リリカル銀魂(仮) (お通しラー油)
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プロローグ 寝ぼけた顔って時々自分の顔だと判別し辛い時もある

今回は銀魂コラボの中では割と珍しいと思われる神楽が主人公を務める作品です。

神楽
「っしゅああああああああああ! 私の時代が来たアルゥゥゥゥ!」

銀時
「んなぜじゃああああああああああ!」

なのは
「うわぁ、凄いテンション高いなぁ・・・私、こんな人たちとやっていけるのかなぁ?」

その辺は気合とノリでカバーしてね。


 夢を見て、それが夢だと気づくのには個人差がある。

 

 ある人は夢を見てすぐに気づく者も居れば、暫く経ってからようやく夢だと気づくニブチンまでもが居る。

 

 だが、どのタイミングで気づいたとしても、その夢は見ている本人の夢でしかない。その世界に他人の意思の介入は一切有り得ないのだ。

 

 だが、もしその夢の中に他人の意識の介入があったとしたらーーー

 

 それも、全く見知らぬ存在。それこそ住む世界そのものが違う存在同士が出会ったとしたら?

 

 果たしてそれを見て夢だと気づくのかそれとも、誰か別の意思と気づくのか。

 

 

 

 

 

          ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、何時もとは違う夢だった。気が付くと、一面真っ白な空間で支配されており、何も見えないし聞こえない。

 

 唯一聞こえるのは自分の足音と息遣いだけだった。そんな中を一人前に向かって歩いていた。

 

 何故歩いていたかは分からない。とにかく歩かなければならないとこの時はそう思っていた。

 

 歩き続けてからどれだけ経った後だろうか。前からうっすらと人影が見えて来た。

 

 人影が近づくにつれて輪郭がはっきりしてくるだろうと思っていたのだが、この空間は思っていた以上に霧が濃いらしく人影のシルエットが全く掴めない。

 

 それが一体何者なのか? 男なのか、それとも女? 子供なのか、それとも大人? 果てはその人影は人間なのか、或いはーーー

 

 ある程度近づいた時点で、目の前の人影は止まり、それに連なる形で歩いていた足を止めた。

 

【・・・貴方は・・・誰?】

 

【・・・お前こそ、誰アルか?】

 

 互いに互いを問う声が聞こえる。声色からして女、それも成熟していない少女の類の声だと思われる。

 

【え、えっと・・・わ、私は・・・〇〇〇って言うの】

 

【私は〇〇〇アル! その胸にしかと刻み込んでおくヨロシ!】

 

 互いの名を名乗りあった。だが、霧の影響なのか、互いの名前が響き渡る事はなかった。お互いには聞こえたのだろうが回りには一切その名を聞き取る事が出来なかった。

 

【えっと・・・そろそろ行くね。私・・・向こうに行かなきゃいけない気がするんだ】

 

【それは私もネ。あっちに行くと何か良い事ありそうな気がするアルよ】

 

【それじゃぁね。〇〇〇】

 

【縁があったらまた会おうアル! 〇〇〇】

 

 こうして、人影同士は互いに挨拶を交わした後に、再び前へと進みだした。

 

 暫く歩いていくと、目の前に一枚の扉が姿を現した。何の変哲もない木製の扉だ。

 

 この先に行く目的があるのだろうか。疑念を胸に、ノブに手をまわし、そっと扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・変な夢?」

 

 そう呟いて、そっと身を起こした。ふと、その時に何か違和感に気づいた。

 

 何かが違う。もっと厳密にいえば、全てが違う。

 

 壁も天井も、寝床に至るまで全てが寝る前に見ていた景色と全く異なっていた。

 

「何処? 此処・・・」

 

 まさか、寝ている間に何者かに誘拐されとか? 不安と恐怖を胸に仕舞いつつ、辺りを見回した。

 

 一切明かりがない真っ暗な空間だった。起き上がろうとしたが、その際に天井に頭をぶつけてしまう。

 

 どうやら然程広い空間ではないようだ。例えるならば、押し入れとかそう言った類の場所なのかも知れない。

 

「何で、こんな狭い場所に私は寝てたんだろう?」

 

 疑念を覚えつつも、とにかくここがどこなのか。その情報を探るべく辺りを手探りで探り出す。

 

 すぐ隣で手触りの違う感触を感じた。恐らく襖か何かだろう。

 

 それを破らないようにそっと横にスライドさせて外へと続く道を作る。

 

「こ・・・此処は・・・」

 

 目の前に飛び出したのは見知らぬ部屋だった。会社とかにある応接室とよく似た感じの部屋だった。だが、その割には何処か質素と言うべきか、もっと崩した言い方をすれば貧乏くさい部屋にも見えた。

 

「何で・・・こんな所に居るの? 私・・・」

 

 さっきまで寝ていた場所から応接室のような部屋へと飛び出す。一体何故自分は此処で寝ていたのだろうか。

 

 昨日までの記憶を呼び起こそうと思考を巡らせてみた。

 

(えっと・・・昨日はお風呂入った後に宿題をやって、その後普通に寝たんだっけ・・・でも、それじゃ何でこんな場所に? 私が寝ている間に誘拐されるなんてまず有り得ないだろうし、それじゃ一体どうしてーーー)

 

 悩めば悩むほど理解に苦しめられた。どれだけ悩んだところで答えなど出る筈がなかったからだ。

 

 却ってドツボに嵌るだけだった。

 

 背後から物音がした。何かが襖から這い出てくる音だ。こう毛がもさもさした感じの生き物を連想させられた。

 

 気配に気づき、すぐさま後ろを振り返ってみた。

 

「ワンっ!」

 

 其処には一匹の犬が居た。それだけならば驚く事はないだろう。見た目的には子犬のそれっぽく見える。全体の大きさがヒグマ並みなのを除けばだがーーー

 

「ひ・・・ひぃ・・・」

 

 突然の出来事に一瞬思考がフリーズした。そのフリーズした思考が再起動した時、彼女がとった行動は一つだった。

 

「ひやあああああああああああああああああああ!!」

 

 そう、悲鳴を上げたのだ。悲鳴をあげつつ巨大犬から距離を置く。

 

 その際に腰を抜かしてしまったのか、とても無様に情けない動きで犬から距離を置く。

 

 その犬はと言えば、首を傾げてこちらを見ていた。まるで「何それ? 新しい遊びなの」と訪ねているようだった。

 

「何!? 何なのこの犬!? って言うか、これ犬なの?」

 

 完全に頭の中がパニックになっていた。思考がしっちゃかめっちゃかになってしまっておりまともな判断が出来ないままだった。

 

 犬がこちらに近づいてくる。つぶらな瞳で舌を出しながらさも遊んで欲しそうな顔をしながら近づいてくる。

 

 それが、普通のサイズの犬ならば可愛いのだが、ヒグマサイズの巨大犬に近寄られたらそれはパニックに陥っても仕方はないかも知れない。

 

「こここ、来ないで! こっちに来ないでぇぇ!」

 

「???」

 

 何故、自分を見て脅えているのだろうか。理解出来ず犬は困った顔をしながら首を傾げていた。

 

「ったく、朝っぱらからでっけぇ声出してんじゃねぇよ。頭に響くだろうがバカヤロー」

 

 そんな時、隣の部屋からのっそりと声と共に人が姿を現した。

 

 大人の男性だった。寝間着姿でだらしない顔をした銀髪のナチュラルパーマヘアーの男性だった。

 

「た、助けて! 犬が! 巨大な犬がぁ!?」

 

 これ幸いにと男に助けを求めた。

 

 だが、男は面倒臭そうな顔をしながら彼女を見下ろしていた。

 

「何? お前寝ぼけてんの? 朝から何ミラクルかましてくれちゃってんだよ。ボケてんのか? 今どきそんなボケしたってなぁ、客の笑いなんてとれねぇんだよ」

 

「そんな場合じゃないよ! あの犬、凄い大きいんだよ! 何であんな大きい犬が此処に居るの?」

 

「何でって、そりゃお前が拾ってきたからだろ?」

 

「拾ったって・・・私犬なんて拾った覚えないよ! ましてやこんな大きな犬なんて、拾える訳ないじゃない!」

 

 仕切りに異常を訴えてはいるのだが、男に動きは見られない。寧ろ、だんだん苛立ってきているのが見て取れる。

 

「わぁったわぁった。後で定春の散歩には行ってやるから。お前も何時までも寝ぼけてないでさっさと顔洗って来い。今日仕事あるんだからな。遅刻すんなよ【神楽】」

 

「・・・・・・え?」

 

 ふと、それは自分の事なのかと思えなかったのか思考が止まった。

 

「何ボケっとしてんだよ。さっさと顔洗って着替えて来いよ」

 

「え? あ、う・・・うん・・・」

 

 言われるがままに洗面台へと向かった。その際に犬が飛び掛かってこないだろうかと警戒したが、どうやら稀有だったようだ。

 

 どうやら部屋の間取り自体は然程広くないようで、洗面台は案外すんなりと見つける事が出来た。

 

 蛇口をひねり、水を出して、それを手に掬って顔を洗う。タオルで顔を拭いて、綺麗になった自分の顔を見て、彼女は絶句した。

 

「だ・・・・・・誰?」

 

 其処に居たのは明らかに見知らぬ誰かだった。オレンジ色の髪に青い瞳。白い肌をした少女が其処には立っていた。

 

 だが、明らかにこれは自分じゃない。

 

「・・・・・・」

 

 主室に、自分の頬に手を当ててみる。鏡の前の自分と思わしき少女もそれに倣って同じ動作をしていた。

 

 となれば、疑う余地などない。今目の前に居るのは紛れもなく自分なのだから。

 

「何で・・・何で・・・一体何がどうなってるのぉぉぉぉ!!」

 

 訳が分からず、いてもたってもいられなかったのか、鏡を前にして少女こと【高町なのは】は絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、う~~ん・・・何だったアルかぁ? さっきの夢はぁ」

 

 目を擦りながら身を起こし、異変に気付いた。

 

「何処アルか? 此処・・・銀ちゃん? 定春?」

 

 仕切りに同居人の名を叫ぶも、反応はない。部屋を見渡せば、其処は全く見知らぬ部屋でもあった。

 

 さっきまで自分が寝ていたと思われるベッドにノートと鉛筆が置かれた勉強机。それに可愛らしいぬいぐるみや女の子を思わせる装飾品などが数点部屋内に飾られていた。

 

 だが、それら全てが自分の所持品ではないと、この時彼女は思った。

 

「どうなってるアルか? 此処は私の寝ていた押し入れじゃないアル。もしかして改装工事とかしたアルか? んでもぉ、銀ちゃんにそんな金銭的余裕はなかった筈アル。それじゃ一体どう言う事アルかぁ?」

 

 謎が謎を呼ぶ。そんな感じで首を傾げだす少女。

 

 ノブが開く音がする。視線が向かったのはこの部屋唯一の出入り口と思われる扉だ。

 

 その扉が一人でに音を立てて開いた。咄嗟に、彼女は臨戦態勢を取った。

 

 扉から出てくるのが友好的な人間とは限らない。ましてや、此処は見知らぬ場所。自分は何か巨大な組織とかそんな類の輩に拉致された可能性が高い。

 

 となれば、これ以上動けなくなる前に先手必勝を心掛けるのが吉と言えるだろう。

 

 そう判断してからの彼女の行動は早かった。

 

「おはよう、もう起きたのか? なのーーー」

 

「ほわちゃあああああああああああ!」

 

「げふぅぅぅっ!!」

 

 扉から出て来たのは若い男性だった。その男性に向かい全身の筋肉をフル稼働させた飛び蹴りをお見舞いする。突然の攻撃に対応出来なかった男性は鳩尾にもろにそれを食らいそのまま仰向けに床に倒れる。

 

 その倒れた男性の上にまたがる形で動きを封じ、胸倉を掴み上げてこちらに顔を引き寄せた。

 

「てんめぇ! この私を誘拐してどう言うつもりアルかぁ!? 身代金目当てかぁコノヤロー!」

 

「ちょっ、何言ってんだよ。まだ寝ぼけてんのか? とにかく落ち着けって!」

 

「落ち着いてんだよコノヤロー! 人の事を寝ぼけたお子ちゃまみたいに言ってんじゃねぇぞゴラァ!」

 

 がくがくと男性の頭を前後に揺らして更に問い詰める。が、答えは同じだった。

 

「と、とにかくすぐどいてくれ! この後父さんと稽古の約束があるんだからさぁ」

 

「あぁん? 稽古だぁ? 何の稽古だゴラァ? あれアルか? 夜の街で一人歩く女を口説いてそのままホテルに向かってそれでーーー」

 

「だああああああああああああああ! 何処でそんなの覚えたんだお前はぁ! 違うから! 普通に剣術の稽古だから!」

 

 顔を真っ赤にして否定する。そんな仕草を見る辺り結構初心なようだと、この時彼女は悟った。

 

「って言うか、一体どうしたんだよその口調は? 何処かの映画の影響か? あんまり人様に迷惑かけるような事するなよ【なのは】」

 

「・・・・・・は?」

 

 自分の事を言ったのだろうか。聞き慣れない名前を言われて、思わず思考が一時停止してしまった。

 

「とにかく、まだ寝ぼけてるんだったら、さっさと顔を洗ってきなさい。早く起きたんだったら母さんや姉さんの手伝いをするのも良いんじゃないか?」

 

「そ、そうするアル・・・」

 

 男性の胸倉を掴んでいた手を放して、そのまま項垂れるようにトボトボと洗面台へと向かった。

 

 幸い洗面台への場所はその男性が教えてくれたのですんなり向かう事が出来た。

 

 其処で顔を洗い、タオルで綺麗にふき取り、鏡に映った自分の顔を見て、ギョッとなった。

 

「だ・・・だ・・・だ・・・だ・・・」

 

 余りにも衝撃的な光景に思わず声がどもってしまった。それ程までに衝撃的な光景が其処にはあったからだ。

 

「誰アルかあああああああああお前はああああああ!!」

 

 鏡に映ったそれに向かい、少女こと【神楽】は怒りとも焦りともとれる絶叫を挙げてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          つづく




何の前触れもなく入れ替わってしまった【神楽】と【なのは】。果たして、互いに見知らぬ世界でどう生活していくのか。今後に期待していきまっしょいww


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第1話 外見が同じでも中身が違っているとどう接して良いのか分からない

何故か入れ替わってしまった高町なのはと神楽の二人。

今回はそんな二人の冒頭っぽい部分のお話になるのかなぁ?


