ハイスクール・フリート   若き人魚と転生者 (ロイ1世)
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夢と遭遇

第二章、ハイスクール・フリート編スタートです。


「本日はホワイト・スター・ライン社設計のJBIに御乗船いただき、

大変ありがとうございます」

 

ああ・・・またこの夢か。

 

 

 

 

 

 

 

 

豪華客船の一室から、楽しそうな声が聞こえる。

 

「ありがとう、裕兄」

 

一人の少女と一人の少年。

 

その二人は兄妹にしては距離があり、

かといって他人にしては近い。

 

「もかを呼ばなくていいのか?」

 

少年のその質問に少女は慌てて答える。

 

「そうだった!!、モカちゃん呼んでくるね」

 

少女は扉から勢いよく飛び出していった。

 

 

 

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「キャア」

 

揺れる船内、泣き叫ぶ人々。

まだ空きがあるが、それでも下りていく救命ボート。

甲板には大勢の人が残っている。

 

「大丈夫なんだよねえ・・・?」

「兄さん、私達って・・・」

「・・・二人とも、ここから飛び降りて空きのある救命ボートに行け」

 

ああ・・・やっぱりこの夢だ・・・。

 

少年は二人の少女に飛び降りろと言う。

 

「裕兄?」

「・・・分かったよ」

「もか。ありがとう。ミサは大丈夫か?」

 

静かに震えるツインテールの少女。

 

「--------」

「えっ?」

「キャアアアアア!!」

 

少年に押され、海に落ちていく少女達。

そんな二人が見たのは、転覆していく船と、

自分達を押してきた少年の左腕だった。

 

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「はあっ!!」

 

勢い良くベッドから飛び起きるツインテールの少女、岬明乃。

彼女の顔から碌な夢を見ていないことが容易に分かる。

 

「またあの夢・・・裕兄・・・」

 

夢を思い出し感傷に浸って数秒後、彼女のスマホが音を出す。

 

「あ、モカちゃんからだ」

 

親友である知名もえかからのメールを見て、彼女は動き出す。

部屋の隅には二人の少女と一人の少年が映った写真が飾られていた。

 

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5年前 日本海 旧種子島沖

 

ブルーマーメイドの艦隊、任務は海賊の討伐。

だが旗艦艦長の宗谷真霜は何かが起こりそうな予感がしていた。

 

ブルマー「前方から接近してくる艦あり」

ブルマー「該当する艦、それに類似する艦はデータベース上にはありません」

真霜「海賊船にしてはかなり手が入れられている。

かといって軍とは違う。あの船は一体・・・」

ブルマー「不明艦から人が来ます」

 

艦橋組はその言葉を聞いた瞬間、海面を見た。

すると仮面を被り、黒を基調として所々緑の線が入ったコートを着た人がこっちに

向かってきている様子を見る。

 

ブルマー「ねえ、あの速度じゃぶつかるんじゃない?」

真霜「総員、衝撃に備えて!!」

 

全員が近くにあったものに掴まったりする。

だが一向に衝撃は来ない。するとそこに声が響く。

 

「監視していた物から目を離しちゃぁダメじゃあないのか?」

ブルマー「いつの間に!!」

真霜「くっ・・・」

 

焦って銃を構える真霜。だが仮面を被った人物は動揺せず、

真霜を見て言う。

 

「あなたの母、宗谷真雪に伝えたいことがある」

真霜「母さんに?」

 

突然母の名前を言われ、驚いてしまう真霜。

 

「あの時の少年が帰ってきたと、そう伝えれば理解してくれると思います」

真霜「・・・あなたは、一体?」

「・・・ロイ、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ。私はある人を探しています」

真霜「・・・」

 

構えていた銃をしまい、ロイに向けて真霜は言う。

 

真霜「分かったわ、母さんに伝えるわ、それであなたはどうするの?」

ロイ「あの船にいます。何かあればこの周波数で通信してください」

 

そう言って出ていくロイ。艦橋はまだ混乱している。

それを静めるために真霜は説明を始める。

 

真霜「お母さんが昔、現役だった頃、ロイと名乗る人に助けられたみたいなの。

それで『もし次、会うことがあるなら、私は必ずロイと名乗る』、

って言われて、でも会うことは無かったけど、私達はその話を何回もされたから、

遠回しに『ロイと名乗る人と会ったら絶対連れて来なさい』、て言われてるみたいで」

ブルマー「じゃああの人は取り敢えず味方と考えていいんですか」

真霜「ええ。任務が終わったら横須賀に帰ってからが、大変よ」

 

 

 

 

その後の海賊討伐は、何も問題なく完了した。

そして艦隊は横須賀へと帰還する。



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再開した二人

サブタイトルの二人はロイと加古ではありません。
そこのところをよろしく言いながら、



それでは、本編をお楽しみ下さい。


横須賀 ブルーマーメイドドッグ

 

真霜「貴方の船はどうするの?」

ロイ「家に帰しました。別に必要ないので」

真霜「そう・・・」

 

海賊討伐を終え、横須賀に帰還した一向。

ドックに入り、ロイの船にどう対応するか悩んでいた真霜にとっては、

ただ幽霊船が目的地を持って進んでいるだけに変わったので安心している。

 

真雪「久しぶりです、あの時の少年がこんなにも成長しただなんて」

ロイ「あなたこそ老いてもまだお嬢さんに変わりない」

 

以前出会った二人は出会うや否や時間の経過を相手を見て再認識する。

 

真雪「それで、日本に来たということは・・・」

ロイ「はい。人魚になりに来たと言うことです」

真霜「えっ?、彼がブルーマーメイドになるの?ホワイトドルフィンじゃなくて?」

 

話を理解できている人と出来ていない人、その例がこの三人だろう。

真霜は女のみの組織であるブルーマーメイドに男が入ることに驚いている。

真雪は待ち望んでいた出来事が起きて微笑む。

ロイは顔が仮面で隠れていて分からん。

 

真雪「けど実力がなければ入れないわよ」

ロイ「私は敵艦に乗り込んで制圧戦をすることができればいいです」

真雪「分かったわ。じゃあ・・・」

真霜「ちょっと待って!!」

 

これ以上静かにしていたら話がとんでもない方向に行ってしまうと考えた真霜は待ったを掛ける。

 

真霜「彼はもう入ることが決まってるの?」

真雪「ええ。前会ったときにはもう既に」

真霜「ああ・・・」

 

真霜はもう二人を止めるのを諦めた。

 

真雪「これを常に持っていなさい」

 

そう言って渡されたのは灰色の箱。

 

ロイ「爆弾ですか?」

真霜「違うわよ!!、まあ、見えなくはないけど・・・」

真雪「通信機よ。大切に使いなさい」

ロイ「分かった。大切に使わせてもらう」

 

そう言ってポケットにしまうロイ。

 

真雪「ロイ君は特別敵搭乗員殲滅戦隊に配属・・・でいいわね」

真霜「ええ。といっても最初は能力テストからよ」

ロイ「それは明日か?」

真霜「そうね。明日の1000から」

 

時間も決められて明日の予定は埋まる。

 

ロイ「それではここらへんでさよならです」

真雪「どうしてかしら?」

 

時刻は1900。まだ話したいことがあるのか真雪は疑問を浮かべる。

 

ロイ「まだ私は今日泊まる宿を見つけていないので。

明日の1000にここ集合でよろしいですか?」

真霜「あっ、ええ。それでいいわ。じゃあまた明日」

 

そうしてロイはこの場から去っていく。

それを見届けた後、真霜は真雪に聞く。

 

真霜「結局、彼は一体何者なの?」

真雪「さあ?、私もあまり知らないわね。本人に聞いてみれば」

 

望んだ答えは返ってこなかった。

それに真霜は軽く怒って聞き返す。

 

真霜「お母さん!!。私達は彼をあまり知らないのよ、お母さんまでそれで大丈夫なの!?」

真雪「大丈夫よ、彼は優しい人だから」

真霜「そ・・・そう」

 

こうしてロイとブルーマーメイドは合流した。

それが良いことなのか悪いことなのかはまだ誰にもわからない。




この時間に投稿されている、といことは、前回の投稿は
予約時間を間違えたという事。

普通に投稿しちゃいました。
ハイフリ本編が始まるのはまだ少し先の予定。


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初任務はインディペンデンスと

まだ原作開始5年前ですが、それそろ原作開始の少し前位に持っていきたい。


ブルーマーメイド横須賀基地 突入戦演習場

 

ロイ「なんか・・・すいません」

 

頭を下げているのは仮面の男、ロイ。

謝っている相手は宗谷真霜。

なぜこのようになっているのかを簡単に説明すると、

特別敵搭乗員殲滅戦隊との模擬戦でロイは素手で制圧したからだった。

 

真霜「格闘家じゃないわよね?」

ロイ「はい。バリバリのガンマンです」

真霜「それでこれって、多分別の所に送った方が良いわよね・・・」

 

ロイの戦闘力からどこに配属するかを考えてしまう真霜。

そんな真霜にロイは逆転の発想を送る。

 

ロイ「なら新しい部隊を作るのはどうです?、単独でいいので」

真霜「ああ・・・。そうね。そうしましょう」

 

半ば考えるのを辞めた真霜だった。

 

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同基地 スキッパー係留所

 

真霜「これがあなたの初めての任務ね」

ロイ「そうですね。では、改めて任務の再通達を」

 

スキッパーに跨るロイ。近くには真霜。

ロイの新部隊の初任務の見送りである。

 

真霜「目標は海賊船の制圧。

この海賊は国際ブルーマーメイドの指名手配犯なので生死は問いません。

制圧方法も問いません。ただし船は鹵獲された米軍船のため破壊しないで下さい」

ロイ「了解した。必ずこの任務を成功させる」

真霜「それでは、特別戦隊ナナヨコ、出撃してください」

ロイ「ナナヨコ隊長、ロイ。抜錨します」

 

ロイの乗ったスキッパーは勢いよく走りだす。

それを見届けた真霜は中に戻っていく。

 

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海賊船

 

見張り「・・・10時の方向からスキッパー1。友軍ではありません」

艦長「スキッパーで単騎。余裕だな。このアメリカ製最新鋭艦の

インディペンデンス級には赤子の手をひねるようなもんだ」

 

相手がスキッパー一機と知り余裕の表情を見せる海賊船艦長。

何しろ海賊船が3日前建造されたばかりの虎の子である。

何があってもスキッパーに負けはしない。

 

艦長「副砲のみを使用。吹き飛ばせ」

砲術長「了解、副砲使用。目標、10時方向のスキッパー。

誤差修正右13度。発射!!」

 

当たったら一たまりの無い砲撃。

しかしそれに当たることはなく簡単に避けてしまう。

 

砲術長「避けたか、全副砲使用。目標同じ。照準は・・・」ニヤッ

 

そこで砲術長は静かになる。

 

艦長「どうした?、撃たないのか?」

砲術長「すみません。ついこの新システムを使うとなると・・・」

 

新システム。と言ってもただ短時間砲撃の速度が上がるだけだが、

主砲や副砲が連続してくるのだから、恐ろしいことこの上ない。

 

艦長「分かった。試してみたいしな。主砲の使用も許可する。

新システムを使用しスキッパーを撃破せよ」

 

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ロイ「早くなってる。さっきは5秒間隔だったのに3秒になってる」

 

早速変化に気付いたロイ。

だが全く当たる気配はない。

ある時は遅くして。ある時は早くして。ある時は止まって、全てを避けている。

そして、スキッパーの速度を一気に上げ、

 

 

 

跳んだ。そして着地したのは海賊船の甲板だった。

スキッパーはお釈迦になっただろうが海賊のをパクれば問題ない。

 

海賊「動くな!!」

 

近くには海賊がいた。というか囲まれつつある。

 

ロイ「・・・」

 

黙ったまま固まっているロイ。

そして完璧に囲まれた。

するとロイはそれを待っていたかのように動き出す。

 

海賊「撃て!!」

 

動き出したロイを狙いサブマシンガンを連射する海賊。

しかしロイは当たる寸前に大きく跳躍した。

発射された弾は向かい側にいる海賊に当たる。

全員が撃ったのだから全員が撃たれ倒れてしまう。

 

ロイ「そこの艦橋にいる連中。窓から飛び降りてこい。そうしたら命は取らない」

艦長「ふざけんな!、死ねって言いてえのか!!」

ロイ「大丈夫。窓を割って飛び降りても死なない」

 

ロイの言う通りガラスの破片が刺さり、飛び降りても死なないだろう。            ロイは。

 

艦長「俺達にはアメリカが付いている。日本になんか負けねえ!!」

ロイ「アメリカ!?、この艦はアメリカから盗んだんじゃあないのか!?」

 

驚いてしまう。アメリカが盗まれたと叫んでいるのにこの海賊はアメリカを仲間と言っている。

 

艦長「俺達はアメリカに雇われたんだ。技術試験隊としてな」

ロイ「・・・」

 

つい黙ってしまう。つまりこの戦闘もアメリカにとっては予定通りなのだろう。

相手がスキッパー単体なこと以外は。

 

ロイ「テープは回っているのか」

艦長「いいや、回っていない。盗聴器の類も破壊した。

高度何千Mから飛行船で映像を撮ってるぐらいだろう。それがどうした」

 

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艦橋に行くため走るロイ。艦橋に入ったは良いもののもぬけの殻。

すると

 

「自爆まで、後、15秒」

 

自爆までの時間をお伝えするアナウンス。

ロイは急いで走り出しガラスを突き破って海に飛び降りる。

そのまま深く潜ると上の方では爆発音が轟く。

そして浮上する。

 

ロイ「はあ・・・。回収班を呼ぶか」

 

 

 

 

 

アメリカ海軍最新鋭艦インディペンデンス級性能試験報告書

作成者 アルファレッド・ベーズ・ルーウィ大佐

 

スキッパーによる接近は操縦士の腕によって差はあるものの可能。

スキッパーによる接近を避けるため機関銃の配備を検討。

装甲の有効性 攻撃を受けてないため不明

航速の有効性 スキッパー相手のため不明

砲撃速度高速化モジュール 対艦戦の場合は有効と考える(データはない)

実験艦の処理 試験者らによって自沈

試験者の観察 盗聴器及びカメラが全て破壊され不明

試験者の処理 今後も有用性ありと判断し放置

日本への対応 奪還出来ていないため非難、但しUSAマーメイドが行う

 

アメリカ海軍最新鋭艦インディペンデンス級性能試験報告書はこれにて終了

 

 

 

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横須賀基地

 

ロイ「真霜、今回の件で話したいことがある」

真霜「何かしら?、自沈はあなたのせいじゃないと言ったけど・・・」

ロイ「違う」

 

声だけで分かる、その真剣ぶり

 

ロイ「自沈させるよう俺が指示した」

真霜「ちょっと、どういうことよ!!」

ロイ「まだある。このことは決して書くなよ」

 

驚く真霜に報告書に書かないよう釘を刺す。

 

ロイ「あの海賊はアメリカが雇った技術試験隊だった。

あの任務はアメリカからの要請。艦は破壊してはいけない」

真霜「私達は試験の相手にされた・・・」

ロイ「そうだ。戦争は無いと思うがこの話を頭に入れておいてくれ」

 

そう言って歩いていくロイ。

彼の実年齢は分からないがかなり熟練した兵士の雰囲気を醸し出しているよう感じた真霜だった。



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仮面の男

wikiって、凄いな。

情報不足のためハイフリのwiki見ながら書いてます。


4年位時間は進む。

その頃には特戦隊ナナヨコが自由独立戦隊になっており、

どこからも命令を受けない組織になっていた。

だが安全監督室の宗谷真霜一等保安監督官などから情報や依頼を受けるので、

事実上はブルーマーメイドの指揮下だった。

 

ある時真霜はロイにあることを依頼する。

 

横須賀のとあるレストラン

 

ロイ「話ってなんだ?」

 

注文した料理はタコのトマトソース煮。

だがそれには一口も食べず、

さっきから水を飲んでいる。

 

真霜「ええ。私の妹が強制執行課保安即応艦隊にいるの。ただ・・・」

ロイ「不安だから鍛えてくれ、ってことか?」

真霜「そう」

 

身内ビイキと感じたが、鍛えられたブルーマーメイドがいるのはロイにとってもいい。

 

ロイ「やるよ、ここ数年、一年に一回位しか出動してないからな」

真霜「ありがと。何時からお願いできる?」

ロイ「今からでもいいよ」

 

仮面で顔が見えないが余裕のある声で言う。

ただ、今はもう夜である。

 

真霜「あ、明日からでお願いするわ。あなたお酒飲んでるもの」

ロイ「・・・酒だったのか、この水」

 

初めて気づいたトーンの声で言うロイ。

真霜は軽く引いてしまっている。

 

ロイ「取り敢えず明日の0800に事務室集合だ。妹さんと艦のメンバー全員招集。

・・・招集メンバーの名簿も頼めるか?」

真霜「分かったわ。あの子の為に、お姉さん残業します」

ロイ「・・・ごめんなさい」

 

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ナナヨコ事務室

 

ロイ「ああ・・・全員いるな。改インディペンデンス級べんてんの乗組員」

?「たくなんだよ、いきなり呼ばれたら事務室なんて」

 

ブルーマーメイドの制服を着ていない女性が、

同じくホワイトドルフィンも

特別支給されたブルーマーメイドの制服を着ていない男に言う。

 

ロイ「姉からのお願いだぞ。妹の為に昨日残業した」

?「へえ~、あんたが『化物』か」

ロイ「そんな『化物』が教えてくれるんだぞ、真冬」

 

化物。出撃したら大半を皆殺しにすることからそう呼ばれているロイ。

この異名には特に何とも思わないが、噂だけが独り立ちしていってもいる。

国一つ滅ぼして皆殺しにしたとか、家は心霊スポットだとか。

仮面を被り続けていることや見たことある人が少なく

接触が無いのも原因の一つと考えられるが・・・。

 

ロイ「早速だがべんてんに乗って演習する。さっさと動け」

 

こうして始まった訓練。

内容は最大船速以上の速度を出すための練習や

最高速度のスキッパーでブレーキを掛けず設定された狭いコースをカーブしたり、

制圧戦や乗り込まれた時の迎撃戦の演習をした。

しかも一日で。全員の顔から生気が抜けていた。

 

宗谷邸

 

真冬「ただいま・・・」

 

いつもなら大声で言うただいまも、疲れから小声になってしまう。

 

真白「大丈夫?、姉さん」

 

玄関に駆け寄ってくる妹真白。

それを見ると急に元気になり

 

真冬「こんじょおおおちゅう・・・にゅううううう!!」

 

尻を揉もうといくが、体が持たず、倒れた。

 

真白「姉さんが、倒れたああああ!!」

 

パニックを起しているところに真雪が登場する。

 

真雪「かなり絞られたみたいね」

真冬「ああ・・・そうさ。もう、ダメみたいだ」

 

真雪に肩を貸され、立ち上がり、部屋に行く真冬。

扉を開け、部屋に入ると、誰かいる。

 

真冬「あんた誰?」

 

そこにいたのは黒が基調で所々緑の線が入ったコートを着た、

銀髪の青年がいた。

 

?「言ってないんですか、真雪さん」

真雪「多分伝えたら死んじゃうと思って」

?「大丈夫、人はそう簡単に死なない」

 

真白は今だこの青年が誰か分かっていないが、

真冬は分かったみたいだ。その証拠に顔が青白くなり始めている。

 

真冬「まさか・・・ロイ・・・さん・・・」

ロイ「そ~ですそうですそうです。写真とか撮ったりするなよ。

素顔がバレたら大変だから」

真冬「アアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

とんでもない声量で叫ぶ真冬。

耳を押さえる真白。

同じく耳を押さえるも、微笑んでいる真雪。

いい笑顔をしているロイ。

色々な反応があった。

 

真冬はこの後ロイと対応方法や射撃の練習(庭で動く的相手の)をやった。

 

今は帰ってきた真霜と話している。

 

真霜「まさか、仮面を外して家にいるなんてね」

 

家に仮面を外したロイがいてシンプルに驚いていた真霜。

何故仮面を外したかを聞いてしまう。

 

真霜「どうして仮面を外したの?」

ロイ「三女の真白、あの子がね、見た瞬間真雪さんの所に走っていくのよ。

それを見てメンタルが抉られてね。だから仮面外した」

 

実際の所は警察を呼ぶ寸前の所を真雪が止めたのも、結構な理由である。

 

真霜「これからさ、あなたって毎日来るの?」

ロイ「それは流石に無理かな。真冬には艦長として学んでもらうことが多くあるけど、

毎日やったら精神が死んで自殺してしまう。少し昔の感覚で、教えてしまっているから、

それを直していかないといけないし」

真霜「昔も教官職を?」

ロイ「ああ・・・そうだな。結構前。それと同じスケジュールでやってた」

 

そういうロイの目は、何かとても遠い、だがしっかりと見ている目をしていた。

 

ロイ「そろそろ帰る時間だ。また来るから、その時は通報しないよう言ってくれ」

真霜「分かったわ。ロイ・・・」

 

真霜は分かった気がした。母がなぜ4年程前からロイのことを信頼していたのか。

昨日も名簿を作り終えた後、それをもらうためずっといたこと。

彼が参加した任務の死者が、想定よりも圧倒的に少ないこと。

そして家にまで来て教えていたこと。

 

今なら私も、はっきり胸を張って言える。

 

真霜「彼は良い人ね」



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前世とは違う

途中勝手に考えた、ハイフリの歴史が入ります。
どうでもいい人は読まずに下にスクロール。


宗谷邸

 

真白「うう・・・」

 

椅子の上で項垂れている彼女は、何かの紙を持っていた。

 

真白「なぜだ・・・なぜこんなにも低いんだ・・・」

 

その紙は先日受けた横須賀女子海洋学校の模試が、

入学不可能という書き込み付きで帰ってきたからである。

別に彼女が勉強をサボっていたとか、本気で受けていないとか、

知能指数が猿並の馬鹿ということはない。

寧ろその逆で積極的に勉強しており、成績も優秀な部類に入る。

だからこそ、目の前の現実が受け入れられない。

 

真白「ははは・・・ははは・・・」

ロイ「大丈夫か?」

 

真白が絶望に飲まれているところに、

教材を詰めた箱を持ったロイが現れる。

 

真白「ああ・・・ロイさん・・・私もうダメかもしれません」

 

そういう顔は笑顔であるが、目がとても濁っていた。

流石にロイも、何があったのかを聞いてしまう。

 

ロイ「何があった、大丈夫か!?」

真白「模試・・・模試・・・模試があぁ・・・」

ロイ「模試がどうした!!」

 

その時ロイは真白が紙を持っていることに気付き、それを奪って見る。

 

ロイ「なにがあったらこんな点数を叩き出せるんだ、

お前・・・しっかり勉強していたよな?」

真白「うん・・・」

 

ロイが模試を奪ったことで、正気を取り戻してきた真白。

 

ロイ「解答用紙はあるよな?、

なんでこんな点数になったか、分析するぞ」

真白「うん、確かここに解答用紙があった気が・・・」

 

早速解答用紙を見始めるが、その瞬間、ロイは笑ってしまった。

 

真白「な、なんで笑うんですか!?」

ロイ「真白・・・お前、ちゃんと見直ししたか?」ケラケラ

真白「ちゃんとしましたよ!!」

 

笑い出したロイに少し怒り気味で返してしまう。

そんな真白に、ロイはある一言を言い放つ。

 

ロイ「回答欄が一つずつズレてるやん」ケラケラ

真白「///」カァーッ

 

急いで真白は解答用紙を見る。

確かに、途中から一つずつズレている。

 

ロイ「そこ以外は基本大丈夫だから。元気出せって」

 

笑うのを辞めて励ますロイ。

真白はロイにあるお願いをする。

 

真白「あの・・・私にも、教えてくれませんか?」

 

真白のお願いは、勉強の指導だった。

少しでも不安を軽くするためのことだ。

実際にロイの指導を受けた真冬達べんてんは活躍している。

そこから考えたことでもあった。

 

ロイ「いいぞ。早速、なにか不安な所や苦手な所はあるか?」

真白「うん。この問題の所が・・・」

 

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図書館

 

ロイ「海戦研究・・・陸戦研究・・・艦船・・・」

 

早速だが、今俺は図書館に来ている。

理由としては、真白の歴史の教科書を見て前世と今の世界の差の大きさを知ったからだ。

陛下が第二次世界大戦が無く、日本は海に沈んでいると言っていたが、

他にもまだ違うことが多い。

まず飛行機やミサイル、ヘリコプターとかの空を飛ぶものが無いのだ。

ライト兄弟め、しくじったか。

そのおかげで飛行船がまだ空の主役を務めている。

そのため空母は無く、飛行船支援母艦なるものになっている。

そして加賀は空母になること無く、戦艦として活躍している。

他にも世界史でアドルフ・ヒトラーと調べると、

ドイツ第三帝国の総統 1945年死去

と書いてあった。詳しく調べると第一次世界大戦で大怪我を負い、

そこから世界平和がなんたらと書いてある。

弱体化したドイツ復活のため、オーストリアなどを併合しているのは変わらないが、

ダンツィヒ要求の際、最新の戦車や武器を大量に渡すことで回収しており、

世界大戦は回避された。その後ポーランドはソ連と戦うも、

英仏独がポーランドを支援したためソ連は白紙講和をする。

最期はベルリンの総統地下壕を視察し出た直後、

過激派によって妻とともに殺害されている。

ムッソリーニとは平和主義者という点で仲が良く、

彼が反体制派によって妻と共に殺され、

吊し上げられた際、とても悲しんでいる。

余談だが、彼の描いた絵は彼の故郷オーストリアの美術館で、

大切に保管されているらしい。イタリアにも幾つかあるようだ。

 

ロイ「はぁ・・・大きすぎるだろ」

 

溜口を零しながら帰ろうとするが、

ふと手を伸ばしているツインテールの少女を見つける。

どうやら欲しい本が高いところにあり、届かないようだ。

 

ロイ「この本か?」

 

ロイは少女が欲しいと思われる本を取って聞く。

 

少女「あ・・・ありがとうございます」

 

そういうと少女は本を取って走っていった。

 

ロイ「急いでたのか。にしてもここは酷いな。

高いところの本を取る手段が無い」

 

図書館を出ると、そこには真雪がいた。

 

真雪「あら、ロイ君。その格好で外出していたのね」

ロイ「そうですが・・・どうかしましたか?」

真雪「いえ・・・まあいいわ」

 

軽く困惑しているが、それこそがロイ、という考えをする。

 

真雪「そういえばロイ君は、昔教師をしていたの?」

ロイ「はい。だいぶ前ですが」

 

真霜から聞いたと思われるロイの過去。

 

真雪「ねえ。学校で先生やってみない?」

ロイ「うん・・・うん?」

 

あまりにも突然なことで、驚いてしまう。

 

真雪「横須賀女子海洋学校で海洋実習の時は人手不足なのよ。

取り敢えず来年の春から、どう?」

ロイ「いえ、大丈夫ですけど、教育免許持ってませんよ」

真雪「大丈夫よ、海洋学校はブルーマーメイドやホワイトドルフィンの職員を

特別講師として呼べるのよ。別に免許はいらないわ」

ロイ「それなら安心して教壇に立てる」

 

一安心したロイ。そうしているうちにロイは目的の場所につく。

 

ロイ「それではこの辺で。教師の話、来年の春からですね」

真雪「ええ。けど春休みの時に一度呼ぶから、覚えておいてね」

ロイ「分かりました。それではまた明日」

 

 

時間は過ぎ、夜になる。

するとロイの近くの海面が急に膨れ上がる。

 

ロイ「予定道理の到着だな」

 

そういうと膨れ上がった海面から潜水艦が現れる。

 

妖精「横七から電文です。

四月上旬に一度戻ってこい、と言っています」

ロイ「あいつがそこまでいうとは、何かあったか?」

妖精「なんでも面白い発見があったそうで、

それが形になるまで結構時間が掛かるようです」

 

横七からの電文の内容を気にしつつ、潜水艦に入るロイ。

そこには前世では一部の人にしか見えない妖精がいた。

 

艦長妖精「前回と同じく、このまま潜航して待機します」

ロイ「頼む。俺はもう休む」

 

 

そう言って奥に行くロイ。

この船が、今のロイの家である。



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死の告知をもう一度

今回は、短いです。                      「また髪の話してる」


宗谷邸

 

真冬「そういやお前・・・初詣行ったか?」

真白「・・・まだだ・・・」

真冬「じゃあ早くいくんだな。今ならもう空いているんじゃないか?」

 

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諏訪大神社

 

真白「嘘つき・・・」

 

真冬の言ったことを信じて来たが、とても混んでいる。

恐らく真白と同じで受験勉強に熱中しすぎて初詣を忘れた人が大半だろう。

もしかしたら遠方から来ている人が、頃合いを見計らったが、ミスったのかもしれない。

なにせこの神社は学業の神がいるのだから、学生が来ないはずがない。

 

真白「ついてない・・・」

 

つい口癖を言う真白。

一日に一回は言っているように感じる。

 

ロイ「やっぱり、真白だ」

 

するとそこにロイがやってきた。

 

真白「ロイさん・・・どうしてここに?」

ロイ「真霜に初詣行って来いって言われたから来た。

言われてなかったら今はドックにいるな・・・」

真白「いちお来ようよ、日本なんだし・・・」

 

ロイはドイツ生まれなので、日本文化はあまり気にしていない、

だが真白はそれを知らないので、言ってしまった。

 

ロイ「もう番が回ってきたな。二礼二拍手一礼だよな」

真白「うん。その前に五円玉を・・・」

 

しかし真白の入れようとした五円玉は、後ろから飛んできた硬貨に弾かれて、

どこかに行ってしまった。

 

真白「お賽銭を弾かれるなんて、ついてない・・・」

ロイ「おいおい、そんなんで大丈夫かよ・・・」

 

この後おみくじを買ったのだが、

真白にとってはいつもどうりの大凶だった。

しかも印刷されている字が潰れて読めない。

ロイのおみくじを、横から見る。

 

真白「ええっと、ロイさんの運勢は・・・『死』!?」

ロイ「死、だな。一応他にはなにが書いてあるかな・・・。

『外国で良い人と出会い、友人になる』

『運命の人に出会える』・・・」

真白「それって普通に吉か大吉じゃん!!」

 

確かにそうだろう。この二つだけなら『死』という運勢にはならない。

 

ロイ「『過去から来た者が命を奪う』『逃げても必ず追いつく』」

真白「な・・・、死刑宣告」

ロイ「ラッキーアイテムは・・・『消える命』」

 

ドンドン暗くなる真白とは逆に、覚悟の決まった良い顔をするロイ。

 

真白「ロ、ロイ・・・さん?」

ロイ「過去から来た者、いったい誰だ?、しかし、今度は必ず乗り越える。

送られてきた死の運命に、今度こそ勝って見せる」

真白「今度・・・こそ?」



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出店要請

ブルーマーメイド横須賀基地

 

ロイ「ブルーマーメイドフェスタ、なんだそれ・・・」

真霜「年に一度行うブルーマーメイド主催の祭りよ。

貴方も参加してみない?、スペースに空きがあるから」

 

実の所これは嘘だ。ロイのことを世間に広げるため、

不人気の所を潰して交代させた。

 

ロイ「ああ・・・参加しようかな、何でもやっていいんだな?」

真霜「もちろん。企画書を提出して許可が降りれば、何でも良いわよ」

ロイ「なににしようかな・・・スキッパーはつまらないし、出店でいいか」

 

早速考えが纏ったロイに、真霜が尋ねる。

 

真霜「あなた・・・料理できるの?」

 

一番の不安。出店が原因のトラブル。何かあったらヤバい。

 

ロイ「勿論。そんなに不安なら今からお昼ご飯作ろうか?」

真霜「ええ。出来れば出店で出す奴と同じのでお願い」

ロイ「あいよ。買出し行ってくる」

 

------------------------------------------------------------------------

 

ロイ「只今お戻り。直ぐ作るから、待っててくれ」

真霜「はぁい」

 

この間に真霜は色々考える。

何を作るのか。祭りの定番、唐揚げや綿菓子、りんご飴。

しかしそれでは昼食として真霜に出せない。

じゃあカフェのような軽食か。となればサンドイッチか。

そう考えていると、ロイが皿を持って帰ってくる。

 

ロイ「どうぞ。これが出店で出す予定の料理だ」

 

皿に乗っているのは、80g位のステーキ牛肉だった。

 

真霜「こ、これを出店で出すのね・・・」

ロイ「そう。量が多くないから他の店も回れる。

椅子と机を出すから食べやすい。

安い肉を使っているから赤字にはならない」

真霜「お、おいしい。柔らかくて肉汁もたっぷり。だけど脂は少ない・・・、

これ本当に安い物を使っているのよね!?」

 

あまりの美味しさに本当に安いかを聞いてしまう真霜。

 

ロイ「ぬふふふ、真の料理人は、安い食材で高級の味を作るのだよ・・・」

真霜「ど、どうやったらこんな風になるのよ!!」

 

どのような技があるのかを聞く真霜。

 

ロイ「企業秘密かな。とにかくこれでいいか?」

 

しかしロイはそれに答えない。

 

真霜「・・・まあ良いわ。これが詳しい予定だから。

それとこれが地図ね。無くさないでよ」

ロイ「分かった。ありがとう」

 

こうしてブルーマーメイドフェスタに参加することになったロイ。

しかしそれを一番嬉しがっていたのは、真霜では無くとある

艦船の乗務員であることを、まだロイは知らない。



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仮面を付けた、出店のコックさん

ロイ「分かりました。それでは、すこしお待ちください」

 

仮面を付けて接客し、そのまま厨房で料理を作る。

この出店にはかなりの人が並んでいる。

テレビ局のカメラが来ているが、対応しない。

向こうも行列が出来ているので近付けない。

 

ナナヨコのレストラン。

 

80gの肉とそれに付いてくる少量の野菜のみが注文できる出店。

価格は300円。テーブルは4つ。

 

売りは美味しさと謎のウェイトレス兼コックのロイ。

 

ロイの素顔を探るためカメラが幾つか仕掛けられてたが、全て潰した。

扉には鍵が掛けられており、無理に開けようとするとサイレンが鳴る。

まあずっと仮面を付けているので、撮りたいものは撮れないが。

 

そんなこんなで一気に時は過ぎ、閉店の時間になる。

テーブルや椅子は倉庫に。コンロや冷蔵庫は自前なので潜水艦を呼ぶ。

そうしていると、真冬が現れる。

 

ロイ「どうした、もう料理は出さないぞ?」

真冬「違えよ、付いてこい‼」

 

真冬に連れられて、来たのは何かのステージだった。

 

司会「それが対戦相手でいいですね?」

真冬「勿論だ。日頃の恨み、今ここで返す!!」

 

日没前のイベント・・・何だったっけ。

これから行われることが分からず頭を回す。

その間に答えが回ってくる。

 

司会「格闘大会前回、前々回王者の真冬さんが連れてきたチャレンジャー、

ここ横須賀基地では知らないものはいない、

ナナヨコ隊長、化物の異名があるロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ!!」

ロイ「格闘戦か、そんなんで呼んだのか・・・」

 

場は盛り上がっているが、そんな様子をただ見ていたロイ。

司会が勝利条件を言っていたが、聞き逃してしまう。

 

ロイ「すまないが・・・ルールを変えさせてくれ。

制限時間なし。何でも使っていい。そして俺は真冬に攻撃しない。

試合は真冬が諦めたら負け、これでいいか?」

 

この発言を受け、さらに盛り上がってしまう観衆。

真冬はとても悪い笑顔をしている。

 

司会「・・・それでは、試合スタート!!」

真冬「でやあああぁぁぁ!!」

 

開始早々全速力で突っ込んでくる真冬。

 

司会「今年も出た!!、チャンピオンの必殺技、先制突撃。

大半の挑戦者は、ここで敗れてしまう!!」

ロイ「遊んでるのか?」

真冬「なに!!」

 

しかし、その攻撃はロイに当たらない。

 

司会「何という事だ!!、壁を蹴って空中に逃げた!!」

ロイ「来なよ、反撃を恐れず、ただひたすら殴りに」

真冬「ば、馬鹿にするなよ!!」

 

そして繰り出されるパンチは、全て寸で躱されてしまう。

 

司会「すごい!!、チャンピオンが手も足も出ない!!」

ロイ「どうした!!、まだ一発も殴れてないぞ」

真冬「まだ・・・まだ・・・」

 

しかし真冬は既にもう疲れていた。

理由はロイが防御の時に真冬の腕を少し引っ張ったり、

肘を押すことで止めたりしていたからだ。

 

真冬「こんな・・・こんなはずじゃ・・・」バタッ

司会「な、なんてことだ!!、絶対王者、宗谷真冬が今、倒れた!!」

ロイ「もう終わりか?、じゃあな。まだ片付けが終わってないんで」

 

呼び止める司会に背を向け、出店に戻るロイ。

すると途中で真白が現れる。

 

真白「ごめんなさいロイさん、迷惑じゃなかった?」

 

早速謝る真白。実は真白は真冬がロイと戦うことを知っていた。

今朝も技の練習をずっとやっており、

それが原因で真白がボランティアとして運営に参加していた。

武蔵に乗れず、少し悲しんでもいる。

 

ロイ「大丈夫だ。それよりもお腹は空いているか?」

真白「うん。お昼食べる時間が無かったから」

ロイ「そうか。少し待っててくれ」

 

そういうと潜水艦に入っていき、一度目は机と椅子を。

二度目は出店で出していた料理を出して戻ってきた。

 

ロイ「少しだけお肉が余っててね。一人じゃ食べきれないから、真白にあげるよ」

 

因みに言うと、これは嘘である。

人気だったため余りはほとんど無く、ロイ一人でも十分食べきれる、

というよりもこの肉は、潜水艦に元からあった食料である。

 

真白「ありがとう。大人気の料理を食べれて、嬉しいよ」

 

 

 

 

 

 

?「くそう、くそう・・・」

 

そんな二人の姿を見て、ひとり悲しんでいる人がいる。

 

真冬「訓練の恨みも晴らせず、ただ負けた。

それにあのステーキ、私も食べたかった・・・」

 

草叢に体を隠し、涙を流す真冬。

そこにロイがやってきて、

 

「お前の分もあるから、ほら行くぞ」

 

腕を掴まれテーブルまで引き摺られていく。

 

その後は皆で出されたステーキを食べ、笑っていたとさ



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卒業試験で卑怯とな・・・

これが最後の・・・投稿ラッシュだ・・・。

実を言うとこっちが先に出来てて、
だけど物語的にこの話は投稿出来ませんでした。


ブルーマーメイド横須賀基地 ナナヨコ事務室

 

ロイ「今日は卒業試験だが、やることは単純。

このヘッドセットを付けると仮想空間に行ける。そこで行う海戦に勝て」

真冬「使う船はべんてんか?」

ロイ「そうだ。お前たちはべんてんを使う。

俺は潜水艦を使う。ここまで言ったんだ。勝てよ」

 

そういうとロイは椅子に座りヘッドセットを付ける。

 

真冬「私達も行く」

 

その言葉を皮切りに次々と座りヘッドセットを付けていく。

 

眩しい白の光から、景色が変わると海が見える。

べんてん乗組員は皆、この光景に驚いていた。

 

ロイ「試合開始まで、後5秒・・・4秒・・・3秒・・・2秒・・・1秒・・・試合開始」

 

CVロイによる開始のアナウンス。

べんてん乗組員はさっきまでの驚いていた様子からいつもの真剣な表情に変わっていた。

 

真冬「対潜戦闘用意。爆雷、対潜迫撃砲、対潜魚雷。いつでも打てるよう準備。

水測員はなに一つ聞き逃すなよ」

「「「「「了解」」」」」

 

急いで体制を作ったものの、ロイからの攻撃はなにも来ない。

水雷員からの提案でソナーを打ったが何もなかった。

強いて言うなら海底の形もしっかり再現されている事だった。

 

真冬「いつになったら姿を現すんだ」

 

既に試合開始から20分が過ぎている。

30分の試合なのであと10分しかない。

そしてこの10分の内にロイがくる。

 

真冬「倒せなかったら留年だろ。あたしたちは学生じゃないんだ。

もう誰かに先生だなんて呼ぶのはごめんだ・・・」

 

愚痴を零してしまう真冬。もうあまり時間が無い。

 

真冬「機関第五戦速。探して潰す。水測員はなにかあったら直ぐに伝えろ」

 

あまりにも動かない状況を動かすため、とうとう真冬が移動の指示を出す。

しかし9分経っても見つからない。

後10秒。もうダメか。そう思った瞬間、映像が切れた。

 

 

 

ロイ「お疲れ様。残念ながら、今年は留年だな」

 

ヘッドセットを外しながら、ロイを睨む真冬。

 

ロイ「怖いなぁ。映像の録画はしているから、これを見ながら話そう」

 

スクリーンにさっきの演習の映像が映し出される。

すると驚くべき映像が流れる。

 

真冬「な・・・卑怯だぞ、ロイ!!」

 

それは・・・べんてんの真下が、ロイのスタート地点だった。

しかも移動を始めると、それに合わせて動いてくる。

 

真冬「こんな戦い方あるか!?、冗談じゃないぞ!!」

 

もうキレて怒鳴りまくりな真冬。しかしロイはある一言を言う。

 

ロイ「お前らの勝利条件はなんだ?」

真冬「・・・ロイの潜水艦を沈めること」

ロイ「違うね」

 

真冬が答えた直ぐ後に言う。

 

真冬「じゃあ、なんだっていうんだよ」

 

否定された解答。正解を聞いてしまう。

 

ロイ「お前たちの勝利条件は二つ。

一つはさっき言った通り俺の指揮する潜水艦を沈めること。

もう一つは、演習が終わるまで沈まないこと」

真冬「な、なにもしないで勝ちなのかよ」

 

戦わなくても勝っていた。といことは今回はロイに沈められたという事。

その部分が今流れていた。

 

試合終了10秒前、べんてんを謎の棒が貫いた。

その棒は海中の潜水艦から出ていた。

 

真冬「魚雷じゃない・・・。なんだこれは」

ロイ「鋼鉄製の棒。それを勢い良く突き出すとこうやって沈めれる」

真冬「こんなの・・・こんなの卑怯だ、卑怯だ、卑怯だ!!」

 

この一言が、べんてん乗組員全員の怒りを噴火させた。

ロイに対し悪口を言うもの、ヘッドセットを破壊する者、ロイに殴り掛かる者までいた。

 

ロイ「ああ・・・ああ!!、分かった。そこまで言うなら正々堂々現実世界で戦ってやる。

但しもう時間が無いからゴールデンウイークにやる。それでいいか!!」

 

その提案に、全員が賛成を示す。

それを見て、ロイは席を立つ。

 

真冬「これからどこ行くんだ?」

 

扉から出ていくロイに、聞く真冬。

 

ロイ「ドイツだ。ゲルマンマーメイドが俺の戦果にケチ付けたから、証明しに行ってくる」

真冬「ゲルマンマーメイドから?、何があったらそうなるんだ」

ロイ「どうも日本は一人に多大な戦果を与える癖がある、って言うドイツ海軍の提督がいてな、

そこからブルーマーメイド経由で話が飛んできたんだ。

二日後にはゲルマンマーメイドと演習試合。

三日後にはドイツ海軍と演習試合。帰れるのは三月の下旬頃だ」

 

一人で艦隊戦。それをやるのがロイなのだが、その戦果を今だ信じれて無いものはいる。

その為にこういったことが起きる。だがロイにとっては嬉しいことだった。

 

真冬「ドイツまでの旅費が無料か・・・。ドイツのどこなの?」

ロイ「ヴィルヘルムスハーフェン。四泊五日だ」

 

こういったことの経費は全てブルーマーメイドが負担している。

演習はあるもののそれ以外は旅行と同じだった。

 

真冬「羨ましいな。あたしも連れてってほしいな」

ロイ「ダメだ。俺がいない間に受験があるんだ。

最後の最後であいつは落とす奴だからな」

真冬「分かったよ。真白のこと、任せてくれ」

 

こうしてロイはドイツに行った。

飛行機は無いので飛行船で行く。

その間にロイは作戦と旅行計画を立てていた。



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彼が使う電話はだいたい壊される

閲覧のモードで自分が書いた作品を見てるとよく間違いを見つける。
なんでだ?               あなた・・・憑かれてるのよ。

えっ?



と、ともかく、『』はドイツ語で「」は日本語、です。
投稿してからしばらくたってこれを付け加えたので、
付け加える前に読んで混乱してしまった方に、
謝罪します。申し訳ございません。


ドイツ海軍 エーリヒ・デーニット事務室

 

エーリヒ『君は少ししゃしゃり出過ぎだ。今なら自分の戦果が嘘であることを認めれば、

演習は中止される。君が傷付くことはない。さあ、教えてくれ。

あの報告書に書かれたことは、全て嘘だね』

ロイ「くたばれ、お前は一生藤壺掃除してろ」

 

エーリヒは、日本語が分からない。

だからこんな暴言が言える。だが後ろにいるヴィルヘルムスハーフェンの校長は違う。

ロイの吐いた暴言を聞き、それをエーリヒに伝えようとするが、

それはロイによって遮られる。

 

ロイ『すみません。こちらの方が良いですね。

あの報告書に書かれていることは全てが事実であり、

僅かな偽造も捏造もございません。それでは』

校長「・・・」

 

通訳としてこの場に呼ばれたのに、その必要は無かった。

校長は、少しだけショックを受けている。

 

ヴィルヘルムスハーフェン校

 

ロイ「ドイツの海洋学校か。春から俺も先生になるし、

一応ドイツの教育を見ていくか・・・」

 

こんな風に言ってはいるが、今は三月下旬。

所謂春休みという時期だった。

だがロイがそのまま食い下がることは無く、

ドックや艦船を見学し、昼食を摂るため町に出た。

 

ヴィルヘルムスハーフェンのとある裏路地

 

そこには三人の女子と一人の幼女がいた。

 

?『残念ね、ヴィルヘルミーナは今ここに居ないの、どういうことか、お分かり?』

?『良く考えるのはあなた達の方ね。私がなんの策なしに

あなた達に付いていくと思った?』

 

この様子から、女子と幼女が喧嘩ことも分かる。

するとそこに地図を持ち、仮面を被った黒が基調で所々緑の線が入ったコートを着た、

間違いなく警察に通報される服装の人が来た。

 

ロイ『そこで何をしている!!』

?『それはあんたの方でしょ』

 

その通りだ。何があってもロイがそう言えるとは思えない。

 

?『漸く来たか。これが私の策だ』

ロイ『その通り、これが彼女の作戦。少し道に迷ったが、このロイ。しかと見参した』

?『あんな奴と繋がりのあるなんて。引き揚げる。撤収だ!!』

 

少女達は逃げていく。その姿が見えなくなってから、幼女がロイに話し掛ける。

 

?『すまない。いきなり巻き込んでしまって』

ロイ『大丈夫だ。君こそ大丈夫か?、姉や親はどうした、近くにいるのか?』

 

ロイの会話だけを聞けば、誘拐犯のそれだ。

実際、そう勘違いした者もいる。

 

?『貴様・・・我が艦長テアを誘拐しようなど、このヴィルヘルミーナがさせんぞ!!』

ロイ「ビスマルク!?」

?「なんじゃお前!?、儂をなぜあの鉄血宰相と同じ名で呼ぶ」

 

現れたのは、ビスマルク(勿論艦これの)に似た人物だった。

 

ロイ「すまない。昔の知り合いに似た人がいたから、間違えた」

?「そ、そうじゃったのか、まあいいが・・・」

?『私は日本語が分からないんだ。ドイツ語で喋ってもらえないか?』

 

言語の壁で困っている幼女が、これ以上日本語で喋られないよう、声を出す。

 

?『すまないテア。それよりも大丈夫か?』

テア『大丈夫だ。この人のお陰で無事だ』

?『そうか。それよりもお主、なぜこんな路地裏にいる。

まさかお主も同じようなことを・・・』

 

テアの安否が分かり、一度落ち着くがロイのことを気にしだす。

 

ロイ『私はロイ。ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ。日本のブルーマーメイドの

自由独立戦隊ナナヨコで隊長をしている』

テア『ナナヨコ・・・ロイ・・・化物の・・・』

ロイ『俺って案外有名?』

?『そうじゃ。お主はヨーロッパだと良い意味でも悪い意味でも有名じゃ』

ロイ『まじか・・・それよりも君達は?』

 

ロイは自己紹介をしたが、二人はまだ自己紹介をしていない。

 

テア『私はテア・クロイツェル。ヴィルヘルムスハーフェン校で

アドミラル・グラーフ・シュペーの艦長をしている』

ミーナ『儂はヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクだ。同じくアドミラルシュペーで副長をやっている』

ロイ『おいおい待ってくれ。ヴィルヘルミーナが副長なのは分かる。

だがテア、お前が艦長なのか?』

テア『そうだ・・・何か問題があるか?』

ロイ『いや・・・まあ・・・問題はないかな』

 

身長が異常に小さいため、艦長が務まるか不安になる。

だが前世では北方棲姫なる者がいたのを思い出し、

まあ大丈夫だと思い直す。

 

ロイ『それよりも近くの喫茶店を知らないか?、

何分ドイツは初めてだから、全く分からなくて』

テア『確かに地図を持って現れたからな。

分かった。近くのお薦めの喫茶店に案内しよう』

 

そして行った喫茶店

 

ロイ『そういえば、さっきヴィルヘルミーナ・・・長いからミーナでいいや。

ミーナが俺を悪い意味でも有名と言ったが、何故だ?』

ミーナ『ミ・・・ミーナ。まあ悪い気はしないな』

テア『あなたはスキッパーで暴れてるでしょ?、あれがこのスキッパー大国が多い

ヨーロッパじゃあ嫌われてるのよ』

 

スキッパー大国、ヨーロッパは本当にスキッパーが多用されている。

英仏海峡横断も可能になったし、海に面している所では必ずスキッパーを

一家に一台持っている。

そしてロイはそのスキッパーで甲板上陸したりする。

それが原因で横須賀基地のスキッパー消費量は多い。

何せ修理出来ないほどに壊すからだ。

ドイツではスキッパーが修理不可能な程破壊されると

ロイの名を使って修理出来ない旨を伝える。

スキッパーを破壊するのはヨーロッパにとって馬鹿にされているのと同じなのである。

 

ロイ『そうなのか、これからは少しも控えないが・・・』プルルルル

 

電話 ドイツ海軍

 

着信を切る。

 

テア『出なくていいのか?』

ロイ『問題ない。それよりも食事を・・・』プルルルル

 

電話 ドイツ海軍

 

着信を切る。

 

ミーナ『本当に出なくていいのか?』

ロイ『大丈夫、だから早・・・』プルルルル

 

電話 ドイツ海軍

 

着信は切らない。迷惑にならないよう店の外に出ていく。

 

ロイ『もう二度と電話かけてくるな、良いな!!』グシャ

 

この声は、店の中にまで勿論聞こえている。

 

ミーナ『あはは・・・本当にそれで良いのか?』

ロイ『大丈夫だ。少なくとも、この電話は二度と鳴らない。

それよりもこのカッセラーは美味いなあ・・・』

テア『そ、そうか。それは何よりだ』

 

このように始まった食事は、全員が満足するものとなった。




誤字報告を受け、修正しました。
指摘してくださった 二次創作を愛する 様ありがとうございます。


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演習で沈む    昔を思い出す  

テア達と出会った日の夜

 

ロイはホテルの一室から昼頃電話を掛けてきた人物に電話をする。

 

エーリヒ『君が私に電話を掛けてくるとは、昼頃の無礼を忘れたのかな?』

ロイ『そんなことはどうでもいい。それよりも、明日と明後日の演習の話だが、

今回の演習で発生する全ての被害とその責任は全てドイツが請負う、ということでいいよな』

エーリヒ『ああ、構わないよ。だが急にどうした?。

もしかして、怖気づいたとか?』

ロイ『今回の通話は録音している。それではな』

 

こうしてロイは電話を切った。

その後、ロイは二日間の演習で使う物の整備をした。

 

翌日 ヴィルヘルムスハーフェンゲルマンマーメイド基地

 

ロイ『良い演習にしよう』

ブルマー『ああ。上が君のことをどう思っているかは知らないが、

少なくともスキッパー産業の関係者は君のことが好きだよ』

ロイ『たくさん注文してくれるからか』

 

ゲルマンマーメイドはジョークが大好きらしい。

そう感じたロイだった。

 

司会『それではこれより、サムライマーメイド所属、自由独立戦隊ナナヨコと、

ゲルマンマーメイド所属、ヴィルヘルムスハーフェン艦隊の演習を始めます』

 

なお、この試合はテレビを通して世界同時放送と、

現場での観戦が出来るようになっているが、

この時間、日本は夜で受験前。そのため真白はこのことを知らない。

 

 

ロイ視点

 

ロイ「戦艦4・・・巡洋艦12・・・駆逐31・・・潜水艦1、

エーリヒ、俺をどれだけ潰したいんだ・・・」

 

海賊退治と同じ感じでスキッパーで上陸してもいいが、

戦艦や巡洋艦が多いので、もしかしたら非難されるかもしれない。

あのエーリヒとかいう海軍司令は気に入らない。

だが真霜達に迷惑を掛けるわけにもいかない。

非難されないよう、スキッパーによる艦隊決戦を正攻法で行おう。

 

向こうが砲撃を開始してきた。対策を考えたのか、

砲撃を密集させてきている。

 

 

 

やべえ・・・当たる。

 

 

客席

 

テア『大丈夫だろうか・・・』

 

客席からはゲルマンマーメイドを応援する声のみが聞こえてくる。

 

ミーナ『・・・多過ぎる。何故一人にこれだけの戦力を』

テア『他の国の所属にも応援を出したのか?、

あれはクイーンマーメイド所属艦だ』

ミーナ『イギリスまで?、どうしてでしょう』

 

客席からもそのことに気付いたのか、疑問の声も聞こえてくる。

だがもう演習は始まってしまった。

ロイは中型スキッパーで連合艦隊に向かっていく。

そして砲撃の的になった。直撃しているかもしれない。大怪我では済まないかもしれない。

だが、ミーナはしっかりと見た。

砲撃が当たる数秒前に、スキッパーから黒煙が上がっていた。

 

客『やっぱり、化物のロイなんて日本の嘘だったんだ』

客『だがよ、あれはやり過ぎだと思うぜ』

客『良いんだって。こうでもしなきゃ反省しないだろ』

 

既にもう帰ろうとしている者もいる。

ミーナは隣に座っているテアを見る・・・いない。

 

テア『ロイは化物じゃない!!』

 

滅多に叫ばないテアが叫んでいる。

その方向を見れば昨日路地裏にいた少女達がいる。

 

少女『そうね。今じゃもうただの亡骸ね』

テア『ロイは生きている!!、まだ演習は終わっていない』

少女『でも実際・・・』

 

何かを言おうとしたとき、場が動いた。

戦艦が3隻、ほぼ同時に沈んだ。

 

 

 

在り得ない。使っているのは演習弾だ。

大破しても沈むことはないはず・・・。

それにロイの姿はまだ見えない。

 

テア『どこだ。ロイはどこだ』

ミーナ『戦艦の近く・・・あれは航跡?、だがスキッパーじゃない』

テア『魚雷か?、それならスキッパーに取り付けることができるかもしれない』

 

会場は軽いパニックが起きていた。

戦艦3隻が沈んだ。それはつまり、あの砲撃の中をロイが生き残り、

演習弾でも沈めれるほどの数の弾を誰にもバレずに叩き込んでいた。

それからというもの、次々と沈んでいく。

そして、全ての水上艦が沈んだ時、ロイが煙の中から現れた。

 

ミーナ『何をやっているんだ』

 

スキッパーの上で、棒立ちのロイ。

右手には中華包丁の刃を長くした刃物を持っている。

しばらくして、その刃物を海中に向け、発砲する。

すると潜水艦が浮上して、ハッチから人が溢れてくる。

全員が離艦し終わると潜水艦が爆発した。

 

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェン 海軍基地 エーリヒ・デーニット事務室

 

エーリヒ『申し訳ございません。次こそは必ず殺します』

『そこで何をしている・・・』

エーリヒ『!!』

 

電話を置いて、溜息を吐こうとしたが、固まる。

そして見る。仮面を付けて、黒が基調で所々緑の線が入ったコートをきた人を。

 

ロイ『今の電話は何だったんだ、エーリヒ提督』

エーリヒ『君こそ、晩餐会に行かなくていいのか』

ロイ『あんなもの、行く必要が無い』

 

一階の大広間では晩餐会が行われている。

ドイツの財界や政界の大物と俳優達がいる。

 

ロイ『本題に入ろう。明日の演習に参加する艦船が無い。

つまり演習ができない。提督閣下はどうなさるおつもり?』

エーリヒ『それについては、私の方でも考えていた。今回轟沈したのは48隻。

もうゲルマンマーメイドは壊滅しました。海軍とドルフィンで穴を埋めています』

ロイ『・・・それだと余計ダメなんじゃないのか』

 

溜息を吐くロイに、自信満々の表情で、言う。

 

エーリヒ『直教艦。あれを使いましょう』

ロイ『・・・あ゛?』

 

後日、顔を殴られ意識不明のエーリヒが発見された。

 

結局、ドイツ海軍との演習は中止された。

帰ろうか悩んだが、まだ一日あるので、ヴィルヘルムスハーフェン校で過ごすことになる。




タイトルの話、昔の艦これであったバグです。
ですが最近プレイしだした私はまだ出会ったことがありません。
けど出会いたくないな、心臓が停まる気がする。


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演習のネタ晴らし

ヴィルヘルムスハーフェン校 

 

ここは今、絶賛春休みである。

 

だが、とある教室では、定員オーバーレベルで人が集まっており、

椅子が普段は横一列八個なのに対し、十三個も並んでいる。

それに加え、縦七列なのに対し、十四列ある。

はっきりと言おう。満員電車に近い状態だと。

それでも黒板のある前方は比較的に空間がある。

そしてそこには、黒のトレンチコートを着て仮面を付けたロイがいた。

何故こうなったか、それは数時間前に遡る。

 

 

 

ロイ『それにしても暇だな』

ミーナ「・・・すまないが、儂は次の遠洋実習で日本に行く。

 だから日本語で会話をしたいんじゃが、いいじゃろうか?」

ロイ「いいよー、それにしても、このシュペーって船、

 本当に巡洋艦なのか怪しくなるレベルだよねー」

 

ドイッチュラント級装甲艦、

史実では全て沈んでいるが、それでもしっかりと活躍はしている。

28㎝3連装砲二基、15㎝単装砲八基、それに加え、魚雷を持っている。

ポケット戦艦とも言われるが、しっかりとした巡洋艦である。

 

ロイ「だが確か、何処かに弱点があったはず・・・」

ミーナ「そ、そんなことよりこっち・・・」

ロイ「何所行った、ミーナの奴」

 

思うのも無理ない。少し背を向けていたら、もうそこには姿がないんだから。

 

ロイ「おーい。ミーナ、どーーーーこ、いったあああ?」

ミーナ「すまない。こっちじゃ」

ロイ「落ちたのかよ・・・」

 

シュペー甲板から落ちて、その反応は無いと思ってしまうミーナだが、

それでも無事であることには変わらない。

 

ミーナ「すまない。足を滑らせてしまった」

ロイ「全く、ドジだな」

ミーナ「うるさい!!、だが・・・もし水が入っていなかったらと考えると・・・」

ロイ「それについては、運がいいな、お前って」

 

ドックでは水を抜いて作業をする。

そうしなければ普段海水に浸っている部分の整備が出来ない。

だが今日は機関部の点検のため海水が引いてあった。

もし水が無かったら・・・、恐ろしいことになっていた。

 

ロイ「これ羽織っておけ。寒いだろ」

ミーナ「すまない。今日中には返すよ」

 

ドイツでは春の到来が遅い。そのため3月下旬でも十分クソ寒いのだ。

 

ロイ「ああ・・・今日の昼前にはもう出発するんだ、

 だからその・・・すまないが、次会う時まで持っていてくれ」

ミーナ「なんだ?、またドイツに来るのか?」

ロイ「いや・・・勲章は貰ったけど嫌われてるから来れそうにないな・・・」

ミーナ「確かに・・・そうだったな」

 

昨日の演習の後、ロイはドイツ首相から

黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与された。

他にもドイツ軍で最高の称号であるマスターの称号も与えられた。

だがゲルマンマーメイドを壊滅状態にまで貶めたため、

ドイツで海岸都市に入ると、警察が護衛・・・というよりも見張りを付ける。

大半の市民も嫌っている。ロイの入国禁止を求め、失敗したが署名活動も行われた。

そんなため、必要最低限しかドイツ・・・というよりもヨーロッパには来たくないのだ。

 

ミーナ「しかし、コートが無いとワイシャツ姿か。・・・似合わないな」

ロイ「そこが問題よ。どうすればいいと思う?」

ミーナ「うーむ。新しいのを買うとか?」

ロイ「そうだな。正門前にいるから、シャワー浴びて着替えたら来てくれ」

 

 

こうした感じで海水に落ちたミーナにコートを貸したら、

自分のコートが無くなり、それの代わりに黒のトレンチコートを買って着たのだった。

その際ミーナが昨日の演習について疑問を持っている者が多いと知り、

急遽先日の演習のネタ晴らしのため、教室を借りたのだ。

 

ロイ『昨日の演習を見てきたとして話を進めるから、よろしくな』

 

こうして始まったネタ晴らし、主な要点は

 

・何故姿が見えなかったのか

・何故全ての艦船を沈めれたのか

・最後の発砲と潜水艦の爆発は何か

・そもそもどうして最後の最後になって再び姿が見えたのか

 

の主に四つとなる。

 

ロイ『一つ目、これは最後のとも繋がるから言うが、

あのスキッパーは海に潜れる。砲撃が当たる数秒前、

黒煙で視界を遮り潜航した』

テア『スキッパーで・・・潜航・・・』

ミーナ『い、異常すぎる・・・』

 

ロイ『二つ目はそれぞれのケースで話すか。

最初の戦艦3隻は底に爆弾をしかけて・・・ドカン。

巡洋艦と残りの戦艦は海中から魚雷を何回も叩き込んでドカン。

駆逐艦も同じだが、こっちの方が楽だった。

そして潜水艦は・・・耳だ』

テア『耳?』

ロイ『そう耳。潜水艦の機関から出てくる音を聞いて、

そこを狙って徹甲水中弾を発射。それで機関を破壊した』

ミーナ『滅茶苦茶過ぎる・・・』

ロイ『そうじゃないと、マスターの称号は貰えない』

 

冗談で言ったつもりだが、納得した一同。

 

 

その後コートは返すことが出来ず、トレンチコートで日本に帰国したロイ。

 

 

シュペー副長室

 

テア『そのコート、サイズが合わないが本当にミーナのなのか』

 

壁に掛けてある黒が基調で所々緑の線が入ったコートを見ながら言う。

 

ミーナ『いいえ、私のじゃないです。返せないから持っているんです』

テア『じゃあ誰のなんだ、彼氏が出来たとか、そういう話は聞かないが・・・』

ミーナ『マスターのです///』

テア『ロイのか!?』

 

始めは誰のコートか分らなかったものが、ロイのだと分かり驚くテア。

ミーナは顔を少し赤めて下を向いている。

 

ミーナ『この前、少し色々あって借りているんです』

テア『ああ・・・、だからトレンチコートだったのか』

 

ネタ晴らしの日、服装が少し違ったのを、少し違うのに変えたと思っていたテア。

 

ミーナ『それで、今回の遠洋実習は日本で、それで返せると思ったから』

テア『わざわざ寮から艦に運んだのか』

ミーナ『はい・・・』

テア『しっかりと、返せるといいな』

ミーナ『はい!』



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横須賀に帰還したら懐かしい顔を見たよ

はだしのゲンもエースコンバットも余り知らないので、
何か間違ったこと書いてたらごめんなさい。



そんなこんなで本編をどうぞ。


横須賀上空  飛行船にて

 

整備士「あの・・・本当に行くんですか?」

ロイ「ああ。入国許可とかも、もう貰っているから、態々基地に戻るのが怠い」

 

ドイツ演習を済ませて帰国したロイは、飛行船の中で話していた。

 

整備士「確かに問題は無いですが、

 基地には報道陣やらがもう「そんなの知ったことか」えぇ~・・・」

ロイ「報告書は艦長に渡したから、職務怠慢にもならない。じゃっ」

整備士「ああ・・・爆弾投下口から・・・」

 

ロイがドイツまで行った飛行船は、ヒンデンブルク号の改修型だった。

当時のドイツの飛行船技術を手に入れるため購入した軍用である。

武装は外されたが、そうゆう所に兵器だった頃の面影がある。

 

ロイ「たしか宗谷邸は・・・あれか。デカいから分かり易くていい」

 

爆弾投下口から落ちたロイ。その両手には、ドイツのお土産が沢山入った袋を持っていた。

 

 

 

真白「・・・落ち着かない」

 

こちらは数日前受験を受けてその結果が不安な人。

ロイがドイツに行った後、真冬が先生役になったが、

思い出話ばかりで一向に進まなかった、というのもありかなり不安だった。

 

真白「あれは・・・6年前に無くした髪飾り!!」

 

思い出の品を庭先に見つけ、駆け寄っていく真白。

すると突然暗くなり、何事かと空を見れば、

トレンチコートのロイがパラシュートなしで落ちてきた。

 

真白「うわあああぁぁぁ!!」

ロイ「お、真白か。受験どうだった?」

真白「ロイ・・・さん・・・」

ロイ「あとこれ。ドイツからのお土産だよ」

真白「あ・・・ありがとう」

 

空から人が降ってきて、その勢いがあるかの如く、袋を渡す。

そして渡された袋を見た真白は、驚いてしまう。

 

真白「こんなに・・・たくさん・・・皆の分だよね?」

ロイ「いいや。それは真白の分。この袋は真雪さんでこっちの袋が・・・どうした?」

 

説明をしている最中、真白が固まっているのに気付くロイ。

袋を見たまま固まっているので、恐る恐る聞く。

 

ロイ「ああ・・・どうした?、デカい虫か鳥が入っていたか?」

真白「あの・・・これ・・・」

ロイ「どうしたんだ、ハッキリ言ってみてくれ」

 

口籠っている真白に少し不思議な印象を持ちつつ聞く。

 

真白「こんなに沢山の服・・・本当に良いの?」

ロイ「ああ。どうせ給料はあんまし使わない人間だから、

 いつもお世話になってる人達に贈らないと存在を忘れちゃう」

真白「ウフフ・・・早速着替えてくるね」

ロイ「・・・やけに上機嫌だな。それほど受験が上手くいったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書館

 

ロイ「嘘だろ・・・マジで色々と無くなってる・・・」

 

彼は今、絶望している。彼が前世で愛読していた本が、幾つも無くなっていたからだ。

勿論歴史が違うので、無くなったり新しくできている物もある。

例を挙げるなら、はだしのゲンやエースコンバットの様に、

空想で考えても現実がそれを凌駕するものだろう。

前者は戦争が起きたと想定した物語は幾つもあるが、

空襲や原爆のような物が思いつかないのだ。

エースコンバットに至っては、ジェット機の様な物が浮くとは頭の隅にも無いのである。

そんな無い物を探して3時間。諦めて図書館を出て、潜水艦との合流地点に向かう。

 

 

 

 

商店街の道

 

「もかちゃん、この前の試験、大丈夫だった?」

「うん。それを言うなら、ミケちゃんだって同じでしょ」

「あはは・・・でもテスト前に勉強した所が出たから、合格はできた・・・はず!!」

「昔からミケちゃんは運が良いからね。それに私よりも頭が良いし」

「そんなことないよ、もかちゃんはいつも私より・・・」

 

商店街を二人の少女が歩いている。

彼女達も初めての受験で緊張していたのだろう。

そして結果がとても不安なのだろう。

 

「ねえねえ、君達可愛いよね。ちょっとお茶しない?」

「ホントだねえ。君達どこの学校?」

「お兄さんたちは、・・・ヒ・ミ・ツ」

 

あからさまにナンパを仕掛けてきたが、少し考えたまえ。

もし少女二人がそれに応じて交際に至ったとしても、一人余るぞ。

 

だが、そんなことは頭に無く、ナンパをする男達。

そしてそれを不安に感じた少女達。

 

「もかちゃん・・・」

「だ、大丈夫・・・すみませんけど、そこを退いてくれませんか・・・」

ナンパ男「嫌だよ。それよりも一緒にお茶どう?」

「だ、だから嫌です。そこを退いてください!!」

 

ツインテールの少女よりもその隣の少女の方が、勇気があるのだろう。

ナンパを仕掛けた男達に、退けと言っている。

だがそんな簡単には退いてくれず、泥沼になる。

 

「早くそこを退いてください!!」

ナンパ男「だからお茶をね」

「しませんから、早くそこを「人が優しくしてるからって、調子乗んなよ」・・・」

 

ついにキレた男が、折り畳みナイフを取り出す。

 

ナンパ男「分かったな」

ナンパ男「はいはい。近くにお薦めの店あるから、行きましょ」

ナンパ男「急いだ急いだ」

 

黙った少女を見て形勢が決まったと思った男達が手を掴もうとする。

だが、とうとう黙っていたツインテールの少女が声を出す。

 

「やめてください!!」

 

その声は、震えており、ちゃんと聞き取るのは少し難しいが、それでもちゃんと届いた。

 

ナンパ男「やめてください?、可愛いね~」

 

男達に。

 

「ホント、こんなしょうもないことやらずに、サッサと帰れや」

 

仮面を付け、黒のトレンチコートを着た男にも。

 

ナンパ男「うわ、なんだてめえ、斬られてえのか」

ロイ「・・・今なら見逃す。だが、もし襲ってくるなら・・・その右手の指にさよなら言ってから来るんだな」

ナンパ男「へっ、調子乗んなよ、このカッコつけたい奴が」

ロイ「まださよなら言ってないが、仕方ない・・・」

 

ナイフを突き出す右手にロイは左手で殴り掛かる。

そしてその手にナイフが刺さり・・・。

 

ナンパ男「ざまあみろってんだ。少しは立場わきまえろ」

ロイ「そうだな、だがそれはブーメラン、という奴だぜ」

ナンパ男「うおお!!」

 

ナイフの刺さった左手は、そのまま男の右手の骨を砕いた。

指が向いてはいけない方向に向いてしまっている。

 

ナンパ男「おい!!、大丈夫か」

ナンパ男「この野郎!!」

 

残りの二人もナイフを出した。

だがそれにロイは睨み、脅す。

 

ロイ「一歩こちらに近付いたらお前達全員腕にさよならをすることになる」

ナンパ男「くっ・・・憶えていやがれ!!」

ロイ「よくある捨て台詞をどうも」

 

ナンパ男達・・・いや、社会不適合者達は逃げていった。

そのままロイは後ろを振り向き少女達の方を見る。

 

ロイ「大丈夫か、君達」

「あ・・・あ・・・ああ・・・」

「お兄さん・・・手に・・・手にナイフが・・・」

ロイ「すまない。抜くのを忘れていたよ」

 

左手に刺さっていたナイフを抜き、畳んで、近くのリサイクルショップに向けて投げる。

 

ロイ「驚かせてしまってすまない。私は大丈夫だ」

「左手・・・大丈夫なんですか?」

ロイ「ああ。全く問題無い。昔の事故で、左腕が無くなってね。

 これは義手だから。痛くも痒くもないよ」

「そ、そうですか・・・それにしてもお兄さん、

前図書館でミケちゃんに本を渡した人じゃない?」

「ホントだ。あの人も同じ仮面付けてた」

ロイ「本当だ。君は図書館で背伸びしても欲しい本が取れなかった子か」

「むう・・・でもあの時は、走って逃げてごめんなさい」

 

ツインテールの少女はお礼こそしたが、その様子が不審者を見て逃げている様で失礼だと、隣の少女にこの話をした時に言われ、気にしていたのだ。

 

ロイ「大丈夫慣れてるから。知り合いの子には通報されかけたし・・・」

「あはは・・・大変ですね」

ロイ「それよりも君達も早く帰れよ。治安は良いが、さっきみたいなのもあるからな」

「ありがとうございます、私、知名もえかといいます」

「わ、私は岬明乃です。あなたは・・・」

ロイ「ロイ、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ。また会えたから、よろしくね」

もえか「分かりました」

明乃「これからもよろしくお願いします!」

ロイ「はは。それじゃあね」

 

 

 

 

 

 

潜水艦

 

 

 

ロイ「さて、あいつらちゃんと、分かったのかね。

 もかは分かるかもしれないけど、ミケは察しが良い分、

 気づかない時は本当に気付かないからな」

妖精「大佐、横七から電文です。読み上げさせて頂きます」

 

 

帰還予定は四月の第二週からお願いします。

漸く計画していたことが動き始めました。

詳しくは帰還した際にお話しします。

それと以前から始まっていたことが完了しました。

後は主による微調整で終わります。

 

妖精「以上が電文の内容です」

ロイ「そうか、それだと始業式に当たるな・・・少し遅れると伝えろ」

妖精「了解しました」

 

 

 

 

ロイ「あの島に帰るのも大体5年ぶりか・・・」

 



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新しい生活

横須賀に帰ってからの数日間、横女に関する仕事を一通り終え、始業式を迎えた。

 

真雪「ロイ君。大変かもしれないけど、真白を送って行ってくれない?」

ロイ「分かりました。しっかり連れてきますよ」

真霜「にしても、始業式の日もその格好ね・・・」

ロイ「これこそが、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフですから」

 

