楽を前にしただけでよだれを垂れ流すメスブタだ」

 

 差し出されるカロリーたっぷりのプレート料理に、パチュリーの目は釘付けだ。

 そんな彼女の回復具合を確かめるかのように二の腕の肉をつかんで確かめる男。

 

「……やッ、は……ッ、そんなところ……、あッ、つねっちゃ……」

 

 当然恥ずかしがって、身をよじるパチュリーの衣擦れの音と、切羽詰まったような声。

 

 男たちがどうしてこんなことをしているのかと言うと、もちろん「働かない喜び」「だらだらすることが人の生活にもたらすうるおい」を実際に体験してもらい、パチュリーが推し進めてきた効率第一主義を改めさせるためだ。

 まぁ、やっていることは「あなたにはニートになってもらいます」みたいな「何それ洗脳なの?」というものだったが、ともあれ、

 

「この様子はいずれ公開することを予定しています。この街の住人のみならず世界からの観客を前にあなたの痴態をご披露していただきます」

「な……ッ!? なんてコトを」

 

 驚愕するパチュリーの唇からは、

 

「こんな恥ずかしい姿を衆目の前に晒される!? ウソよ…… そんなッ」

 

 といううわごとのようなうめきが漏れた。

 そうすることによって、残ったパチュリー支持者を一掃するのだ。

 

「衆目に晒される中、はしたなく恥を晒しなさい」

「いやぁ゛ぁ゛」

 

 当然、パチュリーは嫌がるが、

 

「まぁだ、拒むことができるなんざ、さすがと言えばいいのか」

「それでこそパチュリー様だ。しかし精神は耐えても身体はどこまで持つかな? 今からコレをねじ込んで試してやる」

 

 と差し出されたのは、カロリーたっぷり、液に浸して焼いた、ふわとろのフレンチトースト。

 

「イヤ……ぁ、やめ……」

 

 と言いつつ、目が離せないパチュリー。

 

「へへっ、今までのアンタなら、こんなの、なんてことなかったんだろうけど、そんなだらしない身体になっちまったらなぁ」

 

 そう、毎日の美味しいもの攻勢に、パチュリーの身体は反抗できないくらいに馴らされてしまっていた。

 そんなわけなので、食後、掃除のために一時的にコタツが片付けられた牢に小悪魔が助けに来ても、

 

「ありがとう、小悪魔。でも逃げることはできないわ」

 

 と言って、

 

「私、しばらくここで反省してるわ。そうすれば…… 町の人たちも、きっと私のことを許してくれると思うの。そうしたらまた私に会いに来て」

 

 今しばらくの間だけでも、この素晴らしい、ゆっくりとしたニート生活を続けようとするのだった。




 長くなりましたし回答編は後日公開にしようかとも思いましたが「エロじゃねぇか!」と誤解されるのも危険なので、同時併記させていただきました。
 えっ? そんなオチだと思っていた?
 なるほど、つまり、それぐらいこのお話が健全であるという、読者の方からの厚い信頼があるということですね。
 そのご期待に応えられるよう、これからも健全作家として頑張らせていただきます!

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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商人の町(後編)BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい)

「うわああああっ!」

 

 パチュリーが寝取られてしまった、と思い込んでしまった小悪魔は街中を走り、パチュリーの屋敷へ向かう。

 そこには今や門番も居らず入ることができ、

 

「ついに 革命 起こった。パチェ 牢屋のなか……。なんてこと……」

 

 と最初の老人が肩を落としている。

 

「もうこうなったら!」

 

 小悪魔はパチュリーに言われたように、椅子の後ろを調べイエローオーブを手に入れる。

 そして、

 

「これも、奪われるくらいなら!」

 

 室内に置かれた宝箱を開け、金のくちばしと小さなメダルを手に入れる。

 そしてルーラでノアニールへ。

 船で北上しマーマンたちを蹴散らしながらレイアムランドのほこらに向かう。

 スノードラゴンに襲われ、2回攻撃で冷たい息、氷の息を食らうというアクシデントもあったが、それも退け無事到着。

 

 氷に閉ざされたレイアムランド。

 ここの中央には不死鳥ラーミアのほこらがあり、小悪魔は不死鳥の祭壇に今まで集めた6つのオーブを捧げる。

 オーブの光が集まり祭壇の卵が震え出したので、もう生まれるなら外で待とうと、気のせいていた小悪魔は飛び出そうとするが、

 

「お待ちください!」

「あなたがたはオーブをささげた選ばれし者……」

「どうかたまごを見届けてください」

「さあ、わたしたちのもとへ!」

 

 と巫女たちに引き止められる。

 なお、ラーミアも空気を読んでいるのかこの間、ずーっと卵の中で震えっぱなしであり、非常にシュールである。

 そして言われるとおり二人の巫女の元に向かうと、

 

「わたしたち」

「わたしたち」

「この日をどんなに」

「この日をどんなに」

「待ちのぞんでいたことでしょう」

「さあ祈りましょう」

「さあ祈りましょう」

「時は来たれり」

「今こそ目覚めるとき」

「天空はおまえのもの」

「舞い上がれ空高く!」

 

 巫女達の祈りと共に、伝説の不死鳥ラーミアが復活した。

 

「伝説の不死鳥ラーミアはよみがえりました」

「ラーミアは神のしもべ」

「心正しき者だけが」

「その背に乗ることが許されるのです」

「さあ、ラーミアがあなたがたを待っています」

「外に出てご覧なさい」

 

 言われるように小悪魔はラーミアの背に乗って飛び立つ。

 パチュリーがその場に居たなら、

 

「心正しき者?」

 

 と小悪魔を見ながら首をひねっただろうが。

 そして商人の町に到着。

 

「ここはパチェバークの町。町の創始者の名をとってそう呼ばれている」

 

 というように、状況は良くなっている模様。

 パチュリーが捕らえられていた牢屋は民家へと変わっていた。

 この家からは、小さなメダルを見つけることができる。

 

「それでパチュリー様はどこに行ってしまったんでしょう?」

 

 元パチュリーの屋敷に行ってみると、パチュリーが一人の若者に街の運営を譲っている所に遭遇。

 そして彼女は、

 

「小悪魔…… 私はこの町を出ようと思うの」

 

 と語る。

 

「この街にはもう私の力は要らないみたい。ねえ小悪魔、私をもう一度あなたの仲間に入れてもらえないかしら? アリアハンのルイーダの酒場で待ってるから…… もし連れていってくれるのなら声をかけて」

 

 パチュリーは再び自由になり、一人ルイーダの酒場へ。

 なお、「もし」などと言っているがこれはNPCモードでしゃべらされているだけのイベント固定セリフであるから、もしも何もない決定事項である。

 

「じゃあ、またあとで……ね」

 

 というセリフに、威圧が込められていたし!

 めでたしめでたしということで、小悪魔はルーラでパチュリーを追いかける。

 アリアハンの街に戻ったら、すぐさまルイーダの店に。

 

「ここはルイーダの店。旅人たちが仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場よ」

 

 店主のルイーダがカウンター越しに対応してくれる。

 

「何をお望みかしら?」

 

 と問われるが、もちろん小悪魔は『仲間を呼び出す』ことを選び、

 

「誰をお呼びしましょうか?」

 

 名簿を見せられて吹き出す!

 

「何でパチュリー様、ぬいぐるみを装備していないのにネコなんですかっ!」

 

 名簿に記された絵姿には、ネコの着ぐるみ姿で登録されたパチュリーの姿があった。

 通常、ルイーダの酒場にメンバーを預ける際には、身に着けているもの以外はすべてふくろの中に入れられる。

 身に着けているもの以外なので、ネコのぬいぐるみを着ているなら、その姿で外れることになる。

 しかし商人イベントでは、すべての装備をふくろに入れて商人は離脱する。

 だから素の姿に戻らなければならないのだが、そこまで考えてプログラムが組まれていなかったのだろう。

 表示される姿を通常の離脱時と同じ処理にしてしまったため起こる現象らしかった。

 

 まぁ、ファミコン版では別れる時に商人を先頭にして危ない水着やぬいぐるみなどを着せていると、別れた後、先頭になった(別れる前には2番目に居た)キャラのグラフィックが水着姿や猫になるバグがあって、これによって男キャラが水着姿になることができたりもしたので、それよりははるかにマシか……

 

 ともあれ小悪魔は、

 

「やっぱりパチュリー様はネコ!」

 

 と納得し、呼び出してもらう。

 もちろんパチュリーは装備品を持っていないので素の姿だ。

 

「何その顔?」

 

 とパチュリーは、小悪魔の笑いを抑えようとして失敗し、微妙にひくついている口元に疑問を覚えつつも装備を受け取り、元のネコの着ぐるみ姿に戻していく。

 ともあれ、

 

「またあの街に行くわよ」

「はい?」

 

 商人の町にとんぼ返りすることになるのだが。

 ルーラでポルトガに跳んで、そこからラーミアで海を渡り商人の町へ。

 街中の花畑では少年が、

 

「あっ、パチェさん! ボク聞いたんだけどさ…… パチェさんってタフガイなんだってね。やっぱりそうでなくっちゃ町をここまで大きくするってできないよね。すごいや!」

 

 と瞳を輝かせながら語りかけてくるが、

 

「このセリフ、性格によって3パターンに変化するのよね」

 

 例えば性格が『おじょうさま』なら、

 

「よくそれでこの町をここまで大きくできたね。それはそれですごいや!」

 

 などとディスられることになる。

 なお、この会話の対象は素の性格に対するもので、装飾品で変更したものは対象にならない模様。

 

「んん? それは、装備品は全部外して町づくりをしたんですから、この町の人たちからは素の性格で覚えられていますよね?」

 

 と小悪魔が言うが、

 

「街づくりイベントを終わらせた後に、本やすごろく場で性格を変えても、その変化した現在の性格を見抜いて来るわよ」

 

 それも装飾品で性格を変えていたとしても、だ。

 

「さとり妖怪ですか!?」

 

 という話。

 

 また、街行く吟遊詩人が、

 

「夜は私のリサイタルが開かれるんです。良かったら来てくださいね」

 

 と宣伝している。

 夜に劇場に行けば、

 

「ラ~ララ~ いとしの~

 あ~なた~ いまは~ もう~

 いない~♪

 けれども~ わたしの~

 こころ~に かれは

 いき~ている~♪」

 

 という歌が聞けるというが、

 

「まるでこの町のイベントを進めるため多くのプレイヤーに使い捨てにされ、二度と日の目を見ることも無く居なかったことにされた商人のことを歌っているようだと、もっぱらの噂よ」

 

 とパチュリーはプレイヤー視点の情報を語る。

 ファミコン版では帰って来なかったこともあり、リメイクでも帰還イベントをやらずにそのまま放置とか、帰って来たとしてもルイーダの酒場に置きっぱなしというプレイヤーが多いのだ。

 しかし小悪魔には別の疑問があった。

 

「この吟遊詩人の方、男性ですよね。愛しのあなた=彼なのはナンデ?」

 

 しかも、その愛しのあなたを美辞麗句で無かったことに、闇に葬るような曲を歌うのはナンデ?

 という話。

 

「は?」

 

 虚を突かれるパチュリー。

 しかしまぁ、

 

「仕事なんだから女性曲を歌うこともあるんでしょう?」

 

 とありきたりの答えを返すが、

 

「ダメ!」

 

 すかさずダメ出しする小悪魔。

 

「正解は、彼がゲイのサディストだからです!」

「なんていう超理論!」

 

 これでは命蓮寺のスカム禅問答ではないか!

 とても理論派たる紅魔館大図書館の司書のものとは思えないこの発言に、頭痛を覚え額を押さえるパチュリー。

 

 ともあれ、なら昼は?

 と思い劇場に行くと、

 

「ここは、ちびっこのど自慢の会場です」

 

 という具合にのどかなイベントに切り替わっていて、

 

「おヒマでしたらどうぞ見て行ってください」

 

 と勧められる。

 舞台ではアンナという少女が、

 

「わたしの~ すてきな~ おうじさ~ま~♪

 はやく~ わ~たしを~ む~かえ~に きて~♪」

 

 と歌っていて、

 

「どうせなら『Love Song 探して』を歌ってほしいのだけれど」

 

 とパチュリー。

 ドラゴンクエスト2では、ペルポイの歌姫アンナに話しかけるとBGMがファミコン版発売当時、アイドル歌手、牧野アンナが歌ったイメージソング『Love Song 探して』に切り替わるという演出があった。

 リメイクではこの演出が抹消され、冒険の書メニューの時に流れるだけの曲になってしまっていたが。

 まぁ、ファミコン版で、ここで鉄腕アトムを歌っていた男の子の存在が抹消されてしまったように、色々と大人の都合があるのだろう。

 

 また舞台にかぶりつきで、

 

「アンナちゃん、がんばって!」

 

 と応援している女性の姿があって、

 

「家族の応援かしらね?」

 

 パチュリーは微笑ましそうに眺めるのだが、小悪魔はというと鼻息も荒く、

 

「ちっちゃな女の子に興味のあるお姉さんかも知れませんよ!」

 

 などと主張する。

 

「危ないこと言わないで頂戴!」

 

 とパチュリーは叫ぶしかない。

 一方、舞台袖にあるタンスを調べてみると、うさ耳バンドとおしゃぶりが見つかる。

 パチュリーはうさ耳バンドを手に取って見定めた。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではマイラのすごろく場の何も無いマスを調べれば低確率で入手できるものだったが。

 この世界の元となった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなったため、こことドムドーラでしか拾えない限定品となっている。

 

「うさ耳バンドは頭を守る物のようね」

 

 と彼女が言うとおり、

 

「装飾品ではなく兜に分類される装備ですか」

 

 ということ。

 守備力を+15してくれる装備、なのだが、

 

「戦いの時、道具として使っても何も起こりそうにないわ」

 

 特別な力があるわけでもない。

 

「これを装備できるのは、私たちの中では私だけみたいね」

 

 装備対象は商人と遊び人。

 

「これは男の人には装備できないでしょうね」

 

 というように女性のみの装備品だ。

 女性向けには銀の髪飾りという高性能な頭部防具があるので、利用価値はほぼ無い。

 もう少し早めに出てくれるか、水着系やぬいぐるみのようにグラフィックが変更されるなどの利点があれば、また別だったのだろうが。

 

「お店に持って行けば390ゴールドで売れるわね」

 

 という具合で売るしかない。

 

 一方、おしゃぶりの方は、

 

「おしゃぶりは装飾品のようね」

「はい?」

「これをしゃぶっていたら、あまえんぼうって言われてもしょうがないわね」

 

 性格を『あまえんぼう』に変えてくれるものらしい。

 

「つまり、赤ちゃんプレイ用の品……」

「プレイって何?」

 

 小悪魔が何を言っているのか理解できないパチュリー。

 ともあれ、

 

「『あまえんぼう』の性格は甘え上手という意味なのか、賢さ+5%と多少プラス補正があるけれど、力-5%、体力-10%とフィジカル的には少し劣る。そうね、言ってみればまぁ、どこにでも居るタイプの人間になるわね」

 

 勇者の最初の性格診断では、

 

 あなたは じつは あまえんぼうさん です。

 つよがっていても 本当は ひとりでは なにも できなかったりします。

 でも それを 人に知られたくないので 背伸びしながら 

 せいいっぱい 頑張っています。 これはわるいことでは ありません。

 たとえ 背伸びだとしても がんばっていれば それが 本当の

 自分に なることでしょう。 そして ひとりで なんでも

 できるようになった あなたを まわりのひとは すごいと思うはず。

 なぜなら その人たちは 意外と ひとりでは 

 なにも できなかったりするからです。

 つまり 世の中には それほど あまえんぼうさんが 多いということ。

 このことは おぼえておきましょう。

 

 というように言われるものだ。

 

「意外と評価は高い…… というか、これ、どこが甘えん坊なんです?」

 

 首をひねる小悪魔。

 

「勇者の最初の性格診断では、偶然か、細かいことを気にしないタイプか、それともただのイエスマンなのか、すべての質問に「はい」と答えるとたどり着く、魔物になってしまう最終質問で女子供を殺さずに出て行くとこれになるわ」

「それも、何と言うか普通の行動ですよね?」

 

 ますます分からないといった様子の小悪魔に、パチュリーはくすりと笑って、

 

「だから性格診断では「世の中には、それほどあまえんぼうさんが多いということ」と言っているのよ。能力値も行動も普通、もしくは多少劣っていて一人では何もできなくとも、それを隠したうえで背伸びしながらも頑張って生きて行く。そんなごく普通の人間にも、甘えたいという願望はあるってこと。甘えたいと思うのは普通であるということ」

 

 そして、

 

「もちろん、こぁ、あなただってそうよ」

「はい?」

「どうしてここで、おしゃぶりが手に入るのかしら?」

「ええ?」

 

 何を言われているのか分からない小悪魔だったが、

 

「このタンス、革命前に調べておけば出てくるのはガーターベルトだったのよ? 取っておかないからほら、中身が入れ替わっておしゃぶりになってしまっているじゃない」

 

 ということ、

 

「あなたはガーターベルト、つまり『セクシーギャル』より、おしゃぶり、『あまえんぼう』を選んでしまったってわけ」

「そ、そんな強引な!」

「最初の性格判断でも、最後の設問の行動次第で性格が決まったでしょう? これもそう。あなたの無意識の行動に性向が現れているのよ」

「嘘です! 全て嘘です!」

 

 イヤイヤと首を振る小悪魔に、パチュリーは、

 

「お店に持って行けば307ゴールドで売れるわね」

 

 引き下がって売却処分してしまうかに見えたが、

 

「でもガーターベルトなら975ゴールド、3倍以上の値段で売れたのよ」

 

 あれほどお金に困っていて、これからだってお金が必要だというのに、ガーターベルトではなくおしゃぶりを選んでしまったのは何故か?

 パチュリーはそれもまた小悪魔の無意識が選んだ選択だと言っているのだ。

 

「大丈夫。呪いはかかっていないわ」

 

 おしゃぶりを手に、小悪魔に迫るパチュリー。

 

「スーパーファミコン版の取扱説明書だと、あまえんぼうどころか本当に幼児退行を起こして赤ん坊のようになってしまった女賢者のイラストが掲載されていたのだけれど」

「呪われてるようなものじゃないですか!」

 

 悲鳴を上げる小悪魔だが、パチュリーは退かない。

 その笑みはまるで、

 

 BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい)……

 

 とでも言っているかのようだ。

 

(処分しなきゃ…… あれはここに在っちゃいけないやつだ)

 

 小悪魔は思う。

 

(一体何を考えてるんですか、パチュリー様。本当に怖いですよ。

 それを笑顔で突き付けられるだけで…… 身体に震えが走るんですよ。

 この『赤ちゃんプレイ』向けの大人のおもちゃが、

 

 私は今から赤ちゃんにされる)

 

 そういうことになった。

 

 

 

「さて、あとはお買い物だけれど」

 

 この街の武器と防具の店では革命後からはウォーハンマー、ドラゴンキラー、魔法のそろばん、魔法の前掛け、ドラゴンシールド、天使のローブが売られている。

 

「革命前から売られていたウォーハンマーは攻撃力+70の戦士専用武器。ゾンビキラーより3ポイントだけ攻撃力は高いけれど、ゾンビキラーには二フラム耐性に応じた追加ダメージがあるし、僧侶、賢者、商人にも使い回しができるしで、強いこだわりでも無い限り、買う必要は無いかしら」

 

 バラモス討伐後、アレフガルドに降りたらマイラでも売られているが、そのころには完全に用が無くなっているだろう。

 

「ドラゴンキラーは勇者、戦士が装備できる攻撃力+79、さらにドラゴン特効で16~32の追加ダメージが入る武器ね」

 

 上の世界の店売り武器の中では最強の攻撃力を持つものだ。

 

「変な形してますね。刃と手甲が一体化していて、腕にはめてパンチを打つフォームで突くんですか?」

「そうね、実在の武器で言うとインドのジャマダハル…… 名称の正誤の論争は脇に置いておくとして、洋の東西を問わず広くカタールとも呼ばれているものに近いわね。ドラゴンは硬いウロコに覆われた強力なモンスター、武器も貫通力に優れたものが必要ということなんでしょう」

 

 ドラゴンクエスト2から登場した武器だが当時、集英社から出た『ファミコン神拳奥義大全書 ドラゴンクエストII 悪霊の神々』(1987/2/1)という攻略本ではもっと違った形状をしていた。

 この形状になったのは『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ…公式ガイドブック』(1988/8/1)から。

 なお『ドラゴンクエスト2 悪霊の神々 公式ガイドブック』(1988/9/1)でも同様のイラストが用いられているが、これは出版年月からも分かるとおり、3の公式ガイドブックを出した後に、エニックスが2も出そう、ということで出版したものだ。

 ついでに言えば日本にカタールという珍しい武器の存在を広めたのは、世界の民族武器の見本市のような米国製テーブルトークRPG『トンネルズ&トロールズ』(翻訳初版は社会思想社より1987/12/30出版)であり、タイミング的に見てこれがデザインに影響を与えていると思われる。

 

「もっとも刃の形状が独特だから、I型ピーラーのように使ってドラゴンのウロコを剥ぐのだっていう意見もあるようだけれど」

「ちょっ!?」

 

 そんな変わった武器だったが、

 

「稲妻の剣や魔神の斧を入手するまでのつなぎには使えるかしら」

 

 この商人の町の発展を後回しにした、そしてパーティに戦士も居ないパチュリーたちには出番は無かった。

 先に進めておけばネクロゴンド突入前に買えたのだが。

 ただ、

 

「ファミコン版ではサマンオサで売っていたから最後の鍵を手に入れたら買えたのだけれど、リメイクだとボストロール、やまたのおろちを倒してからでないと買えないのがね」

「確かに、ドラゴンへの追加ダメージはやまたのおろち戦であると便利ですよね」

 

 と言う小悪魔だったが、

 

「やまたのおろち、それにキングヒドラなんかもドラゴン扱いにはなっていないわよ」

「ええっ!?」

 

 ドラゴンクエスト3でドラゴンとされ、ドラゴンキラーの追加ダメージが発生するのは、ファミコン版ではスカイドラゴン、スノードラゴン、サラマンダー、スカルゴン、ドラゴンゾンビ、ドラゴンの6種類だけ。

 リメイクだとそれに加え、しんりゅうのほか、ゲームボーイカラー版追加モンスターのキースドラゴン、ダースドラゴン、グランドラゴーンにも効く。

 そう、グランドラゴーンに効いても、その色違いであるやまたのおろち、ヒドラ、キングヒドラには効かないままなのだ。

 

「特効は時期的にスカイドラゴン、スノードラゴンには生かせるかしら」

 

 それ以降だと、もっと強い武器が登場するため、そちらで殴った方が良い。

 

「スカイドラゴンはもう会わないんじゃ?」

 

 と小悪魔が言うような意見もあるが、

 

「そうでもないわ。ネットで情報が共有されるようになった結果、上の世界で一番楽にメタル狩りができるのは結局ガルナの塔、という話が広まっていて」

 

 上の世界では、はぐれメタルを狙うには出現率が低すぎて効率が悪いということらしい。

 

「そこに出るスカイドラゴンを少ない手数で排除できるのは、ありがたいものなのよ」

 

 ファミコン版だと混乱させれば炎で同時に出たメタルスライムを一網打尽にできたためメダパニ、毒蛾の粉に強耐性で7割の確率で無効化されるとはいえ試してみるという博打も打てたが、リメイクだと同士討ちの炎では倒せなくなってしまったし、さっさと始末するに限る。

 スカイドラゴンはニフラムに無耐性なので、ニフラムで消し去るか、ゾンビキラーの二フラム耐性依存の追加ダメージで倒してやっても良いのだが。

 

「一応、力を255まで上げておけば、しんりゅう戦で、会心の一撃の込みのダメージ期待値は王者の剣、破壊の鉄球を上回るとも言うわ」

 

 誤差範囲ではあるが、それでも使い道がまったく無いわけでもないということだった。

 

「天使のローブは、リメイクでここでも売るようになったから、エルフの里で買い逃しているようなら買っておけばいいわ」

 

 これも商人の町イベントを先に進めておけばネクロゴンド突入前に買えるため、ザキ、ザラキを使って来るホロゴースト対策には有効だろう。

 そして、

 

「魔法のそろばんは、小さなメダルを忘れず集めていれば、正義のそろばんが先に手に入るのよね」

 

 ネットなどの情報を見ずに完全初見プレイをやるとか、街からの盗み禁止プレイをするなど、縛りプレイで商人を使っていれば出番はあるかといったところ。

 

「それでも鉄のそろばんよりはマシかしら」

「はい? そんなのありましたっけ?」

 

 首を傾げる小悪魔だったが、

 

「いわゆるボツアイテムね。スーパーファミコン版の説明書にイラスト入りで載っているし、データ自体はプログラム中にあるの」

 

 攻撃力+20、価格は630ゴールドというもの。

 

「ゲームボーイカラー版でも同様で、こちらは『キメラバグ』というバグ技で実際に出して使うこともできるわ」

 

 だからどうしたという性能しか持っていないが。

 なお『ドラゴンクエストヒーローズII 双子の王と予言の終わり』で20年の時を超えて正式アイテム化した模様。

 

「そして今回、私が買うのは魔法の前掛けよ」

 

 商人の町の最終形態でのみ、9900ゴールドで販売されているもの。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではマイラのすごろく場のマスを調べても低確率で入手できるが。

 

「守備力+45、魔法のダメージを3/4に減少させる魔法のエプロンよ」

「ロマリアやアッサラームで、旅の商人が魔物と戦うときのために鉄板を繋ぎ合わせて作られた鉄のエプロンという装備が売られていましたけど」

 

 そちらは守備力+22で700ゴールドというもの。

 鎖かたびらの守備力+20で480ゴールドというコスパの良さに霞みがちだが、革の腰巻や武闘着などと比較してもコスパでは負けないし、その上の鉄の鎧ともなればまた費用対効果ががくんと悪化する。

 ゆえに商人が居るならやはり、お買い得な逸品だろう。

 

「それの上級版といったところですか?」

「そうね、重装の鎧を着ることのできない商人向けに全身を鎧うのは諦め、胸部前装甲にエプロン状の前垂れを付けてひざ下までを守るという割り切ったものね」

 

 商人が着られるのは鉄の鎧までで、鋼の鎧からは装備できなくなっている。

 強度のある鋼で造った鎧の方が、鉄で造った鎧より軽量化が図れるようなイメージがあるが、公式ガイドブックの記述では鉄の鎧がHalf Plate Armor(ハーフプレートアーマー)、半身鎧で、鋼の鎧がFull Plate Armor(フルプレートアーマー)全身鎧。

 材質だけではなく、覆う範囲が違っているということ。

 

 その点、前掛けと呼ばれるエプロンアーマーは、要所を重点的に守り重量を軽減するという現代の軍用ボディアーマー、中でもプレートキャリアと呼ばれる軽量タイプに似たものだと言えるだろう。

 プレートキャリアタイプのボディアーマーは前面と後面および側面に対小銃弾用のトラウマプレートを挿入できるようになっており、任務に合わせて選択が可能。

 また最近のものには股間、鼠蹊部を守る前垂れ、グローインアーマーが付いていたり、オプションで後付けできるものが多かったりする。

 そう、プレートキャリアの前面のみにトラウマパッドを挿入し、グローインアーマーを付けた状態のもの。

 それに近いのが、このドラクエの商人が使う前掛け、エプロンアーマーなのだった。

 

 そしてこの魔法の前掛けだが、

 

「あなたが今使っている魔法の鎧が守備力+40、魔法のダメージを2/3に減少させるものだから、守備力では優り、魔法の耐性では劣るというものね」

 

 魔法の前掛けの守備力+45は、刃の鎧の守備力+55、大地の鎧の守備力+50と比較すると劣っているように思われるが、実際には耐性を含めて考えると、上の世界では魔法の鎧が最上とされている。

 その魔法の鎧と拮抗する性能を持つのだから、大したものであると評価できるだろう。

 さらに言えばドラゴンクエスト3のリメイクでは耐性は重複するので、魔法の盾のダメージを3/4に減少させる効果と合わせると、

 

 3/4×3/4=9/16

 

 約56パーセントまでダメージが減り、魔法の鎧と盾を併用した場合の、

 

 2/3×3/4=6/12=1/2

 

 50パーセント減とは、6パーセントの差しか無くなる。

 そんな魔法の前掛け、男商人にとっては最強の鎧でもあったりする。

 女商人の場合はまだアレフガルドに行けば、魔法のビキニ、神秘のビキニ、光のドレスが手に入るが。

 そして、

 

「さよなら、私のマジカルスカートとぬいぐるみ」

 

 長いこと世話になったマジカルスカートとぬいぐるみにはここでお別れである……

 

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:18138G

パチュリー:287046G

 

 小悪魔は不幸の兜の代金13ゴールドをパチュリーに支払い、また所持金から25レベル×30=750ゴールドを払っているので、

 

小悪魔:17375G

パチュリー:287059G

 

 ここから、それぞれの収入を足すと、

 

小悪魔:21459G

パチュリー:291143G

 

 そしてパチュリーは9900ゴールドで魔法の前掛けを買い、マジカルスカートを1125ゴールドで、ぬいぐるみを262ゴールドで売却するため差し引き、

 

小悪魔:21459G

パチュリー:282630G

 

 となるのだった。

 

「お金が貯まってきました!」

「でもバラモスを倒してアレフガルドに行ったら手に入れられる新装備には、こんなものじゃ到底足りないお金が必要よ」

「うええ~っ」

 

 やはりリッチには程遠い小悪魔だった。




 商人の町イベントも完了。
 しゃぶれよ、されている小悪魔とか、オギャる小悪魔とか居ましたが。
 なお原稿はソフトウェアで読み上げをして最終チェックをしている私ですが、今回、

> BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい),BE MY BABY(私の赤ちゃんになりなさい)……

 これを読み上げられ、連呼され、自分で書いたくせに顔が引きつったりしてました。

 次回はいよいよバラモス城の攻略です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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バラモスの城へ 動く石像の太くてかたぁい指で責められるパチュリー

「それじゃあ、装備を整えて魔王バラモスの城へ行きましょうか」

「何か準備が要りますか?」

「ネクロゴンドの洞窟に引き続き、ホロゴーストと地獄の騎士が出るから、命の石と満月草は必須よ」

 

 ザキ、ザラキ対策、そして焼けつく息のマヒ対策である。

 

「あと、はぐれメタルと遭遇した場合に使う毒蛾の粉」

「あれ? はぐれメタルに効くんですか?」

「いいえ、これは一緒に出たモンスターに使って攻撃してもらうためのものよ」

 

 はぐれメタルはメダパニ、毒蛾の粉に完全耐性を持ってはいるが、一緒に出て来た仲間には通じる者も居るということ。

 

「実際、私たちにはこれしか手が無いのよね」

 

 何しろ5/8の確率で逃げてしまう相手だ。

 地道に1ポイントずつダメージを重ねて倒すというわけにも行かない。

 

 魔法使いや盗賊が居るのなら毒針、もしくはアサシンダガーの即死攻撃。

 戦士が居るならこのバラモス城で手に入る魔神の斧による会心の一撃。

 武闘家が居るのなら、この時期のレベルではあまり期待できないが会心の一撃も…… いややっぱり無理か。

 

 といったところだが、どれもパチュリーたちには使えない手だった。

 あとは、

 

「忘れていたけど、世界樹の葉を切らしていたわね」

 

 バラモス城で出現するエビルマージは1/128の確率で世界樹の葉をドロップする。

 ホビットのほこらの南、四つの岩山の真ん中の位置にある世界樹からは手持ちに世界樹の葉が無い場合にしか拾えないため、ここは先に行っていた方が良い。

 ラーミアを得た後なら、ルーラでダーマ神殿に跳んでから北に飛ぶのが手っ取り早く分かりやすいか。

 

「ラーミアが居るとモンスターに襲われずに済みますよね」

 

 前回は森の中、クマさんに出合う恐怖に震えていた小悪魔は安堵する。

 

 世界樹の葉を拾ったら、小悪魔のルーラでイシスへと跳び、そこからラーミアで南南東に。

 水と山地に囲まれたバラモスの城へとたどり着く。

 

 城の一階から地下へ。

 通路を前進し、

 

「地獄の騎士と…… 緑の黒子さん?」

 

 ネクロゴンドの洞窟でも出た地獄の騎士と新たな敵、全身を覆う緑色のローブに覆面から覗く眼だけが不気味に光る魔法使いの上位種、

 

「エビルマージね」

 

 それぞれ1体に遭遇。

 

「行きます!」

 

 小悪魔は稲妻の剣で地獄の騎士に斬りかかるが、倒しきれない。

 そして素早さ58と意外に素早いエビルマージのメラミがパチュリーに炸裂するが、

 

「問題無いわ」

 

 魔法の前掛けと魔法の盾の相乗効果により呪文ダメージが約56パーセントまで減らされているので大したことは無い。

 正義のそろばんによる反撃で倒しきれるし。

 それより地獄の騎士の2回攻撃。

 初撃は剣による攻撃だったが、続いてマヒの効果をもたらす、焼けつく息が吐きつけられる。

 

「まぁ、効かないんだけれど」

 

 焼けつく息の効果の基本命中率は1/8。

 そしてファミコン版なら、

 

状態異常攻撃の成功率≒基本命中率×{(384-運)÷2}÷128

 

 スーパーファミコン版なら、

 

状態異常攻撃の成功率≒基本命中率×(320-運の良さ)÷320

 

 ゲームボーイカラー版なら、

 

状態異常攻撃の成功率≒基本命中率×(384-運の良さ)÷256

 

 といった、運の良さによる修正が入る。

 この世界はスーパーファミコン版を基に作られた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 つまりスーパーファミコン版に準じているならファミコン版の18.8~6.3%より低い、12.5~2.5%しか効かない。

 計算上は、運の良さに+20%という大きな成長補正のあるセクシーギャルの小悪魔なら、9.8%。

 運の良さに-30%という大幅なマイナスの成長補正のあるパチュリーでも、あなほりなどで得た種を投与しているため、10.6%程度であった。

 二人同時にマヒして全滅扱いになってしまう確率はさらに下がるし。

 

 いや、そもそもパチュリーたちは今まで基本命中率が倍の2/8あるはずの状態異常攻撃、メダパニ、毒攻撃、毒の息に一度もかかっていないことから、スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではもっと確率は下がっている可能性すらある。

 

「でも安全を考えるのなら、地獄の騎士を先に確実に倒しておいた方が良かったかしら?」

 

 と反省。

 しかしエビルマージには基本命中率3/8のラリホーや2/8のメダパニがあり、そちらを食らって一方的にやられる可能性もある。

 どちらがどうとも言い難いのだが。

 次のターンで、

 

「会心の一撃!」

 

 小悪魔が地獄の騎士に止めを刺す。

 ……別に通常の攻撃でも倒せていたのだが。

 

 そして突き当りの地下室には、ベッドに横たわった状態の骸骨が!

 

「返事が無い。ただのしかばねのようね……」

 

 その周囲の床からは小さなメダルが手に入る。

 

 来た道を戻るパチュリーたちの前に、地獄の騎士3体と、

 

「はぐれメタルです!」

 

 はぐれメタル1体が現れた。

 

「ここは地獄の騎士に毒蛾の粉を!」

 

 パチュリーは焼けつく息への耐性を高めるために幸せの靴を装備して運の良さを+50。

 そして、はぐれメタルのギラを警戒するよりは、地獄の騎士の攻撃に備えた方が良いだろうと魔法の盾ではなく風神の盾を装備。

 小悪魔も刃の鎧とドラゴンシールドという、耐物理攻撃対策を取る。

 無論、1/8の確率で来る、はぐれメタルの物理攻撃を反射できないかという目論みもある。

 それを狙うなら小悪魔を前に出した方がいいのでは、という話もあるが、実際にははぐれメタルの判断力は最低の0。

 バカなので勇者パーティの隊列を認識できず、完全にランダムで攻撃対象を選ぶため関係が無かったりする。

 

「来た!」

 

 素早さ150のメタルスライムがギラを放ってくる。

 

「こんなにもらって嬉しいギラは初めてね」

 

 ということで、逃げずに居てくれることに感謝するパチュリー。

 小悪魔は、毒蛾の粉を使うが、

 

「効きません!」

「地獄の騎士はメダパニ、毒蛾の粉に強耐性持ち。7割の確率で無効化するのよ」

 

 それでも一縷の望みを賭けてパチュリーが使うと、

 

「効いた!」

 

 そして地獄の騎士が、はぐれメタルを斬り倒す!

 

「ナイスです!」

 

 小悪魔が喝采を上げる。

 残った地獄の騎士が斬りかかって来るが、かすり傷程度で終わるし、焼けつく息も問題なく跳ねのけた!

 

「さぁ、後は詰めを誤らずに、こいつらを!」

 

 幸い毒蛾の粉が効いたのは一番後ろの1体。

 ゆえに小悪魔はドラゴンテイルによる攻撃を、パチュリーは炎のブーメランによる攻撃をすれば、効いていない敵を優先的に倒せると踏んだが、

 

「あらら……」

 

 こちらが先攻した結果、混乱した1体のみが残る。

 メダパニはがかかっていても、最後の1体になると普通に攻撃してくるのだ。

 おそらく味方が敵に見える幻術をかけられていると見るのが道理で、つまり味方が全員居なくなれば、通常どおりに行動できるようになるのだろう。

 焼けつく息を吐いたので、

 

「ひやりとしたけれど」

 

 しかし問題なし。

 次のターンで倒しきる。

 それぞれ21885ポイントの経験値を獲得。

 

「レベルが上がったわね」

 

 パチュリーはレベル29に。

 

ちから+3

すばやさ+0

たいりょく+4

かしこさ+1

うんのよさ+1

 

 となり、さらに、

 

「力の成長上限値が上がって余裕が出たから、ストックしていた力の種を使いましょう」

 

 と力を種で+3することに。

 場所は魔王バラモスの城。

 そんな危険区域なので防具を外すこともできず、

 

「壁に手をついて下さい、パチュリー様」

「うっ、あぁ……」

 

 種により短時間に筋力を強化するための、筋肉痛を凝縮したような痛み、それを和らげるための小悪魔のマッサージも、パチュリーの背後から魔法の前掛け、マジックエプロンの下に手を滑り込ませるという形で立ったまま行うしかない。

 

「な、何だかキッチンで人妻に手を出しているみたいで興奮しますね」

「なっ、何を言うのよ……」

 

 小悪魔はこのシチュエーションに酔ったのか、エプロンの下でうごめく両手を一層激しく動かし、

 

「はぁはぁ、奥さん、奥さぁん……」

 

 と、パチュリーの首筋、髪に鼻先をうずめその匂いを堪能しながらの人妻寝取りプレイに没頭する。

 

「こ、このバカ……」

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:29

 

ちから:145

すばやさ:101

たいりょく:152

かしこさ:41

うんのよさ:49/99

最大HP:300

最大MP:83

こうげき力:270/202

しゅび力:150/140

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 そして小悪魔のレベルも26に、

 

ちから+4

すばやさ+1

たいりょく+5

かしこさ+1

うんのよさ+3

 

 さらに27へと一気に2レベルアップ。

 

ちから+4

すばやさ+2

たいりょく+5

かしこさ+1

うんのよさ+4

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:27

 

ちから:97

すばやさ:162

たいりょく:99

かしこさ:67

うんのよさ:75

最大HP:194

最大MP:132

こうげき力:179/149

しゅび力:198/191/183

 

ぶき:いなずまのけん/ドラゴンテイル

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 さらにライデインの呪文を覚えた!

 

 

 という結果に。

 なおマッサージ後、

 

「い、いい加減にしなさいよね」

 

 と着衣と髪の乱れを直すパチュリーのしどけない姿に、小悪魔の目は釘付けで、

 

「パチュリー様ぁ!」

「言ったそばから!?」

 

 我慢できずに跳びかかり、そして、

 

「ふぎゅっ!?」

 

 とっさにパチュリーがかざした風神の盾、その表面にある風神の顔とキスをすることになるのだった……

 

 

 

 さらに進むとスノードラゴン2体と遭遇するが、

 

「見劣りする相手よねぇ」

 

 炎の呪文に完全無耐性なので小悪魔が稲妻の剣のイオラの効果を見舞い、パチュリーが炎のブーメランを投げただけで終了するが、経験値がしょぼいのだ。

 そしてホロゴーストとエビルマージ、2体ずつの群れだが、

 

「ニフラムしてしまってちょうだい」

 

 難敵のエビルマージだが、意外にもニフラムに対し弱耐性しか持っていないという弱点を持つ。

 そのため、

 

「光になれっ!」

 

 小悪魔の二フラムで光の彼方に消し去られてしまう。

 この対処法を知っているのと知らないのでは、バラモス城の難易度ががらりと変わるのだった。

 

 あとはホロゴーストだが、パチュリーの炎のブーメランが薙ぎ払い、1体を倒す。

 残り1体がザラキを唱えるが効かず、

 

「これで!」

 

 小悪魔の稲妻の剣が止めを刺す。

 

 そして昇り階段を見つけて地上の庭に建つ東屋(あずまや)へと出る。

 パチュリーはフロアが切り替わるたび5回だけあなほりをしているのだが、

 

「素早さの種が出たわね」

 

 これは地獄の騎士が1/256の確率でドロップするアイテムだ。

 ファミコン版では同じ確率で吹雪の剣をドロップしたので、上の世界でこれを得るため乱獲されたのだが、スーパーファミコン版以降のリメイクでは素早さの種に改められた。

 

「そのくせ確率はそのままって雑な仕事よね」

 

 という話だったが。

 これにより地獄の騎士は焼けつく息を吐くイヤなだけのヤツになってしまったのだった。

 

「まぁ、さっきのようにはぐれメタルと一緒に出て、混乱してくれた時だけは2回攻撃してくれるナイスガイになるのだけれど」

 

 勝手な話ではあるが。

 

「ナイス、ガイコツ?」

 

 小悪魔がつぶやくが、そういう意味ではない。

 素早さの種をパチュリーに使って、

 

「庭の東屋でって、何だか不倫や露出プレイって感じですよね」

「うんっ…… 黙って…… マッサージに集中しなさい」

 

 パチュリーの素早さを+3してから庭先を進む。

 

 次いで現れたのは地獄の騎士3体にホロゴースト1体。

 

「地獄の騎士にニフラムを」

 

 とパチュリーは小悪魔に指示。

 実は地獄の騎士もニフラムに対し弱耐性しか持たないのだ。

 これを知っていると対処しやすいが、しかし、

 

「1体にしか効きません!」

 

 弱耐性でも3割の確率で無効化されるので、リアルラック次第ではピンチに陥る場合もある。

 パチュリーは、ホロゴーストを正義のそろばんで撃破。

 残った地獄の騎士が攻撃してくるが、焼けつく息は吐かなかったので、次のターン、小悪魔のドラゴンテイルとパチュリーの炎のブーメランを重ねて終了である。

 

 勝手口から再び城内に入り、

 

「新事実。バラモス城に出入りするだけでもあなほりのカウントはリセットされるわ」

 

 同じ1階なのだが、フロアとしては別扱いということらしい。

 

「音がポイントかしら」

 

 フロア切り替えのSEがあれば、リセットされていると考えて良さそうだった。

 そんな新たな気付きもありながら、階段を昇り城壁の上へ。

 そこでエビルマージ4体に遭遇。

 

「耐魔法装備で、物理で押し切るわよ!」

 

 小悪魔のドラゴンテイルとパチュリーの炎のブーメランを重ねれば、3体までは倒せる。

 残った1体のエビルマージが一番強力なマヒャドを使って来るが、魔法に耐性のある装備のお陰でその威力も半減。

 次のターンで止めを刺される。

 

「4体倒せば一人3300ポイントの経験値。メタルスライムより確実に倒せるし経験値は上ね」

 

 普通のパーティだと受ける損害も甚大で、割に合うかは微妙だったが、パチュリーたちなら問題は無い。

 下りの階段を見つけ、再び室内に。

 

「ば、バリアー床です!」

「行くわよ」

「ぐひいぃぃぃぃっ!!」

 

 悲鳴を上げる小悪魔を引きずり回しながらダメージを与えるバリアー床を超えて進む。

 渡り切ったら小悪魔のホイミで回復し、

 

「さて、二つの階段、上に行くべきか下に行くべきか」

 

 という話だが、

 

「まず上に行きましょうか」

 

 ということで階段を上がることに。

 再び城壁を進み、今度は下りの階段を降りる。

 

「宝物庫です!」

 

 そこには宝箱が3つ。

 中身は、

 

「不幸の兜です……」

 

 と小悪魔がげんなりとするように、彼女には毎度おなじみの不幸の兜。

 またバラモス戦で被らなければならないのか、という話。

 値段は安いが、呪いを解くのに教会への寄付が毎回かかるわけで。

 

 次の宝箱から出たのは、

 

「魔神の斧、ね」

 

 パチュリーは魔神の斧を手に取って見定めた。

 

「攻撃力+105の戦士専用武器。会心の一撃が発動する確率と、打撃がミスに終わる確率がともに1/8になるというものよ」

「ミスする可能性があっても、会心の一撃が狙える方がお得ですよね?」

「そうね、普通に平均期待ダメージ値は上がるし、レベル32の武闘家に匹敵する会心率はメタル狩りにも威力を発揮してくれるわ」

「えっ? レベル32まで一番の売りである会心率が負けてるんですか、武闘家。4人パーティならそれより前にゾーマを倒してる可能性すらありますよね?」

「こらこら」

 

 ということ。

 

「ただ、バイキルトとの兼ね合いを考えると微妙だったりするのよね」

「はい?」

「というのもファミコン版、ゲームボーイカラー版では会心の一撃にバイキルトの攻撃力2倍が適用されないの」

 

 一方、

 

「スーパーファミコン版と、その流れをくむ携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、そもそもバイキルトをかけると会心の一撃が出ないようになっているわ」

 

 大抵の場合、バイキルトと会心の一撃は似たようなダメージになるから、単に1/8の確率でミスするだけの武器になってしまうのだ。

 まぁ攻撃力は普通に高いし、凍てつく波動でバイキルトを打ち消してくるゾーマ戦や、バイキルトの使い手抜きの縛りプレイなどでは重宝するだろうか。

 

「お店に持って行くのは、もったいないと思うけど……」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではしんりゅうを規定ターン以内に倒した場合に開いてもらえるすごろく場でもう一つ得られるが、それ以外では固定敵で出現数の限られるミミックが1/256の確率でドロップするのを狙わないと得られないものなのだ。

 怪しい影に化けたミミックを狩るというとんでもなく低確率な手段もあると言えばあるし、ゲームボーイカラー版では氷の洞窟のB1Fでミミックが普通に現れるのでその限りではないのだが。

 

「375ゴールドで売れるわね」

「やっすいですね。なんでそんな値段なんですか?」

「般若の面の売値は1ゴールド、嘆きの盾が7ゴールド、そしてここで一緒に出る不幸の兜は13ゴールド」

 

 まぁ、ファミコン版では不幸の兜は値段が付いていなくて売れなかったのだが。

 

「ドラクエの呪いの装備は安いんですね。……あ、もしかして?」

「そう、バラモス城で不幸の兜と一緒に出るし、『魔神』という禍々しいネーミング。さらには呪いの装備たちと同様に数値上の性能は高いのに安すぎる値段。呪いを懸念して装備しなかったプレイヤーも居たそうよ。公式ガイドブックでも『会心の一撃も出易いが、ミスも多くなるだろう』という記述で、どれだけミスが多くなるかは書かれていなかったし」

 

 そういう罠なのかも知れなかった。

 しかしまぁ、

 

「大丈夫、呪いはかかっていないわ」

 

 とパチュリーが鑑定結果を伝えるとおり、

 

「商人に見せれば呪いの有無は判別できますね」

 

 ということだったが、

 

「この時点で商人が居るパーティも少ないし、商人の鑑定を活用しているプレイヤーもまれでしょう。さらに言えばファミコン版では呪われていない場合に「べつにのろわれていないようです」と言うものの、呪われている場合はこのセリフが無いということでしか判断できないのよ」

「はい?」

「だから「呪われてるって言ってないのに呪われた! 商人の鑑定で呪いの有無は判別できないのでは?」って考えたプレイヤーも居て」

「そんなところまで罠!?」

 

 スーパーファミコン版以降のリメイク作だと「なにかしら? 嫌な感じがするわ……」と言ってくれるので安心なのだが。

 

 そして最後の宝箱を開けて出て来たのは、

 

「祈りの指輪です!」

 

 追加の祈りの指輪だった。

 

 そして元の分岐、下りの階段まで戻ろうとするのだが、

 

「動く石像です!」

 

 小悪魔が叫ぶとおり、拳を振り上げ足を高々と掲げた筋骨隆々、マッチョな石像が3体襲って来る。

 

「眠りの杖で眠らせて!」

 

 二人がかりで眠りの杖を掲げ、眠らせるが、1体がターン終了前に目を覚ましてしまう。

 

「面倒ね」

 

 ネクロゴンド近辺で現れたトロルと同じ、痛恨の一撃を放ってくる近接パワー型のモンスターだが、最大ヒットポイント、攻撃力、素早さは低いし、守備力も40とここで出るモンスターとしては硬くない。

 一方で、攻撃呪文などに対する耐性がガバガバだったトロルに対し、炎の攻撃呪文に強耐性、その他ダメージ呪文にも弱耐性が付いていてヒットポイントを削りにくい上、トロルが2匹までしか出なかったのに対し、3体まで現れる。

 睡眠に対し弱耐性という弱点は共通なのだが……

 

 仕方が無いので、次のターンは小悪魔が眠りの杖、パチュリーは正義のそろばんを振るう。

 しかし、

 

「うわ、やっぱり倒しきれないわね」

 

 パチュリーの正義のそろばんでも一撃では倒しきれない。

 しかもこの動く石像は毎ターン50ポイントヒットポイントが自動回復するのだ。

 幸い、小悪魔の眠りの杖が寝かしつけてくれたので、

 

「ここは一気に行くわよ」

 

 小悪魔のドラゴンテイルとパチュリーの炎のブーメランの合わせ技で行くが、

 

「1体しか倒せない!?」

 

 次のターンでも同様。

 そして最後の1体が目覚めたが、

 

「このまま押し切る!」

 

 何とか倒しきる。

 

「これも3体で一人2670ポイントの経験値。ノーダメージで倒せるにしては美味しいわね」

 

 ということで、

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーはレベル30に。

 

ちから+2

すばやさ+1

たいりょく+3

かしこさ+1

うんのよさ+1

 

 となり、さらに、

 

「力の成長上限値が上がって余裕が出たから、またストックしていた力の種を使いましょう」

 

 と力を種で強化することになるが、小悪魔は、

 

「あ、そうだ、この砕かれた動く石像の指、ツボ押し棒にちょうどいいですね」

 

 倒した動く石像の残骸を使ってパチュリーの身体を責める。

 

「ほうら、太くて硬くてごつごつした指に身体を抉られる……」

「くはっ!」

「気持ち良さそうですね、パチュリー様」

 

 太もものツボをぐりぐりと虐め抜く小悪魔は、それをその奥、パチュリーの秘められた部分に添えてみて、

 

「まるで男性のアレみたいですよね。入れたら奥の気持ち良いところまで届いちゃいますよ、これ」

「やっ、やめっ……」

「ふふふ、もしそんな風にされちゃったら、そんな想像をしながら身を任せてください」

 

 きっと気持ちがいいですよ。

 耳元にそうささやかれ、そして際どいところ、太ももの付け根、鼠径部のリンパを動く石像の指で虐め抜かれるパチュリー!

 痛みと快楽がない交ぜになり混乱するところに、小悪魔が言うように、万が一それを、男性のもののような太い魔物の指を自分の秘奥に差し込まれでもしてしまったら……

 そう想像するだけで、羞恥と被虐に身体が芯から震えてしまう。

 

「あっ、手が滑りました」

 

 わざとらしいセリフと共に、するりとその先が奥に流れ、

 

「あ、や、あぁぁぁぁーっ!!」

 

 がくがくと、揉み絞るように震えながら絶叫するパチュリー。

 無論、小悪魔はぎりぎりのところで手を止めているのだが、

 

「ふふふ、想像だけで逝っちゃったんですね」

「あ、あぅ……」

 

 小悪魔は慈愛に満ちた表情でこう、笑いかける。

 

「可愛いですよ、私のパチュリー様」

 

 と……

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:30

 

ちから:150

すばやさ:105

たいりょく:155

かしこさ:42

うんのよさ:50/100

最大HP:314

最大MP:84

こうげき力:275/207

しゅび力:152/142

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 ということに。

 

「ふふふ、ご満足いただけましたか、パチュリー様」

 

 マッサージを終えた小悪魔は、脱力する主を背後から支えつつ、その耳元にこうささやく。

 

「お望みなら、悪魔の力でこの指と同じくらい太くてかたぁいモノを私に生やして、お慰めしてもいいんですよ」

 

 役目を終え、床に捨てられた動く石像の指を見下ろしつつ、パチュリーの手のひらを、己の股間に導き……

 

「ふん!」

 

 次の瞬間、パチュリーの正義のそろばんが動く石像の指に叩きつけられ、粉々に砕く!

 

「ひうっ!」

 

 それを目にした小悪魔は、すくみ上って自分の股間を抑え、

 

「はい、済みませんでしたぁ!

 

 …ふたなりは……邪道! ! ! !

 …百合プレイは異性間SEXの擬似に非ず。

 女子が女子を責める時は―――

 棒に頼らず己の技で勝負すべし!!!

 

 ですね!」

 

 と叫び、ぶるぶると震えるのだった。

 

「どういうことなの……」

 

 もちろんパチュリーには小悪魔が何を言っているのか、さっぱり理解できなかったが。

 

 

 

 そして地下へ降り、地下道を通じてまた1階へ。

 そこから階段を昇り、城壁へ。

 階段を降りたら中庭に出て、また別の入り口から城内へ。

 と忙しい。

 まぁ、煩雑ではあるものの迷うようなものではないし、何より階段を昇り降りすればモンスターに遭遇するまでの歩数カウントもリセットされるため戦闘も少なくなる。

 しかし完全に無くなるわけでもないので、

 

「スノードラゴン!?」

 

 スノードラゴン3体の群れに襲われる。

 ただ、前の遭遇から1体増えたところで小悪魔が稲妻の剣のイオラの効果を見舞い、パチュリーが炎のブーメランを投げただけで全滅である。

 そして階段を降りて地下へ。

 地下回廊を通じて出たところは城内の別館。

 そして廊下から出た目の前に広がるのは白骨が座る玉座!

 しかし周囲はバリアー床が囲っている。

 

「さぁ行くわよ」

「ちょ、まっ……」

 

 とパチュリーに連れられ、

 

「あひいぃぃぃっ!?」

 

 バリアー床の餌食になり、絶叫する小悪魔。

 そんな彼女を引きずりまわしながら、バリアー床を渡り、白骨死体が座る玉座を目指すパチュリー。

 そこに、

 

「敵です!?」

 

 動く石像と、はぐれメタル、それぞれ1体の群れだ。

 

「運がいいわね」

 

 動く石像に毒蛾の粉を使うが、強耐性、7割の確率で無効化され混乱しない。

 しかし、はぐれメタルは2ターンに渡って逃げずに通常攻撃をしてくれた。

 おかげで次のターン、パチュリーの毒蛾の粉が効いて、動く石像がはぐれメタルを倒してくれる!

 

「よし!」

 

 後は残った動く石像を倒して終了である。

 1体とはいえ、最大ヒットポイントが195もあり1ターンでは倒しきれないため、眠らせてからタコ殴りにして倒しきる。

 二人はそれぞれ20990ポイントの経験値を獲得。

 

「レベルが上がったわね」

 

 パチュリーはレベル31に。

 

ちから+0

すばやさ+3

たいりょく+7

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 となり、

 

「えっ、力が上がってないんですか、パチュリー様」

「そうね、商人はレベルが30を超えると、力はレベルアップごとに1ポイント程度しか上がらなくなるから、こういうこともあるわ」

 

 なお、レベル35を超えるとさらに体力も1ポイントしか上がらなくなってしまう。

 だから高レベルの商人を使う者はあまり居ないのだが、

 

「でもパチュリー様だと、あなほりした種で補えちゃいますものね」

 

 と小悪魔が言うとおりだったりする。

 

「そうね、それに力の成長は鈍っても、成長上限値は上がり続けるから、余裕が出た分、ストックしていた力の種を使うわね」

 

 と、今回は種を二つ使い力を+6することに。

 

「二個ですか!? 痛気持ちいいの二個も欲しいんですか? 二個…… イヤしんぼさんですね!!」

 

 興奮する小悪魔だったが、パチュリーは、

 

「これ以上、酷いことするようなら、ダメージ床を引きずり回す」

 

 バリアー床に囲まれた玉座で白骨化している遺体を目線で示し、あんな風になりたくなかったら分かっているわよね、とにらむ。

 

「ヒエッ」

 

 ということで、いい加減キレたパチュリーに鎮火され、真面目にマッサージをすることになる小悪魔。

 

「あー、そこそこ、気持ちいい……」

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:31

 

ちから:156

すばやさ:108

たいりょく:162

かしこさ:44

うんのよさ:51/101

最大HP:327

最大MP:87

こうげき力:281/213

しゅび力:154/144

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 そして小悪魔のレベルも28に、

 

ちから+6

すばやさ+3

たいりょく+6

かしこさ+2

うんのよさ+6

 

 ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:28

 

ちから:103

すばやさ:168

たいりょく:105

かしこさ:69

うんのよさ:81

最大HP:213

最大MP:136

こうげき力:185/155

しゅび力:201/194/186

 

ぶき:いなずまのけん/ドラゴンテイル

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 という結果に。

 

「それで、この玉座の前から小さなメダルを回収して、お終いね」

 

 まぁ、小さなメダルを取りこぼしなく集めても、次の景品をもらえるのはバラモス打倒後、アレフガルドに行ってからなのだが。

 

「この死体…… 元々ネクロゴンドに存在した国をバラモスが滅ぼし、自分の城として奪い取ったのかしらね?」

「そうですね、この王様も周囲をバリアーで囲まれたせいで脱出できなくなって餓死したとか?」

「確かに、リメイクだとダメージ床ではヒットポイントがゼロにはならないようになっているけれど、ファミコン版だと普通に死んでいたものね」

 

 そして、

 

「それじゃあ確かめたいこともあるし、バラモスの顔を拝みに行きましょうか」

「確かめたいことですか?」

「そうね、こぁ、リレミトを唱えてみて」

「はい?」

 

 小悪魔はリレミトを唱えてみるが効果が無い。

 

「ここ、城や町と同じ扱いでリレミトは効かず、ルーラが効くって話だけれど」

 

 だから非常時には戦闘中にルーラを使うかキメラの翼を用いれば、緊急脱出が可能なのだ。

 

「バラモスの居るフロアだけは違っていて、リレミトが効くって話なの。それがファミコン版だけなのか、リメイクでも同様なのか、試してみたくてね」

 

 そんなわけで外に出ると、水場の中心にある地下への入り口を目指す。

 途中、エビルマージ4体に襲われる。

 パチュリーの炎のブーメランと小悪魔のドラゴンテイルを重ねれば3体までは倒せるが、残る一体は、

 

「呪文じゃない!?」

 

 エビルマージは燃え盛る火炎を吐いた!