 ~神楽(高町なのは)サイド~

 

 

 

 

「どうなってるのぉこれぇ! 目が覚めたらいきなり知らない場所で寝てるし、しかも何今の私ぃ! 私の髪の色オレンジ色じゃないし瞳の色だって違うし! そもそもこれは一体誰なのぉ!」

 

 鏡の前で仕切りにパニックに陥っているのは見た目こそ此処万事屋で働いている従業員の一人で自称銀魂のヒロインでもある神楽だが、その中身は全くの別人なのでそのせいでパニックに陥っていた。

 

「おぅい、朝からうっせぇぞ。一体どうしたんだよ。鼻くそでもくっついてたのか?」

 

「そんなんじゃないよ! って言うか、そもそも此処は何処で貴方は誰なんですか? 私を元居た場所に帰して下さい!」

 

「・・・はぁ? 何言ってんだお前」

 

「はぁ? って・・・だから、私を家に帰して下さいってーーー」

 

「お前の家は此処だろうが。まだ寝ぼけてるのか?」

 

 話にならなかった。この目の前に居る銀髪天然パーマの男では全く話に進展が見られない。

 

 かと言って、他に話せる人間はいない。後いるのと言えばヒグマ並みにでかい巨大犬くらいだ。

 

「おいおい、朝から何訳分かんねぇ事のたまいてんのお前。こっちは昨夜から二日酔いが抜けてなくて気持ち悪いってんだよ。分かったらさっさと着替えて外へ遊びにでも行って来い」

 

「そんな遊びに行ってる場合じゃないの! それよりも今のこの状況をなんとかしないとダメなのぉ!」

 

「はぁ・・・ったく、お前今朝から何か変だぞ? 何時もの口調はどうした。何時ものアルアル口調や変な中華なまりはどうしちまったんだよ。完全に標準語じゃねぇか。設定守れコノヤロー」

 

「設定って、それってどういう事なの? そもそも私此処の住人じゃないよ! 大体、私は神楽って人じゃないよ!」

 

 仕舞には涙目になる始末だった。

 

 必死に訴えてはいるのだが、相変わらず銀髪の男は訳が分からず面倒くさそうな顔をしてしまっている。

 

「おはようございまぁす」

 

 そんな時だった。

 

 近くで声がし、同時に引き戸が開かれる音がした。誰かが入って来たみたいだ。

 

「あれ、銀さんに神楽ちゃん、どうしたんですか洗面所なんかで集まって?」

 

「ぱっつぁんよぉ。神楽がなんか変なんだよ、俺もどうしたら良いか分かんねぇよ。こいつさっきから変な事ばっか言ってるしよぉ、口調も標準語になっちまってるし、仕舞にゃ自分は神楽じゃないって言ってるんだぜ? もう俺ついていけねぇよ」

 

「えぇ? 何ですかそれ。新手のボケですか?」

 

 現れたのは眼鏡をかけた少年だった。銀髪の男に比べると少々影が薄く感じられるが今はそんな事どうでもよかった。

 

「お願い、私を元居た場所に帰して! 私は神楽じゃないの!」

 

「本当だ。確かに標準語喋ってるし、一体どうしちゃったの神楽ちゃん。幾らボケが楽しいからってそういつまでもボケてたら皆困っちゃうよ」

 

「・・・・・・」

 

 駄目だった。この少年も結局取り繕ってはくれなかった。誰も彼もが自分を相手にしてくれない事実に次第に神楽(なのは)の中で苛立ちが募りだして来ていた。

 

 硬く握りしめた両の拳がふるえている。

 

「とにかくだ、何時までもボケかましてねぇでさっさと支度しろ。今日は仕事なんだ。お前にも活躍してもらうからそのつもりでーーー」

 

「・・・ない・・・」

 

「へ?」

 

「ボケて・・・ない・・・」

 

「な、なんだって?」

 

「ボケてないって言ってるのおおおぉぉぉぉ!」

 

 怒号と共に溜まりに溜まった怒りを感情のままに壁に向かって叩きつけた。

 

 それだけであれば普通なら壁に手がぶつかってぶつけた手がじんじん痛む程度で済む話なのだが、今彼女の体は宇宙最強の戦闘民族と恐れられている夜兎族の体。

 

 勢いよく壁に向けて放った手はそのまま壁を突き抜けて隣の部屋まで貫通してしまっていた。

 

「・・・・・・え?」

 

 その光景に誰もが驚いていたが、一番驚いていたのはそれをやった本人であった。

 

「おまっ、何家壊してんだよ! こないだは風呂をぶっ壊して今度は洗面所の壁ですかぁ? 修理代だって馬鹿になんねぇんだぞ!」

 

「ごごご、ごめんなさい! 壊すつもりはなかったの! ただ、どうしても二人にはお話聞いて欲しくてそれで・・・それでーーー」

 

「銀さん・・・何か、神楽ちゃん何時もと様子が違いますよ」

 

「そ、そうなの・・・か?」

 

 ようやく神楽の様子がおかしいと気づいた二人は相当ニブチンなご様子だったりした。

 

 とにもかくにも、そんな訳で場所を移し、三人は応接室らしき場所に集まっていた。

 

「えっと・・・まず聞きたいんだけど・・・君は神楽ちゃんじゃないの?」

 

「はい、違います」

 

「違うっつったって・・・見た目はまんま神楽じゃねぇか。あれですか? 外見は似てても中身が全然違うってパターンの奴? 最近映画でやってたよね。【貴様の名は】って奴だっけ?」

 

「まぁ、それと似てるっちゃぁ似てますね。けど、それじゃ君は・・・一体誰なの?」

 

 問題は其処であった。目の前に居るのが外見は神楽であっても中身は別人と言うのであればならば一体誰なのか聞かねばならない。

 

「はい・・・えと・・・私の名前は【高町なのは】って言います。海鳴市出身で、実家は喫茶店を営んでいまして」

 

「ちょっと待って! 海鳴市って・・・何処?」

 

「聞いた事ねぇ場所だな」

 

「そんな意地悪しないでくださいよ! 此処日本ですよね? 日本のどのあたりなんですか? 東京とかですか? それとも大阪とか?」

 

「「???」」

 

 神楽(なのは)の問いに、銀時と新八は揃って首を傾げるだけでしかなかった。

 

「えと・・・それじゃ・・・此処は何処なんですか? もしかして、九州とか北海道とかだったりします?」

 

「何言ってんだよ。此処は【江戸】だよ」

 

「もっと細かく言うと江戸のかぶき町ってとこだよ」

 

「え・・・江戸・・・江戸って・・・あの、江戸・・・」

 

 江戸と言うフレーズを聞いた途端、神楽(なのは)の表情が一気に青ざめていくのが確認できた。

 

 その上、携帯のバイブレーションみたいにブルブル震えているのが見える。

 

「お、おい・・・どうしたんだよ?」

 

「神楽ちゃ・・・じゃねぇや。なのはちゃん、大丈夫?」

 

「江戸・・・江戸って・・・それじゃ此処は・・・此処は過去の世界なのぉ!?」

 

 突然、神楽(なのは)は駆け出した。一心不乱に向かった先は外へと続く玄関への扉。

 

 確かめねばならない。もし、彼らの言っている事が本当ならば、自分はとんでもない過去の世界にきてしまった事になる。

 

 まさか、そんなアニメやSFや小説みたいな展開が起こる筈がない。

 

 内心そう願いながら外へと飛び出す。だが、その淡い希望は音を立てて崩れさってしまった。

 

 外からうかがえるのは木造の古ぼけた作りの家屋が並ぶ光景と、その近くを歩く着物にチョンマゲ。この時点で明らかに江戸だと認識出来た。

 

 だが、いくつか理解出来ないのがちらほらあった。

 

 まず、この江戸と呼ばれた場所なのだが、過去の世界にしては何処となく現代の技術が使われている事に気づいた。

 

 そう言えば、最初に目を覚ました部屋にはテレビがあったし、江戸時代に蛇口のある洗面所なんておかしい。

 

 次に、空を見上げて驚いたのは、空を飛び交う飛空船の数々だった。

 

 江戸と呼ばれる地の遥か上空を幾隻もの飛空船が飛び交っている。

 

 こんな技術は現代ではまず見られない。普通に船を飛ばす技術なんてある筈ないのだから。

 

 最近の研究でどうにか車は飛びそうな話をしているがあんな大型な飛空船が飛ぶのは見た事がない。

 

 最後に驚いた事は、道行く人々の中にちらほらとだが異様な姿をした連中が見られた。

 

 その連中の特徴と言うのが、身に着けている制服は明らかに高そうなそれと思われるのだが、彼らの顔は明らかに何かしらの生き物を無理やりくっつけたような顔をしていた。

 

「え・・・こ、・・・これが・・・江戸?」

 

「そだよぉ。俺達の普段から住み慣れている江戸だよ」

 

 彼女の問いに銀時はさも当たり前とも言えるおうに答えた。その答えを前に神楽(なのは)は、思わずその場にへたりこんでしまったと言うそうだ。

 

 

 

 

     ******

 

 

 

 

     ~高町なのは(神楽)サイド~

 

 

 

 

「誰アルかぁこいつはぁ!? 昨日まで超絶プリティビューティーな私の魅惑のボディは何処いったアルかぁぁ!?」

 

 こちらでは高町なのは(神楽)が鏡に向かいこれまた絶叫をしていた。

 しかしまぁ、よくそこまで自分の体に自信がもてるもんだ。原作終了したからと言っても其処まで変わってない筈なのにねぇーーー

 

「何か天の声辺りから罵倒された気がするアル。後で締め上げるアル」

 

 これ以上酷い事言うとこちらが締め上げられかねないのでこの辺で切り上げさせて貰います。

 

「おぉいたた・・・朝から一体どうしたんだよ。変な夢でも見たのか? 兄貴に向かっていきなりドロップキックかますなんてヤンチャなのも大概にしてーーー」

 

「ほわちゃあああああああああああ!!」

 

「またげぶふぉぉぉぉぉ!!」

 

 再び現れた見知らぬ男性に向かい再度ドロップキックを決める。そして、倒れた男にまたしてもマウントを取って今度は額を鷲掴みにする。

 

「おぅい、どうなってるアルかぁ? 目が覚めたら全く見知らぬ別キャラになってるアルよぉこれ。目が覚めたら何時もの空〇顔のキャラから全く見知らぬ作者の顔になってんぞゴラァ! 誰アルかこいつはぁ!? 私こんな目力の籠ったロリキャラ見た事ないアルよ!」

 

「いだだだだぁ! 頭が割れるぅぅぅ! さっきから何訳の分からない事言ってんだよなのはぁ! お前はいつも通りのお前じゃないか! ってか離して! お願いだから離してその手をぉ! つぶれる、頭がつぶれるぅぅぅ!」

 

 なのは(神楽)の下で頭を掴まれた自称兄貴がじたばたもがいている。

 

 だが、幾らもがいたところでマウントを取られた上に果実を握り潰さんが勢いでこちらの頭を掴んできているそれを払いのけることが出来ずいいように嬲られ続けていた。

 

「兄さん、何してるの? お父さんずっと待ってるんだけど・・・」

 

 そんな騒ぎを聞きつけたのか、これまた見知らぬ誰かがやってきて事の惨状を目撃してしまった。

 

 まだ10歳にも満たない妹がもうすぐ二十歳くらいになりそうな兄のマウントを取ってその頭を握り潰そうとしている摩訶不思議な光景をーーー

 

「み、美由紀ぃぃぃぃ! た、助けてくれぇ! なのはが、なのはの様子がおかしいんだ~~~!」

 

「ちょっ、ちょっとなのは! 朝から何してんの?」

 

「だぁかぁらぁ! 私はなのはじゃねぇっつってんだろうがこのアバズレがぁ!!」

 

「あ、アバっ!! ・・・何処でそんな言葉覚えたのよ! さては兄さん!」

 

「教えてない! 俺は断じて教えてないからなぁ!」

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ! とにかく、私を元の体に戻すアル! 元のプリティビューティーな神楽ちゃんに戻すアルよぉ!」

 

「「神楽?」」

 

 突然聞かない名前を言われてしまい、戸惑う姉と兄。

 

「な、なのは・・・その神楽ってのは一体誰なんだ?」

 

「もしかして、なのはの新しいお友達とか?」

 

「何言ってるアルか? 神楽は私の事アル。お前らの言うそのなのはって奴こそ誰アルか?」

 

 会話にならなかった。はっきり言ってなのは(神楽)の言っている事はこの二人には分からないし、逆にこの二人の言っている事はなのは(神楽)には全く理解出来ていなかった。

 

「と、とにかく・・・朝ごはんにしない? もう用意は出来てるしさ」

 

「マジでか!? キャホーい! お腹ペコペコアルゥ!!」

 

 会話より腹の虫。そう言わんがの如く二人を無視して食卓へとすっ飛んでいくなのは(神楽)。そんな彼女を見て深くため息を吐く二人。

 

「なぁ、今日のなのは・・・何か変だろ?」

 

「う、うん・・・そうだね・・・何か、何時もと全然違うって言うのは分かった気がするよ」

 

 たった数分程度だと言うのに物凄く疲労を感じてしまっていた兄恭也と姉美由紀であった。

 

 

 

 

     つづく




あんまり話が進まなかったかも・・・反省orz


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第2話 面倒臭い奴と書いて【マブダチ】と読む

かなぁり間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
まだ物語開始地点には行きそうにないっぽいです。

後、一部キャラ崩壊がありますので苦手な方や許せない方は読むのを控えるのを勧めます。それでも構わんと言う方はどうぞご覧ください。


 

 

  〜神楽(高町なのはサイド)〜

 

 

 俺の名は【坂田銀時】

 少年ジャ○プで人気連載されてた漫画【銀魂】の主人公を勤め上げた絶世のイケメン男子だ。

 

 なんやかんやあってラスボス的なのを倒して晴れて大団円で話が終わった事により俺の華々しい主人公生活も一旦は終わり、今は再びジャ○プからオファーが何時来ても良いように日々トレーニングに勤しんでいるナイスガイだ。

 

 あ? 嘘ついてるんじゃねぇだと?

