新米指揮官の日常 (our)
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新米指揮官着任(前編)

始めまして、サンディエゴ鯖で指揮官してます。
pixivに投稿していたのですが、せっかくなのでこちらにも。
シリアス成分も多めになる、予定です()


 飛行機を降り、長いフライトの中で固まった身体をうんと伸ばす。

 眼前にあるのは、鋼で出来た頑強なドッグ、潮騒、そして海の香。

 海風に帽子が飛ばされないよう帽子をじっと抑えながら、視線を右へとずらした。そこにあったのは、遥か遠くまで続く水平線。人には及びもつかない、神秘を感じさせる、雄大な海。

 どこから沸いたかも分からない高揚感と恐怖を感じながら、眼を眇めてその先を見つめた。

 

 

 あの海の先には人が決して触れてはいけないモノ――セイレーンがいる。

 

 

 何を目的としているのかもわからぬ彼らとの戦闘。

 その最前線がこの基地なのだ。

 戦えばイノチも簡単に散るであろう、人外との戦闘。

 俺は――

 

 

『ご主人様、こちらへ』

 

 

 案内役のメイドが、海を見ていた俺へついてくるよう促す。

 俺は頷きながら、その後ろ姿を追って歩き出した。

 

 

 

***

 

 

 

 

 母港は、ある程度は整備されているようだった。

 いずれ一度は訪れることになるであろう艦船用の寮舎、整備用のドッグ、資材確保用の猫耳娘のいる店。

 そして俺が大半を過ごすであろう指令棟。

 円形になるよう施設が作られた母港で、若干のオイル臭さと潮の香が混ざる空気。

 その中で唯一異彩を放つ場所がそこにあった。

 

「……ここは?」

 

 ちいさな花が、数本だけ。

 赤や青を咲かせる花弁。

 人類の最前線の基地――にしては異色な花壇であった。

 

「今いる駆逐艦の子が植えた、ちいさな花壇です。まだ一カ月も経ってないはずですが、綺麗に咲きましたね」

「……そうか」

 

 幼い子供も、否、幼い子供だからこそ装備できる艤装もあったか。

 ダメだ。今考えるのはよそう。

 そう考えて頭を振ると、メイドが小さく微笑んだ。

 

「お優しい方なのですね」

「そうでもない、と思うけど」

「ふふ……」

「それよりも、指令棟へ」

「かしこまりました」

 

 そうして、俺とメイドはその場所を離れた。

 

 

 

 

 母港全体には流石に手入れが行き届かないのか、少し雑然とした場所もあったが司令棟だけは別だ。

 埃一つない完璧な手入れ。窓も美しく磨かれており、調度品も丁寧に取りやすく並べられている。

 執務室に入った時など、完璧すぎる配置に思わず声を上げてしまったほどだ。

 

「案内ありがとう、一応君の名前を――」

「私はメイドのベルファストと申します」

「――君は、いや、君ももしかして」

「えぇ。私も'艦船'でございます。この身、これからあなたに捧げます。どうぞご自由に、お好きなようにお使いください」

 

 

 優雅に完璧な礼をとるメイド。

 みればみるほどに、本当に人と変わらないな。

 キューブから生まれた存在とはとても思えない、機械的でありながらどこか感情を宿す瞳。

 スカートをつまみ上げる仕草も、どれもが人そのものだ。

 と、ベルファストが眉を吊り上げた。

 その視線の先には、執務室の扉があり――

 

 

「ベルファスト殿、哨戒任務終了の報告を」

 

 

 そう言いながら一人の女性が入ってきた。

 刀を腰に引っ提げた、やけにスカート丈が短い白い軍服を纏った女性。黒髪ポニテに――垂れた犬耳、がついてるのだろうか。

 大きな胸が目を引くが、なんとか視線を引っぺがしてビシっとその場で姿勢を整える。

 

「今日からここに着任した指揮官だ。いろいろと至らぬ点もあると思うが、よろしく頼む」

 

 それを聞いた女性は一瞬だけ呆けた後に、膝をついて頭を下げた。

 

「これはとんだご無礼を。拙者は高雄。拙者も微力ながら力を尽くす所存だ」

 

 その様はあんまりにも様になっていたというか。

 いつの時代かにいた武士を連想させる所作のように思える。

 メイドといい、武士といい、いろんな艦船がいるのだなぁと思いつつも、ひとまず恰好だけはつけておく。

 

「ありがとう高雄、もう顔をあげてもいい。それよりも哨戒任務終了の報告だったな。ちょうどいい、そこらへんの処理の仕方を教えてもらえるかな?」

「あ、あぁ。もちろんだ。ベルファスト殿も手伝ってもらえるか?」

「ご主人様の御申しつけであれば、なんなりと」

「では、頼む」

 

 そんなこんなで、彼女達と母港最初の仕事をこなしていく。

 来る前に一通り憶えたことではあったが、やはり実際に触ってみるのとはわけが違う。

 ベルファストと高雄に教えてもらいながら、他にも溜まっていた事務処理を行っていくのだった。

 

 

 

 




あ、あとこっちはpixivより更新頻度遅めです。
もともと不定期更新ではありますが。


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新米指揮官着任(後編)

 

 一通りの業務をこなしているうちに、外には夜の帳が下りていた。

 ひと段落した書類の山を脇において、大きく伸びをする。同時に、回転式の椅子を回して背後にある大窓から外を見つめた。

 母港の赤いテールランプが遠方で光り、寮舎で誰かが遊んでいるのかチカと何かが点滅している。

 街灯もぽつぽつと路を照らしており、ささやかながら母港の暗闇に光を添えていた。

 

「寂しい母港かと思ったが、案外人はいるものなのか……」

 

 夜はひと際寂しさを感じさせる無燈の港を想像していたが、想像以上に明るい。

 横に目を向けると、流石に疲れていたのだろう高雄も大きく伸びをしていた。

 あまりに大きい胸に再度目が吸い寄せられそうになって、コホンと咳をした。

 

「この母港に所属する艦船は10にも満たないが、みんな元気で良い子ばかりだからな」

 

 ハハと笑いながら、高雄は外を楽し気に見つめた。

 もう片方に艦船――ベルファストの方へ目を向けると彼女は疲れをみじんも感じさせない所作で俺の隣に立った。

 不思議に思って、少しだけ目を吊り上げてしまう。

 

「ベルファストは疲れてないのか……?」

「私は慣れております故」

 

 首を傾げる俺に、高雄が補足した。

 

「指揮官の書類業務代行を一カ月ほどベルファスト殿がやっておられたのだ。私も多少は手伝っていたのだが、やはり敵わないな。精進が足りないようだ」

「いや、高雄もお疲れ様。とても助かったよ。ベルファストも、本当にありがとう」

 

 素直にお礼を言うと、彼女達は不思議そうに目を丸くした。

 

「――なんか、間違ったことしたか?」

「いえ。本音を申しますと、もう少し高圧的な指揮官が来るのかと身構えていましたので」

「あぁ。少し面を喰らった、というか。拙者としては付き合いやすそうな指揮官で良かった」

 

 なるほど、そういうものか。

 一応指揮官的な威厳を見せようとは思っていたが、疲れていたのもあるのだろう。

 何はともあれ、手伝ってくれたことに感謝するのは当たり前の事だが。

 

「ですが、これなら私としても安心です。ご主人様、夕食の方へご案内したしますので、私についてきていただけますでしょうか」

「あ、あぁ? 構わないが」

 

 もう夕食は用意されていたのか。

 そろそろ腹も減る時間だ。ありがたい。

 

「では、こちらへ」

 

 

 

 

 俺達は、司令棟を出て母港の中を歩いていた。

 

「本当にこっちでいいのか?」

「はい」

「夕食は指令棟で食べる物ではなかったのか」

 

 確か資料にはそう書かれていたが、違ったのかもしれない。

 ではどこで食べるのだろうかと聞こうとして、傍に控える高雄がにこと笑っている気がした。

 

「どうした、高雄。なんか上機嫌だな」

「そ、そうか!? せ、拙者はいつも通りだが――」

「……?」

 

 前の方を歩くベルファストが小さくため息を吐いたような、気のせいか?

 そんなやり取りをしているうちに、ベルファストが立ち止まった。

 そこは、艦船達が暮らす寮舎だった。

 ベルファストはそこの大きな扉をカンと叩いて呼びかける。

 

「ご主人様がいらっしゃいました。入ってもよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

 

 甲高い――幼そうな少女の声が響く。

 中には誰がいるのだろうかと身構え、同時に少し楽しみにしている自分がいることに気が付く。

 夕食はこれから艦船達と食べることになるのだろうか、とか。どう仲良くしていけばいいのだろうか、とか。

 いろいろと思考を巡らす間にも、ベルファストが中へ入るよう促してくる。

 ええいと腹を括り、俺は開かれた扉へと入っていった。

 

「夜分遅くにすまない、私が今日就任した――」

「「「「指揮官、母港へようこそ!!!」」」」

 

 パパパンと、クラッカーの破裂音がエントランスで鳴り響く。

 光と音に閉じた目を、少しづつ、開く。

 すると、そこには数人の女の子がいた。

 どの子達も艦船なのだろう。

 

「あ、っと。歓迎ありが、とう?」

 

 目を白黒させながら周りを見渡す。

 多分駆逐艦の子達だと思う。ポニテの海軍服少女、ウサギ耳の気だるげな少女、ウェーブする髪の毛を持った活発そうな少女。あとは一人だけ戦艦か、空母かであろう女性。

 自己紹介で右から綾波、ラフィー、ジャベリン、そして――エンタープライズだということがわかった。

 駆逐艦三人娘は仲良さげに俺の方に迫ってきた。

 俺は彼女達に先導されるがまま、用意された豪勢な夕食へと手を付け始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一人バルコニーで酒をちびと飲みながら、海風で涼んでいた。

 

「……駆逐艦の子達は、フリーダム過ぎないか」

 

 ご飯食べてる最中にゲームを始めたり、食べるの疲れたと言ってスヤと寝始めたり。

 ジャベリンという子が必死で二人にもうちょっと食べようとか、お話しようよとか話していたがあの調子だと言うことを聞いてくれなさそうな。

 まあ、彼女達が明るそうで――否、楽しそうでよかった。戦闘に刈られる子供達であるし、もう少し暗い雰囲気なのかと思っていたがいい意味で覆された。これなら、まだ希望は持てる。

 

「指揮官、どうだ、この母港は」

 

 気が付くと、横にはエンタープライズがいた。

 彼女はワインを片手に、手すりに寄り掛かって海を見つめていた。

 その姿はどうにも様になる、というかかっこいいな。

 なんてどうでもいい思考を脇において、彼女の質問に答える。

 

「意外と、活気があっていいな。もう少し暗いかと思ってた」

「そうだろう? みんな元気でいい子なんだ」

 

 俺が寮舎の中へ視線を移すと、涙目の猫耳娘が飛び込んでくる場面だった。

 どうして私を置いて先にはじめちゃったのかにゃ、なんてベルファストに泣きついている。

 その隣ではラフィーが高雄に膝枕してもらっているし、綾波はジャベリンと携帯ゲームで対戦中だ。

 俺の歓迎会だというのに、ほんと各々が好き勝手やって、楽しそう。

 

「ふ、はは、ほんと、いいところだな」

「そう思ってもらえて良かった。指揮官、あなたも良い人物だということが分かった。だからこそ私も、あなたについていこうと思えるよ」

「そう言ってもらえると助かる」

 

 まだ、新米指揮官だから。

 そんな言葉を飲み込んで、俺は酒をぐっとあおった。

 明日から本格的な業務が始まる。

 彼女たちを傷つけないためにも、俺は俺のできることをしないとな。

 

「どうした?」

「……いや、何でもない。それよりも指揮官、中に戻ろう。彼女達ともっと仲良くなるためにもな」

「あぁ」

 

 優し気な目で俺を見つめていたエンタープライズはそういって、会場の中へと戻っていく。

 俺もそれについて、中へと戻った。

 その後は、少しハメを外すぐらいに艦船達と遊んだりしたが、初日くらいは良いだろう。

 

 

***

 

 

 そうして、俺の母港着任初めての一日が終わった。

 



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メイドと武士と英雄と

 

 疲れて寝てしまった駆逐艦の子達を部屋へと運び終えた後、三人の女性がパーティ会場だった2階のホールに集まっていた。

 彼女たちはおもいおもいのつまみを食べながら、丸机を囲んでいる。

 その中で、唯一何も食べず酒も飲まないメイドへ、英雄――エンタープライズが話しかけた。

 

「ベルファスト、この場は無礼講だ。いつもいっているが、あなたが今、従者である必要は――」

「いえ、これは私が、私の意思でそう決めていることなので」

「そうか…… 本当に、あなたも大変だな」

「そんなことはありませんよ。お気遣いありがとうございますエンタープライズ様、否、ユニオンの英雄――」

「その話はむずがゆいから止してくれ」

 

 恥ずかしそうに笑いながらも、エンタープライズはつまみに手を伸ばした。

 

「それで――指揮官はどうだった?」

「私のご主人様足りえる方――仕えるに値する方でございます。すべてを賭してでも」

「大仰だな…… 高雄はどうだ?」

「拙者から見ても、好人物であると感じたぞ」

 

 それぞれの意見を聞いて、エンタープライズはふむと唸る。

 一度は”壊滅”したこの母港の立て直しに送られて来た人物。

 前の指揮官は既に内地へ――植物状態となって――送られ、数多くいた艦船達も多くが撃沈するか、いまだ危険な前線基地へと飛ばされている。

 いまいるのは、壊滅から一カ月の間に新たに生まれた艦船達。ここにいる三人も含め、指揮官不在の中でメンタルキューブから生み出された艦船だ。いまの今までこの母港が存続できていたのは、ひとえにベルファストの事務処理能力と、エンタープライズや高雄の高火力による敵機の殲滅が出来ていたためである。

 だが、このままでは再度来るであろうレッドアクシズには対抗できない。

 指揮官指導の下、艦船を増やし戦力増強を図るのは急務であった。

 