 

 火炎の息を使って来る。

 呪文だけでは無いのだ、このモンスター。

 無論、ブレスなのでブレス耐性を持った装備を身に着けていないとダメージは減らせない。

 

「えっ、あの目だけを出した覆面ローブの姿で、どこから炎を吐いたんですか? 呪文と同じ、両手をばっさばさ2回振り上げて前に突き出すってモーションでしたよね」

 

 スーパーファミコン版ではそのようなモーションを披露していたのだが、どうやって炎を吐いているのか、という話。

 

「モンスターなのだし、手のひらに口でも付いているんじゃないの?」

 

 とパチュリー。

 妖怪『手の目』ではなく、『手の口』か。

 まぁ、ドラゴンクエストを産んだ日本のサブカルチャー界隈だと手から火炎攻撃するロボットが居たし、それを複数合わせて強化するという攻撃もあった。

 エビルマージの両手を突き出すモーションも、両手から吐き出す炎を合わせて強化し放っているとも取れるだろうか。

 ともあれ4体とも倒しきると、

 

「レベルが上がりました!?」

 

 小悪魔のレベルが29に、

 

ちから+2

すばやさ+2

たいりょく+5

かしこさ+3

うんのよさ+1

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:29

 

ちから:105

すばやさ:172

たいりょく:110

かしこさ:72

うんのよさ:82

最大HP:225

最大MP:143

こうげき力:187/157

しゅび力:203/196/188

 

ぶき:いなずまのけん/ドラゴンテイル

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 さらに回復呪文ベホイミを覚えた!

 

 

 という結果に。

 

 階段を囲むバリアー床を乗り越えて地下へと進むと、BGMが途切れ、ただひたすら何かが燃え滾っているかの様な音がするようになる。

 そして広間の先には、バラモスの巨体が。

 

「おおー」

 

 感心する小悪魔。

 一方、マイペースで5回だけあなほりをするパチュリーは、

 

「命の石が出たわね」

 

 と確認。

 通常のバラモス城内と同じ処理がかかっているらしい。

 しかし、

 

「スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版だと商人さえ居れば、ホロゴーストのザキ、ザラキは警戒しなくていいんじゃないの、という感じね」

「はい?」

「食らうより、命の石が増えるペースの方が確実に早いでしょう」

 

 ファミコン版ではホロゴースト自身が1/256の低確率でドロップしたものだが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券を1/16の確率でドロップするよう変更され。

 そしてスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版においては、すごろく場が無くなったために、すごろく券をドロップするモンスターはドロップ品をファミコン版と同様のものに差し戻したのだけれど、ドロップ率を戻すことを忘れていた、というもの。

 極楽鳥などもそうだったが、やはりスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ですごろく券を落としていたモンスター全般が戻し忘れているということらしかった。

 

「つまり商人さえ居れば、フロアが切り替わるたびに5回、ついでにあなほりをするだけでホロゴーストのザキ、ザラキが無視できるようになるということよ」

 

 そして、

 

「リレミト!」

 

 このフロアで小悪魔がリレミトを唱えると、なるほどバラモス城の他のフロアでは使えなかったリレミトで城外に出ることができた。

 

「なら、ルーラで」

 

 いったんアリアハンに帰って休息を取ることにするのだった。




 普通であれば即死アリ、マヒ全滅アリ、エビルマージの圧倒的な火力で焼き払われたり、自動回復でいつまでも倒せない動く石像に殴り殺されたりでハラハラドキドキなはずのバラモス城ですが、パチュリー様と小悪魔の場合、相性のせいか「たーのしー!」な展開に。
 まぁ、対処法が分かっていて対策が取れればこんな感じですかね。

 次回はいよいよバラモス戦ですが、その前に初のレベル稼ぎを少々。
 っていうか、ここまで1度もレベル稼ぎしてないんですよね。
 商人って意外なほどに優秀……
 いや、二人パーティプレイでレベル稼ぎ抜きでここまで来れる職業って他にあるんですかね?

 なお小悪魔が何やら叫んでいますが、私自身は他者の趣味嗜好に物申したりするつもりはありませんので念のため。
 いえ、時々「作者の主張をキャラに代弁させてるんだ!」と誤解されるピュアな方もいらっしゃいますので。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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バラモス戦

「そういえば小さなメダル、1枚取り逃がしているわね」

 

 ここにきて、それに気付くパチュリー。

 

「現在集まっているのが75枚。そして上の世界で手に入るのが77枚」

 

 これは、すごろく場の有無に関係なくリメイクでは共通している。

 おそらく制作者側が揃えておいたのだろう。

 

「じゃあ2枚じゃないんですか?」

「1枚は竜の女王の城から拾えるのよ。これは後で光の玉をもらうついでに拾えばいいわ。どうせ、この上の世界ではもう交換はできないのだし」

 

 ということで、あと1枚だが、

 

「ああ、最後の鍵を取った後、ロマリア城の西の尖塔の4階、水場の前から取るのを忘れていたわね」

 

 つまり見落としが無ければ最後の鍵取得以降、交換のタイミングが1枚ずつ早く済んでいたということか。

 30枚でもらえる力の指輪以降だから、ずいぶん長いことずれていたことになるが、

 

「大して差は生じないわね」

 

 途中を飛ばして先に進み強力なアイテムを取得する、というプレイをしていたせいで、元々小さなメダル集め、交換のタイミングは狂っているのだ。

 1枚程度ではあまり変化は見られない。

 ともあれ、さくっと行って取って来る。

 

 

 

「それで、あとはバラモス攻略ですね」

 

 と小悪魔が言うとおりなのだが、

 

「そうね、ちょっとレベル上げをしましょうか」

 

 そういうことになった。

 

「そういえばドラゴンクエストというとレベル上げのための経験値稼ぎや、資金稼ぎプレイのイメージが強いですけれど、私たちこれまで一度もそういうのやってませんよね?」

 

 と気付く小悪魔。

 

「確かにそうね」

 

 あえて言うなら、ピラミッドの黄金の爪回収が資金稼ぎ目的だったが。

 一方で、レベル上げ作業は一度もしていない。

 

「私たちみたいな2人縛りプレイはもちろん、4人フルメンバー揃えていても、よほど戦略を練り上げていない限りレベル上げ作業は必須」

 

 なのにパチュリーたちは、これまで一度も必要としてこなかった。

 案外、勇者と商人の二人プレイというのは優秀なのかも知れない。

 

「それで、どこで経験値稼ぎをするかだけれども、バラモス戦前の稼ぎ場所には3つの候補があるわ」

「三つですか」

「一つはネクロゴンド近辺。稲妻の剣のイオラと雷の杖のベギラマを重ねるだけで確実に倒せるフロストギズモ5体、5350の経験値は美味しいわ」

「確かに。倒すのに運が絡むメタルスライム以上の経験値を、それだけ簡単確実に得られるのはお得ですよね」

「まぁ、同じ地域に現れるトロルの痛恨の一撃やミニデーモンが邪魔なのだけれど」

 

 とはいえ小悪魔の最大ヒットポイントも、もう225まで上がっている。

 痛恨の一撃、一発程度なら耐えられるだろう。

 トロルにはラリホーに対し弱耐性しか持たないという弱点もあるのだし。

 

「もう一つがガルナの塔でメタルスライム狩り」

「これは安定ですね」

「一度に出現する数が多いジパングの洞窟の方を推す人も居るけれど、そちらは出現確率が低いのと、実は地味にエンカウントまでの歩数が倍必要だったりするから、遊び人の特技でモンスターを呼び寄せる『くちぶえ』を覚えていない限りお勧めはできないわ」

「倍?」

「ええ、ピラミッドのエンカウント率が低すぎたから調べてみたのだけれど」

 

 とパチュリーは説明する。

 

「リメイクのドラクエ3では、エンカウントまでの歩数に補正がかかっている区域が存在するの」

 

 例えば、いざないの洞窟の地下2階やピラミッドの3~6階、ジパングの洞窟などはエンカウントまでの歩数が倍かかる。

 おそらくファミコン版では無かった補正なので、このためその辺のダンジョンのエンカウント率、難易度がさらに下がっているのだ。

 

 なおピラミッド1、2階は4倍になっている。

 だから、エンカウント無しであれだけ歩けたのだ。

 

 そしてレベル稼ぎの場所に話を戻すと、

 

「最後がバラモス城。でも、はぐれメタルの遭遇率は14~17パーセント程度とも言われているし、はぐれメタルはメタルスライムより倒しづらいから稼ぎが運頼りで安定しない。また、他に出て来るモンスターは確かに経験値が高くて稼げるけど、強すぎて危険、というのもあるわ」

「危険?」

「ああ、やっぱりそう思った? 言われるより、想定していたよりぬるいな、って」

「は、はい」

「考えてもごらんなさい、普通の4人パーティだと一人当たりの経験値は私たちの半分よ。レベルにして21以下で突入することに。もちろんそれじゃあ無理だから途中で経験値稼ぎして多少はレベルアップしているでしょうけど」

 

 しかも、

 

「普通のパーティには僧侶、魔法使いの後衛が居るでしょう。レベル20台前半の彼らのヒットポイントは? 賢者に転職していると、さらにレベルは低くなるのよ」

 

 そんな後衛を抱えて、判断値0で平気で後列を殴って来る動く石像や、高火力の全体攻撃を放ち、倒しきることも妨害することも難しいエビルマージを相手にする。

 ホロゴーストのザキ、ザラキや骸骨剣士の焼けつく息といった、クリティカルな攻撃もまた警戒しなければならないというのに。

 

「それに対し私たちは倍の経験値を反映したレベルを持ち、勇者のあなたと、それより100ポイント以上高いヒットポイントを持つ私は、たとえ驚かされてエビルマージにマヒャド4連発を受けようとも、動く石像の痛恨攻撃を受けようとも十分に耐えられる」

 

 グループ攻撃呪文やブレスなど、パーティ全体にダメージを与える攻撃を受けても人数が少ない分、半分の損害で済むのだし。

 

 ついでに言えば、スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版においては、商人さえ居ればホロゴーストのザキ、ザラキは警戒しなくていいという利点がある。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ですごろく券を落としていたモンスターを、すごろく場が無くなったので元のファミコン版と同様のものに差し戻したのだが、ドロップ率を戻すことを忘れていた、という結果、ホロゴーストが命の石を1/16でドロップするようになり、フロアが切り替わるついでに商人が5回だけあなほりをする、それだけで、消耗を上回るペースで命の石が得られるからだ。

 パチュリーたちのように二人パーティなら必要な命の石の個数も4人パーティの半分だし、ザラキを受けた場合の死亡判定回数も4人パーティの半分になるので消耗率は抑えられるのだし。

 

 ともあれ小悪魔が、

 

「結局フィジカル……!! 攻略って…… 最後はフィジカル……!!」

 

 と筋肉に支配された結論に愕然とするが、つまりはそういうことだった。

 

「まぁ、そんなわけでフィジカルな理由により簡単にレベルアップが図れる私たちは、レベルが上がればますますフィジカルが充実するから」

「それでバラモスも倒せる?」

 

 ということでバラモス城でレベル上げである。

 しかし、

 

「うーん、とりあえず、あなたのマジックパワーが切れるまで、と思ったんだけど……」

 

 薬草を使わず治療を小悪魔のホイミ、ベホイミに頼っているのだが、

 

「ゆるゆるです!」

 

 と小悪魔が言うとおり、割とヌルゲー状態なのに、レベルがガンガン上がって行く。

 まぁ、倒せさえするのなら通常の4人パーティの2倍、経験値が入って来るので倍速でレベル上げをしているようなもの。

 しかも、

 

「ホロゴーストのザキ、ザラキ、動く石像の痛恨攻撃も気にせず、はぐれメタルを狙えるのが凄い楽です!」

 

 はぐれメタルが出た場合、全力でこれを倒すことに注力したいが同時に現れた敵も放置できない、というのが普通だが、パチュリーたちはこのリスクを無視できる。

 特にホロゴーストはメダパニ、毒蛾の粉に弱耐性しか持っていないので狙い目だし。

 実際、動く石像の痛恨攻撃を受けながらもそれを放置して、はぐれメタルを仕留めたりもできているし。

 

 そんなわけで小悪魔のマジックパワーにはまだ余裕があるものの、パチュリーがレベル35、小悪魔がレベル33まで上がった時点で帰ることに。

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:35

 

ちから:168

すばやさ:114

たいりょく:182

かしこさ:50

うんのよさ:56/106

最大HP:368

最大MP:101

こうげき力:293/225

しゅび力:157/147

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:33

 

ちから:123

すばやさ:190

たいりょく:128

かしこさ:78

うんのよさ:96

最大HP:259

最大MP:156

こうげき力:205/175

しゅび力:212/205/197

 

ぶき:いなずまのけん/ドラゴンテイル

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 さらにイオラとベホマを覚えた。

 

 

 となっていた。

 そうして宿に泊まって回復をして改めてバラモスを倒しに来たのだが、

 

「途中でまた、はぐれメタルを倒しちゃってレベルが上がってしまったのだけれど」

 

 バラモス城は、はぐれメタルに遭遇できるか倒せるかで大きく獲得経験値が変わるため成長に予測が付かないのだ。

 さらに、

 

「ついでにフロアが切り替わるたびに5回のあなほりをしたのだけれど、命の木の実に命の石も拾えたし」

 

 また増える命の石。

 ザキ、ザラキを警戒しないで済むというのは戦術面ではもちろん、精神的にも本当に楽であった。

 

 

 

 そしてバラモス戦を前に装備を整える。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:34

 

ちから:129

すばやさ:194

たいりょく:133

かしこさ:80

うんのよさ:99

最大HP:266

最大MP:160

こうげき力:211

しゅび力:214~192

 

ぶき:いなずまのけん

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと/ふこうのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ

くさなぎのけん、ねむりのつえ、いのりのゆびわ×2

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:36

 

ちから:170

すばやさ:116

たいりょく:184

かしこさ:51

うんのよさ:57/107

最大HP:370

最大MP:102

こうげき力:295

しゅび力:158/148

 

ぶき:せいぎのそろばん

よろい:まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ぎんのかみかざり

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

まふうじのつえ、ねむりのつえ、やくそう×3

 

 

「バラモスの最大ヒットポイントは2500。マジックパワーは255で無限。ただしスマホ版では有限という噂もあるわ」

 

 とパチュリー。

 

「攻撃力は240。守備力は200」

「それは硬いですね」

 

 ドラゴンクエスト3のダメージ計算式は、

 

(攻撃側の攻撃力-受ける側の守備力/2)/2×乱数=ダメージ値

 

 単純に言えば50ポイントのダメージが引かれてしまうということで、それだけ聞くと大したことが無いようにも感じられるかもしれないが……

 

「素早さは85で、普通のパーティなら素早さに優れた武闘家、盗賊か、星降る腕輪で素早さを倍にしないと先攻できない、リアルラック次第ではそれでも先制される相手」

 

 さらに、

 

「判断力は最高の2」

 

 と頭も良い。

 

「何よりいやらしいのが毎ターン100ポイント自然回復すること」

「つまり……」

「休まず毎ターン100ポイント以上のダメージを積み重ねていかないと永遠に倒せない。200ポイントという高い守備力で一人一人の与えるダメージから50ポイントずつ削られる状態で、これがなかなかに難しいのよ」

 

 ということ。

 一方攻撃手段はというと、

 

「ランダムで1~2回行動。完全ローテーション行動で、

 

イオナズン→打撃→激しい炎→打撃→メラゾーマ→メダパニ→イオナズン→バシルーラ

 

 という具合に攻撃を仕掛けて来るわ」

 

 そして、

 

「ラリホー、マホトーンには強耐性で7割無効化」

 

 と、防ぐのも簡単ではない。

 ただ、逆にドラクエ3では強耐性でも3割は効くということなので、マホトーンを唱えるか魔封じの杖を使い続けることで時間はかかるかも知れないが呪文は封じられる。

 

 そして4人パーティなら全員でラリホーを唱えるか眠りの杖を使うかすれば高確率で眠らせることができる。

 もっとも毎ターン100ポイントの自然回復があるので、そうやって眠らせっぱなしで倒しきるというわけにも行かない。

 自然回復が無いゲームボーイカラー版なら話は別だが。

 

「ルカナン、ルカニ、マヌーサには弱耐性で3割無効化」

 

 ゆえに守備力低下、そしてマヌーサにより打撃の半分を外すようにする弱体化は有効。

 ただしパチュリーたちだとマヌーサは使えず、守備力を下げるにも草薙の剣のルカナンの効果を使っていくほかないが。

 

「攻撃呪文に対しては、火炎系には強耐性で7割無効化。ヒャド、バギ系には弱耐性で3割無効化。勇者のデイン系には無耐性なので100パーセント効くわけだけれど」

 

 現在、小悪魔が使えるライデインは単体攻撃呪文で与ダメは70~89と魔法使いの呪文、メラミと同じ。

 消費マジックパワーは8とメラミより燃費が悪いし、勇者なら守備力を下げてから殴った方が早いので出番は無いだろう。

 そして、

 

「その他呪文には完全耐性持ち」

 

 なので、これら以外は考えなくていい。

 

「マホトーンで呪文を封じれば、バシルーラ以外の呪文がスキップされ、

 

打撃→激しい炎→打撃→バシルーラ

 

 に。何故か知らないけどバシルーラは無駄行動として残るわ」

 

 という相手である。

 

 

 

「ついにここまで来たか。こあくまよ。

 この大魔王バラモスさまに逆らおうなどと、身のほどをわきまえぬ者たちじゃな」

「身の程をわきまえていないのはどちらかしら? 身分詐称の潰れカバの分際で」

 

 ツッコむのはパチュリー。

 バラモスは魔王であっても大魔王ではない。

 

「「お前それ上司(大魔王ゾーマ)の前でも同じ事言えんの?」ですね」

 

 と小悪魔が言うとおりの話だ。

 

「ここに来たことをくやむがよい。

 ふたたび生き返らぬよう、そなたらのハラワタを喰らいつくしてくれるわっ!」

 

 初代ドラクエで竜王の問いに「はい」と答えると即バッドエンドになっていた記憶が新しいファミコン版では、初見のプレイヤーをビビらせたであろう、このセリフ。

 もちろん、

「勇者は滅びぬ! 何度でも蘇るさ!」

 なので、ここで負けても普通に復活できる。

 故にリメイクでは、2回目以降は、

 

「何度こようともムダなこと」

 

 にセリフが切り替わったりするのだが。

 そして戦闘の開始だが、

 

「こぁ、アストロンよ!」

 

 まずはアストロンで開幕イオナズンと一番きつい火炎攻撃をスキップさせる。

 3ターンの無敵時間の間にバラモスはイオナズン、打撃、激しい炎、打撃を無駄撃ち。

 次はメラゾーマが来るので、二人とも耐魔法防御装備。

 2回行動された場合にはさらにメダパニが来るため、パチュリーは幸せの靴で状態異常耐性を上げておく。

 

 小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 しかしバラモスには効かない。

 

 パチュリーは魔封じの杖を振りかざした。

 バラモスの呪文を封じ込めた!

 

「1回で効いた!?」

 

 強耐性持ちなので、何度も繰り返すことを覚悟していたのだが。

 そしてバラモスの判断値は最高の2、つまりターン中、自分の行動番になった際に行動を決定するので、

 

打撃→激しい炎→打撃→バシルーラ

 

 のループに即座に切り替わる。

 このターンなら、無駄行動のバシルーラに!

 

 今後は魔法攻撃が無いため、守備力優先装備へ切り替え。

 小悪魔は不幸の兜、刃の鎧、ドラゴンシールドへ。

 パチュリーは風神の盾へ、そして装飾品も豪傑の腕輪に切り替える。

 

 小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る!

 

「効きました!」

 

 バラモスの守備力を100下げた!

 

 パチュリーは眠りの杖を振りかざした!

 甘い香りが敵を包み込む!

 

「でもまぁ、眠らないわよね」

 

 バラモスは睡眠に対し強耐性を持ち7割の確率で無効化する。

 とはいえバラモスには毎ターン100ポイントの自然回復があるため、守備力が下がり切るまでは攻撃しても無駄になる。

 だったら効く確率が低くても使っておいた方が良いだろうという判断である。

 

 そしてバラモスの攻撃が炸裂!

 パチュリーは71ポイントのダメージ。

 さらに激しい炎が吹きつけられ、ドラゴンシールドのブレス耐性でダメージを3/4に減らした小悪魔でも73ポイント、素のままのパチュリーは、実に85ポイントものダメージを受けてしまう。

 

 そして次のターン、

 

 小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る!

 バラモスの守備力を50下げた!

 

「また効きました!」

 

 これでバラモスの守備力は200から1/2の1/2、1/4の50ポイントまで弱体化。

 バラモスの攻撃は小悪魔に50ダメージ!

 

「くっ」

 

 反射でその半分のダメージがバラモスに返るが、自動回復で打ち消されるだろう。

 続いてバラモスの無駄行動のバシルーラ。

 

 パチュリーは眠りの杖を振りかざした!

 甘い香りが敵を包み込む!

 

「やっぱり効かないか……」

 

 次のターンも、引き続き小悪魔は草薙の剣を、パチュリーは眠りの杖を使うが残念ながらどちらも効かず。

 バラモスの攻撃に、パチュリーは85ポイントのダメージを受ける!

 

「さすがに治療しないと」

 

 小悪魔はパチュリーにベホマで治療、パチュリーのヒットポイントをフル回復させる。

 パチュリーは防御体勢を取っており、そこにバラモスの激しい炎が吹きつけられた!

 パチュリーは防御でダメージを半減させても42ポイント、小悪魔はドラゴンシールドのブレスダメージを3/4に軽減する効果をもってしても60ポイントものダメージを受ける。

 

 次のターン、

 

 小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る!

 バラモスの守備力を25下げた!

 

 バラモスの攻撃は小悪魔に70ダメージ。

 そして、

 

 パチュリーは眠りの杖を振りかざした!

 甘い香りが敵を包み込む!

 

「寝たわ!」

 

 次のターン、この隙に小悪魔はベホマで自分をフル回復。

 パチュリーも薬草で自分を回復。

 

 そして次のターン、パチュリーはバラモスがターン中に目を覚ました場合に備え、目を覚ました後にすかさず眠らせることができるよう、眠りの杖を使うことに。

 この、行動順が遅いことを利用した後攻攻撃は素早さの低い戦士などには有効な戦術ではあるのだが。

 しかし、

 

「運が悪かったわね」

 

 パチュリーの行動順は一番初めで無駄になってしまう。

 もっとも、

 

 バラモスはまだ眠っている!

 

 ので、行動順が遅くても無駄に終わっていたのだが。

 そして、

 

 小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る!

 バラモスの守備力を12下げた!

 

 小悪魔の草薙の剣が、とうとうバラモスの守備力を12まで下げる。

 

「さぁ、ここからよ!」

 

 小悪魔とパチュリー二人がかりで殴りかかる。

 守備力を徹底的に下げたため、パチュリーの正義のそろばんは140ポイント越え、小悪魔の攻撃でも100ポイント前後のダメージを叩き出す!

 バラモスは目を覚ますが、もう遅い。

 

 君がッ、泣くまで、殴るのをやめないッ!

 

 とばかりにタコ殴りにする。

 なお、泣いてもやめない模様。

 

 ヒットポイントが危なくなったら小悪魔のベホマで回復。

 もちろん、その間もパチュリーはひたすら攻撃し続けるので、バラモスの自然回復100ポイント以上のダメージを継続的に与えることができる。

 

 ベホマによる回復はギリギリまで粘った方がマジックパワーの節約になるし、攻撃に手が割けるので倒すまでの時間短縮になるが、事故ってもアレなのでほどほどに。

 余裕を見て、小悪魔は打撃のみ受けるターンならヒットポイントを80以上、打撃と激しい炎を受ける可能性があるターンなら155以上。

 パチュリーは打撃のみ受けるターンならヒットポイントを100以上、打撃と激しい炎を受ける可能性があるターンなら200以上。

 これを維持する。

 

 激しい炎が来るターンに二人同時に治療が必要になるのは避ける……

 まぁ、それでもパチュリーが防御すれば乗り切れるだろうが、そのターン攻撃できないとバラモスのヒットポイントが100回復されてしまうし。

 なお、

 

「……これ、すっごい楽なのでは? 命の危険も感じませんし、一方的ですよね」

「そうね。少人数、高ヒットポイントパーティと、ベホマはもの凄いシナジー、相乗効果があるの」

 

 ベホマは一人のヒットポイントをフル回復させるもの。

 つまりヒットポイントが高ければ高いほど回復量もまた上がる。

 ヒットポイントの伸びる職業を選んでいれば効果大であるうえ、少人数プレイだと同じだけ戦闘をしてきたとしても、一人あたりが得られる経験値も増える。

 パチュリーと小悪魔のように二人パーティなら、4人パーティの倍の経験値を得ているので、その分、さらに高レベル、高ヒットポイントになるというわけである。

 

 同時に少人数だと、敵の範囲攻撃で負うパーティ全体のダメージ量が減る。

 パチュリーと小悪魔のように二人パーティなら、4人パーティの半分である。

 

 そして勇者がベホマを覚える時期はレベル33。

 僧侶、賢者のレベル30より遅いが、二人パーティの勇者がレベル33に到達するのに必要な経験値は、四人パーティの僧侶がレベル30に到達するより少ない。

 逆に、二人パーティの勇者がベホマを覚える時分には、四人パーティの僧侶はまだレベル27程度。

 そして僧侶は賢者の完全下位互換なので賢者に転職しているパーティが多いだろうが、その場合レベル22以下となるからなおさらである。

 

 そんなことをバラモスを殴りながら、たまに小悪魔がベホマで治療したりを繰り返しながら話す。

 いや、話しながら戦うだけの余裕があった。

 

「ちなみにプレイヤースキル、頭を使わなくてもいいのも少人数パーティの利点よ」

 

 とパチュリー。

 

「はい?」

「あなたには、激しい炎が来るターンに二人同時に治療が必要になるのは避けるようにしてもらっているけれど、これが四人だったらどうかしら?」

「あ……」

 

 二人でも考えなくてはいけないのに、4人のことを気にかけるとなると……

 

「ツーマンセルとフォーマンセル、人数が多い分だけ後者の方が負担が軽い、楽なように思えるけど」

 

 しかし、

 

「実際には、把握しなくてはいけない味方の数が増えるフォーマンセルより、自分と相方一人だけ気にかけていれば大丈夫なツーマンセルの方が、運用が簡単で習熟も容易なの」

 

 独逸空軍でも、連携な困難な三機編隊のケッテが廃れ、二機編隊のロッテ戦術が採用されていたように。

 と、今回の攻略のために軍事知識まで勉強していたパチュリーは解説する。

 

 そうして二人は苦もなく勝利。

 それぞれレベルが一つずつ上がる。

 

「ファミコン版だとラスボスを装っていたせいか経験値は入らなかったのだけれど、さすがにリメイクでは経験値が入るように改められたのよね」

 

 ドラゴンクエスト1の竜王、ドラゴンクエスト2のハーゴンとシドー、これらのラスボスは、ラストバトルだからレベルアップさせてもしょうがないということか、経験値が入らなかった。

 その流れで設定されていたものか。

 

「ぐうっ…… お…おのれ、小悪魔……

 わ…わしは…… あきらめ…ぬぞ… ぐふっ!」

 

 そう言い残してバラモスが倒れると、暖かい光が辺りを包む……

 小悪魔たちのヒットポイントとマジックパワーが回復した!

 

 どこからともなく声が聞こえる……

 

「こあくま… こあくま… 私の声が聞こえますね?」

 

「こ、この声はプレイ開始直後の性格診断、誕生日の夢の中で「あなたはエッチですね」「自分でもうっすらエッチであることにきづいている」「ひといちばい男の子がすき」「あなたはエッチです。それもかなりです」なんて連呼してきた……」

「合ってる、合ってる」

 

 つぶやく小悪魔に、そのとおりよね、とうなずくパチュリー。

 しかし声の主はそんな二人の言葉をスルーして、

 

「あなたたちは本当に、よくがんばりました。

 さあ、お帰りなさい。

 あなたたちを待っている人びとのところへ……」

 

 と語りかけ、アリアハンへ強制転送させる。

 この時点では船もラーミアもなく、キメラの翼も行き先が制限され、スーパーファミコン版以降のリメイクではいざないの洞窟やレーベ南の森の中にある旅の扉も塞がれアリアハンを出る手段はない。

 街の人々に口々に歓迎され、王様に謁見を果たす。

 

「おおこあくまよ! よくぞ魔王バラモスをうちたおした!

 さすがオルテガの娘! 国中の者がこあくまをたたえるであろう。

 さあみなの者! 祝いのうたげじゃ!」

 

 しかし不意に辺りが暗くなると、その場に居合わせた兵士たちが次々に跡形もなく消されていく!

 

「わははははははっ! よろこびのひと時に少しおどろかせたようだな。

 わが名はゾーマ。闇の世界を支配する者。

 このわしがいる限り、やがてこの世界も闇に閉ざされるであろう。

 さあ、苦しみ悩むがよい。

 そなたらの苦しみは、わしのよろこび……」

 

「医者に行きなさい。医者に」

 

 精神科で頭の中身を看てもらうよう勧めるパチュリー。

 一方、小悪魔はと言うと、

 

「大魔王ゾーマは『曇らせ』好きだった……!?」

 

 などとつぶやいている。

 

「あなたもカウンセリング、受けに行ったら?」

 

 訳の分からないことを言っている小悪魔に、そう告げるパチュリーだったが、

 

「私は曇らせ隊とは違うんです!」

 

 小悪魔は一緒にしないでと叫ぶ。

 

「「かわいそうなのは抜けない」派なので!」

「何の話よ!?」

 

 小悪魔が何を言っているのか理解できないパチュリーだったが。

 主従逆転快楽調教を狙っている相手がそういう気質だということは、される側にしてみれば安心要素といったところ…… なのだろうか?

 

「命ある者すべてをわが生けにえとし、絶望で世界をおおいつくしてやろう。

 わが名はゾーマ。すべてをほろぼす者。

 そなたらが、わが生けにえとなる日を楽しみにしておるぞ。

 わははははははっ……!」

 

 そしてゾーマの声は消え去って行った。

 亡くなった兵士たちの姿と共に。

 

「なんとしたことじゃ…… やっと平和がとりもどせると思ったのに……

 闇の世界が来るなど、みなにどうしていえよう……

 こあくまよ。大魔王ゾーマのこと、くれぐれも秘密にな……

 もうつかれた…… さがってよいぞ……」

 

 こうして再び魔王退治の旅に出かけることになった小悪魔とパチュリーだった。




 バラモス撃破!
 事前のレベル上げも簡単でしたし、やはり勇者と商人の二人パーティは安定してますね。

 次回はいよいよアレフガルドに、ですが、事前にやることも多いですよね。
 誘惑の剣の回収に、竜の女王の城から光の玉の回収。
 アレフガルドに行ったらラダトームでお買い物ですから精算もしておかないといけませんし。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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アレフガルドへ このさきはやみのくに、いくのはやみろ

 ゾーマを追う前に、ポルトガに向かう。

 そこでは、昼は剣士カルロスが、夜はその恋人サブリナが動物になるというバラモスの呪いに隔てられていた恋人たちが再会を喜び合っていた。

 

「ああ、私のカルロスにまた会えるなんて…… ありがとうございました」

 

 と、恋人との再会に歓喜するサブリナ。

 

「そうですわ! お礼にこの誘惑の剣を差し上げましょう」

 

 そう言って一振りの剣を渡してくれる。

 

「私の家に昔から伝わるものですけど…… 誘惑の剣は女だけが使える不思議な剣なのです。きっとあなたがたの旅の助けになると思いますわ」

 

 こうして誘惑の剣を手に入れたパチュリー。

 鞘から抜き放ち、手に取って見定めるが、

 

「うわ、真ピンクな剣ですね」

 

 と小悪魔が言うとおり、刀身がドピンク。

 

「攻撃力は+50、戦士、商人、遊び人、盗賊の女性のみが装備できる剣で、ファミコン版では遊び人の最強武器ではあったのだけれど」

 

 この剣の真の価値は、そこには無い。

 

「道具として使うだけなら女性ならどんな職業でも可能。妖しい霧を立ち昇らせ、敵の心をかき乱すことができる妖刀という話だけれど、実際、道具として使うと「剣からピンクの霧が流れ出す!」となって相手をメダパニの効果で混乱させるものなのよね」

 

 装備できるのがビキニアーマーの女剣士、アラビアンな薄絹の女商人、バニーガールな女遊び人、レオタードめいた全身タイツの女盗賊と、軒並みセクシー路線な格好をしているように女の色気で混乱させるというものらしい。

 

「『ピンクは淫乱』ってやつですね」

 

 と納得する小悪魔だったが、幻想郷にはそれを口にすると説教をしに来る仙人とかが居るので注意が必要だったり。

 

「ちなみにゲームボーイカラー版だとどういうわけか、男性でもこのメダパニの効果を使えるようになっているわ」

「それは筋肉ムキムキのマッチョな戦士やヒゲの僧侶、商人なんかがピンクい誘惑をして来たら、逆の意味で混乱しますよねぇ……」

 

 何その地獄絵図、という話。

 しかし、

 

「どういうことなの……」

 

 パチュリーには想像もつかない世界のようだった。

 

「それじゃあ、精算をしましょうか」

 

 不用品を売り払い、薬草を補充してから精算を始める。

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:21459G

パチュリー:282630G

 

「できれば先に、不幸の兜の呪いを解かせて下さい」

「それもそうね」

 

 小悪魔は不幸の兜の代金13ゴールドの半額6ゴールドをパチュリーに支払い、また所持金から35レベル×30=1050ゴールドを払って教会で呪いを解く。

 すると、

 

小悪魔:20403G

パチュリー:282636G

 

 それに、ここまでの収入をそれぞれ足すと、

 

小悪魔:27233G

パチュリー:289466G

 

「ここからあなたは私があなほりで拾った命の石の売却価格600ゴールドの半額300ゴールド、二個分を私に払う必要があるわ」

 

 合計600ゴールドを差し引く。

 

小悪魔:26633G

パチュリー:290066G

 

 となる。

 

「それで、売却価格7350ゴールドの誘惑の剣の扱いはどうすべきかしら? これは二人に所有権があるから、半額の3675ゴールドを相手に支払えば自分のものにできるわけだけど」

「今なら払えますけど、アレフガルドに降りたらラダトームでお買い物ですよね?」

「そうね、あなたなら9800ゴールドのドラゴンメイル、18000ゴールドのミスリルヘルム、8800ゴールドの水鏡の盾が買えるわ」

「合計で36600ゴールド!? 到底買えませんよ!!」

「でも誘惑の剣を私が得ると、毒蛾の粉があなた専用の使いきりの道具になってしまうわよ。これまでは共同の消耗品だったから、お互い同額を出し合って折半していたのだけれど」

 

 とパチュリー。

 

「今ある在庫も買値310ゴールドの半額…… だと可哀想だから売却価格232ゴールドの半額116ゴールドを私に払って買い取ってもらう必要が」

「ヒエッ」

「そんなお金も無いでしょうから、使った分だけ都度払ってもらうことにする?」

「ぐぅ……」

 

 酷なようだが、パチュリーたちは公平配分をして勇者と商人の比較検証をしている。

 

 MMORPGで言うなら報酬の公平配分をした上で、弓職の矢の代金や、魔術職、回復職のMP回復アイテムはその自分への報酬から出すことになっているのと一緒。

 パーティに貢献しているのだし必要経費としてパーティ全体から出す、というのも一つの考え方だが、それを言うなら例えばタンク、盾役の防具だってパーティ全体に貢献しているし、金だってかかるのだから皆で出すべき、などとなるのできりが無い。

 結局はその職の力を発揮するのに装備に金がかかるのか、消耗品に金がかかるのかの違いでしかないから個人で負担する、ということだ。

 またモンク、武闘家系等、金がかからない職業や商人、生産系など金策に優れたキャラが、その金でいいアイテムを手にしゲームを有利に進める、進められるというのもそのキャラの強み、力であると言えるだろうし。

 

 この辺、テーブルトークRPGやMMORPGなど『個人』が『他人』と集まってプレイすることに慣れている、メンバー間で多少の不満は出るにせよ、それでも一番もめごとが少なく処理できる、つまりは大多数が公平だと認める最大公約数的な報酬の分配方法がこれであると理解している者なら納得できる感覚なのだが。

 パーティ全体をプレイヤーが操作し財布も一つなオフラインRPGの経験だけ、その延長線上にあるような価値観に基づいている典型的な異世界もののネット小説の感覚が身についている者には理解しがたいだろうか?

 

 いや、それはそれでパチュリーたちのように細かい計算をせずに済む、分かりやすいというメリットはあるし、パーティ全体で見た全体最適が図れるため攻略面では有利ではあるので、そうすることでゲーム世界に転生してTUEEEするのがそういったネット小説の定番であり、醍醐味、楽しさではある。

 

 そうではあるが、それではパチュリーたちがやっている勇者と商人の比較検証にはどう考えても不適当だということも理解できるだろう。

 どちらか一方が正しく、どちらかが間違っているのではなく、目的が違っているだけでどちらも正しいのだから、別に対立するものではない。

 

「ああ、もう一つ方法があったわ。今持っている毒蛾の粉の半分は私のお金で得たものだから、半数を私が処分して、残り半分をあなたが使えばいい」

 

 これなら公平だし、一々精算しなくても良い。

 

「それに誘惑の剣は他では入手できない非売品ではあるのだけれど、サタンパピーが1/255でドロップするものだから、マイラかルビスの塔まで行けば、あなほりで私がもう一本手に入れられるから。そうしたらあなたも余った毒蛾の粉を処分できるようになるし」

「それまでいくつ毒蛾の粉を使うかですか……」

 

 なお、パチュリーがあなほりで手に入れたものを小悪魔が使う場合、売却価格7350ゴールド全額の支払いが必要だし、それまでに消費した毒蛾の粉の代金が返ってくるわけでもない。

 金が無いために金がかかるという負のスパイラルである。

 

 幻想郷の外の世界でも、金持ちは省エネ住宅を買うので光熱費が安くなりトータルでは得をするが、貧乏人は買えないので光熱費が余計にかかり、ますます貧乏になる、という話があったが。

 それに似た、世知辛い話であった。

 

 しかしそれでも……

 そもそも1/255という低確率でドロップするアイテムなど、クリア後に高レベルの盗賊を4人そろえて盗むのに期待する、とでもしない限り入手は困難。

 商人のあなほりが無ければ攻略中に入手することはまず期待できないアイテムである。

 そんなアイテムを入手できる。

 しかも買値ではなく売却価格で、という点で既に商人の恩恵にあやかっているのであり、それでも不公平だと言うのはいくら何でもおかしいだろう。

 

 ともあれこれで、

 

小悪魔:30308G

パチュリー:295207G

 

 ということになった。

 

 

 

「それじゃあ、アレフガルドに……」

「行く前に、竜の女王の城に行きましょうか」

 

 小悪魔のルーラでカザーブへ。

 そこからラーミアに乗って東に進むと、険しい山に囲まれた場所に城がある。

 ラーミアでないと行けない場所にある、そこは竜の女王の城だった。

 

「ここは天界に一番近い竜の女王様のお城です」

「馬がしゃべりました!?」

「スーの村のしゃべる馬って、ここの出身なのかしらね」

 

 また、ファミコン版では居なかったエルフの姿があって、ステンドグラスから差す光の脇で、

 

「ここは天界に一番近い城。もし真の勇者の称号を得た者が居たならその光の中で天界に導かれるそうですわ」

 

 と教えてくれるが、

 

「えっ、死んじゃうんですか?」

 

 と小悪魔。

 しかしそうではなく、

 

「天に召される、昇天するって意味じゃなくて、ゾーマを打倒してロトの称号が得られたら、ここから天界の裏ダンジョンへ行くことができるのよ」

 

 とパチュリーが言うように、リメイクで追加されたゲームクリア後のお楽しみ要素である。

 

「「真の勇者の称号を得た者が居たなら」と言ってるけれど、勇者抜きのパーティでも行けるのだけれどね」

 

 勇者がロトの称号を得ることができたらパーティから外せるようになるのだが、そうしても裏ダンジョンへは行ける。

 勇者の有無は関係無いのだった。

 なお、この光が差している場所からは小さなメダルが手に入る。

 

「ところで……」

 

 と小悪魔。

 

「ここ、北方に位置するお城ですよね。どうして北側にあるステンドグラスから床に光が差しているんですか?」

「それは言わない約束よ」

 

 まぁ、そもそも、

 

「地面は本当は丸くて、ぐるぐる回っているのです。地面が回っているから、お星さまやお日さまが動いているように見えます。でもだれも信じてくれず、私はこの島に流されました。しかし…… それでも地面は回っているのです! そして丸いのです!」

 

 などと言われつつも、北端と南端がつながっている、矛盾した構造を持つ世界。

 北から日差しが降り注ぐこともあるのかも知れない。

 

「はずかしーっ! 光源の方向まちがえてやんの」

 

 などとツッコむのは早計だろう。

 

 そしてここでは、竜の女王から光の玉をもらうことができる。

 

「私は竜の女王。神の使いです。もし、そなたらに魔王と戦う勇気があるなら、ひかりのたまをさずけましょう。このひかりのたまで、ひとときもはやく平和がおとずれることを祈ります。生まれ出る私の赤ちゃんのためにも……」

 

 そう告げて光の玉をパチュリーに手渡した女王は、最後の力で卵を産んで、息を引き取った。

 そっと卵に触れてみるパチュリー。

 

「安らかな寝息が聞こえたような気がしたわ……」

 

 

 

 ラーミアに乗ってネクロゴンド地方の山奥、バラモス城のすぐ隣にある、湖と毒沼に囲まれた謎の大穴。

 ギアガの大穴へ行くパチュリーと小悪魔。

 バラモス討伐前なら石壁で囲まれていたそこは、穴が広がると同時に壁も崩れていて、

 

「大変だ! ものすごい地ひびきがして、ひびわれが走ったのだ。

 なにか巨大なものがこの大穴に通っていったようなのだ!

 そして私のあいぼうがこの穴に…… ああ!」

 

 監視の兵士が、うろたえながら説明してくれるが、それを横で聞いていた小悪魔は、

 

「『巨大なモノが穴に』とか『私の愛棒が穴に』とか、エッチ過ぎですね、パチュリー様」

 

 などとほざく。

 

「そんな話はしていない!」

 

 叫ぶ、パチュリー。

 

「では「サトシです! こっちは愛棒のピカチュウ!」的な?」

 

 有名なアニメの字幕誤植ネタであるが、

 

「何の話よ!?」

 

 パチュリーに分かるはずも無い。

 そんな主に小悪魔は、

 

「どうやってここまで来たんだという秘境に兵士が二人。性欲を持て余す彼らに何も起きないわけがなく」

「は?」

「戦場には女性を連れて行けませんから、衆道、ホモセッ〇スは武人のたしなみと言われていましたし、そんな相手を失った彼の悲しみはいかばかりかと……」

「やめろォ!」

 

 なんて話をするのだこの使い魔は。

 おかげで残された兵士の、

 

「私のあいぼうがこの穴に…… ああ!」

 

 という嘆きが意味ありげに聞こえるようになってしまったではないか。

 

 それはともかく、何でこんな辺境に兵士が詰めているのかという話はある。

 リメイクではバラモス討伐前にやって来ると、

 

「ときどきやってくる者がいるのだ。人生をはかなんで身を投げようとする者がな」

 

 という自殺の名所の監視員みたいなセリフが聞けるのだが。

 なお、もう一人の兵士に話を聞くと、この大穴についての話と共に、

 

「もしそなたの仲間が混乱して穴に飛び込もうとしたときなどは、叩いてでも正気づかせることだ。混乱は叩いて治す。これは戦闘中でも言えることだがな」

 

 とパーティアタックにより混乱状態が解除されるという情報を教えてくれる。

 上の世界も終盤にしか来れないここで、ラーミアを入手してからバラモスを倒す間にしか聞けない話で説明されても、ということだが、バラモスはメダパニを使うので、混乱しても逃げられないボスキャラ戦では有効な話か。

 パーティアタックができなくなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版でも同じ話をするのがアレではあるが。

 

「もう、さっさと行くわよ」

 

 と穴に近づくパチュリーだったが、その先は……

 

「真っ暗で何も見えませんね」

 

 と怖気づく小悪魔。

 

「闇の世界アレフガルドへ続く穴だものね」

「「このさきはやみのくに、いくのはやみろ」ですね」

 

 小悪魔は幻想郷の外の世界のレトロゲーム『源平討魔伝』のだじゃれの国のセリフで恐怖を紛らわせようとするのだが、

 

「さっさと行く」

 

 とパチュリーに手を引かれ諸共に落ちる!

 

「「やみろっつーの」! ですよぉぉぉぉっ!!」

 

 ドップラー効果の尾を引きながら落ちて行く小悪魔だった。

 

 

 

「デビルウィーング!!」

 

 悪魔の翼を背から生やし、何とかパチュリーを支えて軟着陸する小悪魔。

 そして、そこに住んでいた男が教えてくれた。

 

「おや? またお客さんか。そうか! あんたも上の世界からやってきたんだろう。ここは闇の世界アレフガルドっていうんだ。おぼえておくんだな」

 

 と。

 

「Welcome to the Undergroundですね」

「文字どおりのね」

 

 ここではタンスからラックの種、建物の脇から力の種が、そして港に居る子供から、

 

「ここから東に行くとラダトームのお城だよ。あのね。父さんが 船なら自由に使っていいって」

 

 と許可を得て船に乗り、堤防の先、船で渡らなければ行けない場所から小さなメダルを手に入れる。

 なお、この使ってもいいという許可のセリフはリメイクで追加されたもの。

 ファミコン版ではこれが無かったので、勇者たちは何の断りもなく持ち逃げしていたのだが、さすがにそれはマズいということなのだろう。

 そしてパチュリーは、

 

「さぁ、パチュリー様。先ほど手に入れた種を使いましょうね」

 

 と、酷く優し気な笑顔を浮かべた小悪魔に促され、薄暗い船倉へと連れ込まれていくのだった。

 

「あおおおっ! かっ、はっ……」

 

 パチュリーの悲鳴が、閉ざされた船内に嫋々と響き渡る……

 

「ああっ! あああーっ!」

 

 

 

 船で出ると、今まで居た場所は小島にあるラダトーム西の港だったということが分かる。

 子供から言われたように、まずは東に広がる陸地に上陸し、

 

「ラダトーム南西部は地獄の騎士が出るからマヒ対策に満月草を持って。あなたはサラマンダーの激しい炎対策にドラゴンシールド。あとはマドハンド対策に、あなたの星降る腕輪と私の豪傑の腕輪を入れ替えて持ちましょう」

「はい?」

 

 地獄の騎士とサラマンダーへの対策は理解できるが、マドハンドのため装飾品を入れ替えて身に着けるという意味が分からない。

 首をひねる小悪魔に、パチュリーは説明する。

 

「そうね、マドハンドは同種呼びのほか、2匹分のスペースが空くと優先行動に指定されている大魔神を高確率で呼び出すの」

 

 大魔神は動く石像の上位種で、攻撃力は驚異の200。

 1~2回行動で殴りかかってくるうえ、1/4の確率で痛恨攻撃を放つ。

 

「ヒエッ」

「マドハンドの判断力は最高の2でターン中、自分に行動順がまわって来た時に行動が決まるから、その時点でスペースがあれば200/256、約8割の確率で大魔神を呼ぶわ」

「隙間あらば大魔神、ですか」

 

 誰が上手いことを言えと、という話だが、実際にそのように行動するのでシャレにならない。

 

「だから倒す時は一気に倒さなくてはいけないのだけれど、ダメージが減って行くムチやブーメラン、弱耐性を持っているヒャド、バギ、ザキ系呪文なんかを使うと半端に生き残ったマドハンドが、倒されて空いたスペースに大魔神を呼ぶって結果に……」

「ひぃ……」

「幸い、勇者のデイン系と火炎系呪文には耐性が無くて、あなたの稲妻の剣と私の雷の杖を重ねれば倒せるけど、問題はマドハンドの最大ヒットポイントが70だということ」

「それが何か? イオラのダメージが52~67ですからそれだけで倒せる場合も……」

 

 と言いかけて小悪魔は気づく。

 あ、これダメなやつだ。

 と……

 パチュリーはその様子を見てうなずき、

 

「そう、稲妻の剣のイオラの効果だと半端に倒されるマドハンドが出て、雷の杖を使って残りに止めを刺す前にマドハンドの行動順が回ってきたら大魔神を呼ばれてしまう」

 

 マドハンドの素早さは59なので今のパチュリーと小悪魔なら割り込まれる可能性は低そうに思えるが、ドラクエ3の行動順は割とランダム性が高いためリアルラック次第では先攻を許してしまう可能性がある。

 

「だから星降る腕輪の付け替えで素早さを調整して、まず私が雷の杖でマドハンドのヒットポイントを削ってから、あなたの稲妻の剣で止めを刺すようにするわけ」

「なるほど」

「これができない場合は催眠に弱耐性だから、ラリホーや眠りの杖で眠らせてから倒すのがいいのかも」

 

 とはいえ、

 

「同時に出て来た他のモンスターとの兼ね合いもありますしね……」

「あ、そうそう、あと集中攻撃の能力があるから、仲間を呼ぶだけのスペースが無いから放置してもいいだろう、というのは止めておいた方がいいわよ」

 

 集中攻撃とは一人をそのモンスターのグループ全員で、

 

 君がッ、泣くまで、殴るのをやめないッ!

 

 とばかりにタコ殴りにする能力。

 なお、泣いても死ぬまでやめない模様。

 対象の決定は完全ランダムのため、ヒットポイントや守備力の低い後衛が狙われると大変だし、

 

「仲間を呼べない状態ってことは、攻撃力90で必ず殴りかかって来るということだから、最大7体まで登場するマドハンドにこれをされると……」

 

 まぁ、逆に狙われていることが分かったらそのキャラはひたすら防御するとか。

 ヒットポイントと守備力が低い後衛は、最初のターンは防御で様子を見るとか対策はあるのだが。

 

 ということで装備を整えた上で、

 

「鉄の爪が出たわ」

 

 とりあえずパチュリーは5回だけあなほりをする。

 これはマドハンドが1/64の確率で落とすアイテムであり、652ゴールドで売却できる。

 それを見て思いつく小悪魔。

 

「あっ、だったらパチュリー様のあなほりで大魔神のドロップアイテム、雷神の剣を……」

 

 雷神の剣は別名、マドハンド絶対殺す剣。

 戦闘中に道具として使うと引き出せるギラ系最上位の火炎呪文ベギラゴンは敵1グループに88~111のダメージを与えるもの。

 これなら討ち漏らしも無くマドハンドをノーコストで全滅させられる。

 しかし、

 

「仲間に呼ばれて出るだけのモンスターは、あなほりの対象にならないから無理よ」

「そんな上手くは行きませんか」

「ちなみに盗賊の『盗む』も呼ばれて出て来たモンスターは対象外よ」

 

 ということ。

 さらに言えば、

 

「特定の固定パーティでのみ出現するモンスターも、あなほりの対象リストからは外れるわ。大魔神はゾーマの城の地下2階~地下4階でのみ通常エンカウントするけど、地下2階では必ず大魔神×1とマドハンド×5(バージョンによってはマドハンドの数が増える場合も)、地下3、4階ではアークマージ×2の固定パーティで出現するから」

 

 これがプログラム的に固定指定されているならば、あなほりでは得られないことに。

 ネット上では「大魔神もしくはトロルキングとエンカウントする場所で『あなほり』を使いまくると得られる」という情報もあるが……

 実際には、ゾーマの城であなほりをして雷神の剣を得た、という報告があるのはトロルキングが出現する1階、地下1階の浅い層でだけの話。

 大魔神のみが出る地下2階~地下4階での取得報告は上がっておらず、つまり、あなほりで大魔神のドロップアイテムである雷神の剣を得ることはできないというのが真相であるらしかった。

 

「それじゃあ、あなほりでは大魔神のドロップアイテム、雷神の剣は狙えない?」

「そうね、トロルキングを狙った方がいいでしょう。リメイクでは大魔神もトロルキングもドロップ率は1/256と変わらないところまで下げられてしまっているし」

 

 そう、ファミコン版では大魔神のドロップ率は1/64だったし、ドロップでしか入手できないアイテムだったので、戦闘でマドハンドに呼ばせて倒すのが一番確実。

 そして乱獲されたわけだが、リメイクではドロップ率を下げられたうえ、

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ならマイラのすごろく場内でよろず屋のマスで止まれば買えるし」

 

 と別の入手手段も用意されていた。

 ただ、

 

「とはいえ65000ゴールドという超高額商品。金策のことを考えるとやはりトロルキングの出るゾーマの城等で商人があなほりするか、商人のあなほりで所持金の半額や高額商品を掘り当てて買うのが一番早かったりもするけれど」

「この世界…… すごろく場の無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版だと?」

「ルビスの塔の宝箱から1つ拾えるから、複数欲しいという場合じゃなければ要らないわよ。スーパーファミコン版であった、剣の効果が盗賊でも使えるっていうバグも修正されているし」

 

 というか、

 

「欲しいの?」

「それは、早めに手に入るのなら欲しいですよね?」

「ふぅん……」

 

 すっと瞳を細めるパチュリー。

 その仕草に、とてつもない悪寒を覚え身体を震わせる小悪魔!

 

(なになになに、今の何ですか、パチュリー様っ!?)

 

 しかし小悪魔から視線を逸らし、顔を背けるパチュリー。

 その表情をうかがい知ることは、小悪魔にはできなかったのだった。




 アレフガルドへと落ちるパチュリー様と小悪魔でした。
 新しい、なつかしい世界ですね。

 なお、ラストのパチュリー様は次回のオチへの伏線だったり。
 どんな展開となるか、ご期待ください。

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ラダトームへ「貧乏に耐えてよく我慢した、感動した!!」からの一撃死

 ファンには懐かしい初代ドラクエのフィールドBGMを聞きつつ東進しラダトームの城を目指す。

 

「おおー」

 

 そうして見えてきたのはラダトームの城と街、その対岸の島にある竜王の、いやこの時代だと大魔王ゾーマの城。

 なお、

 

「ラダトームの街に入る場合は、必ず西側から入ること」

 

 そう、注意を促すパチュリー。

 

「はい?」

 

 幸いここまでモンスターの遭遇は無かった。

 故に歩数を減らすためかと小悪魔は思ったのだが……

 よくよく考えてみると、東に進んでから南に下るのも、南に進んでから東に進むのも、歩数的には変わらないことに気付く。

 どういうことかというと、

 

「用が無いから行くことが無いし気付かれにくいんだけれど、ラダトームより東って対岸に見えるゾーマの城周辺、魔の島北部と同じモンスターが出るのよ」

 

 ちょうどラダトームのある位置からエリアが切り替わる。

 ゆえに西側から入るのなら大丈夫なのだが、それ以外から入ろうとすると……

 特に今のようにエンカウントせずに歩けている、そろそろモンスターと出会うかも、というタイミングで東に進んでから南に下る、などとすると、そういったモンスターたちと遭遇する危険性があるわけだ。

 

「逆にラダトームで街に出入りしながらあなほりをすると、さざなみの杖が拾えたりするのよ」

「それって……」

 

 さざなみの杖は戦闘中に道具として使用すると魔法を反射するマホカンタの呪文の効果を発揮するもの。

 ただ、杖は装備できなくとも力を引き出せるものが多いが、残念ながら、さざなみの杖は装備できる僧侶、魔法使い、賢者にしか道具として使用できなかったりする。

 そのためパチュリーも手に入れようとは思わないが、

 

「アークマージが1/128の確率でドロップするものね」

「へ? アークマージって、ゾーマの城で出るモンスターですよね?」

 

 バラモス城で出たエビルマージの上位種で、イオナズンやザオリクを使ってくる相手だ。

 

「そんなのがこのアレフガルドの最初の街、ラダトームで出るんですか?」

「ええ、他にも例外的に敵味方共に呪文が使えない魔王の爪痕でも出るのだけれど」

 

 あなほりも呪文と同じ扱いになるので、魔王の爪痕では使えないのだ。

 

「ゾーマの城のある魔の島北部でも出るの」

 

 ゆえに、共通のモンスターが出るエリアにあるラダトームであなほりをすればそのドロップアイテムである、さざなみの杖が入手できるのだ。

 パチュリーたちには使えないので意味は無いが、パーティに僧侶、魔法使い、賢者が居るなら、掘ってみるのもいいだろう。

 この時点で入手できるなら、活用方法も色々あるだろうし。

 

 

 

 幸いモンスターに襲われることも無くラダトームに到着できたので、まずは街中を回って情報を聞く。

 

「魔王バラモスをたおしたですって? でもバラモスなど大魔王ゾーマの手下にすぎませんわ」

「そんな使いっ走りの立場で、あんな大口叩いてたの、あのつぶれカバ」

「パチュリー様……」

 

 この女性の居る武器店側の花壇からは不思議な木の実を拾うことができる。

 というか、この女性が邪魔で拾うのに苦労したり。

 

「魔王は絶望をすすり、にくしみを喰らい、悲しみの涙でのどをうるおすという。われらアレフガルドの人間は、魔王にかわれているようなものなのか……」

 

 と語る戦士に小悪魔は、

 

「やはりゾーマは曇らせ好き」

 

 と納得。

 

「どういうことなの……」

 

 もちろんパチュリーには意味が分からない。

 そして、

 

「ぼく呪いをとく勉強をしてるんだよ。みんなが呪いにかかったら、ぼくがといてあげるんだ」

 

 と語っているのは初代ドラクエで呪いを解いてくれる老人の祖先なのか。

 

「本人…… ということは無いわよね?」

 

 また、この街の宿屋は破格の一人1ゴールドで泊まることができるが、

 

「あれっ? 連れ込みできるおねーさんが居ませんね」

 

 と小悪魔。

 お前は何を言っているんだ、であるが、事前に調査したドラクエ関連の書籍から得た情報により理解してしまったパチュリーは、

 

「……それができるのは、初代ドラクエのリメイクのみよ」

 

 と深いため息と共に答える。

 ローラ姫を救出した後、そのまま宿屋に入って、

 

「ゆうべはおたのしみでしたね」

 

 してしまう初代ドラクエの勇者だが、

 

「いいえ、わたしはローラひめじゃないわ」

 

 と答える町娘がリメイクでは、

 

「でも、おにいさんって、ちょっとステキな人ね。私ついていっちゃおうかしら」

 

 と街中限定だが後を付いてくるようになり、そのまま宿に泊まると、

 

「ゆうべはおたのしみでしたね」

 

 と宿の主に言われてしまうことになる。

 さらにはローラ姫を連れたまま、この娘に声をかけての宿泊も可、という……

 

「残念です。パチュリー様と三人で「おたのしみ」したかったのに……」

 

 などと寝言をほざく小悪魔だが、

 

「初代ドラクエのリメイクでも、スマホ版では削除されているものよ、それ」

 

 とパチュリー。

 そして、この世界はスーパーファミコン版を基に作られた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 もし仮にこのネタが実装されていたとしてもアリアハンの兵士の「エッチはほどほどにたのみますぞ」のセリフのように消されてしまっていたことだろう。

 

「またですか!?」

 

 叫ぶ小悪魔。

 

「くぅーっ、これだから「事なかれ主義」の「臭いものにフタ」な日本企業はダメなんです!「言葉狩り」絶対反対です!!」

 

 そう、憤るのだった。

 

 そして教会では再会が。

 

「やや あなたさまは!? 私です。カンダタです!」

 

 意外、それはカンダタ!

