名残の花、桜人の唄 (森熊ノ助)
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序章
プロローグ
始まりは、見知らぬ白い天井
それが、『私』としての人生が始まった瞬間だった。
私は、俗に言う転生者というものらしい。
なぜ、最初にそれを知ったのは、私が6歳の誕生日を迎えた日だった。
あの日、私は誕生会を終えて、母と共に食器の片付けをしていた。
すると、頭の中に奇妙な文字列のようなものが浮かび、目の前が真っ暗になった。
気がつくと、私は母の腕に抱かれて眠っていた。
母が言うには、1時間程の間、完全に意識がなかったようで、母はとても心配した様子だった。
そして、辺りを見回して驚いた。
目の前に、形容しがたい謎の『渦』があったから。
でも、私にはそれが何故か懐かしいものに感じられて、つい
その渦は、別の世界線において、『根源の渦』と呼ばれるものだった。
そんなものに触れてしまった私だが、そのおかげで、忘れていた前世の記憶を取り戻すことができた。
その記憶によると、今生の私は女性だが、前世の私は男性で、18歳の若さでこの世を去り、この世界へと転生したというのだ。
そして、この世界がどういう場所なのかもわかってしまった。
ここは、対魔忍と呼ばれる作品の世界で、女性として生きていくには、過酷としか言い様のない、あまりに酷い世界だった。
だが、その分朗報もあった。
私の体には、様々な『異能』が備わっていることがわかったのだ。
一つ、不老不死
二つ、物の『死』を視る魔眼
三つ、体に害があるもの全てを消滅させる力
四つ、『根源の渦』に触れたことによる魔力無限化
五つ、ある一つを除いた生理的欲求の消失
六つ、過去や現在、未来や平行世界を観測できる魔眼
細かいものを含めればもっとあるかもしれないけれど、私が把握している限りではこれだけだ。
さて、私は今、ある問題に直面している。
それは、「祿乃さん、君は対魔忍というものを知っているかね?」
何故か目の前にこの世界の主要人物の一人である井河アサギがいるのである。
こうなった原因は、数時間前に遡る。
6月1日 AM 8:00
「おはよう、祿乃ちゃん」
「おはようございます、橘さん」
彼の名前は『橘 青葉』私にとっては、高校に入ってから初めて出来た友人で、とっても大切な人。
「ねえ、祿乃ちゃん」
「どうかしましたか?」
「いやさ、最近はどんな調子だい?、学校には慣れた?」
「はい、大丈夫ですよ、最近では貴方以外にも少しずつ友人が出来てきましたし、学校生活もかなり上手くいってますよ、これも全て貴方のおかげです」
「そっか、それは良かった」
「一体どうしたんですか橘さん?」
「最近さ、祿乃ちゃんの笑顔を全く見てなかったからさ、学校に馴染めてるか心配だったんだよね、でも良かった、ちゃんと学校に馴染めててさ、最初の頃とか心配だったんだよ?、
「大丈夫ですよ橘さん...私を心配するのも良いですけど、貴方もちゃんと勉強を頑張って下さいね、定期テストで赤点だったんですから」
彼はいつも、私の心配ばかりしているのだけど。もう少し自分のこともちゃんと大切にして欲しい、これからの学校生活で、もし彼に会えなくなったらと思うと、とても嫌な気分になる。
「すまん、次は頑張る」
「橘さん、もし勉強が大変だったら私に言って下さいね、少しくらいなら教えられるので」
「ああ、祿乃ちゃんが教えてくれるなら喜んで勉強するよ」
私と彼がいつも通りの会話をしている、その時だった。
「橘さん、少し左に避けて下さい」
「ん?、わかった」
『ドン、グシャッ』
私の前に、人が落ちて来たのは。
「橘さん、この近くの公衆電話で救急車を呼んで下さい、なるべく早く!、私はこの人に応急処置をしておくので」
「わかった!」
「さて、行ったようですね、本当は人に見られると面倒なのでやりたくないのですが、流石にこれはそうも言ってられませんね」
今思えば、この時の判断が間違いだったのだろう。
「うっ」
「大丈夫ですか、今応急処置をしますから、救急車もすぐに来るので、意識をしっかり保って下さい!」
私は、そう言って落ちて来た人物に手を翳した。