「まあ、ひとまずこれで指揮官不在の不安も解消された。ここから指揮は指揮官を中心に回っていく。この場も今日で見納めかもな」

「――寂しくはあるが、悪いことじゃない。仕事にも集中できるからな。だが拙者もまた三人で集まりたいとは思っている」

「私も、機会を設けていただければ参加いたします」

「ふふ、それならよかった。趣味も嗜好もバラバラの三人だったが、意外とここは心地よかったよ」

 

 そう言って、エンタープライズはグラスをこんと机の上に置いた。

 

「幸い、着任してきた指揮官は全員意見一致で良い人物だ。彼の補佐をしつつ、頑張っていこう」

「えぇ。すべてはご主人様の為に」

「拙者も出来る限り補佐していこう」

「それで、ここからが本題だ」

 

 エンタープライズは神妙な目つきで二人を見た。

 ベルファストは何が言いたいかを察して目を伏せ、高雄は分からぬと首を傾げた。

 英雄は大仰に立ち上がり、そして窓の傍へと歩いていった。

 その視線は、司令棟の方へと向けられている。

 

「私達の内の誰が、秘書艦になろうか?」

 

 



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二日目の争乱(1)

 母港生活二日目。

 朝は高雄が起こしに来たが、一応既に準備は整えてある。

 

「おはよう指揮官。朝から精がでるな」

 

 日課の腕立て伏せをこなしながら、目線だけ上にあげる。

 今日もピシッと黒髪を白いリボンで纏め、やけに短いスカート丈な軍服を着ている。

 この態勢だと白いパンツが丸見えだが、あえて見なかったことにする。

 

「一応軍人だからな。事務方とはいえ、身体を鍛えなくていい、理由にはならない」

 

 そう答えながらも、一回、また一回と腕立て伏せをこなしていく。

 黙りこくった高雄を不思議に思って再度目線を上げると、彼女はふいと顔を逸らした。

 なぜだかその顔は赤くなっている。

 どうしたのか聞きたいところだが、あと二回で日課は終わる。

 ひとまずそれを済ませてから、立ち上がった。

 

「どうした高雄。顔が赤いな」

「えっとその、だな。――下を履いてもらえると、助かるというか」

「あ」

 

 一昨日までは一人の部屋での日課だったのですっかり忘れていた。

 ただ、一応パンツは履いている。ノーパンだったら別だが、履いているのだから別に恥ずかしがることでもないし、高雄も気にすることじゃないと思うのだが。

 

「なんで首をかしげておるのだ、指揮官……」

「いや、なぁ。パンツ程度で恥ずかしがられても」

「ッ、武士たるもの慎始敬終、いついかなる時も気を抜かず身を整えるものだッ!」

 

 顔を赤くしながら説教されても、などと思いながら、広いベッドを跨いでクローゼットの引き出しを開き、がさごそと中を漁る。昨日はあまり荷物整理の時間もなく寝てしまったので、どれも適当にクローゼットに突っ込んだままだったが、なぜか綺麗に畳まれていた。

 こんなことができるのは掃除用に俺の部屋のカギを持っているベルファストぐらいだろうが、いい仕事をするものだ。

 俺はひとまず目当ての長ズボンを引っ張り出して、それを履いた。

 

「なんで”履いてやったぞ”みたいな顔ができるのだ…… 拙者としても驚きの連続だぞ」

「まあいつでも気を抜かずにいると、イザって時に力が出せないものだ。適度な休息と気を抜く時間は必要だぞ」

「……た、たしかにそうか。そうだな、正論だ。正論、だな?」

 

 うむ、何かがおかしい気もすると首を傾げる高雄。

 割とこの艦船は言いくるめやすいタイプなのかもしれない。ちょっとかわいげのあるところを発見した気分になる。

 

「それにしても、さっきからやけに俺のパンツを気にしてるけど――気になるのか?」

「な、なな、なっ、そんなことないぞ! 破廉恥、破廉恥な!」

「冗談だよ、冗談」

 

 大体わかった。

 高雄は意外とムッツリすけべぇなタイプだ。

 ちらっちらっと俺の身体を見てくるし。襲われないように気をつけな――

 

「指揮官、お主、よもや無礼なことを考えてはいないだろうな?」

「ま、待て。刀を抜くのはアウトだ! 謝るから許せ!」

「ちょっとくらい、痛い目を見てもらおうか!」

 

 

 

***

 

 

 

 肩がジンと痛む。

 手加減のみねうちとはいえ、相当に痛かった。

 艦船をからかうのは命を賭けねばならないことだと痛感したので、今度からは気を付けていきたい。

 

「指揮官は、意外と意地悪なのだな」

 

 つんと顔を背けながら、俺の横を歩く高雄――そして現秘書艦。

 さすがにこのままでは不味いとフォローはしておく。

 

「悪かったよ。朝は少し気が抜けてしまってな。以後気を付ける」

「そうしてくれ、まったく……」

 

 少しは機嫌を直してくれたのだろうか。

 一応、ここからは初めての仕事であり、本格的な指揮の開始だ。

 秘書官とも良好な関係を築かねば。

 

「そういえば、秘書官っていうのは指揮官が指定するものだって話だったが」

「せ、拙者では力不足だろうか……?」

 

 高雄が不安そうにこちらを見てくるので慌ててフォローする。

 

「いや、違うぞ。ただ、今回はどういう経緯で決まったのだろうかと」

「あー まあ、そこらへんは気にするな。一応この母港での大人――ベルファスト、エンタープライズ、そして拙者の三人で四日交替で秘書官を担当するつもりなんだ。誰かが欠けた――いなくなった時に代役が務まらなくては困るからな」

「……俺は誰も、欠けさせる気はないぞ」

 

 少しだけ、低い声が出てしまった。

 一人称も私ではないし、失敗したなと顔を歪める、

 チラと横を見ると、高雄が嬉しそうにこちらを見ていた。

 

「本当に、好人物だな。昨日もよく考えれば長旅直後でのあの事務仕事。満場一致で、皆あなたを快く受け入れると言っていたよ」

「そういうのはむずがゆいから止してくれ」

 

 そう言うと、高雄は少しだけ目を丸くして小さく呟いた。

 

「同じセリフをいうのだな」

「ん?」

「いや、なんでもない。それより、指揮官殿、中へ」

 

 大きく、そして美しい装飾の施された扉。それを開いて高雄が中へ入るよう促してくる。

 俺は少しだけ気の引き締まるような感覚を憶えて、襟を正した。

 そして、一歩踏み出す。

 今日から、俺は指揮官なのだ。



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二日目の争乱(2)

 

 さて、朝方から大量の事務処理に追われているわけだが、ここで大きな問題が一つ発生していた。

 猫耳娘が勝手にメンタルキューブを使った艦船製造をしていたことだ。本来は無用な資源の無駄遣いがないように手続きが必要なところを、あの子は勝手に行っていたらしい。ここにいる正規に登録された艦船は――ベルファストと高雄だけ。他は全員、無許可無登録の艦船だ。

 まあ、どう考えても艦船が足りていなかった以上はやむを得ない措置だとは思うが、これをどう上に通すかは大きな問題だった。

 

「指揮官、無許可艦船は、どうなるのだ――?」

「最悪、解体処分を受けるぞ」

「ッ――」

 

 そもそもが艦船――KAN-SENはヒト型に押し込めた高火力兵器の側面がある。

 適当に作りまくるというのは言語道断なのだ。

 隣で高雄があたふたとしているが、解決案は一応存在している。猫耳娘がそこまでちゃんと考えていれば、の話だが。

 

「まあ任せておけ。ひとまずは資材の販売所――明石のとこへいくぞ」

 

 

 

 

「お、指揮官、早速のお越しだにゃ」

 

 ドッグの隣にちいさな店を構えた猫耳少女、明石の店の中へと足を運んでいた。

 美しいケースの中に並べられた調度品や資材、誰が着るのかわからないほどきわどい衣装などが飾られている。

 綺麗に並べられた商品、高額で貴重な資材を購入できる便利な店である、らしい。

 少なくとも、資料にはそう書かれていた。

 

「ご用件はなにかにゃ~」

 

 内容は簡潔に、短く。

 

「メンタルキューブを特型艦船製造用に二隻分と、無許可艦船の製造分すべてだ」

「――かしこまりましたにゃ。お代は、まけときますにゃ~」

「いや、全てこちらで持つ」

「……大丈夫かにゃ?」

「あぁ。君もここを支えてくれていた一人だからな」

 

 そういうと、猫耳娘は目を見開いて、直後にぺたりと耳を伏せた。

 

「迷惑をかけるにゃ……」

「胸を張れ、間違ったことはしていない。尻拭いくらいはいくらでもやる」

 

 そういうと、明石はすこし顔を赤くして何かを差し出してきた。

 何か、小さなカードだ。

 

「こ、今回だけは出血大サービスにゃ。貿易許可証、大事に使うといいにゃ」

「おお、これが。ありがとう、助かる」

「じゃ、じゃあ、あとは用がないなら他の仕事に戻るにゃ! あ、一時間後にドッグにきてくれにゃ。艦船の製造も見てほしいにゃ」

 

 そういうなり、明石はタタタと奥に籠ってしまった。

 不思議に思って首を傾げると、高雄がジト目でこちらを見ていた。

 

「どうした」

「いや、意外と指揮官殿は――”ぷれいぼーい”というやつなのではないかと思ってな」

「まあ当たり前のことをしただけなんだけどな」

「それは――、……そうだな。そっちのほうが拙者達も、助かる。指揮官には迷惑をかけるな」

「迷惑どうにかするのも、中間管理職ってやつの仕事だよ」

 

 そう言って、俺は高雄を傍につかせながら店を出た。

 未だ昇り始めた朝日に目を細める。

 まだ時間は8時過ぎ。明石の言っていた時間までには、もう少し事務方の仕事を済ませておきたい。

 

「いったん戻るぞ」

「了解した」

 

 

 




短いぶつ切りですまない…… すまない……
この話いる???とか思いながら書いたけど、必要だったんです……


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二日目の争乱(3)

 事務方の作業を一時間こなし、そこからは再度ドッグのほうへ。

 ハードスケジュールだが、やっておかないと困ることも多いので仕方ないと割り切り、なんとかドッグ前に辿りついた。

 大きなドッグの中からはカンカンと鉄を打つ音が聞こえる。

 

「明石ー! 来たぞー! 入っていいかー?」

 

 大きな声で呼びかけてみたものの、反応はない。

 小さくため息を吐いて、隣の高雄をちらとみた。

 

「指揮官殿、明石は作業中は集中してて気づかないことも多くてな。勝手に入るのはどうかと思うが――今回は致し方あるまい」

「なるほど。一理あるか」

 

 俺は胸ポケットからマスターキーを取り出し、中へと入っていった。

 ドッグの中は雑然としており、艦船――KAN-SEN用の爆撃機や、砲台、刀や髪飾りまで、あらゆるものが散乱していた。

 鉄とオイル、そして潮の香りの混ざった臭いに顔をしかめつつも視線を遠くへ飛ばす。

 すると、溶接マスクをつけてジリジリと何かの作業をしている明石を発見した。

 

「おーい、明石ー?」

「にゃにゃ! 指揮官! ちょっとまってにゃ」

 

 明石は驚いたようにしっぽを逆立てて、高速移動を始める。猛スピードでいろいろなものを片付け、そして恰好を整えて俺の前に来た。

 

「ようこそにゃ。ここがドッグ、各艦船の装備の整備などを行う場だにゃ」

「にしては、なんというか、私が想像していた以上に雑然としているな」

「ぐ、ぐにゃぁ」

「ま、人が増えたら整理する時間も増えるだろう」

 

 そう言って、あたりをキョロと見渡す。

 

「それで、艦船の製造というのは――」

「にゃ、こっちで準備が出来ているにゃ」

 

 そう言って、明石は俺たちをドッグの奥の方へと案内した。

 足場もなさそうなドッグの中を歩き、『余人入るべからず、にゃ』なんて看板の先へ。

 幾重もの警備を乗り越えた先に、その場所はあった。

 

「おぉ…… ここが」

「そうにゃ。アズールレーンの技術の結晶、艦船製造場所にゃ」

 

 薄暗い部屋の中には小さな機械が幾つも点滅しており、或いはケーブルで繋がっていた。

 そしてあまたあるケーブルの中央には、青白い光を放つ立方体が鎮座している。

 あれが資料で見た、余人には目にすることも不可能なオーバーテクノロジーの核。

 

「メンタル、キューブ」

「私達の卵にゃ」

「拙者も、自分の目でみるのは初めてだ……」

 

 明石は楽し気にそれらを見て、それから、ガコンと大きなレバーを引き下ろした。

 途端に、辺りから警報が鳴り響く。

 

「ちょ、まて明石。なんか不味そうな音が」

「安心してにゃ。こういうものにゃ。いつもなら時間がかかるけど、今日は特別にこれもつかっちゃうにゃ~」

 

 明石が手に持つのは、手のひらサイズのドリル状の物体だった。

 あれも資料では目を通した。

 

「高速建造用のドリル⁉ メンタルキューブよりも流通が著しく低いアレを、どうして――」

「前指揮官の遺物だにゃ。それよりも――いくにゃ!」

 

 明石は手に持つ高速建造ドリルを、なんとメンタルキューブにぶっさしたのだ。

 

「ま、そんな使い方するのか!?」

「そうにゃ。さぁ、新しい艦船の誕生にゃ~!!!」

 

 ドリルをつきこまれたメンタルキューブは激しく回転を始め、眩いばかりの光を発しそして――

 

 

 

 

 目を開くと、そこには白く眩い女性がいた。

 目を閉じていた彼女はぱちと目を見開き、不思議そうにきょろと辺りを見渡す。

 明石、高雄の順に見て、最後に俺を見つめた。

 

「あなたが、指揮官様ですか?」

「あぁ。その通りだ」

 

 女性に対する感想、第一印象としては間違いなく不適切なのだろうが。

 とりあえず胸が大きかった。

 それはもう、隣の高雄も相当だが、それ以上に大きすぎる物を持っていた。

 もはやそれ単体で兵器になるのではと思うほどに大きかった。

 