 黙れボケナスども!てめぇら全員の足の小指の爪深爪にさせてやろうか?

 

 とと、まぁそんな訳でここではネタバレ的な事を言っちまうとアレなんでボカすが、激しい最終決戦が終わり、ようやく江戸も元の活気を取り戻して早く数日ってとこだな。

 何しろ殆どが片付いた後の江戸と言ったらまるでどっかの世紀末ヒャッハーな世界と見間違えるかのような荒みっぷりだったけらなぁ。

 

 なに?もっとちゃんと説明しろだと?

 そんなに知りたきゃコミックスを買え!一々人に頼んな愚民ども!

 一人10くらい買ってこの俺に少しでも貢献しやがれ!

 後DVDも買えよ。これも一人10な!

 

 そんな訳で俺の居るかぶき町も元の活気を取り戻したって事で晴れて万事屋銀ちゃん再開をする事になった。

 正直仕事なんてやりたくなかったが来週のジャ○プ代もないと言う経済的に危機的状態だったんで止む無く仕事を再開する事にした。

 

 早速依頼が入ってきて心機一転これから荒稼ぎしまくるかと思った正にそんな日の朝方だった。

 

 

 

   ・・・神楽が突然おかしくなったーーー

 

 

 

 嫌、あいつがおかしいのは今に始まった事じゃねぇんだけどよぉ。

 

 銀魂ヒロインの癖に色気の欠片もねぇし大飯ぐらいだし暴力的だし所構わずゲ○吐きまくるしガキだし(以下省略)

 

 とにかく普段の神楽って言ったらそんな印象だったんだが、今朝の神楽は様子がおかしかった。

 

 何故か自分で拾ってきた定春にビビりまくるし俺みたいなイケメン好青年の俺の事も覚えてないみたいだし、新八の事をメガネ扱いしないし(ここ重要)とにかくいつもと様子が違っていた。

 仕舞いには自分の事を【なのは】とか言い張ってる始末だし。全く勘弁して欲しいぜ。

 

 んで、その神楽はと言うとーーー

 

 

***

 

 

 場所は再び万事屋銀ちゃん事務所内に戻る。

 来客用の長椅子の上に横になってうんうん唸っている神楽を前にして、銀時と新八は完全にお手上げ状態であった。

 

「一体何がどうなってんだ?外に出て天人の飛行船を見た途端その場でぶっ倒れちまうなんてよぉ」

 

「変ですよね。あんなのもう見慣れてる筈なのに。特に神楽ちゃんなんてあれに乗ってる側の筈なのにどうしたんだろう?」

 

 一行に目を覚さない神楽に銀時も新八もどうしたら良いのか困り果ててしまっていた。

 まぁ、そのお陰で今日はわりと静かな万事屋銀ちゃんなのだが。

 

「どうしましょう。今日の仕事」

 

「参ったなぁ。今日の仕事は力仕事だからこいつに全部丸投げしようと思ってたんだけどなぁ」

 

「本編が終わってもあんたの屑っぷりは健在なのが良く分かりましたよ」

 

 深くため息をつく新八を横目に銀時は面倒臭そうな顔をし始めた。

 本来ならもう仕事に向かわなければなるないのだが肝心の神楽がこの状態なので身動きがとれない状態だった。

 

 まぁ、それなら神楽をこのままにして仕事に行けば良いのだろうが、生憎今日の仕事は廃材撤去作業の補助と言う言うならば力仕事の類いだ。

 そんなの二次小説の序盤でやる仕事じゃない。

 

 其処はもっと派手なかつ楽に出来る仕事にして欲しいもんだ。

 後報酬も割高な奴ーーー

 

 とにかく、そんな訳なので銀時としてはそんな面倒な仕事なんてお断りしたかったのだが生憎今の万事屋銀ちゃんには貯蓄と呼べる物が全くない為、このままでは来週号のジャ○プが買えなくなってしまう。

 

 それだけはまずいって事で渋々その仕事を受けることにした。

 本当に渋々ーーー

 

 そんな面倒な仕事ではあるがそれも神楽がいれば万事解決すると思っていた。

 宇宙最強の戦闘民族【夜兎族】として育った神楽であれば廃材撤去など朝飯前の夜食後と言った所。

 そんで仕事を神楽に全て丸投げしてその間自分はパチンコにでも行こうかと密かに計画していた矢先にこの事態である。

 

「定春も心配してるんだな。未だに神楽ちゃんの側から離れないし」

 

「仲の良いこって。んな事よりどうすんだよ。今日の仕事?いっその事ドタキャンしちまうか」

 

「何言ってんですか。原作が終了しちゃって仕事もなくなっちゃって今月の家賃すら払えなくて困ってた所に舞い込んで来た仕事ですよ。今の僕たちには仕事を選んでる余裕なんてないんですよ。これからは万事屋銀ちゃんとしてバリバリ仕事していかないと。家賃もそうですけど僕等の給料だってないんですからね。聞いてるんですか銀さん?」

 

「新八ぃ。お前台詞長すぎ。一人でどんどけ喋ってんだよ空気読めよ。だからてめぇはいつまで経っても新八なんだよ!」

 

「僕の存在全否定すんな!とにかく、神楽ちゃんがこんな状態なんですから僕達だけでも仕事しないと」

 

「え〜・・・めんどいからやだなぁ」

 

「おい、ちょっと面貸せよ。そのふそわけた顔面殴ってやっからよぉ」

 

 拳を震わせる新八。しかし銀時はまるでどこ吹く風の如く全く気にしてない。

 相変わらずやる気の欠片も感じられない堕落し切った顔をしていた。

 

「う、うぅん・・・」

 

 そうこうしていると、さっきまで気絶していた神楽が目を覚まして起き上がった。

 

「あ、えっと・・・」

 

「その様子じゃ、さっきのまんまって奴か?」

 

「・・・は、はい」

 

 銀時の言葉に神楽が答え、そのまま萎んだように俯いてしまった。

 明らかに何時もの神楽じゃないと言えた。

 

「まぁ、この際仕方ねぇ。お前がどこの誰かなんてのは今は置いておく。とりあえずここにいる間はお前は神楽だ。なのはとか言う名前の奴なんぞ知らんし一々呼び名を変えるのも面倒なんで神楽って呼ぶからお前もそれで良いな?」

 

「はい、それで・・・良いです」

 

 こんな潮らしい神楽なんて初めて見た。

 新八は思わずそう心の中で思った。

 

「その、元気を出して。僕らで良かったら相談に乗るからさ」

 

「ぱっつぁん。お前・・・もしかして神楽に惚れたのか?」

 

「なんでそうなるんですか?」

 

「いや、いつになく神楽に優しくしてっからよぉ。てっきりそのまま神楽のハートをハートキャッチした後に今度は物理出来にキャッチするのかとーーー」

 

「ちっとも上手くねぇんだよ!!」

 

 新八は憤慨していた。顔を真っ赤にして身を乗り出して声を荒立てている。

 今にも殴り合いになりそうに見えた。

 

「あわわ、おお落ち着いて下さい!け、喧嘩しちゃ駄目ですよぉ」

 

 いても経ってもいられなかったのか咄嗟に二人の間に割って入って喧嘩を防止する神楽に、さしもの新八も思い止まった。

 これが二人の知ってる神楽でたあったなら、きっと側で我関せずと鼻をほじってるかヤジを飛ばすか、はたまたうるさいの一言で喧嘩両成敗よろしく二人まとめて叩きのめしていただろう。

 

「えと、ごめんね。なんか気を使わせちゃって」

 

「良いんです。こうなっちゃったのは仕方ないですし、今は私の出来る事を頑張るつもりです。この体って凄い力があるんですよね。わたし元の体の時ってあんまり力とかなかったから、少し羨ましくてーーー」

 

 そう言って神楽は指先を合わせてモジモジしだした。

 途端に新八は口元を押さえた。

 ヤバイ!今の神楽ちゃん、なんか可愛い!!

 

 そう思ってしまったのだ。

 今の神楽はもう16歳。まだまだ成長期らしさを感じるがそれでも女性らしさは滲み出ていた。

 それが中身が入れ替わったことにより中に居るなのはの動きが追加された事により新八の男を露骨に刺激してしまったようだ。

 

「そうかい。そんじゃ早速役に立ってもらうとすっか。この後俺達は仕事をする事になるんだが、その仕事にお前が必要なんだ。言いたい事分かるか?」

 

「えっと・・・働けって事?」

 

「物わかりが良いじゃねぇか。案外ずっとこのままでも良いんじゃね?」

 

「ふぇぇっ!!?」

 

 突然そんな事を言い出す銀時に思わず戸惑ってしまう神楽。

 

「ちょっと、銀さん。神楽ちゃん困ってますよ。そんな事を言うのやめて下さいよ」

 

「何言ってんだよ。ぱっつぁんだって今の神楽の方が良いだろ?」

 

「そ、それは・・・」

 

 途端に渋り出す新八。あながち間違ってはいないからだ。

 

「大体考えても見ろよ。あのヒロインもどきのゲロインと今のヒロインらしいヒロインと、どっちが良いかなんて比べるまでもねぇだろ?俺だったら迷わずこっちを選ぶね」

 

「げ、ゲロイン?」

 

 気が慣れない単語なんだが、なんとなく罵倒文句だってのは理解出来た。

 出来たので聞くのは辞めておいた。

 なんか聞きたくないしーーー

 

「でも、それじゃ銀さん。元の神楽ちゃんは一体何処に行ったんですか?」

 

「はぁ?んなの俺が知る訳ねぇだろ!何でも銀さんにたよんじゃねぇよ!たまにはてめぇが考えろよ!」

 

「う〜ん。確か、今神楽ちゃんの中にはなのはちゃんが入ってるんだよね。だとしたら、今のなのはちゃんの体の中にもしかしたら神楽ちゃんが入ってるんじゃないの?」

 

「はあ?お前なにベタな事言ってんだよ!そんな小学生でも分かるような展開ある訳ねぇだろ」

 

 盛大に笑い飛ばす銀時。しかし、先の新八の言った事に神楽は青ざめた。

 

(そ、それじゃ・・・今、私の体の中には、その神楽って人が入ってるって事?ど、どうしよう・・・何か変な事してないよね?家族に暴力たか振るってないよね?)

 

 不安になりながらも、今の神楽にはどうする事も出来ないのであった。

 

 

 

***

 

 

   〜高町なのは(神楽)サイド〜

 

 

 俺の名は高町恭也。高町家の長男だ。

 尊敬する両親の下に生まれ、可愛い妹達に囲まれた生活をしている。

 

 何、リア充だって?誰だそんな事言った奴!前に出ろ!三枚におろしてやる!

 

 すまない。話が逸れたなーーー

 俺達高町ファミリーは海鳴市と言う海辺の街で喫茶店を経営している。

 因みに俺も上の妹も働いている。一時は閉店の危機に見舞われた時期もあったがなんとか持ち直し、今は常連さんや遠方から訪れる客に愛される店としてそれなりに繁盛している。

 

 俺の父は剣の使い手であり、俺と上の妹は父と日々剣の稽古をして互いの技を高め合っている。

 今はまだ父には及ばないがいずれは超えるつもりだ。

 

 何?なんだそのエーテルちゃぶ台返しってのは?

 そんな訳のわからん技なんぞ使わんぞ!

 はぁ?中の人ネタだと?!何言ってんだお前ら!みじん切りにするぞ!