すると、落ちた衝撃でグチャグチャになっていた足や腕は元通りになり、このままであれば間違いなく死に至ったであろう大量の出血は、何処に行ったのかわからないくらい綺麗に消えていた。
「君は...一体?」
「この事は他言無用でお願いしますよ、恐らく言っても絶対に信じて貰えないですから」
「わかった、約束しよう」
「取り敢えず、しばらくはじっとしていてください、目に見える怪我は治しましたが、中身はまだなので」
「ああ、ありがとう」
その時は思いもしませんでした、まさかこの人物こそが"井河アサギ"だったとは。
そして、今に至る。
「君が祿乃さんだね、先日はどうもありがとう、今日は君に話があって来たんだ、祿乃さん...君は対魔忍というものを知っているかね?」
何故か、この世界の主要人物から勧誘を受けています。
さて、この状況どうしましょう?。
初めまして、森の翁と申します。
今回からハーメルンでは初めての小説投稿となります。
この作品はいかがでしたか?、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、また次のお話で会いましょう。
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届かぬ言葉
この世界の主要人物の一人、井河アサギを助けてしまった主人公、その後何故かアサギが家に来てしまった。
はてさて、どうなることやら。
「君は対魔忍というものを知っているかね?」
「何の話ですか?、いきなり家に押しかけて来たうえに、訳のわからないことを言い出すなんて」
「いきなり押しかけてしまってすまない、だが大切な話なんだ」
「...お引き取りください、よく知らない人を家に入れるつもりはないので」
「待ってくれ、話だけでも!」
「何度も言わせないでください、お引き取りを」
「あれ~、何してんの祿乃ちゃん」
「橘さん、丁度良いところに、この人がいきなり押しかけて来て困ってるの、追い払うの手伝ってくれない?」
「よくわかんないけど、追い払えば良いんだねわかった」
「待ってくれ、私は話をしたいだけだ」
「悪いけど、祿乃ちゃんに追い払って欲しいってお願いされちゃったしね、今度はちゃんとアポ取ってから来なよ」
「くっ、わかった、次は事前に連絡する」
「あっ、少しお待ちを」
「何だ?」
「この手紙を貴女の上司に渡してください、それでわかる筈です」
「わかった、だが次は話を聞いていただきたい」
「ふふっ、多分もう会わないと思いますよ、その為の手紙ですから」
「失礼する」
「本当に帰ったようですね」
「祿乃ちゃん、入れてあげなくて良かったのかい?、あの人とても必死だったみたいだけど、多分意識張り詰め過ぎて、普段と違う喋り方してたっぽいよ」
「良いんですよ、間違いなく変な団体への勧誘でしたし、私はそういうの苦手なんです」
「そっか、祿乃ちゃんがそう言うなら別に良いんだけどさ、あの人からは
「それでも、私はあの人を家に入れたくなかったの、あの人からは凄く嫌な死の気配がしましたから」
「ふうん、ところで祿乃ちゃん、今から勉強教えて貰っても良いかな?」
「構いませんが、どうして?」
「何かさ、今祿乃ちゃんから離れたら二度と会えない気がしてさ」
「ふふっ、大丈夫ですよ、私は貴方を置いて消えたりしません、だからそんな不安そうな顔をしないでください」
「祿乃ちゃん、いつもありがとうな」
アサギside
私を助けた少女『祿乃』と名乗った彼女は、とても不思議な人物だった。
あの後、帰ってすぐに彼女の経歴を調べたけど、都内の高校に通う女生徒であること以外何一つわからなかった。
私を助けた、あの不思議な力のことは何一つ載っていなかったのだ。
これはおかしいと思い、更に調べてみたのだが。
わかったのは彼女の名字が『朽花』というらしいこと、両親が既に他界し、一人暮らしをしていることだけだった。
「お姉ちゃんどうしたの?、急に調べものなんかして」
「桜、少し気になることがあったの」
「どんなこと?」
「実はね、今日の朝私が病院に搬送されたでしょ、あの時に私を助けてくれた女の子がいるのよ、でも彼女、私に応急措置を施す時に、手から不思議な光が出ていたわ、恐らく何らかの異能力者であることは間違いないのだけど」
