君の最期の贈り物 (すぴかさん)
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君の最期の贈り物
お題:「溶けたアイスが手首を伝う」で始まって「そんな思い出が、今でも心臓を刺すのだ」で終わるキリユウ小説
少しキリト君強化してます。
キリト君は某バーサクヒーラー様とは付き合ってない設定です。ん…?なんか寒気が(((( '-' ))))カタカタ
溶けたアイスが手首を伝う。
今日は8月15日、夏休み真っ最中の終戦記念日と呼ばれる日だ。
俺はお盆にも関わらず思い切り仕事なのでこんなクソ暑いスーツ姿で六本木に向かっているわけなのだが。
そろそろテレビでは広島からの中継が始まる頃だろうか、家電量販店のテレビの前に老人が幾らか集まっているのが見える。歴史の教科書と修学旅行でしか戦争に触れることのなかった俺達の世代ではあまり縁のない事ではあるが、少なくとも俺のような"SAO
戦と聞くとどうしても思い出してしまう、あの城での2年間。モンスターと戦って迷宮区を攻略して行ったこと。"ビーター"として恨みを買っていたこと。仲間を失ったこと。そして、対人戦────。
モンスターに殺された者。ナーヴギアを無理矢理外されたことによって死んだ者。自殺したもの。挙句の果てには"プレイヤーに殺された"者もいたのだ。
それほどまでに、あの世界は過酷だった。
そしてもうひとつ、8月15日だけではないが夏になりアスファルトに浮かぶ陽炎を見ると思い出す。まさしく陽炎のように突然現れ、突然ゆらめき消えていった彼女のことを。
付き合いとしては3ヶ月程だっただろうか、妖精の世界にやってきた、あの空飛ぶ城の24層にある小島。
2026年1月1日の15時ジャスト、そこに彼女は現れた。
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その日は正月であるためか、いつもの仲間たちもやはり家族との時間を過ごしているようで、誰一人俺のログハウスに来ることは無かった。特に面白そうだったり、報酬の良いクエストがあるわけでもなく、偶然見つけたその小島の木の下で昼寝をしていた。
しかし15時前、突然辺りが騒がしくなった。
連中が話している内容としては「あの生意気な奴をぶちのめしてやろう」と言ったものだ。流石にここまでうるさいと昼寝もできないため飛び立とうとした時、見知った顔がいくつか見えた。
「おっ、ブラッキー先生じゃねえか!あんたもコミュニティを見てきたのか?」
「は?コミュニティ?悪いけど今日はコミュニティ覗いてないし、ここで昼寝をしていただけだが…何かあるのか?」
「ああ、2時間くらい前かな、辻デュエルの相手を募集するって内容の書き込みがあったんだ。なんでもOSSを賭けるとか言っててよ、生意気だからぶちのめしてやろうってなったんだわ」
「へぇ…ちょっと興味あるな」
1年と少し前……ALOに囚われたアスナを含めた約300人を救出してからは対人戦はほとんどしてこなかった。
理由は俺が弱いから────。
だから何故このデュエルに興味を持ったのかは、この時は分からなかった。
そして視界の端の時刻表示が14:59から15:00に変わった瞬間、上空から高速で誰かが降りてきた。
紫の長髪に赤い瞳、短く尖った耳、そして赤いリボンカチューシャをしたインプの女の子。そして、全身から闘気が溢れ出ているのがわかる。
「こんにちは!ユウキって言います!よろしくね!」
強そうだ───、それが第一印象だった。
実際戦うと確かに強かった。反応速度もかの世界で二刀流を授かった俺をも超えるほど速い。だが───。
「降参」
「えっ…?」
「隠し事をしながら戦ってるやつと戦っても面白くないよ………。君はこの世界の──いや、なんでもない。じゃあな」
───全く、楽しくも面白くもなかった。
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「ねぇ、キミはどこまで知ってるの」
──どうしてこうなったのだろう。先程デュエルをした少女がログハウスに押しかけてきて俺を問いつめている。
『どこまで知っているか』、これは正直に答えるほかないだろうか。
「予想でしかないけど君がメディキュボイドの被験者じゃないか、ってところまでは。
あの動きは何年も連続ダイブしてないとできないから」
「ふぅん、そこまで…じゃあもう一度勝負しよう。勝ち逃げなんて許さない。今度は隠し事も何もないでしょ?」
「…………わかった」
対峙した彼女からは先程とは比べ物にならないほどの闘気が湧き出ていた。俺は背中に吊るした
デュエル開始のカウントが減るたびに心臓の鼓動が高まっていく。
カウントダウンが数分、数時間にも感じられる。それ程に俺は興奮しているのだ。
そして興奮が最高潮に達した瞬間、決闘開始のアラームが鳴った。
それと同時に、俺と彼女は地面を蹴り、剣を突き出し打ち合わせる。
隠し事も無く、素の心を曝け出して剣を振るう。
そのため、彼女の人間性も感情も手に取るように伝わってくる。恐らく彼女も同じだろう。
────楽しい……!!!