 

 また話がずれたな。

 先も言ったが俺にはもう一人妹がいる。

 上の妹とは違って大人しい子だ。

 兄の俺が言うのもアレなのだが可愛い妹だとおもっている。

 

 は?シスコンだと?!

 それがどうした?妹を愛でたら駄目なのか?

 今度変な事言ったらぶつ切りにするからな!

 

 その日はいつものように父と上の妹の三人で剣の稽古をする予定だったのだが、その日はどう言う風の吹き回しか、下の妹に一言声を掛けてから行こうと思い下の妹が寝ているであろう個部屋へと向かった。

 

 その時俺は焦っていたのか、それとも別のことを考えていたのかどうかは不明なのだが、その時俺は本来ドアをノックする筈がそれをせずいきなりドアを開けてしまった。

 

 あ、ノックするの忘れてた!!

 と思いながらも開けてしまった以上閉めるのもあれだと思ったのでこの際怒られても良いかとドアを開いて部屋に入ると、部屋の主でもある下の妹の怒号と共にドテッ腹に向かい飛び蹴りが放たれた。

 

 めっちゃ痛かったーーー

 

 怒られるのは覚悟してたが、まさかいきなり鳩尾に向かって飛び蹴りを喰らうとは思ってもいなかった為にそれを諸に食らってしまい、そのまま部屋を叩き出されて地に倒れ伏す。

 

 あれ?おかしいなぁーーー

 下の妹ってこんな暴力的だったっけ?

 俺の記憶ではもっと大人しめだった筈。

 喧嘩なんてした事なんてないし勿論格闘技経験だってなかったはず。

 間違っても走り幅跳び並みに跳躍してからの飛び蹴りなんてしない筈。

 それに、下の妹はこう言っては失礼だが運動音痴だった筈。

 一体何が下の妹を変えてしまったのだろうか?

 

 思考が追いつかない俺の上に馬乗りになった下の妹が兄貴である俺の胸倉を掴み上げて怒声を放ってきた。

 

 まさか寝ぼけてるのか?

 そう思い必死に説得を試みたのだが、説得は全く通じず、それどころか今の今まで知り得ない筈だった卑猥な単語が可愛い妹の口から飛び出した時は正直ショックの余り泣きそうになった。

 

 突然豹変してしまった下の妹にどうすれば良いのか判断に困り、なすがままと言った具合にボコられていた所を上の妹が来るのが遅いのを気にして見に来たようだが、その上の妹も豹変した下の妹に戸惑っていた。

 

 分かるぞ妹よ。愛する可愛い妹が突然暴力を振るってきたらそりゃ驚くよね。

 

 しかもその豹変した下の妹が奇妙な事を叫んでいた。

 

 自分は【なのは】ではなく【神楽】だとーーー

 

 

 一体どう言う事なのだろうか?

 何故なのははあぁも豹変してしまったのだろうか?

 

「ところで兄さん、なんでなのはの部屋の前にいたの?」

 

「そ、それは・・・朝の挨拶をしようかとーーー」

 

「シスコンも大概にしなよ。変態兄貴」

 

 

【グサッッッ!!!】

 

 

 上の妹のその一言は、今まで生きてきた中で一番痛いと思えた。

 

 それで、今のなのははと言うと・・・

 

***

 

 

今朝から異常事態が起こった為にその日の稽古は一旦中止となり、仕方なく朝食を取ってから稽古をする事にして、とりあえず家族全員が食卓に集まり朝食を取る事となった。

 

 その日も変わらず母こと桃子の手料理の数に舌鼓を打ちつつ幸せを噛み締める我が家の大黒柱こと父士郎。

 その横では父士郎の惚気をスルーしつつ食事をする美由紀と何故か全身ブルー一色に染まり、ガックリと項垂れる恭也。

 

 そしてーーー

 

「おかわり、ヨロシ?」

 

 そう言って空になったご飯茶碗を突き出す次女のなのは。

 

「珍しいなぁ、なのはがご飯をおかわりするなんて」

 

「成長期かしらね?」

 

 豹変したなのはに全く気づかず、成長期なのだろうと笑って済ます能天気な両親。

 

「絶対違うと思うよ。そうだよね?シスコン兄さん」

 

「美由紀・・・お願いだから兄貴の傷口に塩を塗り込むような真似をしないでくれないか?流石の俺もそろそろ泣きそうなんだけど」

 

「ウダウダ言ってねぇでおかわり入れろよロリコン兄貴。どうせ飯を盛る事しか出来ねぇんだからよぉ」

 

「ぐはぁっっ!!」

 

 その一言がトドメとなったらしく、食事の途中だと言うのに自分の席で真っ白に燃え尽き力尽きるロリコンシスコン兄貴。

 

「私が入れてあげるわね。どれくらい入れれば良いの?」

 

「特盛で頼むアル!なんだったら炊飯器ごとでも構わないアルよ」

 

「あらあらなのはったら。幾ら成長期でもそれは食べ過ぎよ」

 

 くすくすと笑いながら桃子はなのはの茶碗を受け取りご飯をよそう。

 そして白飯で満たされた茶碗を受け取ると、そのまま口元まで持っていき一気にがっつきだした。

 

「今日のなのはは食欲旺盛だなぁ」

 

「そうね。何時もはすぐにお腹いっぱいになってるのにどうしたのかしら?」

 

 相変わらず能天気に目の前の料理を次々に平らげていくなのはを見守る両親。

 

「ご馳走様。お父さん、私先に道場行ってるから」

 

「分かった。後片付けが終わったら俺も行くよ。恭也は・・・」

 

 視線を恭也に向けた士郎がそのまま固まってしまった。

 彼の目の前ではドス黒い闇を抱えながら何かブツブツと呟く危ないオーラが出まくっている長男の姿があった。

 

「き、恭・・・也?」

 

「ふふっ・・・ロリコンでシスコン・・・ふふっ。別にそれでも良いさ。妹は好きだし自慢の妹だし俺は兄貴だし俺が我慢すれば良いんだしそもそも妹がお兄ちゃん嫌い!とか言うのってテンプレだし後でまたお兄ちゃん大好き!てなるだろうし俺頑張れるし俺はやれるしまだ大丈夫だし一応スピンオフでは主人公だったし原作でも主人公だったし(以下余りにも長すぎたので割愛)」

 

 すっかり闇を抱えてしまった恭也に流石の能天気に夫妻もどう対処したら良いのか困り果ててしまった。

 そんなダークな兄貴の事など一切気にも留めずに部屋を出ていく美由紀。

 上の妹は案外ドライな性格みたいだ。

 

「ごちそうさまヨォ!」

 

 そして、下の妹ことなのはもまたダークになった恭也の事など全く気にする素振りも見せずそのまま食卓を後にする。

 

「なのは、今日は何処かへ行くのかい?」

 

「ん?そうアルなぁーーー」

 

 なのはは考えた。

 この世界の事はよく分からない以上下手に動くのはあまり良いとは言えない。

 しかし、だからと言って部屋に篭るのも良いとは言えないし何より退屈でしかない。

 

 それに、折角こうして見知らぬ場所にきたのだから折角なら色々歩き回るのも悪くないと思えた。

 そのせいで何かが起こったとしてもその時はその時って事で良いやと適当に考えつつ今日のスケジュールを模索する事にした。

 

 その時間、およそ5秒ほどーーー

 

「適当にその辺をぶらつくアル。どうせ部屋に篭ってても暇なだけアルし、天気もいいから外で遊んでくるアルよ」

 

「あらあら、今日のなのはは活発ねぇ。一体どうしちゃったのかしら?」

 

「うんうん、元気な事はいい事だね。でも気をつけてね」

 

「バカにすんなよ!私そこまでヤワじゃないネ!」

 

 そんなこんなで外へと繰り出したなのは。

 その手にはいつもの癖なのか雨傘が握られていた。

 

「なんで傘を持っていくんだ?今日は一日晴れのはずだけど」

 

「日除けアル。乙女の肌はデリケートアルよ。これ常識ネ」

 

 そう言って傘をさしながら外をぶらつくなのはは、ふと空を見上げた。

 雲ひとつない快晴の空。

 しかし何かが足りない事に気づいた。

 

「飛空船がとんでんないアル」

 

 そう、江戸ではお馴染みの天人が使用する飛空船が全く見当たらなかった。

 さらに言えば道行く人たちにもどこか違和感があった。

 皆見た事のない服を着ているのだ。

 それはこの際どうでもいい。

 服装なんてそれこそ人の数だけ違ってるのだから。

 しかしそれ以上に気になったのは人々の髪だった。

 既に何人かの人とすれ違ったのだが、誰もマゲを結ってなかった。皆普通にのばしてるのが殆どだった。

 それに腰に刀も差してなかった。

 廃刀令を敷かれたとは言え腰に刀を差してる浪人は江戸では然程珍しくはなかった。

 だが、そんな人間がどこにも見当たらなかった。

 

「まるで別の世界アル」

 

 少なくとも江戸ではない事は理解できた。

 まぁだから何だと言う話なのだが。

 別に此処が江戸でないとは言っても別に生活に問題はないし、何より此処の飯は美味かった。

 それに此処なら自分は幼女から一皮剥けた程度の少女のようだ。

 

 となれば別に仕事をしなくてもいいと言う事になる。

 夢の食っちゃ寝生活が今こうして実現しているのだし、今の所元の世界に戻る方法が分からない以上焦るだけ無駄だし、それだったらいっそ今いるこの世界を大いに楽しむべきだろう。

 

 そう言う割り切れるところがなのはこと神楽のいいとこであり、また欠点とも言えるのだが。

 

「返して!返してよ!」

 

「ん?」

 

 のんびり散歩していた時に聞こえた来た。

 声のした方を見ると、二人の少女がいた。金髪の気の強そうな少女が紫色の気の弱そうな少女となにやら揉め事を起こしていた。

 

「お願い!それを返して!」

 

「嫌よ!返して欲しいなら自力で取り返して見なさいよ!」

 

 まぁなんと言うか典型的な弱いものいじめみたいな奴だった。

 別に珍しい話じゃない。いじめなんて江戸でもあった。

 中には神楽に苛めをしようとした輩もいたがそう言った輩は当然の事鉄拳制裁をお見舞いしていた。

 んで、今その場面に出会したなのははと言うとーーー

 

「何真昼間からイチャついてるアルか?」

 

 別に止めるでもなければ静観するでもない。

 だが、折角なので絡んでみる事にした。

 見た所同年代のようだし話し相手には丁度良さそうにも見えた。

 

「何よあんたは!?」

 

 金髪の少女がドスの効いた感じの声を放って威嚇してくる。

 これが同年代の少女であったなら恐らくビビって尻込みしていたであろうが、今のなのはの中に入っているのは16歳の少女。

 しかも宇宙最強の戦闘民族出身だ。

 子供程度の睨みなど毛程も感じない。

 

「なぁに、余りに熱烈にイチャついてたみたいだからついつい茶々いれただけアルよ。私の事は放置してどうぞ遠慮せず好きなだけ乳繰り合うがイイネ」

 

「乳繰り・・・合う?」

 

「何意味分かんない事言ってんのよあんたは?」

 

 流石に少女達二人には今の言葉の内容を理解するのは無理だったようだ。

 

「え?まっ昼間から二人が愛し合ってるのをアピールしてたんじゃないアルか?」

 

「そんな訳ないでしょ!なんでそんな事しなきゃ、ならないのよ!」

 

「おやおや照れ隠しアルかぁ?初々しいアルなぁそう言うのお姉さん好きアルよぉ」

 

「何がお姉さんよ!あんた明らかに私とタメじゃないのよ!」

 

「女は見た目だけじゃ分からないものネ。最初はツルツルの筈の場所にいつの間にか毛がモジャモジャ生えてるみたいなもんアル」

 

「モジャモジャって・・・一体なんのことよ?」

 

「そりゃ勿論ちんーーー」

 

「だあああーーーーー!あ、あああんた何度とんでもない事口走ろうとしてんのよ!」

 

 なんの毛なのか察したのか顔を真っ赤にして狼狽だす金髪の少女。

 その隣ではさっきまで涙目になっていた紫髪の少女が必死に金髪の少女を宥めていた。

 

「おんやぁ?私何も卑猥な事言ってないアルよぉ?もしかして妄想したアルかぁ?」

 

「だだ、誰が妄想なんてするのよ!あんたこそどうなのよ!」

 

「やれやれアル。女もいつかは男を侍らせて○○○○とか○○○○とかやるアルよ。それからさらに発展して○○○○になったり○○○○とか○○○○とか後はーーー」

 

「ストップストップストーーーーーーップ!!もう分かった!とりあえずあんたはもう喋んな!」

 

「お、落ち着いて。そんなに怒ると良くないよぉ」

 

 その後もなのはと金髪少女との口論は続いたのだが、終始なのはがリードする形になっていた。

 口論が終わる頃には、何故か肩で息をしている金髪少女と、それを心配そうに見つめる紫髪の少女がいた。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・な、なんなのよあんたは・・・」

 

「私はなのは!高町なのはアル!将来この町の女王になる女アル!平伏すが良いネ愚かな愚民どもよ!」

 

「「・・・・・・」」

 

 余りにも唐突かつぶっ飛んだ内容に二人は言葉を失ってしまった。

 それを見て気を良くしたのかない胸をおおいに張り上げるなのは。

 やってやったぜ!と言いたげな表情を浮かべている。

 