「だけど?」
「変なのよ、彼女は一般人の筈なのに、何故か場慣れし過ぎていたの、それに自分の能力のことを誰にも言わないようにと警告までしてきた、一体何者なのかしら」
「じゃあさ、私たちの仲間になるよう勧誘してみたら、治癒能力持ちなんてとても珍しいし、仲間になってくれたらめちゃくちゃ頼もしいじゃない?」
「それもそうね、取り敢えず話をしに行ってみるわ」
それで彼女の家に行ってみたのだけど。
「お引き取りください」
結局、追い払われてしまった。
「彼女が渡してきたこの手紙、一体何なのかしら?」
彼女が渡してきた手紙、私の上司に渡して欲しいと言っていたけど、やはりお祖父様に渡すしかないかしら」
「どうしたアサギ、そんなところで何を悩んでおるのだ」
「お祖父様、実は...」
私は今日あったことを話した。
「なるほど、ではその手紙を見せてくれぬか」
「はい、これなのですが」
「ふむ、内容を要約すると、怪しげな勧誘はやめろと書いてあるようじゃな、それにしても一体何者なのやら...むっ、これは」
「どうしたのですお祖父様」
「アサギよ、大人しく帰って来て正解だったようだぞ」
「どういうことですか?」
「ふむ、お前が出会った少女、『朽花』という名字ではないか」
「ええ、そうですが」
「その者は数年前から、我ら対魔忍に多大な資金提供をしてくれておる者なのだ」
「なんですって!」
「そのうえ、彼女の家も元は我らと同じ、対魔忍であった一族なのだが、百年ほど昔に力を持つ者が絶えてしまってな、以来大衆に紛れて暮らしている筈なのだが、お前の話が本当なら力が戻ったということか...アサギよ」
「はい、お祖父様」
「その者は、事前に連絡を入れれば会うと言ったのだな」
「正確には本人ではなく、その友人が言ったのですが」
「ならば話は早い、今すぐに彼女に連絡を取るのだ」
「承知しました」
お祖父様からの許可も出た。
後は、彼女に連絡をとるだけだ。
祿乃side
何でしょうか、とても嫌な予感がします。
「祿乃ちゃん、何かとっても怖い顔してるけど、どうしたの?」
「いえ、少し嫌なことを思い出しただけです」
「そっか~、本当にヤバくなったら言ってよ、祿乃ちゃんが怒ると、
「大丈夫ですよ、私はもう...貴方の前で怒ることは絶対にありませんから、だから心配しなくて良いのですよ」
「わかった、それじゃ僕は帰るから、また何かあったら言ってね、すぐに駆けつけるからさ」
「ええ、それではまた会いましょう、さようなら」
...ごめんなさい、橘さん。
私はもう、貴方に会うことは出来ないかもしれない。
今回の話はここまでにございます。
次は、『橘さん』から見た祿乃ちゃんの話になります。
では、次回もごゆるりとお楽しみください。
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情景
初めて彼女と話した時、あの日こそが、僕にとっての最高の日だった。
学校に入学したてのころ、彼女は完全に孤立していた。
彼女自身が無愛想なのもあったけど、何よりも彼女は異質過ぎた。
纏う空気が、周りと全く合っていないのだ。
彼女が一言発するだけで周囲は飲まれ、彼女以外は喋ることが出来ないほどだった。
でも、僕は何だか彼女が自分と似た者同士な気がしてた。
だって、彼女には
「朽花さん、で合ってるよね?」
「はい、私が朽花ですが」
「今暇だったらさ、ちょっと話さない?」
「ええ、構いませんが」
これが僕と彼女の、最初の会話だった。
4月15日 AM 12:30
「朽花さん、今から聞くことは他の人に話さないでね」
「良いですけど、何でですか?」
「もし勘違いだったらとっても恥ずかしいからさ、それでね、聞きたいことって言うのはさ.....君、僕と同じ異能力者でしょ」
「あら、貴方も異能力者だったのですか、全く気づきませんでした」
「やっぱり、良かった~、予想が外れてたらどうしようって真剣に悩んでたんだ~、外れてなくて良かった」
それから僕らは、互いの能力について教えあうことにしたんだ。