 そして印象的過ぎるそれを除けば、彼女は全身が白で構成されているようだった。

 中が透けるほど薄く白いスカート、フリルのついた白い帽子、そして美しく燦然と輝く髪に、瑞々しく白磁のような肌。

 雑然とした機械だけの狭い部屋は全く似合わぬ、高貴さと清純さを感じさせる佇まい。

 

 

 彼女の姿は、穢れを知らぬ乙女そのものだった。

 そんな彼女は、俺を見てぺこりと頭を下げた。ついでにスカートを摘まむあたりに高貴さが垣間見える。

 

 

「指揮官さま、ご機嫌よう。イラストリアスが着任しましたわ。愛と平和をこの海に、聖なる光をあなたに~」

 

 

 

 そんな外見の高貴さとは裏腹に、間の抜けた声で挨拶をしてきた白い女性――イラストリアス。

 ぱちりとウィンクしてくるあたり、意外と茶目っ気のある女性なのかもしれない。

 彼女の中で唯一、蒼いその瞳を見返して、俺はしっかり敬礼しておく。

 

「私がこの母港の指揮官だ。いまだこの母港は戦力が足りていない。貴艦の働きに期待させてもらおう」

「あらあら、しっかりした指揮官様ですね~ 私も頑張らせて頂きます」

 

 そうして、俺はこの艦隊に着任して初めての、艦船の製造を見たのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 俺は指令棟に戻ると、大きく息を吐いた。

 

「しかし、実際に見るとすごいものだな。ああいう風に艦船は生まれるのか」

 

 生命誕生の光とでもいうのか。

 メンタルキューブの発する蒼い光は確かに神秘的で美しかった。

 明石の強引なドリル使用で情緒もへったくれもなかったのだが、まあアレは見なかったことにしておこう。

 

「拙者も初めて見たが――感慨深い物があるな」

「そういうものか…… しかし、艦船というのは生まれたときには服を既に所持している物なのか」

 

 普通は裸で生まれる物かと思っていた。

 しかし実際は服を着ている。

 そもそもの人格や知識も最初から得ているという時点で、なかなか不思議なことが多い。

 本当に、艦船というのはオーバーテクノロジーなのだ。

 

「指揮官殿――それはセクハラですぞ」

「っと、すまない。気を付けよう」

「まったく…… しかし、二隻目にしてさっそく失敗するとはな」

「あれは、意外だったな」

 

 特型建造の二回目。

 イラストリアスも脇に置いた建造はしかし、失敗に終わった。

 何故かは、だいたい理由は分かっている。

 建造されようとした何かが、それを拒んだのだ。

 

「レッドアクシズ所属艦――と考えるべきか」

「あぁ。その中でも主戦派の者達の誰かだろうな」

 

 建造というのは、失敗することがある。

 その理由は、艦船が力を貸すことを拒むことがあるからだ。

 今回の場合はアズールレーンと敵対する組織、レッドアクシズ所属艦が呼び出されようとして、それを拒否した――そんなところだろう。

 同じ母港での船被りで失敗することもあるが、この母港ではそもそも艦船の絶対数が少ない。

 かぶりで失敗はないだろう。

 

「高雄は、こちら側で協力してくれるんだな」

「拙者は修行に生きる身。戦いにこだわっているわけでは無い故」

「そうか、それは頼もしい。美しい上に修行も怠らないというのは、武士としても女性としても魅力的なものだ」

「っ、そ、そういう歯に衣着せぬ言葉は、もっとかわいい艦にでも――」

「照れてるのか? かわいい奴だな」

「っ~~~~ 指揮官殿!」

 

 ぽこぽことあたまを叩いてくる高雄。

 今朝のように刀を使わない辺り、あんまり起こってるわけでもなさそうだ。

 

「とりあえず、事務作業に戻――」

 

 

 その時。

 母港全体に警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 




あの高速建造剤どうやって使ってるのか気になる木になる……
オリジナル設定でキューブにブッ刺していくぅ↑ってことにしたけど、実際はどうなるんだろうね?
あの小さそうなドリルが実写版トランス〇ォーマーみたいにヒト型に変形して小人が高速で建造していくみたいな妄想をしたりしなかったりする今日この頃。


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二日目の争乱(4)

 誰もいない指令室の中へと入る。

 同時に、自動灯が部屋の中を薄く照らした。

 中央に置いてある大きな台を中心にして、連絡装置や前面の壁に貼り付けられた大きな液晶、チェス盤なども置いてある。

 大方の資料は持ち去られていて側面の書棚もガラガラだが、二、三冊は本が置かれていた。

 流石にベルファストも整理に手間取ったのだろう、未だにところどころ埃をかぶっていて、この部屋が長く使われていなかったであろうことがわかる。

 

 俺と高雄は中央の台まで歩き、そしてその側面にある電源ボタンを押し込んだ。

 

 瞬間、薄暗い部屋の中に様々な光が奔りだす。

 この部屋の機能そのものの、電源が入ったのだ。

 久方ぶりに起動された部屋は、それを祝福するかのように色を放つ。

 本来ならその幻想的な色に感動していたのだろうが、それどころではない。

 

 

「使い方――引き継ぎに書かれていた通りでよかった」

 

 

 俺は数秒して起動した中央の台を操作する。

 超望遠カメラを起動し――それが未だに生きていたことに胸を撫でおろしつつ――警報音の原因に焦点を合わせた。

 それとの距離は、もう50kmをきっている。このままであればこの母港が攻撃範囲に収まるまで30分とかからないだろう。

 中央のデータベースに保存されていたデータを参照し、敵機の詳細が映し出される。

 

 

 それは、カメラに写っている敵と完全に一致していた。

 

 

 片方は黒髪ストレートの美しい女性。

 片方は白髪ショートの、こちらも美しい女性。

 どちらにも共通する部位は、狐耳に流麗な着物か。お互いに赤と黒、青と白で対照的なコントラスト。

 こちらのカメラに気付いているのか、二人は楽し気な表情でこちらを見ながら近づいている。

 実に楽し気な――それでいて凄絶な表情。

 

 

 かつて自分も見たことのある、戦闘前の高揚感、蹂躙前の隠し切れない興奮をその瞳に宿しているのだ。

 

 

 

「レッドアクシズ――それによりにもよって、あの赤城に、加賀。厳しいな」

「どうする、拙者も出るか?」

「いや、一人でこの指令室は回せない。手伝ってくれ、まずは寮舎にいるだろうベルファスト、ジャベリン、綾波、ラフィーに今すぐ出撃命令を。同時に、エンタープライズにも連絡。彼女の帰還予定時間を教えろ」

「承知した。この機械の使い方は――」

「寮舎は353で繋がる。エンタープライズの方は俺が手伝う」

「了解した」

 

 

 高雄に指示を出しつつ、自分はドッグのほうへと連絡を飛ばす。

 待機音の後すぐに明石は出てくれた。

 

 

『にゃ、指揮官! いまの警報音は――』

「明石、イラストリアスはまだそこにいるな?」

『いるにゃ、だけどまだ整備は完了してないにゃ……って、にゃにゃ! イラストリアス、どうし――』

『指揮官様、私にも出撃させてください。こちらに連絡をしてきたということは、戦力が足りていないのでしょう?』

「そう、だな……」

 

 相手は空母。

 対してこちらには軽巡であるベルファストと駆逐艦三人娘しかいない。

 指揮の手伝いをさせている高雄は懐刀であり、彼女の出撃は最終手段だ。母港の警備をゼロにするわけにはいかない。

 そして――頼みの綱であるエンタープライズは遠洋巡回で帰還まで相当に時間がかかるはず。

 

 

 ――そう、航空攻撃に対処できる艦が現状、いないのだ。

 

 

 制空権を掌握された港など、もはや砂城にも等しい。

 だからこそいまは、イラストリアスしか頼れる艦船がいない。生まれたばかりで、練度などないに等しい彼女しか。

 

 

「悪い、今は緊急事態だ。行けるなら出てほしい」

『かしこまりましたわ。このイラストリアス、指揮官様の光となる為』

『ま、まつにゃ!』

 

 直後、モニターが映し出された。

 明石が何か操作でもしたのだろう。

 そこにはイラストリアスと明石の姿があった。

 

『まだイラストリアスは艦載機もデフォルト装備のみにゃ。練度もほとんどゼロ。そんな状態で出撃なんて自殺と同義にゃ!』

「それは分かっている。メイン戦力は駆逐艦とベルファストだけと考えている。イラストリアスが情報通りの性能であるなら――シールドが使えるはずだ」

『そ、それは、にゃ!』

 

 イラストリアスは映し出されている画面に顔を向けると、ぐっと前に出てきた。

 彼女の顔が大画面で、ドアップで映し出されて一瞬腰を引いてしまうが、彼女は気にせずこういった。

 

『指揮官様、私は貴方様の光となるべくこの艦隊にやってまいりました。私にお任せください』

「……では、イラストリアス。いまから貴艦に出撃命令を出す。目的は――重桜空母、赤城と加賀の迎撃」

『あ、あのふたりにゃ……』

「イラストリアスには旗艦として動いてもらう。指示はこちらから出すが、自分の身の安全を第一で頼む。ただでさえ層の薄いこの母港で、今現状、誰かを欠くわけにはいかない。それは、イラストリアスも同じだ。お前はまだ練度が低い。絶対に無理だけはするなよ」

 

 

 そう言うと、シンと場が静まった。

 高雄も手を止めてこちらを見ている。

 明石はイラストリアスの反応を待っているのだろう。

 そして、当の彼女は――

 

 

『かしこまりましたわ。では、10分後に』

 

 

 彼女はそれだけ言って通信は途切れた。

 俺はふぅと息を吐いて、高雄の方を見る。

 

 

「高雄、どうした。報告を頼む」

「あ、あぁ、そうだな。まずは寮舎組に関してはもう戦闘準備も整っているようだ。ベルファスト殿のおかげだな。エンタープライズに関しては――予想戦闘区域への到達が、1時間後のようだ」

「い、一時間⁉ 一体どうして、そんな早くに」

 

 あいつが出航した海域は、少なくとも帰還までに3時間はかかる。

 だからこそ、彼女は朝早くから、俺が起きる前から既に遠海航行に出発していたのだ。

 

「なにやら、彼女のいうところによると――"勘"、だそうだ」

「……流石Lucky Eといったところか」

 

 予想以上に優秀な艦船がこの母港に集まっている。

 これなら、この戦い自体或いは、この母港への福音になるかもしれない。

 俺はモニターに映し出された敵機を見て、そして手元の大きな台に描かれた各艦の予定配置を見て戦闘の経過を――その先の事態を見据えて、高雄へ話しかけるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 最高速で航行する二隻の艦船。

 そしてその周りを護衛する通常艦船。

 彼らは、レッドアクシズから派遣された部隊だった。

 

 

「姉様、見えてきましたね」

「えぇ…… カミも、一体何を考えてこんな寂れた港を攻撃せよというのか。栄光ある一航戦ですのに」

「それは、何か考えがあるのでしょう」

 

 

 白髪ショートの狐耳。海に映える蒼い瞳。

 白と青を基調とした着物は、彼女の髪や瞳、そして目を縁取る赤と絶妙な配色で彼女自身の凛々しさを引き出している。

 そしてクールな彼女とは裏腹に、もう一人の女性、加賀に姉さまと呼ばれる女性は黒と赤で構成されていた。

 

 闇を感じさせる艶やかな黒髪。

 赤い瞳に、狐耳。

 黒と赤を基調にした着物は彼女の持つ危うい雰囲気を際立たせ――まるで魔王のような威圧さえ感じさせる。

 彼女こそが空母赤城。

 重桜が誇る一航戦、華やかな戦歴に彩られた最強空母。

 

 

 彼女は航行しながらも、静かに思考に耽った。

 

 

 ――あの母港、資料で見た覚えがありますわ。

 ――一カ月前、セイレーン共の大群によって壊滅した母港。

 ――10000を超えるセイレーンに襲われ、それでも『艦隊壊滅』で済んだ母港。

 ――一体どんな逆鱗に触れれば、あれを動かせるのか。

 ――一体、何を知って、あれを動かしてしまったのか。

 

 

 

「興味は、あるわねぇ」

「姉さま……?」

「なんでもないわ」

 

 

 黒い狐耳の女性は、その口元を凄絶に歪ませて宣言した。

 

 

「さぁ、では始めるわよ」

 

 遠方から見えてきた三隻の駆逐艦。

 一隻の巡洋艦。

 自らを止めるには到底足りない戦力に少々落胆しながらも、それでも号令をする。

 

「シキガミ達、全機発艦せよ!」

 

 そうして、彼女たちの侵攻が開始した。




お待たせしました。戦闘シーンは長くなりそうなので、その前段階まで。
遂に出てきた赤城加賀。ゲーム本篇でも最初に彼女達と戦い、苦労した人は多いのではないでしょうか。
そんな彼女たちとの戦いがどう母港を変えるのか、次回もお楽しみに!


