「うわあああああああああああああああああ!!!!!!」
なんで、五階層にミノタウロスがっ!?
それは紛れもなくイレギュラーだった。本来ならば、ミノタウロスはダンジョンの13階層から始まる中層にいるべき存在。
にも関わらずにあろうことか、このミノタウロスはその掟を悠々と超えて、上層であるこの5階層にやって来てしまったのだ。
ミノタウロスはその巨大な体躯に見合わないスピードを見せ、着々と獲物を追っていく。
Lv2にカテゴライズされるミノタウロスのならば、
追いかけられる側としては堪ったものではないが。
そんな無駄な事を考えられるくらいにベルの頭は冴えわたっていた。
他の皆とは違い、黒髪ではなく真っ白な純白の髪をしている自分が
しかし、そんな高い知能も今この場では全くと言っていいほど機能しない。この状況を打開する策が思いつかないのがいい証拠だ。
めぐみんなら思いつくのかなぁ、などと天才と呼ばれていた同郷の少女に思いを馳せる。
しかし、現実は無情にして非常。
死にものぐるいで走ってはいたが、ここは初めて来た5階層。軽い気持ちで来てしまっていた為、ここの地図など当然頭の中にインプットされていない。
だが、ここで挫ける訳にもいかない。
「我が名はベル・クラネル! やがて紅魔族随一の冒険者となる者!」
震える足腰に鞭を打ち、今にも涙が出そうなのを我慢して声を絞り出す。
紅魔族にとって強さとは格好良さなのだ。
間違っても情けなさではない。
無謀とは知りつつも、ナイフをもう一度力強く握りしめる。笑顔で送り出してくれた友達がいな……少ない少女やこんな自分を拾ってくれた
そう奮起した時だった。
『グブゥ!? ヴモォオオオオオオオオオオオオ!!!』
自分を今にも殺さんとしていたミノタウロスの体が突如として、何等分にも切り刻まれたのだった。
刻まれた線に沿ってミノタウロスの体のパーツはズレ落ちいき、血飛沫、赤黒い液体を噴出して一気に崩れ落ちた。
当然、すぐそばにいた僕はそれをモロに浴びることになる。
「……あの、大丈夫ですか?」
牛の化け物に代わって現れたのはオラリオ一とも言われる剣士にして、女神にも勝るとも劣らない美少女。
その特徴的な金色の長い髪は、風の無い筈のダンジョンの中でさえも靡きそうな程に美しく、綺麗だった。
(……あ)
それはまさしく吊り橋効果というやつだった。
このダンジョンにおいて、出会いを求めるなどという愚行のバチなのか。
それとも、可愛い女の子を助けてハーレムを作るなどという女性を敵に回す発言が何処ぞの女神様の怒りに触れたのか。
兎にも角にも、僕はこの女性ーーアイズ・ヴァレンシュタインにどうしようもない程惚れてしまったのだ。
お爺ちゃんは一撃熊にやられたとベル君は聞いてます。
だって、紅魔族がゴブリンにやられるとは思えないし。
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自己紹介
「エイナさあああああああん!!」
「え?」
叫び声に反応したのはギルド一の受付嬢として名高いエイナ・チュールだ。エルフとしての見目麗しい美貌を持ちながらも、ヒューマンの親しみやすさを持つ彼女はハーフエルフである。
そんな彼女は最近自分が担当することになった少年の冒険者の無事に安堵する。どこか弟のような感じのさせる彼の声に振り向くとーー
「エイナさあああああああああん!! アイズ・ヴァレンシュタインさんについて教えて下さああああああい!!」
「いやぁああああああああああ!!」
全身を赤黒く染め上げ、異様な臭いをさせながら走ってくる少年の姿が目に飛び込んで来た!?