「へえ、橘さんの能力は、他の人には聞こえない音が聞こえて、その音で相手がどんな人間か判断出来るんですか、便利ですね」
「うん、でも無差別に音を拾っちゃうから、聞きたくない嫌な音まで聞こえちゃうんだよね」
実際問題、彼女に出会うまで気持ち悪い音ばかり聞いて来た。
両親でさえ、とても醜くて耳障りな音がしてた。
でも、彼女だけは違った。
彼女だけは、とっても綺麗で、美しい音が聞こえて来たんだ。
本当は他にも能力があるんだけど、それを言ったら怖がられそうだしやめておこう。
「じゃあ、今度は私の番ですね、私の能力は千里眼、過去や現在、未來や平行世界を見渡すことが出来ます」
「何それ、君の方がヤバいじゃん、ようするに何でも見えちゃうのか、それ結構大変じゃない?」
「はい、見たくないものものまで全部見えてしまうから、今まで怯えられるのが怖くて、誰にも言えなかったんです」
「そっか~、でも良かったよ、僕だけじゃなかっただね、それを知れただけでとっても嬉しいよ、それが君みたいな可愛い子なら尚更さ!」
「可愛い...ですか、何でしょう、とても変な気分です」
「えっ!、なんで?」
「今まで、そんなことを言う人は一人もいませんでしたから」
「嘘!、君とっても可愛いのに~、今まで会ってきた人たちはみる目がないね」
「そうでしょうか?、大抵の人は私を見ると怖がって逃げてしまうので」
「じゃあさ朽花さん、一度思いきっきり笑ってみなよ、そしたら皆君の友達になってくれるよ、きっと」
「そうですか...なら、最初の友達には、貴方がなってくれませんか?」
「良いよ、ていうか最初からそのつもりだし、だからさ、笑顔、笑顔、お願い!」
「はい、それでは」
そう言った彼女の笑顔は、やっぱりとても綺麗で、可憐だった。
この時の会話がきっかけとなり、僕と彼女は一緒に学校へ通うくらい仲良くなった。
でも、何故か彼女は、僕以外に友人を作ろうとしなかった。
しかも、僕と友達になってから、余計に人を寄せ付けなくなった。
一体何でだろう?。
祿乃side
彼はとても不思議な人だった。
他の人は皆、無愛想な私に寄り付きもしなかったのに、彼だけは私に話しかけてくれた。
彼だけが、私を可愛いと言ってくれた。
だから私は、彼以外のことがどうでもよくなった。
彼さえいれば他はいらない、彼だけが私を理解してくれる。
ねえそうでしょ?
橘さん。
橘side
6月1日 AM7:40
「祿乃ちゃん、お待たせ~」
「ふふっ、大丈夫ですよ、私も今来たところですから」
「よ~し、じゃあお喋りでもしながら行こっか」
「はい、行きましょう」
僕は、この後に起こる事件のことを今でも後悔してる。
何で、祿乃ちゃんを一人にして、救急車なんか呼びに行っちゃったんだろうって、この一件さえなければ、彼女が変な連中に目をつけられることもなかったんだ。
「頼む、話だけでも!」
「何度も言わせないでください、お引き取りを」
「あれ~、何してんの祿乃ちゃん」
用事があったのから祿乃ちゃんの家に行ってみたら、昼間の上から降ってきた女の人がいて、祿乃ちゃんがとってもも嫌そうな顔をしていた。
しかも、まずいことに、祿乃ちゃんからすっごく嫌な音がしていた。
間違いない、祿乃ちゃんめちゃくちゃ怒ってる。
その後、なんとか女の人には帰って貰らい、祿乃ちゃんの機嫌も良くなった。
そして、勉強を教えて貰うことを口実に、彼女のの家に留まったんだけど、外がかなり暗くなってきたから家に帰ることにしたんだ。
でも、この時気づけば良かったんだ。
帰り際の彼女からは、何故か少し悲しい音がしていたのに、僕はそのまま帰ってしまった。
次の日、彼女がいなくなってしまうとは知らずに。
ねえ祿乃ちゃん、何処にいるの?。
君の音が聞こえないよ。
君がいないと僕は駄目なんだよ。
帰ってきてよ、戻って来てよ。
.....祿乃ちゃん。
さてさて、雲行きが怪しくなって参りました。
彼はどうなることやら。
次回もお楽しみください、ようやく、ようやく、戦いが始まる。
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憎悪
まず最初に、かなり長い間。
この物語を投稿しなかったことをお詫びします。