「・・・ぷ!あははははは!」

 

 突然、金髪の少女が大声で笑い出した。隣では紫色の髪の少女もまた口元を押さえて肩を震わせている。

 多分笑いを必死に堪えているのだろうが丸わかりだった。

 

「なに笑ってるアルか?」

 

「だって、この町の女王なんて、今時小学生でも言わないわよそんな事!もうお腹痛い!でもおかしくておかしくてあははははは!」

 

 目尻に涙を浮かべながら金髪少女は腹を抑えながら爆笑した。

 それを見て、なのはは何故そんなに笑っているのか理由が分からず首を傾げるのだった。

 それから三人はすっかり意気投合し、他愛無い雑談を楽しむようになっていた。

 

「さっきは、ごめんなさいね。私、なんかモヤモヤしてて、うまく言えないんだけど、人付き合いが上手にできなくてね。それでーーー」

 

「もう良いよ。気にしないから」

 

「うんうん、仲良くなれて良かった良かった!」

 

「って、あんたが言うんじゃ無いわよ!」

 

 ビシッとツッコミを入れてきた。

 

「おぉ、流石はツッコミに定評のあるアリサアルな。将来芸人としてやっていける筈アルよ」

 

「ならんわ!ってか、勝手に人の事を芸人にするな!」

 

 またしてもツッコミをしてしまった。

 案外彼女にはツッコミの才能がありそうだ。

 

「ダメだよなのはちゃん。アリサちゃんをからかっちや」

 

「硬い事言いっこなしネすずか。私達の仲なんだしすかしっ屁アルよ」

 

「それ、もしかしてスキンシップって言いたいの?」

 

「そうそう、それアル!」

 

「スキンシップをすかしっ屁って・・・本当になのはちゃんはなんて言うか、ちょっと変わってるよ」

 

「ちょっとじゃないわよすずか!なのははねぇ、か・な・り!変わってるのよ!私が生きてきた7年間の人生でここまで変わってるのはこいつくらいなもんよ!」

 

「おいおい、そんなに褒めるなよアリサ。照れちゃうアルよ」

 

「すずか。たまにはあんたがツッコミしてくれない?私もう疲れたわ」

 

「え〜、どうしよっかなぁ〜」

 

「ちょっ、すずか!?私を置いて行くつもりなの?!お願い、私を一人にしないで!私一人でなのはの相手なんて無理だから!私死んじゃう!」

 

 もうすっかり仲良く会話していた。とても今日初めて会った仲とは思えなかった。

 

「なんだろうね。私なのはちゃんとは初めて会った筈なんだけど凄く仲良くなったみたいな気がする」

 

「そうかもね。あんたと話してると疲れるけど。とっても楽しいわ。なんて言うか、友達・・・なのかな?そんな感じ?」

 

「ヲイヲイ、何を水臭いこと言ってるアルか二人とも。私はもうとっくに二人とマブダチになったつもりアルよ」

 

「「マブダチ?」」

 

「親友、心の友、それと同じ意味ね。私達はもうとっくにマブダチアル!」

 

「マブダチかぁ・・・なのはらしくて良いわねそれ」

 

「うん!私も良いと思う。アリサちゃんやなのはちゃんと友達・・・じゃなくて、マブダチになるんだね!」

 

「そうアル!私達は今日この日よりマブダチになるネ!何か困ったことがあったら遠慮せずに私を頼るが良いネ!」

 

「あんたに頼ったら余計に事がややこしくなりそうだからお断りよ!」

 

「うふっ、アリサちゃんってば照れ隠しのつもり?」

 

「なっ!ち、違うわよぉ!!」

 

 その日、三人は時間の許す限り語り合い笑い合った。

 そして、その日を境になのはこと神楽は見知らぬ地にて【アリサ・バニングス】と【月村すずか】の二人と【マブダチ】になったのであった。

 

 つづく




なのは原作のアリサとすずかの出会いイベントでしたが、中身が神楽なせいで折角の感動の場面が台無しに・・・これ、ファンに怒られないよね?
その時は・・・さーせんです。


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第3話 住めば都って言うけどやっぱ実家が一番落ち着くわ

気がついたら結構なUAとお気に入りがされててビックリ。こりゃ次を書かねばと思い今日も執筆してました。


 目を覚ますと、見覚えのある部屋がまぶたを通じて映し出された。

 見覚えのあるベット。

 見覚えのある部屋の装飾。

 見覚えのある家具。

 

 そうだ、ここは私の部屋なんだーーー

 

「やっぱり、あれは夢・・・だったんだね」

 

 安堵し、軽くため息をついた後に私はベッドから身を起こした。

 普段から行なっている朝の身支度を手早く済ませて下の階に待っているであろう家族たちのもとへと向かう私の体全身が妙な懐かしさを感じていた。

 おかしいな。だってあれは夢だったんだもん。

 ほんの少しだけ長い夢を見ていただけなのにこんなにも懐かしく感じるなんて。

 私は少しおかしくなった。そして、早く家族に会いたくなる気持ちを抑えて家族の待つであろう食卓へと顔を出した。

 

「おはーーー」

 

『おはよう!!』

 

 え?

 

 私より先に私が家族に挨拶をしていた。家族も先に挨拶をした私だけを見ていて私のことは全然見てくれない。

 なんで?

 何で私を見てくれないの?

 私はここにいるのにーーー

 

 私の悲痛な願いも虚しく、目の前では私と私の家族の団欒している光景が映し出されていた。

 

『今日は一人で起きられたみたいだな』

 

『うん、いつまでもお兄ちゃん達に起こされてちゃダメだもんね』

 

『もうなのはも小学生だからな』

 

『うぅ、娘の成長って早いもんだなぁ』

 

 楽しそうに会話をしている私と私の家族。

 だが、私はそれをただ見せられているだけだった。

 決してその中に入ることはできない。

 

「ねぇ、誰なの?なのはは私だよ!その子は誰なの?」

 

 必死に叫んだとしてもその声が家族に届くことはなかった。

 いつまでも楽しそうに団欒している家族の光景が今の私にはとても見てられなかった。

 わたしは楽しそうに会話をしている家族の姿に背を向けて歩いていった。

 ふと、自分の手を見てみた。

 白い手。私よりも幾らか大きな女の人の手だった。

 私は目の前に映った鏡に自分の姿を写した。

 そこに居たのは私じゃなかった。

 オレンジ色の髪に青い瞳をした別の誰かだった。

 

「なんで・・・何でなの?何で私じゃないの?!」

 

 目の前に映る自分に向かい叫ぶ。私の目からは涙が流れていた。

 見ず知らずの体だが、今はこれが私なんだ

 

「返して!返してよ!私を返してよ!」

 

 そう言ってひたすら鏡を殴りつける。嫌だ、嫌だ嫌だ!

 もう、家族に会えないなんて絶対に嫌だ。

 なにより、私でいられないのが何よりも嫌だった。

 だから、私は目の前に写ってるこの女が憎らしく思えた。

 

「私を・・・私を・・・私を返せえええええええええええええーーーーーー!!!」

 

 泣き叫び、強く握りしめた拳を自身の姿が映し出されている鏡に叩きつけた。

 目の前の鏡は音を立てて砕け散り、その先に待っていたのは、何も映し出されない真っ暗な世界だけだったーーー

 

 

***

 

 

「・・・夢?」

 

 目を覚ますと、いつもどおり薄暗い押し入れの中で私は目を覚ました。

 どうやら、いまだに私は私に戻れていないらしい。

 

「今は・・・この体が、私なんだよねーーー」

 

 納得したようなできないようなそんなモヤモヤしたら気持ちのまま私は寝床から離れた。

 あんな嫌な夢を見た後じゃ二度寝する気になれない。

 それに、時計を見たら良い時間になっていた。

 それと同時にお腹が空腹を知らせる音色を奏でている。

 

「朝ごはん・・・作らなきゃ」

 

 一人でそうつぶやき、私は身支度を済ませた。

 私がこの【神楽】と言う女性の体になってからもう何日か経っていた。

 そのお陰か神楽の身支度もだいぶ慣れてきた。

 余分な髪を束ねて中華風の装飾が施された髪留めを被せてこれで完成。

 なんとなく以前の私に少し似てる気がした。

 

 早朝と呼ぶには少し遅い時間帯。この時間で起きてる住人はいない。

 ここの住人は皆生活リズムが狂いまくってるらしく、しっかりしてないと私まで変なリズムになってしまいそうだ。

 そうならない為にも私は調理場に立った。

 実家が喫茶店だったのもあって自慢じゃないが人並みに料理は出来るつもりだ。

 冷蔵庫の中を覗いたがもう余り食材はない。後二日もしたら中は空になりそうだ。

 

「今日辺り買い物行かないとなぁ」

 

 などと呟きながらも朝食の支度を手早く済ませた。

 手ごろな葉物野菜があったので今日の朝食は野菜サラダに目玉焼きとカリカリのベーコンとトーストと言ったごくごく普通な感じの献立だ。

 

(お母さんだったら、ここにスクランブルエッグとか足すんだろうけど、卵がもうないんだよね。今日の買い物リストに加えておこう)

 

 朝食の支度を済ませていると、私の寝ていた押し入れの中から定春が顔を出してきた。

 朝食の匂いにつられて目を覚ましたみたいだ。

 

「おはよう、定春」

 

「ワンっ!」

 

 元気よく吠える定春の頭を私は優しく撫でてあげる。すると定春がとても嬉しそうに目を細めていた。

 最初に定春を見た時は余りにも巨大だったそれに驚いて悲鳴を上げてしまったが、慣れてくるとそんな定春も可愛く見えてしまうから不思議だ。

 

「すぐに朝ごはん用意するね」

 

 定春用に用意した肉の屑と野菜クズを合わせたご飯を定春用の器に盛り付けて床に置くと、それをガツガツと食べ出した。

 巨大なだけあって凄いよく食べるので定春用のご飯も買わないと行けなさそうだ。

 

「そろそろ起こさないと」

 

 次に私が向かったのはこの家の家主が寝ている部屋だった。

 ここの家主さんは放っておくと昼過ぎまで寝てたりするので私が毎日起こすことにしている。

 

「銀さん、朝ごはん用意出来たよ。早く起きて」

 

「う〜ん、朝飯ぃ?いらねぇ。二日酔いで飯なんてはいらねえよ」

 

「はぁ、また深酒したの?あれだけ飲み過ぎるなって言ったのに!」

 

 呆れてため息がでてしまう。

 この人が二日酔いするのは珍しいことじゃない。

 下手すると毎日二日酔いしてたりする。

 なので、今回は私も心を鬼にするつもりだ。

 

「何時迄も寝てないで起きなさい!朝ごはん片付かないでしょ!!」

 

 そう言って布団をひっぺがして無理やり起こす。

 そんな私を銀さんが「お、お母さん?!」なんて言ってたけど、私銀さんみたいな手のかかる子供なんて嫌だよ。

 それに、まだ子供作れる年じゃないもん。

 

 

***

 

 

 無理やり銀さんを起こして食卓につかせてようやく朝ごはんを食べることができた。

 終始眠そうな顔をしていた銀さんも朝ごはんを食べてるうちに段々と目を覚まして行ってるみたいだ。

 

「おはようございまぁす!」

 

 そうこうしているとここに通ってきているもう一人の従業員さんが出勤してきた。

 

「おはよう、新八勲。まだ朝ごはん食べてるんだけど良いかな?」

 

「別に大丈夫だよ神楽ちゃん。僕はその間に部屋の掃除とか簡単にしとくから」

 

「お願いね。ほら銀さん!早く朝ご飯食べちゃって!食器が片付かないよ!」

 

「っせぇなぁ!朝飯ぐらいゆっくり食わせろよ!」

 

「ゆっくり食べたいんだったらもっと早く起きてよね」

 

 すでに空いた皿を片付けてテーブルを湿らせた布で拭き取り綺麗にしておく。

 此処は食卓であり客間でもあるのでいつ来客が来ても良いように綺麗にしておく。

 そうしないと仕事もらえないからね。

 

「それじゃ私これから下の手伝いに行って来るけど、いい加減仕事探してよね」

 

「わあったよ。お!今週のジャンプの表紙はワン○ースかぁ。ミリオン出しまくってる奴ぁ良いねぇ。俺もまたいつかジャ○プに返り咲きてぇなぁ」

 

 返事しながら週刊誌を読み始める銀さんと掃除をしてくれてる新八君を残して、わたしは最近手伝い始めた店へと向かった。

 そこはわたしが寝泊りしている万事屋銀ちゃんの丁度真下だった。

 

「おはようございまぁす!」

 

「おや、来たかい」

 

 店に入ると家主の壮年の女性が一人たばこをくわえていた。

 

「相変わらず銀時の奴はダメだねぇ。あんまりダメだったらあたしに任せな。すぐにでも川原に捨ててきてやるからさ」

 

「にゃはは、その時はお願いしますね。お登勢さん」

 

 厳しい事を言ってるが、私はお登勢さんが本当はそんな事する人じゃないって事を知っていた。

 お登勢さんはとても優しい人だ。

 私の体が入れ替わってしまいこの江戸の生活に馴染めずに途方に暮れていた時に手を差し伸べてくれたのだから。

 だから仕事がない日はこうして店の手伝いをさせて貰っている。

 私の家にはお婆ちゃんが居なかったから新鮮な気持ちだ。

 怒ると怖いけどとても優しいお登勢さんを困らせない為にもたくさん仕事を見つけてこなさないとね。

 

「キャサリンさんは?」

 

「あいつはまだ寝てるよ。まぁ、あたしらは本来夜の蝶だからね。こんな時間に起きるこたぁ早々ないだろうね」

 

「そっか」

 

 納得したところで手伝いを始める。

 やる事は店で出すつまみの仕込みだったり店内の清掃だったりと喫茶店と少し似てるとこがあった。

 まだこの身体も未成年なのでお酒関連の事はお登勢さんやキャサリンさんに任せるしかないけどそれ以外なら私でも出来る。

 一通り仕事を終えた後は足りない食材を買いにスーパーへと向かった。

 なんで江戸時代にスーパーが?

