こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) (勇樹のぞみ)
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紅魔館大図書館より~キャラメイクへ

「書かれている物語世界に読み手を引きずり込む魔導書?」

 

 紅魔館大図書館の管理者であり自身も『動かない大図書館』と呼ばれる七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジは自分の使い魔、小悪魔の持ってきた本をジト目で見る。

 ついでに小悪魔自身のことも同じ目で見たり。

 

「いえ、そういう危ないのではなくて、娯楽用の仮想体験(VR)型ゲームブック、でしょうか。外の世界のゲームが体験できるようですよ」

 

 と、にこやかに笑う小悪魔が追加で本を積み上げる。

 こちらは普通の外の世界の本、ゲーム攻略本と言われるもの。

 

「ドラゴンクエスト3?」

 

 そういう名前のコンピューターを使ったロールプレイングゲームらしい。

 手に取ってパラパラとめくると、なかなかに練りこまれた世界と設定が目に飛び込んでくる。

 

「ふぅん? これは…… でもこうしたら……」

 

 本の虫の彼女にも興味深い内容らしい。

 実際、面白いのだろう。

 自分なりに情報を集め、整理し、攻略法を検討、構築していく作業は。

 だからこそ外の世界でもロールプレイングゲームは多くの人々に楽しまれているのだ。

 そしてそんな主人の様子を見て、小悪魔は内心クスクスと笑う。

 

(パチュリー様なら興味を持っていただけると思いました)

 

 だからこそ、この大図書館の司書権限を使って娯楽用魔導書を解析し、外の世界のゲームの内容を組み込んだのだ。

 そして……

 

「うーん」

 

 ちらりと件の魔導書を見るパチュリー。

 迷っているのが分かる。

 小悪魔が持ってきた魔導書。

 怪しいと理解してはいるものの、興味は尽きないのだろう。

 そして、

 

「検証が必要ね」

 

 と自分に言い訳するようにつぶやいて手に取る。

 

 小悪魔の用意した罠に薄々気づきながらも……

 パチュリーは主従契約があるからという安心感と、ちょっとした好奇心からその身を委ねてしまうのだった。

 

(この子…… 小悪魔も普段よく働いて仕えてくれているし、まぁ、たまには少しぐらい火遊びに付き合ってあげてもいいでしょう)

 

 そんな風に考えて。

 実際、パチュリーの実力からすればこんな無力な小悪魔など、本気になっても幼児にじゃれつかれているようなものだから。

 

 

 

 後にしてみれば、どうしてこの時、こうすることを選んでしまったのか、と彼女は思うことになるのだが。

 

「パチュリー様の心の奥底に、そういう願望があったからですよ? 私はそのお願いを忠実にかなえただけです」

 

 と小悪魔はあくまでも優しく答えるのだった。

 

 

 

 そして舞台は物語世界、ドラゴンクエスト3のスタート地点、アリアハンへ。

 

「それで、どうしてあなたが勇者で私が商人なのかしら?」

 

 冒険者が集うルイーダの酒場、呆れた様子でパチュリーは小悪魔に問う。

 

「ええっ? だって矢面に立って戦う肉体労働は私に任せるってパチュリー様、言ったじゃないですかー」

 

 まぁ確かにそうだから小悪魔が勇者なのはいいとして、問題はどうして自分が魔法使いでなく商人なのかということ。

 しかし小悪魔はこう説明する。

 

「そしてドラゴンクエスト3は勇者一人ではクリアーできないのはご存知ですよね」

 

 そう、縛りプレイで定番の『勇者一人旅』だが、正確にはドラクエ3は勇者一人だけではクリアーできない。

 街づくりイベントのための商人が必須なのだ。

 

 他に人を雇って、というのも考えられるが、パチュリーは人見知りの引きこもりだからそういうのも遠慮したい。

 そもそも魔導書が用意した怪しいキャラ、しかも人間など今一つ信用できないし。

 それにレベル1の商人を作って預けるなんて「それどう考えても人身売買だろ」な真似、VRというか実体験型のゲームでは抵抗がありすぎる。

 というわけでパチュリーは、

 

「……そうね。このパーティ構成で検証してみたいこともあるし」

 

 と自分を納得させてしまう。

「使えない」「あなほりwwwww」「商人とかお前の存在意義がわからんのだけど」「イエローオーブ引換券」などと言われる商人だが、実際にはそう悪くないとパチュリーには思える。

 勇者との二人旅は、勇者と単純に比較できるため検証するには都合が良かった。

 

 一方、小悪魔はというと、

 

(街の有力者にまで登りつめてクーデター起こされて牢獄ですよ。何も起きないはずもなく…… ああ、なんてかわいそうな私のパチュリー様)

 

 と、歪んだ主従逆転愛に悶えていた。

 この魔導書の管理者権限を密かに握っている小悪魔にとって、クーデターを起こすNPC(ノンプレーヤーキャラクター)も自分の分身のようなものなので……

 

 

 

「まぁ、ともかく冒険者登録ね」

 

 パチュリーを冒険に連れて歩けるよう登録を行うべく、二人はルイーダの酒場の二階に向かう。

 

「勇者様のお仲間には王様から特別に激励の品が贈られます。力の種、素早さの種等、五種類の種の内、いくつかを使う事ができます」

 

 勇者以外のキャラメイク担当の男性が説明してくれる。

 

「どの種にするかはパチェさんが決めてもいいし、私にお任せして下さっても結構です」

 

(パチェさんって……)

(このゲーム、キャラクターに付けられる名前は四文字までなんです)

 

 と、主人と使い魔間のパスを使った声なき会話を他所に、

 

「パチェさんが決める場合はもちろんお好きな種を使って頂きますが、私にお任せの場合は……」

「場合は?」

「とにかく、その時の私の気分でやらせてもらいます」

「気分って……」

 

 思わず突っ込んでしまうパチュリー。

 

「では、パチェさんへの種の使い方はどうしますか?」

「ああ、自分で選ぶわ」

 

 パチュリーは手を上げる。

 

「使えるのは五回までです。ではどうぞ」

 

 そして考え込むパチュリー。

 

「商人は力と体力の伸びが良い性格『タフガイ』との相性が良かったはず」

「パチュリー様がタフガイですか!?」

 

 小悪魔が驚くとおり、病弱で持病の喘息を持ち、魔力は膨大だが詠唱し切れないなど、身体能力は人間にも劣るパチュリーとは真逆の性格だったが、

 

「この世界では設定された能力値が反映されるようだし」

「それはそうですが……」

 

 ということだ。

 

「勇者と違って性格判断の質問は無くて、能力値を伸ばすタネの投入による能力値の変化量から決まるんですよね?」

「商人は体力を10以上伸ばせばてつじんかタフガイになれるはずよ」

 

 パチュリーはスタミナの種を手に取ろうとするのだが、それを小悪魔がひょいっと取り上げる。

 

「こあ……」

「それにしてもこれ、どういう理屈で体力が付くんでしょうね?」

 

 手のひらの上の種をしげしげと見つめながら言う小悪魔に、パチュリーは好奇心を刺激される。

 

「そうね『見せ』て」

「ああ、商人の鑑定能力ですね」

 

 忘れられがちだがドラゴンクエスト3の商人はアイテムの鑑定能力を持っている。

 

「それに私の知識をリンクさせてね」

 

 そうしてパチュリーが鑑定してみて分かったのは、魔術的に肉体強化を促進する力が宿っているということ。

 現実ではトレーニングをすると筋肉の一部が損傷して、次に超回復という現象でトレーニング前を上回る筋力、体力が付く。

 普通は超回復に二、三日かかるが、スタミナの種や力の種などの身体能力アップ系の種は筋肉の破壊から超回復を短期間に行うものになっているのだ。

 

「それって筋肉痛を濃縮した激しい痛みが襲うってことじゃ?」

「……まぁ、そうなるわね」

 

 ということだった。

 それでもパチュリーは恐れることなく口の中に放り込んで噛み砕くのだが、

 

「いたたたた!?」

「あー、普段運動しないから余計に……」

 

 小悪魔はそんなパチュリーをマッサージでなだめる。

 

「そ、そこダメっ!」

「まぁまぁ、私こういうの得意ですから。身体のツボ、パチュリー様の身体に眠ってる、とっても気持ちよくなるところを優しく掘り起こしてですね」

「ひっ!」

「だんだん気持ちよくなって来たでしょう?」

(こ、このっ!)

 

 エロ小悪魔、と叱ろうとしたパチュリーは、

 

「パチュリー様が今感じているのは運動した人間が味わえる悦びなんですよ」

 

 という言葉と、実は危ない所には一切触れずに奉仕していた小悪魔のマッサージに戸惑う。

 

「よろこ、び?」

「はい。運動すると気持ちいい、体を鍛えると気持ちいい、そういう悦びです」

「………」

 

 ソレは生粋の魔女、生まれた時から魔法使いであり、引きこもりでもある彼女には、今まで縁が無かったもの。

 未知の、初めての感覚だった。

 

「そう考えるとだんだん痛気持ち良くなってくるでしょう?」

 

 そう言って少し強めにツボを押す小悪魔。

 

「あ、あああ!」

 

 そうやってまるで楽器を奏でるかのようにパチュリーの身体を操り、その悲鳴を自在に引き出して見せる。

 そうして小悪魔は、

 

(ああ、いい! 私の仕掛けた罠に涙目になって悶えるパチュリー様。そのお身体をもみほぐして快楽に染めていく悦び! いつもなら許されないボディタッチもやりたい放題です!)

 

 と歓喜に打ち震えていた。

 普通なら主従契約の抑止力によって、主人であるパチュリーをいたぶるような真似などできないが、小悪魔はあらかじめスタミナの種が持つ副作用について警告していた。

 そしてパチュリーは自分の意思で種を口にしたのだから問題ない。

 また、主人が痛みに苦しまないように手助けするのも従者の役目。

 それがたとえ『痛み』を『気持ちいいこと』としてすり替え、身体と精神に覚え込ませるようなことであったとしても……

 

(ウソは言ってませんしねー。運動すると体に負担がかかって苦しいはずなのに気持ちがいいのは、苦しさを紛らわせるため脳内麻薬が分泌されるからですけど)

 

 俗に言うランナーズハイというやつだ。

 この辺の知識は本の虫であるパチュリーも知っているはずなのだが、周囲から「役に立たない知識人」「知識人はもう間に合っている、これ以上要らない」「使えない奴」呼ばわりされているように知識ばかりが先行して今一つ実体験に結び付けられずにいるのもまた彼女である。

 だから幻想郷でも上位に位置する強者のくせに、こんな風にろくな魔術も使えないような使い魔にいいようにされてしまうのだが。

 

(まぁ、ムチ打ちとか、スパンキングとか、痛みを与えることでも同様の現象を引き起こすことができて、今のパチュリー様がまさしくそんな状態なんですけどね)

 

 痛みに耐えるために多量の脳内麻薬が分泌され、ランナーズハイを遙かに上回る多幸状態を造り出してしまう。

 ムチ打ちに耽溺するマゾヒストができあがってしまうのは、そういった仕組みがあるからだ。

 

 脳内麻薬に常習性はないが、そもそも薬物への依存には『身体的依存』だけでなく『精神的依存』があり、『身体的依存』が無いから大丈夫というのは危険な考えだ。

 

(それにこれでパチュリー様が身体を虐める、つまり身体を鍛える悦びに目覚めてくれれば日ごろの運動不足も解消され健康的に! これは従者として頑張らなくちゃ(使命感)!)

 

 というわけで、無駄に熱心にご奉仕する小悪魔。

 

(本の中、ゲームの中のコトとタカをくくっているのでしょうけど、ここで身体を鍛える痛みに悦びを覚えるよう堕とされてしまえば、現実のパチュリー様も立派な筋トレマニアの健康狂いです!)

 

「かはっ!」

 

(そして同時に私のマッサージの虜になったパチュリー様は現実でも激しい運動でガタガタになった、生まれたての小鹿のようにプルプル震える無防備な身体を自ら望んで私に差し出すようになるんです!)

 

 小悪魔は陶然とした様子でパチュリーの身体を揉みこんで、

 

(こんな風に!)

 

「……っ!?」

 

(堕ちるんです、パチュリー様! 堕ちてしまうんです!)

 

 必死に耐えるパチュリーを悪魔の…… 捕食者の目で見下ろす小悪魔。

 

(……啼きなさい)

 

 ツボに添えた指を、パチュリーの柔らかな身体にぐりりとねじり込む。

 

「ああああああああ!」

 

「悪魔に身体を許すというのはこういうことです!」とばかりに全力でパチュリーを肉体調教、もとい健康に目覚めさせようと徹底的に快楽を刷り込む。

 まぁ、やっていることは筋肉痛に悩む患者へのまっとうなマッサージであるのだし、だからこそ主従契約の抑止力には引っかからないのだが。

 そうして息も絶え絶えになって倒れ込むパチュリーの耳元に小悪魔はささやきかける。

 

「さぁ、パチュリー様、スタミナの種はまだありますけど、いかがされますか?」

 

 慈愛に満ちた悪魔の微笑を浮かべ、種を差し出す小悪魔。

 

「う、ぁ……」

 

 パチュリーはぞくりと背筋を震わせながら口を開け……

 

 

 

To be continued




 小悪魔×パチュリーのカップリングが大好きなので書いてみた作品です。
 あくまでも主従関係は崩さず、でもパチュリー様にベタ惚れな小悪魔が一生懸命アタックするというお話になります。
 楽しんでいただけると良いのですが。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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キャラメイク続き~〇ップルへの熱い風評被害!

 そして五つのスタミナの種をつぎ込み無理やり体力を付けたパチュリーを見て、受付の男性はこう言った。

 

「なかなか、てつじんのようですね」

「くっ……」

 

 狙っていたタフガイにはなれなかった。

 てつじんもそう悪くない性格ではあるのだが。

 仕方がないと、あきらめようとしたパチュリーだったが、

 

「ではパチェさんを登録します。よろしいですか?」

「あ……」

 

 パチュリーは気付いてしまった。

 これは仮想体験型とはいえゲームなのだ。

 ここで「はい」と答えなかった場合、キャラメイクはやり直しになる。

 つまり先ほどまでのことを繰り返すことに……

 納得がいくまで、何度でも。

 こくんと唾を飲み込んで、パチュリーは震えそうになる声を無理に絞り出し、

 

「いいえ」

 

 と答えた。

 

 

 

(あはははは、最高です! 最高ですよパチュリー様!)

 

 小悪魔は内心、笑いが止まらない。

 ゲーマーにありがちな、納得がいくステータスが得られるまでキャラメイクをやり直すというプレイ。

 

(どちらかというと凝り性な面のあるパチュリー様ならはまってくれそうだと思っていましたが、あれだけ私に啼かされたっていうのに本当に選んじゃうんですね)

 

 愉悦に歪みそうになる口元を意識して引き締め、小悪魔は決意する。

 

(いいでしょう、この際、徹底的に堕として差し上げます! どこまで耐えられるか見物ですね)

 

 

 

 そして何度繰り返したことか……

 パチュリーには幸いなことにスタミナの種を4つ使った時点で10ポイントアップを達成。

 今回は運がいい。

 

(でも11以上アップさせると今度は他の性格も候補に上がるようになるからやめておいた方が良いのね)

 

 ガタガタにされてしまった身体にぼうっとしながら、しかし醒めた意識の一角で思考するパチュリー。

 この辺はさすが七曜の魔女といったところか。

 だから最後の一個は一番役に立つだろう力の種にしようとするが、

 

「いいんですか、パチュリー様」

(こあ?)

 

 小悪魔のささやきが彼女を止める。

 

「スタミナ…… 体力というのは持久力、耐久力ですが、力というのはもっと直接的な筋力のことですよね」

(あ……)

「そう、気づかれましたね」

 

 小悪魔は残酷なほど優しい笑顔を浮かべて言う。

 

「力の種を使ったら、これまでよりずっと凄いことになりますよ」

 

 と。

 

(これまでよりずっと凄いこと……)

 

 パチュリーの身体がぶるりと震え、背筋にゾクゾクとしたものが走るのは恐怖によるものだろうか?

 いや、生粋の魔法使いである彼女にとって感情を制御し恐怖を克服することなど容易いはずのこと。

 それならこれは……

 

「問題、ないわ」

 

 パチュリーは『それ』、つまり『自分の望み』を自覚しながら、自らの選択で力の種に手を伸ばす。

 

 そして彼女の望みはほとんど完全にかなえられた。

 頭脳の片隅で魔法使いとしての冷静な意識が見守る中、彼女の身体とそれに根付く部分は感覚と感情のオーバーフローに翻弄され、小悪魔の手管により啼かされ、そして幸福な眠りの中に堕ちて行った。

 

「どうしたらもっとパチュリー様によろこんで頂けるか、いつだって私はそう考えていますよ」

 

 そんな小悪魔のささやきが、意識を失う寸前のパチュリーの耳朶に届いていた。

 

 

 

「パチュリー様?」

 

 パチュリーは小悪魔に優しく揺り動かされ、意識を浮上させる。

 もっとも魔法使いとしての彼女の意識は途切れることなく周囲を認識していたが。

 そんな自分自身と意識統合。

 そうして身体に走る痛みに、

 

「いたた、これで力もアップ、と」

 

 そう状況を理解する。

 意識を失ってから、さほど時は流れていない。

 そして体力と力のついたパチュリーを見て、受付の男性はこう言った。

 

「なかなか、タフガイのようですね」

 

 目標クリアーである。

 できあがったのは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:4

たいりょく:17

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:11

最大MP:16

こうげき力:12

しゅび力:6

 

ぶき:なし

よろい:ぬののふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 というステータスだった。

 

「ではパチェさんを登録します。よろしいですか?」

 

 という問いに、今度こそ、

 

「はい」

 

 と答える。

 これでキャラメイクは終了である。

 そしてパチュリーは気づく。

 

「そう言えば、あなたのステータスをまだ見ていなかったわね」

「あっ、それなら……」

 

 そして小悪魔に案内されたのはアリアハン城の謁見の間。

 

「さぁ、あの兵士さんに聞いてみてください!」

「何でそんなに興奮しているのかしら?」

 

 まぁ、何を言っても聞き入れそうになかったので、素直に兵士に話を聞いてみる。

 

「戦いでは、前にいる者ほどダメージを受けやすい。仲間たちの並び方にも気をお使いなさい」

 

 ここまでは良い。

 

「こあくま殿は、みなの期待をになう勇者なのですから、ほどほどにたのみますぞ」

「はぁ?」

 

 言ってることがよく分からず小悪魔を見るが、

 

「なっ、何でですか!?」

 

 と、こちらも驚いている様子。

 

「そこは「エッチはほどほどにたのみますぞ」でしょう!? どうして素直に言えないんですか! 男なんでしょう!? ぐずぐずしないでください!」

 

 そうして魂の叫びの本音を漏らす。

 

「人間の男性にセクハラされて顔を赤らめるパチュリー様が見たかったのにーっ!」

「ああ……」

 

 この子、バカだ……

 パチュリーが事前に読み込んだドラゴンクエスト3に関する書籍の記事を思い起こしてみると、この兵士のセリフは勇者の性格で変化するらしい。

 そして先ほどのセリフは勇者が男性専用の性格『むっつりスケベ』か女性専用の性格『セクシーギャル』だった場合のものだった。

 つまり小悪魔の性格はセクシーギャル。

 タフガイなパチュリーと違って意外性の欠片も無い性格であるが、それを伝えるという建前でセクハラしたかったのだろう。

 しかし見事な空振りに終わっていた。

 

「これが噂のアッ〇ルチェック!? 許せません、絶対にです!」

「言っとくけどスマートフォン版の元になってる携帯電話版の時点で消されているそうよ」

「ド〇モの仕業だった!?」

 

 〇ップルへの熱い風評被害!

 

「くぅーっ、これだから「事なかれ主義」の「臭いものにフタ」な日本企業はダメなんです!「言葉狩り」絶対反対です!!」

 

 まぁ、そんな小悪魔は放っておいて、だ。

 この兵士のセリフからすると、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしい。

 スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版にあったすごろく場が無くなっていたりとか、ゲーム内容に変化があるわけだ。

 

「それはそれで面白そうだけど」

 

 と、パチュリーは思う。

 変化があるということはゲームバランスが変わっているということ。

 スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版の情報は多く、攻略法についても語り尽くされている感がある。

 それに対してスマートフォン版等の情報は少なく、まだまだ検証の余地があった。

 

 なお、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:11

すばやさ:17

たいりょく:8

かしこさ:9

うんのよさ:8

最大HP:15

最大MP:18

こうげき力:23

しゅび力:16

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 これが小悪魔のステータス。

 

「……商人の私の方が、力が強い?」

「しょうがないじゃないですか。ひたすらキャラメイクをやり直したパチュリー様と、万能型と言えば聞こえがいいんでしょうけど尖ったところの無いセクシーギャルな私と比べたら、そうなりますって!」

 

 まぁ、それもそうか。

 

「悪い選択ではないですよね? 勇者は力と体力に優れ、それを伸ばした方が強いとはいえ、今回は商人のパチュリー様との二人旅です」

 

 小悪魔は主張する。

 

「魔法を使えるのは勇者の私だけですから、MP(マジックパワー)を伸ばすためにも賢さは必要。それに二人とも行動不能となった時点で全滅ですから、状態異常を防ぐ運の良さも無視できないと思いますし」

 

 そういう意味ではセクシーギャルは悪い選択ではない。

 ないが……

 

「勇者の性格診断で、何も考えずに素で答えていたら自然とこうなった?」

「………」

「図星、ね」

 

 そういうことらしい。

 

「まぁ、それはいいから王様からもらったお金と装備を全部渡しなさい」

「うわっ、カツアゲですかっ! わたし勇者なのにっ!!」

 

 ほら、と手を差し出すパチュリーにドン引きな小悪魔。

 

「あなたは何を言っているの?」

「そ、そこで心底不思議そうな顔をされても…… まさか『使い魔のものは主人(わたし)のもの』とでも言うおつもりですか? 酷すぎますっ!?」

「……酷いのはあなたの頭でしょう」

 

 と言ってパチュリーは小悪魔の頭をがっしりと両手でつかむと、

 

「思い出しなさい」

 

 と、静謐な色を宿す瞳でじっと小悪魔の目をのぞき込みながら命じる。

 しかし……

 

「あれ? 勇者の特技『おもいだす』が無い? レベル1から持っているはずなのに?」

「それはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だけのものだから」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、これらの特技は省略されているのだ。

 

「知っているなら無茶を言わないで下さいよ!」

 

 抗議する小悪魔だったが、パチュリーは意に介さない。

 

「もっと思い出しなさい」

「いえ、だから『もっとおもいだす』もないですから!」

 

 そもそも最速でもレベル8にならないと習得できない『おもいだす』の上位版技能だし。

 

「深く思い出しなさい」

「『ふかくおもいだす』もです!」

 

 こちらはさらにレベル20以上にならないと習得できない最上位バージョンだ。

 パチュリーの瞳がすぅっ、と細められる。

 

「《使役される者》よ、《繋がれた者》よ、《付き従う者》よ、我が忠実なるしもべ、鉤と鎖に繋がれた小者よ」

 

 パチュリーが舌の上で転がす詠唱に、小悪魔を縛る主従契約が鉤と鎖による緊縛というなにげにエロい形を取って視覚化される。

 このドラクエ世界でのパチュリーは商人だが、元の世界の主従契約が失効するわけではないのでこのように小悪魔に対しては術式を行使することができる。

 

 なお悪魔との契約は真名で括る西洋魔道の術だが、パチュリーの根本は属性魔法にある。

 属性魔法は精霊魔法とも言い、文字通り大自然に存在する精霊の力を借りて行使する力。

 そしてこの精霊(スピリット)という存在は、直截に名を呼ばれることを嫌う。

 真名などもってのほかで、『お隣さん(ネイバー)』『良い友達(グッドフェロー)』などなど婉曲な呼びかけを好むのだ。

 これは魔法使いや魔術師など、力ある者が直接、名を口にすると召喚や命令となってしまうことがあるからでもある。

 

 だからパチュリーも小悪魔の真名を握ってはいるものの、口に出したりはしない。

 それは優しさのようにも感じられるが、小悪魔ごとき小者、真名を口にせずとも圧倒的な力量差で押し切りねじ伏せることができるという傲慢さでもあるのかもしれない。

 

 そんなパチュリーの詠唱は続く。

 

「己の主の言葉がわからぬか。己の記憶はそれほどに儚いか」

 

 そして主人と従者の間に繋がれた魔術的なつながり、パスを通じて魔法が行使される。

 

「土符『スクリーンショット』」

 

 五行の『土』は五神の『意』に対応し、思考、記憶をつかさどる。

 そうして宙に映し出されたのは、小悪魔の過去の記憶。

 

 

 

To be continued




 キャラメイクの続き。
 なんだかエッチい感じがしますが、心のピュアな方ならそんなことはないと分かってくれますよね?
 そしてもちろんパチュリー様はカツアゲしているわけではないのです、というのは次回更新で。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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なぜ王様は勇者に最下級クラスの武具や小銭しか渡さないのか

 玉座の間でアリアハンの王様に会う小悪魔。

 

「よくぞ来た! 勇敢なるオルテガの息子…… いや娘じゃったか…… しかし男に勝るとも劣らぬその精悍さ。こあくまはさすがオルテガの子供じゃな」

 

 中略(スキップ)

 

「しかし一人ではそなたの父、オルテガの不運を再びたどるやも知れぬ。町の酒場で仲間を見つけ、これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」

 

 こあくまは50ゴールドと武器防具を受け取り袋に入れた。

 

「ではまた会おう、勇者こあくまよ」

 

 

 

「分かったかしら?」

 

 強引に記憶を吸い出され、そのショックにビックンビックンと痙攣している小悪魔にパチュリーは問う。

 

「な、何がですか?」

「分からないならもう一度……」

「やめてください、しんでしまいます」

 

 そう懇願するのでパチュリーは仕方なしに言葉で説明する。

 

「アリアハンの王様はお金と武器防具を渡す時「これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」と言ったでしょう?」

「あっ!?」

 

 それでようやく小悪魔は理解する。

 つまり、

 

「王様から渡されたお金と装備って仲間のためのものであって、私自身には1ゴールドたりとも渡されていないってことですか!?」

 

 そういうことだった。

 

「魔王を倒す勇者に50ゴールドとあれっぽっちの装備しか渡さないなんてどういうこと、って思っていたのに、それすら勇者自身のためのものじゃなかったなんて……」

 

 乾いた声で笑う小悪魔。

 

「せめて衛兵さんの持ってる槍とか鎧兜を……」

「ああ、あれは儀礼用の飾りよ」

「はい?」

「パレードアーマーと呼ばれるハリボテ。軽量化のために実用性とか耐久性は考慮されていないものなの。槍も同様ね」

「そ、そんなもので……」

「この国って鎖国中だから問題ないんじゃない?」

 

 江戸時代の甲冑みたいなものだ。

 各大名の象徴のようなもので実際に使用されることはなく、実用性より装飾性に重きが置かれていたという。

 

「そ、それじゃあ勇者がソロで魔王バラモスを倒した場合にくれるバスタードソードとか……」

「このアリアハンは弱いモンスターしか出ない死の危険が少ない場所。ここでの戦闘は練習モード、チュートリアルに相当するわ」

 

 パチュリーは説明する。

 

「実戦における立ち回りを学ぶためにあるんだから、最初から強力な武具をもらって済ませてしまったら練習にならないでしょう?」

 

 死ぬ危険の少ないここで基本的な立ち回りを覚えないで武器の性能に頼った戦いをしていると、後でそれが通用しない強敵に出会った時点で詰む。

 

 また身の丈に合わない強い武器を持ったせいで、それを自分の実力と勘違いしてしまう。

 そのせいで無謀にも強力なモンスターに挑んで、あっけなく死ぬというパターンもありえる。

 

 ネット小説でも、普通の人間が勇者の剣を手に入れて「俺TUEEE (おれつえええ)」しているだけの話にはツッコミが来るだろう。

 そういうことだ。

 

「ちなみにバスタードソードは『激しい怒りが込められた剣』と説明されているけど」

 

 公式ガイドブックの記述だ。

 それを聞いて小悪魔はうなずく。

 

「ああ、やっぱり「あるなら最初から渡せ」っていう勇者の怒りが込められているんですね。それともソロでバラモスを苦労して撃破した末にもらえるこれが、入手後すぐに下の世界で手に入ることに対する怒りでしょうか?」

 

 パチュリーは薄く笑ってこう答える。

 

「こういう説もあるわ。込められた怒りの正体は「一人旅をするつもりだったのなら軍資金と装備を返せ」と恨む王様のものだった、という……」

「済みませんでした!」

 

 即座に王様から渡された50ゴールドと装備、棍棒二本にひのきの棒、旅人の服を差し出す小悪魔。

 

「サイズ調整をお願いね」

 

 受け取られずに突き返される旅人の服に小悪魔は、

 

「使い魔使いが荒いです。ブラック労働反対です!」

 

 そう主張するが、

 

「……一度これを鉄槌として振り下ろすか、その口にねじ込まないとダメかしら?」

 

 と棍棒を装備するパチュリーに恐怖する。

 虚弱体質なパチュリーだったが、身体強化により持っている本で直接相手を殴る、というワイルドで強力な攻撃法も持つ。

 小悪魔は、パチュリーが魔法による弾幕を潜り抜けてきた鬼、種族の能力として『鬼の力』、すなわち怪力を誇る相手をこれで壁まで吹っ飛ばすところを目にしたことがある。

 つまり打撃攻撃にも(身体能力に何らかのブーストが加われば)十分な適性を持っているのが魔法使いパチュリー・ノーレッジなのだった。

 そして今現在、パチュリーの力はゲームシステムの補正で勇者である小悪魔を上回っている……

 

 城の片隅で涙目でちくちくと針を刺す小悪魔。

 こうしてサイズを合わせると見た目もそうだが、何より動きやすさが違うのだから仕方が無いとパチュリーは思う。

 とあるSF小説の主人公も、

 

「ちょいとばかり賢くしてやろうか、坊や。軍隊にはサイズはふたつしかないんだ…… 大きすぎるか、小さすぎるかだ」

 

 と言われて針と糸を渡され、チャレンジしていたではないか。

 

 

 

「これでいいわね」

 

 小悪魔によりサイズ調整がなされた旅人の服。

 雨風避けや野営の為のクロークを備えた、旅人必携の丈夫な服を着込み、棍棒を手にしたパチュリーはうなずく。

 

「要らないものは売り払って、武器を買い替えましょうか」

 

 パチュリーは武器屋に向かい棍棒二本とひのきの棒、そして最初に着ていた布の服を売り払うことにする。

 結局、棍棒は小悪魔を脅すためにしか使わなかったという……

 

「パチュリー様の匂いが染みついた服…… それを売るなんてとんでもない!」

「人の着ていた服に顔をうずめないでちょうだい」

 

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

 

「ちなみに私は素でパチュリー様に魅了されているので、即座に恍惚・朦朧状態にされてしまいます」

「どうしてそこで胸を張ることができるのか本気で分からないし、そもそも人の着ていた服に勝手に変な特殊効果を設定しないでくれる?」

「いえ、犬にとって主人の匂いの付いた衣服がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるように、私たち使い魔には主人の魔力の残り香が付いた服はごちそう……」

「嗅ぐな!」

 

 さすがにそれはパチュリーでも恥ずかしい。

 小悪魔から取り上げるとさっさと売ってしまうことにする。

 そんなパチュリーに小悪魔は真顔で、

 

「服についてはパチュリー様の写真…… この世界だと姿絵と一緒に売れば、高値で買い取ってくれそうですが」

「主の尊厳を切り売りするような発想は止めてもらいたいのだけれど」

 

 口ではそう言いつつもゾクリとした戦慄を、そして下腹部に甘い疼きを覚え、戸惑うパチュリー。

 自身が絶対的ともいえる強者ゆえに、現実ではかなえられることのない『自らの尊厳を売り渡す』という未知の背徳の悦びが彼女を魅了し、パチュリーの精神と肉体は被虐願望に蝕まれてゆく……

 

「おかしなナレーションを付けてまでセクハラするのは止めなさい!」

 

 真っ赤な顔をして小悪魔の戯言を否定するパチュリー。

 こうして外の世界の『ぶるせら』と呼ばれる商売に着想を得た小悪魔の提案は却下されたのだった。

 

 

 

 ぷりぷりと怒るパチュリーの背中を見守る小悪魔。

 口の端がきゅっと吊り上がり、その瞳が愉悦にけぶる。

 

(ふふふ、パチュリー様、えっちな欲求や欲望というのは蓄積していくものなんですよ)

 

 主従契約の抑止力に触れない程度のセクハラでも……

 たえず繰り返すことで少しずつ、死に至る毒を流し込むかのようにパチュリーの心と身体を媚毒で満たしていくことは可能なのだ。

 最後にはコップいっぱいに張られた水があふれんばかりになるのを表面張力によりかろうじて保っている、そんな具合になる。

 そうしてふとした拍子に零れ落ちる……

 それを味わう瞬間を、どんな美酒にも勝る甘露な雫の味を夢想して、小悪魔はブルルと身体を震わせる。

 

(今、想像だけで達しちゃいました……)

 

 そして先ほど小悪魔が語った、

 

> さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで墜とされてしまう。

 

 状態異常の効果が蓄積して重症化していくという話。

 これはセクハラであると同時に、警告でもある。

 パチュリーが自らの欲望に負け、堕ちたその時に、

 

「だからあの時言ったじゃないですかパチュリー様。それなのにどうして『こうなること』を選んじゃったんですか?」

「気付くはずが無い? いいえ、パチュリー様ほどの方が気づかないはずがないじゃないですかー」

「つまりパチュリー様は心の奥底に私にぐつぐつ煮込まれて、とろとろに蕩かされてしまいたいという願望を持っていた。だからこそ無意識に気づかなかったことにしちゃってたんですよ」

 

 と嬲るための、そして事前に警告したにもかかわらずこうなってしまったのは、パチュリーが自ら望んだからなのだと刷り込むためのもの。

 

(愛していますよ、パチュリー様。ですからどこまでも甘く、優しく、ていねいに堕落の悦びに沈めて差し上げます)

 

 慈愛に満ちた表情でほほ笑む小悪魔。

 

(だから安心して堕とされてくださいね)

 

 小悪魔が謀る、パチュリーを至上の悦楽と被虐の奈落へ堕とすためのゲームは、始まったばかりなのだ。

 

 

 

 一方、パチュリーは気を取り直して……

 装備の売却で手に入ったお金と王様からもらった軍資金を合わせた104ゴールド。

 それを使って100ゴールドで売られているアリアハンの城下町で一番強力な武器、青銅製の小剣を買うことにする。

 

 

どうのつるぎ

 主人公が冒険の最初に持っている両刃の剣。

 青銅製で、切るよりも叩いて攻撃する。

(『SFC版公式ガイドブック』より引用)

 

 

「切るより叩いて、というのがポイントね」

「そうなんですか?」

 

 よくわかっていない様子の小悪魔にパチュリーは説明する。

 

「剣というのはただ振るだけではダメで、しっかりと刃筋を立てないと斬ることができないものなの。だから、叩いてもダメージが与えられるというのは初心者にとっては使いやすいでしょうね」

「なるほどー」

 

 小悪魔は感心するが、

 

「あれっ? それじゃあ棍棒やメイスなんかの打撃武器の方が良いのでは?」

「確かに、振って当たればダメージになる打撃武器は扱いやすいけど、それじゃあいつまで経っても剣の扱いを覚えることができないでしょう?」

「ああ、そうですね」

「剣の扱いが練習できて、刃筋を立てることに成功しても失敗しても与えるダメージに大きな違いは出ない。そんな銅の剣は初心者にぴったりなのよ」

 

 そういうことだった。

 

「そもそも初心者に重く、刃渡りが長く、切れ味が鋭い立派な剣なんて持たせたら、剣に振り回されて自分の足を斬りかねないしね」

 

 剣は重いのだ。

 外の世界の時代劇なんかだと刀を軽々と振っているが、真剣はそんな真似などできないほどにずっしりと重く、西洋剣はさらに重い。

 そして日本刀は両手を使って操るが、ドラクエの剣は、盾を使うことからも分かるとおり片手で扱わなければならない。

 これは容易なことではない。

 振り回す力はもちろん要るが、安全のためには止める力が絶対に要る。

 そうでないと勢い余って自分の足を斬ってしまうのだ。

 そういう意味でも、銅の剣なら割と安全なのだった。

 

「それにしても……」

 

 と小悪魔は店に並べられた銅の剣を眺めながら言う。

 

「銅の剣って、青銅剣なんですね」

「まぁ、そうなるでしょうね」

 

 この辺は諸説あるが、パチュリーが読んだ公式攻略本では青銅の剣、という解説が記載されていた。

 もっとも同時に英語表記では『Copper sword』とされていたが(青銅はBronze)

 

「銅は単体では柔らかすぎるから、道具に使うなら合金にするのが普通ね」

 

 コンコン、と剣の平を叩き、品を確認するパチュリー。

 

「何をしているんですか?」

 

 小悪魔が訊ねると、パチュリーは笑って答えた。

 

「青銅の剣は型に溶かした金属を流し込んで造られる鋳造品よ。スが入ってたり、細かいヒビが入ってたりしたら大変だから、こうやって確かめるわけ。魔物に遭って、剣で叩いて折れました。ハイこの世からさようならは嫌でしょう」

「確かにそれはシャレになりませんね……」

 

 実際、外の世界の銃剣など軍用の刃物類は柔らかめの刃を持つことが多い。

 素人でも研ぎやすいように硬度を落としているというのもあるが、本質的には「硬くて折れるよりは、柔らかくても曲がってしまう方がマシ」という思想からくるものだ。

 そうしてパチュリーは一本の青銅製の小剣を選び出し、自分のために購入する。

 

「しかし、どうして青銅の剣なんでしょうね?」

「アリアハンでは石炭が取れないから、という説があるみたいね」

「石炭? 鉄鉱石じゃなくて?」

「鉄を精錬するには青銅に比べ高温が必要なのよ。でも石炭が無いし鎖国で輸入もできないとなると……」

「炭を使うしか無くなりますね」

 

 昔の日本のたたら製鉄みたいに。

 

「ええ、そして木を伐採して炭を大量に使うとなると、今度は自然破壊が問題になる」

 

 閉じた世界での自然破壊はかなりまずい。

 中世の日本でも製鉄のため、多くの森林が消失し大変なことになったという。

 

「だからアリアハンでは鉄より少ない燃料で造れる青銅器が一般的になったんでしょうね」

 

 レーベの村で売っているブロンズナイフは公式ガイドブックにて、

 

 

ブロンズナイフ

 刃を欠けにくく加工してある青銅製のナイフ。

 料理などにも使われる軽いナイフだ。

 

 

 とされている。

 つまり青銅器が調理にも使われるほど浸透している、普段使いされているということだろう。

 

 逆にアリアハン大陸で売っている武具で、確実に鉄が使われているらしいのは鎖鎌だけ。

 これは農具からの転用品で、しかも刃は小さい。

 国内で希少な鉄は食料生産のための農具に優先して使用され、その使用量もできるだけ少なく有効に活用できるよう工夫されているということなのだろう。




 王様から渡される50ゴールドと武器防具のお話。

「なぜ王様は勇者に最下級クラスの武具や小銭しか渡さないのか」

 とツッコむ方も多いのですが、それに関わる事柄についてのパチュリー様による考察でした。

 そして元気いっぱい、セクハラに励む小悪魔。
 まぁ、やってることは、

「パチュリー様にえっちなことを意識させ、欲求不満になったところでおこぼれをもらいたい」

 ってだけなんですけどね……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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どうして勇者はツボやタンスを漁っても捕まらないのか

「鞘(さや)の造りは…… まぁ、合格といったところかしら」

 

 パチュリーは剣を納める鞘を手に取って確かめる。

 

「鞘がそんなに重要なんですか?」

 

 小悪魔が疑問を挟むが、

 

「足元が不安定な野外の旅、転んだり足を滑らせたりしたときに、刃先が鞘を突き破ったらどうなるかしら?」

「うっ……」

 

 小悪魔にも分かったようだ。

 

「そんなことが起これば大怪我をするわ。だから剣やナイフなどの刃物類は安全に携行できる鞘、シース無しには使えないの」

 

 幻想郷の外の世界でも落馬の危険があるカウボーイは安全な折り畳みナイフに切り替えてしまっているという話だ。

 ハンターの使う解体用ナイフも。

 

 鞘の他には、タッチアップ、応急的に切れ味を回復させるのに使う小型の携帯砥石が一つ付く。

 そして、

 

「それじゃあ、砥石を借りるわね」

 

 パチュリーは武器店の店主にそう断ると、店先に置いてある砥石を確かめる。

 

「オイルストーン? じゃなくて水砥石ね」

 

 目の粗さが違うものを三本、水を張ったタライに漬ける。

 

「オイルストーン?」

 

 首をかしげる小悪魔に、パチュリーは説明する。

 

「砥石には水砥石のほかに、欧米で使われるオイルストーンがあるわ」

「どう違うんですか?」

「一般的には水砥石は柔らかめで、水をかけて使うわ。炭素鋼は食いつきが良く研ぎやすいから水砥石がいいとされる……」

 

 日本人になじみ深いのはこちら。

 

「対して、オイルストーンは水が貴重な荒野でも使えるよう、オイルをかけて使う物なの。硬めですり減りにくく平面を長く保てるわ。ステンレス鋼は炭素鋼に比べて研ぎにくいから、オイルストーンを使うのがいいとされているわね。水砥石だと柔らかいからステンレス鋼の刃物を研ぐのに使うと減りが早いのよ」

「なるほど」

「まぁ、水砥石に慣れているならそれでステンレス鋼の刃物を研いでも特に問題は無いわ」

「へっ?」

「減らないように使えばいいんだから」

「……それって技術を持っている人にしかできないんじゃ」

「だから言ったでしょ、慣れているならって」

 

 水砥石を水に漬けること10分。

 天然砥石は水を吸わない、とも言われるが実は石材によっては違ったりする。

 だから念のための処置だ。

 

「じゃあ小悪魔、三つの砥石を交互にすり合わせて平面を出して」

「はい?」

「刃物を研ぐコツは、常に一定の角度を保つことだけど」

 

 パチュリーは説明する。

 

「砥石は使っているうちにすり減って真ん中がくぼんで行くの。それじゃあ、角度を保てないでしょ」

 

 だから砥石同士をすり合わせて平面を出してから研ぐのだ。

 

「……結構重労働ですね、これ」

「普段から平面出しをしていればさほど。さぼっていると確かに大変かもね」

 

 それでも何とか、

 

「くぅ~疲れました。これにて完了です!」

 

 平面出しが終わる。

 

「それじゃあ、研ぎましょうか」

 

 パチュリーは砥石に水をかけて銅の剣を研ぎ始める。

 最初は荒研を使って。

 角度を一定に保ち、台上に固定した砥石の上を、刃を一定の角度に保ったまま往復させる。

 

「慣れてますね、パチュリー様」

「まぁ、私は生粋の魔法使いであると同時に魔女でもあるから」

 

 魔法使い、とされるパチュリーだが『花曇の魔女』との二つ名でも呼ばれるとおり、同時に魔女であるとも言われる。

 

「魔女の扱う力は魔術や呪術だけでなく、まじない、占い、薬草(ハーブ)を使った生薬の技術など、魔女と関連付けられる知識、技術、また信仰も含まれる」

 

 この辺は諸説あって論じる者によって主張はまちまちではあるのだが。

 

「そして魔女と言うだけに主体は女性。術や儀式に使われる魔具も、女性、主婦が手に入れられるものが用いられたわ」

 

 包丁(キッチンナイフ)や盃(ゴブレット)、ナベ(アーサー王伝説で有名な『聖杯』の原型はケルト神話の『再生の大釜』にあるとも言われる)、燭台などなど。

 無論、術で使う物はアセイミーナイフ(athame アサメイとも)のように聖別され、普段遣いはしないのだが。

 

「だから道具の手入れ、キッチンナイフを研ぐなんていうのも当たり前にできるわけ」

 

 切れない包丁ほどイライラさせられるものは無いのだから。

 

「これは青銅剣だから欠けないよう、ハマグリ刃に仕上げましょうか」

「ハマグリ刃?」

「刃の断面をハマグリのように曲面を描くようにするものね。出刃包丁とかナタなどに使われる、刃を欠けにくくする研ぎ方よ」

 

 レーベの村で売っているブロンズナイフに施された『刃を欠けにくく加工してある』というのはこのハマグリ刃を意味するのだろう。

 

「ちなみに剣は肉を斬るものだから、使うのは荒研と中研。仕上げ砥まで使うと肉の脂であっという間に切れなくなるから」

 

 これに異を唱える者も居るが、そもそも刃物を研ぐ技術というのは本当に人によって言うことが違う。

 正解など無いと言ってもいいので、パチュリーの主張もまた色々な説のうちの一つと捉えるのが良い。

 しかし、小悪魔には別のことが気にかかったようで、

 

「……あれっ!? だったらなんで砥石を三つも使って平面出しをしたんですか! 二つしか使わないならそれだけをすり合わせれば良かったじゃないですか!」

 

 そう抗議するが、これにはれっきとした理由がある。

 

「二つだと曲面同士が組み合わさって平面が出ない可能性があるからよ」

 

 極端な話、片方が凸で片方が凹な曲線を描いているモノ同士をすり合わせても平面にはならないのだ。

 

「三つを交互にすり合わせれば、それが防げるわけ」

 

 そういうことだった。

 

「あなたの剣も研ぐ?」

「は、はいできれば」

「そうね、素人がやると研ぎの角度が一定に保てず丸刃にしてしまうから」

 

 そしてパチュリーは手を止め、小悪魔を見る。

 

「もっとも磨り上げるなら、その辺は自分でやってちょうだい」

「すりあげ?」

「自分の体格や用途に合わせて剣を縮めることよ」

 

 実用品の日本刀などに見られる加工だ。

 時代の流れや流派、個人の体格に合わせ刀剣の長さを変えることは、別に珍しいことではない。

 ドラクエのようなファンタジー世界の剣であっても有効だろう。

 ダンジョンや屋内など狭いところでは剣が長すぎると振るえないこともあるし。

 

「普通は茎(なかご)側…… 根元の方を削って短くしていくのだけど、この銅の剣は柄まで一体形成の鋳造品だから先端を削ることになるわね」

「大変ですね」

「だからやりたいなら自分でやりなさい」

 

 さすがにそこまではやってやる気はしないパチュリーなのだった。

 

 

 

 次はアリアハンで手に入るアイテムの回収だったが……

 

「それじゃあ小悪魔、よろしくね」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 慌てる小悪魔。

 

「そういう隠されたアイテム探しも冒険の醍醐味なんじゃありませんか! 本の中の物語を体験できる、今だからこそやれることですよ!」

 

 小悪魔の熱心な勧めにより、

 

「……それもそうね」

 

 と納得するパチュリー。

『本の中の物語を体験できる、今だからこそやれること』が決め手となったらしい。

 本の虫の彼女らしい考え方である。

 

 一方、小悪魔はというと、

 

(仮想体験なゲームであれはきついですよ。何の罰ゲームですか……)

 

 と、汚れ仕事を押し付けられなかったことにほっとしていた。

 何しろドラクエの勇者というやつは、

 

 

 民間人らしき女性の悲痛な叫び。

 彼女を押しのけて民家に押し入り、無理矢理クローゼットを開けるのは勇者と呼ばれる者だった。

 

女性「おやめください!」

勇者「あるじゃねえかよ! コインと剣がよ!」

女性「おやめください! 勇者さまっ!」

ナレーション「もう勇者しない」

 

 

 というもの。

 見下ろし式のデフォルメされたゲーム画面なら、まぁゲームだと思って納得できるかも知れないが、登場人物目線でプレイする仮想体験なゲームでこれは無い。

 しかし……

 

 パチュリーはアリアハンの城と街をめぐると、

 アリアハン城1階のタルから、毒消し草、小さなメダル、

 アリアハン城2階のタンスからラックの種を、

 ルイーダの酒場の外に置いてあったタルから25Gを、

 勇者の実家のタンスから力の種とツボから薬草、それから祖父の部屋のタンスから5Gを手に入れた。

 

「はい?」

「どうしたの、小悪魔」

「な、なんで人目を気にせず武装した人間が民家や城に押し入り堂々と窃盗行為を働いているのに、周囲の人間は何も気にしていないんですかー!!」

 

 と、小悪魔が叫ぶとおり、パチュリーの行為はスルーされていた。

 

「それは住居精霊(ヒース・スピリット)や都市精霊(シティ・スピリット)の疎外(エイリアネーション)や隠蔽(コンシールメント)、混乱(コンフュージョン)の力(パワー)が働いているからでしょう?」

「はい?」

「それに私が拾ったものはすべて住人の財産ではなくて、精霊の隠し財宝よ。それをゆずってもらっただけ」

「えっ? えっ? えっ?」

 

 混乱する小悪魔を生徒に、パチュリーによる魔法講座が開かれる。

 

「私が使う魔法がどんなものかは知っているでしょう」

 

 それは質問ではなく断定。

 もちろん小悪魔も理解している。

 

「それはもう、七曜の属性魔法ですよね」

 

『火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力』

 すなわち、木、火、土、金、水の五行に日と月の2属性を加えた属性魔法を使いこなすのが魔法使いパチュリー・ノーレッジである。

 

「属性魔法は精霊魔法とも言い、文字通り世界に遍在する精霊の力を借りて行使する力。じゃあ、この精霊(スピリット)というのは?」

「西洋魔術で言う地水火風の元素精霊(エレメンタル・スピリット)が有名ですけど」

 

 小悪魔が言っているのは、地のノーム、水のウンディーネ、火のサラマンダー、風のシルフ。

 地水風火の四大元素に基づく四大精霊というものだ。

 

「でも、パチュリー様の使われる魔法はまた概念が違うんですよね。五行は東洋魔術の……」

「そうね、だから一口に精霊(スピリット)と言っても魔法様式によってさまざまな捉え方があるわけ」

 

 そして、

 

「この世界で勇者を導いているのが精霊ルビス」

「そうでしたね」

「人格を有し人に似た姿を取ることもできる、この物語世界でも最上位の精霊。一番近いのはシャーマニズム様式の魔法概念における自然精霊(ネイチャー・スピリット)の上位精霊、グレート・スピリットのそのまた上、のようなものね」

「自然精霊(ネイチャー・スピリット)、ですか?」

「自然のあらゆる場所に精霊は息づいているという考え方よ。風が吹く場所には旋風精霊(ストーム・スピリット)が川には河川精霊(リバー・スピリット)が、山には山岳精霊(マウンテン・スピリット)が居て平原には平原精霊(プレイリー・スピリット)が居る」

 

 神道における、あらゆるものに神が宿るとされる八百万の神の概念と同様、もしくはそれに近いものだ。

 

「それじゃあ、人工の街には居ないわけですね」

「それは違うわ。人の住む住居には住居精霊(ヒース・スピリット)が、それ以外の場所は都市精霊(シティ・スピリット)の領分ね」

「住居精霊(ヒース・スピリット)ですか? 先ほども仰っていましたね。どういう存在なんですか?」

「家の精(ブラウニー)とか白い婦人(シルキー)なんて呼ばれるものね」

 

 ドラクエだとブラウニーは後にモンスターになっているが。

 

「紅魔館(うち)にもたくさん居るでしょう?」

「はい?」

「妖精メイドやホフゴブリンたち」

「え、ホフさんが?」

「魔法様式によってさまざまな捉え方がある、そう言ったでしょう? その辺、定義は色々だし境目は曖昧なのよ」

 

 ホフゴブリン…… 一般的にはホブゴブリンと呼ばれる存在は、ゲーム等ではモンスターであるゴブリンの大型種という扱いだが、伝承上では密かに家事を手伝う善良な妖精のことを言う。

 紅魔館で働いているのはそちらである。

 小悪魔は苦笑して、

 

「外見だけ見ると邪妖精のようなんですけどね。紅魔館では土曜の夜に魔女がサバトを行い、ホフゴブリンや妖精たちと交わり、淫らな行いをやっていると評判ですし」

 

 などと言う。

 

「は?」

 

 目を点にするパチュリー。

 紅魔館の魔女といったら自分のことなので当たり前だ。

 小悪魔はそんなパチュリーの表情の動きをおかしそうに見ながら説明を付け足す。

 

「女性しか居なかった紅魔館でホフさんたちを引き取ったのはその用途のためだって……」

「何よ、その熱い風評被害は」

 

 パチュリーはとても嫌そうに顔をしかめる。

 しかし小悪魔はきゅっと頬を吊り上げて、

 

「でも、これも仕方がないことなんですよ。ただでさえパチュリー様は幻想郷に住まう者たちの憧れの的なんですから。神様みたいに崇拝してる者も居ますし。その上パチュリー様は女淫魔(サキュバス)でも嫉妬するぐらい魅力的なお姿……」

 

 などと詭弁じみたことを言い出す。

 

「でも、そのお力故、触れることもできませんからみな、その気がなくても少しおかしくなっているんです。きっと今夜もパートナーを抱きながら、または一人でしながら頭の中でパチュリー様を冒涜する男たちが、いいえ、女たちもいっぱい居ます」

 

 そうささやく小悪魔。

 

「そんなパチュリー様が…… みんなが欲しがってるパチュリー様が、ホフさんたちのような、パチュリー様にとっては取るに足りない、言葉は悪いですけどザコに過ぎない存在に組み敷かれ、いいように汚される。そんな倒錯した淫らなシチュエーション……」

 

 それはつまり、

 

「彼ら、そして彼女たちは妄想の中でパチュリー様をいやしくおとしめることで興奮しているんです」

 

 パチュリーが背筋をぞくりと震わせたのは、嫌悪のため……

 そのはずだったが、小悪魔の深い光をたたえた瞳を見ていると、それだけの単純な感情ではないような気もしてくる。

 魅了眼でも使っているのかともいぶかしむが、そういった働きかけは主従契約の抑止力に止められるはずだし、そもそも小悪魔とパチュリーの間に横たわる圧倒的な力量差から効くはずが無いのだ。

 しかし、小悪魔はそんなパチュリーの内心を見透かしたように、

 

「そしてパチュリー様は、そうやっておとしめられることにぞくぞくしてる」

「なっ!?」

「違い…… ませんよね」

 

 先ほどまでの妄言は、小悪魔の妄想でもある。

 つまりこの娘は主人であるパチュリーを想像の中でのこととはいえ、いやしくおとしめることに興奮しているのだ。

 そしてパチュリーはおとしめられることに……

 

「――いい加減、正気に戻りなさい」

「ふがっ」

 

 小悪魔の鼻をつまんで、彼女を妄想の世界から引きはがすパチュリー。

 

「話を戻すわよ」

「ふぁい」

 

 と涙目になって返事をする小悪魔に説明を再開する。

 

「面倒になったから結論だけ言うけど、大精霊であるルビスが導く勇者の冒険を、ルビスの下に位置する自然精霊(ネイチャー・スピリット)たちが助けてくれているわけ。彼らの疎外(エイリアネーション)や隠蔽(コンシールメント)、混乱(コンフュージョン)といった力(パワー)が働いているから鍵さえ開ければどこにでも入れるし、不審に思う者は居ない」

 

 これら『自然精霊(ネイチャー・スピリット)』が持つ力(パワー)は具体的には、

 

『隠蔽(コンシールメント)』

 対象を周囲に紛れさせ、発見を困難にする。(それゆえ城や家に勇者が進入しても発見されにくい)

 

『混乱(コンフュージョン)』

 対象を混乱させ、術者の領域でさまよわせる。

 家の中だと延々と壁に向かってぶつかり続ける(ドラクエで街の住人が部屋の中でウロウロし、時には壁に向かって足踏みしているアレ)、戸棚の扉を部屋のドアと間違えるなど。

 また、何かしようとしたり決断しようとすることが非常に困難になる。(それゆえ城や家に勇者が踏み込んできても、通報しようとか咎めようという気持ちを持つことがかなり難しくなる)

 

『疎外(エイリアネーション)』

 対象を他者から認識できないようにする。

 ただしこれは妖精のいたずらのように対象をからかうためのものなので、他者に気付かれないことでドアや門を閉められて挟まれる、突き飛ばされる、踏まれる、閉じ込められるなどの危険が降りかかってくる。

 それらを回避するには能力、もしくは運が必要。

 

 などというもの。

 こんな作用が働くために、家屋に浸入されても、それを察知されなかったり、不審に思われたりしないわけである。

 

「そして精霊のかくれんぼに付き合って見つけてあげれば、贈り物(ギフト)として彼らの隠し財宝、アイテムがもらえる」

「精霊の隠し財宝って…… その家の人の物を盗ってるわけじゃないんですね」

「そうね。そして多分、ダンジョンの宝箱なんかは財宝を守る精霊スプリガンのものなんじゃない?」

 

 そう考えれば説明が付くのか。

 

「モンスターがまれに持っている宝箱も本来はその土地の精霊のもので、モンスターを退治してくれたお礼としてくれる…… そういうことなんでしょうね」

 

 とパチュリーは締めくくるのだった。




『どうして勇者はツボやタンスを漁っても捕まらないのか』でした。
 いろいろな説がありますけど、精霊魔法の使い手であるパチュリー様視点な解釈ですね。
 参考にしたのはテーブルトークRPG『シャドウラン第2版(2nd)』のシャーマンが召喚する自然精霊の概念ですが。
(最新の版でもメジャーな魔法様式としてシャーマンのシャーマニズム様式は変わらずありますけど)

 そして相変わらずパチュリー様にせっせとセクハラを働く小悪魔なのでした……


>「もっとも磨り上げるなら、その辺は自分でやってちょうだい」

 ファンタジー作品だとゴブリンスレイヤーさんがやってましたね。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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スライムスレイヤー

「それで得られたアイテムとお金の分配なのだけれど」

「分配、ですか?」

「ええ、ちょっと試したいことがあるからドラゴンクエスト10のようなオンラインゲームで使われる『報酬の公平配分』をしたいと思うの」

 

 MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)などプレーヤー同士でパーティを組む場合に使われる方法だ。

 戦いの貢献度に比例して、などというのは面倒だし不平不満が出やすいので現実的ではない。

 それゆえ人数で単純に均等割りするのだ。

 しかし、

 

「どうしてそんなことを……」

「もちろん検証のためよ」

「検証?」

「ドラクエ3の商人は「使えない」「あなほりwwwww」「商人とかお前の存在意義がわからんのだけど」「イエローオーブ引換券」などと言われているけど」

「酷すぎる言われようですね」

 

 小悪魔は言う。

 

「とても他人事とは思えません」

「そんなところに共感を覚えなくていいから。しかも真顔で」

 

 話を戻して、

 

「でもそれは本当かしら? 例えば戦士は「金食い虫で装備が無ければ弱いから足を引っ張る」と言われているけど、それって勇者も一緒でしょう?」

「ああ、つまり現実的な『報酬の公平配分』をしてみて勇者と商人を比較検証してみたい、ということですか」

「ええ、二人旅なら単純比較が可能でしょ?」

 

 そういうことだった。

 

「宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残りを二人で分けて、買い物はそれぞれの予算の範囲で行うの」

 

 今回は30ゴールドから薬草3つを買って、残り6ゴールドを二人で分け合って3ゴールドずつ。

 

現在の所持金の合計:10G

小悪魔:3G

パチュリー:3G+4G(剣を買った残金)=7G

 

「アイテムについてはどうします?」

「基本は売却して清算するけど、売るのが惜しいものについては、これも公平になるよう分配ね」

 

 ということに。

 

「それじゃあ拾った力の種だけど、あなたに使うわね。これであなたは私に87ゴールドの借金を持っていることになるわ」

「はい?」

「力の種の売却価格は180ゴールド。これは二人に所有権があるものだから、半額の90ゴールドを私に払えば自分のものにできる」

「い、いきなり借金持ちですか!?」

「今のあなたの力だと、この街の周辺に出る大ガラスすら一撃で倒せない可能性があるから仕方ないわね」

 

小悪魔:-87G

パチュリー:7G+3G=10G(+未払い分87G=97G)

 

「それにこういう風に借金の仕組みを作っておかないと「高性能の武具を手に入れて冒険が楽になるはずが、お金が溜まるまで使えない」なんてことになりかねないでしょう?」

 

 それはそのとおりだが。

 

「じゃ、じゃあ残ったラックの種をパチュリー様が使って借金を相殺……」

「ああ、ラックの種って売却価格が40ゴールドだし」

「えっ、そんなに安いんですか?」

「そもそもドラクエ3の運の良さって、因果律に干渉して毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるという効果しかないから」

 

 しか、と言うが、効果はともかく原理は無駄に大掛かりである。

 

「どこかの異能生存体みたいな能力ですね」

「そこはレミィの能力を引き合いに出すところでしょう?」

 

 二人が暮らす紅魔館の主、レミリア・スカーレットは『運命を操る程度の能力』を持つ。

 

「まぁ、つまり状態異常攻撃を行ってくる敵に遭遇する以前の段階だと上げる意味が無いわ」

「ああ、そういう……」

 

 現実でもそうだが、こういう出費は可能な限り後回しにした方がいいのだ。

 特にゲームの場合、開始直後の100ゴールドは大金だが、ちょっと進めばもの凄いインフレで100ゴールドがはした金になるという……

 

 そして小悪魔はふと思い出したように言う。

 

「そう言えば能力値の成長には職業とレベルによって決まるおおよその基準値があって、種によるドーピングによって一時的に上昇させたとしてもその分、次のレベルアップで上昇しなくなってしまう。つまりドーピングは大局的に見てレベルアップによる能力値上昇が見込めなくなった段階でするのが正しいという意見もあるようですが」

「いや、その理屈はおかしい」

 

 即座に否定するパチュリー。

 

「能力の向上に基準値があるのではなくて、実際には職業とレベルに応じた成長上限値と下限値があってレベルアップではその間でしか成長しないというだけよ」

 

 そういうことだった。

 

「レベルアップによる能力上昇は基準値などといった存在しない値に近づくように成長するのではなく、単に職業とレベル、そして性格に応じ修正される上昇率が決まっているだけなの。つまり種によるドーピングで能力値ブーストをしたとしても上限値に引っかからない範囲なら問題ないわ」

 

 つまり、

 

「考えれば分かることだけど、レベルアップの能力上昇が元の能力値とは関係無く決まっているということは、種によるドーピングを行っておけばレベルアップして成長していく値にもずっとその分が上乗せされていくということよ。つまりドーピングを行う時期はその説とは逆、早ければ早いほど得になるわけ」

 

 ということ。

 そして力の種を手にしたパチュリーは、

 

「そういうわけだから食べなさい」

「うぐっ!?」

 

 そのまま小悪魔の口の中に突っ込んだ!