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「あのねぇベル君、流石にモンスターの返り血を浴びたまま来るのはどうかと思うよ?」
「ご、ごめんなさい……」
エイナさんの言葉に項垂れる僕。
ギルド本部に備えてつけられた個室スペースの一角。そこで僕はエイナさんにお説教されていた。僕の常識のなさについて度々お説教されている。
出会ってからまだ日は浅いはずなのに、この場所を利用した回数は既に数え切れない程だ。それだけ僕に常識がないということなのだろう。
僕でさえこんなに怒られるのだ。里一番の非常識人であり、中二病なゆんゆんはどれくらい怒られるというのか。
「それで? アイズ・ヴァレンシュタイン氏についてだっけ?」
「はい、そうですそうです!」
僕には食い気味に答える。
が、エイナさんはちょっと困ったような顔をして。
「う〜ん、私が教えるより君が直接聞いた方がいいんじゃないかなぁ? 同じファミリアでしょ?」
「それは、そうなんですけど……」
聞きたくても聞けないというのが本音だ。
僕がロキ・ファミリアに入ったのはつい最近のことであり、その時にはアイズ・ヴァレンシュタインさんは不在だったのだ。なんでも、遠征に行っているらしい。
だから僕が一方的に知っているだけで、アイズ・ヴァレンシュタインさんは僕の事を知らない。
それに、もし仮に知り合いになれたとしても直接は聞けない。だって恥ずかしいし。
そんな僕の反応に何かを察したエイナさんは、うーんと頭を悩ませてから。
「じゃあ、神ロキに聞くってのは?」
「……神さま、アイズ・ヴァレンシュタインさんのこと溺愛してるらしくて……。そんな事聞いたら何言われるか……」
「何も言われないと思うけどなぁ」
多分、エイナさんの言う通りだろうけど……。でも、やっぱり少し不安が残る。あんな神さまだけど、嫌われたくはないし。
エイナさんと話し合った結果
結局の所は、アイズ・ヴァレンシュタインさんについては神さまに相談することになった。もしかしたら、協力してくれるかもと。
それに、あれだけの美人ならば団員の中にも好意を寄せている人がいてもおかしくはない。だから、最悪の事態にはならないだろうと。
「……ベル君」
「はい?」
帰り際、出口まで見送りに来てくれたエイナさんに呼び止められる。
何か逡巡した素振りを見せた後、意を決したように。
「あのね、女性はやっぱり強くて頼り甲斐のある人に魅力を感じるの。アマゾネスがそうでしょ? ……だから、頑張れば……いつか、ね?」
「……」
「……もしかしたら、アイズ・ヴァレンシュタイン氏も振り向いてくれるかもよ?」
それは紛れもなくギルドアドバイザーとしてではなく、エイナ・チュール個人からの言葉であった。
年上の女性にあまり耐性のないベルにはそれが堪らなく嬉しかった。
勢いよく飛び出して駆け出した後、振り返り。
「エイナさん、大好きー!!」
「ええっ!?」
「ありがとうございましたー!!」
顔を真っ赤にさせて驚いたエイナさんを確認した後、僕は笑いながら街の中へと走っていった。
目指すは
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ここはロキ・ファミリアホーム
夕食時である現在は一部を除いた殆どの団員がこの場に集まっている。
夕食前ということもあり、皆少し興奮気味だ。
「ねえねえアイズー。あの白い髪の子誰かなー?」
「私たちが遠征に行ってる間に入団した人でしょうか?」
「多分、ロキから説明あるんじゃない?」
それぞれがお互いの話に花を咲かす。その為、アイズの漏らした「あの子……」という呟きに気付く者はいない。
「ほな、皆少し静かにしてなー」
瞬間、まるで時が止まったかのようであった。主神であるロキの言葉に団員が皆が従い、皆がこちらを向く。
ロキはその反応に満足したように頷くと、
「最近ウチらの家族になったベルや! 皆仲良くしたってなー」
ロキはそのままベルに自己紹介を促す。
ベルは少し苦々しい顔をした後、覚悟を決め、
「我が名はベル・クラネル! やがて紅魔族随一の冒険者となる者!」
辺りが静まり返った。
先程ロキが意図的に作り出したものとは違い、自然に生じた静寂。それも物凄く重々しい。
普段、明るく天真爛漫なティオナでさえもこの時ばかりは凍りついていた。
当のベルの方もこの状況を幾分か予想していたようで若干の苦笑いだ。
唯一、博学多才にして長寿を生きるエルフの王族のみが事の事情をいち早く理解をし、ため息を吐いていたのだったーーー