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二日目の争乱(5)

 

 赤城、加賀から発艦したシキガミ達は蒼いソラを覆い尽くさんばかりに飛び立つ。

 白と赤に彩られた空模様に変わり、そして数秒後、シキガミ達は隊列を成して前線にいる駆逐艦たちへと向かっていった。

 その様子をモニターから見つめ、そしてイラストリアスに指示を出す。

 

「イラストリアスも、艦載機をすべて発艦させろ。あと、もうブルーシートは脱いでいいぞ」

『かしこまりましたわ~』

 

 海に同化する色のブルーシートを脱ぎ捨て、イラストリアスも遅れて全機発艦させる。

 そして、同時にイラストリアスの前方にいたジャベリン、綾波、ラフィー、ベルファストが白いベールに包まれた。

 それを見て、すこしだけ感嘆の声を上げてしまう。

 あれこそが艦船が、KAN-SENである所以。

 ヒト型に押し込められた艦が、海上で無敵と称される所以。

 

 

 ――艦歴を自身の力へと昇華させたある種の超能力。

 ――俗にいうスキルというものだ。

 

 

 前方にいた艦たちは赤城と加賀の爆撃にその身を包まれながら、それでも無傷で爆炎の中から現れた。

 イラストリアスのスキルは、『装甲空母』

 現状データベースに存在するすべての艦の中で唯一の特性をもったスキル。

 前衛艦隊に対する、どんな攻撃も一定量無効化するバリアを張るものだ。

 

 

「本当に、来てくれたのがイラストリアスで良かった。彼女以外であれば速攻で前衛艦隊が全滅していた」

 

 

 真珠湾から逸話として残る、赤城加賀の性質。

 『ニイタカヤマノボレ一二〇八』を開戦の合図として電撃戦を仕掛けたあの戦闘法。

 速攻で戦闘を終了させる初手全力殲滅。

 あれを耐えきるには、あれを無効化させるには、イラストリアスが最適解であった。

 

「そのまま前衛駆逐艦は三方向に別れて航空機を引き寄せつつ被弾しないように回避。ベルファストは三人の援護とイラストリアスに近づく航空機の撃滅。イラストリアスは再度スキルが使えるようになるまで待機。発艦させた航空機はベルファストの援護だけに回せ。無理に敵機を撃墜しないようにしろ」

 

 

『『『『『了解』』』』』

 

 

 各々が自らの役割をこなしていく。

 駆逐艦は速力に物を言わせて航空機の波状爆撃を避けて、或いは反撃も行う。

 イラストリアスを嫌がった敵が差し向けた航空機も、ベルファストの対空砲火で撃ち落される。

 やはりこの布陣が正解だったようだ。

 

 

「――すごい、な。作戦の全てが上手く赤城加賀の性質の裏をかいている」

 

 高雄が呆然と、手を止めてモニターの状況を見ている。

 俺は手元の台を見つめながら、一枚の資料を握りしめた。

 

「いや、この均衡が一時間持つかどうかは怪しい。あとは、向こうのもってる情報次第だ。俺の予想が正しければ、敵は、今も混乱しているはずだ」

「ど、どういうことだ?」

「あいつらは、きっと――」

 

 

***

 

 

 初手の全力を軽く受け流され、その後の航空機による追撃もうまく回避してくる。 

 赤城はこの誤算だらけの戦闘の行く先、敵指揮官の思考を、歯噛みしながら考えていく。

 

「この母港に所属している艦は『高雄』、『ベルファスト』だけだったはず」

 

 レッドアクシズの――重桜の上官から手渡された資料には、この母港に所属する艦船は二隻だけだったと記憶している。

 それでも空母二隻を差し向けるのだから、さぞ重要拠点なのだろうと思い気合を入れてやってきた。

 セイレーンに滅ぼされたことも含めて、興味はあったのだ。

 だが、蓋を開けてみれば手渡された『資料にはなかった艦船』が迎撃に出てきて、速攻を仕掛ければ――ブルーシートを被った空母がそれを防いできた。

 

 

 栄光ある一航戦――私達をバカにしているのだろうかと、一瞬冷静さを失いかけた。

 

 

 事実、隣にいる加賀はそのまま冷静さを失い、獣のようにシキガミを差し向け縦横無尽に空を駆け巡らせた。

 しかし、それも相手指揮官の布陣によりすべて、上手く防がれてしまう。

 なぜだろう、いまの現状は相手の掌の上で転がされているような、そんな感覚に陥っていた。

 

 

「しかし、完全にやっていることは綱渡りですわ……」

 

 

 向こうの艦は、駆逐艦と空母の練度が非常に低い。

 このまま加賀が戦闘モードでシキガミを差し向ければいずれ、前線は崩壊する。

 それ以前に、敵のベルファスト一人の的確な支援があってこそ、いまの現状が保たれている。

 それも、長くは持たない。

 きっとあと五分もしないうちに、どこかでボロが出始める。

 

 

「資料にない艦船がいたこと、それだけが気がかり」

 

 

 情報の重要性は、だれよりも赤城が理解している。

 こちら側の情報が欠けているなら、或いは撤退を選ぶか。

 非常に迷う局面に来ていた。

 或いは、それが向こう側の作戦なのかもしれない。相手の知らない手を打ち、初手で混乱させるような――

 

「本当に、指揮の巧い方ですわねぇ」

 

 赤城は、その口元を獰猛に引き裂く。

 これ以上持久戦をさせるわけにも、いかない。

 思考は詰めた。

 ここからは、再度全力だ。

 

「その作戦、正面からから食い破って差し上げましょう。栄えある一航戦の名にかけてッ!」

 

 

 

***

 

 

 

 様子見をしていた赤城のシキガミ達が、全速力で駆逐艦に向かい始めた。

 加賀のシキガミに気を取られていた駆逐艦たちは全員がその奇襲に気付いていない。

 

「イラストリアス、再度スキルを!」

『えぇ!』

 

 

 前衛艦隊に光り輝くベールが展開される

 爆炎が渦巻く戦場を、駆逐艦の女の子達は駆け抜けるが、初手の時と違い、艤装にところどころ被弾が確認できた。

 イラストリアスのバリアが、劣化しているのだ。

 

 

「っ、やっぱ練度が足りないかッ――!」

 

 

 戦闘訓練すらない状態では、どうしても練度が足りない。

 それがなければ、スキルも劣化する。

 画面の中では綾波が、一等大きな損傷を受けていた。

 かろうじて航行はできるだろうが、前線のなかではそれだけで命取りだ。

 

 

「ジャベリン、綾波を連れて前線を離脱しろ! ラフィーは前線を一分でいい、ベルファストと維持しろ。イラストリアスも母港へ帰還。全員よくやった!」

 

 

 応答はないが、全員俺の指示通りに動いている。

 やはりベルファストの援護が大きいのだろう、ジャベリンと綾波はなんとか前線から離脱していく。

 俺はそれを見届けて高雄に声をかけた。

 

「高雄、明石のほうの準備は?」

「あぁ、出来ている。だが、本気か? 指揮官が――戦場に、その激戦区に赴くなど、聞いたことがないぞッ!」

「その為の高雄だ。護衛は任せたぞ」

「――無茶ばかりする指揮官だなッ!」

 

 

 そうして俺と高雄は指令室から出た。

 タブレットの中では戦闘が現在も続いている。

 だが、高雄の報告が正しければ、もうすぐ戦闘は終わる。

 

 

 

 

 俺達の勝利で。

 

 

 

 

 

「――無登録艦船、それが勝利の鍵だ」

 

 

***

 

 

 まんまと手負いの駆逐艦には逃げられたが、もう戦闘は自分たちの勝ちと言っていいだろう。

 前線を守るメイドとうさぎ耳の少女は全身傷だらけ、特にメイドの方は右腕が酷いやけど状態だった。

 港へ下がりながら迎撃してくるが、射程を考えても私達に砲は届かない。

 この港は、完全に墜ちたも同然だった。

 

 

「さぁ、詰めですわよ。そろそろ加賀も冷静になりなさい」

「大丈夫です、姉様」

「ならいいわ。では、シキガミ達――」

 

 

 

 その時、獣の勘が危機を告げた。

 それは加賀も同様だったのだろう。

 咄嗟に身体をひねり、水面すれすれまで身体を倒しながらソレを避けた。

 身体の少し上を通り抜けた爆弾は、そのまま付近で爆発して熱湯を周囲にばらまく。

 着物でそれを防ぎながら、奇襲してきた相手を探す。

 後ろを振り向き、凝視すると、そこにいた。

 私達を見据えて、静かにそこに佇んでいた。

 

 

「――お前が、どうして、ここにッ!」

「ガァアアアッ!」

 

 

 私は思わず声を上げてしまう。

 加賀は冷静に、しかし怒り狂って咆哮をあげる。

 

 

「エンタープライズ、帰還した」

 

 

 航空母艦である彼女は、自らの名を高らかに宣言した。

 赤城と加賀の天敵である、ユニオンの最強空母。

 史実においても最高峰武勲艦と称えられ、史実上六回しかない空母決戦のうち五回に参加した歴戦の艦船。

 

 最終戦歴に至っては重桜連合艦隊所属艦艇の三割近くに損傷を与えた、事実――ユニオンの英雄。

 彼女にこそ、一騎当千という言葉がふさわしい。

 

 

「終わりだッ!」

 

 

 彼女のその言葉と共に、赤城と加賀は発進させたシキガミ達全機を反転させてエンタープライズへと仕向ける。

 史実において、自分たちを撃沈させた、因縁の敵に向けて。

 怨嗟の咆哮を上げた。

 

 

「戦場で生き残るのは強き者だけ。今度こそ生き残るのは、私達だッ!」

「英雄の名、ここで消し去ってあげましょう。敗北という屈辱と共にッ!」

 

 

 

 こうして戦闘は――空母決戦という形で――最終局面へと突入した。

 

 

 




戦闘だけで終わってしまった。スイマセン……
一応次で戦闘は終わります。
やっぱエンタープライズはかっこいいよなぁ! あの戦歴で性能は普通の空母なんだから、どこまでも主人公属性だわって。ところで高雄の見どころはどこ……? ここ……?


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二日目の争乱(6)

 俺と高雄は港の桟橋を訪れていた。

 穏やかな海風に混ざる、硝煙の匂い。遠くから聞こえる爆音が腹の底をずんと震えさせ、幾つもの光が海の向こう側で浮かんでは消える。

 内心は焦りながら、それでもタイミングを計るために俺と高雄は”小型艦艇”を用意して待機していた。

 しかし、気がまぎれる何かも必要だった。ただ待ち続けるのは心臓に悪い。

 だからこそ、現状の確認も含めて、高雄にいまの状況を話すことにした。

 

「明石のところで話をしたと思うが、エンタープライズ含め、この艦隊には複数の無登録艦船が存在している」

「唐突だな、指揮官殿。 ……確かに、ドッグの隠し扉にあった資材を明石が掘り出して、それを流用したなんて話を聞いたな」

「…………それは初耳すぎるけど、まあいい。問題は、この母港に攻めてきたのが赤城と加賀というところだ。正確には、その二隻のみで攻めてきたということ。彼女達の戦歴、その最期は高雄も知っているだろう?」

「エンタープライズに、致命傷を受けた事は」

「そうだ…… 敵の指揮官か、それに準ずるナニカがなにを考えて彼女達を差し向けてきたかは分からない。ただ、この母港についての情報がある程度漏れていたのだろうな。『登録艦船』が二隻しかない、弱小艦隊でしかないと」

 

 すこしだけ間をおいて、高雄の反応を見る。

 高雄はふむと唸った後に、何かに気付いたのか、俺の方へばっと顔を向けてきた。

 

「指揮官殿、まさか……」

「そう。敵は無登録艦船――エンタープライズの存在を知らない。だから、空母二隻のみ、その上よりにもよって赤城と加賀という組み合わせでこの母港に侵攻してしまった。それでも、本来ならエンタープライズは遠洋巡回中で不在。この母港は空母二隻の攻撃に耐えきれず陥落。レッドアクシズの手に墜ちてしまった――なんてシナリオだったのだろうが、今回は彼女の勘が全てをひっくり返してくれたな」

「しかし指揮官、ならば私たちは一体なにをしに、この艦艇に乗るというのだ? 戦況や戦歴、実力を鑑みればエンタープライズが勝利しそうなものだ。わざわざ指揮官が前線に出る必要など……」

 

 俺はすこしだけ頬を緩ませて、彼女の頭を撫でた。

 高雄は恥ずかしそうに顔を赤らめ、目を細めて俺を睨んできた。

 

「すまん。心配してくれてありがとうの気持ちだ。それより、俺達の仕事だが――」

 

 少しだけ間をおいて、水平線を見つめる。

 その先で戦闘しているであろう、敵艦を。

 

「捕虜の処分、かな」

 

 同時に、一際おおきな爆発が、海の向こうで光り輝いた。

 

 

 

***

 

 

 

『エンタープライズ』

「わかっている。あとは任された」

 

 指揮官からの通信をきり、前方を見つめる。

 ソラが赤と青に覆われ、自らを撃墜せんと迫ってくるところだった。

 

「まだ着任一カ月の空母に無茶をさせるものだ。まあ勘に従って良かったか」

 

 そう。朝から嫌な予感を感じてはいた。

 だからこそ、私は遠洋巡回を切り上げ、可能な限りの速度で帰ってきた。

 こういう時の私の勘は――外れない。

 

「天の光はすべて星、海の光はすべて敵」

 

 既に画像通信可能な海域にまで帰投している。

 見れば、どの艦船も酷い怪我を負っていた。

 私がいればこんなことには――などと後悔するのは後だ。

 いまは、目の前の敵を殲滅すること、それが自分に与えられた使命。

 たとえ数で負けていようと、艦載機の練度で負けていようと――私は勝つ。仲間はこれ以上傷つけさせない。

 

「来たか」

 

 敵の爆撃機の数機が、こちらに迫っていた。

 命中すれば体が四散し、海に沈むだろう。

 だが、恐れはしない。

 死ぬ時まで、全力で戦うと、かつて『あの戦争』で散っていった全ての艦船に誓った。

 

「――終わりだ」

 

 だから。

 恐れることなく。

 私は踏み込んだ。

 

 

 

***

 

 

 その一部始終を俺と高雄はタブレットで確認していた。

 エンタープライズと赤城加賀がお互い全力ですべての艦載機による総力戦をしかけたこと。

 そして、爆撃機の数機がその隙間を縫って、お互いの空母に一撃を与えた事。

 そして、その結果だ。

 

 

「さすが、ユニオンの英雄――ここまでとはな」

「あれがエンタープライズの艦歴を昇華させた『Lucky E』か。あれだけ強力なスキルも類をみないな」

 

 

 数多の戦場を生き残り、その上で全てを蹴散らす。

 それこそが彼女の逸話であり、力でもある。

 その結果こそ――無傷のエンタープライズと沈みゆく赤城加賀という光景が如実に示すものだった。

 数多の艦船の犠牲の上に立ち、唯一人凱旋する最強空母。

 彼女の表情は勝利したというのに、浮かない、悲壮を湛えた顔だった。

 

 

「指揮官殿」

「いや、いまはそれよりも戦闘区域へ。急いでくれ」

 

 

 高雄に連れられ、俺は小型の艦艇で戦闘区域へ――赤城と加賀のいた場所へと急いだ。

 