 

「ふふふっ、どうしたの、こあ?」

 

 使い魔を、ごく限られたプライベートな時にしか使わない『こあ』という甘い愛称で呼びながら……

 反射的に吐き出しそうになる小悪魔を押さえ込み、力の種を指ごとねじり込むパチュリー。

 それはもう楽しそうに、満面の笑顔で!

 

 そして小悪魔は逆らえずに力の種を飲み込んでしまい、

 

「……っ!?」

 

 突き抜ける衝撃。

 キャラメイクでパチュリーが体験した、短時間で筋肉の破壊と超回復を行うために生じる筋肉痛を凝縮したような痛みが全身に走り、硬直する小悪魔。

 それに耐えるために思わず歯を噛みしめようとするが、口にはまだパチュリーの指が入れられたままだ。

 そして主従契約の抑止力により、小悪魔はパチュリーを害することができない。

 だからパチュリーの指に伝えられるのはペットが主人にかわいがってもらおうと甘噛みするような、くすぐったい感触だけだった。

 その何とも言えない刺激に、パチュリーは静かにほほ笑む。

 

(し、仕返しですか? 仕返しなんですね! パチュリー様っ!!)

 

 と、主人と使い魔の間につなげられたパスを使った声なき抗議を他所に、パチュリーは痛みから突き出され、ひくひくと震える小悪魔の小さな舌の動きを愉しむ。

 まるで何かを受け入れるかのように口を『O』の形にして開き舌を突き出す小悪魔の表情は何とも官能的だった。

 

「!? ~~っ!! ~~~っ!!!」

 

 小悪魔は身体を突き抜ける痛みと、敏感な口内、舌を弄ばれる快感に身もだえする。

 苦痛と快楽のダブル責めに、あっさりと精神がへし折られてしまう……

 

 生物は激しい痛みを与えられると精神と身体がパニックに陥り、痛みを和らげようと脳内麻薬を分泌させる。

 そしてそこに同時に一滴の心地よさを与えられると、本能的に苦痛から逃れようとそれにすがり付いてしまう。

 今の小悪魔のように、自分に癒しを与えてくれるパチュリーの指先を愛おしげに舌で追うようになってしまう。

 

(うぅ…… パチュリー様ぁ)

 

 乾いた砂漠で与えられた一杯の水のように。

 いや、灼熱地獄で与えられた慈悲の救いのように。

 責め手の、パチュリーの与える快楽が、脳内麻薬でいわば麻薬漬けにされてしまった身体に、精神に染み渡って行く。

 それが癖に…… 依存症になっていくわけである。

 

 一方、激しい痛みと快感を同時に与えられた脳は混乱し、今自分が辛いのか気持ち良いのか分からなくなり……

 ついには痛みを快感に取り違えてしまうようになる。

 これは精神を苦痛から守るための作用で、意志の強さや誇りやプライドなどではどうにもできない。

 

 主人の、パチュリーの与える苦痛に圧倒的な恐怖と、それを上回るほどの興奮を覚えるように脳のシナプスを繋げられてしまう。

 頭の中にそういう回路を焼き付けられてしまうのだ。

 そして、そうされてしまったが最後、もう二度と元には戻れない。

 

 小悪魔はこれらの仕組みを理解していたが、だからこそ型にハメられ、絶対に逃れられない詰んだ状態にされてしまったことに心の底から恐怖する。

 そして逆にパチュリーは自分がやっていることに自覚が無いため、その責めには一切のためらいや遠慮が無い。

 

(堕ちちゃう! 私は最初からパチュリー様の愛の下僕ですけど、もっと下まで、堕ちちゃいけないところまで堕とされちゃうぅ……)

 

 パチュリーのハードな責めに混乱し、壊れていく小悪魔。

 その身体は弓のようにぴんと張られた状態で引き攣り、最後には失神状態へと追い込まれてしまうのだった……

 

 

 

「うう、酷いです、パチュリー様……」

 

 気絶状態から復帰し、さめざめと泣く小悪魔だったが、パチュリーは気にした様子も無く妙にすっきりとした顔でステータスを確認する。

 

「せっかく力の種を使ったっていうのに、最低の1ポイントしか上がっていないのね」

「酷いぃ、酷すぎるぅぅ」

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:17

たいりょく:8

かしこさ:9

うんのよさ:8

最大HP:15

最大MP:18

こうげき力:24

しゅび力:16

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 ちなみにパチュリーはというと、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:1

 

ちから:12

すばやさ:4

たいりょく:17

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:11

最大MP:16

こうげき力:24

しゅび力:10

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 だから、小悪魔は力の種を使っても商人のパチュリーと同等の力、攻撃力しか持っていないことになる。

 勇者なのに……

 

「それじゃあ準備もできたしレーベの村に向かいましょうか」

「ええっ、いきなりですか!?」

 

 驚く小悪魔。

 

「最初はアリアハンの街周辺の弱いモンスター、スライムや大ガラスを相手にレベルを上げるんじゃあ……」

「レーベに行くのにそれ以外のモンスターと戦う必要は無いわよ?」

 

 実はルートを最短コースから1マスずらすだけで、他のモンスターとは出会わないようにできるのだ。

 

「戦う回数も少なければ1回。どんなに多くても3回だけでたどり着けるから」

 

 だからさっさとレーベに向かうべきなのだ。

 

「それなら楽勝ですね。大ガラスにさえ気を付ければスライムは最弱のモンスター。問題にもなりません」

 

 と言う小悪魔だったが……

 

「駆け出しが陥る誤り(ミス)ね」

 

 とパチュリーに否定され、瞳を見開く。

 

 よくある話だという。

 新米の勇者一行が初めての冒険としてスライム退治に赴いたことも。

 それがスライムの大群によって追い詰められ死者を出してしまうことも。

 パーティに僧侶が居るからといって薬草、キメラの翼…… そういった備えを十分にしておらず、消耗の末追い詰められ全滅してしまうことも。

 何もかもがこのドラクエ3の世界では日常茶飯事な良くある話なのだ…… と。

 

「どうしてそんな……」

 

 息を飲む小悪魔にパチュリーは語り出す。

 

「簡単な話よ。

 ある日突然、自分たちの住処が怪物に襲われたと考えてみなさい。

 やつらは我が物顔でのし歩き、自分を傷付け、同族を殺し、略奪して廻る。

 

 他にも例えば自分の同族が襲われ、嬲りものにされ玩具にされ殺されたとする。

 連中はげたげたと笑って、好き勝手し放題してその死体を放り捨てたとする。

 そんな光景を後に、自分はただ逃げ出すしかなかったとする。

 

 許せるわけがない。

 

 逃亡した先で群れをつくり、とにかく報復しようと行動に移す。

 

 探して、追い詰め、戦い、襲い掛かり、殺して、殺して、殺して、殺していく。

 

 もちろん上手くやれるときもあれば、失敗するときもあるでしょう。

 ならば増殖した次のスライムがそれに代わって人を襲う。

 何回、何十回と戦い続ける。

 機会さえあれば、そこを片っ端から突いて殺していく。

 そうしているうちに――…

 

 脅威になっていくわけね。

 

 間抜けな『お優しい』者たちが「ぷるぷる。ぼく わるいスライムじゃないよ」と命乞いをするスライムを目にし、見逃してやろうなどとしたり顔でのたまう。

 街の子供たちは「あ、スライムだー。ぷにぷに~」などと言い、脅威とすら認識しない。

 

 でもそのスライムは群れから弾き出されて逃げてきた手合いでしかない。

 そんな半端なスライムを相手に自信を付けた者が勇者に、そして勇者の仲間になる。

 

 一方、生き延びたスライムは増殖し、どんどんと増え、群れを成していく。

 

 ……まぁ、事の起こりはそんなところ。

 

 分からない?

 勇者がモンスターを殺すために仲間を募るのと同じで、スライムもまた勇者を殺すために群れるのよ」

 

 そしてスライムの強みはこの群れを成す、ということ。

 

「数の暴力、それがスライムの強みよ。大ガラスの最大出現数は4羽であるのに対してスライムは倍の8匹。それに対して勇者一行とはいえ駆け出しの1レベルだと後衛職ならヒットポイントが一桁というのもざらよ。油断するとなぶり殺しにされるわ」

 

 しかもレベル1のキャラでスライムを一撃で確実に倒せるのは銅の剣を装備した勇者、戦士、あとは魔法使いのメラの呪文ぐらいしかない。

 一方でスライムから受けるダメージは十分に素早い者が旅人の服を着ている場合を除けば2ポイント以上。

 そして大抵は旅人の服は素早さが低く守備力の低い者に回されるため、ほぼ全員が一撃で2ポイント以上のダメージを受けることになる。

 

「まぁ、これはファミコン版の場合の話で、それ以降はスライムの出現数は6匹以下に制限されたけど……」

 

 しかしスライムの脅威は減らないのだ。

 

「スライムは知能が低くても間抜けじゃないわ」

「それは?」

「スライムはこちらのレベルが高い場合は逃げることもあるけど、レベルが低い場合は決して逃げ出すことはない。それはスライムが敵の強さを認識し判断しているからよ」

 

 勇敢さも群れへの帰属意識も無く、敵が強いようであればあっさりと仲間を捨て逃亡するくせに、弱いようであればいつもの逃走癖を忘れたかのように嵩にかかって責め立ててくる。

 それがスライムだ。

 

 ゲームシステム的には20パーセントの確率で逃げ出すようになっているものを、相手が一定レベル以下の場合はキャンセルするようになっている。

 だから弱い相手には逃げ出さないのだ。

 つまり成長した後に遭遇するなら何もせずともターン毎に二割が攻撃もせず自動的に減るはずのスライムが、駆け出しの勇者パーティ相手だと絶対に逃げ出さず100パーセント攻撃してくるということでもある。

 

「この行動を左右する能力値を判断力というわ。スライムはこれが1。相手を見て行動を変える頭があるわけ」

 

 これが0の場合、こちらの強さが認識できないからレベルと関係なく逃げ出す。

 

「そして判断力0のモンスターはパーティの隊列というものが認識できないから隊列を無視して攻撃をするのだけれど……」

 

 ファミコン版ドラクエ3の公式ガイドブックではフロッガーとポイズントードに関して後列攻撃をしてきやすいとの記述があるが、このからくりは判断力にある。

 判断力が1以上のモンスターは隊列を認識して前列を優先的に狙うが、判断力が0のモンスターは隊列を認識できないため標的が完全にランダム。

 それゆえに判断力が1以上のモンスターと比較して、後列を攻撃する可能性が高くなるというわけである。

 

「スライムの判断力は1だから、その攻撃は先頭から順に43.75%(28/64)、37.5%(24/64)、17.19%(11/64)、1.56%(1/64)となるわ…… ファミコン版なら」

「ファミコン版なら?」

「スーパーファミコン版以降のリメイク作品では、先頭から順に約40%、30%、20%、10%となっているの。つまりヒットポイントが少なく後列に下げているメンバーに攻撃が向かう可能性が高くなっているわけ」

 

 だからスライムの最大出現数が8匹から6匹に減っても決して油断ができないのだった。

 

「スライムは絶えない。数ばかり多く、その力はモンスターの中でも最弱」

 

 パチュリーは語る。

 

「そして駆け出しの勇者パーティでも運が良ければ何とかなってしまう。……運悪く死者が出たとしても成長しレベルさえ上がってしまえば脅威ではなくなってしまう。だからその危険性は決して認識されない」

 

 そういうことだった。




 パチュリー様の無自覚なセクハラ返しで躾けられてしまう小悪魔。
 そしてスライムスレイヤーなパチュリー様の語りでした。
『ゴブリンスレイヤー』を読んでドラクエでスライムスレイヤーに置き換えてみる、というのは結構考える人が居ると思いますが。
 実際、ドラクエ3のスライムの特性と駆け出しの勇者パーティとの力関係について詳しいところを調べてみるとぴたりと当てはまるんですよね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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初戦闘(ようやく)

「隊列は、現状ではヒットポイントが多くて守備力も高い小悪魔、あなたが先で」

「ま、まぁ私、今は勇者ですから?」

 

 小悪魔をポイントマンに、パチュリーをバックアップマンにというツーマンセルでアリアハンを出発。

 戦闘においての最小単位とされるツーマンセルは人数が少ない分、どちらかというと上級者向け扱いされがちだが、スリーマンセル、フォーマンセルより単純で、また動きを把握し、気を配らなければならない味方の数が少ないということから習熟しなくても割と機能するという長所を持つ。

 ドラクエ世界での戦闘、しかも肉弾戦をメインにしたものに不慣れな小悪魔とパチュリーにはちょうど良かった。

 

 二人は慎重に索敵しつつ橋を越え、レーベの村へと向かう。

 

「北上する時に、最短コースから一マス分だけ西にずらすの。それでスライム、大ガラスたち以外との戦闘は避けることができるわ」

 

 モンスターの出現パターンはレーベの村の位置を境に東西で『アリアハン西地方』と『アリアハン北地方』に別れ、『アリアハン西地方』では昼の間はスライムと大ガラスしか現れない。

 だからこそ有効な手段だった。

 

 そして二人は森に差し掛かったところで、

 

「ピキー!」

 

 スライムの群れ、それも出現数の上限である6体に襲われる。

 小刻みに跳ねながら突っ込んできたスライムは、そのままパチュリーの腹部に体当たりする!

 

「かはっ……」

 

 肺から空気を搾り取られるパチュリー。

 2ポイントのダメージ。

 パチュリーのヒットポイントは11だから、6匹すべてから攻撃を受けたら死んでしまうわけだ。

 たかがスライム、たかが2ポイントとは決して言えない重いダメージだ。

 スライムの身体は弾力を持つが、これはボクサーの拳がグローブを付けた時と同じように衝撃が逃げずに浸透してしまうということでもある。

 

「パチュリー様!」

 

 慌てて小悪魔は青銅の剣でパチュリーを襲ったスライムを斬り倒す。

 勇者の力なら一撃だ。

 しかし、

 

(行動を終えたモンスターを倒されても……)

 

 パチュリーは顔をしかめる。

 できるならまだ攻撃をしていないスライムを倒して欲しかった。

 そうでないとこのターンで攻撃してくるスライムの数は減らないのだ。

 

 そして剣を振り下ろして隙ができた小悪魔に、次のスライムが体当たりする。

 

「くっ!?」

 

 小悪魔は攻撃を食らったものの、素早い動きでダメージを軽減することに成功する。

 ドラクエ3では素早さの半分が守備力に加算される。

 その恩恵であり、受けたダメージは1ポイントのみ。

 

 そしてパチュリーもまた剣を振るい一撃でスライムを斬り倒すが、そこに残ったスライムたちが殺到した!

 イノシシのように突進し、体当たりを仕掛けてくる。

 猪突猛進と言う言葉もあるが実際にはイノシシは、いや野生動物は突進を開始してからも、相手の動きに合わせ機敏に方向転換をするものだ。

 そしてイノシシがインパクトの瞬間、牙でかち上げるようにして攻撃するのと同様、足元まで迫ったスライムがパチュリーの体幹、みぞおちを狙って跳ね上がる!

 

「こふっ!?」

 

 一匹目が最初に受けたダメージが回復しきっていない腹をさらに痛めつけ。

 

「ぐっ!」

 

 続けざまに突っ込んできた二匹目が腹筋を完全破壊する。

 

「くはぁっ!!」

 

 そして防御力を失った柔らかな下腹に、止めを刺すかのように三匹目の体当たりが突き刺さる!!

 

「う、かはっ……」

 

 三体のスライムから続けざまに一方的に体当たりを受け、パチュリーはヒットポイントを危険なまでに削られてしまう。

 

「パチュリー様っ!? 今回復を!」

 

 小悪魔は慌てて買っておいた薬草を取り出すが……

 今のパチュリーにそのまま与えてもうまく呑み込めないと見て、それを自分の口に入れると噛み締め、主人の唇へ自分の唇を重ね合わせる。

 

「う……」

 

 パチュリーの喉が『こくん』と上下し、口移しに与えられた小悪魔の唾液交じりの薬草の汁が飲み込まれた。

 苦いはずなのにどこか甘く感じられる薬草の力により、パチュリーの体力が回復する!

 

「ふぅ、ありがとう、こあ」

 

 力を取り戻したパチュリーは再び剣を振るい、スライムを斬り払う。

 これで、

 

「三つ」

 

 三体倒し、あと半分だ。

 そして……

 

 

 

「ぷるぷる。ぼく わるいスライムじゃないよ」

 

 命乞いをする最後の一匹を前にして、戸惑う小悪魔。

 

「こ、降伏したスライムも…… 殺すんですか?」

 

 小悪魔がパチュリーに問う。

 怯えたようにぷるぷると震えるスライムに、罪悪感を覚えたようだ。

 パチュリーはあっさりと答える。

 

「当たり前よ」

「ぜ、善良なスライムが居たとしても……?」

「善良なスライム、探せばいるかもしれない。けど……」

「ピキー!」

 

 隙を突いてスライムが飛び掛かってくる!

 先ほどの命乞いは油断を誘うための演技だったのだ!

 

「きゃっ!」

 

 小悪魔を襲ったスライムは……

 

「この世界では、人前に出てこないスライムだけが良いスライムよ」

 

 パチュリーの剣に斬り捨てられる。

 

「生かしておく理由なんて一つもない」

 

 スライムが動かなくなったことを確認。

 

「これで六つ」

 

 戦闘は終了。

 パチュリーはほっと息をつくと、

 

「戦闘中に回復を受ける羽目になるなんて、ね」

 

 とつぶやく。

 小悪魔も、それには同意する。

 

「本当にスライムは油断できませんね。パチュリー様が言われたとおりでした」

「それでもレベルは上がってくれたから、今後は楽になるわ」

 

 パチュリーはもっとも成長の早い商人なので、この1回の戦闘だけでレベルが上がっていた。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:2

 

ちから:13

すばやさ:6

たいりょく:22

かしこさ:8

うんのよさ:4

最大HP:44

最大MP:16

こうげき力:25

しゅび力:11

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

 最大ヒットポイントが大幅に上昇。

 もう一度薬草を使うことでそれをフルに満たせば、この辺ではまず死ぬことはない。

 しかし、

 

「使うと痛みも疲れも忘れ元気になるハッパねぇ……」

 

 しげしげと薬草を見るパチュリーに、小悪魔は、

 

「そういう言い方をされると、もの凄くいかがわしいんですけど」

 

 と乾いた笑いを漏らす。

 ハッパやクサ、グラスなどといった言い方は、麻薬、大麻を示す隠語だったりするのだ。

 

「実はそういう説もあるらしいわ。ドラクエでは宿で一晩休めばヒットポイントは完全に回復するわよね」

「そうですね」

 

 不思議と言えば不思議だ。

 

「だからヒットポイントというのはスタミナのことで、ヒットポイントが減るのは傷を受けるわけではなく単に戦闘でスタミナが削られていくことだというもの。だから宿で一晩休むだけでフル回復する」

「なるほど」

 

 そう考えれば説明がつくのか。

 

「それで薬草なんだけど、作中のグラフィックや公式ガイドブックのイラストでは葉の上に赤や黄色の薬の粒か小さな果実のようなものが盛られた絵になっていて、つまり葉巻のように葉で巻いて火をつけて吸うという使い方が」

「んんん?」

 

 話が怪しくなってきた。

 

「つまり吸うと、痛みも疲れも感じなくなり元気になれるハッパ……」

「アウトですーっ!!」

「ただの栄養剤よ。みんなやってるわ」

「それ、麻薬を使わせるときの常套句!」

「1回だけなら平気」

「ダメ。ゼッタイ」

「……悪魔なのに変に良識的ね」

 

 不思議そうに言うパチュリー。

 中世の魔女が麻薬成分を持った植物を原料とした薬でトリップしていたと言われるように。

 魔法と薬物は割と密接につながっているもの。

 また悪魔とは概念的には悪徳の塊であり、人を堕落へと誘惑する者なのだが……

 しかし小悪魔は、

 

「悪魔だからです!」

 

 と言い放つ。

 

「好きな人には自分が与える快楽に、自分に溺れて欲しいじゃないですか! それがクスリなんて安易なものに侵され溺れられるなんて、寝取られじゃないですか! やだー!」

「……ほんっっっっとうに、ブレないわね、あなたって子は」

 

 呆れ果てるパチュリー。

 紅魔館大図書館へ不定期に本を盗みにやって来る窃盗常習犯の白黒、つまり霧雨魔理沙あたりなら、

 

「歪みねぇな」

 

 とでも評しただろうか。

 

 

 

 なお、薬草の使い方については食べる、煎じて飲む、傷口に当てるなどと諸説あるが『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、

 

・どこででも栽培できる植物の葉を特殊な薬品に浸して乾燥させた後、ホイミの魔法が使える人間が呪文をかけて作る。

・葉の繊維の中に沁み込んだ薬品にホイミの呪文が反応して使ったときに体力が回復する。

 

 とされていた。

 要するに1回限りの使い切り、使い捨てのマジックアイテムであり、込められたホイミの効果を引き出して使うというもの。

 実際の魔法ではこういった呪物(フェティッシュ)や秘薬等、触媒を消費して行使されるものが多く、ある意味リアルであるとも言える。

 そういった代償無しに自在に魔法を行使できるのは、それこそパチュリーのような力の持ち主ぐらいのものなのだから。

 

 そしてつまり……

 小悪魔がパチュリーに対して行ったように経口で摂取させる必要は、必ずしも無かったりする。

 実際、その後のシリーズでは他のアイテムを使った時と同様のモーションで使用され、食べたりはされていないし。

 しかし、

 

(まぁ、面白いから黙っておこうかしら)

 

 真剣な表情で自分を心配し、口移しで薬草を与えてくれた小悪魔。

 その柔らかな唇の感触を思い出しながら、パチュリーは、

 

「それじゃあ、小悪魔。回復をお願い」

 

 と頼む。

 

「えっ、ああ……」

 

 手持ちの薬草はパチュリーに渡された非常用の一つを除いて、素早さが高く敵に先んじて治療を行える小悪魔が持っている。

 だから小悪魔の持つストック分から使うのかとパチュリーに差し出すが、彼女は無言で首を振り……

 悪戯っぽい、小悪魔の理性を根こそぎさらっていくような蠱惑的な仕草で自分の唇を指先でトントン、と触れる。

 つまり……

 

「苦いのは嫌いだから」

 

 喘息持ちのパチュリーは酷く苦い薬湯が欠かせず、いつも渋い顔をしながら飲んでいた。

 

「甘く…… してくれるんでしょう?」

 

 小首をかしげ、小悪魔の脳と理性をとろけさせるようなことを言うパチュリー。

 

(あああ、卑怯です! 卑怯すぎですパチュリー様!!)

 

 小悪魔の理性は一瞬で蒸発させられ、

 

「よ、喜んで!」

 

 顔を真っ赤にのぼせ上らせながらうなずく。

 そして、小悪魔はクスクスとおかしそうに笑うパチュリーの瑞々しい唇を、己の唇で塞ぐのだった。

 

 

 

 なお…… 実際、小悪魔の体液は、唾液も、汗も、涙も、血液もすべてがクラクラするほどに甘い。

 何故なら種族特有の媚毒、相手を性的に魅惑し、堕落させるための催淫成分が含まれているからだ。

 

 ただし『生粋の魔法使い』であるパチュリーは生まれつきそういったものに高い耐性を持っている上、喘息を抑える強い薬湯の常飲、魔法薬の作成、試飲を行っているため薬物には強い耐性ができている。

 薬は刺激に弱い者ほど効くし、慣れている者には効きにくい。

 コーヒー中毒の者が、カフェインに耐性を持っているように。

 だからこそ、パチュリーには小悪魔の催淫成分が含まれた体液も、ちょっと刺激的なエッセンスで済んでいる……

 完全に効かないわけでも無いのだが、だからこそ、それがかえって良いスパイスになっている。

 

 そういうことだった。

 

 

 

「それはそれとして……」

 

 ヒットポイントをフルに満たし終わったパチュリーは、スライムの残骸が散らばる周囲を見渡して言う。

 

「お金、つまりゴールドが手に入らないんだけど」

 

 ドラゴンクエスト3では戦闘終了後、自動的にゴールドが手に入った。

 

 書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、ゴールドは魔族の通貨であるとされ、これが全世界で普遍的に通用している理由だと説明されていた。

 だからモンスターたちも、ゴールドを持っているのだと。

 

 アニメ『ドラゴンクエスト~勇者アベル伝説~』ではモンスターは宝石から作られており、倒すと元の宝石に戻るということになっていた。

 その関係かゲーム本編でも『ドラゴンクエスト8』以降はモンスターはそんな消え方をするようになった。

 

 それでこの世界。

 読者に物語を仮想体験させる魔導書に、小悪魔の司書権限による改編で用意されたドラクエ3世界ではどうなっているのかというと……

 

「あっ!」

 

 と小悪魔が声を上げたように、何らかの問題が発生しているらしい。

 

「えーと、怒らないで聞いて下さいね、パチュリー様」

「それはもちろん、聞いた話の内容によるわね」

「その……」

 

 冷や汗をかく小悪魔。

 

「そもそもドラクエシリーズは全年齢対象なので残酷な表現などは一切入ってません。モンスターを倒すと死体を残さず消え、ゴールドが手に入るというのもそういう大人の事情があるからで……」

「残酷描写の規制ってやつね」

「ええ、でもそれじゃあ大人の女性なパチュリー様には物足りないですよね? だから倫理コードを解除したんですけど、これをすると同時にゴールド・ドロップが無効になって、代わりに収入はリアルな剥ぎ取り、つまりモンスターを解体して得られる素材や所持品をゴールドに換金しなくちゃならないっていう……」

 

 ハンティングアクション、いわゆる狩りゲーの『モンスターハンター』みたいな感じである。

 

「はぁ……」

 

 呆れるパチュリー。

 実は小悪魔が倫理コードを解除したのは残酷描写の解除のためではなく、エッチ関係の制限を解除するためだったのは彼女だけの秘密だ。

 

「パチュリー様にセクハラするために倫理コードを解除したら、同時に残酷描写の制限も解除されてモンスターの解体をしなくちゃならない羽目になりました」

 

 とはさすがに言えない。

 

「で、スライムからは何が取れるの?」

「スライムだと身体に取り込んだ金属類や水晶などの半貴石ですね」

「なるほど」

 

 そして二人は青銅の剣の切っ先を使って半透明なスライムの身体を切り裂き、中に見えていたそれを取り出していく。

 パチュリーは小悪魔が価値が無いと見て捨てた小石をふと見て、

 

「これ、メノウじゃない」

 

 と拾い直す。

 その小石には縞のような模様が入っており、

 

「磨くと宝石としての価値が出るものよ」

 

 というものだ。

 まぁ、磨くのが大変なので原石にはそれほどの価値は無いが。

 

「それが見分けられるのはパチュリー様の職業、商人くらいじゃないですか?」

 

 そう小悪魔に言われ……

 

「ああ、商人の能力として戦闘終了後に通常のゴールドに加えて、1/4の確率で約1/8のゴールドを追加で見つけることがあるのって、このため?」

 

 なお期待値は3%程度の収入増となる。

 

「パチュリー様、例の公平配分ですけど、商人のお金を拾う能力は……」

「戦闘しないと得られないものだし、別計算するのは面倒だから、共通の収入でいいでしょ」

「いいんですか?」

「そうね…… その代わりというわけじゃないけどこの先覚える『あなほり』で得られるお金やアイテムの方は私個人の収入にするってことで」

「それは当然ですよ。私、『あなほり』なんて手伝えませんから」

 

 そういうことになった。




 ようやく初戦闘。
 剥ぎ取り、解体もあるよ、小悪魔のせいで、という。

 薬草の使い方については諸説ありまして。
 しかし飲むとか食べるとか、自分に使う場合はいいけど、仲間に使う場合どうするの、という問題が。
 幸い、このお話だと女の子同士ですからいいんですけどね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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レーベの村で初めてのお泊り

 今度はレベルアップしてヒットポイントが激増したパチュリーを先に森の中を進んでいくと、

 

「パチュリー様、またスライムです!」

「上にも気を付けなさい、大ガラスが狙っているわ」

 

 二匹のスライム、そして上空から二羽の大ガラスが襲ってきた!

 このカラスは足で骸骨を持ち上げて飛ぶと、それを空から爆撃のように落としてくる。

 小悪魔は避けるが、続けざまに落とされる骸骨に全部は避けきれず、

 

「痛っ!」

 

 と頭に受け涙目になる。

 1ポイント程度しかダメージは受けていないのだが、しかし常人なら数発で死んでしまう威力ではある。

 

 一方、パチュリーは、

 

「カラスは道具を使う知能を持つというけど、このモンスターは骸骨を使うのね。そしてこの威力、道具と言うより呪物(フェティッシュ)? 興味深いわ」

 

 そう分析するが、

 

「見てないで戦ってください、パチュリー様!」

 

 と涙目になる小悪魔に、しょうがないと攻撃のため接近していた大ガラスに向け青銅の剣をふるう。

 青銅の剣は刃で切り裂くというより、叩くようにして使う初心者向きの剣。

 それによって大ガラスを殴り倒す。

 現状では小悪魔より力のあるパチュリーなので、大ガラスは一撃で墜とされた。

『動かない大図書館』と呼ばれる彼女だが、現実でも魔法による弾幕を掻い潜って接近してきた相手に対し物理(本)で殴る、カウンターを取る程度の能力はあるのだし。

 そして、

 

「私もお返しです!」

 

 と小悪魔も青銅の剣をふるって大ガラスを打ち落とす。

 彼女も力の種を使ってドーピングしたおかげで確実に一撃で倒すことができていた。

 残されたのは大ガラスの獲物のおこぼれを狙って同行していたスライム二匹で、これもまたあっさりと斬り倒す。

 こうしてモンスターの群れを全滅させた二人だが、

 

「大ガラスの血抜きと腸抜きだけはしておいてちょうだい」

 

 スライムを切り裂き、体内に取り込まれた金属、半貴石などの有価物を回収しながら小悪魔に指示するパチュリー。

 

「ええー、食べられるんですか、これ」

「カラスはフランス料理でも野生肉(ジビエ)として使われているものよ」

 

 フランス以外でもヨーロッパでは古くから食べられていたという記録が残っている。

 日本でも明治時代には専門の捕獲業者が居たり、農家の副業としてカラス獲りがされていたほど人気のある肉だったし、幻想郷の人里では今でも食べられている。

 普通に焼き鳥にして食べるもよし、醤油漬けにして保存食にしてもよし、鍋料理にしてもよし。

 

「……そう言われると、急に美味しそうなお肉に見えてきました」

 

 げんきんな小悪魔はいそいそと草のツルで大ガラスの足を結ぶと木の枝に下げる。

 青銅の剣の刃で頸動脈を切って血抜き。

 悪魔への生贄にはウサギやニワトリなどが捧げられることが多く、小悪魔もこの辺は手慣れている。

 だって解体ができないとせっかくのお肉が美味しく頂けないから。

 

「パチュリー様がていねいに刃を付けてくださったおかげでスムーズに切れますね」

 

 小悪魔は青銅の剣の切れ味に改めて感心する。

 

「悪魔の爪なら首の鎖骨の間から指を胸腔内に突っ込んで、心臓につながっている動脈をぷちりと切ることだってできるでしょうに」

 

 パチュリーが言っているのは、カモ猟などで行われる刃物無しに血抜きを行う方法。

 別に悪魔でなくとも爪さえ適度に伸ばしていれば人間にもできる技だったりする。

 

「後は腸抜きですけど……」

 

 尻の穴、というか鳥なので総排出腔の周囲を切って腸を抜くか、

 

「これがいいですね」

 

 適当な小枝を拾って腸抜きフック(バードフック)にして尻から突っ込み適当に腸をかき出し、砂肝の所でぷちっと切れたらお終い。

 

「さっさとレーベの街に入って売り払いましょう」

 

 とパチュリーに急かされるままに二羽の大ガラスを剣の鞘にぶら下げ、レーベの村へと入ったのだった。

 入った後で、

 

「インベントリ…… 魔法の『ふくろ』に入れて運べば良かったんじゃ」

 

 と気づくことになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 レーベの村へたどり着いたパチュリーたち。

 普通のゲームならば街の中を探索したり、武器屋に行ったりするところだが、体験型VRだと、

 

「まずは宿の確保かしら。部屋が取れなかったら困るもの」

 

 と、リアリティに沿った発想となる。

 小悪魔も、

 

「大ガラスも新鮮なうちに売り払ってしまいたいですしね。宿なら引き取ってもらえるでしょうか」

 

 とうなずく。

 血抜き、腸抜きといった最低限の処置はしたが、美味しく食べるなら、一刻も早く捌いてしまうべき。

 幸い、倒してすぐにこの村へ駆け込んだので鮮度は落ちていない。

 この村唯一の宿屋に倒した大ガラスを持ち込み、おかみさんに売り込む。

 

「これは良いものですね。一羽3ゴールドで引き取りましょう」

 

 という具合に、倒した際に得られるゴールドと同額で処分できた。

 しかし、

 

「お部屋の方は生憎、相部屋になってしまうんですけど」

 

 と、申し訳なさそうに言われる。

 この宿屋、一階の鍵がかかった部屋と二階の客室、二部屋しかなく、しかもどちらも客が入っているのだ。

 

「毛布はお貸しますので」

 

 つまり、余分のベッドも無いので床に毛布を敷いて雑魚寝しろ、ということだった。

 

「その分、食事はサービスしますから。新鮮なお肉も手に入ったことですし」

 

 宿のおかみさんがそう薦めてくれたので、カラス料理で夕食を取ることにした。

 カウンター越しに調理の方法を見せてもらう。

 おかみさんは羽根を丁寧にむしって行くが、

 

「手が黒くなるのが難でねぇ」

 

 黒く染まった手を見せ、そう苦笑する。

 そうしてカラスを丸裸にすると、青銅製の包丁(キッチンナイフ)で器用に解体して見せる。

 

「あのナイフ……」

「この村で売っているブロンズナイフのようね」

 

 

ブロンズナイフ

 刃を欠けにくく加工してある青銅製のナイフ。

 料理などにも使われる軽いナイフだ。

(公式ガイドブックより)

 

 

 砂肝に肝臓や心臓といった鳥もつ。

 そしてモモや手羽、胸肉、ササミを取って串焼きに。

 食べきれない肉は煙で燻し薫製にして日持ちするようにする。

 残った骨、ガラは石皿の上に載せた磨石で骨を細かくなるまで砕く。

 そうすると中から骨髄が出て来て、つなぎになるので骨団子が出来上がる。

 これを出汁に、村で採れた新鮮な野菜を入れてスープを作るのだ。

 他にも、砂肝、肝臓、心臓はまとめて煮物に。

 こうしてできた豪勢と言ってもいい食事を取る。

 

「う…… 美味しいです。味の濃いニワトリの肉って感じで」

 

 串焼き、要するに洋風焼き鳥だが、とても大きくボリュームたっぷりであつあつなそれを、はふはふ言いながら口にした小悪魔は目を丸くする。

 パチュリーも同じく口にして、

 

「そうね、若干固めで何度も噛まないといけないけど、噛んでいるとじゅわっとあふれてくる肉汁の旨味が何とも言えないわね」

 

 とうなずく。

 

「シンプルな岩塩、そして擦り込まれた香草(ハーブ)の風味が一際肉の味を引き立たせてくれますし」

「スープも出汁が効いてていいわよ。骨団子も滑らかになるまでていねいにすり潰されていて食感もいいし」

 

 仮想体験型ゲームはこんな風に味覚を楽しめるのが良かった。

 

 

 

 食事を終えた二人は、渡された毛布を手に二階の客室に行ってみる。

 そこには男の子が居て、

 

「うわ~、こあくまさまって女の人だったんだ」

 

 目を輝かせながら小悪魔を見上げる。

 

「はい?」

「やっぱり! 女の人なのに魔物をやっつけながら 旅してるなんてえらいなあ!

 いっぱいいっぱい 魔物をやっつけてね! あいつらがボクのパパとママを…… ぐすん」

 

 涙ぐむ男の子。

 この子と相部屋になるらしい。

 そして小悪魔は一人ほくそ笑む。

 

 

 

 深夜……

 床の上でパチュリーを組み敷く小悪魔。

 

「んっ、こぁ……」

「ふふふ、パチュリー様、静かにしないとあの男の子が目を覚ましちゃいますよ」

「っ!?」

 

 息を飲み、硬直するパチュリー。

 声を封じられ、身動きも取れなくなったパチュリーの身体を、小悪魔は好きなように嬲りながら、その耳元に向かってささやく。

 

「本当はあの子、起きてますよ。寝たふりをしながら必死に聞き耳を立ててます」

「――!?」

 

 小悪魔の言葉が耳から脳に届き、その意味を認識した瞬間、パチュリーの身体が弓のように反り、そして二度、三度と跳ねた。

 荒く息をつくパチュリーに、小悪魔小悪魔はくすりと笑うと、

 

「嘘ですよ」

 

 とささやく。

 

「こぁ、あなた……」

「でも聞かれてるって思ったら、パチュリー様……」

 

 感じちゃったんですよね?

 

 唇の隙間だけで告げられる言葉に、パチュリーは絶句し、

 

「私はそんな、えっちなパチュリー様も大好きですよ?」

 

 とろけそうな笑顔を浮かべる小悪魔に、再び逃げ出そうともがくが、

 

「駄目ですよ、暴れると本当に目を覚ましちゃいますよ」

 

 とささやかれて動きを封じられ、

 

「でも…… あの子、本当は私にも分からないように寝たふりをしているのかも?」

 

 という言葉にぎくん、と身体を硬直させ、

 

「頭からかぶった毛布の隙間から、パチュリー様の痴態を目を凝らしながら見つめて…… いるのかも」

 

 その言葉に羞恥の極みに墜とされる。

 七曜の魔法を極めた魔法使い、あのパチュリーが取るに足りない小悪魔に、自分の支配する使い魔の言葉に縛られ、本当か嘘かも分からないギャラリーの耳目に心身を昂らせ、恥辱に悶える。

 その痴態に小悪魔の瞳は愉悦にけぶり――

 

 

 

(ベッドで必死に寝たふりをする男の子を観客に、パチュリー様と床の上で繰り広げる夜の饗宴…… ああ、宿を原作ゲームに忠実に、空き部屋が無いよう再現した甲斐がありました)

 

 一人妄想に興奮する小悪魔だったが、パチュリーは、

 

「……この子とならベッドを一緒にしても大丈夫かしら」

 

 とつぶやく。

 男の子は小さいので小柄なパチュリーとなら一緒に寝ても良さそうだ。

 

「ええっ!? 私と隣り合わせで寝てくれるんじゃ……」

「嫌よ、私はベッドを愛しているの」

「ベッドに寝取られた!」

 

 などという主従漫才をしつつ、パチュリーは男の子とベッドに入る。

 主従契約の縛りにより呪的な力でがんじがらめに拘束された小悪魔を床に転がして……

 このゲーム世界ではパチュリーは商人に過ぎないが、現実の主従契約が失効するわけでも無いので小悪魔に対してはこんな風に働きかけることができる。

 霊的視野を持つ者には、小悪魔を縛り上げる、呪力により形作られる黒革の拘束具の数々が見えただろう。

 

「ひっ、酷い、パチュリー様!」

「あなたと一緒の部屋で無防備に寝るなんてできるわけないでしょ」

 

 主従契約の抑止力もあるし、そもそも隔絶した力量差があるため危険なことなどないが、エッチな悪戯をされるのは御免だった。

 前科もあることだし。

 

「寒い…… 凍えてしまいます」

「私の分の毛布も使っていいから」

「心が寒いんです!」

「ならこれも貸してあげるわ」

 

 小悪魔に投げ渡されたのは……

 パチュリーの着込んでいた旅人の服に付属のマント。

 雨風避けや野営の為のクロークだった。

 しかしパチュリーは過去の、あのやり取りを忘れていないだろうか。

 

 

 

「パチュリー様の匂いが染みついた服…… それを売るなんてとんでもない!」

「人の着ていた服に顔をうずめないでちょうだい」

 

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

 

「ちなみに私は素でパチュリー様に魅了されているので、即座に恍惚・朦朧状態にされてしまいます」

「どうしてそこで胸を張ることができるのか本気で分からないし、そもそも人の着ていた服に勝手に変な特殊効果を設定しないでくれる?」

「いえ、犬にとって主人の匂いの付いた衣服がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるように、私たち使い魔には主人の魔力の残り香が付いた服はごちそう……」

「嗅ぐな!」

 

 

 

 小悪魔は自分の身体にかけられたパチュリーのクロークに顔を埋めた瞬間、即座に恍惚・朦朧状態に堕とされてしまう。

 そして、

 

「あ、ああ……」

 

 これはまずい。

 まずいのだ。

 

 幼い少年とベッドを共にするパチュリー。

 

「軽いわね、ちゃんとご飯を食べてるの?」

 

 などと言って少年をその豊満な胸に抱え…… 抱きしめる。

 その姿を、拘束され、芋虫のように床に這いつくばり見上げるしかない哀れな小悪魔。

 羨望の視線を向けながら、パチュリーの香りが染みついた衣服を犬のように嗅いで自分を慰める、あさましくもみじめな代償行為。

 それなのに、いつにも増して興奮している自分が居る……

 

(これって寝取られでは?)

 

 ずくん、と身体に、いや精神に衝撃が走る。

 

(まずいまずいまずい……)

 

 そう焦っても、すでに心身はクロークに沁み込んだパチュリーの香りに包まれ、恍惚・朦朧状態に堕ちてしまっている。

 

(……う、ウソ……ウソぉッ! だ、だって…… 触れられても、触れてもいないのに、ね、寝取られ…… 寝取られなんかで……)

 

 ガクンガクンと、ギリギリの痙攣が身体を走った。

 あと少し、ほんの一押し。

 それで…… それで踏み超えてしまう。

 寝取られで興奮し、達してしまうというアブノーマルな性癖を、その身に焼き付けられてしまう……

 

「ふふふ、そんなに揉んでもおっぱいは出ないわよ」

 

 パチュリーのささやき。

 そして涙に滲んだ視野に映る、無邪気に、不思議そうにパチュリーの胸に触れる少年のモミジのような手と、もちろんその小さな手ではつかみきれない、零れ落ちるような大きなバスト。

 

「あんっ……」

 

 パチュリーの吐息が、やけになまめかしく小悪魔の耳に、いや頭に響いた。

 瞬間、

 

(……っ! ……っ! ~~~っ?!)

 

 びくびくと脈動して、ちょっとでも気をゆるめれば暴発しそうになる身体。

 この被虐に満ちた倒錯のシチュエーションは、小悪魔を生まれて初めての異常な事態に陥らせた。

 無理やりにこらえることにより、いつもなら数秒で終わるはずの絶頂直前の状態が、長く長く引き伸ばされていく。

 パチュリーの悩ましい吐息に突き上げられて達した苦しいホワイトノイズが、もう十秒以上、小悪魔の中で続いていた。

 意識が真っ白に中断している。

 その中で、自分の心身に異常性癖を刻まんとする被弄の感覚だけは、針のように鋭く小悪魔の意識を犯し続けていた。

 

(パチュリーさま……)

 

 小悪魔はパチュリーの、いつもの怜悧で不愛想な、しかし小悪魔が好きなご主人様の顔を脳裏に思い浮かべることで耐える、耐える、耐える……

 えっちなことばかり考えているみたいに思われる小悪魔だったが、一方で純粋にパチュリーのことを慕っている、ピュアな部分もあるのだ。

 それを支えに小悪魔は耐えた。

 けなげに、心の中で敬愛するご主人様の名前を何度も何度も唱えながら。

 無限にも思える一時の後、何とかこらえ切った小悪魔は、

 

「はぁっ……」

 

 と息をつく。

 そうして、ジンとしびれる身体を、

 

「むきゅ?」

 

 踏みにじられた。

 パチュリーに。

 

(うむあむああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!)