ゆんゆんは紅魔族的には中二病らしいです。
可哀想……
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ステイタス更新
ベル君のスキルとか魔法どうしようかなと迷っていたらこんなにも時間が経ってしまいました。
「なるほどなぁ。それでアイズたんを好きになったんか」
「は、はい……」
夕食の騒ぎの後、主神であるロキ様の所へ訪ねた僕はステータス更新してもらいながら、5階層での事について話した。
神さま曰く、ファミリア内にもアイズ・ヴァレンシュタインさんに恋する人は多いとのこと。
その人たちのサポートはしないが、邪魔もしない所謂中立、それが神さまの立ち位置らしい。
「ま、頑張ったらええわ。それにしても、ダンジョンで可愛い女の子助けてハーレム作るゆうてたのに、まさか自分が助けられて惚れるとはなぁ」
「う、うぅ……」
自覚はしている。
男のロマンでもあるハーレムを作ろうとしていた僕が特定の一人に惚れるなんて……
あるえの小説のネタにされそうな話だな。
神さまから共通語に書き写されたステータス用紙を受け取る。紅魔の里で少しだけ神聖文字は習ったが、全く読めないよりはマシという程度だ。多分、めぐみんなら読めるんじゃないかな……
「ほな、これがベルのステイタスやで〜」
どうも、と差し出された用紙を手に取る。僕はそれに視線を落とした。
ベル・クラネル
Lv.1
力 : I 77 → I 82
耐久: I 13
器用: I 93 → I 96
敏捷: H 148 → H 172
魔力: I 72 → H 132
《魔法》
【 テレポート】
・移動魔法
・無詠唱魔法
・視界の範囲ならばどこにでも移動可能。
【
・攻撃魔法
・詠唱創作可能
《スキル 》
【
・戦闘中、紅魔族的名乗りを上げることで全能力高補正。
敏捷が24も上がってる!? うーん? ミノタウロスに散々追いかけまわされてるからかなぁ。それにしてもテレポート一回使っただけでなんでこんなに魔力値が上がるんだろ……
爆発魔法はちょっとなぁ。狭いダンジョンで使ったら崩れそうでちょっと怖い。
スキル欄も相変わらずだ。最初に恩恵を刻んで貰った時に発現した【
「神さま、このスキルスロットどうしたんですか? 何か消したような跡が……」
「……ん? ああ、それな。ちょっと手元が狂ってもうてな。堪忍してなー」
「なんだ……」
ちょっとだけ期待してしまった。欲は言わないが、出来ればもう一つくらいは欲しい。なるべく格好いいのを。
更新されたステイタスを確認した僕は神さまの部屋に備えつけられた時計を見ると、もうそろそろいい時間だった。
自身に割り当てられた自室へ戻ろうとドアノブに手を掛けた所で。
「あ、そうだベル。明日からはある娘と一緒にダンジョン潜ってもらうで〜」
「へ?」
「ベルの大好きな美少女エルフやから、楽しみにしとき〜」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ベルが部屋から完全に出て行くのを見送った後、ロキは静かに嘆息した。
(ただでさえ魔法がチート並やのに、あんなスキルまで……。あの色ボケ女神にだけは絶対目をつけられんようにせなあかんな)
自分を含めて娯楽の大好きな神々のことだ。レアスキル持ちなんて格好の的だ。それが『ロキ・ファミリア』であろうとお構いなしにアイツらは手を出してくる。
他の木っ端ファミリア相手なら問題なく叩き潰せるロキではあるが、自身と同じくオラリオ最大派閥を担う色ボケ女神ーーー美の女神フレイヤとなると流石のロキでも分からなくなってくる。
ロキは別の羊皮紙に書き写した本来のベルのステイタスをもう一度確認する。
ベル・クラネル
Lv.1
力 : I 77 → I 82
耐久: I 13
器用: I 93 → I 96
敏捷: H 148 → H 172
魔力: I 72 → H 132
《魔法》
【 テレポート】
・移動魔法
・無詠唱魔法
・視界の範囲ならばどこにでも移動可能。
【
・攻撃魔法
・詠唱創作可能
《スキル 》
【
・戦闘中、紅魔族的名乗りを上げることで全能力高補正。
【
・早熟する。
・
・
間違いなくベルは強くなる。それこそ少年の
最近、伸び悩んでいるあの少女と切磋琢磨してくれればいいのだが。
親心ながらロキはそう思うのだった。
はい! ということでベル君の魔法はテレポートと爆発魔法になりました。爆裂魔法はやっぱりめぐみんのものなので……ワンランク下の爆発魔法にしました。まあ、ベル君のことですからいずれ爆発魔法を連続で打ち出すあの伝説の紅魔族になる可能性もなきにしもあらず……