ミーナの持っているコートが無いため、

黒のトレンチコートを着て黒で固められた服装、

そこに仮面が加わることで、不審者感を出している。

しかし仮面を付けてスーツだと、それはそれで事案である。

 

真雪「それじゃ、先に行ってるわね」

真霜「私も時間だから、行ってくるわ」

ロイ「それじゃ、もう少し待って、遅刻しそうなら起こします」

真雪「頼んだわ」

 

それから、遅刻するまで後25分という所で真白は準備を終えた。

 

真白「初日から遅刻だなんて、ついてない・・・」

ロイ「目覚ましの電池が切れてるのも・・・」

「「ついてない(な)」」

 

息が合う二人。尤も、合っているのは溜息だが。

 

真白「もうダメだ・・・どう頑張っても間に合わない」

ロイ「車で行っても間に合わないな」

真白「初日から遅刻するのはイヤだああぁぁ」

ロイ「勤務初日から遅刻するのは、俺も嫌だな」

真白「何とかならないの、ロイさん?」

 

真白はロイに助けを求める。

車もスキッパーもダメでも、ロイは頼りになるのだ。

 

ロイ「しっかり荷物は持ったか?、忘れ物は?、身嗜みは完璧か?」

真白「大丈夫だから、急いでよ!!」

ロイ「分かったから、怖いと思うけど耐えてくれよ」

真白「え?」

 

そう言うや否や、ロイは真白を抱きかかえ、跳躍した。

広い宗谷邸を優に超え、ビルとビルの間を飛ぶ。

途中何度も建物の壁を蹴り、向きを修正、衰えた勢いを蘇らせる。

そうこうしているうちに横女に着く。5分しか掛かっていない。

地上に降りて、真白を下すと・・・バックを振り回される。

 

真白「ななな・・・なにをするんですか!!」

ロイ「何って・・・お姫様抱っこ?」

真白「そういう問題じゃない!!」

ロイ「じゃあどういう問題なのさ・・・」

 

高校生をお姫様抱っこ。そしてビル街を跳んで学校に行く。

 

普通に考えればかなり可笑しいことだが、ロイにとっては「その程度」のことである。

 

ロイ「はいはい落ち着いて、俺は職員室だから、じゃあな」

真白「また後でね・・・」

 

二人は別れたが、直ぐにまた問題が起きる。

 

「うわっ!!」

 

バナナを持ったツインテールの少女が、ぶつかってきたのだ。

 

「イタタ・・・ごめん、大丈夫?」

真白「大丈夫だ・・・それよりも前を・・・キャッ!!」

「あっ・・・」

 

真白は不幸にも、バナナの皮を踏んで滑る。

踏ん張ろうと頑張るが、虚しくも足は止まらず、振り回されていたバックを少女が持った瞬間、

真白は海に落ちていく・・・・・・・・はずだった。

海に落ちる数瞬前、黒い物が真白を巻き込んで通り過ぎていった。

そしてツインテールの少女の隣に、真白は現れる。

 

「えっ、なんで・・・」

真白「海に落ちたはずじゃ・・・」

 

周りでその様子を見ていた人達も、訳が分からず立ち止まってしまう。

するとそこに、職員室とは反対の方向から、ロイがやってくる。

 

ロイ「バナナの皮踏んで滑るのは、アニメでしか起きないと思っていた」

真白「ロイさん!!」///

「あっ、ロイさんだ」

ロイ「ああ・・・岬さんか」

明乃「うん。もしかしてだけど・・・ロイさんのお知り合い?」

真白「あ・・・ああ。まあそうだな」

ロイ「真白は・・・まあ頑張れ。きっとその内良いことがあるよ」

真白「そんなこと言われても・・・」

ロイ「岬さんは周りに気をつけてな」

明乃「はぁ~い」

ロイ「んじゃ、今度こそ職員室行くわ」

真白「頑張ります・・・」

明乃「大丈夫だよ!!、私も頑張るから」

真白「お前が言うな!!」

 

ロイは職員室へまた歩いていく。

真白と明乃も入学式のため、目的地へと歩き始める。

 

 

 

入学式。

ここ横須賀女子海洋学校では武蔵の甲板上で行われる。

新入生はこれからのことに期待と不安が広がる。

それは新しく入った先生も同じだ。そしてブルーマーメイドから来た人は不安に潰される。

 

・・・・・・・のが、普通である。

だがロイは着任挨拶を一週間目の海洋実習には参加できないことと

「これからもどうぞ、よろしくお願い申し上げます」

で済ました。これには真雪も眉間を押さえたが、

降壇する時に跳んで潜水艦に入っていったから、何も言えない。

 

 

 

 

 

 

太平洋の何処かにある島 横七

 

艦長妖精「まもなく横七の潜水艦ドックに入ります」

ロイ「分かった。お前達は暫くここで休養だ」

艦長妖精「感謝します。当番制の休憩も、限界が近かったので」

 

ロイの乗っていた潜水艦。

武装は魚雷一本のみの居住性を重視した潜水艦。

お陰で必要な人員はなんと4人。当番制にしても余り休めないのが、問題である。

 

潜水艦を降り、エレベーターに乗ると、そこには一体の妖精がいた。

 

「本来の時刻よりも6時間と7分の遅れです、主」

ロイ「・・・もうその関係は終わっているんだ、ジョニー」

ジョニー「まだその名には慣れないのです」

ロイ「相棒とかの肩書が変わっただけだ、まあ頑張れ」

ジョニー「分かったのです」

 

前世では相棒、今回は副総司令の役職を持つ妖精。

MSや最新の科学技術を優に超える超科学技術を持ち、

航空機のパイロットとしても優秀。

そしてロイが初めて出会った妖精である。

 

ロイ「報告を」

ジョニー「はい。MSの再現が成功。現在ケンプファー、ザクⅡ改、ズコックEを主流に生産しております。

 その他にスラスターを改造することで地球の裏にも30分で行けるようになります」

ロイ「マッドアングラーは?」

ジョニー「既に出来ています。ヨーロッパやアフリカ支部にもう配備されています」

ロイ「そうか・・・」

ジョニー「あの・・・本当に来るのでしょうか、深海棲艦が」

 

全世界に宣戦布告しても、余裕で勝てる程の軍事力。世界各地にある拠点。

世界征服なんて簡単に出来るが、総司令のロイは唯一つ、唯一つの戦いの為に軍事力を高めた。

相手は深海棲艦、前世の敵であり、忠誠を誓った女王とその国民達。

 

ロイ「来るだろう。何となくだが分かるんだ。アベルが来る。部下を連れて」

ジョニー「・・・」

ロイ「だがもうそれも今年で終わりにしよう、来年からは軍拡を止める」

ジョニー「分かりました。こっちに調整待ちの物があります」

ロイ「分かった。工具箱を持ってきてくれ」

 

 

 

 

 

 

横七で機械関係の仕事をし始めて二日が経とうとした時、

日本から傍受した一つの電文に、焦ることになる。

 

『学生艦が反乱。さるしまは轟沈。艦長以下乗組員は全員無事』

 

この電文を詳しく調査した所、横女所属の直教艦「晴風」が反乱したと分かった。

そしてその艦長が岬明乃、副長が宗谷真白だと分かった瞬間、

ロイは出撃準備に入った。



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遭遇

今回はアドミラルシュペーと交戦して離脱した後でございます。

それでは、本編をどうぞ。


横七

 

ロイ「スキッパーを用意しろ‼」

ジョニー「落ち着くのです。まずは点検からです!!」

ロイ「その前に使用する武器を用意する」

ジョニー「整備隊、作業急げ」

ロイ「晴風の位置を調べるのも忘れるな」

 

焦っていても、心のどこかは冷静なんだ。

 

この場に居合わせた妖精達はそう思った。

それから一時間もしないうちに出撃準備は完了した。

 

ジョニー「晴風の位置は先程の地点から動いています」

ロイ「この方角・・・鳥島沖に向かっているな」

ジョニー「そのスキッパーなら三時間で合流出来ます」

ロイ「あの潜水艦も出港させろ。武器を運んでもらいたい」

ジョニー「了解です。特殊潜水艦ヨーゼフに武器・弾薬・燃料を搭載させ出港させます」

ロイ「・・・それでは・・・な」

 

スキッパーのエンジンを入れ、出力を最大にし、呟く。

 

ロイ「横七特殊艦隊、旗艦ロイ。抜錨します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴風 艦橋

 

幸子「ですからぁ、『我々は、折られた翼で再び羽ばたく!!』

 『奴を逃がすな、必ず捕まえろ!!』

 『ぐぅ・・・だが、我々には晴風と武蔵という・・・』みたいな感じで!!」

明乃「あはは・・・だけど、ロイさんはそんな人じゃないよ」

真白「全く、人の恩人をそんな悪者にしないでくれ」

幸子「じゃあ・・・」

 

記録員の納沙 幸子は学校公認の不審者ことロイがさるしまによる砲撃や

晴風反乱の噂を流した張本人ということを、一人芝居で表しているが、

それを見る周りの目は、結構冷たい。

 

鈴「私・・・あの人入学式以外で見たことあるけど

 ・・・その時に悲鳴上げかけたことが・・・」

真白「ま・・・まあ、分からないことは無いが、それでも・・・な」

明乃「私も、初めて会ったときは走って逃げちゃったから」

芽依「へぇ~、あの人、そんなに見かけるの?」

真白「私の場合は「左舷より接近するスキッパー在り、数一」何だ!?」

 

見張り員からの報告を受け、全員が左舷を見ると、

そこには凄い量の水飛沫を飛ばしながら晴風に向けて直進してくるスキッパーがあった。

 

幸子「『見つけたぞ、晴風、貴様はもう終わりだ』

 『キャァタスケテー』『逃がしはしない、死ね!!』」

鈴「死にたくないよー!!」

芽依「魚雷はさっきも言われたけど無い・・・取り敢えず砲撃しちゃえ」

志摩「ういぃぃぃ」

芽依「無理なの!?、まだ死にたくないよ~」

真白「助けて・・・ロイさん」

明乃「皆、落ち着いて!!」

「「「「「は・・・はい」」」」」

 

スキッパーを見てパニックに陥っていた艦橋組を、何とか元に戻す。

明乃によって一旦落ち着きを取り戻した艦橋組は、そのスキッパーを再度見る。

 

明乃「あのスキッパー・・・幾ら何でも早過ぎる。

ココちゃん、あのスキッパーが何所の所属か分かる?」

幸子「分かりません。何しろあの速度を出せるスキッパーがデータ上には無くて・・・」

真白「まさか・・・いや、そんなはずは、あの人は今週末まで・・・」

鈴「と、兎に角逃げようよ~」

明乃「ううん。多分逃げてもあの速度だと直ぐに追いつかれる。

 白旗を揚げて交戦する意思がないことを示そう。機関も・・・止めて」

真白「そんな、もしあれが海賊だったら、どうするんですか」

明乃「だとしても、ブルーマーメイドの人だったら機関を切らないと沈められちゃう」

 

降伏の意を示す白旗。それを掲げただけでは攻撃を止めない。

それはさっきのアドミラルシュペーとの戦いで経験した明乃は、

機関を止めて、完全に降伏したことを伝えようとした。

 

マチコ「本艦に衝突します!!」

明乃「何かに掴まって!!」

 

あの速度のスキッパーがぶつかったら、幾ら大きいとはいえ晴風にもかなりの衝撃が来る。

そう思ったのだが、一向にその衝撃は来ない。

 

真白「スキッパーは何処に行った!?」

マチコ「見張台からは確認できません」

秀子「左舷、同じく確認できません」

まゆみ「右舷もです」

楓「音もしませんわ」

真白「消えた・・・」

幸子「もしかして・・・幽霊だとか」

鈴「ゆ、幽霊!?」

明乃「皆が見た・・・多分まだ近くにいるはずだよ、

 充分に周囲を警戒して、鳥島沖を目指しましょう」

「「「「「了解」」」」」

 

 

 

晴風の何処か

 

「晴風に忍び込めた、最新の情報をプリーズ」

 

暗い空間に、無線機の光が輝く。

 

「如何やら、向かっている最中にアドミラルシュペーと交戦したようです」

「テアとミーナ・・・シュペーはその後どうなった」

「スクリューシャフトが撃ち抜かれ、減速、晴風はそのまま逃げたようです」

「分かった。これから晴風で監視を行う・・・最低限のプライベートは守るさ」

「当たり前です。それから、もう一つだけ」

「どうした」

「シュペーと交戦中、シュペーから小型艇が出て、その乗員を晴風が回収したようです」

 

その報告を受け、困惑しているような声が出てくる。

 

「つまり・・・シュペーの乗員がいるのか」

「はい。万が一もあります。行動には細心の注意をしてください」

「分かった。ブリッジアウト」

「・・・それを言うならあの言葉も付けて欲しかった」

 

無線に出た者は、切られた無線を前に、そう言った。



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対航空機銃を潜水艦に使うのは間違っているのか

晴風の何処か ――――――視点

 

「もう夜か・・・ミケの奴、当直のことで怒られてたな・・・」

 

まだ陽が出ているときに、横女所属艦の寄港が禁止、

晴風に至っては抵抗した場合撃沈の許可が出た。

そんな中ミケは艦橋の当直当番を無視し引き受けようとした所、

真白に怒られて休むよう言われていた。

・・・なんでそんな事が分かるのか、だって?、

そりゃ勿論盗聴器をばら撒いたからよ。

だけど話し声はヨーゼフに送られてからこっちに来るので、

若干のタイムラグはあるけどね。

序に検閲もされてるから一部の盗聴器が無意味になったよ。チクショウ

まあ全くもって、問題ないけどね。問題ないけどね!!。

 

 

 

ぬ?、ヨーゼフから通信だ。

 

 

-----------------------------------------------------------------------

真白視点

副長室

 

真白「なんだ・・・こんな夜中に」

 

艦橋から呼び出しが掛かり、ジャージを着る。夜の海は春でも寒いらしい。

眠いけど、いくしかないか・・・。

 

ロイ「それを持って行って大丈夫なのか」

真白「大丈夫だよ・・・ロイ兄さん・・・」

ロイ「くくく・・・そうか」

 

私は何も変な物なんか持って行って無いのに・・・酷いな、ロイ兄さんは。

 

---------------------------------------------------------------------------------------------

真白視点

艦橋にて

 

本当についてない。まさかこんな真夜中に潜水艦と戦うことになるなんて。

伊201には魚雷を多く積めないみたいだけど、こっちには爆雷が一個しかないんだ。

艦長は全部避ければ良いっていうけど、無茶だって・・・。

 

真白「各部・・・配置に就きました・・・」

 

それにロイ兄さんの言う通りだった。

まさか部屋からぬいぐるみを持ってきてしまうなんて・・・。

あれ・・・でもロイ兄さんは晴風には居ない・・・

き、きっとあれは冷静な自分が注意する為に見せた幻覚だ、

そうだ。そうだな。そういうことにしておこう。

 

楓「魚雷音聴知、本数4、真後ろからいらっしゃいました」

明乃「また見つかった・・・、回避行動を取る、面舵一杯、ヨーソロー」

鈴「面舵一杯、ヨーソロー」

楓「!、また魚雷音聴知、本数3、左舷の方角よりいらっしゃいます!!」

真白「潜水艦は・・・二隻居たのか!!」

楓「さらに魚雷音聴知、本艦前方をお通りします!!」

明乃「そんな・・・」

 

一体・・・どうすればいいんだ。停まっても動いても確実に当たる・・・。

それに幾ら三重の安全システムがあるとはいえ、何度も撃たれたら沈んでしまう・・・。

もし沈んだら、どうなる。きっと、きっと、きっと。・・・・・・・・・・・・・死んでしまう。

 

マチコ「魚雷が爆発しました。本艦には大きい被害なし」

 

魚雷が・・・爆発した?、自爆したのか?

 

「夜戦で照明を点けるな、直ぐに消せ。航海灯もな」

 

ああ・・・この声は・・・。

 

真白「ロイ兄さん・・・!!」

 

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ロイ「何をぼさっとしている。さっさと灯りを消せ!!」

明乃「けど・・・今潜水艦と」

ロイ「夜戦で灯りを点けるのは自殺行為と同じだ、さっさと消せ!!」

 

突然の乱入者に困惑する中、照明を落す。

 

「何にも見えない!!」

ロイ「夜目を慣らしておかないからだ!!何故航海灯を点けている、早く消せ!!」

幸子「す、すみません・・・」

ロイ「取り敢えずこれで一旦は大丈夫だな」

芽依「あ・・・あなたは一体・・・」

ロイ「入学式の時に覚えとけよ・・・

 取り敢えずは「ここの艦長はド素人か!!」ミーナ、落ち着け」

ミーナ「マスター⁉」

 

本日二度目の乱入者。扉から勢いよく出てきてのは良いが、ロイを見て固まってしまう。

 

明乃「あ、ドイツ艦の子だ、目が覚めたんだ」

ミーナ「わしのことより今のことだ。潜水艦戦を早く終わらせんかい!!」

鈴「ど、どう逃げればいいかな」

ミーナ「逃げてたまるか!!、ここで沈める!!」

鈴「逃げないの!!」

志摩「うい!?」

 

逃走方法を聞く鈴だが、ミーナに大声で否定されてしまう。

そしてそれに驚いた鈴の声で志摩も驚いてしまう。

 

ロイ「俺もここで潜水艦を片付けるのには賛成だ。

 魚雷を全て避けれる保証は無いからな」

真白「だけど爆雷は一発しかないよ、ロイさん・・・」

ロイ「大丈夫、それにロイ兄さんで良いんだよ」

真白「もう!!///」

ミーナ「・・・マスターなら、いけますよね?」

ロイ「ふっ・・・問題ない」

 

緊張している艦橋組に対し、余裕の笑みを浮かべるロイとそれを見て安心するミーナ。

 

真白「どうやって戦うんですか、相手は二隻、こっちには爆雷は一発しか・・・」

ロイ「序に言えば対潜迫撃砲もソ連製のマーブⅥも無いしな」

真白「対潜迫撃砲はともかく、まあぶしっくすって何ですか!?」

ロイ「まあ普通に撃って当てるしかないよね」

真白「だからどうするんです!?」

 

どう潜水艦を撃退するのか聞くが、聞きたい答えは返ってこない。

 

芽依「撃つ?、撃つ?、もしかして撃っちゃうの!?」

志摩「うい!?」

芽依「主砲?。主砲なの?」

ロイ「いいや・・・あれを使う」

マチコ「海面から何かが射出されました」

真白「なんだ!?」

ロイ「来たな」

 

ロイは甲板に出てその落ちてきた物を掴んだ。

そしてそれを指で少しなぞるとそれは変化し8.8 cm FlaK、

クルップ社製の対航空機銃となった。

 

ミーナ「アハトアハトが・・・しかもそれを持って・・・」

 

アハトアハトの全長は5791㎜。重量は7407㎏。

普通は台車などを用いて動かすが、ロイはそれを片手で持っていた。

勿論妖精達の魔改造によって重量は減っているが、それでもかなり異常である。

 

ロイ「そこか!!、くらえええぇぇぇ!!」ドンドン

ミーナ「アハトアハト、まさか本物が撃っている所を見れるなんて」

芽依「私も早く撃ちたい♪」

志摩「ういうい」

 

海面に撃ち込まれた8、8cm。それは一瞬海を裂き、海中に沈んでゆく。

それを見た砲雷科の術長は、いつかは自分が撃つと決める。

 

幸子「そんなことよりも当たるんですかね?」

鶫「伊201、及び伊202より国際的救難信号の発信と応答を確認」

 

記録員はロマンと共にあれが潜水艦に当たるのかという不安を抱く。

何しろ海中にいる潜水艦をソナーも無しに発見し、撃破しようというのだから。

しかしそれも、傍受した通信で要らぬ心配だったと分かるや否や、タブレットを弄る。

 

ロイ「もうこの海域に留まる理由は無い。退避開始」

幸子「さ、最短コースは既に選定済みです」

明乃「リンちゃん」

鈴「機関、だ、出せるだけ最大で~!!」

 

 

東舞校の直教艦二隻を行動不能にさせ、晴風とそれに続く潜水艦は離脱した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

海上安全整備局

 

日本の海の安全を守る組織のトップ。

その中でもさらにトップが今、暗い部屋で円形の机を囲みながら座っている。

 

「報告です、晴風を追撃していた伊201、202がバラストタンクと機関部が破壊され、

 緊急浮上。これ以上の追撃は不能。現在は近くを航行していた一般船に救助されたとのことです」

 

若い一人の男が伊号潜水艦とロイとの戦いの結果を報告する。

するとさっきまで黙っていた老人達が大声を出して喋り始める。

 

「クソ、やはりあの男には潜水艦を使った攻撃は無意味だったか」

「ならば使用可能な大型艦を集結させ包囲してみれば・・・」

「いいや、奴のドイツ演習を見る限り大型艦を出せば逆にこちらの被害が増すだけだ」

「じゃあどうするというのだね、ロイ討伐隊志願者は、圧倒的に少ないのだぞ」

 

晴風反乱の原因はロイにある、という風に結論付け、

ロイがいると思われる晴風を撃破する為に志願者を募ったが、あまり来なかった。

命令を出そうとしても、途中から内容が少しずつ変わっていき、

最終的には無かったことになる。そのため学生を将来の保証を報酬に募り、出撃したのが伊201と202だった。

しかし練度が不十分な学生がドイツの主力を破った男に勝てるはずなく、敗北した。

もう戦うための戦力が少ない。そう思っていた所に一筋の光が舞い降りる。

 

「そんなにロイを倒したいなら、私達が力を貸すわ」

「お前さんは・・・米国最新科学戦闘隊司令官ルーウィ中将」

ルーウィ「私達は既にロイの現在地をある程度把握しています。

 殲滅及び確保を行うので、あなた達には輸送艦の護衛と情報操作をお願いしたい」

「そんなことをして、君達に何のメリットがあるのかね」

 

ルーウィの提案は、日本には大きなメリットがある。

テロリストと思われるロイと晴風を殲滅し国内の危険を減らせるが、

アメリカには何のメリットが無いように思える。

 

ルーウィ「今、祖国はロイの人を超えた戦闘力に注目しています」

「なるほど・・・君達の目標は戦闘データの回収か、それとも新兵器のテスト」

ルーウィ「ですがあなた達にメリットがあることには変わりありません」

 

老人達のリーダー格が黙って悩む。だがそれは数秒で終わる。

 

「了解した、我々は貴官の部隊を護衛し、一定の出来事なら闇に葬る」

ルーウィ「perfect、直ぐに部隊を招集するわ」

 

 

 

 

 

 

 

伊号潜水艦との戦いをあっさりと終わらせたロイに、次の刺客が迫る。

晴風内でも物資が不足してしまい横須賀へ直行することが不可能に、

そんな中、最新科学戦闘隊との戦いに突入してしまう・・・

 

 

 

 

 

 

 

次回『乙女と転生者のピンチ』




最後の最後でふざけてしまった・・・、許してクレメンス。
もしかしたら次回も同じことやるかも、多分やらないと思うけど。

艦これのイベント関係で投稿頻度は落ちます、ごめんなさい。
それでは、良い日を。


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乙女と転生者のピンチ

長らくお待たせ致しました、
今回から漸く深海棲艦の方が登場されます。
それにしても文字数が伸びたかな。
この調子で評価も伸びるといいな。


晴風教室にて

 

明乃「それではロイ教官、挨拶の方をお願いします」

ロイ「了解した」

 

昨夜・・・訂正、本日未明晴風に合流したロイと潜水艦。

大体の人が事態を把握しているが、主に機関科などの一部は

ロイがいることを知らなかったので、改めて挨拶をすることになった。

 

ロイ「私の名前はロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ、

 日本のブルーマーメイドでナナヨコに所属している。

 私は君達を無事に丘へと送るから、安心してもらいたい」

幸子「あの・・・さっき調べたらドイツで艦隊を全て沈めたと書いてあったんですが」

ミーナ「あれは本当に凄かったぞ、一回見てみると良い」

ロイ「まあ・・・本当のことだ。全てスクラップにしてやりました」

幸子「おおぉ・・・」

 

果たしてこのおおぉは尊敬か畏怖か、その答えは取り敢えず分からない。

 

明乃「後、ドイツから来た、ウインナー、ブラウンシュガー、インゲン豆

 ・・・あれぇ、名前何だっけ」

ロイ「まじか・・・」

ミーナ「・・・ヴィルヘルムスハーフェン校から来た。

 ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクだ」

ロイ「少しだけだが怒っていらっしゃる」

 

明乃に名前を全然覚えられてないことに少し怒りながらも、

完璧な日本語で自己紹介をするミーナ。

 

明乃「長いから・・・ミーちゃんで」

ミーナ「ミー・・・ちゃんだと・・・」

ロイ「アッハッハッハハ」机バンバン

明乃「ダメかな?」

 

隣で机を叩きながら大笑いするロイを見て、もしかしたらと思い聞いてします明乃。

だがな、その少し涙目で不安を感じる声で言ったら拒否できないって。

 

ミーナ「いっいいぞ、ミーちゃんと呼んでくれ」

明乃「ありがとう!!」

真白「アハハ・・・それよりも未明に行われた戦闘は一体・・・」

 

少しだけ明るくなった雰囲気が真白によってまた暗くなる。

本人としては本心を言っただけだが、周りはそれで重くなる。

 

ロイ「ああ・・・ただ8,8cmを相手の機関室に撃ち込んだだけだが」

真白「うぇっ!!」

芽依「8,8・・・」

志摩「機関室・・・」

幸子「直撃って・・・」

「「「凄い」」」

 

水中の敵に徹甲弾を直撃させる。

それを水上の上から機械無しでやる。

それだけでロイのヤバさが分かってしまう。

 

ロイ「取り敢えず、ミーナがいる分少し変わるが、よろしく頼む」

真白「ロイさんがいる方が大きいよ」

ロイ「大丈夫、可愛い物が好きな真白副長」

真白「・・・っ///」

 

挨拶はこれにて終了した。

 

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ヨーゼフ

 

通信士「提督、横七のジョニー副司令から通信が入っています」

ロイ「ジョニーから?、何か分かったのか?」

 

大半が倉庫と化したヨーゼフの中では珍しい本来の目的のための部屋。

生活区(ロイの部屋と厨房のみ)と通信室、機関室。

まだあるが片手で数えられる程少ない。

通信室に入ればそこが休憩室になっていたことが分かる。

仮眠用の布団や自販機、テレビまでもが付いている。

 

ロイ「通信代わりました、こちらロイ」

ジョニー「もしかしたら、貴方の読みが当たったかもしれません」

ロイ「・・・続けろ」

 

ロイの読み、というよりも予想は深海棲艦と今年中に戦闘するという事。

それがもしかしたら、当たったかもしれないというのだ。

 

ジョニー「先日から地球上の全海域で行方不明艦隊が多発しています」

ロイ「艦隊・・・艦ではなくてか」

ジョニー「はい。西アジアを出たタンカー船団が全て消息を絶ったことが世界中で問題になっています」

ロイ「石油を運ばせないつもりか?、世界はどう考えている?」

ジョニー「中東の過激派との考えですし、実際に犯行声明を出していますが、

 彼らに船団を一瞬で沈める程の火力を持つ兵器を保有しているとは考えにくいです」

 

救難信号を出す暇もなく全滅させれる、核の無いこの世界では不可能に近い。

 

ロイ「・・・全横七支部に緊急電、『客が来た、もてなしの準備をせよ』、と」

ジョニー「了解しました。西アジア支部には調査も命令します」

ロイ「うむ。MSの量産配備を急げ」

ジョニー「はい、これで通信を終えます」

 

モニターの光が消え、暗くなった部屋に照明が光を戻す。

椅子に座る男の顔は暗いが何処か明るい。

隣に座っていた妖精はそれを大層不気味に感じたとか。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

晴風 ロイ視点

 

明乃「帰っていたんですね、教官」

ロイ「おお、今戻った」

 

ヨーゼフの事は小型船舶という風に伝え付近の海域に待機させていると伝えていた。

 

明乃「あの、トイレットペーパーありませんか!?」

ロイ「トイレットペーパー?」

 

 

如何やらトイレットペーパーが圧倒的に不足しているらしい。

ここでミーナが来たことによる被害が出たか・・・。

そこでオーシャンモール四国沖店に買いに行くらしい。

だが・・・主計課には資金が無く募金していたそうな、全く、お笑いだよ。

お金は沢山持っている(使わない)から同行する。

 

 

 

 

明乃「あの・・・本当に良いんですか?」

ロイ「問題無いよ、気にせずに使ってくれ」

媛萌「でも必要な物だけを買うよ」

ロイ「遠隔自動発信機、GPS探知機、後は・・・」

媛萌「ダメに決まっています!!」

美甘「ヒメちゃん、レバーとかチーズとか食べてる?」

媛萌「全部苦手で・・・」

美波「カルシウムが足りていないな、それだといつか骨折するぞ」

媛萌「そんな!?」

明乃「でも・・・」

「「「「教官はどうかしています」」」」

 

スキッパー二台はもう満員で乗れる場所が無いにも関わらず会話に参加出来る訳、それは・・・

 

 

スキッパーと並走していた。海の上を、走っていた。

 

 

 

 

前世でも同じことは言われるだろう、人間じゃないと・・・。

 

 

 

 

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オーシャンモール四国沖店

 

「平和だ・・・」

 

途中でスキッパー係留所にスキッパーを留めバスで来たが、

数時間前の終われていた時とは違い、とても平和である。

別につい数時間前の世界が異常なだけで平和は通常なのだ。

 

ロイ「機械部品を見てくる、財布はこれをどうぞ」

明乃「はぇっ?・・・」

 

明乃の手には、万札が数枚と千円札が何十枚も入った財布が渡されていた。

 

ロイ「んじゃ、また会おう」

 

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イオンモール四国沖店より十数マイル南

 

そこには数隻の巡洋艦があった。

 

ルーウィ「良し、部隊展開、イオンモール四国沖店に向けて進軍開始」

護衛官「あの・・・もうすこし近くでもよろしいのでは?」

ルーウィ「馬鹿者、あの男にはこれ位が丁度良いんだよ」

 

近くにいたMTVを装着した兵士に目線を向ける。

 

重装備兵「了解しました。全部隊を上陸用舟艇に乗せ出撃させます」

米軍艦長「艦隊には実弾を装填させ市街地に砲撃できるよう準備させます」

 

ロイに対する戦闘というよりも、その区画を破壊しようとしか思えない戦闘用意。

 

護衛官「なんだと!!、市街地に・・・民間人に砲を向けるのか!?」

 

それには海上安全整備局から派遣された護衛官が苦言を呈する。

 

ルーウィ「これは戦争です。18年前の続きですがね」

護衛官「何を言っている、18年前には戦争なんて」

ルーウィ「さようならです、護衛艦殿」

護衛官「なぜ・・・だ・・・」

 

18年前の戦争、その言葉に疑問符を浮かべる護衛官を射殺し死体を海へと投げる。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

イオンモール四国沖店

 

 

そこには沢山の重装備兵が南から上陸しようとしていた。

 

平賀「ど、どういうこと、何が起こっているの!?」

ロイ「あんたら安全監督室と同じで、独自に俺達を確保しようとしているみたいだ」

 

つい先程まで明乃達を尾行していた安全監督室所属の福内 典子と平賀 倫子。

 

明乃「だけど・・・あんなに大きい銃を持つ必要は・・・」

ロイ「奴らは確保では無く殺害を目的にしているのかもな」

美波「そんな・・・」

 

目の前で行われている上陸、そこから考えられた最悪の予想。

そんなことを考えていると街頭テレビのチャンネルが変わり艦が映り、最後には人が映る。

 

ルーウィ「初めましてね、愚かな人間諸君」

ロイ「・・・」

ルーウィ「自己紹介を、私はアルファレッド・ベーズ・ルーウィ、

 又の名を・・・アベルというの、お分かりでしょ、ロイ」

ロイ「そうか・・・そうか」

ルーウィ「今回の目的は唯一つ、ロイ、貴方を殺すことよ」

ロイ「・・・聞きたいことは山ほどあるが、今は只、お前を殺すことを念頭に置かせてもらうよ」

ルーウィ「うふふ・・・素敵な宣戦布告ね。じゃあこっちも容赦しないわ。

 重装備兵隊進軍開始、ロイを抹殺せよ」

ロイ「ヨーゼフに緊急電、武装αを送れ」

 

岸から上がってきた兵士の前に立つのは、中華包丁の刃を長くしたような銃を持つ、ロイだった。

 

重装備兵「うてぇー!!」

 

幾つものチェーンガンから放たれる無際限とも思われる銃弾。

それをロイは全て叩き落したり弾く。一発たりとも命中しない。

そのような状況が十数秒続いたと思ったらロイは左手にリボルバーを取り出しそれを重装備兵に撃ち込む。

銃声が鳴りやむころには辺りは死体の山が出来上がっていた。

 

ロイ「アベル・・・出せよ、深海棲艦の軍団を」

アベル「貴方にはそんな物微塵も役に立たないでしょ、

 そんな物よりも彼女達の方が戦えるは」

ロイ「彼女・・・達?」

 

アベルを映していたテレビには水上を駆けぬ二つの影があった。

 

ロイ「あれは・・・ネメシスとガーディアン」

アベル「そうよ、ここ数年掛けて漸く修理が完了したの」

ロイ「人の物で遊びよって、だが大したことはない」

アベル「そうかな?、彼女達を普通の深海棲艦とは思わないことね」

 

一般人が漸く発見できたであろう距離に入ってきた瞬間に攻撃は来た。

 

ロイ「40ミリ徹甲弾速射砲・・・もしかしてだが彼奴か」

アベル「そう!、君が横七に来て最初の大規模襲撃の司令官と副司令官」

ロイ「ヲ級と軽空母の奴か・・・」

 

記憶が蘇る。

水偵を使った跳弾使いの軽空母。

40ミリ徹甲弾速射砲を愛用し、部下を弔っていたヲ級。

どちらとも空母という枠組みを大きく外れた二人だが、

ヲ級は次は共闘を望んでいた。つまりこれは少しおかしい。

尤も、再び戦いたくなっただけなら別だが、アベルの元ではもう戦う気は無いように感じれた。

 

ロイ「兎に角、倒させて貰います」

 

 

 

 

 

 

 

     前世の敵が再び襲い掛かる。一対二の戦い。数的不利に陥るが戦力比は同等。

            しかしパワードスーツにとても苦しめられて・・・。

 

            次回、ハイスクール・フリート若き人魚と転生者

 

                  「異常な空母達」

 

                 お楽しみにしてて下さい



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異常な空母達

資源とバケツの霊圧が・・・消えた。
イベントをクリアできるか不安になった今日この頃。
諦めるか諦めましょうそうだな諦めるか

無駄話もここまで、
本編をお楽しみください。


オーシャンモール四国沖店

 

ロイ「懐かしのあの戦い方をしよう」

平賀「なにを・・・」

明乃「ロイ教官?」

 

ロイの振り上げられた手が下ろされるのと同時に光を発し、

背中に謎のタンク(駆逐艦の背中に付いている奴)が付き、

胸には双竜のバッジが付いた。

 

ロイ「艤装展開、横七特殊艦隊旗艦ロイ、抜錨します」

福内「海を・・・走っている」

美甘「ど・・・どうなっているのかな・・・」

美波「ありえない・・・一体どうやって浮力を・・・」

媛萌「背中のあれ・・・何なのあれ」

明乃「・・・」

平賀「兎に角、流れ玉の届かない所に避難を」

 

イオンモール四国沖店近海

 

ロイ「空に機影は無し、艦載機は使わないつもりか」

ガーディアン「・・・」

ネメシス「・・・」

ロイ「静かだが早い・・・!」

 

二人の深海棲艦から放たれた銃弾は、ロイに向かって飛んで行く。

ロイも身を少し低くし避けながらジョンの柄の部分を銃を持つように握り直し、狙いを定める。

そして発射された銃弾はガーディアンの方向に飛んでいき命中する・・・が、

パワードスーツに弾かれてしまう。

 

ロイ「結構丈夫に作り過ぎたみたいだ・・・」

 

独り嫌味を言っていると、ネメシスからアベルの声がする。

 

アベル「そりゃ修理に補強に改造に色々やりましたから、固いのは当然です」

ロイ「要らねえサービス付けやがって」

アベル「お気に召したようで・・・」

 

遠くから撃っても弾かれる、だが近くから撃っても弾かれない保証は無い。

だとしたら、ジョンの刃の部分で叩き切るしかない。

幸い飛んでくる弾丸は全て弾いたり避けれる。

 

全速力で近づく。しかし、その時背後から一発の銃弾が飛んできた。

前方にしか敵はいなくて艦載機も飛んでない。

跳弾の警戒をしていないが為に、背後から来た銃弾は右胸を貫いた。

 

ロイ「後ろから!、一体如何やって・・・!」

 

ロイは見た。そして気付いた。

敵は既に跳弾を使っていた、いいや、使うための準備をしていた。

 

ロイ「銃弾同士がブツかって・・・それこそビリヤードの玉みたいに、

 互いを弾きあっているのか・・・だとすれば、

さっきから避けていた弾は跳弾の為に、俺が弾いたのも再利用するために」

 

しまった・・・みたいな顔をしながらも進むのは止めない。

飛んでくる銃弾の場所が約180度圏内から360度に変わっただけだ。

ガーディアンが射程距離に入る、瞬間、ジョンを振り下ろす。

振り下ろされた刃はガーディアンの右肩に当たり、腕を切り離した。

 

ガーディアン「グガアアアアアアアアアアア」

 

痛みに意識を向けているその数瞬、海中から現れた潜水艦に収容される。

 

艦長妖精「急速潜航急げ!!」

ロイ「任せた!!」

 

ヨーゼフは再び海へと潜ってゆく。

 

アベル「やられたわ・・・けどまだ一体、クリオネ発動」

ロイ「来るか・・・来い!!」

 

ネメシススーツが剥がれてゆく。そして見えたのはヲ級の顔。

しかし長くそれを見続けることは出来ない。

なぜなら剥がれ落ちていったネメシススーツが分裂して四方八方から襲ってくるからだ。

 

ロイはジャックを出し分裂したクリオネに一発一発銃弾を撃ち込む。

弾倉が∞字なのでリロードはしないで済む。

しかし、最後の一体のクリオネに右腕を喰われてしまう。

 

ロイ「ジャックまでパクられた。ええぇい!!」

 

再度接近してくるクリオネ。それにロイは・・・

 

ロイ「ロケットパアアァンチ」

 

ロケット噴射をする左腕で答えた。

 

ロケットパンチに当たったクリオネには大穴が空き、無力化された。

ヲ級の方を見れば気絶して倒れていた。

 

ロイ「はぁ・・・」

 

ロイはヲ級を抱きかかえてイオンモール四国沖店に戻っていった。

 

 

          一旦事情を話し晴風に帰還する一向。

        しかし砲術長の立石志摩が機銃を撃ったり

          艦隊が来たりでもうてんやわんや

           次回『異世界から来ました』



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異世界から来ました

イオンモール四国沖店

 

ロイ「・・・まあ、その、なんだ。色々巻き込んですまない。

 だが取り敢えず晴風に戻ろう」

 

一人の青年が少女や淑女に伝える。

しかし彼女達は全く動く気配を見せない。

彼女達は目の前の青年を見て固まっている。

 

 

そう、右胸に小さな穴が開き、右腕が無く、血を流しながらも、

さもいつも通りと振る舞う青年に、驚いて固まっている。

 

美波「取り敢えず・・・止血の方を・・・」

 

養護教諭として、応急処置をしようとするも、

それはロイが軽く首を振って拒否する。

「でも・・・」というが、「必要ない」で潰される。

 

平賀「と、取り敢えず直教艦があるから、それに乗っていきましょう」

ロイ「分かった」

 

 

なお、この後ヲ級を晴風で面倒見るよう美波さんにお願いした。

 

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海上

 

ロイ「ぬえ?、何か晴風艦橋組が騒がしいぞ」

 

晴風が見えたかと思うと、ロイは晴風艦橋の異変に気付き、明乃に声を掛ける。

振り返って渡された指向性マイク付き双眼鏡で艦橋を見る。

 

明乃「えっ?、本当だ。たまちゃん?」

ロイ「ドンキーコングのマリオみてえだな」

 

晴風では志摩が艦橋から飛び出したかと思うと、あちこちを飛び回ってある場所に着く。

 

ロイ「対空機銃だ。こっちを狙ってるぞー」棒読み

 

志摩がこっちを狙っていることに気付く。

すると双眼鏡が志摩の声を拾う。

 

双眼鏡「明石!間宮!、てめえなんて怖くねえ」

明乃「ひぃ!!」

双眼鏡「野郎ぶっ殺してやあぁーる!!」

 

双眼鏡から出てくる志摩の声に驚き一歩下がるも束の間、

対空機銃から銃弾が飛んでくる。

 

ロイ「真似っこはよく育つ」

 

ジョンを空に向け一回のみ発砲する。

すると銃弾が全て予定されていたコースを大分逸れ、命中することなく海に沈む。

 

平賀「艦隊を何者かが包囲しています!!」

美甘「ええええ!!」

美波「四面楚歌・・・」

媛萌「あわわわ」

明乃「皆・・・」

 

晴風に明石、間宮それに護衛艦。それが全て包囲されている。

パニックなった一同と晴風の心配をする明乃。

そして・・・バケツを要請するロイ。

 

平賀「ちょっと・・・大丈・・・夫・・・」

 

海から勢いよく飛び出てきたバケツの水を被り、声を掛けようとしたが・・・

それよりもあることに驚く。

 

右腕が・・・ロイの無くなった右腕が元通りになっていたのだ。

 

ロイ「晴風に通信して回避行動を取るよう呼びかけろ、

 俺は昔の友人の友人をバラしてくる」

 

また光を発し海面を走っていくロイ。

それを見るのは、状況が読み込めない者達だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

左腕の義手の表面がスライドし、中に隠されていた拳銃が出てくる。

それをロイは手に取り、徐に目の前にある巡洋艦に一発撃つ。

発射された弾丸は一直線に巡洋艦を貫き弾薬庫へと駆ける。

待つこと数秒、巡洋艦は弾薬庫からの誘爆が原因となり轟沈した。

 

ロイ「臨時用だからゴミかと思っていたが、パーフェクトじゃないか」

 

一人喜ぶロイ。包囲艦隊は上陸用舟艇やボートに乗り込み、

少し奇妙な海戦の様な陸戦に思える海戦が発生した。

 

兵士「この戦争狂が!!」

ロイ「可哀想な犬風情が、調子に余り乗るな」

兵士「ぬぐぉ!!」

 

しかし近づいた兵士は何の前触れも無く斬られた様に肉体がバラバラになる。

 

兵士「こ、これは・・・」

ロイ「動くんじゃあねえぞ、良く切れる鋼鉄線は俺から半径凡そ60mに展開されている、

 これが嘘だと思うなら動いてみるがいい」

兵士「ぐぬぬ・・・」

 

動こうとする兵士は誰も居ない。

この膠着状態が永遠に続くと思った者も居たが、それはすぐに破られる。

 

兵士がまた斬られて死んだのである。

鋼鉄線をロイが動かしたのである。

全ての鋼鉄線は左腕の義手から出ていたので、それを少し動かせば死人が出るのは当然だった。

 

兵士「艦砲射撃だ!、全艦であの狂人を殺せ!!」

ロイ「来たねえ、重巡洋艦が4、戦艦が3、駆逐艦が7、

 かなりの艦隊じゃない、何人生き残るのかな?」

 

ロイ目掛け放たれた砲弾は、全てがロイに当たる前に爆発する。

 

兵士「狂人め、鋼鉄線をバリアの様に使いやがって」

艦隊司令「第二射急げ、一部乗員を除いて全艦乗組員は武装し目標を攻撃せよ」

ロイ「弾幕が厚くなってきたな、そろそろ本気出すか、

 ヨーゼフに命令、魚雷攻撃開始、目標全敵艦」

艦隊司令「360度全方位から攻撃せよ、鋼鉄線の穴を探せ」

 

ロイの元に集まりつつあった艦船、そこに一本の魚雷が現れる。

その魚雷は海中からミサイルを宙に放ちながら、巨大な戦艦に直撃する。

魚雷の命中した戦艦は大音を出して沈み、

他の艦船もミサイルの餌食になって沈んでいった。

兵士達もミサイルに巻き込まれたり、飛んでいった先で鋼鉄線に斬られ死んだ。

 

ロイ「アベルの奴は居ないか、敵殲滅完了、帰投する」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

晴風

 

静かに語り始める仮面の男。その男が冒頭にこう話した。

 

「異世界から来ました」




説明とは・・・

まあ気にするな!


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聴取は異次元

晴風 教室

 

世界のどの直教艦を探しても、今の晴風よりも奇妙な艦は無いだろう。

何しろここには戦艦含む艦隊に圧倒的勝利を刻み、

商店で重武装した上陸部隊を殲滅、

おまけに海を滑り謎の敵を撃破したロイがいる。

 

本来なら晴風乗員の居ない所で行われる筈の聴取だが、

ロイ本人の希望の元、晴風乗員も参加している。

 

平賀「単刀直入に聞きます、貴方とアベルの関係を教えてください」

ロイ「それを答えるには、少し長くなるぞ」

平賀「構いません、続けてください」

 

ロイが語るのは、常識人なら理解できないこと。

 

ロイ「・・・18年前、世界は深海棲艦という謎の化物と戦争していた」

幸子「待ってください!、最後の戦争は1914年の欧州大戦が最後です」

 

だが事実でもあるのだ。

 

ロイ「そうだ。これから先、私が話すのは所謂異世界の話だ。私が生きていた世界の話だ」

真白「異世界って、そんなものあるわけ・・・」

ロイ「これがその証拠だ」

 

ロイの話を信じきれない真白に、ロイは証拠を見せる。

 

 

キャアアアアアアアァー

 

自分の右手を切り離し、それを高速修復材で治す。

場がサーカスならマジックと言えば通用するが、

今回は艦船の聴取の最中、異世界の証拠になる。

 

ロイ「・・・これでいいな」

平賀「はい・・・」

 

流石のブルマーも困惑を隠せていない。

それでも話し続ける。

 

ロイ「そしてアベルは私が殺した。相討ちという形だから私も死んだがな」

平賀「じゃあ、今の貴方達は何なんですか」

ロイ「転生者だ、少なくとも私は陛下とその御友人に認められたが、

 アベルの方は知らんな」

平賀「・・・陛下とは何者ですか」

 

新しい人物の名が出たらその人物のことを聞く。

少なくともブルマーとしての練度からか困惑していても

聴取は問題無く出来ているようだ。

 

ロイ「未来の事を未確定だが分かって、深海棲艦を治めてるな」

平賀「・・・さっきから聞く深海棲艦はヲ級の様な人ということ?」

ロイ「人類と同じ感じですね。深海棲艦の中には魚の様なものもいます」

 

平賀「そういえば、アベルはルーウィという偽名を使っていたけれど、

 貴方も偽名を使っているの?」

ロイ「ああー、確かにそうだな。うん。ある意味偽名だな」

平賀「ある意味?」

ロイ「前世の名前がロイ・ヴィッフェ・ヒドルフだったからな。

 現世の家族には悪いが、新しい名前が自分じゃない気がしてな」

平賀「一応聞いてもいいかしら」

 

場が異常な程ざわつく。ある意味一番の気になることを聞いた平賀。

 

ロイ「はい。私のもう一つの名前は・・・」

 

現れてから永遠の謎だったロイの本名。

それはとてもあっさりと語られる

 

ロイ「知名 裕一。現武蔵艦長、知名 もえかの兄です」

 

この場にいる全ての人物が?を浮かべる中、一人だけがその名を知っていた。

 

明乃「裕・・・兄・・・」

 

岬明乃だけが、その名前を憶えていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ヨーゼフ

 

ロイ「魚雷は一本しかないんだ。補給要請出しとけよ」

艦長妖精「既に出しています。

 スピリットオブファイアが横七に帰還し補給物資を運搬するようです」

ロイ「戦艦を態々持ち出すのか。それ程補給艦が足りてないのか」

艦長妖精「如何やら、予想以上の戦域の広さに兵站が参っているようです」

ロイ「輸送方法をカタパルト式にしてみれば幾分かマシにはなる」

艦長妖精「そう伝えておきます」

 

椅子に座って机にドガッと足を置き、眠り始めるロイ。

それはこれからの戦いをとても楽観視しているように見えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

晴風

 

明乃「裕兄・・・」

 

数時間前を振り返る。

死んだと思っていた親友の兄、いいや、血の繋がっていない兄が生きていた。

これはとても喜ぶべき事である。

だがそれを素直に喜ぶこともできない。

イオンモール四国沖店での出来事。先程の聴取。

幼少期の頃の兄の思い出が崩れていく。

 

明乃「裕兄・・・」

 

もう一度呟くその声は、太平洋の夜空に消えていった。

 

同時刻、晴風副長室

 

真白「ロイ兄さん・・・兄さんは一体・・・」

 

一年にも満たない付き合いだが、それでもある程度は理解していたつもりだった。

アベル、深海棲艦、18年前、異世界、戦争。

思考が出来ない。何処かにメモを取らなければ忘れてしまう、そんな感じもする。

数日前までのイメージが崩れ去る。姿は出てもどういう人物か分からない。

今考えても無駄だ。そんな気がしたから、私は目を瞑り、意識を手放した。




カタパルト式輸送

物資をカタパルトの様に投げて届ける。
イメージとしてはミサイルの方が近い。
実際にあるかは知らない。

戦艦 スピリットオブファイア

HALOWARSに登場する元移民船、現宇宙戦艦。
主は一度もプレイしたことは無いが、
ムービー中の映像は10年前とは思えないほどの物で、
動画で一度見ることを勧める。


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参上した者

晴風

 

「これに修理した箇所を纏めた。後で確認してくれ」

 

そういうのは、靴の踵を踏み、

少々独特な感性の持ち主であることを示す

マンボウに人生と書かれた服を着ている明石艦長、杉本 珊瑚である。

 

「珊瑚ったら、潜水艦も修理したいって、言ってたのよ」

珊瑚「おい、それは言わない約束じゃなかったのか、優衣」

 

その隣に立つのは間宮艦長、藤田 優衣である。

 

明乃「あはは・・・潜水艦は裕・・・ロイ教官の所有物だから、

 学校に管理とかする権限が無いみたい」

珊瑚「個人財産で潜水艦か、着任して数年のブルーマーメイドの給料を、

 全て捧げても購入できるかどうか、買えてもメンテ費がな」

優衣「それなら教官にお願いすればいいじゃない、

 『潜水艦のメンテさせてください』、って」

珊瑚「そうしたいのは山々だが、肝心の教官の場所が分からなくてな、

 時間も無いし、残念だがここでお暇する」

優衣「美味しいご飯やスイーツが食べたくなったらいつでも呼んでね」

 

そう言って二人は自分の艦に戻っていく。

それを見届けた明乃は、振り向いて直ぐに艦橋へと戻る。

 

艦橋

 

明乃「一人・・・」

 

艦橋には珍しく、人が居ない。結構頭は抱えるが、もう一度言おう。

明乃以外、人間が誰もいない。

唯一、野良猫の五十六だけが舵の上で器用に寝ている。

だがその五十六も艦橋の上に出て行ってしまう。

明乃はそれを追いかけて、上に出ると、

 

兄が猫に対し、土下座をしているという状況を目撃する。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

明乃「・・・それで、五十六に土下座してたの?」

ロイ「ああ。猫に関することに遭うと碌なことにならない」

 

碌なこと、横七では猫が現れると運営が出来なくなる、という噂がある。

前世では妖精さんは鼠の生まれ変わりとの説があったが、

確証の無い話である。

しかしながら、ロイは違う。

横須賀で生活中、猫パンチで潜水艦に自動緊急攻撃命令が発令され、

街が火の海になる寸前だったことがある。

だがこんなことは言えないので、先程のような有耶無耶な説明をして誤魔化した。

 

明乃「左腕・・・治ってないんだね」

ロイ「こればかりはまあ、医者も学者も治せないって言われたね」

 

明乃が見ているのは、ロイの義手。

先日の聴取で右腕マジックを見たが、左腕は治っていない。

 

ロイ「遭難して、漂着して、前世の仲間たちと合流して、まず最初にやったのが全身手術。

 人間を深海棲艦に・・・対抗できる、艦娘という存在にしたんだ。

 お陰で謎のバケツを被れば傷は治るけど、手術前のこの大怪我は、義手でしか無理だって」

明乃「漂着してさ、何やってたの。数年前まで本土とか行ってないんでしょ」

ロイ「前世の仲間がホントに有能でな。

 半日あれば島を丸ごと巨大建造物にしたんだよ。それからは農業に漁業に工業に、

 何故か鋼鉄も石油も湧かせてくるからな。生きていけたんだよ」

明乃「島を丸ごと・・・見てみたいな・・・」

ロイ「良いぞ、一段落着いたら案内するよ。横七には色々あるぞ。

 前世の年表とか現世には無いものもあるからな。

 観艦式もやるか。戦艦に空母に巡洋艦。驚かせてやるよ」

明乃「ホント?、楽しみにしてるよ」

ロイ「待っとけ。・・・そろそろ砲術長の聴取が終わるな。先に行って様子を見てきてくれ」

 

明乃は艦橋に戻って行く。

それを見届けたロイは、義手のメンテを再開した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

艦橋

 

ロイ「なんだなんだ。肉の配給時間か?」

ミーナ「分からん。さっきからワシら嫌われてるんか」

 

つい数分前、艦橋前の広場に集合と明乃から言われた。

何も知らされず、集まったのはいいが、何も無い。

 

明乃「い、今から・・・ミーちゃんと教官の歓迎会をやります!!」

ワーー パチパチパチパチ

 

ガラガラと運んでこられたのはケーキ

 

ロイ「俺!?」

ミーナ「ワシもか」

美甘「今火を点けるからねえー」

 

明乃「じゃあここで教官とミーちゃんから何か一言」

 

突然の指名。少し驚きながらも、ロイは話す。

 

ロイ「あー、人に礼を言うのは、何分不慣れだ。 

 だが、このようなパーティーを開いてくれてありがとう」

 

昨日の聴取とは違う姿。

誰もが ああ、やっぱり彼も優しい人間なんだ なんて思った。

 

ミーナ「晴風乗員諸君。全く、この船は変だ。

 規律はいい加減。態度はだらしない。艦長は、天然で甘すぎる」

明乃「やっぱり?」

真白「異議なし」

ロイ「右に同じく」

 

ミーナの辛口の評価に、少しへこむ明乃。

 

ミーナ「だが、それでも、そのー、まあ、・・・」

ロイ「長くなるな」

ミーナ「う、うるさい・・・」

 

感謝の言葉を探すのに一苦労しているミーナだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

パーティーを楽しんでいた所に、無線が入る。

それに出た後、明乃は焦った様子で指示を出す。

 

明乃「皆急いで。目的地はアスンシオン島近海。武蔵が東舞鶴校教員艦と交戦しているの!!」

ロイ「パーティーはここでお開きか。皆急いで配置に就け。グダグダするなよ。

 俺は潜水艦に乗って付いていく。晴風は任せたぞ」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

アスンシオン島近海

 

駆け付けたはいいが、そこには教員艦は無い。

あるのは小さな穴が沢山空いた鉄板のようなものが、プカプカと浮き、やがて沈んでいくだけだった。

 

明乃「もかちゃん!!」

真白「酷い・・・、教員艦があんなにも無残に」

幸子「でも・・・、武蔵であんな小さな穴を空けるのは少し無理があります」

楓「右舷に浮上する潜水艦がいらっしゃいますわ」

芽依「?、何か青いのが載ってるよ」

鶫「潜水艦から打電。我、粉砕すべき目標を発見せり。貴官らは本艦ヨーゼフの後に続き、離脱せよ、

 なお、スキッパーによる脱出、移動を禁ずる、とのことです」

真白「粉砕すべき標的・・・まさか!!」

まゆみ「青い人型のものが、潜水艦から飛び出しました!!」

マチコ「同時に潜水艦から発光信号。貴官、後に続け」

 

ロイSIDE

 

ロイ「敵戦力は・・・大方空母棲姫を中心とした空母機動部隊か」

妖精「晴風、後ろに付いてます」

ロイ「よし。安全圏まで退避しろ。・・・にしても、この格好にはいささか興奮するな」

 

ロイの今の恰好。いつものトレンチコートではなく、

青い装甲を全身に付け、背中にジャイアント・バズ、腰に専用ショットガン、

膝にシュツルム・ファウスト、大腿部にはビーム・サーベルがあり、

さらに手にはガトリング砲を装備している。

前世の人間なら、こう言うだろう。

AAAAAAAKAMPFER

「重武装の闘士」と

 

その機動力で、まるで銃弾の如く進むケンプファー。

そして、あるものを見つけた瞬間にガトリングの引き金を引く。

発射された弾は、空に浮かぶ、とても不気味な物に命中し、それを墜とす。

 

ロイ「深海棲艦の艦載機だ。たこ焼きではない。余剰人員を武装させ、対空戦に備えよ」

空母棲姫「来なさい。何ででも、沈めてあげるから」

 

介入された電波。

そしてその後、千を優に超える艦載機の群れが、ロイ目掛けて攻撃を開始した。

 

ロイ「来てみなさいな。撃ち落としてやるからさ」

 

ガトリング砲が火を噴き始める。

すると艦載機はみるみるうちに減っていく。

漸く射程に入ったと思えば、撃つ前に墜とされる。

 

空母棲姫「くぅ・・・。艦隊突入」

タ級「艦隊、突撃する・・・」

ロイ「御家族、兄弟、友人。全部まとめていらっしゃいだ。俺が纏めて吹き飛ばしてやる」

 

タ級指揮の水上打撃艦隊もまた、ガトリング砲によって蜂の巣にされ、散っていく。

 

ナ級「げやあああ!!」

ロイ「弾切れか」

 

しかし弾はいつか尽きる(∞型の弾倉を除き)。

よってガトリング砲も弾切れになり、これ見よがしに近づくナ級だが、

投げられたガトリング砲によって、死んでゆく。

 

しかし、一時的に丸腰になったロイを仕留めようと、

浮遊要塞が接近してくるのを、シュツルム・ファウストで塵にさせる。

 

ロイ「こちらから行くぞ!!」

 

そう叫ぶと、スラスターを全開にして、ショットガンを左手に、

ジャイアント・バズを右手に持ち、突撃する。

空母棲姫に向かって。道中にいる重巡洋艦以下をショットガンで。

戦艦・空母クラスをジャイアント・バズで、沈めていく。

そして空母棲姫に接近する。

空母棲姫は危ないと感じたのか、予備の航空隊を垂直に、ロイに向けて発艦準備をするのと同時に、

偵察機を自分の目の前に壁の様に密集させて出し、盾にしようとする。

 

ロイの攻撃が先か、空母棲姫の守りが先か。

結果として、先に動けたのは空母棲姫だった。

しかし、コンマの差でロイも攻撃した。

ショットガンに加え、余っていたジャイアント・バズも全て撃ち込んだ。

だが、空母棲姫は耐えた。何とかして、ロイの総攻撃に耐えた。

そう思って防御陣形を解除し、予備航空隊を発艦させる。

しかし、見えたのは、何か紐の様な物に何かが付いた物を回すロイだった。

 

ロイ「チェーン・マイン、貰っときな」

 

投げられたチェーン・マインは、空母棲姫の体に巻き付き、

最期の一個まで付いた瞬間、大爆発を起こし、空母棲姫を沈めた。

 

ロイ「・・・電探に反応。増援か!」

 

それらが来るのは、武蔵の方向から。

 

アベル「はぁーい、ロイ。お嫁さん、元気?」

ロイ「アベル・・・」

アベル「全攻撃隊、発艦開始。砲撃も実施せよ」

 

満身創痍、とまではいかないが、これ以上の戦闘は残弾の関係上、不可能である。

だが、それと同時に、何としてでも突入しなければならない理由も生まれた。

 

ロイ「ミケ・・・晴風から飛び出したのか」

 

明乃のスキッパー。それが今、武蔵に向かっている。

 

ロイ「ヨーゼフに通信。晴風を脱出ルートから逃がすな。何としても連れていけ」

妖精「ですが、提督は」

ロイ「何とかする。離脱急げ」

 

再びスラスターを最大出力にする。

それと同時に、大腿部からビーム・サーベルを取り出す。

スキッパーが座礁した。明乃が海に投げられた。

・・・ロ級が近づいている。

 

ロイ「伏せていろおおおぉぉぉ!!」

明乃「えっ?」

ロ級「ぎえええぇぇ」

 

間に合った。ビーム・サーベルはロ級を縦割りにした。

 

アベル「ここまで来て退くか?、奥さんを殺したこの私から逃げるのか」

ロイ「ぐぅっ・・・」

明乃「裕兄・・・」

 

退くか悩む。退けば明乃と自分は助かる。だが敵は調子に乗る。

突撃すれば、敵と自分と明乃が死ぬ。

一先ず距離を取るため、後ろに下がる。

明乃を忘れない、落とさないよう、抱きかかえる。

 

明乃「ゆ、裕兄!!」///

ロイ「あれは・・・」

アベル「何だあれは!!」

 

空が、一部だけ真っ黒に染まっている。

そして放電も起こしている。

一同が注目する中、それは出てくる。

 

空を飛ぶ戦艦が。戦艦 スピリットオブファイアが。

 

ロイ「スピリットオブファイアに命令。アーチャーミサイル発射。敵を滅ぼせ」

アベル「ロイ!!、総員対空戦闘。あの戦艦を沈めろ」

 

スピリットオブファイアと深海棲艦が互いを撃ちあう。

 

ロイ「じゃあなアベル。また会おう」

アベル「逃がすかあ!」

 

少ししかない隙を突いて、脱出しようとする。

しかしそれをアベルが追いかける。

 

ロイ「土産だ。くらえ」

アベル「しまった!!」

 

だがそれは、残り一発だけのシュツルム・ファウストによって、阻止されたのだった。




ケンプファーって、カッコいいよね


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空から彼は現れた

待たせたな
遅かった割に内容はいつもと同じ、もしくは少し下です。



晴風

 

「・・・」

 

沈黙。

それが、深海棲艦とロイとの戦いを目にした者達の反応である。

イオンモール四国沖での戦いは、夜で暗いことと回避運動に集中していたことで、

ロイの戦闘を見れなかったが、今回は違う。

ヨーゼフの案内で、警戒しなくても済む道で行ったが為に、

発生した余裕がロイの戦いを見るという行動を起こしてしまった。

 

芽依「艦長は無事で良かったし、それは教官も同じなんだけどね」

志摩「・・・うぃ」

芽依「なんだかちょっと、悩んじゃうんだよね」

志摩「うぃ・・・」

 

砲術長水雷長コンビの、呟くような会話は、

静かな艦橋に、とても響いた。

 

真白「取り敢えず、警戒を続けて」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

晴風に上がった二人。

だがその雰囲気は、説教の最中を露呈していた。

 

ロイ「どうしてあの海に飛び出した」

明乃「だって・・・モカちゃんが、モカちゃんが・・・」

ロイ「モカがどうした」

 

泣きそうな声で、訴える。

 

明乃「だってモカちゃんが、艦橋にいたんだもん!!」

 

唯一無二の親友。そう言っても変では無い関係。

それが、あの深海棲艦まみれの海の武蔵にいた。

それを見つけれたのは、皮肉にもロイの渡した双眼鏡があったからだった。

 

ロイ「モカがいたから?、それでお前が死んだらどうするんだ!!」

明乃「・・・」

ロイ「これからも似たようなことが起こるだろう。

 もしかしたら、俺も死ぬかもしれない。晴風の誰かが死ぬかもしれない」

明乃「・・・」

ロイ「それでも、お前は艦長としての義務を果たさなければならない。

 どんな障害が現れても、誰が死のうとも」

明乃「・・・うぅ」

ロイ「それが例え武蔵であっても、それが例えモカであっても」

明乃「うぅ・・・」

ロイ「それが例え深海棲艦であっても、それが例え俺であっても!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ロイ「俺は一回横須賀まで行く。海上安全整備局から呼び出しが掛かったから」

明乃「うん・・・」

真白「分かりました。晴風の指揮を執ります」

ロイ「深海棲艦には気を付けろよ」

 

スピリットオブファイア

 

ジェームズ「ヨーゼフ、収容完了しました」

フォージ「海兵隊を晴風に付けました。戦艦クラス位なら、なんとかなります」

ロイ「よし。ワームホール展開、目的地は横須賀、高度30000フィート」

ジェームズ「了解、横須賀、30000フィート、ワームホール展開」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

横須賀

 

航空統制基地

 

無駄に高くて高性能な対空レーダー。

それがありえもしない高度に何かがあることを示す。

 

航空官「高度30000フィートより、降下してくる物体在り、数一」

航空司令「30000?、そんな高度を飛行船が?」

航空官「・・・天文台より、空に戦艦が見える、との報告在り」

航空官「海上安全整備局がそれを案内しろと、言ってます」

航空司令「分かった。誘導灯を点ける」

 

地上軍横須賀司令部

 

地上軍司令「海上安全整備局からの要請だ。 

 歩兵一個大隊、狙撃部隊、砲兵隊を横須賀で展開」

 

横須賀ベイタワー

 

豪華なホテル。

それがここ、横須賀ベイタワーの印象である。

しかしそこには大勢の兵士が立ち厳戒態勢で警備している。

その理由は、アスンシオン島近海の戦いで、空中戦艦が登場したことだった。

 

局長「揃ったな。我々の要件を纏めた。読みたまえ」

ロイ「・・・、武装解除後、投降。全関係組織の解散、軍の編入」

局長「そうだ。それが我々の要求だ。早速実行したまえ。

 出来なければ我々はそれを宣戦布告とみなす」

 

無茶苦茶な要求

後に横七白書原案と呼ばれるこれは、完璧にロイ達を見下した内容だった。

だからこそ、横七を相手に開戦という考えが出たのだろう。

このときの海上安全整備局はロイ達横七の総戦力を、

SoFのみと考えていた。

尤もこの考え方でもこの案はダメだと思い直すことになるのだが。

 

ロイ「失礼。場所を変えさせていただきたい」

幹部「変える?、何処に」

ロイ「私が乗ってきた艦です。あそこならこのホテルよりも警備がいい」

局長「それは困る。君には今すぐこれに調印してもらわなければ」

ロイ「意見の相違とならばしかたあるまい」

 

そう言うと、何も無い空間から二人のスパルタンが現れた。

 

ロイ「御同行願おう。スパルタン、連れていけ」

スパルタン「了解。付いてこい」

ロイ「お前たちは屋上から行け。俺は正面から出る」

 

正面玄関

 

大隊長「投降しろ。命は保証する」

中隊長「武器を捨てろ!!」

中隊長「人質を解放しろ」

 

ベイタワーを囲むように歩兵大隊が整列している。

もっと言えば内部にもいたのだが、気の毒なことに、排除された。

 

ロイ「・・・」

中隊長「囲め!!」

兵士「急げ」

 

囲まれ、360度全てから銃口が向けられた。

しかしロイは、それに物怖じしない。

 

ロイ「・・・」ニヤッ

 

寧ろ楽しんでいる。

その両手を前に突き出した瞬間、何処に隠していたのかアサルトライフルを構える。

 

中隊長「撃て、撃て、撃てぇー!!」

 

だがロイの射撃よりも先に、歩兵大隊の銃弾が放たれた。

それは何にも邪魔されず、ロイの元に届く。

銃弾がロイに触れたその時、弾かれた。

そしてロイの体には謎の光の壁が出てた。

 

ロイ「わぁお強い。ただ楽しみが減るのが問題だな」

兵士「ひぃっ」

ロイ「さらばだ。兵士諸君、見送り御苦労」

 

そう言い残し、下ろされたロープを掴む。

大隊の一斉掃射を躱しながら、ロイは空に帰っていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

スピリットオブファイア

 

ロイ「さあ仕切り直しといきましょう」

局長「ふざけるな!」

ロイ「彼らスパルタンが艦内では護衛します」

スパルタン「荷物をお持ちします」

ロイ「こっちへ。展望デッキに行きましょう」

 

――――

 

ロイ「ああそうそう。スパルタンの戦闘能力の高さは折り紙つきでね。

 人間に擬態している深海棲艦も判別できるんですよ」

局長「な、何だというのだ」

 

スパルタンが整備局の幹部二人と局長の前に立つ。

 

スパルタン「深海棲艦反応検知、対象を射殺します」

局長「やめろ!!」

ロイ「撃て」

「GIGASYAAAA!!」

 

幹部「これは!!」

 

撃たれたのは、幹部たちでは無い。

 

幹部「局長?」

 

局長だけだった。

 

ロイ「・・・前に一度、局長に会ったことがある。その時は人間だった」

フォージ「大佐、海兵隊はいつでも出撃出来ます」

ロイ「軍曹、SoFの全海兵隊の指揮権を与える。

 地上にいる部隊と協力し、局長を保護しろ」

 

整備局の局長の保護を命じる。

それとほぼ同じ時に、それは起こる。

 

ジェームス「レーダーに感あり。凡そ70」

ロイ「対空、対艦戦闘用意。シールドジェネレーター起動」

ジェームス「全システムオンライン。目標索敵中」

幹部「何だ!?、何が起こっているんだ」

ロイ「丁度良い機会です。是非ともSoFの戦闘力を、その目に焼き付けてもらいたい」

観測員「敵艦載機の発艦を確認」

観測員「敵砲艦の発砲を確認」

ロイ「懐かしの地で眠りこけていた連中が戦えるのかな」



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渦の中、船の中

もう、疲れたよ。
血も筋肉も何もかも、秋刀魚と鰯になるくらい。


横須賀

 

大敗北

 

それが我々横須賀駐屯深海棲艦の現状だろう。

 

敵の空中戦艦を砲撃したところ、シールドに弾かれた。

高度30000フィートに届く砲撃は戦艦クラスしかいない。

よって重巡以下は戦力にならない。

空母、艦載機もそうだ。

空中にいる以上艦攻も艦爆と同じ扱いになる。

だが爆撃可能な高度に達するまでに、どれほどの航空機が生き残れる?