実は、私が書いているもう一つの物語があるのですが、そちらに集中していて中々この物語を更新することが出来ませんでした。
今回は、そのもう一つの物語が、少し行き詰まってしまったので、一度自分の頭をクリアにする為。
この物語を久しぶりに更新することにしました。
長らくお待たせして、本当に申し訳ありませんでした。
それでは、物語をどうぞ。
本当に大切なものは、失ってから気づくものだ。
後悔と一緒に.....。
6月2日 AM8:00 【橘side】
「さあて、昨日は祿乃ちゃんに勉強教えて貰ったし、今日も頑張るぞー」
なんの変哲もない普通の朝、今日もそうなる
「あれ?、祿乃ちゃんがいない」
その日、いつもならいる筈の道に、彼女はいなかった。
「おかしいな~?、もう学校に行っちゃったのかな」
本当に珍しいことだった。
彼女は僕と出会ってから、一度もこの場所での待ち合わせをすっぽかしたことがなかったからだ。
「まあ良いや、取り敢えず学校に行ってみよう」
AM8:25 学校
「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「おっ、橘じゃんか、どうした?」
「祿乃ちゃんってまだ来てない?、朝いつもの待ち合わせ場所に行ったらいなかったんだよ」
「.....何の話だ?」
「いや、だから祿乃ちゃん...」
「それは誰だ?、そんなやつこの学校にはいないぞ」
「えっ?」
「お前大丈夫か?、今日なんか変だぞ」
「何でもないよ、ただちょっと頭が混乱してるだけさ」
「いや、結構ヤバそうだぜ、顔色も悪いしよ、先生には俺から言っておくから今日はもう.....」
「大丈夫だって言ってんだろ!、俺に構うな!」
「おわっ、本当にどうしちまったんだよ、お前らしくもない」
「...悪い、やっぱお前の言うとおり一旦帰るわ」
「おう、お大事に」
「.....」
どういうことだ?、皆は祿乃ちゃんのことを忘れているのか?、昨日まであんなに一緒にいた筈なのに、いきなり全員の記憶から消えるなんてあり得るか?。
「取り敢えず、彼女の家に行ってみよう、何かわかるかもしれない」
AM8:54 【朽花邸】
「祿乃ちゃん!、いるなら返事をしてくれ!」
彼女の家からは、人の気配が全くせず。
それどころか、彼女の音すら聞こえなかった。
何故?、彼女が僕に何も言わず居なくなるはずがない!、まさか...彼女に何かあったのか?。
「ん?、これは...」
それは、確かに彼女の字で書かれた手紙だった。
橘さんへ
黙って居なくなってごめんなさい。
これを貴方が読んでいるなら、私はもうこの街にいないということです。
急なことですが、、私はこの街を離れなくてはいけなくなりました。
昨晩、貴方が帰る直前に...ある未来を見ました。
それは、昼間に出会ったあの女性が、今度は仲間を引き連れてやってくるというものでした。
きっとそれは、現実のものになる。
そうなれば、私と最も近しい仲である貴方にも迷惑がかかってしまいます。
なので、私はこの街を去ることにしました。
貴方は、皆さんが急に私のことを忘れて困惑してしまうかもしれませんが、それもまた必要なことなのです。
私のことを覚えている者がいれば、必ず貴方にもたどり着く。
そうなれば、きっと貴方にも危害が及ぶ。
私はそれだけは避けたいのです。
その為に、街の人間全てから私に関する記憶を消しました。
でも、きっと貴方は私のことを覚えているのでしょう。
だから、この手紙を残します。
どうか、私のことは忘れて幸せになってください。
私は、いつでも貴方が幸せになってくれることを願っています。
さようなら、橘さん。
「祿乃ちゃん、なんでだよ、なんで僕にもっと頼ってくれないんだよ!、僕はただ.....」
君が居てくれれば、それだけで良かったのに.....。
「...あの女のせいか、あいつさえいなければ!?、彼女は居なくならなかった筈なのに!、あの女さえいなければぁーーー!!!」
僕の中で、何か大事なものが...音を立てて崩れていった。
ああ、あの感情は...何だっけ?。
彼女が大好きだった筈の、あの感情は.....。
もう、どうでも良いか。
だって、彼女はもう居ないんだから。
ねえ、そうでしょ?。