 なんて思った時期もあったけど住んでしまうとあんまり気にならなくなってきた。

 生活に便利だったらこの際多少の疑問は放置しても良いかな?なんて思いながら店内をカートを押しながら食材の選別をしているとーーー

 

「あら、神楽ちゃんじゃない」

 

「こんにちは」

 

 卵売り場で私は新八君のお姉さんのお妙さんだった。

 この人も食材の買い出しに来たみたいだ。

 それにしてもーーー

 

「随分と卵を買うんですね?」

 

 彼女の籠には卵だけが10パック近く入っていた。

 確かに卵はあると何かと便利なのだがそんなにいらない。

 ありすぎても困るからだ。

 そんな疑問に彼女は笑いながら答えてくれた。

 

「私卵焼きが得意なのよ。今度神楽ちゃんにもお裾分けしてあげるわね」

 

「ありがとうございます」

 

 わたしは、のちにこの言葉を後悔する事になる。

 何故なら、彼女が作る卵焼きは卵焼きではなくかわいそうな卵と呼ばれる真っ黒な炭の塊なのだから。

 この時はまだその存在を知らなくてはいと答えてしまった。

 それがあんな結果になるなんてーーー

 

「本当ですか!?嬉しいなあ。僕お妙さんの手料理大好きなんですよ!」

 

 一体どこから出てきたのか?

 顔にばってん状の傷を持ち顎髭をたくわえた男性が目をキラキラさせてお妙さんとわたしの前に立っていた。

 その瞬間、お妙さんの纏っている空気が変わった事に気付いた。

 

「誰がてめぇなんぞに手料理振る舞うんじゃボケェェェ!!」

 

「ぶほぉ!!」

 

 渾身のドロップキックが男の人の顎先にクリーンヒット!

 そのままお妙さんが倒れた男の人の上に馬乗りになってひたすら顔面を殴り続けている。

 最初はガスッガスッ!て音を立ててたんだかだ、暫くしたらグチャッグチャッ!と不気味な音に変わっていた。

 私は即座に必要な分の卵を籠に入れてその場から立ち去る事にした。

 本当は止めたかったんだけど怖かったので辞めました。

 ごめんなさい。見知らぬ誰かさんーーー

 

 

***

 

 

 買い物を終えて家路に着く頃には既に空が茜色に染まっていた。

 今日もまたこの場所での1日が終わろうとしている。

 私は、西の空に沈んでいくお日様を眺めながら一人呟いていた。

 

「・・・私、いつになったら元に戻れるんだろう?」

 

 この世界でしか知り合えない人達と知り合うことが出来た。知らない事がたくさん知る事ができた。

 でも、ここは私の住んでいた世界じゃない。

 私の知ってるものはこの世界には存在してない。

 私は、この世界では一人ぼっちでしかなかった。

 

「早く・・・家に帰りたいなぁーーー」

 

 そう呟き、私は今自分が寝泊りしている場所へと戻っていった。

 

 

***

 

 

 私がこの身体に入れ替わってからもう2年も経ってしまったアル。

 初めは小学1年生だった私も今や小学3年生になったアル。

 もう立派な大人の女アル。でも未だに体はチンチクリンアルけど。

 

「今日もマミィのご飯は美味いネ!」

 

「あら、ありがとうねなのは」

 

 別に世辞でもなんでもない。これは事実だ。

 私が前に住んでいた場所ではこんなに美味い飯は出てこなかった。

 流石喫茶店を経営してるだけあって中々の腕前アル。

 

「流石は母さんだ。お前たちも母さんには感謝するんだぞ」

 

「分かってるよ」

 

「感謝の念が全然たりてないアル。その場で三点倒立するくらいの誠意を見せろやバカ兄貴」

 

「なんか、最近なのはが俺に対して凄い辛辣なんだけど」

 

「気のせいじゃないの?兄貴がバカなのは今に始まった事じゃないんだし」

 

「美由紀、お前もかーーー」

 

 そんな感じで和気藹々と過ごしつつ朝食を食べ終わると、今度は制服に着替えて学校に行く支度を済ませるアル。

 正直今更なんで学校なんて行かなきゃなんねぇんだよボケがぁ!!と思ったアルけど友達と会えるから仕方なくいく事にしてるアル。

 家の近くに送迎バスが到着し、それに乗り込むと既に知り合いが乗っていた。

 

「よぅ、今日も出迎えご苦労様アル!」

 

「別にあんたを出迎えにきた訳じゃないわよ!たまたま私たちの方が早かっただけよ」

 

「はいはい、ツンデレアルなぁ」

 

「よし、あんたが人の話を全く聞いてないのは理解出来たわ」

 

 相変わらずアリサはツンデレアル。

 其処がまた可愛いとこでもあるのだが、あんまり意地悪しすぎて泣かせてしまっても悪いのでこのへんにしておくアル。

 

「おはようなのはちゃん。今日も変わらず元気だね」

 

「当然アル!私は365日常に元気爆発アル!」

 

「流石なのはちゃんだね」

 

 そう言って素直に感心しているすずかもまた可愛い奴アル。

 私からしてみれば二人とも妹みたいなもんアルが、今は私も二人と同じ歳なので気の合う友人、マブダチアル。

 その後は退屈な授業を受けてお昼を屋上で食べたアル。

 

「ねぇ、なのはは将来になにになりたいか考えてるの?」

 

 唐突にアリサがそう聞いてきたアル。

 そんなの決まってるネ。私の野望は一つしかないアル。

 

「無論、私はこの海鳴の覇者になる!それが私の将来の夢ネ!」

 

「なんでそんな武闘派な夢なのよ!そこは家を継ぐとかじょないの?」

 

「ヲイヲイ、家が喫茶店だからって継ぐ気はないアルよ。そんなのよりも私はもっと強い奴にあいたいアル!そして史上最強の女になるアル!」

 

「あんた何処のグラップラー?」

 

 そんな感じでその日も何事もなく過ごしていたアル。

 その日も学校が終わり、通いの塾に行く日だったアル。

 

「あ〜。マジだるいネ。なんで学校終わった後に塾なんて行かなきゃならないアルか?私見たいドラマあったのに」

 

「あんたねぇ、テストの成績殆ど赤点ギリギリだったでしょ?家族が心配してるんだから少しは真面目に取り組みなさいよ!」

 

「んな事言われてもよぉ〜、私は勉強よりも体動かしてる方が楽しいアルよ」

 

「確かにね。なのはちゃん体育の成績だけはトップだもんね・・・次は負けないから(ボソッ」

 

「???」

 

 一瞬すずかから闘気のようなのが感じ取れた気がしたアルが気にしない事にしたアル。

 

【助けて・・・誰が】

 

「ん?」

 

 幻聴みたいなのが聞こえてきた。

 これはいよいよ重症のようだ。

 きっと勉強しすぎて頭が変な毒電波を受信してしまったようだ。

 やれやれ、少しは勉強も控えるべきアルなぁ。

 

【聞こえてるよね?お願い!助けてください!】

 

 また聞こえてきた。しかも今度は割としっかりと聞こえたアル。

 でも、そこまで話せるんなら問題なさそうアルな。私になんて頼らずに一人で生きていくべきネ。

 

【いや、まじで助けてください!もう色々とやばいんです!お願いしますなんでも言うこと聞きますから!】

 

 ほほぅ、なんでも言うこと聞くと来たアルか。これはいい事聞いたアル。

 でも、もうちょっとだけ足元見てやる事にしたアル。

 あんまりすぐに助けてもそいつの為にならないアルからな。

 

【ヘルプ!ヘルプミー!プリーズヘルプミー!!】

 

 流石にうざったくなったのでやれやれと半ばうんざりして声のした方へと向かったアル。

 その先には一匹のネズミと赤いビー玉が転がっていたアル。

 

「んだこれ?蛇の餌が逃げ出したアルか?」

 

「あんたそれピンクマウスの事言ってんの?これどう見たって違うでしょ?」

 

「なら解体して動物の餌にする用アルか?」

 

「そっちの話題から離れろおバカ!」

 

 何故かアリサは憤慨してたアル。短気は損気アルよアリサ。

 そんな訳で仕方なくその小動物は近くの動物病院へと運び込み、私達は塾へと行ったアル。

 マジ憂鬱だったアル。




ようやく出てきたフェレット君。次回はいよいよなのは本編始動・・・かな?


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第4話 言った以上責任は取らないと社会ではやっていけない

今回ようやくなのは本編に入ります。
銀魂パートは少しお休みです。


 退屈な塾が終わり、蛇の餌・・・もといネズミもどきを、動物病院に預けて、現在なのはは自室のベットの上で大の字になっていた。

 

「疲れた・・・マジで疲れたアル」

 

 それは肉体的疲労というのり頭脳的疲労と言ったところだろうか。

 元々江戸では勉強なんてしてこなかった。

 せいぜい簡単な計算や常識範囲での読み書き程度の知識でもやっていけたので然程気にしていなかったのがここに来て仇となってしまった。

 

「この世界の少年少女は大変アルなぁ。毎日こんな思いで勉学しているなんて。私感心しちゃうヨ」

 

 そう思っているのはあんただけだろうと思ってしまうのはこれを読んで割る皆様もきっと同じ思いなのだろうと思います。

 

「はぁ、憂鬱アル。皆は元気にしてるアルかなぁ?銀ちゃんに姉御にババァにキャサリンにヅラにマダオに定春に後は・・・そんなもんか」

 

 「僕の事忘れてるぅぅ!」何処かでそんなツッコミが聞こえてきそうだが生憎神楽には届きそうにない。

 後はこのまま明日の朝まで眠って学校の帰りに例のネズミもどきを引き取る。

 明日の段取りを考えていた時だったーーー

 

【助けて・・・助けて下さい】

 

 またあの声が響いてきた。

 だが今はすっかり夜の時間。良い子は眠るだけなので無視する事にする。

 

【ちょっ!無視しないで!お願い助けて!今すごくやばいんですよ!】

 

 なんとも切羽詰まった感じにまた声が聞こえてきた。

 うん、面倒だし無償で助けてもらおうなんて虫が良すぎるのでやっぱり無視する事にする。

 

【お願い助けて!お礼ならしますから!とにかく今すぐ助けて!ヘルプ!ヘルプミー!!】

 

 ほほう、今お礼ならすると言ってたな。

 その言葉に偽らないのかな?

 もし助けた後で「あ、やっぱさっきの無しで」なんてオチじゃないよね?

 

【します!必ずしますからお願い助けて!このままだとマジで僕ヤバいから!】

 

 やれやれ、しょうがないなぁとため息まじりに上着の袖を通した。

 今の時間外出したのがバレれば家族に怒られるが、まぁその時は例の声の主にでも責任転嫁すれば良い訳だし、何より久しぶりに暴れたかったから今回だけは特別に助けてやる事にしよう。

 そう勝手に納得しつつスニーキングしつつ玄関を目指した。

 

『こちらナノーク!大佐、応答願うアル』

 

【誰大佐って?もしかしてそれ僕がやるの?】

 

『んだよノリ悪いヤツだなぁ。そこはちゃんとノレよ!台本ちゃんと呼んできたのか?あんまプロ舐めてんじゃねぇよシャバゾウが!』

 

【なんで怒られてるの僕?えぇっと、よ、よし!ならば続いての指示だがーーー】

 

『あ、やっぱウザいんで良いアル。すぐ行ってやるからとりあえず黙って待ってるヨロシ』

 

【チックショーーーーーーーー!!!】

 

 なぜか脳内に響いてくる声とそんな三文芝居をした後何の問題もなく家を出る事に成功した。

 

「確か、あの蛇の餌もどきは動物病院に預けた筈アルから、まぁどうせ蛇にでも喰われかけてるんだろうし、とりあえず助けに行ってやるか」

 

 そう言って暗い夜の道を一人走るなのはであった。

 因みに、お子様の夜中の一人歩きは大変危険なので絶対にやらないでくださいね。

 

 

***

 

 

 夜の静寂を破るかのように静まり返った動物病院を何かが襲撃した。

 それは全身真っ黒のけむくじゃらな何かだった。

 それしか分からない。こんな生き物実際に生息していないだろうし。

 一つわかる事と言えば、そいつの狙いは今日ここに運び込まれたフェレットだと言うことは確かだった。

 

「狙いは僕・・・と、言うより僕の魔力か?だけど、僕だってそう簡単にやられてやるもんか!」

 

 強がっては見たものの現在の彼にこのけむくじゃらを撃退する余力はなかった。

 こいつの追跡にだいぶ消耗してしまったし不慣れな土地の上に体内の魔力循環が上手く行かず八方塞がりになった時の襲撃だ。悪い材料が多すぎた。

 はっきり言って分が悪いなんてレベルじゃない。ほぼ詰みの状態と言っても良い。

 

「す、少しでも・・・ここの人達の被害を減らさないと・・・わっ!」

 

 此処では被害がでると人気のない場所へ移ろうとしたがそんな悠長に敵が待ってくれるはずもなく、有無を言わさず攻撃してきた。

 決まった形がないからだろうか自在にその形を変異させてこちらに襲い掛かってくる。

 体の一部を鋭い槍状に変化させてそれを放ってきた。

 とっさに身を翻してかわしたものの、外れたそれはコンクリートの地面を深く抉っていた。

 その威力に戦慄が走る。まともに食らえば終わりだ。

 それが隙となってしまい、敵の突進を許す事となってしまった。

 気がついたときにはそいつの突進をもろに喰らってしまいかなりの距離を跳ね飛ばされた後に地面に叩きつけられた。

 

「い・・・づぅ・・・」

 

 激痛に意識が持っていかれそうになったがなんとか持ち堪えた。此処で気を失えばそれこそ本当に終わりだ。

 倒れるわけにはいかない。だけど、今の自分に一体何ができるのか?