答えは零だ。

 

あの対空砲火を潜り抜けれた航空機は、いなかった。

雲に隠れ奇襲を掛けても、直ぐに撃墜された。

もうすぐ報復攻撃が来る。

そうしたら我々は全滅する。

せめてもの悪足搔き。全艦艇による一斉砲撃。

それも当然の如く、シールドに弾かれた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

SoF

 

地上が良く見える展望デッキ。そこには整備局の幹部二名とロイがいた。

 

ジェームス「殲滅完了、付近に敵はいません」

ロイ「御苦労、御覧頂いたのが我々横七の総戦力の内のひとかけらです」

幹部「・・・、分かった。君達の要件を述べたまえ」

 

これ以上の傲慢な態度は良くないと悟り、発言権を相手に渡す。

それを待っていたと言わんばかりに、ロイは喋りだす。

 

ロイ「我々横七は、国家に近い武装集団です。国土は横七本島と北極の基地。

 それ以外は全て他国の地の上にあります。

そして目標が一つ、それを邪魔しなければ、我々は危害も与えず、寧ろ守りましょう」

幹部「分かった、後でその要件を飲もう、私達はもう地上に戻る」

セリーナ「地上のフォージ軍曹から、通信が入ってます」

 

SoF搭載のAI、セリーナがフォージからの報告があることを伝える。

 

ロイ「どうだった、軍曹」

フォージ「地下水道にて局長を保護、大きい傷も無く、バイタルも大丈夫です」

ロイ「そうか。よくやった、軍曹。SoFは横須賀にて待機、

 軍曹らを回収後、レ号作戦の準備をせよ」

ジェームス「了解です、提督」

フォージ「了解した、大佐」

 

局長を保護して安心している所にセリーナが水を差す。

 

セリーナ「喜んでいる所すみません、大佐」

ロイ「どうした?」

セリーナ「商船が一隻座礁し、沈没したようです」

ロイ「よくあることだが、お前が持って来るほどの案件だとまだ続きがあるな」

セリーナ「はい。救助に晴風が急行、救助をしていたところ深海棲艦と戦闘になりました」

ロイ「・・・」

セリーナ「船内には一名取り残されています。海兵隊は晴風の護衛で精一杯です」

ロイ「・・・、ヨーゼフでも、数時間はかかるな」

セリーナ「本艦でもワームホールの設定に時間が掛かります」

ロイ「悩んでもいられない、ワームホール展開準備を」

 

晴風乗員救助のため、直ぐに発艦準備をさせている所を、スパルタンが止める。

 

スパルタン「大佐、本艦には歩兵専用のワームホール転送装置があります」

ロイ「さっき軍曹らを送った奴か」

 

歩兵専用のワームホール転送装置、先行配備型を第一艦隊の帰還だからと配備されたもの。

人数は、一度で数百人が移動でき、危険は無い。ただ、帰ることができない。

 

ロイ「あれなら時間もそう掛からない。セリーナ、今すぐ準備を」

セリーナ「もうやっています。そちらこそ出撃の準備を」

スパルタン「我々スパルタンも同行します」

ジェームス「収容を急がせ、直ぐにSoFも向かいます」

 

――――

転送装置

 

ロイ「栄光の炎、ねぇ」

スパルタン「すみません、ですが、それ位しか今はありませんので」

ロイ「無いよりはいい」

セリーナ「ワームホール準備完了、転送まで3、2、1、GO」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

しんばし

 

真白「はぁはぁはぁ」

 

本当に付いてない。本当に付いてない。

やっぱりあの時に晴風に残るべきだった、救助隊の指揮はミーナさんに任せればよかった。

 

真白「うああ、右か!?」

 

じゃなきゃ海中であんな奴らから逃げなくて済んだのに、

 

ロイ兄さんに褒めて欲しくって志願したのが馬鹿だった!!。

 

戦艦水鬼「どこまで逃げても無駄なのに」

真白「もう後ろまで!!」

戦艦水鬼「さあ、泣き叫んでロイを呼びなさい」

 

さっきからそうだ。こいつらは私じゃなくてロイ兄さんを狙っている。

もしかしたら、逃げてるのではなく逃がされているのかもしれない。

 

真白「い、行き止まり!!」

多聞丸「ニャー」

戦艦水鬼「猫!!、気が変わった。直ぐに殺してやる!!」

 

彼奴から、何か砲塔のようなものが出た瞬間、

私と彼奴の間の空間が、急に渦を巻き始めた。

 

戦艦水鬼「なにこれ、撃てない!?」

真白「これは・・・」

 

前に一度、この前、見た。

前はもっと大きかった。夕暮れの空に現れた。

中からは・・・あの空中戦艦が現れた。

 

「伏せろ!!」

 

間違いなく、ロイ兄さんの声だ。

そう思ったのも束の間、渦から銃声と銃弾が飛んできた。

 

戦艦水鬼「くっ、ここは一度、退かせてもらうわ」

 

彼奴は逃げていった。渦からは凄い戦闘服を着ている3人と、ロイ兄さんが現れた。

 

――――

 

ロイ「ジェローム、ダグラス、アリス、それぞれ散開して深海棲艦を倒せ」

スパルタン,s「了解、行くぞ」

ロイ「真白、付いてこい」

真白「付いてこいって、脱出する方法があるんですか?」

ロイ「策も無しに突っ込む程馬鹿じゃないよ」

 

二人はその後、海面に近づくため上へ上へと昇って行ったが、

何度も深海棲艦の奇襲を受けていた。

 

ロイ「さて、ここ一番の問題がある」

真白「どうしたの?」

ロイ「酸素発生装置、どうやら破壊されたみたいだ・・・」

真白「ど、どうするの!?」

ロイ「少し待っていろ、直ぐに戻る。念の為、これを持っておけ」

 

そう言って渡したのは、双竜の彫刻が施されたハンドガン。

ロイは来た道を戻って行った。

 

――――

 

少しの時間が経った後、ロイ兄さんは帰ってきた。

 

 

血を流しながら、必死そうな顔で。

 

真白「大丈夫ですか、ロイ兄さん!!」

ロイ「逃げろ・・・早く・・・」

ダグラス「いたぞ!、近くに人もいる、急げ」

アリス「そいつから離れて!!」

真白「あんた達、ロイ兄さんの仲間じゃなかったのか!!」

ジェローム「違う!!、そいつは、大佐じゃない!!」

真白「えっ?」

ロイ?「信じてくれ・・・」

 

分からない。見た目に大きな差異が・・・差異が・・・差異が・・・ある。

ロイ兄さんは、傷を一瞬で完治することができる。

つまりこいつは、こいつは・・・深海棲艦・・・。

 

真白「当たれ!」

 

狙いもつけず、適当に撃った弾丸は、その偽物に当たる。

 

戦艦水鬼「GUAAAAAA!!、何すんのよ!!」

真白「ひぃっ」

 

私と彼奴は近い位置にいる、ハッキリと分かった。

 

 

 

殺される

 

 

 

そう思って前を見ると、彼奴は不自然な姿勢で固まっている。

 

戦艦水鬼「GUAA・・・こんな所で・・・死ぬなんて」

 

彼奴が倒れる。その後ろには、ロイ兄さんが口から血を流す・・・いや、嚙みついて出た、

彼奴の血が付いていながら、立っていた。

 

――――

 

ロイ「まだ中にいる。スパルタンは駆除を終えた後、上がってこい」

スパルタン,s「了解」

ロイ「行くぞ、しっかり掴まれ」

真白「えっ?」

 

ロイは真白の手を掴み、船底を突き破って海中に出た。

 

ロイ「目を開けるな、息を止めろ、多聞丸を離すな」

 

真白と何故か多聞丸は、その言葉を守った。

だが突然、ロイの動きが鈍くなった。

 

ロイ「早い、早いって、もう少しゆっくりでもいいじゃんか」

 

急に藻搔き出した。すると深海棲艦が集まってきた。

 

ロイ「ええぇい、もういい。一気に飛ばす、3、2の1GO!!」

 

ロイは真白達を上にぶん投げた。

 

晴風

 

明乃「待ってるって、こんなに辛いんだね・・・」

 

艦橋で呟く独り言。それを潰すかのように、報告が入る。

 

マチコ「水中から人が飛んできました、副長です!!」

明乃「シロちゃん!!」

秀子「空に、あの空中戦艦がいます」

明乃「裕兄まで来てる!!」

 

晴風では、最早勝利したという雰囲気が溢れていた。



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横七蜂起宣言

一時間位で作った粗品です。
お許しください。


晴風

 

ロイ「俺は・・・」

 

目を覚ます。広がる景色は、兎に角白い。

 

美波「起きたか、ロイ教官」

ロイ「美波養護教諭。ここは晴風の医務室か」

美波「そうだ。教官も長いこと面倒を見なければいけないのかと心配した」

 

話しかけてくる美波を見ながらも、あることに気付く。

 

ロイ「そうだ・・・ヲ級の奴は何処に行った?」

美波「彼女なら」

ヲ級「ここよ」

 

眠っていたヲ級を探そうとしたところに、ヲ級が帰ってくる。

 

ヲ級「お久しぶりね。随分と元気そうで良かったわ」

ロイ「そういうお前はなんか結構変わったな」

 

ロイの記憶の中にあるヲ級は、

口調がその、男っぽかった。

だが目の前にいるヲ級は、全然違った。

 

ヲ級「沢山の夢を見たから、ちょっと変わったのかな?」

ロイ「そ、そうか。それならよかった」

 

どういう夢か気になったが、聞いても理解できないと思って諦めた。

 

美波「・・・教官、寝ている間に色々検査させてもらった。

 そしたらこんなものが出てきた。色々聞きたい」

 

――――――――――――――――――――――――――――

???

 

深い深い海の底の何処かで、アベル達深海棲艦の首領は会議をしていた。

 

アベル「取り敢えず、緒戦から劣勢なのね」

欧州棲姫「私達も力を貯めたけど、ロイはそれを上回っていた、ということよ」

南米棲姫「あの空中戦艦を沈めない限り、勝ち目は無いわ」

北米棲姫「それについては少し策があるの。近いうちに見せるわ」

大西洋棲姫「いづれにしろ、早く沈めないとね」

太平洋棲姫「こっちは奴らの本拠地である横七を探してるんだけど、

 一向に見つからないのよね」

アベル「多分探しても無駄よ。探すなら横七にとっての重要地点を探しなさい」

 

するとそこへ、一匹のイ級が入ってくる。

 

イ級「こ、こちらを御覧下さい」

アベル「一体どうした」

イ級「ロイが、横七が、蜂起宣言をしてます!!」

 

ロイ「我々、横須賀第7鎮守府、通称横七は、ここに改めて蜂起を宣言する。

 18年前、一時的な休戦となった深海戦争は、改めて開戦したことをここに告げる。

戦場は全世界の海。軍は横七と深海棲艦。被害者は諸君ら現地政府。

世界に散りし我が軍は、今月上旬から中旬にかけて戦闘状態に突入した。

世界で騒がれているUFO情報は、我が軍の航空隊である。

世界で騒がれている幽霊船は、我が軍の海軍である。

世界で噂されている、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフは、

横須賀第7鎮守府提督であり、私である。

横七の殲滅対象は深海棲艦、それに付随する諸国。

我々の防衛対象は、地上で生きる全ての生命。

我々は戦うことを放棄しない。我々は、生きることを放棄しない。

最後に改めて宣言する。

我々は深海棲艦とそれに追随する諸国と、戦闘状態に入った」

 

――――――――――――――――――――――――――――

SoF

 

 

 

ロイ「全く、派手にやってくれるよ」

ジョニー「映像製作班と宣伝省からの要望です」

 

実を言うと、先程のは全て作り物の映像だった。

ロイのやったことと言えば、アフレコをしたくらいである。

 

ジェームス「ですが提督も楽しんでおられませんでしたか?」

ロイ「ふふふ。分かったか」

 

艦橋で話し合うこと40分。

ロイは晴風に降り、SoFはレ号作戦の発動を受け、作戦行動を開始した。

 



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旧き友と新しい海

まーたミスった。


晴風

 

真白「兄さん、さっきの放送って・・・」

ロイ「なーに。四国沖店でやられたからやり返しただけよ。

 それにこうしておかないと、所属不明艦として戦うことになるからな」

幸子「い、一応今のお気持ちは?」

ロイ「こんなことになっているのは俺達のせいだ。恨まれても仕方ない」

鈴「一応そんな気持ちなんだ・・・」

 

「正面に艦影」

「新艦種」

「艦橋形状から武蔵と思われるものと巨大な飛行船支援母艦が接近」

 

ロイ「おいおい、勘弁してくれよ」

鈴「武蔵!!」

真白「もう既に相手の射程内だぞ」

ロイ「距離は凡そ13マイル。ならあれは武蔵ではなく、比叡だ」

 

何故観測員が武蔵と比叡、余りにもサイズの違う戦艦を見間違えたのか。

それは艦橋が似ているからである。

元々武蔵の艦橋は、比叡の艦橋でテストされたものなので、似ているのは必然だった。

一番の問題は、比叡と共に現れた、巨大な飛行船支援母艦である。

 

「ふふふふ、ははははは!!」

ロイ「ヲ級、至急艦橋まで来てくれ」

「久しぶりだなあ、ロイ」

 

飛行船支援母艦が大音量で流す声。

それはロイが嫌う人物の中の一人である。

 

ロイ「晴風は急ぎ退避せよ。面舵340度」

鈴「面舵340度、ヨーソロー!」

ヲ級「来たわよロイ」

ロイ「こいつを渡しておく。晴風の防空を頼んだ」

 

逃げる晴風を、飛行船支援母艦は追尾する。

艦橋ではヲ級と明乃が現れ、ヲ級に銃のような砲のようなものを渡した。

 

ヲ級「そうそう。もし敵にヲ級が現れたら面倒だから、私の事はウォイルと呼んで」

ロイ「そうだな。ウォイルは艦首に行ってくれ」

ウォイル「了解、ヲ級改型空母、ウォイル。出撃するわ」

 

ウォイルは外に出ていく。

そして暫く経った後、晴風艦橋の窓ガラスが割れた。

 

「はははは、どうだロイ。これが深海の力だ」

 

艦橋の中に立つのは、白い服を着て右手を青く染める男だった。

 

明乃「裕兄!!」

真白「兄さん!!」

鈴「キャアアア!!」

 

艦橋の壁際に背中を預けたのは、頭の無い黒のトレンチコートを着た男だった。

 

真白「お前は、お前は一体何者だ!!」

「俺の名前は、義明英朗」

志摩「ううう」

英朗「そこでくたばっているロイに殺された男だよ」

 

英朗はそういうと、ロイの体に向けて拳銃を連射する。

 

英朗「今度こそは俺の勝ちだ」

 

勝利を確信し、振り返って帰ろうとした時だった。

 

ロイ「一体誰に勝ったのかな」

英朗「なに!!」

 

振り返って再度ロイの体に発砲する。

 

ロイ「何度挑んでも無駄だという事を、理解しろ」

 

ロイの体に、血が帰っていく。

英朗の体に付いていた血も、ロイの体へ帰っていく。

そして首から再度出血したと思ったら、吹き飛ばされた首は元通りになっていた。

 

英朗「どういうことだ!!」

ロイ「失せろ、邪魔だ」

英朗「!!」

 

ロイの両手首が膨らみ、破裂したと思ったら、血液と共に拳銃が出てきた。

英朗も慌てて構え直すが、直ぐにあることに気付く。

 

ロイの体に何度も撃ったのだから、マガジンにはもう弾が入っていない。

それに気づくと窓から撃たれながらも逃げていった。

 

ロイ「逃げられたか」

明乃「だ、大丈夫なの?」

ロイ「問題ない。しかし比叡はどこに行った」

幸子「比叡が先程航路で進んでいるなら・・・三時間後にトラック諸島に着きます」

真白「もし着いたなら、RATtが世界中に広まるぞ」

 

RATt

まあなんと言えばいいのか。

簡単に言えば突然変異した鼠。

こいつがいると機械が動作不全を起こし、生物は凶暴化する。

鏑木美波が発見し抗体を作ることに成功したが、世界に広まればジ・エンドである。

 

芽依「比叡とあの巨大飛行船支援母艦を同時に対処しなきゃいけないのか」

ロイ「一応横七本部に第一主力戦隊の派遣を要請した。

しかし、スペードを沈めるのに手一杯だな」

真白「スペード?」

ロイ「巨大飛行船支援母艦、正確には巨大航空母艦、スペード。そろそろ来るはずだ」

幸子「来るって・・・何です?」

マチコ「空より接近する巨大飛行物体確認。数2000」

 

英朗「どうだ!!。これが本来のスペードだ。

 最大搭載機数30000。それも重戦闘機や重爆撃機でだ!!」

ロイ「そうか。ウォイル、出番だぞ」

 

2000の重爆撃機が晴風に近付こうとした時、一機が爆発した。

 

パイロット「どうした!?」

パイロット「もしや、対空機銃?」

パイロット「だがあの航洋艦にはこの装甲を貫ける機銃は無いはずだ」

パイロット「艦首に誰かいる・・・あれは!!」

 

次々と墜とされていく重爆撃機。

それをやっているのは、一人の深海棲艦だった。

 

ロイ「弾丸の直径10cm、長さは40cm。弾種は炸裂徹甲弾から爆裂徹甲弾に換装。

 その気になれば宇宙ステーションすら破壊できる。

対艦・対空爆裂徹甲弾連射砲ジーン改」

明乃「凄い。空が・・・爆発してる」

ロイ「だがこのままでは比叡がヤバくなる。ミケ、晴風で比叡を行動停止にさせろ」

真白「晴風で比叡を!?無茶です」

ロイ「停めれなくてもトラックに行かせなければ何だっていい。頼むぞ」

 

そう言い残すと、ロイまでも窓から飛び降りていった。

 

――――

 

ロイ「スペードまで後3000。案外速いな」

「止まれ!!」

ロイ「今度はお前とかよ」

軽空母「まだ戦いは終わっていない!!」

 

ウォイルが目覚めて軽空母が目覚めない訳が無い。

多少の時間差はあれど、来るとは思っていた。

だがこのタイミングで来るのは、流石にきつかった。

 

ロイ「今は余裕が無いんだ、後にしてくれ」

軽空母「いいや。ここで終わらせる」

 

争いは避けれなさそうだった。



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スペードの頭は不要物

軽空母「お前が例えヲ級と組んでも、私はお前を殺す」

ロイ「ウォイルは自分なりに生きようとしている。

 だがお前はどうだ?、昔と変わらず生きているぞ」

軽空母「どの口がそれを言うか。

 ならばこれが私という者、私自身が求めているの」

ロイ「かあぁぁぁ」

 

面倒な相手、

軽空母を倒すことは可能だろうし、弾薬も問題ないだろう。

だがしかし、時間が許すとは限らない。

英朗が再度晴風に突入する可能性や、爆撃隊の再発進、増援もあり得る。

そう言った面で、かなり面倒なのだ。

 

軽空母「来ないなら・・・こちらから行く!」

ロイ「!!、あっさりと終わらせてもらおう」

 

軽空母は面倒な敵だ。

尤も、銃があればの話だが。

 

今の軽空母には武装が無い所謂丸腰状態。

そんな相手に苦戦するロイではない。

 

突撃してきた軽空母を掴み投げ飛ばす。

しかしあまりダメージを与えれていない。

 

そこで追撃を掛けるため、義手のエンジンを入れ、殴り続ける。

気絶するまで、ナンドデモ、ナンドデモ。

意識がなくなったなら、晴風に向けて投げる。

明乃はきっと無視はしない。いいや、できない。

 

――――

スペード

 

木を生やせば島に擬態できる程の巨大な空母、スペード。

自慢の重爆撃機隊は殲滅され、兵器は無に等しくなっていた。

 

アナウンス「敵が接近中、敵が接近中、直ちに迎撃部隊は出撃されたし、直ちに出撃されたし、

 艦内での戦闘に備え、二八式分配令が発令、本艦乗員は規定に沿って武装されたし」

 

ロイを討ち取るため、全ての命を賭ける、とても不利な賭け。

 

太平洋棲姫「大変だねえ、義明君」

英朗「貴様・・・この儂を愚弄しに来たか」

太平洋棲姫「はっはっはっ、勿論。だけどお土産もあるよ」

英朗「これは・・・ナイフ?」

太平洋棲姫「そう、でもただのナイフじゃないよ。深海棲艦に刺せば、体が崩壊していくの」

英朗「これを儂に渡すとは・・・自害しろと言うのか」

太平洋棲姫「もう・・・少し考えてみてよ。じゃあ、バイバーイ」

 

――

ロイ「取り敢えずスペードに入れたな」

兵士「いたぞ!、そこにいる」

ロイ「碌なことにならんぞ」

 

扉や角から出てくる兵士を、着実に殺しているものの、進めてはいない状況だった。

仕方が無いので殲滅を諦め、英朗のみを目標とし、

艦橋への奇襲を掛けるべく窓から海へと落下した。

 

そして甲板に上がるべく、

少し長めの投げナイフを船体外部に縦に直線状になるよういくつも投げる。

それをロイは足場として上がっていく。

 

ロイ「凄いな、たこ焼きがこんなにも沢山・・・」

 

甲板に着いたロイは、たこ焼きの多さに驚く。

勿論のことだが、食べ物ではなく艦載機である。

 

ロイ「防空駆逐艦が何隻居れば防ぎきれるのか。恐ろしいものだ」

兵士「ここにいるぞ、ロイはここにいる」

 

驚いてもいられないものである。

少しの時間で直ぐに発見されるのだから。

 

ロイは射撃の的になるのを防ぐため、艦橋に強行突入する。

異常な跳躍力は、一回目でスペードの艦橋を超えた。

そして落下時、窓ガラスを割って突入したのだった。

 

ロイ「義明、その命奪って殺る」

英朗「その殺意、恐れ入ったものだ、だが晴風の時のようにはいかん」

 

英朗はナイフを右手に持ち、左手で改造されたであろうベレッタを構える。

ロイは両手でジョンを構え、脚に力を込める。

 

英朗「くたばれえ!!」

ロイ「DRYAAA!!」

 

ベレッタから放たれた銃弾は、かすりもせずに艦橋の外に行く。

そしてジョンの刃が、英朗の腹をしっかりと捉え、切断する。

 

英朗「アアア、この餓鬼めえ!」

ロイ「晴風の時の様に逃がしはしない」

 

這いながらそとへ向かおうとする英明に、ジョンが火を噴く。

 

英明の体、取分け左胸に大穴が空く。

 

ロイ「沈め、この張りぼてと共に」

 

ロイが窓から外に出るとき、一本のナイフが投げられ、そして命中した。

 

ロイ「!、やりやがったな、あのクソ爺!!」

 

目線の先には、笑顔のまま死んでいく義明がいた。

 

――

深海某所

 

太平洋棲姫「いやー、あの人間がまさかあんな風に役に立つとは」

北米棲姫「まさか、最期の最期で漸く気付くとは、ホンッと無能だねえ」

アフリカ棲姫「これで暫くは戦闘不能だな」

 

彼女らの持つ書類にはあの男のことが書かれていた。

 

『義明 英朗 (よしあき ひでろう)

 

春作戦陽動部隊長 及び 超巨大空母スペード艦長

 

最終階級 少将

 

元横須賀第7鎮守府提督 ロイによって逮捕、リスタァ刑務所に投獄

その後脱獄し、潜伏していた深海エージェントに誘拐される

そこでスペード艦長として横七攻撃の総司令官となる

傭兵部隊やスペードの指揮適性が無く殲滅される

 

本戦争における功績

 

最初期の中東奇襲作戦におけるタンカーの撃沈

ロイ率いる晴風隊の一時的な行動阻害

対ロイ兵器の実験                       』

 

太平洋棲姫「そういえばアベル閣下はどうした?」

大西洋棲姫「ああ、ついさっき艦隊を纏めて抜錨したわよ」

太平洋棲姫「そんな・・・横須賀奇襲作戦の総指揮は私だと」

欧州棲姫「お前が出掛けてる合間に決定した、閣下自ら指揮を執るのだ」

太平洋棲姫「そ、それは規定を破ることに」

地中海棲姫「我々ならばな、だが閣下は別だ」

太平洋棲姫「わ、私はどうなるんですか」

アフリカ棲姫「このままいけば解雇か前線だね」

北米棲姫「いや、実験艦の可能性が」

南米棲姫「標的艦や練習艦はどうかな?」

 

誤って方向に進む会議から、太平洋棲姫は出ていく。

 

アベル閣下がロイを殺す前に、私が殺さないと私が殺される

 

そんな思いを持って、ロイに攻撃を仕掛ける。



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歓喜よりも大きい物

明けましておめでとうございます。
今年もロイ一世を、宜しくお願い致します。


静まり返る艦橋、そして暫くした後大きな歓声。

 

晴風は、航洋艦でありながら高速戦艦である比叡を座礁させ、

ロイからの命令?である比叡を止めることに成功した。

勿論、トラック諸島を経由した

RATs拡散阻止にも(『にも』と言っているが、こっちの方が本命)成功している。

 

「第一主力戦隊に制圧してもらう。皆、よく頑張ったな」

真白「あ、あの~」

芽依「き、君は・・・誰かな?」

 

労いの言葉を掛けるのは、少しぶかぶかの服を着る少年だった。

誰もが誰こいつ状態の中、一人分かったのがいた。

尤も、そいつも現状を理解するのに時間が掛かったが。

 

明乃「裕兄?」

ロイ「何を不思議な顔してる。確かに多少やられたが、そんなものでもない」

幸子「あの~、自分の姿確認しました?」

ロイ「は?」

志摩「教官、鏡」

ロイ「ああ、ありがと・・・お・・・」

 

少年になった自分を見て、ロイは暫く固まっていた。

だが、そんなロイを色々とヤバい目で見る人もいた。

 

真白「可愛い…」

鈴「副長?」

真白「な、何でもない!」

 

――

幸子「なんです?、つまりそのナイフのせいで若返ったんですか」

ロイ「まあ正確に言えば、手術後は別の体だったけど、

 刺されてそれが破壊されたから

 成長せずに内蔵されていた手術前の体になったんだな」

明乃「けど腕とか治ってるよ?」

ロイ「俺が医者に見えるか?」

真白「可愛い子供に見えます!!・・・あっ」

幸子「副長・・・流石に犯罪に手は・・・」

真白「だ、出さん!!」

 

時間が出来て談笑している時に、ロイに通信が入る。

 

ロイ「すまない。少し席を外す」

明乃「分かった、皆にそろそろ配置に就くよう伝えて」

ロイ「そういえば、軽空母の奴は?」

幸子「ウォイルさんと一緒に保健室だと思います」

ロイ「ありがとう」

 

艦橋の外に出て、通信に出る。

相手はヨーゼフのようだ。

 

ロイ「よー、軽空母の奴に沈められたと思ってたけど大丈夫だったか?」

通信士「本艦は轟沈寄りの大破、艦内は74%も浸水。

 通信機の予備があったので、こうしてますよ」

ロイ「それは大変。回収班を寄越すから、本当に帰還しなさい」

通信士「ありがとうございます。

 それよりも、深海棲艦の中規模から大規模艦隊が

 接近しているとのことを、軌道衛星の電探が捉えました」

ロイ「参ったな。第一主力戦隊に急がせるよう伝えろ」

 

急いで艦橋に入る。

そして先程の内容を伝える。

 

真白「急ぎましょう。じゃないと比叡どころか晴風も沈みます!!」

明乃「だけど比叡の皆が直ぐそこにいるんだよ!!」

幸子「教官、その艦隊をなんとか出来ませんか?」

ロイ「今の俺はただの子供だ。まともに戦えない。

 ウォイルだけだと良くて牽制、悪くて特攻」

 

今まで何百もの深海棲艦を葬ってきたロイも、今はただの子供に過ぎない。

それにジーン改を持つウォイルでも、単艦では多勢に無勢、勝てるわけがない。

 

芽依「特攻って、死んじゃうってこと!?」

志摩「うぃぃぃぃ!?」

ロイ「取り敢えず、機関全速出せるよう準備、後退を開始」

鈴「きょ、教官!!」

ロイ「なんだぁ!!」

鈴「うっ・・・、幾ら何でも見捨てるのは」

ロイ「ここで後退しなければ、晴風も巻き添えを喰らう。それだけは御免だ」

鈴「けど、きっとなにかあるはずです」

 

普段臆病な鈴が、物怖じもせずに自分の意見を伝える。

それによって、少しではあるが空気が変わっていく。

 

ミーナ「晴風の砲でも深海棲艦は牽制できるのか?」

ロイ「一応は可能だ。だが少し改造しないとあまり効果は無い」

ミーナ「ならばすぐにやるべきじゃ。そこにウォイルさんの牽制もあれば・・・」

ロイ「さらに少しは余裕が生まれる。だが後退は続けろ。いいな」

 

逃げながら撃つ

これしか許されていないが、それでも少しは変化を誘えるはず。

そう誰もが思い、行動に移る。

 

主砲に行き、改造を始めるロイ。(どうやら資材は晴風に置いていたようだ)

缶に火を強く炊き、全速の用意を始める機関科。

事前にある程度の場所を撃てるよう計算を始める射撃指揮所。

ロイの改造完了を待つ砲手達。

ダメコンのための資材や道具を準備しストレッチする主計科。

美波教諭と一緒にワクチンの準備をする主計科。

そして魚雷を使わないので仕事の無い水雷科と喚き始める水雷長。

 

マチコ「接近する深海棲艦あり。数・・・数え切れません!!」

ロイ「主砲、敵狙え」

志摩「ういっ」

ロイ「撃てえ!!」

 

砲弾は、敵陣の中に入ると、その空間を丸ごと消し飛ばした。

物理的にではなく、空間ごと全て消したのであった。

 

芽依「凄い・・・これが横七の砲の科学力」

志摩「うい・・・」

ロイ「ぼさっとしている暇は無い。続けて第二射、敵陣先方」

志摩「う、うい」

ロイ「撃てえぇい!!」

 

続く砲撃も、同じように空間ごと消し去った。

だが敵の数が多い。いつしか海面を黒く染め上げる程まで浮上していた。

 

ロイ「多過ぎる。機関ホントにこれ全速か?」

麻侖「これ以上やったら機関から大爆発が起きちまうよ」

まゆみ「艦長達、危ない!!」

ロイ「ぐぉっ!!」

志摩「ういいいいいい!!」

 

駆逐艦が艦橋内部に侵入し、ロイの体を食べる。

だがまだ死んではおらず、徐にポケットを探り始める。

 

ロイ「早く・・・早く出てこい!!」

駆逐艦「GYAOOOOO!!」

ロイ「あった!!」

 

ポケットの中にあった拳銃を出し、

安全装置を外し、駆逐艦の頭に構える。

 

今までとは違う量の大出血。

 

こつん、と音を立てて落ちる拳銃。

 

 

 

ロイの瞼が閉じていく。

別におかしな話ではない。二桁に満たない年の子が、

ほぼ半分体を食べられ、死ぬのは。

寧ろ拳銃の安全装置を外せたこと自体が奇跡だとも言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だあああああああああ」

 

叫び、落ちた拳銃を拾い、駆逐艦に何度も発砲する。

明らかに死んでもなお、発砲するのを止めない。

 

ロイ「もういい…止めろ…ミケ」

明乃「裕兄ぃぃ」

ロイ「誰か…こいつの血を…俺の口に運んでくれ…」

ミーナ「くっ・・・」

 

ロイの願いをミーナは聞き入れ、深海棲艦の血をロイに飲ます。

その数秒後、ロイの瞼は完全に閉ざされた。



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少年兵?、いいえ。地獄製造機です

報告、一か月位投稿していない未完シリーズを削除しました。
同時投稿は辛いんやなって。


誰一人として、何も喋らない。

そして、誰一人として、目を離さない。

 

死んだ少年から。

死んだロイ・ヴィッフェ・ヒドルフから。

ウォイルは救援と共に晴風に突入するため、艦載機に引っ張られて脱出した。

詰まる所、晴風は深海棲艦との戦闘能力を失った。

 

ウォイルが脱出した10数秒後、晴風に深海棲艦が乗り込み、制圧した。

そしてその指揮官である、太平洋棲姫が艦橋に来た。

 

太平洋棲姫「ふ~ん。この娘達がね。それで、あいつの死体は?」

側近「それが、まだ発見できていません」

 

側近の人型と話しているが、どんどんと不機嫌になっていく。

それはやがて怒声となって現れる。

 

太平洋棲姫「死体が動くわけないでしょ!!、

 奴の気配はこの艦全体から伝わる。もう一度探してきなさい」

側近「分かっています。勿論、捜索は続行させます。

 機関は停止、海上には守備艦隊を40°ずつ配置。

 海中には潜水艦隊に加えソナーを装備した哨戒艦隊を急遽要請しました」

太平洋棲姫「そこまでやるのなら、当然その命…」

側近「…勿論です」

 

二人のやり取りが終わったと思ったら、今度は通信が入った。

 

側近「はい。…おい!、そんな馬鹿げたことを言うな‼」

太平洋棲姫「どうしたの…?」

側近「外を…御覧下さい」

芽依「えっ、外?」

明乃「これって…」

太平洋棲姫「やられた!!、急いで迎撃して」

 

外には、小さなワームホールの群れ。

そして、それから出てきたと思われる飛行物体。

多くは青や赤茶色の鯨の様なものであるが、中には銀や金色で塗装されたのもある。

だが色に関しては一つの共通点がある。

機体前方中央部

そこに描かれた双竜の絵。

横七の旗であるそれは、蜂起宣言でも見られた。

 

そして飛行物体。

搭載されている武器は違い、変な絵はあるが、あれはバンシーである。

知っている人はそう言うだろうが、些細な違いがHALOを生み出さず、知る者はいない。

 

 

 

 

 

戦闘機達による対空戦闘は頻りに行われている。

今さっきも深海戦闘機がバンシーのミサイルで撃墜されていた。

だが機銃などによる対空戦闘は全く行われていない。

それに加え深海側の航空機には増援が居ない。

 

志摩「あ…ああ…あああ…」

幸子「どうしましたか、立石さん」

志摩「あれ、あれ、あれ!!」

 

志摩の指差す先には、太い針で串刺しになった深海棲艦がいた。

そして深海棲艦は針に溶けていく様に消えていった。

辺りを見渡せば、深海棲艦などはいない。

だが40°ごとに血だまりはあった。

 

 

太平洋棲姫「奴は、奴はどこだ!!」

 

必死に周りを見回す。

するとチラリ、とガラスにロイの顔が映った。

だが振り返っても、奴の姿は無い。

 

ロイ「慌てるな、深海棲艦。…晴風に航空攻撃はしない」

太平洋棲姫「!!、貴様、どこにいる」

 

漸くロイの姿を目撃する。

だがそれは、実体などではなく、ただの幻影として。

 

ロイ「ガラスに映っているのは、私ではない。

 君自身がパレイドリア効果*1で私を映しているんだ」

太平洋棲姫「くぅ…」

ロイ「私はこの晴風のどこにでもいる」

太平洋棲姫「!!、まさか、あの航空機は『撃たない』じゃなくて『撃てない』…。

 私達は最初から発見していた。私達は、確保していた…」

 

太平洋棲姫が、床に向けて機銃を乱射する。

 

太平洋棲姫「ロイ自身が晴風だったなんて!!」

ロイ「御名答。だけど、そこはもう私じゃない」

太平洋棲姫「!!」

 

開いた床穴からは、開いた穴の数だけ細い針が出てくる。

それを悠々と躱すが、その視界の中で大きな絶望をする。

艦橋の外、針に刺され死んでいる制圧部隊。

そして針の先に立つロイ。

そのロイは、少年ではない。

ナイフに刺される前のロイだった。

ロイが銃を構えたので、後ろに跳んで逃げようとしたが、

その時に天井と床から今度は細長い針が何本も現れ、太平洋棲姫に刺さる。

 

側近「ひぃぃ…」

 

後ろを向いて走る人型は、壁から出てきた細長い針に追われ、曲がり角の先から現れた針と挟まれた。

二体はやがて、闇に消えるように段々と消えていった。

 

――

明乃「裕兄!!」

ロイ「うおっ」

 

ロイに勢いよく飛びかかり、ロイは少し仰け反る。

今のロイは少年ではないのだが、それでも衝撃は来たようだ。

 

真白「にしても、どうやって逃げたんですか!?私達、とっても心配して…」

ロイ「ああ、ああ。シロまで泣き始めた」

 

右には明乃、左には真白

両手に華とはこのことなのかもしれないが、泣き声が棘のように刺さっている、

 

ロイ「頼むから、泣き止んでく…れ…」

明乃「裕兄!!」真白「兄さん!!」

 

急にふらつき始めたロイ。それを見た二人は大騒ぎで、ロイの手を掴む。

 

ロイ「すまない。幾ら何でも流石に疲れた。少し休ませてくれ」

 

そう言ってロイは艦橋の外に出ていく。

気付けば日は暮れており、バンシーの母艦であるガウ級攻撃空母が比叡への突入作戦を行っていた。

 

――

「まさかまた縮むとは」

 

桟橋には沢山の人がいる。

しかし、そこにいるのは少女達と少年のみで、大人は誰一人としていなかった。

 

明乃「だけど普通に過ごせていたような…」

ロイ「体が辛いのよ。頭痛もガンガンするし」

真白「その状態なら大丈夫なんですか…」

 

夕日が沈みかけて、幻想的な景色が広がる中、一隻の黒い船が近づいてくる。

 

「何あれ…」

ロイ「趣味が異常と言えばいいのか、隠密を目指しているのか」

幸子「趣味に関しては…ねぇ?」

???「とうっ」

 

改インディペンデンス級から、黒い服を着た女が飛び降りてくる。

四回転半と綺麗な着地。

体操ならば高得点なのかもしれない。

 

真冬「ブルーマーメイドの宗谷真冬だ。比叡の護衛に…シロじゃねえか!!」

真白「姉さん!!」

ロイ「道中御苦労、真冬二等保安監督官」

真冬「あ?、ああ。君がこの艦隊の司令官か。

 横七のことはあまり知らないが、君のような少年もいるのか」

ロイ「…比叡に関する書類を持って来る」

 

少年が近くのガウに入っていく。

それを見届けた真冬は、真冬を見る。

 

真冬「なんか、お前少し気が抜けてないか?

 久し振りに姉ちゃんが根性を注入してやろうか?」

真白「やめてくれ!!」

明乃「あの、お願いしてもいいですか!?」

真白「おい馬鹿!!」

真冬「よ~し、後ろ向け」

 

明乃が深呼吸をして緊張しながら待っていると、

真冬は叫びながら両手を伸ばす。その先は…尻である。

近付いていく手、誰もが叫んでいると、その手は止まった。

別段、何かに当たったというわけではない。

蹴られただけだ。

腹を蹴られ、痛みを抑える為に手は帰っていった。

 

ロイ「人の家族に何をしているのかなぁ真冬?」

 

少年はとても良い笑顔で真冬を見つめる。

その笑顔の裏には怒りなどがあるかもしれないが。

 

真冬「き、君は…」

ロイ「これでお分かりか?、べんてん艦長」

 

少年は大人に急成長する。

一番の驚きは銃をその手に持っていたことだが。

 

真冬「ロ、ロイ教官!!」

ロイ「正解」

 

二回、発砲する。その銃弾は両耳のすれすれをほぼ同時に通過する。

 

ロイ「根性の前に技術を叩き込んでやる。付いてこい」

真冬「嫌だあああああああああ」

 

真冬は襟を掴まれてガウの中に消えていく。

 

 

その叫び声は遠く水平線の彼方まで聞こえたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『まだ少し続くんじゃ』――

 

ガウが何かを囲うように停泊している。

そこには小さなプレハブ小屋がある。

それは長期的な滞在どころか数時間いることすら考えていない程の粗末な作りだった。

その中にはロイと小屋の大きさ的に不釣りあいな柱があった。

ロイがそれを見つめていると、柱の表層に太平洋棲姫の顔が浮かんできた。

 

太平洋棲姫「こ、ここは!!」

ロイ「尋問室だ。お前にはかなりの量の聞かなければならないことがある」

太平洋棲姫「無駄だ。こんなことしても、アベル閣下が直ぐに気付き私を消去する」

ロイ「問題ない。その為にお前を一度食べた」

太平洋棲姫「やはりお前もか」

 

何を言っているのか分からないだろう。

これはロイとアベルのそれぞれの部下の操り方である。

ロイは妖精を何時でもどういう状況か知ることが出来て、何時でも消すことができる。

これはロイという存在を通して妖精が召喚されるので、媒体が拒否すれば直ぐにでも消せる。

例)社長(ロイ)がいるから会社にいる役立たず(妖精)

これと同じ事をアベルも行っているが、

太平洋棲姫が既に一度死んでいるためアベルは太平洋棲姫の状況を知れない。

 

太平洋棲姫「だがお前が死んでもあの航空隊が来たということは、保険役がいるのか」

保険役

ロイが死ぬと妖精は自分を維持できないので消滅してしまう。

だがとある術式を物や生物に仕込めば、ロイが死んでも妖精は消滅しない。

それに加え、管理者が増えるので妖精の状況を知る人物も増える。

この為ロイは作戦司令部などを保険役として素早い対応を可能にしている。

 

ロイ「…アベルの現在地は何処だ」

太平洋棲姫「さぁねー、今頃北極じゃない?」

 

ふざけた言い方だが、何も言わないし考えない。

質問の答えが返ってくればそれでいい。

 

ロイ「義明のあのナイフ。あれはなんだ」

太平洋棲姫「…」

ロイ「黙秘…か」

 

双方合わせて20秒の沈黙。だがそれは叫び声で終わる。

 

太平洋棲姫「GYAAAAAA!!これは…」

ロイ「お前は今、俺の胃袋の中にいるも同然。他に何が入っているかな?」

 

太平洋棲姫の顔がブツブツしたと思ったら、針が出てきた。

 

太平洋棲姫「分かった、分かったから」

ロイ「…」

 

言葉は返ってこない。だが針は消えていき傷も無くなった。

 

太平洋棲姫「あのナイフは深海棲艦に刺さると体が崩壊していく。作成方法は無い。

 私達が手に入れたときは実験の事故現場から撤収しているとき。

 それも最近だったし素材も複雑だったから分析も複製も出来なかった」

ロイ「…RATsの詳しい説明」

太平洋棲姫「はっ、お前、只の鼠と思って舐めてかかったな」

 

やはり言葉は返ってこない。

だが鋭い目付きで見られ、柱がプシュー、と音を立て始める。

 

太平洋棲姫「ああ…熱い!!、やめて、やめてえぇぇぇ!!」

ロイ「…RATsの詳しい説明」

太平洋棲姫「その前にこの痛みを止めてくれ!!」

 

叫ぶ程では無いが、全くという程でも無い程度の体感温度になる。

 

太平洋棲姫「RATsは元々アメリカの特殊生物研究所で発見された。

 閣下はそれを買収し、技術試験隊の下でさらに研究を進めた。

だが予算をかなり取られ計画破棄寸前だったが、日本の海上安全整備局局長に計画を委託。

最終的な結果としては効率的に大勢の人間を制御できるようになった。

後はRATsを直接管理できるようにするだけ。

そこで西ノ島新島で実験艦を沈没させ回収しようとした。

研究員はまだRATsがいると思っていたらしいが既に回収して学生艦に…」

ロイ「陸での活動には適していなかった。深海にいすぎたな」

太平洋棲姫「だけど、一人でも感染して陸地に揚がれば」

 

ロイは黙った。もう必要なことは聞けたのだ。

パチン、綺麗に指を鳴らすと柱には火が付いた。

プレハブ小屋も燃えていく。

後ろから聞こえてくる叫び声を無視してロイは出ていった。

*1
脳が視覚情報などからよく知ったパターンをだして誤認すること。 例としては夜中にカーテンのシミが人の顔に見えるなど



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遭遇したはいいものの

ガウ攻撃空母

 

大きな部屋の中央にはまあまあな大きさの正六角形のテーブルがある。

それを囲うように立っているのは少年と二人の少女と黒い服の女性だ。

少年がテーブルのスイッチを入れると地球儀のホログラムが出てくる。

直ぐに大西洋に点が出てきてアベルと表示される。

その点は北極に向かって移動を始める。

 

ロイ「奴への尋問でアベルは今北極付近にいることが分かった。

 幸いなことに北極には海底要塞がある。そこで漸減戦を仕掛ける。

主力の一部と要塞で長期的にアベルを北極に留めれる。

勿論一週間かそこらだがね」

真冬「では、我々はどうする?北極での戦いには間に合わない」

ロイ「不明艦の捜索だな。アベル達が北極に向かっているのなら、

 南方で陽動作戦を実行している艦隊がいるはずだ。

となると目に留まる大型艦を使うだろう。」

真白「となると…残るのは武蔵」

 

武蔵、その一言でもう一人の少女、明乃は緊張する。

だがそれは、無駄に終わる。

 

真冬「いいや。トラック北方とアドミラルティ諸島で大型艦の発見報告が来た」

ロイ「武蔵は確定、もう大型艦はないからそれに近い物だろう」

真白「可能性があるとすればシュペー…」

ロイ「ソロモン海を索敵していた航空隊が撮った映像だ」

 

地球儀のホログラムは、六方向対応の映像を流す。

黒い海の中に一隻の船が航行している。

映像を拡大すれば黒い海は深海棲艦、船はシュペーであることが分かる。

 

明乃「これはシュペー…」

ロイ「つまり武蔵がトラック、シュペーがアドミラルティ諸島」

真冬「戦力を二分して一つは…」

ロイ「ああ。俺と晴風はシュペーを確保する。お前は武蔵を」

真白「改インディペンデンス級でも武蔵相手は無理です!!」

 

今後の方針が固まりかけたとき、真白が反対する。

相手は世界で二隻しかない46㎝砲搭載艦である大和型の武蔵。

一方は新型とはいえ小さな船。勝ち目などは無いに等しい。

 

ロイ「試験としてやるのも良かったが、場が場だ。

 偵察部隊が来るまでの時間稼ぎを頼む。具体的には…」

真冬「…ゴクリ

ロイ「武蔵の射程ギリギリを維持、部隊が来るまで耐えろ」

真冬「それだけか?」

ロイ「それだけだよ。…まじで、それだけ」

 

そう言ってロイはポケットから黒い球体を取り出す。

 

ロイ「部隊が到着したら白くなる。持っておけ」

 

渡し終えるともう一回ホログラムに目を移す。

 

ロイ「アベルが態々大西洋から北極に向かったということは、太平洋を目指しているはずだ。

 武蔵も北上を開始するはず。こいつらが合流するのは恐らく…

 そのため、ウォイルと軽空母とはここで別れる。

二人には援軍部隊襲撃をやらせる。流石に全ての深海棲艦が集まったらまずいからな」

 

決戦の場を予想する。それを聞いた後、全員は退室していった。

地球儀のホログラムは回転をやめない。

北極に向かう点は動くのを止めない。

 

――

ロイ「じゃあな真冬、試験前にくたばるんじゃないぞ」

真冬「そっちこそ、しぬんじゃねえぞ」

 

互いに毒を含んで言い合うが、その顔は互いに笑顔をである。

 

べんてんの姿が見えなくなってからロイは動きだした。

 

ロイ「横七は散開して捜索、晴風はアドミラルティ諸島に行く」

真白「どうしてです?、全戦力を集中させれば、シュペーはすぐに」

ロイ「…RATs感染艦と考えられる行方不明艦が、南方で立て続けに発見されている。

 トラック程では無いが、上陸されたりRATsが広がると面倒だ。早急に手を打つ」

ミーナ「…」

ロイ「それに、シュペーには忘れ物をしているからな、取りにいかないと」

 

――

アドミラルティ諸島海域

 

ロイ「深海電探に異状なし。シュペーは見つけれたか?」

マチコ「いいえ。まだです」

まゆみ「…右舷後方の海上に、人がいます!?」

明乃「人?」

芽依「教官の知り合いですか?」

ロイ「付近で活動中の部隊はいないがなぁ?、見てくる」

志摩「うぃ?」

幸子「あれが罠で、既に包囲されてたら笑えないですね」

鈴「なんでそんな怖いこと言うの!!」

真白「だが本当なら一大事だ。警戒しろ」

 

海上で晴風に背を向けているのは、女性だった。

近付くにつれロイは、彼女が艦娘だと気づいた。

 

可笑しい。

陛下はこの世界に送る際、深海棲艦も艦娘もいない、とおっしゃった。

目の前にいる艦娘が誰か分からないが警戒をしといて悪いことは無い。

 

ロイ「動くな。砲を置いてゆっくりと回れ」

艦娘「んん?」

 

言ったが動かない。そこでロイは一度空砲を撃ち、もう一度言う。

 

ロイ「動くな。砲を置いてゆっくりと回れ!!次は頭を撃つ」

艦娘「ふふふ。今度は自分から頭を準備するのか、ロイ?」

 

謎の艦娘は、一気に振り向く。

その動きを見たロイは脚に撃とうとしたが、直ぐに横顔を見て銃を落とす。

 

ロイ「お前は…加古…」

加古「そう。古鷹型巡洋艦の二番艦、加古って言うんだ、知ってた?」

ロイ「加古…加古…」

 

銃に構わず加古の元に駆け寄り、抱く。

その瞳からは大粒の涙が流れ出ていく。

 

ロイ「この大馬鹿が、今まで何処に居やがった、探したんだぞ!!」

加古「うん...うん...」

ロイ「だけど、本当に会えて、会えて、会えて・・・」

 

次の言葉を言う前に、ロイは血を吐いた。

 

ロイ「ガッ!…どうしてだ、加古ぉぉぉ!!」

 

ダメージの理由は心臓が抉られたから。

そして抉ったのは、目の前にいる加古だった。

 

加古「やっぱ変わんないよねえ、会ったら直ぐに泣く所とか、18年前から成長していない」

ロイ「ガホッ、ガホッ」

加古「ウザイんだよね。何も考えてなくて。自分しか頭になくて」

ロイ「なにを言ってるんだ、加古。お前、なにかおかしいぞ」

加古「そういう所だよ。自分はなんでも知っているみたいな感じで、

 ホントは全然わかってないんだよ!!」

 

視界が優れない。眼前の人物は誰だ。確か大切な人の様な気がする。

下を何故か見てしまう。見る気は無いのに。

何か黒い物が下から迫ってきている。それを隠すように青黒い水が垂れてくる。

しっかり見るため、霞む目をなんとか正常に作動させ、青黒い水を掻く。

見えてきたのは、黒と白が使われた、不気味な生き物。

何故かは分からないが、ホルスターに手を当て、本来そこにあるべき物を探す。

だが見つからないかったようで、次に腰にある中華包丁のような刃が長い物を持つ。

そして水中の不気味な生き物に刃先を向けて、引き金をひく。

 

その音で目が醒める。

 

ロイ「深海棲艦!!、加古、一旦ここは…加古?」

 

辺りを見渡すが、何処にも加古はいない。

 

ロイ「…帰投する」

 

――

晴風

 

ロイを置き去りにしてシュペー捜索をしていた晴風は、とうとうシュペーを発見した。

 

マチコ「シュペー付近に深海棲艦を発見。数11」

明乃「シュペーにも深海棲艦の護衛が。距離をとって。もし接近してくるなら退避する」

真白「一応、対深海棲艦用に改修されているとはいえ、危険です。もっと距離をとるべきかと」

芽依「けど、もし深海棲艦を見失ったら危険じゃない?」

幸子「確かに、もし潜水するところを見逃して急接近されたら」

鈴「じゃあ近付いても逃げても危険ってこと!?」

志摩「けど…まだどっちの射程にも…入ってない」

ミーナ「テア…、危険じゃが、シュペーを止める策ならある」

明乃「それって、今朝説明してた…」

 

シュペーにはかなり大きな弱点がある。

それはボイラーから蒸気を供給するパイプが露出しており、

ここを撃てば燃料が使えなくなるのだ。

史実ではこれが理由で自沈したと技術将校は語っている。

そのパイプは、対深海棲艦用に改修されていない晴風の砲でも充分に破壊できた。

しかし、武蔵や比叡程の火力は無くても、晴風には十分に脅威だった。

 

マチコ「深海棲艦が、こちらに向けて動き始めました!!」

明乃「急いでこの海域を離脱する。敵に牽制砲撃を行って」

幸子「牽制レベルの火力ではありませんがね」

真白「それはいいことだ」

鶫「ロイ教官から合流地点を送られました。第四戦速で30分です」

鈴「30分間、む、無防備になる…」

志摩「けど…11隻なら…何とか」

芽依「そんな心配しなくていいかも、あいつら戻ってく」

真白「私達を無視して…どこを目指しているんだ?」

明乃「…合流地点を目指す。第二戦速」



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行方不明の

題名を考える頭


合流地点

 

晴風は先に到着していたロイを回収し、シュペーを探す。

 

晴風 海図室

 

ロイ「シュペーと遭遇し退却。発見場所はここか」

 

ピンにシュペーと彫り、発見場所に刺す。

続いて無線を耳に当て、海図に矢印を書き込む。

 

ロイ「地元住民の報告を傍聴した所、南西に向かったようだ」

幸子「ソロモン海に固執しているように見えます」

真白「確かに、シュペーはソロモン海を中心に発見されている。 

 何か守りたいものでもあるのか。それとも…」

ロイ「奴らの目指す場所は多分サボ島及びフロリダ諸島南方、

 ガダルカナル島北方に位置するこの海峡だ」

明乃「ここに何かあるの?」

ロイ「…鉄底海峡、多くの艦が沈んだ場所だ。何があるかは分からない。

 寧ろ、この世界では沈んでない。なら何故行く」

幸子「…確か、何処かの直教艦が沈んだと聞きました」

真白「しかし、それが理由とは考えにくい。沈んだのは先月末だろ」

ロイ「取り敢えず、行ってみなければ分からない。

 晴風は海峡北西に向け移動を。こちらはガウ機動部隊を展開する。

 解散。敵はソロモン海海戦を再現しようとしているなら、夜戦を仕掛ける。

出来る限りお前たちは休んで当日に備えろ」

 

そう言って部屋を出たロイは、とある倉庫に行く。

他の部屋には無いカードキーによる施錠がされている。

カードキーを挿して開錠し、中に入る。

 

そこは黒い箱が積まれ、中心にはベットがあった。

しかしそのベットは普通の物ではない。

寝転がり縁のスイッチを押すと、何本もの管が出てきて刺さる。

管の中には緑色の液体が流れており、ロイの体に入っていく。

 

「マスター、入ってもよろしいでしょうか」

 

扉を叩く奴が来た。

声からしてミーナだろう。

ロイは体を起こして管を戻す。

 

ロイ「入れ」

 

その一声を掛けると扉は自動で開いた。

 

ミーナ「…マスター、シュペーへ突入する際に、ワシも同行させてください。

 艦長を、皆を、助けたいんです!!」

ロイ「晴風はシュペーと対峙どころか海峡突入もしない。

 よってその願いは叶わない。帰れ」

ミーナ「じゃが、何もしないのは耐えれん!!」

ロイ「何を言っても決断は変わらない。帰れ」

ミーナ「どうしてじゃ!!、シュペー内に凶暴化した生徒がいることは分かっている。

 じゃが、既に特効薬が開発されているならワシも力になれる」

ロイ「甘ったれたことを言うな!!、ガキでRATsの対処が出来るなら、

 今頃北極に跳んでいる。厄介なのは深海棲艦だけではなくて、RATsだ」

ミーナ「RATsが?、確かに直に触れると狂暴化し、電子機器を狂わす。

 おまけに集団が集まればネズミ算的に狂暴化する。

じゃがそれだけじゃないのか?」

ロイ「RATsの研究についての資料は既に美波教諭に渡した。

 詳しくは教諭の元に行けばわかる。だが決断は変わらない、覚えておけ」

ミーナ「失礼します。マスター」

ロイ「ああ、後。マスター呼びはやめろ。提督か教官にしてくれ」

 

医務室

 

美波「そういうことか」

ミーナ「ああ。早くその資料を」

美波「いいや、色々と含めて話したいからな。これを見てくれ」

 

そう言うと美波は冷蔵庫から青黒い液体の入った試験管を3本取り出す。

 

美波「これは深海棲艦の血だ。教官に頼んで提供してもらった」

 

一本の試験管をミーナに見せる。

深海棲艦に関する物は全て回収するロイだから、これは珍しい。

 

ミーナ「そっちの二本もか?」

美波「今から説明する。だがここから先は晴風全員が知っていた方が良い。

 私は資料を持って行くから、ミーナさんは教室の使用許可と皆を集めて」

 

 

――

美波「このAの試験管には先日、教官に提供された巡洋艦級の深海棲艦の血液がある。

 そしてこのBの試験管には、RATsの血液が入っている。

Bの方から報告するが、難しいと理解できないと思うので、ざっくりとしたものにする」

 

黒板に映写機を使って映像を出す。

 

美波「これがRATsの血液だ。この赤い物が赤血球。これは白血球。

 そしてこの緑色が、狂暴化の原因と思われるウイルスだ。

そして通常なら血しょうが流れているが、こいつにはない。

血しょうの代替物と思われるのはこの青いものだ」

 

映像には色々な物が記されている。

 

美波「そしてAの試験管、深海棲艦の血。Bと同じ青い血しょうの代替物がある。

 このことから、RATsに深海棲艦と同じ血が流れていることが分かる。

そしてこの青い血は、皮膚を鋼鉄のように堅くし、傷の治癒能力も高い。

何より一番の問題は、これが大量にあれば深海棲艦を作ることが出来るんだ」

麻侖「何を言っているんだ?」

美波「…RATsが沢山居れば、RATsだけで武装した深海棲艦が出来る」

洋美「輸血パックが幾らあっても人間はできない…」

果代子「相手はネズミ算的に増える鼠。つまり艦の中には」

美波「潜在的に深海棲艦がいる。それも沢山」

ミーナ「だから突入にワシを同行させてくれなかったのか」

明乃「あの~、Cの試験管には何が?」

 

一斉に注目が美波に向く。

興味を持った目で見られるが、美波の顔は暗い。

だが話し始める。

 

美波「これは、教官の血液だ」

真白「教官って、ロイ兄さんの!?」

美波「そうだ。そしてこれにもこの青いのが流れている」

明乃「ちょっと待ってよ…それってつまり、裕兄は」

真白「よしてくれ。確かに兄さんは強くて、復活する。だがそれだけだ。決して深海せ

ロイ「そうだ。俺は深海棲艦だ」

 

美波の発表で混乱が生じ、明乃や真白が否定しようとする中、彼は現れた。

 

志摩「うぃぃ!?」

芽依「嘘!!」

幸子「そんなことが」

 

床から、まるで染み出した水のように現れた。

 

ロイ「ミケ、お前の知る知名裕一は何処にもいないぞ」

明乃「えっ、何を言うの裕兄?」

ロイ「魂は知名裕一からロイ・ヴィッフェ・ヒドルフに代わった。

 肉体も艦娘を経た後、深海棲艦となった。さあ、知名裕一は何処に行った?」

明乃「あ゛あ゛」

ロイ「…明日だ。鉄底海峡突入時間は0300。晴風は北側でシュペー脱出を防止する。

 我々は東側からウォイルと軽空母と合流。奇襲を掛ける」

幸子「…御二人は別作戦の為、いないと聞きました」

ロイ「ああ。ウォイル達の目的はハワイ及びその周辺海域の深海棲艦の殲滅だったが、

 ウォイル及び隷下の第61ガウ航空隊の戦力では対応すら出来ない為、南下してもらった」

真白「…」

ロイ「それでは、おやすみ」

 

――

横須賀 ブルーマーメイド日本支部

 

真霜「以上が、横七主導で行われた比叡制圧作戦の結果よ」

「凄い。死者無しで戦艦を制圧…」

「RATs感染者も全員容態は安定しているらしいわ」

 

真霜「う、うん」

 

今この場は、比叡戦の報告が発表されていた。

比叡乗員及び晴風乗員に、死者はおらず、

鏑木美波の作ったワクチンは、RATs感染者を救った。

この結果は、ブルーマーメイドの士気を一気に向上させた。

 

何しろ、この一か月深海棲艦によってブルーマーメイドは、

ドック内に籠り横七の改装作業を待つしかなかった。

 

世界的に見ればまだましな方かもしれない。

           要求

米国は横七に技術提供を要請し、ホワイトハウスが一時占領された。

 

ロシアは横七支部を特定しようとして逆鱗に触れ、陸軍基地が爆破。

また海軍造船所と付近の道路が地雷原となり、作業が出来なくなった。

 

東アジアの某国は、深海棲艦との友好を目指し閣僚が海に出て行方不明、政情が不安定に。

 

国連は深海棲艦に戦いを挑み完敗。一部島国から撤収を開始した。

 

こうした中、情報開示はされていないが、改装されたのは日本のみである。

 

苦難を耐え忍んできたブルーマーメイドにとって、勝利の二文字は魂の欲するものだった。

 

真霜「ワクチン増産の目途が立ち、改装作業が完了しつつあるため、

 我々は行方不明艦の捜索活動に参加することになったわ」

「とうとう、べんてん以外も参加出来るようになるのか」

「長かった。けどこの一か月、シュミレーションで訓練は欠かしてないわ」

「カッコイイところ、見せましょ?」

真霜「横七からの情報では、全ての艦がフィリピンのマニラ沖に集まる動きを見せているそうよ。

 現在南下中の敵総帥アベルも向かっていると思われる」

「まさに地獄…」

「そんな中から子供を救うのが我々の仕事さ」

「全ての軍隊を連れていってマッニィラ♪」

真霜「私達は集結中の行方不明艦を各個制圧する。出来なかった分はマニラで〆る。

 その際は横七が深海棲艦を引き付ける。

この作戦は速度が大切である。索敵、移動、救助。

全てを速やかにこなして。尚、作戦名は『バーシアス作戦』。各員、一層奮起せよ」

 

 

ああ、そうそう。

因みに、比叡戦時にも作戦はあったらしいよ。

名前は、『ゲテモノカレー作戦』だよ。




わりかしまじ。


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ソロモンにて敵の航空母艦を発見!

どうも。艦これ始めて一年位経ったロイ1世です。
実は今まで1世の『1』を漢数字にしていたことに気付きました。
ですが直す気はありません。許してね☆。スンマセン
菱餅イベント、結構楽しんでます。最近だと、
深夜テンションの所為かは分かりませんが、ルート開放で笑ってました。
そして何気に初めて緊急泊地修理を使いました。
春イベ→始めて数ヶ月、できるわけがない!!(ジョジョっぽく)
夏イベ→明石の練度が低すぎて使えない
秋イベ→ルート開放中に間違ってクリア(難易度丙)
冬イベ→使ってみた

艦これ、楽しいですね。
キャラもいいし。

ただし、妖怪猫吊るしとエラー猫。お前はダメだ。

久しぶりに前書きを沢山書きました。
長くなりましたが、本編をどうぞ!!


ロイ「えぇぇぇ」

 

彼は海峡突入のためウォイル達と合流すべく、晴風と別れて移動した。

その後、合流することに成功したが、異様な変化を遂げていた。

 

ロイ「お前が軽空母…」

「おう。そうだぞ」

ウォイル「ああ。そうだぞ」

ロイ「そっかぁ。そうなんだあ」

 

ロイは現状を理解せずに場を乗り越えようとした。

それ程、彼には目の前の光景が異様だったんだろう。

 

まずガウ三隻。

そしてその中には護衛機兼雷撃機のワスプ隊。

一隻につき一隊配属されており、隊長機はハンニバル・ワスプ。

通常の隊員機でもONIと豪勢である。

 

余談だが、通常のワスプは技術部と戦術部が

「量産型VTOL機(ノーマルワスプ)なんて偵察機に改造しとけ」

との見解を示したことが原因で、ミサイルが外されカメラなどを積んだものになった。

 

他には物資や兵器を梱包しているコンテナが多い。

 

さて、問題と向き合おう。

 

目の前には二体の深海棲艦。

一隻は空母。もう一隻は…戦艦。

それも中々の大物。

 

レ級。

 

目の前にレ級がいやがる。

ウォイルの発言から、こいつは軽空母の奴だったんだろうな。

艦種変わってるけど。随分可愛くなったけど。大型艦に進化したけど。

 

ロイ「…お前が軽空母が確認する、軽空母に止めを刺した時、

 俺が使った銃はアサルトライフルであるか?」

レ級「いいや。ロイが止めを刺した時に使ったのは刃物。

 それも軍用ナイフよりも長く、刀とは違ったもの」

ロイ「その時にお前が仕掛けた航空攻撃は?」

レ級「なし。偵察機を除くすべてを墜とされた為、していない」

ロイ「本物だな…」

 

予想なら、ここで何か一つでも間違えると思っていた。

間違えたらすぐに討つため、膝蹴りの準備もしていた。

 

駄菓子菓子、一つも間違えなかった。

一つ目はまだしも、二つ目はバリバリの引っ掛け問題である。

これを正解できたということは認めるしかあるまい。

 

ウォイル「そうそう、こいつのことは『レイ』と呼んでやれ」

ロイ「識別のためだな。了解した」

レイ「いいや。名前で呼んでくれないのは嫌だからだ」

ロイ「戦艦に成れたな」

 

そうだな。これはきっと艦娘化の兆候なんだな。

だからきっと型式を拒み名前呼びを望んでいるんだな。

そして人格が異常な程変わっている。

つい数週間前は殺しに来た奴だが、今じゃもう面影も無い。

つまりそれは夢の力が強大なんだな。

 

そんなことを考えて、本題に入ろうとした。

 

ロイ「シュペー救出作戦、秘匿名『火号作戦』。

 我々はソロモン諸島北方にあるマースパ付近を通過して突入する。

その後はガウの支援の下、敵深海棲艦を駆除。

お前達はその後晴風と合流しろ」

ウォイル「待て、マースパ付近だと遠回りだぞ」

ロイ「それは只の船ならだ」

レイ「じゃあどーするんだ?」

ロイ「あれを使う」

 

さっきまではやられてばっかだったが、今は違う。

コンテナを指差したロイの顔は、自信満々だった。

 

――

晴風

 

作戦開始時刻、晴風は緊張に包まれていた。

後方とはいえ、深海棲艦との夜戦は初めてだったからだ。

以前、伊号潜水艦との夜戦で叱られた成果はあった。

照明は一つも点いていない。音も静かだ。

 

明乃「開始時刻が近づいてもこない…」

幸子「付近の水上艦は晴風のみです。電探にも感はなし」

鈴「もしかして、私達見捨てられた!?」

真白「馬鹿を言うな!!、兄さんは普段はアレだが…見捨てるような人じゃない!!」

芽依「前から思ってたけど、教官の事とっても信頼してて『兄さん』

 って呼んでるよね。何でなの?」

真白「えっそれは///あの…ちょっと」

志摩「上、上!!」

明乃「上?」

 

話が変わってきたときに、志摩が「上を見て」と告げた。

見てみると、幽かにガウと呼ばれた飛行船がいた。

折り返してきたと思ったら、今度は照明弾を投下した。

 

芽依「あれって教官!?」

 

指差す空には、三人が何かに吊るされて宙を動いていた。

 

――

ロイ「フラッグシップのリ級5…いや7。戦艦は見えないから、重巡主力の水雷戦隊」

ウォイル「敵空母機動部隊は発見できず。ここの総旗艦と思われる姫級も見えず」

レイ「仕掛ければ嫌でも出てきます。ここは降下して攻撃するべきかと」

ロイ「いいや。まずはガウによる試験爆撃が優先だ。帰るぞ」

ウォイル「あの姿勢は嫌いなんだけどね」

ロイ「文句を言ってないで覚悟を決めたらどうだ」

 

彼らの今の姿勢はジムのフライユニット付きの姿勢である。

肩にはステルス爆撃機に似た形のフライユニットが付いていた。

そしてウォイルの文句の言う姿勢とは、フライユニットと平行になることだ。

 

ロイ「こちらスカウト、テストを始めろ」

「こちらガウ了解、テストを開始する」

 

三人が消えた後、ガウは照明弾の少し上にまで降下した。

 

まず連続して焼夷弾が投下され水上にいた艦隊は火傷や炎に包まれる。

火を消すために海に潜り助かったと思えば、

ガウは一気に降下し、水中に拡散弾を掃射する。

反撃のため水上に出ようとしても、いまだ炎は燃え続けている。

だがそれでも水上に出れば、機銃を撃たれ沈む。

 

炎が視覚を、銃声が聴覚を刺激し海峡内を地獄と思わせた。

 

しかし炎もいつかは消える。

深海棲艦はガウの音が消えたのを確認して水上にでる。

 

そこには想定外の事柄が起きていた。

 

爆撃機や雷撃機とは違う。

人が自分達と顔を合わせながら飛び、銃を撃ってくる。

 

ロイ「敵は真正面にいる。重力による影響を考えず、偏差のみして撃ちまくれ!!」

レイ「戦艦の主砲を楽しめ!!」

ウォイル「ジーン改は対艦砲でもあるのだよ」

 

リ級「空母を早く出せ。急いで対空戦を始めろ!!」

ロ級「Oh、Oh!!」

 

爆撃を恐れず行った必死の対空戦闘は功を奏さず、粗方が掃討された。

 

ロイ「降下する。フライユニットを分離しろ」

ウォイル「やっと外せれる」

レイ「ちぇ~」

ロイ「分離まで3…2…1…今!!」

 

掛け声に合わせてフライユニットと三人は別々の行動を開始した。

一方は落下し、もう一方は上昇した。

三人は無事着水し、艤装を展開した。

 

「こちらガウ、敵航空機を発見した。退避する」

ウォイル「制空権が一気に消えたわね」

ロイ「仕方ない、ガウ自体対空戦は出来ないし、ワスプも護衛特化で制空権確保は無理だ」

レイ「だがまだ夜戦なだけこっちに分があるぞ。空母は夜間だとまともに戦えないからな。

 それにさっきので空母以外の主力は全て消えたといってもいい」

ウォイル「そうね。…対空電探に感あり。方向は南西。対空戦闘用意」

 

一斉に空を見る。

軽くではあるが黒煙を出している。反撃を喰らったのだろう。

 

ロイ「…待て。あれは既に帰還途中だ」

レイ「あっちに行きゃあ空母がいるな」

ウォイル「来た方向には…晴風がいるな」

ロイ「!!、なんだって。無線を貸せ」

レイ「無線なんて持ってねえよ」

ロイ「はぁ!?」

レイ「ヌンチャクならあるけどな!!」

ウォイル「というか、ロイ、お前持ってるだろ」

ロイ「…すまない、焦り過ぎた」

 

急いで晴風に連絡を取る。

黒煙が出ていたということは反撃を喰らった。

つまり、一度爆撃もしくは雷撃を行ったということだ。

 

ロイ「…晴風、応答せよ。こちら横七提督、ロイ。晴風、応答せよ」

慧「はい、こちら横須賀女子海洋学校所属艦、晴風れす!!」

ロイ「異状ないか!!」

慧「えっええっと、敵の爆弾が付近に着弾。衝撃などで一部機器に乱れ在りです。

 しかし乗員には今の所死者は出ておりません!!」

ロイ「そうか。直ぐにウォイル達を送る。しばし堪えよ」

ウォイル「いくら知り合いとはいえ、焦り過ぎじゃないか?」

 

その指摘は、ロイにとって充分に痛い所を突いた。

軍人、それも提督(というよりも国家レベルの組織のトップ)は、心を忘れなければいけない時もある。

無論、ロイがそれを守らなかったこともある。

というよりも、開戦前まで人探しを、開戦後は特定の人物の抹殺を横七の総力を結集してやっている。

だがそれでも、大勢の前や一部の仲間の前では見せたくないものである。

 

ロイ「…作戦通り、お前達は晴風へ。俺は空母を叩く」

レイ「おい!!話を逸らs」

ウォイル「了解」

 

この世界では初であろうソロモン海戦。

それは深海棲艦の殲滅という面では優勢な横七だが、未だシュペーの位置は掴めていない。

 

既に日付は更新された。




タイトルネタ
私の知る大賢者の一人、Wikipediaが以下の情報の元

第一次ソロモン海戦はミッドウェー海戦後であり、日本は空母を4隻失った後。
そんな中、行われたが航空機の支援はラバウル航空隊が行っていた。
海戦前に空襲を受けたり零戦が航空隊に混じっていたため、
米機動部隊司令官がミッドウェーでの南雲機動部隊と今の米機動部隊の状況が同じで、
やられるのでは?、と思い南下して退避。
米機動部隊司令官は既に空母を二隻沈められたため、
蓄積されていた肉体的・精神的疲弊が祟ったものとされる。

そのため、第一次ソロモン海戦に空母はいなかった。


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そいつは誰だ? 

珍しく連続投稿。よって中身はスカスカ。ごめんなさい。
チッ…反省してま~す。

この「反省してま~す」が実は秘かなマイブーム。

あのスポーツも薬もやってないけど。


ロイ「そこをどけ!!、小型艦がいくら集まろうと無駄なんだよ!!」

 

軽く荒れた口調で主機を最大にし、高速スキッパーと同じかそれ以上の速さで進む。

邪魔をしようと砲撃を行った深海棲艦は、

肩部に付いていたミサイルランチャーを撃ち込まれ、沈められた。

残弾が無くなったランチャーは、中に遠隔操作爆弾を仕込んで相手に投げつける。

出来る限りの再利用をしており、環境にヤサシイ・・・

 

ロイ「あれは…雷撃機。こっちに来るのか」

 

前から黒いタコ焼きが接近してくる。

 

ロイ「魚雷か…」

 

黒タコの魚雷と思われるものを、空を飛んで回避する。

そして黒タコに近寄り、一機を残して撃墜する。

そして残った一機に齧り付く。

 

ロイ「…位置変わらず。空母は2隻。護衛は軽巡3、駆逐1」

 

最近、習得した技。

深海棲艦の血や艤装を摂取すると、それの記憶を見ることが出来る。

おかげで偵察がある程度必要ではなくなる。

 

ロイ「一気に距離を詰める。ロケットブースター点火。機関も最大」

 

背部の艤装が大きく火を噴く。

それと同時に速度は一気に上昇した。

 

ただ、空母の位置へ直線状に行こうとすれば、島に上陸しなければならない。

それは当然、時間を無駄にする。

シュペーを発見できてない今、そんなことはできない。

 

ロイ「ブースター方向転換。背部垂直から背部平行へ」

 

命令通り、ブースターの噴出口がロイの背中に垂直から平行に変わる。

勢いはそのまま、ロイは大空に飛んだ。

 

そして空母を発見すると急降下を始める。

 

ロイ「オンドリャー!!」

 

降下中にジョンに込められた一発の弾丸をヲ級の頭に撃ち込む。

 

着水後は止まらない勢いを活かして回転切り。もう一体のヲ級も沈む。

護衛艦には余っているミサイルを撃ち込んで終了。

 

ロイ「こちらブリッジ。フライユニットの合流を求む」

「こちらガウ了解、それと晴風から連絡があったぞ」

ロイ「何?、分かった」

 

ロイの悪い癖の一つに無線を常に切っているというのがある。

その所為で味方の提案も聞き逃すことがある。

ジョニーに注意されて最近は気を付けていたが、ダメだった。

 

慧「やっと繋がった。こちら晴風、今現在シュペーを制圧中」

ロイ「は!?」

慧「すみませんっ警戒中にシュペーが来て。深海棲艦はウォイルさん達の

  おかげで倒したんですけど、シュペーは制圧しなきゃダメで…」

ロイ「…シュペーに突入した奴らは!?」

慧「ええっと、現れた深海棲艦を撃破しつつRATs狩り中とのことです」

ロイ「ウォイル達を割いたのか?」

慧「いいえ。シュペーにいた協力者さんが」

ロイ「…直ぐに行く。警戒を怠るな。その協力者にも」

 

返事を聞く前に無線を切る。

フライユニットは既に装着済み。

 

一気に晴風いいや、シュペーに向かう。



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Who are you? I kill you. OK?