 

 

 

 互いの空母が争った海域は艦載機の破片や煙で覆われ、まともに息ができる場所ではなくなっていた。

 特に、爆撃機が面制圧した場所は酷かった。

 俺と高雄はその中を慎重に進む。

 すると、数分もしないうちに千切れた赤い着物の破片がひらと海を彷徨っていた。

 辺りを見渡し、そして目当ての人物を見つけた。

 

「生きてるな」

 

 傷だらけになりながら、海に浮かぶだけの二人の女性。

 その瞳からは、既に戦意が喪失していた。

 酷く疲れた瞳で、彼女達は俺を見つめた。

 

「あなたは、一体」

「俺はあの港の艦隊の指揮官だ」

 

 そう言いながら、航行機能を失っただろう二隻の艦船を高雄に手伝ってもらいながら小型艇に引き上げる。

 そうしてべちゃりと、赤城と加賀は船の中で頽れる。

 彼女達は服を焼き、ところどころ引き裂かれ、いささか扇情的な格好だった。

 俺はそんな彼女たちの着物に手をかけ――裁ちばさみでちょきちょきと美しい着物を切っていった。

 

「し、指揮官!?」

「ふ、ふふ…… 敗軍の女性は殿方の慰み者――世の常ですわね」

 

 高雄はぎょとした顔でこちらを見た。

 そして赤城は諦めたように力を抜き、加賀は耳を逆立てて抵抗しようと、血に濡れた痛ましい足で立ち上がろうとする。

 

「安心しろ。そんなことはしない。これは偽装工作ってやつだ」

 

 俺は引き裂いた布にライターで火をつけ、海にばらまいた。

 同時に、高雄に銘じて主砲でそれを吹き飛ばさせる。

 至近距離の主砲の音で気を失いかけたが、なんとか頭を振るって立ち上がる。

 徐々に煙が晴れてきた戦闘区域から離脱するように、俺は赤城と加賀にブルーシートをかけておく。

 

「さて、帰投するぞ」

「指揮官殿、あなたは一体――」

「まあまあ。あとで説明はする」

 

 

 そうして俺と高雄、そして赤城と加賀は共に母港へと向かうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

――某所・密室――

 

「それで、私達に何をさせようというのです」

「寝返ってこの艦隊に所属してくれ」

「ハッ、カミを裏切るなんて愚かなことを私が――」

 

「駒、なんだろう?」

 

「ッ――」

 

「素体は、否、重桜で一番記憶を保持しているのは別の個体――あの赤城なんだろう?」

「あなたは、一体何を知っているのです……」

 

「知っているから、この母港に来たんだよ。先輩に――この母港の前指揮官の軌跡を追う為に」

 

「――ふふ、あなたもまた私と同じである、と。あの個体に追いつくためにいる私。そして、前指揮官を追うあなた」

「あぁ…… 協力、してくれるか?」

「ふ、ふふ、ふふふふ。あはははは! いいでしょう。私は貴方の事をとても気に入りました。今日から貴方こそが、私の指揮官様ですわぁ」

 

 

 

***

 

 

 

 高雄が入れてくれたお茶を飲み、一服。

 美しい事務室はいつも通り、ベルファストの清掃で完璧な状態を保っている。

 高級な木立ての机も、座り心地のよい皮の椅子も、とても心地よく仕事に集中できる。

 とはいえ、連日の書類作業も相まって、疲れの限界が近かった。

 だから、いまだけはお茶と和菓子で一服をしている、というわけだ。

 

「あぁ…… 綺麗な海だなぁ」

 

 

 指揮官室の大窓から見える海は太陽の光をきらと反射させ、その美しさを波しぶきと共に魅せてくる。

 雲一つない空の水平線は心の平穏を保ってくれるものなのだ。

 

 

「ほら、指揮官殿。そんな現実逃避をしていないで、戦闘後の事務処理を終わらせないとだな」

「わかってる。わかってるけどな……」

 

 

 戦闘の指揮、海域への出向いて赤城加賀の回収、そして仲間にするための説得、『偽装用』の書類の準備、などなど。

 二日徹夜しても終わらぬ様々な仕事に、疲れはピークに来ていた。

 

「上からこの母港の情報が洩れている――そう言って、赤城加賀を仲間にしたことを『隠す』と決めたのは指揮官殿だろう?」

「いやぁ、そうなんだけどね!」

 

 っと、いかん。

 地が出てしまった。

 厳格な指揮官を演じねば。

 

「そうだな。やらねばな……」

「し、指揮官殿。疲れているなら…… わ、私が膝枕でも?」

「あ~ あり。それありだね」

 

 俺はふらつく頭で事務室の応接用のソファに腰かけた。

 その隣に高雄を呼んで、膝枕をさせる。

 今日はタイツを履いていないからか、彼女のふとももの柔らかさがじかに伝わって心地よい。

 ひんやりしたふとももに手を置いて、俺は薄く目を閉じた。

 

「指揮官殿、ほんとにやるのだな…… とはいえ、指揮官殿。お疲れ様だ。少しだけだが、ゆっくり休むと良い」

「指揮官様~ 膝枕なら、この赤城がいくらでも致しますわ~」

 

 誰かが入ってきた気がする。

 だが、俺の意識は数秒と持たずに、暗闇に引っ張られて落ちていった。

 

 

 

 

 薄く目を開き、夕陽に照らされる海を見つめる。

 辺りが暗がりに沈み、夜の海となる手前の、朱い空と海。

 素直に綺麗だと思いながら、ふにと手元の枕を掴む。

 

「ひぁ、っ、ふふ。指揮官様、お目覚めですか?」

 

 回らない頭で、なんとか上を見上げる。

 すると、見慣れぬ美しい女性が、愛おし気に自分を見つめていた。

 赤い隈取に、獲物を食い殺さんとする赤い瞳。

 長く美しい黒髪。

 その魔性の瞳に吸い込まれそうになって、ばっと起き上がった。

 

「っ、赤城!? どうして――いや、そうか。高雄と交代していたのか」

「えぇ。なにやら仕事があるというので。それより、も」

 

 そう言いながら、赤城は起き上がった俺を再び寝かせた。それも無理やり。

 そうして膝枕をさせながら、俺の頭を優し気に撫でた。

 

「なにやらお疲れのご様子。いまはこの赤城の膝枕で、ゆっくりとお休みください」

「そうはいかない、な。今何時だ? もう3時間くらい寝てる気が――」

「いいのです。書類仕事は、私のわかる範囲で済ませましたわ」

「そう、か…… すまないな」

「いえ。すべては指揮官様の為。この赤城に全てを任せてくだされば良いのです」

 

 そういう赤城の口調は冗談めいてはいたが、その中に本気のナニカを感じて、少し体が震える気がした。

 何か、ちいさな狂気を垣間見たような。

 その頬を撫でる仕草も優しくはあるが、どこかに逃がさないという意思が宿ってる。

 そんな気がした。

 

「っ、と。あー ちょっと用事を思い出した。赤城はここで待っててくれ」

「あ、指揮官様!?」

 

 俺は起き上がるなり、そそくさと事務室を出ていった。

 

 

 

 

 大きく息を吐いて、廊下の端の窓から外を見つめる。

 窓から指す夕陽は眩しく廊下を照らしていた。

 窓を開ければ潮の香が混ざった匂いが廊下に侵入してきて、俺の鼻を刺激する。同時に入ってきた風が、頬を撫でて涼し気に廊下を吹き抜けていく。

 その風も、潮の香りも、俺はとても好ましく思っていた。

 

「先輩……」

 

 ポケットから、一枚の写真を取り出す。

 背の高い、美しい黒髪の女性が黒髪の青年と仲良さげ肩を組みながらこちらを見つめている。

 いや、青年のほうは少し苦笑しているか。

 そんな写真すらも、いまはとても懐かしくて、涙が零れそうになった。

 

「貴方の見た真実まで、俺がたどり着いて見せます」

 

 写真を胸に当てて、そう小さく呟いた。

 それを丁寧に畳んで、ポケットにしまう。

 俺はそうして、事務室へと戻っていくのだった。

 

 




明かされる指揮官の過去――!(全然明かされていない)
建造で出ない赤城や加賀の加入ってどうなってるんだろうっていう想像を形にした回でもありました。
どうでしたか? 面白いと思ってもらえたなら、とても嬉しく思います。

これからも不定期でちょくちょく更新していきたいと思います!
高雄がかわいい物語を書きたい、人生だった……こなみ。


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束の間のコメディ回(ラブコメ?風)

 

 

「この物語のタイトルって指揮官の日常と書いてあったような気がするのだが……」

 

 

 椅子に座った白い狐耳の女性は、読み終えたのであろう本を閉じた。

 

 

「ん? 加賀、なんか言ったか?」

「いや、読んでいた本なんだがな。日常、と題されている割に戦闘やらが多くて、個人的には楽しめるのだが違和感が――」

「そ、そうなのか?」

 

 読んでないのでよくわからないが。

 なんか心に刺さるものがあった。よくわからないが。

 

「しかし、済まないな。演習に参加させれなくて」

「問題ない。私達の今の状況はきちんと理解しているつもりだ。お前は強き者――今は従わせてもらうさ」

 

 加賀はどこまでも冷静に、しかしその奥にある闘志は絶やさずに、ふふと笑った。

 

 

 **

 

 

 

 赤城、加賀の強襲から4日目。

 高雄の主砲によってあの二隻を処分したように見せかけた画像なども作り、書類も偽装し、一通りの事務仕事は終了した。

 そもそも、この母港に所属する艦船の詳細が漏れていたこと自体大問題なのだが、上に黒い人間が紛れている以上、下にいる自分がどうにかすることはできない。

 最悪、漏れていた――というのも一士官の憶測で片付けられてしまう。

 だからこそ、次にこの母港が襲われた時の隠し札として、赤城加賀を説得し仲間にした――そんな経緯があったりする。

 とはいえ連日徹夜の事務仕事に事後処理、そうして得た、休日が今日だ。

 

 

「休日って、素晴らしい日だなぁ……」

「はは、就任間もないのに敵軍からの強襲。酷い話だったな」

 

 

 隣にいる秘書官、エンタープライズが苦笑いしながら海の方を眺めた。俺もふと海を見る。

 相変わらず美しく透き通った海だ。

 

 

「そういえば、赤城と加賀の容態はどうなんだ?」

「ほぼ完治してるな。加賀は本を読むだけの生活に少し飽き飽きしてるみたいだ。赤城は、ベルファストについて事務処理を勉強してる」

 

 そう言うと、エンタープライズはうむと唸って、少し顔をしかめた。

 立ち止まった彼女を振り返って不思議に思っていると、彼女は口を開いた。

 

「指揮官、貴方が一体どういう説得をしたのかは私も知らない。ただ、4日前まで敵だった相手にこの母港の事務処理を任せるのはいささか、問題があるのでは……?」

「ま、それは最もな話だ。だけどそれは大丈夫。赤城はもう完全にこっち側だ。加賀はまだ、少し不満があるようだが……」

 

 と、そんな話の折。

 タタタと走ってくる一人の少女がいた。

 ポニテを揺らして走ってくる、妙に露出の多い海軍服少女。

 無表情に、しかし後ろのポニテはゆらと揺らしながら、俺の服の裾を掴んできた。

 

「綾波?」

「指揮官、一緒にゲームするのです」

「え、えぇ」

 

 有無を言わさず引っ張られ、休日で手持無沙汰だったのもあって、彼女に引っ張られるままに艦船達の寮舎へと向かった。

 

 

**

 

 

「お、イラストリアスもいるのか……」

「あ、あはは~ 私も連れてこられちゃいました」

 

 

 綾波の自室は雑然としており、その中で異様に光り輝く女性が――イラストリアスがいた。

 どうやら彼女も綾波に連れられてきたようだ。

 そういえば今日は彼女も非番だったか。

 

 

(しかし――なんというか、目のやり場に困るな……)

 

 

 内心冷や汗を流しながら、イラストリアスの服装を少しだけ見た。

 ぱっつんぱっつんに張った、白シャツ一枚の姿。

 中央に大きく描かれた、ある動画配信サイトのロゴも大きく歪んでいる。

 なんというか、本当に扇情的すぎるほどに扇情的な服装だった。

 

 

「コホン、指揮官? そう女性の身体を凝視する者ではないぞ?」

「――ッ! い、いやいや、待て待て待て! イラストリアス、別の服はなかったのか? 少し、目のやり場に困ってしまうというか、どう考えても凝視も当然な――」

 

 エンタープライズに窘められ、慌てて弁明する。

 だが、その内容を頭で再度精査して、どう考えても情けない言い訳だったと思いなおした。

 

「いや、違うな。今後は自重する。すまないな、イラストリアス」

「いえいえ~ 指揮官様、お気にすることはありませんよ? ふふ、いつでも見てくださって結構なのですよ~」

「「!?」」

 

 自らの胸に手を当てながら、聖母のような笑みと共にそう言ってのけるイラストリアス。

 その言葉に、秘書官と共に衝撃を受けている間に、せかせかと部屋の中で何かを準備していた綾波がこちらへと来た。

 その手には――ゲームのコントローラーがある。

 

「イラストリアスは、私服がまだないので綾波のいちばんおっきな服を貸してあげてた、です」

「あ、あぁ。なるほどな」

 

 だから、あんなにぱっつんぱっつんなのか。 

 たぶん綾波が着たらダボダボなのだろう。

 

「それよりも、いまからゲームやる、です。この操作方法はやりながら教える、です」

「わ、私もやるのか!?」

 

 エンタープライズにも渡されたコントローラー。

 これで四人。

 たぶんこれは――

 

「パーティーゲーム、やる、です」

 

 綾波は瞳をキラキラさせながら、いつのまにか着替えていたダボダボの服でベッドの上に座り込み、そしてテレビをゲーム画面に切り替えるのだった。

 

 

 

 

「あ、綾波! そこ先に行ったら――!」

「指揮官、助けて、です」

「あら~ ぴこぴこが胸に隠れてうまく動かせませんわ~」

「終わりだ!!」

 

 