 

「こんな所で……」

「悪いことはできませんなあ。こんな世界に落とされて 今ではマジメにやってますよ。そうだ! 昔のお礼にいいことを教えましょう。ラダトームのお城には太陽の石ってヤツがあるらしいですよ」

「どう見ても囚人なんだけど、ここは教会付属の更生施設か何か?」

「あのカンダタさんがこんな言葉遣いをするなんて、気味が悪過ぎますね。絶対、懲りないタイプだと思ってたのに……」

 

 ジト目を向ける小悪魔。

 パチュリーはというと、

 

「宗教は麻薬だって言うけど、洗脳されてるんじゃないでしょうね」

 

 と疑う。

 

 その他に、民家の本棚からは『開運の本』と『甘えん坊辞典』が見つかった。

 

「開運の本はルザミでも見つけたけど、甘えん坊辞典は初めてね」

 

 パチュリーは甘えん坊辞典を手に取って見定めた。

 

「ひとにキラわれないあまえかた? 母性本能をくすぐる法? ……なにコレ?」

 

 という読んだ者の性格を『あまえんぼう』に変えてくれるもの。

 

「これを使えばパチュリー様も私に素直に甘えてくれるようになるんでしょうか?」

「お店に持って行けば45ゴールドで売れるわね」

 

 速攻で危険物を売り払うことにするパチュリー。

 

 城側に位置する街の壁の外側地面からは、小さなメダルが手に入った。

 また、城に向かう道の途中にある家のタンスからは命の木の実。

 

「それじゃあ、城に入るわよ」

 

 ここの宝物庫には、空になった3つの宝箱が置かれていた。

 子供たちがこう語る。

 

「お城の宝だった武器や防具を魔王がうばって隠してしまったんだ」

「魔王でもこわいものがあるのかなあ……」

 

 それを聞いてパチュリーは、

 

「ゾーマも大言を吐く割にやることが小さいわね。こんな子供に見透かされているようでは底が知れるというものよ」

 

 と肩をすくめる。

 なお、またバリアー床があって、

 

「ひぐあああぁぁぁっ!!」

 

 と悲鳴を上げる小悪魔を引きずりながらその奥、何故か居る兵士に話を聞くと、

 

「大魔王ゾーマをたおすなど、まるで夢物語だ。しかし……

 かつてこの城にあったという王者の剣、光の鎧、勇者の盾。

 これらをあつめられれば、あるいは……」

 

 という話が聞けるが、

 

「いや、別になくても倒せるわよ」

 

 と首を振るパチュリー。

「お前は私を倒すのに「聖なる石」が必要だと思っているようだが… 別になくても倒せる」

 みたいな話である。

 実際、パチュリーたちが、

 

やまたのおろち「お前は私を倒すのに「ベホイミ」が必要だと思っているようだが… 別になくても倒せる」

 

ボストロール「お前は私を倒すのに「ベホマ」が必要だと思っているようだが… 別になくても倒せる」

 

 してきたように、絶対必要だと思い込んでいたものが、実は「別になくても」問題ないというのはゲーム攻略でも、そして人生でもよくあること。

 先入観を捨て、工夫をすれば結構なんとかなるものなのだ。

 

 しかしまぁ、意味ありげにバリアーの奥に居た兵士に聞けるのがこんな話ということで、

 

「引きずられ損じゃないですかぁ!」

 

 ベホマで治療しつつ叫ぶ小悪魔。

 しかしパチュリーは自分も小悪魔に治療をさせると、

 

「この城にはあのおじいさんが居るから」

 

 と、とある老人を指し示す。

 勧められるままに小悪魔が声をかけると、

 

「おお、はるか国より来たれり勇者たちに光あれ!」

「うおっまぶしっ!!」

 

 光と共に二人のマジックパワーが全快する。

 有名な『光あれじいさん』である。

 

 その後、城内の台所のタルからは、小さなメダル。

 台所の奥の階段から上がった2階のタルからは素早さの種と550ゴールドを見つけた上、宝箱から重要アイテムである太陽の石を手に入れた。

 街の老人が、

 

「雨と太陽があわさるとき虹の橋ができる。古いいい伝えですじゃ」

 

 と言っていたように、雨雲の杖と合わせて虹の雫を作り、ゾーマの居る島へ虹の橋を架けるのに必要なイベントアイテムだが、

 

「戦闘中に道具として使うと、眠りから回復させるザメハの呪文の効果が引き出せるのよね」

 

 という効果が見込める。

 

「虹の雫を作ると無くなってしまう…… 少なくともプレイヤーには使えなくなってしまうアイテムだけれど、裏技で複製したりして、しんりゅう戦に活用するなど使い道は無いでもないわ」

「はい? 「少なくともプレイヤーには使えなくなってしまう」って?」

「それはね……」

 

 パチュリーたちが城外の地下室、初代ドラクエで太陽の石が隠されていた場所へ行くと、

 

「なに? 太陽の石? そんな物はここにはないぞ。

 しかし、おかしなものじゃな。わしは夢を見たのじゃ。

 この国に朝が来たとき、誰かがわしにその石をあずけに来る夢をな……」

 

 と言う貴人が居る。

 そして、

 

「クリア後に彼に話しかけると太陽の石を託す初代ドラクエにつながるイベントが発生するわ。つまりプレイヤー視点では雨雲の杖を作ったら所持アイテムから消えるのだけれど、物語的には持っているということになるわけ」

 

 また、城内の宿泊施設に行くと、

 

「うう… ギアガの大穴にもどって、このことを報告しなければ… だが、おそろしくて外へなど出れない… うう……」

 

 という具合に、ギアガの大穴からここに落ちた兵士が恐怖からベッドに引きこもっているが、

 

「それは、ホモセッ〇ス中にここに落ちて他人にその姿を見られたりしたら引きこもりにもなりますよね」

 

 と、小悪魔。

 

「何の話よ!」

 

 パチュリーはそう叫ぶが、

 

「上の世界でこの人のことを「私のあいぼうがこの穴に…… ああ!」って嘆いていたこの人のパートナーさんは、どこに居ましたか?」

「えっ? 広がった亀裂の横……」

「その亀裂に二つ並べられていたベッドの内の一つが飲み込まれていましたよね。その横から穴を覗いているんですから、この人は彼とホモセッ〇スしようと自分のベッドで兜を除いて全裸になったところをベッドごと落ち、その姿をこの世界の人に見られてしまった。だから他人の目がおそろしくて外に出れないんですよ」

「妄想が過ぎるでしょう!?」

「ええっ? 腐女子や貴腐人のみなさんに比べればこの程度の発想、可愛いものですよね?」

 

 そんな馬鹿な、という話だが腐っている方々の発想は実際、小悪魔の語った内容など可愛いものと思えるほどぶっ飛んでいることも多々あるため、その点に限ってはウソでは無かったりする。

 幻想郷の外では、男同士の気安い関係や友情表現が『腐女子フィルターを通して見るとこれこの通り』になっている薄い本(スリムブック)が大量に創作されているのだし。

 

 なお、別の部屋のタンスからはステテコパンツが見つかるが……

 

「ベッドもあることだし、ここで先ほどの素早さの種、使っておきません?」

 

 と小悪魔。

 しかしパチュリーはそんな小悪魔をジト目で見つつ、

 

「いいけど、真面目にやらなかったらさっき見つけたステテコパンツを頭からかぶってもらうわよ」

「勇者がパンツかぶって混乱してたらヤバすぎますって!!」

 

 というわけで素早さの種を使うパチュリーを、真面目にマッサージする小悪魔。

 さすがに知らない男性のステテコパンツを頭にかぶるのは遠慮したいようだ。

 

「無様エロも嫌いじゃないんですが、きたない系の尊厳破壊はNGで」

「あなたが何を言っているのか分からないわ……」

 

 パチュリーには意味が分からないし、分かったとしても、そんなプライベートな性癖を暴露されても…… という話。

 

 王に面会し、旅の記録を取るが、ここでパチュリーたちは驚くべきことを聞く。

 勇者小悪魔の父、オルテガがこの地を訪れていたということを。

 

「意外な人たちがこっちに来てるのよね」

「パチュリー様、アレ(カンダタ)と仮にもお父さんを一緒くたに扱わないでください」

 

 本当に仮だが、しかし、

 

「……グラフィックデザインは一緒よね」

「そうでした!」

 

 ということ。

 なお、

 

「今度は宿に腰巻きは残していないようね。いえ、まさか勇者たちが泊まっていたという部屋にあったステテコパンツが……」

 

 小悪魔に確かめさせてみるべきか。

 

「だからオッサンのパンツなんて被りたくありませんよっ!」

「そういう意味じゃない」

 

 また、神父からこの世界の地図である『妖精の地図』を受け取って城内の探索を終える。

 

「それじゃあ、いよいよ街に行ってお買い物ですか?」

 

 と逸る小悪魔だったが、

 

「その前に、小さなメダルが80枚貯まったから、アリアハンのメダルの館で引き換えよ」

 

 ということで小悪魔のルーラでアリアハンに戻りメダルの館でドラゴンクロウと引き替える。

 

「武闘家と盗賊が使える単体攻撃の武器で攻撃力は+85。クリア前に入手できる中では武闘家の最強武器となるものね」

 

 クリア後にはこれ以上の攻撃力を持つ魔獣の爪が得られるが。

 しかしそちらは完全な一品ものなので、武闘家が複数居る場合はこのドラゴンクロウを使い続けることになるだろうというもの。

 

「バラモス戦の前に手に入っていれば、武闘家と盗賊も活躍できたんでしょうけど……」

 

 と小悪魔。

 残念ながら75枚で手に入った携帯電話版を除けば、上の世界、バラモス戦以前には入手できないものである。

 まぁ、

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど……」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版なら、しんりゅうを既定のターン以内に倒して使えるようになるジパングのすごろく場で宝箱マスから得られたり、何も無いマスを調べると低確率で拾うこともできるが、この世界はすごろく場の無い携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。

 ゆえに完全な一品ものになるが、

 

「12750ゴールドで売れるわね」

 

 パチュリーたちには使えないため資金源にするほかない。

 

「た、大金ですね」

 

 と息を飲む小悪魔だったが、

 

「それ以上のお買い物が待ってるでしょう、あなたは」

 

 そう言われて、納得する。

 そして再び小悪魔のルーラでラダトームへ向かう。

 

 前回精算時の所持金は、

 

小悪魔:30308G

パチュリー:295207G

 

「これに不用品を売却した収入を足すと」

 

小悪魔:36773G

パチュリー:302324G

 

「それで私が使った分の、力の種、ラックの種、素早さの種の売却価格の半額をあなたに支払って」

 

小悪魔:36915G

パチュリー:302182G

 

「そしてラダトームの武具屋で売られているのはドラゴンキラー、パワーナックル、天使のローブ、ドラゴンメイル、ドラゴンシールド、水鏡の盾、ミスリルヘルム」

 

 このうち初めて見る品は、

 

「ドラゴンメイルはドラゴンのウロコを素材に作られた鎧で守備力+45、勇者と戦士が装備できる炎のブレスのダメージを2/3に減らせる優秀な防具よ」

 

 炎のブレスに耐性を持つ鎧はこれまでに無かったもの。

 ドラゴンシールドと効果を重複させれば炎のブレスのダメージを半分までに減らすことができる。

 お値段は9800ゴールド。

 

「水鏡の盾は守備力+40、勇者、戦士、僧侶、賢者、盗賊が装備できて、僧侶、賢者、盗賊にとって守備力の数値的には最強の盾よ」

 

 ただし、

 

「耐性が付いていないのが難だから、買わないならそれでもいいけど」

 

 耐性のことを考えれば、既に持っている魔法の盾やドラゴンシールドの方が優秀という問題がある。

 お値段は8800ゴールド。

 

「ミスリルヘルムは守備力+38、勇者、戦士、僧侶、魔法使い、商人、盗賊、賢者が使用可能で、勇者と戦士にはこれ以上のグレートヘルムがあるけど、他の職業だと最強の兜になるわ」

 

 ということ。

 

「お値段は18000ゴールドとお高いから迷うかも知れないけれど」

「むむむむむ……」

 

 頭を悩ませる小悪魔。

 

「一応、所持金で全部買えますよね」

「そうね」

 

 合計で36600ゴールド。

 ギリギリ買えるし、実際にはミスリルヘルムを買えばオルテガの兜を処分できるので、もう少し余裕ができる。

 

「この先、防具が問題になるのは……」

「呪文が使えないラダトーム北の洞窟でバラモスと同じ全体に約90ダメージを与えてくる激しい炎を使うサラマンダー3体に襲われた場合、ドラゴンシールドでダメージを3/4に減らしたとしてもきついわよね」

 

 戦闘中の回復手段に薬草しか使えないのでは、焼け石に水。

 倒しきるまで、こちらのヒットポイントが持つかが生存の鍵。

 ゆえに、炎のブレスに耐性のあるドラゴンメイルがあると心強いし、攻撃力150の打撃を半分の確率で繰り出して来るので守備力だってあればあるだけ良い。

 とはいえ、

 

「もちろん買わないというのも手よ。奥で勇者の盾を入手できればブレスダメージは2/3まで減らせるわ」

 

 それに、

 

「盾だって、今使っているドラゴンシールドの守備力+32と水鏡の盾の守備力の差は8ポイント。守備力は4ポイント毎にダメージが1ポイント減らせるのだから、実ダメージにして2ポイント差よ。しかもラダトーム北の洞窟で勇者の盾を手に入れれば不要になる」

 

 そして、

 

「兜ならオルテガの兜の守備力は+30でこれもミスリルヘルムとの差は同様の8ポイントで実ダメージにして2ポイント差よ。そのために18000ゴールドかける? ってお話で」

 

 ということ。

 

「まぁ、このドラクエの世界では不要になったアイテムは買値の75パーセントという高値で売れるんだから、25パーセントの差額ぐらいは次のアイテムを手に入れるまでの安全を確保する、そのための投資であり必要経費と割り切れるならそれでもいいんだけれど」

「ぐぅ……」

 

 そして小悪魔が下した決断は、

 

「うぐぐ…… 我慢。ここは我慢です」

 

 と断腸の思いで手に取って見ていた防具たちを戻す。

 一方、パチュリーはというと、

 

「じゃあ、せっかくだから私はこのミスリルヘルムを買うわね」

 

 と、小悪魔が諦めた、その中でもけた違いに高く一際コスパが悪い品にポンと手を出す!

 まぁ、商人のパチュリーにとっては最強の兜であり、金は余っているのだから買わない理由は無い。

 無いのだが!

 

(お金が無いのは悔しいよぉ、みじめだよぉ、イギギギギギ……)

 

 と血の涙を流さんばかりになる小悪魔。

 いや、

 

(お金はある、あるのだけれど!)

 

 あっても使えないのが、こんなに苦しいことだとは思わなかったっ!!

 

(どうしてっ!? 借金があるよりずっといいはずなのに、お金があるって幸せなことのはずなのに、どうしてこんなに心が痛いのっ!!)

 

 立ち尽くしたまま、心の中で絶叫する小悪魔。

 そんな使い魔を尻目に、パチュリーは今まで使っていた銀の髪飾りを売り払うと、さっさとミスリルヘルムを購入してしまう。

 神秘の金属であるミスリル銀で造られた高級兜。

 非力な魔法使いでも身に着けられるほど軽く、しかも頑丈な品。

 

「どうかしら、変じゃない?」

 

 と聞くパチュリーに、小悪魔は引き攣った笑みを返すしかない。

 その守備力は小悪魔がいつも被らされている不幸の兜より上。

 小悪魔が呪われ、運の良さをゼロにされることと引き換えに、解呪料を払って使い捨てにしている13ゴールドの兜とは比較にならない高級品。

 

「………」

 

 それを被ったパチュリーを死んだ目で見ている、見ていることしかできない小悪魔だった。

 これで二人の所持金は、

 

小悪魔:36915G

パチュリー:284752G

 

 これだけの高額商品を買ってもまったく揺るがないパチュリーの財力。

 いや、これなら使えるものがあれば全部買うだろう、という話だった……

 

 

 

 ラダトームから南進。

 途中、スライムやらスライムベスやらマドハンドやら地獄の騎士やらを蹴散らしながら岩山の洞窟を横目に見つつ、対岸にゾーマの城がある魔の島、その南部を望める半島の端まで進む。

 そして中断の書を利用したあなほりを始める。

 あなほりは連続で5回掘ったら終わりで、街やダンジョンに出入りする、階段を昇り降りしてフィールドを切り替えるなどしてカウントをリセットしなければならないのだが、スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではフィールドのどこでもセーブできる『中断の書』が利用できる。

 これでセーブとロード、ゲーム的に言えば『タイトルに戻る』をして、それから再開すると、あなほりのカウントがリセットされてしまうのだ。

 カザーブから西に進んだ端、竜の女王の城周辺のモンスターが出るエリアがはみ出ている場所で諸刃の剣を掘るためにも使った技だが、そんなわけで掘り続けていると、

 

「世界樹の葉が出たわ」

「えっ?」

 

 そして開始11分で、

 

「雷神の剣が出たわね」

「はいーっ!?」

 

 そう、ここはゾーマの城がある魔の島、その南部の敵が現れる範囲が1マスだけ大陸側にはみ出ている場所なのだ。

 故にヒドラが1/256の確率でドロップする世界樹の葉が拾えたし、トロルキングが1/256の確率でドロップする雷神の剣が拾えたのだ。

 アレフガルドに降りたらすぐ、一番弱いラダトーム南西部の敵と3度戦っただけでたどり着けるこの場所で。

 わずか11分のあなほりで雷神の剣は拾うことができるのだ。

 

「欲しいって言ってたでしょう」

 

 雷神の剣をポン、と小悪魔に手渡すパチュリー。

 なお、その他にも1/512の確率で拾える所持金の半分のゴールドや、ドラゴンがドロップするスタミナの種が複数、手に入っていたりする。

 あなほりで参照されるこの場所の遭遇モンスターテーブルデータは、

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: ----------------

01: トロルキング

02: ヒドラ

03: マクロべータ

04: ドラゴン

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: ----------------

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: ----------------

07: トロルキング

08: ドラゴン

09: ヒドラ

 

『夜のみモンスター用』

10: ドラゴン

 

『1体のみ出現用』

11: マクロべータ

 

 となっている。

 まず雷神の剣のドロップだが、リメイクでは大魔神とトロルキングがどちらも同じ1/256の確率でドロップするのみになっており。

 大魔神はマドハンドに呼ばれるか、固定編成のモンスターパーティでしか出現しないため、あなほりでは狙うことができなくなっている。

 トロルキングについては、ラダトーム北の洞窟では、呪文が封じられるためあなほりができず。

 ゾーマの城1階、地下1階では、判定は1回だけ。

 2回判定があるのはここゾーマの城がある魔の島、その南部の敵が現れるエリアだけになっていた。

 

 そしてスタミナの種はというと、わらいぶくろとドラゴンがそれぞれ1/64の確率でドロップするのが一番確率が高いのだが、わらいぶくろはピラミッド1~2階で2回判定があるものの、1/16のドロップ確率を持つミイラ男が邪魔をする。

 それに対し、ここゾーマの城がある魔の島、その南部の敵が現れるエリアでは、アレフガルドは常時夜のため、ドラゴンのドロップ判定は一度に3回行われることに。

 実際、30分で9個、3分に1回程度のペースで掘ることができる。

 

 つまり中断セーブであなほりの回数がリセットできる機種限定とはいえ、雷神の剣、そしてスタミナの種を狙うならここがベストとなるのだ。

 そうでない場合は、どちらを狙うにしろゾーマの城1階、地下1階しかないが、こちらは雷神の剣のドロップ判定は1回だけ、ドラゴンのスタミナの種のドロップ判定も2回だけとなる。

 

「雷神の剣は攻撃力+95で勇者と戦士のみが装備できる武器」

 

 ファミコン版ではこの剣以上の攻撃力を持つ戦士が装備可能な武器はどれも呪われているため、これが実質戦士最強の武器となっていた。

 リメイクでは魔神の斧の攻撃力が+105まで引き上げられたし、バスタードソード、グリンガムのムチ、ゾーマ撃破後なら破壊の鉄球、ゲームボーイカラー版ならルビスの剣などが追加されたので最強とまではいかないが、それでもアレフガルドに降りた直後に使える武器としては十分強い。

 さらに、

 

「この武器の一番の強みは戦闘中に道具として使用するとベギラゴンの効果を引き出せることね」

 

 ベギラゴンは魔法使いと賢者がLv29で覚えるギラ系最上位の火炎呪文で敵1グループに88~111のダメージを与える。

 消費マジックパワー12ポイントのこれを使い放題にできるのだ。

 なお、

 

「雷の杖といい、何で雷なのに火炎呪文のギラ系なんですかね?」

 

 と首をひねる小悪魔だったが、

 

「そこは初期にはギラ系を雷撃呪文としていた弊害ね。そもそもドラゴンクエスト3でもファミコン版の取扱説明書では、まだ雷撃呪文として紹介されていたのよ」

 

 当時発売された攻略本や半年後に出た公式ガイドブックでは現在の呪文分類体系に切り替わってはいたのだが。

 そしてこの雷神の剣、

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど…… 48750ゴールドで売れるわね」

 

 と、お値段もスペシャルである。

 つまり、

 

「え、ぁ……」

 

 小悪魔の顔が一気に青ざめる!

 そう、あなほりはパチュリー個人の収入であるため、雷神の剣を受取った小悪魔は、その売値の全額をパチュリーに払わなければならないのだ!

 つまり二人の所持金が、

 

小悪魔:-11713G

パチュリー:484627G(+未払い分11713G=496340G)

 

 こうなるということに!!

 あまりのショックに小悪魔は意識が、視界が、いや世界が、

 

 ぐにゃあ~

 

 と歪んでいくかのような錯覚を覚えた。

 

「そんなっ…!

 バカなっ…!  バカなっ…!

 常識外なっ…!  ありえないっ…!

 どうして…!  こんなことがっ…!

 どうして……  こんな…

 あってはならない……!  常識的に……!

 どうして…  こんな…

 こんな…

 こ ん な こ と が っ … … !」

 

 そう、慟哭する小悪魔だったが……

 

(実際には全然ひどくない。逆にとってもお得なお話なのだけれど……)

 

 とパチュリー。

 売却価格で譲っているのだから、もっと有利な装備、例えば王者の剣が手に入ったら売ってしまえばいいのだ。

 そうすれば払ったゴールドはそのままそっくり返って来るのでまったく損をしない。

 つまり小悪魔は雷神の剣という強力な武器をアレフガルドに降りた直後の早い時期からタダで好きなだけの間、レンタルさせてもらっているようなものなのだ。

 こんなお得なサービスは無い。

 商人が居るからこそ受けられる恩恵なのだが、多額の借金(実際には全額返って来るただの保証金、しかも不足分はパチュリーが負担してくれて、それに対し利子もつかないという考えられないほどの好待遇)の与える精神的衝撃で小悪魔はそこに気付いていない。

 

 借金がある間は新たな装備を買えないという問題はあるが、光の鎧に勇者の盾といった勇者専用品やグリンガムのムチなどといったパチュリーが使えない装備が手に入ったら借金の有無に関係せず、自動的に小悪魔が使うことになるのだから問題は少ない。

 そもそも雷神の剣を使っているより有利というアイテムを買いたければ、その時点で雷神の剣を売ればいいのだし、そこは小悪魔の判断で自由にできるのだから。

 

 それに今負っている借金程度なら、すぐ近くに在る岩山の洞窟に潜って売却価格33750ゴールドの破壊の剣を取ってくれば完済できるものであるし。

 

(まぁ、教えてなんてあげないのだけれど)

 

 最近、調子に乗りすぎているから、少しお灸をすえてやる必要があるのだ。

 ……とはいえ、小悪魔が勝手に思い込みで凹んでいるだけで、実際にはメリットがある非常に好条件な話というところがパチュリーの優しさ、使い魔に対する分かりづらい愛情を示しているのだが。

 そういう風に甘いからダメなんじゃないんですかね、という話もあるのだが。

 

「それじゃあ、マッサージしてもらおうかしら。真面目にね」

 

 あなほりで入手したスタミナの種を使って体力を上げることにするパチュリー。

 

「はい……」

 

 と多額の借金を背負った小悪魔はさすがに真面目にマッサージに励むのだった。




 お金に対するお話って難しいですよね。
 どうしても感情による補正が入るのか、有利な提案であっても、ちょっと込み入った話になると、
「上手いこと言って騙そうとしているんだろ!」
 って思われちゃいますからね。
 まぁ、私も本社の経理の方々に色々教えていただくまでは「借金はしない方がいい」「どんなものでも借金は早く返した方がいい」みたいな感覚しか持ってませんでしたから、それも分かるんですが。

 次回はドムドーラへ。
 水着装備がとうとう手に入る予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ドムドーラへ「契約を破ろうとしたらお仕置き、そうですよね、パチュリー様」

 次はラダトームから南に位置する砂漠の街、ドムドーラへ。

 

「ドムドーラ周辺に出るモンスターはキメラ、魔王の影、動く石像にスライムベス」

 

 割と種類は少ない。

 

「魔王の影は甘い息とザキを使って来る相手よ」

「はい? 甘い息で眠らされた上で、即死呪文をかけられちゃうんですか?」

「そうね、もっともマホトーンには無耐性だから魔封じの杖で先制すれば、無害になるのだけれど」

 

 しかし、

 

「素早さは80もあるから、素のあなたの素早さだとリアルラック次第で先制されるわね」

 

 というわけで交換していた星降る腕輪と豪傑の腕輪を元に戻し、魔封じの杖を持つ小悪魔の素早さを星降る腕輪で上げておく。

 マドハンド絶対殺す剣、つまり雷神の剣を手に入れたので、マドハンド対策も要らなくなったことではあるし。

 

「まぁ、それでも他のモンスターとの兼ね合いで優先的に対策できずにザキを食らうこともあるだろうから、命の石は必須ね」

 

 ラダトーム南西部に出現していた地獄の騎士が出なくなるため、不要になった満月草と持ち替えれば良い。

 また、

 

「ラダトーム周辺でも出て来ましたけど、相変わらずスライムベスが出るんですね」

「そうね、スタッフのこだわりもあるんでしょうけど、実はこのモンスター、地味にいやらしい存在なのよ」

「はい?」

「スライムベスのモンスターレベルはゾーマやバラモスなどといったボスキャラたちと同じ最高の63レベル」

「な、何ですかそれ!?」

「ドラクエ3では先頭のキャラのレベルが敵のモンスターレベルより10レベル以上、高い場合は確実に逃げられるけど、スライムベスが混ざっていると、それが妨害されるわけ」

 

 さらに、

 

「ファミコン版ではモンスター除けのトヘロスの呪文、そして聖水の効果で防げるのは、

 

先頭キャラのレベル≧モンスターパーティ内の最も高いレベル+5

 

 つまりスライムベスが1匹でも混じっていると、先頭キャラがレベル68以上ないとトヘロス、聖水が効かなくなってしまうの」

 

 ではスーパーファミコン版以降のリメイクではどうかというと、

 

「リメイクではエリアレベル制になって「このエリアはレベル○○以上ならトヘロスで敵が出ない」と一括で処理されることになったんだけれど、このエリアレベルって、その地域に出現するモンスターの中で最もモンスターレベルの高いモンスターを基準に設定されているわ」

「えっ、それってつまり……」

「スライムベスが出現するエリアのエリアレベルはスライムベスが基準になるから63に設定されているわけ。ファミコン版とは違って、スライムベスが敵パーティに含まれているかどうかにかかわらず、このエリアの敵はLv68までトヘロスで封殺できなくなっているわ」

「ダメじゃないですかー!」

 

 通常プレイだとこちらのレベルも低いのでそういうことに気付かないプレイヤーも多いかもしれないが、勇者一人旅など縛りプレイでこちらのレベルが上がっていると、普通なら聖水で封殺できる、無視して逃げられる相手と戦わなくてはいけないということに足を引っ張られる。

 マヒ=即死な一人旅で、やけつく息を吐く地獄の騎士にスライムベスが付いて現れた日には…… ということ。

 

 そうして南進して行ったパチュリーと小悪魔は、砂漠地帯へと差し掛かる。

 

「ここがドムドーラ砂漠、ファミコン版初代ドラクエの説明書ではドムドラ砂漠とされていたところね」

「設定が変わったんですか?」

「それとも誤植か…… でも私はこう思うの。現実でもこの程度の表記ゆれ、当たり前でしょう?」

 

 英語読みだとこうだけど、現地の言語の発音だと正確にはこう、などというのはよくある話で。

 そう考えると、いかにもそれっぽい。

 

 そうして砂漠に足を踏み入れる二人だったが、

 

「キメラです!」

 

 キメラ2匹とスライムベス2匹に遭遇する!

 キメラは火の息と火炎の息を吐く他、攻撃力120で痛恨の一撃を放つこともあるのだが、

 

「怖くないわ」

 

 その程度では今さらびくともしないし、最大ヒットポイント80では小悪魔のドラゴンテイルとパチュリーの炎のブーメランを重ねるだけで全滅する。

 

「実力はさほど高くないのにアレフガルドにしか居ないのは、スタッフのこだわりなのでしょうね」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だと上の世界で船を得た直後に行ける第3すごろく場の『?マス』において3匹で出現する場合があって。

 その時期だと苦戦は必至なのだが、バラモス撃破後ではさすがに……

 

「でも、強さのわりに経験値は美味しいですね」

「そうね、経験値は1780ポイントと弱い割には高めだから、ボーナスモンスターと思えば良いのかしら」

 

 そうしてモンスターの群れを退けたパチュリーたちは砂漠の中にある街、ドムドーラに到着する。

 

「この街の道具屋では性格を『いのちしらず』に変える本、『勇気100倍』が90ゴールドで買えるわ」

 

 とパチュリー。

 

「『いのちしらず』は力に-5%とわずかなマイナス補正があるけど、素早さ+20%、体力+15%と、非常に打たれ強く、呪文による先制も見込めるという魔法使いや僧侶、賢者向けの性格。必要ならいくらでも購入できるここで変えてしまうといいわ」

 

 ということだったが、かつてイシスの井戸の宝箱の中からこの『勇気100倍』を見つけた小悪魔は、

 

「本を読んだだけで勇気が手に入るはずがありません。そもそも『勇気100倍』とはア〇パンマンの最強状態を指す言葉!」

 

「そして『ア〇パン』とはシンナー吸引を指す隠語! つまりアサシンと呼ばれる死を恐れぬ暗殺者が大麻の投与で作られたという伝説のように、きっとその本にはシンナーのような薬物を吸わせて恐怖心を失わせ、勇気100倍にしてしまおうという方法が書かれているに違いありません! CERO年齢区分が全年齢対象のA区分、幼児もプレイするゲームに何て恐ろしい暗喩を込めるのでしょう、エニックスさんは!!」

 

「でも最初の性格診断で『いのちしらず』になれるのは砂漠での選択。『勇気100倍』を入手できる場所はここイシスとドムドーラ。すべて砂漠地方ばかりと縁がある性格です。そしてアサシン伝説の発端となった中東も砂漠の存在する土地柄。エニックスさんがそれを意識していないとは思えませんよね」

 

 と語っていた。

 つまり、

 

「人をたった90ゴールドで『いのちしらず』に洗脳し量産できてしまうって怖いですよね。はっ!? 実はこの街ではこうして暗殺者を育成している? ここが暗殺教団のアジト?」

「危ない話は止めろって言ってるでしょう!」

 

 またこの街には武器屋が二つあって、その内の一つを訪ねると主人が、

 

「ここは武器と防具の店だが、いま生まれてくる子どもの名前をかんがえてるので…… ゆきのふ……。うーん、いまいちかなあ」

 

 と言うだけで取引をしてくれない。

 二階には奥さんが居て、

 

「私に赤ちゃんができたんです! それで、うちの人ったら、ずっと名前を考えてばっかり!」

 

 と話してくれる。

 タンスからはおしゃぶりが見つかり、何だかんだ言って仲睦まじい夫婦と、やがて生まれてくる赤ん坊の幸せな家族風景がそこにはあったが、それを、

 

「赤ちゃんができても夫婦二人でベッドが一つ? まさか妊婦プレイ? それともおしゃぶりで赤ちゃんプレイをしているのかも……」

「何の話よ!?」

 

 台無しにする小悪魔の酷い妄想に、思わずおしゃぶりをぶん投げてしまいそうになるパチュリー。

 酷い話である……

 

 一方、もう一つの普通に営業している武器店では、

 

「ふおおおおおっ! 水着っ! 危ない水着ですよパチュリー様っ!!」

 

 危ない水着が売られていて小悪魔は大興奮。

 ファミコン版ではアッサラームでも買えたが、スーパーファミコン版以降のリメイク作ではここ、ドムドーラまで行って買うか、ジパングのすごろく場でマス目に止まって手に入れるかしか無かった品。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は無いため、ここでしか買えない、手に入らないものだ。

 

「買えます! 普通にプレイしていたなら到底買えない、全アイテム中最高金額の品ですけど、パチュリー様の財力なら余裕で買えるんですっ! ですから……」

「うるさい、これでもしゃぶってなさい」

「むぐっ!」

 

 先ほど見つけたおしゃぶりを咥えさせられる小悪魔だったが、

 

「うーうー! うー!!」

「うわ、こいつ、幼児のように床に転がってダダをこねてる!」

 

 呆れ果てるパチュリーは、

 

「仕方ないわね…… さすがにこのヒモみたいなのは無理だけれど、他の水着なら着てあげるから」

 

 と妥協する。

 

「うー♪」

「それはもういいから」

 

 きゅぽん、と小悪魔の口からおしゃぶりを抜く。

 

「それで、このお店の品揃えだけれど」

 

 守備力+1のネタアイテム、危ない水着だけではなく、ドラゴンキラー、吹雪の剣、魔法の法衣、ドラゴンメイル、力の盾が売られている。

 このうち、初めて目にするものは、

 

「吹雪の剣は勇者、戦士が使える攻撃力+90の武器で、道具として使用すると敵1グループに42~57のダメージを与えるヒャダルコの効果があるわ」

「攻撃力+95でベギラゴンが使える雷神の剣が手に入っていなかったら買う価値もあったかも知れませんが……」

「そうね、上の世界で手に入る稲妻の剣の攻撃力が+82だし、火炎呪文に耐性を持つモンスターに対してヒャダルコを使えるというのも長所かしら」

 

 今となってはダメージは物足りないがヒャド系に耐性の穴があるモンスターは結構居るので、あると便利、程度の利用価値はあるか。

 

「ファミコン版なら非売品だし、地獄の騎士が1/256の確率でドロップしたから頑張って上の世界で手に入れるというプレイヤーも居たけれど」

 

 リメイクでは地獄の騎士が落とさなくなり、ドロップは確率1/128で落とすソードイドのみとなった。

 すごろく場のモンスターマスでソードイドが出現した上でのドロップを狙うか、ソードイドに化けたあやしいかげがドロップするのを狙うという手もあるが、さすがに厳しく。

 上の世界で手に入れるのはまず無理だろう。

 低レベルでのやまたのおろち撃破チャレンジなどでは無制限に事前準備を行うために、よく使われてはいるのだが。

 

 あとは、

 

「力の盾は守備力+50の勇者、戦士が装備できるシールドで、またどんな職業でも戦闘中に道具として使用すると、自分にベホイミをかけたのと同じだけ回復できるというもの」

「それは便利ですね」

「そうね、ファミコン版だと戦士最強の盾だったし、呪文の使えないラダトーム北の洞窟では重宝するものだったけれど……」

「けれど?」

「リメイクでは耐性でドラゴンシールドや魔法の盾に劣り、守備力でオーガシールドに劣り、回復効果ではマイラまで行けば自分だけでなく誰にでもベホイミをかけることのできる賢者の杖を買うことができるし、戦闘中に回復させる必要が無いならふくろに大量買いして詰め込んだ薬草で間に合うしで、いいところが無いの」

 

 オーガシールド、勇者の盾を入手するまでの繋ぎ程度にしか使えない。

 

「あえて言うなら、マイラに行く前にラダトーム北の洞窟で勇者の盾を手に入れたい、またはマイラに行くには海路を行かなければならないのだけれど、アレフガルドの海にはだいおうイカ、テンタクルスの上位種で、最大ヒットポイント450、攻撃力150で1~3回攻撃をし、痛恨の一撃まで繰り出す上、最大3匹出てくるというクラーゴンが出現するから」

「ヒェッ」

「勇者の切り札である最強の攻撃呪文ギガデインにも2度は耐えるヒットポイント持ち。有効なのはヒットポイントに関係なく即死が狙える僧侶、賢者のザキ、ザラキだけれども、それを唱えている間の仲間の盾として少しでも守備力を上げておきたい、非常時には回復もしたい、ザキ、ザラキに使う分、僧侶、賢者のマジックパワーは回復に使わず節約したい、という戦士や勇者にはうってつけでしょう」

 

 しかし、

 

「私たちだと僧侶、賢者が居ないから、そこまで必要ともしないのだけれど」

 

 ということだった。

 なお、この街の外れには吟遊詩人とエルフが居て、

 

「吟遊詩人ガライ? ああ彼ならここから東、メルキドの町だと思います」

「わたし知ってるわ。マイラのおふろからみなみに10歩、ふえがうまっているのよ」

 

 と二つの街の話が聞けるが、当然小悪魔は、

 

「次は温泉(ポロリもあるよ)ですよねっ!」

 

 せっかくだから私はこのマイラの温泉を選ぶぜ!

 とばかりに望むので幻想郷の外、ドラクエが生まれた日本では「腎臓を売るか、マグロ船に乗るか」「多重債務者に残された最後の手段」などと言われ、都市伝説めいた扱いを受けてきたマグロ船、それに負けず劣らずの地獄のイカ釣り漁船コースが確定していたりする……

 

 また、武具屋に来ていた客からは、

 

「わたしはオリハルコンをさがして旅をしている。この町にあると聞いてきたのだが……」

 

 という話が聞けて、

 

「オリハルコン、伝説の金属ですね。見つけられたら借金が返済できるかも!?」

 

 興奮する小悪魔。

 街の中を探索し、

 

「やみの世界なのに、ときどき牧場のほうできらりと光るのを見たことがあります。ええ、しげみのなかだったと思いますわ」

 

 という女性の言葉に従って牧場のしげみを探すと、そのオリハルコンが手に入った。

 

「こんな貴重な物が、こんなに簡単に手に入っていいのかしら?」

 

 という話。

 パチュリーが鑑定してみると、

 

「お店に持って行ってもこれに値段はつけられないでしょうね」

 

 ということで、借金返済の足しにはならないのかと、がっかりする小悪魔だったが、

 

「……まぁ、持って行くべきところに持って行けば22500ゴールドで売れるのだけれど」

「パチュリー様、何か言いました?」

「別に…… 大したことでは無いわ」

 

 静かに首を振るパチュリーだった。

 

 他にも併設されている厩舎の馬房、

 

「馬房…… ああ、クシ状になっているこの壁、何だと思ったらお馬さんの個室でしたか」

 

 と気付く小悪魔。

 

「水飲み場もあるしね」

 

 ここからは小さなメダルが見つかる。

 ドラクエ4以降なら、うまのふんが見つかるような場面ではあるが、リメイクで反映されなかったのは幸いか。

 なお、

 

「まぁ、ドラクエ8では自主規制でうしのふんにされてましたけど」

 

 と小悪魔。

 

「ウマがウシに変わっただけじゃないの?」

 

 パチュリーは首を傾げるが、

 

「ドラクエ8だとメインヒロインはエンディングまでずっと馬のままの馬姫様(ミーティア姫)じゃないですか。特殊性癖のバーゲンセールなドラクエシリーズでも、さすがにそちらは……」

「止めなさいっ!」

 

 それ以上は聞きたくないと、小悪魔の口をおしゃぶりで塞ぐのだった……

 

 あとは、くしゃみばかりしている老人の家から、小さなメダルと『ユーモアの本』が手に入り、井戸の中、

 

「だめだ、ほとんど干上がっちまってるぜ。この町も長くねえかも知らねえな。もっともその前に、魔物に襲われて全滅、なんてこともあるけどよ」

 

 と男が言うように、干上がりかけた水場があって、その側から小さなメダルが手に入るが、

 

「実際、ドラクエ1だと魔物に襲われて滅びているのよね、この街」

 

 という話。

 さらに言えば、その滅びたドムドーラの街にロトの鎧を埋めたのが武器屋をしていた『ゆきのふ』という人物。

 その先祖が、あの武器屋の夫婦から生まれようとしているのだろう。

 ファミコン版ではゾーマ討伐後に訪ねると生まれていて、

 

「子供はゆきのふと名付けました」

「この名前はきっと、私の一族に引き継がれてゆくでしょう」

 

 と語っていたように。

 

「感じますねぇ、歴史」

 

 そして宿屋には、驚くことに上の世界のアッサラームから来た踊り子のレナが居た。

 

「あたしは昔アッサラームで人気だった、おどり娘のレナよ。

 でもいやなお客にせまられて、逃げて来たの。

 座長はお元気かしら? もし会うことがあったらよろしくいっておいてね」

 

 この部屋のタンスからは、うさみみバンドが手に入る。

 

「いったいどんなことをすれば、ここまでたどり着けるのかしら」

「座長さんによろしく、って言ってましたね」

「まぁ、ルーラなら一瞬だから行って来ましょうか」

 

 アッサラームに戻り、闇のランプで夜にすると、劇場の楽屋に居る座長に踊り子さんの消息を伝える。

 すると謝礼として魔法のビキニをもらうことができた。

 

「どういう品なんですか、それ?」

 

 ついでだから休もうと入った宿の一室、首を傾げる小悪魔に、パチュリーは商人の鑑定能力を使って調べてみせる。

 

「魔法のビキニは身を守る物のようね」

 

 女性なら誰でも着れる防具だが、

 

「でも、こんなの着て戦えなんて言わないわよね?」

 

 という話。

 

「お店に持って行けば3750ゴールドで売れるわね」

 

 とするパチュリーの手を、しかし小悪魔ががっしりと掴む。

 

「パチュリー様、さっき約束しましたよね、「他の水着なら着てあげる」って」

「む……」

 

 契約で小悪魔を縛り、使役しているパチュリーだったが、逆に言えば、パチュリーもまた小悪魔とかわした約束には縛られるということ。

 だから悪魔と迂闊に約束をしてはいけない。

 もっとも、

 

(今のは女商人の鑑定による固定セリフなんだけれど……)

 

 男商人だと「しかしこれはきわどいですね……」に変化するもの。

 しかし聞きようによっては確かに「着ない」「売ってしまおう」としているかのようにも取れるセリフで……

 

「契約を破ろうとしたらお仕置き、そうですよね、パチュリー様」

 

 約束を破ろうとしたとしてパチュリーに罰を与えるために、小悪魔はあえてそれを言わせるため鑑定するよう誘導したのだ。

 悪魔はこんな風に隙をついて逆に主人を契約で縛り、かんじがらめにして自分の色に染め上げようとしてくる、決して油断してはいけない存在。

 しかし本来なら「固定セリフでありそういう意図は無い」と反論すべきパチュリーは、

 

「……ええ、そうね」

 

 と甘んじて受け入れてしまう。

 その気になれば言い負かすこともできるし、何なら一方的に契約を破棄できるだけの力量差がある、その余裕が生む戯れ。

 まるで、一生懸命考えたトンチで大人を言い負かした、と思っている子供を見ているように微笑ましく感じ、ここで本気になって論破するのも大人げないだろうなぁ、とでもするかのように。

 そうして、

 

「さぁ、水着、着せてあげますから服を脱いでください」

「ぁ……」

「できますね、パチュリー様」

 

 抑えきれぬ悪魔の本性をさらけ出し、喜悦に爛々と瞳を輝かせながら、主に対して命じる小悪魔。

 だが…… これから自分に酷いことをしようとしている、しかし同時に余裕をなくすほど自分に魅了されている、欲情している小悪魔の顔を、可愛らしいなぁ、と思ってしまうのはおかしいことなのだろうか?

 そう自問しながらもパチュリーは、小悪魔の目の前で己の服に指をかけるのだった……




 隙をついて約束……『悪魔との契約』に条項を追加して行って、主を絡め取らんとする小悪魔。
 そして、その狡猾なはずの小悪魔の、従順な従者を装い取り繕っていた仮面が脆くも崩れ去る瞬間に、密かにゾクゾクするような興奮を覚えているパチュリー様。
 悪魔契約というとやはり、こういう背徳的で耽美なお話が似合いますよね。
 もちろん知的な頭脳戦でもあるので、このお話は健全ですが。

 次回は水着と温泉(マイラ)回の予定です。
 ポロリがあるかどうか、この先は君の目で確かめてくれ!

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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マイラへ

「ふぅ……」

 

 というわけで、

 

「まぁ、どうせこの魔法のビキニは使おうと思っていたものだし」

 

 魔法のビキニを着たパチュリーだったが、

 

「……水着ってゲームだとグラフィックが色々とアレなのよね」

 

 ファミコン版ではどんな職業でも水着を着たらグラフィックが共通のハイレグ水着姿でウィンクし続ける紫髪の女性に変わっていた。

 一方スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では、職業ごとに様々なグラフィックを見せてくれた。

 商人は浮き輪片手の紺のスクール水着、遊び人は黒いスリングショットに目元を覆う仮面、さらに鞭を持っている「それ水着と違う、女王様」という格好、などなど。

 そして携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では容量削減のためか、またファミコン版同様、共通のグラフィックになったわけではあるが、問題は、

 

「このグラフィックの首から上は、女商人のものなのじゃあああーーーあああ!!」ガァーン!!

 

 というわけで、商人以外にこれを着せると、見た目パーティに女商人が増える。

 一応、髪の色を赤く変えたとされていたが、商人のピンクとの差は微妙なうえ、キャラによって商人のピンクそのままだったりする。

 つまり厳密に言えば同じデザインだが色違いで赤髪とピンク髪の2種類のグラフィックが用意されているということ。

 そして勇者は商人と同じピンク髪のままのものになっているので着せるとゾーマ討伐前、ロトの称号を得て勇者をパーティから外せるようになる前なのに、パーティに勇者が居ない、みたいな絵面になる。

 パーティの2番手、3番手に居ると手前に居るキャラの頭で身体が隠れるし、横から見ると水着を着ていると見分けにくい、ということもあってなおさら。

 

「なんでこんな仕様にした! 言え!」

 

 という話。

 おそらく、

 

容量節約のためグラフィックを1種類に → 自主規制で一番露出度の低い商人をベースにすることに決める → 自主規制って、よく考えたらスクール水着はヤベーだろ、と後になって気付き、慌てて修正 → 頭部デザインを変更する時間が無くなる →「商人って一番の不人気職だし、水着が手に入れられるような段階では誰も使っていないだろうし」「そもそも公式イラストのパイナップルみたいに頭のてっぺんで束ねた髪型がイメージとして定着してるけど、リメイクのグラフィックは普通にポニーテイルだから。使ってない人には気付かれもしないって」などと自分たちに言い聞かせつつ、そのままリリース。

 

 というような経緯でもあったりするのだろう。

 

「でも商人がどうこうっていう話以前に、他のキャラからの変わりようは……」

 

 眉をひそめるパチュリーに、小悪魔は、

 

「元よりピンク髪の商人は現実にもストロベリーブロンドって呼ばれる天然のピンクの髪が存在しますからともかく、清楚系の僧侶、賢者なんかが髪を染めて水着姿になってしまうのは、アレですね。エッチなマンガやゲームにもありがちな、ひと夏の経験を経てギャル化してしまったクラスメイト、みたいな感じですかね」

 

 と例えるが、

 

「あなたが何を言っているのか分からないわ」

 

 もちろんパチュリーには通じない。

 まぁ、そんなゲーム上のグラフィックはともかく、パチュリーは、

 

「守備力+65って、どんなビキニなのかしら? 私が今まで着ていた魔法の前掛けでも+45、というか、今あなたが着ている刃の鎧でも+55でしょう?」

 

 と首を傾げる。

 スーパーファミコン版の公式ガイドブックでは魔法の力を込めた布地で作られたビキニ、ゲームボーイカラー版の公式ガイドブックではむっつりスケベな魔法使いが可愛い弟子に着せようと作り出したもの、とされていたが。

 まぁ、ゲームボーイカラー版と違って他のバージョンでは魔法への耐性が付いていないので、

 

「魔法の前掛けの下に身に付けて、いざとなったら前掛けを外して切り替えるということで」

「脱げば脱ぐほど強くなる?」

「何よそれ。まぁそのとおりの状況になってしまうんだけど」

 

 肌が露出しているほど効率よく気を放出できるので、衣服を脱げば脱ぐほど強くなるという一子相伝の暗殺拳『裸神活殺拳』……

 何故小悪魔が知っているかは置いておいて、そういう効力のあるビキニなのかも知れない。

 しかし、

 

(エプロンの下にビキニ…… ちょっと見は裸エプロンってやつですねっ!)

 

 などと密かに盛り上がる小悪魔だったが、パチュリーは魔法の前掛けと普段着の下に、魔法のビキニを装備する。

 下着の代わりに身に着けているだけなので、小悪魔の期待していたようなことにはならない。

 故に小悪魔は、

 

「ビキニの上に、直接前掛けを着た方が、外しやすくないですか?」

 

 と食い下がるが、

 

「そんな恰好、いくら何でも恥ずかしすぎるわよ!」

 

 と、パチュリーは拒絶するのだった。

 

 

 

「それじゃあ、出るわよ」

 

 ラダトームの西から船で出港。

 マイラの村は大陸沿いに北の海をぐるりと回って行かないといけないため、長距離の航海となる。

 マリンスライム、しびれクラゲなどといった海のザコモンスターを蹴散らし、二人はまずはガライの家へ。

 

「初代ドラクエではガライが造ったと言われるガライの街のあった場所ね」

 

 今は一軒家が建っているのみで、そこが吟遊詩人ガライの実家である。

 あいにくガライは留守というか母親からは、

 

「歌を歌いながら旅をすると家を出たまま戻って来ませんの」

 

 と言われており、

 

「放蕩息子扱いされてますね」

「まぁ、実際、ゾーマ討伐後にメルキドに居るガライに話しかけると「やあ、僕ですガライです。いつまでもぶらぶらできないし家に帰ることにしました!」とか言い出すし、間違っていないんじゃ」

 

 そんな風であった。

 一方、父親からは、

 

「銀の竪琴なら息子のガライが持っていたと思うが……」

 

 という話を聞ける。

 部屋のタンスからはモヒカンの毛と小さなメダルが手に入る。

 地下には宝箱があったが、

 

「空?」

 

 しかし、

 

「何かありますよ、パチュリー様」

 

 小悪魔が宝箱の側の床に落ちている銀の竪琴を見つけ拾う。

 

「ファミコン版だと宝箱の中に入っていたものだけれど」

「何でこんな……」

「ガライは留守で、銀の竪琴は彼が持っているって話が聞けたでしょう?」

「はい」

「ドムドーラの街で話があったようにガライはメルキドに居るのだけれど、彼は竪琴は実家に置いて来たと言う。でも実家に行っても宝箱は空」

 

 これでプレイヤーは悩むことになる。

 

「おそらくドラクエ2の王子たちの行き違いイベントのように、行ったり来たりさせるつもりだったんじゃない?」

 

 小悪魔が気付けたように、スマホ版ではアイテムが隠されている場所に行くとエクスクラメーションマーク、俗に言うビックリマークが出て知らせてくれる親切仕様となっているのだが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では盗賊のレミラーマを使うか、床を一歩一歩調べていかないと分からなかったのだし。

 さらに言えば、

 

「このガライの家はルーラに登録されないから、船か歩きでしか来れないし」

「スタッフ、性格悪過ぎですね……」

 

 それで、この銀の竪琴だが、

 

「魔物たちはこの竪琴の音がとっても好きなようね」

 

 という具合に、

 

「奏でると魔物を引き寄せてしまうという曰く付きの品ね。経験値稼ぎにも使えるけど……」

「けど?」

「ゲームだと使うたびに曲が流れるから、今一つ使い勝手が…… それよりなら山地を歩いたり、ファミコン版なら黄金の爪を使ったりした方が早いし、曲が多少短くなったリメイクならリメイクで、同じ効果を持つ遊び人の特技『くちぶえ』の方がいいから」

 

 ということ。

 

「まぁ、ふくろに入れて置きましょうか」

 

 ファミコン版では7ゴールドで売れたが、リメイクでは売却不可になっていることだし。

 

「それにしても、何で魔物を惹き寄せるんですかね」

「戦闘中に使うと「○○は よろこんでいる。」って表示される、これはゾーマですら喜ぶものなのだけれど」

 

 だからといって攻撃は止めないし、さらに言えばファミコン版ではゾーマ戦で使うとBGMが通常戦闘のものになってしまうというバグがあった。

 このバグは妖精の笛でも起こるものだが……

 それはさておき小悪魔は、

 

「ガライさんの実家にはモヒカンの毛がありましたね。つまりガライさんはパンク系の歌い手で、この銀の竪琴もパンクギターに相当する楽器」

 

 と考察する。

 

「パンク・ロックというと『不満!』『怒り!』『反抗!』『暴力!』みたいな? まぁ、そればっかりじゃありませんが、魔物は好みそうですよね」

 

 ということだったが、

 

「惜しいわね」

 

 とパチュリー。

 

「はい?」

「モヒカンの毛は両親が居る部屋のタンスにあった、ということはパンクスなのは父親で、ガライはそれに反発して出て行ったメタルキッズだったというのが定説よ。実際、ガライが泊まっているメルキドの宿の部屋のタンスからはヘビメタリングが見つかるしね」

 

 という話。

 

「これはエモーショナル系のクライム系のさらにデス系……」

「何て?」

「「高貴なる俺様の怒りは今や海綿体を沸騰させるデスメタル!!!!」ってやつですね!」

「は?」

「『血!』『毒!』『終焉!』『死!』『悪魔!』『ナイフ!』『破滅!』『左回りの時計!』『溺れる魚!』みたいな。だから魔物に好まれるんですね」

 

 などと語る小悪魔だったが、もちろんパチュリーには、

 

「ごめん、何一つわからないわ」

 

 ということだった。

 ガライの家を出て、船で東に向かう。

 そして、

 

「マーマンの群れです! 初めて見る色ですね」

「最上位種のキングマーマンね」

 

 キングマーマン3体の群れと遭遇。

 

「1/4の確率でヒャダルコを使って来るから防具は魔法防御優先で。あなたは魔封じの杖で魔法を封じて」

 

 と指示を出すパチュリー。

 小悪魔は魔法の鎧に魔法の盾。

 パチュリーは魔法の前掛けに魔法の盾装備である。

 

「くぅ…… 物理攻撃のみのイカさんなら、パチュリー様の脱ぎが見れたのにっ!」

 

 悔しがる小悪魔は放って置いて、パチュリーは、

 

「私は……」

 

 正義のそろばんで1体を倒そうとするが、

 

「倒しきれない? 最大ヒットポイント120、守備力85程度なら一撃のはずなんだけれど」

 

 パチュリーの攻撃力は既に300に迫るところまで来ているが、攻撃力が上がると与えるダメージ幅も50ポイント以上に広がり、平均ダメージが出ていれば余裕で倒せる相手でも、リアルラックが足りないと低ダメージが出て倒し損ねる場合がある。

 

 小悪魔は魔封じの杖を振りかざした。

 キングマーマンはマホトーンに対し弱耐性、7割の確率で効いてくれる。

 そして呪文を封じられたキングマーマンは判断値が2、つまり賢くターン中、自分に行動順が回って来た段階で行動を決めるため、無駄行動をせず物理で、尾でビタンとばかりに薙ぎ払って来る。

 しかし、

 

「今さら125ポイント程度の攻撃力では!」

 

 とパチュリーが言うとおり、痛くない。

 次のターンは、

 

 小悪魔は雷神の剣を振りかざした!

 轟く雷鳴が空気を引き裂く!