 

 目の前にあったパチュリーのクロークに顔をうずめることで悲鳴を上げることだけは耐えたが、それだけだ。

 意識が透き通り、そのまま白く、真っ白に塗りつぶされていく。

 新規開発されてしまった性癖に、身体と精神が染め上げられる――

 

 

 

 翌朝……

 暗い中、水を飲むために立ったパチュリーに誤って踏まれたのだと知る小悪魔だったが、その時にはもちろん手遅れになっているのだった。




 戦闘と剥ぎ取りの続き。
 実際、カラスって美味しいのでフランス料理はもちろん、現代日本でも食べさせてくれるお店があるのです。

 そしてパチュリー様との初めての外泊に興奮する小悪魔でしたが……
 親を亡くした男の子と一緒に寝てあげる聖母のようなパチュリー様を前に、不純なことを(勝手に)考えて自滅してしまうのでした。
 どうしてこうなった。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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レーベの村を探索

 顔を洗い、身支度を整えたパチュリーたちは宿のおかみさんが出してくれた朝食を取る。

 スライスされた茶色のライ麦パンに、キイチゴのジャムを塗って食べるわけだが、

 

「普通の白パンがスカスカに思えるほど、ずっしりと重いパンですね。これこそ主食、一日の活力源といった感じですね、パチュリー様」

「ええ、かすかにスパイスが効かせてあるのがまた独特ね」

 

 と、二人には好評だった。

 そして裂いた鳥肉と、朝採りの新鮮野菜で作られたサラダ。

 

「うーん、このシャキシャキした歯ごたえ、瑞々しい風味。採れたての野菜って、こんなに美味しいんですね」

「それにこの鳥肉、香味豊かで深い味わいはスモーク仕立てね?」

 

 パチュリーが気づいたとおり、昨日、大ガラスの肉を煙で燻し薫製にして日持ちするようにしていたものだ。

 

「この香り、オニグルミのチップで燻しているのかしら? 一晩置いたおかげで味が落ち着いて食べごろになってるわね」

「ううー、昨日の夕食もそうでしたが、こんなの食べちゃったらモンスターが襲ってきても、お肉が向こうからやって来るようにしか見れなくなっちゃいますよー」

 

 と、小悪魔は落ちそうになるほっぺたを押さえながら嬉しい悲鳴を上げる。

 そしてホワイトシチューだが、

 

「ホワイトソースで品を変えていますけど、昨日の骨団子のスープのリメイク品ですか?」

「でも昨日より野菜が更に溶け込んでいて、旨味が増しているわ」

「ああ、凝縮された野菜のエッセンスが身体に染み渡って行くようですね」

 

 ということで、満足のいく仕上がりとなっていた。

 食後の香草茶(ハーブティー)で口の中をすっきりとリセットし、おかみさんに礼を言って宿を出る。

 

 村の中を捜索するが、前にパチュリーが話したとおり各家屋に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)家の精(ブラウニー)白い婦人(シルキー)が使う疎外(エイリアネーション)隠蔽(コンシールメント)混乱(コンフュージョン)といった(パワー)が作用するため、勝手に家屋に入っても咎められることは無い。

 

「本当に気付かれないんですね」

隠蔽(コンシールメント)の効果よ。対象を周囲に紛れさせ、発見を困難にするから、城や家に勇者が進入しても発見されにくくなるわ」

「あの人、壁に向かって足踏みしてますけど」

混乱(コンフュージョン)(パワー)が作用しているのよ。対象をぼんやりさせ、術者の領域でさまよわせるものね。また、何かしようとしたり決断しようとすることがとても難しくなるから、侵入者を通報しようとか咎めようという気持ちを持つこともかなり難しくなるわね。試しに話しかけてごらんなさい」

「ええ……」

 

 小悪魔が家人に話しかけると、一瞬戸惑ったようだがスルーして普通に答えてくれる。

 

「盗賊のカギは手に入れましたか?」

「はい?」

「……そう、それは良かったですね」

 

 もう一度、今度はパチュリーが話しかけると、

 

「盗賊のカギは手に入れましたか?」

 

 再び繰り返される問い。

 

「いいえ」

「この村の南の森にも、ナジミの塔に通じる洞窟があるとか。噂では、その塔に住む老人が、その鍵を持っているらしいですよ」

 

 反復される、しかし回答の違う会話。

 それを聞いて小悪魔も、

 

「ああ、つまり混乱して夢うつつの状態だから何度話しかけても繰り返し同じことしか言わない。前の受け答えも覚えていない、ということでもあるんですね」

 

 そう納得するが、

 

「ふぎゅっ!?」

 

 歩いてきた住人にぶつかられ、驚く。

 

「ぶつかったのに気づいていない? これも隠蔽(コンシールメント)(パワー)なんですか?」

 

 涙目の小悪魔にパチュリーは答える。

 

「これは疎外(エイリアネーション)(パワー)ね。対象を他者から認識できないようにするのよ」

 

 幻想郷で言うなら古明地こいしの『無意識を操る程度の能力』が近いか。

 彼女は相手の無意識を操ることで、他人にまったく認識されずに行動することができる。

 たとえこいしが目の前に立っていたとしても、その存在を認識することはできないという。

 

「凄い便利な力ですね」

 

 感心する小悪魔だったが、パチュリーはゆるゆると首を振る。

 

「逆よ。これは妖精のいたずら、対象をからかうためのものだから」

「はい?」

「他者に気付かれないことでドアや門を閉められて挟まれる、突き飛ばされる、踏まれる、閉じ込められるなどの危険が降りかかってくるわ。さっき、ぶつかられたあなたのように」

「ああ!」

「それらを回避するには能力、もしくは運が必要となるわ」

 

 一方的に便利なものではないということだ。

 

「そしてこの(パワー)は物に対してもかけられる。『ないないの神様』とも言われる民間伝承(フォークロア)ね」

「ないないの神様?」

 

 

 

 探してるものがどうしても見つからない時は、あせらずに、

 

「ないないの神様、ないないの神様」

 

 ――と何回か唱えると、

 

”ないないの神様”が現れてそっと返しておいてくれるんだって、

 

 今までさんざん探した場所に。

 

 

 

「ヤな存在ですね。神のくせに」

「精霊や妖精は幸運の運び手であると同時に不幸の撒き手でもあるということよ」

 

 生粋の魔法使いであり精霊魔法の使い手であるパチュリーには、彼らの気まぐれのような力を御すのはたやすいことではあるが。

 

「妖精は自然現象その物であり、魔法では妖精を操る事もしばしばある。つまり奴隷」

 

 湖上の氷精、チルノとの勝負に勝利した時にパチュリーが残した言葉だ。

 つまりはそういうこと。

 

「そして疎外(エイリアネーション)(パワー)が物に対して働くというのは……」

 

 パチュリーは本棚から一冊の本を取り出した。

 

「つまりはこんな風に」

「あ、あれ? さっきまでこんな本無かったですよね?」

 

 小悪魔が職業病で本棚を目にした瞬間にタイトルをチェックした中には見当たらなかった、はず。

 

「ないないの神様というのは住居精霊(ヒース・スピリット)のちょっとした悪戯なの。物に疎外(エイリアネーション)をかけたり解除したりすることで、それが見つけられなくなったり、探したはずの場所からひょっこりと出てきたりする。そういった現象を人間が説明するために生み出された民間伝承(フォークロア)なのよ」

 

 世界各地に形を変え、伝わっている話だった。

 そしてパチュリーが見つけた、この家に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)白い婦人(シルキー)の隠し財宝である本は、

 

「『力の秘密』という本ね。「カラダを鍛えよ! キンニクを磨け! パワーこそすべてだっ……?」 読むと性格を『力自慢』に変える使い切りのマジックアイテムだけど、使ってみる?」

「怖っ! 洗脳じゃないですか、それ!」

「大丈夫、呪いはかかっていないわ」

「ぜんぜん大丈夫じゃありません! 呪いじゃないってことは、教会でも解呪できないってことじゃないですか!」

「教会に頼る悪魔……」

 

 パチュリーは呆れながらも本を手に、怯える小悪魔に迫る。

 

「『セクシーギャル』なんて性格にしているから、いやらしいことばかり考えてしまうのよ。さぁ、この本で新しいあなたに生まれ変わらせてあげる」

「いやぁあ! やめてくださいー、人の心はそんなに単純じゃありません!」

「……悪魔でしょう、あなたは」

 

 パチュリーも本気ではなかったのか、やれやれとばかりに首を振りながらも引き下がる。

 

「お店に持っていけば52ゴールドで売れるわね」

 

 という具合に。

 しかし探索を続けると……

 

「よいしょ、よいしょ。だめだ…… 重くて押してもビクともしないや」

 

 野原で大きな岩を押そうとしている村人が居たため、

 

「小悪魔?」

「力仕事は苦手なんですが……」

 

 手伝ってやる。

 小悪魔が。

 

「やや、すごい! そのチカラがいつかきっと役に立ちましょう!」

 

 そう話す村人をよそに、パチュリーは石の下に隠されていた小さなメダルを拾う。

 

「これが欲しかったのよ」

「うう、使い魔使いが荒過ぎですよー」

 

 恨めしそうに言う小悪魔に、パチュリーは力の秘密を手に再び迫る。

 

「ならやっぱりこれを使う? そうすればあなたも身体を使う悦びに目覚めるでしょう?」

「それが必要なのは引きこもりなパチュリー様ですよ!」

「私はもうタフガイだし」

「そうでしたー!?」

 

 迫るパチュリーに怯えすくみ、命乞いをする小悪魔だった……

 

 

 

 二人は道具屋に向かうとスライムから得られた金属や半貴石、そして力の秘密を売却して換金。

 

「良かったです……」

 

 小悪魔に束の間の平和がきた。

 だが、この世界に性格を変える本があるかぎり油断はできないのだ。

 

 そして消費した薬草の補充と、帰還アイテムであるキメラの翼を購入する。

 

「次はナジミの塔だけど」

「ええっ、大丈夫なんですか? いやらしい毒を身体に注ぎ込み泡の海に沈めようとするスライムに、妖しい夢幻の世界に引きずり込み離そうとしない蝶、そして男女の別なく『後ろ(バック)』を狙ってくるカエルが出るって話ですよ」

「どうして一々いかがわしい言い回しをするの」

 

 呆れるパチュリー。

 

 小悪魔が言っているのはバブルスライムに人面蝶、フロッガーだ。

 バブルスライムは毒攻撃をするし、人面蝶は幻を見せて攻撃を外させる魔法『マヌーサ』を使う。

 マヌーサは戦闘中に解除する方法が無いので「妖しい夢幻の世界に引きずり込み離そうとしない」というのは間違いではないが……

 

 フロッガーは前にもパチュリーが話したとおり、ファミコン版ドラクエ3の公式ガイドブックで後列攻撃をしてきやすいとの記述があったもの。

 判断力が1以上のモンスターは隊列を認識して前列を優先的に狙うが、判断力が0のモンスターは隊列を認識できないため標的が完全にランダム。

 それゆえに判断力が1以上のモンスターと比較して、後列を攻撃する可能性が高くなるというものだった。

 

「だから「男女の別なく『後ろ(バック)』を狙ってくる」というのは間違いじゃないけど、そういういやらしい意味じゃなくて……」

「いやらしい意味って、どういうことですか?」

 

 身を乗り出して食いついて来る小悪魔。

 

「は?」

「どんな想像をされたのか、私にも教えてください!」

「近い近い、顔が近い!」

 

 真っ赤になってのけ反り、小悪魔から離れようとするパチュリー。

 

「っていうか、意味が分かっていて言ってるでしょう!」

Yes I Do(はいそのとおりです)

「こっ、この使い魔は……」

「あれはいつのことだったでしょう。本棚を前に上側の書籍を見ようと後ずさりをして、何もないところでつまずき転びそうになったパチュリー様は、失敗を見られた羞恥に頬を桜色に染め、私にこう仰ったのです」

 

 

「私、バックに弱いから」

 

 

「――っ!」

「あのころのパチュリー様は純真でした。きょとんとしているパチュリー様に、自分が口にした言葉の意味を教えて差し上げる悦びを何と表現したら良いでしょう。孤高の、高い知性を持った、でも無垢な少女の心をいやらしい知識で染めていく快楽。初めて知る性の知識に凄まじい羞恥心を感じながら訳も分からず混乱するパチュリー様の放つ、恥辱にまみれた負の感情、そしてその内に見え隠れする性に目覚めたばかりの少年のような好奇心…… 大変おいしゅうございました」

 

 これでも小悪魔は悪魔の端くれ、他者から漏れ出る欲望や負の感情を糧とすることが、味わうことができるのだ。

 

「というわけで、その意味を教えたのは私ですし、だからパチュリー様も分かっていますよね」

 

 無駄にいい笑顔を浮かべる小悪魔。

 そしてパチュリーは……

 

「殺ス……」

 

 とても冷たい目で小悪魔を見ていた。

 

「えーと、パチュリー様?」

「そんなことを他人に言いふらされたら、公開処刑もいいところだわ」

 

 普段なら、

 

「取るに足りないはずの使い魔の手で、性的に処刑されてしまうパチュリー様!? 想像しただけで……」

 

 などとふざけたことを言いかねない小悪魔だったが、さすがに目がマジなパチュリー相手には無理だった。

 

「だから社会的に殺される前に殺ス」

「ひぅっ!」

 

 そもそも存在としての格が違うので、本気になられたら逆らえないし、指先一つで塵とされてしまうのだから。

 

 

 

「……ヒドイ目に遭いました」

 

 どったんばったん大騒ぎの末、何とか命をつないだ小悪魔。

 

「誰のせいよ、誰の」

 

 ジトっとした半眼でにらみつけるパチュリーはまだ機嫌が悪そうだ。

 

「そ、そうです、お話を戻して……」

「まだ続ける気?」

「ひぃ!」

 

 ぎろりと睨まれ、悲鳴を上げる小悪魔。

 ふるふると首を振って、こう答える。

 

「そうじゃなくて、ナジミの塔に行くなら状態異常攻撃をしてくるモンスターを相手にしなければならないってことです!」

「ああ……」

 

 そう言えば、とパチュリーは『ふくろ』、勇者一行が持つ莫大な収納力を持つ魔法の袋、ゲーム的にはインベントリに該当するものからラックの種を取り出す。

 

「これを使っておかないといけないわね」

 

 ドラゴンクエスト3においては、運の良さは毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるという効果を持つ。

 

「それじゃあ、あなたに」

 

 というわけで小悪魔に渡されるカシューナッツに似た種。

 

 なお、実際にイベント等で出されるメニュー『ふしぎなきのみの盛り合わせ』では、

 

・ラックのたね(カシューナッツ)

・すばやさのたね(柿の種)

・ふしぎなきのみ(マカデミアナッツ)

・きようさのたね(ピスタチオ)

・スタミナのたね(アーモンド)

 

 となっていたりする。

 

 しかし、

 

「はい? パチュリー様が使うんじゃ?」

「それも考えたのだけれど、どうも私の場合、このままだと成長下限値に引っかかりそうなのよ」

 

 ドラクエ3のキャラクターは職業とレベルに応じた成長上限値と下限値があってレベルアップではその間でしか成長しない。

 上限に引っかかった場合、それ以上は上がらないか、上がっても1ポイントしか上がらない。

 一方で、下限に引っかかった場合は、最低でも下限値まで引き上げられる。

 

「現在の私の運の良さは4。商人の低レベル帯での運の良さの上昇率はそれほど高くない上、私の性格が『タフガイ』だから、その成長に30パーセントの大幅なマイナス補正が加わるわ」

 

 つまり下限値に引っかかる可能性があり、そこで引き上げられるなら種によるドーピングは無駄となる。

 

「一方で、小人数プレイにおける状態異常で何が一番困ると言えば、延々と眠らされ続け何もできずに死亡する、マヒを受ける、即死呪文を受けるなどをしての全滅ね」

 

 全滅は所持金が半分になるのできついのだ。

 

「でも私かあなた、どちらか一方が無事ならキメラの翼を使って緊急脱出、逃げるなどの選択ができる」

 

 つまり現状で運が高く『セクシーギャル』の性格により運の良さの上昇補正が大きい小悪魔に集中投与した方がいいだろうという判断だ。

 しかし、

 

「私、パチュリー様に借金がありましたよね」

 

 顔を引きつらせる小悪魔。

 

「それじゃあ、清算してみましょうか」

 

 前回の清算時の計算が、

 

小悪魔:-87G

パチュリー:10G(+未払い分87G=97G)

 

「現時点での宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残金が40ゴールド。つまり、30ゴールドの収入があったので、一人当たり15ゴールドの配当ね」

 

 そしてさらに、

 

「ラックの種の売却価格は40ゴールド。これは二人に所有権があるものだから、半額の20ゴールドを私に払えば自分のものにできる」

 

 つまり、

 

「最終的にはこうなるわ」

 

小悪魔:-92G

パチュリー:40G(+未払い分92G=132G)

 

「借金が…… 借金が増えてる」

「まぁ、そうなるわね」

 

 そういうことになった。




 分かりづらいとご指摘のあった住居精霊(ヒース・スピリット)(パワー)を改めて紹介させていただきました。
(元の部分も加筆修正していましたが)
 あと1話に1回は必ずセクハラを働かないといけない様子の小悪魔は相変わらずで。
 なお、

>「私、バックに弱いから」

 は、現実に私の友人女性が口にしてしまったネタだったり。

 今回はレーベの村の探索だけで終わってしまいましたが、次はナジミの塔への道行の予定です。
 そして塔の宿でベッドを共にするパチュリー様と小悪魔……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ナジミの塔へ、そして初めてのベッドイン

 パチュリーを先頭に、二人はレーベの村から南下した森の中にあるというナジミの塔に通じる洞窟を目指す。

 ちょっとした空き地に入り口があり、階段を降りると石造りの地下通路に出ることができた。

 太古の魔術か、燃え尽きない燭台が等間隔に灯され内部を照らし出している。

 

「凄いですね」

 

 感心する小悪魔。

 そして二人はモンスターと遭遇する。

 

「スライムと…… 冒険者の『後ろ(バック)』をつけ狙うやらしいカエルさんです!」

 

 スライムと突然変異で巨大化したと言われるカエル、フロッガーが一匹ずつだ。

 

「そのネタ、まだ引きずるの……」

 

 嘆息するパチュリー。

 そもそも二人旅ではフロッガーの「後列攻撃をしてきやすい」という特性は、ほぼ意味が無いのだ。

 

「くっ」

 

 先に立つパチュリーにスライムが突っかかって来るが、レベルが上がったパチュリーのヒットポイントは44。

 スライムの与えるダメージ程度では少しも揺るがない。

 

「先手必勝です!」

 

 小悪魔は青銅の剣でフロッガーに斬りつけるが、粘液に包まれたゴムのような手ごたえの表皮に阻まれ、

 

「ええっ! た、たったこれだけしかダメージが与えられない!?」

 

 数ポイントほどのダメージしか与えられない。

 

 パチュリーが青銅の剣で突き込むが、同様。

 二人がかりでも倒しきれない。

 

「や、やっぱりこのレベルじゃ無理だったんですよ」

 

 と弱気になる小悪魔。

 何しろ彼女はいまだにレベル1。

 パチュリーとてレベル2に過ぎない。

 公式ガイドブックに記載されたナジミの塔の到達レベル、つまり推奨のレベルは4、当然四人フルパーティで、になっていたので無理はないとも言える。

 しかし、

 

「あれっ?」

 

 小悪魔はフロッガーからの反撃が来ないことに戸惑う。

 

「フロッガーは時々『身を守る』ことがあるのよ」

 

 防御に徹することによりダメージを半減させるのだ。

 

「な、何でそんな無駄なことを」

 

 1ターン無駄に叩かれるだけでは、と考える小悪魔だったが、

 

「……そうでも無いわよ」

 

 と、パチュリーは瞳を細めながら分析する。

 ともあれ、フロッガーが防御姿勢を解いて反撃に移ろうとした瞬間を捉えて小悪魔が斬り捨て。

 残ったスライムをパチュリーが倒して戦闘はお終い。

 

「剥ぎ取りだけど、フロッガーからはモモ肉が取れるようね」

「ええー、コレ食べるんですか?」

「食用ガエルという言葉があるようにカエルは世界各地で食用にされているし、フランス料理でも珍重されているものよ」

「……なるほど」

 

 納得した小悪魔は、パチュリーの指導を受けながら青銅の剣でフロッガーの解体を行う。。

 

「これだけ大きなカエルも後ろ足だけしか食材にならないんですね」

 

 他ではともかく、フランス料理で食べるのもそこだけだ。

 

「解体は関節で切り離すのが基本よ。関節は軟骨と軟骨を筋でつないでいる部分ね」

「うーん」

「そんなに慎重にならなくとも、ニワトリもカエルも足を切る要領は同じよ」

「そうなんですか?」

「というか、チキンの丸焼きを切り分けるのと変わりないわ」

 

 欧米では安息日のディナーの時に家長、普通は父親が七面鳥(ターキー)やカモ、チキンなどをナイフで切り分けて家族に分け与える風習があったりする。

 そうでなくとも丸ごとのチキンが店で売られている地域では、魚を三枚におろすのと同レベルでチキンをばらし調理するものだった。

 

 足を開くと皮が伸びる部分があるので、そこから関節が見えるまで皮を切る。

 そうしたら足を広げて関節を外す。

 ゴリッという手応えがあるので関節を広げて筋を探し、筋を切って軟骨の間に刃を入れていく。

 うまくはまるとすっと切れるはずだが、慣れていない小悪魔ゆえ、どうしても力ずくになってしまう。

 青銅製の小ぶりな剣は力任せの作業には向いているが、それでも強引に解体を続けると切れ味が鈍ってくる。

 

「よく「刀の切れ味が付着した血や脂で鈍くなる」って聞きますけど……」

「ええ、一方でそれはデマって話もあるけど」

「ええっ!? でも実際に切れ味が鈍ってますけど」

「そうね、厳密に言うと関係ないとは言えないんだけど」

 

 パチュリーは説明する。

 

「要するに血や脂が付いても刃先、エッジの切れ味は鈍らないけど、側面に溜まると肉を切り分けていくのに抵抗になる。包丁でも食材が側面にべったり張り付くと抵抗になって切りにくいでしょう?」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

「でもまぁハンターが用いる解体用ナイフの話では、刃もちのする鋼材で作ったカスタムナイフでも骨などを切るなら鹿など大物で4体が限界とか。これは血脂とは関係なしに、エッジの切れ味の話ね」

「名刀だと四人斬っても切れ味が変わらないって話がありましたけど、逆に言うと血脂関係なしに刃先が持つのがそれが限界ということですか……」

 

 そして小悪魔の青銅の剣は扱いが荒いのでエッジの切れ味が落ちてきたということ。

 

「刃の切れ味が落ちたら、剣を買った時に付いてきたタッチアップ用砥石で軽く磨いてやると復活するわ。あくまでも応急処置だから何度も使える訳じゃないけど」

 

 と、こちらは手慣れた様子でスライムから金属や半貴石といった有価物を取り出すパチュリー。

 魔法使い、とされるパチュリーだが『花曇の魔女』との二つ名でも呼ばれるとおり、同時に魔女であるとも言われる。

 魔女と言うだけに主体は女性、魔女の持つ技術には主婦としての業もまた含まれるということで、その包丁さばきならぬ青銅の剣さばきは小悪魔が見たところ、レーベの村の宿で大ガラスをさばいて料理してくれたおかみさんと同じくらい無駄が無かった。

 

 ともあれ、小悪魔は砥石を取り出して剣の刃先を整えようとする。

 しかし小さな砥石では上手く磨くことができない。

 

「そういう応急処置用の小さな砥石じゃあ普通の大きさの砥石と同じようには使えないわ。貸してみなさい」

 

 パチュリーは小悪魔から剣と砥石を受け取ると、砥石を固定して剣を動かすのではなく剣を固定して砥石の方を刃に滑らせた。

 

「刃が動かないようにしっかり固定して砥石を刃先に当てる。砥石の角度を一定に保ちながら先端の曲面の入り口まで軽く擦るの。そして曲面の部分はそれに合わせて砥石の角度を調整しながら切っ先までやり切るのよ」

 

 はい、と渡されたので小悪魔はパチュリーを真似して反対側をやってみる。

 

「切っ先の曲がっている所が難しいですね」

「そこは曲面に合わせて砥石を立てて行くといいわ。まぁ、どっちにしろ応急処置だけどその場をしのぐのには十分ね。慣れた人は包丁なんかを陶器の底でやるって話よ」

 

 果たして、小悪魔が応急処置後に青銅の剣を使ってみると見事に切れ味は復活していた。

 

「凄いです」

「一々きちんと研いでいられない野外生活の知恵ね」

 

 こうしてフロッガーのモモ肉を剥ぎ取っていく。

 残るのは後ろ足を失ったカエルだが。

 

「放したら、また足が生えてきますかね?」

「さすがに無理でしょう」

「オタマジャクシは生えてくるのに……」

 

 無茶を言う。

 

 

 

「ようやく抜けましたね」

 

 通路を進んで最初に出くわした階段を上ってみると、そこは確かにアリアハンの街からも海上の小島に建っているのが見えるナジミの塔だった。

 

「ここに盗賊の鍵を持っているっていう、おじいさんが居るんですね」

 

 小悪魔が言う、そのおじいさんを探して奥へ。

 そこに大ガラスとフロッガーが1匹ずつ現れる!

 

「あなたは大ガラスを先に仕留めなさい」

「はいっ?」

 

 ジャンプからプレスしてくるフロッガーの攻撃を高いヒットポイントで受け止めるパチュリー。

 小悪魔はそれを横目に見つつ大ガラスを打ち落とす。

 

「いつまでのしかかっているの!」

 

 パチュリーはフロッガーを斬り払い、

 

「止めです!」

 

 そこに小悪魔が斬りつけて止めを刺す。

 

「なるほど、二人がかりでしか倒せないフロッガーからはどうしても1回は攻撃を受けてしまう。なら大ガラスを先制で沈めてしまった方が、被ダメは減らせるということですか」

「そういうことね。付け加えるならフロッガーは前回の戦闘のように防御姿勢を取る場合もあって、それだと二人がかりでも倒しきれず戦闘が長引いて、その間に大ガラスから受けるダメージが蓄積する可能性があったし」

 

 前回の戦闘で学んだ結果を反映した、ということでもあった。

 そしてこの戦闘で、

 

「やっとレベルが上がりましたー」

 

 小悪魔がレベル2に。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:2

 

ちから:14

すばやさ:18

たいりょく:10

かしこさ:9

うんのよさ:11

最大HP:20

最大MP:18

こうげき力:26

しゅび力:17

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「力も最大ヒットポイントも増えました。これで勇者らしく……」

「あら私も上がったようね。レベルが」

 

 パチュリーは3レベルに。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:3

 

ちから:14

すばやさ:7

たいりょく:27

かしこさ:9

うんのよさ:5

最大HP:52

最大MP:18

こうげき力:26

しゅび力:11

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「なっ、追い越したと思った力が並んで…… っていうか、最大ヒットポイントが52って何ですかー!!」

「実は低レベル帯だと戦士を超えて一番ヒットポイントの伸びがいいのが商人なのよね」

 

 その上、パチュリーは体力の値に最大の成長補正がかかる『タフガイ』である。

 これぐらいは当然と言えた。

 

「やっとレベル2になったっていうのに、成長の早い商人はそれ以上ですかぁ……」

「この先もずっとそうね」

 

 そういうことだ。

 

「うう……」

 

 

 

 二人がさらに塔の中を進むと椅子とテーブルが置いてあって、そのすぐそばに地下への階段があるのが見つかった。

 

「何ですか、ここ」

 

 首をひねる小悪魔。

 階段を下りると、そこには商人風の男性が居た。

 

「おお、しばらくぶりのお客さんだ! 嬉しいなあ。こんにちは。旅人の宿屋へようこそ。一晩四ゴールドですが、お泊りになりますか?」

「こんな所で宿屋……」

 

 呆れる小悪魔だったが、それも当然だ。

 こんな場所で商売になるのか、という話。

 

「国に委託を受けた業者じゃないかしら。宿泊料がアリアハン内の宿屋と同額だし」

 

 つまりこの主人の給料は国から支給され、その代わり宿泊料金は国に指定された固定の金額となっているのだろう。

 

 二人は今まで仕留めたカエルの足やカラスの肉、スライムから得られた金属や半貴石も引き取ってもらって換金。

 ここで休むことにする。

 

「食事はみなさんが持ち込んでくれたカエルの足と大ガラスの肉がありますけど、どちらにします?」

「そうね、じゃあカエルのモモ肉で」

「ええっ!?」

 

 パチュリーの選択に、小悪魔は驚きの声を上げた。

 しかしパチュリーは軽く微笑むとこう答える。

 

「フランスではカエルのモモ肉は立派な郷土料理なのよ。冷凍では無いフレッシュで、しかも野生のものともなると更に希少ね」

「な、なるほど……」

 

 彼女ならではの感情を棚上げしたうえで知識を基にした判断というものらしかった。

 

「そ、それなら私も試してみます」

「無理に食べることは無いのよ」

「女は度胸、何でも試してみるものです」

「……そう?」

「で、でも何だかドキドキしちゃいますね」

 

 そんな訳で、二人でカエルのモモ肉料理を試してみることに。

 

「お料理しちゃうと見た目は普通に鳥のモモ肉みたいですね」

「味の方も鳥肉に近いものよ。冷めるとおいしくなくなるから熱いうちに食べましょう」

「はい」

 

 小麦粉をまぶしたカエルのモモ肉をオイルでカラッと炒めてバターソースをからめてある。

 

「ふうん、鶏肉って感じの肉ですね」

 

 ニンニクとパセリ、そしてバターの味付け。

 

「うん、美味しい」

「生の牛乳に漬けこんで身を柔らかくするのが秘訣です」

 

 と、宿屋のご主人。

 

「悪くない、悪くないですね、カエルのモモ肉」

 

 小悪魔はそう言ってぱくつく。

 そして彼女はパチュリーに向き直って礼を言う。

 

「ありがとうございます、パチュリー様」

「な、何なの唐突に」

 

 パチュリーは素直に礼を言う小悪魔に、驚いた様子で瞳を瞬かせた。

 

「いえ、カエルのモモ肉なんて、パチュリー様が勧めて下さらなかったらこんな風に味わう機会も無かったでしょうから」

 

 だから感謝してるのだと小悪魔は言う。

 

「べっ、別にあなたの為に選んだわけじゃないから!」

 

 かすかに頬を染めて照れるパチュリー。

 

(ツンデレだ、ツンデレです。なんてレアな。ポイント高いですよパチュリー様!)

 

 二人で夕食を味わって。

 あとはお湯をもらって身体を拭くと、清潔なベッドで寝るだけだ。

 この宿にはベッドが二つしか無い。

 宿のご主人が自分のベッドを空けてくれようとしたが、パチュリーは遠慮して小悪魔と一緒のベッドで寝ることにした。

 

「は?」

「何を呆けてるの、さっさとベッドに入りなさい」

「ははは、はい!」

 

 慌てて旅人の服を脱ぎ去り、肌着姿になってベッドにもぐりこむ。

 これは夢じゃなかろうかと自分の頬をつねってみるが、

 

「痛い……」

 

 夢じゃない!

 

「こぁ……」

 

 甘くささやき、小悪魔の頬に手を差し伸べるパチュリー。

 そして、

 

「拘束制御術式展開。悪魔罠(デーモントラップ)第3号、第2号、第1号発動」

 

 使い魔としてパチュリーと繋がっているパスを通じて、三重の封魔捕縛式が作動。

 これにより小悪魔は指一本動かせない状態に陥る。

 なお悪魔との契約に関する魔法は西洋魔道の類。

 パチュリーが得意とする七曜の魔法、属性魔法とはまた異なるものだが、彼女はその豊富な知識を基に難なくこなしてしまう。

 

 愕然とする小悪魔に、パチュリーはささやく。

 

「ベッドがあるとはいえ、ここは地下。寝床を温める Hot water bottle …… 湯たんぽが欲しいのだけれど」

 

 湯たんぽはしゃべらないし動かない。

 セクハラなんてもってのほかだ。

 

「だから朝まで黙って私の湯たんぽになりなさい」

 

 パチュリーは自分の服に指をかけた。

 彼女が旅人の服を脱ぐと、大人な感じのする上品な肌着が露出する。

 豊かな胸を持つパチュリーにそれは良く似合っていて、小悪魔はその魅力に圧倒される。

 もちろん普段外出しないが故の、白く透き通るような肌を持つ肢体にも……

 

「さぁ、寝ましょう」

 

 そう言ってパチュリーはベッドに横になる。

 かちこちに固まっている小悪魔と一緒に。

 

(わぷっ!?)

 

 パチュリーの、その形の良い胸の谷間に鼻先を突っ込まれる小悪魔。

 

(柔らかすぎるっ! 顔が沈んじゃう、埋もれちゃうぅぅっ!)

 

 運動をしない者特有の柔らかさに、豊かさが合わさったそれに包まれ、小悪魔の頭は一気に沸騰してしまう。

 

(お、溺れちゃうぅぅ…… ダメになっちゃうぅぅ……)

 

 断末魔のような心の悲鳴。

 身動き一つできない今の状態は、生殺しもいいところだった。

 圧倒的な心地よさに駄目にされてしまうことへの恐怖と戦慄。

 そして、それと表裏一体のとろけるような快楽と安心感。

 この感触に依存して、これだけを感じていたいようになってしまう。

 もうパチュリーのベッドを温める湯たんぽ、肉布団に存在を改変されてしまってもいい、いやそうして欲しくてたまらなくなってしまう小悪魔。

 そこまで、そこまで堕とされてしまう。

 せつなくて、せつなくて、涙があふれそうだった。

 

「鼻息がくすぐったいわね」

 

 そう言う割には小悪魔の頭に回した腕を解かないパチュリー。

 その口調は何だか嬉しそうだった。

 母性本能というのだろうか。

 自分より弱い、保護の対象となる者を胸に抱いて、その息吹を感じながら眠るのは女性にとってはとても良いものなのだろう。

 

 しかし、される小悪魔は子供ではない。

 大体、息をする度にパチュリーの身体からたち昇る女性の匂いが、肺いっぱいに吸い込まれるのだ。

 それは次第に小悪魔の体の中に染み込んでいくような気がして。

 呼吸が浅くなっていくのは、これ以上パチュリーの香りで満たされてしまうことに危機感を抱いた身体の働きか、逆に興奮しすぎて過呼吸に近い症状に陥ってしまったのか。

 しかし、

 

(むーっ! むむーっ!!)

 

 きゅっとパチュリーの腕に力が籠められ、顔がその豊かな胸に沈められてしまう。

 酸欠に近い状態だったところに呼吸を封じられ、もがこうとするが、しかしそんなことでパチュリーの拘束制御術式が緩むはずも無く、指一本動かせない小悪魔。

 すぐに体力、気力が限界を迎え……

 しかし苦しいのに、苦しいはずなのに気持ちがいい。

 

(こ、こんなの覚えさせられてしまっちゃダメ! 苦しいのに気持ちいいのが忘れられなくなっちゃう! 堕とされちゃう!)

 

 つま先から頭まで、真っ白に染め上げられていく。

 チカチカしているのが目なのか頭なのか、それすら分からない。

 小悪魔の精神は快楽にのたうち回った。

 

(カヒュッ!)

 

 小悪魔はそのままパチュリーの胸の中で果ててしまう。

 がっくりと身体から力が抜ける。

 それを慣れてくれたと誤解したパチュリーが嬉しそうに手を動かして、身体を撫で、髪を梳いてくれた。

 練り絹のような肌を持つすべらかなパチュリーの指と指の間を、自分の髪が流れる感触が小悪魔にはなんともいえず心地良い。

 二度、三度とパチュリーの手がゆっくり往復するにつれて気持良さに体の力が抜け、反対に苦しいほど胸が高鳴って行くのが分かる。

 まるで、ゆっくりとした後戯を受けて、達した状態が深く長く引き伸ばされているかのような快楽。

 

(……うう、気持ちいい)

 

 暖かくて、気持ちいい。

 ふわふわしてとろけそうなのは、パチュリーの胸のことなのか、自分の意識、頭の中身なのか。

 このまま浄化されて悪魔ではなくなってしまうのでは、存在が消滅してしまうのではないかという怖れとは裏腹に、その心地よさにまったく抵抗できない小悪魔。

 こうしてパチュリーの柔らかな身体に抱きしめられた小悪魔は、そのまま昇天するかのように気絶し、寝入ったのだった。




 カラスでもカエルでも、はたまたカタツムリでもフランス料理というだけで受け入れられる感じがしますよね。
 イメージに騙されてるような気もしますが。

 そして初めてのベッドイン、というかパチュリーの母性に浄化されてしまう小悪魔。
 とってもハートフルなお話でしたよね?
 心がピュアな方ならわかってもらえるはず。


>「刃の切れ味が落ちたら、剣を買った時に付いてきたタッチアップ用砥石で軽く磨いてやると復活するわ。あくまでも応急処置だから何度も使える訳じゃないけど」

 現代ではさらにダイヤモンドシャープナーがあり、数秒で切れ味がよみがえるので解体用ナイフも量産品のファクトリーナイフで十分だったり。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ナジミの塔の探索、そして小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!

 そして翌朝、朝食を取った後、二人はナジミの塔の探索に入る。

 

「まずは小さなメダルの確保ね」

 

 塔の中を進む二人に、バブルスライム3体が襲い掛かってくる。

 

「痛っ!?」

 

 バブルスライムはパチュリーに5ダメージを与える。

 今のパチュリーにしてみれば10発食らってもまだ生きている程度の打撃だが、それでも、

 

「フロッガーより強い?」

 

 実際、毒攻撃のイメージばかりが先行するバブルスライムだが、その攻撃力は高い。

 ファミコン版では最大7体、それ以降のリメイク版でも6体まで出現するため、毒攻撃以前に通常の攻撃ダメージで殴り殺されかねない強さを持つのだ。

 ただし、

 

「でもヒットポイントは低いようですね」

 

 小悪魔はバブルスライムに斬りつけ、一撃で倒す。

 

「それが救いね」

 

 と、パチュリーも同様に斬り捨てる。

 小悪魔は最後に残った一匹にも止めを刺そうとして、

 

「ごめ…… さい……

 わた…… シタちがまちが……っていました。

 もう…… にどとしませン。

 もう…… 森…… のオク…… にもどって、ひっそりと…… 暮らシ…… マ…… す。

 ごめんなさ…… あい……」

 

 泣きながら許しを請うバブルスライムに戸惑う。

 

 

 

(ゆる)す……!! 自分が強者だと思いこんでいる人間…… 特に女は)

 

 最後の一匹となったバブルスライムは、小悪魔を前に命乞いをして見せながら考える。

 

 バブルスライムはスライムの変異種だ。

 旧エニックス社から出版された『ドラゴンクエスト モンスター物語』では、毒の沼地を温泉代わりにしていた腐った死体に誘われ、入ったスライムが瘴気を吸い込みすぎて破裂してしまった姿だとされる。

 だが破裂しても死なず、それどころか毒に慣れてしまい、その姿のまま子孫を作って行ったのだと。

 

 実際にはそんなユーモラスな伝承とは違い、他者との熾烈な生存競争に負け生息圏を追われて毒の沼地に追いやられたスライムが毒に侵され苦しみ、文字どおりに身を崩しながらも環境に適応し毒を身に着けた存在だ。

 毒に慣れる、と言うが、実際には後のシリーズ作でそうだったようにバブルスライムに毒耐性など無い。

 その身は毒に侵され、姿かたちも崩れかけ、それでも辛うじて生き延びることができている、そんな存在だ。

 

 だからこそバブルスライムは他者に劣等感を裏返しにした強い敵愾心と残虐性を持つ。

 

 自分は虐げられた弱者だった。

 だから強者には何をやっても良いのだ。

 だって弱いのだから。

 

 バブルスライムは表面上は怯えるふりで小悪魔たちの同情を請いつつ、内心では過去、騙し討ちにした相手を思い浮かべながら毒に侵す機をうかがう。

 

(あの女も)

 

 序盤の冒険者は毒などの異常状態に対する抵抗力も弱い。

 

(あの女も)

 

 解毒呪文のキアリーを覚えておらず、毒消しの備えも十分でない場合が多い。

 

(あの女も)

 

 一瞬の油断をついて毒に侵せばそれで勝ちなのだ。

 

(自分を憐み赦し…… そして泣き喚きながら死んでいった)

 

 バブルスライムは相手が強ければ、こうして命乞いも、逃げることもためらわない。

 それこそ通常のスライムと変わらぬほど逃げ足は速い。

 生きてさえいれば次がある。

 己の種族が逃げ込んだ先の毒の沼地で、毒という武器を手に入れたように。

 

 そしてまた強い相手でも不意を突いて毒に侵し、すかさず逃げることで消耗させることができる。

 解毒手段を十分に用意していない迂闊な相手なら、それだけでハメ殺すことも可能だ。

 

 だから命乞いをしてでも逃げのび、そして再び毒に侵すべく襲い掛かり、また逃げ出し……

 そうして何度も何度も報復を、リベンジを果たしてきた。

 

(さあ赦せ…… 赦せ……!!)

 

 小悪魔の構える剣の切っ先がゆらぎ、

 

(赦……)

 

「させるわけが無いでしょう」

 

 パチュリーの剣が、バブルスライムの身体に突き刺さる。

 

「報復者(リベンジャー)を気取るモンスター? バカバカしい。お前はスライムよ。ただの薄汚いスライムに過ぎないわ」

 

 そしてぐりりとねじ斬った。

 

「そして私たちは勇者…… いいえ、魔法使いパチュリー・ノーレッジとその使い魔よ」

 

 こうしてバブルスライムの群れは倒された。

 

 

 

 バブルスライムからは薬液を採取することができる。

 

「大丈夫なんですか、ソレ」

 

 顔をしかめる小悪魔に、パチュリーは、

 

「毒と薬は同じものよ。使い方によって毒は薬に、薬は毒になる」

 

 そう答えるのだった。

 

 

 

 3階の小部屋に安置された宝箱から、小さなメダルをゲット。

 

「なにげに初めての宝箱ですね」

「そう言えば、そうね」

 

 魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには財宝を守る精霊スプリガンの姿が捉えられていた。

 パチュリーはわずかな微笑で謝意を伝える。

 するとスプリガンは満足したように消えて行った。

 また別の場所で眠る財宝を守って行くのだろう。

 

 

 

 そして今度こそ、盗賊のカギを持つという老人の元に向かおうとするが、

 

「モンスターの大群です!」

 

 大ガラス2羽、フロッガー2匹、おおありくい2匹というモンスターの群れが襲い掛かって来た。

 

「まずは、大ガラスを沈めて」

「了解です!」

 

 まずは敵の手数を減らす。

 二人がかりでないと倒せないフロッガー、おおありくいは後回しにして二羽の大ガラスを打ち落とす。

 

「ぐっ」

 

 続けざまにパチュリーに襲い掛かってくるモンスターたち。

 高いヒットポイントを持っている彼女だからこそ耐えられるのだが、

 

「おおありくいの攻撃力がやっかいね」

 

 後ろ足で立ち上がって威嚇のポーズを取るおおありくい。

 どこか可愛らしい姿だが、その爪は鋭い。

 現実にも居る動物だが、腕力が強く10センチもの長く鋭い爪を持つため人が襲われると内蔵を引き裂かれるなどして死にかねないものだ。

 ジャガーもおおありくいには近寄らないという。

 

「次は一番攻撃力の高いおおありくいを減らすわね」

 

 二人がかりで、と思ったのだが、

 

「やりました、一撃です!」

「えっ、倒しきってしまったの?」

 

 小悪魔は一太刀でおおありくいを倒してしまった。

 会心の一撃、というわけではなく、たまたまヒットポイントの低い個体に、たまたま今の攻撃力で出せる最大ダメージが入ったというところらしく、パチュリーが斬りつけた個体の方は生き残る。

 

「それじゃあ、止めを……」

「後回しにしてフロッガーを倒して」

「はい?」

「アイテムドロップは最後に倒したモンスターのものが手に入るから」

「じゃあ、おおありくいの?」

「革の帽子を狙いましょう」

 

 そうしてフロッガーを倒し、最後に残ったおおありくいを倒すが、

 

「残念、そう簡単にアイテムドロップはしない、か……」

 

 おおありくいが革の帽子を落とす確率は1/64だ。

 

「でも苦労したおかげでレベルが上がりましたー」

 

 小悪魔がレベル3に。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:3

 

ちから:16

すばやさ:19

たいりょく:13

かしこさ:10

うんのよさ:12

最大HP:25

最大MP:19

こうげき力:28

しゅび力:17

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「力も最大ヒットポイントも増えました。呪文も覚えましたが、メラじゃあ剣で攻撃するより低いダメージしか出せないから無意味ですよね」

「そうでもないと思うけど……」

 

 使い道はあるのだ。

 

「ま、まぁ、これで私も勇者らしく……」

「あら私も上がったようね。レベルが」

「えっ?」

 

 パチュリーは4レベルに。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:4

 

ちから:15

すばやさ:8

たいりょく:32

かしこさ:10

うんのよさ:5

最大HP:63

最大MP:20

こうげき力:27

しゅび力:12

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「なっ、最大ヒットポイントが63……」

 

 絶句する小悪魔。

 彼女が勇者らしく先頭に立って歩く日は遠そうだ。

 

「素早さが上がったおかげで守備力が12になったのが結構大きいかも知れないわね。守備力は4ポイントごとに1ポイントのダメージを減らす効果があるから」

「んん? それだとパチュリー様は3ポイント。私の守備力17でも4ポイントしか減らないから、たった1ポイントしか変わらない?」

 

 そういうことだった。

 

 

 

 そして解体だが、おおありくいからは毛皮と肉、爪が手に入る。

 

「爪なんてどうするんでしょうか?」

「削って薬にするそうよ。現実のおおありくいの爪も同じように取引されてるって言うし」

 

 まぁ、そういう地域もある、という程度で効能は確かではないが。

 

「あとは薬草で傷の治療ね」

 

 最大ヒットポイントも増えたことだし、お互いに薬草で治療。

 小悪魔はフル回復したが、パチュリーは薬草一つでは満タンにならないという……

 

「まぁ、それでも50越えならよっぽどのことが無い限り大丈夫でしょう」

 

 そういうことで探索を続ける。

 途中、大ガラスとフロッガーに遭遇するが、

 

「一撃でフロッガーを倒せました!」

 

 小悪魔はようやくパチュリーより1ポイントだけ上回った力と攻撃力でフロッガーを斬り捨て、

 

「大ガラスからも1ポイントしかダメージを受けなくなったわね」

 

 パチュリーは守備力が上がった効果を確認して、大ガラスを倒す。

 そして3階に上がったところ、

 

「サソリバチの群れです!」

 

 三体のサソリバチだったが、

 

「サソリバチは仲間を呼ぶから気を付けなさい!」

 

 とはいえ気を付けたところでどうしようもない。

 というのもパチュリーたちは、ひたすら斬りつけるしか有効な攻撃手段を持ち合わせていないのだ。

 そして、

 

「こいつ、バブルスライムより強い!?」

 

 アリアハン大陸でも有数の強さを持っているのだ。

 またヒットポイントもバブルスライムより高く、

 

「今の私たちの力で一撃で倒せるか倒せないか。微妙なところね」

 

 ということで苦戦する。

 しかも、

 

「ああっ、倒したと思ったら仲間を呼ばれちゃいました!」

 

 となかなかに厳しい。

 

「落ち着きなさい。仲間を呼んでいるということはそのターンは攻撃できないってことなんだから」

 

 パチュリーはそう小悪魔をなだめながら攻撃を続ける。

 そして、

 

「な、何とか勝ちましたけど、勝ちましたけど……」

 

 小悪魔はヒットポイントを半分以下に削られていた。

 薬草で治療が必要だ。

 

「剥ぎ取りは、はさみと針ね」

 

 道具の材料になる素材だった。

 

 そして一行はさらに進み、フロッガー3匹とおおありくい2匹の群れに遭遇する。

 

「しくじったわね……」

 

 レベルが上がり攻撃力も上がったということでパチュリーはフロッガーを、小悪魔はおおありくいを攻撃したが、一撃で倒せないわ打撃が分散するわで戦闘が長引き被ダメージが蓄積する。

 何とか死なない範囲に収めたが、

 

「あ、あと一撃受けたら終わりでした……」

 

 小悪魔は再びボロボロになっていた。

 そして、

 

「ああ、レベルが上がったわ」

「ええっ!? 私上がってないですよ!」

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:16

すばやさ:9

たいりょく:35

かしこさ:10

うんのよさ:6

最大HP:68

最大MP:20

こうげき力:28

しゅび力:12

 

ぶき:どうのつるぎ

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「2レベル差…… 追い越したはずの力、攻撃力もまた並ばれちゃいました。しかもヒットポイント68って……」

「そんなことより薬草がもう尽きるわよ」

 

 最後の薬草を使って治療を行う。

 そして4階への階段を上り、

 

「ふぅ、最後の治療は要らなかったかもね」

「でも、もしモンスターに遭遇してたら死んでますから必要な出費ですよ」

 

 噂に聞く老人の部屋へとたどり着く。

 そこは人が住めるようになっていて、居眠りをして船をこいでいる老人の姿があった。

 小悪魔たちが近付くと目を覚ます。

 

「おお、やっと来たようじゃな」

「はい? 私たちのことを知ってるんですか?」

「うむ、勇者が旅立ったということは、わしも聞いておる。お前さん、名前は?」

「……こあくまと言います」

 

 一瞬考えた後、小悪魔は名乗った。

 小悪魔は種族名だが真名を名乗るわけにもいかないし、そもそもゲーム上の登録名を使うべきだし。

 

「そうかこあくまというのか。わしはいく度となく、おまえにカギをわたす夢を見ていた。だからおまえに、この盗賊のカギを渡そう。受けとってくれるな?」

「はい」

 

 老人から鍵を受け取る。

 その名の通り盗賊が錠前を破る時に使う鍵だ。

 

「ところでこあくまよ。この世界には、そなたの性格を変えてしまうほど、影響力のある本が存在する。もし、そのような本を見つけたら気をつけて読むことじゃな」

「ええっ、まだあんなのがあるんですか!?」

 

 小悪魔はレーベの村でパチュリーから力の秘密を使った洗脳調教を施されそうになった恐怖体験を思い出し、震えるが、

 

「ああ、ここにもあるわね」

 

 パチュリーが部屋の本棚から取り出した本に腰を抜かす。

 

「はわわ……」

 

 パチュリーはその本、『おてんば辞典』を手に取って見定めた。

 

「天真爛漫、元気な娘! おてんばイタズラ大好きっ娘、集まれ! ……? やっぱり使い切りの性格を変えるマジックアイテムね。この内容だと男性が読んでも役に立たなそう……」

「本来の目的とは違う意味で性癖を目覚めさせる男性もいるかも知れませんね」

 

 小悪魔は現実逃避かスカートを履いた女性が何かにキックをかましている様子が描かれている本の表紙を見ながら言う。

 

「そもそも魔導書でなくとも、一冊の本でそれまで無かった属性に目覚めちゃうってこともありますから、そーゆー本かも。パチュ×こあ派だった人が、こあ×パチュ本を読んで主従逆転に目覚めちゃうとか……」

 

 掛け算の順番は大事、などと主張し始めるその相変わらずのセクハラトークに、パチュリーの瞳がすっと細められる。

 

「……ずいぶん余裕ね。やっぱり『セクシーギャル』なんて性格をしているからそんななのよ」

「ひぅっ!」

 

 パチュリーはやれやれと首を振りながら本を片手に、こちらはいやいやと首を振り怯える小悪魔に詰め寄る。

 

「大体最初の性格判断で「あなたはエッチですね」「自分でもうっすらエッチであることにきづいている」「ひといちばい男の子がすき」「あなたはエッチです。それもかなりです」なんて連呼されても恥じないでいられるのがおかしな証拠」

 

 小悪魔に突きつけられる事実。

 

「小悪魔、あなたすでに洗脳されてるのよ」

「はい?」

「お前はエッチだとしつこいまでに連呼して刷り込んだ後、「でも心配はいりません。それはそれほどあなたが健康ということなのですから」と救いの手を差し伸べ肯定する。この手口、覚えがあるでしょう?」

「あ、ああ……」

 

 小悪魔は気づいてしまった。

 確かに…… それは妖しい宗教の入門体験や、現代で言うならブラック企業の新入社員研修などで散々人格否定をした末に救いの手に偽装した都合のいい価値観を刷り込む洗脳の常套手段、そのものだ。

 

 卑劣! 性格判断に仕組まれた罠!!

 

 などといったセンセーショナルな言葉が小悪魔の脳裏を過る。

 

「わたし……」

 

 呆然とする小悪魔に、パチュリーはふっと表情を緩めると、

 

「可哀想に」

 

 そう言って小悪魔の頬に手を添える。

 

「神魔の類は精神(こころ)が純粋だから、こういうことに影響を受けやすいわ。そこに付け込まれちゃったのね」

「パチュリー、さ、ま……」

「でも大丈夫」

 

 パチュリーは慈愛に満ちた表情で小悪魔にささやく。

 

「私がこの本で、歪められてしまったあなたを救い出してあげる」

「あ、ああ……」

「さぁ、その手に取って読んでみて。読書により幸福を感じることは義務。そうよね」

「読書により幸福を感じることは義務……」

 

 おてんば辞典を持たされる小悪魔。

 そして……




 スライムスレイヤーなパチュリー様再びでした。
 そして小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!
 というところで次回に続きます。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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アリアハンへの帰還、そして放置プレイへ

 パチュリーから手渡されたおてんば辞典。

 小悪魔の震える指先が、読んだ者を洗脳調教してしまう危険な本を開かんとする、まさにその時、

 

「だからこあくまよ。そのような本を見つけたら気をつけて読むことじゃと」

 

 部屋の主である老人に邪魔される。

 

「はっ!?」

 

 我に返る小悪魔。

 

「あっぶなぁっ!」

 

 手の内にあるおてんば辞典に気付き、慌ててパチュリーに突き返す。

 そしてパチュリーは、ひくりと頬を動かし、

 

「今、舌打ちしそうにしました! しましたよね、パチュリー様!」

「なんのことかしら?」

 

 一瞬、歪みかけた表情を即座に取り繕ってみせる。

 しかしさすがに小悪魔も騙されない。

 

「だいたい『おてんば』って『セクシーギャル』の完全下位互換なんですから、攻略上、変更する意味がありませんから!」

 

 そう主張する。

 仕方なしにパチュリーは肩をすくめ、

 

「お店に持っていけば60ゴールドで売れるわね」

 

 と売却の算段をし、老人の部屋を後にする。

 

「それじゃあリレミトで塔を出て、キメラの翼を使ってアリアハンに帰りましょう」

「えっ? 私がダンジョン脱出呪文のリレミトを覚えるのはまだまだ先ですよ」

 

 勇者がリレミトを習得するのはレベル14以降だ。

 

「だから『飛び降リレミト』よ」

 

 そう言って、トン、と塔から小悪魔を突き落とすパチュリー。

 

「ひあああああーっ!」

 

 塔から飛び降りることで一気に外へ。

 ドラクエの冒険者たちは、ヒモ無しバンジーに耐えられる勇気と強靭な足腰の持ち主でないと勤まらないのだ。

 しかし、

 

「こあ、あなた飛べるでしょう?」

 

 一緒に落ちながらパチュリーは言う。

 

「そ、そうでした。デビルウィーング!」

 

 背から黒き翼を伸ばし……

 

「楽ねぇ」

「ちょっ、パチュリー様!?」

 

 その手をつかんだパチュリーをぶら下げながら懸命にパタパタと羽ばたく。

 

「重い重い―!」

「むっ、そんなに重くは無いわよ」

「そうじゃなくて、私の翼は貧弱なんです。ご自分で飛んでくださいよう!」

「ここではただの商人の私に何を言っているのかしら?」

 

 そんなやり取りをしながらも、なんとか着地。

 

「さぁ、キメラの翼を使いなさい」

「はいぃ……」

 

 小悪魔が帰還アイテムであるキメラの翼を宙に放り投げると、二人はアリアハンの街へ向けひとっ飛びに飛ばされる。

 まずは今まで手に入れたカエルのモモ肉、アリクイの毛皮などを換金して、おてんば事典を売り払うと、まとまった額の金が出来た。

 さらに今まで行けなかった場所を、盗賊の鍵を使って確かめる。

 城の学者の部屋に突入。

 タンスから小さなメダルが手に入った。

 

「あとは夜にしか入れない民家の二階ね」

 

 アリアハンの街から出てちょっと歩いて街に戻る、ということを繰り返しゲーム的に時刻を進める。

 

「キメラの翼やルーラを使うと強制的に朝になってしまうのが面倒ねぇ」

「あっ、大ガラスですよ!」

 

 少ししか歩いていないのに大ガラスに遭遇する。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしいが、スーパーファミコン版よりエンカウント率が上がっているように感じられる。

 街を出た直後や階段を昇り降りした直後の遭遇までの歩数も割と短い場合があるようだった。

 

 ともあれ、いまさら大ガラスに苦戦する二人ではなく難なく撃破。

 そして時刻は夜に。

 民家に忍び込み、タンスから小さなメダルをゲットする。

 

「これで小さなメダルが五枚集まったわね」

「でもコレ、どうするんですか?」

「それじゃあメダルの館にご案内、ってところね」

 

 パチュリーは小悪魔をアリアハンの街の端にある井戸に連れて行く。

 ロープを伝って降りて行った先には家が建っていて、

 

「よくぞ来た! わしは世界中の小さなメダルを集めているおじさんじゃ。もしメダルを見つけてきた者には、わしのなけなしのほうびをとらせよう!」

 

 中には小さなメダルを景品と交換してくれるっていうメダルおじさんが待っていた。

 今までに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりにトゲの鞭をくれる。

 

「小悪魔からは現在五枚メダルを預かっておる。これが十枚になった時はガーターベルトを与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」

「ガーターベルト!?」

 

 ちょっとエッチな感じのする大人の装身具に、小悪魔は前のめりに。

 

「確か身に着けると性格を『セクシーギャル』に変えてくれる装備ですよね」

 

 パチュリーが身に着けている様子を思い浮かべたのか、だらしなく笑み崩れる。

 

「変なこと考えてないで、もう今日は休みましょう」

「ええっ、私のベッドでパチュリー様と!?」

 

 勇者の家にはタダで泊まることができるのだ。

 

「……宿に泊まるわね」

 

 二人は宿に向かうが、

 

「生憎満室で、他のお客様と相部屋になりますが」

 

 アリアハンの宿は満室、ベッドはすべて塞がっているという状況。

 レーベの村と違って部屋を取っているのはすべて大人の男性で、一番穏やかで問題なさそうな吟遊詩人風の男に話しかけるも、

 

「おや? あなたもここにお泊りなのですか?」

「はい」

「そ、そんな、いけませんよ」

 

 ポッと頬を染める男に、パチュリーは顔を引きつらせる。

 

「……仕方ないわね」

 

 ここは連れ込み宿か、という状況にパチュリーは渋々、宿に泊まるのをあきらめ勇者の実家へと向かう。

 その背後で、

 

(計画通り)

 

 と小悪魔は悪い顔をして笑っていたが。

 そう、ゲームでもアリアハンの宿は夜に訪れると満室であり。

 小悪魔はそれを忠実に再現することでパチュリーの行動を巧妙に誘導したのだッ!!

 

 

 

「まあ、遅かったのねっ。でも無事で本当に良かったわ!」

 

 勇者の実家では、夜遅くだというのに勇者の母が玄関で我が子の帰りを待っていた。

 

「さあ、早く家の中に入りましょう」

 

 そして二人は小悪魔の部屋で休むことに。

 

「パチュリー様、ベッドが一つしかないので……」

「拘束制御術式展開。悪魔罠(デーモントラップ)第3号、第2号、第1号発動」

 

 使い魔としてパチュリーと繋がっているパスを通じて、三重の封魔捕縛式が作動。

 指一本動かせない状態で床に転がされる小悪魔。

 まぁ、そうなるな、という展開だった。

 

「それじゃあ、お休みなさい」

 

 少しばかりの情けか、パチュリーは自分の旅人の服に付属のマント。

 雨風避けや野営の為のクロークを小悪魔に被せ、ベッドにもぐりこむ。

 しかし…… パチュリーはやはり忘れている。

 

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

 

 小悪魔は自分の身体にかけられたパチュリーのクロークに顔を埋めた瞬間、即座に恍惚・朦朧状態に堕とされてしまう。

 

(うあぁぁぁっ、これはぁ、これはぁ……)

 

 指一本動かせない状態で床に転がされ、みじめにパチュリーの身に着けていた衣類に顔をうずめ匂いを嗅がされ興奮する。

 

(だっ、ダメですパチュリー様、こんなことされたら私、わたしぃぃっ!)

 

 レーベの村の宿では寝取られ属性をこの身に刻まれた。

 そうして目覚めた被虐の血は、更なる淫靡な性癖を小悪魔に植え込もうとする。

 それは、

 

(こっ、これって放置プレイってやつじゃないですかっ!)

 

 懸命に欲情の火を鎮めようとする小悪魔だったが、鼻先に被せられたクロークの、パチュリーの匂いが彼女を捕らえて離さない。

 一呼吸ごとに身体が、心が、いや魂が絶対に達してはいけない頂に、淫らに吊し上げられていく。

 それが分かった。

 分かってしまった。

 

(だっ、ダメぇ。だって指一本動かせないようにされて放置されているだけなのに、それだけなのに達しちゃったら!)

 

 そうなればまた一段階、小悪魔の魂は堕ちて行ってしまう。

 もう堕ちたと思ったのにもっと下まで、堕ちてはいけないところまで堕とされてしまう。

 底なしの快楽の沼にどこまでも堕とされてしまう。

 最後に行きつくところはパチュリーになら何をされてもよだれを垂らして悦んでしまう雌犬。

 いや、意思など存在しない下僕人形にまで堕とされてしまうだろう。

 

 だから小悪魔はこらえた。

 

「どうしたらもっとパチュリー様によろこんで頂けるか、いつだって私はそう考えていますよ」

 

 そう言った言葉は嘘ではないのだ。

 命じられたことをするだけの、与えられるだけで満足する人形にはなりたくないのだ。

 パチュリーのために考えて、行動する。

 そして喜んでもらう。

 そういう存在になりたいのだ。

 

 だから小悪魔は耐えた。

 自らのパチュリーへの想いを守るために、いじらしいまでに必死でこらえ、そして、

 

(かはっ……!!)