極度のキャラ崩壊が含まれます。御注意を。


アドミラル・グラーフ・シュペー

 

ミーナ「ありがとう。・・・おかげでテアを・・・皆を救えた」

「いいって。あたしだってあなた達にお世話になったんだから」

マチコ「RATsも全て駆除したみたいだ」

「ほんっじゃ、シュペーは制圧完了、晴風に帰りますかね」

 

シュペーの海域脱出を監視するために配置されていた晴風。

ロイは別段、制圧できると考えていなかったし、そもそも来ないと考えていた。

しかし、協力者によってシュペーは制圧され『火号作戦』は完了した…

 

――

晴風 艦橋

 

「やっほー、ひっさしぶりだねーロイ」

ロイ「・・・18年間、迷子の大馬鹿が帰ってきたのか」

「酷い言い方だなー、泣いちゃってもいいんだよ」

ロイ「涙はまだもう少しとっておきたい」

「もー、ツンデレだなー」

 

艦橋メンバーは、砂糖を吐いた気がした。…一部を除いて

 

明乃「あの、改めまして救助に協力していただきありがとうございました」

「いいよって、ホントに。あたしもやるべきことをやっただけだから」

芽依「にしても、教官の奥さんがこんな人だったなんて」

鈴「『加古』さんって、教官と真逆のオーラだね」

 

眼に映る協力者は、加古だった。

 

ロイ「はぁ、一応聞きたいことがあるから、付いて来て」

加古「はぁ~い。分かったよ」

 

二人は出ていった。行き先は大凡分かっている。

最下層部のとある倉庫室だ。

ロイはそこを晴風での拠点として活動している。

 

真白「…出てったな」

明乃「そうね…」

芽依「二人共、なに暗い顔してんの?、

   艦長はともかく副長はオーラ出しっぱなしだったよ」

真白「そうか…」

鈴「ふ、副長が幽霊みたいになってる。怖い!!」

 

理由は知りたくないし分かりたくないが、二人はとても暗い。

加古がロイと腕を組みながら出ていったのを見て余計に暗くなった。

 

志摩「きょ、教官達。い、一体なにするんだろ…」

 

志摩が喋った。「うぃ」しか喋らない立石志摩が喋った。

それ程、志摩は二人のことが気になるらしい。

 

幸子「きっと、ヤるんですよ!!」

鈴「何言い出すの!!」

幸子「『18年間、君のことを忘れた日は無い』、『嬉しいよ、あたし』

   『雰囲気が無くて悪いが、今すぐ君を味わらせてくれ』『いいよ…ロイ』的な!!」

志摩「後ろ!!、後ろ!!」

幸子「えっ?後ろがどうしギャーッ!!

 

自分の妄想を暴露して、後ろを見れば…

 

 

怨霊のような艦長&副長がいた。

 

真白「嘘…ですよね。兄さん…」

明乃「裕兄ダメだよ…選択を間違えちゃぁ」

幸子「い、今のは全部妄想ですから!!、本当のことじゃありませんから!!」

芽依「そんなに気になんなら、見てこればいいじゃん」

幸子「それです!!」

 

自分の所為で場が最悪になりかけており、幸子としては直ぐに逃げたかった。

だから本来はありえないが、覗き見に賛成した。

これを理由に艦橋から逃げたかった。

 

だが、そう上手くはいかない。

 

明乃「メイちゃんナイスアイデア。じゃあ、行こうか」

芽依「ウェ?あたしも?」

真白「幸子さんもついてきますよね?」

幸子「私もですか!!、あっいいえ、行きます。喜んで行きます!!」

芽依「タマもいくよ」

志摩「うぃぃぃ!?」

 

断ろうとしたが、許してくれる雰囲気じゃなかった。

 

明乃「じゃあリンチャン、よろしくね」

鈴「えあっはい。分かりました」

真白「行くよ、待っててね。兄さん」

 

皆がぞろぞろと出ていく中、少し遅れたのがいた。

 

鈴「メイちゃん?行かなくていいの?」

 

西崎芽依である。珍しく浮かない顔で考え事をしているような仕草だった。

 

芽依「いや、少し考えちゃってね」

鈴「何を?」

芽依「だってさ、教官奥さんと再会できたんだよ。なのに表情がかたくって。寧ろ暗くって。

   普通再開できたら喜ぶでしょ。なんでかなー、って思って」

鈴「きっと泣くのが恥ずかしかったからじゃないかな。皆見てるし」

芽依「それでもねー。まるで、本当は好きじゃないみたいで」

 

――

幸子「そこの部屋です」

明乃「裕兄…」

真白「静かにしてください艦長、私が見えません」

志摩「うぃ、うぃ」

芽依「もー、二人共邪魔」

 

扉に5人が張り付く。珍しく、扉は若干だが開いていた。

 

ロイ「そんなところで生きてたのか」

加古「うん、大変だったよ。朝が来ても古鷹もロイも起こしてくれない。

   いくら探してもロイはいない。

   ここは地獄で、身勝手してた罰がおりたと何度も泣いたよ」

ロイ「けどもう違う。また会えたんだ。

   もう一度、この失くした18年を補って余りある時間を過ごそう」

加古「うん」

 

幸子「ううわっ、教官かなりキザ」

明乃「裕兄…裕兄…」

志摩「痛い…艦長、痛い」

 

ロイ「少し休もっか。もう朝も近いしお茶だよ」

加古「ありがと」

ロイ「こうして何か飲んでると、初めてキスした日を思い出すよ」

加古「そうだね、あの時は恥ずかしかったな~」

ロイ「いきなりキスしたことは悪いと反省してる」

加古「あの時は驚いたけど嬉しかったから」

 

幸子「///」

明乃「裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄」

志摩「痛い…やめて」

真白「ガリガリガリガリガリガリ

芽依「副長?、歯が欠けるよ」

 

ロイ「・・・目を瞑って」

加古「えっ?」

ロイ「やっぱ、まだすこし恥ずかしいからさ」

加古「いいよ」

 

ロイは後ろに回り、あすなろ抱きをする。

 

幸子「キャー(≧∇≦)」

明乃「裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄裕兄」

志摩「痛いから、痛すぎるから」

真白「兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん」

芽依「んっ?、なにかおかしいぞ」

 

加古「ぐ…ロイぃ?」

ロイ「・・・」

加古「ぐ、ぐるじい」

ロイ「黙れ」

 

「「「「「・・・」」」」」

幸子「や、ヤバくないですか!?」

芽依「こ、殺そうとしてるよ!!」

明乃「うふふ、裕兄。やっぱり裕兄は…」

真白「そうだ。いいぞ。苦しめ、苦しんで死ね!!」

志摩「う、うぃぃぃぃ」

 

加古「がっ…あが…ぅっ…」

ロイ「・・・じゃあな」

加古「」

 

幸子「こ、殺しちゃった」

芽依「あの人、あんな恋愛すんの!?」

 

ロイ「・・・そこで見ているのは分かっている、こっちに来なさい」

芽依「ゲッ」

ロイ「来い」

幸子「わ、わかりました」

 

――

加古の死体は箱に詰められた。今は全員、命の危機と感じている。自分が殺されないかと。

 

ロイ「さっきのは気にするな。元々あんなの好きじゃない」

芽依「え!!」

幸子「もしかして浮気・・・」

ロイ「冗談は止せ。ただそいつが深海棲艦で偽物だから殺したんだ」

 

答える声はとても低くて怒りを含んでいた。

 

志摩「うい?」

ロイ「深海棲艦には見えない?、まあそうだな。外観も仕草も全て同じだ」

真白「じゃあ、どう見分けたんですか?」

ロイ「会話の途中に忘れるはずのない出来事の嘘を入れた」

幸子「どこです?」

ロイ「俺がファーストキスを奪ったと言ったな。あれは嘘だ」

 

安心したかのような雰囲気が少し溢れる。

 

真白「じゃあ兄さんはキスを」

ロイ「俺が奪われた側だった」

真白「がふぉ」プクプク

芽依「副長!!、泡吹いてる」

幸子「艦長は静かだと思ったら、気絶してますね」

明乃「   」

 

一気に逆転した。

 

――

死体の入った箱が鳴る。

 

ロイ「如何やら、元が誰か分かったみたいだ」

 

死体を入れた箱。ただ異臭を防ぐために入れたのではない。

元の深海棲艦が誰かを調べるためだった。

 

ロイ「ええっと、重巡棲姫。東南アジアの司令か」

幸子「そんな人が、どうして変装を」

ロイ「大方、付近の艦隊が殲滅されたから暗殺でも狙ったんだろ」

真白「んっ?まだ続きがあるぞ」

 

ロイ「こいつは古鷹型巡洋艦一番艦の古鷹」

芽依「調べたんだけど、先月にここで沈んだのは他校の古鷹みたい」

ロイ「そうか…俺は休む。皆も休んでくれ」

――

芽依「教官、悲しそうだったなぁ」

幸子「仕方ないですよ、変装した敵だったんですよ」

志摩「うい」

 

さっきのロイを見て言う。顔には出すまいとしていたのか、逆に全身から出ていた。

 

幸子「けど二人がヤバい人間だって分かりました」

芽依「殺されかけてる人見て喜ぶなんて…ね」

志摩「うい、うい」

幸子「はぁー、私疲れちゃいました、ミーちゃんのとこ行ってきます」

芽依「あはは、迷惑にならないといいね」

――

重巡棲姫の死亡によって東南アジアの深海棲艦は死滅した。

確実に安定化したのは初めての事である。

しかし未だ世界は第二次深海戦争の渦中であり、アベル率いる大艦隊は北極を越えた。

束の間の平和を楽しむ。その先の氷山も知らずに。



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パーティーとおどろき

執筆中に見つけた新しい遊び。

Google翻訳で早口言葉を翻訳する。


『火号作戦』完了の翌朝。

艦内放送を通じて付近に深海棲艦の脅威なしとの報を聞いた両艦の乗員は、

感謝として昼にパーティーを行うことにした。

 

美甘「う~ん。ここはやっぱり日本食を出す方がいいよね…けど」

あかね「確認取ってきました。シュペーの人達がドイツ料理を出すみたいです」

ほまれ「良かった、この前みたいになると大変だからね」

美甘「うぅ~、あれから反省してドイツ料理覚えたんだからね」

 

武蔵から逃げた後、一度ドイツ料理を振る舞ったことがある。

美甘は全力で取り組んだのだが結果として「なんちゃってドイツ料理」を作ってしまった。

料理では負けなしと誇っていたが、杵崎姉妹の蒸した芋などに惨敗した。

 

リベンジを掲げロイにドイツ料理を出したところ

 

仔牛の煮込みが死ぬほど食いたい(イタリア料理)アイスバイン

ヘロインの匂いがする サワークラウト

寄生虫がいるがよく噛めば死ぬ シュミッツェル

そんなの食えば太るぞ ハンバーグ

 

関係ない話や薬物の話、さらには加熱できていないなどとボロクソに言われ、

ドイツ料理恐怖症に陥っていた。

 

美甘「私達は和食でいこっか」

ほまれ「それで、ちょっとドイツの有名なものを取り入れて」

あかね「それって大丈夫なのかな?」

美甘「しょ、食材だけならいける!!…はず」

――

アドミラルシュペー

 

陽が昇る前とは違い、活気があるシュペー。こちらも晴風に出す料理を考えていた。

その中でも医務室は抗体を撃ち込まれて寝てた者が話し合うためうるさい。

 

テア『それで、晴風で過ごしてみてどうだった?』

ミーナ『かなり楽しかったです。マスターがいるのは想定外でしたが』

テア『マスターがいるのか!!』

ミーナ『ええ、そうですが…』

 

思い出話をするのかと思いきや、まさかのロイに凸である。

焦ったが考えなおせば横七蜂起宣言などを知らないシュペー乗員は、出航前、

とりわけロイのドイツ演習のままイメージが残っているのである。

つまり、単独で艦隊を潰した英雄のままなのである。

彼女らにとってロイは、提督でも大佐でもない。マスターなのである。

そんな人が居ると分かれば凸るのも仕方のないことだ。

 

テア『急いでいくぞ』

ミーナ『あっ、まっ待ってください』

――

晴風

 

テア『やはり人に聞いた方が早そうだ』

ミーナ『そうですね。私は艦尾の方に行きます』

テア『分かった。聞けたらここに来てくれ』

 

ミーナと別れた後、周りを改めて見てみる。

 

「じゃ~ね~」

ウォイル「はぁ、了解です」

レイ「頑張れよ!」

「うん、分かったよ」

 

艦首から二人の深海棲艦が出撃していく。

テアはロイの居場所を聞こうと思ったが忙しそうだったのでやめた。

代わりに二人と話していた少年に聞く。

 

テア「すまない、マスター・ロイは何処にいる?」

「マスターの方は知らないけど、ロイなら知ってるよ」

テア「本当か!!、どこにいるか分かるのか!?」

「うん。今君の前にいるよ」

テア「…えっ?」

 

――

テア『つまり…深海棲艦の血で若返った、そういうことか?」

ミーナ『まあ、そんなところです。ですが今日はなにかおかしな感じがします』

 

ロイの少年化について説明した後、せっせとパーティーの準備をしている少年を見る。

 

ロイ「わぁーい、こんにちは!」

「こ、こんにちは…」

 

明るい挨拶をしているが、誰か分からないし性別も違うので少し距離を置かれている。

ロイはそれが分かっていないのか、不思議な顔をしていた。

――

昼頃

 

様々な料理が机に並べられてパーティーの準備は整った。

両艦の艦長と大人に戻ったロイが前に出る。

 

テア『~~~それでは、こんなめでたい日に、晴風艦長から祝いの言葉を貰いたい』

ロイ「ミケ、出番だ」

明乃「はい。シュペーと晴風に幸があらんことを」

テア『ありがとう。続いてマスターから乾杯の音頭を』

ロイ「分かった。それでは新しい世代に苦難とそれを乗り切る勇気を、乾杯」

「乾杯」「Prost」

 

こうして宴会は始まった。

余談だが、ロイは「ミケがヤバいことを言ったら、更にヤバいことを言うつもりだった」と語る。

 

ロイ「やっぱドイツ料理は…」

テア「存分に食べてくれ。主計課が腕によりをかけた」

ロイ「ならお前もこいつを食べてやれ」

 

無表情で食べるロイ。しかしその顔が見ていない為、テアは色々なものを勧める。

そのカウンターにロイも負けじと料理を渡す。

そう言って差し出すのは寿司である。

 

テア「いや…遠慮させてもらうよ。私が食べてはみんなの分がなくなる」

ロイ「気にせず食べなよ。まだあるんだからさ」

 

実はしれッと嫌いなの(食わず嫌いではあるが)を食べるよう言っている。

世界には生魚を食べる文化はそうそうない。

世界的にも食べられてない料理…例をあげるなら卵かけごはんがそうだ。

鮮度の問題から、生卵を食べると当たる。

そんな感じで食べられてない。

 

あかね「あの、ま、マチェスを上にのせてみました」

テア「寿司、刺身、過労死か」

ほまれ「最後のは…」

ロイ「死ぬほど疲れている」

テア「戴こう、食べなくては日本に来た意味がない」

ロイ「東南アジアだけどな」

 

――

明乃「ところで、ミーちゃんはこの後どうするの?」

ミーナ「まあ、シュペーと共にゼーアドラー基地で補給と修理だな」

真白「確かに、籍はシュペーだからな」

テア「しかし、そっちはどうする。晴風は我々よりも酷いぞ」

ロイ「明石と間宮を呼ぶのは無理そうだ。だが手はある。追って説明する」

 

約一か月、色々なことを乗り越えた仲間と別れる。

それを仕方なしと思う者もいれば、受け入れられない者も居る。

実際、この場から一人、自室へ向けて駆ける者がいた。

 

ミーナ「艦長、預かっていたものを」

テア「ああ、かぶせてくれ」

 

頭にミーナが大切にしていた艦長帽が載る。嬉しさか喜びからか、テアは涙していた。

しかしそれを見せるわけにはいかないので顔は下にしたままだ。

 

テア「副長、マスターにも渡すものがあるだろう」

ミーナ「!、そうだった。直ぐに戻る」

ロイ「戻ってくるまで時間があるだろうし、俺も少し人を探すか」

明乃「誰を探すんです?」

ロイ「決まってるだろう、マイハニー、加古だ」

テア「…」

明乃「あはは…私も手伝います」

 

軽いドン引き案件である。「マイハニー」という単語を唱えるロイは些か不気味だ。

テアはそうだろう。少なくとも。しかし明乃は違う。

ロイに付いていき人気が無くなったところで聞く。

 

明乃「あの、加古さんは…」

ロイ「やっぱり出会ったよなぁ。昨晩までいたことは覚えてる。

   けど朝になったらいねえんだわ」

明乃「裕兄…?」

ロイ「まあどうせ近くにいる筈だし戻るか」

明乃「ま、待ってよ!!」

 

会場に戻るロイ。明乃は会話で察した。

昨日、ロイが絞殺した深海棲艦を本物の加古だと思い込んでる。

そして一番の問題はロイ自身が絞殺した所から朝起きるまでの記憶がないこと。

 

兄のように慕っている人の心はもう分からなくっていた。

――

ミーナ「これを…」

ロイ「預かってくれててありがとう。お礼としてもう使わないしこれやるよ」

ミーナ「これは…いいんですか?」

 

ドイツ演習の後、ミーナに貸したままの所々緑の線が入っている黒を基調としたコート。

それをトレンチコートの上に着る。流石にボタンは閉めれないので開いているが。

 

お礼として渡したのは蜂起宣言までつけていた仮面である。

別段、特殊な改造はしてない。強いて言うなら速乾性があるぐらいである。

それでも喜んでいる理由はロイにしてみれば謎である。

 

ロイ「そろそろ出航時間だ。機関科に火を入れるよう伝えろ」

――

「俺達と仲良くするフリをしといて、チーム組むのは…」

 

晴風の副長室で、暗闇の中映画をみる。

見ているのは部屋の主ではない。記録員の納沙幸子である。

 

見ている映画は彼女の趣味じゃない。

CDの外見とパッケージは彼女のものだ。

しかし以前、何処かの教官が悪戯で、

CDの外見だけ『仁義のない争い』にした。中身は洋画である。

それでも変えないのは同じ趣味をもつ友達、ミーナがシュペーに帰ってしまうからである。

元々、こうなることは分かっていた。

特に昨晩、シュペー制圧を具申したときには覚悟を決めたはずだった。

それでも悲しくなって、分かれを言う気も無くなって閉じこもってしまった。

――

時を同じくして、甲板

 

互いに出向用意は整い出航命令を今か今かと待つ艦と、別れを惜しむ乗員。

 

ロイ「俺の仮面を海に捨てたり燃やしたりするんじゃないぞ」

ミーナ「分かっている、本当にありがとう」

 

晴風に残っていた最後のシュペー乗員、

ミーナが乗り移ると汽笛をふいてシュペーは移動を始める。

 

真白「良い航海を」

「「「「Gutreise」」」」

 

ロイは教室で次の行動を説明する準備のため艦内に戻った。

その時、涙を流しながら走る納沙幸子とすれ違った。

――

教室

 

ロイ「全員揃ったな。今の晴風の状況を確認する。取り敢えず主砲が死んでる。

   射撃指揮所もボロボロ。

   船体も各所に穴が開きまくってる。おまけに機関はぐずりやすいときた」

洋美「そんなんでよく沈まないわね」

ロイ「明石は今現在ブルマー主導の『パーシアス作戦』に参加するため動けない」

明乃「…」

ロイ「そこで特例ながら横七本島にて晴風を修理・改装する」

真白「横七本島って…もしかして」

ロイ「ああ。我々横七の本部である」

 

その一言に全員が驚いた。ある意味、秘境である横七の本部に行けるのだ。

 

ロイ「そして、修理・改装中は基本休暇とする。本部内の見学も申請されて許可があれば行う」

 

一同大喜び。例えるなら進入禁止の宮殿の先に合法で行けるのだ。

 

ロイ「そしてもう一つ覚えておいて欲しいことがある。

   本島出港後、晴風は単独で行動する。俺も海兵隊もなしだ」

真白「そ、それで大丈夫なんですか!?」

ロイ「出港の一時間前に偵察機が航路の安全を確認する。危険があれば出港は一時保留。

   だが大凡深海棲艦は出没しないと思われる」

洋美「そんなのどうしてわかるのよ」

ロイ「…最後の戦いが近い。アベル率いる艦隊が北極を抜けて太平洋にくる。

   相手はもてる総力をつぎ込む。予定航路はアベルも増援も通らないと考えられる航路だ」

明乃「分かりました。横七本島への道案内をお願いします」

――

ザワツク教室。誰もが驚きを隠せていない。

逆にロイの使っている部屋では無線が同じ事を言う。

きっと録音したものがずっと流れているのだろう。

 

「我々第一戦隊は北極海底要塞にてアベル率いる30000の大艦隊と交戦セリ。

 我方、海底要塞崩壊。ガウ級空母7隻中4隻轟沈3隻小破。基地航空隊並びに艦載機隊壊滅。

 生存機を修理・補給しつつユーラシアの基地へ航行中。

 敵方三分の一を殲滅するもアベル以下鬼姫は軽微な損害に留まる

 尚、本戦闘で戦艦SoFは謎の光でシールドを破壊されその後の砲撃で轟沈セリ」




ロイ教官は伊良湖美甘が嫌いなわけではありません(重要)
理由は後日説明します。不快に思われた方がいたら申し訳ございません。


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ようこそ横七本島へ

ボスマスまで辿り着けない。夕雲型に高練度艦がいない。
沖波なんて子は存在しない。…HELP ME


晴風はロイの道案内のもと横七本島へ向かっていた。

 

ロイ「あの島だ。あれは内部が空洞になっている。そこの間を抜けろ」

鈴「分かりました」

幸子「あの島は一昨年発見された島ですね。

   羅針盤などの案内道具が正常に作動しないので辿り着けない幻の島です」

ロイ「そりゃそうよ。なんてったってこの島は横七の人工島だからね」

 

その発言を受けてより注意深く目の前の島を見る。

緑が多く鳥や魚を目を凝らせば発見できる。人工物には見えない。

内部に入りある程度進む。岩や天井には苔が多く生えている。

道としては真っ直ぐなので事故る理由が無い。

 

ロイ「取舵、方位70、今」

鈴「取舵、方位70、ヨっヨーソロー!」

真白「何を!!、岩にぶつかります。座礁する可能性も」

明乃「直進する道はまだ続いていますよ!!」

 

しかしそこで出される取舵70。先程も伝えたが真っ直ぐ、そして一本道である。

そこで曲がるというのは車で例えるなら高速道路の端にぶつかりに行くものである。

 

ロイ「ここは横七が造ったんだ。初心者にとやかく言われる筋合いはない」

真白「…分かりました」

 

焦っているのか、まともな問答をせずに意見を潰す。

するとその答えが分かった。

一本道の先で何か光ったと思ったらロケット弾が飛んできた。

 

ロイ「機関最大戦速、時間7秒」

麻侖「合点、最大戦速!!」

「「「「「はい!!」」」」」

 

ロケット弾は回避することに成功した。しかし今度は岩にぶつかる。

 

そう思ったとき、壁が透けて人工物が見えた。照明や埠頭が並ぶ。

 

明乃「これって…」

ロイ「漂流者や万一侵入者が現れた時の迎撃策の一つ。

   あのまま直進してれば本島より先にあの世行きだね」

真白「じょ、冗談じゃありませんよ…」

ロイ「☆K☆O☆R☆O☆S☆U☆つまりでやっているんだ」

芽依「それより、今の奴って噴進魚雷?、早く撃ちたい!!」

志摩「ういうい」

――

ロイ「機関停止、お疲れさまだな」

明乃「?、他の船が見えないよ」

 

機関を止めるということは、目的地に着いたと同じ事だ。

だが周りには相変わらず照明と埠頭しかない。

 

「ワームホール展開、転送まで10秒」

幸子「外を見てください!!」

真白「んっ?風景が…」

鈴「ど、どうなってるの!!」

 

アナウンスの後から外の様子がおかしい。

最初は一瞬、それこそサブリミナルメッセージのようだったが、

時間が経てば経つほど周りがドックであることが

わかるような映像が途切れ途切れに流れる。

 

「転送完了。後は自動で移動します。機関を止めてください

 …停止を確認しました。移送を開始します」

真白「何かに引っ張られて晴風が移動している」

幸子「あそこを見てください。戦艦がありますよ!!」

志摩「64」

芽依「64cm!!しかも三連装砲で一部だけだけだから武蔵よりも大きいよ!!」

 

トラクタービームで牽引されている最中に一隻の戦艦を見つける。

それは64cm三連装砲を数基配備しており主砲なら大和型に勝る。

 

ロイ「あれはSoFの主砲をどうするかで最終選考まで残った砲の実験艦だ。

   選考には敗れたが戦力外ではないのでこうして保管してある」

幸子「あんなのがあれば独立国家としてやっていけますよ」

ロイ「もうやってるんだよな~」

真白「しかもあれで最終選考落ち…」

芽依「教官!!、早くあの砲と魚雷を撃たせてください!!」

志摩「ううい!!」

ロイ「分かった、分かったから。騒がないでくれ」

 

そうこうしているうちに晴風はドックに入り停止した。

周りには同じ位の大きさの艦が並んでいた。

 

明乃「航洋艦がすっごいたくさんある…」

真白「だがどれもさっきの戦艦に比べたら古いな…」

ロイ「仕方ないよ、こいつらの建造は8年前の横七が出来て直ぐだから」

幸子「へぇー、そんな最初からこんな艦艇を建造していたんですか」

ロイ「まあね。横七の事がバレて攻撃されたときに備えて…」

芽依「だけど去年、あの手前から2つ目の奴見たよ」

ロイ「あー。まぁ海賊に扮して作戦を行うことがこの初期艦隊は多いしな、

   去年のブルーマーメイド本部砲撃事件*1は派手にやりすぎたと反省してる」

明乃「あれってやっぱ横七がやったんだ」

幸子「薄々そんな気はしていましたが」

 

しれっと自分達がとんでもないことをしたとカミングアウトする。

だが既に色々なことをやって驚かせていたので自然と耐性は少しついた。

 

ロイ「さあ全員降りろ。作業が終わるまで晴風には出入り禁止だ。

   必要なものは全てもってけ」

芽依「降りた後はどうするんです?」

ロイ「地上には宿泊施設がある。そこで寝泊まりしてもらう。さあ急げ」

――

ロイ「よーし、全員いるな。これから先の道案内人を紹介する。

   横七本部の設計主任代理、カーマンだ」

 

そう紹介されたのは7cmくらいの小人である。

 

カーマン「こんにちは、晴風の皆。僕はカーマン。この本部の地下設計主任の代理。よろしくね」

明乃「すごい、小人が喋ってる!!」

真白「かわいい…」

 

皆がカーマンを見て騒いでいるなか、疑問の声をあげる者もいた。

 

幸子「これも機械?」

ロイ「横七の多くは機械だが、それを作る奴もいるんだぞ」

カーマン「僕は機械じゃないよ。スパルタンや海兵隊とかは機械だけどね」

まゆみ「へぇー、海兵隊員の皆さんは機械だったんだー」

ロイ「まあそうだな。人的資源が貴重な横七だと特に」

 

そう言いながらロイは扉を開けて部屋の中に展開されていたワームホールの中に入る。

一部の者達がついていこうとしたが謎の壁にあたって進めなかった。

 

カーマン「提督は違う場所に行きますから。こっちです、付いて来てください」

明乃「あの、裕兄は何処に行くんですか?」

カーマン「さあ、よく知らないけど最下層の作戦会議室じゃないかな?

     決戦が近いから会議とか開いていると思うよ」

 

一行はその後違うワームホールに入り地上に出た。

――

幸子「さっきも思ったんですけどこの島って外から見たよりも大きいんですね」

芽依「確かに、大和型以上の戦艦だったり、駆逐艦が数隻並んでもまだ余裕のあるドック。

   あの外観からは想像も出来ないね」

カーマン「それもそのはずです。なんと言ってもあの島と本島は違いますから」

明乃「えっ?違うの」

カーマン「はい。あの島のワームホールで本島に移動する、謂わばあそこは受付です」

真白「じゃあこの島はどこにあるんだ?」

カーマン「えー正確な位置は言えませんが雲の上にあると覚えていただければ結構です」

真白「雲の…上…」

――

作戦会議室

 

少し偉そうな服を着ている妖精複数人が円を作るように椅子に座っている。

机の上には色々な資料がありこの妖精たちが司令室勤務だと分かる。

ロイはその中の空いている席に着く。そこは他よりも少し椅子が豪華だ。

ここでもやはりXCOMのように地球のホログラムが中心にあって回転している。

 

 

「各地で深海棲艦が攻勢を開始。現状の戦力で撃破可能ですが決戦の際、

 援軍が出せません」

「援軍を出すとなると現地の住民に被害が多く出ます」

ロイ「分かった。武蔵の方は?」

 

今まで回っていたホログラムが静止し西太平洋を拡大する。

 

「武蔵に偵察隊が張り付きました。このままの進路ならマニラ沖に行くかと」

「…既に現地では行方不明艦の発見報告が多々あります。

 決戦用の戦力をマニラへ送るべきかと」

「このままマニラ沖で決戦となれば、特段防衛施設がないので焦土化します」

「直ぐに工兵を送って要塞や陣地を建設すべきです。戦力も結集させましょう」

「提督のあの海に対する認識は分かっています。しかし相手も同じとは限りm…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ロイ「お前達はわかっていない」

 

 

 

 

 

 

その場が凍り付く。マニラ決戦を主張していた妖精は冷や汗を流し始めた。

 

ロイ「お前達は『何処かが攻撃されたら必ず反撃する』という前提で動いている。

   しかしアベルとしては『必ずロイを殺さなければならない』と考えている。

   つまり俺が確実に出撃する場所を考えなければならない。

   そうすると候補は3つ。まずは横七本島。次は晴風。そして横須賀。

   このうち横七本島と晴風は不可能だとアベルは考える。

   前者の理由はこの島を探知することが不可能という事。

   深海棲艦の航空機はかるく宇宙に飛び出し掛けてるこの島を見つけれない。

   ワームホールのあの島が仮に発見されても

   陸戦になることが決定されている以上仕掛けれない。

   後者の方はまず様々な艦隊が挑戦したが不可能だったこと。例を挙げるなら

   猿島や伊号組、比叡、シュペー、スペード、あとあのババア*2

   次に俺が囮として利用する可能性を捨てきれないこと。

   幾ら乗員が身内やそれに近くても横七全体ではなんの被害も無いからな」

「それでは…やはり横須賀で起こるのですか?」

「うーむ。横須賀にいるのは駐屯海兵隊ぐらいだ」

「日本中の戦力を結集すればあるかもしれない」

 

3つのうち2つを否定して残りを否定しないとあらばそれは残りを選んだという事。

だが今現在横須賀にはあまり戦力がない。

元SoF所属のフォージ軍曹率いる海兵隊と航空隊のみである。

 

ロイ「戦力の問題だが、まずこの島にある戦力を全投入。

   次いで『横八艦隊』も動員する」

 

また動揺が広がる。『横八艦隊』とはアベルとの決戦時に主力とする艦隊である。

SoFを初めて建造したときに発案され決行、今に至る。

 

「横八まで…」「だがあの艦隊はまだ乗員の養成が完了していない」

「確かにな…精鋭集団は北極で大半が死んだ。

 あれより大人数を必要とする横八に使える兵はいない」

ロイ「それに関してだが、そこが一番の――な問題なんだ」

――

*1
去年の夏、ブルーマーメイド本部のあるニイハウ島が所属不明の駆逐艦と思われる艦艇に砲撃された事件。夜間で人が少なかったため死者は出ていない。横七がここを砲撃した理由は本部の対応を調べるため。尚、評価としては最低だったらしい

*2
太平洋棲姫



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横七本島 一日目朝~昼

今回の前書きは只のイベント報告です。

難易度乙で攻略成功、ラストはイベ前に育てた綾波改二の魚雷CI。

大淀やロバート秋山、夕雲型まあまあを現時点でドロップ済み。

そうそう、前回沖波が来ないって書きましたけど、次の日に来ました。
つまり、ここに書けばその艦娘が来る?、
じゃあ神威とサラトガが今特に欲しいです。・・・よし。

こんな作品を見てくれてありがとうございます。
読み終わったら感想、評価、誤字の指摘、しおりORお気に入り登録よろしくです。
それでは本編、始まります。


空を飛ぶ島。

 

そんなものが実在するわけないと思うかもしれないが、存在する。

名前は横七本島。宇宙と地球のギリギリ地球側に位置する浮遊島。

 

そこは自力で動くことのできる、空の要塞である。

 

「晴風乗員の皆様にお伝え致します。0800から島内の巡回説明を行います。

 集合場所は宿泊施設の玄関前、服装は自由…」

 

音量調整を間違えたとしか思えない大音量の放送。

それで目を覚ました多くが繰り返される放送を聞きつつ、

起きなかったのを起こして朝の準備に入る。

 

昨日はシュペーとパーティーをして、その後この島に着いた。

その時はもう日が沈んでいて外を回れなかった。

なので着替えなどをする面々は明るく話し合っていたという。

――

玄関前

 

カーマン「みんなおはよう。よく眠れたかな?今から放送で流れたように

     島内を回っていくよ。それと迷子になると面倒だから

     このリストバンドを付けてね」

 

配られたリストバンドは至って普通だ。

しかし先程の言いようからこれが位置情報を伝えるものであることが分かる。

 

全員が付け終えたのを確認してカーマンは歩き始める。

最初に着いたのはエレベーターだ。

 

カーマン「この島の地下は27のフロア(以後F。尚フロア分として使うことも)

     に別れているんだ。

     7Fもあるドックは全艦艇の9割を収容可能なんだ。

     6Fの生産エリアでは資材を始め食料や艦艇、

     兵器に火器などを無人で24時間常に生産してるよ。

     4F割り当てられた研究開発部は仕事の多さからまだFを要求してるんだ。

     そして3Fあるスパルタンや海兵隊といった、

     機械兵士の生産施設はさっきのとは別扱いなんだ。

     地上にもあるけどここにも訓練や教育を目的にしたFが二つあるよ。

     ここで新人の海兵隊員達は訓練を受けて立派な海兵隊員になるんだ」

 

説明が突如として終わる。ガラスの向こうには改装中の晴風がいた。

どうやら何かを間違えたらしく責任者と思われる妖精が作業員を叱っていた。

見ると射撃指揮所がガラスで覆われている。

 

そこが工事のミスなのか、失敗した後直して今に至るのかは分からない。

 

カーマン「じゃあ行くよ」

 

また歩き始めて今度はエレベーターに入る。

 

カーマン「さっきまでのが希望して体験や見学ができる施設。

     ここからはそれが出来ない施設を紹介していくよ」

 

エレベーターを降りてまた歩き始める。

 

カーマン「まず資材やその他諸々を保管している倉庫が3F。

     それにはエレベーターや島内のワームホールに関する部屋が計6つあるよ。

     他には発電機や蓄電池が1F全てを占領しているんだ。

     もし発電が停まると最低限の照明以外灯りは消えてワームホールが使えなくなるよ。

     そして横七全体の脳味噌である司令部などは一番下にあるんだ。

     そこってエレベーター以外ではワームホールしか行き方がなくて、

     しかもそのFだけワームホールの管理は司令室なんだ。

     他にも大きなモニターや地図。

     後この島自体をテレポートするときに使うワームホールの管理室があるよ」

 

ワームホールに入り地上に出る。その後は体験したい場所ごとに班を作った。

そして行動開始というときに最後の注意が入る。

 

カーマン「まず保管F、司令部F、発電Fは立ち入り禁止。

     次に階段やエレベーターは全てのFに通じてないから、ワームホールを使って。

     ワームホールの使い方は扉を開けて行きたいFを伝えればいいよ。

     もしワームホールが使えなくなったらそのまま待ってて。

     内容によっては危険なのもあるから、しっかりと注意を聞くんだよ」

     

この後解散し自分達が希望した場所で体験や見学をするため移動を始めた。

――

作戦会議室

 

昨晩に行われた会議のときとは違い地球のホログラムが消えている。

その代わりに机にはなにかの映像が流れている。

 

「我々、アベル総帥率いる新深海棲艦は先日行われた北極海海戦にて以下の戦果を挙げり。

 横七主力戦艦SoF、精鋭ガウ航空母艦複数を撃沈。他ガウ航空母艦、大破炎上し行動不能。

 頑強たる難攻不落の北極海底要塞を占領。精鋭航空隊の全機を撃墜。

 尚、本海戦における我軍の被害は軽微。今後、日本大都市にて戦闘行う計画あり。

 但しこちらに民間人殺害の意図はなし。日本政府は直ちに以下の事をせよ。

 一、我々に特使を送り速やかに降伏すること。

 一、速やかに日本国内にある横七拠点を全て破壊せよ。

 一、横七協力条約*1を破棄せよ。一、可能なら横七提督の身柄を引き渡すこと。

 一、深海棲艦に否定的な存在を全て抹殺せよ。

 以上のことを5日後までに行わなければ戦闘は発生する」

 

「これをどう捉えるかだな」

 

一人の妖精が声を出したことで一気に騒がしくなる。

 

「我々は一度も戦果発表をしてません。相手も同じです。なにか意味があります」

「奴らがこの戦果を発表するまで半日掛かってるぞ」

「所々誇張があります。要求を通しやすくするためのものかと」

「問題はこれを受けた日本政府がどう動くかです」

ロイ「落ち着け、まずはこれから情報を得るぞ」

 

静かになる。机には先の発表が文章化された紙が配られる。

 

「先程も述べましたが戦果に誇張があります」

「ああ。航空隊に生存機はいるし要塞は占領されていない。おまけに被害は軽微と来た」

ロイ「いいや。当時の艦隊の三分の一は大戦果だが決戦時は30000以上だろう。

   そう考えると10000は軽微かもしれん」

「となると、この誇張は我々ではなく日本や世界へ向けたものでしょう」

 

前半部分から後半部分に注目する点が変わる。

 

「嘘を吐くのが下手だな」

「確かに、民間人殺害の意図はない、なんて笑わせるよ」

「18年前、講和ではなく絶滅による勝利を目指したくせに」

 

回想されるのは前世での深海戦争。

米国の…人間の所為で開戦したとはいえ途中講和の機会はあった。

それでも人類絶滅を目的として戦争を継続させたのはアベルらだった。

 

そんな存在が殺害の意図はない。本当に寝言を言うなら永眠してから言えというものである。

 

「日本政府に要求を満たす必要はないと伝えますか?」

ロイ「ああ。最悪、要求を実行してもなにも問題は無いがな」

「横須賀の駐屯地は政府やブルーマーメイド、ホワイトドルフィンに対応中です」

「逆に言えばそこしか横七の拠点を知らないからな」

 

今更ながら言わせてもらえばこの要求を満たすことは不可能である。

理由としては世界に公表されている横七の拠点は横須賀と北極のみなので、

国内全ての拠点を破壊するなど不可能である。

 

尤も、それをするために情報の公開要求をしたいのであろうが、

横七協力条約の内容に『要求をしない』ことが定められている。

 

よって条約を破棄しなければできない。

しかし破棄すれば『パーシアス作戦』が失敗してしまう。

 

満たすことができる要求は降伏と否定的な存在の抹殺だろう。

・・・何の妨害も無い独裁国家なら簡単にできる。独裁国家なら。

 

「群衆が暴動を起こしたら面倒です。対応として我々も戦果発表をしましょう」

「異議なし」

「彼と同じく」

ロイ「ああ。ただし、ある程度被害を大きくしろ」

「…なにを言っているのです?」

 

味方の士気や団結を高めるには、少しばかり戦果を水増しするとよいのが定法だ。

しかし今回は被害を大きく、つまり相手の士気を上げ団結を弱くさせよというのだ。

 

ロイ「被害を大きくするとこで相手を浮足立たせる。

   そこに横八艦隊が攻撃を行うことで決戦を有利に進める」

「了解です。生き残りはその後燃料切れや空中分解で全滅したと発表します」

 

今後の方針がある程度固まり会議は終わりを見せようとしたところ、更に彼は発言する。

 

ロイ「決戦の日は少なくとも5日後。場所は横須賀確定だな」

「…相手が期限を待つことが出来れば…です」

「・・・それに先立って避難勧告を出しますか?」

ロイ「NEIN、出来るだけこちらが情報不足であることを装いたい」

「では、駐屯地に戦力を集中させることも」

ロイ「JA、決戦戦力はワームホールなどを用いて横須賀に突入する。

   表立った増強はこちらの腹の中を晒すようなものだ」

「分かりました。では、我々はマニラ決戦を行う姿勢を取りつつ横須賀決戦に備えます」

 

その後、会議は一時終了しロイは横須賀へと飛んだ。

*1
海上安全整備局局長を救出後締結されたもの。主に横七の拠点を置くことや深海棲艦を攻撃することの許可などが内容




「なんで今回評価とか言ってたの?」
「なんでも、他人に比べたら評価が低いのを知ってショックを受けたのよ」
「ああ…けどまだ二作品目だし、仕方なくない?」
「それでもショックを受けてたのよ」



「うぅ…どうせ趣味や妄想を垂れ流しているだけなんだ。
 見てくれる人が居ること自体が奇跡に近いんだ…」

自分で書いてて辛くなりました。

どちらにせよ、しおりでもお気に入り登録でもすっごい嬉しいです。
どちらでもいいのでよろしくお願いします。


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横七本島 昼~日没

鋼材、頼む。息を吹き返してくれ、鋼材、こうざいいいいい!!




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研究開発F

 

「やはり、誰も来なかったか」

 

廊下を見て彼女…鏑木美波は言う。

 

さっき班ごとの人数で見た時も思ったが、航空機に乗せてくれる訓練施設に人気がある。

他にも機関長や主計課などの一部は違う場所を選んでいてが、一人なのは私だけだ。

 

海洋医大始まっての才と謳われていた彼女は、

体験などの『遊び』よりも見学による『学び』を取った。

この選択に後悔はしていないものの、

『ヘリウムなどを使わない空を飛ぶ物』を

体験できないのはやはり何処かに思う所があった。

 

「あなたは鏑木美波さんですね。私は研究開発部の矗です」

美波「よろしくお願いします!」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

扉の前に立っていたのは人だった。

 

恐らく妖精が人のサイズになったものだろう。

小さいまま研究開発をしてサイズを人用に直すのは難しい。

小さな体を活かして細かい作業もできるが力仕事になると難しいのだろう。

 

そんなことを思いながら扉を開けると中は資料室だった。

 

矗「ここは一般公開されている研究の資料保管室です。

  医学や薬学などは向こうの棚にあります」

 

私の専門分野に関連するものの場所を教えてくれてたので、ありがとう。

そう言おうと思ったのだが、少し不思議に思う。

教官は深海棲艦に関する物、それこそ砲弾一発、血液一滴全てを回収し、

現地政府などが回収できないようしていた。

これは深海棲艦の残り香から横七に対抗できるものを作らせないためだろう。

しかし私は今、「公開された」研究データに触れようとしている。

4月になって初めて存在が知られた横七が5年前に研究を公開していたのには驚いた。

しかしそれは横七のことを知られる可能性に繋がるのではと思った。

私は矗さんにこのことを聞いてみた。

 

矗「確かに、そう思うよね。けど、なにも不思議はないのよ。

  世界には今までの常識を覆す研究が昔から発表されてきた。

  それで人類は飛躍的な発展を遂げたでしょ?

  発表された研究は横七に害はなく、

  寧ろあなた達が発展することで横七にも恩恵があるものなのよ」

美波「確かにそうですが…一体どうやって発表しているのですか?」

矗「あなたなら知っているとこだらけだと思うけど、様々な研究団体の傘下や

  それ自体が横七から派遣された妖精達によって運営されているの。

  呉造船技術研究所、佐世保飛行船研究所。

  あなたが密接に関係しているのは海洋医大の義肢開発部」

美波「義肢開発部!!、確かにあそこは難関の一つとも言われているが30年前から」

矗「そう。そこが横七の得意なこと。数年かけて研究員を徐々にそして全て変えるの」

 

少し頭痛がしてきた。義肢開発部は異常者が多いと噂されている。

授業のノートには義肢の設計図を書いたり休み時間でも考えている。

言われればなるほどと納得できるがそんな人物は世界中にいる。

それが全てではないにしろ横七の関係者だとすれば

世界一の諜報機関は横七かもしれない。

 

矗「満足したら呼んで。次は見学をさせるから」

 

嬉しいが溜息を吐きそうになった。

こんな場所に一人で後何時間もいなければいけない。

そんな思いを忘れるよう努力して本棚をめぐる。

どうやら50音順に並べられているようだ。

「あ」から順に見ていく。

 

「個別指導か集団指導か」「サ◯ザーの技の原理考察」

 

些か変わったものがあったが、内容は普通のものが多い。

そこで私はあることに気付いたが、聞いてもどうにもならないのであきらめた。

――

私は今、北極海を越え、アリューシャン列島のとある泊地にいる。

先日の北極海海戦で大勝したがこちらも手痛い反撃を貰い傷を癒したり補給のためここに駐留している。

 

「あのう、総帥。ですからその案には少し賛成できません…」

 

腹が立つ。何なのだこいつは。

 

「この戦争はもう間もなく終わる。その時、無駄に資材を持っていても意味は無い。

 太平洋全域で供出に戸惑いを感じているのはお前だけだ。アリューシャン司令」

「ですがぁ、戦争終結後の秩序維持を考えると、やはり全ては」

 

なぜこんな未来の見えない奴が方面軍の司令の座にいるのだ。

次の戦い…横須賀で決戦をしロイを討ち、横七の残党を狩る。

そうなれば世界には我々に対し刃向かう意思も力も無くなる。

保身に忙しい政治屋共は潜伏している部下の誘導で降伏文書にサインするだろう。

 

「これは命令だ、アリューシャン司令。全ての貯蓄物資と人員を本軍に譲渡せよ」

「で、ですからぁ、そんなことしたら戦後人類の治安維持が出来なくなりますよぉ」

 

だからこいつは何を言っているんだ。

勝った後、人類を管理する必要はない。治安の悪化で殺人が起きるなら大歓迎だ。

態々上陸して集めて殺す必要が無くなるのだからな。

そもそもこいつは我々の理想を履き違えている可能性が高い。

 

「我々の理想はなんだ。18年以上前から胸に宿す志はなんだ」

「はいぃ。人類と共生することで深海棲艦をより先の進化した存在にさせることですぅ」

 

懐かしい言葉を聞いた。最近は言ってなかったが昔は結構使ったやつだ。

 

「そうか。アリューシャン司令。私は酷く勘違いをしていたよ」

「えっ?どうしたんです急にぃ」

「君は深海棲艦だ。だけど、私の率いる新深海棲艦ではなかったようだ」

 

一々癇に障る喋り方をするので、なにか言う前に殺す。

 

『人類と共生することで深海棲艦をより先の進化した存在にさせる』

 

昔の、本当に大昔の私が演説に使い、同志募集のポスターに使い、

 

 

 

そして徴兵に使った。

 

初めは人類との共生で暗い闇の中から光の表舞台に出ることで

私達は進化できるという意味で使った。

 

そして今では拒絶する人類を屈服させ奴隷として…いいや滅ぼしその亡骸を踏みしめることで

我々は進化することが出来るという意味で使った。

 

それは当然、あの女王から非難され宮殿に私の居場所は無くなった。

少数の兵士で何十億にも膨れ上がった人類を屈服させるなど私でも不可能だと考えた。

 

しかし違った。元より信頼を置いていた近衛連中はともかく、共存の同志まで私に賛成したのだ。

尤も、先の司令のように誤った理解のまま付いてきた物もいるが。

 

それでも私は離反した。深海棲艦から。女王の統治から。

 

前世では負けたが、今回は違う。

 

勝ちは見えている。敵はSoFを中心とした主力を失った。

こちらの刃は既に相手の喉元に迫っている。

 

調査によるとまだマニラか迷っているらしい。現にブルーマーメイドはマニラに展開している。

横七もその援護のためマニラに行くだろう。横須賀にロイがいるのは確認済みだ。

 

「もう、終わっているんだ。この戦争は。後はどちらが多く傷付くか」

 

 

円卓状の部屋にいるのは二人。

一人は息もせず、机に伏している。

そしてもう一人は大きく笑い、勝利を確信していた。




本来は前半部の鏑木パートだけにしようかと思ったのよ。
だけど「短くね」って思っちゃったのよ。


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横七本島 夜

メンテで暇なのでパッパララッパッパパーと書きました。

鋼材はねえ、正規空母はねえ、海防艦も足りてねえ。


菱餅ねえ、運もねえ、ボーキは何故か余ってる。


菱餅任務、クリアできましたか、皆様は?


明乃「ここが裕兄の鎮守府…」

 

今更何を言う、そう思った方がいるかもしれないので色々と説明しよう。

 

横七、略さず言えば横須賀第七鎮守府。

 

そして世界各地にあるのは横七支部、すなわち横須賀第七鎮守府支部。

 

そして今晴風が改装を受けている場所は横七本島。

これまた略さず言えば横須賀第七鎮守府本島。

 

自分達が一時的とはいえ生活している場所を初めて見たように喋るのは病気だ。

 

しかし今、晴風乗員が目にしているのはある意味真の横七である。

 

「こちらは旧本部を改装、歴史記録館にしました横須賀第七鎮守府です」

 

赤レンガで造られた立派な建物、鎮守府。

前世では人類の希望、深海棲艦を倒す艦娘の拠点となったもの。

 

勿論この世界でもあるが、運用目的も方法も違う。

 

「改めて自己紹介をします、歴史記録館の案内をさせていただきます、ジョニーです」

 

そう言って小さくてかわいらしい妖精はお辞儀して案内を始める。

取り敢えずは建物の説明から入った。

 

ジョニー「この建物は建設当初、本部としての機能を有することを条件としたため

     通信施設や耐爆、耐衝撃、機銃掃射などにも耐える硬さなどが求められました。

     また、館内での戦闘に備え銃火器爆薬が各所にあります。

     実際、工事前なら壁の中に小隊規模なら武装可能な火器があったし、

     遅滞戦術や爆殺のための爆薬はあちこちにありました」

 

説明の中でとある部屋に辿り着く。

扉の上には木に『執務室』と書かれていた。

 

扉に手をかけ、開ける。次の瞬間には聞こえてくる、あの声が。

 

「提督が鎮守府に着任しました、これより艦隊の指揮を行います」

 

現役提督や元提督の諸兄や艦これを少しでも知っている者なら聞いたことがあるだろう。

GAME START の先にある景色、秘書艦が既にいる(というよりもいないのを見たことがない)執務室。

 

まぁ横七の場合、秘書艦が遅刻するので見ることは無かったが…。

 

ジョニー「夕食後の軽い運動を兼ねて本館の見学を行います。

     貴方達とは違う歴史を歩んできた世界を楽しんでください」

 

この場にロイがいたら、楽しめる筈がないと苦言を呈するだろう。

しかし今は横須賀にいるのでオブラートに包んだ酷い言葉も言える。

 

幸子「あの、深海戦争や飛行機のことは聞きました、しかしそれ以外に違いがあるんですか?」

ジョニー「その答えを探すのも目的の一つです」

――

今まで色々な驚く事に出会ってきた。

 

深海棲艦、航空機、第二次深海戦争。

 

それだけのことを体験してきたのだからもう耐性は出来たと思った。

しかし、この記録館には予想以上のことが記録されていた。

 

真白「日本は沈まず、日華事変、ポーランド侵攻、第二次世界大戦、冷戦、スエズ戦争…」

 

兄さんの生きてきた世界は争いが絶えない世界だった。

私達の世界でも利益を求めて争いが起きていた。

しかしそれは小規模、現地のみで済まされてきた。

 

だけど、少し…坂本龍馬が暗殺されただけで世界は争いに飲まれた。

 

争いは現地で起きる。私達の世界ならここで終わる。

 

だが、兄さんの世界だと現地の人が自国政府に助けを求める。

助けを求められた自国政府は可能な限りの援助をし、軍隊を派遣する。

 

それでも解決がつかなければ国連に助けを求める。

そしてそこで…現地住民が幾ら死のうが関係ないような大規模が派兵が決まる。

 

スエズ戦争がその最たる例なのだろう。

 

始まりはスエズ運河付近に存在する大量の資源。

それを巡って初めはエジプトと北アフリカ、西アジアで戦争。

次に資源利権を求めた世界の大国と一獲千金を夢見た中小国が参戦。

アフリカと西アジアの人口は約8割も減った

 

結果としては深海棲艦の参戦が一時停戦になったが。

 

それでも多くの人が死んだ。…続く深海戦争はその倍以上だったが。

 

改めて平和の尊さや素晴らしさ、そして戦争の悲惨さを感じる。

 

きっと艦長はこれ以上の想いなのかもしれない。

人の命を守るためならなりふり構わない艦長なら。

――

ジョニー「えー、記録館の表向きな役割は見れたと思います、

     なので今から本当の役割を見せたいと思います」

 

歴史記録館は悪く言えば教科書の内容を丸写しにしておけばいい。

この世界の人々にとってはそれでも十分な施設だろうが横七の関係者は満足できない。

 

といっても一人だけだが。

 

フワフワと飛んで執務室と書かれた板の裏側を触る。

すると執務室の扉が開いたと思ったらワームホールが現れた。

 

ジョニー「どうぞ」

 

ワームホールの中に入り出る。

出た先はまあまあ大きい部屋。ただ写真が沢山あるだけ。   気持ち悪いほどに

 

ジョニー「ここは提督の前世の記憶を写真として保管しています」

明乃「ホントだ、全部に裕兄が写ってる」

真白「これだけ多くの人の指揮を執っていたのか」

 

端の方にある写真、そこには艦娘の他に憲兵や補給部隊など人間も写ったのがあった。

ただ、その写真は他の写真と違い全員に笑顔がない、なにか覚悟を決めたような感じだ。

 

ジョニー「その写真は『ジェノサイド作戦』発令一時間前に撮られた写真です。   

     深海棲艦に対し最後に発動された作戦つまり…決戦直前の様子です」

芽依「そういやこの中に教官の奥さんいなくない?」

楓「本当ですね、他の写真には必ずといってもいいほど写ってるのにいませんね」

 

教官の奥さん・・・言わずもがな加古の事である。

 

ジョニー「ジェノサイド作戦が立案される前に、

     古鷹型二番艦の加古は行方不明、轟沈と判断されました」

幸子「弔い合戦…ですか」

「いや、それを含んでもまだ他に理由はある」

 

その声に驚いた。ワームホールに入る前は勿論いなかったしこの部屋にもいなかった。

いつから来ていたその人物に驚きを隠せずに名前を叫ぶ。

 

『教官!!』

 

ロイ「おいジョニー、ここの見学は許可してないぞ」

ジョニー「理解を深めるならここを見せるのが良いかと思ったので」

ロイ「…もういい。満足したら戻れよ」

 

諦めた物言いで消えていった。

 

 

その表情は、ケッコン式の時に撮られた写真…満面の笑みとは大違いの暗さで怖さだった。




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横七本島 深夜

横七本島ロイ自室

 

「無問題だよな、今のところは」

 

ベッドの上に寝っ転がりながら呟く少年、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ。

彼は今日一日を振り返る。

 

新深海棲艦が日本を目標にしたことは嬉しかった。

妖精を説得する手間が省けて尚且つ特定も完了したといっても過言ではない。

横須賀のフォージ軍曹と話し合ったところ、やはりこの話題が出た。

 

フォージ「今の横須賀駐屯海兵隊には殲滅できる戦力がありません。

     援軍到着前に横須賀は火の海になる確率は100%以上です。

     早急に増援や新兵器をお願いしたい」

 

全く、その通りだよ軍曹。

横須賀にいる海兵隊は元からのが200、SoFで2000の計2200。

基地航空隊は偵察用のワスプ3機、戦闘機のONIワスプ64機のみ。

特別に陸上兵器のゴースト数台のみ。

 

配備計画の想定は少数のはぐれ艦や偵察艦を撃沈することなので

アベル率いる艦隊は想定外である。

それはSoFの海兵隊が加わっても同じである、無論スパルタンでも。

 

横八艦隊到着前に横須賀が滅んでも最悪構わないが駐屯地がやられるのは避けたい。

駐屯地の戦力は増強したいが、その報はアベルに伝わるだろう。

 

ロイ「防御陣地の建設を急がせなければ。それも全国で」

 

全国で防御陣地を形成させれば誤魔化せるだろう、

増援も大都市だからとの理由で通せば多少はマシである、大阪や呉などもしなければいけないが。

 

ロイ「ああ、とてもとても大変なことになってきたぞ」

 

少し興奮気味であるが、それも致し方ない。なにせ18年ぶりに戦うことができるのだ。

深海棲艦に背いた裏切者と、自分の大切な者を多く奪っていった憎き者と。

 

ふと、扉を叩く音がする。妖精ではない、あいつらは叩かないで入ってくる。

一応の備えとしてナイフを手に取る

 

ロイ「はーい、今開けるぞ」

 

鍵を開け、中に招く。

 

明乃「こんな夜更けにごめんなさい、少し話があって」

 

如何やら警戒する必要はなさそうだ。

横七の地下施設はとても便利

 

そんなことを思ったのは特別に滞在が許された晴風乗員の代表、艦長の岬明乃である。

 

カーマンさんが言っていた通り、本当に場所を言ったら来れた。

この部屋だけは来れないと思っていたのだが全ての部屋にワームホールは通じていた。

 

横七提督の自室にも。

 

少し緊張して扉を叩く、なにせもう0000を過ぎている。寝ていてもおかしくないし消灯時間だ。

 

「はーい、今開けるぞ」

 

起きていたことに一安心する。しかし怒られるのではと思い丁寧になってしまう。

 

明乃「こんな夜更けにごめんなさい、少し話があって」

 

ゆっくりと部屋に入る。そして顔を見る。

どうやら怒っていないようで、とても安心する。

だけどまだ本題に入っていない。

 

明乃「すみません、明日から赤道祭の準備を行ってもよろしいでしょうか」

ロイ「…赤道祭?」

 

私達と同じような反応をする裕兄。

事の発端はマロンちゃんが今現在の位置を知ったことから始まる。

 

―回想中―

 

麻侖「そんじゃ、今この島は赤道を越えてるんだな!!」

妖精「えっぇぇ、そうですが…」

麻侖「赤道祭だあ!!」

明乃「どうしたの、マロンちゃん?」

 

妖精と話していて楽しそうに騒いでいる機関長の柳原麻侖ちゃんに聞く。

すると如何やら赤道を越えたら赤道祭なる厄払い的なものをやるそうだ。

 

麻侖「あたしが実行委員をやるからな、気合入れて掛かれよな」

幸子「あ、あの~、赤道祭の実施許可って貰ったんですか?」

麻侖「うぇっ?」

明乃「えっ?」

 

大きな勘違いをしていたみたい。私はもうマロンちゃんは許可を貰ったと思っていた。

だけど許可は貰っていなかったらしく、恐らく言われなければ貰わずに実施していたかも…。

兎に角、私が裕兄に許可を取りに行く係になった。

理由は晴風の中で一番親しい関係にあるからだそうだ。

それを聞いたとき、私はとても嬉しかった。理由は特にないけれど。

 

だけど、もう遅い時間なのに今から取りにいかきゃなのには少し怒った。

―回想終了―

 

ロイ「分かった、赤道祭の開催を許可する」

 

説明したら簡単に許可してくれた。




1世「これ書いて意味あったのか?」


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会議室に生産性のある人物はどれくらいいる?

更新かな、自己最高記録。

実態としてはあれを書こうとしてたのにこれを書いちゃって・・・が続いただけです。
飛ばし飛ばし読んでも多分問題ない…はず。

そんなことよりゴトランドと神威とコマンダンテストが欲しい。
コマンダンテストはともかくゴトさんは何十回もいったのに来ない。
〇ねよ。・・・失礼しました、全ては運のない私の所為です。雪風の加護が欲しい。


その雪風もいないんだけどな・・・う〝っ〝(泣)



それでは本編参りましょうか。どうぞ。


昨日に続いて横須賀のとある施設では会議が続いていた。

 

「総員、提督に敬礼!!」

 

会議室に続く道で配属されている海兵隊はとある人物に向けて敬礼する。

 

ロイ「御苦労、休め」

 

この第二次深海戦争の中心人物の一人に向けて。

――

横須賀駐屯地の会議室の机はU字磁石に似ている。

そして持つ部分に座るのはこの場で一番階級が高い者、つまり司令官。

しかし今回と前回に限ってはロイが座る。

 

ロイ「まず、海兵隊の増援計画だが二個師団で決定した。

   スパルタンも元SoF所属の3人に加え新兵だがウォーゾーンで活躍した12人の

   計15人が新たに配属される。着任は明日だ。

   他にも精鋭2人が今晩到着する」

「提督、御命令通り既に防御陣地の形成は開始しました。

 しかし計算によると当駐屯地の戦力ではやはり不可能です」

フォージ「そうだぜ大佐。この半月で下水道に蔓延っていた深海棲艦共は駆除したが、

     その過程で弾薬が減り過ぎた。今のままBR55HBバトルライフルや

     MA5Cアサルトライフルを使うには一度大規模な補給が必要だ」

ロイ「軍曹、その点に関しては大丈夫だ」

フォージ「どういう事です、大佐?」

ロイ「明日になれば分かる」

 

結局、この日の会議は主に海兵隊やスパルタンの更なる増員。

航空機をバンシーやフェートンといった新型に更新。

昨日から引き続き部隊の展開場所の計画などで終わる。

 

予想外だったのはこの駐屯地に国会から説明責任があるため階級が一番上、

つまり現在ではロイに呼び出しが掛かったことだ。

 

翌朝

 

いつもと変わらない服装で国会議事堂のある新東京フロートに車で行く。

護衛は要らないが、牽制の為フォージ軍曹を連れてる。

 

フォージ「大佐、少しお耳に入れておきたい話があります」

 

議事堂の近くで車を止める。話していい、そんな雰囲気を作る。

 

フォージ「…今の国会には与野党どちらにも深海棲艦が擬態して潜伏しています」

ロイ「…」

フォージ「恐らく入口で銃火器を没収されるので格闘のみで戦うことになります」

ロイ「軍曹、議事堂に入ったら擬態している深海棲艦を報告しろ、

   議員、秘書、清掃人、警備員、全てを駐屯地に」

フォージ「了解しました」

 

話はそれだけなようなので、車を動かし始める。

門の前で車を止めて降りる。車はディスク*1となってロイに回収される。

 

フォージ「横須賀から代表として来た」

ロイ「横七の代表として来た」

警備員「はい、銃、爆発物、刃物、全部出してね」

 

フォージ軍曹は背中に背負っていたショットガンと腰に付いていたハンドガンを渡す。

それに対しロイはなにも渡さず行こうとする。

 

警備員「ちょっと、あんたもなにか持ってんじゃないの?」

ロイ「危険物にはこの義手も含まれるのかぁ?」

警備員「いいえ、持ってないならいいです」

 

金属探知機を通る際、しれっと蹴りを入れて壊したのはバレなかったようだ。

そして国会に入っていく。

――

議長「なに、それは本当か!?」

「はい、横須賀から来た代表にロイがいます!!」

議長「今日は荒れるな、胃薬を持ってきてくれ」

 

横須賀から責任者を呼び答弁を行う。

 

来るのは横須賀の責任者、つまり日本の横七支部で一番階級が上の人物。

 

そう思っていた。事実、与野党問わずロイは来ないと高を括っていた。

だが、実際は違った。警備員からの急報でロイが来たと分かった。

横七協力条約締結の際、横七の副司令官が交渉したがそれでも十分の強さだった。

それが横七の司令、つまりNo1が来たらどうなるか、分からない。

 

議長「席について、これより横須賀から代表者が入場します、急いで」

 

今日は歴史に残る日になる。それが良い物か悪い物かまだ分からないが…。

――

ロイ「以上を踏まえまして

   我々は断固として新深海棲艦との戦争を止めるわけにはいかないのです」

 

断固として、そう断固として。

今の彼は休戦なんてものを考えない。例え考えるとしても直ぐに頭から外されるだろう。

彼としては終戦はこちらかあちら、そのどちらかが絶えるときにしか訪れないと考えている。

事実、アベルとしても横七が存在する限り戦争は終わらないと考えていた。

 

議員「今回の新深海棲艦の要求を満たす理由はないと

   横七支部から伝えられましたが何故でしょう」

ロイ「お答えします、理由としては日本国は民主国家であり独裁色が強くないこと、

   一部要求を満たすのは不可能な事、そして満たしても日本国に利益がないことです」

議員「何故利益がないのでしょうか、不履行すれば国民の生命が危険に晒されます」

ロイ「簡単です、仮に横七支部がなくなればアベルは何の憂いもなしに因縁の国を潰せます。

   例え今手を出さなくても行方不明者が続出するでしょう。横須賀の様に」

議員「…」

 

この議員は前半部分の返しに「相手は約束を守るはずです」と言うつもりだった。

しかしその後、「横須賀の様に」と言われてはなにも言えない。

 

横須賀では行方不明者が増えていた。

理由は市民などに擬態した深海棲艦が擬態元を監禁していたからだ。

例を挙げるなら、海上安全整備局の局長。

横七が彼を救出するまで事実上、局長は行方不明だった。

今では海兵隊の活躍で監禁されていた被害者は解放されているが、

彼らが消えた後、再び行方不明者が増えるのは予想できることだ。

 

国防大臣「貴方は4月25日、横須賀ベイタワーにて警備任務に就いていた日本国防衛隊員を

     数名の部下と共に殺傷、間違いないですね」

ロイ「はい、間違いないです」

国防大臣「それに関して反省や後悔などはしましたか」

ロイ「いいえ」

国防大臣「それでは、死亡して隊員や遺族に対しどう思いますか」

ロイ「可哀想に、とは思いますね。言っておきますが同情はします。しかし謝罪はしません」

国防大臣「それはなぜですか」

ロイ「世界の軍事組織は戦時などの特別な状況を除き志願制が基本です。

   そして軍事組織というものには犠牲者が付き物です。

   BM(ブルーマーメイド)やWD(ホワイトドルフィン)でも死者は毎年出ています。

   昨今の世界は平和そのものですが何時テロリストや海賊が現れても可笑しくはありません。

   そういった意味で入隊者は死を覚悟しているはずです。

   戦死したのであればそれは悲しながらも殉職死、務めを果たしたのです。

   私は、戦場で出会った如何なる敵に対し尊敬の意を持っております*2。」

 

否定するような声は上がらない、国防省関係者は拍手している。

そんな場に、ズガズガと入り込んでくる集団が一つ。

その先頭にいる女性は大声を出しながら自分の席につく。

 

「良い話だとは思いますが兵士は愚の骨頂です、

 横七はもとよりWDもBMも日本を去っていただきたい」

ロイ「軍曹、あの女は誰だ」

フォージ「…民政党の党首です。

     政策は主に戦力の放棄を掲げBMやWD、海洋学校に喧嘩を売っています」

ロイ「時代錯誤もいいところだ、取り敢えず遅刻をしたのに反省の色なしとは…」

党首「幾つか質問させていただきます、横七はこの戦争が終わったら世界征服を始めますか」

 

突拍子もない話にロイは思わず笑いそうになるが、必死に噛み殺し答える。

 

ロイ「新深海棲艦の殲滅を確認した後の事は予定が今だございません」

党首「我が党の調べによると横七はこの戦争に勝利した場合、仮に全ての戦力が駆逐されても

   3ヵ月で再軍備をできるとのことですが、

   それでも世界征服をしないという理由はありますか」

ロイ「ええ、3ヵ月で再軍備可能かどうかをお答えすることは出来ませんが、

   現状、世界を横七が占領しても利益は損失を上回らないと考えております」

 

これは事実である。

横七第一回会議で世界を横七領として軍拡してもゲリラやパルチザンによってあまり利益は無く、

戦争の際に出す被害が大きすぎてアベルと満足に戦うことが出来ないと結論付けられた。

 

党首「次です。

   世界各国でヘリウムガスなどを使わない航空機の開発が始まったのは御存知ですか」

ロイ「はい。理論からまず破綻していて全くの進歩無しと聞きます」

党首「某国が横七から技術提供を受け

   既に航空機の量産を開始したとの発表がありましたが、

   横七協力条約において加盟国である我国は情報要求が出来ません、

   この対応の差はなんですか」

ロイ「本条約は元々現地での作戦活動を容認させる目的があり、

   未加盟国に優遇をするものではありません。

   そして横七では例えどの様な国家が如何なる条件で技術要求をしても

   提供されることはありません。

   もし提供される場合、提督である私か副司令に話が回ってきます。

   それが無いということは、

   偽情報であり某国は今だ量産体制もなにも出来ていないと考えます」

党首「何故話がないだけで無いと確信できるのでしょうか、スパイの可能性もありますよ」

ロイ「機密情報のためお答えすることができません」

党首「では、技術提供をしたということですか!!」

 

党首は語勢を強めて言う。それに呼応するように「そうだ」という野次も増えていく。

既にこのとき、ロイは軽くキレていた。フォージは頭を抱えていた。

 

フォージ「大佐、相手にする必要はありません。事実無根の話に等しいです」

ロイ「そうだな軍曹、あの党首が言っていることは妄想に等しいな」

フォージ「大佐!!」

党首「なんです!!」「どういうことだ!!」「失礼だぞ!!」「謝罪しろ!!」

 

フォージは小声で無視を勧めたのに対し、ロイは大声で否定した。

 

ロイ「私は私がいる場であらぬ噂が立つのを好みません。

   故に私としては党首、あなたにお聞きしたい。

我々横七が某国に情報提供した証拠はありますか」

党首「それは…某国の発表d「それが真実であるという証拠はありますか」既に…」

ロイ「証拠が不十分であるため横七が情報提供したという事実はありません。

   勿論、証拠を隠蔽した可能性もありますが

今度は隠蔽が事実である証拠を出さねばなりません。

   仮定を重ねた根拠のない理論など最早妄想でしかありません。

   その点を御理解していますよね?」

 

静かになる。野次も飛ばない。

フォージもロイも後一部議員も少し笑みを浮かべている。

しかしそれでも黙らない党首は次の質問をぶつける。

 

党首「…要求を満たさなければ攻撃される場所を何処か、分かっていますか」

ロイ「いいえ、全く」

党首「それでは国民の命を守れませんが、どうなのですか」

ロイ「…今現在各地で防御陣地を形成中、大都市などの人口密集地には増援を出しています」

 

横七は日本人を救う理由なんてない。

協力条約にもそんなことは書いて無い。しっかり確認してから来ようね。

ロイは答えた後席について党首の質問を聞いていると、フォージが囁くように報告する。

 

フォージ「大佐、以前第61ガウ航空隊の指揮を執っていた二人が来ました」

ロイ「そうか、…えっ?」

フォージ「ウォイル閣下とレイ閣下が国会議事堂に来ています」

ロイ「」

 

絶句してしまう。次の瞬間扉が勢いよく蹴り破られる。

そして出てくるのは二人の深海棲艦。

 

ウォイル「副隊長がロイはここにいるからと聞いてきたけれど」

レイ「おっ、あそこに座っているぞ!!」

党首「なんですこの方達は、警備員はどうしたのです」

レイ「警備員?そんなのいなかったぞ」

議長「静粛に、まず乱入者達、貴方達は何者ですか」

 

胃薬を摂取した議長はざわめく場を鎮め、質問をする。

 

ウォイル「横七所属、ウォイル」

レイ「同じく横七所属、レイ」

ロイ「彼女達は深海棲艦でありながら横七で新深海棲艦と戦っています」

 

フォージの報告からずっと頭を抑えていたロイは立ち上がり紹介する。

しかし、却ってそれが火に油を注ぐことになってしまう。

 

「深海棲艦だと、危険だ!!、直ちに殺せ!!」

「早く部隊を呼んであいつらを殺せ!!」

「ロイ君!!直ぐにそいつらを殺してくれ!!」

 

大の大人が大声をあげて二人を指差し殺せ殺せと騒ぐ。

ロイにとっては愉快であるが実に不愉快な光景。

左腕の義手に忍ばせている銃を取り出し弾が入っていないことを確認して上に向けて撃つ。

 

ロイ「ギャーギャー喚くな、話を碌に聞かない馬鹿どもが」

 

空砲かドスの効いた声が効いたのか分からないが静かになる。

すると党首がマイクの席まで行き、質問を始める。

 

党首「…深海棲艦は危険な存在だと散々訴えていたのはあなたです。

   しかしなぜ彼女達にはある種贔屓ともいえる行動をするのですか」

ロイ「理由は単純です。彼女達は我々横七の一員だからです」

党首「では他の深海棲艦も同じように出来るのではないですか」            

ロイ「不可能です。党首の仰るように可能性は幾らでもございます。

   しかし判断が難しく、時間を個々に掛けることが不可能なため

   元々友好的な彼女達を除き深海棲艦は全て排除といった姿勢でありますそんな暇ねーんだよ、バーカ

 

野次はそれでもまだ飛んでくる。

やれ危険だから殺せだの、深海棲艦は危険だの、うるさい。

質問に答えた後、ロイは席に戻らずまた発言する。

 

ロイ「さっきから野次を飛ばす方々に申し上げます、

   彼女達は横七の所属なので貴方達がいくら殺せと叫んでも殺せる権限はありません。

   それに先程から思っていましたが貴方達は横七を

   日本国の内部組織の一つと勘違いしておられるようなので改めて言わせてもらいます。

   権限は全て貴方達のような政治家ではなく私ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフにあります。

   防衛省のように情報公開請求をすれば公開されたり

   隊員や器物をどうこうできると思わないで頂きたい」

 

来てからずっと思っていたことだ。

18年以上前なら違うが今の横七は日本国の機関ではない。横七という国家なのだ。

それなのに多くの質問がそれらを忘れたかのように下に見た態度。

外交問題に発展しても可笑しくはないことなのだ。

只でさえ格上相手なのに、礼儀を持たずに接するのは異常なことだ*3

 

議員が黙ったのを確認してロイは席に着く。するとフォージが後ろから小声で報告する。

 

ロイ「実に結構、今すぐ開始しろ、一匹も逃がすな」

 

満面の笑みで大声で伝える。

 

 

 

 

その日は日本史、ひいては世界史にも残る日となった。

 

 

 

 

 

 

『日本国閣僚・議員虐殺事件』として。

*1
一度しか出ていない(それも前作の)システムだぞ、覚えてたか!?主は忘れてたぞ

*2
とんでもない嘘、アベルと義明英朗には尊敬する理由が無いと思っている。

*3
金融関係で「『借りてください』といったら借りてやる」と言った国なんてあるわけないやろWWWWWW



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配信開始ぃ!!