 

 キングマーマンは海、水系のモンスターらしく氷結呪文、ヒャド系には強耐性を持つが、炎、そして風のバギ系には弱耐性しか持たない。

 ゆえに、雷神の剣のベギラゴンの効果でダメージを与えたところに、パチュリーが炎のブーメランで止めを刺す。

 

「極楽鳥を呼んで回復もする相手だったけれども、結局使わなかったわね」

 

 極楽鳥は2回行動で仲間1グループのヒットポイントを75~94回復させるベホマラーを使い、すかさず逃げるというモンスター。

 つまりキングマーマンは1ターン遅れのベホマラーを使う相手だったが、特にこれが優先行動に指定されておらず、単に1/4の確率で行うだけだったので使用されなかった。

 

「ヒャダルコも使われなかったし、拍子抜けですね」

 

 と、小悪魔も言うが。

 

「まぁ、軽く見て侮ると思わぬ被害を受ける、そこそこ強い相手だけれども、クラーゴンが出現する海域ではやっぱり見劣りするものね」

 

 ということ。

 1/64の確率で魔法のビキニを落とすので、ドロップでしか得られないファミコン版では女武闘家の最強装備となるこれを得るために乱獲されていたりする。

 リメイクではイベントで一着もらえるし、光のドレスなどもっと強力な防具が追加されたので、積極的にドロップを狙うほどのものでも無くなっているが、それでも今の小悪魔が着ている刃の鎧より10ポイントも守備力が高いので、得られるなら活用できるものではあったが。

 

 そしてさらに進むと、

 

「島に塔が建っていますね」

「あれがルビスの塔よ」

 

 最短距離である島の北側から上陸し、ルビスの塔でエンカウントキャンセル、せっかくなので5回だけあなほりをする。

 さらに船に戻り、南下して島の東から上陸しもう一度ルビスの塔でエンカウントキャンセルするが、そのついでのあなほりで、

 

「あら、誘惑の剣が出たわ」

「はぁっ!?」

 

 運命の悪戯か、たったのそれだけでサタンパピーが1/256の確率でドロップする誘惑の剣を掘り出す。

 

 そしてマイラの村のある大陸に、山地を避けて上陸。

 

「……イカが1回も出ないというか、海でのエンカウントが2回だけ?」

 

 それはまぁ、ガライの家とルビスの塔でエンカウントキャンセルを行ったが。

 たった2回の戦闘だけで終わるとは、

 

「スーパーファミコン版に比べても、難易度が下がっているのかしら?」

 

 ということ。

 普通ならイカ、クラーゴンとの連戦によるザラキ、ザキと治療魔法の連発で僧侶、賢者のマジックパワーが枯渇しかねない航路なのだが。

 思い起こせば、同様に激戦を予想して突入をした、いざないの洞窟があっさりと抜けられたり。

 暴れザルを警戒して、しかし遭遇せずに着いたアッサラームへの道行きなどと同様、スマホ版を元にして構築されたこの世界、肩透かしもいいところなことが多い。

 リアルラック故か、本当に難易度が下がっているのかは判別がつかなかったが。

 さらにマイラまでの陸路も、

 

「マドハンドですか」

「同時最大登場数の7体とはいえ……」

 

 マドハンド絶対殺す剣、小悪魔の雷神の剣が繰り出すベギラゴンの効果で一掃される。

 

「たったこれだけで、一人2520ポイントの経験値は美味しいんでしょうけど」

 

 しかし、あっけなさ過ぎる。

 そして森に囲まれたマイラの村へ到着である。

 

「温泉ですよ、パチュリー様!」

「目的が違っているわよ」

 

 この村は温泉があることで有名なのだ。

 真っ先に温泉に向かうが、

 

「おじいさんが入っているわね、さすがに混浴は……」

 

 と、パチュリー。

 ドラクエ3では入り口のお姉さんが、

 

「ここはろてんぶろでございまーす」

 

 と言っているだけで効能については言及されていないが、初代ドラクエではリュウマチに効くとされていたもの。

 泉質に変化が無いとすれば、それは老人に人気が出るだろうというものだったが。

 

「大丈夫、パチュリー様は水着、着てるじゃないですか」

 

 温泉というと日本人はタオルを湯船につけず全裸で入浴するが、世界を見れば水着を着用して男女の別なく楽しむという文化が一般的である。

 しかし、

 

「あなたの分が無いじゃない」

 

 と答えるパチュリーに、

 

「私? い、一緒に入ってくれるんですか?」

「あなたを放って置いて一人でというのじゃ、楽しめないじゃない?」

 

 そう、(エロの)使い魔である自分に対し、何を言っているんだとばかりに、自然に答えてくれる。

 そんな主人の態度に小悪魔は感動し、

 

「私なら全裸でも構いません!」

 

 と言い募るが、

 

「少しは公衆道徳というものをわきまえなさい、この痴女っ!!」

 

 と、パチュリーに却下されたりする。

 その温泉の湯船の入り口には、小さなメダルが。

 また、ドムドーラの街に居たエルフから聞いたとおり、南に10歩の場所には妖精の笛が埋まっていた。

 この村に居る戦士と荒くれ男からは、

 

「うわさでは精霊ルビスさまは、西の島の塔の中にふうじこまれているそうだ」

「もし妖精の笛があれば石像にされたルビスさまの呪いを解けるはずなのに……」

 

 という話を聞くことができるように、キーアイテムとなっている。

 

 他に、井戸の中から小さなメダル。

 奥の森から不思議な木の実を拾うが、

 

「おばあさんが居ますね」

「話を聞いてみましょうか」

 

 と近づく二人だったが、

 

「アヒィッ!? ここ、毒の沼地?」

 

 アレフガルドは常に夜、しかも暗い森の中だったので小悪魔は見落としたが、老婆は毒の沼地の奥に居るので、

 

「ひいぃぃぃぃ~っ」

 

 小悪魔は悲鳴を上げ、ダメージにのたうつ。

 老婆からは、

 

「神は光。魔王は暗闇。

 神と魔王は遠い昔から戦い続けてきた、二つの力の源。

 もし光の玉があれば、魔王の魔力を弱めることができようぞ」

 

 と、竜の女王からもらった光の玉の使い道を教わることができた。

 他に村人から、

 

「その昔、王者の剣は魔王によりこなごなにくだかれたとききます。

 しかしその魔王ですら、王者の剣をくだいてしまうのに3年の年月を要したとか。

 いやはや、すごい剣もあったもんですね」

 

 という話を聞くことができるが、

 

「んふっ」

 

 思わず吹き出しそうになり、こらえるパチュリー。

 

「今の話のどこに笑いのツボが? いえいえ、そんなことよりパチュリー様っ! 王者の剣が壊されてしまったって」

「そうね、他の人からも話を聞いてみましょう」

 

 村の建物の一室にはジパング風の服を着た女性が居て、

 

「やまたのおろちという、化け物のいけにえにされそうになった時、私たちは逃げ出しました。そしてこの世界に迷い込んだのです。私の夫はジパングで刀鍛冶をしてましたのよ」

 

 と話してくれる。

 

「おおー、ジパングからここまで来た人が居るんですね」

 

 感心する小悪魔。

 しかし、その夫の姿は見えず、この部屋のタンスからは布の服が手に入るのみだった。

 他の村に居る人々からは、

 

「うわさでは、王者の剣はオリハルコンというもので、できていたそうです」

「道具屋のご主人はとても器用なひとですわ。そのままでは役に立たないものでも買いとって細工をして売り出したりするのですよ」

 

 という話が聞けて、

 

「んん? もしかして……」

 

 と考え込む小悪魔だったが、

 

「まいった! カンダタとかいう男に王者の剣だとだまされて、ただのはがねの剣を買ってしまったのだ」

 

 と嘆く商人に、

 

「もしかして、ゾーマが砕いたのはニセモノだったオチとか?」

「そっちの方向に行っちゃうわけ?」

 

 と、パチュリーは呆れるが、

 

「だってラスボスを倒すのに必要だっていうアイテムが壊されちゃったらお話にならないですよね?」

「まぁ、それもそうだけれど」

 

 仕方がないな、と、

 

「ジパングから来たっていう道具屋のだんななら、この上に居ますよ」

 

 という青年の言葉に従って、階段を昇る。

 

「ああ、なるほど、ジパングの人ですね」

 

 と小悪魔が言うとおり、カウンターにはジパングの装束に身を包んだ男性が座っていた。

 壁にかかった袋からは小さなメダルが手に入り、また売り物の中には、

 

「スライムピアスが売られているわね」

 

 商人に鑑定させると、

 

「小さなスライムが身に着けている人の寂しさを誘うみたい」

 

 とコメントされるように性格を『さびしがりや』にするというもの。

 

「『さびしがりや』は成長補正に見るものが無いし、他に能力値に補正が付くわけでも無いし」

 

 というわけで買う意味は無い。

 ドラクエ6で登場して、それ以降のシリーズ作やリメイクで登場しているアイテムなのだが、

 

「他の作品だと、そこそこ使える効果を持っているものもあるのだけれど」

 

 それに、

 

「アイテムとしては登場しないけれど、ドラクエ4のイラストでは勇者が身に着けていたものだしね」

 

 その流れかドラクエ3の公式ガイドブックでも女勇者が身に着けているイラストが掲載されていたが、

 

「つまりドラクエ4の勇者は『さびしがりや』?」

「アクセサリーの効果でそう見えるから、仲間である導かれし者たちが集まって力を貸してくれる、ということなのかもね」

 

 そういうことなのかもしれない。

 

「ともかく、不用品を売り払っておきましょうか」

 

 ということでドムドーラやマイラで手に入った不用品を売り払って行くが、

 

「オリハルコンが22500ゴールドで売れるわね」

「はいぃぃぃっ!?」

 

 値段が付けられない、売れないはずのオリハルコンを超高額で買い取ってくれるという。

 

「こ、これさえ売れれば借金が無くなりますっ!」

 

 と興奮する小悪魔。

 

「それじゃあ、売ってしまうわね」

 

 そういうわけで二人の所持金は前回精算時の、

 

小悪魔:-11713G

パチュリー:484627G(+未払い分11713G=496340G)

 

 から、

 

小悪魔:925G

パチュリー:508979G

 

 となった。

 

「あとは、小さなメダルが貯まったから」

 

 小悪魔のルーラでアリアハンに跳び、メダルおじさんから小さなメダル85枚で得られるドラゴンローブを手に入れる。

 

「ドラゴンローブは僧侶、賢者、魔法使いが身に着けられる守備力+80の防具で、ブレスのダメージを2/3に軽減する耐性を持っているわ」

「凄いですね」

「これ以上の守備力を持つのは勇者の光の鎧か、女性だけが身に着けられる神秘のビキニか光のドレスのみよ。ただ……」

「ただ?」

「魔法使い、賢者なら守備力が+50まで下がるとはいえ、ブレスだけでなく呪文にも同時に耐性を持った水の羽衣があるわ」

「ああ……」

 

 水の羽衣を着ることができない僧侶には有用だし、特に男性なら最強防具と呼んでいいのだろうが、男性僧侶は人気が無い上、僧侶という職業自体が賢者の完全下位互換のためこの時点で連れていることは少ないのだし。

 

「それにドラゴンローブはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版なら、マイラのすごろく場にあるよろず屋マスで27000Gで買えるものなのだけれど」

「たっか……」

「そこ、ゴールの景品が光のドレスなのよね」

「それは……」

「光のドレスはクリアー後にしんりゅうを規定ターン以内に倒したら開いてもらえるジパングにあるよろず屋マスで、19000Gで買えるものだし」

「うーん、そう聞いて買うか買わないかで言うと、買いませんね」

 

 ということ。

 

「ただ、スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版ではすごろく場が無くなったせいで、小さなメダルの景品としてもらえるだけの一品ものになった上、光のドレスもやはり一着しか手に入らなくなったから」

「それなら出番はありそうですね」

 

 色々と不満が出ているスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版だったが、最強装備を量産できないことがゲームバランスと攻略法を変化させており、それはそれで面白いものになっているのだった。

 ともあれ、パチュリーたちには使えない装備なので、

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど…… 20250ゴールドで売れるわね」

 

 ということで売ることにする。

 結果、

 

小悪魔:11050G

パチュリー:519104G

 

 となるが、

 

「そういえば、私があなほりで得た誘惑の剣を使うとなると売却価格7350ゴールドを私に払ってもらわないといけないのだけれど」

「あ……」

「それとも保留にする? それはそれで、使い捨ての毒蛾の粉を使い続けることになるけど」

「う、うう……」

 

 迷う小悪魔。

 

「まぁ、今残っている毒蛾の粉は全部あなたのものだから、それを売り払えば支出も抑えられるでしょうけどね」

「それです!」

 

 パチュリーの提案に飛びつく小悪魔。

 そうして何とか誘惑の剣を手に入れたのだったが、

 

「それじゃあ、マイラの村に行きましょう」

 

 もう一度小悪魔のルーラでマイラの村へと跳ぶ。

 

「今度は武器屋ね」

 

 マイラの武器店では、ゾンビキラー、ウォーハンマー、パワーナックル、刃の鎧、水の羽衣、水鏡の盾、賢者の杖が売られている。

 

「上の世界でも一つだけ手に入れられた刃の鎧だけれど、マイラでは6500ゴールドで売られているわ。パーティに戦士が居て攻略にこの鎧の反射ダメージを当てにしている場合はここで買うのが手ね」

 

 RTAや低レベルクリアなどでも貴重なダメージソースとして活用されるし、メタル系に対しダメージを積むのにも有効であることだし。

 

「水の羽衣は……」

「透け透けです!」

「………」

 

 叫ぶ小悪魔を、生暖かい目で見るパチュリー。

 ファンには小悪魔の言うようなイメージで認識されている、ドラクエ2の公式ガイドブックに掲載されたムーンブルクの王女が着たイラストからセクシー系の防具とされ、プレイヤーの少年少女たちを魅了してきた防具だったが……

 少なくともリメイク版ドラクエ4のトルネコの鑑定だと、水と言っても透けているわけではないとされていたし、そもそも初登場したドラクエ2以降、全作品に出ているものだが、透けている公式イラストも、ゲーム中のグラフィックも存在しない。

 前述の公式ガイドブックのイラストも、当然透けたりはしていない。

 

 さらに言えば、水の羽衣は2で初登場した当時から別に女性専用というものではなかった。

 ファミコン版なら裏技で2着作ってサマルトリアの王子に着せたり、3の男魔法使いや4のブライなどといったお爺さんキャラたちの最強装備だったりもするし。

 

 ただまぁ、小悪魔が考えているような思い込み、というか夢を、わざわざ打ち砕いたりするのも無粋だと、パチュリーは思うのだ。

 世の中には正しくても役に立たない、いや、逆に害になる情報だってある。

 それをただ正しいからといって押し付けるのは視野の狭い、思慮の足りない者がやることだと、パチュリーは知っている。

 ゆえにパチュリーは小悪魔の叫びに特にコメントはせずに、

 

「魔法使いと、リメイクでは賢者も着られるようになった防具で守備力+50、ブレス、呪文のダメージを共に2/3まで減らせるという耐性が優秀な逸品よ」

 

 と、性能面についてだけ言及する。

 

「リメイクでは?」

「そう、ファミコン版では魔法使い専用防具だったの。もちろん光のドレスなんて無くて、賢者、僧侶は魔法の鎧が最高のものだったから、この耐性の優秀さで賢者ではなく魔法使いを選ぶプレイヤーも居たというくらいよ」

 

 ファミコン版においてはゾーマの吹雪に耐性を持てるのは、これの他には勇者の光の鎧、勇者の盾しか無かったのだし。

 また、リメイク以降に話を戻せば、

 

「お値段も12500ゴールド、ドラゴンローブの27000ゴールドに比べれば半分以下のお手ごろ価格だし」

「確かに。これがマイラで買えるなら、ドラゴンローブはよほどお金が余っていないと買いませんよね」

 

 ということ。

 

「賢者の杖は攻撃力+50、魔法使い、僧侶、賢者が使える武器だけれど、この杖の真価は戦闘中に道具として使うとベホイミの効果が得られるということ」

 

 道具使用だけなら誰にでも使えるものであるし。

 そんなわけで、当然パチュリーは買う。

 小悪魔は物欲しそうにそれを見るが、

 

「回復呪文が使えるあなたには、あまり必要無いでしょう?」

 

 首を傾げるパチュリー。

 薬草をふくろに99個まで入れられるリメイクでは、通常の回復はそれで間に合うし。

 賢者の杖も、戦闘中に緊急回復するためにしか使われないだろうし。

 しかし小悪魔は、

 

「ところでパチュリー様、賢者の杖って鳥の頭に似てますよね」

 

 と言う。

 T字になっている上端は、平たい方と尖った方があって、宝玉が埋め込まれている。

 宝玉を目、尖っている方をくちばしと見ると、まぁ、鳥の頭に見えるかもしれない。

 

「ドラクエ3で回復と言えば、ホイミスライム系統。エニックスが出版した書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、回復アイテム『賢者の石』にはホイミスライムが多数封じ込められているとされていましたし」

「そうね」

「他に回復というと、シャーマン系や魔女、魔法使い系などの術師系……」

「それから極楽鳥、鳳凰かしら」

「そう、それです。つまり賢者の杖は、極楽鳥の力を模倣したもの。ゆえに鳥の頭、そしてくちばしを模した形状をしているという説があるんです」

 

 こじつけに近いが、それでも、

 

「類感呪術、類似したもの同士は互いに影響しあうという『類似の法則』に則った呪術ね」

 

 という具合に魔術的視点に立ってみれば十分、理にかなっている。

 原初的な、それだけに強い効果を発揮する魔術だ。

 

「でもさすがにグループ全体を癒すベホマラーは無理で、効果は単体対象のベホイミのみ。そして呪文を唱えるくちばしを模したピック部分を対象の身体に突き立て、体内に直接治癒の力を流し込む必要がある」

「は?」

 

 確かにドラゴンクエストのライバル、ファイナルファンタジーシリーズなどでは攻撃した相手を回復させる武器が登場したりするが。

 

「大丈夫、先端が刺さってできる傷も即座に癒されますから痛みは一瞬。処女喪失(ロストバージン)ほどで、耐えられないものではないという……」

 

 小悪魔の口が三日月形に吊り上がる。

 

「つまり、パチュリー様が私にその杖を使って下さる度に、私は何度でもパチュリー様に処女を奪われる痛みを感じられる」

 

 ドスッ

「あひっ!!」

 胸に、

 

 ザシュッ

「あぁぁんんっ!」

 お腹に、

 

「突き立てられる場所すべてで、初めての痛みを奪って頂ける」

 

 ドシュッ

「んぐうぅっ!」

 背に、

 

 ズシュッ

「はぁううんっ!」

 太ももに、

 

「そうして、その痛みの後に癒されることで、身体の中から強制的に気持ちよくさせられる」

 

 ドスッ

「はあぁあぁぁんっ!!」

 腕に、

 

 ズシュッ

「あはうぅぅんんっ!!」

 尻に、

 

 ザシュッ

「はぁあぁんっ!」

 脇腹に、

 

 極楽鳥、モンスターのクチバシに模した杖の先で身体をついばまれるたびに、嬌声にも似た悲鳴がほとばしる。

 そんな未来を幻視する小悪魔。

 しかし、

 

「でも…… 攻撃力が高いパチュリー様より、サポートに回る頻度の高い私が使った方がいいでしょうか? そうしたらパチュリー様の初めての痛みを私の手で与えてあげられます。何度も、何度も……」

 

 と、陶酔した瞳を向ける小悪魔に、

 

「……それが本当だとしても、買うお金がないでしょう、あなた」

「うわ、一瞬で現実に引き戻されました!?」

 

 まるで頭をぶん殴られたかのような衝撃を受け、妄想の世界から素に戻される小悪魔。

 そして、

 

「あなたにはもっと現実を自覚してもらうわね」

 

 とパチュリーに引き連れられ、道具屋に向かう。

 

「ほら」

 

 と小悪魔が見せられたものは、

 

「お、王者の剣、35000ゴールド!?」

 

 売りに出されている勇者の最強剣!

 

「ど、どういう……」

「このお店の主人がジパングの刀鍛冶だったという話、そして王者の剣がオリハルコン製だっていう話は聞いていたでしょう?」

「あ……」

 

 つまり、この店の主人にオリハルコンを売り渡すと、それで王者の剣を造って売ってくれるのだ。

 

「ふふふっ、ゾーマも3年かけて砕いた努力を、こんな短時間で意味のなかったことにされるなんて思わなかったでしょうね」

 

 そう笑うパチュリーだったが、

 

「お、お金が…… 買うためのお金がありません」

 

 がっくりと膝をつく小悪魔だった。




 妄想に浸る小悪魔に現実をわからせする優しいパチュリー様でした。
 以前のお話にもありましたが、

「王者の剣が手に入るなら、雷神の剣を売ってしまっていいでしょう?」

 ということなのですが、小悪魔はそれができず、

 目だよ目!!
 目!!
 この目ッ
 目!!
 雷神の剣を握りしめながら王者の剣を手に入れることを考えているこの目!!

 二つともか!? 二つとも今ほしいのか? 二つ…… イヤしんぼめ!!

 となりますので次回は初代ドラクエでも金策のために活用された伝統のあの場所で、資金稼ぎをする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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岩山の洞窟へ ドロドロに汚されて

(イギギギギギ…… お金がっ! 王者の剣を買うお金が無いっ!!)

 

 王者の剣の販売価格35000ゴールドを前に立ち尽くす小悪魔。

 素材であるオリハルコンの売却価格が22500ゴールドなので、実質的な価格は12500ゴールドとも言えるのだが。

 攻略情報を見ずに遊んでいたプレイヤーの中にはオリハルコンを売った金で装備を整えてしまい、後になって買う金が無い、となった者も居たという。

 そう、小悪魔のように……

 

「仕方ないわねぇ……」

 

 パチュリーはやれやれといった様子で小悪魔に言う。

 

「王者の剣が手に入るなら、雷神の剣を売ってしまっていいでしょう? 王者の剣のバギクロスは雷神の剣のベギラゴンよりダメージにムラがある上、平均値も低いけれど」

 

 しかし、

 

「バギ系に耐性の穴がある敵に対してはこちらの方が有効だし、火炎呪文に耐性の穴を持つ敵に対しては稲妻の剣と雷の杖の重ねがけで対処できる。さらに言えば雷神の剣はどうせまたルビスの塔で手に入るのだし」

 

 ということ。

 なお、雷神の剣は売却価格で譲ってあげたのだから、売ってしまえばその金がそっくり返って来る。

 つまりまったく損をしないということ。

 今までタダで雷神の剣をレンタルさせてもらっていたようなものなのだが。

 しかし……

 

「うううううううっ……」

 

 雷神の剣を持ったまま、王者の剣を見る小悪魔。

 

 目だよ目!!

 目!!

 この目ッ

 目!!

 雷神の剣を握りしめながら王者の剣を手に入れることを考えているこの目!!

 

 二つともか!? 二つとも今ほしいのか? 二つ…… イヤしんぼめ!!

 

 ということだ。

 理屈ではパチュリーの言うとおりではある。

 だが、雷神の剣のベギラゴンによる圧倒的な火力で薙ぎ払う快感を小悪魔は体験してしまった。

 その魅力に憑りつかれてしまっているのだ。

 

(なるほど、強力な武器に呪われ手放せなくなるってこんな感じなのね)

 

 と興味深いサンプルを見るような視線を小悪魔に向けるパチュリー。

 

「何とかならないんですか、パチュリー様」

 

 そう、言い募られ、

 

「うーん、ギリギリでどうにかなる手段はあるのだけれど」

 

 とパチュリー。

 

「アレフガルドで金策と言えば、初代ドラクエからの伝統、岩山の洞窟が有名よ」

 

 

 

 そんなわけでラダトームの南西、ラダトームとドムドーラの中間に在る岩山の洞窟にやってきたのだ。

 

「ホロゴーストが出るからザキ、ザラキ対策に命の石を、地獄の騎士が出るからマヒ対策に満月草を、ガメゴンロードが出るから眠りの杖と草薙の剣を用意して」

「あれ? それって……」

「そうね、ネクロゴンドの洞窟で出るモンスターだから今さらね。あとは踊る宝石も出るし」

「踊る宝石!」

「金策が捗るわね。新規のモンスターとしてはダースリカントとマドハンド。もちろんマドハンドに仲間を呼ぶことを許すと大魔神が出てくるわ」

「まじんはひまじん……」

「そして気付いたと思うけど攻撃呪文を使って来る手合いが居ないから、魔法耐性防具は要らないわ」

 

 ということで魔法のビキニ姿で先頭に立ち、洞窟に突入するパチュリー。

 

「ビキニに盾とヘルメット……」

 

 その恰好に顔をしかめるが、しかし、

 

「よく考えれば、別にこれって女戦士の格好と大して変わらないわよね」

 

 という話。

 いや、ビキニアーマーの下どうなってるの? 下着穿いてるようには見えないんだけど? みたいな女戦士よりは水着姿の方がまだ安心感があるというか。

 まぁ、その後ろに続く小悪魔は、パチュリーのお尻にだらしなく笑み崩れているのだったが。

 そしてパチュリーはとりあえず5回だけ、あなほりをするが、

 

「ラックの種を見つけたわ」

 

 これはガメゴンロードが1/64の確率でドロップするアイテム。

 

「素早さの種を見つけたわ」

 

 こちらはダースリカントが1/64の確率でドロップするアイテム。

 

「フロアが切り替わるついでのたった5回のあなほりでそれですか……」

 

 小悪魔は呆れるほか無いが、

 

「ともかく種を使ってマッサージですね、パチュリー様」

 

 とビキニ姿のパチュリーに迫る。

 しかし何かを思いついた様子で、

 

「あ……」

「なに?」

「いえ、この間、『喘息持ちで不健康な生活を続ける魔女が身体を楽にするために普通のマッサージ店と思って入ったところ「これに着替えてください」って際どい水着に着替えさせられて、そのままエッチなマッサージで堕とされる』という本が入りまして…… これって、その本と同じパターンですよね」

「そんなの知るわけ無いでしょう!?」

 

 悲鳴交じりの声を上げるパチュリー!

 そもそも、

 

「何そのピンポイントに不純な内容!? 図書館の蔵書に、そういう卑猥な本を混ぜるのは止めなさいって言ってるでしょうが!!」

 

 という話だったが、

 

「そうです、アレフガルドに降りて久々にスライムを倒せましたので、スライムローションを使ったマッサージを」

「要らないわよ!?」

「せっかく濡れても大丈夫な水着を着ていることですし」

「そのためのものじゃないから!」

「えっ、無数のマドハンドの手が全身をまさぐる、泥パックマッサージの方がお好みでしたか!? エッロッ!!」

「勝手に人を痴女扱いするな! というか、何でそういう選択肢しか無いの!?」

「『ドラゴンクエストタクト』ではマドハンドがヌメヌメボディを習得するので」

「説明すればいいとかじゃない」

「でも小さい子が泥遊びで土や泥の自然な感触を楽しんだり、自分の手や身体、服をわざと汚す、親から叱られるようないけない遊びに興奮したりするのと一緒で、割とプリミティブな喜びに基づくものなんですけどね」

 

 そう言われてみると、そんなものなのか、とも感じられるが、

 

「どうせ、今のパチュリー様のヒットポイントと守備力ならマドハンドから集中攻撃を受けたとしても、マッサージにちょうどいい程度の刺激しか受けないじゃないですか」

 

 そう言い募る小悪魔。

 

「泥パックとか、泥を使った美容法、健康法もありますし、ここは童心に帰ったつもりで、ね」

 

 とささやくと細い指先がパチュリーの頤を捉え、

 

「んっ……」

 

 口移しに、素早さの種を飲み込ませる!

 

「う……ぁ……」

 

 そうして筋肉を短期間に鍛えるための筋肉痛を凝縮したような痛みに苛まれるパチュリーをよそに、銀の竪琴をかき鳴らしてモンスターを呼び寄せる!

 

「引きがいいですね、パチュリー様。もしかして司書権限で干渉しましたか?」

 

 にぃっ、と嗤う小悪魔。

 最大登場数、上限7体のマドハンドが現れ、

 

「さぁ、パチュリー様、WAM、ウェット&メッシーと呼ばれる世界をお楽しみください!」

 

 小悪魔はそれに向かってパチュリーを押しやった。

 最大登場数の7体が出てきているということは、仲間を呼ぶなどの戦闘オプションは選ばれず、ただひたすらに集中攻撃を受けることになる!

 

 ビチャッ、ビチャ、ビチャッ……!

 

 あっという間に身体が、顔面が重く泥臭い、粘性の汚物に征服され、青臭い土の匂いが鼻腔を満たす。

 

「うあっ…… うああぁぁぁ…………」

 

 へたり込み、ぶるぶると身体と、真っ赤に紅潮した顔を震わせる。

 その顔面に乗った重量感と、暴力的なまでの汚泥の匂いに、ガーンと殴られたように頭が真っ白になる。

 粘り、顔をゆっくりと流れ落ちてゆく、異様な感触。

 まるで毛穴の一つ一つに入り込み、汚されてゆくような。

 惰弱に潤む瞳で歪んだ視界にマドハンドの姿が映る。

 獲物を嬲らんとする汚れた指先。

 そして入れ替わるように後ろに控えていたマドハンドが同じく泥にまみれた腕を振り上げ近づいてくる。

 ただ『顔』を『身体』を汚すために。

 

「ああ…… ああぁぁぁ…………」

 

 完全に頭がやられていた。

 自分でも不思議なほど沸き立つ甘美な絶望感に人知れず身体を震わせる。

 立ち替わり、また別のマドハンドが汚泥をひっかけに来る。

 彼女はただ、薄汚く汚された可憐な面差しを上に向け、さらなる陵辱を待ち続けた。

 

 ベチャッ、ドロォグプッ! グチュグチャッ!

「うっ…… うあぁぁあああっ…… はあああぁぁぁ………!!」

 

 次から次へ、休む間もなく茶色いヘドロの侵攻にさらされる。

 意識は完全にブッ飛んでしまい、顔面を多い尽くさんとするその限りなく固体に近い液体の重量と粘性と匂いに恍惚とするばかりだった。

 自分はどうしてしまったのだろう。

 そんな疑問も大量の汚泥と強烈すぎる臭いに犯し尽くされてしまったようだった。

 薄く開いた目に、こちらを向いたマドハンドが飛び込む。

 その手が狙うところ。

 それにより、すなわち自分の顔が、これ以上に汚されようとされていることを自覚させられる。

 

 ドロォォッ、グチュッ、グポッビチャッ!

「あひィッ……!! あ、あはあぁぁぁぁ……」

 

 汚泥の中に沈められていく。

 

 グチャーーーッ! ヌルッグチッグチャッ、ベチャベチャベチャッ!

「あッあうッ! あむあむあむうぅぅッ! むはああぁぁぁぁッ……」

 

 

 

「どういうことなの……」

 

 泥の海に沈められていく小悪魔を、呆れた目で見ているパチュリー。

 そう、マドハンドが集中攻撃の標的に選んだのは小悪魔の方だったのだ。

 集中攻撃の対象は完全にランダムで決定され、パーティの隊列には関係しないのだし、実際、こうなる確率は五分五分だった。

 

「あ、素早さが3ポイント上がったわ」

 

 

 

「ぬわーーっっ!!」

 

 そんなわけで、集中攻撃に沈みかける小悪魔だった……

 

 

 

 素早さの種とラックの種でパチュリーの能力値を上げたら再出発。

 ホロゴーストや地獄の騎士、マドハンドを蹴散らしながら進み、宝箱を見つける。

 

「祈りの指輪です!」

「そうね。じゃあ、リレミトを唱えて頂戴」

「えっ?」

「次は最初の分岐まで戻る必要があるから、リレミトで一度外に出た方が早いのよ」

 

 というわけで、小悪魔のリレミトでいったん外に出て、再び洞窟へもぐる。

 ついでにまた5回だけ、あなほりをするが、

 

「あら、所持金の半額が出て来たわね」

「うぇえええっ!?」

 

 そんなわけで、ますます広がる経済格差。

 再度進み、最初の分岐を今度は北進すると、

 

「ホロゴーストとダースリカントよ!」

 

 それぞれ2体ずつの群れ。

 しかし、

 

「リカントって、ライカンスロープ、狼の獣人ですよね?」

 

 実際、初代ドラクエではそうだったが、

 

「あれ、クマさんじゃないですか!!」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 

「そうね、ドラクエ3のダースリカントは豪傑熊、グリズリーの上位種よ。制作元のエニックスが出版した書籍『ドラゴンクエスト モンスター物語』だと、その辺の変化の理由が書かれていたわ」

 

 ゾーマ討伐後、人間たちの残党狩りにあって最後の一匹となったダースリカントが、金色の狼に自分の肉を食べさせることでキラーリカントを生んだ、という話。

 

「ともかく、攻撃力が高くて痛恨の一撃も繰り出すけど、マヌーサ以外の補助呪文には弱耐性、攻撃呪文にも弱耐性、ヒャド、デイン系には無耐性だから」

 

 小悪魔の雷神の剣とパチュリーの炎のブーメランで一気になぎ倒す。

 ホロゴーストが辛うじて1体生き残ったが、

 

「あなたは装飾品をパワーベルトに切り替えて!」

「はい?」

 

 そうやって倒すと、

 

「3120ポイントの経験値!?」

「ダースリカントは倒しやすい割に、一体2080ポイントもの経験値を持つの」

 

 それゆえ、

 

「レベルアップしましたー!」

 

 小悪魔はレベル36に。

 

ちから+4

すばやさ+1

たいりょく+10

かしこさ+2

うんのよさ+2

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:36

 

ちから:139

すばやさ:200

たいりょく:152

かしこさ:85

うんのよさ:105

最大HP:302

最大MP:172

こうげき力:234/191

しゅび力:217/210/202

 

ぶき:らいじんのけん/ドラゴンテイル

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

「以前の私はまさに貧弱なドラクエ勇者の見本でした」

 

 と小悪魔。

 まぁ、パチュリーが2のローレシアの王子なら、小悪魔はサマルトリアの王子、それぐらいのヒットポイント差があったわけだが。

 

「ますます自信を無くしていたある日、装飾品のパワーベルトに出合いました」

 

 過去に思いを巡らせる。

 

「私と同じ、いえそれよりも不健康体であったはずのパチュリー様が…… パチュリー様はすっかり変わって高ヒットポイントな強キャラになっていました。性格『タフガイ』のおかげだと聞き、私もさっそく性格をタフガイに変えてくれるパワーベルトの期間限定有料試用を申し込んだのです」

 

 そして、

 

「まったく」

 力強い腿をつくる運動。

「簡」

 引き締まった腕をつくる運動。

「単だ」

 たくましい胸をつくる運動。

 

「効果はすぐに現れました。今では誰もが私をたくましい勇者と認めてくれる」

 

 そんなわけで、

 

「体力とヒットポイントが跳ね上がりましたよ!」

「パワーベルトで性格を『タフガイ』に切り替えたおかげね」

 

 勇者はレベル35から45まで、体力が爆発的に伸びる期間がある。

 その間だけパワーベルトを身に着ければ、ヒットポイントを大幅に伸ばすことができるのだ。

 前回のレベルアップはバラモス戦の時だったので、さすがに使えなかったのだが。

 

 そして次に現れたのはガメゴンロードだが、

 

「眠りの杖で眠らせてしまえばね」

 

 万が一先行されてマホカンタを張られても、道具使用による効果は反射されない。

 そしてガメゴンロードは催眠に弱耐性なので二人がかりで眠りの杖を使えばほぼ確実に眠らせることができるわけで。

 そうしておいて、正義のそろばんと雷神の剣で叩けば、割とあっさり倒せるわけである。

 

 戦闘が終わりさらに奥へ。

 途中にあった下りの階段を降りて、

 

「行き止まりですね」

「そうね、でもエンカウントまでの歩数、それにあなほりのカウントもリセットできるから」

 

 残念ながら今度のあなほりでは良いものは出なかったが。

 さらに進み、下への階段と奥の宝箱への分かれ道に差し掛かり、

 

「ゴールドの出る宝箱は無視……」

 

 と、つぶやくパチュリーだったが、

 

「パチュリー様ぁ……」

「できないわよね、やっぱり」

 

 パチュリーだけならもうゴールドは要らないので無視するところだが、小悪魔の金策のため潜っているのだからそうも行かない。

 途中、ホロゴーストや地獄の騎士を蹴散らしながらも宝箱から1016ゴールドをゲット。

 そうしてから分岐点まで戻ろうとするが、

 

「ダースリカント!」

「送り狼…… じゃなくて送りクマさんですねっ!」

 

 誰が上手いことを言えと。

 ダースリカント3体の群れだが、やはり、

 

「ラリホーに弱耐性だから」

 

 二人がかりで眠りの杖で眠らせ、炎のブーメラン、雷神の剣のベギラゴンで倒す。

 火炎呪文には弱耐性を持っているので3割の確率で無効化される…… 1体だけ生き残るが、それも叩いて終了である。

 そして下りの階段で地下二階に。

 まずは小さなメダルが入った宝箱を目指し、無事入手。

 そして後は最奥の宝箱目指して進むのだが、

 

「ホロゴーストです!」

 

 ホロゴースト4体の群れと遭遇。

 しかしパチュリーの炎のブーメランと小悪魔のドラゴンテイルだけで一掃できる。

 

「あなたの攻撃力も上がって来たから確実に倒しきれるわね」

 

 さらにはホロゴースト、ガメゴンロード、ダースリカント各1体の群れも、

 

「まぁ、押し切れるわよね」

 

 とあっさりと倒す。

 そして、

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーはレベル38に、

 

ちから+2

すばやさ+3

たいりょく+1

かしこさ+1

うんのよさ+1

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:38

 

ちから:176

すばやさ:126

たいりょく:206

かしこさ:54

うんのよさ:66/116

最大HP:407

最大MP:106

こうげき力:301/233

しゅび力:201/171

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:まほうのビキニ/まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ミスリルヘルム

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

「もう完全に能力値が伸びなくなってきてるわね」

「それでも、あなほりで得られる種があればまったく問題ありませんよね」

「そうね、能力値の成長上限は上がり続けることだしね」

 

 ということだった。

 後はマドハンドを蹴散らしながら最奥の部屋まで進み、宝箱から破壊の剣と地獄の鎧を手に入れて終わりである。

 小悪魔のリレミトで地上に出て、ルーラでマイラに戻る。

 

「地獄の鎧は勇者と戦士が装備できて、守備力は+65。リメイク版の女性専用装備を除けば、これは戦士にとって最強の鎧。さらに呪文のダメージを1/4に軽減するという効果を持つわ」

「凄いじゃないですか!」

「でも呪われて、3/8という高確率で行動できなくなるの」

「ダメじゃないですか!」

 

 しかし、

 

「この呪い、直接攻撃を選ばず、呪文やアイテム使用をするなら通常通りに行動できるのよ」

「ああ、勇者、戦士は呪文の効果を発揮する剣を多く使用できますから行けそうですよね」

「そうね、それにゾーマなど、この後に待ち受けるボスキャラ戦では、常に賢者の石を使って回復し続けるメンバーが一人は必要でしょうし」

「その人に着せるというのはアリなのかも知れませんね」

 

 そういう選択もあり得るのかも知れない。

 

「勇者に着せるのも有効よ。特に耐性が累積しないファミコン版なら光の鎧にブレス耐性があるから勇者の盾のブレス耐性が無意味になっていたのだけれど、この地獄の鎧との組み合わせならそれが生かせるようになるし、耐性で光の鎧装備を上回ることができるわ」

 

 ファミコン版の場合は、

 光の鎧+勇者の盾では、呪文のダメージ2/3、ブレスのダメージ2/3

 地獄の鎧+勇者の盾では、呪文のダメージ1/4、ブレスのダメージ2/3

 

 耐性が掛け算で累積するリメイク以降なら、

 光の鎧+勇者の盾では、呪文のダメージ2/3=33.3パーセント、ブレスのダメージ2/3×2/3=4/9=44.4パーセント

 地獄の鎧+勇者の盾では、呪文のダメージ1/4=25パーセント、ブレスのダメージ2/3=66.6パーセント

 なので、強力なブレスを使って来るゾーマなどには不利になるが。

 

「攻撃ではギガデインと呪文の効果を発揮する剣を、回復では賢者の石を使う。瀕死に陥ったら奥の手のベホマズンをという具合に物理攻撃ができなくても十分活躍させる事が可能だし、打撃についてはその分、もう一人アタッカーを増やせば良いだろうし」

 

 あとは、

 

「ゲームボーイカラー版なら『混乱中でも一人になったら通常通り行動できる』という判定が優先されるから、一人旅で般若の面とセットで運用するというのもアリなのかもね」

 

 使いどころを考える必要があるだろうが。

 なお、この破壊の鎧、商人の鑑定で見ると、

 

「お店に持っていけば5250ゴールドで売れるわね」

 

 と通常品と同じように言われるが、実際には岩山の洞窟で拾えるだけの完全な一品ものである。

 呪いの品だからだろうか?

 

「破壊の剣は勇者と戦士が装備できる剣で、攻撃力は+110、会心の一撃が1/8の確率で発生するけれど、1/4の確率で行動できなくなる呪いの武器」

 

 公式ガイドブックでは、憎しみが込められた邪剣とされていたもの。

 武骨なブロードソード状の刀身側面には骸骨と骨のような文様があり、柄にも同様の意匠が。

 そして先端の片側に斧状の刃が付いており、逆に言うとそこだけしか刃の無い鈍器とも言える。

 

「会心率が1/8に上昇するボーナスもあるけれど、当然呪いで動けないリスクの方が大きくてダメージ期待値もがくんと下がる。それに会心が出るはずの時に硬直することもあるから、実際の会心率は1/10程度にまで下がってしまうわ」

「使えないじゃないですか」

「それがそうでもないの」

 

 とパチュリー。

 

「ファミコン版では武器に限っては呪われても戦闘中の持ち替えで代償無しに外すことができたわ。そしてこの剣はリムルダールで店売りされていたから、確実に手に入れることができた」

 

 すなわち、

 

「勇者が会心率を上げることができる唯一の武器としてメタル狩りで重宝されたわ。勇者一人旅なら、誘惑の剣や毒蛾の粉で混乱させたモンスターをけしかけるぐらいしか効果的な手が無いからなおさら」

 

 また、

 

「戦士が複数居る場合もまた、会心率を上げる魔神の斧はバラモス城で手に入るものの他は数の限られるミミックから1/256の確率でドロップさせるより無かったから、店売りで買える破壊の剣は利用されたわ」

 

 ということもある。

 

「でも、リメイクだと……」

「そうね、リムルダールでの販売は無くなり、外すには呪いを解くほかなく、そうすると呪いのアイテムは消えてしまう」

 

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ならクリア後にしんりゅうを規定ターン以内で倒した場合に開いてもらえる第5のすごろく場のマス目でもう一つ拾えるが、ドロップはバラモスゾンビが1/256の確率で落とすだけ。

 ゲームボーイカラー版なら氷の洞窟にて通常の敵として現れるので商人のあなほりで量産もできるのだろうが、そうでないと高レベルの盗賊を揃えてゾーマの城でひたすら戦うなどしないと入手できないものだ。

 

「また、多くの強力な武器が追加されたり、従来あった武器の攻撃力が強化されたりした結果、元のままの性能を保ったこれは相対的に弱体化して、デメリットに目をつぶりメタル狩り以外にも使う、というような選択も苦しくはなったわね」

「苦しく? 皆無じゃないんですか?」

「破壊の鎧同様、この呪い、直接攻撃を選ばず、呪文やアイテム使用をするなら通常通りに行動できるのよ」

「なるほど、通常時はアイテムと呪文で戦えばいいと」

「ちなみに呪いの効果は累積するから、破壊の鎧と同時に身に着けるとシャレにならない確率で身体が動かなくなるわ」

 

 それはさておき、

 

「さらに言えば、リメイクでもPlayStation 4、ニンテンドー3DS版では呪いを解いても呪いのアイテムが無くならないようになっているのよ」

「それじゃあ……」

「そう、魔法使い、賢者がLv30で覚えるシャナクがあればタダで、そうでなくとも教会でレベル×30ゴールドを払えば切り替えることができるわけ」

 

 と、そこで気付くパチュリー。

 

「そう言えば、この世界だと解呪してもらうとアイテムが消えていたわね。なら、ここはスマートフォン版を元にしたものなのかしら?」

 

 すごろく場が無くなっているなど、まったく同じ仕様だと思っていたスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版だったが、相違点はある模様。

 いや、アップデートが簡単なスマホ版が後からプログラム修正でも行ったのかもしれない。

 まぁ、それはともかく、

 

「だからPlayStation 4、ニンテンドー3DS版ならメタル狩りに使うという選択も有り得るわけね」

 

 ということだった。

 なお、

 

「お店に持っていけば33750ゴールドで売れるわね」

「たっか!」

 

 という具合に超高額商品である。

 

「これがあるから、時間短縮にシビアなRTA(Real Time Attack)、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競うプレイでも、必ずしも入る必要の無い岩山の洞窟に金策のため潜るということをするわけね」

 

 また、

 

「初代ドラクエでも岩山の洞窟はクリアに必要が無い、けれど金策のために使われていたものだったし」

 

 そんなわけで精算であるが、

 

「岩山の洞窟で手に入れたアイテム、祈りの指輪はエルフの隠れ里の時と同様、私が買い取って、必要な時に売ることにするわね」

「助かります」

「あと、地獄の鎧も貴重な研究材料だから私が買い取っておくわ」

 

 今後、使い道が生じるかもしれないし。

 そして、

 

「破壊の剣も、今後のレベル上げのため、買い取っておくわね」

「は?」

 

 ぽかんとする小悪魔。

 

「メタル狩りって短期集中的にレベルを上げるためにするでしょう? 少なくとも1度はそれに使えるってこと」

「ああ……」

 

 と、納得しかける小悪魔だったが、しかし、

 

「えっ、それじゃあレベル上げの作業のために使い捨てにするって言うんですか? 売値で33750ゴールドもする破壊の剣を」

「そうね、問題無いでしょう?」

 

 確かに商人の、パチュリーの財力があれば十分に可能な手法ではある。

 あるのだが……

 

「それって……」

 

 顔を青ざめさせ、恐る恐るといった様子で聞く小悪魔だったが、

 

「ええ、祈りの指輪と同じく、必要になったら売ってあげるから」

「ぐはっ!?」

 

 嫌な予感が現実となり、即死の一撃を受けたように胸を押さえながらくずおれるのだった。




 岩山の洞窟に潜って金策をする二人でした。
 とはいえ、通常プレイだとお金に替えて終わりの呪われた武具も、使い方次第では役に立つのが面白いですよね。

>「でも小さい子が泥遊びで土や泥の自然な感触を楽しんだり、自分の手や身体、服をわざと汚す、親から叱られるようないけない遊びに興奮したりするのと一緒で、割とプリミティブな喜びに基づくものなんですけどね」

 こういった経験が子供の情操教育に役立ち、また大人であっても童心に帰って癒しを受けることができる。
 健康な心と身体をつくるのに有効なんですね。
 そういう、とっても健全なお話でした。

 次回、王者の剣を買ったら、まだ行っていなかった城塞都市メルキドを目指したいと思いますが。
 とりあえずは途中、精霊のほこらに立ち寄るところまでですかね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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精霊のほこらへ 自称『すべてを司る者(笑)』の正体

「二人に所有権のある祈りの指輪、地獄の鎧、破壊の剣を私が買い取ると、それぞれの売値の半額があなたに支払われるわ」

 

 祈りの指輪の売却価格が1875ゴールド、地獄の鎧が5250ゴールド、破壊の剣が33750ゴールドであるから、その合計の半額、20437ゴールドが小悪魔に渡される。

 

「それに元からの所持金と、前回精算時以降にあった収入を足すわけだけれど」

「足りません……」

 

 35000ゴールドの王者の剣の代金には、これでも足りない。

 

「あとは眠りの杖を質に融資を受ける?」

「眠りの杖を?」

「ええ、精霊ルビスを解き放つためのキーアイテム、妖精の笛は戦闘中に使うと眠りの杖と同じくラリホーの効果を持つから」

「代わりに使える? いえ、それならなぜ質に出す必要が? 普通に売ればいいんじゃ……」

「妖精の笛は使用時に結構長い曲がかかるから、使うたびに一々それを聞くのはね」

 

 ゲームボーイカラー版なら曲が流れないので問題なく使うことができるのだが。

 

「だから質に入れての短期間の融資にするわけ。お金を作ったら質請け、借入金を弁済して取り戻してちょうだい」

 

 質入れと言うとあまり良い印象は無いだろうが、パチュリーは期限を設けることも利子を付けることもなく融通しているので、これは破格の優遇だったりする。

 報酬の公平配分による勇者と商人の比較検証を行っているので、こういう理由付けも無しに小悪魔に資金提供するわけにはいかない。

 そのための処置だ。

 

 そして良い印象が無いと言えば…… そもそも、パチュリーのせいで小悪魔が貧乏になっているわけではないのだが。

 あなほりは面倒だから使わない、または商人は役立たずだから使わない、というプレイヤーが別のキャラと公平配分しながら二人旅した場合と同じだけの収入を小悪魔は受け取っている。

 小悪魔に役立つようなアイテムをあなほりで見つけた場合は買い取ってもらっているが、実際には、買値ではなく売却価格で買えている、25パーセント引きの価格で買えているのだから超お得であるし、そもそも普通にプレイしていたら入手が困難なアイテムも得られるのだから、十分以上のメリットは享受している。

 パチュリーがあなほりをしたからといって、小悪魔の収入が減るわけではない、逆に得をしているということである。

 

 今回の眠りの杖を担保とした融資にしても……

 二人旅というと道具として使用することで攻撃魔法の力を引き出せる剣が使える戦士が実は有力候補なのだが、勇者、戦士の二人旅をした場合、戦士だって装備に金がかかるので、勇者に貸すだけの金は用意できない。

 

 つまり商人を使わず公平配分をしたら、勇者は小悪魔以上に金に困る。

 これが四人パーティだったら収入も半分になるのだから、そもそも冒険が困難なレベルで貧乏になる。

 勇者の強さはパーティの金を吸い上げることで保たれている。

 そういうことだった。

 

 眠りの杖の売却価格、3150ゴールドを融資してもらい、小悪魔は何とか王者の剣を購入。

 結果、二人の所持金は、

 

小悪魔:2522G

パチュリー:751591G

 

 ということに。

 

「まぁ、メルキドに行ったら眠りの杖の分も、すぐ払えるようになるでしょう」

 

 というわけで小悪魔のルーラでドムドーラの街へ跳び、城塞都市メルキドを目指すことに。

 ドムドーラの街の住人が、

 

「町を出て南にくだり、橋をこえてしばらく東へ旅をすると、メルキドの町へつきます。高いカベにかこまれた町ですから、すぐにわかると思いますよ」

 

 と教えてくれるため、ルートに問題はない。

 

「前にも言ったけれども、ドムドーラ周辺にはザキを使って来る魔王の影が出るから命の石は必携よ」

 

 ついでに言えば、ダメージ呪文を使って来る敵も居ないので、魔法耐性防具は必要無い。

 ビキニ姿でドムドーラ砂漠を南へ進むパチュリー。

 

「夜の砂漠は冷えるはずなのだけれど、魔法のビキニと言うだけあって寒くないのね」

「私は刃の鎧ですから、昼間だったらチンチンに熱くなっているところです」

「そう? 一応、中世の板金鎧がピカピカに磨かれていたのは、太陽光を反射させて少しでも熱を持たないようにするためとも言われていたのだけれど」

 

 そして金属鎧は寒い所では逆にガンガン体温を奪っていくものなのだが。

 途中、キメラとスライムベスが出たが、

 

「王者の剣で一撃です!」

 

 と新たな武器の威力にニッコリの小悪魔。

 しかし、

 

「いえ、キメラなら、これまで使ってきた雷神の剣でも十分だったわよ」

 

 という身もふたもないパチュリーの指摘と、王者の剣を装備した小悪魔以上の攻撃力を発揮するパチュリーの正義のそろばんの威力に肩を落とす。

 砂漠地帯が終わり、次は山地へと足を踏み入れたところで、今度はキメラ3体とスライムベスの群れが!

 

「キメラはバギ系呪文に無耐性! 王者の剣のバギクロスの効果ならまとめてお終いです!」

 

 今度こそ、と意気込む小悪魔だったが、その目の前で、パチュリーが炎のブーメランで敵をなぎ倒していく!

 

「あ……」

 

 モンスターはキメラ1体を残して壊滅。

 そこに小悪魔の王者の剣がバギクロスを放つが、

 

「別にそこまでの威力は要らなかったわよね」

「ぐぅ……」

 

 そして現れたのはキメラ2体と魔王の影2体の群れ。

 

 小悪魔は魔封じの杖を振りかざした!

 怪しい霧が敵を包み込む!

 

 魔王の影はマホトーンに無耐性のため、これでザキが封じられる。

 さらにパチュリーの炎のブーメランが閃き、それだけでキメラは全滅する。

 魔王の影は通常攻撃を仕掛けて来るが、

 

「効きませんよ!」

「痛くないわ」

 

 その程度、問題ない。

 次のターン、小悪魔がドラゴンテイルを振るっただけで終了である。

 

 橋を越えた所で東へ進むと、今度はキメラ4体の群れ。

 

「今度こそ王者の剣の威力をお見せします!」

 

 小悪魔は王者の剣を振りかざした!

 黒い雨雲が敵を包み込む。

 

 そうしてバギクロスの効果、竜巻状に発生した真空の刃がキメラを襲うが、

 

「あっ!?」

 

 キメラはバギ系に無耐性なので確実に効きはする。

 しかしバギクロスのダメージは60~120とムラが大きく、最大ヒットポイント80のキメラに対しては……

 案の定、1体倒し損ねてしまい、反撃を受ける小悪魔。

 

「うっ!」

 

 しかし、刃の鎧の反射ダメージがキメラに返され、

 

「あっ!?」

 

 それでキメラが倒される。

 

「ど、どうです、この威力!」

「はいはい」

 

 胸を張って誤魔化そうとする小悪魔の主張を、パチュリーは生暖かい目をして流すのだった。

 そして今度は魔王の影4体の群れ。

 小悪魔の魔封じの杖がザキを封じ、パチュリーの正義のそろばんが一撃で一体を葬り去る。

 残った魔王の影は通常攻撃と、ザキを無駄撃ちする。

 そして次のターン、パチュリーの炎のブーメランと小悪魔のドラゴンテイルが薙ぎ払うが、

 

「あれっ!?」

 

 最後の1体が小悪魔の攻撃から素早く身をかわす!