 

 限界を超え、死んだように気を失うことでこの悪夢じみた状況から退避した。

 だが、ただの悪夢なら目を覚ませば終わるが、この状況は夢ではない。

 今、小悪魔の意識は逃避しているが、その身体はこの場に取り残されたままだ。

 そして呼吸する度に被せられたパチュリーのクロークから主人の香気を吸い続け、その匂いと心地よさをまったくの無防備となった身体に覚え込まされてしまうのだ。

 明けの明星が輝くまで……

 

 

To be continued




 おてんば辞典に洗脳され、荒木飛呂彦風(≒ジョジョ風)「キャンディ キャンディ」を歌い出す小悪魔、とかしようと思ったのですが。
 歌詞の語尾に「ッ!」や「YYYYYYYYYYーーーッ!」とか付けるのがハーメルンの歌詞使用のガイドラインにおける「歌詞を訳詞・替え歌など改変して掲載」に当たるか当たらないか分からず自粛しました。
 運営様にはお世話になってますからご迷惑はかけられない……
 なお荒木飛呂彦風「キャンディ キャンディ」はカラオケで歌うと、とても笑えるので興味のある方はお試しください。
(元々は雑誌「ファンロード」の読者コーナーに投稿されたネタでした)

 それはともかく、策をめぐらしパチュリーの行動を誘導する小悪魔でしたが、逆にギッチギチに拘束された上、放置プレイで新たな性癖をその身に埋め込まれてしまうのでした。
 そして次回は一転して、


「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 小悪魔のトゲの鞭が唸り、打ち据える!
 ゾクゾクと背筋を走る嗜虐の快楽に、その瞳が愉悦にけぶる……


 というような小悪魔の新たな魅力にご期待ください。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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小悪魔とトゲのムチ

 翌朝、起床したパチュリーは小悪魔の拘束を解くと、顔を洗って身支度を整え、1階のダイニングキッチンへと向かう。

 

「健康的な生活よねぇ……」

 

 起き抜けなのに食欲があり、勇者母が昨晩買い取ってくれたカラスの肉でどんな朝食を作ってくれるか楽しみにしている自分が居る。

 引きこもりで本の虫な彼女には、とても新鮮な体験であった。

 

 

 

 一方、小悪魔はというと、

 

 すぅうううっ……

 

「はぁああぁぁぁ」

 

 すぅうううっ……

 

「はぁああぁぁぁ」

 

 昨晩パチュリーが眠り、その残り香と、元々の自分の匂いが染みついたベッドにうつぶせに横たわり、枕に顔をうずめ思いっきり深呼吸。

 

「いぃぃいなぁぁぁ、これっ! いぃぃいなぁぁぁ、これぇ!」

 

 ムフー、スーハー、グーリ、グーリ。

 柔らかな枕に顔を押し付け、その香りを楽しむ。

 

「はぁぁ~っ! パチュリー様の匂いはたまりませんねぇ」

 

 小悪魔はパチュリーの使い魔ではあるのだけれど、紅魔館での役目は大図書館の司書。

 寝室のベッドメイクは『完全で瀟洒な従者』にして『紅魔館のメイド』十六夜咲夜か、妖精メイド(あまり役に立たないが)の仕事。

 つまり現実世界では触れることもできなかったパチュリーの寝起きしたベッドの残り香を、この世界なら存分に楽しめるのだ。

 しかもこのベッドは本来、小悪魔のもの。

 自分と愛しい主の匂いが入り混じり、あたかも「ゆうべはおたのしみでしたね」したかのような錯覚を覚えてしまう。

 

「あふ……」

 

 昨晩、パチュリーからギッチギチに施された拘束による放置プレイ責めにより小悪魔の心身は散々に啼かされ、高まっていた。

 だから太ももをすり合わせ、もじもじして我慢しようとするも、己の身体を苛む欲望には逆らえず。

 

「ぱ、パチュリー様が、パチュリー様が悪いんですよ。私、私こんなになるまで我慢したんですから」

 

 小悪魔は自分と主にそう言い訳しながらそろそろと、興奮で震える指を自分の身体に這わせ……

 

 

 

「おはようございます、パチュリー様!」

「ええ、おはよう」

 

 食卓で出されたハーブティーを楽しんでいたパチュリーは、妙にすっきり、つやつやとした様子で現れた小悪魔に、

 

(この子は朝から元気ねぇ……)

 

 と呆れる。

 まぁ、自分の残り香が付いたベッドを小悪魔が何に使ったかを知ったら、そんな呑気にはしていられなかっただろうが。

 そこにタイミングよく勇者母が、

 

「さぁ、朝食ですよ。新鮮なお肉を譲って頂いたので、麦酒(アンバーエール)でマリネしたカラス肉のハーフグリルに仕立ててみたわ」

 

 朝からガッツリ系なのは勇者の家、つまりファミコン版ではカンダタなどと同じ覆面パンツの筋肉男だった勇者の父、オルテガの家だからか。

 こんなの食べきれない、と思うパチュリーだったが、勧められるままに口にしてみて驚く。

 

「これは……」

 

 琥珀色をした麦酒を使用したマリネ液に漬け込んだお陰だろう肉が軟らかくなっており、香り高く味わい深く仕上がっている。

 添えられたのは今朝、沢から摘んできたという新鮮なクレソンにナッツをまぶして作られたサラダだったが、

 

「このサラダのドレッシングはオリーブオイルと粒マスタードでしょうか? ほのかに柑橘の風味もあっていいですね。シャキシャキした歯ごたえがたまりません」

 

 と小悪魔も満足げだ。

 パチュリーも、

 

「その緑が彩りとなって一層食欲をそそるように思えるわね」

 

 そううなずく。

 パンではなくクラッカーが出されていることも相まって、メインの肉料理の重さを上手く軽減しているように感じられる。

 クラッカーは日持ちするのでパンのように毎日焼かなくて良く手軽で美味。

 ……まぁ、酒飲みなら確実に朝からビールが欲しくなるメニューなのだが、パチュリーたちには関係ない。

 そして金色に澄んだ、暖かなスープも胃に優しいあっさり系。

 

 パチュリーには珍しく、食が進む朝食となったのだった。

 さすがにメインの肉料理は食べきれず小悪魔と分け合ったのだが、

 

「パチュリー様と半分こ! ああ、生きていて良かったです」

 

 と小悪魔にも好評なのだった。

 

「何も、涙ぐまなくても……」

 

 こんなことでそこまで、と呆れるパチュリーだったが、

 

(これからは、もう少し優しくしてあげるべきかしら?)

 

 などと考えるのだった。

 

 

 

「昨晩、小さなコインと引き換えにもらったトゲのムチだけど」

 

 商人の鑑定能力と、自分の知識を合わせて調べるパチュリー。

 トゲのムチを手に取って見定める。

 

「『イバラのトゲを編み込んだしなやかなムチ』ね。呪術的にもこれはモンスターに効くでしょうね」

「イバラというと、野薔薇とか、トゲのあるバラ族の植物ですよね。魔物除け、特に吸血鬼避けに使われる」

「そうね、そして広義にはサンザシなんかを含む場合もあるわ」

「……それも吸血鬼に効くやつですよね」

「ええ、そして古代ケルトのドルイドはサンザシを神聖視していて、それを受けてか英国の妖精物語では魔力ある植物とされた。その影響もあるのでしょう。サンザシは生薬としても使われるし……」

「なるほど」

 

 つまり、この武器は彼女たちが住む紅魔館の主である吸血鬼の少女、レミリア・スカーレットにも効くのかもしれない。

 当人が聞いたら、

 

「吸血鬼だろうとなかろうと、そんなのでぶたれたら痛いに決まってるでしょっ!!」

 

 と主張するかもしれないが。

 心臓にサンザシで造った白木の杭を打ち込まれて死なない存在の方がマレなのだし。

 

「ファミコン版では『鉄のトゲでモンスターの肉を引き裂き、骨を断つ強靭なムチ』とされていたけれど、その攻撃力は鎖鎌以下で攻撃できるのも単体に限られた」

「それに対してこれは同時に複数のモンスターへの攻撃が可能で、威力も鎖鎌以上、ですか」

「そうね、だからこれは呪的武器で、モンスターには鉄のトゲ以上にイバラのトゲが効く。そういうことなんでしょうね」

 

 そう分析するパチュリー。

 

「だから、これで攻撃すれば1グループの敵にダメージを与えることができそうよ」

「「できそう」って、そこは「できる」と言い切ってもいいんじゃないですか?」

 

 パチュリーの頭の中には攻略本の知識も入っているのだし、と思う小悪魔だったが、

 

「そこ、厳密に言うとメタルスライム、はぐれメタルには1体だけにしかダメージを与えることができないから」

 

 と正確性にこだわる主人に、なるほどと納得する。

 

「これを装備できるのは、あなただけみたいね」

 

 トゲのムチを装備できるのは勇者、盗賊、魔法使い、遊び人。

 商人のパチュリーは装備できない。

 

「お店に持っていけば240ゴールドで売れるわね。大丈夫、呪いはかかっていないわ」

 

 という話だが、

 

「つまり私が使わなければならないけど、そうするとパチュリー様に半額分、120ゴールド払わないといけない。借金っていう呪いがかかるってことじゃないですかぁ!」

 

 そういうことだった。

 

「でも今、あなたが装備している銅の剣は、お店に持っていけば75ゴールドで売れるわね。それを差し引けば45ゴールドで手に入るわよ」

 

 だからパチュリーたちは道具屋に行って薬草を補充してから、

 

「それじゃあ、清算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回の清算時の計算が、

 

小悪魔:-92G

パチュリー:40G(+未払い分92G=132G)

 

「現時点での宿代や薬などの消耗品の代金を支払った残金が186ゴールド。つまり、146ゴールドの収入があったので、一人当たり73ゴールドの配当ね」

 

 そしてさらに、

 

「さっき話したとおり、あなたの銅の剣を売ると75ゴールドがあなたに手に入る一方で、トゲのムチを手に入れるには私に120ゴールド払わないといけないから」

 

 つまり、

 

「最終的にはこうなるわ」

 

小悪魔:-64G

パチュリー:261G(+未払い分64G=325G)

 

「借金が…… 借金が無くならない」

「まぁ、そうなるわね」

 

 そういうことになった。

 

「まずはレーベの村に行って、私も武器の新調、鎖鎌を買うわね」

 

 パチュリー用の武器を購入するため、レーベに向かって出発する。

 平野にて大ガラス3羽の群れに遭遇。

 

「ふふふ、それじゃあ、お仕置きを始めましょうか」

 

 小悪魔の手に持たれたイバラのトゲを編み込んだしなやかなムチは、この草原の上をヘビのように這っていた。

 彼女が手首をしごくと地面を幾重にもしなり、のたくる。

 そして、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔のトゲのムチが唸り、大ガラスを打ち据える!

 その先端は音速すら超えるというムチの範囲攻撃、触れれば皮膚が裂け、肉が爆ぜるトゲのムチの攻撃フィールドに痛打され、即座に全滅する大ガラス。

 今まで一体一体倒していたことが馬鹿らしくなるような爽快さと……

 ゾクゾクと背筋を走る嗜虐の快楽に、小悪魔はその瞳を愉悦にけぶらせる。

 

「パチュリー様、アルミラージと戦いましょう! 今すぐにでもっ!!」

「はぁ?」

 

 アルミラージは催眠呪文ラリホーを唱え、こちらを眠らせてくる有角ウサギのモンスター。

 アリアハンでも東部やいざないの洞窟で出現するが……

 

 

 

To be continued




 ちょっと短めですが、初っ端で小悪魔が暴走して、このままでは最初から最後までセクハラ祭りになってしまうため、いったん切らせていただきました。
 ……でもこれって、問題の先送りに過ぎないという話もありますが。
 小悪魔がアルミラージを使って何をする気なのかは次回、

『おちる恐怖、パチュリーを苛む催眠とムチの二重奏!』

 で。
 ご期待ください。


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おちる恐怖、パチュリーを苛む催眠とムチの二重奏!

「あはっ、本当なら催眠呪文なんて効くはずもないパチュリー様ですけど、この世界では効いちゃうんですねぇ……」

 

 アルミラージの催眠呪文、ラリホーを受け洞窟の床に倒れ伏すパチュリーを見下ろす小悪魔。

 

「フフ…… その床に這いつくばった格好も素敵ですよ、パチュリー様。とてもよくお似合いです」

 

 小悪魔はそう言って瞳を細めると、トゲのムチを振り上げた。

 

「それじゃあ、ご奉仕を始めましょうか」

 

 小悪魔がそれを使って打ち据えたのはモンスターではなく……

 

「ひぐうぅぅぅぅっ!?」

 

 意識を失い、完全に無防備だったパチュリーの背を、イバラのトゲを編み込まれたムチがしたたかに打ち据えた!

 

(フフフ、いい声で鳴くんですね、パチュリー様。ゾクゾクしますよ)

 

 小悪魔は声に出さずに笑う。

 そして目を覚ましはしたものの、あまりの痛みにビクンビクンと震えるだけで動けないパチュリーに小悪魔は、

 

「物理ザメハ(パーティアタック)は睡眠状態を100パーセントの確率で解除させる。そうですよね、パチュリー様」

 

 残酷なまでに優しい声で告げる。

 そう、ドラゴンクエスト3では睡眠状態の者を仲間が叩くことで起こすことができる。

 つまり、これは治療行為なので主従契約の抑止力には引っかからないのだ。

 しかし、そうやって叩き起こされたパチュリーを、再びアルミラージの群れの放つラリホーが襲う!

 

「う、ぐ……」

 

 必死に睡魔に抵抗するも、この世界でのパチュリーの能力では抗えない。

 彼女の性格『タフガイ』は運の良さの成長にマイナス30パーセントもの補正を受ける。

 つまり状態異常に陥る危険を運の良さで回避するこのドラクエ世界では、アルミラージのラリホーに抗うのは困難なのだ。

 

 そして逆に小悪魔の性格『セクシーギャル』は運の良さの成長にプラス20パーセントの補正がかかり、すなわちラリホーを受けても小悪魔だけが起きているという状況が作り出せることになる。

 さらに素早さに対する成長補正は『タフガイ』がマイナス10パーセント、『セクシーギャル』がプラス20パーセント。

 これが何を意味するかというと、

 

「それっ!!」

「ひぎっ!」

 

 再び小悪魔のムチがパチュリーを叩き起こし、

 

「あ、かはっ……」

 

 訳も分からず覚醒し混乱するパチュリーを、アルミラージのラリホーが襲う!

 

「パチュリー様、負けないで下さい。絶対に眠ったりしないように頑張って下さい!」

 

 催眠呪文に抗おうとするパチュリーに、小悪魔の励ましが届く。

 セリフだけ聞くとパチュリーを応援しているように思える。

 だが、今にも落ちようとする意識にささやくそれは、しかし逆に落ちてしまって楽になりたいと主張する身体を責め苛むもの、言葉責めとして認識される。

 そして、

 

「くっ、ふ……」

 

 抵抗むなしく、ふっと崩れ落ちるパチュリー。

 そこにすかさず振るわれるムチ!

 

「ひ、ひいいんっ!」

 

 落ちた意識を無理やり覚醒させる鋭い痛み。

 そしてカッと見開かれたその瞳には、ラリホーを唱えようとするアルミラージの姿が……

 

「やっ、やめ……」

 

 

 

 ドラクエにおいて、素早さが高いということは必ずしもいいことばかりであるとは言えない。

 逆に低い方、行動順位が遅い方が有利な場合もある。

 

 例えば攻撃能力上昇呪文バイキルト。

 行動順が早い者は、呪文をかけてもらう前に攻撃してしまう。

 その点、行動順が遅ければ確実にバイキルトをかけてもらってからの攻撃ができるのだ。

 

 そして一番の利点と言われるのは後攻回復。

 つまり敵の攻撃が終わった後に回復呪文を唱えたり回復アイテムなどを使うことで無駄なく回復ができ、次のターンを万全な体勢で臨むことができるというもの。

 全体回復アイテムである賢者の石を使ったボスキャラ戦などに威力を発揮する戦法である。

 

 逆に言うと……

 小悪魔のような素早い者に回復を担当させると、回復した後に再び敵の攻撃を受けることになる。

 特にラリホーを使って眠らせてくる敵に対しては、素早いキャラがパーティーアタックで仲間を叩き起こしても、そのターンのうちに再びラリホーを受けて眠らされてしまう可能性が高いのだ。

 起きたターンは何もできないため、これにより一方的に責められる、ハマリのような形になってしまう。

 ドラゴンクエスト3における、いざないの洞窟突破時にはよく見られる光景ではある。

 

 

 

「あ、あっ……」

 

 小悪魔のムチの痛みで強制的に意識を戻され。

 アルミラージのラリホーで再び落とされる。

 繰り返し、繰り返し、何度も、何度も……

 

「眠りに落ちる瞬間、吸い込まれるように意識を失うって『きもちいい』ですよね、パチュリー様?」

 

 意図的に気絶状態に陥らせる、そういう『プレイ』は、コカインと同程度に強力で非常に強い習慣性がある、などという意見もある。

 場合によっては命にかかわることも有る危険なものなのだが、今のパチュリーは魔法の力で肉体には損傷の危険を与えず安全に、しかしものすごい短時間に繰り返し意識を落とされている状態。

 

「ムチ打たれる痛みと」

 

 小悪魔の手によって振るわれるムチ!

 

「落とされる快楽」

 

 アルミラージの魔法で落とされる意識。

 

「ムチ打たれる痛みと」

 

 小悪魔の手によって振るわれるムチ!

 

「落とされる快楽」

 

 アルミラージの魔法で落とされる意識……

 

 格闘技の訓練で頻繁に締め落とされると『落ち癖』が付き、少しの圧迫でも落ちる体質になってしまうというが、今のパチュリーはまさに、そのような激しい責めを受け、身体と精神を躾けられているようなもの。

 

「仕上げです」

 

 パチュリーがすっかり『できあがってしまった』ところで、トゲのムチのグループ攻撃により不要となったアルミラージを一掃。

 

「あ、ぐ……」

「大丈夫ですか、パチュリー様。今お助けします」

 

 小悪魔はパチュリーを助け起こすと、その唇に自身の唇を重ねた。

 口移しに、小悪魔の唾液交じりの薬草の汁を与える。

 反射的に吐き出そうとするパチュリーの口内を己の舌先でなだめ、飲み込ませる。

 

 生物は激しい痛みを与えられると精神と身体がパニックに陥り、痛みを和らげようと脳内麻薬を分泌させる。

 そしてそこにこうやってほんの少しの快楽を与え、後押してあげれば、通常ではありえない深い悦びを感じることができる。

 それゆえ、パチュリーの喉が『こくん』と上下し、薬草による回復と、小悪魔の体液による媚毒、そして口内をそよぐ舌先の刺激が止めとなり、

 

「んんーっ!?」

 

 ビクンビクンとひときわ大きく腰を、身体を跳ねさせるパチュリー。

 ほんの少しの軽い気持ち、刺激を楽しもうと薬草の口移しによる治療を小悪魔に許していた彼女だったが、脳内麻薬でグシャグシャになった頭と身体では、そのほんの少しが命取りになる。

 悪魔に唇を、身体を許すというのはこういうことだと言わんばかりに、迂闊にも与えた隙を無理やりに広げられ、こじ開けられてしまう屈辱。

 それとは裏腹に高い頂に押し上げられ、そして堕ちていく身体。

 そうして小悪魔は満足げにほほ笑むとパチュリーの耳元に濡れた唇を寄せ、さらに淫靡な毒を流し込む。

 

「幻術士や鬼面道士との戦い、メダパニを受けてしまったら、もっと凄いことになりますよ」

「もっと……?」

 

 実は睡眠状態に対してのパーティーアタックは手加減が効き、痛みはともかくダメージが抑えられるうえ、100パーセント回復する。

 しかしメダパニの呪文を受け混乱状態に陥った場合は、全力で殴らなくてはいけない上、回復する確率は低い。

 

「心苦しいのですが、パチュリー様を正気に戻すためには本気で叩かなくちゃいけません。何度も、何度も……」

「あ……」

 

 小悪魔に本気で何度もムチ打たれる。

 その様を想像してパチュリーは、ぶるっ、と身体を震わせる。

 背筋を走るゾクゾクとした感覚は、恐怖のためか、それとも……

 

 

 

「あなたねぇ……」

 

 頭痛を抑えるかのように、額に手を当てるパチュリー。

 トゲのムチを手に妄想にふける小悪魔に、何とも言えない悪寒を感じた彼女は、

 

「そのトゲのムチで何をするつもりだったか、言え!」

 

 とばかりに詰問したのだが……

 まさか自分を被虐ヒロインとした主従逆転調教劇を延々と垂れ流されるとは思わなかったのだ。

 酷いセクハラである。

 しかし小悪魔の、

 

「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。つまりパーティアタックはできない仕様なんですけどね」

 

 という言葉に、それもそうかと安心する。

 だが、

 

(――今、ほんの少しですけど残念そうな顔をしませんでしたか、パチュリー様?)

 

 小悪魔はパチュリーの表情をうかがい、内心ほくそ笑む。

 魔法使い、魔女であり、幻想郷でも上位に位置する圧倒的強者であるとはいえ、パチュリーも生きている、生物なのだ。

 小悪魔から受けるセクハラに、わずかでもそういった欲望を呼び起されることはない、とは言い切れない。

 その小さなほころび、被虐願望に至る芽を今、ここで植え付けることに成功した、小悪魔はそう確信する。

 

(でもパチュリー様、パーティーアタックが無くても、私自身がメダパニを受けて混乱してしまえば、パチュリー様をムチでぶつことができるんですよ)

 

 転職を執り行うダーマ神殿周辺で現れるモンスター、幻術士が普通にプレイしていて初めて受けるメダパニの洗礼か。

 混乱状態の小悪魔にムチ打たれるパチュリーの反応を想像し、ぶるっと、身体を震わせる小悪魔。

 

(そのためには、私は豪傑の腕輪を装備して性格を『ごうけつ』にして運の良さをマイナス30パーセントの成長補正で抑え、状態異常を受けやすくする)

 

 同時に、

 

(パチュリー様にはガーターベルトを身に着けて『セクシーギャル』になってもらい、プラス20パーセントの成長補正で運の良さを上げてもらう)

 

 それが小悪魔の計画。

 

(セクシーな装身具を身に着けるパチュリー様のお姿も楽しめる一石二鳥のアイディア、本当にわくわく、いいえ、ゾクゾクしちゃいますね)

 

 そう考え、口の端を笑みの形に吊り上げる小悪魔だった。




 小悪魔……
 徹頭徹尾、セクハラ回でした。
 とはいえ実際にはパーティアタックによる睡眠状態の回復と薬草による治療行為しかしていない、しかもそれすら小悪魔の妄想なんですけどね。


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ところでこのタマを見てくれ。こいつをどう思う?

 小悪魔のセクハラもあったが、それ以外は何の問題もなくレーベの村にたどり着くパチュリーたち一行。

 

「それじゃあ、さっそく武器のお店に行くわね」

 

 武器店に行って、まずはパチュリーが使っていた銅の剣を売却。

 買値100ゴールドの7割5分、75ゴールドで売却できた。

 

「破格の買い取り額ですよね」

「そう?」

 

 その辺疎いパチュリーに小悪魔が説明する。

 

「はい、故買品の買い取りは基本が三割ですよ。足下を見られるともっと安く買い叩かれるのが普通ですから」

 

 そうしてパチュリーの手持ちの資金と合わせて購入したのは、鎌の柄に分銅付きの鎖がつなげられた武器。

 アリアハン大陸、店売りのものの中で最強の攻撃力を持つ鎖鎌だった。

 

「珍しい武器ですよね」

「そうね、鎖国中で鉄が貴重なアリアハンでは、食糧を自給するための農具に優先的に鉄器が使われる。それを流用して武器としたのでしょう、きっと」

 

 鎖鎌。

 日本では武芸十八般の一つとされた他、隠し武器、そして帯刀を許されない身分の農民、商人、職人の護身用の武器として用いられていたものだ。

 とはいえ特殊な武器ゆえ、店主の親父が扱い方を教えてくれる。

 

「分銅で打つ、鎖を絡めたところを鎌で止めを刺す」

 

 鎌の刃を示して、

 

「命を刈り取る形をしてるだろ? 鎌刃は引っ掛けただけで大きく傷を広げる。動きを封じた上での組討ちにはもってこいだ」

 

 と言う。

 また元々は農具の鎌であるのだから、普通に山菜、ハーブなどの収集にも役に立つ。

 幻想郷でも里の人間たちは鎌を片手に山に入って山菜採りに励んでいた。

 

「この鎖の取り付け部分は、鎌の頭端部にも鎌の柄尻にも付け替えが可能でね」

「どうしてまた?」

 

 首を傾げるパチュリーに、店主は実際に片手に鎌、もう一方の手に鎖付き分銅を持って振り回して見せる。

 

「鎌の柄尻に鎖分銅を付けた形態では、こんな風に操るのに両手が必要だ。今のところ盾を持ってないようだからいいが、この先盾を買って片手が塞がったら困るだろう?」

「そうね」

「でもこうして鎌の頭端部に付け替えれば」

 

 そう言って取り付け部を変更すると、なるほど、ムチやフレイルに近い操作感で、

 

「片手でも扱える。そのための仕掛けだよ」

 

 そういうこと。

 

「どこかのバンパイア・ハンターが使う鎖のムチみたいですね」

 

 と言うのは小悪魔。

 彼女はこの『読者に物語を仮想体験させる魔導書』に外の世界のコンピューターゲームを組み込むに際し、様々な資料を取り寄せ試行錯誤した訳であるが、その中にはアクションゲーム『悪魔城ドラキュラ』シリーズに関するものも存在した。

 鎖のムチはこのゲームの主人公が使う武器であり、その柄に鎌刃を付けたと思えばイメージがしやすいのか。

 

「そして…… 鎌の刃の付け方も工夫してあるぞ。根元は取り付け金具で刃が付いていない」

「それは?」

「想像して見な、鎌の柄尻に鎖分銅を付けた形態で使用した場合に、投げた時の反動や敵に鎖を捕まれて引っ張られたら……」

 

 それで手が滑ったら?

 

「鎌の刃で自分の指が――」

 

 想像して青ざめるパチュリーと、

 

「ポポポポ~ン!?」

 

 まったくためらうそぶりも無く結論を口にする小悪魔。

 

 指がなくては鎖鎌も持ちようがないか……

 

 ということになるのだ。

 

「手入れのための鎌砥も付けよう」

 

 小型で細長い棒状の砥石をくれる。

 内側に反った鎌刃を研ぐには普通のサイズの砥石は向かないのだ。

 店主は砥石を固定して刃を滑らせるのではなく、逆に鎌を固定して鎌砥を滑らせて刃を研いでみせる。

 また鎌砥は小さくて携帯できるので、屋外で刃物を酷使する場合にタッチアップと言って応急的に切れ味を蘇らせる用途にも使えて便利である。

 

 

 

「盗賊の鍵で入ることのできるようになった場所の確認もしないといけないわね」

 

 パチュリーたちは盗賊の鍵を使って鍵のかかった家へと入る。

 

「でも、やってることは不法侵入の泥棒ですよね」

「その辺は住居精霊(ヒース・スピリット)(パワー)でどうにでも誤魔化せるわ」

 

 以前、パチュリーが話したとおり。

 勇者一行には精霊ルビスの加護により、各家屋に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)家の精(ブラウニー)白い婦人(シルキー)が使う疎外(エイリアネーション)隠蔽(コンシールメント)混乱(コンフュージョン)といった(パワー)が作用するため、勝手に家屋に入っても咎められることは無い。

 というより、住居精霊(ヒース・スピリット)に招かれて家に入っていると言うべきか。

 実際、魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには、この家付きの家事妖精(ホブゴブリン)の姿が映っていた。

 紅魔館で働いているホフゴブリンと同一種だが、ここに居るのはアストラル体であるので、常人の目には見えないのだ。

 

「これ何でしょうね、パチュリー様?」

 

 一階は無人で、部屋の中心に据えられた大きな釜の中には何やら不思議な液体が煮え立っている。

 

「大体予想は付くわ。古民家の床下の土を集め温湯と混ぜた上澄みに、草木灰に含まれる炭酸カリウムを加えて、硝酸カリウム塩溶液を作り煮詰めているのね」

「???」

「古土法による硝石造りよ。この液体を冷ませば結晶が析出するから、その結晶をもう一度溶解して再結晶化すると精製された硝石ができあがるの」

「どうしてそんなものを……」

「この家の主人に会えば分かるんじゃないかしら」

 

 その家の二階には一人の老人が居た。

 

「ん? なんじゃお前さんは? どうやって入ってきた? わしの家にはカギをかけておいたはずじゃったが」

「入口で呼んでも、返事がなかったので……」

 

 と、小悪魔が慌てて誤魔化す。

 まぁ、家事妖精(ホブゴブリン)混乱(コンフュージョン)(パワー)が作用しているので、そんなことをしなくとも通報されたりはしないわけだが。

 

「なんと! それは盗賊の鍵! するとお前さんが、あの勇者オルテガの……! そうじゃったか…… であればこれをお前さんに渡さねばなるまい」

 

 勝手に一人で納得し、興奮している老人。

 そして……

 

 突然その老人はパチュリーの見ている目の前で着込んでいたローブの前を広げ始めたのだ……!

 

 

 

 大きく開けられた服の下から現れたのは、

 

「ところでこのタマを見てくれ。こいつをどう思う?」

「すごく…… 大きいです……」

 

 魅せられたように手を伸ばすパチュリー。

 その練り絹のように滑らかな繊手で、中身が詰まった、ずしりと重い"タマ"を確かめるように触れる。

 そしてパチュリーは顔を寄せると、ゆっくりと深呼吸するように匂いをかぐ。

 

「ああぁ…… は……ぅぉあああ……」

 

 途端に頭がくらくらするほどの暴力的な匂いが彼女の嗅覚を犯した。

 

「うあっ……うあああああ…………」

 

 ぶるぶると身体と、真っ赤に紅潮した顔を震わせるパチュリー。

 むせかえるような、生々しくも強烈な臭いに、ガーンと殴られたように頭が真っ白になる。

 これがパチュリーの求めているもの。

 

「どうじゃ? わしのモノの匂いは」

「臭い……」

 

 ゾクゾクと背中を駆け抜ける悪寒と快楽に小さな声が上がる。

 息を吸い込むたびに鼻腔を満たす匂いが吸い込まれ、パチュリーの肺と精神を征服していく。

 男が差し出したモノには、濃縮されきったエキスがため込まれていた。

 そこからほとばしる凶悪な匂いはムンムンと狂おしいほど鼻に香り、パチュリーの女を目覚めさせる。

 パチュリーは激しい羞恥に悶えていたが、同時に彼女が性的にひどく興奮していることは何より確かなことだった……

 

 

 

 魔法の玉を手に入れた!

 

 

 

「またおかしなことを考えているでしょう……」

 

 ジトっとした半眼で妄想にふける小悪魔をにらむパチュリー。

 彼女は老人が懐から出してきた魔法の玉を手に、商人の鑑定能力と自分の知識を合わせて匂いも含め調べていたのだが。

 

「何なんです、ソレ」

 

 誤魔化すように聞く小悪魔に、小さくため息をつき、

 

「これはかなり珍しいものだわ。どんな効果があるのかよくわからないわ。ためしに使ってみたらどう?」

 

 と芝居めいた平坦な口調で言って小悪魔の顔にそれをぐりぐりと押し付ける。

 

「い、いえ、私は借金があるので、これはパチュリー様にお任せします」

 

 そう遠慮する小悪魔だったが、パチュリーは退かない。

 

「お店に持っていってもこれに値段は付けられないでしょうね。だいじょうぶ。呪いはかかっていないわ」

「呪い以前に、それどう見ても爆弾じゃないですか。やだー」

 

 まぁ、丸い玉に導火線が付いていたら分かるか。

 アリアハンの宿屋にはこれを作ろうとして爆発事故を起こし大けがをして寝込んでいる男も居たし、小悪魔がビビるのも無理はない。

 

「分かっているじゃない」

 

 とパチュリーはすん、と魔法の玉の匂いを改めて確かめる。

 火薬の匂い。

 黒色火薬は木炭と硫黄、そして階下の大釜で精製されていた硝石を混合して造られるものだ。

 魔法の玉と言いつつも、全然魔法じゃないという。

 

「その玉を使えば、旅の扉への封印がとけるはずじゃ。気をつけてゆくのじゃぞ」

 

 と告げる老人。

 この家からは他に精霊の隠し財宝、賢さの種と毒消し草を見つけて、家付きの家事妖精(ホブゴブリン)から譲ってもらった。

 

 

 

「それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回、アリアハン出発前の精算時の計算が、

 

小悪魔:-64G

パチュリー:261G(+未払い分64G=325G)

 

「それでレーベに来るまでの戦いで得た収入が10ゴールドで、一人当たり5ゴールドの配当だけど、あなたの分は借金の返却に充てられるから」

 

小悪魔:-59G

パチュリー:271G(+未払い分59G=330G)

 

「うう、収入があっても手元にお金が残らないなんて……」

 

 肩を落とす小悪魔。

 

「借金が減っているのだからいいじゃない」

 

 パチュリーはそう言ってなだめると、

 

「私の銅の剣を75ゴールドで売って、320ゴールドの鎖鎌を購入」

 

小悪魔:-59G

パチュリー:26G(+未払い分59G=85G)

 

「そして賢さの種の売却価格は120ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の60ゴールドを払えば自分のものにして使うことができる」

「そうですね、だからお金のあるパチュリー様が使って……」

 

 しかし、パチュリーは首を振るとこう言う。

 

「商人に賢さのパラメーターの恩恵はあまり無いわ。一方でマジックパワーを伸ばすためにも早期の呪文習得のためにも勇者であるあなたの賢さを上げることは重要よ。二人旅で呪文を使えるのがあなただけってこともあるしね」

「そんなぁ……」

 

 そうして、さらに借金を増やし賢さの種をポリポリ齧るハメになる小悪魔。

 

小悪魔:-119G

パチュリー:26G(+未払い分119G=145G)

 

「人のお金で食べる賢さの種は美味しいかしら?」

「涙の味がします……」

 

 そういうことであった。

 

「いいのよ、泣いても。たまには涙腺の洗浄も必要だわ」

 

 そう言って微笑むパチュリー。

 まぁ、種で上がる最大値の3ポイント、かしこさが上がったので良しとすべきか……

 

 なお、この光景を見た村人たちからは、

 

「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」

 

 などと噂されることになったという。




 久しぶりの更新ですが、相変わらずと言うべきか、寝かせ過ぎたせいと言うべきか、小悪魔のセクハラ妄想が酷すぎる……

「腐ってやがる。遅すぎたんだ!」

 借金体質も変わりませんしね。

> なお、この光景を見た村人たちからは、
>「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」
> などと噂されることになったという。

 カプコンのRPG『ブレス オブ ファイアII 使命の子』では選択次第で主人公たちが『タンスを調べた回数』や『全滅した回数』が噂されているという、大変にイヤな酒場(パブ)ができたりしますが。
 そこまで行かなくとも、プレーヤーの行動次第で住人の評価が変わるというのはありますよね。

 ともあれ、もう一つの連載がようやく完結しましたので、今後は気楽にこちらの続きを書きたいと思っています。
 どうかよろしくお願いいたしますね。

 次回は、

『苦痛と快楽!? 繰り返す時の中で小悪魔に苦鳴を搾りとられることを選ぶパチュリー!!』

 をお届けする予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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苦痛と快楽!? 繰り返す時の中で小悪魔に苦鳴を搾りとられることを選ぶパチュリー!!

「それで、これからどうするんですか?」

 

 小悪魔からの問いかけに、パチュリーは少し考えて答える。

 

「そうね、ナジミの塔は駆け足で通り過ぎただけだったから、今度はじっくり調べてアイテムを回収しましょうか」

「それなら前に使った、レーベの村の南の森からナジミの塔に通じている地下道から行けばいいんじゃないですか? 途中、鍵がかかっていた扉もありましたよね?」

 

 そういうわけでレーベの村から南下し、森の中にある入り口から地下道へと入るパチュリーたち。

 盗賊の鍵が必要な扉があるので入ってみると、宝箱があった。

 

「中身は素早さの種と、カシの木をくりぬいて作った木の帽子ね」

 

 木の帽子は金属製のヘルメットに比べ守備力は低いが、それでも低位の魔物の爪や牙程度では貫通できないし、軽量でぶつけても大きな音を立てないため隠密行動(ステルス・エントリー)には向く。

 

「それじゃあ、両方ともあなたに……」

「ちょ、ちょっと待ってください! これはどう考えてもパチュリー様が使うやつですよね?」

 

 元々そんなに素早さが高くならない商人で、さらに素早さの成長に10パーセントのマイナス補正があるタフガイのパチュリー。

 また素早さの半分が守備力にプラスされる、つまり素早い身のこなしでダメージは減らせるとしたドラゴンクエスト3のシステムではその影響で守備力も低くなっている。

 しかし、

 

「私はヒットポイントが高いから敵の攻撃にあなたより耐えられるわ。だから守備力が低くても私が攻撃を受けやすい先頭に立っているのでしょう?」

「うぐ、た、確かにその方が安全ですけど、それだったらパチュリー様の守備力を上げて受けるダメージを減らした方が、治療代が安く上がりますよね?」

「将来的には、そういうこともあるでしょうね」

「将来的?」

 

 どういうことかというと、

 

「今のあなたのヒットポイントは薬草の回復量、35~49ポイントを大きく下回っているでしょう? 危ないから小まめに回復させないといけない、治療に無駄が多くなるあなたの守備力を高めて被ダメと治療の回数を減らした方が、多少、被ダメが増えても大量のヒットポイントで薬草の回復量以上に負傷するまで耐えて、1回の治療で済ますことができる私の守備力を高めるより優先されるべきなのよ」

 

 ということだった。

 

「うぐぐ……」

 

 とはいえ、

 

「まぁ、これは勇者と商人の比較検証だから、無制限に借金を許してもダメよね。攻略上、不利になるとしても」

 

 そういうわけで、素早さの種と木の帽子はパチュリーのものに。

 

「素早さの種の売値は60ゴールド、木の帽子の売値は105ゴールド。これらは二人に所有権があるから、半額の82.5ゴールド…… このドラクエ世界だとお店での売買も端数は切り捨てなのが慣例だから82ゴールドをあなたに支払えばいいわけね」

 

 そうして精算した結果が、

 

小悪魔:-37G

パチュリー:26G(+未払い分37G=63G)

 

「借金が減ってくれましたが、ゼロにはならないんですね……」

「ちなみに商人はコスパが良くて守備力が高いターバンを買えるから、そうしたらこの木の帽子はあなたがまた買い取らなくてはダメよ」

「そんな殺生な!」

 

 そうして、素早さの種を口にするパチュリーだったが、

 

「いたたたた!?」

「あー、もしかしてパチュリー様、忘れてました?」

 

 能力値を上げる種には、魔術的に肉体強化を促進する力が宿っている。

 現実ではトレーニングをすると筋肉の一部が損傷して、次に超回復という現象でトレーニング前を上回る筋力、体力が付く。

 普通は超回復に二、三日かかるが、スタミナの種や力の種、そして素早さの種などの身体能力アップ系の種は筋肉の破壊から超回復を短期間に行うものになっている。

 つまり筋肉痛を凝縮した激しい痛みが襲うということだった。

 無論、パチュリーも例外ではなく……

 小悪魔はそんなパチュリーをマッサージでなだめるが、

 

「くぁっ!? そ、そこは」

「それとも――」

 

 つい、と口の端を吊り上げてこうささやく。

 

「また私に鳴かされたくて、こんな風に無防備に種を使ったんですか?」

「っ!?」

 

 瞳を見開くパチュリーの反論を、言い訳を封じるかのように少し強めにツボを押す小悪魔。

 

「あ、あああ!」

 

 そうして必死に耐えるパチュリーを悪魔の…… 捕食者の目で見下ろす。

 

(……鳴け)

 

 ツボに添えた指を、パチュリーの柔らかな身体にぐりりとねじり込む!

 

「ああああああああ!」

 

 まるで絶頂したかのようにのけ反り叫ぶパチュリーの姿に、欲情しきった小悪魔の瞳が笑う。

 

(パチュリー様、イク時は足ピン派なんですね。ふふっ、覚えました)

 

 などと考えながら。

 そうして倒れ込むパチュリーの耳元に、小悪魔はささやきかける。

 

「あー、残念ですねーパチュリー様。素早さが1ポイントしか上がりませんでしたー」

 

 能力値を上げる種は1~3ポイントの間で能力値を上昇させる。

 これは完全にランダムなので試してみる他無いのだが、

 

「ところでパチュリー様。私、さっき『中断の書』にプレイデータをセーブしておいたんですけど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしい。

 ということは、システム的にフィールドのどこでもセーブできる『中断の書』が利用できるのだろう。

 

「あ……」

 

 パチュリーは気付いてしまった。

 これは仮想体験型とはいえゲームなのだ。

 つまり『中断の書』によるやり直しもまた可能。

 納得がいくまで、何度でも。

 

「さぁ、パチュリー様、いかがされますか?」

 

 慈愛に満ちた悪魔の微笑を浮かべ、危険な選択肢を差し出す小悪魔。

 

「う、ぁ……」

 

 パチュリーはぞくりと背筋を震わせながら口を開け、

 

「も…… もう一度……」

 

 と先ほどの体験を繰り返すことを選択するのだった。

 

 

 

(くふふふ、さすがです! さすがですよパチュリー様!)

 

 小悪魔は内心、笑いが止まらない。

 ゲーマーにありがちな、納得がいくステータスが得られるまでリセットしやり直すというプレイ。

 

(凝り性なパチュリー様なら、はまってくれそうだと思いましたが、これだけ私に鳴かされたっていうのに本当に選んじゃうんですね)

 

 愉悦に歪みそうになる口元を意識して引き締め、小悪魔は決意する。

 

(いいですよパチュリー様。その期待、応えて差し上げます!)

 

 再び素早さの種を食べ、全身を襲う筋肉痛に耐えるパチュリー。

 その身体に、今度は最初から全力で苦痛と快楽を叩き込んでいく。

 

「あ゙ーっ! あっ、あっ!」

 

『前回』の体験により高められていたパチュリーの意識は、すぐさまその強すぎる刺激、痛みの中にない交ぜになった裏返しの気持ちよさ、快感を見つけて身体をビクンビクンと跳ねさせる。

 リセットにより時を戻せばパチュリーの身体は元に戻る。

 それなのに反応に変化があるのは、パチュリーの記憶まで元に戻るわけでは無いからだ。

 継続している意識には、マッサージという『建前』で、自分の支配下にある使い魔であり、取るに足りない存在であるはずの小悪魔に組み敷かれ、いいように苦鳴を搾り取られるという、主従が逆転した倒錯の異常経験が刻み付けられ蓄積されていくのだ。

 

(そうれっ!)

「あおおおおおおっ!」

 

 身体が元に戻っても、感じ方に変化があるのはこのため……

 身体ではなく、心が小悪魔に躾けられていっているからなのだ。

 

(こうして私のこの手でお身体をさすって、こすって、快楽のツボをほじって、弄って、弄って弄って弄って、弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄弄――)

 

 小悪魔の瞳が狂気に染まり、そして――

 

(悪魔の手管で、苦痛と快感を魂にまで刻み込んであげます。快楽の沼に突き落とし、深く深く、二度と這い上がれない所まで沈めて差し上げます)

 

 ずぶりという表現がぴったりくるような、そんな手つきで小悪魔の五指がパチュリーの豊満で柔らかな肉体に沈められていく。

 

「あ゙ーーーーーーーーーっ!!」

 

 一瞬でも忘れてはいけないのだ。

 彼女はドジで力も弱い小者だが、人から快楽と苦鳴を搾り取る人外の存在。

 捕食者である悪魔だということを。

 

「あ…… か、は……」

 

 息も絶え絶えな様子のパチュリー。

 持病の喘息が心配されるような状況だが、これは仮想体験であり、この本の中の世界のパチュリーは現時点でヒットポイントが勇者である小悪魔の倍以上あるほどの強靭さを持つ存在。

 

(つまり現実ではできない過激なプレイも可能なのです)

 

 だからこそ小悪魔も遠慮せずに全力で責め立てているのだ。

 そして、

 

「あー、今度は2ポイントアップですかー」

 

 小悪魔は…… 悪魔は狡猾である。

 

 主従契約の抑止力。

 そして隔絶した実力差によって、小悪魔は主人であるパチュリーを害することなどできはしない。

 だが、そのことこそが逆にパチュリーの危機感を萎えさせていた。

 本気になれば小悪魔のことなどいつでも跳ねのけることができる……

 このちょっと調子に乗りすぎでしょう、という調教じみた行為の影響だって、排除することができる。

 魔法使いなら己の精神を律するなど当たり前の行為なのだから。

 しかしその余裕が…… 反対にパチュリーの抵抗力を弱めているのだ。

 

 その上で小悪魔は『建前』、つまり、

 

(これはゲームのため、攻略のために必要なこと)

 

 という『言い訳』をパチュリーに用意した上で選択を任せる。

 フラフラと揺れるパチュリーの心の天秤。

 それを傾けるべく言葉を紡ぐ小悪魔。

 

「どうせ今回限りの仮想体験なんです…… 納得がいくように楽しまれればいいんですよ」

 

 小悪魔が差し出した甘い言葉の罠に、パチュリーが押さえ続けていた衝動が溢れ出す。

 そして……

 

 

 

 そして何度やり直したことか……

 繰り返す時の中でさんざんに小悪魔に鳴かされた末、ようやく素早さの3ポイントアップを達成するパチュリー。

 

「……力の種は酸素の他、糖質や脂質を燃焼させエネルギー源として使う有酸素運動向けの遅筋を鍛えるのだけれど、素早さの種は瞬発力に特化した無酸素運動に適している速筋を鍛えてくれるわけね」

 

 脱力しながらも彼女の中の、魔法使いである冷静な部分がそう分析する。

 なお現在の二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:16

すばやさ:12

たいりょく:35

かしこさ:10

うんのよさ:6

最大HP:68

最大MP:20

こうげき力:32

しゅび力:20

 

ぶき:くさりがま

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:3

 

ちから:16

すばやさ:19

たいりょく:13

かしこさ:13

うんのよさ:12

最大HP:25

最大MP:19

こうげき力:34

しゅび力:17

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:なし

そうしょくひん:なし

 

 

「勇者なのに、ヒットポイントでも守備力でも商人のパチュリー様に負けてます。と言いますか、ヒットポイントが勇者の倍以上っておかしいですよね!?」

 

 叫ぶ小悪魔。

 一方、パチュリーは冷静に分析。

 

「商人はタンク、壁役に向いているってことかしら? これじゃあ、この先もしばらくは私が一番攻撃の集中する先頭に立たなきゃダメね」

「攻撃力は武器の差で辛うじて勝ってますが、それもたった2ポイントだけです」

「力の能力値が一緒だもの。でもあなたのトゲのムチはグループ攻撃武器だから、数値以上に敵に与えるダメージは大きくなるわ」

 

 そういうことだった。




 このお話は健全、いいね?

 納得がいく数値が出るまでリセットするプレイって多くの人がやりますよね?
 小悪魔も筋肉痛に苦しむ主人にマッサージしているだけですし、なにも、問題、ありません。
 心がピュアな方なら、きっとわかって頂けるはず。

 みなさまのご意見、ご感想、そして、

「嘘を言うなっ!」

 などというツッコミ等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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パチュリーが鎖鎌を握った!!

 二人は奥に進み、前回通過時はスルーした宝箱から32ゴールドを回収。

 さらに進んでいくと、モンスターと遭遇した。

 

「一角ウサギね」

「でも何だか驚いている様子ですよ」

 

 モンスターは驚き、戸惑っている。

 先制攻撃のチャンスだ。

 

 カマこうげき!!

 

 とばかりにパチュリーの鎖鎌が一角ウサギの喉笛を掻き切り一撃で絶命させ、

 

「call me queen!!(女王様とお呼びっ!!)」

 

 小悪魔のトゲのムチが唸り、残り3羽の一角ウサギを打ち据える!

 その先端は音速すら超えるというムチの範囲攻撃、触れれば皮膚が裂け、肉が爆ぜるトゲのムチの攻撃フィールドに痛打され、即座に全滅する一角ウサギ。

 しかし、

 

「やっぱり素早さは上げるべきでは無かったのかしら? 後攻攻撃のパターンが崩れているわね」

 

 パチュリーはつぶやく。

 

 ドラクエにおいて、素早さが高いということは必ずしもいいことばかりであるとは言えない。

 逆に低い方、行動順位が遅い方が有利な場合もある。

 今回は問題なかったが、本来なら小悪魔がグループ攻撃をかけた後に、倒しきれなかった敵に対しパチュリーが止めを刺す、とした方が効率的に敵を倒せるのだ。

 

 一方、小悪魔は、

 

「レベルが上がりましたー」

 

 この戦闘の結果、レベルが上がっていた。

 ヒットポイントやマジックパワー、各能力値が上昇したが、さらに、

 

「ヒットポイント回復呪文、ホイミを習得しました!」

 

 これが大きい。

 

「これまでメラだけしか使えなくて使い道のなかったマジックパワーがようやく役立つようになりましたー」

 

 ということ。

 そして小悪魔は思い出す。

 

「そういえばパチュリー様、前に勇者のメラにも使い道があるって仰ってましたけど」

 

 普通であれば物理攻撃していた方がダメージが高くなる勇者で、一番攻撃力の低い単体攻撃呪文メラの使い道はというと、

 

「人面蝶は幻惑呪文マヌーサで、こちらの物理攻撃の命中率を半分に引き下げるけど、そうしたら確実に当てられるメラによる呪文攻撃に切り替えるといいってわけ。人面蝶はそのままでも通常攻撃を回避することがあるモンスターだし」

 

 半分の確率で攻撃を外すよりは、ダメージは多少減っても必ずヒットする呪文攻撃の方が速く敵を倒せるというわけである。

 

 しかし、

 

「それもホイミを習得する前までの話だけれど」

「ホイミを使えるようになりさえすれば、多少攻撃を外して戦闘が長引いたとしても、回復のためにマジックパワーを温存させておいた方が良いという話ですね」

「ええ、マジックパワーをケチって戦闘を長引かせた結果、かえって治療に必要なマジックパワーが増える、というケースもあるけど、序盤の戦いでは考えなくても大丈夫でしょう?」

 

 まぁ、今後冒険を進めて行くとそういったことも起こり得るので気を付けねばならないが。

 

「あと考えられるのは、味方にヒットポイントが危険なまでに削られている者が居て、攻撃を外したら死亡する可能性があるっていう場合かしら」

 

 その場合も確実に当たるメラで倒してしまった方が良いだろう。

 

「逆にホイミを覚えていない段階でも、グループ攻撃が可能なトゲのムチを装備させた場合に敵が大人数のグループなら、命中率が半分になっても全体で見れば当たる確率は上がり、与えられるダメージもメラより上になるケースも考えられるわね」

 

 そういうパターンも有り得るか。

 それら考察はさておき、倒したモンスターの処理である。

 

「一角ウサギから採れる肉と毛皮だけれども、これぐらいなら解体せずにインベントリ…… 魔法の『ふくろ』に入れて持ち帰ればいいわね」

 

 パチュリーの鎖鎌の鉄の刃で解体してしまうという手もあるが、ここは先を急ぐため『ふくろ』に入れて持ち運ぶことにする。

 

「次は、前回は通らなかった岬の洞窟だけれども」

 

 普通は岬の洞窟を経由して、ナジミの塔へと向かうものだが、パチュリーたちはこの地下通路を利用してパスしてしまったため、まだ行っていなかった場所だ。

 しかし、

 

「パチュリー様? そっちはナジミの塔に上がるための階段ですよ?」

「そうね、でも私たちの気配を察知して近づきつつあるモンスターをやり過ごすには、一度階段を昇り降りするのが一番よ。モンスターたちの縄張りは階ごとに分かれていて、階段を使って移動すると、もう追いかけては来ないから」

 

 ドラクエのモンスターは歩いた歩数で遭遇する。

 これは勇者たちに反応して引き寄せられたモンスターが接触するまでそれぐらいの時間がかかるということ。

 一方、モンスターたちはフロアごとに出現する種類が異なる。

 つまりモンスターたちの縄張りは階ごとで、階段を使った移動はしないということ。

 だから階段を上ったり下りたりしてやり過ごすことが可能。

 システム的に言えばフロアを移動すれば遭遇までの歩数のカウントがリセットされるということ。

 それを利用した遭遇回数軽減策である。

 これを使えば、

 

「なるほど、敵に会わずに岬の洞窟への階段にたどり着きましたね」

「それじゃあ、宝箱の中のアイテムとゴールドを回収しましょう」

 

 途中、大ガラス4羽に襲われ、パチュリーは攻撃されるが、

 

「大ガラスの攻撃が外れた? 守備力を上げたおかげね」

 

 ということでノーダメージ。

 そして、

 

「そこです!」

 

 レベルが上がって攻撃力が上昇したせいか、小悪魔のトゲのムチによるグループ攻撃で敵は一掃。

 そうして宝箱までたどり着く。

 中身はというと、

 

「56ゴールド。この時点で革の鎧が一つ買えるわけだけど、ここは一気に攻略してしまうわね」

「了解です」

 

 次に現れたのはスライム5匹。

 グループ攻撃が可能な鞭は、最初はフルにダメージを与えることができるが、後に攻撃を受けるモンスターほど与ダメージが低くなる。

 ここまで数が出ると小悪魔のムチでも1匹は倒し損ねるが、

 

「止め」

 

 パチュリーが鎖鎌で止めを刺し戦闘は終了。

 そしてたどり着いた宝箱には、

 

「旅人の服ですね。私たちには不要ですけど」

 

 二人とも旅人の服を着込んでいるわけであるし。

 だが、

 

「でも売れば52ゴールドになるわ」

 

 パチュリーが言うとおり資金源にはなる。

 そして最後の宝箱に向かうが、

 

「またスライムが5匹ですか」

「既に敵じゃないわね」

 

 ということで前回同様あっという間に戦闘終了。

 

「宝箱の中身は薬草ね」

 

 これで宝箱の中身の回収は終了。

 

「ところで、どうしてこんな風に宝箱にものが入っているんでしょう?」

 

 首を傾げる小悪魔にパチュリーはこう答える。

 

「これは精霊の隠し財宝…… ダンジョンの宝箱は財宝を守る精霊スプリガンのものでしょうけど」

 

 実際、魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには財宝を守る精霊スプリガンの姿が捉えられていた。

 パチュリーはわずかな微笑で謝意を伝える。

 するとスプリガンは満足したように消えて行った。

 また別の場所で眠る財宝を守って行くのだろう。

 

「じゃあ、これらのアイテムはどこから来たものなの、という話もあるわね」

 

 そういうこともある。

 まさか精霊が買ってきたり作ったりしたものではあるまい。

 

「まず考えられるのは、この洞窟でモンスターの犠牲者となった者の持ち物」

「そ、それは…… 確かに死体や棺桶が宝箱扱いのゲームもあるようですけど」

 

 顔を引きつらせる小悪魔。

 

「後は、このダンジョンへの挑戦者がデポしていった物とか」

「デポ?」

「登山ではね、登山ルートにあらかじめ荷物を置いておくこと、または登山中にいらなくなった荷物を置いて行くことをデポって言うらしいわ」

 

 そうすることでルート上に物資を備蓄しておく訳だ。

 補給が必要になった時には、そこから取り出して使う。

 パチュリーが読んだ本から得た知識ではあるが、そういうこともあるらしい。

 

「こういった品々も、このダンジョンを攻略しようとした人たちが置いて行った物かも知れないわね」

 

 

 

 そして帰り道、大ガラスの群れ4羽を倒すと、

 

「レベルが上がったわ」

「また私と2レベル差が付いちゃったんですか!?」

 

 パチュリーがレベル6に。

 最大ヒットポイントが13上がり、81に。

 

「私の3倍じゃないですかー!!」

 

 勇者の3倍のヒットポイントを持つ商人。

 小悪魔はオールマイティな成長補正を持つセクシーギャルであり、そのヒットポイントは決して低いわけではないのだが……

 こうしてひたすらスライムと大ガラスの群れを駆逐しながら帰還する。

 その他の成果としては、

 

「後攻攻撃のパターンは崩れていなかったわ。最初の一戦がたまたま運悪く攻撃順が崩れただけね」

 

 ということが分かった。

 しかし、

 

「おおありくいと一角ウサギです!」

 

 ナジミの塔に戻って遭遇したモンスターに対し、

 

「おおありくいが落とす革の帽子を手に入れたいから、先に一角ウサギを倒して。その後に私がおおありくいを」

 

 と指示するパチュリー。

 戦闘後に得られるアイテムは、最後に倒したモンスターのものだけだからだ。

 しかし小悪魔の攻撃より先に、

 

「あ、ら?」

 

 イネカリぎり!!