 自分自身の不甲斐なさがこれほど恨めしく思うとはーーー

 負担に抵抗する気力もなくなったかと目の前のそいつは不気味な笑みを浮かべながら近づいてくる。

 後はその不気味な口で獲物を咀嚼するだけ。思わずそいつの顔から笑みが浮かんできた。

 

「ホワチャァァァーーー!!!」

 

 それは、突如横から飛んできた。

 化物の横面に向かいまっすぐに飛び蹴りを放ち、そいつを壁に吹き飛ばした。

 

「き、君はーーー」

 

「おぉう、まだ生きてたアルかぁ?よく頑張ったアル!後の事はこの私に任せるが良いネ!」

 

 そう言ってなのはが目の前に横たわる小動物相手に自信に満ちたサムズアップをして見せた。

 それだけの自信が一体どこからくるのか不思議だったが、今はそんなことを詮索してる余裕はない。

 

「き、きをつけて!あれはこの世界に存在してはいけないものなんだ!」

 

「さっき蹴飛ばしたヤツアルか?馬糞ウニの親戚とかじょねぇの?」

 

「バフっ?!と、とにかくあれは危険な存在なんだ!元はロストロギア、ジュエルシードと言う宝石状だったんだけど暴走してしまって。しかもこの世界の魔力に順応したらしくてとても強大な力を持っているんだ!だからそいつはーーー」

 

「話が長い!!」

 

「えぇ!!」

 

 いきなり怒鳴られてしまい困惑してしまった小動物を前になのはは面倒臭そうに頭をかいていた。

 

「ようするにあれは何アルか?10文字以内で説明しろや!」

 

「そ、そんな滅茶苦茶なぁ?!」

 

「さっさとしろよ!でないとこのまま帰るアルよ」

 

「ぐぬっ!あ、あれは・・・要するに【メッチャヤバい奴】だよ」

 

「ふむ、9文字アルか。良くまとめたもんアル。で、あれは何アルか?」

 

「だぁかぁらぁ!つまりあれはロストロギアーーーー」

 

「まぁ、要するにアレはメッチャヤバい奴で今すぐぶちのめさないといけない奴ってのは理解したアル。お前はそこで待ってな。あんな馬糞ウニなんて一発で消し炭にしてやるネ!」

 

 腕を鳴らしつつ壁に叩きつけた馬糞ウニへと向かう。

 その後ろで「危険だ!」とか「生身でなんて無茶だ!」とか喚いているが全て無視する。

 見た所ただでかい馬糞ウニみたいだし江戸の時で戦ったエイリアンの時と同じように適当に殴ればそれで仕舞い。

 そう思っていた。

 

 

 

 

 そう、【元の体であれば】・・・だがーーー

 

 

 

 

 トドメの一撃とばかりに固く握りして締めた拳を突き出した。

 だが、その渾身の一撃は馬糞ウニの体に弾かれてしまい大きくのけぞってしまった。

 そこへ再度馬糞ウニの突進が今度はなのはを襲った。

 鈍い激突音が響く。馬糞ウニの突進をもろに食らったなのはが放物線を描きながら遠くへと跳ね飛ばされていた。

 

「ゲッホ!わ、忘れてたアル・・・この体・・・結構虚弱だったアル」

 

 先の飛び蹴りが決まったのですっかり忘れていたが、今の神楽の体は夜兎族の強靭な体ではなく生育の未熟な華奢な少女の体だった。

 これでは江戸の時みたいに殴って仕舞いとはいけそうにない。

 それどころか馬糞ウニからすれば餌が自分からやってきたと喜ばしい状況になる。

 

「君!大丈夫?!」

 

「う〜ん、大丈夫・・・じゃないかも?」

 

「なんでそんな他人事なんだよ!あんな無茶な真似して!」

 

「いやぁ、元の体だったらワンチャン行けたアルよ。ただ、今のこの体は弱すぎてダメアルな。もしこの体の持ち主に会える時が来たら体を鍛えるように言っておくネ」

 

「言ってる場合じゃないだろ!このままじゃ僕達揃って奴の胃の中だよ!」

 

「そうアルなぁ・・・困ったアル」

 

 意識がはっきりしてないのか偉く他人事で話す彼女。

 見れば額から血を流しているし恐らく骨も折られてる筈。

 こうして意識を保ててるだけでも奇跡としか言いようがない。

 しかし、それは実際には奇跡などではなく、神楽自身が過去に戦い抜いた実績によるものが大きかった。

 とは言え、今のままでは勝ち目がないのは明らかな事。

 

「もうこうなったら、これに賭けるしかない!」

 

 そう言って倒れたなのはの前に置いたのは赤い球だった。大きさ的にはビー玉くらいだろうか。

 

「それ、何アルか?ラムネの景品とかアルか?」

 

「これはレイジングハート。インテリジェントデバイスと呼ばれる・・・要するに武器みたいなものだよ!」

 

 なのはに難しい説明は不要と判断したのか偉くざっくりと説明してくれた。

 

「ほほぅ、ぶ、武器アルか・・・いててーーー」

 

 ゆっくりと身を起こす。

 右腕の動きがおかしい。多分折れてるーーー

 それでもなんとか起き上がりレイジングハートを手に取る。

 

「で、これをどう使えば良いアルか?ぶん投げるアルか?」

 

「僕に続いて!我使命を受けし者なり・・・契約の元その力を解き放て・・・」

 

「わ、我・・・使命を・・・受けし・・・も、の・・・」

 

 まともに詠唱できていない。それもそうだ。ダメージが大きすぎて立つ事すら困難な現状で長い詠唱なんて言えるだろうか?

 だが、詠唱しなければこれは使えない。辛いが今はそれしか打開策がない。

 

「頑張って!続きを!!」

 

「け・・・契約の、元・・・その、力を・・・」

 

「危ない!!」

 

 ふらつきながらも必死になんとか詠唱する。

 そんな状況をいつまでも敵が待ってくれる筈もなくこちらが動けないところを畳み掛けるように今度は自身の体の一部を鞭のようにしならせて放ってきた。

 放たれたそれは鞭のようにしなり、縄のように叩きつけた対照を絡め取り自身の手元へと引き寄せた。

 身動きが取れない今のなのはは格好の獲物に過ぎない。

 

「ぐ!がぁ!!あぁぁ!!」

 

 絡みついたそれがなのはの体を締め上げていく。

 彼女の顔から激痛と苦悶の表情が浮かび上がる。

 

「駄目だ!意識を手放したら駄目だ!頼む!早く詠唱を!」

 

「ち、ちか・・・ら・・・を・・・と、とき・・・は・・・なーーー」

 

 詠唱している間も体を拘束しているそれはさらにキツくなってくる。

 骨の軋む音が聞こえる。臓器を圧迫され、呼吸がまともに出来なくなってきた。

 

(ダメアル・・・体が、言う事聞かなくなってきたネ・・・大体何アルかこれ!こんなやばい時に詠唱とかそんなまどろっこしい事やらせんじゃねぇよ!)

 

 ふつふつと、なのはの中で焦ったさが怒りにすり変わってきた。

 こんな馬糞ウニなんぞにやられてる事にも腹が立つが、何よりこのまま良いように嬲られるのは我慢がならなかった。

 

「い・・・良い加減にしろよこのポンコツがぁぁぁ!さっさと起動しやがれボケがぁぁぉぁーーー!!」

 

 それは、詠唱でもなんでもなく、ただの罵声だった。

 しかし、その声を聞いたレイジングハートから光が発せられた。

 

「き、起動した!?詠唱もしてないのに・・・これが、この子の素質なのか?!」

 

 下の方で小動物が驚いているが一番驚いているのはなのは本人だった。

 

「こ、これで・・・どうすれば良いアルか?」

 

「想い描いて!君の戦う姿を!それをレイジングハートが読み取って形にしてくれるから!」

 

「私の・・・戦う姿ーーー」

 

 その時、脳裏に浮かんだのはかつて江戸で暴れ回っていた神楽の姿だった。

 真紅のチャイナ服を身に纏い傘を振り回して数多のエイリアンを蹴散らしてきた時の彼女本来の姿がーーー

 

「私が戦う姿と言ったら、これしか無いネ!」

 

 光がさらに強まった。

 彼女の中に思い描いた戦う姿をレイジングハートが読み取り形作りだしたのだ。

 眩い光は馬糞ウニを吹き飛ばし、なのはの姿を闘う姿へと変貌させていく。

 

「す、凄い魔力だ!」

 

 その光景を彼はただ見つめていた。

 光が収まった時、其処には闘う姿をしたなのはが立っていた。

 

 

 

 

 それは、一言で言うなら『赤』だったーーー

 

 チャイナドレス風の赤い衣服に身を包み、手には巨大な傘が握られていた。

 これが、彼女が思い描いた闘う姿なのだろうか。

 

「やっぱ、私には傘が欠かせないネ!」

 

 左手に持たれた巨大な傘を自在に振り回して感度を確かめる。

 悪くない。寧ろ元の体に戻ったような感じさえある。

 これならば行ける!

 

「良く聞いて!それは元々砲撃戦に特化したデバイスなんだ!だから相手と距離をとってーーー」

 

「そんなまどろっこしい事しないアル!こいつの使い方はこうアルヨォォ!!」

 

 叫ぶやいなや飛び上がり傘を振りかぶる。

 そして、真下にある馬糞ウニ目掛けてそれを一気に振り下ろした。

 突然の事で馬糞ウニは動かずにいた。

 もしくはどうせ効かないだろうと高を括っていたのか。

 もしそうだとしたら、それはそいつの命運を分けることとなった。

 振り下ろされた傘の一撃は、馬糞ウニの体を真ん中から真っ二つに引き裂き、そのままそいつの活動を停止させてしまった。

 

「か、格闘!?砲撃用デバイスで格闘戦?!」

 

「み、見たアルか!こ、これが・・・私の・・・た、た、か、いーーー」

 

 そこまでが限界だった。

 度重なる負傷に多量の出血。ここまで意識がもっただけでも大したものだぅた。

 それが、敵を倒したことによる安心感により彼女の意識がその場で断ち切られ、地面に倒れ伏してしまった。

 すぐにでも助けに行きたかったのだが、肝心の彼もまた限界が来てしまい、その場に倒れ伏してしまった。

 この世界に来て初の戦いがなんとも痛々しい勝利となった瞬間である。




ついに魔法少女になれたなのは(神楽)ちゃん。しかしその勝利はとても痛々しい結果に終わってしまった。
今回のなのはのバリアジャケットは中身が神楽なので元の世界で神楽が着ていた服をそのままバリアジャケットにした感じです。
なのでレイジングハートも杖状ではなく傘になってます。
尚、一応これでも砲撃は出来ます。
今後の活躍を期待しててくださいね


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第5話 無償と言う言葉ほど胡散臭い言葉はない

前回ようやく魔法少女になれたなのは(神楽)だったが、その際の戦闘で怪我をしてしまった。
その頃、神楽(なのは)はと言うと?
久しぶりの投稿な上に今回は少し短めになっちゃいました。


 〜??? 高町なのは(神楽)サイド〜

 

 目を覚ますと、目の前に白い壁が目に入ってきた。

 白い壁だなと認識した辺りで寝ている事に気づき、見ているのが壁でなく天井だとすぐに気づいた。

 鼻につく薬品の匂いからここが病院だと言うのもすぐに察することが出来た為か、その表情は少し嫌そうになっていた。

 

 神楽にとって病院は余りいい思い出がない。

 過去に病院で起こった事といえば、

 腐った蟹を食べてあたり、入院した先で騒動を起こしてさらに怪我させられた事や、バイクで事故った銀時の見舞いに行ったら銀時が男のケ○を掘ってる場面に出会した事や、仕事が面倒くさかったので初期設定を使って仮病で入院したら火葬されかけた事など、他にもあったがまぁとりあえず病院にはろくな思い出がない事だけは確かだった。

 

 そして、今の状況はと言うとーーー

 

「・・・寝難いアル」

 