 なんとかみんなで四苦八苦しながらも楽しくゲームをしている。

 まあ端から見たら混沌とした状況なのだろうが、これでも案外面白い。

 大抵俺やイラストリアスが足を引っ張るのだが、エンタープライズや綾波がなんとかクリアしてくれる。

 

 

「というか、エンタープライズ結構うまいなこのゲーム?」

「あぁ。それは結構駆逐艦の子達に誘われてこのゲーム遊んでいたからだな」

 

 なるほど。

 それで『終わりだ!』なんて言いながら高得点叩き出してるのか。

 というか、彼女の決め台詞なのだろうか。『終わりだ!』って。

 ちょっとかっこいい。

 だが、ここで使うのはちょっとカッコ悪い気もする。

 

「このぴこぴこ、パーティーゲーム? というのですか。面白いですわ~ ちょっと、姿勢が大変ですけど……」

「イラストリアスは胸、大きいです」

「あら、指揮官様。私をそんなに凝視なさってどうしたのですか~?」

「なぁ、イラストリアス、もしかして俺――じゃない、私をからかってないか?」

 

 なんというか、そろそろ気づいてきた。

 このイラストリアスさん、俺の事を結構からかっている気がする。

 ぱっつんぱっつんの服を着たのも、もしかしてわざとなのでは。

 

「あら~ そろそろ次のゲームが始まってしまいますわ~」

「あ、おい! いまわざと開始ボタン押したな!? もしかしてこのゲームの操作方法分かってるんじゃないかイラストリアス!」

「あらあら~ そんなことありませんわよ~ あ、始まりましたわ~」

「ぐ、ぐぬ」

 

 雑然とした部屋の中で、俺は悔し気にゲームの操作を手探りで覚えながら進めていく。

 綾波は無表情で、しかし楽し気に。

 イラストリアスは読めない表情で、しかしやっぱり楽し気に。

 そしてエンタープライズだけは真面目に真剣に、本気でゲームを続けていくのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 しばらくして。

 エンタープライズは仕事を思い出したと言って指令棟へと戻っていった。

 綾波は疲れたです、などと言ってベッドにうつぶせで寝た。その脱力っぷりには苦笑いを通り越して目を見張るものがある。

 そんなこんながあり、結局いまはイラストリアスと二人だけで遊んでいた。

 

「しかし、指揮官様?」

「ん、なんだ?」

「休日というのに、あまり力が抜けていないご様子。もう少しリラックスしてくださってもいいのですよ~?」

「そうは言ってもな……」

 

 やはり、彼女達艦船はある意味部下だ。

 気の抜き過ぎは厳禁――

 

「……そうですわ。なら、次のミニゲーム、負けた方が勝った方のいうことを何でも聞く、というのはどうでしょうか?」

「と、唐突だなイラストリアス…… 別にいいぞ。内容が無茶過ぎなければな」

「ふふ~ 私は指揮官様のご命令なら、なんでもお聞き致しますよ~ どんなことでも、ね?」

「!?」

 

 思わず彼女の方を振り向こうとして、テレビの方から効果音が聞こえた。

 俺はほほ笑む彼女から視線を引っぺがしてテレビの方を向く。

 

「汚い! 笑顔が綺麗なのにやりかた汚い! そこでゲーム始めるか普通!?」

 

 俺が思わせぶりな彼女の言葉に反応した瞬間にゲーム開始しやがった。

 この淑女、意外と小悪魔が入ってないか。

 ていうか負ける。このままだと何でもいうこと聞かされる。

 

「あらあら~ なんだかいっぱいコインが手に入っちゃいますね~」

「さっきまでと動きのレベルが違いすぎる……!」

 

 胸でコントローラー見えないとか言っていたのもフェイクだったのか。

 ゲームできませんアピールみたいな。

 

「お、追いつくからな!」

「ふふ~ あらあら、コイン横取りしちゃいました~」

「くっそ! 勝てない! 強すぎだろ!」

 

 

 

 そうして数分後――

 

 

**

 

 

 

 俺は、コントローラーを机の上に、こんと静かに置いた。

 

 

「負けました……」

「はい、勝ちましたわ~」

 

 

 完膚なきまでに敗北した。

 いや、よくよく考えてみれば当たり前なのか。

 艦船は人の数十倍の動体視力や膂力を保持している。

 本気になった艦船にゲームで勝てるはずなかったのか。

 

 

「……策士め」

「あらあら、指揮官様お可愛いですわ。そんなに頬を膨らませて」

「もう好きにしていいぞ。何でも言うことを聞こう」

 

 

 もはや、まな板の上の鯉だ。

 往生際悪く足掻くものでもない。

 どうにでもなれと、そんな気分で体の力を抜いた。

 

 

「では、失礼して」

「ッ」

 

 

 顔が何かに埋められた。

 あまり意識しないようにしていたが、この部屋自体が綾波の生活感あふれる匂いで――まあ潮の匂いも少量混ざってはいるが――少し戸惑っていた。その上、イラストリアスのいい匂いに当てられて、頭がくらと揺れるような気させした。

 顔に合わせて形が変わるような、眼前の何か。それがとても心地よい。

 柔らかいソレに顔をうずめる様に目を閉じようとして――我に返って顔を離した。

 

 

「な、なッ」

「指揮官様? ダメですよ? いうことを聞いてくれないと」

「い、いや。でも、正面から抱き着かれるのは――」

 

 

 柔らかいものが、形をふにと変えるあの感覚。

 頭を痺れさせる女性特有の匂い。

 その心地よさと安心感で溺れそうになった。非常に、非常に心臓に悪い。

 

 

「このイラストリアスの抱擁で、少しでも指揮官様の張り詰めた気が緩めばと」

「……わかった。緩める。緩めるからそれは止めてくれ……心臓に悪いんだ」

「あら、口調も変えてくださるのですね」

「当たり前だよ。これが素だ」

 

 

 指揮官としては、よくないとはわかっている。

 だが、それが彼女の『命令』なら仕方ない。

 そう望んだのなら。

 

 

「で、他にはなにを命令する気?」

「では、隣でくっついて座らせて頂いても?」

 

 

 聞きながら、彼女は問答無用で座ってきた。

 さきほどの良い匂いが、また鼻を通っていく。今度は想定していたので、動転したりはしなかったが。

 太陽がそろそろ中天に昇る頃合いなのか。部屋に差し込む太陽光はとても眩しく、そして隣の白い女性、イラストリアスを美しく眩く、照らした。

 そんな彼女を目を細めながら見る。

 そうして寄り添いながら、俺とイラストリアスはベッドにもたれ掛かった。

 

 

「スキンシップ激しくない……?」

「いえいえ。ですが、夜戦は私も好きですよ~」

「唐突な話題過ぎるだろ…… あのな、そういう勘違いしそうなセリフはあんまぽんぽんいうもんじゃ」

「指揮官様は、お好きですか?」

 

 

 イラストリアスの、その蒼く輝く瞳に見つめられて、とっさに目を逸らす。

 彼女は逃さないとでもいうように、右腕を俺の顔へと伸ばした。

 そして、俺は反射的に、その腕を掴んでしまった。

 

 

「きゃっ……」

「腕…… 治ってるんだよな」

 

 

 それは、先日の重桜空母襲撃時に彼女が酷い怪我を負った箇所だった。

 まだ四日前の事なのに、それはもう綺麗に修復されている。細やかで白い肌は、とても美しい。

 ただ、だとしても、顔に触れた腕が気になってしまった。

 

 

「その、大丈夫だったのかな。腕。もう痛かったりは」

「もうっ、しませんよ! 本当に、優しい指揮官様」

 

 うっとりと、彼女はしなだれかかってくる。

 

「私が着任した時も、初めて戦った時も、指揮官様はみんなの安否を考えて、最善を尽くされましたわ」

「そんなことは、ない。現に、全員が何らかの負傷を負った。もっと、もっと上手く立ち回れたはずなのに……」

「いえ。あれは最善の結果でした。赤城さんや加賀さんも仲間に加えられ、艦隊の力も一段と強くなりました」

「……だが、その腕を傷つけてしまったことは―― 俺の責任だから」

 

 そう言って、その腕を撫でる。

 本当に綺麗な腕だ。

 

「っ、んっ、指揮官様…… その、そういうのは」

「ごめん。ちょっと不躾だったね」

「――あ、の。指揮官様、私は、指揮官様ならすべてを捧げる覚悟があります」

 

 そう言って、イラストリアスは俺の前に座った。

 そして、俺の顔を先ほどと同じように、優しく手で包み込んだ。

 やはり、逃がさないとでもいうように。

 

「なんでも、言うことを聞いて下さる、のですよね?」

「あ、あぁ」

「でしたら――私と、そのくちづ」

「いい雰囲気、です」

 

 その一言に、びくぅと二人で飛び上がった。

 恐る恐る後ろを見れば、うつぶせになった綾波が、顔だけをこちらに向けて、光る瞳で猫みたくジィと見つめていた。

 そして徐に起き上がって、俺の膝の上に座り込んだ。

 

 

「綾波のこと、忘れてた、です?」

「い、や? いやいや? 忘れてないぞ。疲れて寝てたから起こさないようにしようと」

「イチャイチャしてた、です?」

「してないしてない」

「綾波、脚を怪我した、です」

 

 

 そう言って、綾波は綺麗な足を見せつけるように振り上げた。

 俺はよしよしと言ってその足を撫でる。

 絵的には不味い構図だが、なぜだかヤレと綾波に強制されてる気がした。

 

 

「綾波様、あの時は本当に、私の練度が足りないばかりに」

「気にしてない、です。でもここでイチャイチャは、場を考えてほしい、です」

「っ、それはごめんなさい、ね?」

「指揮官は、イラストリアスの腕も撫でてあげる、です」

「わ、わかったから!」

 

 彼女の注文通りにしていると、今度は廊下の方が騒がしくなってきた。

 

 

「あらあら、なんだか指揮官様に纏わりつく害虫の匂いがしますわねぇ!」

 

 

 綾波の部屋の扉を強引に開いて入ってきたのは赤城だ。

 そのままずんとこちらへやってくる。

 そろそろ収集が付かなくなってきたような。

 と、その時。

 連絡用の端末がぴこと光って振動した。

 俺はそれに縋るように開いた。

 

 

『指揮官か! ちょっと執務室へ来てくれ!」

 

 

 それはエンタープライズの声だった。 

 俺はこれ幸いと立ち上がった。

 

 

「あー 業務があるそうなので私は執務室へ帰る。用がある艦船は後で執務室に来てくれ。では」

 

 

 そう言って敬礼し、俺は廊下へとカツカツ、姿勢よくゆっくりと歩いた。

 そして、部屋を出て誰も見てない状態になった途端に、全力で走り出した。

 

 

「あっ、お待ちください指揮官様~!」

「私の用事が先よ! おっぱいお化けの害虫!」

「じゃあみんなでゲームする、です」

 

 

 そんなこんなで、俺は戦場の最前線のような、恐ろしい部屋から逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 




待ちに待った日常回!(作者が個人的に)
この話はわりかし独立してるので、初めての方もたぶん読める、はず。

さて、今回はイラストリアス回です。
なにも考えず書いていたら彼女の回になりました。でも僕はイラストリアスが好きなので書いてて楽しかったです。あの包容力と胸部装甲は全人類の男子の憧れですよね^~
イラストリアスの性格って、なかなか掴みづらいところもあるけど、根っこは優しくてエッチにも興味あるお姉さんなんじゃないかなって思うんです。年上特有の余裕とかもあって、優雅で可愛くてエッチ。
強すぎない???

そういうのを抜きにしても、最初期に我が母港に来てくれて、二番目に結婚した艦だったので思い入れもあります。

しかし…… やっぱ書いてると色気のあるきわどい発言ばっかしてくるので、綾波いなかったら不味かったかも。まだ18禁の展開は作者が許しません! エッチなのはいけませんってジャベリン辺りが叫んでます。
面白いと思ってもらえたなら、幸いです!


(感想貰った次の回は投稿が早くなる件、我ながら現金すぎますね……( ˘ω˘)スヤァ)


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ついでに来てみた、エンプラデート回

 俺はエンタープライズに呼ばれ、執務室へとやってきた。

 休日なのでくることはないと思っていたが、ある程度居慣れたからか妙な安心感がある。

 調度品の品々は今日も綺麗に磨かれ、筆記具も綺麗にそろえられているが――その中で肝心のベルファストは椅子に座って珍しく頭を抱えていた。エンタープライズもまたその隣で難しそうな顔で顎に手を当てている。

 俺が入ってきたのをみたベルファストは慌てて立ち上がった。

 同時に、エンタープライズもやぁと手をあげた。

 

「指揮官、来たか。休日なのにすまない。少々厄介なことになってな……」

「申し訳ありません、ご主人様。これに関しては私の一存では決められない事でしたので……」

 

 ベルファストはそう言って、ある紙を渡してきた。

 この印は――本部からの最重要通達事項で使われる物だ。

 俺は急いで中身を確認する。

 そして、天井を仰いで大きく嘆息した。

 

「覚悟はしていたが……」

 

 先日の赤城加賀強襲事件。

 エンタープライズ達、無登録艦船は未だ作っていない――という体で通そうと思っていたのだが、あの事件のせいで表に出さざるを得なくなった。

 そのことに対する説明などを、本部に求められ――ありていに言えば本部への出向を求められている、というわけだ。

 ある意味尋問のようなものだ。

 

 

 ――敵の空母を二機も落としたのだから、成果として算入すれば無断の艦船作成をしていようとおつりが来るとは思うが。

 

 

「ま、逃げるようなことでもない。明日にでも出向しよう」

「よろしいのですか? 書類だけで済ませることも可能だとは――」

「大丈夫、任せてくれ。それよりも、随伴させる艦船を一人選んでも良い――との話だったな。エンタープライズ、頼めるか?」

「……? 大丈夫だが、なぜ私に?」

「まあ、本部のNYシティに行くならユニオンの僚艦の方が良いと思ってな。無登録艦船も性格や行動に問題がないことを示すいい機会でもある」

 

 ふむとエンタープライズは頷いた。

 俺はベルファストに頭を下げた。

 