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妖精と白兎(1)
はあ、なんで私が……
昨日夜遅くにロキに呼ばれたと思ったら、新入りの子の指導役を言いつけられてしまった。
ロキが認めたからには、悪い人ではないんでしょうが、昨日の自己紹介を見るにちょっと不安です。
リヴェリア様が言うには、彼の一族である紅魔族ではあれが普通だとのこと。
格好良さを追い求める所と変なネーミングセンスを除けば基本的には普通らしいのですが……
新人を育てるのはファミリアにとって大切な事だ。自分だって駆け出しの頃はお世話になった。だからこそ、新人教育は先輩冒険者の務めであり、義務であることは分かってはいるんですが……それでも、私だって平行詠唱ができるように特訓をしたい。
そんな思いを抱えながら、ロキ・ファミリアの新人冒険者ベル・クラネルの教育係に選ばれてしまったレフィーヤ・ウィリディスは己が主神が指定した待合場所へと歩を進めた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「ここ、だよね?」
昨夜、神さまから教育係をつけると言われた。曰く美少女エルフだと。里の女の子達はちょっと……いや、かなり癖があった為か、結構楽しみだったりする。
それに、おじいちゃんにも言われたし。男ならハーレムを作れ、と。まだまだその夢は諦めていない。
神さまに言われていた集合場所に着くと、そこに居たのは……
明るく、清楚で、優しそうなエルフ美少女などではなく、
若干不機嫌な様相を呈した、厳しそーな妖精さんだったのである。
そう、僕ことベル・クラネルと指導役たるレファーヤ・ウィリディスの出会いは最高でもなく、最悪でもない、実に残念なものであったのだ。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「いいですか! いくら私がついているといえど、油断はしないで下さい。ダンジョンでは何が起こるか分からない、冒険者の常識です!」
「は、はい!」
ダンジョン4階層。
以前調子に乗って一人で来てしまった5階層手前。
前回の時は1人でだったが、今回は指導役のレフィーヤさんと一緒だ。レフィーヤさんはなんていうか……今まで僕が出会ったことのないタイプの女性だ。
まぁ、エルフとこうやって話すこと自体が初めてなんだけど。
戦い方やダンジョンでの注意点、気をつけなければいけない事などを教えてもらいながら、進んでいく。それが自身の体験などを織り交ぜながらなので、とても分かりやすい。
最初は怖そうな人だと思っていたけど、意外とって言ったら失礼だけど、優しい人だってことが分かる。
僕が倒したモンスター達からレフィーヤさんと2人で魔石を引っ張り出していると。
「……なんていうか、貴方少し変ですね」
「え、ええぇ!? へ、変ですか? 僕って……」
へ、変なのだろうか、僕は……
これでも里の中では常識人のつもりだったんだけど……
僕がその言葉に衝撃を受けていると、言葉を発した当の本人であるレフィーヤさんは僕の様子にクスクスと笑う。
その様子を僕が訝しんでいると。
「い、いえ。別に悪い意味ではないですよ。ただ、あんだけみんなの前で啖呵を切っておきながら、私と話す時はおっかなびっくりなので。それが少し面白くて」
け、貶されているのだろうか。そんなに僕この人に何かしたかなぁ?
「……意外といいものですね。人に教えるのって」
「? えっと……何の話ですか?」
「気にしないで下さい、こちらの話ですので」
「貴方は…………。…………。貴方のこと、私はなんと呼びましょうか?」
「呼び方ですか? 別になんとでも呼んでもらって結構ですよ?」
「なんとでも。……じゃあ、ベルでいいですかね?」
本当ならこんな話、ダンジョンでする話ではないのだが今は別だ。僕たちは今、レストと呼ばれる場所で休憩している。
出入り口が一方向のみの小さな空間のことだ。
空間内部の周りの壁を意図的に壊すことでモンスターが産まれないようするのだそうだ。そうすることでエンカウントするモンスターは1つしかない出入り口のみからとなり、対処しやすくするのだとか。
よく考えられてるなぁ。
因みに、「なら、壁を壊しながら進めばいいんじゃないですか?」と聞いたところ、「いたそうですよ? 実際にやった人が。途中で武器が破損したらしいですけど」と返されてしまった。
やっぱり僕じゃダメみたいだ。あの天才少女ならどんなことを思いつくのだろう?