 

 とばかりにパチュリーの鎖鎌があっさりとおおありくいを倒してしまっていた。

 失敗である。

 

「どうして肝心なところで……」

 

 まぁ、嘆いても仕方がない。

 元々おおありくいが革の帽子を落とす確率は1/64。

 それほど高くは無いのだ。

 

「ともかく、宿に泊まって休みましょう」

 

 このまま塔の中を探索しても大丈夫なような気もするが、たかだか宿泊代4ゴールドをケチってもしょうがない。

 そういうわけで今晩はここに泊まることにする。

『ふくろ』の中のウサギやカラスの肉を引き取って換金してもらえることでもあるし。

 

「食事はみなさんが持ち込んでくれたウサギの肉とカラスの肉がありますけど、どちらにします?」

「そういえば、ウサギの肉ってまだ食べたことが無かったかしら」

「そうですね。前にここに来たときはカエルの足を食べましたし」

「なら今回はウサギの肉ね」

 

 というわけで、夕食はウサギ肉を調理してもらうことに。

 

「うわ、なんですかこの大きなお肉!」

 

 小悪魔が驚いたように叫ぶ。

 フライパンにたっぷりとバターを引いて岩塩とハーブで下味をつけた肉を焼いただけだが、鳥肉に似た風味のウサギ肉にバターがしみ込んでいて最高に美味しそうだった。

 バターは真夏でもない限り融けないので、どんなに栓で密封しても容器からとめどなく染み出してくる食用油を運ぶよりは便利だし、何より美味なので、こういった辺境の宿では使いやすいのだろう。

 さらには水場から摘んできたクレソンに、ボリュームを増すために干しエビを水で戻しトッピングしたサラダが添えられている。

 干しエビは軽く保存が効く上、水で戻すと驚くほど大きくなり食べ堪えがあるし、生のものより身が締まって旨みが凝縮されているという優れた食材だ。

 

 そうしてウサギの塊肉を一口食べた小悪魔が目の色を変える。

 

「うーん、火傷しそうなアツアツのお肉からたっぷりと染み出る肉汁とバターの旨味のハーモニー! 口にした瞬間に鼻に抜ける、ハーブの独特の風味がまた何とも言えないですね。紅魔館の食堂で食べるお肉と全然違いますっ!」

「そうね、紅魔館だとこういう野趣あふれる料理は出てこないものね」

 

 微笑むパチュリー。

 彼女もまた、

 

「疲れた身体に肉の塩気が沁みとおるようね。食べると身体が喜んでいるのが分かるわ」

 

 と、運動をしたせいか珍しく食が進んでいた。

 そこに宿の主人が追加の皿を持ってくる。

 

「ふかしたてのジャガイモもありますよ。熱い内にバターを乗せてとろけさせるのもよし、シンプルに岩塩をふって食べるのもよし」

「食べますっ!」

「私もいただくわ」

 

 そうして食事を満喫するが、

 

「蒸し器も持たれているのかしら?」

 

 このような場所で焼く、煮る以外の料理が出てくることに疑問を持つパチュリーだったが、

 

「普通の鍋でも蒸し料理は可能ですよ。石ころを鍋の中に敷き詰めて少量の水を注げばいい。これに食材を入れて蓋をして火にかければ蒸し料理ができます。ついでに蓋の上に重石を乗せれば内部が高温高圧になって短時間に調理が仕上がりますし」

 

 宿の亭主が答えたのは意外な手だった。

 

「なるほど、石ならどこでも手に入るわね」

 

 感心するパチュリー。

 横で聞いていた小悪魔も、

 

「蒸し料理は食材の旨みと栄養を逃さない調理法ですものね」

 

 カリフラワーなんかは茹でると水を吸って甘みが残らないし、とつぶやく。

 

「湧き水にビンを漬けてキンキンに冷やした白ワインもありますが」

「疲れて火照った喉を通るキリリと冷やした白ワイン…… ああ、反則。いえ犯罪的です。身体が欲しいって言ってます」

 

 小悪魔が即座に反応する。

 そして……

 

 

 

「あれっ?」

 

 ベッドで目を覚ます小悪魔。

 

「ああ、起きたのね。顔を洗って来なさい。良い攻略は早起きからよ」

「えっ、えっ? 夕食……」

「何言ってるの? しっかり食べてたじゃない」

 

 疲れた体に満腹、そして酒が入ったら寝落ちするに決まっていた。

 お蔭で慣れない外泊でも十分回復できただろうし、早寝したから早くから活動できる。

 

「えっ? えっ?」

「何よ、時を飛ばされたような顔をして」

「ようなじゃなくて、そのものです! せっかくパチュリー様とベッドを共にする機会だったのに!?」

「だったのにって、昨日は一緒に寝たわよ?」

「それなのに記憶が無いのがダメなんですっ!」

 

 相変わらずな小悪魔だった。

 

「……逆に考えれば、パチュリー様を記憶が飛ぶほど酔わせれば」

「物騒なことを考えるのは止めなさい」

 

 喘息持ちのひ弱な主人に何をするつもりだ、この使い魔は。

 

「いえ、これは仮想体験で、この本の中の世界ではパチュリー様は現時点でヒットポイントが勇者である私の3倍もあるほどの強靭さを持つ存在。つまり現実ではできない過激なプレイも安全に行えますから、お酒も…… いいえ、そんなものに頼らずとも悪魔の手管でご奉仕し、休むことなく快楽を浴びせかけ脳を酔わせれば、あるいは? そうやって記憶を飛ばされたパチュリー様の意識の裏で、身体の方は着々と快楽に順応し……」

「夢見る乙女のような表情をして、言ってることがエグすぎるでしょう! 記憶を失うまで責めるって、なに!?」

 

 相変わらずな小悪魔だった。




 この世の時間は消し飛び…… そして全ての人間はこの時間の中で動いた足跡を覚えていない。

 というわけで宿泊時のセクハラ行動を強制スキップさせられてしまった小悪魔でした。
 が…… 駄目っ……! 小悪魔のセクハラ妄想は尽きないっ!

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ナジミの塔の探索と、小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖再び!

 朝食はカラス肉を使った野菜たっぷりのスープにクラッカー、新鮮な野菜サラダに香草茶(ハーブティー)という内容。

 宿の主人が器に盛りつけながら説明してくれる。

 

「このような辺境の地では栄養を無駄に流さず、さらには身体を温めてくれるスープが基本です。そこに腹持ちの良い具材を沢山入れるのです」

 

 このスープは汁物であり、同時に主菜でもあるということ、

 

「身体を動かすのですから味付けは濃い目で。食欲も増進しますしね」

 

 汗を流す分、塩分も摂らなくてはならないという話だった。

 そんな朝食を取った後、ナジミの塔攻略に向かうことにしたが、

 

「一角ウサギのお肉で良ければお弁当をお包みしますけど」

「ぜひ!」

 

 という具合で、小悪魔は宿の主人が作ってくれたライ麦パンに一角ウサギの肉と野菜を挟んだ物をほくほく顔で受け取って宿を出る。

 

「まずは二階にある宝箱ね」

 

 階段を上がり、宝箱を目指す。

 モンスターに遭遇することも無く無事到着し、40ゴールドを入手。

 

「次は3階の宝箱だけど」

 

 階段に向かう途中、モンスターに襲われる。

 大ガラス4羽の群れだ。

 悪いがこの程度、瞬殺で終わる。

 しかし、3階までの階段は遠い位置にあるため再びモンスターの群れに遭遇。

 今度はフロッガーとおおありくい。

 

「今度こそ!」

 

 と意気込むが、

 

「あら?」

 

 今度もまたパチュリーの鎖鎌がおおありくいの喉笛を掻き切るのが先だった。

 何だか運が悪い。

 というか、おおありくいが持つという革の帽子には縁が無いということだろうか。

 

「それにしても、上に行く階段にたどり着くには塔の外周をぐるりと回らないと駄目ですけど、壁も手すりも何も無いって怖いですよね」

 

 と小悪魔。

 足を踏み外せば真っ逆さまなので、恐れもするか。

 ゲーム的に言ってもまた1階からやり直しになるということでもあるし。

 しかし、

 

「これには利点もあるのよ」

 

 そうパチュリーが言い含める。

 

「利点ですか?」

 

 首を傾げる小悪魔だったが、そこに人面蝶一体と一角ウサギ二羽の群れが襲い掛かって来る。

 

「くっ……」

 

 ここで初めて人面蝶の攻撃でパチュリーがダメージを受ける。

 人面蝶はすばやいのでこちらより先に攻撃することができるのだ。

 

「と言ってもかすり傷だけれども」

 

 たった1ポイントのダメージでは何の問題にもならない。

 反撃により一撃で沈めて撃破。

 そして3階へ。

 

「フロッガーとまた人面蝶です!」

 

 それぞれ1匹ずつが出現。

 今度は人面蝶の素早さに対抗してこちらも素早さの高い小悪魔を当てて先制し撃破。

 そして宝箱へ。

 

「これが最後の宝箱ね」

「中身はキメラの翼ですか」

 

 そして後は帰るだけ、というところでフロッガーとおおありくい、それぞれ二匹ずつの群れと遭遇。

 

「これなら!」

 

 小悪魔をフロッガーに、パチュリーをおおありくいに当て勝負する。

 数が多いゆえに殴り合いになるが、敵からは1~2ポイントのダメージしか受けない。

 危なげなく撃破。

 

「レベルアップしましたよ、パチュリー様!」

 

 連戦していただけに小悪魔がレベル5にレベルアップ。

 

「これで……」

「宝箱だわ!」

 

 おおありくいは宝箱を落としていった!

 パチュリーたちが宝箱を開けると、革の帽子が入っていた。

 なめした獣の革を、にかわで固めたヘルメット。

 昔から旅人に愛用されてきたもので、武闘家以外、どの職業の者でも身に着けることができる。

 

「最後の最後で運が良かったわね」

 

 パチュリーは、革の帽子を小悪魔に差し出す。

 

「これはあなたが使いなさい」

「いいんですか?」

「もちろんよ」

「ありがとうございます!」

 

 主人からの贈り物に喜ぶ小悪魔。

 そのため続くパチュリーの、

 

「精算は街に帰ってからするし」

 

 という言葉を聞き逃してしまうのだった。

 そして、

 

「そう言えばあなた、さっき塔の外周に壁も手すりも無いことを嘆いてたけど」

「はい。利点もあるって話でしたよね、パチュリー様?」

「そうね」

 

 パチュリーはうなずくと、

 

「こういうことよ」

 

 そう言って、トン、と塔から小悪魔を突き落とす!

 

「ひあああああーっ!」

「『飛び降リレミト』つまり、危なくなったらいつでも飛び降りて外に出ることができるというわけ」

 

 一緒に落ちながら解説するパチュリー。

 迷宮脱出呪文、リレミトを覚えていない序盤には、こういう建物の方が脱出しやすく安全だということだった。

 まぁ、小悪魔もこうして突き落とされるのも二度目なので、

 

「で、デビルウィーング!」

 

 背から黒き翼を伸ばし……

 

「楽ねぇ」

「ぱ、パチュリー様!」

 

 その手をつかんだパチュリーをぶら下げながら懸命にパタパタと羽ばたくのだった。

 

「し、心臓に悪いです。早くダンジョン脱出呪文のリレミトを覚えないとダメです」

「勇者がリレミトを覚えるのはレベル14以降、まだまだ先よ」

 

 そんなやり取りをしながらも、なんとか着地。

 

「さぁ、キメラの翼を使いなさい」

「はいぃ……」

 

 小悪魔が帰還アイテムであるキメラの翼を宙に放り投げると、二人はレーベの村へ向けひとっ飛びに飛ばされる。

 まずは今まで手に入れたカエルのモモ肉、アリクイの毛皮などを換金して、旅人の服を売り払うとまとまった額の金が出来た。

 

「それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:-37G

パチュリー:26G(+未払い分37G=63G)

 

「それでここまでの戦いで得た収入が318ゴールドで、今晩の宿代を差し引いて一人当たり157ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:120G

パチュリー:220G

 

「良かったです。ようやく借金が返済できました! これで旅人の服を下取りに出して売れば革の鎧が買えます!」

 

 と喜ぶ小悪魔だったが、しかし……

 

「そしてあなたが使っている革の帽子の売却価格は60ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の30ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」

「はい?」

「つまり、こういうこと」

 

小悪魔:90G

パチュリー:250G

 

「え、ええっ?」

 

 革の鎧の購入価格は150ゴールド。

 旅人の服の売却価格は52ゴールド。

 

「か、革の鎧が買えない……」

 

 ということに。

 

「仕方が無いわね。あなたには木の帽子を回してあげるわ」

「あ、ありがとうございます、パチュリー様!」

「木の帽子の売却価格が105ゴールド、あなたが革の帽子を60ゴールドで売れば差額、45ゴールドで入手できる」

 

小悪魔:45G

パチュリー:355G

 

「私は旅人の服を52ゴールドで下取りに出して売り払って、150ゴールドの革の鎧と道具屋に売っている160ゴールドのターバンを買うわ」

 

小悪魔:45G

パチュリー:97G

 

「……アリアハンで革の盾も買えるわね」

 

 そういうことになった。

 アリアハンに行くなら、レーベの村に泊まることもない。

 装備の売買を済ませたらそのまま村を発つことに。

 途中、モンスターを蹴散らしながらアリアハンに到着。

 革の盾を買うことができた。

 これで二人の所持金は、

 

小悪魔:51G

パチュリー:13G

 

 また現在の二人のパラメーターは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:6

 

ちから:17

すばやさ:15

たいりょく:40

かしこさ:11

うんのよさ:7

最大HP:81

最大MP:21

こうげき力:33

しゅび力:31

 

ぶき:くさりがま

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:22

すばやさ:23

たいりょく:17

かしこさ:15

うんのよさ:13

最大HP:34

最大MP:30

こうげき力:40

しゅび力:25

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

 

「おかえりなさい。私のかわいいこあくま。さぞや疲れたでしょう。さあ、もうお休み」

 

 勇者の実家では、勇者の母が迎えてくれた。

 話しかけると問答無用で寝かしつけられてしまう。

 しかし、

 

「お友だちもご一緒に…… ゆっくり休むのですよ」

「その意味深げな間は何!?」

 

 パチュリーが突っ込む。

 そんな風に言われると『ゆっくり休む』が別の意味に聞こえてしまうのだが。

 

「さぁ、パチュリー様。お母さんもああ言っていることですし『ゆっくり休み』ましょう?」

「ほら、やっぱりそういう意味で受け止めているし!」

 

 パチュリーを自室に連れ込み、ねっとりとした欲情しきった眼で見つめる小悪魔。

 それ、使い魔が主人に向けて良い視線じゃないから!

 ということだがパチュリーは忘れている。

 以前、

 

 

「パチュリー様の匂いが染みついた服…… それを売るなんてとんでもない!」

「人の着ていた服に顔をうずめないでちょうだい」

 

パチュリーの着ていた服

 これを与えられた小悪魔は本能に従うまま魅惑の匂いに包み込まれ、濃厚なフェロモンを吸ってしまい魅了状態にされてしまう。

 さらに、すでに魅了状態の場合は恍惚・朦朧状態にまで堕とされてしまう。

 

「ちなみに私は素でパチュリー様に魅了されているので、即座に恍惚・朦朧状態にされてしまいます」

「どうしてそこで胸を張ることができるのか本気で分からないし、そもそも人の着ていた服に勝手に変な特殊効果を設定しないでくれる?」

「いえ、犬にとって主人の匂いの付いた衣服がフェロモンを発する魅惑的な存在に思えるように、私たち使い魔には主人の魔力の残り香が付いた服はごちそう……」

「嗅ぐな!」

 

 

 このようなやり取りがあったわけであるが、今の小悪魔はパチュリーが被っていた木の帽子をゆずってもらい装備している。

 つまりパチュリーの髪から移った甘い残り香に常時包まれているわけで、

 

「何その、もう我慢できないって顔は?」

「はい、パチュリー様の匂いがこもったヘルメット…… しっかり堪能させていただいています」

 

 ふうわりと漂い鼻腔を優しくくすぐる香りに、小悪魔は心地よい陶酔感を覚え、頭には桃色の霧がかかっていた。

 魅了、恍惚、朦朧状態が常態化しており、体内で湧きたつ欲情をこらえきれない……!

 

「堪能って……」

 

 ドン引きするパチュリーだったが、

 

「さすがパチュリー様です。自分の匂いが付いたヘルメットを下僕に被せ、魅了、洗脳してしまうなんてヒドイこと、平然となさるのですから」

「勝手に人が被っていたヘルメットを洗脳道具にしないでちょうだい!!」

 

 酷い言いがかりである。

 とにかく、このままではまずいと小悪魔から木の帽子を取り上げようとするが、魅了されている小悪魔は激しく抵抗する。

 

「本当に呪いのアイテムみたいになってるし!」

 

 外せない……

 が、もみ合った結果、ベッドに倒れ込んだ二人。

 パチュリーの胸元に顔をうずめる形になった小悪魔の動きが止まる。

 

「あら?」

 

 発情しきっていたところに、パチュリーの身体から漂う甘い体臭を密着したまま直に吸い込んでしまったことで、ビクンビクンと痙攣する小悪魔。

 結果、魅了、恍惚、朦朧、興奮、発情に、さらに匂い中毒、屈服、堕落、etc.……と状態異常まみれにされ、パチュリーに対する抵抗力がとめどなく下げられて行ってしまう。

 そうやってろくに抗うこともできなくなった小悪魔から、パチュリーは木の帽子を取り上げることに成功する。

 

「ハーブを使って消臭するしかないわね」

 

 持っていたタイムを詰めたサシェ、香り袋を使い一晩かけて消臭することにする。

 タイムは爽やかな芳香で魚料理の香りづけなど料理に使われるものだが、アロマやハーブティーにも活用できる。

 防腐、抗菌の効能の他、殺菌消臭、リラックス効果もあるものだ。

 

「パチュリー様ぁ」

 

 小悪魔がすがりついてくる。

 状態異常が蓄積しまくった結果、赤ん坊のように弱体化しきっているその様子にパチュリーはため息をつくと、

 

「今晩だけよ。消臭が終わる前に木の帽子を取り戻そうとされても困るし」

 

 小悪魔の耳元にそうささやくと、ベッドを共にし眠りにつくのだった。




>「お友だちもご一緒に…… ゆっくり休むのですよ」
>「その意味深げな間は何!?」

 これ、ゲームのセリフそのままなんですよね。
 男勇者が男の仲間を連れ込んだ場合でも同じです。
 勇者母……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ホイミスライムは女僧侶の胎を苗床にして生まれるという説

「おはよう! もう朝ですよ、こあくま。さあ、行ってらっしゃい」

 

 勇者母に起こされ、二人はアリアハンの街から出発する。

 目指すはいざないの洞窟。

 アリアハンからの脱出である。

 

 途中、大ガラスを蹴散らしながらレーベの村へ。

 そこからアリアハン東部へと足を踏み入れる。

 

「フロッガーの群れです!」

「今さら!」

 

 これも瞬殺。

 そして、

 

「レベルが7に上がったわ」

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:18

すばやさ:17

たいりょく:45

かしこさ:12

うんのよさ:8

最大HP:90

最大MP:24

こうげき力:34

しゅび力:32

 

ぶき:くさりがま

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

「また私と2レベル差に…… って言いますか、ヒットポイント90って何ですか!」

 

 叫ぶ小悪魔。

 彼女のパラメーターは、

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:5

 

ちから:22

すばやさ:23

たいりょく:17

かしこさ:15

うんのよさ:13

最大HP:34

最大MP:30

こうげき力:40

しゅび力:25

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

 なのだから、その差は歴然としている。

 

「素早さが上がったおかげで守備力が上がってくれたのも嬉しいところね」

「守備力? 1ポイントだけですよね、上がったの」

「守備力は4ポイント毎にダメージを1ポイント減らしてくれるの」

「ああ、32だと、ちょうど四の倍数、8ポイントまで防いでくれるってことですね。私は25だから…… 6ポイントだけですか」

 

 たった2ポイントの差だが、ダメージが蓄積していくと馬鹿にならない違いが出るものだ。

 特にいざないの洞窟には催眠呪文ラリホーを使う有角ウサギ、アルミラージが集団で出るものだから、眠らされ続けて延々と攻撃を受ける、という可能性もあるのだし。

 

「次は山地越えね」

 

 ドラクエのフィールドマップでは、地形が険しくなるにつれ、モンスターの出現頻度がアップする。

 

「パチュリー様、覆面を被った変質者が!」

 

 黒いローブと覆面で身体を覆った人型のモンスターが襲って来る。

 

「魔法使いね。単体攻撃呪文メラの使い手よ」

 

 ナジミの塔の上層部でも出現するモンスターだったが、パチュリーたちは今まで遭遇したことが無かった。

 それが二体現れ、戦闘を仕掛けて来る。

 

「魔法使いであるパチュリー様が商人で、魔法使いって呼ばれるモンスターに襲われる……」

 

 というメタ視すると複雑な状況。

 しかしパチュリーは、

 

「この程度で魔法使いを名乗られてもね……」

 

 と気にも留めない。

 ただ、

 

「……指が増えてる?」

 

 諸般の事情で近年のリメイク作ではその辺、デザインが修正されていることに気付ければ、立派なレトロゲーマーである。

 

「私のムチは痛いですよっ!」

 

 そう叫びつつ小悪魔はトゲのムチを振るう!

 

「誰のムチだって痛いでしょ」

 

 と突っ込むのはパチュリー。

 しかし、

 

「あいたっ!」

 

 小悪魔は魔法使いの反撃のパンチを受け、驚く。

 

「倒しきれてない!?」

 

 割とヒットポイントがある魔法使いは、小悪魔のムチでも一撃では倒せないのだ。

 まぁ、呪文使いの素手のパンチなど大したことも無く、ダメージは1ポイントと効いていないのだが。

 

「油断してるから……」

 

 呆れたようにつぶやくパチュリーの鎖鎌が魔法使いに止めを刺す。

 そのパチュリーにも生き残りが殴りかかるが、やはり1ポイントのダメージで済む。

 

「もう一度!」

 

 再び小悪魔がトゲのムチを振るうことで、魔法使いは全滅。

 

「メラ、使ってこなかったですね?」

 

 首を傾げる小悪魔だったが、これには理由がある。

 

「ファミコン版だと通常攻撃と逃走が1/8ずつ、こちらのレベルが高くないと逃走することは無いから残り6/7の高確率でメラを撃ってくる。マジックパワーは10で5発まで連発が可能よ。そして隊列を無視して完全ランダムな目標に撃ち込んでくるから、ヒットポイントの低い後列に向けられるとかなり危険なのだけれど」

 

 だからファミコン版では強敵だったのだが、

 

「スーパーファミコン版以降のリメイク作品だとメラを使う確立は4/8に落ちているの。こちらのレベルが高くないとやはり逃走しないから実質的には4/7だけど、そもそもマジックパワーも4まで落ちているから2発しか撃てなくなっているし」

「もの凄い弱体化ですね」

 

 リメイク以降はプレイヤー側も強化されていることもあり、危険度はかなり下がっているのだ。

 そして、

 

「人型のモンスターのせいか、普通にお金持ってましたね」

「そうね、制作元のエニックスから出版された書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、ゴールドは魔族の通貨であるとされ、これが全世界で普遍的に通用している理由だと説明されていたものね」

 

 だからモンスターたちがゴールドを持っているのだと。

 さらにそれだけではなく、

 

「宝箱だわ!」

 

 魔法使いは宝箱を落としていった!

 パチュリーたちが宝箱を開けると聖水が入っていた。

 

「魔法使いは1/64の確率で聖水を落としていくのだけれど」

 

 初回で引き当てるとは運がいい。

 パチュリーは聖水を手に取って見定めた。

 

「これを使うと自分より弱い魔物をしばらくの間寄せ付けなくできるようね」

 

 通常時に使用するとトヘロスの呪文と同様の効果。

 128歩の間、フィールド上で弱いモンスターと遭遇しなくなる。

 具体的には、

 

 先頭キャラのレベル≧現在のエリアレベル+5

 

「大元のファミコン版では、

 

 先頭キャラのレベル≧モンスターパーティ内の最も高いモンスターレベル+5

 

 だったから、これを使って特定のモンスターだけしか現れなくする方法もあったけど、スーパーファミコン版以降のリメイクでは、エリアレベルと比較して低ければそのエリアではモンスターは一切出なくなっているの」

「それじゃあリメイク版の方が効き目が強いということですね」

「ところがこのエリアレベル、その地域に出現するモンスターの中で最もモンスターレベルの高いモンスターを基準に設定されているから、聖水やトヘロスで完全に封殺できるレベル自体はファミコン版と変わらないし、逆にファミコン版では出現を防ぐことができた低レベルモンスターもエリアレベルが高いと防げなくなっているの」

「ダメじゃないですか」

 

 そういうことだった。

 そして、

 

「私たちだと先頭に立っているパチュリー様が7レベルなので……」

「防げるのはエリアレベル2まで。つまりモンスターレベル2の一角ウサギより弱いモンスターしか出ない地域、アリアハンの街周辺と西アリアハンだけね」

「役に立たないじゃないですか」

 

 スライム、大ガラス、一角ウサギ程度が今さら防げても意味は無い。

 今となってはそんなザコ、蹴散らして経験値と資金源にして終わりである。

 

「あとは聖なる水、と言うだけあって生意気に教会で祝福儀礼を施されているから、戦闘中に使用すると邪悪な魔物にダメージを与えることもできるわね」

「ああ……」

 

 嫌そうに眉をひそめる小悪魔。

 

「ダメージ幅は15~32。試しに飲んでみる?」

「やめてください。しんでしまいます」

 

 小悪魔にはよく効きそうである。

 

「パチュリー様の聖水なら喜んで飲みますが」

 

 小悪魔にはよく効きそうである。

 逆の意味で。

 一方、

 

「私の?」

 

 パチュリーは少し首をかしげた後でこううなずく。

 

「魔法使いの体液には当人の力が含まれているものね、涙とか」

「純真すぎます!!」

 

 セクハラをスルーされた小悪魔が、主人の思考と知識の純粋さに気圧されたかのようにのけ反る。

 

「で、でもそんなパチュリー様だからこそ、私の手でいやらしい知識を教え込む、染め上げるって楽しみが……」

「何をぶつぶつ言っているの?」

 

 ともあれ、パチュリーはこの世界の聖水と呼ばれるアイテムに話を戻す。

 

「ファミコン版だと退魔の呪文二フラムへの耐性で命中率が決まったけど、リメイク版以降ではニフラム耐性に応じてダメージが軽減される仕様に変わっているわ。つまりニフラム無効の敵に効果がないのは変わらずだけど、その他の敵には必中というわけ」

「それは使いやすい、んですかね?」

「難敵には二フラムが効きやすかったりするから、それを倒したい場合には使える、のかも?」

 

 まぁ、そういう場合は経験値は得られないが二フラムで消し飛ばした方が早そうではあるが。

 

「ピラミッドで出るお金持ちモンスター、わらいぶくろを倒したい場合にはいいかも知れないわね。あれは二フラム耐性がゼロだし、こちらの攻撃を避けるわ、マヌーサで命中率を下げて来るわ、こちらからの攻撃呪文や補助呪文はマホトーン以外ほぼ効かないわでどうしようもないから」

 

 そんな使い道はあるか。

 あとは、

 

「お店に持って行けば15ゴールドで売れるわね」

 

 何事も無ければ換金アイテムで良いのかもしれない。

 そして二人がさらに進んでいくと、

 

「ホイミスライム!」

 

 宙に浮いたクラゲのようなスライムが襲って来る。

 

「触手ですよ、触手!」

「反応するのがそこ!?」

「やめて! 私に乱暴する気でしょう? 官能小説みたいに! 官能小説みたいに!」

「……図書館の蔵書に、そういう卑猥な本を混ぜるのは止めてくれる?」

 

 この前は間違って手に取って、危うく紅茶を噴水のように吹き出しそうになったし。

 

「ええっ?『理性崩壊! 使い魔の触手に身体を差し出す魔女!!』とか名作ですよね。「無害化したのだから大丈夫、ちょっとだけ」とか言って下僕にした触手を欲求不満の解消に……」

「止めなさい! と言うか、さっさと戦って!」

 

 このエロ使い魔は!

 そうしてようやく戦い始める小悪魔だったが、ホイミスライムの最大ヒットポイントは30と、アリアハンのフィールド上で現れるモンスターの中では一番高い上、

 

「ダメージを与えてもホイミの呪文で回復してしまいます!」

 

 ということでなかなか倒せない。

 

「持久戦に持ち込めばあるいは?」

 

 そう考える小悪魔。

 しかし、

 

「参考までにこれからあなたが魔力切れを狙おうとしているホイミスライムのマジックパワーを教えておきましょうか」

 

 とパチュリーからツッコミが入る。

 

「ホイミスライムのマジックパワーは255よ」

「なっ!?」

「実際には255という数値は無限扱いになっているから、この値が設定されているモンスターはマジックパワーが減らないの」

「ダメじゃないですかー! 負けたら苗床にされちゃうぅっ!!」

 

 などと色ボケ発言をする小悪魔だったが、パチュリーは戦いながらも妙に真剣な表情でつぶやく。

 

「……それ、実は本当なんじゃないかって話が」

「はい?」

「制作元のエニックスが出版した書籍『ドラゴンクエスト モンスター物語』では、スライムの起源はアレフガルドの大きな湖の中。そこで分裂を繰り返して増殖し、雌雄を獲得した後に生息環境が過密になったため陸へと上ってそのまま陸上生活を始めたって言うわ」

「はぁ、でもその本って昔話風というか、そのように語る存在が居る、っていうモンスターに関する民話集みたいなものですよね?」

「なら、より資料寄りの書籍『ドラゴンクエスト25thアニバーサリー モンスター大図鑑』ではどうかっていうとスライムベスがオレンジ色なのは、肉食であるからという説と併記して、メスだからという説が載せられていたわ。ドラクエ8、ドラクエ10のモンスターリストでも「噂」「真相不明」としながらもスライムベスはスライムのメス説が唱えられていたわ」

「んん?」

「だったらスライムベスの居ないこの上の世界でスライムがどうやって増えるのかっていうと」

 

 ここで小悪魔も話の不穏な流れに気付く。

 

「同種属のメスが居ず、身体のほとんどは水分でできているスライムがここ、水気の無いはげ山、荒野にも出没し増殖する。つまり、こんな場所でも増殖に適した温かく湿った場所、他種属の胎(はら)を『孕み袋』にして増えるってことですか!?」

「そういう説もあるってこと。ホイミスライムはホイミが使える女僧侶の胎を使ってスライムが産ませた亜種ってことね」

 

 まぁ俗説だし、うちのパーティーには僧侶は居ないし、とパチュリーは言うが、小悪魔ははたと気づく。

 

「……あの、私もホイミ使えるんですけど」

 

 ホイミスライムの小さな眼がキョロっと小悪魔を、その下腹部を見た、ような気がした。

 そして常にアルカイックな、微笑むような形を取っている口が、

 

 オマエガ ママニ ナルンダヨ!

 

 そう言っている、ような気がした……

 

「っきゃーっ!!」

 

 思わずムチを振るう小悪魔。

 

「あなたでもそういう反応するのね?」

 

 感心したように言うパチュリーに、小悪魔は、

 

「今の一瞬の脳内の化学変化と言いますか、反射的な反応は、パチュリー様のような無垢な乙女めいた方には実感できないというか、説明しづらいものがあるというか」

 

 と妙に早口で答える。

 そうやってムチを振るい続けるも、ホイミスライムは無限のマジックパワーで回復し続けるため当然倒せない。

 

「ど、どうするんですかパチュリー様っ!」

 

 と小悪魔は焦った声を上げるが、パチュリーはあっさりと、

 

「こちらの攻撃が3回連続で通れば倒せるでしょう?」

「くっ、でも相手も早いです。先制で回復されては」

「いいえ、それがチャンスよ」

 

 先制で回復されれば、そのターンは小悪魔とパチュリーが後からダメージを入れることができ、

 

「あ、勝てました」

 

 次のターンで回復に先んじて小悪魔が攻撃できれば勝ちである。

 

「ドラクエにおいて、素早さが高いということは必ずしもいいことばかりであるとは言えないわ。逆に低い方、行動順位が遅い方が有利な場合もあるってわけ」

 

 パチュリーが言うとおり、後攻攻撃によるダメージ蓄積が役立った形だった。

 

「ホイミスライムからは滋養強壮剤の原料になる薬液が採取できるわ」

「そうなんですか?」

「制作元のエニックスが出版した書籍『ドラゴンクエスト アイテム物語』では、回復アイテム『賢者の石』にはホイミスライムが多数封じ込められているとされていたし、それぐらい生命力にあふれているということなんじゃない?」

 

 何しろマジックパワーが無限であるし、賢者の石が壊れず何度も使えるのはそういうことなのかもしれない。

 そうしてパチュリーは、その生命力故か、それとも不定形生物であるためのしぶとさ故か、致命傷を与えられてもまだうごめき続けるホイミスライムの触手を見詰める。

 それは女を苗床に、雌にするためのもの……

 パチュリーが持つ知識には小悪魔によりもたらされた触手姦といういやらしい概念が、不本意ながら入っている。

 知識だけだが――

 しかし同時に彼女の知性は目の前の触手を持つモンスターにはもう戦闘力は無い、その気になれば即座に排除できる無害なものだということも知らせていた。

 

 だからだろうか、魔が差したのは。

 

 これを使って自らを慰めたらどうなるだろうか?

 小悪魔のセクハラにより日々、蓄積されていく性的ストレスを発散させてしまえば良いのでは?

 

 普段の彼女なら考えもしないことだったが、この世界では常に小悪魔と一緒の部屋、場合によっては一緒のベッドで寝ているため、要するに自分を慰める行為ができない、欲求不満が溜まっていたことが災いした。

 バカバカしいと頭では否定するものの、しかし彼女の手は解体してしまうべきモンスターに少しずつ伸ばされていき、

 

(問題ないわ…… 少しだけ、少しだけだから……)

 

 そう自分に言い訳しインベントリ…… 魔法の『ふくろ』に仕舞い込む。

 

 

 

「パチュリー様?」

 

 倒したホイミスライムを『ふくろ』に突っ込むパチュリーに小悪魔は小さく首を傾げるが、

 

「先を急ぐから、後で解体することにするわ」

 

 パチュリーはそう答える。

 そして眉をひそめ、こう問う。

 

「また変なこと、想像してない?」

 

 小悪魔の妄想は尽きない……

 

 

 

To be continued?




 最後のは小悪魔の妄想…… だよね?
 というところで次回に。
 小悪魔が一々セクハラを入れるおかげで話が進まない進まない。
 というか、これでも削ってあるんですけどね。

 次回はいざないの洞窟に挑戦、そして突破したい、と思っています。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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バキバキに硬くなってますっ! いざないの洞窟突破

「ほこらがあるわね」

 

 さらに進むと小さなほこらがあるので入ってみると、そこには老人が一人で暮らしていた。

 

「お若いの、魔法の玉はお持ちかな?」

「はい」

「ならば、いざないの洞窟にお行きなされ。泉のそばのはずじゃ」

 

 そう勧められる。

 このほこらからは、住居精霊(ヒース・スピリット)たちが持っていた精霊の隠し財宝、小さなメダルとキメラの翼が手に入った。

 あとは本棚からムチやブーメランについて書かれた本を見つけた。

 

 ムチ、ブーメランは1度に多くの敵を攻撃できる武器だ。

 ムチはグループに。

 ブーメランは敵すべてにダメージを与えるであろう。

 たとえ今より攻撃力が落ちようともそちらの方が得という場合もある。

 考えて使うべし。

 

「ブーメランは商人のパチュリー様でも使えるんですよね?」

「そうだけど、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものでしょう? すごろく場が廃止されて入手タイミングが遅れるから」

 

 その辺、ゲームバランスもまた変わってくるわけだ。

 

 老人の勧めに従って北に見える泉に向かうと、言われたとおり、そのそばに入口があった。

 しかし階段は石壁で封じられている。

 

「ここで魔法の玉を使えばいいのね」

 

 パチュリーは魔法の玉を壁に取り付け、導火線に火を付ける。

 そして安全のために遠くへ離れた。

 魔法の玉は大爆発を起こして壁を吹き飛ばしてしまった。

 

「び、びっくりしました」

 

 目を瞬かせる小悪魔。

 パチュリーもまた、

 

「……火薬多過ぎ」

 

 と、こんな危険物を何の注意もせずに渡した老人に恐怖を覚える。

 

「そう言えばアリアハンの宿屋には、魔法の玉を作ろうとして大けがをした男の人が寝ていましたね」

 

 そう言って小悪魔もぶるっと身体を震わせる。

 ともあれ、破られた壁の先にあった宝箱を開けてみる。

 蓋の裏には、何やら文字が刻まれていた。

 

『アリアハンより旅立つ者へ。この地図を与えん! 汝の旅立ちに栄光あれ!』

 

 中には世界地図が入っていた。

 

「これさえあれば、どこへでも行けそうですね」

 

 小悪魔がそれを見て言った。

 そして階段からいざないの洞窟内に潜入する。

 通路には裂け目がいくつも広がっており、ぐるりと回り道をしないといけない。

 

「最初の宝箱は毒消し草だから取りに行かずに無視して進みましょう」

 

 この先、階段を降りるか、地面の裂け目から飛び降りるかして地下三階に行くと毒持ちのバブルスライムが出るし、旅の扉から転送された先のロマリアのフィールドでは毒ガエル、ポイズントードが出るため役立つものだが、毒消し草のストックはあるのでここはスルーする。

 

「床に穴が開いてますね、間違って落ちたら……」

 

 ぶるりと身体を震わせる小悪魔。

 

「どの穴から落ちても、その先はひとつながりのフロアになっていて、そこから出るための唯一の階段は、最初に降りてきた階段のそばにつながっているから」

「また最初からやり直しってわけですか、意地が悪いですね」

「……そうとばかりも言えないんだけど。逆に救済措置みたいなものよ、これ」

「それは?」

「途中で死人が出たり、マジックパワーや薬草が切れたりして、にっちもさっちも行かなくなった場合、それまで進んできた道を延々と歩いて引き返さなくても、地面の裂け目から飛び降りればショートカットして入り口まで戻ることができるの」

「ああ、ナジミの塔でも使った『飛び降リレミト』ってやつですね」

 

 これに気付くと、いざないの洞窟への挑戦の難易度は格段に下がるのだった。

 小悪魔がなるほどと感心したところに、モンスターが現れる。

 

「おばけありくいとアルミラージです!」

「とにかくアルミラージを倒して!」

 

 幸い一匹ずつの群れだったので、アルミラージに集中攻撃をかけることにする。

 パチュリーは鎖鎌で斬りつけるが、

 

「さすがに一発では倒せない!?」

「ならこれで!」

 

 小悪魔の追い打ちで倒しきることに成功!

 しかし、

 

「うぐっ!」

 

 小悪魔はおばけありくいの攻撃で3ポイントのダメージを受ける。

 

「連続で受けると痛そうね」

 

 おばけありくいは狙いを一人に集中させ、対象を死ぬまで攻撃し続ける集中攻撃の習性を持ち合わせており、多数現れた場合にはかなりの脅威となるのだ。

 ターゲットになった者は次のターンから防御すると良いのだが、最悪アルミラージに眠らされて、何もできないまま集中砲火に沈むという場合も……

 

「しかもヒットポイントが高いです!」

 

 小悪魔の攻撃だけでは倒しきれず、

 

「ファミコン版だと最大ヒットポイントが17、魔法使いの初級グループ攻撃魔法ギラで一掃できる程度だったけど、スーパーファミコン版以降のリメイク作品だと21に増強されているから」

 

 パチュリーが追い打ちをかけることでようやく倒す。

 

「アルミラージからは肉と毛皮、お化けアリクイからは、おおありくいと同じく、毛皮と肉、爪が採れるわね」

 

 鎖鎌の刃で手早く解体する。

 

 さらに奥に進むと、

 

「キャタピラーよ!」

「芋虫さんって、おち〇ちんに似てますよね」

 

 小悪魔、いきなりのセクハラ発言。

 

「それは芋虫はそういったものの暗喩、メタファーに使われることも有るけど、直に言ってしまっては身も蓋もないでしょう!?」

 

 ストレート過ぎるという話である。

 そして二人の目の前で、

 

「いきり勃つー!?」

 

 ぐぐっと身体を伸ばし守備力を元の値の50%上昇させる防御力アップ呪文、スクルトを唱えるキャタピラー!

 小悪魔はトゲのムチを振るうが、

 

「硬ぁい……」

 

 10ポイント以下のダメージしか出せないことにため息をつく。

 

「バキバキに硬くなってますっ! パチュリー様も試してみて下さい」

「一々エッチな言い回しで報告しなくていいから!」

 

 パチュリーは顔をしかめて鎖鎌で斬りつけつつ、

 

「どうしてこの子は……」

 

 と嘆く。

 まぁ、以前ライチを食べていた時に、

 

「ライチの食感って、おち〇ちんの先っちょに似てるって話、どう思われます?」

 

 と聞かれて盛大にむせたことに比べれば今回はマシな方か……

 

 それはさておき、

 

「リメイク版以降だと使うのよね、スクルト」

 

 と状況を分析する。

 ファミコン版でもデータ上は設定されていたが実際には使われなかったというもの。

 リメイク版以降ではそれがアクティブになっているのだ。

 

「まぁ、地獄のハサミが使うインチキスクルトよりはマシだけど」

 

 モンスターが使って来るスクルトには二種類あり、地獄のハサミのスクルトは敵全体の守備力を元の値と同じだけアップさせるというぶっ壊れ性能なものなのだから。

 

「唱えるのは1回だけ。1回で増えるのは12ポイントで実ダメージで3しか減らない。むしろ一回攻撃を休んでくれるからサービス行動に近いんだけど」

 

 ただし、

 

「ヒットポイントも増強されてるからしぶといのよね」

 

 ファミコン版の40から10ポイント上がって50が最大ヒットポイントだ。

 次のターン、小悪魔が先制するが、

 

「何とか10ポイント越えのダメージを叩き出しましたが……」

 

 当然のように倒しきれない。

 さらにはパチュリーの追撃にも耐える。

 そしてキャタピラーの反撃だが、

 

「ぐっ!?」

 

 パチュリーは9ポイントのダメージを受ける。

 

「わ、私より固いはずのパチュリー様でそれですか!?」

 

 小悪魔なら二桁ダメージを食らっているところである。

 3、4発もらったら死亡だ。

 

「ファミコン版より攻撃力もアップしてるのよ」

 

 ということだった。

 

「それでも次の攻撃で!」

 

 小悪魔のトゲのムチが唸り、何とか倒しきる。

 

「この芋虫は、絹糸腺が高く売れるのよね」

 

 また鎖鎌を使って絹糸腺を剥ぎ取るパチュリー。

 

「絹糸腺?」

「何でも、それから特殊な糸が作れるみたいよ」

 

 現実でもテグス糸はそうやってクスサンの幼虫の絹糸腺から作られるものだったが、この世界では虫型モンスターから取った素材で作るらしい。

 

「次の宝箱は聖なるナイフだから資金源にするために取りに行くわね」

 

 ということで寄り道するが、宝箱まであと少しというところで、

 

「人面蝶とアルミラージです!」

「一匹ずつなのは幸いね。アルミラージから倒すわよ」

 

 集中攻撃でアルミラージを撃破する。

 しかし、

 

 人面蝶はマヌーサを唱えた!

 パチュリーは幻に包まれた!

 小悪魔には効かなかった!

 

「くっ、当てられない!」

 

 パチュリーの攻撃はミス。

 

「人面蝶に誑かされた人は現実と妄想の区別が付かなくなってしまうって話ですからね。妖しい夢幻の世界に引きずり込まれたパチュリー様にはもう逃れるすべもなく……」

「その言い方は語弊があると思うのだけれど」

 

 確かにマヌーサは深い幻で包みこんで通常攻撃の空振りを誘う、命中率を半分にする呪文であり、戦闘中に解除する方法は無いので「逃れるすべもなく」というのもそこだけ切り取れば間違いではないが……

 そして、

 

「ここは任せてください!」

 

 マヌーサの効果を回避できていた小悪魔の攻撃が、人面蝶を倒した。

 

「まぁ、素早さの高いあなたが一撃で倒せるのだから、ここは無理せず防御しておくのが正しかったのかもね」

 

 ということか。

 そしてようやく宝箱に手をかけるが、

 

「これが聖なるナイフですか」

 

 邪悪を退ける純銀で作られているという呪的装備。

 

「咲夜さんが使っているやつですよね」

 

 紅魔館のメイド、完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜は銀の投げナイフを多用する。

 彼女は二十間(約36メートル)離れた場所に居る、頭上にリンゴを載せた妖精メイドの『額』に当てることができるほどの腕前を持つ上、時を止める能力を持つ。

 

「銀は滅菌と浄化作用を併せ持ち、銀の武具に傷つけられた者は同時に魔術的な力を奪われるためダメージを受けることになると言われているわ。また別の説では銀は月神の金属であるが故に夜の生き物に効くのだとも」

「だからナイフなのに攻撃力が高いわけですか」

 

 聖なるナイフの攻撃力は14。

 鎖鎌の16よりは低いが、銅の剣の12より高いのだ。

 ただ、

 

「魔法使いも装備できるこれが、ここにあるのは意味深いわね」

 

 何よりの特徴は全職業で使えること。

 まぁ、武闘家はこれら普通の武器を身に着けると攻撃力が下がってしまうのだが。

 

「いざないの洞窟はアリアハン脱出の道で、それなりに長い。つまり魔法使いは後半、マジックパワー切れを起こしやすいけど、ここで聖なるナイフが手に入れば、それを使って援護の攻撃ができるようになるってわけね」

「私たちのパーティみたいに魔法使いが居ない場合は?」

「次のロマリアの街で売り払って買い物の資金源にするのにいいわね」

 

 そういうことだった。

 そしてさらに進むと、

 

「階段です!」

 

 ようやく階段にたどり着く。

 それを降りて進むと、旅人の扉が。

 

「これが他の場所へと続いているという旅の扉ね」

 

 運が良いのか、あっけなく到着。

 

「ホイミも薬草も1回も使うことなくあっさりと突破できたわね……」

 

 普通、いざないの洞窟というとアルミラージやおばけありくいの群れと当たってボッコボコに殴られ、治療を繰り返しながら突破するというものなのだが。

 

「難易度が下げられてるのかしら? それとも運がいいだけ?」

 

 首を傾げるパチュリーだったが、

 

「さっそく行ってみましょう、パチュリー様!」

「あっ、こら、押すな!」

 

 小悪魔に押され旅の扉に入ると、うにょーんと世界が歪んで、パチュリーたちはロマリア近くのほこらへと飛ばされていた。

 

「ううっ、何か酔っちゃいました」

「私でも少しくるものがあったわ……」

 

 ともあれ、これでアリアハンは脱出。

 ほこらを出て北上すればロマリアの街である。




 本当、こんな簡単に突破できてしまうなんて私にも想定外なんですけどスマホ版って難易度下がってます?
 逆に言えば経験値もお金も稼げていない状態でロマリアの敵と戦えるのか不安だったり。
 まぁ、次回ロマリアの街を探索してみて、どれだけお金が溜まっていて装備を追加購入できるかがポイントなんでしょうかね?
 こんな調子だったら、ピラミッド直行で魔法の鍵を取ってしまえそうでもあるのですが……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ロマリアの夜 いぬとパチュリー

 ロマリアに到着したパチュリーと小悪魔。

 まずは城でロマリアの王に謁見する。

 

「カンダタという者が、この城から金のかんむりをうばって逃げたのじゃ。もしそれを取り戻せたなら、そなたを勇者と認めよう! さあ、行け! こあくまよ!」

「いや別に認めてもらう必要も無いのだけれど」

 

 思わず突っ込みを入れるパチュリー。

 王と並ぶ王妃からは、

 

「アリアハンは美しいところと聞きます。きっと、人々の心も美しいのでしょうね」

 

 などと言われるが、

 

「心が、美しい……?」

 

 隣に立つ小悪魔をまじまじと見つめ首をひねるパチュリー。

『これ』を前にして、そういう感想が出て来るという王妃の眼か頭の心配をしてしまう。

 一方、

 

「そこでどうして私を見て首を傾げるんですか、パチュリー様?」

 

 本気で不思議そうにパチュリーを見返す小悪魔。

 実際、彼女は敬愛している主人に誠実に仕えているつもりなのだ。

 誠実だからこそパチュリー自身が気付いていない隠された被虐願望を察して、それを満たしてあげたい、性の奴隷に堕としメチャクチャにしてあげたいと願っているだけで。

 

(パチュリー様の理性は否定するでしょうけど、魔法使いであっても生きている、生者である限り心のどこかには生の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)に基づく、性への欲求とか破滅願望などが微量でも無いとは言えないわけで。

 それがパチュリー様の隠れた一面であり、本性であり、そして私はどんなパチュリー様であっても肯定する存在です。だって私はパチュリー様のすべてを愛しているのですから。

 ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ)

 

 という具合に。

 パチュリーが知ったら、

 

「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

 

 と呆れ声で言っただろうが。

 また、パチュリーにセクハラ行為を怒られても止めないのも、

 

("いや"っていうのは、"いい"ってことですよね?)

 

 というように、単に素直になれない主人、パチュリーのミエを通すため自分が悪役になっているだけ。

 主従逆転快楽調教を施すという体裁を取っているが、実際には純粋に主人のために奉仕しているだけ。

 小悪魔は何の矛盾も感じること無く、本気でそう思っているのだ。

 ……タチが悪いことに。

 

「……それじゃあ、小さなメダルでも探しましょうか」

 

 諦めたようにため息をつきながらそう言うパチュリー。

 城の花壇や篝火の脇から、小さなメダル二枚を探し出す。

 

「一々調べなくても、アイテムが隠されている場所に行くと分かるようになってますね」

 

 感心する小悪魔に、

 

「スマホ版の仕様かしら?」

 

 と返すパチュリー。

 スマホ版ではアイテムが隠されている場所に行くとエクスクラメーションマーク、俗に言うビックリマークが出て知らせてくれる親切仕様となっているのだ。

 さらに城の中を散策すると、王の父親の部屋にたどり着いた。

 

「わしの息子は遊び好きでな。王様になってもその癖が抜けん困った奴だ」

「それじゃあ御隠居様は遊び、嫌いなんですか?」

 

 首を傾げる小悪魔に、

 

「スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版だと部屋のタンスには、すごろく券が入っていたのだけれどね」

 

 とパチュリー。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されている。

 だから残念ながらタンスは空だったが。

 そして王の父親の部屋には本棚があった。

 

「もしかして、性格を変える本が!?」

 

 洗脳調教の恐怖に震える小悪魔。

 あった。

 ずるっこの本。

 パチュリーはそれを手に取って見定めた。

 

「正直者はバカを見る! 世の中、ズルイヤツが生き残るのさ! ……何コレ?」

 

 まぁ、国王ともなるときれいごとだけでは済まないということだろうか。

 

「お店に持って行けば60ゴールドで売れるわね」

 

 小悪魔に読ませてもろくなことにならないだろうから、これは道具屋に持ち込んで売り払ってやることにする。

 そのためにも城を出て、街に向かう。

 

「街の方にも何かありそうだけど」

 

 街を回り、建物つきの住居精霊(ヒース・スピリット)が隠し持っている財宝を見つけ譲り受ける。

 城下の教会の本棚からは、頭が冴える本が見つかった。

 

「驚異の大脳発達術! 頭の良くなる食品リスト! 超思考法! ……ねぇ」

「あ、あやしーっ! あやしさ大爆発ですっ!」

「お店に持って行けば、75ゴールドで売れるわね」

 

 さすがに怪しすぎて、小悪魔で試してみる気にもなれない。

 またタンスからはくじけぬ心というアクセサリーが見つかったが。

 

「くじけぬ心…… これは装飾品のようね。どんな苦労にも負けない心が、逆にその人を苦労人にしてしまうわね」

「パチュリー様、そんなのしかないんですか?」

「そんなのだからタダでくれるんでしょうね。でもこれ、お店に持って行けば187ゴールドで売れるわね」

 

 その他にも民家からは革の帽子、小さなメダルを入手。

 そして、

 

「あら、かわいい犬ね」

「うーっ、わん、わん!」

 

 町外れの木陰には、ボビーという犬が居るが、近づくと吠えるだけで動こうとしない。

 

「な、何よ、そんなに吠えることないでしょ……」

 

 結局近寄れないため、すごすごと引き下がるしかないパチュリー。

 諦めきれず夜になって行ってみるとボビーの姿はそこにはなく、代わりにひのきの棒を手に入れることができた。

 

「犬は宝物を埋めておく習性があるから、これを埋めて守っていたのかしら?」

「夜も遅いですし宿屋に泊まりませんか、パチュリー様」

 

 宿屋に泊まり、一晩を明かすパチュリーたち。

 そうして翌日、ボビーに会いに行くが、ひのきの棒を持ち去っても昼になるとまた吠えられる。

 

「嫌われているのかしら……」

「パチュリー様、犬にそんなに執着するなんて、まさかバター犬プレイをお望みで?」

 

 昨晩は空いている客室が無く仕方なしに先客の母子と相部屋になった結果、当然エッチなのは禁止になって欲求不満を貯め込んでいる小悪魔の頭は少しおかしくなっている。

(元々こんなものという説もあり)

 しかし、それに対するパチュリーの答えは、

 

「バター?」

 

 よく分かっていない様子。

 それどころか、

 

「そうね、バターをあげたら喜んでくれるかしら? 手ずから与えたら、ゆ、指先を舐めてくれたりして」

 

 などと言い出す始末。

 

「ああ、バターは無塩のものじゃないと犬の身体に悪いわね」

 

 いそいそと買いに行く様子を見せる、その姿に小悪魔は、

 

「ピュアすぎますっ!」

 

 と叫ぶのだった。

 なお宿屋では住居精霊(ヒース・スピリット)たちが持っていた精霊の隠し財宝、毒消し草、満月草を譲ってもらっていたが。

 

「パチュリー様、満月草って?」

「これは麻痺を治してくれる薬のようね」

 

 不用品を売り払うため道具屋に行くと、取扱いの品の中にもあった。

 

「パチュリー様、ここで満月草が手に入るってことは、麻痺攻撃をしてくる魔物がこの先現れるということですよね?」

「そうね、念のため追加で買っておいた方が良さそうね」

 

 ドラゴンクエストのマヒはしばらく歩くと自然に解除される、そんなに重い症状では無いのだが、全員がマヒした場合、パーティは全滅となる。

 少人数プレイの場合、これが怖いのだ。

 そういうことで満月草を買って、お互い一つずつお守り代わりに持つことに。

 またモンスターを解体して手に入れていた毛皮や爪など、そして不用品を売り払うと、まとまった額のお金が手に入った。

 

「精算してみましょうか」

 

 と、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:51G

パチュリー:13G

 

「それでその後に得た収入が592ゴールドで、一人当たり296ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:347G

パチュリー:309G

 

「凄い、こんな大金持ったの初めてです!」

 

 喜ぶ小悪魔にパチュリーは苦笑して、

 

「それじゃあ、武器屋の品ぞろえを見てみましょうか」

 

 次いで武器店に顔を出す。

 

「鉄の槍が売っているわね」

「防具の類も充実していますよ?」

 

 そう言う小悪魔に、

 

「ドラクエではまず武器を優先して揃えるべきなの。防具を買っても守備力4ポイント毎にダメージが1ポイント減らせるだけだから」

 

 ということ。

 

「そして私たちが買う意味のある武器は、ここでは650ゴールドの鉄の槍だけね」

「でも、それだと二人とも手持ちのお金では買えませんよ」

「そうね、私も今使っている鎖鎌を下取りに出しても手が届かないわ」

 

 考え込むパチュリー。

 

「あとはあなたと私、どちらかが借金して買うならぎりぎり何とかなるのだけれど」

「いっ、嫌ですよそんなのっ!」

 

 というわけで武器の新規購入はお流れに。

 

「それじゃあ、少し不安だけれど北のカザーブの村まで行ってみましょうか」

 

 ロマリアの街を出て北上していくと、ポイズントード四匹と遭遇する。

 

「毒ガエルですね」

「さっさと蹴散らすわよ」

 

 戦闘を開始。

 

「行くわよ」

 

 パチュリーの鎖鎌がポイズントードを斬りつけ、

 

「これで!」

 

 小悪魔のトゲのムチが群れ全体を薙ぎ払い、パチュリーがヒットポイントを削っておいた一体を倒しきる。

 パチュリーは反撃を受けるものの、

 

「この程度なら」

 

 3ポイントでは問題ない。

 しかし、

 

「逃げ出した!?」

 

 驚く小悪魔。

 ポイズントードは立て続けに逃げ出したのだ。

 

「ああ、カエルは基本、バカだから」

 

 とパチュリー。

 判断力が0のモンスターは敵の強さを推し量るような知能は無いから、こちらのレベルが低くても逃亡するのだ。

 ともあれ、残るは小悪魔のムチで弱っている一体だけ。

 その一体が今度は小悪魔に口から毒液の泡を吹きながら攻撃。

 ダメージを与えるが、

 

「毒を受けるのは免れました。そしてこれでお終いです!」

 

 小悪魔のムチが止めを刺した。

 

「肉は毒で食べられないから。皮ぐらいしか剥ぎ取る物が無いわね」

 

 パチュリーは鎖鎌の刃でポイズントードを解体しながらぼやく。

 現実でも駆除した毒ガエルの皮を使った革細工があったが。

 

「毒腺は……」

 

 小悪魔が言いかけるが、パチュリーはそれを否定する。

 

「毒も薬も同じもの。使い方によって毒は薬に、薬も毒になるとは言うけれど、これは売るには危険すぎね。幻覚作用があって中毒になる者も居るって話だから」

「麻薬(ドラッグ)ですか?」

「そのような物よ。舐めるとクラクラして楽しい、とも聞くけど」

 

 現実でも毒ガエルにハマって、その背をベロベロ舐めてラリってる犬なんてものが居るらしい。

 まぁ、そういった生物毒などを利用してトリップしたりするのは魔女の業(ウィッチ・クラフト)の内だからパチュリー自身は扱いに精通しているわけだが、一方で魔女の薬のレシピに『ヒキガエル』などが入っている場合、それはオオバコ科の植物、ホソバウンラン(Toadflax)のことだったりするのでややこしい。

 

 さらに北上を続けると、アルミラージとキャタピラーが襲って来る。

 

「ラリホーが怖いからアルミラージを先に倒すわね」

「はい、睡眠姦なんてされたら、太くて硬ぁい芋虫さんに暴れっぱなしにされてしまいますからね」

 

 使い魔が何を言っているかわからない件。

 アルミラージの攻撃を受けながらも二人がかりで倒しきる。

 しかし、

 

「痛っ!」

 

 やはり強力なキャタピラーの攻撃を受け、9ポイントものダメージを受ける小悪魔。

 

「大丈夫?」

「はい、まだ平気です」

 

 今度はキャタピラーに攻撃を仕掛ける二人だったが、

 

「あっ!」

 

 再び攻撃を受ける小悪魔。

 もう一撃食らえば小悪魔はアウトだ。

 

「安全策で行くわ」

 

 小悪魔には防御させる。

 これで先制されても耐えられる。

 そしてパチュリーが薬草で小悪魔を回復。

 

「ぐっ」

 

 キャタピラーの攻撃が、今度はパチュリーに。

 しかし彼女のヒットポイントならまだまだ耐えられる。

 

「畳みかけるわよ!」

 

 二人がかりで追撃。

 パチュリーが反撃を受けるが、それでも何とか倒しきる。

 倒したモンスターを解体しつつ、パチュリーは状況を分析。

 

「これ以上北上するとカザーブ周辺のモンスターが現れるわね。マジックパワーに余裕があることだし、フル回復させて臨みましょう」

 

 小悪魔のホイミでパチュリーを治療し、山間部に足を踏み入れる。

 そして現れたのは、さまようよろい!