俺達の感情は、ただこれだけだった。
ソードスキルのただ一度も使わない、その手の道を嗜んでいる人から見れば子供のチャンバラ同然の剣戟。
だが、だがそれでも、この瞬間が永遠に続けばとそう思えた。
水平斬り、縦斬り、斬り払い────。
だが、時間というものはとても非情で。
「そろそろ終わらせようか」
「あぁ…そうだな」
残りHP残量はお互いに残り2割と言ったところか。それでも高威力のソードスキルをぶつけられれば全損してしまう量だ。
お互いに距離を取り、ソードスキルのモーションに入る。
俺は剣を肩に担ぐ7連撃技、《デッドリー・シンズ》のモーション、そして彼女は剣を下段に構える、見たことの無いモーションだ。
恐らくあれが彼女のOSSだろう。
「オォォ───ッ!」
「ヤァァ───ッ!」
お互いに雄叫びを上げソードスキルを発動させる。
7連撃目までの突き技を全て弾くが、パリィには至らなかった。その上、まだ続くときた。
──まだ続くのか!?いや、
「うおぉ────っ!!!!」
────
剣の纏う水色のライトエフェクトの色が青に変わり、更に《バーチカル・スクエア》の軌道をなぞって行く。
──できた……ッ!
「どうして……っ!?」
そして最後の4連撃を弾き、更に《スラント》に
最後に硬直に入った彼女に袈裟懸けをしてHPを消し飛ば────すことはできなかった。
腕の震えが原因で、ソードスキルが終了してしまったのだ。
「…………とどめ刺さないの?」
「刺さないんじゃない……刺せないんだ。怖いんだよ、ここで君のHPを0にしたら、現実でも死ぬんじゃないかって。そんな事もう出来るはずもないのにな……。」
「もしかして君は……」
「……そうだ。"SAO
「そう……なら、ボクが守ってあげる」
「え……?」
「ボクの命はもう長くないけど……その時が来るまでボクがキミを守って、キミがボクを守る。どう?」
それが、俺と彼女の出会いだった。
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──それからスリーピング・ナイツの皆とボスを倒しに行ったり、双方向通信プローブを使って授業を受けたり、ALO種族統一トーナメントに出たり、その後みんなで打ち上げしたり………色んなことをしたよな。
──お前の色んな表情も一面も見れてすげぇ楽しかったよ。
──でも、やっぱり……俺はちゃんと君を守りたかった…………。
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彼女はOSSを目の前の大樹に叩き込むと、そこに現れた羊皮紙を手に取る。
そこで力尽きたのか、その場に倒れ込んでしまいそうになる。
「……!ユウキっ!」
それを受け止めると、彼女は苦しそうに笑って言った。
「変だな……痛くも苦しくもないのに、力が入らないや……」
「………そうか」
「ねぇ、キリト。これ、受け取って……。ボクのオリジナル・ソードスキル。」
「………良いのか?」
「うん、キリトに受け取って欲しいんだ………。さあ、ウィンドウを……」
俺はウィンドウを開き、その羊皮紙を受け取る。これで剣技の継承が完了した。
彼女はそれを確認するとにこりと笑う。
「技の名前は……《マザーズ・ロザリオ》。きっとキリトを…………守って……くれる……。」
「ちゃんと……覚えててくれたんだな……」
「当たり前……でしょ……?」
「でも……でも俺は………約束を守れなかった………。ユウキを守るって……言ったのに………。」
「ううん……良いんだ…………ボクはキミと居られて、幸せだった…………。それだけで……充分………。」
その時、どこからが羽音が聞こえてきた。誰かが飛んでくる。
その音の方向を見ると、スリーピング・ナイツのメンバー達がいた。
「なんだよ、みんな…………最期の見送りはしないって……言ったじゃないか………」
「見送りじゃねえ、活入れに来たんだよ。あんまりウロウロしねぇで待ってろよ、俺たちもすぐ行くからな」
──ジュン。
「なに……いってんの……あんま…すぐ来たら……怒る…から…ね…………」
「ダメダメ。ユウキはアタシらがいないとなんも出来ないんだから、ちゃんと大人しく………待っ………うっ……うぅう……」
──ノリ。
「ダメですよ、ノリさん。泣かないって約束ですよ……。」
──シウネー。
──それに、テッチ、タルケン。
「しょうがない…なぁ……ちゃんと待ってるから……なるべくゆっくり…くるんだよ…………」
また羽音が聞こえる。今度は沢山。そして最初に来たのは──アスナたちだった。
そして更に、ここでの辻デュエルでユウキに挑んだ者、統一デュエルトーナメントやその後の打ち上げで顔を合わせた者──。沢山のALOプレイヤー達がこちらに向かって飛んでくる。