ロイ「作戦開始、スパルタン、突入せよ!!」

 

その声を待っていたかのように壁や天井からスパルタンが15人現れる。

 

ジェローム「動かないでください!!」

総理「な、なんだ!?」

ロイ「落ち着いてください皆様、彼らは横七の誇る精鋭、スパルタンチームです。

   この中に深海棲艦がいる可能性が高いので検査をさせるため呼びました」

「深海棲艦!?、君の所の二人ではなくてか?」

ロイ「はい。この部屋の中ですら数十体はいます」

 

席から立ち上がり中央にいく。

スパルタンは丸腰であることを考えてか背中にある予備武器のジ・アンサーを渡す。

フォージ軍曹にはオースウォーンが渡されていた。

生中継は止められたのだろうか、そんなことを考えてあげる良心はロイにはない。

 

党首「警備の者はどうしたのです、防衛隊が増援に来ている筈ですよね!!」

ロイ「スパルタン、説明してやれ」

ジェローム「はっ、警備員にも反応があったため全員を気絶させ検査。

      深海棲艦は全てその場で射殺しました」

党首「待ってください!!、この場にいる者を殺すのですか!?」

ロイ「そうだ。この場にいる新深海棲艦は全て抹殺する。

   立ち上がるんじゃないぞ、怪しく思った行動をした奴は問答無用で殺していくから」

 

全員が席に着く。

するとスパルタンはバトルライフルの照準を議員達に合わせる。

それを見たロイは右手を挙げる。

 

ロイ「やれ」

 

振り下ろされる手と共に銃声が響く。

スパルタンは一斉に議員達の頭に向けて発射し寸分の狂いなく命中させる。

「訓練の的当てよりも楽だぜ」そう呟くスパルタンもいる。

 

総理「ま、まだ検査をしていないだろ、何故撃ったんだ!?」

ロイ「…実を言うと突入前に既に終わっています。軍曹がやってくれました。

   今この場で生き残っている議員方は全員人間です、御安心を」

 

生き残った者達は安堵の表情を浮かべる。

何せ今だ生きており自分は人間であることが突然であるが証明されたのだ。

 

そんな人達をロイは見ていたが、ある人物が生き残っているのを見て喋り出す。

 

ロイ「へぇー、あんた生き残ってたんだ、てっきり深海棲艦だと思ってたのに」

 

見ているのは民政党の党首だ。

敬語などは一切使用しない。失礼であることは百も承知だ。

しかし一切反論の声は上がらない。それはなぜか。

 

つい数分前とは形勢が大きく変化してしまったことだ。

数分前なら自分と同じ党で同じ志を持ち、気に入らない発言をすればヤジを飛ばしてくれる。

そんな議員達――に扮した深海棲艦――は既に死んでいる。

それに加えスパルタンがこの建物を占拠している。

なにか気に障ることを言えば殺されてしまうと恐れ、なにも言えない。

 

ロイ「にしても恐ろしいねえ、こんな連中が国家の未来を担う者達なんて」

 

それを皮切りにロイは不満を吐き散らかし、今の日本国の現状を嘆いた。

軽い演説になってしまい、長くなってしまうのでここでは割愛するが、

若者に訴えかけるものであった。

それだけは伝えさせていただこう。

 

別段、この機に乗じて日本を乗っ取るつもりなどない。

今の彼は日本人でもドイツ人でもない、18年前に声だけを聞いた女王陛下に仕える下僕である。

その仕え先が行方不明で知らぬ間に方針転換した可能性もある。

それでも彼はアベルを殺す為に全力を尽くす。18年前の様に、あの日の海戦のように。

――

フォージ「大佐、近くにペリカ…D77-TC降下艇が待機しています」

ロイ「分かった、スパルタンは先に横須賀に帰還しろ、軍曹、表から行くぞ」

フォージ「了解しました」

 

なぜ

疑問がフォージの頭の中を駆ける。

近くに待機させているのだから屋上や窓の近くに呼び寄せて飛び乗ればいい。

だが大佐は態々表に降下させ、横須賀に戻るつもりだ。

スパルタンには先に行け、つまり飛び乗って帰れと命令したのに。

 

そんなことを思いながら入り口の扉を開けると、群衆が出待ちしていたかの集まっていた。

警備員は全て気絶させたので散らす仕事をするひとがいないのも拍車を掛けているだろう。

 

「○○社の者です、よろしいでしょうか!?」

「××社の――です。取材をしてもいいですか!?」

「□□社の~~です。この後時間はございますか!?」

 

フォージは理解した。

考えればそりゃそうだと思えるがその場にいたので理解できなかった。

大佐は一応選挙で選ばれた国会議員――に化けた深海棲艦――をLIVEで殺したのだ。

おまけに演説のような愚痴をして、マスコミが放っておくはずがない。

しかし大佐はマスコミに一切の反応を示さずペリカンに向かう。

すると今度はスマホを持った青年がやってきた。

 

「どうもー、カインTVのカインです。少し質問していいですか?」

 

如何やら民間人のようだ。通りで取材機器がスマホだけという、

マスコミなら予算削減の究極体なわけだ。

名乗りから単独でやっているように感じる。

きっとこいつは噂のTouYuberなんだろう。

だが、大佐は気にせずに進むだろう。一人でよく待った。

 

そんなことを思いながら歩こうとしたフォージはロイが立ち止まったのに驚いた。

 

フォージ「大佐?、どうされましたか」

ロイ「カイン…といったか」

「はっ、はい!!、カインTVのカインです!!」

ロイ「6月の中旬に横須賀のカフェで会おう。詳細は追って知らせる」

「ありがとうございます!!、それと、今生配信してるんですけど、なにか一言お願いします」

ロイ「んっ?じゃー、そーだねー…早くご飯が食べたい、じゃあね」

 

あまりのコメントにカインはおろかフォージも驚いた。

国会に着いたのは朝、出てきたのは日没後。

約12時間食べてないがそれはあまり関係ない。

 

フォージが驚いたのは対応したことだ。

大佐の事だからこいつもスルーだと思っていたらまさかの素の対応である。

頭が戦闘に特化したフォージはあまり分からないが、取り敢えず副指令が怒っていることは予想できた。

――

ジョニー「岬明乃艦長から連絡です。赤道祭が明日から始まるので来てください、と」

ロイ「了解、ワームホールを、目的地は本島」

「了解、ワームホール展開、目的地横七本島」

ロイ「…変なことにならなきゃいいんだが」

 

ワームホールに入った際に呟いた言葉は、騒音に飲まれて消えていった。




こんな配信したら即垢BANやろうなと


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赤道祭でもお仕事ですね!!

遅くなりましたが報告

ドロップ祈願の前書き投稿をした次の日にゴトランドがドロップ

神威もその数日後にドロップしました。

明石と卯月はもういいです、はい。

明石は三回目だけどまだ許せる、しかし卯月貴様、何回目だ?
4-4クルージングのあの苦労はどこに逝ったんだ…

しかし後はコマンダンテスト、貴様だけだ、早く来てくれ頼む。お願いします


ドロップ祈願はこの辺にして本編をどうぞ。


横七本島 ロイ自室

 

「マジでお前言ってんの?」

「マジで」

「マジで!?」

 

部屋の中から聞こえてきたのは二つの声。

一つは嬉々とした、なんとも楽しそうな声。

もう一つは驚きと哀しみを存分に含んだ苦しそうな声。

互いの声のオーラが反対に位置するため、そのオーラはより強く感じれる。

――

明乃「裕兄まだかなぁ」

 

記録館の前で独り立っている少女は岬明乃という。

彼女は制服姿でとある人物…言わずもがなロイを待っていた。

しかし一向に来る気配はなく、代わりに変な人物がやってきた。

 

「あーっ、ようやく見つけたよ、ミケちゃん!!」

明乃「あ、あの~、誰ですか?」

「私?私はイロハ、横七のアイドル的な存在!!」

明乃「あはは…」

 

私、4日もここにいたけどあなたのこと見たことないよ。

それよりも早く裕兄に会わせてよ、どうせ場所知ってるでしょ。

 

イロハ「おお、怖い怖い。確かに知ってるよ。だけど来れないって」

 

私、なにも喋ってないんだけど。それなのにどうして分かったの。

しかも来れないって何よ、返事は行くって来たのに。

 

イロハ「ははは…まあアイドルは人の心を読むのが上手だからね」

明乃「…」

イロハ「嘘ってことバレちゃった?」

明乃「そんなことよりも裕兄が来ないってどういうことですか」

イロハ「そのままの意味だよ。逆に決戦間近な状況で遊びに行けると思う?」

 

…そうだったね。

ここにいると忘れちゃうけど世界はまだ新深海棲艦が猛威を振るっていたんだね。

それに裕兄は横七の提督、遊んでる暇なんか無いか。

 

そう思って明乃は一人で会場に足を運ぼうとしたがイロハが手を掴む。

 

イロハ「アイドルにはさ、お忍びで遊ぶときに引っ張ってくれる存在が必要なの」

明乃「はぁ…そうですか」

イロハ「そうなの!!、だから私を赤道祭に連れてって!!」

明乃「いや、あの…」

イロハ「私は道化役さ!!、さあ早く!!」

 

結局イロハさんを連れて行かなくっちゃいけなくなっちゃった。

――

会場についたイロハさんはとても楽しんでた。

特に射的屋で砲術科や水雷科が暴れた後に行って残りの景品をかっさらい、

 

「今日はもう閉店だ」

 

とやっていた娘達に伝えている様はアイドル業界の闇を知った気がした。

 

そうして今は教室で出し物をやっている。

航海科が後悔ラップを披露したときにイロハさんに質問して

 

「横須賀にいたとき告られたんだけど、普通にフッタことかな」

「えぇ~!!、如何して後悔しているんですか?」

「だって、すごく頭に来てるのに頭に一発撃ち込んで海にドボンさせなかったんだよ、

 私。殺っといたらすっごくスカッとするのに」

 

この返しには誰もが戦慄した。

 

それから舞台でメイちゃんとタマちゃんがコントをして、私達艦橋メンバーが劇をした。

それから何かをマロンちゃんがやろうとしていたときに、再び舞台が盛り上がる。

音楽が流れると同時に煙が焚かれ詳しい様子が見えなくなる。

 

麻侖「なんでいなんでい、なにが起こってるんでい!?」

「横七のアイドル、イロハちゃんが歌うよ、皆聞いてね!!」

麻侖「イロハ?艦長が連れてきたあの娘か!?」

 

軽くパニック状態の聴衆を無視してイロハさんは歌い始める。

 

イロハ「聞いてください!!、『海色』」

 

タイトルを聞いても全く分からない。

恐らく裕兄の世界では有名なのだろうがこの世界では無名らしい。

現に皆が一様に首を傾げているのだから。*1

 

だけど歌声を聞いた瞬間に痺れるような感覚を受けた。

声が凄く綺麗で、透き通っていて、それなのに力強い。それに惹かれる。

 

そんなことを思っていたら如何やら違う曲を歌い始めていた。

やはりそれにも同じような痺れる程の良さを感じる。

 

そして最後を宣言した後、ピアノの伴奏が流れてくる。

 

チャララランチャラチャチャラランランチャラチャ・・・

 

イロハ「聞いてください!!…」

 

曲名が聞こえない。マイクが不調なのかずっとマイクを叩いている。

しかし一向に直る気配がしないので痺れを切らしたのかマイクを投げ捨て、

さらに後ろに高速移動?(HALO5の前向きで後ろにスラスタージャンプ)をした。

すると着ていたアイドル服が塵になっていき、顔も崩れ去る。

放送事故級のものを見たと思ったら中からはなんと、来ないと思っていた人…裕兄が来た。

 

ロイ「曲名は『哀戦士』、歌います」

 

驚きが溢れ騒ぎが起き始めたが、歌声を聞いて静かになる。

何処か悲しげな声色ながらも芯が強くて暖かい。

そんな声を聞いてしまった皆は無言でステージ上の裕兄を見る。

楽しそうに歌っているが悲しそうに歌っている。

訳が分からなかった。どうしてそう感じたのかは。

――

ロイ「ありがとうございました」

 

一礼してステージを降りようとしたが、そうは機関科が許さなかった。

 

留奈「待って!!なんで教官がここに、それもじょ、女装して…」

 

その叫びは晴風全体の総意を代弁していた。

来れないと伝えられたのに来ている。

それもアイドルの女装を完璧にして、怪しまれることなく。

 

ロイ「いやー、行かないと怒られると思って…」

留奈「それじゃあ女装の説明は!?」

ロイ「…どこぞの馬鹿な副司令官が『女装をしていったら楽しいのです』とか抜かしたから」

聡子「それでもすっごい可愛かったぞな」

順子「バキュンと男の人を射抜けそうに」

ロイ「それは…」

 

言えない、言いたくない。

前世で艦娘専用の訓練を受けるため全力で女装し、

艦娘が可愛いだけにLevelが高かったから順応したことを。

それでもバレて女装セットが全て破棄され結構ヤバかったことを。

悪戯で嫁に化けてさらに嫁を攻撃したら恥ずかしい言葉を連呼されたことを。

言えない、皆に対してはとてもじゃないが言いたくない。

 

ロイ「も、黙秘します。代わりに色々聞いて良いから…」

 

故にこの逃げの一手を打つ。

軍機に関わることは言えないがそれでもやるしかない。そう思って打った。

案の定それは興味津々で探求欲の尽きないお年頃の彼女達を刺激した。

 

芽依「あの6連装魚雷発射管晴風に付けてくれますか!?」

ロイ「それは…改装主任次第かな」

志摩「砲…」

ロイ「ああ、主砲は10cm連装高角砲から3連装コイルガンに換装したらしい。

   再発射に必要な時間は10秒。威力は武蔵を一回の斉射で中破にまで追い込める」

幸子「教官と艦長と副長と奥様の関係を教えてください」

 

苦虫を嚙み潰したような顔をしたロイはその後、順に答える。

 

ロイ「ミケは妹繋がりだ。児童養護施設でできた友達というよりも妹だな。

   その後は…JBIっていう名の客船があるんだけど、知ってるか?」

幸子「はい、

   竣工当時は世界で一番を競う豪華客船で親の居ない子供を招待した航海で有名な奴ですよね」

ロイ「そうだ。そして俺とミケともかも乗った。最後の乗客達の一人として」

幸子「…ごめんなさい、こんなこと聞いちゃって」

 

JBI号、とある社長の名をとった豪華客船である。

それは子供達、特に貧しかったり親のいない子達を招待し航海する。

謂わば慈善事業に豪華客船を使った赤字覚悟の航海である。

しかしそれは僅か数年で終わる。

理由は単純、JBIは沈んだからである。

会社は貧しい子供を多く乗せても一部の富豪が利益を出すほど金を落とすと思っていた。

しかし現実はとてもじゃないが黒字…プラマイゼロとも言えない程の大赤字だった。

それでも利益を出し、慈善事業―という名の宣伝―を継続させるためあらゆる手段を投じた。

整備費を減らすためメンテナンス回数を月一から年一に変えた。

人件費を減らすため免許を取ったばかりの新人を大量に起用しベテランを使わなかった。

食事に違法な安い物を使ったという噂すらある。

それが祟ってJBIは沈んだ。数多の子供達を載せて暗くて冷たい海の底へ。

 

ロイ「俺もそれで死んだと思われていたらしいがこうして生きてる。腕は消えたけどね」

 

軽いノリで話す彼だが実際はとても重いことを皆は知っている。

 

ロイ「シロ坊は「シロ坊ってなんです!?」気に入ったから、シロ坊」

真白「こうなるなら台本修正しとけばよかった…」

 

先程の演劇で真白の事を「シロ坊」と呼んでいた。

作っているときも練習している時もなんとも思わなかったがまさかの人物が弄ってきた。

 

ロイ「話を戻してシロ坊は姉の真霜と母の真雪さん繋がりだな」

幸子「校長が?」

ロイ「ああ。一度真雪さんの乗っていた艦が偶々出先機関を訪れてな。

   酷くやられてたから修理して日本に送り返した。

その後BMになって安全監督室直属の隊で活動。

   真冬の指導で宗谷邸を訪れて通報されかけて、受験勉強の手伝いして今に至るな」

真白「ああ、懐かしいな。通報したのも受験勉強に必死になったのも。全部懐かしいな」

「通報って」「バキュンと刑務所送り?」「ていうか教官が教えてたって…」

ロイ「大丈夫、試験の内容は全く知らないし試験日はドイツにいたから」

 

真白に内容を教えたと思われるのを嫌ったロイは直ぐに付け加える。

これが原因でクラス崩壊になったら笑えない。

 

ロイ「さ、最後だ。俺の嫁、名前は加古だ。姿はこの前のパチモンで分かっただろ、あれだ」

幸子「どこで出会ったんですか!?」

ロイ「職場の横七…の正面海域。哨戒中に独りで付いて来てそれを助けたのが出会いか。

   まず砲戦技術を叩き込んで、合格祝い送って、呉の第一鎮守府を荒らして勲章貰って。

   それから前任者が深海棲艦と組んで襲ってきたから返討ちにしようとして。

   衛星兵器使って、スペードに一緒に乗り込んでキスされて」

幸子「は、白昼堂々なんたることを!!」

ロイ「ケッコンして親衛隊に入れて迎撃の為共に出撃して…消息を絶たれた」

幸子「…はぇ?」

ロイ「迎撃自体には成功した、しかし大きな痛手を負った。

   俺は約2週間寝込んだだけで済んだ。だがあいつは、加古は…

 

 

 

   拷問の挙句殺された

 

誰もが寒気を…人生の中で初めて体感した、異様な寒さを感じる。

勿論、気温が低いわけでもないし風速が強いわけでもない。

 

ここ横七はそれこそ凍る程寒い高さに浮いている。

しかし暖房が機能しているように暖かく、風は吹いていない。

だが、感じたのだ。15年しか生きていない少女達は気付けなかったそれ。

 

怒り 憎しみ 恨み

 

それらは全てたった一つ、そうたった一つのことからだ。

 

反逆者達の目的には全く意味の無かったことの所為で。

 

只、親衛隊だからという安易な発想に基づき、拷問し、殺害したせいで。

 

ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフに一度では満たされない程の殺害欲求が生まれた。

だからこそ、一部除き全ての兵器の使用を許可した。

存在しないと伝えられた深海棲艦に備えさせた。

 

ロイ「最期に会えたのは頭だけだ。既に腐っていた、死体だけだ」

 

天国で会っていると伝えたら精神病院に送られてしまう。

尤も正面玄関から堂々と出ていくが…

 

明乃「あ、あの!!」

ロイ「まだあるのか」

明乃「ミサッ…お願いです。ミサと呼んでください!!」

 

ロイは思い出す、昔の記憶を。

自分であって自分ではない記憶、知名裕一の記憶を思い出す。

 

昔の自分の声は妹のもかと区別するのが少し難しかった。

故に呼び方を変えることで誰が呼んだのかを分かるようにした。

 

俺はミサ もかはミケちゃん

 

この長い年月ですっかり忘れていたその呼び方。

それを今求められている。

 

要望は簡単だ。只日本語の『ミ』と『サ』を続けて言えばいい。

しかしそれが出来ない自分がいる。

「ミサ」と岬明乃のことを呼ぶことが出来るのは知名裕一だけだ。

 

 

 

なにがあったとしてもロイ・ヴィッフェ・ヒドルフではない。

 

ロイ「すまないがそれは出来ない、…もう時間切れだ。おやすみ」

 

それは逃げと捉えられた。

確かに日は沈みかけているがまだ暗くは無い。おやすみ、という言葉はまだ適していない。

だが、きっとこの後ロイは合流せずいなくなるのだろう。故のおやすみなのだ。

 

明乃「…」

 

返事を貰えなかった少女は悲しむ。

 

この後相撲とわれは海の子の合唱を経て赤道祭はお開きとなった。

晴風内の団結は高まった。あの黒木洋美ですら岬明乃と和解したのだ。

鏑木美波が12歳であることを知らなかった一同は大いに驚いたが、それでも良くなった。

*1
アニメのオープニングだけどロイのいた世界では応援歌のような扱い。この曲を歌う理由は加賀岬や加賀岬(強調)が個人を題材にした物に対しこちらは全体的に使えるから




「告白の話って嘘だよね、だって女装中にされたんだから…」
「いや、本当だぞ。成金趣味のクソババァがやってきやがった」
「」




ロイ君は男の娘だった(錯乱)

女装癖は我になし…ないからね!!

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横須賀決戦 偵察と思しき攻撃

雪風のCI率やべぇなあ。運60(育成中)は伊達じゃない!!


赤道祭の次の日、晴風は大規模改修を完了し出港した。

しかしワームホールを抜けた先には不運にも武蔵がいた。

 

射程圏外の為監視の任に就いているが横須賀では大騒ぎになっていた。

 

「武蔵が伊豆半島沖合で発見されました!!」

「マニラに向かっていた筈よ!?」

「横七の偵察機から送られてくる映像ではサンフェルナンド沖合を航行しているわ」

「しかし付近の職員が武蔵の映像を送ってきています」

「これはどういう…まさか!!」

 

机を叩く、そのBM―宗谷真霜―はモニターに叫ぶ。

 

真霜「騙したわね、ロイイイイィィィ!!」

 

少しの沈黙の後、場は動いた。

横七から送られていた武蔵の映像が乱れ、ある男が映る。

 

銀髪で長身、既に5月なのにトレンチコートの上にコートを羽織る男。

 

映像の乱れが治ってきたとき、モニターに映った男の表情が分かる。

 

 

気持ち悪いほどに笑顔なのだ。

 

 

BM、WD、日本政府

 

全てが大混乱の中で彼は笑っているのだ。

 

ロイ「御役所仕事は大変でしょうなぁ」

真霜「如何してこんな、虚偽の映像を流した、ロイ!!」

ロイ「怖いなあ、そんなにカッカしないで、落ち着いて」

真霜「落ち着けですって!?私達はマニラ決戦の為に戦力のほぼ全てg…」

ロイ「知っていたさ、そうさ。そうなると分かって敢えてそうしたのだ」

 

そう語る表情は失敗に対する物ではない。

成功に対するものだ。マニラにBMを集結させることに成功した、その笑顔なのだ。

 

ロイ「この戦争は第二次、つまり第一次の続きなんだ。

   空白の18年は休戦期間、まだ終戦してない。だからだ」

真霜「だから?終戦していないことがパーシアス作戦の失敗とどう関係するのよ!!」

ロイ「言っただろ、これは続きだ、続きなんだ。物語は一部すら終わってない。

   作品の途中で主人公は死んでもないのに変えはしないだろ?」

真霜「まさか、私達は無関係だから邪魔をするなと!?」

ロイ「その通り、これまではRATsがいたから乱入を許可した。

   乱入者の処分を乱入者に任せたに過ぎん」

真霜「だけど、武蔵が今は…」

ロイ「その乱入者を倒す者は既に決定している」

真霜「まさか…」

 

武蔵の一番近くにいる艦、誰かは分かっている。

しかしそれはあまりにも非常すぎる。

 

ロイ「もう既に配置に就いて戦闘を今か今かと待っている」

真霜「子供にやらせるの!?15歳の彼女達に、晴風に!?」

ロイ「そうだ。武蔵も子供達だ。子供の喧嘩に親は出る必要はない」

真霜「深海棲艦がいるのに…

   鮫の子供相手の喧嘩に人間の親は黙って見ていろというの!?

   晴風には貴方の妹分達がいるのよ!?」

ロイ「知ったことか、それに既に晴風には横七の兵器がガン積みされてる。

   それで勝てない若しくは生き残れないなら入学すらできねえよ」

真霜「それでも彼女達は子供です、我々が守るべき命です。

   福内の艦隊を送ります」

ロイ「止めておけ、無駄に被害を出すぞ」

真霜「分かっていて避難勧告すら出さない人に言われたくないわ」

ロイ「この国の人間が全て死滅しても構うもんか、精々頑張りな」

 

通信が一方的に切断される。

まだ問い質したいことは尽きない程あるが、そんなことをやっている場合ではない。

 

取り敢えず犠牲者を最小限にするため関東一帯に避難勧告を出す。

次に残っていたBM隊員で避難誘導をする。

避難先は可能な限り日本海側に近い場所だ。

なにせ関東圏はメガフロートが中心、海からくる敵には危険すぎる。

 

真霜「福内の艦隊に伝令、武蔵制圧はアベル艦隊が接近するまでに終わらせる。

   彼の言い分からして敵は横須賀に来る。全艦隊を呼び戻して!!」

 

彼の例え通りこれが物語なら、

主役はロイとアベル。脇役は横七関係者と深海棲艦。乱入者は我々とRATs。

では舞台、考えれば分る筈だった。何故ロイは横須賀の駐屯地にいたのか、そこから考えれば。

 

主役は舞台に居続けなければいけない、物語が終わるまで。

この戦争が物語ならば舞台はロイのいる場所。

最初はオーシャンモール四国沖店、次は横須賀、アスンシオン島近海…。

各地を転戦してきたが今いるのは横須賀、しかも数日間ここから動いていない。

 

ここなのだ、次の舞台、惨劇の舞台は横須賀なのだ。

――

福内艦隊は晴風が監視中の武蔵に攻撃を仕掛けたが、失敗に終わった。

RATsに対する抗体を大量生産し艦も改装を施し万全の状態で挑んだ。

 

しかし敗北した。

未だ殉職者は出ていないが4隻中4隻が何らかの大きな損害を負い戦闘続行は不可能だった。

それに加え東から黒い波…深海棲艦の大群が現れこれ以上は監視すら危うくなった。

 

芽依「私達、武蔵を、深海棲艦をこのまま横須賀に行かせちゃうの?」

幸子「しかし、蛇は頭を喰われたら生き返るものも返らなくなります」

鈴「いくら横七の兵器があってもあれだけの数は無理だよぉ」

 

戦意喪失、晴風艦橋組の言葉は晴風、ひいては世界の意を代弁していた。

艦長である岬明乃は震えて縮こまってしまっていた。

副長である宗谷真白でさえ諦めかけていた。

 

真白「これ以上は危険だ…180°反転してこの場かr…」

マチコ「深海棲艦群に突撃する何かがいます!!」

幸子「あれは…教官!!」

 

一筋の光の如く彼、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフは突撃した。

黒い波の奥深くに向かって、一直線に。

 

少し高い所から見れば彼の通った跡は明るい、いつもの綺麗な海に戻っていた。

それと同時に爆発音や発砲音が響く。

火の玉が幾つも現れては直ぐに消え、また現れる。

 

戦闘が生み出した副産物は遠目から見れば花火のように美しかった。

――

ロイ「そこを退けッ!!、お前等のような蛆虫を相手にする暇は無いんだーッ!!」

 

右手から迫りくる深海棲艦に向けてリボルバーを撃つ。

すると今度は左からもやってくる。

其方にはプラズマグレネードを投げつけ吸着させる。

その後起こることは分かり切っているので正面を見つめ直す。

 

相手はこちらの奇襲、といっても単独の特攻紛いの攻撃に混乱して対応しきれてなかった。

まだ入り口であるのに沈めた深海棲艦は100を下らない。

 

「沈めてやる!!」

 

人型の姫級と思しき奴の額に向けてSPANKrPRIMEを発射する。

スナイパーライフルの如き速さのロケット弾を避けれる筈がなく命中、

顔が吹き飛んで沈んでいく。

 

今の俺は通常時には考えられない量の武器を持っている。

スナイパーライフルは狙撃に使わない為持ってきていないが、

それでも多くの武器を持ってきている。

 

先日の赤道祭の時に本島の武器庫からかっぱらってきたのだ、伊達ではない。

無論、その重さもだが今の所、約20%の出力低下で済んでいる。

弾が切れたら投げ捨てるので何れこれも解消されるだろう。

 

今やっていることは強硬偵察である。

目標は敵戦力の確認、アベルの位置、SoFを沈めた兵器の調査。

どれもが重要なことであり、断じてどれかを欠かすことは出来ないのである。

 

すれ違いざまに敵艦隊に向けてタルタロスガベルを振り下ろす。

発生した衝撃波が後続を巻き込んでいくのはもう堪らない。

 

哀れに体当たりを仕掛けてきた駆逐艦がシールドで粉微塵になった時は感動すら覚えた。

 

既に横須賀では海兵隊とスパルタンが配備に就いていると思うが、

総取りして仕事をなくしてしまう。

 

 

 

そんな慢心を決め込んでいたら、体が光線に呑まれた。

応急修理女神を持っていたから無事だったが余裕は無くなった。

 

光線が来た方向を見ると、何か巨大な砲台が十数個牽引され、その内の一つから煙が出ていた。

遠すぎて何か分からないがあれがSoFを沈めた兵器だろう。

何せシールドと追加装甲を一瞬で溶かし本体を消したのだ、あれ以外考えれない。

 

女神による燃料の回復はあったがHALO系の武器に弾薬は補給されていなかった。

まだ改善の余地しかないなと思いながらエナジーソードを構え突撃する。

 

一つ、二つ…辻斬りの様に近付いた敵を斬り沈めていく。

しかし10回程でエネルギーが切れたのか刃の部分が消える。

仕方がないのでジ・アンサーで辺り一面を爆発させながら進むと、目標の全てがわかった。

 

敵戦力は予備含め10万、謎の兵器は何時ぞやの衛星兵器の残骸を利用したもの。

そしてアベルの場所は…目の前だ。そう、真正面。

 

随分と奥に潜んでいたが見つけれた。

いつもなら砲弾の2桁や3桁飛ばしてもいいのだがまだなので逃げる。

方法は至って単純、個人携帯の試作品のワームホール発生装置で横須賀の駐屯地に飛ぶ。

 

結果としては体がバラけなかったし砲弾も数発付いてきたが無事偵察を終わらせた。




評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします。


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一人嗤う

7周年拡張作戦で死にそう禿げそう胃に穴あきそう


「埠頭より連絡、深海棲艦を射程に捉え交戦中…」

「巡回中のゴーストから市民の避難は3割完了…」

「下水道を防衛中のスパルタン小隊から接敵との報告あり!!」

 

横七の横須賀駐屯地司令部では報告が嵐のように大量に降りかかる。

どれも深海棲艦に関することばかりで一つも聞き逃せない。

報告は全て文字化されるので問題ないが考える頭は有限なのが問題だ。

 

「あの、クソババア共が!!」

 

現に横七提督であるロイという男は叫び机を叩いていた。

――

本来なら既にこの段階で一つの大きな障害は取り除けたんだ。

それなのに真霜の奴が変に心配し過ぎたから――だから武蔵を逃したんだ。

 

ロイ「監視員、武蔵はどうなっている!?」

「はい、武蔵は今現在浦賀水道に向け航行中、しかし速力はあまり出ていません」

ロイ「分かった、深海棲艦と合流したら知らせろ」

「了解です」

 

映像でも分かる程今の武蔵は遅い、遅すぎる。

理由はおそらくBMの攻撃でRATsに混乱が生じたのだろう。

それに加え砲弾には海水を含ませている。支配から脱せてなくても行動を阻害できたはず。

 

しかしそれだけだ。晴風に搭載した兵器ならRATsは既に葬られて武蔵は…

やめておこう、これ以上考えてもどうしようもない。

 

ロイ「砲は下がらせる。ノートゥングの破壊方法を速やかに立案しろ」

「了解、埠頭の指揮所から連絡、第一波を撃滅、我方被害なし」

ロイ「…引き続き警戒を厳となせ」

「ワスプから写真が送られています、ノートゥングに関するもののようです」

ロイ「これは…埠頭の部隊を第二戦線に後退させろ急げ!!」

 

その場凌ぎの為の陣地が役に立った。

戦果を真霜に送り付ければそんな感想を貰えるだろう。

 

だけどあれには耐えられない。

サテライトブラスター、衛星兵器ノートゥングから発射されるレーザー。

それが射撃準備に入っている。一基でも埠頭の部隊を殲滅できるそれが…だ。

対応策はあるにはあるが、まだ使うわけにはいかない。

 

幾ら連中が改造してたとしても元は横七の所有物、勝手知ったる我が兵器の性能は知れてる。

 

「監視員から急報、武蔵が転進、晴風狙う。武蔵が転進、晴風狙う!!」

ロイ「…ジョニー、いるか?」

ジョニー「はい勿論です」

 

何とも御立派な相棒だ。本島で指揮を執っている筈なのに横須賀にいやがる。

だが今はそれを不問にする。重要な時にいればそれでいい。

 

ロイ「出撃する。武装はいつもの。指揮代行を頼む」

ジョニー「了解です、後退した部隊に狙撃による援護をさせます」

ロイ「完璧だ」

 

言う前なのに既に考えを共有している。

他の妖精にはできない、数十年は一緒に活動してきた仲は伊達じゃない。

――

「まさかノルンファングまで使えるとはな」

「数日前までロードアウト武器を使っていたのが嘘みたいだ」

「スパルタンには感謝だな、それとペリカンにも」

スパルタン「大佐にも感謝しろ、大佐が配備を推してくれたんだ」

「じゃぁ、その大佐の為に働きますか」

 

海兵隊員のその一言で部隊が建物から一斉に出て壁に並ぶ。

持っている銃は金色の装飾がされた狙撃銃、若干だが全員赤くなっている。

 

「俺達はスナイパーじゃないのに無茶言うぜ」

スパルタン「お前達はODSTには劣るが横七最強クラスの海兵隊と聞いている、やるぞ!!」

「スナイパーでもないのに、なんでこんな…」

「嘘つけ、お前狙撃兵の教練コース卒業者だろ」

スパルタン「…大佐を発見!!進行方向に敵見ゆ、援護開始!!」

 

次々と発砲音が響く。命中した弾丸はその場で爆ぜる。

巻き込まれた深海棲艦は一溜まりもなく沈んでいく。

 

スパルタン「大佐の射程に入った奴は狙うな!!誤射する可能性がある!!」

「本部から通達、デルタにて敵上陸隊と交戦、急ぎ兵装を対深海棲艦市街地仕様に転換せよ」

スパルタン「了解した、後は大佐を信じる。指揮所まで戻り兵装転換する!!」

――

右から来る奴は斬って突破する。その奥にいる奴は一発で倒せる。

左の連中は誤射で混乱が生まれなにも出来ない。

 

…ほら、そうなった。今は晴風…というよりも武蔵に向うことが優先事項だ、こいつらの殲滅は後で良い。

 

見えた、武蔵が晴風を砲撃しているがシールドに阻まれてダメージを与えれてない。

武蔵の直掩をしている深海棲艦がいるな…、片付けるか。

 

「いたぞ!!、あそこに敵がいる!!」

「艦隊、武蔵から降りて砲雷同時戦の準備をギャァ!!」

ロイ「出来たらいいなぁ」

 

ジョンで旗艦と思われる奴を撃つ、続いて近くにいた奴目掛けてジャックを連射する。

武蔵で隠れていた艦隊には榴弾を撃ち込む。

 

制圧できた、そう思い艦尾を見た時、絶望と共に歓喜した。

今まで戦おうにも場が悪すぎた相手に満足した状況で戦える。

これまでの屈辱を晴らすことが出来る、後の事を考えずに戦いたい。

 

ロイ「漸く戦える、嬉しいな。ああ、とても嬉しい。そうだろう?アベル」

アベル「…」

ロイ「懐かしい、今まで幾度となく見てきたがこうして戦えるのは18年振りだ、あの海以来だ」

アベル「デコイに引っ張られて本陣に行くと思ってたけど、違ったわね」

ロイ「当たり前だ、あれは撮影用にしては優秀だ。見た目など疑う余地がない。

   しかし、デコイとしては無能だ、任務を忘れさせるような緊張感が感じられない」

 

会話しながらも奴は移動し飛び降りた。今は数メートル先にいる。

晴風救援に駆け付けたつもりだった。武蔵乗員を救出するつもりだった。

だが、その道中に敵首領を討ち取っても問題あるまい。

 

ロイ「クたバッテしまえ、愚カ者!!」

アベル「ほーぅ、その言語症状は…そう、面白くなってきましたわね」

ロイ「イツまでモ、お姫様っポくしてんジャねぇ!!」

 

近付いてジョンを振り下ろす。

 

しかし奴の持っていた砲で弾かれた、ならばジャックを撃ち込んでやる。

 

アベル「早いがまだ遅いわね」

ロイ「グガァ!!」

 

右腕を持ってかれた、銃も一緒にだ。

ジャックの奴毎回腕ごとなくなるんだよな。

 

ロイ「ハアーッ!!」

アベル「凄いわ、こんな短時間で腕を再生できるのは貴方以外知らないわ!!」

ロイ「ガァッ!!…はーっ、はーっ」

アベル「初めてだわ、腕をそんな風に…幾つも生やすなんて」

 

遅い?ならば手数を増やせばいい。文字通り、手の数を。

これなら一撃いれることが出来る。

 

ロイ「ダーリャー!!」

アベル「千手観音なら勝てるとお思い?」

 

千手観音?仏様になんてなろうとは思わない、神様にもだ。

しかし奴は強い、強すぎる。腕の数に差があっても押されている。

距離を取るため腕を奴目掛け発射し下がる。

 

ロイ「俺の名はロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ。女王陛下の剣、従僕、化物!!

   使命は女王陛下の仇となる存在の抹殺!!」

アベル「元陛下はこの世にはいない、貴様の主人は」

ロイ「そして、横七提督として、所属艦娘の命を奪った貴様を殺す者!!」

 

腕群を体の前に展開して奴の攻撃から身を守る。

そしてひたすらに走り、近付く。

 

アベル「寄るな!!、ケダモノ!!」

ロイ「義手ノ中身…以前は銃だっタが今回は違う…」

アベル「まさか…自爆!!」

ロイ「御名答…」

 

義手に指を這わせ爆破コードを入力する。

 

アベル「ふふ…フハハハハ!!」

ロイ「最期の時は彼奴と…加古と過ごせると思ったのに…貴様と一緒とは」

アベル「私が何故貴方を追い払わないか分かる?」

ロイ「無駄だからだ、貴様なんかにこの守りを突破できるはずがない」

 

腕群は俺とアベルを包み込む様に展開された。

何処かに穴を開けようとしても直ぐに塞がる。

 

アベル「残念、正解はこれ」

ロイ「それは…応急修理女神…一騎討ちは私の負けか…」

 

 

 

 

その後、青い腕の群れによって作られた球体の内部で爆発が起き、肉片が辺り一帯に飛び散った。

しかし爆発の発生地には一人の深海棲艦が立って嗤っていた。

 

アベル「私の勝ちだ!!、もう私を止めることのできる存在はいない!!

    アヒャヒャヒャヒャヒャヒィ、ハッハッハッハッハッ!!」




イベントで敵が応急修理女神とか持ってきたら寝込む自信がある。


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平和が終わり夢を見始める

最近、なんか投稿頻度が落ちてる…


理由としましては主に拡張作戦の任務、5-5攻略に四苦八苦しているからです。
一度だけ、6-4のゲージ削りに成功しましたが、ギリギリで

「これ勝てんの?」

と思い始めてきました。



後はfallout76が楽しすぎることですかね。
申し訳ありませんがまだまだ遅くなりそうです。


マチコ「武蔵、離れていきます」

幸子「このままなら射程外に逃げれます!!」

明乃「…」

鈴「助かった…のかな?」

 

広がる安堵の声

 

まだ戦闘海域とはいえ追う者がいない今、晴風は平和を謳歌していた。

 

 

 

 

爆発音が響くまでは…

 

 

マチコ「武蔵後方で爆発があった模様!!」

秀子「なにか青い物が晴風に降りかかってます!!」

まゆみ「ひっ、人のようなものが!!」

 

「急げ急げー!!早く繋げないと魂が逝っちまう!!」

「分かってます!!心臓代替装置のセットに…」

「脳を戻します、手伝って!!」

「血管を繋げています、骨格修復員は直ぐに出れるよう…」

 

小さな小さな妖精達は青い溶けた何かに集まっている。

酷く原型を損ねたそれを必死に元に戻そうとしている。

 

明乃「あの…それってなんですか…」

 

落ち込んだ声で聞くも耳を貸す者は誰一人(匹?)としていない。

その間に溶けた何かは徐々に本来あるべき姿に戻り始める。

 

明乃「裕兄!!大丈夫裕兄!?」

 

溶けた何かの中から徐々に姿を露わにする人。

それが誰か分かり駆け寄ろうとするも見えない壁にぶつかり進めない。

 

「ダメです…今は貴女が近付ける程余裕はありません」

 

声がする下を見れば、横七本島で案内係として会った妖精がいた。

 

「ここにいるのはダメです、別の場所に行きなさい」

明乃「嫌だよ!!

   裕兄があそこにいる、一人で寂しく泣いている、近くにいてあげなきゃ」

「いい加減にしろ!!医療ド素人のガキがここにいて何になる、帰れ!!」

 

沈黙、作業をしていた妖精すら言葉を発さずに手を動かし始めた。

 

「彼が寂しがってるのなんて妖精なら誰でも知ってる!!

 …兎に角、元の場所に戻ってください、貴女は艦長の筈です」

明乃「…分かりました」

 

今までの口調とは一変した妖精に叱られる。

艦橋に戻ろうとした明乃だったが、後ろから聞こえてきた声で立ち止まる。

 

「肉体の修復が完了しました!!」

「意識は戻っているか!?」

「ダメです!!取り敢えず何処か安全な所に運ばなければ…」

「う~む、横須賀に運ぶのは危険すぎる、かといって呉に運んでは復帰した際のリカバリーが…」

「本部なんて論外です。ワームホールでバラけます」

「どうすれば」

明乃「あ、あの!!ここの医務室でどうですか!?」

 

それは彼女にとって咄嗟の一言だった。

ただ近くにいたい、それが理由で考えも無く言ったことだった。

 

「戦前の陽炎型…言ってしまえばポンコツでオンボロな船に託すのですか?」

「…救護班長、その意見に吾は同意しかねます。しかし晴風は本島にて改修済みです」

「本島に他人を通したのですか!?それも改修まで…」

「提督の指示です。取り敢えず、ここの医務室に」

明乃「分かりました!!直ぐに美波さんを呼びます!!」

「大丈夫です、吾が運びます」

 

そう言うと吾と名乗った妖精はロイを浮かして医務室に運んだ。

――

美波「脳波が低すぎる。心臓に至ってはほぼ止まっているぞ」

 

診察台に載せた後、美波さんはウォイルさんの時と同じように検温や脈拍などを調べてくれた。

そして言われた一言がそれだ。医療に詳しくなくても何を言いたいのかは分かる。

 

『もうすぐ死ぬ』

 

それだけは嫌だ。あの時みたいに、三回も家族を失いたくない。

 

明乃「どうすればいいの、どうすれば裕兄は回復するの!?」

美波「確証は無いが、皆の証言が本当ならある」

明乃「それは!?」

美波「それは「深海棲艦の血を飲ませる…ですよね?」こと…だ」

 

希望を聞こうとして、被せてくる声があった。

さっき救護班長と呼ばれていた妖精の少なくとも上にいる妖精だ。

けど美波さんが言いたいことはそれらしい。

 

確かにと、そう思った。

裕兄は死にかけても深海棲艦の血を飲むことで蘇ってきた。

 

艦橋で死にかけた時、襲ってきた深海棲艦の血を飲むことで蘇っていた。

つまり今回も…今回も蘇れる!!

 

「一度も深海棲艦の血を飲んだ人間の末路を知らないからそう言えるのです」

明乃「だけど現に裕兄は飲んで「詳しく知らないからです」…」

美波「貴様が何者か知らんが教官はしんばしの一件以降、健康に過ごしているぞ」

明乃「しんばしの時から!?」

美波「そうだ。教官を看ている時に血液を調べた。その時には深海棲艦の細胞が確認された」

 

そうだったんだ。けど、深海棲艦の血を飲んでも大丈夫だってことは証明された。

 

明乃「直ぐに飲ませようよ!!」

「確かに、数日位なら大丈夫です。生きれます。ですが体は死に始めます」

明乃「どういう…」

「そもそも、他の生物の血を飲んだことがありますか?」

明乃「ない…けど」

美波「病に罹る可能性が高い。正気の人間ならしないだろう」

「はい。そして深海棲艦の血も同じ…いえ、それ以上に質が悪い。

 何しろ陸上の生物にとっては猛毒、即死する程のものです」

美波「即死?しかし現に教官は生きているぞ」

「彼は普通の人間ではありません。9年前、疑似的なものですが深海棲艦になりました」

 

「まず最初にやったのが全身手術。

 人間を深海棲艦に・・・対抗できる、艦娘という存在にしたんだ」

 

言っていた。その口から聞いた。あの時は何とも思わなかったが、彼はしっかり宣言していた。

 

 

自分が人間ではないことを。

 

「9年もあれば疑似的とはいえ近い存在になれます」

美波「医学的に言えば、教官が血を飲んでも輸血しただけと?」

「それならば良かったです。しかし現実は違います。耐性は完璧ではなかった。

 徐々に各器官が死んでいきました。噂でも聞きませんでしたか?

 耳や目は機械で代行していましたが、味音痴とかは…」

 

ヘロインの匂いがするとサワークラフトに言われ大泣きしていた伊良湖ちゃん…

なんにでも「うまいなぁ」と感情もなく言っていた夕食での裕兄…

 

「昔、それこそ前世でのことですが、横七全体で人間の深海化を研究しました。

 実験に使用した生物は揃って全能力が飛躍的に進化しました。

 電探を用いても捕捉できない蚊、模擬弾頭魚雷の様なカジキ、

 測定不能な知能指数を検出した猿。

 勿論、陸上生物はその後揃って永眠しましたが…

 兎に角、深海化のメリットのみを享受出来るよう、数年間研究が続けられました。

 結果は悲惨そのものでした。段階的な深海化でも最終段階を迎えたら死亡するという…

 二度と陽を浴びることは無かった研究成果…のはずでしたが、決戦の切り札として重要視、

 決戦当日、唯一の人での被験者は敵方に大きな被害を与え細胞の壊死が原因で死亡しました」

美波「まさかその被験者が…」

「ええ、ロイ提督です。…お話しできるのはここまでです。吾も司令部に戻らねばなりません」

明乃「待って…裕兄はどうなるの、このままじゃ死んじゃうよ!!」

「…残念ながら、既に我々も手を尽くしました。元はしんばしで絶えた命です。

 最期だけでもゆっくりさせてあげてください」

 

そう伝えた後、妖精は霞みになって消えた。

 

残された二人のうち一人は直ぐに椅子に座り、頭を悩ませ始める。

 

自分は海洋医大屈指の天才、それが人を、それも恩師ともいえる人を助けれないとは何事か。

きっと自分は何か出来る。だから考えろ、何かきっと手段はある、だから考え続けろ…と。

 

そしてもう一人は何か考える訳でもなく、ただ診察台に寄りかかって倒れる。

否、何も考えていない訳ではない。但しそれが現実を直視していないだけだ。

 

豪華客船を降りた後、ちょっと奮発して遊園地に行き楽しむ三人の姿。

先に海洋学校に入学し、今はWDに勤務、海洋実習の監督官として参加する兄の姿。

そんな兄が監督官を務める学校に入学する自分と親友の姿。

二人を叱り、褒めながらも実習以外ではとても甘やかす兄の喜んだ顔。

 

それは長年夢に想いつつも現実ではありえないと知っていたもの。

しかし実の所ほとんどがその妄想通りになった。

故に妄想と現実の良い所のみを抽出した彼女だけの世界、それにどっぷりと浸っていた。

彼女には現状は兄が死にかけ、大勢の命が喪われる危機に瀕しているとは思っていない。

只々兄は過労で倒れ、自分はそのお見舞いに来た程度にしか思っていない。

 

故に彼女は何も言わず、ただ寄りかかって倒れる。

 

兄と等しい人物と笑顔で話す。そんな幸せな日常は彼女の頭の中の世界。

 

 

 

 

 

 

そんな世界から彼女は突如放り投げだされた。

自分の認めたくない人物の過去の世界へと。



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記憶世界旅行

友達にfalloutを布教しようか…


スー、スー…

 

誰かの寝息で目が醒める。

 

「ここは…横七本島?」

 

辺りを見渡すと、数日前まで補給の為だけにいた島にいた。

 

「取り敢えず、晴風に行かなきゃ」

 

まだドックにいるかもしれない。

そう思って歩き出したが、少し違和感を感じてしまう。

 

「あれ?ワームホールがない」

 

公園のおトイレみたいな感じのワームホールに入る場所がない。

仕方がないので周りにいる人に聞いてみよう。

 

「そしたら、提督さん褒めてくれたっぽい!!」

「ふふっ、提督は優しいね」

 

丁度良く人が来てくれた。

滞在中に一度も見たことがない少女達だけど、多分大丈夫なはず。

 

「すみません、ワームホールに入りたいんですけど、どこですか?」

「…」

 

どちらも答えてくれない。金髪の子は見てくれているけど、

それも私じゃない誰かを見ている様な感じだった。

 

「あーっ、加古さんこんな所で寝てたっぽい!!、提督さん怒ってたっぽいよ」

 

いきなり指を指されて驚いたが、呼ばれた名前は私ではなかった。

後ろにいる「かこさん」を見ようと振り向こうとしたが…出来なかった。

 

「あれ?どうして首が回らないの…」

 

「ごめんごめん、つい良さそうな場所を見つけちゃって…」

「それで良いかも知れないけど、提督が「サボったな」って騒いでたよ」

「あー、そりゃ結構怒ってるかも…ってもう1500じゃん!!」

「もしかして…朝からそこにいたっぽい?」

「急がなきゃ!!じゃないと怒られちゃう!!」

 

体が走り出したと思ったら、急に視界が微睡んだ。

視界が晴れた時、私は海の上にいた。

 

「義明の奴、逮捕されたのにまだ提督だと思ってんのか?」

 

声のする方を見る、いたのは靄に顔が包まれた人だ。

服は黒で、剣の様な物を持っている。

腰にはリボルバーがぶら下がっており、声からして男の人だ。

何処かで聞いたような、力強くて安心感のある声だった。

 

「あたし達、大丈夫なんだよね、――。昔みたいに戻ったりしないよね!?」

「大丈夫だよ、既に勝負は目に見えているからね」

 

不安に包まれた声に、まるで母親の様な優しさで答える。

 

前を見たら、巨大な飛行船支援母艦が半分に割れて燃えていた。

驚きのあまり目を閉じて、そして開けたら状況は一変していた。

 

「汝は健やかるときも病めるときも、加古様を愛し、助け合うことを誓いますか?」

 

そう言ったのは、神父服を着たお爺さんだった、

しかし本から目を離していない所から、初めてやっているんだと思う。

 

その後も続き、そして誓いのキスをする場面。

横を向き、ベールを外してくれた人は…裕兄だった。

 

その顔は、今まで見たこともない幸福感で溢れていた。

 

その手は、真の幸せを優しく掴み、決して離さないような力強さで溢れていた。

 

その口は、自然と綻び、何か暖かい言葉を言おうとしていた。

 

その目は、優しく相手を見ており、喜びで泣きそうだった。

 

そしてその瞳には…私ではなく、以前何処かの写真で見た女の顔が映っていた。

 

違う違う違う違う違う違う違う違う違う

 

これは全て嘘、幻、妄想、現実ではない

 

だって現実では裕兄は今、過労で倒れ病院で眠っている…

 

 

 

違う

 

 

 

思い出す、都合のいい世界…妄想の世界ではなく、理不尽で地獄の様な世界を。

 

知名裕一ではない、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフという兄…いや、『元』兄を。

 

これは恐らく、ロイ教官の過去。

 

始まりから、幸せの絶頂を見た。

 

これから見るのはきっと、終焉だろう。

 

 

 

そう思って意識を前に向ける。

 

荒れる海で、波に呑まれていた。

 

ロイ教官を見つけ出し、掴み、鎮守府に向けて投げる。

 

その瞬間で全てが止まる。

 

海も、空気も、雲も。

 

 

そして私の視界も。

 

まるで終わって止まった動画の様に動かない。

 

しかし、唯一一つだけ動く者があった。

 

「俺・深・棲・・・・飲・せろ」

 

とても喋れるような姿勢ではなかったが、しっかりと喋っていた。

 

「俺に深海棲艦の血を飲ませろ!!」

 

その声で目が醒める。記憶の世界から現実の世界へと戻る。

 

「美波さん!!深海棲艦の血ってまだある!?」

「艦長!?あるが…どうした急に」

「急いで教官に飲ませて、本人から許可は貰ったから」

「許可を!?一体如何やって…しかし分かった。研究用に教官自身が与えてくれたのがある」

 

それからは早かった。美波さんが深海棲艦の血を教官に輸血し、目覚めてくれた。

 

 

 

 

 

…その数瞬後、ロイ教官の体が燃え始め、数秒後には灰も残されず消えていった。



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一から始まる希望

サーモン北方…大っ嫌い!!


「ロイ教官が…燃えた」

「何故だ、あれに可燃性など無かった筈だ」

 

医務室にて驚きに包まれる二人。

しかし、伝声管から伝えられた叫びはそれを越えた。

 

「魚雷発射管が動いてるよ!!」

「水雷員、何をしている!!」

「私達何もしてません!!勝手に動いているんです!!」

「魚雷が発射しました!!」

――

科長がトリガーハッピーなことで有名なのが晴風の水雷科だ。

しかしその科長でさえあんぐりと口を開け絶句している。

 

つい先程起きた魚雷が勝手に発射された件。

当初はヒューマンエラーかRATsが疑われたが直ぐに晴れた。

 

水雷員はしっかり返事をしてきたし通信妨害が起きていない。

 

それに現在、魚雷は深海棲艦の間を縫って動いていたのだ。

 

この世には誘導魚雷という物があるが、晴風は搭載していない。

横七では通常魚雷の補給以外は水雷に関することはされていない。

六連装魚雷発射管もなしになった。

 

理由としては、そもそも横七があまり魚雷に関する研究をしてこなかったのが原因だ。

曰く

 

「魚雷使う?」

「いやー、ミサイルで良くね?」

「だな、初期艦隊は今のままでいいか」

 

のように必要性を感じなかったかららしい。

それ故に主砲は換装したが魚雷は対深海棲艦に適さない可能性大とされ外された。

 

一応一度だけ、一度だけであるが議題に挙がったことはある。

しかし夜戦に参加させる訳にはいかないし晴風は初夜戦でやらかし過ぎた。

 

兎も角、そんな高性能な魚雷は積んでいないのである。

 

「何処に向っているんだろ…」

「魚雷の進行方向には敵本隊と思われる巨大なのが10…20以上います!!」

「一本だけじゃ、無意味なのに…」

――

横須賀駐屯地司令部

 

「デルタ武器庫が陥落、後退に成功したスパルタンがα要塞にて指揮を執っています」

「α要塞って…もうすぐじゃないか!?」

「次にもう一度武器庫を挟んでいる、まだ時間はある」

「車庫を完全に守るにはこの司令部で止めるしかない、しかしこのままではじり貧だ」

 

横須賀の全体マップを見ながら司令官付き妖精は考える。

逆転の鍵である横八艦隊を直ぐにでも参戦させたいが、衛星兵器を破壊しなければ出落ちになる。

かといってそれを破壊する手段が何なのかに悩まされていた。

 

「重火力水上部隊では遅すぎて衛星兵器の的になるし到達できるかも怪しい」

「かといって航空戦力は敵の防空網を突破できるのかが怪しい」

「やはり数の差が厳しすぎる。横八を投入してでも破壊するべきではないか?」

「それをすると出落ちになる、だから如何しようと悩んでいるのだ」

 

立案担当は悩んでいた。それどころか会議は堂々巡りを始めていた。

 

「下水道などの比較的安定している場所に就いているスパルタンを使うべきか」

「それいいな、それをすれば刺し違えかもしれんが破壊できるやもしれん」

「馬鹿が、15人しかいないんだぞ。仮に1、1交換できても6つ余る」

「それに一部は第二戦線の武器庫で包囲されてるからな」

「下水道のも、あそこが突破されれば秒で横須賀は落ちますよ」

「もし提督が御無事なら、また特攻紛いのをすればいいんでしょうが…」

 

既にロイが晴風に収容されたことは伝わっていた。

勿論、火が付いたなど夢にも思っていないが…。

 

「あれを見ろ!!晴風が魚雷が撃ったぞ!!」

「マジか、只の高校生かと思ってたけど、勇気あんじゃん」

「伝声管の音を拾ったが、如何やら事故らしいぞ。水雷員はなにもやってないらしい」

「てかあれ、魚雷が深海棲艦を避けて進んでるぞ」

 

その声を聞いてスクリーンを見る。

本当に魚雷が深海棲艦を避けて進んでいた。

 

それを見てとある妖精が閃いた。

 

「分かったぞ、ゴーストを使うんだ」

「ゴースト?」

「確かに魚雷並に速いが空爆を受けたら一溜りも…そういうことか」

「どういうことだ」

「航空戦力で敵の注意を引きつつ爆撃機などを墜とす。

 一方でゴーストが最高速度で突進。衛星兵器を破壊する」

「待て待て、第一に航空戦力なんてあるのか?」

 

「ありますよ、それも沢山」

「ッ!!副司令官、いつお戻りに…」

「今です。航空戦力ならば横八艦隊と横須賀のを除いてもかなりあります」

「環太平洋一帯は深海棲艦の攻撃を受けていない…そういうことですね」

「はい。旧式の航空戦力全てを用いてでも破壊しなさい」

「勿論です、プロですから」

 

環太平洋一帯、つまるところインド洋と大西洋に接していない全ての土地の部隊の使用を許可された。

これならば、物量に勝る深海棲艦に一泡吹かせれる。

如何に旧式とはいえ、それはバンシーとフェートンなどに比べれば、だ。

 

必ず勝てる、負ける要素は空気中の二酸化炭素濃度よりも低い。

立案室処か司令部全体まで戦勝ムードが溢れ始めていた。



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黒い海の中心で

本隊の中心で、私は今までのことを思い出していた。

 

前世では不俱戴天の敵をあのババアだと思っていた。

何せ未来を確実ではないが予知し、人望も実力もあった。

まぁ、宣伝工作によって容易に蹴散らせたのだが、仕留めることは出来なかった。

 

しかし今はそれも違う。二人いたのだ。

二人目の不俱戴天の敵はロイ・ヴィッフェ・ヒドルフだ。

前世でも、人間の癖に深海棲艦を容易く皆殺しにしていた。

初めてその情報を知った時は幾分か先の超科学力で武装した人間と思ってはいた。

しかし、実際に対面して分かった。自ら選んだ護衛を倒され痛感した。

 

こいつは、あのババアと同じ強敵で生かし続けるのは愚策だ…と。

だがあの拠点では勝つことは出来なかっただろう。

サシでの勝負において、一番拙いのは相手の実力を測っていないのに戦う事。

だから陛下近衛部隊と交戦予定の艦隊に合流した。

 

これはババア+ロイという最悪タッグを組まれる可能性があった。

しかし精強な部下を連れていれば問題ないと思っていた。

現実は、ロイとその一味のみだけで殲滅されるというものだったが。

 

重要なのは今世だ。何故かは分からないが私は転生に成功した。

肉体はダメだったから、恐らく魂のみと思っていたがそれは杞憂に終わった。

 

幸いなことに、部下も連れていたし他の深海棲艦はいない。

最初の不俱戴天の敵がいる王都も確認されなかった。

 

なので、ここで慢心せず真の不俱戴天の敵を排除した。

具体的に言えばロイ・ヴィッフェ・ヒドルフの抹殺である。

部下がドイツでヒドルフ家を探し、見つけたら誕生日に家目掛け砲撃する。

誕生日にした理由だが、調査によって富豪以外は家で過ごすのが当たり前らしい。

パーティーで家に招くことはあっても他人の家で行わないように。

 

結果としてはやりすぎた。

砲撃を戦艦6人で何回も斉射したので遺体も消し飛んでしまい死亡確認が取れなかった。

まぁ、遺体になっている時点で確認するなど無駄だが。

 

かくして私は不俱戴天の敵を破り後は人間に化けた部下によって地球の女王になるのを待つだけ

 

 

の、筈だった。

 

まさか、ロイが生きていようとは。

ブルーマーメイドに入ったことで察知できたが、如何やってあの砲弾の雨の中生き抜いたのか。

 

謎だ…謎ばかりだ。

 

奴が自前の潜水艦を持っているということは、きっと艦娘や妖精がいるのだろう。

それはつまり、大規模な戦争の勃発を…違うな、休戦状態が終わるだけだ。

 

最後に砲を使ったのが8年前だった―それも6人だけで全体は10年前の前世が最後―我々は急ぎ訓練をした。

作戦記録映像から奴は昔には劣るが今の我々には勝ち目のない程の実力を持っていた。

一度、ドイツの協力者に演習中に事故として殺すよう命じたが、返り討ちにされた。

 

兎も角、8年かけて訓練をした我々は、RATsという憎きアメリカ製のB.O.W.も使い挑んだ。

結果は劣勢というよりは惨敗の方が正しい。

部下には散々勝ってるよな、と迫ったが現実位見ている。

 

我々は生命力と元からある力に物言わせただけの、脳筋集団に過ぎない。

スペードも元は海底に廃棄された某国の巨大空母を弄ったにすぎない。

 

それに対し相手…横七は肉体は脆弱だがそれを補う科学…知性で戦っている。

機械の兵士は鋼鉄の体である我々にすら勝る肉体で、そこに武器を持つ。

 

大昔の人間は槍や弓で武装しマンモスを狩っていた。

しかし横七はマンモスと同じ力の人間を銃で武装しマンモスを狩る。

例えるなら、まさにこれだろう。全く、ふざけたものだ。

 

ジリ貧で負けるのは確定しているから、北米を統括している奴にロイの遺品を直させた。

これは王都捜索中に発見したものでスーツと隕石―のような衛星兵器―を手に入れてた。

 

スーツは期待外れであったが、衛星兵器は大当たりだった。

元々は北極を突破する為だけの付添い艦隊が、余裕で太平洋に入れた。

これもあの青い光の束がSoFや海底要塞を破壊したからだ。

 

そうして、今私は地球の女王の椅子―になる予定の―に座っている。

ロイを失った横七など赤子でも捻り潰すことが出来る。

魚雷が一本守りを突破した迫っていたが、結局消えた今、脅威など存在しない。

前世の世界へ行ける方法を探し、舞い戻ってもいいかしれない。

 

だがそんな妄想は空気を読めない部下によって打ち壊された。

 

「敵機襲来!!全方向より大規模な航空隊が接近中!!」

「チッ、今更航空戦力を投入しようが既に大勢は決した。無駄だというのに何故抗う?」

「各員対空戦闘用意、機動部隊は発艦を急げ」

「戦艦、重巡洋艦に命令。レーダーを対空仕様に換装、徹甲弾は三式弾に変更せよ」

「いいのですか?敵の水上部隊をまだ撃滅していませんよ」

「横七の水上艦は潜水艦隊に一任する、それに航空機はロイの次に脅威よ」

 

速くて当てにくくて見つけにくい、その癖破壊力は戦艦よりも上。

それが横七の航空機だ。

 

大西洋にいた頃、この世界では初の空母のみの航空戦が行われた。

私達も横七と同じ数揃え、練度も高めた。戦術も一番勝率の高かったのを使った。

それで挑んだ航空戦はキルレ240。

一機も撃ち落とせなかった。それなのにこっちは全滅した。

更にはおまけと言わんばかりに空母を襲われ、海に沈んでいった。

 

あれを数値化するなら、対空は三桁を越えていても可笑しくない。

 

しかし今いるのは幸いなことに旧式、前世でよく見たレシプロ機だ。

数は我々以上にあるが、こちらには熟練の精鋭航空隊と破れない防空網がある。

苦戦を強いられても、味方撃ちしなければ勝てる。

 

「第一波と交戦中の友軍機から善戦中との報告あり」

「数機抜けたそうですがツ級ラインにて撃墜したとのことです」

「このまま続けなさい、陸戦隊、調子はどう?」

「第三大隊が敵司令部の手前まで進軍中、後続を待って仕掛けるようです」

「ありがとう。偵察本部、横七本島の大まかな位置は掴めた?」

「はい、南太平洋で浮島を見たとの証言を得ました、恐らく横須賀を目指しているかと」

「…陸戦隊に直ぐに終わらせるよう伝えて」

 

かの島がどれ程の戦闘力を有しているのかは全くもって分からない。

だが頭を過るのは横須賀でのSoF戦という一方的な虐殺。

 

きっと空を飛べる要塞なのだろう。

かつて空の要塞と謂われた軍用機と比べるとそれが小石に見える位に。

それがここに来たら逆転される。

横七本島はゲリラと化した横七の拠点として戦わずに終わってほしい。

 

「高速で迫る物体が3機、水上レーダーが探知しました!!」

「潜水艦隊、出番よ」

 

応答がない。

 

「聞いてる!?潜水艦隊、直ちに水上目標を撃破して!!」

「来ます!!」

 

水飛沫を派手に纏いながらスキッパーに似た何かはやってきた。

 

「撃て、撃て、撃てえぇーッ!!」

「突破する、速度を上げろ!!」

「もう限界に近いですよ!!」

「それでもだ!!」

 

護衛と指揮組が機銃掃射をするも弾よりも速いのか一向に当たらない。

それらは風の如く場の空気を変え、去っていった。

 

私は部下を怒りを孕んだ目で見る。

 

「なんだ今のマヌケな戦い方は、それで護衛が務まると思っているのか!?」

「申し訳ございません、何分、レーダーとの連携が取れなくて」

「レーダーが無ければ戦えないのか貴様らは!!」

「おやめください。対空モードのレーダーを発動していると銃口が上がってしまうのです」

「それを乗り越えてこそ一人前だろうが、お前らよりも人間の方が腕は良いぞ!!」

 

釈明をしようとすればそれだけ私の中に怒りが溜まる。

 

対空レーダーによる銃口の上昇なんて訓練生でも知っているし対処できる。

無能しかいないのか、ここには。

 

「兎も角、あの連中が目指すのは衛星砲群でしょう。あれの破壊が目的の筈です」

「だったら直ぐに砲群護衛隊に連絡しなさい!!」

「していますが…既に戦闘状態なのか応答しないんです」

「高速の駆逐艦群を増援に送ります」

「間に合うものか…」

 

そう呟き、衛星砲がある方角を見る。

 

やはり、黒煙が天に向かって伸びている。

波も爆発の衝撃を受けて荒いものがやってきた。

 

「空を見ろ!!一帯が黒く塗りつぶされているぞ!!」

「全員、あの黒に向けて砲撃しろ!!」

 

あの空を知っている。

アスンシオン島海域で見た空だ。

 

中から何が出てくるかは分からない。

しかし大方の予想は付く。横七の増援だ。それも沢山。

 

今回のはSoFのよりも大きい。何十倍もある。

 

始めはオレンジと白の浮遊物が外周に現れた。

次にそれらよりも内側に各地で見かける横七の輸送機を見た。

そしてSoFが8隻、中心を囲うように顔を見せる。

 

既に地獄なのだ、やめてくれ。

衛星砲が破られた以上SoFを墜とす手段がない。

 

しかしそれを嘲笑うかのように、中心からもう一隻現れた。

 

それはSoFよりも巨大だった。

まるで艦隊の旗艦のように堂々と居座っていた。

 

残党狩りが始まった。

私達、新深海棲艦という少数派を絶滅させる狩りが始まった。

既に退路は絶たれ、前進するしか道は無くなっていた。




Q.如何してアベルはロイを殺して慢心してたの?

A.アベルが恐れる程強いので知ってるのがロイとSoFのみ。
 SoFは横七の象徴的存在で一隻のみと思っていた。
 その為北極で沈め脅威はロイのみに。
 ロイも自爆してバラバラになって死んだと思っている。

尚、現実はSoFは数隻いてそれよりもでかいのはいた模様。


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SFチックな後半戦開始

7周年任務完了、チョー気持ちいいです。

だがサーモン北方を考えた奴は許さん


横八艦隊旗艦 インフィニティ

 

「地上より連絡、『障害の排除に成功、直ちに来られよ』です」

「うむ。セリーナ、ワームホールを展開」

「7隻のワームホール発生装置で21隻分のものを作れと?」

「セリーナ…」

「楽勝です」

 

搭載されていたAI、セリーナが言うや否や艦隊の前方が黒く塗りつぶされた。

 

いや、実の所前方に何も無ければ元から黒かった。

 

青い空も暗い海も存在しない場所…宇宙に横八艦隊はいた。

 

「横八艦隊、本名インフィニティ艦隊。

既に建造が開始されたSoF級戦艦数隻と新鋭戦艦一隻、

ガウ級空母数隻による遊撃及び決戦を目的とした艦隊。

同艦隊編成計画は4年前に始動。

しかし建造と新鋭艦の習熟訓練が遅く、緒戦に参戦出来なかった。

搭乗員の基礎訓練すら一週間前に修了していなかった為、

規則を破り経験豊富なSoF乗員をコピー。

その為本来なら艦長は私ではなく、AIもセリーナではなかった」

 

横八艦隊の概要を確認するかのように呟く艦長。

 

「私としては、やはり規則を破り機械乗員を製作したことが理解できません」

 

その隣で文句を垂れ流すのは、旗艦のほぼ全ての機器を操作するAI。

 

「セリーナ、ワームホールに集中しなさい」

「私のスペックではこれ以上の操作はできません、艦長」

「分かった、規則破りに関して説明する。しかし手は緩めるなよ」

「了解です、艦長」

 

――

「横七の海兵隊並びスパルタンも既存の兵士をコピーして量産してはならないのを知っているな」

「はい。彼らも艦乗員と同じで本島の訓練所で生産されたら直ぐに訓練を受けます。

 そして合格した者だけが横七の兵士として作戦に参加できます」

「その通りだ。だが何故コピーを禁止しているか、分かるか?」

「いいえ、考えたこともありません」

 

素直に返事をくれるのは、AIの良い所なのかもしれない。

 

そんなことをカッター艦長は感じながら答えを教えようとする。

 

「機械兵士が訓練中に時々新しい戦法を思いつくことがある。

 今の新人スパルタンもオーバースピブ…何だったか、兎に角新しい戦法で連勝してきた」

「つまり、コピーしてしまうと新しい物を考える能力を失うと」

「その通りだ。だから時間が掛かってもコピー生産はしないんだ」

「では、今回のことはどう説明するんです。新しい物を彼らは考えれませんよ」

 

流石はセリーナ、数々の困難を乗り越えてきたSoFのAIは伊達じゃない。

 

「横八艦隊概要書にも書いてあったが、

もし平時通り訓練を一からやっていたらこの戦争に間に合わなくなる。

そんなことをすればこの艦隊に掛けた費用も時間も無駄になり、負けるかもしれない」

「決戦用艦隊ですからね」

「ああ。そこで提督は今回を特例として私達をコピーした。

彼らは戦後データを抹消され実戦経験済みの新兵として訓練を受ける」

「艦長は大佐に聞かなかったのですか」

「勿論聞いたさ、何故この様な特例を認めるのか、と」

 

そしたら…と言葉を続け、我らが横七提督の言葉を言う。

 

「助けれる命を救う為、火事の家に不法侵入するのは当たり前だろ?なんて返された」

「フフフ…何だか言ってそうな気がします」

「艦長、ワームホール突入、戦闘海域に突入します!!」

 

気を引き締める。

黒に飲み込まれたと思ったら横須賀の上空に出る。

我々横八艦隊の、遊撃及び決戦艦隊の実力を見せつけてやる。

 

「駐屯地よりアーチャーミサイルによる絨毯爆撃が要請されています」

「許可する、全艦アーチャーミサイル発射準備」

「了解、着弾地点をダウンロード。…フロートを沈めませんかね?」

「さあな、しかし以前撃ち込んで大丈夫だった、全弾撃ち込んでも大丈夫だ」

「だと良いですね、発射準備完了しました」

「…全艦発射!!」

「発射します」

 

地上に向けて発射されたそれらは迷うことなく横須賀に向かう。

そして着弾。ビルや公園、商店が瓦礫の山に変身するのと同時に黒いのも消し飛ぶ。

 

「地上の敵はいなくなりましたね」

「ああ。だがまだ終わっていない。MS部隊、発進」

 

横八艦隊に唯一配備されたのは旗艦インフィニティだけではない。

その搭載機がこれからの戦いでは主役だろう。

 

遠くを見ればガウの格納庫からザク改がドダイ改に乗って発進している。

SoFからはケンプファーが出撃する。

 

フェートンヘリオスと言う最新の航空機は既に深海棲艦を溶かしている。

 

「マッドアングラー隊はどうしている、連携を取れとの命令だ」

「既に戦闘中です。第三モニターに映します」

「ほぅ…」

 

マッドアングラーの搭載機だろうか。

水中にいた深海棲艦の頭をそのアームか爪か分からないので潰している。

他にもトマホークを発射して攪乱させている。

 

「指揮官は誰だったか」

「分かりませんがドイツで活動していた方です」

「あれは何れ化けるぞ、提督にも勝るやもしれん」

――

晴風

 

つい数時間前は何か青い物体が晴風に飛んできたが、今はSFの世界にいた。

 

深海棲艦に対して人間サイズの機械が複数飛んで戦っている。

その遥か上空には以前見たSoFとそれよりも大きい変わったデザインの艦がいた。

 

「なんかもう…一方的だね」

「ロイ兄さんは同じ戦力で真っ向勝負しないって昔言ってた。

将棋もオセロもチェスも、同じ戦力で戦う愚かな遊びって言ってた」

「教官そんなこと言ってたの!!許すまじ…」

「そ、そんなことよりもこの流れだと直ぐに終わりますよ」

 

その時、私達の耳に轟音が届く。

見れば武蔵が上空の艦隊に砲撃していた。

 

「貴女達に頼みごとがあります」

「うわっ!!…可愛い」

 

何か声がしたと思ったら知床さんが叫んだ。

視線の先を見れば舵の上に小人が…妖精が立っていた。

 

「晴風には武蔵を助ける為の装備を積んでいます。

もし武蔵が人質として行方を晦ましたら大事です。

敵の目が空に向いてる今の内に行いたいんです」

「艦長がいないのでハッキリと言えませんが、具体的に何をするんです」

 

その時、あの芝居の黒幕が伝声管の蓋を開ける。

 

「本島で搭載した噴進弾、あの煙には深海棲艦の細胞が全て消滅する効果があります」

「ロイ兄さんを刺したナイフに似たような力ですね」

「そのナイフをサルベージして作りました。またしても一点物ですが」

「…教官は自分よりも戦いを優先したんですね」

「っ!?艦長ですか…」

 

物音を立てること無く静かに入ってきた艦長に少し驚いてしまう。

その顔がほんのちょっぴりだけど凛々しくなっていた。

 

「はい。自分の治療よりもアベルの抹殺を選択しました」

「治療?そんな話聞いてないぞ」

「驚かないで聞いてほしいの。ロイ教官は…」

 

驚かない筈がない。兄さんは既に死んでいた?それもしんばしの時から…。

それはつまり…私の所為で死んだ、私が殺したという事か?