 

「硬いっ!」

「5ポイント程度しかダメージを与えられない!?」

 

 しかもさまようよろいはホイミスライムを呼び出してしまう。

 

「無理無理、逃げるわよ」

 

 ということで逃走する二人。

 幸い、回り込まれることも無く逃げることができた。

 そうしてさらに北上し、

 

「カザーブの村が見えてきました!」

 

 というところでモンスターに遭遇。

 

「腐ってる、この犬は腐っているわ!」

 

 腐った犬、アニマルゾンビ二匹とキラービー二匹の群れだ。

 

「キラービーのマヒが怖いから優先して倒して!」

「はい!」

 

 二人がかりでキラービーに挑む。

 パチュリーの鎖鎌が切り裂き、小悪魔のトゲのムチが唸る!

 

「まずは一体!」

「反撃が来ます!」

 

 キラービーの攻撃が小悪魔を捉えるが、

 

「大丈夫、マヒはしてません」

 

 少人数プレイでは怖いマヒは受けなかった模様。

 そして、

 

「来る!?」

 

 アニマルゾンビの攻撃を受けるが、

 

「この程度なら」

 

 問題なく耐えきる。

 

「キラービーに止めを!」

 

 次のターンも二人はキラービーを狙い、パチュリーは先制して止めを刺すことに成功!

 それを見て小悪魔は攻撃先をアニマルゾンビに変更しムチ打つ。

 

「くっ!」

 

 アニマルゾンビからの攻撃を受けるパチュリー。

 ダメージは割と高いが、彼女なら耐えられる。

 

「畳みかけるわよ」

「はい」

 

 二人がかりで攻撃。

 さすがに腐った犬、守備力は低く、パチュリーの鎖鎌による反撃も十分通じる。

 しかし怯まずに攻撃を仕掛けて来るアニマルゾンビ。

 それにも耐え、一体を倒しきる。

 そして、

 

「土へと還りなさい」

 

 次のターン、最後の反撃を受けつつも止めを刺すパチュリーだった。

 

「レベルが上がりました!」

 

 ここで小悪魔がレベルアップ!

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:6

 

ちから:25

すばやさ:26

たいりょく:18

かしこさ:16

うんのよさ:14

最大HP:35

最大MP:31

こうげき力:43

しゅび力:27

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:きのぼうし

そうしょくひん:なし

 

 

「ニフラムを覚えました!」

 

 退魔の呪文、二フラムが使えるようになった。

 

 そうして二人は手早くモンスターの解体を済ませると、カザーブの村へと駆け込むのだった。




 ロマリアに着き、初めての大金に喜ぶ小悪魔でしたが、武器のインフレはそれ以上でお買い物はおあずけという切ない状況。
 そんな装備で大丈夫か? とも思うのですが、何とかカザーブまで着きましたね。
 さまよう鎧からは逃げるしか無かったのですが、あれはここで出るモンスターとしては異常なくらい強いので。

 次回はカザーブの村の探索からですが、貧乏で物が買えない勇者こあくまは、とうとうオッサンのパンツにまで手を出してしまうという……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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カザーブの夜「お止めくださいませ! 主人が見ていますわ!」

「ここはカザーブ。山にかこまれた小さな村です」

 

 たどり着いたパチュリーたちを村の女性が迎えてくれる。

 

「まずは武器屋ですねっ」

「ちょ、ちょっと、そんなに焦らないで」

 

 初めての買い物を今度こそしたい小悪魔は、パチュリーの背を押すようにして武器屋に向かう。

 ロマリアからここまでの戦闘で、多少なりともお金は溜まっているはずなのだ。

 モンスターから剥ぎ取った肉や毛皮、皮などを売り換金すると、確かにまとまった額にはなったが、しかし……

 

「た、高くて手が出ません……」

 

 ということに。

 

「ううっ、お金が溜まるペースより、武器の値段がインフレして上がって行く方が速いなんて、世知辛すぎます」

 

 RPGの世界の物価なんてそんなものではあるが、それだけではなく、

 

「まぁ、そうなるわね。スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ならロマリアとカザーブの間にある第一すごろく場をクリアしさえすれば報酬として鋼の剣と500ゴールドが手に入るのだけれど」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されている。

 ゆえに装備的にも金銭的にもファミコン版ほどではないにしろ厳しいのだ。

 また、

 

「すごろく場が無くなった代わりに、ここカザーブの武器店で鋼の剣が売られているのね」

 

 品ぞろえを見て感心するパチュリー。

 鋼の剣は元々のファミコン版ではカザーブはもちろん、ロマリアでも店売りされていた武器。

 しかしスーパーファミコン版以降のリメイク作では第一すごろく場のクリア報酬アイテムになり、さらに盤上のマスに止まった場合に使えるよろず屋でも買えるためか、アッサラームまで行くか、眠りからの解放イベント後のノアニールでしか買えなくなっていたのだが。

 スマホ版以降ではすごろく場が削除されたためだろう、カザーブで店売りするようになっていた。

 

「そしてやはり第一すごろく場で商人も使える全体攻撃武器、ブーメランが拾えなくなっているのだからチェーンクロスを買いたいところよね」

 

 チェーンクロスは敵1グループにダメージを与えるムチ。

 鎖でできており、先端に分銅が付けられているものだ。

 賢者、盗賊、商人、遊び人が使用できる。

 

 一方小悪魔は、

 

「そうです! このカザーブで拾えるアイテムで金策をすれば!!」

「なるほど、ドラクエの勇者らしく民家のタンスからアイテムを…… 本当の勇者に目覚める日が来たというのね」

「なんですか、その勇者のイメージ!」

 

 もちろん、

 

 

 民間人らしき女性の悲痛な叫び。

 彼女を押しのけて民家に押し入り、無理矢理クローゼットを開けるのは勇者と呼ばれる者だった。

 

女性「おやめください!」

勇者「あるじゃねえかよ! コインと剣がよ!」

女性「おやめください! 勇者さまっ!」

ナレーション「もう勇者しない」

 

 

 というやつである。

 

「そんな風にして周りから向けられる冷たい視線に耐えることができるからこそ勇者って言われるんでしょう?」

「それって『ある意味勇者』っていう蔑称じゃないですか!」

「勇者には変わりないわよね」

「そんな勇者、嫌すぎます!」

 

 まぁ、そうなるわけだが。

 

「せっかくだから隊列変更をして。さぁ、手始めに盗賊の鍵で道具屋の施錠された勝手口を開けて中に潜入するのよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。心の準備が!」

 

 実際には勇者一行には精霊ルビスの加護により、各家屋に棲み付いている住居精霊(ヒース・スピリット)家の精(ブラウニー)白い婦人(シルキー)が使う疎外(エイリアネーション)隠蔽(コンシールメント)混乱(コンフュージョン)といった(パワー)が作用するため、勝手に家屋に入っても咎められることはほぼ無い。

 というより、住居精霊(ヒース・スピリット)に招かれて家に入っていると言うべきか。

 魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには、この家付きの家事妖精(ホブゴブリン)の姿が映っているし。

 紅魔館で働いているホフゴブリンと同一種だが、ここに居るのはアストラル体であるので常人の目には見えないのだ。

 

 そして小悪魔もこの世ならぬ存在、悪魔であるがゆえに本来なら家事妖精(ホブゴブリン)の姿が見えるはずなのだが、如何せん能力が低い彼女はパチュリーによる使い魔契約で物質空間に縛られ実体化している現状では霊視、アストラル・サイトが働かない。

 つまり、

 

(パチュリー様がああ仰っていますから、本当なんでしょうけど……)

 

 目に見えない、感じることができない存在に頼って、堂々と民家に不法侵入するのはためらわれる。

 故に、

 

「ぱ、パチュリー様。その辺で時間を潰して夜を待ちましょう」

 

 せめて夜中こっそり入りたいと、へたれることになる。

 

「そう?」

「よ、夜だけに得られるアイテムとか情報とかあるかも知れないじゃないですか!」

 

 そういうことで村の周辺で時間を潰し、夜になったところで民家への侵入を開始する。

 道具屋の裏手から施錠されたドアを盗賊の鍵を使って開けて中に入り……

 

「な、何か、かえって悪いことをしている気分になります」

 

 などとぼやきつつも、住居精霊(ヒース・スピリット)がタンスに隠していた精霊の隠し財宝を手に入れるのだが、

 

「何でしょう、コレ?」

 

 手に取った布の装備をパチュリーに見せる小悪魔。

 パチュリーはそれには手を触れずに見て、こう言う。

 

「……こぁ、あなた男の子だったら良かったのにね」

「なっ、何ですか急に! あっ、もしかして愛の告白ですか? パチュリー様が望むのなら私、男の娘になって結ばれるっていうのもやぶさかでは……」

 

 頭の中ではウェディングベルが鳴り響き、花嫁衣裳を着たパチュリーと共にバージンロードを歩む未来を幻視する小悪魔。

 私ちょっと男勇者でプレイし直してきます、と宣言しそうになるが、

 

「あなたが今着ている旅人の服より守備力が高いのよ、それ」

「はい?」

 

 小悪魔は妄想を浮かべながら両手で握りしめていたものを、改めてびろーんと広げてみる。

 

 ステテコパンツ。

 

「うえぇぇっ!?」

 

 店主の、オッサンのタンスから出て来たそれ。

 パチュリーが言うとおり、小悪魔が今着ている守備力8の旅人の服より上の、守備力10を誇る防具である。

 ただし男性専用。

 

「レミリアお嬢様や妹様でしたら性別そのままでも、男水着チャレンジみたいにトップレスにこれ一つでもばれないかもしれませんが……」

 

 男水着チャレンジとは、胸の小さな、性的特徴の乏しい女の子が男性用の水着を着用し、トップレスの状態で女性だと気づかれないようにプールや海水浴場など公共の場へ出るという無駄に高度な男装露出羞恥プレイのことである。

 

「身近な存在でそういう想像しないでくれる?」

 

 パチュリーはげんなりした表情で使い魔に命じる。

 それはそれとして、

 

「そもそも男勇者でも着れないですよ、これ!」

 

 と小悪魔は叫ぶ。

 そう、このステテコパンツを着用できるのは男性の戦士、僧侶、商人、遊び人、盗賊のみである。

 さすがに勇者をパンツ一丁でうろつかせる訳には行かなかった模様。

 

「同じく勇者である父親は覆面パンツなのにね……」

 

 つぶやくパチュリー。

 

「た、確かにファミコン版ではカンダタや殺人鬼なんかと同じ覆面パンツなグラフィックが使われていた勇者の父、先代勇者オルテガですが……」

 

 小悪魔は言う。

 

「でもスーパーファミコン版以降のリメイク作では専用のグラフィックが与えられて、その汚名は返上されましたよね?」

 

 厳密に言うと北米で発売されたNES版の時点で既にグラフィックは変わっていたが。

 しかしパチュリーは首を振って、

 

「そう思えたのだけれどね。さらに後の作品『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』では、初代ドラゴンクエストで竜王の問いかけに「はい」と答えてしまったロトの血を引く者の成れの果てとして覆面パンツの『やみのせんし』が登場するわ」

 

 つまり、

 

「子孫がこれということは先祖のオルテガもお察しという話よね」

 

 メタな話をすれば、公式作品中でオルテガ覆面パンツ説を肯定しているということである。

 

「そ、そんなぁ……」

 

 がっくりと膝をつく小悪魔。

 

 なお、この時点で男盗賊が使えるのは守備力12の革の鎧が最上だから、資金を節約する場合はこのステテコパンツで行くという手もアリである。

 さらにその場合、男盗賊の次の防具はノアニールを眠りから解き放って使えるようになった道具屋からみかわしの服を購入するか、ポルトガまで行って黒装束を購入するかまで待たねばならず、ずいぶんと長い間ステテコパンツ一丁の姿が続くことになる……

 

 気を取り直し、

 

「道具屋の主人の両脇にあった宝箱、一つは棍棒だったけど……」

 

 探索を続ける二人。

 

「もう一つの宝箱は毒針ですね」

 

 パチュリーは毒針を手に取って見定めた。

 

「毒針は武器のようね。これで急所を狙えばどんな強い魔物もいちころでしょうね」

「どんな武器でも急所を刺されたら死ぬと思いますが……」

 

 かんざしとか、先を研いだ自転車のスポークとか。

 しかし、

 

「あら? 私たちの中にこれを装備できる人は、一人も居ないみたいね」

 

 毒針は魔法使いと盗賊にしか使えない。

 

「お店に持って行けば7ゴールドで売れるわね」

 

 ということで換金して資金源にするしかなかった。

 

 次いで向かった酒場の二階の寝室、小悪魔はまだ起きているマスターを気にしつつも樽の中にあった命の木の実を。

 タンスから毛皮のフードを手に入れる。

 

「ふわふわですねっ、守備力もパチュリー様が身に着けているターバンより上ですし」

 

 ケープと一体になった、可愛らしい物だ。

 こちらは女性専用品。

 そのまま出ようとするが、ふとベッドで息子と共に寝ている女性が何か寝言を言っているのに気付く。

 

「お止めくださいませ! 主人が見ていますわ!」

 

 いきなり叫ぶ女性にびっくり。

 女性も自分の声で目が覚めたらしく、顔を赤らめ呟いていた。

 

「あらいやだ。寝ぼけちゃったみたい……」

 

 そしてパチュリーは、

 

「今の聞きました、パチュリー様。あの人、村の入り口で私たちに声をかけてくれた女性ですよ。いわばこの村の顔、代表のような一般女性じゃないですか。その人が実は夫が居て、子供が隣で寝ている寝室で熟れた身体を持て余す人妻だったなんて。しかも見ている夢、つまり内に秘められている願望は夫の目の前で寝取られるという内容! 昭和の時代に作られた、小学生もプレイする全年齢ゲームにこんな濃い性癖を突っ込んで、その後もアッ〇ルチェックがあろうとも自粛して削除したりせずに頑として残し続ける……」

 

 などと早口で言いまくる小悪魔を慌てて外に連れ出す。

 

「全国一億五千万人のドラクエファンの皆さんに寝取られ性癖を埋め込む。だからなんですね、幼少の頃、ドラクエ3をプレイしてこんなことで性の目覚めを感じた人たちが大人になり、自分がクリエイターに、作る側に立つことで、寝取られものというジャンルが花開いた」

「そんなわけ無いでしょう! そういうのはもっと古くから、ギリシャ神話や源氏物語なんかで触れられてるから!」

 

 嫌々ながら、頭の中の書籍データベースからそういう事例を拾ってきて反論するパチュリーだったが、小悪魔の興奮は収まらず、逆に燃料を投下されたとでも言うようにまくしたてる。

 

「そう、寝取られは歴史ある文化です! 恋愛の国フランスでは「寝取られ男」の事を「コキュ(cocu)」と言い、コキュを主題とした文学や芝居などが昔から盛んに発表される「コキュ文化」というものがあって……」

「うるさい、黙れ」

 

 真夜中の村、興奮する小悪魔を落ち着かせるのに、パチュリーは人気のない場所に向かう。

 具体的には墓地。

 そこには……

 

「パチュリー様? な、何だかお墓に骸骨が居るように見えるんですけど」

「頭は冷えたかしら?」

「この場合、冷えるのは頭じゃなくて肝だと思います……」

 

 小悪魔が勇気を出して骸骨に声をかけてみると、彼は素手で熊を倒したと伝えられている昔の武闘家だった。

 しかし実は鉄の爪を使って熊を倒していたのだということを話してくれた。

 

「道具屋さんが毒針を隠し持っていましたから、てっきり盗賊あたりが「地獄へおちろー!」とか言いながら、ぷすっ、てやっちゃったかと思ったのですが……」

「まぁ、そう考えても不思議は無いわよね」

 

 ともあれ墓の前の地面から小さなメダルを回収。

 

「これで10枚目ね」

「良かったですね、パチュリー様」

「ええ、これでようやくガーターベルトがもらえるわ」

「パチュリー様のがーたーべると……」

「こぁ?」

「今すぐアリアハンに帰って交換しましょう!」

 

 パチュリーが止める暇も無く、キメラの翼を使ってしまう小悪魔。

 アリアハンに跳ぶと街の端にある井戸に。

 ロープを伝って降りて行った先の建物では、小さなメダルを景品と交換してくれるメダルおじさんが待っている。

 

「よし! これでこあくまはメダルを10枚集めたので、ほうびにガーターベルトを与えよう!」

 

 前回以降、新たに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりにガーターベルトを渡してくれた。

 

「こあくまからは現在10枚メダルを預かっておる。これが15枚になった時は刃のブーメランを与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」

 

 そしてまた勇者の実家で身体を休めることにした二人だったが、

 

「何でガーターベルトを持って、にじり寄って来るの!」

「もちろんパチュリー様にガーターベルトの付け方を教えて差し上げるためですよ。知ってました? ガーターベルトのベルトは、下着の下を通すんですよ」

「それぐらい知ってるわ! でないとトイレの時に下ろすことができなくなるじゃない!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶパチュリー。

 

「その反応…… 実はトイレで困って間に合わず、おもら……」

「うるさい、黙れ」

 

 冷え冷えとした視線を小悪魔に向けるパチュリー。

 そう、養豚場のブタでも見るかのように冷たい目である。

 しかし、そんな仕打ちであっても、

 

「ああっ、そんな目で見られたら、濡れちゃいますっ!」

 

 小悪魔にとってはご褒美にしかならない……

 

「……それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 パチュリーは諦めた様子でそう言うと、棍棒、毒針などを処分し、小悪魔が勝手に使ってしまったキメラの翼を買い足したりした上で、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:347G

パチュリー:309G

 

「それでここまでに戦い等で得た収入が156ゴールドで、一人当たり78ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:425G

パチュリー:387G

 

「そしてあなたに使ってもらう毛皮のフードの売却価格は187ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の93ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」

「あ……」

「でも今まで使っていた木の帽子は105ゴールドで売れるから」

「12ゴールドの黒字ですね、良かった……」

「つまり、こういうこと」

 

小悪魔:437G

パチュリー:480G

 

「そして装飾品のガーターベルトだけれど」

「これはもちろんパチュリー様のものですよね!」

 

 ガーターベルトは、守備力を+3する上、装備中は性格を『セクシーギャル』に変える効果を持つ。

 これでパチュリーを淫乱セクシーギャルにした上で主従逆転、借金奴隷に……

 と小悪魔が妄想したところでパチュリーがあっさりと言う。

 

「私は使わないわよ」

「はい?」

「商人は、1に体力、次に力が何より必要。ガーターベルトを装備して性格をセクシーギャルに変更してしまうと、そこが伸びなくなるし」

 

 ということ。

 

「それにカザーブへの移動でも、あなた危なくて安全策を取って戦闘中に防御して治療とか必要だったでしょう。レベルアップしてもヒットポイントはちっとも伸びないし」

「パチュリー様の、商人のヒットポイントの伸びがおかしいだけですよ! 私は普通、いえヒットポイントはある方ですよ」

「そうかも知れないけど、あなたの守備力の強化を優先的にしないといけないのは確かでしょう?」

「そ、それはそうですけど……」

 

 そんなわけでガーターベルトは小悪魔が身に着けることに。

 

「ガーターベルトの売却価格は975ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の487ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」

「高っ!?」

「これで清算すると」

 

小悪魔:-50G

パチュリー:917G(+未払い分50G=967G)

 

「あ、ああ…… 買い物ができないどころかまた借金が……」

 

 がっくりと膝をつく小悪魔。

 パチュリーはというと、

 

「鎖鎌を下取りに出せば、カザーブでチェーンクロスが買えるわね」

 

 というわけで翌朝にはキメラの翼でカザーブに行き、チェーンクロスを購入することに。

 最終的に二人の装備とパラメーターは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:18

すばやさ:17

たいりょく:45

かしこさ:12

うんのよさ:8

最大HP:90

最大MP:24

こうげき力:45

しゅび力:32

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:6

 

ちから:25

すばやさ:26

たいりょく:18

かしこさ:16

うんのよさ:14

最大HP:35

最大MP:31

こうげき力:43

しゅび力:34

 

ぶき:とげのむち

よろい:たびびとのふく

たて:なし

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ガーターベルト

 

 

 という具合に。

 

「私、勇者のはずなのに、ヒットポイントだけでなく、とうとう攻撃力まで商人のパチュリー様に抜かれてしまいました」

「リメイク版だとムチやブーメランなんかの複数攻撃できる武器を優先して入手するべきなのだけれど、チェーンクロスは勇者には扱えない武器だものね」

 

 だからこの辺で逆転が起こるのだ。

 

「スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版だと、すごろく場でブーメランが手に入っているから攻撃力は低くとも全体攻撃ができるということでまた違った優位性が主張できたのでしょうけど」

「すごろく場が無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむこの世界では?」

「ブーメランの入手はノアニールの村を目覚めさせた後。多分、小さなメダルをあと五枚集めて刃のブーメランを入手する方が早いわ」

 

 ともあれ、これで所持金は、

 

小悪魔:-50G

パチュリー:157G(+未払い分50G=207G)

 

 ということになるのだった。




 カザーブって山間の小さな村なんですが、これだけネタが膨らむとは、相変わらずの小悪魔でした。
 主従逆転を狙うどころか、勇者でありながら商人にヒットポイントだけではなく強さまで逆転されているというのが現実なんですけどね。

 次回は眠りの村、ノアニール行きですけど、この分だとお金が無くて装備が買えずに商人の足を引っ張る勇者などといった展開があり得そうですね……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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ノアニールの村は睡眠姦プレイスポット?(小悪魔談)

「それじゃあノアニールの村に行きましょうか」

 

 カザーブの村を出て北上する二人だったが、

 

「カニさんです!」

 

 軍隊ガニ4体の群れに遭遇する。

 

「今夜はカニ料理かしら? ロースト? いえワイン蒸しもいいわね」

 

 ということで戦闘を開始。

 まずは小悪魔がトゲのムチで先制するが、

 

「か、硬ぁい」

 

 彼女の攻撃力では数ポイントしかダメージを与えられない。

 しかも、

 

「くっ!」

「パチュリー様!?」

 

 先頭に立つパチュリーに連続で入る攻撃はキャタピラー並み。

 ヒットポイントが多いパチュリーだからこそ耐えているが、小悪魔なら四発当たったこの時点で死んでいる……

 そしてパチュリーの反撃。

 

「買っておいてよかったわね、チェーンクロス」

 

 分銅付き鎖でシバキ回るパチュリー。

 このような硬いモンスターと戦うと、小悪魔より攻撃力が高いことが露骨な差となって現れるのだった。

 そして次のターンだが、

 

「倒せ、ない」

 

 硬い甲羅に苦戦する小悪魔に、

 

「カフッ、カハッ!」

 

 とうとう軍隊ガニからの反撃が入ってしまう。

 

「次のターンで自分を回復させなさい」

「で、でも……」

 

 回復をするということは攻撃できないということだが、

 

「今のあなたが与えられるダメージだと、1ターン攻撃を休んでもそんなに影響は出ないわ」

 

 とパチュリーは冷静に分析する。

 そんなわけで小悪魔は回復呪文ホイミで自分を治療。

 そうして殴り合い、とうとう四匹とも倒すことに成功する。

 このような格上との激戦故、

 

「レベルが上がったわ」

 

 パチュリーがレベルアップ。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:8

 

ちから:19

すばやさ:18

たいりょく:48

かしこさ:13

うんのよさ:8

最大HP:96

最大MP:26

こうげき力:46

しゅび力:33

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:かわのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

「ああ、パチュリー様との差がさらに開いていきます……」

「いいからホイミで治療して。これからはノアニール地方の敵が出るのだから、あなた自身もヒットポイントはフル回復させるのよ」

 

 回復なしで戦闘に耐えきったパチュリーだったが、さすがにダメージは大きくフル回復にはホイミ2回を必要とした。

 また小悪魔自身もホイミを使ってヒットポイントをフルまで上げておく。

 しかし……

 

「どうしました、パチュリー様」

「この先、出没するカラス、デスフラッターだけれど最大4羽で現れて2回攻撃してくるのよね。しかも攻撃力は今戦った軍隊ガニ以上」

 

 つまり受けるダメージも二倍以上?

 今の戦いぶりから見て、そんなものに当たったらパチュリーはともかく小悪魔は、

 

「やめてください。死んでしまいます」

 

 ということに。

 

「仕方ないわね、脱ぎなさい」

 

 パチュリーは小悪魔の着込んでいる旅人の服を脱がせにかかる。

 

「ぱ、パチュリー様、こんな屋外でスルんですか?」

「いいからさっさと脱いで渡しなさい」

「そ、そんなぁ、突如としてサドに目覚めたパチュリー様に野外露出プレイで調教されてしまうなんて……」

 

 嘆くような口ぶりだが、もちろんその表情はまったく正反対で、

 

(いい……)

 

 蕩け切っていた。

 パチュリーはというと、一人変な勘違いをしている小悪魔から旅人の服を剥いで着込むと、代わりに自分が着ていた革の鎧と盾を押し付ける。

 

「これで何とかなるかしら?」

 

 小悪魔の守備力は42までアップ。

 反対にパチュリーの守備力は17まで大幅に下がってしまったが。

 

「ああっ、パチュリー様の香りが移った革の鎧を着せられてしまうなんてっ!」

 

 野外露出調教に胸を高鳴らせたものの空振りし、しかしパチュリーの匂いに包まれたおかげで恍惚状態の小悪魔は、

 

「行くわよ」

「はいぃぃ……」

 

 死への恐怖も忘れてふらふらとパチュリーについて行くのだった。

 そして現れたのは、恐れていたデスフラッター4羽にアニマルゾンビが二匹という大集団。

 素早いデスフラッター4羽の連続攻撃が次々に二人を襲う!

 

「こ、これパチュリー様に防具を貸してもらっていなかったら、確実に死んでいましたよ……」

 

 革の盾で必死に攻撃を受け流しながらトゲのムチを振るう小悪魔。

 そしてパチュリーのチェーンクロスがデスフラッターの群れを薙ぎ払う!

 

「3羽まで倒せたわね」

 

 これもパチュリーがチェーンクロスを買っておいたからの戦果。

 一方で小悪魔のヒットポイントも次のターンで攻撃が集中するようなことがあったら耐えきれないところまですり減らされており、

 

「自分を回復させなさい。私は最後のデスフラッターに止めを刺すわ」

「は、はい」

 

 小悪魔がホイミで自分を回復させ、パチュリーの攻撃がデスフラッターを仕留める。

 あとは二匹のアニマルゾンビのみだが、

 

「来る!?」

 

 アニマルゾンビの咆哮!

 大音量のハウリングに射すくめられてしまう二人。

 

「素早さをゼロに下げられちゃいました!」

 

 素早さを下げるボミオスの呪文効果だ。

 

「回復させた後で良かったです。そうでなければ間に合わずにやられていたかも」

 

 背筋を震わせる小悪魔だったが、

 

「大丈夫よ。ボミオスで素早さが下がっても、そのターンの行動順序に影響は無いの。効果は次のターンから出るようになっているから」

 

 とパチュリー。

 

「そうでなければ安全策を取って、あなたに防御をさせて私が薬草で回復させているところよ」

 

 そうすれば戦闘が長引くことにはなるが安全に回復をさせることができるのだから。

 その上で、

 

「アニマルゾンビはヒットポイントが高いから、素早さが下がってもそんなに大きな影響は出ないし」

 

 次のターン、二人がかりで攻撃するが倒しきれない。

 つまり先制してもしなくても反撃を受ける真っ向からの殴り合いなら、大して違いはないということでもあった。

 一方小悪魔は、

 

「素早さがゼロ、これ以上下がらなくなったんですから、ボミオスを無駄撃ちしてくれればいいのに」

 

 ムチを振りつつ、ぼやくが、

 

「アニマルゾンビって頭がいいからそういう行動はしないわ。こちらがピオリムで素早さを上げたりするとまた使って来るといった具合に、相手の状態を見て行動を変える賢さがあるの」

「腐っているのに!?」

 

 アニマルゾンビの判断力は2、これはモンスターにおける最大値である。

 

「止め!」

 

 その次のターンで、アニマルゾンビを倒すことに成功する。

 

「か、勝てたんですね……」

「ええ、もうノアニールも目の前だし、念のため回復をしたら駆け込みましょう」

 

 小悪魔にホイミで治療をさせたらノアニールの村に足を踏み入れる。

 しかし、

 

「みなさん立ったまま寝ていますね」

 

 村人の様子がおかしい。

 

「試しに起こしてみましょうか?」

 

 小悪魔は女性に近づくと、その耳元にしっとりと濡れた声でささやきかける。

 

「おきて、ください。ねぇ、もう、ゆめのじかんはおわりですよ……」

 

 ぴくん、と寝ているはずの女性の身体が反応した、ような気がした。

 

「そろそろ起きないと…… 目を覚まさないとダメだと、思います」

 

 くすりと笑って、

 

「起きないと…… 大変なことになって、しまう。かも?」

 

 その手が女性の胸元へ伸び……

 

「止めなさい」

 

 背後から伸びた鎖付き分銅、チェーンクロスに巻き付かれ、止められる。

 

「凄い腕前ですね、パチュリー様」

 

 感心する小悪魔にパチュリーは、

 

「それはレーベからずっと鎖鎌を使い続けていれば、このチェーンクロスだって無理なく扱えるようになるわよ」

 

 と肩をすくめる。

 そうして小悪魔に、

 

「その手で何をするつもりだったか、言え!」

 

 とばかりに詰問すると……

 

「睡眠姦ってドキドキしますよね」

「はぁ?」

「無防備になった女性の身体を好き放題に調教する。意識は無いのに確かに身体に刻まれていく加虐。そうして心は無垢のまま、身体は取り返しのつかないマゾメスに……」

「止めなさい」

 

 聞くのではなかったと、嘆息するパチュリー。

 一方小悪魔は辺りを見回すと、

 

「と言うかこの村、よくこんな無防備でいられますよね? 睡眠姦プレイできるスポットとして有名になりそうなものですけど」

「あなたの言動を聞いていると、その危険性が本当に実感できるわね」

「褒められちゃいました」

「褒めてない」

 

 そんなわけで、

 

「村の様子を探ってみましょう」

 

 村中を見て回るついでに、力の種、革の腰巻き、満月草を手に入れた。

 そして村外れの一軒の家に向かうと、その玄関にはようやく起きている村人の姿が。

 離れているこの家だけが助かったらしい。

 

「どうかエルフたちに夢見るルビーをかえしてやってくだされ! 夢見るルビーをさがしてエルフにかえさなければ、この村にかけられた呪いがとけませぬのじゃ。エルフのかくれ里は西の洞くつのそば。森の中にあるそうじゃ」

 

 と頼み込まれるが、

 

「今の私たちの強さではね……」

 

 という話である。

 

「それじゃあ、ロマリアに帰って精算してみましょうか」

 

 パチュリーはそう言うと、キメラの翼を使ってロマリアへ戻ることにする。

 

「今夜はカニ料理にしてもらうことにして」

 

 倒した軍隊ガニを宿屋に卸すなどして金策をし、使ってしまったキメラの翼も補充。

 それから今晩の分の宿代を差し引いた上で、それぞれの所持金を計算する。

 前回の精算時の計算が、

 

小悪魔:-50G

パチュリー:157G(+未払い分50G=207G)

 

「それでここまでに戦い等で得た収入が135ゴールドで、一人当たり67ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:17G

パチュリー:274G

 

「はっきり言うわね。次はアッサラームに向かうけど、今回以上に厳しい戦いになるのは目に見えているわ」

「はい?」

「だからあなたの守備力向上は必須。革の盾はそのまま使ってもらって、新たに手に入れた革の腰巻もあなたに使ってもらうわ。革の盾の売値は67ゴールド、革の腰巻の売値は600ゴールドで、こちらは二人に所有権があるから、半額の300ゴールドを私に払えば自分の物にできる。あ、そうそう、あなたが使っていた旅人の服を52ゴールドで売り払えばその分は差し引けるわね」

 

小悪魔:-298G

パチュリー:291G(+未払い分298G=589G)

 

「あ、ああ…… こんなに借金がぁ……」

 

 またもや借金を負うことになりがっくりと肩を落とす小悪魔。

 あまりに酷いその様子に、パチュリーは、仕方が無いと息をついて、

 

「あとはノアニールで手に入れた力の種だけど、これは売値が180ゴールド。あなたに半額の90ゴールドを払って、私が使わせてもらうわね」

 

小悪魔:-208G

パチュリー:291G(+未払い分208G=499G)

 

 焼け石に水ではあるが、しかしパチュリーは未だ放心状態の小悪魔の耳元にこうささやく。

 

「マッサージ、してくれるんでしょう?」

「ハイヨロコンデー!!」

 

 即座に復活する小悪魔だった。




 お金が無くて装備が買えずに足を引っ張る勇者などといった展開があり得そう、と思っていたら本当にそんな具合に。
 パチュリー様が緊急回避的に自分の装備と交換して窮地を脱しましたが、ノアニールの次はアッサラーム。
 今回以上に危険場所なんですけど、大丈夫なんでしょうかね?
 最悪、死亡した小悪魔を棺桶に入れてパチュリー様単独でたどり着くということになるかも?

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


 あ、次回はロマリアの宿で毎度おなじみ小悪魔によるセクハラマッサージから始まる予定です。

「どうです、パチュリー様、気持ちいいでしょう?」
(ダメ、相部屋になった母子が見てる、見られてるっ……)

 という具合に。
 悪魔に情けなんてかけるから……


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宿で母子に見られながら…… そしてアッサラームへ

 ロマリアの宿でカニのワイン蒸しを満喫した後……

 またセーブを利用して力の種で力の能力値が最大の3ポイント上がるまで筋力強化と、その痛みを和らげる小悪魔のマッサージを受けるパチュリー。

 

「どうですパチュリー様、気持ちいいでしょう?」

(ダメ、相部屋になった母子が見てる、見られてるっ……)

 

 両手を口に当て、漏れ出そうになる嬌声を必死にこらえるパチュリー。

 その背に覆いかぶさりマッサージを続ける小悪魔は、真っ赤になっているパチュリーの耳元にこうささやく。

 

「見られることに興奮していらっしゃるんですね?」

 

 ズクン、とパチュリーの身体の芯に衝撃にも似た何かが走った。

 背筋がゾクゾクと震え、そして、

 

「今、イッちゃいました?」

 

 笑う、小悪魔。

 

「ほら、何とか言ってくださいパチュリー様!」

 

 そう言いながら、指先をパチュリーの身体のツボにぐりりとねじり込み、

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!」

 

 その口から悲鳴を搾り取る。

 そこに、

 

「あらっ?」

 

 小悪魔を止める小さな手。

 

「勇者様、お姉ちゃんをいじめたらダメだよ」

 

 と、相部屋になった子供。

 彼を抱きしめて動きを止めていた母親は、パチュリーの痴態にあてられたのか放心状態で。

 

(こちらはこちらで見ているだけで、ですか。しかも幼い自分の息子を抱きしめながら、ですね)

 

 背徳的に過ぎる淫らなシチュエーションに内心、にんまりと笑いながら、しかしそれをおくびにも出さず、小悪魔は優しいお姉さんの笑みを浮かべて男の子に説明する。

 

「いじめてなんかいないですよ、ほら」

 

 小悪魔は先ほどから隠しているパチュリーの顔をぐいと上げさせ、

 

「あうっ!」

「こんなに気持ちよさそうにしているでしょう?」

 

 そんなわけ無いでしょう、と反論しようとしたパチュリーは、

 

「う、うん……」

 

 と分からないなりにオスの本能が感じているのか顔を真っ赤にした少年にそれを肯定され、羞恥の極みに落とされる。

 

「ふふふっ、パチュリー様、どうです? 思春期も迎えていない男の子にエッチな本性を暴かれ、見られてしまうというのは? 興奮しますよね? 気持ちいいですよね?」

「やめ、なさい……」

 

 これ以上は悪ふざけが過ぎる、と主従契約に基づく強制力で小悪魔を拘束しようとするが、

 

「気付いていないんですか、パチュリー様。今回は力が1ポイントしか上がってませんよね?」

 

 そう言われて気付く。

 力の種による筋力アップが定着し終わっていることに。

 

「つまり、やり直すんですよね? リセットで全部無かったことにされるんですよね?」

(無かった、ことに……?)

 

 パチュリーは脳内麻薬でハイになっている頭脳でぼんやりと考える。

 背筋を走る悪寒、それに気付いてはいけないという警告を同時に感じながら。

 そうして小悪魔は主人の耳へと致命的な媚毒を流し込む。

 

「どうせ無かったことになるのですから、ここは存分に楽しまれた方がいいですよね?」

「ぁ…… ぅ……」

「現実でのように体裁を気にすることなく、思いのまま貪って……

 ほら、想像できるでしょう?

 今、ここでならパチュリー様は望むまま、欲しいだけ、好きなだけ楽しめるんですよ」

 

 そうしてパチュリーは震える声で……

 

 

 

 悪魔に身体を預けるというのはこういうことです!

 

 とばかりに弄ばれてしまったパチュリー。

 

「悪魔に情けなんてかけるんじゃなかったわ……」

 

 げんなりしながら起床し、出発の準備をする。

 そして、

 

「パチュリー様、この革の腰巻、本当に女性でも着られる防具なんですかぁ?」

 

 と全裸に腰巻だけ、トップレスで現れる小悪魔に吹き出しそうになる。

 

「何て格好をしているの、普段着の上に巻くものよ、それ」

 

 アマゾネスじゃないんだからという話。

 元々ドラクエ5のパパスの一張羅だったそれをドラクエ3のリメイク作を作る際に取り入れたものだが、そのパパスだってズボン、胸当て、肩当てを身に着けた上から巻いているのだし。

 

 そういうわけで勇者の普段着、つまり橙色の全身タイツの上に腰巻を巻く小悪魔。

 ドラクエ3で全身タイツというと僧侶が思い浮かぶが、実は勇者も服の下に身に着けているのだった。

 しかし、

 

「全身タイツに革の腰巻っていうのも……」

 

 かなりちぐはぐな格好。

 勇者のタイツは僧侶のものに似ているが、あれより色味が薄くより肌色に近いものだったりするので。

 

「なるほど、ドラクエ6では『かっこよさ』が20も下がってしまうもの。ハッサンのかっこよさの初期値が0である元凶だものね……」

 

 などと感心するパチュリー。

 とはいえ他のシリーズ作品と違って守備力が倍の24もあって、カザーブで買える鉄の鎧ともわずか1ポイント差しかない優秀な防具である。

 小悪魔の命を守るには絶対に必要な装備だった。

 

 そして二人は一路アッサラームへと。

 途中、例によってアルミラージとキャタピラーに遭遇し蹴散らす。

 

「ああ、本当にパチュリー様が強くなってます」

 

 小悪魔の攻撃ダメージが十数ポイントなら、パチュリーの攻撃は20ポイントを超える。

 

「昨晩、力の種も使ったし」

「そ、それもありました……」

 

 セクハラに勤しんだおかげでそこを忘れている小悪魔だった。

 そしてパチュリーは橋を渡る前にその辺りをウロウロしてモンスターとの遭遇を待つ。

 

「パチュリー様?」

「この橋の少し手前が、アッサラームのモンスターが出る境目なのよ。だからここでロマリア周辺に出るモンスターに遭遇しておけば」

「アッサラーム周辺の強力なモンスターと出合う回数を減らすことができる?」

「ええ、上手く行けば1回だけしか出合わずアッサラームにたどり着けるわ」

 

 ということで現れたのは、

 

「キャタピラーと魔法使いです! 確かにここはまだロマリア周辺のモンスターが出る位置ですね」

 

 これもまたサクっと倒し、

 

「ヒットポイントをフル回復させておいて」

「はい、ホイミですね」

 

 ヒットポイントを満タンにした上で橋を渡る二人。

 そうして南下していくとアッサラームの街が見えてくるが、

 

「バンパイアとキャットフライです!」

 

 とうとうモンスターと遭遇。

 

「良かった、まだマシな方で」

 

 幸い相手は一体ずつだし、何とかなる範疇だ。

 まぁ、パチュリーも小悪魔もグループ攻撃武器なのだから、欲を言えば1種類、1グループのみで出てくれるのが理想なのだが贅沢は言えない。

 

「バンパイアのヒャドが怖いから、先に沈めるわよ」

「はい」

 

 攻撃を仕掛ける二人だったが、二人がかりでも倒しきれず手痛い反撃を食らう。

 

「バンパイアが昼間から青空を飛び回って…… 不謹慎ですよっ、あなた!!」

 

 と小悪魔が言うとおり、

 

「ファミコン版では夜しか出なかったんだけど、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと昼間でも出るようになっているのよねぇ……」

 

 特にスーパーファミコン版では青空をバックにギュンギュン飛び回るため、違和感が酷いものになっていた。

 

「こうなったらニフラムで光にな……」

「バンパイアは二フラムに完全耐性だから!」

 

 邪悪な魂を聖なる力で光の彼方へと消し去る退魔の呪文、ニフラムを使おうとする小悪魔を止めるパチュリー。

 

「昼間から出るだけあって効かないのよ、こいつ。こんなのでも高位の吸血鬼なのかしらね?」

「こんなのがレミリアお嬢様と一緒ですか!?」

 

 パチュリーたちが住んでいる紅魔館の主、レミリア・スカーレットは十字架など効かない高位の吸血鬼である。

 そんなわけで真っ正面から殴り合うしかない。

 幸いバンパイアの氷結呪文ヒャドの使用率は半分以下の3/8。

 しかし、

 

「くっ、守備力を高めてもらっていなかったら死んでますよ、コレ!」

 

 物理の攻撃力もさまようよろい以上。

 一緒に出たキャットフライの攻撃力も似たようなものであり、ヒットポイントの低い小悪魔は、パチュリーに借金をして防具を揃えていなかったら確実に死んでいたところだった。

 

「次のターンで薬草を使って自分を回復させなさい!」

「は、はい!」

 

 ホイミではなく、薬草。

 何故パチュリーがそう指示したのかというと、

 

「マホトーン!?」

 

 素早いキャットフライは先制して魔法を封じるマホトーンの呪文を唱えて来たのだ!

 幸い二人とも効かずに済んだのだが、

 

「危ないところでした」

 

 薬草で自分のヒットポイントを回復させながら冷や汗をかく小悪魔。

 

「回復にホイミを選んでいて、もしマホトーンで呪文を封じられていたら……」

 

 そう、その可能性を考えてパチュリーは最初から薬草で回復するよう指示したのだ。

 そして、

 

「これでとどめよ!」

 

 パチュリーのチェーンクロスがバンパイアのヒットポイントを削り切る。

 後はキャットフライだが、

 

「ぐっ!」

 

 通常より多く羽ばたくと急降下爆撃のような渾身の攻撃、つまり痛恨の一撃を放ってくる。

 幸い不発だったが、その場合でも受ける通常ダメージもまたシャレにならない強さだ。

 

「こっちは魔法に頼っていないんですから、マホトーンを唱えてくれればいいのに」

 

 ぼやく小悪魔だったが、

 

「キャットフライはマジックパワーが低いから、マホトーンは一回しか唱えられないのよ」

 

 一見、それは弱さにつながるように思えるがそうではない。

 マホトーンを無駄撃ちせずに即座に物理攻撃に切り替えて来るというのは思い切りが良く脅威である。

 

 キャットフライの行動パターンはマホトーン(200/256)、通常攻撃(26/256)、逃げる(14/256)、痛恨の一撃(12/256)、防御(4/256)。

 かなりの高確率で、まずは素早さを生かした先制マホトーンで魔法を封じる手に出るが、問題はその後。

 マホトーンを選べなくなった分、痛恨の一撃を選択する確率が一気に上がるのだ。

 こちらが低レベルだと逃げるという行動を選ばないこともあり、痛恨の一撃を選ぶ確率は実に12/42、3割近くにもなる。

 これはこの周辺で最も脅威とされるあばれざる以上であり、それどころか決められたローテーションで行動をするモンスターを除けば単独トップの数値である。

 

「私はともかく、あなたが守備力無視の痛恨攻撃を受けたら一撃死しかねないわ」

「ええええっ!?」

 

 だからさっさと倒したいが、

 

「このモンスター、妙にしぶとくありませんか?」

「見かけによらず守備力が高くて、さまようよろい並みに硬いのよ!」

「ええっ!?」

「最大ヒットポイントもファミコン版の35ポイントから、40ポイントに地味に増えているしね」

 

 もうここから先は、小悪魔が痛恨を食らうのが先か、キャットフライのヒットポイントを削り切るのが先かという勝負。

 そして……

 

「か、勝ちました……」

 

 ようやく倒しきる。

 

「ぬいぐるみはさすがに手に入らなかったわね」

 

 キャットフライは1/256の確率でぬいぐるみを落とす。

 これはネコの着ぐるみだが、鋼の鎧以上の守備力を持つ防具である上、全職業で装備可能という破格の代物である。

 一方、

 

「レベルが上がりました!」

 

 小悪魔はレベルアップ。

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:29

すばやさ:28

たいりょく:20

かしこさ:17

うんのよさ:14

最大HP:39

最大MP:33

こうげき力:47

しゅび力:55

 

ぶき:とげのむち

よろい:かわのこしまき

たて:かわのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ガーターベルト

 

 

「だいぶ攻撃力が上がりましたが、それでもパチュリー様に負けてます。それにヒットポイントが相変わらず低い……」

 

 嘆く小悪魔だが、しかし彼女はヒットポイントが低いわけでは無い。

 パチュリーと比べるからそう感じるのであって普通以上にあるし、通常なら逆に他のメンバーのヒットポイントの低さを気にしているような状況なのだが……

 

「とにかく、治療したらアッサラームに駆け込むわよ」

 

 これ以上のエンカウントは無いとは思うが、念のため治療しヒットポイントを満タンにして、アッサラームの街へと向かうのだった。




 相変わらずの小悪魔によるセクハラから始まるこのお話。
 まぁ、マッサージなんですけどね!

 そしてアッサラームへ。
 この周辺で出るモンスターは恐ろしく強いんですよね。
 低レベルで進む場合、薬草を大量に持って逃げては治療し、逃げては治療し、まぁ、一人や二人死んでも教会で生き返らせればいいや、という感じで駆け込むのが普通なんですけどね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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アッサラームの昼と夜

 何とかアッサラームにたどり着くパチュリーと小悪魔。

 そこは交易の街。

 多数の商店が建ち並ぶが、

 

「先立つ物が無いとね……」

 

 財布が寂しいパチュリーたち…… 特に借金持ちの小悪魔には目の毒というものだった。

 しかし、

 

「それでも! 試着だけでも!!」

 

 と妙にテンションの高い小悪魔に押されるようにして武器・防具の店に入るが、

 

「ここは防具しか売っていないのね」

 

 コストパフォーマンスの良い鎖かたびらぐらい買っておくべきかと悩むパチュリー。

 一方、小悪魔はというと、

 

「なっ、何で無いんですか……」

 

 と愕然とした様子でつぶやいていた。

 

「何が?」

 

 と、たずねるパチュリーに、

 

「もちろん危ない水着に決まってるじゃないですかーっ!!」

 

 そう叫ぶ小悪魔。

 

「ああ……」

 

 パチュリーは事前に読み込んでいた攻略本等のドラゴンクエストに関係する書籍データ、頭の片隅にあるそれらから、小悪魔が口にしたアイテムに関する情報を嫌々ながら引っ張って来る。

 危ない水着とは、

 

「守備力たった1の布切れ、セクハラ装備ね。最初に登場したドラゴンクエスト2のMSX版では、これを着込んだムーンブルクの王女のグラフィックを目にすることができたっていう」

「そう!『ちきゅうはあおかった』で有名なアレです!!」

「……何ですって?」

 

 何を言われたのか分からないといった様子のパチュリーに対し、小悪魔は熱く語り出す。

 

「MSXの能力的なもののせいかモノクロというか青黒な荒いグラフィックですけど、スリングショット、紐水着に近いデザインの、おへそや腰、胸の谷間が大胆に露出した全身の絵に加え、胸と股間のアップまで用意されているという、当時としてはかなり過激なもの。しかも……」

 

 小悪魔の瞳が妖しくきらめき、

 

「股間に食い込むハイレグ部分は恥丘の盛り上がりがはっきり見て取れる上、クロッチの真ん中に縫い目の筋がくっきり走っているという素敵仕様。さすがアダルト向けのゲームソフトも作っていたエニックスさんです!」

 

 おれたちにできないことを平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!

 みたいに言うが、もちろんパチュリーには、

 

「そんなもので偉人の名言を汚さないでちょうだい。というか「ちきゅう」違いでしょう!?」

 

 といった具合にその感動はまったく伝わっていない。

 

「お金が無くて買えないなら、せめてパチュリー様に試着してもらって楽しもうと思っていたのにっ!」

「待ちなさい、そんなのを私に着せようとしていたの!?」

「買うことができるのなら、裏地を取り去った上で、ぎゅうって縫い目を食い込ませてあげて……」

 

 どこに!?

 

「衝撃にふるふると震えるパチュリー様に、後ろの方は逆にゆっくりと…… Tバックの下着のように深い股の切れ目の更に奥へと消えていく、お尻の切れ目にゆっくりと飲み込まれてゆく、深~く食い込んでいく、あの感覚をじっくりと味わっていただくというのもいいですよね」

 

 じわじわと、じらすように。

 笑う小悪魔に、たまらずパチュリーは顔を真っ赤にして、

 

「今すぐその腐りきった妄想を捨てなさい!!」

 

 そう叫ぶ。

 

(主人に対して公言するような内容ではないというか、人として口にしてしまったらダメな類の妄想……

 ああ、人じゃなくて悪魔だったわね。

 力が弱いし妙に人間くさいから忘れがちになるのだけれど)

 

 そうしてパチュリーは深くため息をつくと、あきらめて話を進める。

 

「アッサラームで危ない水着が買えたのは最初に出たファミコン版だけよ。スーパーファミコン版以降のリメイク作だとアレフガルドのドムドーラまで行って買うか、ジパングのすごろく場でマス目に止まって手に入れるか……」

「ちょっと待って下さい。ジパングのすごろく場ってゾーマを倒した後にしんりゅうを所定のターン以内に撃破して願いをかなえてもらわないと開かないやつですよね。そもそも、この世界って携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場はありませんし」

「ええ、だからドムドーラ以外では手に入らないわ」

「そんなぁ……」

 

 一気に意気消沈し、うなだれる小悪魔。

 

「まったく……」

 

 そんな使い魔に呆れつつも街の探索を続けるパチュリー。

 街を歩く荒くれ男から、

 

「何年くらい前だったか、あの勇者オルテガがカギを求めて南へ向かったらしい。しかしオルテガならたとえ魔法のカギがなくても道を切り開いたであろう。オレもあの男のようになりたいものだ」

 

 などといった話を聞くが、

 

「勇者父、オルテガって虹のしずくも取らずに魔の島へ渡りゾーマの城にたどり着いていたことから『泳いで渡った』って言われているけど、それ以前に鍵とかキーアイテム全部無しで進んでいるのよね」

 

 と、改めて呆れることに。

 さすが覆面パンツ、行動が脳筋(マッチョ)に過ぎる力業である。

 そうして、とある店を覗いてみると、

 

「おお! 私の友達! お待ちしておりました。売っているものを見ますか」

 

 とやけにフレンドリーな商人に声をかけられる。

 戸惑いながらも品を見ると、値札がまったく付けられておらず……

 

「魔導士の杖もここで売られているのね」

「魔導士の杖は私もパチュリー様も装備できませんよね?」

「杖の大半は装備できない職業でも戦闘中に使うと込められた力を引き出せるの。魔導士の杖はメラの呪文効果ね」

「それは…… 微妙ですね」

「そうね、スーパーファミコン版以降のリメイク作だとサマンオサやラダトームでは買えなくなっていて、ノアニールを眠りの呪いから解放していない場合はここでしか買えないのだけれど」

 

 それはさておき、

 

「私たちが買って意味があるのは鉄の斧かしら? 単体攻撃武器なのだけれど、それでも鋼の剣の攻撃力+33を超える+38は魅力よね」

「それは確かに欲しいですね」

 

 小悪魔は未だにアリアハンで手に入れたトゲのムチを使っているのだし。

 物欲し気に鉄の斧を見る小悪魔に、店主が声をかける。

 

「おお! お目が高い! 40000ゴールドですが、お買いになりますよね」

「なっ、何ですか、そのお値段!」

 

 叫ぶ小悪魔。

 

「おお、お客さん、とても買い物上手。私、参ってしまいます。では、20000ゴールドにいたしましょう。これならいいでしょう?」

「いきなり半額って、先ほどのお値段は何だったんですか?」

 

 アッサラームでは、アリアハンやロマリアなどの常識はまったく通用しない。

 ……というのは、値段が凄くいい加減なのだ。

 日常の値打ちを知らない初めての外国人は一体いくらなのか見当もつかず、凄くカモられてしまう。

 しかし、ここの世界ではカモることは悪いことではない。

 騙されて買ってしまったヤツがマヌケなのである!