 

「魔王の影の回避値は1。大ガラスやフロッガーなんかと一緒で、ごくまれにだけれど回避されてしまうのよ」

 

 とはいえ、悪あがきもここまでで次のターンには止めを刺されてしまう。

 しかし、

 

「私、勇者なんですよね?」

 

 普段の不埒な悪行三昧が祟っているのか、どうもいまいち締まらない戦いばかりで、本当に今さらながらだが自分の存在意義に疑問を持ってしまう小悪魔だった。

 そして森林を出る2歩手前で、

 

「ここから先はメルキド西のモンスターに切り替わるわ。キメラ、マドハンドの他にグール、スカルゴンあと……」

 

 そこでパチュリーは眉をひそめ、

 

「マクロベータが出てくるわ」

「マクロ…… 何ですって?」

「マクロベータ。シャーマン、ゾンビマスターの最上位種で、ブラジルの黒人奴隷に由来する呪術『マクンバ』の術者『マクンベイロ(女性形マクンベイラ)』が元ネタという説がある相手よ」

「南米と言うと、ハイチのブードゥーが有名ですけど」

「北米版、NES版では『Voodoo Warlock』とされているわね。どちらも起源を辿ればアフリカ西海岸土着の原始宗教に行きつくと言われてはいるのだけれど」

 

 まぁ、

 

「あまり気にしなくてもいいわ。出現率が低いし、半端な能力と登場作品の少なさのおかげでマイナーモンスターの代名詞になっているものだし」

 

 ファミコン版ではこのあたりの他、ルビスの塔の下層、ゾーマの城のある魔の島南部、そしてゾーマの城にも出た相手だが。

 いずれも何度も行く場所ではないので遭遇せずに終わるプレイヤーも多かったし、遭遇しても脅威にならないので記憶に残らない。

 さらにはスーパーファミコン版以降のリメイクではゾーマの城からリストラされてしまっていたのでなおさら。

 

 ともあれ、命の石を袋にしまって、代わりに耐魔法防具を引っ張り出しておく。

 

「と言ってもダメージ呪文を使って来るのは、マクロベータが1/8の確率で放ってくるメラミどまりだからあまり真剣に用意しなくてもいいのだけれど」

「今さらメラミですか」

「マクロベータは通常攻撃の他にメラミ、スクルト、ベホマ、ふしぎなおどり、ほのお(リメイク版ではひのいき)、腐った死体を呼ぶ、逃げる、と合計8種類もの技を持つ技のデパートとも言うべき相手なのだけれど、実際には一つ一つが貧弱で、ただの器用貧乏になっているものなの」

 

 攻撃魔法は今さらなメラミ、攻撃力はマドハンド以下、吐く炎はイシス周辺で出ていた火炎ムカデと同じ6~9という低ダメージ、呼ばれる仲間はその系統で最下位種の腐った死体。

 無限のマジックパワーで、自分のヒットポイントが半減したら優先行動に指定されているベホマで全快する、というといやらしく感じるかもしれないが、下位種と違って回復の対象が、攻撃力が微妙な自分限定という時点でお察し。

 つまり行動が多彩なだけで、対策を必要とするような厄介なもの、危険度の高いものを何一つ持たず、回復やマホトラ連発が鬱陶しい下位種のようなインパクトも皆無。

 ついでに言えば、リメイクで下位種は4体まで同時出現するようになり脅威度が増したが、マクロベータはファミコン版同様2体までのままなのでますます印象が薄まるといった具合である。

 

 そして森を抜けたところで、

 

「骨の竜です!」

「スカルゴンが3体ね。あとは……」

「顔色が悪い人」

「グールが1体ね」

 

 スカルゴンは最大ヒットポイント200の強敵だけあって図体がでかい。

 が、そのためにグールが1/4の確率で呼ぶゾンビマスターが出現できるスペースが無い。

 ゆえにグールは放って置いて、眠りに弱耐性のスカルゴンを二人がかりで眠らせにかかる。

 パチュリーは眠りの杖を、小悪魔は妖精の笛を吹くのだが、

 

「一々演奏しなくちゃいけないのが面倒ですね」

「聞かせられる方もね」

 

 妖精の笛は使うたびに曲がかかるものだから、戦闘のテンポが悪くなる。

 さらには、

 

「すぐに起きて来ますよ!? 眠らせたターンに目を覚ますなんて!!」

「眠らせても起きるを繰り返すだけで、眠らなかった敵から通常攻撃や冷たい息をもらうのはともかく、全体に40~59の吹雪ダメージを与える氷の息をもらうのは……」

「うわ、グールのマヌーサをもらっちゃいました!」

 

 幸せの靴で運の良さを上げていたパチュリーは効果を跳ねのけていたが、小悪魔が幻に包まれてしまう。

 しかし、

 

「どちらも火炎呪文には無耐性だからあなたがマヌーサに囚われても問題は何も無いわ。と言うか、これ以上、眠らせようとしてもこちらの被害が増える一方だし、あなたの妖精の笛の曲を一々聞くのも面倒だし、雷神の剣のベギラゴンで攻撃して!」

 

 パチュリーが引き続き眠りの杖でスカルゴンを抑え、小悪魔が雷神の剣のベギラゴンを食らわせるが、

 

「二発当てても死にませんよ!? 最大ヒットポイントは200なんですよね?」

「スカルゴンには1ターンに20ポイントの自動回復があるわ」

「えぇ……」

「ボスキャラ以外のモンスターのヒットポイントは満タンだとは限らず、最大ヒットポイントの75%~100%程度の状態で出現するのだけれど」

「あれ? 上限が75%~100%ではないんですね?」

「そう、つまり自動回復をするモンスターは、放って置くと最大ヒットポイント、スカルゴンの場合は200までヒットポイントが上がってしまうから」

 

 ということだった。

 まぁ、それでも、

 

「次のターンは稲妻の剣のイオラで十分よ」

「はい!」

 

 イオラの効果で全体にダメージを入れ、スカルゴンを全滅させた上で、グールのヒットポイントも削っておく。

 そこに、

 

「これで終わりよ」

 

 パチュリーの正義のそろばんが突き立てられ、グールも倒しきる。

 

「さすがに治療が必要ね」

 

 ということで小悪魔のベホイミでヒットポイントを回復させるが、

 

「逆にここまで治療無しで来られるのがね」

 

 という話。

 そして、

 

「橋が見えてきましたよ」

「さて、ここで素直にメルキドに行くか、精霊のほこらに寄ってから行くかなのだけれど」

「はい?」

「結構な遠回りだし、どうせ虹の雫を作るためには船で近くの島に在る聖なるほこらに行かないといけないから、海路を行った方がいいのよね」

 

 精霊のほこらで入手できる雨雲の杖は道具として使うとマホトーンの効果があるが、魔封じの杖と違って装備可能な僧侶、賢者、魔法使いにしかその力は引き出せないため、パチュリーたちには無意味。

 しかし、

 

「小さなメダルを早期に手に入れる、という意味ではアリよね」

 

 と寄り道することにする。

 

「グールとマドハンドの群れです!?」

 

 グール4体とマドハンド3体の群れに遭遇。

 グールはゾンビマスターを、マドハンドは大魔神を呼ぶのがいやらしい相手。

 今は仲間を呼ぶスペースが無いのでいいが、半端に倒すと空いたスペースに呼ばれてしまう。

 しかし、

 

「あなたは稲妻の剣で全体攻撃を。先にマドハンドを確実に倒すわよ!」

 

 とパチュリーは指示しつつ、炎のブーメランで、こちらも全体攻撃。

 そして小悪魔の稲妻の剣のイオラの効果がグールを2体まで倒し、マドハンドは全滅させる。

 

「あとはグールがゾンビマスターを呼ばないことを祈るだけですか」

 

 と、気を引き締める小悪魔だったが、

 

「このターンは呼ばないわよ」

「はい?」

 

 パチュリーの言うとおり、グールは攻撃力95の、この時期では痛くない通常攻撃で終わる。

 

「マドハンドの判断値は最高の2でターン中、自分に行動順がまわって来た時に行動が決まるから、その時点でスペースがあれば200/256、約8割の確率で大魔神を呼ぶのだけれど」

 

 しかし、

 

「グールの判断値は1でターン開始時に行動が決まるわ。つまりその時点で空きスペースが無いなら、そのターンは仲間を呼ぶことが無いの」

 

 ゆえに、グールは後回しでマドハンドを先に倒したのだ。

 そして次のターン、小悪魔が雷神の剣のベギラゴンの効果で残りのグールを焼き払い、戦闘は終了した。

 森を抜け、砂漠、というか海岸線に有るので、

 

「砂丘ねこれ」

 

 という砂地に出たところで、

 

「モンスターの群れです!」

 

 グール、マドハンド、キメラ、各1体の団体。

 しかし、小悪魔の稲妻の剣のイオラとパチュリーの炎のブーメラン、二人の全体攻撃で何もさせずに終了。

 

「雷神の剣を手に入れても、稲妻の剣はまた別で重宝するんですね」

 

 と、改めて実感する小悪魔だった。

 そして戦闘終了後、

 

「ここより南はメルキド東のモンスターが出てくるわ。キメラ、メイジキメラ、ダースリカント、マドハンド、スライム、スライムベスにはぐれメタル」

「はぐれメタル! 誘惑の剣の出番ですねっ!」

 

 せっかくお金を払って手に入れたのだからと興奮する小悪魔だったが、

 

「いいえ、ここのはぐれメタルは他のモンスターとは一緒に出ないから使えないわ」

 

 ということ。

 

「それとも破壊の剣を装備して、会心の一撃を狙ってみる?」

「このためだけに33750ゴールドもする破壊の剣を使い捨てにするなんて、できませんよ!」

 

 悲鳴を上げる小悪魔だった。

 そして、メイジキメラ3体とスライムベス3体に遭遇。

 

「早いっ」

 

 メイジキメラは1体が逃げ出し、残りはパチュリーにメダパニをかけてくる。

 

「メイジキメラの素早さは、はぐれメタルと同等の150。先制される確率はとても高いわ」

 

 それゆえメダパニを受けることを覚悟して幸せの靴で運の良さを上げていたパチュリーは無事、抵抗に成功。

 そしてパチュリーの炎のブーメランが唸り、小悪魔のドラゴンテイルが止めを刺す。

 

「3/8の確率で自分たちをベホマで治療し、3/8の確率でメダパニを、1/8の確率でマホカンタを、1/8の確率で逃げる相手なんだけれど」

 

 しかし、

 

「判断値は1でそこそこ頭が良く私たち同様ターンの初めに行動が決まるから。つまり最初のターンは確実にベホマは無く、3/5の高確率でメダパニを、1/5の確率でマホカンタを、1/5の確率で逃げることになるわ」

「あれ? 攻撃するって選択肢は無いんですか?」

「そうね、だから単独か、今回のように同時出現モンスターが大したことのない相手だったら逃げるのも手よ。その場合、メダパニで混乱した仲間からの同士討ち以外はダメージを受けないから」

 

 それに、

 

「逃げ損ねても、向こうが勝手に逃げて数を減らしてくれるしね。キメラの上位種、のはずなんだけれどキメラのモンスターレベルが36なのに対してメイジキメラはレベル30と異様に低いから」

 

 判断値が1なのでパーティの先頭キャラのレベルとモンスターレベルの差が6以上でないと逃げないのだが、ここに来るパーティは大抵それ以上に育っているだろうから逃げ出すのだ。

 

「何でまた……」

「メイジキメラは1/64の確率で不思議な帽子をドロップするの」

「ああ、ドロップアイテムは最後に倒したモンスターのものになるから……」

 

 メダパニで場を掻きまわし、マホカンタとベホマで自分たち『だけ』守り、そしてトンズラすることでドロップさせないという手。

 そのために確実に逃げるようモンスターレベルを下げているのか。

 

「なんていやらしい」

 

 ということだし、

 

「逆にレベル差が10以上あればこちらも確実に逃げられるんだけど……」

「一緒に出て来たモンスターレベル63のスライムベスが邪魔をするという?」

「そういうことね、あとリメイクだと、上の世界でも怪しい影の正体として先頭キャラのレベルが30になった時点で出てくるし、すごろく場でもエンカウントするようになっているわ」

 

 ということで中々に面倒なモンスターなのだった。

 そして、

 

「砂の次は毒の沼地ですか……」

「初代ドラクエではロトの印が落ちていた場所ね。もっとも、この時代はまだ沼の面積が小さいようだけれど」

 

 目指すほこらは毒の沼地の中にある。

 

「ビリっときましたあああああ!!」

 

 毒ダメージに悲鳴を上げながら進む小悪魔。

 そんな中、メイジキメラとキメラのコンビに襲われるも、

 

「今度は先制できました!」

 

 と斬り捨て、精霊のほこらに到着。

 そこには一人のエルフが居て、

 

「人間はきらいだけど、オルテガは好きよ。きっと大魔王をたおしてくれるわ」

「人間嫌いのエルフにまで好かれるなんて、お父さんも、なかなかやりますね」

 

 と小悪魔。

 勇者の父オルテガは、このアレフガルドに来た際、自分の名前以外の記憶を失っていたはず。

 もちろん、自分に妻子が居たことも。

 と、いうことはここで愛人を作っていたりすることも、十分に考えられ……

 

「……勇者母に言いつけてやろうかしら」

 

 パチュリーは眉をひそめてつぶやくのだった。

 そして、ほこらの2階では一人の妖精が小悪魔を待っていた。

 

「わたしはその昔、ルビスさまにおつかえしていた妖精です。

 そしてあの日、ルビスさまにかわり、こあくまによびかけたのも、このわたし」

「こ、この声はプレイ開始直後の性格診断、誕生日の夢の中で「あなたはエッチですね」「自分でもうっすらエッチであることにきづいている」「ひといちばい男の子がすき」「あなたはエッチです。それもかなりです」なんて連呼してきた……」

「合ってる、合ってる」

 

 つぶやく小悪魔に、そのとおりよね、とうなずくパチュリー。

 しかし妖精はそんな二人の様子をスルーして、

 

「あの時はずいぶんと失礼なことをいったかも知れません。許してくださいね。

 しかしこあくまはついに、ここまで来てくれました。

 わたしの想いをこめ、あなたにこの雨雲のつえをさずけましょう」

「さらっと流されました~っ」

「どうかルビスさまのためにもこの世界をお救いくださいまし」

 

 というわけで、雨雲の杖を得る。

 

「雨雲の杖は虹の雫を造るための材料、キーアイテムなんだけれど道具として使うとマホトーンの効果があるわ」

「私の使っている魔封じの杖と同じ効果ですか」

「そうね、ただし魔封じの杖と違って装備可能な僧侶、賢者、魔法使いにしかその力は引き出せないものよ」

 

 つまりはパチュリーたちには使えない下位互換品だし、所持できるのは虹の雫を造るまでのわずかな間。

 裏技で複製して、というのもどうせなら魔封じの杖を増やした方がいいので無意味というものだった。

 

「まぁ、ここまで来たのはこれの回収のためだったんだけれど」

 

 と中央の床から小さなメダルを回収するパチュリー。

 他に花壇から銀のロザリオを見つける。

 そして階段を降りるが、そこで先ほどのエルフが目に入り、

 

「このエルフさんがあそこまで信頼しているということは、オルテガ、お父さんもこのほこらを訪れたはずですよね? なのにどうしてさっきの自称『すべてを司る者(笑)』は雨雲の杖を渡さなかったんでしょうか?」

 

 と首を傾げる小悪魔。

 

「そのエルフはリメイクで追加されたキャラクターなんだけれど、そのせいでそんな風な疑問が生じたと書かれた書籍もあったようね」

 

 それで、その答えだが、

 

「まず、オルテガは虹の雫無しでゾーマの城のある島に渡っている。つまり単純に必要としなかったから、という意見があるわ」

 

 そして、もう一つの意見は、

 

「そもそも大精霊ルビスの代役に過ぎないのにも関わらず、性格診断で「私はすべてをつかさどる者」と自称し「あなたはエッチですね」「自分でもうっすらエッチであることにきづいている」「ひといちばい男の子がすき」「あなたはエッチです。それもかなりです」なんて連呼してきた者がまともに役目をはたしていると思っているの、という話が」

「ああー」

 

 実際言われた小悪魔には納得の意見である。

 先ほども悪びれもせず、いけしゃあしゃあと話していたし。

 

「もしかしたら汚染精霊と呼ばれるものに近いのかもね」

「はい?」

「精霊と妖精の区分は曖昧だという話はしたわよね」

「はい」

 

 パチュリーは七曜の属性魔法、つまりは精霊魔法の使い手であり、その方面には深い見識を持つ。

 その彼女が、かつて湖上の氷精、チルノとの勝負に勝利した時に、

 

「妖精は自然現象その物であり、魔法では妖精を操る事もしばしばある。つまり奴隷」

 

 と言い残したように、精霊と妖精は線引きが難しい存在なのだ。

 

「このアレフガルドを造った精霊ルビスに仕えていたという妖精だもの、特性的には精霊、多分自然精霊寄りの存在でしょう?」

 

 そして、

 

「精霊の本質として周りの環境を自分の色に染めようとするところがあるの」

「私もパチュリー様を自分色に染めたいと思ってます!」

「……まぁ、そういうのは神魔、神霊の類には共通の特性かも知れないけれど、自然精霊はその名のとおり、自然環境に干渉するの」

 

 しかし、

 

「この精霊のほこらの周囲は?」

「……毒の沼地ですね」

「自然精霊が居るのにどうして? 二階の彼女の居るフロアの周囲には、新鮮な湧水が周囲を囲っていたはずなのに」

 

 さらに言えば、

 

「この後、この沼地は初代ドラクエの時代にはもっと大きく広がっているわ。つまり……」

「あの妖精の存在が、毒の沼地を広げて行った?」

「そう、自然精霊は自然を豊かに変えて行くけど、汚染精霊は逆に自然を荒廃させていく存在。そして……」

 

 上のフロアで見つけた銀のロザリオを手にするパチュリー。

 

「この装身具は身に着けた者の性格を「人には親切で、それでいてさりげないので、だれからも好かれる人柄」とされる『ロマンチスト』に変えてくれるもの」

「まさか、それを身に着けてルビスを騙して仕えていた?」

「そしてルビスの目が無い今は外して「すべてをつかさどる者」を自称し、勇者に毒舌を吐き、そして綺麗な湧水を毒水に変え周囲に垂れ流し、着々と毒の沼地を広げ続けている……」

 

 そんな存在だから、このほこらを訪れたオルテガには、雨雲の杖を渡さず。

 しかし、ルビスの指示を受けた勇者に対しては、しれっとして渡した。

 そういうことである。

 

「まぁ、毒の沼地が広まって行ったのは、別の理由があるとされている考察もあったのだけれど」

「はい?」

「単に自称『すべてを司る者』が下水に油や生ごみなどを流すような、ずぼらな生活をしていたから初代ドラクエまでの年月の間に汚れが溜まり汚染が、毒の沼地が広がって行ったって話ね」

「うぇぇぇっ!?」

 

 毒の沼地でダメージを受けながらここまで来た身としては、受け入れがたい。

 

 吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!

 

 という意見であった。




 精霊のほこらと自称『すべてを司る者(笑)』の正体についてでした。
 TRPG『シャドウラン』だと水の汚染精霊として『汚泥』や『酸』が登場していましたから、そんな感じですかね。
 まぁ、火の汚染精霊が『核』だったりしますし、それよりはマシでしょうけど。

 次回はニートの街、メルキドに到着の予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ニートの街メルキドへ

 精霊のほこらを出て、今度こそメルキドを目指すことにするが、

 

「メイジキメラ対策でもしておく?」

 

 素早さを種を使って強化しているパチュリーが星降る腕輪を装備すると素早さが252まで上がる。

 その上でメイジキメラが弱耐性しか持たない魔封じの杖を持ち、先制で魔法を封じる手だ。

 そうして用意したうえで、来た道を戻ることにするが、

 

「不思議な帽子が出たわ」

 

 ほこらを出てついでに5回あなほりをしただけで、不思議な帽子を見つける。

 

「本当にドロップアイテムを得るために戦闘をするのが馬鹿らしくなりますね、それ」

 

 と呆れる小悪魔をよそに、出発する。

 毒の沼地を超え、砂漠地帯に出て、

 

「うーん、砂漠にクマさん」

 

 ダースリカント3匹に襲われるが、やはり二人がかりで眠りの杖で眠らせた後に雷神の剣のベギラゴンとパチュリーの炎のブーメランで全滅である。

 そして、

 

「対策をすると出てこないのよねぇ」

 

 メイジキメラが出るエリアは突破。

 装備を元に戻し、森の中襲って来るマドハンドを蹴散らしながら橋を渡り、メルキドへの道への分岐点まで戻る。

 

「今度こそメルキドに直行ね」

 

 途中、森の中で、

 

「出たわね、マクロベータ」

 

 とレアキャラに遭遇するが、

 

「催眠に対して弱耐性。二人がかりで眠らせて始末すればお終いね」

 

 といいところもなく終了。

 続けてグールに出会うが、これもまたパチュリーの炎のブーメランと小悪魔の雷神の剣のベギラゴンの効果で一掃。

 森を抜けると、

 

「橋が見えてきました!」

「こちらの橋の位置より北はまたモンスターの出現エリアが違っていて、はぐれメタルも出るのだけれど……」

 

 遭遇も無く素通り。

 橋を越え、その先の毒の沼地を超えれば、

 

「山地に囲まれた街がありますよ」

「あの山地は一応、土塁みたいなのよね」

 

 というわけで、城塞都市メルキドへ到着だ。

 だが、入り口で迎えてくれた兵士が、

 

「ここは城塞都市メルキド。しかしこんな城塞など、魔王の手にかかればひとたまりもないだろう」

 

 と言うように城塞は未だ中途半端で、モンスターの侵攻を防げるようなものではなかった。

 そのため街中で巡回している兵士が、

 

「魔王をおそれ 絶望のあまり人びとは働かなくなってしまったのだ」

 

 と言うとおり街は閑散としており、店に入っても人が居ないか、居ても、

 

「むにゃむにゃ……。はい、いらっしゃい。ぐうぐう……」

 

 と寝ているだけ。

 人を求めて入った民家では、やはり、

 

「ぐうぐう……」

 

 と寝ている男性が。

 そして、とある商店の二階住居には、

 

「どうせ死ぬんです! 働いてもしかたありませんよ!」

 

 と叫んでいる主人が……

 

「誰も働いていません。ニートの街ですかここはー!」

 

 呆れ果てる小悪魔だったが、パチュリーは、

 

「働かずとも生きていけるだけの力、財力や権力、立場があるのなら、好きにすればいいと思うのだけれど」

 

 と首を傾げるだけ。

 生粋の引きこもりである彼女には、何ら問題とは思えないらしい。

 

「前にも言ったわよね? 働かなくとも問題なく暮らせるほど家が裕福というのも先天的な『才能』だって。私のように魔法を志す者なら、それだけで学習の向上率や魔法の習得速度が違ってくるわ」

 

 イシスの街の引きこもり、ソクラスを前に言っていたことか。

 

「実際、この部屋のタンスからは8850ゴールドで売れる高額品、パーティドレスが手に入るくらいで、お金には困っていない様子がうかがえるし、隣の部屋には……」

 

「わしは魔法のちからで働く、人形の研究をしている。

 巨大な人形をつくって、この町をまもらせようと思っておるのじゃ。

 そうじゃ! そいつの名前はゴーレムにしようぞ! うむ、強そうでよい名前じゃ!」

 

 と、いう学者が住んでいて、

 

「初代ドラクエでこの街を守っていたゴーレムを作っているという学者さんね」

 

 先ほどの主人の家に部屋住み、居候して研究をしている、つまりこの家の主人には研究をさせていられるだけの財力はあるのだろう。

 そして、

 

「生活を成り立たせるための労働をせずに研究にだけ打ち込むことができたから、彼はこの偉業を成し遂げることができたとも言えるでしょう」

「そ、そういうこともあるかも知れませんが……」

 

 と納得できない様子の小悪魔に、パチュリーは、

 

「長期にわたってストレスの回避が困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなる。その現象を『学習性無力感』と言うのだけれど」

 

 ニートや引きこもりなどに見られる症状だが、

 

「これも生き物の生存戦略というものよ。山で遭難した人でも生存率が高いのは救助が来るまで動かず何もしなかった人。逆に積極的に状況を打開しようとするポジティブな人はこういう状況下では体力を使い果たし、早々に死んでしまう。何をしてもダメなら無駄な努力にエネルギーを浪費しない方が生き残るには有利なのよ」

 

 ということ。

 また、

 

「勇者の性格判断で「お前は運が悪いんじゃなくて、単にやる気がないから結果が出ないだけ」と痛烈に批判される『なまけもの』の性格。実際、力と体力にプラス補正があるけれど素早さ、賢さに大幅なマイナス補正があって使えない、とされていたものだけれど」

 

 スーパーファミコン版のドラクエ3が出たのはニートという存在が世間に知られるより10年近く前だったが、扱いはまぁ、そんなものだった。

 しかし、

 

「実際にはこの性格、RTA(Real Time Attack)、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競うプレイでは勇者の性格として一番重宝されているものなの」

 

 短時間で簡単に作れ、最重要であるヒットポイント、そして力が伸びてくれる。

 素早さが低いのも、仲間からのバイキルトを確実に受けてから攻撃できるという点で有利。

 つまりニートこそが、最短、最速で世界を救うことができるわけである。

 

「結局、価値や評価なんて状況に合致しているかしていないかで簡単に、いくらでも裏返るものなのよ」

 

 なお、

 

「ちなみに…… この街に限らずアレフガルドにある宿屋ではいつだって「旅人の宿屋へようこそ。こんな夜更けまで、おつかれさまでした」と言って迎えてくれるわ。また教会なら「こんな夜更けに、我が教会に何のご用じゃな?」と迎えてくれるの」

「は? 夜?」

 

 戸惑う小悪魔。

 闇の国アレフガルドでは昼夜の区別が無い。

 しかし街の人々は活動しているので、暗くても昼間時間帯だと思っていたのだが。

 実は夜扱いだった?

 ということ。

 

「そうすると24時間営業で店を開いている他の街や村が異常、ブラック職場なのであって、店を閉めて寝ているこのメルキドの街の方が正常、ということになるのだけれど」

 

 という話。

 そしてブラックな職場が無くならないのは、それでも勤めてしまう人間が居るから。

 労働者が居る限り、ブラック企業は劣悪な職場環境を改善することなく、そのまま存在し続けることができてしまうからだ。

 さらに言えば、不当に人件費を削減して安く上げたサービスを提供することによって、まともに従業員を雇用している同業他社に損害を与え、公平な競争を阻害する。

 その悪行に加担しているとも言える。

 

「ね、見方によって評価は簡単にひっくり返るでしょう?」

 

 そういうことであった。

 そして、

 

「このドラクエ3では、ゾーマが三年かけて王者の剣を砕いた努力が、短時間で意味の無かったことにされてしまっているのだけれど」

 

 とパチュリーは笑みを見せるが、それはゾーマのことを笑っているだけではなく。

 

「なぜ三年なのか? つまり「石の上にも三年」という考え方、硬直的な努力賛美を否定しているとも取れるエピソードを制作者側がさりげなく入れたとも取れるわ」

「考え過ぎなんじゃ……」

 

 と小悪魔は言うが、パチュリーはゆるゆると首を振って、

 

「週刊少年ジャンプの編集者、編集長を勤め、ドラクエにも大きく関与している鳥嶋氏が、近年になってジャンプの標語とされた友情・努力・勝利のうち、努力だけは否定している、昔から、当時からそうだったと言っていることを考えると、深読みのし過ぎとは言い切れなかったりするの」

 

 つまり、

 

「クリエイティブな人たちは気付いていたけれど、それでも努力が妄信されていた当時の日本の価値観では明言しなかった、できなかったことが、今は言えるようになった」

 

 ブラック職場や、やりがい搾取、「石の上にも三年」などといった努力を尊ぶ国民性を悪用した洗脳そのものの従業員教育、こういったものの実体が知られ、盲目的に努力を賛美するのは危険だという認識が広まり。

 一方で他人の敷いたレールの上で、他人の価値観、ルールに基づいてナンバーワンを目指し争い合うより、自分の個性、オンリーワンを生かして生きる方が良い、という多様性を認める素地が育ってきたことが、世間を変えつつある。

 

「これが時代の流れと価値観の変化というものよ」

 

 そして価値観が変化すれば、物事に対する評価もまた変わって行く。

『なまけもの』の性格が後年になって見直されたのと同様なことが、現実でも起きているということであった。

 

 

 

 この学者の本棚からは『豪傑の秘訣』『優しくなれる本』『淑女への道』『頭が冴える本』『負けたらあかん』が入手できる。

 パチュリーは初めて目にする『豪傑の秘訣』を手に取って鑑定してみるが、

 

「男なら大胆に! 女でも大胆に! 肝っ玉を鍛えろ! ……だって」

 

 豪快に生きてゆくための秘訣が書いてあり、

 

「読むと性格が『ごうけつ』に変わる本ね。『ごうけつ』は力を伸ばすには最適な性格で、戦士、そして他を捨てるなら勇者などに適しているのだけれど……」

「けれど?」

「伸びすぎるからこの性格のままだとレベル40台で力の能力値がカンストしてしまい、それ以降のレベルアップが無駄になるという問題も持つの」

「途中で本か装飾品などで性格を切り替えて行けばいいんでしょうか?」

 

 と言う小悪魔にパチュリーはうなずいて、

 

「豪傑の腕輪が早い時期に手に入るから、こちらで間に合わせるという手もあるわね」

 

 ということだった。

 ともあれ、

 

「この本はこの本で役に立つし、こことクリア後の謎の洞窟でしか手に入らない貴重品。スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版なら、ジパングのすごろく場のよろず屋のマスで買うことができたのだけれど」

 

 この世界はスマホ版が基準になっているようで、すごろく場が無いため二冊だけしか手に入らないものだ。

 

 そして北西の空き家の床からは小さなメダル、

 南東の空店舗のカウンター前からも小さなメダルが拾えるが、

 

「ここで拾えるのはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券だったのだけれど、すごろく場の無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版だと、小さなメダルになっているのよね」

 

 すごろく場で拾える分がこのように別の場所で得られるということだった。

 その他にも、建設途中で放棄されたのか、床がそのまま地面になっている建物から祈りの指輪を手に入れたり。

 

「魔王の島に渡りたいなら、この町の神殿に住む老人を訪れることだな」

 

 という話を聞いたので、バリアー床に囲まれた神殿内を、

 

「あひいいぃぃぃッ!」

 

 ダメージに絶叫する小悪魔を引きずり回しながら訪れる。

 

「魔王の島に渡るには太陽の石、雨雲のつえ、聖なるまもり。この3つをたずさえ、聖なるほこらへむかうがよい」

 

 という話が聞けるが、

 

「モンスターから受ける損害より、バリアー床から受けるダメージの方がよほど大きいって何ですか!」

 

 と不条理を嘆く小悪魔だった。

 しかし、

 

「私たち、バラモスに勝っているのよね」

「はい、割と楽でしたね」

「じゃあ、このアレフガルドのモンスターはバラモスより強いの?」

「そんなことは…… はっ!?」

 

 そう、バラモスを楽に倒せるパチュリーたちが、それよりは弱いアレフガルドの通常敵に苦戦するはずがないのだ。

 雷神の剣や王者の剣、新たな防具などが手に入り、さらに強化されていることでもあるし。

 

「これがバラモスには魔法使い、僧侶、賢者のバイキルト、スクルト、フバーハ、マヌーサなどといったバフ、デバフ盛り盛りで勝ちました、というのなら、そこまでの手間暇、マジックパワーをかけていられない通常エンカウントのモンスターに苦戦するかもしれないけれど」

 

 パチュリーたちはそれ抜きでバラモスを倒しているので問題はない。

 

「さらに言えばあなたのマジックパワーはルーラ、リレミトの他はヒットポイント回復にしか使っていないでしょう? しかもヒットポイント回復は袋に99個まで詰められる薬草で十分なところを、マジックパワーの使い道が無いから使っているだけだし、何だったらルーラの代わりにキメラの翼を使ってもいいのだし」

 

 そして他は道具使用による呪文効果でまかなっているので基本、マジックパワーを節約する必要も、マジックパワー切れも無いのだ。

 そもそもフィールド上や岩山の洞窟でなら、切れても商人の『おおごえ』で旅の宿屋を呼んで回復できるのだし。

 

 また宿屋には、

 

「うん? ぼく? ぼくはガライ。旅の吟遊詩人さ」

 

 あのガライが居て、

 

「楽器かい? ぼくはたてごと専門なんだけどね、家においてきちゃったよ。

 あの銀のたてごとの音色は、ちょっとキケンなんだ」

 

 と語る彼の居る部屋のタンスからはヘビメタリングが手に入る。

 

「やはりガライはヘビメタ系の歌い手……」

 

 という話。

 なおリメイクでは値段が付かず売り払うことのできない銀の竪琴だが、ファミコン版では売却価格がたったの7ゴールドであり……

 幻想郷の外の世界で売られた『ギター破壊パフォーマンス用ギター(税抜き5,000円)』みたいなものなのだろうか?




 ニートの町、メルキドでした。

> 幻想郷の外の世界で売られた『ギター破壊パフォーマンス用ギター(税抜き5,000円)』みたいなものなのだろうか?

 それ専用に派手に外装がバラバラに壊れるようにして、保護されているコア部分は工場に送ればリサイクルできるというものでした。
 単に壊してもいいように安く、だけでなくこれだけ凝った仕様にするところが面白いですよね。

 次回は沼地の洞窟。
 リムルダールへのトンネル掘りをやっている男ばかりのガチムチ労働者の巣窟に、迂闊にも足を踏み入れてしまったパチュリー様たちの運命は……
 をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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沼地の洞窟 トンネル掘りのガチムチ労働者の巣窟に立ち入ってしまった二人

「小さなメダルも貯まったし、メダルの館で引き換えるわね」

 

 小悪魔のルーラでアリアハンに跳び、メダルおじさんから小さなメダル90枚でもらえる復活の杖を受け取る。

 天使を象った先端の形状が特徴的な杖で、

 

「復活の杖はドラクエ5で初登場、その後リメイクでドラクエ3にも逆輸入された攻撃力+33、僧侶、賢者が使える武器だけれども」

 

 この杖の価値はそこには無い。

 

「戦闘中に道具として使うのは誰にでもできて、復活呪文ザオラルの効果を持つものなの」

「生き返りの呪文がタダで何度でも使えるというわけですね」

「そうね、それが最大のメリットかしら。ザオラルの呪文は僧侶、賢者がレベル24~26で。勇者がレベル35~37で覚えるというものだけれども」

「私ももう覚えています!」

 

 小悪魔の現在のレベルは36。

 

「勇者は賢さが62以上あれば習得可能レベルに達した時点で確実に覚えられるから、種で賢さを上げているあなたならそうなるわよね」

 

 しかしまぁ、4人パーティならもっとレベルは低いだろうし、そもそも使えるメンバーが死んでしまった場合にも利用できるというのは大きいだろう。

 ただし、

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど…… 33750ゴールドで売れるわね」

 

 完全なる一品ものなのだが、非常に高額なので売るという選択肢もあったりする。

 

「……売るんですか?」

「ザオラルでの蘇生の成功確率は約半分と言われているわ」

 

 ファミコン版では移動中に使った場合で50%。

 戦闘中は、

 

(384-蘇生対象キャラの運の良さ)÷2>乱数(0~255)なら成功

 

 つまり運の良さがゼロなら75%の確率で生き返るが、128で50%、255で25%という、運がいいほど失敗率が上がるという不思議な処理がされていた。

 これは敵から状態異常系の呪文を受けた場合と同じルーチンで処理されているらしいからという話だったが。

 

 リメイクでの処理は分かっていなかったが、それでも、

 

「死人が出るような厳しい状況下でのんびりと蘇生を行っている暇があるとでも思うの? 下手をすれば残りのメンバーまで共倒れになるわ」

「うぐっ!」

「その上、ザオラルでの蘇生だと体力は半分までしか回復しないわ。すかさず治療しないとちょっと攻撃を受けただけでまたすぐ死亡ということにも成りかねないの」

 

 死ぬからには最大ヒットポイントが低いメンバーが犠牲になるのだろうし。

 そしてこれが結構厄介で、

 

「つまりザオラルを使って蘇生を行う者と蘇生した者を治療する者、二人の手を取られるという訳ね」

 

 しかも、

 

「それも一度で成功すればいいけど、そうでなければ成功するまでずっとつきっきりよ。もちろん一人は死亡しているから、実質残りの一人でモンスターを相手にしなくてはならなくなる」

 

 死者を出すような敵を相手にこれは無謀過ぎる。

 

「そして蘇生に成功したとしましょう。回復呪文を使える者は死者の治療の上に、治療の間に新たに仲間が負った傷を癒さなければならない。マジックパワーは大きくすり減らされ、パーティはボロボロね」

 

 どうしようもない。

 

「結局、街に戻っての休息が必要になるわ。だったら死者が出たら迅速に戦闘を終わらせ街に帰る。そうして教会で蘇生してもらう方がずっと早いでしょう?」

「で、でも、蘇生手段が無いよりはあった方がいいでしょう?」

「復活の杖は高額で売れるわ。そのお金で装備を整えた方が結果として死亡確率は減る。簡単な計算でしょう?」

 

 これはゲーム攻略では良く使われる手だった。

 ゲームではキャラが死亡した際の保険として救済用の蘇生アイテムが用意されていることが多い。

 このアイテムは結構高額な場合が多く、それを売り払うことによって得た多額の資金で装備を固める訳だ。

 

「まぁ、教会での治療費用がかからないというメリットはあるわ」

 

 全滅した場合は勇者がザオラルを覚えていればそれを使って他のメンバーを生き返らせられるので教会への布施は必要無いが、まだ覚えていない場合は少なくとも僧侶、賢者等、蘇生呪文が使えるメンバーを蘇生させる費用が必要だし。

 または勇者だけ死んで、パチュリーたちのように勇者以外に蘇生呪文を使うことができるメンバーが居ない場合も教会での蘇生に金がかかることになる。

 教会で生き返らせる場合、

 

 レベルの二乗(1の位は切り捨て)+10ゴールド

 

 という金がかかる。

 今の小悪魔のレベル36では1回1300ゴールド。

 レベル99まで達すれば、9810ゴールドがかかる計算である。

 

「それで、どうするの? 私はもうお金は要らないから、あなたの選択に任せるわよ」

「むぐぐぐぐ……」

 

 悩む、小悪魔。

 

「とりあえず取っておいて、買い物をする必要ができた場合に改めて検討するというのでもいいわよ。メルキドでは高額で売れるパーティドレスも手に入ったことだし、眠りの杖を買い戻すのはそれで間に合うから」

「はい……」

 

 そういうことになった。

 不用品を売り払い、これまでの収入を分配した結果、二人の所持金は、

 

小悪魔:9281G

パチュリー:758350G

 

 ここから小悪魔はパチュリーに質として預けていた眠りの杖を買い戻すので、売却価格3150ゴールドを返還。

 結果、

 

小悪魔:6131G

パチュリー:761500G

 

 となった。

 

「次はリムルダールの街だけれども」

「けれども?」

「先にメダルの回収でマイラ南の沼地の洞窟に行くわね」

 

 小悪魔のルーラでマイラに跳び、そこから南進。

 

「このエリアでは、新たにサタンパピーが出てくるわ。1~2回行動でメラゾーマも使ってくる相手だから、防具は魔術耐性優先で」

 

 と準備するが、出て来たのはマドハンド6体の群れ。

 

「あなたはそろそろレベルアップのはずだから装飾品をパワーベルトに付け替えて!」

「はい!」

 

 小悪魔の雷神の剣のベギラゴンで一掃すると、

 

「レベルが上がりました!」

 

 小悪魔がレベル37に、

 

ちから+6

すばやさ+5

たいりょく+7

かしこさ+1

うんのよさ+1

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:37

 

ちから:145

すばやさ:210

たいりょく:159

かしこさ:86

うんのよさ:106

最大HP:317

最大MP:172

こうげき力:265/197

しゅび力:222/200

 

ぶき:おうじゃのけん/ドラゴンテイル

よろい:やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ドラゴンシールド/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト

 

 

 となった。

 そして南進していくと現れるサタンパピー2体とグール2体!

 

「物理で押し切るわよ!」

「はい!」

 

 小悪魔はドラゴンテイルでサタンパピーをしばき上げる!

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 サタンパピーが反撃してくるが、2回とも物理攻撃だったので問題はない。

 そこにパチュリーの炎のブーメランが炸裂し、サタンパピーを倒しきる。

 後はグールだが、これも物理攻撃のみ。

 耐魔法装備で守備力が下がっているパチュリーでも1ダメージと微々たるものなので問題は無く、次のターン、小悪魔の雷神の剣のベギラゴンで焼き払われて終わる。

 

 さらに現れたのは、スカルゴンが3体。

 

「耐物理、ブレス耐性装備に切り替えて!」

 

 小悪魔は刃の鎧とドラゴンシールド。

 パチュリーはブレス耐性のある防具が無いため守備力優先で早着替えの要領で魔法の前掛けと服を脱ぎ捨て魔法のビキニ姿に!

 

「クロス・アウッ!!(脱衣) フォオオオオオオ! 気分はエクスタシー!!」

「おかしな合いの手を入れるな!!」

 

 小悪魔の、よくわからないが、変だということだけはわかる発言に、黙れとばかりに言い捨てるパチュリー。

 その上で風神の盾を身に着ける。

 

「脱げば脱ぐほど強くなる!」

「それはそうだけれども……」

 

 肌が露出しているほど効率よく気を放出できるので、衣服を脱げば脱ぐほど強くなるという一子相伝の暗殺拳『裸神活殺拳』……

 何故小悪魔が知っているかは置いておいて、そういう効力のあるビキニなのかも知れないが、そう騒がれると恥ずかしくなる。

 しかし赤面するパチュリーに、小悪魔は、

 

「こんな言葉をご存知ですか?」

 

 と問いかけた上で、まるで世界の真理を語るかのように真剣な表情で、

 

「パンツじゃないから恥ずかしくない」

 

 などと言い放つ。

 

「そんなバカな」

 

 と、呆れ果てるパチュリーだったが……

 ともかく目の前のスカルゴンをどうにかしないといけない。

 小悪魔の雷神の剣が炸裂し、パチュリーの眠りの杖が敵の反撃を妨害する。

 幸いすべて眠り、起きてこなかったので後はそのまま攻撃を重ねて終了であるが、

 

「あれ? 今度はベギラゴン2発で沈みましたよ?」

 

 スカルゴンの最大ヒットポイントは200で、1ターンに20ポイントの自動回復がある。

 対してベギラゴンのダメージは88~111、平均して100ポイントのダメージであるが、

 

「前にも言ったでしょう、ボスキャラ以外のモンスターのヒットポイントは満タンだとは限らず、最大ヒットポイントの75%~100%程度の状態で出現するんだって」

 

 平均して9割弱。

 つまりスカルゴンなら200×0.9=180ポイント弱。

 ベギラゴンを1発、100ポイントダメージを受けて80ポイント弱。

 ターン終了で自動回復して100ポイント弱。

 次のターン、もう一度ベギラゴンを受けて100ポイントダメージを食らったら終了である。

 もちろん乱数があるので生き残りが発生する可能性もあるが。

 

「前回の戦闘では最初、攻撃せずにラリホーで眠らせようとしたために、自動回復でヒットポイントがフルの200になってしまったところから攻撃を開始したから。だからベギラゴン2発では沈まなかったのよ」

「なるほど、自動回復のあるモンスターは最初のターンから積極的に攻めて行った方がいいってことですね」

 

 ということだった。

 そして、

 

「また毒の沼地!?」

 

 悲鳴を上げる小悪魔。

 

「いえ、だから沼地の洞窟なんでしょう?」

 

 お前は何を言っているんだ、みたいな話。

 

「そうでしたー!」

 

 と小悪魔は叫ぶのだった。

 嫌々足を踏み入れたそこでグール4体に襲われるものの、小悪魔の雷神の剣のベギラゴンとパチュリーの炎のブーメランを合わせれば3体までは倒せる。

 残り一体も次のターンで切り捨て終わりである。

 こうして沼地の洞窟に到着。

 中に入ると、入り口近くにはベッドが並んだ部屋があって、

 

「ほって、ほって、ほりぬいて。ほって、ほって、またほって、と」

「俺たちはトンネルを掘っているんだ」

 

 という具合にリムルダールとの間を繋ごうとしているトンネルの作業員たちの休憩所となっていた。

 

「「ほって、ほって、またほって」とか、エッチ過ぎですね、パチュリー様」

「は?」

「毒の沼地に閉ざされた辺境に、ガチムチ労働者の男たちが四人、ベッドを並べての生活」

 

 意味ありげに、男くさそうな寝床を見やる小悪魔。

 

「性欲を持て余す彼らに何も起きないはずがなく……」

「やめろォ!」

 

 なんて話をするのだこの使い魔は。

 おかげで男の、

 

「ほって、ほって、ほりぬいて。ほって、ほって、またほって、と」

 

 というセリフが意味ありげに聞こえるようになってしまったではないか!

 

 その先の現場では、

 

「えい、こーら。えい、こーら」

「ほって、ほって…… ああ、早くリムルダールに行きてえもんだよなあ……」

 

 と掘削作業を続けており、行き止まりからは小さなメダルを拾うことができる。

 なお、初代ドラクエのダンジョンマップと比較しても8割以上は掘り進んでいる模様。

 

「初代ドラクエだとつながっていて、またドラゴンに守られたローラ姫が閉じ込められていた場所だったのだけれど」

 

 ローラ姫が閉じ込められていた部屋も既にできあがっているし。

 

「ところでパチュリー様、先ほどのお話ですけど」

「また蒸し返す気!?」

「いえ、パチュリー様は彼らのガチムチホモS〇X展開を否定されるわけですよね、彼らはノーマルだと」

「……当たり前でしょう」

「その場合、今のパチュリー様は彼らからどう見られているんでしょうね?」

「は?」

「毒の沼地に閉ざされた辺境に、ガチムチ労働者の男たちが四人、ベッドを並べての生活」

 

 先ほどの小悪魔のセリフが……

 

「女日照りで性欲を持て余す彼らの前に現れた美しい少女。何も起きないはずがなく……」

 

 まったく別の意味を持つようになる。

 

「肉体労働者の、男くさい寝床に連れ込まれ、四人がかりでメチャクチャに……」

 

 顔を引き攣らせるパチュリーの耳元に、小悪魔はささやく。

 

「ほって、ほって、ほりぬいて。ほって、ほって、またほって、と」

「っ!?」

 

 熱く濡れた声が、小悪魔の吐息と共にパチュリーの耳朶に流し込まれ、背筋を震わせる。

 

「何度も何度も繰り返し女体を掘られ、掘りかえされ、パチュリー様は男たちの性欲のはけ口、この工事現場の飯場の備品、肉布団にされてしまうんです」

 

 小悪魔の与える、そんな妄想がパチュリーを責め苛む。

 

「やめろォ!」

 

 パチュリーの悲鳴にも似た絶叫が、薄暗い穴の中、響き渡るのだった……




 沼地の洞窟、リムルダールへのトンネル掘りをやっている男ばかりのガチムチ労働者の巣窟に、迂闊にも足を踏み入れてしまったパチュリー様たちのお話でした。
 でも真面目な話、こういう現場にドラクエ3の女性キャラ、

 ドラクエ3はどのキャラも魅力的なデザインすぎる。
 とてもじゃないが往来を歩けない格好の戦士とか、全身タイツの僧侶とか、そこはかとなく布の薄い賢者とか。
 お子様ながらに股間がイライラしていた……!
 鳥山先生… ゆるせねぇよ!
(たにたけし先生の1Pマンガより)

 などとファンから言われている彼女たちが入って行くって危なすぎますよね。

 次回はリムルダールへ。
 小さなメダルも95枚まで貯まるので、神秘のビキニがもらえるのですが、なら今、パチュリー様が身に着けている魔法のビキニは小悪魔に……?
 というお話をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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リムルダールへ「これ(パチュリー様使用済み水着)を洗うなんてとんでもない!」

「次はリムルダールに行くわけだけれど」

「とはいえ、あのとおりトンネルは通じていませんよね」

「ええ、その代わり初代ドラクエの時代とは違ってメルキド方面と地続きになっているの。だから歩いて行くか、海路を行くかになるのだけれど、ここは海路をショートカットするわね」

 

 小悪魔のルーラでマイラに跳んだら西に進み、停泊している船に向かう。

 しかし、

 

「山地を避けて船を泊めておいて欲しいわよねぇ」

 

 という具合で、山地を突っ切って行かなければならないため、当然モンスターと遭遇する。

 マドハンド6体の群れだったので、小悪魔の雷神の剣のベギラゴンで一掃できるが。

 そして、

 

「レベルが上がったわ」

 

 この戦闘でパチュリーはレベル39に。

 

ちから+1

すばやさ+2

たいりょく+2

かしこさ+1

うんのよさ+1

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:39

 

ちから:177

すばやさ:128

たいりょく:208

かしこさ:55

うんのよさ:67/117

最大HP:425

最大MP:112

こうげき力:302/234

しゅび力:202/172

 

ぶき:せいぎのそろばん/ほのおのブーメラン

よろい:まほうのビキニ/まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ミスリルヘルム

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 となった。

 そして船で出港、ルビスの塔でエンカウントまでの歩数カウントキャンセルを行い、北周り航路でリムルダールを目指す。

 

「オレンジ色のイカ?」

「とうとう出たわね、クラーゴン!」

 

 痺れクラゲ、クラーゴン、マリンスライムの群れだ。

 

「防具は耐物理防御一択で!」

 

 小悪魔はクラーゴンに眠りの杖を使うが、

 

「くっ!」

 

 クラーゴンは眠らなかった。

 パチュリーは炎のブーメランで、クラーゴンにダメージを積みつつ、邪魔な痺れクラゲとマリンスライムを一掃。

 しかしもちろん、クラーゴンにはこの程度の攻撃では効かず、150ポイントの攻撃力で、

 

「怒涛の3回連続攻撃!? 海のモンスターだけに!!」

「誰が上手いことを言えと!?」

 

 怒涛とは荒れ狂う大波のこと、そこから転じてはげしい勢いで押し寄せるようすのたとえに用いられている言葉ではあるが。

 しかし、

 

「最大ヒットポイント450を誇るクラーゴンだけれど、守備力はたった10、なら!」

「ここは畳み込むところですね!」

 

 パチュリーの意を受けた小悪魔の王者の剣が炸裂し、クラーゴンの反撃も今度は1度だけ。

 3回連続攻撃はインパクトがあるが、実際にはランダムで1~3回の攻撃なので安定性には欠けるのだ。

 そして、

 

「これで終わりよ!」

 

 パチュリーの正義のそろばんが止めを刺す!

 

「さすがに治療しておいた方がいいかしら?」

 

 小悪魔のベホマ、ベホイミでヒットポイントを全快させ、さらに南下。

 そして上陸だが、

 

「結局、海のモンスターとの遭遇は1回だけ? まぁ、クラーゴンに会えたのはいいのでしょうけど」

 

 とパチュリー。

 

「そうそう、リムルダール周辺にははぐれメタルが出るから誘惑の剣を忘れずに持つのよ。あと、倒せた場合はレベルが上がるでしょうから、あなたはパワーベルトの用意も」

 

 また、ダメージ魔法を使って来るのは、はぐれメタルのみなので、耐物理、耐ブレス装備優先で、耐魔法装備はあまり重視しなくてもいい。

 ということで手持ちの装備を調整してから上陸する。

 出現したスカルゴン3体をパチュリーの眠りの杖で牽制しながら小悪魔の雷神の剣のベギラゴンで焼き尽くしつつ進む。

 リムルダールには岩山と湖を避けて遠回りをしないと行けないが、そこにキメラとはぐれメタルが出現する!

 しかし、

 

「逃げられたわね」

 

 キメラを混乱させることができたものの、逃げられる。

 仕方が無いのでキメラに止めを刺して終了である。

 あとは森の中、クマさん(ダースリカント3体)に出合ってこれを倒し湖に囲まれた街、リムルダールへと到着する。

 

「まずは街の探索ね」

 

 二人は街中を探ってみるが、

 

「おねえちゃんたちも魔王を倒しにいくの? でもおそかったね。きっとオルテガのおじちゃんが魔王を倒してくれるよ」

 

 と話してくれる子供が居るように、この街には勇者の父、オルテガは来ていたようだ。

 しかし、

 

「あわれなり勇者オルテガ。魔の島に渡るすべを知らず、海のもくずと消えたそうじゃ」

 

 と老人が語るように、死んだと思われているらしい。

 

「相手は火山に落ちても死なない不死身の人物よ」

「その程度で死んだとは思えませんよね」

 

 どんな究極生命体(アルティミット・シイング)かという話だったが。

 それはそれとして、

 

「ここは予言所。しずくが闇をてらすとき、この島の西のはずれに虹の橋がかかりましょうぞ」

 

 と、父親と同じ道を辿りたくなかったら虹の雫を用意して橋をかけろ、と教えられる。

 さらに別の男が、

 

「わたしは見た。年老いた男がこの島の西のはずれに立っていたのを。あの男はいまどこに……」

 

 という目撃情報をくれ、この「年老いた男」がオルテガのことではないかと言われているのだが、

 

「なるほど、この島の西のはずれ、北西部には入れない建物がありますね」

 

 と小悪魔。

 

「んん?」

 

 首を傾げるパチュリーだったが、

 

「ああ、このリムルダールの街は湖に浮かぶ島だものね」

 

 と、小悪魔が「島」という言葉をそちらの方に捉えているのだと理解する。

 街の入り口で橋を渡らずに外周、湖の水際を回ると、それぞれ反対側で、

 

「町はずれにいるっていったのに あの人ったらおそいわね。ぷんぷん」

「賢者の石は全員のキズをなおせて、しかも何度でも使えるそうです。ところで彼女おそいなあ」

 

 と、初代ドラクエから続くこの街の名物、行違っている恋人たちが居て。

 そして北西にある橋を渡らないと入ることができない、初代ドラクエでカギ屋があった建物には老人が居る。

 

「魔法のカギというものを 一度見てみたいものよのお」

 

 と言ってくるので、袋から魔法の鍵を取り出して話しかけてみると、

 

「お前さんの持っている、その魔法の鍵を見せてくださらんかね? おう、これがそうか…… わしはこれと同じものを作って売ろうと思うのじゃ」

 

 と初代ドラクエの使い切りアイテムである鍵へと続く話を聞くことができる。

 なお、ゾーマ討伐後に来てみれば、

 

「ついにわしにも魔法のカギが作れたぞ! でも出来が悪いのか一度使うと壊れてしまう。困ったもんじゃ」

 

 という結果を聞くことができたりするのだが。

 ともあれ、

 

「わたしは見た。年老いた男がこの島の西のはずれに立っていたのを。あの男はいまどこに……」

 

 という目撃証言は、オルテガのことではなく、この老人のことを言っている、という解釈はアリなのかもしれない。

 パチュリーはそう考察する。

 

「ドラクエ1、2とプレイしてきた人たちには、ここ一帯は『リムルダール島』なのだけれど」

 

 ゆえにマニアであればあるほど、その発想には至らないが、

 

「未プレイの人間がドラクエ3をやってここを訪れるとメルキド方面と地続きになっているから、島って何? という話になるわよね」

 

 という具合に、逆に小悪魔のように詳しくない人間の方が先入観が無いため思い至ることができる、ということなのだろう。

 一方で、

 

「ここは予言所。しずくが闇をてらすとき、この島の西のはずれに虹の橋がかかりましょうぞ」

 

 という老婆の預言がおかしなことになっているが、

 

「もしかしたら地殻変動や気候の変動なんかで島になったり地続きになったりをしているのかも知れないわね」

 

 ゾーマの影響があるのかもしれないし、そうでなくとも地球でも気候変動に伴う海面の上昇、低下の結果、半島化、離島化をくり返している地域は存在する。

 また「島って言うけど地続きじゃん」「いや、干拓でそうなったんだけど元々は島だったんだよ。だから地名に『島』が付いているし、お年寄りは今でも辺り一帯を「この島」って呼ぶね」といった風になっている地域も多数ある。

 故に、古い伝承を伝える預言所の老婆の認識では『リムルダール島』になっている、という解釈ができるのかも知れない。

 

 ともあれ、カギづくりの老人の家のタンスからは小さなメダル、ツボからは賢さの種が得られる。

 

「賢さの種はあなたに」

 

 小悪魔の賢さを+3。

 再び町の探索に戻り、北にある二軒の家がひとつながりになった長屋風の民家、

 

「うわさでは、ルビスさまが封じこまれた塔に光のヨロイがあるそうじゃ」

 

 と語る老人の部屋のタンスからは金のクチバシ、ツボからは小さなメダルと力の種が見つかる。

 また、その隣人のタンスからは悟りの書が見つかるが、

 

「こんな貴重なアイテムがあっさり……」

 

 これで入手できたのは二つ目。

 アカイライから超低確率ではあるがドロップしたというファミコン版や、第3すごろく場で何もないマスを調べると低確率ではあるが拾えるスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版と違い、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、こことガルナの塔でしか手に入らない貴重品である。

 この部屋には、

 

「聖なるまもりは、精霊ルビスさまの愛のあかしですわ」

 

 と語る女性が居るので、

 

「もしかしたら宗教関係者故に持っていたのかもしれないわね。ガルナの塔の入り口付近で「この塔のどこかに、さとりの書とよばれる物がねむっています。さとりの書があれば、けんじゃにもなれましょう」と教えてくれるのも女性だったし」

 

 しかし、

 

「ちなみに久美沙織先生の『ドラゴンクエスト 精霊ルビス伝説』の設定では、ロトはルビスの夫であり、聖なるまもりは転生を繰り返すロトに変わらぬ愛を確認するもの、になるわね」

「うわっ、前世どころか、その前から、未来永劫つきまとうストーカーですかっ!?」

 

 ヒドイ言いがかりだが、パチュリーからすると、

 

「自分だってストーカーと変わらない言動をしてるくせに……」

 

 という話であった。

 宿屋の近くにはウロウロと歩き回っている男が居て、

 

「あー心配だ。宿屋に置きっぱなしの荷物を、だれかに取られないだろうか? あの中にはオルテガさまからあずかった大切な物が入っているのに……」

 

 などとつぶやいている。

 

「父のものは娘である私が受け取ってもいいですよね」

 

 と宿屋を物色する小悪魔がタンスから見つけたのは、

 

「『くじけぬ心』……」

 

 くじけぬ心は装飾品。

 

「どんな苦労にも負けない心が、逆にその人を苦労人にしてしまうわね」

 

 という具合に、真面目だからこそブラック職場でいいように使われてしまう人物のようになってしまうものだ。

 

「お店に持って行けば187ゴールドで売れるわね」

 

 そういう安物で、ロマリアでも手に入ったもの。

 まぁ、これを身に着けるとなれる『くろうにん』の性格は体力の補正が+20%と高めなので、序盤に任意の期間だけ身に着けて体力とヒットポイントを上げておきたい、などといった場合には役立つのだが、もっと有用な装飾品が手に入っているこの終盤ではまったく役に立たないものだ。

 何で後生大事にここまで持ってきたのか、

 

「こ、こんな今さらな物を。父さん、酸素欠乏性にかかって……」

 

 火山に落ちたせいで酸欠になったのかも、と考える小悪魔。

 こんなものーっ! とばかりに投げ捨て、床に両手をついて慟哭する。

 一方、パチュリーは、

 

(うーん、新鮮)

 

 とその様子を見ている。

 攻略情報を事前に読んでプレイしている者、この宿の裏手から入った部屋にある宝箱に命の指輪が入っていることを知る者には無い発想だからだ。

 そんなわけでパチュリーは命の指輪をゲット。

 手に取って見定める。

 これは、

 

「すごいわ! 歩くたびに少しずつ体力が回復するみたいよ!」

 

 というもの。

 アレフガルドでのみ手に入るアイテムだったので、ファミコン版の公式ガイドブックには載せられていなかったものだが、スーパーファミコン版の公式ガイドブックでは「生命の泉で湧き出た宝石を埋め込んだ指輪」と解説されていて、赤い宝石の嵌った指輪のイラストが掲載されている。

 そしてドラクエ3で『生命の泉』といえば、ノアニール西の洞窟にあった回復スポット『回復の泉』である。

 ファミコン版では、

 

「この洞窟のどこかに回復の泉があるそうじゃ」

 

 とだけ言っていた神父がリメイクでは、

 

「この洞窟のどこかに、体力や気力を回復させてくれる聖なる泉があるらしい。しかし、どうしてこんな所に、そんな泉が湧いたのか。私には悲しげな呼び声が聞こえますぞ」

 

 と、いうように人間の男性と駆け落ちしたエルフの少女アン、その悲劇の二人と回復の泉の関連を暗示するようなものになっていた。

 地底の湖に身をなげた悲劇のエルフの少女、それに関係する回復の泉、そして「生命の泉で湧き出た宝石を埋め込んだ指輪」には、赤い宝石がはまっている。

 そう、ドラクエファンなら気付くだろう、ドラクエ4で、その目から流れ落ちた涙がルビーになるという不思議な体質から人間に虐待されたエルフの女性、ロザリーを。

 つまり、リメイクでドラクエ4の要素を逆輸入した、そのつもりがスタッフには無かったとしても意識下にはロザリーのことがあったから、このようになった。

 そういうことなのだろう。

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど…… 1800ゴールドで売れるわね」

 

 と言うとおり貴重品。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ならマイラのすごろく場の鍵マークのゴールエリアの宝箱にも入っている他、ジパングのすごろく場の会場内にも1つ落ちており、ここ、リムルダールのものと合わせて合計3つが入手可能ではあるのだが。

 すごろく場の無い携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では完全な一品ものとなっている。

 

 そして預言所の建物の二階は教会となっているのだが、その隣は牢獄である。

 

「アレフガルドの教会って、牢獄とセットなのかしら?」

 

 アレフガルドには、ここリムルダールとラダトームにしか教会が存在しないが、ラダトームの教会の二階にはご存知カンダタが収容され、ここには、

 

「その囚人は、人をだましてばかりいた男だ」

 

 とされる男が牢に入れられていて、

 

「大魔王の城の玉座のうしろには、秘密の入口があるらしいぜ。まっ、どうせおれの話など、だれも信じちゃくれないがな」

 

 というゾーマの城のヒントを聞くことができる。

 牢屋の床からは小さなメダルが拾え、

 

「小さなメダルも貯まったし、メダルの館で引き換えるわね」

 

 小悪魔のルーラでアリアハンに跳び、メダルおじさんから小さなメダル95枚でもらえる神秘のビキニを受け取る。

 パチュリーは手に取って見定めた。

 

「神秘のビキニは身を守る物のようね」

 

 こんなでも守備力は勇者の光の鎧をしのぐ+88。

 光のドレスの+90に次ぐ、守備力で上から二番目に強力な防具。

 耐性が付いていないので総合性能は落ちるが、それでも、

 

「すごいわ! 歩くたびに少しずつ体力が回復するみたいよ!」

 

 と命の指輪と同じ効果を持つもの。

 女性なら誰でも着れる防具だが、

 

「でも、こんなの着て戦えなんて言わないわよね?」

 

 という話。

 天使の翼をモチーフにしたような白いビキニだが、ブラトップ部分には体へ装着させる紐などが無い。

 そういう意味でも神秘の存在である。

 というか、面積的には魔法のビキニと変わらないはず、装飾がある分だけ、水着には見えないのだが……

 

「水着に見えないのが逆にダメね。水着ならそういう機能を持つもの、と納得できるけど。これはそうじゃないように見えるから、ただの危ない衣装って感じ……」

 

 という具合。

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど…… 24750ゴールドで売れるわね」

「売るんですか?」

「売らないわよ」

 

 とはいえ、

 

「リメイクで追加された装備なのだけれど、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では印象が薄いのよね」

 

 ということ。

 まず、耐性が付いていないので光の鎧、光のドレス、ドラゴンローブ、水の羽衣といった耐性が優秀な装備に総合力では負けるということ。

 第二に、これ以上の守備力を持ち、耐性も万全な光のドレスがマイラの第4すごろく場で先に手に入ってしまうこと。

 これらから、あまり活用されない防具なのだ。

 守備力より耐性が大事だと気付いている、慣れたプレイヤーなら特に。

 

「まぁ、持っていればバラモスゾンビ戦なんかで有効だけれども」

 

 物理攻撃しかしてこない相手には活用できる。

 しかし普通のパーティだとスクルト重ねがけで対応するため、固めきるまでの最初の数ターン、楽になるという程度の効果しか無いのでやはり微妙と言えば微妙。

 というものだったが……

 

「すごろく場が無いって面白いのね」

 

 光のドレスの入手がゾーマの城でと遅くなった結果、この神秘のビキニの重要性は増し、活躍の機会が増えたとも言える。

 

「それで…… これ、着る?」

「買うお金がありませんよ!」

 

 前回精算時の所持金が、

 

小悪魔:6131G

パチュリー:761500G

 

 これにここまでの収入を分配しても、

 

小悪魔:10551G

パチュリー:765920G

 

 なのだ。

 

「そうなるわよねぇ……」

 

 ということで、パチュリーが着ることに。

 

「その代わり、魔法のビキニと命の指輪はあなたにね」

 

 小悪魔の防具は刃の鎧の守備力+55止まりなので、それよりも10ポイント上の守備力+65の魔法のビキニは有効である。

 また、歩くとヒットポイントが回復する命の指輪もまた、同様の効果のある神秘のビキニを着込むパチュリーには不要だが、小悪魔には必要。

 しかし、

 

「パッ! パッ! パパパパパパパパパッ!!」

 

 パチュリー様使用済みの水着っ!!

 

「もちろん、きちんと洗って…… むぐっ!?」

 

 洗ってから渡そうとしたパチュリーの唇を、小悪魔が口づけで塞ぐ。

 そうして口移しに飲み込まされたのは……

 

「くはっ!? あ、あぁ……」

 

 リムルダールで見つけた力の種だ。

 筋力を短期間に強化するための、筋肉痛を凝縮したかのような痛みにくずおれるパチュリーの身体をマッサージでなだめながら、主人の着ている魔法のエプロンを、その下の普段着、そして着込まれていた魔法のビキニを剥ぎ取って行く。

 

「やっ、やめっ……」

 

 下は何とか死守するパチュリーの目の前で、小悪魔は奪ったトップスを自分の鼻に押し当て、すぅ、と匂いを嗅ぐ。

 

「ばっ!?」

 

 その変態行為に、羞恥のあまり、一瞬にして真っ赤になるパチュリー。

 小悪魔は、こう言う。

 

「これを洗うなんてとんでもない!」

 

 と……

 

(変態だー!!!!)

 

 という話。

 

(変態!! 変態!! 変態!! 変態!!)