「というわけで、申し訳ないがもうしばらくは艦隊の業務をお願いすることになる。負担をかけるな、ベルファスト」

「頭をお上げくださいませご主人様。私はメイド。主人に尽くし、補佐をしてこその存在。この程度の些事に音を上げたりはしません」

「それは頼もしいな。助かるよベルファスト」

「いえ、全ては主様のため」

 

 彼女はスカートを摘まみ上げて、優雅に礼をする。

 あまりにも様になるその姿に、すこしだけ見惚れつつ、俺はエンタープライズに向き直った。

 

「では、エンタープライズ、急いで準備を。出来次第出向しよう。明日の朝までにはNYシティに到着しておきたい」

「了解した。なら、荷物をまとめてくるとしよう」

 

 そう言って、彼女はマントを翻して部屋を出ていった。

 俺は残ってベルファストの事務仕事の助言をある程度してから、荷物を纏めに自室へ戻るのだった。

 

 

***

 

 

 俺とエンタープライズは、小型のチャーター機から降りた。

 辺りは朝日が差し込み、とても気持ちの良い涼しい空気が肺に染み渡る。

 日を跨いでのフライトは体が硬くなってしまうので、大きく伸びをしてひとまず息を吐いた。

 

 俺と彼女は小さめのスーツケースを待っていた本部所属の軍人に手渡して、ロビーを目指す。

 その時のエンタープライズを見る目は――恐ろしいものを見る目だった。

 そのことを気にしてか、彼女も振る舞いにいつものような覇気がない。

 

「エンタープライズ、堂々としてていいぞ。前回の戦闘でのMVPが――ユニオンの英雄がそう縮こまるような場所でもない」

「そう……だな。そうさせてもらうよ、ありがとう指揮官」

 

 そう言って、彼女は前を向いて歩き出すが、やっぱり少し遠慮している様だった。

 その遠慮は先ほどまでとは少し質が違う。

 まあ、確かに――彼女の普段の恰好では、空港のロビーでは目立つか。

 

「――エンタープライズ、私服は?」

「いや、これと同じものが二着だ。着任してからは――あまり時間もなかったからな」

 

 そういって彼女は頬を掻きながら恥ずかしそうに苦笑いする。

 俺が母港に着任するまでの一か月間、彼女と高雄とベルファストだけで艦隊の事務や見回りなどを担当していたのだ。

 私服などに使う時間がないのは、或いは当然の話だったか。

 

「……なるほどな」

 

 ふと、頭の中でいまからのスケジュールを思い描く。

 急ぎで準備をした分、本部への出向まではある程度余裕はある。

 本来なら、きちんと半日分の余裕を持って待機しておくつもりだったが――ちょうどいいかもしれない。

 彼女のカンレキを鑑みれば、そういう時間をつくるのは悪くはない。

 

「申し訳ないが、荷物だけ先に滞在先へ届けておいてくれないか?」

「了解しました。良いですが、どこへ行かれる予定なのでしょう? 予定だとこのまま本部直下のホテルへ行く予定でしたが……」

 

 本部からの軍人はそういって首を傾げる。

 俺は横の彼女をチラとだけ見て、答えた。

 

「少し、彼女の私服を買いに行こうと思うんだ」

 

 

***

 

 

「指揮官。不味くはないか? 私も立場はわきまえているつもりだ。重桜のような神木や艦船を一体と見なして信仰するような場所ならまだしも、ここはユニオンだ。ある程度は艦船の持つ危険性が周知され、時には批判の対象にもなる。そんな状態で、私が人々の中に降り立ちでもすればパニックにもなりかねないぞ?」

「気にするな。そもそもお前を連れているのは俺の護衛としての側面も大きい。連れ歩くぐらい問題はないさ」

 

 

 とはいいつつも、本部への言い訳を頭の中でいろいろと組み立ててはいる。

 不味くはあるが――艦船もまたヒトと同様に心を持つ。

 彼女達の心のケアはやはり、指揮官として必要な業務の一つだ――なんて。

 先輩の受け売りだが。

 

 

「……こんなに、人がいるものなのか。すごい、な」

 

 

 彼女は電車の窓に張り付いて外を見渡す。

 英雄と呼ばれていても、やはり見たことのない景色には目を輝かせて楽し気だ。

 セリフが田舎から出てきた娘のような感想で、こちらとしては笑いを噛み殺すのに必死だったが。

 ただ、彼女もまた、戦場でなければ普通の人なのだと。

 そう実感した。

 

 

「ほら、そろそろ目的地だ。俺もたまにショッピングで使っていたアウトレットがある」

 

 

 興奮冷めやらぬといった体のエンタープライズの手を握り、俺は彼女をエスコートするように駅へ降り立つ。

 アウトレット目当てで降り立つ人がごった返し、それでもはぐれないように、彼女の手を強く握った。

 

 

「ほら、こっちだ。来てくれ」

「あ、あぁ!」

 

 

 

 

「こんな小物はどうだ?」

「ちょ、ちょっと女の子っぽ過ぎる気も……」

 

 女性用の小物売り場で悩んでいると、店員が話かけてきた。

 

「なにかお探しですか?」

「あぁ。この子に似合いそうな髪留めでもと思ってな」

「そうですか。長くて綺麗な白い髪ですね…… 髪留め一つ付けるだけでも、だいぶ印象は変わるかもしれませんね」

 

 店員が手渡してきたのは、髪留めだ。

 シュシュ、という類のもの。長い髪を纏めて、ポニテのようにしたりできる。

 彼女は帽子を脱ぐと、長い髪纏めるようにしてポニーテールをつくって見せた。

 なるほど、うなじとかもあらわになって色気もある。

 男らしさが減って女性らしさが上がったな。

 

「じゃあ、こんなのをつけてみたりとか、どうだ?」

 

 俺はヘアピンを手渡した。

 シンプルだが、先っちょに小さく、見えるか見えないか程度の花柄がついているものだ。

 それをみた店員は、すこし苦笑いする。

 

「お客様、ヘアピンはあまり外出では使わないのですよ? 特にそういう小さいものは」

「……そ、そうなのか」

 

 じょ、女性関係の小物はあまりしらないからな。

 ……うむ。

 もうちょっと調べた方がよかったかもしれない。

 そんな羞恥に俺が耐えてる間に、エンタープライズは受け取ったヘアピンを前髪の左側にすぅと差し込んだ。

 それだけでも大分印象が変わる。

 

「指揮官…… 似合ってるか?」

「あ、あぁ。よく似あってるな」

「そう、か」

 

 彼女は髪留めとヘアピンを外して、店員にこれを下さいと手渡していた。

 それをみた女性店員は、微笑ましいものをみたかのような、優しい笑顔でそれを受け取っていた。

 そして、俺が会計していると、店員は小さな声で話しかけてきた。

 

「あの、貴方は軍人様なのですか?」

「あぁ。ある港に所属しているよ」

「……なるほど。あちらの女性は」

「艦船だ」

 

 それを聞いた途端、店員は飛び上がった。

 だが、その瞳に嫌悪はない。

 

「……ふ、普通にかわいい女の人だと」

「まあ彼らも人と同じ、心を持つ生き物だ。むしろ人間よりも人間くさいな」

「……ははぁ。なるほど、意見が分かれるわけですねぇ」

「と、いうと?」

「被造物とはいえ女の子を戦わせるな――なんて人たちの意見ですよ。対照的な、危険だから排除しろなんて意見も。ユニオン内部でも意見がさまざまでしょう?」

「そうだなぁ……」

 

 そんな話の折。

 指揮官~とエンタープライズが手を振って呼んできた。

 彼女に既に手渡した小物の入った袋を、大切そうに抱えている。

 そんなに嬉しかったのか。

 

「本当に、女の子なんですねぇ。とってもかわいいです」

「そろそろ、行かせてもらうよ」

「そうだ。あの子の艦名だけ聞かせてもらっても?」

「……あれが、エンタープライズだ」

 

 それをきいた店員はさらに驚きの声を上げる。

 俺はそれを放置して、首を傾げるエンタープライズの元へと歩いていった。

 

 

 

***

 

 

 

「指揮官指揮官、何の話をしていたのだ?」

「まあ世間話だ。それより、次は服だな。どんな服がいいだろうか」

 

 俺とエンタープライズは場所を見繕っていまどきな女性服を扱う店へと入店した。

 流石に、こういう店で軍服姿の軍人二人――まあ俺の方はカジュアルなものに着替えてはいるが――だと店員も話しかけづらいのだろう、数人が遠巻きに見つめるばかりだ。

 だからこそ、ゆっくりと二人で服を選べた。

 彼女にワンピースは、まあ似合わなかった。

 というか、ゆったりした服装はあまり似合うものが少ない。

 冗談で着せてみたへそ出しシャツにホットパンツが異様に似合っていた。

 

「……意外と似合うな」

「す、すこし露出も多い気がする。が、私も似合うとは思うな」

 

 似合って嬉しいような、露出が多くて微妙なような。

 そんな顔のエンタープライズ。

 その後も何点か選んで、二セット服を買った。夏に向けた半そでの服だ。

 意外と胸の大きいエンタープライズは、なかなか服を選ぶのも難しいものがあった。

 その中で選んだ物だ。

 

 

 薄い紺の羽織に、胸元が少しだけ開いたシャツ。

 くるぶしまでの長ズボン。

 シンプルだが、いつもの彼女の服装によく似た私服。

 とても似合っていた。ついでに買ったポーチがアクセントにもなっている。

 

 

「その服装は、いつも通りな感じがして安心感がありそうだな」

「あぁ。私服というのも、悪くない。ホットパンツの方は――まあ攻める服装だが、ああいうのもたまに着る分には悪くはないだろう」

 

 

 あのへそ出しファッションも意外と気に入ったのか、彼女は一セット購入していた。

 強気に攻めるエンタープライズ。たまにはそういうのも良いだろう。

 

 

「とはいえ、そろそろ時間だな」

 

 

 時間を確認すれば、そろそろ本部に向かうべき時間だろう。

 俺とエンタープライズは顔を見合わせ、お互いに頷いた。表情を引き締める。

 そうして、二人で駅に向かった。

 ここからは、また少し大変な時間が来る。本部への出向と、尋問だ。

 

 

**

 

 

 改札にて。

 ふと隣のエンタープライズを見れば、俺が先ほどの渡した――すこし恥ずかしい思いもした――花柄のヘアピンをつけていた。 

 それをみて首を傾げる。

 自分の部屋でつけるものと聞いたので、ふと不思議に思ったのだ。

 

「どうした、エンタープライズ。そのヘアピン、外出用とかじゃ、ないんじゃ」

「ちょっと纏めたくなっただけなんだ。気にしないでくれ」

 

 そう澄ました顔で言ってのけたエンタープライズは、しかし、耳元が火傷しそうなほど赤くなっていた。

 長い髪の毛を、指先でくると弄っている。

 俺は、これ以上は何も言うまいと、静かに目を閉じて本部への電車を待った。

 




エンタープライズメイン回。
今回も日常だよ!ヤッタネ!(ちょっとシリアスはいってるけど)

今回の話は若干キャラ崩壊してる気もする。でもまあ、普通の女の子に憧れてそうなので、そういうこと(デートなど)ができるとキャラ崩壊しそうだなぁと思ったりしながら書いていました。
素がイケメンだからこの指揮官とは組ませにくい…… ちょっとヒロイン入った指揮官と彼女は相性良さそうだなって思うんです。でも、こういう指揮官だからこそ、普通の女の子な部分を見せれそうで、でもなかなか見せてくれない!もどかしいよエンプラちゃん!(オタク特有の早口)

長々と書きましたが、エンプラは可愛いと思うのでみんなすこってゆけ。
では今回はこの辺で。


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尋問、そして『アズールレーンの指揮官』

 

 

 本部に到着すると、既に招集時間の1時間前だった。

 そこからは大慌てで荷物を本部直下のホテルに取りに行き、必要な書類や持ち物、規定の服装に着替えてすぐ本部庁舎へ向かった。

 庁舎の中は内装が綺麗に整えられ、いたるところにユニオンのシンボルが掲げられている。周りにはフォーマルなスーツに身を包んだ将校や官僚がせわしなく歩いており、にぎやかさを感じる。

 俺とエンタープライズはひとまず受付の女性のところに向かった。

 彼女に尋ねると、すぐに庁舎付きの事務員――軍人なのだろう――がその場所まで案内してくれることになった。

 

 

 外交官や他国の要人、軍人などが歓迎される応接室の集まる階のその先。

 華やかさはなくなり、それでも高級そうな絨毯が敷かれた廊下を進むと、一本のエレベーターがあった。

 それを使って地下に降り立つ。

 廊下は地下特有の湿っぽさや、チカと点滅するライトが目を引く。地上階の華やかさや豪華さもなくなり、ただ無機質な鋼の廊下を俺達は歩いていく。

 何重にもかけられたセキュリティを越えて、尋問が行われる部屋にたどり着いたのは招集時間のほんの十分前。

 案内された部屋の前に立ち、俺は軍帽を取った。

 

 

「案内感謝する」

「いえ、では私はここで」

 

 

 案内してくれた事務員に敬礼をして、俺とエンタープライズは少しだけ肩の力を抜いた。

 幾重ものセキュリティーを越えるのはそれだけで緊張するものだ。

 

 

「ここは、本当に最重要な情報のあつまる場所なのだな」

「あぁ。ユニオンの国防省――その本部。対セイレーンや対レッドアクシズの本拠地でもある。セキュリティも相当高度なものを使用しているんだろうな」

 

 

 かつて自分が数回訪れたときはいずれも地上階での事務や報告などだった。

 これほどのセキュリティが地下に掛けられているとは知らなかった。

 この地下こそがユニオン国防の本拠地であり、真の本部なのだろう。

 

 

「さて、では入るぞ」

「あぁ」

 

 

 ぎぃと扉を開いて中に入る。

 するとそこには数人の軍人がいた。皆が初老を越えた厳つい顔つきの将校だ。

 一人だけ、異様に若い少年がいたが。

 全員が長いテーブルに座り、中央のホログラムを見ている。

 彼らは階級も相当上。ともすれば中将や大将クラスが集まっているのだ。

 胸の星の数にスゥと息を飲みつつ、俺は敬礼した。

 