 

「そんなお金ありませんよ!」

 

 値段交渉開始ーッ。

 

「おお、これ以上負けると私、大損します! でも、あなた友達! では10000ゴールドにいたしましょう。これならいいですか?」

「それでも足りません」

「おお、あなた酷い人! 私に首吊れと言いますか? 分かりました。では、5000ゴールドにいたしましょう。これならいいでしょう?」

「無理です」

「そうですか。残念です。またきっと来て下さいね」

 

 がっくりと肩を落とす小悪魔。

 

「八分の一まで負けさせたと思っても、手が出せるような金額じゃありません……」

「まぁ、それでも市価の倍額なのだけれど」

「ええっ!? ボッタクリじゃないですか!」

 

 しかし、

 

「それでもこのお店、まったく使えないわけでも無いのよ」

 

 と笑うパチュリー。

 

「そうなんですか?」

 

 首を傾げる小悪魔に説明する。

 

「例えばファミコン版では鉄兜はここでしか売っていなかったけど、倍額でも買う価値があったの」

 

 利用可能なキャラが多く使い回しができるうえ、僧侶と賢者にとっては最強の兜であり、ここで買わなければガルナの塔で一つ拾うか、ガメゴンからのドロップを期待するしかないという品。

 ファミコン版では防具の種類も貧弱で、特に後衛の守備力に不安があったので、高いとはいえこの時点で買って僧侶に使わせれば、それだけで打たれ強くなり生存率がアップするものだった。

 

「まぁ、スーパーファミコン版以降のリメイク作だとイシスで定価で買えるようになったから、ここで買う意味は無くなったのだけれど」

「それじゃあ、リメイク作で買う意味のある品は?」

「マジカルスカートね。魔法のダメージを3/4に軽減する特殊効果が備わっている上、守備力も鉄の鎧と同じ25ポイントもあるし、女性なら誰でも着られるという優秀なものよ」

 

 女尊男卑を代表する装備の1つ。

 

「ここ以外だと、すごろく場で運任せでよろず屋のマスに止まることを祈って購入するか、ピラミッドで一着手に入れるか、だいぶ後、船を入手した後にテドンまで行って買うかしかないから」

「……この世界って携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は無いんですよね?」

「ええ、だからさらに重要性が高まっているわね。まぁ、次に向かうイシス、そしてピラミッドでは魔法で攻撃してくる敵は居ないから急がなくともいい…… 逆に言えば、ピラミッドで魔法の鍵を手に入れた後で得られる多額のアイテム売却金で購入しておけば、それ以降がとても楽になるって感じね」

 

 要するに、

 

「入手のための手間暇や今はここぐらいでしか買えないっていう希少性の分が上乗せされていると考えれば倍額でも買う価値はあるものなのよ。それに気付かず「さっさと首吊れサギ野郎」なんて言い捨てて終わらせてしまうのは、もったいないわよね」

 

 ということ。

 ドラゴンクエストが制作、販売された日本ではチップを払う習慣が無い、サービスを受けるには金が必要という意識が希薄(サービス=無料と誤解しがち)であるがゆえに、プレーヤーもこういった形の無い価値に金を払うのは不慣れで苦手なのかもしれないが……

 

 同じような売り方をする店には道具屋もあって、

 

「薬草ですら値切っても倍……」

「この街の普通の道具屋では毒消し草と満月草しか売っていないから、薬草の補充を怠っているとここで買うしかなくなるわよね」

「ええっ!?」

「まぁ、キメラの翼を使って他の街まで戻って買うというのもアリかしら? アリアハンに行ってついでに勇者の実家で休むなら、この街の宿代、一人7ゴールドの分も浮くし」

「ええと、キメラの翼が一つ25ゴールド、往復で50ゴールド」

「普通の四人パーティなら宿代は28ゴールドよね」

「8ゴールドの薬草を倍額で買わされると損失も8ゴールド。つまり薬草をここで3個以上買うのなら、キメラの翼を使ってでもアリアハンに戻った方がお得ってことですか」

 

 そういうことだが他にも、

 

「このお店では、ここでしか手に入らない金のネックレスを売ってくれるわ」

「いやみなくらい太いゴールドのチェーンですね、これ男性用ですか?」

「ええ、着用者の性格を『むっつりスケベ』に変えてくれるものよ」

「むっつりスケベと言えば、セクシーギャルの男性版ですよね。結構いいものだったかと」

「そうね、だからあまり良い性格をしていない男性がパーティに居るのなら、買う価値もあるかしら」

 

 それと、

 

「まだら蜘蛛糸って初めて見ましたが、これはどういうアイテムなんですか?」

 

 そう尋ねる小悪魔に、パチュリーは説明する。

 

「投げつけると放射状に広がって絡みつき、敵1グループの素早さをゼロにする魔法の糸玉ね」

「ボミオスの呪文と同じ効果を持つ使い切りのアイテムですか」

「スーパーファミコン版以降のリメイク作だとそのとおりだから、あまり価値は無いわね。ファミコン版では固定エンカウントでは絶対に効かないけど、通常エンカウントではすべての敵に100パーセント効くようになっていたから結構使えたのだけれど」

「必ず効くボミオスですか?」

 

 ボミオス自体、あまり有効とは思えない呪文なので小悪魔は首をひねるが、

 

「素早く、逃げ出しやすいメタル系スライムの素早さを必ずゼロにできるのよ。しかもグループ全体を一発で」

「ああ、それは便利ですね」

 

 攻撃前に逃げられてしまった、ということが無くなるのは大きい。

 

「ただ、眠りから解放したノアニールかバハラタでも買えるし、メタルスライムが本格的に出るようになるのはダーマ以降だから、ここで買う意味はあまり無いかも知れないわね。そもそも、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと判定がボミオスの呪文と同じになってメタル系には効かなくなっているし」

 

 ということだった。

 

 こうして街を散策したが、アッサラームは昼と夜で別の顔を持つ街。

 街の外で時間を潰し、夜を待って再び訪れてみることにするが、

 

「毒イモムシさんです!」

「街を出てすぐに遭遇って何!?」

 

 システム的に言えば2マス、2歩でエンカウントである。

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものらしいが、スーパーファミコン版よりエンカウント率が上がっているように感じられる。

 特に街を出た直後や階段を昇り降りした直後の遭遇までの歩数も割と短い場合があるようだったがこれは……

 もしかしてエンカウントリセット、街に出入りすることで歩数カウントがリセットされるはずが、機能していない?

 

 ともあれ現れたのは一匹だけ。

 

「くっ!」

 

 攻撃力と素早さは下位種であるキャタピラー以上でパチュリーはそれなりなダメージを受けるが、それでもこの周辺で現れるモンスターとしては低威力であり問題とはならない。

 そして二人がかりで殴ると、

 

「あれ? あっさりと倒せました?」

 

 1ターンキルで終わる。

 

「攻撃力と素早さはキャタピラーより上でも、守備力とヒットポイントは低い相手だから」

 

 特に最大ヒットポイントはキャタピラーがファミコン版で45、リメイク以降で50に増強されているのに対して、35しかない。

 

「問題はパーティ全体を侵そうとする毒の息だけだし、それも毒消しを用意してあれば問題にはならないし」

 

 毒を受けても戦闘中ヒットポイントは減らない。

 つまり治療は後で行えば十分なので戦闘に影響は出ないものだし。

 そして、

 

「あら、レベルが上がったわね」

「ええっ!?」

 

 思わぬところでパチュリーがレベルアップ。

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:9

 

ちから:26

すばやさ:20

たいりょく:54

かしこさ:13

うんのよさ:9

最大HP:107

最大MP:26

こうげき力:53

しゅび力:30

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:なし

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

「レベル一桁でヒットポイントが100越えって何ですかーっ!」

 

 叫ぶ、小悪魔。

 

「力も上がって攻撃力もアップしてますし、私との差が付きすぎですよ……」

「攻撃力については、あなたがいい武器を買ったら逆転できるでしょう?」

「借金持ちなのに買えませんよぉ」

 

 それもそうだが。

 ともあれ日が落ちて夜だけ開いている武器屋に行ってみると、鉄の斧が2500Gで売られていた。

 つまり、

 

「鉄の斧ってボッタクリのお店で買う必要無いじゃないですかー」

「そうね」

 

 ということ。

 一方、小悪魔は街に立つ女性、かの有名な『ぱふぱふむすめ』を目にするといそいそと隊列変更で先頭につき声をかけるが、

 

「今晩はお嬢さん。星がとっても奇麗な夜ね」

 

 とはぐらかされ、相手にされない。

 

「どうしてですか!? 勇者なら男性と見誤ってぱふぱふしてくれるはずでは!? 危ない水着を着てグラフィックが水着姿になっても誤認してくれるんですよねっ!?」

 

 水着姿になっても男と思われる女勇者……

 やたらシュールな光景ではあるが、しかし、

 

「それはファミコン版の話でしょう? スーパーファミコン版以降のリメイク作だと女勇者は男性に誤認されないようになっているから無理よ」

 

 そういうことである。

 

「大体これ、夜の歓楽街で客引きの女性に連れられ真っ暗な部屋で気持ちいい行為を受ける、と見せかけて……」

 

「どうだ、坊主。わしのぱふぱふはいいだろう」

 

 という具合に実は気持ちいい行為とは、あらくれオヤジのマッサージだった、というオチがつくものなのだが。

 しかし小悪魔は、

 

「だからいいんじゃないですか。妙齢の女性がむくつけきオッサンに「き、気持ち良い……」って喘ぎ声を上げさせられるシチュエーション! ぜひパチュリー様に体験して頂いて……」

 

 と語るが、パチュリーは、

 

「ああ、勇者や男性キャラで話しかけて女性に連れられた後、建物に入る直前に先頭を女性キャラにすれば女性キャラでもぱふぱふしてもらえるって技も、リメイク版だと使えなくなっているわよ」

「神は死にました……」

「悪魔が神を頼ってどうするの」

 

 という話。

 

「そう言えば、スーパーファミコン版以降のリメイク作だとレベルを上げれば遊び人が戦闘中の遊びでぱふぱふをするのよね。女性がすると敵一体の行動が一回止まるけど、男性がするとダメージを与えるっていう」

「つまり、アッサラームのオッサンにぱふぱふされた人って、ダメージを受けながら「き、気持ち良い……」とかよがってるんですか? 変態じゃないですか、やだー!!」

 

 小悪魔にかかると、何でもエッチな方に結び付けられてしまう。

 そうして、せっかくだからと夜しかやっていないというアッサラーム名物ベリーダンスの舞台にも行ってみると……

 

「ベリーダンスは、いつ見ても最高ですね! さぁ、あなたもどうぞ座って。私の友達!」

「私の友達って……」

「ボッタクリのお店の人じゃないですかー!」

 

 オチが付いたところで宿へ。

 この世界では珍しく風呂が用意されている。

 これまではお湯をもらって身体を拭いたり、水浴びをしたりだったので助かるが、

 

「ここのお風呂、男女混浴ですって。いや~ね」

 

 と先客の女性が言うとおり男女共通だったりする。

 しかし小悪魔は、

 

「混浴を非難するなんてとんでもない! これがいいんですよ! 宿が用意してくれたこの混浴が「いい」んじゃあないですかッ!」

 

 と絶賛。

 だが、

 

「混浴も何もこの浴槽、一人用でしょう。順番に入るしかないじゃない」

 

 とパチュリー。

 

「そんなぁ『ドキッ! 少女だらけの痴情混浴。ポロリもあるよ』な展開がぁ」

「無いわよ」

 

 無いが、意気消沈する小悪魔にため息をつき、

 

「湯浴みを手伝ってくれるんでしょう」

 

 と誘う。

 

「ハイヨロコンデー!!」

 

 もちろん即時復活する小悪魔だった。




 アッサラームの街、お金が無いなりに楽しむ小悪魔とパチュリー様でした。
 次回はイシスへ。
 しかしその途中で、このアッサラーム周辺での最大の脅威、あばれザルに遭遇する二人をお届けします。
「は、はぁ? そんな拳を突き付けて、私に勝つつもりですか……? いや、冗談ですよね……? そんなの私入らな……」
 小悪魔はあばれザルのわからせフィストをぶち込まれ、強制的にわからせられてしまうのか……


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イシスへの道 あばれザルによるわからせ!?

 アッサラームの宿に泊まり一夜を明かしたパチュリーたち。

 宿のタンスからは毒蛾の粉が回収できた。

 

「それってどういうアイテムなんですか?」

「これを使うとモンスターが混乱して同士討ちを始めるのよ」

 

 メダパニの呪文と同じ効果を持つアイテムだ。

 普通では打撃ダメージが1しか通らないメタルスライムだが、モンスターからの打撃は何故か通るため、メタル狩りのためにも取って置いた方が良いだろう。

 

「じゃあ、これをパチュリー様に使えば……」

「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、パーティアタックは禁止だから!」

 

 冗談じゃないと釘をさすパチュリーだったが、小悪魔は能天気に、

 

「確かに、勇者一行が粉を吸ってキメちゃって混乱とかマズ過ぎますもんね」

 

 言い方ァ!!

 

 そんなこんなで、朝から絶好調な小悪魔にため息をつくパチュリー。

 やはり昨晩、入浴の手伝いをさせたのはサービスが過ぎたか。

 元気になったのは良いが、興奮しきって大変だったので、術式で縛って朝まで部屋に転がしておいたのだが、それでもこれである。

 

「次はイシスね」

 

 南西の砂漠を超えた場所にあるイシスに向け出発をする。

 そしてモンスターと遭遇するが、

 

「キャットフライと…… しっぽの付いたゴリラさん? 大き過ぎません?」

「い、いけない!」

「でも、一匹ずつなら何とか!」

「あ、こら!」

 

 勝手に戦いを選択してしまった小悪魔に、慌てるパチュリー。

 

「おさるさんはタフそうなので、先にコウモリねこさんを…… マホトーンで呪文を封じられるのも嫌ですし、痛恨も怖いし」

「ダメ、先にあばれザルを倒すのよ!」

「はい?」

 

 そして、しっぽの付いたゴリラ、つまりあばれザルは先制で……

 

「おさるさんが増えました!?」

「あばれザルは仲間を呼ぶ習性があるのよ」

 

 ということ。

 仲間を呼んだモンスターも呼ばれたモンスターもどちらもこのターンはこれ以上動けないため、後はキャットフライだが、

 

「マホトーンで呪文が封じられちゃいました!」

「これで回復は薬草頼りになったわね。まぁ、薬草の蓄えは十分なのだけれど」

 

 トゲのムチを振るう小悪魔。

 トゲのムチはグループ攻撃武器であるがゆえに、このターンに呼ばれたあばれザルにもダメージが入る。

 

「こちらの武器が二人ともグループ攻撃できるもので良かったわ」

 

 と言いながらチェーンクロスで攻撃するパチュリー。

 そして次のターン、あばれザルの攻撃がパチュリーに連続で命中!

 

「ぐっ」

 

 20ポイント前後のダメージを二発という恐ろしいまでの攻撃力。

 

「ヒットポイントが100越えのパチュリー様ですから耐えられましたけど、最大ヒットポイントが39の自分ならこれだけで死んでますよ!」

 

 と背筋を震わせる小悪魔。

 実際にはパチュリーが借金を許してまで防具をガチガチに固めさせているので、もう少しダメージは減るのだが。

 その小悪魔にもキャットフライからの攻撃があり、

 

「これぐらいなら……」

「薬草でヒットポイントをフルに回復させて!」

「はい?」

「そっちに攻撃が集中したら危ないでしょう!」

「は、はい!」

 

 なお、あえてパチュリーは語らなかったが、あばれザルもキャットフライも痛恨の一撃がある。

 モンスターが繰り出すこの痛恨の一撃は守備力無視で攻撃力の約0.9倍程度のダメージを与えるもの。

 攻撃力48のキャットフライなら43ポイント前後。

 あばれザルはキャットフライより痛恨の一撃を繰り出す確率が低いとはいえ、攻撃力は55なので50ポイント前後のダメージを叩き出す。

 つまり小悪魔の39という最大ヒットポイントではいずれにせよフル回復状態でも一撃死するのだが……

 

 次のターン、

 

「ま、また増えた……」

 

 さらに増殖するあばれザル。

 小悪魔は自分を薬草で回復。

 そして残ったあばれザルが仲間を呼ぶ。

 

「や、止めてくださーい!!」

 

 が、失敗。

 

「と言うか、あばれザルが出現できる枠って3匹が上限なのよ」

「ああ、なるほど」

 

 ゲーム的に言えば、キャラクターグラフィックが大き過ぎて表示できるスペースがそれ以上無いということ。

 今回のように他のモンスターとの混合出現で表示位置がずれると4体まで表示できそうに見えるが、そこはシステム的に制限が成されているらしく、やはり上限は3体である。

 そして、ここからは殴り合いだが、

 

「は、はぁ? そんな拳を突き付けて、私に勝つつもりですか……? いや、冗談ですよね……? そんなの私入らな……」

 

 あばれザルのわからせフィストにブチ抜かれ、

 

「ひぐぅぅぅっ!!(ビクンビクン)」

 

 強制的にわからせられてしまう小悪魔!

 

「ふざけてる場合じゃないでしょうっ! 次のターンで回復させなさい!」

 

 そう言いつつパチュリー、そして小悪魔も反撃するが、

 

「全然倒せません!」

「あばれザルの最大ヒットポイントは、最初のファミコン版で50」

「ええっ!?」

「スーパーファミコン版以降のリメイク作だと10ポイント増えて60よ。守備力も25から40にまで強化されてるし!」

「な、何ですかそれー!!」

「それが群れを成し、仲間を呼ぶ……」

「ぜ、絶望的じゃないですか」

「だから逃げようとしたのに勝手に戦い始めるから」

 

 そうして壮絶な殴り合いの末、パチュリーの攻撃が先頭のあばれザルを倒す。

 

「やりましたね!」

 

 しかし次のターンであばれザルが仲間を呼ぶ。

 

「減らないじゃないですかー!」

「泣き言言わない」

 

 そうして一進一退の攻防を繰り広げるが、

 

「最初の一回以外、仲間を呼ぶ行動を空振りしませんね。してくれると楽になるのに」

「仲間を呼ぶ行為は枠が埋まっていない限り必ず成功するから。最初に失敗したのは、枠が一つしか無いのにたまたま二匹が両方とも仲間を呼ぶという選択をしたので、後から行動した側が失敗になったわけね。あばれザルの頭の良さ、判断力は1。これはターン開始時に状況を見て行動を決めるものだから」

 

 判断力が0、バカなら状況に関係なく行動し、最高の2なら行動直前に、状況に対応した行動を取る。

 そして、

 

「満塁策よ」

「満塁策? 野球のですか?」

「あばれザルが出現できる枠は三匹分。それ以上は増えないわ。つまりヒットポイント総計は最大180ポイント。仲間を呼ぶという回復行動で1ターンに最大60ポイントのヒットポイントが回復できる」

 

 一匹倒されれば次のターンで呼べるのは一匹。

 二匹倒されて枠が二つ空いても、残りの一匹が1ターンに呼べるのは1匹という計算である。

 1匹倒され、次のターンで残り二匹とも仲間を呼ぶ選択をして、そのターン中に仲間を呼んだ1匹が倒され、残り一匹も仲間を呼ぶ、というパターンも無いではないがレアケース過ぎるので考慮しなくともよいだろう。

 ともあれ、

 

「絶望的じゃないですかー!」

 

 ということ。

 しかし、

 

「でも、こちらはグループ攻撃武器だから、二人で3匹に攻撃すれば合計ダメージは60ポイントを超えるわ」

「あ……」

 

 ということは、戦い続ければ敵はじり貧になっていくはずということ。

 これが、複数攻撃武器が存在するドラクエ3のリメイク版における満塁策と呼ばれる手法。

 まぁ、こちらもダメージを受けるので回復するターンは攻撃力不足になってしまうが。

 

「後はタイミングよ。ダメージを蓄積し、弱ったところにこちらの攻撃を畳みかければ倒しきれるわ!」

 

 ただ、そう簡単に上手く行くわけもなく、倒してもまた仲間を呼ばれるということを繰り返す。

 そして、

 

「ダメです。このターン、一匹も倒せませんでした。逃げましょうパチュリー様!」

 

 キメラの翼を使おうとする小悪魔。

 戦闘中に使えば、行先はアリアハン固定だが必ず逃亡が可能なのだ。

 

「いいえ、そんなことはしないで! これがいいんじゃないの! こぁ!」

「え?」

「三匹のあばれザルにダメージを蓄積させたはずなのに一匹も倒せない状況。逃げるなんてとんでもない! これがいいのよ! この状況が「いい」んじゃないの!」

 

 つまり、あばれザルのヒットポイントをもう少しで倒せるほどにまで削ってあるということ。

 そしてあばれザルの判断力は1で、ターン開始時に状況を見て行動を決める。

 3匹の枠が埋まっているこの状況、次のターンではあばれザルは仲間を呼ぶという行動を取らない。

 そして小悪魔とパチュリーの攻撃があばれザルに叩き込まれ、

 

「このターン、二匹まで倒したわ。残りの一匹ももう少しのところまでヒットポイントを削ってある!」

「あとは?」

「祈りなさい」

「はい?」

「次のターン、あばれザルが仲間を呼ぶ前に倒せることを祈りなさい」

 

 そして次のターン、あばれザルはパチュリーを攻撃!

 さすがのパチュリーも、ここまでの攻防でヒットポイントを危険なまでに削られていたが、

 

「勝ったわ!」

 

 それこそ望む状況。

 小悪魔のトゲのムチが、パチュリーのチェーンクロスが唸りを上げ、最後に残ったあばれザルを倒しきる!

 

「やりましたね、あとはキャットフライを!」

「ちょっと待って、さすがに回復しないと」

 

 パチュリーは小悪魔に薬草で治療してもらい、そして、

 

「これで終わりよ!」

 

 キャットフライへ攻撃。

 殴り合いの末、倒す。

 終わってみれば、

 

「結局、5匹のあばれザルと戦う羽目になったのね」

 

 ということ。

 戦闘中に薬草を三つ使い、戦闘後の治療でホイミ三回を消費した。

 

「だから逃げたかったのに」

 

 ということだが。

 そうやってようやく砂漠に。

 ただし、

 

「そのまま南下するとアッサラーム地方のモンスターが出る領域だから少し西に進んでから南下した方がいいわ」

 

 ゲーム的に言えば、一マス西にずらしてから南下するということ。

 そして、

 

「カニさんです!」

「地獄のハサミ!? 逃げる逃げる」

 

 何しろ守備力が110もあって、こちらの攻撃はほぼ通らないのだ。

 しかも、

 

「回り込まれたわ!」

「ただでさえ固いカニのモンスターなのに、スクルトで守備力を上げてますよ!? というか+110って何ですか!」

 

 モンスターが使って来るスクルトには二種類あり、地獄のハサミのものは敵全体の守備力を元の値と同じだけアップさせるというぶっ壊れ性能を誇る。

 

「こうなったらニフラムで光にな……」

「地獄のハサミはニフラムに完全耐性だから!」

 

 邪悪な魂を聖なる力で光の彼方へと消し去る退魔の呪文、ニフラムを使おうとする小悪魔を止めるパチュリー。

 

「こちらから通じるのはあなたのメラだけよ」

「倒しきれないじゃないですかー」

「そうね、全部倒す前にマジックパワー切れになるのがオチね。使用することで何度でもメラを撃てる魔導士の杖でも買ってあれば、地道に削るとかできるかもしれないけど」

 

 そういうわけで、敵から殴られながらも3回目の逃走で何とか逃げ切る。

 小悪魔のホイミで回復し、さらに南下するが、

 

「またカニさんです! 今度は火炎ムカデさんと一緒ですよ!」

「ああ、もう逃げる」

 

 どうしようもないのだった。

 そして、

 

「またまたカニさんと火炎ムカデさんです!」

「逃げる逃げる」

 

 一回逃げ損ね、パチュリーが一発殴られた後、逃亡。

 

「全然戦えませんね。アッサラーム周辺のモンスターの方がまだ戦えていましたか?」

「そうねぇ。でも、ただ逃げながら進むだけなら、アッサラーム周辺の問答無用で大ダメージを与えて来るモンスターよりは怖くないのだけれど」

 

 逃げ損ねても受けるダメージが小さいので安全なのだ。

 

 そうして南の、毒の沼地に囲まれたほこらへとたどり着く。

 いつものように、住居精霊(ヒース・スピリット)がツボや本棚に隠していた精霊の隠し財宝を手に入れるのだが、小さなメダル、そしておてんば事典が手に入る。

 

「また、おてんば事典? 本当にあなたに使えるような性格へと変える本は無いのかしら」

 

 ため息をつくパチュリー。

 

「そんな気軽にひとを洗脳調教しようとしないでください!」

 

 プルプルと震える小悪魔。

 そしてほこらの住人から話を聞いてみる。

 

「魔法の鍵をお探しか?」

「はい」

「鍵は砂漠の北、ピラミッドに眠ると聞く。しかし、その前にまずイシスの城を訪ねなされ。確かオアシスの近くにあるはずじゃ」

 

 その助言に従って、今度は砂漠を西へ、イシスを目指す二人。

 途中、また地獄のハサミが現れたので、逃げるとオアシスが見えてくる。

 

「よ、ようやくイシスです」

「砂漠に入ってからカニから逃げてばかりって感じなんだけど……」

 

 それでも何とか、無事イシスに到着する二人だった。




 イシスに向かう二人でしたが、とうとうアッサラーム周辺の恐ろしさを象徴するモンスター、あばれザルと遭遇。
 アッサラームはロマリアに着いた時点でも行ける、つまり一本道ではない自由度の高いゲームだよ、としつつも、街の住人の忠告を聞くことの重要性を演出するためもあって、これほど強いモンスターが出るのだと言われていますね。
 そして砂漠では攻撃魔法の重要性を教えてくれる地獄のハサミの登場。
 複数攻撃武器があれば魔法なんて要らない、としてきたパーティーは、ここで絶対に勝てない相手に遭遇するのでした。
 まぁ、パチュリー様たちみたいに逃げればいいんですけどね。
 次回はイシスの城と街。
 色々と装備が整えられますね。


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イシスの『女王様』

 砂漠の街イシスに到着するパチュリーと小悪魔。

 まずは女王様に謁見するため城へ。

 

「左右に並んでいる石像は何でしょう?」

「スフィンクスみたいね。エジプトのルクソール神殿にはこんな風にスフィンクスが並んだ参道があるという話だけれど」

「スフィンクス……」

 

 そうして入った城では女官に、

 

「ああ、たくましい人たち! 女王さまもきっと気に入ってくださることでしょう」

 

 などと言われ、パチュリーは、

 

「私がたくましい…… 現実ではありえない評価ね」

 

 と微妙な表情をする。

 一方、小悪魔はというと、

 

「たくましい女性を気に入る女王様? それってつまり……」

 

 

 

「そうれ、お鳴きっ!」

 

 拘束されたパチュリーの柔肌に女王のムチが振り下ろされた!

 

「あひいぃぃぃっ!?」

 

 経験したことのない激しい痛みにパチュリーの思考が一気に吹き飛ぶ。

 まるで絶頂したかのように身体をのけぞらせ、瞳を見開き叫ぶパチュリー!

 

「ホホホ、強い女の悲鳴は、いつ聞いても心地良いわ」

「くぅっ……」

 

 痺れるような痛みに呻きながらも、しかし折れないパチュリーの顔を覗き込み、女王はいやらしく笑う。

 

「あの勇者の小娘を人質に取られてさえいなければ、こんな汚い手を使う相手に負けないのに、そう言いたいのかしら?」

 

 その場には意識を失いぐったりとした小悪魔が、女王の下僕に押さえつけられ、喉元に刃物を押し当てられていた。

 

「嘘をお言いでないよっ! 本当は嬉しいくせにっ!」

 

 再び振り下ろされるムチ!

 

「ああーっ!!」

「フフ…… 私にはお見通しよ。お前が虐められて喜ぶ変態だってことはね!」

 

 何を、と戸惑うパチュリーに、女王は語る。

 

「強い女、賢い女はみんなそう。実力に見合った、常人ならナルシストとしか思えないような自信と高いプライドを持ち…… だからこそ、その裏返しのマゾの快楽は底なしに深くなる」

 

 笑いながらムチを振るう女王。

 

「お前は心の内でこうなることを望んでいたのよ! 強く美しい自分自身を徹底的に辱め、痴態をさらけ出さざるを得ない状況に追い込まれることをね!!」

「そっ、そんなはず……」

 

 反論はひときわ強く振り下ろされるムチに遮られた!

 

「あ゛ぁぁああああっ!!」

「当然、お前はそれを認めないわ。強いが故のプライドや立場が邪魔をするし…… 何より自分から認めてしまっては興覚め。辱め、貶め、汚し甲斐のある強く美しい自分ではなくなってしまうものね」

 

 そうしてパチュリーの髪の毛をつかみ顔を上げさせると、耳元にささやく女王。

 

「でも…… 相手が人質を取るなんて卑怯な手で脅して来たらどうかしら? 抵抗できなくてもそれは『仕方がないこと』よねぇ?」

 

 ぞくり、とパチュリーの背筋に何かが走った。

 女王はこう言っているのだ。

 

 人質を取られているのだ、反撃を許されないまま一方的に嬲られたとしても、それはパチュリーの名を傷付けることにはならないのだと。

 

 そうして行きつく先は…… パチュリーは想像してしまう。

 

 相手の卑怯で陰湿な責めにボロボロにされ、まるで公開処刑を受けるかのように、公衆の面前で辱められる、この七曜の魔法を極めた魔法使い、パチュリー・ノーレッジが!

 

 瞬間、ぶるりと身体が震え、腰が砕けそうになった。

 その姿に女王の瞳が満足そうに細められたが、パチュリーは……

 

(挑発に乗ってはいけないわ。ここは耐えて、相手の油断を誘うのよ)

 

 パチュリーの力ならいつでも逆転は可能。

 小悪魔の完全な安全を確保するために敢えて今は耐え忍び、大きな隙を見せるまで待つのだ。

 だからそれまでは……

 

 痛みから分泌される脳内麻薬に酔ったパチュリーは気付かない。

 女王が差し出した「人質が居るから仕方が無い」という言葉は、パチュリーがこの被虐のシチュエーションを甘んじて受ける、そして楽しむことに対する許し。

 パチュリーが自分自身に言い訳できる理由をくれてやったのだということを。

 そして、自分がまんまとそれに乗せられているということを。

 

 パチュリーを被虐と快楽がいざなう奈落へと堕とすための責めは、始まったばかりだった。

 砂漠の夜にムチ打つ音と、パチュリーの苦鳴が響き続ける。

 明けの明星が輝き、パチュリーが取り返しのつかないほどのマゾ性癖を精神と身体に刻み込まれてしまう、そのときまで……

 

 

 

「……って、感じですかね?」

「そんなわけ無いでしょう!?」

 

 それは違う女王様だし、そもそも自分を主人公とした官能調教劇という妄想を垂れ流しにするなという話。

 そして、もちろんイシスの女王は、兵には、

 

「女王さまをおまもりするのがわたしの役目。ああ、わたしはなんて幸せな男だ!」

「オレは女王さまのためなら死ねる! ああ女王さま……」

 

 と慕われ、女官たちには、

 

「私たちは女王さまにおつかえする女たちです。イシスに住む女なら、だれもがあこがれる役目ですわ」

「わが女王さまには、こわいものなどありませぬ。たとえ魔王といえども、その美しさの前にひざまずくでしょう……」

 

 と讃えられる存在。

 そして実際、謁見を果たした女王様は、

 

「皆が私を褒め称える。でも、一時の美しさなど、何になりましょう。姿形ではなく、美しい心をお持ちなさい。心にはシワはできませんわ」

 

 誰もが憧れる美しさ…… 幻想郷に居る文字どおり人外の美貌を誇る存在を見慣れているパチュリーたちでも美人と思える風貌に、それを鼻にかけたりはしない人格者だったりする。

 

「ロマリアの王族が微妙だっただけに、人柄が際だつわね」

 

 とパチュリー。

 なお、パーティが全滅した際には最後にセーブした場所の王様から、

 

「しんでしまうとは ふがいない!」

 

 などと叱咤されながら再開することになるが、イシスの女王の場合は、

 

「しんでしまうとは かわいそう」

 

 と言ってくれるという違いがあったりする。

 またここの女官の一人から、

 

「子どもが歌う、わらべ歌にはピラミッドの秘密がかくされているそうですわ。でもあたしには、なんのことやらさっぱり」

 

 という話を聞けたので、子供たちの歌を確かめる。

 

「ねえ いっしょにうたおうよ!」

「まんまるボタンはふしぎなボタン。ちいさなボタンでとびらがひらく。東の東から西の西」

 

 それを聞いて、パチュリーはうなずく。

 

「この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものだから、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版の「東の西から西の東へ。西の西から東の東」という手順よりは簡略化されているわね」

「それは助かりますね」

「ファミコン版だと「まんまるボタンは、おひさまボタン。はじめは東。次は西。」つまり太陽が東から上って西に沈むように、東、西の順に押すという分かりやすく覚えやすい歌詞になっていたのだけれど」

「太陽ですか」

「この地域のモデルになっている古代エジプトでは、日々変わることなく繰り返される太陽の運行を永遠の秩序ととらえ、太陽神ラーとして信仰していたわ。そしてこの太陽神は、昼の間は「マアンジェト」という名の船に乗り天空を航行し、夜は「メスケテト」という船で冥界を移動すると考えられていたの」

 

 しかし、リメイクで仕掛けを複雑化させた結果、当てはまらなくなったため『おひさまボタン』は『ふしぎなボタン』に差し替えられたのだった。

 

「このピラミッドの仕掛けはそんな風に変化しているものだから、確認は必要なの。ファミコン版の経験者が確認せずにスーパーファミコン版ではまったり、スーパーファミコン版の経験者が同様にスマホ版ではまったり、ということが実際あるみたいだし」

 

 と締めくくる。

 そうしてさらに城内を探索。

 学者の部屋の本棚からは、性格を変える本が手に入る。

 

「ひぃっ!?」

 

 洗脳調教の恐怖に怯える小悪魔と、手に取って見定めるパチュリー。

 

「まけたら、あかん…… あきらめたら、あかん…… 勝つまでやるんや! ……なにこれ」

「何で、ナニワ風なんですかね?」

「読んだ者の性格を『まけずぎらい』に変えるものね」

 

 負けたらあかんの本である。

 

「『まけずぎらい』は『セクシーギャル』の完全下位互換ですから!」

 

 懸命に予防線を張る小悪魔に、パチュリーはため息をつき、

 

「お店に持って行けば22ゴールドで売れるわね」

 

 と売却することにするのだった。

 実際『まけずぎらい』は良い性格では無いから変える意味は無い。

 この本の値段も相応ということだろうか。

 

 そうして城の外に出ると、城の外周で、

 

「俺はこの城にあるという、星降る腕輪を探している」

 

 という武人に出会った。

 ならば、ということで城の地下へと行ってみる。

 安置されている宝箱を開けると、星降る腕輪が手に入った。

 

「それが素早さを上げるという伝説の腕輪ですか」

 

 感心してパチュリーの手元を覗き込む小悪魔だったが、

 

「ひぃっ!?」

 

 星降る腕輪を手に入れると亡霊が現れる。

 

「私の眠りを覚ましたのはお前たちか?」

 

 そう問われ、パチュリーは素直に「はい」と答えておく。

 

「お前は正直者だな。よろしい。どうせもうわたしには用のないもの。お前たちにくれてやろう。では……」

 

 そのまますっと消えて行く亡霊。

 

「び、びっくりしました……」

「そう? びっくりついでに言うけど、ここって勇者…… あなた一人で来てもさっきの亡霊に「私の眠りを覚ましたのはお前たちか?」と言われるのよ」

 

 それが何か、と言いかけて小悪魔も気づく。

 

「一人でも……「お前たち」?」

 

 顔を引きつらせる小悪魔に、パチュリーはこくりとうなずいて、

 

「亡霊には勇者の後ろに何が見えているのかしらね? 殺されたモンスターたちの亡霊? それとも……」

「止めてください、怖すぎます!」

「……悪魔なのに?」

「悪魔でも怖いものは怖いんですよっ!」

 

 こうして星降る腕輪を手に入れたパチュリーたちは、今度はイシスの街に繰り出す。

 いつものように、住居精霊(ヒース・スピリット)都市精霊(シティ・スピリット)が隠していた精霊の隠し財宝を手に入れて行く。

 武器屋、そして墓の前から小さなメダルを、武器屋の主人の家からステテコパンツを、井戸のそばから素早さの種を、井戸の中からは読んだ者の性格を『いのちしらず』に変える勇気100倍の本を発見した。

 手に取って本を確かめるパチュリーだったが、

 

「さあ、今こそその一歩を踏み出す時! この本を読めば、その勇気が君の手に! ……ねぇ」

「ダメですパチュリー様!」

 

 パチュリーを強く引き止め、語る小悪魔。

 

「本を読んだだけで勇気が手に入るはずがありません。そもそも『勇気100倍』とはア〇パンマンの最強状態を指す言葉!」

「ちょっと、何を言い出すの!」

 

 非常に嫌な予感がして制止しようとするパチュリーだったが、小悪魔は止まらない。

 

「そして『ア〇パン』とはシンナー吸引を指す隠語! つまりアサシンと呼ばれる死を恐れぬ暗殺者が大麻の投与で作られたという伝説のように、きっとその本にはシンナーのような薬物を吸わせて恐怖心を失わせ、勇気100倍にしてしまおうという方法が書かれているに違いありません! CERO年齢区分が全年齢対象のA区分、幼児もプレイするゲームに何て恐ろしい暗喩を込めるのでしょう、エニックスさんは!!」

「そんなわけないでしょう! というか危なすぎる発言は止めなさい!!」

 

 そもそもアサシンと大麻の関係性は、現代では否定されている……

 まぁ、それで小悪魔も『伝説』と言っているのだろうが。

 

「でも最初の性格診断で『いのちしらず』になれるのは砂漠での選択。『勇気100倍』を入手できる場所はここイシスとドムドーラ。すべて砂漠地方ばかりと縁がある性格です。そしてアサシン伝説の発端となった中東も砂漠の存在する土地柄。エニックスさんがそれを意識していないとは思えませんよね」

「いいから!」

 

 危ないからこれ以上、深く突っ込むなという話。

 ともあれ、

 

「この本を読むとなれる『いのちしらず』って、城で手に入れた負けたらあかんの本を読むとなれる性格『まけずぎらい』の上位互換なのね」

「あああ、止めてくださいパチュリー様」

 

 一転して恐怖の表情でイヤイヤをする小悪魔。

 

「そして今のあなたに足りないヒットポイントを決める体力の成長補正が+15パーセント。つまりこの性格に変えれば、あなたの生存率が高まるということ」

 

 守備力を高める素早さの成長補正もセクシーギャルと同じ+20パーセントであり、『いのちしらず』はそういう無謀とも思える性格でも生き残ることができる力を秘めているのだとも言える。

 

「あ、あああ……」

 

 小悪魔に迫る洗脳調教の恐怖!

 これがあったから小悪魔は無茶苦茶なことを言って話をうやむやにしようとしたのか。

 しかしパチュリーには通じない。

 そうして絶望に震える小悪魔に、

 

「でも、力の補正が-5パーセントというのが痛いわよね」

 

 と言う。

 

「そう、そうなんです!」

 

 弾かれるように顔を上げ、希望に縋りつくように言う小悪魔。

 

 実際、『いのちしらず』はそのイメージと違い魔法使いや僧侶、賢者といった後衛向きの性格だった。

 体力への補正は後衛職に足りないヒットポイントを上げるうえ、素早さアップによる守備力強化でさらに耐久性が高まる。

 素早さの向上は魔法による先制攻撃を可能とするものでもあるし。

 力の上昇にわずかにマイナス補正が加わるが、後衛職は元々力が上がりにくく、打撃によるダメージがそれほど期待されるわけでも無い。

 ゆえに許容範囲と言えるものだった。

 

 パチュリーはため息をつき、

 

「お店に持って行けば67ゴールドで売れるわね」

 

 と売り払うことにするのだった。

 そんなパチュリーは、ある人物と出会う。

 

「私はソクラス。こうして夜になるのを待っています。でも夜になると、なぜか朝が待ち遠しくなってしまうのです」

「は?」

 

 言っていることが良く分からない。

 それでは、と思い夜に訊ねてみると。

 

「私はソクラス。こうして夜が明けるのを待っています。ああ…… 早く朝にならないかなあ」

 

 と働きもせず朝を待ち続けている。

 このソクラスの家からは頭が冴える本が見つかる。

 

「『頭が冴える本』って、読むと眠れなくなる本なんでしょうか?」

「それを言うなら『目が冴える本』でしょう」

 

 小悪魔の物言いに呆れるパチュリー。

 

「でも働きもせずに家に引きこもっているというのは良くないですよ。とにかく、この本はこの人から取り上げて置いた方が良さそうですね」

 

 しかし、それでもソクラスの暮らしぶりには変化が無かった。

 昼に会った神父曰く、

 

「誰もソクラスのことを笑えまい。人生とはああしたものかも知れぬ……」

 

 とのことなので、このイシスでも引きこもりの問題は深刻なものになっているらしい。

 だが、

 

「引きこもっていられるだけの力、財力や権力、立場があるのなら、好きにすればいいと思うのだけれど」

 

 と、こちらも生粋の引きこもりであるパチュリーには、何ら問題とは思えないらしい。

 

「えぇー?」

「例えば、引きこもっても問題なく暮らせるほど家が裕福というのも先天的な『才能』よ。私のように魔法を志す者なら、それだけで学習の向上率や魔法の習得速度が違ってくるわ」

 

 というわけで、

 

「誤魔化してないで『頭が冴える本』を渡しなさい」

「うぐっ!?」

 

 小悪魔が後ろ手に隠していた性格を変える本を取り上げるパチュリー。

 

「日ごろの行いというものね。いつもがアレなあなたがまともなことを言い出すなんて、何かあるって言っているようなものよ」

 

 まぁ、

 

「頭が冴える本はロマリアでも得られて、売りに出したものだけど」

 

 商人の能力で鑑定した内容、

 

「驚異の大脳発達術! 頭の良くなる食品リスト! 超思考法!」

 

 というキャッチコピーが怪し過ぎるというのもあるが、根本的にはこの性格の体力-20パーセント補正というのが辛すぎるということである。

 長所である賢さ+40パーセント補正というのは僧侶や魔法使いに使うとマジックパワー切れがまず起きないというほどに賢さが伸びてくれるのだが……

 

 一方勇者はマジックパワーが少ないので、この性格は良さそうと思うかも知れないが、パーセント、割合での補正というものは元々低い値への効果は薄い。

 逆に元々高い体力が大幅なマイナス補正の影響を受けてかなり下がってしまうので、使い勝手が悪いのだ。

 

 そういうわけで、

 

「まぁ、売るしか無いわね」

 

 ということで洗脳調教を免れる小悪魔だった。




 相変わらずな小悪魔のセクハラ妄想。
 そして違う意味で危ない主張。
 いえ、彼女の暴走に書いてる私も冷や汗ものなんですけどね……

 次回はイシスの夜の続きに、逆襲のパチュリー様。
 そして刃のブーメランゲットからの装備の更新、各人の所持金の精算。
 つまり『借金奴隷小悪魔』の巻となります。

「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」

 再びということですね。
 いや、そうしないと小悪魔が次のピラミッドで死にかねないし……


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借金奴隷勇者、小悪魔

 引き続き夜のイシスの街を歩くパチュリーと小悪魔だったが、

 

「パチュリー様、あそこの水場に裸の女性が!」

 

 というわけで駆け出す小悪魔。

 

「待ちなさい! ……そういうのは目ざとく見つけるのねぇ」

 

 呆れて後を追うパチュリーだったが、

 

「いやん、近づかないでっ! こっそり水浴びしてるんだから」

 

 などと小悪魔は拒絶されていた。

 一方、パチュリーに対しては、

 

「身体が砂だらけで気持ちわるいから水浴びしてるの。でも砂漠の夜って案外冷えるのよね。……クシュン!」

 

 ときちんと答えてくれる。

 この対応の違い……

 

「やっぱり一般人にも、あなたから滲み出るいやらしさが分かるのね」

「ヒドイ言いがかりです!?」

 

 実際にはファミコン版で女勇者が周囲から男性と見間違えられていたことの名残。

 スーパーファミコン版以降のリメイク作ではきちんと女性と認識されるようになったものの、このように所々そのままの部分も残っているので、女勇者は同性である女性にも性的な視線を向けているのでは、という疑惑が生じるのだった。

 

 そうしてパチュリーは、

 

「そんなことはどうでもいいとして……」

「良くないですよ!」

「いいとして、夜の城も調べてみた方がいいかしら」

 

 ということで行ってみる。

 昼と変わらずに居るネコたちを横目に、兵士の寝室に入ってみるが、

 

「うわ~、化けネコだぁ~。助けてくれ~。ぐうぐう……」

 

 などとうなされている兵が居る。

 

「化けネコねぇ……」

「そういえば魔法使い…… 魔女のペットってネコが定番ですけど、パチュリー様は飼われていませんね」

 

 ふと小悪魔はつぶやくが、

 

「そうね……」

 

 とパチュリーは城の玄関ホールに戻ると、壁に向かって、その場から動かないネコに気づいて話しかけてみる。

 するとそのネコはくるりと振り向いて、

 

「ケケケ。オレさまは魔王さまの使い魔よ」

「しゃ、しゃべった!?」

 

 驚く小悪魔を他所に話し始める。

 

「魔王さまにたてつこうなどと、大それた考えは改めアリアハンに帰るがよい。でないと、お前らは無残な最後を遂げるだろうよ。ケケケケ……」

 

 という言葉を残し、その場から消え失せるネコ。

 

「び、びっくりしました……」

「あんな風に、かしら?」

 

 くすりと笑うパチュリー。

 

「魔女の使い魔は、契約した悪魔から貸し出されたインプが化けているもの、とも言われているわ」

 

 パチュリーはつい、と人差し指を小悪魔の顎に伸ばし、

 

「あなたもネコになってみる?」

 

 と聞く。

 小悪魔は冷や汗をかきつつ、こう答える。

 

「いえ、私はネコではなく攻める方ですから」

「あなたが何を言っているのか分からないわ」

 

 そんなこんなで謁見の間に。

 

「女王様はすでにお休みです。また昼間にでも来られるが良いでしょう」

 

 と兵士が言うが、パチュリーは玉座へと進み、そこから小さなメダルを拾い上げる。

 

「これで小さなメダルは15枚。刃のブーメランがもらえるわね」

 

 ということで、キメラの翼を使いアリアハンへと飛ぶ。

 街の端にある井戸、ロープを伝って降りて行った先の建物では、小さなメダルを景品と交換してくれるメダルおじさんが待っている。

 

「よし! これでパチェはメダルを15枚集めたので、ほうびに刃のブーメランを与えよう!」

 

 前回以降、新たに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりに刃のブーメランを渡してくれた。

 スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではメダル20枚が必要なアイテムで、入手は最速でもピラミッドの魔法の鍵入手後という武器だったが、この世界の元となっている携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では15枚、イシス到着時点で入手が可能となっていた。

 通常のブーメランはというとノアニールを眠りから覚ました後の入手になっているので、パチュリーたちのように先にイシスに向かうことにすると入手順が逆転することになる。

 

「これが30枚になった時は力の指輪を与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」

 

 パチュリーは次に道具屋に向かうと不要品を売却し、資金調達するとキメラの翼を補充し、さらには薬草を大量に買い込み『ふくろ』に入れる。

 そうしてまた勇者の実家で身体を休めることにした二人だったが……

 

「何でガーターベルトを持って、にじり寄って来るの!」

「もちろんパチュリー様にガーターベルトを付けて差し上げるためですよ。星降る腕輪は素早さを二倍に引き上げる装飾品です」

「ああ、つまり素早さが高いあなたに付けた方が効果がある、するとガーターベルトが私に回って来るということね」

「ですから私がパチュリー様に付けて差し上げて……」

 

 そう言いつつ、じりじりとパチュリーに迫る小悪魔。

 

(ガーター留めのバンドって、下着の下を通すんですよね、つまり……)

 

 ということだが、しかし、

 

「……それじゃあ、精算してみましょうか」

 

 パチュリーは諦めた様子でそう言うと、アイテムを分配し、それぞれの所持金を計算することに。

 

「アイテム分配が先なんですか?」

「次はピラミッド突入だから、借金が生じようとも装備の有利さ優先で行くわ。お金の計算はその後でね」

 

 そういうわけで、

 

「あなたに使ってもらうのは刃のブーメランと、星降る腕輪、そして星降る腕輪の効果をさらに高めるための素早さの種ね」

「ううっ」

 

 いかにも高そうな装備ばかりで怯む小悪魔。

 

「刃のブーメランの売却価格は900ゴールドという、このクラスの武器としては格安の値段。そして素早さの種は60ゴールド。これらは二人に所有権があるから、合計の半額の480ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができるわ」

「そ、そんなお金……」

「今まで使っていたトゲのムチが売却できるでしょう? 240ゴールドで売れるから、差額の240ゴールドで大丈夫よ」

「そ、それなら何とか払える…… んですかね? ここまで戦いやアイテム回収で稼いできたはずですし?」

「そして星降る腕輪だけど、これ、価値が高過ぎて値段なんか付けられない売却不可のアイテムなのよね」

「ええっ!?」

「それで考えたのだけれど、勇者と商人だけの二人旅だと星降る腕輪と、ピラミッドで魔法の鍵を取ったら入手できる豪傑の腕輪、どちらかをこの先、状況に合わせて付けて行くでしょう?」

「それはそうですね」

「付け替えるたびに計算なんて面倒だから、この際、星降る腕輪の売却価格を仮に、豪傑の腕輪と一緒として計算したらいいんじゃないかって」

「なるほど……」

「豪傑の腕輪の売却価格は3375ゴールドだから、半額の1687ゴールドを私に払えばいいわけだけど、代わりにガーターベルトを私に渡すわけだからその分の売却価格975ゴールドを引いた、712ゴールドを払ってもらえばいいわ」

「そ、それって……」

「そうして清算すると」

 

小悪魔:-1129G

パチュリー:322G(+未払い分1129G=1451G)

 

「という具合になるわね」

「ぐふっ……」

 

 とんでもない借金持ちになってしまい、その重みに耐えかねたかのように膝をつく小悪魔。

 フルフル震える手で、

 

「そ、それでもガーターベルトを、ガーターベルトをパチュリー様に付けてもらえるなら、私はそれだけで……」

 

 と気力を振り絞るが、

 

「ああ、ガーターベルトは売却するわよ」

「はい?」

「性格をタフガイからセクシーギャルに変えたくは無いし、どうせピラミッドで魔法の鍵を取ったら星降る腕輪か豪傑の腕輪の二択になるのだし、取っておく意味は無いわね」

「で、でも守備力が上がりますし、少なくとも魔法の鍵を取るまでは身に着けた方が……」

「それなら売却したお金で防具を揃えた方がよっぽど守備力を上げられるわよ」

 

 ということ。

 小悪魔はこの世の終わりかと思えるほど絶望的な表情をし、がっくりとうなだれ、両手を床につける。

 そうして、しかし最後の希望に縋るように膝をついたまま、震える指先をパチュリーに伸ばし、にじり寄る。

 

「な、ならせめて売り払う前に、一度だけ、一度だけでもいいんです、付けてみて……」

「ああ、あなたはこれね」

「もがっ!?」

 

 小悪魔の口に突っ込まれるパチュリーの指。

 そうして小悪魔は、

 

「あひィッ……!? あ、あはあぁぁぁぁぁ……」

 

 全身を襲う筋肉痛を凝縮したような痛みに叫ぶ。

 そう、パチュリーが小悪魔の口の中に突っ込んで飲み込ませたのは、先ほど言っていた素早さの種だった。

 その場に倒れ伏し、ビックンビックンと震える小悪魔を見下ろし、パチュリーは言う。

 

「あら、素早さが1しか上がっていないわ。ここはリセットしてやり直すしか無いわね」

 

 そうして……

 

「あッおうッ!」

 

「あむあむあううぅッ!」

 

「くはああぁぁぁッ……」

 

 繰り返す時の中、小悪魔の悲鳴が延々と続くのだった。

 

 

 

「ひ、ヒドイ目に遭いました」

 

 何度もリセットを繰り返した末、摩耗しきり、精神が焼き切れたかのように眠りに落ちた小悪魔。

 そのまま一夜を明かしてしまっていた。

 せっかくパチュリーと同じベッドで寝たというのに、その間の記憶がまったく無いという実にもったいない話だった。

 

「それじゃあ、イシスに跳ぶわよ」

 

 身だしなみを整え朝食を取ったら、キメラの翼を使ってイシスへと跳ぶ。

 パチュリーは結局一度も身に着けることなくガーターベルトを売却して、所持金と合わせて1100ゴールドの鉄の盾を買い込んだ。

 

「鉄の盾、ですか? もっとコストパフォーマンスの良い防具もあると思うんですけど」

 

 不思議そうに首を傾げる小悪魔。

 

 防具の買値を守備力で割って並べてみると分かるが、通常は鎧→盾→兜の順でコストパフォーマンスは悪くなる。

 つまり買いそろえるならまずは鎧。

 盾がその次。

 兜は一番優先順が低くなるという具合になる。

 

 同時に守備力が高くなれば高くなるほど、コストパフォーマンスは悪化する傾向にある。

 

 そして鉄の盾はコストパフォーマンスが悪いと言われる鉄の鎧よりさらに費用対効果が劣悪な防具である。

 

「そうね、防具の品ぞろえが豊富なアッサラームのお店に行って、もっとコスパの良い防具類を予算内で揃えるという手もあるのだけれど」

 

 例えば鉄のエプロン、青銅の盾、毛皮のフードを買うというもの。

 小悪魔は比較のため試しに計算してみるが、

 

「あ、あれ? コストパフォーマンスが良い防具ばかりなのに、総額は1200ゴールドで鉄の盾の1100ゴールドより高くなります? それでいて守備力は1ポイント低くなるって?」

「その購入パターンだと今、私が使っているターバンと革の鎧の売却金額の下取り価格を差し引かないと」

「ああ、232ゴールドを差し引くんですね」

「あとはキメラの翼を1つ余分に使う25ゴールド分が仕入れのための交通費としてかかるわけだけど」

「すると守備力が1ポイント低い代わりに、107ゴールド安く上がるわけですね。でも……」

「まぁ、両者にそれほど差は生じないということね」

「んん? 鉄の盾は圧倒的にコスパが悪い、しかも高額な商品なのに結果はほぼ変わらない? あれ? 私騙されてます?」

「騙す必要がどこにあるのかしら?」

 

 答えは、

 

「鉄のエプロン、毛皮のフードは確かに悪くないコストパフォーマンスを持つ装備だけれど、それを言うなら革の鎧、ターバンの方がもっと上よ。つまりそれらを買い替える損失分で、鉄の盾と青銅の盾のコスパ差が相殺されてしまうのよ」

 

 ということ。

 

「さらに言うなら鉄のエプロンと青銅の盾は魔法の鍵を手に入れたらもっと良いものに交換、買い替えになるわ。毛皮のフードも、あなたが今使っているものを使いまわすことになるだろうし。でも鉄の盾ならバハラタで魔法の盾を買うまで使い続けることができる」

 

 まぁ、

 

「気分的にも砂漠で鉄製の鎧は着たくないし、毛皮のフードよりはターバンの方が過ごしやすいしね」

 

 ということでもある。

 そういうことで、鉄の盾を装備するパチュリー。

 

「これで一気に守備力が上がったわね」

 

 最終的に二人の装備とパラメーターは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:9

 

ちから:26

すばやさ:20

たいりょく:54

かしこさ:13

うんのよさ:9

最大HP:107

最大MP:26

こうげき力:53

しゅび力:50

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:かわのよろい

たて:てつのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:7

 

ちから:29

すばやさ:62

たいりょく:20

かしこさ:17

うんのよさ:14

最大HP:39

最大MP:33

こうげき力:53

しゅび力:69

 

ぶき:やいばのブーメラン

よろい:かわのこしまき

たて:かわのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

 という具合に。

 

「よ、ようやく攻撃力がパチュリー様と並びましたが……」

「どうしたの?」

「これ、攻撃力も、そもそも守備力が高いことでさえ、パチュリー様から借金して身に着けている装備類のおかげなんですよね?」

「ああ……」

 

 最終的な所持金も、

 

小悪魔:-1129G

パチュリー:97G(+未払い分1129G=1226G)

 

 ということになっており、確かにそのとおりだったりする。

 

「……ハリボテ感がとっても強いです」

 

 商人が融資しなくては戦えないハリボテ勇者……

 なお、この光景を目にした人々からは、やはり、

 

「勇者は商人のヒモ、はっきりわかんだね」

 

 などと噂されることになったという。




 イシスの夜の続き、および装備変更でした。
 次回はピラミッドですので、小悪魔に借金を負わせてでも守備力を上げさせたのですが。
 と言いますか、パチュリー様が買った鉄の盾もできるなら小悪魔に装備させたいところなんですけどね。


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ピラミッドへ ミイラ緊縛、マミフィケーションへの誘い

 装備を整えたパチュリーたちは砂漠を北上し、ピラミッドを目指す。

 

「見えて来たわね、あれがピラミッド」

 

 というところで、

 

「モンスターです! やたらと派手(サイケデリック)な蝶、いえ、蛾でしょうか?」

「人食い蛾ね」

 

 四匹の人食い蛾と遭遇。

 しかし魔物の群れは驚き戸惑っている!