 

しんばしで私を助ける為に突入して、酸素発生装置を壊されて。

急遽の代案で血を飲んだのだろう。

だってあいつから血が流れる程噛んだのだから飲んでいても可笑しくない。

 

惨めだ。

とことん惨めだ。

 

兄さんに憧れて人を助けようとして、兄さんを殺してしまうなんて…。

 

けど兄さんが選んだ道を邪魔するつもりはない。

迷惑を掛けてしまったのだから、手伝いたい。

 

「艦長、武蔵の制圧・救助作戦を進言します」

「しろちゃん…皆はどう?」

「心の友しろちゃんと偉大な師匠の為なら!!」

 

納沙さん…ありがとう。けど偉大な師匠ってなに?

 

「わ、私も!!今ここで逃げちゃって武蔵の人になにかあったら嫌だから!!」

「艦長、副長、あたし達はやるよ!!」

「うい!!」

 

皆が一緒になるのを感じる。

 

比叡の時よりも強く団結している。

 

心が一つになる…私達が一人の人間であるかのような錯覚すら覚える。

 

「艦長、晴風全員が賛成しています!!」

「ありがとう皆。…副司令官、晴風に作戦を通達して下さい!!」

「なんでそれを…分かりました。作戦を通達します」

 

作戦は要するにこうか。

噴進弾を武蔵の上を通過するよう発射。

煙に呑まれたのを確認したら強行接舷。

その後はRATsを駆除しつつ感染者に抗体を撃ち無力化。

制圧したら横須賀まで連れてこい…。

 

無理難題を吹っ掛けられている。

 

一発しかない噴進弾、航洋艦で大和型戦艦に体当たり、質量差を考えない曳航。

 

それも強行接舷の際はシールドを張れない。

理由は張ってると武蔵を弾いちゃうからだぞうだが、危険だ。

深海棲艦がいなくてもRATsで狂暴化してるのは変わらない。

 

曳航の方はコードを入力すれば馬力が武蔵の300倍になるから大丈夫だそうだ。

しかし知らないと使えない機能にコード。

なにより入力端末が受話器だと知ったときは誰もが驚いた。

 

「艦長、各部配置に就いてます。作戦の開始を」

「うん、作戦開始!!」



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王手か詰みか

久しぶりのciv6楽しいんだけど勝てねぇ…


「お兄ちゃん!!こっちこっち」

 

「裕兄速く速く!!」

 

懐かしいようで懐かしくない幼児がこっちに向けて手を振る。

 

誰だったか、朧気に名前は出てくる。

 

まだツインテールの方は若干だが分かる。

 

岬阿賀だったか、伊崎明乃だったか。そのどちらかだ。

 

しかしもう一人の方は全く分からない。

 

忘れてはいけないようで実の所忘れても大丈夫な気がする。

 

「おーい、ロイ。こっちこっち」

 

今度は後ろ…海の方から声がする。

 

知っている顔だ。しかし本人ではない。そっくりさんだ。

 

「…」

 

上から視線を感じる。

 

 

 

 

私は頭を垂れて膝をつく。

 

何故こんなことをやったのか自問自答を始めようとした時その視線の主が喋る。

 

「貴方…名を何と言うのですか」

「ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフで御座います」

「…分かりました、これを御覧なさい」

 

何も喋ってないのに自分の声がする。

しかし陛下は御満足されたのか水晶玉が現れる。

 

「これは…このままだと逃がしますね」

「ええ。記憶も戻り始めたみたいだし、話そうかしら」

 

記憶について話しているが私は私です。

ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ、元親衛隊メンバーで陛下の剣。

コードネームはブリッジ。

 

今は横須賀で教師をやりながら横七提督としてアベルと戦っている。

 

そして自爆特攻を応急修理女神で無駄にされ死んだ。

 

・・・ざけんな、怒りが込み上げてきた。

 

「陛下、直ぐに戦場に戻らせてください。私はまだ…」

「いいえブリッジ。いえ、ロイ。まだここに居てもらうわよ」

「何故です、このままではアベルに逃げられます」

「身体を手配するのは難しいのよ…」

「失礼しました」

 

陛下が仰っているのだ、待とう。

 

「そういえば、不思議に思ったことはない?」

「不思議に?何をでしょうか」

「自分のことよ」

 

何を…と言いたくなったが答えは水晶玉に映った。

 

多くの軍人が深海棲艦と戦い、為す術なくやれてた中、一人屍を築く者。

 

「私は何故深海棲艦を殺せるのでしょうか、人間なのに…」

「説明しましょう、それは貴方に深海の血が流れているからです」

「私に?私は人ではないと」

「人間離れした身体能力ではなく、人間ではない身体能力…」

 

陛下は説明して下さった。

私の家系、ヒドルフ家について。

 

曰く、私の家は代々海軍関係者らしい。

 

大昔から家主は帆船などの艦長や司令長官として、バイキングや海賊、外国の軍と戦ったらしい。

そして必ず沈められ漂流した村や島で生涯のパートナーを見つけ結ばれる…。

 

傍から見たらとんだ羨ましい奴だが、実際は違う。

 

沈めているのは深海棲艦で、結婚するのも深海棲艦。

 

目的は深海棲艦が地上に出た際、サポートするためらしい。

 

深海の血が濃くなると時の女王に自ずと忠誠を誓ってしまう。

 

他にも同じ家はあるらしく、元帥の家もそうらしい。

 

話を戻そう、そして私の母に当たる方は当時親衛隊長と近衛隊長を兼任していたらしく、

その家の者は皆強く戦果を挙げてきたらしい。

 

とどのつまり、私はその中でも一番の方の息子、故に強いらしい。

 

「知名裕一には深海の血が流れていませんので、輸血は危険でした」

「お陰で食事という最大級の娯楽が消し飛びました」

「それは失礼、ですが身体を御用意できず申し訳ございません」

「お伺いしますが、何故用意出来なかったのでしょうか」

「私の友人がまだ役目は残っているとのことで渡してくれませんでした」

「魂は取れたのにですか」

「もし友人に知られたら大変な騒ぎになります」

 

その友人はきっと人や深海棲艦ではないのだろう。

陛下も深海棲艦か怪しくなる。

――

「さて、身体が届きました。これからどうします?」

「聞かなくてもお分かりの筈です。私は裏切者を始末しにいきます」

「良いでしょう、ではこちらに」

 

水晶玉から綺麗な光る白い手が伸びてきたので掴む。

 

すると強い力で引き込まれ、自分が水晶玉越しに見える。

 

少し驚いたが、きっと魂だけを掴んでいるのだろう。

そしてあれは亡骸、中に何も詰まっていない。

 

「貴方にはやはり彼女が似合う、行きなさい、親衛隊。貴方は自由です!!」

 

光に包まれ、急降下する。

 

地面を貫き雲を貫き再び地面を貫く。

――

「敵本隊を発見、攻撃します!!」

「よせ!!そいつは危険だ!!」

 

ケンプファーが数機、敵陣に突撃する。

 

対空弾幕が薄いから、容易に撃破できると思ったのだろう。

 

「ふふ…愚か者がぁ!!」

 

相手の射程に入った瞬間、弾幕が厚くなり付近のMS隊を撃墜する。

 

「あんなの倒せないぞ!!如何やって戦えばいい!?」

「既に武蔵は確保したらしい、副司令もこれ以上は追撃できないと」

「目的は既に果たした。撤退しても文句は出まい」

「文句?出るさ。アベルを逃がせばもう殺せるチャンスは二度と来ない!!」

 

ザク改やズゴックE型、ハイゴックのパイロットは怒鳴りあう。

 

だが答えは出ない。出る気配すらしない。

 

理由は簡単だ。アベルを倒せる技量が横七全体にもう無いからだ。

 

「スパルタンと交代したらどうだ?彼らなら技量もある」

「無理だ、MSはこの場にあるのが全てで操縦できるのも横八艦隊にいる奴だけだ」

「インフィニティに連絡してアーチャーミサイルを頼むか?」

「頭上で迎撃されるのが関の山だ。砲弾ならいけるかもだがな」

「兎に角、補給だ。連戦で弾薬が尽きかけてる」

――

「第何波か分からないけどまた来てます!!」

「飽きねえ連中だ、包囲下のスパルタン隊は大丈夫か!?」

「幸いにも武器庫で戦っている。弾と重火器には困らないようで健在だ」

「攻勢に出た部隊が着くまで持ち堪えろと伝えろ」

 

アーチャーミサイルによる爆撃は精密で、防御陣地を残してくれていた。

お陰で攻勢に転じても徴発ステーションで補給でき継戦能力は落ちない。

だがこのまま地上戦も泥沼化したら10年続くかもしれない。

 

何せ揚陸艦が本隊や対空艦隊などに囲まれる位置にいて攻撃できず永遠と上陸してくる。

兵を全滅させることで引き揚げさせようと思っても無尽蔵と言わんばかりに出てくる。

 

お宅らの兵士は畑から採れるんですか?えぇ!?

 

兎も角、それを打開する為の兵器は謀らずも手元にあった。

 

しかしそれらに初撃で命中させる距離に運ぶには埠頭まで確保しなければいけなかった。

 

 

つまり、追い返せというわけだ。

 

「スパルタンから、マンティスの使用を許可するようきています!!」

「うーん、スパルタンレーザーがあれば棺桶だがないしな、許可する」

「下水道守備隊から封鎖に成功したとの報告です!!」

「!!、海兵隊員はそのまま警戒、スパルタンは地上で攻勢に参加させろ」

 

地図上の勢力図から深海棲艦が徐々に海に追いやられているのが分かる。

 

あるj…提督の言っていた、防衛で勝つと楽しいというのが分かる。

絶望的状況から増援の到達、隠し玉の使用で追いやるのが楽しい。

 

「包囲下の隊と合流したフェートン隊が砲撃位置の確保に成功したとのことです!!」

「車庫で待ちかねてる連中に連絡、出撃して位置につけ!!」

「マンティスに便乗して既に出撃し、位置に着いたようです」

「砲撃目標、敵揚陸艦。回避行動を取ってない今がチャンスだ。命中させろ!!」

 

モニターが一瞬輝く。そしてガウのカメラから送られている映像に爆発が映る。

 

そしてやや興奮気味の声で報告される。

 

「敵揚陸艦を撃沈、これでもう敵は陸上戦力を送れません!!」

 

雄叫びが司令室のみならず立案室や車庫のマイクからも聞こえる。

 

「目標を撃破、次の目標を教えてくれ」

 

横須賀に昨日からいた戦力ではトップクラスの活躍をした隊の長が興奮気味に言う。

 

「MTの砲撃はミサイルと違い高速でありながら小さく噴射音が聞こえません。

敵本隊を撃破してください」

「了解した、しかしアクティブカモフラージュの効果が切れる。大丈夫か?」

「移動中のみ使えれば良いです。構わず攻撃してください」

「了解、全車アクティブを解除。敵中枢を蹴散らすぞ」

 

埠頭に十数輌の自走砲が並ぶ。

 

全て緑色でモノアイがピンクの光を発している。

 

「良いですね、完全に自走砲化したヒルドルブは」

「提督が設計したんです、当然のことですよ」

「後は隊長の癇癪が無ければ最高ですね」

「いえ、ヒルドルブ隊の隊長は彼でなければ務まりません」

 

再装填の完了したヒルドルブは再び一斉に砲撃する。

 

「撃沈なし、しかし随伴艦が大破した模様」

「アベルには当たったのか?」

「それが…」

 

徹甲弾・榴弾到達2秒前に回避行動をとった?

 

これではいけない。このままでは本当にいけない。

 

提督がアベルに勝てなかった場合、討ち取るのはヒルドルブと考えていた。

事実砲弾は並の深海棲艦ではそのまま察知できず、察知できても当たる,数秒前なのだ。

 

それでも当たらない、爆破範囲に入らない。

 

これでは新しい方法を考えなければならない。

 

横八艦隊による海域単位の爆撃?被害の出るのだけ空中で爆破される。

 

MSによる突撃?技術が奴の10分の1以下の連中に勝てる筈がない。

 

 

このままだと核の使用を検討しなければならない。

 

「インフィニティから上空に落下中の人がいるとのことです」

「映像を回してくれ」

「それが早すぎてカメラが捉えれません」

「着水した時に見失うなよ」

 

それから数秒後、水飛沫を飛ばす事無く彼らは着水した。

 

波紋が広がったかすら疑いたくなるほど静かにだ。

 

物理法則なんてものを無視して着水したのは、この状況を変える者達だった。



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そして物語は終わりを迎える

ドロップしない…何故ドロップしない…。

Fletcherはいい、週5回しかやってないから。
しかしGambiabay、お前一日5回以上だぞ、何故来ん!?

どうかFletcherとGambiabayが来ますように。



えっ?投稿が遅い?


すみません、海外艦がドロップしないのが悪いんです(クズ発言)
これからはきっと月一投稿になるかもしれませんから、今日の所はどうかお引き取りを


いつまでも落下し続ける中、ふと誰かの顔が見える。

 

スカイダイビングにしては飛行船が見えないし、何なら地面を貫通している。

 

「おい、そこにいる奴」

「んっ?」

「誰だ、さっきから付いてきているが」

「えー、あたしだよロイ。加古だよ、加古!!」

 

その声に驚き、近付く為に宙を掻く。

自分でやってて哀れだなと思いつつも手の届く距離まで行く。

 

手を掴み、しっかりと顔を見る。

 

「おお、なんか恥ずかしいな…」

 

なんか言ってるが気に留めない。

ソロモンでの一件もある、本物かどうか見極める。

 

「ファーストキスを交わした時の様に、もう一度キスをしたい」

「なんかちょっと変わった?まぁ良いけど」

 

少し困惑していたようだが、それはものの数秒、直ぐにこちらに顔を近付けてくる。

 

「ふざけてるのか、違うだろ」

 

もし偽物なのにキス魔だったらヤバいので、牽制の意味を込めて言う。

 

「そっちこそ、あたしはちゃんと覚えているから、安心して」

 

ソロモン海の時と違い再会に感動し過ぎて思考は鈍っていない。

眼を見るが至って普通だ。

 

嫌いなのに命令上やらされてる様な嫌悪感も、覚悟を決めた気迫も感じない。

 

只々嬉しさに溢れている眼だった。

 

私は迫る唇に自分のを重ねる。

 

懐かしい。

 

眠り過ぎて昼頃に執務室に来たときはよくこの額に頭突きをかましてたか…。

 

感傷に耽っていたのに砲撃の音に無意識にも顔が向く。

 

如何やら望んでいた場所に着いたみたいだ。

 

「やれるか?鈍ってないか?」

「大丈夫だって、いけるいける」

 

言葉の意味をしっかりと理解してくれている。

 

「武器は…デリバリーか」

 

加古の背中にジーンが離れまいと近付いてはぶつかりそうになる度に離れる。

 

繋いだ手を離して互いの武器を取る。

 

俺はジャックとジョン。

 

彼女はジーン。

 

今まで幾度となく握った筈の柄が、今までのとは違うように感じた。

 

「これよりアベル率いる艦隊を撃滅する。後に続け」

「了解、加古スペシャルをお見舞いしてやる」

 

機関の熱と心の熱で既に汗が流れそうだ。

 

「詳しい話は後で聞いてやる、覚えとけよ!!」

「いいねぇ、意外と話すこと、あるからね」

 

着水、水飛沫は上がらず波紋は広がらない。

研究したい現象だがそんなことを考える暇はない。

 

落下中に見つけたアベル目指し進み始める。

加古もやはりブランクがあるようで主機の音が時々怪しい。

しかし体使いは完璧なようでふらつかないし音も直ぐに戻った。

 

「少し先に戦艦戦隊が見える、肩慣らしに蹴散らすぞ」

「了解」

 

相手は戦艦棲鬼とル級5の幾ら何でもあんまりだな編成だ。

 

そのおかげか航空攻撃の標的には選ばれておらず後退を始めれている。

いや、逆か。戦艦だからと後回しにされた組が集まっているのか。

 

「突撃する、自由にやれ」

「いいでしょう、いっくよー!!」

 

近付きながら一回撃つ。

幸いなことに戦艦棲鬼の腹に当たり怯んでくれた。

 

加古も同じく発射しル級の顔と体を離れ離れにする。

 

「敵だ!!数は2、急いで撃て」

 

気付かれたがもう遅い。

 

すれ違いざまに左右にいたル級の首を刎ねる。

副砲を向けようとする少し奥にいたのは20.3㎝砲で姿勢が崩されジーンで体を吹き飛ばされる。

 

「艦娘と人間の癖に小癪な…」

 

戦艦棲鬼の横を通る時に囁かれる。

ジョンは生き残りのル級に照準を構えていて使えない。

 

一度通り過ぎ加古と合流する。

振り返れば戦艦棲鬼は立ち上がり砲を旋回させていた。

 

「すまないが…こっちの方が速いんだ」

 

ジャックを懐から出し数発頭に向けて撃つ。

 

眼、眼、脳天

 

100点は貰える射撃で再び膝をついてもらう。

 

「機械が代行するよりやっぱ生身の方が使いやすいわ」

「こっちも良いよ、ジーンの反動の方が20.3㎝砲よりしっくりくる」

「それは結構、次が本番だぞ」

 

アベルを遠くに視認した。

向こうからも見えているのだろうか、にやけていた。

 

「突撃する、支援を頼んだ」

「うん…出来るだけのことはやるから、だから…」

「必ず勝つ、それも相討ちじゃない、生き残ってやる」

――

互いの射程に入っても砲弾は一つも飛んでこない。

それどころか互いに握手できる距離まで近付いていた。

 

「この野郎、生きていたのか」

 

半笑いで問いかけてくるアベルは少し前だったら全然想像できない。

 

「死体確認をし忘れたのは何処の馬鹿だ?」

「二度目だ、死体の確認を忘れたのは…今度はしっかりやる、安心しなさい」

 

武器は以前と違いロングマガジンのハンドガンを二丁だった。

 

詳しい種類は分からないが英語の刻印がされていた。

 

これが終わった後はアメリカに潜む支援者を皆殺しにしなきゃな。

 

「処で、お前の奥さん。大丈夫だったか、トラウマ再発してないか?」

「お陰で、今日で終わりを迎えれそうだよ」

 

拷問の際に何をやったかは興味がない。

だが碌な事ではないのだろう、じゃなきゃ言わない。

 

いや、煽りの可能性もあるか、だが如何でもいい。

 

なにせ、既に銃口を相手に向けたのだから。

 

「くたばれクソアマ」

「地獄に落ちろ、操り人形」

 

互いに引き金を引く。

 

フルバーストなのはお互い様、それも至近距離。

体のあちこちに穴があく。

 

「チッ」

 

マガジンを∞にしていないアベルはリロードの為、距離を置こうとした。

しかしそんなことを許せる程心が広くないので足を重点的に撃ちながら追う。

 

「やめろ…沈んでしまう」

「一度は死んだ身でしょうが、何を今更」

 

主機に命中したのか速度を落とすアベル。

逃走は不可能と考えてか反転してきた。

 

「逃げねえと死ぬぞ」

「退却する方法はもうない、一人でも多くの人間を道ずれにしてやる」

 

本気の声色で言うのだから怖くて仕方ない。

 

「逃げないなら仕方ない、止め!!」

 

首目掛け手刀を振り下ろす。

当たれば気絶ではなく即死するものだ。

 

「そんなので死ねるかぁ!!」

「ぬぐぅ!!」

 

やられた…逆に腕を切り落とされ、挙句は腹に風穴を開けられてしまった。

 

だが、それでいい。被害は大きいが勝った。

 

「今だ、撃て」

 

残った腕で肩目掛け銃を撃ち守りを出来なくさせる。

するとどうだ、奴は腹一杯に穴を開けて沈んでいったぞ。

 

「良い腕だな、加古」

 

無線が無いため聞こえないのだが、言いたくなってしまった。

 

妙な呆気なさを感じていたが、痛くなってきた腕を擦り奴は強かったと確認する。

 

全体の戦いは既に終わっていたようでMSが母艦に戻っていっている。

晴風も武蔵を牽引しつつ横須賀の港に向っている。

 

腕を再生し終わった後、加古と合流して俺も晴風を追った。

――

「久しぶりの横須賀だー」

 

武蔵を曳航しつつ横須賀に着いた私達は、武蔵の皆に肩を貸しながら上陸した。

思い返せば4月に出航してから長いこと経っていた。

入学式後の航海は数週間の筈が一カ月にも延びていた。

 

「ミケちゃん、ロイ教官が帰ってくるよ」

「ホントだ、皆。教官が帰ってきたよ!!」

 

基本的に黒い服の人とセーラー服を着た人が手を振りながら向かってきている。

 

教官が知名裕一であったことはもかちゃんにまだ伝えていない。

伝えようかなと思ったんだけど本人がやった方が良いかなと考えたから…。

 

「お手柄だったな、シロ坊、ミサも」

 

シロちゃんの手を掴んで労いの言葉を掛けたと思ったら、こっちを向いて呼んでくれた。

 

ミサって…ミサって呼んでくれた。

 

「ミサ?ミケちゃん、教官が今ミサって…」

「うん、ミサって、ミサって呼んでくれたよ、もかちゃん!!」

――

「こっちに来る間、考え直したんだ。

 知名裕一からロイ・ヴィッフェ・ヒドルフに代わったんじゃなくて、二つが一つになったんだって」

 

曰く、加古さんに会えて精神的な余裕ができたからそんなことも考えれたそうだ。

もかちゃんは死んだ兄との再会で驚いて泣いていた。

 

「教官改めロイ兄さん。またよろしくお願いします」

「裕兄はもうやめたのか」

「うん、だってその方が今はしっくりくるから」

 

奥の方から校長先生や古庄教官が歩いてこようとした時、地響きがした。

 

「海上フロートってのは地下に怪物でも飼ってるのか!?」

 

軽いジョーク気分でロイ兄さんは面白くないことを言っていたが、顔が急に真剣になる。

 

一人でも多く…一人でも多く

 

ゾクリ、背筋に冷たい物が走る。

 

聞こえた声は今でも繰り返し聞こえてくる。

 

まるで壊れたラジオか山彦のように、永遠と聞こえてくる。

 

「大変です提督!!」

「如何した。仕留め損ねたことに対するクレームでもつけに来たのか?」

「そんなこと言ってる場合じゃありません!!津波が迫ってます!!」

「ああ、あれね」

 

聞き逃し掛けたけど、津波!? 地響きって地震だったの?けど波は荒れてない…

 

 

 

水平線の彼方が盛り上がっている。

 

徐々に大きくなりつつこちらに迫ってきている。

 

「ミサ…晴風を借りるぞ」

「えっ?」

 

ロイ兄さんが走ってきたと思ったら、一言伝えて去って行ってしまった。

 

「加古、お前は右舷で支えになれ」

「分かったよ、けど何すんの?」

「見てれば分かる、面倒事なのは変わらないが」

 

「人間がこんなにも大勢…こっちにおいで、楽しいわよ」

 

体が冷たい物に貫かれるような感じを憶えた。

だけど同時に津波に向って歩きたくなった。隣を見ればもかちゃんがもう歩き出してた。

 

そう、そうよ。こっちにおいで。楽しいわよ。

 

津波の方を見直すと既に10数kmまで迫っていた。

 

黒くて、青い。所々なにかの大きな死骸が目を見開いてこっちを見ていた。

 

「兵装展開、我忠実な陛下の僕。逆賊に裁きの鉄槌を下す力を与えよ」

 

辺り一帯に響く津波の声を掻き消すほどの大声に驚き、目で探す。

声の主は見つけれなかったが異変は見つけれた。

 

「晴風が…槍になってる…」

 

中央に丸い空間のある巨大な槍に晴風がなっていた。

 

それはゆっくりと一回転した後、津波に向って高速で放たれた。

 

ああ…おのれロイ、おのれ横七…私の、私の世界が

 

津波に穴が開き、空中分解していく。

 

構成していた海水も、死骸も、全てが空に昇っていく。

 

気が付けば、私達は虹の架かった空を眺めつつ横須賀の港に立っていた。

 

謎の声がしてからは記憶があやふやだが、妙にスッキリとした気分だった。




この後はやる気があればOVAとか後日談かな~


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Another Story
勝ち取った日常


Gambiabay…Fletcher…お前達を手に入れるまでイベントに注力せんぞおおぉぉぉ

忙しすぎてウィークリーすらギリギリなのにイベントをやる余裕なんて無いYO


「夜戦の際に気を付けることは目立たないこと、砲撃とかな」

 

晴風の教室で黒板に文字を書くのは、我らが教官ロイ兄さんであった。

 

――

横須賀決戦のあの日、かなり消耗したが我々は勝った。

 

まさか他の深海の死骸と一体化して津波のような化物になるとは思わなかったが…。

晴風に積んでた弾薬と分解システムが上手く噛み合って一撃で倒せたときは驚いた。

 

何せ津波擬きが見えた瞬間、インフィニティに砲撃を要請してたから、弾が無駄にならなかったのを喜ぶとしよう。

 

さて、問題はその後だ。

 

まず決戦中に起こっていた面倒事から。

 

これは二つ。

 

一つは日本の陸軍的存在―と言っても予算と人員の都合で要所だけの―国防隊が横須賀に多めに配属されていて結構な死者を出したとのこと。

 

これは流石に「可哀想に…」で済ませる訳にはいかないので小銭(40億相当)程度は資金と資源を提供した。

 

今まで気付かなかったが、如何やら凄い嫌われていたみたいで、輸送用のペリカンが対空射撃を受けるという事態に発展したが無意味だと分かったのかすぐ終わり、取り敢えず物資を投下して帰った。

 

後日、感謝の言葉と謝礼の日本刀が送られてきて実は結構嬉しかった。

 

癪だったのは二つ目だ。

 

横七の戦闘を録ろうとした民間人やマスコミが避難せず死亡。反撃に成功して埠頭まで進む部隊に取材しようとして砲撃に巻き込まれ死亡。帰ってきたばかりの晴風に乗ろうとしてセキュリティーに引っ掛かり灰になって死亡などだ。

 

はっきり言えばどいつもこいつも馬鹿げてる。頭が飾りみたいだ。ノックしても誰もいなさそう。

 

探求心や知識欲などには感服するが知性が劣り過ぎている。

 

火事現場の取材をKEEPOUTの外からするのは分かるが中に入ってはしないだろう?彼らはそれを戦場でやったのだ。

 

確かに、日露戦争以来の戦争、それも見れる所となれば行きたくなったのかもしれない。

しかしあまりにも考えが足らなさ過ぎた。

 

・・・本題に移ろう。

 

ここまでなら欲に負けた馬鹿共と内心毒づくだけだが、何故か裁判を起こそうとする輩がいる。法律には余り詳しくないが人を死地に誘ったからとの理由らしい。

 

学校宛で示談に関する電話やFAXが来ていたらしいが、再建で忙しくその場にいなかった。まぁ、仮に居ても直ぐに切るし火を点けてた。

 

学校が燃えたかもしれないと考えるとシュレッダーで済ませるよう努力しようと思う。

 

既に半月経っているので裁判が現在進行中、私は爆撃を計画中。

 

理由は、横七協力条約で責任の一切を負わないことを認めさせたからである。それに散々、戦闘現場に向かわないこと、避難すること、それで死んだら自己責任と伝えているのだ。

 

爆撃はやりすぎ?そう思っていた。もし次にクレームが来るのが10分後だったら容赦なくやるが。

 

では終わった後の話だ。

 

取り敢えずニイハウ島に生き残りが集結してBM本部が瓦礫の山になった。

 

と言っても決戦の時に遠くにいた補給艦などが中心の為、直ぐに討伐できたが、やはりクレームが飛んできており、アメリカの大西洋から避難してきた艦隊と引き籠っていた艦隊は全て潰されたため、職務怠慢との怒鳴り声が電話から響いている。

 

死者も沈んだ艦も沢山いるので援助しようかと思ったが、大統領と国防省長官の顔を見てやる気が失せた。

 

どうせあの国力なら何もしなくても大丈夫だろう。寧ろ維持費が減って大助かりかもしれない。仮想敵国(ロシア連邦)は国内のコミュニスト潰しで余裕がないから大丈夫だろう。

 

次に決戦前に戦力の集中を防ぐ目的があったとされる各支部同時攻撃で戦力がすっかり減ってしまった。

 

それによって世界各地に支部を展開することが不可能になってしまい撤収作業が始まったこと。

 

幸い深海棲艦を滅ぼし既に用は無いため躊躇いはなかった。

 

それに伴い日本でも撤収作業に入っているが、少し遅れている。理由は後で。

 

兎に角、撤収に伴い本島の拡張工事が急ピッチに進められている。だが海兵隊の死者数が多過ぎてそこまで必要ではなく部屋を少し付け足せば問題はなさそうだ。

 

一番問題になったのは今後の事だった。

 

既に当初の目的を果たした横七は特段存在理由がない。だが諜報部から我々を狙う集団もいるそうだから解体ができない。鉄砲玉を倒すのは楽だが永遠に来られては疲れる。組織の中枢を潰さねば。

 

そのおかげで横七は具体的な立場を示さねばならなくなった。

 

国家か、武装集団か。

 

結果としては国家であると宣言して新たに外務部が設立した。

 

だが仕事は少ないだろう。国交を樹立するのは日本と余裕があればドイツだけの予定だ。

 

横七が大きく関係している企業は五万とある。だがそれを公表すると面倒事にしかならないのでしない。

 

既に協力条約を締結していた日本とは戦後の事を考えて幾つか更新した。内容はあまり変わっていないが、『発効から10年間、日本国が攻撃され危機的状況に陥った場合全力で支援する』が大きなところだ。

 

各駐屯地は既に即応の航空隊を損失しており半ばこけ脅し状態だ。

 

だが完全撤収は更新してしまった手前、やれば大々的に非難される。

 

結局のところ、散らばっていた駐屯地を横須賀、呉、佐世保、舞鶴、名古屋などに集結させるしかなくなった。

 

必要な人員削減に効果はあったが兵器類の不足が深刻化し横八艦隊の解散すら議題に挙がる程だ。

 

しかしこれらのことは未来を思えば大した問題じゃない。

 

何せ今は加古がいるんだ。

 

希望があるだけでこんなにも世界が変わるのなんて信じられなかった。

まぁ、今は本島で書類仕事に頭を抱えているだろうが…。

 

「天津風艦長、この場合はどうするべきか、わかるか?」

「は、はい!!小型艦で大型艦相手の戦闘を行う際は日が沈むまで捕捉しつつ逃走、夜戦を行います!!」

「よろしい、では次の実習で武蔵を所属不明の大型武装艦と仮定して戦闘を行う。再来週までに戦闘計画を提出しろ。以上だ」

 

一部から悲鳴を含む叫び声を聞きつつ授業の終わりを宣言する。時間がちと余ったな、まぁ課題分のサービスということにしよう。

 

「教官、課題のことで幾つか質問が…」

 

武蔵艦長の我妹、知名もえかが扉に手を掛けた私を止める。

 

「すまないが、これから爆撃をするかの判断をしなきゃならんのだ、またな」

「ちょっと待ってください!!」

「明日は昼から図書室にいる。そのときに聞いてくれ」

 

廊下の窓から飛び降り、職員室の私の電話を取る。

 

 

 

 

電話を切って無線でジョニーに二言三言伝え横須賀の駐屯地に帰る。

 

明日から休みに入り、終われば期末試験だ。実習担当の私はアベルの所為で授業数が足りずおじゃんとなった。

 

 

 

 

本当は横須賀からも離れたかったが妹分達の事と真雪さんから既に給料を頂いていたので帰るわけにはいかなかった。何より妹達を可愛がる心が生まれたのだから更に離れれない。

 

「おっ、もうご飯できてるよ」

 

駐屯地の私室に行くと、ワームホールで先に来ていた加古が机にご飯を置いていた。

 

ブランクの所為か元の腕前が悪いのかは知らないが、あまり食欲を注られない。が、食べない訳にもいかないので料理に対する作り笑顔と日常に対する本物の笑顔で食べる。

 

 

 

翌日、アメリカの国防省と日本の横七を許さないの会の本部に尿意を意識させる効果のあるガス兵器を使用した報告を私は腹の痛みと戦いながら朝方のトイレの中で聞いた。



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とある日のこと 

この世界における東側諸国、取り分けロシアの説明(前回の補足感覚)

 二月革命を起こし帝国政府打倒を目指すも、同盟国との講和が難航、協商国も東部戦線の存続の為、アメリカとイギリス(植民地軍)が中心となって派兵。結果的に西にドイツ、北に米英、各地に帝国政府軍と戦線が複雑になる。

 結果としてはケレンスキーが同盟国とブレストリトフスク条約を結び大戦から離脱。協商国にも当時の国家予算の2倍に当たる大量の資金援助を行うことで撤兵させ、帝国政府を打倒する。

 生活は戦時とあまり大差ないが平和を手にしたことで不満は溜まるも特に成果を挙げれてないソヴィエトよりは人気が集まる。

 しかし同年10月、ソヴィエト派閥の軍が臨時政府寄りの軍事基地を襲撃したことで十月革命が始まる。

 赤軍VS白軍の戦いは互角だったものの、労働者の大半に支持された赤軍は物資が潤沢()だったが、白軍は枯渇気味だった為、最終的に赤軍が勝利する。

 しかし、死者が大戦におけるロシア軍の死者とそう大差なく、モスクワなどの大都市での戦闘で民間人が多数死に、野砲による砲撃が降り注いだ結果住宅街や工業団地が吹き飛んだ為、ソヴィエト連邦は成立したものの支持者は少なかった。

 1942年、前年に発足したNKVDとスターリンの大粛清に対し各地で暴動が発生。翌年、暴動勢力が団結しロシア連邦が発足。『ロシアにおける唯一無二の正当な政府』としてソ連に対し宣戦布告(ソ連内戦)。米英仏伊独がヒトラーの進言の元、ロシア連邦に武器をレンドリース(イギリスに至っては植民地軍を派兵するかが議題に挙がる)。

 1944年にモスクワ・クレムリン宮殿が陥落し、書記長が自殺したことで内戦が終了、翌年3月にロシア連邦は首都をモスクワからサンクトペテルブルグに移す(モスクワの復興が完了した3年後にモスクワに遷都)。

 ソ連は各国に支部を結成させ革命を扇動していた。中華民国や東欧では革命による内戦が勃発するもソ連内戦によってソ連が消滅したことで援助が無くなり革命は失敗、成功しても短期政権として終わる。

 世界的に見れば共産主義はここで途絶えたように見えるが、革命発生国家は共産主義者が暗躍し年に数回、それ絡みの事件が発生する。

 今回の第二次深海戦争(RAT・深海事件)で政府が弱ったことで活動が活発化しており該当する全ての国家は頭を抱えている模様。


「さー、早いとこ済ませたいんだ、正直に言えよ」

「分かってるってば」

 

横七本島の一室では朝早いにも関わらず業務が始まっていた。

 

――

 RAT事件と第二次深海戦争の影響で横七の活動と横女教員としての活動が大変で、やりたかったがやれていなかった加古への審問をやっている。

 

 できることなら横須賀の駐屯地でやりたかったが外で活動家が騒いだり、何処の者とは言わないが諜報員が侵入を狙っている為、万が一を考えて本島でやっていた。

 

 簡単に終わるならもかに謝らずに済むのだが、もしも長引いたらワームホールの時間を考えて少し遅れるのかもしれない。

 

「横須賀…いや、あの空で出会うまで、一体どこにいた?」

 

 実の所一番疑問に思っていたことだ。授業中にも考えてしまい誰かから「成績を付けられてる」と言われ、頭を振って離そうとするも数秒後にはまた考え始めてしまう程に。

 

 横七が再結成してから活動の主軸となっていたのは二つだ。

 

 『深海戦争を有利に進める為、技術開発及び軍の増強』と『加古の捜索』だ。

 

 自慢ではないのだが横七の偵察機及び衛星は世界中どこでもリアルタイムで見れる。アベルらを発見できなかったので信頼性は低下しているが、それでも水上や空中、地上の人間を見つけるのは容易い。艦娘=深海棲艦なので常に海中にいる可能性もあるが、加古の性格上それは考えられない。

 

「えーっと、実は伝えにくいんだけどずっと一緒にいたよ?」

「は?」

「実は…」

 

 一つの肉体に二つの魂があって、それが俺と加古…。ある種、二重人格とも考えれるか。

 

 しかし、こちらとしては頓智をやられた気分だ。同じ肉体にあるから離れてないよねと言いたいのか?陛下やその御友人方は一休さんとも仲がよろしいようで。

 

「待てよ、じゃあ如何してあのタイミングで来たんだ、自爆して死んだ後だぞ?」

「だからそれが伝えにくいんだって!!」

 

 睡眠、そう、睡眠ね。

 

 人の体の中で18年間も眠り続けていたと、そういうこととおっしゃりたいんですか、奥さん…。加古らしいと言えば加古らしいが生命の危機を感じて目覚めるとか下手をすれば一生…なんでもない。

 

「…以前に続き本島で事務をせよ。但しジョニーは別の仕事を行う為手伝いはなしだ」

「え、ちょっと待っ」

「それでは、物の準備をしなければいけないんだ」

「事務仕事はしたくないよー」

 

 

――

横須賀 図書館

 

 本を読む姿が似合う人と似合わない人がこの世には存在する。例を挙げれば眼鏡を掛けた少女と筋肉の強化外骨格を付けている大男が本を持っているとしよう。どちらも存在するだろうが、絵になるのは前者だ。

 

 そして私は兄のことを後者だと思い込んでいたのだが、驚く程に前者だった。華奢で顔もいい。ミケちゃんから横須賀に数日滞在している間に何度も告白されたらしいが、玉の輿狙いではないのも幾つかはあったのだろう。どちらにせよ実らなかったらしいが。

 

「ねえもかちゃん、これどうする?」

 

 ミケちゃんのいう『これ』とは、本を読みながら寝ている兄の事である。

 

 寝ているのにも関わらず、開かれぬ瞳はしっかりと本を捉えていたし、ページを捲っていた。起きているのかと疑うも寝息から本当に眠っているのだと分かる。

 

「起こす?」

「うーん、ちょっよ待ってみようよ、起きるかもしれないし」

 

 テストの勉強を行う。分からない問題があればお互い聞き、それでも分からなければ本を探す。数十分はこれで大丈夫だったのだが、とうとう分からない問題がきてしまった。仕方がないので揺すって起こす。瞳が一瞬で開いてこちらを見つめられたのでとても怖かったが、直ぐに優しく声を掛けてくれた。

 

「如何した?上院議員のスキャンダルでも掴んだのか?」

 

 少し寝ぼけているようだが、問題ないだろう。

 

 それからは、分からなかった問題を聞いて、答えてもらっての繰り返しになっていた。だが、ふと疑問に思ってしまったので聞いてみた。

 

「そういえば…教えちゃって良かったの?不正とか言われない?」

 

 隣でミケちゃんが目を丸くしていたが、兄は微笑んでいた。

 

「俺は他の先生の作った試験の内容を知らないからな。仮に知っていても答えてないんだ。例えるなら、試験に水の元素記号を書く問題があったとしよう。ある生徒はそれを覚えてなくて先生に聞くんだ、『水の元素記号を教えてください』って。これを答えたとしても、試験中じゃなきゃ何も問題ない。まぁうちらは血縁関係やらなんやらでも少し複雑だがな」

 

 納得できるような納得できないような話をしてくれる。なのでここに呼んだ一番に聞きたかった質問をぶつける。

 

「再来週に模擬戦をやるみたいですけど、私達武蔵乗員は全てに参加しますか?それと晴風はどうなるんですか?」

 

 やや引き攣った笑みを浮かべた後、答えてくれる。

 

「前者だが、参加したら点数をあげたいが、時間の都合上同時進行になる。勿論もか達もやるが、一回だけだ。他の艦の相手は横七で用意する」

 

 何となくは分かっていた。今回の一件で授業回数が不足している。実際に兄の担当する科目のテストは消えた。その為無駄に延ばすことはできないので、同時進行という方法は一番適していた。方法は分からないが。

 

「ミサ達晴風だが、まだ分からん。参加できるよう準備は進めているが校長や理事会とかから許可を貰わんとな。だが必ず参加できることは確かだ、安心しろ」

 

 安心しろと言われても、出来ないのが実情だろう。

 

 晴風は横須賀決戦で沈んでしまった。その為、晴風組は直教艦なしで、座学中心の特別カリキュラムが作成されている。サルベージや代替艦の話はあるのだが、搭載してある横七関連の技術を欲する存在が妨害したり、横七との細かい話し合いが済んでいないなどで、現実的だが難航しているとミケちゃんが零していた。

 

 その為当初は代替艦案で決まりだったのだが、ロイに教えを乞おうと世界中の学校から留学を希望する旨の連絡が相次ぎ、横須賀にそれだけの数の艦艇を収容できるドックが無いため、代替する予定の陽炎型航洋艦は留学生用になってしまったと晴風の副長さんから聞いた。

 

「もうそろそろ夕方だ、何処かにご飯食べに行くか?」

「うーん、寮で食べたいかな」

「如何して?」

「今日は兄さんが作るんだよ」

「ああ…そういうこと」

 

 余談なんだけど、この後ハヤシライスを作ってくれた。久しぶりに食べた兄のハヤシライスは、量や具材の切り方などは変わっていたが、味の方は昔と同じ優しくて甘くて美味しかった。

 

 それと片付けをしている時に、横七の加古を名乗る女の人(ミケちゃんに聞いたら、兄さんのお嫁さん。つまり私の義姉さん!?)が泣きながらやってきて、カレーを強請っていた。



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横七の作る週末 その1

 物欲センサーってすごいな。約1年掛けても手に入らなかった雪風は、今や3隻目のドロップを確認するまでになったのに、日に5回以上はオリョールに行ってもGambiabayはドロップしないんだぜ。その点トッポってすg…


 テストしかない一週間

 学生が聞いたら卒倒するそれは、存在した。

 

 横須賀女子海洋学校は今年、第二次深海戦争の影響もあり一週間テストもテストを行っていた。

 と言っても受けるテストの数は人によって変わる。例えば機関科のテストを砲術科は受けない。その逆も然りだ。

 故に、多くは基礎教科と保健体育などの副教科、自分の属する学科のペーパーテストと実技テストだ。艦長や副長、各科長はこれに艦内や科内の指揮のテストを行う。

 

 その為、人によっては5日間連続でテストを受ける者と日によっては少ない者、受けない者もいた。

 

 そして今は、そのテストが全て終わり、全ての生徒が自由を手にし週末を過ごそうかという時の事だった。

 

――

「ううぅぅ…うわああぁぁぁぁ、分かんなくなってきたよー」

「頑張ってください、初航海であれだけ無茶したんですから、報告書を学校に提出しなきゃ」

「書類仕事はホントに苦手でぇ…」

 

 テストが終わったにも拘わらず、図書室で書類と戦うのは晴風艦長と副長、武蔵艦長の3人だった。

 厳密に言えばこの場には4人いる。ただその1人は喋る余裕が全くなかった。

 

「兄さん~助けてよ~」

「…」

「兄さん?」

「…ぉ、如何したミサ?」

「書類…」

「ふむ…どれどれ」

 

 持っていたタブレットから目を離して肩を突いた張本人を見る。その後、書類を一度撫でる。そして片腕でしっかりと持った後に右手にペンを持って紙を一気に空へ投げる。

 

「せっかく纏めたのに…」

 

 机の上に全て落ちた後、ロイはゆっくりと座る。

 

「あれを纏めたというなら、相当の怠慢だぞ、シロ坊。まぁ多くは横七に関する物だったから、代わりに書いといた」

「えっ…本当だ、全て『答える義理はない ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ』て書いてある」

「何今の技!!私にも教えて!!」

「今のをやろうとするなら空中で回転する包丁を使って野菜を切らなきゃな」

 

 以前から度々目撃されるロイの奇行の一つ、回転包丁。読んで字の如く、空中に包丁を回転を掛けながら投げて浮遊させる。その間に野菜などの食材を切る時短技の一つらしい。尚、様々な方面から危険だからやめろと言われている。

 

「にしても…あの書類の山が一気に2つまで減った…」

「それ程横七のことが知りたいのよ。あそうそう、明日の3時ぐらいまでにそれ終わらせれる?」

「えーっと、多分大丈夫かな」

「三笠公園にいるスパルタンにこれを見せろ、きっといい思い出になる」

 

 少し自信のある言い方をしつつ、渡すのは紙製の腕時計。

 

「あれ?掛け時計の指してる時間と違う」

「ミケちゃん、それカウントダウンだよ」

「明日の午後三時に一体何をやろうって言うんです?」

 

 三人の問いかけに、腕を組んでふっふっふと不敵に笑う。

 

「明日の午後三時、我々は総力を結集して海の一大ページェントを敢行する」

「一大ページェント?何をするつもりですか?」

「なに、答えは明日になれば分かる。けどこの書類の山を崩さなければ味わえないぞ」

「…兄さんの考えが少し分かっちゃった気がします」

「流石は我妹、誇らしいぞ。だけどもか、ばらすんじゃないぞ」

 

 にこやかに言い、椅子から立ち上がる。

 

「助っ人はここでさよならです、もかも手伝いすぎるなよ」

 

 少しのブーイングを受け流しつつ階段を降りて正面から出る。

 

「あっ、ロイ教官。お帰りですか?」

「まだ一仕事だ、そういうお前さんはどうしたんだ?」

 

 少し歩くと記録員の納沙幸子に出会う。彼女の映画趣味は少し変わっているし妄想癖も如何にかしないといけないと思うが、それでも普段はとてもいい子なのだ、繰り返しで悪いが妄想癖さえ無ければ。

 

「艦長達に呼ばれたので、お二人は中に?」

「ああ、二階の学習室の一部を占拠してる。直ぐに分る筈だ」

「ありがとうございます」

 

 礼儀もなってるし見た目も良い。面接試験であいつを問題児であると見極めた面接官は凄いよ、俺でも見逃しちゃいそうだもん。

 なんて歩いていく後ろ姿を見送ったら目的地に向けて跳んでいく。ドクターストップを一時期掛けられていたこの壁走りも、つい先日解禁されたばかりだ。…あっ、軽く挫いた。

――

「ではここで、現場の穂先アナと繋がっております、穂先さん」

「はい、こちら横須賀市内にあります、喫茶プロメシアンです。ここでは横七総統ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ氏がとあるTouYuberの生配信に出演するとのこともあり、各社報道陣や一般の方が押し寄せております」

 

 オレンジと白による塗装が施されている喫茶プロメシアン。一年前にオープンした比較的新しい喫茶店である。オススメはウォーデンエターナルというオレンジのジャムをパンケーキに掛けたものである。客足はまぁまぁ。

 

「配信開始の予定時間まで後30分ありますが、人の出入りは確認されておりません。一度スタジオに…」

 

 お返しします。

 

 その言葉は、周囲の人々の声によって掻き消された。

 

「ロイだ!!」

 

 一斉に指を空に向ける。

 

 その先には緑を主体としたコートを着る男が空から落ちてきていた。

 

「ああ、皆道を開けて。ここにいても配信は見れないから。家に帰ってスマホかパソコンを使って配信を見ろよな」

 

 宣伝をしつつ店に入っていく。それを見て我も我もと店に興奮した群衆やマスコミも入ろうとする。

 

 しかし砂糖の甘い香りに惹かれた一匹の蝶が扉を潜ろうとして灰になった。横七に興味を持ってここに来た人ならだれもが覚えている晴風侵入犯焼死事件。あれと同じようなことが起こり一気に熱が冷めてしまう。

 

「あ、失礼します」

 

 その間を一人の男が掻い潜って入店したことに気付いたのは、テレビ中継先のスタジオのスタッフだった。

 

—―

「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」

「本日は予め頂いている質問と適当なコメントを拾っていきたいと思います」

 

 そう言うと男は前日に運び込まれていたカメラやら音声機材やらを調整し、配信開始時間が迫るまでロイのいるテーブルには戻らなかった。

 

「開始まで5…4…3…2…1…はいどうも皆さんこんにちは、カインTVのカインです。本日は喫茶プロメシアンから、今世界で注目の的となっている方とお送りしていきたいと思います」

「えーっ、目の前の男が数秒前は少し震えてたのに今は水を得た魚の様に生き生きしている様に少し驚きを隠せておりません、横七提督のロイです」

 

 かくして待機人数が10万を超えていた「横七提督 ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフさんに生で色々聞く」は始まった。



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横七の作る週末 その2

イベントがこれを書いている時点で前段最終作戦までしか進んでいない。ま、まぁ?資源はどれも10万以上だし?甲攻略は諦めてるし?ちょっとの長い休みだし?鰹だし?

ところで…期間限定ドロップが今でも続いてると思っていつまでも2-3と3-4に行ってたのは何処の馬鹿だい?…あたしだよ!!


注意 今回は手を抜くため台本形式です。急な吐き気、眩暈、幻覚症状などが発生した場合、家の外でコサックダンスとマイムマイムを同時に踊りましょう。そうすればサラトガはドロップします(血涙)。


「いやー、まさか本当に出演していただけるとは思ってもいませんでした。本日はお手柔らかにお願いします。…今日は視聴者の皆から送られてきた横七やロイさんに対する質問に答えていただきます。それでは一つ目はちょっと太った池の主さんからの質問です。『横七はヘリウムなどの気体を使わずに空を飛ぶ乗り物があると聞いていますが、本当でしょうか』とのことです」

 

「はい、これは本当ですね。今も横須賀駐屯地におよそ30機ものバンシーが待機しています。飛行している映像は多分無いと思いますので、いつか見れるようにしたいですね」

 

「自分も初めて聞いたときは誇張かと思ってましたからね、では、それ関連のものを。質問主はアメリカ生まれの日本食さんです。『飛行機やSoFの技術を何処かに売ったり提供したりしますか』だそうです」

 

「あー、この質問って多いんですよね。以前も某国が技術提供を受けて量産を始めたって発表してたけど、あの時その国はまだ横七に接触すら出来てなかったのよね。まぁアメリカとか日本も技術を売ってくれって頼んでるけど、無理だよね」

 

「多いんですもんねそういう系の話。この前も横七日本国交流企画部が応募の中から抽選で10000名を空の旅に招待するっていう詐欺がありましたもんね」

 

「はい。それを聞いたときは頭の回転が凄いなと。犯罪組織のアジトを潰して、出てきた物を見てみたら私の写真をラベルに貼った応募用の水のペットボトル…確か2000円でしたっけ?あれが箱に詰められて山積みでしたからね。あっ、その時の写真が確かこれです」

 

「あっ、どうも。…多いですね。ん?これってテーマパークでも250円しない激安水じゃないですか。見えるかなこれ…」

 

「その写真あげるんで、後でネット上に挙げといてください」

 

「ありがとうございます。えーじゃあこれかな。『アメリカの上院議員が横七に最後通牒を出すと言ってましたが、どうされますか』質問主は大きなマイリトルグリーンフレンズさんです」」

 

「ハハハ、良いよ。最後通牒出しても。我々横七はその挑戦をお待ちしております」

 

「少し私も疑問に思っていたんですが、今の横七の戦力ってどれくらいなんです?専門家の間でも大分意見が割れていて…一説では横須賀にいるのが最後というのもあれば、既に開戦前に戻っているという説も…」

 

「横七関連では、専門家を当てにしないほうが良いですよ。何といっても横七は少し独特なので。その疑問についてですが、部門によりますかね。例えば基地守備隊は本島への撤収によって大規模縮小されています。その一方で地球圏調査を行う宇宙艦隊や軌道上に待機している急行艦隊、ステルスモードで常に巡回しているパトロール艦隊は終戦によって生じた艦隊再編によって増強されています。また、水上艦の建艦計画もありましてね、このアタッシュケースにはそれら全ての設計図と配備先が書かれた書類が入っています」

 

「つまり、米国なんぞ恐れるに足らぬと?」

 

「ぶっちゃけそうっすね。たとえ全ての陸軍を大要塞に集結させても、一隻で殲滅できますから。アメリカが喩え日毎に戦艦を数隻建造しても、戦車を無量大数輌生産しても、陸軍師団を極数徴兵しようが、ひと月あれば完全に沈黙させれます」

 

「おお、これを大統領が聞いていたらいいんですが。それでは次の質問です。『ロイさんは先月、世界TOP2の大富豪であるアンクロイツ・ベッケナーさんのプロポーズを断ったそうですが、何故ですか』質問主さんは友情・努力・愛情、それよりも金さんです。これ私も少し気になっていたんですよね。ベッケナーさんがその様子を生配信していたこともあってかなり有名な話ですから。噂では不能説、ロリコン説、聞いてなかった説があるのですが、実際は」

 

「名前のイメージにそった質問なこと。一応話は聞いてましたよ。ただ私は既に既婚者…曖昧だな、なぜあれを(仮)なんて呼び出したのか…」

 

「えと、つまりロイさんには奥様がいらっしゃると?」

 

「まあそうですね。指輪は今製作中なのでありませんが、軍が配ったのなら写真が」

 

「ぐ、軍が?あっ、写真どうも…至って普通の指輪ですね」

 

「外見は、ですがね。にしても如何してこう恋愛話になると変な噂が広まるのやら」

 

「以前もこういったことがあったんですか?」

 

「残念ながら。今回と似たような噂が広まりましたね」

 

「気苦労も多いでしょうね。…さて、ここで放送前に予め用意していた質問はなくなったので、コメントを抜粋させていただきたいと思います。ええっと…『横七は世界各地にスパイを送り込んで、企業を支配していると言ったコメンテーターがいました、本当ですか』、横七都市伝説の上位に入っている噂ですね」

 

「ああ、あの変なサイト?私も見ましたがよくあんな物語を創れるものです。当たっているのもありますが、それでも全体で見れば極少数に過ぎません」

 

「極少数?ではその極少数を教えてください」

 

「…某世界的大企業や財閥は横七の関係者のみで構成されている」

 

「本当ですか!?具体名を教えて戴くことはできないでしょうが、もし撤退したらどのような被害を受けますか?」

 

「日本の場合、全てを撤退させれば食糧難でX割の人間が餓死する。アメリカだと幾人もの大富豪がスラム街暮らしになる程経済に打撃を与えれる」

 

「えっとつまり…金融や貿易、一次産業に関係があると見ていいんですね?」

 

「その通りだが、少し抜けている。医療や運送もだ。…ところで、こういうものについて、少し勉強したのかね?どうしても、国会前で出待ちしていた君と今の君が違うように感じれる」

 

「まぁ、少しだけですがね。おかげで隙間の多かった本棚が埋まりましたよ」

 

「それはいいことだ…んっ?中尉、どうした」

 

「提督、少し報告が」

 

「分かった、すまないが一時抜ける」

 

—―

 

「――――、これだけは回避なさった方がよろしいかと」

 

「いや、寧ろこれはチャンスだ。降下部隊と強襲艦隊を何時でも動けるようにしろ。潜伏している彼らにも開始と同時に計画通り事を進めるよう伝えるんだ」

 

「分かりました。では、あの艦隊も使わせてください。持てる力は全て出したいのです」

 

「ならん。あの艦隊は本来の目的以上の目的を持っている。既にあちらも来ている手前、引き返すことはできん」

 

「…それから、アンダーソン教授より『可』との報告です。御命令さえあれば、直ぐにでも拡張できます」

 

「そうか、3年間もの努力に見合った結果があったのだな。…今は止めておこう。理由もないし。教授にはそのまま残るか帰るか聞いておけ。それと居住ブロック以外なら拡張は良いからな」

 

「はっ、失礼しました」

 

—―

 

「それでね、この本は少し苦手かなーって。あっ、ロイさんお帰りなさい」

 

「ああ。すまないが今日はここまでにしてくれ。急用ができた。それから、視聴者諸君に良いニュースだ。明日の午後3時から三笠公園で横七はイベントをやるよ。是非来てねー」

 

「はい、それではご視聴ありがとうございました。さらばだ」

 

「じゃぁな」

 

「またな」

 

「今のだr

 

配信は終了しました、次の動画を御覧になられますか。




一度台本形式をやらなくなってまたやったら、それはそれで気持ちがなんか悪いな。3000近く書くのも大変だったし。

それから最後の〆の挨拶、分かる人には多分分かる挨拶だと思う。まぁ、自分は字面だけでは到底分からないけど。


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横七の作る週末 その3

祝 加賀改二実装!!

我々の待ち望んだ時が来たのだ!!赤城改二実装から約一年、艦これが始まってからは7年、私が艦これを始めてから1年…実に長かった、長かったのだ。

素晴らしい時代にきっとなる。ああ、早くアップデート終われよ。早く私は加賀改二の絵が見たいのだ、それを見て床に入りたいのだ!!


追記 設計図が足りませんでした。



 アメリカのワシントンにあるホワイトハウスと呼ばれる建物、その一室に男達は集まっていた。

 

「副大統領殿がおられませんが、どちらに?」

「JapanのYokosukaにシークレットサービスと特殊部隊を連れて遊びに行ったよ、国防省長官」

「おかげでこの艦艇が著しく不足している時期に中規模艦隊を組まねばならなくなった海軍のことを考えてくださいよ」

「そういうな、提督。CIAもFBIも予算を削られてるが我慢しているんだ」

 

「諸君、そろそろ話を始めようではないか」

 

 一人の男のその声で雰囲気はガラッと変わり、話の内容も愚痴や宥めるものから真剣なものに変わっていった。

—―

「今日という日を、我々合衆国政府は歴史に残すべき大切な日として記憶しよう。何故なら合衆国と横七の関係が赤の他人から良き友人に変わったのだから」

 

 公園のステージの上で話すスーツを着た白人は、合衆国政府のNo2である副大統領であった。そのような人物が公園のステージというあまりにもちっぽけな場所で話していたことは、スピーチの締めにあったように歴史に残る出来事であった。

 

『極東の防波堤』

 

 それは昭和20年頃から言われている日本のアメリカから見た立場である。

 

 かつて存在したソビエト連邦はその影響力を増すため、様々な国や地域に革命を先導する機関をこれでもかと創った。そしてその機関の活動の成果とも呼べる労働者や搾取されてきた者達の武力闘争が勃発し、特に清が治めていた中華一帯は一秒に一人誰かが殺されていると言われるほどに酷い状況になっていた。

 

 当然のことながらその矛先は日本にも来ており、治安維持法などで抑えつけられながらも地下組織として静かに、だが着実に活動していた。

 

 そして訪れたのは1941年頃の日米貿易摩擦、『金か戦争か』という方向だった大きな問題は、地下組織のアカを喜ばせた。

 

 これで開戦すれば物量差で何れ日本は敗れる、そして再建のとき、同志を大量に送り込んで内側から支配するのだと考え、交渉で乗り切ろうとする政府を弱腰と非難し開戦を訴えた。

 

 しかし努力は実らず、開戦せずに問題は解決され今に至る。

 

 

 

 そう、日本国は。

 

 新興国の比較的多いアジア・アフリカは残党勢力となった共産主義者が独立派や改革派と団結して行動し社会情勢の不安定化を引き起こしていた。

 

 アジアで度々問題になるのは中東、中央アジア、東アジアである。『赤色帯』と揶揄されるほどに国連の支援を受けた政府軍と世界に潜む闇商人に政府転覆を狙う反政府組織、それらを結びつけるアカが常に緊張状態にある地域は勿論のことながら世界の悩みの種である。

 

 南米からの移民などで経済格差が広がっているアメリカにとっても、これは無視できるものではなかった。

 

 その結果が赤色帯の東西南北から中央に向って技術を伝え、自立と発展を促していくマーショルプランへと繋がるのだが…。西はイスラム過激派、南は宗教対立、北はソ連解体に伴って発生した武器の流出によるテロリストの脅威拡大、東は中国共産党が勢力を保つことが出来ていたため失敗し、結局はマーショルプランで隣接或いは一番近い国が様々な問題の防波堤となっていた。*1

 

 そして時間は進み現在に至る。

 

 副大統領であるアーノルドは横七の全てから、これが赤色帯問題を解決させる手段であると考え、何故か嫌われて断絶されている国交を樹立できるよう何度も呼びかけていた。

 

 そんな中、横七に招待を受けたのは正に天啓であった。

 

「そろそろ午後3時ですねアーノルド副大統領、こちらはフォージ少佐です」

「初めまして副大統領。先の戦争の功績で特進し少佐となりました。横須賀海兵隊隊長のフォージです。あなたの護衛と案内をします」

「よろしく頼む、フォージ少佐」

 

 ステージ上から次々と降りていく。ロイも一度裏側に回った為、誰もいなくなった。

—―

「スパルタンってあの人かな?すみませーん!!」

「はい、どうしましたか?」

「えーっと、ロイ兄さんからこれを見せろって」

 

 前日に貰っていた紙製の腕時計をスパルタンに見せる。

 

「!!…分かりました、御案内します。一応大丈夫だと思いますが、離れないでくださいね?引率をしたのは多くても10人位でそれも軍人でしたから」

 

 交代要員を呼んだ後、スパルタンは晴風クラスに加え、武蔵、シュペーなどの乗員全てを連れて仮設の三階建てプレハブ小屋に案内した。その様は、学年行事で行った社会見学のようだったという。

 

—―

「屋上に連れてきてどうするんですか?」

「三時まで後一分…」

「そういえば、階段を昇っている時に見たんですが、イギリス海軍省のバッジをつけた人がいましたよ」

「それを言えば、我がドイツの海軍大臣もいたしフランスは大統領も来ていたぞ」

 

 僅かしかない残り時間を、先の移動時間で見た有名人に関する話に興じようとする一同であったが、一分は一分。直ぐに終わる。

 

「この場にお集まりいただいた全ての人へ、今日という日はきっと記憶に残る一日となるでしょう。それはなぜかと聞かれれば、答えるよりも見たほうが速い!!」

 

 ザッブーン

 

 モーゼの如く海を裂いて現れたのは、数隻の軍艦だった。

 

 それらは全て、横七を象徴する双竜の絵が描かれていた。

 

「…15:00、これより横七水上機動部隊は観艦式を行う。鼓膜を破るやもしれぬ轟音、水飛沫、熱波に注意せよ」

 

—―

「次は噴進式音速爆撃機『桜花』による爆撃演習です。標的はあちらの64㎝三連装砲を5基搭載した戦艦『スカラベ』です」

 

 潜水可能装甲空母『センチネル』から発艦した桜花は、複横陣を空中で形成し、そのままスカラベに向い腹に抱えた模擬爆弾を落としていった。

 

 問題は模擬爆弾なので当たっても爆発しない為、主砲一斉射やバンシーの編隊飛行に見劣りし、また桜花自体も速過ぎてその飛行をしっかりと見れた人はいなかった。

 

「次は…」

 

—―

「提督!!大変です、緊急事態が」

「如何した?まだ観艦式は終わってないぞ」

 

 駐屯地の司令官が大慌てで放送室まで走ってきた。ノックが無かったから、マイクを切っていない。きっとミサ達や客は混乱するかもしれないな。ま、とにかくマイクを切って聞くとするか。

 

「で?」

「は、はい!!というよりはこれを見てください!!」

 

 さっとテレビのリモコンを取ってチャンネルを回す。時間的にニュース番組が多いが、それらは全て同じものを生中継で流していた。

 

「…始まったな、フォージ少佐に副大統領をここに連れてくるよう命令。スパルタンや海兵隊も厳戒態勢に移行するよう伝えろ」

「はっ、それと…本土はどう攻略なさるおつもりで?」

「焦るな、アメリカに大規模な輸送船団を護衛できる艦隊は無い。BMやWDもアベルが沈めたから恫喝しても旨味はない。結局のところ奴らにできるのは輸送船団が丸裸なのに強行するか、守りを固めるかだけだ」

 

 そして前者なら好し、後者なら尚のこと好しだ。

 

「…フォージ少佐から、副大統領をここまで護衛できたとのことです。今は応接室でお休みになられております」

「そうか、これからのことは、彼と話しながら決めるとしよう」

 

 椅子から立ち上がり、応接室に歩いていく。テレビから流れてくる、日本語に吹き替えられたアメリカ大統領の話を聞きながら。

 

「親愛なるアメリカ国民諸君、我々合衆国は横七と深海棲艦の所謂第二次深海戦争に巻き込まれました。海岸部に住む国民諸君や海運業、海上の治安維持に勤めている方達は常に不安を感じていたでしょう。合衆国政府はこの事態に対し独自の対応を行ってきました。州兵や志願枠の増加、非常予算の開放などです。しかしそれに対しロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ率いる横七はワシントンに軍を進ませ、我々を恫喝してきたのです。このような暴挙を、自由の国であるアメリカが許していいわけがありません。よって、ここで私は自由と正義の為に宣言させていただきます。我々アメリカ合衆国は、卑劣で横暴な横七に対し、明日0000に宣戦布告をします。心配することはなかれ、一月で終わらせて見せましょう」

*1
西はトルコを防波堤とする説、ギリシャを防波堤とする説、ヨーロッパ全てを防波堤とする説の三つが、北はロシアを防波堤とする説とロシアを赤色帯に含み、既にアメリカが前線に立っている説の二つが、東も朝鮮半島を防波堤とする説など様々で時の政府によって認識は異なる。(二つ前の大統領はアメリカは北の最前線とスピーチしたが今はロシアが前線と言っている)



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横七の目指す世界へ

勲章が足りた、設計図が足りた、グへへ…ゲヘへ…ヌへへ…ウ゛ッ!!