その数はその小島に入り切らないほど。
呼びかけたのは俺なのだが、まさかここまでの人数が集まるとは思わなかった。
それ程迄にこの少女は、ALOのプレイヤー達の心を奪ってきたのだ。
「凄い……妖精たちがあんなに沢山……」
「悪い……ユウキは嫌がるかと思ったんだけど……」
「嫌なんて……そんなことないよ……でも、なんでこんなに沢山……夢見てるのかな……?」
「ユウキ……お前はこの世界に降り立った最強の剣士だ。そんな人を寂しく見送るなんて出来ないだろ。それに皆祈ってるんだ。お前の新しい旅が、ここと同じぐらい素敵なものになるようにってな」
「なに……いってんだよ……キリトの方が…強い……じゃないか………。」
「確かに剣は俺の方が強いかもしれない………でも、強さはそれだけじゃないだろう……?それをユウキは俺と出会った時に知ったはずだ」
「それも……そう…だね……」
彼女はそう返事をすると、一呼吸開けて話しを始めた。
「ボク、ずっと考えてたんだ……死ぬために産まれてきたボクが、この世界に存在する意味はなんだろう、って。
何かを生み出すことも、与える事もせず、薬や機械を無駄遣いして……周りの人を困らせて、自分も悩み苦しんで……その果てにただ消えるだけなら、今この瞬間にいなくなった方がいい。何度も何度もそう思った。なんで生きてるんだろうって、ずっと…………。
でも、ようやく答えが見つかったよ……意味なんてなくても、生きてていいんだって………。
だって最期の瞬間がこんなにも……満たされているんだから…………。
こんなにたくさんの人に囲まれて、大好きな人の腕の中で、
「ああ……そうだな…………。」
彼女は安心したような顔で目を閉じる。それを見た瞬間、我慢していた感情が、涙が、一滴、一滴、頬を伝って零れ落ちていく。
──伝えなければ、この想いを。今伝えなければ、もう───。
「木綿季……聞いてくれ……。俺………ずっと不思議に思ってた。なんであの時君に興味を持ったのか、なんであの時君に勝負を挑んだのか……。
でも、最近になってようやく分かった。君と出会い、君を愛し、その意志を繋ぐためだったんだ、って。
木綿季…俺、木綿季の事……愛してる。」
その言葉に一瞬、ユウキは目を薄く開き、また優しい微笑みを浮かべて言った。
「ボクも……あいしてる……よ……かず…と…………」
彼女は最期まで笑みを絶やさなかった。光の粒となっても、俺の目には彼女の微笑みの残像が残っていた。
その残像が消えても瞼を閉じればそこにはまた、彼女の笑った顔、怒った顔、拗ねた顔、泣いた顔────。
その時、新生アインクラッド第24層には、風が吹いた。
島に咲く花弁たちは、金色に光り天に向かい舞う粒子と少年たちの涙を隠すように、風に舞った。
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─────
もうあれから6年。俺は菊岡さんたちのいる「
本当はアメリカ・サンタクララの大学に進学する予定だったのだが……ある理由から進路を大幅に変更し、去年まで茅場晶彦や須郷伸之を輩出した東都工業大学に通っていたのだ。
その理由とは────。
「どうだ?ユージオ、アリス。新しい
「うん、いい感じだよ!前よりも動きやすいや!」
「私もユージオと同意見です。」
「そっか、良かった」
───これだ。
あの後、俺は死銃の残党である
最初は動くためだけのぎこちないボディだったが、今では動きも普通の人間と遜色ないほどとなり、食事も可能となっている。
俺がどれだけ貢献できたのかは分からないが、親友達の役に立てて悪い気分はしない。
だが、それも彼女のおかげと言ってもいいだろう。アンダーワールド内部でも、
技も、
あれから6年が経ったが、あのかけがえのない3ヶ月の間にあった楽しかったこと、悲しかったこと─────。
「どうしたんだいキリト?涙が出てるよ………?」
「えっ?……いや、なんでもないよ。」
そんな思い出が、今でも心臓を刺すのだ。
─言い訳タイム─
いや、色々言いたいことはあるでしょうけども……。
前半かなり強引ですね……。
剣一本でのスキルコネクトはユージオ君がやってたし、キリト君も本気出せばできるんじゃね?って思ったんですぅ……。
SSなんだからそれくらい良いでしょ!(逆ギレ)
尺の都合で思い切り端折っちゃったんで、端折ったところが見たいと言う要望があればもしかしたら書くかもです。
まあ言い訳はそんなところですね。ではでは~。
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