 

「チャーンス!」

 

 先制攻撃を仕掛ける小悪魔!

 

「刃のォォォオ、ブゥゥゥメラン!!」

 

 ブーメランは敵全体に攻撃できる武器だ!

 回転しながら飛翔するくの字型の刃が敵を切り裂いていく!!

 攻撃力もパチュリーと同等にまで上がっているため、結構なダメージを敵に与える。

 そしてパチュリーのチェーンクロスによる追撃!

 しかし、

 

「パチュリー様の攻撃をかわしました!?」

 

 一匹が攻撃を回避したため、二匹を倒すに留まる。

 

「人面蝶と同じく攻撃を回避することがあるのよ。その上このモンスター、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと回避率が地味に上がっているの」

 

 ということ。

 

「ならもう一度!」

 

 小悪魔は星降る腕輪の効果で素早さが倍になっているので先手を取り攻撃することが可能。

 敵に何もさせないまま倒しきり、戦闘を終わらせる。

 

「良かったわ。見た目に反して、さまようよろい以上の攻撃力を持つ上、マヌーサやら毒攻撃やら仲間を呼ぶやらで、いやらしいモンスターだったから」

 

 ほっと息を吐くパチュリー。

 なお、彼女たちは前衛タイプのキャラ二人旅なのであまり影響は無いが、人食い蛾の判断力は0。

 馬鹿なので勇者パーティの隊列が認識できず完全ランダムで攻撃対象を襲うため、平気で後衛に攻撃を飛ばしてくる…… それもさまようよろい以上の攻撃力で、という厄介者でもあったりする。

 

 一方小悪魔は初めて使用した刃のブーメランをまじまじと見て、

 

「投げても戻って来る武器ですか。北欧神話のオーディンの槍、グングニルや雷神トールのハンマー、ミョルニルみたいですね」

 

 神話や伝説における投擲武器において、必中と共に付与されることの多い能力だ。

 

「そうね、そういった魔法の武器なんでしょう。発祥の地のオーストラリアでも戻って来るブーメランは遊戯用で、狩猟に使われるのは真っすぐに飛んで帰って来ないカイリーと呼ばれるタイプだし、そもそも当たればどっち道、戻って来ないものなのだから」

 

 そうしてピラミッドに到着する二人。

 日陰に入り、

 

「ふぅ、明け方とはいえ、砂漠を歩くのはきつかったわね」

 

 と一息つく。

 パチュリーは肩ひもで吊り下げた鉄の盾に視線を走らせて、

 

「鏡面仕上げの金属防具は光を反射するから温度上昇が抑えられるとは言うけれど、布でカバーしておいた方が良かったかしら?」

 

 ドラゴンクエスト10には盾カバーという装備があった。

 これはエンブレムを付けるなど装飾と識別が目的のものだったが、十字軍の頃に多用された鎧の上に着込むサーコートも装飾以外に金属鎧の温度上昇を防ぐ狙いがあったという説がある。

 同様に厳しい砂漠の日光による温度上昇を緩和することができるだろう。

 また、

 

「金属などの固くて他の物と当たって音が出るような装備は、布で覆っておくといいということもあるし」

「音ですか?」

「そう、消音が目的ね。ハンター、または軍隊なんかだと武器にカモフラージュのための布テープを巻く場合があるそうだけれど、これは同時に音を立てないための処置でもあるという話よ」

 

 野外、そして今回挑むピラミッドのようなダンジョンでは、かすかな音でも思いがけないほど遠くまで届いてしまうものだ。

 音の進む速度は常に一定。

 聴覚に優れた相手なら音の大きさと方角でこちらの位置をつかんでしまう。

 だから何かに当たると音を立ててしまいそうなものには消音対策を施しておいた方がいい。

 

 特にピラミッドは強敵が現れる場所。

 少しでもモンスターとの遭遇を避ける努力が必要だった。

 

「私たちの持っている装備は革や布のものがほとんどですから、そんなに気にしなくても大丈夫だと思いますけど」

 

 そう答える小悪魔に、パチュリーは首を振って言う。

 

「布の戦闘服で戦うようになった近代以降の軍隊でも、隠密行動が必要な場合は軍服の袖、裾、股などをヒモで縛って衣擦れの音すら立てないよう気を配るって話もあるくらいよ」

「ヒモですか?」

 

 戸惑う小悪魔にパチュリーは告げる。

 

「旅人の服を仕立て直した時に出た余りの布があるでしょ」

 

 アリアハン国王が渡した旅人の服は男女関係なく大抵の人間が着ることのできるフリーサイズ。

 そこから少女の姿をしたパチュリーの体格に合わせてきっちりとサイズ調整をしたので、余った布は多い。

 

「それを帯状に切って巻いておけばいいわ」

 

 カモフラージュと消音になる。

 小悪魔はパチュリーの指示のもと包帯状に裁断した布を装備に、刃のブーメランのサヤにきつく巻き付けていく。

 木製の打撃武器である普通のブーメランならともかく、刃のブーメランはその名のとおり刃が付いているのでサヤ無しには安全に携行できない。

 それゆえに付属していたものだが、強度はともかく造りが今一つなのか、力をかけるとギシギシ鳴るという不具合があった。

 布をきつく巻き付ければそれが防げるし、石造りの壁など固いものに当たっても音を立てないという利点もある。

 

 しかし小悪魔は不意に瞳を輝かせながら顔を上げると、

 

「聞いて下さい、パチュリー様」

「聞かないわ。どうせ下らないことでしょう」

「何を勘違いなされているのか分かりませんが包帯緊縛、マミフィケーションの話です」

「何も勘違いなんてしていないじゃない!」

 

 マミフィケーションというのはその名のとおりミイラ(マミー)のように全身を包帯その他でぐるぐる巻きに拘束する緊縛プレイの一種。

 一般にはこのピラミッドでも登場するモンスター、ミイラ男のイメージが強いため理解しづらい面があるが、イメージの根源となるエジプトのミイラは手足を身体と一緒にまとめて身動きできない形で包帯に縛られている。

 寝袋の一種にマミー型シュラフがあるが、その名のとおりあのような形をしているものだ。

 つまりマミフィケーションとは包帯により身体を芋虫のように一つに縛り上げられてしまう全身緊縛を意味するのだった。

 性的嗜好に基づいた愉しみ方の一つ、というのはパチュリーも知識としては知っているが、

 

「武器のサヤに布を巻きつけるだけでそういう話に結び付ける、その頭の仕組みが分からないし、そんな特殊なシュミの話をされても……」

 

 という話。

 しかし、

 

「特殊? 本当にそうでしょうか?」

 

 と小悪魔は笑ってみせる。

 その嫣然とした笑みに、パチュリーは思わず息を飲む。

 そんなパチュリーに、小悪魔はささやくように言い募る。

 

「想像してみてください、パチュリー様」

 

 小悪魔はその形の良い指先を……

 そう、これまで種を使って能力値を上げる際のマッサージで散々にパチュリーの身体を弄び、啼かせた己の指を見せつけるかのように作業を続けながら語る。

 器用に、まるで蜘蛛のように動きサヤに布地を巻きつけていくその指に、パチュリーの瞳は我知らず吸い付けられ、

 

「自分がこんな風に、蜘蛛の糸に巻かれるように全身を、手足までまとめて縛り上げられ芋虫のように転がり這いつくばるしかない、完全に無力化させられる拘束感を」

「っ!?」

 

 ぐいと引っ張り、きつく、硬く布を食い込ませ、その下のサヤ本体のカタチを浮き立たせて見せて、

 

「ギチギチに、くっきりと体のラインが出るくらいに締め上げられ緊縛され、身動きもできないままに肺の中の空気を、いいえ、被虐の快楽が入り混じった吐息を、苦鳴を搾りとられるさまを……」

 

 間。

 

「今、即座に否定できませんでしたね?」

「ちっ、ちが……」

「パチュリー様、占いや口説きのテクニックには「あなたはおおらかな人だけど、実は繊細なところもあるよね」というように『正反対のことを言う』というものがあります」

 

 一見、何の関係もないように思えることを語り出す小悪魔。

 

「人間は単純ではないので「おおらかなだけな人」「繊細なだけな人」などは居ず、こんな風に言っておけば必ず当てはまり、相手は自分の隠れた一面をわかってもらえているような気持ちになるのです」

「詐欺の手口ね」

 

 パチュリーは形の良い眉をひそめて吐き捨てるように言うが、しかし小悪魔は意に介さず、

 

「でも、真実を突いているからこその方法だとも言えますよね?」

 

 と笑顔で言ってのける。

 

「お判りでしょう? パチュリー様の理性は否定するでしょうけど、魔法使いであっても生きている、生者である限り心のどこかには生の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)に基づく、性への欲求とか破滅願望などが微量でも無いとは言えないわけで」

 

 見つめあう、両者。

 

「それがパチュリー様の隠れた一面であり、本性であり、そして私はどんなパチュリー様であっても肯定する存在です。だって私はパチュリー様のすべてを愛しているのですから」

 

 だから小悪魔は慈愛に満ちた表情で言う。

 

「ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ」

「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

 

 心底呆れた、といった表情と声で言葉を返すパチュリーに、

 

「……そうでなくてはいけません」

 

 と、小悪魔は笑う。

 

「例え始めから結末が決まっていようとも。例えパチュリー様が心の奥底で堕とされることを渇望していようとも。最初から悪魔に狂わされ、被虐の快楽を甘んじて受けるようではパチュリー様も私も興が削がれてしまいますものね」

「言ってなさい」

 

 パチュリーはいつもどおり、ため息交じりに言い捨てるが、小悪魔の笑みは消えない。

 

「この先出てくるミイラ男というモンスターですけど、ドラゴンクエストの派生作品『ドラゴンクエスト モンスターバトルロードIIレジェンド』では特殊攻撃に『バンテージホールド』という拘束技が追加されてまして……」

 

 敵一体を包帯で縛り上げ、身動きできなくする技だ。

 

「体験、してみますか? 司書権限でこの世界を改変することも可能ですよ。のちの作品の要素を旧作リメイクで取り入れる。ドラクエシリーズでは珍しいことではありません」

「何ですって?」

「本来のパチュリー様の力なら歯牙にもかけないモンスターの攻撃を、あえてその身で受けてみる、状態異常に捕らわれ、自由を奪われてみるんです。ゾクゾクしませんか?」

 

 戦闘中に状態異常を受けてしまう……

『避けられなかった運命』という大義名分の下に、モンスターからの拘束を受け、がんじがらめに縛られてみる。

 本来のパチュリーならば通用する余地などないくらい、隔絶した実力差のある格下からの攻撃に自ら望んで拘束されてみる。

 

 小悪魔の誘いに身を委ねたら、一体どんな風にされてしまうのだろう?

 

 そんな好奇心も無いではない。

 パチュリーは生まれながらの人外、生粋の魔法使いではあるが、少女の形を取る以上、その思考は外見に引きずられる。

 性的なことに目覚めつつある思春期の少女特有の戸惑い。

 だが、しかし大人ではないからそれに対する処し方が分からない。

 このパチュリーの脳裏に浮かんだ戸惑いも、そんな思春期特有の、一時の気の迷いと言って良いもの。

 程度や方向性は違えど、誰にだって似たような経験はするものだ。

 

 だが…… 普通の少女が弱さゆえ、恐怖から踏みとどまってしまうこの手の迷いを、しかしパチュリーは実行に移したとしても害されない強さを持っていた。

 だからこそ迷う。

 

 わざと拘束を受け、がんじがらめにされ自由を奪われる。

 それはどのような感覚を、感情を自分にもたらすのだろうか?

 

 パチュリーの迷いは尽きない。

 ずぶずぶと、泥沼に沈んでいくように思考の淵に囚われてしまう……

 

「いいじゃないですか、これはゲームなんですから」

 

 小悪魔は言う。

 そう、ゲームなのだからちょっと試してみるだけ。

 パチュリーに小悪魔が主張するようなおかしな願望が無ければ、ちょっと自由を奪われ、拘束されるだけで終わることだ。

 そのはずなのに……

 

 どうして呼吸が浅くなるのだろうか?

 どうして鼓動が早まるのだろうか?

 どうして、どうして……

 

「………」

 

 考え込むパチュリーからは見えない位置で、小悪魔は笑う。

 そう、これはゲーム。

 ドラクエ3の世界を楽しむと同時に……

 小悪魔が謀る、パチュリーを至上の悦楽と被虐の奈落へ堕とすためのゲームでもあるのだ。

 

(パチュリー様には酔って頂かなくてはいけません、このシチュエーションに)

 

 それこそがパチュリーの精神を侵す、最高の媚薬となるのだから……

 

 

 

「でもそういう意味じゃあ、霊夢さんも凄いですよね」

 

 先ほどまでとはうって変わった能天気な口調で小悪魔は言う。

 パチュリーはそれに毒気を抜かれて、

 

「博麗の巫女がどうしたって言うのよ」

 

 と聞く。

 幻想郷の博麗大結界の要となる博麗神社の巫女。

 

「私見ちゃったんです、霊夢さんが女性の性の象徴である胸をぐるぐる巻きにすることで、その拘束、緊縛感を味わっているのを!」

 

 小悪魔によって包帯緊縛、マミフィケーションについて散々語られた後だと妖しく感じるかも知れないが、それは、

 

「……ああ、サラシってやつ」

「しかもあのいやらしい脇の開いた巫女服で周囲にそれをちらちらと見せつけながら日常生活を送るという難易度高すぎな露出羞恥プレイ!」

「………」

 

 酷すぎる、酷すぎる言いがかりだった。

 

「霊夢が聞いたらあなた、ちりも残さず退魔されるわよ」

「大丈夫です! ここは本の中の世界ですから! 霊夢さんが来たらジパングの巫女、ヒミコ役を演じてもらいます!」

「やまたのおろちに変化して襲い掛かってくるわけね」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 ちょっとシャレにならなかった。

 だから小悪魔はこう言う。

 

「じゃあ、おろちが化けているニセモノではなく、第5のすごろく場に出てくるホンモノの方で」

 

 ファミコン版では住民のセリフから死んだものとされていた本当のヒミコだったが、スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ではしんりゅうの願い事で行けるようになる第五のすごろく場に何気にひょっこり居たりする。

 

「わらわは ヒミコと申す者。

 ここは どこじゃ?

 このような まがまがしき所は…

 おお そうかっ!

 おろちの 腹の中じゃなっ。

 あな くちおしや……。」

 

 などと言って。

 第五のすごろく場への入り口はジパングの井戸の底にあったりするので、すぐに帰ることができるはずなのだが……

 すごろく場は『まがまがしき所』なのか…… いや、ギャンブル場というのは人の情念と欲望が入り混じる場所ではあるのだが。

 

 ただし、

 

「それはスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版だけのものだから」

 

 この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されているのだった。




 相変わらず絶好調でパチュリー様にセクハラを働く小悪魔。
 そして唐突に始まる霊夢への熱い風評被害。
 おかげで話が進まない進まない。


>「ここは本の中の世界で誰も見ていないんですから、本当の自分をさらけ出してもいいんですよ」
>「……人をおかしな性癖を隠して偽りの人生を歩んでいるかのように言わないでちょうだい」

『超人機メタルダー』の主題歌『君の青春は輝いているか』が思い浮かぶ私。
(興味のある方は歌詞を検索するなり聞いてみるなりしてください)


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ピラミッド 魔法の鍵とマジカルなスカート

「途中のモンスターは無視して逃げる。まっすぐ3階を目指して魔法の鍵を取るわよ」

 

 ということにするパチュリーだったが、しかし、

 

「でも本当に真っすぐ進むと、落とし穴で地下に落とされるから注意するのよ」

「財宝を秘めた王、ファラオの墓ですから盗賊除けの仕掛けがあって当然ですか……」

「ピラミッドの地下では魔法が使えないようになっているしね」

 

 つまり、

 

「これがピラミッドパワーなんですねっ」

「……そうなの?」

 

 そんな小悪魔の戯言はともかく、通路を進んでいくと、立派な像があった。

 このピラミッドに眠っている王だろうか……

 そうして、

 

「ええっ、1回もモンスターに遭遇することなく上の階への階段に到着できましたよ!?」

 

 驚く小悪魔だったが、しかし次の階でも、

 

「このフロアも敵との遭遇無しでクリアーできましたね……」

 

 と敵に遭遇しないまま、魔法の鍵が隠されたピラミッド3階へたどり着いてしまう。

 

「スーパーファミコン版以降のリメイク作では遭遇率が下がっているとは聞くけど、この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもの。つまりそれよりさらに下がっているということかしら?」

 

 首を傾げるパチュリー。

 

「いいんですか、それ? ボタンの謎解きも簡単になっているっていうのに」

「あるいは笑い袋による資金稼ぎを防止するためかも知れないわね」

「はい?」

「笑い袋は色々と面倒な相手なのだけれど、スーパーファミコン版以降のリメイク作だと、ピラミッドの1階、2階での出現率が異常なくらい上がっていて、5割前後の確率で現れることになるわ」

「うーん? 遭遇率を下げてプレイヤーのストレスを緩和した代わりに、厄介なモンスターの出現率を上げることで難易度を調節したってことですか?」

「そうかも知れないわ。そして笑い袋はニフラムに耐性を持たず100パーセント効くから簡単に排除できるはずなのだけれど、350ゴールドという破格のお金を持っている」

「それは…… 迷いますね」

 

 退魔の呪文、ニフラムで吹き飛ばすと経験値とゴールドが手に入らないのだ。

 

「そう、お金の誘惑に負けて倒そうとするととんでもない損害を被り最悪、全滅しかねない。存在自体がピラミッドの財宝を狙う欲深い墓荒しを破滅に導く罠ということね」

 

 しかし、

 

「でも逆に言えば、倒せるなら資金稼ぎに最適ということでもあるわ。同じお金持ちモンスターの踊る宝石やゴールドマンと違って絶対に逃げないし、これを乱獲すれば、あっという間に万単位のお金がたまるの。リメイク版のゲームバランスを破壊した要因の1つとも言われているものね」

「ああ、それで携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では、ピラミッドの1階、2階でのモンスターとの遭遇率をさらに下げた?」

「そもそもモンスターが現れなければ稼ぎの効率は下がるものね」

 

 そういうことだった。

 そして、

 

「まずは東の東ね」

 

 イシスで聞いた童謡のとおりにボタンを押していく。

 間違うと足元の床が開いて下の階に落とされるので慎重に。

 

「次は西の西と」

 

 階段を下りたりしてフロアを離れると、最初からやり直しになる。

 東に行ったり西に行ったりする通路の途中にはこの階へ昇って来るのに使った階段がある。

 直進してうっかり階段を踏んでしまったり、慣れた人間だとエンカウントまでの歩数カウントをリセットしようとつい昇り降りしてしまいがちなため注意が必要。

 

 そうして向かう途中でようやく敵と遭遇!

 

「ミイラ男さん?」

「それに笑い袋よ!」

 

 逃げ出すパチュリーたちだったが、回り込まれてしまった。

 笑い袋はマホトーンを唱える。

 が、

 

「効かないですよ!」

 

 パチュリーも小悪魔も抵抗(レジスト)に成功。

 そしてミイラ男の攻撃。

 ミイラ男の攻撃力はあばれザルと同じ55ポイント。

 小悪魔は星降る腕輪で守備力をかなりのところまで高めているのだが、

 

「かふっ!?」

 

 それでもヒットポイントが1/4近く削られてしまう。

 つまり4体すべての攻撃が偏って小悪魔に集中したら、それだけで死亡するかも、という相手である。

 そして、

 

「うぐううう…っ、なんでわたしだけぇぇぇぇぇ…」

 

 先頭に立つパチュリーをスルーして、小悪魔にミイラ男からの攻撃が次々に命中。

 

「ミイラ男は判断力が0、つまりバカだから勇者パーティの隊列が認識できず、攻撃対象は完全ランダムなのよ」

 

 ゆえにこんな風に運次第で先頭に立つパチュリーに攻撃が行かず、後ろに居るはずの小悪魔に集中するということもありうるのだ。

 

「バカな方が危険って、そんなのアリですか?」

 

 と嘆く小悪魔だったが、実際ドラゴンクエストでは判断力が低い方が厄介というパターンは多い。

 しかしミイラ男の場合は、

 

「でもバカなおかげで設定されているはずの『集中攻撃』の特性が機能していないのよ」

「集中攻撃!?」

 

 おばけありくいなど集中攻撃の習性を持つモンスターは狙いを一人に集中させ、対象を死ぬまで攻撃し続けるという行動パターンを取る。

 あばれザルと同じ攻撃力でそれをされたら、とんでもないことになりそうだが、ミイラ男はデータ上は集中攻撃持ちなのにそれを使えない。

 つまり判断力が0でバカなので狙いを絞れないというモンスターである。

 

 ともあれ、危険なまでにヒットポイントを減らされ、逃げ損ねたら死んでしまうだろう小悪魔のために次のターンは逃亡を断念。

 

「身を守って!」

 

 小悪魔には防御を選択させ、パチュリーは薬草による治療を試みる。

 そして笑い袋はマヌーサを唱え、パチュリーと小悪魔は幻に包まれてしまう。

 

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 身を守る小悪魔にミイラ男の攻撃が続く。

 一発、二発、そして残りあと2ポイント、次に攻撃を受けたら死亡というところで、パチュリーの治療が間に合う。

 そんなパチュリーにも攻撃が加えられるが、こちらは高いヒットポイントで問題なく耐えられる。

 そして、

 

「次のターンで逃げるわよ」

 

 ということで再び逃亡を選択。

 しかし回り込まれる。

 今度は笑い袋はボミオスを唱え、パチュリーには効かなかったが、小悪魔は、

 

「すぅばぁやぁさぁがぁ、さぁげぇらぁれぇちゃいまぁしぃたぁ~」

 

 と素早さが下げられてしまう。

 ストップモーションのようにカクカクした動きで、

 

「コ・マ・オ・ク・リ・モ・デ・キ・マ・ス・ヨ」

 

 などという真似も。

 

「そんな風に遊べるなんて余裕ね。まぁ『装備技』で無効化できるから問題は無いけど」

 

 システム的に言えば、ドラクエでは戦闘中に装備を変えられる、装備を変えると能力値が変化する可能性があるので再計算される(実際に装備しなおす必要は無く、現在装備中のものを選ぶだけでも良い)、すると魔法で変化していた攻撃力、守備力、素早さが元の値に戻ってしまうというもの。

 これでスクルト、スカラ、ルカナン、ルカニ、ピオリム、ボミオス、モシャスの効果が解除される。

 不利な魔法を受けた場合に使えるが、同時に味方からの有利な呪文効果も消えてしまうのが難点。

 一般には『装備技』と呼ばれるもので、スーパーファミコン版で使えるようになり、次のゲームボーイカラー版では使えなくなったものだが、スーパーファミコン版を元に制作された携帯電話版以降ではまた使えるようになっているというもの。

 

 一方、魔法使いであるパチュリーからすると現実にも、邪視から身を守る動作として拳から人差し指と小指だけを立てるコルナというジェスチャーがあるように、一定の仕草で相手の呪詛を無効化するというのは魔術的にもあり。

 すなわち、ドラクエ世界ではそれが装備技となっているのだろうという認識だった。

 

 そして数発、ミイラ男から殴られるが、次のターンに逃亡が成功。

 

「し、死ぬかと思いましたー」

「笑い袋は色々と面倒な相手よ。ホイミスライムと同じ無限のマジックパワーで素早さを下げるボミオス、魔法を封じるマホトーン、深い幻に包み込み、攻撃の半分を外れさせるマヌーサを唱える他、ふしぎなおどりを使ってマジックパワーを減らしてくる厄介者。攻撃力は極端に低いけど、そこは一緒に出現するモンスターが補ってしまうし」

「ええー……」

 

 想像しただけで嫌になったのか、げんなりとした顔をする小悪魔に、パチュリーは、

 

「さらにはスーパーファミコン版以降のリメイク作では、ファミコン版ではデータ上設定されているだけで使えなかったスクルトを唱えるわ」

「はい!?」

「しかも地獄のハサミと同じ、敵全体を元の守備力と同じ値だけ上昇させる壊れ性能の方よ」

「ダメじゃないですかー」

「素早さはこの時点では破格の64で、星降る腕輪をもってしても先手を取るのは困難。仮に先手を取れたとしてもモンスター中最高の回避率で攻撃をかわすこともあるし、ダメージを与えても判断力が最高の2だから、そのターン中に行動を切り替えて自分自身をホイミで回復したりする」

「ええっ、そんなずるいことしていいんですか!?」

「プレイヤー側も、戦闘をAIに任せれば同じことをしてくれるわよ」

 

 ドラゴンクエスト3でも、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版ではAI戦闘が取り入れられているから利用が可能だ。

 この場合AIはターン開始時ではなく、自分が動ける番になった時点で、もっとも有効な行動を選ぶようになっている。

 

「薬草で治療して進みましょう」

 

 マジックパワーの節約のため大量購入して『ふくろ』に詰め込まれた薬草で治療をする。

 

「……考えたんですが、パチュリー様」

「何かしら?」

「さっきの戦闘で私、ぎりぎり死にませんでしたけど、逆に言うとこれ、パチュリー様からの借金で防具を固めていなかったら確実に死亡していたってことですよね」

「そうなるわね」

「文字どおりの借り物の力ってやつじゃないですかー。やっぱり勇者の強さって、パーティの収入を吸い上げて優先的に装備を整えているが故って話ですよね」

 

 現状を鑑みると実際、そんな感じではある。

 しかも、

 

「そもそもの話で言ってしまうと、さっきの戦いであなたが死んでいても、私一人で魔法の鍵の取得は可能よ」

 

 だから今の段階で取りに来たという話でもある。

 

「うぐっ!?」

「勇者がパーティから外せないから連れて来てるけど、ひたすら逃亡と薬草による治療を繰り返して進むだけなら、私のヒットポイント頼りで十分というか」

 

 という割と身も蓋も無い話であった。

 

 ともあれ、西の西のボタンを押すと、重い岩が動く音がして魔法の鍵への扉が開いた。

 そして祭壇の宝箱からスタミナの種と魔法の鍵を入手。

 

「これでもう、最悪デスルーラをすればいいから気が楽になったわね」

「デスルーラ?」

「死に戻りを利用した脱出、移動法ね。持ち金が半分になってしまう上、仲間の蘇生費用がかかるけど、今はちょうどお金の持ち合わせは少なくなっているし、仲間の蘇生と言っても私一人分だけだし使っても痛くないわ」

 

 それでふと、小悪魔は思い出す。

 

「ピラミッドの1階、2階のエンカウント率を下げることで笑い袋による資金稼ぎを防止するっていうお話ですけど」

「ええ」

「このピラミッドの地下にはモンスターのエンカウント率を強制的に上げる黄金の爪が眠っているんですよね? そのデスルーラを使って取れば……」

「ああ、それは無理よ。スーパーファミコン版以降のリメイク作だと黄金の爪だけは死に戻りをすると、元の安置場所に戻されるっていう特別な処理がされるようになっているから」

「ええっ!?」

「その上で、入手した際に上昇するエンカウント率もファミコン版より強烈に上げられていて持ち出すのは大変。レベルを上げてから来れば、というのもピラミッドの地下には先頭キャラのレベルに合わせて中身が変わる『あやしいかげ』が出る。しかもリメイク作ではファミコン版より中身のモンスターが手強くなっているから、ピラミッド地下の呪文が封じられた状態でブレスを使って来る敵なんかに遭遇するとヒドイ目に遭う。だから制作陣は、ピラミッドの1階、2階のエンカウント率を下げるだけで笑い袋による資金稼ぎは防止できると考えたんじゃないかしら?」

 

 実際には複数攻撃武器の威力と、薬草を大量に買い込んでふくろに詰めるという技で無理やり突破し黄金の爪を持ち帰るというのは可能であるが。

 

 いったん下の階への階段を降りて歩数カウントリセットをするなど小技を使い、上の階まで敵に遭遇せずに到着。

 そして魔法の鍵で扉を開け、四階の宝物庫へ。

 

「これを取ろうとすると呪われるんでしたっけ?」

「そうね、だからここのアイテムは後で取りに来るけど、マジカルスカートだけは先に入手しましょうか。ニフラムを使えば、経験値やゴールドはもらえないけど比較的安全に敵を倒せるわ」

「なるほど、それでマジックパワーを温存してヒットポイントは薬草で回復させてきたってわけですね」

 

 王の財宝に手をつけると、どこからともなく不気味な声が聞こえる……

 

「……王様の財宝を荒らすのは誰だ。我らの眠りを妨げる者は誰だ」

 

 四階に安置されている十二個の宝箱は、ファミコン版、そしてリメイクのスーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版では開けると四体のミイラ男が襲ってくるというものだった。

 呪いのため、このミイラ男たちからは逃げることができない。

 しかし、

 

「はい? マミーとミイラ男の混成!?」

 

 小悪魔が驚愕の声を上げたとおり、携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では、マミー2体、ミイラ男3体に増強されているのだ!

 ミイラ男の上級モンスター、マミーの攻撃力は、あばれザルの55ポイントを上回る60ポイント。

 守備力を高めている今の小悪魔でも3発殴られたら死にかねないし、一撃死する痛恨もある。

 ゆえに最優先で小悪魔の退魔の呪文ニフラムが光を放つ!

 出合い頭にこれを食らったマミーたちと、

 

「うわっ、とてもまばゆいっ! どんな姿をした誰だっ!?」

「我は小悪魔なり!」

「あ、悪魔が光につつまれて…… 不謹慎だぞ君っ!!」

「ほっといてください!! ぶしつけですが特に意味もなくあなたがたを光の中へ消し去ります」

「うそ─────────っ!!!」

 

 などといったコントじみたやり取りをしつつも、その存在を抹消する。

 そして残ったミイラ男の反撃だが、パチュリーに一発、しかし、

 

「防御していれば、問題ないわ」

 

 敵の排除は小悪魔のニフラムに任せ、こちらは防御で敵の攻撃を受けることに専念。

 続けて小悪魔に一発、そして最後の一発を小悪魔は素早く身をかわし回避!

 

 次のターン、今度はパチュリーがミイラ男の攻撃を回避。

 そしてパチュリーは薬草で小悪魔の治療。

 さすがに続くミイラ男の攻撃は当たるが。

 

「残り全部! 光になぁれぇぇぇぇっ!!」

 

 小悪魔のニフラムが今度はミイラ男たちに炸裂。

 全部は無理だったが、二体を光の中に消し去る。

 そして攻撃を受ける小悪魔。

 

 最後に残ったミイラ男はしぶとくさらに2回、ニフラムに耐えきった後、ようやく消え去った。

 

「結果論だけれども、最後の一体は殴った方が早く倒せたわね」

 

 ということだが。

 こうして二人はマジカルスカートを入手。

 魔力を込めた生地で作られた女性用の服。

 機能性だけでなく見た目にもこだわった、オシャレな女性冒険者のためのスカート状の法衣である。

 

「女性なら誰でも着れるし、武闘家、盗賊、遊び人にとっては、光のドレスとゲームボーイカラー版の魔法のビキニを除くと耐性持ちの鎧がこれしかない。特に光のドレスが一着しか手に入らなくなり、魔法のビキニから耐性が消えた携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版では重要性が増しているものね」

 

 ドラクエ3では後半は守備力より耐性持ちの防具を優先した方が有利なこともあって、武闘家と盗賊両方がパーティに居たり、武闘家が二人、盗賊が二人など、それぞれが複数居たりすると最後までこれを使うことになる。

 

「こぁ、あなたこれを……」

「これ以上の借金は無理です!」

 

 お許しくださいパチュリー様! とばかりに悲鳴を上げる小悪魔。

 パチュリーは考え込む。

 

「……まぁ、ピラミッドもこの周辺も攻撃呪文を使う敵が出ないから呪文ダメージ軽減効果は役に立たないし、マジカルスカートの守備力は+25で、今あなたが使っている革の腰巻の+24とわずか1ポイント差。守備力は4ポイントごとにダメージを1ポイント下げるものだから、今のあなたの守備力、69ポイントが、70ポイントになってもダメージ軽減量は減らない」

 

 となると、とりあえずはパチュリーが装備した方が良いのか。

 パチュリーはこれまで使っていた革の鎧に替わって、マジカルスカートを着込むことにするが、

 

「どこに顔を突っ込んでいるの!!」

 

 パチュリーが穿いたマジカルスカートの中に頭を入れてしまっている小悪魔。

 

「パチュリー様、このマジカルスカート不良品じゃないですふぁ?」

「くすぐったいから下着に顔を埋めながら話さないでっ!」

 

 と叫んだタイミングで、すぅっ、と大きく息を吸う小悪魔。

 それでパチュリーの羞恥心が天元突破、その白皙の頬が真っ赤に染まる!

 

「犬じゃないんだから嗅ぐなっ!」

「あいたっ!」

 

 パチュリーにスカートの上から頭を殴られ、ようやく離れる小悪魔。

 下着越しに嗅いだパチュリーの匂い。

 そして両手で自分の身体を守るかのようにかき抱いて、ふるふると震えながら、まるで見た目どおりの普通の少女のように涙目でにらんでくるパチュリーに萌えるのだったが、パチュリーの手がお仕置きだとばかりにチェーンクロスを握ったところで正気に戻る。

 

「待って下さいパチュリー様! 私はマジカルスカートの機能を確かめただけです!」

「は?」

「説明しましょう、『マジカルスカート』とは、スカートの中身が見えてもおかしくない状況なのにも関わらず、不自然にスカートに妨害されて中が見られない現象、そしてそのスカートそのものを指す言葉。別名『鉄壁スカート』と言い、どんな強風が吹いてもめくれず、逆さづりにされようとも重力に逆らい、物理法則を乗り越えて乙女の秘密を隠し続けるマジックアイテムなのです!!」

 

 そんな馬鹿な。

 

「でも、そのマジカルスカートは私のような小者にも突破できてしまった、鉄壁とは言えない不良品でし…… んん? でも真っ暗で何も見えなかったから触覚と嗅覚で『ぱんつはいてない』でないことを確認したのですが」

「そんな理由で人の下着に鼻先をうずめて匂いを嗅いだって言うの!?」

「はい、そのままだと『シュレディンガーのパンツ』状態だったので」

 

 何だそれは。

 

「話を戻しますと、スカートの中は真っ暗で見えなかった、ということはやはりマジカルな力が働いているのでしょうか?」

 

 真面目に考察を始める小悪魔。

 

「………」

 

 阿呆らし過ぎる……

 これ以上話しても、まぬけ時空に引きずり込まれるだけと悟ったパチュリーは、小悪魔と他の宝箱はスルーして五階へ。

 そこに安置されている宝箱を開ける。

 

「何かしら、これ?」

 

 こちらは呪われておらず、『派手な服』が手に入る。

『公式ガイドブック』記載の英訳では「Punk Fashion」。

 守備力は鉄の鎧の+25以上、驚きの+28であるが、

 

「王の財宝にふさわしく、きらびやかだけれども……」

 

 遊び人専用の防具であった。

 

「つまりイシスの王、ファラオは遊び人だったということですか?」

「……まぁ、この先エジンベアのお城、王族の部屋で手に入る『おしゃれなスーツ』や『パーティードレス』も遊び人、もしくは盗賊しか着れないものだったけど」

「王族は労働をしないから遊び人ということなんでしょうか……?」

「そんなわけ無いでしょう?」

「でも紅魔館(うち)でも、主であるレミリアお嬢様は働いたりしないですよね?」

「レミィは、まぁ……」

 

 吸血鬼と人間の王を一緒にしない方が、という話だが、ファラオもその存在は人ではない、神の地上における化身とされているので在り方は近いのか。

 ともかく後は階段を上がって外へ、ピラミッドの頂上近くに出て床から小さなメダルを拾い終了。

 

「高いですねぇ」

「そうね」

 

 と下を眺めて足をすくませる小悪魔を後ろからトン、と突き落として、

 

「ひあぁぁぁぁっ!?」

 

 飛び降リレミトで脱出。

 

「デビルウィーング!!」

 

 ピラミッドの外壁を転げ落ちるところを、悪魔の翼を背から伸ばして空気をつかむことで何とか免れる小悪魔と、それにつかまって滑空、無事砂漠に着地するパチュリー。

 

「イシスで夜を待たなくてはいけないこともあるし、ここは歩いて帰りましょうか」

 

 キメラの翼を使えばすぐに帰ることもできるが、キメラの翼やルーラは使用後、強制的に朝になってしまうため時間短縮のためにも歩いて帰ることにする。

 しかしその場合はイシスのオアシスを前に、

 

「敵よ!」

 

 という具合にモンスターと遭遇することになる。

 

「攻撃色で真っ赤です!!」

 

 二体の真紅の芋虫、火炎ムカデだ。

 小悪魔とパチュリーが攻撃するが倒しきれず、

 

「火を吐いてきました!?」

「火の息ね」

 

 全体ダメージの火を吐かれ、二人とも10ポイント弱のダメージを二回。

 しかし次のターンで先制して止めを刺すことができた。

 

「火炎ムカデからは火炎の液袋が採れるのね」

 

 歩く油田と言えるのかも知れない。

 そうしてホイミで治療を行い、無事イシスに到着する二人だった。




 マジカルスカートは意味が違う……
 いや、テレ東規制とかを受けてるアニメヒロインなんかは、みな穿いてますけど。

 魔法の鍵をゲットできましたから、次はこれを使ったアイテム取得のボーナスタイム。
 あと深夜の百合ハーレム、イシスの女王様の寝室での密会とか。

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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魔法の鍵でアイテム回収 イシス編

 イシスの街へと帰ってきたパチュリーと小悪魔。

 

「まずは旅の記録を取らないとね」

 

 というわけで城に上がり女王様と謁見。

 それでパチュリーは、

 

「あら、こぁ。あなた、あと一回戦ったらレベルアップできるわね」

 

 ということに気付く。

 あとは城に来たついでに魔法の鍵で入ることのできる場所を見て回るが、

 

「パチュリー様、女王様の寝室に入れますよ!」

「そういうのは目ざといのねぇ」

 

 宝物庫よりそちらに気を取られる小悪魔に、パチュリーはため息をつく。

 まぁ、宝物庫は守衛が頑張っているので今は入れないわけではあるが。

 また、魔法の鍵を使って入ることのできる中庭では、

 

「私の兄上もこうして清き水を眺めるのが好きだった。だが東の国へ行くとアッサラームの町に向かったまままだ帰らぬのだ」

 

 という話を聞くことができる。

 

「でも、アッサラームにはそんな人居ませんでしたよね?」

「アッサラームにも魔法の鍵が無いと入れない場所があったでしょう?」

「ああ、そこに手がかりがあるということですか」

 

 そして、

 

「まずは、ここまでの精算をしましょう」

 

 とピラミッドで手に入れた派手な服や、倒したモンスターから剥ぎ取った人食い蛾の羽、火炎ムカデの火炎の液袋などといった素材を売って資金を調達し、整理することにする。

 ピラミッド出発前の所持金が、

 

小悪魔:-1129G

パチュリー:97G(+未払い分1129G=1226G)

 

「それでここまでに戦い等で得た収入が1114ゴールドで、一人当たり557ゴールドの配当だけど」

 

小悪魔:-572G

パチュリー:1211G(+未払い分572G=1783G)

 

「そしてピラミッドで手に入れたマジカルスカートの売値は1125ゴールド。これは二人に所有権があるから、あなたには半額の562ゴールドを払うわね。あとは、今まで使っていた革の鎧を112ゴールドで売り払って」

 

小悪魔:-10G

パチュリー:1323G(+未払い分10G=1333G)

 

「……これだけ収入があっても微妙に借金が残るんですね」

「スタミナの種も手に入っていたわね。売値が90ゴールドだから、半額の45ゴールドを私に払えばあなたの物にできるのだけれど……」

「もう借金はたくさんです!」

 

 まぁ、そうなるだろう。

 

「仕方が無いわねぇ。本当ならヒットポイントが低いあなたに使いたいし、私の方はそろそろ体力の能力値が成長上限値に引っかかりそうで嫌なのだけれど」

 

 ということで仕方なしにスタミナの種はパチュリーの物に。

 すると最終的な所持金は、

 

小悪魔:35G

パチュリー:1288G

 

 ということに。

 

「ひ、久しぶりのお金です。ほら、パチュリー様。私のお金です!」

 

 嬉しそうに、本当に嬉しそうに35ゴールドという小銭を手のひらの上に差し出して見せる小悪魔。

 いじましいというか、痛々しいというか、

 

「長く借金生活をさせ過ぎたせいかしら……」

 

 と顔を引きつらせるパチュリーだった。

 

「さて、夜を待ってイシスの城に入るから街の外で時間を潰すのだけれど」

「どうしました、パチュリー様」

「あなた、あと少しでレベルが上がるでしょ。この際だから上げてしまいましょう」

 

 そういうわけで敵を求めて砂漠を歩く。

 

「火炎ムカデさんと、人食い蛾さんです!」

 

 火炎ムカデ2匹と人食い蛾3匹の群れに遭遇。

 

「地獄のハサミが出なくて良かったわね」

 

 というわけで戦闘を開始。

 

「刃のォォォオ、ブゥゥゥメラン!!」

 

 小悪魔の刃のブーメランによる先制攻撃。

 モンスターの群れ全体にダメージを与える!

 

「来る!」

 

 火炎ムカデの火の息の攻撃。

 それに耐えたパチュリーのチェーンクロスが人食い蛾に炸裂!

 

「一匹しか倒せなかったわね。まぁ、回避されなかったのは幸いだけれど」

 

 そして残った火炎ムカデの火の息、人食い蛾の攻撃が続く。

 人食い蛾の攻撃力はさまようよろい以上だが、パチュリーの守備力も上がってきているため耐えられるし、

 

「人食い蛾にマヌーサを使われたり仲間を呼ばれたりしなかっただけマシかしら」

 

 ということでもある。

 しかし、

 

「パチュリー様ぁ……」

 

 小悪魔のヒットポイントは半分以下に削られており、このままでは危険だ。

 

「次のターン、回復させてあげるから」

「はい」

 

 小悪魔は引き続きブーメランで敵を攻撃。

 人食い蛾の残り二匹がこれで沈んだ。

 そして火炎ムカデの攻撃がパチュリーに当たるが、

 

「これで安心ね」

 

 パチュリーにはこの程度どうということはないし、これで残った火炎ムカデが何をしようとも小悪魔は耐えられるという状況でもある。

 パチュリーは薬草を使い、小悪魔を回復。

 そこに火炎ムカデが火の息を吐くが、ヒットポイントの豊富なパチュリーはもちろん、小悪魔もヒットポイントをフル回復させてあるため問題なく耐える。

 そして、

 

「これでお終いです!」

 

 次のターン、小悪魔の刃のブーメランによる先制で、火炎ムカデ二匹も倒されたのだった。

 そして小悪魔のレベルが上がるが、

 

「あ、ら? 私までレベルが上がってしまったわね。先にスタミナの種を使っておくべきだったかしら」

 

 失敗だったかと思いつつも、パチュリーは笑う。

 二人のステータスは、

 

 

名前:パチェ

職業:しょうにん

性格:タフガイ

性別:おんな

レベル:10

 

ちから:30

すばやさ:22

たいりょく:56

かしこさ:14

うんのよさ:10

最大HP:113

最大MP:27

こうげき力:57

しゅび力:64

 

ぶき:チェーンクロス

よろい:マジカルスカート

たて:てつのたて

かぶと:ターバン

そうしょくひん:なし

 

 

名前:こあくま

職業:ゆうしゃ

性格:セクシーギャル

性別:おんな

レベル:8

 

ちから:31

すばやさ:66

たいりょく:21

かしこさ:18

うんのよさ:15

最大HP:42

最大MP:36

こうげき力:55

しゅび力:71

 

ぶき:やいばのブーメラン

よろい:かわのこしまき

たて:かわのたて

かぶと:けがわのフード

そうしょくひん:ほしふるうでわ

 

 

 という具合に。

 

「せ、せっかくレベルが上がったのに、ヒットポイントにはますます差が付いていますし、攻撃力もまた上回られてしまいました……」

 

 がっくりとうなだれる小悪魔。

 

「わ、私本当に勇者なんですよね? セクシーギャルなんですからステータスの伸びはいいはずなのに、商人のパチュリー様にこれだけ負けてしまうって一体……」

「それよりルーラを覚えたことを喜びなさい」

「は、はい」

「まぁ、勇者って賢さが一定値以上なら、レベル7でルーラを確実に覚えてくれるのだけれど」

「うぐっ!?」

 

 それはつまりレベル7にレベルアップした時点で覚えなかったのは、

 

「私に足りないものは、それは―― 力、攻撃力、体力、ヒットポイント、賢さ(New!)」

 

 ということで、足りないもの尽くしだった小悪魔に、新たに足りない項目が判明した訳である。

 もっとも、

 

「賢さが足りなくとも1/2の確率、運次第で覚えるのだけれど」

 

 とパチュリーが言うように、

 

「そして何よりも―― リアルラックが足りない……?」

 

 ということでもあった。

 まぁ、

 

「レベル8になったら無条件で確実に覚えるんだからいいんじゃない?」

「……それは慰めになるんですか、パチュリー様?」

 

 それはともかく、

 

「というか、ルーラが目的でレベルアップを図ったのよ。この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむものだから、ルーラの消費マジックパワーは1ポイント」

 

 つまり、

 

「タダで泊まれる私の、勇者の実家と併せれば使いたい放題ってことですか?」

「そうね、元々の消費マジックパワーは8ポイント。これだとアリアハンから攻略中の現地へと跳ぶ分の消費を考えると現地の宿を使った方が有利だったのだけれど」

「1ポイントに減ってしまえば、もうそれも誤差範囲内ですね」

「ええ、お金を節約するなら、他の街の宿はルーラで行けない場所ぐらいしか利用しなくても良いということになるわね」

 

 まぁ、宿代ぐらいケチらなくともという話であるが、35ゴールドという小銭を握りしめて喜んでいる小悪魔を見ると、それも言いにくいパチュリーだったりする。

 

「魔法の鍵を使って各地に眠るアイテムを入手し、それらを売却したお金で武具類を購入するとなると、ルーラ無しではキメラの翼がいくつも必要。その費用を最少化しようとすると、あらかじめ手に入るアイテムの売却価格を計算すると共に、購入リストを作成して各地を訪れた際に同時に装備を購入しておかなければならない。さらには回収の順番も考えなくてはいけないわ」

「め、面倒すぎますね……」

「それゆえのルーラ習得よ」

 

 そんなわけで、

 

「それじゃあ、さっさと魔法の鍵で手に入れられるアイテムを回収するわよ」

 

 夜を待ってイシスの城へ。

 魔法の鍵で入ることのできるここの宝物庫には警備の兵が立ち塞がっていて昼間は入れないのだが、夜ならその兵も寝ている。

 そのため夜を待って中に入り、アイテムを回収するのだ。

 

「さ、さすがにこれは明確に泥棒と呼べるのでは……」

「もう既に墓荒らしをやったでしょう」

「い、言われてみればそうでした」

 

 宝箱からはルビーの腕輪、絹のローブ、小さなメダル、賢さの種、命の木の実、黄金のティアラ、あとはお金が手に入った。

 

「本当にお宝ばかりですね」

「そうね、これなんて……」

 

 商人の鑑定能力で調べてみるパチュリー。

 

「ルビーの腕輪は装飾品のようね。きれいな腕輪だけど見栄っ張りに見えてしまうかも知れないわね」

 

 という具合に身に着けた者の性格を『みえっぱり』に変える品。

 

「お店に持っていけば7350ゴールドで売れるわね」

「役に立たない、換金用アイテムということですか?」

「そうね。一応『みえっぱり』の成長補正はバランス型でそんなに悪くない、特に男性だと力と素早さの両方にプラス補正がかかる唯一の性格ではあるのだけれど」

 

 とはいえ、

 

「女性だとセクシーギャルの完全下位互換になるから」

 

 ということである。

 そして次は、

 

「黄金のティアラは装飾品のようね。これをかぶっていればお嬢様気分が味わえそうね」

「レミリアお嬢様のようにですか?」

「……言われてみれば何だか関係がありそうよね」

 

 小悪魔の何気ない思い付きに過ぎない言葉に、しかし考え込むパチュリー。

 

「黄金のティアラを身に着けているとなれる性格『おじょうさま』は女性がなれる性格の中では最も運の良さが伸びやすいというもの」

 

 男性専用の性格『ラッキーマン』に次ぐものだ。

 

「さらには黄金のティアラには、運の良さを13ポイント引き上げる効果もある」

 

 そして、

 

「ドラクエ3の運の良さは、因果律に干渉して毒やマヒなどといった状態異常に陥る確率を下げるというものよね。つまり……」

「ああ」

 

 それで小悪魔もパチュリーが言わんとしているところを察する。

 二人が暮らす紅魔館の主、レミリア・スカーレットは『運命を操る程度の能力』を持つのだ。

 

「そう、効果の大小はともかくとして、レミィの『運命を操る程度の能力』と類似した、運命に干渉する効果を持つということね」

 

 そういうことだった。

 

「だから状態異常を防ぐ目的で運の良さを伸ばしたいなら使えるアイテムだけれど、私たちには不要かしら?」

 

 小悪魔の性格『セクシーギャル』も運の良さに+20パーセントと高めの成長補正を持っていることでもあるし。

 

「お店に持っていけば3750ゴールドで売れるわね」

 

 ということで、これも換金用アイテムか。

 

「あとはイシスの街でも売っていた絹のローブ。女性なら誰でも着られる装備だから、タダで手に入るこれを使うのもありよね」

 

 しかしパチュリーたちはすでにそれ以上の防具を使っているので不要。

 

「お店に持っていけば1125ゴールドで売れるわね」

 

 売却して資金源にする。

 

「でもシルクの衣服が鎖かたびらと同じ守備力+20ポイントというのも凄いですよね」

 

 と小悪魔が言うが、

 

「絹糸は同じ太さの鋼鉄より強度があって、それを特殊な四層織りにした生地は防弾チョッキに使用されていた歴史もあるわ。刃物を食い止めるのにも役立つから、これを使った服は防御力がとても高くなるの」

 

 そういうことだった。

 

 

 

 魔法の鍵があれば、女王の寝室へも入ることができる。

 周囲を囲む花々から香る、むせ返るような匂い。

 豪奢な絨毯が敷き詰められ、女王に従う女たちが侍る。

 

「きゃー! 男よー! 男がこのお部屋にっ! きゃー きゃー! と思ったら、あなた女の人なのね。騒いでごめんなさい」

「確かにパチュリー様は男性以上に格好良くて凛々しいですけど、男の人には見えないと思いますが?」

「こぁ? 彼女が言っているのはあなたのことよ」

 

 これはファミコン版で女勇者が男と見間違えられていた名残だ。

 その証拠に、

 

「勇者が死亡してパーティに女性しか居ない場合には、彼女のセリフは「あたし、男の人って何だか怖くて…… 一生ここで暮らしたいわ」に変化するの」

「そ、それって……」

 

 

 

 寝室の奥にはひときわ大きなベッドと、その主であるイシスの女王の姿があった。

 

「お引き取り下さいませ。あらぬ噂が立ちますわ」

 

 女王に付き添う女官にそう言われるものの……

 

「噂?」

 

 そしてその意味するところに気付き、女同士でまさか、と混乱するパチュリーに、女王はベッドの上からそっと語りかけた。

 

「人目を忍んで私に会いに来てくれたことを嬉しく思いますわ」

 

 匂い立つような色香が感じられる言葉。

 まるで自分が女王に懸想して密かに寝所を訪れたかのような言い回しになっていることに、パチュリーの頬が火照る。

 そんな彼女に女王は、

 

「何もしてあげられませんが、贈り物を差し上げましょう。私のベッドのまわりを調べてごらんなさい」

 

 と、妖しく微笑みかける。

 これは一定の確率で壊れるまでは何度でもマジックパワーを回復できるアイテム、祈りの指輪をもらうイベント。

 女王の言葉に従い、床を探してそこに落ちている指輪を拾うパチュリー。

 そうして自分の足元に膝まずくような形になった姿を、女王は腰掛けたベッドの上から見下ろす。

 その瞳が細まり――

 愉悦の輝きが浮かぶのを、小悪魔は見た!

 さらに、大胆に組み替えられる女王の足。

 うつむいているパチュリーが顔を上げたらその奥に秘められた部分を目にしてしまうのでは、という際どい動きで、その形の良いつま先が、パチュリーの頭の上を過る。

 まるで、いつでも踏み下ろすことができるのだと、パチュリーを床に這いつくばらせ、その頭を踏むことができるのだとでもいうように……

 

 そう、この寝室に集う女は、

 

「あたし、男の人って何だか怖くて…… 一生ここで暮らしたいわ」

 

 などと言い出す真性の同性愛者たち。

 そして、この城を訪れたパチュリーたちに対し女官の一人は、

 

「ああ、たくましい人たち! 女王さまもきっと気に入ってくださることでしょう」

 

 などと漏らしていた。

 寝室に女たちを侍らす女王は、たくましい女性を気に入る……

 それはつまり、

 

「自分好みの強い女性をひざまずかせ、這いつくばらせる。その姿を見るためにこそ、わざわざ床に指輪を落として拾わせた?」

 

 ということではないか。

 

「わが女王さまには、こわいものなどありませぬ。たとえ魔王といえども、その美しさの前にひざまずくでしょう……」

 

 小悪魔は昼間に聞いた女官たちの言葉を思い出す。

 それは、

 

「私たちは女王さまにおつかえする女たちです。イシスに住む女なら、だれもがあこがれる役目ですわ」

 

 そう心酔する彼女たちの気持ちが言わせた大げさな言葉かと思われたが、しかし実際に生粋の魔法使いであり、七曜の魔法を使いこなすパチュリー・ノーレッジが、女王の前にひれ伏し、下賜された指輪を床から拾わされているという現実。

 どんな経緯があろうとも、パチュリーが自らそうしてしまった以上、この事実は変えられない。

 通常ではありえない恥辱にまみれたこの光景に、小悪魔は己が主人をじわじわと絡め取り、最後には屈服させんとする女王の、この花園を支配する女主人の一手……

 その手管を感じ取り、戦慄するのだった。

 

 

 

「そんなわけないでしょう!?」

 

 いつもの小悪魔の妄想を垂れ流され、パチュリーは顔を赤らめ抗議する。

 

「このシーンは、女王自ら指輪を渡すのは問題だから、わざわざ床に置き、調べて拾わせることで譲渡した、という説が有力よ。そんな腐り切った妄想は今すぐ捨てなさい!!」

 

 ということだった。




 魔法の鍵を手に入れたらお楽しみのアイテム回収祭りの始まりです。
 このために早期にピラミッドにチャレンジした訳で、これで強力な装備を整えてカンダタ1回目とか、ノアニールの目覚ましイベントを楽に済ませる手ですね。
 そして、

>「勇者が死亡してパーティに女性しか居ない場合には、彼女のセリフは「あたし、男の人って何だか怖くて…… 一生ここで暮らしたいわ」に変化するの」

 という具合に通常のプレイでは目にすることのない隠し(に近い)セリフの存在もあって、百合ハーレム疑惑があるイシスの女王様。
 真実はどこに……

 次回はアイテム回収の続きと装備の購入ですね。
 お金さえかければ勇者小悪魔も商人を上回る強さを身に着けることができる…… のでしょうか?(ヒント:無理です)

 ご意見、ご感想、リクエスト等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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