確か、僕より先にオラリオに来ている筈だけど。
誤った情報があれば、報告して貰えると幸いです。
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妖精と白兎(2)
「はああっ!」
蛙型のモンスター、フロッグシューターの腹部にナイフを一閃。
フロッグシューターは醜い断末魔をあげながら、真っ黒な灰へと帰し、少々大きめの魔石を落とす。
「お見事ですね、ベル」
「いえ……それよりもすみません、拾って貰っちゃって」
「いいんですよ、今の私はサポーターなんですから」
そう言ってレフィーヤさんは背中に携えた大きめのバックパックに魔石を投げ入れていく。
本来ならこういう役目は新人である僕がやるべきなんだけど、今日は僕の特訓に来ているので、レフィーヤさんがやってくれている。
うう……やっぱり申し訳ないなぁ……
やっぱり僕が代わりましょうか、隣を歩くレフィーヤさんにそう言い掛けた時だった。
「【エクスプロージョン】ッ!」
何処か聞いたことがあるような、叫びが僕の耳に入ってきた。
そしてその数秒後、耳を
「ひゃあああああ!」
「うわわっ!」
思わず地面に尻をついてしまう程の揺れ。
隣のレフィーヤさんはと言うと、流石はLv,3。なんとか踏ん張って耐えたようだ。
と言うか、これ音的に結構近くない?
「ベル、行きますよ!」
どうやらレフィーヤさんも同じ結論に至ったらしく、目線は真っ直ぐ前を向いている。
「はい!」
僕もレフィーヤさんに続いて駆け出して行く。
あっ、結局言い出せなかった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
音の発信源に着いた僕は、あろうことか顔を手で覆っていた。
というのも……
「──何やってるのさ、めぐみん」
里では天才だと持て囃されていた筈の少女が地面にうつ伏せになっていたからだ。
天才少女こと、めぐみんの前にはかなり大きめなクレーターが出来上がっている。恐らくはめぐみんの仕業なんだろうが……何をやったらこんなことになるのだろうか。
天才だという認識を改めた方がいいのかもしれない。
「ふっ。久しぶりですね、ベル。何をやっているかなど愚問でしょう? 我が爆裂魔法を忌々しきフロッグ・シューターに放ってやっただけですよ」
「……めぐみんはやっぱり紙一重で馬鹿の方だと思うな」
「言ってくれますね、ベル。紅魔族随一の天才に向かって馬鹿など、と……あの、ベル? 蛙が湧いたので、倒して貰えませんか? すぐ近くに湧くなんて完全に予想外です」
……仕方ないなぁ。
めぐみんに言われた通り、フロッグシューターを片付けてあげる。幸い一匹だったので、苦労せずに倒せた。
レフィーヤさんはレフィーヤさんで、めぐみんが作ったクレーターに固まっちゃってるし。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「──ベルと、めぐみんさん? は同じ里出身なんですか?」
「おい、何故私の名前にハテナをつけるのか聞こうじゃないか」
「やめなよ、めぐみん。そうやってすぐ喧嘩売るのは……」
僕の背中に背負われためぐみんがレフィーヤさんに噛み付こうとするのを止める。
里にいた時も喧嘩の仲裁をするのはいつも僕だった。そして泣かさせるのはいつもゆんゆん。偶にふにふらとどどんこも泣いてたっけ。そんなことを思い出す。
「まあ、里の中ではそれなりに話す方でしたね。一緒によくゆんゆんという子をいじめた仲です」
「えっ……」
「誤解ですからね、レフィーヤさん!? 僕そんなことしてないので、そんな目で見るの辞めて貰っていいですか!?」
めぐみんに恨みがましい目線を向けていると、心外だとでも言う顔をされる。
「何言ってるんですか。ほら、ぼっちのゆんゆんを友達だなんだと言って呼び出して──」
「わーわー!! あの時はめぐみんが僕を嵌めたんじゃないか!?」
「そうだとしても、ベルのせいでゆんゆんが涙目になったのは事実。言い訳なんてしていると、
「ぐっ……」
相変わらずだ。
人の弱点を的確に狙って、自分が優位に立つ状況を意図的に作るこのやり方にはめぐみんはやはり天才なのだと思い知らされてしまう。
ついでに、レフィーヤさんの視線を見るに、僕は同級生の女の子を泣かせるクズ認定されてしまったらしい。
そんな目を向けられて興奮するへんたいなんて、ぶっころりーさんくらいなのに……!
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