 

 なので、

 

「捨てるっ! 絶対捨てるっ!!」

 

 小悪魔から奪い返し、処分することにする。

 

「あー、後生です、お願いですから捨てないでくださいっ!」

 

 半裸のパチュリーにすがりつく小悪魔。

 愁嘆場のようにも見えるが、実際には……

 

「それをすてるなんてとんでもない!」

 

 と、実に下らない。

 そんなこんなでドッタンバッタン大騒ぎした末、魔法のビキニは無事、洗濯された上で小悪魔に譲られた模様。

 

「うぅ、価値が激減ですよ……」

 

 嘆く小悪魔だったが、それが本当なら小悪魔には払えるだけの金が無いということには気付いていないようだった。

 そして、この取引に加え、

 

「使った力の種の半額をあなたに払うとして」

 

 改めて精算の続きを行い、二人の間で所持金を差し引きすると、

 

小悪魔:20241G

パチュリー:756230G

 

 となるのだった。




 とうとうパチュリー様の使用済み水着をゲットする小悪魔でした。
 ただし洗浄済み。

 次回はリムルダールでお買い物の予定です。
 最後の街だけあって、色々と売られていて面白いですよね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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リムルダールでお買い物「すごく…… 大きいです……」

「精算が済んだところで、リムルダールでお買い物ね」

 

 小悪魔のルーラでリムルダールへ。

 武器屋へと向かう。

 隼の剣、バスタードソード、身躱しの服、ドラゴンシールド、オーガシールド、グレートヘルムが売られており、この中で新規の商品は、

 

「隼の剣は勇者、商人、盗賊、賢者が使える武器で、2回攻撃が可能なのだけれど、攻撃力は棍棒以下、たったの+5ポイント」

「それじゃあ、使えませんね」

「それがそうでもないの。例えば力の能力値による攻撃力を1、通常の武器による攻撃力を1、敵の守備力によるダメージ減を1だとするわね」

 

 パチュリーは分かりやすく単純化した仮定で話し始める。

 

「この武器で攻撃した場合は1足す1、合計の攻撃力2から敵の守備力によるダメージ減1を引いた1がダメージとなる」

 

 ここまではいいだろう。

 

「一方で隼の剣では武器による攻撃力が極小、ほとんどゼロに近いから、例え倍の回数攻撃しても、どちらも筋力による攻撃力1しか出せず、敵の守備力によるダメージ減1に阻まれてダメージはゼロになる」

「全然駄目じゃないですか。使えないですよ、それ」

 

 眉をひそめる小悪魔。

 しかし話はここからだった。

 

「では、力の能力値による攻撃力を3にまで鍛えた場合はどう?」

「同じじゃないんですか?」

 

 それが違うのだ。

 

「通常の武器では、武器の攻撃力1と合わせて4の攻撃力から敵の守備力によるダメージ減1を引いて、ダメージは3」

 

 当り前である。

 

「隼の剣による攻撃は、筋力による攻撃力3から敵の防御力1を差し引いて、ダメージは2」

 

 これも当たり前。

 

「そこで倍の回数攻撃したとすれば、ダメージも倍の4。つまり隼の剣の方がダメージが多くなるわけね」

 

 それが、攻撃力が極小な隼の剣が最終的には最強になると言われる理屈だった。

 

「さらに言えば、バラモスゾンビのように敵の守備力が0だった場合は、力の能力値が通常の武器の攻撃力より上になったあたりから隼の剣の方が有利になるわ」

「な、なるほど」

 

 ようやく小悪魔にも理解できたようだ。

 その上で、ドラクエ3のダメージ計算式は、

 

(攻撃側の攻撃力-受ける側の守備力/2)/2×乱数=ダメージ値

 

 2回攻撃ならこれが2倍になるわけで。

 そして、

 

キャラクターの攻撃力=力の能力値+武器の攻撃力+装飾品による修正

 

 つまり、

 

相手の守備力<(力の能力値+装飾品による修正-他の武器の攻撃力+隼の剣の攻撃力×2)×2

 

 が成立する条件下では、隼の剣の方が高ダメージとなる。

 

 現在のパチュリーの力、180ポイントの能力値と豪傑の腕輪の攻撃力+15ポイントの補正が加われば、

 

相手の守備力<(180+15-110+5×2)×2=190

 

 となり守備力190ポイント未満まで…… つまり守備力200越えの特別硬いモンスターでない限りは正義のそろばんより隼の剣の方が上になる。

 

「200越えって……」

「結構居るけど、どれも分かりやすい相手だから間違うことは無いと思うわよ」

 

 既出:メタルスライム(1023)、はぐれメタル(1023)、スライムつむり(200)、ガメゴン(200)、ガメゴンロード(200)、バラモス(200)

 ゾーマ打倒まで:バラモスブロス(300)、ゾーマ(200)、ゾーマ(闇)(350)

 クリア後:天の門番(200)、キラークラブ(250)、メタルキメラ(350)、しんりゅう(350)

 

 という具合。

 

「このうちアレフガルドで出るのは、はぐれメタル、スライムつむり、ガメゴンロード、バラモスブロス、ゾーマという、ごく一部の相手だけね」

「確かに分かりやすいですね」

「さらに言えば、はぐれメタルにはどうせどんな武器でも1ダメージしか与えられないから2回攻撃できる隼の剣の方が良いのだし、ラダトーム地方の一部に出るというスライムつむりは最大ヒットポイントが20だから、多少のダメージ低下なんて無視できる。バラモスブロスとゾーマは中ボスとラスボス。つまり普段の冒険で気に掛けるのは、岩山の洞窟、ルビスの塔に出るガメゴンロードだけでいいのよね」

 

 ということ。

 

「それに守備力200未満はクリア後の迷宮に居るデビルウィザードの170、クリア前ならガニラス、キラーアーマーの150しか該当するモンスターが居ないから」

「それって……」

「そう、クリア前ならガニラス、キラーアーマーの守備力150に対して有効になった時点で、今の私と同じく守備力200以上の特別硬いモンスターを相手取る場合以外には隼の剣を付けっぱなしで良くなるのよ」

 

 ということだった。

 一方、小悪魔の力145ポイント、装飾品の補正無しでも、

 

相手の守備力<(145+0-120+5×2)×2=70

 

 となるから守備力70未満の比較的柔らかいモンスターなら王者の剣より隼の剣の方がダメージが高くなる計算である。

 

「こんな風に敵の守備力次第で変化するけれど、力の能力値と装飾品による修正の合計値が武器の攻撃力を超えたあたりから、隼の剣の2回攻撃合計ダメージの方が高くなる状況が発生するから」

 

 という話だったが、

 

「あれ? せっかく王者の剣を手に入れて、武器の性能差で詰めたはずの攻撃力が、また開いてるってことになってません?」

「柔らかい敵ほどそうなるわね」

 

 隼の剣が装備できる勇者、商人、盗賊、賢者は、力の能力値を上げさえすれば、最強剣が隼の剣になる、ということは攻撃力に差が無いことになってしまう。

 まぁ、能力値の上限が255である以上、限界はあるのでクリア後に挑めるしんりゅうのように守備力350でルカニ、ルカナンに完全耐性持ち、みたいな相手には通じないのだが。

 ともあれ、

 

「ドラクエ3における隼の剣は、ファミコン版では敵への命中がランダム…… とはいえ、もう一撃で倒せる敵には優先して攻撃するようにはなっていたのだけれど、それでも攻撃対象が散ってしまうものだったの」

 

 1体を集中して倒しにくい反面、グループ攻撃呪文等、他のキャラの攻撃と合わせて2体を1ターンで討ち取るには良い仕様であるとも言えたのだが。

 

「リメイクでは同じ敵に2発連続で当てられる仕様で、なおかつ1発目で倒せてしまうと2発目は出ない。ダメージを集中できる反面、1ターンに複数を倒すことはできないようになってしまっているわ」

 

 一方、

 

「ファミコン版では2発共バイキルトの効果が乗ったのだけれど、リメイクでは効果があるのは1発目だけ」

「それだと……」

「そう、通常パーティだと手強い相手にはバイキルトを使うでしょうから、その場合は別の武器を使った方が強くなるわ」

 

 パチュリーたちのようにバイキルトの使い手が居ないパーティでは問題とはならないのだが。

 

「モシャスと併用することで他人の攻撃力で二回攻撃できる「はかぶさ戦法」も、リメイクだとバイキルトは初撃にしか効果が働かないから、ファミコン版ほどの火力は出せないわね」

 

 もっとも、

 

「ゲームボーイカラー版だと、隼の剣を装備してドラゴラムをかけると2回炎を吐ける『はやぶさドラゴラム』って壊れ技が使えるのだけれど」

 

 他のバージョンでは使えない技だったが。

 

「スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、モシャスで武闘家の会心率をコピーできるという話よ」

「それって……」

「そう、高レベルの武闘家を用意しておいてモシャスで能力をコピーすれば、2回攻撃で会心の一撃を連発、という戦法が可能なの」

 

『会心の連撃』またはキラーピアスを装備し2回攻撃で会心の一撃を出しまくった4のアリーナ姫にちなんで、その模倣品、『アリーナ・イミテイト』とも呼ばれる技で、しんりゅうも上手くいけば6ターンで沈むとか。

 なにしろ会心率はコピーするが武器の特性はコピー先であるモシャスの使い手が持っている隼の剣、ということは、武闘家に豪傑の腕輪と共に、全体攻撃武器なので通常は会心の一撃が発生しない破壊の鉄球を持たせることができるということ。

 破壊の鉄球の攻撃力で会心の一撃が繰り出せるということなのだから。

 

「あとはメタル系の敵に対して2回攻撃、1ターンにおける1人の攻撃で最大2ポイントのダメージを与えることができるのだから、そこそこ有効よ。1回ごとに1/64で発生する会心の一撃の判定がされるから、会心の一撃が出る確率もわずかながら上がるでしょうし」

 

 そんなわけで、

 

「私は買っておくわね」

 

 パチュリーは25000ゴールドの隼の剣をあっさりと買う。

 結果、二人の所持金は、

 

小悪魔:20241G

パチュリー:731230G

 

 それでもまったく揺るがないのがパチュリーの、商人の財力だった。

 

「バスタードソードはリメイクで追加された勇者、戦士が使える攻撃力+105の武器。クリア前の戦士にとってはグリンガムのムチと並んで最高の攻撃力を持つものよ」

 

 呪われていない武器では、という話であるし、

 

「でも戦士には同じ攻撃力で会心率を上げる魔神の斧がありますよね?」

 

 ということもあるが。

 

「そうね、でもリメイクではゲームボーイカラー版を除いて、バイキルトをかけると会心の一撃が出なくなるから。そうするとミスが出る分、魔神の斧の方が不利になるから」

 

 同じ攻撃力+105で戦士も装備できるグリンガムのムチもあるが、それを他のキャラに回し、バイキルトをかけて戦う、という場合には出番があるわけである。

 

「それと携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では破壊の鉄球が完全な一品ものになった結果、攻撃力100以上の呪われていない武器の中で、唯一、制限無しで多数を揃えられる武器になっていたりするわ」

 

 一応、魔神の斧はミミックが1/256の確率でドロップするが、ゲームボーイカラー版以外は通常敵として現れないため入手は困難だし数が限られるものなのだから。

 まぁ、中断の書があれば極端な話、戦闘前にセーブ、ドロップするまでリセットでやり直すことを繰り返せばミミックの数だけ手に入れることはできるが……

 

「あとはバラモスを勇者一人で撃破するともらえることでも有名ね」

「それが店売りですか……」

「そうねぇ、公式ガイドブックでは「激しい怒りが込められた剣」とされていたけれど、プレイヤーの怒りは確かに買っていたかもね」

 

 ともあれ、

 

「公式ガイドブックでは「Bastard sword」という英語表記がされていたけれど、これは現実にある片手でも両手でも扱えるように作られた剣よ」

 

 通常は盾と共に片手剣として使い、強敵には防御を捨て、両手持ちで強打する。

 テーブルトークRPGの元祖、ダンジョンズ&ドラゴンズの上級ルールで登場したものが日本のサブカルチャー界隈では初出だろうか?

 同ゲームのリプレイを元に書かれた小説『ロードス島戦記』の主人公パーンが使っていたことでも知られているものだが。

 

「Bastardは「私生児」「まがい物」の他に「雑種」という意味があって、片手剣と両手剣の両方の用途を併せ持つことからこんな名前が付いた、とも言われているわ」

 

 そして、

 

「公式ガイドブックの「激しい怒りが込められた剣」という記述は、Buster Sword(破壊の力を持つ剣)とのダブルミーニングかとも言われているけれど……」

 

 パチュリーは首を傾げる。

 

「スラング、俗語では「You bastard!」といえば……」

「「この野郎!」「ろくでなし!」という罵り言葉になりますね」

「そう、だからそちらをイメージしたのかも知れないわね」

 

 ということ。

 なお、

 

「お値段は31000ゴールドとそこそこ高いから、まぁ、バラモスを一人で撃破した報奨としては良いものだったのじゃないかしら」

 

 何だかんだ言ってもバラモス撃破直後の武器としては最強だし、次の武器を入手するまでのつなぎとしては十分に使える。

 高額なのだから売り払って資金源にするもよし。

 まぁ、勇者が一人でバラモスを撃破できるまでレベル上げをしているのなら、ゴールドもまた余っているだろうから嬉しくないのかも知れないが。

 

「ところで、この盾を見てちょうだい。これをどう思う?」

「すごく…… 大きいです……」

「オーガシールドは勇者、戦士が装備できる守備力+60の盾。戦士にとっては最高の守備力を持つものね」

 

 とパチュリー。

 

「ドラクエ5で登場したものをリメイクで逆輸入したものだけれど、他の作品では巨人族が作り出したとも、オーガが使っていたとも言われる巨大で重い盾よ。あまりの重さにトルネコ2では装備していると満腹度の減り方が通常の倍になってしまうくらい」

 

 それぐらいでかくて重いので、勇者と戦士にしか扱えないのだ。

 ドラクエ6、そして7におけるこの盾の『かっこよさ』は、いずれも-10で、おなべのふたの-20に次ぐ格好悪さ。

 しかしデザイン自体は3リメイクと変わらないシリーズ共通の金の縁取りに宝玉を埋め込んだ豪華なものなので、つまりは不格好に見えるほど巨大なものなのだろう。

 現実の盾で言えばタワーシールドや、それを現代風にしたライオットシールド、日本の機動隊の盾などのようなものか。

 しかし、

 

「耐性がまったく無いから、総合性能ではドラゴンシールドや魔法の盾には負けるのだけれど」

 

 物理攻撃しかしてこない相手には活用できる、バラモスゾンビ戦などで有効ではあるが、普通のパーティだとスクルト重ねがけで対応するので、固めきるまでの最初の数ターン、楽になるという効果しか無いのでやはり微妙と言えば微妙。

 

「25000ゴールドを出す価値があるかどうかという話ね。特に勇者であるあなたは次に潜るラダトーム北の洞窟でこれ以上の守備力を持ち、耐性も万全な勇者の盾が手に入るのだし」

 

 そして、

 

「グレートヘルムは勇者、戦士が装備できる守備力+45の兜。ゲームボーイカラー版以外はオルテガのかぶとに本来あるはずの補助呪文耐性がついていないうえ、これを守備力で上回る兜は呪われている般若の面のみ、戦士はもちろん勇者にとっても最強の兜になるわ」

 

 まぁ、

 

「オルテガのかぶとにラリホー、マヌーサ、ルカニへの耐性が正しく付けられたゲームボーイカラー版でも、これ以降はこれらの耐性が有効になるボスは存在しないから、ボス戦の際にはこれが最強の兜と言えるのだけれど」

 

 ということはあるが。

 しかし、

 

「オルテガの兜の守備力は+30でグレートヘルムとの差は15ポイント。実ダメージにして3~4ポイント差よ。そのために35000ゴールドかける? ってお話があるわね」

 

 防具は一般に鎧→盾→兜の順でコストパフォーマンスが悪化する。

 その一番コスパの悪い兜の一番性能が高く価格も高い品なので、コスパ的には最悪。

 店売りの品でこれ以上にコスパの悪い品は、守備力+1の危ない水着という例外以外には存在しなかったりする。

 とはいえ、

 

「ただ、勇者のあなたには勇者の盾と光の鎧が手に入るから、これ以降、買うべき防具ってこのグレートヘルムぐらいしかなくなるし、私たちはスクルトで守備力を高めることができないから、これからのボスキャラ戦のためにも、少しでも守備力を上げておきたいというのはあるのだけれど」

「でもお金が……」

「そうね、でもゾーマ戦までに金策が間に合わないと、また不幸の兜を被ってもらうことになるわよ」

「うぇっ!?」

 

 不幸の兜は運の良さをゼロにする呪われた装備ではあるのだが、13ゴールドと非常に安い。

 解呪の費用が後からかかるとはいえ、これは魅力的であった。

 

「キングヒドラからゾーマまでのボスキャラ戦だと、敵が誰も補助呪文を使ってこないから、ここで不幸の兜をかぶればまったく実害なく守備力を上げることが可能よ。勇者ならザキ系を無効化する聖なる守りを装備できる上、ゾーマ討伐前ならバシルーラは元々無効だから、ゾーマの城に限れば基本的にノーリスクで行けるし」

 

 という話。

 厳密に言えば一応、ミミックが稀にラリホーを唱えてくるが、そもそも開けなければいいし、開けるにしてもザラキ対策のアストロンでガス欠にする方法で対処できるので問題は無い。

 また、聖なる守りを身に着けると他の装飾品が付けられなくなる分、不利になるということもあったが。

 

「で、でもそんなことをしたらロトの兜の正体が不幸の兜になってしまいますよ!」

 

 と、叫ぶ小悪魔だったが、

 

「実際、ファミコン版ドラクエ3では、ロトの兜に該当するような形をした兜が存在しなかったから、ロトの兜=不幸の兜説が存在したわよ」

 

 形状的に近いものがあるし、前述のとおり勇者のみだがラストダンジョンでリスク無しに使える最強の兜でもあるのだし。

 とはいえ、

 

「後に、リメイクで追加されたオルテガの兜がロトの兜であると、公式でアナウンスされたから、今では否定されてはいるのだけれど」

 

 ということではあるのだが。




 お買い物回でした。
 隼の剣の理屈はマニアな方ならご存知でしょうけど、具体的な計算式があると使いやすいですよね。
 あと、ファミコン版では不幸の兜がラストダンジョンでは最強とか、今だからこそ知られるようになったネタとか本当、興味深いです。

 次回はラダトーム北の洞窟で勇者の盾の回収の予定ですが。
 さっそくパチュリー様の隼の剣が猛威を振るいそうです。

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ラダトーム北の洞窟へ 勇者の盾入手

「次はラダトーム北の洞窟で勇者の盾の回収ね」

 

 勇者の洞窟、魔王の爪痕などと呼ばれるダンジョンだ。

 ここはピラミッドの地下のように魔法が打ち消されるため、ラダトームに跳んだら道具屋を訪れる。

 事前に薬草を購入し、ふくろに限界の99個まで詰めて備えるためだ。

 初代ドラクエでもその位置にあった池の中の島にある道具屋を目指すのだが、そこでパチュリーは通りの反対側、奥にある教会にふと目を向ける。

 

「そう言えば、何でまたスマホ版以降のリメイクでは十字架をあんな風に改変したのかしらね?」

 

 と首を傾げる。

 十字架の左右端を上に伸ばし、三又の槍、トライデントのようにした上、先端が矢印状になっているもの。

 教会や神父、墓、さらには僧侶の衣装や棺桶のデザインまでもがそれに変えられている。

 

「実在の宗教のシンボルはタブーってことじゃないんですか?」

 

 そう小悪魔は答えるが、パチュリーが気にしているのは、

 

「そうじゃなくて、よりにもよって風刺画なんかで悪魔の持ち物として描かれているピッチフォークに近い形にしなくとも、って話よ」

「ああ、マンガなんかでもよくありますよね、三又のフォークみたいなものを持ってる悪魔」

 

 ピッチフォークは刈り取った麦や干草、葉などをすくい上げたり投げたりするために使われるヨーロッパ起源の農具だが、サブカルチャー界隈においては悪魔が持つ武器として多く登場している。

 マンガ的表現では先端に返しが付いていることが多いが、このドラクエで改変された十字架も先端は矢印状になっているため、言われてみればそのものに見えてくる。

 

「まぁ、十字架に近いから修正が簡単ってこともあったのでしょうけど」

 

 と頬に手を当てながらつぶやくパチュリーだったが、そこで小悪魔は思い至る。

 

「ということは、この世界の教会は密かに悪魔崇拝に乗っ取られている?」

 

 という可能性に。

 教会にも、墓にも、そして神父やプレイヤーが操作する僧侶たちですら、悪魔の象徴、ピッチフォークをシンボル化した意匠を身にまとっている。

 つまりそれは、

 

「今は悪魔が微笑む時代なんですね!!」

「シャレにならないから止めなさい」

 

 実際、RPGの元祖的存在でドラゴンクエストにも多大な影響を与えているテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』には一時期、悪魔崇拝の要素があると社会から非難された歴史があったりするのだから。

 

「つまり開発スタッフに紛れ込んだ悪魔崇拝者は、既存の宗教に配慮しなければならないという状況を逆に利用してゲーム世界の宗教界を乗っ取り、信仰対象を十字架=神からピッチフォーク=悪魔にすり替えプレイヤーたちに広めている……」

「止めろって言ってるでしょう!」

 

 そんな危険な会話を繰り広げながらも準備を整え、ラダトームの街から北上するのだが、

 

「鉄の爪が出たわ」

 

 ついでの5回だけのあなほりで掘り当てるパチュリー。

 換金アイテムにしかならないが、それでも赤貧に喘ぐ小悪魔には目の毒である。

 そしてマドハンド、スライムベスの群れを駆逐しながら進む。

 スライムベスは薬草をドロップするが、

 

「あっ……」

 

 手持ちのアイテムは一杯なので、ふくろに入るのだが、薬草はすでに上限の99個。

 ということは……

 

「や、薬草が無くなっちゃいました!?」

 

 小悪魔が悲鳴を上げるように、この場合、アイテムは消滅してしまう。

 

「もったいない……」

 

 と嘆く小悪魔だったが、パチュリーは、

 

「薬草で良かったじゃない。これ、小さなメダルでも同じことが起こるから」

 

 交換せずに小さなメダルを取り尽くして袋に入れた場合、同様に消えるので99個しか所持できなくなる。

 つまり100個で交換できるアイテムが入手不能になってしまうのだ。

 

「でも普通、そんなことしませんよね」

 

 と小悪魔は首を傾げるが、

 

「メダルの賞品が集めた枚数の累計に応じて順番にもらえる『累計方式』ではなく、その賞品ごとに枚数が決められている『交換方式』だって勘違いしたプレイヤーが居たっていう話よ。そもそも一番初めに登場したファミコン版のドラクエ4では『交換方式』だったし、後の作品でも『交換方式』が使われていたタイトルがあったのだし」

「それって……」

「そのプレイヤーは、他の景品は我慢して、すごろく場で何回でもすごろくができるゴールドパスを手に入れようと途中で交換せずにメダル100枚を溜めようとして袋に詰め…… そうしてすべてのメダルを集め終えたのだけれど、当然、袋の中のメダルが99枚を超えることは無く、ゴールドパスを手にすることができなかったっていう」

 

 そんな悲しいお話もあるのだった。

 

 あとはまたマドハンドの群れを小悪魔が、

 

「汚物は消毒です!」

 

 と雷神の剣のベギラゴンで焼き払うのだが、パチュリーにはこうコメントされる。

 

「岩山の洞窟でマドハンドに汚し尽くされたあなたが言うと、アレねぇ」

「言い方ァ!?」

 

 セクハラ発言の塊のような小悪魔ならともかく、パチュリーには珍しい誤解を招くような発言だったが、

 

「?」

 

 素で不思議そうに首を傾げるパチュリーには分かっていない。

 

「くっ……」

 

 その純真な様子に思わず怯む小悪魔だったが、

 

「と、ともかく、身体はどんなに汚されようとも、私のパチュリー様を思う心は処女雪のように純白ですから」

 

 そう、宣言する。

 だがパチュリーに真顔で、

 

「驚きの白々しさね」

 

 と流され、がっくりと肩を落とすのだった。

 

「だれ…… うま……」

 

 そんな主従漫才を繰り広げつつも、ラダトーム北の洞窟に到着。

 

「中では魔法が使えないから、耐魔法防御防具は必要無いわ」

 

 というわけで、守備力重視、耐ブレス装備で中に入ることにするが、

 

「こっ、これ、何だか頼りないですね」

 

 現在小悪魔が所持している鎧の中では、パチュリーに譲ってもらった魔法のビキニが一番守備力が高かったりする。

 

「火炎ブレスに耐性を持つドラゴンメイルを買っていたなら、耐性優先でそれを身に着ければ良かったのでしょうけどね……」

 

 と言うパチュリーはパチュリーで神秘のビキニ姿なので、二人して水着装備という、何とも言えない絵面になっていた。

 

「『ドキッ! 少女だらけの水泳大会!! ポロリもあるよ!』みたいな感じですね」

「あなたが何を言っているのか分からないわ……」

 

 そんなこんなで準備を整えたら洞窟の中へ。

 

「あなほりとかの特技も呪文扱いで使えないのが厄介なのよね」

 

 とはいえ、

 

「効果までかき消されるわけじゃないから、盗賊が居るなら洞窟に入る前に忍び足をかけておけば有効なのだけれど」

 

 それでも途中で効果が切れるので、結局は戦いになるのだが。

 洞窟内、最初のフロアである地下1階を最短距離で下りの階段を目指すのだが……

 

「敵との遭遇無しでたどり着きましたよ!?」

 

 ということに。

 

「やっぱりスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版と比べても遭遇率、難易度が下がっていないかしら、これ」

 

 という話。

 階段を降り、地下二階へ。

 

「この階は宝箱が無いから素通りね」

 

 ドラクエ3の斜め上から見下ろすような形式で描かれたダンジョンのグラフィックのせいで、近道やすり抜けができそうにも見える箇所があるが、実際にはすり抜け無しの一本道なのでそれをひたすらに辿って行く。

 すると、

 

「滅茶苦茶顔色の悪いトロルさんです!」

 

 顔色が、というか肌の色が青い、いや紫色のトロール。

 

「トロルキングね」

 

 それが二体。

 

「下位種のトロルやボストロールよりも攻撃力が低く、しかも痛恨を使用しない。その上ヒットポイントはトロルと同じという相手よ」

 

 リメイクでは攻撃力が135→150と上がっているが、それでもトロルの攻撃力155に負けている。

 

「それなのにキングなんですか?」

「50ポイントのヒットポイント自動回復があるし、ザキ、メダパニに強耐性、すべての攻撃呪文に弱耐性が付いているしで、タフさは上がっているわね」

 

 そして、

 

「3/8という高確率でバシルーラを使ってくるのが面倒な相手よ。マホトーンに弱耐性だから呪文を封じても良いのだけれど、その場合、判断値が最高の2で頭がいいから即座に打撃のみに切り替えてくるわ」

 

 ということ。

 またリメイクでは何故かモンスターレベルが41から57とかなり引き上げられているため、レベル50台になっても確実に逃げられないようになってしまった。

 まぁ、

 

「この洞窟では魔法が封じられているから良いのだけれど」

 

 という話ではあるが。

 そんなわけで小悪魔の王者の剣、そしてパチュリーの隼の剣の2回攻撃でたちまち一体が倒される。

 もう一体はバシルーラを唱えるが、もちろんかき消され、

 

「呪文をかき消すエリアでの戦闘だと、賢いモンスターでも唱えるのを止めないのよね」

 

 ということで次のターンで止めを刺される。

 

「楽勝ですね」

 

 そして、下への階段を目指して進むと現れたのは、

 

「何だかここ、紫色のモンスターばっかりですよね。サタンパピーと赤紫の龍?」

「サラマンダーよ! バラモスと同じ、全体に80~100の炎ダメージの激しい炎を1/2の確率で吐く相手よ」

 

 とはいえ、

 

「呪文が封じられているからサタンパピーは無視して良い、それで1体のみなら」

 

 小悪魔の王者の剣、そしてパチュリーの隼の剣が斬りつけて終了である。

 しかもパチュリーの隼の剣が1回斬りつけただけで、もう一撃を繰り出すまでも無く倒されている。

 

「守備力も59と硬くないから、最大ヒットポイント200とはいえ私一人でも倒せそうね」

 

 ということだった。

 残ったサタンパピーは115の攻撃力で斬りつけてくるが、守備力の高まっている二人には痛くなく、

 

「これでお終いよ」

 

 パチュリーが素早く隼の剣を2度振るっただけで倒されるのだった。

 

「私は神秘のビキニの自動回復があるし、あなたは命の指輪を身に着ければ治療の必要も無いわね」

 

 と、先を急ぐ。

 次いで現れたのはトロルとサタンパピー1体ずつだが、これも先にトロルを倒し、次のターンでサタンパピーを倒して終了。

 さらにサタンパピー2体が現れるが、一体を小悪魔の王者の剣が一撃で倒し、パチュリーが隼の剣を2度振るって残り一体を倒しきる。

 そうして下りの階段に到着。

 地下三階へ。

 

「何だか荒れ果てていますね」

 

 深い亀裂と破壊跡。

 

「まずは亀裂の向こう側、一番奥の宝箱ね」

 

 並んでいる宝箱や亀裂を横目に見つつ、壁際を伝って行き、宝箱へ。

 

「勇者の盾です!」

 

 小悪魔は勇者の盾を手に入れ、さっそく装備する。

 

「勇者の盾は、勇者のみが装備できる盾でブレスのダメージを2/3に減らすことができるうえ、守備力もファミコン版の+50から+65に増強された、最強の盾よ」

 

 また、ファミコン版では値段の付かない売却不可のアイテムだったが、リメイクでは、

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど…… 28500ゴールドで売れるわね」

 

 という具合に値段が付いている。

 売らないだろ、これ、と言うユーザーも居たが、棺桶勇者と呼ばれる、勇者抜きの縛りプレイなどでは売れる方が良いだろうし、パチュリーたちにしても、

 

「えっ、これ、払うんですよね、私……」

 

 公平配分による勇者と商人の比較をしているので価格が定まっているのは助かるという話であった。

 そして試しに魔王の爪痕と呼ばれる元になったと思われる地割れに飛び込んでみると、地鳴りと共に「ぺっ」とばかりに吐き戻されてしまった。

 

「びっくりしましたね」

「そうね、どこに繋がっているのか分からないけど…… あなた、相当嫌われているみたいね」

「待ってください! 他人事のように言っていますけれど、それってパチュリー様だって一緒ですよね!?」

 

 一説によると大魔王ゾーマが現れたのがこの地割れと言われているらしい。

 

「さて、それじゃあ、残りの宝箱を回収しますね!」

 

 お楽しみの宝箱回収にウッキウキの小悪魔だったが、

 

「ミミックよ、それ」

「うぇっ!?」

 

 パチュリーの指摘を受け、慌てて止まる。

 しかし、

 

「まぁ、呪文を封じられているおかげで怖くは無いのだけれど」

 

 ザキ、マホトラが無ければ、正直ただの箱だ。

 ともあれ、

 

「残しておきましょうか」

 

 ミミックのみが1/256の確率でドロップする魔神の斧だが、中断の書でどこでもセーブ&ロードができるスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版なら、戦闘直前にセーブして出てくるまで戦闘を繰り返す、ということができる。

 そして、倒しやすいここのミミックでやるのが一番の早道であると言えるだろうから。

 まぁ、勇者と商人の比較検証を行っている二人に必要になるとも思えないのだが、それはそれである。

 そうして次の宝箱を目指す二人だったが、

 

「またトロルキングです!」

 

 2体と遭遇。

 

「やっぱり地割れに飛び込んでも、エンカウントまでの歩数カウントはリセットされないのね」

 

 とパチュリー。

 それを確かめるためにも飛び込んだのである。

 なお、吐き出されると完全に元の位置に戻るので、出口に近くなったりはしない。

 つまりはやっぱり無駄ということなのだろう。

 そして、やはり二人がかりでトロルキング1体を倒しきる。

 もう一体は小悪魔に殴りかかるが、

 

「痛くなーい!」

 

 勇者の盾を手に入れた小悪魔の守備力は265ポイントまで上昇しており、トロルキングの攻撃力150ポイントの打撃でも、ダメージは2桁行くかどうかといったところまで抑えられていた。

 

「だから最初に最短距離で勇者の盾を取りに行ったのよ」

 

 とパチュリー。

 そして次のターンも二人がかりで殴って終了である。

 

「ゴールドが入ってました!」

 

 ミミック以外、残り3つの宝箱を開け、1016ゴールド、小さなメダル、960ゴールドを入手。

 そうして階段に戻り地下2階へ。

 

 またトロルキング2体が二度ほど現れるが、これまでと同じパターンで終了。

 多少の傷を負っても、

 

「治療するまでも無く、命の指輪の自動回復で間に合いますね」

 

 そして昇りの階段へ。

 地下1階を、最短距離を辿った行きとは違い北上する。

 サタンパピー2体が行く手を阻むが、

 

「邪魔」

 

 小悪魔の王者の剣とパチュリーが振るった隼の剣により即座に斬り捨てられる。

 そうしてたどり着いた地下1階の北西端には宝箱が。

 ファミコン版、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では無かったものであり、

 

「携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版で追加された宝箱ね」

 

 中身は、

 

「小さなメダルです!」

 

 すごろく場で得られなくなった分のメダルをここで拾うことができるのだ。

 

「あれ、どうして行きで拾わなかったんですか?」

 

 と首を傾げる小悪魔だったが、

 

「この洞窟は呪文が封じられているからリレミトが使えない。なら帰りもこの階を通るでしょう? だったら最短距離で勇者の盾を取りに行って、あなたの守備力を上げてから他の宝箱を開けて行った方が有利よね」

 

 ということだった。

 初代ドラクエではロトの洞窟と呼ばれていたここにはモンスターが出なかったことに倣っているのかファミコン版ドラクエ3では地下一階には敵が出なかったが、リメイクでは出現するようになっているのだし。

 あとは西へ、出口を目指すが、

 

「あれは、やまたのおろち!?」

「いいえ、あれはヒドラよ」

「ようやく紫色じゃないモンスターですね」

 

 このラダトーム北の洞窟、出てくるのはサラマンダー、サタンパピー、アークマージ、トロルキングと紫色ばかりだったりする。

 固定のミミックも舌が紫色。

 唯一、ヒドラは青緑色のウロコを持っているのだが、どちらにせよ青系で、さらにゲームボーイカラー版では濃い青紫色に変わっていたり……

 ともあれ、現れたヒドラは一体だけだったので、

 

「あ、ら?」

 

 パチュリーが隼の剣で2回斬りつけただけで終了した。

 

「最大ヒットポイント150で守備力も120あるタフなモンスターなのだけれども……」

「それじゃあ、私の王者の剣でも一撃でとはいかない相手じゃないですか」

 

 実際、戦闘職が二人がかりで倒すか無耐性の氷結系呪文、ヒャダルコあたりでヒットポイントを削ってから前衛の攻撃で倒そう、とされているモンスターであり。

 それを単独で1ターンキルできるパチュリーの強さには目を見張るものがあった。

 

 そして洞窟の出口へとたどり着くが、

 

「……結局、1回も回復なし、薬草の一枚も使わずに出て来れましたね」

 

 と小悪魔が言うとおりの状況だった。

 パチュリーも道具として使用するとベホイミの効果がある賢者の杖を用意していたのだが、出番はまったく無かった。

 

「神秘のビキニと命の指輪の自動回復のおかげかしら? でも、それ抜きにしても……」

 

 パチュリーたちはこのダンジョンに入ってから出るまで、王者の剣と隼の剣を振るうことしかしていない。

 この時期、通常は最強となる勇者の攻撃力と、それを上回るダメージを叩き出すパチュリー。

 そして神秘のビキニなど、強力な防具を装備したが故の、守備力の高さが幸いしたということだろうか。




 ここってこんなに簡単に抜けられましたっけ?
 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版をやった時と手ごたえが違うんですよねぇ……
 単にパチュリー様たちにリアルラックがあるのか、それともスマホ版で本当に難易度が落ちているのか。

>「そうじゃなくて、よりにもよって風刺画なんかで悪魔の持ち物として描かれているピッチフォークに近い形にしなくとも、って話よ」
 なお『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』ティザームービーでもこの仕様は変わっていなかった模様。

 次回はルビスの塔攻略、前半戦の予定です。
 とりあえずは光の鎧を取るところまでですかね。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ルビスの塔(前編)光の鎧入手

「次はルビスの塔ね」

 

 小悪魔のルーラでマイラに跳んだら西に真っすぐ進み、停泊している船に向かう。

 しかし、

 

「山地を避けて船を泊めておいて欲しいのだけれどね」

 

 という具合で山地を突っ切って行かなければならないため、当然モンスターと遭遇する。

 しかも、

 

「モンスターの不意打ちです!」

 

 グール、スカルゴン、マドハンド、サタンパピー、各一体の群れがいきなり襲い掛かって来る。

 スカルゴンの全体に40~59の吹雪ダメージを与える氷の息のダメージが痛い。

 まぁ、小悪魔は勇者の盾でブレスダメージを減らせるのでその2/3のダメージで済むのだが。

 ともあれ、敵は面倒くさい構成であり、変に小細工をすると逆にダメージが増えそうなので、

 

「ここは何も考えずに押し切りましょう」

 

 多少の被ダメは覚悟して、火力でごり押しするという脳筋(マッチョ)でシンプルな戦法で行くことに。

 小悪魔の稲妻の剣のイオラの効果が炸裂し、それだけでマドハンドが退場。

 続いてパチュリーの炎のブーメランが敵全体を薙ぎ払い、グール、サタンパピーを倒す。

 残ったスカルゴンはブレスを吐くが、

 

「低ダメージの冷たい息の方ね」

 

 全体に9~20の吹雪ダメージのものなので、大したことはない。

 あとは、

 

「あなたはそろそろレベルアップするでしょうからパワーベルトを身に着けて」

「はい」

 

 パチュリーの隼の剣がスカルゴンに二回斬りつけ、戦闘は終了。

 そして、

 

「レベルが上がりました!」

 

 小悪魔がレベル38に、

 

ちから+4

すばやさ+3

たいりょく+9

かしこさ+2

うんのよさ+3

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:38

 

ちから:149

すばやさ:216

たいりょく:168

かしこさ:91

うんのよさ:109

最大HP:344

最大MP:180

こうげき力:269/201

しゅび力:268/203

 

ぶき:おうじゃのけん/ドラゴンテイル

よろい:魔法のビキニ/やいばのよろい/まほうのよろい

たて:ゆうしゃのたて/まほうのたて

かぶと:オルテガのかぶと

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト/いのちのいし

 

 

「戦闘終了前にパワーベルトで性格を『タフガイ』に切り替えたおかげか、ヒットポイントが爆上がりしましたね」

 

 ニコニコ顔の小悪魔。

 さらに小悪魔はベホマズンの呪文を覚えていた。

 

「ベホマズンは勇者がLv38~40で習得する勇者専用呪文で消費マジックパワーは62。パーティ全体のヒットポイントをフル回復させてくれるわ」

「凄い、ですけど必要ですか、それ?」

「ファミコン版ではゾーマ戦であっても賢者の石とベホマ、ベホマラー、場合によっては賢者の杖の効果でも使えるベホイミを併用していれば間に合ってしまうのが大半で、どうしてもベホマズンが必要、とされるような場面はまず無いけれど」

 

 しかし、

 

「リメイクのしんりゅう戦やゲームボーイカラー版のグランドラゴーン戦におけるターン制限のある戦いでなら、勇者一人で一気に回復させることで攻撃に割ける手数を増やすことができるから、状況によっては役立つわ。クリア後に得られる不思議なボレロの消費マジックパワー/2+1(端数切捨て)という効果を使えば32ポイントで使えるようになるし」

 

 ということだった。

 

「それにしても、僧侶呪文に無い最上級の回復呪文を覚えるということは……」

 

 とパチュリー。

 

「ドラクエ3では『魔法使い不要論』を唱えるプレイヤーも居たけれど、実際には僧侶の方が不要になるのかも知れないわね」

「はい?」

「僧侶の呪文の内、ホイミ、ベホイミ、ベホマ、ザオラル、ニフラム、ラリホー、マホトーンは勇者も使えるわね」

 

 そうすると、

 

「使えないのは、ピオリム、マヌーサ、ルカニ、キアリー、バギ、キアリク、ザメハ、ルカナン、バシルーラ、ザキ、バギマ、ザラキ、フバーハ、ベホマラー、バギクロス、ザオリク、メガンテ」

「結構ありますよね」

「でも毒消し草、満月草、世界樹の葉、草薙の剣、賢者の石、王者の剣といった呪文の効果を使えるアイテムがあれば、特にふくろが使え、お金にも余裕があるリメイク版ならマジックパワーを消費しない分だけそちらの方が有利と言えるわね」

 

 期間限定の太陽の石は除外するにしても、キアリー、キアリク、ルカナン、ベホマラー、バギクロス、ザオリクは代替可能ということに。

 ついでに言えば、ホイミも薬草でまかなえる。

 そうなると、

 

「残りは、ピオリム、マヌーサ、ルカニ、バギ、ザメハ、バシルーラ、ザキ、バギマ、ザラキ、フバーハ、メガンテ」

 

 そして、

 

「攻撃呪文は他にいくらでもダメージソースの代替が可能だから必須ではない。ピオリム、バシルーラあたりは特定の戦法では使えるものだけれど必須ではない。メガンテはそもそも使いどころが無い。ザメハはしんりゅう戦であるといいけれど、ゾーマまでならまず不要」

 

 最終的には、

 

「ルカニは草薙の剣のルカナンの効果が使えるから完全でないにしろ補えるとして、痛いのは1/2の確率で攻撃を外させるマヌーサと、ブレスのダメージを2/3に軽減するフバーハが使えないことね」

 

 ということだが、

 

「なら、やっぱり必要じゃないんですか?」

 

 と首を傾げる小悪魔。

 しかし、

 

「私たち、無しで問題なくプレイできていたでしょう?」

「あれっ?」

 

 という話。

 

「マヌーサ、フバーハが必要になるのはボスキャラ戦なんだけれど、勇者、商人という高ヒットポイントメンバーの少人数プレイだと、僧侶のようなヒットポイントが少なく、守備力が低いキャラを庇わなくていいから必要性が薄くなるのよ。さらに言えば、ブレスで受ける総ダメージは二人パーティにしているだけで半減するんだし、この効果はフバーハ以上よ」

 

 まぁ、

 

「勇者がベホイミを覚えるタイミングが遅い、というのが攻略上問題になるけれど」

 

 ということはあるが、

 

「私たちベホイミ抜きで、やまたのおろちもボストロールも攻略できているし」

 

 ということであり、

 

「勇者は高ヒットポイント、高守備力、高耐性を持つ、僧侶の互換職と見ることもできるというわけね」

 

 マジックパワーの量に難があるかも知れないが、リメイクなら性格や種で補えるし、そもそも通常の回復は袋に詰めた薬草で間に合うし、モンスターとの遭遇率が下がっている分、消費は少なくなるので問題とはならない。

 硬くてタフな僧侶。

 そう考えると、また色々と攻略の幅が広がりそうな話であった。

 

 そして船で出港、ルビスの塔の建つ島へと向かう。

 

「初代ドラクエの時代には地続きになっていて、雨のほこらが建っている場所なのだけれど」

 

 時代の変遷による地形の変化があるのか、この時代には島であり、塔がそびえ立つ。

 途中、エンカウントも無く島に上陸し、無事、ルビスの塔に到着する。

 

「ここの1~2階に出現するのはラゴンヌ、メイジキメラ、サタンパピー、はぐれメタル、マクロベータ。マクロベータが1/8の確率で吐く全体に6~10の炎ダメージの火の息以外にはブレスを使って来る敵は居ないわ。逆にサタンパピーのメラゾーマ、ラゴンヌのマヒャドが怖いから」

「耐魔法装備が優先ってことですね」

「あとは対はぐれメタル戦用に、誘惑の剣とあなたは刃の鎧を。はぐれメタルを倒したらレベルアップがあるでしょうからパワーベルトも用意しておいて」

「はい……」

 

 というわけで装備を整え塔の内部を進む。

 が、

 

「いきなりバリアー床ね」

「ひぐぅぅぅっ!?」

 

 バリアー床を引きずり回され、悲鳴を上げる小悪魔。

 そして、

 

「宝箱です!」

「片方はミミックよ」

「ひぅっ!?」

 

 宝物庫に足を踏み入れるが、

 

「ライオンさんです!」

「ラゴンヌね」

 

 背中にコウモリの翼の生えた、六本脚のライオンの魔物。

 

「名前の由来はテーブルトークRPGの元祖であるダンジョンズ&ドラゴンズに登場の、ライオンと竜の混血モンスター、ドラゴンヌからとも言われているのだけれど……」

「けれど?」

「ダンジョンズ&ドラゴンズのオリジナルモンスターは下手をすると版権問題に発展する怖れがあるから」

 

 ビホルダー問題など、小説、そしてマンガやアニメにもなった『ゴブリンスレイヤー』の中でも触れられているとおり、未だにネタにされているし。

 

「脚が六本というデザインからしてこの系統は、聖書の誤訳から生まれた、ライオンとアリの性質を合わせ持つというヨーロッパの伝説上の生物、ミルメコレオの影響を受けているのだ、とも取れるし、そのままじゃないからそれほど気にしなくてもいいのでしょうけど」

 

 まぁ、そんなゴタゴタはともかく、

 

「ネクロゴンドの洞窟とバラモスの城に出現したライオンヘッドの上位種なのだけれど、一体だけではね」

 

 小悪魔の王者の剣とパチュリーの隼の剣を食らわせるだけで終わる。

 二つの宝箱の内、ミミックではない右側のものを開けて、1016ゴールドを手に入れ、あとは昇りの階段へと真っすぐに進むが、

 

「はぐれメタルです!」

「一緒に出たラゴンヌはメダパニに強耐性。逆に言えば3割の確率で効くわ」

 

 ゆえにここは耐魔法装備で固めた上、ラゴンヌに誘惑の剣を使う。

 小悪魔は刃の鎧で反射ダメージを狙うので、耐魔法装備は魔法の盾のみになるが。

 そして、はぐれメタルの攻撃!

 

「良かった、逃げなかったわ!」

 

 喜ぶパチュリー。

 

 小悪魔は誘惑の剣を振りかざした!

 剣からピンクの霧が流れ出す!

 ラゴンヌは頭が混乱した。

 

「やりました! 混乱です!」

 

 歓声を上げる小悪魔。

 もう意味がないとはいえパチュリーも誘惑の剣を使うが、これも効いていたりする。

 そしてラゴンヌが、はぐれメタルを攻撃してくれるが……

 

「1ダメージ!?」

 

 たった1ダメージと期待を大きく外してくれる。

 

「もう、次のターン逃げないでくれることを祈るしかないけど……」

「はぐれメタルが攻撃してくれました!」

 

 と小悪魔。

 彼女も攻撃を受けたことを喜び、しかも、

 

「刃の鎧の反射で3ポイントダメージです!」

 

 とダメージを積むことに成功!

 これは刃の鎧に魔法の盾という、守備力が下がる装備をしていたおかげでもある。

 さらに王者の剣で斬りかかり、1ポイントダメージ。

 

「やりました! はぐれメタルを倒しました!!」

 

 と喝采を上げる。

 後はラゴンヌだが、混乱していても最後の一匹になれば通常どおりに行動できるようになる。

 しかし攻撃目標を変更したパチュリーの隼の剣が炸裂し、56、85ポイントとダメージを積んで、それだけで倒しきる!

 

「わ、私が王者の剣で斬りかかっても倒せないのに……」

 

 目を見張る小悪魔。

 これが高い力の能力値を持つ者が隼の剣を使った場合の威力なのだ。

 

「私、本当に勇者なんですよね?」

 

 と今さらながら自分の存在意義に疑問を感じる小悪魔に、パチュリーは、

 

「さっきも言ったように、硬くてタフな僧侶を連れていると考えれば、問題無いわ」

 

 そうなだめるのだが、

 

「慰めになってませんよ、それ……」

 

 と小悪魔は嘆くのだった。

 

 そしてパチュリーたちはそれぞれ21490ポイントの経験値を獲得し、パチュリーはレベル39に。

 

ちから+2

すばやさ+2

たいりょく+2

かしこさ+1

うんのよさ+2

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:40

 

ちから:182

すばやさ:130

たいりょく:210

かしこさ:56

うんのよさ:69/119

最大HP:425

最大MP:114

こうげき力:307/202/239

しゅび力:226/173

 

ぶき:せいぎのそろばん/はやぶさのけん/ほのおのブーメラン

よろい:しんぴのビキニ/まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ミスリルヘルム

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 となった。

 そして2階への階段を見つけ、登る。

 フロアを北上し、

 

「変な床がありますね」

「回転床ね。方位磁石みたいな模様が付いているけれど、白い矢印が東向きなら右回りに90度、西向きなら左回りに90度ずれるって覚えておけばいいわ」

 

 プレイヤーの視点で言えば、白い矢印が右側のものは右回り、左側のものは左回りと覚えておけばよい。

 ただし、

 

「ゲームだと自分が乗っている床の上の矢印が自キャラの陰になるから、足を踏み出す前に床の模様を覚えておかないといけなかったものね」

「さすがにそれは覚えられますよね?」

「普通ならそうだけれど、回転床を移動中にモンスターに襲われたら?」

「あ……」

 

 そして戦闘にかまけて、自分が足を踏み入れた回転床の矢印の向きを忘れてしまったら?

 という話。

 そして出た広間には、

 

「回転床とバリアーに隔てられた宝箱?」

「バリアーに触れずに宝箱を得たいなら回転床を超える必要があるわ。魔法使いか賢者が居ればレベル19で覚えるトラマナの呪文でバリアーを超えるって方法もあるし……」

 

 そこでパチュリーは小悪魔に流し目をくれてやり、

 

「何ならダメージを気にせずバリアーを突っ切るって脳筋(マッチョ)な方法もあるけれど」

 

 と恐怖の提案をする。

 

「嫌ですよ!?」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 パチュリーも本気では無かったらしく、うなずいて、

 

「そうね。この先、回転床を攻略しないと行けない場所に光の鎧が置かれているんだから、練習だと思って試してみるべきよね」

 

 ということ。

 そうしてパチュリーはまずは広間南の回転床にチャレンジするが、

 

「パッ! パッ! パパパパパパパパパッ!!」

「うるさいわね……」

「パチュリー様っ、何もバリアーのすぐ横、一度間違えただけで突っ込んじゃうところで試さなくても、もっと真ん中をっ!」

「……? こんなの簡単でしょ」

 

 あっさり乗り越えてしまう。

 

「ほら」

「そっ、そんなにするする歩けるのはパチュリー様ぐらいですよぅ!」

 

 と小悪魔。

 ともあれ、

 

「宝箱です!」

 

 四つの宝箱の内、一つ目は命の木の実、そして次は……

 

「雷神の剣です!」

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だと炎のブーメランが入っていたものだったけれど、スマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では差し替えられたものね」

 

 あとは命の木の実に、アープの塔でも手に入った博愛リング。

 そして今度は北側に隔てられた場所にある宝箱を取りに行くのだが、

 

「またラゴンヌ?」

 

 ラゴンヌが一匹。

 パチュリーの隼の剣が二度振るわれ、

 

「また、つまらぬものを……」

 

 何もさせずに倒しきる。

 

「うぅ…… パチュリー様、強すぎです。私、せっかくあれだけ苦労して王者の剣を手に入れたのに」

 

 落ち込む小悪魔。

 そして回転床を乗り越えてたどり着いた四つの宝箱からは、960ゴールド、小さなメダル、力の指輪を獲得し、

 

「あと一つは……」

「ああ、それミミック」

「あっぶなぁ!」

 

 小悪魔はすんでのところで、ミミックに手をかけるのを止められる。

 

「まぁ、今なら問題なく勝てるのでしょうけど」

 

 しかし、わざわざ戦う意味も無い。

 この階の宝箱は回収しきったため、また回転床を乗り越えて、上の階へと昇る階段を目指す。

 

「モンスターと会わずにたどり着けたわね」

 

 そんなわけで3階への階段に到着。

 

「3、4階ではラゴンヌ、メイジキメラは引き続き登場するけれど、あとは魔王の影、ガメゴンロード、マドハンドと入れ替わるわ」

「対はぐれメタル装備が要らなくなる代わりに、魔王の影のザキ対策に命の石、ガメゴンロード対策に眠りの杖と草薙の剣が必要ですか」

「私も守備力200のガメゴンロードには、さすがにまだ正義のそろばんの方が有効だから用意しておくとして……」

 

 装備を整え直し、4階の階段に向け南下。

 そしてあと少しというところで、

 

「ラゴンヌとメイジキメラです!」

 

 ラゴンヌ、メイジキメラそれぞれ2体ずつの群れに遭遇。

 

「ラゴンヌはラリホー、マホトーン等の行動阻害系には強耐性だけれど、火炎系、ヒャド系には弱耐性で、バギ系とデイン系には無耐性。あとは分かるわね」

「はいっ」

 

 小悪魔は王者の剣を振りかざした!

 黒い雨雲が敵を包み込む。

 

 バギクロスの効果、竜巻状に発生した真空の刃がラゴンヌを襲う!

 そしてはぐれメタルと同じ素早さ150のメイジキメラがマホカンタで自分を守り、さらにはメダパニでパチュリーを狙うが、

 

「効かないわ」

 

 パチュリーは抵抗に成功、炎のブーメランを投擲する。

 これでラゴンヌは全滅。

 1/4の確率で唱えてくるマヒャドが怖く、ベホマでフル回復もしてくる相手なのだが、何もさせずに終わらせる。

 あとはメイジキメラだが、

 

「かわした!?」

 

 メイジキメラの回避値は人食い蛾などと同じ2。

 1/24の確率で回避するのだ。

 だが、抵抗もそこまで。

 次のターンには、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔のドラゴンテイルが炸裂し全滅させる。

 

「次は4階ね」

 

 階段を昇り、ついでに5回のあなほり。

 

「嘆きの盾が出たわ」

 

 これはラゴンヌが1/128の確率でドロップするアイテムだ。

 

「光の鎧を取りに行くわよ」

 

 4階を北上。

 塔内中空に張り出す3本の足場。

 中央の太いものには回転床が敷かれていて、

 

「回転床を避けて細い方を行くと外れで、中央のものの回転床を超えた先に宝箱があるのが分かるようになっているわ」

 

 ということ。

 パチュリーはもちろん分かっているので、回転床のある太い足場へと向かう。

 

「簡単ね」

 

 とあっさり乗り越え、宝箱へと到着。

 そして得られるのが、

 

「光の鎧です!」

「光の鎧は後にロトの鎧と呼ばれるようになる勇者専用防具で、守備力はファミコン版で最高の+75、他に強力な防具類が追加されたリメイクでも+82に強化されていて光のドレスの+90、神秘のビキニの+88に次ぐ守備力を誇り、男性勇者にとっては文句無しで最強の鎧」

 

 それだけではなく、

 

「ブレス、魔法のダメージを2/3に抑え、歩くたびに回復する自動回復能力があるわ。光のドレスの方は耐性こそ同じで守備力は上だけれども自動回復が無い。守備力の差8ポイントは実ダメージで2ポイント。普段の使い勝手という点では、光の鎧の方に軍配が上がるでしょう」

 

 回復の手間暇や、節約できるマジックパワーの問題だけでなく。

 パチュリーたちもそうだが、戦闘ごとにヒットポイントをフル回復させるかというと、ボスキャラ戦などの厳しい戦いが予想される時以外は、多少の傷、ホイミの回復量以下のダメージは放置することが多い。

 自動回復のあるアイテムを身に着けていれば次のエンカウントまでに、それが回復するため常にその分、ヒットポイントが高い状態で戦闘に臨める。

 実質ヒットポイントが増えるのと同じ効果をもたらし、たった2ポイントの実ダメージの軽減以上の効果を発揮することになる。

 命の指輪でも同じことができるが、戦闘開始後に他の装飾品に付け替えるにしても持ち物の枠を一つ潰してしまうし、不意打ちを食らった場合に他の装飾品の効果、例えば星降る腕輪の素早さ倍化、つまり素早さの1/2が守備力に加算されるドラクエ3なら、その分の守備力上昇が無い状態で攻撃を受けてしまうのだし。

 

「お店に持って行くのはもったいないと思うけど…… 18000ゴールドで売れるわね」

「売れるんですか!?」

「そうね、ファミコン版と違ってリメイクでは装飾品以外の防具はすべて売却可能に変更されていて、光の鎧、勇者の盾などといった勇者専用装備でさえも軒並み売却が可能となっているわ」

「光の鎧も勇者の盾も完全な一品物ですよね。そんなものまで売れるなんて、なぜこんな意味不明な変更が……」

 

 と小悪魔が言うような疑問がプレイヤーの間でも持ち上がっていたが、

 

「勇者抜きの縛りプレイだと有効でしょう?」

 

 勇者を殺して棺桶に入れっぱなしにする、俗に棺桶勇者と呼ばれる縛りプレイ。

 その場合には売れた方が収入になるし……

 

「報酬の公平配分による勇者と商人の比較を行っている私たちにとっては、精算しやすいという利点があるし」

「そっ、それがありましたー!」

 

 愕然とする小悪魔だったが、実際には光の鎧は二人の収入なので、半額の9000ゴールドをパチュリーに払えばいいのだし、小悪魔は不要になった魔法の鎧、魔法のビキニ、命の指輪を処分できるので、収支はわずかにとはいえプラスになるのだが……

 パチュリーは敢えてそのことには触れず、生暖かい目で使い魔のリアクションを見守るのだった。




 光の鎧、入手です。
 光のドレスが複数入手できるスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だと、勇者にもそれを着せる人が多いのですが、光の鎧の方にもまた利点があるってことですね。

>「勇者は高ヒットポイント、高守備力、高耐性を持つ、僧侶の互換職と見ることもできるというわけね」
 そう考えてみると、パーティ構成にも幅が出せますよね。

 次回は『ルビスの塔(後編)ルビスは石化され好きのマゾ』をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ルビスの塔(後編)ルビスは石化され好きのマゾ

 光の鎧を得たものの、借金の予感に震える小悪魔。

 パチュリーはそんな己の使い魔を、おもむろに足場から突き落とす!

 

「ひあああぁぁぁっ!?」

 

 叫ぶ小悪魔と諸共に、空中へとダイブ!