「合衆国は今、建国以来最大の危機に瀕しています。一部高官らの独断によって開戦は決定され、多くの議員や閣僚は先の大統領のスピーチで開戦を知ったのです。遺憾ながらそれは上院、下院、副大統領に等しく。この先起こるであろう米横戦争は、先の深海戦争を見るからに想像できないものになるでしょう。ですので国民の皆様は軍に赴くのではなく、シェルターや地方の知人宅などに厄介になり、安全に過ごしてください。それが日本にいる副大統領である私が言える唯一の言葉です」

 

—―

「アーノルド副大統領、我々横七としてもこの戦争で民間人の犠牲者は0にしたい。だが落とし前は付けなければならない、分かるね?」

「ああ。今ここで処断されても文句は言わないよ」

 

 彼は下手に出ている様で、実の所強気に出ている。まぁ、仕方のないことだろう。

 

「既に大統領やCIA、国防省、海軍や陸軍の長官は処断が決定された。他に銃器製造メーカーや戦闘用重装服を開発している連中もだ。こいつらは深海棲艦の仲間だということが既に分かっている。だからこそ、あんたにも聞きたいことがある」

「分かっている、それは…」

 

「「なぜ、RATsの研究を許可したのかだ(だろう?)」」

 

 沈黙が場を支配するが、直ぐにそれは破られる。

 

「分かっているなら話が早い。では聞かせてもらおうか」

 

「…私の主な政策が差別問題の解消であることを知っているか?」

「ええ。時にはキャンペーンも実施していますね」

「それは、私の真の願いでもあるからだ」

—―

 私の人生は、順調な滑り出しだった。

 

 親は南側で農業関連の会長で、個人所有の大農園も幾つかあった。私はそこで何不自由なく農園や近所の自然を満喫する少年時代を過ごしていた。

 

 ある日、近所の森で迷子になったとき、その近くの同年代の子が造った秘密基地にお世話になってね。それ以降、私は休みになれば秘密基地で過ごすことが多くなった。

 

 だが、10代中盤を迎えつつあるある日、父が私をぶった。

 

 理由は単純、秘密基地にいる黒人やヒスパニックの友達と関わっていたからだ。

 

 それ以来、秘密基地には滅多に行かなくなった。だが、幾ら父に言われようと少年の、それも長い間自然に触れて生きてきた少年の心は変わるはずがなく、時間と場所を変えながら、時に偶然を装って、時に勉学に励むふりをして、友情を深め続けた。

 

 しかしそれもやがて終わった。一向に有色人種と遊び続ける私を見た父は、同じ白色人種の用意した友達擬きを家に招いたり、友人の家族に圧力を掛けたりした。何より大きかったのは、父が引退するから後継者として遊ぶ時間も余力もなくなったことだ。

 

 父亡き今、かつての友人との親交を取り戻そうと努力しているが成果はない。当時の私もある種諦めていたんだ、もう手遅れだと。だが、そうだったとしても、納得はしていなかった。肌に色があるかどうかで親が友人を選ぶ権利などないと。

 

 こうした考えが今の差別問題に対する原動力となっている。

 

 おかげで、そろそろ任期を一旦満了しそうだが、今でも政策を考える気になれるよ。

 

 …ここからが、君の知りたい話だ。

 

 差別問題解消に全くの進歩がなかったある日、執務室に女が訪ねてきた。名はアルバート・ベイル・ルライン。何度も名前を変えているが、頭文字を取ると必ず『ABR』か『ABL』になることから『アベル』と呼ばれている女だ。

 

 そいつは「貴方の悩みを解決できる可能性のあるものができるかもしれない」と言ってRATsについて話始めた。意識の統一、理念の共有、自衛意識の強化。一歩踏み外せばマインドコントロールと呼ばれるそれは、確かに私の悩みを解決する可能性を秘めたものだった。

 

 私は計画書に許可のサインをし、研究用の海上プラントに必要とあれば予算も都合した。事実に基づかない差別を解消する為、私の様な苦しみを他の者に味合わせない為に。

 

 そして試作品が完成したと聞き、見に行ったときの喪失感は計り知れなかった。完成したのは凶暴になるのが感染する、電子機器をダメにする鼠だった。研究目的も、敵地に放ち自滅を誘発する為というわけの分からないものになっていた。

 

 帰りの船で、私は計画の破棄や予算の凍結、鼠を含めた研究成果に実験器具の全てを焼却処分し、プラントも爆破するよう命じた。

 

 

 

 

 のだが、アベルはそれを良しとせず表面上はやったように見せかけて日本の機関にて研究を続けさせていた。その後は君の知る通り、アベルは実は人ではなく深海棲艦で、RATsも完成し実戦投入されていた…と。

 

—―

「これで満足かね?」

「…はい、ありがとうございます」

 

 話を進めるにつれて、彼の顔は少しずつ暗くなっていったな。だが、それでいい。私は例え深海棲艦でなくとも世界を破滅させるに充分なものを作る計画にGOサインをしたのだ、ここで殺されても文句はない。

 

 いや、一つだけあるな。またあの故郷の山の、おそらく誰も整備してないから既にボロ小屋と化した秘密基地で、友人らと酒を飲みたい。

 

「副大統領、あなたにはもう少し頑張ってもらいます。詳しいことは後日伝えますので、今は少し不自由な生活に慣れてください」

「えっ?私をここで殺さないのかね」

「あなたを殺す理由がないので」

 

 そういうと、彼は扉を開けて出ていった。

 

 私は自然と、ゆる気が溢れ出ていた。

—―

 アメリカが横七に宣戦布告をしたことで始まった米横戦争は、一週間で終わりを迎えた。それも超大国アメリカの惨敗という形で。

 

 開戦初日にワシントンD.Cと臨時首都のニューヨークが武力によって無血占領。その後も開戦を決定した政府首脳は転々と逃げ回るも一人、また一人と逃げ遅れたり、クーデターや逃げた先の住民に捕まり最終的には西海岸へ列車で移動中に横七の主力に発見され、全員逮捕された。

 

 その後は横七が正義のせの字も無い裁判で次々と処刑していき一週間後にアーノルド副大統領が一部の反乱を詫びる形で平和条約が結ばれ、終戦によって国交が生まれた。

 

 横七はその後、航空技術の供与を目的とした親善会を日米同時に行い、各国首脳に「貴国には未知の技術に対する専門知識を有する優秀な野党議員がいる」と皮肉の電報を送り御破算となるも、飛行船の改良などを行って空の発展に努めた。

 

 他にも海賊やテロリスト、アカや麻薬カルテルに対して「便所に隠れていても息の根を止めてやる」と第三回横七基本方針公表会で発言し赤色帯や海賊問題のあるソマリアなどに軍を派遣している。

 

 またロイやその妻加古は日本の横須賀市で結婚式を執り行い、その後正式に入籍したという。(噂では高校生が数人血涙を流したり水雷関係で抗議をしたとの話が…)




 これにてハイスクールフリート 転生者と若き人魚 AnoterStoryは終了です。ご愛読ありがとうございました。


 では、次は何を書くかと言われたら、まだハイスクールフリート 転生者と若き人魚 AnoterStoryを書きます。

 具体的には横須賀決戦時、深海棲艦の血を飲んでも燃えず、アベルを倒し、加古と出会わなかったという世界線を書いていきたいと思っています。

 それでは、評価やお気に入り登録、しおりの方をお願いします。


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晴風出港

前回伝えた世界線の話書こうとして、晴風が沈んだままなのに気付いて急ぎ投稿です。


「おーい、ロイ。これってここでいいのか?」

「ああ。ここまでの曳航御苦労、ウォイルもいるのか?」

 

 駐屯地の自室にやってきたのは、決戦以降各地の深海棲艦残党を狩るため世界を縦横無尽に駆け回ったレ級ことレイだ。普段は上司?のようなヲ級ことウォイルと一緒にいるが、この部屋にはレイしかいなかった。

 

「ウォイルなら本島で執務をしているぜ」

「あのバカ…あれだけ他人にやらせえるなと伝えたのに」

「まあ落ち着けよ、お前暫く会えてないんだろ?」

 

 返しに困り俯いてしまう。最後に会えたのが観艦式の前。それからは対米戦や事後処理、アーノルド大統領と約束した赤色帯や海賊、テロリストなどの問題解決の為、作戦司令室に籠ったり時には艦隊を率いたりと忙しくて構ってられなかった。

 

 最近は落ち着いてきたのでこうして横須賀に戻っているがそれも今日の事だ。

 

「ウォイルが執務を代行したんだ、ごゆっくり~」

「はっ?」

 

 言ってることの意味が理解できず、レイの退室を見届けてボーッとしていたら、扉が叩かれる。

 

 普段の様に入れと言って訪ねた主を見る。

 

「あの…夜分遅くだけど…迷惑じゃなかった?」

「」

 

 久しぶりに会えたので頭が停まってしまう。以前は消息不明だったが、今は会おうと思えば会える。その分会えないのが辛い。

 

「如何した加古、一人で寝るのが怖いか?」

—―

「埠頭に来るのは久しぶりだねー」

「まぁ、私達には乗る船がないからな。実習はシュミレーターだから勘は鈍ってないと思うが」

 

 実習だ、久しぶりに学校に顔を出した兄さんが開口一番に言った言葉はそれだった。皆またシュミレーターかー、って思ってたけど、集合場所が埠頭だった。

 

 家のない私達は、海に出ることができない。

 

「よく来たな、皆。今日は久々の海での活動だ。授業としては初めてかな?」

 

 夏なのにも関わらず黒のコートを着ている兄さんには驚きだが、それよりも驚くことがあった。

 

「晴風が…晴風が帰ってきた!!」

 

 決戦の時に沈んだ晴風が、埠頭に横付けしている。まるで4月のときみたいに。

 

「本島でサルベージした晴風を直してきた。以前のような主砲も機関も射撃指揮所もないけど、やっぱ駆逐艦はいいよな…航洋艦ってお前らは呼んでたっけ?」

「ありがとうございます、兄さん!!」

「今は兄さんじゃなくて教官な、ミサ」

 

 爽やかな笑顔で言ってくる兄さんを見ると、嫌なわけじゃなさそうだ。

 

「さ、速く上がっておいで。そんなところでボーッとしてると置いてくよ」

「お前は操艦できないだろ…」

 

 タラップの先に女の人が現れて、こっちに呼びかけてくる。BMの制服も、スーツも着ていないから学校関係者じゃないのは誰が見ても分かる。そしてあの顔は私が見たものだった。その顔は、兄さんの記憶の中で、兄さんの瞳に反射して見た顔だった。

 

「あー、既に顔は知っていると思うが、未来の嫁さんだ。いや、入籍したからもう妻か。だが式はまだだな…、まぁ、今日から副教官として参加する」

「加古でーす、よっろしくー!!」

「ばかもん、そんな挨拶をする教官があるか」

 

 目にも止まらぬ速さで拳骨を落とす兄さんを見て、自然と足元がふらつき、倒れてしまう。

 

「艦長が倒れた!?」

 

 そんな皆の大声を聞きながら、私の視界は暗転した。




Q.夢が何故加古の視点だったのか?
A.色々なEDを考えた時に、ロイが岬明乃を加古と誤認したり、加古が岬明乃に憑依したりというのを思いついて、その名残。尚、書くのが面倒で諦めた模様。


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Another Story2
ソマリアは紅く燃える


 私が横須賀女子海洋学校に入学して航洋艦晴風の乗員となったあの春は、もう八年前の事だった。

—―

 横七とRATsを操る深海棲艦が、世界中で戦った第二次深海戦争は深海棲艦の首領が戦死しその後の残党を横七が狩ったことで終結した。

 

 その中でもRATsが日本本土に一番近付き、また横七と深海棲艦の一大決戦が行われた横須賀決戦は多くの死者・行方不明者を出した。

 

 当時、記録員として晴風に搭乗していた私はその時の海をよく覚えている。

 

 深海棲艦によって海は黒く染まり、空は横七の艦隊によって青がなくなっていた。その中で横七提督のロイ・ヴィッフェ・ヒドルフは己の身体に猛毒である深海棲艦の血を輸血させ瀕死の状態から回復し深海棲艦首領アベルを追い詰めていった。

 

 決戦はアベルの戦死によって統制を失った深海棲艦が敗走し横七の勝利に終わった。だが横七の戦力も酷く消耗し、艦艇や航空戦力の大半を喪失、横須賀市内にて防衛を行っていた海兵隊・スパルタンの壊滅、提督ロイの重傷を始めウォイル、レイの戦死によって追撃戦が出来なかった。

 

 敗走した深海棲艦はその後立て直し、BM本部のあるハワイ、ニイハウ島へ進路を採った。しかし横七はそれらに対し横七本島を隕石のように落とすことで殲滅に成功する。

 

 これによって第二次深海戦争の幕は下りたが勝者である横七は各地の支部が壊滅、本部も海中に没したことで帰る場所が無くなり、横須賀の荒廃した駐屯地を仮設本部として立て直しや戦災復興などを行う。

 

 だが数日後、提督のロイが横須賀女子海洋学校にて授業中に倒れ、仮設本部に緊急搬送、その後死亡が公表される。死因は深海棲艦の血液を輸血したことによって体内に現れた深海棲艦特有の成分による体組織の崩壊だった。

 

 その年は代理のスパルタンが来たが、冬頃に仮設本部が一晩で消滅し、スパルタンも卒業式を迎えると去っていった。

 

 それから横七の行方は掴めず、国際的な大捜索が行われたが、何の成果も無かった。また、アメリカが主導の海底に没した横七本島を調査する為、総額8000万ドルが使われた『オペレーション・シーバード』で巨大な海上プラントや潜水艇が造られたが、海底の景色をエレベーターで降りて行けば見れるようになったこと以外何も得れなかった。

 

 これらのことを鑑みて、国連及びBM、WDは横須賀決戦日の終戦記念日にて横須賀第七鎮守府の活動停止を正式に認めた。

—―

「岬艦長、ソマリア基地司令より帰還せよとの命令です」

「今日はいなかったね。進路をソマリア基地へ」

「了解、進路をソマリア基地に」

 

 司令の急な帰還命令に少し驚いたけど、出来るだけ表に出さず命令を出す。ここ最近ソマリア沖での海賊が活発化していて、横須賀にも援軍要請が来たほどだった。

 

 出港前に送られてきた報告書を呼んだところ、BIG7や大和型を超える大きさの砲を持っている戦艦や、酸素魚雷と思われる魚雷を積んだ武装艇がいるとのことだった。

 

 初めて読んだとき…いや、ソマリア基地に向かうまでずっとそれを何かの間違いだと思っていた。

 

 前者だとそれを積める船体を造るところから問題になる。大和型建造以降、世界の海軍艦艇は大艦巨砲主義から巡洋戦艦主義というものに変わっていった。内容は41cm未満の主砲を積んだ巡洋戦艦で臨機応変且つ縦横無尽に動けるかららしい。尤も、それが主流となった理由は46㎝を超える砲やそれを積んでも以前と変わらぬ速力を出せる機関の開発と巨大な船体やそれを造れるドックなどで予算の問題があったからだ。

 

そして巡洋戦艦主義の一番の問題は、ドクトリンとして完成して以来、一度も巡洋戦艦を主力とした海戦が起こっていない為、効果が未知数なことだ。。

 

 それはともかくとして、仮にあったとしても飛行船の目に留まるし、巨大ドックの整備を海賊が出来る筈がなかった。

 

 後者に至っては更にありえないことだった。酸素魚雷は日本政府が名指ししてでも守りたい技術で、アメリカやイギリスが技術提供を要請しても断固としてつっぱね、仮に横七が要求した場合は設計図のある施設と生産工場を爆破する予定だったらしい。

 

 そんな態勢が功を奏したのか酸素魚雷に関する技術流出事件や海賊による使用はなかった。少なくともこの報告書以外では。

 

 だからこそ、何か錯覚を使ったものであると思っていたが、報告は嘘も誇張も錯覚などによる認識異常でも無かった。

 

 ソマリア沖の海賊討伐を行ったところ、3隻に2隻が先進国であったり海軍強国の新兵装を積んでいた。ここに来てもう二カ月だけど日に10隻は検挙や撃沈している。

 

 だけど今日は珍しく一隻も発見できないまま、母港であるソマリア基地に向かった。 

—―

 ソマリア基地、それは悪化するソマリア沖や紅海の海上治安問題解決の為1990年代に設営されたBMの基地だった。BMの基地と言っても別にWDお断りではないし、一般のタンカーや輸送船も停泊することがあった。

 

 だが近年の海賊問題で艦艇の損耗はかなり酷くなり、修復と新造艦や各国の派遣艦隊を主軸に何とか回っているソマリア基地は元々50隻が限界だったが、突貫工事や土地買収の結果、敷地は元の30倍、300隻の停泊にも耐えれる一大拠点となった。

 

「うわっ!!」

「キャッ!!」

 

 岬明乃指揮の重巡洋艦が帰港し司令官に報告して戻っている途中に、一人の少年とぶつかってしまう。

 

「君、大丈夫!?」

「はい、貴女こそ大丈夫ですか?」

「私は大丈夫、ごめんね」

 

 岬明乃は立って少年の手を取り、立たせる。

 

「ありがとうございます…あっ、今は航海歴史室は清掃中で通り抜けできませんよ」

「あっ、そうなの。ありがとう」

 

 少年は自分が出てきた部屋が清掃中であることを伝え、違う道で帰ろうとするのを見て言う。

 

「あの…そっちよりも早く艦に戻れる道ありますよ」

「えっ?私がどの艦に勤務してるのか知ってるの?」

「ええっと、二カ月ぐらい前から日本から岬明乃と宗谷真白が指揮する重巡洋艦が来ていることを知っていたので」

「へぇ…」

 

 その後、少し裏道を通ったりした結果、普通に戻るよりも早く戻れた。

—―

「あっ、艦長と…少年?岬艦長、その子如何したんです?」

 

 タラップを降りながら、私は艦長に質問する。ドイツ系の顔の少年は、私の事をじっと見ていた。

 

「この子が道案内してくれたの、おかげで早くこれちゃった」

「はぁ…もうそろそろ出航です。早く艦橋に来てください」

「分かったシロちゃん」

「だから、しろちゃんではなく副長若しくは宗谷さんと…はぁ」

 

 艦長は昔から本当に変わっていない。この前も観艦式の際にマイクを切っていないにも関わらずシロちゃん呼びをしようとしていた。

 

 ふと、まだ少年が立ち去っていないことに気付き、声を掛けようと思い、近付いた時、体が浮いた。

 

 耳鳴りがし、タラップの上を転がるも何とか立って周りを見たとき、戦慄した。

 

 アフリカでは喜望峰やジブラルタル、スエズに次ぐ大拠点、ソマリア基地。最大停泊可能数300、人の数に至っては100万人も収容可能な一大拠点が、一大拠点が

 

 

燃えている。

 

 ドックの屋根は剥がれ落ち、中から出てきた軍艦は炎に巻かれ艦橋が焼け落ちる。積まれたコンテナは轟音を立てて落下し、司令棟は燃えて、やがて姿を消した。

 

「うわああぁぁぁ」

 

 叫び声のする方向に目を向けると、少年が炎に包まれていた。助けようとにも方法がなかったときに、少年は自ら海に落ち、その火を消した。

 

 私は少年を急いで引き上げ、胸骨圧迫をしたところすぐに息を吹き返した。

 

 その後、生存は絶望的、救助活動は不可と難を逃れてたアメリカの沿岸警備隊所属の艦長の意見が出て、私達は取り敢えずインドに、彼らはスエズを目指して出港した。

 

 その影を何者かが見ているのなんて気にせずに。



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襲撃

神風…可愛いねぇ…

あっ、憲兵さん、違います。待って、離して、やめて、やめろ、やめろおおぉぉぉ!!


「補給は既に完了していましたから、最大で3カ月は航行可能です。ですが、食料の偏りから我々乗員に健康被害が出ることが予想されます」

「ここから一番近いのはインドのマドラス英海軍基地です。しかし先程から通信妨害が発生していて連絡が取れません」

「通信妨害って、少しでもソマリア基地のことが分かるのを少しでも遅らせる為?」

「砲術長。恐らくテロリスト連中の目的はそれだけやあらへん。実行犯の逃走を手助けする目的も含んどるはずや」

「あっ、水雷長。大丈夫ですか?」

「大丈夫やて。別に男一人に固執する程、うち小さくあらへんし」

 

 現状を纏める為、艦橋で話し合っていると今朝から医務室で休んでいた水雷長の龍驤さんがやってきた。話から察するに、彼氏さんと別れたみたい…。

 

「すみません、遅れました…」

「お邪魔します」

 

 まだ悩んでいるとシロちゃんと包帯を巻いた少年が扉を開けて入ってきた。声からして、火傷を負ったあの少年だと分かる。

 

「おいたんどうしたん?飴ちゃんあげよっか?」

「水雷長、彼は保護すべき民間人です」

「…龍驤水雷長。24歳。呉海洋学校育ち、イギリス海軍大学に留学し、そこで彼氏、アレクサンd…」

「もう言わんでええ!!言わんでええ!!」

「あの…君は一体」

 

 最初は無い胸を張っていた龍驤さんだったけど、彼氏さんの話になった途端腕を大きく振って口を止めようとする。

 一見は和ましい風景だけど、あの少年はどうしてそんなことを知っているのだろうか。

 

「岬艦長…失礼しました。自己紹介をさせていただきます」

 

 少年は姿勢を正し、敬礼をする。そしてハキハキとした声で言う。

 

「ゲルマンドルフィン所属、臨検・突撃隊隊長、バーナード・マッケン特務監査官です」

「バーナード…マッケン」

「バーナード・マッケン!?」

「うるさ…航海長、知っとるんか?」

 

 自己紹介をした後、腕を下ろそうとしたとき、航海長が大きな声をあげて龍驤さんが渋い顔をする。

 

「知っとるも何も…バーナード・マッケンって言ったら7歳でGD(ゲルマンドルフィン)に入隊、試験においてはアルコールとニコチン耐性以外は全て日本で言う甲判定。入隊後も演習や実戦において負け知らず。6年前の北アイスランド海賊港湾占拠事件の時は8歳にも関わらず一次攻撃から隊を率いて参加し、72時間戦地に居続けた未来の海人ですよ!!」

「おっ、そ、そうなんや」

 

 早口に次ぐ早口で何とも言えなかったが、取り敢えず凄いってことは伝わった。

 

 けど、この目の前にいる15歳の少年が、本当にそんな人なのか、あまりに現実離れし過ぎて信じれない。

 

「そ、それじゃマッケンk…特務監査官はどうすればいいと思います?」

 

 

「そうですね…この艦なら横須賀に大体数日で行けますよね?」

「はい、3日で行けます」

 

 海賊の跳梁跋扈に合わせて全艦の、取分け準主力の重巡洋艦は機関が強化され、横須賀はハワイへの救援を考えた秒速50メートル以上の化物機関ことセブン機関が通常の機関とは別に移動用として組み込まれている。

 

 燃費の問題から普段は使わないが、帰る際にソマリア基地から横須賀に行く分の燃料はある。

 

「でしたら、セブン機関を使い横須賀を目指すことをお勧めします。マドラスやシンガポール基地に被害が無かったとは到底思えません。ならば派遣元の横須賀に戻って被害があれば復興に努めるのが良いかと」

「ありがとう!!…ございます。機関長、セブン機関を準備して」

「りょーかーい。セブン機関じゅんびー。速度出るまで10分はかかるかなー」

「なるべく早くでお願いね」

「わかったー」

 

 聞いていると何だが落ち着いてくるラー・シン・バーン機関長の返事を聞いた後、マッケン君に話そうとしたら、艦橋の外に行っていた。

 指揮をシロちゃんに任せて私はあの子を追う。

 

「…岬艦長、なにか用です?」

 

 転落防止手摺に寄りかかりながら、聞いてくる。やっぱり何かラー機関長みたいな、何処か抜けている感じがする。

 

「あの…なんて呼べばいいのか分からなくって」

「呼び方?そんなのを気にするのか…」

 

 なんだそれはと笑っているが、私の中だと結構な考えもの。年下だからマッケン君と呼びそうになるが、階級的には彼の方が上だ。横須賀基地で一度呼び方で軽い問題になったことがある。二度目は流石にいやだ。

 

「昔は、男は船で女は港と呼ばれてました」

「は…はい」

「今は男女共に船であり港です。気にしないでください」

 

 何故かは分からないが、彼から少しの先輩感を感じる。龍驤さんやラーさんに似た先輩感だ。

 

 セブン機関が回ってきたからか、風が強くなってきたので中に入ろうと扉を開けようとして、声を掛けようとする。

 

「マッケン君、早く中に入…ろ…」

 

 落下防止手摺に彼の姿はない。寧ろ違う大きなものがあった。

 

 黒い丸。中から時々青い雷が出てきて、不穏な雰囲気を醸し出している。

 

 それが、本艦と並走していた。

 

「横七の…ワームホール?」

 

 8年前の春に見た衝撃過ぎる思い出。それの一つである横七独自の移動方法ワームホール。誰もが手に入れることを望み、そして叶わず過去の映像となったそれが、今動いている。

 

「岬艦長!!」

 

 幼い男の子の叫び声、そして暗黒から伸ばされる腕。

 

「マッケン君!!今助けるから!!」

 

 まだ届く、助けれる。

 

 そう思って走り出し、手を掴んだと思った瞬間。

 

 

 

 ワームホールは消滅した。まるで今までずっと無かったかのように。

 

「艦長、セブン機関がまもなく最大出力を発揮します。中に入ってください」

 

 肩に手を置かれ、我に返る。

 

 シロちゃんが態々来てくれていた。

 

「どうしたんですか、そんなに落ち込んで…マッケン特務監査官はどちらに?」

 

 あたりをキョロキョロに見渡すシロちゃん。…さっきのことは誰にも見られていなかったらしい。

 

「シロちゃん…副長。そのことについて話したいことがあります。後で私の部屋に来て」

「っ…分かりました」

 

 海上では風を遮るものはない。

 

 だからこそ風は凄まじい勢いで吹く。それでも私達は急いで横須賀に戻り、これからのことを考えるのであった。



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発つ前に

「ソマリア基地までやられてたのね」

 

 娘とその親友であり上司である彼女達から、ソマリア基地の惨劇について聞く。

 

「ソマリア基地までって、他になにかあったんですか、校長?」

「校長じゃないわよ…ただ、世界は今問題しかないわ」

—―

 母さんから聞いた話を聞くと、ソマリア基地のことが小さく思えてしまう。

 

 ロシア連邦や中華民国を中心とした元共産主義国家や共産主義勢力が強かった国で革命戦争。アフリカや中東などの反政府組織による大規模テロ。ドイツにおける軍部主導のクーデターとそれによるEU*1を巻き込んだ大戦争。アメリカ大陸における政府転覆を目論んだ暴動。

 

 日本国内は特に大きなことは起こっていないが、それでもいつ終わるのか分からない電波の完全遮断によってテレビやラジオは常に砂嵐。電波時計も狂い始めて不安は募っている。

 

 ドイツの軍事クーデター、自称新生ドイツ*2とEUの戦争と中華民国と中華人民共和国の戦争は支援の為、暴れる新生ドイツ海軍撃滅の為、要請を受けて新鋭主力艦隊の派遣。最低限の戦力しかない国防軍*3は鉄道や道路が整備されたとはいえまだまだ不毛で広大な中国大陸に派遣できるわけがなく、国民政府に物資支援で終わっている。

 

 現段階で明確な死者数だけで既に3千万は越しており、ここに有線電話が普及しておらず状況が不明瞭な国や地域が加わり、最終的には億に届くと言われた。

 

 欧州大戦はクリスマスまでに終わると言われながらも長引き、大勢の死人を出した。政府に出された専門家の意見書の中にはGW、即ち来月には終わるというものもあったそうだが、とてもそうとは思えない。

 

 頭の中の話を換えよう。このままじゃますます暗くなる。

 

 取り敢えず私達は予備として残されていた最新鋭巡洋艦松型*4の「桜」で南極に向うことになった。

 

 理由はつい数日前、北極の横七海底要塞からサルベージされた情報に、南極基地で3日前ワームホールが開かれたことが分かったからである。そう、3日前。マッケン特務監査官が攫われたらしい日。艦長のことを疑う訳ではないが、横七がマッケン特務監査官を誘拐したとは思えない。そもそも活動停止、一説には解散していたし、誘拐される理由がない。

 

 だけど、私は艦長を…岬さんを信じてる。だから南極に行く。

—―

「この桜っていう艦、砲は15.2㎝。機関は通常のとセブン機関採用と従来のとあまり変わりませんが、如何して装甲は海防艦並なのに35.6㎝に耐えれるとの報告なんでしょう?」

 

 記録員の納沙幸子は、タブレットに書かれているカタログスペックに少々…いや尋常ではない程の不安を募らせる。なにせ装甲が船体に見合っていないのだ。

 

「確か、建造にウルトラセブン艦船技術研究所*5が携わっていて、そこの最新のものが使われとるんとちゃったか?」

「ウルセブ艦技研ってセブン機関の?水雷長よく知ってるね」

「あそこには知り合いが多いんや。だからよく話を聞くんや」

 

 日本海軍がよく発注の際に「ウルセブ艦技研は全載せで」という程、信頼と実績のある製作所だが、決してWDやBM、アメリカや中華民国が日本海軍の倍以上で頼んでもYESと言わない。そんな不思議な組織だが、よく払い下げでグレードダウンされたとはいえ使っているので、サムライマーメイドに関しては無縁とは言えない。寧ろ修理や更新を半額してくれるので、ツンデレと言われている。

 

 その為、整備やダメコン、経理などでなくてもウルセブ艦技研の名は誰もが一度聞いたことがあり、ウルセブ艦技研の携わった艦艇は倍率が高い。セブン機関を積んでいた重巡洋艦に乗っていた岬らは、尚のこと不思議に思った。

 

「龍驤さん、この艦って装甲に何か特殊な物が使われてるの?」

「艦長…あまりそんなことは言えへんって。…まぁ、噂じゃ装甲に謎の塗料が染みこんでて、それで作った数ミリの板は50口径のマグナムを弾いたと聞くし。採用された航行安定装置を付けたゴムボートは、嵐に突っ込んでも暴れることなく抜けたと言われてるし。新実装の砲雷撃シュミレーション装置は、風力、風向、波、速さとかひっくるめて自動で入力して与ダメージを算出するらしいし。…何言わせとるんや!!」

「アハハ!水雷長は口を錨かなんかで固くした方がいいよ。だって軽いもん!!」

「なんやと航海長!!そこになおれや!!」

 

 一度火が付くと中々収まらない二人。艦橋で鬼ごっこを始めたかと思いきや、ドック中を駆け回りだす。

 

 そんな平和な雰囲気も、明日にはきっと消え去ってしまう。

—―

「強行するんですか!?北極の調査もサルベージや内部調査だけで一艦隊送ったのに。今回は桜単艦で!?」

 

 少し薄暗い会議室の中で、宗谷真雪は叫んだ。ヒステリックでも起こしているんじゃないかと思う程、甲高い声をあげて同じ部屋にいる者達に叫ぶ。

 

「そんな風に俺達を悪者扱いするのは止してくれ」

「ちがうぞ赤石。ワシらは恨まれることはあっても馬鹿扱いされる理由はない」

「んっ…すみません、局長」

 

 この会議室に集まった者は皆、コネなどで成り上がった者ではない。全員が皆、それぞれの先代や推薦で、人によっては艦長などの元現場勤務の者もいた。

 

 そしてこの場は、海上安全整備局の各部署の代表が集まっている。

 

 兵站、建艦計画、艦隊運用、人事、航路etc…。

 

 ここの重要性は公安から、「ここに何らかの被害が出たら日本が終わる」との理由で集合に対して苦言を呈され、付近の日本軍が根こそぎ動員されてまで警備にあたっているほどなのだ。

 

 そんな、謂わば日本の生命線を守る頭脳が治安が良いか悪いか分からない海域に、虎の子の新鋭巡洋艦を単艦で送るわけがなかった。

 

「では、何故このような決定を?」

「あー、政府から…」

「あの国賊共!!ドイツからの要請を理由に派遣を内閣・国会どちらでも決定しやがった!!」

 

 ドガンッ!!

 

 大柄の男は机を真っ二つに叩き割った後、少し落ち着いた口調で説明する。

 

「GD所属のバーナード・マッケン特務監査官は、来月からドイツ海軍に転籍、大佐となる予定だった。だが軍部のクーデターを受けて帝国政府は転籍を前倒し、本人不在ではあるが遷都先のダンケルクにてマッケン特務監査官をマッケン海軍大佐に転籍した」

「同時にロイヤルガーディアン…かのロイ・ヴィッフェ・ヒドルフの『マスター』より一つ下の称号を与え、実質海軍元帥の権力を手にした」

「そして、一応問題が起きていない我々に奪還を命じた。期限は2カ月。それまでにマッケン大佐を発見し奪還、ダンケルクかロンドンかパリに送り届ければいい」

 

 溜息。誰かが吐く溜息。

 

「赤石君…気持ちは分かるが抑えたまえ」

「すみません局長…しかし、どうしても」

 

 参加者の平均年齢は高い。勿論数名は2,30代だが多くは定年ギリギリかそれ以上だ。そしてその事実はそれだけ場数を踏んでいることを意味する。

 

 だが、この赤石という横須賀の防空網を一任する男はまだ若く、長年勤めてきた局長らが抑えているものを抑えきれていなかった。

 

「全員が20代前半。中には同世代の人もいる。彼女らを魔境に送ることに、罪の意識を覚えないわけがない…」

「…赤石部長。君にはいいことを教えてあげよう」

「なんです?大宇治艦隊計画長」

「もしかしたら…学生艦を数隻随伴として連れていけるかもしれない」

 

 ガタッ、無意識に椅子から立ち上がり、それは本当か、との眼をするのは何も一人だけではなかった。

 

「大宇治…貴様、やりおったな」

「ええ。なにか問題でもあったでしょうか」

 

 学生艦は、主力がヨーロッパへ向かっている今、重要な戦力だ。それも駆逐艦となれば、潜水艦対策や哨戒の為、一隻でも多く必要になる。

 

 そんな中で数隻を本来単艦で出撃することになっていた艦に護衛として付ければ、当然問題になる。

 

「引き抜けたのは、磯風、浜風、谷風、浦風で全艦対潜・早期発見を目的としたウルセブ艦技研の電探を積んでいます」

「おいおい、陽炎型は統一で178号の筈だろ」

「軍の予備電探があったとのことで、拝借しました」

「嘘だろ…」

 

 業者に申請無しの兵器の使用は、製作所を怒り心頭にさせる可能性がある。ウルセブ艦技研は海軍にしか直に納品しない為、交渉担当の部門長は項垂れている。

 

 しかし、皆口や顔では大宇治艦隊計画長を責めているが、内心はよくやったと思う者が多い。

 

「大宇治の奴がやらかしたのなら、私だってやらかすかもな」

 

 小太りの男は、メモ帳を破り、補給命令と自身のサイン、更に判を押して真雪に渡す。

 

「私の名で、その艦隊が補給できるよう図らいましょう。尤も、補給基地が無事であればの話ですが」

「オーストラリアの友人に、陸軍で司令官をやっているのがいます。極地装備の隊を貸してくれないか相談してみます」

「利益を見込めない船舶会社に、大型船を売却するよう交渉してみます。航洋艦と巡洋艦に、陸軍軍人が満足するはずがありませんからね」

 

 伝手や自分の部の権限を使い様々な支援を行う整備局の部長達。便宜を図る命令書を次から次へと渡す。

 

「すみませんね真雪さん。自分は何もできなくて」

 

 不満の声を挙げた赤石横須賀防空部長は、確かに優秀であったが、内容上、何も助けることは出来ていなかった。

 

「いえ、お心遣いだけで十分です」

「そう言ってもらえると幸いです。私の限界は精々、これぐらいです」

 

 空のファイルを渡し、自分の席に帰っていく。

 

「やれやれ、これにて会議を終了する。皇国の荒廃この一局にあり。各員一層奮励努力せよ!!」

*1
この世界線では一つの連邦国家。EUというヨーロッパ圏全て(ロシアなどを除く)を統括する一大政府があり、さらにその下にイギリスやフランスなどの構成国があるというソ連やロシア的な感じ。近年イギリスが離脱かどうかで問題になったが、僅差で残留。

*2
領土のイメージは史実の東ドイツがポーランドを併合した感じ。

*3
日本軍を指揮・管理する国防省とBMやWDを統括する防衛省が第二次深海戦争の影響を受けて誕生した、緊急時に限り三者を統括して指揮する組織。海洋学校や飛行船学校、飛行技術研究所などの組織は緊急時に限り日本軍の指揮下となるため、事実上日本の戦力を全て纏めている組織。尚、艦艇は選り取り見取りだが飛行船は横七の一件以来不調で総数は少なく、陸軍戦力は10万と非常に少ない。飛行技研はヘリウムなどを使わない飛行機を開発しているが、実用化はまだという海軍戦力以外平時とあまり変わらない。

*4
巡洋艦なら川か山だるおぉぉぉ!!と思うかもしれないが、被るのを避けてこの世界線では絶対に造られて無いと思う戦時急造艦の型を採用。

*5
通称ウルセブ艦技研。蔑称変態の集い。セブン機関を始め様々な艦船に関わるビックリドッキリメカ…装置を作る研究製作所。どれもが優れた装置なのだが、一度も船体を造ったことはない。ラーメンで例えれば汁や麺は市販のものだが、トッピングに力を注いでいます系の店。



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南極大陸にて人探し

 4月中旬

 

 南極という何もかもを凍らせてしまう大陸。岬明乃率いる7隻の艦隊は、それらを漸く目視で捉えた。

 

「ナイアットとダッケインは上陸を。磯風、浦風、谷風、浜風に本艦は南極大陸近海の哨戒をします」

 

 電探に反応はなし。目視による確認でも水上目標は確認できなかった。

 

「天候は暫く安定するようです。一応ソナー撃っときますか?」

「うん。油断はしたくないからね」

 

 桜艦隊。旗艦桜は勿論の事、近代化改修を施された陽炎型にとっては、水中の索敵すら朝飯前である。何人たりとも、彼女らの水中探信を受けてはその姿を隠すことはできない。

 

 

 

 

 そう。何人であっても。

 

「!!水中に何かいます!!」

「対潜戦闘!!」

 

 反射的に叫ぶも時すでに遅し。海面から現れた一本の太い光線が豪陸軍軍人1500人と船員100人の乗るナイアットを包む。

 

 水面には、何も残っていなかった。まるで初めから、何も無かったかのように。だがそこにナイアットはいた。それを示すのは空を舞う燃える旗だけだった。

 

「な…」

「ナイアット、連絡取れません!!」

「爆雷を投下、急いで!!」

「ダッケインは座礁させてでも上陸させて!!」

 

 爆雷が海に落とされ、適当な深度で爆発する。

 

 気泡も残骸も出てこないので、まだ沈めれてはいない。

 

 そんな中でもワームホール出現位置に一番近い場所にダッケインが到着し、半壊した豪陸軍3個大隊が急いで上陸する。

 

 それを脇目に見つつ、5隻が同じポイントに集まる。

 

「水測員の報告によれば、目標動いてません」

「サナーを撃ちますか?」

「うん。5隻同時にソナーを。万一を考えて回避行動を取りつつ」

 

 少しの沈黙。だが、ソナーの結果を見て誰もが安堵の息を漏らす。

 

「反応なし」

 

 動いているものも、海中でとどまっているものもない。

 

「逃げられた?」

 

 ナイアットを沈めたのはソナーに映った潜水艦。そしてそれはほとんど一瞬で姿を消した。潜水艦の魚雷攻撃ではなく光線。そして、予想ではあるもののワームホールによる撤退。何をどう考えても横七以外ありえなかった。

—―

「この氷の裏に、クランクが。これを回しますと…」

 

 脅威は去ったと判断し、最低限の人を残して桜艦隊の乗員もマッケンの捜索の為、出現位置の調査をしていた。

 

 そして現在、発見した横七の南極基地の入口を見ていた。

 

 とても広い空間。恐らく、放棄されたが故に物は何もない。

 

「見事なカモフラージュです。横に開く航空機用の格納庫のハッチ。車輌の出し入れするためのエレベーターもありましたが、破壊されえていました。人用はこっちです」

 

 暖かい風に触れつつ道を進む。

 

「大隊長、大佐は発見されましたか?」

「いいえ、岬艦長。発見されたのはこのカセットテープだけです。それもノイズだけの」

「ノイズだけ?ノイズ除去は出来ないの?」

「専門の機材がないと…ですが、耳の良い者に聞かせましたが、ノイズ以外の音は甲高い音だけとのことです」

「ありがとう。貰っておきます」

 

 掲示板と思われる板を見る。

 

「全部劣化してる。ここに人は長らく立ち入ってなかった」

「はい。人のいた痕跡は全くと言っていいほどありませんでした」

「急いで探して。多分、ここに食料はないから軽い栄養失調のはず」

—―

 怖い、シンプルに怖い。

 

 先行した部隊から、既に放棄されているとは聞いていたから、暗いことは予想できた。だけど元からほとんどない陽の光は地下基地の為届かず、非常用の照明も点いていなかった。

 

 そして無音。頼りになるのは懐中電灯のみという始末。

 

 効率の為と無茶言わず、何人か連れてくればよかった。

 

「ついてない…」

 

 はぁ、と溜息をつこうとした瞬間、

 

 カタカタ

 

 という音が聞こえその場で跳ねる。

 

 何者かがタイピングをしている。それもあまり遠くない…扉を2か3戸開けたら出会えそうなほど近い。進めば進む程その音は大きくなっていく。

 

 そして、間違いなくこの扉の先にいるというのが分かる程、大きくなる。意を決してドアを蹴り、中に入る。

 

「動くな!!こちらはBM特務艦た…マッケン大佐?」

「すまない真白副長、もうしばらく待ってくれ」

 

 横七関係者と思っていたが、いたのは救出目標、バーナード・マッケンその人だった。

 

「一体何をしているんです」

「ああ。横七が計画し、実行中の計画を、私はこの偶然生きていた横七のデータバンクから奇跡的にも拾うことができた。今はそれをコピーしている」

「横七の計画?一体何です?」

 

 軽い気持ちで聞いたそれを、私は少し後悔した。何の心の準備も出来ていなかった私にとってそれは、とても衝撃的だった。

 

 彼は少し息を吸い、作業の手を止めて振り返り、私の目を見て言う。

 

 

「人類の滅亡だ」



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First Attack Plan

先週投稿してない?じゃあ今回のでイーブンだな(何様)


「その…もう一度説明してくれないかしら。ちょっと理解が追い付かなくて」

 

 オーストラリアのダーウィン基地から、日本の横須賀に電波障害の中直接連絡が取れているのは、以前から敷設されていた有線回線のおかげだ。

 そして対応している人も、体は老けているが、頭はまだ現役世代よりも優れる面もある。

 それでも混乱しているのは、それ程彼女にとってその情報が、理解できないものだったからだ。

 

「では、もう一度。横七の南極基地のデータバンクから、横七の実行中の作戦計画を発見しました。中身を見たところ、最終目的は人類の粛清です」

「彼は…ロイは、彼自身としては倒したかった深海棲艦を倒しただけと考えているんでしょうけど、その実行動の節々に人を思いやる優しさがあった。だから、彼がそんなことをするなんて考えれない」

「ですが、計画は存在します。コピーを横須賀に戻り次第渡すので。そして…次の横七の行動ですが…」

 

 「彼ら、横須賀を襲いますよ」

 

 対応している女性…宗谷真雪が口を開けたまま固まっている。

 

 後ろで会話を聞いている岬明乃と宗谷真白も同じだ。

 

「続けますよ?攻撃開始時間は36時間後。そちらだと丁度0時を回ったところです」

「…」

「宗谷特別顧問?」

「あっ、ごめんなさい」

「彼らの横須賀攻撃の方法は恐らく、この写真の武器」

 

 見えるかな…と零しながら、二枚の写真をかざす。

 

 一枚は、ランチャー系の筒が入っていたことが分かる、空の箱。

 もう一枚は、射撃試験結果の複数のクレーターが映っている写真とクラスター弾が拡散している瞬間の写真が貼ってある兵器概要の報告書。

 

「この兵器は、クラスター弾を弾頭とし、威力はコンクリートを深さ20m、半径3kmものクレーターを作る威力。弾速は秒速300m。拡散範囲は…横須賀市を丸々飲み込む程です」

 

兵器の威力を説明し、それがどれほど危険な物かを伝える。

 

「けど、横七の攻撃手段はそれだけじゃない…」

 

 後ろから、ポツリと、岬艦長が呟く。

 

「ああ。横七は私達が空想の絵空事と思っていたガスを使わない空を飛ぶ乗り物を幾つも所有していた。それを使わない理由はない」

 

 それに続くように、宗谷副長も言う。

 

「そうね。マッケン大佐、あなたはどう思う?横七が横須賀に対し、航空攻撃を仕掛ける可能性を」

「…横須賀襲撃の際、まずこちらのクラスターランチャーを使用。それによって防空陣地や指揮所を無力化。混乱している間に、夜間作戦用航空機で撃ち漏らした目標を破壊する…」

「つまり二段構えね。夜間作戦用機の使用というのは?」

「我々は横七の正確な居場所を掴めていない。視認性の悪い夜間では、早期発見能力も追撃能力も無くなり、何処から来たかを推測することすら不可能になる。彼らなら、まだ実用化できていない夜間作戦用航空機を量産していても可笑しくない。だからです」

「ありがとう。赤石部長にしらせておくわ」

—―

「岬艦長、話があります」

 

 通信室を出て早々、マッケン君に呼び止められる。

 

「出航を半日早めることができます。補給や修理を急がせてもよろしいでしょうか」

 

 マッケン君の言いたいことは分かる。横須賀襲撃に艦隊を間に合わせて防空戦に参加したいのだ。そうすれば最新鋭巡洋艦である桜の防空能力は遺憾なく発揮され、横七の航空隊を撃ち落とすこともできるだろう。

 そして今の艦隊は、行きでセブン機関の燃料を全て使用してしまい、補給できていないので、通常航行で戻る必要がある。その為、一分一秒でも早めたいのだ。

 

「でも、それだとまだ半日足らないよ」

「はい。ですので桜単艦で出港します。そうすれば出港までの所要時間も3時間で済みますし、船速の速い桜は35時間55分で横須賀に着けます」

「ギリギリだよ。それに、単艦で航行している最新鋭巡洋艦を海賊が見逃すとは思えない。焦って横須賀と桜を同時に失うのは、一番いけないことだと思うな」

 

 食堂に行くため、マッケン君から目を離し、歩こうとする。

 

 一、二歩進んだところで、肩に手を置かれる。

 

 マッケン君だ。まだ私と比べると年の差は大きい。けど彼はドイツ人。日本人の女性よりも大きい。そして威圧感も。まるで赴任一年目の時の基地司令のようだ。

 

「そんなに、かつての家族が人を滅ぼそうとしているのが信じられませんか?」

 

 丁寧な口調で、しっかりと目を見て、ドスの効いた声で言われる。

 

「あなたとロイの関係を知らない訳ではありません。しかし、彼は現にこうして計画し、行動「うるさい!!」…」

「分かってる!!裕兄はもう敵、BMの敵!!ソマリア基地の犯人は横七だから。君を南極に誘拐したのは横七だから!!けど、けど、戦いたくないよう…」

 

 言われなくても頭は理解している。だけど、心がそれを違うと叫ぶ。私の兄はそんなことをしない。彼は英雄やヒーローと讃えられても悪者、ヴィランと叫ばれ、恐れられていい人じゃない、と。

 

「もしかしたら…攻撃を中止できるかもしれません」

「えっ?」

「先程説明したように、桜単艦なら35時間55分で行けます。そして、このポイントに横七の観測艦が。この観測艦にはロイ本人が乗っている可能性大です」

 

 つまり…

 

「つまり、話し合って中止させることが出来る?」

「はい。可能性は0ではありません」

「ありがとう!!私はこのことは基地司令官に話してくる。マッケン君は皆に伝えて!!」

「分かりました。頑張りましょう!!」

 

 私は冷たい目で見られながらも廊下を走り、9時間繰り上げと桜単艦での出航を伝える。良い反応はされなかったが、それでも許可を得れた私は、3時間の間に真雪さんから渡された指令書を全て使って帰り道の安全を確保し、急いで横須賀に帰港した。



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横須賀襲撃戦 —前半―

2020年10月20日 加古とケッコンカッコカリ

か…かわいい…グハッ(鼻血

やっぱりフルタカエルの妹も天使だったんだなって…思います。

ナノDEATH!!

グェッ(ドカーン


「機関、もっとやれないのか」

「そんなこと言われてもー、燃料不足で湾内一歩前で停止だよー?」

「構わん。攻撃を失敗に終わらせることが出来れば誰かが曳航してくれる」

「あいよー、皆ぁー、機関再度全速ー」

 

 一日半前から、一度も艦橋を離れずに男は指揮していた。

 

「マッケン君。私達は休憩終わったから、君も休んで」

「私は大丈夫だ、それよりも、急がないと」

 

 男…というよりも少年は、これからのことを考えていた。

 

 

 横須賀をロイが攻撃する。そしてその数分前にロイが姿を現す。多くの命を救うことのできる可能性を秘めた数秒。それを逃がしたくないからこそ、一睡もせずに指揮を執る。

 

「…安心してください、事が終われば休みます。たとえ、どんな結末になろうとも」

「大丈夫、きっとなんとか「右舷の海面、膨れ上がっています!!」「潜水艦!?水測員は何をしていた!!」あっ…」

 

 海面から潜水艦の上部が出る。

 

「総員白兵戦用意!!可能な限り全員火器を持て!!」

「大佐!?落ち着いてください、まだ戦闘になるとは」

「あの船体は観察用なんてもんじゃない、遠距離の攻撃手段を持っている」

「上空で発光!!衝撃波来ます!!」

 

 横須賀上空を覆う閃光。鼓膜を破らんとし、ガラスを揺らす爆音。

 

 報告に次ぐ報告で艦橋だけでも既に軽いパニックに陥っていた。

 

「ぐぅ…岬艦長、宗谷副長、無事か?」

「は、はい…まだ耳鳴りはしますが、一応」

「う…うぅ…気分が…」

「うぁぉぅ、宗谷副長、少し座っていた方が…」

 

 壁に背を預けている真白にマッケンは近づこうとする。しかしその時、窓ガラスに数ミリの穴があく。

 

 同時に、口から血を吐きながら糸の切れた人形の如くマッケンが倒れる。

 

「任務完了…」

 

 閃光の途絶えた暗闇の空に、一人の男が浮かんでいる。

 

 サプレッサーの付いた拳銃を片手に、ひっそりと浮いている。

 

「嘘だ…」

 

 岬明乃はその男を見て零す。

 

「嘘だと言ってよ、冗談だと言って笑ってよ、昔みたいに、昔みたいにさ!!」

 

 涙を流して叫ぶ。その叫びは男への叫び。願い。

 

 無表情で銃を仕舞う、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフという男への。

 

 覚悟はしてきたつもりだった。交渉が決裂した時のことも考えてきた。諦めて隠し持っていた銃で撃つつもりだった。

 

 しかし、現実は交渉すらなく、マッケンも死んだ。

 

「対空電探に感あり、数は3。識別信号…なし、横七の航空機です!!」

「なんだと!?」

 

 横須賀の方を見れば、サーチライトが上空を照らす。時々、チラリと何かの影が映る。

 

「機関、最大戦速!!横須賀に急いで!!」

「…機関オーバーヒート、動けません」

「そんなぁ!?」

 

 悲痛な叫びは、夜の海に響くことはなかった。

 

 それは離れながらも、冷ややかで、家族のような温かい目で見る男にも、届きはしなかった。

—―

「対空電探が飛来する航空機を探知。数は3、横七です!!」

「来たな…サーチライトで照らし出せ!!終結した軍に対空戦闘を。全機撃ち落とせ!!」

 

 横七仮設本部跡地…各国や機関が莫大な額の投資をしてでも欲しがった、横須賀の海の見える広大な土地。景観は良い物の、億や兆程の価値はない。出資者が欲しがったのは、横七の技術である。しかし、ただの更地にそんなものはなく、結果的に二束三文に等しくなった土地を日本政府が横七の存在の記憶と新しい基地施設の為に購入し、現在の横須賀防衛指揮所となった。

 

 そしてそこには100を優に超えるモニターが設置され、常に何処に何個の対空砲やサーチライト、人がいるかを示していた。

 

「航空隊から出撃可能とのことです」

「試製夜間戦闘機…数はいくつある」

「10です。パイロットは睡眠中のも含め30人。十分に回せます」

「よし、出撃せよ。対空砲火にやられるなと伝えとけ」

「味方討ちは勘弁ですからね」

 

 中島、三菱、豊田、奈那橋の4つの飛行機製作所が合同で開発した試製夜間戦闘機「月光」。宗谷さんから横須賀襲撃計画を聞いて試験中の機体を徴発した。これがまだ昼間だったらある程度はましになっていたが、仕方がない。

 

「本日の戦闘が横七を除く全ての組織で初の航空戦である。焦らずに事に当たれ」

「全システム問題無し。月光隊、出撃します」

 

 赤外線カメラで全機が空に舞い上がっていく。

 

「通信機の以上は今の所確認されていません。ノイズも許容範囲です」

「だろうな。通信妨害があっては横七も正確なサポートや究極の連携もできまい」

 

 通信妨害の強さ…今回はノイズの大きさで判断しているが、ここ数日は日に日に小さくなっている。少し前は2300に一気に強くなっていた。

 

 ここ横須賀には大型の常駐の部隊1500。BMやWDの艦艇多数。さらに襲撃の計画を知って緊急配備された高射砲や対空機関銃の防空部隊に航空隊。

 

 横七相手なら少し心許ないが、それでも3機相手なら充分にやれる。

 

「O7型電探とシステムリンクを取れ。それこそが奴らにない我々の大きなアドバンテージだ」

「了解、月光隊とO7型電探とのリンクをします」

「さぁ、ただの置物じゃないことを我々に見せてくれ」




プライベートの関係で投稿頻度が大きく下がる見通しです。

一応隔週でも投稿するよう努力はしますし、年内の完結を目標にやっていきます。




加古タン可愛い(*´Д`)ハァハァ


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横須賀襲撃戦 ―後半戦―

グへへ可愛い…可愛いよぉ…

ここは譲れません

ウゲッ


「サーチライトが横七機を捉えました。射撃の許可を」

「一般市民の避難は既に完了している。高射砲及び対空機関銃、撃ち方始め」

 

 ガガガガガ、ドーン、ドーン

 

 長い間聞くことのなかった音が、狙われない為に灯りを全て消した暗闇の横須賀市に響く。

 

「高射砲、命中せず!!但し機関銃がW方向に散開した機に多数命中!!」

「よーし、W方向に行ったのをα、直進するのをβ、引き返したのをγと呼称する。航空隊は手負いのαを重点的に狙え。高射砲隊は待機。機関銃隊は機会が巡ってき次第撃て」

 

 過去に資料で見た謎のシールドは、αを見る限り無い。ならばこの戦いは既に勝ったも同然だ。

 

「こちら月光隊、αの撃墜に成功。残骸はビル群の方向に行った。付近の部隊は注意せよ」

「月光隊、こちら司令部。良くやった、それと注意喚起に感謝する」

 

 撃墜報告。勝利はもう掌の中にある。

 

「高射砲の射程に一機が入ります、射撃許可…あいつ、こっちを狙ってるぞ!!撃て、撃て!!」

 

 ドゴーン、ドゴーン。

 

 高射砲の砲撃音だけが、ヘッドセットを通して聞こえてくる。これでは高射砲隊がどんな様子か分からない。カメラを渡しておくべきだったと軽めの後悔をする。

 

「おい、どうした。状況を報告しろ、おい、おい!!」

 

 二、三度同じことを繰り返すと、返事がやっと帰ってくる。

 

「すみません、こちら高射砲隊。接近してきたγと思われる機体を攻撃。撃墜することに成功しました。また、敵機はレシプロ機と判明」

「こちら機関銃小隊、敵機は撤退を開始、繰り返す、敵機は撤退を開始!!」

「何だと、主モニターに映像回せ!!」

 

 小隊からの映像は、しっかりと横七製と思われる機体が横須賀から遠ざかっていく様子を捉えていた。

 

 そして、それはつまり敵の逃走…我々が撃退に成功したことに他ならない。気付けば司令室のみならずパイロットや砲兵達も勝利の雄叫びをあげている。

 

「よくやった、お前達。そしてこの勝利は只の勝利じゃない。我々の技術はあの横七を超えたことを意味している。全員、次の戦いに備えて休め」

 

 締めの言葉を少し早めに出す。

 

 全員が弾薬や砲弾の入ったケースや砲や銃を解体しようとしていたり、飛行場へ部隊が航路を採る。

 

「緊急事態発生、緊急事態発生、司令部、応答願う!!」

「こちら司令部、どうした?」

「αの残骸が結集を始めている、おそらく数秒後に活動を再開…伏せろ!!」

 

 ズギャギャギャという機銃掃射の音が聞こえる。応答はない。足音も聞こえない。ただ小さい呻き声が聞こえるだけだ。

 

「全部隊に通達、敵が再度攻撃を…」

「司令?」

 

 待て、巡回部隊は最期に何て言った?残骸が結集し始めている。それはつまり、撃墜した機体が自己修復を行っているということだろう。そして実際に巡回部隊は機銃掃射でやられた。

 

 胸騒ぎ。それと同時に一分前の報告を思い出す。

 

 接近してきたγと思われる機体を攻撃。撃墜することに成功しました。

 

 接近してきたγと思われる機体を攻撃。撃墜することに成功しました。

 

 撃墜…γ、撃墜…接近!!

 

「高射砲隊、逃げろ!!」

「なんです、どうしたんです!?」

「γがお前たちを狙っている、今すぐに持ち場を放棄して逃げろ!!」

「γが?撃墜したはずで「敵機襲来!!こっちを真っ直ぐに目指してきてます!!」何だと!!総員緊急迎ℊ…」

 

 爆発音と砂嵐。

 

 それが意味することは彼らの死。

 

 だが、それに落ち込んでいる時間は無い。

 

「月光隊はどうなっている!?」

「横須賀に戻り始め…撃墜されています!!」

「何だと!?」

「これは…対空砲火?違う…電磁波攻撃による機械系統への攻撃です!?」

「電磁波攻撃…どこから!?」

「…βが何かを流しています…公共電波にも影響があるもよう」

「テレビを映せ、どの局でもいい!!」

 

 主モニターに映像が映る。電波障害の影響で長らく見ることのなかった放送だ。

 

 尤も、内容は娯楽でもニュースでも料理番組や教育番組でもない。

 

 ギリッ

 

 自然と顎に込める力が強くなり、歯軋りをしてしまう。

 

 一人の男が立っていた。その後ろは多数の大型艦艇や航空機、砲や兵士が綺麗に整列している。

 

 

 

 何年も前の蜂起宣言と同じように。

 

「私は横七提督…いや、横七国家元首、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ!!我々は日本政府始め世界各国に対し、宣戦を布告する。事由は諸君らも痛感しているであろうことだ。それ即ち、死者への冒涜である。我々横七にはその存在や跡地への徹底調査と根拠なき批判。深海棲艦に対してはその存在の抹消。それらは永久の眠りに就こうとする我々を叩き起こし、怒りの炎を燃え上がらせた。だからこそ、我々は諸君らを絶望の世界へ案内し、残酷な死を贈る。覚悟しておけ」

 

 映像が入れ替わり、横須賀の空を映す。定点カメラや兵士に月光隊に持たせたものではない。そして映っているのは国立横須賀プラネタリウム技術試験場…に偽装したO7型電探。そしてサブリミナルで映っているのはβ。

 

 βは噴進魚雷…開発中のミサイルを発射し、離脱するような動きをしていく。そしてそのミサイルは真っ直ぐに防空部隊のいない横須賀の空を進み…O7型電探に直撃する。

 

「防空能力を失ってしまった…これでは核ミサイルを早期に発見することができない…」

 

 宗谷さんから言われた、横七の計画。

 

 都市を一撃で破壊できる、核弾頭を搭載したミサイルなる現在開発中の噴進兵器。それを世界中に発射し地球自体を破壊する。それを一早く発見できる能力を持ったO7型電探。

 

 彼らにとっては一番の障害であったと想像するのは難くない。

 

 国土保全委員会から中継を介した電文が送られてくる。

 

『貴公ら横須賀守備隊の活躍、しかと見届けた。夜間戦闘機の実戦運用、横七以外の人類初の航空戦、御苦労である。特に横七機の仮撃墜、実に見事であった。現在連合艦隊が帰還中である。ドックの復旧・整備を最優先せよ』

 

 悪いようには思われていないようで安心した。しかしどういうことだと思う文もある。連合艦隊が帰還中…ドイツに向った艦隊が帰ってきている。日数から考えてハワイに着いたぐらいの筈。

 

「…戦闘完了、生存者は直ちに連絡を。こっちからも瓦礫除去や復旧作業の為に部隊を出す。東京の方の司令部にも応援を出すよう連絡入れといてくれ」

 

 被害は大きい。高射砲隊に機関銃隊は全滅、月光も過半数が撃墜された。砲や銃、試作機とはいえ航空機。何よりO7型電探。笑って許しそうな保全委員会には悪いが、腹を切らねば自分自身を許せない。

 

 

 

 

 だが、そんな愚行はしない。

 

 

 07型電探は緊急時、運用状況を問わず地下に避難させることが許可されている。地下に避難させることが出来れば何重もの複雑な装甲と防衛システムが厳重に守る。

 

 だが実際は避難されることなく、ミサイルが直撃した。

 

 避難命令は赤石が出せる。あいつのことだから月光や展開中の部隊を思って出し続けた訳じゃないはずだ。

 

「車を用意してくれ、それとレスキューチームも」

「どちらへ?」

「な~に、友人の無様な面を拝みに行くのさ」

 

 口でボロカスに言いつつも、胸の内のザワツキを治める為急ぐ。

 

 

 それから間もなく、赤石局長は横七との取引があったと自白、駆け付けたレスキューチームに連行された。取引内容は赤石がO7型電探を避難させないことであったことは確認されたが、見返りは分かっていない。銀行口座を全て調査しても大きな変化や不明な歳入はなし。家宅捜査もされたが隠された金品はなかった。



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眠れない夜

「…」

 

 横須賀の被害が無かったドックに、軽巡桜は帰港した。

 

 昨夜の戦いにおいて、ロイの指揮する潜水艦と遭遇し艦橋に発砲され、数名の負傷者と一名の死者が出た。その後も逃走を開始した潜水艦を追撃しようとするも機関の過負荷が原因で横須賀付近で停止、翌朝、哨戒中のボートに発見され、曳航、現在に至る。

 

「彼の遺体はどうするんですか?こんな状況じゃドイツまで運べませんよ」

「話によるとアメリカ大使館が預かるそうよ。アラスカ、カナダを経由した後海路でヴィルヘルムスハーフェンに運ぶわ」

「…母さん、私は何もできなかった」

 

 顔を伏せ、涙を垂らす真白を、母である真雪はそっと抱きしめる。

 

 温かい抱擁を受け、少しづつ落ち着く真白を見て、ゆっくりと語る。

 

「しろちゃんは精一杯頑張ったわ。それに彼も。昔、一度だけ彼と会ったことがあるの。まだ幼いのに銃を持って戦う彼に、私は聞いたの。『どうして戦うの?死ぬのが怖くないの?』って。そしたら彼は何と返したと思う?『僕にはもう大切な残されたものがない。けど他の人は違う。だから僕は戦う。他の人の大切なものを守るために』そう彼は言ったの」

「じゃぁ、彼はあれで満足して死んだっていうの!?」

「そんなわけないでしょ!!…ロイを逮捕できなきゃ、彼は安心して眠れない」

「…」

 

 横須賀基地の寮に真白は帰ろうとした時、一人のガタイの良い男が入ってくる。

 

「お前が宗谷真白か」

「は、はい。そうですが…」

「俺は鷹宮龍介大佐。日本軍の特殊テロ及び超技術テロ対策本部長及び緊急対応隊隊長。今回は横七の横須賀攻撃を超技術テロと判断し出動した。許可証はこれだ」

 

 鞄からクシャクシャに丸まった紙を出す。

 

「それで、真白二等監察官に本部長殿は一体どのような御用件で」

「そうかっかすんな、宗谷の婆さん。対策本部は横七と繋がりのあった人間を全員監視する。あのバーナード・マッケンも元は横七本島捜索連盟の立派な関係者だった。そのマッケンがロイに狙われたなら、晴風元乗員で一時は家族同然の付き合いをしていたあんたらも狙われても可笑しくはない」

「あんたら…私もなのね」

「勿論。他に海洋医大で活動している美波という奴だったり海上レストラン開いてる伊良子や杵崎姉妹もだ。安心せぇ、監視言うてもそれは横七に対する牽制や護衛や」

 

 ドタドタと重装の兵士が4人入ってくる。

 

「この二人が婆さん、こっちの二人が孫の護衛係や」

 

 瞬時に美しい敬礼をする。

 

「それと、もう一人紹介したい奴がおる。入ってこい!!」

「はっ!!」

 

 大きな声で返事がされ、鷹宮よりも大きい男が入ってくる。

 

「横七本島突撃守備隊長、横須賀決戦の際は、前線の武器庫で包囲されながらも守り切りました。スパルタンのイエローウッドです。コールサインはシエラです」

「スパルタン!?」

「ああ。何でも事を最後まで見届けられるよう護衛を出してくれたらしい」

「はっ!!閣下からの伝言を伝えます。私の成すことを最後まで見届け、そして理解し、それを伝えることを君達に任せる。スパルタンはそれを達成するために必要な存在だ。以上です」

「あ…あなたは、横七本島の位置や目的を知っているんじゃないんですか!?」

 

 真白はシエラに叫ぶが、反応はない。代わりと言わんばかりに鷹宮が首を振る。

 

「こいつはその話題に反応しない。おそらくそうプログラムされているんだろう。彼の持ち物を検査したが自前の武器とスーツ以外何もなかったしそれらにも隠されているものは無かった」

「そう…」

 

 話題が無くなり、鷹宮が外に出ようとした時、真白のスマホが鳴る。

 

「メールだ。内容は…高級レストランで食事。差出人は不明…」

 

 差出人不明のメールに困惑する。自分の身近な人に高級レストランで二人分の食事代を払える人間など母か真霜しかいない。しかし片方は目の前にいるしもう片方だって差出人の名前は出る。

 

「取り敢えず行ってみたらどうです。今は護衛もいますし」

「ああ。是非とも行ってほしい」

 

 シエラと退出したはずの鷹宮に推され、真白はその差出人不明の誘いに乗ることにした。

—―

都内某所 夜

 

「こいつをここまで持ってくんのには苦労しましたよ」

 

 白人だが小柄で禿げた男は、大きなアタッシュケースを机の上に置く。

 

「私は要求されたものを出したんですよ。そっちも早く出してください」

 

 机を挟んで反対側に座る男は、二つのアタッシュケースを置く。

 

「拝見…素晴らしい、これが私達が長年追いかけた…」

 

 もう一つのアタッシュケースに手を伸ばした時、鋭い眼光を浴びせられる。そして机を数回指で小突く。

 

「な~に、ちょっと忘れていただけですよ。あなたが要求した品。我が民間用銃器研究販売会社の最新のブツ。こいつを運ぶのにも苦労したんですぜ」

 

 焦りながら二つのアタッシュケースを机の上に新たに置く。

 

「最新モデルのハンドガンです。フルバーストの場合秒間72発、専用のロングマガジンは最大のドラム式にすれば3000は入ります」

「確かに、このモデルだ。だが…オリジナルではないな」

「…こちらに」

 

 男がこの場で初めて喋ったことで、すこし焦りながらまた二つのアタッシュケースを置く。

 

「これを製作するよう言ったアメリカ軍の女将校はこの設計図と要求スペックを言って去りました」

 

 そう言いながら、一つのアタッシュケースを開ける。

 

 中にはロングマガジンのハンドガンの設計図とメモ書きが入っていた。

 

「秒間で400は最低。威力も一発で核シェルターに穴を空ける程。当時は勿論、今でもそんな要求を満たせる技術は持っていません。女将校の代理人を名乗る人物にそのことを伝えたら、こちらを渡されました」

 

 もう一つのアタッシュケースを恐る恐る開ける。

 

 中身は一本の紫色の光を放つ鋼材と弾丸だった。

 

「この鋼材を使った所、400は優に超え、500、600、700、物によっては800も連射できたのです。そしてこの弾丸、これは何重もの超合金を貫通しました。これらを使用・改造し、造られたロングマガジンハンドガン二丁は再度訪れた女将校が持ち去っていきました」

「この鋼材と弾丸はまだあるのか」

 

 冷たい声で言われ、間髪入れずに答える。

 

「こ、鋼材は本社の隠し金庫に。開けるにはパスワードと電子ロックに加え私の指紋、声紋、IDカードを夜の3時から4時の間に入力・解除することが必要です。弾丸は改造したのを含め、全て代理人が回収していきました」

 

「そうか…」

「ど、どうして横七の元首たるあなたがこのようなことを聞くのです?あなたなら聞かずとも造れたはずです」

「私が知りたかったのは設計図でも材料でもない」

「じゃぁ何です?」

「鋼材の隠し金庫の開け方だ」

 

 机を叩き割ったと思ったら、頭を掴んで持ち上げる。それに少し遅れて、アサルトライフルを持った部隊が入ってくる。

 

「いたぞ、本部に連絡。本命は商人、本命は商人!!」

「動くな、このビルは既に包囲されている」

 

 扉からドタドタと入ってきたと思えば、窓を割って突入する部隊もいる。

 

「な、なんでここにいることが…まさか売ったのか!?」

「お前はここで死んでもいいだろ?」

「えっ?」

 

 窓から突入してきた隊員に投げつけ、その隊員ごと外に落ちていく。

 

「う、撃て!!撃て!!」

 

 全員の銃口が光を放つ。

 

「無駄だ」

 

 そうは言うもロイは逃げず、避けず、守りの姿勢も取らない。

 

 そして命中。だが倒れる様子も膝をつく様子もない。ただ着弾する瞬間にオレンジの光がロイを包んでいることが分かる。

 

「シールド…悔しいが、一度後退する。撃ちつつ後退!!」

「逃がすかよ」

 

 格闘戦を一つしかない扉の前で展開する。扉から入ってきた部隊は逃げれたが窓から突入した部隊はそこで倒された。

 

 ロイを確保或いは殺害するこの戦闘は、まだ始まったばかりだった。



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変わらぬ強さ

設計図が足りない(ガチ


「鷹宮大佐が到着しました!!」

 

 案内してくれた兵の声を聞きながら、テントの中に入る。

 

 建物の見取り図、多くの通信機、数多のバッチを胸につけるエリート将校。

 

 横七と戦うにはやはり戦力差を感じる見た目である。

 

「私が指揮を執る。爆破作業を急ぎつつ一階に増援の部隊を展開、ロイとの交戦に備える。後退中の部隊はグレネードを使用し足を止めろ」

「しかしグレネードでは奴を倒すに至りません」

「物は使いようだ。崩落を起こし生き埋めにしろ」

 

 持ち込んだ端末が部隊の位置を示す。エレベーター前で止まっている。おそらく待っているんだろう。

 

「来ました、ロイです!!」

「よし、手榴弾を足元に投げろ」

「了解、投擲!!」

 

 カチカチカチとピンを抜く音と爆発音が聞こえる。

 

「うまくいきました、生き埋めです!!」

「よくやった。至急エレベーターに乗れ」

「りょうか…瓦礫が動いている?…奴だ!!ロイはまだ健在だ!!」

 

 叫びながらもエレベーターに駆け込んでボタンを連打するのは訓練されたが故の行動か恐怖からかは分からない。だがそれでもいい。作戦通りだ。

 

「こちら突入部隊、エレベーターに乗って後退することに成功した。これからの指示を…」

 

 ガガガガガガガ無線の声を掻き消す重い金属音。それを聞いた隊員のパニック。

 

「エレベーターの扉を強引に開けている?」

 

 全員の視線が上に集まるのを無線越しに感じる。

 

 

 シャー…ロープとの摩擦で生じた金属音だろうか、それが聞こえたと思ったらドゴンと金属を叩く音が響く。

 

「来るぞ!!撃て、撃てぇー!!」

「馬鹿野郎!!ロープに当たって切れたらどうする!?」

 

 ブチンカシャ―――

 

 何かが切れた音と金属の摩擦音。隊員の泣き叫ぶ声がヘッドセットから溢れ、思わず外してしまう。するとドガシャーンと建物から大音がした。

 

「…総員戦闘態勢!!」

 

 マイクに向けて叫んだ後、俺は自分の新しい銃や携行品を急いで取って戦う為に走った。

――

 大日本帝国陸軍、それは大和男児の目指す所。それは誇り高き皇軍。それは家族や御国を守る最後の砦。それは…それは…それは失墜の代名詞。

 

 帝国陸軍の最盛期、それは明治時代だろう。眠れる獅子と恐れられていた東洋の大国、清に対し、日本は圧倒的と言える勝利を飾った。

 

 その後の日露戦争でも、南下をするロシア帝国と戦い、旅順攻囲戦や奉天会戦で少なくない犠牲を出しつつも勝利した。

 

 しかしその後の地殻変動による陸地の沈没と大陸進出の足掛かりを失ったこと、海軍の重要性が高まったことで陸軍は年々予算が大きく削られ、少ないときは数個師団だった。

 

 現代でもそれは変わらない、寧ろ悪化している。

 

 船は女が乗るもの、そんな考えがあったことで国防に就きたい人間が陸軍に流れていたもののWDの発足やナナヨコ時代のロイに影響を受けた『漢の水上戦闘会』によってそれらも失われた。

――

「状況はどうなっている!?」

 

 数分間走り、現場に着く。そこでは部隊がエレベーターを監視していた。

 

「動きはありません。しかし爆破作業ができなくなりました」

「そうか…生存者もなしか」

 

 僅かに開いた隙間から、血が流れる。

 

 あの中に何人もの戦士が生き埋めか潰されて死んだ。

 

「手榴弾を中に投げろ。無線の内容から察するにロイはエレベーターにいる可能性が高い」

「…了。投擲します!!」

 

 順番に手榴弾がその僅かな隙間からエレベーター内に侵入し、爆発する。

 

 だが、それではやはり終わらず、爆発によって大きくなった隙間から、腕が出てくる。それは少し奥に戻り、手が扉を掴む。

 

「opensesame(開けゴマ)」

 

 小声で聞き取れなかったが、直ぐに体は動いた。

 

「ロイだ、撃て!!」

 

 軽機関銃をエレベーター向けてぶっ放す。

 

 気づけば部下も各々の銃をエレベーター目掛け撃っていた。

 

「無駄だぁ、そんな武器じゃシールドも破れない!!」

「チッやはりか…総員、高電圧砲準備」

 

 横七のシールド、それを破る為に開発された新兵器高電圧砲。詳しい原理は分からんが、シールドに高電圧で発射された鉄をぶつけることでその鉄に送られた電圧がシールドの発生装置に負荷をかけ破壊させるらしいそれを構え、狙う。

 

「テロ対策の部署が秘密裏に新兵器の開発をしていたと聞いてはいたが、それが…」

「くらえ!!」

 

 高電圧砲が命中し、金色の光が失われる。

 

「…やるじゃない」

 

 何もせず突っ立っていたロイが一瞬で視界から外れ、三人を蹴り倒す。すると柱の陰に隠れたので、大口径の銃やランチャーでその柱を撃つ。

 

「ゴホッゴホッ…いるか!?」

「ダメです、逃げられました」

「…そないなら、仕方あらへん。負傷者は救護テントに。無傷なら生存者を探すぞ」

—―

「ううっ…はぁはぁ、な、なんとかだが生きてるぞ」

 

 あの男、この俺を外にぶん投げやがって。一体あそこが何階だと思っていやがる。

 

 だが、俺は実に運がいい。突入してきた兵士がクッションとなり幸い軽傷で済んでいる。それに横七のあの航空機と幾つかの銃の設計図も貰えた。

 

 航空機は日本が世界をリードしているがじきにアメリカ製の航空機が世界を席巻するだろう。そして俺は世界一の億万長者となって生きるんだ。

 

「いけない、アタッシュケースを探さなければ」

 

 空中で離してしまったがそう遠くはない。近くの植え込みに隠れていた。

 

「へへ、へへへ…」

 

 再び出会えたねぇ愛しの設計図ちゃん。さ~確認させてよねぇ。

 

「な…なんなんだこれは!!」

 

 0:03…0:02…0:01…

 

「騙しやがったな、ロイィィ―――!!」

 

 大きな爆発が二回起こり、近くの建物の窓や精密機械を破壊する。

 

 当然のことながら、爆心地にいた男は生き延びることはできなかった。

――

「大佐、横須賀における戦闘の報告書です」

「傍から見ているだけの癖に立派な物をお作りになる」

 

 椅子に座る男は部下と思われる男に皮肉を言いつつ書類を掠め取る。

 

「やはり動いていたか」

「はい。このままでは計画に支障が出るかと」

「構わん。むしろ面白いではないか。私としても実に楽しみだよ」

 

 椅子から立ち上がり、カーテンを開ける。そこは大きな島に建てられたプラットフォームだった。

 

「こんなに正確だったのに、なぜ見つけれなかったんだ」

「私には分かりません。ですがこちらから何かアクションを起こしますか?」

「いや、その必要はない。彼らが直に見つけてくれる」

 

 強い風を感じながら下に降りる。

 

「ここにある核ミサイルで世界を混沌とさせてやる。そうなれば放射能汚染された世界で活動できるのは横七一つだけだ。私によって破壊され、私によって創生される。待とう、諸君。我々はただ待っているだけでいいのだ。そうすれば王も、奴隷も自ずと集まり、罠にかかって息絶える。はっはっはっはっは」

 

 その笑い声は風に乗り、海を行き、陸に届く。

 

 だが風に乗った段階で声は声と認識できなくなるまでに変化をするのだった。



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日米合同部隊、横七本島へ出撃せよ

プレデターからダッチとディロン、fallout76からジェントルマン・ジョニーが参戦


「だ、大丈夫?シロちゃん」

「ゴホッゴホッ…かすり傷程度です」

 

 森林に墜落したヘリの中で、無事を確認する。

 

「本島なのは間違いないです。ですが当初予定していた降下地点とはかなり離れています」

「ヘリももう動きそうにないしね」

「近くに本部への入り口があります。他の部隊も到着している筈です、行きましょう」

 

 シエラさんを先頭に森を歩く。なぜこうなったのかは、数日も前のことだった。

――

「連合艦隊が横七本島を発見!?」

「はい。遣欧艦隊、その中の巡洋艦を中心とした連合艦隊がハワイへ航行中に発見。潜水艦数隻が接近したところ海中から噴進砲の攻撃を受け、大破、死者はいなかったものの接近が困難になったそうです」

 

 直通のケーブル線を敷設しながら進んでいた為届いた情報。それはとても大きな意味があった。

 

「飛行船がミサイル発射台と思われる物を確認。本体はまだ発見されていません」

「残された時間はもう長くないのね」

「国土保全委員会はこの報告を受け、遣欧艦隊の帰還を待たずして出撃せよとのことです」

 

 遣欧艦隊の帰還を待たない、即ち本土に残されている艦隊で出撃し本島を攻略せよ。学生艦を徴発したため艦艇はまだ豊富だが、それらは殆どが約一世紀も前の物。相手は1000年先を行くと噂される横七。防衛システムの突破を考えれば松型巡洋艦や主力戦艦が欲しい。尤も、松型一隻しかいないが。

 

「横七本島を攻略する為、一度でも訪れた者が必須とのことです」

「スパルタンと元晴風組」

「その内、国内にいるのは桜艦長、副長の二名だけです。他の者は民間人や海外で活動しています」

「桜を動かす理由作りをしなくていいのね。それだけが救いだわ」

「もっといいニュースもある」

 

 二日前の夜に聞いた、懐かしく頼もしい声。だが、今回ばかりは違う。

 

 いつからいたのか分からないけど、少なくともさっきまではいなかった。

 