 

「海軍所属、――方面艦隊、指揮官の□□大尉です」

「よく来てくれた。大尉。まずは先の重桜艦隊――航空母艦『赤城』と航空母艦『加賀』の撃滅、よくやってくれた。こちらで観測している敵性個体――赤城と加賀はこれで残り二艦づつとなった。レッドアクシズとしても大きな打撃となっただろう。功労に関しては――また後程考えることになるがな」

 

 

 長いテーブルの一番端。

 上座に座る男の星の数をみて、思わずヒィと声を出しそうになった。

 彼が元帥。

 この広大なユニオンの国防の全てを統括する男なのだ。

 初老で、屈強な体つき。その威圧だけで獅子ですらひれ伏しそうなものだ。

 俺はなんとか声を堪えて次の言葉を待った。

 

 

「さて、大尉。今日呼ばれた理由は分かると思うが、無登録艦船に関することだ」

 

 

 そういったのは、エドワード中将。

 かつては士官学校で教師として在籍し、俺が新人として赴任したかつての港で同じく大佐として着任したなんとも縁のある男。

 年は確か今40くらいか。

 正直、士官学校時代の教育が恐ろしすぎて無理。

 まともに目を合わせた話せる気がしない。

 脳裏に30発以上殴られたり、100km模擬行軍中に気を失うまで怒鳴られたり、落とした重要でもない書類について24時間詰め寄られたりした辛い記憶が蘇り、気を失いそうになるが、見なかったことにして答えた。

 

 

「はい! 理解しています!!!!」

「……大尉。ここは士官学校じゃない。そんな大きな声を出す必要なない」

「……はい」

 

 

 どうしてもあの頃のトラウマは消えないものだ。

 だが、そうも言ってられないと切り替えて尋問について答えていくことにした。

 

 

「それで――無登録艦船の作成に落ちていたメンタルキューブを使用したとか書かれているが、これは本当か?」

「はい。工作船『明石』が母港を散歩中に海岸に転がっていたものを見つけたそうです」

「……超貴重な素材が、そんなところに」

 

 

 ふらと頭を揺らすエドワード中将。

 本当は秘密の隠し扉に入っていたのだが、馬鹿正直に話すわけにもいかない。

 隠すなら、バカみたいな話にして真実味を出す方がよいと判断した結果だった。

 実際、キューブは海岸で見つかることもあるので、あり得ない嘘ではない。

 

 

「当時はあの港所属の艦隊が壊滅した直後でした。なんとか港に流れ着くセイレーンを撃退せねばと考えた明石の苦肉の策だったようです」

「なるほど。状況は理解した。しかし、そのことは着任日に話すべきことではなかったか?」

「はい。次の日に本部に報告を上げようと考えた私の怠慢でした」

「――そこは責めるまい。着任日にすべての事務処理など到底不可能だ」

 

 

 中将の話を遮って元帥がそう話した。

 

 

「無登録艦船――本来なら大問題になっているところだが、幸いなことにマスコミも嗅ぎつけてはいない。今日明日で登録も完了することだろう。話に上がった工作艦には事の重大さを言い聞かせておくように」

「了解」

「そこの――エンタープライズ」

「はい」

 

 

 エンタープライズはこの場にあって、物怖じせずに前に出た。

 

 

「無登録艦船である君が、一か月間どのような業務をしていたのか、ここで直接話してもらおうか」

「了解。では、着任した時から話します」

 

 

 

***

 

 

 

「大体は、他の艦隊と業務は変わらないようだな。異常があるようにも見えないし、良いだろう。赤城や加賀を落した功績もすさまじい。今後も励んでくれよ」

「はい」

 

 

 一通り話終えたエンタープライズの話を聞いて、元帥はふむと考えこむ。

 そうして数秒だけ沈黙した後に、口を開いた。

 

 

「大尉。あの艦隊は――どうだ」

「どう、と申しますと?」

「現在は鏡面海域であるマリアナ沖も、ほぼユニオンの制圧下に入った。重桜や鉄血の制海権もほぼ消滅し、アズールレーンの勝利といっても過言ではない状況にまでなっている。そんな中での、あの港に対するセイレーンの大攻勢。港だけは形を保ったものの、それ以外は指揮官含め、艦船すべてが重症を負った。いまだ謎に包まれたあの港の強襲。なにか、理由があるとは思うか?」

「――申し訳ありません。私は答えられるほどの情報を持っていません」

「そう、か」

 

 

 元帥は左目だけを開いて、俺をじぃと見つめた。

 そうして数秒、目を合わせ、そして元帥は右目も開いた。

 

 

「良い。今日の尋問はここまでにしよう。帰りはアレックス中将に案内してもらうと良い。艦船達を束ねる先輩として、多くの話を聞けるだろう」

「え、僕ですか! あ、大丈夫ですけど」

「うむ。では解散とする」

 

 

 俺は全員に敬礼をしつつ、出ていく上官たちを見送り、最後にアレックス中将と部屋を出た。

 

 

 

* 

 

 

「あはは、災難だったねぇ。二日目から港を襲撃されるなんて」

 

 

 隣を歩くのは、アレックス中将。

 ユニオン内で最大規模の艦隊を率いる男――否、少年。

 弱冠十七歳にして、多くの艦船とケッコンをこなしているという少年でもある。

 

 

「いえ、私の伝達不足もありましたので」

「そうかなぁ。見た感じ、大尉はしっかり者だし、憧れちゃうよ」

 

 

 中将は手を後ろで組みながら、後ろを歩くエンタープライズを見た。

 

 

「しかし、ほんとうにそっくり。艦船って同じ見た目になるんだねぇ」

「中将のところにもエンタープライズは所属してるので?」

「うん。がんばってもらってるよ~」

 

 

 聞いたところ、彼の艦隊には400隻以上の艦が所属しているらしい。

 そして結婚艦は20以上。その座を狙う艦船はまだまだ多いと風のうわさで聞いた。

 ユニオン軍部内での彼のあだ名はお姉ちゃんキラーなんだとか。酷すぎる気もするが、彼の保護欲をそそられそうな気弱な容姿などを見ると納得してしまいそうだ。

 そもそも、彼はとある事情から士官学校を経ずに指揮官と成った。

 屈強な精神力と肉体が必要なアレを経ていないのだから、あの容姿や性格も当然と言えば当然だ。

 そんな状態で、艦船達のメンタルケアに失敗せず、勲章を幾つも貰い、結果を出しているのだ。

 

 

 ある種の才能――艦船達を纏める才能を持っているのだろう。

 

 

 

「しかし、大尉の前の指揮官は――大尉の先輩だと聞いています。本当に、酷い事件でしたね」

「……はい」

 

 

 俺は手を握りしめながら、そう返した。

 

 

「あの艦隊――以前は艦隊規模が全世界を見渡しても一位でした。すべてを纏め上げて的確な指示を送る彼女は僕にとっても、憧れでしたよ」

「そう、ですね。彼女は女傑といって差し支えない人物でした」

「――結構アレな噂も流れていましたけどね」

 

 

 アレックス中将はそういって苦笑いした。俺もそれにつられてしまう。

 彼女のアレな噂――艦船と女同士でアレコレという、ピンク過ぎる噂だ。

 多分あれは事実だろう。あの先輩、性欲の強さが常人の千倍くらいあるし。

 だからこそ、纏め上げれていたのかもしれない。考えないようにはしていたけど。

 

 

「ともあれ、なかなか艦船を率いる指揮官とは話せませんからね。どうですか? この後コーヒーでも一杯」

「そうですね。ではお言葉に甘えて」

 

 

 そうして、俺と中将は上階の一室でコーヒーを飲んで雑談することにした。

 

 

 

***

 

 

 

「ケッコン、ですか?」

「はい。どういうものなのだろうかと」

 

 

 中将に一つ聞いてみたかったことだ。

 人と人との結婚とはもちろん違うのだろうが、データとして艦船の能力が上がるという話も聞いている。

 艦隊の底力の向上のためにも、一つ聞いておきたかった。

 

 

「うーん…… うーん…… うん」

「あ、あの、中将?」

 

 

 なんだか嫌な思い出を思い出したような顔をしている。

 さっきの士官学校時代を思い出した俺みたいだ。

 

 

「朝は、誰が起こしに来るかでまず揉めるんだ」

「……はい」

「で、絶対一回は主砲の音が鳴る」

「…………」

「それで起きるんだよね」

「い、嫌すぎる……」

 

 

 ハーレムとか散々海軍内でぼやかれてたけど、内情そんなんだったのか。

 

 

「昼はみんなが僕に会いに来るんだよね。甘やかそうとしてきたり、赤城だけのものですわとか、オサナナジミだからとか、絶対許さないとか……」

「…………」

「なんとかそれを乗り越えて事務仕事こなして夕ご飯になるんだけど、あまり会えなかったり積極的じゃない艦船の子達のアフターケアしたいから、そういう子を夕ご飯に呼んで一緒に食べるんだ」

「そこは、なんだか普通ですね」

「……毎回誰かが飛びこんできて、他の子が委縮しちゃうんだけどね」

「地獄だ……」

「そしてよる。よるはね…… よるだよね……」

 

 

 アレックス中将は遠い目をした。

 なんだか疲れ切った目で世界を見ているようだ。

 よくよく見れば、彼の目にはクマが出来ていた。

 

 

「色んな子がね、夜這いに来るんだ。全員に搾り取られたり、主砲鳴らされたり、舐められたり、寝れないんだよね」

「は、はぁ」

 

 

 そこは羨ましい気もする。

 大変そうな気もする。まあ身も持たなくなるだろう。

 実際、アレックス中将は結構身体の調子を崩すという話も聞いた。

 

 

「一つ言えるのはね、重婚は迫られてするものじゃないってこと。よく考えた方がいいよ」

「……大変参考になりました」

 

 

 艦隊を纏める者として――艦船の女性たちとの接触はよく考えなければいけないのだと、彼はそう話してくれた。

 前指揮官の彼女のような女傑ならともかく、とも。

 その後も色んな話を聞いて、俺とアレックス中将はいったん別れることにした。

 彼は帰り際に、こういった。

 

 

「なんだかんだいまの生活はとても楽しいんだ。だから、本気で守りたいとも思ってる。君も――大事な艦船達を守りたいなら、本気で受け止めてあげるんだよ」

 

 

 そう言って、彼は手を振りながら本部庁舎の外へ出ていった。

 なよなよした少年という印象だったが、少し変わった気もする。

 彼自身もやはり男であり、また指揮官なのだと。

 

 

「気弱な少年と思っていたが――人は見た目に寄らないな」

 

 

 エンタープライズは去っていく中将の後ろ姿を見てそうこぼした。

 

 

「本当にな。しかし、何とかなってよかった」

 

 

 最悪懲戒免職まで考えていた。

 なんのお咎めもなしなら、それに越したことはない。

 

 

「さぁ、ホテルに戻るか。今日は泊まって、明日に帰ることになっている。せっかくできた自由時間だ。ゆっくり羽を伸ばしてくれ」

「あぁ。そうさせてもらうさ」

 

 

 そうして、俺とエンタープライズは本部直下のホテルへと戻っていくのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 夜。

 俺は街の喫茶店でコーヒーを飲んでいた。

 そこへ、帽子を目深に被った一人の中年男性が座った。

 俺と対面となるように。

 

 

「中将」

「今はエドワードと呼べ」

「はい。エドワードさん」

 

 

 俺はあらかじめ頼んでおいたアイスコーヒを彼に渡す。

 彼はそれを飲んで、満足そうに息を吐いた。

 

 

「あの艦隊に、彼女の痕跡は見つかったか?」

「えぇ。あのメンタルキューブは先輩が港の隠し扉に隠していたものでした。他にも指令棟の内部には当初の図面にはない隠し扉も」

「中に資料は」

「――元帥や本庁がセイレーンと繋がっている、との書き置きが」

 

 

 それを聞いた中将は、はぁと大きなため息を吐いた。

 わかっていたことだが、真実にされるとそういうため息も出てしまうだろう。

 

 

「だが、それだけじゃああれだけのセイレーンは動かせない。きっとまだあるはずだ」

「はい。探していきます」

「大尉という階級で、お前を指揮官にねじ込んだ俺も元帥に睨まれていてな。あまり動けないが、今後も情報収集を頼むよ」

「了解」

 

 

 そう言って、中将はそそくさと席を立った。

 その瞬間に彼のポケットに資料をねじ込む。

 彼は夜の街に消えていくように、姿を消した。

 

 

「はぁ……」

 

 

 元々は唯の海軍所属の一士官。

 諜報なんて向いていないのは十分理解している。緊張で息を吐いてしまう程度には。

 渡した資料には、セイレーンの鏡面海域分布図や、それに追随した史実再現実験に関するデータも入っていた。

 どれも非常に重要な情報だ。

 そして――アレックス中将。

 彼こそが、全ての物語の中心にいること。

 どうにも、彼を中心にセイレーンは動いている気がする。

 俺の推測――セイレーンが未来からの技術提供者である、という推測も踏まえて、もう少し思考を詰めていかなければいけない。

 先輩に、追いつくためにも。

 

 

「よし」

 

 

 俺は立ち上がると、ホテルへと帰ることにした。

 気張り過ぎた心を少しほぐすために大きく伸びをしながら、見慣れた街並みの中を歩いていくのだった。

 

 

 




お待たせいたしました。新米指揮官の日常更新です。
今回はシリアス回です。中将が二人出てきて混乱しそうですが、アレックス君がハーレム野郎と憶えておいてもらえれば良いかと思います。

さて遂に出てきた『アズールレーンの指揮官』
これですこしは主人公の立ち位置も明確になってきたかな。
オリジナル設定があっても、ベースはアズレンの世界観に沿っていますので……!
ちょっとネタバレすると、今現状、史実再現度は――マリアナ沖の海戦まで終了しています。

彼が追いかける先輩は一体何を知ったのか。中将と主人公はなにを目指しているのか、艦船達はその中でどういう選択をするのか――!

次回もお楽しみに!


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