 

「で、デビルウィーング!」

 

 慌てて悪魔の翼を広げ落下速度を和らげる小悪魔。

 

「楽よねぇ」

 

 と、その手にぶら下がるパチュリーを支えながら降りたところは3階の、

 

「ヒェッ、骸骨さんです!」

 

 白骨が散らばる広間。

 小悪魔が翼で支えなかったら、ああなっていたかも知れないということだろうか。

 そんな恐怖に身をすくめる小悪魔を他所に、パチュリーはとりあえずついでに5回のあなほりをするが、

 

「また出たわね、嘆きの盾」

 

 と掘り当てる。

 

「ラゴンヌさんが1/128の確率でドロップするアイテムですよね。出過ぎでは?」

 

 と首を傾げる小悪魔だったが、

 

「ここ、ルビスの塔1階~4階だと、あなほりの判定が4回あるせいね」

「はい?」

 

 あなほりで参照されるルビスの塔1階~2階の遭遇モンスターテーブルデータは、

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: ラゴンヌ

01: サタンパピー

02: メイジキメラ

03: はぐれメタル

04: ラゴンヌ

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: ----------------

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: サタンパピー

07: マクロべータ

08: メイジキメラ

09: ----------------

 

『夜のみモンスター用』

10: ラゴンヌ

 

『1体のみ出現用』

11: ラゴンヌ

 

 これらを上から順に判定していくわけだが、アレフガルドは常に夜なので『夜のみモンスター用』のデータは有効であり一度に4回の判定があることに。

 

 一方、今居る3階~4階はというと、

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: マドハンド

01: メイジキメラ

02: ラゴンヌ

03: ガメゴンロード

04: まおうのかげ

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: ----------------

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: ラゴンヌ

07: ----------------

08: メイジキメラ

09: ラゴンヌ

 

『夜のみモンスター用』

10: まおうのかげ

 

『1体のみ出現用』

11: ラゴンヌ

 

 こちらも4回の判定が発生する。

 つまりいずれにせよドロップ判定は一度に4回行われることになり、その分だけ入手確率が上がるわけである。

 そして、

 

「思ったのだけれど」

 

 パチュリーは嘆きの盾を持ちながら考える。

 

「耐性が重複しないファミコン版の勇者なら、ブレス、呪文耐性が付いている光の鎧さえあれば盾の耐性は要らず、この嘆きの盾も生かせるんじゃないかしら?」

「はい?」

「ファミコン版では勇者の盾は守備力+50で嘆きの盾の+35を15ポイント上回るけど、実際にはそれで減らせるダメージは3、4ポイント程度。それならダメージを半減させる嘆きの盾の方が有効よね」

「でっ、でも残り半分のダメージが他の人に行っちゃうんですよね?」

「私たちのように、勇者より仲間の方がヒットポイントが高ければ問題無いでしょう?」

「あっ……」

「あなほりでステータスを補えないファミコン版の商人だと同じようにはできないでしょうけど、二人旅なら実は、道具として使用することで攻撃魔法の力を引き出せる剣が使える戦士が有力候補だったりするわ。その場合、戦士のヒットポイントは確実に勇者を上回る」

 

 加えて言うなら、呪文を覚えさせない戦士は先頭に置いて防御キャンセル技でダメージを半分に減らすことができるが、二人旅の場合、勇者はどこに置いても防御キャンセル技は使えない。

 その分の被ダメの不利さを嘆きの盾は補うことができるということ。

 

「まぁ、逆に戦士にしてみても、ファミコン版では耐性の付いた盾は勇者の盾以外は無いし、戦士最強の盾である力の盾の守備力は+40、嘆きの盾とのダメージ差は1、2ポイントしか変わらないから使えるのかも?」

「でも戦士以上のヒットポイントを持つキャラは居ませんよね?」

「転職を行って周囲より低レベルな場合には有効でしょう? RTA(Real Time Attack)、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競うプレイで使われる、バイキルトまで覚えさせた魔法使いを戦士に転職させたキャラとか」

 

 そういう場合には有効だろうか。

 

 そして中央に落ちていた骸骨のそばの床から小さなメダルを拾う。

 

「スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではすごろく券が落ちていたのだけれど」

 

 その代わりに手に入るものだ。

 それから南下し、広間を出たら回廊を時計回りに。

 北西端には宝箱があって、

 

「小さなメダル、これでちょうど100枚目ね」

 

 ということに。

 

「帰って景品と交換してまたここまで来る、というのも面倒だから、このまま進むけど」

 

 その先には回転床が敷かれた開口部があり、

 

「一歩間違えたら外へと落ちそうですね」

「いいえ、落ちるのよ」

 

 と、今度はわざと間違え落下。

 

「ひあああぁぁぁっ!?」

 

 塔の外まで落ちるが、ここはこうすることでしか行けない塔の裏手。

 そこから再び塔の中へ。

 サタンパピー2体を小悪魔の王者の剣とパチュリーの隼の剣で斬り捨て階段を上がり2階へ。

 

「また回転床です!」

 

 開口部に面し、間違えたら落下という回転床、

 

「今度は落ちてはダメよ」

 

 2個所を渡り、さらに上に向かう階段へ。

 なお、

 

「結局、ここではマクロベータは出なかったわね」

「あっ……」

 

 マクロベータが現れる1、2階は通過してしまった。

 

「あとはゾーマの城がある魔の島南部、短い区間で出るかどうかといったところね」

「もしそこで出なかったら……」

「クリアーまでの遭遇がメルキドに向かう途中で見かけた1回だけということになるわね」

 

 ということ。

 

「さすがマイナーモンスターの代名詞」

 

 という話であった。

 3階のフロアはすぐ近くにある昇り階段のみなので、それを上がり4階へ。

 4階も一本道で5階への階段に到着。

 

「ここって、5階もあったんですね」

「今たどって来たルートでないと行けないのだけれど」

 

 と、パチュリー。

 普通に登っていては、4階までしか行くことができないのだ。

 ただし、

 

「1階の東側の扉を開けて外に出ると老人が居て「妖精の笛を持っているならば、この塔の5階に行きなされ」と助言してくれるわ。だから事前情報無しでも5階まであるということは分かって、プレイヤーはルートを探すことができるわけ」

 

 あとはマッピングしていれば、3階のフロアが下の階で行けた範囲より北に張り出しているということに気付くことができれば、わざと飛び降りることで行き着けるわけである。

 そして階段を登れば、

 

「5階はラゴンヌ、メイジキメラという共通モンスターに加え、はぐれメタルとダースリカントが、また、サラマンダー、ドラゴン、極楽鳥が出てくるわ」

 

 そんなわけではぐれメタル対策を取って進む。

 

「はぐれメタルの遭遇率はリムルダール周辺の方が高いのだけれど、こちらは一度に出現する数が多いという特徴があるの」

 

 1、2階では他のモンスターと組んで1~3匹で現れるが、5階では単独で出現することがあり、その場合は最大6匹で出現する。

 ドラゴラム+ピオリムやパルプンテなど、一掃できる手段があれば一気にレベルアップが可能。

 ファミコン版では1回の戦闘で得られる経験値の総計が65535以下に制限されていて3匹以上倒しても経験値は同じであるため無意味だったが、リメイクではその制限も撤廃されていることであるし。

 

「まぁ、ここまで登って来るのが面倒だし、商人の特技『おおごえ』が使えないダンジョンだから回復が必要になると一々街に戻らないといけないのが嫌なのだけれど」

 

 という問題はあったが。

 メイジキメラ4体が現れるが、

 

「今さら!」

 

 メイジキメラの内、1体が先攻しマホカンタを張るが、

 

「無駄無駄無駄無駄ァーーーッ」

 

 小悪魔は王者の剣を振りかざした!

 黒い雨雲が敵を包み込む。

 

 バギクロスの効果、竜巻状に発生した真空の刃がメイジキメラを襲う!

 マホカンタでは道具使用による効果は防げないのだ。

 それでもバギ系呪文に弱耐性を持っているので1体が無効化、そしてもう一体がバギクロス特有のダメージのブレ、低ダメージで済んだことにより生き残り、パチュリーにメダパニをかけてくるが、

 

「効かないわ」

 

 幸せの靴を履くことで運の良さを上げ対抗しているパチュリーには効かない。

 そして彼女が放った炎のブーメランにより終了である。

 次に現れたのが、

 

「ドラゴンです!?」

 

 ドラゴン3体に極楽鳥1羽という群れ。

 

「ドラゴンは催眠とニフラムに完全耐性を持っているわ。でもバギ系に弱耐性だから」

 

 他にもヒャド系、ザキ系、バシルーラ、ついでにメダパニに弱耐性、勇者のデイン系には無耐性と攻撃手段には事欠かない。

 

「なら!」

 

 小悪魔は王者の剣を振りかざした!

 黒い雨雲が敵を包み込む。

 

 バギクロスの効果、竜巻状に発生した真空の刃がドラゴンを襲う!

 弱耐性でも3割で効く無効化で、1体は無傷で済ませるが、

 

「そこっ!」

 

 すかさずパチュリーが炎のブーメランを放つことで、ヒットポイントを削られていた2体を倒しきる。

 そして残った1体は1/2という高確率で使う全体に30~40の炎ダメージを与える火炎の息を放つが、

 

「痛くないです!」

「あなたはね……」

 

 ブレス耐性のある防具を持たないパチュリーはともかく、小悪魔は光の鎧と勇者の盾の持つ、ブレスダメージを2/3に抑える効果、その重複により2/3×2/3=4/9=44.4パーセントまで軽減されるのだ。

 しかしパチュリーにしてみても、

 

「この程度、治療するまでも無く神秘のビキニの自動回復で治ってしまうのだけれど」

 

 という話。

 まぁ、4人パーティだと自動回復能力を持つ装備の数が足りず、治療が必要になるのだろうが。

 ともかく、集団で現れ高確率で吐きまくる火炎ブレスが厄介、というのはドラクエ2と一緒なのだが、全滅すら覚悟しなくてはならなかった前作ファミコン版とは違い、こちらの能力が上がっている分、特に装備が強化されているリメイクでは楽になっているのだ。

 極楽鳥はお得意のベホマラーでドラゴンのヒットポイントを回復させ2回行動ですかさず逃走。

 しかし、

 

「無駄ァアアアアア」

 

 ドラゴンの最大ヒットポイントは120で守備力は75と平凡。

 一匹だけならヒットポイントがフルであっても、小悪魔の王者の剣の一撃で倒しきることができるのだった。

 

「……ストレスでも溜まっているのかしらね?」

 

 首を傾げるパチュリー。

 そしてたどり着く聖堂。

 パチュリーは目の前の石像を眺めた。

 不思議な気品の漂う美しい女神像だ。

 

 そこでパチュリーは袋の中に入れていた妖精の笛を吹いてみる。

 すると、石像が色彩を取り戻すかのように変化し、

 

「ああ、まるで夢のよう! よくぞ封印をといてくれました。

 私は精霊ルビス。このアレフガルドの大地をつくったものです。

 お礼にパチェに、この聖なるまもりをさしあげましょう」

「待ったァ! 勇者は私ですよっ!?」

 

 思わず叫ぶ小悪魔だったが、ルビスは聞かない。

 パチュリーは聖なる護りを入手。

 

「何で私に渡すのかしらね?」

 

 リムルダールでは「聖なる守りはルビス様の愛の証ですわ」という話を聞いていたのだが。

 

「そして、もし大魔王をたおしてくれたなら、きっといつかその恩返しをいたしますわ」

 

 これは勇者の子孫であるドラクエ2の王子たちへの手助け、

 

「わたしを よぶのは だれ?

 わたしは だいちの せいれい

 ルビス です」

 

「あら? おまえたちは

 ロトのしそんたち ですね?

 わたしには わかります」

 

「では わたしは ゆうしゃロトとの

 やくそくを はたすことに

 しましょう」

 

「わたしの まもりを おまえたちに

 あたえます」

 

 と言って『ルビスの守り』を渡してくれることだと言われているのだが。

 なお、ここで持ち物がいっぱいで受け取れないと、

 

「でも きみたちは もちものが

 いっぱいだね。

 でなおしておいでよ」

 

 と一転してフランクな口調で話しかけてくる、お茶目なルビスを目にすることができる。

 これは水門の鍵を持っているラゴスとセリフを共用していたために生じるもので、さすがにリメイクでは無難なセリフに直されていたのだが。

 ともあれ、この場では、

 

「私は精霊ルビス。この国に平和がくることをいのっています」

 

 そう言ってルビスは姿を消してしまう。

 パチュリーは聖なる守りを手に取って見定めた。

 

「まあ! これはかなり珍しいものだわ! これを身に着ければ死の呪文にかかることはなくなるようね」

 

 というように、ザキ、ザラキ、メガンテに対する完全無効化効果がある勇者専用の装飾品。

 さらにリメイクでは運の良さが+30され、その他の状態異常にも強くなるという効果ももたらすものだ。

 

「お店に持って行っても、これに値段はつけられないでしょうね」

 

 という具合に売却できない、値段が付いていないもの。

 もちろん、

 

「大丈夫、呪いはかかっていないわ」

 

 という具合に呪いの品では無いが、リメイクでは道具として使うと、

 

 

 パチェは聖なる守りを握りしめた!

 

 がんばってパチェ……

 わたしはいつでも

 あなたを見守っていますよ……。

 

 ルビスの声が聞こえたような気がした!

 

 

 という効果がある。

 

「パチュリー様がすっかり勇者扱いされているのもアレですけど……」

 

 とげんなりした様子の小悪魔だったが、しかし一転して、

 

「「お前をいつでも見ているぞ」って、ストーカーから贈られたカメラが仕込まれた盗聴器入りのぬいぐるみみたいなものじゃないですか! 違う意味で呪いのかかったアイテムですよね!?」

 

 と叫ぶ。

 しかし、パチュリーは関心の無い様子で、

 

「これ、勇者であるあなた専用のアイテムよ。そもそも、ゾーマ討伐後のエンディングにおいて、後に『ロトのしるし』と呼ばれるようになったと語られているものなんだから」

 

 と小悪魔に聖なる守りを押し付ける。

 

「うぇえええっ!?」

 

 叫ぶ小悪魔。

 

「リムルダールには「聖なるまもりは、精霊ルビスさまの愛のあかしですわ」と言っていた女性が居たけれど」

 

 とパチュリー。

 

「久美沙織先生の『ドラゴンクエスト 精霊ルビス伝説』の設定では、ロトはルビスの夫であり、聖なるまもりは転生を繰り返すロトに変わらぬ愛を確認するもの、になるわ」

 

 ということ。

 しかし小悪魔は、

 

「だからそれって、前世どころか、その前から、未来永劫つきまとうストーカーそのものじゃないですかっ!?」

 

 と絶叫する。

 パチュリーは彼女をなだめるように、

 

「ちなみにファミコン版だとルビスは封印を解いてもアイテム枠が一杯で聖なる守りを渡せる空きが無いと「もてるようになったら、またきてください」と言ってわざわざ再び封じられてしまうのよ」

 

 と語る。

 アイテムの空きが無いと対応がお茶目になるのはファミコン版のルビス共通の特徴なのだろうか?

 また、ファンからは「好きで封印されているのだろうか?」という疑問の声もあったものだが、

 

「ルビスは『状態異常』『固め』と言われる性的嗜好を持つ『石化』され好きのマゾだった……?」

 

 などと、とんでもないことを語り始める小悪魔。

 

「何の話よ!?」

「拘束や無力化などの延長に当たるSM的表現ですね。魔法的な手段抜きだと硬質な材質に閉じ込められる、例えば石膏で全身を固められ身動き一つとれない石膏像にされてしまうパターンなんかがありますが」

 

 という具合に、ある種の特殊な性的嗜好を持つ者に好まれる表現であるのは事実なのだが、パチュリーには理解しがたいニッチ過ぎる性癖の話であった。

 

「大精霊とも言われ、このアレフガルドを創造したほどの力を持つルビスがなぜ封印されてしまったのか? おそらくこの異常嗜好をゾーマに突かれ、自分の性的欲求に逆らえずに自ら身を堕とした……」

 

 まるで真実を語るかのように確信を込めて話す小悪魔。

 

「実際には自力でどうにでもできるのだけれど『封印されてしまった』というシチュエーションを演じることで、己の体面を守りながらも貶められる状況を愉しんでいる。だから「もてるようになったら、またきてください」なんて言ってわざわざ自分の意志で石化状態に戻ったりするんです。それだけの余裕があるってことですね」

 

 と、自説を展開する。

 

「昭和の時代に作られた、小学生もプレイする全年齢ゲームにこんな濃い性癖を突っ込んで、その後もアッ〇ルチェックがあろうとも自粛して削除したりせずに頑として残し続ける。さすがはエロゲーを作っていたこともあるエニックスさんですね!!」

「無茶苦茶言わないで頂戴っ!」

 

 とパチュリーがツッコむが、小悪魔の暴走は止まらない。

 

「ドラクエ5のヒロイン、ビアンカたち王妃が石化されてしまうのも、その延長線上なんでしょうね。敵に石化され、完全無力化された上、モブの盗賊の兄弟に売り払われる。『状態異常』『石化』という特殊性癖を織り込みつつも、それが一般的ではないということを逆利用してCERO:A、全年齢対象のゲームに人妻ヒロイン、それも王妃の人身売買を平然とブッ込む!」

 

 さすがエニックスさん!

 並みのメーカーにはできない事を平然とやってのけるッ

 そこにシビれる! あこがれるゥ!

 

 とばかりに賛美する小悪魔。

 

「最終的には光の教団の総本山の大神殿に置かれ、その肢体を晒し物にされますが、それまでの過程でいかがわしい用途に使われたのは自明の理」

「妄想が過ぎるでしょう!?」

 

 考え過ぎだとパチュリーは呆れるが、

 

「だってパチュリー様、石化した主人公の方はオークションで2000ゴールドと安価で買い叩かれるのに対して、モブの盗賊兄に「ホントだ! こいつは色っぺえ石像だな!」って言われた妻の方は「アテがある」なんて意味ありげに言われて別ルートに流されるんですよ。これはどう考えても、そういう相手と取引があったっていう暗示じゃないですか!」

「ああ、そう……」

 

 もう、何を言ってもダメだろうと、諦めるパチュリー。

 なお、リメイクだと主人公の石像の売却価格は最初のスーパーファミコン版の10倍の20000ゴールドに跳ね上がっているのだが、それはどうでもいい話である。

 

 ともあれ、これで太陽の石、雨雲の杖、聖なる守りが揃ったので、聖なるほこらで虹のしずくを作ってもらうことができる。

 

「でも、今はメダルの交換ね」

 

 小悪魔のリレミトで塔の外に出た後、ルーラでアリアハンへ。

 小さなメダル100枚で引き換えられる最後の景品、グリンガムのムチを得る。

 3本に分かれたムチの先端に鏃のようなものが付いていて、

 

「グリンガムのムチは勇者、戦士、遊び人、盗賊、賢者が装備可能なグループ攻撃武器で、攻撃力は+105。遊び人にとっては最強の武器だし、ゾーマ戦前なら盗賊、賢者にとっても単体攻撃武器も含めて一番攻撃力の高い武器になるわ」

 

 グループ攻撃武器は会心の一撃が出なくなるが、リメイクではゲームボーイカラー版を除き、バイキルトをかけると会心の一撃が出なくなるため、あまり大きな影響は無い。

 

「マイラのすごろく場の二つ目のゴール、ゲームボーイカラー版ではさらに氷の洞窟の宝箱からも入手できるものだったんだけれど」

「ゲームクリア後なら破壊の鉄球が得られますよね?」

「そうね、さらに破壊の鉄球はジパングのすごろく場で何もないマスを調べるとまれにだけれど得られる、量産できるものだから、グリンガムのムチの価値は下がるはずなのだけれど……」

 

 しかし、

 

「すごろく場の無い携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版では、グリンガムのムチはこのとおり小さなメダル100枚と引き換えの一品ものになったし、破壊の鉄球も一つしか手に入らなくなったから、ゲームクリア後も価値を持つようになっているわ」

 

 それに、

 

「そもそも、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版であっても、アイテムドロップの対象である最後に倒す敵を残すのに全体攻撃の破壊の鉄球は向かないから、需要はあるのだけれどね」

 

 特にゲームボーイカラー版では盗賊が盗む対象も最後に倒したモンスターのみとなっているし、固有の要素であるモンスターメダルも最後に倒したモンスターのものが手に入る仕様なので、グリンガムのムチが二つ手に入るようになっているのは幸い、とも言えるだろう。

 

「さて、それじゃあ久々に精算してみましょうか」

「うぐっ!?」

 

 放置されていたものだが、そろそろやっておくべきだろう。

 前回、リムルダールで買い物をした後の二人の所持金は、

 

小悪魔:20241G

パチュリー:731230G

 

 これにここまでの収入、不用品などを売り払い、足した金を分配して、

 

小悪魔:49548G

パチュリー:760537G

 

「すっ、凄いお金ですっ!」

「ルビスの塔で拾った雷神の剣の売却が効いているのよね」

 

 ということ。

 

「あなたは勇者の盾、光の鎧、グリンガムのムチを得たけれども、これは二人に所有権があるものだから、その売却価格の半額を私に払う必要がある」

 

 すると、

 

小悪魔:15798G

パチュリー:794287G

 

「一気に減りましたー」

「でもあなたはドラゴンシールド、魔法の鎧、魔法のビキニ、命の指輪、ドラゴンテイルが不要になるから。これらを私が買い取ると」

 

小悪魔:32098G

パチュリー:777987G

 

「あら、オルテガの兜を売れば、グレートヘルムが買えるじゃない」

 

 ということで、リムルダールの武器屋に行って購入する。

 結果、

 

小悪魔:3248G

パチュリー:777987G

 

 という結果に。

 そして小悪魔は、またすっからかんになった所持金に、

 

「ま、マイナスじゃないけど。し、借金は無いけれど……」

 

 と震えることになるのだった。




 これでルビスの塔の攻略も完了ですね。

> アイテムの空きが無いと対応がお茶目になるのはファミコン版のルビス共通の特徴なのだろうか?
 この辺の通常は目にしないメッセージとか、意外な一面が見れて面白いですよね。
 まぁ、小悪魔の妄想はアレでしたが。

 次回は聖なるほこらで虹の雫をゲットする予定です。
 なお、ついでのあなほりでパチュリー様はついに…… やっちゃう予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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聖なるほこらで虹の雫を いともたやすく行われるえげつない金持ち的行為

 太陽の石、雨雲の杖、聖なる守りが揃ったので、聖なるほこらで虹のしずくを作ってもらうことができる。

 

「聖なるほこらへは、ここ、リムルダールから船で行くのが定番だけれども」

 

 とパチュリー。

 

「リムルダールの東に停泊している船に向かうには、岩山が邪魔になるので大きく迂回して森林地帯を抜けて行かなければならないわ」

 

 ということなので、

 

「実はドムドーラの街にルーラで跳んで、その西海岸に停泊している船に乗って行った方が、エンカウント回数は少なくなるの。特に途中にある精霊のほこらでエンカウントリセットできるのなら」

「なら、そちらから向かいます?」

 

 と問う小悪魔だったが、パチュリーは首を振る。

 

「ここ、リムルダール周辺には高い確率ではぐれメタルが出るわ。どうせならレベル稼ぎができた方がいいでしょう?」

 

 ということ。

 

「そもそも、ドムドーラからのルートだと海路が長くなる分、海のモンスターとのエンカウント回数が多くなるわ」

 

 つまり、

 

「イカ釣り漁船コースになるけどいいの?」

 

 という話であった。

 そんなわけで小悪魔は、はぐれメタル対策に誘惑の剣と刃の鎧、それからレベルアップに備えてのパワーベルトを用意。

 また、パチュリーに、

 

「リムルダール周辺に出るのはキメラ、ダースリカント、はぐれメタル、マドハンド、スカルゴン」

 

 と教えられ、

 

「魔法を使って来るのは、はぐれメタルのみ。なら、魔封じの杖も要りませんね」

 

 どうせ、はぐれメタルは完全耐性を持っているので効かないのだし。

 一方、パチュリーは、

 

「私は、はぐれメタル対策には誘惑の剣と隼の剣ね。耐ブレス装備は持っていないから、防具は守備力重視で」

 

 そうやって準備をした上で、リムルダールを出る。

 まず現れたのは、マドハンドとダースリカントが2体ずつの群れ。

 

「マドハンド絶対殺す剣!」

 

 小悪魔が雷神の剣のベギラゴンの効果でマドハンドを焼き尽くし、

 

「動物系のモンスターは寝やすいのがいいわね」

 

 パチュリーが眠りの杖で眠らせる。

 後は次のターン、ダースリカントは火炎呪文に弱耐性なので、小悪魔の雷神の剣のベギラゴンの効果で削った後、パチュリーが炎のブーメランを投げれば試合終了である。

 そして、

 

「またですか!?」

 

 今度はダースリカント二匹が先頭で、後にマドハンド2体が続くという群れ。

 しかし、

 

「これなら、あなたは稲妻の剣でいいわ」

 

 とパチュリー。

 稲妻の剣のイオラの効果で全体攻撃を仕掛ければ、それだけでマドハンドは全滅。

 生き残ったとしてもパチュリーの炎のブーメランで倒すことができる。

 ダースリカントの方もイオラが効けば、後は炎のブーメランの攻撃で倒しきることが可能。

 弱耐性の呪文が効かなかったら反撃を受ける、という点では、先ほどの戦闘で用いた、パチュリーが眠りの杖を使い、小悪魔が雷神の剣でマドハンドを倒した戦術と変わらないし、効けば1ターンキルできるという点で、有利。

 そうしてあっさりと全滅させる。

 そして次は、

 

「またクマさん!?」

 

 森の中、クマさんに出会う確率高過ぎ、という話でダースリカント2体。

 

「そう言えば、あなた、グリンガムのムチでグループ攻撃のダメージも上がっていたわよね?」

 

 そういうわけで小悪魔は、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 とグリンガムの鞭で攻撃。

 それにパチュリーの炎のブーメランの攻撃を重ねると、あっさり全滅させてしまう。

 そうしてようやく、

 

「スカルゴンさんです!」

 

 クマ以外、スカルゴン3体の群れに遭遇する。

 

「ここは安全策ね」

 

 というわけで、無耐性の小悪魔の雷神の剣のベギラゴンの効果でヒットポイントを削り、弱耐性のパチュリーの眠りの杖の催眠効果で、

 

「全部眠ったわ」

 

 ターン中に1匹が起きてくるが、このターンは何もできない。

 次のターンも雷神の剣と眠りの杖だが、

 

「生き残ったわね」

 

 ベギラゴンの効果がたまたま低かったために1体が生き残る。

 とはいえ、眠っているので何もできず。

 起きていたとしてもパチュリーが安全策で使用した眠りの杖で眠らされていただろうが。

 あとは、

 

「殴ってお終い……」

「一応、スカルゴンは回避値1。ごくまれに攻撃を躱す可能性があるのよ」

 

 これはひらりとかわすというより、剣や槍などの攻撃だと骨の間をすり抜けてしまうことがある、その再現なのだろう。

 テーブルトークRPGなどではスケルトン系のモンスターには剣や槍や矢などがあまり効かず、メイスなど打撃系の武器が有効であるとされることも多いのだし。

 ということで念のため引き続き小悪魔は雷神の剣を、パチュリーは雷の杖を使うことにして、

 

「お終いです!」

 

 無事、倒しきる。

 しかし、

 

「船の停泊位置、南過ぎじゃない?」

 

 リムルダールの岩山を北側から迂回して海岸線に出なくてはいけないのに、船が停泊しているのはリムルダールより南側。

 

「リムルダール南のモンスターエリアに入ってしまうわよ」

 

 という話。

 

「リムルダール南に出現するのは、ダースリカント、キメラ、グールに加え、魔王の影に地獄の騎士、爆弾岩」

「聖なる守りが早速役に立ちますね」

「あとは……」

 

 船を目前にゴールドマン2体、グール2体、魔王の影1体が現れる。

 

「ゴールドマンなのよね」

「お金えぇぇぇぇっ!!」

 

 というわけで戦闘である。

 お金持ちモンスター、ゴールドマンは判断値0とバカなので、こちらのレベルに関係なく1/4の確率で逃走するモンスター。

 しかし、

 

「逃がしませぇん!」

 

 催眠に弱耐性なので、金に目がくらんで興奮状態の小悪魔の眠りの杖で眠らされてしまう。

 そしてパチュリーはというと、

 

「甘い息が厄介な魔王の影を始末しておくわ」

 

 と、隼の剣で魔王の影を2回攻撃、倒してしまう。

 あとはグールにゾンビマスターを呼ばれると厄介なのだが、

 

「魔王の影を倒して空いたスペース程度ではゾンビマスターは呼べないわ!」

 

 ゾンビマスターは細い身体のわりに手足と杖を振り上げ、攻撃モーションもそれを振り回す様にするので、割とスペースを取るのだ。

 しかし、

 

「くっ、マヌーサを受けてしまったわね」

 

 グールのマヌーサにより、パチュリーは幻に包まれ、攻撃の半分が外れてしまうようにされてしまう。

 それでも、

 

「ゴールドマンもグールも火炎系呪文には無耐性」

 

 なので、小悪魔の雷神の剣、稲妻の剣、さらにはパチュリーの雷の杖の呪文効果で倒しきってしまう。

 

「大金が入りました!」

 

 ゴールドマンは一体1023ゴールドの金を落とす。

 それが2体だが、

 

「……けど、パチュリー様が短時間で気軽に高額アイテムを掘り当てているのを見慣れていると……」

 

 全然、儲けた気にならないのだった。

 そして、ようやく船で出港。

 船で南下し、リムルダール南に位置する聖なるほこらに。

 初代ドラクエでは橋がかかっていてリムルダールから歩いて行けたのだが、この時代にはまだその橋が無い。

 

「近くに一マスだけの島がありますね」

 

 何だか意味ありげなのだが、

 

「何も無いわよ」

 

 出現するモンスターも、遊び人の特技の『くちぶえ』や銀の竪琴の魔物を呼び寄せる効果を使えば分かるが、リムルダール南のものであるし、特に変わったところは無いのだ。

 そんな話をしつつ、聖なるほこらがある島に上陸。特にモンスターとの遭遇も無くほこらへと到着。

 ほこらの中心に居る神父に話しかけると、

 

「ここは聖なるほこら。よくぞ来た! 今こそ雨と太陽があわさるとき。そなたにこの虹の滴をあたえよう!」

 

 と、虹の雫を渡してくれる。

 その代わり所持品リストから太陽の石と雨雲の杖が消えてしまうが。

 この虹の雫、使ってみると、

 

 パチェは虹の雫を手に取って眺めた。

 虹の雫の中心から七色の光が漏れている。

 正しい場所で使えば何かが起きそうだ。

 

 というようなメッセージが出る。

 なお、リメイクでは虹の雫を受取った後に神父に話しかけると、

 

「もはやここには用が無いはず。行くがよい」

 

 という答えの後、

 

「ちなみにわしの後ろにある宝箱はもう空っぽだから気にすることは無いぞ」

 

 と教えてくれる。

 実際、盗賊のレミラーマの呪文を唱えてもこの宝箱は光らないので本当に空っぽなのだろう。

 ファミコン版の時から彼の背後にあって、しかしたどり着けないため開けることができなかったもの。

 気になって仕方が無いというプレイヤー向けに、リメイクで追加されたセリフらしかった。

 

「あとは、ここの十字架もどきの前では小さなメダルが拾えるのだけれども」

 

 もう、100枚まで揃えて景品を取り尽くしてしまったので意味が無い。

 せいぜい、110枚すべて集めるとクリア後に行けるゼニスの城に居る詩人から『キングオブ勇者』と言われるぐらいで、アイテムなどを受け取れるわけではないのだ。

 

「まぁ、拾っておくけれども」

 

 そうして用事を終え、ほこらを出て、ついでに5回だけ、あなほりをするのだが、

 

「命の石が出たわね」

 

 ここでは魔王の影や爆弾岩が出現するからそのドロップアイテムだ。

 そして、

 

「あ……」

 

 思わず声を漏らすパチュリー。

 

「何が出たんです!?」

 

 と小悪魔は聞くが、

 

「所持金の半額を掘り出したのだけれど」

 

 あなほりを始めた時の所持金は785271ゴールド。

 これの半額、392635ゴールドを見つけたわけであるが、

 

「ドラクエ3の所持金の上限って999999ゴールドだったのよね」

 

 見事、上限に引っかかってしまったのだ。

 

「上限を超えるとどうなるんです?」

「知らないのかしら」

 

 と、小悪魔を見やるパチュリーは、当たり前のことを告げる。

 

「無かったことになる」

「はいいぃぃぃっ!?」

 

 上限の999999ゴールド以上にはならないから、超えた分は無かったことにされるのだ。

 

「アリアハンのルイーダの店にあるゴールド銀行を利用しておけば良かったわね」

 

 という話。

 

「もったいないィィィィッ!!」

 

 速攻でルーラを唱え、アリアハンに跳ぶ小悪魔だった。




 はい、ドラクエ3で所持金をカンストさせたことが無かったので上限がうろ覚えだったんですけど、いつの間にか超えちゃいましたね。
 カンストさせるにはあなほりで所持金の半額を出し続けるのが最速と言われていますけど、まさか狙ってもいないのに達成してしまうとは驚きです……

 次回はいよいよゾーマの城へ乗り込みます。

 太くてかたぁいモノで責められるパチュリー様再び。
 蘇る異常経験の記憶と快楽!

 をお届けする予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ゾーマの城へ 太くてかたぁいモノで責められるパチュリー再び

 アリアハンのルイーダの酒場に併設されているゴールド銀行を訪れるパチュリー。

 

「ファミコン版にあった預り所でもアイテムには保管料がかかってもゴールドは無料で預けられたように、損にはならないけれど、でも普通の銀行と違って利子もつかないわ」

「損はしないけど得にもならない? 普通のプレイヤーなら使ったことのない、ずっと縁のないような施設ですね」

 

 首をひねる小悪魔。

 

「パチュリー様のように所持金をカンストさせてしまったので使うという方なんて、そうは居ないでしょう。需要はあるんですか?」

 

 という話だったが、

 

「ドラクエでは全滅すると勇者が生き返る代わりに所持金が半減するでしょう? そうなっても預けておいた分は無事だから、積極的に利用する、預けておいて死に戻りを利用したデスルーラをする、なんてプレイもアリなのよ」

 

 ということ。

 

「まぁ、私たちは安全策を取って余裕をもってプレイしているから全滅には程遠いことと、あなほりで所持金の半額を掘り当てた時の利幅が大きくなるために今まで利用しなかったのだけれど」

 

 1000ゴールド単位で預けられるので、899000ゴールドを預け、手元には一応100999ゴールドを残しておくことに。

 その上で、

 

「思ったのだけれど」

「はい?」

「もう、所持金管理はあなたの分だけ計算しておけばいいんじゃない?」

 

 パチュリーは欲しいものがあれば何でも買える状態なので。

 小悪魔の所持金だけ計算して、残りはパチュリーのもので良いだろうという話。

 

「それはそうかも知れませんが……」

 

 そうやって現在の小悪魔の所持金を計算すると、5266ゴールド。

 

「おお、ちょっぴり増えてます」

「ゴールドマンを倒したものね」

 

 ということで、ここから再スタートだ。

 

「でも私も、もう買うものが無いと思うんですけど」

「今のあなたの力の能力値でも、守備力ゼロのバラモスゾンビに対しては、王者の剣より隼の剣の方が与えるダメージは多くなるわよ。祈りの指輪を買ってもらうのもアリだし、命の石だって……」

「はい? 即死呪文は聖なる守りで完封できるんですよね?」

「でも聖なる守りを身に着けたら、他の装飾品の効果が得られないわよ」

「ああ、命の石なら他の装飾品と併用できる?」

「そう。防げるのは1回だけだけれど、リメイクでは状態異常攻撃の成功率が下げられているから、それでも十分でしょう」

 

 というわけで、まだ買った方が良いものはあるのだ。

 しかし、

 

「ともあれ虹の雫も手に入ったし、次はいよいよゾーマの城よ」

 

 小悪魔のルーラでリムルダールへ跳び、西へ。

 途中、ダースリカント二匹、マドハンド二体、キメラの群れに出くわすが、

 

「全体攻撃で仕留めるわよ! でもあなたはそろそろレベルアップだから」

「装飾品はパワーベルトに切り替えですね!」

 

 パチュリーの炎のブーメランが敵全体を薙ぎ払い、マドハンド1体はこれだけで倒される。

 しかし、星降る腕輪を外した小悪魔の行動は遅く、

 

「さすがに食らうと痛いのよね」

 

 ダースリカントの打撃はパチュリーに25ポイント前後のダメージを与える。

 まぁ、今のパチュリーの最大ヒットポイントからすると全然大丈夫なのではあるが。

 そうして軒並み攻撃を受けた後で、小悪魔が稲妻の剣を振りかざし、全体攻撃呪文、イオラの効果で攻撃する。

 これでイオラの効果を無効化したキメラを残して倒される。

 

「これならパワーベルトへの切り替えは次のターンでも良かったですね」

 

 とつぶやく小悪魔だったが、

 

「キメラは火炎呪文に弱耐性、無効化の確率は3割しか無いから、このターンで倒せていた確率も低くは無いから」

 

 と、パチュリーにたしなめられる。

 そして次のターンでキメラが斬り捨てられて終了。

 小悪魔がレベル39に。

 

ちから+4

すばやさ+3

たいりょく+8

かしこさ+2

うんのよさ+2

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:39

 

ちから:153

すばやさ:222

たいりょく:191

かしこさ:93

うんのよさ:111

最大HP:352

最大MP:185

こうげき力:273/258

しゅび力:303/276

 

ぶき:おうじゃのけん/グリンガムのムチ

よろい:ひかりのよろい/やいばのよろい

たて:ゆうしゃのたて/まほうのたて

かぶと:グレートヘルム

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト/せいなるまもり

 

 

「パワーベルトで性格を『タフガイ』に切り替えたおかげで、最大ヒットポイントがどんどん増えますね」

 

 ニコニコ顔の小悪魔。

 そして森を抜け進んだ先の平原で現れたのは、

 

「はぐれメタルです!」

 

 はぐれメタル、キメラ、マドハンド各1体の群れ。

 小悪魔は反射によるダメージを期待して刃の鎧を装備。

 誘惑の剣をパチュリーはマドハンドに、小悪魔はキメラに使うが無効化され、

 

「どちらも弱耐性なのに!」

 

 挙句、はぐれメタルに逃げられる。

 しかも、

 

「まじんはひまじん!?」

 

 叫ぶ小悪魔。

 マドハンドに大魔神を呼ばれてしまった。

 

「こうなったら!」

 

 パチュリーは炎のブーメランで大魔神にダメージを与えつつ、キメラ、マドハンドを一掃。

 小悪魔は眠りの杖で大魔神を眠らせようとするが、

 

「眠りません!?」

 

 大魔神は催眠に対し弱耐性、3割の確率で無効化してくるのだ。

 そして大魔神の二回攻撃を受け、

 

「二度もぶった! パチュリー様にもぶたれたことないのに!」

 

 そう叫ぶ小悪魔。

 

「それは、ぶったりしたことは無いけれど」

 

 とパチュリー。

 しかしそれは、ぶつ方の手も痛いからしないだけで、別の、もっと効果的な方法でなら何度もお仕置きをしているのだが。

 ともあれ、次のターン眠りの杖を使って二人がかりで眠らせた後、小悪魔の王者の剣とパチュリーの隼の剣で斬りかかるが、

 

「あっ……」

 

 それだけで倒してしまう。

 

「眠らせなくても倒せたのね」

 

 という話。

 

「と言いますかパチュリー様、隼の剣が強すぎです」

 

 それが無かったら倒せなかっただろう。

 そして山地を超え、砂漠地帯に入ったところでキメラ4体に遭遇。

 しかしキメラはバギ系に無耐性のため、小悪魔の王者の剣のバギクロスの効果でなぎ倒され、たまたま低ダメージが出て生き残った一匹もパチュリーの炎のブーメランに止めを刺される。

 そしてこの砂漠地帯の南端を西に、山地にぶつかるまで進み、

 

「ここから西は、ラダトーム北東部と同じモンスターエリアになるのよね」

 

 そこから北上し、ギリギリまでリムルダール周辺のモンスターエリアを進むが、エンカウントは無く。

 メタルスライムとの遭遇が期待できるのはここまでということだった。

 そして西へと足を踏み入れる。

 

「ここで現れるのは動く石像にマドハンド、サラマンダーにアークマージだけれども」

「アークマージ!」

 

 ラダトーム北の洞窟でも出現するモンスターだったが、そこでは呪文が封じられているため問題は無かった。

 無論、この場ではその制限が外れ、能力をフルに発揮してくるのだが……

 

「もっとも、ここでは単体で現れるから苦戦はしないでしょう」

 

 ということだった。

 そしてパチュリーたちはリムルダール西端の岬に到着。

 パチュリーは虹の雫を天にかざした。

 ゾーマの城がある島への橋がかかる。

 

「虹の橋って、何だかロマンチックですよね、パチュリー様」

「途中で消えてしまいそうだけれどね」

「ヤなこと言わないでください!」

 

 そんなことを言いながらも渡り切ったところでマドハンドと動く石像に襲われる。

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔のグリンガムのムチが動く石像に大ダメージを与え。

 さらにパチュリーの炎のブーメランがマドハンドを全滅させた上、動く石像にダメージを積む。

 動く石像が攻撃してくるが、

 

「今さら攻撃力140程度では!」

 

 痛くない。

 仮に1/8の確率で放ってくる痛恨の一撃を受けたところで今の二人のヒットポイントなら問題は無いのだし。

 そして次のターン、再び小悪魔のグリンガムのムチが炸裂し、動く石像を倒しきる。

 

「あれ? ゾーマの城のある島に渡り切ったのに……」

 

 何で今さらこの程度のモンスターが?

 と首を傾げる小悪魔だったが、

 

「そう、ゾーマの島の北半分は、ラダトーム北東部と同じモンスターエリアになるの」

 

 ということ。

 そうして砂漠地帯を超え山地に足を踏み入れる二人だったが、そこにモンスターの群れ、マドハンドと動く石像各一体に遭遇する。

 だが、

 

「先制されました!」

「不味いっ!」

 

 敵が少ないということは、マドハンドが大魔神を呼べるスペースがあるということ。

 優先行動に指定されているため200/256、約8割の確率で大魔神を呼ぶし、実際呼ばれてしまう!

 

「まったく……」

 

 そんなわけでパチュリーたちの対応だが、まず、もうこれ以上大魔神を呼ばれぬよう、小悪魔がマドハンドを倒す。

 そして、

 

 パチュリーは誘惑の剣を振りかざした!

 剣からピンクの霧が流れ出す!

 

 大魔神は頭が混乱した。

 

「大魔神は催眠にも混乱にも弱耐性なのよね」

 

 混乱した大魔神の攻撃が動く石像を襲う!

 一発で99ポイントのダメージ。

 しかし、大魔神の攻撃は止まらない。

 二発目、82ポイントのダメージを与えて動く石像を瀕死の状態にまで追い込む。

 動く石像はパチュリーに16ポイントのダメージを与えるが、そこまでだ。

 次のターン、パチュリーたちは大魔神に攻撃。

 大魔神は動く石像に止めを刺し、最後の一体になったので通常どおりの行動が可能となり、

 

「あいたーっ!」

 

 小悪魔を殴り倒す。

 

「ランダムで1~2回行動だから、半分の確率に賭けたのだけれど」

 

 ダメだったようだ。

 しかしまぁ、次のターンで斬り倒して終了である。

 そして、

 

「この山地が終わってその先から南はフィールド最強のモンスターたちが出る魔の島南部と呼ばれる地域よ。自信が無かったら、マジックパワーの消費を抑えたかったら、ギリギリ手前でうろついてこちらの弱いモンスターと遭遇してから行けば、エンカウントを最少にできるけれど」

「けれど?」

「これぐらいでびくついていたら、ゾーマの城になんて潜れないでしょう?」

 

 ということなので、小細工無しに突っ込む。

 平原を超え、毒の沼地に。

 そうして現れたのは、

 

「トロルキングとあれは…… 何でしたっけ?」

「マクロベータね」

 

 良かった、マイナーモンスターの代名詞、マクロベータにも再度、出番があったんだ、という話。

 

「どっちも紫色で、毒の沼地がさらに毒々しくなってますね」

 

 と小悪魔が漏らしたとおりの絵面だったが、

 

「トロルキングは下位種のトロルやボストロールよりも攻撃力が低く、しかも痛恨を使用しない。その上ヒットポイントはトロルと同じという相手」

 

 リメイクでは攻撃力が135→150と上がっているが、それでもトロルの攻撃力155に負けている。

 

「もっとも、50ポイントのヒットポイント自動回復があるし、ザキ、メダパニに強耐性、すべての攻撃呪文に弱耐性が付いているしで、タフさは上がっているわね」

 

 そして、

 

「3/8という高確率でバシルーラを使ってくるのが面倒な相手よ」

 

 以前、ラダトーム北の洞窟で出現した際には呪文が封じられていたため問題は無かったのだが。

 

「マホトーンに弱耐性だから呪文を封じても良いのだけれど、その場合、判断値が最高の2で頭がいいから即座に打撃のみに切り替えてくるわ」

 

 またリメイクでは何故かモンスターレベルが41から57とかなり引き上げられているため、レベル50台になっても確実には逃げられないようになってしまった。

 

「でも1体。しかもお供が無視しても問題ないマクロベータではね」

 

 小悪魔の王者の剣と、パチュリーの隼の剣の二回攻撃でトロルキングはあっさり昇天。

 マクロベータは小悪魔にメラミを唱えるが、

 

「痛くなーい!」

 

 小悪魔は光の鎧が持つ呪文耐性で攻撃呪文のダメージを2/3に軽減することができるのだ。

 そして次のターンに斬り倒して終了である。

 しかも、

 

「毒の沼地を抜けたら、このモンスターエリアは終了なのよね」

 

 実際、平原が5歩、毒の沼地が11歩しかない。

 毒の沼地は森と同じで平原1歩に対し1.8歩の計算になるので、平原換算で、

 

5+11×1.8=24.8歩

 

 一般的な平原の場合、1~49歩目にエンカウントすると言われているので、直前にエンカウントして突入すれば、リアルラック次第で素通りできる。

 そして通り過ぎればまたラダトーム北東部と同じモンスターエリアになるのだ。

 なお、

 

「マクロベータはリメイクではゾーマの城からリストラされてしまったから、これで出番はお終いね」

「それじゃあ、このままゾーマを倒してしまったら……」

「ゲームクリアまでに遭遇したのは、こことメルキドに向かう途中に出合った、たった2回だけということになるわね」

 

 さすがマイナーモンスターの代名詞、という話ではあるが、

 

「何だってまた、こんなキャラが生まれてしまったんですかね?」

 

 マクロベータは通常攻撃の他にメラミ、スクルト、ベホマ、ふしぎなおどり、ほのお(リメイク版ではひのいき)、腐った死体を呼ぶ、逃げる、と合計8種類もの技を持つ技のデパートとも言うべき相手なのだが、実際には一つ一つが貧弱で、ただの器用貧乏になっているもの。

 攻撃魔法は今さらなメラミ、攻撃力はマドハンド以下、吐く炎はイシス周辺で出ていた火炎ムカデと同じ6~9という低ダメージ、呼ばれる仲間はその系統で最下位種の腐った死体。

 無限のマジックパワーで自分のヒットポイントが半減したら優先行動に指定されているベホマで全快する、というといやらしく感じるかもしれないが、下位種と違って回復の対象が、攻撃力が貧弱な自分限定という時点でお察し。

 つまり行動が多彩なだけで、対策を必要とするような厄介なもの、危険度の高いものを何一つ持たず、回復やマホトラ連発が鬱陶しい下位種のようなインパクトも皆無。

 ついでに言えば、リメイクで下位種は4体まで同時出現するようになり脅威度が増したが、マクロベータはファミコン版同様2体までのままなのでますます印象が薄まるといった具合である。

 

「そうね、改めて考えてみたのだけれど、おそらく最大ヒットポイント150と無限のマジックパワー、優先行動に指定されたベホマでの全回復でなかなか倒せないようにした上で、嫌がらせをすることを狙ったのでしょう」

 

 とパチュリーは考察する。

 

「ファミコン版ではスクルトを唱えるのは地獄のハサミ以外にはこいつだけで、しかもその場に居るモンスターすべての守備力を元と同じ数値だけ上昇させるという壊れ性能のものだったわ。それで一緒に現れる敵を強化されると大変だし、2体までしか現れないのも、仲間と一緒に出現させる、そのスペースを確保するためだとも取れる。そしてマクロベータが現れるのは長丁場が予想される場所ばかりのため、不思議な踊りでマジックパワーを減らされるのも痛い」

「低い攻撃力、ブレス、魔法、仲間を呼ぶなんかのしょぼい行為はどうなんです?」

「元々、この系列のモンスターは高い攻撃力なんて持たない、嫌がらせに特化したものだったでしょう? あえて言うなら挑発行為を意図して入れられた……」

「ああ、モンスターから手加減された『舐めプ』、舐めたプレイを受けているような屈辱をプレイヤーに与えるためのものですか」

 

 そう考えると確かにいやらしいか。

 

「ただ、長丁場になる場所というのは、プレイヤーからすれば何度も来たくはない場所。利便性の悪い場所になるから、一度通ったら再び訪れることが無いということになり、出現機会が極小になった」

 

 そして、

 

「マクロベータの素早さは72と微妙に高くて、素早いキャラなら先攻できるけど、遅いキャラだと先攻されがち。ファミコン版なら素で素早いのは武闘家のみ、素早さを上げる手段は星降る腕輪か、リメイクより圧倒的に入手できる数が少ない素早さの種のみなのだし」

 

 そして、

 

「判断値は1なのだけれど、これが下位種で同様にベホイミによる治療が優先行動に指定されていたシャーマンと同じ2だったらどうかしら?」

「2だと、自分の行動順が回って来た時に行動が決まるんですよね?」

「そう、その時に自分のヒットポイントが最大ヒットポイントの1/2以下だったら優先行動のベホマで全回復されてしまうとなっていたら?」

 

 つまり最大ヒットポイント150で素早いキャラからの攻撃を耐え、遅いキャラが攻撃する前にベホマで全回復することでダメージの蓄積を阻害するということになる。

 

「それじゃあ、いつまで経っても倒せないじゃないですか」

「そうね、だからそれでは理不尽過ぎるということで、バランス調整の段階で判断値を1に下方修正したのではないかしら?」

 

 ということ。

 

「ところが実際には想定より訪れるプレイヤー側のレベルやプレイスキルが高くてベホマで回復する間もなく倒されてしまった」

 

 判断値2では強すぎ、1では弱すぎた。

 バランス調整が失敗したというよりは、ピーキー過ぎて調整しきれなかったということだろうか。

 ともあれ、

 

「だから記憶にも残りにくい、みたいなことではないのかしら」

「なるほど?」

 

 というパチュリーの推測であった。

 そんな話を交わしながら進むと、

 

「ゾーマの城です!」

 

 とうとうゾーマの城が。

 だが、周囲を囲む毒の沼地に足を踏み入れ、あと一歩で到着、というところで、

 

「動く石像!?」

 

 動く石像3体の群れに行く手を阻まれる。

 しかし、

 

「眠らせる価値も無いのよね」

 

 どうせ小さなダメージしか受けないのだし、自動回復もある相手なので多少の反撃は無視して、小悪魔のグリンガムのムチとパチュリーの炎のブーメランを連発し倒しきる。

 そうしてようやくゾーマの城へ。

 

「まずは時計回りに進みましょう」

 

 ゾーマの城1階は入り組んでいる。

 回廊を西に進んだ後に、北上。

 そこに、

 

「ライオンさんです!?」

「青いタテガミ…… ライオンヘッド、ラゴンヌの上位種、マントゴーアね」

「青ヒゲさん!?」

 

 緑の身体に真っ青なタテガミを持つマントゴーア3体の群れだ。

 マンティコアが由来と言われるモンスターで、メラゾーマ、バギクロス、マホカンタをそれぞれ1/4の確率で放ってくる。

 ボスも含めモンスター中、唯一バギクロスを使って来る相手なのだが……

 

「耐性に穴がありすぎでしょう」

 

 催眠、マホトーンに弱耐性なのはともかく、攻撃呪文に対して、強耐性を持つヒャド系以外には無耐性。

 

「ガバガバですね」

「しかもマホカンタは道具使用による呪文の効果には効かないから」

「雷神の剣が放つベギラゴンの効果を確実に受けてしまいますよね」

 

 ということ。

 あとは、そこにパチュリーが炎のブーメランを投げてしまえば全滅である。

 はっきり言って下位種より弱い。

 そしてパチュリーはレベル41に。

 

ちから+1

すばやさ+2

たいりょく+1

かしこさ+2

うんのよさ+1

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:ごうけつ/タフガイ

性別:おんな

レベル:41

 

ちから:183

すばやさ:132

たいりょく:211

かしこさ:58

うんのよさ:70/120

最大HP:425

最大MP:114

こうげき力:308/203/240

しゅび力:227/174

 

ぶき:せいぎのそろばん/はやぶさのけん/ほのおのブーメラン

よろい:しんぴのビキニ/まほうのまえかけ

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ミスリルヘルム

そうしょくひん:ごうけつのうでわ/しあわせのくつ

 

 

 となった。

 さらに進むと、今度は、

 

「茶色のサタンパピー?」

「バルログね」

 

 名称はJ・R・R・トールキンの小説『指輪物語』から。

 鞭を手に持ち、炎を扱う神話級の悪鬼である。

 

 鞭を持っている点は元ネタ通りだが、サタンパピーの方が炎の呪文であるメラゾーマを使う上、下位種とは言いながら全体的な能力は高いため「名前を取り違えたのでは?」といった疑惑がある。

 まぁ、逆に翼にムチに炎まで揃えてしまうとそのまんまになってしまい、版権的にヤバいのでわざと入れ替えた、という推論も成り立つが。

 実際、以降の作品では長らく登場していなかったことでもあるし。

 

「ザラキを3/8と高目の確率で使って来るけれど……」

 

 ファミコン版ではここゾーマの城にしか登場せず、リメイクではクリア後の『謎の洞窟』にも登場するが、いずれにせよ遭遇する時には勇者は完全耐性を持つ聖なる守りを持っているので全滅は無い。

 その上、最大ヒットポイントは下位種のサタンパピーの125に対し、93しかない。

 守備力もサタンパピーの80に対し57しかない。

 唱えるより前に、簡単に全滅させることができるのだった。

 

 次に現れたのは、バルログとドラゴン。

 小悪魔がバルログを斬り倒すが、

 

「先攻された!?」

 

 ドラゴンは極楽鳥を呼ぶ。

 しかし、

 

「無駄!」

 

 そのターンの内にドラゴンを斬り倒してしまえば意味が無い。

 しかもベホマラーを唱えたら二回行動ですぐに逃げ出す極楽鳥も、

 

「一体だけで残っているのなら!」

 

 先攻して斬り倒してしまうのは難しくない。

 南東の部屋の入り口近くのバリア床には小さなメダルが落ちている。

 

「もう、回収する意味も無いのだけれど」

 

 しかし、ついでだし回収しておく。

 そうして部屋を出たところで、トロルキングとバルログ各一体の群れに遭遇。

 小悪魔が眠りの杖でトロルキングを眠らせて、パチュリーがバルログを切り捨てる。

 後は次のターンで、眠ったままのトロルキングを倒して終了である。

 さらに進むと、石像が建ち並ぶ広間に出た。

 中に足を踏み入れたとたん、入り口が閉ざされてしまう。

 

「っ、閉じこめられましたっ!」

「落ち着きなさい。いわくありげな所に入ったら、扉がひとりでに閉まるっていうのはお約束でしょう? 慌てるようなことじゃないわ」

「そ、それじゃあ、石像が襲ってくるっていうのも……」

「ゾーマもありがちな演出をするものね」

 

 どこからともなく不気味な声が聞こえて来た……

 

「われらは魔王の部屋を守る者! われらを倒さぬ限り先には進めぬぞ!」

 

 二体組の大魔人が襲ってくる。

 攻撃力が高い上、痛恨の一撃もあり得る二回攻撃を仕掛けてくるが、

 

「ヒマね、こぁ」

「「まじんはひまじん」ですね」

 

 大魔人は、催眠と混乱に弱い。

 二人がかりで眠りの杖で眠らせた上で、誘惑の剣で混乱させてやるとお互いに殴り合うのだ。

 

「おお、痛恨の一撃!」

「それでも耐えるのね」

「あ、でもやっぱり決着が付きました」

「残った方に止めを刺すわよ」

 

 ということで、無傷で倒しきる。

 大魔神は三波に分け、合計6体が登場するのだが、次の場所に進んだところで、

 

「大魔神じゃなくアークマージが二体!?」

「たまたま通常エンカウントが先に発生してしまったようね」

「えっ、さっき大魔神さんと戦ってすぐですよ? 全然歩いていないのに?」

「イベント戦闘ではエンカウントまでの歩数カウントはリセットされないのよ」

 

 それゆえの遭遇である。

 しかし、

 

「アークマージはバギ系に無耐性。後は分かるわね」

 

 王者の剣のバギクロスの効果にパチュリーの炎のブーメランの攻撃を重ねれば、倒しきることができるのだ。

 そして、

 

「あれぇ?」

 

 そのまま広間を進めてしまう。

 つまり大魔神が出現する位置で、ちょうど普通の敵とエンカウントしてしまうと、そのまま通過できてしまい、その後の処理が止まってしまうらしい。

 しかし、その先の扉にたどり着いても、

 

 トビラにはカギがかかっている!

 持っているカギでは開けられなかった。

 

 という具合に通行不可。

 仕方が無いので戻ると、再び2回目の出現位置に達したところで大魔神が出る!

 

「やれやれね」

 

 このまま出現せず、扉も開かずでは詰んでしまうので助かったとも言える。

 再び眠りの杖からの誘惑の剣コンボを決め、大魔神同士の殴り合いを観戦する。

 

「争え…… もっと争え……」

 

 と煽る小悪魔だった。

 こうして六体すべてを倒しきると、部屋を出ることができる。

 そして行き着いたのは、バリアに囲まれた玉座。

 

「あひいいぃぃぃん!!」

 

 悲鳴を上げる小悪魔を引きずりながら進むのだが、そこにまたアークマージ二体が。

 しかもこちらを驚かせたうえ、いきなりイオナズンを唱えてくる!

 

「ぎゃひいぃぃぃん!」

「泣きっ面にハチね」

 

 ともあれ、また王者の剣のバギクロス効果と炎のブーメランで殲滅。

 玉座を調べると、小さなメダルが。

 そして、玉座の後ろには隠し階段があった。

 

 階段を下りるとまたすぐに下り階段。

 降りきった所には、回転床と下への穴だらけのフロア……

 

「どーするんですか、これぇ!?」

 

 間違えたら下に落ちてやり直しだ。

 まともに挑もうとすると非常に面倒くさいが、実は上を押しっぱなしでクリアできるという裏技がある。

 あっという間に踏破。

 その先で大魔神とマドハンド6体の群れに遭遇する。

 小悪魔が雷神の剣でマドハンドを焼き尽くし、パチュリーが眠りの杖で大魔神を眠らせる。

 後は眠ったままの大魔神を切り捨てて終了である。

 

 そうやって行き着いた下りの階段を降りる二人。

 フロアの切り替わりのついでに5回だけ、いつものあなほりをして出て来たのは、

 

「力の種ね」

 

 これはドラゴンゾンビ、そしてこのフロアから出るサラマンダーが、それぞれ1/128の確率でドロップするアイテムだ。

 

「低確率とはいえ、対象が増えるとあなほりで得られる確率もまた増えるのよね」

 

 あなほりで参照されるこの場所の遭遇モンスターテーブルデータは、

 

『混成モンスター用(×5枠)』

00: バルログ

01: アークマージ

02: ドラゴンゾンビ

03: マントゴーア

04: ソードイド

 

『1体のみ+混成5種をお供にするモンスター用』

05: ----------------

 

『単一種出現モンスター用(×4枠)』

06: ソードイド

07: マントゴーア

08: ドラゴンゾンビ

09: サラマンダー

 

『夜のみモンスター用』

10: ソードイド

 

『1体のみ出現用』

11: サラマンダー

 

 となっている。

 つまりドラゴンゾンビとサラマンダー、合わせて一度に四回、力の種を1/128の確率でドロップする判定が行われるわけである。

 そして力の種を得たパチュリーはというと、

 

「レベルアップで成長上限値が上がっているからちょうどいいわ」

 

 ということで種を使い、力の能力値を上げることに。

 

「くふっ……」

 

 筋力を短期間に強化するための、筋肉痛を凝縮したような痛みがパチュリーを襲い、その身体がのけ反る。

 

「ふふっ……」

 

 その主の身体を後ろから抱きしめるようにして支える小悪魔だったが、

 

「先ほどの戦闘の後、取って置いたんです。コレ」

 

 と、その手に握った棒状のモノをパチュリーに見せつける。

 

「そっ、ソレは……っ!」

 

 硬く節くれだった、太くたくましい指。

 そう、先刻倒され砕かれた大魔神の指先であった。

 

「あ、あぁ……」

 

 小悪魔がソレを使って自分に何をしようとしているのか、過去の経験から察してしまったパチュリーの身体ががくがくと震え、腰砕けになる。

 バラモス城では、砕いた動く石像の指先をツボ押し棒の代わりにして責め抜かれた。

 あの時……

 

 

 

「ほうら、太くて硬くてごつごつした指に身体を抉られる……」

「くはっ!」

「気持ち良さそうですね、パチュリー様」

 

 太もものツボをぐりぐりと虐め抜く小悪魔は、それをその奥、パチュリーの秘められた部分に添えてみて、

 

「まるで男性のアレみたいですよね。入れたら奥の気持ち良いところまで届いちゃいますよ、これ」

「やっ、やめっ……」

「ふふふ、もしそんな風にされちゃったら、そんな想像をしながら身を任せてください」

 

 きっと気持ちがいいですよ。

 

 耳元にそうささやかれ、そして際どいところ、太ももの付け根、鼠径部のリンパを動く石像の指で虐め抜かれるパチュリー!