 今現在、なのは(神楽)の体は全身包帯やらギブスやらでガチガチに固められている有様だった。

 そりゃ寝難いだろう。

 寝返りをうとうにも体を固定されてしまってる為にろくに動けないし、背中がむず痒くて堪らないのにかくことも出来ない。

 これでは拷問だ。

 

「目が覚めたんだね」

 

「うん?」

 

 声のした方を向くと、其処には昨晩助けたであろう小動物の姿があった。

 そいつも手当ての跡があったが今の自分ほどじゃない。

 

「本当に・・・ごめん。僕のせいで君に大怪我させてしまって」

 

「全くだよ!てめぇのせいでこの有様ネ!どうしてくれんだよ?」

 

「えぇ!?えと、そのぉ・・・」

 

 余りの事に対応出来ずしどろもどろし始める小動物。

 恐らく彼の頭の中では「君のせいじゃないよ。だから気にしないで」とか言われて美談になるだろうと思っていたのだろうが、生憎今のなのはの中身は神楽だ。

 リリカルでマジカルな魔法と優しさのバフ○リンみたいな世界とは違い血とゲロとう○こと下ネタのオンパレードな銀魂ワールド出身の彼女が他人の気を遣うなんて真似などする筈がない。

 

「ほ、本当にごめんなさい!でも、あの時はあぁするしかなかったんだ!僕一人の力じゃあれを撃退なんて出来なかったから」

 

「あれってのはこないだのあのけむくじゃらの事アルか?あれは一体何アルか?」

 

「前にも言ったと思うけど、あれはロストロギア【ジュエルシード】が暴走したせいで誕生した怪物なんだ。あのまま放置してたら所構わず暴れまわって大きな被害が出てたと思う。でも、どうにか最小限に抑えられたと思うよ」

 

「この私の怪我も最小限って言いたいアルか?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 失言をしてしまったと頭を下げる。

 

「そもそも何であんな物が私の住む街にあったアルか?」

 

「その為には、まず僕の事について話すね。僕の名前はユーノ。ユーノ・スクライアって言うんだ。スクライアってのは僕のいた部族の総称みたいなもので、ユーノが僕の名前だよ」

 

「んで、そのスクライア族のユーノさんとジュエルミートと一体何の関係があるアルか?」

 

「ジュエルシードね。あれは古代の人類が作り出した古代の遺物でね。僕が古代遺跡を探索した際に発見したんだ」

 

「ほぅ、ユーノ。お前トレジャーハンターだったアルか?」

 

「単なる歴史調査の一環だよ。それでジュエルシードを見つけたまでは良かったんだけど、それを護送していた際に事故かそれとも故意なのかは分からないけど、輸送中の船が爆発しちゃって、中のジュエルシードが全て散らばってしまったんだ」

 

「傍迷惑な話アル」

 

「本当にそうだよね。だから僕は一刻もそれを回収しようとしてそれでーーー」

 

「それでそいつにコテンパンにされて助けを求めた結果私はこうして巻き込まれた、と」

 

「本当にごめん!もうあの時はあぁするしかなかったんだ。僕の事を恨んでくれても構わない。だから、お願いだ!僕に力を貸して!僕と一緒にジュエルシードをぐえっ!!」

 

 言い終わる前にユーノの首根っこをなのは(神楽)の手が掴みそのまま面前へと引き寄せてきた。

 

「おめぇ、何虫の良い事言ってるアルかぁ?」

 

「ぐえぇぇ・・・ぞ、ぞのぉ・・・」

 

「元はと言えばてめぇが撒いた種だろうが!それなのに一人じゃ手に負えないから力を貸せとかマジで情けない奴アルな。○玉ついてんのかてめえ?」

 

「ず、ずびばぜん・・・」

 

「おまけに私にこんな大怪我負わせやがったってのにその上に一緒に石集めしろだぁ?てめぇのケツくらいてめえで拭きやがれボケェ!」

 

 完全に怒り心頭だった。

 今にもユーノの首根っこをへし折らんばかりの力が込められてる。

 その怒りの前にすっかりユーノは縮こまってしまっていた。

 

「まぁ良いアル。乗り掛かった船アルからな。協力はしてやるヨ」

 

「ほ、本当に!?あ、ありが「そのかわり!!」・・・へ?」

 

 お礼を言おうとしたユーノを遮るなのは(神楽)の声。その時の彼女の顔はとても不気味な笑みを浮かべていたのだそうな。

 

「こっちも慈善事業でやるつもりはないアル。やるからには相応の報酬を貰うアルよ」

 

「ほ、報酬・・・ですか?」

 

「そうアルなぁ・・・これだけの大仕事アルからそれだけ費用も嵩むアル。まぁ少なく見積もったところで百万と言ったところアルな」

 

「ひゃ、百!!」

 

「それか現物支給でも可アル。私に依頼したいなら酢昆布かフライドチキンの皮を一年分上納するヨロシ」

 

「は、はぁ・・・」

 

「それと、お前前にこんな事も言ってた筈アルなぁ?「何でも言う事聞く」って」

 

「は、はい・・・言いました」

 

 観念したのかユーノは小動物の姿でありながら器用に正座して頷いていた。

 

「なら話は早いアル。私のこの怪我が治ったら共に石ころ探しをしてやる。その代わりお前には学校の宿題をやって貰うアル」

 

「しゅ、宿題?!」

 

「正直超面倒だったアルよ。だから石ころ集めを手伝ってやるからお前も私の宿題を手伝うアル」

 

「えっと、宿題ってのは自分でやって初めて意味があるんだと思うんだけどーーー」

 

「この話は無かったことにするアル」

 

「わわわ!わかりました!やります!やりますからぁ!!」

 

 慌てて了承するユーノになのほ(神楽)は上機嫌ににんまりと笑った。

 

「よし、契約成立アルな!これからは石ころ集めは私に任せるアルよ!」

 

「よ、宜しくね、僕も少しだけどサポートするから安心してね」

 

「蛇の餌のお前の助力なんて宛になるアルかぁ?」

 

「大丈夫だよ。少なくとも魔法関連に関しては僕の方が先輩なんだからさ」

 

「おうおう、早速先輩風吹かしてるアルかぁ?」

 

「そ、そんなつもりじゃ」

 

「言っとくけど、報酬の話も忘れんなよ!もし踏み倒そうものなら、容赦なくキングコブラの餌にしてやるからな!生きたまま頭から丸呑みさせてやるから覚悟しとけよ」

 

「き、気をつけます」

 

 冷や汗が流れ顔が青ざめていく。その時ユーノは内心こう思っていた。

 

 

 

(頼る相手、間違えたかな?)とーーー

 

 

***

 

 

 〜江戸 神楽(高町なのは)サイド〜

 

 その日は何の代わり映えのない日常になるだろうよく晴れた日の事だった。

 普段からあまり仕事のない万事屋銀ちゃんの事務所内では晴天の晴れやかな気分も合間ってかその日の神楽(なのは)はとても気分が良かった。

 これで体が元に戻っていたら言う事なかったのだろうが、まぁそこはしょうがない。

 折角の晴天の日を寝て過ごすなんて勿体ない真似はするもんじゃない。

 早速布団から飛び起きていつものように定春を撫で回して朝食の支度をする。

 

「今日は天気もいいし、気分もあげあげだから新メニューに挑戦しちゃおうかな?」

 

 腕まくりしながらそんな事を一人呟く。決して痛い子とか病んでる子なのではなく彼女なりに決意を新たにするべく一人呟いただけのようだ。

 まず取り出したのは生卵。多くの人が愛する卵。かけてよし、すすってよし、のんでよし、食べてよしとあらゆる面において完璧な性能を誇る食材だ。

 しかも、近年では宇宙食にも卵がそのままの状態で使われてるそうだ。

 勿論、嘘だけどもーーー

 

「今日はオムレツを作るぞぉ!」

 

 仮にも喫茶店の娘がオムレツの一つも焼けないのでは恥ずかしい。まだ将来の明確なビジョンが出来上がってはいないが、こうしたところから努力するのもまたアリだろう。

 そう自己完結しつつ調理に入った。

 一応店の手伝い等は何度かした事があるし、体が入れ替わる以前にも家族がオムレツを作る場面を何度か見ているので手順は理解している。

 理解しているのだが、それで上手く作れれば世の中料理人など居なくなってしまう。

 まぁ、要するに理屈だけで上手く出来る筈がないと言う事だった。

 

「うーん、結構難しいなぁ」

 

 そう言ってる彼女の前には歪な形をした卵の塊らしき物が出来上がっていた。

 一応オムレツのつもりなのだろうが火を通し過ぎた為に中までガチガチに硬くなってしまっており、外見も半円型と言うよりは四角形になってしまっていた。これではオムレツじゃなくてだし巻き卵だ。

 

「むむぅ、お父さん達は簡単に作ってたけど、案外大変なんだなぁ」

 

 此処にはいない家族達の知られざる苦労を知り、また一歩大人へと近づいた神楽(なのは)なのであった。

 

「何朝から無駄にハイテンションしてんだよ。こっちのメンタルも考えろやバカやろー」

 

 いつもよりも数段やる気のない声を出しながら銀時が起きてきた。いつもなら昼過ぎまで寝てる筈なのだが今日はやけに早起きしてきていた。

 

「おはよう。今日は早いんだね」

 

「そりゃそうだろうが。朝っぱらから焼けた卵の匂いなんざ嗅がせやがって。こちとら二日酔いだっつぅのに胃が破裂するだろうが!」

 

 やる気も無さそうだし機嫌も相当悪そうだ。

 まぁ、この男が起きた直後は大概こんな感じなんだけれども。

 

「んで、今日の朝飯はなんだ?厚焼き卵か?だったら大根おろしを用意してくれや。そんで白飯と味噌汁とーーー」

 

「ち、違いますよ!これはオムレツなんです!し、失敗してますけど」

 

「はぁ?!これがオムレツだってのかぁ?!そりゃねぇだろお前。どう見てもだし巻き卵じゃねぇか!こんなの出された日にゃ普段は温厚な烈○王ですら両手大回転させて殴りかかってくるほどのもんだぞ」

 

「そ!そこまで言わなくてもいいじゃないですかぁ!これでも初めて作ったんたよぉ!まだ練習中なの!」

 

「おいおい、オムレツなんざ簡単に作れんだろ?ったくしょうがねぇなぁ。俺が手本を見せてやんよ」

 

 そう言って何故か銀時がオムレツを焼くと言い出した。

 

「ぎ、銀さん焼けるの?」

 

「馬鹿にしてんじゃねぇぞ。俺ぁ一通りの料理は作れんだよ。まぁ見てろって」

 

 自信満々に銀時は調理を開始した。正直普段の銀時を知ってるせいかハッタリではないかと思っていたのだが、実際に見てみるとこれがまた手際良く行われているのだった。

 卵を割るところから始まり、それを生クリームと合わせて掻き混ぜ、熱したフライパンにバターを溶かしてその中に卵を流し込み、間髪入れずに掻き混ぜて、全体に火が通る前に形を整えて数回味をひっくり返せば完成だった。

 

「ほらよ。簡単だろ?」

 

「す、凄い!中はトロッと半熟で、それでいて生じゃなくてしっかり火が通ってて、形も綺麗に半円型だし卵の味が生クリームとバターと合わさって絶妙なハーモニーをーーー」

 

「何熱心に食レポしてんだよてめぇは?これはグルメ漫画じゃねぇんだぞ。それがしてぇんならト○コかソ○マのとこに行ってこい」

 

 正直言って凄い悔しい気持ちだったが、それでもこの銀時作のオムレツの出来は凄まじい物だったと言える。

 恐らく商品として出せば金を取れるほどの出来栄えとも言えた。

 

「どうして?どうして銀さんこんなに上手にオムレツ作れるの?」

 

「だからさっきも言ったろ?俺は一通りのものは作れんだよ。オムレツなんざ余裕よ余裕」

 

「むきぃぃぃぃ!なんか銀さんに言われると凄い悔しいぃーーー!教えて!このフワトロオムレツの作り方教えてぇぇ!!!」

 

 叫びながら銀時に縋り付いてくる神楽(なのは)のそれにさしもの銀時も慌て出す。

 別に恋愛フラグとかラブコメ要素などではなく単に鬱陶しいと思ったからのようだ。

 

「離れろ!暑苦しいんだよ!」

 

「いやぁぁぁ!この中はふわっとしてトロッとしてて外はパリッとひたオムレツの作り方教えてくれなきゃやだぁぁぁ!!」

 

 是が非にでも教わろうといつになくしつこい神楽(なのは)とそれを引き剥がそうと必死になる銀時の二人。

 側からみると朝からイチャついてるようにも見えるが当人達にそんな意思は全くない。

 

「しつけぇぞ!俺は面倒な事は嫌いなんだよ!」

 

「良いじゃん教えてよ!減るもんじゃないんだしさぁ!」

 

「減るだろうが!俺の自由時間とか俺の体力とかその他諸々減るからやだよ!」

 

「そんなこと言ってどうせ今日も仕事ないんでしょ?だったら教えてよぉ!」

 

「嫌だっつってんだろうがクソガキ!仕舞いにゃ殴るぞゴラァ!」

 

 教わりたい神楽(なのは)と教えたくない銀時。両者の一進一退の無駄な攻防はこの後、新八がやってくるまで延々と続けられていたのだそうな。




相変わらず銀魂パートはギャグメインなようで。
次回は皆大好きなあのキャラの登場の予感?


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