AM10:00 【アサギide】
「アサギよ、この辺りで間違いないのか?」
「はい、先日訪問したのはこの近くです」
「ふむ、それにしては妙だな」
「妙とは?」
「本当にその者が異能に目覚めているのであれば、力を使った際の残滓が残っておる筈なのだが、それが感じられない、どうやら誰かが意図的に隠しているようだな」
「もしや、彼女自身が我々に見つからないために隠したのでは?」
「となると厄介だぞ、朽花の一族の得意分野は情報収集と隠蔽、つまり彼女が完全に我々の動きを把握したうえで動いていることになる」
「それなら、まず彼女の友人を訪ねた方がよろしいかと、どうやら彼女とかなり親密な様子だったので、彼女の居場所を知っているかもしれません」
「そうか、その者は何処に?」
「まずは彼女の家に行ってみましょう、もしかしたらそこに彼女の友人がいるかもしれません」
「そうだな、今はそれしかできることがない」
AM10:15
「あれが彼女の家か?」
「ええ.....おや、誰かいるようですね」
「お姉さん、さっき言ってた友人さんじゃない?」
「そうね、話しかけてみましょうか」
「じゃあ私行ってくる、おーい」
「ちょっと!、待ちなさいさくら!」
「あの~、朽花さんって人の居場所知ってる?」
「ぉ....ぇ..k..b.」
「えっ?、何て言ってるの聞こえないよ」
「さくら!、何か様子が変よ、離れなさい!」
「お前らさえ...いなければぁーーー!!!」
「えっ?」
何かが切れる音がした。
何かが滴り落ちる音がした。
それは真っ赤で、そして鮮やかで.....。
ああ、あれは私の血なんだ。
頭がそう理解した瞬間、私の目の前は真っ暗になった。
「さくらぁーーー!!!」
「アサギ!、落ち着け」
「嫌、嫌よ、さくらが、さくらが血を流して...嫌ぁーーー!!!」
「待て、冷静さを失うではない!、お前までああなってしまうぞ」
「でもさくらが」
「落ち着け、まだ完全には死んでおらん、今すぐ手当てすれば助かるのだ!、故に今はあやつを退けることを考えねばならん!」
「ガタガタ五月蝿いんだよ、さっさと消えろ!」
「ぬっ、アサギよ、あやつは本当に一般人なのか?」
「どういうことです」
「ふむ、あやつが先程から放っておる尋常ならざる殺気、あれは此方側の人間にしか出せぬものだ」
「お前らさえ、お前らさえいなければ、彼女はいなくならなかったんだぁ!」
「お主、さっきから何を言っておるのだ!」
「.....お前らのせいだ、お前らが彼女を探しになんか来たから!、彼女は僕の前から居なくなった!、お前らさえ来なければ、彼女はまだ僕と一緒に居たはずだったのに、お前らは!、そんな僕たちのささやかな幸せを奪ったんだ!」
「頼む、話を聞いてくれ!、我らはただ朽花殿と話し合いたいことがあるだけなのだ!」
「黙れ!、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」
「くっ、話ができる状態ではないな。 アサギよ!、さくらを連れて早く逃げるのだ!」
「ですが!、お爺様はどうするのです!」
「儂は、こやつをなんとか足止めする!、故に.....早くさくらを連れてここを離れよ!」
「...わかりました。お爺様、どうかご無事で!」
「ふむ、アサギたちは撤退したな」
「どういうつもりだ貴様?、たった一人で何をするつもりだ!」
「ふっ、舐めるなよ小僧!、儂とてこの国を守護する対魔忍の一人...高々少し能力を持った程度の若輩者に負けるほど衰えてはおらんわ!」
「ふうん、僕も舐められたもんだね(面倒だな、
二人が睨み合い、まさに一触即発の状況。
その時だった。
「二人とも、その辺りでやめておきなさい」
「.....祿乃ちゃん?」
「ええ、そうよ」
彼女が...祿乃ちゃんが現れたのは。
さあ、いよいよ第1章も終わりを迎えそうです。
再び橘君の前に現れたの主人公。
彼女の目的は何なのか?。
次回『再開』
では、また次のお話でお会いしましょう。
感想や評価などを頂ければありがたいです。
以上、森の翁でした。
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