「ロイ!?貴様何故ここにいる!!」

「落ち着いて…何のためにここに来たの、ロイ…」

「だから、いいニュースを聞かせる為さ」

 

 少し笑い、言う。

 

「無人ヘリを与える。乗れるのは3人。数は3機。有効に使え」

 

 言い終わった瞬間、姿がぶれ、粒となって消える。ああやって現れたのか。

――

日米艦隊集結ポイント

 

「よぉダッチ、緊張しているとはお前らしくもない」

「ディロン!!お前も参加するのか」

「ああ。これでも横七に関する調査の第一人者だからな」

「CIAの仕事ってやつか。もう一人の方も知り合いか?」

「ああ。あいつを借りるために態々クレーターのメグに頭を下げたんだ」

 

 二人の米兵が飛行船支援母艦の甲板で話し合う。白人の男はアメリカ史上屈指の精鋭部隊の隊長で、黒人の男は元部下で現在はCIAで働いている。

 

「聞いていると思うが、俺達の目的はミサイルの発射阻止だ。その為俺達は横七最下層の司令部に行き、発射プログラムを削除あるいは中止させる」

「先遣隊がいると聞いているが、なぜ俺達も行くんだ、ヨーロッパのこともある。最小限にするべきじゃないか?」

「ああ。俺としても別の仕事がまだ残っているから行きたくないが、命令だからな」

「それもそうだな。で、そのもう一人はまだなのか」

「そろそろ来るはず…あいつだ」

 

 艦橋から悠々と降りてくる、タキシードを着た男。サングラスをかけており、正規の軍人とは思えなかった。

 

「ジェントルマン・ジョニー。特技は変装とハッキング。クレーターチームに所属している。それ以外は全て不明。名前も経歴も信じれるものがない」

「所謂お助けマンか」

「やあディロンの旦那、5年前の日本サーバーハッキング以来随分と久しいなぁ、元気だったか?」

「ああ。まともに軍服を着てくれればさらに元気になれる」

「あんたとは初めて組むな、改めまして、ジェントルマン・ジョニーだ、よろしく」

「よろしく」

 

 握手をする。するとジョニーが急に顔色を変える。

 

「い、いたい…離してくれ」

「おっと…すまない」

「ダッチ、彼は経歴上大手のシステム開発エンジニアだ。力を入れ過ぎたな」

「そうかもな」

 

 男3人で話していると、何かが回る音が聞こえる。見れば水平線の彼方から事前に連絡の入っていたヘリが三機近付いてくる。

 

「横七の兵器、それに乗る日が来るとはな」

「同感だ、安全とは聞いているが、罠の可能性もある」

「そんなに固くならずに、まだ横七本島じゃないんですから」

「はぁ…先遣隊によれば飛行艇による接近は迎撃が無かったらしい。つまりあれなら安全だ」

 

 甲板に三機着陸する。一機からは大男とその護衛と思われる兵士二人、もう一機からは20代の女性二人と噂に聞くスパルタンが降りてくる。

 

「…後詰の部隊はいなんだよなぁ、ダッチ」

「ああ。俺達が後詰の部隊だからな」

――

「改めて確認するが、俺達米軍の目的はミサイルの発射を阻止することだ」

 

 甲板上に建てられたテントが、風をうけてなびく。その下に椅子を出してそれぞれの目的を確認する。

 

「うちらの隊は今回のテロ…戦争の首謀者の殺害や」

「私達は彼を止めること、その為にミサイル発射を阻止する」

 

 それぞれの隊長格が伝え、メモを取る。

 

「なるほど。計画を破綻させればロイも交渉に応じるかもな」

「そないならあんたらは一緒に動いたらどうや。目的も一緒やし」

「そうですね、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼むよ、お嬢さんたち」

 

 身を乗り出して握手をする。今度は力加減を間違えなかったようで、悲鳴は上がらない。

 

「横七本島地表の地図だ。先遣隊の報告を基に作られた。地下までは流石にのってない」

 

 ジョニーが全員に地図を配る。見ればハッチやら扉やら書いてある。

 

「先遣隊が突入した扉はこことここ。鷹宮隊は兎も角うちらと岬隊はこの扉から侵入する。その後は先遣隊と合流して最下層を目指す」

「横七本島は現在メインジェネレーターが停止しています。私は復旧の為単独で動きますが、いいですか?」

「スパルタン…いいだろう、だが変なことをすれば…撃つ」

「了解だ」

 

 話し合うことはなくなったのか、席を立ち、ヘリに乗り込む。

 

「幸運を祈る、発進」

 

 艦長の号令を聞き、三機は空へ舞い上がった。

――

「横七本島、外見はやはり変わっていないな」

 

 シエラが呟く。肉眼でも見える程、目的地に近付いていた。

 

「!?レーダーに捉えられました、手動による回避行動を行います」

「レーダー!?危険は無いんじゃなかったのか!?」

「はい。メインジェネレーター停止に伴い、本島の防衛システムは停止しています。海兵隊員やスパルタンも現在は駐在していませんので、第三者がいると見て大丈夫です」

「何が大丈夫だ!!」

 

 三機がバラバラに動き始める。だが岬隊の機以外はレーダーに捉えられていない。

 

「狙われている…本機は最高速で危険空域を突破します。シートベルトを着けて下さい」

 

 エンジンが唸り、速度が増す。ある程度近付くと、銃弾やロケット弾が出迎える。

 

 荒い運転だが、それでも避けて飛行する。

 

「あれは…対物ライフル!?被弾します、伏せて!!」

 

 光ったと思えばヘリに穴があき、不安定になる。

 

「墜落します、対ショック態勢!!」

 

 精一杯操縦桿を握りしめたおかげか、ヘリは横七本島に墜落する。ここで初めの状況に戻る。



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舞台に集う彼らたち

コマンドーからベネットと元グリーンベレーのクック参戦。


「ふんっ!!」

 

 閉ざされた地下本部への扉を強引に開ける。中は暗いが、支給装備でヘッドライトを貰っている為苦にはならない。

 

「先行します、付いて来て」

――

「如何やら、岬隊は狙われているみたいだな、ダッチ」

「ああ。だが墜落の様子を見るにこの島には落ちれたみたいだ」

「あんさん方、そないな話しとる場合か?うちらの隊は旧本部から調査する、元気でな~」

「御武運を」

 

 問題なく降下できた6人はそれぞれの目的の為行動を開始する。ジョニーはサプレッサー付き9㎜拳銃を取り出し、いつでもいけると目で訴える。

 

 先遣隊が開けたと思われる扉から内部に侵入する。予想してはいたが、やはり誰もいない。メインジェネレーターが停止している関係で様々な防衛システムが切られているとはいえ、何とも言えない不気味さを感じる。

 

 広い部屋に出ると、誰かが倒れているのが分かる。

 

「おい!!どうしたしっかりしろ!!」

「あ…ああ…」

 

 見れば先遣隊の男で昔ロシア領内の反政府組織を潰す際FBIから派遣されて一緒に戦った男だった。喉に傷がある。破片で切ったのだろうか、辛うじて生きてはいるが喋れる状態ではなかった。男は手を挙げ、道を指す。見れば先遣隊の兵士が顔を潰されたり体に穴をあけられて死んでいる。

 

「フリーパスではないらしいな」

 

 ディロンが他では見ない小銃を構えて死体が転がる道を監視する。

 

「何もない。既に立ち去ったみたいだ」

 

 それを聞き、少し安心する。だが油断はしない。

 

「死体を見る限り馬鹿力の持ち主のようだ。それにこの空薬莢に先が潰れた弾丸、相手は先遣隊の武器ではかすり傷もつかなかった…文字通りにな」

 

 ジョニーは死体が持っていた銃を渡す。

 

 まだ少し暖かい。つい先程まで彼らは戦っていたのだ。

 

「ダッチ!!死体の数が先遣隊の人数に足りない、生存者はまだいる!!」

「先を急ぐぞ」

 

 危険ではあるが一つでも多くの命を救う為、死体が転がる道を進む。幾つもの扉を開けたところで撃たれる。

 

「待て、俺たちは敵じゃない!!」

「はぁ、はぁ…大佐?」

「お前は…ベネット!?」

 

 撃ったのは退役した元ダッチの部下であるベネットだった。ベネットは銃を下ろし、近付く。

 

「この島はガチでやばい、俺たちの隊の他に5つあったが、あいつにやられた」

「待てベネット、お前はなぜここにいる」

「お、俺は軍を抜けた後CIAにスカウトされた。麻薬組織やテロリストの基地を幾つも潰してきた。今の方が軍にいた頃よりも正義の為に働けているからな」

「俺が聞きたいのはそんな身の上話じゃない、なぜここにいる!!」

「CIAから横七本島の調査と可能な限り技術を持ち帰ることを命じられた。先遣隊なら日本やスパルタンに邪魔されない。俺以外もそうだ」

 

 呼吸を落ち着かせながら、続ける。

 

「分かっている生存者は俺とグリーンベレーのクックという男だけだ」

 

 そう言うと扉から大柄の黒人の男が出てくる。

 

「ダメだベネット、他の先遣隊の奴らが見当たらない…彼らが後詰の?」

「ああ」

 

 こちらをちらっと見る。3人で1人タキシードなのを見て溜息をつかれる。

 

「俺はクックだ」

 

 挨拶だけをして直ぐに周囲の警戒をする。昔の部下に似ていると思いっていると、エレベーターから音がする。

 

「ディロン、この島はメインジェネレーターが停まっていてもエレベーターは動くのか?」

「ああ。なんでもサブジェネレーターが最低限の機材やエレベーター、扉を動かしているらしい」

「ベネット、クック。下に進んだ隊はいるのか」

「分かりません。この階で襲撃を受けて後は散り散り、生き残るだけで精一杯で」

「全員、エレベーターから離れて銃を構えろ」

 

 エレベーター前の広場は観葉植物がアミューズメントパークの入口にある縁で座れるよう植えてある。それをカバーにして銃を構える。

 

 出てきたのは黒のトレンチコートを着て黒の帽子を被る顔が青白い大男だった。

 

「奴だ大佐!!」

「撃て!!」

 

 発砲炎で部屋が一気に明るくなる。連射銃なので銃声も途切れない。

 

「無駄だ、あのコートはランチャーを受けても効かなかった」

「なら顔を狙え。帽子はどうか分からないが顔は防弾仕様ではない筈だ!!」

 

 砲火が顔付近に集中する。あまり足は止まっていないがそれでも腕で顔を覆っていることから一定の効果はあるようだ。

 

「後退、後退!!」

 

 カバーから出て扉を目指すが、大男はそれを待っていたかのように、突進を始める。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

 片手でハンドガンを出し、撃つ。足を止めることが出来なければ死んでしまう。

 

「ダメだダッチ、避けろ!!」

「間に合わない!!」

 

 虹彩や肌の荒さが分かる程近付いた時、今までとは違う銃声が聞こえる。

 

「こっちだ化物!!」

 

 スパルタンが謎のエネルギ兵器をチャージして撃つと大男は動きを数秒止める。その間にスパルタンはゼロ距離でショットガンを撃った。

 

 大男は倒れた。全員銃に弾を込めながら辺りを警戒する。

 

「こいつは横七の生物兵器。外見こそ人だが細胞は完全な複合体」

 

 スパルタンは更に話を進める。

 

「生まれた生物に改造を施し身体能力や知能を大幅強化、更に強化外骨格手術や脊髄の機械化をしより完璧な生物兵器に仕立てた」

「ちょっと待って下さい、横七がなぜそんなことを。ロイさんからはそんなこと聞いたことがありません」

「それもそのはずです。なぜならこの生物兵器…タイラントは、決戦後に造られましたから」

 

 エレベーターに乗る。残念なことに27あるフロアの内一つしか降りれなかった。

 

「深海化の影響で体が崩壊する前に大佐の脳を移植して延命する計画が復興よりも優先されました。そこで出た案の内一つが生物兵器に脳移植をすることでした。尤も、この案は中止になりましたが」

「じゃぁ裕兄は死んでいなかった」

「…はい」

 

 チーンと到着したことを知らせてくれる。

 

「タイラントがなぜ動いたかは分かりませんが、他の敵は対空攻撃してきた連中を除けばいない筈です。その為私はメインジェネレーターを再起動させる為、別行動をします、それでは」

 

 話を聞く限りタイラントは一体だけなんだろう。だがこうして兵器の差を感じ、少し不安になってしまう。

 

「…ダッチさん、あなたにこれを貸します。無くさないでください」

 

 スパルタンから渡されたのはショットガンだった。それもタイラントを倒した。

 

「了解だ、また会おう」

—―

「大佐、どういうことです。計画とはズレが」

「あの男のことだ、おそらくこの島を発見した艦隊はあの男の支持を受けて発見したんだろう」

「では尚更です!!切り札はもうないんですよ!?」

「それがどうした。既に計画はもう止めれない段階に達した。あとは安全圏で新世界の創生を待つだけだ」

「…失礼します」

 

 高台からカメラの情報を見つつ考える。計画はもう止められない。だがあのスパルタン。姿を見せていないあの男が差し向けた刺客と考えればいいのか。あれが一番の不安要素である。

 

 それと同時に興奮していることを、客観的な自分が教えてくれる。興奮している理由は分かる、生存戦争。あいつがいる限り俺は行きれない。それは向こうも同じなのだろう。勝負は一度きり、復活もチートもない。

 

「私はここで待っている、だからはやく来るんだ、この決戦の地へ」

 

 

 椅子に座りまだ見ぬ奴へ言う。

 

 

 

 それが見られているなど、私は夢にも思っていなかった。



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司令室へ

「松可愛いな~、輸送作戦だし、欧州艦の温存も兼ねて出すか」

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「次は春風船団多号作戦…多号作戦!?」

 多号作戦をうろ覚えながら覚えている為、特攻艦(になるであろう)松を既に切ったことに絶望が…

「丙じゃだめだ丙じゃだめだ丙じゃだめだ丙じゃだめだ丙じゃだめだ丙じゃだめだ」


「ダメです、人っ子一人いません」

「…付近を捜索する。付いてこい」

 

 何もなかった建物を後にする。目指すはロイ、おそらく今世紀最悪の犯罪者になるであろう男。

—―

「ダッチ!!あいつら一体何なんだ!!」

「分からん、だが敵であることは確かだ!!」

 

 壁をカバーにしながら、開いた扉から先を見る。

 

「大佐からの命令だ、ここを通すんじゃないぞ!!」

「おお!!」

 

 5,6人の兵士が扉の前にいる。二人は機関銃の銃座につき、残りは丈夫そうなハーフカバーでこちらに弾幕を張ってくる。

 

「もう司令部フロアだ、おそらく敵はここに戦力を集中させてきたんだ!!」

「そんなことは分かっている!!ジョニー、何かいい武器はないのか!?」

「生憎、このサプレッサー付きハンドガンしかない」

 

 言うやジョニーは意を決して奥から出てきて、数回発砲する。奇跡的に被弾はしなかったが、彼が死ねば機械に疎い俺はミサイル発射を阻止できなくなる。

 

「ジョニー!!お前何考えてやがる!!」

 

 同じことを思ったのか、ディロンは声を大にして叱る。だがジョニーはそれに納得がいかないのか、同じ大きさの声で言い返す。

 

「俺だってあんな危険なことはしたくないさ、だがな、悠長にしている時間はもうないし、後ろの御嬢さん方にカッコ悪い姿は見せれない」

 

 チラッと視線を後ろの扉に送る。そこには銃撃戦から身を守るため隠れさせた岬隊の二人がいる。

 

「俺達は誇り高きアメリカ陸軍の出身だ。確かに肩身は狭くなってきたが、それでも世界を守るのは俺達の仕事なんだ。こんなとこで指咥えて突っ立ってるなんてできない」

 

 なぁ、そうだろ?

 

 口にこそ出していないが、俺の耳にはそう言っているように思えた。

 

 この場にいるアメリカ人は皆陸軍に所属していた。ディロンや扉の外で二人を護衛しているベネット、それに多分ジョニーやクック、俺を除く全員が元軍人だ。

 

 アメリカは日本と違い海軍国家であると同時に陸軍国家だ。だから日本陸軍のような大規模な軍縮はされていないが海軍はBMやWDへの転換、陸軍は軍縮と軍人の総数は減っている。ディロンやベネットがCIA勤務なのは政府なりの失業対策だった。

 

 俺も上の連中からは退職を迫られている。だが辞める訳にはいかない。戦うこと以外で飯を食う方法を知らない訳ではない。その気になれば何だってやれるだろう。だがそうはならない、何故なら正義を持っているからだ。

 

 可憐な乙女たち、それこそ岬隊の二人のような者達に銃を握らせ麻薬組織や犯罪組織の拠点を潰させるわけにはいかない。

 

 

 

 銃を握れば皆地獄に堕ちる。地獄に華はいらない、俺達だけで充分だ。

 

「ダッチ!!考え事してるとこで悪いが、状況は悪くなったぞ」

 

 肩を揺らされ、思考の海から拾い上げられる。見れば敵の増援が来たのか、10人に増えていた。

 

「手榴弾とかないか?」

 

 スパルタンの渡したショットガンは一回のリロードで全弾装弾される優れものだが距離減衰の関係上カバーに隠れている敵を倒せない。

 

 ジョニーなら或いはと思い声を掛けてみる。

 

「すまないが、ない。だがこれはどうだ?」

 

 ジョニーが指を指したのは、床の剥がれかけている塗装だった。あのスパルタンがまだこの島で訓練を受けていた頃は綺麗だったであろうそれは、辛うじて読めた。

 

「隠し武装、アドヴィクトリアム?」

「聞いたことがある、横七は施設の各地に爆薬や武器を仕込んでいると」

「じゃあこれも」

 

 つまみを引いて開ける。中には筒とロケット弾が入っていた。

 

「ふんっ!!」

 

 弾を込め、敵を吹き飛ばす。早すぎて見えなかったが、ロケット弾が3発に分裂しているようにも見えた。

 

「何処で使い方を習った」

「説明書と勘だ」

 

 奪取や盗難を恐れてか、弾は一発で筒も壊れた。これを利用する方法は思いつかないので捨てる。

 

「ジョニー、4人を呼んできてくれないか?俺とディロンで見張るから」

「お任せ」

 

 ジョニーが下がっていく。それを見て俺はディロンに近付き、ジョニーについて言う。

 

「奴は信用できるのか、お前は以前一緒に仕事をしたそうだが、その時はどんな様子だった」

「ダッチ…まぁそうだな。ジョニーは確かに怪しい男だが、ハッキングと変装で右に出る奴はいない。それに仕事…任務はきちんとこなす。オフのときは知らないが、任務中なら安心して背中を預けれる…服と武器を除いては」

 

 バババッ

 

 這って奥へ逃げようとした敵を振り向いて始末する。

 

「少し先を見てくる」

 

 死体撃ちをしながらディロンは敵が守っていた扉に入っていく。

 

「容赦ないな」

 

 死体を見るとロケット弾とディロンの死体撃ちで顔の判別が付かなくなっていた。

 

「確実だが身元確認が取れないな…」

 

 近付いてみても煤であったり破片の切り傷であったりで細部もぐちゃぐちゃになっている。

 

「これを見たら二人がやばいな、片付けるか」

 

 事後処理班の仕事をやったことがないので少し粗さが出てしまったが、それでも戻ってくるまでに隠すことはできた。

 

「ダッチさん、大丈夫でしたか?」

 

 心配そうな顔でミサキさんが走ってくる。爆発音は向こうの部屋にも届いたのだろう、傷がないかを入念に見ている。

 

「この程度の数、造作もない。それよりそっちはどうだった」

「大丈夫でしたが、この部屋から聞こえてきた銃声で心配になりました」

「それはすまない」

 

 奥の方から残りのメンツも走ってくる…なにやら必死な顔で。

 

 ベネットが荒い息のまま言う。

 

「大佐!!奴だ、奴が生きていやがった!!」

「奴ってタイラントか!!」

 

 ショットガンを〇距離で喰らって死んだと思っていたが、横七の生物兵器は思いの他丈夫で復帰に時間はかかったがそれでも殺せるに至らないらしい。

 

「ダッチ!!こっちに来い!!」

 

 奥を見てきたディロンが戻ってきて手を振っている。きっと奥の司令室に辿り着いてそこで籠ろうとしているのだろう。見れば全員がディロンの方に走っていく。

 

「ダッチ、お前も早く来い!!」

「いやダメだ、ここで奴と戦う、じゃないと生きて帰れない!!」

 

 スパルタンの託したショットガンはまだ使えるしランチャーのような隠し武器も幾つかはあるだろう。なら危険な籠城戦を挑むより生存する可能性が少しでもある戦う道を選ぶ。

 

「ああくそ、分かったよ。扉は閉じるからな!!」

 

 そう言ってディロンも走って消える。

 

「グガバァァァ!!」

「さぁ来い!!」

—―

「この部屋が…横七の司令室」

 

 とある人型決戦兵器のアニメのような司令室、そこが横七の頭脳である本部司令室…総司令部であった。

 

「ジョニー、扉を閉めれるか?」

 

 最後に入ってきたディロンさんがジョニーさんに話し掛けている。ダッチさんはタイラントの相手を引き受けて戦っている。

 

「待ってくれ…よし」

 

 自動で扉が閉まる。ガッチャンと壁から音が聞こえ、扉が完全に閉まったことを教えてくれる。

 

「ミサイルの方も頼む」

「扉は簡易ロックだったから早かったんだ、同じようには出来ないぜ」

—―

「空母機動部隊、漸く到着しましたな」

「全く、長いこと待たせてくれたもんだな。シロと一緒に来ると思ったら、遅れてだなんて」

 

 横七本島近海、日米連合艦隊の集結ポイント。そこに2隻の飛行船支援母艦…いや、大型正規空母が現れた。

 

「発光信号…横七本島に航空攻撃を行う、海兵隊は上陸艇にて待機」

「横七本島近海の防衛システムは攻略済みです。いつでも行けます」

「よし、司令長官に『可』と送れ」

「了解!!」



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横七海戦

後段がある程度判明したことで欧州艦を惜しみなく使える…松、すまない。


wiki見たら戦時急造艦は戦時急造艦だったけど竹だった、助かった!!

誤った情報で混乱させてしまい申し訳ございません。以後気を付けます。


「航空隊、発艦」

 

 空母機動部隊の旗艦『飛龍』から発進命令が出る。搭載機は艦上戦闘機と艦上爆撃機。他にも艦上攻撃機もいたが現在の横七が水上艦隊を保有していないと判断し載せていない。

 

 僚艦『蒼龍』の艦載機も相まって第一次でありながら80機近い戦爆連合が横七本島に向っていた。

 

「始まりましたな、山口司令」

「そうですね」

 

 自動化によって艦橋の人数はかなり少ない。その人のいない中で艦長である山口と整備服姿の男は隣に立って航空隊を見送る。

 

「貴方のおかげで日本の航空機は生まれました。もし貴方がいなければ私達はここに立っていませんでしたし」

「そう言うな山口司令。我々は皆『造られた』子。私はそれらの子の最期を見届けたいのです」

「…やはり、気が進みませんね、負け戦というものは」

 

 航空隊の前方の空間が、不意に歪む。光の反射が怪しくなり、そこに鏡でも置いてあるのかと疑問に思う光り方をする。

 

「!!各機散開」

 

 黒い大きな機体がポツンと一機空に現れる。

 

「来たな、ブラックサレナ…黒百合」

 

 ブラックサレナは自身を素通りして横七本島を目指す隊に銃を抜き、連射する。一発一発が丁寧な軌道を素早く描き、航空隊に命中。爆散したり砕けたりして次々と墜ちてゆく。

 

「長官から増援の部隊を出せとのことです」

「全く、死者を増やすことを厭わないとは…」

 

 山口は近くの戦艦艦隊を見る。日米連合艦隊の為国旗は様々だが、中央の日本国旗を掲げる艦、戦艦『加賀』。その付近には松型の一つ前の型の防空巡洋艦がうじゃうじゃしている。

 

「戦闘機を全てだ。爆撃機は装備換装、爆弾を外し身軽にしてやれ」

「ワシも自分の居場所に戻らねばな」

 

 甲板に戦闘機が上がる。

 

「すまない、後で俺も行く…」

—―

「敵機接近!!」

 

 突然現れた機体が虎の子の航空隊を散らし海面すれすれを機動部隊目指し一直線に飛行する。

 

「山口に回避命令、護衛艦隊は本艦の前に出て敵機に攻撃。本艦は下がるぞ」

 

 巡洋戦艦に改装された加賀は素早く護衛艦隊の陰に隠れる。第二世代型防空巡洋艦が前に出て砲撃を開始する。初弾から至近弾と艦や飛行船に比べれば比較的小さな目標にも有効弾を出す。

 

「ウルセブ艦技研の自動照準は良いな」

「敵速度変わらず、目標をこちらに変更した模様」

「構うな、撃て!!」

 

 横七機ということはあの忌々しいシールドを積んでいるのだろう。おそらく、第二世代や松型、加賀ですら破れはしない。だが武器はどうだ。あの携行銃のようなものにもシールドは張られているのか?答えは否だろう。使い捨ての銃にシールドを積む余裕は、流石の横七にも無いはずだ。

 

「敵が撃ったタイミングで撃て」

 

 連合艦隊の集中砲火を浴びながらも尚直進をやめない。

 

「近くで爆発している…」

「ダメか」

 

 砲弾はやはり近くで爆発している。それこそ機体の数メートル範囲で。だが、その数メートルが常に一定だ。目を凝らせば半透明のフィールドがあれを守っていた。

 

「…巡洋艦は敵とぶつかれ」

「なんと?」

「巡洋艦は敵に衝突せよ」

  

 あの機体を倒すには砲弾や銃弾では足りない。防空巡洋艦でフィールドを破り、本体にもダメージを与える質量攻撃以外通用する気がしない。

 

「高電圧砲を開発するべきだったな」

 

 命令に忠実な部下が敵に突撃する様子を見ながら、鷹宮という男が開発した対横七シールドの兵器を思い出す。金と時間の無駄と馬鹿にしたが、あれほど今必要なものはない。

 

「ああ…淀が…」

 

 思わず目を見開いてしまう。

 

 突撃した防空巡洋艦の上部構造物が全てなくなり、甲板が割れていたのだ。

 

「あれでも倒せないのか!!」

 

 敵は爆発する淀をバックにこちらへと進み、比較的前方にいた蒼龍の横をブレードを出しながら通り過ぎる。数秒後、横一文字に切られて爆炎が上がる。

 

「山口に緊急電、至急戦闘海域から離脱しろ!!」

 

 これでこちらは空母を一隻失った。ここでさらに飛龍も失えば、日本にある航空機は全てなくなる。元から数が少なかった試験機を『月光』や艦戦、艦爆に改装したのだ。設計図は改装や未熟な修理工の為飛龍に積んでいる。設計者も同乗しているのだ、もしあれが沈めば大型正規空母…大和型以上の損失になる。

 

「全艦隊は飛龍の前に。あの機体を絶対に沈めるんだ!!」

「長官、加賀も…突撃しますか?」

 

 艦長の質問に思わず止まってしまう。淀を見るにぶつけても意味はないだろう。だが他に手がないのも事実だ。

 

「…突撃しろ」

 

 航空隊が必死に攻撃し進路変更を繰り返している今がチャンスだ。

 

「加賀はこれより敵機に対し〇距離の砲撃を敢行する」

 

 これまでの敗因はフィールドに阻まれたからだろう。砲弾も銃弾も淀も、全てシールドではないものに阻まれていた。

 

 全てのものを弾き、潰す。だがそれに例外もある。銃を使うときだ。敵は銃を使う時、先端がフィールドの外に出ていた。つまり攻撃時は物体を潰すほどの出力は出ないのだろう。

 

「山口に命令。艦爆を横七本島へ向け発艦。敵に銃を抜かせろ」

「機動部隊は既に艦載機を全て放出しています」

「なら一部戻して爆装、飛ばせ!!」

 

 敵と飛龍と本島の位置関係上、もし爆撃隊が上がればそれを追う為態々奥まで来たのに引き返すか撃つしかなくなる。真面な軍人なら撃つだろう。そのときこそが〇距離射撃のチャンスなのだ。

 

「爆撃隊、横七本島へ発艦」

「敵、銃を抜きました!!」

「今だ突っ込めーッ!!」

 

 温められたセブン機関が一気に高まり、風を切って艦を奴の目と鼻の先に出す。

 

 距離は正しく0。砲口と敵の装甲が触れる。

 

「撃てーッ!!」

 

 響く35.6㎝の轟音、放たれる砲弾、貫かれる装甲。

 

 敵は甲板に落ちてくる。

 

「戦闘員はあの機体のパイロットを逮捕しろ!!」

 

 ドタドタと小銃を持った部隊が動きを止めた機体に群がる。

 

「動きがない…ロケットランチャーで炙り出せ」

 

 甲板を見ながら命令する。筒を持った兵士数名が一斉にロケット弾を撃つ。

 

 黒い装甲が剥がれ落ちる。

 

「もう終わりじゃなかったのか」

 

 黒の装甲が剥がれ落ち、中から赤に塗装された人型兵器が出てくる。

 

「に、逃げないと」

「よせ艦長…」

 

 間に合うものか

 

 そう言う間もなく、奴は腕を艦橋にぶち込んだ。

—― 

「司令長官はどうなった!?」

「空母二隻が沈み、航空隊が混乱している?」

「中枢艦隊が全滅し上陸が中止になったと」

「静かにしろ!!」

 

 謎の横七機が連合艦隊に突撃し戦闘になったことで戦闘に参加していない上陸舟艇の準備をしているこちらも混乱している。

 

 双眼鏡を覗いて連合艦隊の様子を見るが、あちこちで煙が上がっている。ついさっき大きな爆発があったから戦艦がやられたのだろう。

 

「…撤収する」

「艦長!?」

「連合艦隊が敗れた今、旧式の改インディペンデンス級は危険だ。その為一度この海域を離れ上陸した部隊から回収要請があるまで待機する」

 

 防空巡洋艦や加賀を中心とした連合艦隊や機動部隊でダメだったなら、さらに旧式のこの艦で勝てる可能性はない。

 

「面舵一杯、面舵170°」

 

 尻尾を巻いて逃げるようでカッコ悪いが、それしか出来ないのも事実だった。



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男の向かう場所

なぜ投稿が、遅れたのだ、答えよ!!


ワターシ、ニホンゴ、アマリワカラナーイヨ☆

バーン!!(台パン)

艦これのイベントが…忙しかった(震え声)


 後ろから扉を壊して突進する音が聞こえる。初めの内は驚いて振り向いてしまったが、今はもう慣れた。

 

「緊急防衛時用爆薬!!」

 

 先程から幾度となく見てきたこの文字が書かれた天井。

 

 一度通り過ぎて振り返り、自分と爆薬とタイラントの位置を確認する。近ければ逃げ、遠すぎればある程度は近付く。

 

 タイラントが爆薬天井の少し前を通る。自分は爆風に巻き込まれない位置にいる。

 

「地獄に堕ちろ、ベイビー」

 

 ハンドガンを何度か撃つ。爆薬が誘爆し、瓦礫がタイラントを潰す。

 

 瓦礫が動くのを確認してまた走り出す。

 

 火力が圧倒的に足りない。スパルタンのショットガンでも爆薬でも途中にある使い捨て武器でも倒せない。

 

「確かスパルタンからメモを貰ったはず」

 

 作戦開始前にスパルタンから地下の概要を書いたメモを貰っていた。

 

 探す物は高火力の武器。それもランチャーやグレネードのような爆発物ではなく、貫通力の高い連射武器。

 

「あるとすれば…」

 

 研究開発フロア。

 

 タイラントがスパルタンの言う通りロイの体の候補だったなら、専用の武器も同時に作られただろう。身体能力は強いが遠距離攻撃能力を奴は保持していない。きっとあるはず。

 

 階段を上り下りし、目的のフロアに着く。

 

「生物兵器研究室!!」

 

 奴の生まれ故郷とでも言うべき場所に入る。

 

 中は様々な培養液の入ったカプセルが並んでいて、本能的に気持ち悪さを感じた。

 

 扉を破壊する音が聞こえる。長い距離を走っても奴と距離はあまり開かなかった。

 

 入ってきた扉とは違う方向の窓を割って廊下に出る。部屋名を流し見しつつ目的の部屋を探す。

 

 粉塵治癒、強化義肢、強化脊椎…細胞分解兵器。

 

「ここだ!!」

 

 中に入ったら直ぐにバリケードを作る。ロッカーを倒しただけだがそれでも無いよりはマシだ。そして機材の電源を入れる為、スイッチを探す。

 

「…なにも起きない?」

 

 スイッチを三回切り替えるが、機材に変化はない。

 

「メインジェネレーターが停止しているからか!?」

 

 非常電源をあるか分からないが探す。棚の後ろなども探すが見当たらない。

 

 扉に突進する音が聞こえる。回数が増すごとに扉は歪むが、ロッカーがつっかえ棒のように扉が吹き飛ぶのを防いでいた。

 

「チッ…やるしかないのか」

 

 この部屋はかなり奥にあり、扉は一つしかない。試し撃ちの為の部屋もあるのでかなり広いのが幸いだが、逃げる手段がない。

 

 ショットガン…栄光の炎に弾を込めながら扉から離れる。

 

 機材のスイッチはいつ電源が復旧してもいいようつけたままだ。

 

「グオガヴァー!!」

 

 タイラントが叫びながら漸く扉を破壊して部屋に侵入する。

 

「くらえ!!」

 

 

 無駄とは分かっているが、それでも撃つのをやめない。血が出るが殺せない。しかしダウンさせることはできる。

 

「グガア!!」

 

 これ以上はまずいと思ったのか、破壊した扉の残骸を盾のように構え銃弾を防いでいる。見ればあの黒い防弾仕様のコートは焦げて無くなっていた。

 

 コートの下に隠されていたのは人体模型でみる筋肉と腐敗したかのような青白い筋肉だった。

 

「なんて…醜い…体なんだ」

 

 撃つことで足は止めれているが、傷は即座に治されている。爆発に巻き込まれても無事なのはこの異常な再生能力のおかげだろう。

 

 比較的広い室内で逃げ回っていると、照明が非常灯から普通の明るい物に切り替わったことに気付く。メインジェネレーターが再稼働した、つまり細胞分解兵器が使える。

 

 機材のところに走っていくと、一丁の銃があった。

 

「これが…細胞分解兵器…」

 

 手に取り、急いで奴に構える。奴は突進の姿勢でまさに第一歩を踏み出そうとしていた。

 

「くらえ、細胞分解銃…フルチャージだ!!」

 

 放たれたのはDNAのような螺旋状のもので、奴に当たると体が弾け飛ぶ。

 

「ざまあみろってやつだ」

 

 細胞分解銃…チャージの関係で二度と使うことはないそれを床に投げ、部屋を後にしようとする。その時、なにかが這いずる音が聞こえた。

 

 奴を見ると、体はペースト状になっており、原形を留めていない。それに加え頭にあるコンピュータも破損している。しかし動いていた。ペースト状になっても、着実に俺の方に近付いていた。

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

 取り込まれる 

 

 そう感じた俺は栄光の炎は勿論弾切れを起こしかけていたハンドガンや道中で拾ったグレネード、挙句はサバイバルナイフも奴に向け使用した。

 

 だが、奴は止まるそぶりを見せず、俺を取り込もうと流れを強める。

 

 

 

 ガタンッ

 

 通気口から誰かが降りてくる。

 

「偽物はさっさと消えちまえばいいんだよ!!」

 

 赤く光りながら、ONIと書かれたチェーンガンを奴に撃つ。それでも止まらないと察したのか、チェーンガンを投げ捨て、青く光りながらトンカチを振りかざす。

 

 衝撃波が連鎖的に広がったように感じた。

 

 奴は四方に散り、蒸発していく。

 

 しかし最後の抵抗と言わんばかりにスパルタンを取り囲み、そのアーマーを溶かす。

 

「神経ユニット損傷!?ならば…」

 

 オレンジの光を放つ独特な形状の手榴弾を真下に投げる。するとそれは爆発し、オレンジ色の照明のようなものを残す。スパルタンはそれに苦しそうに当たり、体の一部を塵にしていく。

 

「大丈夫か!?」

 

 急いで駆け寄る。タイラントの残骸は塵になったり蒸発したりしてもう残っていないが、アーマーは溶け、一部スパルタンの溶けた体が見えてしまっている。

 

「ああ、特に問題はない…この程度、直ぐに治る」

 

 ピッピッピッと警告音のようなものが小さくなった後、スパルタンの体が黄色にひかり、無事だった部分のアーマーが修復される。

 

「スパルタンは治癒能力が高い。確かにダメージは大きいが、まだ戦える」

 

 そう言って立とうとするが、すぐにふらつき、倒れる。

 

「くそ、神経ユニットがダメになったからか、まともに動かせん」

「落ち着け、俺がお前の代わりに彼女達を守る」

 

 スパルタンは動きを止め、俺の瞳を見てくる。まるで心を見ているようだ。

 

「…これを」

 

 スパルタンは背負っていた謎の武器を渡してくる。

 

「スパルタンレーザー…最高のレーザー兵器です。チャージ後発射。どれくらいチャージされているのかはここで見る」

 

 手つきは遅いが、それでもしっかりと教えてくれる。一通り説明し終わったら、今度は栄光の炎やハンドガンの弾をくれた。

 

「ミサイルが顔を出した。あなたはこのミサイルサイロの近くにある発射指揮塔に行かなければならない」

 

 手を触れられ、握られる。すると不思議なことにこの島の地図と行くべき場所、ルートがまるで家の間取りのように頭に入ってくる。

 

「ミサイルの発射はロイが決める。急いでくれ…頼む」

 

 そう言うと手を離し、傷の手当てを始めた。

 

 扉の無くなった入口から出て、ワームホール部屋に走る。メインジェネレーターが再稼働したおかげで照明の他にワームホールも使えるようになった。

 

「目的地、ミサイル発射指揮塔」

 

 ぐわんと視界が歪み、俺は行くべき場所へ跳ぶ。



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終結

メリークリスマス!!サンタさんから皆にプレゼントだよ!!

え?一日遅れ?








HappyNewYear!!(やけくそ


「ダメだ、ミサイル関連のプロテクトが突破できない!!」

「もう一度やってみるんだ」

「何度やったって無駄だ、ミサイル関連のところに発射に関するプログラムがされた痕跡がない。ここじゃ止めれない!!」

 

 本島の全域を管理するコンピュータにハッキングをしている男の悲鳴のような報告が聞こえる。

 

「…艦長」

「うん…」

 

 ジョニーさんの報告が本当なら、これ以上この場所に留まる意味はない。ディロンさんに近付き、意見具申をする。

 

「ここに留まっても何も得られません。危険を冒してでも進むべきです」

「分かっている。だがタイラントの件もあるし、何処に進めばいいのか…」

「ちょっと待っててくれ。施設関連は分かっている。ミサイルに関係があるとするなら…ここだ」

 

 モニターに全体像が映し出され、徐々に拡大されていく。そしてとある建物を色で強調して動きは止まる。別のモニターにはその建物の詳細が並べられる。

 

「ここはミサイル発射指揮塔、どうやらミサイルサイロの開放や発射を行える。俺はここに残ってハッキングを続けるが、行くならここだ」

 

 経路が表示され、電子ロックやタレットシステムが解除されたと出る。

 

「メインジェネレーターが再稼働してワームホールが使えるようになった。誘導灯も点けておくから迷わない。タレットも止めたから安全だ。ほら、行けよ」

 

 投げやりな感じだが僅かな時間でそれ程のハッキングを行ったジョニーさんは優しい人であることは間違いないのだろう。

 

「ありがとうございます。ディロンさん、護衛願います」

「了解した、ジョニー…死ぬんじゃねえぞ」

「師匠様にそんなことを言うな。メグにまだ30万ドルの借りがあるからどのみち死ねないぜ」

「そうか…」

 

 振り向き扉に向うディロンさんが僅かに微笑む。扉が開かれ、走る。タイラントが暴れていたのか扉や壁が所々破壊されている。

 

 瓦礫や破片でケガをしないよう気を付けながらワームホール部屋に行く。

 

「ミサイル発射指揮塔」

 

 行き先を告げる。変化は特に感じなかったがプレートが司令フロアと違うため着いたことに気付く。

 

階段を駆け上がり扉を開ける。中からは外の景色が一望でき、ミサイルが地下格納庫から顔を出していた。

 

 水を踏み、足元を見ればそれは血だった。鷹宮隊全員が倒れており、鷹宮大佐のみが辛うじて息をしていた。

 

 そして様々なコンピュータをバックにこちらを見ているのは、兄と慕っていた人物だった。

 

「二着はお前らか…教えてくれよ、こっからじゃ監視カメラが妨害されて見えねえんだ。スパルタンは今どこにいる?」

 

 椅子から立ち上がりこちらに歩いてくる。手を伸ばしたその時、銃声が響き伸ばしかけた手を戻す。

 

「ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ、貴様を緊急逮捕する。おとなしくしろ」

 

 ダッチさんだった。背中には見慣れない武器を背負っており、銃も来た時とは違う銀色のロングマガジンの銃だった。

 

「三等賞か…ディロン、大佐を担いで外に出ろ」

「分かっていると思うがダッチ…あいつは」

「分かっている。だが負傷者は助けなければならないだろ」

 

 ディロンさんは頷き、鷹宮大佐を担ぐと扉の外へ運び出す。裕兄に対抗できる火器を持っていない私も外に出ようとした時、シロちゃんが言う。

 

「どうして…どうして世界を滅ぼすんですか!!」

 

 涙を流しながら叫ぶ。

 

「あなたは世界を救ってくれた。多くの人の命を救った。世界があなたに感謝している、なのになぜ」

「そこのお前、うるさい」

 

 シロちゃんが裕兄に恋していたことは知っている。それはきっと今も変わっていないのだろう。私と同じように。

 

 だけどその片思いの叫びは、あっさりと潰されてしまった。

 

「誰だか知らないが…死ね」

 

 腹部から発砲音が聞こえた。風を切る銃弾がシロちゃんに届こうとした時、195㎝の巨体が間に割って入る。

 

 銃弾でうめくも咄嗟にさっきまで背負っていた武器をランチャーを構えるように持ち、赤い線が裕兄に照射される。

 

「くたばれ!!」

 

 赤い線が一気に太くなり、裕兄を照らす。

 

「スパルタンレーザーか!?」

 

 転がって避けようとするも、ダッチさんは逃がさず当てる。

 

 当てる…当たった…筈だった。

 

「なぜ当たっていない!?」

 

 左胸を直撃したはずの光線だったが、改めて見ても穴はあいておらず、苦しい表情もしていない。

 

「危なかった…」

 

 裕兄も当たった筈の左胸を触っている。だがすぐに姿勢を正し、再び腹部から銃声が響く。

 

「ぐわっ!!」

 

 ダッチさんが撃たれる。腕を重点的に撃たれ、銃を構えることすら難しくなる。

 

「邪魔者は、失せろ!!」

 

 マガジンを何の動作もしていないのに交換している音が聞こえる。

 

 ダッチさんの銃を構えようと拾ったとき、扉が荒く蹴破られ小銃が連射される。

 

「ダァッチ!!」

 

 ディロンさんが撃ち続けているが裕兄は怯まない。そこに新たな人が現れる。

 

「突入する」

 

 スパルタンが青い銀色に輝きながら入ってくる。

 

「スパルタン!!待っていたぞ!!」

「いいや、ずっと待っていたのはこっちだ」

 

 構えていたランチャーを撃つ。噴進音は着弾してから聞こえた。

 

「スパンカープライムだったか、まだこの島にそんなものがあったとは…だが、その体ではな」

 

 スパルタンは確かに立っていた。だがそれは辛うじてのものに過ぎなかった。

 

「神経ユニットは停止、各部アーマーも修復不可なまでに剥がれ、四肢も大きく損傷している…それが最大の戦力とはな」

「…」

 

 無言で空になったロケットの弾倉を捨て、リロードをし、再び狙う。

 

「無駄だ!!スパルタンレーザーもこの体には無意味!!」

「その体のマジックの種は既に割れている」

 

 ランチャーを裕兄の足元に向け、発射する。すると裕兄は慌てて跳び、走り回りながら逃げる。リロードのタイミングになると、また腹部から発砲音がし、スパルタンが負傷する。

 

 先程よりも動きが速くなり、直撃弾どころか至近弾も出なくなった。

 

「グゥッ!!」

「スパルタン!!」

 

 ダッチさんを部屋の外に運び終えたディロンさんが、倒れたスパルタンに近寄ろうとする。しかし裕兄は進行方向に銃弾をばらまき、救出を許さない。

 

「ここで終わりだな、スパルタン」

 

 醜い笑みを浮かべ近付く。スパルタンはヘルメットを外し、ハンドガンで応戦しようとするが肩を叩きつけられ落としてしまう。

 

「奴は何処だ」

 

 裕兄がスパルタンに問う。

 

「ここにいる」

 

 スパルタンは答える。

 

 しかしそれに腹を立てたのか、首を絞めてスパルタンを殺す。

 

「くそ、くそ、くそ!!」

 

 ディロンさんはこれ以上は拙いと思ったのか退く。私達もそれに続こうと思ったが、扉が電子ロックされる。

 

「なんでこんな時に!!」

「艦長、ロイ兄さんが、ロイ兄さんが二人います!?」

 

 艦長に背中を叩かれ振り向いてみると、そこには巨大なタンクに入った裕兄がいた。体の各所が欠損しており、死体ではないかと思ってしまう。だがその眼はぎょろぎょろと動き、私達を懐かしむ目で見つめる。

 

「そこにいたのか!!」

 

 先程から戦っていた裕兄はタンクに近付き、叩く。だが頑丈なそれはへこむことすらしない。

 

「待っていた。お前が横七を離れたあの日から、ここで待っていた」

 

 スピーカーから声がする。

 

 タンクに入っていた培養液が排出され、ロックも解除される。

 

「ここは私の庭だ」

 

 服は着ているものの、欠損している腕や足の部分が割れた窓から入ってくる風に吹かれて靡く。

 

「もうお前に未来はない」

「やられてたまるか!!」

 

 万全の状態の人間と四肢が欠損している人間か怪しい存在。ある意味対等と思えたその戦いは、技術や経験の差といったものであっさりと終わった。

 

「これで終わりだ」

 

 残された腕でタンクに入っていた裕兄は入っていなかった方の裕兄の股下を貫く。

 

 鮮血が辺りを染める。

 

「グハッ、分かっていたのか…」

「勿論、初めから分かっていたさ」

 

 倒れた裕兄の体が揺れ、砂嵐になる直前のテレビの画面のように本来の姿が保てなくなる。

 

「はあっ、はあっ、脊椎を抜きやがったな」

 

 そこにいたのは、横須賀の海で殺されたバーナード・マッケンだった。

 

「こいつはホログラムで私に化け、声帯も機械で調整した」

 

 腹部に大穴が開いて倒れているマッケン君の首にはチョーカーのようなものがあり、それは赤く点滅している。胸部には天球のようなものがあるが、割れてしまっている。これらがそれなのだろう。

 

「ミサイルに搭載されているのは核ではなく、細菌だ。それも感染力、殺傷力、繫殖力がとても強く、対抗できるものがない。もし広まれば動植物は死絶える…この島を除いて」

 

 外のミサイルにまだ火は点いてない。マッケン君が何を考えていたかは分からないが、裕兄は少なくとも発射しないだろう。

 

「本来、あれはミサイルではなく火星行きのロケットで積み荷を運ぶためのものだった。だがそれをこいつは姿はホログラムで、声はボイスチェンジャーと生体検査を突破し細菌を積んだミサイルに変更した」

「待ってください、生体検査には指紋や血液検査もあります。それらはとても突破できるとは」

「できる。こいつにならな」

 

 虫の息のマッケン君に近付き、屈む。

 

「こいつはもう一人の俺だ…正しく言えば、この世界線のロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ」

 

 マッケン君の銀髪を横に払い、顔を見えやすくする。

 

 その顔は裕兄を幼くした感じだった。

 

「加古を探した長い年月の中、俺はあることに興味を抱いた。知名裕一として生まれたからにはこの世界にもロイ・ヴィッフェ・ヒドルフがいるはずだ、ってね。そして探したところ、マッケン家にいた。親戚は俺のときもそうだったが全員死んでるし家族は数年前に海賊が家のある住宅街を数度に渡り砲撃したことで死んだ。その日は丁度誕生日で遠いところにいる友達の家から帰る途中で幸運にも無事だった。そして孤児院で暮らし、引き取り先が出てきてそこで生きていた。だがその引き取り先も問題があって、家庭内暴力…子供への虐待がひどく、家から飛び出したときに保護した。それからはこの島で訓練をさせ、知識を授け、ドイツに送った。横七の諜報員兼世界をよくする為の一人として」

 

 だが、と続ける。

 

「こいつは抜け出した。完成したばかりの強化脊椎と航空技術のデータを持って。アフリカ、ソマリアのBM基地へ」

 

 立ち上がり、タンクに繋がっているコンピュータを弄りだす。

 

「共犯者は海賊。それもだいたい20年位前にインディペンデンス級をアメリカの技術試験隊の依頼で強奪した連中。それらと共謀しソマリアに長いこと潜んでいた。発見できたのは火星行きのロケットを発射する旨の暗号を世界に発信した時、部下がいないはずのソマリアで受信を確認したことからだった。おそらく世界を滅茶苦茶にしてやりたかったが手段がなかったんだろう。強化脊椎で俺や火星で開拓作業をしているスパルタンを除けば最強になり、横七の航空技術を手に入れても。生産すれば忽ち横七に見つかって御陀仏。だからロケット発射に釣られた」

 

 3Dホログラムのロケットとミサイルをこちらに飛ばしてくる。

 

「外見上特に大きな変化がないからエラーが出てもバージョン違いで騙せれる。積荷も直前に変更があったで押し通せる。だが発射だけは、俺とジョニー…横七のNo1とNo2のみ知っているコードを入力する必要があった。ジョニーのコードは既に入力されていたが、俺の方はまだだった…今しちゃうけどね」

 

「ロケット発射シーケンスに入ります。ロケット発射シーケンスに入ります」

「安心しな、地下司令部に残った我がジョニーが積み荷を換えてる」

 

 ロケットは真っ直ぐな軌道を描いて空に消えていく。これからおそらく火星に行くのだろう。

 

「かくして、バーナード・マッケンの計画は総崩れし、ただ共犯者を減らしただけでした。おしま…これ返してもらうね」

 

 盲腸あたりを拳で貫く。手の中にはチップが入っていた。

 

「じゃ、みんな帰りな。横須賀直行のワームホール出しとくから」

 

 指を鳴らすとワームホールが現れる。不思議なことに、体がこの出口は横須賀だと言っていた。

 

「待ってください、あなたは一体なにがしたかったんですか」

 

 シロちゃんが近づき、襟元を掴む。

 

「この八年間、あなたはみんなの前に姿を出さず、なにをやっていたんですか!!私は兎も角、知名もえかさんにも一度も会ってないそうじゃないですか。どうしてです、答えてください…答えろ!!」

 

 ついには掴み上げてしまい、裕兄は宙に浮いてしまう。

 

「シロちゃん!!」

「シロ坊…でかく、なったな」

 

 頭を撫でる。

 

 決して強くなく、かといって弱くもなく。大切なものを触るように撫でる。

 

「よく見てくれ、俺、結構背縮んだだろ?」

「ッ!!」

 

 シロちゃんが咄嗟に手を離す。確かに裕兄は縮んでいた。それもシロちゃんよりも小さい。

 

「8年前、教壇で倒れここに担ぎ込まれ手術や血液透析をしたが、完治は結局しなかった。そこで俺はタイラントや皆と一緒にここに来たスパルタンのような新たな体を作らせた…作らせてなんだが、使いはしなかったがな。もうあの培養液の中じゃないと長いこと生きれないんだ。情けないだろ?まるで水族館の魚だぜ」

 

 少し肩を震わせる。

 

「ホントはみんなと一緒にいたかった。もかの結婚式も見たかった。ミケのやる奇想天外な作戦をやられたかった。シロ坊の不幸な理由を探りたかった…だができない!!」

 

 大粒の涙を流し、叫ぶように言う。

 

「長いこと耐えたが、結局毒に勝てなかった!!皆と一緒にいる資格はなかった!!余所者がいることは許されなかったんだ!!」

 

 ワームホールが大きくなる。

 

「これ以上カッコ悪い所は見せれない…じゃあな」

 

 シロちゃんをワームホールの方へ突き飛ばす。待って、そう叫ぼうとしたが、迫りくるワームホールに呑み込まれ、横須賀の町…第二次深海戦争の慰霊碑のある丘に飛ばされた。

—―

「泣いちまったな、結局」

 

 全身に走る激痛に耐えながら、マッケンの傍に行く。

 

「如何して裏切っちまったんだ、この馬鹿野郎」

 

 肩を叩く。既にその体は冷たく二度と息を吹き返すことはないだろう。

 

「ジョニー、後は任せたぞ」

 

 力が抜ける。ジョニーにはことが済んだらこの島を太陽の近くにワープさせるよう命令させていた。

 

「あぁ、終わりかぁ」

 

 前回は糸が切れるようにプツンと逝ったからそう感じなかったが、寒い。

 

「怖い、怖いよ。加古、お前何処に行ったんだよ」

 

 迫りくる死に対し錯乱状態になっていると、電子ロックが掛かっている筈の扉が開く。

 

 そこに立っていたのは、眠り過ぎて眠気など消し飛んだ顔の、へそ出しセーラー服を着たややボーイッシュな娘だった。



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解読されたテープ

新年明けましておめでとうございます。

本作もあと一、二本となりました。

後わずかではありますが、今後ともよろしくお願いいたします。





え?一日遅い?


 ――――この記録はバーナード・マッケン殺害計画に関するものである。

 

 離反したマッケンを殺害する為、ソマリアBM基地を爆破。マッケンの殺害には失敗したものの現地に潜む協力者を抹殺することに成功する。この際使用した爆弾は一つ。救助活動を阻止する為世界全体に通信妨害電波を発信。作戦参加者はアメリカ籍の艦艇で退避した。

 

 マッケンはその後日本籍の艦艇で逃走。その為ワームホールを用いて部隊を派遣。強化脊椎除去手術の為南極基地に移送。しかし駆け付けた仲間の海賊により脱出、高速艇で離脱する。

 

 この段階で横七のみの対応は本隊が火星にいる関係上不可と判断、偽の核ミサイル発射計画で日米の関心を惹く。

 

 また、同時進行で深海棲艦の遺物である深海鋼鉄の回収も行う。内容としては深海鋼鉄を提供されたアメリカの民間銃器会社をテロリストに扮し襲撃、占領。深海鋼鉄の確保と設計図や資料、関連した品々の回収を行う。またアベルや深海棲艦と接触した者、開発に関係した者も抹殺する為、自宅に潜伏。帰宅したところを、刺殺。また社長は情報収集も兼ねて日本に呼び寄せ、横七傘下のビルにて殺害。

 

 マッケンが横七本島に侵入したことを察知。協力者に部隊の派遣を命じる。尚、提督の意向で知名もえか、岬明乃、宗谷真白の参加が決定されたが北極海底要塞の調査活動に参加していた知名もえかは不参加。護衛として最新式のアーマーを装備した精鋭スパルタンを一名横須賀に派遣。

 

 他参加者

 

 鷹宮龍介陸軍大佐 陸軍が国防の為の最低限度に達していない為、一般人に扮した海兵隊員を陸軍に入隊させることで同意。シールド技術の普及した時代に備える為兵器開発をしたことで政府関係者と関係悪化。既婚者。子供が二人いる。作戦完了後少将に昇進すると辞職し『最低限の力を軍に』をスローガンに掲げ政治家になる。軍の現状を理解した人々が票を入れ無所属ながら当選。

 

 新島孝也陸軍中尉 鷹宮龍介の推薦で参加。マッケンに殺害される。

 

 島崎晴雄陸軍軍曹 鷹宮龍介の推薦で参加。マッケンに殺害される。

 

 ジェントルマン・ジョニー ジョニー副司令が変装し参加。基地内の情報の消去と部隊が辿り着くよう支援する。

 

 ジョージ・ディロン 元アメリカ陸軍特殊部隊所属 現職のCIA 横七を調査しており、独自の調査で横七と接触を図り一員となることを希望。その為アメリカでの横七調査活動の妨害若しくは成果の偽造を命令、見事こなす。余談ではあるがジョニーに対しかつて協力して仕事をしたような振る舞いをしていたが全て彼が考えたことである。銃火器は提供。

 

 アラン・ダッチ・シェイファー アメリカ陸軍特殊部隊大佐 麻薬カルテルや武器商人、海賊などの非合法組織を幾度となく亡き者にした特殊部隊隊長。優れた身体能力やサバイバル能力を持ち、単独で敵地に侵入・潜伏し、要人の殺害や麻薬の焼却を行う。戦闘能力が精鋭スパルタン並であり、ジョージ・ディロンの知り合いのため選出。横七と関係はなく、作戦完了後ジョージ・ディロンが伝えたことで全てがバーナード・マッケンを殺害する為のものだったと知る。

 

 その他の協力者として国土保全委員会及び海上安全整備局の大半。宗谷真冬艦長始め連合艦隊の日本艦の艦長、空母機動部隊司令長官。巡洋艦「桜」水雷長、龍驤。機関長、ラー・シン・バーン。

 

 ウルセブ艦技研を代表する横七関連組織は機体名ブラックサレナを用い襲撃を装った火災や爆発で消去。

 

 横七本島も再度海底に没した後に太陽へ移動、観測艦隊より蒸発したとの報告。

 

 これをもってマッケン殺害計画は完了した。

 

 尚、バーナード・マッケンは新生ドイツの海軍元帥として反乱に参加する予定であり、新生ドイツの蜂起とEUとの大戦争は横七の管轄ではない。

—―

「…これが、南極で回収したカセットテープの内容」

「はい。何も記録されていないようで裏コードや修復をするとこれらの音声が流れました」

 

 再生機器の前で座りながら、横七が唯一残した作戦記録を聞く。

 

「ですが、なぜ今の事を。回収されたときにはまだ何も終わっていませんでした」

 

 さっきも言ったように、このカセットテープを拾ったのは南極の地下基地。計画のことは記録されていても結果は記録されていないはずだ。何せあの時は横須賀襲撃でてんやわんやしていたのだから。

 

 すると技術者は少し間を置き言う。

 

「更新されたんです。回収された当初は本当にただの雑音だけでしたが、横七が消えてから急に雑音のバリエーションが増えたんです」

「それを弄くり回したらできたと」

 

 テープを取り出して外見などを見る。南極で報告を受けた時に見たのとあまり変わっていなかった。唯一変わっていたのは、解析中に付けたタイトルだろうか、『一人で聞くもの』と書いてあった。

 

「すみませんがなんですこのタイトル?」

「ああ。それはあまりにも雑音が酷すぎて他の作業している人の集中を邪魔するから、そう付けられました」

 

 時計がピアノの音を奏で、正午になったことを告げる。

 

「すみません、私もう行きます」

 

 技術者は頭を下げながら部屋を出て行った。

 

 私もご飯を食べる為、テープを機材に戻す。そして部屋を出ようとするが今度は先程と違う言葉が言われる。

 

「待て、シロ坊」

 

 振り返り、音の主を探すとテレビが点いていた。ビデオ電話のような感じで相手は黒い椅子に座っていた。

 

「…ロイ兄さん!!」

「よお」

 

 同僚に休日バッタリ会ったみたいに、右手をすこし挙げて答える。

 

「私、てっきり死んだとばかり…」

 

 あの日、横七本島で裕兄と再会した。だがその姿は面影は残しているものの大きく変わり、身長もかなり縮んでいた。筋肉もほとんどなく、掴んだときはまるで骨と皮だけだと思ったほどだ。

 

 だが、今テレビに映っているのは紛れもなく昔そっくりの健康なロイ兄さんだ。

 

「いやー、実はあの後死んでね。けど色々あって生きてるよ」

「い、色々?」

「そうだな。まず、本当なら俺はあの後太陽によって蒸発させられるはずだったが、運ばれて海洋医大の特別室で記憶や意識、思考や思想といったあらゆる脳のデータをバンクに移された。体はそこで死に、部下が回収した。後はスパルタンや海兵隊といった人造人間の生産技術からこの体を作成。AIにバンクで保管されてた俺のデータを移せば復活というわけだ」

 

 そう言うと左手でピースサインをする。あのときは完全な機械だったが、見る限り今は本物の手だ。

 

「あとそうそう、皆に紹介したい人がいるんだ。明日そっち行くから、ミサともえかに伝えといて。それと、テープはこの会話が終わったら自動で中身がリセットされる。コピーは録られたはずだ。じゃあな」

「ちょ、ちょっ…」

 

 私の静止を聞かず、テレビはプツンと音をたて、黒い液晶画面に戻る。

 

 この時間で私は完全に昼休憩の時間を失ったが、決して不幸だなどとは言わない。なぜなら死んだと思っていた、想い人に会えたからだ。

—―

「それでシロちゃん、どうして急に第二次深海戦争の慰霊碑に行こうって言ったの?」

 

 長いあまり整備されていない階段を上りながら、昨日の夜突然来たお誘いについて質問する。

 

「あ、あまり行けてないなって…」

「そうかもですね。私自身、あの日以来行くのは多分初めてです」

 

 もかちゃんにはロイが知名裕一であることは伝えてない。仮に伝えたとしても、きっと余計に傷つけてしまうだけだ。そんなRATsに巻き込まれただけの人は、慰霊碑が作られたときしか行かなかっただろう。

 

 かく言う私も、年に一回行くぐらいだった。

 

 長い階段を上り、石碑が見える場所に着いたとき、カップルと見られる男女が石碑の前で立ち話をしていた。

 

「それでな、あいつったら…」

 

 男は私たちに気付いたのか、話をやめ、こちらに振り向く。

 

「不幸だ…」

 

 シロちゃんがそう言いながら涙を流す。私も同じように、涙を流してしまう。

 

「どうしたのミケちゃん、ましろさん!?」

 

 もかちゃんは私たちが泣いて立ち止まったことに驚き、肩を揺らして質問してくる。

 

 その間に二人はこちらに近付き、足を止める。

 

「久しぶりだね、皆」

 

 白い提督服を着た、銀髪の青年は、幼少期の頃と変わらない口振りで話しかける。

 

「え…兄…さん…?」

 

 面影を雰囲気で感じたのか、もかちゃんも自然と涙を流し始める。

 

「ただいま、もか」

 

 そう言うと裕兄はもかちゃんを抱きしめる。

 

「おかえり、兄さん」



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正史のまとめ
ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフについて、現在分かること


実質的な最終回ということもあり、第三者視点のまとめ回です。

イメージはYouTubeにあるゆっくり解説で霊夢と魔理沙のコンビのものだと思ってください。

注意 今回は解説動画をイメージして作ったため、台本形式です。


 以下、WEKEPEDIAより出典

 

 ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ 

 

 出身地 不明

 

 年齢 不明

 

 国籍 横七(日本)

 

 職業 横須賀第七鎮守府提督 横須賀女子海洋学校非常勤講師 担当 艦隊戦

 

 最終階級 大佐

 

 備考 元BM ナナヨコ隊長(蜂起宣言以降タイムカードは切られていない)

    ドイツ軍より最高位の称号『マスター』と黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与される

—―

「これが今回解説するロイ・ヴィッフェ・ヒドルフの概要だぜ」

「ふーん、ちなみにこの(日本)とか備考の部分って?」

「それについては後ほど解説」

—―

 20XX年の第二次深海戦争において、武装組織『横須賀第七鎮守府』を率いアベル率いる『新深海棲艦』を撃破。

—―

「この時代を生きた人なら誰でも知ってる話だよな」

「第二次深海戦争って、私そのとき内陸の方にいたから分かんなかったんだけど、どんなの?そもそも深海棲艦って?」

「そうか、では第二次深海戦争や深海棲艦について同じくWEKEPEDIAより引用」

—―

 第二次深海戦争

 

 20XX年開戦の全世界中を巻き込んだ戦争。この戦いでは主に横七と新深海棲艦が全ての海洋で戦った。

 

 海洋国や沿岸部では深海棲艦による被害が相次ぎ、輸送船団が襲撃されたことで全世界に経済的、物質的に大きな被害を与えた。

 

 また、生物兵器や人造人間、ガスを使わない空を飛ぶもの(航空機)が使用された。

 

 この戦争には米海軍を筆頭に各国が艦隊を派遣するも悉く全滅。横七のハワイ沖掃討戦にて実質的な終戦。

 

 日本はBM主導のパーシアス作戦を発動。海洋実習に参加した学生艦の救出活動を行う。

 

 尚、詳細な開戦時期については様々な説があり、イオンモール四国店にて深海棲艦がロイに対し宣戦を布告したときやロイの横七蜂起宣言のときなどがある。

 

 また、深海戦争は今回が初であるのに関わらず『第二次』とあるのは、ロイが元いた世界にて既に行われており、今回の首謀者であるアベルが第一次も原因であることと、横七との意識共有の為である。

—―

「続けて深海棲艦について引用」

—―

 深海棲艦

 

 第二次深海戦争にて発見された生物。あらゆる攻撃が通用せず、世界各地の沿岸部を襲い、死者や重傷者を出す。また輸送船団を襲撃し経済などに深刻な影響を与える。

 

 中略

 

 第二次横須賀海戦にて大敗し大多数の艦艇と首領アベルやその他指揮者を失い統率が取れなくなる。その後ハワイBM本部を襲撃するも直後に横七に殲滅される。その後各地で残党の掃討戦が行われ、現在生き残っている深海棲艦は横七所属の二名だけである。

—―

「以上だぜ」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

「どうしたんだぜ」

「あらゆる攻撃が通用しない生物が世界中で大暴れして滅亡!?」

「そうだぜ」

 

「よくそんなんで人類生き残れたわね」

「そうだぜ。そして生き残れている理由が今回解説するロイ・ヴィッフェ・ヒドルフなんだぜ。再度引用」

—―

 20XX年 BM哨戒艦隊が発見。その後横須賀基地に連行され宗谷真雪の勧めでBMになる。その後特別戦隊ナナヨコを結成。主任務は海賊の殲滅や非合法組織の調査・解体などの危険かつ銃撃戦に発展するもの(9割弱で銃撃戦が発生)。

 

 その後ドイツからの要請で演習に参加。参加したドイツBMやイギリスBM艦艇全てを撃沈し、称号と勲章を授与される。

 

 その年から横須賀女子海洋学校に実習の助っ人として勤務。

—―

「普通だぜ」

「おっそうだな(錯乱)」

「称号であるマスターだが調べたところ受勲者はオットー・フォン・ビスマルクやアドルフ・ヒトラーといった中学校の教科書で一度は見る御人なんだぜ。そして勲章に至っては初」

「初?そもそもその勲章って何なの?」

「創設された当時はドイツの、現在は世界の安定化に著しい貢献をした人物に送られるものだぜ」

「でもまだ横七といった単語は見られないわね」

「アナグラムをしたナナヨコならあるけどな。取り敢えず続けて引用」

—―

 演習から帰国時、飛行船から飛び降りて親しく上司であった宗谷邸を訪問。飛行船船長(当時の整備士)の回顧録では「入国手続きは終わっているしマスコミ対応が怠い」と言っていた。

 

 その後の横須賀女子海洋学校入学式では挨拶後に潜水艦に飛び乗り途中退席。以降足取りが掴めず、横七本部のある横七本島に行ったと思われる。

—―

「出たわね横七」

「そんな横七について、同じくWEKEPEDIAから引用」

—―

 横須賀第七鎮守府 通称横七

 

 創立年 不明

 

 所在地 横七本島

 

 ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ率いる武装集団、国家。人造人間や航空機、ワームホールといった超技術を持ち、それらを活かした治安維持、医療貢献、宇宙進出を行っている。

 

 横七蜂起宣言によって存在が認知され、およそ一か月、新深海棲艦と戦争を行う。

 

 世界各地に支部があり、日本では確認されただけで横須賀駐屯地、名古屋港航空基地、佐世保航空基地がある。

 

 各地で深海棲艦と戦い、深海棲艦による人的被害、物質的被害を軽減するとともに、陸上進出を防ぐ。

 

 アベルら筆頭とした大軍勢が大西洋から北極経由で太平洋に侵入、横須賀にて第二次深海戦争の決戦が行われると同時に、各地の支部が一斉攻撃を受ける。

 

 戦争に勝利するも被害は大きく、各国支部を撤退し集結を図るも日本政府との取引で日本国内のみ残留が決定。それに倣い各国も要請するが黙殺か胡椒爆撃*1である。

 

 航空機の設計思想や基本原理を日本に対し提供しており、我々の世界製の航空機が飛ぶ日は近い。

 

 外交が樹立しているのが日本とアメリカしかなく、会談などに参加しない為、横七を国籍としているロイ・ヴィッフェ・ヒドルフは度々日本国籍扱いされる。

 

 軍事力は間違いなく世界一で、象徴的存在であるインフィニティ級インフィニティや世界で初めてメディアを通じて伝えられた横七の戦闘である第一次横須賀海戦にて注目を浴びたSoF級が有名である。

 

 火星に大規模な基地を設けたことが先日話題を呼んだ。

 

 外交問題として度々起こるのが、国交の樹立していない国の一方的な国交樹立宣言や技術提供を受けたと偽称することで、外交的孤立をしている国に多く見られる。

 

 また、横須賀第七鎮守府、とあるのは、ロイの元いた世界の提督として着任した鎮守府に由来する(横七日報)。その為、この世界で横須賀第〇鎮守府を探してもない。

—―

「すごく…長いです」

「そりゃ殆ど引用したからな」

「にしても改めて凄い組織だって思わせられるわね」

「ああ。異世界であるとはいえこの世界の史上初の多くを総取りしたからな」

「そしてロイの引用に戻ると。けどここから先は第二次深海戦争の話よね」

 

「そうだぜ。だが今回に限っては引用しないぜ」

「職務怠慢とかもう許せるぞおい!!」

「違うぜ…ロイの話は信用できるものがとても少なく、今までは横七の公式日報や多くの横七専門家(笑)の一致した見解だったが、この第二次深海戦争の期間は様々な本が出てて、どれも言ってることが滅茶苦茶だからだぜ」

「ふーん、例えば?」

「そうだな…では、深鉢横七戦術研究所長の『猿でもわかる、横七の戦争』では、初めの一週間は各地を転戦し、横須賀女子海洋学校の晴風と合流、とあるが古高国連紛争問題解決議会上級議員の『ロイが好き勝手にやったこと』の中では終始晴風と行動を共にしていたとあるぜ」

「『晴風』と行動すること以外、全然違うね」

「そんな晴風の元乗員らが幾つか本を出してるぜ」

「へぇー。じゃあすぐに解明…」

「全てが第二次深海戦争の頃の乗員じゃなかったぜ」

「what!!」

「まぁ、緘口令がひかれてたんだろうな」

「じゃぁ、仕方ないわね」

「その世代も本を出すらしいがな」

「さっき緘口令ひかれてるって言っただろうがいい加減にしろ!!」

「まぁ既に10年経ったから、解除したんじゃないか?」

「適当ね」

「仕方ないだろ、専門家(笑)じゃないんだから。それとその本も、しっかりとした人物が書いてるぜ」

「例えば?」

「当時の横須賀女子海洋学校校長、宗谷真雪や同僚の古庄薫。BM時代の上司の宗谷真霜や指導した宗谷真冬他べんてん乗組員。晴風艦長で現在でもBMとして活躍している岬明乃や宗谷真白他晴風乗組員。大和艦長知名もえか」

「もしかして、関係者全員緘口令だったの?」

「そうじゃないのか。じゃないとこんな真相に迫れる人物たちが共同で書くのは不自然だし」

「じゃあ専門家(笑)の本よりも詳しいのがこれに?」

「そういうことになるな。中身が気になる人はぜひ買ってくれ。タイトルは『ロイという人』だぜ」

「宣伝やめーや」

「そうだな。じゃあ最後にまた引用を」

—―

 終戦した年の夏、晴風乗員ら親しき人物を横七本島に集め結婚式を行う。御相手の詳しい情報はないが、宗谷真冬氏曰く「とても仲睦まじい様子を式の間ずっと見せつけられ、とても疲れた」と言っており、現在も婚約指輪と思われるものが外れていないことから離婚していないと思われる。

—―

「へー、既婚者だったんだ」

「これについてはあまり有名ではないが、未だにロイ氏に対しアピールをする人がいると聞いて載せたぜ」

「意外と言うか、まだ詳しい情報がないってことは基本横七本島にいるってことでしょ?」

「そうなると思うが、こればっかしは、ロイという人を読まない限りはなんともだぜ」

—―

「それでは、今日の動画は終わりだぜ」

「ご視聴ありがとうございました」

 

「じゃあな」

*1
文字通り胡椒を空中から散布すること。被害は精密機械類の故障やくしゃみの連発である。窓を閉めても侵入する為、逃げ場がなく、警告から24時間以内に対象の地域から逃げ出すしかない。風による影響も計算され、100%の確率で対象地域は地獄になる。要請に関係した者は警告と同時に口内に胡椒が発生する。




これで本作、ハイスクールフリート 若き人魚と転生者は完結です。長い間読んでいただき、とても嬉しいです。

暫くは次回作を出しませんが、今のところゲーム実況風のハイフリを可及的速やかに投稿する予定です。

それでは改めまして、2021年が皆様にとって良いお年となりますように。

「ご清読ありがとうございました。」
「さらばだ。」
「じゃあな。」

次回作をお楽しみに!!


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