 痛みと快楽がない交ぜになり混乱するところに、小悪魔が言うように、万が一それを、男性のもののような太い魔物の指を自分の秘奥に差し込まれでもしてしまったら……

 そう想像するだけで、羞恥と被虐に身体が芯から震えてしまう。

 

「あっ、手が滑りました」

 

 わざとらしいセリフと共に、するりとその先が奥に流れ、

 

「あ、や、あぁぁぁぁーっ!!」

 

 がくがくと、揉み絞るように震えながら絶叫するパチュリー。

 無論、小悪魔はぎりぎりのところで手を止めているのだが、

 

「ふふふ、想像だけで逝っちゃったんですね」

「あ、あぅ……」

 

 小悪魔は慈愛に満ちた表情でこう、笑いかける。

 

「可愛いですよ、私のパチュリー様」

 

 と……

 

 

 

 そんな異常経験を思い出してしまい……

 動く石像より、さらに逞しい大魔神のモノを身体に付きつけられるだけで、熱い戦慄がほとばしる。

 

「あ、あぁ、あぁ……」

 

 熱に浮かされたように喘ぐパチュリー。

 

「期待、されてるんですね、パチュリー様」

 

 小悪魔は熱く濡れた声を吐息と共にパチュリーの耳に流し込む。

 そう、パチュリーの精神にはもう、あの時の快楽が刷り込まれており、同じシチュエーションを用意してあげるだけで、どうしようもなく出来上がってしまうほどに躾けられてしまっているようだった。

 中断の書を利用したセーブ&ロードで力の能力値が3上がるまで、繰り返し刷り込まれた痛みとない交ぜになった快楽を。

 無論、身体が経験しているのは最後の1回だけだが、

 

(それがいいんです)

 

 小悪魔の瞳が細まり、その口元が三日月のように弧を描く。

 

(刺激に身体が慣れるということが無いってことでもあるんですから)

 

 何度も精神に教え込まれた快楽を、経験の少ない、敏感で耐性の付いていない未成熟な身体で受け止めなくてはならない。

 その衝撃はいかばかりか……

 

「さぁ、パチュリー様」

 

 そんなパチュリーの敏感で感じやすい身体の中で、いつ果てるとも知れない被虐と悦楽の宴がおごそかに始まった。

 痛みと、快感。

 二つの性格の違う刺激が加えられる悦虐は、パチュリーの中で一つに混ぜ合わされ、知ってはいけない快楽を生じさせ、意識を真っ白に染め上げて行く。

 

「あ、かはっ、く……っ」

 

 辛うじて耐えるパチュリーのいじましいまでの努力に……

 容赦なく、グリリとねじ込まれる、野太い大魔神の指先。

 

「はあぁぁぁぁーっ!?」

 

 パチュリーの声が、意識が透き通って行く……

 そして!!

 

 

 

「ふふふ、ご満足いただけましたか、パチュリー様」

 

 マッサージを終えた小悪魔は、脱力する主を背後から支えつつ、その耳元にこうささやく。

 

「お望みなら、悪魔の力でこの指と同じくらい太くてかたぁいモノを私に生やして、お慰めしてもいいんですよ。いえ、この指を……」

 

 小悪魔はパチュリーの身体をえぐり抜き、汗と悲鳴を散々に吸い取った野太いそれを、自分の下着の中に差し入れて見せる。

 まるで怒張が生えたかのようなふくらみが下着を盛り上げるようになり、

 

「こんな風に私の身体に取り込んで、これを使って虐め抜いて差し上げるというのも屈辱的でいいですよね」

 

 パチュリーの手のひらを己の股間に導き、その指を仮に固定した大魔神の指に下着越しに添わせてやる。

 

「口に出してお返事をするのが恥ずかしいのなら、パチュリー様の、この指先で答えて下さってもよろしいのですよ」

 

 と揶揄するように笑い、

 

「……いいですね、パチュリー様」

 

 最後の操を明け渡すよう迫る、小悪魔。

 その命じるかのような強い言葉が熱い吐息と共に耳朶に流し込まれ、

 

「は……」

 

 びくんと身体を震わせるパチュリー。

 その指先が、返事をするかのように跳ね上がって、小悪魔の股間のモノをカリッと撫で上げた。

 ぐりんと、張り詰めた男性自身が下着の中で位置を変えるかのように押されて動き、

 

(堕ちた……ッ!)

 

 満面の笑みを浮かべ、笑う小悪魔――

 

 

 

 ――の股間に、振り向きざまに叩き込まれるパチュリーの正義のそろばん!

 ショックレスハンマーを模したその先が、小悪魔のパンツの中の大魔神の指を木っ端みじんに打ち砕く!!

 

「アオオオオオオオーーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

 突き抜ける衝撃に、叫ぶ小悪魔。

 対男性クリティカルなこの攻撃!

 小悪魔は幸い女性なので大魔神の指は粉砕されたものの、自身の身体の方は無事であったが。

 

「あ゙ーーーーーーーーーっ!?!? あ゙ーーーーーーーーーっ!?!?!?」

 

 何を連想したのか、股間を押さえてうずくまり、苦鳴を上げ続ける小悪魔。

 

「本当、バカなんだから」

 

 ため息をつくパチュリーだった。




 小悪魔の欲望を打ち砕く、パチュリー様の正義の一撃でした。
 なんという良心的で健全なお話なんだ!!

> 小悪魔は幸い女性なので大魔神の指は粉砕されたものの、自身の身体の方は無事であったが。
『るろうに剣心』における二重の極みで手のひらの上の石を粉砕しても、石を持った手の方は無事なように、小悪魔の股間は無事ですから安心してください。
 二重の極みって、このお話の正義のそろばんと同じく、ショックレスハンマーの要領で反作用を殺して衝撃を完全に物体に加えることにより破砕するもの、という考察も一部で唱えられていますしね。
 あと、スマホ版のドラクエ3ではパーティアタックができないことでもありますし。

 次回はオルテガVSキングヒドラの予定です。
 本当は今回そこまで行って、次回でゾーマとの決戦の予定だったんですが、小悪魔のセクハラで話が膨らんだせいでたどり着けなかったんですよね。
 小悪魔は反省して自重するべき!(ムリです)

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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オルテガVSキングヒドラ

 地下三階は長い回廊が続くフロア。

 降りた時点でプレイヤー視点では見えている下りの階段へ、反時計回りにぐるりと一周して向かう必要がある。

 

「骨の竜さんと、マントゴーアです!」

「スカルゴンの上位種のドラゴンゾンビね」

 

 スカルゴンは白っぽい骨の色だったが、こちらは黄土色というか、化石のような色合いだ。

 

「半分の確率で放つ全体に40~59の吹雪ダメージを与える氷の息が痛い相手だけれど、催眠にも混乱にも強耐性の上、最大ヒットポイントは350」

 

 どうあっても攻撃を阻めない模様。

 故に、一発食らうことを覚悟してパチュリーはマントゴーアを切り捨て、小悪魔は王者の剣でダメージを積む。

 

「くっ!」

 

 ドラゴンゾンビはやはり氷の息で反撃。

 光の鎧と勇者の盾の耐性がある小悪魔は44.4%までダメージを減らせるが、パチュリーはモロにもらってしまう。

 そして次のターン、小悪魔は会心の一撃を繰り出し、ドラゴンゾンビを斬り捨てる。

 

「まぁ、それが無くても私が止めを刺したのだけれど」

 

 ということではあるが。

 そして進む先に小悪魔が、

 

「宝箱です!」

 

 宝箱を見つけたところで、四つ腕の骸骨3体に襲われる。

 

「ソードイド。骸骨剣士、地獄の騎士の上位種ね」

 

 睡眠、混乱に強耐性を持つため行動を阻害しがたい相手。

 火炎系と勇者のデイン系には弱耐性なので、そちらでダメージを積むか、最大ヒットポイントが170、守備力が72と高いが手が届かないほどでもないので、

 

「ここは物理で力押しよ!」

「はい、パチュリー様!」

 

 という具合で、小悪魔はグリンガムの鞭で攻撃!

 しかし、パチュリーがそこに止めを刺す前に、素早さが99のソードイドの一体が先攻しベホイミで自分を回復!

 

「何で!?」

 

 と叫ぶ小悪魔だったが、

 

「ソードイドの判断値は最高の2。ターン中、自分に行動順が回った時点で判断するから、ヒットポイントが減ったらターン中に即座に回復、という真似もしてくるのよ」

 

 さらに下位種と同様の完全2回行動で攻撃してくる。

 攻撃力はドラゴンゾンビに次ぐ158を誇り、1/8の確率でだが痛恨の一撃も放つ相手であり、シンプルながら強い。

 それでもパチュリーが炎のブーメランで攻撃すれば、自分を回復させた1体以外は倒れ、最後の一体も次のターンで倒されるのだった。

 

 そして、宝箱に手をかけようとしたその瞬間!

 

「また敵ですか!?」

 

 アークマージとソードイド各2体ずつ。

 

「ここはアークマージ優先で」

 

 小悪魔は無耐性だがダメージ幅があって安定しない王者の剣のバギクロスの効果より、確実にダメージを積むためグリンガムの鞭でアークマージを攻撃。

 そこにパチュリーが炎のブーメランを放つことでアークマージを倒しきる。

 ソードイドが攻撃を加えてくるが、守備力が極まっている小悪魔には何ともないし、高ヒットポイントのパチュリーにしても大した損害にはならない。

 

「まぁ、焼けつく息を放ってくる地獄の騎士が凶悪過ぎるから」

 

 それに比べれば、後回しにして攻撃を食らっても問題ない程度の存在ではある。

 そうして次のターンには倒しきるのだった。

 

「宝箱の中身は、諸刃の剣でしたか」

「私たちには、もう要らないものだけれど、あなたの資金源にはなるでしょう」

 

 ということで、わざわざ遠回りして拾いに来たのだ。

 

「あとは、下りの階段まで一直線ね」

 

 とはいえ、そこまでが遠いのだが。

 そして再びソードイド3体に遭遇するのだが、

 

「くっ!?」

 

 パチュリーに痛恨の一撃が入り、140ポイントものダメージを受ける。

 しかし、

 

「まぁ、今だと痛くないのよねぇ」

 

 パチュリーの最大ヒットポイント425の前には、大したことにはならない。

 とはいえ、倒したら、

 

「さすがに回復させないとまずいわね」

 

 ということで、ふくろに99個詰めてあった薬草を使って回復させる。

 

「と言いますか、ここまで治療なしで歩いてきていられるのが驚きですよね」

 

 と、小悪魔。

 そう、光の鎧と神秘のビキニの自動回復だけで間に合っていたのだ。

 そして、

 

「ソードイドとバルログ!?」

 

 各一体の群れと遭遇し、

 

「そろそろ、あなたはレベルアップしそうだから、パワーベルトを使って」

「はい!」

 

 パチュリーが炎のブーメランを放ち、それだけでバルログは倒される。

 ここで小悪魔が王者の剣で斬りつければ勝利が確定するのだが、星降る腕輪を外してパワーベルトを身に着けた小悪魔の素早さではソードイドに先攻を許してしまう。

 ソードイドは自分をベホイミで癒し、パチュリーに攻撃。

 まぁ、それでも次のターンには止めを刺すが。

 

 ともあれ、小悪魔はレベル40にレベルアップ。

 

ちから+5

すばやさ+2

たいりょく+9

かしこさ+1

うんのよさ+1

 

 結果、ステータスは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル/タフガイ

性別:おんな

レベル:40

 

ちから:158

すばやさ:226

たいりょく:200

かしこさ:94

うんのよさ:112

最大HP:367

最大MP:189

こうげき力:278/263

しゅび力:305/278

 

ぶき:おうじゃのけん/グリンガムのムチ

よろい:ひかりのよろい/やいばのよろい

たて:ゆうしゃのたて/まほうのたて

かぶと:グレートヘルム

そうしょくひん:ほしふるうでわ/パワーベルト/せいなるまもり

 

 

 一方、小悪魔は深刻な事態に陥っていた。

 心配されていた小悪魔の素の素早さの低さが現実のものとなった。

 つまり、敵モンスターの上昇してきた素早さに、小悪魔の速さがついていけなくなったのである。

 

「……力が上がってきて、この先、パチュリー様以上の攻撃力が身に付くと思っていたんですけれど」

 

 とつぶやく小悪魔。

 

「そうしたら私の星降る腕輪とパチュリー様の豪傑の腕輪を交換するといいかな、とも思っていたんですけど」

 

 しかしレベルアップ時に、パワーベルトを使うようになって改めて、

 

「私は星降る腕輪抜きでは遅い? 私がスロウリィ!?」

 

 と気付いてしまった。

 

 小悪魔に足りないものは、それは――――情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そしてェ何よりもォ――――速 さ が 足 り な い !!

 

 ということであった。

 そして二人は地下四階への下り階段に到着し、階段を降りるが、

 

「あ、所持金の半額が出たわ」

 

 フロア切り替わりついでの5回だけのあなほりで、あっさりと掘り当てる。

 

「どんな豪運なんですか、ソレ!」

 

 1/512の確率でしか掘れないもののはずなのだが。

 しかし所持金をカンストさせてしまったパチュリーからすると、

 

「今さらお金をもらってもねぇ……」

 

 という話なのではあるが。

 そしてここから先は一本道であり、橋を渡った先では……

 

 なんと! 一人の男が怪物と戦っている!

 

「あれは!?」

 

 5つの首を持つ毒々しい紫色の怪物、キングヒドラと戦っていたのは、勇者の父オルテガだった。

 まぁ、カンダタと同じ格好だったファミコン版と違い、

 

「覆面パンツじゃありませんよ!」

 

 ということで、専用のキャラクターグラフィックが用意されているが、

 

「でもリメイクでも開発途中までは、このシーンをファミコン版と同じような戦闘画面にしようとしたのか、未使用だけれども覆面パンツなグラフィックデータも入っているという話よ」

「うえぇぇぇっ!?」

「そもそも、虹の滴も無しに泳いでここまで来たというのであれば、防具無しの下履き一枚でも仕方ないとも言えるし」

 

 防具を着込んで海を渡りました、というよりはリアリティ、説得力があると言えるだろう。

 

「それじゃあ、覆面マントはどうなんです?」

「防具も持ち込めず、仲間も居ない、ということは隠密行動をとって潜入し、暗殺を謀るという方針なんでしょう。ならぴったりの格好よね」

「そう言われてみると……」

 

 アリなような気がしないでもないし、

 

「ドラクエ10のイベント『大魔王ゾーマへの挑戦』でも、やっぱり覆面パンツにされていたこともあるし」

 

 という話。

 そんな下らないやり取りをしている間に、オルテガは敗退。

 

「だ、誰かそこに居るのか……? 私にはもう何も見えぬ…… 何も聞こえぬ…… も、もし誰か居るなら、どうか伝えて欲しい。私はアリアハンのオルテガ。今、全てを思い出した。も、もしそなたがアリアハンにいくことがあったなら…… その国に住む、こあくまをたずね、オルテガがこう言っていたと伝えてくれ。平和な世にできなかった、この父をゆるしてくれ…… とな。ぐふっ!」

 

 末期の言葉を残し、この世を去ってしまう。

 

「この傷だと、世界樹の葉での復活も無理ね」

「お父さん……」

「この世界には、願いを叶えてくれるという神龍がどこかに居ると言うわ。それに望みを託しましょう」

 

 悲壮な雰囲気のまま先へ進む。

 ソードイド3体とアークマージ1体が現れ、

 

「アークマージを優先で!」

 

 と王者の剣で斬りかかる小悪魔だったが、

 

「なっ!?」

 

 与ダメージが低く倒しきれない。

 

「アークマージの守備力は150よ!」

 

 魔法使い系の外見に騙されやすいが、これはガニラスやキラーアーマーなどといった守備力が売りのモンスターたちと同じ。

 

「加えて最大ヒットポイントは130」

 

 ゆえに、一撃でとは行かないのだ。

 そして素早さ99のソードイドが次々に先制していき、

 

「は、ん、げ、き!」

 

 お返しにパチュリーは隼の剣の二回攻撃で1体を倒しきる。

 しかし、

 

「アークマージがザオリクを!?」

 

 直後、アークマージが完全復活させてしまう。

 だが!

 

「計算通りよ」

 

 とパチュリー。

 

「アークマージの判断値は最高の2で、ターン中、自分の番に回ってきたときに行動を決められるうえ、仲間に倒された者が居る場合は優先行動のザオリクで復活させるようになっているわ」

 

 パチュリーはそうさせることで、イオナズンの詠唱を食い止めたのだ。

 そして次のターンでは、小悪魔にグリンガムの鞭でソードイドのヒットポイントを削らせ、

 

「ソードイドの判断値も2、つまり傷つけば、自分をベホイミで治療する」

 

 2回行動の内、1回がこれに回され、被ダメが半減する。

 つまりパチュリーは敵に治療の手を裂かせることで攻撃を減少させたのだ。

 

 幻想郷の外の世界の近代戦では敵を殺すより、負傷させることを主眼としているという。

 死人は諦めるしかないが、怪我人は助けなければならない。

 歩兵が一人負傷したとして、その人物を戦場から運び出すには最低2名の運搬員と、十分な援護要員が必要。

 そして応急措置をする者、後方に護送する者、後方で手当てをする者……

 それだけの人手を割かせるのが目的であり、単純に殺すより効率的に敵の手を塞げるという理屈だった。

 

 パチュリーが行ったのは、それと同様の手。

 そうして被ダメを抑えている間に、

 

「そこっ!」

 

 アークマージに一切の攻撃をさせないまま、倒しきる。

 こうして敵を減らしたら、

 

「あとは!」

 

 小悪魔のグリンガムのムチとパチュリーの炎のブーメランで押し切るのだった。

 

 そうして先に進めば宝物庫にたどり着く。

 

「宝箱です!」

 

 と喜ぶ小悪魔の前にソードイド、マントゴーア、バルログ各一体の群れが立ちふさがるが……

 小悪魔がバルログを、パチュリーがマントゴーアを切り捨てる。

 ソードイドの攻撃がパチュリーたちを襲うがそこまで。

 次のターンには殲滅される。

 

 宝箱を開け、小さなメダル、命の石、世界樹の葉、賢者の石、祈りの指輪を回収。

 賢者の石は戦闘中に使うとパーティ全員をベホイミと同じだけ回復してくれる。

 ベホマラーと同じ効果をもたらす優れもの。

 

「青いクリスタルに金属の柄が付いたデザイン。制作元のエニックスが出版した書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では『無限のマジックパワーによる回復能力』を持ち『青い』という共通点があるホイミスライムを多数封じ込めたもの、とされていたけれども」

 

 と、つぶやきつつパチュリーは手に取って確かめるのだが、

 

「ドラクエ3で青くて回復と言えば僧侶だって、そうですよね」

 

 などと言い出す小悪魔。

 

「は?」

「ホイミスライムと共に魔力源、兼コアユニットとして石の内部に形成された異空間に封じられ、身体に絡みつくホイミスライムの触手が与える汚辱と快楽にのたうち、力を搾り取られることによる屈辱的な絶頂を何度も極めさせられる……」

 

 そうして、つい、とパチュリーの頤に指をかけて顔を上げさせるとその耳元に、

 

「パチュリー様も、試してみたくはありませんか?」

 

 そう、ささやく。

 熱く濡れた吐息と共に、倒錯した言葉を流し込まれたパチュリーは、ぶるりと背筋を震わせ……

 

「……青くて回復呪文が使えるって言うなら、勇者だって一緒でしょう?」

 

 逆に小悪魔を捕らえ、耳元にささやき返してやる。

 

「うえぇぇぇっ!?」

「そうね、私は錬金術はあまり得意じゃないのだけれど、これが終わったら、あなたをコアにして……」

 

 慌てる小悪魔を他所に、あれこれと実験の構想を練る。

 

「やっ、止め、許してくださいパチュリー様ぁ!!」

 

 即座に土下座して許しを請う小悪魔だった……

 

 それはそれとして、入手した賢者の石だが、

 

「何でしょう? 嬉しいことのはずなのに、そう思えない気持ち……」

 

 と首をひねる小悪魔。

 

「ラストダンジョンたるこのゾーマの城をほぼ治療せずとも歩けている時点で、拾ってもろくに出番が無いだろうってことが分かってしまうからではないの?」

 

 とパチュリーに言われ、

 

「ああ、そういえばパチュリー様の買った、ベホイミの効果を持つ賢者の杖も一度も使っていませんものね」

 

 と納得する。

 

「ベホイミ程度の回復量なら、さっさと戦闘を終わらせて、ふくろに詰めた薬草で回復させた方が早いし、賢者の石のベホマラーだって、二人パーティならベホイミ2回分に過ぎないのだし」

 

 少人数、高ヒットポイントパーティたるパチュリーたちには、賢者の杖どころか賢者の石さえも必須と呼べるアイテムでは無くなってしまっているのだ。

 

「それでもボスキャラ戦、キングヒドラやバラモスブロス戦ではマジックパワー節約に使えるかしら?」

「バラモスゾンビ、ゾーマ戦では?」

「その二体と戦闘中にヒットポイントが危なくて回復させなくてはいけない場合、私たちに必要なのはベホマによる全回復でしょう? マジックパワー節約のため賢者の石を織り交ぜて使うのもいいけれど、祈りの指輪を頼りにベホマを使っていた方が安心確実よね」

 

 少人数、高レベルパーティであり、さらには賢さの種を、あなほりで入手した分も含めて大量投与されているため、小悪魔のマジックパワーはこの時期の勇者としては高い189ポイント。

 そこに、あなほりで掘りだしたり、あなほりで得られた資金で大量買いしたりして得られた祈りの指輪を惜しまず投入し補ってやれば、それだけでゾーマ戦も乗り切れるだろう。

 ただし小悪魔にとっては、

 

「そんなお金、どこにもありませんよ!?」

 

 ということではあったが。

 そして、

 

「あとは……」

「一番東側の宝箱はミミックだったのだけれど」

 

 最後に残された宝箱に手をかけようとした小悪魔はそれを聞いてびくっと肩をすくめるが、

 

「すごろく場の無い携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版だと、光のドレスが手に入るのよね」

 

 ということで、光のドレスをゲットする。

 

「光のドレスはリメイクで追加された防具。守備力は勇者の光の鎧の+82を上回る最高の+90で、耐性も呪文、ブレスのダメージを2/3にするという光の鎧と同等のもの」

「凄いですね」

「光の鎧にあったヒットポイントの自動回復が無いから、ヒットポイントをフル回復させて臨むボスキャラ戦以外、普段使いの利便性で言えば光の鎧の方に軍配が上がるかも知れないけれどね」

 

 しかし、

 

「とはいえ、これが女性なら誰でも着れるというのだから、バランスブレーカーと呼ばれるのも仕方が無いわね」

 

 ドラクエ3リメイクの女尊男卑を象徴するかのような存在である。

 

「特にスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではゲームクリア後にしんりゅうを規定ターン以下で倒した場合に使えるようにしてもらえるすごろく場のよろず屋で買うことができるから」

 

 パーティ全員光のドレス、みたいなことにもなりかねない。

 しかし、

 

「全員がドレスで戦うってどうなんですかね? 武闘家とか違和感ありまくりでは?」

 

 と小悪魔が言うような疑問も生じるが、

 

「ああ、それなら『ドラゴンクエストライバルズ エース』でアリーナ姫に光のドレスを着せていたけれど」

 

 とパチュリー。

 ドラクエ4で登場したアリーナ姫と言えば、ドラクエシリーズを代表する武闘家キャラである。

 その彼女に光のドレスを用意した運営側、デザイナーがどうしたかというと、

 

「たくし上げたドレスの裾を右足の高い位置で結んで片足が覗くくらいにして捌いていたわね」

 

 正確には右斜め後ろなので正面からは脚が見えない、サイドに深いスリットが入ったスカートのような、活動的な中にも上品さを忘れない独自アレンジの着崩し、着こなしでセンス良くまとめ上げていた。

 現実の戦場において兵士たちが軍装を規定通りに身に着けずに、生き残るために独自改造をしたり着崩したりして工夫をしていたような感じで、ある種の戦う者のリアリティがあったりする。

 しかし小悪魔が反応したのはそこではなく、

 

「ええっ!? ドレスの中の魅惑の……」

「ちゃんと黒のスパッツを着用しているわよ」

 

 皆まで言わせずに遮るパチュリー。

 しかし小悪魔は叫ぶ。

 

「それはそれで!!」

「は?」

「その手のスポーツウェアって下着無しの直穿き推奨が多いんですよ、パチュリー様!」

 

 それは事実なのだが、実際には適度な面の圧力で生のヒップラインとは大分違う曲線を作るし、クロッチラインを筆頭に大事な部分は厳重に3D縫製でガードするもの。

 さらに自転車乗りが穿くピチピチのレーサーパンツあたりだと、シートと接触する大事な部分を保護するためのパッドが入っている。

 ゆえに小悪魔が考えるようなエッチなことなど無いのだが。

 

「適度な面の圧力? つまり裏地を取り去った上で穿かせてあげれば、内からくつろげ始めた大事な部分に張り付き、しゃらしゃらと敏感な突起を擦りたてるスポーツウェア特有のごわつく生地の感触がたまらない……」

 

 小悪魔の妄想は止まらない。

 

「パッド入りなら、パッドの形状をさりげなくエッチな形にしてあげれば…… この、あからさまではなく、さりげなくってところがポイントですね。それに気付くことなく、エロティックなパッドの醸す微妙な刺激にパチュリー様は熱い吐息を漏らし下半身を濡らしていき……」

「おかしな妄想に勝手に主人を登場させるなって言ってるでしょう、この変態使い魔!!」

 

 たまらず叫ぶパチュリー。

 付き合ってられないと、スルーして話を元に戻す。

 

「携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4、ニンテンドー3DS版だと、光のドレスはここでしか手に入らない一品ものになっているから」

 

 ゲームバランスが変わっている。

 いや、保たれているという感じだろうか。

 

「ともあれ、商人である私にとっては唯一のブレス耐性を持つ防具になるわね」

 

 ということで、パチュリーが着ることになる。

 

「それじゃあ、いよいよゾーマとの決戦ね。この世界はスマホ版ベースらしいから、このまま戦っても問題ないし」

 

 とパチュリー。

 

「はい?」

「ファミコン版、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではゾーマを倒したらエンディングで。その後ゲームを再開すると、最後に冒険の書をセーブしたところから始まることになるの」

「えっ? リメイクではエンディングを最後まで見れば冒険の書の勇者名にロトの称号が付いてクリア後の追加要素を楽しめるようになっているんですよね?」

「そうね。でもその場合でも残るのはファミコン版と変わらない最後にセーブした冒険の書のデータよ」

「じゃあ……」

「そう、ゾーマの城に突入してそのままクリアしてしまうと、この城で得たアイテムもレベルアップも無かったことにされてしまうの」

 

 せっかく手に入れた賢者の石なども無くなってしまうのだ。

 

「でもスマホ版ではエンディング後に冒険の書へのセーブ画面が現れて、ここでセーブすることによってロトの称号が付くとともに、ゾーマを倒すまでのプレイ結果も保存されるから」

「なら安心ですね」

 

 と、小悪魔は言うが、

 

「逆に言うと、セーブされないことを利用して、ありったけの種をつぎ込んで最終決戦に、という手段が使えないってことでもあるのだけれど」

 

 ということでもあった。




 この連載も、ようやくここまで来ましたね。
 次回はいよいよ最終決戦。
 ボスキャララッシュの後のゾーマ戦の予定です。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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大魔王ゾーマとの最終決戦 そして紅魔館へ……

 度々現れるソードイド三体を多少のダメージは無視してグリンガムのムチと炎のブーメランでなぎ倒しながら進み、地下5階の階段へ。

 

「最後の決戦での装備だけれども、スクルトで守備力を上げられない私たちにとって、優先されるのは守備力」

 

 と、パチュリー。

 

「あなたと私の星降る腕輪と豪傑の腕輪を入れ替えましょう」

 

 素早さの1/2の数値が守備力に反映されるドラクエ3では、素早いパチュリーが使った方が、より守備力を上げられるということ。

 まぁ、各能力値はアイテムを使って上げても255までなので、パチュリーに星降る腕輪を使った場合、カンストしてしまうのだが。

 

「それと、あなたは草薙の剣と賢者の石を持って。万が一の時のための世界樹の葉と祈りの指輪も」

 

 そして、

 

「私は賢者の杖を。あとは世界樹の葉と、まず使わないとは思うけれど復活の杖を持つわ」

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:41

 

ちから:186

すばやさ:255

たいりょく:211

かしこさ:58

うんのよさ:70

最大HP:425

最大MP:114

こうげき力:296/191

しゅび力:290/280

 

ぶき:せいぎのそろばん/はやぶさのけん

よろい:光のドレス

たて:ふうじんのたて/まほうのたて

かぶと:ミスリルヘルム

そうしょくひん:ほしふるうでわ

その他:けんじゃのつえ、せかいじゅのは、ふっかつのつえ、ひかりのたま

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:ごうけつ

性別:おんな

レベル:40

 

ちから:158

すばやさ:226

たいりょく:200

かしこさ:94

うんのよさ:112

最大HP:367

最大MP:189

こうげき力:293

しゅび力:248/221/254

 

ぶき:おうじゃのけん/くさなぎのけん

よろい:ひかりのよろい/やいばのよろい

たて:ゆうしゃのたて

かぶと:グレートヘルム

そうしょくひん:ごうけつのうでわ

その他:けんじゃのいし、せかいじゅのは、いのりのゆびわ×3

 

 

 という状態で決戦に臨む。

 祭壇へと進むと真っ暗だった周囲に灯がつき、ゾーマの巨体が現れた。

 

「こあくまよ! わが生けにえの祭壇によくぞきた!

 われこそは、すべてをほろぼすもの!

 すべての生命を、わが生けにえとし、絶望で世界をおおいつくしてやろう!

 こあくまよ! わが生けにえとなれい!

 出でよ。わがしもべたち! こやつらをほろぼし、その苦しみをわしにささげよ!」

 

 最初に差し向けられてきたのは勇者の父オルテガの仇、キングヒドラ。

 

「キングヒドラは火炎呪文には完全耐性を持つ相手だけれども、ヒャド系には弱耐性。そして勇者の父、オルテガの戦闘の様子を思い出して」

「と言われましても、バギクロスやライデインに貴重なマジックパワーを割いてしまって、ベホマが使えなくなるっていうオチしか覚えていないんですが」

 

 そんなことしないで通常攻撃していれば良いだろうという話ではあったが、しかし、

 

「でもバギクロスもライデインも効いていたでしょう? つまりオルテガはその行動で、キングヒドラにバギ系、デイン系の耐性が無い。完全無耐性だって教えてくれているのよ」

「な、何ですってーっ!?」

「勇者ならデイン系は当然として、王者の剣の効果によりバギ系最強呪文であるバギクロスを何度でも放てるのだから、父が命を賭して子に敵の弱点を教えてくれたのだ、ということにもなるでしょう」

「あ、あのイベント戦闘に、そんな意味があったなんて……」

「ついでに言えばファミコン版ではラリホーも使ってくれたのだけれど、キングヒドラはラリホーに強耐性、逆に言えば3割の確率で効くから」

 

 つまり、

 

「全員でラリホーや妖精の笛、リメイクなら眠りの杖を使って眠らせておいて、その隙に弱耐性であるルカニ、ルカナン系で守備力を下げ、そこから戦い始めるというのも手よ」

 

 そういう手段も使えるし、

 

「毎ターン100ポイントの自動再生が無くなったリメイクなら、眠らせることを繰り返し、それだけで何もさせずに倒すこともまた可能ね」

 

 ということでもある。

 しかし、まぁ、ここは、

 

「リメイクのキングヒドラはヒットポイント1600、守備力は150で、私は豪傑の腕輪を外したとしても、まだ正義のそろばんより隼の剣の方がダメージが高くなる相手。そして魔法を使ってこないのだから、盾は風神の盾を装備。正面から殴り合うことにするわね」

「そ、それじゃあ、さっきの勇者の父オルテガに対する良い話の意味がまったく無いじゃないですかぁ!」

 

 小悪魔が叫ぶが、

 

「こぁ、あなたはオルテガとキングヒドラの戦いを見て『そんなことしないで通常攻撃していれば良いだろう?』って考えたんでしょう?」

 

 だったら、

 

 誰だってそーする おれもそーする

 

 となるのは自明の理というものであった。

 

「とはいえ、あなたは最初のターンに草薙の剣のルカナンの効果を使ってちょうだい」

 

 と、小細工はするが。

 まずは星降る腕輪で素早さを255まで上げたパチュリーが隼の剣で素早く連撃を繰り出す!

 

「2回攻撃で合計110ポイント越えのダメージね」

 

 そして小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る!

 キングヒドラの守備力を75下げた!

 

「効きました!」

 

 キングヒドラはルカニ、ルカナンに弱耐性なので、7割の確率で効いてくれるのだ!

 

 キングヒドラは燃え盛る火炎を吐いた!

 しかし……

 オルテガには大ダメージを与えていたブレス攻撃だが、パチュリーに20ダメージ、小悪魔には14ダメージという拍子抜けのダメージしか受けない。

 リメイクのオルテガ×キングヒドラ戦でのダメージ計算が適当過ぎるという話ではあるのだが、実際にキングヒドラが3/5の確率で吐く火炎の息は、全体に30~40の炎ダメージを与えるというもの。

 そしてパチュリーは光のドレスのブレス耐性でダメージを2/3、66.6パーセントまで軽減でき、小悪魔は勇者の盾と光の鎧のブレス耐性の累積で4/9、44.4パーセントまで減らすことができるため、

 

「ゆるゆるです!」

 

 と小悪魔が言うとおり、こんな低ダメージで済んでしまうのだ。

 だが、

 

「まだよ!」

 

 キングヒドラは完全2回行動で、残り5/8の確率で攻撃力280の打撃を放ってくるのだ。

 

「くっ!?」

 

 これを小悪魔が食らうと60~93、パチュリーで、52~80ポイントのダメージとなる。

 しかし、

 

「賢者の石の回復量はベホマラーと同じパーティ全体に75~94ポイントだから、間に低ダメージの火炎の息が入ることを考えればそれだけで回復は間に合うわね」

 

 という具合で、小悪魔が賢者の石を使うだけで回復できる。

 パチュリーの攻撃は、

 

「守備力が半分に下げられたおかげで、2回合計150ポイント平均のダメージが出るわね」

 

 となっていたが、まぁ、草薙の剣のルカナンの効果が効いていなくても問題なく勝てただろう。

 まずは一勝。

 そして、

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーがレベル42にレベルアップしていた。

 

 次の戦いに備え、薬草で回復。

 マジックパワーを節約するためではあるが、この階には通常敵は出現しないので、光の鎧や命の指輪の自動回復効果で歩き回って回復させることもまた可能だったりする。

 

「面倒だからやらないけど」

 

 そして次はバラモスブロス戦。

 

「『バラモス兄弟』ねぇ……」

 

『ブロス(Bros.)』は『Brothers』の略なので、直訳するとそうなる。

 ドラゴンクエストが作られた日本のサブカルチャーで言うなら、任天堂のマリオの弟である『ルイージ個人』を指して『マリオブラザーズ』とは呼ばないように、バラモスの兄とか弟などというのとはまた意味が異なる。

 故に誤用であるというのが通説で、北米版等の英語表記では異なる名称になっているものだったが、パチュリーのようにオカルトに通じている者であるとまた違った視点がある。

 

「種族名が『バラモスの兄弟たち』みたいなことになっているのかもね」

 

 超常的存在の中には『○○の兄弟たち』というように呼ばれる者が居たりする。

 ○○と呼ばれる有名個体と同じ一族、または眷属たちを指して呼ぶものだ。

 そのような呼称なのかも知れない。

 

「バラモスブロスはすべての攻撃呪文、マヌーサ、ルカナンに弱耐性。マホトーンに強耐性」

 

 それ以外に対しては完全無効である。

 

「リメイクのバラモスブロスのヒットポイントはバラモスの半分以下の1100で自動再生も無し。ただ守備力は300と硬いから、隼の剣ではなく正義のそろばんに切り替えるわね」

 

 さらに魔法攻撃に備え、風神の盾から魔法の盾に切り替え戦闘に臨む。

 

「徹れ!」

 

 正義のそろばんの珠を可動する重りとしたショックレスハンマーと同等の効果がバラモスブロスの硬い守備力を貫通し、70ポイント台のダメージを与える。

 そして小悪魔は草薙の剣を振りかざした!

 青い光が地面を走る!

 バラモスブロスの守備力を150下げた!

 

「効きました!」

 

 弱耐性とはいえ、3割の確率で無効化されるのだから、これは幸先が良い。

 バラモスブロスの反撃だが、

 

「イオナズンが二連発!?」

 

 バラモスと違ってバシルーラやメダパニなどは使わない代わりに、1/2の確率でイオナズンを放ってくる火力偏重の特性を持っているのだった。

 もっとも、

 

「耐えられないわけじゃありません!」

 

 小悪魔が言うとおり、パチュリーは光のドレスと魔法の盾の呪文耐性で50パーセント、小悪魔は光の鎧の呪文耐性で66.6パーセントまでダメージを減らすことができ、40ポイント台のダメージしか受けないが。

 しかし、

 

「三回攻撃!?」

 

 さらにバラモスブロスの攻撃力210の打撃が小悪魔を襲い、40ポイント台のダメージを与える。

 バラモスブロスはランダムで1~3回の攻撃を繰り出すのだ。

 とはいえ、

 

「そんな水増しみたいな能力強化、意味が無いわ。確率的には完全二回行動と変わらないのだし」

 

 次のターン、バラモスブロスの守備力が半減したため武器を隼の剣に切り替え、斬りつけながらパチュリーは言う。

 小悪魔は賢者の石で回復だが、そこにバラモスブロスの激しい炎が襲う。

 全体に80~100の炎ダメージを与えるもので、パチュリーは光のドレスのブレス耐性でダメージを2/3、66.6パーセントまで軽減でき、小悪魔は勇者の盾と光の鎧のブレス耐性の累積で4/9、44.4パーセントまで減らすことができるとはいえ、

 

「連発されるとさすがにきついですよ」

 

 そう、小悪魔は悲鳴を上げる。

 しかし、

 

「大丈夫よ。バラモスブロスの激しい炎に3連発は無いわ。事故防止のための制限行動に指定されているから」

 

 ファミコン版のドラクエ2~4で見られた「1、2発程度なら何とかなる攻撃だが、偶然敵全員が選択したせいで1ターンで全滅の危機になる」というような事故を防ぐため、5以降、リメイクも含めて入れられたものだ。

 これに指定された戦闘オプションは、ターン中、同一グループ内では一度選ばれたら次には選択できないようになる。

 バラモスブロスは8つの行動選択肢のうち、イオナズン:4、激しい炎:2、打撃:2で激しい炎が制限行動に指定されているため、1ターンに二回までしか吐けないわけである。

 

「まぁ、それでもイオナズンより激しい炎の方がダメージが高く、耐性を持つ防具も少ないのだから、マホトーンやマホカンタで呪文を封じるなんてことはしない方がいいわね」

「かえって攻撃が激しくなりますものね」

 

 フバーハを使えるメンバーがパーティ内に居れば、装備次第では魔法を封じた方が、ダメージが低くなる可能性はあるのだが、しかし、

 

「賢者の石で回復は間に合う程度ですし、手間暇かけなくても押し切ればいいですか」

 

 と、小悪魔。

 リメイクではファミコン版であった毎ターン50ポイントの自動回復も無いのだから勝負を急ぐ必要も無いのだし、仮に最初のターンの草薙の剣によるルカナンの効果が無かったとしても時間はかかるが最終的には押し切れるだろう。

 途中、一度だけ安全策を取ってパチュリーが賢者の杖のベホイミの効果で回復をアシストしただけで、問題なく終わらせる。

 

「次はある意味、最難関のバラモスゾンビ」

 

 バラモスは死に際に、

 

「わ…わしは…… あきらめ…ぬぞ… ぐふっ!」

 

 などと言っていたが、その執念故か、ゾンビとなって蘇ってきたのだ。

 

「生前と違って知性を失っているのか攻撃手段は打撃のみ。でもその打撃がファミコン版で攻撃力360、強化されたリメイクでは400でさらにランダムで1~2回攻撃を仕掛けて来るというもの」

「なっ!?」

「バラモスゾンビは判断値がゼロなので隊列を認識できず、後列にも均等に攻撃を仕掛けて来るわ」

 

 1ターン目にヒットポイントの低い後衛に2発攻撃が来た場合、仮に先攻でスクルトをかけた上で、ヒットポイントが全快状態であったとしても一気に死亡しかねないものなのだ。

 

「うちに後衛が居なくて幸いです」

 

 と小悪魔が胸をなで下ろすように、パチュリーたち後衛抜きの高ヒットポイントパーティなら、そんな事故も起こらないが。

 一方、

 

「バラモスゾンビは守備力ゼロ。火炎、ヒャド系、バギ系、デイン系、いずれの攻撃呪文にも無耐性で攻撃する手段には事欠かないわ」

 

 しかし、

 

「その他の呪文は、マヌーサに対して強耐性、逆に言えば3割の確率で効くほかは完全耐性持ちよ」

 

 そもそも守備力だけでなく素早さもマジックパワーもゼロなので、ルカニ、ルカナン、ボミオス、マホトラ、そして呪文を使わないのでマホトーン、マホカンタも意味が無い。

 

「正面から殴り合うしか無いってことですね」

「そうね」

 

 パチュリーは魔法の盾から風神の盾に切り替え。

 

「あなたは刃の鎧で反射ダメージ狙いね」

「ええーっ!?」

「私が使っていた神秘のビキニで守備力を上げるって選択もあるのだけれど……」

 

 勇者には光の鎧があるが、守備力だけで言えば神秘のビキニの方が上なのだ。

 しかし、

 

「パチュリー様の使用済み!」

 

 洗ってあるとはいってもこんな変態に与えるのは嫌だし、そもそも、

 

「私から買い取るだけのお金、持っていないでしょう?」

 

 ということもある。

 ゆえに小悪魔には刃の鎧で反射ダメージを狙ってもらうことにするのだ。

 

 そんなわけで戦いに挑む。

 守備力ゼロなだけあって、パチュリーの隼の剣は98、102、計200ポイントほどのダメージを叩き出す。

 小悪魔の王者の剣も、140ダメージ。

 しかし、

 

「ぐっ!」

 

 バラモスゾンビはその攻撃力400、大魔神の倍で、裏ボスのしんりゅうと同じというバカ力でパチュリーを殴りつけ、98ポイントものダメージを与える。

 さらに、

 

「私!?」

 

 バラモスゾンビがランダムで行う1~2回攻撃が小悪魔を襲う。

 173ポイントものダメージを受けるが、当然刃の鎧の反射で半分の87ダメージを跳ね返す。

 

「痛い…… 痛いけれど、反射ダメージもまたバカげた数値ですよね、コレ」

「リメイク版だと刃の鎧の効果が発揮するから、勇者一人旅では、ひたすらベホマを唱え続けて刃の鎧の反射ダメージのみで倒すという戦法があるわ」

 

 ゲームボーイカラー版では自動回復が無いので特に有効だ。

 

「リメイクだと?」

「ファミコン版の刃の鎧の反射が働くかどうかはニフラム耐性に依存するから」

 

 ニフラムに完全耐性を持つボスキャラたちには反射ダメージを与えることができないのだ。

 ともあれ、バラモスゾンビには毎ターン50ポイントの自動回復があるためパチュリーは継続的に攻撃に専念し、小悪魔は、

 

「きつい、ですね」

 

 ベホマ連発で回復を行う。

 しかし、

 

「ヒットポイントと守備力の低い後衛が居ないだけマシでしょう。バラモスゾンビは判断値がゼロ、後列にも均等に攻撃を仕掛けて来るんだから」

 

 という話。

 

「スクルトを重ねた上で、強耐性であっても連発のごり押しでマヌーサを通して攻撃の半分を外れるようにすれば、まだ違って来るのだけれどね」

 

 パチュリーたちには使えない手なのだから仕方がない。

 厳しい時にはパチュリーも賢者の杖を1回だけ使って、勝利。

 

 そしてとうとう、ゾーマとの戦いである。

 パチュリーは魔法の盾、正義のそろばんを身に着け、小悪魔は光の鎧に戻す。

 もちろんパチュリーは光の玉を準備だ。

 

「小悪魔よ! なにゆえ、もがき生きるのか?

 ほろびこそ、わがよろこび。死にゆく者こそ美しい。

 さあ、わが腕の中で息絶えるがよい!」

 

「病院行って」

「あはは……」

 

 光の玉を使う前の闇ゾーマの素早さは最高の255。

 星降る腕輪で素早さを同じく255まで上げていたパチュリーだったが、先制を許してしまう。

 

 ゾーマは凍える吹雪を吐いた!

 全体に100~139の吹雪ダメージを与えるものだが、パチュリーは光のドレスのブレス耐性でダメージを2/3、66.6パーセントまで軽減でき、小悪魔は勇者の盾と光の鎧のブレス耐性の累積で4/9、44.4パーセントまで減らすことができる。

 ゆえに、パチュリーで71ポイント、小悪魔で48ポイントで済む。

 

 そして完全2回攻撃、ローテーション行動なので、次にマヒャドが必ず来る。

 とはいえパチュリーは光のドレスと魔法の盾の呪文耐性で50パーセント、小悪魔は光の鎧の呪文耐性で66.6パーセントまでダメージを減らすことができ、パチュリーで27ポイント、小悪魔で41ポイントで済む。

 

「マヒャドが完全ボーナス行動になっている件について」

 

 そうつぶやきつつも、行動するパチュリー。

 

 パチュリーは光の玉を高くささげた!

 辺りにまばゆいばかりの光が広がるっ!

 

 光の玉でゾーマの纏う、闇の衣を引き剥がす!!

 

「ほほう……。わがバリアを外すすべを知っていたとはな。

 しかしむだなこと……。さあ、わが腕の中で、もがきくるしむがよい」

 

「しつこい」

「ここまで来るとパチュリー様の言うとおり、良いお医者さんを紹介してあげた方がいいかも知れませんねー」

 

 仮にも大魔王をサイコ野郎扱い。

 

「まぁアリアハンで出合い頭に「そなたらの苦しみは、わしのよろこび」とか言い出した時点で、頭おかしいのは確定だったのだけれど」

 

 とパチュリー。

 

「いくらラスボス然とした大物感を出して取り繕ったところで、こいつの本音は自分以外の全否定。要するに他者が幸せに生きているのが許せず、その人たちが苦しみ不幸になるところを見るのが大好きで、それだけのためにすべてを滅ぼそうとしているっていう筋金入りのクズ野郎だってことに違いは無いわ」

「パチュリー様、それ言っちゃうと、破壊神系? みたいなラスボスキャラすべてがそういう扱いになっちゃいますよ……」

「そう? でも現実にも居るでしょう、他者を否定し、こき下ろすことにしか興味を持っていないかのような、ネガティブな言動ばかりする人物」

 

 一見、正しいような理論や言葉、正当性があるかのような態度で取り繕ってはいるし、局所的に、ミクロな視点では正しいことも言っているかもしれないので本人にも自覚が無い、いや、本人は正しいことを主張しているつもりなのだが……

 一歩離れて俯瞰視してみる、マクロな視点では必ずしも正しいとは言えなかったり、仮に正しかろうとも何の役にも立たないどころか逆に害になるようなことしか言わない者。

 

「……それは、まぁ確かに居ますけど、そういうのと一緒にされるゾーマが哀れと言いますか」

「どう言葉を飾ろうとも、本質は変わらないわ」

 

 そう、ばっさりと切って捨てるパチュリーだった。

 

 ここからは、弱体化後のゾーマとの戦いである。

 闇ゾーマとは別の能力値を持っているので、闇ゾーマに傷を負わせていたとしても、切り替わると無かったことにされてしまう。

 あとはパチュリーが正義のそろばんで殴る殴るひたすら殴る。

 

 ゾーマは完全二回行動で、8つの行動選択肢の内訳は、攻撃力360の打撃:3、凍える吹雪:2、マヒャド:1、マヒャドはバラモスブロスの激しい炎と同じ制限行動であり、これに指定された戦闘オプションは、ターン中、同一グループ内では一度選ばれたら次には選択できないようになる。

 ゾーマの8つの行動選択肢のうち、マヒャドは1つしか無いため1ターンに1回しか唱えられない。

 通常、制限行動は同一ターン中に集中されたらまずい行動オプションに制限を加えるものだが、ゾーマの場合はマヒャドが一番脅威度が低い。

 つまりボーナス行動の連続が制限されているということである。

 そして残りの2枠は、

 

「うおっまぶしっ!!」

「凍てつく波動が眩しいわねっ!」

 

 ゾーマは凍てつく波動を使いすべての魔法を無効化してくる。

 

「だ、大魔王が光に包まれて…… 不謹慎ですよ、あなたっ」

「そういう問題?」

 

 ともあれ、これがあるためバフ、デバフ呪文もかけにくいのだ。

 最初から使っていないパチュリーたちの場合は、1/4の確率で損害無しで終わらせてくれるボーナス行動となるが。

 

 まぁ、それでも凍える吹雪が怖いから打ち消されるたびにフバーハをかける、倒すまでのターンを短縮するためバイキルトをかけるという者も居る。

 

 また意外にもルカニ、ルカナンに無耐性でルカニをかければ確実に350の守備力が一気にゼロになるため、バイキルトよりもこちらを選ぶ者も多い。

 アタッカー一人一人にバイキルトをかけるより簡単だし燃費もいいし、ファミコン版、ゲームボーイカラー版以外のバージョンではバイキルトがかかると会心の一撃が出なくなるため、戦士の魔神の斧や高レベル武闘家の会心の一撃に期待しつつ、出ない場合でもダメージを上げたい場合には有効だとも言える。

 

 とはいえ魔法使い、僧侶、賢者のバイキルト、スクルト、フバーハ、マヌーサなどといったバフ、デバフが使えないパチュリーたちには関係無い話。

 むしろ、ここまでそれら抜きで勝ってきたのだから、ゾーマは組しやすい相手だとも言える。

 ゾーマには自動回復が無いため、ダメージを積んで行けば必ず勝てるのであるし。

 こちらが受けるダメージは小悪魔の賢者の石、緊急回避のベホマによる全回復で凌いでいくのだが、終いには、

 

「ゾーマのマジックパワーが切れました!?」

 

 ということに。

 

「無限だったんじゃないんですか?」

 

 と混乱する小悪魔だったが、

 

「確かにマジックパワーが255なら無限扱いでマジックパワー切れは無いというのがドラクエ3なのだけれど」

 

 パチュリーが答える。

 

「スマホ版はそのような処理がされず、単にマジックパワーが255あるというだけみたいなのよね」

 

 ということだった。

 

「問題は、これ以降、ボーナス行動だったマヒャドを唱えてくれなくなるということ」

 

 つまり、これまで以上に攻撃が激しくなるということだった。

 攻撃呪文を唱えなくなるため、パチュリーは魔法の盾から守備力重視の風神の盾に切り替え。

 さらに危なくなったらパチュリーの賢者の杖のベホイミの効果までつぎ込んでヒットポイントを維持する。

 これまでの戦いで世界樹の葉を消費しなかったので、最悪、死亡があっても立て直すことはできるが……

 そして、とうとうゾーマが倒れる。

 

「こあくまよ…… よくぞわしを倒した。

 だが光あるかぎり、闇もまたある……

 わしには見えるのだ。ふたたび何者かが闇から現れよう……

 だがそのときは、お前は年老いて生きてはいまい。

 わははは………っ。ぐふっ!」

 

「昔の人が言っていました。「後のことは後で考えろ」って」

「そうね、死んだ後のことは、後の人に何とかしてもらわないと」

 

 そんなことを言っていると、ゾーマの消滅と共に力を失ったのか、城が崩れ始めた。

 

「パチュリー様! 早く逃げないと!」

 

 脱出を図るパチュリーたちだったが、地割れに飲み込まれ……

 魔王の爪痕に吐き出される。

 

「……何でこんな所に?」

 

 戸惑う小悪魔だったが、パチュリーは、しれっとして、

 

「この亀裂の通じている先からあなた、よっぽど嫌われてるんでしょうね」

 

 などと言う。

 

「パチュリー様だって一緒じゃないですか!」

 

 そう主張する小悪魔だったが、とにかく落盤に巻き込まれないよう逃げ出す。

 この落盤によって初代ドラクエのロトの洞窟に近い形状に変化するのだ。

 

「初代ドラクエへと続く、さりげない伏線イベントなのよね」

 

 外に出ると、暖かな光が。

 アレフガルドには来ないと言われていた朝がやってきたのだ。

 

 空の上の方で何かが閉じたような音がした……

 

 そしてパチュリーたちがラダトームに戻ると、大魔王が倒されたことは既に伝わっており、人々が歓待してくれた。

 

「しずまれ皆のもの!

 こあくまとその仲間たちよ! 知らせを受けそなたの帰りをまちかねていたのじゃ。

 よくぞ大魔王ゾーマをたおした! そしてよくぞ無事にもどった! 心から礼をいうぞ!

 この国に朝がきたのも、すべてそなたのはたらきのおかげじゃ!

 そなたにこの国に伝わる まことの勇者のあかし ロトの称号をあたえよう!

 こあくま、いや勇者ロトよ!

 そなたのことは、ロトの伝説として永遠に語りつがれてゆくであろう!」

 

 かくしてロトの称号をうけた小悪魔は ここアレフガルドで英雄となる。

 だが祝いのうたげが終わった時、小悪魔の姿は、もはやどこにもいなかったという。

 しかし彼女が残していった武器はロトの剣 防具はロトの鎧や盾として

 聖なるまもりは、ロトのしるしとして後の世に伝えられたという。

 

 

 

 そうして……

 書かれた物語を体験させる魔導書内に構築されたドラクエ3の世界から現実、紅魔館大図書館へと帰還するパチュリーと小悪魔。

 

「さて、これでゲームクリア。勇者と商人の比較検証も完了だけれども」

「もう借金や貧乏生活はこりごりですよ」

 

 ぼやく小悪魔だったが、

 

「とはいえ、二人パーティだからその程度で済んでいるのよ。これが四人パーティで報酬の公平分配をしたら、あなたの収入もさらに半分になるんだから」

「そんなので、どうやってプレイするって言うんですか!?」

 

 そう叫ぶ小悪魔を横目にパチュリーは、

 

「この魔導書、レミィにも見せたら興味を引きそうよね。今度は咲夜も入れて4人で……」

 

 友人にしてこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットとその従者、メイドである十六夜咲夜について言及するが、

 

「勘弁してください!」

 

 と小悪魔は悲鳴交じりに嘆願する。

 

「まぁ、結論として、勇者の強さはパーティ内のお金を吸い上げることで成り立っているということね。そして同時に、商人という職業は使い方次第で悪くない力を発揮する。って言うか、二人パーティでレベル稼ぎ、資金稼ぎ無しでここまで楽にバラモス城まで行けるって、商人以外にできるのかしら?」

 

 そしてバラモス城ならあっという間に簡単にレベルアップが図れるので、勇者がベホマを覚えたらまたゾーマまでレベル稼ぎも資金稼ぎも無しで行けるのだし。

 また、

 

「勇者の力の再検証、発見もあったわね。ボストロールの完封攻略は多分、完全に新規の攻略法じゃない? ベホマどころかベホイミも無い状態でクリアできているし」

「アストロンで痛恨のターンをスキップできるとは知っていても、最初から最後までそれで通すっていう発想は、普通ありませんよねぇ……」

 

 と言う小悪魔の表情は呆れが半分。

 そして、

 

「発見と言えば、スマホ版ですごろく券から差し戻されたドロップアイテムの入手確率がすごろく券と同等のまま、っていう修正忘れがありましたね」

 

 ということも。

 

「あれもバランスブレーカーな話だったわねぇ……」

 

 瞳を細め、これまでの冒険に思いを馳せるパチュリー。

 そして、

 

「あなたもご苦労様」

 

 そう言って小悪魔をねぎらう。

 思わず目を丸くする使い魔に歩み寄り、その耳元にささやく。

 

「労働には対価が必要ね。魔力補給、してあげたいのだけれど」

 

 と言うが、しかし、

 

「眠いからもう、ベッドで休ませてもらうわね」

 

 くるりと背を向けてしまう。

 

「あ……」

 

 期待を抱かせておいてつれなくする、その対応に小悪魔はせつなそうに、歩み去ろうとする主の背に触れられない、届かない手を伸ばしかけるが、

 

「だから、勝手に持って行ってちょうだい」

 

 パチュリーの言葉には続きがあった。

 

「えっ?」

「聞こえなかった? 今回の魔力補給、寝ている私から好きなように持って行っていい。そう言っているのよ」

 

 それは……

 今宵、寝ているパチュリーを好きなようにして良いという許可。

 あの魔導書の中に構築されたドラクエ3の世界の冒険を通じて、二人の距離が縮まったと見るべきか、それとも……

 小悪魔が施した過激な調教じみた異常経験、それがパチュリーの精神に根付いて、この現実世界のパチュリーにも影響を、いや、後遺症とも言うべき症状を引き起こしているのか。

 ともあれ、

 

「はい、よろこんで!」

 

 ただひたすらに主人を愛してやまない使い魔は、本当にいい笑顔でそう答え、付き従うのだった。

 

 

 

「ただし、あんまり酷いことするようなら、現実でもダメージ床を引きずり回すから」

「ヒエッ!」

「羽目を外し過ぎない、常識の範囲で」

 

 分かっているわね、と念を押すことを忘れないパチュリーではあったが。

 

 

 

HAPPY END




 このお話もこれで完結。
 ここまで続けられたのも、応援して下さる方々があってのこと。
 どうもありがとうございました。

 ドラゴンクエスト3が世に出てからずいぶん経ちますが、それでも新たな発見があるのも驚きでしたね。
 自分自身、楽しんで書くことのできた連載でした。
 パチュリー様好き好きな小悪魔も可愛かったですしね。

 それではまた、次の機会がございましたら。
 ご意見、ご感想等、聞かせていただけますと、今後の参考になります。


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